これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 (駆巡 艤宗)
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閲覧、ありがとうございます。

『これは【GGO】であって、【MGS】ではない。』にようこそ!

駆巡 艤宗と申します。

こちらは、本編ではありません。
最初に、注意事項をよくよんでから、ご覧ください。


!《EMERGENCY(危険 キケン 危険)》!

 

1、以下の項目は、多少のネタバレを含みます。

まだ本編を読んでない方は、(楽しみにしてくださっているのであれば)読んでから、本項目をお楽しみください。

 

2、本項目は、話やキャラクターの複雑化による読者の皆様の脳内混乱を防ぐための措置です。

ただし、読者様によってはますますわからなくなる場合があります。ご注意ください。

 

3、本項目は、話が進むにつれ、追加・変更が繰り返されると推定されます。

追加・変更時は、すぐに本編次話後書き及び作者Twitterにて報告しますが、細かい変更は常時行うものとして、報告しません。

それにより、一定期間ごとの追加・変更確認を推奨します。

また、それに伴って、少なからず内容の矛盾・誤字・不明瞭な点が出てくると推定されます。

万全に気をつけてはおりますが、万が一発見した場合は、すぐにご報告願います。

脳内混乱を防ぐための措置ではありますが、ご了承ください。

 

4、無駄な誤解や混乱を避けるため、本編SAOにて登場するキャラクターの設定は、省略させていただきます。

(誤情報の表記を避ける為でもあります。併せてご理解をお願いします。)

 

5、本項目において、項目追加要請は常時承っております。

「ここの所どうなの?」というものがありましたら、遠慮なくご報告下さい。

ただし、諸事情により、ご要望にお答えできない場合もあります。

ご了承ください。

 

6、☆印がついているキャラクターは、一周年記念として行われました、『ストーリーダイブ・キャンペーン』にて誕生したキャラクターとなります。

 

 

 

以上をよくお読みの上、下記の設定集をご覧下さい。

 

__(⌒(_ ´-ω・)▄︻┻┳══━<ー Let's go!-

 

✣◢◣✣

 

【キャラクター】

 

[プレイヤーネーム]:タスク

[現コードネーム]:ビッグ・ボス

[旧コードネーム]:大蛇(オロチ)

[本名]:内嶺 祐 (うちみね たすく)

[年齢]:16

 

[使用兵装]

【IWI デザートイーグル】

+リフレックスサイト(1倍)

+サプレッサー

+店主カスタム(消音性・機能性向上)

 

【バレット M82A3】(M107)

+ハンタースコープ(20倍)

 

[固有ガジェット]

【ダンボール】

・隠蔽、工作、奇襲にまで、なんでも使えるスグレモノ。敵を中に入れたりもできちゃう。

 

【義手】

・左腕についている。

・実際は義手ではなく完璧にフィットする装甲。

・咄嗟の時に展開するミニ防弾シールドをはじめ、さまざまな装備が備えられている。

 

[その他情報]

・SAO生還者。SAO時は、裏血盟騎士団所属。

そこで、ラフィンコフィンなどの刺客を暗殺・拘束していた。その中で、ラフィンコフィンに仲間を殺された事がある。

・SAO時代、姉であるユリエを???した。それが、アユムを殺されたことも加わって、今のビッグ・ボスを作り上げた発端。

・現在は、仮想課の依頼でGGOでの裏世界の監視、及び事件の発生防止に努めている。

・学校は、SAO被害者が通う高校。何気にキリトと同クラ。

 

《圧倒的な総合力》

 

ー『待たせたな。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:タモン

[現コードネーム]:オセロット

[旧コードネーム]:弁慶(ベンケイ)

[本名]:待宮 多門 (まちみや たもん)

[年齢]:30前後

 

[使用兵装]

【コルト SAA ピースメーカー】×2

 

[固有ガジェット]

なし

 

[その他情報]

・SAO生還者。SAO時は、タスクと同じ。

・GGOにて、裏世界プレイヤーの拠点を兼ねたプレイヤーショップ【ガン・マリア】を経営している。

構造図↓

【挿絵表示】

 

・仲間からは、任務時以外には「店主」と呼ばれる事が多い。

・元陸上自衛隊員。防衛大卒。タスクや彼の射撃技術は、ここから。

・現在はタスクと同じ仕事に就いているが、彼自身は拠点のカモフラージュと確保担当。実際に行動を起こすのはタスク。

・リアルでは公務員。仮想課所属。経緯は、無職だった時にタスクと依頼を受け、仕事がないからと菊岡の誘いに乗ったから。防衛大卒の元自衛隊員だけあって、割と高学歴。

・ご察しの通り、「GGOログイン=仕事」な為、勤務時間はずっとGGO内にいる。

・タスクが学校の時は、他の裏世界プレイヤーに雑用仕事を斡旋している。ただし、重要な任務は必ずタスクに回すようにしている。

 

《弾道変化の天才》

 

ー『このリロードは、革命(レボリューション)だ!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ウェーガン

[コードネーム]:ラクス

[本名]:多中 従道 (たなか よりみち)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

【H&K MP5】

+ACOGサイト(4倍)

 

【H&K P9S】

+店主お手製後付けレール

+レーザーサイト

 

[固有ガジェット]

【スティムピストル】

・救急治療キットを発射し、着弾するとそのまま回復させることが出来る。

 

【防弾シールド】

・レアアイテムの防弾シールド。横から「H&K P9S」と右手だけを出し、レーザーサイトの助けを借りて射撃する。

 

[その他情報]

・現 医師。

・普段は国の研究機関で仮想世界を用いた医療の研究に当たっている。

・ユウキの???に多大な貢献をした。

・ビッグ・ボスと戦闘中、スカウトされた。

扱い的には、ビッグ・ボスと同じ。

・タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

《人道的な殺戮者》

 

ー『待ってろ!今、助けてやる。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:アレク

[コードネーム]:カチューシャ

[本名]:荒木 隆史 (あらき たかし)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

【マカロフ拳銃】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【ラハティ L-39】

・「主砲」として使用。

・貴重でなおかつ高価な20×138mmB弾を使用する、大型ライフル。

・宇宙戦艦の装甲板製でさえ、吹き飛ばすはおろか、易々とぶち抜く化け物。

 

【ブローニング M2】

・「副砲」として使用。

・最大毎分635発の射撃速度を持つ重機関銃。

・たまに、ラクスがこの銃座につくことがある。

 

【特注型多機能銃座】

・「ラハティ L-39」と「ブローニング M2」を同時に据え付けることが出来るカチューシャお手製の銃座。

・「ラハティ L-39」を中心に、その右斜め下に「ブローニング M2」が据え付けられる。

・足元はソリになっており、移動が可能。

(ただし、射撃しながらは不可)

・頑丈極まりないため、一昔前のとあるゲームで流行した某タチャンカダンスも可。

 

【前180方向展開シールド】

・「特注型多機能銃座」の前方取り付け専用のシールド。

・宇宙戦艦の装甲板製で、覗き孔が前と右前と左前に存在する。

・前方180度は頭から足まで全て覆うことが出来るが、「ラハティ L-39」と「ブローニング M2」の銃口だけは中心に伸びているため、前から見た姿はまさに戦車。

・シールドの後ろには、約4人ほど入ることが出来る。

 

[その他情報]

・現 建築設計士

・ウェーガンと同じ経歴で、今の位置にいる。

・ウェーガンとは、GGOを始めた時からの仲。

・彼ももちろん、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

・これもご察しの通り、彼の装備はリアルの仕事の経験を生かし、剣銃作成スキルによって作ったもの。

 

《驚異的な脅威》

 

ー『俺はあんたを信じている。だからあんたも俺を信じろ。大丈夫、守ってやる。ただし、頭は……下げとけよ。』

 

 

※補足

「STR大丈夫なのか?」と思った方、ご明察です。解説しますのでご安心を。

実は、【ラハティ L-39】と【ブローニング M2】の合計重量は、ベヒモスが使用している【M134 ミニガン】とほぼ同等なので、問題ありません。

また、【特注型多機能銃座】と【前180方向展開シールド】は、メインウェポンやその他様々なGGO必需品の節制と、カチューシャの馬鹿みたいなSTRで充分カバーできる範疇に収めていますので、問題ありません。

 

 

[プレイヤーネーム]:シャルル

[コードネーム]:ウォッカ

[本名]:矢矧 美鈴 (やはぎ みすず)

[年齢]:22

 

[使用兵装]

【ステアー AUG A2】

+ホロサイト(1倍)

 

【H&K USP】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【探知デバイス】

・腕に巻き付けるベルトで取り付け、画面を立ち上げて使う装置。

・トラップはもちろん、足跡、体温、も探知可能で、スコープやドローンコントローラーの役割も果たす。

・最近は、シノンの観測手もするようになった。

 

【アタックドローン】

・その名の通り、攻撃可能な索敵ドローン。

・攻撃の種類は、EMP、電撃、自爆の3種類。(本人曰く、自爆は最終手段)

・正方形の板のような形で、床・壁・天井のどこにでも張りつき、移動可能。

・「デバイス探知機」で操作するものだが、ドローン自体にその機能はないため、ドローンカメラを通しての様々な探知(トラップや足跡、体温の探知)は不可能。

・パーツも配線も何もかもウォッカのお手製。その腕は、運営がびっくりするほど。

(一回だけ弱体化のお願いが来た。)

 

【アクティブカメラ】

・簡易設置型の球体小型カメラ。

・ぶん投げても転がしても、蹴り飛ばしたりバットで打ったりしても全然大丈夫。

・カメラの機能しかないため、非常に安価で軽量。作戦によって持っていく量を変えている。

・2つ以上で連携して、××を行うことが出来る。

 

[その他情報]

・現 電気工学系の専門学生

・主に自作のガジェットを使用し、索敵を得意とする。

・トレンチとの関係は、本人達は隠しているつもりだが、周りにはだいたい気づかれている。

(特に店主には一発でバレている)

・例外なく、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

《全てを見る目》

 

ー『あんた!それに私が何キロ配線したと思ってんのよ!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:トレンチ

[コードネーム]:フォートレス

[本名]:道屋 智則 (みちや とものり)

[年齢]:22

 

[使用兵装]

【ファントム】

+自作サイト(2〜8倍)

 

[固有ガジェット]

【防弾シャッター】

・窓や扉の上に取り付け、下に降ろすことで、完全に外部からの攻撃をシャットアウトできる物。

・宇宙戦艦の装甲板製ではない。本人曰く、剣銃作成スキルで偶然見つけた素材らしい。

 

【シャットダウンウォール】

・壁、床に取り付ける事が出来る強化壁。

・最大12.7×99mm NATO弾まで防ぐことが出来る。(カチューシャの20×138mmB弾は、受け止めはしたものの、その後壁は崩れてしまった。)

 

【多方向トラップ】

・M18 クレイモアによく似た形状の、簡易設置型爆発地雷。

・扉の横、地面、天井、壁など、どこにでも取り付ける事が出来る。

 

【ブレイクマット】

・地面に敷設するトラップマット。

・長方形のマットで、踏むと金属の板に足を挟まれ、麻痺の状態異常付与の電撃を食らう。(足をブレイクする)

・車両にも使用可能。

 

【エロ本】

・主に男性プレイヤーを誘引するための秘密兵器。

・本人曰く、【多方向トラップ】との併用が、()()()()()()()()らしい。

・本人の性癖がバレないよう、様々な種類を取り揃えている。

 

[その他情報]

・現 電気工学系の専門学生

・主に自作のガジェットを使用し、特定区域の要塞化、籠城戦を得意とする。

・1回だけ、ボスを罠にはめることに成功している。(その後もちろん……ね。)

・ウォッカとの関係は、本人達は隠しているつもりだが、周りにはだいたい気づかれている。

(特に店主には一発でバレている)

・もちろん、タスクとタモンの過去を知る数少ない人物の一人。

 

《追わない追跡者》

 

ー『何でもわかったつもりか?アマチュア。本当に強いプレイヤーはな、まず足元を見るんだよ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:リューク

[コードネーム]:レックス

[本名]:柏木 竜磨 (かしわぎ りゅうま)

[年齢]:23〜4

 

[使用兵装]

【F-2000】

+拡張マガジン

+サプレッサー(随時)

 

【小太刀】

-カスタム(のしようが)なし-

 

[固有ガジェット]

【マルチレンジゴーグル】

・レックスが使う特殊ゴーグル。

・ストイフとスラッグの視線が共有されるディスプレイが左右についている。

・各テイムモンスターのHPや状態が表示されている。

 

【ロック】(愛称:ロー君)

・彼がテイムしたTレックス型モンスター。

・全身鋼鉄製、色は砂漠迷彩色で、目だけ赤。

・約12人も収容できる装甲車に変形することが出来る。

・あまりに図体がでかいため、大規模任務の時以外はほぼ出番がないため、本人は少しご不満の様子。

 

【ストイフ】(愛称:スー君)

・彼がテイムしたプテラノドン型モンスター。

・全身鋼鉄製、色は航空迷彩色で、目は青色。

・変形はできないが、レックスの特殊ゴーグルと視線が共有出来るため、上空偵察が可能。

 

【スコーン】(愛称:コー君)

・彼がテイムしたスピノサウルス型モンスター。

・全身鋼鉄製、色はそのまま鋼鉄の色。目は赤。

・連射型ショットガン、S12Kに変形ができるので、いつもレックスの背中に背負われている。

 

【スラッグ】(愛称:ラッ君)

・彼がテイムしたトリケラトプス型モンスター。

・全身鋼鉄製、色は黄土色。目は緑色。

・地中に潜ることが可能で、その視界はレックスの特殊ゴーグルと共有されており、見ることができる。

(ただあんまり需要がないため、ロック同様少しご不満の様子。)

 

[その他情報]

・SAO生還者。SAO時は、「古竜使い」「大海」などの二つ名を持つそれなりのソロプレイヤーだった。

・中性的な顔立ちの上、髪の毛を後ろで一本に束ねているため、よく女性と間違われるらしい。

・クラインやエギルとはリアルの知り合いで、よく飲みに行くらしい。その繋がりで、店主と知り合い裏世界プレイヤーに。

・普段はALOにいる。店主に呼ばれた時のみ、GGOにコンバートしてくる。ALOにいる間は、テイムモンスター達は自由行動らしい。

・ピトフーイとも知り合いらしく、テイムモンスターをよく狙われている。

 

《四龍を操りし戦士》

 

ー『あーこら!ロー君!それはボス!ってラッ君!?店主さんの店に穴あけないで!!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:アヴェンジャー

[コードネーム]:プルーム

[本名]:古原 司 (ふるはら つかさ)

[年齢]:24

 

[使用兵装]

【HK416A5-11】

+ドットサイト

+レーザーサイト

+グリップ

 

【SIG SAUER P228】

+ドットサイト

+レーザーサイト

 

[固有ガジェット]

【ECH ヘルメット】

・防弾ヘルメット。フォートレス製の特殊素材が使われている。

 

【OEFCP バトルスーツ】

・マルチカムパターンのスーツ。

 

【MBAV ボディーアーマー】

・ヘルメット同様、フォートレス製の特殊素材使用。

 

【MIL-SPEC タクティカルブーツ】

・彼独自のソールパターンで設計されており、彼曰くそれが一番戦闘に向いているらしい。

 

[その他情報]

・GGO屈指のポイントマン。彼の固有ガジェットがあまり目立たないのも、役割に徹し易くするためだとか。

・リアルでは彼以外の家族を全員失っており、ボスと店主はそれを知っている。

 

《戦場の絶対的先駆者》

 

ー『悲劇とは唐突に訪れる。終わり(最期)もまた……唐突だ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ギラン

[コードネーム]:ギフト

[本名]:静雲 時雨 (せいうん しぐれ)

[年齢]:22〜3

 

[使用兵装]

【H&K G36】

+お手製プレゼント箱チャーム

 

【キャリコ M950】

+お手製クリスマスの靴下チャーム

 

[固有ガジェット]

【特製スモークグレネード】

・常に身にまとっているローブの内側に取り付けられている、彼特製のグレネードの一つ。

なんでも色を自在に変えられるらしく、フィールドに合わせて色を変えることで、迷彩効果もある。

 

【特製コンカッショングレネード】

・常に身にまとっているローブの内側に取り付けられている、彼特製のグレネードの一つ。

通常のものより効果持続時間が長く、また軽量である。

 

【特製フラググレネード】

・常に身にまとっているローブの内側に取り付けられている、彼特製のグレネード。

威力マシマシにされた超危険物。

その威力はプラズマグレネードを遥かに凌ぐとかなんとか。

 

[その他情報]

・タモンのお店、『ガン・マリア』の分店である、ペイント・チャームカスタマイズ専門店『ギフト』の店主。

・SAO生還者で、SAO時はとある層で同じ名前のお店を開いていた。

 

《享楽的凶悪な正義》

 

ー『やぁボス!今日の任務は何してもいいんですよね!?なら今から準備してきます!!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:コルト

[コードネーム]:ベネット

[本名]:三村 光 (みつむら ひかる)

[年齢]:27

 

[使用兵装]

【H&K G36C】

+ACOGサイト

+フォアグリップ

 

【ベネリM3S】

-カスタムなし-

 

【グロック17】

+ミニドットサイト

 

【コルトガバメント マークIV シリーズ70】

-カスタムなし-

 

【S&WM10】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【防弾クリアシールド】

・バレルの上に取り付け、主に正面戦闘において優位に立つためのガジェット。

・概要はベネット、設計はプルーム、素材はフォートレスと、最近の物なだけあって多岐に渡る分野が応用されている。

・腕に着けることも可能。

・素材の特性上、衝撃を受けるとその点を中心に波紋が広がり白く濁るので、何度も交換する前提で何枚も持っている。

 

[その他情報]

・菊岡の紹介で最近新たに加入したプレイヤー。

・警視庁のサイバー対策課に所属しており、その職務の一環で特にグレーゾーンであるGGOの監視を行っていたが、《例の計画》の関係で店主らに合流した。

・GGO自体は割と初期からプレイしているらしく、腕前は相当で色んな所に助っ人に行くため、顔は広い。

 

《歴戦の新参者》

 

ー『泣けるぜ……』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:タイホー

[コードネーム]:タウイ

[本名]:菊池 朝造 (きくち ともぞう)

[年齢]:30〜3

 

[使用兵装]

【九四式拳銃】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【特製UCAV "SEIRAN"】

・彼特製の無人爆撃機。操縦はコントローラーで行う他、自律飛行も可能。

・通常グレネードなら最大8個、プラズマグレネードなら最大2個まで搭載可能。

・濃い緑色に赤い丸が塗装されている。

・フロートがついており、水上着陸も可。

 

【防弾甲板】

・『特製UCAV "SEIRAN"』を着陸させるための甲板。

・装甲でできており、防弾板としても使える。2層になっており、表面の1枚目が真ん中で割れて横に広がることで、2倍の広さにすることも可能。(ただしその状態での着艦は不可。)

・左上に大きく「タ」と書かれている。

 

[その他情報]

・店主ら裏世界プレイヤーでもなかなか、と言うよりほぼいない、ドローンがメイン武器のプレイヤー。

・元々突撃バカだったが、大好きな大鳳型航空母艦を眺めていた時にこのスタイルが閃いたらしい。

 

《聖母と見紛う旗艦》

 

ー『撃ち合いは面倒。アウトレンジで決めるよ。』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ライア

[コードネーム]:ライト

[本名]:編凪 莉兎 (あみな りつ)

[年齢]:16

 

[使用兵装]

【89式5.56㎜小銃】

-カスタムなし-

 

【M26 MASS】

-カスタムなし-

 

【H&K MP5】

-カスタムなし-

 

【ベレッタM12】

-カスタムなし-

 

【デザートイーグル】

-カスタムなし-

 

【ワルサーPPK】

-カスタムなし-

 

【コルトパイソン】

-カスタムなし-

 

[固有ガジェット]

【オールレンジゴーグル】

・ライトが使う、彼特製の専用ゴーグル。

・彼が使う全ての武器のゼロイン距離照準が刻まれており、数が多いこともあってかあまりに複雑で難解なため、このゴーグルで正確に照準できるのは仮想はもちろん現実世界でも彼ひとりしかいない。

・彼は一度気に入った武器の照準は必ずゴーグルに刻むので、その量はたまにレンズ全体のヒビ割れと勘違いされる程。

 

[その他情報]

・裏世界プレイヤー1、背が低いと名高いキャラクター。本人はタスクよりはといつも言っているが、それは少し厳しいとよく言われる。

・銃にカスタムがないのは、面倒なのと、なくてもゴーグルで全て片付くかららしい。

・ゴーグルをこだわり抜いているだけあって、彼の腕前は相当のもの。

 

《爆発的な攻撃力》

 

ー『たっ、タスクよりは大きいもん!』

 

 

 

[プレイヤーネーム]:ミーシャル

[コードネーム]:???

[本名]:横須賀 家音 (よこすか かおん)

[年齢]:16

 

[使用兵装]

なし

 

[固有ガジェット]

【PVLS -7】

・読み方は『ポータブル・ヴァーティカル・ローンチング・システム -せぶん』。

名前の通り「持ち運び可能な垂直ミサイル」である。

イージス艦に積まれている『VLS』の超ミニマム版と言う認識でOK。

 

・ミサイルは、人が担いで打つ必要が無いため、通常の携行ミサイル(=ロケットランチャー)よりかなり高威力で高速度。

 

・外見は大きな長方形の箱。それを2×2で接合して1セット4発。いつもは大体3セット用意してストレージに入れてある。

 

・照準は座標指定(システム)距離方角指定(マニュアル)の二種類が使える。発射の際は地面に置き、3点支柱で地面に固定して行う。照準を付属のPCを使って合わせ、そこから伸びるワイヤーがついたトリガーを引き絞って発射。

 

・一応、背負えるようにタッセルがついてはいるが、そもそも背負った状態で撃てない(撃ったら肩がもげる)し、いい的でしかないので滅多に使わない。

 

 

【LDBM-63 チュロス】

・『PVLS -7』によって発射される、今最も多く使われているミサイル。

 

・正式名称は『ロング・ディスタンス・バリスティック・ミサイル-ろくさん 』。和訳すると『長距離弾道ミサイル 63番型』である。

 

・高威力、高速度、高精度の3原則をきちんと遵守したミサイルで、ミーシャル曰く「よくできたお気に入りの子」らしい。

 

・ニックネームは『チュロス』。

理由は弾道と似てるかららしい。

(上に長い放物線のような……?)

 

 

【AM-4 ホールケーキ】

・正式名称は『アナイアレーション・ミサイル-ふぉー』。和訳すると『殲滅ミサイル4型』である。

 

・着弾地点から半径50mの()()()()攻撃できる。円の中には一切何も起きない。

 

・ニックネームは『ホールケーキ』。

言わずもがな、でっかい丸だからである。

 

・『Episode170 虎穴入らずんば虎児を得ず 〜Nothing ventured, nothing gained〜』の話末にて登場

 

 

【AAMM-11 ポッキー】

・???

 

 

【SDHM-1 トゥンカロン】

・???

 

 

※ミサイルはまだまだあるぜ!!

でも書いちゃうと書ききれなくなるから出てき次第書いていくぜ!!

出てこなそうだなぁと思ったら勝手に追加して書いておくだけしておこうと思うぜ!!

たまーに見にきてくれよな!!

(追加次第、随時お知らせします)

 

 

 

[その他情報]

・リアルではタスクの幼なじみ。SAO当時、タスク達の裏血盟の活動を知っていた希少な部外者である。

 

・タスクと同じく小柄なアバターで、いつも眠そうな顔をしている。

(シノン曰く、ふにゃふにゃでけっこうかわいい)

 

・お菓子が特に大好きで、開発したミサイルのニックネームは全てお菓子の名前にしている。

洋菓子も和菓子も駄菓子も問わない、生粋の甘党である。

(あまりに弾速が遅いミサイルができあがってしまい、「タラタ○してんじゃね〜よ」をニックネームにつけようとして流石にタスクに止められた、という噂があったりなかったり……)

 

・本人曰く「不器用」で、エイムや偏差撃ちなどを極端に苦手とする。

だからそういった操作の必要が無い「兵器」を作るようになったらしいが、それがかえって周りからは「兵器相当の装備を作れる時点で不器用ではない」とよく言われている。

 

・SAO生還者であり、当時は裏血盟騎士団に多種多様な素材を調達することで生計を立ていた。

ただメンバーという訳ではなく、あくまで外部業者という立場で、とある層に家を構えて平和に過ごしていたいわゆる一般プレイヤーだった。

 

・普段はSAO時代を生かし、もっぱら店主依頼のモンスター狩りの素材回収任務をこなしており、店主曰く店の素材在庫の約6割は彼女が仕入れているらしく、実はかなりの功労者である。

 

・SAOの時とは違い、GGOでは一応、コードネームをもらってメンバーの一員としてはいるものの、素性を隠したりすることはあまりない。

本人曰く採集が主任務な上、仮に戦闘しても相手の顔も姿も見ることはないから、とのこと。

 

《二つの平和の体現者》

 

ー『()()用でも()()。だって()()じゃなくて()()だもん』

 

 

 

《Next new operator's words》

 

『紳士は、細部まで手を抜きません。たとえそれが、人の殺し方であっても……ね。』

 

Coming soon……!!




【作者Twitter】
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【作者 公式LINE】
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【今作紹介動画】
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この動画にしかない物語の鍵があります……。

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第一章 ビッグ・ボス 〜The big boss〜
Episode1 氷の狙撃手 〜Ice sniper〜


「ふぅ……これで5人目っと」

 

一人の少年が、地面に寝そべりながらポツリと呟く。

手には大きな銃。俗にいう「スナイパーライフル」を携え、スコープを覗いている。

そのスナイパーライフルの射線上には、たった今撃ち抜かれたプレイヤーの残骸があった。

 

「あと3人……か。1人は脚を撃ち抜いて尋問でもしようかな」

 

その少年は、サラッと恐ろしい事を呟く。

そして……

 

「……いた」

バシュン!

 

この小さなスナイパーの6人目の獲物が、頭を撃ち抜かれた。

 

 

「ん〜!稼いだなぁ……!」

 

場所は一転し、SBCグロッケン。

このゲーム、つまり「GGO」の、首都である。

 

その大都市の真ん中、歩道のような所を歩きながら、そのスナイパーの少年は背伸びをしていた。

 

短い黒い髪に、少し低めの背丈。このゲームでは珍しい、中性的な顔立ちだ。

プレイヤーネームは「タスク」。ガッツリ本名である。

この名前はどちらの世界でも通じるので、とても便利だった。

 

「さて、どうすっかな、今日は休日だし……」

 

その少年、タスクはふわぁと欠伸をすると、ふらふらと歩き出した。

今日は休日。タスクは学生なので、丸1日休みだ。

家族は出かけているので、タスクは1日この世界の中で過ごすつもりだった。

といっても、時間の流れが少し違うので感覚的には一日ではないが。

 

「……そうだな、もっかい稼ぎに行ってもいいかも!」

 

タスクは元気に走り出した。

 

 

バシュン!

 

この射撃音が、また荒野に響く。

 

カチャッ……キン!

 

そして撃った後に銃の外へ排出される、空の薬莢。

その薬莢は、荒野の荒い土に落ちた。

 

「……まだかなぁ、あの人達」

 

タスクは、ポツリと呟く。

スコープを覗く視線は変えず、暇そうに欠伸をした。

 

「弾道計算も終わったんだけどな。全く、なんでこうも予定通りに来てくれないんだか……暇だしもう一発撃っとくか」

 

そう言って、さっきの着弾地点から少し奥に狙いを定める。

そしてまた、射撃音が響いた。

パン!と跳ねた土がスコープから見える。

 

「問題なし……と。これ何回やってるんだかね〜」

 

タスクはやっぱり、暇になる。

流石に飽きたのか、タスクがリロードしようとした時。

 

「ん……!?あれか」

 

タスクが、スコープから目を逸らし、トリガーから指を外して、裸眼で目を凝らした。

視線の先には、まだ遠くに見える、タスクが待っていたプレイヤーのチーム。

 

そう。タスクは、このプレイヤー達を待っていたのだ。

俗に言う、PK(プレイヤーキル)である。

先程から暇つぶしに撃っていたのは、そのプレイヤー達の頭を撃ち抜くための、あらかじめしておく弾道計算のためだ。

 

これをやるかやらないかで、命中率に天と地ほどの差が出てくる。

そのために、タスクはこの標的であるプレイヤー達がやってくるであろう時間の少し前に来ておいたのに、まさかここまで遅くなるとは思っていなかった。

 

「ふぃ〜待った待った、やっと来たね。それじゃ……お仕事の時間だ」

 

そう言って、タスクはマスクと眼帯をつける。

 

マスクはガスマスクのようなもの。ただし、口と鼻のみを覆うようなもので、目は何もカバーされていないものだ。

しかもちゃんと、ガスマスク特有のまーるい物が左右についている。

そしてそのマスクの上に、左目用の眼帯をつけた。

 

これは、タスクが仕事(?)をするときにつける、定番の装備だ。

訳あってこのような装備をしているのだが、それはまた後ほど。

 

そしてタスクは、自称お仕事であるPKの用意をする。

タスクはスコープ越しに敵の位置・陣形・装備などを把握していった。

 

「なるほど……敵は7人。光学銃持ち5、アサルター、いやありゃミニミだな、それが1、黒マントが1……か。歩行速度やマントの凹凸を考えて、あれはミニガンあたりか?なるほど。流石に対人装備を整えてきたな。」

 

そう呟いて、タスクが分析を終える、と思ったその時。

 

「ふ、それに、別のPK狙いさんらがいらっしゃるな」

 

タスクが、少しにやけて言葉を続ける。

タスクの視線は、スコープと一緒に別の方向に向いた。

距離は、元々の標的から左に約1300mだ。

 

「おお、こっちはバリバリの対人だな。ええと、5人……かな、動き出してる」

 

タスクは、少しにやけながら遥か遠くを走っていくプレイヤーを眺める。

すると、タスクはあることに気づいた。

 

「あの走り方……あきらかに後ろを意識してる。なにか後方支援でもなければ、あんな走り方は出来ないな。なにかあるな。だとしたら同業者(スナイパー)か」

 

タスクが、にやけを超えてあきらかに楽しむ笑顔を見せた。

同時にコッキングをして、撃つ時にはトリガーを引くだけにする。

 

「いいねぇ、久々にいいものが見れそうだ」

 

そう言って、タスクはスコープをさらに左へと向け、スナイパーを探す。

そして、そのスナイパーを見つけた時、迷わず射線を向けた。

トリガーから指を外せば、弾道予測線(バレット・ライン)と呼ばれる、回避するためのシステムは見えない。

そしてタスクは、じっとスコープを覗き込む。

相手の顔さえ見れれば、相手するかどうか決めれるからだ。

 

タスクは、無駄な戦闘はしない。闇雲に乱入したところで、こちらは1人だ。後々面倒くさくなるだけである。

したがって、慎重に選ぶのが道理なのだ。

 

そしてそのスナイパーの顔が見えた時、タスクは高揚を感じた。

 

「シノン……か。なるほどな。どおりであれだけ突っ込めるわけだ。ここは一発撃って、挨拶だけして帰ろう。また会うかもしれないし……な」

 

そうタスクは決めて、狙いを定める。

 

タスクのスコープには、GGO最強と噂されるスナイパー、シノンが、映し出されていた。

氷の狙撃手と言われ、アンチマテリアルライフルと言われる、とてつもない性能を持った銃、「ウルティマラティオ・ヘカートII」を使用した最強のスナイパー。

アンチマテリアルライフルは、現時点でこの世界に十丁程度しかない。

そんな事実も、彼女の凄さを物語っていた。

そして今、その凄腕スナイパーが、タスクのスコープに横顔を晒している。

 

普通のプレイヤーなら、そそくさと退散するのが良策だろう。

だがタスクは、挨拶がわりの鉛弾をプレゼントして帰ろうと考えた。

なぜなら、タスク自身、GGO内のとある別の分野で、これもまた「最強」と言われているからだ。

先ほどのマスクをつけるのは、これが関係しているのだが…これ以上はタスクの機密事項(トップ・シークレット)だ。

無駄な戦闘は極力避けたいが、そのプライドが勝ってしまう。

 

そして……

 

バシュン!

 

タスクはあの発砲音を響かせた。本当ならもっとバカでかい音を出すのだが、今はサイレンサーが付いている。最低限の音しか出ないのだ。

 

そしてその発射された弾は、シノンに向けて、まっすぐ飛んでゆく。500m以上、下手すりゃ1000m以上の距離を、たった数秒でだ。

 

キン!

 

そして遂に、シノンへと、正確にはシノンの手元に着弾する。

シノンはあきらかに動揺していた。同時に、弾の飛んできた方向に銃を向け、射撃した主をスコープで探す。

 

すると、シノンとタスクの目がお互いスコープ越しに合った。

シノンが、トリガーを引こうとする。

……が。

 

シノンは驚きのあまり、トリガーから指を外してしまった。

なぜなら、目があった相手、タスクは、すっと視線を逸らすと、そのままスナイパーライフルを背中に背負って、撤退しようとしたからだ。

 

相手スナイパーに位置もバレ、標準も合わされたこの状況で、意味ありげににやけながら、背中をガラ空きにしてゆっくりと奥に歩いていく。

いつの間にか、シノンはスコープから目を逸らし、会ったこともない眼帯の小さなスナイパーに対して、唖然と呟いていた。

 

「強い……!」

 

と。

 

ーこれが、シノンとタスクの一番最初の戦闘(?)である。




はじめまして、駆巡 艤宗です。

今回から、ソードアート・オンラインの二次創作を書かせていただきます。
よろしくお願いします。

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Episode2 眼帯マスクスナイパー 〜Eye band and mask sniper〜

シノンがタスクとエンカウントした次の日。

とあるガンショップに来ていたシノンは、後ろの男2人組の話し声に耳を傾けていた。

 

「なあなあ聞いたか?」

「いきなりなんだよ、聞いたって……?何をだよ」

「あの、噂の眼帯マスクスナイパーの話!」

「眼帯……?ああ、それか」

「そう!それが、このまえ8人スコードロンをヘッドショットだけで壊滅させたんだと!」

「8人のをか!?そりゃ大したもんだなぁ」

「だろ!?すごいよなぁ、眼帯はともかく、そいつのマスクをとった顔を見たものは誰もいないんだと」

「へぇ、でも、眼帯とか正直命中率落ちないか?」

「だよな、でもそいつは頭を一発でぶち抜くらしいぜ?」

「ひゃ〜おっかねぇ奴もいるもんだなぁ。武器とかわかってんの?」

「それがね……なーんも分かんないのよ」

「謎に満ちてんな……会いたくないもんだ!」

 

そう言って、その男2人は笑い合う。

シノンは、商品を見るふりをして考えていた。

 

《眼帯、それにマスク……あのスナイパーと一致している。彼も、戦場で笑えるだけの強さを持ってた。それにあの笑み……あの時私は、結局トリガーを引けなかった。引いたとしても、当たったかどうか……》

 

シノンは、あの時に出会った、あのスナイパーのことを考える。

彼女はまだタスクの名前を知らない。でも、くっきりとあの光景を覚えていた。

あの時の弾の正確さ、撤退する時の笑み……

どれをとっても、シノンから見てみたら強いことに変わりない。

 

《いつかまた戦いたい。そして勝ってみたい!》

 

いつの間にかシノンは、手をぎゅっと握りしめていた。

 

 

「〜♪弾っ弾〜タマタマさんを買わなくちゃ〜♪」

 

一方、タスクは、そろそろ切らしてきたスナイパーライフルの弾を買いに、これまたとあるガンショップに来ていた。

 

いつも通っているガンショップ。ここの店主はおまけしてくれる事が多く、お金を後払いに先に商品をくれることもあるいいお店だ。

 

例えば、前に一度、仕事する前に弾を切らしてしまい、先に弾を貰って仕事の報酬で支払った事がある。

 

そんなハイリスクな事を、この店主は平然とやってくれたのだ。

タスクは、そんな店主さんが大好きだった。

 

……それに、数少ないタスクの正体を知る人物の1人でもある。

 

「こーんにちわ!」

「おーう、いらっしゃい!」

 

タスクは、扉を勢いよく開ける。

店主は、いつもの気前良い返事を返してくれた。

実はこの店主、本人自身プレイヤーで、たまに狩りに出たりする。

それ故に、融通がとってもききやすく、タスクのみならずやってくるプレイヤー達皆に好かれていた。

 

その店主が、タスクを見てにこやかに話しかける。

 

「おっ!来たねぇ、タスク君!お仕事はどうよ!」

「順調です!店主さんのおかげで、この前もぱぱっと終わりました!」

「お、そりゃあ良かったな!ちなみに……何人だい?」

「あはは……あまり言えないのですが、8人です」

 

タスクと店主がここまで話した時、店の中にいた一人のプレイヤーが、反応した。

 

何を隠そう、シノンである。

 

シノンは、即座に振り向いてしまう。

だが、そんな動きなど全く気にとめず、店主とタスクは話を続けた。

 

「おお、そりゃまたすげえ事すんな!どれ、なにかサービスしたろうか」

「ええー?いいですよ店主さん。それはまた今度、僕が困ったときに!」

「……ふふ、タスク君。よく言った!」

「店主さんが毎回やるからです!」

 

そう言って、タスクと店主が笑い合う。

傍から見れば、ただの仲が良いプレイヤー同士の談笑だろう。

 

だが、タスクはきちんと見抜いていた。

この店の中に、つい昨日エンカウントした同業者(スナイパー)がいる事に。

 

それもそのはず。あんな目立つ髪の色のプレイヤーだ。忘れるわけがない。

 

故にタスクはシノンをチラりと見る。

……が、すぐに店主へと視線を戻した。

 

店主は、何気ない優しい顔で、タスクを見る。

だが同時に、店主も見抜いていた。

タスクとシノンが昨日、エンカウントしている事に。

 

さっきも言ったが、この店主は融通がききやすく、皆に好かれている。

それはつまり、皆から雑談を交えて様々な情報を得られるという事だ。

様々なプレイヤーから聞く「眼帯マスクスナイパー」の噂。

そして、その話に対するシノンの反応と、今さっきのタスクの目の動き。

それに加え、タスクが来る前にシノン自身が相談してくれた、その「眼帯マスクスナイパー」に関しての話。

実際のプレイヤーである店主からして見れば、上記の事から推測してこの2人が昨日、エンカウントしている事は明白だ。

 

だがもちろん、タスクの秘密はバラさない。店主自身も、タスクの事が大好きだからだ。

 

だからあえて、たわいのない話を続ける。

 

「はは、すまんすまん。タスク君がかわいいからさ、ついやりたくなっちゃうんだよ!」

「か、かわいいって!?僕男ですよ!?」

「関係ない!僕みたいなオッサンは、お前みたいな小さい子を可愛いと感じてしまうんだよ!」

「え、ええ!?」

「こっちに来い!」

 

そう言って、タスクの頭をわしゃわしゃと撫でる。

タスクは「やめろー!」と抵抗する素振りを見せつつも、すんなりと店主の腕の中に収まった。

 

それをずっと見ていたシノンが、ため息をつき、後ろを向く。

そしてポツリと、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「まさか彼な訳……ないよね」

 

と。

確かに、さっき聞いた噂と彼らの話の内容は一致しているし、あの時見たスナイパーの髪の色は、タスクの髪の色に似ている。

 

……だが、身長があまりにも小さいのだ。

目が合ったあの時、寝そべっていたために体は見えなかった。

だが、第一、そんな低身長プレイヤーが、あんな大きなスナイパーライフルを担げるわけが無い。

 

あの時、目が合って、あのスナイパーがスナイパーライフルを()()()としたのは見えた。だが、彼のにやけた顔を見たとき、すぐにスコープから目をそらしてしまい、担げていたのかどうか定かではない。

 

故に、シノンはタスクが噂のスナイパーである可能性を頭から消した。

いくら何でも、不確定要素が多すぎるからだ。

 

それに、例え確定要素だらけでも、あの大きなスナイパーライフルをあの小さな体でどう持ち運んだのかを問えば、一発でその説が否定されてしまう。

やはりこの説は違う。そうシノンは結論づけた。

 

そう頭の中で区切りをつけて、店を出るシノン。

 

そんな後ろ姿を、タスクと店主は見ていた。

そして、そこから視線を逸らさず、唐突にタスクが口を開く。

 

「店主さん?気づいてるんでしょ。あの話」

「うっ!やっぱり分かった?」

「分かりますよ。店主さん、癖が出てましたから」

「癖?どんな癖だい?」

「言ったら対策されてしまいますので、言いません」

「ちぇー、かわいくない子だな」

「さっきと言ってる事が真逆なのですが?」

「これはこれ!それはそれ!」

 

そう言って、また店主とタスクの掛け合いが始まった。




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Episode3 赤い血より赤い薔薇を 〜A red rose than red blood〜

「……と、いう訳さ」

「なるほど」

 

GGO内の、とあるガンショップ。

そのショップの裏部屋で、タスクと店主が話をしていた。

内容は、シノンが店主にした相談の話と、どうやって店主がそのシノンの標的がタスクである事に気づいたかについてだ。

 

概要は実に簡単だ。

シノンは、タスクが来る前に店主に「とあるプレイヤーをどうしても倒したい」と相談を受け、そのプレイヤーの特徴からタスクを連想する。

そしてタスクが来た時、タスクの視線や意識の動きで確信を得て、タスクに話を持ちかけた……

 

という訳だ。

 

タスクは正直、話が早くて助かっていた。

なぜなら、いずれシノンと勝負をするのは分かりきっている事だし、その時にはちゃっかりこのお店のサポートを受けるつもりだったからだ。

そこで、いちいちこの店主に説明するのは流石に面倒くさい。

かくして、タスクはほんの少しだけ、店主の詮索に感謝していた。

 

と言っても、今店主にこの事を知られたとして、シノンとの勝負が勃発するのがいつか分からない。

つまりどういう事か。それは、今この瞬間から、シノンとの勝負時のサポートを弱みに、何をされるのか、どんな恐ろしい依頼をされるのか分からないという事だ。

タスクはこの店主のズルがしこさに、正直嫌悪感を覚える。

 

そんな思惑が顔に出たのだろう。店主が、ガッチリとタスクの手を抑えながら、ニコニコしてタスクを見た。

タスクは、ここまでかと息を呑む。

そして店主がゆっくりと口を開いた。

……が、その開いた口から出てきた言葉は、とてつもなく意外なものだった。

 

「で、こうやって俺が勘づいた瞬間、匿名プレイヤーからシノンのPK依頼が来た」

「NA・N・DE ☆」

「という訳でよろしく」

「終わった……」

 

とん、と肩に憎たらしいクソ店主の汚らわしい手が置かれる。

タスクは、恨みがましそうに店主を見上げた。

 

なぜって、よりにもよってこのタイミングだからだ。

シノンがあのスナイパー、もといタスクに対して報復心全開の時である。

こんな時に姿を見られてしまえば、間違いなく激しい殴り合い(正確には撃ち合い)のはじまりはじまりである。

タスクとしては、しばらく様子を見て、シノンの報復心が薄れたところを頭一発ぶち抜いてやろう。そう考えていた。

そうすれば無駄に追撃される事も無く、だんだんと時間が経つにつれて決着が付く。

それが、一番望ましい勝ち方だ。

タスクは、マスクの奥のこの幼い顔を見られるわけには行かないのだ。

 

だが、この憎たらしいクソ店主によって、そんな野望は撃ち砕かれた。

 

そして、彼にとって一大仕事、「シノン暗殺」が、タスクに(()()()()()()()()()())受諾された。

 

 

「はぁ……あの店主め、なんで僕に……?」

 

場所が変わって、時間も少し進んで暗くなりかけている今。

タスクは、仕事のためにシノンが良くPKしている荒野の真ん中に、一人寝そべっていた。

もちろん、鼻と口だけのガスマスクに、左目の眼帯をつけている。

そして今回は、激しい戦闘を見越して「バトルドレス」と呼ばれる、黄土色の防弾鉄鋼が至る所に装着され、至る所に露出した、とっても重たいスーツを着ていた。

これを着るとすこし大きく見え、遠目で見ればガタイがよく見える。

 

それになりより、かっこいいのだ。これを着てスナイパーライフルやランチャー類を背負うと、とても様になる。

そう、まるで、【MGS】の、スネ〇クのように。

 

そんな話はさておき、タスクの左には、自分愛用のスナイパーライフル、「バレット M82A3」、別名「M107」があった。

 

このライフルは、アメリカ合衆国のバレット・ファイアーアームズ社が開発した、アンチマテリアルライフルだ。

 

アンチマテリアルライフルは別名、対物ライフル。

普通の対人ライフルより、威力と射程が大幅に向上されている。

それ故に、その希少性も高く、このアンチマテリアルライフルはこの世界に十丁程度しかないと言われており、同時にこの武装を持ったものは相当の実力者という事になる。

 

タスクも、必死になって手に入れたから、このM82A3は彼にとって誇りの様なものでもあるのだ。

なら、

 

そんな恐ろしい武装を持ったからには、もう敵なし!

 

……と、いう訳にも行かないのである。

 

実は、今回の目標(ターゲット)であるシノンも、アンチマテリアルライフルの使い手なのだ。

シノンが使うのは、「ウルティマラティオ ヘカートII」。

タスクのM82A3と同等の性能を持った、スナイパーライフルだ。

 

そんなライフル持ちがお互いに1体1で戦うという事はつまり、実力が拮抗し、長期戦に発展する事を意味していた。

別にそれ自体はタスクは気にしないのだ。こんな長期戦など、あの店主によって仕事をこなしてきたタスクにとって、短いようなものだからだ。

 

主にタスクの仕事は、店主が仲介して行われる。

どういう事かと言うと、まず依頼主が店主のあの店に行き、店主に依頼する。

そして店主は、その依頼に一番適性があるプレイヤー(傭兵)に、依頼を勧め、遂行させる。

そして成功した時に出る依頼主からの報酬の約1割が、店主の元に「仲介料」として入り、その依頼を遂行したプレイヤーに9割が入るのだ。

 

タスクは、そんな店主が仲介した実に様々な依頼を、仕事として淡々とこなしてきた。

暗殺・潜入・回収・破壊など。偵察もこなした。

そうやってどんどん場数をこなし、仕事を成功させていくと、あちら側の業界、いわゆる「裏業界」で、有名になっていく。

スパイ映画とかでよく見る、一般人には知られていないような世界だ。

そうなってくると、やはり一部の人達から狙われる。そこで、タスクはステルス性を重視し、マスクをつけ、アンチマテリアルライフルを入手し、なるべくステルスで任務をこなすようになったのだ。

 

当然、ステルスとなれば「隠れ蓑(マザー)」や「拠点(ベース)」も必要である。

そこで、 贔屓してくれることも多く、仕事も手に入りやすいあの店が、現状タスクの「隠れ蓑兼拠点(マザー・ベース)」となっていた。

店主もそのことはよく承知しており、「スパイの本部みたいな?かっこいい〜!」などとほざいていたが、やるときはしっかりとやってくれる。

 

かくしてタスクは、今のスタイルを確立させた。

といっても、このスタイルは単なる傭兵とあまり変わりない。そこで、あまりの成功率の高さと、身を隠しながらの戦闘スタイルから、裏業界で二つ名が付けられてしまった。

伝説の傭兵、GGOでの「ビッグ・ボス」と。

 

「はぁ……まあ、勝てないことは無いし、別にいいんだけど……」

 

そしてその「ビッグ・ボス」は今、完全に暗くなった荒野に、ボッチで寝そべって、悲しいかな、一人でつぶやきを漏らしていた。

内容は、タスクの悩みについてだ。

 

「どうしても、引き金は引きたくないんだよなぁ。なんというか……傭兵の名が廃るような気がして。」

 

そう言って、タスクは息を深く吐く。

こんな言葉がある。「女性には、血の赤より、薔薇の赤を見せよ。」

と。

この世界に身を置いている人とはいえ、女性は女性だ。

 

 

 

 

そう。タスクは、女性に対して決して引き金は引きたくないのだ。




こんにちは。
最近、感想を4件も貰えて嬉しすぎる、駆巡 艤宗です。

皆さん!ありがとうございます!たった2話でお気に入り約20件!
感謝の限りです!本当にありがとうございます!
感想で、「〇〇待ってます」などとご要望までいただきました。
なるべく叶えようと思っているので、よろしくお願いします。

まだお気に入りされてない方も、よろしければよろしくお願いします。

では。

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Episode4 決意 〜Determination〜

「引き金は引きたくないんだよなぁ……」

 

タスクは、ポツリと呟く。

その内容は、いかにシノンを制圧するかだ。

 

タスクは女性に対し、あまり引き金は引きたくない。もっといえば、弾が当たるコースに銃口すら向けたくない。

 

それは男性の本能的なものだと言われればそれまでだが、こんな世界に身を置いているとしても、女性は女性だ。

せめて異性に対してぐらい、生物的でなければ、この仕事で正気を保ってられないのだ。

 

これは、この仕事をやる上で意外に重要なことだ。

まあ……気の狂った方々は容赦しないらしいが、そんな非人間じみた事をしても、周りから人が引いていくだけだ。後はなんにも残らない。

だからやっぱり、タスクは気が向かない。

 

別に、だからと言ってこの仕事を放棄する訳では無いし、殺らねばならない時は容赦するつもりはない。

だが、今はこちらが一方的に待ち伏せ、頭を撃ち抜こうとしているのだ。

ついてるものがついてる方ならわかるだろう。少し引け目を感じるよね?

 

とまあ、こんな感じの葛藤が、タスクの中に渦巻いていた。

 

「……!でもまてよ?」

 

その時、タスクは、ある可能性について思いついた。

 

「PK依頼って事は、別に依頼主はなにかアイテム欲している訳では無い。おそらく依頼主がモンスターを狩って、帰るまでの時間が欲しいんだろう。……てことは、銃口を適当に当たらないコースに向けて外しておけばそれはそれでいいんじゃ……?」

 

タスクは、警戒そっちのけで思案する。

それもそうだ。タスクの仕事上、葛藤ほど面倒なものはない。

だが……

 

「いや、ダメだな。彼女の経験と性格じゃ、おそらくすぐに時間稼ぎがバレて逆上し、報復心を増させてしまう。それだけはなんとしても避けたい。」

 

う〜んと考え込むタスク。

 

「どうしようか……できれば当たるコースの銃口は向けたくない。もっといえば、引き金すら引きたくない。かと言って、適当に相手をしてどうにかなる相手でもない……なら、あれしかないか。」

 

そしてタスクは、やっと結論づけた。

その結論は……

 

「CQC」による、近接戦闘制圧での制圧だ。

 

こうすればシノンに当たるコースの銃口を向けることもないし、生半可な相手をしているようにも見えない。

なんてったってスナイパー戦だ。そんな戦闘で、まさか近接攻撃をしてくるとは思わないだろう。

 

ちなみに「CQC」とは、「近接戦闘」の事だ。

これは、ステルスで仕事をしだした時、敵に発見された場合の対処法として習得したスキルの一つだ。

タスクはこのスキルをこれでもかと言うくらいかちあげていた。

 

つまり、例えタスクを発見しても、その発見した距離が10m以内なら、武器を取り出す前に絞め落とされるという事だ。

これを習得した時、めちゃくちゃ役に立ったのを覚えている。

 

これでシノンを制圧すれば手を抜いたとは思われないし、きっちり時間を稼ぐことも出来る。

タスクは、「これだ!」と言わんばかりに拳を握りしめた。

 

まあでも、少なからず牽制で引き金を引かねばならないが、そこは仕事だからとぐっと我慢する。

だが、絶対にシノンに当たるコースに銃口を向けない。これは、自分の中の約束として、胸の中にしまった。

 

 

それから時は経ち、今、日の出である。

結局決意を決めたあの夜にシノンは現れず、粘り強く待つしかなかった。

 

ちなみに、この仕事の期限は今日である。

今日中にシノンを仕留め……いや捕まえなければ、仕事は失敗だ。

 

そんなプレッシャーも重なって、タスクは非常に苛立っていた。

 

「どんだけ待てばいいんだこれ……」

 

タスクは時間を確認する。リアルの時間は午前1時。そして月曜日だ。

学校に行かねばならない日である。

まだ午前1時なら大丈夫だ、と思われるかもしれない。だが、スナイパー対スナイパー戦は、意外に長引くことが多々ある。

それによって学校を遅刻するなんて、分が悪い。

 

だからタスクは、いい区切りがついた今のタイミングでログアウトしてしまおうと考えた。

 

タスクはとりあえず、店主へとメッセージを送った。

予想していたのか、返信は早い。

 

『1度現実へ帰投する。仕事は学校から帰投した時に再開する』

『了解。ちなみに、シノンも学生という情報がある。なるべく早く帰ってきて、再開した方が有利だ。どうするにせよ、今はシノンもログインしている可能性は低い』

『了解。じゃ』

 

そう言ってタスクは、左手で空中に浮かぶディスプレイを出す。

そして、その中にある「Logout」の所を押した。

 

 

「ただいま」

 

タスクは、ゆっくりと目を開ける。目の前にはリアルの自宅の玄関…ではなく、いつものSBCグロッケンの光景が広がっていた。

今、午後4時。学校から帰ってきた直後である。

いち早く仕事に戻るため、帰ってきてすぐログインしたのだ。

 

「さ〜てと。行きますかぁ」

 

そう言って、タスクは走り出す。

これでも、ステータスの一つ、AGI(俊敏性)は、バカ高くしてある。

並大抵のプレイヤーでは追いつけない。

よって、すぐに街から出て、荒野フィールドが迫ってきた。

同時に左手でウィンドウを開き、いつもの眼帯とマスク、そしてバトルドレスを選んだ。

一瞬でタスクの服が変わる。そして、いつもなら手で付けるマスクと眼帯も、今日はゲームシステムに任せ、自動でつけてもらった。

 

「よし」

 

タスクは、パパッと自分の体と顔に手を当て、きちんと装備されているか確認する。

そしてまたウィンドウを開き、今度は「ウェポン」のところを選んだ。

 

「ほいほいっと」

 

タスクは、慣れた手つきで武器を選択し、ウィンドウを閉じる。

すると、まず「M82A3」が出てくる。それを、ぱっと受け取ってすぐに左の背中に回す。そしてそれは、バトルドレスに内蔵されたベルトに固定された。

 

そして次に「デザートイーグル+サイレンサー」が出てくる。

これは、サブウェポンとして仕事の時に愛用しているハンドガンだ。

といってもこの銃、ハンドガンとは名ばかりで、誰でも聞いたことがあるだろう、「AK-47 カラシニコフ」と、威力がほぼ同じなのだ。

一部では、「ハンドキャノン」とも言われているらしい。

故に、少し大きめで反動もでかい。しかもサイレンサーをつければ相当物騒に見える。

が、タスク自身このカスタムが一番しっくりきていた。なぜなら、威力が高いということは、同時に射程も伸びるということだ。

つまり、わざわざメインウェポンを使わなくても約100m周囲はサイレンサーによる消音効果も加わって、簡単にステルス制圧できてしまう。

これもCQC同様、手に入れた時すごい役に立った。

タスクはのこれを、すぐに右後ろ腰のホルスターにしまう。

 

その次に、仕事に必要な小物類がホイホイ出てくる。

グレネード、双眼鏡、通信アイテム、交換用マガジン、空マガジン、クレイモア、C4、折りたたまれたダンボール。

タスクは、そんな細々としたものを全て正確にキャッチし、バトルドレスの至る所にあるポケット、ベルト、バックに詰めていった。

 

とまあ、タスクはこんな装備を全力疾走しながら装着し終えた。

背中の左側には長いスナイパーライフル。右後ろ腰には大きなハンドガン、そしてバトルドレスの様々なところに大小の膨らみがある。

どう考えても、物騒極まりない装備である。

まあ、仕事自体他のプレイヤーとは天と地ほどの物騒さがあるのだが。

 

そしてタスクがあらかじめ決めておいた位置に着いた時。

遂に、シノン対タスクの戦闘が始まった。




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Episode5 二回目の決戦 〜Second time, decisive battle.〜

攻撃は、シノンが先だった。

タスクが装備を走りながら整え、あらかじめ決めておいた位置に着いて、双眼鏡であたりを索敵しだした時。

偶然、廃墟の建物の中で寝そべり、こちらに銃口を向けているシノンと目が合ったのだ。

 

「……!」

 

タスクは、前方へと飛ぶ。そしてそのまま寝そべると、横に転がって岩陰に隠れた。

シノンの銃声は、タスクが前方へ飛ぶのと全く同じタイミングで聞こえてきた。

結果、タスクは何とか回避できたが、危うく初弾必中される所だった。

飛んできた角度や着弾時の砂の跳ね方から、シノンは最初からタスクの頭を狙っていたのだと推測できる。

 

「こ、こえええ〜!」

 

タスクは小さく呟きを漏らす。

こんなところでやられては、元も子もない。

タスクは大きく息を吐いた。

 

「よし、行こうか」

 

そして、今度はタスクから動き出した。

 

✣(視点変更)

 

「いた」

 

そんなシノンの呟きは、銃声にかき消された。

その銃声のもとである銃……ヘカートIIの射線上には、そのシノンが狙っているプレイヤー、「ビッグ・ボス」がいる。

ビッグ・ボスは、一瞬だけこっちを見て、前に飛んですぐに岩陰に隠れた。

シノンは、流石に驚いた。

 

「なんであの弾を避けれるの……!?」

 

それもそのはず。

スナイパーライフルの弾を避けるなど、最初から撃ってくる方向が分かっていなければ到底不可能だからだ。

 

「何なのよあいつ……!」

 

そう言って、シノンはレバーを引く。

おそらくビッグ・ボスは、キャラクターの6つのステータスの割り振りが破格なのだろう。

そのことをシノンはすぐ判断し、第2射に向けて狙いを定めるべく、スコープを覗く。

だが、さっきビッグ・ボスが隠れた岩陰にはもう誰もいなかった。

 

「な……!?」

 

シノンは明らかに動揺する。

レバーを引くだけの短時間で、あの岩陰からどこへ移動したのか。

秒にしてたった3秒と言ったところだ。

 

「どこに……!?」

 

シノンは、慌てて索敵する。

ヘカートIIのスコープを使って、眼下に広がる荒野をくまなく探した。

するとその時、シノンの前髪を掠めるように、横から弾丸が飛んできた。

幸い当たらなかったものの、もう少しズレていれば確実にヘッドショットだ。

シノンは慌てて仰け反り、射撃位置を変えるべく移動する。

同時に、シノンは気づいていた。ビッグ・ボスも、アンチマテリアルライフル持ちである事に。

 

ビッグ・ボスは、シノンが位置を変えるタイミングと一緒に移動していた。

そうすれば、移動中に撃たれるなんてことはなくなる。そう思ったのだろう。

だからそれを見たシノンは、立ったままで移動中の影を撃った。

だがそこはやはり、跳躍されてよけられる。

 

「……!」

 

シノンは、その姿を見て移動を再開した。

そしてまた、今度は別の床に寝そべり、ビッグ・ボスの姿を探し、撃った。

 

 

それから戦うこと一時間。

戦況の展開は全く変わっていなかった。

 

ビッグ・ボスが荒野を駆け巡りながら牽制射撃をし、シノンが適度な間隔の時間で位置を変えて射撃する。

 

そんな戦闘が長々と続くと、流石に弾数が無くなってくる。

既にシノンの隣には、撃ちきったマガジンの山ができていた。

と言っても、シノンのSTR(筋力)の関係によってそこまでの量を持って来れないため、2〜3個重なっているだけだが。

だが、このマガジンはアンチマテリアルライフル用のものだ。重ねれば2〜3個でも山になる。

 

 

シノンが移動するタイミングでビッグ・ボスも動く。

ならばとシノンは自分自身が移動中、同じく移動中のビッグ・ボスを狙うようになった。

こうした方が、よっぽど効果的だと考えたからだ。

だがやはり、ビッグ・ボスには当たらない。

シノンは自然と速射になっていた。

ビッグ・ボスの移動速度に合わせ、数撃ちゃ当たると言わんばかりに弾を叩き込んでゆく。

 

ダンッ!パシン!カチャッ……ダンッ!パシン!カチャッ……

 

テンポよく聞こえてくる速射音。

その効果は、少なからずあった。

 

1回の速射につき1回は、ビッグ・ボスに弾が当たるようになって来ていたのだ。

ビッグ・ボスはよろめきながらまた跳躍して岩陰に隠れ、あちらもまたアンチマテリアルライフルでの射撃をしてくる。

 

アンチマテリアルライフル対アンチマテリアルライフルの戦い。

唯一違うのは、その戦闘スタイルだった。

 

そしてその戦闘スタイルの違いが、ついにこの戦いに勝敗をつける事になったのである。

 

 

その戦いの勝敗は、意外な結末を迎えた。

 

だんだんお互いに疲労し、弾も尽きてきた頃。

先程から全く変わっていないこの戦況に、また乗ろうと移動し、シノンがスコープを覗いたその時。

 

突如として、眼下に広がる荒野から、ビッグ・ボスの姿が消えた。

先程までこの荒野を駆け巡っていたビッグ・ボスが、全く気配を消したのだ。

 

シノンはもちろん、動揺を隠せない。

どこだどこだと、ヘカートIIの銃身とスコープを右往左往していると、後ろから急に足音が聞こえてきた。

 

シノンは、咄嗟にスコープから目を逸らし、サブウェポンのG(グロック)18を取り出す。

 

このG18には、弾を通常より多く装填するためのロングマガジンが取り付けられていた。

しかもこのハンドガン、フル・オート、つまり連射が出来る優れものなのだ。

敵が間近に迫った時、このサブウェポンをとりあえずばら撒いておけば牽制になり、時間を稼ぐ事が出来る。

 

だが、そんな機構はビッグ・ボスの前では無意味だった。

 

「ぐっ……!」

 

シノンが、地面へと叩きつけられる。

それは、あっという間だった。

 

後ろからの足音で気づいた敵の奇襲に対抗すべくすばやく取り出したG18は、誰かの手によって……まあビッグ・ボスだろうが、そのビッグ・ボスの手によって簡単に叩き落とされ、やっと顔が後ろに回った時には世界が反対に見えていた。

そしてその直後に背中に痛みが走り、視界が暗転した訳だ。

 

そしてシノンは、ゆっくりと目を開ける。

するとそこには、デザートイーグルにサイレンサーをつけたサブウェポンを上から突きつけている、ビッグ・ボスの姿があった。

 

「……!」

 

シノンは、殺られる!と覚悟する。

 

……が、ビッグ・ボスはすっと銃口を上に向け、すぐに後ろ腰のホルスターに差し込んだ。

同時に、銃を持っていない左手を差し出す。

 

シノンは、すこし悔しそうにその手を握った。

すると、勢いよく起こされる。

 

「うわっ……!」

「ああ、すまない」

 

ビッグ・ボスは、案外あっさりと謝る。

シノンは、あまりのイメージの違いに驚いていた。

 

そんな中、ビッグ・ボスが身をかがめてシノンの手から叩き落としたロングマガジンのG18を拾う。

そしてそれを右手に持つと、慣れた手つきでロングマガジンを取り出し、シノンに差し出した。

シノンはおずおずと受け取る。

 

すると、ビッグ・ボスは淡々と話し出した。

 

「あんた、このロングマガジンのG18を、牽制用に装備しているんだろう?」

「え……ええ」

 

シノンは、少し狼狽える。

ビッグ・ボスは、そんな事は気にとめずに話を続けた。

 

「なら、こんな大きなマガジンをつけていちゃダメだ」

「ど、どうして?」

「いいか?ロングマガジンを付けるということは、それだけ重量と長さを追加するということだ。同時にそれは、取り回しをしにくくなるということでもある」

「そ……!それは……!」

「なら、即時に対応すべく装備しているそのG18に付けてはいけない。せっかくのフル・オート式が無駄だ。純正の弾数の少ないマガジンを付けて、取り回し重視にしなければ、牽制には向いてない」

「……!」

「さっきもそうだ。あんたがロングマガジンにしていてくれたから、俺はあんたのG18を抑え、叩き落とせたんだ」

「そ、そんな……に……?」

 

シノンは、唖然とする。

牽制なら、弾数が多い方がいい。勝手にそう思って付けていたロングマガジンが、今回の敗北の要因なんて、考えもしなかったからだ。

 

話を区切ったビッグ・ボスは、マガジンが取り外され、安全装置を付けたG18を、すこし回して弄んだ後、シノンに差し出す。

 

そしてまた、シノンがおずおずと受け取ったのを見て、また身をかがめて、今度は床にバイポッドを立てたまま放置してあったヘカートIIを手に取った。

これもまた慣れた手つきでマガジンを取り出し、ボルトアクションレバーを扱って、すぐに撃てないようにしていく。

 

そして一通り作業を終え、最後に安全装置をかけた後、銃口を上にしたヘカートIIを差し出した。

それと同時にビッグ・ボスは、笑みを含めながみこう呟いた。

もちろん、シノンに聞こえるように。そして、シノンを褒め称える様に。

 

「だが 、こいつを使った速射は見事だった。

 

 

 

……いいセンスだ」

と。

 

シノンは呆気に取られていたが、ビッグ・ボスはくるりと後ろを向き、建物の壁の後ろに消えていった。

 

 

ーそして、シノン対タスクの2度目の戦闘が、幕を下ろした。




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Episode6 悩み 〜Trouble〜

「いい……センス」

 

ここは、あの店主のガンショップ。

そのガンショップの一角にある休憩スペースのようなところのカウンターに座ったシノンは、一人ポツリと呟いていた。

 

内容は、一昨日戦った通称、「ビッグ・ボス」との戦いの後、去り際にかけられたあの言葉だ。

 

ーだが 、こいつを使った速射は見事だった。

ーいいセンスだ。

 

なぜかこの言葉だけ、強く耳に残っている。

シノンは、ある一点を見つめ、考え込みだした。

 

だんだん眉間にシワがより、どんどん思考の沼に入ってゆく。

そして、そんな思考の沼に完全に飲み込まれそうになった時、不意に、優しい声が前から飛んできた。

 

「やあシノンさん。なにかお悩みかな?」

 

シノンは、咄嗟に顔を上げる。そこには、この店の店主がいた。

その店主はいつも通り、優しい顔をしてシノンを見ている。

シノンは、慌てて首を横に振った。

 

「あっ、ああ、いや、その……!」

「ん?どうかした?」

「ええと……」

「なにか悩みがあるなら、相談に乗ろうか」

「えっ……?」

 

その店主は、あっさりと見抜いていた。

シノンが、あの時かけられた声の事で、悩んでいる事を。

でも、それを悩みと言ってよいのかと、これもまた悩んでいる事を。

 

でも、この店主なら聞いてくれる。

 

そう、シノンは内心で考えた。

そして……

 

「実は……」

「うんうん」

 

そこからシノンは、あの戦いの一部始終を話し、同時に自分の悩みについても打ち明けた。

 

本当の顔を見せないで言われたあの言葉。それは本当に褒める意味を込めて言ったのか。

そしてそれを、自分は素直に受け取っていいのか。

 

そんな些細な悩みを、ただ淡々とシノンは店主に打ち明けた。

すると店主は、分かっていたかのように答えを返した。

 

「シノンさん。きっとそれは、嘘じゃないよ。彼は本当に、あなたの腕を褒めてるんだと思う」

「えっ……?」

「僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ」

「深い……関わり……」

 

シノンの中で、4日か5日前に見たあの光景が頭に浮かぶ。

身長が低く、店主とじゃれあって無邪気に笑っていたあのプレイヤー。

シノンは、また考え込もうとする。

 

……が、その必要はないとばかりに、店主が唐突に話し出した。

 

「ねえ、シノンさん」

「はい?」

「……知りたい?彼の正体」

「……!」

 

唐突に、悩みの答えを突っ込んでくる店主。

シノンは流石に面食らってしまった。

だが、そんなことはお構いなし。店主は周りを見渡した後、少し声を落として、でもかわらない優しい声で、こう続けた。

 

「彼から言われているよ。『あいつは信用できる奴だ。あいつなら、自分の正体を教えても構わない。』とね。ちなみにあいつとは、あなたの事だよ」

「でっ……!でも……!」

「はは、いい子だなぁ君は。いいんだよ。俺も、シノンさんの事を信用してる。彼だって同じさ」

「そうなんですか……じゃあ、どうしてです?何でそこまで、私を信用してくれているのですか?」

「それはね、シノンさん。あなたはあの戦いの後、彼にウェポンについて何か言われたでしょ?で、今それが悩みになってるよね?」

「ま、まあ、はい」

 

あのロングマガジンについての事と、速射についての事。

シノンはこの店主はその事までも知っているのかと驚いた。

 

「その時、喋りながら隙だらけの姿を晒していた彼に、あなたは何もしなかったよね?」

「あっ……!」

「そこが彼にとって、信用できる、と思ったらしいよ」

「……」

 

シノンが押し黙る。

確かに自分は彼と戦った。そして、実際言葉も交わした。

あの時の彼は、まるで歴戦の兵士のような威厳のある風格だった。

だが、それを考える時、必ずと言っていいほどあのプレイヤーが頭に浮かぶ。

 

店主とじゃれあった時の無邪気な笑顔。とてもGGOキャラとは思えない低身長。

何から何まで違う2人のプレイヤーが、同一人物である確証がないのに、シノンはそんな気がしてならない。

そんな思考を彷徨わせていると、店主が顔を覗き込みながら話を続けた。

 

「シノンさん。もう一度だけ、聞くよ?彼の正体、知りたい?」

「……!」

「もちろん、ここで断って忘れるのもありだ。彼の正体を知って、後悔するかもしれない。でも、今の迷ったシノンさんは、本当のシノンさんじゃない。だから俺は、あなたに提案したんだ。きっとこれは、彼も分かってる」

「そ、それは……!」

「彼の正体を知るのか知らないでおくのか。どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?」

 

シノンは下を向いた。同時に、葛藤が生まれる。

彼の正体を知れば、自分もあちら側の世界に入ってしまうかもしれない。

かと言って、このまま知らないでおき、強き者を忘れ去るのは自分の中では最も取りたくない選択肢だ。

最悪、先延ばしにするのも手だ。でも、先延ばしにした所で答えが出るとも思えない。

 

「私は……!」

 

そしてついにシノンは、絞り出すように答えを口に出した。

 

「私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に」

「よく言った。良い返事だ」

 

すると店主は、ポケットからとある紙切れを取り出した。

そしてそれを、シノンへと差し出す。

その紙に書いてあったのは、この世界にも存在するとある座標情報だった。

 

「彼は今、ここにいる。会いに行ってみるといい。彼はきっと、答えを教えてくれるよ」

「はい」

 

そう言って、店主は店の方へと戻っていった。

シノンは、数秒その紙切れを見た後、その紙切れを引っ掴んで、立ち上がった。そのまま店の出口に向かっていく。

 

そして遂に、シノンが店の出口の前に立った時。

店主が、マガジンに弾が満タンの物を2個、投げてきた。

もちろん、そのマガジンは、シノンのヘカートIIに対応したものだ。

シノンは、慌てて紙切れをポケットに入れ、両手で一個づつ掴む。

店主はそれを見て、片目を閉じ、こう話した。

 

「これを持っていきな。で、彼にこう伝えてくれ。『これは貸しだ。ツケで払ってもらう。』ってな。一応、あなたのSTRをオーバーしてるし大きいから、なにか置いてストレージに入れていきなよ?置いたものは預かっておくから」

「……分かりました。ありがとうございます」

 

シノンは、両手のマガジンを見た後、ウィンドウを開いてそのマガジンをストレージに入れた。

 

ストレージは、いわゆる『見えないカバン』だ。

こうすれば、手に持って走ることはない。

だが、その『見えないカバン』でも、ステータスの一つ、STR(筋力)の制限はかかる。

よって何かを置いていかねばならないのは変わりない。

 

前回の戦いの時にはサブウェポンのG18の交換用マガジンを複数個おいて、代わりにヘカートIIのマガジンを少し追加して行ったが、今回はそのG18ごと置いていくことにした。

店主は、それを見て微笑む。

そして、そのG18をしっかりと受け取り、じっ見ると、シノンに聞こえるように呟いた。

 

「ふふ、素直だなぁ」

「な……!い、いや……!」

「うんうん。分かってるから。ほら、行ってらっしゃい?」

「……はい。ありがとうございます」

 

その呟きが聞こえたシノンが顔を赤くして弁明しようとする。

だが、それは店主によって遮られ、彼の元へと送り出された。

それを見届けた店主は、受け取ったG18をまたまじまじと見出す。

 

「ふふ、ほんとに素直だな、シノンさんは」

 

そう、一人で呟きながら店主は上から下から、右から左からと、様々な角度からG18を見ていく。

そして最後に、マガジンを引き抜いた。

店主は、そのマガジンをクルクルと回して弄んで、机に置いた。

そして、微かな笑みを浮かべる。

 

そう。そのマガジンは、弾数の少ない、純正マガジンだった。




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Episode7 彼の正体 〜His true character〜

「ここらへん……?だったような」

 

シノンが一人、真昼の荒野の真ん中に立って呟いている。

その手には、店主に渡されたあの紙切れがあった。

そして今、その紙切れに書いてある座標に立っている。

理由は、あのプレイヤー、ビッグ・ボスに会うためだ。

シノンはまた、紙切れを見る。

 

「間違いないんだけどなぁ」

 

そう言って、シノンはあたりを見回した。

前と左右は開けた荒野で、後ろには大きな崖だ。

この崖を迂回するために、ものすごく遠回りしてきたのだ。

なのにも関わらずシノンは、相変わらず困った顔をしてあたりを見回し続けている。

 

なぜなら、その目的のプレイヤー、ビッグ・ボスがそこにいなかったからだ。

店主に渡された紙切れに書いてある座標はたしかにここだ。

ここに彼がいる、そう教えられたはずだった。

 

「……どうしよう」

 

そう、シノンが呟いていささか困り果てた時、いきなり5m前あたりに空マガジンが落ちてきた。

シノンは、その空マガジンを拾いに行く。

 

「これは……!」

 

そしてそのマガジンを手に取った時、シノンは目を見開いた。

 

「このマガジン……この大きさ……間違いない。アンチマテリアルライフル用のものね。てことは……」

 

シノンは、さっと予測をつけると、マガジンが飛んで来た方向、つまり背後の崖を見る。

するとそこには、あのプレイヤーがこちらを見下ろしていた。

シノンは、そのプレイヤーから目を逸らさない。

そしてそのプレイヤーが、淡々と話し出した。

 

「よう、シノンさん。いつぶりかだな」

「ええ……」

「店主から聞いたよ。純正マガジンを使うようになったらしいな」

「……!ま、まあ、意見は正しかったし…」

「ふ、素直だな、あんたは」

「な……!」

 

そのプレイヤーは、眼帯マスクスナイパーと呼ばれ、最近ではビッグ・ボスと呼ばれるようになってきたまさにシノンの目的の人だった。

ガタイのいいそのプレイヤー、ビッグ・ボスは、少し苦笑しながら後ろ腰に手を入れ、ロープを垂らす。

シノンは、少し赤面しかけながらそのロープを握った。

ビッグ・ボスはそのことを確認し、ロープを一気に引き上げる。

シノンが、あっという間に6m超の崖の上まで引き上げられた。

 

「うわっ……!」

 

勢いが強すぎて、崖の上の地面が見える。同時に、シノンの体が放物線の頂点に達して、落下を始めた。

シノンは、慌てて着地の体制をとる。

だが、その必要はなかった。

 

ドスン!

