平成ライダーラグナロク (ヴァローナ)
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R2計画
何処かの採石場跡だろうか。
起伏の激しい荒地に2つの集団が向かい合っていた。
一方はかなりの大人数であり、その数は一目見た程度では測りかねる。
対してもう一方の集団に至っては20人も満たない程度。
人数の差は有れど、その闘争心は甲乙つけ難く…いや20人未満の集団の方が気迫が凄い。
「ついに決着だな、大ショッカー」
人数の少ない方の集団。
その中心にいたマゼンタカラーの男が声を張る。
「俺たち全員でも、これだけ時間が掛かった。
けどコレで最後だ。
俺たち仮面ライダーが、お前たち大ショッカーを倒す!!」
大人数の集団…大ショッカーと呼ばれた集団の最前線に立つ覆面を被りマントを羽織った男が高笑いで返す。
「はっはっはっはっ!!
図に乗るなよディケイド、そして仮面ライダー共!
行け!大ショッカーの怪人達よ!」
マントの男の声に呼応し、その後ろにいた異形の姿をした者…怪人達が雄叫びをあげながら走り出した。
「行くぞ!みんな!」
「「「おう!」」」
突進してくる怪人に向かって、少人数の集団…仮面ライダー達も走り出す。
こうして、
仮面ライダーと大ショッカーの最終決戦が始まりを告げた。
〜〜〜〜〜
戦闘開始から半日が経つ頃、戦場には19人だけが立っていた。
1人を囲むように、18人がその周りに円を描いている。
囲まれているのはマントの男=大ショッカー首領である。
そして、首領の正面から時計回りに、
仮面ライダーディケイドから始まり、
クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、
響鬼、カブト、電王、キバ、
W、オーズ、フォーゼ、ウィザード、
鎧武、ドライブ、ゴースト、
そしてエグゼイドが立っている。
数えるのも気が遠くなるような人数だった怪人の集団は、この18人により、残すところ首領1人となっていたのだ。
「お終いだな、大ショッカー首領」
マゼンタカラーのライダー=ディケイドが静かに言う。
「そうだぜ!それに似合ってねぇんだよ、その魔法使いみたいな格好」
ディケイドに続いて、桃が割れたような仮面のライダー=電王が煽るが、
その言葉に反応したのは、ローブを纏ったような、宝石を思わせる仮面ライダー、ウィザードだった。
「ちょっとモモタロス、それは俺が心外なんだけど?」
電王ソードフォーム時の主人格であるモモタロスに対して、ウィザードは呆れた様な、諦めた様ななんとも言えない声色で言う。
「ふふふ…はっはっはっはっ!!」
不意に大ショッカー首領は高笑いを上げ、
その笑いにライダー達は全員が構え直す。
「何がオカシイ!」
トランプのスペードを思わせる装甲の青いライダー=ブレイドが声を荒げて首領に言う。
「流石は仮面ライダー…と言っておこうか。
だが、私にはまだ最終手段が残っている。
この明らかに不利な状況を打破するだけの力がな!!」
首領がそう叫ぶと、マントの下から何かを取り出した。
それを見て一番驚いていたのは、ゲームの力で戦うライダー=エグゼイドだった。
「ガシャット!?
…それにそのゲームは一体?!」
エグゼイドが変身に用いる、ゲームの力が内蔵されたアイテム=.ライダーガシャット。
そのガシャットと酷似した真っ黒なアイテムを首領は取り出したのである。
「ふふふ。
これはエグゼイド、貴様のよく知るガシャットであって、ガシャットではない。
これはガシャットを作り出した幻夢コーポレーションの技術ではなく、
バグスターウイルスを独自研究した財団Xの技術によって作り出した物だ」
財団Xと言う言葉を聞いて、数人のライダーが反応する。
その中でも一際怒りを露わにしていたのは左右で色の違うライダー=Wだった。
「財団X…まだ活動を続けてやがるのか」
かつてWが守る街=風都を中心に事件を起こしていた怪人ドーパント。
その裏で全てを手引きしていたのが、この財団Xとゆう組織だったのだ。
「さぁ仮面ライダー達よ!このガシャットにより大ショッカーの「R2計画」は絶頂を迎える!
