これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 (駆巡 艤宗)
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設定集

閲覧、ありがとうございます。

『これは【GGO】であって、【MGS】ではない。』にようこそ!

駆巡 艤宗と申します。

こちらは、本編ではありません。
最初に、注意事項をよくよんでから、ご覧ください。


!《EMERGENCY(危険 キケン 危険)》!

 

1、以下の項目は、多少のネタバレを含みます。

まだ本編を読んでない方は、(楽しみにしてくださっているのであれば)読んでから、本項目をお楽しみください。

 

2、本項目は、話やキャラクターの複雑化による読者の皆様の脳内混乱を防ぐための措置です。

ただし、読者様によってはますますわからなくなる場合があります。ご注意ください。

 

3、本項目は、話が進むにつれ、追加・変更が繰り返されると推定されます。

追加・変更時は、すぐに本編次話後書き及び作者Twitterにて報告しますが、細かい変更は常時行うものとして、報告しません。

それにより、一定期間ごとの追加・変更確認を推奨します。

また、それに伴って、少なからず内容の矛盾・誤字・不明瞭な点が出てくると推定されます。

万全に気をつけてはおりますが、万が一発見した場合は、すぐにご報告願います。

脳内混乱を防ぐための措置ではありますが、ご了承ください。

 

4、無駄な誤解や混乱を避けるため、本編SAOにて登場するキャラクターの設定は、省略させていただきます。

(誤情報の表記を避ける為でもあります。併せてご理解をお願いします。)

 

5、本項目において、項目追加要請は常時承っております。

「ここの所どうなの?」というものがありましたら、遠慮なくご報告下さい。

ただし、諸事情により、ご要望にお答えできない場合もあります。

ご了承ください。

 

6、☆印がついているキャラクターは、一周年記念として行われました、『ストーリーダイブ・キャンペーン』にて誕生したキャラクターとなります。

 

 

 

以上をよくお読みの上、下記の設定集をご覧下さい。

 

__(⌒(_ ´-ω・)▄︻┻┳══━<ー Let's go!-

 

✣◢◣✣

 

【キャラクター】

 

[プレイヤーネーム]:タスク

[現コードネーム]:ビッグ・ボス

[旧コードネーム]:???

[本名]:内嶺 祐 (うちみね たすく)

[年齢]:16

 

[使用兵装]

【IWI デザートイーグル】

+リフレックスサイト(1倍)

+サプレッサー

+店主カスタム(消音性・機能性向上)

 

【バレット M82A3】(M107)

+ハンタースコープ(20倍)

 

[固有ガジェット]

【ダンボール】

・隠蔽、工作、奇襲にまで、なんでも使えるスグレモノ。敵を中に入れたりもできちゃう。

 

[その他情報]

・SAO生還者。SAO時は、裏血盟騎士団所属。

そこで、ラフィンコフィンなどの刺客を暗殺・拘束していた。その中で、ラフィンコフィンに仲間を殺された事がある。

・SAO時代、姉であるユリエを???した。それが、アユムを殺されたことも加わって、今のビッグ・ボスを作り上げた発端。

・現在は、仮想課の依頼でGGOでの裏世界の監視、及び事件の発生防止に努めている。

(ちなみに、GGOに来る前は恋愛ゲーム担当。)

・学校は、SAO被害者が通う高校。何気にキリトと同クラ。

 

ー『待たせたな。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:リボル

[現コードネーム]:オセロット

[旧コードネーム]:???

[本名]:待宮 多門 (まちみや たもん)

[年齢]:30前後

 

[使用兵装]

【コルト SAA ピースメーカー】×2

 

[固有ガジェット]

なし

 

[その他情報]

・SAO生還者。SAO時は、タスクと同じ。

・GGOにて、裏世界プレイヤーの拠点を兼ねたプレイヤーショップ【ガン・マリア】を経営している。

構造図↓

【挿絵表示】

 

・仲間からは、任務時以外には「店主」と呼ばれる事が多い。

・元陸上自衛隊員。防衛大卒。タスクや彼の射撃技術は、ここから。

・現在はタスクと同じ仕事に就いているが、彼自身は拠点のカモフラージュと確保担当。実際に行動を起こすのはタスク。

・リアルでは公務員。仮想課所属。経緯は、無職だった時にタスクと依頼を受け、仕事がないからと菊岡の誘いに乗ったから。防衛大卒の元自衛隊員だけあって、割と高学歴。

・ご察しの通り、「GGOログイン=仕事」な為、勤務時間はずっとGGO内にいる。

・タスクが学校の時は、他の裏世界プレイヤーに雑用仕事を斡旋している。ただし、重要な任務は必ずタスクに回すようにしている。

 

ー『このリロードは、革命(レボリューション)だ!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ウェーガン

[コードネーム]:ラクス

[本名]:多中 従道 (たなか よりみち)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

【H&K MP5】

+ACOGサイト(4倍)

 

【H&K P9S】

+店主お手製後付けレール

+レーザーサイト

 

[固有ガジェット]

【スティムピストル】

・救急治療キットを発射し、着弾するとそのまま回復させることが出来る。

 

【防弾シールド】

・レアアイテムの防弾シールド。横から「H&K P9S」と右手だけを出し、レーザーサイトの助けを借りて射撃する。

 

[その他情報]

・現 医師。

・ビッグ・ボスと戦闘中、スカウトされた。

扱い的には、ビッグ・ボスと同じ。

・タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

ー『待ってろ!今、助けてやる。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:アレク

[コードネーム]:カチューシャ

[本名]:荒木 隆史 (あらき たかし)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

【マカロフ拳銃】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【ラハティ L-39】

・「主砲」として使用。

・貴重でなおかつ高価な20×138mmB弾を使用する、大型ライフル。

・宇宙戦艦の装甲板製でさえ、吹き飛ばすはおろか、易々とぶち抜く化け物。

 

【ブローニング M2】

・「副砲」として使用。

・最大毎分635発の射撃速度を持つ重機関銃。

・たまに、ラクスがこの銃座につくことがある。

 

【特注型多機能銃座】

・「ラハティ L-39」と「ブローニング M2」を同時に据え付けることが出来るカチューシャお手製の銃座。

・「ラハティ L-39」を中心に、その右斜め下に「ブローニング M2」が据え付けられる。

・足元はソリになっており、移動が可能。

(ただし、射撃しながらは不可)

・頑丈極まりないため、一昔前のとあるゲームで流行した某タチャンカダンスも可。

 

【前180方向展開シールド】

・「特注型多機能銃座」の前方取り付け専用のシールド。

・宇宙戦艦の装甲板製で、覗き孔が前と右前と左前に存在する。

・前方180度は頭から足まで全て覆うことが出来るが、「ラハティ L-39」と「ブローニング M2」の銃口だけは中心に伸びているため、前から見た姿はまさに戦車。

・シールドの後ろには、約4人ほど入ることが出来る。

 

[その他情報]

・現 建築設計士

・ウェーガンと同じ経歴で、今の位置にいる。

・ウェーガンとは、GGOを始めた時からの仲。

・彼ももちろん、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

・これもご察しの通り、彼の装備はリアルの仕事の経験を生かし、剣銃作成スキルによって作ったもの。

 

ー『俺はあんたを信じている。だからあんたも俺を信じろ。大丈夫、守ってやる。ただし、頭は……下げとけよ。』

 

 

※補足

「STR大丈夫なのか?」と思った方、ご明察です。解説しますのでご安心を。

実は、【ラハティ L-39】と【ブローニング M2】の合計重量は、ベヒモスが使用している【M134 ミニガン】とほぼ同等なので、問題ありません。

また、【特注型多機能銃座】と【前180方向展開シールド】は、メインウェポンやその他様々なGGO必需品の節制と、カチューシャの馬鹿みたいなSTRで充分カバーできる範疇に収めていますので、大丈夫です。

 

 

[プレイヤーネーム]:シャルル

[コードネーム]:ウォッカ

[本名]:矢矧 美鈴 (やはぎ みすず)

[年齢]:22

 

[使用兵装]

【ステアー AUG A2】

+ホロサイト(1倍)

 

【H&K USP】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【探知デバイス】

・腕に巻き付けるベルトで取り付け、画面を立ち上げて使う装置。

・トラップはもちろん、足跡、体温、も探知可能で、スコープやドローンコントローラーの役割も果たす。

・最近は、シノンの観測手もするようになった。

 

【アタックドローン】

・その名の通り、攻撃可能な索敵ドローン。

・攻撃の種類は、EMP、電撃、自爆の3種類。(本人曰く、自爆は最終手段)

・正方形の板のような形で、床・壁・天井のどこにでも張りつき、移動可能。

・「デバイス探知機」で操作するものだが、ドローン自体にその機能はないため、ドローンカメラを通しての様々な探知(トラップや足跡、体温の探知)は不可能。

・パーツも配線も何もかもウォッカのお手製。その腕は、運営がびっくりするほど。

(一回だけ弱体化のお願いが来た。)

 

【アクティブカメラ】

・簡易設置型の球体小型カメラ。

・ぶん投げても転がしても、蹴り飛ばしたりバットで打ったりしても全然大丈夫。

・カメラの機能しかないため、非常に安価で軽量。作戦によって持っていく量を変えている。

 

[その他情報]

・現 電気工学系の専門学生

・主に自作のガジェットを使用し、索敵を得意とする。

・トレンチとの関係は、本人達は隠しているつもりだが、周りにはだいたい気づかれている。

(特に店主には一発でバレている)

・例外なく、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

ー『あんた!それに私が何キロ配線したと思ってんのよ!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:トレンチ

[コードネーム]:フォートレス

[本名]:道屋 智則 (みちや とものり)

[年齢]:22

 

[使用兵装]

【ファントム】

+自作サイト(2〜8倍)

 

[固有ガジェット]

【防弾シャッター】

・窓や扉の上に取り付け、下に降ろすことで、完全に外部からの攻撃をシャットアウトできる物。

・宇宙戦艦の装甲板製ではない。本人曰く、剣銃作成スキルで偶然見つけた素材らしい。

 

【シャットダウンウォール】

・壁、床に取り付ける事が出来る強化壁。

・最大12.7×99mm NATO弾まで防ぐことが出来る。(カチューシャの20×138mmB弾は、受け止めはしたものの、その後壁は崩れてしまった。)

 

【多方向トラップ】

・M18 クレイモアによく似た形状の、簡易設置型爆発地雷。

・扉の横、地面、天井、壁など、どこにでも取り付ける事が出来る。

 

【ブレイクマット】

・地面に敷設するトラップマット。

・長方形のマットで、踏むと金属の板に足を挟まれ、麻痺の状態異常付与の電撃を食らう。(足をブレイクする)

・車両にも使用可能。

 

【エロ本】

・主に男性プレイヤーを誘引するための秘密兵器。

・本人曰く、【多方向トラップ】との併用が、()()()()()()()()らしい。

・本人の性癖がバレないよう、様々な種類を取り揃えている。

 

[その他情報]

・現 電気工学系の専門学生

・主に自作のガジェットを使用し、特定区域の要塞化、籠城戦を得意とする。

・1回だけ、ボスを罠にはめることに成功している。(その後もちろん……ね。)

・ウォッカとの関係は、本人達は隠しているつもりだが、周りにはだいたい気づかれている。

(特に店主には一発でバレている)

・もちろん、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

ー『何でもわかったつもりか?アマチュア。本当に強いプレイヤーはな、まず足元を見るんだよ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:リューク

[コードネーム]:レックス

[本名]:柏木 竜磨 (かしわぎ りゅうま)

[年齢]:23〜4

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『あーこら!ロー君!それはボス!ってラッ君!?店主さんの店に穴あけないで!!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:アヴェンジャー

[コードネーム]:プルーム

[本名]:古原 司 (ふるはら つかさ)

[年齢]:24

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『悲劇とは唐突に訪れる。終わり(最期)もまた……唐突だ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ギラン

[コードネーム]:ギフト

[本名]:静雲 時雨 (せいうん しぐれ)

[年齢]:22〜3

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『やぁボス!今日の任務は何してもいいんですよね!?なら今から準備してきます!!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:コルト

[コードネーム]:ベネット

[本名]:三村 光 (みつむら ひかる)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『泣けるぜ……』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:タイホー

[コードネーム]:タウイ

[本名]:菊池 朝造 (きくち ともぞう)

[年齢]:30〜3

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『撃ち合いは面倒。アウトレンジで決めるよ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ライア

[コードネーム]:ライト

[本名]:編凪 莉兎 (あみな りつ)

[年齢]:16

 

[使用兵装]

???

 

[固有ガジェット]

???

 

[その他情報]

???

 

ー『たっ、タスクよりは大きいもん!』

 

 




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第一章 ビッグ・ボス 〜The big boss〜 Episode1 氷の狙撃手 〜Ice sniper〜

「ふぅ……これで5人目っと。」

 

一人の少年が、地面に寝そべりながらポツリと呟く。

手には大きな銃。俗にいう「スナイパーライフル」を携え、スコープを覗いている。

そのスナイパーライフルの射線上には、たった今撃ち抜かれたプレイヤーの残骸があった。

 

「あと3人……か。1人は脚を撃ち抜いて尋問でもしようかな。」

 

その少年は、サラッと恐ろしい事を呟く。

そして……

 

「……いた。」

バシュン!

 

この小さなスナイパーの6人目の獲物が、頭を撃ち抜かれた。

 

 

「ん〜!稼いだなぁ……!」

 

場所は一転し、SBCグロッケン。

このゲーム、つまり「GGO」の、首都である。

 

その大都市の真ん中、歩道のような所を歩きながら、そのスナイパーの少年は背伸びをしていた。

 

短い黒い髪に、少し低めの背丈。このゲームでは珍しい、中性的な顔立ちだ。

プレイヤーネームは「タスク」。ガッツリ本名である。

この名前はどちらの世界でも通じるので、とても便利だった。

 

「さて、どうすっかな、今日は休日だし……」

 

その少年、タスクはふわぁと欠伸をすると、ふらふらと歩き出した。

今日は休日。タスクは学生なので、丸1日休みだ。

家族は出かけているので、タスクは1日この世界の中で過ごすつもりだった。

といっても、時間の流れが少し違うので感覚的には一日ではないが。

 

「……そうだな、もっかい稼ぎに行ってもいいかも!」

 

タスクは元気に走り出した。

 

 

バシュン!

 

この射撃音が、また荒野に響く。

 

カチャッ……キン!

 

そして撃った後に銃の外へ排出される、空の薬莢。

その薬莢は、荒野の荒い土に落ちた。

 

「……まだかなぁ、あの人達。」

 

タスクは、ポツリと呟く。

スコープを覗く視線は変えず、暇そうに欠伸をした。

 

「弾道計算も終わったんだけどな。全く、なんでこうも予定通りに来てくれないんだか……暇だしもう一発撃っとくか。」

 

そう言って、さっきの着弾地点から少し奥に狙いを定める。

そしてまた、射撃音が響いた。

パン!と跳ねた土がスコープから見える。

 

「問題なし……と。これ何回やってるんだかね〜」

 

タスクはやっぱり、暇になる。

流石に飽きたのか、タスクがリロードしようとした時。

 

「ん……!?あれか。」

 

タスクが、スコープから目を逸らし、トリガーから指を外して、裸眼で目を凝らした。

視線の先には、まだ遠くに見える、タスクが待っていたプレイヤーのチーム。

 

そう。タスクは、このプレイヤー達を待っていたのだ。

俗に言う、PK(プレイヤーキル)である。

先程から暇つぶしに撃っていたのは、そのプレイヤー達の頭を撃ち抜くための、あらかじめしておく弾道計算のためだ。

 

これをやるからやないかで、命中率に天と地ほどの差が出てくる。

そのために、タスクはこの標的であるプレイヤー達がやってくるであろう時間の少し前に来ておいたのに、まさかここまで遅くなるとは思っていなかった。

 

「ふぃ〜待った待った、やっと来たね。それじゃ……お仕事の時間だ。」

 

そう言って、タスクはマスクと眼帯をつける。

 

マスクはガスマスクのようなもの。ただし、口と鼻のみを覆うようなもので、目は何もカバーされていないものだ。

しかもちゃんと、ガスマスク特有のまーるい物が左右についている。

そしてそのマスクの上に、左目用の眼帯をつけた。

 

これは、タスクが仕事(?)をするときにつける、定番の装備だ。

訳あってこのような装備をしているのだが、それはまた後ほど。

 

そしてタスクは、自称お仕事であるPKの用意をする。

タスクはスコープ越しに敵の位置・陣形・装備などを把握していった。

 

「なるほど……敵は7人。光学銃持ち5、アサルター、いやありゃミニミだな、それが1、黒マントが1……か。歩行速度やマントの凹凸を考えて、あれはミニガンあたりか?なるほど。流石に対人装備を整えてきたな。」

 

そう呟いて、タスクが分析を終える、と思ったその時。

 

「ふ、それに、別のPK狙いさんらがいらっしゃるな。」

 

タスクが、少しにやけて言葉を続ける。

タスクの視線は、スコープと一緒に別の方向に向いた。

距離は、元々の標的から左に約1300mだ。

 

「おお、こっちはバリバリの対人だな。ええと、5人……かな、動き出してる。」

 

タスクは、少しにやけながら遥か遠くを走っていくプレイヤーを眺める。

すると、タスクはあることに気づいた。

 

「あの走り方……あきらかに後ろを意識してる。なにか後方支援でもなければ、あんな走り方は出来ないな。なにかあるな。だとしたら同業者(スナイパー)か。」

 

タスクが、にやけを超えてあきらかに楽しむ笑顔を見せた。

同時にコッキングをして、撃つ時にはトリガーを引くだけにする。

 

「いいねぇ、久々にいいものが見れそうだ。」

 

そう言って、タスクはスコープをさらに左へと向け、スナイパーを探す。

そして、そのスナイパーを見つけた時、迷わず射線を向けた。

トリガーから指を外せば、弾道予測線(バレット・ライン)と呼ばれる、回避するためのシステムは見えない。

そしてタスクは、じっとスコープを覗き込む。

相手の顔さえ見れれば、相手するかどうか決めれるからだ。

 

タスクは、無駄な戦闘はしない。闇雲に乱入したところで、こちらは1人だ。後々面倒くさくなるだけである。

したがって、慎重に選ぶのが道理なのだ。

 

そしてそのスナイパーの顔が見えた時、タスクは高揚を感じた。

 

「シノン……か。なるほどな。どおりであれだけ突っ込めるわけだ。ここは一発撃って、挨拶だけして帰ろう。また会うかもしれないし……な。」

 

そうタスクは決めて、狙いを定める。

 

タスクのスコープには、GGO最強と噂されるスナイパー、シノンが、映し出されていた。

氷の狙撃手と言われ、アンチマテリアルライフルと言われる、とてつもない性能を持った銃、「ウルティマラティオ・ヘカートII」を使用した最強のスナイパー。

アンチマテリアルライフルは、現時点でこの世界に十丁程度しかない。

そんな事実も、彼女の凄さを物語っていた。

そして今、その凄腕スナイパーが、タスクのスコープに横顔を晒している。

 

普通のプレイヤーなら、そそくさと退散するのが良策だろう。

だがタスクは、挨拶がわりの鉛弾をプレゼントして帰ろうと考えた。

なぜなら、タスク自身、GGO内のとある別の分野で、これもまた「最強」と言われているからだ。

先ほどのマスクをつけるのは、これが関係しているのだが…これ以上はタスクの機密事項(トップ・シークレット)だ。

無駄な戦闘は極力避けたいが、そのプライドが勝ってしまう。

 

そして……

 

バシュン!

 

タスクはあの発砲音を響かせた。本当ならもっとバカでかい音を出すのだが、今はサイレンサーが付いている。最低限の音しか出ないのだ。

 

そしてその発射された弾は、シノンに向けて、まっすぐ飛んでゆく。500m以上、下手すりゃ1000m以上の距離を、たった数秒でだ。

 

キン!

 

そして遂に、シノンへと、正確にはシノンの手元に着弾する。

シノンはあきらかに動揺していた。同時に、弾の飛んできた方向に銃を向け、射撃した主をスコープで探す。

 

すると、シノンとタスクの目がお互いスコープ越しに合った。

シノンが、トリガーを引こうとする。

……が。

 

シノンは驚きのあまり、トリガーから指を外してしまった。

なぜなら、目があった相手、タスクは、すっと視線を逸らすと、そのままスナイパーライフルを背中に背負って、撤退しようとしたからだ。

 

相手スナイパーに位置もバレ、標準も合わされたこの状況で、意味ありげににやけながら、背中をガラ空きにしてゆっくりと奥に歩いていく。

いつの間にか、シノンはスコープから目を逸らし、会ったこともない眼帯の小さなスナイパーに対して、唖然と呟いていた。

 

「強い……!」

 

と。

 

ーこれが、シノンとタスクの一番最初の戦闘(?)である。




はじめまして、駆巡 艤宗です。

今回から、ソードアート・オンラインの二次創作を書かせていただきます。
よろしくお願いします。

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Episode2 眼帯マスクスナイパー 〜Eye band and mask sniper〜

シノンがタスクとエンカウントした次の日。

とあるガンショップに来ていたシノンは、後ろの男2人組の話し声に耳を傾けていた。

 

「なあなあ聞いたか?」

「いきなりなんだよ、聞いたって……?何をだよ。」

「あの、噂の眼帯マスクスナイパーの話!」

「眼帯……?ああ、それか。」

「そう!それが、このまえ8人スコードロンをヘッドショットだけで壊滅させたんだと!」

「8人のをか!?そりゃ大したもんだなぁ。」

「だろ!?すごいよなぁ、眼帯はともかく、そいつのマスクをとった顔を見たものは誰もいないんだと。」

「へぇ、でも、眼帯とか正直命中率落ちないか?」

「だよな、でもそいつは頭を一発でぶち抜くらしいぜ?」

「ひゃ〜おっかねぇ奴もいるもんだなぁ。武器とかわかってんの?」

「それがね……なーんも分かんないのよ。」

「謎に満ちてんな……会いたくないもんだ!」

 

そう言って、その男2人は笑い合う。

シノンは、商品を見るふりをして考えていた。

 

《眼帯、それにマスク……あのスナイパーと一致している。彼も、戦場で笑えるだけの強さを持ってた。それにあの笑み……あの時私は、結局トリガーを引けなかった。引いたとしても、当たったかどうか……》

 

シノンは、あの時に出会った、あのスナイパーのことを考える。

彼女はまだタスクの名前を知らない。でも、くっきりとあの光景を覚えていた。

あの時の弾の正確さ、撤退する時の笑み……

どれをとっても、シノンから見てみたら強いことに変わりない。

 

《いつかまた戦いたい。そして勝ってみたい!》

 

いつの間にかシノンは、手をぎゅっと握りしめていた。

 

 

「〜♪弾っ弾〜タマタマさんを買わなくちゃ〜♪」

 

一方、タスクは、そろそろ切らしてきたスナイパーライフルの弾を買いに、これまたとあるガンショップに来ていた。

 

いつも通っているガンショップ。ここの店主はおまけしてくれる事が多く、お金を後払いに先に商品をくれることもあるいいお店だ。

 

例えば、前に一度、仕事する前に弾を切らしてしまい、先に弾を貰って仕事の報酬で支払った事がある。

 

そんなハイリスクな事を、この店主は平然とやってくれたのだ。

タスクは、そんな店主さんが大好きだった。

 

……それに、数少ないタスクの正体を知る人物の1人でもある。

 

「こーんにちわ!」

「おーう、いらっしゃい!」

 

タスクは、扉を勢いよく開ける。

店主は、いつもの気前良い返事を返してくれた。

実はこの店主、本人自身プレイヤーで、たまに狩りに出たりする。

それ故に、融通がとってもききやすく、タスクのみならずやってくるプレイヤー達皆に好かれていた。

 

その店主が、タスクを見てにこやかに話しかける。

 

「おっ!来たねぇ、タスク君!お仕事はどうよ!」

「順調です!店主さんのおかげで、この前もぱぱっと終わりました!」

「お、そりゃあ良かったな!ちなみに……何人だい?」

「あはは……あまり言えないのですが、8人です。」

 

タスクと店主がここまで話した時、店の中にいた一人のプレイヤーが、反応した。

 

何を隠そう、シノンである。

 

シノンは、即座に振り向いてしまう。

だが、そんな動きなど全く気にとめず、店主とタスクは話を続けた。

 

「おお、そりゃまたすげえ事すんな!どれ、なにかサービスしたろうか。」

「ええー?いいですよ店主さん。それはまた今度、僕が困ったときに!」

「……ふふ、タスク君。よく言った!」

「店主さんが毎回やるからです!」

 

そう言って、タスクと店主が笑い合う。

傍から見れば、ただの仲が良いプレイヤー同士の談笑だろう。

 

だが、タスクはきちんと見抜いていた。

この店の中に、つい昨日エンカウントした同業者(スナイパー)がいる事に。

 

それもそのはず。あんな目立つ髪の色のプレイヤーだ。忘れるわけがない。

 

故にタスクはシノンをチラりと見る。

……が、すぐに店主へと視線を戻した。

 

店主は、何気ない優しい顔で、タスクを見る。

だが同時に、店主も見抜いていた。

タスクとシノンが昨日、エンカウントしている事に。

 

さっきも言ったが、この店主は融通がききやすく、皆に好かれている。

それはつまり、皆から雑談を交えて様々な情報を得られるという事だ。

様々なプレイヤーから聞く「眼帯マスクスナイパー」の噂。

そして、その話に対するシノンの反応と、今さっきのタスクの目の動き。

それに加え、タスクが来る前にシノン自身が相談してくれた、その「眼帯マスクスナイパー」に関しての話。

実際のプレイヤーである店主からして見れば、上記の事から推測してこの2人が昨日、エンカウントしている事は明白だ。

 

だがもちろん、タスクの秘密はバラさない。店主自身も、タスクの事が大好きだからだ。

 

だからあえて、たわいのない話を続ける。

 

「はは、すまんすまん。タスク君がかわいいからさ、ついやりたくなっちゃうんだよ!」

「か、かわいいって!?僕男ですよ!?」

「関係ない!僕みたいなオッサンは、お前みたいな小さい子を可愛いと感じてしまうんだよ!」

「え、ええ!?」

「こっちに来い!」

 

そう言って、タスクの頭をわしゃわしゃと撫でる。

タスクは「やめろー!」と抵抗する素振りを見せつつも、すんなりと店主の腕の中に収まった。

 

それをずっと見ていたシノンが、ため息をつき、後ろを向く。

そしてポツリと、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「まさか彼な訳……ないよね。」

 

と。

確かに、さっき聞いた噂と彼らの話の内容は一致しているし、あの時見たスナイパーの髪の色は、タスクの髪の色に似ている。

 

……だが、身長があまりにも小さいのだ。

目が合ったあの時、寝そべっていたために体は見えなかった。

だが、第一、そんな低身長プレイヤーが、あんな大きなスナイパーライフルを担げるわけが無い。

 

あの時、目が合って、あのスナイパーがスナイパーライフルを()()()としたのは見えた。だが、彼のにやけた顔を見たとき、すぐにスコープから目をそらしてしまい、担げていたのかどうか定かではない。

 

故に、シノンはタスクが噂のスナイパーである可能性を頭から消した。

いくら何でも、不確定要素が多すぎるからだ。

 

それに、例え確定要素だらけでも、あの大きなスナイパーライフルをあの小さな体でどう持ち運んだのかを問えば、一発でその説が否定されてしまう。

やはりこの説は違う。そうシノンは結論づけた。

 

そう頭の中で区切りをつけて、店を出るシノン。

 

そんな後ろ姿を、タスクと店主は見ていた。

そして、そこから視線を逸らさず、唐突にタスクが口を開く。

 

「店主さん?気づいてるんでしょ。あの話。」

「うっ!やっぱり分かった?」

「分かりますよ。店主さん、癖が出てましたから。」

「癖?どんな癖だい?」

「言ったら対策されてしまいますので、言いません。」

「ちぇー、かわいくない子だな。」

「さっきと言ってる事が真逆なのですが?」

「これはこれ!それはそれ!」

 

そう言って、また店主とタスクの掛け合いが始まった。




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Episode3 赤い血より赤い薔薇を 〜A red rose than red blood〜

「……と、いう訳さ。」

「なるほど。」

 

GGO内の、とあるガンショップ。

そのショップの裏部屋で、タスクと店主が話をしていた。

内容は、シノンが店主にした相談の話と、どうやって店主がそのシノンの標的がタスクである事に気づいたかについてだ。

 

概要は実に簡単だ。

シノンは、タスクが来る前に店主に「とあるプレイヤーをどうしても倒したい」と相談を受け、そのプレイヤーの特徴からタスクを連想する。

そしてタスクが来た時、タスクの視線や意識の動きで確信を得て、タスクに話を持ちかけた……

 

という訳だ。

 

タスクは正直、話が早くて助かっていた。

なぜなら、いずれシノンと勝負をするのは分かりきっている事だし、その時にはちゃっかりこのお店のサポートを受けるつもりだったからだ。

そこで、いちいちこの店主に説明するのは流石に面倒くさい。

かくして、タスクはほんの少しだけ、店主の詮索に感謝していた。

 

と言っても、今店主にこの事を知られたとして、シノンとの勝負が勃発するのがいつか分からない。

つまりどういう事か。それは、今この瞬間から、シノンとの勝負時のサポートを弱みに、何をされるのか、どんな恐ろしい依頼をされるのか分からないという事だ。

タスクはこの店主のズルがしこさに、正直嫌悪感を覚える。

 

そんな思惑が顔に出たのだろう。店主が、ガッチリとタスクの手を抑えながら、ニコニコしてタスクを見た。

タスクは、ここまでかと息を呑む。

そして店主がゆっくりと口を開いた。

……が、その開いた口から出てきた言葉は、とてつもなく意外なものだった。

 

「で、こうやって俺が勘づいた瞬間、匿名プレイヤーからシノンのPK依頼が来た。」

「NA・N・DE ☆」

「という訳でよろしく。」

「終わった……」

 

とん、と肩に憎たらしいクソ店主の汚らわしい手が置かれる。

タスクは、恨みがましそうに店主を見上げた。

 

なぜって、よりにもよってこのタイミングだからだ。

シノンがあのスナイパー、もといタスクに対して報復心全開の時である。

こんな時に姿を見られてしまえば、間違いなく激しい殴り合い(正確には撃ち合い)のはじまりはじまりである。

タスクとしては、しばらく様子を見て、シノンの報復心が薄れたところを頭一発ぶち抜いてやろう。そう考えていた。

そうすれば無駄に追撃される事も無く、だんだんと時間が経つにつれて決着が付く。

それが、一番望ましい勝ち方だ。

タスクは、マスクの奥のこの幼い顔を見られるわけには行かないのだ。

 

だが、この憎たらしいクソ店主によって、そんな野望は撃ち砕かれた。

 

そして、彼にとって一大仕事、「シノン暗殺」が、タスクに(()()()()()()()()()())受諾された。

 

 

「はぁ……あの店主め、なんで僕に……?」

 

場所が変わって、時間も少し進んで暗くなりかけている今。

タスクは、仕事のためにシノンが良くPKしている荒野の真ん中に、一人寝そべっていた。

もちろん、鼻と口だけのガスマスクに、左目の眼帯をつけている。

そして今回は、激しい戦闘を見越して「バトルドレス」と呼ばれる、黄土色の防弾鉄鋼が至る所に装着され、至る所に露出した、とっても重たいスーツを着ていた。

これを着るとすこし大きく見え、遠目で見ればガタイがよく見える。

 

それになりより、かっこいいのだ。これを着てスナイパーライフルやランチャー類を背負うと、とても様になる。

そう、まるで、【MGS】の、スネ〇クのように。

 

そんな話はさておき、タスクの左には、自分愛用のスナイパーライフル、「バレット M82A3」、別名「M107」があった。

 

このライフルは、アメリカ合衆国のバレット・ファイアーアームズ社が開発した、アンチマテリアルライフルだ。

 

アンチマテリアルライフルは別名、対物ライフル。

普通の対人ライフルより、威力と射程が大幅に向上されている。

それ故に、その希少性も高く、このアンチマテリアルライフルはこの世界に十丁程度しかないと言われており、同時にこの武装を持ったものは相当の実力者という事になる。

 

タスクも、必死になって手に入れたから、このM82A3は彼にとって誇りの様なものでもあるのだ。

なら、

 

そんな恐ろしい武装を持ったからには、もう敵なし!

 

……と、いう訳にも行かないのである。

 

実は、今回の目標(ターゲット)であるシノンも、アンチマテリアルライフルの使い手なのだ。

シノンが使うのは、「ウルティマラティオ ヘカートII」。

タスクのM82A3と同等の性能を持った、スナイパーライフルだ。

 

そんなライフル持ちがお互いに1体1で戦うという事はつまり、実力が拮抗し、長期戦に発展する事を意味していた。

別にそれ自体はタスクは気にしないのだ。こんな長期戦など、あの店主によって仕事をこなしてきたタスクにとって、短いようなものだからだ。

 

主にタスクの仕事は、店主が仲介して行われる。

どういう事かと言うと、まず依頼主が店主のあの店に行き、店主に依頼する。

そして店主は、その依頼に一番適性があるプレイヤー(傭兵)に、依頼を勧め、遂行させる。

そして成功した時に出る依頼主からの報酬の約1割が、店主の元に「仲介料」として入り、その依頼を遂行したプレイヤーに9割が入るのだ。

 

タスクは、そんな店主が仲介した実に様々な依頼を、仕事として淡々とこなしてきた。

暗殺・潜入・回収・破壊など。偵察もこなした。

そうやってどんどん場数をこなし、仕事を成功させていくと、あちら側の業界、いわゆる「裏業界」で、有名になっていく。

スパイ映画とかでよく見る、一般人には知られていないような世界だ。

そうなってくると、やはり一部の人達から狙われる。そこで、タスクはステルス性を重視し、マスクをつけ、アンチマテリアルライフルを入手し、なるべくステルスで任務をこなすようになったのだ。

 

当然、ステルスとなれば「隠れ蓑(マザー)」や「拠点(ベース)」も必要である。

そこで、 贔屓してくれることも多く、仕事も手に入りやすいあの店が、現状タスクの「隠れ蓑兼拠点(マザー・ベース)」となっていた。

店主もそのことはよく承知しており、「スパイの本部みたいな?かっこいい〜!」などとほざいていたが、やるときはしっかりとやってくれる。

 

かくしてタスクは、今のスタイルを確立させた。

といっても、このスタイルは単なる傭兵とあまり変わりない。そこで、あまりの成功率の高さと、身を隠しながらの戦闘スタイルから、裏業界で二つ名が付けられてしまった。

伝説の傭兵、GGOでの「ビッグ・ボス」と。

 

「はぁ……まあ、勝てないことは無いし、別にいいんだけど……」

 

そしてその「ビッグ・ボス」は今、完全に暗くなった荒野に、ボッチで寝そべって、悲しいかな、一人でつぶやきを漏らしていた。

内容は、タスクの悩みについてだ。

 

「どうしても、引き金は引きたくないんだよなぁ。なんというか……傭兵の名が廃るような気がして。」

 

そう言って、タスクは息を深く吐く。

こんな言葉がある。「女性には、血の赤より、薔薇の赤を見せよ。」

と。

この世界に身を置いている人とはいえ、女性は女性だ。

 

 

 

 

そう。タスクは、女性に対して決して引き金は引きたくないのだ。




こんにちは。
最近、感想を4件も貰えて嬉しすぎる、駆巡 艤宗です。

皆さん!ありがとうございます!たった2話でお気に入り約20件!
感謝の限りです!本当にありがとうございます!
感想で、「〇〇待ってます」などとご要望までいただきました。
なるべく叶えようと思っているので、よろしくお願いします。

まだお気に入りされてない方も、よろしければよろしくお願いします。

では。

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Episode4 決意 〜Determination〜

「引き金は引きたくないんだよなぁ……」

 

タスクは、ポツリと呟く。

その内容は、いかにシノンを制圧するかだ。

 

タスクは女性に対し、あまり引き金は引きたくない。もっといえば、弾が当たるコースに銃口すら向けたくない。

 

それは男性の本能的なものだと言われればそれまでだが、こんな世界に身を置いているとしても、女性は女性だ。

せめて異性に対してぐらい、生物的でなければ、この仕事で正気を保ってられないのだ。

 

これは、この仕事をやる上で意外に重要なことだ。

まあ……気の狂った方々は容赦しないらしいが、そんな非人間じみた事をしても、周りから人が引いていくだけだ。後はなんにも残らない。

だからやっぱり、タスクは気が向かない。

 

別に、だからと言ってこの仕事を放棄する訳では無いし、殺らねばならない時は容赦するつもりはない。

だが、今はこちらが一方的に待ち伏せ、頭を撃ち抜こうとしているのだ。

ついてるものがついてる方ならわかるだろう。少し引け目を感じるよね?

 

とまあ、こんな感じの葛藤が、タスクの中に渦巻いていた。

 

「……!でもまてよ?」

 

その時、タスクは、ある可能性について思いついた。

 

「PK依頼って事は、別に依頼主はなにかアイテム欲している訳では無い。おそらく依頼主がモンスターを狩って、帰るまでの時間が欲しいんだろう。……てことは、銃口を適当に当たらないコースに向けて外しておけばそれはそれでいいんじゃ……?」

 

タスクは、警戒そっちのけで思案する。

それもそうだ。タスクの仕事上、葛藤ほど面倒なものはない。

だが……

 

「いや、ダメだな。彼女の経験と性格じゃ、おそらくすぐに時間稼ぎがバレて逆上し、報復心を増させてしまう。それだけはなんとしても避けたい。」

 

う〜んと考え込むタスク。

 

「どうしようか……できれば当たるコースの銃口は向けたくない。もっといえば、引き金すら引きたくない。かと言って、適当に相手をしてどうにかなる相手でもない……なら、あれしかないか。」

 

そしてタスクは、やっと結論づけた。

その結論は……

 

「CQC」による、近接戦闘制圧での制圧だ。

 

こうすればシノンに当たるコースの銃口を向けることもないし、生半可な相手をしているようにも見えない。

なんてったってスナイパー戦だ。そんな戦闘で、まさか近接攻撃をしてくるとは思わないだろう。

 

ちなみに「CQC」とは、「近接戦闘」の事だ。

これは、ステルスで仕事をしだした時、敵に発見された場合の対処法として習得したスキルの一つだ。

タスクはこのスキルをこれでもかと言うくらいかちあげていた。

 

つまり、例えタスクを発見しても、その発見した距離が10m以内なら、武器を取り出す前に絞め落とされるという事だ。

これを習得した時、めちゃくちゃ役に立ったのを覚えている。

 

これでシノンを制圧すれば手を抜いたとは思われないし、きっちり時間を稼ぐことも出来る。

タスクは、「これだ!」と言わんばかりに拳を握りしめた。

 

まあでも、少なからず牽制で引き金を引かねばならないが、そこは仕事だからとぐっと我慢する。

だが、絶対にシノンに当たるコースに銃口を向けない。これは、自分の中の約束として、胸の中にしまった。

 

 

それから時は経ち、今、日の出である。

結局決意を決めたあの夜にシノンは現れず、粘り強く待つしかなかった。

 

ちなみに、この仕事の期限は今日である。

今日中にシノンを仕留め……いや捕まえなければ、仕事は失敗だ。

 

そんなプレッシャーも重なって、タスクは非常に苛立っていた。

 

「どんだけ待てばいいんだこれ……」

 

タスクは時間を確認する。リアルの時間は午前1時。そして月曜日だ。

学校に行かねばならない日である。

まだ午前1時なら大丈夫だ、と思われるかもしれない。だが、スナイパー対スナイパー戦は、意外に長引くことが多々ある。

それによって学校を遅刻するなんて、分が悪い。

 

だからタスクは、いい区切りがついた今のタイミングでログアウトしてしまおうと考えた。

 

タスクはとりあえず、店主へとメッセージを送った。

予想していたのか、返信は早い。

 

『1度現実へ帰投する。仕事は学校から帰投した時に再開する。』

『了解。ちなみに、シノンも学生という情報がある。なるべく早く帰ってきて、再開した方が有利だ。どうするにせよ、今はシノンもログインしている可能性は低い。』

『了解。じゃ。』

 

そう言ってタスクは、左手で空中に浮かぶディスプレイを出す。

そして、その中にある「Logout」の所を押した。

 

 

「ただいま。」

 

タスクは、ゆっくりと目を開ける。目の前にはリアルの自宅の玄関…ではなく、いつものSBCグロッケンの光景が広がっていた。

今、午後4時。学校から帰ってきた直後である。

いち早く仕事に戻るため、帰ってきてすぐログインしたのだ。

 

「さ〜てと。行きますかぁ。」

 

そう言って、タスクは走り出す。

これでも、ステータスの一つ、AGI(俊敏性)は、バカ高くしてある。

並大抵のプレイヤーでは追いつけない。

よって、すぐに街から出て、荒野フィールドが迫ってきた。

同時に左手でウィンドウを開き、いつもの眼帯とマスク、そしてバトルドレスを選んだ。

一瞬でタスクの服が変わる。そして、いつもなら手で付けるマスクと眼帯も、今日はゲームシステムに任せ、自動でつけてもらった。

 

「よし。」

 

タスクは、パパッと自分の体と顔に手を当て、きちんと装備されているか確認する。

そしてまたウィンドウを開き、今度は「ウェポン」のところを選んだ。

 

「ほいほいっと。」

 

タスクは、慣れた手つきで武器を選択し、ウィンドウを閉じる。

すると、まず「M82A3」が出てくる。それを、ぱっと受け取ってすぐに左の背中に回す。そしてそれは、バトルドレスに内蔵されたベルトに固定された。

 

そして次に「デザートイーグル+サイレンサー」が出てくる。

これは、サブウェポンとして仕事の時に愛用しているハンドガンだ。

といってもこの銃、ハンドガンとは名ばかりで、誰でも聞いたことがあるだろう、「AK-47 カラシニコフ」と、威力がほぼ同じなのだ。

一部では、「ハンドキャノン」とも言われているらしい。

故に、少し大きめで反動もでかい。しかもサイレンサーをつければ相当物騒に見える。

が、タスク自身このカスタムが一番しっくりきていた。なぜなら、威力が高いということは、同時に射程も伸びるということだ。

つまり、わざわざメインウェポンを使わなくても約100m周囲はサイレンサーによる消音効果も加わって、簡単にステルス制圧できてしまう。

これもCQC同様、手に入れた時すごい役に立った。

タスクはのこれを、すぐに右後ろ腰のホルスターにしまう。

 

その次に、仕事に必要な小物類がホイホイ出てくる。

グレネード、双眼鏡、通信アイテム、交換用マガジン、空マガジン、クレイモア、C4、折りたたまれたダンボール。

タスクは、そんな細々としたものを全て正確にキャッチし、バトルドレスの至る所にあるポケット、ベルト、バックに詰めていった。

 

とまあ、タスクはこんな装備を全力疾走しながら装着し終えた。

背中の左側には長いスナイパーライフル。右後ろ腰には大きなハンドガン、そしてバトルドレスの様々なところに大小の膨らみがある。

どう考えても、物騒極まりない装備である。

まあ、仕事自体他のプレイヤーとは天と地ほどの物騒さがあるのだが。

 

そしてタスクがあらかじめ決めておいた位置に着いた時。

遂に、シノン対タスクの戦闘が始まった。




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Episode5 二回目の決戦 〜Second time, decisive battle.〜

攻撃は、シノンが先だった。

タスクが装備を走りながら整え、あらかじめ決めておいた位置に着いて、双眼鏡であたりを索敵しだした時。

偶然、廃墟の建物の中で寝そべり、こちらに銃口を向けているシノンと目が合ったのだ。

 

「……!」

 

タスクは、前方へと飛ぶ。そしてそのまま寝そべると、横に転がって岩陰に隠れた。

シノンの銃声は、タスクが前方へ飛ぶのと全く同じタイミングで聞こえてきた。

結果、タスクは何とか回避できたが、危うく初弾必中される所だった。

飛んできた角度や着弾時の砂の跳ね方から、シノンは最初からタスクの頭を狙っていたのだと推測できる。

 

「こ、こえええ〜!」

 

タスクは小さく呟きを漏らす。

こんなところでやられては、元も子もない。

タスクは大きく息を吐いた。

 

「よし、行こうか。」

 

そして、今度はタスクから動き出した。

 

✣(視点変更)

 

「いた。」

 

そんなシノンの呟きは、銃声にかき消された。

その銃声のもとである銃……ヘカートIIの射線上には、そのシノンが狙っているプレイヤー、「ビッグ・ボス」がいる。

ビッグ・ボスは、一瞬だけこっちを見て、前に飛んですぐに岩陰に隠れた。

シノンは、流石に驚いた。

 

「なんであの弾を避けれるの……!?」

 

それもそのはず。

スナイパーライフルの弾を避けるなど、最初から撃ってくる方向が分かっていなければ到底不可能だからだ。

 

「何なのよあいつ……!」

 

そう言って、シノンはレバーを引く。

おそらくビッグ・ボスは、キャラクターの6つのステータスの割り振りが破格なのだろう。

そのことをシノンはすぐ判断し、第2射に向けて狙いを定めるべく、スコープを覗く。

だが、さっきビッグ・ボスが隠れた岩陰にはもう誰もいなかった。

 

「な……!?」

 

シノンは明らかに動揺する。

レバーを引くだけの短時間で、あの岩陰からどこへ移動したのか。

秒にしてたった3秒と言ったところだ。

 

「どこに……!?」

 

シノンは、慌てて索敵する。

ヘカートIIのスコープを使って、眼下に広がる荒野をくまなく探した。

するとその時、シノンの前髪を掠めるように、横から弾丸が飛んできた。

幸い当たらなかったものの、もう少しズレていれば確実にヘッドショットだ。

シノンは慌てて仰け反り、射撃位置を変えるべく移動する。

同時に、シノンは気づいていた。ビッグ・ボスも、アンチマテリアルライフル持ちである事に。

 

ビッグ・ボスは、シノンが位置を変えるタイミングと一緒に移動していた。

そうすれば、移動中に撃たれるなんてことはなくなる。そう思ったのだろう。

だからそれを見たシノンは、立ったままで移動中の影を撃った。

だがそこはやはり、跳躍されてよけられる。

 

「……!」

 

シノンは、その姿を見て移動を再開した。

そしてまた、今度は別の床に寝そべり、ビッグ・ボスの姿を探し、撃った。

 

 

それから戦うこと一時間。

戦況の展開は全く変わっていなかった。

 

ビッグ・ボスが荒野を駆け巡りながら牽制射撃をし、シノンが適度な間隔の時間で位置を変えて射撃する。

 

そんな戦闘が長々と続くと、流石に弾数が無くなってくる。

既にシノンの隣には、撃ちきったマガジンの山ができていた。

と言っても、シノンのSTR(筋力)の関係によってそこまでの量を持って来れないため、2〜3個重なっているだけだが。

だが、このマガジンはアンチマテリアルライフル用のものだ。重ねれば2〜3個でも山になる。

 

 

シノンが移動するタイミングでビッグ・ボスも動く。

ならばとシノンは自分自身が移動中、同じく移動中のビッグ・ボスを狙うようになった。

こうした方が、よっぽど効果的だと考えたからだ。

だがやはり、ビッグ・ボスには当たらない。

シノンは自然と速射になっていた。

ビッグ・ボスの移動速度に合わせ、数撃ちゃ当たると言わんばかりに弾を叩き込んでゆく。

 

ダンッ!パシン!カチャッ……ダンッ!パシン!カチャッ……

 

テンポよく聞こえてくる速射音。

その効果は、少なからずあった。

 

1回の速射につき1回は、ビッグ・ボスに弾が当たるようになって来ていたのだ。

ビッグ・ボスはよろめきながらまた跳躍して岩陰に隠れ、あちらもまたアンチマテリアルライフルでの射撃をしてくる。

 

アンチマテリアルライフル対アンチマテリアルライフルの戦い。

唯一違うのは、その戦闘スタイルだった。

 

そしてその戦闘スタイルの違いが、ついにこの戦いに勝敗をつける事になったのである。

 

 

その戦いの勝敗は、意外な結末を迎えた。

 

だんだんお互いに疲労し、弾も尽きてきた頃。

先程から全く変わっていないこの戦況に、また乗ろうと移動し、シノンがスコープを覗いたその時。

 

突如として、眼下に広がる荒野から、ビッグ・ボスの姿が消えた。

先程までこの荒野を駆け巡っていたビッグ・ボスが、全く気配を消したのだ。

 

シノンはもちろん、動揺を隠せない。

どこだどこだと、ヘカートIIの銃身とスコープを右往左往していると、後ろから急に足音が聞こえてきた。

 

シノンは、咄嗟にスコープから目を逸らし、サブウェポンのG(グロック)18を取り出す。

 

このG18には、弾を通常より多く装填するためのロングマガジンが取り付けられていた。

しかもこのハンドガン、フル・オート、つまり連射が出来る優れものなのだ。

敵が間近に迫った時、このサブウェポンをとりあえずばら撒いておけば牽制になり、時間を稼ぐ事が出来る。

 

だが、そんな機構はビッグ・ボスの前では無意味だった。

 

「ぐっ……!」

 

シノンが、地面へと叩きつけられる。

それは、あっという間だった。

 

後ろからの足音で気づいた敵の奇襲に対抗すべくすばやく取り出したG18は、誰かの手によって……まあビッグ・ボスだろうが、そのビッグ・ボスの手によって簡単に叩き落とされ、やっと顔が後ろに回った時には世界が反対に見えていた。

そしてその直後に背中に痛みが走り、視界が暗転した訳だ。

 

そしてシノンは、ゆっくりと目を開ける。

するとそこには、デザートイーグルにサイレンサーをつけたサブウェポンを上から突きつけている、ビッグ・ボスの姿があった。

 

「……!」

 

シノンは、殺られる!と覚悟する。

 

……が、ビッグ・ボスはすっと銃口を上に向け、すぐに後ろ腰のホルスターに差し込んだ。

同時に、銃を持っていない左手を差し出す。

 

シノンは、すこし悔しそうにその手を握った。

すると、勢いよく起こされる。

 

「うわっ……!」

「ああ、すまない。」

 

ビッグ・ボスは、案外あっさりと謝る。

シノンは、あまりのイメージの違いに驚いていた。

 

そんな中、ビッグ・ボスが身をかがめてシノンの手から叩き落としたロングマガジンのG18を拾う。

そしてそれを右手に持つと、慣れた手つきでロングマガジンを取り出し、シノンに差し出した。

シノンはおずおずと受け取る。

 

すると、ビッグ・ボスは淡々と話し出した。

 

「あんた、このロングマガジンのG18を、牽制用に装備しているんだろう?」

「え……ええ。」

 

シノンは、少し狼狽える。

ビッグ・ボスは、そんな事は気にとめずに話を続けた。

 

「なら、こんな大きなマガジンをつけていちゃダメだ。」

「ど、どうして?」

「いいか?ロングマガジンを付けるということは、それだけ重量と長さを追加するということだ。同時にそれは、取り回しをしにくくなるということでもある。」

「そ……!それは……!」

「なら、即時に対応すべく装備しているそのG18に付けてはいけない。せっかくのフル・オート式が無駄だ。純正の弾数の少ないマガジンを付けて、取り回し重視にしなければ、牽制には向いてない。」

「……!」

「さっきもそうだ。あんたがロングマガジンにしていてくれたから、俺はあんたのG18を抑え、叩き落とせたんだ。」

「そ、そんな……に……?」

 

シノンは、唖然とする。

牽制なら、弾数が多い方がいい。勝手にそう思って付けていたロングマガジンが、今回の敗北の要因なんて、考えもしなかったからだ。

 

話を区切ったビッグ・ボスは、マガジンが取り外され、安全装置を付けたG18を、すこし回して弄んだ後、シノンに差し出す。

 

そしてまた、シノンがおずおずと受け取ったのを見て、また身をかがめて、今度は床にバイポッドを立てたまま放置してあったヘカートIIを手に取った。

これもまた慣れた手つきでマガジンを取り出し、ボルトアクションレバーを扱って、すぐに撃てないようにしていく。

 

そして一通り作業を終え、最後に安全装置をかけた後、銃口を上にしたヘカートIIを差し出した。

それと同時にビッグ・ボスは、笑みを含めながみこう呟いた。

もちろん、シノンに聞こえるように。そして、シノンを褒め称える様に。

 

「だが 、こいつを使った速射は見事だった。

 

 

 

……いいセンスだ。」

と。

 

シノンは呆気に取られていたが、ビッグ・ボスはくるりと後ろを向き、建物の壁の後ろに消えていった。

 

 

ーそして、シノン対タスクの2度目の戦闘が、幕を下ろした。




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Episode6 悩み 〜Trouble〜

「いい……センス。」

 

ここは、あの店主のガンショップ。

そのガンショップの一角にある休憩スペースのようなところのカウンターに座ったシノンは、一人ポツリと呟いていた。

 

内容は、一昨日戦った通称、「ビッグ・ボス」との戦いの後、去り際にかけられたあの言葉だ。

 

ーだが 、こいつを使った速射は見事だった。

ーいいセンスだ。

 

なぜかこの言葉だけ、強く耳に残っている。

シノンは、ある一点を見つめ、考え込みだした。

 

だんだん眉間にシワがより、どんどん思考の沼に入ってゆく。

そして、そんな思考の沼に完全に飲み込まれそうになった時、不意に、優しい声が前から飛んできた。

 

「やあシノンさん。なにかお悩みかな?」

 

シノンは、咄嗟に顔を上げる。そこには、この店の店主がいた。

その店主はいつも通り、優しい顔をしてシノンを見ている。

シノンは、慌てて首を横に振った。

 

「あっ、ああ、いや、その……!」

「ん?どうかした?」

「ええと……」

「なにか悩みがあるなら、相談に乗ろうか。」

「えっ……?」

 

その店主は、あっさりと見抜いていた。

シノンが、あの時かけられた声の事で、悩んでいる事を。

でも、それを悩みと言ってよいのかと、これもまた悩んでいる事を。

 

でも、この店主なら聞いてくれる。

 

そう、シノンは内心で考えた。

そして……

 

「実は……」

「うんうん」

 

そこからシノンは、あの戦いの一部始終を話し、同時に自分の悩みについても打ち明けた。

 

本当の顔を見せないで言われたあの言葉。それは本当に褒める意味を込めて言ったのか。

そしてそれを、自分は素直に受け取っていいのか。

 

そんな些細な悩みを、ただ淡々とシノンは店主に打ち明けた。

すると店主は、分かっていたかのように答えを返した。

 

「シノンさん。きっとそれは、嘘じゃないよ。彼は本当に、あなたの腕を褒めてるんだと思う。」

「えっ……?」

「僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ。」

「深い……関わり……。」

 

シノンの中で、4日か5日前に見たあの光景が頭に浮かぶ。

身長が低く、店主とじゃれあって無邪気に笑っていたあのプレイヤー。

シノンは、また考え込もうとする。

 

……が、その必要はないとばかりに、店主が唐突に話し出した。

 

「ねえ、シノンさん。」

「はい?」

「……知りたい?彼の正体。」

「……!」

 

唐突に、悩みの答えを突っ込んでくる店主。

シノンは流石に面食らってしまった。

だが、そんなことはお構いなし。店主は周りを見渡した後、少し声を落として、でもかわらない優しい声で、こう続けた。

 

「彼から言われているよ。『あいつは信用できる奴だ。あいつなら、自分の正体を教えても構わない。』とね。ちなみにあいつとは、あなたの事だよ。」

「でっ……!でも……!」

「はは、いい子だなぁ君は。いいんだよ。俺も、シノンさんの事を信用してる。彼だって同じさ。」

「そうなんですか……じゃあ、どうしてです?何でそこまで、私を信用してくれているのですか?」

「それはね、シノンさん。あなたはあの戦いの後、彼にウェポンについて何か言われたでしょ?で、今それが悩みになってるよね?」

「ま、まあ、はい。」

 

あのロングマガジンについての事と、速射についての事。

シノンはこの店主はその事までも知っているのかと驚いた。

 

「その時、喋りながら隙だらけの姿を晒していた彼に、あなたは何もしなかったよね?」

「あっ……!」

「そこが彼にとって、信用できる、と思ったらしいよ。」

「……」

 

シノンが押し黙る。

確かに自分は彼と戦った。そして、実際言葉も交わした。

あの時の彼は、まるで歴戦の兵士のような威厳のある風格だった。

だが、それを考える時、必ずと言っていいほどあのプレイヤーが頭に浮かぶ。

 

店主とじゃれあった時の無邪気な笑顔。とてもGGOキャラとは思えない低身長。

何から何まで違う2人のプレイヤーが、同一人物である確証がないのに、シノンはそんな気がしてならない。

そんな思考を彷徨わせていると、店主が顔を覗き込みながら話を続けた。

 

「シノンさん。もう一度だけ、聞くよ?彼の正体、知りたい?」

「……!」

「もちろん、ここで断って忘れるのもありだ。彼の正体を知って、後悔するかもしれない。でも、今の迷ったシノンさんは、本当のシノンさんじゃない。だから俺は、あなたに提案したんだ。きっとこれは、彼も分かってる。」

「そ、それは……!」

「彼の正体を知るのか知らないでおくのか。どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?」

 

シノンは下を向いた。同時に、葛藤が生まれる。

彼の正体を知れば、自分もあちら側の世界に入ってしまうかもしれない。

かと言って、このまま知らないでおき、強き者を忘れ去るのは自分の中では最も取りたくない選択肢だ。

最悪、先延ばしにするのも手だ。でも、先延ばしにした所で答えが出るとも思えない。

 

「私は……!」

 

そしてついにシノンは、絞り出すように答えを口に出した。

 

「私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に。」

「よく言った。良い返事だ。」

 

すると店主は、ポケットからとある紙切れを取り出した。

そしてそれを、シノンへと差し出す。

その紙に書いてあったのは、この世界にも存在するとある座標情報だった。

 

「彼は今、ここにいる。会いに行ってみるといい。彼はきっと、答えを教えてくれるよ。」

「はい。」

 

そう言って、店主は店の方へと戻っていった。

シノンは、数秒その紙切れを見た後、その紙切れを引っ掴んで、立ち上がった。そのまま店の出口に向かっていく。

 

そして遂に、シノンが店の出口の前に立った時。

店主が、マガジンに弾が満タンの物を2個、投げてきた。

もちろん、そのマガジンは、シノンのヘカートIIに対応したものだ。

シノンは、慌てて紙切れをポケットに入れ、両手で一個づつ掴む。

店主はそれを見て、片目を閉じ、こう話した。

 

「これを持っていきな。で、彼にこう伝えてくれ。『これは貸しだ。ツケで払ってもらう。』ってな。一応、あなたのSTRをオーバーしてるし大きいから、なにか置いてストレージに入れていきなよ?置いたものは預かっておくから。」

「……分かりました。ありがとうございます。」

 

シノンは、両手のマガジンを見た後、ウィンドウを開いてそのマガジンをストレージに入れた。

 

ストレージは、いわゆる『見えないカバン』だ。

こうすれば、手に持って走ることはない。

だが、その『見えないカバン』でも、ステータスの一つ、STR(筋力)の制限はかかる。

よって何かを置いていかねばならないのは変わりない。

 

前回の戦いの時にはサブウェポンのG18の交換用マガジンを複数個おいて、代わりにヘカートIIのマガジンを少し追加して行ったが、今回はそのG18ごと置いていくことにした。

店主は、それを見て微笑む。

そして、そのG18をしっかりと受け取り、じっ見ると、シノンに聞こえるように呟いた。

 

「ふふ、素直だなぁ。」

「な……!い、いや……!」

「うんうん。分かってるから。ほら、行ってらっしゃい?」

「……はい。ありがとうございます。」

 

その呟きが聞こえたシノンが顔を赤くして弁明しようとする。

だが、それは店主によって遮られ、彼の元へと送り出された。

それを見届けた店主は、受け取ったG18をまたまじまじと見出す。

 

「ふふ、ほんとに素直だな、シノンさんは。」

 

そう、一人で呟きながら店主は上から下から、右から左からと、様々な角度からG18を見ていく。

そして最後に、マガジンを引き抜いた。

店主は、そのマガジンをクルクルと回して弄んで、机に置いた。

そして、微かな笑みを浮かべる。

 

そう。そのマガジンは、弾数の少ない、純正マガジンだった。




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Episode7 彼の正体 〜His true character〜

「ここらへん……?だったような。」

 

シノンが一人、真昼の荒野の真ん中に立って呟いている。

その手には、店主に渡されたあの紙切れがあった。

そして今、その紙切れに書いてある座標に立っている。

理由は、あのプレイヤー、ビッグ・ボスに会うためだ。

シノンはまた、紙切れを見る。

 

「間違いないんだけどなぁ。」

 

そう言って、シノンはあたりを見回した。

前と左右は開けた荒野で、後ろには大きな崖だ。

この崖を迂回するために、ものすごく遠回りしてきたのだ。

なのにも関わらずシノンは、相変わらず困った顔をしてあたりを見回し続けている。

 

なぜなら、その目的のプレイヤー、ビッグ・ボスがそこにいなかったからだ。

店主に渡された紙切れに書いてある座標はたしかにここだ。

ここに彼がいる、そう教えられたはずだった。

 

「……どうしよう。」

 

そう、シノンが呟いていささか困り果てた時、いきなり5m前あたりに空マガジンが落ちてきた。

シノンは、その空マガジンを拾いに行く。

 

「これは……!」

 

そしてそのマガジンを手に取った時、シノンは目を見開いた。

 

「このマガジン……この大きさ……間違いない。アンチマテリアルライフル用のものね。てことは……」

 

シノンは、さっと予測をつけると、マガジンが飛んで来た方向、つまり背後の崖を見る。

するとそこには、あのプレイヤーがこちらを見下ろしていた。

シノンは、そのプレイヤーから目を逸らさない。

そしてそのプレイヤーが、淡々と話し出した。

 

「よう、シノンさん。いつぶりかだな。」

「ええ……」

「店主から聞いたよ。純正マガジンを使うようになったらしいな。」

「……!ま、まあ、意見は正しかったし…」

「ふ、素直だな、あんたは。」

「な……!」

 

そのプレイヤーは、眼帯マスクスナイパーと呼ばれ、最近ではビッグ・ボスと呼ばれるようになってきたまさにシノンの目的の人だった。

ガタイのいいそのプレイヤー、ビッグ・ボスは、少し苦笑しながら後ろ腰に手を入れ、ロープを垂らす。

シノンは、少し赤面しかけながらそのロープを握った。

ビッグ・ボスはそのことを確認し、ロープを一気に引き上げる。

シノンが、あっという間に6m超の崖の上まで引き上げられた。

 

「うわっ……!」

 

勢いが強すぎて、崖の上の地面が見える。同時に、シノンの体が放物線の頂点に達して、落下を始めた。

シノンは、慌てて着地の体制をとる。

だが、その必要はなかった。

 

ドスン!

 

ビッグ・ボスが、落ちてくるシノンを受け止める。

軽々と持ち上げられたシノンは、今度こそ真っ赤に赤面した。

 

「な……なっ……!なに……を!」

「なんだ?」

「さっさと下ろせこの変態!」

「ああ、すまない。」

 

シノンが女の子らしい黄色い悲鳴を上げる。

なぜなら、ビッグ・ボスはシノンをいわゆるお姫様抱っこで抱えていたからだ。

シノンから怒声を浴びせられたビッグ・ボスは、顔色一つ変えずシノンを下ろした。

 

「あ、あんた!次そんな事したら顔にヘカートIIぶち込むからね!」

「そ……そうか。」

 

ビッグ・ボスは、あまりのシノンの焦り様に狼狽えるが、シノンの脅迫には全く動じなかった。

 

シノンが、息を整えつつ、紛らわすように本題の話を切り出す。

 

「はぁ……はぁ……で、あなたの正体は何?」

「……本当に知っていいんだな?」

 

ビッグ・ボスは、まるで心配しているかのようにシノンの顔を窺う。

だが、シノンは問答無用で即答した。

 

「もちろん。私だって強くなりたい。あなたの正体を知って、次こそ勝ちたい。だから……!」

 

シノンが、ありのままの自分の考えを吐き出す。

ビッグ・ボスは、そんなシノンの顔と口調を見て彼女の決意を察した。

 

「……分かった。」

 

そして遂に、ビッグ・ボスはマスクと眼帯をとる。

そこには、あの時、あのショップで店主とじゃれあっていた、あのプレイヤーの顔があった。

 

「……久しぶりです。シノンさん?」

 

さっきとは一転。

小さい子供のような顔つきの、それでも根はしっかりした少年が、姿を表した。

同時に、ウィンドウを開いて服を変える。

すると、ゴトッと背中背負っていたスナイパーライフルが地面に接し、ガタイが一気に小さくなった。

そしてビッグ・ボス、もといタスクは、ニコッと笑って手を広げ、体を見せるようにしながら話を続けた。

 

「これが僕の正体です。ご明察でしたね、シノンさん。」

 

シノンは、流石に戸惑う。

 

「え、ええ?」

「……?どうかされました?」

「い、いやちょっと待って?本当にあなたなの?本当にあなたが…あのビッグ・ボス?」

「はい。そうですよ!僕がビッグ・ボスの正体です。」

「え、ええ〜っ!?意外だなぁ。」

「はは、それが狙いですから。」

 

タスクが、シノンの反応に明るく対応する。

 

 

そしてその後、シノンとタスクは、友達を超えた戦友として、雑談に明け暮れた。

 

彼の名前がタスクである事、ビッグ・ボスと呼ばれた経緯、この戦闘スタイルが確立した所以。

 

タスクは、シノンからの質問逐一答えていった。

 

 

そうして日が暮れかけた時、急にタスクが話を変えた。

 

「ところでシノンさん。これからまだ、時間はありますか?」

 

シノンは、急な質問に狼狽える。

 

「えっ……ああ、まだ大丈夫だけど。」

「……なら良かった。シノンさん。実はね、」

 

タスクが、明るい返事を返してニコッと笑う。

そして、そのままの顔でとんでもないことを口にした。

 

「僕、今から依頼の仕事なんです。」

「い、今から!?」

「だから、シノンさんに手伝ってもらいたいんだけど……いいですか?」

「ええ?そんな…」

「いいじゃないですか。強くなる為と思って、ほら!」

 

シノンは、この唐突な打診に狼狽える。

それもそのはず。もしここで逃げ出せば、強くなれるチャンスを逃してしまうが、かと言ってタスクの仕事に手を出して、自分も狙われてしまうのもなんか困る。

 

この二つの選択肢にも利益不利益平等に存在していて、今そのどちらを取るのかを、またシノンは悩んでいる。

ついさっきの店主やビッグ・ボスの時のタスクとのやりとりと同じ条件だ。

そんなシノンの脳裏に、この荒野にくる前に店主に言った自らの言葉が思い浮かぶ。

 

ー私が、私自身が強くなる為に。

 

「……」

 

シノンは、沈黙して目を閉じて思案している。

タスクは、シノンが答えを出すまで待っているつもりなのだろう、顔色一つ変えずにシノンを見ていた。

 

そしてシノンは、答えを出した。

 

 

「分かった。ついて行かせてもらうわ。」

「そうこなくっちゃ。」

 

こうして、タスクとシノンの、共闘が決まった。




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Episode8 組織A 〜Organization Alpha〜

「……で、どんな依頼なの?」

 

すっかり日が暮れ、暗くなった荒野。

今から依頼の仕事をしに行くタスクと、それに同行するシノンが話をしていた。

 

「えーと、話が長くなるけどいいですか?」

「もちろん。敵状をしらないと。」

「そうですか……なら一から説明しますね。」

「うん。」

「敵は大規模スコードロン。推定で130人くらい。」

「ひ……130人!?」

「そう。そして、それだけの人を集めるってことはつまり、なんらかの利益を目的として、行動してるって事。ここまでは分かりますか?」

「うん……組織とか、ギルドみたいな?」

「そう!そんな感じです。それで、その組織的大規模スコードロン…面倒なのでA(アルファ)と呼称します。それが今回の目標(ターゲット)なのですが、そのA(アルファ)、最近過激になりつつあるんです。」

「……と言うと?」

「例えば、いいモンスターの出現区域を独占したり、無理矢理安い金額でレアアイテムを交換させたりと言ったことですね。」

「ひどい奴らね……運営は何も言わないの?」

「それが、何も言わないのではなく()()()()んですよ。」

「え……?どういう事?」

「だって、それを制限したらモンスターの取り合いでのPK戦やゲーム内通貨でのアイテム交換はダメなのかってことになってしまうじゃないですか。」

「確かに……たとえ独占していても、ゲームシステムの扱い的にはモンスターの取り合いでのPKになるものね……」

「そうです。かと言って、スコードロンの制限人数を減らしたところでスコードロン同士の共闘と言う扱いで簡単にA(アルファ)と同じことが出来てしまいますからね。」

「ん〜……」

「だから、今回の僕の……いえ僕()の任務は、そのA(アルファ)の本拠地を襲撃、制圧した後、リーダーであるプレイヤーを回収、依頼主(クライアント)に引渡す事です。……おそらく、説得なり取引なりするんでしょう。そこは僕達の関与するべきところではないので、あまり気にしない方が良いですが。」

「なるほど……でも、回収って一体どうやるの?ログアウトされたら元も子もないでしょ?」

「流石シノンさん。いいところに目を付けますね。ご明察です。」

「はは……ありがとう。」

「いえいえ。で、その回収の方法なのですが、両手を切断し、顔に黒袋を被せます。」

「えっ……!?」

「すこし残虐かも知れませんが、これしかないんです。」

「……確かにね。拘束しただけじゃログアウトされてしまうかも知れないわ。」

「そうなんですよね……でも、なるべくダメージは与えません。何度も言いますが、僕達の仕事は依頼主(クライアント)A(アルファ)のリーダーを生きたまま引渡す事なので。」

「うん。手くらいなら死なないはず。」

「はい。その通りです。……これで説明は終わりです。」

「なるほどね。わかったわ。で、私の役割は?」

「シノンさんは、僕の援護をお願いします。と言っても、敵の位置などをヘカートIIのスコープを使って探知し、教えてくれるだけでいいです。あくまで隠密ですので。」

「う〜ん。撃てないのは残念だけど、分かった。」

「あ、でも、突入する時には射撃による援護をお願いします。合図は出しますので。」

「了解。」

「それと……」

「ん?」

「情報では、捕虜もいるそうです。見つけ次第教えてください。可能な限り回収します。」

「分かった。」

 

ここまで話をして、シノンとタスクが前を向いて歩き続ける。

そしてその2分後にA(アルファ)の本拠地が見えてきた。

 

「見えました。」

「これが……!」

 

タスクとシノンが、眼下に広がる光の塊を見下ろす。

今二人が歩いてきた所は、昼間にシノンがタスクに引き上げられた崖の先なのだ。

故にその本拠地も、眼下に見据えることが出来ていた。

 

その本拠地は、まるで街のようだった。

だが市場のような通りや、居住区のような建物の密集地はない。

代わりにあるのは、無数のように設けられた高台と、所々に設営された見張り待機用のテントだ。

 

シノンはその光の塊を見下ろしながら、今からここに潜入するのかとタスクを見る。

だが、タスクは余裕の表情でウィンドウを開いていた。

同時に、シノンの視線に気づき手を止める。

 

「……?どうかしましたか?シノンさん。」

「い、いや、あんた、いまからここに潜入するの!?」

「はい。そうですが、なにか?」

 

シノンは、落ち着き払ったタスクの対応に驚きを隠せない。

するとタスクは、ウィンドウから服装を変えた。

一旦下着になり、一気にガタイのいい黄土色の鉄板が露出したゴツゴツしい服、いやスーツになる。

そしていつもの眼帯のマスクを取り出した。

口と鼻だけをカバーしたガスマスクのようなもの。

それを付けると、やはり彼がビッグ・ボスだと確認できる。

だが、シノンはあまりの変わりようにおどおどすることしか出来なかつた。

そんなことは気にせず、タスク、いやビッグ・ボスは今度はウィンドウのウェポンの所から、ウェポンを選択し、背中へと背負っていく。

そこからは、ビッグ・ボスの動きが早かった。

 

ウィンドウのアイテムの所からパパッと選択し、スーツの至る所に収納していく。

中には、折りたたまれたダンボールとかいう、訳の分からないものまであった。

そして全部の作業が終わった時、シノンの目の前には、タスクとは遠くかけ離れたガタイのいいビッグ・ボスがいた。

 

「……どうかしたか?」

 

口調と声の高さも変わっている。

タスクの時の幼い少し高めの声とは一転。

ビッグ・ボスは、威厳のある低い声だ。

もっと言えば、タスクがシノンに対して使っていた敬語もいつの間にか消えている。

シノンの戸惑いがわかったのだろう。ビッグ・ボスは優しめに声をかけた。

 

「すまん。一種の職業病のようなものだ。許してくれ。できれば……敬語も。」

「あ……ああ、いや、そんな敬語とか気にしないから。……ただちょっと、驚いただけ。」

「そ、そうか。」

 

シノンは正直、こうも変わるものかと驚きをこして動揺していた。

 

……が、同時に納得もする。

ここまで変えなければ、簡単に正体が分かってしまうだろうな、と。

 

ビッグ・ボスは、そんなことは気にせず、シノンの前に立った。

タスクはシノンより身長が少し低かったのに、ビッグ・ボスはシノンより少し高い。

 

おそらくこのスーツの影響だろう、とシノンは予想をつけた。

なんてったってあの小さなタスクがガタイが良くなるスーツだ。身長も追加されると考えてもおかしくない。むしろそれ以外考えられなかった。

 

するとビッグ・ボスが、シノンに声をかける。

 

「用意は出来た。そっちは?」

「あ、ああ、いつでも。」

「よし。そしたら、ここで援護してくれ。移動・射撃は指示する。」

「了解」

 

そしてビッグ・ボスは、崖の下へと降りていった。




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Episode9 役割 〜role〜

「シノン、聞こえるか?」

「ええ、よく聞こえる。」

 

真っ暗闇の荒野。

その一角にあるとある組織の本拠地で、ビッグ・ボスとシノンが通信アイテムを用いて会話する。

 

「よし。俺の位置は分かるか?」

「今スコープで捉えてる。あなたは私の位置を知ってるから、弾道予測線(バレット・ライン)が見えるはずよ。」

 

そう、シノンの声がビッグ・ボスの耳元に、正確には耳元の通信アイテムに届く。

それと同時に、ビッグ・ボスのすぐ左の地面にシノンのヘカートIIの弾道予測線(バレット・ライン)が伸びてきた。

ビッグ・ボスはそれをちらりと確認すると、通信アイテムを通してシノンに指示を出す。

 

「今から、右側へと潜入する。死角のカバーを頼む。」

「了解。敵のこと以外にも、気づいたことがあれば言うわ。」

「……返事出来んかもしれないが頼む。」

「OK。」

 

そこまで通信して、シノンが会話を切った。

ビッグ・ボスは、少し離れた崖の上にいるシノンをちらりの目視で確認すると、体勢を下げ、ゆっくりと進んでいく。

 

そして、2人の共闘が始まった。

 

 

「がっ……!」

「おいどうした、なにか……あっ……!」

バタバタッ!