 

ビッグ・ボスが、落ちてくるシノンを受け止める。

軽々と持ち上げられたシノンは、今度こそ真っ赤に赤面した。

 

「な……なっ……!なに……を!」

「なんだ?」

「さっさと下ろせこの変態!」

「ああ、すまない」

 

シノンが女の子らしい黄色い悲鳴を上げる。

なぜなら、ビッグ・ボスはシノンをいわゆるお姫様抱っこで抱えていたからだ。

シノンから怒声を浴びせられたビッグ・ボスは、顔色一つ変えずシノンを下ろした。

 

「あ、あんた!次そんな事したら顔にヘカートIIぶち込むからね!」

「そ……そうか」

 

ビッグ・ボスは、あまりのシノンの焦り様に狼狽えるが、シノンの脅迫には全く動じなかった。

 

シノンが、息を整えつつ、紛らわすように本題の話を切り出す。

 

「はぁ……はぁ……で、あなたの正体は何?」

「……本当に知っていいんだな?」

 

ビッグ・ボスは、まるで心配しているかのようにシノンの顔を窺う。

だが、シノンは問答無用で即答した。

 

「もちろん。私だって強くなりたい。あなたの正体を知って、次こそ勝ちたい。だから……!」

 

シノンが、ありのままの自分の考えを吐き出す。

ビッグ・ボスは、そんなシノンの顔と口調を見て彼女の決意を察した。

 

「……分かった」

 

そして遂に、ビッグ・ボスはマスクと眼帯をとる。

そこには、あの時、あのショップで店主とじゃれあっていた、あのプレイヤーの顔があった。

 

「……久しぶりです。シノンさん?」

 

さっきとは一転。

小さい子供のような顔つきの、それでも根はしっかりした少年が、姿を表した。

同時に、ウィンドウを開いて服を変える。

すると、ゴトッと背中背負っていたスナイパーライフルが地面に接し、ガタイが一気に小さくなった。

そしてビッグ・ボス、もといタスクは、ニコッと笑って手を広げ、体を見せるようにしながら話を続けた。

 

「これが僕の正体です。ご明察でしたね、シノンさん」

 

シノンは、流石に戸惑う。

 

「え、ええ?」

「……?どうかされました?」

「い、いやちょっと待って?本当にあなたなの?本当にあなたが…あのビッグ・ボス?」

「はい。そうですよ!僕がビッグ・ボスの正体です」

「え、ええ〜っ!?意外だなぁ」

「はは、それが狙いですから」

 

タスクが、シノンの反応に明るく対応する。

 

 

そしてその後、シノンとタスクは、友達を超えた戦友として、雑談に明け暮れた。

 

彼の名前がタスクである事、ビッグ・ボスと呼ばれた経緯、この戦闘スタイルが確立した所以。

 

タスクは、シノンからの質問逐一答えていった。

 

 

そうして日が暮れかけた時、急にタスクが話を変えた。

 

「ところでシノンさん。これからまだ、時間はありますか?」

 

シノンは、急な質問に狼狽える。

 

「えっ……ああ、まだ大丈夫だけど」

「……なら良かった。シノンさん。実はね、」

 

タスクが、明るい返事を返してニコッと笑う。

そして、そのままの顔でとんでもないことを口にした。

 

「僕、今から依頼の仕事なんです」

「い、今から!?」

「だから、シノンさんに手伝ってもらいたいんだけど……いいですか?」

「ええ?そんな…」

「いいじゃないですか。強くなる為と思って、ほら!」

 

シノンは、この唐突な打診に狼狽える。

それもそのはず。もしここで逃げ出せば、強くなれるチャンスを逃してしまうが、かと言ってタスクの仕事に手を出して、自分も狙われてしまうのもなんか困る。

 

この二つの選択肢にも利益不利益平等に存在していて、今そのどちらを取るのかを、またシノンは悩んでいる。

ついさっきの店主やビッグ・ボスの時のタスクとのやりとりと同じ条件だ。

そんなシノンの脳裏に、この荒野にくる前に店主に言った自らの言葉が思い浮かぶ。

 

ー私が、私自身が強くなる為に。

 

「……」

 

シノンは、沈黙して目を閉じて思案している。

タスクは、シノンが答えを出すまで待っているつもりなのだろう、顔色一つ変えずにシノンを見ていた。

 

そしてシノンは、答えを出した。

 

 

「分かった。ついて行かせてもらうわ」

「そうこなくっちゃ」

 

こうして、タスクとシノンの、共闘が決まった。




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Episode8 組織A 〜Organization Alpha〜

「……で、どんな依頼なの?」

 

すっかり日が暮れ、暗くなった荒野。

今から依頼の仕事をしに行くタスクと、それに同行するシノンが話をしていた。

 

「えーと、話が長くなるけどいいですか?」

「もちろん。敵状をしらないと」

「そうですか……なら一から説明しますね」

「うん」

「敵は大規模スコードロン。推定で130人くらい」

「ひ……130人!?」

「そう。そして、それだけの人を集めるってことはつまり、なんらかの利益を目的として、行動してるって事。ここまでは分かりますか?」

「うん……組織とか、ギルドみたいな?」

「そう!そんな感じです。それで、その組織的大規模スコードロン…面倒なのでA(アルファ)と呼称します。それが今回の目標(ターゲット)なのですが、そのA(アルファ)、最近過激になりつつあるんです」

「……と言うと?」

「例えば、いいモンスターの出現区域を独占したり、無理矢理安い金額でレアアイテムを交換させたりと言ったことですね」

「ひどい奴らね……運営は何も言わないの?」

「それが、何も言わないのではなく()()()()んですよ。」

「え……?どういう事?」

「だって、それを制限したらモンスターの取り合いでのPK戦やゲーム内通貨でのアイテム交換はダメなのかってことになってしまうじゃないですか」

「確かに……たとえ独占していても、ゲームシステムの扱い的にはモンスターの取り合いでのPKになるものね……」

「そうです。かと言って、スコードロンの制限人数を減らしたところでスコードロン同士の共闘と言う扱いで簡単にA(アルファ)と同じことが出来てしまいますからね」

「ん〜……」

「だから、今回の僕の……いえ僕()の任務は、そのA(アルファ)の本拠地を襲撃、制圧した後、リーダーであるプレイヤーを回収、依頼主(クライアント)に引渡す事です。……おそらく、説得なり取引なりするんでしょう。そこは僕達の関与するべきところではないので、あまり気にしない方が良いですが」

「なるほど……でも、回収って一体どうやるの?ログアウトされたら元も子もないでしょ?」

「流石シノンさん。いいところに目を付けますね。ご明察です」

「はは……ありがとう」

「いえいえ。で、その回収の方法なのですが、両手を切断し、顔に黒袋を被せます」

「えっ……!?」

「すこし残虐かも知れませんが、これしかないんです」

「……確かにね。拘束しただけじゃログアウトされてしまうかも知れないわ」

「そうなんですよね……でも、なるべくダメージは与えません。何度も言いますが、僕達の仕事は依頼主(クライアント)A(アルファ)のリーダーを生きたまま引渡す事なので」

「うん。手くらいなら死なないはず」

「はい。その通りです。……これで説明は終わりです」

「なるほどね。わかったわ。で、私の役割は?」

「シノンさんは、僕の援護をお願いします。と言っても、敵の位置などをヘカートIIのスコープを使って探知し、教えてくれるだけでいいです。あくまで隠密ですので」

「う〜ん。撃てないのは残念だけど、分かった」

「あ、でも、突入する時には射撃による援護をお願いします。合図は出しますので」

「了解」

「それと……」

「ん?」

「情報では、捕虜もいるそうです。見つけ次第教えてください。可能な限り回収します」

「分かった」

 

ここまで話をして、シノンとタスクが前を向いて歩き続ける。

そしてその2分後にA(アルファ)の本拠地が見えてきた。

 

「見えました」

「これが……!」

 

タスクとシノンが、眼下に広がる光の塊を見下ろす。

今二人が歩いてきた所は、昼間にシノンがタスクに引き上げられた崖の先なのだ。

故にその本拠地も、眼下に見据えることが出来ていた。

 

その本拠地は、まるで街のようだった。

だが市場のような通りや、居住区のような建物の密集地はない。

代わりにあるのは、無数のように設けられた高台と、所々に設営された見張り待機用のテントだ。

 

シノンはその光の塊を見下ろしながら、今からここに潜入するのかとタスクを見る。

だが、タスクは余裕の表情でウィンドウを開いていた。

同時に、シノンの視線に気づき手を止める。

 

「……?どうかしましたか?シノンさん」

「い、いや、あんた、いまからここに潜入するの!?」

「はい。そうですが、なにか?」

 

シノンは、落ち着き払ったタスクの対応に驚きを隠せない。

するとタスクは、ウィンドウから服装を変えた。

一旦下着になり、一気にガタイのいい黄土色の鉄板が露出したゴツゴツしい服、いやスーツになる。

そしていつもの眼帯のマスクを取り出した。

口と鼻だけをカバーしたガスマスクのようなもの。

それを付けると、やはり彼がビッグ・ボスだと確認できる。

だが、シノンはあまりの変わりようにおどおどすることしか出来なかつた。

そんなことは気にせず、タスク、いやビッグ・ボスは今度はウィンドウのウェポンの所から、ウェポンを選択し、背中へと背負っていく。

そこからは、ビッグ・ボスの動きが早かった。

 

ウィンドウのアイテムの所からパパッと選択し、スーツの至る所に収納していく。

中には、折りたたまれたダンボールとかいう、訳の分からないものまであった。

そして全部の作業が終わった時、シノンの目の前には、タスクとは遠くかけ離れたガタイのいいビッグ・ボスがいた。

 

「……どうかしたか?」

 

口調と声の高さも変わっている。

タスクの時の幼い少し高めの声とは一転。

ビッグ・ボスは、威厳のある低い声だ。

もっと言えば、タスクがシノンに対して使っていた敬語もいつの間にか消えている。

シノンの戸惑いがわかったのだろう。ビッグ・ボスは優しめに声をかけた。

 

「すまん。一種の職業病のようなものだ。許してくれ。できれば……敬語も」

「あ……ああ、いや、そんな敬語とか気にしないから。……ただちょっと、驚いただけ」

「そ、そうか」

 

シノンは正直、こうも変わるものかと驚きをこして動揺していた。

 

……が、同時に納得もする。

ここまで変えなければ、簡単に正体が分かってしまうだろうな、と。

 

ビッグ・ボスは、そんなことは気にせず、シノンの前に立った。

タスクはシノンより身長が少し低かったのに、ビッグ・ボスはシノンより少し高い。

 

おそらくこのスーツの影響だろう、とシノンは予想をつけた。

なんてったってあの小さなタスクがガタイが良くなるスーツだ。身長も追加されると考えてもおかしくない。むしろそれ以外考えられなかった。

 

するとビッグ・ボスが、シノンに声をかける。

 

「用意は出来た。そっちは?」

「あ、ああ、いつでも」

「よし。そしたら、ここで援護してくれ。移動・射撃は指示する」

「了解」

 

そしてビッグ・ボスは、崖の下へと降りていった。




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Episode9 役割 〜role〜

「シノン、聞こえるか?」

「ええ、よく聞こえる」

 

真っ暗闇の荒野。

その一角にあるとある組織の本拠地で、ビッグ・ボスとシノンが通信アイテムを用いて会話する。

 

「よし。俺の位置は分かるか?」

「今スコープで捉えてる。あなたは私の位置を知ってるから、弾道予測線(バレット・ライン)が見えるはずよ」

 

そう、シノンの声がビッグ・ボスの耳元に、正確には耳元の通信アイテムに届く。

それと同時に、ビッグ・ボスのすぐ左の地面にシノンのヘカートIIの弾道予測線(バレット・ライン)が伸びてきた。

ビッグ・ボスはそれをちらりと確認すると、通信アイテムを通してシノンに指示を出す。

 

「今から、右側へと潜入する。死角のカバーを頼む」

「了解。敵のこと以外にも、気づいたことがあれば言うわ」

「……返事出来んかもしれないが頼む」

「OK」

 

そこまで通信して、シノンが会話を切った。

ビッグ・ボスは、少し離れた崖の上にいるシノンをちらりの目視で確認すると、体勢を下げ、ゆっくりと進んでいく。

 

そして、2人の共闘が始まった。

 

 

「がっ……!」

「おいどうした、なにか……あっ……!」

バタバタッ!

 

2人のプレイヤーが、音もなく飛んできた弾丸に頭を撃ち抜かれる。

聞こえるのは、その弾丸を撃ちだした銃器から吐き出される薬莢が地面に落ちる音。

倒れた2人のプレイヤーは、しばらくしてから光の粒になって消えた。

 

「……クリア」

 

静かで薄暗いテントの中に、ビッグ・ボスの呟きが聞こえる。

そして、そのビッグ・ボスの耳元の通信アイテムにシノンの声が聞こえてきた。

 

「OK、そのテントの出口の30m先、12時方向に1人。2時の方向70m先に2人よ」

「了解。先に奥の2人をやる。正面の1人の警戒を頼む」

「分かった」

 

2人は迅速に会話すると、それぞれの役割に動き出す。

ビッグ・ボスは匍匐しながら2時方向の2人に向かっていく。

シノンは、ビッグ・ボスが出てきたテントから12時方向にいる見張りのプレイヤー1人をスコープで捉え、警戒を始めた。

 

 

もうすでに気づいてるかもしれないが、この作戦はビッグ・ボスが潜入、シノンが狙撃・偵察と役割を分けて遂行していた。

 

理由はいくつかある。

一つ目は、シノンの戦闘スタイルだ。

シノンは、遠くから狙撃するか、敵に向かっていって接近して弾丸を撃ち込むスタイル。

対してビッグ・ボス、つまりタスクは、敵陣に()()し、気づかれないように地道にコツコツと敵を片付けていくスタイルだ。

ある意味正反対なスタイルの2人が、一緒に行動していい事などほとんど無い。

 

二つ目は、シノンの隠密性の無さだ。

シノンは、タダでさえ重たいアンチマテリアルライフルを、少ないSTRで担いでいるため、どうしても動きに制限が出てしまう。

そんな重たい動きをしていては、どんな迷彩服を着ても見つかるのは必然というものだ。

 

という訳で実行されたのは、ビッグ・ボスとシノンが2人が歩いてきた崖で、シノンがヘカートIIを使って偵察・援護し、ビッグ・ボスが潜入するという、チームを分割した作戦だ。

こうすれば、お互いの長所を活かし合うことができるし、もしどちらが殺られても作戦を続行することが出来る。

 

それに、今回は敵プレイヤーを最低でも1人回収しなければならない。捕虜がいるなら尚更だ。

最悪の場合強行突破になるため、シノンの援護射撃がビッグ・ボスにとって不可欠なのだ。

 

そして今、その作戦は、完璧と言っても過言ではないレベルで動けていた。

ただ一つ、難点があるとすれば、シノンの射撃による援護ができない事。

なぜなら、何度も言うがこれは隠密作戦だからである。

シノンのヘカートIIのバカでかい射撃音が響けば、たちまち見つかってしまう。

なのにも関わらず、敵の人数が並大抵の量ではないのだ。

有効極まりない攻撃手段を持ってしても、それを使わず尋常ならざる量の敵を相手にする。

必然的に、ビッグ・ボスとシノンの疲労も溜まっていた。

これはゲームだ。身体的疲労はすぐ回復するが、精神的疲労はどうしようもないのである。

 

「シノン……。シノン……?」

「はっ!あ、ごめんなさい」

 

そしてそのシノンが、溜まった疲労からくる眠気に、少し意識を引き剥がされかける。

偶然入ったビッグ・ボスの通信に、運良く引き戻された。

ビッグ・ボスは、気遣うように通信を続ける。

 

「……疲れたのなら、休むか?敵の位置はお陰で大体把握できている」

「ん……!」

 

シノンは一瞬迷う。が、問答無用で答えを返した。

 

「いいえ大丈夫。続けるわ」

「……そうか。何かあれば言えよ?」

「了解」

 

ビッグ・ボスの意外な気遣いに、シノンが笑みを漏らす。

シノンが、通信を切って呟いた。

 

「彼、結局どこをどう隠しても、中身はタスク君なのね」

 

もちろん、その呟きは、ビッグ・ボスには聞こえていないのである。

 

 

「……これか」

 

それから30分後。

ビッグ・ボスは、この拠点で一番大きな建物の、隅っこの壁に潜んでいた。

 

その建物は、建物と言っても自然を利用したかのような、岩作りのものだ。

イメージ的には、崖を切り抜いて建物の様にしたものの方が正しいのかもしれない。

だが、フィールドにこんな所があったのかと、驚いているのも事実だ。

 

兵士の出入り、明かりの明るさ、大きさからしても、回収目標(ターゲット)はここにいると見て間違いない。

ビッグ・ボスは、シノンに向けて、久しぶりの通信を送った。

 

「シノン、今から建物に入る。建物周囲の警戒を頼むぞ」

「あ、やっと来た。了解」

 

と、短い通信で終わる。

久しぶりと言っても、たった30分。でも、常にプレッシャーに晒されている二人にとっては、とても長く感じるのだ。

 

「……よし」

 

そしてビッグ・ボスは、窓から建物へと入っていく。

シノンは、そんなビッグ・ボスの背中を、ヘカートIIのスコープ越しに見ていた。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

皆さん、ありがとうございます!
お気に入り、200人超え達成しました!
この数字は、自己ベストです!
本当にありがとうございます!

今後ともお気に入り、感想(ご指摘なども含めて)よろしくお願いします!

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Episode10 初任務完了 〜First mission completed〜

すみません!
今回、ついつい長くなってしまいました。
お許しください。(笑)


「動くな」

「ひっ!?」

 

とある荒野の、崖を削ったような建物の中。

とある兵士が、背後から来た何者かによって、尋問されていた。

 

「吐け」

「な、何も知らない!」

「仲間はどこだ」

「本当に知らない!助けてくれ……!」

バシュン!

「あっ……!」

バタン……!

 

その兵士、つまりプレイヤーが、また一人倒れる。

ビッグ・ボスは、その死体を隅に運ぶと、光の粒子となって消えるのを待った。

そしてその直後、プレイヤーがビッグ・ボスが待っていた通りに光の粒子になって消える。

 

そしてまた、ビッグ・ボスは動き出した。

 

 

「うっ……動くな!武器をおろせ!」

 

その脅迫は、不意に背後からやって来た。

ビッグ・ボスが、とある部屋に入った時。扉の後ろに隠れていた兵士に、アサルトライフルを突きつけられたのだ。

ビッグ・ボスは、素直に手に持ったデザートイーグルを地面に置いく。

そして同時に、その脅迫した兵士の方に向いた。

その兵士は、オロオロしながら銃を向ける。

 

「な、う、動くな!死にたいのか!」

 

ビッグ・ボスは、眼帯で隠れていない右目だけをその兵士に真っ直ぐに向け、淡々と言葉を放つ。

 

「そんな銃じゃ、このスーツの装甲は通らないぞ」

「う、うるさい!大人しくしろ!」

「それにその銃、安全装置(セーフティー)が掛かってるぞ?新米(ルーキー)

「え……?」

 

その兵士が、手に持った銃の横を見る。

その瞬間、ビッグ・ボスが動いた。

 

「あっ……!」

 

流れるように繰り出されるCQC。

その兵士は、あっという間に銃を叩き落とされ、投げ飛ばされた。

 

「ぐはっ!」

「おいおい……」

 

その兵士の苦しみ様に、ビッグ・ボスが呆れる。

その兵士のHPはあっという間に9割減った。

 

「お前、もっとマシな服持ってないのか。そんな耐久値じゃ着ても着なくても変わらんぞ?」

「うっ、うるさい!」

「なんなら俺から頼んでやろうか?すぐそこにいる……あんたらのボスにな」

「え……?」

 

ビッグ・ボスは、寝そべったままキョトンとする兵士に、いつの間にか拾い上げたデザートイーグルを突きつけつつ、すぐ目の前の柱に目を合わせる。

するとそこから、聞いたことのない俗に言う悪役の笑い声が聞こえてきた。

 

「ククク、ふはははは!やはり気づいていたか!雇われ犬が!」

「まあな」

 

その悪役の声の持ち主は、ビッグ・ボスの事を思いっきり侮辱すると、柱から姿を現した。

 

全身黒色の戦闘服を着た、ヤクザのようなサングラスをつけたプレイヤー。

ビッグ・ボスはひと目で分かった。

ーこいつがここのボスだ。

と。

そしてそのプレイヤー、全身黒づくめヤクザは、話を続ける。

 

「やあやあ、初めましてだな?ビッグ・ボスさんよぉ!」

「……」

「俺の名はカイジ!ここのスコードロンのリーダーだ!」

「そうか」

 

ビッグ・ボスは、心底どうでも良さそうに返事する。

そんな対応に、カイジは不満の色を見せた。

 

「へいへい、なんだか連れねぇな、ビッグ・ボスさんよぉ?」

「敵と馴れ合うつもりは無い」

「あのなぁ?これでも俺、ビッグ・ボス。あんたの……」

「ああ、あんたがこの依頼の依頼主(クライアント)だろう?」

 

ビッグ・ボスは、さらりとカイジの言葉を先取りする。

これは流石にカイジも驚いた。

 

「へ、へぇ……あんた、なかなかやるじゃん」

「そりゃどうも」

「でも……これからどうするんだい?俺を殺せば、依頼は失敗だ」

「確かに俺はあんたを殺せない。だがな……」

「……?」

 

そんな脅迫にも動じず、ビッグ・ボスは、カイジの目を真っ直ぐに捉える。

そして、淡々とカイジの核心を突いた言葉を吐き出した。

 

「最初から、俺を殺すつもりなんだろう?」

「……!」

 

カイジは素直に認めることが出来ず、大きく狼狽える。

ビッグ・ボスは、視線を逸らさずにすらすらと話し出した。

 

「もともと、依頼主(クライアント)が匿名の時点で怪しいと思ってたんだ。なにかあるってな。だがそれでも仕事は仕事だ。結果俺は黙々と黙って潜入してみたが……今この部屋に来た時、確信したよ。あんたが、俺を罠にはめて殺すために、わざわざ俺に依頼したんだとね」

「……」

 

カイジは、黙りこくる。

その沈黙は、ビッグ・ボスの指摘を肯定することを意味していた。

ビッグ・ボスは、下で未だ寝そべっている兵士をちらりと見ると、話を続ける。

 

「ちなみに、今この部屋には、11人のプレイヤーがいるな」

「な、なにぃ……!?」

「左右後ろに一本づつあるの柱の後ろに3人づつで合計6人。あんたの隠れていた柱の後ろに2人、で、今寝そべっているこいつとあんた、そして俺だ」

 

カイジは、額に汗を滲ませる。

ビッグ・ボスは、初めて入ったこの部屋でも、振り向かずに索敵できるのか、と。

そう。今ビッグ・ボスが淡々と話した兵士の位置は、すべて正しいのだ。

 

「でっ……でもなんで……!?なんであなたは、ここまで来れて、落ち着いていられるんですか?」

「それはな、あんたらが大規模すぎたんだ」

「な……!?」

 

ビッグ・ボスは、寝そべっている兵士の急な質問に答える。

 

「あんたらは、大規模すぎてむしろ警戒網に穴を開けてしまったんだ。こんだけ大人数でスコードロンを組んでたら、誰がやられても分かるわけがない。何十人もいる中で一人消えても、誰も気づかないのさ」

「……!」

「そして、偶然気づいた他の奴も、ノコノコと近づいてくる。やられない訳ないだろう?」

「で、でも……!」

「それにな、こんだけ大人数なら、一人一人の練度も鈍る。この部屋にいる奴らは、外にいる奴らよりは優秀かもしれんがまだまだだ。そんな連中の守る拠点など、俺からしてみれば見張りがいないのと同等だ。落ち着いていられない方がおかしい」

「な……!」

 

これには流石にカイジでも取り乱した。狼狽える所の話ではない。

それもそのはず。これでもかと仲間を集めたこの拠点を、仲間がいないのも同然と言って入ってきたのだ。

むしろ取り乱さない方がおかしい。

あれだけ自信に溢れていたカイジは、今は見る影もなくなっていた。

ビッグ・ボスはカイジのそんな心の取り乱しを見逃さず、耳元の通信アイテムに素早く手を置く。

そしてたった一言、ポツリと指示を出した。

 

「シノン、撃て」

「え……?」

 

次の瞬間、ヘカートIIの射撃音が、連続して暗闇の荒野に響き渡る。

それと同時に、弾丸が部屋の中に飛び込んで暴れ回った。

 

「うわぁ!」

「ひいぃ!」

 

カイジは恐れ慄いて目を閉じて頭に手をかぶせる。

その部屋にいたその他の兵士達も同様に、恐れの声を上げた。

 

しばらくして、カイジが目を開けた時、もう時は既に遅かった。

 

前にはデザートイーグルを突きつけたビッグ・ボス。

そしてその背後には頭を撃ち抜かれた9人の死体があった。

 

「……!」

「終わりだ。カイジ」

「ぐ!くそっ!」

 

カイジが悔しそうに下を向き、名前でビッグ・ボスに呼ばれた直後、彼の両手に痛みが走り、視界が暗転した。

 

 

「やあ、お待たせしました」

 

それからまた30分後。

シノンと()()()は、壊滅した(させた)組織A(アルファ)の本拠地から少し離れた暗闇の荒野で合流した。

シノンは、あまりの変わりようにやはりキョトンとする。

 

「あれ、もうビッグ・ボスじゃないんだ……」

「はい。敵に見つかった時、誤魔化しが効きませんからね」

「なるほど……」

 

タスクは、サラリとそんなことを口にする。

やはり彼は慣れてるな、と、シノンは内心で感心した。

 

すると急に、ピタッとタスクが立ち止まる。

シノンは、慌てて自らの足も止める。

すると彼は、ニコッと笑ってその場に座った。

シノンは、その行動の意味が分からず、ただ呆然と立っている。

その時やっと、彼が声を出した。

 

「さ、ここが合流地点です。待ちましょうか」

「え……?」

 

シノンは、タスクの言葉の中に、聞き覚えのない言葉を聞き取った。

合流地点。一体なんの、と言おうとしたところで、タスクは話続ける。

 

「ああ、言ってませんでしたね。実は、この仕事が終わった後、店主さんに回収をお願いしてあるんです。本来なら回収目標(ターゲット)を、もっと言えば可能性は低いですが捕虜も連れている予定でしたから」

「そういうこと……」

 

シノンは納得する。

確かに、元々の予定はあの大規模スコードロン、組織A(アルファ)のボスが回収目標(ターゲット)だった。

それに捕虜もいるとの情報だったのだが、捕虜はログアウトさせてもいいと考えていたし、そもそもいるかもわからなかった。

 

結果、その目標(ターゲット)依頼主(クライアント)で、捕虜なんてただのガセだったのだが。

シノンが拠点を見回した時、テントの中はともかく、外にはそんなプレイヤーはいなかった。

 

第一、プレイヤーを捕虜にした所で、現実に帰れなくなるだけで何も苦しくない。

簡単に言えば、捕まえておく意味が無いのだ。

おそらくタスクは、そこも見越してあえてシノンに捕虜情報を言っておいたのだろう。

そうすれば、シノンのやる気が出ると。

 

「嵌めたのね?」

「なにをです?」

 

シノンは、タスクに少し不満気な顔をむける。

だが、タスクはなんの事かとニコニコしていた。

そんな顔を見て、シノンがまた文句を垂れ流す。

 

「捕虜……あんた、最初からわかってたんでしょ?」

「ああ、それですか。はい。分かってましたよ」

「じゃなんで言ってくれないのよ!」

「だってシノンさん、ヘカートIIが撃てなくて不満気でしたから。なにか他の役割を与えなきゃ、勿体ないじゃないですか」

「は、はあ」

「シノンさんみたいな優秀な人、崖の上で寝そべらせておくなんて僕にはできません」

「あ、ありがと」

 

タスクが話を切って、笑顔をこちらに向ける。

シノンは、少し赤面してそっぽを向いた。

 

何気にいい雰囲気…と思いきや、急にタスクがぶち壊す。

 

「ま、ホントはシノンさんのやる気を引き出すためなんですが」

「やっぱりそうなんじゃんか!」

「へへへ!」

「殺す!」

 

シノン後ろ越しに手をやる。が、そこにはG18は無かった。

ヘカートIIのマガジンを入れるため、あの店に置いてきたのだった。

 

「あ……」

「残念でしたね!」

「〜!」

 

シノンは、今度こそ赤面して顔を伏せる。

タスクは、そんなシノンを見て微笑んだ。

 

 

そしてその後、三輪のバギーに乗った店主が、暗闇の荒野にフロントライトを光らせながら迎えに来た。

タスクとシノンは、二人並んで後ろの座席に座る。

店主は、「お疲れ様〜」と言いながら店まで乗せていってくれた。

 

その道中、不意に店主がタスクに疑問を投げかける。

 

「そういやタスクくん、なんか、あの大規模スコードロンのボスが依頼してきた人だったらしいけど、あのあと結局どうしたの?」

「あ、確かに。どうしたの?まさか殺し……」

「いやまさか、殺してはいないですよ?」

 

店主の質問にシノン乗っかり、タスクが慌てて否定する。

するとタスクは、とんでもないことをサラリと口にした。

 

「あのボスは、両手を撃ち落として黒袋被せて放置してきました」

「「ええ……」」

 

この時、シノンと店主が微かに引いたのは、言うまでもないだろう。




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第二章 違う世界 〜A different world〜
Episode11 嫌な予感 〜Bad feeling〜


「シノンさん……ねぇ」

 

外が暗くなり出す時間。

タスクは、店主のショップの休憩スペースのようなところに腰掛け、店主と向かい合っていた。

 

話題は、シノンについて。

 

「……このままだと、シノンさんは本当にこちらの世界に入ってしまうね」

「うん……」

「1回PKされたら、それが命取りになる。常に身を隠さないといけなくなってしまうね」

「うん……それに、最悪の場合……」

「ヘカートIIを、失ってしまう」

 

そう。それこそ、店主とタスクが、ここまで深刻な顔をして話し合う理由だ。

 

GGOには、ゲームには良くある死亡罰則(デスペナルティ)がある。

基本的に死亡判定を食らうのは、HPバーが全損した時。

その時に、必ず死亡罰則(デスペナルティ)が課されるのだ。

 

これは、ゲームバランスを保つためのシステムなので、誰も文句は言わない。

むしろ無いと文句を言われるくらいだ。

 

まあ実際、その死亡罰則(デスペナルティ)が、今店主とタスクの悩みになっているのだが。

 

そしてその、死亡罰則(デスペナルティ)。それは一体何なのかというと、

「キャラクターが死亡した場合、そのキャラクターの所持しているアイテムの一部をランダムでその場にドロップし、そのキャラクターからはそのドロップしたアイテムが剥奪される」

というものだ。

 

これ自体は至ってシンプルで、他のキャラクターを殺し、アイテムを奪う、PKが利益を得るためのシステムだ。

前までシノンはそれを求めてプレイしていた訳だし、彼女もそのことはよく理解しているはずだ。

 

……だが、問題はここからなのだ。

 

もし、シノンがこちら側の世界に来た場合、シノン自身を狙ったPKプレイヤーが、実に沢山やってくる。

これは、実際にタスクや下手すれば店主まで受けてきたことだから、分かりきっている。

シノンも逆PKを狙われてきただろうから、すこしは対抗できるのだろう。

 

しかし、そのPK狙いのプレイヤー、この世界では格が違うのだ。

この格差こそ、タスクや店主が危惧していることである。

 

通常、平和にプレイしている一般のプレイヤーのPKは、フィールドのどこかに待ち伏せて無差別に攻撃するか、標的を定めて、ポツポツと攻撃するくらいだ。

 

だが、こちら側のPKは先程も言った通り、本当に格が違う。

 

標的となったプレイヤーは、ゲームにログインする度につけ狙われ、一度フィールドにでれば、常にPKされる危険がある。

それに、もしその標的プレイヤーがいいアイテムを持っていた場合、そのアイテムを落とすまで、執拗に狙われ続けるのだ。

 

そしてその「いいアイテム」。

言わなくてもわかるだろう、シノンでいうヘカートIIなのだ。

おそらくシノンは、今まであってきたPKとの格差に為す術もなくやられてしまうだろう。

 

なにせヘカートIIだ。この世界に十丁程しかない、アンチマテリアルライフルなのだ。

これを奪われる訳には行かない。彼女だってそうだろう。

 

タスクが、話を続ける。

 

「でも、シノンさんは自ら希望して来たんでしょ?」

「ま、まあ、間接的に……だがな」

「……と言うと?」

「シノンさんは、タスク君の()()()()()()()と言っただけだ。たとえその行為が、こちら側の世界に足を踏み入れる行為だとしても」

「直接、足を踏み入れたいとは……」

「シノンさんは、言ってない」

「う〜ん……」

 

タスクと店主は、考え込む。

 

確かに彼女は、こちら側の世界に足を踏み入れてでもビッグ・ボスの正体を知りたいと言った。

それ自体は本人自身の判断だし、尊重したいと二人は考えている。

 

だが、そんなに甘くないのも事実だ。

実際、タスクは過去に装備をひとつ取られているし、店主も幾度となく狙われた。

もし本当に入った時、この世界に入るんじゃなかったと後悔して欲しくない。

これはあくまで、()()()なのだ。それ自体の面白さを、そのゲーム自体で失って欲しくない。

それが、一番の問題点なのだ。

 

「ふぅ〜……」

「……?」

 

いきなり、店主が大きくため息をつく。

タスクは、そんな店主の行動に疑問を覚えた。

すると店主は、これしかないとばかりに指をピンと立て、方目を閉じて、解決策を提示した。

 

「これはもう、本人にもう一度、直接聞かなきゃならないね」

「……!」

「そしてもし、本当に彼女がこちら側の世界に来ると言った場合、タスク君。君が訓練するんだ」

「わかった」

「元はと言えばタスク君が有名になりかけたからなんだけどね…ま、仕方ないけど」

「店主さん……」

「ああ、違う違う。別に、タスク君が悪いって言ってるわけじゃないよ。ただ……これからこういう事が起こり得る……という事がよく分かったね。正直、僕もびっくりだよ」

「そうですね……」

「ま、今後どうするかはいいとして、まずはシノンさんだね。僕から連絡を取ってみるよ」

「了解です。お願いします」

 

ここまでで、店主とタスクの会話が終わる。

 

だが、店主は薄々感づいていた。

シノンは、ただ遊びでこのゲームをやっている訳では無いという事を。

 

ー私は、知りたい。彼の正体を、彼の強さを、この目で見て知りたい。私が、私自身が強くなる為に。

 

あの時、絞り出すように答えたシノン言葉。表情。目。

彼女はきっと、リアルで何か抱えているのだろう。

それがどんなものなのか、店主は分からない。

でも、それ故に、放っておく訳には行かない。

 

やはり、彼女はこちら側の世界に足を踏み入れるだろう。それを、自分は精一杯支えよう。

 

……今のタスクと同じように。

 

そう、店主は決意した。

 

 

一方、一旦話に区切りを付けて店を出たタスクは、いきなり眉間にシワを寄せていた。

そんなタスクの目の前には、メッセージの受信を通達するウィンドウ。

 

そして差出人は……

 

シノンだ。

 

よりにもよってこのタイミング。

メッセージの内容にもよるが、最悪の場合今すぐUターンして店主とまた顔を付き合わせなければならない。

ああして解決策を練りあった以上、シノンに関しては下手な行動はできないからだ。

 

タスクは、恐る恐るそのウィンドウに大きく表示された「メッセージを開く」のタブを押す。

するとそこに表示されたのは、やはりUターン必須のものだった。

 

『急にごめんなさい。今、とあるスコードロンを組んでPKを狙ってるんだけど、どうやら思った以上に強敵なの。無理と分かってお願いします。援護をしてもらえないかしら』

 

タスクは、クルリと180°反転し、店主の店へと走り出した。

その顔は、笑顔を保ちつつも冷や汗をかいている。

ー思ったより強敵

ービッグ・ボスに援護要請

この二つの要素が、タスクに不安を与える。

 

「やばい……!もう目を付けられてるのかも……しれない!」

 

そう、タスクは嫌な予感を口にした。

 

「店主さん!」

バタァン!

 

タスクは、大きな音を立ててショップの扉を開ける。

 

「タ、タスク君!?どうしたの!?」

 

店主は、面食らってタスクを見る。

そんな事はお構い無しに、タスクは送られてきたメッセージを無言で店主に見せた。

もちろん、店主も絶句する。

 

「これって……」

「はい」

「もしかしたら……」

「はい……!」

「「相当まずくないか!?」」

 

二人の声が綺麗にハモり、同時に店主にも、タスクと全く同じ嫌な予感が芽生えた。




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Episode12 眼帯マスクプレイヤー 〜Eye band and mask player〜

「しまった……!」

「どうします!?店主さん!」

 

とある休日の昼下がり。

店主のショップのレジカウンターで、飛び込んできたタスクと店主が大慌てで緊急会議を開いていた。

 

「シノンさんの位置は!?」

「今、あの拠点の半径5km以内に……」

「くそっ……!もう目を……!」

「いえ、行動が流石に早すぎます。おそらく、この前の襲撃の戦訓から敵が雇うなり何なりした強力な護衛スコードロンに出くわした可能性が一番……!」

 

店主がシノンの位置を聞き、タスクが用意周到に答える。

 

そう。今タスクに援護要請をしてきたシノンは、「あの拠点」……つい先日襲撃した大規模スコードロン、通称 組織A(アルファ)の、本拠地のすぐ近くにいるのだ。

 

正直タスクも、メッセージを見た時は目をつけられたと思った。

だが、それにはあまりに早すぎる。

いくら何でも、学生プレイヤーをたった数日で見つけれるわけがない。

 

そもそもの話、あの時の作戦は目をつけられないようにあえてシノンを偵察だけに留めたので、敵があの作戦にシノンが関与している事に気づいているかどうかすら怪しいところだ。

 

……まぁ、最後にはぶっぱなしてもらったのだが、今はどうでも良い。

 

先程まで議論していた「シノンの被PKの危険性」。

それが今、議論していた可能性とは全く違う形とはいえ、シノンに降り掛かっている。

それがまず何よりの問題点だ。

 

もしここでシノンが殺され、死亡罰則(デスペナルティ)が課されれば、何が剥奪されるかわからない。

簡単に言うと、ヘカートIIを取られる可能性が0ではないという事だ。

 

店主が考え込み、タスクが指示を待つ。

そしてついに、店主が覚悟を決めたかのように瞳を開いた。

 

「……よし」

「……」

「俺も行こう。準備するから、三輪バギーを」

「ええ!?」

 

タスクは、驚きのあまり仰け反る。

まさか店主自身が、来るとは思っていなかったからだ。

タスクの反応を見た店主が、不満気な顔を見せる。

 

「なんだよ、俺だって戦えるんだぞ?」

「し、知ってますけど……でも!」

 

タスクは、躊躇いの目を向ける。

だが店主は、心配入らないとばかりに、いつものように片目を閉じ、笑顔で決意を口にした。

 

「大丈夫!たまには手伝わせてくれ?」

「……了解」

 

タスクは、店主も店主なりに決意があるのだろう、と察し、潔く了解する。

 

すると同時に、二人は走り出した。

タスクは近くの貸出三輪バギーを取りに外へ。

店主は店を閉め、店の裏に入って準備をしだした。

 

同時に、タスクはシノンへと返信する。

 

『絶対に死ぬな。すぐ行く』

 

と。

 

 

「『絶対に死ぬな。すぐ行く』……だってぇ?」

「ええ。」

 

一方、ほとんど交戦状態になっている現場。

荒野の真ん中に刺さったように立っているビルと、その付近の壁や、その他障害物のあるところだ。

そんなところでドンパチしている最中に、シノンに送られてきたメッセージを、スコードロンのリーダーであるダインが覗き、呆れる。

 

「はっ……!こんな荒野フィールドのど真ん中に、どうやってすぐ来るのさ?ハッタリもいいとこ」

「いえ……彼はもう来るわ。すぐに……ね。」

 

ダインの呆れ顔など気にもせず、シノンは淡々と彼の到来を待つ。

 

「おいおい、シノンちゃんよぉ?大丈夫なのかよぉ!全っ然来ねぇじゃねぇかよ!」

「大丈夫」

 

同じスコードロンのとあるメンバーが不満を漏らす。

そのメンバーは、いつくるのか分からない援護に、頼れるものかと間接的に訴えようとしているのだ。

だが、肝心のシノンは「すぐ来る」の一点張り。

 

「そ……そうか。でその……『彼』とやらは一体、いつくるんだい?すぐすぐって言って、全然そんな気配が………!?」

 

そんなシノンの落ち着き様にすこし焦り、そのメンバーがそんな援護の気配がない……と言おうとしたその時。

 

そのメンバーの後ろに、いきなり気配が現れた。

 

「ひっ!?」

 

そのメンバーは、思いっきり驚いて仰け反る。

だが彼はすぐに、急に現れた気配の元に引き戻された。

 

「や、やめて殺さないでー!」

 

メンバーは、そんな素っ頓狂な声を上げる。

するとその気配の主が、彼の口を抑え、自分の口に(と言ってもマスクがあるため、マスクの上にだが、)人差し指を当てた。

そしてその指を、そのまま彼のいたところへ向ける。

 

「……!!」

 

するとそこには、大きく抉られた壁があった。

その下には、2〜3個の弾丸。

そしてその壁は、ついさっきまで彼が隠れていた場所だった。

下に落ちた弾丸が、光の粒になって消える。

 

「え……?」

 

そのメンバーが、呆気に取られる。

 

「も、もしかして……あんた、助けてくれたのか?」

「ああ。間に合ってよかった」

 

そのメンバーは、いきなり現れたその気配の主を、そして今起こった事実に、驚きを隠せない。

そしてその気配の主は、微かな笑みを含めた右目を、シノンに向けた。

この時、スコードロンのリーダー、ダインを含め、メンバー全員が、シノンが援護を要請した「彼」が、この……眼帯マスクプレイヤーである事を察する。

 

そしてその眼帯マスクは、シノンに向けて一言、言葉を発した。

 

「……待たせたな」

「ええ、随分とね」

 

その言葉で、シノン以外のメンバーが一瞬、寒気を覚える。

彼の……眼帯マスクのたった一言が、異常なほどに強い、歴戦の兵士のような威厳を持っていたからだ。

 

だが、そんな彼の一言にも動じず、さらりと言葉を返すシノン。

スコードロンのメンバーは、

 

「とんでもないやつが来ちまったなぁ……」

 

と一時顔を見合わせ、苦笑いをし合った。

 

「……で、シノン」

「何?」

 

その時、急に眼帯マスクがシノンを呼ぶ。

シノンはヘカートIIのスコープを覗きながら返事する。

眼帯マスクも、身を隠していた壁に背を預け、スコードロンメンバーを見渡しながら会話した。

 

「敵の数は?」

「はっきりとは分からない。目視で大体……9人てとこ」

「装備は?」

「AK-47 カラシニコフが2人、P90が1人。それとSCAR-Hが4人。で……黒ローブ被った奴が2人。他にも潜んでるかもしれないからまだ……」

「なるほどな……」

「何かわかる?」

「俺の予想だが、SCAR-Hが前衛だろう。で、次にAK-47 カラシニコフ。その真後ろに黒ローブがいて……P90持ちは小刻みに位置を変えてるな」

「ご明察。さすがね」

「な……!?」

 

シノンがするすると装備を答え、その眼帯マスクは振り向きもせずに敵の陣形を完璧に答える。

 

スコードロンのメンバーは、流石に驚いた。

むしろ、さっきから驚いてしかいない。

 

急に現れたと思ったら、常人ならざる反射神経でメンバーの1人をヘッドショット即死判定から救い、挙句の果てには振り向きもしないで恐ろしい精度を誇る索敵能力を見せる。

 

ここまでされたら、流石に恐怖心が掻き立てられるだろう。

スコードロンのリーダーであるダインが、恐る恐る尋ねる。

 

「あ……あんた何なんだ?」

「なあに、単なる傭兵まがいのプレイヤーさ」

「た、単なるって……!な、なら、なんだあの動きは!?」

「動き…?」

「片手で簡単にプレイヤーを下げて、振り向きもしないで索敵したじゃないか!」

「ああ」

 

ダインがまくし立てられた小動物のようにおどおどと問い詰める。

一方、問い詰められている相手は、一言返事しただけで頷きもしず、淡々と話し出した。

 

「プレイヤーを下げた話は……簡単な事さ。俺は、プレイスタイル上、STRをバカ高くしてるんでな」

「お、おう……そうなの……か」

「で、索敵の話だが、これも簡単な話さ。一つ一つの銃の音を聞きわけているだけだ」

「音……だと?」

「ああ。例えば、AK-47 カラシニコフ。あれは、構造を極端に簡単にし、素材も軽くしているだろう?」

「あ……そ、そうだな」

「という事は、コッキングやリロード、下手すれば構えた時に、カンカン、と軽い音がするんだ。このゲームはなるべく実銃から音を取ってるからな。すぐ分かる」

「た……たったそんだけで……!?」

「おう、たったそんだけだ。簡単だろ?」

「か……簡単って……!」

「それで、後はその音の大きさや反響から距離と方向を割り出して、あらからじめ頭に入れておいた地形図と照らし合わせれば……」

「一度も振り向かないで、索敵ができる…と」

「そういう事さ」

 

スコードロンのメンバー達は、顔を見合わせる。

ここまで説明されたら、何も言い返せない。

代わりに出たのは、苦し紛れの笑顔だった。

 

「そ、そうか……はは、よろし……く」

「ああ」

 

短く返事をした眼帯マスクは、手を自ら差し出す。

流石にダインは躊躇った。

 

「え……と……」

「ん……?ほら、握手だ」

 

躊躇うダインを、その眼帯マスクは肩をすくめて促した。

その時の仕草や口調から、ダイン達は警戒心を少しづつ解いていく。

そしてぎゅっと、力強い握手をした。

 

そして……

 

「よし、いこうか」

 

その眼帯マスク、もといビッグ・ボスが、後ろを向いて敵の方向を睨んだ。

ダイン達スコードロンメンバーも、同様に睨む。

ビッグ・ボスが来てからずっとヘカートIIで警戒してくれていたシノンも、スコープから目を外して同じく睨んだ。

怒涛の反撃の始まりを予感させる。

 

……だが、シノンを除く彼らは気づいていなかった。

今目の前にいるこのプレイヤー、眼帯マスクが、あのビッグ・ボスである事に。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

「待たせたな」

このセリフ。
やっと出せました。

長い間……待たせたな。

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Episode13 夢のまた夢 〜Dream of a Dream again〜

パシン!キン!

 

GGOの荒野に、弾丸がはねる音が響く。

 

「おっと……危ない危ない」

 

その音に呼応するかのように、頭をすくめるプレイヤー。

 

「下がれ。殺られるぞ」

「分かった」

 

そしてそのプレイヤーは、後ろから聞こえてきた威厳ある低い声に指示され、さらに後ろの障害物へと、足速に移動した。

 

ビッグ・ボスがここに来てから5分。

シノン達のスコードロンは、ビッグ・ボスの指示により、地道に敵を減らしつつ、この区域からの離脱、戦闘からの逃走を図っていた。

 

理由としては、現状の不利過ぎる戦況。

今の戦闘が始まる前まで、シノン達は他のスコードロンやモンスターを襲っていて、弾薬やアイテムの不足が深刻になりつつあった。

そんな状態でまともに殺りあっていては、十中八九待っているのは敗北だろう。

怒涛の反撃など、夢のまた夢なのが、現状だった。

 

それに、このスコードロンの敗北はビッグ・ボスが最も恐れてい事態だ。

敗北と言うことは、スコードロンメンバーが全滅することを意味する。

即ち、そのスコードロンのメンバーの一人であるシノンも、PKされる事を意味していた。

それだけはなんとしても避けたい。と言うより、避けるためにビッグ・ボスがやって来たのだ。

 

スコードロンメンバーも、敗北だけはしたくないのだろう。反撃を諦めることは、案外すんなりと受け入れた。

 

「……シノン、ヘカートIIはストレージへ。G18を出しておけ。いつ切り込まれてもおかしくない。他のメンバーも同様に、前衛以外は近距離、あるいは白兵戦の準備だ」

「り……了解」「よ……よし」「分かった」

 

少し戸惑ったメンバー達の返事と、はっきり一言返したシノンの返事。

ビッグ・ボスは、その両方の返事をしっかりと聞いて、次の作戦を練る。

その時、不意にシノンがビッグ・ボスへ話しかけた。

 

「ねえ、黒ローブはどうするの?まだ……あいつは装備を出してないけど」

「ああ」

 

シノンの的確な質問に、スコードロンメンバー達は無言で頷く。

 

現状、ビッグ・ボスのあの驚くべき索敵の時にシノンによっていることが分かったあの黒ローブ二人は、未だに攻撃にも出ず、障害物に引きこもっていた。

 

もちろん、スコードロンメンバー達はその黒ローブ二人を一番警戒していた。

理由は、あの時の戦訓。シノンが初めてビッグ・ボスとスコープ越しに目が合った日だ。

あの時彼らは、黒ローブの警戒を怠ったために間違って接近してしまい、ミニガンによる掃射を喰らった。

結果、シノンが恐るべき身のこなしで退治したのだが……あの時は酷かったなぁと、ビッグ・ボスも内心で回想する。

 

実は、あの時の戦闘はビッグ・ボスもスコープ越しに見ていたのだ。

もちろん、隠れてだが。

 

「あの時は酷かったなぁ、シノン」

「な……なによ……。見てたの?」

「ああ。お前がビルから片足を失いながら飛び降りるところまでバッチリと見てたぞ?」

「……」

 

シノンはもちろん、スコードロンメンバーも黙りこくる。

まさか、あの時の酷い戦闘をこの人に見られていたとは。

シノンは、呆れ顔で言い返す。

 

「はぁ……あの時、無理矢理にでも引き金を引けばよかったわ」

「やめてくれよ。背中から撃たれるのは嫌いなんだ」

「知らないわよ、そんな事」

 

ビッグ・ボスのイジリと、シノンの受け答えに、その場の空気が少し和む。

 

《……よし。上手くいったな》

 

ビッグ・ボスは内心で手応えを感じる。

それと同時に、先程のシノンの質問にしっかりと答えた。

 

「はは、まあ、とりあえず大丈夫だ。あの黒ローブへの対抗策は出来ている。安心してくれ」

「そう……分かった」

 

シノンは、ビッグ・ボスの明確な回答に、特に深追いもせず頷く。

 

実はこの、イジリを交えた作戦を練るやり取り、すべてビッグ・ボスの計算の内なのだ。

 

人は、焦ったり追い詰められたりすると判断力が鈍る。

冷静に物事を考えれなくなったり、周りの状況を見れなくなったり。

そんな状態で襲撃され、慌てふためいている敵は、相手からしてみれば「的」である。

そんな状態に、「的」になりつつある先程までのスコードロンメンバー達は、敗北の兆しになりかねなかった。

 

ここぞという時に焦りからくる判断力の鈍りのせいで殺られる。

PK戦やGGO内でよく行われるバトルロワイヤル大会ではよくある話だ。

そんな事は今、ここで起こられては困る。

ましてやシノンには絶対にダメだ。

 

だから、ビッグ・ボスはあえて前に見た現状に似た光景を口に出し、少しとぼけてこの場を和ませ、スコードロンメンバー達や、シノンの焦りを取ったのだ。

 

そしてその効果は、すぐに現れることになる。

 

「やばい!グレネード!」

ドカァァァァァアン!

 

その時、急にビッグ・ボスとシノンのやり取りで和んだメンバー達のすぐ近くに、前衛の味方の叫び声とともにグレネードが飛んできた。

 

ビッグ・ボスはもちろん、シノンやメンバー達は、すぐさま走って遠くへ逃げ、バッと地面に伏せる。

そして、その場にいた全員が爆発から逃れた。

 

「ふう……危なかったぜ」

 

メンバー達はそんなことを呟きながら、各自また遮蔽物に隠れる。

その動きは、まるで今までの焦りなど感じさせなかった。

 

《いける……このまま、逃げ切れそうだ》

 

その動きをみたビッグ・ボスは、そう、内心で確信した。

 

そして……

 

「オセロット、まだか?」

 

ビッグ・ボスは一言、小さく耳元の通信アイテムに声を送った。

 

 

「はぁ……速すぎるぞ、ボス」

 

一方、こちらも荒野。

今、悪態をついたプレイヤーは、SBCグロッケンで借りてきた三輪バギーに、正確にはタスクに借りてきてもらった三輪バギーに乗って、延々と続くフィールドを疾走していた。

 

「全く……待てと言ったのに全然見えないぞ?どんだけ急いだんだ」

 

風に服をなびかせながら悪態をまたつくこのプレイヤー。

言わなくてもお分かりだろう。店主である。

 

今、店主の服装は、西洋映画に出てくるような、カウボーイ風のものだった。

両腰には、「SAA」、正式名称「シングル アクション アーミー」がホルスターに挿してある。

 

この銃は、アメリカのコルト・ファイアーアームズ社が開発し、1872年から1911年までアメリカ陸軍正式拳銃に採用されていた由緒正しき(?)リボルバーである。

この銃は、他のものと違い、銃後部にあるハンマーを、ハーフコックポジションというなんとも微妙な位置に固定した後、横の蓋を開けてシリンダーから一発づつ撃ち殻薬莢を出し、今度は新しい弾をこれまた一発づつ装填するという、何ともめんどくさいリロードを要求してくるくせ者だ。

 

だが店主は、そんなリロードを

 

「このリロードは、革命(レボリューション)だ!!!」

 

とほざきちらし、フィールドに出る時は肌身離さず装備していた。

タスクに呆れられたのは言うまでもない。

 

まぁ、確かに今までにないリロードではあるが、それが何かをもたらしたのかといえば……特に何も無い。

従って、やはりこのリロードは革命(レボリューション)などではないような気がするが、店主自身はこの論を撤回するつもりは毛頭無かった。

 

そんな店主は今、相変わらず後ろへと流れ続ける荒野の同じ背景に飽き飽きしつつ、未だ三輪バギーを走らせている。

 

「ふわぁぁぁあ……」

 

店主はとうとう、大きな欠伸をかました。

その時に出てきた涙を拭おうと、目を擦ろうとする。

するとその時、急に耳元の通信アイテムに、声が送られてきた。

 

「ガガッ……オセロット、まだか?」

 

相手はもちろん、ビッグ・ボスである。

店主…もといオセロットは、すぐに返事を返した。

 

「もうすぐだ。準備は出来てる」

「よし」

 

そんなオセロットの声と、ビッグ・ボスの短くともしっかりした返事は、今度こそ、怒涛の反撃を予感させる。

 

そして今度こそ、その予感が当たることになる。

だが、その時のスコードロンメンバー達は、全くもってそんなことは考えていなかった。




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Episode14 怒涛の反撃 〜Angry War Counterattack〜

それは、突然の出来事だった。

 

「ん……?」

 

スコードロンのリーダー、ダインが、目の前に広がる荒野の奥から、光るものが接近して来るのを見つけた。

 

パッと見てダインは、「敵だ」と認識する。

それもそのはず。なぜならその光るものは、自分たちから正面に、敵からしたら背後から、こちらに接近してきているからだ。

 

「お……奥に、敵の増援!」

 

ダインは、仲間達に叫ぶ。

スコードロンメンバー達はまた、焦り出した。

 

「な……!?」「嘘だろ……!?」

 

ビッグ・ボスのあのとぼけた会話による努力虚しく、また焦りや不安の雰囲気がスコードロンメンバー達を包む。

だが、そんな不安はやはりまた、ビッグ・ボスの一言によってあっさりと掻き消された。

 

「大丈夫。あれは味方だ」

「そうなのか!?」

「ああ、俺が呼んでおいた」

「よ、良かった……」

 

ダインがホッとし、スコードロンメンバー達もホッとする。

だがビッグ・ボスは、そんな()()雰囲気もあっさりと掻き消した。

 

「おいおい、まだ気を抜くなよ?今からが本番だ」

「……!」

 

即座にその場がピリッと張り詰める。

流石はシノンを有するスコードロン。こういう雰囲気だけは作れるのだ。

 

そして、その光るものがだんだん姿を表す。

すると出てきたのは、ヘッドライトをつけた三輪バギーだった。

 

「バ、バギー……?」

 

ダインが、あからさまに呆れる。

こんな広々した視界の利く荒野で、あんな体を晒す乗り物に乗っているからだ。

だがビッグ・ボスは、そんなダインの思いなどはつゆ知らず、平然と言葉を返す。

同時に、スコードロンメンバー達に準備を促した。

 

「おい、動くぞ。準備だ」

「……ん?ああ、でも、動くって……どう?」

「撤退だ。死にたいのか?」

「いっ……いや、そんな訳じゃない」

 

そういってダインは、準備を始める。

それにつられて、固まっていた周りのメンバー達も、着々と準備を始めた。

そんな中、ビッグ・ボスは目の前の敵を警戒し続ける。

そして……

 

「出来たか?」

「ああ。今終わった」

「……よし」

 

ビッグ・ボスが、ダインの返事を皮切りに、行動を指示した。

 

「全員、俺が敵に向かっていったら、思いっきり走って逃げろ。俺とあのバギーで食い止める。一か八かの賭けになるが、他に方法はない。……覚悟を決めろ。やるぞ」

「わ……分かった」

 

ダインが覚悟を決め、こくりと頷く。

するとビッグ・ボスが、急に腰のあたりをゴソゴソと弄り出した。

ダインは、何をしているのか分からずにビッグ・ボスを見つめる。

 

「それと、これを持っててくれ」

 

するとビッグ・ボスは、ダインに通信アイテムを渡した。

 

「これであんたに指示を出す。あんたも、何かあったら言ってくれ」

「おう……」

 

それを受け取ったダインが、すこし心配気味に返事を返した。

ビッグ・ボスがそんなダインの顔を覗き込んで、質問する。

 

「……?何か問題が?」

「いや……その々…」

「……?」

「あ……あんたは、どうするんだ?俺たちを逃がしてくれるのはありがたいが、それはあんたを囮に……!」

 

そういって、ダインは申し訳なさそうにビッグ・ボスを見る。

通信アイテムは、どんな距離でも装備したプレイヤー同士が通信、会話できるアイテムだ。

たとえ叫んでも、小声で話しても、相手には普通の大きさで聞こえるようになっている。

非常に便利であるアイテムだが、その便利な機能が、返ってダインに不安を宿らせていた。

 

その、ダインが抱えている不安。それは、通信アイテムはどんな距離でも声が届く。つまりビッグ・ボスがそんなアイテムを自分に渡したということは、彼と自分が遠く離れることを意味しているのではないか。

つまり、ビッグ・ボスはこのままここに留まって、逃げている自分達のためにただひたすら戦うつもりなのではないか?という事だ。

 

いくら彼でも、一つのスコードロンに一人で敵うわけがない。

それをわかっておきながら自分達だけ逃げるのは、少し……いやかなり申し訳なく、自分達のせいで彼のアイテムが奪われてしまうのではないかという不安が、そこにはあった。

 

だが、そんな不安はビッグ・ボス、彼自身によって振り払われた。

 

「なんだ、そんな事か」

「え……」

「大丈夫だ。俺は死なない。あんな連中などには殺られない」

 

ダインはそんなビッグ・ボスの明言に、すこし感銘を受ける。

そして、そんな感情に流されるまま、また質問した。

 

だが、ビッグ・ボスにその質問はあっさり跳ね返される。

 

「そ……そうか……。あんたは、凄いな。一体何者なんだ?なあ、せめて名前だけでも……」

「それは出来ない。そうすれば、あんたのこのゲームの、GGOでの人生が蝕まれる。」

「な……!?なぜ?」

「言ったろ?俺は、単なる傭兵まがいのプレイヤーだと」

「傭兵……」

「そう。俺が普段、介入しているのは、このGGO世界からかき集めた汚れ仕事(ウェットワーク)だ。あんたが想像出来ないような奴も沢山いる。……だから、これ以上は深く知らない方がいい。すまないな」

「……」

 

ダインが、黙りこくる。

ビッグ・ボスが、自分の知らない、もっと過酷なところに身を置いている人だと感じたからだ。

そんなダインを見たビッグ・ボスは、敵がいる方の方角を見つつ、まるで、ダインの事を励ますようにポツリと呟く。

 

「だが……それでも、あんたが俺の正体を知りたいと思ったら……」

「……!」

「いいだろう。ここから生きて帰ったら、俺の事を調べてもいい。だがそれは、こちらの世界に足を踏み入れることになりかねない。その覚悟を決めれるなら、許そう」

「……!」

 

その呟きは、しっかりとダインに届く。

同時に……シノンにも届いた。

 

二人の目が、先程までとは違った色になる。

 

それをしっかりと右目で見たビッグ・ボスは、ふいとメンバー達に背を向けた。

その後、後ろ越しにあるホルスターからサイレンサー付きデザートイーグルを取り出し、最後に一言、スコードロンメンバー達に言葉を発して、敵の方向へと消えていった。

 

「さあ、行け」

 

と。

 

 

ドスドスドスドス……

 

ビッグ・ボスの、重々しい足音が、荒野の土と共に跳ねる。

そして……

 

「な……!おま……!どっから……!」

バシュン!

バタッ……

 

敵スコードロンのSCAR-H持ちの一人が、頭を撃ち抜かれて死んだ。

 

「ああっ……!」

 

その時、隣にいた同じSCAR-H持ちのもう一人に見つかる。だが、彼が銃を構えた時にはもう遅かった。

 

ドサッ!