消えるがいい!仮面ライダーぁぁああ!!!」
叫ぶと同時に、大ショッカー首領はガシャットのスイッチを押した。
『ライダーリセット!』
濁った電子音声が鳴り響くと同時に、首領の背後にゲームのタイトル画面が現れる。
仕様としてはエグゼイドの使用するガシャットと似た様なものだが、異様なのはそのタイトル画面である。
何も描かれていないノイズ画面。
そして次に首領はマントをめくる。
腰には異形のベルトが巻かれており、黒いガシャットはそのベルトに装填された。
『ガシャット!
レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!!
ディス ゲーム イズ リセット!!』
再び響く、濁った重々しい低音の電子音声。
その音声が終わった次の瞬間、大ショッカー首領の身体から黒いオーラが解き放たれた。
それは強力なエネルギーを持っている様で、ライダー達は力強く体全体を握り締められる様な感覚に襲われた。
「な、なんだこれは!!」
「ぐ、ああ!!」
「動け、ない!」
「はっはっはっはっ!!
このガシャットで作り出したエネルギーを受けた者は文字通り「リセット」されるのだ!!
つまり、貴様らは「仮面ライダーの力」を失い、更には「存在」も失うわけだ!!
いやはや…
ガイアメモリやオーメダル、コズミックエナジーなど、様々なものを研究していたが完成に至らなかったものを、
エグゼイド、君や幻夢コーポレーションの発想のお陰で実現出来た。
感謝するよ!」
そう言うと首領は更にエネルギーの放出を強める。
仮面ライダー達からは苦痛に悶絶する声にもならない声が上がる。
そして最悪の事態が起こった。
まず最初に、クウガがベルト=アークルを残し姿を消した。
そして次々に仮面ライダーたちがベルトだけを残して姿を消し始めたのだ。
「はっはっはっはっ!
残るはエグゼイド、ディケイド!
貴様らのみだ!!」
不意にエグゼイドは、目の前に転がるベルト達を見て何かを確信したかの様にディケイドの方を向いた。
「仮面ライダーディケイド…いや門矢 士さん…みんなを、僕たちを頼みます!」
その言葉を最後に、エグゼイドもベルトを残して消滅する。
「僕たちを…」
ディケイドはエグゼイドか残した言葉を復唱し呟いた。
そしてその真意に気付き、顔を上げる。
「大ショッカー首領…!
俺たちは、消滅しても復活する!
お前がどんな手段を使おうと、どんな兵器を使おうと、俺たちは確実にお前を倒しに戻ってくる!
絶対に!!」
ディケイドの言葉を聞き、首領は拳を握りしめ声を荒げた。
「貴様ぁ…いったい貴様は何だと言うんだ!!」
「分かってるはずだ…俺は、
俺たちは、通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!!」
ディケイドがそう言うと、不意に不思議なオーロラが現れ、その場にあったベルトを全て消し去った。
このオーロラは並行世界を隔てる壁であり、すり抜ける事により世界を移動することが出来るものである。
地面に転がるベルトが消えた直後、ディケイド自身もベルトを残し消滅し、そのベルトもオーロラに飲み込まれる。
ここに来てようやく首領も真意を理解した。
「ベルトに全てを残して並行世界に逃げたか!!
く…どこまでも小賢しい事を…!!
まぁ構わん…存在する並行世界全てを征服すれば良いだけの事…。
「R2計画」もう1つの目的を進めるとしよう」
そう言うと大ショッカー首領は、マントを翻しその場から立ち去った。
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宇・宙・変・身
重い足取りのまま、僕は学校の向かいにあるコンビニを目指している。
道向かいにあるため、信号を渡らなくてはならないが、いかんせんこの信号、押しボタンを押しても変わるのに5分ほど待たなくてはならない。
なんで僕なんかが、あんなヤツらに命令されて昼ごはんの弁当を買いに行かなくてはならないんだろう…。
いや、そもそも僕の「ゲンタロウ」なんてゆう古臭い名前が発端だ…。
こんな今時無い名前だから、ああゆう知能の低いいきがった連中になめられるんだ…。
…とか考えたところで、実際、命令されたことをへこへこと了解する僕自身の弱さが原因だ。
それに僕自身の趣味のせいもある。
僕の趣味。
それは自分で考えた武器や技、キャラやその設定、そんなものを書き留めること。
つまり中二病だ。
自覚はある。
けど、それ以外に現実から目を背ける方法を知らない。
僕はおもむろにスマホを取り出し、メモ帳のアプリを開いた。
そして、この数分の間に思いついた技や武器を書き込んでいく。
信号の押しボタンを押してそろそろ5分経つかな…?