 

2人のプレイヤーが、音もなく飛んできた弾丸に頭を撃ち抜かれる。

聞こえるのは、その弾丸を撃ちだした銃器から吐き出される薬莢が地面に落ちる音。

倒れた2人のプレイヤーは、しばらくしてから光の粒になって消えた。

 

「……クリア」

 

静かで薄暗いテントの中に、ビッグ・ボスの呟きが聞こえる。

そして、そのビッグ・ボスの耳元の通信アイテムにシノンの声が聞こえてきた。

 

「OK、そのテントの出口の30m先、12時方向に1人。2時の方向70m先に2人よ。」

「了解。先に奥の2人をやる。正面の1人の警戒を頼む。」

「分かった。」

 

2人は迅速に会話すると、それぞれの役割に動き出す。

ビッグ・ボスは匍匐しながら2時方向の2人に向かっていく。

シノンは、ビッグ・ボスが出てきたテントから12時方向にいる見張りのプレイヤー1人をスコープで捉え、警戒を始めた。

 

 

もうすでに気づいてるかもしれないが、この作戦はビッグ・ボスが潜入、シノンが狙撃・偵察と役割を分けて遂行していた。

 

理由はいくつかある。

一つ目は、シノンの戦闘スタイルだ。

シノンは、遠くから狙撃するか、敵に向かっていって接近して弾丸を撃ち込むスタイル。

対してビッグ・ボス、つまりタスクは、敵陣に()()し、気づかれないように地道にコツコツと敵を片付けていくスタイルだ。

ある意味正反対なスタイルの2人が、一緒に行動していい事などほとんど無い。

 

二つ目は、シノンの隠密性の無さだ。

シノンは、タダでさえ重たいアンチマテリアルライフルを、少ないSTRで担いでいるため、どうしても動きに制限が出てしまう。

そんな重たい動きをしていては、どんな迷彩服を着ても見つかるのは必然というものだ。

 

という訳で実行されたのは、ビッグ・ボスとシノンが2人が歩いてきた崖で、シノンがヘカートIIを使って偵察・援護し、ビッグ・ボスが潜入するという、チームを分割した作戦だ。

こうすれば、お互いの長所を活かし合うことができるし、もしどちらが殺られても作戦を続行することが出来る。

 

それに、今回は敵プレイヤーを最低でも1人回収しなければならない。捕虜がいるなら尚更だ。

最悪の場合強行突破になるため、シノンの援護射撃がビッグ・ボスにとって不可欠なのだ。

 

そして今、その作戦は、完璧と言っても過言ではないレベルで動けていた。

ただ一つ、難点があるとすれば、シノンの射撃による援護ができない事。

なぜなら、何度も言うがこれは隠密作戦だからである。

シノンのヘカートIIのバカでかい射撃音が響けば、たちまち見つかってしまう。

なのにも関わらず、敵の人数が並大抵の量ではないのだ。

有効極まりない攻撃手段を持ってしても、それを使わず尋常ならざる量の敵を相手にする。

必然的に、ビッグ・ボスとシノンの疲労も溜まっていた。

これはゲームだ。身体的疲労はすぐ回復するが、精神的疲労はどうしようもないのである。

 

「シノン……。シノン……?」

「はっ!あ、ごめんなさい。」

 

そしてそのシノンが、溜まった疲労からくる眠気に、少し意識を引き剥がされかける。

偶然入ったビッグ・ボスの通信に、運良く引き戻された。

ビッグ・ボスは、気遣うように通信を続ける。

 

「……疲れたのなら、休むか?敵の位置は、シノンのお陰で大体把握できている。」

「ん……!」

 

シノンは一瞬迷う。が、問答無用で答えを返した。

 

「いいえ大丈夫。続けるわ。」

「……そうか。何かあれば言えよ?」

「了解。」

 

ビッグ・ボスの意外な気遣いに、シノンが笑みを漏らす。

シノンが、通信を切って呟いた。

 

「彼、結局どこをどう隠しても、中身はタスク君なのね。」

 

もちろん、その呟きは、ビッグ・ボスには聞こえていないのである。

 

 

「……これか。」

 

それから30分後。

ビッグ・ボスは、この拠点で一番大きな建物の、隅っこの壁に潜んでいた。

 

その建物は、建物と言っても自然を利用したかのような、岩作りのものだ。

イメージ的には、崖を切り抜いて建物の様にしたものの方が正しいのかもしれない。

だが、フィールドにこんな所があったのかと、驚いているのも事実だ。

 

兵士の出入り、明かりの明るさ、大きさからしても、回収目標(ターゲット)はここにいると見て間違いない。

ビッグ・ボスは、シノンに向けて、久しぶりの通信を送った。

 

「シノン、今から建物に入る。建物周囲の警戒を頼むぞ。」

「あ、やっと来た。了解。」

 

と、短い通信で終わる。

久しぶりと言っても、たった30分。でも、常にプレッシャーに晒されている二人にとっては、とても長く感じるのだ。

 

「……よし。」

 

そしてビッグ・ボスは、窓から建物へと入っていく。

シノンは、そんなビッグ・ボスの背中を、ヘカートIIのスコープ越しに見ていた。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

皆さん、ありがとうございます!
お気に入り、200人超え達成しました!
この数字は、自己ベストです!
本当にありがとうございます!

今後ともお気に入り、感想(ご指摘なども含めて)よろしくお願いします!

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Episode10 初任務完了 〜First mission completed〜

すみません!
今回、ついつい長くなってしまいました。
お許しください。(笑)


「動くな。」

「ひっ!?」

 

とある荒野の、崖を削ったような建物の中。

とある兵士が、背後から来た何者かによって、尋問されていた。

 

「吐け。」

「な、何も知らない!」

「仲間はどこだ。」

「本当に知らない!助けてくれ……!」

バシュン!

「あっ……!」

バタン……!

 

その兵士、つまりプレイヤーが、また一人倒れる。

ビッグ・ボスは、その死体を隅に運ぶと、光の粒子となって消えるのを待った。

そしてその直後、プレイヤーがビッグ・ボスが待っていた通りに光の粒子になって消える。

 

そしてまた、ビッグ・ボスは動き出した。

 

 

「うっ……動くな!武器をおろせ!」

 

その脅迫は、不意に背後からやって来た。

ビッグ・ボスが、とある部屋に入った時。扉の後ろに隠れていた兵士に、アサルトライフルを突きつけられたのだ。

ビッグ・ボスは、素直に手に持ったデザートイーグルを地面に置いく。

そして同時に、その脅迫した兵士の方に向いた。

その兵士は、オロオロしながら銃を向ける。

 

「な、う、動くな!死にたいのか!」

 

ビッグ・ボスは、眼帯で隠れていない右目だけをその兵士に真っ直ぐに向け、淡々と言葉を放つ。

 

「そんな銃じゃ、このスーツの装甲は通らないぞ。」

「う、うるさい!大人しくしろ!」

「それにその銃、安全装置(セーフティー)が掛かってるぞ?新米(ルーキー)。」

「え……?」

 

その兵士が、手に持った銃の横を見る。

その瞬間、ビッグ・ボスが動いた。

 

「あっ……!」

 

流れるように繰り出されるCQC。

その兵士は、あっという間に銃を叩き落とされ、投げ飛ばされた。

 

「ぐはっ!」

「おいおい……」

 

その兵士の苦しみ様に、ビッグ・ボスが呆れる。

その兵士のHPはあっという間に9割減った。

 

「お前、もっとマシな服持ってないのか。そんな耐久値じゃ来ても着なくても変わらんぞ?」

「うっ、うるさい!」

「なんなら俺から頼んでやろうか?すぐそこにいる……あんたらのボスにな。」

「え……?」

 

ビッグ・ボスは、寝そべったままキョトンとする兵士に、いつの間にか拾い上げたデザートイーグルを突きつけつつ、すぐ目の前の柱に目を合わせる。

するとそこから、聞いたことのない俗に言う悪役の笑い声が聞こえてきた。

 

「ククク、ふはははは!やはり気づいていたか!雇われ犬が!」

「まあな。」

 

その悪役の声の持ち主は、ビッグ・ボスの事を思いっきり侮辱すると、柱から姿を現した。

 

全身黒色の戦闘服を着た、ヤクザのようなサングラスをつけたプレイヤー。

ビッグ・ボスはひと目で分かった。

ーこいつがここのボスだ。

と。

そしてそのプレイヤー、全身黒づくめヤクザは、話を続ける。

 

「やあやあ、初めましてだな?ビッグ・ボスさんよぉ!」

「……」

「俺の名はカイジ!ここのスコードロンのリーダーだ!」

「そうか。」

 

ビッグ・ボスは、心底どうでも良さそうに返事する。

そんな対応に、カイジは不満の色を見せた。

 

「へいへい、なんだか連れねぇな、ビッグ・ボスさんよぉ?」

「敵と馴れ合うつもりは無い。」

「あのなぁ?これでも俺、ビッグ・ボス。あんたの……」

「ああ、あんたがこの依頼の依頼主(クライアント)だろう?」

 

ビッグ・ボスは、さらりとカイジの言葉を先取りする。

これは流石にカイジも驚いた。

 

「へ、へぇ……あんた、なかなかやるじゃん。」

「そりゃどうも。」

「でも……これからどうするんだい?俺を殺せば、依頼は失敗だ。」

「確かに俺はあんたを殺せない。だがな……」

「……?」

 

そんな脅迫にも動じず、ビッグ・ボスは、カイジの目を真っ直ぐに捉える。

そして、淡々とカイジの核心を突いた言葉を吐き出した。

 

「最初から、俺を殺すつもりなんだろう?」

「……!」

 

カイジは素直に認めることが出来ず、大きく狼狽える。

ビッグ・ボスは、視線を逸らさずにすらすらと話し出した。

 

「もともと、依頼主(クライアント)が匿名の時点で怪しいと思ってたんだ。なにかあるってな。だがそれでも仕事は仕事だ。結果俺は黙々と黙って潜入してみたが……今この部屋に来た時、確信したよ。あんたが、俺を罠にはめて殺すために、わざわざ俺に依頼したんだとね。」

「……」

 

カイジは、黙りこくる。

その沈黙は、ビッグ・ボスの指摘を肯定することを意味していた。

ビッグ・ボスは、下で未だ寝そべっている兵士をちらりと見ると、話を続ける。

 

「ちなみに、今この部屋には、11人のプレイヤーがいるな。」

「な、なにぃ……!?」

「左右後ろに一本づつあるの柱の後ろに3人づつで合計6人。あんたの隠れていた柱の後ろに2人、で、今寝そべっているこいつとあんた、そして俺だ。」

 

カイジは、額に汗を滲ませる。

ビッグ・ボスは、初めて入ったこの部屋でも、振り向かずに索敵できるのか、と。

そう。今ビッグ・ボスが淡々と話した兵士の位置は、すべて正しいのだ。

 

「でっ……でもなんで……!?なんであなたは、ここまで来れて、落ち着いていられるんですか?」

「それはな、あんたらが大規模すぎたんだ。」

「な……!?」

 

ビッグ・ボスは、寝そべっている兵士の急な質問に答える。

 

「あんたらは、大規模すぎてむしろ警戒網に穴を開けてしまったんだ。こんだけ大人数でスコードロンを組んでたら、誰がやられても分かるわけがない。何十人もいる中で一人消えても、誰も気づかないのさ。」

「……!」

「そして、偶然気づいた他の奴も、ノコノコと近づいてくる。やられない訳ないだろう?」

「で、でも……!」

「それにな、こんだけ大人数なら、一人一人の練度も鈍る。この部屋にいる奴らは、外にいる奴らよりは優秀かもしれんがまだまだだ。そんな連中の守る拠点など、俺からしてみれば見張りがいないのと同等だ。落ち着いていられない方がおかしい。」

「な……!」

 

これには流石にカイジでも取り乱した。狼狽える所の話ではない。

それもそのはず。これでもかと仲間を集めたこの拠点を、仲間がいないのも同然と言って入ってきたのだ。

むしろ取り乱さない方がおかしい。

あれだけ自信に溢れていたカイジは、今は見る影もなくなっていた。

ビッグ・ボスはカイジのそんな心の取り乱しを見逃さず、耳元の通信アイテムに素早く手を置く。

そしてたった一言、ポツリと指示を出した。

 

「シノン、撃て。」

「え……?」

 

次の瞬間、ヘカートIIの射撃音が、連続して暗闇の荒野に響き渡る。

それと同時に、弾丸が部屋の中に飛び込んで暴れ回った。

 

「うわぁ!」

「ひいぃ!」

 

カイジは恐れ慄いて目を閉じて頭に手をかぶせる。

その部屋にいたその他の兵士達も同様に、恐れの声を上げた。

 

しばらくして、カイジが目を開けた時、もう時は既に遅かった。

 

前にはデザートイーグルを突きつけたビッグ・ボス。

そしてその背後には頭を撃ち抜かれた9人の死体があった。

 

「……!」

「終わりだ。カイジ。」

「ぐ!くそっ!」

 

カイジが悔しそうに下を向き、名前でビッグ・ボスに呼ばれた直後、彼の両手に痛みが走り、視界が暗転した。

 

 

「やあ、お待たせしました。」

 

それからまた30分後。

シノンと()()()は、壊滅した(させた)組織A(アルファ)の本拠地から少し離れた暗闇の荒野で合流した。

シノンは、あまりの変わりようにやはりキョトンとする。

 

「あれ、もうビッグ・ボスじゃないんだ……」

「はい。敵に見つかった時、誤魔化しが効きませんからね。」

「なるほど……」

 

タスクは、サラリとそんなことを口にする。

やはり彼は慣れてるな、と、シノンは内心で感心した。

 

すると急に、ピタッとタスクが立ち止まる。

シノンは、慌てて自らの足も止める。

すると彼は、ニコッと笑ってその場に座った。

シノンは、その行動の意味が分からず、ただ呆然と立っている。

その時やっと、彼が声を出した。

 

「さ、ここが合流地点です。待ちましょうか。」

「え……?」

 

シノンは、タスクの言葉の中に、聞き覚えのない言葉を聞き取った。

合流地点。一体なんの、と言おうとしたところで、タスクは話続ける。

 

「ああ、言ってませんでしたね。実は、この仕事が終わった後、店主さんに回収をお願いしてあるんです。本来なら回収目標(ターゲット)を、もっと言えば可能性は低いですが捕虜も連れている予定でしたから。」

「そういうこと……」

 

シノンは納得する。

確かに、元々の予定はあの大規模スコードロン、組織A(アルファ)のボスが回収目標(ターゲット)だった。

それに捕虜もいるとの情報だったのだが、捕虜はログアウトさせてもいいと考えていたし、そもそもいるかもわからなかった。

 

結果、その目標(ターゲット)依頼主(クライアント)で、捕虜なんてただのガセだったのだが。

シノンが拠点を見回した時、テントの中はともかく、外にはそんなプレイヤーはいなかった。

 

第一、プレイヤーを捕虜にした所で、現実に帰れなくなるだけで何も苦しくない。

簡単に言えば、捕まえておく意味が無いのだ。

おそらくタスクは、そこも見越してあえてシノンに捕虜情報を言っておいたのだろう。

そうすれば、シノンのやる気が出ると。

 

「嵌めたのね?」

「なにをです?」

 

シノンは、タスクに少し不満気な顔をむける。

だが、タスクはなんの事かとニコニコしていた。

そんな顔を見て、シノンがまた文句を垂れ流す。

 

「捕虜……あんた、最初からわかってたんでしょ?」

「ああ、それですか。はい。分かってましたよ。」

「じゃなんで言ってくれないのよ!」

「だってシノンさん、ヘカートIIが撃てなくて不満気でしたから。なにか他の役割を与えなきゃ、勿体ないじゃないですか。」

「は、はあ。」

「シノンさんみたいな優秀な人、崖の上で寝そべらせておくなんて僕にはできません。」

「あ、ありがと。」

 

タスクが話を切って、笑顔をこちらに向ける。

シノンは、少し赤面してそっぽを向いた。

 

何気にいい雰囲気…と思いきや、急にタスクがぶち壊す。

 

「ま、ホントはシノンさんのやる気を引き出すためなんですが。」

「やっぱりそうなんじゃんか!」

「へへへ!」

「殺す!」

 

シノン後ろ越しに手をやる。が、そこにはG18は無かった。

ヘカートIIのマガジンを入れるため、あの店に置いてきたのだった。

 

「あ……」

「残念でしたね!」

「〜!」

 

シノンは、今度こそ赤面して顔を伏せる。

タスクは、そんなシノンを見て微笑んだ。

 

 

そしてその後、三輪のバギーに乗った店主が、暗闇の荒野にフロントライトを光らせながら迎えに来た。

タスクとシノンは、二人並んで後ろの座席に座る。

店主は、「お疲れ様〜」と言いながら店まで乗せていってくれた。

 

その道中、不意に店主がタスクに疑問を投げかける。

 

「そういやタスクくん、なんか、あの大規模スコードロンのボスが依頼してきた人だったらしいけど、あのあと結局どうしたの?」

「あ、確かに。どうしたの?まさか殺し……」

「いやまさか、殺してはいないですよ?」

 

店主の質問にシノン乗っかり、タスクが慌てて否定する。

するとタスクは、とんでもないことをサラリと口にした。

 

「あのボスは、両手を撃ち落として黒袋被せて放置してきました。」

「「ええ……。」」

 

この時、シノンと店主が微かに引いたのは、言うまでもないだろう。




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第二章 違う世界 〜A different world〜 Episode11 嫌な予感 〜Bad feeling〜

「シノンさん……ねぇ。」

 

外が暗くなり出す時間。

タスクは、店主のショップの休憩スペースのようなところに腰掛け、店主と向かい合っていた。

 

話題は、シノンについて。

 

「……このままだと、シノンさんは本当にこちらの世界に入ってしまうね。」

「うん……」

「1回PKされたら、それが命取りになる。常に身を隠さないといけなくなってしまうね。」

「うん……それに、最悪の場合…」

「ヘカートIIを、失ってしまう。」

 

そう。それこそ、店主とタスクが、ここまで深刻な顔をして話し合う理由だ。

 

GGOには、ゲームには良くある死亡罰則(デスペナルティ)がある。

基本的に死亡判定を食らうのは、HPバーが全損した時。

その時に、必ず死亡罰則(デスペナルティ)が課されるのだ。

 

これは、ゲームバランスを保つためのシステムなので、誰も文句は言わない。

むしろ無いと文句を言われるくらいだ。

 

まあ実際、その死亡罰則(デスペナルティ)が、今店主とタスクの悩みになっているのだが。

 

そしてその、死亡罰則(デスペナルティ)。それは一体何なのかというと、

「キャラクターが死亡した場合、そのキャラクターの所持しているアイテムの一部をランダムでその場にドロップし、そのキャラクターからはそのドロップしたアイテムが剥奪される」

というものだ。

 

これ自体は至ってシンプルで、他のキャラクターを殺し、アイテムを奪う、PKが利益を得るためのシステムだ。

前までシノンはそれを求めてプレイしていた訳だし、彼女もそのことはよく理解しているはずだ。

 

……だが、問題はここからなのだ。

 

もし、シノンがこちら側の世界に来た場合、シノン自身を狙ったPKプレイヤーが、実に沢山やってくる。

これは、実際にタスクや下手すれば店主まで受けてきたことだから、分かりきっている。

シノンも逆PKを狙われてきただろうから、すこしは対抗できるのだろう。

 

しかし、そのPK狙いのプレイヤー、この世界では格が違うのだ。

この格差こそ、タスクや店主が危惧していることである。

 

通常、平和にプレイしている一般のプレイヤーのPKは、フィールドのどこかに待ち伏せて無差別に攻撃するか、標的を定めて、ポツポツと攻撃するくらいだ。

 

だが、こちら側のPKは先程も言った通り、本当に格が違う。

 

標的となったプレイヤーは、ゲームにログインする度につけ狙われ、一度フィールドにでれば、常にPKされる危険がある。

それに、もしその標的プレイヤーがいいアイテムを持っていた場合、そのアイテムを落とすまで、執拗に狙われ続けるのだ。

 

そしてその「いいアイテム」。

言わなくてもわかるだろう、シノンでいうヘカートIIなのだ。

おそらくシノンは、今まであってきたPKとの格差に為す術もなくやられてしまうだろう。

 

なにせヘカートIIだ。この世界に十丁程しかない、アンチマテリアルライフルなのだ。

これを奪われる訳には行かない。彼女だってそうだろう。

 

タスクが、話を続ける。

 

「でも、シノンさんは自ら希望して来たんでしょ?」

「ま、まあ、間接的に……だがな。」

「……と言うと?」

「シノンさんは、タスク君の()()()()()()()と言っただけだ。たとえその行為が、こちら側の世界に足を踏み入れる行為だとしても。」

「直接、足を踏み入れたいとは……」

「シノンさんは、言ってない。」

「う〜ん……」

 

タスクと店主は、考え込む。

 

確かに彼女は、こちら側の世界に足を踏み入れてでもビッグ・ボスの正体を知りたいと言った。

それ自体は本人自身の判断だし、尊重したいと二人は考えている。

 

だが、そんなに甘くないのも事実だ。

実際、タスクは過去に装備をひとつ取られているし、店主も幾度となく狙われた。

もし本当に入った時、この世界に入るんじゃなかったと後悔して欲しくない。

これはあくまで、()()()なのだ。それ自体の面白さを、そのゲーム自体で失って欲しくない。

それが、一番の問題点なのだ。

 

「ふぅ〜……」

「……?」

 

いきなり、店主が大きくため息をつく。

タスクは、そんな店主の行動に疑問を覚えた。

すると店主は、これしかないとばかりに指をピンと立て、方目を閉じて、解決策を提示した。

 

「これはもう、本人にもう一度、直接聞かなきゃならないね。」

「……!」

「そしてもし、本当に彼女がこちら側の世界に来ると言った場合、タスク君。君が訓練するんだ。」

「わかった。」

「元はと言えばタスク君が有名になりかけたからなんだけどね…ま、仕方ないけどさ。」

「店主さん……」

「ああ、違う違う。別に、タスク君が悪いって言ってるわけじゃないよ。ただ……これからこういう事が起こり得る……という事がよく分かったね。正直、俺もびっくりだよ。」

「そうですね……」

「ま、今後どうするかはいいとして、まずはシノンさんだね。俺から連絡を取ってみるよ。」

「了解です。お願いします。」

 

ここまでで、店主とタスクの会話が終わる。

 

だが、店主は薄々感づいていた。

シノンは、ただ遊びでこのゲームをやっている訳では無いという事を。

 

ー私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に。

 

あの時、絞り出すように答えたシノン言葉。表情。目。

彼女はきっと、リアルで何か抱えているのだろう。

それがどんなものなのか、店主は分からない。

でも、それ故に、放っておく訳には行かない。

 

やはり、彼女はこちら側の世界に足を踏み入れるだろう。それを、自分は精一杯支えよう。

 

……今のタスクと同じように。

 

そう、店主は決意した。

 

 

一方、一旦話に区切りを付けて店を出たタスクは、いきなり眉間にシワを寄せていた。

そんなタスクの目の前には、メッセージの受信を通達するウィンドウ。

 

そして差出人は……

 

シノンだ。

 

よりにもよってこのタイミング。

メッセージの内容にもよるが、最悪の場合今すぐUターンして店主とまた顔を付き合わせなければならない。

ああして解決策を練りあった以上、シノンに関しては下手な行動はできないからだ。

 

タスクは、恐る恐るそのウィンドウに大きく表示された「メッセージを開く」のタブを押す。

するとそこに表示されたのは、やはりUターン必須のものだった。

 

『急にごめんなさい。今、とあるスコードロンを組んでPKを狙ってるんだけど、どうやら思った以上に強敵なの。無理と分かってお願いします。援護をしてもらえないかしら。』

 

タスクは、クルリと180°反転し、店主の店へと走り出した。

その顔は、笑顔を保ちつつも冷や汗をかいている。

ー思ったより強敵

ービッグ・ボスに援護要請

この二つの要素が、タスクに不安を与える。

 

「やばい……!もう目を付けられてるのかも……しれない!」

 

そう、タスクは嫌な予感を口にした。

 

「店主さん!」

バタァン!

 

タスクは、大きな音を立ててショップの扉を開ける。

 

「タ、タスク君!?どうしたの!?」

 

店主は、面食らってタスクを見る。

そんな事はお構い無しに、タスクは送られてきたメッセージを無言で店主に見せた。

もちろん、店主も絶句する。

 

「これって……」

「はい。」

「もしかしたら……」

「はい……!」

「「相当まずくないか!?」」

 

二人の声が綺麗にハモり、同時に店主にも、タスクと全く同じ嫌な予感が芽生えた。




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Episode12 眼帯マスクプレイヤー 〜Eye band and mask player〜

「しまった……!」

「どうします!?店主さん!」

 

とある休日の昼下がり。

店主のショップのレジカウンターで、飛び込んできたタスクと店主が大慌てで緊急会議を開いていた。

 

「シノンさんの位置は!?」

「今、あの拠点の半径5km以内に……」

「くそっ……!もう目を……!」

「いえ、行動が流石に早すぎます。おそらく、この前の襲撃の戦訓から敵が雇うなり何なりした強力な護衛スコードロンに出くわした可能性が一番……!」

 

店主がシノンの位置を聞き、タスクが用意周到に答える。

 

そう。今タスクに援護要請をしてきたシノンは、「あの拠点」……つい先日襲撃した大規模スコードロン、通称 組織A(アルファ)の、本拠地のすぐ近くにいるのだ。

 

正直タスクも、メッセージを見た時は目をつけられたと思った。

だが、それにはあまりに早すぎる。

いくら何でも、学生プレイヤーをたった数日で見つけれるわけがない。

 

そもそもの話、あの時の作戦は目をつけられないようにあえてシノンを偵察だけに留めたので、敵があの作戦にシノンが関与している事に気づいているかどうかすら怪しいところだ。

 

……まぁ、最後にはぶっぱなしてもらったのだが、今はどうでも良い。

 

先程まで議論していた「シノンの被PKの危険性」。

それが今、議論していた可能性とは全く違う形とはいえ、シノンに降り掛かっている。

それがまず何よりの問題点だ。

 

もしここでシノンが殺され、死亡罰則(デスペナルティ)が課されれば、何が剥奪されるかわからない。

簡単に言うと、ヘカートIIを取られる可能性が0ではないという事だ。

 

店主が考え込み、タスクが指示を待つ。

そしてついに、店主が覚悟を決めたかのように瞳を開いた。

 

「……よし。」

「……」

「俺も行こう。準備するから、三輪バギーを。」

「ええ!?」

 

タスクは、驚きのあまり仰け反る。

まさか店主自身が、来るとは思っていなかったからだ。

タスクの反応を見た店主が、不満気な顔を見せる。

 

「なんだよ、俺だって戦えるんだぞ?」

「し、知ってますけど……でも!」

 

タスクは、躊躇いの目を向ける。

だが店主は、心配入らないとばかりに、いつものように片目を閉じ、笑顔で決意を口にした。

 

「大丈夫!たまには手伝わせてくれ?」

「……了解。」

 

タスクは、店主も店主なりに決意があるのだろう、と察し、潔く了解する。

 

すると同時に、二人は走り出した。

タスクは近くの貸出三輪バギーを取りに外へ。

店主は店を閉め、店の裏に入って準備をしだした。

 

同時に、タスクはシノンへと返信する。

 

『絶対に死ぬな。すぐ行く』

 

と。

 

 

「『絶対に死ぬな。すぐ行く』……だってぇ?」

「ええ。」

 

一方、ほとんど交戦状態になっている現場。

荒野の真ん中に刺さったように立っているビルと、その付近の壁や、その他障害物のあるところだ。

そんなところでドンパチしている最中に、シノンに送られてきたメッセージを、スコードロンのリーダーであるダインが覗き、呆れる。

 

「はっ……!こんな荒野フィールドのど真ん中に、どうやってすぐ来るのさ?ハッタリもいいとこ。」

「いえ……彼はもう来るわ。すぐに……ね。」

 

ダインの呆れ顔など気にもせず、シノンは淡々と彼の到来を待つ。

 

「おいおい、シノンちゃんよぉ?大丈夫なのかよぉ!全っ然来ねぇじゃねぇかよ!」

「大丈夫。」

 

同じスコードロンのとあるメンバーが不満を漏らす。

そのメンバーは、いつくるのか分からない援護に、頼れるものかと間接的に訴えようとしているのだ。

だが、肝心のシノンは「すぐ来る」の一点張り。

 

「そ……そうか。でその……『彼』とやらは一体、いつくるんだい?すぐすぐって言って、全然そんな気配が………!?」

 

そんなシノンの落ち着き様にすこし焦り、そのメンバーがそんな援護の気配がない……と言おうとしたその時。

 

そのメンバーの後ろに、いきなり気配が現れた。

 

「ひっ!?」

 

そのメンバーは、思いっきり驚いて仰け反る。

だが彼はすぐに、急に現れた気配の元に引き戻された。

 

「や、やめて殺さないでー!」

 

メンバーは、そんな素っ頓狂な声を上げる。

するとその気配の主が、彼の口を抑え、自分の口に(と言ってもマスクがあるため、マスクの上にだが、)人差し指を当てた。

そしてその指を、そのまま彼のいたところへ向ける。

 

「……!!」

 

するとそこには、大きく抉られた壁があった。

その下には、2〜3個の弾丸。

そしてその壁は、ついさっきまで彼が隠れていた場所だった。

下に落ちた弾丸が、光の粒になって消える。

 

「え……?」

 

そのメンバーが、呆気に取られる。

 

「も、もしかして……あんた、助けてくれたのか?」

「ああ。間に合ってよかった。」

 

そのメンバーは、いきなり現れたその気配の主を、そして今起こった事実に、驚きを隠せない。

そしてその気配の主は、微かな笑みを含めた右目を、シノンに向けた。

この時、スコードロンのリーダー、ダインを含め、メンバー全員が、シノンが援護を要請した「彼」が、この……眼帯マスクプレイヤーである事を察する。

 

そしてその眼帯マスクは、シノンに向けて一言、言葉を発した。

 

「……待たせたな。」

「ええ、随分とね。」

 

その言葉で、シノン以外のメンバーが一瞬、寒気を覚える。

彼の……眼帯マスクのたった一言が、異常なほどに強い、歴戦の兵士のような威厳を持っていたからだ。

 

だが、そんな彼の一言にも動じず、さらりと言葉を返すシノン。

スコードロンのメンバーは、

 

「とんでもないやつが来ちまったなぁ……」

 

と一時顔を見合わせ、苦笑いをし合った。

 

「……で、シノン。」

「何?」

 

その時、急に眼帯マスクがシノンを呼ぶ。

シノンはヘカートIIのスコープを覗きながら返事する。

眼帯マスクも、身を隠していた壁に背を預け、スコードロンメンバーを見渡しながら会話した。

 

「敵の数は?」

「はっきりとは分からない。目視で大体……9人てとこ。」

「装備は?」

「AK-47 カラシニコフが2人、P90が1人。それとSCAR-Hが4人。で……黒ローブ被った奴が2人。他にも潜んでるかもしれないからまだ……」

「なるほどな……」

「何かわかる?」

「俺の予想だが、SCAR-Hが前衛だろう。で、次にAK-47 カラシニコフ。その真後ろに黒ローブがいて……P90持ちは小刻みに位置を変えてるな。」

「ご明察。さすがね。」

「な……!?」

 

シノンがするすると装備を答え、その眼帯マスクは振り向きもせずに敵の陣形を完璧に答える。

 

スコードロンのメンバーは、流石に驚いた。

むしろ、さっきから驚いてしかいない。

 

急に現れたと思ったら、常人ならざる反射神経でメンバーの1人をヘッドショット即死判定から救い、挙句の果てには振り向きもしないで恐ろしい精度を誇る索敵能力を見せる。

 

ここまでされたら、流石に恐怖心が掻き立てられるだろう。

スコードロンのリーダーであるダインが、恐る恐る尋ねる。

 

「あ……あんた何なんだ?」

「なあに、単なる傭兵まがいのプレイヤーさ。」

「た、単なるって……!な、なら、なんだあの動きは!?」

「動き…?」

「片手で簡単にプレイヤーを下げて、振り向きもしないで索敵したじゃないか!」

「ああ。」

 

ダインがまくし立てられた小動物のようにおどおどと問い詰める。

一方、問い詰められている相手は、一言返事しただけで頷きもしず、淡々と話し出した。

 

「プレイヤーを下げた話は……簡単な事さ。俺は、プレイスタイル上、STRをバカ高くしてるんでな。」

「お、おう……そうなの……か。」

「で、索敵の話だが、これも簡単な話さ。一つ一つの銃の音を聞きわけているだけだ。」

「音……だと?」

「ああ。例えば、AK-47 カラシニコフ。あれは、構造を極端に簡単にし、素材も軽くしているだろう?」

「あ……そ、そうだな。」

「という事は、コッキングやリロード、下手すれば構えた時に、カンカン、と軽い音がするんだ。このゲームはなるべく実銃から音を取ってるからな。すぐ分かる。」

「た……たったそんだけで……!?」

「おう、たったそんだけだ。簡単だろ?」

「か……簡単って……!」

「それで、後はその音の大きさや反響から距離と方向を割り出して、あらからじめ頭に入れておいた地形図と照らし合わせれば……」

「一度も振り向かないで、索敵ができる…と。」

「そういう事さ。」

 

スコードロンのメンバー達は、顔を見合わせる。

ここまで説明されたら、何も言い返せない。

代わりに出たのは、苦し紛れの笑顔だった。

 

「そ、そうか……はは、よろし……く。」

「ああ。」

 

短く返事をした眼帯マスクは、手を自ら差し出す。

流石にダインは躊躇った。

 

「え……と……」

「ん……?ほら、握手だ。」

 

躊躇うダインを、その眼帯マスクは肩をすくめて促した。

その時の仕草や口調から、ダイン達は警戒心を少しづつ解いていく。

そしてぎゅっと、力強い握手をした。

 

そして……

 

「よし、いこうか。」

 

その眼帯マスク、もといビッグ・ボスが、後ろを向いて敵の方向を睨んだ。

ダイン達スコードロンメンバーも、同様に睨む。

ビッグ・ボスが来てからずっとヘカートIIで警戒してくれていたシノンも、スコープから目を外して同じく睨んだ。

怒涛の反撃の始まりを予感させる。

 

……だが、シノンを除く彼らは気づいていなかった。

今目の前にいるこのプレイヤー、眼帯マスクが、あのビッグ・ボスである事に。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

「待たせたな」

このセリフ。
やっと出せました。

長い間……待たせたな。

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Episode13 夢のまた夢 〜Dream of a Dream again〜

パシン!キン!

 

GGOの荒野に、弾丸がはねる音が響く。

 

「おっと……危ない危ない。」

 

その音に呼応するかのように、頭をすくめるプレイヤー。

 

「下がれ。殺られるぞ。」

「分かった。」

 

そしてそのプレイヤーは、後ろから聞こえてきた威厳ある低い声に指示され、さらに後ろの障害物へと、足速に移動した。

 

ビッグ・ボスがここに来てから5分。

シノン達のスコードロンは、ビッグ・ボスの指示により、地道に敵を減らしつつ、この区域からの離脱、戦闘からの逃走を図っていた。

 

理由としては、現状の不利過ぎる戦況。

今の戦闘が始まる前まで、シノン達は他のスコードロンやモンスターを襲っていて、弾薬やアイテムの不足が深刻になりつつあった。

そんな状態でまともに殺りあっていては、十中八九待っているのは敗北だろう。

怒涛の反撃など、夢のまた夢なのが、現状だった。

 

それに、このスコードロンの敗北はビッグ・ボスが最も恐れてい事態だ。

敗北と言うことは、スコードロンメンバーが全滅することを意味する。

即ち、そのスコードロンのメンバーの一人であるシノンも、PKされる事を意味していた。

それだけはなんとしても避けたい。と言うより、避けるためにビッグ・ボスがやって来たのだ。

 

スコードロンメンバーも、敗北だけはしたくないのだろう。反撃を諦めることは、案外すんなりと受け入れた。

 

「……シノン、ヘカートIIはストレージへ。G18を出しておけ。いつ切り込まれてもおかしくない。他のメンバーも同様に、前衛以外は近距離、あるいは白兵戦の準備だ。」

「り……了解。」「よ……よし。」「分かった。」

 

少し戸惑ったメンバー達の返事と、はっきり一言返したシノンの返事。

ビッグ・ボスは、その両方の返事をしっかりと聞いて、次の作戦を練る。

その時、不意にシノンがビッグ・ボスへ話しかけた。

 

「ねえ、黒ローブはどうするの?まだ……あいつは装備を出してないけど。」

「ああ。」

 

シノンの的確な質問に、スコードロンメンバー達は無言で頷く。

 

現状、ビッグ・ボスのあの驚くべき索敵の時にシノンによっていることが分かったあの黒ローブ二人は、未だに攻撃にも出ず、障害物に引きこもっていた。

 

もちろん、スコードロンメンバー達はその黒ローブ二人を一番警戒していた。

理由は、あの時の戦訓。シノンが初めてビッグ・ボスとスコープ越しに目が合った日だ。

あの時彼らは、黒ローブの警戒を怠ったために間違って接近してしまい、ミニガンによる掃射を喰らった。

結果、シノンが恐るべき身のこなしで退治したのだが……あの時は酷かったなぁと、ビッグ・ボスも内心で回想する。

 

実は、あの時の戦闘はビッグ・ボスもスコープ越しに見ていたのだ。

もちろん、隠れてだが。

 

「あの時は酷かったなぁ、シノン。」

「な……なによ……。見てたの?」

「ああ。お前がビルから片足を失いながら飛び降りるところまでバッチリと見てたぞ?」

「……」

 

シノンはもちろん、スコードロンメンバーも黙りこくる。

まさか、あの時の酷い戦闘をこの人に見られていたとは。

シノンは、呆れ顔で言い返す。

 

「はぁ……あの時、無理矢理にでも引き金を引けばよかったわ。」

「やめてくれよ。背中から撃たれるのは嫌いなんだ。」

「知らないわよ、そんな事。」

 

ビッグ・ボスのイジリと、シノンの受け答えに、その場の空気が少し和む。

 

《……よし。上手くいったな。》

 

ビッグ・ボスは内心で手応えを感じる。

それと同時に、先程のシノンの質問にしっかりと答えた。

 

「はは、まあ、とりあえず大丈夫だ。あの黒ローブへの対抗策は出来ている。安心してくれ。」

「そう……分かった。」

 

シノンは、ビッグ・ボスの明確な回答に、特に深追いもせず頷く。

 

実はこの、イジリを交えた作戦を練るやり取り、すべてビッグ・ボスの計算の内なのだ。

 

人は、焦ったり追い詰められたりすると判断力が鈍る。

冷静に物事を考えれなくなったり、周りの状況を見れなくなったり。

そんな状態で襲撃され、慌てふためいている敵は、相手からしてみれば「的」である。

そんな状態に、「的」になりつつある先程までのスコードロンメンバー達は、敗北の兆しになりかねなかった。

 

ここぞという時に焦りからくる判断力の鈍りのせいで殺られる。

PK戦やGGO内でよく行われるバトルロワイヤル大会ではよくある話だ。

そんな事は今、ここで起こられては困る。

ましてやシノンには絶対にダメだ。

 

だから、ビッグ・ボスはあえて前に見た現状に似た光景を口に出し、少しとぼけてこの場を和ませ、スコードロンメンバー達や、シノンの焦りを取ったのだ。

 

そしてその効果は、すぐに現れることになる。

 

「やばい!グレネード!」

ドカァァァァァアン!

 

その時、急にビッグ・ボスとシノンのやり取りで和んだメンバー達のすぐ近くに、前衛の味方の叫び声とともにグレネードが飛んできた。

 

ビッグ・ボスはもちろん、シノンやメンバー達は、すぐさま走って遠くへ逃げ、バッと地面に伏せる。

そして、その場にいた全員が爆発から逃れた。

 

「ふう……危なかったぜ。」

 

メンバー達はそんなことを呟きながら、各自また遮蔽物に隠れる。

その動きは、まるで今までの焦りなど感じさせなかった。

 

《いける……このまま、逃げ切れそうだ。》

 

その動きをみたビッグ・ボスは、そう、内心で確信した。

 

そして……

 

「オセロット、まだか?」

 

ビッグ・ボスは一言、小さく耳元の通信アイテムに声を送った。

 

 

「はぁ……速すぎるぞ、ボス。」

 

一方、こちらも荒野。

今、悪態をついたプレイヤーは、SBCグロッケンで借りてきた三輪バギーに、正確にはタスクに借りてきてもらった三輪バギーに乗って、延々と続くフィールドを疾走していた。

 

「全く……待てと言ったのに全然見えないぞ?どんだけ急いだんだ。」

 

風に服をなびかせながら悪態をまたつくこのプレイヤー。

言わなくてもお分かりだろう。店主である。

 

今、店主の服装は、西洋映画に出てくるような、カウボーイ風のものだった。

両腰には、「SAA」、正式名称「シングル アクション アーミー」がホルスターに挿してある。

 

この銃は、アメリカのコルト・ファイアーアームズ社が開発し、1872年から1911年までアメリカ陸軍正式拳銃に採用されていた由緒正しき(?)リボルバーである。

この銃は、他のものと違い、銃後部にあるハンマーを、ハーフコックポジションというなんとも微妙な位置に固定した後、横の蓋を開けてシリンダーから一発づつ撃ち殻薬莢を出し、今度は新しい弾をこれまた一発づつ装填するという、何ともめんどくさいリロードを要求してくるくせ者だ。

 

だが店主は、そんなリロードを

 

「このリロードは、革命(レボリューション)だ!!!」

 

とほざきちらし、フィールドに出る時は肌身離さず装備していた。

タスクに呆れられたのは言うまでもない。

 

まぁ、確かに今までにないリロードではあるが、それが何かをもたらしたのかといえば……特に何も無い。

従って、やはりこのリロードは革命(レボリューション)などではないような気がするが、店主自身はこの論を撤回するつもりは毛頭無かった。

 

そんな店主は今、相変わらず後ろへと流れ続ける荒野の同じ背景に飽き飽きしつつ、未だ三輪バギーを走らせている。

 

「ふわぁぁぁあ……」

 

店主はとうとう、大きな欠伸をかました。

その時に出てきた涙を拭おうと、目を擦ろうとする。

するとその時、急に耳元の通信アイテムに、声が送られてきた。

 

「ガガッ……オセロット、まだか?」

 

相手はもちろん、ビッグ・ボスである。

店主…もといオセロットは、すぐに返事を返した。

 

「もうすぐだ。準備は出来てる。」

「よし。」

 

そんなオセロットの声と、ビッグ・ボスの短くともしっかりした返事は、今度こそ、怒涛の反撃を予感させる。

 

そして今度こそ、その予感が当たることになる。

だが、その時のスコードロンメンバー達は、全くもってそんなことは考えていなかった。




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Episode14 怒涛の反撃 〜Angry War Counterattack〜

それは、突然の出来事だった。

 

「ん……?」

 

スコードロンのリーダー、ダインが、目の前に広がる荒野の奥から、光るものが接近して来るのを見つけた。

 

パッと見てダインは、「敵だ」と認識する。

それもそのはず。なぜならその光るものは、自分たちから正面に、敵からしたら背後から、こちらに接近してきているからだ。

 

「お……奥に、敵の増援!」

 

ダインは、仲間達に叫ぶ。

スコードロンメンバー達はまた、焦り出した。

 

「な……!?」「嘘だろ……!?」

 

ビッグ・ボスのあのとぼけた会話による努力虚しく、また焦りや不安の雰囲気がスコードロンメンバー達を包む。

だが、そんな不安はやはりまた、ビッグ・ボスの一言によってあっさりと掻き消された。

 

「大丈夫。あれは味方だ。」

「そうなのか!?」

「ああ、俺が呼んでおいた。」

「よ、良かった……」

 

ダインがホッとし、スコードロンメンバー達もホッとする。

だがビッグ・ボスは、そんな()()雰囲気もあっさりと掻き消した。

 

「おいおい、まだ気を抜くなよ?今からが本番だ。」

「……!」

 

即座にその場がピリッと張り詰める。

流石はシノンを有するスコードロン。こういう雰囲気だけは作れるのだ。

 

そして、その光るものがだんだん姿を表す。

すると出てきたのは、ヘッドライトをつけた三輪バギーだった。

 

「バ、バギー……?」

 

ダインが、あからさまに呆れる。

こんな広々した視界の利く荒野で、あんな体を晒す乗り物に乗っているからだ。

だがビッグ・ボスは、そんなダインの思いなどはつゆ知らず、平然と言葉を返す。

同時に、スコードロンメンバー達に準備を促した。

 

「おい、動くぞ。準備だ。」

「……ん?ああ、でも、動くって……どう?」

「撤退だ。死にたいのか?」

「いっ……いや、そんな訳じゃない。」

 

そういってダインは、準備を始める。

それにつられて、固まっていた周りのメンバー達も、着々と準備を始めた。

そんな中、ビッグ・ボスは目の前の敵を警戒し続ける。

そして……

 

「出来たか?」

「ああ。今終わった。」

「……よし。」

 

ビッグ・ボスが、ダインの返事を皮切りに、行動を指示した。

 

「全員、俺が敵に向かっていったら、思いっきり走って逃げろ。俺とあのバギーで食い止める。一か八かの賭けになるが、他に方法はない。……覚悟を決めろ。やるぞ。」

「わ……分かった。」

 

ダインが覚悟を決め、こくりと頷く。

するとビッグ・ボスが、急に腰のあたりをゴソゴソと弄り出した。

ダインは、何をしているのか分からずにビッグ・ボスを見つめる。

 

「それと、これを持っててくれ。」

 

するとビッグ・ボスは、ダインに通信アイテムを渡した。

 

「これであんたに指示を出す。あんたも、何かあったら言ってくれ。」

「おう……。」

 

それを受け取ったダインが、すこし心配気味に返事を返した。

ビッグ・ボスがそんなダインの顔を覗き込んで、質問する。

 

「……?何か問題が?」

「いや……その々…」

「……?」

「あ……あんたは、どうするんだ?俺たちを逃がしてくれるのはありがたいが、それはあんたを囮に……!」

 

そういって、ダインは申し訳なさそうにビッグ・ボスを見る。

通信アイテムは、どんな距離でも装備したプレイヤー同士が通信、会話できるアイテムだ。

たとえ叫んでも、小声で話しても、相手には普通の大きさで聞こえるようになっている。

非常に便利であるアイテムだが、その便利な機能が、返ってダインに不安を宿らせていた。

 

その、ダインが抱えている不安。それは、通信アイテムはどんな距離でも声が届く。つまりビッグ・ボスがそんなアイテムを自分に渡したということは、彼と自分が遠く離れることを意味しているのではないか。

つまり、ビッグ・ボスはこのままここに留まって、逃げている自分達のためにただひたすら戦うつもりなのではないか?という事だ。

 

いくら彼でも、一つのスコードロンに一人で敵うわけがない。

それをわかっておきながら自分達だけ逃げるのは、少し……いやかなり申し訳なく、自分達のせいで彼のアイテムが奪われてしまうのではないかという不安が、そこにはあった。

 

だが、そんな不安はビッグ・ボス、彼自身によって振り払われた。

 

「なんだ、そんな事か。」

「え……」

「大丈夫だ。俺は死なない。あんな連中などには殺られない。」

 

ダインはそんなビッグ・ボスの明言に、すこし感銘を受ける。

そして、そんな感情に流されるまま、また質問した。

 

だが、ビッグ・ボスにその質問はあっさり跳ね返される。

 

「そ……そうか……。あんたは、凄いな。一体何者なんだ?なあ、せめて名前だけでも……」

「それは出来ない。そうすれば、あんたのこのゲームの、GGOでの人生が蝕まれる。」

「な……!?なぜ?」

「言ったろ?俺は、単なる傭兵まがいのプレイヤーだと。」

「傭兵……。」

「そう。俺が普段、介入しているのは、このGGO世界からかき集めた汚れ仕事(ウェットワーク)だ。あんたが想像出来ないような奴も沢山いる。……だから、これ以上は深く知らない方がいい。すまないな。」

「……」

 

ダインが、黙りこくる。

ビッグ・ボスが、自分の知らない、もっと過酷なところに身を置いている人だと感じたからだ。

そんなダインを見たビッグ・ボスは、敵がいる方の方角を見つつ、まるで、ダインの事を励ますようにポツリと呟く。

 

「だが……それでも、あんたが俺の正体を知りたいと思ったら…」

「……!」

「いいだろう。ここから生きて帰ったら、俺の事を調べてもいい。だがそれは、こちらの世界に足を踏み入れることになりかねない。その覚悟を決めれるなら、許そう。」

「……!」

 

その呟きは、しっかりとダインに届く。

同時に……シノンにも届いた。

 

二人の目が、先程までとは違った色になる。

 

それをしっかりと右目で見たビッグ・ボスは、ふいとメンバー達に背を向けた。

その後、後ろ越しにあるホルスターからサイレンサー付きデザートイーグルを取り出し、最後に一言、スコードロンメンバー達に言葉を発して、敵の方向へと消えていった。

 

「さあ、行け。」

 

と。

 

 

ドスドスドスドス……

 

ビッグ・ボスの、重々しい足音が、荒野の土と共に跳ねる。

そして……

 

「な……!おま……!どっから……!」

バシュン!

バタッ……

 

敵スコードロンのSCAR-H持ちの一人が、頭を撃ち抜かれて死んだ。

 

「ああっ……!」

 

その時、隣にいた同じSCAR-H持ちのもう一人に見つかる。だが、彼が銃を構えた時にはもう遅かった。

 

ドサッ!

「ぐはっ!」

 

彼の視界は、世界を反転して映し出す。そして背中からいきなり走ってきた痛みとともに暗闇になっていった。

 

「……二人。」

 

消えゆく視界の中、耳に聞こえてくる威厳ある低い声。

その声が完全に聞こえなくなった時、彼のHPバーが全損した。

 

「……いい投げだな、ボス。」

 

SCAR-H持ち二人を、一人はヘッドショット、一人はCQCの投げで仕留め、即座に障害物に隠れたビッグ・ボスは、そこから3m先にある障害物に隠れるプレイヤー、三輪バギーに乗ってきた店主……ここではオセロットに、賞賛を送られていた。

 

「……基本の投げだ。大したことない。」

「ふふ……謙虚だな。」

 

ビッグ・ボスは、そんな賞賛を一言で振り払う。

オセロットは、そんなボスをチラりとみて、いつものタスクを見る目で少し微笑んだ。

 

ビッグ・ボスは、そんなオセロットの目に気づいたのだろう。

慌てて質問を投げかけた。

オセロットは、すぐに目の色を変え、質問に答える。

 

「オ……オセロット!敵は?」

「……黒ローブ 1、P90が1、SCAR-Hが1だ。」

「ん……?SCAR-Hは分かるが、黒ローブはどうやったんだ?」

「ああ、三輪バギーで轢いた。」

「……」

 

しれっと恐ろしいことを答えるオセロット。

ビッグ・ボスは、その恐ろしい三輪バギーを探し、視界に捉えた。

 

……なるほど、確かに壁に突っ込んでいる。バギーと壁の間には、黒ローブの姿があった。

顔にタイヤの溝の形の被弾エフェクトが煌めいている。盛大に轢かれたのが想像できた。

 

「……見なかったことにしよう。」

「ありがとな。」

 

ビッグ・ボスは、ふいっと視線を逸らし、オセロットが苦笑で答えた。

 

そしてまた、銃弾が飛んでくる。

だがもう、その弾は彼らに当たる気配など全くなかった。

 

「奴ら、怯えてるな。」

「ああ。黒ローブも攻勢に出ない。ローブの凹凸からして、おそらくスナイパーライフル持ちだろう。三輪バギーで突っ込んで気を引いてなかったら、シノンさん達撃たれてたな。」

「ああ。」

 

オセロットが自らの行動を自賛し、ビッグ・ボスが相槌ちを打つ。

そして……

 

「よし、あとの三人は俺が殺ろう。ボスは、三輪バギーを持ってきてくれ。まだ動くはずだ。」

「わかった。」

 

オセロットが、残った三人の処理を引き受ける。

ビッグ・ボスは、現状壁にめり込んだ三輪バギーを取りに、匍匐で30m先の現場へと動き出す。

 

そしてそのビッグ・ボスの動きに気づいてSCAR-H持ちとP90持ちが反応し、そちらへ銃口を向けた瞬間。

 

バンバンバン!

キン!

 

テンポよく、そして素早く、オセロットのSAAの発砲音が響いた。

同時に、その音の中の一つだけ、金属の棒に弾が当たる音がする。

そしてその直後……

 

「ぐっ……!」「あっ……!」「ぎぅ!」

バタバタバタ…

 

三人の、三者三様の呻き声が聞こえ、倒れる音がする。

 

そして今、やっと、この戦いに決着がついたのだった。




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Episode15 覚悟 〜Preparedness〜

今回はすごく短めです。
切るところで切ったらこうなりました(笑)
ご了承ください。


「あと……少しで、SBCグロッケンだ!」

 

ボスと別れ、ただひたすら走るシノン達。

彼らは遂に、GGOの首都、SBCグロッケンに到達しようとしていた。

 

ビッグ・ボスが敵に向かって行ったのを見て、邪念を振り切るように走り出したダイン。

ビッグ・ボスの、ダインに向けて言ったのであろう呟きを、何故か忘れられないシノン。

……ただひたすら走っているスコードロンメンバー達。

 

それぞれの思惑があるからなのか、ダインの指示以外の声は全く聞こえない。

息が切れている訳では無い。GGO世界では、肉体的な疲れは無いのだ。

 

するとその時、不意にダインが、シノンに向けて話しかける。

 

「……なぁ、シノン。」

「……何?」

「あの眼帯マスクさん、シノンが呼んだんだろ?」

「……」

 

シノンは肯定を表したいのか、首をダインの方に振った。

ダインはもちろん、それを肯定の意と捉え、話を続ける。

 

「どうして、あんなすごい人と知り合ったんだ?と言うより、どこで知り合った?」

「……」

「あの人が、あの眼帯マスクさんが、このGGOの裏にいる人ってことはすごく分かった。確かにあの人は強かった。でも……なぜ、あんなに優しいんだ?普通、裏世界に生きる人は、残酷とか……さ。よく聞くじゃないか。」

「ええ…。」

 

ダインの問いかけに対し、シノンは、ふうと大きく息を吐いた。

そして、答えを返す。

 

「私も、彼のことはよく知らない。ただ、今日彼が来てくれたのは、私も優しさだと思っている。」

「……」

「それに……私もビッグ・ボスの正体を知るときに聞かれたわ。『正体を知った時、こちら側の世界に足を踏み入れてもいいんだな?』と。」

「……!」

「でも、それを私は受諾した。私が、私自身が、強くなるために。でも、本当に入れているのかまだ分からない。だけど……入る覚悟は出来てるわ。」

「……!」

「だから、あなたもその覚悟が……私はまだ言える立場じゃないけど、その覚悟が出来てるなら、彼と知り合った経緯だけ教えてあげる。後は自分で調べて、本当に入るのか決めて?」

「……」

 

ダインは黙りこくる。

走りながらだが数秒考え、う〜んと唸った後、結論を出した。

 

「よし分かった。どうするのか決めるためにも、教えてくれ。」

「……了解。」

 

そしてシノンは話した。

初めて彼と会ったのは、あのミニガン持ちとの戦闘の時だと。

スコープ越しに目が合った事。なのにも関わらず背中を晒して消えていった事。その時、自分が引き金を引けなかった事。

何から何まで、全部話した。

 

「なるほど……な……。」

 

そしてそれを話し終わった時、ダインは、たったこれだけ言葉を発し、黙りこくった。

きっと、彼の中で葛藤が生まれているのだろう。

 

だがダインは、ぱっと顔を上げ、シノンを真っ直ぐ見た。

そして、たった一言、はっきりと告げる。

 

「分かった。ありがとう。……俺も、強くなりたい。だから俺も俺なりに覚悟を決めて、正体を探ってみるよ。ありがとうな。」

「どういたしまして。」

 

ダインが笑顔を見せ、シノンが前を向く。

これで話が終わる……と、思っていたその時。

 

『ガガッ……はは、いいだろう。あの店に来い。シノン!場所は分かるはずだ。待ってるぞ。』

 

急にダインの通信アイテムから、大音量で流れてきた声。

その声は、誰もが間違いなく察した。

 

眼帯マスクだ、と。

 

 

「……ふふ、シノンさん、僕達が聞くまでもなかったですね。」

「うん。もう彼女は、覚悟ができていたみたい。」

 

一方、通信アイテムからダイン達の会話をこっそり聞いていた店主とタスクは、二人で笑いあっていた。

場所は、荒野のど真ん中。帰りの三輪バギーに乗りながらだ。

 

そして二人は、お互いでアイコンタクトし、示し合わせると、タスクが通信アイテムに口を近づけ、こう、呟いた。

 

「はは、いいだろう。あの店に来い。シノン!場所は分かるはずだ。待ってるぞ。」

 

と。

もちろんその時の声は、ビッグ・ボスの声であった。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

今回は、お知らせがあります。
それは、これから先、(年明けあたりまで)の半年間、投稿ペースがガクンと落ちそうだということです。
理由は言えませんが、とりあえず落ちます(笑)
とは言っても、少しづつ下書きして、少しづつ上げていこうと思うので、よろしくお願いします。

※2018年10月現在、解消されました。
ご理解ありがとうございました。

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Episode16 店 〜Shop〜

ガチャッ

 

ダインが、あの店主の店のドアを開ける。

スコードロンメンバー達は、息を呑んで入ってくる。

彼らは、あからさまに緊張していた。

ここまで案内してきたあのシノンまでもが、少しおぼつかない。

 

……だが、中は至って普通のショップだった。

新品の銃が白いキレイな壁に所狭しと肩を並べ、爆弾やら弾薬やらの物騒なものが木製の棚にきちんと整理されて押し込まれている。

 

「……あれ?」

 

あまりの平凡な雰囲気に、ダインが間抜けな声を上げてしまう。

でも、それはスコードロンメンバー全員の意思を声として表現していた。

 

それもそのはず。あんな恐ろしい人に呼び出されたお店が、こんなにも和やかで普通なんて、誰も考えていなかったからだ。

 

まあ、シノンは一度ここで彼を見たが、ここを詳しく知っているかと聞かれれば、決してそうとはいえない。

 

したがって、シノンを含むスコードロンメンバー全員が、呆気に取られているのだ。

あまりの平凡さに。シノンに関しては、あまりのいつも通りさに。

 

「……おい、奥に休憩スペースまであるぞ?」

 

メンバーの誰かが、店の奥を指さす。

全員の視線が、そこに集まった。

 

「ほんとだ……」

 

誰かが、いかにもそこに行きたそうにその休憩スペースを眺める。

その視線の先には、大きな向かい合えるソファーや、椅子と机、更にはレジカウンターに直角に繋がっているカウンター席まであった。

おそらく、店主がレジとカウンターでのもてなしを同時にやりやすくするためだろう。

 

「へぇ〜」

 

素直に驚く別のメンバー。

するとどこからから、同じスコードロンのまた別の一人が声を上げた。

 

「なあなあ見てみろよ!AK-47の派生型全部揃ってるぞ!?」

「マジで!?」

「こっちはM1911 ガバメント!うっひゃ、こっちにはFA-MASまで!しかもフランス軍様式!」

「FA-MAS!?そんなレアなのがあるのか!?」

 

すかさずメンバー全員が食いつく。

シノンだけは、スナイパーライフルのコーナーを眺めていたが。

 

「おいおい……!AN-94 アバカンまであるぜ……!?」

「うおおおお!」

 

スコードロンメンバー達がはしゃぐ。

やはり彼らもガンマニア。こんなにも銃があったら、彼ら血が騒がないわけが無いのだ。

 

「ん……?なんだこれ?」

「どした?」

 

するとその時、そんな彼らが、あまり見覚えのない銃を見つけ、考え込む。

 

「……んん?見たことないぞ?」

「なあ、これ知ってるか?」

 

そのメンバー達は、ダインに声をかける。

ダインは、そちらを見て彼もまた首をかしげた。

 

「え……?なんだこれ?」

 

気づけばスコードロンメンバー達全員が、揃ってたった一つの銃を眺め、同様に首をかしげていた。

 

その銃は、少し近未来的なデザインだった。

いかにも弱っちそうなストックが横に折りたためるのだろうか、ストックと本体のようなもののつなぎ目に強化プラスチック製の蝶番が見て取れる。

それに引けを取らぬような長細い折れそうなバレル。

明らかに銃本体から孤立していたが、不思議とバランスが取れていた。

 

「なんだろ。なんか……かっこいいのは確かだな。」

「うん。それは間違いない!」

 

結局、どんな銃なのかもわからずに議論をまとめようとするスコードロンメンバー達。

だがその時、そんな彼らの背後から、いきなり別の声が、そしてその議論の答えが飛んできた。

 

「それは、クリス ヴェクター。アメリカのクリス社とアメリカ軍が開発中のサブマシンガンです。新しい反動吸収システム、クリス スーパーVを採用しているので、驚くほど低反動です。フルオート時のエイムコントロールも抜群ですよ。」

「お、おお~。」

 

リアルのことも交えて完璧に答える謎の声に、自ずと感嘆の声が上がる。

だが、彼らはすぐに我に返った。

 

「って、あんた誰だ!?」

「誰って、店主ですが?いらっしゃいませ!」

「あ……ああ、どうも。」

 

にこやかに、一切動じず挨拶をする店主に、スコードロンメンバー達は狼狽えつつもぺこりと頭を下げる。

店主はそんなメンバー達を見て、またにこやかに話を続けた。

 

「もし気に入ったのがあれば、声をかけてください。弾薬はサービスで、試射ができますから。」

「わ……分かりました。」

「ふむ……で、今お気に召したものはありました?」

 

店主が、この店のサービスを説明し、メンバー達に尋ねる。

そしてメンバー達は、全く同じ答えを店主に示した。

 

「「「「これ。」」」」

 

そう言って、指を指したのはクリス ヴェクター。

 

「……はは、やっぱり。」

 

店主は、優しい笑顔に汗を滲ませつつ、ポツリと呟いた。

スコードロンメンバー達は、お互いをお互いの顔で見合う。

そして、

 

「「「「あ……。」」」」

 

意見の重複を、今この瞬間にやっと理解した。

そして同時に、意地の張りあいが発生する…と思ったその矢先。

店主がまた、その場を収めた。

 

「お……俺が先だった……よな?」

「いや……それは俺が……」

「なにぃ!?」

「ああ、大丈夫です皆さん!皆さんの分、ありますから!」

「えっ」

「な、ならいいや。」

 

そういって、呆気なく収まった。

そしてその収め主である店主が、スコードロンメンバー達を休憩スペースの奥にある扉に案内する。

 

「さ、射撃場は、こちらです。」

 

そしてスコードロンメンバー達は、わいわいとその案内された扉に入っていった。

 

……シノンを、ただ一人残して。

 

 

入った先は、ものすごかった。

店の白い壁とは比べ物にならないくらいずらりと黒い壁に並べられた銃。

その中に、しっかりと人数分のクリス ヴェクターがあった。

 

「あったあった!これかあ、ベクター。」

「違げえよ、()()()()()だよ!」

「あ、そうかぁ!」

 

スコードロンメンバー達が冗談を交えながら次々に壁から取っていく。

だが、クリス ヴェクターはまだ2〜3丁余っていた。

そして、またその奥にある扉に手を掛け、扉を開ける。

すると扉が開くにつれ、段々と射撃場の一番目のレンジが見えて来て……

 

「よお、遅かったな。」

 

本来の目的であるあの彼が、射撃場の一番目のレンジでこちらを向いて待っていた。

一番目のレンジは、扉の目の前である。

先頭を歩いてきたダインは、驚きのあまり思いっきりのけぞった。

 

「うわぁぁ!?」




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

まずは、お礼からさせてくだい。
お気に入り300人!本当にありがとうございます!
感想も20件もいただきました!本当に感謝感激です。
これからもよろしくお願いします。

今後ともよろしくお願いします。

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Episode17 指導 〜Guidance〜

「うわぁぁ!?」

 

とある店の射撃場への入口から、素っ頓狂な声が上がる。

 

「なんだよ。」

 

その直後、低い声がそれを制した。

 

「はあ……はあ……あ、あんたか……良かった……。」

 

その素っ頓狂な声の主、ダインが、段々落ち着きを取り戻していく。

ビッグ・ボスはその一部始終を見て、率直な質問をダインに投げかけた。

 

「なんだよ……俺がなんかしたか?」

「い……いや、まさか、こんな目の前にあんたがいるなんて……」

「俺がシノンでも、驚いたか?」

「う……!」

 

痛い所を突かれたダインは、言葉に詰まる。

ビッグ・ボスは、やっぱり……と言わんばかりにダインを見た。

ただし、その目は決して睨むようなものではなく、あくまで穏やかだ。

 

「はは、別に怒ってはない。幾度となくそんな反応は受けてきた。」

「そう……なのか?」

「ああ。だから気にするな。」

「お……おう。」

 

そういって、ビッグ・ボスがダイン達の手元に視線を送る。

 

「……クリス ヴェクターか。なかなかいいもんを持ってきたな。」

「え……ああ、これは、店主がオススメしてくれたんだ。」

「あの商売脳め……!」

「え?」

「いや、なんでもない。」

「そう……か。」

「んなことより……なあ、あんたら、ここに撃ちに来たんだろ?早く並べよ。」

「あ……!」

 

ビッグ・ボスは話を切り、自分がいる一番目のレンジの左から、ダイン達から見て右に並ぶ2〜10番までのレンジを左の親指で示す。

ダイン達は、思い出したようにいそいそと並びだした。

 

「……」

 

ビッグ・ボスは、そんな彼らを黙って眺める。

そして……

 

タン!タン!