「ぐはっ!」

 

彼の視界は、世界を反転して映し出す。そして背中からいきなり走ってきた痛みとともに暗闇になっていった。

 

「……二人」

 

消えゆく視界の中、耳に聞こえてくる威厳ある低い声。

その声が完全に聞こえなくなった時、彼のHPバーが全損した。

 

「……いい投げだな、ボス」

 

SCAR-H持ち二人を、一人はヘッドショット、一人はCQCの投げで仕留め、即座に障害物に隠れたビッグ・ボスは、そこから3m先にある障害物に隠れるプレイヤー、三輪バギーに乗ってきた店主……ここではオセロットに、賞賛を送られていた。

 

「……基本の投げだ。大したことない」

「ふふ……謙虚だな」

 

ビッグ・ボスは、そんな賞賛を一言で振り払う。

オセロットは、そんなボスをチラりとみて、いつものタスクを見る目で少し微笑んだ。

 

ビッグ・ボスは、そんなオセロットの目に気づいたのだろう。

慌てて質問を投げかけた。

オセロットは、すぐに目の色を変え、質問に答える。

 

「オ……オセロット!敵は?」

「……黒ローブ 1、P90が1、SCAR-Hが1だ」

「ん……?SCAR-Hは分かるが、黒ローブはどうやったんだ?」

「ああ、三輪バギーで轢いた」

「……」

 

しれっと恐ろしいことを答えるオセロット。

ビッグ・ボスは、その恐ろしい三輪バギーを探し、視界に捉えた。

 

……なるほど、確かに壁に突っ込んでいる。バギーと壁の間には、黒ローブの姿があった。

顔にタイヤの溝の形の被弾エフェクトが煌めいている。盛大に轢かれたのが想像できた。

 

「……見なかったことにしよう」

「ありがと」

 

ビッグ・ボスは、ふいっと視線を逸らし、オセロットが苦笑で答えた。

 

そしてまた、銃弾が飛んでくる。

だがもう、その弾は彼らに当たる気配など全くなかった。

 

「奴ら……怯えてるな」

「ああ。黒ローブも攻勢に出ない。ローブの凹凸からして、おそらくスナイパーライフル持ちだろう。三輪バギーで突っ込んで気を引いてなかったら、シノンさん達撃たれてたな」

「ああ」

 

オセロットが自らの行動を自賛し、ビッグ・ボスが相槌ちを打つ。

そして……

 

「よし、あとの三人は俺が殺ろう。ボスは、三輪バギーを持ってきてくれ。まだ動くはずだ」

「わかった」

 

オセロットが、残った三人の処理を引き受ける。

ビッグ・ボスは、現状壁にめり込んだ三輪バギーを取りに、匍匐で30m先の現場へと動き出す。

 

そしてそのビッグ・ボスの動きに気づいてSCAR-H持ちとP90持ちが反応し、そちらへ銃口を向けた瞬間。

 

バンバンバン!

キン!

 

テンポよく、そして素早く、オセロットのSAAの発砲音が響いた。

同時に、その音の中の一つだけ、金属の棒に弾が当たる音がする。

そしてその直後……

 

「ぐっ……!」「あっ……!」「ぎぅ!」

バタバタバタ…

 

三人の、三者三様の呻き声が聞こえ、倒れる音がする。

 

そして今、やっと、この戦いに決着がついたのだった。




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Episode15 覚悟 〜Preparedness〜

今回はすごく短めです。
切るところで切ったらこうなりました(笑)
ご了承ください。


「あと……少しで、SBCグロッケンだ!」

 

ボスと別れ、ただひたすら走るシノン達。

彼らは遂に、GGOの首都、SBCグロッケンに到達しようとしていた。

 

ビッグ・ボスが敵に向かって行ったのを見て、邪念を振り切るように走り出したダイン。

ビッグ・ボスの、ダインに向けて言ったのであろう呟きを、何故か忘れられないシノン。

……ただひたすら走っているスコードロンメンバー達。

 

それぞれの思惑があるからなのか、ダインの指示以外の声は全く聞こえない。

息が切れている訳では無い。GGO世界では、肉体的な疲れは無いのだ。

 

するとその時、不意にダインが、シノンに向けて話しかける。

 

「……なぁ、シノン」

「……何?」

「あの眼帯マスクさん、シノンが呼んだんだろ?」

「……」

 

シノンは肯定を表したいのか、首をダインの方に振った。

ダインはもちろん、それを肯定の意と捉え、話を続ける。

 

「どうして、あんなすごい人と知り合ったんだ?と言うより、どこで知り合った?」

「……」

「あの人が、あの眼帯マスクさんが、このGGOの裏にいる人ってことはすごく分かった。確かにあの人は強かった。でも……なぜ、あんなに優しいんだ?普通、裏世界に生きる人は、残酷とか……さ。よく聞くじゃないか」

「ええ……」

 

ダインの問いかけに対し、シノンは、ふうと大きく息を吐いた。

そして、答えを返す。

 

「私も、彼のことはよく知らない。ただ、今日彼が来てくれたのは、私も優しさだと思っている」

「……」

「それに……私もビッグ・ボスの正体を知るときに聞かれたわ。『正体を知った時、こちら側の世界に足を踏み入れてもいいんだな?』と」

「……!」

「でも、それを私は受諾した。私が、私自身が、強くなるために。でも、本当に入れているのかまだ分からない。だけど……入る覚悟は出来てるわ」

「……!」

「だから、あなたもその覚悟が……私はまだ言える立場じゃないけど、その覚悟が出来てるなら、彼と知り合った経緯だけ教えてあげる。後は自分で調べて、本当に入るのか決めて?」

「……」

 

ダインは黙りこくる。

走りながらだが数秒考え、う〜んと唸った後、結論を出した。

 

「よし分かった。どうするのか決めるためにも、教えてくれ」

「……了解。」

 

そしてシノンは話した。

初めて彼と会ったのは、あのミニガン持ちとの戦闘の時だと。

スコープ越しに目が合った事。なのにも関わらず背中を晒して消えていった事。その時、自分が引き金を引けなかった事。

何から何まで、全部話した。

 

「なるほど……な……」

 

そしてそれを話し終わった時、ダインは、たったこれだけ言葉を発し、黙りこくった。

きっと、彼の中で葛藤が生まれているのだろう。

 

だがダインは、ぱっと顔を上げ、シノンを真っ直ぐ見た。

そして、たった一言、はっきりと告げる。

 

「分かった。ありがとう。……俺も、強くなりたい。だから俺も俺なりに覚悟を決めて、正体を探ってみるよ。ありがとうな」

「どういたしまして」

 

ダインが笑顔を見せ、シノンが前を向く。

これで話が終わる……と、思っていたその時。

 

『ガガッ……はは、いいだろう。あの店に来い。シノン!場所は分かるはずだ。待ってるぞ。』

 

急にダインの通信アイテムから、大音量で流れてきた声。

その声は、誰もが間違いなく察した。

 

眼帯マスクだ、と。

 

 

「……ふふ、シノンさん、僕達が聞くまでもなかったですね」

「うん。もう彼女は、覚悟ができていたみたい」

 

一方、通信アイテムからダイン達の会話をこっそり聞いていた店主とタスクは、二人で笑いあっていた。

場所は、荒野のど真ん中。帰りの三輪バギーに乗りながらだ。

 

そして二人は、お互いでアイコンタクトし、示し合わせると、タスクが通信アイテムに口を近づけ、こう、呟いた。

 

「はは、いいだろう。あの店に来い。シノン!場所は分かるはずだ。待ってるぞ」

 

と。

もちろんその時の声は、ビッグ・ボスの声であった。




こんにちは。駆巡 艤宗です。

今回は、お知らせがあります。
それは、これから先、(年明けあたりまで)の半年間、投稿ペースがガクンと落ちそうだということです。
理由は言えませんが、とりあえず落ちます(笑)
とは言っても、少しづつ下書きして、少しづつ上げていこうと思うので、よろしくお願いします。

※2018年10月現在、解消されました。
ご理解ありがとうございました。

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Episode16 店 〜Shop〜

ガチャッ

 

ダインが、あの店主の店のドアを開ける。

スコードロンメンバー達は、息を呑んで入ってくる。

彼らは、あからさまに緊張していた。

ここまで案内してきたあのシノンまでもが、少しおぼつかない。

 

……だが、中は至って普通のショップだった。

新品の銃が白いキレイな壁に所狭しと肩を並べ、爆弾やら弾薬やらの物騒なものが木製の棚にきちんと整理されて押し込まれている。

 

「……あれ?」

 

あまりの平凡な雰囲気に、ダインが間抜けな声を上げてしまう。

でも、それはスコードロンメンバー全員の意思を声として表現していた。

 

それもそのはず。あんな恐ろしい人に呼び出されたお店が、こんなにも和やかで普通なんて、誰も考えていなかったからだ。

 

まあ、シノンは一度ここで彼を見たが、ここを詳しく知っているかと聞かれれば、決してそうとはいえない。

 

したがって、シノンを含むスコードロンメンバー全員が、呆気に取られているのだ。

あまりの平凡さに。シノンに関しては、あまりのいつも通りさに。

 

「……おい、奥に休憩スペースまであるぞ?」

 

メンバーの誰かが、店の奥を指さす。

全員の視線が、そこに集まった。

 

「ほんとだ……」

 

誰かが、いかにもそこに行きたそうにその休憩スペースを眺める。

その視線の先には、大きな向かい合えるソファーや、椅子と机、更にはレジカウンターに直角に繋がっているカウンター席まであった。

おそらく、店主がレジとカウンターでのもてなしを同時にやりやすくするためだろう。

 

「へぇ〜」

 

素直に驚く別のメンバー。

するとどこからから、同じスコードロンのまた別の一人が声を上げた。

 

「なあなあ見てみろよ!AK-47の派生型全部揃ってるぞ!?」

「マジで!?」

「こっちはM1911 ガバメント!うっひゃ、こっちにはFA-MASまで!しかもフランス軍様式!」

「FA-MAS!?そんなレアなのがあるのか!?」

 

すかさずメンバー全員が食いつく。

シノンだけは、スナイパーライフルのコーナーを眺めていたが。

 

「おいおい……!AN-94 アバカンまであるぜ……!?」

「うおおおお!」

 

スコードロンメンバー達がはしゃぐ。

やはり彼らもガンマニア。こんなにも銃があったら、彼ら血が騒がないわけが無いのだ。

 

「ん……?なんだこれ?」

「どした?」

 

するとその時、そんな彼らが、あまり見覚えのない銃を見つけ、考え込む。

 

「……んん?見たことないぞ?」

「なあ、これ知ってるか?」

 

そのメンバー達は、ダインに声をかける。

ダインは、そちらを見て彼もまた首をかしげた。

 

「え……?なんだこれ?」

 

気づけばスコードロンメンバー達全員が、揃ってたった一つの銃を眺め、同様に首をかしげていた。

 

その銃は、少し近未来的なデザインだった。

いかにも弱っちそうなストックが横に折りたためるのだろうか、ストックと本体のようなもののつなぎ目に強化プラスチック製の蝶番が見て取れる。

それに引けを取らぬような長細い折れそうなバレル。

明らかに銃本体から孤立していたが、不思議とバランスが取れていた。

 

「なんだろ。なんか……かっこいいのは確かだな」

「うん。それは間違いない!」

 

結局、どんな銃なのかもわからずに議論をまとめようとするスコードロンメンバー達。

だがその時、そんな彼らの背後から、いきなり別の声が、そしてその議論の答えが飛んできた。

 

「それは、クリス ヴェクター。アメリカのクリス社とアメリカ軍が開発中のサブマシンガンです。新しい反動吸収システム、クリス スーパーVを採用しているので、驚くほど低反動です。フルオート時のエイムコントロールも抜群ですよ」

「お、おお~」

 

リアルのことも交えて完璧に答える謎の声に、自ずと感嘆の声が上がる。

だが、彼らはすぐに我に返った。

 

「って、あんた誰だ!?」

「誰って、店主ですが?いらっしゃいませ!」

「あ……ああ、どうも」

 

にこやかに、一切動じず挨拶をする店主に、スコードロンメンバー達は狼狽えつつもぺこりと頭を下げる。

店主はそんなメンバー達を見て、またにこやかに話を続けた。

 

「もし気に入ったのがあれば、声をかけてください。弾薬はサービスで、試射ができますから」

「わ……分かりました」

「ふむ……で、今お気に召したものはありました?」

 

店主が、この店のサービスを説明し、メンバー達に尋ねる。

そしてメンバー達は、全く同じ答えを店主に示した。

 

「「「「これ」」」」

 

そう言って、指を指したのはクリス ヴェクター。

 

「……はは、やっぱり」

 

店主は、優しい笑顔に汗を滲ませつつ、ポツリと呟いた。

スコードロンメンバー達は、お互いをお互いの顔で見合う。

そして、

 

「「「「あ……」」」」

 

意見の重複を、今この瞬間にやっと理解した。

そして同時に、意地の張りあいが発生する…と思ったその矢先。

店主がまた、その場を収めた。

 

「お……俺が先だった……よな?」

「いや……それは俺が……」

「なにぃ!?」

「ああ、大丈夫です皆さん!皆さんの分、ありますから!」

「えっ」

「な、ならいいや」

 

そういって、呆気なく収まった。

そしてその収め主である店主が、スコードロンメンバー達を休憩スペースの奥にある扉に案内する。

 

「さ、射撃場は、こちらです」

 

そしてスコードロンメンバー達は、わいわいとその案内された扉に入っていった。

 

……シノンを、ただ一人残して。

 

 

入った先は、ものすごかった。

店の白い壁とは比べ物にならないくらいずらりと黒い壁に並べられた銃。

その中に、しっかりと人数分のクリス ヴェクターがあった。

 

「あったあった!これかあ、ベクター」

「違げえよ、()()()()()だよ!」

「あ、そうかぁ!」

 

スコードロンメンバー達が冗談を交えながら次々に壁から取っていく。

だが、クリス ヴェクターはまだ2〜3丁余っていた。

そして、またその奥にある扉に手を掛け、扉を開ける。

すると扉が開くにつれ、段々と射撃場の一番目のレンジが見えて来て……

 

「よお、遅かったな」

 

本来の目的であるあの彼が、射撃場の一番目のレンジでこちらを向いて待っていた。

一番目のレンジは、扉の目の前である。

先頭を歩いてきたダインは、驚きのあまり思いっきりのけぞった。

 

「うわぁぁ!?」




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

まずは、お礼からさせてくだい。
お気に入り300人!本当にありがとうございます!
感想も20件もいただきました!本当に感謝感激です。
これからもよろしくお願いします。

今後ともよろしくお願いします。

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Episode17 指導 〜Guidance〜

「うわぁぁ!?」

 

とある店の射撃場への入口から、素っ頓狂な声が上がる。

 

「なんだよ」

 

その直後、低い声がそれを制した。

 

「はあ……はあ……あ、あんたか……良かった……」

 

その素っ頓狂な声の主、ダインが、段々落ち着きを取り戻していく。

ビッグ・ボスはその一部始終を見て、率直な質問をダインに投げかけた。

 

「なんだよ……俺がなんかしたか?」

「い……いや、まさか、こんな目の前にあんたがいるなんて……」

「俺がシノンでも、驚いたか?」

「う……!」

 

痛い所を突かれたダインは、言葉に詰まる。

ビッグ・ボスは、やっぱり……と言わんばかりにダインを見た。

ただし、その目は決して睨むようなものではなく、あくまで穏やかだ。

 

「はは、別に怒ってはない。幾度となくそんな反応は受けてきた」

「そう……なのか?」

「ああ。だから気にするな」

「お……おう」

 

そういって、ビッグ・ボスがダイン達の手元に視線を送る。

 

「……クリス ヴェクターか。なかなかいいもんを持ってきたな」

「え……ああ、これは、店主がオススメしてくれたんだ」

「あの商売脳め……!」

「え?」

「いや、なんでもない」

「そう……か」

「んなことより……なあ、あんたら、ここに撃ちに来たんだろ?早く並べよ」

「あ……!」

 

ビッグ・ボスは話を切り、自分がいる一番目のレンジの左から、ダイン達から見て右に並ぶ2〜10番までのレンジを左の親指で示す。

ダイン達は、思い出したようにいそいそと並びだした。

 

「……」

 

ビッグ・ボスは、そんな彼らを黙って眺める。

そして……

 

タン!タン!

 

(一部の人種に対してのみ)耳に心地よい発砲音が響く。

ビッグ・ボスはそれを聞きながら、ダイン達を相変わらず眺めていた。

 

「なるほど……な」

 

ビッグ・ボスは、ポツリと呟く。

ダイン達は、室内で反響している発砲音のせいで、ったくその呟きは聞こえていなかった。

 

ズタタタタタ!

 

その内、誰かがフル・オート、つまり連射を始める。

それによって、ただでさえ静かなビッグ・ボスの移動は、全く気づかれなかった。

 

 

「違う、顔は傾けるな」

 

クリス ヴェクターの試射に夢中になっていたダインの背後から、いきなりビッグ・ボスの声が聞こえる。

ダインは、驚きのあまり思いっきり振り返った。

 

「うわぁっ!?」

 

同時にダインの手に、トン、と、何かに止められたような感触がする。

 

「おいバカ!射線を考えろ!」

 

そして、ビッグ・ボスからの叱責が飛んできた。

手元を見れば、危うくビッグ・ボスの方に向きかけていたクリス ヴェクターが、ビッグ・ボス、彼自身の手で抑えられていた。

ダインは慌てて、クリス ヴェクターの射線を、つまり銃口の向きを、先程まで向けていた的に向け直す。

そしてやはり、ビッグ・ボスの静かなお叱りと指導を受けた。

 

「……まず、トリガーに指をかけるな」

「……お、おう」

「で、レンジに入っている時は銃口の向きをどんな時でも的のある方向にに向けろ。持ち運ぶ時はは下に。銃口管理だ」

「……!」

「それと、セーフティーだ。安全装置。それをかけとけ」

「な、なんで?」

「……安全第一の為だ。そんなことも分からないのか?」

「でも……」

「ゲームでもリアルでも関係ない。リアルのサバイバルゲームでも、安全装置はかける。たとえ人が死ななくても、銃は銃だ」

「……分かった」

「もっと言えば、マガジンも外せ。理由は……わかるな?」

「お…おう」

 

ビッグ・ボスの指示を受け、ダインがいそいそと手順をこなす。

トリガーから指を外し、銃口を改めて的に向け直し、安全装置をかけて、最後にマガジンを外す。

 

「本来なら、マガジンは最初だ。いいな?」

「分かった。ありがとう」

「構わん。むしろ出来てもらわないと困る」

「……すまなかった」

 

ビッグ・ボスが壁にもたれかかってダインを見る。

ダインは、明らかに反省していた。

 

「ま、構わんさ。このゲームのプレイヤーは、出来てない奴らばっかりだ。今からでも遅くない」

「分かった。気をつけるよ」

「よし」

 

ビッグ・ボスは目を変えて、優しい目でダインを見る。

そして、うてと言わんばかりに視線を一瞬だけ的に向け、顎をふいっとふると、その視線をまたダインに戻した。

ダインは、その指示を理解し、またクリス ヴェクターを構える。

そしてその斜め後ろに、ビッグ・ボスが立った。

 

「もう少し前へ」

「……」

「銃を体にもっと寄せろ」

「……!」

「肩の力を抜いて、肘を落とせ」

「……!!」

「顔を傾けるなよ…?真っ直ぐ、的を見るんだ」

「……!!!」

「よし、射て」

タン!

 

斜め後ろからやってくるビッグ・ボスの指示に素直に従い、狙いを定めたダインが射った弾は、見事、的の真ん中に命中した。

 

「よし。いいセンスだ」

「……!」

 

ダインは、自分自身の射撃に驚く。

同時に、ピタリと他のスコードロンメンバー達の射撃も止んだ。

 

「あれ……あの的……ダインのだよな?」

「リーダー?あれリーダーが射ったのか?」

 

ダインに質問を投げだすメンバー達。

だがその質問の答えは、ダインの背後にたつビッグ・ボスを見た時、全て解決した。

 

「あ……」「なるほど……ね」

 

その質問の嵐も、また止む。

 

「……なんだ?」

 

ビッグ・ボスが、そんなスコードロンメンバー達に質問を返した。

メンバー達は、まさか、

 

「いやあ、あなたが指導したのであれば、ダインが命中させれるはずだ!」

 

などと、答えるような人は流石にいない。

その代わり、スコードロンメンバーの誰かが思い出したように別の答えを恐る恐る答えた。

 

「そういえば、俺たちって、『この人に呼ばれたんだった!』と思って……」

「気づくのが遅い」

「う……!」

 

ビッグ・ボスは、今更本来の目的を思い出す、そんな間抜けな彼らの答えに、一言釘を刺した。

 

だがもちろん、ビッグ・ボスは本当の事を分かっていた。

上手く誤魔化せたなどとホッとしているスコードロンメンバー達を見て、少しニヤける。

それでも、ビッグ・ボスはすぐにニヤけた顔を引っ込めて微笑んだ。

 

スコードロンメンバー達はその笑顔を見て、威厳とはまた違った圧力を感じたのは、言うまでもない。




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Episode18 彼女の過去 〜Her past〜

お待たせしました…!
ここから、だんだんとGGO本編へと話が入っていきます。
どうなるのかは…お楽しみです。


「こんにちは、シノンさん?」

「え……ああ、こんにちは」

 

一方、取り残されたシノンは、スナイパーライフルの弾を見ていた時に、いきなり店主に呼びかけられていた。

店主はやはりいつもの笑顔だが、シノンはその笑顔のどこかに違和感を感じる。

 

「……覚悟は、できていたみたいだね」

「……!」

「こちらへ。話そうか」

 

その違和感の答えがすぐに出てきて、シノンは少し慌てる。

だが、やはりその事か、と、納得する自分も確かにいた。

 

そして、そんな事を考えつつ案内されたあのカウンターに座る。

あの時、タスクと知り合う前に、店主に眼帯マスクが……と、相談を持ちかけた場所だ。

 

店主はあの時と同じく、迂回して机の向こう側に行き、シノンと向き合った。

ただし、シノンは座っているのに対し、店主は立っている。

よって店主は、腰を折ってカウンターに肘をつき、シノンと目線を合わせた。

 

「え……!?」

 

あまりの近さに、シノンが少し驚く。

すると店主は、すぐに腰を戻して立った。

シノンは、何がしたかったのかと疑問に思う。

すると店主は、にっこりと笑ってその疑問がシノンの口から質問として飛び出す前に答えた。

 

「あっはは、いやぁ、すまないね。君の目を見てたのさ。この世界はゲームだけど、精神が一番反映される世界でもある。精神が一番体に出てくる部位は、目なんだよ。だから、ぐいっと覗きこませて貰ったの」

「そ……そうですか」

「うん!シノンさん、君の覚悟はよく分かったよ。同時に……決意も」

「決意……?」

「そう、決意。シノンさんってさ、リアルで何か抱えてるでしょ?」

ガタッ!

「……!!」

 

シノンがいきなり立ち上がる。

店主は姿勢はそのままに、視線だけ驚きと焦りが混じったシノンの顔に当てていた。

シノンが、後ずさりながら店主を警戒の目で見る。

だが店主は、そんな視線など動じずに話を続けた。

 

「はは、そんな目で見ないでよ。長年の感って奴さ。別に、リアルを特定したり、探りを入れたりは一切してないよ。ただ、そうなんじゃないかって。違うかい?」

「……!」

 

シノンは、黙って俯く。

店主はそんなシノンを見て、席に座るように促した。

 

ストン、と、力なくシノンが座る。

店主はまた、机を迂回して今度はシノンの隣に座った。

そして、ふぅとため息をつき、ゆっくりと話し出した。

 

「実はねシノンさん。俺と彼、ビッグ・ボスは、とある過去の出来事を抱えて生きてるんだ」

「……!」

 

「過去を抱えて生きている」

このフレーズが、シノンの中に渦巻くあの出来事と一致していく。

 

あの時、手に持っていた、いや、持ってしまったもの。

あの時、見てしまったあの赤色。

 

それに共通するものを、彼等も持っているのか。

だとしたら、彼等はどのようにして今を生きているのか。

過去に囚われて、そこから抜け出せずにいる自分に、希望を与えてはくれないか。

 

「あっあの!」

「ん?」

「その話……もっと詳しく……聞かせてくれない!?」

「……ふふ、言うと思った」

「じゃあ……!」

「でもね。シノンさん」

「……?」

 

すると店主は、真っ直ぐにシノンの目を見つめ、淡々と、話の質はもちろんのこと、声の低さすらガラリと変えて、ぐっと見つめた。

そしてそのまま、ゆっくりと続けた。

 

「この話は、簡単に話していいものじゃないんだ。だから今はまだ言えない。ごめんね、シノンさん」

「そんな……!!」

 

シノンは落胆し、上がりかけていた顔がまた下を向く。

店主はそんなシノンを見て、ポツリと呟いた。

 

「でも……」

「……?」

「でも、シノンさんの目からするに、おそらく僕らとシノンさんの過去は共通しているものがあると思う」

「共通……?」

「……そう。僕らとあなた、シノンさんの、それぞれ違った辛い過去に共通して存在する一つの言葉(ワード)。シノンさんなら分かるはずだよ?」

「共通……しているもの……」

「トラウマを思い出させちゃうかもしれない。でも、よく考えてみて。僕の目を見てでもいい」

「……!」

 

そう言って、店主はシノンに体も向けて、じっと見つめる。

そこには、もうあの優しい店主はいなかった。

変わりにいたのは、必死になって顔の歪みに耐えている、店主の苦痛の表情。

シノンは、その目に、その顔に、過去の自分が重なった。

 

そしてはっと、その言葉(ワード)が頭に思い浮かぶ。

 

「人の……命?」

「その通り」

 

シノンの顔からすーっと血の気が引き、気づけば涙があふれてくる。

そんなシノンが、静かに店主の胸に飛び込んできた。

 

店主は、そんなシノンを胸の中に受け入れつつ、視線を逸らさない。

そして静かに、店の扉の前にある看板を、左手のウィンドウを操作して「open」から「closed」に変えた。

 

「辛いよね、分かるよ。僕も分かる。彼も分かるよ。だから、打ち明けてごらん?」

 

そう言って、店主はシノンの背中をさすり、シノンはその優しさに大人しく縋る。

 

そして、シノンは話した。

 

あの時見た、あの光景を。

あの時自分が、起こしてしまった、あの光景を。

 

そのまま。

 

その話を聞いている時の店主の目は、シノンをいたわるようなものではなく、過去の自分を見るかのような、虚ろな目だった。




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Episode19 贖罪 〜Atonement〜

「そうか……そうだったんだね、シノンさん」

「……!」

 

下を向き、目元に影を落としたまま、コクリと頷くシノン。

店主は、そんな今まで誰も見たことがないであろうシノンの背中を、優しさを込めてさすっていた。

 

「そっか……それは辛かったね……」

「……」

「シノンさんは、そんな過去を抱えて生きていたんだね。正直……」

「……?」

「正直、びっくりしたよ」

「……!?」

 

そう言って、店主はいつもの優しい顔を見せる。

シノンは、そんな店主を不思議な目で見た。

何が驚いたのか。そして何故、そんなあっけらかんとしていられるのか。

不思議な気持ちと、店主に対する疑問。そして、その店主の態度から湧き上がる少しの不満。

 

そんな目をしているのを見て、店主は慌てて否定した。

 

「あ……!ああ、そういう事じゃないんだ!違うんだよ、シノンさん。僕が今思っているのは、その……」

「……?」

「……シノンさん、僕等に似てるなぁってね」

「え……!?」

 

シノンは、一気に目の色が変わる。

そして今度は店主が、淡々と話し出した。

 

「本当の事を言うとね、シノンさん。僕等は、シノンさんの過去は恐らく、人が死ぬところを見てしまっただけなんじゃないかって…ただそれだけなんじゃないかって思ってたんだよね」

「ただそれだけって……!」

「ああ、いや、もちろん、人の命は大切だ。そんな簡単に捨てていいものでは無い。それは分かってる。でも……」

「……」

「でも、その過去は、そんな簡単な話じゃなかった。僕等が思っているよりも、ずっと深刻な問題だった。……謝るよ。ごめんね、シノ」

 

そう言って、シノンに頭を下げる店主。

シノンは、慌てて店主に声をかける。

 

「えっ……!あっいや、話したのは私だし……!」

「でも、聞きにいったのは僕だろう?そんな深刻な問題を、こんな軽い気持ちで、簡単に聞いていいものじゃない。こんな軽い考えで、気持ちであなたに聞いたのは、僕の無責任だ」

「……!」

「だから、謝る。ごめん……いや、すまなかった。シノンさん。あなたの深刻な過去をあんな気持ちで聞いたのは、僕の間違いだ。申し訳ない」

「……」

 

もう、何も言わないシノン。そしてもう一度、頭を下げる店主。

その空間に、重々しい雰囲気が流れる。

そしてその雰囲気は、作り上げた本人、店主によって、破られた。

 

「だから……」

「……?」

「だから、その贖罪と言ってはなんだけど、僕も話すよ。僕と彼の、()()()()()()()()()、過去を」

「え……!?」

 

シノンは、ぱっと目を店主に向ける。

その時のシノンに見られた店主の目は、先ほどまでのシノンのような、黒く染まった見たことがない目だった。

 

 

「ふう……よしじゃあ、話そうか。僕の彼、ビッグ・ボスであるタスク君の、とある過去を……ね」

「……」

 

店主がシノンに謝罪し、一旦店主がカウンターの中に入って、シノンに飲み物を、自分にはコーヒー的な何かを出し、またシノンの隣に座った時。

店主はやっと、シノンが求めていた自らの過去をシノンに話そうとしていた。

もちろんシノンはその話を待ち望んでいた訳だから、コーヒーを見ながら懐かしそうでどこか悲しそうな目をする店主に顔を向けて、その話を今か今かと待ち望んでいる。

 

そして、一つ間をおいて、店主がゆっくりと話しだす。

シノンは、それを食い入るように聞き入った。

 

「ええと……もう随分前だね、ちょうど3年前かな、僕らの過去が始まったのは」

「……」

「この年が何が始まった年か、分かるかい?とある事件の、始まった年なんだけど……」

「事件……ですか?」

 

う〜んと考え込むシノン。

そんなシノンを、店主は優しい顔をして見つめる。

そして店主は、まだ考え込んでいるシノンに、ヒントを差し出した。

 

「うん、やっぱりこれだけじゃあ……分からないよね。じゃあ、こう言えば分かるかな?」

「……?」

「今からちょうど3年前は、2022年。これで、わかるよね?」

「ああっ……!」

 

シノンの中に渦巻く疑問が、するすると解けていく。

そしてシノンは、その答えを導き出した。

 

「それってまさか……」

「そうだよ」

「SAO事件!?」

「正解。」

 

店主は、にっこりと笑ってシノンを見る。

 

ーSAO事件。

それは、ちょうど3年前に起こり、つい1年前に収束した、恐ろしい死のゲームを起こした事件。

約1万人がこのGGOと同じ、VRMMORPGに閉じ込められ、約4千人が亡くなった忘れがたき事件だ。

そしてそのゲームの名は、

「ソードアート・オンライン」。通称、「SAO」。

 

そんな事件の名前が、自分らの過去を語る上で最初にキーワードとして出された。

そして先ほど店主が言った、「人の命」や、「シノンに似た過去」。

 

推測するのは難しくないだろう。シノンはその答えを、簡単に導き出した。

 

「まさか……!!」

「そうだよ。」

 

驚きを隠せないシノンに、淡々とその答えを教える店主。

 

「そう。僕と彼は……」

「……!」

 

 

「SAO生還者(サバイバー)なんだ」

 

 




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、作中ではあえて出さなかった、シノンの過去について、謝罪させていただきます。
作中で描写しなかった理由としては、ハーメルンの規定に違反するのかどうか分からなく、怖かった事と、その部分を組み込むと、文字数(あるいは話数)がとんでもない事になりかねなかったからです。
実は、この話を読んでいただいている方の中には、SAO自体を知らずに読んでいだいている方もいらっしゃるようで、きちんとご報告した方がよいかと思いまして……。
混乱を巻き起こすような事をして、申し訳ございませんでした。

そして、そのシノンの過去なんですが、ざっくりとだけ、説明させていただきます。
(詳細を知りたい!という方は、ご自身でお願いします。)

シノンはリアルで11歳の時、偶然巻き込まれた郵便局(だったかな?)での強盗事件で、その強盗犯を「家族を守らなきゃ」という正義感から、その強盗犯の持っていた銃で射殺してしまいます。
その時見た光景が、シノンの今のトラウマとなっています。
自分も、ここら辺はあまり詳しくないので、間違いがありましたらご指摘をよろしくお願いします。
(他力本願すみません。)

ここまで、長々と失礼致しました。
今後とも、よろしくお願いします。

では。

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Episode20 彼らの過去 〜Their past〜

「SAO生還者(サバイバー)なんだ」

「……!!」

 

店主の口から出てきた、驚きの言葉。

あまりの驚きに、シノンは固まっていた。

まさかこの2人が、あの事件の被害者だったとは思ってもみなかったからだ。

 

「……はは、そりゃあ驚くよね。あの事件の経験者が、こんなゲームの中にいるなんて、普通思わないよね……」

「そ、そりゃあ……。でも……何故?」

「ん?」

「何故、そんな経験をしてまで……」

「……」

「……?」

 

いきなり静まり返る店主。そんな店主の反応にシノンはポカンとする。

店主は、そんなシノンを横目で見つつ、話を続けた。

 

「……それはね、結構難しい話なんだ。僕らは、ただこのゲームを楽しむためにやってるんじゃないんだけど……」

「……」

「ま、そんなことぐらい分かるよね、ごめんね。……ええと、話を戻そうか。その事についても、今から説明するから」

「……分かった」

 

シノンは一旦自分の中に渦巻く疑問にケリをつける。

確かに、店主らが何故そんな経験をしてまでこのゲームをやるのかは気になる。その時点で、少し自分と重なっているからだ。

だが、そうなった経緯から聞いても、何ら問題はないだろう。そう考えた。

 

店主は、そんなシノンの気の移り変わりを見た後、話し出す。

シノンは、その言葉に今度こそ、耳を傾けた。

 

「まずは……そうだな、SAOがどんな所だったのかについて話そうか」

「……!」

「はは、そんな身構えなくていいよ。で、SAOの中はね……」

 

そして店主は、すらすらと語り出した。

その世界の武器やキャラクター、生活。

その話はシノンに、綺麗な世界を思わせた。

 

「……GGOとは全然違うわね」

「そりゃそうさ、どっちかって言うとSAOは、ファンタジーだからね」

「……それで?そんな綺麗な世界と店主さんたちの過去、なんの繋がりがあるの?」

「まあまあ、そう先を急がずにさ、ゆっくり話そうよ。それでね……」

 

今度は店主は、SAOのシステムについて語り出した。

階層の話やらお店での取引の話やら……

もちろんシノンは、その話を一字一句聞き逃さないように聞いていた。

そしてその中で、シノンは一つだけ、疑問を覚えたワードがあった。

SAOシステムの一つ、「ギルド」である。

 

「あ……!ちょっと待って!」

「ん?なんだい?」

 

淡々と話す店主を制して、シノンが質問する。

 

「その、『ギルド』っていうシステム……もう少し解説してもらえないかしら」

「……へえ」

「……?何か変な事言った?私」

「ふふっ……いやあ、流石だなと。これで無駄な説明の手間が省けたよ。なんの説明もなしにギルドに着目するなんて……シノンさん、一体何者?」

「いっ……いやあ……その……」

 

少し悪戯な目をしてシノンを覗き込む店主。

シノンはそんな店主の目から逃れようと、ふいっと顔を背けた。

 

「はは、冗談だよ。さて、戻ろうか」

「……」

「え……と、そうそう、ギルドだったね。……そうだよ、その通りなんだ。僕らの過去は、このギルドが深く関わっているんだよ」

「……!」

 

一つ話が進んだなと、シノンが感じる。

同時に、湧き上がる高揚も感じた。

店主は、そんなシノンを見て、微笑みながら話し続ける。

 

「まずギルドとは、同じ意志を持った人たちが集まった集団。これは分かるよね?」

「うん」

「という事は、野蛮な考えを持った人たちのギルドや、どうしても相反した考えを持って対立してしまうギルド達が存在してしまうのは、分かるかな?」

「……なんとなく」

「そうなると、どんなことが起こり得るか、分かるかい?」

「う〜ん……、争い……とか?」

「そう!その通り。でも、SAOには平和に暮らして攻略を待っている俗に言う一般市民プレイヤーもいて、そんな人達を巻き込む訳には行かない。だって、たとえゲームとはいえ命がかかってるからね。それに、SAOにはそんな争いを止めようとするギルドもあったんだ。あんまり大っぴらに争いはできなかったんだよ。……じゃあ、どうすればいいと思う?」

「……?」

 

店主は一旦話を切って、シノンに質問を投げかける。

シノンはその質問の答えが分からず、うーんと唸る。

だが、そんなシノンは、考え出してしばらくしたその時、不意に、とあることを思い出した。

 

「あっ……!」

「ん?分かったかな?」

「う〜ん、もしかしてだけど……」

「いいよ、言ってごらん?」

「もしかして……裏工作?」

「正解!そうなんだ。裏で工作して、内部から破壊したり、リーダーだけを倒して崩壊させたりして、敵対しているギルドを潰そうとしたんだ」

「へえ……そんな事が」

「あったんだよ」

 

シノンの中で、また疑問がするすると解けていく。

だが店主は、そんなシノンを見つめるだけで、何も話し出さなかった。

 

「……」

「……」

「……え?」

「……ん?分からない?」

「なにが……って、あっ!!!」

 

シノンは、ばっと店主の方を見る。

店主は、正解!と言わんばかりの笑顔だった。

 

「もしかして、その工作するプレイヤーが……!」

「そう、僕らだったんだ」

「そういう事ね……」

「ふふ、驚いたかい?」

「ええ……正直言うと、ものすごくね」

「でも、シノンさんもこの前やったじゃない?それに似たこと」

「ま、まあ……その事を思い出して答えれたんだけど……」

「あ、やっぱり?……ふふ、経験させておいてよかったよ」

 

そこまで話して、店主は話を切る。

そう、先程シノンがふと思い出し、店主がシノンに経験させておいて良かったと言った出来事。

それは、ビッグ・ボスの正体を知ると同時に遂行した、組織A(アルファ)の回収任務の事だ。

結果として依頼主(クライアント)目標(ターゲット)だったあの任務は、今でもシノンの記憶に深く残っている。

 

そしてその記憶は、今から店主が言わんとしている事を容易に想像させた。

あの時のビッグ・ボスのステルス技術や、PKした数。

武器が剣と銃で違うとはいえ、あのような事を彼らはSAOの中で、命を懸けてやっていたのだ。

だが、それ自体が悪い事ではない。彼らも彼らで、「自分のギルド」と言う、守りたいものがあったのだ。

もちろん、人の命を奪うのは簡単にやっては行けない事だ。だが、そうでもしなければ守れないものもある。

シノンにはそれが、すごく良くわかった。

 

そしてその答え合わせをするように、店主はポツポツと話し出す。

彼らの、シノンに似た、過去を。

 

「……僕らもね、とあるギルドに入ってたんだ。それも、とっても大きな……ね」

「……」

「そのギルドを潰そうとする人達を、影で何人も追い返したさ。捕まえたり……脅したり……」

「殺したり?」

「……」

「……そう、だったのね?」

「はは、シノンさんは鋭いな」

「……ごめんなさい」

「いや、いいんだ、間違ってはないよ。そう……なんだよね。最初はギルドの影にいて、リーダーの指示で相手を捕まえに行ったりだったんだけど、段々勢力が増すに連れ、僕らもそうせざるを得なくなったんだ」

「……」

「あくまで防衛のため。でも、殺らねばならない時もあったのさ」

「護るべき物のために……ね」

「そう……。ね?似てるでしょ」

 

シノンが呟いて、店主が答える。

そのシノンの呟きは、自分の中に響き渡った。

 

「護るべきものの為に、誰かを殺す」

 

この言葉が。




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Episode21 何故この場所に 〜Why in this place〜

お待たせしました。

今回は長め&難しめです。
きちんと頭を整理してから読んでください。

(すみません。笑)

それと、もうそろそろ、あの黒の剣士くんが現れます。
乞うご期待!(∩´。•ω•)⊃ドゾー


「なるほど……ね……」

「……」

 

店主とシノンが、お互いの過去を話し出してから約30分。

二人の間には、重たい空気が流れていた。

 

「確かに、店主さんと私の過去って……」

「……似てるでしょ?」

「うん……」

 

お互いに思うことがあり、話が途切れ途切れになる。

シノンはシノンで自分の過去と重なる彼らの過去を考え、店主は店主で昔の出来事を思い返し、黙りこくる。

そしてついにお互いが黙り合う……そう思った矢先、シノンが話の最初に自ら投げかけた、とある質問について思い出した。

 

「なぜ、彼らはこの世界にいるのか」である。

 

「あ……!」

「……?」

「今思い出したわ、店主さん。じゃあ何で、今この世界にいるの?SAOで辛い過去を経験したのは分かったけど、それとこれとは……」

「ああ、そうだったね。その事も話さなくちゃいけなかった。ごめんごめん」

 

店主は思い出したように目を見開いて、また話し出す。

 

「あのねシノンさん、唐突に言うけど、ビッグ・ボスはね、一度、SAOで仲間を失ったんだ」

「え……!?」

 

シノンが信じられないという風な目をして店主を見る。

SAO時代に仲間を失うという事は、即ち死んだという事だ。

ビッグ・ボスは、SAO時代に、一人仲間を殺されている……そういう事になる。

それを唐突に話されたら、誰だって驚くだろう。

店主は、それを分かっていたかのように、すぐに経緯を話し出した。

シノンはそれに聞き入る。

 

「とある任務中でね、敵の罠に嵌って、仲間の一人を失ったんだ。彼さ、命を奪うのに躊躇いを感じちゃって、敵を逃がしちゃったんだって。そしたら、まんまとその敵の仲間に罠を仕掛けられて……」

「仲間が殺られた……と」

「うん。そういう事さ」

「……」

「彼はそれ以来、すごく冷徹になってしまって……まあ、その名残が今のビッグ・ボスの性格なんだけど」

「へぇ……」

 

シノンは内心で納得する。

あのビッグ・ボスが醸し出している、歴戦の兵士のような威厳は、ここから来ているのか……と。

そして同時に、衝撃も感じた。

彼は、ビッグ・ボスは、守りたくても守りきれなかった経験があるのか……と。

だがシノンはやはり、その辛さは自分には分からない。

想像は出来る。だが恐らく、実際はもっと辛いのだろう。

その現状が、シノンをむず痒い気持ちにさせた。

 

店主も、そんなシノンの心の動きを察しているのか、少し間を置いて、話を続けた。

 

「……でね、それから半年後ぐらいかな。やっと、SAOが攻略され、僕らはリアルに帰ってきたんだ」

「……」

「ま、最初はゆっくり過ごしてたよ?といっても、俺が向こうにいる間に世話になった病院やそこらの方々へのお礼とか、家の片付けとか手続きとか実際はバタバタだったけどね。……でも、それでもリアルの世界で生活できるのが夢のようだった」

「……」

「それから、また2ヵ月後。この時、僕らがこの世界に来るきっかけとなったある出来事が起こるんだ」

「……!」

 

店主が、今までの懐かしそうな目を引っ込めて、ぐっとなにか決意のようなものがこもった目をする。

 

「ごめんね、またとある事件の話になるんだけど……シノンさんさ、この事件知ってる?『ALO事件』」

「……」

「あっはは、やっぱり知らないかな?」

「なんとなくだけど……なにかサーバーに不正があって、元々の運営が捕まって、今新しい運営がどうの……って言うあの妖精ゲーム?」

「そうそう。なんだ、知ってるじゃない。で、そのALO事件ってさ、もう少し詳しく話すと、そのSAO事件から帰ってくるプレイヤー達の一部を途中で捕まえて、強引にALOのサーバーに留めて、とある研究者の研究に勝手に使ってた……って話なんだ」

「な……!?」

「もちろん、そんなことは許されるはずがない。やっとSAOから出られると思ったら今度は訳の分からない研究者に捕まってまた違う世界に閉じ込められるなんて、有り得ない」

「うん……」

「まあ、その事件と僕らは直接の関係はないんだけど……それで唯一、リアルで今までとは大きく変わった事がある。それは、」

「……!」

「政府の見解……さ」

「へ?」

 

シノンが呆気に取られる。

また何か、とんでもない事を言うのかと身構えていたのに出てきた言葉は割とどうでも良さげな言葉だったからだ。

 

「え、ちょ、どういう事?政府の見解?そんなの、SAO事件で充分……」

「違うよ、そうじゃないんだ。シノンさん。今、リアルのあなたは、頭に何をつけている?」

「え……そりゃ、アミュスフィアだけど…」

「そう。()()()()を謳い文句に売り出し、今ナーヴギアに変わって流通している機械。アミュスフィア。でもそれは、本当に()()()()かい?ALOだって、アミュスフィアを使ってダイブするゲームだ。そんなゲームで事件が起きたら、政府のお偉いさんがたはこう思うとは思わないかい?『本当にアミュスフィアは安全なのか。というより、仮想世界は安全なのか』とね」

「そ……そんな……!だ、だって、そのALO事件……?とやらの被害者って、SAOの人達でしょ!?それなら、その人達が付けているのって、ナーヴギアなんじゃ……!」

「……それを、政府のお偉いさんがたが理解出来ると思う?」

「……!」

「ナーヴギアかアミュスフィアかじゃない。実際に事件が二度も起きたVRMMORPG自体、危ない物、危険因子として見られるのは目に見えていないかい?」

「……!!」

「実際、シノンさんの周りの人には絶対いるはずだ。『VRMMORPGをやるなんて、有り得ない』っていう人」

「……!!!」

 

シノンはだんだん焦りすら覚える。

確かに、今でもそういう人は多い。一部のお年寄りなどに限っては、VRMMORPGは未だに命をかけてやるゲームのことだと思い込んでいる人もいる。

それを政府が見逃す訳が無い。

 

「そ、そんな……」

「いつか、VRMMORPGが規制されるかもしれない。下手すれば禁止にも。……でもね、今やVRMMORPGは日本の経済に大きく貢献している、下手すれば世界の…ね。言わば「世界的大ブーム」なんだ。特に若者にさ。想像してみて欲しい。とある世界的大ヒット商品の販売を、一つの国が禁止して、その危険性を世界に発信し出したとする。その影響で次々に周りの国がその販売を禁止したら……その商品の価値は大きく変動し、経済的大混乱に陥る。なんたって大ヒット商品だからね。今まで飛ぶように売れていたわけだ。それをいきなり止められたらと考えると、そう難しい話じゃないはずだ。そしてもし、本当にそうなれば、その影響がどんな形で現れるか分からない。恐慌?戦争?どうなるのか全くもって知るよしがないんだ」

「……」

「だから、VRMMORPGを潰す訳にはいかないんだ。特に最初の事件が起きた日本ではね。今でも世界のあちこちの国はVRMMORPGを禁止しようとしている。でもまだ、日本が禁止してないから何とかなっている……そんな状態なんだよ。その状態を普通として戻すために立ち上げられたのが、政府の「仮想課」という部署なんだけど……」

 

ー仮想課

SAO事件をきっかけに設立された、主にバーチャル世界を監視する部署。

SAO事件発生当時は、その解決に尽力した部署である。

 

「その部署はまず、何をすると思う?」

「……?」

「もちろんALO事件のあとの話さ。二度も事件を起こしてしまったVRMMORPGを禁止の危機から救うには、どうしたらいいと思う?」

「……その政府のお偉いさんがたにきちんと説明するとか?」

「う〜ん、それをやったとして、なんになるんだい?」

「……!?」

「いいかい?シノンさん、今この時代の「国」とはね、政治をする政府と、その国に絶対不可欠な国民の、調和が重要なんだ。その一つの手が「民主主義」なんだけど、その民主主義に乗っ取れば、どんな言論の訴えも許される」

「……なにが言いたいの?」

「ふふ……つまりはこういうこと。さっきさ、お年寄りがどうのって話したじゃない?」

「……ええ」

「そのお年寄りの大半って、大体息子か孫がSAOの被害者だと思わない?」

「……!」

「それに、SAOによって命の危険がほぼ無い現代社会に馴染めなくなってしまった人達もいる。そんな人がその息子や孫だった場合、どんな結論に至るか」

「まさか……!」

「そう。『VRMMORPGを、全面的に禁止しろ』だとか、そういう類の訴えが、多数起きる事になる」

「そういう事……ね」

「でも……その、トラウマを抱えてしまった人には申し訳無いけど、さっき言ったみたいに今やVRMMORPGは現代の経済において潰すわけには行かない。だから……」

「仮想課ができたと……そういう事ね?」

「そう。この仮想課が何とかVRMMORPGでの事件を未然に防いで、この事案自体を風化させる。それが目的なんだ。リアルの世界には、もっと注目すべきニュースが転がっている。そっちに目がいけば、そのうちVRMMORPGが危険因子だなんて思わなくなる。もちろん、風化するまでずっとVRMMORPG内での事件を防げれば……の話だけどね」

「なるほど……。でも、それじゃあ政府のお偉いさんがたは納得しないんじゃ……?」

「ふふ、なら、VRMMORPGを潰して日本の経済を、いや、世界の経済を混乱に叩き落とすかい?」

「い……いや……!!」

「そうなれば、下手すれば……」

「わ、分かったわ!なんでもないわ!気にしないで!」

「ふふ、かわいいなぁ」

「〜!」

 

さらっと店主が恐ろしい事を口にする。

シノンは慌てて自分の意見を撤回し、恥じらいで赤くなった顔を伏せた。

店主はそんなシノンを、「若いなぁ」と言わんばかりに微笑みながら見ていた。

 

でも確かに、店主の言っている事は間違いない。

SAO事件によってVRMMORPGが疑問視され、アミュスフィアによって沈静化した。だが今度は、ALO事件によってそのアミュスフィアすらまた疑問視され始めている。それをまた戻すには、それしか方法がない。

それが失敗すれば、待っているのはVRMMORPGの禁止だ。

その影響が、現実にどんな影響を及ぼすかなど、学生のシノンにはまだ分からない。

 

 

そしてついに二人は、その話の終わりを迎えるのだった。

 

「……で、その仮想課の人達が目をつけたのがSAO経験者。特に攻略組と呼ばれる人達に声をかけて、今じゃ無数にあるVRMMORPGの中でから事件の起こる確率の高いものを抽出して、その人達に監視をさせてる」

「あ……!」

「で、このいかにもそんな事件がおこりそうな雰囲気満載のこの「ガンゲイル・オンライン」に、僕らが来て、裏世界を監視している訳さ。このゲームは、法律的にもグレーゾーンだからね」

「……!」

 

シノンの中で、疑問の糸どころかその他疑問まで全て吹っ飛んだように解決し、清々しい気持ちすら芽生える。

話し終えた店主はコーヒー……的な何かの最後の一を飲み干して、そそくさと立ち上がり、カウンターの反対側に迂回した。

そしてまた、いつもの構図に、店主が立ち、シノンが座った構図に戻る。そして、こうシノンに呟いて、店の奥に消えていった。

 

「僕も彼も、もうVRMMORPGが関係したせいで人が死ぬのは見たくない。だから今、ここにいる。シノンさんにも、是非協力を仰ぎたい。でも無理にとは言わない。だからあともう一度だけよく考えてみて、答えを聞かせて?僕は……いや、僕らはずっと、待ってるから」

「……」

「いつか言ったよね、『どちらの選択にも利益不利益平等にある。そのどちらを取るのかは、シノンさん次第。さあ、どうする?』って。この言葉を今一度、シノンさんに送るよ。……またね」

 

と。




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Episode22 現実 〜Reality〜

「店主さん……?店主さん……!ねえ!」

「……?」

「ほら起きて!精神世界で寝るとか、どうやったら出来るんですかねぇ!?店主さんがログアウトしたら、この店どうするんですか!?まだ営業時間内でしょう!」

「う〜ん……」

「シノンさんはどうなったんですか!店主さんはどうするつもりなんですか!ねえ起きて!」

「う〜ん、はっ!」

 

店主がいきなり飛び起きる。

シノンに声をかけて店の奥に入り、椅子に座ってから、居眠りしてしまっていたようだ。

質問の嵐を吹かせていたタスクも流石に驚く。

 

店主はそんな事などつゆ知らず、ごしごしと目をこすった。

タスクは不機嫌そうに、店主に質問を続ける。

店主はその質問に、ポツポツと答えていく。

 

「はぁ……で、店主さん。シノンさんの話、結局どうなったんです?」

「……?」

「だから、シノンさんはどうなったんですか?」

「……あ、ああ、その事ね。うん、大丈夫。きちんと話したよ」

 

そこまで話して、タスクはほっとする。

一応話せたのであれば、なにか進展があると期待できるからだ。

だが、その進展は思わぬ形で進んでいた。

 

「そうですか……で、結果は……?」

「うん……その事なんだけど、タスクくん。ごめんね」

「……?」

「君の過去を、彼女に話した」

「な……!?」

「そしてその上で、もう一度考えてみて……と、時間を与えた」

「……」

「彼女も僕らと似た過去の持ち主だったんだ。それも、リアルでの……ね」

「……というと?」

「ふふ、それはタスクくん自身が直接聞いてみるといいよ。シノンさんはきっと答えてくれる」

「……」

「でも、少しだけ、教えてあげられることがある」

「……?」

「彼女は、僕らよりずっと強いよ」

「……!?」

「彼女は、護りたいものを護るために人を殺した。でも僕らはそうじゃない。護りたいものも護れずに、その後で人を殺した。それも何人とね。……まあ、詳しくはシノンさんに聞いてみて」

 

タスクはすこし不満げながらも頷く。

 

彼女が自分と似た過去を……。

すこし嬉しい反面、不安な気持ちもあった。

これからどうなって、どんな風に話が進むのか分からないからだ。

 

あの時見た、仲間の死。

光の粒になって消えた、仲間の体。

そして何より、自分のミスで失われた、大切な命。

そしてその後自分が犯した、贖罪としての殺人。

でもそれは、決して許されるものではない。

 

「っ……!」

 

タスクは急に店主に背を向け、左手を動かし、ログアウトして消える。

その小さな背中を、店主はしかと見届けていた。

 

「わかるよ、その気持ち」

 

店主は静かに、もうそこにはいない一人の少年に声をかけた。

もちろんその声は、誰にも聞かれることのなく、空間に消える。

 

「……さてと」

 

そして店主は立ち上がり、店の奥に入って試射場を見る。

気配がないからなんとなく分かっていたが、ダイン達はもう既に帰っていた。

タスクからの報告がないのから考えて、恐らく正体を知らずに帰ったのだろう。

 

「……正しい判断だったかもね。ダインさん」

 

店主は何かを予感させるように、ポツリと呟く。

そしてふいっと試射場に背中を向けて、自らもログアウトボタンを押した。

 

店主が消えると同時に、店内の照明もすべて落ちる。

扉にかかった「closed」の看板の周りだけが、少しだけ明かりを放っていた。

 

 

「……っ」

 

仮想世界から戻ってきたタスクが目をうっすらと開ける。

 

「はぁ……」

 

そしてそのリアルのタスク、内嶺 祐(うちみね たすく)は、がっと勢いよくフードつきのパーカーをとって着ると、スマホとイヤホン片手に走り出した。

 

どだだだと階段を降り、だだだーっと廊下を駆け抜ける。

そして玄関を靴を履きつつ蹴り開けると、真っ先に目的地へ走り出した。

 

「まぁたタスクったら……あれ?」

 

おたまを持ったタスクの母親が廊下を見た時には、もうそこにはいなかった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

タスクが淡々と路地を走る。

 

今は夜の9時。それに天候は雨。

どう考えたってフードつきのパーカーだけで外出する状況じゃない。

 

だがタスクは、そんな事などどうでもよかった。

 

「……っ!」

 

タスクはひたすら走る。

そしていつの間にかついたのは、とある墓場の一角。

 

「……」

ドスッ

 

するとタスクはいきなり一つの墓の前で膝をついた。

雨で濡れた地面から、ズボンに水が登る。

そして下を向き……

 

涙を流した。

 

ビッグ・ボスという、()()()()()()()で隠していた感情が、涙となって現れる。

 

「ごめん……!ごめんな……!」

 

そう、それは、「後悔」と「哀愁」。

あの時、敵を逃がさなければ。

あの時、光になって消えた、親友。

 

あの時、あの光景、あの時間、あの気持ち、あの場所。

 

すべてがくっきりと思い出せる。

そしてそれをしてしまう、自分だけが帰ってきてしまった()()の世界。

 

そしてその記憶は、頭に食いついて離れることは無かった。

 

バシャッ……バシャッ……

 

その時、後ろから足音が聞こえる。

タスクは、はっと後ろを見る。

 

そしてそこには、迷彩柄の長ズボンに黄土色の半袖シャツを着た男がいた。

 

……彼の名は待宮 多門(まちみや たもん)

プレイヤーネーム、「リボル」。

二つ名は、「オセロット」、あるいは、

 

「店主」……だ。

 

「店……タモンさん……!」

「いると思ったよ、タスクくん」

 

そう呟く店主……もといタモン。

タスクはすぐに視線を墓石に戻した。

 

「アユムくん……もう1年だね」

「はい……」

 

そう呟いたタモンは、タスクの背中をさすり、同時に墓石にも手を添えた。

 

そして呟くのである。

 

「すまなかったね……」

 

と。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっと、彼らの本名を出すことが出来ました。
といっても、物凄いセンスのなさが露呈しているだけなのですが。

こうして報告してはいますが、気にしないでいただけると幸いです。

では。

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Episode23 決断とダンボール 〜Decision and Running box〜

「っ……!」

 

あの日から数日後。

シノンは今日、ついに覚悟を決めて、店主の店にやってきた。

 

「強くなりたい……今までの私とは、違う!」

 

そういって、シノンは扉を開ける。

するとそこには、いつも通りの光景が広がっていた。

 

「やあ、シノンさん。いらっしゃい」

「……」

 

店主がいつも通り迎えてくれる。

だがその目は、いつもとは違った。

 

「……ついに、決めたんだね?」

「はい」

「どうするんだい?」

「私は……」

 

シノンは、ゴクリと唾を飲んだ。

同時に、店主を再度見直す。そして……

 

「覚悟ができました、店主さん。是非、私にも協力させてください。私とて、人の命が奪われるのはもう見たくない」

「その為に、自分の命が奪われても……かい?」

「……!」

「何かをするには、必ず代償がいる。命を守るために、命を差し出す。この覚悟まで、あなたは出来てるかい?」

 

シノンは一瞬、ぐっ……と考える。

だがその答えは、もう決まっていた。

 

「ええ。もちろん」

「よし!合格!」

ジャキッ

「な……!」

 

そうして、シノンが答えを出した瞬間、店主が叫んでSAAを取り出した。

 

もちろんシノンは後ずさる。だがその銃口は、斜めに下に、つまり床に向いていた。

 

そして1発だけ、発砲する。

 

ズダン!

キンキンキン!

 

その後すぐ床と壁、そして天井に弾丸が反射する音がして……

 

ドサッ

 

と、シノンの()()()何かが落ちる音がした。

とっさにシノンが振り向く。

 

するとそこには、緑色の、人が入れそうなくらい大きなダンボール箱があった。

 

「え……?」

 

もちろんシノンは訳が分からず首を傾げる。

すると店主が、その答えを出した。

 

「それは、僕からのプレゼントさ。受け取ってね」

「……!?ほんとに?あ……ありがとう」

 

シノンは恐る恐る、ダンボールに近づく。

そして蓋をゆっくり開けると、そこには……

 

ヘカートII用のサイレンサーと、G18用のサイレンサー、それに、消音(ステルス)化するためのカスタムキットが入っていた。

 

シノンは箱の中を覗き、箱に対してプレゼント類が小さすぎることに疑問を持つ。

 

別にシノンは、プレゼントに対して不満がある訳では無い。

むしろ嬉しいぐらいだ。

 

サイレンサーとは、その名の通り、銃の音を消す(サイレント)するための追加バレルの事で、見た目に反して意外に高い。

それも、学生プレイヤーが手を出せないレベルにだ。

ちなみにその見た目から、別名「ちくわ」とよばれているが、それは黙っておこう。

 

しかもそれに追加して、カスタムキットまでついている。

これは、このGGOにある「剣銃作成スキル」を持つ人たちによって商品化された、プレイヤーのプレイヤーによるプレイヤーのためのアイテムだ。

実銃のように、消音化するための様々な追加・交換パーツが入っている。

リロードやコッキング時の音を軽減するためのものや、消音化によって壊れやすくなるのをカバーするための強化スライドなど。

ただし、ゲームシステムの扱い的には単なるプレイヤーが作った「加工物」なので、アイテム名が「加工物」になっているのが残念だ。

 

まあでも、シノンからしてみればこれ以上ないプレゼントだ。

 

シノンは早速中に手を伸ばす。するとその時。

 

「よいしょ」

「うわっ!」

ドサッ

 

誰かから背中を押され、シノンがダンボールの中に入ってしまった。

そしてそのまま、蓋を閉められる。

 

「ちょっと!何よ!」

「店主!ガムテープ!」

「はいはーい!」

 

外からビック・ボスの声が聞こえる。

なるほど、あいつか。と、シノンが納得し、怒りに任せてダンボールを突き開けようとした時。

 

もう既に時は遅かった。

 

びびーっとガムテープが蓋に被せられ、閉められる。

そしてシノンは、ダンボールの中に閉じ込められた。

 

シノン本人は、店主がわざわざ人の入るくらいの大きさのダンボールを用意した理由を知り、怒りの絶頂である。

 

だが実際は、これはビッグ・ボス、つまりタスクの考えた、とある「計画」だった。

 

「シノン!見えるか?」

 

ビッグ・ボスが、ダンボールの隙間から中を除く。

シノンはその目を、きっ!と睨みつけた。

 

「ちょっと!何するのよ!」

「まあまあ、これは儀式だ」

「はぁ!?」

「ごめんねーシノンさん。ボスがどうしてもしたいって言うから……」

「何の話よ!」

「なあシノン、ダンボールの蓋は、下にもあるだろ?」

「……?ええ、まあ」

「そこから足を伸ばして、歩いてみてくれよ。」

「何?どういうこと?」

「まあ、いいからさ、ほら!」

「嫌よ!何でやらなきゃいけな……」

「やらないとここから出してやらないぞ?」

「……!」

「ほらほら〜♪」

「ボス……はしゃぎすぎだよ……」

「いいだろう、こんな時ぐらい!」

「まあね」

「まあねじゃないわよ!」

「お、ダンボールの住人がなんか言ってら」

「………!!!!」

 

さすがのシノンも、ビッグ・ボスのとぼけ様に呆れたようだ。

大人しく、指示に従う事にする。

 

ガサガサ……

ひょこっ

 

「ぷっ……」

「んぐっ……」

 

シノンが足を出し、たった瞬間、ビッグ・ボスと店主が吹きそうになる。

もちろん、必死にこらえる。だが、この世には我慢したくてもできないものがあるのだ。

 

結果ビッグ・ボスと店主は、大笑いしてしまった。

 

「だははははははははははははは!」

「あははははははははははははは!」

 

もちろんシノンは、大激怒である。

ダンボールを投げ捨てて、(もちろんプレゼントは回収して)二人へ殴りかかってきた。

 

だが、そこは彼ら。

あっさりと避けて、また笑い転げる。

 

 

そしてその後1時間は、シノンが追いかけ回し、笑い転げるビッグ・ボスと、店主が逃げ回るというなんとも滑稽な戦いが、店内で繰り広げられた。

 

そしてその日、このGGOに、新たな生物が誕生したのであった。

 

「ガンゲイルビジョハシリバコ」

 

それがその名である。




いつも読んで頂き、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

お待たせしました。
感想欄の中で、一番「Good」が多かった、「ガンゲイルビジョハシリバコ」。
やっと出すことが出来ました。
長々とお待たせして、すみませんでした。

少し余談しますと、今回はタイトルに少し工夫がしてあります。
見てみてくださいね!

他のご意見も、積極的に取り入れていこうと思ってますので、もう少しお待ちください。
(エロイモアや松明、サンタ迷彩やワニキャップでの儀式、Mk22やM1911A1などなど…お待たせしております!すみません!)

今後も、よろしくお願いします。

では。

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第三章 死銃 〜The death gun〜
Episode24 事件 〜Incident〜


「タスク君!」

「ん?」

 

バタン!

 

シノンが正式に仲間に、ガンゲイルビジョハシリバ……ゲフン。になってから数日後。

今日は土日の休日だからと、開店の一足先に、しかも店主よりもはやく店主の店に来ていたタスクは、慌てて飛び込んできた店主に目を丸くしていた。

 

飛び込んできた本人である店主は、大慌てである。

 

「なんです!?どうしたんです!?店主さん!」

「……タスク君!慌てないで聞いてほしい。まだ不確定だ、不確定だけど……!」

「聞く!?不確定!?何の話ですか!」

「だから、不確定な話だけど、落ち着いて聞いてほしい」

「わ……分かりましたから、まず店主さんが落ち着いて下さい!」

「あ、そ、そうだね、ふ、ふううう……」

 

タスクになだめられ、店主がゆっくり息を吐く。

タスクが店主を自分の隣の席に座らせ、そしてきちんと落ち着いたところで、タスクから話を切り出した。

 

「よし、ならまず、何の話ですか?」

「うん……あのさ、タスク君は、ゼクシードってプレイヤー、知ってるかい?」

「ゼクシード?あの情報工作で成り上がった彼ですか?」

「そうそう。彼についてなんだけど、この音声を聞いてほしい」

「……?」

 

そういって、店主は音声のみの再生用のウィンドウを開く。

そしてその再生ボタンを押した。

するとそこから、機械によって変音された音声が聞こえてきた。

 

『ゼクシード!偽りの勝利者よ。今こそ真なる力による裁きを受けるがいい!』

ズダァン!