まだ赤いままの信号を一瞥し、また手元のスマホに視線を戻す。
『歩行者信号が青に変わりました』
という無機質な音声が聞こえたため、スマホをポケットに戻し、またとぼとぼと足を勧め、横断歩道を渡り始めた。
~~~
「宇宙キター!!!」
~~~
「!?」
横断歩道の中間を過ぎるころ、突如頭の中になんとも活気に満ちたテンションで声が響いた気がして、足が止まった。
辺りを見回すが、キター!なんて叫んだような人はいない。
「なんなんだ…?」
首を傾げつつ、また歩みを進める。
その瞬間、後方…つまり校舎から盛大な爆発音が鳴り響いた。
驚いて振り向くと、僕から見て校舎の右側が倒壊し巨大な土煙を上げていた。
「じ、事故!?」
一瞬そう考えたが、その思考は止まった。
土煙の中から人影が歩き出てきたのだ。
その人は、人というにはあまりにも異形で、
両腕には長い爪のようなものが伸び、頭はライオンのような鬣と大きすぎる口、
体は白を基調とした色で、ところどころ青い宝石のような装飾やラインが走っている。
元来、中二病な僕は、その姿を見て一つの言葉をつぶやいていた。
「獅子座の…怪人…!?」
単純に「そう思った」だけだ。
もしも僕が「獅子座」をモチーフに怪人をデザインするなら、まさしくこの目に映っている怪人のようなものになるだろうと。
土煙から完全に出たところで立っている怪人に対して、近くにいた教師が近寄って言った。
「ちょ、ちょっと君!なにをして・・・」
倒壊した校舎の土煙から出てきた怪人に声をかけるなど、教師は無謀だ。
故に、一瞬にして教師の首は、その胴体から離れ、地面に転がった。
無論、怪人が振るったその腕の爪による攻撃の結果だ。
誰からとも無く絶叫や悲鳴が上がり、周囲はパニックに陥った。
対する僕はというと、何もできなかった。
足は動かなければ、声も出ない。
その割りに頭はすっきりと整理されたように冷静だ。
周囲がパニックになると同時に、怪人は近くにいた人間を次々と切り裂き始めた。
~~~
「*****!タイマンはらせてもらうぜ!!」
~~~
まただ。
頭の中に変な声が聞こえる。
頭を抱え周囲を再び見渡すが、声の主などどこにもいない。
状況を理解し逃げ惑う生徒がいるだけだ。
いや・・・。
その中をすたすたとこちらに歩いてくる生徒が一人いた。
その生徒は、僕の目の前まで来るとまじまじと僕を見てきた。
「な、なに・・・?」
「いやぁ…僕かと思ったけど、どうやらアイツは君に反応して現れたらしいね?」
意味不明なことを言う。
というか会話が成立していない。
「ぼ、僕に反応って」
「ま、いいか!
とりあえずアイツを倒さなくちゃね!」
「ちょ、ちょっと待って!
あ、あんたは一体!?
それにアイツを…倒す!?」
男子生徒はニッコリと微笑んだ。
「俺は霧島エム。
仮面ライダーエグゼイドだ!」
「仮面…ライダー…」
その単語を聞いた瞬間、頭の中に電流が走るような感覚を感じた。
初めて聞いた言葉。
なのに、馴染みがある。
馴染み…?
いや、僕は「仮面ライダー」を知ってる…?
先ほどまでの冷静な頭は、うってかわってぐちゃぐちゃに混乱し始めていた。
自分とは違う誰かの記憶。
自分には無い何かの力。
その存在は知らないはずなのに理解できている。
「大丈夫!
君の頭の中がすっきりするまで、ちゃんと時間稼ぎしてあげるからさ!」
そう言うと、エムと名乗った男子はおもむろに何かを取り出し、腰にあてがった。
その「何か」は一瞬でエムの腰に巻きつき、ようやく「ベルト」であることがわかる。
ただ、普通のベルトとはまったく異なり、バックルにあたる部分は大きく、機械かなにかであるような印象を受けた。
「それじゃいきますか!」
エムは更に、手のひらサイズのピンクのアイテムを取り出し、そのボタンを押した。
『マイティアクションX(エックス)!』
エムはそのアイテムを構えて声を張った。
「変身ッ!」
そしてそのアイテムをベルトに差し込んだ。
『ガシャット!
レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?
アイム ア カメンライダー!』
聞きなれない音声と効果音がベルトから鳴り渡り、それと同時にエムの体が…なんとゆうか、2頭身だか3頭身だか…なんとも形容しずらいSD体型の姿になっていた。
白いボディに、ゲームの十字キーやボタンのような胸当て、ゴーグルをかけているような目、尖ってツンツンのピンクの頭。
ただ、それは無機質であり…全身にアーマーを装着したような印象を受けた。
「えっと・・・」
なんと言葉をかければいいかわからない・・・。
「まぁまだ「レベル1」だからね。
本番はこっからだよ!
大変身ッ!!」
エムは更にベルトのグリップを握り、一気に展開した。
その瞬間、再びベルトから音声と音楽が流れた。
『ガッチャーン!レベルアーップ!
マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!エックス!!』
ベルトの音楽が鳴り止むころ、エムの姿は先ほどのSD体型などではなく、しっかりとしたデフォルメなどされていない人型になっていた。
全身は全体的にどこと無くスポーツ選手やアスリートを思わせる。
「さてと…それじゃ
ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」
言うが早いか、エムはそのまま走り出し、今まさに目の前の女性とを切り裂こうとしている怪人に飛び蹴りをくり出した。
その様は、まるでヒーローもののアニメや漫画のような・・・
ヒーロー・・・?
仮面ライダー・・・
僕の頭の中で何かのピースがはまったような感覚があった。
そして頭の中ではある情報が広がっていく。
宇宙に存在するコズミックエナジー…その結晶体であるアストロスイッチ。
そしてその力を悪用した怪人…ゾディアーツ。
目の前で暴れているのはその一人「レオゾディアーツ」。
そして僕が持っている力は、そのゾディアーツを倒せる力。
正義のための40のアストロスイッチを扱う力。
「僕は・・・仮面ライダー。
仮面ライダーフォーゼ!!」
その瞬間、僕の腰にエムが使ったものとは違うベルトが装着される。
知っている。
フォーゼに変身するための、そしてアストロスイッチを扱うためのベルト「フォーゼドライバー」だ。
すでにベルトには4つのアストロスイッチが装填されている。
僕はエムと戦っているレオゾディアーツをしっかりと見据え、
ベルトにある、アストロスイッチとは別の赤いスイッチを起動させた。
キュィイイインという独特な起動音の後、ベルトから音声が流れる。
『3・・・2・・・1・・・!』
そのカウントダウンに合わせて、僕はベルトのレバーを一気に動かした。
「変身!!」
無意識に出た言葉と同時に、ベルトからは特有の音が鳴り響き、僕の体は光と煙のようなものに覆われる。
だがそれも一瞬であり、僕は目の前に漂う煙を右腕で力強く払った。
視界が一気に開ける。
どこと無く身体が軽くなったような気分になり、自然とテンションがあがっていく。
「宇宙・・・キタァァァァァァァァアアアアア!!!」
あまりにも上がったテンションを抑えることができず、いつの間にか僕は、さっき頭に響いた言葉を叫んでいた。
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獅・子・退・治
周囲から、逃げ惑う生徒の悲鳴とは別に、僕に対する驚きの声が混じって聞こえてくる。
それもそのはずだ。
クラスでもパッとしない根暗な僕が、急に「変身」したのだから。
僕は、戦闘を繰り広げるエム=エグゼイドとレオゾディアーツに向かって走り出した。
校門を入ってすぐの所に停めてあった車のガラスに映る自分の姿が視界に入る。
全身は真っ白で、所々黒やオレンジのラインが走っており、頭は見るからにロケットその物の意匠がある。
僕は走りながらベルトに装填されているアストロスイッチの1つを起動した。
『ロケット ON』
電子音声が鳴ると同時に、何処からともなく具現化した大きなロケット型のモジュールが右前腕に装着される。
ロケットモジュールは、構えるよりも早く起動し、強力なロケット噴射を開始した。
「うぇ!?おわあああああ!!!」