 

(一部の人種に対してのみ)耳に心地よい発砲音が響く。

ビッグ・ボスはそれを聞きながら、ダイン達を相変わらず眺めていた。

 

「なるほど……な。」

 

ビッグ・ボスは、ポツリと呟く。

ダイン達は、室内で反響している発砲音のせいで、ったくその呟きは聞こえていなかった。

 

ズタタタタタ!

 

その内、誰かがフル・オート、つまり連射を始める。

それによって、ただでさえ静かなビッグ・ボスの移動は、全く気づかれなかった。

 

 

「違う、顔は傾けるな。」

 

クリス ヴェクターの試射に夢中になっていたダインの背後から、いきなりビッグ・ボスの声が聞こえる。

ダインは、驚きのあまり思いっきり振り返った。

 

「うわぁっ!?」

 

同時にダインの手に、トン、と、何かに止められたような感触がする。

 

「おいバカ!射線を考えろ!」

 

そして、ビッグ・ボスからの叱責が飛んできた。

手元を見れば、危うくビッグ・ボスの方に向きかけていたクリス ヴェクターが、ビッグ・ボス、彼自身の手で抑えられていた。

ダインは慌てて、クリス ヴェクターの射線を、つまり銃口の向きを、先程まで向けていた的に向け直す。

そしてやはり、ビッグ・ボスの静かなお叱りと指導を受けた。

 

「……まず、トリガーに指をかけるな。」

「……お、おう。」

「で、レンジに入っている時は銃口の向きをどんな時でも的のある方向にに向けろ。持ち運ぶ時はは下に。銃口管理だ。」

「……!」

「それと、セーフティーだ。安全装置。それをかけとけ。」

「な、なんで?」

「……安全第一の為だ。そんなことも分からないのか?」

「でも……」

「ゲームでもリアルでも関係ない。リアルのサバイバルゲームでも、安全装置はかける。たとえ人が死ななくても、銃は銃だ。」

「……分かった。」

「もっと言えば、マガジンも外せ。理由は……わかるな?」

「お…おう。」

 

ビッグ・ボスの指示を受け、ダインがいそいそと手順をこなす。

トリガーから指を外し、銃口を改めて的に向け直し、安全装置をかけて、最後にマガジンを外す。

 

「本来なら、マガジンは最初だ。いいな?」

「分かった。ありがとう。」

「構わん。むしろ出来てもらわないと困る。」

「……すまなかった。」

 

ビッグ・ボスが壁にもたれかかってダインを見る。

ダインは、明らかに反省していた。

 

「ま、構わんさ。このゲームのプレイヤーは、出来てない奴らばっかりだ。今からでも遅くない。」

「分かった。気をつけるよ。」

「よし。」

 

ビッグ・ボスは目を変えて、優しい目でダインを見る。

そして、うてと言わんばかりに視線を一瞬だけ的に向け、顎をふいっとふると、その視線をまたダインに戻した。

ダインは、その指示を理解し、またクリス ヴェクターを構える。

そしてその斜め後ろに、ビッグ・ボスが立った。

 

「もう少し前へ。」

「……」

「銃を体にもっと寄せろ。」

「……!」

「肩の力を抜いて、肘を落とせ。」

「……!!」

「顔を傾けるなよ…?真っ直ぐ、的を見るんだ。」

「……!!!」

「よし、射て。」

タン!

 

斜め後ろからやってくるビッグ・ボスの指示に素直に従い、狙いを定めたダインが射った弾は、見事、的の真ん中に命中した。

 

「よし。いいセンスだ。」

「……!」

 

ダインは、自分自身の射撃に驚く。

同時に、ピタリと他のスコードロンメンバー達の射撃も止んだ。

 

「あれ……あの的……ダインのだよな?」

「リーダー?あれリーダーが射ったのか?」

 

ダインに質問を投げだすメンバー達。

だがその質問の答えは、ダインの背後にたつビッグ・ボスを見た時、全て解決した。

 

「あ……」「なるほど……ね。」

 

その質問の嵐も、また止む。

 

「……なんだ?」

 

ビッグ・ボスが、そんなスコードロンメンバー達に質問を返した。

メンバー達は、まさか、

 

「いやあ、あなたが指導したのであれば、ダインが命中させれるはずだ!」

 

などと、答えるような人は流石にいない。

その代わり、スコードロンメンバーの誰かが思い出したように別の答えを恐る恐る答えた。

 

「そういえば、俺たちって、『この人に呼ばれたんだった!』と思って……。」

「気づくのが遅い。」

「う……!」

 

ビッグ・ボスは、今更本来の目的を思い出す、そんな間抜けな彼らの答えに、一言釘を刺した。

 

だがもちろん、ビッグ・ボスは本当の事を分かっていた。

上手く誤魔化せたなどとホッとしているスコードロンメンバー達を見て、少しニヤける。

それでも、ビッグ・ボスはすぐにニヤけた顔を引っ込めて微笑んだ。

 

スコードロンメンバー達はその笑顔を見て、威厳とはまた違った圧力を感じたのは、言うまでもない。




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Episode18 彼女の過去 〜Her past〜

お待たせしました…!
ここから、だんだんとGGO本編へと話が入っていきます。
どうなるのかは…お楽しみです。


「こんにちは、シノンさん?」

「え……ああ、こんにちは。」

 

一方、取り残されたシノンは、スナイパーライフルの弾を見ていた時に、いきなり店主に呼びかけられていた。

店主はやはりいつもの笑顔だが、シノンはその笑顔のどこかに違和感を感じる。

 

「……覚悟は、できていたみたいだね。」

「……!」

「こちらへ。話そうか。」

 

その違和感の答えがすぐに出てきて、シノンは少し慌てる。

だが、やはりその事か、と、納得する自分も確かにいた。

 

そして、そんな事を考えつつ案内されたあのカウンターに座る。

あの時、タスクと知り合う前に、店主に眼帯マスクが……と、相談を持ちかけた場所だ。

 

店主はあの時と同じく、迂回して机の向こう側に行き、シノンと向き合った。

ただし、シノンは座っているのに対し、店主は立っている。

よって店主は、腰を折ってカウンターに肘をつき、シノンと目線を合わせた。

 

「え……!?」

 

あまりの近さに、シノンが少し驚く。

すると店主は、すぐに腰を戻して立った。

シノンは、何がしたかったのかと疑問に思う。

すると店主は、にっこりと笑ってその疑問がシノンの口から質問として飛び出す前に答えた。

 

「あっはは、いやぁ、すまないね。君の目を見てたのさ。この世界はゲームだけど、精神が一番反映される世界でもある。精神が一番体に出てくる部位は、目なんだよ。だから、ぐいっと覗きこませて貰ったのさ。」

「そ……そうですか。」

「うん!シノンさん、君の覚悟はよく分かったよ。同時に……決意も。」

「決意…?」

「そう、決意。シノンさんってさ、リアルで何か抱えてるでしょ?」

ガタッ!

「……!!」

 

シノンがいきなり立ち上がる。

店主は姿勢はそのままに、視線だけ驚きと焦りが混じったシノンの顔に当てていた。

シノンが、後ずさりながら店主を警戒の目で見る。

だが店主は、そんな視線など動じずに話を続けた。

 

「はは、そんな目で見ないでよ。長年の感って奴さ。別に、リアルを特定したり、探りを入れたりは一切してないよ。ただ、そうなんじゃないかって。違うかい?」

「……!」

 

シノンは、黙って俯く。

店主はそんなシノンを見て、席に座るように促した。

 

ストン、と、力なくシノンが座る。

店主はまた、机を迂回して今度はシノンの隣に座った。

そして、ふぅとため息をつき、ゆっくりと話し出した。

 

「実はねシノンさん。俺と彼、ビッグ・ボスは、とある過去の出来事を抱えて生きてるんだ。」

「……!」

 

「過去を抱えて生きている」

このフレーズが、シノンの中に渦巻くあの出来事と一致していく。

 

あの時、手に持っていた、いや、持ってしまったもの。

あの時、見てしまったあの赤色。

 

それに共通するものを、彼等も持っているのか。

だとしたら、彼等はどのようにして今を生きているのか。

過去に囚われて、そこから抜け出せずにいる自分に、希望を与えてはくれないか。

 

「あっあの!」

「ん?」

「その話……もっと詳しく……聞かせてくれない!?」

「……ふふ、言うと思った。」

「じゃあ……!」

「でもね。シノンさん。」

「……?」

 

すると店主は、真っ直ぐにシノンの目を見つめ、淡々と、話の質はもちろんのこと、声の低さすらガラリと変えて、ぐっと見つめた。

そしてそのまま、ゆっくりと続けた。

 

「この話は、簡単に話していいものじゃないんだ。だから今はまだ言えない。ごめんね、シノンさん。」

「そんな……!!」

 

シノンは落胆し、上がりかけていた顔がまた下を向く。

店主はそんなシノンを見て、ポツリと呟いた。

 

「でも……」

「……?」

「でも、シノンさんの目からするに、おそらく僕らとシノンさんの過去は共通しているものがあると思う。」

「共通……?」

「……そう。僕らとあなた、シノンさんの、それぞれ違った辛い過去に共通して存在する一つの言葉(ワード)。シノンさんなら分かるはずだよ?」

「共通……しているもの……。」

「トラウマを思い出させちゃうかもしれない。でも、よく考えてみて。僕の目を見てでもいい。」

「……!」

 

そう言って、店主はシノンに体も向けて、じっと見つめる。

そこには、もうあの優しい店主はいなかった。

変わりにいたのは、必死になって顔の歪みに耐えている、店主の苦痛の表情。

シノンは、その目に、その顔に、過去の自分が重なった。

 

そしてはっと、その言葉(ワード)が頭に思い浮かぶ。

 

「人の……命?」

「その通り。」

 

シノンの顔からすーっと血の気が引き、気づけば涙があふれてくる。

そんなシノンが、静かに店主の胸に飛び込んできた。

 

店主は、そんなシノンを胸の中に受け入れつつ、視線を逸らさない。

そして静かに、店の扉の前にある看板を、左手のウィンドウを操作して「open」から「closed」に変えた。

 

「辛いよね、分かるよ。僕も分かる。彼も分かるよ。だから、打ち明けてごらん?」

 

そう言って、店主はシノンの背中をさすり、シノンはその優しさに大人しく縋る。

 

そして、シノンは話した。

 

あの時見た、あの光景を。

あの時自分が、起こしてしまった、あの光景を。

 

そのまま。

 

その話を聞いている時の店主の目は、シノンをいたわるようなものではなく、過去の自分を見るかのような、虚ろな目だった。




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Episode19 贖罪 〜Atonement〜

「そうか……そうだったんだね、シノンさん。」

「……!」

 

下を向き、目元に影を落としたまま、コクリと頷くシノン。

店主は、そんな今まで誰も見たことがないであろうシノンの背中を、優しさを込めてさすっていた。

 

「そっか……それは辛かったね……。」

「……」

「シノンさんは、そんな過去を抱えて生きていたんだね。正直……」

「……?」

「正直、びっくりしたよ。」

「……!?」

 

そう言って、店主はいつもの優しい顔を見せる。

シノンは、そんな店主を不思議な目で見た。

何が驚いたのか。そして何故、そんなあっけらかんとしていられるのか。

不思議な気持ちと、店主に対する疑問。そして、その店主の態度から湧き上がる少しの不満。

 

そんな目をしているのを見て、店主は慌てて否定した。

 

「あ……!ああ、そういう事じゃないんだ!違うんだよ、シノンさん。僕が今思っているのは、その……。」

「……?」

「……シノンさん、僕等に似てるなぁってね。」

「え……!?」

 

シノンは、一気に目の色が変わる。

そして今度は店主が、淡々と話し出した。

 

「本当の事を言うとね、シノンさん。僕等は、シノンさんの過去は恐らく、人が死ぬところを見てしまっただけなんじゃないかって…ただそれだけなんじゃないかって思ってたんだよね。」

「ただそれだけって……!」

「ああ、いや、もちろん、人の命は大切だ。そんな簡単に捨てていいものでは無い。それは分かってる。でも……」

「……」

「でも、その過去は、そんな簡単な話じゃなかった。僕等が思っているよりも、ずっと深刻な問題だった。……謝るよ。ごめんね、シノンさん。」

 

そう言って、シノンに頭を下げる店主。

シノンは、慌てて店主に声をかける。

 

「えっ……!あっいや、話したのは私だし……!」

「でも、聞きにいったのは僕だろう?そんな深刻な問題を、こんな軽い気持ちで、簡単に聞いていいものじゃない。こんな軽い考えで、気持ちであなたに聞いたのは、僕の無責任だ。」

「……!」

「だから、謝る。ごめん……いや、すまなかった。シノンさん。あなたの深刻な過去をあんな気持ちで聞いたのは、僕の間違いだ。申し訳ない。」

「……」

 

もう、何も言わないシノン。そしてもう一度、頭を下げる店主。

その空間に、重々しい雰囲気が流れる。

そしてその雰囲気は、作り上げた本人、店主によって、破られた。

 

「だから……」

「……?」

「だから、その贖罪と言ってはなんだけど、僕も話すよ。僕と彼の、()()()()()()()()()、過去を。」

「え…!?」

 

シノンは、ぱっと目を店主に向ける。

その時のシノンに見られた店主の目は、先ほどまでのシノンのような、黒く染まった見たことがない目だった。

 

 

「ふう……よしじゃあ、話そうか。僕の彼、ビッグ・ボスであるタスク君の、とある過去を……ね。」

「……」

 

店主がシノンに謝罪し、一旦店主がカウンターの中に入って、シノンに飲み物を、自分にはコーヒー的な何かを出し、またシノンの隣に座った時。

店主はやっと、シノンが求めていた自らの過去をシノンに話そうとしていた。

もちろんシノンはその話を待ち望んでいた訳だから、コーヒーを見ながら懐かしそうでどこか悲しそうな目をする店主に顔を向けて、その話を今か今かと待ち望んでいる。

 

そして、一つ間をおいて、店主がゆっくりと話しだす。

シノンは、それを食い入るように聞き入った。

 

「ええと……もう随分前だね、ちょうど3年前かな、僕らの過去が始まったのは。」

「……」

「この年が何が始まった年か、分かるかい?とある事件の、始まった年なんだけど……」

「事件……ですか?」

 

う〜んと考え込むシノン。

そんなシノンを、店主は優しい顔をして見つめる。

そして店主は、まだ考え込んでいるシノンに、ヒントを差し出した。

 

「うん、やっぱりこれだけじゃあ……分からないよね。じゃあ、こう言えば分かるかな?」

「……?」

「今からちょうど3年前は、2022年。これで、わかるよね?」

「ああっ……!」

 

シノンの中に渦巻く疑問が、するすると解けていく。

そしてシノンは、その答えを導き出した。

 

「それってまさか……」

「そうだよ。」

「SAO事件!?」

「正解。」

 

店主は、にっこりと笑ってシノンを見る。

 

ーSAO事件。

それは、ちょうど3年前に起こり、つい1年前に収束した、恐ろしい死のゲームを起こした事件。

約1万人がこのGGOと同じ、VRMMORPGに閉じ込められ、約4千人が亡くなった忘れがたき事件だ。

そしてそのゲームの名は、

「ソードアート・オンライン」。通称、「SAO」。

 

そんな事件の名前が、自分らの過去を語る上で最初にキーワードとして出された。

そして先ほど店主が言った、「人の命」や、「シノンに似た過去」。

 

推測するのは難しくないだろう。シノンはその答えを、簡単に導き出した。

 

「まさか……!!」

「そうだよ。」

 

驚きを隠せないシノンに、淡々とその答えを教える店主。

 

「そう。僕と彼は……」

「……!」

 

 

「SAO生還者(サバイバー)なんだ。」

 

 




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、作中ではあえて出さなかった、シノンの過去について、謝罪させていただきます。
作中で描写しなかった理由としては、ハーメルンの規定に違反するのかどうか分からなく、怖かった事と、その部分を組み込むと、文字数(あるいは話数)がとんでもない事になりかねなかったからです。
実は、この話を読んでいただいている方の中には、SAO自体を知らずに読んでいだいている方もいらっしゃるようで、きちんとご報告した方がよいかと思いまして……。
混乱を巻き起こすような事をして、申し訳ございませんでした。

そして、そのシノンの過去なんですが、ざっくりとだけ、説明させていただきます。
(詳細を知りたい!という方は、ご自身でお願いします。)

シノンはリアルで11歳の時、偶然巻き込まれた郵便局(だったかな?)での強盗事件で、その強盗犯を「家族を守らなきゃ」という正義感から、その強盗犯の持っていた銃で射殺してしまいます。
その時見た光景が、シノンの今のトラウマとなっています。
自分も、ここら辺はあまり詳しくないので、間違いがありましたらご指摘をよろしくお願いします。
(他力本願すみません。)

ここまで、長々と失礼致しました。
今後とも、よろしくお願いします。

では。

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Episode20 彼らの過去 〜Their past〜

「SAO生還者(サバイバー)なんだ。」

「……!!」

 

店主の口から出てきた、驚きの言葉。

あまりの驚きに、シノンは固まっていた。

まさかこの2人が、あの事件の被害者だったとは思ってもみなかったからだ。

 

「……はは、そりゃあ驚くよね。あの事件の経験者が、こんなゲームの中にいるなんて、普通思わないよね……」

「そ、そりゃあ……。でも……何故?」

「ん?」

「何故、そんな経験をしてまで……」

「……」

「……?」

 

いきなり静まり返る店主。そんな店主の反応にシノンはポカンとする。

店主は、そんなシノンを横目で見つつ、話を続けた。

 

「……それはね、結構難しい話なんだ。僕らは、ただこのゲームを楽しむためにやってるんじゃないんだけど……」

「……」

「ま、そんなことぐらい分かるよね、ごめんね。……ええと、話を戻そうか。その事についても、今から説明するから。」

「……分かった。」

 

シノンは一旦自分の中に渦巻く疑問にケリをつける。

確かに、店主らが何故そんな経験をしてまでこのゲームをやるのかは気になる。その時点で、少し自分と重なっているからだ。

だが、そうなった経緯から聞いても、何ら問題はないだろう。そう考えた。

 

店主は、そんなシノンの気の移り変わりを見た後、話し出す。

シノンは、その言葉に今度こそ、耳を傾けた。

 

「まずは……そうだな、SAOがどんな所だったのかについて話そうか。」

「……!」

「はは、そんな身構えなくていいよ。で、SAOの中はね……」

 

そして店主は、すらすらと語り出した。

その世界の武器やキャラクター、生活。

その話はシノンに、綺麗な世界を思わせた。

 

「……GGOとは全然違うわね。」

「そりゃそうさ、どっちかって言うとSAOは、ファンタジーだからね。」

「……それで?そんな綺麗な世界と店主さんたちの過去、なんの繋がりがあるの?」

「まあまあ、そう先を急がずにさ、ゆっくり話そうよ。それでね……」

 

今度は店主は、SAOのシステムについて語り出した。

階層の話やらお店での取引の話やら……

もちろんシノンは、その話を一字一句聞き逃さないように聞いていた。

そしてその中で、シノンは一つだけ、疑問を覚えたワードがあった。

SAOシステムの一つ、「ギルド」である。

 

「あ……!ちょっと待って!」

「ん?なんだい?」

 

淡々と話す店主を制して、シノンが質問する。

 

「その、『ギルド』っていうシステム……もう少し解説してもらえないかしら。」

「……へえ。」

「……?何か変な事言った?私。」

「ふふっ……いやあ、流石だなと。これで無駄な説明の手間が省けたよ。なんの説明もなしにギルドに着目するなんて……シノンさん、一体何者?」

「いっ……いやあ……その……」

 

少し悪戯な目をしてシノンを覗き込む店主。

シノンはそんな店主の目から逃れようと、ふいっと顔を背けた。

 

「はは、冗談だよ。さて、戻ろうか。」

「……」

「え……と、そうそう、ギルドだったね。……そうだよ、その通りなんだ。僕らの過去は、このギルドが深く関わっているんだよ。」

「……!」

 

一つ話が進んだなと、シノンが感じる。

同時に、湧き上がる高揚も感じた。

店主は、そんなシノンを見て、微笑みながら話し続ける。

 

「まずギルドとは、同じ意志を持った人たちが集まった集団。これは分かるよね?」

「うん。」

「という事は、野蛮な考えを持った人たちのギルドや、どうしても相反した考えを持って対立してしまうギルド達が存在してしまうのは、分かるかな?」

「……なんとなく。」

「そうなると、どんなことが起こり得るか、分かるかい?」

「う〜ん……、争い……とか?」

「そう!その通り。でも、SAOには平和に暮らして攻略を待っている俗に言う一般市民プレイヤーもいて、そんな人達を巻き込む訳には行かない。だって、たとえゲームとはいえ命がかかってるからね。それに、SAOにはそんな争いを止めようとするギルドもあったんだ。あんまり大っぴらに争いはできなかったんだよ。……じゃあ、どうすればいいと思う?」

「……?」

 

店主は一旦話を切って、シノンに質問を投げかける。

シノンはその質問の答えが分からず、うーんと唸る。

だが、そんなシノンは、考え出してしばらくしたその時、不意に、とあることを思い出した。

 

「あっ……!」

「ん?分かったかな?」

「う〜ん、もしかしてだけど……」

「いいよ、言ってごらん?」

「もしかして……裏工作?」

「正解!そうなんだ。裏で工作して、内部から破壊したり、リーダーだけを倒して崩壊させたりして、敵対しているギルドを潰そうとしたんだ。」

「へえ……そんな事が。」

「あったんだよ。」

 

シノンの中で、また疑問がするすると解けていく。

だが店主は、そんなシノンを見つめるだけで、何も話し出さなかった。

 

「……」

「……」

「……え?」

「……ん?分からない?」

「なにが……って、あっ!!!」

 

シノンは、ばっと店主の方を見る。

店主は、正解!と言わんばかりの笑顔だった。

 

「もしかして、その工作するプレイヤーが……!」

「そう、僕らだったんだ。」

「そういう事ね……」

「ふふ、驚いたかい?」

「ええ……正直言うと、ものすごくね。」

「でも、シノンさんもこの前やったじゃない?それに似たこと。」

「ま、まあ……その事を思い出して答えれたんだけど…。」

「あ、やっぱり?……ふふ、経験させておいてよかったよ。」

 

そこまで話して、店主は話を切る。

そう、先程シノンがふと思い出し、店主がシノンに経験させておいて良かったと言った出来事。

それは、ビッグ・ボスの正体を知ると同時に遂行した、組織A(アルファ)の回収任務の事だ。

結果として依頼主(クライアント)目標(ターゲット)だったあの任務は、今でもシノンの記憶に深く残っている。

 

そしてその記憶は、今から店主が言わんとしている事を容易に想像させた。

あの時のビッグ・ボスのステルス技術や、PKした数。

武器が剣と銃で違うとはいえ、あのような事を彼らはSAOの中で、命を懸けてやっていたのだ。

だが、それ自体が悪い事ではない。彼らも彼らで、「自分のギルド」と言う、守りたいものがあったのだ。

もちろん、人の命を奪うのは簡単にやっては行けない事だ。だが、そうでもしなければ守れないものもある。

シノンにはそれが、すごく良くわかった。

 

そしてその答え合わせをするように、店主はポツポツと話し出す。

彼らの、シノンに似た、過去を。

 

「……僕らもね、とあるギルドに入ってたんだ。それも、とっても大きな……ね。」

「……」

「そのギルドを潰そうとする人達を、影で何人も追い返したさ。捕まえたり……脅したり……」

「殺したり?」

「……」

「……そう、だったのね?」

「はは、シノンさんは鋭いな。」

「……ごめんなさい。」

「いや、いいんだ、間違ってはないよ。そう……なんだよね。最初はギルドの影にいて、リーダーの指示で相手を捕まえに行ったりだったんだけど、段々勢力が増すに連れ、僕らもそうせざるを得なくなったんだ。」

「……」

「あくまで防衛のため。でも、殺らねばならない時もあったのさ。」

「護るべき物のために……ね。」

「そう……。ね?似てるでしょ。」

 

シノンが呟いて、店主が答える。

そのシノンの呟きは、自分の中に響き渡った。

 

「護るべきものの為に、誰かを殺す。」

 

この言葉が。




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Episode21 何故この場所に 〜Why in this place〜

お待たせしました。

今回は長め&難しめです。
きちんと頭を整理してから読んでください。

(すみません。笑)

それと、もうそろそろ、あの黒の剣士くんが現れます。
乞うご期待!(∩´。•ω•)⊃ドゾー


「なるほど……ね……」

「……」

 

店主とシノンが、お互いの過去を話し出してから約30分。

二人の間には、重たい空気が流れていた。

 

「確かに、店主さんと私の過去って……」

「……似てるでしょ?」

「うん……」

 

お互いに思うことがあり、話が途切れ途切れになる。

シノンはシノンで自分の過去と重なる彼らの過去を考え、店主は店主で昔の出来事を思い返し、黙りこくる。

そしてついにお互いが黙り合う……そう思った矢先、シノンが話の最初に自ら投げかけた、とある質問について思い出した。

 

「なぜ、彼らはこの世界にいるのか」である。

 

「あ……!」

「……?」

「今思い出したわ、店主さん。じゃあ何で、今この世界にいるの?SAOで辛い過去を経験したのは分かったけど、それとこれとは……」

「ああ、そうだったね。その事も話さなくちゃいけなかった。ごめんごめん。」

 

店主は思い出したように目を見開いて、また話し出す。

 

「あのねシノンさん、唐突に言うけど、ビッグ・ボスはね、一度、SAOで仲間を失ったんだ。」

「え……!?」

 

シノンが信じられないという風な目をして店主を見る。

SAO時代に仲間を失うという事は、即ち死んだという事だ。

ビッグ・ボスは、SAO時代に、一人仲間を殺されている……そういう事になる。

それを唐突に話されたら、誰だって驚くだろう。

店主は、それを分かっていたかのように、すぐに経緯を話し出した。

シノンはそれに聞き入る。

 

「とある任務中でね、敵の罠に嵌って、仲間の一人を失ったんだ。彼さ、命を奪うのに躊躇いを感じちゃって、敵を逃がしちゃったんだって。そしたら、まんまとその敵の仲間に罠を仕掛けられて……」

「仲間が殺られた……と。」

「うん。そういう事さ。」

「……」

「彼はそれ以来、すごく冷徹になってしまって……まあ、その名残が今のビッグ・ボスの性格なんだけど。」

「へぇ……」

 

シノンは内心で納得する。

あのビッグ・ボスが醸し出している、歴戦の兵士のような威厳は、ここから来ているのか……と。

そして同時に、衝撃も感じた。

彼は、ビッグ・ボスは、守りたくても守りきれなかった経験があるのか……と。

だがシノンはやはり、その辛さは自分には分からない。

想像は出来る。だが恐らく、実際はもっと辛いのだろう。

その現状が、シノンをむず痒い気持ちにさせた。

 

店主も、そんなシノンの心の動きを察しているのか、少し間を置いて、話を続けた。

 

「……でね、それから半年後ぐらいかな。やっと、SAOが攻略され、僕らはリアルに帰ってきたんだ。」

「……」

「ま、最初はゆっくり過ごしてたよ?といっても、俺が向こうにいる間に世話になった病院やそこらの方々へのお礼とか、家の片付けとか手続きとか実際はバタバタだったけどね。……でも、それでもリアルの世界で生活できるのが夢のようだった。」

「……」

「それから、また2ヵ月後。この時、僕らがこの世界に来るきっかけとなったある出来事が起こるんだ。」

「……!」

 

店主が、今までの懐かしそうな目を引っ込めて、ぐっとなにか決意のようなものがこもった目をする。

 

「ごめんね、またとある事件の話になるんだけど……シノンさんさ、この事件知ってる?『ALO事件』。」

「……」

「あっはは、やっぱり知らないかな?」

「なんとなくだけど……なにかサーバーに不正があって、元々の運営が捕まって、今新しい運営がどうの……って言うあの妖精ゲーム?」

「そうそう。なんだ、知ってるじゃない。で、そのALO事件ってさ、もう少し詳しく話すと、そのSAO事件から帰ってくるプレイヤー達の一部を途中で捕まえて、強引にALOのサーバーに留めて、とある研究者の研究に勝手に使ってた……って話なんだ。」

「な……!?」

「もちろん、そんなことは許されるはずがない。やっとSAOから出られると思ったら今度は訳の分からない研究者に捕まってまた違う世界に閉じ込められるなんて、有り得ない。」

「うん……」

「まあ、その事件と僕らは直接の関係はないんだけど……それで唯一、リアルで今までとは大きく変わった事がある。それは、」

「……!」

「政府の見解……さ。」

「へ?」

 

シノンが呆気に取られる。

また何か、とんでもない事を言うのかと身構えていたのに出てきた言葉は割とどうでも良さげな言葉だったからだ。

 

「え、ちょ、どういう事?政府の見解?そんなの、SAO事件で充分……」

「違うよ、そうじゃないんだ。シノンさん。今、リアルのあなたは、頭に何をつけている?」

「え……そりゃ、アミュスフィアだけど…」

「そう。()()()()を謳い文句に売り出し、今ナーヴギアに変わって流通している機械。アミュスフィア。でもそれは、本当に()()()()かい?ALOだって、アミュスフィアを使ってダイブするゲームだ。そんなゲームで事件が起きたら、政府のお偉いさんがたはこう思うとは思わないかい?『本当にアミュスフィアは安全なのか。というより、仮想世界は安全なのか』とね。」

「そ……そんな……!だ、だって、そのALO事件……?とやらの被害者って、SAOの人達でしょ!?それなら、その人達が付けているのって、ナーヴギアなんじゃ……!」

「……それを、政府のお偉いさんがたが理解出来ると思う?」

「……!」

「ナーヴギアかアミュスフィアかじゃない。実際に事件が二度も起きたVRMMORPG自体、危ない物、危険因子として見られるのは目に見えていないかい?」

「……!!」

「実際、シノンさんの周りの人には絶対いるはずだ。『VRMMORPGをやるなんて、有り得ない』っていう人。」

「……!!!」

 

シノンはだんだん焦りすら覚える。

確かに、今でもそういう人は多い。一部のお年寄りなどに限っては、VRMMORPGは未だに命をかけてやるゲームのことだと思い込んでいる人もいる。

それを政府が見逃す訳が無い。

 

「そ、そんな……」

「いつか、VRMMORPGが規制されるかもしれない。下手すれば禁止にも。……でもね、今やVRMMORPGは日本の経済に大きく貢献している、下手すれば世界の…ね。言わば「世界的大ブーム」なんだ。特に若者にさ。想像してみて欲しい。とある世界的大ヒット商品の販売を、一つの国が禁止して、その危険性を世界に発信し出したとする。その影響で次々に周りの国がその販売を禁止したら……その商品の価値は大きく変動し、経済的大混乱に陥る。なんたって大ヒット商品だからね。今まで飛ぶように売れていたわけだ。それをいきなり止められたらと考えると、そう難しい話じゃないはずだ。そしてもし、本当にそうなれば、その影響がどんな形で現れるか分からない。恐慌?戦争?どうなるのか全くもって知るよしがないんだ。」

「……」

「だから、VRMMORPGを潰す訳にはいかないんだ。特に最初の事件が起きた日本ではね。今でも世界のあちこちの国はVRMMORPGを禁止しようとしている。でもまだ、日本が禁止してないから何とかなっている……そんな状態なんだよ。その状態を普通として戻すために立ち上げられたのが、政府の「仮想課」という部署なんだけど……」

 

ー仮想課

SAO事件をきっかけに設立された、主にバーチャル世界を監視する部署。

SAO事件発生当時は、その解決に尽力した部署である。

 

「その部署はまず、何をすると思う?」

「……?」

「もちろんALO事件のあとの話さ。二度も事件を起こしてしまったVRMMORPGを禁止の危機から救うには、どうしたらいいと思う?」

「……その政府のお偉いさんがたにきちんと説明するとか?」

「う〜ん、それをやったとして、なんになるんだい?」

「……!?」

「いいかい?シノンさん、今この時代の「国」とはね、政治をする政府と、その国に絶対不可欠な国民の、調和が重要なんだ。その一つの手が「民主主義」なんだけど、その民主主義に乗っ取れば、どんな言論の訴えも許される。」

「……なにが言いたいの?」

「ふふ……つまりはこういうこと。さっきさ、お年寄りがどうのって話したじゃない?」

「……ええ」

「そのお年寄りの大半って、大体息子か孫がSAOの被害者だと思わない?」

「……!」

「それに、SAOによって命の危険がほぼ無い現代社会に馴染めなくなってしまった人達もいる。そんな人がその息子や孫だった場合、どんな結論に至るか。」

「まさか……!」

「そう。『VRMMORPGを、全面的に禁止しろ』だとか、そういう類の訴えが、多数起きる事になる。」

「そういう事……ね。」

「でも……その、トラウマを抱えてしまった人には申し訳無いけど、さっき言ったみたいに今やVRMMORPGは現代の経済において潰すわけには行かない。だから……」

「仮想課ができたと……そういう事ね?」

「そう。この仮想課が何とかVRMMORPGでの事件を未然に防いで、この事案自体を風化させる。それが目的なんだ。リアルの世界には、もっと注目すべきニュースが転がっている。そっちに目がいけば、そのうちVRMMORPGが危険因子だなんて思わなくなる。もちろん、風化するまでずっとVRMMORPG内での事件を防げれば……の話だけどね。」

「なるほど……。でも、それじゃあ政府のお偉いさんがたは納得しないんじゃ……?」

「ふふ、なら、VRMMORPGを潰して日本の経済を、いや、世界の経済を混乱に叩き落とすかい?」

「い……いや……!!」

「そうなれば、下手すれば……」

「わ、分かったわ!なんでもないわ!気にしないで!」

「ふふ、かわいいなぁ。」

「〜!」

 

さらっと店主が恐ろしい事を口にする。

シノンは慌てて自分の意見を撤回し、恥じらいで赤くなった顔を伏せた。

店主はそんなシノンを、「若いなぁ」と言わんばかりに微笑みながら見ていた。

 

でも確かに、店主の言っている事は間違いない。

SAO事件によってVRMMORPGが疑問視され、アミュスフィアによって沈静化した。だが今度は、ALO事件によってそのアミュスフィアすらまた疑問視され始めている。それをまた戻すには、それしか方法がない。

それが失敗すれば、待っているのはVRMMORPGの禁止だ。

その影響が、現実にどんな影響を及ぼすかなど、学生のシノンにはまだ分からない。

 

 

そしてついに二人は、その話の終わりを迎えるのだった。

 

「……で、その仮想課の人達が目をつけたのがSAO経験者。特に攻略組と呼ばれる人達に声をかけて、今じゃ無数にあるVRMMORPGの中でから事件の起こる確率の高いものを抽出して、その人達に監視をさせてる。」

「あ……!」

「で、このいかにもそんな事件がおこりそうな雰囲気満載のこの「ガンゲイル・オンライン」に、僕らが来て、裏世界を監視している訳さ。このゲームは、法律的にもグレーゾーンだからね。」

「……!」

 

シノンの中で、疑問の糸どころかその他疑問まで全て吹っ飛んだように解決し、清々しい気持ちすら芽生える。

話し終えた店主はコーヒー……的な何かの最後の一を飲み干して、そそくさと立ち上がり、カウンターの反対側に迂回した。

そしてまた、いつもの構図に、店主が立ち、シノンが座った構図に戻る。そして、こうシノンに呟いて、店の奥に消えていった。

 

「僕も彼も、もうVRMMORPGが関係したせいで人が死ぬのは見たくない。だから今、ここにいる。シノンさんにも、是非協力を仰ぎたい。でも無理にとは言わない。だからあともう一度だけよく考えてみて、答えを聞かせて?僕は……いや、僕らはずっと、待ってるから。」

「……」

「いつか言ったよね、『どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?』って。この言葉を今一度、シノンさんに送るよ。……またね。」

 

と。




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Episode22 現実 〜Reality〜

「店主さん……?店主さん……!ねえ!」

「……?」

「ほら起きて!精神世界で寝るとか、どうやったら出来るんですかねぇ!?店主さんがログアウトしたら、この店どうするんですか!?まだ営業時間内でしょう!」

「う〜ん……」

「シノンさんはどうなったんですか!店主さんはどうするつもりなんですか!ねえ起きて!」

「う〜ん、はっ!」

 

店主がいきなり飛び起きる。

シノンに声をかけて店の奥に入り、椅子に座ってから、居眠りしてしまっていたようだ。

質問の嵐を吹かせていたタスクも流石に驚く。

 

店主はそんな事などつゆ知らず、ごしごしと目をこすった。

タスクは不機嫌そうに、店主に質問を続ける。

店主はその質問に、ポツポツと答えていく。

 

「はぁ……で、店主さん。シノンさんの話、結局どうなったんです?」

「……?」

「だから、シノンさんはどうなったんですか?」

「……あ、ああ、その事ね。うん、大丈夫。きちんと話したよ。」

 

そこまで話して、タスクはほっとする。

一応話せたのであれば、なにか進展があると期待できるからだ。

だが、その進展は思わぬ形で進んでいた。

 

「そうですか……で、結果は……?」

「うん……その事なんだけど、タスクくん。ごめんね。」

「……?」

「君の過去を、彼女に話した。」

「な……!?」

「そしてその上で、もう一度考えてみて……と、時間を与えた。」

「……」

「彼女も僕らと似た過去の持ち主だったんだ。それも、リアルでの……ね。」

「……というと?」

「ふふ、それはタスクくん自身が直接聞いてみるといいよ。シノンさんはきっと答えてくれる。」

「……」

「でも、少しだけ、教えてあげられることがある。」

「……?」

「彼女は、僕らよりずっと強いよ。」

「……!?」

「彼女は、護りたいものを護るために人を殺した。でも僕らはそうじゃない。護りたいものも護れずに、その後で人を殺した。それも何人とね。……まあ、詳しくはシノンさんに聞いてみて。」

 

タスクはすこし不満げながらも頷く。

 

彼女が自分と似た過去を……。

すこし嬉しい反面、不安な気持ちもあった。

これからどうなって、どんな風に話が進むのか分からないからだ。

 

あの時見た、仲間の死。

光の粒になって消えた、仲間の体。

そして何より、自分のミスで失われた、大切な命。

そしてその後自分が犯した、贖罪としての殺人。

でもそれは、決して許されるものではない。

 

「っ……!」

 

タスクは急に店主に背を向け、左手を動かし、ログアウトして消える。

その小さな背中を、店主はしかと見届けていた。

 

「わかるよ、その気持ち。」

 

店主は静かに、もうそこにはいない一人の少年に声をかけた。

もちろんその声は、誰にも聞かれることのなく、空間に消える。

 

「……さてと。」

 

そして店主は立ち上がり、店の奥に入って試射場を見る。

気配がないからなんとなく分かっていたが、ダイン達はもう既に帰っていた。

タスクからの報告がないのから考えて、恐らく正体を知らずに帰ったのだろう。

 

「……正しい判断だったかもね。ダインさん。」

 

店主は何かを予感させるように、ポツリと呟く。

そしてふいっと試射場に背中を向けて、自らもログアウトボタンを押した。

 

店主が消えると同時に、店内の照明もすべて落ちる。

扉にかかった「closed」の看板の周りだけが、少しだけ明かりを放っていた。

 

 

「……っ」

 

仮想世界から戻ってきたタスクが目をうっすらと開ける。

 

「はぁ……」

 

そしてそのリアルのタスク、内嶺 祐(うちみね たすく)は、がっと勢いよくフードつきのパーカーをとって着ると、スマホとイヤホン片手に走り出した。

 

どだだだと階段を降り、だだだーっと廊下を駆け抜ける。

そして玄関を靴を履きつつ蹴り開けると、真っ先に目的地へ走り出した。

 

「まぁたタスクったら……あれ?」

 

おたまを持ったタスクの母親が廊下を見た時には、もうそこにはいなかった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

タスクが淡々と路地を走る。

 

今は夜の9時。それに天候は雨。

どう考えたってフードつきのパーカーだけで外出する状況じゃない。

 

だがタスクは、そんな事などどうでもよかった。

 

「……っ!」

 

タスクはひたすら走る。

そしていつの間にかついたのは、とある墓場の一角。

 

「……」

ドスッ

 

するとタスクはいきなり一つの墓の前で膝をついた。

雨で濡れた地面から、ズボンに水が登る。

そして下を向き……

 

涙を流した。

 

ビッグ・ボスという、()()()()()()()で隠していた感情が、涙となって現れる。

 

「ごめん……!ごめんな……!」

 

そう、それは、「後悔」と「哀愁」。

あの時、敵を逃がさなければ。

あの時、光になって消えた、親友。

 

あの時、あの光景、あの時間、あの気持ち、あの場所。

 

すべてがくっきりと思い出せる。

そしてそれをしてしまう、自分だけが帰ってきてしまった()()の世界。

 

そしてその記憶は、頭に食いついて離れることは無かった。

 

バシャッ……バシャッ……

 

その時、後ろから足音が聞こえる。

タスクは、はっと後ろを見る。

 

そしてそこには、迷彩柄の長ズボンに黄土色の半袖シャツを着た男がいた。

 

……彼の名は待宮 多門(まちみや たもん)

プレイヤーネーム、「リボル」。

二つ名は、「オセロット」、あるいは、

 

「店主」……だ。

 

「店……タモンさん……!」

「いると思ったよ、タスクくん。」

 

そう呟く店主……もといタモン。

タスクはすぐに視線を墓石に戻した。

 

「アユムくん……もう1年だね。」

「はい……」

 

そう呟いたタモンは、タスクの背中をさすり、同時に墓石にも手を添えた。

 

そして呟くのである。

 

「すまなかったね……」

 

と。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっと、彼らの本名を出すことが出来ました。
といっても、物凄いセンスのなさが露呈しているだけなのですが。

こうして報告してはいますが、気にしないでいただけると幸いです。

では。

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Episode23 決断とダンボール 〜Decision and Running box〜

「っ……!」

 

あの日から数日後。

シノンは今日、ついに覚悟を決めて、店主の店にやってきた。

 

「強くなりたい……今までの私とは、違う!」

 

そういって、シノンは扉を開ける。

するとそこには、いつも通りの光景が広がっていた。

 

「やあ、シノンさん。いらっしゃい。」

「……」

 

店主がいつも通り迎えてくれる。

だがその目は、いつもとは違った。

 

「……ついに、決めたんだね?」

「はい。」

「どうするんだい?」

「私は……」

 

シノンは、ゴクリと唾を飲んだ。

同時に、店主を再度見直す。そして……

 

「覚悟ができました、店主さん。是非、私にも協力させてください。私とて、人の命が奪われるのはもう見たくない。」

「その為に、自分の命が奪われても……かい?」

「……!」

「何かをするには、必ず代償がいる。命を守るために、命を差し出す。この覚悟まで、あなたは出来てるかい?」

 

シノンは一瞬、ぐっ……と考える。

だがその答えは、もう決まっていた。

 

「ええ。もちろん。」

「よし!合格!」

ジャキッ

「な……!」

 

そうして、シノンが答えを出した瞬間、店主が叫んでSAAを取り出した。

 

もちろんシノンは後ずさる。だがその銃口は、斜めに下に、つまり床に向いていた。

 

そして1発だけ、発砲する。

 

ズダン!

キンキンキン!

 

その後すぐ床と壁、そして天井に弾丸が反射する音がして……

 

ドサッ

 

と、シノンの()()()何かが落ちる音がした。

とっさにシノンが振り向く。

 

するとそこには、緑色の、人が入れそうなくらい大きなダンボール箱があった。

 

「え……?」

 

もちろんシノンは訳が分からず首を傾げる。

すると店主が、その答えを出した。

 

「それは、僕からのプレゼントさ。受け取ってね。」

「……!?ほんとに?あ……ありがとう。」

 

シノンは恐る恐る、ダンボールに近づく。

そして蓋をゆっくり開けると、そこには……

 

ヘカートII用のサイレンサーと、G18用のサイレンサー、それに、消音(ステルス)化するためのカスタムキットが入っていた。

 

シノンは箱の中を覗き、箱に対してプレゼント類が小さすぎることに疑問を持つ。

 

別にシノンは、プレゼントに対して不満がある訳では無い。

むしろ嬉しいぐらいだ。

 

サイレンサーとは、その名の通り、銃の音を消す(サイレント)するための追加バレルの事で、見た目に反して意外に高い。

それも、学生プレイヤーが手を出せないレベルにだ。

ちなみにその見た目から、別名「ちくわ」とよばれているが、それは黙っておこう。

 

しかもそれに追加して、カスタムキットまでついている。

これは、このGGOにある「剣銃作成スキル」を持つ人たちによって商品化された、プレイヤーのプレイヤーによるプレイヤーのためのアイテムだ。

実銃のように、消音化するための様々な追加・交換パーツが入っている。

リロードやコッキング時の音を軽減するためのものや、消音化によって壊れやすくなるのをカバーするための強化スライドなど。

ただし、ゲームシステムの扱い的には単なるプレイヤーが作った「加工物」なので、アイテム名が「加工物」になっているのが残念だ。

 

まあでも、シノンからしてみればこれ以上ないプレゼントだ。

 

シノンは早速中に手を伸ばす。するとその時。

 

「よいしょ。」

「うわっ!」

ドサッ

 

誰かから背中を押され、シノンがダンボールの中に入ってしまった。

そしてそのまま、蓋を閉められる。

 

「ちょっと!何よ!」

「店主!ガムテープ!」

「はいはーい!」

 

外からビック・ボスの声が聞こえる。

なるほど、あいつか。と、シノンが納得し、怒りに任せてダンボールを突き開けようとした時。

 

もう既に時は遅かった。

 

びびーっとガムテープが蓋に被せられ、閉められる。

そしてシノンは、ダンボールの中に閉じ込められた。

 

シノン本人は、店主がわざわざ人の入るくらいの大きさのダンボールを用意した理由を知り、怒りの絶頂である。

 

だが実際は、これはビッグ・ボス、つまりタスクの考えた、とある「計画」だった。

 

「シノン!見えるか?」

 

ビッグ・ボスが、ダンボールの隙間から中を除く。

シノンはその目を、きっ!と睨みつけた。

 

「ちょっと!何するのよ!」

「まあまあ、これは儀式だ。」

「はぁ!?」

「ごめんねーシノンさん。ボスがどうしてもしたいって言うから……」

「何の話よ!」

「なあシノン、ダンボールの蓋は、下にもあるだろ?」

「……?ええ、まあね。」

「そこから足を伸ばして、歩いてみてくれよ。」

「何?どういうこと?」

「まあ、いいからさ、ほら!」

「嫌よ!何でやらなきゃいけな……」

「やらないとここから出してやらないぞ?」

「……!」

「ほらほら〜♪」

「ボス……はしゃぎすぎだよ……」

「いいだろう、こんな時ぐらい!」

「まあね。」

「まあねじゃないわよ!」

「お、ダンボールの住人がなんか言ってら。」

「………!!!!」

 

さすがのシノンも、ビッグ・ボスのとぼけ様に呆れたようだ。

大人しく、指示に従う事にする。

 

ガサガサ……

ひょこっ

 

「ぷっ……」

「んぐっ……」

 

シノンが足を出し、たった瞬間、ビッグ・ボスと店主が吹きそうになる。

もちろん、必死にこらえる。だが、この世には我慢したくてもできないものがあるのだ。

 

結果ビッグ・ボスと店主は、大笑いしてしまった。

 

「だははははははははははははは!」

「あははははははははははははは!」

 

もちろんシノンは、大激怒である。

ダンボールを投げ捨てて、(もちろんプレゼントは回収して)二人へ殴りかかってきた。

 

だが、そこは彼ら。

あっさりと避けて、また笑い転げる。

 

 

そしてその後1時間は、シノンが追いかけ回し、笑い転げるビッグ・ボスと、店主が逃げ回るというなんとも滑稽な戦いが、店内で繰り広げられた。

 

そしてその日、このGGOに、新たな生物が誕生したのであった。

 

「ガンゲイルビジョハシリバコ」

 

それがその名である。




いつも読んで頂き、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

お待たせしました。
感想欄の中で、一番「Good」が多かった、「ガンゲイルビジョハシリバコ」。
やっと出すことが出来ました。
長々とお待たせして、すみませんでした。

少し余談しますと、今回はタイトルに少し工夫がしてあります。
見てみてくださいね!

他のご意見も、積極的に取り入れていこうと思ってますので、もう少しお待ちください。
(エロイモアや松明、サンタ迷彩やワニキャップでの儀式、Mk22やM1911A1などなど…お待たせしております!すみません!)

今後も、よろしくお願いします。

では。

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第三章 死銃 〜The death gun〜 Episode24 事件 〜Incident〜

「タスク君!」

「ん?」

 

バタン!

 

シノンが正式に仲間に、ガンゲイルビジョハシリバ……ゲフン。になってから数日後。

今日は土日の休日だからと、開店の一足先に、しかも店主よりもはやく店主の店に来ていたタスクは、慌てて飛び込んできた店主に目を丸くしていた。

 

飛び込んできた本人である店主は、大慌てである。

 

「なんです!?どうしたんです!?店主さん!」

「……タスク君!慌てないで聞いてほしい。まだ不確定だ、不確定だけど……!」

「聞く!?不確定!?何の話ですか!」

「だから、不確定な話だけど、落ち着いて聞いてほしい。」

「わ……分かりましたから、まず店主さんが落ち着いて下さい!」

「あ、そ、そうだね、ふ、ふううう……」

 

タスクになだめられ、店主がゆっくり息を吐く。

タスクが店主を自分の隣の席に座らせ、そしてきちんと落ち着いたところで、タスクから話を切り出した。

 

「よし、ならまず、何の話ですか?」

「うん……あのさ、タスク君は、ゼクシードってプレイヤー、知ってるかい?」

「ゼクシード?あの情報工作で成り上がった彼ですか?」

「そうそう。彼についてなんだけど、この音声を聞いてほしい。」

「……?」

 

そういって、店主は音声のみの再生用のウィンドウを開く。

そしてその再生ボタンを押した。

するとそこから、機械によって変音された音声が聞こえてきた。

 

『ゼクシード!偽りの勝利者よ。今こそ真なる力による裁きを受けるがいい!』

ズダァン!

 

そしてその短いセリフの後に聞こえてくる一発の発砲音。

そこで音声は消えていた。

 

店主はそのウィンドウを閉まって、再びタスクに向き合う。

そしてまた、話し出した。

 

「まず、この音声の録音日から、ゼクシードはこのゲームにログインしてない。」

「え……?」

「この音声の録音場所は、とあるGGO内の酒場。ここでとあるプレイヤーが、その時やっていた生放送のネット番組に出演中のゼクシードに対して発砲した。」

「対して……?ディスプレイにですか?」

「そう。そして、この銃の発砲音。この発砲音の主は、自らを死銃(デス・ガン)と名乗った。で、その直後、()()()()()ゼクシードが急に苦しみ出して倒れて、アミュスフィアの安全装置により強制ログアウト。で、それ以来彼はログインなし。ネットの掲示板サイトには、「失踪をしたかっただけ」とかその他色々言われてるけど……」

「……」

「何か不穏な感じがしない?」

「確かに。発砲音からして、銃は恐らくトカレフTT-33でしょう。ハッキング……によるものではないですね。トカレフはデータ的にもそんなもんに使うようなものじゃない。」

「……だとしたら?」

「事件……ですかね。」

「やっぱりタスク君もそう思う?」

「……はい。」

「だよね……まだ正確なのはあれだけど、彼は撃たれた直後、苦しみながら倒れた。」

「苦しみながら?」

「そう。普通じゃありえないよね。」

「……」

 

そう。この世界では、意外に苦しむという概念がない。

と言っても、一概にないとは言えないが、大体はHPバーが全損した時にはすぐに光の粒子になって消えるから、ほんの一瞬の話だ。

 

たとえナイフで斬られても、しびれのような痛みがあるだけ。

その痛みだって、ずっと続くわけではなく、それも一瞬の話だ。

 

だとすれば、どういう事か。

 

ゼクシードは、()()()()()()()()()()()()()()()、という事だ。

そしてそれを裏付けるかのように、その後作動したアミュスフィアの安全装置。

そしてその後に一切されない、GGOへのログイン。

 

どう考えてもおかしい。

だから店主は、不確定ながらも、タスクに、そして関節的にだがビッグ・ボスに報告したのだ。

 

「……ついに来たね。タスク君。」

「……はい。」

 

二人は、覚悟を決めたような目をして机を睨む。

だが、二人はすぐにその視線を元に戻した。

 

「さて、その前にまず、普通の仕事だよ。まだ本当にそうなのか決まったわけじゃないからね。」

 

そう言って、店主は店を開く準備を始める。

だが、彼らにはもう、既にわかっていた。

 

これから、彼らは彼らの「本当の仕事」を、しなければならないということに。

そしてそれは、少しだけ形を変えて、的中することになる。

 

とある、一通のメッセージによって。

 

 

開店してから約10分と言ったところだろうか。

今は早朝。やはり最初はお客が来ないため、しん……と静まり返った店内で、二人が佇んでいた時。

 

いきなり、一通のメッセージがやって来た。

その差出人の名前には、「仮想課 菊岡」と書いてある。

 

二人は顔を見合わせた。

なぜならその「菊岡」という仮想課の人物こそ、二人をこの世界に送り込んだ本人だからである。

 

想像には難くなかった。ゼクシードの件についてだろう。

 

そう考えて、二人は揃いも揃って顔を戻し、ウィンドウの「開く」ボタンを押す。

するとそこには、こう書かれていた。

 

『やあ!二人とも、お元気ですか?タスクくんはもちろんのこと、タモンさんもね!急に申し訳ないが、二人に通達することがあって連絡したんだ。心して読んでおくように。』

 

二人の目が、文の上から下へと写ってゆく。

 

『君たちは知っているかも知れないが、今、とある事件が発生している。概要は……、トッププレイヤー、ゼクシードの死亡事件。』

「死亡……!」「これは……!」

 

タスクと店主がそろって息を呑む。

まさかとは思っていたが、そのまさかが的中した瞬間だからだ。

 

これはますます、自分たちの出番かと、意気込む。

だがまだ、文章は続いていた。

 

『君らはまだ犯行手口も犯人の手がかりも、何も掴めてないと思う。僕ら仮想課も、まだ掴めてないのが現状だ。そもそも犯行なのかもわからない。だから今、解決に向けて努力しているところなんだけど……、一つ、お願いがあるんだ。』

「「……!」」

 

ついに来る、と二人は覚悟する。

そしてその文面は、衝撃的な言葉が並べられていた。

 

 

『この事件に、君たちからは手を出さないでほしい。』

「何……!?」「え……!?」

 

 

タスクと店主は揃って疑問を口にした。

こういう事態のために、自分たちはここにいるんじゃないのか、と疑問がよぎる。

 

だが文章は、その下に続いていた。

 

『ただし、だからと言って、一切この事件に関わるなとは言わないよ。実は、もうすぐそちらに一人、こちらからプレイヤーを送り込む。彼には、君たちに会いたければ会え、と言っておく。もし接触したら、手助けするかどうかの判断は君たちに委ねるつもりだ。』

 

「意味がわからない」と言わんばかりに二人の眉間にシワがよる。

そしてその文章は、まだまだ続いていく。

 

『これは君たちのための措置なんだ。彼は最近見つけた、偶然解決に当たってくれそうなプレイヤーさ。実力もある。まぁ、君たちほどでは……無いけどね。そのお陰で、君たちの力を借りなくて済んでいる。本来なら君たちの仕事だが、この事件の解決後が困るだろう?だから、ご理解願いたい。

……ただし、もう一度書いておくが、彼には君たちの事をほんの少しだけ、話してある。彼がもし、君たちの所にやって来たら、その時は協力してもらって構わないよ。もちろん、断ってもね。

でも、くれぐれも言っておくが、「これから」の事を考えて行動してほしい。

 

……それともし、こういうのはあまりよろしく無いかもしれんが、この事件解決のために君たちが、あるいは君たちの仲間の命が失われたら、元も子もないんだ。辛いと思うが、耐えてくれ。

 

 

幸運を、タスクくん。タモンさん。』

 

ぐっ……と、タスクと店主が衝動を堪える。

そして文章は、ここで終わっていた。

 

確かに、この文章に書いてあることは間違いではない。

 

なぜなら、この二人の仕事はこの事件が終わった後でも続くからだ。

それを見越して考えた場合、ここで命を張って表に出るのは危険すぎる。

だがそんな事言ったら、彼らがここにいる意味が無いのではないかと思うだろう。

なんてったって人の命が既に一つ失われているのだ。

特に彼ら二人に関しては、このことは、はいそうですかと黙っているわけにはいかない。

だが、この世界に彼らがいるかいないかで、仮想課にとっては、その先の解決の対応がガラリと変わるのだ。

 

確かに、()()()()彼らの出番だろう。

でも、その後のことを考えた時、代わりにやってくれる人がいれば、そちらに任せるのが道理だった。

 

ー「()()()()のために。」

 

そんな言葉のせいか、やはり彼らの中にはモヤモヤが残るのは、当然だった。

 

「っ……!」

 

タスクはその文章を読み終わると、左手のウィンドウを操作し、メインウェポンであるM82A1とサブウェポンのデザートイーグル+サイレンサーだけ取り出して、すぐにかけ出して、射撃場に入っていった。

 

その小さな背中に、店主はポツリと声をかける。

 

「……辛いよなぁ。」

 

と。

 

でもその呟きは、やはり、空間に消えてなくなった。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、二つ、予告させていただきます。

一つ目は、〔次回、新キャラを出します!〕
このキャラは、MGSのものでも、GGOのものでもありません。
かと言って、オリジナルでもありません(なんやねん)
イメージとしては、今流行りのFPSゲーム、「虹〇S」のキャラ数人を掛け合わせたようなキャラにする予定です。

二つ目は、〔設定集を出します!〕
こちらは、本当にぱっと思いついたことです。時期は、まだ未定です。
ここから、(恐らく)話が複雑化してきますし、新キャラもちょくちょく出てきます。
そんな中で、読者の皆様の脳内混乱を防ぐための措置として、勝手に出させていただきます。
ご理解をよろしくお願いします。

乞うご期待!(と言っていいのか!?怖い…カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ)

では。

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Episode25 クワイエット 〜Quiet〜

「やあ、いらっしゃい、シノンさん。」

「こ、こんに……いや、おはようございます……?」

「はは、休日は混乱するよね。さ、座って座って。」

 

そう言って店主に出迎えられたのは、シノンだ。

いつも通り休日の朝を起きて、いつも通りGGOにログインし、いつも通り店主の店へとやって来た。

 

開店してすぐなのに、店主はシノンを暖かく出迎え、シノンはいつものカウンターに座る。

するとシノンは、少し違和感を感じた。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

店主は、すっとシノンの方を向く。

するとシノンは、その違和感の正体に気づいた。

 

「そういえば、ボス……は?」

「ああ、よく気づいたね、シノンさん。」

 

ニコッと笑い、シノンを褒める店主。

だがシノンからしてみれば、あたりまえだった。

 

なぜならシノンは店主から、「最初の週はビッグ・ボスと訓練してもらう」と言われていたからだ。

 

なのに、早速彼が不在。

理由がわからないでは無いが、いささか不満なのも事実である。

 

だがその理由は、シノンが想像していたのとは違った。

 

「あのね、シノンさん。彼は今、射撃場にいるんだ。」

「え……?」

「ちょっとムシャクシャすることがあってね……そっとしておいてあげて。」

「は、はあ、そうなんですか。」

「……そんなに驚いたかい?」

「い、いえ……」

 

へえ、彼にもそんな事があるのか、とシノンは内心ビックリしていた。

あの冷徹な彼が……と。

 

だがその感情は、とあることに気づいたせいで、すぐ消えた。

 

「あ、そっか、タスク君が……ってことですよね?」

「そういうこと。やっぱり分かってなかったね?」

「す、すみません……」

「はは、気にしないで。」

 

ここで、話が一旦切れる。

 

こういう時、お互い……少なくともシノンは、気まずくなるものだ。

お互いがお互いを見あって、話のネタが無いばっかりに黙り合う。

 

だがそんな静寂は、すぐに破られた。

 

バタン!

「……お、彼女ですか、その『新人』ってのは。」

 

いきなり、店の扉が開く。

そして奥から入ってきたのは、一人の男プレイヤーだった。

 

藍色の迷彩服に、その上に着た黒を下地に白いラインが少し入った防弾ベスト。

そしてさらに追加されて体に取り付けられた防弾アームポーチや、ウエストポーチ、ホルスター。それらにも何故か、少し、白いラインが見える。

そしてグローブに関しては、真っ白だ。

 

頭には、軍用セミフェイスヘルメットを被り、顔にはバラクラバと呼ばれる目出し帽をして、目だけが鋭く見えていた。

そのヘルメットの上に上がっている、付属の防弾で半円の強化プラスチック製のフェイスガードが、また何とも雰囲気を醸し出している。

 

そして、一番目を引いたのは彼の背中。

彼は背中に、「防弾シールド」を背負っていた。

 

まさに、『特殊部隊員』。

この言葉以外適切な言葉はない。

 

そんなプレイヤーの質問に、店主はささっと答える。

 

「あ!やあ、いらっしゃい。よく来たね。……そう、彼女が、新人のシノンさん。でもまあ、知ってるよね。」

「そりゃあ……だって、彼女はGGOのトップスナイパーとして有名だし……ま、それは表世界での話ですけどね。」

 

ー「表世界」

この言葉が、シノンにグサリとささる。

今まで自分がいた世界はそこで、自分はそこでは上の方だった。

ま、正直そんな、上か下かはどうでも良いのだが。

でも、そんな自分の実力が、この世界でどれだけ通用するのか、分からない。

それがとてつもなく怖かった。

 

そんな思いが、顔に出たのだろう。

その「特殊部隊員」のようなプレイヤーが、ドスドスと装備品の重たさを示すかのような重たい足音をならしながらやってきて、シノンの横の席に座り、やさしく話しかけてきた。

 

「やあ、シノンさん。」

「こ……こんにちは。」

「ふふっ……会えて嬉しいよ。これからよろしくね。」

「は……はい。」

 

シノンはすこし焦りながら、そのプレイヤーと挨拶を交わす。

 

「新人ですか?」と聞きながら入ってきた時点でそうかと思っていたが、彼もやはりビッグ・ボスと同じ、裏世界プレイヤーだった。

 

そんな彼は、自己紹介をする。

 

「俺の名前はウェーガン。コードネームは「ラクス」。は?って思うかもだけど、これはチェコ語で「医者」って意味。」

「「医者」……?」

「そう。俺は主に、戦場での救援を担当してるんだ。この盾も、その仕事の為。」

「ああ、なるほど。」

「まあ、それだけじゃあないんだけどね。爆弾系も俺かな。何でも吹っ飛ばせるよ?」

「へ、へえ……」

 

苦笑いで対応しつつ、そういうことか、と、シノンは納得する。

彼はいわゆる、「衛生兵」や、「看護兵」だ。

主に瀕死の仲間の救助を担当する、「戦場の医者」。

ところどころに白が入っているのも、それが所以だろう。

 

その割には重装備な気がするのは、彼が最後に漏らした爆弾とかを扱う役割だからなのなもしれない。

それを考えれば、彼は「工兵」の役割を兼ねていることになる。

 

シノンは、流石に役割を混ぜすぎだと思うが、なんせここは裏世界だ。

気にしていたら負けなのかもしれない、と考え直す。

 

そしてそんな彼が、ふうと一息つき、手からグローブを取ろうとしたその時、いきなり店主が、ラクスに質問した。

 

「……あれ?ラクスさん、彼は?」

「え?ああ、あいつですか。あいつはもうすぐ……」

 

ラクスが一瞬考えて、返事をする。

すると、その返事を遮るようにまた店の扉が空いた。

 

バタン!

「……こんちわ。」

 

その奥から入ってきた男プレイヤー。

その彼も、これまた独特な雰囲気を持った装備だった。

 

まず目を引くのは、鉄の塊と見違えるようなヘルメット。

目のラインに細い横溝が一本引かれているだけで、あとは全部鉄だ。

 

そして服装は、まあ普通の迷彩服に、防弾チョッキを被せた普通の装備。

……に見えているだけだった。

実際に横から見てみると、その防弾チョッキはものすごく分厚く、ラクスが来ているものの約2倍くらいの厚さがあった。

 

それに加え、彼もまた、背中に何かを背負っていた。

今度は盾ではなく、何か鉄パイプをまとめたようなもの。

 

それも重なって、そのプレイヤーは相当ずんぐりむっくりだった。

 

「な……!?」

「……」

 

驚くほどの重装備に驚きを隠せないシノンを、ヘルメットで隠れて見えない目で横目に見つつ、そのプレイヤーもカウンターに座る。

 

そして背中に背負っている鉄パイプの塊を下におろすと、そのままそこで固まった。

 

「ぷっ……!」「ふふっ……!」

 

すると、店主とラクスが吹き出す。

シノンだけが、何が起こったのか分からなかった。

 

そんな思惑が顔に現れたのだろう。

店主が、種明かしをするように笑いをこらえながらシノンに訳を話す。

 

「ふっ……ご、ごめんね……シノンさん……!あ、ふふっ……あのね、彼緊張しているみたいで……!」

「緊張……?」

 

ますます訳が分からない。

すると今度はラクスが、シノンに訳をはなした。

 

「その……あいつさ、女の子がね、苦手なんだ。」

「は、はあ、そうですか。」

「まあ、だんだん慣れていくからさ。暖かい目で見てやってよ。」

「わ……分かりました。」

 

シノンがコクリと疑問気味に頷く。

するとラクスが、取ってつけたように彼の紹介をしてくれた。

 

「ああ、そう、彼の名前はアレク。コードネームは、「カチューシャ」。これは、あいつの得意な武器が戦車に似てるから付けられた、とある国の昔の戦車の名前。」

「へえ……そうなんですね。」

「すごいよ?マジで。ほんとに戦車だから!」

「あは、あはは……」

 

シノンはあの時見た、分厚い防弾チョッキや背中にしょった鉄パイプの塊を思い出し、苦笑いをした。

 

とあの装備がどうなるのかは分からないが、今でも十分戦車だった。

 

その時、ラクスが、急に店主にとある質問をする。

 

「……あ、そういえば店主さん。彼女の……シノンさんのコードネームって決まってるんですか?」

「あ……そういえば決めなきゃね。ふふ、忘れてたよ。」

「やっぱり……」

 

店主が苦笑いで頭を掻き、ラクスが笑う。

だが、その話の本人であるシノンは、何の話なのかさっぱりだった。

 

するとやはり、ラクスが説明してくれる。

 

「あ、えーとね、コードネームってのは、仕事中とかに使う、プレイヤーネームとは違うもうひとつの……実名を数に含めれば三つ目の名前のこと。なんせこっちの世界じゃ、プレイヤーネームは個人情報ばりに機密事項だからね。」

「そうなんですか……」

「ふふ、シノンさんには、少し新鮮というか、不思議かな?」

「はは……まあ、少し。」

 

シノンは、少し笑って頷く。

 

確かに、名前を複数持つのは少し新鮮だった。

既に今、実名とは違った名前を持っているが、またそれとは別の話。

 

すると今度は店主が、シノンに質問した。

 

「シノンさんは、何かこれがいいっての、あるかい?」

「え……?」

「別に、特に決まりがある訳では無いからね。好きな名前で良いんだ。」

「そう言われても……」

 

シノンはうーんと考え込む。

 

実際、プレイヤーネームをつけた時は、適当に自分の名前に「ン」を付けただけだから、そこまで深い意味は無い。

 

そんな自分の経験を回想しつつ、考え込むシノンの横で、いきなりラクスと店主が一緒に考え出した。

 

「スナイパーだから……「目」とか、「影」とか、「静」って感じかな?」

「お、いいねえ。」

「【ゴッド・アイ】、【イーグル】、【シャドー】……」

 

ブツブツと名前を言っていく。

シノンはもう、自分で考えるのは諦めて、その言われているコードネーム候補の中から好きなのを選ぶことにした。

 

そしてその中で、シノンが唯反応する候補が出てくる。

シノンはとっさにラクスを止めた。

 

「……ット】」

「あ……!」

「……ん?どうかした?」

「その、それがいいです。」

「え?それって?」

「今言ってた……【ク……?」

「ああ、【クワイエット】?」

「そう!それです!それがいい!それにします!」

「お、決まったねぇ。シノンさん。」

 

やっと微かに聞こえた自分のお気に入り候補を確認し、それに決めたシノン。

 

そんなシノンは、自分のコードネームに正直、すごくしっくり来ていた。

【クワイエット】……何故かしっかり腑に落ちてきて、どこかかっこよく、そしてまた何か綺麗に感じたその言葉を、シノンは心の中で繰り返す。

 

そんな俗に言う「満足」という感情が無意識に現れているシノンを見て、店主がポツリとラクスに呟いた。

 

「……ふふ、似たもの同士だね。」

「まあ……でも、そんな事言ったら店主さんだって…」

「僕は偶然そのキャラと僕のキャラがかぶっただけさ!」

「はいはい、そうですか。」

 

ははは、と、笑いあう店主とラクス。

満足そうにニコニコしながら座るシノン。

何故か未だ固まっているカチューシャ。

 

そんな平和な光景が、店内に広がっていた。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、感想欄である方にお知らせしたように、新キャラが某「虹〇S」のなんのオペレーターを組み合わせたのか、紹介したいと思います。

プレイヤーネーム…ウェーガン
コードネーム…ラクス
【ドク】【フューズ】【テルミット】

プレイヤーネーム…アレク
コードネーム…カチューシャ
【タチャンカ】【ルーク】【モンターニュ】

です!