 

そしてその短いセリフの後に聞こえてくる一発の発砲音。

そこで音声は消えていた。

 

店主はそのウィンドウを閉まって、再びタスクに向き合う。

そしてまた、話し出した。

 

「まず、この音声の録音日から、ゼクシードはこのゲームにログインしてない」

「え……?」

「この音声の録音場所は、とあるGGO内の酒場。ここでとあるプレイヤーが、その時やっていた生放送のネット番組に出演中のゼクシードに対して発砲した」

「対して……?ディスプレイにですか?」

「そう。そして、この銃の発砲音。この発砲音の主は、自らを死銃(デス・ガン)と名乗った。で、その直後、()()()()()ゼクシードが急に苦しみ出して倒れて、アミュスフィアの安全装置により強制ログアウト。で、それ以来彼はログインなし。ネットの掲示板サイトには、「失踪をしたかっただけ」とかその他色々言われてるけど……」

「……」

「何か不穏な感じがしない?」

「確かに。発砲音からして、銃は恐らくトカレフTT-33でしょう。ハッキング……によるものではないですね。トカレフはデータ的にもそんなもんに使うようなものじゃない」

「……だとしたら?」

「事件……ですかね」

「やっぱりタスク君もそう思う?」

「……はい」

「だよね……まだ正確なのはあれだけど、彼は撃たれた直後、苦しみながら倒れた。」

「苦しみながら?」

「そう。普通じゃありえないよね」

「……」

 

そう。この世界では、意外に苦しむという概念がない。

と言っても、一概にないとは言えないが、大体はHPバーが全損した時にはすぐに光の粒子になって消えるから、ほんの一瞬の話だ。

 

たとえナイフで斬られても、しびれのような痛みがあるだけ。

その痛みだって、ずっと続くわけではなく、それも一瞬の話だ。

 

だとすれば、どういう事か。

 

ゼクシードは、()()()()()()()()()()()()()()()、という事だ。

そしてそれを裏付けるかのように、その後作動したアミュスフィアの安全装置。

そしてその後に一切されない、GGOへのログイン。

 

どう考えてもおかしい。

だから店主は、不確定ながらも、タスクに、そして関節的にだがビッグ・ボスに報告したのだ。

 

「……ついに来たね。タスク君」

「……はい」

 

二人は、覚悟を決めたような目をして机を睨む。

だが、二人はすぐにその視線を元に戻した。

 

「さて、その前にまず、普通の仕事だよ。まだ本当にそうなのか決まったわけじゃないからね」

 

そう言って、店主は店を開く準備を始める。

だが、彼らにはもう、既にわかっていた。

 

これから、彼らは彼らの「本当の仕事」を、しなければならないということに。

そしてそれは、少しだけ形を変えて、的中することになる。

 

とある、一通のメッセージによって。

 

 

開店してから約10分と言ったところだろうか。

今は早朝。やはり最初はお客が来ないため、しん……と静まり返った店内で、二人が佇んでいた時。

 

いきなり、一通のメッセージがやって来た。

その差出人の名前には、「仮想課 菊岡」と書いてある。

 

二人は顔を見合わせた。

なぜならその「菊岡」という仮想課の人物こそ、二人をこの世界に送り込んだ本人だからである。

 

想像には難くなかった。ゼクシードの件についてだろう。

 

そう考えて、二人は揃いも揃って顔を戻し、ウィンドウの「開く」ボタンを押す。

するとそこには、こう書かれていた。

 

『やあ!二人とも、お元気ですか?タスクくんはもちろんのこと、タモンさんもね!急に申し訳ないが、二人に通達することがあって連絡したんだ。心して読んでおくように』

 

二人の目が、文の上から下へと写ってゆく。

 

『君たちは知っているかも知れないが、今、とある事件が発生している。概要は……、トッププレイヤー、ゼクシードの死亡事件』

「死亡……!」「これは……!」

 

タスクと店主がそろって息を呑む。

まさかとは思っていたが、そのまさかが的中した瞬間だからだ。

 

これはますます、自分たちの出番かと、意気込む。

だがまだ、文章は続いていた。

 

『君らはまだ犯行手口も犯人の手がかりも、何も掴めてないと思う。僕ら仮想課も、まだ掴めてないのが現状だ。そもそも犯行なのかもわからない。だから今、解決に向けて努力しているところなんだけど……、一つ、お願いがあるんだ』

「「……!」」

 

ついに来る、と二人は覚悟する。

そしてその文面は、衝撃的な言葉が並べられていた。

 

 

『この事件に、君たちからは手を出さないでほしい』

「何……!?」「え……!?」

 

 

タスクと店主は揃って疑問を口にした。

こういう事態のために、自分たちはここにいるんじゃないのか、と疑問がよぎる。

 

だが文章は、その下に続いていた。

 

『ただし、だからと言って、一切この事件に関わるなとは言わないよ。実は、もうすぐそちらに一人、こちらからプレイヤーを送り込む。彼には、君たちに会いたければ会え、と言っておく。もし接触したら、手助けするかどうかの判断は君たちに委ねるつもりだ』

 

「意味がわからない」と言わんばかりに二人の眉間にシワがよる。

そしてその文章は、まだまだ続いていく。

 

『これは君たちのための措置なんだ。彼は最近見つけた、偶然解決に当たってくれそうなプレイヤーさ。実力もある。まぁ、君たちほどでは……無いけどね。そのお陰で、君たちの力を借りなくて済んでいる。本来なら君たちの仕事だが、この事件の解決後が困るだろう?だから、ご理解願いたい。

……ただし、もう一度書いておくが、彼には君たちの事をほんの少しだけ、話してある。彼がもし、君たちの所にやって来たら、その時は協力してもらって構わないよ。もちろん、断ってもね。

でも、くれぐれも言っておくが、「これから」の事を考えて行動してほしい。

 

……それともし、こういうのはあまりよろしく無いかもしれんが、この事件解決のために君たちが、あるいは君たちの仲間の命が失われたら、元も子もないんだ。辛いと思うが、耐えてくれ。

 

 

幸運を、タスクくん。タモンさん』

 

ぐっ……と、タスクと店主が衝動を堪える。

そして文章は、ここで終わっていた。

 

確かに、この文章に書いてあることは間違いではない。

 

なぜなら、この二人の仕事はこの事件が終わった後でも続くからだ。

それを見越して考えた場合、ここで命を張って表に出るのは危険すぎる。

だがそんな事言ったら、彼らがここにいる意味が無いのではないかと思うだろう。

なんてったって人の命が既に一つ失われているのだ。

特に彼ら二人に関しては、このことは、はいそうですかと黙っているわけにはいかない。

だが、この世界に彼らがいるかいないかで、仮想課にとっては、その先の解決の対応がガラリと変わるのだ。

 

確かに、()()()()彼らの出番だろう。

でも、その後のことを考えた時、代わりにやってくれる人がいれば、そちらに任せるのが道理だった。

 

ー「()()()()のために」

 

そんな言葉のせいか、やはり彼らの中にはモヤモヤが残るのは、当然だった。

 

「っ……!」

 

タスクはその文章を読み終わると、左手のウィンドウを操作し、メインウェポンであるM82A1とサブウェポンのデザートイーグル+サイレンサーだけ取り出して、すぐにかけ出して、射撃場に入っていった。

 

その小さな背中に、店主はポツリと声をかける。

 

「……辛いよなぁ」

 

と。

 

でもその呟きは、やはり、空間に消えてなくなった。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、二つ、予告させていただきます。

一つ目は、〔次回、新キャラを出します!〕
このキャラは、MGSのものでも、GGOのものでもありません。
かと言って、オリジナルでもありません(なんやねん)
イメージとしては、今流行りのFPSゲーム、「虹〇S」のキャラ数人を掛け合わせたようなキャラにする予定です。

二つ目は、〔設定集を出します!〕
こちらは、本当にぱっと思いついたことです。時期は、まだ未定です。
ここから、(恐らく)話が複雑化してきますし、新キャラもちょくちょく出てきます。
そんな中で、読者の皆様の脳内混乱を防ぐための措置として、勝手に出させていただきます。
ご理解をよろしくお願いします。

乞うご期待!(と言っていいのか!?怖い…カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ)

では。

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Episode25 クワイエット 〜Quiet〜

「やあ、いらっしゃい、シノンさん」

「こ、こんに……いや、おはようございます……?」

「はは、休日は混乱するよね。さ、座って座って」

 

そう言って店主に出迎えられたのは、シノンだ。

いつも通り休日の朝を起きて、いつも通りGGOにログインし、いつも通り店主の店へとやって来た。

 

開店してすぐなのに、店主はシノンを暖かく出迎え、シノンはいつものカウンターに座る。

するとシノンは、少し違和感を感じた。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

店主は、すっとシノンの方を向く。

するとシノンは、その違和感の正体に気づいた。

 

「そういえば、ボス……は?」

「ああ、よく気づいたね、シノンさん。」

 

ニコッと笑い、シノンを褒める店主。

だがシノンからしてみれば、あたりまえだった。

 

なぜならシノンは店主から、「最初の週はビッグ・ボスと訓練してもらう」と言われていたからだ。

 

なのに、早速彼が不在。

理由がわからないでは無いが、いささか不満なのも事実である。

 

だがその理由は、シノンが想像していたのとは違った。

 

「あのね、シノンさん。彼は今、射撃場にいるんだ」

「え……?」

「ちょっとムシャクシャすることがあってね……そっとしておいてあげて」

「は、はあ、そうなんですか。」

「……そんなに驚いたかい?」

「い、いえ……」

 

へえ、彼にもそんな事があるのか、とシノンは内心ビックリしていた。

あの冷徹な彼が……と。

 

だがその感情は、とあることに気づいたせいで、すぐ消えた。

 

「あ、そっか、タスク君が……ってことですよね?」

「そういうこと。やっぱり分かってなかったね?」

「す、すみません……」

「はは、気にしないで」

 

ここで、話が一旦切れる。

 

こういう時、お互い……少なくともシノンは、気まずくなるものだ。

お互いがお互いを見あって、話のネタが無いばっかりに黙り合う。

 

だがそんな静寂は、すぐに破られた。

 

バタン!

「……お、彼女ですか、その『新人』ってのは」

 

いきなり、店の扉が開く。

そして奥から入ってきたのは、一人の男プレイヤーだった。

 

藍色の迷彩服に、その上に着た黒を下地に白いラインが少し入った防弾ベスト。

そしてさらに追加されて体に取り付けられた防弾アームポーチや、ウエストポーチ、ホルスター。それらにも何故か、少し、白いラインが見える。

そしてグローブに関しては、真っ白だ。

 

頭には、軍用セミフェイスヘルメットを被り、顔にはバラクラバと呼ばれる目出し帽をして、目だけが鋭く見えていた。

そのヘルメットの上に上がっている、付属の防弾で半円の強化プラスチック製のフェイスガードが、また何とも雰囲気を醸し出している。

 

そして、一番目を引いたのは彼の背中。

彼は背中に、「防弾シールド」を背負っていた。

 

まさに、『特殊部隊員』。

この言葉以外適切な言葉はない。

 

そんなプレイヤーの質問に、店主はささっと答える。

 

「あ!やあ、いらっしゃい。よく来たね。……そう、彼女が、新人のシノンさん。でもまあ、知ってるよね」

「そりゃあ……だって、彼女はGGOのトップスナイパーとして有名だし……ま、それは表世界での話ですけどね」

 

ー「表世界」

この言葉が、シノンにグサリとささる。

今まで自分がいた世界はそこで、自分はそこでは上の方だった。

ま、正直そんな、上か下かはどうでも良いのだが。

でも、そんな自分の実力が、この世界でどれだけ通用するのか、分からない。

それがとてつもなく怖かった。

 

そんな思いが、顔に出たのだろう。

その「特殊部隊員」のようなプレイヤーが、ドスドスと装備品の重たさを示すかのような重たい足音をならしながらやってきて、シノンの横の席に座り、やさしく話しかけてきた。

 

「やあ、シノンさん」

「こ……こんにちは」

「ふふっ……会えて嬉しいよ。これからよろしくね」

「は……はい」

 

シノンはすこし焦りながら、そのプレイヤーと挨拶を交わす。

 

「新人ですか?」と聞きながら入ってきた時点でそうかと思っていたが、彼もやはりビッグ・ボスと同じ、裏世界プレイヤーだった。

 

そんな彼は、自己紹介をする。

 

「俺の名前はウェーガン。コードネームは「ラクス」。は?って思うかもだけど、これはチェコ語で「医者」って意味」

「「医者」……?」

「そう。俺は主に、戦場での救援を担当してるんだ。この盾も、その仕事の為」

「ああ、なるほど」

「まあ、それだけじゃあないんだけどね。爆弾系も俺かな。何でも吹っ飛ばせるよ?」

「へ、へえ……」

 

苦笑いで対応しつつ、そういうことか、と、シノンは納得する。

彼はいわゆる、「衛生兵」や、「看護兵」だ。

主に瀕死の仲間の救助を担当する、「戦場の医者」。

ところどころに白が入っているのも、それが所以だろう。

 

その割には重装備な気がするのは、彼が最後に漏らした爆弾とかを扱う役割だからなのなもしれない。

それを考えれば、彼は「工兵」の役割を兼ねていることになる。

 

シノンは、流石に役割を混ぜすぎだと思うが、なんせここは裏世界だ。

気にしていたら負けなのかもしれない、と考え直す。

 

そしてそんな彼が、ふうと一息つき、手からグローブを取ろうとしたその時、いきなり店主が、ラクスに質問した。

 

「……あれ?ラクスさん、彼は?」

「え?ああ、あいつですか。あいつはもうすぐ……」

 

ラクスが一瞬考えて、返事をする。

すると、その返事を遮るようにまた店の扉が空いた。

 

バタン!

「……こんちわ」

 

その奥から入ってきた男プレイヤー。

その彼も、これまた独特な雰囲気を持った装備だった。

 

まず目を引くのは、鉄の塊と見違えるようなヘルメット。

目のラインに細い横溝が一本引かれているだけで、あとは全部鉄だ。

 

そして服装は、まあ普通の迷彩服に、防弾チョッキを被せた普通の装備。

……に見えているだけだった。

実際に横から見てみると、その防弾チョッキはものすごく分厚く、ラクスが来ているものの約2倍くらいの厚さがあった。

 

それに加え、彼もまた、背中に何かを背負っていた。

今度は盾ではなく、何か鉄パイプをまとめたようなもの。

 

それも重なって、そのプレイヤーは相当ずんぐりむっくりだった。

 

「な……!?」

「……」

 

驚くほどの重装備に驚きを隠せないシノンを、ヘルメットで隠れて見えない目で横目に見つつ、そのプレイヤーもカウンターに座る。

 

そして背中に背負っている鉄パイプの塊を下におろすと、そのままそこで固まった。

 

「ぷっ……!」「ふふっ……!」

 

すると、店主とラクスが吹き出す。

シノンだけが、何が起こったのか分からなかった。

 

そんな思惑が顔に現れたのだろう。

店主が、種明かしをするように笑いをこらえながらシノンに訳を話す。

 

「ふっ……ご、ごめんね……シノンさん……!あ、ふふっ……あのね、彼緊張しているみたいで……!」

「緊張……?」

 

ますます訳が分からない。

すると今度はラクスが、シノンに訳をはなした。

 

「その……あいつさ、女の子がね、苦手なんだ」

「は、はあ、そうですか」

「まあ、だんだん慣れていくからさ。暖かい目で見てやってよ」

「わ……分かりました」

 

シノンがコクリと疑問気味に頷く。

するとラクスが、取ってつけたように彼の紹介をしてくれた。

 

「ああ、そう、彼の名前はアレク。コードネームは、「カチューシャ」。これは、あいつの得意な武器が戦車に似てるから付けられた、とある国の昔の戦車の名前」

「へえ……そうなんですね」

「すごいよ?マジで。ほんとに戦車だから!」

「あは、あはは……」

 

シノンはあの時見た、分厚い防弾チョッキや背中にしょった鉄パイプの塊を思い出し、苦笑いをした。

 

とあの装備がどうなるのかは分からないが、今でも十分戦車だった。

 

その時、ラクスが、急に店主にとある質問をする。

 

「……あ、そういえば店主さん。彼女の……シノンさんのコードネームって決まってるんですか?」

「あ……そういえば決めなきゃね。ふふ、忘れてたよ」

「やっぱり……」

 

店主が苦笑いで頭を掻き、ラクスが笑う。

だが、その話の本人であるシノンは、何の話なのかさっぱりだった。

 

するとやはり、ラクスが説明してくれる。

 

「あ、えーとね、コードネームってのは、仕事中とかに使う、プレイヤーネームとは違うもうひとつの……実名を数に含めれば三つ目の名前のこと。なんせこっちの世界じゃ、プレイヤーネームは個人情報ばりに機密事項だからね」

「そうなんですか……」

「ふふ、シノンさんには、少し新鮮というか、不思議かな?」

「はは……まあ、少し」

 

シノンは、少し笑って頷く。

 

確かに、名前を複数持つのは少し新鮮だった。

既に今、実名とは違った名前を持っているが、またそれとは別の話。

 

すると今度は店主が、シノンに質問した。

 

「シノンさんは、何かこれがいいっての、あるかい?」

「え……?」

「別に、特に決まりがある訳では無いからね。好きな名前で良いんだ」

「そう言われても……」

 

シノンはうーんと考え込む。

 

実際、プレイヤーネームをつけた時は、適当に自分の名前に「ン」を付けただけだから、そこまで深い意味は無い。

 

そんな自分の経験を回想しつつ、考え込むシノンの横で、いきなりラクスと店主が一緒に考え出した。

 

「スナイパーだから……「目」とか、「影」とか、「静」って感じかな?」

「お、いいねえ」

「【ゴッド・アイ】、【イーグル】、【シャドー】……」

 

ブツブツと名前を言っていく。

シノンはもう、自分で考えるのは諦めて、その言われているコードネーム候補の中から好きなのを選ぶことにした。

 

そしてその中で、シノンが唯反応する候補が出てくる。

シノンはとっさにラクスを止めた。

 

「……ット】」

「あ……!」

「……ん?どうかした?」

「その、それがいいです」

「え?それって?」

「今言ってた……【ク……?」

「ああ、【クワイエット】?」

「そう!それです!それがいい!それにします!」

「お、決まったねぇ。シノンさん」

 

やっと微かに聞こえた自分のお気に入り候補を確認し、それに決めたシノン。

 

そんなシノンは、自分のコードネームに正直、すごくしっくり来ていた。

【クワイエット】……何故かしっかり腑に落ちてきて、どこかかっこよく、そしてまた何か綺麗に感じたその言葉を、シノンは心の中で繰り返す。

 

そんな俗に言う「満足」という感情が無意識に現れているシノンを見て、店主がポツリとラクスに呟いた。

 

「……ふふ、似たもの同士だね」

「まあ……でも、そんな事言ったら店主さんだって……」

「僕は偶然そのキャラと僕のキャラがかぶっただけさ!」

「はいはい、そうですか。」

 

ははは、と、笑いあう店主とラクス。

満足そうにニコニコしながら座るシノン。

何故か未だ固まっているカチューシャ。

 

そんな平和な光景が、店内に広がっていた。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、感想欄である方にお知らせしたように、新キャラが某「虹〇S」のなんのオペレーターを組み合わせたのか、紹介したいと思います。

プレイヤーネーム…ウェーガン
コードネーム…ラクス
【ドク】【フューズ】【テルミット】

プレイヤーネーム…アレク
コードネーム…カチューシャ
【タチャンカ】【ルーク】【モンターニュ】

です!

「なんのことだよ」と思うかもしれませんが、この先に彼らが活躍した時にまたそれらしき表記をしようと思います。

「いやそうじゃなくて」という方は、一度「虹6S」と調べてみてください。

丸投げで申し訳ないですが、よろしくお願いします。

では。

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Episode26 可能性 〜possibility〜

「……」

「……」

「……」

 

案外あっさり決まった、シノンのコードネームの話の後。

シノン、ラクス、カチューシャの三人は、カウンターに立つ店主から、とある話を聞いていた。

 

その話の内容は聞かずともわかるだろう。「死銃(デス・ガン)」についてだ。

 

彼らもやはり、話の冒頭はタスクや店主がそうだったように、「噂」程度にしか聞いていなかったが、話が進むにつれだんだん顔が険しくなっていき、黙りこくっていく。

 

必然的に、その場の雰囲気が重たくなっていた。

 

そんな雰囲気の中、ゆっくりと口を開いたのは、ラクス。

それに対し、これまたゆっくりと言葉を返したのは、店主だった。

 

「なんですかそりゃぁ……」

「……分からない、としか言えないよ。犯行なのは確実だけど、いつ、どのように、どんな方法でこれをやったのか、何一つさっぱりさ。それに、今回の場合、直接関われないから……なおさらね」

「……でも、だからと言って、放ってはおかないでしょう?」

「もちろんさ!こんな事件が起きたのに、そうやすやすと僕らが放っておくわけにはいかないよ。それに、なによりもボスが許さない」

「……ですよね」

「うん。でもね、」

「……?」

「くやしいけど、僕達に出来ることは、()()()()ここにやって来るであろう、あちらから送り込まれたプレイヤーを影で助けることしかないんだ」

「そんな……!」

「うん。わかるよ、その気持ち。でも、ここでその気持ちを抑えてないと、後々大変になりかねないんだよ」

「はい……それは、重々承知してますけど……」

 

そこまで話して、シン……と、店内が静まり返る。

 

 

行動できるのに、させてもらえない。

しかもそれが、人の命に関わること。

それ故に、彼らの葛藤は相当なものだった。

 

その場にいる4人は、それぞれの思いに顔を険しくする。

 

すると今度は、カチューシャが口を開く。

それは、ある「可能性」についてだった。

 

「あの……その……いきなりで話を変えてしまうんすけど、その犯行の種って、ウイルスではないんですか?」

「え……?」

「だ……だから、ウイルスではないのかって。」

「……どういう事?」

「その……苦しみながら消えたって事は、リアルで何か……ってのは分かります。なら、アミュスフィア自体に問題があってもおかしくない」

「なるほど……でも、その消えた理由は、アミュスフィアの安全装置だよ?もし壊れていたら、作動しないはずじゃないか」

「……だからです。別にウイルスなら、サーバー経由で個人のアミュスフィアにウイルスを送り込んで、一定の条件によってそのウイルスを発動させ、引き起こさせるようにすればいい。……そうだな、条件はもちろん死銃に撃たれた事として、ウイルスはアミュスフィアの電子系統を一時的に暴発させるとかすれば、リアルの人間は苦しむ」

「……確かに。それでその後に、普通に安全装置を作動させる……と。確かにウイルスならこんな感じのことは出来てしまうね」

 

そんなカチューシャと店主の言葉から残りの2人は彼らの前向きな姿勢を感じ取る。

「ここで嘆くより、すこしでも行動を起こす事」

最も基本的で、最も単純な教訓を、彼らは今一度確認した。

 

そしてそんな思考の転換があったのか、その場の雰囲気がだんだん明るくなっていく。

 

その次に口を開いたのは、シノンだった。

 

「ウイルス……なら、黒幕はザスカー本体ってことですか?」

「え……?」

「だって、ウイルスを直接サーバーに入れるなんて…私は、あんまりパソコンとかはわからないけど、難しいんじゃないでしょうか。だったら、本体であるザスカーが、なにかを理由にこんな事を……」

「いや……それはないよ、シノンさん。前にも言ったけど、今世界はVRMMORPGに対して少なからず懐疑的な目を向けている。今にも禁止しようとしているけど、今日本が禁止していないから、何とかやっていけている……そんな状態なのは、知っているよね」

「……?はい」

「で、このGGOの母体の企業は、「ザスカー」っていう、()()()()の企業。実際の話、そんな企業がやっていけるビジネスは、そんなに多くない。得体がしれないからね。下手すれば、このGGOだけでやっていけている、と考えるのが妥当なんだ」

「……」

「……ということは、つまりどういう事か。このザスカーという企業がもし、この事件の黒幕なら、彼等にどんな思惑があるにせよ、結果的には自らの首を絞めることにしかならないんだ」

「え……!?」

「だって、日本でそんな事件を起こして、日本がVRMMORPGの禁止に踏み込んだら、元も子もないじゃないか。全世界が一斉に禁止に踏み込むことになる。ザスカー唯一のビジネスが一気に失われるだろう?」

「た、確かに……」

「だから、そんなことはありえない。ザスカーも正体不明とはいえ『企業』だ。そんなに馬鹿なことはしないだろう」

「なるほど……」

 

店主の解説によって、シノンが引き下がる。

だが、その効果はあったようだ。

 

「ということは、死銃がザスカーを貶めようとしているのかも知れませんね」

「……どういう事?ラクスさん」

「だから、今、店主さんが話した事を、死銃は逆手に取ろうとしている……ってことですよ」

「ああ……!」

「こんな人の命を左右する事件を起こせば、ザスカーに疑いが掛けられるから……死銃はそれを狙っているのかも」

 

う〜んと、4人が4人、皆、頭を悩ます。

だが、ここでこんな風に頭を悩ませても、答えが出るわけがないのは誰もが分かっていた。

 

そんな雰囲気を察したのか、店主がゆっくりと口を開く。

 

「ふぅ……はは、まあ、こう言ってはなんだけど、ここでこうしていても答えは出ないよ。またなにかわかり次第連絡するからさ、今日はここで一旦解散しようか」

「……そうっすね」

「異論無し」

「分かりました」

 

そんな店主の提案にカチューシャが頷き、ラクスが相槌をうつ。

そしてシノンが、こくりと承諾した。

 

「……僕らも、なにか対策を練らなきゃね」

「ああ……」

 

ラクスとカチューシャが話し合う。

 

一方のシノンはなにもすることが無く、その席に座ったままだったが……

 

「ねえ、シノンさん」

 

話を終えた……とばかり思っていた店主から、いきなり声がかかってきた。

シノンはふと顔を上げる。

すると店主の口からは、驚きの言葉が飛んできた。

 

「急にごめんね。早速なんだけど……」

「はい……?」

 

 

「仕事を、してもらうよ」

 

 

「な……!?」

 

シノンが驚いたのは、言うまでもないだろう。




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Episode27 仕事 〜work〜

「仕事を、してもらうよ」

「な……!?」

 

重苦しかった死銃についての話。そしてその後いきなり言い渡された、初仕事。

もちろんの事、シノンは驚きを隠せなかった。

 

「え……ちょっ……ちょっと、待ってください!私はまだ……!」

「……まだ?」

「訓練してない……し、その……要領も分からないんですけど……」

 

シノンは慌てふためいて弁明する。

それもそのはず。シノンはまだ、ボスとの訓練も受けていないし、そもそも仕事の要領も分からないのだ。

 

そんな状況でどうしろと言うのか。

シノンの中には、膨れ上がった不安という不安と、少しの不満があった。

 

「その……」

「……」

 

未だ黙りこくっている店主に、シノンは必死に伝えようのない「不安」を伝えようとする。

 

だが、実際はそんな不安は不要だった。

 

「……ふふっ、あっはは、ごめんね。驚かせちゃったね」

「は、はい?」

「うん、分かるよ。その気持ち。最初は誰でも怖いよね。でも安心して?流石にいきなりボスがやるような仕事にはぶち込まないから」

「は、はあ……それなら……」

「うんうん、ごめんごめん」

 

シノンは一気に安心感を感じる。

そんなシノンを見て、店主もニコニコして笑っていた。

 

そしてすぐに、店主は話を戻す。

 

「で、仕事の内容だけど……」

「……」

「『BOB』に、出てほしいんだ」

「え……!?」

 

ーBOB。正式名称、「Bullet・of・Bullets(バレット・オブ・バレッツ)

この大会は、今回で3回目を迎える、GGOの中での、いわゆる「最強プレイヤー決定戦」だ。

いくつかの予選ブロックで1対1の戦闘をいくつも勝ち抜き、最後の決勝戦で30名での総当たり戦を行うこの大会。

 

まあ、シノンはもともとこの大会に出るつもりだったし、優勝も狙っていたので、むしろ願ったりの仕事である。

そして、一番気になるのが「理由」だが……

 

「ま、シノンさんは強いし、何回も出てるしね。でもそれは、「表世界」の話だけど」

「うっ……」

「ふふ、ごめんごめん。で、なんで出てもらうのかというと……」

「……」

「死銃と、向こうから送られてくるプレイヤーとの接触。これが目的だ」

「接触……?」

「そう。実際に会話を交わしてもいいし、横目で見つつ存在を確認してるだけでもいい」

「は、はあ」

「まあ、実際は送られてくるプレイヤーがどんな人かは分からないから、それを探し出してほしい……っていう部分もあるけどね。きっと彼は、死銃の目をこちらに向けさせるために、何かとんでもないことを誰にでも見られる場所でやるはずだ」

「あ……なるほど」

「……ふふ、もう分かったかな?」

「はい……その、「誰にでも見られる場所」が、BOBなんですね?」

「そう……!その通り。この時期にやってくるなら、誰だってそうするのが手っ取り早いだろう?まあ、実力があれば……の話だけど、なんせ向こうからの送り人だ。充分あると考えるのが適当だろう?予選の参加人数は恐ろしいほどいるから、バレる可能性も0に等しいし……」

「確かに……」

「さて……この仕事、やってくれるかな?シノンさん」

「……」

 

シノンは一旦考える。

 

このGGOでの表世界では、「シノン」は、BOB予選を勝ち抜く強者として知られているから、「今回もシノンはBOBに出る」というように思われている。

それはシノン自身、分かっていた。

 

もともと、普段の自分は、そのBOBで勝つことが目的でこのゲームに来て訓練していたから、BOBにでること自体は何ら問題は無いのだが……実際のところ、考えが変わりつつあった。

 

理由としては、今の自分の立場上、ボスやその周りの人達に迷惑を掛けないか不安だったのが、一番の理由である。

 

もし、無断でBOBに出て、ビッグ・ボスやその周りの人に影響が及んだら……。

それのせいで、自分と似た、あるいはそれ以上の過去を持つ彼らを、さらに貶めるようなことになったら……と思うと、気が気でなかった。

 

彼らの辛さはよく分かるし、むしろ自分より辛いかもしれない。

なのに今、彼らは堂々と、怯え続ける自分よりはるかに強く生きている。

だからこそ、行動を共にさせてもらうことで、自らも何か得ようと、ここにいさせてもらっている。

 

それを、自ら潰すわけには行かなかった。

 

……でも、あちらから出ろと言われれば、文字通り「願ったり」である。

 

シノンは、そんな思いを言葉に乗せた。

 

「……分かりました。出させてもらいます」

「え……?ふふ、やっぱり、出るの躊躇ってたんだねぇ?」

「な……なぜそれを……!?」

「だって、こちらからお願いしているのに「出させてもらう」なんて、普通言わないじゃないか」

「あ……!」

「シノンさんは日本語を間違えるような人じゃないし……ふふ、案外、かわいいね、シノンさん」

「〜!」

 

ニタニタしながらシノンのミスを指摘する店主。

真っ赤になりながら、自分のミスを呪うシノン。

それを、好奇な目で見つめるラクスとカチューシャ……

 

ラクス達から見れば何をやってるんだろう…というような状態だったが、それはもう、彼らにとって日常になりつつあった。

 

 

シノンの初仕事、Bullet・of・Bullets(バレット・オブ・バレッツ)が始まるまで、残された時間ははあと少しである。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

度々すいません。
告知!『新キャラだします!』(またかよ)

またかよ、と思われた方、その通りです。
ごめんなさい!

えーと、予定としては、前回と同じ、「虹6S」(変に隠すのも放棄した模様)のキャラを数人かけあわせたようなものです。(またかよ)

少しだけヒントを出しますと、「感想欄を読んでみてください!」

あ、ちなみに、時期は決まってません。
キャラの形が出来上がり、登場を決定しましたので、報告させていただいた次第です。

乞うご期待!

では。

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Episode28 「彼」 〜"He"〜

「あ、あの、すいません!ちょっと道を……」

「……」

「あっ……!」

「何?」

 

彼がシノンに声をかけてきたのは、BOBエントリー最終日。

ビッグ・ボスとの訓練を終え、SBCグロッケンに帰ってきた直後だった。

 

いかにも「THE 初心者」な、初期の白服に黒く長い髪をした、一見女性のプレイヤーが、そこにいる。

 

シノンは、一旦「彼」を見たあと、服装や表情から、警戒を解く。

いつも話しかけてくる面倒くさい男プレイヤーではなく、初心者の女性プレイヤーと勘違いしたからだ。

 

「このゲーム……初めて?」

「あ……!」

 

そう、シノンが話を続ける。

だが「彼」は、固まっていた顔を少し動かすも、返事をしなかった。

 

シノンは、そんな彼の表情を見て、ふっと顔から冷たさを消し、笑顔を見せて、質問を変えた。

 

「どこに行きたいの?」

「ええっと……」

「ん……?」

「その……」

 

不明瞭な答えに、シノンが耳を傾ける。

だが、その後すぐに、ハッキリとした答えが返ってきた。

 

「はい。初めてなんです……。どこか、安い武器屋さんと、あと、総督府っていうところにいきたいんですが」

「うん……いいよ。案内してあげる」

 

シノンは一度考えた後、快く承諾する。

 

いくら裏世界に入ったとはいえ、これくらいなら別に問題は無いだろうし、もしこれがタスクなら、きっと彼もするだろう。

ボスがやるかと言われれば……微妙なところだが。

まあ、ついでに言えば、シノンが今からやろうと思っていたBOBのエントリーも総督府でやるし、一石二鳥だ。

 

そう考えて、シノンはまずは……と総督府へ歩き出す。

 

 

《あの子には悪いけど、しばらく誤解したままでいてもらおう……》

 

 

背後についてくる「彼」の、そんな思惑は、シノンはもちろん知る由がなかった。

 

 

歩き出してから、シノンは彼の事を沢山聞いた。

 

彼も、BOBに出るために総督府へ行くという事。

このキャラクターは、前までやっていたファンタジー系のゲームのコンバートである事。

銃の戦闘に、前から興味があるという事。

 

色々なことを聞くうちに、シノンはある名案を思いついた。

 

「……じゃあ」

「はい?」

「じゃあ、色々揃ってるとあるお店にいこうか。大きいマーケットでもいいけど、こっちの方が安いかもしれないし。それに……」

「……それに?」

「それに、あのお店ならあなたにピッタリの武器をくれるはず」

「へえ、そんなところが……!」

「そう、あるのよ。さ、こっち」

「はい!」

 

シノンはくるりと方向転換し、()()()へと歩き出す。

「彼」はその背中に素直について行った。

 

 

「ここ」

「へえ……」

 

方向転換して歩くこと2〜3分。

シノンら一行は、()()()……店主の店の前に着いた。

「彼」はその店の外見を見て、感嘆する。

 

「キレイですね……なんか、GGOのような汚れがない」

「まあここの店主さんキレイ好きだしね……さ、入って入って」

「は、はい!」

ガチャリ……

 

「彼」が、恐る恐る扉を開けて、中を覗きつつ入っていく。

すると、奥からあの優しい声が聞こえてきた。

 

「いらっしゃいませ〜……お、新人さんかな?よく来てくれたねえ」

「あ、ど、どうも……」

「ん?背後にいるのは……シノンさんじゃないか!ふふ、お友達かな?」

「あ……いや、歩いてたら声をかけてきたので案内を……」

「あら、そういうこと。なるほどね、通りでシノンさんの目がやさしいのか」

「え……?」

「「え……?」って……まさか自覚なし?」

「自覚?なんのです?」

「シノンさん、いつも怖い目をしてるじゃない?」

「しっ……!してません!」

「はは、冗談だよ」

 

店主とシノンの会話から、「彼」は、二人がよく会う仲だと推測する。

そんな思惑が顔に出たのか、いつしか「彼」は黙って彼らを眺めていた。

それを見つけた店主が、慌てて話を戻す。

 

「あ、ごめんごめん。さ、ここに座って?シノンさんは……どうする?」

「う〜ん……。店の中を見てます。この後、その子と総督府に行かなければならないので」

「OK。それじゃ、まかせて!」

「よろしくお願いします」

 

シノンはそう話して、3人の列から外れる。

残った店主と「彼」は、店主の案内で店の奥のカウンターに行き、そして、いつもの構図に収まった。

誰かがカウンターに座り、その机を挟んだ目の前に店主が立つ、この構図に。

 

明らかに緊張している「彼」に、店主は自分も椅子を持ってきて座り、向かい合って話し出した。

 

「改めて……と。ようこそ、僕の店へ」

「ど、どうも……」

「あっはは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。リラックスして?」

「は、はあ……」

「ふふ、そうそう、リラックスしてね……」

 

前に座る「彼」が、大きく息を吐く。

店主はそんな「彼」の行動を、優しい目で見守っていた。

 

そして、一旦落ち着いた所で、話を再開する。

 

「よしじゃあ、まず落ち着いた所で……名前から教えてくれるかな?」

「名前……!あ、あの、えっと……」

「ん……?」

 

笑顔の店主の前で、たじろぐ「彼」。

そんな「彼」から次の瞬間、店主も聞き覚えのある、いやむしろ聞いたことがない訳が無いあの名前が、彼の口から出てきた。

 

 

「キリト……です」

 

 

「ああ……!」

 

店主が内心で、彼の思考が全てが繋がったのは、言うまでもないだろう。

 

「そういうことね……」




いつも読んでいただき、ありがとうございます!
駆巡 艤宗です。

まず、更新遅れてごめんなさい!
最近何かと忙しく……はい、すみません。

で、次に、今回駄文感すごい気がします!ご指摘よろしくお願いします!
人に頼るな?はい、すみません。

……よし、やっと本題です。

今回は、とある事の報告とお礼をさせていただきます!

【お気に入り登録数、400達成!】

ありがとうございます!

書き始めた時は、ここまで伸びると思ってませんでした!
本当にありがとうございます!

まだ出せていない新キャラとご要望、どんどん登場させるつもりですので、どうぞお付き合いよろしくお願いします!

では。

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Episode29 質問 〜question〜

「……さて!キリトさん。今から、あなたに合った武器を選ぶために、3つだけ、質問します。いいかな?」

 

シノンに連れられてやってきたこの店で、「彼」ことキリトは、早速、その店主と武器選びを始めた。

 

「3つ……ですか」

「そう!あ、でも、そんな細かく聞くわけじゃないよ?簡単な質問さ」

「は、はい。なら……」

「ふふ、ありがとう」

 

店主は、優しい笑顔で話しかけてくるから、キリトも自然と笑顔になる。

 

したがって、和やかな雰囲気の中、話は進んでいった。

 

「よしじゃあ、まずは1つ目。あなたのステータスを教えて?」

「ステータス……ですか。ぼ……私はコンバートなので、だいたい出来てます」

「ほほう……と言うと?」

「えっと……筋力優先で、次に素早さです」

「なるほどね。メインがSTR(筋力)で、サブがAGI(俊敏性)……と。ふむふむ。そうすると、中距離戦闘がいいかなぁ」

「中距離……ですか」

「そう。いわゆる「アサルトライフル」をメインに持つタイプだよ。えっとね……あ、あれさ。あんな感じの銃」

「へえ……!」

 

首を傾げたキリトを見た店主は、そう言ってとある方向へ指を指す。

キリトは、素直に店主の指を指した方向に振り向いた。

するとそこには、「89式5.56mm小銃」という札が横に置いてあるショーケースがあり、その上によく見るような「銃」が置いてあった。

 

「あれが……」

「そう、典型的な「アサルトライフル」。銃っていうと、普通の人はあんな感じのものをイメージするんじゃない?」

「は、はい、確かに……」

「ふふ、だよね。銃って案外難しいからね……あ、そうそう。ちなみに、あれは、リアルでは日本製だよ」

「え……!?」

「日本の、陸上自衛隊の正式装備さ」

「え、あれが……!てか、そんな銃まであるんですか……!?」

「あはは、すごいでしょ?」

 

キリトは、流石に驚く。

このゲームが銃のゲームということは知っていたが、まさかそんな日本の銃まで実装されているとは知らなかったからだ。

 

……いやむしろ、日本で銃が生産されていること自体に、驚いたのかもしれない。

 

「へえ……GGOって、色んな種類の銃が揃ってるんですね……」

「ふふ……ま、銃なんて無限にあるようなもんだからね。この店にあるのはほんの一部さ。GGOにはもっとあるし、リアルの世界にはまだまだあるよ」

「そう……なんですか」

 

キリトが素直に感嘆する。

店主は、そんなキリトを相変わらずの笑顔で見ながら、話を戻した。

 

「さてと……キリトさんのステータスは分かったから……」

「はい」

「じゃあ、2つ目の質問。……というか、お願いかな。次は、一回そこに立ってみてくれる?」

「え?」

「ああ、いや、普通に立ってくれるだけでいいよ。ぴったりな武器を選ぶには割と重要なんだ」

「は……はい。なら……」

 

そこまで言われれば、と、キリトは席から立ってその場に直立する。

すると店主は、そのキリトの姿をまじまじと見だした。

 

机に肘をつき、ぼーっと眺めるような目をしつつ、キリトの体の至る所を見ていく。

 

「あっ……あの……」

「………」

 

そんな店主の視線に段々耐えられなくなりそうになっていく。

いくら彼とは言え、まじまじと見られるのは恥ずかしいのだ。

 

「………」

「………」

「えっと……!」

「………」

「う、うう……!」

「………」

 

そしてついにキリトが耐えられなくなりそうになった時。

 

「……よし、ありがとう!座って?」

「はっ……!はぁぁ〜」

 

やっと店主が、キリトを見るのをやめ、座るのを許可してくれた。

キリトは大きく息を吐き、さっきの椅子にすごすごと座り直す。

 

そんなキリトを見た店主が、優しい目で声をかけた。

 

「あはは、ごめんね、恥ずかしいよね。大丈夫、もうしないからさ」

「はい……」

「ふふ、ごめんってば」

 

カウンターに座り直し、俯くキリトを見て、再度謝る店主。

キリトは未だ俯いたままだったが……

 

「……でもね、おかげでよく分かったよ」

「え?何がです?」

「何って……君の事さ」

「……!?」

 

キリトは、店主の言葉を聞いて、何故かふっと店主に目を向ける。

そして次の瞬間、店主から、驚くべき言葉が飛んできた。

 

「キリトさんさ、さっきコンバートっていったけど……」

「……?」

「前のゲームってさ、ファンタジー系のゲームだよね?」

「な……!?」

「もっといえば、装備は剣だね?背中に背負うタイプのものだ。違うかい?」

 

キリトは呆気に取られる。

確かにコンバートの話をしたのは事実だが、それ以上の事は話していない。

ファンタジー系のゲームにいた事も、武器が背中に背負うタイプの剣である事もだ。

 

それなのに、この店主は、キリトをまじまじと見ただけでいとも簡単に見破った。

キリトには当然、疑問が生まれる。

 

「な、なぜそれを……!?」

「なに、簡単な事さ。君の視線や姿勢の癖から見抜いたにすぎないよ」

「姿勢……!?でも一体どうやって……」

「う〜ん、『長年の勘』って奴かな」

「か……勘……ですか」

「そう。……でもね、僕が分かったのは、これだけじゃないんだ」

「というと……?」

「僕はね、何でも分かる……というよりは、知っているんだよ。キリトさん……いや、」

「?」

「キリト()

「……!!」

 

キリトはさっと店主に警戒の目を向ける。

店主から、普通じゃありえないような異様な雰囲気を感じ取ったからだ。

 

今、店主は「知っている」と言った。

その証拠に、今まで女性を装ってきたのを簡単に見破り、わざとらしく「さん」から「君」へ言い直している。

 

もちろんキリトは、店主に対して問い詰めた。

 

「どういう事ですか?店主さん。何を知っているんですか?」

「どういう事って……そのままだよ。僕はあなたを知っている。あなたが何故ここに来たのか。誰に送り込まれたのか。そして今から何をしようとしているのか。そしてその協力者として、」

「……!」

()()()()()()()()()()

 

そう言って店主は、キリトをじっ……と見据える。

キリトはその視線に、キッと睨み返した。

その目には、あからさまな警戒心が宿っている。

 

そして店主は、満を持したように、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて、キリト君。最後の、3つ目の質問だ。君の探している人の名前。それは、」

「……!」

 

 

 

 

 

 

「『ビッグ・ボス』だろう?違うかい?」

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

その時の店主の言葉にキリトは、敵対心以外の何かを感じ取った。




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Episode30 二人 〜Two persons〜

『ビッグ・ボス』

 

それは、死銃の特定・捕縛を菊岡に頼まれたキリトが、この世界にやって来て真っ先に探そうとした人物。

 

菊岡の話では、彼は相当な実力者で、裏世界で恐れられているそうだ。

いつも、眼帯と鼻と口だけをカバーするタイプのガスマスクをつけ、恐ろしい手際で任務をこなす、凄腕のプレイヤー。

誰も素顔を見たことがなければ、使う武器すら分からない。

 

まさに、『プロフェッショナル』

 

彼は、この言葉そのものだ。と、教えられた。

 

だからキリトは、まず真っ先に彼を探そうと決意したのだ。

得体の知れない敵に一人で立ち向かう勇気は、SAOでつけたつもりでも、「今度こそ死ぬかもしれない」という恐怖が彼を襲ったからだ。

 

キリトは菊岡に、実に様々な質問をした。

 

彼はどこにいるのか。彼のリアルは分からないのか。

 

でも菊岡は、その質問に対して、()()すべて、こう答えた。

 

「今は、答えられない」

 

そしてその答えは、キリトには同時にこうとも答えたように聞こえたのだ。

 

「知っているが、教えられない」

 

と。

 

キリトは、その答えに落胆し、相当な葛藤を抱えそうになる。

 

ビッグ・ボス探しを優先するか、否か。

ビッグ・ボスの協力を得られれば、相当な優位性(アドバンテージ)を得られる事になる。

……が、だからと言ってビッグ・ボス捜索に明け暮れていては、時間が無い。

その間にも人の命が失われるかもしれないからだ。

 

そんなキリトの悩みが膨れに膨れ上がったその時に、菊岡は唯一、やっと手がかりを教えてくれたのだ。

 

「……実は、彼、ビッグ・ボスともう一人、こちらから派遣しているプレイヤーがいる。彼は今、ビッグ・ボスの支援を担当しているから、まずはそこから辿ればいい。彼の名は……」

「……!」

 

「『オセロット』。日本語で、『山猫』だ」

 

と。

 

 

「な、なぜその名前を……!」

 

話は戻り、キリトと店主との間で未だ続いている「ビッグ・ボス」についての会話。

 

店主はいつもの笑顔を引っ込めて真剣に、キリトはあからさまな警戒心を目に宿らせて、会話を続けていた。

 

「……なに、簡単な話さ。詳しくは言えないけど、僕は君を知っているからだよ」

「……」

「僕は、君の助けになりたいんだ。僕は決して敵じゃない」

 

そんな店主の発言に、釘を刺していくキリト。

 

「敵じゃない……?ならなぜ、ビッグ・ボスの名前を知っているんですか?彼は裏世界のプレイヤーでしょう?不自然じゃないですか」

「……」

「……?」

 

するとその時、いきなり、店主が黙り込む。

キリトがそれにつられて口を閉じると、店主がニヤリと笑って反論した。

 

「……ふふ、キリト君。その言葉、そっくりそのまま返す」

「……!」

「なぜ君は、コンバート初日にして、そのことを知っているんだい?」

「……!!」

「もっと言えば、彼は仕事のスタイル上、足繁くこの店通っている常連のプレイヤーですら名前を知らない。有名なのは、あくまで裏世界での話さ。なのに……何故?」

「そ……それは……!」

「……ふふ、こんな状況は、普通じゃありえない話だ。君は、何故かコンバートしたてなのに、裏世界の情報を持っている」

「……!」

「どう考えたっておかしい。でもそれは、()()のプレイヤーの話ならだけどね……」

 

店主は意味ありげに呟いた後、キリトをじっ……と見つめる。

キリトは、その視線に何もすることが出来なかった。

 

簡単にどんどん見透かされてそうになっていくキリトの事情。

店主の反論に対する驚きで、いつの間にか掻き消えた店主への警戒心。

 

どんどん話が進むにつれ、自分の事をどんどん知られているようで、キリト少し怖くなる。

 

ーもし、彼が死銃だったら……?

 

そう思うと、キリトは何も喋れなくなった。

 

……が、その話は突如として、店主の話へと移り変わった。

他の誰でもない、店主自身によって。

 

そしてそれが、この世界に来る前のある話と繋がる事になる。

 

「……でもね、キリト君。確かに君が言ったことは、僕自身にも当てはまる」

「は、はい。まあ……?」

「僕は君から見たら単なる小さな店の店主だ。それなのに、僕も彼の事を知っている……おかしいとは思わないかい?」

「ですよね……だから、その……」

「そうでしょう?どう考えたっておかしいよね。表世界のプレイヤー達はほとんど知らない裏世界の彼を、こんな小さな店の店主が知っている。でも、かと言って、僕が表世界のプレイヤーである証拠はない……という事は?」

 

店主が、キリトを試すような目をしてさ質問を投げかける。

キリトは、その視線を受けつつも考えた。

 

自分は、コンバート初日にして、裏世界の事を知っている。

なぜなら、自分は()()のプレイヤーとしてこの世界に来た訳では無いから。

 

店主は、小さな店の店主にして、裏世界の事を知っている。

だが何故、知っているのかは分からない。

 

この二つの姿を重ねた時、一つの答えが導き出た。

 

「あっ……!」

「ん?分かったかな?」

「まさかとは思いますが……」

「ふふ、いいよ、言ってごらん?」

「……店主さんも、僕と同じ、()()じゃないプレイヤー……ってことですか?」

 

その答えを聞いた時、店主が大きく息をついた。

まるで、「やっとか」というような、深い息を。

 

そしてやっと、キリトの探していた答えが、そこに現れた。

店主の、言葉となって。

 

「そう、その通りだよ。正解だ」

「……!」

「いいかい?キリト君。僕はね、実は彼と深い関わりがあるんだ」

「えっ……!?」

「君はきっと教えられているはずだ。ビッグ・ボスを支える、()()()()()()()()()()を。君を送り込んだ、菊岡さんから……ね」

「菊岡……!?って、まさか……!?」

「ふふ、分かってくれたかな?」

「……!!」

 

「そうさ。僕の名前はリボル。コードネームは、「オセロット」。ビッグ・ボスの支援担当だ。菊岡さんから聞いているよ。ようこそ、キリト君。歓迎しよう。」

 

「オセロット……!」

 

キリトは、信じられないと言うような顔をして店主を見る。

この人が、店主が、あの人物なのか。と。

 

もし本当にそうなら、キリトは相当の幸運に恵まれた事になる。

偶然声をかけたシノンに、偶然連れられてきたこの店で、偶然ビッグ・ボスへの第一歩をふみだせたからだ。

 

キリトが喜び反面、驚きを隠せずに呆気に取られていたのは、言うまでもないだろう。

 

 

そしてそれから、数分後。

 

さっきまでピンピンに張り詰めていた空気はもうそこにはなく、お互いに打ち解けあった二人が、そこで談笑していた。

 

話の内容は、もちろんビッグ・ボスについてだ。

 

「彼はね、武装を解くととても可愛いんだ。キリト君はシノンさんと同じくらいの背丈だから……。少し君より小さいくらいかな」

「そこまでですか!?」

「うん。顔も中性的で、とっても素直だよ」

「へぇ……なんか、想像できませんね」

「そりゃそうさ。だって、それが目的だからね」

「ああ、なるほど……!」

 

そういって、二人は笑い合う。

もちろん、店主はカウンターに立って、キリトは向かいに座る……という、あのいつもの構図でだ。

 

時折冗談を交えながら和やかに進んでいく二人の会話。

そんな中で、キリトがふと呟いた。

 

「ところで……ビッグ・ボスは今、どこにいるんです?」

「え……?ふ」

「?」

 

そんな呟き聞いた店主は、キリトを見つつ微笑む。

キリトはなぜ店主がそんな行動を取ったのかわからず、ただタジタジしてしまう。

 

そんな雰囲気が嫌で、キリトが店主に別の質問をした。

 

「なにか変なこと言いました?」

「いやぁ?そんなことは無いよ」

「え、じゃあ……」

「……あのね、キリト君」

「はい」

 

「彼は今、君の後ろさ」

 

「え!?」

 

キリトは、そんな店主の言葉につられて、後ろを向く。

するとそこには……

 

なんと、「彼」が、そこにいた。

 

 

 

「よう、あんたがキリトか。待たせたな」




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Episode31 高揚 〜Elevation〜

「ふぅ……」

 

時は戻って、キリトがシノンに連れられて店に来た数分後の時。

 

荒野に一人、溜息をつきつつ寝そべって、スナイパーライフルを構えていたプレイヤーに、一通のメッセージが入ってきた。

差出人は、「オセロット」。宛先に書かれたプレイヤー名は、

 

「ビッグ・ボス」だ。

 

そんな寝そべっているプレイヤーことビッグ・ボスは、構えていたいつものM82A3に安全装置(セーフティ)を掛け、メッセージを開く。

 

「オセロット?なにか動きでもあったのか?」

 

ビッグ・ボスは、そんな呟きを漏らしながらそのメッセージを見る。

するとそこには、こう書かれていた。

 

代理人(カットアウト)接触(コンタクト)。今からすぐ来れるか?ボスの位置は分かってるから、来るなら到着時間に合わせて会話誘導する。仕事は、放棄してもらって構わない。僕が何とか取り繕っておく。とにかく、来れるなら敵の追撃を気にしつつ、危険区域(ホットゾーン)を離脱、至急こちらに来てくれ』

「何……!?」

 

ビッグ・ボスはもちろんの事、目を見張る。

代理人(カットアウト)。つまりそれは、あの時菊岡からのメッセージに書いてあった、「送り込まれたプレイヤー」の事だ。

 

もちろん、ビッグ・ボスは即座に立ち上がり、こうしてはいられんとばかりにを右手にM82A3引っ掴んで走り出す。

 

そして左手のウィンドウに短く、

 

『すぐ行く』

 

とだけ打ち込み、即座にオセロットに送った。

 

それと同時に、右手のM82A3を背中に回し、ベルトに固定して、常人ならざる速度で走りだす。

 

そんな彼の背中には、いつもにはない「高揚」という感情が、微かにあった。

 

 

ドスドスドス!

 

重く低い音が、武器や装備の重たさを示すかのように荒野に響く。

丘を越え、平地を走り抜け、偶然遭遇したプレイヤーを有無を言わさず投げ飛ばし、SBCグロッケンへ、あの店へと走っていく。

 

そして、あのメッセージを受け取ってから数十分後。

 

「つ、ついた!……っとと!」

 

荒野を恐ろしい速度で止まらず駆け抜け、その間にタスクにもどった彼は、店主の店の前にやって来た。

 

スピードが出すぎたせいか、店の扉を少し通り過ぎてしまう。

 

「はぁ……はぁ……よし」

 

そんなタスクは一息ついて、腰を落とし、そしてゆっくりと、()()で店の中に入っていった。

 

 

「っ……!」

 

一方こちらは、店主とキリトの会話が終わるのを待つべく、ひたすら棚を見ていたシノンだ。

 

シノンは今、口に手を抑え、必死に驚きの反射で出てくる声を押し殺していた。

 

原因は、いきなり棚の影から現れたタスク。

腰を落として、無音でいきなりやってきた彼を見たからだ。

 

「……ー!」

「しーっ!」

「……!!」

 

そのタスクは、必死に口に人差し指を当てる。

シノンは、その指示をなんとか従おうと、必死に声を押し殺した。

 

そしてやっと、声が収まった時。

 

そのまま!棚をみててください!

りょ……了解っ……!

 

タスクから、小声で指示が出される。

シノンはその指示にこれまた小声で答え、従って、また棚を見るフリをした。

 

……のだが、シノンはふと、タスクの動きからとあることを思い出す。

そして、そのせいか、そそくさと奥へ進もうとするタスクを小声で呼び止めた。

 

ちょっと!ねぇ!

なんですか!?

あんた何しようとしてるのよ!

え!?いや、その……

またなんか企んでたわね!?

うっ……!

まさか、背後からなにかするつもり?

そ、そんなことは……

はぁ……どうせそうでしょ。やったらただじゃおかないからね!

わ……分かりましたよ……

 

厳しい目で追求するシノンに、がっかりそうにそう答えたタスクはそれからさらに奥へと進んでいく。

シノンは、そんな彼の後ろ姿を心配気に横目に見つつ、彼に与えられた「仕事」を、淡々とこなした。

 

ほらやっぱり。まったく……

 

タスクが過ぎ去った後で、小さく悪態をついたシノンは、自分の予測が間違ってなかったことを確信する。

 

あの時、シノンが思い出したのは、あのダンボール事件だ。

あの時もおそらく、店主と話している時に隠れて近づいて、自分を罠にはめたのだ。忘れるわけがない。

 

だから、彼がまた、ましてや(なぜか)なんの関わりもない初心者プレイヤーにそんな事をしないようにと釘を刺したのだ。

 

ダンボールだけは、やめてよね……

 

そうシノンは呟いて、「仕事」に戻った。

 

 

ふぅ……

 

シノンと一悶着した後も慎重に進み、遂にカウンター机に対して直角に置かれた棚の後ろまで来ていたタスクは一旦、小さく一息ついた。

 

ここから、なんとか上手くキリトの視界に入らず、なおかつ足音や気配を消して、後ろに回り込まねばならない。

 

そう考えると、ここが最後の休息ポイントだった。

 

……さて、どうしようかな

 

難しい状況を打破すべく、タスクが思考を巡らせたその時。

とある妙案が、彼の頭に浮かび上がってきた。

 

ダンボールはダメって言われたし……。あっ……!それだ!

 

タスクは、もちろん小声で呟いた後、その思いついたアイデアを実行すべくとあるアイテムをウィンドウを操作し、実体化する。

そのアイテムとは、タスクの体がすっぽり入るような……

 

「ダンボール」だった。

 

タスクは、恐らくシノンが想定していたであろう「ダンボールの奇襲」を逆手に取って、自らが被ることを思いついたのだ。

 

よし……いける!

 

ダンボールを被り、確信をポツリと呟いて、タスクはゆっくりと歩き出す。

 

キリトの視界の右端をギリギリかすめて直進、壁まで行ってゆっくりと右に90°方向転換し、キリトを右前に見る。

そしてそのままゆっくりと前進して、キリトの後ろを横切り、少し離れてその場で止まった。

 

そしてその後で、タスクがダンボールの中でビッグ・ボスとなり、ダンボールから這い出てキリトの背後に立つ。

 

それを一部始終キリトの背後に見ていた店主が、ビッグ・ボスが何もしようとしないのを察して、あの言葉を口にした。

 

「彼は今、君の後ろさ」

 

……と。

 

店主は、

 

「どうせシノンに何か言われたのだろうなぁ……タスク君」

 

とも察したのだが、口には出さなかった。




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Episode32 術 〜Way〜

「あなたが……!」

 

ポカーンとするキリトに、立ったままそれを見下ろすビッグ・ボス。

そんな彼らの初対面を、面白そうに店主は眺めていた。

 

「いつからそこに……!」

「さあな」

「さあなって……!」

 

ビックボスの素っ気ない返事に、キリトは状況をいまだ飲み込めずにいる。

……いやむしろ、飲み込める訳がないのだ。

 

 

今までキリトは、命を懸けた歴戦を幾多もくぐり抜けてきた。

SAO時代の『攻略組』としての仕事や、その他モンスターとの戦闘。

ゲームであって遊びではないあの世界で、キリトは嫌という程の様々な経験を味わった。

 

仲間や命の大切さ、それに伴う責任、時にぶつかり合う価値観の違いや、それと並行して表面化していく殺気。

 

そんな経験をしていく中で、キリトはいつしか人の動きや気持ちに敏感になってしまった。

 

敵がどこに隠れていて、誰が黒幕なのか。

背後から忍び寄る殺気を感じたり、何故かいきなり恐怖を覚えることもあり、そんな事が常に頭を駆け巡ったせいで一時は孤独を好んだ事もある程にキリトを悩ませた。

 

だが、彼はそこから、ある()()()に救われる。

それがきっかけで、彼はそれを克服し、新たな(すべ)身につけたのだ。

その敏感な感性を、正しく使う(すべ)を。

 

 

「だ……だって、気配も何も……!」

「そりゃぁ……そういう世界の人間だからさ」

 

そして今、あの時身につけたはずだった「気配を感じる(すべ)」を、あっさりと破られ、背後に立たれている。

だからキリトは飲み込めず、混乱しているのだ。

 

ー今まで、そんなことが無かったから。

 

「どうやってそんな……!」

「仕事の関係で身についただけだ」

「……!」

 

なんとか飲み込もうと、ビッグ・ボスに質問を投げるキリト。

だがその質問は、もちろん、あっさりと跳ね返された。

 

「ふふ……驚いたかい?」

「店主さん……!」

 

そんなしどろもどろしているキリトを見て、店主が面白そうに口を挟む。

その顔には、殺気や敵意は一切なかった。

キリトは、そんな店主の顔を見て、黙り込む。

店主も、キリトが話の助けを求めているのを察し、口を開いて話し始めた。

 

「まあ。ボスもこう見えて、実はかわいいからね。怖がらないで」

「オ……オセロット!」

「それと、ボス?彼は敵じゃないんだから……。そんな素っ気なくしなくてもいいんだよ?」

「だ、だがな……!」

 

ビッグ・ボスは、赤面して店主を見る。

キリトは、そんなビッグ・ボスの意外な顔に驚きつつも、話を進めてくれた店主に感謝した。

 

少なくとも今の会話から、ビッグ・ボスと少しづつ打ち解けていけたからだ。

そして、

 

 

ーそれから、話は早かった。

 

 

ビッグ・ボスやキリトのお互いの紹介から始まり、キリトの武器・防具選びやら、今後の予定、ビッグ・ボスや店主らからのキリトに対するサポートについてなどなど……

様々なことを話し合い、その様々なことを着々と決めていった。

 

そして、最後の項目が決め終わった時。

店主ら三人は、ふうと息をついた。

 

「ふぅ……さて、このくらいかな」

「そうです……ね。あとは何も」

「……だな」

 

三人は、三者三様の答えを返して息を抜く。

なこれでもう、話すこと何も無いだろう……と、話の、終わりを誰もが感じ始めた時。

店主がふと、()()()()を思い出した。

 

「あれ……そういえばキリト君ってさ……」

「はい?」

「今日……コンバートしてきたんだよね?」

「そう……ですけど」

「どうしたんだオセロット?」

 

店主の恐る恐る聞くその姿勢に、キリトはおろか、ビッグ・ボスまで怪訝な顔をして店主を見る。

すると店主は、時計をチラリと確認した後、明らかに焦った顔をして、キリトにその()()()()を質問として投げかけた。

 

 

「キリト君……B()O()B()()()()()()()した!?」

 

 

「あっ……!!」

「おい……!?」

 

キリトの表情から、「そんな事は全くしていない」のは明白だった。

 

店主は「やっぱり」と言わんばかりに時計をまた見る。

エントリー締切まであと少ししかない。

キリトは、はっとその事を思い出して、顔からサーっと血の気が引いていた。

……そしてそれは、棚越しに話を聞いていたシノンもである。

 

「やばい!!!」

 

そう叫んで、キリトと()()()は走り出した。

 

「ふふ……行ってらっしゃーーい!」

 

店主は、そんな二人の背中に声を掛ける。

その声は、しっかりと二人の背中を押した。




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Episode33 葛藤 〜conflict〜

バタン!

 

店主の店の扉が、勢いよく開けられる。

 

「やばい……!」

 

中から出てきたのは、黒髪ロングの()()、キリトだ。

彼は今、ものすごく焦っていた。

 

「間に合わない……!ってか、エントリーってどこでするの!?」

 

だんだん、彼の焦っている理由である、BOBのエントリーし忘れどころか、それ以前の問題まで発覚し出す。

 

「ええと……ええと……!」

 

そんな彼が、焦りと混乱の渦に巻き込まれようとした時。

 

バタン!

「ちょっと!ねえ!」

「ひっ……!?」

 

いきなり、背後にある店主の店の扉がまた勢いよく開いた。

キリトは、まさか自分と同じことをする人間がいるとは思わず、後ずさるどころか飛び上がる。

しかも、その人間が声をかけてきたのだ。反射的に顔がそちらへ向く。

 

そんな事をしてまで声をかけてきたのは、シノンだった。

 

「ねえったら!」

「シ……シノンさん!?」

「あんた、私を置いてくつもり!?」

「あっ……!!」

 

キリトは、シノンのあまりの怒り様に、少し狼狽える。

それもそのはず、キリトはここまで案内してくれたシノンなど、焦りからか、今の今まで視界に入っていなかったからだ。

確かに、悪いことをしたのは自分だが、それ以上に事態が切迫しているのも事実である。

 

もしここでBOB参加を取り逃せば、何が起こるかわからない。

そんな思惑を、キリトはシノンに説明しようとする。

 

……だが、その必要はなかった。

 

「で、でも……!!」

「分かってる!分かってるわよ!BOBに出るんでしょ!?」

「えっ……!?」

 

キリトは、一瞬固まる。

なぜ、シノンがその事を知っているのか。シノンにそんな話をした覚えはない。

 

「どうしてそれを……!」

「あっ……!いや、その、店の中だと、聞こえちゃって……そっ……そんなことよりも!エントリーする場所、分かってんの!?」

「そ、それは……!!」

「だから……その……案内してあげる!」

「ええ!?いいんですか!?」

 

シノンが何かを隠すようにどんどん話を進める中、ひょんな事から救いの手飛んできた。

なんか上手く話をはぐらかされた気もするが、それはいいとして、キリトはそれに飛びつかざるを得ない。

だが、それと同時に疑問も浮かび上がってきた。

 

「……でも、何故ですか?」

「え……?」

「何故、そんな、お店を飛び出してきてまで、案内してくれようと……」

「そ、それは、その……」

 

キリトの素朴な疑問に、シノンがふいっと顔を逸らす。

不思議そうに顔を見ていたキリトは、次の瞬間。

そんなシノンが放った言葉に、言葉を失った。

 

「だって……私も、出るから……その、忘れてて……!」

「……!!??」

 

今、シノンが放った言葉。

キリトが聞いたその言葉には、シノンがBOBに関する色んな事を知っている事の証明であると同時に、もう一つの事を意味していた。

 

まずキリトは、シノンがキリトがBOBに出ることを知っている理由を理解した。

シノンだって、BOBに出るということは並大抵のプレイヤーではないはず。

そんな彼女なら、あの狭い店内でBOBの話をされたら、自然と聞き耳を立ててしまうだろう。

それに、お互いエントリーを忘れているときた。

もうここまで状況が揃えば、一緒に行動してもおかしくない。

 

それはもう、分かりきっているのだ。

 

では、そのもう一つの意味とはなんなのか。

それは、「これから()()()は、シノンとキリトが対立しざるを得なくなる」ということだ。

 

もちろんキリトは、前提として無駄な争いは好まない。

勝ち上がるために他人を蹴落とす事はあっても、なんの利益も生み出さない戦いはしないのだ。

 

だが、今キリトは、その「()()()()()()()()()()()()()()()」対象になり得る人物の中に、ここまで案内してくれたシノンが含まれることを知ってしまった。

 

当然の如く、悩みが生じる。

 

いくら死銃を捕まえるためとはいえ、ある意味、ものすごく助けてくれた、そしてまた今から助けてくれるシノンに、そんなことは出来ない。

偶然とは言え、シノンがあの店まで案内してくれなければ、キリトは彼らに会うことは出来なかったからだ。

 

……が、シノンはそんなキリトの思惑など意に介さずに、そそくさに走り出す。

 

「こっち!急がないと間に合わないわ!」

「はっ……はい!」

 

キリトは、そんな葛藤を抱えた複雑な気分のまま、シノンに引かれるがまま走り出した。

 

 

……だがそれは、そんなキリトを引っ張っているシノンとて、同じだった。

 

その葛藤の種、それは、「店主からの仕事」である。

でもそれは、また後の話だ。




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Episode34 ウインク ~Wink~

「……熱源を検知。人の形よ。場所は、目標(ターゲット)背後2mあたり。オセロットに指示を要求して」

「……了解」

 

ここは、総督府の地下にある、BOB参加者待機エリアの個室の中。

とある男女二人組のプレイヤーが、照明を落としたその部屋でしゃがみ、女の方が何か腕についた画面のようなものを触っていた。

 

男の方は、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったいかにも「暗殺者(アサシン)」と言った感じのキャラクター。

女の方は、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、これまた目だけが見えるマスクをし、軍用セミフェイスヘルメットを被ったキャラクターだ。

そのヘルメットの下から、短く切った金髪が見て取れるが、遠くから見たらわからないくらいにしか見えていない。

 

そんな彼らは今、とある「仕事」のために、この部屋にいた。

 

「……どう?」

「返信が来た。『了解、帰投せよ』としか書いてないけど…いいのか?」

「いいわけない。だって、シノ……いえ、クワイエットのリアルがもろバレしてるのよ?」

「うん、だよね」

「でも、きっとオセロットも何かあるんでしょ。さっさと帰るわよ」

「……うん。じゃあ……熱源の方は?」

「あのクソ機械ドクロは知らないわよ。それは彼の……キリトくんとやらの仕事。彼の周りなら、監視のクワイエットに任せればいいの」

「そうだね……了解。オセロットには、『()()()()回収後、帰投する』でいい?」

「うん、いいんじゃない?ってか、いちいち私の指示を要求しないでくれる?」

「だってリーダーはおまえだし……」

「うるさいわね?はやくして」

「り……了解」

 

そんな少し「友達」とは違ったニュアンスを含めた会話を交わしたふたりは、また、別々の作業に移る。

 

そのニュアンスは、「仕事」だからなのか、それともまた別のものなのか。

 

そんな彼らが、今、仕事を終えようとしていた。

 

 

ピコンピコン!