急な家族によって、体は言うことを聞かないどころか、右腕のロケットモジュールに引っ張られる形となった。
あまりの勢いに、足は地面から離れレオゾディアーツとの距離が驚異的なスピードで縮む。
「エ、エムぅぅぅ!!!」
「え?うわぁっ!!??」
制御がどうこうの話じゃない。
僕は咄嗟にエム=エグゼイドに叫び声をあげていた。
エムは間一髪のところで僕を避け、
ゆえに高速で直進するロケットモジュール(と僕自身)はレオゾディアーツの腹部に思いっきり激突した。
「グオオ!?」
ロケット噴射の勢いによって偶然ヒットしたパンチは、レオゾディアーツを難なく後方に向けて盛大に吹き飛ばした。
ただ、直進はとまり、足も地面に着ける事が出来たものの、ロケット噴射自体は止まらず、暴れ回る右腕を制御する事は出来なかった。
端から見ればその場をぐるぐるわちゃわちゃと忙しなく奇妙なステップを踏む滑稽な人に見えてる事だろう…。
これは起動したらロケット噴射は止まらない物だと思った僕は、慌てて先ほどオンにしたアストロスイッチをオフにした。
その瞬間、何事も無かった様に右腕のロケットモジュールは跡形もなく消えた。
てか、目が回る…。
「頭の整理は済んだか、ロケットの人」
エムが気さくに肩を叩いてきた。
「はい、まぁまだちょっと散らかってる所はあるけど、なんとか」
「変身出来てるなら大丈夫だ。
そう言えば…君、名前は?」
「あ、僕は相澤…ゲンタロウ…です」
「ゲンタロウかぁ…おっけ!ゲンちゃんね!!」
「はい…ん?え?ゲンちゃん?!」
「おぅ!僕の事はさっきみたいに「エム」で、呼び捨てでいいからさ!」
「は、はぁ?」
名前をからかわれなかったのは…初めてかも…。
いや、そもそも「ゲンちゃん」なんて呼んでくる人が初めてだ。
「よし、んじゃゲンちゃん。あのライオンさん、とっとと倒しますかね」
見ると、先ほどあれだけ物凄い勢いのパンチを食らったはずのレオゾディアーツが、15〜20mほど離れた所でゆっくり立ち上がっていた。
ただ、それなりにダメージはあった様で左手で腹部を抑えていた。
「分かりました。やりましょう」
「そうこなくっちゃ!
ただ、ちょっと学校でやるのは気がひけるからさ…」
そう言うとエムは、ベルトの横にあるホルスターの様な装置のボタンを押した。
『ステージ セレクト!』
電子音声が鳴ると同時に、周囲の風景が一瞬にして広い廃工場の様になった。
簡単に言えば瞬間移動した様な気分だ。
よく見ると、周囲には直径30〜40cmくらいの大きさのカラフルなメダルの様な物が点在している。
なんとゆうか…ゲームのアイテムみたいな印象さえ受ける。
「さぁて気兼ねなくドンパチ出来るよ、ライオンさん!」
『ガシャコンブレイカー!』
エムの手にはいつの間にかハンマーのような武器が握られていた。
武器を構えるエムにならい、僕も拳を握りしめ構えた。
「グゥゥ…グヲオオオオ!!!」
レオゾディアーツが雄叫びを上げた。
が、それはもはやただの雄叫びでは無く、物理的に物を破壊するほどの咆哮…咆哮弾とでも言うべきだろうか?
ただ、間違いなく当たると…
「ヤバイ!!!」
エムと僕は咄嗟に身を翻し、咆哮弾を何とか避ける。
咆哮弾はそのまま、元は僕たちの後方にあった様々な物を破壊した。
ドラム缶は破裂し、積まれた箱たちは砕け、鉄骨はひしゃげた。
体勢を立て直しつつ、僕はベルトにあるアストロスイッチの1つをオンにした。
『ランチャー ON』
電子音声が鳴ると同時に、今度は右足にモジュールが装着された。
それは青い箱型のモジュールで、膝から下をスッポリと包む様に装着されていた。
「とりあえずランチャーだから撃つだけ撃ちます!!」
更に咆哮弾を放とうとするレオゾディアーツに向けて、僕は右足のランチャーモジュールから一気に5発の小型ミサイルを発射した。
しかし…
「ゲンちゃんどこに撃ってるのさ!!」
ミサイルは狙った所などいざ知らず。
全くもって関係のないところに向かって好き勝手飛んでいき、着弾した。
運良くその中の1発が、レオゾディアーツの近くに着弾したため、咆哮弾は放たれずに済んだものの、
エムが怒るのも当然の結果である。
「ご、ごめん!」
「ちゃんとロックオンしてよゲンちゃん!」
そう言ったあと、エムは手にしたハンマーでレオゾディアーツに殴りかかっていった。
ロックオン…あ、そうだ!あのスイッチ使うんだった!