「なんのことだよ」と思うかもしれませんが、この先に彼らが活躍した時にまたそれらしき表記をしようと思います。

「いやそうじゃなくて」という方は、一度「虹6S」と調べてみてください。

丸投げで申し訳ないですが、よろしくお願いします。

では。

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Episode26 可能性 〜possibility〜

「……」

「……」

「……」

 

案外あっさり決まった、シノンのコードネームの話の後。

シノン、ラクス、カチューシャの三人は、カウンターに立つ店主から、とある話を聞いていた。

 

その話の内容は聞かずともわかるだろう。「死銃(デス・ガン)」についてだ。

 

彼らもやはり、話の冒頭はタスクや店主がそうだったように、「噂」程度にしか聞いていなかったが、話が進むにつれだんだん顔が険しくなっていき、黙りこくっていく。

 

必然的に、その場の雰囲気が重たくなっていた。

 

そんな雰囲気の中、ゆっくりと口を開いたのは、ラクス。

それに対し、これまたゆっくりと言葉を返したのは、店主だった。

 

「なんですかそりゃぁ……」

「……分からない、としか言えないよ。犯行なのは確実だけど、いつ、どのように、どんな方法でこれをやったのか、何一つさっぱりさ。それに、今回の場合、直接関われないから……なおさらね。」

「……でも、だからと言って、放ってはおかないでしょう?」

「もちろんさ!こんな事件が起きたのに、そうやすやすと僕らが放っておくわけにはいかないよ。それに、なによりもボスが許さない。」

「……ですよね。」

「うん。でもね、」

「……?」

「くやしいけど、僕達に出来ることは、()()()()ここにやって来るであろう、あちらから送り込まれたプレイヤーを影で助けることしかないんだ。」

「そんな……!」

「うん。わかるよ、その気持ち。でも、ここでその気持ちを抑えてないと、後々大変になりかねないんだよ。」

「はい……それは、重々承知してますけど……」

 

そこまで話して、シン……と、店内が静まり返る。

 

 

行動できるのに、させてもらえない。

しかもそれが、人の命に関わること。

それ故に、彼らの葛藤は相当なものだった。

 

その場にいる4人は、それぞれの思いに顔を険しくする。

 

すると今度は、カチューシャが口を開く。

それは、ある「可能性」についてだった。

 

「あの……その……いきなりで話を変えてしまうんすけど、その犯行の種って、ウイルスではないんですか?」

「え……?」

「だ……だから、ウイルスではないのかって。」

「……どういう事?」

「その……苦しみながら消えたって事は、リアルで何か……ってのは分かります。なら、アミュスフィア自体に問題があってもおかしくない。」

「なるほど……でも、その消えた理由は、アミュスフィアの安全装置だよ?もし壊れていたら、作動しないはずじゃないか。」

「……だからです。別にウイルスなら、サーバー経由で個人のアミュスフィアにウイルスを送り込んで、一定の条件によってそのウイルスを発動させ、引き起こさせるようにすればいい。……そうだな、条件はもちろん死銃に撃たれた事として、ウイルスはアミュスフィアの電子系統を一時的に暴発させるとかすれば、リアルの人間は苦しむ。」

「……確かに。それでその後に、普通に安全装置を作動させる……と。確かにウイルスならこんな感じのことは出来てしまうね。」

 

そんなカチューシャと店主の言葉から残りの2人は彼らの前向きな姿勢を感じ取る。

「ここで嘆くより、すこしでも行動を起こす事。」

最も基本的で、最も単純な教訓を、彼らは今一度確認した。

 

そしてそんな思考の転換があったのか、その場の雰囲気がだんだん明るくなっていく。

 

その次に口を開いたのは、シノンだった。

 

「ウイルス……なら、黒幕はザスカー本体ってことですか?」

「え……?」

「だって、ウイルスを直接サーバーに入れるなんて…私は、あんまりパソコンとかはわからないけど、難しいんじゃないでしょうか。だったら、本体であるザスカーが、なにかを理由にこんな事を……」

「いや……それはないよ、シノンさん。前にも言ったけど、今世界はVRMMORPGに対して少なからず懐疑的な目を向けている。今にも禁止しようとしているけど、今日本が禁止していないから、何とかやっていけている……そんな状態なのは、知っているよね。」

「……?はい。」

「で、このGGOの母体の企業は、「ザスカー」っていう、()()()()の企業。実際の話、そんな企業がやっていけるビジネスは、そんなに多くない。得体がしれないからね。下手すれば、このGGOだけでやっていけている、と考えるのが妥当なんだ。」

「……」

「……ということは、つまりどういう事か。このザスカーという企業がもし、この事件の黒幕なら、彼等にどんな思惑があるにせよ、結果的には自らの首を絞めることにしかならないんだ。」

「え……!?」

「だって、日本でそんな事件を起こして、日本がVRMMORPGの禁止に踏み込んだら、元も子もないじゃないか。全世界が一斉に禁止に踏み込むことになる。ザスカー唯一のビジネスが一気に失われるだろう?」

「た、確かに……」

「だから、そんなことはありえない。ザスカーも正体不明とはいえ『企業』だ。そんなに馬鹿なことはしないだろう。」

「なるほど……」

 

店主の解説によって、シノンが引き下がる。

だが、その効果はあったようだ。

 

「ということは、死銃がザスカーを貶めようとしているのかも知れませんね。」

「……どういう事?ラクスさん。」

「だから、今、店主さんが話した事を、死銃は逆手に取ろうとしている……ってことですよ。」

「ああ……!」

「こんな人の命を左右する事件を起こせば、ザスカーに疑いが掛けられるから……死銃はそれを狙っているのかも。」

 

う〜んと、4人が4人、皆、頭を悩ます。

だが、ここでこんな風に頭を悩ませても、答えが出るわけがないのは誰もが分かっていた。

 

そんな雰囲気を察したのか、店主がゆっくりと口を開く。

 

「ふぅ……はは、まあ、こう言ってはなんだけど、ここでこうしていても答えは出ないよ。またなにかわかり次第連絡するからさ、今日はここで一旦解散しようか。」

「……そうっすね。」

「異論無し。」

「分かりました。」

 

そんな店主の提案にカチューシャが頷き、ラクスが相槌をうつ。

そしてシノンが、こくりと承諾した。

 

「……僕らも、なにか対策を練らなきゃね。」

「ああ……」

 

ラクスとカチューシャが話し合う。

 

一方のシノンはなにもすることが無く、その席に座ったままだったが……

 

「ねえ、シノンさん。」

 

話を終えた……とばかり思っていた店主から、いきなり声がかかってきた。

シノンはふと顔を上げる。

すると店主の口からは、驚きの言葉が飛んできた。

 

「急にごめんね。早速なんだけど……」

「はい……?」

 

 

「仕事を、してもらうよ。」

 

 

「な……!?」

 

シノンが驚いたのは、言うまでもないだろう。




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Episode27 仕事 〜work〜

「仕事を、してもらうよ。」

「な……!?」

 

重苦しかった死銃についての話。そしてその後いきなり言い渡された、初仕事。

もちろんの事、シノンは驚きを隠せなかった。

 

「え……ちょっ……ちょっと、待ってください!私はまだ……!」

「……まだ?」

「訓練してない……し、その……要領も分からないんですけど……」

 

シノンは慌てふためいて弁明する。

それもそのはず。シノンはまだ、ボスとの訓練も受けていないし、そもそも仕事の要領も分からないのだ。

 

そんな状況でどうしろと言うのか。

シノンの中には、膨れ上がった不安という不安と、少しの不満があった。

 

「その……」

「……」

 

未だ黙りこくっている店主に、シノンは必死に伝えようのない「不安」を伝えようとする。

 

だが、実際はそんな不安は不要だった。

 

「……ふふっ、あっはは、ごめんね。驚かせちゃったね。」

「は、はい?」

「うん、分かるよ。その気持ち。最初は誰でも怖いよね。でも安心して?流石にいきなりボスがやるような仕事にはぶち込まないから。」

「は、はあ……それなら……」

「うんうん、ごめんごめん。」

 

シノンは一気に安心感を感じる。

そんなシノンを見て、店主もニコニコして笑っていた。

 

そしてすぐに、店主は話を戻す。

 

「で、仕事の内容だけど……」

「……」

「『BOB』に、出てほしいんだ。」

「え……!?」

 

ーBOB。正式名称、「Bullet・of・Bullets(バレット・オブ・バレッツ)

この大会は、今回で3回目を迎える、GGOの中での、いわゆる「最強プレイヤー決定戦」だ。

いくつかの予選ブロックで1対1の戦闘をいくつも勝ち抜き、最後の決勝戦で30名での総当たり戦を行うこの大会。

 

まあ、シノンはもともとこの大会に出るつもりだったし、優勝も狙っていたので、むしろ願ったりの仕事である。

そして、一番気になるのが「理由」だが……

 

「ま、シノンさんは強いし、何回も出てるしね。でもそれは、「表世界」の話だけど。」

「うっ……」

「ふふ、ごめんごめん。で、なんで出てもらうのかというと…」

「……」

「死銃と、向こうから送られてくるプレイヤーとの接触。これが目的だ。」

「接触……?」

「そう。実際に会話を交わしてもいいし、横目で見つつ存在を確認してるだけでもいい。」

「は、はあ。」

「まあ、実際は送られてくるプレイヤーがどんな人かは分からないから、それを探し出してほしい……っていう部分もあるけどね。きっと彼は、死銃の目をこちらに向けさせるために、何かとんでもないことを誰にでも見られる場所でやるはずだ。」

「あ……なるほど。」

「……ふふ、もう分かったかな?」

「はい……その、「誰にでも見られる場所」が、BOBなんですね?」

「そう……!その通り。この時期にやってくるなら、誰だってそうするのが手っ取り早いだろう?まあ、実力があれば……の話だけど、なんせ向こうからの送り人だ。充分あると考えるのが適当だろう?予選の参加人数は恐ろしいほどいるから、バレる可能性も0に等しいし……」

「確かに……」

「さて……この仕事、やってくれるかな?シノンさん。」

「……」

 

シノンは一旦考える。

 

このGGOでの表世界では、「シノン」は、BOB予選を勝ち抜く強者として知られているから、「今回もシノンはBOBに出る」というように思われている。

それはシノン自身、分かっていた。

 

もともと、普段の自分は、そのBOBで勝つことが目的でこのゲームに来て訓練していたから、BOBにでること自体は何ら問題は無いのだが……実際のところ、考えが変わりつつあった。

 

理由としては、今の自分の立場上、ボスやその周りの人達に迷惑を掛けないか不安だったのが、一番の理由である。

 

もし、無断でBOBに出て、ビッグ・ボスやその周りの人に影響が及んだら……。

それのせいで、自分と似た、あるいはそれ以上の過去を持つ彼らを、さらに貶めるようなことになったら……と思うと、気が気でなかった。

 

彼らの辛さはよく分かるし、むしろ自分より辛いかもしれない。

なのに今、彼らは堂々と、怯え続ける自分よりはるかに強く生きている。

だからこそ、行動を共にさせてもらうことで、自らも何か得ようと、ここにいさせてもらっている。

 

それを、自ら潰すわけには行かなかった。

 

……でも、あちらから出ろと言われれば、文字通り「願ったり」である。

 

シノンは、そんな思いを言葉に乗せた。

 

「……分かりました。出させてもらいます。」

「え……?ふふ、やっぱり、出るの躊躇ってたんだねぇ?」

「な……なぜそれを……!?」

「だって、こちらからお願いしているのに「出させてもらう」なんて、普通言わないじゃないか。」

「あ……!」

「シノンさんは日本語を間違えるような人じゃないし……ふふ、案外、かわいいね、シノンさん。」

「〜!」

 

ニタニタしながらシノンのミスを指摘する店主。

真っ赤になりながら、自分のミスを呪うシノン。

それを、好奇な目で見つめるラクスとカチューシャ……

 

ラクス達から見れば何をやってるんだろう…というような状態だったが、それはもう、彼らにとって日常になりつつあった。

 

 

シノンの初仕事、Bullet・of・Bullets(バレット・オブ・バレッツ)が始まるまで、残された時間ははあと少しである。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

度々すいません。
告知!『新キャラだします!』(またかよ)

またかよ、と思われた方、その通りです。
ごめんなさい!

えーと、予定としては、前回と同じ、「虹6S」(変に隠すのも放棄した模様)のキャラを数人かけあわせたようなものです。(またかよ)

少しだけヒントを出しますと、「感想欄を読んでみてください!」

あ、ちなみに、時期は決まってません。
キャラの形が出来上がり、登場を決定しましたので、報告させていただいた次第です。

乞うご期待!

では。

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Episode28 「彼」 〜"He"〜

「あ、あの、すいません!ちょっと道を……」

「……」

「あっ……!」

「何?」

 

彼がシノンに声をかけてきたのは、BOBエントリー最終日。

ビッグ・ボスとの訓練を終え、SBCグロッケンに帰ってきた直後だった。

 

いかにも「THE 初心者」な、初期の白服に黒く長い髪をした、一見女性のプレイヤーが、そこにいる。

 

シノンは、一旦「彼」を見たあと、服装や表情から、警戒を解く。

いつも話しかけてくる面倒くさい男プレイヤーではなく、初心者の女性プレイヤーと勘違いしたからだ。

 

「このゲーム……初めて?」

「あ……!」

 

そう、シノンが話を続ける。

だが「彼」は、固まっていた顔を少し動かすも、返事をしなかった。

 

シノンは、そんな彼の表情を見て、ふっと顔から冷たさを消し、笑顔を見せて、質問を変えた。

 

「どこに行きたいの?」

「ええっと……」

「ん……?」

「その……」

 

不明瞭な答えに、シノンが耳を傾ける。

だが、その後すぐに、ハッキリとした答えが返ってきた。

 

「はい。初めてなんです……。どこか、安い武器屋さんと、あと、総督府っていうところにいきたいんですが。」

「うん……いいよ。案内してあげる。」

 

シノンは一度考えた後、快く承諾する。

 

いくら裏世界に入ったとはいえ、これくらいなら別に問題は無いだろうし、もしこれがタスクなら、きっと彼もするだろう。

ボスがやるかと言われれば……微妙なところだが。

まあ、ついでに言えば、シノンが今からやろうと思っていたBOBのエントリーも総督府でやるし、一石二鳥だ。

 

そう考えて、シノンはまずは……と総督府へ歩き出す。

 

 

《あの子には悪いけど、しばらく誤解したままでいてもらおう……》

 

 

背後についてくる「彼」の、そんな思惑は、シノンはもちろん知る由がなかった。

 

 

歩き出してから、シノンは彼の事を沢山聞いた。

 

彼も、BOBに出るために総督府へ行くという事。

このキャラクターは、前までやっていたファンタジー系のゲームのコンバートである事。

銃の戦闘に、前から興味があるという事。

 

色々なことを聞くうちに、シノンはある名案を思いついた。

 

「……じゃあ、」

「はい?」

「じゃあ、色々揃ってるとあるお店にいこうか。大きいマーケットでもいいけど、こっちの方が安いかもしれないし。それに…」

「……それに?」

「それに、あのお店ならあなたにピッタリの武器をくれるはず。」

「へえ、そんなところが…!」

「そう、あるのよ。さ、こっち。」

「はい!」

 

シノンはくるりと方向転換し、()()()へと歩き出す。

「彼」はその背中に素直について行った。

 

 

「ここ。」

「へえ……」

 

方向転換して歩くこと2〜3分。

シノンら一行は、()()()……店主の店の前に着いた。

「彼」はその店の外見を見て、感嘆する。

 

「キレイですね……なんか、GGOのような汚れがない。」

「まあここの店主さんキレイ好きだしね……さ、入って入って。」

「は、はい!」

ガチャリ……

 

「彼」が、恐る恐る扉を開けて、中を覗きつつ入っていく。

すると、奥からあの優しい声が聞こえてきた。

 

「いらっしゃいませ〜。……お、新人さんかな?よく来てくれたねえ。」

「あ、ど、どうも……」

「ん?背後にいるのは……シノンさんじゃないか!ふふ、お友達かな?」

「あ……いや、歩いてたら声をかけてきたので案内を…」

「あら、そういうこと。なるほどね、通りでシノンさんの目がやさしいのか。」

「え……?」

「「え……?」って……まさか自覚なし?」

「自覚?なんのです?」

「シノンさん、いつも怖い目をしてるじゃない?」

「しっ……!してません!」

「はは、冗談だよ。」

 

店主とシノンの会話から、「彼」は、二人がよく会う仲だと推測する。

そんな思惑が顔に出たのか、いつしか「彼」は黙って彼らを眺めていた。

それを見つけた店主が、慌てて話を戻す。

 

「あ、ごめんごめん。さ、ここに座って?シノンさんは…どうする?」

「う〜ん……。店の中を見てます。この後、その子と総督府に行かなければならないので。」

「OK。それじゃ、まかせて!」

「よろしくお願いします。」

 

シノンはそう話して、3人の列から外れる。

残った店主と「彼」は、店主の案内で店の奥のカウンターに行き、そして、いつもの構図に収まった。

誰かがカウンターに座り、その机を挟んだ目の前に店主が立つ、この構図に。

 

明らかに緊張している「彼」に、店主は自分も椅子を持ってきて座り、向かい合って話し出した。

 

「改めて……と。ようこそ、僕の店へ。」

「ど、どうも……」

「あっはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。リラックスして?」

「は、はあ……」

「ふふ、そうそう、リラックスしてね……。」

 

前に座る「彼」が、大きく息を吐く。

店主はそんな「彼」の行動を、優しい目で見守っていた。

 

そして、一旦落ち着いた所で、話を再開する。

 

「よしじゃあ、まず落ち着いた所で……名前から教えてくれるかな?」

「名前……!あ、あの、えっと……」

「ん……?」

 

笑顔の店主の前で、たじろぐ「彼」。

そんな「彼」から次の瞬間、店主も聞き覚えのある、いやむしろ聞いたことがない訳が無いあの名前が、彼の口から出てきた。

 

 

「キリト……です。」

 

 

「ああ……!」

 

店主が内心で、彼の思考が全てが繋がったのは、言うまでもないだろう。

 

「そういうことね……」




いつも読んでいただき、ありがとうございます!
駆巡 艤宗です。

まず、更新遅れてごめんなさい!
最近何かと忙しく……はい、すみません。

で、次に、今回駄文感すごい気がします!ご指摘よろしくお願いします!
人に頼るな?はい、すみません。

……よし、やっと本題です。

今回は、とある事の報告とお礼をさせていただきます!

【お気に入り登録数、400達成!】

ありがとうございます!

書き始めた時は、ここまで伸びると思ってませんでした!
本当にありがとうございます!

まだ出せていない新キャラとご要望、どんどん登場させるつもりですので、どうぞお付き合いよろしくお願いします!

では。

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Episode29 質問 〜question〜

「……さて!キリトさん。今から、あなたに合った武器を選ぶために、3つだけ、質問します。いいかな?」

 

シノンに連れられてやってきたこの店で、「彼」ことキリトは、早速、その店主と武器選びを始めた。

 

「3つ……ですか。」

「そう!あ、でも、そんな細かく聞くわけじゃないよ?簡単な質問さ。」

「は、はい。なら……」

「ふふ、ありがとう。」

 

店主は、優しい笑顔で話しかけてくるから、キリトも自然と笑顔になる。

 

したがって、和やかな雰囲気の中、話は進んでいった。

 

「よしじゃあ、まずは1つ目。あなたのステータスを教えて?」

「ステータス……ですか。ぼ……私はコンバートなので、だいたい出来てます。」

「ほほう……と言うと?」

「えっと……筋力優先で、次に素早さです。」

「なるほどね。メインがSTR(筋力)で、サブがAGI(俊敏性)……と。ふむふむ。そうすると、中距離戦闘がいいかなぁ。」

「中距離……ですか。」

「そう。いわゆる「アサルトライフル」をメインに持つタイプだよ。えっとね……あ、あれさ。あんな感じの銃。」

「へえ…!」

 

首を傾げたキリトを見た店主は、そう言ってとある方向へ指を指す。

キリトは、素直に店主の指を指した方向に振り向いた。

するとそこには、「89式5.56mm小銃」という札が横に置いてあるショーケースがあり、その上によく見るような「銃」が置いてあった。

 

「あれが……」

「そう、典型的な「アサルトライフル」。銃っていうと、普通の人はあんな感じのものをイメージするんじゃない?」

「は、はい、確かに……」

「ふふ、だよね。銃って案外難しいからね……あ、そうそう。ちなみに、あれは、リアルでは日本製だよ。」

「え……!?」

「日本の、陸上自衛隊の正式装備さ。」

「え、あれが……!てか、そんな銃まであるんですか……!?」

「あはは、すごいでしょ?」

 

キリトは、流石に驚く。

このゲームが銃のゲームということは知っていたが、まさかそんな日本の銃まで実装されているとは知らなかったからだ。

 

……いやむしろ、日本で銃が生産されていること自体に、驚いたのかもしれない。

 

「へえ……GGOって、色んな種類の銃が揃ってるんですね……」

「ふふ……ま、銃なんて無限にあるようなもんだからね。この店にあるのはほんの一部さ。GGOにはもっとあるし、リアルの世界にはまだまだあるよ。」

「そう……なんですか。」

 

キリトが素直に感嘆する。

店主は、そんなキリトを相変わらずの笑顔で見ながら、話を戻した。

 

「さてと……キリトさんのステータスは分かったから……」

「はい。」

「じゃあ、2つ目の質問。……というか、お願いかな。次は、一回そこに立ってみてくれる?」

「え?」

「ああ、いや、普通に立ってくれるだけでいいよ。ぴったりな武器を選ぶには割と重要なんだ。」

「は……はい。なら……」

 

そこまで言われれば、と、キリトは席から立ってその場に直立する。

すると店主は、そのキリトの姿をまじまじと見だした。

 

机に肘をつき、ぼーっと眺めるような目をしつつ、キリトの体の至る所を見ていく。

 

「あっ……あの……」

「………」

 

そんな店主の視線に段々耐えられなくなりそうになっていく。

いくら彼とは言え、まじまじと見られるのは恥ずかしいのだ。

 

「………」

「………」

「えっと……!」

「………」

「う、うう……!」

「………」

 

そしてついにキリトが耐えられなくなりそうになった時。

 

「……よし、ありがとう!座って?」

「はっ……!はぁぁ〜」

 

やっと店主が、キリトを見るのをやめ、座るのを許可してくれた。

キリトは大きく息を吐き、さっきの椅子にすごすごと座り直す。

 

そんなキリトを見た店主が、優しい目で声をかけた。

 

「あはは、ごめんね、恥ずかしいよね。大丈夫、もうしないからさ。」

「はい……。」

「ふふ、ごめんってば。」

 

カウンターに座り直し、俯くキリトを見て、再度謝る店主。

キリトは未だ俯いたままだったが……

 

「……でもね、おかげでよく分かったよ。」

「え?何がです?」

「何って……君の事さ。」

「……!?」

 

キリトは、店主の言葉を聞いて、何故かふっと店主に目を向ける。

そして次の瞬間、店主から、驚くべき言葉が飛んできた。

 

「キリトさんさ、さっきコンバートっていったけど……」

「……?」

「前のゲームってさ、ファンタジー系のゲームだよね?」

「な……!?」

「もっといえば、装備は剣だね?背中に背負うタイプのものだ。違うかい?」

 

キリトは呆気に取られる。

確かにコンバートの話をしたのは事実だが、それ以上の事は話していない。

ファンタジー系のゲームにいた事も、武器が背中に背負うタイプの剣である事もだ。

 

それなのに、この店主は、キリトをまじまじと見ただけでいとも簡単に見破った。

キリトには当然、疑問が生まれる。

 

「な、なぜそれを……!?」

「なに、簡単な事さ。君の視線や姿勢の癖から見抜いたにすぎないよ。」

「姿勢……!?でも一体どうやって……」

「う〜ん、『長年の勘』って奴かな。」

「か……勘……ですか。」

「そう。……でもね、僕が分かったのは、これだけじゃないんだ。」

「というと……?」

「僕はね、何でも分かる……というよりは、知っているんだよ。キリトさん……いや、」

「?」

「キリト()。」

「……!!」

 

キリトはさっと店主に警戒の目を向ける。

店主から、普通じゃありえないような異様な雰囲気を感じ取ったからだ。

 

今、店主は「知っている」と言った。

その証拠に、今まで女性を装ってきたのを簡単に見破り、わざとらしく「さん」から「君」へ言い直している。

 

もちろんキリトは、店主に対して問い詰めた。

 

「どういう事ですか?店主さん。何を知っているんですか?」

「どういう事って……そのままだよ。僕はあなたを知っている。あなたが何故ここに来たのか。誰に送り込まれたのか。そして今から何をしようとしているのか。そしてその協力者として、」

「……!」

()()()()()()()()()()()

 

そう言って店主は、キリトをじっ……と見据える。

キリトはその視線に、キッと睨み返した。

その目には、あからさまな警戒心が宿っている。

 

そして店主は、満を持したように、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて、キリト君。最後の、3つ目の質問だ。君の探している人の名前。それは、」

「……!」

 

「『ビッグ・ボス』だろう?違うかい?」

 

「……!!」

 

その時の店主の言葉にキリトは、敵対心以外の何かを感じ取った。




新キャラ?まだです!
ごめんなさい!

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Episode30 二人 〜Two persons〜

『ビッグ・ボス』

 

それは、死銃の特定・捕縛を菊岡に頼まれたキリトが、この世界にやって来て真っ先に探そうとした人物。

 

菊岡の話では、彼は相当な実力者で、裏世界で恐れられているそうだ。

いつも、眼帯と鼻と口だけをカバーするタイプのガスマスクをつけ、恐ろしい手際で任務をこなす、凄腕のプレイヤー。

誰も素顔を見たことがなければ、使う武器すら分からない。

 

まさに、『プロフェッショナル』

 

彼は、この言葉そのものだ。と、教えられた。

 

だからキリトは、まず真っ先に彼を探そうと決意したのだ。

得体の知れない敵に一人で立ち向かう勇気は、SAOでつけたつもりでも、「今度こそ死ぬかもしれない」という恐怖が彼を襲ったからだ。

 

キリトは菊岡に、実に様々な質問をした。

 

彼はどこにいるのか。彼のリアルは分からないのか。

 

でも菊岡は、その質問に対して、()()すべて、こう答えた。

 

「今は、答えられない。」

 

そしてその答えは、キリトには同時にこうとも答えたように聞こえたのだ。

 

「知っているが、教えられない」

 

と。

 

キリトは、その答えに落胆し、相当な葛藤を抱えそうになる。

 

ビッグ・ボス探しを優先するか、否か。

ビッグ・ボスの協力を得られれば、相当な優位性(アドバンテージ)を得られる事になる。

……が、だからと言ってビッグ・ボス捜索に明け暮れていては、時間が無い。

その間にも人の命が失われるかもしれないからだ。

 

そんなキリトの悩みが膨れに膨れ上がったその時に、菊岡は唯一、やっと手がかりを教えてくれたのだ。

 

「……実は、彼、ビッグ・ボスともう一人、こちらから派遣しているプレイヤーがいる。彼は今、ビッグ・ボスの支援を担当しているから、まずはそこから辿ればいい。彼の名は……」

「……!」

 

「『オセロット』。日本語で、『山猫』だ。」

 

と。

 

 

「な、なぜその名前を……!」

 

話は戻り、キリトと店主との間で未だ続いている「ビッグ・ボス」についての会話。

 

店主はいつもの笑顔を引っ込めて真剣に、キリトはあからさまな警戒心を目に宿らせて、会話を続けていた。

 

「……なに、簡単な話さ。詳しくは言えないけど、僕は君を知っているからだよ。」

「……」

「僕は、君の助けになりたいんだ。僕は決して敵じゃない。」

 

そんな店主の発言に、釘を刺していくキリト。

 

「敵じゃない……?ならなぜ、ビッグ・ボスの名前を知っているんですか?彼は裏世界のプレイヤーでしょう?不自然じゃないですか。」

「……」

「……?」

 

するとその時、いきなり、店主が黙り込む。

キリトがそれにつられて口を閉じると、店主がニヤリと笑って反論した。

 

「……ふふ、キリト君。その言葉、そっくりそのまま返すよ。」

「……!」

「なぜ君は、コンバート初日にして、そのことを知っているんだい?」

「……!!」

「もっと言えば、彼は仕事のスタイル上、足繁くこの店通っている常連のプレイヤーですら名前を知らない。有名なのは、あくまで裏世界での話さ。なのに……何故?」

「そ……それは……!」

「……ふふ、こんな状況は、普通じゃありえない話だ。君は、何故かコンバートしたてなのに、裏世界の情報を持っている。」

「……!」

「どう考えたっておかしい。でもそれは、()()のプレイヤーの話ならだけどね……。」

 

店主は意味ありげに呟いた後、キリトをじっ……と見つめる。

キリトは、その視線に何もすることが出来なかった。

 

簡単にどんどん見透かされてそうになっていくキリトの事情。

店主の反論に対する驚きで、いつの間にか掻き消えた店主への警戒心。

 

どんどん話が進むにつれ、自分の事をどんどん知られているようで、キリト少し怖くなる。

 

ーもし、彼が死銃だったら……?

 

そう思うと、キリトは何も喋れなくなった。

 

……が、その話は突如として、店主の話へと移り変わった。

他の誰でもない、店主自身によって。

 

そしてそれが、この世界に来る前のある話と繋がる事になる。

 

「……でもね、キリト君。確かに君が言ったことは、僕自身にも当てはまるよね。」

「は、はい。まあ……?」

「僕は君から見たら単なる小さな店の店主だ。それなのに、僕も彼の事を知っている……おかしいとは思わないかい?」

「ですよね……だから、その……」

「そうでしょう?どう考えたっておかしいよね。表世界のプレイヤー達はほとんど知らない裏世界の彼を、こんな小さな店の店主が知っている。でも、かと言って、僕が表世界のプレイヤーである証拠はない……という事は?」

 

店主が、キリトを試すような目をしてさ質問を投げかける。

キリトは、その視線を受けつつも考えた。

 

自分は、コンバート初日にして、裏世界の事を知っている。

なぜなら、自分は()()のプレイヤーとしてこの世界に来た訳では無いから。

 

店主は、小さな店の店主にして、裏世界の事を知っている。

だが何故、知っているのかは分からない。

 

この二つの姿を重ねた時、一つの答えが導き出た。

 

「あっ……!」

「ん?分かったかな?」

「まさかとは思いますが……」

「ふふ、いいよ、言ってごらん?」

「……店主さんも、僕と同じ、()()じゃないプレイヤー……ってことですか?」

 

その答えを聞いた時、店主が大きく息をついた。

まるで、「やっとか」というような、深い息を。

 

そしてやっと、キリトの探していた答えが、そこに現れた。

店主の、言葉となって。

 

「そう、その通りだよ。正解だ。」

「……!」

「いいかい?キリト君。僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ。」

「えっ……!?」

「君はきっと教えられているはずだ。ビッグ・ボスを支える、()()()()()()()()()()を。君を送り込んだ、菊岡さんから……ね。」

「菊岡……!?って、まさか……!?」

「ふふ、分かってくれたかな?」

「……!!」

 

「そうさ。僕の名前はリボル。コードネームは、「オセロット」。ビッグ・ボスの支援担当だ。菊岡さんから聞いているよ。ようこそ、キリト君。歓迎しよう。」

 

「オセロット……!」

 

キリトは、信じられないと言うような顔をして店主を見る。

この人が、店主が、あの人物なのか。と。

 

もし本当にそうなら、キリトは相当の幸運に恵まれた事になる。

偶然声をかけたシノンに、偶然連れられてきたこの店で、偶然ビッグ・ボスへの第一歩をふみだせたからだ。

 

キリトが喜び反面、驚きを隠せずに呆気に取られていたのは、言うまでもないだろう。

 

 

そしてそれから、数分後。

 

さっきまでピンピンに張り詰めていた空気はもうそこにはなく、お互いに打ち解けあった二人が、そこで談笑していた。

 

話の内容は、もちろんビッグ・ボスについてだ。

 

「彼はね、武装を解くととても可愛いんだ。キリト君はシノンさんと同じくらいの背丈だから……。少し君より小さいくらいかな。」

「そこまでですか!?」

「うん。顔も中性的で、とっても素直だよ。」

「へぇ……なんか、想像できませんね。」

「そりゃそうさ。だって、それが目的だからね。」

「ああ、なるほど……!」

 

そういって、二人は笑い合う。

もちろん、店主はカウンターに立って、キリトは向かいに座る……という、あのいつもの構図でだ。

 

時折冗談を交えながら和やかに進んでいく二人の会話。

そんな中で、キリトがふと呟いた。

 

「ところで……ビッグ・ボスは今、どこにいるんです?」

「え……?ふふ。」

「?」

 

そんな呟き聞いた店主は、キリトを見つつ微笑む。

キリトはなぜ店主がそんな行動を取ったのかわからず、ただタジタジしてしまう。

 

そんな雰囲気が嫌で、キリトが店主に別の質問をした。

 

「なにか変なこと言いました?」

「いやぁ?そんなことは無いよ。」

「え、じゃあ……」

「……あのね、キリト君。」

「はい。」

 

「彼は今、君の後ろさ。」

 

「え!?」

 

キリトは、そんな店主の言葉につられて、後ろを向く。

するとそこには……

 

なんと、「彼」が、そこにいた。

 

 

 

「よう、あんたがキリトか。待たせたな。」




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Episode31 高揚 〜Elevation〜

「ふぅ……」

 

時は戻って、キリトがシノンに連れられて店に来た数分後の時。

 

荒野に一人、溜息をつきつつ寝そべって、スナイパーライフルを構えていたプレイヤーに、一通のメッセージが入ってきた。

差出人は、「オセロット」。宛先に書かれたプレイヤー名は、

 

「ビッグ・ボス」だ。

 

そんな寝そべっているプレイヤーことビッグ・ボスは、構えていたいつものM82A3に安全装置(セーフティ)を掛け、メッセージを開く。

 

「オセロット?なにか動きでもあったのか?」

 

ビッグ・ボスは、そんな呟きを漏らしながらそのメッセージを見る。

するとそこには、こう書かれていた。

 

代理人(カットアウト)接触(コンタクト)。今からすぐ来れるか?ボスの位置は分かってるから、来るなら到着時間に合わせて会話誘導する。仕事は、放棄してもらって構わない。僕が何とか取り繕っておく。とにかく、来れるなら敵の追撃を気にしつつ、危険区域(ホットゾーン)を離脱、至急こちらに来てくれ。』

「何……!?」

 

ビッグ・ボスはもちろんの事、目を見張る。

代理人(カットアウト)。つまりそれは、あの時菊岡からのメッセージに書いてあった、「送り込まれたプレイヤー」の事だ。

 

もちろん、ビッグ・ボスは即座に立ち上がり、こうしてはいられんとばかりにを右手にM82A3引っ掴んで走り出す。

 

そして左手のウィンドウに短く、

 

『すぐ行く』

 

とだけ打ち込み、即座にオセロットに送った。

 

それと同時に、右手のM82A3を背中に回し、ベルトに固定して、常人ならざる速度で走りだす。

 

そんな彼の背中には、いつもにはない「高揚」という感情が、微かにあった。

 

 

ドスドスドス!

 

重く低い音が、武器や装備の重たさを示すかのように荒野に響く。

丘を越え、平地を走り抜け、偶然遭遇したプレイヤーを有無を言わさず投げ飛ばし、SBCグロッケンへ、あの店へと走っていく。

 

そして、あのメッセージを受け取ってから数十分後。

 

「つ、ついた!……っとと!」

 

荒野を恐ろしい速度で止まらず駆け抜け、その間にタスクにもどった彼は、店主の店の前にやって来た。

 

スピードが出すぎたせいか、店の扉を少し通り過ぎてしまう。

 

「はぁ……はぁ……よし。」

 

そんなタスクは一息ついて、腰を落とし、そしてゆっくりと、()()で店の中に入っていった。

 

 

「っ……!」

 

一方こちらは、店主とキリトの会話が終わるのを待つべく、ひたすら棚を見ていたシノンだ。

 

シノンは今、口に手を抑え、必死に驚きの反射で出てくる声を押し殺していた。

 

原因は、いきなり棚の影から現れたタスク。

腰を落として、無音でいきなりやってきた彼を見たからだ。

 

「……ー!」

「しーっ!」

「……!!」

 

そのタスクは、必死に口に人差し指を当てる。

シノンは、その指示をなんとか従おうと、必死に声を押し殺した。

 

そしてやっと、声が収まった時。

 

そのまま!棚をみててください!

りょ……了解っ……!

 

タスクから、小声で指示が出される。

シノンはその指示にこれまた小声で答え、従って、また棚を見るフリをした。

 

……のだが、シノンはふと、タスクの動きからとあることを思い出す。

そして、そのせいか、そそくさと奥へ進もうとするタスクを小声で呼び止めた。

 

ちょっと!ねぇ!

なんですか!?

あんた何しようとしてるのよ!

え!?いや、その……

またなんか企んでたわね!?

うっ……!

まさか、背後からなにかするつもり?

そ、そんなことは……

はぁ……どうせそうでしょ。やったらただじゃおかないからね!

わ……分かりましたよ……。

 

厳しい目で追求するシノンに、がっかりそうにそう答えたタスクはそれからさらに奥へと進んでいく。

シノンは、そんな彼の後ろ姿を心配気に横目に見つつ、彼に与えられた「仕事」を、淡々とこなした。

 

ほらやっぱり。まったく……

 

タスクが過ぎ去った後で、小さく悪態をついたシノンは、自分の予測が間違ってなかったことを確信する。

 

あの時、シノンが思い出したのは、あのダンボール事件だ。

あの時もおそらく、店主と話している時に隠れて近づいて、自分を罠にはめたのだ。忘れるわけがない。

 

だから、彼がまた、ましてや(なぜか)なんの関わりもない初心者プレイヤーにそんな事をしないようにと釘を刺したのだ。

 

ダンボールだけは、やめてよね……

 

そうシノンは呟いて、「仕事」に戻った。

 

 

ふぅ……

 

シノンと一悶着した後も慎重に進み、遂にカウンター机に対して直角に置かれた棚の後ろまで来ていたタスクは一旦、小さく一息ついた。

 

ここから、なんとか上手くキリトの視界に入らず、なおかつ足音や気配を消して、後ろに回り込まねばならない。

 

そう考えると、ここが最後の休息ポイントだった。

 

……さて、どうしようかな。

 

難しい状況を打破すべく、タスクが思考を巡らせたその時。

とある妙案が、彼の頭に浮かび上がってきた。

 

ダンボールはダメって言われたし……。あっ……!それだ!

 

タスクは、もちろん小声で呟いた後、その思いついたアイデアを実行すべくとあるアイテムをウィンドウを操作し、実体化する。

そのアイテムとは、タスクの体がすっぽり入るような……

 

「ダンボール」だった。

 

タスクは、恐らくシノンが想定していたであろう「ダンボールの奇襲」を逆手に取って、自らが被ることを思いついたのだ。

 

よし……いける!

 

ダンボールを被り、確信をポツリと呟いて、タスクはゆっくりと歩き出す。

 

キリトの視界の右端をギリギリかすめて直進、壁まで行ってゆっくりと右に90°方向転換し、キリトを右前に見る。

そしてそのままゆっくりと前進して、キリトの後ろを横切り、少し離れてその場で止まった。

 

そしてその後で、タスクがダンボールの中でビッグ・ボスとなり、ダンボールから這い出てキリトの背後に立つ。

 

それを一部始終キリトの背後に見ていた店主が、ビッグ・ボスが何もしようとしないのを察して、あの言葉を口にした。

 

「彼は今、君の後ろさ。」

 

……と。

 

店主は、

 

「どうせシノンに何か言われたのだろうなぁ……タスク君。」

 

とも察したのだが、口には出さなかった。




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Episode32 術 〜Way〜

「あなたが……!」

 

ポカーンとするキリトに、立ったままそれを見下ろすビッグ・ボス。

そんな彼らの初対面を、面白そうに店主は眺めていた。

 

「いつからそこに……!」

「さあな。」

「さあなって……!」

 

ビックボスの素っ気ない返事に、キリトは状況をいまだ飲み込めずにいる。

……いやむしろ、飲み込める訳がないのだ。

 

 

今までキリトは、命を懸けた歴戦を幾多もくぐり抜けてきた。

SAO時代の『攻略組』としての仕事や、その他モンスターとの戦闘。

ゲームであって遊びではないあの世界で、キリトは嫌という程の様々な経験を味わった。

 

仲間や命の大切さ、それに伴う責任、時にぶつかり合う価値観の違いや、それと並行して表面化していく殺気。

 

そんな経験をしていく中で、キリトはいつしか人の動きや気持ちに敏感になってしまった。

 

敵がどこに隠れていて、誰が黒幕なのか。

背後から忍び寄る殺気を感じたり、何故かいきなり恐怖を覚えることもあり、そんな事が常に頭を駆け巡ったせいで一時は孤独を好んだ事もある程にキリトを悩ませた。

 

だが、彼はそこから、ある()()()に救われる。

それがきっかけで、彼はそれを克服し、新たな(すべ)身につけたのだ。

その敏感な感性を、正しく使う(すべ)を。

 

 

「だ……だって、気配も何も……!」

「そりゃぁ……そういう世界の人間だからさ。」

 

そして今、あの時身につけたはずだった「気配を感じる(すべ)」を、あっさりと破られ、背後に立たれている。

だからキリトは飲み込めず、混乱しているのだ。

 

ー今まで、そんなことが無かったから。

 

「どうやってそんな……!」

「仕事の関係で身についただけだ。」

「……!」

 

なんとか飲み込もうと、ビッグ・ボスに質問を投げるキリト。

だがその質問は、もちろん、あっさりと跳ね返された。

 

「ふふ……驚いたかい?」

「店主さん……!」

 

そんなしどろもどろしているキリトを見て、店主が面白そうに口を挟む。

その顔には、殺気や敵意は一切なかった。

キリトは、そんな店主の顔を見て、黙り込む。

店主も、キリトが話の助けを求めているのを察し、口を開いて話し始めた。

 

「まあ。ボスもこう見えて、実はかわいいからね。怖がらないで。」

「オ……オセロット!」

「それと、ボス?彼は敵じゃないんだから……。そんな素っ気なくしなくてもいいんだよ?」

「だ、だがな……!」

 

ビッグ・ボスは、赤面して店主を見る。

キリトは、そんなビッグ・ボスの意外な顔に驚きつつも、話を進めてくれた店主に感謝した。

 

少なくとも今の会話から、ビッグ・ボスと少しづつ打ち解けていけたからだ。

そして、

 

 

ーそれから、話は早かった。

 

 

ビッグ・ボスやキリトのお互いの紹介から始まり、キリトの武器・防具選びやら、今後の予定、ビッグ・ボスや店主らからのキリトに対するサポートについてなどなど……

様々なことを話し合い、その様々なことを着々と決めていった。

 

そして、最後の項目が決め終わった時。

店主ら三人は、ふうと息をついた。

 

「ふぅ……さて、このくらいかな。」

「そうです……ね。あとは何も。」

「……だな。」

 

三人は、三者三様の答えを返して息を抜く。

なこれでもう、話すこと何も無いだろう……と、話の、終わりを誰もが感じ始めた時。

店主がふと、()()()()を思い出した。

 

「あれ……そういえばキリト君ってさ……」

「はい?」

「今日……コンバートしてきたんだよね?」

「そう……ですけど。」

「どうしたんだオセロット?」

 

店主の恐る恐る聞くその姿勢に、キリトはおろか、ビッグ・ボスまで怪訝な顔をして店主を見る。

すると店主は、時計をチラリと確認した後、明らかに焦った顔をして、キリトにその()()()()を質問として投げかけた。

 

 

「キリト君……B()O()B()()()()()()()した!?」

 

 

「あっ……!!」

「おい……!?」

 

キリトの表情から、「そんな事は全くしていない」のは明白だった。

 

店主は「やっぱり」と言わんばかりに時計をまた見る。

エントリー締切まであと少ししかない。

キリトは、はっとその事を思い出して、顔からサーっと血の気が引いていた。

……そしてそれは、棚越しに話を聞いていたシノンもである。

 

「やばい!!!」

 

そう叫んで、キリトと()()()は走り出した。

 

「ふふ……行ってらっしゃーーい!」

 

店主は、そんな二人の背中に声を掛ける。

その声は、しっかりと二人の背中を押した。




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Episode33 葛藤 〜conflict〜

バタン!

 

店主の店の扉が、勢いよく開けられる。

 

「やばい……!」

 

中から出てきたのは、黒髪ロングの()()、キリトだ。

彼は今、ものすごく焦っていた。

 

「間に合わない……!ってか、エントリーってどこでするの!?」

 

だんだん、彼の焦っている理由である、BOBのエントリーし忘れどころか、それ以前の問題まで発覚し出す。

 

「ええと……ええと……!」

 

そんな彼が、焦りと混乱の渦に巻き込まれようとした時。

 

バタン!

「ちょっと!ねえ!」

「ひっ……!?」

 

いきなり、背後にある店主の店の扉がまた勢いよく開いた。

キリトは、まさか自分と同じことをする人間がいるとは思わず、後ずさるどころか飛び上がる。

しかも、その人間が声をかけてきたのだ。反射的に顔がそちらへ向く。

 

そんな事をしてまで声をかけてきたのは、シノンだった。

 

「ねえったら!」

「シ……シノンさん!?」

「あんた、私を置いてくつもり!?」

「あっ……!!」

 

キリトは、シノンのあまりの怒り様に、少し狼狽える。

それもそのはず、キリトはここまで案内してくれたシノンなど、焦りからか、今の今まで視界に入っていなかったからだ。

確かに、悪いことをしたのは自分だが、それ以上に事態が切迫しているのも事実である。

 

もしここでBOB参加を取り逃せば、何が起こるかわからない。

そんな思惑を、キリトはシノンに説明しようとする。

 

……だが、その必要はなかった。

 

「で、でも……!!」

「分かってる!分かってるわよ!BOBに出るんでしょ!?」

「えっ……!?」

 

キリトは、一瞬固まる。

なぜ、シノンがその事を知っているのか。シノンにそんな話をした覚えはない。

 

「どうしてそれを……!」

「あっ……!いや、その、店の中だと、聞こえちゃって……そっ……そんなことよりも!エントリーする場所、分かってんの!?」

「そ、それは……!!」

「だから……その……案内してあげる!」

「ええ!?いいんですか!?」

 

シノンが何かを隠すようにどんどん話を進める中、ひょんな事から救いの手飛んできた。

なんか上手く話をはぐらかされた気もするが、それはいいとして、キリトはそれに飛びつかざるを得ない。

だが、それと同時に疑問も浮かび上がってきた。

 

「……でも、何故ですか?」

「え……?」

「何故、そんな、お店を飛び出してきてまで、案内してくれようと……」

「そ、それは、その……」

 

キリトの素朴な疑問に、シノンがふいっと顔を逸らす。

不思議そうに顔を見ていたキリトは、次の瞬間。

そんなシノンが放った言葉に、言葉を失った。

 

「だって……私も、出るから……その、忘れてて……!」

「……!!??」

 

今、シノンが放った言葉。

キリトが聞いたその言葉には、シノンがBOBに関する色んな事を知っている事の証明であると同時に、もう一つの事を意味していた。

 

まずキリトは、シノンがキリトがBOBに出ることを知っている理由を理解した。

シノンだって、BOBに出るということは並大抵のプレイヤーではないはず。

そんな彼女なら、あの狭い店内でBOBの話をされたら、自然と聞き耳を立ててしまうだろう。

それに、お互いエントリーを忘れているときた。

もうここまで状況が揃えば、一緒に行動してもおかしくない。

 

それはもう、分かりきっているのだ。

 

では、そのもう一つの意味とはなんなのか。

それは、「これから()()()は、シノンとキリトが対立しざるを得なくなる」ということだ。

 

もちろんキリトは、前提として無駄な争いは好まない。

勝ち上がるために他人を蹴落とす事はあっても、なんの利益も生み出さない戦いはしないのだ。

 

だが、今キリトは、その「()()()()()()()()()()()()()()()」対象になり得る人物の中に、ここまで案内してくれたシノンが含まれることを知ってしまった。

 

当然の如く、悩みが生じる。

 

いくら死銃を捕まえるためとはいえ、ある意味、ものすごく助けてくれた、そしてまた今から助けてくれるシノンに、そんなことは出来ない。

偶然とは言え、シノンがあの店まで案内してくれなければ、キリトは彼らに会うことは出来なかったからだ。

 

……が、シノンはそんなキリトの思惑など意に介さずに、そそくさに走り出す。

 

「こっち!急がないと間に合わないわ!」

「はっ……はい!」

 

キリトは、そんな葛藤を抱えた複雑な気分のまま、シノンに引かれるがまま走り出した。

 

 

……だがそれは、そんなキリトを引っ張っているシノンとて、同じだった。

 

その葛藤の種、それは、「店主からの仕事」である。

でもそれは、また後の話だ。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
そして、(やはり)投稿が遅くなり、すみません。
駆巡 艤宗です。

今回は、とあるお知らせをさせていただきます。
実はこの度、「Twitterの小説アカウントを作成しました!」

URLは、僕の自己紹介欄に貼ってあります。

理由としては、前にもお知らせしました通り、これから投稿ペースも下がってしまいそうな上、活動報告ではできないような、ちまちました報告(執筆状況などの把握など)をしたいからです。

なので、「次の投稿遅いな」と思ったら、一度このTwitterの方、確認をよろしくお願いします。

ただし、今まで通り、このような重大な報告はあとがきにて報告させていただきますので、絶対に見ろ、というわけではありません。

いろいろとご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願いします。

では。

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Episode34 ウインク ~Wink~

「……熱源を検知。人の形よ。場所は、目標(ターゲット)背後2mあたり。オセロットに指示を要求して。」

「……了解。」

 

ここは、総督府の地下にある、BOB参加者待機エリアの個室の中。

とある男女二人組のプレイヤーが、照明を落としたその部屋でしゃがみ、女の方が何か腕についた画面のようなものを触っていた。

 

男の方は、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったいかにも「暗殺者(アサシン)」と言った感じのキャラクター。

女の方は、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、これまた目だけが見えるマスクをし、軍用セミフェイスヘルメットを被ったキャラクターだ。

そのヘルメットの下から、短く切った金髪が見て取れるが、遠くから見たらわからないくらいにしか見えていない。

 

そんな彼らは今、とある「仕事」のために、この部屋にいた。

 

「……どう?」

「返信が来た。『了解、帰投せよ』としか書いてないけど…いいのか?」

「いいわけない。だって、シノ……いえ、クワイエットのリアルがもろバレしてるのよ?」

「うん、だよね。」

「でも、きっとオセロットも何かあるんでしょ。さっさと帰るわよ。」

「……うん。じゃあ……熱源の方は?」

「あのクソ機械ドクロは知らないわよ。それは彼の……キリトくんとやらの仕事。彼の周りなら、監視のクワイエットに任せればいいの。」

「そうだね……了解。オセロットには、『()()()()回収後、帰投する』でいい?」

「うん、いいんじゃない?ってか、いちいち私の指示を要求しないでくれる?」

「だってリーダーはおまえだし……」

「うるさいわね?はやくして。」

「り……了解。」

 

そんな少し「友達」とは違ったニュアンスを含めた会話を交わしたふたりは、また、別々の作業に移る。

 

そのニュアンスは、「仕事」だからなのか、それともまた別のものなのか。

 

そんな彼らが、今、仕事を終えようとしていた。

 

 

ピコンピコン!

 

エレベーターが指定された階に着いたことを知らせる音を鳴らし、扉を開ける。

 

中から出てきたのは、シノンとキリトだ。

同時に、BOB参加プレイヤーからの、恐ろしい視線を受ける。

 

「……」

「……!」

 

もう慣れた、と言わんばかりにしれっとしているシノンと、初めて来た上、シノンのすぐそばにいる故に、周りからの視線を集め、ビクリと怯えるキリト。

 

「……」

コツコツ……

「ああっ……待って……!」

 

そんな視線や、震えるキリトなどつゆ知らず、シノンは真っ直ぐ待機エリアの中にある個室へと歩き出した。

キリトは慌ててそれを追う。

 

参加者達も、さすがにシノンを知らない者はいない。

シノンはもちろんそんなこと承知の上であり、ビクビクと震えるキリトを後ろに、熱い、または違った視線を浴び続けながら歩いていく。

 

するとその時。

 

「……!?」

「……?」

 

シノンが()()()()()()()どのすれ違いざまに、いきなり立ち止まって後ろを向いた。

キリトもそれにつられて後ろを向く。

 

するとそこには、二人のプレイヤーが、エレベーターに向かって歩いている後ろ姿があった。

 

「どうか……しましたか?」

 

キリトが、そんな彼らの背中を見つつ、シノンに問いかける。

 

もちろん、キリトは彼らに会ったことはない。

それもそのはず、このゲームにコンバートしてきたのは今日なのだ。

 

シノンなら、そこそこの人脈があってもおかしくない。

なんてったってあの店主らの人脈ですら持っていた彼女だ。実際のところはそこそこ以上かも知れない。

だが、問題なのは、そのシノンですら会ったことのないプレイヤーを見るような目をしているのだ。

 

知り合いならその場で話せばいいし、知り合いでなければそもそも振り返らない。

なのに、いきなり振り返ったと思えば、その背中を明らかに驚いた目で凝視している。

 

どう考えても、辻褄が合わない。

だからキリトは疑問に思って質問したのだ。

 

するとシノンからは、キリトですら驚く答えが帰ってきた。

 

「あの……、先頭の女性プレイヤー……私にウインクして行ったんだけど……!?」

「え……?ウインク……!?」

 

キリトは、少し嫌な気配を覚える。

 

知らない相手から、いきなりされるウインク。

その行動は、SAOで少なからず身についた、「挑発」に対する感覚に引っかかった。

 

「なにか……怪しいですね。」

「う……うん……。」

 

お互いがお互いの仕事を持っている以上、あんな事をされたら放っておくのは少々怖い。

……が、彼らはもう、エレベーターで上の階に上がっていた。

 

キリトもシノンも、どこか引っかかるやな予感を押しのけつつ、仕事を続行せざるを得ない。

 

ただ、二人の思惑だけは、同じだった。

 

《彼女がもし死銃だとしたら、きちんとマークしておかなければならない。》

 

という、思惑が。

 

そんな思惑から、キリトは死銃を捕まえる為、シノンはキリトを守る為に、「マークすべき」という共通の警戒意識が二人に芽生える。

 

だがその思惑は、二人とも、胸の奥にしまった。

お互いがお互いに、気づかれないように。

 

 

「ふぅ……とりあえずは、任務完了ってとこだね…」

「う……うん……」

 

ところ変わって、エレベーター内部である。

任務の完了に安堵の表情を見せているのは、()()彼らだ。

 

今回の任務で()()()()を使い、シノンにウインクをかました女性プレイヤーと、フードを目深くかぶった男性プレイヤー。

 

彼らもまた、裏世界のプレイヤーである。

 

そんな彼らのこなしたこの任務が、後に死銃事件の解決に多大な功績を及ぼすことを、彼らはおろか、シノンやキリト、はたまた店主やタスクまで、まだ知らない。




お待たせしました!

新キャラ、やっと出すことができました!
これから、彼らの能力なども、公開していこうと思います。
(物語の進行事情上、まだ設定集の更新はしません。ご了承ください。)

Twitterも、12人の方にフォローしていただきました。
ありがとうございます!

もっともっと、読者様方とつながりたいです!
よろしくお願いします!

では。

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Episode35 仕事の始まり 〜Bullet of Bullets start〜

「ふぅ……とりあえずは、手を打てたね。」

「……だな。」

 

時は戻って、キリトとシノンが飛び出して行った直後。

店内は、人の人数の減少と共にシーンと静まり返った。

そんな店内の中で、ポツリと呟くように話し出した店主と、それに、言葉を返すビッグ・ボス。

二人は()()()()、息を抜いていた。

 

「ふぅ……全く、最近の若い子は元気だね。」

「そ、そうか?」

「タスク君だって、リアルでは元気じゃないか!」

「まっ……!まぁ、そりゃぁ……」

 

いきなりリアルの事を口に出され、すこし驚くビッグ・ボス。

店主は、そんな彼の動きを見逃さなかった。

 

「……ねえ、ボス?」

「なんだ?」

「よかったの?キリト君に言わなくても。」

「……なんのことだ?」

 

どこか含みのある笑みを浮かべ、ビッグ・ボスの顔を覗き込む店主。

ビッグ・ボスはカウンターの回転椅子をくるりと回して店主に背を向けた。

 

「もう……分かってるくせに。」

「……」

「リアル割れしたら面倒だよー?今のうちに言っとかないと…」

「でもなぁ……」

「それに、何にせよ言わなきゃね。()()()の君も、ボスの()()()も。」

「……」

 

そこまで話して、店主が言葉を止める。

すると店主の視界には、さっきまであったゴツゴツしい背中はなかった。

代わりに、小さな背中がポツン…と。

 

「僕の、この正体を……ですか?」

「そうだよ、タスク君。」

 

回転椅子をまた回して店主に向き合ったタスクは、店主を見上げるように見る。

店主は、そんなタスクの肩をポンと叩いて微笑んだ。

そしてまた、しみじみと話し出す。

 

「驚いたよね。僕らの代理人(カットアウト)が、まさか()()()でも()()()でも、すぐそばにいた人物とはね……。」

「……」

「まあ、タスク君は実際、()()()にいた人たちの行く学校に通ってるからね。彼がすぐそばになるのは当然っちゃ当然なんだけど。」

「ま、まあ確かに。」

「ふふ……幸運なのか、運命なのか。それとも……」

「それとも……?」

 

「菊岡さんの、策略か。」

 

「……!」

 

言葉に反応して、反射的にタスクは顔を上げる。

そんな仕草に少し驚いたのか、店主が数歩後ろに下がった。

 

「ふふ、冗談だよ。」

「あ……そ……すみません。」

「……やっぱりタスク君、かわいいよね。」

「な……!」

 

いきなり飛んできた店主の間抜けな言葉に、取り乱すタスク。

そんな彼らの顔には、いつの間にか笑顔が咲いていた。

 

 

ーそしてそれから、数十分後。

 

いつの間にかカウンターには、店主と、その隣のタスクはもちろん、ラクスとカチューシャが。

それに加えて、フードを深く被った男プレイヤーと、シマシマパーカーと防弾チョッキを着た女プレイヤーが、所狭しと座っていた。

 

……この男女二人は、何を隠そう、「彼ら」である。

 

「……さぁ、そろったかな?もう……そろそろだね。」

 

そう言って店主は、一度カウンターを見回した後、そのカウンターの反対側にある壁についていたディスプレイを起動する。

 

同時に、カウンターに座っている6人も、くるりと椅子を回転させてそちらを見た。

 

するとちょうどその時。

 

『3……!2……!1……!』

 

まさに今、BOBのスタートカウントダウンが始まっていた。

 

「お、ぴったしだ。」

 

ラクスが楽しそうにディスプレイを見つめつつ呟く。

そして…

 

『第3回、Bullet of Bullets(バレット・オブ・バレッツ)!スタート!』

 

今、第3回目の、そしてシノンの初仕事である「BOB」の幕開けを、画面の中の獣耳の少女が宣言した。




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Episode36 光剣 〜Photon sword〜

「……お、キリト君じゃん。」

 

ワイワイと盛り上がる店主の店。

 

前の試合の終了に合わせて切り替わった画面を見て、ラクスが口を開き、それに釣られるように、その場にいた全員がディスプレイに注目した。

 

店主やラクスは適度な頻度でコメントし、カチューシャやタスク、その隣に座る男女のプレイヤーは、無言でディスプレイを眺めている。

 

そこに映ったのは、体の大きさピッタリの石柱に背を預けたキリトだった。

彼は今、目を閉じて、集中するかのような仕草を見せている。

 

「ふふ……キリト君、早速やるね。」

 

店主は、そんなキリトを見て、面白そうに目を細める。

そして次の瞬間、キリトが石柱から飛び出した。

 

そのワンテンポ後に、店内に一斉に疑問の声が広がる。

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

それもそのはず。

 

石柱から飛び出し、敵の位置へ体を晒しながら向かっているキリトが手にしている武器は、フォトンソード、いわゆる光剣だったからだ。

 

ディスプレイの中のキリトには見えているであろう、弾道予測線(バレット・ライン)をよけながら、敵に迫っていくキリトの片手に光る剣。

 

どう考えたって、むちゃくちゃである。

 

すかさず、ラクスが店主を見た。

店主は、面白そうに目を細めながらラクスを見返す。

 

「て……店主さんまさか……!」

「ん……なんだい?」

「キリトくんにフォトンソードを勧めたんですか!?」

「もちろん!」

「はいぃ!?」

「はは、そんなに驚くことでもないよ。彼にはあれがぴったりだったし……」

「い、いやまぁ、彼がSAO攻略者ってのは知ってますけど、流石にこの世界で剣は……!」

 

ラクスが半分焦った口調で店主に言葉を投げかける。

 

それは無理もない。彼自身だって、ちゃんとした裏世界プレイヤーだ。

キリトがもし、このBOB予選から落ちたりでもすれば、死銃に対する作戦を練り直さねばならないからである。

 

それだけは、絶対に避けたいし、避けなければならない。

なのに、早速突拍子もない武器を片手に、敵へ突撃し始めたのだ。

事情を知っている者ならば、裏世界プレイヤーではない者だろうが何だろうが、誰だって慌てるだろう。

 

それは、カチューシャ達も同じだったようで、同じく店主の方を向いている。

……ひとり、タスクだけは、ディスプレイから目を離していなかったが。

 

タスクはさておき、それ以外のプレイヤー全員からの視線を浴びている店主は、なおも落ち着き払ってラクスを見ていた。

そして、

 

「……ふふ。」

「……なんです?」

「果たしてそうかな?」

 

自信と、確信ありげにラクスに言葉を投げ返した。

 

その余裕さに何かを感じ取ったのか、ラクス達はまたディスプレイに向き直る。

 

するとそこには、いつの間にか勝負がついたのか、「Congratulation!」の白文字を眺めるキリトの後ろ姿があった。

 

「あ……れ?勝ってる……」

「ふふ……ね?」

 

ラクス達はポカーンとしたままディスプレイを眺め、店主が微笑みながらそれを見る。

 

そんな中で、ディスプレイは「REPLAY」と書かれた見出しとともに、先程のキリトの戦闘シーンをもう一度映し出した。

 

 

石柱に身を預け、目を閉じるキリト。

 

この行動自体は、ラクス達もよくする行動だ。

精神世界であるこの世界において、精神を安定させ、研ぎ澄ませれば、どんな些細な音でも、動きすらも感じ取ることが出来るからだ。

 

いわゆる、「上級者テクニック」と言われるものである。

 

そしてキリトは、そのまま少し静止した後、何かを感じ取ったかのように突撃を始める。

フォトンソードを展開し、敵の方角へまっすぐと突っ込んでいく。

 

するとその前方から、当然のように一つの人影が立ち上がった。

もちろん、銃を構えた敵である。

 

敵が、フォトンソードとかいう、この世界では正直言って需要のないような武器を片手に突撃してきたのだ。

どう考えたって有利なのは自分である。

だから、敵は体を起こし、立った状態でキリトに発砲したのだ。

 

タタタン!タタタン!

 

と、軽快な3点バーストの発砲音と共に、キリトに鉛玉が飛んでいく。

 

「あぁ……!」

 

ラクスが、内心「ここで蜂の巣に…」などという、事実と全く正反対な予測から、哀れみの目を()()()()()ディスプレイに向ける。

もちろん、キリトは蜂の巣になどならなかった。

 

ヴォンヴォン!

パキン!パキン!

「なっ……!?」

 

代わりに聞こえてきたのは、フォトンソードを振るう時の独特な音と、何かが弾き飛ばされた音。

 

ラクスは、それを瞬時に理解し、ポカーンと口を開けた。

それは、カチューシャ達も同じだったが。

 

「ま、まさか……」

「そう。」

 

事実を確かめるように、ポツリと呟くラクス。

店主は、その呟きに相槌を打つと、ラクス達の持ち続けていた疑問のその答えを、にこやかに口に出した。

 

「彼は、銃弾を剣で弾き飛ばしてるんだよ。」

「……!」

 

ラクスは、なにか言いたげに口をパクパクし、何とか押し止める。

彼も彼なりに、納得したのだろう。

 

そんなラクスを見た店主が、後付のような形で、さらに突拍子のない事を口にした。

 

「ちなみに、フォトンソードを勧めたのは僕だけど、この戦闘スタイルを編み出したのは、タスク君だよ。」

「え……!?」

「て……!店主さん!」

 

タスクは、頬を染めながら店主を見る。

だがその方向には、店主の他にもラクスやカチューシャ達がいた。

 

結果、タスクは彼らと目を合わせざるを得なくなり、みるみる赤くなる。

 

今、彼らの目は、「若いなぁ」とか、「かわいいなぁ」とか、まるで少年を見るような目。

仕事の時のビッグ・ボスを見る目とは、正反対な目線だった。

 

タスクは、リアルでは高校生。だけどアバターはそれより年下に見える少年。

もちろんそんな目線に耐えれるはずがなく、恥じらいが出てしまう。

 

「またまた……タスク君のとんでもないことを考える才能が発揮されたね。」

「〜!」

「若さからなのか、経験からなのか……ねぇ?」

 

ラクスの言葉が、そんな恥じらいによる瀕死のタスクにとどめを刺していく。

 

タスクは、顔も耳も、真っ赤っかに染めて、机に突っ伏してしまった。




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Episode37 座標 ~Coordinate~

「っ……!」

 

今まで閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。

 

見えたのは天井で、アミュスフィアの半透明な赤いカバーを通しているからか、少し赤みがかかっている。

 

そんな天井を眺め、ふぅと一息ついた内嶺 祐、つまりリアルのタスクは、アミュスフィアを頭から外し、ベッドから起き上がった。

 

そう、たった今、タスクもといビッグ・ボスは、現実(リアル)に帰ってきたのだ。

 

パタパタパタ…

 

聞き慣れた床をスリッパで歩く音と共に、こちらに近づきながら声をかけてくるのは、タスクの母親である。

 

「タスクー?()()()のー?」

 

そんな事を言いながら、近づいてくる足音。

そして、その足音が止んだと思ったら、タスクのいる部屋の扉が空いた。

 

「タスク……?あ、いたいた。おかえり。」

「ん……?ただいま。」

 

タスクは、扉からひょこっと顔を出した母親の言葉に返事をする。

するとその母親は、ニコッと笑って、着ていたエプロンのポケットから封筒を取り出し、タスクに差し出した。

 

「はいこれ。」

「……え?」

「菊岡さんから。」

「え!?」

 

しれっと言われた名前が、意外すぎる人物だったからか、タスクはベッドから飛び上がってその封筒を受け取る。

そしてその封筒を手に取った時、母親が部屋から出ていこうとしながら話し出した。

タスクも、それに続いて歩き出す。

 

「それね、わざわざ菊岡さん本人が来て渡してくれたの。なんの封筒か知らないけど、()()()()()()と……」

「へ、へぇ……」

 

タスクは、相槌をうちながら、封筒を上から下からとひっくり返したりして眺める。

 

「私もね、最初はメールとかSNSでやれるじゃんと思ったけど、そんなまさか本人まで来て手渡しって事は、それだけ重要なことなんじゃないかなと思ってさ。」

「……たしかに。」

「ま、今の世の中バーチャル世界含め、そこら辺の世界は何が起こるかわからないからね……。ほら、今あんたも、何か問題に当たってるんでしょ?えーと、です……」

死銃(デス・ガン)ね。」

「そうそれ。そっちはどうなの?封筒もそれ系統っぽいけど……」

「うん……」

 

タスクとその母親は、そんな会話をしつつ、リビングへの扉を開ける。

そして母親は台所へ、タスクはその前にある食卓に座った。

 

「今、作るからね、少し待ってて。」

「はーい……」

「あっ、タスク?今何時?」

「えーと、19時。」

「19……7時ね。ありがと。」

「ん」

 

今度は、先程までの会話とは打って変わって普通の会話をしつつ、それぞれ作業に入る。

 

その光景は、まるで部活帰りの息子と遅い時間ながらも夜ご飯を作る母親という、家庭によくある光景そのものだった。

 

タスクの母親はさておき、タスクは封筒を手に取り、びりびりと封を破りつつ、中を覗く。

 

「……?」

 

そしてその中に入っていたのは、一枚の折りたたまれた紙だけだった。

タスクは、不思議に思いつつその紙を封筒から出し、広げる。

 

するとそこには、

 

『やぁ、タスク君。元気かな?いつも御苦労様。この文章を読んでいるのならば、きっと君は今現実(リアル)世界にいるのだろうから、ゆっくりと休むんだよ?