 

エレベーターが指定された階に着いたことを知らせる音を鳴らし、扉を開ける。

 

中から出てきたのは、シノンとキリトだ。

同時に、BOB参加プレイヤーからの、恐ろしい視線を受ける。

 

「……」

「……!」

 

もう慣れた、と言わんばかりにしれっとしているシノンと、初めて来た上、シノンのすぐそばにいる故に、周りからの視線を集め、ビクリと怯えるキリト。

 

「……」

コツコツ……

「ああっ……待って……!」

 

そんな視線や、震えるキリトなどつゆ知らず、シノンは真っ直ぐ待機エリアの中にある個室へと歩き出した。

キリトは慌ててそれを追う。

 

参加者達も、さすがにシノンを知らない者はいない。

シノンはもちろんそんなこと承知の上であり、ビクビクと震えるキリトを後ろに、熱い、または違った視線を浴び続けながら歩いていく。

 

するとその時。

 

「……!?」

「……?」

 

シノンが()()()()()()()どのすれ違いざまに、いきなり立ち止まって後ろを向いた。

キリトもそれにつられて後ろを向く。

 

するとそこには、二人のプレイヤーが、エレベーターに向かって歩いている後ろ姿があった。

 

「どうか……しましたか?」

 

キリトが、そんな彼らの背中を見つつ、シノンに問いかける。

 

もちろん、キリトは彼らに会ったことはない。

それもそのはず、このゲームにコンバートしてきたのは今日なのだ。

 

シノンなら、そこそこの人脈があってもおかしくない。

なんてったってあの店主らの人脈ですら持っていた彼女だ。実際のところはそこそこ以上かも知れない。

だが、問題なのは、そのシノンですら会ったことのないプレイヤーを見るような目をしているのだ。

 

知り合いならその場で話せばいいし、知り合いでなければそもそも振り返らない。

なのに、いきなり振り返ったと思えば、その背中を明らかに驚いた目で凝視している。

 

どう考えても、辻褄が合わない。

だからキリトは疑問に思って質問したのだ。

 

するとシノンからは、キリトですら驚く答えが帰ってきた。

 

「あの……、先頭の女性プレイヤー……私にウインクして行ったんだけど……!?」

「え……?ウインク……!?」

 

キリトは、少し嫌な気配を覚える。

 

知らない相手から、いきなりされるウインク。

その行動は、SAOで少なからず身についた、「挑発」に対する感覚に引っかかった。

 

「なにか……怪しいですね」

「う……うん……」

 

お互いがお互いの仕事を持っている以上、あんな事をされたら放っておくのは少々怖い。

……が、彼らはもう、エレベーターで上の階に上がっていた。

 

キリトもシノンも、どこか引っかかるやな予感を押しのけつつ、仕事を続行せざるを得ない。

 

ただ、二人の思惑だけは、同じだった。

 

《彼女がもし死銃だとしたら、きちんとマークしておかなければならない》

 

という、思惑が。

 

そんな思惑から、キリトは死銃を捕まえる為、シノンはキリトを守る為に、「マークすべき」という共通の警戒意識が二人に芽生える。

 

だがその思惑は、二人とも、胸の奥にしまった。

お互いがお互いに、気づかれないように。

 

 

「ふぅ……とりあえずは、任務完了ってとこだね……」

「う……うん……」

 

ところ変わって、エレベーター内部である。

任務の完了に安堵の表情を見せているのは、()()彼らだ。

 

今回の任務で()()()()を使い、シノンにウインクをかました女性プレイヤーと、フードを目深くかぶった男性プレイヤー。

 

彼らもまた、裏世界のプレイヤーである。

 

そんな彼らのこなしたこの任務が、後に死銃事件の解決に多大な功績を及ぼすことを、彼らはおろか、シノンやキリト、はたまた店主やタスクまで、まだ知らない。




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Episode35 仕事の始まり 〜Bullet of Bullets start〜

「ふぅ……とりあえずは、手を打てたね」

「……だな」

 

時は戻って、キリトとシノンが飛び出して行った直後。

店内は、人の人数の減少と共にシーンと静まり返った。

そんな店内の中で、ポツリと呟くように話し出した店主と、それに、言葉を返すビッグ・ボス。

二人は()()()()、息を抜いていた。

 

「ふぅ……全く、最近の若い子は元気だね」

「そ、そうか?」

「タスク君だって、リアルでは元気じゃないか!」

「まっ……!まぁ、そりゃぁ……」

 

いきなりリアルの事を口に出され、すこし驚くビッグ・ボス。

店主は、そんな彼の動きを見逃さなかった。

 

「……ねえ、ボス?」

「なんだ?」

「よかったの?キリト君に言わなくても」

「……なんのことだ?」

 

どこか含みのある笑みを浮かべ、ビッグ・ボスの顔を覗き込む店主。

ビッグ・ボスはカウンターの回転椅子をくるりと回して店主に背を向けた。

 

「もう……分かってるくせに」

「……」

「リアル割れしたら面倒だよー?今のうちに言っとかないと……」

「でもなぁ……」

「それに、何にせよ言わなきゃね。()()()の君も、ボスの()()()も」

「……」

 

そこまで話して、店主が言葉を止める。

すると店主の視界には、さっきまであったゴツゴツしい背中はなかった。

代わりに、小さな背中がポツン…と。

 

「僕の、この正体を……ですか?」

「そうだよ、タスク君」

 

回転椅子をまた回して店主に向き合ったタスクは、店主を見上げるように見る。

店主は、そんなタスクの肩をポンと叩いて微笑んだ。

そしてまた、しみじみと話し出す。

 

「驚いたよね。僕らの代理人(カットアウト)が、まさか()()()でも()()()でも、すぐそばにいた人物とはね……」

「……」

「まあ、タスク君は実際、()()()にいた人たちの行く学校に通ってるからね。彼がすぐそばになるのは当然っちゃ当然なんだけど」

「ま、まあ確かに」

「ふふ……幸運なのか、運命なのか。それとも……」

「それとも……?」

 

 

 

「菊岡さんの、策略か」

 

 

 

「……!」

 

言葉に反応して、反射的にタスクは顔を上げる。

そんな仕草に少し驚いたのか、店主が数歩後ろに下がった。

 

「ふふ、冗談だよ」

「あ……そ……すみません」

「……やっぱりタスク君、かわいいよね」

「な……!」

 

いきなり飛んできた店主の間抜けな言葉に、取り乱すタスク。

そんな彼らの顔には、いつの間にか笑顔が咲いていた。

 

 

ーそしてそれから、数十分後。

 

いつの間にかカウンターには、店主と、その隣のタスクはもちろん、ラクスとカチューシャが。

それに加えて、フードを深く被った男プレイヤーと、シマシマパーカーと防弾チョッキを着た女プレイヤーが、所狭しと座っていた。

 

……この男女二人は、何を隠そう、「彼ら」である。

 

「……さぁ、そろったかな?もう……そろそろだね」

 

そう言って店主は、一度カウンターを見回した後、そのカウンターの反対側にある壁についていたディスプレイを起動する。

 

同時に、カウンターに座っている6人も、くるりと椅子を回転させてそちらを見た。

 

するとちょうどその時。

 

『3……!2……!1……!』

 

まさに今、BOBのスタートカウントダウンが始まっていた。

 

「お、ぴったしだ」

 

ラクスが楽しそうにディスプレイを見つめつつ呟く。

そして。

 

『第3回、Bullet of Bullets(バレット・オブ・バレッツ)!スタート!』

 

今、第3回目の、そしてシノンの初仕事である「BOB」の幕開けを、画面の中の獣耳の少女が宣言した。




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Episode36 光剣 〜Photon sword〜

「……お、キリト君じゃん」

 

ワイワイと盛り上がる店主の店。

 

前の試合の終了に合わせて切り替わった画面を見て、ラクスが口を開き、それに釣られるように、その場にいた全員がディスプレイに注目した。

 

店主やラクスは適度な頻度でコメントし、カチューシャやタスク、その隣に座る男女のプレイヤーは、無言でディスプレイを眺めている。

 

そこに映ったのは、体の大きさピッタリの石柱に背を預けたキリトだった。

彼は今、目を閉じて、集中するかのような仕草を見せている。

 

「ふふ……キリト君、早速やるね」

 

店主は、そんなキリトを見て、面白そうに目を細める。

そして次の瞬間、キリトが石柱から飛び出した。

 

そのワンテンポ後に、店内に一斉に疑問の声が広がる。

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

それもそのはず。

 

石柱から飛び出し、敵の位置へ体を晒しながら向かっているキリトが手にしている武器は、フォトンソード、いわゆる光剣だったからだ。

 

ディスプレイの中のキリトには見えているであろう、弾道予測線(バレット・ライン)をよけながら、敵に迫っていくキリトの片手に光る剣。

 

どう考えたって、むちゃくちゃである。

 

すかさず、ラクスが店主を見た。

店主は、面白そうに目を細めながらラクスを見返す。

 

「て……店主さんまさか……!」

「ん……なんだい?」

「キリトくんにフォトンソードを勧めたんですか!?」

「もちろん!」

「はいぃ!?」

「はは、そんなに驚くことでもないよ。彼にはあれがぴったりだったし……」

「い、いやまぁ、彼がSAO攻略者ってのは知ってますけど、流石にこの世界で剣は……!」

 

ラクスが半分焦った口調で店主に言葉を投げかける。

 

それは無理もない。彼自身だって、ちゃんとした裏世界プレイヤーだ。

キリトがもし、このBOB予選から落ちたりでもすれば、死銃に対する作戦を練り直さねばならないからである。

 

それだけは、絶対に避けたいし、避けなければならない。

なのに、早速突拍子もない武器を片手に、敵へ突撃し始めたのだ。

事情を知っている者ならば、裏世界プレイヤーではない者だろうが何だろうが、誰だって慌てるだろう。

 

それは、カチューシャ達も同じだったようで、同じく店主の方を向いている。

……ひとり、タスクだけは、ディスプレイから目を離していなかったが。

 

タスクはさておき、それ以外のプレイヤー全員からの視線を浴びている店主は、なおも落ち着き払ってラクスを見ていた。

そして、

 

「……ふふ」

「……なんです?」

「果たしてそうかな?」

 

自信と、確信ありげにラクスに言葉を投げ返した。

 

その余裕さに何かを感じ取ったのか、ラクス達はまたディスプレイに向き直る。

 

するとそこには、いつの間にか勝負がついたのか、「Congratulation!」の白文字を眺めるキリトの後ろ姿があった。

 

「あ……れ?勝ってる……」

「ふふ……ね?」

 

ラクス達はポカーンとしたままディスプレイを眺め、店主が微笑みながらそれを見る。

 

そんな中で、ディスプレイは「REPLAY」と書かれた見出しとともに、先程のキリトの戦闘シーンをもう一度映し出した。

 

 

石柱に身を預け、目を閉じるキリト。

 

この行動自体は、ラクス達もよくする行動だ。

精神世界であるこの世界において、精神を安定させ、研ぎ澄ませれば、どんな些細な音でも、動きすらも感じ取ることが出来るからだ。

 

いわゆる、「上級者テクニック」と言われるものである。

 

そしてキリトは、そのまま少し静止した後、何かを感じ取ったかのように突撃を始める。

フォトンソードを展開し、敵の方角へまっすぐと突っ込んでいく。

 

するとその前方から、当然のように一つの人影が立ち上がった。

もちろん、銃を構えた敵である。

 

敵が、フォトンソードとかいう、この世界では正直言って需要のないような武器を片手に突撃してきたのだ。

どう考えたって有利なのは自分である。

だから、敵は体を起こし、立った状態でキリトに発砲したのだ。

 

タタタン!タタタン!

 

と、軽快な3点バーストの発砲音と共に、キリトに鉛玉が飛んでいく。

 

「あぁ……!」

 

ラクスが、内心「ここで蜂の巣に…」などという、事実と全く正反対な予測から、哀れみの目を()()()()()ディスプレイに向ける。

もちろん、キリトは蜂の巣になどならなかった。

 

ヴォンヴォン!

パキン!パキン!

「なっ……!?」

 

代わりに聞こえてきたのは、フォトンソードを振るう時の独特な音と、何かが弾き飛ばされた音。

 

ラクスは、それを瞬時に理解し、ポカーンと口を開けた。

それは、カチューシャ達も同じだったが。

 

「ま、まさか……」

「そう。」

 

事実を確かめるように、ポツリと呟くラクス。

店主は、その呟きに相槌を打つと、ラクス達の持ち続けていた疑問のその答えを、にこやかに口に出した。

 

「彼は、銃弾を剣で弾き飛ばしてるんだよ」

「……!」

 

ラクスは、なにか言いたげに口をパクパクし、何とか押し止める。

彼も彼なりに、納得したのだろう。

 

そんなラクスを見た店主が、後付のような形で、さらに突拍子のない事を口にした。

 

「ちなみに、フォトンソードを勧めたのは僕だけど、この戦闘スタイルを編み出したのは、タスク君だよ」

「え……!?」

「て……!店主さん!」

 

タスクは、頬を染めながら店主を見る。

だがその方向には、店主の他にもラクスやカチューシャ達がいた。

 

結果、タスクは彼らと目を合わせざるを得なくなり、みるみる赤くなる。

 

今、彼らの目は、「若いなぁ」とか、「かわいいなぁ」とか、まるで少年を見るような目。

仕事の時のビッグ・ボスを見る目とは、正反対な目線だった。

 

タスクは、リアルでは高校生。だけどアバターはそれより年下に見える少年。

もちろんそんな目線に耐えれるはずがなく、恥じらいが出てしまう。

 

「またまた……タスク君のとんでもないことを考える才能が発揮されたね」

「〜!」

「若さからなのか、経験からなのか……ねぇ?」

 

ラクスの言葉が、そんな恥じらいによる瀕死のタスクにとどめを刺していく。

 

タスクは、顔も耳も、真っ赤っかに染めて、机に突っ伏してしまった。




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Episode37 座標 ~Coordinate~

「っ……!」

 

今まで閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。

 

見えたのは天井で、アミュスフィアの半透明な赤いカバーを通しているからか、少し赤みがかかっている。

 

そんな天井を眺め、ふぅと一息ついた内嶺 祐、つまりリアルのタスクは、アミュスフィアを頭から外し、ベッドから起き上がった。

 

そう、たった今、タスクもといビッグ・ボスは、現実(リアル)に帰ってきたのだ。

 

パタパタパタ…

 

聞き慣れた床をスリッパで歩く音と共に、こちらに近づきながら声をかけてくるのは、タスクの母親である。

 

「タスクー?()()()のー?」

 

そんな事を言いながら、近づいてくる足音。

そして、その足音が止んだと思ったら、タスクのいる部屋の扉が空いた。

 

「タスク……?あ、いたいた。おかえり」

「ん……?ただいま」

 

タスクは、扉からひょこっと顔を出した母親の言葉に返事をする。

するとその母親は、ニコッと笑って、着ていたエプロンのポケットから封筒を取り出し、タスクに差し出した。

 

「はいこれ」

「……え?」

「菊岡さんから」

「え!?」

 

しれっと言われた名前が、意外すぎる人物だったからか、タスクはベッドから飛び上がってその封筒を受け取る。

そしてその封筒を手に取った時、母親が部屋から出ていこうとしながら話し出した。

タスクも、それに続いて歩き出す。

 

「それね、わざわざ菊岡さん本人が来て渡してくれたの。なんの封筒か知らないけど、()()()()()()と……」

「へ、へぇ……」

 

タスクは、相槌をうちながら、封筒を上から下からとひっくり返したりして眺める。

 

「私もね、最初はメールとかSNSでやれるじゃんと思ったけど、そんなまさか本人まで来て手渡しって事は、それだけ重要なことなんじゃないかなと思ってさ」

「……たしかに」

「ま、今の世の中バーチャル世界含め、そこら辺の世界は何が起こるかわからないからね……。ほら、今あんたも、何か問題に当たってるんでしょ?えーと、です……」

死銃(デス・ガン)ね」

「そうそれ。そっちはどうなの?封筒もそれ系統っぽいけど……」

「うん……」

 

タスクとその母親は、そんな会話をしつつ、リビングへの扉を開ける。

そして母親は台所へ、タスクはその前にある食卓に座った。

 

「今、作るからね、少し待ってて」

「はーい……」

「あっ、タスク?今何時?」

「えーと、19時」

「19……7時ね。ありがと」

「ん」

 

今度は、先程までの会話とは打って変わって普通の会話をしつつ、それぞれ作業に入る。

 

その光景は、まるで部活帰りの息子と遅い時間ながらも夜ご飯を作る母親という、家庭によくある光景そのものだった。

 

タスクの母親はさておき、タスクは封筒を手に取り、びりびりと封を破りつつ、中を覗く。

 

「……?」

 

そしてその中に入っていたのは、一枚の折りたたまれた紙だけだった。

タスクは、不思議に思いつつその紙を封筒から出し、広げる。

 

するとそこには、

 

『やぁ、タスク君。元気かな?いつも御苦労様。この文章を読んでいるのならば、きっと君は今現実(リアル)世界にいるのだろうから、ゆっくりと休むんだよ?

 

さて、今回、このような形で君に連絡したのは、今から書くものが、そこそこの機密情報だから。SNSじゃいつ傍受されてもおかしくないからね。そこをご理解頂きたい。

 

その情報とはね、明日、つまりBOB本戦当日に、とあるところへ来て欲しいんだ。場所の座標は、下に書いてある。

 

この事は、もうタモンさんにも伝えてあるから、詳しいことは彼に聞いて、その座標地点まで行ってほしい』

 

……というような、まずはお決まりのような挨拶から始まって、連絡の本件がつらつらと書かれていた。

 

まぁ、本件といっても前置きのような文章が並んでいるだけで、何が何だかさっぱりなのだが。

そんな挨拶と前置きの文章を読み終えたタスクは、すっと視線を下に送り、その「座標」を読み取っていく。

 

そして次の瞬間、タスクは気づいた。

 

座標情報が示している先、それが『ALO』、つまり、

 

 

ALfheim Online(アルヴヘイム・オンライン)

 

 

である事に。

 

「なっ……!?」

 

もちろんタスクは唖然とする。

 

座標情報を読み間違えた訳では無い。SAO時代から、ゲーム内座標は幾度となく読み、その場所で任務をこなしてきた。

そしてその経験は、SAOから脱出したあとも、GGOやその前の仕事のゲーム内外で、数え切れないくらい使ってきたのだ。

 

その回数は、タスクは座標を一目見るだけで、()()()ゲームなのか分かるようになってしまうほどに。

「ザ・シード」で基盤が同じとは言え、各ゲームごとに少しづつ違う座標の特徴を、覚えてしまったのである。

 

そんなタスクが今更読み間違える訳もなく、その読み取った結果が、「ALO」だった。

 

「どうしてまた……はぁ……。」

 

タスクは、深いため息をつき、紙を折り畳もうと手を動かす。

……が、紙の一番下に、まだ文章が残っているのを見つけた。

 

「……?」

 

もう伝えることもないはずだ。タスクは疑問に思い、また紙を開いて今度はその文書を読む。

 

するとそこには、こんな事が書いてあった。

 

『追記 タモンさんから聞いたけど、最近タスク君、シノンさんとイチャイチャしているそうじゃないか。

いくら年頃とはいえ、若い衝動を暴走させないように』

「……(ブチッ)」

 

タスクは、無意識に紙をクシャクシャにし始める。

 

そして、ゴミ箱に投げようとしたすんでのところではたと座標情報が頭をよぎった。

 

「っ……!!」

 

結果、タスクはその手を無理やりズボンのポケットに突っ込み、何とか捨ててしまいたい衝動を抑える。

 

「全く……!」

 

タスクのそんな悪態は、ちょうど完成した夜ご飯を持ってきた母親をくすり、と笑わせる。

母親は、まるですべてを分かっているかのようだった。




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Episode38 ロングマガジン 〜Long magazine〜

「なんなのよ、あいつ!」

 

BOB予選の次の日。

 

本戦開始の少し前からログインし、店主の店にやってきたシノンは、早速怒りを顕にしていた。

 

「ま、まあまあ。あれはあれでなかなか……」

「店主さん!そこは口出さない方が……!」

 

店主がなだめに入るも、余計な事を口走りそうになってタスクに止められる。

 

そう、シノンは今、自分の仕事である、「キリトの監視・援護」の対象、キリトに対し、憤慨しているのだ。

 

理由は、多々ある。

 

シノンの話によれば、

・裸を見た

・性別を偽った

・情報交換という名の一方的なシノンからの情報提供

・試合中に後ろ腰にタッチ

などなど、店主やタスクが聞いても苦笑いな苦行をぽんぽんとしているらしい。

 

もちろん、あのキリトが。

 

店主やタスクに関しては、一番下の「試合中に後ろ腰にタッチ」は、昨日ラクス達と完全に生中継ディスプレイを通して見てしまっているので、容認せざるを得ない。

 

これについては、その光景が映った瞬間、タスクに対して店主達全員から気まずい目線が送られてきたという、弊害も発生しているため、タスクにとっても許せない(訳では無いのだがとりあえずそういう名目な)のである。

 

「あいつ!絶対に敗北を告げる弾丸の味を味あわせてやる!」

「ま、待って!それは仕事が……!」

「店主さん……!」

 

怒りのあまり、仕事すら放棄して復讐に燃えるシノン。

そんな彼女に、店主が止めに入るが、タスクがまた押し止める。

 

そんな光景が、ひたすら続いていた。

 

 

「ふぅ……」

「お……落ち着いた……かい?」

 

それから、約10分後。

 

シノンは、やっと怒りが収まっていた。

背後には、心底疲れたような、またどこかほっとした表情のタスクと店主が机に突っ伏している。

 

「はぁ……はぁ……シノンさん、怒ると怖いね……ってか、怒りっぽいのかな?」

「また……!店主さんが余計なこと言うから……!」

「何か言いました?」

「「いえ何も」」

 

シノンがくるりと振り返り、そんな店主たちを心配そうに見るが、彼らは本心を話さない。

 

理由は明白。本心を話してしまえば、またシノンの怒りが再燃するからだ。

 

「そっ……そうだ!シノンさん!もうすぐ本戦だよ?」

 

そしてその再燃しかねない話題を無理矢理曲げるかのように、店主が話を変える。

 

シノンは、そんな店主の声を聞き、はたと時計を見ると、こくりと頷いて俯いた。

 

「「……?」」

 

そしてシノンは、先程の怒り狂った表情とはうって変わった、どこか儚げな顔をして、深呼吸を繰り返す。

 

そんなシノンを見たタスクと店主は、ふとその仕草の意味に気づくと、顔を見合わせて微笑んだ。

 

「ふふ……なんだ、やっぱり緊張してるじゃないか」

「ま、初の単独仕事ですしね」

 

タスクは、分かりきっていたように笑う。

 

「誰だって怖いですよ。なんてったって、()()()()()()()()()()()()()……」

「そうだよ……ね。SAO時代のタスク君そっくりだ」

「な……!!」

 

店主の悪戯な笑みを恨めしく見るタスク。

だが店主は、そんなタスクの視線などつゆ知らず、いきなり左手を操作しだした。

 

「……?」

 

タスクは、先程までの視線を引っ込め、今度は純粋な疑問の目を店主に向ける。

すると、店主の手に、あの()()()()()()()が現れた。

 

「それって……!」

「そう。シノンさんの、G18のやつ」

「……!ふふ」

 

店主の意図を察したタスクは、自らも左手を操作し始める。

 

そして、すべてゲームシステムに任せ、椅子に座ったまま、()()()()()()

 

 

「シノン?」

「……!?」

 

いきなり聞こえてきた、そして()()()()()低い声に、シノンは飛び上がるように反応した。

そしてその声の主を、瞬時に視界に収める。

 

そう、もちろんそこには、ビッグ・ボスがいた。

 

いつものガスマスクに眼帯をつけ、ゴツゴツしいスーツを身にまとった、あのビッグ・ボスが。

 

「ボス!?」

「……なんだ、いちゃダメか?」

「い、いやそんなことは無いけど……!」

 

シノンはおろおろとして、いきなり現れたビッグ・ボスにどう反応すればいいか分からない。

 

そんなシノンを見たビッグ・ボスは、シノンの隣のカウンター席に座ると、おもむろに左手を操作し、ストレージからあるものを取り出す。

 

それを見たシノンは、驚きの目をしてボスとそれを交互に見た。

 

「え……!?それって……?」

「ロングマガジンだ。G18の。オセロットに預けたまんまだったろ?」

「ま、まぁ……」

「今回はこれを使え。弾は俺の奢りだ。全部満タンにしてある」

「奢りって……!?」

「マガジン内のスプリングもチューニング済みだよ?給弾が良くなるはず」

「店主さんまで……!」

 

いきなり飛んできた二人の優しさに、シノンは緊張が解れていくのを感じる。

 

それが顔に出たのか、ビッグ・ボスと店主も内心でほっとした。

 

「BOBの本戦は、いつものフィールドと違う。牽制用にばら撒いた所で戦況は変わらない。逃げると言っても限界があるし、接敵時の危険性が上がるだけだ。だからこれは、()()()()()()()()()()()()()使え」

「ボス……!」

 

ビッグ・ボスが、ロングマガジンを手渡しながらそんな説明を重ねてくる。

店主も、それを微笑みながら見守っていた。

 

そして、シノンの顔がいつも通りの、なんの気負いもない顔に戻った時。

 

「シノンさん、時間だ」

「……!」

 

ついに、BOB本戦に向かう時がやって来た。

シノンは、すっとカウンターから立ち上がり、店の出口へと歩いていく。

 

そして、その扉に手をかけた時。

 

「シノン!」

「!」

 

 

 

「楽しんでこい!幸運を祈る!」

 

 

 

「……!ええ、もちろん!」

 

ボスの激励とともに、死銃との決着の場へと送り出された。

 

 

 

そして、そんなシノンの背中が見えなくなった時。

 

「……さて、僕らも行こうか」

「ああ。」

 

店主とタスクが互いに頷き、左手のウィンドウから、二人同時に()()()()()を押し、二人が光の粒になって消えた。

 

 

BOB本戦開始まで、あと少しである。




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Episode39 ALO 〜ALfheim Online〜

「ふう……おまたせ。ごめんね、意外と時間かかっちゃった」

「はは……、別に構いませんけど、なんで飛んでこなかったんですか?」

「で、できなかったんです……」

「……ふふっ」

「あっ!ねぇ!今笑ったでしょ!」

「わ、笑ってません!」

「笑ったなぁー!?」

 

そんな仲の良い会話が、抜けるような青空に、色彩鮮やかな自然あふれる世界で繰り広げられる。

 

そこには、二人の()()がいた。

 

一人は青緑の髪をした小柄な体型のキャラクター。

そしてもう一人は、砂漠のような黄土色の髪をした大柄なキャラクターだ。

 

そして二人とも、ケモ耳とかわいいしっぽを持っていた。

 

もうお分かりだろう、タスクと店主である。

彼ら二人は今、GGOからコンバートしてきたのだ。

 

そう、つまりここは、菊岡にタスクがリアル世界での封筒を通して示された場所が存在する世界。

 

ALfheim Online(アルヴヘイム オンライン)

 

通称「ALO」だ。

 

この世界では、プレイヤーは合計9つの種族の「エルフ」に分かれ、お互いに争いあいながら、世界の中心である「世界樹」の上にある「空中都市」を目指して冒険する。

 

このゲームは、異種族間の戦闘はむしろ推奨され、一度フィールドに出れば、そこかしこで戦闘が行われているのだ。

 

とはいうものの、この世界にもちゃんと中立的な区域があり、いくら異種族同士でも、そこでは一切の攻撃行動ができなくなっている。

 

さらにぶっちゃけて話してしまえば、各プレイヤー達の敵はもっぱらモンスターであり、異種族同士でパーティーを組んで戦いに行くことも多いらしい。

 

結局、自分の好きな種族になって、気の合う友達妖精と自由に空を飛び回り、時に剣や魔法を交えて敵と戦い、ファンタジー世界で生活する。

そんなゲームが、この「ALO」なのだ。

 

ちなみに、タスクと店主は、二人とも「ケットシー」という、動物に似た種族である。

 

「なんでまたこんな世界に菊岡さんは……?」

「さあねぇ。菊岡さん、割とこういう世界がお好きなのかな?」

 

そんな世界にやってきて、ケモ耳としっぽつきのかわいい姿となったタスクと店主は、周りを見回しながらそんな推測を立てたりする。

 

彼らは暇さえあればGGOにいるような人間だ。

こんな彩り豊かな世界に来たのはSAO以来だった。

 

「で、僕は座標情報を持ってますけど、店主さんは時間を知ってるんですよね?」

「うん。まあそのほかにも色々と細かい情報はあるよ」

「というと?」

「なんかね、その場所には、とあるプレイヤーが来るらしい」

「ほうほう……」

「背が高くて、眼鏡をしているそうだ。髪の毛は水色だと」

「なるほど」

 

そんな世界なのにもかかわらず、早速、「仕事」をこなそうと動き出す二人。

彼らは今でも「仕事中」。ささっと動くに限るのだ。

 

タスクは菊岡に、リアルで座標を教えられた。

対して店主は菊岡に、リアルでその座標に来て欲しい時間を教えられたらしい。

 

また、その他にも店主は、現にそこにプレイヤーが来るだのなんだのと、細かい情報が教えられていた。

タスクが菊岡に言われた、「詳しくはタモンに」とはこの事だった。

 

とはいうものの、最も重要な「座標」だけは、タスクだけに渡されたのである。

菊岡曰く機密保護のためらしいが、二人はその行動に、「二人で来い」という、彼のメッセージを感じた。

 

結果、二人はシノンをBOBに送り出した後、すぐコンバート。

「なんでBOB本戦当日に……」という不満がないわけではないが、むしろ今日だからこそ、この呼び出しは死銃事件と関わりがあるという事を想像できた。

 

「ふぅ……お店はラクスさんに任せたし、シノンさんも緊張の解けたいい気持ちで臨ませる事ができたから、とりあえずは心配はないけど……」

「不足の事態が、一番怖いですね」

「……そう、その通りだ」

 

店主はポツリ、と不安を漏らす。

 

大体の仕事が計画通りいかないのは、二人もラクス達もシノンもわかっている。

だが、今回に関しては人の命がかかっているのだ。

 

だからこそどうしても、不安が残ってしまう。

 

「まぁ、シノンさんを信じましょう、彼女ならきっとうまくやってくれるはずです」

「……そうだね、ボス」

「ボス?」

 

店主がポツリと漏らした言葉に、タスクがすぐさま反応する。

 

今は二人とも表世界用の状態。お互いを「タスク君」と「店主さん」と呼び合う状況だ。

 

まだシノンのような新入りなら分かる。

コードネームとキャラネーム、下手すれば本名を、状況によって即座に使い分けるのはなかなかの慣れが必要だからだ。

 

だが、今ミスをしたのはあの「店主」だ。

普段から様々な面で表と裏の使い分けをこなしているはずの店主が、間違えたのである。

 

「………あっ!」

 

店主が、やっと自分のミスに気づく。

そして、はは…と呟きながら後頭部を掻いた。

 

そして、言い訳じみた原因を話し出す。

 

「い、いやね、こんな色鮮やかな世界で、仕事だと思うと、なんだかSAO時代を思い出してしまってね……ついつい言ってしまったよ」

「ああ、そういうことですか」

 

タスクはすぐに納得し、苦笑いを返す。

 

そう。彼らがこんな色鮮やかな世界に来たは実質SAO以来。

そんななかで仕事をするとなると、どうしてもその時の癖が出てしまうのだ。

 

「懐かしいね……SAO」

「……はい。かれこれ何年でしたっけ?」

「え……と、わかんないや!」

「店主さんもボケですかね……」

「ま、まだそんな歳じゃ無いから!ねぇ!」

「はぁ……時が過ぎるのは早いものですね……」

「ねぇちょっと!それどういう事!ねぇ!」

 

タスクのしみじみとした呟きに、異常な敏感さで反応する店主。

そして、それを横目に更にため息混じりで続けるタスク。

 

そんな仲の良い二人は、かれこれ歩き続け、いつの間にか、あの座標の位置へと、辿り着いていた。




お気に入り600人!!!ありがとうございます!!!
これ関連の話はTwitterの方で行ってますのでよろしくお願いします。

そろそろ新キャラを表に出さないと…(焦り)

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Episode40 菊岡 〜Chrysheight〜

「んー、もうBOB始まってるかなー?」

「まだ……じゃないですか?あとちょっとですけど」

 

そんな雑談をしながら、妖精なのになぜか歩いている、ケットシーのタスクと店主。

 

そんな彼らは、いつの間にか菊岡に示されたあの「座標」の位置へと歩いてきていた。

 

「あっ!ここです!」

「え?ここかい?これまたたいそうな……」

 

そう言って、二人はそこで上を見上げる。

 

するとそこには、大きな「建物」があった。

窓を見ると、中にわいわいと多種多様な妖精が賑わいを見せている。

 

「まさか、こんな所で話すんじゃないだろうね……?」

「たぶん、そのまさかだと思いますけどね」

 

店主が、冗談めかして苦笑いする。

 

そう、そこは、いわゆる「酒場」だった。

「VRMMOに来てまで酒かよ!」と思うかもしれないが、よく考えてみれば、そこにしかない酒だってあるかもしれないのだ。酒場だってあってもおかしくない。

それに、VRMMOなら飲食物の感触はすべて擬似的なものだ。

未成年が飲んでもなんら問題がないため、少し背伸びしたいお年頃の青年達に向けても、需要は割とあるのかもしれない。

 

かといって、タスクはもちろん、店主も酒はあまり好まないから、別に酒自体は問題ではない。

 

店主が苦笑いする理由であるその「問題」。それはつまり、「機密保護」のためである。

 

菊岡に、()()()()()使()()()渡されるほどの情報だ。

そこそこの機密があると言っているようなものなのだ。

そしてその指定場所がこの「酒場」と来た。

 

本当に大丈夫なのか、と心配にならない方がおかしい。

 

「全く……あの人は何を考えているのやらね」

「え?」

 

そう呟きながら、店主はその酒場の扉に手をかける。

タスクはもちろん戸惑った。

 

「は、入るんですか?」

「もちろん」

「時間がいつかは知りませんけど、外に入れるなら外にいた方が……」

「それもそうだけど、正直時間はもうすぐだし、それに……ほら?」

 

店主がニコニコしながら扉の方へと視線を向ける。

するとそこには、扉を中から開けた一人の若い青年の妖精が立っていた。

 

「旦那ら、なんで店の前でずっと突っ立ってるんすか?入って入って!飲みましょうや!」

「ね?」

「ね?じゃないですよ!」

「ほらほら!飲みまっせ!」

「あ、あの……その……!」

パタン

 

タスクの言い分など全く耳に入れず、その妖精に店に連れ込まれる二人。

 

結局、二人はその喧騒に、飲み込まれるしかなかった。

 

 

「う、うう〜……っ」

 

それから、10分後。

 

その酒場のカウンターには、突っ伏したタスクと、ニコニコ笑ってコップ片手にマスターと談笑する店主がいた。

 

「あら〜!お宅らGGOから来たの!?いいねぇ、私も一度行こうかな!」

「いや〜!マスターも銃の感覚が病みつきになっちゃうかも!」

「いいね〜!」

「なんなら私の店に来てくれれば銃一丁タダで差し上げますよ?」

「ほぉんとに?てか店開いてんの!?なんだ、同業者じゃないか!」

「しまったバレた〜!」

 

店主は、さらりとセールスを混ぜこみつつ話を繰り広げる。

一見はただの客だろうが、その会話を続けると同時に、店主はしっかりと確認していた。

 

それは、「現在の時刻」と、「酒場内のプレイヤーの構成」である。

 

時刻はたった今、指定時刻になった状態。

タスクも突っ伏しながらとは言え、その事は分かっているらしく、腕の隙間から周りをチラチラと見ている。

 

酒場のプレイヤー構成は、現状は問題ない。

皆視線はカウンターの反対側にあるステージに向いているし、武器を隠す時に変わる体の角度や重心をその場にいるプレイヤー全員を逐一確認しても、特に怪しい者はいない。

 

つまり、ここではある程度までは問題ないということだ。

そこまで確認し、店主はマスターとの話を切ろうとする。

……が、その必要は無かった。

 

「さて、じゃあ……」

「マスター。僕にも一杯貰えるかな?」

「……!?」

 

いきなり飛んできた声の方向に、驚きを伴って店主が首を回す。

するとそこには、「あの情報」通りの、「プレイヤー」がいた。

 

背が高く、メガネをしていて、髪が青い妖精。

彼の目は、明らかにこちらを意識していた。

 

そして店主が、いくらそのプレイヤーが情報通りとはいえ、警戒の目を向けたその瞬間。

 

()()()()()()()()を伴って、そのプレイヤーから、言葉が飛んできた。

 

「やあ!タモンさん?それにタスク君。お久しぶりだね。僕の名前は、クリスハイト。()()()()()()では」

「……!!」

 

タスクもその話し声に反応し、即座に顔を上げる。

 

そして二人は言われずとも理解した。

 

彼の名は、

 

「菊岡だよ」

「「……!」




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Episode41 一つ目の要件 〜The first requirement〜

「で?きく……いや、クリスハイトさん。僕達に要件とは?」

 

「そこにやってくる」と教えられていた場所に、時間通りに来たプレイヤー、クリスハイト。

リアルでは、言わずもがな、菊岡だ。

 

彼は今、酒場の隅の席で、タスクと店主の二人と向かいあって座っていた。

 

クリスハイト曰く、この酒場のマスターはリアルでもクリスハイトと繋がっており、安全を保証出来るそうだ。

 

そういうことならと、タスク達も胸をなでおろし、落ち着いて話が出来ていた。

 

話題はもちろん、「何故ここに呼んだのか。」だ。

 

「ああ、うん。要件はね、2つほどあるんだ」

「ほう?」

 

店主が相槌をうち、先の話を促していく。

タスクは、黙って話を聞いていた。

こういう会話の場に関しては、店主の方が一枚も二枚も上手だからだ。

 

ビッグ・ボスの時と同じ、冷酷な目をして聞いていた方が、何かとタスクにとっても店主にとってもこういう場を回しやすいということは、長年一緒である二人はお互いに分かりあっていた。

 

そんな雰囲気を読み取ったクリスハイトは、ごほん、と咳払いをすると、また話始める。

 

「えっと、まず一つ目は、状況報告をお願いしようかな。最近どうだい?」

「はは、そうきたか」

 

すると店主は、後頭を掻いて、笑った。

まさかここでそんなことを聞かれるとは思っていなかったからだ。

 

「まあもちろん、今は死銃についてだよね。これは、随分前にGGO内メッセージで「表で手を出すな」とお願いしておいたけど…どうかな?キリトくんによれば、「すごく良くしてくれていて助かる」と言われたよ」

「そうですか……ならよかった」

「でも、表に出たいのは山々だろう?」

「もちろん、その気持ちがない訳では無いですが……。我々は現状、言われた通り、表では手を出していません」

「おや?珍しい。僕はてっきり耐えられなくなってもう手を出しているかと……」

「はは、流石に、そんな軽率なことはしませんよ」

「ふむ……」

「ですが、うちの諜報班(エスピオナージチーム)は一応送り込んでいます」

諜報班(エスピオナージチーム)……というと、シノンさんの事かい?」

「いえ、違います」

「ふむ……」

 

クリスハイトは、思考するように体を起こして店主をじっと見据える。

そしてちらりとタスクを見たが、タスクは目を閉じて「我関せず」というような態度を一貫していた。

 

その目の動きを見逃さず、店主は話を切り込んでいく。

 

「というのも、本当に諜報(エスピオナージ)に特化した二人のプレイヤーを、()()に送り込んでいるだけです。うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから」

「……」

「クリスハイトさんだって、キリトくんが殺られたら困るでしょう?だから一応、彼らにはキリトの護衛もお願いしています」

「護衛……?監視ではなく?」

「彼は仲間です。そんな信頼を裏切るようなことはしません」

「シノンさんは?」

「彼女は、また別です。シノンさんは、彼女自身の要望です」

「なるほど……ね」

「それに、もっと言えば、諜報班(エスピオナージチーム)の二人には、死銃の捜索もお願いしてあります。もちろん表ではなく、裏でですが。裏からなら、捜索しても問題ないでしょう?」

「……」

 

だんだん張り詰めてくる緊張感。

タスクはまだ、目を閉じて無言を貫いているが、クリスハイトのタスクを見る目が変わってきているのは、言わずともわかっていた。

 

そしてついに、その矛先がタスクに向く。

 

「そうか、まあ別に、表に出ていなかったのなら構わないんだ。今後に影響しなければ、何をしても構わない」

「ええ……そう解釈しました」

「ああ。それはそれで結構だよ。ただ……タスク君?君はどう考える?このことについて」

「……!」

 

クリスハイトの、試すような目を向けられるタスク。

だがタスクは、全くひるむことなく目を開いて、クリスハイトを真っ直ぐに見据えて、淡々と言葉を返した。

 

「僕は正直、あまり分かりません。ただ、送り込んでいる諜報班(エスピオナージチーム)の二人や、シノンさん、それにキリト君が、必ずこの先で解決に貢献できることを信じてます。だから、僕は店主さんの作戦に何も言わないです。仲間である彼らを信頼しているからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況がどうであれ、僕はそうするつもりです」

「ふふ……実に君らしい。だろうね」

 

クリスハイトが、その言葉と共に試すような目を引っ込め、いつも通りの目に戻る。

そして、ふう、と息を吐くと、決意したように話を続けた。

 

「分かった。とりあえず、君たちの考えは僕は受け取ったよ。だから、僕は君たちに、とある()()を伝えよう」

「「……!?」」

 

クリスハイトの言葉に、目を見開いて反応する二人。

この話筋からして、間違いなく何らかの行動を起こすことができるようになるはずだからだ。

 

そしてその予想は、見事的中した。

 

「君たちは、この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可しよう。こちらとて、キリトくんに被害を出すわけにはいかない。そこは、素直に頼らせてもらうよ」

「了解です」

 

タスクは目を閉じ、店主は平然と言葉を返したが、内心では二人とも嬉しくして仕方がなかった。

 

今までは、何とかキリトやシノン、それに諜報班(エスピオナージチーム)の二人を支援し、解決に貢献しようとしてきた。

出るなと言われて、はいそうですかと黙って引っ込むわけには意地でもいかなかったのだ。

 

彼らの過去は、それほどまでに強力でなのである。

 

そして、その行動が、今クリスハイトによって認められ、一部分とはいえ実を結んだ。

 

もともと、最終的には無理矢理にでもやろうと思っていたタスクからすれば、これは、彼にとっては非常に大きい精神的優位性(アドバンテージ)を得られたことになる。

 

もしかしたら菊岡は、タスクの話した「僕も僕が出る幕になるまで、息を潜めておく」の意味を汲み取ったのかもしれない。

 

「すまなかったね。辛い思いをさせてしまって」

「はは、別に構いませんよ。今に始まったことではないですし」

 

緊張感が解け、お互いに笑みがこぼれだす。

そして話題は、「二つ目の要件」へと入っていった。

 

「さて、二つ目の要件だが……」

「「……?」」

「僕はね、この世界で、君達に会わせたい、」

「「……!?」」

 

 

 

 

 

 

「人()がいるんだ」




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Episode42 二つ目の要件 〜The second requirement〜

「人()……ですか」

「そう。きっと君たちも知っている人達だよ」

 

そういって、メガネを光に当てて白一色にするクリスハイト。

タスクと店主の二人は、一瞬だけ、脳裏に不安がよぎった。

 

いくらクリスハイト、もとい菊岡の話とはいえ、今後に影響しない確証がある訳では無い。

そもそも、彼らに自分たちは()()()()()()()で接していいのか分からない。

キリトを支える、『裏世界プレイヤー』なのか、『単なる協力者』なのか。

場合によっては、今後に影響しかねないのだ。

 

そんな不安を募らせ、口を開けずにいると、クリスハイトから補助が入る。

 

「と、言うのもね?キリト君のプライバシー上、詳しいことはその場でしか言えないけど……とにかく、君たちには、『裏世界プレイヤー』として、彼らに会ってほしいんだ」

「『裏世界プレイヤー』として……ですか。それで?」

「そこで君たちには、「()()()()()()G()G()O()()()()()」を証明してほしいんだよ」

「なるほど」

 

タスクは言われたことが意外だったのかポカーンとしていたが、店主は脳内で事を瞬時に推測し、納得がいっていた。

 

まずクリスハイトは、「キリトくんのGGOでの安全」を証明してくれ、と言った。

それはつまり、その保証する相手が、キリトとなんらかの親密な関係にあることを意味している。

 

キリトやその周りの人間関係は、店主はSAO時代の仕事によってある程度は把握していた。

親族はともかく、その他に親密に関わっている人間は、彼の通っている学校の関係もあり、大多数は「SAO 生還者(サバイバー)」だ。

 

その彼らにとってキリトは、とても大事な戦友か、それともそれ以上の何か、である事は明白だ。

 

つまり、クリスハイトが会わせたい人達、つまり証明する相手とは、彼らSAO 生還者(サバイバー)の可能性が非常に高い。

 

自分達もそうだが、SAO 生還者(サバイバー)といのは、至極単純に、「殺される事」の怖さを身をもって知っている。

一般人が想像出来ない程、リアルに体感した、その怖さを。

 

そして今、GGOでも、その状況が起こっている。

いつ、どこから、どのようにして、自らの命を絶とうと攻撃に出てくるのか。

店主ですらまた怖くなるようなあの状況にだ。

 

そんな状況のあの世界に、クリスハイトがキリトをどうやって話をもちかけて送り込んだのかは知らないが、十中八九、無理矢理だろう。

つまり、クリスハイトはキリトをまたその「いつ殺されるのか分からない」不安な状況に、無理矢理陥れた訳だ。

 

そんなことをしでかしたクリスハイトが、ただでさえその怖さを知っていて、なおかつ親密な関係にある彼ら、SAO 生還者(サバイバー)に、真正面から反論できるとは到底思えないし、格好の口撃目標になるのは目に見えている。

 

そこで自分たちには、その時の悪く言えば「言い訳」の一部を、担って欲しいという訳だ。

「リアルでもGGOでも、キリトの身は安全だ」という、「言い訳」を。

 

いつもは現場にいる自分達が、キリトの安全を証明しなければいけない所からも、会わせたい人達がSAO 生還者(サバイバー)である裏づけができる。

 

結局、リアルのキリトはクリスハイトが、GGOでのキリトは自分達が、安全を証明できる唯一の人間なのだ。

 

「つまり……」

「ん?」

「クリスハイトさんの……いや、菊岡さんの、「助け舟」を出せと。そういう事ですね?」

「……!」

 

クリスハイトが、バツが悪そうに体を起こして目を閉じ、ため息をつく。

店主は、もちろんその行動を見逃さなかった。

 

「図星……ですね?」

「はぁ……察しの良すぎる男は嫌われるよ?」

「騙す上に、前の借りにつけ込む男の方が嫌われると思いますが」

「う……!」

「店主さん、そこまでにしないと、()()なクリスハイトさんがかわいそうですよ」

「そうだね、いくら()()()()とはいえ、かわいそうだね」

「もう……君たちって本当に怖いよ」

 

クリスハイトが顔を手でふせながらしみじみと呟く。

……が、店主は、そんなクリスハイトの落胆ぶりなど気にも止めず、淡々と、核心を突いた言葉を言い放った。

 

「これくらいしないと、()()()()()()()()()

「その通り」

 

「……!」

 

クリスハイトは、その言葉に驚き、はっと顔を上げる。

するとそこには、いつもと変わらない、彼らがいる。

 

そんな彼らのその姿から、クリスハイトは「強さ」を感じた。

 

異常なほどに強い、歴戦の兵士のような。




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Episode43 妖精たち 〜Fairies〜

一面に広がる黄土色。

風に巻き上げられて飛ぶ砂。

所々に突き刺さる、「廃墟」と化したのであろう、ビル。

くすんだ色の雲に遮られ、まったく姿を見せない太陽。

 

そんな世界が、ALOのとある個室に吊り下げられた、巨大なモニターに映し出されていた。

それを、まるで祈るかのように固唾を飲んで見守る妖精達。

 

コンコン……

「ん?」

 

そんな、一見異質な空間の、個室の扉が叩かれた。

その一瞬後に、ガチャリ、と扉を開けて、一人の妖精が入ってくる。

 

その妖精は、眼鏡をかけ、水色の髪をした、長身で細身な体格だった。

 

「……クリスハイト!」

 

その個室の中にいた妖精たちの一人、桃色の髪をした妖精、「リズ」が、その水色髪の妖精の名前を呼ぶ。

そしてそのまま続けてリズは、クリスハイトの遅刻に釘を刺した。

 

「もう……!遅い!」

「こ……!これでも、セーブポイントから超特急で飛んできたんだよ?」

 

クリスハイトは、あはは、と笑いつつ言い訳を繰り出す。

……が、そんなクリスハイトに向けられた、その場にいる妖精たちの目は、リズを含め、あからさまな険悪感に包まれていた。

 

でも、そうなるのも分かる。

なんてったって、彼らはキリトと親密な関係にある上、SAO 生還者(サバイバー)という折り紙付きの人達だ。

 

そんな彼らにとって、今回クリスハイトがしでかしたことは、そう簡単に許せるものではない。

 

「……何が起きてるの?」

 

するとその時、いきなり、その妖精たちの中の一人、「アスナ」が立ち上がり、クリスハイトに詰め寄る。

 

クリスハイトは、あっさりその気迫に気圧されて、後ずさった。

 

「な……何から何まで説明すると、時間がかかるかもしれないなぁ……」

「……」

「それに、どこから説明すればいいのやら……」

「誤魔化す気!?」

「いっ……いやその……!」

 

アスナにさらに気圧され、目を逸らしつつも、言葉が出てこないクリスハイト。

だが、そんなクリスハイトの助け舟は、意外な所から現れた。

 

「ならその役、私が変わります!」

 

そんな声が、クリスハイトやアスナの下から聞こえてくる。

その声の主は、その個室にある低いテーブルの上にいた、小人サイズの妖精だった。

その正体は、『カーディナル』の『メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号』、コードネーム『ユイ』である。

 

「……」

「……」

 

クリスハイトはもちろん、周りの妖精たちも、黙りこんで肯定の意を示す。

クリスハイトに聞いても「埒が明かない」と、ユイを含め、皆が悟ったのだろう。

それを察したユイは、黙々と説明を始める。

 

「11月9日、死銃を名乗るプレーヤーが、ガンゲイルオンライン内でモニターに銃撃を行い…………」

 

身の毛がよだつ、恐ろしい事件の内容が、次々に小さな妖精の小さな口から出されていく。

 

ゲーム内からの銃撃と、それに伴って死に至る現実世界のプレイヤー。

そしてその原因が、全くと言っていいほど分からない現状。

 

周りの妖精たちは、その説明に聞き入り、事態の深刻さを感じ取っていた。

 

「これはこれは……!全く、驚いたな。短時間にそれだけの情報を集め、その結論を引き出すとは……!」

「……何が言いたいの?」

 

すっかり暗く、そして重くなってしまった雰囲気をぶち壊すかのように、クリスハイトがあっけらかんな声を出す。

それを鋭い目でアスナが咎めた。

 

そんな目に気づいたクリスハイトは、諦めたかのように顔を真剣な表情に戻す。

そして…

 

「……はぁ。分かった。正直に言おうか。この期に及んで誤魔化す気は無いよ」

「……!」

「今、このおチビさんがしてくれた説明は……」

 

 

「事実だよ。すべて」

 

 

「!」

「そして、その事件の調査のために、キリトくんを送り込んだのも、僕だ」

「!!」

 

その場の空気がピリッと張り詰める。

クリスハイトに向けられる目は、言うまでもなくさらなる険悪感に溢れた。

 

それを口に出すかのように、クラインがクリスハイトに食ってかかる。

 

「おい!クリスの旦那よ」

「……?」

「あんた……あんたが、キリトのやつのバイトの依頼主なんだってな」

「……そうだが」

「てことはてめぇ、その殺人事件の事を知っててキリトをあのゲームにコンバートさせたのか!」

「……!」

「あいつを……あいつを……!また危険なところに!送り込んだってのかよ!クリスハイト!」

 

大切な仲間を思う故か、激昂して問い詰めるクライン。

その主張は実に最もであり、また、クリスハイトを含めた周りの妖精たち皆の気持ちを代弁していた。

 

「……」

 

それを理解しているが故に、黙りこくるクリスハイト。

その場を沈黙が支配し、しん……と静まり返った時。

 

ガチャリ。

「……!?」

 

いきなり、その個室の扉が開かれる。

そして、

 

 

「ちょっと待った。クラインさん」

 

 

「な……!だ……!誰だあんた!?」

 

()()()()()()、黄土色の髪をした、大柄なケットシーが、部屋に入ってきた。

しかも、クラインのことを名指しで。

それに続いて、小さな青緑の髪をしたケットシーも入ってくる。

 

何を隠そう、店主とタスクだ。

それを見たクリスハイトは、息を呑んだ。

 

「な、なんで……?」

 

今ここで横槍を入れても、クリスハイト諸共袋叩きにされるのは目に見えているはずだ。

何故わざわざこんなタイミングで入ってきたのかが分からない。

 

クラインのなにかの言葉に苛立ちを覚え、耐えきれなくなって入ってきたようにも見えないし、そもそもそんなことをする人達ではない。

 

かと言って、クリスハイトを一緒になって袋叩きにするために入ってきたようにも見えない。

というよりも、そもそもそれは困るし、自らの首を絞めるようなことをさせるために、ここまで連れてきた訳では無い。

 

「どうして……!?」

 

従って、呆然とするクリスハイトと、当然の如く、誰だ、という目を二人に向ける妖精たち。

 

そんな視線などものともせず、今度は青緑の髪をした小さなケットシーが、声を上げた。

 

「はじめまして。皆さん。……いや、正確には、」

「……?」

 

 

「お久しぶり……ですかね」

 

 

そんな青緑髪のケットシー、もとい「タスク」のその声は、どこか自信に満ちている。

 

「お久しぶり……!?」

「……!」

 

疑問と驚きが入り交じった顔をする妖精たち。

 

そんな彼らは、タスクたちから感じる不思議な「自信」と「強さ」をひしひしと感じ、口を開くことができなかったのは、言うまでもなかった。




あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
駆巡 艤宗です!

書き始めてから約半年。
まさかここまで多くの方に読んでいただけるとは思ってませんでした。
本当に感謝感激です!
__(⌒(_ ´-ω・)▄︻┻┳══━<感謝! バァン

感想も、ご指摘も、たくさんの方々からいただいておりますし、それらによってこの作品は成り立っております。
本当に、ありがとうございます。
また、よろしくお願いしますね?|ω・)

今年は……そうですね。(*´ω`*)
・推薦を貰えるような展開を作る!
・お気に入り1000人!
を目指そうと思います。

まだまだプロットは続いてますし、それを本文に書き起すのが楽しみでなりません。

それではもう一度、改めて。
皆様、本当にありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。

では。∠(・ω・´)ケイレーイ!

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Episode44 現状 ~Current status~

「お久しぶり……?会ったことある?」

「わ、私は分からないです……」

 

クリスハイトとの対談中に、いきなり入ってきたタスクと店主。

そんな彼らの内の一人、タスクが発した言葉。

 

ー「お久しぶりです」

 

この言葉に、彼ら妖精たちは、困惑する。

「このケットシーと会ったことあるっけ?」

「そもそも、名前すら知らないし、誰だろう」

そんな考えが、頭の中を駆け回っていた。

 

「クリスハイト。あなたのお連れさん?」

 

そんな中、アスナがクリスハイトを見る。

すると、

 

「あ……!ああ、彼らは、僕の連れさ。紹介しよう」

「え、ええ」

 

ぼーっとしていたところに、いきなり呼ばれたかのように、クリスハイトが反応する。

そしてそのままクリスハイトは、続けてタスク達の紹介を始めた。

 

「彼らは、僕がGGOに送り込んでいるプレイヤーさんだ。名前は、こっちからタスクと、リボル。リボルさんに関しては、店主、と呼んだ方がいいかもね。」

「店主?」

「ああ、僕は向こうで店を開いているんだ。」

 

店主が、補足するように話をつけ足す。

するとその時、アスナが店主の方を向いて、なにか思い出したように話し出した。

 

「店って……キリトくんがいったって言ってたあのお店?」

「そう!確かに彼は僕のお店に来てくれたよ」

「……!じゃ、じゃあ、あの……教えてくれませんか?今、あそこでは、どんな状況なのか」

「……!」

 

クリスハイトに聞くより、現場にいる人間の方がいいと思ったのか、それともただ単に、やはり埒が明かないと思ったのか、店主が肯定した瞬間、アスナは店主へと詰め寄る。

 

「……はは。これまた大胆に来たね。アスナさん」

「……!」

「大丈夫。()()が責任をもって、今のあの世界の状況を説明しよう。同時に、君たちの大事な()()、キリトくんの安全も保障する」

「!」

 

すると店主は、あっさりとOKしてしまった。

前に出てきたアスナの背後に立つクリスハイトが、店主を心配そうな目をして見ている。

 

……が、「その心配はいらない」とばかりに店主はクリスハイトのそんな目を見返した。

少しの微笑みと共に。

 

そして、黙々と説明を始める。

 

「まず、クラインさん。これは殺人事件ではありませんよ」

「な、なに?」

「現在、世界で流通しているアミュスフィアでは、どんないかなる手段を用いたとしても、装着している人間には全く傷をつけることはできない。ましてや、機械と直接リンクしていない心臓を止めるなど、不可能だ」

「……!」

 

今まで食ってかかっていたクラインが、う、と言葉を詰まらせる。

 

「クリスハイトさんも、何もわからずにキリトくんを送り込むなどと、そこまで無謀なことはしないはずです。……ですよね?クリスハイトさん」

「あ……ああ。僕とキリトくんは、先週リアルで議論し、最終的にそう結論づけた。ゲーム内からの銃撃……いや、それ以外でも、なんらかの干渉で、現実の肉体を殺す術はないと……ね」

「お、おう……!」

 

クラインは、店主の反論とクリスハイトの補足により、大人しく引き下がった。

クリスハイトはともかく、店主の話なら聞く気になったのかもしれない。

そんなことを感じ取った店主は、まだまだ言葉を続ける。

 

「……ただそれは、あくまでクリスハイトさんたちの仮説でしかない。現状は傷をつけられないと思っていても、なんらかの方法で、出来るかもしれない」

「な……!?」

「そうだな、例えば……アミュスフィアの電子系統に、強大な負荷をかけて暴発させるとかすれば、少しは苦しむかもね」

「そ、それって……!」

「いやいやいや、でもよく考えてみて?さっきそこのユイちゃんが説明してくれたとおり、この事件は「変死事件」なんだ。あのアミュスフィアが暴発したところで、かっちり心臓だけを止めることは出来ない」

「そ、そっか……」

「そう。だから、問題はアミュスフィアではない。僕らは、その事を()()()()()したから、信じてほしい」

()()()()()……!?」

「そう。実際にアミュスフィアに色んなことを試してみて、暴発させられるか、検証してみたんだ。死銃の、ゲーム内からの銃撃との関係も考慮してね」

「……!」

「おいおい……それは僕も初耳だよ?」

 

店主からサラリと出てきた言葉に、驚きを隠せない妖精たち。

クリスハイトは、まったく……と言わんばかりに後頭部を掻いていた。

 

今店主が言った、「実際に検証した」とはつまり、なんらかの方法でアミュスフィアの電子系統を暴走させようとしたことがある、という事だ。

 

本当にそんなこと……と思わない訳でもないが、先程から発せられている「謎の自信」によって、それを言うのもはばかられた。

つまり、信用せざるを得なかった。

 

そんなことなど知りもせず、店主はまた、淡々と言葉を綴っていく。

 

「その検証の結果、結局は、可能性は限りなく0に近いことが分かった」

「そ、そっか……」

「でもね、それは同時に、まだ犯行の手口を探す手がかりすら見つけられなかったことにもなる」

「……!」

「だから、僕らはあのBOBの待機会場に2人、本戦に1人、プレイヤーを送り込んでいる。それに、リアルのキリトくんも、菊岡さんが用意した設備によって、厳重に監視されている。だから、安心してね」

「は、はい……!!」

 

どこか安心したせいか、ふっと表情が明るくなる妖精たち。

それを見て、呆れたように笑うクリスハイト。

 

「これが、事件の現状と、キリトくんの安全の保障です。……満足しましたか?クリスハイトさん」

「はは……全くかなわないな、店主さんには」

「クリスハイトさんがこうしろと頼んでんでしょう?」

 

そして、キリトの安全と、事件の現状の説明を店主から受け、納得した妖精たちの話の照準は、またクリスハイトへと戻っていく。

 

「クリスハイト」

「?」

 

アスナが、またクリスハイトへと向き直る。

クリスハイトは、また何か言われるのか、と身構える。

だが、次の瞬間に彼女の口から出てきた言葉は、驚きのものだった。

 

「死銃は、私たちと同じ、SAO 生還者(サバイバー)よ」

「な!?」

「しかも、史上最悪と言われたあのギルド、『ラフィンコフィン』の、元メンバーだわ」

「ほ、本当かいそれは…!?」

 

クリスハイトは、いきなり言われたその事の、信憑性を問うかのように、声を絞り出す。

だが、その答えはまた、店主の横槍によって返された。

 

「本当ですよ。それ」

「なっ……!?」

 

そして、店主は話し出す。

驚愕に満ちた、クリスハイトや妖精たちを差し置いて。

さらに驚きの、そして謎に自信に満ちた、その言葉を。

 

「もっと言えば、僕らはもう検討は付いてますけどね」

「「「……!!」」」

 

 

「死銃の正体、犯行の手口」

 

 

「な……!?」

 

クリスハイトはもちろん、その場にいた全員ですら、彼の言葉に、また驚いたのは、言うまでもないだろう。




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Episode45 裏 〜back〜

時は、遡ることBOB予選があった日の夜。

 

現実世界へと戻っていた店主……もといタモンは、とあるメールを見つつ、食卓に置かれたカップラーメンを啜る。

 

そのメールの宛名は、もちろん『店主』ではなく、『オセロット』だ。

なぜなら、そのメールの差出人が、「裏世界プレイヤー」だから。

 

その差出人の欄には、こう書かれていた。

 

『シャルルより。Codename:ウォッカ』

 

と。

 

そして、その下に本文が続いている。

タモンは、その文を、スクロールしながら目で追っていった。

 

✣(以下、本文)

 

調査結果

ゼクシードは例外として、その他のプレイヤーの被弾したシーンを録画、細分化分析したところ、死銃の銃「トカレフ TT-33 黒星」からの発砲弾の被弾と、強制ログアウトシステムの無関係を確認した。

 

理由として、

・被弾してから強制ログアウトシステムが作動するまで、タイムラグがプレイヤーによってまちまちであり、このタイムラグのばらつきは、現実世界でなんらかの人為的な干渉が行われている証拠であること。

・タイムラグは、最短1.485秒であり、アミュスフィアの電子系統暴発実験のタイムラグとは全く異なるものだったこと。

から。

 

結論として、この犯行が現実世界からのなんらかの犯行と、死銃の銃「トカレフ TT-33 黒星」からの発砲のタイミングを合わせた計画的な犯行である可能性が大きい。

 

死銃の中のプレイヤーは、特定出来ず。

ただ、サーモグラフィー透視の結果、右腕に()()()()()()()()()()を発見。

よく分からないけど、なんか意味がありそうだったから、一応報告しておく。

 

補足

こんなもんでいい?

明日の本戦待機会場でも一応監視するけど、調査結果を早めにまとめて出してみたの。

この結果を見つつ、明日の本戦を見ながら、ボスと結論を出してね。

 

あと、いつもいってるけど報酬は私の口座に入れて!彼の口座に入れないで!彼から渡されるのが恥ずかしいの!わからないの!?

もうほんと、お願いします。よ!

 

 

「ふふ……本当は嬉しいくせに」

 

そんなことを呟いて、タモンは微笑む。

 

「棺桶……やっぱりね」

 

その後、少し考えながら、そんなことを呟く。

そしてその思考に耽り、すべてが繋がった時。

タモンはニヤリと微笑んだ。

 

「……よし。これで、君たちはチェックメイトだ」

 

()()()()と共に、そんなことを呟きながら、真面目な顔をして携帯を睨みつける。

 

そこには、「添付ファイル」として、死銃の写真が表示されていた。

 

「……さてと」

 

そのページを閉じ、タモンはまた別の宛先へと、今度は自分が差出人となってメールを打つ。

そして、そのメールを送信し終えると。

 

タモンは、寝床へと入っていった。

 

 

ピーピロロン!ガガガッ…

「んん!……?」

 

一方、既に寝床に入っていたタスクである。

 

緊急時に即座に対応できるように、着信音を変えている差出先からのメールの来訪を告げるその着信音が、暗いタスクの部屋に響く。

タスクはすぐさま無理矢理にでも目を覚まし、メールを見た。

 

「死銃……!!ふわあぁ……っ」

 

すぐにそのキーワードを見つけ、メールを読みつつ、大きなあくびをかますタスク。

 

「タイムラグ……人為的……証拠……むにゃむにゃ……」

 

眠気を覚ますかのように、声に出して読もうとするタスク。

だが……

 

「そういう……ことね。了解」

 

そんなタスクは、そう言葉を残してまた寝入ってしまう。

そしてその数分後。煌々と光る携帯の光も、消えてしまった。

 

「クソ……ラフコフめ……!すーーっ……」

 

目を閉じて、寝息を立てるタスクから、そんな()()が聞こえてくる。

どうやら、こんなふうでも、メールはきちんと読めたようだ。

 

 

時は戻って、現在。

 

キリトと親密な関係にある上、SAO 生還者(サバイバー)という折り紙付きの人達に、クリスハイト共々締め上げられている、ALOの個室。

 

……訳ではなく、その個室にはむしろ、状況がひっくり返され、唖然とした雰囲気が漂っていた。

 

「え……今、なんて……!?」

「だから、もう大体は検討ついてるんですよ。僕ら」

「……!!」

 

いきなり店主の口から飛び出した、とんでもないこと。

すると今度は、クリスハイトが横槍を刺してきた。

 

「おっ……おいおい、それは僕も聞いてないぞ?」

「はい。あえて言いませんでしたからね」

「あ……あえて?」

 

にこやかに答える店主に、さらにその場が唖然とする。

 

「表で手を出さず、裏でキリトくんを支える。これが、クリスハイトさんに指示されたことです。なら、キリトくんの支えを盤石にするために、()()()()は必須でしょう?」

「な……!!ということは、まさか、君たちは……」

「はい?」

「その()()()()の解釈を変えて、その……キリトくんの安全確保という名目で、捜索だけではなく、事件解決にまで乗り出したのか?」

「……」

 

クリスハイトが、完全に想定外だと言わんばかりの顔をして店主を問い詰める。

 

すると、店主の顔からすっと笑顔が消え、冷酷な、()()()()()のような威厳を載せた言葉が、クリスハイトに帰って来た。

 

「まぁ……こっちも、はいそうですかと黙っているわけには行きませんでしたからね」

「……!」

「でも、さっきも言いましたけど、クリスハイトさんのいったことには何ら反していません。表で手を出すのはもちろん、ボスに関しては、一回も出撃してませんし」

「……!!」

「そう簡単に言いくるめることが出来る人種じゃないんですよ。SAO 生還者(サバイバー)は。……もっと言えば、()()()()()()()()()は」

「……!!!」

「SAO 生還者(サバイバー)……!?裏……世界!?」

 

驚きのあまり立ち尽くすクリスハイトと、店主の口から出た不可解な単語に疑問を持つ、他のSAO 生還者(サバイバー)の、妖精たち。

 

そんな妖精たちの中の一人、リズが、ポツリと疑問を漏らした。

 

「あ、あのさ、アスナ」

「?」

「そ、その、店主さん……?達はともかく、クリスハイトは、ラフコフ……いや、そもそもSAOの事知ってるの?たしか、リアルでは……?」

「ああ。そのことなら心配ない」

「え?」

「僕は元々、SAO対策チームの一員だったんだ。SAOのことなら、大体は把握してるけど……」

 

クリスハイトが答えつつ、店主たちへと視線を向ける。

「君たちはどうなんだ」という視線が、それにつられて妖精立ちから向けられる。

 

「アスナさん」

「はっ……はい?」

 

すると突然、今度はタスクがアスナをいきなり()()()()呼んだ。

そして、タスクはその冷たい目のまま、アスナに問いかけた。

 

「僕、入ってきた時、こう言いましたよね、「お久しぶり」と」

「え……ええ」

 

確かに今まで忘れていたものの、そんなことを言われて疑問を持っていた。

それが一体何なのか。アスナが疑問をさらに重ねた時。

ゆっくりと、タスクがまた口を開く。

 

「覚えて……いませんか?僕らの事」

「……?」

 

アスナに視線が集まり、答えをその場の全員が待つ。

とは言うものの、本人のアスナには一体なんのことかわからない。

 

やっぱりな、と言わんばかりに、タスクは次の瞬間、()()()()()()を口にした。

 

 

 

「「()血盟騎士団」……を」

 

 

 

()……!!??」

 

アスナがすこし、思い当たる節が浮かび上がってきたのは、彼女の表情からとって明らかだった。




……さて、そろそろ、タスクたちの詳しい過去が明らかになっていきます。
お楽しみに!