自分の物ではないはずの記憶を辿り、思い当たる節があった。
即座にスイッチをもう1つ起動させる。
『レーダー ON』
すると、左腕に小型のパラボラアンテナの様なモジュールが装着された。
そしてアンテナをレオゾディアーツに向ける。
レーダーモジュールに搭載されている小型モニターにロックオン完了の表示が現れたため、僕は再度レオゾディアーツを見た。
「次は全弾命中間違いなしです!!」
僕の声に気付いたエムが、レオゾディアーツと距離を取った。
瞬間、僕は再びランチャーモジュールから5発のミサイルを発射した。
今度はどのミサイルも、意志を持っているかの様にレオゾディアーツへ吸い寄せられていき、
しっかりと5発ともレオゾディアーツへ着弾した。
「さて、そろそろ決めますか」
エムの言葉に頷き、僕はランチャーとレーダーのスイッチをオフにする。
エムはベルトから、変身に使っていたゲームソフトの様なアイテムを取り外すと、持っている武器のハンマーに装填した。
『キメワザ!』
電子音声が鳴りエムはハンマーを構える。
『マイティ!クリティカル…フィニッシュ!!』
「おりゃぁああ!!」
エムは近くにあった鉄骨を足場に空中に飛び上がった。
その時、空中に浮いていた赤いメダル状のアイテムを吸収した。
『マッスル化!!』
そしてそのまま、落下の勢いを使いつつ強力なハンマーの一撃をレオゾディアーツに叩き込んだ。
『会心の一発ゥ!』
レオゾディアーツはあまりの衝撃にその場に崩れ落ちたものの、まだ戦えると言わんばかりの雰囲気で、よろよろと立ち上がろうとした。
「ゲンちゃん!決めちゃってよ!」
「了解です!」
『ロケット ON』
僕はロケットスイッチをオンにし、右腕に装着されたモジュールのロケット噴射で勢い良く上空へ飛び上がった。
その速度はかなりのもので、廃工場の屋根などいとも容易く貫きかなりの高さまで上昇した。
そしてもう1つのスイッチをオンにする。
『ドリル ON』
電子音声と同時に左足に、下向きの巨大なドリル型モジュールが装着される。
モジュールの装着完了と同時に、僕はベルト右側のレバーを引いた。
『ロケット ドリル リミットブレイク』
装着しているそれぞれのモジュールのパワーが一気に強まる。
右腕のロケット噴射は更に強力な物になり、僕はその推力が下に向く様に構えつつ、左足のドリルを突き出しながら、地上の廃工場内にいるレオゾディアーツに向けて急降下を開始した。
「いっくぞぉぉあ!!
ライダーロケットドリルキィィィック!!!」
もはや隕石の様な超高速の急降下キックは、その落下速度やドリルの超回転も相まって恐ろしい程の破壊力を有したキックになっていた。
高度数百メートルから、ものの2〜3秒でレオゾディアーツまで間合いを詰め、凶悪な急降下キックを胸部に叩き込んだ。
「グオウアアアアアアアァアアア!!!!」
強固なレオゾディアーツの身体を貫き、その少し後方に僕は着地した。
足のドリルが地面に刺さったせいで身体が数回、望まぬ高速回転をしたが、それは無理やり右足でブレーキをかけた。
リミットブレイクによってエネルギーを放出した為か、ドリルの回転とロケット噴射は停止し、
それと同時に、レオゾディアーツは爆散した。
「ゲンちゃん、なっかなかエグい技だね」
エムが笑いながら声をかけてきた。
「自分でも…そう思います」
「あ、それにタメ口でいいよ。同じ仮面ライダーなんだからさ!」
エムはポンポンと肩を叩きながら言った。
「わかりまし…分かった、エム」
僕の言葉に対し、仮面で見えないものの、エムは笑顔を向けてくれた気がした。
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