 

さて、今回、このような形で君に連絡したのは、今から書くものが、そこそこの機密情報だから。SNSじゃいつ傍受されてもおかしくないからね。そこをご理解頂きたい。

 

その情報とはね、明日、つまりBOB本戦当日に、とあるところへ来て欲しいんだ。場所の座標は、下に書いてある。

 

この事は、もうタモンさんにも伝えてあるから、詳しいことは彼に聞いて、その座標地点まで行ってほしい。』

 

……というような、まずはお決まりのような挨拶から始まって、連絡の本件がつらつらと書かれていた。

 

まぁ、本件といっても前置きのような文章が並んでいるだけで、何が何だかさっぱりなのだが。

そんな挨拶と前置きの文章を読み終えたタスクは、すっと視線を下に送り、その「座標」を読み取っていく。

 

そして次の瞬間、タスクは気づいた。

 

座標情報が示している先、それが『ALO』、つまり、

 

 

ALfheim Online(アルヴヘイム・オンライン)

 

 

である事に。

 

「なっ……!?」

 

もちろんタスクは唖然とする。

 

座標情報を読み間違えた訳では無い。SAO時代から、ゲーム内座標は幾度となく読み、その場所で任務をこなしてきた。

そしてその経験は、SAOから脱出したあとも、GGOやその前の仕事のゲーム内外で、数え切れないくらい使ってきたのだ。

 

その回数は、タスクは座標を一目見るだけで、()()()ゲームなのか分かるようになってしまうほどに。

「ザ・シード」で基盤が同じとは言え、各ゲームごとに少しづつ違う座標の特徴を、覚えてしまったのである。

 

そんなタスクが今更読み間違える訳もなく、その読み取った結果が、「ALO」だった。

 

「どうしてまた……はぁ……。」

 

タスクは、深いため息をつき、紙を折り畳もうと手を動かす。

……が、紙の一番下に、まだ文章が残っているのを見つけた。

 

「……?」

 

もう伝えることもないはずだ。タスクは疑問に思い、また紙を開いて今度はその文書を読む。

 

するとそこには、こんな事が書いてあった。

 

『追記 タモンさんから聞いたけど、最近タスク君、シノンさんとイチャイチャしているそうじゃないか。

いくら年頃とはいえ、若い衝動を暴走させないように。』

「……(ブチッ)」

 

タスクは、無意識に紙をクシャクシャにし始める。

 

そして、ゴミ箱に投げようとしたすんでのところではたと座標情報が頭をよぎった。

 

「っ……!!」

 

結果、タスクはその手を無理やりズボンのポケットに突っ込み、何とか捨ててしまいたい衝動を抑える。

 

「全く……!」

 

タスクのそんな悪態は、ちょうど完成した夜ご飯を持ってきた母親をくすり、と笑わせる。

母親は、まるですべてを分かっているかのようだった。




そろそろ彼女らが出ます。

お楽しみに。

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Episode38 ロングマガジン 〜Long magazine〜

「なんなのよ、あいつ!」

 

BOB予選の次の日。

 

本戦開始の少し前からログインし、店主の店にやってきたシノンは、早速怒りを顕にしていた。

 

「ま、まあまあ。あれはあれでなかなか……」

「店主さん!そこは口出さない方が……!」

 

店主がなだめに入るも、余計な事を口走りそうになってタスクに止められる。

 

そう、シノンは今、自分の仕事である、「キリトの監視・援護」の対象、キリトに対し、憤慨しているのだ。

 

理由は、多々ある。

 

シノンの話によれば、

・裸を見た

・性別を偽った

・情報交換という名の一方的なシノンからの情報提供

・試合中に後ろ腰にタッチ

などなど、店主やタスクが聞いても苦笑いな苦行をぽんぽんとしているらしい。

 

もちろん、あのキリトが。

 

店主やタスクに関しては、一番下の「試合中に後ろ腰にタッチ」は、昨日ラクス達と完全に生中継ディスプレイを通して見てしまっているので、容認せざるを得ない。

 

これについては、その光景が映った瞬間、タスクに対して店主達全員から気まずい目線が送られてきたという、弊害も発生しているため、タスクにとっても許せない(訳では無いのだがとりあえずそういう名目な)のである。

 

「あいつ!絶対に敗北を告げる弾丸の味を味あわせてやる!」

「ま、待って!それは仕事が……!」

「店主さん……!」

 

怒りのあまり、仕事すら放棄して復讐に燃えるシノン。

そんな彼女に、店主が止めに入るが、タスクがまた押し止める。

 

そんな光景が、ひたすら続いていた。

 

 

「ふぅ……」

「お……落ち着いた……かい?」

 

それから、約10分後。

 

シノンは、やっと怒りが収まっていた。

背後には、心底疲れたような、またどこかほっとした表情のタスクと店主が机に突っ伏している。

 

「はぁ……はぁ……シノンさん、怒ると怖いね……ってか、怒りっぽいのかな?」

「また……!店主さんが余計なこと言うから……!」

「何か言いました?」

「「いえ何も。」」

 

シノンがくるりと振り返り、そんな店主たちを心配そうに見るが、彼らは本心を話さない。

 

理由は明白。本心を話してしまえば、またシノンの怒りが再燃するからだ。

 

「そっ……そうだ!シノンさん!もうすぐ本戦だよ?」

 

そしてその再燃しかねない話題を無理矢理曲げるかのように、店主が話を変える。

 

シノンは、そんな店主の声を聞き、はたと時計を見ると、こくりと頷いて俯いた。

 

「「……?」」

 

そしてシノンは、先程の怒り狂った表情とはうって変わった、どこか儚げな顔をして、深呼吸を繰り返す。

 

そんなシノンを見たタスクと店主は、ふとその仕草の意味に気づくと、顔を見合わせて微笑んだ。

 

「ふふ……なんだ、やっぱり緊張してるじゃないか。」

「ま、初の単独仕事ですしね。」

 

タスクは、分かりきっていたように笑う。

 

「誰だって怖いですよ。なんてったって、()()()()()()()()()()()()()……」

「そうだよ……ね。SAO時代のタスク君そっくりだ。」

「な……!!」

 

店主の悪戯な笑みを恨めしく見るタスク。

だが店主は、そんなタスクの視線などつゆ知らず、いきなり左手を操作しだした。

 

「……?」

 

タスクは、先程までの視線を引っ込め、今度は純粋な疑問の目を店主に向ける。

すると、店主の手に、あの()()()()()()()が現れた。

 

「それって……!」

「そう。シノンさんの、G18のやつ。」

「……!ふふ。」

 

店主の意図を察したタスクは、自らも左手を操作し始める。

 

そして、すべてゲームシステムに任せ、椅子に座ったまま、()()()()()()

 

 

「シノン?」

「……!?」

 

いきなり聞こえてきた、そして()()()()()低い声に、シノンは飛び上がるように反応した。

そしてその声の主を、瞬時に視界に収める。

 

そう、もちろんそこには、ビッグ・ボスがいた。

 

いつものガスマスクに眼帯をつけ、ゴツゴツしいスーツを身にまとった、あのビッグ・ボスが。

 

「ボス!?」

「……なんだ、いちゃダメか?」

「い、いやそんなことは無いけど……!」

 

シノンはおろおろとして、いきなり現れたビッグ・ボスにどう反応すればいいか分からない。

 

そんなシノンを見たビッグ・ボスは、シノンの隣のカウンター席に座ると、おもむろに左手を操作し、ストレージからあるものを取り出す。

 

それを見たシノンは、驚きの目をしてボスとそれを交互に見た。

 

「え……!?それって……?」

「ロングマガジンだ。G18の。オセロットに預けたまんまだったろ?」

「ま、まぁ……」

「今回はこれを使え。弾は俺の奢りだ。全部満タンにしてある。」

「奢りって……!?」

「マガジン内のスプリングもチューニング済みだよ?給弾が良くなるはず。」

「店主さんまで……!」

 

いきなり飛んできた二人の優しさに、シノンは緊張が解れていくのを感じる。

 

それが顔に出たのか、ビッグ・ボスと店主も内心でほっとした。

 

「BOBの本戦は、いつものフィールドと違う。牽制用にばら撒いた所で戦況は変わらない。逃げると言っても限界があるし、接敵時の危険性が上がるだけだ。だからこれは、()()()()()()()()()()()()()使え。」

「ボス……!」

 

ビッグ・ボスが、ロングマガジンを手渡しながらそんな説明を重ねてくる。

店主も、それを微笑みながら見守っていた。

 

そして、シノンの顔がいつも通りの、なんの気負いもない顔に戻った時。

 

「シノンさん、時間だ。」

「……!」

 

ついに、BOB本戦に向かう時がやって来た。

シノンは、すっとカウンターから立ち上がり、店の出口へと歩いていく。

 

そして、その扉に手をかけた時。

 

「シノン!」

「!」

 

 

 

「楽しんでこい!幸運を祈る!」

 

 

 

「……!ええ、もちろん!」

 

ボスの激励とともに、死銃との決着の場へと送り出された。

 

 

 

そして、そんなシノンの背中が見えなくなった時。

 

「……さて、僕らも行こうか。」

「ああ。」

 

店主とタスクが互いに頷き、左手のウィンドウから、二人同時に()()()()()を押し、二人が光の粒になって消えた。

 

 

BOB本戦開始まで、あと少しである。




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Episode39 ALO 〜ALfheim Online〜

「ふう……おまたせ。ごめんね、意外と時間かかっちゃった。」

「はは……、別に構いませんけど、なんで飛んでこなかったんですか?」

「で、できなかったんです……」

「……ふふっ。」

「あっ!ねぇ!今笑ったでしょ!」

「わ、笑ってません!」

「笑ったなぁー!?」

 

そんな仲の良い会話が、抜けるような青空に、色彩鮮やかな自然あふれる世界で繰り広げられる。

 

そこには、二人の()()がいた。

 

一人は青緑の髪をした小柄な体型のキャラクター。

そしてもう一人は、砂漠のような黄土色の髪をした大柄なキャラクターだ。

 

そして二人とも、ケモ耳とかわいいしっぽを持っていた。

 

もうお分かりだろう、タスクと店主である。

彼ら二人は今、GGOからコンバートしてきたのだ。

 

そう、つまりここは、菊岡にタスクがリアル世界での封筒を通して示された場所が存在する世界。

 

ALfheim Online(アルヴヘイム オンライン)

 

通称「ALO」だ。

 

この世界では、プレイヤーは合計9つの種族の「エルフ」に分かれ、お互いに争いあいながら、世界の中心である「世界樹」の上にある「空中都市」を目指して冒険する。

 

このゲームは、異種族間の戦闘はむしろ推奨され、一度フィールドに出れば、そこかしこで戦闘が行われているのだ。

 

とはいうものの、この世界にもちゃんと中立的な区域があり、いくら異種族同士でも、そこでは一切の攻撃行動ができなくなっている。

 

さらにぶっちゃけて話してしまえば、各プレイヤー達の敵はもっぱらモンスターであり、異種族同士でパーティーを組んで戦いに行くことも多いらしい。

 

結局、自分の好きな種族になって、気の合う友達妖精と自由に空を飛び回り、時に剣や魔法を交えて敵と戦い、ファンタジー世界で生活する。

そんなゲームが、この「ALO」なのだ。

 

ちなみに、タスクと店主は、二人とも「ケットシー」という、動物に似た種族である。

 

「なんでまたこんな世界に菊岡さんは……?」

「さあねぇ。菊岡さん、割とこういう世界がお好きなのかな?」

 

そんな世界にやってきて、ケモ耳としっぽつきのかわいい姿となったタスクと店主は、周りを見回しながらそんな推測を立てたりする。

 

彼らは暇さえあればGGOにいるような人間だ。

こんな彩り豊かな世界に来たのはSAO以来だった。

 

「で、僕は座標情報を持ってますけど、店主さんは時間を知ってるんですよね?」

「うん。まあそのほかにも色々と細かい情報はあるよ。」

「というと?」

「なんかね、その場所には、とあるプレイヤーが来るらしい。」

「ほうほう……」

「背が高くて、眼鏡をしているそうだ。髪の毛は水色だと。」

「なるほど。」

 

そんな世界なのにもかかわらず、早速、「仕事」をこなそうと動き出す二人。

彼らは今でも「仕事中」。ささっと動くに限るのだ。

 

タスクは菊岡に、リアルで座標を教えられた。

対して店主は菊岡に、リアルでその座標に来て欲しい時間を教えられたらしい。

 

また、その他にも店主は、現にそこにプレイヤーが来るだのなんだのと、細かい情報が教えられていた。

タスクが菊岡に言われた、「詳しくはタモンに」とはこの事だった。

 

とはいうものの、最も重要な「座標」だけは、タスクだけに渡されたのである。

菊岡曰く機密保護のためらしいが、二人はその行動に、「二人で来い」という、彼のメッセージを感じた。

 

結果、二人はシノンをBOBに送り出した後、すぐコンバート。

「なんでBOB本戦当日に……」という不満がないわけではないが、むしろ今日だからこそ、この呼び出しは死銃事件と関わりがあるという事を想像できた。

 

「ふぅ……お店はラクスさんに任せたし、シノンさんも緊張の解けたいい気持ちで臨ませる事ができたから、とりあえずは心配はないけど……」

「不足の事態が、一番怖いですね。」

「……そう、その通りだ。」

 

店主はポツリ、と不安を漏らす。

 

大体の仕事が計画通りいかないのは、二人もラクス達もシノンもわかっている。

だが、今回に関しては人の命がかかっているのだ。

 

だからこそどうしても、不安が残ってしまう。

 

「まぁ、シノンさんを信じましょう、彼女ならきっとうまくやってくれるはずです。」

「……そうだね、ボス。」

「ボス?」

 

店主がポツリと漏らした言葉に、タスクがすぐさま反応する。

 

今は二人とも表世界用の状態。お互いを「タスク君」と「店主さん」と呼び合う状況だ。

 

まだシノンのような新入りなら分かる。

コードネームとキャラネーム、下手すれば本名を、状況によって即座に使い分けるのはなかなかの慣れが必要だからだ。

 

だが、今ミスをしたのはあの「店主」だ。

普段から様々な面で表と裏の使い分けをこなしているはずの店主が、間違えたのである。

 

「………あっ!」

 

店主が、やっと自分のミスに気づく。

そして、はは…と呟きながら後頭部を掻いた。

 

そして、言い訳じみた原因を話し出す。

 

「い、いやね、こんな色鮮やかな世界で、仕事だと思うと、なんだかSAO時代を思い出してしまってね…ついつい言ってしまったよ。」

「ああ、そういうことですか。」

 

タスクはすぐに納得し、苦笑いを返す。

 

そう。彼らがこんな色鮮やかな世界に来たは実質SAO以来。

そんななかで仕事をするとなると、どうしてもその時の癖が出てしまうのだ。

 

「懐かしいね……SAO。」

「……はい。かれこれ何年でしたっけ?」

「え……と、わかんないや!」

「店主さんもボケですかね……」

「ま、まだそんな歳じゃ無いから!ねぇ!」

「はぁ……時が過ぎるのは早いものですね……」

「ねぇちょっと!それどういう事!ねぇ!」

 

タスクのしみじみとした呟きに、異常な敏感さで反応する店主。

そして、それを横目に更にため息混じりで続けるタスク。

 

そんな仲の良い二人は、かれこれ歩き続け、いつの間にか、あの座標の位置へと、辿り着いていた。




お気に入り600人!!!ありがとうございます!!!
これ関連の話はTwitterの方で行ってますのでよろしくお願いします。

そろそろ新キャラを表に出さないと…(焦り)

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Episode40 菊岡 〜Chrysheight〜

「んー、もうBOB始まってるかなー?」

「まだ……じゃないですか?あとちょっとですけど。」

 

そんな雑談をしながら、妖精なのになぜか歩いている、ケットシーのタスクと店主。

 

そんな彼らは、いつの間にか菊岡に示されたあの「座標」の位置へと歩いてきていた。

 

「あっ!ここです!」

「え?ここかい?これまたたいそうな…」

 

そう言って、二人はそこで上を見上げる。

 

するとそこには、大きな「建物」があった。

窓を見ると、中にわいわいと多種多様な妖精が賑わいを見せている。

 

「まさか、こんな所で話すんじゃないだろうね……?」

「たぶん、そのまさかだと思いますけどね。」

 

店主が、冗談めかして苦笑いする。

 

そう、そこは、いわゆる「酒場」だった。

「VRMMOに来てまで酒かよ!」と思うかもしれないが、よく考えてみれば、そこにしかない酒だってあるかもしれないのだ。酒場だってあってもおかしくない。

それに、VRMMOなら飲食物の感触はすべて擬似的なものだ。

未成年が飲んでもなんら問題がないため、少し背伸びしたいお年頃の青年達に向けても、需要は割とあるのかもしれない。

 

かといって、タスクはもちろん、店主も酒はあまり好まないから、別に酒自体は問題ではない。

 

店主が苦笑いする理由であるその「問題」。それはつまり、「機密保護」のためである。

 

菊岡に、()()()()()使()()()渡されるほどの情報だ。

そこそこの機密があると言っているようなものなのだ。

そしてその指定場所がこの「酒場」と来た。

 

本当に大丈夫なのか、と心配にならない方がおかしい。

 

「全く……あの人は何を考えているのやらね。」

「え?」

 

そう呟きながら、店主はその酒場の扉に手をかける。

タスクはもちろん戸惑った。

 

「は、入るんですか?」

「もちろん。」

「時間がいつかは知りませんけど、外に入れるなら外にいた方が……」

「それもそうだけど、正直時間はもうすぐだし、それに……ほら?」

 

店主がニコニコしながら扉の方へと視線を向ける。

するとそこには、扉を中から開けた一人の若い青年の妖精が立っていた。

 

「旦那ら、なんで店の前でずっと突っ立ってるんすか?入って入って!飲みましょうや!」

「ね?」

「ね?じゃないですよ!」

「ほらほら!飲みまっせ!」

「あ、あの……その…❀!」

パタン

 

タスクの言い分など全く耳に入れず、その妖精に店に連れ込まれる二人。

 

結局、二人はその喧騒に、飲み込まれるしかなかった。

 

 

「う、うう〜……っ」

 

それから、10分後。

 

その酒場のカウンターには、突っ伏したタスクと、ニコニコ笑ってコップ片手にマスターと談笑する店主がいた。

 

「あら〜!お宅らGGOから来たの!?いいねぇ、私も一度行こうかな!」

「いや〜!マスターも銃の感覚が病みつきになっちゃうかも!」

「いいね〜!」

「なんなら私の店に来てくれれば銃一丁タダで差し上げますよ?」

「ほぉんとに?てか店開いてんの!?なんだ、同業者じゃないか!」

「しまったバレた〜!」

 

店主は、さらりとセールスを混ぜこみつつ話を繰り広げる。

一見はただの客だろうが、その会話を続けると同時に、店主はしっかりと確認していた。

 

それは、「現在の時刻」と、「酒場内のプレイヤーの構成」である。

 

時刻はたった今、指定時刻になった状態。

タスクも突っ伏しながらとは言え、その事は分かっているらしく、腕の隙間から周りをチラチラと見ている。

 

酒場のプレイヤー構成は、現状は問題ない。

皆視線はカウンターの反対側にあるステージに向いているし、武器を隠す時に変わる体の角度や重心をその場にいるプレイヤー全員を逐一確認しても、特に怪しい者はいない。

 

つまり、ここではある程度までは問題ないということだ。

そこまで確認し、店主はマスターとの話を切ろうとする。

……が、その必要は無かった。

 

「さて、じゃあ……」

「マスター。僕にも一杯貰えるかな?」

「……!?」

 

いきなり飛んできた声の方向に、驚きを伴って店主が首を回す。

するとそこには、「あの情報」通りの、「プレイヤー」がいた。

 

背が高く、メガネをしていて、髪が青い妖精。

彼の目は、明らかにこちらを意識していた。

 

そして店主が、いくらそのプレイヤーが情報通りとはいえ、警戒の目を向けたその瞬間。

 

()()()()()()()()を伴って、そのプレイヤーから、言葉が飛んできた。

 

「やあ!タモンさん?それにタスク君。お久しぶりだね。僕の名前は、クリスハイト。()()()()()()では、」

「……!!」

 

タスクもその話し声に反応し、即座に顔を上げる。

 

そして二人は言われずとも理解した。

 

彼の名は、

 

「菊岡だよ。」

「「……!」




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Episode41 一つ目の要件 〜The first requirement〜

「で?きくo……いや、クリスハイトさん。僕達に要件とは?」

 

「そこにやってくる」と教えられていた場所に、時間通りに来たプレイヤー、クリスハイト。

リアルでは、言わずもがな、菊岡だ。

 

彼は今、酒場の隅の席で、タスクと店主の二人と向かいあって座っていた。

 

クリスハイト曰く、この酒場のマスターはリアルでもクリスハイトと繋がっており、安全を保証出来るそうだ。

 

そういうことならと、タスク達も胸をなでおろし、落ち着いて話が出来ていた。

 

話題はもちろん、「何故ここに呼んだのか。」だ。

 

「ああ、うん。要件はね、2つほどあるんだ。」

「ほう?」

 

店主が相槌をうち、先の話を促していく。

タスクは、黙って話を聞いていた。

こういう会話の場に関しては、店主の方が一枚も二枚も上手だからだ。

 

ビッグ・ボスの時と同じ、冷酷な目をして聞いていた方が、何かとタスクにとっても店主にとってもこういう場を回しやすいということは、長年一緒である二人はお互いに分かりあっていた。

 

そんな雰囲気を読み取ったクリスハイトは、ごほん、と咳払いをすると、また話始める。

 

「えっと、まず一つ目は、状況報告をお願いしようかな。最近どうだい?」

「はは、そうきたか」

 

すると店主は、後頭を掻いて、笑った。

まさかここでそんなことを聞かれるとは思っていなかったからだ。

 

「まあもちろん、今は死銃についてだよね。これは、随分前にGGO内メッセージで「表で手を出すな」とお願いしておいたけど…どうかな?キリトくんによれば、「すごく良くしてくれていて助かる」と言われたよ。」

「そうですか……ならよかった。」

「でも、表に出たいのは山々だろう?」

「もちろん、その気持ちがない訳では無いですが……。我々は現状、言われた通り、表では手を出していません。」

「おや?珍しい。僕はてっきり耐えられなくなってもう手を出しているかと……」

「はは、流石に、そんな軽率なことはしませんよ。」

「ふむ……。」

「ですが、うちの諜報班(エスピオナージチーム)は一応送り込んでいます。」

諜報班(エスピオナージチーム)……というと、シノンさんの事かい?」

「いえ、違います。」

「ふむ……」

 

クリスハイトは、思考するように体を起こして店主をじっと見据える。

そしてちらりとタスクを見たが、タスクは目を閉じて「我関せず」というような態度を一貫していた。

 

その目の動きを見逃さず、店主は話を切り込んでいく。

 

「というのも、本当に諜報(エスピオナージ)に特化した二人のプレイヤーを、()()に送り込んでいるだけです。うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから。」

「……」

「クリスハイトさんだって、キリトくんが殺られたら困るでしょう?だから一応、彼らにはキリトの護衛もお願いしています。」

「護衛……?監視ではなく?」

「彼は仲間です。そんな信頼を裏切るようなことはしません。」

「シノンさんは?」

「彼女は、また別です。シノンさんは、彼女自身の要望です。」

「なるほど……ね。」

「それに、もっと言えば、諜報班(エスピオナージチーム)の二人には、死銃の捜索もお願いしてあります。もちろん表ではなく、裏でですが。裏からなら、捜索しても問題ないでしょう?」

「……」

 

だんだん張り詰めてくる緊張感。

タスクはまだ、目を閉じて無言を貫いているが、クリスハイトのタスクを見る目が変わってきているのは、言わずともわかっていた。

 

そしてついに、その矛先がタスクに向く。

 

「そうか、まあ別に、表に出ていなかったのなら構わないんだ。今後に影響しなければ、何をしても構わない。」

「ええ……そう解釈しました。」

「ああ。それはそれで結構だよ。ただ……タスク君?君はどう考える?このことについて。」

「……!」

 

クリスハイトの、試すような目を向けられるタスク。

だがタスクは、全くひるむことなく目を開いて、クリスハイトを真っ直ぐに見据えて、淡々と言葉を返した。

 

「僕は正直、あまり分かりません。ただ、送り込んでいる諜報班(エスピオナージチーム)の二人や、シノンさん、それにキリト君が、必ずこの先で解決に貢献できることを信じてます。だから、僕は店主さんの作戦に何も言わないです。仲間である彼らを信頼しているからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況がどうであれ、僕はそうするつもりです。」

「ふふ……実に君らしい。だろうね。」

 

クリスハイトが、その言葉と共に試すような目を引っ込め、いつも通りの目に戻る。

そして、ふう、と息を吐くと、決意したように話を続けた。

 

「分かった。とりあえず、君たちの考えは僕は受け取ったよ。だから、僕は君たちに、とある()()を伝えよう。」

「「……!?」」

 

クリスハイトの言葉に、目を見開いて反応する二人。

この話筋からして、間違いなく何らかの行動を起こすことができるようになるはずだからだ。

 

そしてその予想は、見事的中した。

 

「君たちは、この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可しよう。こちらとて、キリトくんに被害を出すわけにはいかない。そこは、素直に頼らせてもらうよ。」

「了解です。」

 

タスクは目を閉じ、店主は平然と言葉を返したが、内心では二人とも嬉しくして仕方がなかった。

 

今までは、何とかキリトやシノン、それに諜報班(エスピオナージチーム)の二人を支援し、解決に貢献しようとしてきた。

出るなと言われて、はいそうですかと黙って引っ込むわけには意地でもいかなかったのだ。

 

彼らの過去は、それほどまでに強力でなのである。

 

そして、その行動が、今クリスハイトによって認められ、一部分とはいえ実を結んだ。

 

もともと、最終的には無理矢理にでもやろうと思っていたタスクからすれば、これは、彼にとっては非常に大きい精神的優位性(アドバンテージ)を得られたことになる。

 

もしかしたら菊岡は、タスクの話した「僕も僕が出る幕になるまで、息を潜めておく」の意味を汲み取ったのかもしれない。

 

「すまなかったね。辛い思いをさせてしまって。」

「はは、別に構いませんよ。今に始まったことではないですし。」

 

緊張感が解け、お互いに笑みがこぼれだす。

そして話題は、「二つ目の要件」へと入っていった。

 

「さて、二つ目の要件だが…」

「「……?」」

「僕はね、この世界で、君達に会わせたい、」

「「……!?」」

 

「人()がいるんだ。」




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Episode42 二つ目の要件 〜The second requirement〜

「人()……ですか。」

「そう。きっと君たちも知っている人達だよ。」

 

そういって、メガネを光に当てて白一色にするクリスハイト。

タスクと店主の二人は、一瞬だけ、脳裏に不安がよぎった。

 

いくらクリスハイト、もとい菊岡の話とはいえ、今後に影響しない確証がある訳では無い。

そもそも、彼らに自分たちは()()()()()()()で接していいのか分からない。

キリトを支える、『裏世界プレイヤー』なのか、『単なる協力者』なのか。

場合によっては、今後に影響しかねないのだ。

 

そんな不安を募らせ、口を開けずにいると、クリスハイトから補助が入る。

 

「と、言うのもね?キリト君のプライバシー上、詳しいことはその場でしか言えないけど……とにかく、君たちには、『裏世界プレイヤー』として、彼らに会ってほしいんだ。」

「『裏世界プレイヤー』として……ですか。それで?」

「そこで君たちには、「()()()()()()G()G()O()()()()()」を証明してほしいんだよ。」

「なるほど。」

 

タスクは言われたことが意外だったのかポカーンとしていたが、店主は脳内で事を瞬時に推測し、納得がいっていた。

 

まずクリスハイトは、「キリトくんのGGOでの安全」を証明してくれ、と言った。

それはつまり、その保証する相手が、キリトとなんらかの親密な関係にあることを意味している。

 

キリトやその周りの人間関係は、店主はSAO時代の仕事によってある程度は把握していた。

親族はともかく、その他に親密に関わっている人間は、彼の通っている学校の関係もあり、大多数は「SAO 生還者(サバイバー)」だ。

 

その彼らにとってキリトは、とても大事な戦友か、それともそれ以上の何か、である事は明白だ。

 

つまり、クリスハイトが会わせたい人達、つまり証明する相手とは、彼らSAO 生還者(サバイバー)の可能性が非常に高い。

 

自分達もそうだが、SAO 生還者(サバイバー)といのは、至極単純に、「殺される事」の怖さを身をもって知っている。

一般人が想像出来ない程、リアルに体感した、その怖さを。

 

そして今、GGOでも、その状況が起こっている。

いつ、どこから、どのようにして、自らの命を絶とうと攻撃に出てくるのか。

店主ですらまた怖くなるようなあの状況にだ。

 

そんな状況のあの世界に、クリスハイトがキリトをどうやって話をもちかけて送り込んだのかは知らないが、十中八九、無理矢理だろう。

つまり、クリスハイトはキリトをまたその「いつ殺されるのか分からない」不安な状況に、無理矢理陥れた訳だ。

 

そんなことをしでかしたクリスハイトが、ただでさえその怖さを知っていて、なおかつ親密な関係にある彼ら、SAO 生還者(サバイバー)に、真正面から反論できるとは到底思えないし、格好の口撃目標になるのは目に見えている。

 

そこで自分たちには、その時の悪く言えば「言い訳」の一部を、担って欲しいという訳だ。

「リアルでもGGOでも、キリトの身は安全だ」という、「言い訳」を。

 

いつもは現場にいる自分達が、キリトの安全を証明しなければいけない所からも、会わせたい人達がSAO 生還者(サバイバー)である裏づけができる。

 

結局、リアルのキリトはクリスハイトが、GGOでのキリトは自分達が、安全を証明できる唯一の人間なのだ。

 

「つまり……」

「ん?」

「クリスハイトさんの……いや、菊岡さんの、「助け舟」を出せと。そういう事ですね?」

「……!」

 

クリスハイトが、バツが悪そうに体を起こして目を閉じ、ため息をつく。

店主は、もちろんその行動を見逃さなかった。

 

「図星……ですね?」

「はぁ……察しの良すぎる男は嫌われるよ?」

「騙す上に、前の借りにつけ込む男の方が嫌われると思いますが。」

「う……!」

「店主さん、そこまでにしないと、()()なクリスハイトさんがかわいそうですよ。」

「そうだね、いくら()()()()とはいえ、かわいそうだね。」

「もう……君たちって本当に怖いよ。」

 

クリスハイトが顔を手でふせながらしみじみと呟く。

……が、店主は、そんなクリスハイトの落胆ぶりなど気にも止めず、淡々と、核心を突いた言葉を言い放った。

 

「これくらいしないと、()()()()()()()()()。」

「その通り。」

 

「……!」

 

クリスハイトは、その言葉に驚き、はっと顔を上げる。

するとそこには、いつもと変わらない、彼らがいる。

 

そんな彼らのその姿から、クリスハイトは「強さ」を感じた。

 

異常なほどに強い、歴戦の兵士のような。




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Episode43 妖精たち 〜Fairies〜

一面に広がる黄土色。

風に巻き上げられて飛ぶ砂。

所々に突き刺さる、「廃墟」と化したのであろう、ビル。

くすんだ色の雲に遮られ、まったく姿を見せない太陽。

 

そんな世界が、ALOのとある個室に吊り下げられた、巨大なモニターに映し出されていた。

それを、まるで祈るかのように固唾を飲んで見守る妖精達。

 

コンコン……

「ん?」

 

そんな、一見異質な空間の、個室の扉が叩かれた。

その一瞬後に、ガチャリ、と扉を開けて、一人の妖精が入ってくる。

 

その妖精は、眼鏡をかけ、水色の髪をした、長身で細身な体格だった。

 

「……クリスハイト!」

 

その個室の中にいた妖精たちの一人、桃色の髪をした妖精、「リズ」が、その水色髪の妖精の名前を呼ぶ。

そしてそのまま続けてリズは、クリスハイトの遅刻に釘を刺した。

 

「もう……!遅い!」

「こ……!これでも、セーブポイントから超特急で飛んできたんだよ?」

 

クリスハイトは、あはは、と笑いつつ言い訳を繰り出す。

……が、そんなクリスハイトに向けられた、その場にいる妖精たちの目は、リズを含め、あからさまな険悪感に包まれていた。

 

でも、そうなるのも分かる。

なんてったって、彼らはキリトと親密な関係にある上、SAO 生還者(サバイバー)という折り紙付きの人達だ。

 

そんな彼らにとって、今回クリスハイトがしでかしたことは、そう簡単に許せるものではない。

 

「……何が起きてるの?」

 

するとその時、いきなり、その妖精たちの中の一人、「アスナ」が立ち上がり、クリスハイトに詰め寄る。

 

クリスハイトは、あっさりその気迫に気圧されて、後ずさった。

 

「な……何から何まで説明すると、時間がかかるかもしれないなぁ……」

「……」

「それに、どこから説明すればいいのやら……」

「誤魔化す気!?」

「いっ……いやその……!」

 

アスナにさらに気圧され、目を逸らしつつも、言葉が出てこないクリスハイト。

だが、そんなクリスハイトの助け舟は、意外な所から現れた。

 

「ならその役、私が変わります!」

 

そんな声が、クリスハイトやアスナの下から聞こえてくる。

その声の主は、その個室にある低いテーブルの上にいた、小人サイズの妖精だった。

その正体は、『カーディナル』の『メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号』、コードネーム『ユイ』である。

 

「……」

「……」

 

クリスハイトはもちろん、周りの妖精たちも、黙りこんで肯定の意を示す。

クリスハイトに聞いても「埒が明かない」と、ユイを含め、皆が悟ったのだろう。

それを察したユイは、黙々と説明を始める。

 

「11月9日、死銃を名乗るプレーヤーが、ガンゲイルオンライン内でモニターに銃撃を行い…………」

 

身の毛がよだつ、恐ろしい事件の内容が、次々に小さな妖精の小さな口から出されていく。

 

ゲーム内からの銃撃と、それに伴って死に至る現実世界のプレイヤー。

そしてその原因が、全くと言っていいほど分からない現状。

 

周りの妖精たちは、その説明に聞き入り、事態の深刻さを感じ取っていた。

 

「これはこれは……!全く、驚いたな。短時間にそれだけの情報を集め、その結論を引き出すとは……!」

「……何が言いたいの?」

 

すっかり暗く、そして重くなってしまった雰囲気をぶち壊すかのように、クリスハイトがあっけらかんな声を出す。

それを鋭い目でアスナが咎めた。

 

そんな目に気づいたクリスハイトは、諦めたかのように顔を真剣な表情に戻す。

そして…

 

「……はぁ。分かった。正直に言おうか。この期に及んで誤魔化す気は無いよ。」

「……!」

「今、このおチビさんがしてくれた説明は……」

 

 

「事実だよ。すべて。」

 

 

「!」

「そして、その事件の調査のために、キリトくんを送り込んだのも、僕だ。」

「!!」

 

その場の空気がピリッと張り詰める。

クリスハイトに向けられる目は、言うまでもなくさらなる険悪感に溢れた。

 

それを口に出すかのように、クラインがクリスハイトに食ってかかる。

 

「おい!クリスの旦那よ。」

「……?」

「あんた……あんたが、キリトのやつのバイトの依頼主なんだってな。」

「……そうだが。」

「てことはてめぇ、その殺人事件の事を知っててキリトをあのゲームにコンバートさせたのか!」

「…!」

「あいつを……あいつを……!また危険なところに!送り込んだってのかよ!クリスハイト!」

 

大切な仲間を思う故か、激昂して問い詰めるクライン。

その主張は実に最もであり、また、クリスハイトを含めた周りの妖精たち皆の気持ちを代弁していた。

 

「……」

 

それを理解しているが故に、黙りこくるクリスハイト。

その場を沈黙が支配し、しん…と静まり返った時。

 

ガチャリ。

「……!?」

 

いきなり、その個室の扉が開かれる。

そして、

 

 

「ちょっと待った。クラインさん。」

 

 

「な……!だ……!誰だあんた!?」

 

()()()()()()、黄土色の髪をした、大柄なケットシーが、部屋に入ってきた。

しかも、クラインのことを名指しで。

それに続いて、小さな青緑の髪をしたケットシーも入ってくる。

 

何を隠そう、店主とタスクだ。

それを見たクリスハイトは、息を呑んだ。

 

「な、なんで……?」

 

今ここで横槍を入れても、クリスハイト諸共袋叩きにされるのは目に見えているはずだ。

何故わざわざこんなタイミングで入ってきたのかが分からない。

 

クラインのなにかの言葉に苛立ちを覚え、耐えきれなくなって入ってきたようにも見えないし、そもそもそんなことをする人達ではない。

 

かと言って、クリスハイトを一緒になって袋叩きにするために入ってきたようにも見えない。

というよりも、そもそもそれは困るし、自らの首を絞めるようなことをさせるために、ここまで連れてきた訳では無い。

 

「どうして……!?」

 

従って、呆然とするクリスハイトと、当然の如く、誰だ、という目を二人に向ける妖精たち。

 

そんな視線などものともせず、今度は青緑の髪をした小さなケットシーが、声を上げた。

 

「はじめまして。皆さん。……いや、正確には、」

「……?」

 

 

「お久しぶり……ですかね。」

 

 

そんな青緑髪のケットシー、もとい「タスク」のその声は、どこか自信に満ちている。

 

「お久しぶり……!?」

「……!」

 

疑問と驚きが入り交じった顔をする妖精たち。

 

そんな彼らは、タスクたちから感じる不思議な「自信」と「強さ」をひしひしと感じ、口を開くことができなかったのは、言うまでもなかった。




あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
駆巡 艤宗です!

書き始めてから約半年。
まさかここまで多くの方に読んでいただけるとは思ってませんでした。
本当に感謝感激です!
__(⌒(_ ´-ω・)▄︻┻┳══━<感謝! バァン

感想も、ご指摘も、たくさんの方々からいただいておりますし、それらによってこの作品は成り立っております。
本当に、ありがとうございます。
また、よろしくお願いしますね?|ω・)

今年は……そうですね。(*´ω`*)
・推薦を貰えるような展開を作る!
・お気に入り1000人!
を目指そうと思います。

まだまだプロットは続いてますし、それを本文に書き起すのが楽しみでなりません。

それではもう一度、改めて。
皆様、本当にありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。

では。∠(・ω・´)ケイレーイ!

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Episode44 現状 ~Current status~

「お久しぶり……?会ったことある?」

「わ、私は分からないです……」

 

クリスハイトとの対談中に、いきなり入ってきたタスクと店主。

そんな彼らの内の一人、タスクが発した言葉。

 

ー「お久しぶりです」

 

この言葉に、彼ら妖精たちは、困惑する。

「このケットシーと会ったことあるっけ?」

「そもそも、名前すら知らないし、誰だろう。」

そんな考えが、頭の中を駆け回っていた。

 

「クリスハイト。あなたのお連れさん?」

 

そんな中、アスナがクリスハイトを見る。

すると、

 

「あ……!ああ、彼らは、僕の連れさ。紹介しよう。」

「え、ええ。」

 

ぼーっとしていたところに、いきなり呼ばれたかのように、クリスハイトが反応する。

そしてそのままクリスハイトは、続けてタスク達の紹介を始めた。

 

「彼らは、僕がGGOに送り込んでいるプレイヤーさんだ。名前は、こっちからタスクと、リボル。リボルさんに関しては、店主、と呼んだ方がいいかもね。」

「店主?」

「ああ、僕は向こうで店を開いているんだ。」

 

店主が、補足するように話をつけ足す。

するとその時、アスナが店主の方を向いて、なにか思い出したように話し出した。

 

「店って……キリトくんがいったって言ってたあのお店?」

「そう!確かに彼は僕のお店に来てくれたよ。」

「……!じゃ、じゃあ、あの……教えてくれませんか?今、あそこでは、どんな状況なのか。」

「……!」

 

クリスハイトに聞くより、現場にいる人間の方がいいと思ったのか、それともただ単に、やはり埒が明かないと思ったのか、店主が肯定した瞬間、アスナは店主へと詰め寄る。

 

「……はは。これまた大胆に来たね。アスナさん。」

「……!」

「大丈夫。()()が責任をもって、今のあの世界の状況を説明しよう。同時に、君たちの大事な()()、キリトくんの安全も保障する。」

「!」

 

すると店主は、あっさりとOKしてしまった。

前に出てきたアスナの背後に立つクリスハイトが、店主を心配そうな目をして見ている。

 

……が、「その心配はいらない」とばかりに店主はクリスハイトのそんな目を見返した。

少しの微笑みと共に。

 

そして、黙々と説明を始める。

 

「まず、クラインさん。これは殺人事件ではありませんよ。」

「な、なに?」

「現在、世界で流通しているアミュスフィアでは、どんないかなる手段を用いたとしても、装着している人間には全く傷をつけることはできない。ましてや、機械と直接リンクしていない心臓を止めるなど、不可能だ。」

「…!」

 

今まで食ってかかっていたクラインが、う、と言葉を詰まらせる。

 

「クリスハイトさんも、何もわからずにキリトくんを送り込むなどと、そこまで無謀なことはしないはずです。……ですよね?クリスハイトさん。」

「あ……ああ。僕とキリトくんは、先週リアルで議論し、最終的にそう結論づけた。ゲーム内からの銃撃……いや、それ以外でも、なんらかの干渉で、現実の肉体を殺す術はないと……ね。」

「お、おう……!」

 

クラインは、店主の反論とクリスハイトの補足により、大人しく引き下がった。

クリスハイトはともかく、店主の話なら聞く気になったのかもしれない。

そんなことを感じ取った店主は、まだまだ言葉を続ける。

 

「……ただそれは、あくまでクリスハイトさんたちの仮説でしかない。現状は傷をつけられないと思っていても、なんらかの方法で、出来るかもしれない。」

「な……!?」

「そうだな、例えば……アミュスフィアの電子系統に、強大な負荷をかけて暴発させるとかすれば、少しは苦しむかもね。」

「そ、それって……!」

「いやいやいや、でもよく考えてみて?さっきそこのユイちゃんが説明してくれたとおり、この事件は「変死事件」なんだ。あのアミュスフィアが暴発したところで、かっちり心臓だけを止めることは出来ない。」

「そ、そっか……」

「そう。だから、問題はアミュスフィアではない。僕らは、その事を()()()()()したから、信じてほしい。」

()()()()()……!?」

「そう。実際にアミュスフィアに色んなことを試してみて、暴発させられるか、検証してみたんだ。死銃の、ゲーム内からの銃撃との関係も考慮してね。」

「……!」

「おいおい……それは僕も初耳だよ?」

 

店主からサラリと出てきた言葉に、驚きを隠せない妖精たち。

クリスハイトは、まったく……と言わんばかりに後頭部を掻いていた。

 

今店主が言った、「実際に検証した」とはつまり、なんらかの方法でアミュスフィアの電子系統を暴走させようとしたことがある、という事だ。

 

本当にそんなこと……と思わない訳でもないが、先程から発せられている「謎の自信」によって、それを言うのもはばかられた。

つまり、信用せざるを得なかった。

 

そんなことなど知りもせず、店主はまた、淡々と言葉を綴っていく。

 

「その検証の結果、結局は、可能性は限りなく0に近いことが分かった。」

「そ、そっか……」

「でもね、それは同時に、まだ犯行の手口を探す手がかりすら見つけられなかったことにもなる。」

「……!」

「だから、僕らはあのBOBの待機会場に2人、本戦に1人、プレイヤーを送り込んでいる。それに、リアルのキリトくんも、菊岡さんが用意した設備によって、厳重に監視されている。だから、安心してね。」

「は、はい……!!」

 

どこか安心したせいか、ふっと表情が明るくなる妖精たち。

それを見て、呆れたように笑うクリスハイト。

 

「これが、事件の現状と、キリトくんの安全の保障です。……満足しましたか?クリスハイトさん。」

「はは……全くかなわないな、店主さんには。」

「クリスハイトさんがこうしろと頼んでんでしょう?」

 

そして、キリトの安全と、事件の現状の説明を店主から受け、納得した妖精たちの話の照準は、またクリスハイトへと戻っていく。

 

「クリスハイト。」

「?」

 

アスナが、またクリスハイトへと向き直る。

クリスハイトは、また何か言われるのか、と身構える。

だが、次の瞬間に彼女の口から出てきた言葉は、驚きのものだった。

 

「死銃は、私たちと同じ、SAO 生還者(サバイバー)よ。」

「な!?」

「しかも、史上最悪と言われたあのギルド、『ラフィンコフィン』の、元メンバーだわ。」

「ほ、本当かいそれは…!?」

 

クリスハイトは、いきなり言われたその事の、信憑性を問うかのように、声を絞り出す。

だが、その答えはまた、店主の横槍によって返された。

 

「本当ですよ。それ。」

「なっ……!?」

 

そして、店主は話し出す。

驚愕に満ちた、クリスハイトや妖精たちを差し置いて。

さらに驚きの、そして謎に自信に満ちた、その言葉を。

 

「もっと言えば、僕らはもう検討は付いてますけどね、」

「「「……!!」」」

 

 

「死銃の正体、犯行の手口、全てを。」

 

 

「な……!?」

 

クリスハイトはもちろん、その場にいた全員ですら、彼の言葉に、また驚いたのは、言うまでもないだろう。




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Episode45 裏 〜back〜

時は、遡ることBOB予選があった日の夜。

 

現実世界へと戻っていた店主……もといタモンは、とあるメールを見つつ、食卓に置かれたカップラーメンを啜る。

 

そのメールの宛名は、もちろん『店主』ではなく、『オセロット』だ。

なぜなら、そのメールの差出人が、「裏世界プレイヤー」だから。

 

その差出人の欄には、こう書かれていた。

 

『シャルルより。Codename:ウォッカ』

 

と。

 

そして、その下に本文が続いている。

タモンは、その文を、スクロールしながら目で追っていった。

 

✣(以下、本文)

 

調査結果

ゼクシードは例外として、その他のプレイヤーの被弾したシーンを録画、細分化分析したところ、死銃の銃「トカレフ TT-33 黒星」からの発砲弾の被弾と、強制ログアウトシステムの無関係を確認した。

 

理由として、

・被弾してから強制ログアウトシステムが作動するまで、タイムラグがプレイヤーによってまちまちであり、このタイムラグのばらつきは、現実世界でなんらかの人為的な干渉が行われている証拠であること。

・タイムラグは、最短1.485秒であり、アミュスフィアの電子系統暴発実験のタイムラグとは全く異なるものだったこと。

から。

 

結論として、この犯行が現実世界からのなんらかの犯行と、死銃の銃「トカレフ TT-33 黒星」からの発砲のタイミングを合わせた計画的な犯行である可能性が大きい。

 

死銃の中のプレイヤーは、特定出来ず。

ただ、サーモグラフィー透視の結果、右腕に()()()()()()()()()()を発見。

よく分からないけど、なんか意味がありそうだったから、一応報告しておく。

 

補足

こんなもんでいい?

明日の本戦待機会場でも一応監視するけど、調査結果を早めにまとめて出してみたの。

この結果を見つつ、明日の本戦を見ながら、ボスと結論を出してね。

 

あと、いつもいってるけど報酬は私の口座に入れて!彼の口座に入れないで!彼から渡されるのが恥ずかしいの!わからないの!?

もうほんと、お願いします。よ!

 

 

「ふふ……本当は嬉しいくせに。」

 

そんなことを呟いて、タモンは微笑む。

 

「棺桶……やっぱりね。」

 

その後、少し考えながら、そんなことを呟く。

そしてその思考に耽り、すべてが繋がった時。

タモンはニヤリと微笑んだ。

 

「……よし。これで、君たちはチェックメイトだ。」

 

()()()()と共に、そんなことを呟きながら、真面目な顔をして携帯を睨みつける。

 

そこには、「添付ファイル」として、死銃の写真が表示されていた。

 

「……さてと。」

 

そのページを閉じ、タモンはまた別の宛先へと、今度は自分が差出人となってメールを打つ。

そして、そのメールを送信し終えると。

 

タモンは、寝床へと入っていった。

 

 

ピーピロロン!ガガガッ…

「んん!……?」

 

一方、既に寝床に入っていたタスクである。

 

緊急時に即座に対応できるように、着信音を変えている差出先からのメールの来訪を告げるその着信音が、暗いタスクの部屋に響く。

タスクはすぐさま無理矢理にでも目を覚まし、メールを見た。

 

「死銃……!!ふわあぁ……っ」

 

すぐにそのキーワードを見つけ、メールを読みつつ、大きなあくびをかますタスク。

 

「タイムラグ……人為的……証拠……むにゃむにゃ……」

 

眠気を覚ますかのように、声に出して読もうとするタスク。

だが……

 

「そういう……ことね。了解。」

 

そんなタスクは、そう言葉を残してまた寝入ってしまう。

そしてその数分後。煌々と光る携帯の光も、消えてしまった。

 

「クソ……ラフコフめ……!すーーっ……」

 

目を閉じて、寝息を立てるタスクから、そんな()()が聞こえてくる。

どうやら、こんなふうでも、メールはきちんと読めたようだ。

 

 

時は戻って、現在。

 

キリトと親密な関係にある上、SAO 生還者(サバイバー)という折り紙付きの人達に、クリスハイト共々締め上げられている、ALOの個室。

 

……訳ではなく、その個室にはむしろ、状況がひっくり返され、唖然とした雰囲気が漂っていた。

 

「え……今、なんて……!?」

「だから、もう大体は検討ついてるんですよ。僕ら。」

「……!!」

 

いきなり店主の口から飛び出した、とんでもないこと。

すると今度は、クリスハイトが横槍を刺してきた。

 

「おっ……おいおい、それは僕も聞いてないぞ?」

「はい。あえて言いませんでしたからね。」

「あ……あえて?」

 

にこやかに答える店主に、さらにその場が唖然とする。

 

「表で手を出さず、裏でキリトくんを支える。これが、クリスハイトさんに指示されたことです。なら、キリトくんの支えを盤石にするために、()()()()は必須でしょう?」

「な……!!ということは、まさか、君たちは……」

「はい?」

「その()()()()の解釈を変えて、その……キリトくんの安全確保という名目で、捜索だけではなく、事件解決にまで乗り出したのか?」

「……」

 

クリスハイトが、完全に想定外だと言わんばかりの顔をして店主を問い詰める。

 

すると、店主の顔からすっと笑顔が消え、冷酷な、()()()()()のような威厳を載せた言葉が、クリスハイトに帰って来た。

 

「まぁ……こっちも、はいそうですかと黙っているわけには行きませんでしたからね。」

「……!」

「でも、さっきも言いましたけど、クリスハイトさんのいったことには何ら反していません。表で手を出すのはもちろん、ボスに関しては、一回も出撃してませんし。」

「……!!」

「そう簡単に言いくるめることが出来る人種じゃないんですよ。SAO 生還者(サバイバー)は。……もっと言えば、()()()()()()()()()は。」

「……!!!」

「SAO 生還者(サバイバー)……!?裏……世界!?」

 

驚きのあまり立ち尽くすクリスハイトと、店主の口から出た不可解な単語に疑問を持つ、他のSAO 生還者(サバイバー)の、妖精たち。

 

そんな妖精たちの中の一人、リズが、ポツリと疑問を漏らした。

 

「あ、あのさ、アスナ。」

「?」

「そ、その、店主さん……?達はともかく、クリスハイトは、ラフコフ……いや、そもそもSAOの事知ってるの?たしか、リアルでは……?」

「ああ。そのことなら心配ない。」

「え?」

「僕は元々、SAO対策チームの一員だったんだ。SAOのことなら、大体は把握してるけど……」

 

クリスハイトが答えつつ、店主たちへと視線を向ける。

「君たちはどうなんだ」という視線が、それにつられて妖精立ちから向けられる。

 

「アスナさん。」

「はっ……はい?」

 

すると突然、今度はタスクがアスナをいきなり()()()()呼んだ。

そして、タスクはその冷たい目のまま、アスナに問いかけた。

 

「僕、入ってきた時、こう言いましたよね、「お久しぶり」と。」

「え……ええ。」

 

確かに今まで忘れていたものの、そんなことを言われて疑問を持っていた。

それが一体何なのか。アスナが疑問をさらに重ねた時。

ゆっくりと、タスクがまた口を開く。

 

「覚えて……いませんか?僕らの事。」

「……?」

 

アスナに視線が集まり、答えをその場の全員が待つ。

とは言うものの、本人のアスナには一体なんのことかわからない。

 

やっぱりな、と言わんばかりに、タスクは次の瞬間、()()()()()()を口にした。

 

 

 

「「()血盟騎士団」……を。」

 

 

 

()……!!??」

 

アスナがすこし、思い当たる節が浮かび上がってきたのは、彼女の表情からとって明らかだった。




……さて、そろそろ、タスクたちの詳しい過去が明らかになっていきます。
お楽しみに!

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Episode46 対色 〜Opposite color〜

()……!!」

「ア、アスナ?」

 

タスクの意味有りげな問いかけがトリガーとなって、アスナの中で彼女の記憶がぐんぐん遡っていく。

 

《裏……裏……!!どこかで、どこかでそれを……!》

 

忘れてしまった何か大切なものを思い出すかのように、記憶を探り散らかす。

 

《あっ……!!!》

 

そしてその捜索の末、ついに行き着いた先には、SAO時代、何気なく耳に入った、とある雑談の記憶だった。

 

 

「なあなあ、聞いたことある?」

「え?」

 

そこは、血盟騎士団本部の、とある中庭。

 

白を下地に、赤のラインが入った服を着た男達が、休憩時間なのだろうか、木の下に座って駄弁っている。

アスナは、休憩時間とはいえ気を抜きすぎだと思いつつも、木の反対に座って自分も休んだ。

 

するとやはりなのか、その男達の声が聞こえてくる。

うるさいな、と思い、アスナが立ち上がろうとした時、それを引き止めるかのように、とあるワードが聞こえてきた。

 

()血盟騎士団の噂!」

「う……裏?」

「そう!」

 

またそんな、都市伝説みたいな……とアスナは内心で悪態をつく。

大体そうだ。何かが大きくなればなるほど、都市伝説のような噂がつくものだ。

 

その何かが、人であっても、物であってもだ。

歌や絵でさえ、「隠されたメッセージが……」とか言われる。

 

ばからしい、と思う。

……が、やっぱり立ち上がれなかった。

「血盟騎士団の副団長」という自覚からか、不審に思った種は、潰しておきたいと思ってしまったからだ。

 

その男達の話は、まだまだ続く。

 

「なんでも、この制服と()()の服を着て、()()()で暗躍してるらしい。」

「へぇ……。対色ねぇ。じゃあ、その対色ってなに色なんだよ?」

「黒を下地に、青のラインだって。」

「な、なんか、怖いな……見たことあるやつでもいるのか?」

「今のところそんなやつは聞いたことない。俺も見たことないし、他のやつから聞いただけさ。……でも、存在説は濃厚だぜ?」

「またまた……なんでだよ。」

「あの、団長様が、そんなことを匂わせる発言をしているからさ。」

「はぁ……?」

「聞いたことないか?【裏のものを……】とか。」

「た、確かにな……」

「だろ?やっぱりいると思うんだよな。」

 

確かにな、とアスナも思ってしまう。

確かに、血盟騎士団団長、ヒースクリフは、そんな発言を希にするのだ。

その裏の者ってなんなのよ……と思った節も、忘れていたがよくあった。

 

とは思うものの、口には出せなかったし、アスナはてっきり他の団員にそんな依頼をしているのだと勝手に思っていた。

 

だが、言われて考えてみれば有り得なくはない。

自分たちはあの「血盟騎士団」だ。どこに行っても他とは違う目で見られる。

そんなギルドのメンバーに、裏工作しろと言っても、正直、無理なのかもしれない。

 

そうなれば、あの団長、ヒースクリフはどうするだろう。

答えは明白だった。

「独立したそれ専用の機関を作る」

のだ。

 

もしそれが、その「()血盟騎士団」なのだとしたら。

 

そう考えが至れば、アスナは尚更聞き耳を立てなければならない。

なぜ副団長である自分にすら教えられてないのか、その原因を突き止めねばならないからだ。

 

それに呼応するかのように、男達の話もクライマックスに向かう。

 

「だからよ、もしかしたら、本当にあるかもしれねんだ。あの団長様なら……な。」

「……確かに。」

「それに、もしかしたら、このすごい規模の血盟騎士団はそいつらに支えられているかもしれねんだぜ?よく考えてみれば不自然だろ?こんなに大きいのに誰も歯向かうやつがいねぇんだ。」

「いやいや、いるじゃん、血盟騎士団を排除しろだのなんだの言うやつ。」

「そりゃあ言ってるだけだろ?それに正面から来るわけないじゃん。俺が言ってるのは、()()とかその類よ。一つや二つ、団長を狙うやつはいるだろ……」

「……確かに」

「でも聞いたことは?」

「ないな。」

「つまり?」

「それを裏で防いでるやつが……」

「いるってことよ!」

「はは、んなバカなぁ……!!」

 

そんなこと話しつつ、男達は立ち上がってどこかへ歩いていく。

場所に飽きたのか、それとも食事を取りに行ったのか、そんなことは分からないしどうでもよい。

 

ただその木の反対側に座っていたアスナは、どこか悶々とした気持ちを抱えていた。

あの男達の話の真実を裏付ける証拠はない。ないのだが、やっぱり「そうだな、」と思ってしまう節がいくつか確かにあったのだ。

 

「……なによ。」

 

考えがまとまらなくなってしまったのか、それとも隠し事をされた気分になったのか、はたまたくだらない噂だと思ったのか、自分でもよくわからないまま、アスナは一言悪態をついて立ち上がる。

 

 

 

 

ーそれ以来、その話を聞くこともないまま、SAOは攻略を迎えた。

 

 

「ア……アスナ?アスナ?」

 

ぼーっとしたまま固まるアスナを、リズが揺さぶり、他の妖精たちが心配そうに見つめる。

 

「……はっ!ああ……ごめん。」

 

そんな視線に気づいたアスナは、すぐに意識を引き戻した。

 

「思い出したかい?」

「……!」

 

そして即座に、今度は店主から再度の問いかけがくる。

するとアスナは、今回はきちんと答えを返した。

 

「なんとなくだけど、聞いたことがあるわ。」

「なんとなく……か。」

「ええ。その……誰かの噂話を聞いた程度だけ。」

「……」

 

真面目な顔で、問いかけに答えるアスナ。

そんな顔を見て、微笑む店主と、ただただ佇むタスク。

 

彼らの間に、張り詰めた雰囲気が漂う。

 

「でも……仮にそうだとして、一体なんだというの?」

「……!」

 

アスナが、疑問というより、苛立ちをこめ、店主を睨む。

……が、店主は依然として、少し微笑んだままの態度を保っている。

 

クリスハイト含む妖精たちは、ただただそれを見守るしかない。

ただ、アスナの言うとおり、「それがなんなのだ」という気持ちは、皆が持っていた。

 

そんな気持ちをはねのけ、そして見透かし、店主は淡々と言葉を返す。

 

「……まあ、そんな気持ちになるのは分かる。」

「……?」

「でも、()()()()()()、僕らの話を聞いておくれよ。」

「……!何が言いたいの!?」

 

苛立ちが頂点に達したのか、アスナが店主に喰ってかかった。

 

すると店主は、少しの沈黙の後、今度はあの()()()()()()()()()のような威厳を乗せた、重たい声で言葉を返した。

 

その言葉に、そしてギラリと睨む店主に、少し怯む妖精たち。

 

「はぁ……わかった。なら短的に言わせてもらおうか。」

「……!」

「さっきも言わせてもらったけど、僕らはもう死銃の正体も犯行の手口もすべて分かっている。」

「……!?」

「というより、すべて()()()()()()()()。僕らは。」

「知って……!」

 

店主はそんな妖精たちに、いつかキリトに言ったような言葉を放つ。

 

「なぜなら、僕ら裏血盟騎士団の仕事は血盟騎士団へのありとあらゆる妨害の防御と、血盟騎士団の敵に対する裏工作、攻撃だったから。」

「……!」

「その敵の中で、最も強力だったのは、「ラフコフ」だった。」

「ラフコフ……!」

「生存したのは、結成当初のメンバーの約1割。失った9割の大半は、対ラフコフ戦だ。僕らは数えきれない程こなしたよ。」

「1割……!!ラフコフ……戦!?」

「ということは、だ。僕らはその()()()()について、すごく()()()()()()()ということになる。敵情把握は必須だからね。それに……仇でもあるし。」

「……!だ、だから……?」

「そう。僕らは死銃の正体が一発でわかるのさ。裏工作時に盗聴した話や、死銃の体勢のクセ、その他少しの調査だけでね。」

「……!」

 

妖精たちは、今までの気持ちをいつの間にか引っ込め、驚きに満ちた目をして店主達を凝視する。

そんな中、まだまだ店主は言葉を続けた。

 

「あんまり自画自賛みたいで嫌だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、こんな僕らがキリトくんについているんだ。証拠がないから信じられないかもだけど、とりあえずは安心してほしい。」

「……!」

「それと、また言うけど、こんな僕らだから、状況はもうすべて把握しきっている……。よし、そうだな、言い切らせてもらおうか。」

「……!!」

 

 

「次の死銃の標的は、キリトくんじゃない。」

 

 

「な……!」

「だから……こう言っちゃあれだけど、安心してね。」

 

今まで最大の不確定要素だった事を、バシッ、と言いきる店主。

 

そんな店主と隣に佇むタスクが、無意識にだんだん強く見えてきているのは、妖精たちは「無意識」の字の如く、自覚していなかった。




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Episode47 目的 〜The purpose〜

「なぜそんなことが言えるの?」

 

アスナの言葉で、その場の雰囲気がまたピリッと張り詰める。

 

彼女が追求しているのは、たった今、店主が口にした不確定要素について。

 

妖精たちが最も心配していた「キリトの身の安全」の答えを、店主がバシッと言い切ったからだ。

 

「……ふふ。それはね、アスナさん。」

 

しばらくの沈黙と微笑みをもって、店主が言葉を返し始める。

 

「よく考えてごらん?」

「?」

「あれを見て。」

 

そう言って店主が指差したのは、先程からずっとBOBの中継映像を流し続けているディスプレイ。

 

「えっ……!?」

 

それを見た妖精たちは、呆気にとられた。

 

「キ……キリトくん!!!!!」

 

その中で特に、アスナは呆気を通り越して恐怖が滲み出る。

 

なぜなら、そのディスプレイの中で、()()()()()()()()()していたからだ。

 

周りに朽ち果てたビルが数本突き刺さっているだけのだだっ広い砂漠に、二人が向かいあっている。

 

明確な意思を灯した目のキリトと、妖しく赤く光る目をキリトに向ける死銃が、それぞれ光剣(フォトンソード)刺剣(エストック)を持って、じりじりと対峙していた。

 

「な……!!いつの間に……!!」

 

これには、菊岡も驚く。

 

それもそのはず、ここにいる妖精たちは皆、キリトへの心配感からか、今までいろいろと情報を握っている店主達に完全に気を取られ、全くもってBOBの方へ目が向かなかったからだ。

 

そしていつのまにか、その()()()が、問題の()()と向かい合って、「剣」で決闘している。

 

「キ……キリト……くんっ……!!」

 

大切な人を失うかもしれない、という、今までなんとか押し込めてきた感情が、一気に押し上げてきたせいか、目を強く瞑り、まるで祈るかのように呟くアスナ。

 

するとその時。

 

「アスナさん!よく見て!」

「えっ……!!」

 

いきなり、背後の店主から声が飛んできた。

そんな声に突き動かされるかのように、反射的に顔を上げるアスナ。

 

「……?」

 

が、その視界には、やはり未だ対峙するキリトと死銃が映るディスプレイのみ。

 

結局アスナは、店主が「よく見て」と言った意味を理解出来ずに、ただただその視界を眺めるしかない。

 

そんなアスナを見て、店主がゆっくり言葉をつけたした。

 

「よく見て……?なにか、わからないかい?」

「?」

 

何の話だ、と言わんばかりに、アスナはもちろん、妖精たちも店主を見る。

 

しばらくの沈黙の後、店主は、呆れたように息をつき、妖精たちに求めていた答えを自ら話し出した。

 

「はぁ……わかったよ。」

「……?」

「よく見て、と言ったのは、とあることに気づいてほしいからさ。」

「とあること……?」

「そう。」

 

そしてまた、妖精たちの関心が店主に移る。

 

「よくよく考えてみてほしい。死銃ってさ、元々なんのためにBOBにいると思う?」

「……なんのため?」

「そう。いわば目的だね。人間がなにか行動する時には、必ず「目的」があるじゃない?」

「まあ……。」

「その原則を、死銃に当てはめてみて。なぜだと思う?」

 

微笑みつつ、疑問を投げかける店主に、考える間もなく答えが返ってくる。

 

「そりゃあ……死銃は、その、「人を殺すため」に、BOBにいるんでしょう?」

「そうだね。でもじゃあさ、なんでわざわざ、BOBのような、目立つところでそんなことをすると思う?」

「……!」

「ただ人を殺すだけなら、そんなことはしなくていい。影で、黙々と殺していく方が、確実だよね。」

「た、確かに……」

「じゃあなぜ、そんな、馬鹿みたいに、居場所を晒してやっているんだと思う?」

「……」

 

うーん、と考え出す妖精達。

そんな妖精たちを微笑んで見守る店主は、ふとクリスハイトと目が合った。

 

すると店主はまるで「大丈夫」と言わんばかりにこくこくと頷くジェスチャーをクリスハイトに見せる。

クリスハイトは何かを察したのか、そのジェスチャーに軽い会釈で答えて、ソファーに座った。

 

しばらくすると、次第に妖精たちから答えが出てくる。

 

「死銃は……その……「自分は人を殺せるんだぞ」みたいな、力を示すために?」

「そう!そういうこと!てことはさ、その目的に沿うならば、今、キリトくんとやってる決闘って、する意味がなくない?」

「あっ……!!」

「居場所を晒して、危険極まりない状態で、することじゃないよね。」

「た、確かに……」

「だから、死銃はキリトくんを殺す標的にはしていない。仮に標的だとしたら、とっくに殺しているだろうし……」

「……!!」

「ね?キリトくんが標的なら、今の状況はどう考えたって無駄だし、不自然なんだよ。」

「……」

 

妖精たちの顔が、どこか明るくなる。

キリトの安全を証明しきったからなのか、だんだん、クリスハイトの顔も変わってくる。

 

店主は、それを横目で確認しつつも、話を続けた。

 

「それでね?そう考えた時、もう一つ、疑問が浮かばないかい?」

「疑問?」

「そう。さっき僕さ、「今の状況はどう考えたって無駄だし、不自然なんだよ。」って言ったじゃん?」

「ええ……」

「ということはさ、死銃は、他に「目的」があると思わない?」

「……!」

「確かに、キリトくんは標的じゃない。今の決闘だって、()()()()()()()()()()、ただ無駄なだけ。でも、キリトくんと今、決闘をすることだって、なにかの別の意味があると思わないかい?」

「た、確かに……。」

「たしかに無駄だよ?でも、無駄だなだけなことをやるはずがないよね。必ず目的があるはずだ。じゃあその目的……なんだと思う?」

 

さっきも聞かれた、キーワードのような質問。

妖精たちはもちろん、今度はクリスハイトも考え出す。

 

店主はそんな、()()を見て、微笑みながら声をかける。

 

「そんなに深く考えなくてもわかるはず。」

「……?」

「死銃が、BOBのあんな場所でキリトくんと決闘するってことは、B()O()B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()キリトくんを倒さないといけないってことだ。」

「……」

「ということは、もちろん標的となり得るのはBOBの参加プレイヤーの中であって、その中で誰かがキリトくんと()()()()()()()()()()()()ってことだよね?」

「あっ……!」

「ふふ……もうわかったでしょ。」

 

どこか思わせぶりな、店主の言葉にはっと息を呑む妖精たち。

そして、

 

「まさか……」

「ふふ……そうだよ。」

「あの……?」

「そうさ。」

「あの……スナイパーを、狙ってるってこと?」

 

ディスプレイに振り返りながら、恐る恐る口にする。

 

「そう。そういうこと。彼女を殺すには、キリトくんが邪魔だからね。」

「……!!」

 

驚きを隠せない妖精たち。

流石に意表を突かれたのか、唖然とするクリスハイト。

微笑みをたたえたままの店主と、相変わらず真顔でディスプレイを眺めるタスク。

 

そんな彼らの視線は全て、ディスプレイに映った1人のプレイヤー。

 

 

 

 

そう、「シノン」である。




こんにちは!お待たせいたしました!
駆巡 艤宗です!

改めて、本当にすみません!
随分と、お待たせいたしました!

というのも、Twitterと活動報告にてお知らせはしたのですが、作者のリアルの関係上、約1ヶ月、おやすみさせていただいておりました。

本当にごめんなさい!