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Episode46 対色 〜Opposite color〜

()……!!」

「ア、アスナ?」

 

タスクの意味有りげな問いかけがトリガーとなって、アスナの中で彼女の記憶がぐんぐん遡っていく。

 

《裏……裏……!!どこかで、どこかでそれを……!》

 

忘れてしまった何か大切なものを思い出すかのように、記憶を探り散らかす。

 

《あっ……!!!》

 

そしてその捜索の末、ついに行き着いた先には、SAO時代、何気なく耳に入った、とある雑談の記憶だった。

 

 

「なあなあ、聞いたことある?」

「え?」

 

そこは、血盟騎士団本部の、とある中庭。

 

白を下地に、赤のラインが入った服を着た男達が、休憩時間なのだろうか、木の下に座って駄弁っている。

アスナは、休憩時間とはいえ気を抜きすぎだと思いつつも、木の反対に座って自分も休んだ。

 

するとやはりなのか、その男達の声が聞こえてくる。

うるさいな、と思い、アスナが立ち上がろうとした時、それを引き止めるかのように、とあるワードが聞こえてきた。

 

()血盟騎士団の噂!」

「う……裏?」

「そう!」

 

またそんな、都市伝説みたいな……とアスナは内心で悪態をつく。

大体そうだ。何かが大きくなればなるほど、都市伝説のような噂がつくものだ。

 

その何かが、人であっても、物であってもだ。

歌や絵でさえ、「隠されたメッセージが……」とか言われる。

 

ばからしい、と思う。

……が、やっぱり立ち上がれなかった。

「血盟騎士団の副団長」という自覚からか、不審に思った種は、潰しておきたいと思ってしまったからだ。

 

その男達の話は、まだまだ続く。

 

「なんでも、この制服と()()の服を着て、()()()で暗躍してるらしい」

「へぇ……。対色ねぇ。じゃあ、その対色ってなに色なんだよ?」

「黒を下地に、青のラインだって」

「な、なんか、怖いな……見たことあるやつでもいるのか?」

「今のところそんなやつは聞いたことない。俺も見たことないし、他のやつから聞いただけさ。……でも、存在説は濃厚だぜ?」

「またまた……なんでだよ」

「あの、団長様が、そんなことを匂わせる発言をしているからさ」

「はぁ……?」

「聞いたことないか?【裏のものを……】とか」

「た、確かにな……」

「だろ?やっぱりいると思うんだよな」

 

確かにな、とアスナも思ってしまう。

確かに、血盟騎士団団長、ヒースクリフは、そんな発言を希にするのだ。

その裏の者ってなんなのよ……と思った節も、忘れていたがよくあった。

 

とは思うものの、口には出せなかったし、アスナはてっきり他の団員にそんな依頼をしているのだと勝手に思っていた。

 

だが、言われて考えてみれば有り得なくはない。

自分たちはあの「血盟騎士団」だ。どこに行っても他とは違う目で見られる。

そんなギルドのメンバーに、裏工作しろと言っても、正直、無理なのかもしれない。

 

そうなれば、あの団長、ヒースクリフはどうするだろう。

答えは明白だった。

「独立したそれ専用の機関を作る」

のだ。

 

もしそれが、その「()血盟騎士団」なのだとしたら。

 

そう考えが至れば、アスナは尚更聞き耳を立てなければならない。

なぜ副団長である自分にすら教えられてないのか、その原因を突き止めねばならないからだ。

 

それに呼応するかのように、男達の話もクライマックスに向かう。

 

「だからよ、もしかしたら、本当にあるかもしれねんだ。あの団長様なら……な」

「……確かに」

「それに、もしかしたら、このすごい規模の血盟騎士団はそいつらに支えられているかもしれねんだぜ?よく考えてみれば不自然だろ?こんなに大きいのに誰も歯向かうやつがいねぇんだ」

「いやいや、いるじゃん、血盟騎士団を排除しろだのなんだの言うやつ」

「そりゃあ言ってるだけだろ?それに正面から来るわけないじゃん。俺が言ってるのは、()()とかその類よ。一つや二つ、団長を狙うやつはいるだろ……」

「……確かに」

「でも聞いたことは?」

「ないな」

「つまり?」

「それを裏で防いでるやつが……」

「いるってことよ!」

「はは、んなバカなぁ……!!」

 

そんなこと話しつつ、男達は立ち上がってどこかへ歩いていく。

場所に飽きたのか、それとも食事を取りに行ったのか、そんなことは分からないしどうでもよい。

 

ただその木の反対側に座っていたアスナは、どこか悶々とした気持ちを抱えていた。

あの男達の話の真実を裏付ける証拠はない。ないのだが、やっぱり「そうだな、」と思ってしまう節がいくつか確かにあったのだ。

 

「……なによ」

 

考えがまとまらなくなってしまったのか、それとも隠し事をされた気分になったのか、はたまたくだらない噂だと思ったのか、自分でもよくわからないまま、アスナは一言悪態をついて立ち上がる。

 

 

 

 

ーそれ以来、その話を聞くこともないまま、SAOは攻略を迎えた。

 

 

「ア……アスナ?アスナ?」

 

ぼーっとしたまま固まるアスナを、リズが揺さぶり、他の妖精たちが心配そうに見つめる。

 

「……はっ!ああ……ごめん」

 

そんな視線に気づいたアスナは、すぐに意識を引き戻した。

 

「思い出したかい?」

「……!」

 

そして即座に、今度は店主から再度の問いかけがくる。

するとアスナは、今回はきちんと答えを返した。

 

「なんとなくだけど、聞いたことがあるわ」

「なんとなく……か」

「ええ。その……誰かの噂話を聞いた程度だけ」

「……」

 

真面目な顔で、問いかけに答えるアスナ。

そんな顔を見て、微笑む店主と、ただただ佇むタスク。

 

彼らの間に、張り詰めた雰囲気が漂う。

 

「でも……仮にそうだとして、一体なんだというの?」

「……!」

 

アスナが、疑問というより、苛立ちをこめ、店主を睨む。

……が、店主は依然として、少し微笑んだままの態度を保っている。

 

クリスハイト含む妖精たちは、ただただそれを見守るしかない。

ただ、アスナの言うとおり、「それがなんなのだ」という気持ちは、皆が持っていた。

 

そんな気持ちをはねのけ、そして見透かし、店主は淡々と言葉を返す。

 

「……まあ、そんな気持ちになるのは分かる」

「……?」

「でも、()()()()()()、僕らの話を聞いておくれよ」

「……!何が言いたいの!?」

 

苛立ちが頂点に達したのか、アスナが店主に喰ってかかった。

 

すると店主は、少しの沈黙の後、今度はあの()()()()()()()()()のような威厳を乗せた、重たい声で言葉を返した。

 

その言葉に、そしてギラリと睨む店主に、少し怯む妖精たち。

 

「はぁ……わかった。なら短的に言わせてもらおうか」

「……!」

「さっきも言わせてもらったけど、僕らはもう死銃の正体も犯行の手口もすべて分かっている」

「……!?」

「というより、すべて()()()()()()()()。僕らは」

「知って……!」

 

店主はそんな妖精たちに、いつかキリトに言ったような言葉を放つ。

 

「なぜなら、僕ら裏血盟騎士団の仕事は血盟騎士団へのありとあらゆる妨害の防御と、血盟騎士団の敵に対する裏工作、攻撃だったから」

「……!」

「その敵の中で、最も強力だったのは、「ラフコフ」だった」

「ラフコフ……!」

「生存したのは、結成当初のメンバーの約1割。失った9割の大半は、対ラフコフ戦だ。僕らは数えきれない程こなしたよ」

「1割……!!ラフコフ……戦!?」

「ということは、だ。僕らはその()()()()について、すごく()()()()()()()ということになる。敵情把握は必須だからね。それに……仇でもあるし」

「……!だ、だから……?」

「そう。僕らは死銃の正体が一発でわかるのさ。裏工作時に盗聴した話や、死銃の体勢のクセ、その他少しの調査だけでね」

「……!」

 

妖精たちは、今までの気持ちをいつの間にか引っ込め、驚きに満ちた目をして店主達を凝視する。

そんな中、まだまだ店主は言葉を続けた。

 

「あんまり自画自賛みたいで嫌だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、こんな僕らがキリトくんについているんだ。証拠がないから信じられないかもだけど、とりあえずは安心してほしい」

「……!」

「それと、また言うけど、こんな僕らだから、状況はもうすべて把握しきっている……。よし、そうだな、言い切らせてもらおうか」

「……!!」

 

 

「次の死銃の標的は、キリトくんじゃない」

 

 

「な……!」

「だから……こう言っちゃあれだけど、安心してね」

 

今まで最大の不確定要素だった事を、バシッ、と言いきる店主。

 

そんな店主と隣に佇むタスクが、無意識にだんだん強く見えてきているのは、妖精たちは「無意識」の字の如く、自覚していなかった。




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Episode47 目的 〜The purpose〜

「なぜそんなことが言えるの?」

 

アスナの言葉で、その場の雰囲気がまたピリッと張り詰める。

 

彼女が追求しているのは、たった今、店主が口にした不確定要素について。

 

妖精たちが最も心配していた「キリトの身の安全」の答えを、店主がバシッと言い切ったからだ。

 

「……ふふ。それはね、アスナさん」

 

しばらくの沈黙と微笑みをもって、店主が言葉を返し始める。

 

「よく考えてごらん?」

「?」

「あれを見て」

 

そう言って店主が指差したのは、先程からずっとBOBの中継映像を流し続けているディスプレイ。

 

「えっ……!?」

 

それを見た妖精たちは、呆気にとられた。

 

「キ……キリトくん!!!!!」

 

その中で特に、アスナは呆気を通り越して恐怖が滲み出る。

 

なぜなら、そのディスプレイの中で、()()()()()()()()()していたからだ。

 

周りに朽ち果てたビルが数本突き刺さっているだけのだだっ広い砂漠に、二人が向かいあっている。

 

明確な意思を灯した目のキリトと、妖しく赤く光る目をキリトに向ける死銃が、それぞれ光剣(フォトンソード)刺剣(エストック)を持って、じりじりと対峙していた。

 

「な……!!いつの間に……!!」

 

これには、菊岡も驚く。

 

それもそのはず、ここにいる妖精たちは皆、キリトへの心配感からか、今までいろいろと情報を握っている店主達に完全に気を取られ、全くもってBOBの方へ目が向かなかったからだ。

 

そしていつのまにか、その()()()が、問題の()()と向かい合って、「剣」で決闘している。

 

「キ……キリト……くんっ……!!」

 

大切な人を失うかもしれない、という、今までなんとか押し込めてきた感情が、一気に押し上げてきたせいか、目を強く瞑り、まるで祈るかのように呟くアスナ。

 

するとその時。

 

「アスナさん!よく見て!」

「えっ……!!」

 

いきなり、背後の店主から声が飛んできた。

そんな声に突き動かされるかのように、反射的に顔を上げるアスナ。

 

「……?」

 

が、その視界には、やはり未だ対峙するキリトと死銃が映るディスプレイのみ。

 

結局アスナは、店主が「よく見て」と言った意味を理解出来ずに、ただただその視界を眺めるしかない。

 

そんなアスナを見て、店主がゆっくり言葉をつけたした。

 

「よく見て……?なにか、わからないかい?」

「?」

 

何の話だ、と言わんばかりに、アスナはもちろん、妖精たちも店主を見る。

 

しばらくの沈黙の後、店主は、呆れたように息をつき、妖精たちに求めていた答えを自ら話し出した。

 

「はぁ……わかったよ」

「……?」

「よく見て、と言ったのは、とあることに気づいてほしいからさ。」

「とあること……?」

「そう。」

 

そしてまた、妖精たちの関心が店主に移る。

 

「よくよく考えてみてほしい。死銃ってさ、元々なんのためにBOBにいると思う?」

「……なんのため?」

「そう。いわば目的だね。人間がなにか行動する時には、必ず「目的」があるじゃない?」

「まあ……」

「その原則を、死銃に当てはめてみて。なぜだと思う?」

 

微笑みつつ、疑問を投げかける店主に、考える間もなく答えが返ってくる。

 

「そりゃあ……死銃は、その、「人を殺すため」に、BOBにいるんでしょう?」

「そうだね。でもじゃあさ、なんでわざわざ、BOBのような、目立つところでそんなことをすると思う?」

「……!」

「ただ人を殺すだけなら、そんなことはしなくていい。影で、黙々と殺していく方が、確実だよね」

「た、確かに……」

「じゃあなぜ、そんな、馬鹿みたいに、居場所を晒してやっているんだと思う?」

「……」

 

うーん、と考え出す妖精達。

そんな妖精たちを微笑んで見守る店主は、ふとクリスハイトと目が合った。

 

すると店主はまるで「大丈夫」と言わんばかりにこくこくと頷くジェスチャーをクリスハイトに見せる。

クリスハイトは何かを察したのか、そのジェスチャーに軽い会釈で答えて、ソファーに座った。

 

しばらくすると、次第に妖精たちから答えが出てくる。

 

「死銃は……その……「自分は人を殺せるんだぞ」みたいな、力を示すために?」

「そう!そういうこと!てことはさ、その目的に沿うならば、今、キリトくんとやってる決闘って、する意味がなくない?」

「あっ……!!」

「居場所を晒して、危険極まりない状態で、することじゃないよね」

「た、確かに……」

「だから、死銃はキリトくんを殺す標的にはしていない。仮に標的だとしたら、とっくに殺しているだろうし……」

「……!!」

「ね?キリトくんが標的なら、今の状況はどう考えたって無駄だし、不自然なんだ」

「……」

 

妖精たちの顔が、どこか明るくなる。

キリトの安全を証明しきったからなのか、だんだん、クリスハイトの顔も変わってくる。

 

店主は、それを横目で確認しつつも、話を続けた。

 

「それでね?そう考えた時、もう一つ、疑問が浮かばないかい?」

「疑問?」

「そう。さっき僕さ、「今の状況はどう考えたって無駄だし、不自然なんだよ。」って言ったじゃん?」

「ええ……」

「ということはさ、死銃は、他に「目的」があると思わない?」

「……!」

「確かに、キリトくんは標的じゃない。今の決闘だって、()()()()()()()()()()、ただ無駄なだけ。でも、キリトくんと今、決闘をすることだって、なにかの別の意味があると思わないかい?」

「た、確かに……」

「たしかに無駄だよ?でも、無駄だなだけなことをやるはずがないよね。必ず目的があるはずだ。じゃあその目的……なんだと思う?」

 

さっきも聞かれた、キーワードのような質問。

妖精たちはもちろん、今度はクリスハイトも考え出す。

 

店主はそんな、()()を見て、微笑みながら声をかける。

 

「そんなに深く考えなくてもわかるはず」

「……?」

「死銃が、BOBのあんな場所でキリトくんと決闘するってことは、B()O()B()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()キリトくんを倒さないといけないってことだ」

「……」

「ということは、もちろん標的となり得るのはBOBの参加プレイヤーの中であって、その中で誰かがキリトくんと()()()()()()()()()()()()ってことだよね?」

「あっ……!」

「ふふ……もうわかったでしょ」

 

どこか思わせぶりな、店主の言葉にはっと息を呑む妖精たち。

そして、

 

「まさか……」

「ふふ……そうだよ」

「あの……?」

「そうさ」

「あの……スナイパーを、狙ってるってこと?」

 

ディスプレイに振り返りながら、恐る恐る口にする。

 

「そう。そういうこと。彼女を殺すには、キリトくんが邪魔だからね」

「……!!」

 

驚きを隠せない妖精たち。

流石に意表を突かれたのか、唖然とするクリスハイト。

微笑みをたたえたままの店主と、相変わらず真顔でディスプレイを眺めるタスク。

 

そんな彼らの視線は全て、ディスプレイに映った1人のプレイヤー。

 

 

 

 

そう、「シノン」である。




こんにちは!お待たせいたしました!
駆巡 艤宗です!

改めて、本当にすみません!
随分と、お待たせいたしました!

というのも、Twitterと活動報告にてお知らせはしたのですが、作者のリアルの関係上、約1ヶ月、おやすみさせていただいておりました。

本当にごめんなさい!

またここから、1ヶ月2〜3話ペースで投稿していけると思いますので、今後ともよろしくお願いします。

では。

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Episode48 盲点 〜The blind spot〜

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「はい?」

 

衝撃の事実が告げられ、妖精たちがディスプレイを眺め唖然としていたその時。

クリスハイトが、まるで抵抗するかのように、声を上げた。

 

「タ、タモンさん!?君は今、「標的はシノン」さんって言ったよね!?」

「ええ」

「君達はそれで、なぜそんな落ち着いていられるんだい!?」

「なぜって……?」

「……!?」

 

クリスハイトは、確かに覚えている。

 

ここに来る前、集合した酒場で、店主が

「うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから。」

と言っていたのを。

 

それなのに、いざその状況になれば、なにも動こうとしない。

そんな店主達に、クリスハイトは半ば怒りのような感情が芽生えていた。

 

自分とて、これ以上被害を出されるのは困る。

それに、本来この仕事をするべきはずだった人間達が、この状況で、何も動こうとしない。

 

たしかに、仕事を彼らから奪ったのも自分であり、それは事実だ。

だが、こうなることを予見して、

「この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可」

したのだ。

 

それがまさに、今、ではないのか。

今ここで、助けに行けば、同時に死銃を倒すことだってできるはずだ。

 

「君……!!シノンさんの命が危ないんだよ!?」

「でしょうね」

「それで……そんな、というよりこんなところにいていいのかい!?」

「……」

 

クリスハイトの怒声に、店主は微笑みを保ったまま、押し黙る。

その声につられて、視線をこちらに向ける妖精たち。

 

その個室に、さっきまでとはまた違った、変な緊張感が張り詰める。

 

するとその時。

 

「だから。言ったでしょう?」

「!?」

 

店主ではない、またどこか、()()()()()()()()声が、店主の方から聞こえてくる。

 

「シノンさんは、たしかに僕らの仲間です。命の危険が迫っているのもわかってる。きっと本人も、分かっているでしょう」

「タスク……くん?」

「本来なら、今すぐ助けに行きたいですよ」

「な、そ、それじゃあ……!」

 

そんな声を上げたのは、もうお分かりだろう、タスクである。

クリスハイトは、なお落ち着き払っているタスク達に、抵抗する。

 

……が。

 

「それでも彼女は、()()()()()()()という()()を続行しようとしてる。ということは、()()()()()()()()()()()()ってことです」

「……!?」

「今ここで、助けに行ってもいいでしょう。BOB会場に乱入することなんて、僕らの技術があれば容易いことだ」

「……!!」

 

クリスハイトはもちろん、妖精たちも、今までとは違った、()()()()()のような話し方をするタスクに、どこか畏怖を覚える。

 

そんな感情などつゆ知らず、タスクはディスプレイを見つめたまま、まだまだ話し続ける。

 

「……でもね、もし、本当にそうしたとして、この事件が解決すると、思いますか?」

「……!?」

「クリスハイトさんが僕らに行動を許したのは、()()()()です。()()()()って、本当に今ですか?」

「な……何が言いたいんだい?」

「つまり、ここまで「大罪」を犯した死銃(あいつ)が、ここで……いや、この世界で、つまり()()()()()()()()()倒したところで諦めるか?ってことです」

「そ、それは……!」

 

クリスハイトはもちろん、話を聞いている妖精たちも、少しの間、考え込む。

 

たしかに、()()()()()死銃を倒したところで、諦めるのだろうか……と。

答えは明白だ。

 

諦めるわけがない。

 

「だから、僕はここでは手を出さない。言ったでしょう?」

「……!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってね」

 

「わ……わかったよ」

 

クリスハイトが、すごすごと引き下がる。

 

すると今度は、今まで黙ってカウンターに座っていたクラインが、タスクへ質問した。

 

「な……なあ?えっと……タスクくん……?」

「はい?」

 

今までディスプレイから目を離さなかったのに、クラインが呼んだ瞬間そちらへ首を回すタスク。

 

「っ…!?」

「……どうしました?」

「い、いや、その……さっきよ、あんた、この世界で倒しても意味がないって言ったよな?」

「ええ。確かにそう言いましたが?」

「じゃ、じゃあ……今キリトがやってることだって、やっぱり意味が無いんじゃ……」

「……!」

 

はっ、と、妖精たちが振り向く。

 

確かにそうだ。

この世界で倒したところで死銃が諦めないと分かっているなら、今キリトが繰り広げている死銃との決闘だって、意味が無いのだ。

 

そんな、ある意味「盲点」だった事を指摘されでもなお、タスクはニコッと笑ってクラインと向き合う。

 

「まあ……」

「?」

 

また虚を突くようなことを言い出すのかと、身構える妖精たち。

 

……が。

 

「そうなんですけどね」

「へ?」

「結局、シノンさんが殺られる殺られないは、リアルでの事ですし、今までの話は、「死銃がリアルとの連携を続行し続ければ」、ですから」

「ま、まあ……」

「いくらシノンさんを守るって言ったって、キリトくんが守っているのはこの世界のキャラクターですから、現実のプレイヤーは守れませんよ」

「そんな……!」

「だって、ここまで追い詰められてるんですよ?もうゲーム内から殺したように見せる細工なんてせずに、さっさと殺す可能性だってあるわけで……ね?」

「そうか……そうだよな」

 

今までの話とは一転、どこかあっけらかん話し方に、妖精たちは、ポカーンとする。

 

するとその時。

 

「そこで!クリスハイトさん」

「な、なんだい?」

 

いきなり、タスクが雰囲気をぶち壊すかのような声を上げる。

そんな声で呼ばれたクリスハイトは、少し驚きつつも反応する。

 

そして……

 

「シノンさんの、住所、教えてください!」

 

「はい!?」

 

ある意味、虚を突かれた妖精たちと、クリスハイト。

それに対して、タスクはニヤリと笑いながら、話し続ける。

 

「そこで、決着をつけます」

「決着……!」

 

その時、タスクの顔が、いきなり真剣味が出てくる。

 

「そうです。というのことはつまり、そこが『僕の出る幕』である」

「……!!」

 

 

 

 

 

「『最終局面』です」

 

 

 

 

 




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Episode49 眼帯マスク少年 〜Eye band and mask boy〜

「はっ……!はっ……!」

 

一人の少年が、すっかり日の落ちた夜の住宅街を走る。

 

黒いフードつきのパーカーに、カーキ色のズボン。

右耳には、今ではすっかり主流になったマイク付きの無線イヤホンが付いていた。

 

《タスクくん!》

「はい!?」

 

そこに、店主の声が聞こえてくる。

 

《アスナさんは予定通り、キリトくんの元に行かせた!》

「シノンの住所は……!」

《もちろん持たせたよ!もうすぐキリトくんと死銃の決着もつきそう!間に合う?》

「なんとか……間に合う!」

《よし、キリトくんたちがログアウトしたらまた知らせる!僕も今から(ピークォド)でそっちに向かうから、所定の位置で待機!》

「了解……!」

 

そんな会話しつつ、その少年、タスクは走り続けた。

一刻も早く、待ちわびていた、「この瞬間」のために。

 

そんな感情からか、その背中はどこか、高揚という感情が滲み出ていた。

 

「やっと……!やっとだ!」

 

そんな、呟きもまた然り。

 

 

「行っちゃっ……た……!」

 

時は少し戻って、ALOの、例の個室。

 

クリスハイトにシノンの住所を聞いたタスクは、そそくさとログアウト。

まだついていない、死銃とキリトの……はたまたBOBの決着など目もくれず、颯爽と光の粒子になって消えていった。

 

「……アスナさん」

「……!はいっ?」

 

そんな彼の行動に意表を突かれ、ポカーンとしていた妖精たちの一人、アスナに、店主がいきなり声をかけた。

 

その声にまた意表を突かれたのか、少し驚きつつ答えるアスナ。

 

すると、

 

「これを、キリトくんへ持って行ってあげて」

「……!」

「ちなみに、キリトくんのいる病院はここね」

 

そう言って、店主は自分の目の前にあった、それぞれ違う地図が表示されている2つのウィンドウをアスナの目の前へと飛ばす。

 

「これは……!」

「そう。シノンさんの家とキリトくんの病院のそれぞれの住所」

「……!」

「キリトくんも喜ぶと思うよ?戦場からの帰還に、()()()()が迎えに来てくれるのは」

「「「〜!!」」」

「これはそのついでのお願いさ。……っ!おっと」

 

いきなり飛んできた爆弾発言に、アスナは苦笑いして、シリカやリズ、はたまたリーファまで、発言の主である店主を睨む。

 

「あっはは……キリトくん……、モテるんだねぇ」

「そりゃ、あいつぁーね?」

 

睨まれた店主の逃避の呟きに、今度はクラインが乗っかった。

 

「……はぁ」

 

そんな中、クリスハイトがため息をついて、ディスプレイに向き直る。

 

「そ、それじゃあ……」

「うん。行ってらっしゃい!」

 

流石に居心地が悪かったのだろうか、アスナがそそくさと苦笑いで光の粒子になって消える。

 

「……よし」

 

すると、店主がまたディスプレイを展開し、誰かへと電話をかけはじめた。

 

それと同時に、

 

「クリスハイトさん!それじゃ、また今度ね」

「えっ、ちょっ!待っ!」

 

そんな声をクリスハイトに掛けて、店主もまた、光の粒子になって消える。

 

激戦を繰り広げているBOBを映し出したディスプレイなど、目もくれず。

 

 

「はぁ……はぁ……ついた!」

 

そう言って、その少年、タスクは、()()に座る。

 

そして月を見上げると、

 

「……オセロット。所定の位置に到着。待機する」

 

右耳のイヤホンに、声を送った。

 

《了解。(ピークォド)は見えてるか?》

 

するとすぐに、返事が返ってくる。

 

タスクはその返事に促されて、周りを見回した。

 

「えっと……あれか。コンビニに止まってるな」

《そう。よし、視認を確認。目標(ターゲット)を発見次第、報告する》

「了解」

《あとは、ボスのタイミングで突入、接触(コンタクト)してもらって構わない。……それと、ボスの回収は危険区域(ホットゾーン)外で行うからな》

目標(ターゲット)は?」

《それは、菊岡(クライアント)が何とかするだろう。その場に置いておけ。ただし、拘束までとは言わないが、失神(スタン)させておいてくれ》

「なるほど、分かった」

 

そこまで話して、話は途切れる。

 

……と思った矢先。

 

《ふう……いよいよだな》

「ああ」

 

オセロット、もとい店主が、どこかしみじみと呟く。

 

すると、

 

「任せておけ、オセロット」

《……!》

 

 

 

 

 

「野郎、ぶっ殺してやる」

 

 

 

 

 

《……はは、ほどほどにね》

「分かってるさ」

 

そういって、いつの間にかつけた眼帯と、本物の、そして()()()()()()()()()()()()()()、あのマスクの下で、ボス、もといタスクは口を歪めてニヤリと笑った。

 

 

 

()()()()は、もうすぐそこまで迫ってきていた。




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Episode50 最終局面 〜Last phase〜

「くしゅん!……っ!」

 

東京都。カラスが寂しく鳴き、1日の終わりを告げる時刻。

 

そんな大都市のとあるアパートで、シノン、もとい朝田詩乃は、冷えきった部屋で、くしゃみに促されるように目を覚ました。

 

正確には、()()()()()

 

「……はあ」

 

ため息をつき、ゆっくりと起き上がった彼女は、頭についているアミュスフィアを外す。

 

すると、電気をつけていない、暗い部屋の中を、自宅なのにも関わらず恐る恐る見回した。

 

電気をつけ、リビングはもちろん、簡易設置型のクローゼット、ベッドの下、台所に、その横にある風呂場を、まるで証拠を探す刑事のように見回す。

 

「馬鹿みたい……!」

 

そんな自分の仕草に、こんな言葉が漏れる。

 

結局、というよりはもちろん、そんな「捜索」も甲斐なく、詩乃の部屋の中には何も、誰も、なんの証拠もなかった。

 

「はぁ……!!」

 

そして、心底安心したかのように、大きく息をついて詩乃は座り込む。

 

「……」

 

床を見つめると、自然に頭の中で蘇る。

死銃の恐ろしい犯行方法と、その対象が自分である事実。

 

そしてそれを、淡々と話す、あの「少年」の姿。

 

その記憶が鮮明にあるからか、「犯人が自分の部屋にまだいるかもしれない」なんていう、変な不安がよぎってこんなことをしてみたが、何も異変はなかった。

 

「……さて……と」

 

そして詩乃は、ゆっくりと立ち上がる。

()()()()()へと、戻るために。

 

するとその時。

 

ピンポーン

「……!?」

 

突然、「来客」を告げるインターホンが鳴った。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

一人の少年が、すっかり日の落ちた夜の住宅街を走る。

 

黒いジャンバーに、黒色のズボン。

 

いつか言われた、「黒の剣士」。

そんな異名、そのままな服装で。

 

「私の名前は、朝田詩乃。住所は……」

「え!?」

 

必死に走る中、ついさっき、()()()()()()()()()が、頭の中で、リピート再生されているかのように、何回も聞こえてくる。

 

「やっぱりダメだ!いかなきゃ!」

 

回想を振り切るかのように、首を振るその少年。

 

「住所は、アスナが持ってきていたのと同じだった!菊岡の呼ぶ警察だって、間に合うかわからない!やっぱり……!」

 

そして、そんな状況判断とその整理をするかのように呟く少年、キリト、もとい桐ヶ谷和人は、走り続けた。

 

「来なくて……大丈夫よ」

 

一刻も早く、そんなことを言っていた、でも助けを待っているであろう「あの彼女」のために。

 

そんな感情からか、その背中はどこか、焦りという感情が滲み出ていた。

 

「頼む……!間に合え!」

 

そんな、呟きもまた然り。

 

 

目標(ターゲット)が入ってから、約5分たった。まだ行かないのか?》

「ああ……シノンはそんなヤワじゃない」

 

未だ屋根に座り続けるボスは、そんな声を右耳のイヤホンに送る。

 

《……ボス。いくらなんでも……》

「わかってる」

《じゃあなぜ?》

「今にわかる」

《……?》

 

オセロットが困り果てている様子が、マイクに集音される、ため息と環境音から聞いて取れる。

 

……が、次の瞬間。

 

《あっ……!》

「……な?」

 

ガタッ!という、オセロットがせまい車内で立ち上がったとしか思えない環境音がする。

 

そして、

 

《なるほど……。わかった、了解だ。幸運を》

「ああ」

 

そういって、オセロットは通信を切った。

 

 

 

 

そんなまさにその時、シノンのアパートに、キリトが到着したのだった。

 

 

「朝田さん!朝田サン!アサダサン!」

 

押し倒し、上に被さった上で、まるで呪文のように彼女の名前を唱える新川の狂気の沙汰に、詩乃は恐怖を覚える。

 

 

やっぱり。

 

 

そう言わんばかりに、詩乃は「あの彼」との会話を思い出す。

 

死銃の仲間が、自分の部屋にいるかもしれない。

あの戦闘中、無防備に寝ている自分を殺そうとしているのかもしれない。

 

そしてその死銃の仲間は、たとえBOBが終わって、現実に帰ってきても詩乃の部屋にいるかもしれない。

 

そんな予測を立てて、部屋の中を捜索してみたが、誰もいなかった。

 

そりゃそうだ。

死銃に殺られてもないのに、ましてや現実に帰ってきたのに、いるわけがないのだ。

 

そこで気を抜いたがために。

 

「知り合いだ」、そんな先入観のせいで、その「死銃の仲間」を、おそらく()()招き入れてしまった。

 

全く、なんの疑いもせず。

 

「や、やめ……て……!!」

 

あまりの恐怖に、そして後悔に、そう言って詩乃がゆっくり目を閉じる。

 

するとその時。

 

バリィン!

ガチャッ!

「「シノンから離れろ!」」

 

()()()()()が、一方は玄関のドアから、もう一方は、玄関の反対側にあるガラス窓から、飛び込んできた。

 

「え……?」

ゴッ!

 

詩乃がその音にビクッとした時。

 

新川の顔が、玄関のドアからはいってきた、()()少年に膝蹴りされる。

 

ガッ!

 

そして新川がよろけた瞬間、窓から入ってきた、()()()()()の少年に、後ろ膝を蹴られて倒された。

 

「がはっ……!」

バタン!

「……」

「ぐ……うぁぁぁ!」

 

すぐさま、倒れた新川が、立ち上がりざまに眼帯マスクの少年に殴り掛かる。

 

……が。

 

ドカッ!

「がはっ!」

 

まるで大人と子供のように、新川が窓側へと投げ飛ばされた。

 

それも、殴りかかってきた右手を掴み、背負うようにして、軽々と。

 

「……!」

 

その洗練された動きに、詩乃は目を見開く。

 

するとその時。

 

「け……怪我はないか?」

 

詩乃の後ろから、やさしい声が聞こえてきた。

 

「あ、あなた……!」

 

咄嗟に振り返った詩乃はその時、その少年の雰囲気から、何かに気づく。

BOBで共闘した、あの面影とその少年がぼんやりと重なり、一致する。

 

「まさか……!」

「……!」

「キ……キリト!?」

「お、おう……」

 

その結果、あまりの驚きに、思わず名前を叫んでしまった。

 

それもそのはず。

シノン、つまり詩乃は、向こうの世界で「こなくてもいい」と言ったのだ。

 

なのになぜ……と、詩乃は一瞬思考する。

 

するとその時……

 

「僕の……」

「……!」

「僕の朝田さんに触るなぁ!」

「あっ……!」

 

新川が、よろよろと立ち上がって絶叫し、さっき新川を投げ飛ばした少年に殴りかかった。

 

それを、絶叫につられて振り返って見た詩乃は、完全に思考が止まり、絶句する。

 

……が。

 

「……シノンを頼む。キリト」

「え?お、おう」

「……?」

 

その殴りかかられかけてている少年は、ふいっと振り返り、和人に余裕綽々に声をかけた。

 

なぜか和人は、予想もしていなかったらしく、少し慌て気味に返事をしたが。

 

詩乃は、少なからずそんな対応に疑問を持つ。

 

全く同じタイミングで飛び込んできたくせに、何故そんな疑問形なのか。

 

それに、なぜその声をかけるのがこのタイミングなのか。

本来なら、まずは防御が先決のはずだ。

 

だが、そんなことを考える暇などなかった。

 

「……ふん」

ドスドスッ!

「がっ……!?」

「せいっ!」

バキッ!!

 

その少年が、あっさりと新川の攻撃を避け、右横腹、左胸、そして右頬を殴打したからだ。

 

そんな()()()コンビネーションアタックをもろとも受けた新川は、為す術もなく倒れ込む。

 

「……」

「ぐっ……!クソがぁ……!」

 

そして新川は、倒れたそのまま、黙って見下ろしているその少年を見上げた。

 

「だいたい……!誰だおまえ!!」

「単なる……傭兵まがいの学生だが?」

「傭兵ィ……?はぁ!?意味わかんねーよ!!」

 

傭兵まがいという言葉に、詩乃ははっと息をのむ。

そんなことを言うのは、「あの彼」しかないからだ。

 

だが、そんな詩乃など目に入らず、詩乃の思考を打ち消すかのように、新川は、じれったくなったのか発狂しだす。

 

「ううう……ああああ!!!殺してやる!お前ら全員、殺してやるううううう!!!」

「殺す?」

「そうだよ……お前なんか、お前なんかなぁ!」

「はぁ……いいか?よく聞けクソ野郎」

「な!?……っ!!」

 

その少年が、発狂する新川に口を挟み、ギロりと睨む。

新川は、あまりの眼力に怯んで絶句する。

 

するとその少年は、倒れた新川を指さし、

 

 

 

 

 

「お前に、俺は、殺せない」

 

 

 

 

 

そう、言い放った。

 

「な……なに!?なんだと!?もう一度……!」

 

新川は、怯みつつも抵抗する。

……が、その少年はまた口を挟んで、

 

「それにな?」

「な……!」

「後ろの彼女は()()()()じゃない」

「……!」

「あの二人は、()()()()()()狙撃手(スナイパー)剣士(ナイト)なんでね」

「な……!」

「そんな簡単に、やすやすと手を出してもらっては……」

「……!」

「困る」

「ぐ……!」

 

そしてまた、ギロりと睨んだのであろう。

新川は、相変わらず倒れ込んだまま、怯む。

 

その場に沈黙が訪れた、その時。

 

「ね、ねえ、あなた……!」

 

突然、詩乃が、後ろからその少年に声をかけた。

 

その少年はもちろん、新川も、ピクリとその声に反応する。

 

「も、もしかして……!」

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 

そして、詩乃が問いかけようとした時。

 

新川が、隙を狙ったかのように、立ち上がってまたその少年に殴りかかった。

 

今度は、手に何か、「白いもの」を持って。

 

「あっ……!!」

「おい……!!」

 

それに気づいたのか、詩乃と和人が声を上げる。

 

……が。

 

「甘い」

バシン

「な……!!??」

グイッ……ギリッ!

「が……!!がはっ……!」

 

その白いものは、その少年の体にあたる直前に叩き落され、そしてそのまま、流れるように新川は、その手を掴んで羽交締めを決められた。

 

「ぐ……!!」

「……それがおまえの「黒星」か」

「……!!う、うるさい……!」

 

羽交締めをしながら、淡々と質問するその少年。

もちろんのこと、新川は何も答える気などないようだった。

 

すると、その少年はひとつため息をついて……

 

「はあ……分かった」

「……!」

「今すぐ、知っていることをすべて、」

「……!!」

 

「吐け」

 

「……!」

 

羽交締めをしながら、新川に尋問し始めた。

 

詩乃と和人は、その()()姿()を、見守るしかない。

 

「仲間は……どこだ?」

「お前になんか……!お前になんか、教えるものか!」

 

新川の、必死の抵抗が部屋に響く。

そして、そんな声を境に、沈黙が訪れる。

 

「吐かないんだな」

「お、お前なんかに……」

「……」

ギチ…

「ぐっ!」

 

声がすると言っても、この程度。

 

そしてその後、約5分たち……

 

「そうか。分かった」

「……?」

 

その少年の、一際大きな、そして半ば諦めの感情が混じった声が沈黙を破る。

 

 

 

「残念だ」

 

 

 

そしてその少年がそう呟いたその直後。

 

ギチギチギチ!

「ングッ……!!」

 

今度はある意味「グロい」音が、部屋に響く。

 

「これが、()()()()()()というものだ」

「ア……アガ……!!」

()()()()()()で懺悔するといい」

「や……!やめ……ろ……!!」

 

その少年はそれでも、淡々と声を出す。

 

そんな音と状況に耐えかねず、詩乃が声を上げようとしたその時。

 

「も、もうやめ……!!」

バタン!

 

()()()()()新川が、音を立てて倒れた。

 

詩乃は、それを見て恐怖する。

和人も例外ではなく、その光景を凝視していた。

 

二人の脳裏に、さっきの少年の言葉が蘇る。

 

『これが、()()()()()()というものだ』

()()()()()()で懺悔するといい』

 

そして、無力に倒れる新川。

ピクリとも動かないその体。

 

 

 

…………『殺した』。

 

 

 

詩乃と和人はそう悟り、息をのみ硬直する。

 

目の前の光景を凝視し、動かなかった。

正確には、「()()()()()()」。

 

目の前に()()()、「人間の命」。

 

和人は「あの時」の、()()()()()、光の粒子を、

詩乃は「あの時」の、()()()()()()、紅の液体を、

 

それぞれ瞬時に思い出し、完全に思考が停止していた。

 

「「っ………!!!」」

 

姿勢すら変えず、視線も逸らさず、二人は倒れた新川を凝視し続ける。

 

……が、するとその時。

 

 

 

「なーんて……ね?」

 

 

 

さっきとは一転。

小さい子供のようなトーンの、そして「あの彼」のによく似た、()()()な声が、部屋に響いた。

 

「「へ?」」

 

虚をつかれた二人の、マヌケな声も、その後に。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

ついに!始まりましたね!アニメGGO!
え?間に合わなかった?
ナンノハナシカナ-(;・3・)~♪ 

ちなみに、死銃編はまだちょーっとだけ、続きますよ!

ではまた!よろしくお願いします。

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Episode51 幕引き 〜Curtain〜

「いやぁ、二人ともお疲れ様!」

「は、はあ……ありがとう……ございます?」

「おい……シノンがこまってるぞ」

 

そんな会話が聞こえる、都内のとある高級レストラン。

 

対面式の6人がけの席で片方に菊岡が、それに対してもう片方に詩乃と和人が並んで座り、向かい合っている。

 

菊岡はいつものように微笑んで、まずは……と言わんばかりの前置きを繰り出していた。

 

「君たちはよく頑張ってくれた。本当にありがとう」

「い……いえ、私は何も……」

 

そんな、菊岡の優しい言葉に謙遜する詩乃。

 

そこには、「ただ仕事をしただけ」という、自制心があった。

あるいは、ボスなら……という、どこか憧れのような感情からかもしれない。

 

「なーに言ってるんだ。シノンがいなきゃ、あいつは倒せなかった」

「そ、そんな……」

 

そんな彼女を見て、今度は和人が声を掛ける。

 

ただ、その言葉は単なる気遣いからだけではなかった。

 

あの時、近接戦闘に発展し、膠着していたあの瞬間。

もしシノンからの、あの「援護」なければ、死銃の懐に斬り込めなかった。

それに、心強い味方でいてくれた「彼ら」の元へ、()()()()()()()導いてくれたのも、詩乃だ。

 

そこから、どこか「感謝」に似た感情が、今でも和人には常にある。

 

「……そ、そんなことよりも!」

「?」

 

すると詩乃は、気恥しい気持ちからか、雰囲気を変えようと話を変える。

 

「し……!新川君は……いえ、恭二君は、どうなるんですか?」

「……!」

「やっぱり、少年院……とか?」

 

勢いよく切り出したはいいものの、話の内容からか、みるみるその勢いは衰え、詩乃は一転してどこか恐る恐る菊岡に聞く。

すると菊岡は、すこし考えるような仕草を見せ、ゆっくりと息を吐く。

 

その後で、ゆっくりと話し出した。

 

「そう……だね。おそらく恭二君達……いや、新川兄弟は、()()少年院に収容される可能性が高いと思うよ」

()()……少年院?」

 

そんな菊岡の答えに、少し疑問を持つ詩乃。

 

何故、単なる「少年院」ならともかく、「()()少年院」なのか。

確かに、あの少年……()()()()()の少年に、過剰と言えるほどボコボコにはされていたが、あの後あの少年は、

 

「なーんてね。……やだなぁ!殺すわけないじゃないですか!失神させただけですよ!」

 

なんて言って、

 

「そいじゃーまたね!シノンさん!キリトくん!」

 

……とか言いながら、颯爽と窓から消えていった。

 

そもそもあの少年はいったい誰なのかも気になる。

まあ……あらかた予想はついているが。

 

とにかく、そんなことよりも、流石に自分が殺っておいて死体を置いていくわけがないし、だいたい、あんな簡単に人を殺れる人間などそういない。

 

そんな様々な疑問と思考が詩乃の顔に現れたのか、菊岡はまた、話し出す。

 

「そう。恭二君の兄、昌一君は、取り調べに対して、「死銃事件はゲームだ」なんて言ってるし……まあ、「医療」というよりは「矯正」かな」

「……」

「彼らは二人とも、()()というものを持っていないわけだし……ね?そういう意味での、矯せ……」

「それは……違うと思います」

「い?ん?……というと?」

 

その時、詩乃が、いきなり菊岡の話途中に言葉を挟む。

 

「恭二君……彼はきっと、GGOの中だけが真の現実と決めていたんだと思います」

「ほう……」

「私に襲いかかってきたあの時、恭二君は、「ゼクシード」ってプレイヤーにすべてを壊された……なんて言ってましたし……」

「なるほど……ね」

 

そう言って、俯く詩乃。

信頼していた友達に、殺されそうになった恐怖が蘇る。

 

そんな彼女を見て、その感情を察したのか、菊岡と和人がまた声をかけようとしたその時。

 

「まあ……」「詩乃……」

「だから!!」

「「!」」

「だから……!その……、私は、恭二君に会って、自分が今まで何を考えてきたか、今何を考えているのか話そうと思います」

「……!」

 

さっきの表情とはとは一転、明確な意思を持って、真っ直ぐな眼差しではっきりとそう口にする詩乃。

 

そんな彼女の眼差しは、どこか「あの彼」に似ていた。

 

「……ふふ、詩乃……いえ、シノンさん」

「はい……?」

 

そんな眼差しを受け、ふっと息をつき、微笑んで詩乃を見る菊岡。

 

「あなたは強い人だ。是非、そうしてください」

「……!ありがとうございます」

「手配は済み次第、連絡するから、少し時間をもらうよ?」

「はい……!よろしくお願いします」

 

そこまで話して、今度は詩乃がふっと息をつき、気が抜けたのか、表情が柔らかくなる。

 

すると、そんな顔を見て、菊岡が冗談交じりで不意に()()()()を呟いた。

 

「……ふふ、流石、()()に認められただけはあるね」

「あっ……!」

「え……?今、なんて……!!」

 

すると今度は、キリトが口を挟む。

 

そして先程の詩乃のように、恐る恐る、菊岡に質問した。

 

「今言った、()()って、まさか……?」

「……そうだよ?ビッグ・ボスたちさ」

「な……!ってかどういう事だ!?」

「その……!ごっ……!ごめん!キリト……!言おうと思ってたんだけど……その……!」

「……なるほどね。そういうことかよ……!!」

 

呆れたようにため息をつく和人。

 

実は彼は、前々から疑問だったのだ。

 

「なぜ、()()()()をしでかしたのにも関わらず、シノンはずっと、助けてくれたのか」

 

……が。

 

死銃と戦う傍ら、むしろ戦っている時だからこそ、その疑問は時間が経つにつれ、和人の胸の中で膨れ上がっていた。

それと同時に、内心で、ただやさしさだけではない()()が、シノンにはあると……。

そしてそれが、シノンが自分を助けてくれている動機であると、踏んでいたのだ。

 

そして今、その()()が、()()によるものだと理解し、納得する。

というより、ストンと腑に落ちた。

 

そこから和人は、詳しくは追求しなかった。

詳しくは知らなくとも、それだけ分かれば十分だからだ。

 

その代わり、

 

「どおりでやたら強いなと思ったよ……」

「そ、それは!私の実力よ!」

 

そんな、あえて「ふざけた事」を和人は抜かす。

それを聞いて、詩乃はきっ!と和人を睨む。

 

「はは、若々しくて、仲がいいねえ、おふたりさんは」

 

そんな彼らを見て、菊岡はまた微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

……こうして、死銃事件は幕を下ろしたのである。

 

 

「……さて、そろそろ、時間だね」

「「……!」」

 

その後しばらく食事を交えつつ雑談を交わし、楽しい時間を過ごした三人。

 

その時間の終わりを菊岡がつけ、立ち上がった時。

 

「あ……そうだ」

「……?」

「忘れてたよ。和人くん」

「俺……か?俺になにか?」

 

これもまた菊岡が、どこか()()()()()()何かを思い出す。

 

そして、スーツの中に手を入れ、何やらごそごそと動かして、

 

「そう。君に、さ」

 

そう言って、1枚の丁寧に折り畳まれた紙を出した。

 

「……!なんだ?それは」

 

当然のごとく、和人は疑問に思う。

 

すると菊岡は、少し目を細め笑うと、まさかと思うようなことをさらりと口にした。

 

「伝言……だ」

「伝言……?」

「そう。君に宛てた、()()からの伝言」

「……!!」

 

和人は唖然とする。

ついでに言えば、詩乃もぽかんとしている。

 

()()と言えば、そう。ビッグ・ボス達だ。

 

詩乃でさえ、彼らが伝言をしてくるなど全く思ってなかったのだ。

和人なんて、もってのほかである。

 

「読んでも……いいかい?」

 

するとそんな彼らへ、菊岡はそう尋ねる。

 

二人は、はっと我に返ると、

 

「あ……!ああ。読んでくれ……」

 

その二人のうち、もちろん、宛てられた本人である和人が、菊岡を促す。

 

そして、菊岡のものではない、()()()()()()調()の言葉が、菊岡の口から淡々と、和人達二人に向かって放たれた。

 

「ゴホン!……では……

『やあ!キリトくん。お疲れ様。そしてありがとう。君は立派に役目を果たしてくれた。心より感謝する。

 

……さて。短いけれど前置きはこのくらいにして、さっさと本題に入ろう。

今回、菊岡さんに、こんな伝言をお願いした理由は、きっと分かっているよね。

そう。当然、「君が、僕らの一員になるのかどうか。」さ。

 

今きっと君の隣に座っているであろうシノンさん、つまり詩乃さんは、知ってると思うけど、既に僕らの仲間として、活動してくれている。

彼女もまた、「君を守る」という仕事をしっかりと果たしてくれた。

 

まあ……お世話になっちゃってた部分もあったけど、それはお互い様としよう。

 

……君の()()()()()()()も、含めてね。

 

えっとそれで、話を戻して……

君が僕らの一員になってくれれば、もちろん嬉しい。

大きな戦力になり得るし、なにより心強いからね。

 

……でもね、君はもう居場所がある。

アスナさんたちのところさ。

 

だから、無理にとは言わない。

 

君が、君自身のことを考えて、君のために決断を下してほしい。

 

僕らはどちらでも構わないよ。

いつでもいいし、いつまでも待ってるから、返事をちょうだいね。

 

それと、こんなこと言ってるけど、君はもう既に僕らの「仲間」であることは変わりない。

 

もし「一員」にならなくても、いつでもいらっしゃい。

 

僕らはいつでも歓迎しよう。

 

 

 

リボル、コードネーム:オセロットより。

 

また会おう!』

……以上だ。」

 

菊岡の、伝言の朗読が終わり、場の空気がしん……と静まり返る。

 

そして、

 

「……分かった。確かに受け取ったよ」

 

和人がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

……そしてこの()()も、幕を下ろしたのである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やーっと死銃編が終わった?
まだだ、まだ終わらんよ!!!(`✧ω✧´)ピカァ

もー少し、(てか結構、)続きます!
お楽しみに!

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Episode52 休息 〜Rest〜

「なあ……シノン?」

「?」

「この後、時間あるか?」

「な……!」

 

菊岡との会談を終え、レストランをでた二人。

 

和人のいきなりの質問に、詩乃は驚きつつ歩道を歩く。

 

「べ、別に……今は特にないわ」

「そうか、じゃあ……!」

「あっ!でも、夜には、GGOに行くつもり」

「……分かった。その、実はさ、少し……付き合ってほしい場所があって……!!」

「……?いい……けど」

 

詩乃の答えを聞いた和人は、すこし頬を赤らめつつ彼女をどこかへ誘う。

 

詩乃はそんな和人の仕草を少し疑問に思いつつも承諾し、二人はヘルメットを被ってバイクに跨る。

 

そして……

 

ブォン……!!ブォンブォン……!!!!

 

エンジンをふかしながら、すぐに街の中へと消えていった。

 

 

同時刻。

GGO内、店主の店で、店主とタスクは、カウンターに向かい合って座り、だべっていた。

 

死銃事件が終わり、緊張が解けたのか、二人の顔にはなんの陰りもない。

 

いくら彼らといえど、人間である。

心の休息は不可欠なのだ。

 

「ふふ……やっぱり、シノンさんは真面目だったねぇ〜!」

 

すると店主が、だべりの中で、そんな言葉を漏らす。

タスクはもちろん、疑問を持った。

 

「やっぱり?前々から知っていたでしょう?」

「……いや、ね?実はさ」

 

首を傾げるタスクに、店主は種明かしをするようにニヤリと笑う。

 

「僕ね、シノンさんに、キリトくんが菊岡さんに送り込まれたプレイヤーだって、教えてないんだよ」

「はいぃ!?」

 

タスクは反射的に立ち上がる。

 

店主がシノンに、BOB参加の仕事を斡旋したのはもちろん知っている。

その理由も、「ボスへの報告」という形で聞いていて、把握していた。

 

だが、それを知っているから、むしろだからこそ、分かるのだ。

今店主の言ったことが、とてつもなく頓珍漢であり、本末転倒なことが。

 

しかし、よくよく考えてみれば、シノンもシノンで、しっかり仕事をこなしていた。

 

矛盾に矛盾が重なり、訳が分からなくなる。

 

すると、店主が、

 

「と、言うのもね?」

「……はい」

 

ニコニコしながら、話し出した。

 

「僕さ、実はシノンさんに、BOBを楽しんでほしいと思って、あの仕事を斡旋したんだ。彼女、過去のことを掘り返しちゃって、少し気分が落ちてたから……」

「あ、ああ……」

「そしたら、バッチリのタイミングで死銃事件が発生しちゃってね」

「……まあ、彼らも合わせてきましたからね」

「それでね?一応と思ってあういう依頼をしたんだよ」

「……」

「……けどさ」

「さ?」

「よくよく考えてみれば、これって僕らが表から手を出しちゃってるじゃない?」

「まあ……たしかに」

「それはまずい。菊岡さんに怒られちゃうからね。だから、キリトくんがそのプレイヤーであることはあえて言わなかったの。これで一件落着」

「……」

「まあでも、結局、何らかの形で気づいたんだろうね。しっかりと仕事をこなしてくれた。だから、真面目だなぁと。……ね?」

「……ブチッ」

「……ね?た、タスク君……!!」

 

そこまで話して、店主は何かをタスクから感じる。

 

……そう、それは、「タスクの怒り」であった。

 

「店主さぁん……?」

「ひっ……!!」

「なにが……ねっ!なんですかねぇ……?」

「い、い、いや、そのあの……!!」

「なぁに店主さんの優柔不断にシノンさんを巻き込んでるんですか!」

「ひいいい!!」

「全くもう、可哀想でしょう!?」

「は、はいっ!」

「すべて、今聞いたこと、洗いざらい、ぜーんぶシノンさんに話しますからね」

「ええ!?そ、それはどうか……!!こんなこと言ったら、シノンさんはきっと……!」

「ダメです!僕がいくら言ってもこれですからね。たまにはこってり他の人に、というより、被害者に絞られてください!」

「……ひ、ひーん!」

「嘘泣きしたってダメです」

「はいっ」

 

ぷい!と、そっぽを向くタスク。

やらかした……と言わんばかりに沈む店主。

 

二人の間に、重苦しい雰囲気が漂いだす。

 

……と思われた、その時。

 

「まあでも、こんだけ言うって事は、タスクくんもシノンさんのこと、思ってるんだよね……」

 

そんなことを、店主は机に伏せながら、小声でぼそりと呟いた。

 

するとその時、タスクの頬がみるみる赤くなる。

 

「〜…!!」

「青春だね〜……ふふふ!」

ガタッ!

 

そしてタスクはいきなり立ち上がると、無言で射撃演習場へと走って行った。

 

「慣れてないなぁ、タスク君」

 

そんな背中を、おかき上がって見た店主は、そう呟いて微笑んだ。

 

するとその時。

 

ガチャリ…カランカラーン!

「……!」

 

店の扉が開き、扉についたベルが来客を告げる。

 

そして、

 

「やっほー!!店しゅー、息してるー?」

 

妙にハイテンションな声が響き、

 

「……ちーす」

 

妙に沈んだトーンの声があとからやってきた。

 

もちろん店主は対応する。

 

「はーい!いらっしゃい!」

「やほー!」

 

 

「ウォッカさんとフォートレスさん!」

 

 

と。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっとです。(笑)
大変、お待たせ致しました。

新キャラの登場です!

……と言っても、名前だけですけどね。
‪ちなみにこのキャラのどちらかは、今後「とあるネタ」の要員になります。‬‪お楽しみに!‬

今後とも、よろしくお願いします。

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Episode53 報酬 〜Compensation〜

「……!」

 

シノンは、だんだん現実味を帯びてくる体の感覚を感じつつ、ゆっくりと目を開ける。

 

キリトに誘われて行った先で会った、()()()()

娘の無邪気な笑顔と、「ありがとう」というあの言葉。

 

どちらも、別れて家に帰り、GGOに来た今でも、鮮明に頭に残っている。

 

「……がんばらなきゃな」

 

それをまた思い出し、手を握りしめるシノン。

 

PTSD(トラウマ)が治った訳では無い。

でも、自分がそれを背負ったことで、救えた人達がいる。

 

その事実を、「わかっている」だけでなく、きちんと「知っている」状態になったということは、彼女の中で、大きな精神的(メンタル)優位性(アドバンテージ)になった。

 

「さて……と」

 

そうして彼女は()()、歩き出す。

 

この世界を、間接的には、現実の世界の平和を、守る為に。

 

 

ガチャリ……カランカラーン……

「いらっしゃいませー!」

 

シノンが店の扉を開けると、いつものごとく店主の声が聞こえる。

 

そんな声を聞きつつ、棚の間を抜け、カウンターまで歩いていくと……

 

「……おや、シノンさん!こんにちは」

「はは……どうも」

 

店主はシノンを見ると、挨拶をする。

 

すると。

 

「お待たせ」

「……!」

「できてるよ」

 

店主は、何か意味ありげに微笑んで、シノンを見た。

 

シノンもシノンで、その笑みの意味は理解している。

 

そして……

 

「……はい」

ガシャッ

「……!!」

 

店主は、カウンターの下から、「()()()()」をだし、置いた。

 

槍のように突き出したバレルと、その先についた少し大きめのマズルブレーキ。

比較的スリムな金属製のボディと、アクセントのように目を引く木製のグリップとストック。

そして、その上に鎮座する大きなスコープ。

 

もうお分かりだろう。

 

そう、シノンの愛銃、「ウルティマラティオ ヘカートII」である。

 

「あ、ありがとうございます……!!」

「いえいえ。それだけの事をしてくれたから、お返ししたまでさ」

 

シノンは少し高揚しつつ、店主に感謝の言葉を言う。

 

使い慣れた愛銃が、ほぼ新品同様になるのは、誰だって嬉しくなるだろう。

 

「〜♪」

 

シノンは、珍しく鼻歌を歌いながら、ヘカートIIを手に取って撫でる。

 

実はシノンは、BOBでの死銃戦の際、死銃に、スコープを撃ち抜かれていた。

 

逆を言えば、スコープのおかげでヘッドショット即死判定を免れたのだが……

その対価だろうか、スコープは愚か、()()()へのダメージは大きかった。

 

なぜならば、スコープが撃ち抜かれた時、精密さを求めて、誤差のないようガッチリと固定されていたレールが、その固定の強さが仇になり、引き上げられるように破損してしまったからだ。

 

それにより、フレームに、シリンダーにと衝撃が伝わり、全体のバランスが崩れてしまった。

ネジというネジが折れて歪んで、パーツというパーツが使い物にならないほど形が崩れてしまったのだ。

 

そこで、シノンが店主に修理を依頼。

店主はもちろん快諾し、任務の報酬も兼ねて、()()で修理を行ったのである。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

するとその時、シノンが、ヘカートIIの()()()に気づく。

 

店主は、そんなシノンを見て、ふふふと微笑んだ。

 

「これって……?」

「ああ。少しいじらせてもらったよ」

 

そう言って、店主はヘカートIIへ目線を落とす。

それにつられて、シノンもヘカートIIへ目線を戻した。

 

そう、実は店主は、修理だけではなく、()()()()()()()()()()()もしていたのだ。

これに関しては、店主と()()()の独断によるものだが。

 

「どうりで、なんか重たいなと……!」

「ふふ、ごめんね……?」

「い、いえ!むしろありがたいです……!」

「そう……?よかった!」

 

店主は、シノンの明るい顔にほっとする。

 

ヘカートIIには、基本パーツの交換はもちろん、カスタムパーツの組み込みや、付属パーツの取り付けがなされていた。

 

コッキング速度、ゆくゆくは速射力増強に繋がる、ストレートプルボルト。

遠近両方に対応できるように、スコープの前のレールに取り付けられた、斜めにせり出すオフセットアイアンサイト。

その他、後付けサイドレールを装着し、レーザーポインターや、弾道計算装置が取り付けられていた。

 

後付けサイドレールは、シノン好みのパーツがつけられるように2〜3本程度、空きが作られてある。

 

もちろんこれだけではなく、ほぼすべてのパーツが入念に吟味され、カスタム化されていた。

 

セーフティーレバーやトリガーに至るまで、どこのどんなパーツも、研磨し噛み合わせをタイトにして、精度を上げる程に。

 

「すごい……!本当に、ありがとうございます……!」

 

それを、使い手だからか一瞬で察したシノンは、頭を下げて礼を言う。

 

……が。

 

「いやいや、だからね?」

「……!」

「僕は、君の仕事の対価にそれをしただけだ。礼を言われるようなことはしてないよ」

「そ、そんな……!」

 

少し謙遜も含み、店主は微笑みながら固く礼を拒む。

 

それを受けたシノンは少し、むしろ残念そうに口を噤んでしまった。

すると、それを見た店主が、

 

「ふふ……まあでも、そこまで礼を言いたいなら、タスク君に言ってあげて」

「……え?」

「彼も彼で、()()()()()とは言わないけど、そのヘカートIIの修理・改良に貢献してくれたからね」

「……!」

 

シノンが目を丸くし、そして少し、頬を赤らめる。

 

「むしろ、礼を言うなら、そっちが()かな。是非、言ってあげてほしい」

「……わ、わかりました」

「うん。……よろこんでくれてよかったよ」

 

そう言って、店主はそそくさとレジに戻り、来客を待つ姿勢に戻る。

 

……が、店主は見逃していなかった。

シノンの、頬の紅潮を。

 

「やっぱり、青春だねぇ……」

 

そんなことを呟いて、微笑む店主。

 

だがもちろん、本人であるシノンには、その呟きは聞こえていなかった。

 

 

そして、しばらくした後。

 

ガチャ…

「やっほー!シノノン!息してるー?」

「へ!え!?はい!?……きゃっ!」

 

ヘカートIIを眺めたり、触ったりしていたシノンに、射撃演習場から一人のプレイヤーが飛び出してきて、そのまま飛びついてきた。

 

「いやー!近くで見てもやっぱかわいいね!どれどれ……」

 

するとそのプレイヤーは、そんなことを言って、シノンの体の至る所を触り始め、

 

「ひ……!きゃんっ……!」

 

シノンが、店主ですら聞いたことないような悲鳴をあげる。

 

……すると、次の瞬間。

 

ゴンッ!

「あいだぁ!」

 

そのプレイヤーの後頭部が赤く光った。

 

「すまんな。うちのアホが……」

「い……いえ……」

 

あまりの衝撃にそのプレイヤーは、ゆっくりと倒れていく。

 

その後ろにいつの間にか立っていて、拳に赤いエフェクトが煌めくプレイヤーが詫びを入れる。

 

想像には難くない。

シノンにある意味「痴漢」をしていたプレイヤーが、その後ろに立つプレイヤーに後頭部を殴られたのだ。

 

そんな()日常的な光景を眺めていると、シノンはふいに、()()()()に気づく。

 

「……あっ!!」

「……?」

「もしかして、あなた達は……!」

「……ああ」

 

そう言って、シノンは彼らの面影に見入る。

 

「あの時、ウインクしていったあの……!」

 

そう。彼らは、BOB予選の時に、すれ違いざまにウインクしていった二人のプレイヤーだったのだ。

 

 

 

 

 

「……久しぶり……だな」

 

フードを目深くかぶったプレイヤーは、そう言葉を発することで、肯定を示した。




次回!
死銃編【最終回】

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Episode54 紹介 〜Introduction〜

「えー、ごほん。では、改めまして」

「改めてって……お前が荒らしたんだろう?」

「う、うるさいわね!」

「は、はは……」

 

そんな、()()()()()での仲のよい会話が響く店主の店。

 

シノンと、その仲のいいプレイヤー二人は、カウンターの後ろにある対面式の席に座り、文字通り向かい合って座っていた。

 

「とっ……!!とりあえず!」

 

と、場を改めるように、そのプレイヤーは、また声を上げる。

そんな声に、シノンは半ば気圧されつつ強引に頷いて、その先を促した。

 

それを見た二人の内、最初に、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、バラクラバをし、軍用セミフェイスヘルメットを被った、短い金髪のキャラクターが自己紹介をする。

 

「はじめまして。私の名前は「シャルル」。コードネームは「ウォッカ」よ」

「ウォッカ……さん」

「うん!気軽にどうとでも呼んでよ!」

「は、はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ!でね、私の仕事は主に、偵察」

「て、偵察……!」

「ま、私は前線に潜り込むほうだけどね。でも大体はシノノンと一緒よ?」

「……!」

「だからよろしくね!狙撃支援、頼りにしてる!」

 

そう言ってウォッカは、いつかしたようなウインクをする。

 

「……!」

 

シノンは内心、ウォッカのその言葉に、自然と心が温かくなっていた。

 

狙撃手(スナイパー)は、地域によって多少違うが、大多数は「偵察兵」と呼称される。

 

なにも、敵の内部に潜り込んで情報を盗み取る事だけが「偵察」ではなく、味方の()()()()を、味方の()()()()から見渡しているだけでも、立派な「偵察」として成り立つのである。

 

結果、やり方はどちらでも、偵察があるのと無いのとでは作戦行動に大きな差ができるのだ。

 

……ただ、それを理解してくれるプレイヤーはそういない。

 

スナイパー型の偵察スタイルに関しては、一部では「芋」と呼ばれるほど、「役たたず」という認識が強い。

 

対して、ウォッカのような、直接侵入型の偵察スタイルは、むしろ賞賛され、「強者(つわもの)」という、全く正反対の認識がある。

 

これは、必要とされる「技術」の理解されやすさの問題だ。

 

直接侵入型なら、敵に見つからずに進むという()()()()()技術が要求される。

これならば、傍から見てもすごさが伝わりやすい。

 

だが、スナイパー型は、傍から見れば、ただ()()()()()()

当然、恐ろしいレベルの計算力や隠密行動に関する知識と経験が要求されるが、それはほぼ全て()()()()()()ものだ。

 

もちろん、分かる人間にはスナイパー型のすごさも分かるが、それはごく一部。

その結果、結局はスナイパー型の、「芋」という認識は定着してしまっている。

 

そんなことを察している、むしろ知っているから、ウォッカはシノンを気遣って、「自分達は同等だ」と、話してくれたのである。

 

「……今度は、俺か?」

「!」

 

そんなことを考え、少し嬉しい気持ちに浸っていると、そんな声が聞こえてくる。

 

シノンは、慌てて思考を引き戻し、またこくこくと頷いて先を促した。

 

すると、そのプレイヤー、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったキャラクターも、淡々と自己紹介を始める。

 

「……俺の名前は、「トレンチ」。コードネームは、「フォートレス」だ」

「フォート……レス?」

「そう。フォートレスってのは、英語で「要塞」。つまり俺の担当は、主に防衛戦とかで、罠とかを使って、そこを要塞化する役割」

「要塞化……!!」

「そう。防衛なら任せろ」

「な、なるほど……!」

 

目だけしか見えないが、フォートレスは純粋に笑う。

 

外見からか、寡黙なイメージだったフォートレスの、不意打ちの柔和な笑顔に、シノンはまた一段と心が温かくなった。

 

それにつられたからか、つい笑みを返してしまう。

 

「……よろしくな」

 

フォートレスは、それを察したのかまたニコッと笑って答える。

 

 

 

そして3人は、お互いに見合って笑いあった。

 

 

「……よかった。すっかり仲良くなったね」

 

レジから聞き耳を立てていた店主は、微笑んで安堵の息をつく。

 

実は店主は、彼らが話し始めた時から、仕事などそっちのけでただひたすら盗み聞きをしていたのだ。

 

まあ、といっても今の時間は、客などいないし来ないし、修理も急用の依頼もない。

 

だから、仕事()()()()のではなく仕事()()()のが正確だ。

 

「ふう……これでやっと、ひと段落かな」

 

すると店主は、そんなことを呟いて、背もたれに背中を預け、手を頭の後ろに置いて、天井を見上げる。

 

死銃事件もあらかた収束し、菊岡との事後報告だの報酬だの、色々な諸仕事も終わらせた。

 

あと気がかりがあるとすれば、()()()()に関することだが……

 

正直、それは時間の問題だし、店主から言わせてみれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まあ、どうするにせよ……ってやつか」

 

そう言って、店主は思考にきりをつけ、立ち上がる。

 

そしてそのまま、シノン達の座る席の方に歩きつつ、「なにか仕事でも」と声をかけようとしたその時。

 

ガチャリ……カランカラーン……

「……!いらっしゃいませー!」

 

絶妙なタイミングで、お客さんがやってくる。

……が。

 

「……!!」

 

それは、単なる「客」ではなかった。

 

「おや、キリトくん……!!」

「こ、こんにちは」

「あはは、いらっしゃい。よく来たね」

 

そう、やってきたのは、キリトだった。

 

店主はもちろん歓迎する。

菊岡が()()()()をきちんと伝えたかは定かではないが、どちらにせよ歓迎することには変わりないからだ。

 

そんな理屈からか、それともただただキリトがかわいいからか、店主は微笑んでキリトに声をかけようとする。

 

するとその時、キリトが、それを制するかのように声を出した。

 

「今日はどうしたのかな?単なる気休め?それとも……」

「てっ……!店主さん!」

「……!おや、どうしたの?」

 

その声と、その時のキリトの顔から、店主は瞬時に()()()()()()()

 

店主は、キリトの事に関してはSAO時代から、()()()()()()よく知っている。

 

その経験から行けば、彼は仲間になることを拒否することぐらいなら簡単にすっぱりと言える人間だ。

 

だが今回は、顔から察するにそうではないらしい。

 

「……っ!」

 

その証拠のように、キリトは驚くほど緊張した面持ちで、何かを言おうとして、なかなか言い出せないでいる。

かと言って、店主が変に声をかけて、場を乱す訳にはいかないので、微笑んで待つしかない。

 

従って、しばらくの間、二人の間を気まずい沈黙が支配したのだが……

 

「あ、あのっ……!!」

 

やっとの事で、キリトが声を絞り出す。

そして続いて出てきたその言葉は……

 

()()()()、店主の予想の「斜め上」を行くものだった。

 

 

 

「俺と()()()、決闘させてもらえませんか!!!」

「な……!?」

 

 

 

店主は目を見開いて、あからさまに驚く。

 

……ただそれは、その「依頼」についてではない。

では一体何に、あの店主が驚き、目を見張ったのか。

 

それは、キリトが、

 

 

 

 

「なぜ君は、ボスの名前を知っているんだい……!?」

 

 

 

 

()()()」、この名前を知るはずもないからである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやー、長かったですね。
遂に!死銃編、完結です!!

ありがとうございました!
次章はやっと、SJ編……

と、行きたいところですが。

ご覧いただきましたとおり、またキリトくんがなにやらやろうとしておりますので……
もうしばらく、お待ちくだいね。(笑)

では。

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Side Episode1 名案 〜good idea〜 【一周年記念!】

みなさんこんにちは!
いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

今回は、
【「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」一周年記念!!!】
として、『特別編』をお送りしたいと思います!