またここから、1ヶ月2〜3話ペースで投稿していけると思いますので、今後ともよろしくお願いします。

では。

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Episode48 盲点 〜The blind spot〜

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「はい?」

 

衝撃の事実が告げられ、妖精たちがディスプレイを眺め唖然としていたその時。

クリスハイトが、まるで抵抗するかのように、声を上げた。

 

「タ、タモンさん!?君は今、「標的はシノン」さんって言ったよね!?」

「ええ。」

「君達はそれで、なぜそんな落ち着いていられるんだい!?」

「なぜって……?」

「……!?」

 

クリスハイトは、確かに覚えている。

 

ここに来る前、集合した酒場で、店主が

「うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから。」

と言っていたのを。

 

それなのに、いざその状況になれば、なにも動こうとしない。

そんな店主達に、クリスハイトは半ば怒りのような感情が芽生えていた。

 

自分とて、これ以上被害を出されるのは困る。

それに、本来この仕事をするべきはずだった人間達が、この状況で、何も動こうとしない。

 

たしかに、仕事を彼らから奪ったのも自分であり、それは事実だ。

だが、こうなることを予見して、

「この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可」

したのだ。

 

それがまさに、今、ではないのか。

今ここで、助けに行けば、同時に死銃を倒すことだってできるはずだ。

 

「君……!!シノンさんの命が危ないんだよ!?」

「でしょうね。」

「それで……そんな、というよりこんなところにいていいのかい!?」

「……」

 

クリスハイトの怒声に、店主は微笑みを保ったまま、押し黙る。

その声につられて、視線をこちらに向ける妖精たち。

 

その個室に、さっきまでとはまた違った、変な緊張感が張り詰める。

 

するとその時。

 

「だから。言ったでしょう?」

「!?」

 

店主ではない、またどこか、()()()()()()()()声が、店主の方から聞こえてくる。

 

「シノンさんは、たしかに僕らの仲間です。命の危険が迫っているのもわかってる。きっと本人も、分かっているでしょう。」

「タスク……くん?」

「本来なら、今すぐ助けに行きたいですよ。」

「な、そ、それじゃあ……!」

 

そんな声を上げたのは、もうお分かりだろう、タスクである。

クリスハイトは、なお落ち着き払っているタスク達に、抵抗する。

 

……が。

 

「それでも彼女は、()()()()()()()という()()を続行しようとしてる。ということは、()()()()()()()()()()()()ってことです。」

「……!?」

「今ここで、助けに行ってもいいでしょう。BOB会場に乱入することなんて、僕らの技術があれば容易いことだ。」

「……!!」

 

クリスハイトはもちろん、妖精たちも、今までとは違った、()()()()()のような話し方をするタスクに、どこか畏怖を覚える。

 

そんな感情などつゆ知らず、タスクはディスプレイを見つめたまま、まだまだ話し続ける。

 

「……でもね、もし、本当にそうしたとして、この事件が解決すると、思いますか?」

「……!?」

「クリスハイトさんが僕らに行動を許したのは、()()()()です。()()()()って、本当に今ですか?」

「な……何が言いたいんだい?」

「つまり、ここまで「大罪」を犯した死銃(あいつ)が、ここで……いや、この世界で、つまり()()()()()()()()()倒したところで諦めるか?ってことです。」

「そ、それは……!」

 

クリスハイトはもちろん、話を聞いている妖精たちも、少しの間、考え込む。

 

たしかに、()()()()()死銃を倒したところで、諦めるのだろうか……と。

答えは明白だ。

 

諦めるわけがない。

 

「だから、僕はここでは手を出さない。言ったでしょう?」

「……!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってね。」

 

「わ……わかったよ。」

 

クリスハイトが、すごすごと引き下がる。

 

すると今度は、今まで黙ってカウンターに座っていたクラインが、タスクへ質問した。

 

「な……なあ?えっと……タスクくん……?」

「はい?」

 

今までディスプレイから目を離さなかったのに、クラインが呼んだ瞬間そちらへ首を回すタスク。

 

「っ…!?」

「……どうしました?」

「い、いや、その……さっきよ、あんた、この世界で倒しても意味がないって言ったよな?」

「ええ。確かにそう言いましたが?」

「じゃ、じゃあ……今キリトがやってることだって、やっぱり意味が無いんじゃ……」

「……!」

 

はっ、と、妖精たちが振り向く。

 

確かにそうだ。

この世界で倒したところで死銃が諦めないと分かっているなら、今キリトが繰り広げている死銃との決闘だって、意味が無いのだ。

 

そんな、ある意味「盲点」だった事を指摘されでもなお、タスクはニコッと笑ってクラインと向き合う。

 

「まあ……」

「?」

 

また虚を突くようなことを言い出すのかと、身構える妖精たち。

 

……が。

 

「そうなんですけどね。」

「へ?」

「結局、シノンさんが殺られる殺られないは、リアルでの事ですし、今までの話は、「死銃がリアルとの連携を続行し続ければ」、ですから。」

「ま、まあ……」

「いくらシノンさんを守るって言ったって、キリトくんが守っているのはこの世界のキャラクターですから、現実のプレイヤーは守れませんよ。」

「そんな……!」

「だって、ここまで追い詰められてるんですよ?もうゲーム内から殺したように見せる細工なんてせずに、さっさと殺す可能性だってあるわけで……ね?」

「そうか……そうだよな。」

 

今までの話とは一転、どこかあっけらかん話し方に、妖精たちは、ポカーンとする。

 

するとその時。

 

「そこで!クリスハイトさん。」

「な、なんだい?」

 

いきなり、タスクが雰囲気をぶち壊すかのような声を上げる。

そんな声で呼ばれたクリスハイトは、少し驚きつつも反応する。

 

そして……

 

「シノンさんの、住所、教えてください!」

 

「はい!?」

 

ある意味、虚を突かれた妖精たちと、クリスハイト。

それに対して、タスクはニヤリと笑いながら、話し続ける。

 

「そこで、決着をつけます。」

「決着……!」

 

その時、タスクの顔が、いきなり真剣味が出てくる。

 

「そうです。というのことはつまり、そこが『僕の出る幕』である、」

「……!!」

 

 

 

 

 

「『最終局面』です。」

 

 

 

 

 




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Episode49 眼帯マスク少年 〜Eye band and mask boy〜

「はっ……!はっ……!」

 

一人の少年が、すっかり日の落ちた夜の住宅街を走る。

 

黒いフードつきのパーカーに、カーキ色のズボン。

右耳には、今ではすっかり主流になったマイク付きの無線イヤホンが付いていた。

 

《タスクくん!》

「はい!?」

 

そこに、店主の声が聞こえてくる。

 

《アスナさんは予定通り、キリトくんの元に行かせた!》

「シノンの住所は……!」

《もちろん持たせたよ!もうすぐキリトくんと死銃の決着もつきそう!間に合う?》

「なんとか……間に合う!」

《よし、キリトくんたちがログアウトしたらまた知らせる!僕も今から(ピークォド)でそっちに向かうから、所定の位置で待機!》

「了解……!」

 

そんな会話しつつ、その少年、タスクは走り続けた。

一刻も早く、待ちわびていた、「この瞬間」のために。

 

そんな感情からか、その背中はどこか、高揚という感情が滲み出ていた。

 

「やっと……!やっとだ!」

 

そんな、呟きもまた然り。

 

 

「行っちゃっ……た……!」

 

時は少し戻って、ALOの、例の個室。

 

クリスハイトにシノンの住所を聞いたタスクは、そそくさとログアウト。

まだついていない、死銃とキリトの……はたまたBOBの決着など目もくれず、颯爽と光の粒子になって消えていった。

 

「……アスナさん。」

「……!はいっ?」

 

そんな彼の行動に意表を突かれ、ポカーンとしていた妖精たちの一人、アスナに、店主がいきなり声をかけた。

 

その声にまた意表を突かれたのか、少し驚きつつ答えるアスナ。

 

すると、

 

「これを、キリトくんへ持って行ってあげて。」

「……!」

「ちなみに、キリトくんのいる病院はここね。」

 

そう言って、店主は自分の目の前にあった、それぞれ違う地図が表示されている2つのウィンドウをアスナの目の前へと飛ばす。

 

「これは……!」

「そう。シノンさんの家とキリトくんの病院のそれぞれの住所。」

「……!」

「キリトくんも喜ぶと思うよ?戦場からの帰還に、()()()()が迎えに来てくれるのは。」

「「「〜!!」」」

「これはそのついでのお願いさ。……っ!おっと。」

 

いきなり飛んできた爆弾発言に、アスナは苦笑いして、シリカやリズ、はたまたリーファまで、発言の主である店主を睨む。

 

「あっはは……キリトくん……、モテるんだねぇ。」

「そりゃ、あいつぁーね?」

 

睨まれた店主の逃避の呟きに、今度はクラインが乗っかった。

 

「……はぁ」

 

そんな中、クリスハイトがため息をついて、ディスプレイに向き直る。

 

「そ、それじゃあ……」

「うん。行ってらっしゃい!」

 

流石に居心地が悪かったのだろうか、アスナがそそくさと苦笑いで光の粒子になって消える。

 

「……よし。」

 

すると、店主がまたディスプレイを展開し、誰かへと電話をかけはじめた。

 

それと同時に、

 

「クリスハイトさん!それじゃ、また今度ね。」

「えっ、ちょっ!待っ!」

 

そんな声をクリスハイトに掛けて、店主もまた、光の粒子になって消える。

 

激戦を繰り広げているBOBを映し出したディスプレイなど、目もくれず。

 

 

「はぁ……はぁ……ついた!」

 

そう言って、その少年、タスクは、()()に座る。

 

そして月を見上げると、

 

「……オセロット。所定の位置に到着。待機する。」

 

右耳のイヤホンに、声を送った。

 

《了解。(ピークォド)は見えてるか?》

 

するとすぐに、返事が返ってくる。

 

タスクはその返事に促されて、周りを見回した。

 

「えっと……あれか。コンビニに止まってるな。」

《そう。よし、視認を確認。目標(ターゲット)を発見次第、報告する。》

「了解。」

《あとは、ボスのタイミングで突入、接触(コンタクト)してもらって構わない。……それと、ボスの回収は危険区域(ホットゾーン)外で行うからな。》

目標(ターゲット)は?」

《それは、菊岡(クライアント)が何とかするだろう。その場に置いておけ。ただし、拘束までとは言わないが、失神(スタン)させておいてくれ。》

「なるほど、分かった。」

 

そこまで話して、話は途切れる。

 

……と思った矢先。

 

《ふう……いよいよだな。》

「ああ。」

 

オセロット、もとい店主が、どこかしみじみと呟く。

 

すると、

 

「任せておけ、オセロット。」

《……!》

 

 

 

 

 

「野郎、ぶっ殺してやる。」

 

 

 

 

 

《……はは、ほどほどにね。》

「分かってるさ。」

 

そういって、いつの間にかつけた眼帯と、本物の、そして()()()()()()()()()()()()()()、あのマスクの下で、ボス、もといタスクは口を歪めてニヤリと笑った。

 

 

 

()()()()は、もうすぐそこまで迫ってきていた。




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Episode50 最終局面 〜Last phase〜

「くしゅん!……っ!」

 

東京都。カラスが寂しく鳴き、1日の終わりを告げる時刻。

 

そんな大都市のとあるアパートで、シノン、もとい朝田詩乃は、冷えきった部屋で、くしゃみに促されるように目を覚ました。

 

正確には、()()()()()

 

「……はあ。」

 

ため息をつき、ゆっくりと起き上がった彼女は、頭についているアミュスフィアを外す。

 

すると、電気をつけていない、暗い部屋の中を、自宅なのにも関わらず恐る恐る見回した。

 

電気をつけ、リビングはもちろん、簡易設置型のクローゼット、ベッドの下、台所に、その横にある風呂場を、まるで証拠を探す刑事のように見回す。

 

「馬鹿みたい……!」

 

そんな自分の仕草に、こんな言葉が漏れる。

 

結局、というよりはもちろん、そんな「捜索」も甲斐なく、詩乃の部屋の中には何も、誰も、なんの証拠もなかった。

 

「はぁ……!!」

 

そして、心底安心したかのように、大きく息をついて詩乃は座り込む。

 

「……」

 

床を見つめると、自然に頭の中で蘇る。

死銃の恐ろしい犯行方法と、その対象が自分である事実。

 

そしてそれを、淡々と話す、あの「少年」の姿。

 

その記憶が鮮明にあるからか、「犯人が自分の部屋にまだいるかもしれない」なんていう、変な不安がよぎってこんなことをしてみたが、何も異変はなかった。

 

「……さて……と。」

 

そして詩乃は、ゆっくりと立ち上がる。

()()()()()へと、戻るために。

 

するとその時。

 

ピンポーン

「……!?」

 

突然、「来客」を告げるインターホンが鳴った。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

一人の少年が、すっかり日の落ちた夜の住宅街を走る。

 

黒いジャンバーに、黒色のズボン。

 

いつか言われた、「黒の剣士」。

そんな異名、そのままな服装で。

 

「私の名前は、朝田詩乃。住所は……」

「え!?」

 

必死に走る中、ついさっき、()()()()()()()()()が、頭の中で、リピート再生されているかのように、何回も聞こえてくる。

 

「やっぱりダメだ!いかなきゃ!」

 

回想を振り切るかのように、首を振るその少年。

 

「住所は、アスナが持ってきていたのと同じだった!菊岡の呼ぶ警察だって、間に合うかわからない!やっぱり……!」

 

そして、そんな状況判断とその整理をするかのように呟く少年、キリト、もとい桐ヶ谷和人は、走り続けた。

 

「来なくて……大丈夫よ。」

 

一刻も早く、そんなことを言っていた、でも助けを待っているであろう「あの彼女」のために。

 

そんな感情からか、その背中はどこか、焦りという感情が滲み出ていた。

 

「頼む……!間に合え!」

 

そんな、呟きもまた然り。

 

 

目標(ターゲット)が入ってから、約5分たった。まだ行かないのか?》

「ああ……シノンはそんなヤワじゃない。」

 

未だ屋根に座り続けるボスは、そんな声を右耳のイヤホンに送る。

 

《……ボス。いくらなんでも……》

「わかってる。」

《じゃあなぜ?》

「今にわかる。」

《……?》

 

オセロットが困り果てている様子が、マイクに集音される、ため息と環境音から聞いて取れる。

 

……が、次の瞬間。

 

《あっ……!》

「……な?」

 

ガタッ!という、オセロットがせまい車内で立ち上がったとしか思えない環境音がする。

 

そして、

 

《なるほど……。わかった、了解だ。幸運を。》

「ああ。」

 

そういって、オセロットは通信を切った。

 

 

 

 

そんなまさにその時、シノンのアパートに、キリトが到着したのだった。

 

 

「朝田さん!朝田サン!アサダサン!」

 

押し倒し、上に被さった上で、まるで呪文のように彼女の名前を唱える新川の狂気の沙汰に、詩乃は恐怖を覚える。

 

 

やっぱり。

 

 

そう言わんばかりに、詩乃は「あの彼」との会話を思い出す。

 

死銃の仲間が、自分の部屋にいるかもしれない。

あの戦闘中、無防備に寝ている自分を殺そうとしているのかもしれない。

 

そしてその死銃の仲間は、たとえBOBが終わって、現実に帰ってきても詩乃の部屋にいるかもしれない。

 

そんな予測を立てて、部屋の中を捜索してみたが、誰もいなかった。

 

そりゃそうだ。

死銃に殺られてもないのに、ましてや現実に帰ってきたのに、いるわけがないのだ。

 

そこで気を抜いたがために。

 

「知り合いだ」、そんな先入観のせいで、その「死銃の仲間」を、おそらく()()招き入れてしまった。

 

全く、なんの疑いもせず。

 

「や、やめ……て……!!」

 

あまりの恐怖に、そして後悔に、そう言って詩乃がゆっくり目を閉じる。

 

するとその時。

 

バリィン!

ガチャッ!

「「シノンから離れろ!」」

 

()()()()()が、一方は玄関のドアから、もう一方は、玄関の反対側にあるガラス窓から、飛び込んできた。

 

「え……?」

ゴッ!

 

詩乃がその音にビクッとした時。

 

新川の顔が、玄関のドアからはいってきた、()()少年に膝蹴りされる。

 

ガッ!

 

そして新川がよろけた瞬間、窓から入ってきた、()()()()()の少年に、後ろ膝を蹴られて倒された。

 

「がはっ……!」

バタン!

「……」

「ぐ……うぁぁぁ!」

 

すぐさま、倒れた新川が、立ち上がりざまに眼帯マスクの少年に殴り掛かる。

 

……が。

 

ドカッ!

「がはっ!」

 

まるで大人と子供のように、新川が窓側へと投げ飛ばされた。

 

それも、殴りかかってきた右手を掴み、背負うようにして、軽々と。

 

「……!」

 

その洗練された動きに、詩乃は目を見開く。

 

するとその時。

 

「け……怪我はないか?」

 

詩乃の後ろから、やさしい声が聞こえてきた。

 

「あ、あなた……!」

 

咄嗟に振り返った詩乃はその時、その少年の雰囲気から、何かに気づく。

BOBで共闘した、あの面影とその少年がぼんやりと重なり、一致する。

 

「まさか……!」

「……!」

「キ……キリト!?」

「お、おう……」

 

その結果、あまりの驚きに、思わず名前を叫んでしまった。

 

それもそのはず。

シノン、つまり詩乃は、向こうの世界で「こなくてもいい」と言ったのだ。

 

なのになぜ……と、詩乃は一瞬思考する。

 

するとその時……

 

「僕の……」

「……!」

「僕の朝田さんに触るなぁ!」

「あっ……!」

 

新川が、よろよろと立ち上がって絶叫し、さっき新川を投げ飛ばした少年に殴りかかった。

 

それを、絶叫につられて振り返って見た詩乃は、完全に思考が止まり、絶句する。

 

……が。

 

「……シノンを頼む。キリト。」

「え?お、おう。」

「……?」

 

その殴りかかられかけてている少年は、ふいっと振り返り、和人に余裕綽々に声をかけた。

 

なぜか和人は、予想もしていなかったらしく、少し慌て気味に返事をしたが。

 

詩乃は、少なからずそんな対応に疑問を持つ。

 

全く同じタイミングで飛び込んできたくせに、何故そんな疑問形なのか。

 

それに、なぜその声をかけるのがこのタイミングなのか。

本来なら、まずは防御が先決のはずだ。

 

だが、そんなことを考える暇などなかった。

 

「……ふん。」

ドスドスッ!

「がっ……!?」

「せいっ!」

バキッ!!

 

その少年が、あっさりと新川の攻撃を避け、右横腹、左胸、そして右頬を殴打したからだ。

 

そんな()()()コンビネーションアタックをもろとも受けた新川は、為す術もなく倒れ込む。

 

「……」

「ぐっ……!クソがぁ……!」

 

そして新川は、倒れたそのまま、黙って見下ろしているその少年を見上げた。

 

「だいたい……!誰だおまえ!!」

「単なる……傭兵まがいの学生だが?」

「傭兵ィ……?はぁ!?意味わかんねーよ!!」

 

傭兵まがいという言葉に、詩乃ははっと息をのむ。

そんなことを言うのは、「あの彼」しかないからだ。

 

だが、そんな詩乃など目に入らず、詩乃の思考を打ち消すかのように、新川は、じれったくなったのか発狂しだす。

 

「ううう……ああああ!!!殺してやる!お前ら全員、殺してやるううううう!!!」

「殺す?」

「そうだよ……お前なんか、お前なんかなぁ!」

「はぁ……いいか?よく聞けクソ野郎。」

「な!?……っ!!」

 

その少年が、発狂する新川に口を挟み、ギロりと睨む。

新川は、あまりの眼力に怯んで絶句する。

 

するとその少年は、倒れた新川を指さし、

 

 

 

 

 

「お前に、俺は、殺せない。」

 

 

 

 

 

そう、言い放った。

 

「な……なに!?なんだと!?もう一度……!」

 

新川は、怯みつつも抵抗する。

……が、その少年はまた口を挟んで、

 

「それにな?」

「な……!」

「後ろの彼女は()()()()じゃない。」

「……!」

「あの二人は、()()()()()()狙撃手(スナイパー)剣士(ナイト)なんでね。」

「な……!」

「そんな簡単に、やすやすと手を出してもらっては……」

「……!」

「困る。」

「ぐ……!」

 

そしてまた、ギロりと睨んだのであろう。

新川は、相変わらず倒れ込んだまま、怯む。

 

その場に沈黙が訪れた、その時。

 

「ね、ねえ、あなた……!」

 

突然、詩乃が、後ろからその少年に声をかけた。

 

その少年はもちろん、新川も、ピクリとその声に反応する。

 

「も、もしかして……!」

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 

そして、詩乃が問いかけようとした時。

 

新川が、隙を狙ったかのように、立ち上がってまたその少年に殴りかかった。

 

今度は、手に何か、「白いもの」を持って。

 

「あっ……!!」

「おい……!!」

 

それに気づいたのか、詩乃と和人が声を上げる。

 

……が。

 

「甘い。」

バシン

「な……!!??」

グイッ……ギリッ!

「が……!!がはっ……!」

 

その白いものは、その少年の体にあたる直前に叩き落され、そしてそのまま、流れるように新川は、その手を掴んで羽交締めを決められた。

 

「ぐ……!!」

「……それがおまえの「黒星」か。」

「……!!う、うるさい……!」

 

羽交締めをしながら、淡々と質問するその少年。

もちろんのこと、新川は何も答える気などないようだった。

 

すると、その少年はひとつため息をついて……

 

「はあ……分かった。」

「……!」

「今すぐ、知っていることをすべて、」

「……!!」

 

「吐け。」

 

「……!」

 

羽交締めをしながら、新川に尋問し始めた。

 

詩乃と和人は、その()()姿()を、見守るしかない。

 

「仲間は……どこだ?」

「お前になんか……!お前になんか、教えるものか!」

 

新川の、必死の抵抗が部屋に響く。

そして、そんな声を境に、沈黙が訪れる。

 

「吐かないんだな。」

「お、お前なんかに……」

「……」

ギチ…

「ぐっ!」

 

声がすると言っても、この程度。

 

そしてその後、約5分たち……

 

「そうか。分かった。」

「……?」

 

その少年の、一際大きな、そして半ば諦めの感情が混じった声が沈黙を破る。

 

 

 

「残念だ。」

 

 

 

そしてその少年がそう呟いたその直後。

 

ギチギチギチ!

「ングッ……!!」

 

今度はある意味「グロい」音が、部屋に響く。

 

「これが、()()()()()()というものだ。」

「ア……アガ……!!」

()()()()()()で懺悔するといい。」

「や……!やめ……ろ……!!」

 

その少年はそれでも、淡々と声を出す。

 

そんな音と状況に耐えかねず、詩乃が声を上げようとしたその時。

 

「も、もうやめ……!!」

バタン!

 

()()()()()新川が、音を立てて倒れた。

 

詩乃は、それを見て恐怖する。

和人も例外ではなく、その光景を凝視していた。

 

二人の脳裏に、さっきの少年の言葉が蘇る。

 

『これが、()()()()()()というものだ。』

()()()()()()で懺悔するといい。』

 

そして、無力に倒れる新川。

ピクリとも動かないその体。

 

 

 

…………『殺した』。

 

 

 

詩乃と和人はそう悟り、息をのみ硬直する。

 

目の前の光景を凝視し、動かなかった。

正確には、「()()()()()()」。

 

目の前に()()()、「人間の命」。

 

和人は「あの時」の、()()()()()、光の粒子を、

詩乃は「あの時」の、()()()()()()、紅の液体を、

 

それぞれ瞬時に思い出し、完全に思考が停止していた。

 

「「っ………!!!」」

 

姿勢すら変えず、視線も逸らさず、二人は倒れた新川を凝視し続ける。

 

……が、するとその時。

 

 

 

「なーんて……ね?」

 

 

 

さっきとは一転。

小さい子供のようなトーンの、そして「あの彼」のによく似た、()()()な声が、部屋に響いた。

 

「「へ?」」

 

虚をつかれた二人の、マヌケな声も、その後に。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

ついに!始まりましたね!アニメGGO!
え?間に合わなかった?
ナンノハナシカナ-(;・3・)~♪ 

ちなみに、死銃編はまだちょーっとだけ、続きますよ!

ではまた!よろしくお願いします。

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Episode51 幕引き 〜Curtain〜

「いやぁ、二人ともお疲れ様!」

「は、はあ……ありがとう……ございます?」

「おい……シノンがこまってるぞ。」

 

そんな会話が聞こえる、都内のとある高級レストラン。

 

対面式の6人がけの席で片方に菊岡が、それに対してもう片方に詩乃と和人が並んで座り、向かい合っている。

 

菊岡はいつものように微笑んで、まずは……と言わんばかりの前置きを繰り出していた。

 

「君たちはよく頑張ってくれた。本当にありがとう。」

「い……いえ、私は何も……」

 

そんな、菊岡の優しい言葉に謙遜する詩乃。

 

そこには、「ただ仕事をしただけ」という、自制心があった。

あるいは、ボスなら……という、どこか憧れのような感情からかもしれない。

 

「なーに言ってるんだ。シノンがいなきゃ、あいつは倒せなかった。」

「そ、そんな……」

 

そんな彼女を見て、今度は和人が声を掛ける。

 

ただ、その言葉は単なる気遣いからだけではなかった。

 

あの時、近接戦闘に発展し、膠着していたあの瞬間。

もしシノンからの、あの「援護」なければ、死銃の懐に斬り込めなかった。

それに、心強い味方でいてくれた「彼ら」の元へ、()()()()()()()導いてくれたのも、詩乃だ。

 

そこから、どこか「感謝」に似た感情が、今でも和人には常にある。

 

「……そ、そんなことよりも!」

「?」

 

すると詩乃は、気恥しい気持ちからか、雰囲気を変えようと話を変える。

 

「し……!新川君は……いえ、恭二君は、どうなるんですか?」

「……!」

「やっぱり、少年院……とか?」

 

勢いよく切り出したはいいものの、話の内容からか、みるみるその勢いは衰え、詩乃は一転してどこか恐る恐る菊岡に聞く。

すると菊岡は、すこし考えるような仕草を見せ、ゆっくりと息を吐く。

 

その後で、ゆっくりと話し出した。

 

「そう……だね。おそらく恭二君達……いや、新川兄弟は、()()少年院に収容される可能性が高いと思うよ。」

()()……少年院?」

 

そんな菊岡の答えに、少し疑問を持つ詩乃。

 

何故、単なる「少年院」ならともかく、「()()少年院」なのか。

確かに、あの少年……()()()()()の少年に、過剰と言えるほどボコボコにはされていたが、あの後あの少年は、

 

「なーんてね。……やだなぁ!殺すわけないじゃないですか!失神させただけですよ!」

 

なんて言って、

 

「そいじゃーまたね!シノンさん!キリトくん!」

 

……とか言いながら、颯爽と窓から消えていった。

 

そもそもあの少年はいったい誰なのかも気になる。

まあ……あらかた予想はついているが。

 

とにかく、そんなことよりも、流石に自分が殺っておいて死体を置いていくわけがないし、だいたい、あんな簡単に人を殺れる人間などそういない。

 

そんな様々な疑問と思考が詩乃の顔に現れたのか、菊岡はまた、話し出す。

 

「そう。恭二君の兄、昌一君は、取り調べに対して、「死銃事件はゲームだ」なんて言ってるし……まあ、「医療」というよりは「矯正」かな。」

「……」

「彼らは二人とも、()()というものを持っていないわけだし……ね?そういう意味での、矯せ……」

「それは……違うと思います。」

「い?ん?……というと?」

 

その時、詩乃が、いきなり菊岡の話途中に言葉を挟む。

 

「恭二君……彼はきっと、GGOの中だけが真の現実と決めていたんだと思います。」

「ほう……。」

「私に襲いかかってきたあの時、恭二君は、「ゼクシード」ってプレイヤーにすべてを壊された……なんて言ってましたし……」

「なるほど……ね。」

 

そう言って、俯く詩乃。

信頼していた友達に、殺されそうになった恐怖が蘇る。

 

そんな彼女を見て、その感情を察したのか、菊岡と和人がまた声をかけようとしたその時。

 

「まあ……」「詩乃……」

「だから!!」

「「!」」

「だから……!その……、私は、恭二君に会って、自分が今まで何を考えてきたか、今何を考えているのか話そうと思います。」

「……!」

 

さっきの表情とはとは一転、明確な意思を持って、真っ直ぐな眼差しではっきりとそう口にする詩乃。

 

そんな彼女の眼差しは、どこか「あの彼」に似ていた。

 

「……ふふ、詩乃……いえ、シノンさん。」

「はい……?」

 

そんな眼差しを受け、ふっと息をつき、微笑んで詩乃を見る菊岡。

 

「あなたは強い人だ。是非、そうしてください。」

「……!ありがとうございます。」

「手配は済み次第、連絡するから、少し時間をもらうよ?」

「はい……!よろしくお願いします。」

 

そこまで話して、今度は詩乃がふっと息をつき、気が抜けたのか、表情が柔らかくなる。

 

すると、そんな顔を見て、菊岡が冗談交じりで不意に()()()()を呟いた。

 

「……ふふ、流石、()()に認められただけはあるね。」

「あっ……!」

「え……?今、なんて……!!」

 

すると今度は、キリトが口を挟む。

 

そして先程の詩乃のように、恐る恐る、菊岡に質問した。

 

「今言った、()()って、まさか……?」

「……そうだよ?ビッグ・ボスたちさ。」

「な……!ってかどういう事だ!?」

「その……!ごっ……!ごめん!キリト……!言おうと思ってたんだけど……その……!」

「……なるほどね。そういうことかよ……!!」

 

呆れたようにため息をつく和人。

 

実は彼は、前々から疑問だったのだ。

 

「なぜ、()()()()をしでかしたのにも関わらず、シノンはずっと、助けてくれたのか。」

 

……が。

 

死銃と戦う傍ら、むしろ戦っている時だからこそ、その疑問は時間が経つにつれ、和人の胸の中で膨れ上がっていた。

それと同時に、内心で、ただやさしさだけではない()()が、シノンにはあると……。

そしてそれが、シノンが自分を助けてくれている動機であると、踏んでいたのだ。

 

そして今、その()()が、()()によるものだと理解し、納得する。

というより、ストンと腑に落ちた。

 

そこから和人は、詳しくは追求しなかった。

詳しくは知らなくとも、それだけ分かれば十分だからだ。

 

その代わり、

 

「どおりでやたら強いなと思ったよ……」

「そ、それは!私の実力よ!」

 

そんな、あえて「ふざけた事」を和人は抜かす。

それを聞いて、詩乃はきっ!と和人を睨む。

 

「はは、若々しくて、仲がいいねえ、おふたりさんは。」

 

そんな彼らを見て、菊岡はまた微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

……こうして、死銃事件は幕を下ろしたのである。

 

 

「……さて、そろそろ、時間だね。」

「「……!」」

 

その後しばらく食事を交えつつ雑談を交わし、楽しい時間を過ごした三人。

 

その時間の終わりを菊岡がつけ、立ち上がった時。

 

「あ……そうだ。」

「……?」

「忘れてたよ。和人くん。」

「俺……か?俺になにか?」

 

これもまた菊岡が、どこか()()()()()()何かを思い出す。

 

そして、スーツの中に手を入れ、何やらごそごそと動かして、

 

「そう。君に、さ。」

 

そう言って、1枚の丁寧に折り畳まれた紙を出した。

 

「……!なんだ?それは。」

 

当然のごとく、和人は疑問に思う。

 

すると菊岡は、少し目を細め笑うと、まさかと思うようなことをさらりと口にした。

 

「伝言……だ。」

「伝言……?」

「そう。君に宛てた、()()からの伝言。」

「……!!」

 

和人は唖然とする。

ついでに言えば、詩乃もぽかんとしている。

 

()()と言えば、そう。ビッグ・ボス達だ。

 

詩乃でさえ、彼らが伝言をしてくるなど全く思ってなかったのだ。

和人なんて、もってのほかである。

 

「読んでも……いいかい?」

 

するとそんな彼らへ、菊岡はそう尋ねる。

 

二人は、はっと我に返ると、

 

「あ……!ああ。読んでくれ……。」

 

その二人のうち、もちろん、宛てられた本人である和人が、菊岡を促す。

 

そして、菊岡のものではない、()()()()()()調()の言葉が、菊岡の口から淡々と、和人達二人に向かって放たれた。

 

「ゴホン!……では……

『やあ!キリトくん。お疲れ様。そしてありがとう。君は立派に役目を果たしてくれた。心より感謝する。

 

……さて。短いけれど前置きはこのくらいにして、さっさと本題に入ろう。

今回、菊岡さんに、こんな伝言をお願いした理由は、きっと分かっているよね。

そう。当然、「君が、僕らの一員になるのかどうか。」さ。

 

今きっと君の隣に座っているであろうシノンさん、つまり詩乃さんは、知ってると思うけど、既に僕らの仲間として、活動してくれている。

彼女もまた、「君を守る」という仕事をしっかりと果たしてくれた。

 

まあ……お世話になっちゃってた部分もあったけど、それはお互い様としよう。

 

……君の()()()()()()()も、含めてね。

 

えっとそれで、話を戻して……

君が僕らの一員になってくれれば、もちろん嬉しい。

大きな戦力になり得るし、なにより心強いからね。

 

……でもね、君はもう居場所がある。

アスナさんたちのところさ。

 

だから、無理にとは言わない。

 

君が、君自身のことを考えて、君のために決断を下してほしい。

 

僕らはどちらでも構わないよ。

いつでもいいし、いつまでも待ってるから、返事をちょうだいね。

 

それと、こんなこと言ってるけど、君はもう既に僕らの「仲間」であることは変わりない。

 

もし「一員」にならなくても、いつでもいらっしゃい。

 

僕らはいつでも歓迎しよう。

 

 

 

リボル、コードネーム:オセロットより。

 

また会おう!』

……以上だ。」

 

菊岡の、伝言の朗読が終わり、場の空気がしん……と静まり返る。

 

そして、

 

「……分かった。確かに受け取ったよ。」

 

和人がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

……そしてこの()()も、幕を下ろしたのである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やーっと死銃編が終わった?
まだだ、まだ終わらんよ!!!(`✧ω✧´)ピカァ

もー少し、(てか結構、)続きます!
お楽しみに!

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|ω・)チラァ


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Episode52 休息 〜Rest〜

「なあ……シノン?」

「?」

「この後、時間あるか?」

「な……!」

 

菊岡との会談を終え、レストランをでた二人。

 

和人のいきなりの質問に、詩乃は驚きつつ歩道を歩く。

 

「べ、別に……今は特にないわ。」

「そうか、じゃあ……!」

「あっ!でも、夜には、GGOに行くつもり。」

「……分かった。その、実はさ、少し……付き合ってほしい場所があって……!!」

「……?いい……けど。」

 

詩乃の答えを聞いた和人は、すこし頬を赤らめつつ彼女をどこかへ誘う。

 

詩乃はそんな和人の仕草を少し疑問に思いつつも承諾し、二人はヘルメットを被ってバイクに跨る。

 

そして……

 

ブォン……!!ブォンブォン……!!!!

 

エンジンをふかしながら、すぐに街の中へと消えていった。

 

 

同時刻。

GGO内、店主の店で、店主とタスクは、カウンターに向かい合って座り、だべっていた。

 

死銃事件が終わり、緊張が解けたのか、二人の顔にはなんの陰りもない。

 

いくら彼らといえど、人間である。

心の休息は不可欠なのだ。

 

「ふふ……やっぱり、シノンさんは真面目だったねぇ〜!」

 

すると店主が、だべりの中で、そんな言葉を漏らす。

タスクはもちろん、疑問を持った。

 

「やっぱり?前々から知っていたでしょう?」

「……いや、ね?実はさ。」

 

首を傾げるタスクに、店主は種明かしをするようにニヤリと笑う。

 

「僕ね、シノンさんに、キリトくんが菊岡さんに送り込まれたプレイヤーだって、教えてないんだよ。」

「はいぃ!?」

 

タスクは反射的に立ち上がる。

 

店主がシノンに、BOB参加の仕事を斡旋したのはもちろん知っている。

その理由も、「ボスへの報告」という形で聞いていて、把握していた。

 

だが、それを知っているから、むしろだからこそ、分かるのだ。

今店主の言ったことが、とてつもなく頓珍漢であり、本末転倒なことが。

 

しかし、よくよく考えてみれば、シノンもシノンで、しっかり仕事をこなしていた。

 

矛盾に矛盾が重なり、訳が分からなくなる。

 

すると、店主が、

 

「と、言うのもね?」

「……はい。」

 

ニコニコしながら、話し出した。

 

「僕さ、実はシノンさんに、BOBを楽しんでほしいと思って、あの仕事を斡旋したんだ。彼女、過去のことを掘り返しちゃって、少し気分が落ちてたから……」

「あ、ああ……」

「そしたら、バッチリのタイミングで死銃事件が発生しちゃってね。」

「……まあ、彼らも合わせてきましたからね。」

「それでね?一応と思ってあういう依頼をしたんだよ。」

「……」

「……けどさ。」

「さ?」

「よくよく考えてみれば、これって僕らが表から手を出しちゃってるじゃない?」

「まあ……たしかに。」

「それはまずい。菊岡さんに怒られちゃうからね。だから、キリトくんがそのプレイヤーであることはあえて言わなかったの。これで一件落着。」

「……」

「まあでも、結局、何らかの形で気づいたんだろうね。しっかりと仕事をこなしてくれた。だから、真面目だなぁと。……ね?」

「……ブチッ」

「……ね?た、タスク君……!!」

 

そこまで話して、店主は何かをタスクから感じる。

 

……そう、それは、「タスクの怒り」であった。

 

「店主さぁん……?」

「ひっ……!!」

「なにが……ねっ!なんですかねぇ……?」

「い、い、いや、そのあの……!!」

「なぁに店主さんの優柔不断にシノンさんを巻き込んでるんですか!」

「ひいいい!!」

「全くもう、可哀想でしょう!?」

「は、はいっ!」

「すべて、今聞いたこと、洗いざらい、ぜーんぶシノンさんに話しますからね。」

「ええ!?そ、それはどうか……!!こんなこと言ったら、シノンさんはきっと……!」

「ダメです!僕がいくら言ってもこれですからね。たまにはこってり他の人に、というより、被害者に絞られてください!」

「……ひ、ひーん!」

「嘘泣きしたってダメです。」

「はいっ。」

 

ぷい!と、そっぽを向くタスク。

やらかした……と言わんばかりに沈む店主。

 

二人の間に、重苦しい雰囲気が漂いだす。

 

……と思われた、その時。

 

「まあでも、こんだけ言うって事は、タスクくんもシノンさんのこと、思ってるんだよね……」

 

そんなことを、店主は机に伏せながら、小声でぼそりと呟いた。

 

するとその時、タスクの頬がみるみる赤くなる。

 

「〜…!!」

「青春だね〜……ふふふ!」

ガタッ!

 

そしてタスクはいきなり立ち上がると、無言で射撃演習場へと走って行った。

 

「慣れてないなぁ、タスク君。」

 

そんな背中を、おかき上がって見た店主は、そう呟いて微笑んだ。

 

するとその時。

 

ガチャリ…カランカラーン!

「……!」

 

店の扉が開き、扉についたベルが来客を告げる。

 

そして、

 

「やっほー!!店しゅー、息してるー?」

 

妙にハイテンションな声が響き、

 

「……ちーす。」

 

妙に沈んだトーンの声があとからやってきた。

 

もちろん店主は対応する。

 

「はーい!いらっしゃい!」

「やほー!」

 

 

「ウォッカさんとフォートレスさん!」

 

 

と。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっとです。(笑)
大変、お待たせ致しました。

新キャラの登場です!

……と言っても、名前だけですけどね。
‪ちなみにこのキャラのどちらかは、今後「とあるネタ」の要員になります。‬‪お楽しみに!‬

今後とも、よろしくお願いします。

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Episode53 報酬 〜Compensation〜

「……!」

 

シノンは、だんだん現実味を帯びてくる体の感覚を感じつつ、ゆっくりと目を開ける。

 

キリトに誘われて行った先で会った、()()()()

娘の無邪気な笑顔と、「ありがとう」というあの言葉。

 

どちらも、別れて家に帰り、GGOに来た今でも、鮮明に頭に残っている。

 

「……がんばらなきゃな。」

 

それをまた思い出し、手を握りしめるシノン。

 

PTSD(トラウマ)が治った訳では無い。

でも、自分がそれを背負ったことで、救えた人達がいる。

 

その事実を、「わかっている」だけでなく、きちんと「知っている」状態になったということは、彼女の中で、大きな精神的(メンタル)優位性(アドバンテージ)になった。

 

「さて……と。」

 

そうして彼女は()()、歩き出す。

 

この世界を、間接的には、現実の世界の平和を、守る為に。

 

 

ガチャリ……カランカラーン……

「いらっしゃいませー!」

 

シノンが店の扉を開けると、いつものごとく店主の声が聞こえる。

 

そんな声を聞きつつ、棚の間を抜け、カウンターまで歩いていくと……

 

「……おや、シノンさん!こんにちは。」

「はは……どうも。」

 

店主はシノンを見ると、挨拶をする。

 

すると。

 

「お待たせ。」

「……!」

「できてるよ。」

 

店主は、何か意味ありげに微笑んで、シノンを見た。

 

シノンもシノンで、その笑みの意味は理解している。

 

そして……

 

「……はい。」

ガシャッ

「……!!」

 

店主は、カウンターの下から、「()()()()」をだし、置いた。

 

槍のように突き出したバレルと、その先についた少し大きめのマズルブレーキ。

比較的スリムな金属製のボディと、アクセントのように目を引く木製のグリップとストック。

そして、その上に鎮座する大きなスコープ。

 

もうお分かりだろう。

 

そう、シノンの愛銃、「ウルティマラティオ ヘカートII」である。

 

「あ、ありがとうございます……!!」

「いえいえ。それだけの事をしてくれたから、お返ししたまでさ。」

 

シノンは少し高揚しつつ、店主に感謝の言葉を言う。

 

使い慣れた愛銃が、ほぼ新品同様になるのは、誰だって嬉しくなるだろう。

 

「〜♪」

 

シノンは、珍しく鼻歌を歌いながら、ヘカートIIを手に取って撫でる。

 

実はシノンは、BOBでの死銃戦の際、死銃に、スコープを撃ち抜かれていた。

 

逆を言えば、スコープのおかげでヘッドショット即死判定を免れたのだが……

その対価だろうか、スコープは愚か、()()()へのダメージは大きかった。

 

なぜならば、スコープが撃ち抜かれた時、精密さを求めて、誤差のないようガッチリと固定されていたレールが、その固定の強さが仇になり、引き上げられるように破損してしまったからだ。

 

それにより、フレームに、シリンダーにと衝撃が伝わり、全体のバランスが崩れてしまった。

ネジというネジが折れて歪んで、パーツというパーツが使い物にならないほど形が崩れてしまったのだ。

 

そこで、シノンが店主に修理を依頼。

店主はもちろん快諾し、任務の報酬も兼ねて、()()で修理を行ったのである。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

するとその時、シノンが、ヘカートIIの()()()に気づく。

 

店主は、そんなシノンを見て、ふふふと微笑んだ。

 

「これって……?」

「ああ。少しいじらせてもらったよ。」

 

そう言って、店主はヘカートIIへ目線を落とす。

それにつられて、シノンもヘカートIIへ目線を戻した。

 

そう、実は店主は、修理だけではなく、()()()()()()()()()()()もしていたのだ。

これに関しては、店主と()()()の独断によるものだが。

 

「どうりで、なんか重たいなと……!」

「ふふ、ごめんね……?」

「い、いえ!むしろありがたいです……!」

「そう……?よかった!」

 

店主は、シノンの明るい顔にほっとする。

 

ヘカートIIには、基本パーツの交換はもちろん、カスタムパーツの組み込みや、付属パーツの取り付けがなされていた。

 

コッキング速度、ゆくゆくは速射力増強に繋がる、ストレートプルボルト。

遠近両方に対応できるように、スコープの前のレールに取り付けられた、斜めにせり出すオフセットアイアンサイト。

その他、後付けサイドレールを装着し、レーザーポインターや、弾道計算装置が取り付けられていた。

 

後付けサイドレールは、シノン好みのパーツがつけられるように2〜3本程度、空きが作られてある。

 

もちろんこれだけではなく、ほぼすべてのパーツが入念に吟味され、カスタム化されていた。

 

セーフティーレバーやトリガーに至るまで、どこのどんなパーツも、研磨し噛み合わせをタイトにして、精度を上げる程に。

 

「すごい……!本当に、ありがとうございます……!」

 

それを、使い手だからか一瞬で察したシノンは、頭を下げて礼を言う。

 

……が。

 

「いやいや、だからね?」

「……!」

「僕は、君の仕事の対価にそれをしただけだ。礼を言われるようなことはしてないよ。」

「そ、そんな……!」

 

少し謙遜も含み、店主は微笑みながら固く礼を拒む。

 

それを受けたシノンは少し、むしろ残念そうに口を噤んでしまった。

すると、それを見た店主が、

 

「ふふ……まあでも、そこまで礼を言いたいなら、タスク君に言ってあげて。」

「……え?」

「彼も彼で、()()()()()とは言わないけど、そのヘカートIIの修理・改良に貢献してくれたからね。」

「……!」

 

シノンが目を丸くし、そして少し、頬を赤らめる。

 

「むしろ、礼を言うなら、そっちが()かな。是非、言ってあげてほしい。」

「……わ、わかりました。」

「うん。……よろこんでくれてよかったよ。」

 

そう言って、店主はそそくさとレジに戻り、来客を待つ姿勢に戻る。

 

……が、店主は見逃していなかった。

シノンの、頬の紅潮を。

 

「やっぱり、青春だねぇ……」

 

そんなことを呟いて、微笑む店主。

 

だがもちろん、本人であるシノンには、その呟きは聞こえていなかった。

 

 

そして、しばらくした後。

 

ガチャ…

「やっほー!シノノン!息してるー?」

「へ!え!?はい!?……きゃっ!」

 

ヘカートIIを眺めたり、触ったりしていたシノンに、射撃演習場から一人のプレイヤーが飛び出してきて、そのまま飛びついてきた。

 

「いやー!近くで見てもやっぱかわいいね!どれどれ……」

 

するとそのプレイヤーは、そんなことを言って、シノンの体の至る所を触り始め、

 

「ひ……!きゃんっ……!」

 

シノンが、店主ですら聞いたことないような悲鳴をあげる。

 

……すると、次の瞬間。

 

ゴンッ!

「あいだぁ!」

 

そのプレイヤーの後頭部が赤く光った。

 

「すまんな。うちのアホが……」

「い……いえ……」

 

あまりの衝撃にそのプレイヤーは、ゆっくりと倒れていく。

 

その後ろにいつの間にか立っていて、拳に赤いエフェクトが煌めくプレイヤーが詫びを入れる。

 

想像には難くない。

シノンにある意味「痴漢」をしていたプレイヤーが、その後ろに立つプレイヤーに後頭部を殴られたのだ。

 

そんな()日常的な光景を眺めていると、シノンはふいに、()()()()に気づく。

 

「……あっ!!

「……?」

「もしかして、あなた達は……!」

「……ああ。」

 

そう言って、シノンは彼らの面影に見入る。

 

「あの時、ウインクしていったあの……!」

 

そう。彼らは、BOB予選の時に、すれ違いざまにウインクしていった二人のプレイヤーだったのだ。

 

 

 

 

 

「……久しぶり……だな。」

 

フードを目深くかぶったプレイヤーは、そう言葉を発することで、肯定を示した。




次回!
死銃編【最終回】

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Episode54 紹介 〜Introduction〜

「えー、ごほん。では、改めまして。」

「改めてって……お前が荒らしたんだろう?」

「う、うるさいわね!」

「は、はは……」

 

そんな、()()()()()での仲のよい会話が響く店主の店。

 

シノンと、その仲のいいプレイヤー二人は、カウンターの後ろにある対面式の席に座り、文字通り向かい合って座っていた。

 

「とっ……!!とりあえず!」

 

と、場を改めるように、そのプレイヤーは、また声を上げる。

そんな声に、シノンは半ば気圧されつつ強引に頷いて、その先を促した。

 

それを見た二人の内、最初に、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、バラクラバをし、軍用セミフェイスヘルメットを被った、短い金髪のキャラクターが自己紹介をする。

 

「はじめまして。私の名前は「シャルル」。コードネームは「ウォッカ」よ。」

「ウォッカ……さん。」

「うん!気軽にどうとでも呼んでよ!」

「は、はい。よろしくお願いします。」

「こちらこそ!でね、私の仕事は主に、偵察。」

「て、偵察……!」

「ま、私は前線に潜り込むほうだけどね。でも大体はシノノンと一緒よ?」

「……!」

「だからよろしくね!狙撃支援、頼りにしてる!」

 

そう言ってウォッカは、いつかしたようなウインクをする。

 

「……!」

 

シノンは内心、ウォッカのその言葉に、自然と心が温かくなっていた。

 

狙撃手(スナイパー)は、地域によって多少違うが、大多数は「偵察兵」と呼称される。

 

なにも、敵の内部に潜り込んで情報を盗み取る事だけが「偵察」ではなく、味方の()()()()を、味方の()()()()から見渡しているだけでも、立派な「偵察」として成り立つのである。

 

結果、やり方はどちらでも、偵察があるのと無いのとでは作戦行動に大きな差ができるのだ。

 

……ただ、それを理解してくれるプレイヤーはそういない。

 

スナイパー型の偵察スタイルに関しては、一部では「芋」と呼ばれるほど、「役たたず」という認識が強い。

 

対して、ウォッカのような、直接侵入型の偵察スタイルは、むしろ賞賛され、「強者(つわもの)」という、全く正反対の認識がある。

 

これは、必要とされる「技術」の理解されやすさの問題だ。

 

直接侵入型なら、敵に見つからずに進むという()()()()()技術が要求される。

これならば、傍から見てもすごさが伝わりやすい。

 

だが、スナイパー型は、傍から見れば、ただ()()()()()()

当然、恐ろしいレベルの計算力や隠密行動に関する知識と経験が要求されるが、それはほぼ全て()()()()()()ものだ。

 

もちろん、分かる人間にはスナイパー型のすごさも分かるが、それはごく一部。

その結果、結局はスナイパー型の、「芋」という認識は定着してしまっている。

 

そんなことを察している、むしろ知っているから、ウォッカはシノンを気遣って、「自分達は同等だ」と、話してくれたのである。

 

「……今度は、俺か?」

「!」

 

そんなことを考え、少し嬉しい気持ちに浸っていると、そんな声が聞こえてくる。

 

シノンは、慌てて思考を引き戻し、またこくこくと頷いて先を促した。

 

すると、そのプレイヤー、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったキャラクターも、淡々と自己紹介を始める。

 

「……俺の名前は、「トレンチ」。コードネームは、「フォートレス」だ。」

「フォート……レス?」

「そう。フォートレスってのは、英語で「要塞」。つまり俺の担当は、主に防衛戦とかで、罠とかを使って、そこを要塞化する役割。」

「要塞化……!!」

「そう。防衛なら任せろ。」

「な、なるほど……!」

 

目だけしか見えないが、フォートレスは純粋に笑う。

 

外見からか、寡黙なイメージだったフォートレスの、不意打ちの柔和な笑顔に、シノンはまた一段と心が温かくなった。

 

それにつられたからか、つい笑みを返してしまう。

 

「……よろしくな。」

 

フォートレスは、それを察したのかまたニコッと笑って答える。

 

 

 

そして3人は、お互いに見合って笑いあった。

 

 

「……よかった。すっかり仲良くなったね。」

 

レジから聞き耳を立てていた店主は、微笑んで安堵の息をつく。

 

実は店主は、彼らが話し始めた時から、仕事などそっちのけでただひたすら盗み聞きをしていたのだ。

 

まあ、といっても今の時間は、客などいないし来ないし、修理も急用の依頼もない。

 

だから、仕事()()()()のではなく仕事()()()のが正確だ。

 

「ふう……これでやっと、ひと段落かな。」

 

すると店主は、そんなことを呟いて、背もたれに背中を預け、手を頭の後ろに置いて、天井を見上げる。

 

死銃事件もあらかた収束し、菊岡との事後報告だの報酬だの、色々な諸仕事も終わらせた。

 

あと気がかりがあるとすれば、()()()()に関することだが……

 

正直、それは時間の問題だし、店主から言わせてみれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まあ、どうするにせよ……ってやつか。」

 

そう言って、店主は思考にきりをつけ、立ち上がる。

 

そしてそのまま、シノン達の座る席の方に歩きつつ、「なにか仕事でも」と声をかけようとしたその時。

 

ガチャリ……カランカラーン……

「……!いらっしゃいませー!」

 

絶妙なタイミングで、お客さんがやってくる。

……が。

 

「……!!」

 

それは、単なる「客」ではなかった。

 

「おや、キリトくん……!!」

「こ、こんにちは。」

「あはは、いらっしゃい。よく来たね。」

 

そう、やってきたのは、キリトだった。

 

店主はもちろん歓迎する。

菊岡が()()()()をきちんと伝えたかは定かではないが、どちらにせよ歓迎することには変わりないからだ。

 

そんな理屈からか、それともただただキリトがかわいいからか、店主は微笑んでキリトに声をかけようとする。

 

するとその時、キリトが、それを制するかのように声を出した。

 

「今日はどうしたのかな?単なる気休め?それとも……」

「てっ……!店主さん!」

「……!おや、どうしたの?」

 

その声と、その時のキリトの顔から、店主は瞬時に()()()()()()()

 

店主は、キリトの事に関してはSAO時代から、()()()()()()よく知っている。

 

その経験から行けば、彼は仲間になることを拒否することぐらいなら簡単にすっぱりと言える人間だ。

 

だが今回は、顔から察するにそうではないらしい。

 

「……っ!」

 

その証拠のように、キリトは驚くほど緊張した面持ちで、何かを言おうとして、なかなか言い出せないでいる。

かと言って、店主が変に声をかけて、場を乱す訳にはいかないので、微笑んで待つしかない。

 

従って、しばらくの間、二人の間を気まずい沈黙が支配したのだが……

 

「あ、あのっ……!!」

 

やっとの事で、キリトが声を絞り出す。

そして続いて出てきたその言葉は……

 

()()()()、店主の予想の「斜め上」を行くものだった。

 

 

 

「俺と()()()、決闘させてもらえませんか!!!」

「な……!?」

 

 

 

店主は目を見開いて、あからさまに驚く。

 

……ただそれは、その「依頼」についてではない。

では一体何に、あの店主が驚き、目を見張ったのか。

 

それは、キリトが、

 

 

 

 

「なぜ君は、ボスの名前を知っているんだい……!?」

 

 

 

 

()()()」、この名前を知るはずもないからである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやー、長かったですね。
遂に!死銃編、完結です!!

ありがとうございました!
次章はやっと、SJ編……

と、行きたいところですが。

ご覧いただきましたとおり、またキリトくんがなにやらやろうとしておりますので……
もうしばらく、お待ちくだいね。(笑)

では。

ご質問・ご意見は、感想欄または作者Twitterまで↓
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Side Episode#1-1 名案 〜good idea〜 【一周年記念!】

みなさんこんにちは!
いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

今回は、
【「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」一周年記念!!!】
として、『特別編』をお送りしたいと思います!

また、あとがきにて、重大なお知らせを告知します!
ですので最後まで、お付き合いよろしくお願いします。

よろしくお願いします!
では!(∩´。•ω•)⊃ドゾー


「タスクくぅ〜ん……」

「う、うわ〜!」

 

彼らは、カウンターに並んで座り、店主はコーヒー(的な何か)を、タスクはコーラ(的な何か)を揃って啜りつつ、一時の休息を味わっていた。

 

時は、死銃事件解決直後。

シノンはいつもならいる時間だが、「リアルで用事が」と言って、今日はいなかった。

 

ラクスとカチューシャは射撃演習場に引きこもり、何やら訓練を繰り返している。

 

「ちょっ店主さん!なんなんですかいきなり!」

「どぉしよう〜!」

「何がですか!てか重たい!は・な・れ・て!」

「ひぃ〜ん……」

 

そんな中、店主が、タスクに体をもたせかけ、俗に言う「ウザ絡み」をしていた。

 

カウンターの上には、バラバラのウルティマラティオが置いてあり、作業中なのが簡単に伺える。

 

……まあ、実際、作業などこれっぽっちもしていなかったが。

 

「ほら!早くしないとシノンさんきちゃいますよ!」

「うぅ〜ん……分かってるよ?分かってるけどさぁ〜」

「分かってるんですよね!?じゃあやってください?」

「……」

「……なんですか。」

「ひぃぃ〜〜ん!」

「うわあー!重たい!重たいって!」

 

まるで子供のように、項垂れグダり、うねうねと駄々をこねる店主。

 

さんざん見飽きた、または呆れ果てたと言わんばかりに、タスクは上にかぶさってこようとする店主を無慈悲に払い除けた。

 

「も〜!知らないっ!」

「あー!待ってぇー!やるから!やるからぁー!」

 

そしてタスクは、ぷいっと顔をそっぽに向け、スタスタと射撃演習場へと入ろうとする。

 

……が、するとその時、店主がポツリと呟いた言葉が、タスクの足を止めた。

 

「ほんとに困ってるんだよぉ……いろいろとさ。」

「……!!」

「だからその……相談に乗って?タスクくん。」

「はぁ……仕方ないですねぇ。最初からそういえばいいものを。」

「だ、だってぇ……」

 

長年付き合ってきた、店主のどこか申し訳なさをにじませた頼みに、タスクはそれ以上歩を進める事が出来ない。

 

結局、ため息をついたタスクは、元の椅子に座り直した。

そしてそれを横目に、店主は手元のドライバーで、ウルティマラティオを組み立てつつ、ゆっくりと話しだす。

 

「最近さぁ、戦力不足でさ……」

「は、はあ。」

「死銃事件でわちゃわちゃしてても、他に依頼はあるわけでね。新規の依頼は断れても、前々から頼まれてるやつだとなかなか破棄できなくてね……」

 

そんな、店主の話を聞いていたタスクは、そんな店主の言葉に疑問を覚える。

 

「え……前々からって、例えばどんな?」

「期間限定モンスターの討伐とか……かな。リーク情報を元にして、この時期にこのモンスターを討伐してほしいっていう……」

「ああ、それですか。」

 

すとん、と、疑問が腑に落ち解決される。

 

「そう。リーク情報っていう、不確かなものを元にしてるやつとかだと、成功報酬制だと流石に厳しいから、頭金って言うやつはもらってるけど、その……」

 

大型アップデートや、イベントが発生……あるいは発表されると、大体必ず2〜3件はその類の依頼がやってくる。

 

……それも、通常のものとは比べ物にならない破格の報酬金額で。

 

店主が言った通り、情報の不確定性から頭金として、ある一定の額は依頼時に受け取るのだが、それももし成功した際の報酬に比べたら微々たるものだ。

だいたい、そもそもそんなチャンスはなかなか巡って来ない。

 

従って、店主としてはなんとしても成功してもらい、資金を回収したいのだ。

 

……が、最近はその依頼のこなし具合が、少し悪くなっていた。

 

「……僕の配置ミスなのかなぁ。死銃事件が始まったあたりからか、ずっと大変なんだよね。」

「なるほど……」

「なんかいい案ない?結構やばいんだよね。……今更、新メンバーを探し出して育成するのも、恐らく終わった頃には既に手遅れだし……」

「んー……」

 

タスクは、カウンターのどこか一点を見つめつつ、思考に耽る。

店主は、そんな彼を、助けを求めているような目で見つめる。

 

そんな視線などつゆ知らず、タスクはさらに思考を巡らせた。

 

新しくメンバーを入れるのには無理がある。

かと言って、自分たちでどうこうできる訳では無い。

 

ならば答えは簡単だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」のだ。

 

……だがそれは、()()()()()()()()()()()()()()……の話である。

なければ、そもそも話にすらならない。

 

「あの……店主さん。」

「ん?」

 

そこでタスクは、店主にダメ元でその事を聞いてみることにした。

 

なにやら店主は、やたら目を輝かせ、期待するような目を向けてくるが。

 

「店主さん、どこかに、助っ人なりスカウトなり、できる人脈はないんですか?」

「……!」

「新しく育成もできない、かと言って、現状でカバーもできない。……なら、他から引っ張ってくるしかないでしょう?」

 

そう言って、タスクは店主を見る。

 

するとその時。

 

「……」

「店主さん?」

 

「それだ!!」

 

「へ!?」

 

店主が、いきなり大喜びの顔でタスクの肩を掴んだ。

タスクは、いきなりの事でキョドキョドする。

 

「それだ!それだよタスク君!その手があった!」

「い、いや……なりゆきというか……!!」

「いやあ、やっぱり若い子は違うね!視界が広いね!」

「そ、そもそも!人脈あるんですか!?」

「もちろん!ありだよ大ありだよ!なんで気づかなかったんだろう!」

 

そんなことを言いながら、店主は「作業」をまたほっぽりだして、ウィンドウを展開、そして素早く触りだす。

 

そんな店主を見ていると、不意にタスクはふふふと微笑んだ。

 

そして……

 

「良かったですね。店主さん。」

「ああ!ありがとう!」

 

そう呟いて、ニコリと笑った。

 

 

それから、数分後。

 

タスクの「名案」の件も、もちろん、ウルティマラティオの作業も終わらせ、今度こそ本当に、彼らは一時の休息を味わっていた。

 

そんな中、店主がポツポツと、また喋りだす。

 

「はあ……でもほんとに、よかったよ。ありがとう。」

「え?そ、そんなに……ですか?」

 

タスクも、そんな店主の呟きに反応する。

 

「おかげで心が楽になるほどにね。」

「……!ふふ、よかったです。」

 

そして二人は、お互い見合って笑いあい、また、最初のように、だべり始めた。

 

「あ、そういえば……!」

「?」

 

「ふふ……やっぱり、シノンさんは真面目だったねぇ〜!」

 

 

 

 

 

この後、また、タスクに説教を喰らうことなど知りもせず。




改めまして、いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

いかがだったでしょうか?
【「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」一周年記念!!!】
としてお送り致しました、『特別編』!!

え?なんかいつもと違う?
話の内容が分からない?
な、なにしろ、急ピッチで進めましたし、その、今回の内容に関しては、後ほどわかりますので……(笑)
はい。駄文すぎたかも知れません。許してね。
ヽ(*´∀`)ノアハー

……すみません。(笑)



ゴホン。さて、ここからが本題……と言ったところでしょう。

前書きにて告知させていただきました、
「重大発表」をしたいと思います!

……この、「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」が、一周年を迎えました。

その記念、と致しまして!


【『ストーリーダイブ』キャンペーン!】


を実施します!

え?これはなんなのかって?
それは、作者Twitterにて、告知させていただきます!
作者Twitter↓
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl

まだ内容は告知していませんが、今回の話と、キャンペーン名から、予想していただけると思います。(笑)

近日中に公開します!
お楽しみに!

※申し込み受付は終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました。



最後に、読者の皆様へ。

最初の方から読んでくださっている方も。
途中から読んでくださっている方も。
そして、今回から、読んでくださる方も。

本当に、ありがとうございます。
正直、ここまで続けられるとは、また、こんなにもたくさんの方に読んでいただけるとは、思ってもいませんでした。

作品はまだまだ続きますし、僕もまだまだ頑張っていく所存です。

……が、「一周年」という節目を機に、改めて。



「本当に、ありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。」
駆巡 艤宗

では。


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第四章 光と影 〜Light and shadow〜 Episode55 その理由 〜The reason〜

大変、お待たせしました。(笑)
今回から、次章に突入となります!

SJ?この章の次章となります。
プロットは着々と手を進めておりますので、今しばらく、お待ちください。

では、本編をどうぞ。


「まあ……いろいろ聞きたいことはあるけれど。」

「……っ!」

「とりあえず「その理由」を聞こうかな。なんで、タスク君と決闘したいと思ったのかを……ね?」

「そ、それは……!」

 

キリトが、店主もびっくりするような発言をしてから数分後。

 

やたら緊張していた彼を、店主はカウンターへと促し、向かい合って話していた。

 

「そ、その……」

「?」

 

店主の質問に、キリトは俯きつつもポツポツと話し出す。

 

店主もカウンターの反対側で座り、その言葉に耳を傾けた。

 

「き、菊岡やアスナから聞いたんです。」

「……ほう。」

「裏血盟騎士団の事だったり、死銃事件のサポートの事だったり……」

「……」

 

店主は瞬時に、その時のことを思い出す。

 

不安でいっぱいだった()()()の目。

安全を証明をし、安心させた時の()()()の明るくなった顔。

 

店主にとって、彼女らのあの仕草はとても印象に残っているため、まるで昨日のことのように思い出せる。

 

「それで……、その中で、店主さん達は、常に落ち着いて、堂々としていたと聞きました。」

「……!」

 

すると、そう言ってキリトは、とても期待のような感情を込めて、店主を見た。

 

店主はその時、()()()があの時の自分達を彼にどのように話したのか、あらかた予想できて内心苦笑する。

 

……確かに店主達は、彼女らの前では堂々と振る舞おうと心掛けていた。

 

なぜなら彼女らは、「SAO生還者(サバイバー)」であり、それに加えてキリトと親密な関係にあるという、いわば()()()()()の人間。

堂々と振る舞っていなければ、彼女らの不安など到底払拭できない。

そう考えたからだ。

 

……とは言うものの、店主だってBOBは内心ハラハラしながら見ていたし、タスクに関しては平然を保つために、組んでいた腕の裏側で体を一生懸命につねっていた。

 

あの作戦、成功したんだな……と、店主の内心の苦笑は、微笑みに変わる。

キリトは、そんな考えもつゆ知らず、まだまだ黙々と話し続けた。

 

「……それを聞いた時、思ったんです。」

「……?」

「あ、あの……急にですけど、裏血盟騎士団で生き残ったのは、メンバーの約1割だけ……なんですよね?」

「……!」

 

ああ、そんなことも話したっけ、と、店主は回想する。

と同時に、こくりと頷いて肯定した。

 

「ま、まあね。」

「じゃ……じゃあ!」

ガタン!

「……!」

 

するとその時、キリトがカウンターに手をつき、いきなり立ち上がる。

店主は座ったまま、それに合わせて少し体を後ろに倒した。

 

だがキリトは、その仕草など眼中にないように、店主に質問の嵐を浴び始める。

 

「何故、そんな()()()()をしてまで、まだ()()()()()()()()()ことが出来るんですか?」

「……」

「お……俺は、SAOでは強く生きてきたつもりです。でも、アスナや菊岡から聞かされ……いや、()()()()()話は、俺の想像を絶するものでした。」

「……!」

「俺は今でも、あの時を思い出すと怖くなる。戦いから逃げたくなる。でも、店主さんたちは俺より辛い経験をしてるのに、平然と戦い続けている。」

「……!」

「その理由が、知りたい。……そしてその強さを、()()()()してみたいんです。」

「……」

 

そこまで話すと、キリトは我に返ったようにはっとして、そしてまた、力なくまた元の椅子に座り込む。

そしてすべてを出し切ったかのように、脱力して俯いた。

 

「……なるほど。」

 

店主は、そんな彼が座るのを見届けながら、ひとまず……と言わんばかりに相槌を打ち、しばしの思考に浸る。

 

店主は、キリトの言いたいこと、欲しているものは、正直、手に取るように理解出来た。

 

タスクはもちろんだが、彼と同じく店主だって、SAO時代は(裏)前線で戦い続け、そして生き延びた、「1割の精鋭」である。

そんな彼が、キリトの言う強さを()()()()()()()が理解できないわけがないのだ。

 

確かに、「自分より強い人がいる」という話を聞くと、心なしか血が滾り、一度でいいから剣を交えたいと思う気持ちは店主も知っているし、持って()()

 

だが、今は「状況」なるものが違う。

 

「ねえ……キリトくん。」

「はっ……はい?」

 

不意に声をかけられ、キリトは慌てつつも返事する。

 

すると店主は、どこか()()()()ように、質問を繰り出した。

 

「その「決闘」ってさ、」

「……!」

「【ALO】での話、だよね?」

「あっ……!」

「強さを生で体感したい……ってことは、白兵戦がしたいんだよね?」

「そ……そう……です。」

 

言い忘れていたことを思い出したのか、はたまたそれを先読みして指摘されたからなのか、キリトは半ば驚いたような顔をして、店主の言葉を肯定する。

 

すると店主はその反応を見て、「やっぱり」と言わんばかりにをしかめた。

キリトも、そんな店主の反応を見て、顔をしかめる。

 

決闘自体は、別にどうということは無い。

タスクがこの事を了承し、正式な手続きを踏んでくれれば、店主は一向にやってくれて構わない。

 

……が、()()()()()となると話は別だ。

 

というのも、今は「事件後」。

何か大きな事件の後には、それの二次、三次と、最初の事件の余波から、連続して事件が発生するというパターンがあるのは、刑事ドラマを見ていればそれとなくご存知のはずだ。

 

逆に、一気に沈静化するパターンもあるにはある。

だが、それを祈り、先走って次の行動に出てしまうと、前者のパターンになってしまった時にどうしても対応できなくなってしまうのだ。

 

そうならないように、タスク含め店主の店に所属する裏世界プレイヤー達は、現状、GGOのどこで事件が発生しても対応できるように、店主により、いつもよりある程度任務地域をばらつかせられている。

 

……が、前述の通り、()()()()()となると話は別なのだ。

 

それに加え、タスクは裏世界プレイヤー達の「()()」であり、最も強い「()()」でもある。

 

そんな彼が、「コンバート」という手続きを踏まないと移動できない所に行ってしまうとなると……

どうしても、不安が残るのは事実である。

 

まだ、以前のBOBの時のように、事件の発生予測範囲と時間がはっきりと分かっていたら、その時はまあ、できなくもないし、現にその時は店主もろともコンバートした。

 

だが今のように、GGO全体が発生予測範囲である時には、到底そんなこと出来ない。

 

「う〜ん……!」

 

そんな思考をぐるぐる巡らせ、唸り出す店主。

キリトは、そんな店主を見て、「やはり厳しいか」と諦めようとした。

 

……が、するとその時。

 

ガチャリ

「……別に、構いませんよ?」

「「!!」」

 

射撃演習場の扉が開いた瞬間、そんな言葉が飛んできた。

店主とキリトは、はっとしたようにそちらを見る。

 

するとそこには、

 

「やあ!キリト君!この姿では、はじめまして……ですかね?」

「君は……!」

「え?やっぱり信じられませんか?」

「……!」

 

そんな事を言いながらニコニコしている、小柄で中性的な、とても愛らしい少年がいた。

 

キリトは、虚をつかれて言葉が出ない。

そんなキリトを見て、その少年ははふふふと微笑む。

 

「な……!そ……え……?」

 

そしてその少年、もといタスクは、未だキリトが虚をつかれているのをいいことに、改めて自己紹介した。

 

「ふふ……僕の名前は「タスク」。コードネームは、」

「!」

 

 

「「ビッグ・ボス」ですよ!」

 

 

 




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやー、お待たせ致しました。
次章、【光と影】編、堂々始動でございます。

え?SJ?
……そ、その前に、この章を挟まないとこの後の(見せられないよ!)

今後ともよろしくお願いします。(笑)



すみません!
前回登場した新キャラが、某「虹〇S」のなんのオペレーターを組み合わせたのか、すっかり紹介し忘れていました!

……というわけで。

プレイヤーネーム…シャルル
コードネーム…ウォッカ
【IQ】【トゥウィッチ】【ヴァルキリー】

プレイヤーネーム…トレンチ
コードネーム…フォートレス
【カプカン】【キャッスル】【エコー】

です!

今後とも感想をお待ちしております。

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Episode56 聞き耳 〜Listeners〜

「あなたが……?あの……?」

 

キリトは、呆気に取られて言葉に詰まる。

 

いつの間にか後ろに立っていて、その存在を視認した瞬間、ただならぬ威厳のような何かを感じさせた「あの彼」と、

今目の前で無邪気に笑い、威厳など微塵も感じさせない少年の姿は、どうやっても重ならないからだ。

 

だからなのか、キリトは口をパクパクさせながら呆然とタスクを見つめていた。

 

そんな彼を見たタスクは、

 

「ええ!僕が、「ビッグ・ボス」ですよ!」

「……!」

「なんなら、今ここでボスになりしょうか?」

 

なんて冗談事を言いながら、またニカッと可愛い笑みを浮かべる。

 

やっぱり信じられない。と言わんばかりに、またキリトはタスクを凝視した。

まるで、あのビッグ・ボスとの共通点を、ひとつでも探し出そうとするように。

 

すると今度は、そんなキリトの代わりに店主が、タスクに声をかけた。

 

「おや、タスクくん。その様子だと……結構前から聞いていたみたいだけど。」

「もちろん!キリトくんが来るってことは、なにかがおこるってことですからね。」

「はは……まあね。」

 

店主はタスクのキリトに対する酷い言い草に苦笑する。

だが、それは現状を含めあらかた間違ってはないので、店主はあえて苦笑するだけに留めた。

 

そんな中、キリトがやっと、言葉を発する。

 

「ちょ、まっ……あんたがほんとに?」

「あれ……、まだ信じられないですか?なんなら……って言いましたけど、割と本当にボスになった方がいい感じですか?」

「え……いや……」

「?」

 

キリトのぼやっとした物言いに、タスクは首を傾げる。

そしてそのまま、店主の方へと視線を向けた。

 

「……」

「……OK。分かったよ。」

 

すると店主は、タスクそんな視線から、彼の意図していることを察し、タスクに、はたまたキリトに、声かける。

 

「とりあえず落ち着こうか。そこへ座って?タスクくん。」

「はーい。」

 

そして()()()、タスクとキリトと店主の面談が始まった。

 

 

 

……後ろの席に座る、シノン達など目もくれず。

 

 

時は戻って、数分前。

カウンターの向かいにある、対面式の机。

 

そこですっかり意気投合し、笑いあい談笑していたシノン達の目に、「その彼」は入ってきた。

 

……そう、キリトである。

 

「あ……」

 

長い髪に、腰にぶら下げたフォトンソード。

後ろ腰についた「FN Five-seveN」。

 

そんな見慣れた格好の彼に、シノンは咄嗟に声をかけようとする。

 

……が、それは、フォートレスに止められた。

 

「え……?」

「待ってシノンさん。今日のキリトくん、なんか……違う。」

「……!」

 

どこが?……と言おうとして、シノンは咄嗟に口を噤んだ。

 

確かに、キリトの顔がいつも以上に硬くなっているのが分かる。

 

だが、それがなんだというのだ。

 

そんな顔、BOBで幾度となく見てきた。

そこまで何かを予感させるものでは無い気がするが……。

 

「……シノンさん。ここは、気付かないふりをしよう。」

「そうね。それがいいわ。」

「……!」

 

だが、そんなシノンの考えそっちのけで、ウォッカも相槌をうち、椅子に座り直す。

結局、シノンもそれに倣って、キリトのいる方に背を向けるようにして座り直した。

 

「……俺らは君らを、BOBの間ずっと見てきたからな。」

「……!」

 

するとフォートレスは、シノンの押しとどめた疑問に感づいて、あるいは新たな話題として、そんなことを言い出す。

 

「良くも悪くも、彼を知ることが出来た。もちろん、シノンさんもね。」

「……!」

「だからわかる。今のキリトくんは、()()()()()。」

「つまり……ここは店主に任せようってこと!」

「は、はい。」

 

フォートレスが確信したように呟いて、ウォッカが簡潔に話をまとめる。

結局シノンはそれに、頷くことしか出来なかった。

 

そして後ろから、予想通り、店主の声が聞こえてくる。

 

「おや、キリトくん……!!」

「こ、こんにちは。」

「あはは、いらっしゃい。よく来たね。」

 

「さぁて……どうでるかな。」

「ふふふ……」

「……え?」

 

無意識に机を見つめつつ、耳に意識を集中させ、店主達の声に聞き耳を立てていると、不意に今度はシノンの前からそんな言葉が聞こえてくる。

 

不思議に思いそちらを見てみれば、フォートレスとウォッカも、無意識にか、シノンと同じように机を見つめ、耳に意識を集中させていた。

 

「あ、あの……」

 

シノンは、苦笑いでそんな彼らを見る。

するとウォッカが、

 

「しっ!シノンさん!いまいーとこ!」

 

そう言って、ニヤニヤしながら口に人差し指を当てた。

 

結局、気になるのね……と思いつつ、シノンも彼らと同じく、また聞き耳を立てる事にする。

 

そしてその瞬間、とてつもなくびっくりするような言葉が、飛んできたのである。

 

 

「俺とタスク、決闘させてもらえませんか!!!」

 

 

「「「……!!??」」」

 

シノン達3人が、店主達の方に振り返りたいのを必死に堪えたのは、言うまでもないだろう。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です!

今回は少し短かったですね。(笑)

え?ストーリーダイブキャンペーン?
ま、まだ準備中です。(;^ω^)

よろしくお願いします。

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Episode57 わがまま 〜Self-indulgence〜

「……なるほど。」

 

どこかあか抜けた、比較的明るめな声が、店内に響く。

 

カウンターに向かって、並んで座る二人の少年。

彼らの前に、カウンターの長机を挟んで椅子に座る、中年の男。

 

GGOではなかなか珍しい光景が、そこにはあった。

 

「……だめ……か?」

 

そう言って、二人のうち、まるで少女のような方の少年、キリトは、隣に座るもう一方の少年、タスクの顔をのぞき込む。

 

「……まあ、さっきも言った通り、僕は一向に構いません。」

 

するとタスクは、案外快く承諾した。

 

だが……

 

「ただ、その……」

「?」

 

タスクが、言葉を続けようとして、何故か口ごもる。

 

「店主さんの言うとおり、心配なのも事実です。」

「……!」

「事件後である現状、この世界から一旦いなくなるのは……まあはっきり言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、どうしても不安が残ります。」

「そう……か。そうだよな。」

 

そしてタスクが、口ごもりつつなんとなそう言いきって、キリトを見返した。

その瞳を見て、キリトは「答えは出た」と言わんばかりに目線を落とす。

 

店主は、タスクが直接、自分の口から言ってくれたことに、少し安堵を覚えつつ、彼ら二人を見ていた。

 

申し訳ないし、キリトの気持ちは痛いほどわかるが、こればっかりはどうしようもないのだ。

店主が、俯いたまま動かないキリトを見つめ、申し訳なさに身を浸す。

 

……するとその時、今度は店主に、タスクが話しかけてきた。

 

「でもね、店主さん。」

「……!」

 

その語りかけに、店主はすぐに、どこか違和感を覚える。

そしてその違和感の正体は、すぐ現れてきた。

 

「僕は、正直、キリトくんの気持ちに答えたい。彼と剣を交えてみたいです。」

「……!」

「ほら……わかるでしょう。武者震いのような……ね?」

「でも……!」

 

キリトが、驚いた顔をして、タスクを見る。

そして店主が、少し焦り気味にタスクに食いつく。

 

するとタスクは、そんな彼らの動きを頷きで諫めつつ、店主をまっすぐ見上げた。

 

「ええ、分かってます。これ僕のわがままです。」

「!」

「だから……いえ、だからこそ。」

 

そう言って、タスクが言葉を区切ったその時。

 

「僕は、「()()」達に、背中を預けようと思います。」

「……!」

「僕のわがままを……受け止めてくれますか。」

 

タスクは、体ごと回転椅子で180度回転させ、語りかけた。

 

後ろの席に並んで座る、ウォッカとフォートレスに。

いつの間にか射撃演習場への廊下付近の壁に寄りかかっていたラクスと、

その奥で仁王立ちしているカチューシャに。

 

そして……シノンに。

 

「……!」

 

ぴん……と、その場に緊張が張り詰める。

 

語りかけられた皆が皆、真剣な顔をしてタスクを見ていたし、

キリトや店主に関しては、驚きの目をしてタスクを見ていた。

 

そんな中でも、タスクだけは笑顔を保ち、押し黙って答えを待っている。

 

「……」

 

そしてついに、永遠にも思える長さの沈黙を経て、タスクの語りかけに答えたのは、カチューシャだった。

 

「タスク。……いや、()()

「はい?」

 

「……行ってこい。背中(こっち)は……任せろ。守っておいてやる。」

 

「……!」

「ふふ……ありがとうございます。よろしく頼みます。」

 

カチューシャの言葉に、微笑んで答えたタスクの言葉の後。

 

いつの間にか微笑んでいた彼らの間には、もう既に、張り詰めていた緊張などなかった。

 

自信に満ちた彼らの笑みと、それを呆然と眺めるキリト。

 

そして……

 

「はぁ……わかったよ。そうすることにしよう。」

 

仕方ない……というより、だろうな。と、言わんばかりに、頭を掻きつつ微笑む店主が、そこにいた。

 

「……!」

 

その時、キリトは理解した。

 

彼らが何故、こんなにも強いのか。

何故、あれほど強者たりえる雰囲気を、全員が醸し出すことが出来るのか。

 

「ということで、よろしくお願いします!キリト君。」

 

キリトは、初めて、そんなことを言いつつこちらを見るタスクのその変わらない無邪気な笑顔に、

 

「あっ……!ああ……。よ、よろしく。」

 

 

 

()()を、覚えた。




いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

いやー最近、繋ぎ回が多めですね(笑)
もう少ししたら、ド派手に話を進めていく所存です。

お楽しみに!

ストーリーダイブキャンペーンについても、計画はどんどん進行中です!

ただし、参加はTwitterからのみ、受け付けておりますので、是非是非一度、チェックの方よろしくお願いします!

では。

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Episode58 ダメ元 〜No claim〜

《ほんとに!?やったぁー!!》

「お……おう。なんとか……ね。」

《よかったじゃない!私も楽しみだよ!》

 

東京の、とある一軒家の一室。

 

落ち着いた男性の肉声と、少し電子音のようになった女性の声が、部屋いっぱいに響く。

 

《でも……ほんとによくOKしてくれたよね。正直、提案しといてなんだけど、半分ダメ元だったから……》

「おいおい、半分ダメ元って……!」

《あはは、ごめんね。でもそうでしょ?》

「ま、まあ……」

 

椅子に座り頭の後ろへ手を置いた青年は、画面いっぱいに映っている少女の言葉に、すこし驚き気味に食いついていた。

 

もうお分かりだろう。

キリト、もとい和人と、画面越しのアスナ、もとい明日奈である。

 

彼らは、今、例の「決闘」について、話し合っていた。

 

「……でもまさか、アスナがあんなこと言うなんてなぁ。」

《……え?》

 

すると和人が、天井を見上げてそんな事を呟く。

 

「「強さが知りたいなら、戦うしかない!」なんて、らしくないなぁと思って……さ。」

《ああ……そのこと。》

 

画面の中の明日奈は、そんな和人の言葉に、妙に納得しているかのような返事を返してくる。

 

そしてそのまま、ニコッと笑って少し頬を赤くしつつ、話し始めた。

 

《いやその……なんかね?》

「ん?」

《死銃事件が解決しても、キリト君の顔色は良くなくて、その……何か悩み事なのかと思って聞いてみたら……》

「ああ……」

《で、その話してくれた内容、実は私もそう思ってて、じゃあいっそ戦ったらどうなのかなって……私は、キリト君の戦うところ、すごく好きだから……》

「……!」

 

不意打ちの甘い言葉に、和人は意識が遠のく。

 

実は、タスクに決闘を持ちかけようと、最初に提案したのは明日奈なのだ。

 

毎日ではないが、定期的にこうしてテレビ電話をする中で、明日奈は和人の顔色が死銃事件の発生直後と解決以降、ほとんど変わっていないことに気づいていた。

 

そこで、色々聞き出してみたところ、どうやら「ビッグ・ボス」なる人物について、まだ思うところがあったらしく、明日奈はその時、同時に()()()やってきた2()()()()()()()()を思い出したのだ。

 

《でも……それだけじゃないんだよ?》

「……?」

 

すると明日奈は、ぼんやりしている和人に話しかける。

和人は、そんな明日奈の言葉に、素直に耳を傾けた。

 

《私とて、元はあの血盟騎士団の副団長だしね。()()()に惹かれたり、剣を交えてみたい気持ちは良くわかるもの。》

「……!」

《もし、あの時あの世界で、キリト君と互角かそれ以上の強さを持った人がいたのなら、私だって見てみたいし、戦ってみたい。》

「……」

《でも、それはキリト君だから出来ること。強い者と戦うには、そこまで登りつめなきゃいけない。ただ強くなるだけじゃなくて、もっといろんな意味で……ね。》

 

そこまで話して、明日奈は和人を画面越しで見つめる。

和人は、そんな明日奈の視線を見て、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

《そうよ!その顔。リラックスして。》

「……え?」

 

するとその時、いきなり飛んできた言葉に、和人は疑問を持つ。

その顔……って、この世界ではこの顔しかないはずだ。

 

……が、その疑問はすぐ解消された。

 

《最近、ほんとに力み過ぎなのよ!キリト君は!学校でもそうよ?いっつも仏頂面……》

「……!あ、ああ。そう……だな。」

 

そういうことか、と、和人は納得する。

「その顔」の「顔」とは、「顔色」のことだったのだ。

 

《また何か、相談があれば言ってね。いつでものるし、他にも沢山仲間がいるんだから……》

「ああ。ありがとう。」

 

明日奈は、そんなやけに納得した顔の和人に、画面越しで微笑む。

そんな微笑みに、和人は画面に触れつつ微笑みを返した。

 

 

 

そしてそれから数分後。

 

煌々と、ただひたすら明日奈を映し続けていた画面は、ついに暗転する。

明日奈の「またね。おやすみ!」の声と共に。

 

だが和人は、いや「()()()」は、画面が黒く染まった瞬間、机に伏して頭を抱えた。

 

そして、一言呟く。

 

「ありがとう……アスナ。」

 

……と。

 

 

 

そんな彼の脳裏には、今、あの純粋無垢な少年の、無邪気な笑顔が、映し出されていた。

 

 

「じゃあ、そういうことで……」

「うん!わかったよ。……よろしくね。」

「い、いえ、こちらこそ……」

 

少し申し訳なさそうにしつつ、その少年は、青く淡い光に包まれ、粒子となって消えていく。

 

時は戻って約2時間前。

タスクが、仲間たちに背中を預け、キリトがタスクの笑顔に畏怖を覚えた数分後。

 

たった今、決闘の場所、時間、ルールなど、それ関連についての議論が終わり、キリトがログアウトして消えていった所である。

 

「ふぃ〜……」

「……?」

「んん……!」

 

するとその時、タスクが、キリトが完全に消えたのを見届けて、大きな息を吐いて、腕を伸ばして伸びをする。

 

そんな彼を見て、店主はふふ、と微笑んだ。

 

最近まじまじと見ていなかったが、やはりタスクはかわいいな、と、店主は思う。

キリトも(黙っていれば)かなりの美青年(というより美少女)だが、タスクはそうではない。

 

身長が低く、まるでそう……例えるならば、小学生、または幼児を見た時のような、幼い外見からくる庇護欲のような感情だ。

 

まあその割には、いろいろ達観しすぎていたり、時折発せられる威圧感が並大抵のものではなかったりと、いわゆるギャップが大きいのだが、それもまたかわいらしい。

 

「ふふ……お疲れかな?」

「い、いえ……その……」

 

そんなタスクは、店主の純粋な優しさから来る言葉にぴくりと反応する。

 

「ただ、その……」

「ん?」

「楽しみな反面、やっぱり、怖いなって……」

「……おや。」

 

珍しく弱気な発言だなぁと、店主は目を細めてまた微笑む。

 

思えば、最近はいろいろと立て込んでいて、タスクも忙しそうだった。

決闘が終わったら休暇でもあげよう、などと思いつつ、店主はタスクを見守り続けてみる。

 

すると、

 

「話……終わりました?」

 

射撃演習場の扉から、ラクスを先頭に、カチューシャ、ウォッカ、フォートレスがわらわらと出てきた。

 

その列の最後尾に、ちょこんとシノンも続いて出てくる。

 

「……!」

 

それを見た時、店主はふと、とある事を思いついた。

 

そしてそのとある事を、「成功」に導くために、すぐさま()()()ではあるものの、行動に移ってみる。

 

「あのー……シノンさん?」

「は、はい?」

 

少し気を伺うように、店主がシノンに声をかける。

シノンは、そんな店主を伺うように、声を返す。

 

「さっきタスク君と話してたんだけどさ。」

「は、はい。」

 

すると店主は、次の瞬間、とんでもない爆弾発言を口にした。

 

 

「シノンさんもタスク君とキリト君の決闘に、付いてきてもらうよ。」

 

 

その時、後ろのボックス席に向かいつつあったラクス達一行が、全力で振り返る。

 

カウンターに伏し、寝息を立てつつあったタスクが飛び上がって店主を見る。

 

そしてシノンはその場に硬直し……

 

店主はと言うと、ニコニコの笑みで、シノンを見ていた。

 

「「「「えええええぇぇぇぇ!!!???」」」」

 

タスク含め、その場にいる店主以外の全員が、驚きの声を完璧なタイミングでハモらせたのはもちろんのこと、

 

タスクが顔を真っ赤にし、今にも店主に殴りかからんとしているのは、言うまでもなかった。




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Episode59 わからない感情 〜Unknown emotion〜

お、お待たせ致しました……


「っ……!」

 

暗闇の中、()()()()は目を覚ます。

やたら心臓が脈打ち、微かに紅潮した顔で。

 

「ば、バカみたい……」

 

それを自覚しているからか、あるいはそんな顔になるような、込み上がる気持ちが押し寄せているからか、詩乃は口元を抑えながらベッドに座り直し、目を伏せる。

 

とんでもない爆弾発言をさらりと吐き出した店主。

その言葉にすばらしい反射神経で反応したラクス達。

その間で、顔真っ赤で殴りかかろうとしていたタスク。

 

そんな彼らを前に詩乃は……あの世界での()()()は、その時、どうすればいいか全く分からなかった。

 

「……///」

 

……ただ、本当にこれだけ、詩乃が言えるのは、

 

その言葉に、少しだけ「嬉しい」という感情が芽生えたという事と、

そんな感情が芽生えた事に、尋常じゃないほど「恥じらい」という感情も芽生えてきたという事。

 

ただただ、それだけしか、言えなかった。

なぜなら、その理由が()()()()()から。

 

……結局、詩乃、そしてシノンは、その()()()()()感情に思考を支配され、ただただ、ある意味悶え苦しむしかなかった。

 

 

 

「もう……!なんなの、よ……」

 

 

 

実に彼女らしい、そんなセリフを吐いてみても、感情は変わらず、暴れまわる。

 

「あ!そうだ、か、買い物……!」

 

そんな気持ちから逃れようとするように、詩乃は慌てて、日常生活へと戻っていった。

 

 

 

……はずだったのだが。

 

「……っ!」

 

不意に、あの世界で説明された、店主の言葉が蘇る。

 

ラクス達に過剰なまで反応され、タスクを殴り掛かる寸前までせしめた、あの爆弾発言をした理由を、淡々と説明した、あの言葉が。

 

 

『シノンさんは、ボスのペアになってもらうつもりだから、白兵戦も見ておいてほしいんだ。』

 

『ペアってのは、ラクスさんとカチューシャさんみたいな、2人1組の事さ。今までボスはステルスっていうスタイル上、なかなかパートナーが見つからなかったんだけど、シノンさんみたいな狙撃特化ならぴったりだからさ……ね?』

 

 

と同時に、まるで「降参」と言わんばかりに、両手を顔の横まで上げ手のひらを見せて、少し汗をかきながら微笑み話す店主の顔が思い浮かぶ。

 

「ぺ、ペア……」

 

そんなことを思いつつ、いそいそと外に出かける用意をしながら、詩乃は無意識にそう呟いた。

 

なぜなら、「()()」という言葉そのものに、どこか先程の()()()()()感情が反応しているような気がするから。

 

そう思い至った瞬間、また、あの()()()()()感情が暴れ出す。

 

 

「も、もう!ほんとに、なんなのよ……!」

 

 

そんな思考を打ち消すかのように、詩乃はまた、実に彼女らしい言葉を吐き出す。

それと同時に、詩乃の体も家の外へ自ら放り出した。

 

 

 

……それでも結局、感情は変わらず、暴れまわるのである。




いつもありがとうございます。
そしてすみません!遅くなりました!
駆巡 艤宗です。

いやあのですね、例のキャンペーンの集計をゴニョゴニョ
……はい、失礼致しました。(笑)

本当にすみませんでした!
今後ともよろしくお願いします……

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Episode60 ケット・シー 〜Cait Sith〜

「すーーっ……」

「……」

「はぁ……っ」

 

鬱蒼と茂る森の真ん中にある小さな野原で、その()()()()()は、深呼吸する。

 

「……ふふ」

 

それを、少し離れて微笑み見守るもう一人の()()()()()

 

そんな彼らの手には、()()が、握られている。

 

深呼吸した、青緑色の髪色で小柄なケットシーは、「刀」を。

微笑み見守っている、黄土色の髪をした大柄なケットシーは「薙刀」を、それぞれ持っていた。

 

「……」

「……」

 

すると、深呼吸を終えた小柄なケットシーは、キッと大柄のケットシーを睨み、刀を正面に構える。

 

それを見た大柄のケットシーは、薙刀の刃を下に、柄を上にして、微笑んで小柄なケットシーを見返した。

ただその目には、顔でこそ微笑んでいるものの、明確な闘志が宿っている。

 

そして……

 

「……」

「っ!」

バキン!

 

ほんの一瞬のうちに、二人の位置が入れ替わる。

不意を突かれたのか、大柄の方が少し厳しい顔をする。

 

それを見逃さず、小柄な方が、体をすぐに反転させ、大上段から斬りかかった。

大柄な方は、厳しそうな顔をそのままに、風を唸らせながら薙刀を横にし、上に突き出す。

 

ザシュッ

「……がっ!」

 

……が、斬られたのは太ももだった。

そう、大腿動脈がある場所である。

 

ドシュゥゥ……!!

「ぐぅ……!」

 

ポリゴン片の血液が溢れ出る。

今度はそれを見た小柄なケットシーが、また体を反転させて微笑んだ。

 

「股を開きすぎですよ。」

「し、下をくぐるなんて反則だよ……」

 

大柄のケットシーは、小柄なケットシーの言葉に苦笑いする。

 

すると、その顔を見た瞬間、小柄なケットシーが飛び込んで斬りかかってきた。

今度は、刀を斜め上から斬り下げる、袈裟斬りの構えである。

 

……だが。

 

「ふふ……かかったね。」

「……!」

 

斬りかかってくる小柄なケットシーに向けて、大柄のケットシーはぎらりと眼光を光らせ、笑った。

小柄なケットシーは、しまった、と言わんばかりに顔を歪める。

 

だが、時すでに遅し。

体勢は既に決まっていて、変えられない。

 

ゴッ

「がはっ……!!」

 

結果、小柄なケットシーは、構えていた刀の下にある脇腹に蹴りを入れられ、10mほど吹っ飛ばされた。

 

何回か地面に接触し、また浮いて、また落ちる。

そうして何回も叩きつけられつつ転がり、やっと止まった所には……

 

「ち、ちょっと、大丈夫……?」

 

水色の髪をした、()()()ケットシーがいた。

 

覗き込むように、心配そうな顔で、仰向けに転がる小柄なケットシーをのぞき込むように見ている。

 

小柄なケットシーは、その心配に笑って答えようとした。

 

……が。

 

「あっ……」

「……!!」

 

その顔は、すぐに真っ赤に染まった。

小柄なケットシーは、慌てて逃げようとする。

 

だが、女性はその類の事については、恐ろしく強い。

素晴らしい情報処理速度と反応速度でその動きに反応する。

 

バチーーーーン!!!

「あがっ!!」

 

その結果、鬱蒼と茂る森に、風船が割れたような音が響いた。

 

 

「あっはっはっは!!やられたねぇタスクくん!!ひーっひっひー!」

「むぅ……店主さん、ずるしてるでしょ。」

「ほら、早くとらせてよ……タスク。」

 

ここは、ALOの()()()()

 

言わずもがな、「仕事で」ALOに来た時に、クリスハイトと会った()()()()である。

 

今回も、ある意味「仕事で」ALOにコンバートしてきていたタスク、シノン、店主の3人は、その酒場の済の席に仲良く座っていた。

 

ちなみに、3人とも種族はケット・シーだ。

なぜなら店主曰く、「格闘戦闘において、最も重要な体との適応率は、この種族が全種族の中で最も高い」らしいからである。

 

「んー……なぁんで店主さんはそんなに上手いんだろうなぁ。」

「インチキが得意だからよ。」

「ああ……!」

 

そんな嫌味を言いつつ、シノンはタスクの手札から、カードを1枚取り出す。

 

「……んー。」

「……?」

 

その時のシノンの手を見て、タスクはまた難しい顔をする。

 

そう、彼らは今、仕事などそっちのけで、いわゆる「ババ抜き」なるものをしていた。

 

局面は、もうそろそろ終わりが見えてくるであろう……と言わんばかりの、いわゆる「最終局面」。

皆が皆、少ない数のカードをとりあい、自分や相手の手札を睨みつけては、やれババは来るなだの、数字よ早く揃えだのと躍起になる場面である。

 

ちなみに、ババはご察しの通りタスクが所有。

シノンのわかりやすい位置にあったババを店主が回収し、次の番であるタスクに、巧みなテクニックで横流ししたのだ。

 

……で、こういう事にはめっぽう弱いタスクは、シノンに全くババをとらせることができず、周りのカードばかり取られてしまっている。

 

これでは、もう結果はわかりきっている……のだが。

 

「くっ……まだだ!!」

 

それを分かっていても、そんなことを言える諦めない不屈の精神で、タスクは店主の手札からカードを取っていった。

 

 

そしてついに、その時はやってくる。

 

「おっ……!」

 

最初にそのこと気づいたのは、店主だった。

なぜなら、シノンにカードを取られたタスクが、あからさまに絶望的な顔をしたから。

 

「あっ……!」

 

次に、シノンがそのことに気づく。

なぜなら、残り2枚となったタスクから、悩んだ末に自分がとったカードが、ジョーカーではなかったから。

 

「負け……た……」

 

そして最後に、タスクである。

 

パサ……と、寂しく机にジョーカーのカードを置き、突っ伏しそう呟いた。

 

「わーい!」

「あ、あは……は……」

 

すると店主が、あからさまに、そして少しわざとらしく喜ぶ。

続いてシノンが、そんな店主とタスクを見て、苦笑う。

 

店主の呆れるようなその仕草は、店の喧騒でシノンとタスク以外誰も気づかない。

 

……だが、気づかれないとはいえ、少し大人気ないのも事実である。

 

「くぅ〜!!」

 

タスクは、店主のそんな仕草を、恨めしそうに見上げる。

 

その視線に気づいた店主が、タスクに一言、声を掛けた。

 

「今日は運がないねぇ!タスクくん!」

「……え?」

 

そんな言葉に、タスクは違和感を覚える。

 

「ババ抜きが弱い」とかの言葉ならまだ、腹立たしいがわからなくもない。

だが、店主の「運がない」という言葉に関しては、ほぼ全く心当たりがない。

 

店主の策略にはまったという意味ではたしかに運がなかったが、わざわざそんなことを言うのだろうか。

 

……が、そんな思考の甲斐なく、その答えはすぐにやってきた。

 

「ババ抜きでぼろ負けしたり……」

「……?」

 

 

「シノンさんのパンツを見ちゃったり……さ!」

 

 

「……!!」

 

タスクは、その言葉にドキッとする。

 

ああ、その事か、などと納得している場合ではない。

彼は、恐る恐る、シノンを見る。

 

そうして見てみると、シノンはおもむろに左手を振り始めた。

そして一言、

 

「ええと、ハラスメントは……」

「「……!!」」

 

 

 

 

 

この後、店主が必死に釈明したのは、言うまでもない。




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Episode61 美しくも凄惨な、愉快ながらも残酷な 〜Beautiful and miserable, pleasant and cruel〜

今回は、少し謎かもしれません(笑)

それと、最後に大切なお知らせがあります。
よろしくお願いします。


ガチャリ……

「お……いらっしゃい。」

 

店主、もといタモンは、とある店の扉を開けた。

 

そこは、東京都台東区、御徒町の裏通りにある、「ダイシー・カフェ」。

 

タモンは、そこの店主と()()()()()から知り合い、あれよあれよという内に気づけば週2〜3日、仕事終わりの時間帯に、必ずそこへ行くようないわゆる「常連」になっていた。

 

「やあ、エギルさん。」

 

そして今日も、タモンはその店へと入っていく。

いつもどおりと言わんばかりに、慣れた手つきでドアを開け、なおかつ店主の名前を呼びながら。

 

すると、名前を呼ばれたそこの店主……エギルは、さぞ嬉しそうにその「常連」を迎え入れた。

 

「よお、タモンじゃねぇか!!いらっしゃい。」

「ふふ、邪魔するよ。」

 

タモンも、そんな店主の出迎えを快く受け取り、店の奥へと歩みを進める。

そしていつもの席、カウンターの一番端に腰掛けた。

 

「いつもの……か?」

「ああ。お願いするよ。」

 

エギルが、待ってましたと言わんばかりに注文をとる。

タモンは、それに少し笑って答えた。

 

このやり取り、もう何度もやっているのだ。

聞かなくても、いつものに決まっている。

 

だが、そこはこのエギルという男で、律儀に毎回、注文をとってくる。

そんな所に、この一見筋肉質で無愛想な外見とは裏腹な、この男の真面目さが伺えて、タモンは割と彼の性格が好きだった。

 

「……」

 

タモンは、そんな彼の慣れた手つきを眺め、肘をついて、息を吐く。

 

2年もブランクがあったとは思えないほど、洗練されていて、効率がいい手さばき。

 

いつ見ても、迷いなく必要なものだけを取り出し、ホイホイと言わんばかりに料理を仕上げていく様子は、圧巻である。

 

飲み物にしても、彼の調理場には全くこぼした形跡がないし、実際目の前で飲み物を容器に入れる際も、彼が水滴を一滴たりともこぼした所を、タモンは見たことがない。

 

それだけ練度が高いという事実は、それなりにこの店が繁盛している事も、なんとなく察させてくれる。

 

「……ふふ。」

「ん?」

 

タモンは、そんなことを考えつつ、エギルの手つきをなお眺めながら微笑んだ。

 

 

「ほい、待たせたな。」

 

それから、数分後。

 

エギルが、タモンの注文した「カフェオレ」と「オムライス」を持って、やってきた。

 

「まずオムライス……と。」

「おお!」

「で、カフェオレだ。」

「ありがとう。」

 

順番に渡される料理を、タモンは受け取って机に置く。

そして最後に、

 

「はい、スプーンとフォーク。」

「……どうも。」

 

料理を食べるのには欠かせない食器を受け取って、

 

「いただきまーす!」

「はーい、召し上がれ。」

 

タモンはさぞ嬉しそうに、そう言って食べ始めた。

エギルがその声に言葉を返す。

 

もぐもぐとオムライスを咀嚼し、ゴクリと飲み込んだら今度はカフェオレを少し啜る。

そしてまたオムライスを口に入れ……

 

「おいひぃ〜!」

 

口を手で抑えつつ、タモンは思わず感嘆符を口にしてしまった。

未だに口をもぐもぐさせながら、口に手をあて、それでもなおはっきりとわかるくらい満面の笑みで。

 

「はは、そうか。それはよかった。」

 

そんなタモンを見て、エギルも思わず微笑みをこぼす。

 

 

 

そこには、「店主と客」ではなく、「友人同士」のような関係があった。

 

 

そしてそれからまた、数分後。

 

「ほい。」

「んお?」

 

タモンが食べ終えた食器が片付けられると、入れ替わりで、コーヒーがやってきた。

 

それを見たタモンは、少し驚きつつ、そのカップを受け取る。

なぜなら、タモンはそんなものなど注文してないからだ。

 

なぜ?という思考をぐるぐるさせていると、ふと、なにかが閃く。

そしてそれと同時に、はっ、と、タモンはエギルを見る。

 

するとエギルは、ふっと微笑んでその視線を見返した。

その時、タモンは悟る。

これはいわゆる、「サービス」というやつだ、と。

 

「……ふふ、ありがとう。いただくよ。」

「なぁに、気にすんな。」

 

タモンはエギルに、にこりと笑ってそう言葉をかける。

するとエギルは、照れくさそうに言葉を返した。

 

「……」

 

改めて、彼はいい人だ、とタモンは物思いに耽ける。

 

()()()()に閉じこめられてから、性格が豹変した人も少なくない。

それどころか、現代社会に馴染めなくすらなってしまった人だっている。

 

美しくも凄惨な、愉快ながらも残酷な()()()()は、少なからず閉じ込められた全ての人の人生に影響を与えた。

 

それでもなお、彼はこの店を、()()()()からの帰還者の心の安らぎを与える場所を切り盛りし、今ではすっかりブランクも消し去って、社会復帰を果たしている。

 

「……僕とは違うな。」

「ん?」

 

タモンは無意識に、そう呟いてしまう。

それが少し耳に入ったのか、食器を片付けていたエギルがその言葉を聞き返した。

 

すると、

 

「あ、ああ……いや、違うんだ。なんでもないよ。」

 

タモンは少し焦りつつ、いつもの調子でエギルの声に答える。

エギルは、そんなタモンを不思議そうに見つつ、最後の食器をしまい終え、彼の前にカウンター机を挟んで座った。

 

「……?」

 

そうして、エギルはタモンと向き合う。

だが、エギルはその瞬間、あることに気づいた。

 

それは、

 

「……タモン?」

 

タモンが、いや、正確にはタモンの視線が、いつもなら不自然な所に向いているということ。

 

手元のコーヒーでも、さっきまでエギルがいたのれんの奥の厨房でもなく、なぜか、左をじっと見すえていた。

 

「……ふふ、勉強かい?少年。」

 

そう、彼は、彼のちょうど対象に位置する席に座る一人の少年を、首だけ曲げて肘をついて、眺めていたのだ。

 

すると、その少年は、急に話しかけられたからか、それともそもそも話しかけられること自体希なのか、不自然なほど取り乱してその言葉に答える。

 

「い、いや……その……」

「はは……若いね、最近の子はさ。」

「は、はい……?」

 

だが、その言葉に帰ってきたタモンの言葉を聞くと、ますます訳が分からない、と言わんばかりにその少年はタモンを凝視する。

 

そしてそんな彼らを見つめ、間でオロオロしているエギルが、

 

「知り合い……?ではない……のか?」

 

そんな呟きを発する。

 

 

 

 

 

そんなタモンと少年と、そしてエギルのあいだには、いつのまにか、どこか見覚えのあるような、異様な空気が漂っていた。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

え?遅い?
も、申し訳ありませんでした!(´;ω;`)
大変、お待たせ致しました。

言い訳なら沢山ありますが、ここにそれを書いてしまうと、恐らく画面からはみ出してしまうほどになってしまいます故、ご容赦を……(笑)



さて、ここからが本題です。
そうです、前書きにて告知しました、「お知らせ」についてです。

ええと……結論から申しますと、


『設定集・後書きなどの、大型アップデートを行います。』


つまり、「大規模な周辺情報の更新を行います。」ということです。

主な内容として、
・「ストーリーダイブキャンペーン」にて誕生したキャラクター達の情報を設定集に追加
・各キャラクターの使用兵装情報を設定集に追加
・前書き及び後書きの更新・改稿・削除
・その他、細かい部分の修正・訂正
を、行います。

ただし今回のこの作業は、本作品の本編には全く関係ありません。
あくまで「周辺情報」の更新です。

ですので、話筋がいきなり変わっていたり、設定が変わっていたりという事はありません。ご安心ください。

また、これに伴い次話(Episode62)の更新が大幅に遅くなることが予想されます。
併せて、ご理解をよろしくお願いします。



台風21号や、北海道地震の影響は、皆様大丈夫でしたでしょうか。
一刻も早い復興を、何も出来ない身ではありますが、この作品と共に応援・お祈り致します。

駆巡 艤宗

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Episode62 決闘前夜 〜The night before the duel〜

「明日……よね、決闘。」

「……はい。」

 

シノンがそんな呟きを放ち、タスクがポツリとその呟きに言葉を返す。

 

時刻は、ALO内時間で午後5時。

彼らは、もちろんALO内の、とある酒場で、酒場全体を見下ろすことが出来る2階のカウンター席に肩を並べて座っていた。

 

「……」

「……」

 

特に会話することもなく、ただ黙々と、おのおのが注文した品物を口に運んでいく。

 

そんな彼らの背中には、どこか「緊張」のような雰囲気があった。

 

「……ねぇ。」

「……はい?」

 

そんな中、いきなり、その沈黙を破るかのように、シノンが、ポツリと声を出す。

タスクは、その声にぴくりと反応した。

 

そんなタスクを見たシノンは、すこし言葉に詰まりつつ、ポツリポツリと、まるで絞り出すように、声を出していく。

 

「明日の……あいつ、キリトとの決闘……」

「……!」

「そ、その……」

「……?」

 

「が、がんばっ……て……ね。」

 

「!!」

 

するとその瞬間、タスクがすごい勢いで首を回し、シノンを凝視した。

シノンもシノンで、すごい勢いで首を回し、必死になって顔を逸らす。

 

「……!」

「〜〜!!」

 

驚き唖然としているのか、タスクは、シノンを見つめて固まった。

そんなタスクにはなから耐えかねたのか、シノンが慌てて言葉を付け足す。

 

「も、もちろん!あんたがあいつに負けるなんて思ってない!」

「……!」

「で、でも、あいつもあいつで強いから……その……!!」

「……!!」

 

恥じらいで顔を真っ赤に染めて、そんな顔を隠すかのように必死に逸らすシノンを見て、タスクは、未だ呆然と見つめ続ける。

 

そんなタスクのその目には、驚きと言うより嬉しさが含まれているように見えた。

 

「……ありがとう、ございます。」

「……!」

 

すると、そんな感情からか、タスクはほぼ無意識に、そう呟いてしまう。

 

 

 

-それっきり、二人は会話を交わすことなく前夜を過ごし、そして帰っていった。

 

 

「明日……だよね、決闘。」

「……ああ。」

 

一方、こちらもALO。

タスクとシノンが、イチャイチャは愚か、ギクシャクしているのと同刻。

 

キリトとアスナは、広大なALOについ半年ほど前に実装された、「浮遊城アインクラッド」の22層にある()()()にて、団らんのひとときを過していた。

 

……とは言うものの、実際はどちらかというと、「決起集会」のような感じだったが。

 

「頑張ってね、応援してる。」

「ああ……ありがとう。」

 

アスナの素直な応援に、キリトはつい口元が緩んでしまう。

 

《何度この笑顔に助けられただろう。》

 

不意にそんなことがキリトの頭をよぎる。

SAOのあの時や、ALOで奮闘した時、その後のGGOで戦った時はもちろん、そして今でも、このアスナの笑顔が見たくて、キリトは戦えるのだ。

 

その笑顔が見たいから、そして同時にそれを守りたいから、キリトは剣を握り続けることができる。

 

「……」

「……?」

 

だが、その反面、恐ろしくもなるのだ。

 

もし、守りきれなかったら。

もし、そのせいで、自分が生きている内に、アスナの身に何かあって、もう二度と会えなくなってしまったら。

 

今まででもなくはなかったように、今後、またそんなことが起こるかもしれない。

そして今度こそ、終わりかもしれない。

 

そう思うと、キリトは震える程、本当に怖くなる。

もしかしたら、剣を握り続けることができているのは、その恐怖から逃れようとしているからなのかもしれないなんて事も、考えてしまう。

 

「……っ!」

「キリト……くん?」

 

でも……いや、だからこそ、キリトはあえて、「()()」とも思える賭けに出たのだ。

 

タスクと店主のあの二人は、自分やアスナと同じ状況を経験しながら、自分にはない「強さ」を、持っている。

 

その「強さ」を知りたい。

ただ、それを本人達に聞いたところで、答えが出てくる事はまず無いのを、キリトは知っている。

 

「……ふ。」

「……キリトくん?」

 

だから、あえて「決闘」という、少々無理矢理な形で知ろうとしたのだ。

 

第一、彼らの剣技というのを、まだキリトを含め、アスナ達もは知らない。

タスクと店主の過去は、アスナから聞いているが、ただそれはあくまで、「聞いただけ」。

 

そのせいか、実際にはどうなのか、なんていう、検証じみた感情もなくはないのだ。

 

もちろん、到底負ける気はない。

ただ、勝てるかと問われれば、首を縦に振るのはどうやっても無理というものだ。

 

……そう、これはそんな、先の見えない戦いなのだ。

 

そう思うと、キリトは体から緊張が抜けていくのを感じる。

 

「……キリトくん?」

「……パパ?」

 

するとその時、聞き慣れた2人の声が、その思考を打ち切るように頭へと流れ込んでくる。

キリトは、その声が聞こえた瞬間、はっとしたように顔を上げた。

 

「もう……また怖い顔して……」

「ああっ、ごっ、ごめんて!」

 

アスナの顔がぷくーっと膨らむ。

キリトは、そんなアスナを宥めようと慌て出す。

 

ただ、キリトはそんな中でも、はっきりと感じていた。

 

今のこの状態、SAOのあの時からずっと変わらない、この状態こそが、今、一番キリトの落ち着ける場であること。

そしてそれを守るために、守る力をつけるために、明日、彼らに戦いを挑むということ。

 

これはゲーム。

あくまで、「遊び」なのだ。

例え、かかっているものがどんなものでも、ゲームであっても遊びではない、あの世界とは違うのだ。

 

……となれば、後は当たって砕けるだけ。

 

「……明日、頑張るから……さ。」

 

そんな意思が、キリトの口をつたって、言葉になって流れ出る。

 

 

 

緊張の決闘は、確実に近づいてきていた。




お久しぶりです。
駆巡 艤宗です。

まずは、大変お待たせ致しました!
え?最近毎回?か、勘違ぃ……(目そらし)

すみません(笑)
今後はなるべく早くしますね……( ´・ω・`)



さて、毎回恒例(おい)の前置きはさておいて。

今回は、「大型アップデート」についてのお知らせです。

まず現在、
・各キャラクターの使用兵装情報の設定集追加
・前書き及び後書きの更新・改稿・削除
・その他、細かい部分の修正・訂正
・文章作法の最適化(…→……への変更等)
の、4つを完了しました。
これにて、ほぼ全ての作業が終了という形になります。

……が。

恐らく、皆様が1番心待ちにしていらっしゃるであろう、
・「ストーリーダイブキャンペーン」にて誕生したキャラクター達の情報を設定集に追加
については、皆様にお詫びを申し上げさせていただきます。

当初、今回の大型アップデートにて、追加を予定しておりました上記の項目ですが、少し延期とさせていただきます。

理由としては、流石にそこまで手を回す時間がなかったこと。
また、次話を書きつつ、並行して作業をするのは、双方の質の低下に繋がると判断したためです。

ただ、今回の措置を行った場合、今後この決闘編が終わり次第、次章は「日常&ユウキ編」(仮称)へと入っていく予定が、予定より早くなりますので、恐らく設定集に手を回すよりも早く本編に登場できると思います。

言い訳じみて申し訳ないですが、併せてご理解をよろしくお願いします。



だんだん季節が変わってきましたね。
ちなみに作者は風邪を引きましてですね、ただ今、布団のなかで執筆をしております。

あ、咳したら画面に唾ついたうわぁぁぁゲッホゲッホ
ヾ(>y<;)ノ

今後ともよろしくお願いします。
では……

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Episode63 不思議な感覚 〜Mysterious feeling〜

「あ、あそこだ……って、ええ!?」

「「……?」」

 

決闘当日。

キリトに指定された場所へと並んで飛んでいた店主とシノンは、先頭で飛ぶタスクの声に、首を傾げた。

 

「どうかしたの?タスクくん。」

 

店主が、先を覗き込みつつタスクに声をかける。

 

「……あーはは、そゆことね。」

 

……が、店主はまるで自問自答するかのように、タスクの答えを聞く前に納得した。

 

そんな二人の謎な行動に耐えかねて、シノンも先を覗き込む。

少し位置をずらし、そこから更に首を伸ばして目を凝らす。

 

 

するとそこには、()()()()()()()ができていた。

 

 

 

「……あいつ、何考えてんのよ。」

「……はは、彼は何気に人徳があるからねぇ。」

 

シノンがそんな悪態を小声で呟く。

店主は、それに相槌を打って笑った。

 

「……」

 

そんな中、タスクだけが、沈黙を保ったまま真っ直ぐにそこへ飛んでいく。

そしてゆっくりと、キリトの前に降り立った。

 

「……おお、タスク!」

「こんにちは、キリトくん。」

 

それに気づいたキリトが、タスクを見て笑う。

タスクも、それに応えて笑顔を返した。

 

すると、周りがざわりとざわめく。

 

タスクは、それを感じ取りつつ言葉を続けた。

 

「今日はよろしくお願いします。」

「ああ、お互い本気でやろう。」

 

キリトのその言葉に、周りはまたざわつく。

 

「あの黒いやつが本気でとか言ってるぜ……?」

「だいたい、あのタスクってやつ、だれなんだよ。強いのか?」

 

心做しか、そんな声も聞こえてきた。

それを少し気にして、なんとなくタスクは耳を傾けてしまう。

 

するとその時、不意に、前から……つまりキリトの方向から、あまり聞きなれない声が飛んできた。

 

「あ、あの……タスクさん。」

「……!」

 

タスクは、慌てて意識を引き戻し、前を見る。

見ればそこには、キリトの従姉妹、直葉もとい、リーファが立っていた。

 

「あっ……ああ、すみません。どうしました?」

「あ……そ、その……ごめんなさい!!私のせいで……」

「……へ?僕何か……」

 

するとリーファは、いきなり謝罪をしながら、申し訳なさそうに見返してきた。

そんな彼女の視線に、タスクは違和感を覚える。

 

この人が、自分に何かしただろうか?

そんな考えが、タスクの中に浮かんだ。

 

だが、そんな思考虚しく、その答えはすぐにやってきた。

 

「い、いや、実はこの人だかり、半ば私のせいなんです。」

「……!」

「お兄ちゃんにも怒られたんですが、私がサクヤとアリシャ……いえ、シルフとケットシーの領主を呼んじゃったんです。そしたら、次第に人が集まっちゃって……」

「……ああ、なるほど。」

 

ああ、その事か。

と、タスクは内心でストンと腑に落ちる。

 

タスクが何気に気にしてしまった、この人だかりのことだ。

 

つまり、リーファは恐らく、キリトの決闘の話を、仲がいいと聞いているシルフ領主、サクヤに話してしまったのだろう。

 

……で、その後その話がケットシー領主、アリシャにも伝わり、キリトに一目置いている大物2人が肩を並べて見物に来てみたら、これだけ人が集まってしまった、という訳だ。

 

少し……と言うよりはほとんど、休日にアスナらとALOで遊んでいるシノンからの情報に基づいて推測した結論だが、あらかた間違ってはいないように思えた。

 

「本っ当にごめんなさい!!決闘を邪魔するつもりはなかったんです!」

 

タスクがそんな思案をしている間にも、リーファは必死に頭を下げて謝ってる。

 

そんなリーファを見たタスクは、はっと我に返ると、慌ててかぶりをふってその謝罪を否定した。

 

「あっ……いえ、いいんですよ!全然!」

「……え?」

「人が多い方が、彼の応援も大きくなるでしょうし……」

「で、でも、そしたらタスクさんは……その、アウェイというか……!」

「あー、僕はそういうの、慣れてますから。」

「で、でも……」

「はは、いいんですよ!全然!」

「……!!」

 

タスクが、リーファをまるで元気づけるように、会話をどんどん広げていく。

そのお陰か、だんだんリーファの顔に笑顔が戻り始めたその時。

 

「……それに……ね。」

「?」

 

不意に、タスクのトーンが低くなった。

リーファは、それに釣られて反射的にタスクをみる。

 

するとその時。

 

 

「もうなにも、隠す必要はありませんからね。」

 

 

タスクが静かにそう言った。

リーファはその瞬間、ゾクリと何かが背筋を走り抜けたような、不思議な感覚を感じる。

 

だからなのか、彼の顔は、屈託のない笑顔から、少し何かを含んだ笑顔に変わっていた。

リーファは、何故かその顔から目が離せない。

 

……だが、気づいた時にはもう、その感覚は跡形もなく消えていた。

 

「……だから、本当に何も気にしないでください。ね?」

「……!!」

 

代わりにそこに居たのは、ついさっきまでと何ら変わらない、屈託のないタスクの笑顔。

そしてそこから感じ取れる、おおらかな優しさと、微かな親近感のみだった。

 

「は、はい……」

 

半ば呆然として言葉を返すリーファ。

するとタスクは、最後にニコッと笑って踵を返し、店主とシノンの元へと歩いていった。

 

リーファは、無意識的に安心感を求め、振り返ってキリトを見る。

だがそのキリトは、いやキリト自身も、不安げな顔でリーファを見返していた。

 

 

 

 

……緊張の決闘まで、あと僅か数分である。




次回!決闘開始!

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Episode64 同胞たち 〜Brothers〜

空中に浮かぶ数字が、一定間隔で少なくなっていく。

数字を包む白線でできた円が、消えては現れ、消えてはまた現れを繰り返す。

 

そしてそれを見つめ、息を呑む者達。

アスナやリズ、シリカにリーファ。

そのお馴染みのメンツの後ろには、サクヤやアリシャとその取り巻き達。

そしてそのメンツの隣にはシノンがいて、そのまた隣には店主やクライン、エギル、そしてクリスハイトが、それぞれ立っていた。

 

そんな人達に囲まれて、相変わらずカウントを続ける数字とアニメーションに見下ろされながら、キリトとタスクは対峙している。

 

キリトは、初っ端から剣を2本引き抜き、SAO時代からお馴染みの、腰を落とし、右手の剣を後ろに構え、左手の剣を前に置いたたスタイル。

 

対してタスクは、体を真横にし、右手にもつ刀の刃先を前にある右足にそわせるように下げて、拳にした左手を頬の横に付ける、格闘技と剣術を混ぜたようなスタイル。

 

「すごい……独特な構えだなぁ……」

 

同じ刀使いだからか、クラインがそんな呟きを漏らした瞬間。

 

 

ビーッ!!

『START!』

 

 

電子ホイッスルのような甲高い音と一緒に、短いその単語が一際大きく表示された。

 

そしてその瞬間……

 

「動いた!」

 

タスクが、10mほどの距離を一気に詰めて斬りかかる。

右斜め上、袈裟斬りの構え。

 

店主が思わずなのか声を漏らすが、他の妖精達も必死に何かを堪えた。

 

キリトへと、タスクの強烈な一閃が迫っていく。

キリトは、未だ決闘開始時と同じ体制で硬直している。

 

……が。

 

「……な!! くっ……!!」

 

あと寸でのところで、キリトが反応した。

バキン、と、鉄が打ちつけられる音がする。

 

だが、タスクの一閃はそこでは止まらなかった。

 

バキン!バキン!キン!ガリッ!

「く……っそ!!」

 

鋭く鈍い音が二人の間で響く。

 

ただ、それはあくまでタスクが生じさせているもの。

キリトは防御で手一杯だった。

 

「キリ……ト……くん……!!」

 

アスナが、タスクの猛攻に耐えるキリトを見て、ぎゅっと手を握りしめる。

それは、彼女の何らかの決意の表れであった。

 

ガッ!ゴッ!キイ!

「ぐっ……!!」

 

だが、そんなことなど意にも介さず、タスクは恐るべき速度と強度でキリトへと剣を叩き込んでゆく。

 

「な、なんて剣技だ……!!」

 

不意に、サクヤが言葉を漏らす。

 

右上からの袈裟斬り、その後跳ね上がるように左下からの逆袈裟斬り。

そして一旦刀を宙に浮かせたかと思えば、また腕に力を入れて今度は右下から刀を跳ね上げる。

 

その動きは、全くブレも迷いもなかった。

 

「こ、これが……裏血盟……!!」

 

クリスハイトも驚いているのか、目を見開いて凝視する。

そんな各々の反応を見て、店主は少しばかり微笑んでしまった。

 

決して、自慢だとか、誇らしいだとか、そんな感情からではない。

ただただ純粋に、タスクの本気の戦いを久しぶりに見れたからだ。

 

長年彼を見てきた店主には……いや、()()()には、ひと目で分かる。

彼は今、内側で滾る闘争心を、全力でキリトに叩き込んでいるのだ……と。

 

人が全力で争う時、少なからず、その人は周りの人を引き寄せる何かを放つ。

それが、気迫なのか、それともただ目立つだけなのかは分からない。

 

でも、その()()()は、確実に、存在するのだ。

 

そして今、その()()()が、とんでもない練度の二人から発せられている。

観客の目が釘付けになるのは、至極当たり前の事だった。

 

だが、そんな状況を改めて視界に収めてみると、どこか「再確認」したかのような、よく分からない気持ちにとらわれる。

 

店主はまさに今、その「よく分からない気持ち」にとらわれたのだ。

だから、いつものようにタスクを見守るだけで、自然と笑みがこぼれるのだった。

 

《いけ……もっといけ……君の力の限りを尽くした攻撃を、叩き込むんだ!》

 

そんな事を、店主は頭の中で呟く。

 

もちろん、その言葉はタスクには届かない。

でも、店主はどこかで、そんな言葉でさえ、タスクの背中を押している気がする。

 

「……ふふ。」

 

店主は思わず、また微笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

 

《同胞たちの為にも……ね。》

 

 

 

 

 

 

そんな、内心の思いと共に。




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Episode65 奇妙な違和感 〜Strange strangeness〜

バキン!バキン!ガッ!

「……!!」

 

ALOのフィールドの一区画に、鋭い金属音が響きわたる。

 

戦局は、互いの実力が拮抗し、お互いがお互いを均等に削りあっている状況。

タスクが素早い二連、三連の斬撃を繰り出したかと思えば、キリトはそれを剣で受け止め、もう片方の剣で重たい一撃を返す。

 

「す、すげぇ……こんなの、見た事ねぇぞ。」

 

男性陣に交じり、風林火山のメンバーと並んで見ていたクラインが、ふとそう呟く。

 

それもそのはず。

実際、空中に表示されている二人のHPバーは、恐ろしい程均等に削れているからだ。

 

「『実力の拮抗』って、まさにこういうことを言うんだなぁ……」

 

驚き、というよりは、唖然として、つまりポカーンとして、クラインはまた呟く。

その呟きは、まさにその場にいる妖精達全員の気持ちの代弁であった。

 

 

《……いや、そうじゃ……ない。》

 

 

……だが、その場にいる妖精達の中で、1人だけ、そんな気持ちを持っていない妖精がいる。

 

「くそっ……!」

ガキィ!!

 

 

 

 

他の誰でもない、キリトであった。

 

 

『なにかがまだある』

 

彼……キリトは、直感的にそう悟っていた。

 

今、目の前で刀片手に踊るこのケットシーには、まだ、いわゆる「隠し球」がある……と。

 

ヒュン!ヒュン!

「くっ!」

 

刀がほんの目の先を2回も掠めていく。

 

《なんだ……?》

 

すると、()()奇妙な違和感に囚われる。

 

実は彼……キリトが、相対するケットシー……つまりタスクの、「隠し球」の存在を何故か悟るのは、この奇妙な違和感によるものだった。

 

確信している訳ではなく、そこまで至るほどの納得感はない。

 

ただなぜか、そう悟れるのだ。

ただただ単純に、おそらくそうだろうな……と。

 

間違いなくタスクは、キリトが今まで戦ってきた戦士の中でトップの強さを誇るのは紛れもない事実である。

 

……が、どこか、その強さ故か、その彼のどこからか、今までの戦いでは全くもって感じ得なかった奇妙な違和感があるのだ。

 

それも一回だけでなく、何回も。

 

「……なんだ?」

バキン……!!

 

キリトは、相変わらず鋭いタスクの斬撃を捌きつつ、思考をグルグルと巡らせる。

 

決して、ダメージを受けているとか、状態異常だとか、そういう話ではないのだ。

何か一つでも見逃せば、それが後々命取りに充分なり得るので、キリトはSAO時代からずっと、そういう類の警戒を怠ったことはない。

 

だから、特に重要な今回も、確認を怠ってはいないし、実際、微小なりともダメージだとか、自分の体の動き、感覚だとかは、なんら問題ない。

 

その違和感は、あくまでタスクから。

タスク()()から、感じられるのだ。

 

でもだからといって、タスクの動きや、表示されているステータスにも何も異変はない。

 

極々稀に、「チート」と呼ばれる事をする輩がいる。

そういう連中だと、相対した際、ゲームのデータ処理に異常をきたすため、アバターやその場の空間が歪むことがあり、それが違和感となって正常なプレイヤーに伝わることがある。

 

……だが、今回のこの違和感は、そういう類のものでもない。

 

これは、彼の仮想世界に対する適性と、膨大な知識、そして才能がそう語っているのだ。

そもそも、タスクや店主らが、そんなことをする人達だとは到底思ってないし、思えない。

 

ならば、考えられることはあと一つしかなかった。

 

「キリトの想像を絶するようななにかが、タスクはまだ隠し持っている」という、これ一点のみだ。

 

これならば、まだありえる。

彼の並外れた戦闘勘が、その何かを、「隠し球」を、察知していると考えられるからだ。

 

……では、その「隠し球」とは、実際なんなのか?

そう問われると、彼は答えられない。

だから、確信するには至れなかったのだ。

 

……するとその時だった。

 

「っ……!!??」

 

今までより何倍にも増した違和感が、キリトを襲った。

 

その違和感は、違和感を超えて恐怖に変わり、寒気となって体に反応を引き起こす。

 

まるで「蛇」に巻き付かれたような、尋常じゃなくゾワゾワする気味の悪い感覚。

 

「なんだ……?なんなんだ……!?」

 

キリトは、その恐怖からか、疑問符を声に出してしまう。

 

すると次の瞬間。

 

 

 

「ああっ……!!」

 

 

 

遠巻きに聞こえるアスナの叫びと共に、

 

 

 

ドゴォ!!

「がはっ……!?」

 

 

 

()()痛みが、彼を襲った。




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Episode66 畏怖 〜awe〜

「ああっ……!!」

 

そう、アスナは不覚にも声を漏らしてしまった。

 

その理由は、ついさっきまで拮抗していた戦局が、一気に変わったのを察したから。

そしてその変化が、「キリトが不利」の方に傾いたと、嫌でも認識したからである。

 

「……!!」

 

キリトの体が、ほんの一瞬、ふわりと浮き上がる。

それと同時に、妖精達のどよめきの音量も上がる。

 

翅を使った訳では無い。

キリトの背中には、見慣れた漆黒の羽根は現れてないからだ。

 

「……!?」

 

だが確実に、キリトの体は、少なくとも彼の足は、地面から離れていた。

 

「な、なにが……」

 

リズが呟きかけて止める。

その声音は、本当に、心の底から分からない、と言わんばかりの疑問と驚愕に充ちていた。

 

それもそのはず。

状況的には、タスクが右袈裟斬りを放っただけなのだ。

 

今までも、タスクは何度も右袈裟斬りをキリトに放っているし、キリトもキリトで、その右袈裟斬りを何度も防いだり、躱したりして、決してそんな、()()()()()()()なんて事はなかったのだ。

 

だが、現実はそうではない。

 

確かにキリトは、宙に浮いているのだ。

剣を左に置き、タスクの右袈裟斬りを剣で防ぐ構えのまま、真横……正確には左に、吹っ飛ばされている。

 

現実では1秒にも満たない時間だが、妖精達には何倍も長く、その光景が目に映し出されていた。

 

「あっ……!」

バゴォ!!

 

そしてキリトは、飛ばされた先にあった、大きな樹木に激突する。

 

それに伴い、痛々しい音と共に、土煙が舞った。

妖精達の目は、土煙で覆われ、すっかり見えなくなったキリトを探す故か、そこに釘付けになる。

 

対してキリトは、その後しばらくしたあと、その土煙の中からゆっくりとまた立ち上がると、ギラリとタスクを睨み、こう言い放った。

 

「くそ……!!そういう事かよ……!!」

「……え!?」

 

そのキリトの呟きと、あまりにも強烈なその視線に釣られ、妖精達の視線は、キリトの視線の先……タスクへと移り変わる。

 

……するとそこには、想像を絶する体勢をしたタスクがいた。

 

「な……ぁっ!?」

 

妖精達の中の誰かが、ありえない、と言わんばかりに声を漏らす。

 

その姿は、いわゆる「蹴り」の姿勢。

誰が見ても綺麗な、見事な空手などでよくみる、「回し蹴り」の構えであった。

 

左手は握って拳にし、肘をたたんで左頬についている。

右手は刀を持ったまま、いつのまにか下に降りていた。

 

代わりに出ていたのが、「脚」である。

左脚を軸に、美しく右脚が伸びていた。

 

「ま、まさか……!!」

 

それを見たアスナが、あの時何が起こったのか、薄々悟る。

 

タスクはおそらく、右に薙ぎ払う斬撃と同時に、キリトの剣ごと蹴り飛ばしたのだ。

 

そんなことが可能なのか、と、疑問に思わなくもない。

そんなことをしようものなら、並外れた体重移動に加え、相手を圧倒的に凌駕する反応速度、そしてなにより、剣術・格闘技の両方に精通した知識が要求されるからだ。

 

そんなこと、到底できるものではない。

アスナでさえ、そんなことは無理だと自覚しきってしまう。

 

ただ、というより、むしろだからこそ、彼……タスクの強さをひしひしと感じ取れた。

「ただ者じゃない」なんて今更じみた感嘆符が、心の中で浮かび上がってくる。

 

「……!!」

 

すると、長らく脚を蹴りの体勢のまま上げていたタスクが、ゆっくりと脚を折りたたんで下へ降ろす。

したがって、足に隠れていた顔も、だんだんアスナ達に見えるようになる。

 

その顔は、今まで対峙して来たどんなプレイヤー、どんなモンスターよりも勝る、獰猛かつ凶悪な、まるで悪魔を想像させる()()をたたえていた。

 

「う、うわぁ……!!」

 

妖精達の中から、あからさまに畏怖する声が聞こえてくる。

 

アスナの隣に立つシリカも、いつの間にかアスナの後ろに少し隠れ気味に立っていた。

 

「……!!」

 

実際、アスナもアスナで、全く怯んでない訳では無い。

 

本当なら、最愛の人のそばにいきたい。

だが、その最愛の人はむしろ、その元凶と対峙している。

 

「っ……!!」

 

アスナが半ば睨むように見ているタスクの目が、また一段と殺気を帯びた気がした。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやあ、寒いですね。
手がかじかんで文字が打ちにくいです(笑)

まあ、そんなことは置いておいて、本題に入りましょう。(早い)

最近ね、ふと思ったんです。
あれ?この章案外長くなるぞ?と。
GGOSJやユウキ、オーディナル・スケールにアリシゼーションなど、まだまだ書きたいところがあるのに、全然まだまだだぞ?と。

……で、僕は考えました。
いっその事、1話辺りの文字数を増やしてみたらどうかと。(笑)

どうでしょうか?
皆様のご意見をお聞かせください(笑)

よろしくお願いします。
_(⌒(_๑´ω`)_パタム

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Episode67 疎外感 〜Alienation〜

「くそ……!!そういう事かよ……!!」

 

そんな悪態が、土煙の中から聞こえてくる。

その真ん前に対峙したタスクは、その声がした方向を、ずっと見つめていた。

 

「くっ……!」

 

するとそのうち、もはや見なれた二つの剣が見えてきて、その後、ゆっくりと黒の剣士が見えてくる。

 

その剣士は、顔は厳しそうにゆがめられてはいるものの、目はまだ戦意に満ち溢れていた。

 

「……はは、いい……ですねぇ。」

 

その顔を見て、そしてその姿を見て、タスクは笑みを保ったまま、武者震いをする。

 

だんだん蘇ってくる。

あの時、あの世界での色んな記憶が。

 

その記憶は、全部が全部いい思い出ではない。

忘れてしまいたい、あるいは、本来忘れてしまわければならない記憶だって存在する。

 

ただ、今この場に限っては、その全ての思い出が懐かしく、そして恋しく感じていた。

 

「……やっぱり、ダメだぁ……はは……」

 

するとタスクは、独り言を呟きつつ刀を前へと出す。

 

「ごめん……アユム、僕……」

ジャリッ……

 

その次に、足を仁王立ちにし、前に出した刀を体の中心に持ってくる。

 

そして……

 

「出す……よ、本気を。」

 

キリトをぎらりと睨んで、そう言い放った。

 

笑みは保っている。

……が、明らかに先ほどと違う気迫がそこにはあった。

 

「へへ……そうこなくっちゃ……なぁ!!」

 

もちろん、その宣言を聞いたキリトは、その言葉に笑って返す。

2人の死闘は、これから本番のようだった。

 

 

本当は、すごく応援したい。

頑張れ、と声援を送りたい。

 

だけれど、それがなぜかできない。

 

当たり前だ。

皆、応援しているのはキリトなのだ。

いきなり現れたタスクなんて、嫌悪の対象にすらなりえる。

 

でも、それをできない理由にするのは、単なる逃げであることも自分が一番よく分かっている。

 

じゃあ、声援を送れるのかと聞かれると、どうしても躊躇いが出てしまう。

 

「……!」

 

そんな葛藤の最中、シノンは、彼らの死闘を見つめていた。

 

正直言うと、彼女は度肝を抜かれていた。

キリトの剣の腕はBOBで嫌という程見せられたものの、タスクの剣の腕は見たことがなかったからだ。

 

しかもそれが、キリトと互角に渡り合っているはおろか、少し上回っているようにも見えてしまう。

 

タスクの強さは、シノンはよく知っている。

ただそれは、GGO……つまり、銃の世界でのみだと思っていた。

 

「……!!」

 

……でも、よく考えてみれば確かにな、と納得も出来る。

 

なんたって、タスクと店主はあのSAO生還者(サバイバー)

それはキリトやアスナ、リズやシリカとて同じかもしれないが、タスクと店主2人に関しては、ただその世界にいただけじゃなく、その()の世界に生きていた人達なのだ。

 

銃なぞもちろん存在しないあの世界で、なおかつその裏の世界で、生き残って帰ってきたというのは、やはり伊達ではなかった。

 

「……」

 

するとその時、シノンは急に、どこか「疎外感」のようなものを感じる。

 

タスクやキリトを始め、その周りにいる人達は皆、あらかたSAO生還者(サバイバー)であることに気づいたからだ。

 

……否、正確には、()()()した、からかもしれない。

 

これに関しては、リーファもシノンと同じ部類に入る。

だがしかし、リーファにはキリトの義妹という、とてつもなく強力な枠組みが存在するのだ。

 

じゃあ、私は一体……と、シノンは思考を巡らせる。

 

タスクや店主は、自分にすごく良くしてくれる。

でもそれは、GGOの仲間としてであって、数年前に同じ境遇に閉じこめられた、いわゆる「被害者」としての絆には到底及ぶものでは無い。

 

それに、さっき少し気になったリーファでさえ、大きな括りで言えば「被害者」なのだ。

命を懸けたデスゲームに、大切な家族を何年も囚われるというのは、ある意味で「戦い」であるし、それを耐え抜いたのだから、少し劣るとしてもキリトらSAO生還者(サバイバー)に肩を並べることはできる。

 

そうして、じゃあ、私は……と、また思考が回帰してきたのだった。

それも、先ほどより重たく暗い感情と共に。

 

「……!!」

 

だんだん、じんわりと、シノンを暗い感情が包んでいく。

反射的に下を向いて、手を握りしめてしまう。

 

情けない、と自分でも思う。

自分の考えすぎだなんてことも、もちろん自覚している。

 

でも、でもやっぱり、どうしても、この気持ちは、止めれそうになかった。

 

……するとその時。

 

「シノンさん?」

「……っ!!」

 

聞き慣れたのほほんした声が、シノンの上から降ってきた。

 

「……!!」

「どうかしたかい?大丈夫?」

 

……言わずもがな、店主である。

 

 

「へぇ……それ、もう出しちゃうんだ。」

 

キリトが吹っ飛ばされ、タスクが本気宣言をし、辺りが騒然とする中、店主はひとりでにそう呟く。

 

もちろんその呟きは、誰の耳にも入らず、誰の興味も寄せ付けず、まるで存在しなかったかのように、風に呑まれて消える。

 

当然といえば当然だ。

どこのものとも知れない、どこかふわふわしている謎めいた獣耳おっさんの呟きなど、目の前で繰り広げられている死闘の前では価値を持てるわけないからだ。

 

「あの感じ……ふふ、ほんとに本気なんだね。」

 

そして店主は、それをいいことにまた呟く。

その呟きは、もちろん、また風に呑まれて消えた。

 

タスクの本気、それは、ここ2年半ほどの間()()()()()()()()、タスクの全盛期の実力のことである。

 

全盛期とは、タスクが間違いなく最も強かった、「裏血盟騎士団」の時代のこと。

使う武器さえ違うGGOにいる時は絶対に現れない、タスクの内に棲む獣が、顔を見せる瞬間である。

 

その瞬間は、長い間彼のそばにいる店主でさえも、ほんの1、2回ほどしか見たことがない。

ただその希少さ故か、その瞬間はたとえ店主でも戦慄を余儀なくされるのだ。

 

実際、SAO時代に一度だけ、店主はタスクと本気で対峙したことがある。

だがその瞬間、足が竦んで動けなくなったのは、今でもいい思い出だ。

 

「……よく、見とくんだよ、シノンさん。」

 

何気なく、店主はシノンに声をかける。

もちろん目は戦いから逸らさない。

 

でもそれは、店主も無意識に、逃げを求めたからかもしれなかった。

タスクの、たとえ対峙してなくとも感じられる、その気迫から。

 

……だが、珍しい事に、返事は帰ってこなかった。

 

「……シノンさん?」

 

シノンは、そんな事をするような人ではない。

 

それは、どんな仕事のどんな状況でも、何か言えば必ず律儀に返事を返してくるんだ、と、タスク……もといボスから聞かされるほどだ。

それにその律儀さは、普段の彼女の振る舞いからも、店主はよく分かっている。

 

でも実際、未だ返事は返ってこない。

店主は不思議に思って、はたとシノンを見る。

 

「……!!」

 

するとそこには、俯いて、ぎゅっと手を握りしめたシノンがいた。

 

「……どうかしたかい?大丈夫?」

 

店主は、いつもの優しさからか、そんな様子を見た瞬間、半ば反射的にそう訊ねる。

今度は戦いから目を逸らし、シノンをのぞき込むように見ていた。

 

シノンはしばらくした後、慌てて顔上げて、店主の顔を見上げてくる。

その時、彼女の目を見た店主は、その原因の全てを悟った。

 

「ああ……!」

「は、はい……?」

 

シノンを見つめたまま硬直する店主を、今度はシノンが顔を覗き込むようにして見る。

 

すると店主は、しばらくした後、はっと我に返って、にこりと微笑んだ。

 

「……ふふ、なるほどね、シノンさん。」

「……?」

 

シノンは、そんな言葉と共に送られてくるその微笑みに、どこか嫌な予感を覚える。

 

毎度毎度のタスク関連の弄りが来る、と悟ったからかもしない。

 

 

 

 

 

 

……ただ、今回、この場に限っては、それも少し嬉しかった。




長い!すごく長い!
見直しが大変の極みですね。
 (@Д@) ハワワ……

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Episode68 震え 〜trembling〜

《アユム君……アユム君ノータッチかよ!!》
by 駆巡 艤宗の心


「……ふふ、なるほどね、シノンさん。」

 

店主が、すこし口をほころばせてシノンを横目に見てくる。

シノンは、その目を見て少し……()()()ほっとしていた。

 

すると、そんな安心もつかの間、店主はまたふいっと視線を戻し、戦いを注視し始める。

 

……だが、声だけは、まだシノンの元へ送られてきた。

 

「……はは、大丈夫さ、シノンさん。」

「え……!?」

 

シノンは一瞬、ギクリとしてしまう。

 

店主に、あの()()()()()考えと、それにより引き起こされた()()()()自己嫌悪を悟られた、と、悟ったからだ。

 

普通、こんな状況で「大丈夫」なんて言葉は使わない。

それに、言葉を巧みに操る店主のことだから、尚更である。

 

すると案の定、店主が変に隠すのをやめ、直球で言葉を飛ばしてきた。

 

「……シノンさん、僕らはそんな事、思ったりしないよ。」

「!!」

「あれでしょう?キリトくんやらその周りは皆SAO関係者だから、なんかな……みたいなさ。」

「……!!」

 

やっぱり、そんな言葉がシノンの中でグルグルと渦巻く。

……と同時に、恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

まだタスク達の戦いに皆が気を向けているからいいものの、もし向いていなかったら間違いなく注目の的となるくらい、シノンは顔を赤くしていた。

 

「……はは、案外素直なんだね、シノンさん。」

「〜〜!!」

 

店主の容赦ないイジりにシノンはまた悶える。

そしてシノンは、そのもどかしさに耐えきれず、ぱっと顔を前に上げる。

 

「っ……!!」

 

すると店主は、首だけ回し、顔を真っ直ぐにこちらに向けていた。

 

今回は、前回みたいに声だけでもなく、横目でもなく、顔を真っ直ぐシノンに向けて、正面に見据えている。

 

シノンは、自ずとその店主の目を見てしまった。

すると、その視線を見返すように、店主が一瞬笑みを消した瞳を見せる。

 

「わかるさ、そりゃぁ……ね?」

「え……?」

「僕ら、何度も困難をくぐりぬけてきたじゃない。」

「……」

「だからこそ分かるんだよ、シノンさん……君の気持ちがさ。」

「!!」

「だって僕ら……」

 

そして店主は、そこまで言うとニッと笑って、言葉を続けた。

 

 

()()()()()……ね。」

 

「なか……ま……!!」

 

店主は、満面の笑みでシノンを見ている。

彼も見ていたいだろう戦いから目を逸らし、しっかりと。

 

するとその時。

シノンは、自分の心が暖かみを取り戻したのを感じた。

 

「……はい!」

 

そんな気持ちは、彼女の返事に現れていた。

あまりの嬉しさに、微かに震える手も然り。

 

 

背筋がゾクゾクと疼いている。

寒気を超えた畏怖が、背筋のみならず手や足をも震わせる。

 

でもその震えは、同時に彼の「闘志」をも、震わせていた。

 

「っ……!!」

 

今、目の前に立っている少年が怖い。

 

可愛らしい獣耳と尻尾を備えた、小柄なケット・シーが、この上なく恐ろしく、そしてなによりも怖かった。

 

「へへ……」

 

だが、キリトは同時に、心から歓喜していた。

この目の前の化け物と、対峙すること()()()()を。

 

散々感じた違和感も、竦んで動けなくなりそうなほどの恐怖も、この歓喜には遠く及ばない。

 

……ずっと、飢えていた。

この感覚を、そしてこの高揚を。

 

なぜならキリトは、その強さ故に、なかなか()()()()()()()()()()()()に出会えなかったからだ。

 

SAO時代で言えば、それに該当するのは「フロアボス」だ。

……が、攻撃や回避パターンさえ覚えてしまえば、実際どうって事ない。

 

さらに言えば、フロアボス戦の場合、嫌でも連携を強要される。

それはキリトにとって、あまり好ましいものではなかった。

 

そして続く、ALO。

PK推奨なんていう、一見ぶっ飛んだゲームではあるものの、SAOの最前線を1人で生き残ってきたキリトにとってはそこでも満足いく相手には出会わなかった。

 

連携も強要されない上、相手は本物の人間だ。

パターンなんてものは、個人差はあるもののあまりない。

 

……それでも、今度はただ純粋に、「力不足」な相手にしか出会わなかったのだ。

 

SAOのフロアボスなら、プレイヤー達を圧倒すべく破格のステータスが付与されている。

でも彼らにはパターンという枠組みが存在し、「倒し方」なんていう、戦いを一辺倒にしかさせない要素がどうしても付属してしまう。

 

かといって、ALOのプレイヤー達では、確かにパターンなんていうある意味邪魔なものが無い分、キリトのステータスやスキルに追いつけるものなどいない。

 

そうして、自己慢心では無いが、満足出来る相手はもう居ないのかな、なんていう諦めの心が日に日に増す中。

 

「GGO」へと、キリトはやってきて、そしてそこで、やっと、出会えたのだ。

()()()()()()()()()()()()を。

 

……もちろん、あの死銃(デスガン)ではない。

もちろん苦戦はした。

苦戦はしたのだが、それはまた別の意味である。

 

では、その相手というのは、誰なのか。

いわずもがな、「ビッグ・ボス」である。

 

プロさえいるようなハードなゲームの、()を仕切るほどの強さを持ち、そしてなおかつあのSAOの被害者であるなんていう、キリトからしたら願ってもない相手だった。

 

そしてその彼は、予想通り、剣の腕も相当なもの。

しかもSAO時代でさえ、彼は()の世界に生きていたというのだ。

 

だから当然、キリトは歓喜する。

どんな恐怖があろうとも、どんな不安があろうとも、むしろ歓喜せざるをせないのだ。

 

 

 

 

 

 

「……さあ、ここからが。」

「本番……だな。」

 

タスクが呟き、キリトが続く。

 

そしてまた……彼らは剣を交錯させた。




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Episode69 二度目 〜Second time〜

タスクの刀が、キリトの左剣めがけて地面と並行に飛んでくる。

キリトはそれを防ぐため、あえて刀と垂直に剣を刀に叩きつける。

 

バギン、と、ある意味気持ちの良い音が響き、火花が散る。

 

するとその瞬間、タスクの動きが止まった。

その隙を見逃さず、キリトは右剣でタスクの胴へ横斬りを放つ。

 

当然、タスクはそれを察知し、瞬時に飛び上がった。

 

キリトの腰よりも高い位置にタスクの極限まで折り曲げた足が浮かび上がり、その真下スレスレを、キリトの右剣が掠めていく。

 

するとタスクはその瞬間、空中で体勢を転換し、キリトの側頭部へ右足の蹴りを放った。

 

ゴッ

「がっ……!」

 

鈍い音がして、キリトが少しよろめく。

 

そうすると、体勢変換の力の作用点だった刀が、キリトの左剣から離れ、タスクは自由落下を始める。

 

ただ、そこは黒の剣士。

その隙を見逃さず、今度は左剣をタスクの落下運動先へ滑り込ませた。

 

完璧な軌道。

偏差も速度も角度も、最高の状態だ。

 

……だが。

 

タスクは、剣が飛んでくる直前に地面に一瞬、手をついて偏差をずらしたため、キリトの右剣が、またタスクの真下スレスレを掠めた。

 

そしてまた、タスクは右足で蹴りを放つ。

地面とほぼ並行な体から、キリトの左肩へ。

 

ガッ

「ぐぅ……!?」

 

その衝撃で、キリトはタスクから見て左へふらついた。

……と同時に、前回の刀のように作用点がないため、タスクも反作用で右へと少しズレる。

 

そうしてお互いがお互いに離れあったため、一旦攻防が止まった。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ…………」

 

キリトは荒くなった息を正そうとし、タスクは大きく息を吐く。

 

キリトもタスクも、周りの観衆の事など最早忘れていた。

というより、意識など出来なかった。

 

なぜなら、

「全ての意識、そして全ての力を注ぎ込まないと、相手には勝てない。」

そんな思いが、お互いにあったからである。

 

「おぁぁあ!!!」

「……!!」

 

そしてまた、今度はキリトから攻撃を仕掛け、戦いは続く。

 

脳天へと直下する大上段からの一閃。

もちろんタスクは体を直前にずらし、回避する。

 

そして剣が下へと完全に通り過ぎた後。

タスクは下に降りていたキリトの右剣を()()()()()

 

「なっ……!?」

 

これにはキリトも意表を突かれ、咄嗟に剣を上にあげる。

するとタスクは、その勢いに乗じてキリトの頭より高く飛び上がった。

 

ただし、ダメージは全く入っていない。

なぜならタスクが踏みつけたのは、剣のいわゆる「平たい部分」だったからだ。

 

「くっ……!!」

 

キリトは、悠々と頭上を飛び越えていくタスクを睨みながら、自分も遅れまいと即座に体の向きを変える。

 

「……!?」

 

……だが、その体を向けた先には、タスクはいなかった。

 

一瞬、キリトは目を疑う。

ついさっき、後ろへ飛んで行ったはずなのに……と。

 

着地してから横にズレた?