また、あとがきにて、重大なお知らせを告知します!
ですので最後まで、お付き合いよろしくお願いします。

よろしくお願いします!
では!(∩´。•ω•)⊃ドゾー


「タスクくぅ〜ん……」

「う、うわ〜!」

 

彼らは、カウンターに並んで座り、店主はコーヒー(的な何か)を、タスクはコーラ(的な何か)を揃って啜りつつ、一時の休息を味わっていた。

 

時は、死銃事件解決直後。

シノンはいつもならいる時間だが、「リアルで用事が」と言って、今日はいなかった。

 

ラクスとカチューシャは射撃演習場に引きこもり、何やら訓練を繰り返している。

 

「ちょっ店主さん!なんなんですかいきなり!」

「どぉしよう〜!」

「何がですか!てか重たい!は・な・れ・て!」

「ひぃ〜ん……」

 

そんな中、店主が、タスクに体をもたせかけ、俗に言う「ウザ絡み」をしていた。

 

カウンターの上には、バラバラのウルティマラティオが置いてあり、作業中なのが簡単に伺える。

 

……まあ、実際、作業などこれっぽっちもしていなかったが。

 

「ほら!早くしないとシノンさんきちゃいますよ!」

「うぅ〜ん……分かってるよ?分かってるけどさぁ〜」

「分かってるんですよね!?じゃあやってください?」

「……」

「……なんですか」

「ひぃぃ〜〜ん!」

「うわあー!重たい!重たいって!」

 

まるで子供のように、項垂れグダり、うねうねと駄々をこねる店主。

 

さんざん見飽きた、または呆れ果てたと言わんばかりに、タスクは上にかぶさってこようとする店主を無慈悲に払い除けた。

 

「も〜!知らないっ!」

「あー!待ってぇー!やるから!やるからぁー!」

 

そしてタスクは、ぷいっと顔をそっぽに向け、スタスタと射撃演習場へと入ろうとする。

 

……が、するとその時、店主がポツリと呟いた言葉が、タスクの足を止めた。

 

「ほんとに困ってるんだよぉ……いろいろとさ」

「……!!」

「だからその……相談に乗って?タスクくん」

「はぁ……仕方ないですねぇ。最初からそういえばいいものを」

「だ、だってぇ……」

 

長年付き合ってきた、店主のどこか申し訳なさをにじませた頼みに、タスクはそれ以上歩を進める事が出来ない。

 

結局、ため息をついたタスクは、元の椅子に座り直した。

そしてそれを横目に、店主は手元のドライバーで、ウルティマラティオを組み立てつつ、ゆっくりと話しだす。

 

「最近さぁ、戦力不足でさ……」

「は、はあ」

「死銃事件でわちゃわちゃしてても、他に依頼はあるわけでね。新規の依頼は断れても、前々から頼まれてるやつだとなかなか破棄できなくてね……」

 

そんな、店主の話を聞いていたタスクは、そんな店主の言葉に疑問を覚える。

 

「え……前々からって、例えばどんな?」

「期間限定モンスターの討伐とか……かな。リーク情報を元にして、この時期にこのモンスターを討伐してほしいっていう……」

「ああ、それですか。」

 

すとん、と、疑問が腑に落ち解決される。

 

「そう。リーク情報っていう、不確かなものを元にしてるやつとかだと、成功報酬制だと流石に厳しいから、頭金って言うやつはもらってるけど、その……」

 

大型アップデートや、イベントが発生……あるいは発表されると、大体必ず2〜3件はその類の依頼がやってくる。

 

……それも、通常のものとは比べ物にならない破格の報酬金額で。

 

店主が言った通り、情報の不確定性から頭金として、ある一定の額は依頼時に受け取るのだが、それももし成功した際の報酬に比べたら微々たるものだ。

だいたい、そもそもそんなチャンスはなかなか巡って来ない。

 

従って、店主としてはなんとしても成功してもらい、資金を回収したいのだ。

 

……が、最近はその依頼のこなし具合が、少し悪くなっていた。

 

「……僕の配置ミスなのかなぁ。死銃事件が始まったあたりからか、ずっと大変なんだよね」

「なるほど……」

「なんかいい案ない?結構やばいんだよね。……今更、新メンバーを探し出して育成するのも、恐らく終わった頃には既に手遅れだし……」

「んー……」

 

タスクは、カウンターのどこか一点を見つめつつ、思考に耽る。

店主は、そんな彼を、助けを求めているような目で見つめる。

 

そんな視線などつゆ知らず、タスクはさらに思考を巡らせた。

 

新しくメンバーを入れるのには無理がある。

かと言って、自分たちでどうこうできる訳では無い。

 

ならば答えは簡単だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」のだ。

 

……だがそれは、()()()()()()()()()()()()()()……の話である。

なければ、そもそも話にすらならない。

 

「あの……店主さん」

「ん?」

 

そこでタスクは、店主にダメ元でその事を聞いてみることにした。

 

なにやら店主は、やたら目を輝かせ、期待するような目を向けてくるが。

 

「店主さん、どこかに、助っ人なりスカウトなり、できる人脈はないんですか?」

「……!」

「新しく育成もできない、かと言って、現状でカバーもできない。……なら、他から引っ張ってくるしかないでしょう?」

 

そう言って、タスクは店主を見る。

 

するとその時。

 

「……」

「店主さん?」

 

「それだ!!」

 

「へ!?」

 

店主が、いきなり大喜びの顔でタスクの肩を掴んだ。

タスクは、いきなりの事でキョドキョドする。

 

「それだ!それだよタスク君!その手があった!」

「い、いや……なりゆきというか……!!」

「いやあ、やっぱり若い子は違うね!視界が広いね!」

「そ、そもそも!人脈あるんですか!?」

「もちろん!ありだよ大ありだよ!なんで気づかなかったんだろう!」

 

そんなことを言いながら、店主は「作業」をまたほっぽりだして、ウィンドウを展開、そして素早く触りだす。

 

そんな店主を見ていると、不意にタスクはふふふと微笑んだ。

 

そして……

 

「良かったですね。店主さん」

「ああ!ありがとう!」

 

そう呟いて、ニコリと笑った。

 

 

それから、数分後。

 

タスクの「名案」の件も、もちろん、ウルティマラティオの作業も終わらせ、今度こそ本当に、彼らは一時の休息を味わっていた。

 

そんな中、店主がポツポツと、また喋りだす。

 

「はあ……でもほんとに、よかったよ。ありがとう」

「え?そ、そんなに……ですか?」

 

タスクも、そんな店主の呟きに反応する。

 

「おかげで心が楽になるほどにね」

「……!ふふ、よかったです」

 

そして二人は、お互い見合って笑いあい、また、最初のように、だべり始めた。

 

「あ、そういえば……!」

「?」

 

「ふふ……やっぱり、シノンさんは真面目だったねぇ〜!」

 

 

 

 

 

この後、また、タスクに説教を喰らうことなど知りもせず。




改めまして、いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

いかがだったでしょうか?
【「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」一周年記念!!!】
としてお送り致しました、『特別編』!!

え?なんかいつもと違う?
話の内容が分からない?
な、なにしろ、急ピッチで進めましたし、その、今回の内容に関しては、後ほどわかりますので……(笑)
はい。駄文すぎたかも知れません。許してね。
ヽ(*´∀`)ノアハー

……すみません。(笑)



ゴホン。さて、ここからが本題……と言ったところでしょう。

前書きにて告知させていただきました、
「重大発表」をしたいと思います!

……この、「これは【GGO】であって、【MGS】ではない。」が、一周年を迎えました。

その記念、と致しまして!


【『ストーリーダイブ』キャンペーン!】


を実施します!

え?これはなんなのかって?
それは、作者Twitterにて、告知させていただきます!
作者Twitter↓
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl

まだ内容は告知していませんが、今回の話と、キャンペーン名から、予想していただけると思います。(笑)

近日中に公開します!
お楽しみに!

※申し込み受付は終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました。



最後に、読者の皆様へ。

最初の方から読んでくださっている方も。
途中から読んでくださっている方も。
そして、今回から、読んでくださる方も。

本当に、ありがとうございます。
正直、ここまで続けられるとは、また、こんなにもたくさんの方に読んでいただけるとは、思ってもいませんでした。

作品はまだまだ続きますし、僕もまだまだ頑張っていく所存です。

……が、「一周年」という節目を機に、改めて。



「本当に、ありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。」
駆巡 艤宗

では。

【作者 公式LINE】
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第四章 光と影 〜Light and shadow〜
Episode55 その理由 〜The reason〜


大変、お待たせしました。(笑)
今回から、次章に突入となります!

SJ?この章の次章となります。
プロットは着々と手を進めておりますので、今しばらく、お待ちください。

では、本編をどうぞ。


「まあ……いろいろ聞きたいことはあるけれど」

「……っ!」

「とりあえず「その理由」を聞こうかな。なんで、タスク君と決闘したいと思ったのかを……ね?」

「そ、それは……!」

 

キリトが、店主もびっくりするような発言をしてから数分後。

 

やたら緊張していた彼を、店主はカウンターへと促し、向かい合って話していた。

 

「そ、その……」

「?」

 

店主の質問に、キリトは俯きつつもポツポツと話し出す。

 

店主もカウンターの反対側で座り、その言葉に耳を傾けた。

 

「き、菊岡やアスナから聞いたんです」

「……ほう」

「裏血盟騎士団の事だったり、死銃事件のサポートの事だったり……」

「……」

 

店主は瞬時に、その時のことを思い出す。

 

不安でいっぱいだった()()()の目。

安全を証明をし、安心させた時の()()()の明るくなった顔。

 

店主にとって、彼女らのあの仕草はとても印象に残っているため、まるで昨日のことのように思い出せる。

 

「それで……、その中で、店主さん達は、常に落ち着いて、堂々としていたと聞きました」

「……!」

 

すると、そう言ってキリトは、とても期待のような感情を込めて、店主を見た。

 

店主はその時、()()()があの時の自分達を彼にどのように話したのか、あらかた予想できて内心苦笑する。

 

……確かに店主達は、彼女らの前では堂々と振る舞おうと心掛けていた。

 

なぜなら彼女らは、「SAO生還者(サバイバー)」であり、それに加えてキリトと親密な関係にあるという、いわば()()()()()の人間。

堂々と振る舞っていなければ、彼女らの不安など到底払拭できない。

そう考えたからだ。

 

……とは言うものの、店主だってBOBは内心ハラハラしながら見ていたし、タスクに関しては平然を保つために、組んでいた腕の裏側で体を一生懸命につねっていた。

 

あの作戦、成功したんだな……と、店主の内心の苦笑は、微笑みに変わる。

キリトは、そんな考えもつゆ知らず、まだまだ黙々と話し続けた。

 

「……それを聞いた時、思ったんです」

「……?」

「あ、あの……急にですけど、裏血盟騎士団で生き残ったのは、メンバーの約1割だけ……なんですよね?」

「……!」

 

ああ、そんなことも話したっけ、と、店主は回想する。

と同時に、こくりと頷いて肯定した。

 

「ま、まあね」

「じゃ……じゃあ!」

ガタン!

「……!」

 

するとその時、キリトがカウンターに手をつき、いきなり立ち上がる。

店主は座ったまま、それに合わせて少し体を後ろに倒した。

 

だがキリトは、その仕草など眼中にないように、店主に質問の嵐を浴び始める。

 

「何故、そんな()()()()をしてまで、まだ()()()()()()()()()ことが出来るんですか?」

「……」

「お……俺は、SAOでは強く生きてきたつもりです。でも、アスナや菊岡から聞かされ……いや、()()()()()話は、俺の想像を絶するものでした」

「……!」

「俺は今でも、あの時を思い出すと怖くなる。戦いから逃げたくなる。でも、店主さんたちは俺より辛い経験をしてるのに、平然と戦い続けている」

「……!」

「その理由が、知りたい。……そしてその強さを、()()()()してみたいんです」

「……」

 

そこまで話すと、キリトは我に返ったようにはっとして、そしてまた、力なくまた元の椅子に座り込む。

そしてすべてを出し切ったかのように、脱力して俯いた。

 

「……なるほど」

 

店主は、そんな彼が座るのを見届けながら、ひとまず……と言わんばかりに相槌を打ち、しばしの思考に浸る。

 

店主は、キリトの言いたいこと、欲しているものは、正直、手に取るように理解出来た。

 

タスクはもちろんだが、彼と同じく店主だって、SAO時代は(裏)前線で戦い続け、そして生き延びた、「1割の精鋭」である。

そんな彼が、キリトの言う強さを()()()()()()()が理解できないわけがないのだ。

 

確かに、「自分より強い人がいる」という話を聞くと、心なしか血が滾り、一度でいいから剣を交えたいと思う気持ちは店主も知っているし、持って()()

 

だが、今は「状況」なるものが違う。

 

「ねえ……キリトくん」

「はっ……はい?」

 

不意に声をかけられ、キリトは慌てつつも返事する。

 

すると店主は、どこか()()()()ように、質問を繰り出した。

 

「その「決闘」ってさ、」

「……!」

「【ALO】での話、だよね?」

「あっ……!」

「強さを生で体感したい……ってことは、白兵戦がしたいんだよね?」

「そ……そう……です」

 

言い忘れていたことを思い出したのか、はたまたそれを先読みして指摘されたからなのか、キリトは半ば驚いたような顔をして、店主の言葉を肯定する。

 

すると店主はその反応を見て、「やっぱり」と言わんばかりにをしかめた。

キリトも、そんな店主の反応を見て、顔をしかめる。

 

決闘自体は、別にどうということは無い。

タスクがこの事を了承し、正式な手続きを踏んでくれれば、店主は一向にやってくれて構わない。

 

……が、()()()()()となると話は別だ。

 

というのも、今は「事件後」。

何か大きな事件の後には、それの二次、三次と、最初の事件の余波から、連続して事件が発生するというパターンがあるのは、刑事ドラマを見ていればそれとなくご存知のはずだ。

 

逆に、一気に沈静化するパターンもあるにはある。

だが、それを祈り、先走って次の行動に出てしまうと、前者のパターンになってしまった時にどうしても対応できなくなってしまうのだ。

 

そうならないように、タスク含め店主の店に所属する裏世界プレイヤー達は、現状、GGOのどこで事件が発生しても対応できるように、店主により、いつもよりある程度任務地域をばらつかせられている。

 

……が、前述の通り、()()()()()となると話は別なのだ。

 

それに加え、タスクは裏世界プレイヤー達の「()()」であり、最も強い「()()」でもある。

 

そんな彼が、「コンバート」という手続きを踏まないと移動できない所に行ってしまうとなると……

どうしても、不安が残るのは事実である。

 

まだ、以前のBOBの時のように、事件の発生予測範囲と時間がはっきりと分かっていたら、その時はまあ、できなくもないし、現にその時は店主もろともコンバートした。

 

だが今のように、GGO全体が発生予測範囲である時には、到底そんなこと出来ない。

 

「う〜ん……!」

 

そんな思考をぐるぐる巡らせ、唸り出す店主。

キリトは、そんな店主を見て、「やはり厳しいか」と諦めようとした。

 

……が、するとその時。

 

ガチャリ

「……別に、構いませんよ?」

「「!!」」

 

射撃演習場の扉が開いた瞬間、そんな言葉が飛んできた。

店主とキリトは、はっとしたようにそちらを見る。

 

するとそこには、

 

「やあ!キリト君!この姿では、はじめまして……ですかね?」

「君は……!」

「え?やっぱり信じられませんか?」

「……!」

 

そんな事を言いながらニコニコしている、小柄で中性的な、とても愛らしい少年がいた。

 

キリトは、虚をつかれて言葉が出ない。

そんなキリトを見て、その少年ははふふふと微笑む。

 

「な……!そ……え……?」

 

そしてその少年、もといタスクは、未だキリトが虚をつかれているのをいいことに、改めて自己紹介した。

 

「ふふ……僕の名前は「タスク」。コードネームは、」

「!」

 

 

「「ビッグ・ボス」ですよ!」

 

 

 




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやー、お待たせ致しました。
次章、【光と影】編、堂々始動でございます。

え?SJ?
……そ、その前に、この章を挟まないとこの後の(見せられないよ!)

今後ともよろしくお願いします。(笑)



すみません!
前回登場した新キャラが、某「虹〇S」のなんのオペレーターを組み合わせたのか、すっかり紹介し忘れていました!

……というわけで。

プレイヤーネーム…シャルル
コードネーム…ウォッカ
【IQ】【トゥウィッチ】【ヴァルキリー】

プレイヤーネーム…トレンチ
コードネーム…フォートレス
【カプカン】【キャッスル】【エコー】

です!

今後とも感想をお待ちしております。

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Episode56 聞き耳 〜Listeners〜

「あなたが……?あの……?」

 

キリトは、呆気に取られて言葉に詰まる。

 

いつの間にか後ろに立っていて、その存在を視認した瞬間、ただならぬ威厳のような何かを感じさせた「あの彼」と、

今目の前で無邪気に笑い、威厳など微塵も感じさせない少年の姿は、どうやっても重ならないからだ。

 

だからなのか、キリトは口をパクパクさせながら呆然とタスクを見つめていた。

 

そんな彼を見たタスクは、

 

「ええ!僕が、「ビッグ・ボス」ですよ!」

「……!」

「なんなら、今ここでボスになりしょうか?」

 

なんて冗談事を言いながら、またニカッと可愛い笑みを浮かべる。

 

やっぱり信じられない。と言わんばかりに、またキリトはタスクを凝視した。

まるで、あのビッグ・ボスとの共通点を、ひとつでも探し出そうとするように。

 

すると今度は、そんなキリトの代わりに店主が、タスクに声をかけた。

 

「おや、タスクくん。その様子だと……結構前から聞いていたみたいだけど」

「もちろん!キリトくんが来るってことは、なにかがおこるってことですからね」

「はは……まあね」

 

店主はタスクのキリトに対する酷い言い草に苦笑する。

だが、それは現状を含めあらかた間違ってはないので、店主はあえて苦笑するだけに留めた。

 

そんな中、キリトがやっと、言葉を発する。

 

「ちょ、まっ……あんたがほんとに?」

「あれ……、まだ信じられないですか?なんなら……って言いましたけど、割と本当にボスになった方がいい感じですか?」

「え……いや……」

「?」

 

キリトのぼやっとした物言いに、タスクは首を傾げる。

そしてそのまま、店主の方へと視線を向けた。

 

「……」

「……OK。分かったよ」

 

すると店主は、タスクそんな視線から、彼の意図していることを察し、タスクに、はたまたキリトに、声かける。

 

「とりあえず落ち着こうか。そこへ座って?タスクくん」

「はーい」

 

そして()()()、タスクとキリトと店主の面談が始まった。

 

 

 

……後ろの席に座る、シノン達など目もくれず。

 

 

時は戻って、数分前。

カウンターの向かいにある、対面式の机。

 

そこですっかり意気投合し、笑いあい談笑していたシノン達の目に、「その彼」は入ってきた。

 

……そう、キリトである。

 

「あ……」

 

長い髪に、腰にぶら下げたフォトンソード。

後ろ腰についた「FN Five-seveN」。

 

そんな見慣れた格好の彼に、シノンは咄嗟に声をかけようとする。

 

……が、それは、フォートレスに止められた。

 

「え……?」

「待ってシノンさん。今日のキリトくん、なんか……違う」

「……!」

 

どこが?……と言おうとして、シノンは咄嗟に口を噤んだ。

 

確かに、キリトの顔がいつも以上に硬くなっているのが分かる。

 

だが、それがなんだというのだ。

 

そんな顔、BOBで幾度となく見てきた。

そこまで何かを予感させるものでは無い気がするが……。

 

「……シノンさん。ここは、気付かないふりをしよう」

「そうね。それがいいわ」

「……!」

 

だが、そんなシノンの考えそっちのけで、ウォッカも相槌をうち、椅子に座り直す。

結局、シノンもそれに倣って、キリトのいる方に背を向けるようにして座り直した。

 

「……俺らは君らを、BOBの間ずっと見てきたからな」

「……!」

 

するとフォートレスは、シノンの押しとどめた疑問に感づいて、あるいは新たな話題として、そんなことを言い出す。

 

「良くも悪くも、彼を知ることが出来た。もちろん、シノンさんもね」

「……!」

「だからわかる。今のキリトくんは、()()()()()

「つまり……ここは店主に任せようってこと!」

「は、はい」

 

フォートレスが確信したように呟いて、ウォッカが簡潔に話をまとめる。

結局シノンはそれに、頷くことしか出来なかった。

 

そして後ろから、予想通り、店主の声が聞こえてくる。

 

「おや、キリトくん……!!」

「こ、こんにちは」

「あはは、いらっしゃい。よく来たね」

 

「さぁて……どうでるかな」

「ふふふ……」

「……え?」

 

無意識に机を見つめつつ、耳に意識を集中させ、店主達の声に聞き耳を立てていると、不意に今度はシノンの前からそんな言葉が聞こえてくる。

 

不思議に思いそちらを見てみれば、フォートレスとウォッカも、無意識にか、シノンと同じように机を見つめ、耳に意識を集中させていた。

 

「あ、あの……」

 

シノンは、苦笑いでそんな彼らを見る。

するとウォッカが、

 

「しっ!シノンさん!いまいーとこ!」

 

そう言って、ニヤニヤしながら口に人差し指を当てた。

 

結局、気になるのね……と思いつつ、シノンも彼らと同じく、また聞き耳を立てる事にする。

 

そしてその瞬間、とてつもなくびっくりするような言葉が、飛んできたのである。

 

 

「俺とタスク、決闘させてもらえませんか!!!」

 

 

「「「……!!??」」」

 

シノン達3人が、店主達の方に振り返りたいのを必死に堪えたのは、言うまでもないだろう。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です!

今回は少し短かったですね。(笑)

え?ストーリーダイブキャンペーン?
ま、まだ準備中です。(;^ω^)

よろしくお願いします。

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Episode57 わがまま 〜Self-indulgence〜

「……なるほど」

 

どこかあか抜けた、比較的明るめな声が、店内に響く。

 

カウンターに向かって、並んで座る二人の少年。

彼らの前に、カウンターの長机を挟んで椅子に座る、中年の男。

 

GGOではなかなか珍しい光景が、そこにはあった。

 

「……だめ……か?」

 

そう言って、二人のうち、まるで少女のような方の少年、キリトは、隣に座るもう一方の少年、タスクの顔をのぞき込む。

 

「……まあ、さっきも言った通り、僕は一向に構いません」

 

するとタスクは、案外快く承諾した。

 

だが……

 

「ただ、その……」

「?」

 

タスクが、言葉を続けようとして、何故か口ごもる。

 

「店主さんの言うとおり、心配なのも事実です」

「……!」

「事件後である現状、この世界から一旦いなくなるのは……まあはっきり言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、どうしても不安が残ります」

「そう……か。そうだよな」

 

そしてタスクが、口ごもりつつなんとなそう言いきって、キリトを見返した。

その瞳を見て、キリトは「答えは出た」と言わんばかりに目線を落とす。

 

店主は、タスクが直接、自分の口から言ってくれたことに、少し安堵を覚えつつ、彼ら二人を見ていた。

 

申し訳ないし、キリトの気持ちは痛いほどわかるが、こればっかりはどうしようもないのだ。

店主が、俯いたまま動かないキリトを見つめ、申し訳なさに身を浸す。

 

……するとその時、今度は店主に、タスクが話しかけてきた。

 

「でもね、店主さん」

「……!」

 

その語りかけに、店主はすぐに、どこか違和感を覚える。

そしてその違和感の正体は、すぐ現れてきた。

 

「僕は、正直、キリトくんの気持ちに答えたい。彼と剣を交えてみたいです」

「……!」

「ほら……わかるでしょう。武者震いのような……ね?」

「でも……!」

 

キリトが、驚いた顔をして、タスクを見る。

そして店主が、少し焦り気味にタスクに食いつく。

 

するとタスクは、そんな彼らの動きを頷きで諫めつつ、店主をまっすぐ見上げた。

 

「ええ、分かってます。これ僕のわがままです」

「!」

「だから……いえ、だからこそ」

 

そう言って、タスクが言葉を区切ったその時。

 

「僕は、「()()」達に、背中を預けようと思います」

「……!」

「僕のわがままを……受け止めてくれますか」

 

タスクは、体ごと回転椅子で180度回転させ、語りかけた。

 

後ろの席に並んで座る、ウォッカとフォートレスに。

いつの間にか射撃演習場への廊下付近の壁に寄りかかっていたラクスと、

その奥で仁王立ちしているカチューシャに。

 

そして……シノンに。

 

「……!」

 

ぴん……と、その場に緊張が張り詰める。

 

語りかけられた皆が皆、真剣な顔をしてタスクを見ていたし、

キリトや店主に関しては、驚きの目をしてタスクを見ていた。

 

そんな中でも、タスクだけは笑顔を保ち、押し黙って答えを待っている。

 

「……」

 

そしてついに、永遠にも思える長さの沈黙を経て、タスクの語りかけに答えたのは、カチューシャだった。

 

「タスク。……いや、()()

「はい?」

 

「……行ってこい。背中(こっち)は……任せろ。守っておいてやる」

 

「……!」

「ふふ……ありがとうございます。よろしく頼みます」

 

カチューシャの言葉に、微笑んで答えたタスクの言葉の後。

 

いつの間にか微笑んでいた彼らの間には、もう既に、張り詰めていた緊張などなかった。

 

自信に満ちた彼らの笑みと、それを呆然と眺めるキリト。

 

そして……

 

「はぁ……わかったよ。そうすることにしよう」

 

仕方ない……というより、だろうな。と、言わんばかりに、頭を掻きつつ微笑む店主が、そこにいた。

 

「……!」

 

その時、キリトは理解した。

 

彼らが何故、こんなにも強いのか。

何故、あれほど強者たりえる雰囲気を、全員が醸し出すことが出来るのか。

 

「ということで、よろしくお願いします!キリト君」

 

キリトは、初めて、そんなことを言いつつこちらを見るタスクのその変わらない無邪気な笑顔に、

 

「あっ……!ああ……。よ、よろしく」

 

 

 

()()を、覚えた。




いつもありがとうございます!
駆巡 艤宗です!

いやー最近、繋ぎ回が多めですね(笑)
もう少ししたら、ド派手に話を進めていく所存です。

お楽しみに!

ストーリーダイブキャンペーンについても、計画はどんどん進行中です!

ただし、参加はTwitterからのみ、受け付けておりますので、是非是非一度、チェックの方よろしくお願いします!

では。

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Episode58 ダメ元 〜No claim〜

《ほんとに!?やったぁー!!》

「お……おう。なんとか……ね」

《よかったじゃない!私も楽しみだよ!》

 

東京の、とある一軒家の一室。

 

落ち着いた男性の肉声と、少し電子音のようになった女性の声が、部屋いっぱいに響く。

 

《でも……ほんとによくOKしてくれたよね。正直、提案しといてなんだけど、半分ダメ元だったから……》

「おいおい、半分ダメ元って……!」

《あはは、ごめんね。でもそうでしょ?》

「ま、まあ……」

 

椅子に座り頭の後ろへ手を置いた青年は、画面いっぱいに映っている少女の言葉に、すこし驚き気味に食いついていた。

 

もうお分かりだろう。

キリト、もとい和人と、画面越しのアスナ、もとい明日奈である。

 

彼らは、今、例の「決闘」について、話し合っていた。

 

「……でもまさか、アスナがあんなこと言うなんてなぁ」

《……え?》

 

すると和人が、天井を見上げてそんな事を呟く。

 

「「強さが知りたいなら、戦うしかない!」なんて、らしくないなぁと思って……さ」

《ああ……そのこと》

 

画面の中の明日奈は、そんな和人の言葉に、妙に納得しているかのような返事を返してくる。

 

そしてそのまま、ニコッと笑って少し頬を赤くしつつ、話し始めた。

 

《いやその……なんかね?》

「ん?」

《死銃事件が解決しても、キリト君の顔色は良くなくて、その……何か悩み事なのかと思って聞いてみたら……》

「ああ……」

《で、その話してくれた内容、実は私もそう思ってて、じゃあいっそ戦ったらどうなのかなって……私は、キリト君の戦うところ、すごく好きだから……》

「……!」

 

不意打ちの甘い言葉に、和人は意識が遠のく。

 

実は、タスクに決闘を持ちかけようと、最初に提案したのは明日奈なのだ。

 

毎日ではないが、定期的にこうしてテレビ電話をする中で、明日奈は和人の顔色が死銃事件の発生直後と解決以降、ほとんど変わっていないことに気づいていた。

 

そこで、色々聞き出してみたところ、どうやら「ビッグ・ボス」なる人物について、まだ思うところがあったらしく、明日奈はその時、同時に()()()やってきた2()()()()()()()()を思い出したのだ。

 

《でも……それだけじゃないんだよ?》

「……?」

 

すると明日奈は、ぼんやりしている和人に話しかける。

和人は、そんな明日奈の言葉に、素直に耳を傾けた。

 

《私とて、元はあの血盟騎士団の副団長だしね。()()()に惹かれたり、剣を交えてみたい気持ちは良くわかるもの》

「……!」

《もし、あの時あの世界で、キリト君と互角かそれ以上の強さを持った人がいたのなら、私だって見てみたいし、戦ってみたい》

「……」

《でも、それはキリト君だから出来ること。強い者と戦うには、そこまで登りつめなきゃいけない。ただ強くなるだけじゃなくて、もっといろんな意味で……ね》

 

そこまで話して、明日奈は和人を画面越しで見つめる。

和人は、そんな明日奈の視線を見て、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

《そうよ!その顔。リラックスして》

「……え?」

 

するとその時、いきなり飛んできた言葉に、和人は疑問を持つ。

その顔……って、この世界ではこの顔しかないはずだ。

 

……が、その疑問はすぐ解消された。

 

《最近、ほんとに力み過ぎなのよ!キリト君は!学校でもそうよ?いっつも仏頂面……》

「……!あ、ああ。そう……だな」

 

そういうことか、と、和人は納得する。

「その顔」の「顔」とは、「顔色」のことだったのだ。

 

《また何か、相談があれば言ってね。いつでものるし、他にも沢山仲間がいるんだから……》

「ああ。ありがとう」

 

明日奈は、そんなやけに納得した顔の和人に、画面越しで微笑む。

そんな微笑みに、和人は画面に触れつつ微笑みを返した。

 

 

 

そしてそれから数分後。

 

煌々と、ただひたすら明日奈を映し続けていた画面は、ついに暗転する。

明日奈の「またね。おやすみ!」の声と共に。

 

だが和人は、いや「()()()」は、画面が黒く染まった瞬間、机に伏して頭を抱えた。

 

そして、一言呟く。

 

「ありがとう……アスナ」

 

……と。

 

 

 

そんな彼の脳裏には、今、あの純粋無垢な少年の、無邪気な笑顔が、映し出されていた。

 

 

「じゃあ、そういうことで……」

「うん!わかったよ。……よろしくね」

「い、いえ、こちらこそ……」

 

少し申し訳なさそうにしつつ、その少年は、青く淡い光に包まれ、粒子となって消えていく。

 

時は戻って約2時間前。

タスクが、仲間たちに背中を預け、キリトがタスクの笑顔に畏怖を覚えた数分後。

 

たった今、決闘の場所、時間、ルールなど、それ関連についての議論が終わり、キリトがログアウトして消えていった所である。

 

「ふぃ〜……」

「……?」

「んん……!」

 

するとその時、タスクが、キリトが完全に消えたのを見届けて、大きな息を吐いて、腕を伸ばして伸びをする。

 

そんな彼を見て、店主はふふ、と微笑んだ。

 

最近まじまじと見ていなかったが、やはりタスクはかわいいな、と、店主は思う。

キリトも(黙っていれば)かなりの美青年(というより美少女)だが、タスクはそうではない。

 

身長が低く、まるでそう……例えるならば、小学生、または幼児を見た時のような、幼い外見からくる庇護欲のような感情だ。

 

まあその割には、いろいろ達観しすぎていたり、時折発せられる威圧感が並大抵のものではなかったりと、いわゆるギャップが大きいのだが、それもまたかわいらしい。

 

「ふふ……お疲れかな?」

「い、いえ……その……」

 

そんなタスクは、店主の純粋な優しさから来る言葉にぴくりと反応する。

 

「ただ、その……」

「ん?」

「楽しみな反面、やっぱり、怖いなって……」

「……おや」

 

珍しく弱気な発言だなぁと、店主は目を細めてまた微笑む。

 

思えば、最近はいろいろと立て込んでいて、タスクも忙しそうだった。

決闘が終わったら休暇でもあげよう、などと思いつつ、店主はタスクを見守り続けてみる。

 

すると、

 

「話……終わりました?」

 

射撃演習場の扉から、ラクスを先頭に、カチューシャ、ウォッカ、フォートレスがわらわらと出てきた。

 

その列の最後尾に、ちょこんとシノンも続いて出てくる。

 

「……!」

 

それを見た時、店主はふと、とある事を思いついた。

 

そしてそのとある事を、「成功」に導くために、すぐさま()()()ではあるものの、行動に移ってみる。

 

「あのー……シノンさん?」

「は、はい?」

 

少し気を伺うように、店主がシノンに声をかける。

シノンは、そんな店主を伺うように、声を返す。

 

「さっきタスク君と話してたんだけどさ」

「は、はい」

 

すると店主は、次の瞬間、とんでもない爆弾発言を口にした。

 

 

「シノンさんもタスク君とキリト君の決闘に、付いてきてもらうよ」

 

 

その時、後ろのボックス席に向かいつつあったラクス達一行が、全力で振り返る。

 

カウンターに伏し、寝息を立てつつあったタスクが飛び上がって店主を見る。

 

そしてシノンはその場に硬直し……

 

店主はと言うと、ニコニコの笑みで、シノンを見ていた。

 

「「「「えええええぇぇぇぇ!!!???」」」」

 

タスク含め、その場にいる店主以外の全員が、驚きの声を完璧なタイミングでハモらせたのはもちろんのこと、

 

タスクが顔を真っ赤にし、今にも店主に殴りかからんとしているのは、言うまでもなかった。




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Episode59 わからない感情 〜Unknown emotion〜

お、お待たせ致しました……


「っ……!」

 

暗闇の中、()()()()は目を覚ます。

やたら心臓が脈打ち、微かに紅潮した顔で。

 

「ば、バカみたい……」

 

それを自覚しているからか、あるいはそんな顔になるような、込み上がる気持ちが押し寄せているからか、詩乃は口元を抑えながらベッドに座り直し、目を伏せる。

 

とんでもない爆弾発言をさらりと吐き出した店主。

その言葉にすばらしい反射神経で反応したラクス達。

その間で、顔真っ赤で殴りかかろうとしていたタスク。

 

そんな彼らを前に詩乃は……あの世界での()()()は、その時、どうすればいいか全く分からなかった。

 

「……///」

 

……ただ、本当にこれだけ、詩乃が言えるのは、

 

その言葉に、少しだけ「嬉しい」という感情が芽生えたという事と、

そんな感情が芽生えた事に、尋常じゃないほど「恥じらい」という感情も芽生えてきたという事。

 

ただただ、それだけしか、言えなかった。

なぜなら、その理由が()()()()()から。

 

……結局、詩乃、そしてシノンは、その()()()()()感情に思考を支配され、ただただ、ある意味悶え苦しむしかなかった。

 

 

 

「もう……!なんなの、よ……」

 

 

 

実に彼女らしい、そんなセリフを吐いてみても、感情は変わらず、暴れまわる。

 

「あ!そうだ、か、買い物……!」

 

そんな気持ちから逃れようとするように、詩乃は慌てて、日常生活へと戻っていった。

 

 

 

……はずだったのだが。

 

「……っ!」

 

不意に、あの世界で説明された、店主の言葉が蘇る。

 

ラクス達に過剰なまで反応され、タスクを殴り掛かる寸前までせしめた、あの爆弾発言をした理由を、淡々と説明した、あの言葉が。

 

 

『シノンさんは、ボスのペアになってもらうつもりだから、白兵戦も見ておいてほしいんだ』

 

『ペアってのは、ラクスさんとカチューシャさんみたいな、2人1組の事さ。今までボスはステルスっていうスタイル上、なかなかパートナーが見つからなかったんだけど、シノンさんみたいな狙撃特化ならぴったりだからさ……ね?』

 

 

と同時に、まるで「降参」と言わんばかりに、両手を顔の横まで上げ手のひらを見せて、少し汗をかきながら微笑み話す店主の顔が思い浮かぶ。

 

「ぺ、ペア……」

 

そんなことを思いつつ、いそいそと外に出かける用意をしながら、詩乃は無意識にそう呟いた。

 

なぜなら、「()()」という言葉そのものに、どこか先程の()()()()()感情が反応しているような気がするから。

 

そう思い至った瞬間、また、あの()()()()()感情が暴れ出す。

 

 

「も、もう!ほんとに、なんなのよ……!」

 

 

そんな思考を打ち消すかのように、詩乃はまた、実に彼女らしい言葉を吐き出す。

それと同時に、詩乃の体も家の外へ自ら放り出した。

 

 

 

……それでも結局、感情は変わらず、暴れまわるのである。




いつもありがとうございます。
そしてすみません!遅くなりました!
駆巡 艤宗です。

いやあのですね、例のキャンペーンの集計をゴニョゴニョ
……はい、失礼致しました。(笑)

本当にすみませんでした!
今後ともよろしくお願いします……

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Episode60 ケット・シー 〜Cait Sith〜

「すーーっ……」

「……」

「はぁ……っ」

 

鬱蒼と茂る森の真ん中にある小さな野原で、その()()()()()は、深呼吸する。

 

「……ふふ」

 

それを、少し離れて微笑み見守るもう一人の()()()()()

 

そんな彼らの手には、()()が、握られている。

 

深呼吸した、青緑色の髪色で小柄なケットシーは、「刀」を。

微笑み見守っている、黄土色の髪をした大柄なケットシーは「薙刀」を、それぞれ持っていた。

 

「……」

「……」

 

すると、深呼吸を終えた小柄なケットシーは、キッと大柄のケットシーを睨み、刀を正面に構える。

 

それを見た大柄のケットシーは、薙刀の刃を下に、柄を上にして、微笑んで小柄なケットシーを見返した。

ただその目には、顔でこそ微笑んでいるものの、明確な闘志が宿っている。

 

そして……

 

「……」

「っ!」

バキン!

 

ほんの一瞬のうちに、二人の位置が入れ替わる。

不意を突かれたのか、大柄の方が少し厳しい顔をする。

 

それを見逃さず、小柄な方が、体をすぐに反転させ、大上段から斬りかかった。

大柄な方は、厳しそうな顔をそのままに、風を唸らせながら薙刀を横にし、上に突き出す。

 

ザシュッ

「……がっ!」

 

……が、斬られたのは太ももだった。

そう、大腿動脈がある場所である。

 

ドシュゥゥ……!!

「ぐぅ……!」

 

ポリゴン片の血液が溢れ出る。

今度はそれを見た小柄なケットシーが、また体を反転させて微笑んだ。

 

「股を開きすぎですよ」

「し、下をくぐるなんて反則だよ……」

 

大柄のケットシーは、小柄なケットシーの言葉に苦笑いする。

 

すると、その顔を見た瞬間、小柄なケットシーが飛び込んで斬りかかってきた。

今度は、刀を斜め上から斬り下げる、袈裟斬りの構えである。

 

……だが。

 

「ふふ……かかったね」

「……!」

 

斬りかかってくる小柄なケットシーに向けて、大柄のケットシーはぎらりと眼光を光らせ、笑った。

小柄なケットシーは、しまった、と言わんばかりに顔を歪める。

 

だが、時すでに遅し。

体勢は既に決まっていて、変えられない。

 

ゴッ

「がはっ……!!」

 

結果、小柄なケットシーは、構えていた刀の下にある脇腹に蹴りを入れられ、10mほど吹っ飛ばされた。

 

何回か地面に接触し、また浮いて、また落ちる。

そうして何回も叩きつけられつつ転がり、やっと止まった所には……

 

「ち、ちょっと、大丈夫……?」

 

水色の髪をした、()()()ケットシーがいた。

 

覗き込むように、心配そうな顔で、仰向けに転がる小柄なケットシーをのぞき込むように見ている。

 

小柄なケットシーは、その心配に笑って答えようとした。

 

……が。

 

「あっ……」

「……!!」

 

その顔は、すぐに真っ赤に染まった。

小柄なケットシーは、慌てて逃げようとする。

 

だが、女性はその類の事については、恐ろしく強い。

素晴らしい情報処理速度と反応速度でその動きに反応する。

 

バチーーーーン!!!

「あがっ!!」

 

その結果、鬱蒼と茂る森に、風船が割れたような音が響いた。

 

 

「あっはっはっは!!やられたねぇタスクくん!!ひーっひっひー!」

「むぅ……店主さん、ずるしてるでしょ」

「ほら、早くとらせてよ……タスク」

 

ここは、ALOの()()()()

 

言わずもがな、「仕事で」ALOに来た時に、クリスハイトと会った()()()()である。

 

今回も、ある意味「仕事で」ALOにコンバートしてきていたタスク、シノン、店主の3人は、その酒場の済の席に仲良く座っていた。

 

ちなみに、3人とも種族はケット・シーだ。

なぜなら店主曰く、「格闘戦闘において、最も重要な体との適応率は、この種族が全種族の中で最も高い」らしいからである。

 

「んー……なぁんで店主さんはそんなに上手いんだろうなぁ」

「インチキが得意だからよ」

「ああ……!」

 

そんな嫌味を言いつつ、シノンはタスクの手札から、カードを1枚取り出す。

 

「……んー」

「……?」

 

その時のシノンの手を見て、タスクはまた難しい顔をする。

 

そう、彼らは今、仕事などそっちのけで、いわゆる「ババ抜き」なるものをしていた。

 

局面は、もうそろそろ終わりが見えてくるであろう……と言わんばかりの、いわゆる「最終局面」。

皆が皆、少ない数のカードをとりあい、自分や相手の手札を睨みつけては、やれババは来るなだの、数字よ早く揃えだのと躍起になる場面である。

 

ちなみに、ババはご察しの通りタスクが所有。

シノンのわかりやすい位置にあったババを店主が回収し、次の番であるタスクに、巧みなテクニックで横流ししたのだ。

 

……で、こういう事にはめっぽう弱いタスクは、シノンに全くババをとらせることができず、周りのカードばかり取られてしまっている。

 

これでは、もう結果はわかりきっている……のだが。

 

「くっ……まだだ!!」

 

それを分かっていても、そんなことを言える諦めない不屈の精神で、タスクは店主の手札からカードを取っていった。

 

 

そしてついに、その時はやってくる。

 

「おっ……!」

 

最初にそのこと気づいたのは、店主だった。

なぜなら、シノンにカードを取られたタスクが、あからさまに絶望的な顔をしたから。

 

「あっ……!」

 

次に、シノンがそのことに気づく。

なぜなら、残り2枚となったタスクから、悩んだ末に自分がとったカードが、ジョーカーではなかったから。

 

「負け……た……」

 

そして最後に、タスクである。

 

パサ……と、寂しく机にジョーカーのカードを置き、突っ伏しそう呟いた。

 

「わーい!」

「あ、あは……は……」

 

すると店主が、あからさまに、そして少しわざとらしく喜ぶ。

続いてシノンが、そんな店主とタスクを見て、苦笑う。

 

店主の呆れるようなその仕草は、店の喧騒でシノンとタスク以外誰も気づかない。

 

……だが、気づかれないとはいえ、少し大人気ないのも事実である。

 

「くぅ〜!!」

 

タスクは、店主のそんな仕草を、恨めしそうに見上げる。

 

その視線に気づいた店主が、タスクに一言、声を掛けた。

 

「今日は運がないねぇ!タスクくん!」

「……え?」

 

そんな言葉に、タスクは違和感を覚える。

 

「ババ抜きが弱い」とかの言葉ならまだ、腹立たしいがわからなくもない。

だが、店主の「運がない」という言葉に関しては、ほぼ全く心当たりがない。

 

店主の策略にはまったという意味ではたしかに運がなかったが、わざわざそんなことを言うのだろうか。

 

……が、そんな思考の甲斐なく、その答えはすぐにやってきた。

 

「ババ抜きでぼろ負けしたり……」

「……?」

 

 

「シノンさんのパンツを見ちゃったり……さ!」

 

 

「……!!」

 

タスクは、その言葉にドキッとする。

 

ああ、その事か、などと納得している場合ではない。

彼は、恐る恐る、シノンを見る。

 

そうして見てみると、シノンはおもむろに左手を振り始めた。

そして一言、

 

「ええと、ハラスメントは……」

「「……!!」」

 

 

 

 

 

この後、店主が必死に釈明したのは、言うまでもない。




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Episode61 美しくも凄惨な、愉快ながらも残酷な 〜Beautiful and miserable, pleasant and cruel〜

今回は、少し謎かもしれません(笑)

それと、最後に大切なお知らせがあります。
よろしくお願いします。


ガチャリ……

「お……いらっしゃい」

 

店主、もといタモンは、とある店の扉を開けた。

 

そこは、東京都台東区、御徒町の裏通りにある、「ダイシー・カフェ」。

 

タモンは、そこの店主と()()()()()から知り合い、あれよあれよという内に気づけば週2〜3日、仕事終わりの時間帯に、必ずそこへ行くようないわゆる「常連」になっていた。

 

「やあ、エギルさん」

 

そして今日も、タモンはその店へと入っていく。

いつもどおりと言わんばかりに、慣れた手つきでドアを開け、なおかつ店主の名前を呼びながら。

 

すると、名前を呼ばれたそこの店主……エギルは、さぞ嬉しそうにその「常連」を迎え入れた。

 

「よお、タモンじゃねぇか!!いらっしゃい」

「ふふ、邪魔するよ」

 

タモンも、そんな店主の出迎えを快く受け取り、店の奥へと歩みを進める。

そしていつもの席、カウンターの一番端に腰掛けた。

 

「いつもの……か?」

「ああ。お願いするよ」

 

エギルが、待ってましたと言わんばかりに注文をとる。

タモンは、それに少し笑って答えた。

 

このやり取り、もう何度もやっているのだ。

聞かなくても、いつものに決まっている。

 

だが、そこはこのエギルという男で、律儀に毎回、注文をとってくる。

そんな所に、この一見筋肉質で無愛想な外見とは裏腹な、この男の真面目さが伺えて、タモンは割と彼の性格が好きだった。

 

「……」

 

タモンは、そんな彼の慣れた手つきを眺め、肘をついて、息を吐く。

 

2年もブランクがあったとは思えないほど、洗練されていて、効率がいい手さばき。

 

いつ見ても、迷いなく必要なものだけを取り出し、ホイホイと言わんばかりに料理を仕上げていく様子は、圧巻である。

 

飲み物にしても、彼の調理場には全くこぼした形跡がないし、実際目の前で飲み物を容器に入れる際も、彼が水滴を一滴たりともこぼした所を、タモンは見たことがない。

 

それだけ練度が高いという事実は、それなりにこの店が繁盛している事も、なんとなく察させてくれる。

 

「……ふふ」

「ん?」

 

タモンは、そんなことを考えつつ、エギルの手つきをなお眺めながら微笑んだ。

 

 

「ほい、待たせたな」

 

それから、数分後。

 

エギルが、タモンの注文した「カフェオレ」と「オムライス」を持って、やってきた。

 

「まずオムライス……と」

「おお!」

「で、カフェオレだ」

「ありがとう」

 

順番に渡される料理を、タモンは受け取って机に置く。

そして最後に、

 

「はい、スプーンとフォーク」

「……どうも」

 

料理を食べるのには欠かせない食器を受け取って、

 

「いただきまーす!」

「はーい、召し上がれ」

 

タモンはさぞ嬉しそうに、そう言って食べ始めた。

エギルがその声に言葉を返す。

 

もぐもぐとオムライスを咀嚼し、ゴクリと飲み込んだら今度はカフェオレを少し啜る。

そしてまたオムライスを口に入れ……

 

「おいひぃ〜!」

 

口を手で抑えつつ、タモンは思わず感嘆符を口にしてしまった。

未だに口をもぐもぐさせながら、口に手をあて、それでもなおはっきりとわかるくらい満面の笑みで。

 

「はは、そうか。それはよかった」

 

そんなタモンを見て、エギルも思わず微笑みをこぼす。

 

 

 

そこには、「店主と客」ではなく、「友人同士」のような関係があった。

 

 

そしてそれからまた、数分後。

 

「ほい」

「んお?」

 

タモンが食べ終えた食器が片付けられると、入れ替わりで、コーヒーがやってきた。

 

それを見たタモンは、少し驚きつつ、そのカップを受け取る。

なぜなら、タモンはそんなものなど注文してないからだ。

 

なぜ?という思考をぐるぐるさせていると、ふと、なにかが閃く。

そしてそれと同時に、はっ、と、タモンはエギルを見る。

 

するとエギルは、ふっと微笑んでその視線を見返した。

その時、タモンは悟る。

これはいわゆる、「サービス」というやつだ、と。

 

「……ふふ、ありがとう。いただくよ」

「なぁに、気にすんな」

 

タモンはエギルに、にこりと笑ってそう言葉をかける。

するとエギルは、照れくさそうに言葉を返した。

 

「……」

 

改めて、彼はいい人だ、とタモンは物思いに耽ける。

 

()()()()に閉じこめられてから、性格が豹変した人も少なくない。

それどころか、現代社会に馴染めなくすらなってしまった人だっている。

 

美しくも凄惨な、愉快ながらも残酷な()()()()は、少なからず閉じ込められた全ての人の人生に影響を与えた。

 

それでもなお、彼はこの店を、()()()()からの帰還者の心の安らぎを与える場所を切り盛りし、今ではすっかりブランクも消し去って、社会復帰を果たしている。

 

「……僕とは違うな」

「ん?」

 

タモンは無意識に、そう呟いてしまう。

それが少し耳に入ったのか、食器を片付けていたエギルがその言葉を聞き返した。

 

すると、

 

「あ、ああ……いや、違うんだ。なんでもないよ」

 

タモンは少し焦りつつ、いつもの調子でエギルの声に答える。

エギルは、そんなタモンを不思議そうに見つつ、最後の食器をしまい終え、彼の前にカウンター机を挟んで座った。

 

「……?」

 

そうして、エギルはタモンと向き合う。

だが、エギルはその瞬間、あることに気づいた。

 

それは、

 

「……タモン?」

 

タモンが、いや、正確にはタモンの視線が、いつもなら不自然な所に向いているということ。

 

手元のコーヒーでも、さっきまでエギルがいたのれんの奥の厨房でもなく、なぜか、左をじっと見すえていた。

 

「……ふふ、勉強かい?少年」

 

そう、彼は、彼のちょうど対象に位置する席に座る一人の少年を、首だけ曲げて肘をついて、眺めていたのだ。

 

すると、その少年は、急に話しかけられたからか、それともそもそも話しかけられること自体希なのか、不自然なほど取り乱してその言葉に答える。

 

「い、いや……その……」

「はは……若いね、最近の子はさ」

「は、はい……?」

 

だが、その言葉に帰ってきたタモンの言葉を聞くと、ますます訳が分からない、と言わんばかりにその少年はタモンを凝視する。

 

そしてそんな彼らを見つめ、間でオロオロしているエギルが、

 

「知り合い……?ではない……のか?」

 

そんな呟きを発する。

 

 

 

 

 

そんなタモンと少年と、そしてエギルのあいだには、いつのまにか、どこか見覚えのあるような、異様な空気が漂っていた。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

え?遅い?
も、申し訳ありませんでした!(´;ω;`)
大変、お待たせ致しました。

言い訳なら沢山ありますが、ここにそれを書いてしまうと、恐らく画面からはみ出してしまうほどになってしまいます故、ご容赦を……(笑)



さて、ここからが本題です。
そうです、前書きにて告知しました、「お知らせ」についてです。

ええと……結論から申しますと、


『設定集・後書きなどの、大型アップデートを行います。』


つまり、「大規模な周辺情報の更新を行います。」ということです。

主な内容として、
・「ストーリーダイブキャンペーン」にて誕生したキャラクター達の情報を設定集に追加
・各キャラクターの使用兵装情報を設定集に追加
・前書き及び後書きの更新・改稿・削除
・その他、細かい部分の修正・訂正
を、行います。

ただし今回のこの作業は、本作品の本編には全く関係ありません。
あくまで「周辺情報」の更新です。

ですので、話筋がいきなり変わっていたり、設定が変わっていたりという事はありません。ご安心ください。

また、これに伴い次話(Episode62)の更新が大幅に遅くなることが予想されます。
併せて、ご理解をよろしくお願いします。



台風21号や、北海道地震の影響は、皆様大丈夫でしたでしょうか。
一刻も早い復興を、何も出来ない身ではありますが、この作品と共に応援・お祈り致します。

駆巡 艤宗

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Episode62 決闘前夜 〜The night before the duel〜

「明日……よね、決闘」

「……はい」

 

シノンがそんな呟きを放ち、タスクがポツリとその呟きに言葉を返す。

 

時刻は、ALO内時間で午後5時。

彼らは、もちろんALO内の、とある酒場で、酒場全体を見下ろすことが出来る2階のカウンター席に肩を並べて座っていた。

 

「……」

「……」

 

特に会話することもなく、ただ黙々と、おのおのが注文した品物を口に運んでいく。

 

そんな彼らの背中には、どこか「緊張」のような雰囲気があった。

 

「……ねぇ」

「……はい?」

 

そんな中、いきなり、その沈黙を破るかのように、シノンが、ポツリと声を出す。

タスクは、その声にぴくりと反応した。

 

そんなタスクを見たシノンは、すこし言葉に詰まりつつ、ポツリポツリと、まるで絞り出すように、声を出していく。

 

「明日の……あいつ、キリトとの決闘……」

「……!」

「そ、その……」

「……?」

 

「が、がんばっ……て……ね」

 

「!!」

 

するとその瞬間、タスクがすごい勢いで首を回し、シノンを凝視した。

シノンもシノンで、すごい勢いで首を回し、必死になって顔を逸らす。

 

「……!」

「〜〜!!」

 

驚き唖然としているのか、タスクは、シノンを見つめて固まった。

そんなタスクにはなから耐えかねたのか、シノンが慌てて言葉を付け足す。

 

「も、もちろん!あんたがあいつに負けるなんて思ってない!」

「……!」

「で、でも、あいつもあいつで強いから……その……!!」

「……!!」

 

恥じらいで顔を真っ赤に染めて、そんな顔を隠すかのように必死に逸らすシノンを見て、タスクは、未だ呆然と見つめ続ける。

 

そんなタスクのその目には、驚きと言うより嬉しさが含まれているように見えた。

 

「……ありがとう、ございます」

「……!」

 

すると、そんな感情からか、タスクはほぼ無意識に、そう呟いてしまう。

 

 

 

-それっきり、二人は会話を交わすことなく前夜を過ごし、そして帰っていった。

 

 

「明日……だよね、決闘」

「……ああ」

 

一方、こちらもALO。

タスクとシノンが、イチャイチャは愚か、ギクシャクしているのと同刻。

 

キリトとアスナは、広大なALOについ半年ほど前に実装された、「浮遊城アインクラッド」の22層にある()()()にて、団らんのひとときを過していた。

 

……とは言うものの、実際はどちらかというと、「決起集会」のような感じだったが。

 

「頑張ってね、応援してる」

「ああ……ありがとう」

 

アスナの素直な応援に、キリトはつい口元が緩んでしまう。

 

《何度この笑顔に助けられただろう》

 

不意にそんなことがキリトの頭をよぎる。

SAOのあの時や、ALOで奮闘した時、その後のGGOで戦った時はもちろん、そして今でも、このアスナの笑顔が見たくて、キリトは戦えるのだ。

 

その笑顔が見たいから、そして同時にそれを守りたいから、キリトは剣を握り続けることができる。

 

「……」

「……?」

 

だが、その反面、恐ろしくもなるのだ。

 

もし、守りきれなかったら。

もし、そのせいで、自分が生きている内に、アスナの身に何かあって、もう二度と会えなくなってしまったら。

 

今まででもなくはなかったように、今後、またそんなことが起こるかもしれない。

そして今度こそ、終わりかもしれない。

 

そう思うと、キリトは震える程、本当に怖くなる。

もしかしたら、剣を握り続けることができているのは、その恐怖から逃れようとしているからなのかもしれないなんて事も、考えてしまう。

 

「……っ!」

「キリト……くん?」

 

でも……いや、だからこそ、キリトはあえて、「()()」とも思える賭けに出たのだ。

 

タスクと店主のあの二人は、自分やアスナと同じ状況を経験しながら、自分にはない「強さ」を、持っている。

 

その「強さ」を知りたい。

ただ、それを本人達に聞いたところで、答えが出てくる事はまず無いのを、キリトは知っている。

 

「……ふ」

「……キリトくん?」

 

だから、あえて「決闘」という、少々無理矢理な形で知ろうとしたのだ。

 

第一、彼らの剣技というのを、まだキリトを含め、アスナ達もは知らない。

タスクと店主の過去は、アスナから聞いているが、ただそれはあくまで、「聞いただけ」。

 

そのせいか、実際にはどうなのか、なんていう、検証じみた感情もなくはないのだ。

 

もちろん、到底負ける気はない。

ただ、勝てるかと問われれば、首を縦に振るのはどうやっても無理というものだ。

 

……そう、これはそんな、先の見えない戦いなのだ。

 

そう思うと、キリトは体から緊張が抜けていくのを感じる。

 

「……キリトくん?」

「……パパ?」

 

するとその時、聞き慣れた2人の声が、その思考を打ち切るように頭へと流れ込んでくる。

キリトは、その声が聞こえた瞬間、はっとしたように顔を上げた。

 

「もう……また怖い顔して……」

「ああっ、ごっ、ごめんて!」

 

アスナの顔がぷくーっと膨らむ。

キリトは、そんなアスナを宥めようと慌て出す。

 

ただ、キリトはそんな中でも、はっきりと感じていた。

 

今のこの状態、SAOのあの時からずっと変わらない、この状態こそが、今、一番キリトの落ち着ける場であること。

そしてそれを守るために、守る力をつけるために、明日、彼らに戦いを挑むということ。

 

これはゲーム。

あくまで、「遊び」なのだ。

例え、かかっているものがどんなものでも、ゲームであっても遊びではない、あの世界とは違うのだ。

 

……となれば、後は当たって砕けるだけ。

 

「……明日、頑張るから……さ」

 

そんな意思が、キリトの口をつたって、言葉になって流れ出る。

 

 

 

緊張の決闘は、確実に近づいてきていた。




お久しぶりです。
駆巡 艤宗です。

まずは、大変お待たせ致しました!
え?最近毎回?か、勘違ぃ……(目そらし)

すみません(笑)
今後はなるべく早くしますね……( ´・ω・`)



さて、毎回恒例(おい)の前置きはさておいて。

今回は、「大型アップデート」についてのお知らせです。

まず現在、
・各キャラクターの使用兵装情報の設定集追加
・前書き及び後書きの更新・改稿・削除
・その他、細かい部分の修正・訂正
・文章作法の最適化(…→……への変更等)
の、4つを完了しました。
これにて、ほぼ全ての作業が終了という形になります。

……が。

恐らく、皆様が1番心待ちにしていらっしゃるであろう、
・「ストーリーダイブキャンペーン」にて誕生したキャラクター達の情報を設定集に追加
については、皆様にお詫びを申し上げさせていただきます。

当初、今回の大型アップデートにて、追加を予定しておりました上記の項目ですが、少し延期とさせていただきます。

理由としては、流石にそこまで手を回す時間がなかったこと。
また、次話を書きつつ、並行して作業をするのは、双方の質の低下に繋がると判断したためです。

ただ、今回の措置を行った場合、今後この決闘編が終わり次第、次章は「日常&ユウキ編」(仮称)へと入っていく予定が、予定より早くなりますので、恐らく設定集に手を回すよりも早く本編に登場できると思います。

言い訳じみて申し訳ないですが、併せてご理解をよろしくお願いします。



だんだん季節が変わってきましたね。
ちなみに作者は風邪を引きましてですね、ただ今、布団のなかで執筆をしております。

あ、咳したら画面に唾ついたうわぁぁぁゲッホゲッホ
ヾ(>y<;)ノ

今後ともよろしくお願いします。
では……

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Episode63 不思議な感覚 〜Mysterious feeling〜

「あ、あそこだ……って、ええ!?」

「「……?」」

 

決闘当日。

キリトに指定された場所へと並んで飛んでいた店主とシノンは、先頭で飛ぶタスクの声に、首を傾げた。

 

「どうかしたの?タスクくん」

 

店主が、先を覗き込みつつタスクに声をかける。

 

「……あーはは、そゆことね」

 

……が、店主はまるで自問自答するかのように、タスクの答えを聞く前に納得した。

 

そんな二人の謎な行動に耐えかねて、シノンも先を覗き込む。

少し位置をずらし、そこから更に首を伸ばして目を凝らす。

 

 

するとそこには、()()()()()()()ができていた。

 

 

 

「……あいつ、何考えてんのよ」

「……はは、彼は何気に人徳があるからねぇ」

 

シノンがそんな悪態を小声で呟く。

店主は、それに相槌を打って笑った。

 

「……」

 

そんな中、タスクだけが、沈黙を保ったまま真っ直ぐにそこへ飛んでいく。

そしてゆっくりと、キリトの前に降り立った。

 

「……おお、タスク!」

「こんにちは、キリトくん」

 

それに気づいたキリトが、タスクを見て笑う。

タスクも、それに応えて笑顔を返した。

 

すると、周りがざわりとざわめく。

 

タスクは、それを感じ取りつつ言葉を続けた。

 

「今日はよろしくお願いします」

「ああ、お互い本気でやろう」

 

キリトのその言葉に、周りはまたざわつく。

 

「あの黒いやつが本気でとか言ってるぜ……?」

「だいたい、あのタスクってやつ、だれなんだよ。強いのか?」

 

心做しか、そんな声も聞こえてきた。

それを少し気にして、なんとなくタスクは耳を傾けてしまう。

 

するとその時、不意に、前から……つまりキリトの方向から、あまり聞きなれない声が飛んできた。

 

「あ、あの……タスクさん」

「……!」

 

タスクは、慌てて意識を引き戻し、前を見る。

見ればそこには、キリトの従姉妹、直葉もとい、リーファが立っていた。

 

「あっ……ああ、すみません。どうしました?」

「あ……そ、その……ごめんなさい!!私のせいで……」

「……へ?僕何か……」

 

するとリーファは、いきなり謝罪をしながら、申し訳なさそうに見返してきた。

そんな彼女の視線に、タスクは違和感を覚える。

 

この人が、自分に何かしただろうか?

そんな考えが、タスクの中に浮かんだ。

 

だが、そんな思考虚しく、その答えはすぐにやってきた。

 

「い、いや、実はこの人だかり、半ば私のせいなんです」

「……!」

「お兄ちゃんにも怒られたんですが、私がサクヤとアリシャ……いえ、シルフとケットシーの領主を呼んじゃったんです。そしたら、次第に人が集まっちゃって……」

「……ああ、なるほど」

 

ああ、その事か。

と、タスクは内心でストンと腑に落ちる。

 

タスクが何気に気にしてしまった、この人だかりのことだ。

 

つまり、リーファは恐らく、キリトの決闘の話を、仲がいいと聞いているシルフ領主、サクヤに話してしまったのだろう。

 

……で、その後その話がケットシー領主、アリシャにも伝わり、キリトに一目置いている大物2人が肩を並べて見物に来てみたら、これだけ人が集まってしまった、という訳だ。

 

少し……と言うよりはほとんど、休日にアスナらとALOで遊んでいるシノンからの情報に基づいて推測した結論だが、あらかた間違ってはいないように思えた。

 

「本っ当にごめんなさい!!決闘を邪魔するつもりはなかったんです!」

 

タスクがそんな思案をしている間にも、リーファは必死に頭を下げて謝ってる。

 

そんなリーファを見たタスクは、はっと我に返ると、慌ててかぶりをふってその謝罪を否定した。

 

「あっ……いえ、いいんですよ!全然!」

「……え?」

「人が多い方が、彼の応援も大きくなるでしょうし……」

「で、でも、そしたらタスクさんは……その、アウェイというか……!」

「あー、僕はそういうの、慣れてますから」

「で、でも……」

「はは、いいんですよ!全然!」

「……!!」

 

タスクが、リーファをまるで元気づけるように、会話をどんどん広げていく。

そのお陰か、だんだんリーファの顔に笑顔が戻り始めたその時。

 

「……それに……ね」

「?」

 

不意に、タスクのトーンが低くなった。

リーファは、それに釣られて反射的にタスクをみる。

 

するとその時。

 

 

「もうなにも、隠す必要はありませんからね」

 

 

タスクが静かにそう言った。

リーファはその瞬間、ゾクリと何かが背筋を走り抜けたような、不思議な感覚を感じる。

 

だからなのか、彼の顔は、屈託のない笑顔から、少し何かを含んだ笑顔に変わっていた。

リーファは、何故かその顔から目が離せない。

 

……だが、気づいた時にはもう、その感覚は跡形もなく消えていた。

 

「……だから、本当に何も気にしないでください。ね?」

「……!!」

 

代わりにそこに居たのは、ついさっきまでと何ら変わらない、屈託のないタスクの笑顔。

そしてそこから感じ取れる、おおらかな優しさと、微かな親近感のみだった。

 

「は、はい……」

 

半ば呆然として言葉を返すリーファ。

するとタスクは、最後にニコッと笑って踵を返し、店主とシノンの元へと歩いていった。

 

リーファは、無意識的に安心感を求め、振り返ってキリトを見る。

だがそのキリトは、いやキリト自身も、不安げな顔でリーファを見返していた。

 

 

 

 

……緊張の決闘まで、あと僅か数分である。




次回!決闘開始!

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Episode64 同胞たち 〜Brothers〜

空中に浮かぶ数字が、一定間隔で少なくなっていく。

数字を包む白線でできた円が、消えては現れ、消えてはまた現れを繰り返す。

 

そしてそれを見つめ、息を呑む者達。

アスナやリズ、シリカにリーファ。

そのお馴染みのメンツの後ろには、サクヤやアリシャとその取り巻き達。

そしてそのメンツの隣にはシノンがいて、そのまた隣には店主やクライン、エギル、そしてクリスハイトが、それぞれ立っていた。

 

そんな人達に囲まれて、相変わらずカウントを続ける数字とアニメーションに見下ろされながら、キリトとタスクは対峙している。

 

キリトは、初っ端から剣を2本引き抜き、SAO時代からお馴染みの、腰を落とし、右手の剣を後ろに構え、左手の剣を前に置いたたスタイル。

 

対してタスクは、体を真横にし、右手にもつ刀の刃先を前にある右足にそわせるように下げて、拳にした左手を頬の横に付ける、格闘技と剣術を混ぜたようなスタイル。

 

「すごい……独特な構えだなぁ……」

 

同じ刀使いだからか、クラインがそんな呟きを漏らした瞬間。

 

 

ビーッ!!

『START!』

 

 

電子ホイッスルのような甲高い音と一緒に、短いその単語が一際大きく表示された。

 

そしてその瞬間……

 

「動いた!」

 

タスクが、10mほどの距離を一気に詰めて斬りかかる。

右斜め上、袈裟斬りの構え。

 

店主が思わずなのか声を漏らすが、他の妖精達も必死に何かを堪えた。

 

キリトへと、タスクの強烈な一閃が迫っていく。

キリトは、未だ決闘開始時と同じ体制で硬直している。

 

……が。

 

「……な!! くっ……!!」

 

あと寸でのところで、キリトが反応した。

バキン、と、鉄が打ちつけられる音がする。

 

だが、タスクの一閃はそこでは止まらなかった。

 

バキン!バキン!キン!ガリッ!

「く……っそ!!」

 

鋭く鈍い音が二人の間で響く。

 

ただ、それはあくまでタスクが生じさせているもの。

キリトは防御で手一杯だった。

 

「キリ……ト……くん……!!」

 

アスナが、タスクの猛攻に耐えるキリトを見て、ぎゅっと手を握りしめる。

それは、彼女の何らかの決意の表れであった。

 

ガッ!ゴッ!キイ!

「ぐっ……!!」

 

だが、そんなことなど意にも介さず、タスクは恐るべき速度と強度でキリトへと剣を叩き込んでゆく。

 

「な、なんて剣技だ……!!」

 

不意に、サクヤが言葉を漏らす。

 

右上からの袈裟斬り、その後跳ね上がるように左下からの逆袈裟斬り。

そして一旦刀を宙に浮かせたかと思えば、また腕に力を入れて今度は右下から刀を跳ね上げる。

 

その動きは、全くブレも迷いもなかった。

 

「こ、これが……裏血盟……!!」

 

クリスハイトも驚いているのか、目を見開いて凝視する。

そんな各々の反応を見て、店主は少しばかり微笑んでしまった。

 

決して、自慢だとか、誇らしいだとか、そんな感情からではない。

ただただ純粋に、タスクの本気の戦いを久しぶりに見れたからだ。

 

長年彼を見てきた店主には……いや、()()()には、ひと目で分かる。

彼は今、内側で滾る闘争心を、全力でキリトに叩き込んでいるのだ……と。

 

人が全力で争う時、少なからず、その人は周りの人を引き寄せる何かを放つ。

それが、気迫なのか、それともただ目立つだけなのかは分からない。

 

でも、その()()()は、確実に、存在するのだ。

 

そして今、その()()()が、とんでもない練度の二人から発せられている。

観客の目が釘付けになるのは、至極当たり前の事だった。

 

だが、そんな状況を改めて視界に収めてみると、どこか「再確認」したかのような、よく分からない気持ちにとらわれる。

 

店主はまさに今、その「よく分からない気持ち」にとらわれたのだ。

だから、いつものようにタスクを見守るだけで、自然と笑みがこぼれるのだった。

 

《いけ……もっといけ……君の力の限りを尽くした攻撃を、叩き込むんだ!》

 

そんな事を、店主は頭の中で呟く。

 

もちろん、その言葉はタスクには届かない。

でも、店主はどこかで、そんな言葉でさえ、タスクの背中を押している気がする。

 

「……ふふ」

 

店主は思わず、また微笑みを漏らした。

 

 

 

 

 

 

《同胞たちの為にも……ね。》

 

 

 

 

 

 

そんな、内心の思いと共に。




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Episode65 奇妙な違和感 〜Strange strangeness〜

バキン!バキン!ガッ!