いや、ありえない。

だとしたら、視界の隅に必ず捉えられているはずだ。

 

では、まだ上にいる?

それも、ありえない。

このゲームにおいて、空に浮かんでいられるのは羽を使った時のみ。

 

今回のこの決闘は、羽の使用は禁止、と事前に取り決めてあるのだ。

したがって、それもない。

 

では、一体どこにタスクはいるのか。

 

そんな思考を瞬時にしていたまさにその時。

 

グラッ……

「えっ……!?」

 

キリトの視界が、()()()なった。

そしてそれと同時に、キリトは今、何がどうなっているのかの全てを悟る。

 

おそらくタスクは、後ろに跳躍、着地した直後、その時になっていたであろう低い姿勢のまま、瞬時にキリトの股下へと滑り込んだのだ。

 

そしてその後、キリトの服を後ろからつかみ、今まさにキリトに「投げ技」を繰り出しているのである。

 

「うっ……そだろ!?」

「……いいえ?」

 

あまりに驚いたからか、キリトがつい漏らしたボヤキに、下にいるタスクが反応する。

 

そうしてキリトは、その答えを聞きながら、投げ飛ばされた。

 

ドカッ

「くっ……!!」

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

腹や胸が地面に打ち付けられ、体全体に痛みが走る。

 

だが、そんなことなど構ってられなかった。

なぜなら、タスクがその直後に斬りかかってきたから。

 

ヴァッ……バキン!!

「ぐっ……!!」

 

一度刃先を下に落としてからの逆袈裟斬りという、フェイントまで噛ました鋭い一閃。

 

キリトは、何とかすぐに立ち上がると、即座に剣を刀との間に滑り込ませ、攻撃を防ぐ。

 

「ちぃ……!」

 

攻撃自体は防げたものの、衝撃までは防ぎきれない。

その衝撃でつい漏れたキリトの呟きに、タスクはニヤリと反応した。

 

……そしてまた、タスクは攻撃を繰り出す。

右上からの、袈裟斬りの構え。

 

「……!!」

 

するとその時、キリトの中で、()()()()がフラッシュバックした。

 

右上からの袈裟斬り。

そしてその刃の軌道のちょうど死角になる軌道で飛んできた脚。

 

見事にヒットを喰らい、吹っ飛ばされた、恐らくタスクにしか出来ないであろう、あの技。

 

間違いない。

()()が来る。

 

キリトは、瞬時にそう察した。

 

「おぁぁっ!!」

 

そしてすぐさま、その勘を頼りに、防御体勢に入る。

 

「くっ……!!」

 

見えない。

タスクの右足が、本当にそこにあるようには見えない。

 

恐るべき速度で迫る刀の後ろに、間違いなくいるであろうその足は、いつどのタイミングで視界に入ってくるかわからない。

 

だが、だからといってそのタイミングを捉えた瞬間から防御を始めても、絶対に間に合わない。

 

だから何としてでも、今この瞬間から、防御をしていなければならない。

 

例え、自分がその防御部位以外が手薄になってでも。

 

ガッ!

「ぐっ!」

 

そしてついに、タスクの右足が、キリトのあらかじめ出していた左剣に当たる。

 

刃は、もちろんタスクの足の方には向けない。

勢い負けすれば、自分の体へと傷を入れかねないからだ。

 

ただ、キリトはその瞬間、ニヤリと笑った。

 

防いだ、いや、防いでやった。

最初はまんまとやられたあの技を、たった2度目にして防いでやった。

 

あの痛みを受ける事に、2度目はない。

確かな満足感が、キリトの中で芽生える。

 

……だが。

 

 

 

ゴッ

「がっ……! はっ……?」

 

 

 

2()()()の衝撃が、彼の体を襲った。




最近、週一投稿が出来てるような気がします……

今年中には、せめて決闘は終わらせられる……かなぁ(笑)

今後ともよろしくお願いします。

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Episode70 決着 〜Settlement〜

ありえなかった。

完全に、防いだはずだった。

 

右上からの袈裟斬り。

そして、その死角から繰り出される右の回し蹴り。

 

まだ完全に見切った訳では無いが、クリーンヒットは避けた。

その……はずだったのだが。

 

グラッ……

「ぐっ……う……!!」

 

実際、キリトの視界は、大いに歪んでいた。

左側頭部に、大きな痛みを伴って。

 

頭がグラグラし、剣を握る手の力が、危うく抜けそうになった。

 

「っ……!!」

 

キリトは、そんな状態なのにも関わらず、タスクを睨みつける。

 

するとそこには、大きく股を開いたタスクと、その前で上に伸びる右足があった。

 

しかも、その右足はただ上に伸びている訳では無い。

キリトから見て、くの字になんていう、異形な形で伸びていた。

 

「ま、まさか……!!」

 

キリトはその時。

タスクが一体、何をやったのか理解する。

 

彼は、俗に言う「かけ蹴り」を繰り出したのだ。

「かけ蹴り」というのは、文字通り、「ひっかける」ようにする蹴り技のこと。

右足ならば、足を一度左に払い、そこから上に跳ね上げて相手の左側へと叩き込む、体幹がものを言う変則蹴り。

 

しかもそれを、タスクは回し蹴りをきちんと剣に叩き込んでから、足を下ろさずそのまま繰り出してきたのだ。

 

「なんでそんな……くそっ!!」

 

あまりのタスクの攻撃パターンの多彩さに、キリトはいよいよもって嫌気がさしてくる。

 

一体、どれだけやられれば気が済むのだ。

そんな自問さえ、混み上がって来る程。

 

そうしてついに、彼は決意した。

次の一合、つまり次の攻防で、()()()を出すことを。

 

 

 

……何を隠そう、()()()()()()である。

 

 

 

だが……

それは、()()()()()()()()()()()

 

 

キリトがタスクのかけ蹴りから立ち直る。

タスクは、もう既に足を下ろし、満身創痍でキリトを睨む。

 

その状態でしばらく互いを睨み合った後。

 

ジャリッ……

「はぁ……ぁぁあ!!」

 

キリトが、この決闘史上一番の気迫と殺気を伴って、タスクへと真っ直ぐ突貫した。

 

タスクも、右足を後ろへ回し、迎撃体勢をとる。

 

そしてお互いの距離が0になった瞬間。

キリトが、右剣を左へ、左剣を右へ、横に斬る。

タスクは防御の不可能を悟り、瞬時に後ろに下がる。

 

キリトはそれを見逃さず、もう一歩踏み込んで、今度はその軌道を逆戻しにしてもう一度横に斬った。

 

「っ……!?」

 

あまりキリトがやらなさそうな攻撃を受け、タスクが少し違和感を覚える。

 

……だが、その正体はすぐに現れた。

 

チィィィ……!!!!

「あっ……!!」

 

キリトの右剣が淡い光を帯び、それが段々と強烈になって行く。

 

そして次の瞬間。

 

ガンガンガンガン!!

「ぐ……!!」

 

タスクの刀が、そして彼自身の体が、恐るべき速度の嵐に見舞われた。

 

片手直剣用、4連撃ソードスキル、《バーチカル・スクエア》。

 

「くっぅ!」

 

タスクはたまらず距離をとるために後ろへ跳躍する。

そして地面に着地した直後、反撃へと転じようとするも……

 

「ちぃっ!」

 

タスクはまた、防御せざるを得なかった。

キリト特有のシステム外スキル、剣技連携(スキル・コネクト)を使って、また新たなソードスキルが繰り出されたからだ。

 

「っ……!!」

ガンガン!!

「……!!」

バキンバゴン!!

「がっ……あ!」

ガッ!キィ!ゴォ!!

 

今度は左剣での、同じく片手直剣用、7連撃ソードスキルの、《デッドリー・シンズ》。

 

これには流石のタスクでも受けかねたのか、何発かクリーンヒットを受けてしまった。

 

おかげでHPは激減。

形勢は一気にキリトに有利となった。

 

「はぁ……はぁ……どうだ……!!」

 

一気に体を動かしたからか、キリトはまた息が上がっているものの、しっかりとタスクを見据える。

 

対してタスクは、意外にも、膝をついて俯いていた。

肩が上下するのがはっきり見えるほど呼吸を荒くし、微かに手や足が震えている。

 

「……これで……終わりだ!!」

 

それでもキリトは立ち上がり、剣を構えると……

 

チィィィ……!!!!

「おおおおおぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一気に跳躍し、剣をまた光らせた。

単発重攻撃用ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》。

 

膝をついているタスクにとって、跳躍してまで速度を上げたソードスキルを回避、または防御するのは不可能。

 

それはキリトも、そして観衆も、何よりタスクが、1番よくわかっている。

そこまでをも読んで、最後まで気を抜かず、キリトはこのスキルを繰り出したのだ。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!」

 

キリトの剣が、タスクへと近づいていく。

観衆のどよめきも、一気に沸き起こる。

 

そしてついに、タスクの目と鼻の先に剣の先端が来た瞬間。 

 

ニヤリ

「……へへ。」

「……!!」

 

タスクが、俯いた顔を上げつつ微笑む。

その笑みに、キリトは戦慄した。

 

そして次の瞬間。

 

パァン……

「なっ!」

 

キリトの右剣が、つまりソードスキルを繰り出していた方の剣が、()()()()()

 

するとキリトはバランスが崩れ、タスクを素通りしつつ足をなんとか踏みとどまらせる。

そして即座に後ろを振り向いて、タスクにあと一撃喰らわせようとするも……

 

その時にはもう、既に遅かった。

 

「はああああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!」

ギィィィ……!!!!

 

今度はタスクの刀が光を帯びて……

 

ヴァァァッ!!!!!

「……!!??」

 

ほんの一瞬のうちに、キリトをその光が貫いた。

 

観衆のどよめきが嘘のように静まり返る。

タスクは刀が折れてポリゴン片となり、キリトは……

 

 

 

「ぐぅっ……!!」

ドサッ

 

仰向けに倒れて、火の玉になった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回、後書きに現れた理由は……
はい。そうですね。年末の挨拶でございます。(笑)

今年一年、本当にありがとうございました。
こんな作品を長らくご愛読していただけていることを、心よりありがたく思っております。

一周年記念の時に設定した目標も無事、達成することが出来ましたし、感想を毎回くださる方も増えました。
とってもありがたく、そしてものすごく、励みになっております。

今年は、実に波乱万丈な1年でありました。
今年の漢字が「災」(なんて漢字を使うんだ)であるくらい。
それでも、そんな中でも、この作品を続けてこれたのは、ひとえに、読者の皆様の格別の支えによるものだと、強く実感しております。

また来年も、SJ編やOS編、そしてUW編へと、邁進する予定です。
一周年記念キャンペーンキャラクターも、着々と登場の準備を進めているところであります。

最後に、改めて。
本当に、ありがとうございます。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。

読者の皆様が、また新たな年へと、無事に向かえますように。
そして今年、2018年、平成30年を、無事に、終えることができますように。

心より、この作品と共に、お祈り申し上げます。

駆巡 艤宗



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Have a nice year!!
Σd(・ω・d)


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Episode71 対面 〜First encount〜

路地の街灯が、やたら寂しそうに道を照らす。

 

時刻は夜7時。

すっかり夜も更け、東京という名の街の喧騒の色が、一気に変わる時間帯。

 

黒いコートと藍色のズボンに身を包んだ一人の少年が、狭い路地を歩いていた。

 

その少年の名は、桐ヶ谷 和人。

他でもない、ほんの数日前、影の剣豪、タスクと渡り合い、惜しくも敗れた、別名「黒の剣士」である。

 

その少年、和人……いや、あえて言うならば、()()()は今、黙々と、とある場所へと歩みを進めていた。

 

「本当にそこにあの人がいるのか……?」

 

そんな中、キリトは、不安な感情を言葉に漏らす。

 

決闘に決着がつき、リスポーンした時、既に入っていた店主からのメッセージ。

そして、そこに書かれていた、日時と場所。

 

まだ決闘に負けた実感がなく、かと言ってどことなく自覚しているような、ふわふわした中で、確かに見たそのメッセージを、キリトは思い返した。

 

《明後日の夜7時、「ダイシー・カフェ」で、君を待つ。》

 

……という、前置きも何もかもすっ飛ばし、たった一文、端的に書かれたメッセージを。

 

「『君を待つ』……か。」

 

するとキリトは、思い返しに浸る中で、そう独りごちた。

 

『「ダイシー・カフェ」で、君を待つ。』

日時はいいとして、この文面に込められた意味は、決して一つの……そして単純な意味ではないことは、キリトは容易に理解出来た。

 

今まで、仮想世界でしか会わなかった店主との現実世界の初の接触。

そしてその理由が、「決闘後の話し合い」であるという事実。

 

「はは……もう言ってるようなもんじゃないか。」

 

間違いない。

必ず何か()()()()を、キリトの彼らの仲間入りか否かという話題以上の、『()()』を、店主……あの人は言うつもりだ。

 

キリトは、そんなあえてわかりやすく見せたかもしれない店主の暗示を悟り、少し笑う。

 

そして一言、

 

「いいぜ……受けてたってやる。」

 

そう呟いて、ポケットの中の手を握りしめた。

キリトとて、もう心は決まっている。

 

その心は、『彼らの仲間に入る』……というものだった。

 

もちろん、当初はアスナやリズ達に、やんわりと引き留められた。

シリカとユイだけは……やんわりは愚か、あからさまだったが。

 

ただ、彼女らの言い分は、一貫して『いくら強さを求めると言っても、今自分たちはもう命を懸けているのではないのだから』というものだった。

 

確かにその通りだ。

今はもう、「帰還不能かつゲームオーバー=死」なんていう、腐ったゲームの中ではないのだ。

いまさら強くなったって、せいぜい()()()()()()()ゲームの中で、トッププレイヤーになれるくらいなだけだろう。

 

……でも、と、キリトは内心で否定の意を示した。

 

なぜなら彼らは、()()()()()()()()()()()からだ。

命を懸けたゲームでも、本来の意味のゲームでも、関係ない。

 

キリトがまだ知らない()()に、彼らはいるのだ。

 

SAO時代、登り詰めようとした強さ。

それを遥かに凌駕する、さらに上の強さ。

 

それを知りたくて、キリトは無謀な決闘を挑み、そして負けたのだ。

その賭けと、それの結果を、無駄にはしたくない。

 

もちろんこれは、単純な興味かもしれない。

それかあるいは、男性なら一度は感じたことのあるだろう、「強さへの憧れ」なのかもしれない。

 

でも、それでも、その単純な興味かもしれない()()()()は、必ず、いつかどこかで使える。

そしてそれが、ゆくゆくは、アスナを始めとする、「大切な人」を守る時に必要になる。

 

キリトはそう、確信し、そしてそれを彼女ら……アスナたちに伝え、こうしてきているのであった。

 

「ついた……!!」

 

すると、そんな考え事……というより、回想をしている間に、キリトは遂に「ダイシー・カフェ」の前へと、やってきていた。

 

いつも気軽に開けていた扉が、何故か今日に限っては、やけに開けにくい雰囲気を醸し出している。

 

この先に、あの人が……あの()()がいる。

そう思うと、より一層、緊張がこみ上げてくる。

 

だが、ここで引き返す訳には行かない。

タスクを別の世界まで呼び出して、引き止めるアスナ達を説得し、今度は自分が、向こうの世界へと行くのだと、決心してきたからだ。

 

「くそっ……ええいっ!!」

 

そうしてキリトは、その決心のままに、勢いに任せて扉を引き剥がさんとばかりに引き開ける。

 

「よお、キリト。いらっしゃい。」

 

するといつも通りのエギルの声が飛んできて……

 

次の瞬間。

 

「……やあ!キリトくん。何日かぶりだね。」

「あ、あんた……まさか……!!」

 

キリトに、驚きの衝撃が走った。

 

 

カツカツ……

スタスタ……

 

体重の違いからか、それとも歩き方の違いからか。

はたまた、履いている靴の違いからか。

 

全く違う音質の足音が、夜7時の霊園に響く。

 

「……」

「……」

 

一方は背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯の男性。

そしてもう一方は、男性とほぼ同じ背丈をした、細いメガネの女性。

 

……もう、お分かりだろう。

 

「ここ……が?タスク。」

「ええ……ここです、シノンさん。」

 

この2人である。

 

「これが、僕の親友……アユムのお墓です。」

「アユム……くん。」

 

するとタスクが、そう言ってしゃがみ、目の前の墓石を愛おしそうに、かつどこか悲しそうに眺める。

それに対し、シノンは立ったまま、その墓石をまっすぐ見つめる。

 

そこには、「和平(かずだいら) 歩武(あゆむ)」と彫られていた。

墓石を撫でるタスクと、それを虚ろな目で見つめるシノン。

 

二人の間に、しばしの静寂が訪れた。

 

……そう、この二人は、それはもう、死銃事件よりも前の、かなり前、タスクと店主が意図せず集まった、タスクの()()()()()()、アユムのお墓へと、お墓参りに来ていた。

 

なぜならそれは2日前、キリトとの決闘の際、タスクがつい漏らした、

『ごめん……アユム、僕……』

という呟きに、シノンがどうしても堪えきれず、恐る恐るその「アユム」とは誰なのか、直接聞いてみたのだ。

 

もちろん、シノンとて間抜けではないため、恐らくその「アユム」というのは、いつか店主が言っていた、「SAO時代にタスクが失った仲間」の事だということを、それとなく悟ってはいる。

 

だから、恐る恐るで聞いてみたのだ。

本来、触れるべき話題ではない事は百も承知である。

 

ただ、シノンはその……いわゆる「常識」よりも、何故か「好奇心」を優先させてしまった。

自分はこんなに不躾な奴だったか、と、自分で自分に落胆する程に、自分の行動を恥じたのだが、何故か不思議と後悔はしていなかった。

 

それに、対価と言ってはなんだが、自分にもそれと似た過去がある。

もしタスクが嫌な顔をしたら、それを話そう。

シノンは様々な葛藤の末、そう心に決めて、タスクに問うてみたのであった。

 

……すると、意外にもタスクは、嫌な顔一つせず、快く承諾してきたのだ。

いつもの二カッとした笑みを漏らし、「いいですよ」なんて軽い言葉で返してきたのである。

 

もちろん、シノンはその時、戸惑いが隠せなくなった。

自分が色々悩んで、非常識だ、不躾だなどと自分を罵って、それでもなお……なんて、葛藤じみたことをしてまで問うた質問に、こんなにもあっさり、そしてむしろ快く、受け取られてしまったからである。

 

「……シノンさん?」

「あっ……ああ……ごめんなさい。」

 

するとその時。

シノンが、タスクの声で回想から引き戻される。

 

そう言えば……といえば失礼だが、今自分はタスクに連れられ、その()()()()の前に立っているのだ。

さすがにここまで不躾なことをしておいて、ぼーっとしている訳には行かない。

 

そう思い至り、シノンは慌てて何か……いわゆる「お悔やみの言葉」の一つや二つを言おうとする。

 

「あっ……えっ……と……!!」

 

……だがそれは、タスクの呟きによって、遮られた。

 

 

 

 

 

 

「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです。」

「……!!」

 

シノンは咄嗟に、口を噤んでしまった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、Twitterでは予告しておりました通り、この場を借りて、謝罪させていただきます。

一体なんのことかと申しますと、それは『予告の誤表記』です。

前回の、『Episode70 決着 〜Settlement〜』の後書きにおきまして、今後の予定として、「AW編」をお送りする、と表記されておりましたが、これは間違いです。

正確には、「UW編」、つまり「アリシゼーション編」でございます。
「AW編」だと、原作の作者さんの別の作品、「アクセル・ワールド編」になってしまいます。

それは、全く意図しておりません。
完全なるこちら側のミスです。

これからのご期待を大きく左右する予告におきまして、このようなミスを犯してしまい、本当に申し訳ございませんでした。

以後は、もう二度とこのようなことがないよう、細心の注意を払っていく所存です。
今後ともよろしくお願い致します。

※問題の部分は、既に修正済みです。

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Episode72 本題 〜the main subject〜

キリトは、衝撃を受けていた。

そして今でも、その驚きが抜け切れてない。

 

「え、ほ、ほんとに……あなたが?」

「ああそうさ、僕が……店主だよ。」

 

キリトがまるで信じられないと言わんばかりに確認するが、その……少し長い髪を後ろに結び、がっちりとした体格をしてはいるものの、どこかのほほんとした雰囲気の男は、そう言って笑ってのけた。

 

「あ、あなた……が……本当に……」

「……あれ、意外とびっくりしちゃってる感じ?」

 

そんなその男を見て、キリトはまた驚愕する。

すると、それを見たその男……もとい店主が、一言呟いてまた笑った。

 

あれは忘れもしない、決闘の二日前。

一人黙々と、決闘について考えていた時。

 

少し離れたカウンター席から、首を曲げて、話しかけてきた男がいたのだ。

 

まさかその男が、あの店主だったとは。

キリトはそんなこと、当然思いもしなかった。

 

「……!!」

 

ただ、確かに言われてみると、そんな気もしてくる。

雰囲気といい、体格といい、そして顔つきといい、確かにそれとなく店主だった。

 

「ま、とりあえず、座ろうか。」

「……あっ、はい。」

 

すると、その場にお互い立ちつくしているこの状況に不自然さを感じたのか、店主がそう切り出してそそくさとテーブル席へと移動する。

 

キリトも、慌ててその背中について行った。

 

 

「……で、どうするんだい。」

「あっ……ああ、はい。」

 

それから、数分後。

 

キリトと店主の二人は、テーブル席に向かい合い、そしてそれぞれ好みの飲み物を注文して、早速本題へと入ろうとしていた。

 

キリトはこの店でお気に入りのカフェラテ。

そして店主は、やはりと言うべきか、コーヒーである。

 

ズズ……

「ふぅ……」

 

店主が、そのコーヒーをひと啜りし、小さく息をつく。

 

ただ対してキリトは……なかなかそこまでリラックスは出来ていなさそうであった。

 

「そ、その……」

「うんうん。」

 

すると、そんなキリトがゆっくりと、そしてどこか、タジタジさが隠し切れていない声で話し始める。

店主はそれに、素直に耳を傾けた。

 

「やっぱり、俺は店主さん達の仲間に……入れてもらいたいと思ってます。」

「……ふむ。」

「実際、剣を交えてみて……分かったんです。あいつの……いや、タスクの剣は、俺やアスナの握ってきた剣とは違うもの、全くの別物なんだって……」

 

そう言って、キリトは店主を真っ直ぐ見据える。

すると店主は、疑問の意を示すかのように首を少し曲げ、コーヒーを啜りつつ疑問符を返した。

 

「……というと?」

「その……今まで、俺らが握ってきた剣というのは、いわゆる()()()()()()のための剣って事です。ただ現実世界に帰るため……あの世界から、いち早く解放されるために、つまりその……自らのために、握っていた。」

「……」

「でも、タスクや店主さんは違う。あなた方の握ってきた剣というのは、いわゆる()()()()()()のための剣でした。」

「……!」

「一見すれば、必要ないと思われるでしょう。あの世界で、倒すべき相手は間違いなくモンスターですから…………でも、俺には分かる。店主さん達、「裏血盟騎士団」の存在は、間違いなく、俺達の攻略に必要不可欠でした。」

「……はは。」

 

すると店主は、あまりの言いように、照れくさそうに苦笑いした。

キリトは、そんな店主を見て自分も苦笑いすると、少し言葉を変えて、話し続ける。

 

「つ、つまり……店主さん達の剣は、俺達みたいな自らのためではなく、俺達のために、握っていてくれたのだ……と。そう言いたいんです。」

「……!!」

「菊岡さんから聞きました。裏血盟騎士団は、攻略組への暗殺刺客を何人も退けた……と。」

「まあ……ね。」

「追い返し、防ぎ……時には()()()まで、自らをレッドプレイヤーに貶めてまで、攻略組を守っていてくれたのだと、そう言われたんです。」

「……!!」

 

そう、キリトが言った時。

菊岡のやつ、なんてことを……と、店主は内心で悪態をついた。

 

確かに、キリトの言っていること……ひいては、菊岡の言っていることは、間違いではない。

そもそも、裏血盟騎士団なるものが創設された理由は、まさにそれなのだ。

ラフコフの出現に伴い、恐らく攻略を阻止しようとしてくるであろうという予測を立て、創設された機関。

 

……ただ、その機関のやっている事の聞こえは良くても、店主はそれを褒められたりするのがあまり好きではないのだ。

 

なぜなら、例えどんな理由があろうと、人を殺してはいけないという禁忌を犯しているから。

そうせざるを得なかった、もししなければ、もっと酷いことが起きていた、そんな事は分かっている。

 

だが店主達は、自分達の行いを、正当化すること……つまり、功績と捉えることに対しては、どうしても納得がいかないのだ。

 

この事に関しては、菊岡にタスク……いや、あえて言うならば()()()()()()共々二人で、

「僕らは、自分たちの功績を残すために戦ってきたのではない」

と、散々言い含めたはずだった。

 

……ただ、キリトの話を聞く限りでは、菊岡の意識はそうではなかったようであった。

 

また説教だなこれは、と、店主は今度は内心でため息をつく。

 

だが、そんな店主の内心のため息などつゆ知らず、キリトの話はまだまだ続く。

 

「それで……その、俺が思うに、それを成し得ることが出来たのは、ひとえに、()()()()()()()()()()……だと、思うんです。」

「……」

「そして今、俺が欲しているのは、そういう()()なんです。単なるプログラムでできた化け物に対する強さじゃなくて、いつ何をしでかすか分からない、人間に対する()()()()()……を。他でもない、俺の大切な人を守るために……」

「……」

「だから……その……俺を、仲間に入れて欲しいです。その()()()()()を、見るためにも。」

 

……と言って、キリトは話を切った。

そしてゆっくりと、店主を見て、そのまま固まる。

 

こうして、二人の間にしばしの静寂が訪れた。

キリトは店主を見て、店主はキリトを見て、その狭間に凄まじい緊張感が迸る。

 

……が、その永遠にも思えた緊張の数秒の後、不意に店主が、ふ、と微笑んだ。

その笑みを見たキリトは、無意識に眉間にシワを寄せる。

 

すると、そんなキリトを見つめたまま、今度は店主が、こう切り出した。

 

「ふふ……そうか。」

「……!!」

「ひとまずは、分かった。君の気持ちも、思いも……ね。」

「は、はい……!」

 

キリトは、そんなどこか遠回しな店主の言い方に少し違和感を覚えつつも、しっかりと返事を返す。

 

これでいい。

こうすることが、最善の道だ、と、キリトは内心で確信する。

 

……が、その時だった。

 

「ただね。」

「っ!?」

 

店主がそう言いつつ、いつのまにか肘をついて、キリトを懐かしむような目で見ていた。

 

キリトは、その視線に直感的に何かを悟る。

 

すると店主は、その直感を裏付けるかのように、こう……切り出した。

 

 

 

「少し……昔話をしてもいいかな。」

「な……!?」

 

 

 

キリトが驚いたのは、言うまでもないだろう。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、とある報告をさせていただきます。

それは……
『店主さんのお店の構造図、やっと公開しました!!』
です。

大変長らくお待たせ致しました……。
設定集の店主の欄にて、挿入させていただきました。

是非一度、ご覧になってくださいね!!
では!

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Episode73 パートナー 〜partner〜

以前、切るところで切ったら短くなってしまったように、
今回、繋げるところで繋げたら長くなってしまいました。

そして、作者は絶賛スランプ中です。
いつもより駄文がすぎると思われますが、どうぞよろしくお願いします。


「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです。」

 

そう言って、タスクはしゃがんだ。

 

「僕は本来、()()()()()()()()()()()()()んですよ……」

「っ……!!」

 

そして、そんな少し丸くなった背中から聞こえてくる呟きに、シノンはぐっと、なにか締め付けられたような感触を感じる。

 

「僕が……僕が臆病者だったから……僕は、彼を守ることが出来なかった。彼は……死ぬことになったんです。」

「……!!」

 

だが、そんなシノンを差し置いて、タスクはただただ懐かしそうに、そしてどこか悲しそうに、その墓石を撫でた。

 

「シノンさん……いえ、詩乃さん。」

「っ!?」

 

するとその時。

 

タスクが、こちらに振り返ることなく、シノン……ではなく、詩乃、と、急に呼びかけてきた。

詩乃は、言わずもがな、びくりと驚く。

 

だがタスクは、そんな詩乃の驚きなどつゆ知らず、未だなお、墓石に向かったまま、こう、問いかけた。

 

「今から話す事……()()()()()()()と、約束しますか。」

「……!!」

「これは、今まで誰にも打ち明けていないことです。」

「だ、誰に……も……!!」

「そうです……でも、今日僕は……いや、少なくとも()()()()()は、初めて打ち明けます。」

「……!!」

 

「他の誰でもない、僕のパートナー……に。」

 

「!?」

 

その時、詩乃は、頭の中が真っ白になる。

 

いつのまにかタスクは、しゃがんだままこちらを向き、シノンを見上げている。

その顔を見ると、尚更頭がぐるぐるとかき混ぜられたような感覚に陥る。

 

……のだが、答えは既に、決まっているも同然だった。

 

「あの事件」から、もうすぐ2年。

それまでの間、誰にも打ち明けてない過去を打ち明けるという事は、彼の中でも、何かしらの心の動きがあったのだろう。

 

私には、その彼のきっと辛かったであろう心の動きを、拒絶する権利はない。

きっとその逆……きちんと受け止めて、なんなら一緒に背負う……()()()()()()()としての義務が、そこにあるはずだ。

 

そう、詩乃は思い至る。

 

……というより、思い至っていた。

タスクに、ここに連れてこられるまでに。

 

だから詩乃は、ふらふらする頭を何とか保って、しっかりと、タスクの問いかけに答えた。

 

「ええ……もちろん。約束する。」

「……!!」

 

すると、今度はタスクが、詩乃を見上げる目を丸くする。

 

……だが、すぐにその視線を墓石に戻すと、ゆっくりとこう、切り出した。

 

 

 

 

「あれは……そう、SAOが始まってから、ちょうど1年が過ぎた辺りでした。」

 

 

「彼にはね、唯一無二の親友がいたんだ。」

「親友……ですか。」

 

一方、こちらは店主とキリト。

店主が急に、昔話をしてもいいか……と話し始めて、少したった頃である。

 

「そう、親友。それもね、SAOに囚われるずっと前からの、リアルの親友さ。」

「……!!」

「なんでも、幼稚園辺りからずっと一緒だったらしい。」

「そ、それは……」

「うん……実際すごく仲がよかった。彼のプレイヤーネームは、アユム。」

「アユム……くん。」

「本名は、和平(かずだいら) 歩武(あゆむ)で……」

「……」

「コードネームは、苗字からとって、「カズ」さ。」

 

そう言って、店主はふっと微笑んだ。

キリトは、瞬時にその笑みの中に悲しみの感情が含まれているのを察する。

 

「彼はね……とてもいい子だった。」

「……!!」

 

すると、キリトの予想通り、次に店主が発した言葉には、どこか悲しげな感情が含まれていた。

 

「頭がよく回って、大人しくて……」

「……」

「そしてきっと、ラフコフみたいな連中に対して、一番敵対心というか……その、正義感が強かった。」

「……」

 

そう言って、店主は体勢を変え、机に肘をついて、コーヒーをついてきたスプーンでかき混ぜ始める。

キリトはその手元を、店主が何を言わんとしているのか、どこかうずうずしながら見つめた。

 

しばしの沈黙が、その場に訪れる。

……が、キリトの視線に促されたのか、店主はすぐにまた話し始めた。

 

「でもね、彼はなぜか、戦闘だけは、向いてなかったんだ。」

「え……!?」

「はは、やっぱり驚くよね。」

「い、いやだって……」

「まあ……ね、言いたいことは分かるけど……でも本当なんだよ。彼はそれこそ、まるで()()()()()()()()()()()()()()かのように、どれだけ訓練を積んでも成果が上がらなかった。」

「な……!!」

「あらゆる武器、あらゆる戦闘スタイルを試してみたけど、全くダメ。当時、熱心に教えてあげてたタスクくんの努力虚しく……ね。」

「……!!」

「はは、手は尽くしたんだけどね。でも……やっぱりダメだった。」

「は、はあ……!?」

「よくタスク君と二人で頭を抱えたものさ。あの頃は楽しかったなぁ……」

 

そう言うと店主は、ははは、と笑い始めた。

キリトは驚愕し、ついポカーンとしてしまう。

 

確かに、向き不向きというものは存在する。

だが、店主にここまで言わせる程のものがどれほどのものなのか、全くもって想像できないし、そもそもそんな、言ってしまえば()()()を、笑っていていいのかと、キリトの中には疑問符が浮かび上がってくる。

 

……だが、やはりと言うべきか、すぐに店主はその笑みをひっこめた。

 

「……でね、そのうちだんだん、僕らは気づき始めたんだ。」

「……!?」

「向いていないことをただひたすらできるようにするより、元々持っている()()()()を伸ばしたほうが結果的にはいいんじゃないか……ってね。」

「良さ……ですか。」

「そう。ほら、さっき僕さ、「よく頭が回る子だった」って言ったじゃない?」

「あ……ま、まあ……」

「僕らはね、まさにそこを伸ばそうとしたんだ。つまり……言っちゃえば「()()()」になってもらおうとしたんだよ。」

「……!!」

 

するとその時、キリトは、どこかモヤモヤが一気に晴れたような感覚を覚える。

 

確かにそうだ。

戦闘と言っても、ただ戦うだけではダメなのだ。

 

相手の行動を読み、それに合わせて動かないと、戦闘では勝ち目がない。

しかもそれが、生身の人間が相手だと尚更、それ加え団体と団体の衝突なら、さらにだ。

 

店主は、そんな納得をするキリトを見て、ふふ、と微笑む。

 

「ふふ……納得した?」

「……!!」

「で、そう気づいて以来、彼は途端に才能を発揮し出してね。」

「才能……!!」

「そう……才能。もうね、それはそれは見てて面白いくらいさ。」

「……」

「彼はね、作戦や戦略はもちろん、戦闘の仕方、そのものに革命を起こした……と言っても、過言じゃない。」

「か、革命……?」

 

いきなりすごい単語が出てきたな、と言わんばかりにキリトは聞き返す。

すると店主は、未だその微笑みを消さぬまま、言葉を続けた。

 

「そう……革命。」

「……!!」

「いい例がタスクくんだね。キリトくんさ、タスクくんの戦い方を見て、どう思った?」

「あっ……!!」

 

その時、キリトの脳裏に、まるでフラッシュバックするかのようにあの時の光景が浮かび上がってくる。

 

あの……剣術と格闘技を組み合わせたような、異様な戦闘スタイル。

まさかあれは……と、キリトは驚きに満ちた目で店主を見た。

 

「ま、まさか……!!」

「……ふふ、びっくりしたでしょ、あれ。」

 

すると、店主はその目を見て微笑む。

そして答えと言わんばかりに言葉を続けた。

 

「そう、あの戦闘スタイルは、アユムくんがタスクくん向けに……と、考え出したものさ。」

「……!!」

「当時、逆に戦闘だけは秀でていたタスクくんに、アユムくんは様々なアイデアをくれたんだよ。そしてそれを、タスクくんは寸分たがわぬ精度で具現化した。」

「ア、アイデア……ですか?」

「そう、アイデア。例えばさ、ほら、決闘の終盤に出した、ソードスキル発動中のキリトくんの剣を弾き飛ばしたやつ、あったじゃない?」

「あ、ああ……」

 

確かにそんなのあったな、と、キリトは思い返す。

 

勝った、なんていう、今思えば早とちりがすぎる確信の元、突き出した剣が、何故か自分の手から離れ、宙に舞った()()

 

「あれはね、剣術破壊(スキルブラスト)って技。」

「な……!!??」

「原理はよくわかんないけど……なんかね、アユムくん曰く、システムがなんだとか、力点作用点がなんだとか言って、()()()()()()()()()()()ってやつ。」

「……!!」

 

するとその時。

キリトは、内心で衝撃に身を揺さぶられていた。

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 

彼はSAO時代、武器破壊(アームブラスト)というシステム外スキルを編み出していた。

 

理由としては、相手を無力化するには相手の武器を壊してしまえばいい、なんていう至極単純な思考に至ったから。

 

……だが、流石のキリトも、武器はおろか、()()()()()()()()()()なんていう思想には至らなかった。

 

まさに、「一段上」な発想だ。

だからキリトは、衝撃に駆られているのである。

 

「他にも沢山あるよ。もう一個例を出そうか。」

「!」

「んーとね、あまりこういうとあれかもしれないけどさ。」

「……?」

「決闘の時、君に……その、トドメをさしたソードスキルがあったじゃない?」

「は、はい。」

「あれはね、元々アユム君が編み出した技……ま、言っちゃえばシステム外ソードスキルなんだ。」

「……!!」

「まあ、タスクくんはいつの間にかOSSとしてALOに落とし込んでたみたいだけどね。ちなみにあれの名前は、『紫電(シデン)』。」

「『紫電(シデン)』……」

「そ。その紫電(シデン)っていう単語は、元は「研ぎ澄ました刀の反射する光」って意味。」

「……」

「その鋭い光のように……刀で敵の弱点を穿つ。それも1回じゃなくて、確かあれは……3箇所、かな。つまりは、あの一瞬の間に3連撃してるのさ。」

「……!!!!」

 

キリトが、目を丸くしてポカーンとする。

店主はそんな彼を見て、ふふ、とまた微笑む。

 

「まあ、つまりはさ、アユムくんが理論を構築して、タスクくんがその理論を実用化する……って言ったら分かる?」

「……!!」

「彼らはまさに、仲間として最高の関係……」

「……」

 

「まさに「()()()()()」だったんだ。」

 

「……」

 

()()()」。

その言葉が、キリトの心にグサリと突き刺さる。

 

実はキリトには、薄々感じていることがあった。

それは、「()()()()()()()()()()()()()()()()」のではないか、という事。

 

話し始めた時から違和感があったのだ。

やたら過去形を使うのも然り、どこか悲しそうな目をするのも然り。

 

まだ話は中盤辺りだ。

それかもしかしたら、まだ序盤なのかもしれない。

 

だから聞かなかった。

と言うより、「で、そのアユムくんは、今どこに?」とは、むしろ()()()()()()のである。

 

……だが、その予想は次の瞬間、確信に変わったのだった。

 

「……でもね。」

「……っ!!」

 

その時、店主の話すトーンが、一段と下がった。

キリトは、そのトーンの変化に、やっぱり、と言わんばかりの納得感を覚える。

 

そしてついに……その時がやって来た。

 

「そんないい関係は……」

「……!!」

「いや、そんないい関係()()()()()かな。」

「っ……!!」

 

 

 

 

 

「ある日突然、永遠に断ち切られてしまったんだ。」

 

キリトは、無意識に眉間にしわを寄せ、ぐっと体が強ばる。

そしてまた、そう言った店主の手は、強く握りしめられて震えていた。




長い上にスランプで駄文……
本当にすみません。

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Episode74 大罪 〜Great deal〜

「え、永遠?」

「そう。永遠に、です。」

 

夜風が背筋を撫でたのか、シノンはゾクリと寒気を感じる。

 

タスクの旧友、アユムの話。

殺伐としたSAO時代に、確かに存在した熱い友情。

 

今まで聞いてきた話は、シノンのSAOへのイメージを変えるほど、意外な……そしてとても良い話だった。

 

そしてそれを語るタスクも……無意識なのか、墓石を見ながら懐かしそうに微笑んでいたのだ。

 

……が、今となっては打って変わって、タスクの話すトーンはガクンと落ち込み……

 

どちらかと言うと、シノンの想像していたような、いわゆる冷たいSAOの感触へと変わっていた。

 

「で、でも、一体どうして……!!」

「いやぁ、簡単なことですよ。」

 

シノンのボヤキに、タスクは今度は悲しげな笑みで答える。

 

「はは、まあつまりは、()()()鹿()()()()()()()ってことですよ。」

「ば、馬鹿?」

「そう。恐らく、相手も気づいてたんでしょうね。」

「……?」

「戦闘の勝率の上昇と共に、()()()()()()()()()のを。」

「あっ……!!」

 

するとその時。

シノンの中に、一気に()()()()が巣食う。

 

結果は分かる。

タスクが、懐かしそうに眺めている墓石を見れば。

 

……ただ、そう分かっていても、胸の中がチクチクするようなこの予感は、シノンにはどうしても拭いきれなかった。

 

そして、()()()()は、的中する。

 

「当時、僕らは、『裏血盟騎士団』というギルドで、活動していました。」

「……」

「元々、『血盟騎士団』というそれはもう……強く大きなギルドが母体となっている、言わば子会社みたいなやつです。」

「……!!」

「設立された理由は、いわゆる「汚れ仕事(ウェットワーク)」をこなすため。」

汚れ(ウェット)……仕事(ワーク)?」

「そうです。当時、血盟騎士団は、おそらくは最強だった。するとですね、そんな彼らを、止めようとする連中も出てくるんですよ。」

「な、なんで……」

「はは、それはですね……」

 

するとその時、タスクは言葉を一旦切る。

そうして、しばらく時を置いた後、こう言葉を続けた。

 

()()()()()()()()、です。」

「な、な……!?」

 

シノンは、嫌な予感なぞとうに通り越して、恐怖を感じる。

 

なぜならばそれは、現実世界へ帰る、それが全員の目標ではないのか、そう疑問に思っていた矢先、とんでもない言葉がすっ飛んできたからだ。

 

「人を……こ、こ、殺したい?」

「ええ……そうです。あの連中はね。」

 

シノンが、恐る恐る、タスクの言葉を復唱する。

対してタスクは、さらりと言葉を返した。

 

……が、タスクもあまりにも簡単にし過ぎかと思ったのか、説明を付け足す。

 

「まあその……つまりですね。」

「え……ええ。」

「あの世界では、人殺しをした時、なかなかその実感が湧きにくいんですよ。」

「……!!」

「あの世界だけじゃない。今僕らが戦っている世界でだって、相手を殺す、という実感はあまりないはずです。」

「……!!」

「たとえ剣で首を落としても、体を切り刻んでも、出てくるのはポリゴン片のみ。」

「あ……!!」

「ふふ、分かりました?」

 

シノンは、タスクの言わんとしていることを嫌でも理解する。

 

ただ純粋に、人殺しをしたい。

並大抵の覚悟では到底できないような()()を、犯してみたい。

 

だが、それは簡単にはできない。

なぜならば、そこに悲惨な光景が現れることが、目に見えているから。

 

実際、シノンはその()()()()()を見ているから、尚更理解出来る。

 

……ただ、もし、その()()()()()が、現れなければ。

確かに人が死んでいる。それも、自分の手で。

だがそこに、人殺しをした、という明確な証拠が残らなければ。

 

シノンの()()()()の時、もしそうなら、今どうなっていたか。

 

答えは簡単だ。

確かに罪悪感は残る。

だが、それを上回る正義感が、シノンを支配していたはずだ。

PTSDなど、もちろん発症しなかっただろう。

 

「っ……!!」

 

シノンの心拍が、警鐘となって体中に響き渡る。

それと同時に、思考が先程のタスクとの会話につながってくる。

 

そう……つまりそのラフコフという連中は……

 

「人を殺したい……っていう、よ、欲望のために……」

「そうです。実感は湧かない、でも確実に死んでいる。そう分かっているから、人を惨殺し、自己肯定感を得ていたんです。」

「な、なんてこと……!!」

「そしてそれを、今にも終わらせようと、動いている人達がいる。」

「あ……!!」

 

その時、シノンの中で、タスクの難解な言葉の意味が、自然と現れてくる。

 

攻略組を、そしてその最大勢力、血盟騎士団を、ラフコフらレッドプレイヤーが、止めようとした理由。

 

それは……

 

「つまり彼らは……」

「自分たちの欲求を満たしたいがために、世界の終わりを阻止しようとした……そういう事?」

「そういう事です。」

「……!!」

 

するとタスクが、そこまで言って、懐かしくも悲しそうな目を引っ込め、どこか怒りの感情が含まれた目を地面にむける。

 

「……」

「……」

 

そしてその後、しばらくの沈黙の後。

 

どこか……その怒りを抑えているような、必死に息を押し殺した声で、こう……話を続けた。

 

「それでそのうち……彼らはその欲望を暴走させるようになります。」

「……」

「そしてそれを止めるべく、僕らが組織されて……」

「……!」

「するとだんだんと、その欲望の矛先が、僕らに向いてきて……」

「……!!」

「僕ら裏血盟騎士団を、()()()()、壊そうとした。」

「あっ……!!」

「とてつもなく残虐に、そして永遠に……。」

 

するとその時、シノンの中で、全ての話が繋がる。

 

裏血盟騎士団の()()

つまりそれは……いわゆる「()」のこと。

 

「彼ら……いや、連中は……」

「……!!」

 

 

 

 

「アユムを誘拐、監禁したんです。」




いつになったらこの章が終わるのかって?

え、SJ編のプロットができてからです!
ヽ(゚ω。)ノ≡ヽ(。ω゚)ノウヒャヒャヒャ

すみません(笑)

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Episode75 比率 〜ratio〜

「ゆ、誘拐?」

「そう。」

「それに……監禁って……!」

「そのまんまさ。」

 

キリトが、目を見開いて店主の言葉に食いつく。

 

店主は今、ラフコフの欲望がだんだん裏血盟騎士団に向いてきた、と言った。

人殺しに快楽を求めるあの連中を止めようとして、逆にその矛先を向けられた……と。

 

ならば、次にくるのは「殺害」やら「暗殺」やら、いわゆる「命を落とす」系列の言葉……だと、思っていたのだが。

 

実際はそうではなく、やってきたのは「誘拐」と「監禁」という、今までの過激さと比べればどこかヤワそうな単語。

 

「ふふ……なんで、と言わんばかりな顔をしてるね。」

「……!!」

 

その時、店主がポカーンとするキリトを見て微笑んだ。

キリトは、その顔をあえて見返して説明を求める。

 

すると店主は、キリトが言わんとしていることを自ずと察し、話し出した。

 

「確かに、彼らは人殺しに快楽を見出す集団。それは、間違いない事実だ。」

「……」

「でもね、彼らとて人間だ。いずれ()()が来る。」

「……!?」

「人間は、()()が来ると次に何をすると思う?」

「……!!」

「彼らはね、殺しのレパートリーを増やしたんだ。」

「レ……レパートリー?」

「そう……レパートリー。ま、言っちゃえば種類、だね。そのひとつが、今まさにこの状況さ。誰かの大切な人を攫って、その誰かが助けに来たところで、目の前でその大切な人を殺す。」

「なっ……!?」

「その後、その誰かも殺す。殺す側はそれだけで2人も殺せるし、何より大切な人を殺されたその誰かの絶望した顔も見れる。」

「っ……!?」

「まあ、こう言っちゃあなんだけど、殺す側にしてみたら楽しいことこの上ないだろうね。」

「な、なぁっ……!!??」

 

そう話しつつ店主は、どこか怖い笑みを浮かべ始める。

そしてキリトの顔は、それに比例して、あからさまな引き顔へと変わっていった。

 

「……で、その状況がまさに裏血盟騎士団な訳さ。」

「あっ……!!」

「当時、『知のアユム・武のタスク』なんて言われるくらい、彼らは猛威を奮っていた。」

「……!!」

「そんな2人、同い歳なこともあって、仲がいい。そしてその歳も、14、5とまだまだ若い。」

「う、うわ……!!」

「もう、彼らにとっちゃぁこの上ない状況だよね。これが成功した暁には、なかなかない子供の殺害が2人もできる上、敵対勢力の指揮系統崩壊(モラルブレイク)、さらにはその勢力の壊滅だって目じゃない。」

「……!!」

 

キリトはいつの間にか、机を見つめて顔を歪めていた。

 

心無しか、店主の顔が見れなくなったのだ。

それはただ単純に怖くなったのか、それとも何かまた別の理由があるのか。

 

分からない、だが分からないが故に、尚更怖い。

 

「……ふふ、怖くなっちゃった?」

「いっ……いえ……」

「はは、声が震えてるよ。」

「っ……!!」

 

店主のあっけらかんな声が前から聞こえてくる。

キリトはそんな声での指摘に言葉を返せず、結局黙り込んでしまう。

 

……そして、店主はついに、こう切り出した。

 

「……でまあ、かくして、ついに『アユム事件』が起こっちゃったわけさ。」

 

 

「手順は至って簡単でした。」

「……」

 

一方、こちらはタスクとシノン。

 

タスクはあぐら、シノンはしゃがんで、墓へ斜めに向いて、半ば3人で丸く座っているような感じで、話は続いていた。

 

「当時、裏血盟騎士団の最大の敵はラフコフ。という事はつまり、()()()()()()()()()()は、ラフコフへの対処な訳です。」

「え、ええ……」

「ですから、その……そうですね、「比率」で考えてみてください。」

「……?」

「戦力、つまり人は、無限にはありません。どこかへ多くの戦力を、そして人員を投入すれば、必然的に他の所の戦力は低下します。」

「そ、そうね……」

「とすれば、それを逆に捉えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、相手方には必ず隙が生まれる訳です。」

「……!!」

「ラフコフのリーダーは、その加減がすごくうまかった。僕らがそうせざるを得なくなる状況まで、その……ラフコフへの特段の警戒心も利用されて、あっという間に持っていかれてしまったんです。」

 

そう話すタスクの顔は、微笑みを保ちつつもどこか暗く沈んでいた。

シノンはその顔を伺いつつも黙ってその話を聞いている。

 

「ただ、僕らも自覚がなかった訳ではないんです。」

「……?」

「嫌な予感はしていたし、なんならアユムは、もしかしたらわかっていたのかもしれません。」

「でも……」

「ええ……そうなんです。()()()()()()()()()()()。ほんとに、してやられましたよ。」

 

そう言って、タスクは大きく息を吐く。

シノンは、相変わらずその様子を見つめ、黙り込んでいた。

 

そうして、しばしの沈黙が訪れ……

 

「……で、じゃあ具体的に一体どうなってしまったかと言うとですね。」

「……!!」

 

……たのだが、タスクがその沈黙を破るようにまた話し始めた。

シノンはシノンで、そんなタスクの話に素直にまた、耳を傾ける。

 

 

 

 

そしてまた……タスクの、そして今は亡きアユムの、凄惨な過去の断片が語られていった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやぁ、長いですね(笑)
『光と影』編、想定よりだいぶ長くなりそうで、申し訳なさ半分、こんな長々とした作品を読んでくださる嬉しさ半分、とっても微妙な気持ちです(笑)

……で、ですね。
なかなか終わりが見えてこないこの章に、流石の読者さんも「例のアレ」が気になってしょうがなくなっているのではないか?と思い至りましてですね。

Twitterでのアンケートを経て……

『キャンペーンキャラの名前、一言セリフの設定集追加』

を決定しました!!

非常にお待たせしておりますので、半ば緊急措置のような形になります。

本当に申し訳ないです(笑)
今後とも、この長々とした物語をよろしくお願いします。

では……

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Episode76 暗殺者 〜Assassin〜

「い、いいのか?」

「ええ。」

 

暗い部屋の中、とある2人が、ロウソクの火を挟んで話し合っている。

 

1人は、30代後半辺りのような顔つきをした、それでもどこか、威厳を湛えている女性。

 

そしてもう1人は、まだ顔に幼さが残りつつも、明確な意思を目に宿らせた、少し身長の低めな少年。

 

「……()()()を残す事になりかねんぞ。」

「構いません。」

「あ……あのな……考え直せ、カズ。」

「……決めたことです。」

「だがな、お前がそれこそ……()()()()()……」

「命に価値の差などありません。」

「っ……!!」

 

カズ、と呼ばれたその少年の一言に、女性は言葉を詰まらせる。

 

なぜならそれは、その少年……カズが、言わんとしていることを見抜いていた事を悟ったからだ。

 

「……僕一人の命をとるか、その他大勢の命をとるか。」

「……!」

「それに僕は、()()に狙われる材料を持っている。これ程都合のいいことはありません。」

「……!!」

()()は、自分たちの存在を大々的に宣言した。それも……2024年の元旦に。もはやこれは……そうとしか考えられないでしょう。」

「く……!!」

 

女性の顔が、みるみるうちに焦りと恐怖に染まっていく。

 

すると、そんな顔を見て、カズはふふ、と微笑んだ。

 

「それにね。」

「……!?」

「僕が死ぬ、と決まったわけではないんですから。」

「……!!」

「彼を信じましょう。」

「彼……()()()、か。」

 

その瞬間、2人が目の視線がお互いに合わさる。

 

そしてカズが、

 

 

 

大蛇(オロチ)を……ね。」

 

 

 

……と呟き、微笑んだ。

それにつられて、相対する女性も少し笑みを浮かばせる。

 

 

 

 

ただ……その女性は見抜いていた。

カズの顔には、いつになくどこか、「悲壮」の感情が浮かんでいる事を。

 

 

時は、2024年。

SAOという名のデスゲームが始まって1年と少しが経った頃。

 

とある層の小さな街の薄暗い路地で、()()()()()が、所狭しと立ち並ぶ建物の隙間から、明るい青空を仰いでいた。

 

「……」

 

地べたに腰を下ろし、足を投げ出し、後頭部を壁につけて、何の言葉も発さず、何の身動きもとらず、まるで銅像かのように、その少年はただひたすら、空を眺め続けている。

 

その少年の服装は、布を何重にも巻き付けたような、でもどこか様になっていて整っている、まるで中世の()()()のようなもの。

 

配色は、黒色を下地に、青色のラインのみ。

現状、最強とまで謳われる「血盟騎士団」の制服の、()()()()()()にあたる配色であった。

 

ピピピ……ピピピ……

「……んおっ。」

 

するとその時。

 

何かを知らせるアラーム音と共に、彼の視界に、《Gift box for Kazu》という長細いウィンドウが表示される。

 

その少年は、迷わずそのウィンドウをタップした。

 

そしてその後、次にそこに現れた正八面体のオブジェクトを手に取ると、だらしない体勢をやめ、膝を立ててしゃがむ。

 

……と同時に、その正八面体のオブジェクト……時限式録音クリスタルから、予め録音されていた音声が流れ出した。

 

そうして彼は、目を伏せてその音声に耳を傾けた。

 

『おはよう大蛇(オロチ)君。今回、君に与えられた任務(ミッション)は……』

 

()()()()()カズの声が、淡々とその少年……大蛇(オロチ)に与えられた任務(ミッション)を説明していく。

 

大蛇(オロチ)は、その声に、またもや微動だにせず、耳を傾けた。

 

『……というわけだ。君も知っているだろうけど、先の《ラフコフ設立宣言》のお陰で、裏血盟騎士団全体がごった返している。よって君が捕えられ、もしくは殺されても、こちら側は一切感知できない。幸運を。』

 

そしてその内、そのメッセージは終わりを迎える。

 

すると大蛇(オロチ)は、その正八面体のオブジェクトが消えたのを確認すると……

 

「……層、……で、……を……する……了解。」

 

今一度、任務内容を小声で呟き、ようやく顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

そして彼は、路地の壁を交互に蹴り、屋根に上がると、走り出して消えた。




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Episode77 敬意 〜respect〜

「な……!?」

 

黒装束に身を包み、トンガリ屋根の上にしゃがむとある少年、大蛇(オロチ)は、とあるメッセージを前に、驚愕する。

 

なぜならば、ついさっき、任務を受けて、今やっと、目標(ターゲット)発見に至った所だったのに、この瞬間から、その任務を否が応でも放棄せねばならなくなったからだ。

 

「おいおいおいおい、まてまてまてまて……!!!!」

 

あからさまな焦りを口にし、大蛇(オロチ)は屋根を走り出す。

 

隙間を飛び越し、煙突を乗り越え、壁を蹴り登って、全速力で彼は急ぐ。

 

行き先は、メッセージの送り主がいる、とある場所。

 

 

 

 

 

 

……そう、それは、「カズ」の元である。

 

 

「へへ……ついに裏血盟も終わりだなぁ? ええ? カズさんよォ……」

 

あからさまに油断し、舐めるに舐めきった声が、薄暗い洞窟に響く。

 

それに対し、カズは……

 

「ふん……仕事中に気を抜くような連中に、僕らが負けるとでも?」

 

……と返し、その男を鼻で笑って軽蔑の眼差しをむける。

 

そこには、その男の他にもまだたくさん、男達がいた。

ただ全員、もれなく舐めた顔をしていて、視線は一点に集まっている。

 

その一点、それは、立てた棒に()()()()()()()()()カズであった。

 

「おーおー、こわいこわい。ただなぁ、そんな格好で言われても……なぁ?」

 

すると、その男達の中から、また別の声が聞こえてくる。

そしてその一言で、その場に笑い声が響いた。

 

「……ふん。」

 

カズは、そんな男達を見て、また鼻で笑いつつ床を見る。

 

《正直……()()だな……》

 

そして一人で、考え事をし始めた。

 

《まさか……()()ではなく、こんな所に連れてこられるとは……》

 

カズの手に、自然と力が入っていく。

 

……が、その時だった。

 

ガッ

「ぐっ……!?」

 

カズの体に、衝撃と痛みが走る。

 

あまりの突然さに、カズが前を見ると……

 

「大人が話しているだろう?子供はちゃーんと聞いてなきゃぁ……」

「なん……だと……!?」

ゴッ

「ぐぅ……!」

 

そこには、先の舐め腐っていた男がいて、カズの横腹を殴っていた。

 

「大人に対する敬意ってもんが足らねぇなぁ?」

「そうだそうだー! やっちまぇー!!」

ガッ ゴッ バキィ!!

「がぁっ……!!」

 

その男の暴力は、周りの野次馬の声に乗せられ、どんどんヒートアップしていく。

 

そしてカズが、一言も発さなくなった時。

 

「へへ……どうだ?」

 

その男は、やっと暴力の手を緩める。

 

……だが、カズはまた、顔を上げた。

そして同時に、その男に唾を吐く。

 

「な……!!」

「敬意……だと?」

「っ……!!」

 

唾を吐かれたその男は、逆上してまたカズに拳を振りあげようとする。

 

……が、今度はできなかった。

なぜならそれは、カズの眼差しが大きく変わっていたからだ。

 

「……っ!?」

「敬意、というのは、あくまで自発的に行うからこそ、価値があるものだ。誰かに言われたから、やったほうがいいから、やるのが普通だから……と、行う敬意は、敬意ではない。それはもはや……」

「……!!!!」

「自分を守るために相手を騙す、単なる自己防衛でしかない。そしてそれは、敬意でもなんでもない。ただの嘘つき、詐欺師、ペテン師だ。」

 

カズの今までとは違った眼差しと、それに比例して強く変わった口調での叙述に、その場の男達は、竦んで身動きが取れなくなる。

 

「……この餓鬼ィ!!」

 

すると次の瞬間、その男達の中から、一人の男が拳を振り上げて殴りかかって来た。

 

カズは、防御ができないが故、目を閉じてぐっと歯を食いしばり衝撃に備える。

 

……だが。

 

グシャッ

「がっ……!?」

 

その男は、その拳を振り下ろすことは無かった。

 

それどころか、カズの目の前で立ち尽くし、動かなくなる。

カズはその男を恐る恐る見上げ……

 

そしてにっ、と微笑んだ。

 

「なっ……!!」

 

そして今更になって、周りの男達が、その男の異変に気づく。

 

その男は、()()()()()()()()()()()いた。

それも……刀という、湾曲した刃物を。

 

「あ……が……!!」

 

その男は、悶絶しながら2〜3歩後ずさる。

そしてそのまま立ち尽くすと、光の粒子になって消えた。

 

「……!!!???」

 

あまりの光景に、周りの男達は目を疑う。

 

……だが、視線は自然とカズに集まり。

そしてそのカズが見る先へと集まった。

 

するとそこには……

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。」

 

黒装束に青のライン。

何かを投げた後のような姿勢で、洞窟の外の光を背に佇む……

 

 

 

 

 

大蛇(オロチ)が、いた。




新元号、あけましておめでとうございます。
今元号も、よろしくお願い申し上げます。

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Episode78 無双 〜Matchless〜

そこは最早、戦場ではなかった。

 

ただただ凄惨な光景が存在する、()()()と言ったような所。

 

ゴッ……ガッ……バキィ!!

「がぁっ!」「ぐっ!?」

 

多種多様な武器を持つ男達の中で、1人だけ武器を持たぬ小柄な体の少年……大蛇(オロチ)が乱舞している。

 

男の首筋に踵を叩き込み、その男の首を支点に体を捻って、反対側にいる剣をいまにも振り下ろさんとする男の目を突く。

 

二人の男が倒れると同時に地面に降りて、低い姿勢のまま手をつくと、足を回して正面の男の足を払い、落ちてきた頭にもう片方の足を叩き込む。

 

「この野郎っ……!?」

ゴッ

「っ……!?」

 

そして今度は、あまりの()()状態に、思わずつぶやきを漏らしつつ、武器を構えた男の腹が陥没した。

 

「止めろ! 下がるな! なぜちっこ