「……!!」

 

ALOのフィールドの一区画に、鋭い金属音が響きわたる。

 

戦局は、互いの実力が拮抗し、お互いがお互いを均等に削りあっている状況。

タスクが素早い二連、三連の斬撃を繰り出したかと思えば、キリトはそれを剣で受け止め、もう片方の剣で重たい一撃を返す。

 

「す、すげぇ……こんなの、見た事ねぇぞ」

 

男性陣に交じり、風林火山のメンバーと並んで見ていたクラインが、ふとそう呟く。

 

それもそのはず。

実際、空中に表示されている二人のHPバーは、恐ろしい程均等に削れているからだ。

 

「『実力の拮抗』って、まさにこういうことを言うんだなぁ……」

 

驚き、というよりは、唖然として、つまりポカーンとして、クラインはまた呟く。

その呟きは、まさにその場にいる妖精達全員の気持ちの代弁であった。

 

 

《……いや、そうじゃ……ない》

 

 

……だが、その場にいる妖精達の中で、1人だけ、そんな気持ちを持っていない妖精がいる。

 

「くそっ……!」

ガキィ!!

 

 

 

 

他の誰でもない、キリトであった。

 

 

『なにかがまだある』

 

彼……キリトは、直感的にそう悟っていた。

 

今、目の前で刀片手に踊るこのケットシーには、まだ、いわゆる「隠し球」がある……と。

 

ヒュン!ヒュン!

「くっ!」

 

刀がほんの目の先を2回も掠めていく。

 

《なんだ……?》

 

すると、()()奇妙な違和感に囚われる。

 

実は彼……キリトが、相対するケットシー……つまりタスクの、「隠し球」の存在を何故か悟るのは、この奇妙な違和感によるものだった。

 

確信している訳ではなく、そこまで至るほどの納得感はない。

 

ただなぜか、そう悟れるのだ。

ただただ単純に、おそらくそうだろうな……と。

 

間違いなくタスクは、キリトが今まで戦ってきた戦士の中でトップの強さを誇るのは紛れもない事実である。

 

……が、どこか、その強さ故か、その彼のどこからか、今までの戦いでは全くもって感じ得なかった奇妙な違和感があるのだ。

 

それも一回だけでなく、何回も。

 

「……なんだ?」

バキン……!!

 

キリトは、相変わらず鋭いタスクの斬撃を捌きつつ、思考をグルグルと巡らせる。

 

決して、ダメージを受けているとか、状態異常だとか、そういう話ではないのだ。

何か一つでも見逃せば、それが後々命取りに充分なり得るので、キリトはSAO時代からずっと、そういう類の警戒を怠ったことはない。

 

だから、特に重要な今回も、確認を怠ってはいないし、実際、微小なりともダメージだとか、自分の体の動き、感覚だとかは、なんら問題ない。

 

その違和感は、あくまでタスクから。

タスク()()から、感じられるのだ。

 

でもだからといって、タスクの動きや、表示されているステータスにも何も異変はない。

 

極々稀に、「チート」と呼ばれる事をする輩がいる。

そういう連中だと、相対した際、ゲームのデータ処理に異常をきたすため、アバターやその場の空間が歪むことがあり、それが違和感となって正常なプレイヤーに伝わることがある。

 

……だが、今回のこの違和感は、そういう類のものでもない。

 

これは、彼の仮想世界に対する適性と、膨大な知識、そして才能がそう語っているのだ。

そもそも、タスクや店主らが、そんなことをする人達だとは到底思ってないし、思えない。

 

ならば、考えられることはあと一つしかなかった。

 

「キリトの想像を絶するようななにかが、タスクはまだ隠し持っている」という、これ一点のみだ。

 

これならば、まだありえる。

彼の並外れた戦闘勘が、その何かを、「隠し球」を、察知していると考えられるからだ。

 

……では、その「隠し球」とは、実際なんなのか?

そう問われると、彼は答えられない。

だから、確信するには至れなかったのだ。

 

……するとその時だった。

 

「っ……!!??」

 

今までより何倍にも増した違和感が、キリトを襲った。

 

その違和感は、違和感を超えて恐怖に変わり、寒気となって体に反応を引き起こす。

 

まるで「蛇」に巻き付かれたような、尋常じゃなくゾワゾワする気味の悪い感覚。

 

「なんだ……?なんなんだ……!?」

 

キリトは、その恐怖からか、疑問符を声に出してしまう。

 

すると次の瞬間。

 

 

 

「ああっ……!!」

 

 

 

遠巻きに聞こえるアスナの叫びと共に、

 

 

 

ドゴォ!!

「がはっ……!?」

 

 

 

()()痛みが、彼を襲った。




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Episode66 畏怖 〜awe〜

「ああっ……!!」

 

そう、アスナは不覚にも声を漏らしてしまった。

 

その理由は、ついさっきまで拮抗していた戦局が、一気に変わったのを察したから。

そしてその変化が、「キリトが不利」の方に傾いたと、嫌でも認識したからである。

 

「……!!」

 

キリトの体が、ほんの一瞬、ふわりと浮き上がる。

それと同時に、妖精達のどよめきの音量も上がる。

 

翅を使った訳では無い。

キリトの背中には、見慣れた漆黒の羽根は現れてないからだ。

 

「……!?」

 

だが確実に、キリトの体は、少なくとも彼の足は、地面から離れていた。

 

「な、なにが……」

 

リズが呟きかけて止める。

その声音は、本当に、心の底から分からない、と言わんばかりの疑問と驚愕に充ちていた。

 

それもそのはず。

状況的には、タスクが右袈裟斬りを放っただけなのだ。

 

今までも、タスクは何度も右袈裟斬りをキリトに放っているし、キリトもキリトで、その右袈裟斬りを何度も防いだり、躱したりして、決してそんな、()()()()()()()なんて事はなかったのだ。

 

だが、現実はそうではない。

 

確かにキリトは、宙に浮いているのだ。

剣を左に置き、タスクの右袈裟斬りを剣で防ぐ構えのまま、真横……正確には左に、吹っ飛ばされている。

 

現実では1秒にも満たない時間だが、妖精達には何倍も長く、その光景が目に映し出されていた。

 

「あっ……!」

バゴォ!!

 

そしてキリトは、飛ばされた先にあった、大きな樹木に激突する。

 

それに伴い、痛々しい音と共に、土煙が舞った。

妖精達の目は、土煙で覆われ、すっかり見えなくなったキリトを探す故か、そこに釘付けになる。

 

対してキリトは、その後しばらくしたあと、その土煙の中からゆっくりとまた立ち上がると、ギラリとタスクを睨み、こう言い放った。

 

「くそ……!!そういう事かよ……!!」

「……え!?」

 

そのキリトの呟きと、あまりにも強烈なその視線に釣られ、妖精達の視線は、キリトの視線の先……タスクへと移り変わる。

 

……するとそこには、想像を絶する体勢をしたタスクがいた。

 

「な……ぁっ!?」

 

妖精達の中の誰かが、ありえない、と言わんばかりに声を漏らす。

 

その姿は、いわゆる「蹴り」の姿勢。

誰が見ても綺麗な、見事な空手などでよくみる、「回し蹴り」の構えであった。

 

左手は握って拳にし、肘をたたんで左頬についている。

右手は刀を持ったまま、いつのまにか下に降りていた。

 

代わりに出ていたのが、「脚」である。

左脚を軸に、美しく右脚が伸びていた。

 

「ま、まさか……!!」

 

それを見たアスナが、あの時何が起こったのか、薄々悟る。

 

タスクはおそらく、右に薙ぎ払う斬撃と同時に、キリトの剣ごと蹴り飛ばしたのだ。

 

そんなことが可能なのか、と、疑問に思わなくもない。

そんなことをしようものなら、並外れた体重移動に加え、相手を圧倒的に凌駕する反応速度、そしてなにより、剣術・格闘技の両方に精通した知識が要求されるからだ。

 

そんなこと、到底できるものではない。

アスナでさえ、そんなことは無理だと自覚しきってしまう。

 

ただ、というより、むしろだからこそ、彼……タスクの強さをひしひしと感じ取れた。

「ただ者じゃない」なんて今更じみた感嘆符が、心の中で浮かび上がってくる。

 

「……!!」

 

すると、長らく脚を蹴りの体勢のまま上げていたタスクが、ゆっくりと脚を折りたたんで下へ降ろす。

したがって、足に隠れていた顔も、だんだんアスナ達に見えるようになる。

 

その顔は、今まで対峙して来たどんなプレイヤー、どんなモンスターよりも勝る、獰猛かつ凶悪な、まるで悪魔を想像させる()()をたたえていた。

 

「う、うわぁ……!!」

 

妖精達の中から、あからさまに畏怖する声が聞こえてくる。

 

アスナの隣に立つシリカも、いつの間にかアスナの後ろに少し隠れ気味に立っていた。

 

「……!!」

 

実際、アスナもアスナで、全く怯んでない訳では無い。

 

本当なら、最愛の人のそばにいきたい。

だが、その最愛の人はむしろ、その元凶と対峙している。

 

「っ……!!」

 

アスナが半ば睨むように見ているタスクの目が、また一段と殺気を帯びた気がした。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやあ、寒いですね。
手がかじかんで文字が打ちにくいです(笑)

まあ、そんなことは置いておいて、本題に入りましょう。(早い)

最近ね、ふと思ったんです。
あれ?この章案外長くなるぞ?と。
GGOSJやユウキ、オーディナル・スケールにアリシゼーションなど、まだまだ書きたいところがあるのに、全然まだまだだぞ?と。

……で、僕は考えました。
いっその事、1話辺りの文字数を増やしてみたらどうかと。(笑)

どうでしょうか?
皆様のご意見をお聞かせください(笑)

よろしくお願いします。
_(⌒(_๑´ω`)_パタム

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Episode67 疎外感 〜Alienation〜

「くそ……!!そういう事かよ……!!」

 

そんな悪態が、土煙の中から聞こえてくる。

その真ん前に対峙したタスクは、その声がした方向を、ずっと見つめていた。

 

「くっ……!」

 

するとそのうち、もはや見なれた二つの剣が見えてきて、その後、ゆっくりと黒の剣士が見えてくる。

 

その剣士は、顔は厳しそうにゆがめられてはいるものの、目はまだ戦意に満ち溢れていた。

 

「……はは、いい……ですねぇ」

 

その顔を見て、そしてその姿を見て、タスクは笑みを保ったまま、武者震いをする。

 

だんだん蘇ってくる。

あの時、あの世界での色んな記憶が。

 

その記憶は、全部が全部いい思い出ではない。

忘れてしまいたい、あるいは、本来忘れてしまわければならない記憶だって存在する。

 

ただ、今この場に限っては、その全ての思い出が懐かしく、そして恋しく感じていた。

 

「……やっぱり、ダメだぁ……はは……」

 

するとタスクは、独り言を呟きつつ刀を前へと出す。

 

「ごめん……アユム、僕……」

ジャリッ……

 

その次に、足を仁王立ちにし、前に出した刀を体の中心に持ってくる。

 

そして……

 

「出す……よ、本気を」

 

キリトをぎらりと睨んで、そう言い放った。

 

笑みは保っている。

……が、明らかに先ほどと違う気迫がそこにはあった。

 

「へへ……そうこなくっちゃ……なぁ!!」

 

もちろん、その宣言を聞いたキリトは、その言葉に笑って返す。

2人の死闘は、これから本番のようだった。

 

 

本当は、すごく応援したい。

頑張れ、と声援を送りたい。

 

だけれど、それがなぜかできない。

 

当たり前だ。

皆、応援しているのはキリトなのだ。

いきなり現れたタスクなんて、嫌悪の対象にすらなりえる。

 

でも、それをできない理由にするのは、単なる逃げであることも自分が一番よく分かっている。

 

じゃあ、声援を送れるのかと聞かれると、どうしても躊躇いが出てしまう。

 

「……!」

 

そんな葛藤の最中、シノンは、彼らの死闘を見つめていた。

 

正直言うと、彼女は度肝を抜かれていた。

キリトの剣の腕はBOBで嫌という程見せられたものの、タスクの剣の腕は見たことがなかったからだ。

 

しかもそれが、キリトと互角に渡り合っているはおろか、少し上回っているようにも見えてしまう。

 

タスクの強さは、シノンはよく知っている。

ただそれは、GGO……つまり、銃の世界でのみだと思っていた。

 

「……!!」

 

……でも、よく考えてみれば確かにな、と納得も出来る。

 

なんたって、タスクと店主はあのSAO生還者(サバイバー)

それはキリトやアスナ、リズやシリカとて同じかもしれないが、タスクと店主2人に関しては、ただその世界にいただけじゃなく、その()の世界に生きていた人達なのだ。

 

銃なぞもちろん存在しないあの世界で、なおかつその裏の世界で、生き残って帰ってきたというのは、やはり伊達ではなかった。

 

「……」

 

するとその時、シノンは急に、どこか「疎外感」のようなものを感じる。

 

タスクやキリトを始め、その周りにいる人達は皆、あらかたSAO生還者(サバイバー)であることに気づいたからだ。

 

……否、正確には、()()()した、からかもしれない。

 

これに関しては、リーファもシノンと同じ部類に入る。

だがしかし、リーファにはキリトの義妹という、とてつもなく強力な枠組みが存在するのだ。

 

じゃあ、私は一体……と、シノンは思考を巡らせる。

 

タスクや店主は、自分にすごく良くしてくれる。

でもそれは、GGOの仲間としてであって、数年前に同じ境遇に閉じこめられた、いわゆる「被害者」としての絆には到底及ぶものでは無い。

 

それに、さっき少し気になったリーファでさえ、大きな括りで言えば「被害者」なのだ。

命を懸けたデスゲームに、大切な家族を何年も囚われるというのは、ある意味で「戦い」であるし、それを耐え抜いたのだから、少し劣るとしてもキリトらSAO生還者(サバイバー)に肩を並べることはできる。

 

そうして、じゃあ、私は……と、また思考が回帰してきたのだった。

それも、先ほどより重たく暗い感情と共に。

 

「……!!」

 

だんだん、じんわりと、シノンを暗い感情が包んでいく。

反射的に下を向いて、手を握りしめてしまう。

 

情けない、と自分でも思う。

自分の考えすぎだなんてことも、もちろん自覚している。

 

でも、でもやっぱり、どうしても、この気持ちは、止めれそうになかった。

 

……するとその時。

 

「シノンさん?」

「……っ!!」

 

聞き慣れたのほほんした声が、シノンの上から降ってきた。

 

「……!!」

「どうかしたかい?大丈夫?」

 

……言わずもがな、店主である。

 

 

「へぇ……それ、もう出しちゃうんだ」

 

キリトが吹っ飛ばされ、タスクが本気宣言をし、辺りが騒然とする中、店主はひとりでにそう呟く。

 

もちろんその呟きは、誰の耳にも入らず、誰の興味も寄せ付けず、まるで存在しなかったかのように、風に呑まれて消える。

 

当然といえば当然だ。

どこのものとも知れない、どこかふわふわしている謎めいた獣耳おっさんの呟きなど、目の前で繰り広げられている死闘の前では価値を持てるわけないからだ。

 

「あの感じ……ふふ、ほんとに本気なんだね」

 

そして店主は、それをいいことにまた呟く。

その呟きは、もちろん、また風に呑まれて消えた。

 

タスクの本気、それは、ここ2年半ほどの間()()()()()()()()、タスクの全盛期の実力のことである。

 

全盛期とは、タスクが間違いなく最も強かった、「裏血盟騎士団」の時代のこと。

使う武器さえ違うGGOにいる時は絶対に現れない、タスクの内に棲む獣が、顔を見せる瞬間である。

 

その瞬間は、長い間彼のそばにいる店主でさえも、ほんの1、2回ほどしか見たことがない。

ただその希少さ故か、その瞬間はたとえ店主でも戦慄を余儀なくされるのだ。

 

実際、SAO時代に一度だけ、店主はタスクと本気で対峙したことがある。

だがその瞬間、足が竦んで動けなくなったのは、今でもいい思い出だ。

 

「……よく、見とくんだよ、シノンさん」

 

何気なく、店主はシノンに声をかける。

もちろん目は戦いから逸らさない。

 

でもそれは、店主も無意識に、逃げを求めたからかもしれなかった。

タスクの、たとえ対峙してなくとも感じられる、その気迫から。

 

……だが、珍しい事に、返事は帰ってこなかった。

 

「……シノンさん?」

 

シノンは、そんな事をするような人ではない。

 

それは、どんな仕事のどんな状況でも、何か言えば必ず律儀に返事を返してくるんだ、と、タスク……もといボスから聞かされるほどだ。

それにその律儀さは、普段の彼女の振る舞いからも、店主はよく分かっている。

 

でも実際、未だ返事は返ってこない。

店主は不思議に思って、はたとシノンを見る。

 

「……!!」

 

するとそこには、俯いて、ぎゅっと手を握りしめたシノンがいた。

 

「……どうかしたかい?大丈夫?」

 

店主は、いつもの優しさからか、そんな様子を見た瞬間、半ば反射的にそう訊ねる。

今度は戦いから目を逸らし、シノンをのぞき込むように見ていた。

 

シノンはしばらくした後、慌てて顔上げて、店主の顔を見上げてくる。

その時、彼女の目を見た店主は、その原因の全てを悟った。

 

「ああ……!」

「は、はい……?」

 

シノンを見つめたまま硬直する店主を、今度はシノンが顔を覗き込むようにして見る。

 

すると店主は、しばらくした後、はっと我に返って、にこりと微笑んだ。

 

「……ふふ、なるほどね、シノンさん」

「……?」

 

シノンは、そんな言葉と共に送られてくるその微笑みに、どこか嫌な予感を覚える。

 

毎度毎度のタスク関連の弄りが来る、と悟ったからかもしない。

 

 

 

 

 

 

……ただ、今回、この場に限っては、それも少し嬉しかった。




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Episode68 震え 〜trembling〜

《アユム君……アユム君ノータッチかよ!!》
by 駆巡 艤宗の心


「……ふふ、なるほどね、シノンさん」

 

店主が、すこし口をほころばせてシノンを横目に見てくる。

シノンは、その目を見て少し……()()()ほっとしていた。

 

すると、そんな安心もつかの間、店主はまたふいっと視線を戻し、戦いを注視し始める。

 

……だが、声だけは、まだシノンの元へ送られてきた。

 

「……はは、大丈夫さ、シノンさん」

「え……!?」

 

シノンは一瞬、ギクリとしてしまう。

 

店主に、あの()()()()()考えと、それにより引き起こされた()()()()自己嫌悪を悟られた、と、悟ったからだ。

 

普通、こんな状況で「大丈夫」なんて言葉は使わない。

それに、言葉を巧みに操る店主のことだから、尚更である。

 

すると案の定、店主が変に隠すのをやめ、直球で言葉を飛ばしてきた。

 

「……シノンさん、僕らはそんな事、思ったりしないよ」

「!!」

「あれでしょう?キリトくんやらその周りは皆SAO関係者だから、なんかな……みたいなさ」

「……!!」

 

やっぱり、そんな言葉がシノンの中でグルグルと渦巻く。

……と同時に、恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

まだタスク達の戦いに皆が気を向けているからいいものの、もし向いていなかったら間違いなく注目の的となるくらい、シノンは顔を赤くしていた。

 

「……はは、案外素直なんだね、シノンさん」

「〜〜!!」

 

店主の容赦ないイジりにシノンはまた悶える。

そしてシノンは、そのもどかしさに耐えきれず、ぱっと顔を前に上げる。

 

「っ……!!」

 

すると店主は、首だけ回し、顔を真っ直ぐにこちらに向けていた。

 

今回は、前回みたいに声だけでもなく、横目でもなく、顔を真っ直ぐシノンに向けて、正面に見据えている。

 

シノンは、自ずとその店主の目を見てしまった。

すると、その視線を見返すように、店主が一瞬笑みを消した瞳を見せる。

 

「わかるさ、そりゃぁ……ね?」

「え……?」

「僕ら、何度も困難をくぐりぬけてきたじゃない」

「……」

「だからこそ分かるんだよ、シノンさん……君の気持ちがさ」

「!!」

「だって僕ら……」

 

そして店主は、そこまで言うとニッと笑って、言葉を続けた。

 

 

()()()()()……ね」

 

「なか……ま……!!」

 

店主は、満面の笑みでシノンを見ている。

彼も見ていたいだろう戦いから目を逸らし、しっかりと。

 

するとその時。

シノンは、自分の心が暖かみを取り戻したのを感じた。

 

「……はい!」

 

そんな気持ちは、彼女の返事に現れていた。

あまりの嬉しさに、微かに震える手も然り。

 

 

背筋がゾクゾクと疼いている。

寒気を超えた畏怖が、背筋のみならず手や足をも震わせる。

 

でもその震えは、同時に彼の「闘志」をも、震わせていた。

 

「っ……!!」

 

今、目の前に立っている少年が怖い。

 

可愛らしい獣耳と尻尾を備えた、小柄なケット・シーが、この上なく恐ろしく、そしてなによりも怖かった。

 

「へへ……」

 

だが、キリトは同時に、心から歓喜していた。

この目の前の化け物と、対峙すること()()()()を。

 

散々感じた違和感も、竦んで動けなくなりそうなほどの恐怖も、この歓喜には遠く及ばない。

 

……ずっと、飢えていた。

この感覚を、そしてこの高揚を。

 

なぜならキリトは、その強さ故に、なかなか()()()()()()()()()()()()に出会えなかったからだ。

 

SAO時代で言えば、それに該当するのは「フロアボス」だ。

……が、攻撃や回避パターンさえ覚えてしまえば、実際どうって事ない。

 

さらに言えば、フロアボス戦の場合、嫌でも連携を強要される。

それはキリトにとって、あまり好ましいものではなかった。

 

そして続く、ALO。

PK推奨なんていう、一見ぶっ飛んだゲームではあるものの、SAOの最前線を1人で生き残ってきたキリトにとってはそこでも満足いく相手には出会わなかった。

 

連携も強要されない上、相手は本物の人間だ。

パターンなんてものは、個人差はあるもののあまりない。

 

……それでも、今度はただ純粋に、「力不足」な相手にしか出会わなかったのだ。

 

SAOのフロアボスなら、プレイヤー達を圧倒すべく破格のステータスが付与されている。

でも彼らにはパターンという枠組みが存在し、「倒し方」なんていう、戦いを一辺倒にしかさせない要素がどうしても付属してしまう。

 

かといって、ALOのプレイヤー達では、確かにパターンなんていうある意味邪魔なものが無い分、キリトのステータスやスキルに追いつけるものなどいない。

 

そうして、自己慢心では無いが、満足出来る相手はもう居ないのかな、なんていう諦めの心が日に日に増す中。

 

「GGO」へと、キリトはやってきて、そしてそこで、やっと、出会えたのだ。

()()()()()()()()()()()()を。

 

……もちろん、あの死銃(デスガン)ではない。

もちろん苦戦はした。

苦戦はしたのだが、それはまた別の意味である。

 

では、その相手というのは、誰なのか。

いわずもがな、「ビッグ・ボス」である。

 

プロさえいるようなハードなゲームの、()を仕切るほどの強さを持ち、そしてなおかつあのSAOの被害者であるなんていう、キリトからしたら願ってもない相手だった。

 

そしてその彼は、予想通り、剣の腕も相当なもの。

しかもSAO時代でさえ、彼は()の世界に生きていたというのだ。

 

だから当然、キリトは歓喜する。

どんな恐怖があろうとも、どんな不安があろうとも、むしろ歓喜せざるをせないのだ。

 

 

 

 

 

 

「……さあ、ここからが」

「本番……だ」

 

タスクが呟き、キリトが続く。

 

そしてまた……彼らは剣を交錯させた。




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Episode69 二度目 〜Second time〜

タスクの刀が、キリトの左剣めがけて地面と並行に飛んでくる。

キリトはそれを防ぐため、あえて刀と垂直に剣を刀に叩きつける。

 

バギン、と、ある意味気持ちの良い音が響き、火花が散る。

 

するとその瞬間、タスクの動きが止まった。

その隙を見逃さず、キリトは右剣でタスクの胴へ横斬りを放つ。

 

当然、タスクはそれを察知し、瞬時に飛び上がった。

 

キリトの腰よりも高い位置にタスクの極限まで折り曲げた足が浮かび上がり、その真下スレスレを、キリトの右剣が掠めていく。

 

するとタスクはその瞬間、空中で体勢を転換し、キリトの側頭部へ右足の蹴りを放った。

 

ゴッ

「がっ……!」

 

鈍い音がして、キリトが少しよろめく。

 

そうすると、体勢変換の力の作用点だった刀が、キリトの左剣から離れ、タスクは自由落下を始める。

 

ただ、そこは黒の剣士。

その隙を見逃さず、今度は左剣をタスクの落下運動先へ滑り込ませた。

 

完璧な軌道。

偏差も速度も角度も、最高の状態だ。

 

……だが。

 

タスクは、剣が飛んでくる直前に地面に一瞬、手をついて偏差をずらしたため、キリトの右剣が、またタスクの真下スレスレを掠めた。

 

そしてまた、タスクは右足で蹴りを放つ。

地面とほぼ並行な体から、キリトの左肩へ。

 

ガッ

「ぐぅ……!?」

 

その衝撃で、キリトはタスクから見て左へふらついた。

……と同時に、前回の刀のように作用点がないため、タスクも反作用で右へと少しズレる。

 

そうしてお互いがお互いに離れあったため、一旦攻防が止まった。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ…………」

 

キリトは荒くなった息を正そうとし、タスクは大きく息を吐く。

 

キリトもタスクも、周りの観衆の事など最早忘れていた。

というより、意識など出来なかった。

 

なぜなら、

「全ての意識、そして全ての力を注ぎ込まないと、相手には勝てない。」

そんな思いが、お互いにあったからである。

 

「おぁぁあ!!!」

「……!!」

 

そしてまた、今度はキリトから攻撃を仕掛け、戦いは続く。

 

脳天へと直下する大上段からの一閃。

もちろんタスクは体を直前にずらし、回避する。

 

そして剣が下へと完全に通り過ぎた後。

タスクは下に降りていたキリトの右剣を()()()()()

 

「なっ……!?」

 

これにはキリトも意表を突かれ、咄嗟に剣を上にあげる。

するとタスクは、その勢いに乗じてキリトの頭より高く飛び上がった。

 

ただし、ダメージは全く入っていない。

なぜならタスクが踏みつけたのは、剣のいわゆる「平たい部分」だったからだ。

 

「くっ……!!」

 

キリトは、悠々と頭上を飛び越えていくタスクを睨みながら、自分も遅れまいと即座に体の向きを変える。

 

「……!?」

 

……だが、その体を向けた先には、タスクはいなかった。

 

一瞬、キリトは目を疑う。

ついさっき、後ろへ飛んで行ったはずなのに……と。

 

着地してから横にズレた?

いや、ありえない。

だとしたら、視界の隅に必ず捉えられているはずだ。

 

では、まだ上にいる?

それも、ありえない。

このゲームにおいて、空に浮かんでいられるのは羽を使った時のみ。

 

今回のこの決闘は、羽の使用は禁止、と事前に取り決めてあるのだ。

したがって、それもない。

 

では、一体どこにタスクはいるのか。

 

そんな思考を瞬時にしていたまさにその時。

 

グラッ……

「えっ……!?」

 

キリトの視界が、()()()なった。

そしてそれと同時に、キリトは今、何がどうなっているのかの全てを悟る。

 

おそらくタスクは、後ろに跳躍、着地した直後、その時になっていたであろう低い姿勢のまま、瞬時にキリトの股下へと滑り込んだのだ。

 

そしてその後、キリトの服を後ろからつかみ、今まさにキリトに「投げ技」を繰り出しているのである。

 

「うっ……そだろ!?」

「……いいえ?」

 

あまりに驚いたからか、キリトがつい漏らしたボヤキに、下にいるタスクが反応する。

 

そうしてキリトは、その答えを聞きながら、投げ飛ばされた。

 

ドカッ

「くっ……!!」

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

腹や胸が地面に打ち付けられ、体全体に痛みが走る。

 

だが、そんなことなど構ってられなかった。

なぜなら、タスクがその直後に斬りかかってきたから。

 

ヴァッ……バキン!!

「ぐっ……!!」

 

一度刃先を下に落としてからの逆袈裟斬りという、フェイントまで噛ました鋭い一閃。

 

キリトは、何とかすぐに立ち上がると、即座に剣を刀との間に滑り込ませ、攻撃を防ぐ。

 

「ちぃ……!」

 

攻撃自体は防げたものの、衝撃までは防ぎきれない。

その衝撃でつい漏れたキリトの呟きに、タスクはニヤリと反応した。

 

……そしてまた、タスクは攻撃を繰り出す。

右上からの、袈裟斬りの構え。

 

「……!!」

 

するとその時、キリトの中で、()()()()がフラッシュバックした。

 

右上からの袈裟斬り。

そしてその刃の軌道のちょうど死角になる軌道で飛んできた脚。

 

見事にヒットを喰らい、吹っ飛ばされた、恐らくタスクにしか出来ないであろう、あの技。

 

間違いない。

()()が来る。

 

キリトは、瞬時にそう察した。

 

「おぁぁっ!!」

 

そしてすぐさま、その勘を頼りに、防御体勢に入る。

 

「くっ……!!」

 

見えない。

タスクの右足が、本当にそこにあるようには見えない。

 

恐るべき速度で迫る刀の後ろに、間違いなくいるであろうその足は、いつどのタイミングで視界に入ってくるかわからない。

 

だが、だからといってそのタイミングを捉えた瞬間から防御を始めても、絶対に間に合わない。

 

だから何としてでも、今この瞬間から、防御をしていなければならない。

 

例え、自分がその防御部位以外が手薄になってでも。

 

ガッ!

「ぐっ!」

 

そしてついに、タスクの右足が、キリトのあらかじめ出していた左剣に当たる。

 

刃は、もちろんタスクの足の方には向けない。

勢い負けすれば、自分の体へと傷を入れかねないからだ。

 

ただ、キリトはその瞬間、ニヤリと笑った。

 

防いだ、いや、防いでやった。

最初はまんまとやられたあの技を、たった2度目にして防いでやった。

 

あの痛みを受ける事に、2度目はない。

確かな満足感が、キリトの中で芽生える。

 

……だが。

 

 

 

ゴッ

「がっ……! はっ……?」

 

 

 

2()()()の衝撃が、彼の体を襲った。




最近、週一投稿が出来てるような気がします……

今年中には、せめて決闘は終わらせられる……かなぁ(笑)

今後ともよろしくお願いします。

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Episode70 決着 〜Settlement〜

ありえなかった。

完全に、防いだはずだった。

 

右上からの袈裟斬り。

そして、その死角から繰り出される右の回し蹴り。

 

まだ完全に見切った訳では無いが、クリーンヒットは避けた。

その……はずだったのだが。

 

グラッ……

「ぐっ……う……!!」

 

実際、キリトの視界は、大いに歪んでいた。

左側頭部に、大きな痛みを伴って。

 

頭がグラグラし、剣を握る手の力が、危うく抜けそうになった。

 

「っ……!!」

 

キリトは、そんな状態なのにも関わらず、タスクを睨みつける。

 

するとそこには、大きく股を開いたタスクと、その前で上に伸びる右足があった。

 

しかも、その右足はただ上に伸びている訳では無い。

キリトから見て、くの字になんていう、異形な形で伸びていた。

 

「ま、まさか……!!」

 

キリトはその時。

タスクが一体、何をやったのか理解する。

 

彼は、俗に言う「かけ蹴り」を繰り出したのだ。

「かけ蹴り」というのは、文字通り、「ひっかける」ようにする蹴り技のこと。

右足ならば、足を一度左に払い、そこから上に跳ね上げて相手の左側へと叩き込む、体幹がものを言う変則蹴り。

 

しかもそれを、タスクは回し蹴りをきちんと剣に叩き込んでから、足を下ろさずそのまま繰り出してきたのだ。

 

「なんでそんな……くそっ!!」

 

あまりのタスクの攻撃パターンの多彩さに、キリトはいよいよもって嫌気がさしてくる。

 

一体、どれだけやられれば気が済むのだ。

そんな自問さえ、混み上がって来る程。

 

そうしてついに、彼は決意した。

次の一合、つまり次の攻防で、()()()を出すことを。

 

 

 

……何を隠そう、()()()()()()である。

 

 

 

だが……

それは、()()()()()()()()()()()

 

 

キリトがタスクのかけ蹴りから立ち直る。

タスクは、もう既に足を下ろし、満身創痍でキリトを睨む。

 

その状態でしばらく互いを睨み合った後。

 

ジャリッ……

「はぁ……ぁぁあ!!」

 

キリトが、この決闘史上一番の気迫と殺気を伴って、タスクへと真っ直ぐ突貫した。

 

タスクも、右足を後ろへ回し、迎撃体勢をとる。

 

そしてお互いの距離が0になった瞬間。

キリトが、右剣を左へ、左剣を右へ、横に斬る。

タスクは防御の不可能を悟り、瞬時に後ろに下がる。

 

キリトはそれを見逃さず、もう一歩踏み込んで、今度はその軌道を逆戻しにしてもう一度横に斬った。

 

「っ……!?」

 

あまりキリトがやらなさそうな攻撃を受け、タスクが少し違和感を覚える。

 

……だが、その正体はすぐに現れた。

 

チィィィ……!!!!

「あっ……!!」

 

キリトの右剣が淡い光を帯び、それが段々と強烈になって行く。

 

そして次の瞬間。

 

ガンガンガンガン!!

「ぐ……!!」

 

タスクの刀が、そして彼自身の体が、恐るべき速度の嵐に見舞われた。

 

片手直剣用、4連撃ソードスキル、《バーチカル・スクエア》。

 

「くっぅ!」

 

タスクはたまらず距離をとるために後ろへ跳躍する。

そして地面に着地した直後、反撃へと転じようとするも……

 

「ちぃっ!」

 

タスクはまた、防御せざるを得なかった。

キリト特有のシステム外スキル、剣技連携(スキル・コネクト)を使って、また新たなソードスキルが繰り出されたからだ。

 

「っ……!!」

ガンガン!!

「……!!」

バキンバゴン!!

「がっ……あ!」

ガッ!キィ!ゴォ!!

 

今度は左剣での、同じく片手直剣用、7連撃ソードスキルの、《デッドリー・シンズ》。

 

これには流石のタスクでも受けかねたのか、何発かクリーンヒットを受けてしまった。

 

おかげでHPは激減。

形勢は一気にキリトに有利となった。

 

「はぁ……はぁ……どうだ……!!」

 

一気に体を動かしたからか、キリトはまた息が上がっているものの、しっかりとタスクを見据える。

 

対してタスクは、意外にも、膝をついて俯いていた。

肩が上下するのがはっきり見えるほど呼吸を荒くし、微かに手や足が震えている。

 

「……これで……終わりだ!!」

 

それでもキリトは立ち上がり、剣を構えると……

 

チィィィ……!!!!

「おおおおおぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一気に跳躍し、剣をまた光らせた。

単発重攻撃用ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》。

 

膝をついているタスクにとって、跳躍してまで速度を上げたソードスキルを回避、または防御するのは不可能。

 

それはキリトも、そして観衆も、何よりタスクが、1番よくわかっている。

そこまでをも読んで、最後まで気を抜かず、キリトはこのスキルを繰り出したのだ。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!」

 

キリトの剣が、タスクへと近づいていく。

観衆のどよめきも、一気に沸き起こる。

 

そしてついに、タスクの目と鼻の先に剣の先端が来た瞬間。 

 

ニヤリ

「……へへ。」

「……!!」

 

タスクが、俯いた顔を上げつつ微笑む。

その笑みに、キリトは戦慄した。

 

そして次の瞬間。

 

パァン……

「なっ!」

 

キリトの右剣が、つまりソードスキルを繰り出していた方の剣が、()()()()()

 

するとキリトはバランスが崩れ、タスクを素通りしつつ足をなんとか踏みとどまらせる。

そして即座に後ろを振り向いて、タスクにあと一撃喰らわせようとするも……

 

その時にはもう、既に遅かった。

 

「はああああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!」

ギィィィ……!!!!

 

今度はタスクの刀が光を帯びて……

 

ヴァァァッ!!!!!

「……!!??」

 

ほんの一瞬のうちに、キリトをその光が貫いた。

 

観衆のどよめきが嘘のように静まり返る。

タスクは刀が折れてポリゴン片となり、キリトは……

 

 

 

「ぐぅっ……!!」

ドサッ

 

仰向けに倒れて、火の玉になった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回、後書きに現れた理由は……
はい。そうですね。年末の挨拶でございます。(笑)

今年一年、本当にありがとうございました。
こんな作品を長らくご愛読していただけていることを、心よりありがたく思っております。

一周年記念の時に設定した目標も無事、達成することが出来ましたし、感想を毎回くださる方も増えました。
とってもありがたく、そしてものすごく、励みになっております。

今年は、実に波乱万丈な1年でありました。
今年の漢字が「災」(なんて漢字を使うんだ)であるくらい。
それでも、そんな中でも、この作品を続けてこれたのは、ひとえに、読者の皆様の格別の支えによるものだと、強く実感しております。

また来年も、SJ編やOS編、そしてUW編へと、邁進する予定です。
一周年記念キャンペーンキャラクターも、着々と登場の準備を進めているところであります。

最後に、改めて。
本当に、ありがとうございます。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。

読者の皆様が、また新たな年へと、無事に向かえますように。
そして今年、2018年、平成30年を、無事に、終えることができますように。

心より、この作品と共に、お祈り申し上げます。

駆巡 艤宗

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Have a nice year!!
Σd(・ω・d)


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Episode71 対面 〜First encount〜

路地の街灯が、やたら寂しそうに道を照らす。

 

時刻は夜7時。

すっかり夜も更け、東京という名の街の喧騒の色が、一気に変わる時間帯。

 

黒いコートと藍色のズボンに身を包んだ一人の少年が、狭い路地を歩いていた。

 

その少年の名は、桐ヶ谷 和人。

他でもない、ほんの数日前、影の剣豪、タスクと渡り合い、惜しくも敗れた、別名「黒の剣士」である。

 

その少年、和人……いや、あえて言うならば、()()()は今、黙々と、とある場所へと歩みを進めていた。

 

「本当にそこにあの人がいるのか……?」

 

そんな中、キリトは、不安な感情を言葉に漏らす。

 

決闘に決着がつき、リスポーンした時、既に入っていた店主からのメッセージ。

そして、そこに書かれていた、日時と場所。

 

まだ決闘に負けた実感がなく、かと言ってどことなく自覚しているような、ふわふわした中で、確かに見たそのメッセージを、キリトは思い返した。

 

《明後日の夜7時、「ダイシー・カフェ」で、君を待つ》

 

……という、前置きも何もかもすっ飛ばし、たった一文、端的に書かれたメッセージを。

 

「『君を待つ』……か」

 

するとキリトは、思い返しに浸る中で、そう独りごちた。

 

『「ダイシー・カフェ」で、君を待つ』

日時はいいとして、この文面に込められた意味は、決して一つの……そして単純な意味ではないことは、キリトは容易に理解出来た。

 

今まで、仮想世界でしか会わなかった店主との現実世界の初の接触。

そしてその理由が、「決闘後の話し合い」であるという事実。

 

「はは……もう言ってるようなもんじゃないか」

 

間違いない。

必ず何か()()()()を、キリトの彼らの仲間入りか否かという話題以上の、『()()』を、店主……あの人は言うつもりだ。

 

キリトは、そんなあえてわかりやすく見せたかもしれない店主の暗示を悟り、少し笑う。

 

そして一言、

 

「いいぜ……受けてたってやる」

 

そう呟いて、ポケットの中の手を握りしめた。

キリトとて、もう心は決まっている。

 

その心は、『彼らの仲間に入る』……というものだった。

 

もちろん、当初はアスナやリズ達に、やんわりと引き留められた。

シリカとユイだけは……やんわりは愚か、あからさまだったが。

 

ただ、彼女らの言い分は、一貫して『いくら強さを求めると言っても、今自分たちはもう命を懸けているのではないのだから』というものだった。

 

確かにその通りだ。

今はもう、「帰還不能かつゲームオーバー=死」なんていう、腐ったゲームの中ではないのだ。

いまさら強くなったって、せいぜい()()()()()()()ゲームの中で、トッププレイヤーになれるくらいなだけだろう。

 

……でも、と、キリトは内心で否定の意を示した。

 

なぜなら彼らは、()()()()()()()()()()()からだ。

命を懸けたゲームでも、本来の意味のゲームでも、関係ない。

 

キリトがまだ知らない()()に、彼らはいるのだ。

 

SAO時代、登り詰めようとした強さ。

それを遥かに凌駕する、さらに上の強さ。

 

それを知りたくて、キリトは無謀な決闘を挑み、そして負けたのだ。

その賭けと、それの結果を、無駄にはしたくない。

 

もちろんこれは、単純な興味かもしれない。

それかあるいは、男性なら一度は感じたことのあるだろう、「強さへの憧れ」なのかもしれない。

 

でも、それでも、その単純な興味かもしれない()()()()は、必ず、いつかどこかで使える。

そしてそれが、ゆくゆくは、アスナを始めとする、「大切な人」を守る時に必要になる。

 

キリトはそう、確信し、そしてそれを彼女ら……アスナたちに伝え、こうしてきているのであった。

 

「ついた……!!」

 

すると、そんな考え事……というより、回想をしている間に、キリトは遂に「ダイシー・カフェ」の前へと、やってきていた。

 

いつも気軽に開けていた扉が、何故か今日に限っては、やけに開けにくい雰囲気を醸し出している。

 

この先に、あの人が……あの()()がいる。

そう思うと、より一層、緊張がこみ上げてくる。

 

だが、ここで引き返す訳には行かない。

タスクを別の世界まで呼び出して、引き止めるアスナ達を説得し、今度は自分が、向こうの世界へと行くのだと、決心してきたからだ。

 

「くそっ……ええいっ!!」

 

そうしてキリトは、その決心のままに、勢いに任せて扉を引き剥がさんとばかりに引き開ける。

 

「よお、キリト。いらっしゃい」

 

するといつも通りのエギルの声が飛んできて……

 

次の瞬間。

 

「……やあ!キリトくん。何日かぶりだね」

「あ、あんた……まさか……!!」

 

キリトに、驚きの衝撃が走った。

 

 

カツカツ……

スタスタ……

 

体重の違いからか、それとも歩き方の違いからか。

はたまた、履いている靴の違いからか。

 

全く違う音質の足音が、夜7時の霊園に響く。

 

「……」

「……」

 

一方は背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯の男性。

そしてもう一方は、男性とほぼ同じ背丈をした、細いメガネの女性。

 

……もう、お分かりだろう。

 

「ここ……が?タスク」

「ええ……ここです、シノンさん」

 

この2人である。

 

「これが、僕の親友……アユムのお墓です」

「アユム……くん」

 

するとタスクが、そう言ってしゃがみ、目の前の墓石を愛おしそうに、かつどこか悲しそうに眺める。

それに対し、シノンは立ったまま、その墓石をまっすぐ見つめる。

 

そこには、「和平(かずだいら) 歩武(あゆむ)」と彫られていた。

墓石を撫でるタスクと、それを虚ろな目で見つめるシノン。

 

二人の間に、しばしの静寂が訪れた。

 

……そう、この二人は、それはもう、死銃事件よりも前の、かなり前、タスクと店主が意図せず集まった、タスクの()()()()()()、アユムのお墓へと、お墓参りに来ていた。

 

なぜならそれは2日前、キリトとの決闘の際、タスクがつい漏らした、

『ごめん……アユム、僕……』

という呟きに、シノンがどうしても堪えきれず、恐る恐るその「アユム」とは誰なのか、直接聞いてみたのだ。

 

もちろん、シノンとて間抜けではないため、恐らくその「アユム」というのは、いつか店主が言っていた、「SAO時代にタスクが失った仲間」の事だということを、それとなく悟ってはいる。

 

だから、恐る恐るで聞いてみたのだ。

本来、触れるべき話題ではない事は百も承知である。

 

ただ、シノンはその……いわゆる「常識」よりも、何故か「好奇心」を優先させてしまった。

自分はこんなに不躾な奴だったか、と、自分で自分に落胆する程に、自分の行動を恥じたのだが、何故か不思議と後悔はしていなかった。

 

それに、対価と言ってはなんだが、自分にもそれと似た過去がある。

もしタスクが嫌な顔をしたら、それを話そう。

シノンは様々な葛藤の末、そう心に決めて、タスクに問うてみたのであった。

 

……すると、意外にもタスクは、嫌な顔一つせず、快く承諾してきたのだ。

いつもの二カッとした笑みを漏らし、「いいですよ」なんて軽い言葉で返してきたのである。

 

もちろん、シノンはその時、戸惑いが隠せなくなった。

自分が色々悩んで、非常識だ、不躾だなどと自分を罵って、それでもなお……なんて、葛藤じみたことをしてまで問うた質問に、こんなにもあっさり、そしてむしろ快く、受け取られてしまったからである。

 

「……シノンさん?」

「あっ……ああ……ごめんなさい」

 

するとその時。

シノンが、タスクの声で回想から引き戻される。

 

そう言えば……といえば失礼だが、今自分はタスクに連れられ、その()()()()の前に立っているのだ。

さすがにここまで不躾なことをしておいて、ぼーっとしている訳には行かない。

 

そう思い至り、シノンは慌てて何か……いわゆる「お悔やみの言葉」の一つや二つを言おうとする。

 

「あっ……えっ……と……!!」

 

……だがそれは、タスクの呟きによって、遮られた。

 

 

 

 

 

 

「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです」

「……!!」

 

シノンは咄嗟に、口を噤んでしまった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、Twitterでは予告しておりました通り、この場を借りて、謝罪させていただきます。

一体なんのことかと申しますと、それは『予告の誤表記』です。

前回の、『Episode70 決着 〜Settlement〜』の後書きにおきまして、今後の予定として、「AW編」をお送りする、と表記されておりましたが、これは間違いです。

正確には、「UW編」、つまり「アリシゼーション編」でございます。
「AW編」だと、原作の作者さんの別の作品、「アクセル・ワールド編」になってしまいます。

それは、全く意図しておりません。
完全なるこちら側のミスです。

これからのご期待を大きく左右する予告におきまして、このようなミスを犯してしまい、本当に申し訳ございませんでした。

以後は、もう二度とこのようなことがないよう、細心の注意を払っていく所存です。
今後ともよろしくお願い致します。

※問題の部分は、既に修正済みです。

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Episode72 本題 〜the main subject〜

キリトは、衝撃を受けていた。

そして今でも、その驚きが抜け切れてない。

 

「え、ほ、ほんとに……あなたが?」

「ああそうさ、僕が……店主だよ」

 

キリトがまるで信じられないと言わんばかりに確認するが、その……少し長い髪を後ろに結び、がっちりとした体格をしてはいるものの、どこかのほほんとした雰囲気の男は、そう言って笑ってのけた。

 

「あ、あなた……が……本当に……」

「……あれ、意外とびっくりしちゃってる感じ?」

 

そんなその男を見て、キリトはまた驚愕する。

すると、それを見たその男……もとい店主が、一言呟いてまた笑った。

 

あれは忘れもしない、決闘の二日前。

一人黙々と、決闘について考えていた時。

 

少し離れたカウンター席から、首を曲げて、話しかけてきた男がいたのだ。

 

まさかその男が、あの店主だったとは。

キリトはそんなこと、当然思いもしなかった。

 

「……!!」

 

ただ、確かに言われてみると、そんな気もしてくる。

雰囲気といい、体格といい、そして顔つきといい、確かにそれとなく店主だった。

 

「ま、とりあえず、座ろうか」

「……あっ、はい」

 

すると、その場にお互い立ちつくしているこの状況に不自然さを感じたのか、店主がそう切り出してそそくさとテーブル席へと移動する。

 

キリトも、慌ててその背中について行った。

 

 

「……で、どうするんだい」

「あっ……ああ、はい」

 

それから、数分後。

 

キリトと店主の二人は、テーブル席に向かい合い、そしてそれぞれ好みの飲み物を注文して、早速本題へと入ろうとしていた。

 

キリトはこの店でお気に入りのカフェラテ。

そして店主は、やはりと言うべきか、コーヒーである。

 

ズズ……

「ふぅ……」

 

店主が、そのコーヒーをひと啜りし、小さく息をつく。

 

ただ対してキリトは……なかなかそこまでリラックスは出来ていなさそうであった。

 

「そ、その……」

「うんうん」

 

すると、そんなキリトがゆっくりと、そしてどこか、タジタジさが隠し切れていない声で話し始める。

店主はそれに、素直に耳を傾けた。

 

「やっぱり、俺は店主さん達の仲間に……入れてもらいたいと思ってます」

「……ふむ」

「実際、剣を交えてみて……分かったんです。あいつの……いや、タスクの剣は、俺やアスナの握ってきた剣とは違うもの、全くの別物なんだって……」

 

そう言って、キリトは店主を真っ直ぐ見据える。

すると店主は、疑問の意を示すかのように首を少し曲げ、コーヒーを啜りつつ疑問符を返した。

 

「……というと?」

「その……今まで、俺らが握ってきた剣というのは、いわゆる()()()()()()のための剣って事です。ただ現実世界に帰るため……あの世界から、いち早く解放されるために、つまりその……自らのために、握っていた」

「……」

「でも、タスクや店主さんは違う。あなた方の握ってきた剣というのは、いわゆる()()()()()()のための剣でした」

「……!」

「一見すれば、必要ないと思われるでしょう。あの世界で、倒すべき相手は間違いなくモンスターですから…………でも、俺には分かる。店主さん達、「裏血盟騎士団」の存在は、間違いなく、俺達の攻略に必要不可欠でした」

「……はは」

 

すると店主は、あまりの言いように、照れくさそうに苦笑いした。

キリトは、そんな店主を見て自分も苦笑いすると、少し言葉を変えて、話し続ける。

 

「つ、つまり……店主さん達の剣は、俺達みたいな自らのためではなく、俺達のために、握っていてくれたのだ……と。そう言いたいんです」

「……!!」

「菊岡さんから聞きました。裏血盟騎士団は、攻略組への暗殺刺客を何人も退けた……と」

「まあ……ね」

「追い返し、防ぎ……時には()()()まで、自らをレッドプレイヤーに貶めてまで、攻略組を守っていてくれたのだと、そう言われたんです」

「……!!」

 

そう、キリトが言った時。

菊岡のやつ、なんてことを……と、店主は内心で悪態をついた。

 

確かに、キリトの言っていること……ひいては、菊岡の言っていることは、間違いではない。

そもそも、裏血盟騎士団なるものが創設された理由は、まさにそれなのだ。

ラフコフの出現に伴い、恐らく攻略を阻止しようとしてくるであろうという予測を立て、創設された機関。

 

……ただ、その機関のやっている事の聞こえは良くても、店主はそれを褒められたりするのがあまり好きではないのだ。

 

なぜなら、例えどんな理由があろうと、人を殺してはいけないという禁忌を犯しているから。

そうせざるを得なかった、もししなければ、もっと酷いことが起きていた、そんな事は分かっている。

 

だが店主達は、自分達の行いを、正当化すること……つまり、功績と捉えることに対しては、どうしても納得がいかないのだ。

 

この事に関しては、菊岡にタスク……いや、あえて言うならば()()()()()()共々二人で、

「僕らは、自分たちの功績を残すために戦ってきたのではない」

と、散々言い含めたはずだった。

 

……ただ、キリトの話を聞く限りでは、菊岡の意識はそうではなかったようであった。

 

また説教だなこれは、と、店主は今度は内心でため息をつく。

 

だが、そんな店主の内心のため息などつゆ知らず、キリトの話はまだまだ続く。

 

「それで……その、俺が思うに、それを成し得ることが出来たのは、ひとえに、()()()()()()()()()()……だと、思うんです」

「……」

「そして今、俺が欲しているのは、そういう()()なんです。単なるプログラムでできた化け物に対する強さじゃなくて、いつ何をしでかすか分からない、人間に対する()()()()()……を。他でもない、俺の大切な人を守るために……」

「……」

「だから……その……俺を、仲間に入れて欲しいです。その()()()()()を、見るためにも」

 

……と言って、キリトは話を切った。

そしてゆっくりと、店主を見て、そのまま固まる。

 

こうして、二人の間にしばしの静寂が訪れた。

キリトは店主を見て、店主はキリトを見て、その狭間に凄まじい緊張感が迸る。

 

……が、その永遠にも思えた緊張の数秒の後、不意に店主が、ふ、と微笑んだ。

その笑みを見たキリトは、無意識に眉間にシワを寄せる。

 

すると、そんなキリトを見つめたまま、今度は店主が、こう切り出した。

 

「ふふ……そうか」

「……!!」

「ひとまずは、分かった。君の気持ちも、思いも……ね」

「は、はい……!」

 

キリトは、そんなどこか遠回しな店主の言い方に少し違和感を覚えつつも、しっかりと返事を返す。

 

これでいい。

こうすることが、最善の道だ、と、キリトは内心で確信する。

 

……が、その時だった。

 

「ただね」

「っ!?」

 

店主がそう言いつつ、いつのまにか肘をついて、キリトを懐かしむような目で見ていた。

 

キリトは、その視線に直感的に何かを悟る。

 

すると店主は、その直感を裏付けるかのように、こう……切り出した。

 

 

 

「少し……昔話をしてもいいかな」

「な……!?」

 

 

 

キリトが驚いたのは、言うまでもないだろう。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

今回は、とある報告をさせていただきます。

それは……
『店主さんのお店の構造図、やっと公開しました!!』
です。

大変長らくお待たせ致しました……。
設定集の店主の欄にて、挿入させていただきました。

是非一度、ご覧になってくださいね!!
では!

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Episode73 パートナー 〜partner〜

以前、切るところで切ったら短くなってしまったように、
今回、繋げるところで繋げたら長くなってしまいました。

そして、作者は絶賛スランプ中です。
いつもより駄文がすぎると思われますが、どうぞよろしくお願いします。


「今の僕がいるのは、全て、彼がいたからなんです」

 

そう言って、タスクはしゃがんだ。

 

「僕は本来、()()()()()()()()()()()()()んですよ……」

「っ……!!」

 

そして、そんな少し丸くなった背中から聞こえてくる呟きに、シノンはぐっと、なにか締め付けられたような感触を感じる。

 

「僕が……僕が臆病者だったから……僕は、彼を守ることが出来なかった。彼は……死ぬことになったんです」

「……!!」

 

だが、そんなシノンを差し置いて、タスクはただただ懐かしそうに、そしてどこか悲しそうに、その墓石を撫でた。

 

「シノンさん……いえ、詩乃さん」

「っ!?」

 

するとその時。

 

タスクが、こちらに振り返ることなく、シノン……ではなく、詩乃、と、急に呼びかけてきた。

詩乃は、言わずもがな、びくりと驚く。

 

だがタスクは、そんな詩乃の驚きなどつゆ知らず、未だなお、墓石に向かったまま、こう、問いかけた。

 

「今から話す事……()()()()()()()と、約束しますか」

「……!!」

「これは、今まで誰にも打ち明けていないことです」

「だ、誰に……も……!!」

「そうです……でも、今日僕は……いや、少なくとも()()()()()は、初めて打ち明けます」

「……!!」

 

「他の誰でもない、僕のパートナー……に」

 

「!?」

 

その時、詩乃は、頭の中が真っ白になる。

 

いつのまにかタスクは、しゃがんだままこちらを向き、シノンを見上げている。

その顔を見ると、尚更頭がぐるぐるとかき混ぜられたような感覚に陥る。

 

……のだが、答えは既に、決まっているも同然だった。

 

「あの事件」から、もうすぐ2年。

それまでの間、誰にも打ち明けてない過去を打ち明けるという事は、彼の中でも、何かしらの心の動きがあったのだろう。

 

私には、その彼のきっと辛かったであろう心の動きを、拒絶する権利はない。

きっとその逆……きちんと受け止めて、なんなら一緒に背負う……()()()()()()()としての義務が、そこにあるはずだ。

 

そう、詩乃は思い至る。

 

……というより、思い至っていた。

タスクに、ここに連れてこられるまでに。

 

だから詩乃は、ふらふらする頭を何とか保って、しっかりと、タスクの問いかけに答えた。

 

「ええ……もちろん。約束する」

「……!!」

 

すると、今度はタスクが、詩乃を見上げる目を丸くする。

 

……だが、すぐにその視線を墓石に戻すと、ゆっくりとこう、切り出した。

 

 

 

 

「あれは……そう、SAOが始まってから、ちょうど1年が過ぎた辺りでした」

 

 

「彼にはね、唯一無二の親友がいたんだ」

「親友……ですか」

 

一方、こちらは店主とキリト。

店主が急に、昔話をしてもいいか……と話し始めて、少したった頃である。

 

「そう、親友。それもね、SAOに囚われるずっと前からの、リアルの親友さ」

「……!!」

「なんでも、幼稚園辺りからずっと一緒だったらしい」

「そ、それは……」

「うん……実際すごく仲がよかった。彼のプレイヤーネームは、アユム」

「アユム……くん」

「本名は、和平(かずだいら) 歩武(あゆむ)で……」

「……」

「コードネームは、苗字からとって、「カズ」さ」

 

そう言って、店主はふっと微笑んだ。

キリトは、瞬時にその笑みの中に悲しみの感情が含まれているのを察する。

 

「彼はね……とてもいい子だった」

「……!!」

 

すると、キリトの予想通り、次に店主が発した言葉には、どこか悲しげな感情が含まれていた。

 

「頭がよく回って、大人しくて……」

「……」

「そしてきっと、ラフコフみたいな連中に対して、一番敵対心というか……その、正義感が強かった」

「……」

 

そう言って、店主は体勢を変え、机に肘をついて、コーヒーをついてきたスプーンでかき混ぜ始める。

キリトはその手元を、店主が何を言わんとしているのか、どこかうずうずしながら見つめた。

 

しばしの沈黙が、その場に訪れる。

……が、キリトの視線に促されたのか、店主はすぐにまた話し始めた。

 

「でもね、彼はなぜか、戦闘だけは、向いてなかったんだ」

「え……!?」

「はは、やっぱり驚くよね」

「い、いやだって……」

「まあ……ね、言いたいことは分かるけど……でも本当なんだよ。彼はそれこそ、まるで()()()()()()()()()()()()()()かのように、どれだけ訓練を積んでも成果が上がらなかった」

「な……!!」

「あらゆる武器、あらゆる戦闘スタイルを試してみたけど、全くダメ。当時、熱心に教えてあげてたタスクくんの努力虚しく……ね」

「……!!」

「はは、手は尽くしたんだけどね。でも……やっぱりダメだった」

「は、はあ……!?」

「よくタスク君と二人で頭を抱えたものさ。あの頃は楽しかったなぁ……」

 

そう言うと店主は、ははは、と笑い始めた。

キリトは驚愕し、ついポカーンとしてしまう。

 

確かに、向き不向きというものは存在する。

だが、店主にここまで言わせる程のものがどれほどのものなのか、全くもって想像できないし、そもそもそんな、言ってしまえば()()()を、笑っていていいのかと、キリトの中には疑問符が浮かび上がってくる。

 

……だが、やはりと言うべきか、すぐに店主はその笑みをひっこめた。

 

「……でね、そのうちだんだん、僕らは気づき始めたんだ」

「……!?」

「向いていないことをただひたすらできるようにするより、元々持っている()()()()を伸ばしたほうが結果的にはいいんじゃないか……ってね」

「良さ……ですか」

「そう。ほら、さっき僕さ、「よく頭が回る子だった」って言ったじゃない?」

「あ……ま、まあ……」

「僕らはね、まさにそこを伸ばそうとしたんだ。つまり……言っちゃえば「()()()」になってもらおうとしたんだよ」

「……!!」

 

するとその時、キリトは、どこかモヤモヤが一気に晴れたような感覚を覚える。

 

確かにそうだ。

戦闘と言っても、ただ戦うだけではダメなのだ。

 

相手の行動を読み、それに合わせて動かないと、戦闘では勝ち目がない。

しかもそれが、生身の人間が相手だと尚更、それ加え団体と団体の衝突なら、さらにだ。

 

店主は、そんな納得をするキリトを見て、ふふ、と微笑む。

 

「ふふ……納得した?」

「……!!」

「で、そう気づいて以来、彼は途端に才能を発揮し出してね」

「才能……!!」

「そう……才能。もうね、それはそれは見てて面白いくらいさ」

「……」

「彼はね、作戦や戦略はもちろん、戦闘の仕方、そのものに革命を起こした……と言っても、過言じゃない」

「か、革命……?」

 

いきなりすごい単語が出てきたな、と言わんばかりにキリトは聞き返す。

すると店主は、未だその微笑みを消さぬまま、言葉を続けた。

 

「そう……革命」

「……!!」

「いい例がタスクくんだね。キリトくんさ、タスクくんの戦い方を見て、どう思った?」

「あっ……!!」

 

その時、キリトの脳裏に、まるでフラッシュバックするかのようにあの時の光景が浮かび上がってくる。

 

あの……剣術と格闘技を組み合わせたような、異様な戦闘スタイル。

まさかあれは……と、キリトは驚きに満ちた目で店主を見た。

 

「ま、まさか……!!」

「……ふふ、びっくりしたでしょ、あれ」

 

すると、店主はその目を見て微笑む。

そして答えと言わんばかりに言葉を続けた。

 

「そう、あの戦闘スタイルは、アユムくんがタスクくん向けに……と、考え出したものさ」

「……!!」

「当時、逆に戦闘だけは秀でていたタスクくんに、アユムくんは様々なアイデアをくれたんだよ。そしてそれを、タスクくんは寸分たがわぬ精度で具現化した」

「ア、アイデア……ですか?」

「そう、アイデア。例えばさ、ほら、決闘の終盤に出した、ソードスキル発動中のキリトくんの剣を弾き飛ばしたやつ、あったじゃない?」

「あ、ああ……」

 

確かにそんなのあったな、と、キリトは思い返す。

 

勝った、なんていう、今思えば早とちりがすぎる確信の元、突き出した剣が、何故か自分の手から離れ、宙に舞った()()

 

「あれはね、剣術破壊(スキルブラスト)って技」

「な……!!??」

「原理はよくわかんないけど……なんかね、アユムくん曰く、システムがなんだとか、力点作用点がなんだとか言って、()()()()()()()()()()()ってやつ」

「……!!」

 

するとその時。

キリトは、内心で衝撃に身を揺さぶられていた。

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 

彼はSAO時代、武器破壊(アームブラスト)というシステム外スキルを編み出していた。

 

理由としては、相手を無力化するには相手の武器を壊してしまえばいい、なんていう至極単純な思考に至ったから。

 

……だが、流石のキリトも、武器はおろか、()()()()()()()()()()なんていう思想には至らなかった。

 

まさに、「一段上」な発想だ。

だからキリトは、衝撃に駆られているのである。

 

「他にも沢山あるよ。もう一個例を出そうか」

「!」

「んーとね、あまりこういうとあれかもしれないけどさ」

「……?」

「決闘の時、君に……その、トドメをさしたソードスキルがあったじゃない?」

「は、はい」

「あれはね、元々アユム君が編み出した技……ま、言っちゃえばシステム外ソードスキルなんだ」

「……!!」

「まあ、タスクくんはいつの間にかOSSとしてALOに落とし込んでたみたいだけどね。ちなみにあれの名前は、『紫電(シデン)』」

「『紫電(シデン)』……」

「そ。その紫電(シデン)っていう単語は、元は「研ぎ澄ました刀の反射する光」って意味」

「……」

「その鋭い光のように……刀で敵の弱点を穿つ。それも1回じゃなくて、確かあれは……3箇所、かな。つまりは、あの一瞬の間に3連撃してるのさ」

「……!!!!」

 

キリトが、目を丸くしてポカーンとする。

店主はそんな彼を見て、ふふ、とまた微笑む。

 

「まあ、つまりはさ、アユムくんが理論を構築して、タスクくんがその理論を実用化する……って言ったら分かる?」

「……!!」

「彼らはまさに、仲間として最高の関係……」

「……」

 

 

 

 

「まさに「()()()()()」だったんだ」

 

 

 

 

「……」

 

()()()」。

その言葉が、キリトの心にグサリと突き刺さる。

 

実はキリトには、薄々感じていることがあった。

それは、「()()()()()()()()()()()()()()()()」のではないか、という事。

 

話し始めた時から違和感があったのだ。

やたら過去形を使うのも然り、どこか悲しそうな目をするのも然り。

 

まだ話は中盤辺りだ。

それかもしかしたら、まだ序盤なのかもしれない。

 

だから聞かなかった。

と言うより、「で、そのアユムくんは、今どこに?」とは、むしろ()()()()()()のである。

 

……だが、その予想は次の瞬間、確信に変わったのだった。

 

「……でもね」

「……っ!!」

 

その時、店主の話すトーンが、一段と下がった。

キリトは、そのトーンの変化に、やっぱり、と言わんばかりの納得感を覚える。

 

そしてついに……その時がやって来た。

 

「そんないい関係は……」

「……!!」

「いや、そんないい関係()()()()()かな」

「っ……!!」

 

 

 

 

 

「ある日突然、永遠に断ち切られてしまったんだ」

 

キリトは、無意識に眉間にしわを寄せ、ぐっと体が強ばる。

そしてまた、そう言った店主の手は、強く握りしめられて震えていた。




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Episode74 大罪 〜Great deal〜

「え、永遠?」

「そう。永遠に、です」

 

夜風が背筋を撫でたのか、シノンはゾクリと寒気を感じる。

 

タスクの旧友、アユムの話。

殺伐としたSAO時代に、確かに存在した熱い友情。

 

今まで聞いてきた話は、シノンのSAOへのイメージを変えるほど、意外な……そしてとても良い話だった。

 

そしてそれを語るタスクも……無意識なのか、墓石を見ながら懐かしそうに微笑んでいたのだ。

 

……が、今となっては打って変わって、タスクの話すトーンはガクンと落ち込み……

 

どちらかと言うと、シノンの想像していたような、いわゆる冷たいSAOの感触へと変わっていた。

 

「で、でも、一体どうして……!!」

「いやぁ、簡単なことですよ」

 

シノンのボヤキに、タスクは今度は悲しげな笑みで答える。

 

「はは、まあつまりは、()()()鹿()()()()()()()ってことですよ」

「ば、馬鹿?」

「そう。恐らく、相手も気づいてたんでしょうね」

「……?」

「戦闘の勝率の上昇と共に、()()()()()()()()()のを」

「あっ……!!」

 

するとその時。

シノンの中に、一気に()()()()が巣食う。

 

結果は分かる。

タスクが、懐かしそうに眺めている墓石を見れば。

 

……ただ、そう分かっていても、胸の中がチクチクするようなこの予感は、シノンにはどうしても拭いきれなかった。

 

そして、()()()()は、的中する。

 

「当時、僕らは、『裏血盟騎士団』というギルドで、活動していました」

「……」

「元々、『血盟騎士団』というそれはもう……強く大きなギルドが母体となっている、言わば子会社みたいなやつです」

「……!!」

「設立された理由は、いわゆる「汚れ仕事(ウェットワーク)」をこなすため」

汚れ(ウェット)……仕事(ワーク)?」

「そうです。当時、血盟騎士団は、おそらくは最強だった。するとですね、そんな彼らを、止めようとする連中も出てくるんですよ」

「な、なんで……」

「はは、それはですね……」

 

するとその時、タスクは言葉を一旦切る。

そうして、しばらく時を置いた後、こう言葉を続けた。

 

()()()()()()()()、です」

「な、な……!?」

 

シノンは、嫌な予感なぞとうに通り越して、恐怖を感じる。

 

なぜならばそれは、現実世界へ帰る、それが全員の目標ではないのか、そう疑問に思っていた矢先、とんでもない言葉がすっ飛んできたからだ。

 

「人を……こ、こ、殺したい?」

「ええ……そうです。あの連中はね」

 

シノンが、恐る恐る、タスクの言葉を復唱する。

対してタスクは、さらりと言葉を返した。

 

……が、タスクもあまりにも簡単にし過ぎかと思ったのか、説明を付け足す。

 

「まあその……つまりですね」

「え……ええ」

「あの世界では、人殺しをした時、なかなかその実感が湧きにくいんですよ」

「……!!」

「あの世界だけじゃない。今僕らが戦っている世界でだって、相手を殺す、という実感はあまりないはずです」

「……!!」

「たとえ剣で首を落としても、体を切り刻んでも、出てくるのはポリゴン片のみ」

「あ……!!」

「ふふ、分かりました?」

 

シノンは、タスクの言わんとしていることを嫌でも理解する。

 

ただ純粋に、人殺しをしたい。

並大抵の覚悟では到底できないような()()を、犯してみたい。

 

だが、それは簡単にはできない。

なぜならば、そこに悲惨な光景が現れることが、目に見えているから。

 

実際、シノンはその()()()()()を見ているから、尚更理解出来る。

 

……ただ、もし、その()()()()()が、現れなければ。

確かに人が死んでいる。それも、自分の手で。

だがそこに、人殺しをした、という明確な証拠が残らなければ。

 

シノンの()()()()の時、もしそうなら、今どうなっていたか。

 

答えは簡単だ。

確かに罪悪感は残る。

だが、それを上回る正義感が、シノンを支配していたはずだ。

PTSDなど、もちろん発症しなかっただろう。

 

「っ……!!」

 

シノンの心拍が、警鐘となって体中に響き渡る。

それと同時に、思考が先程のタスクとの会話につながってくる。

 

そう……つまりそのラフコフという連中は……

 

「人を殺したい……っていう、よ、欲望のために……」

「そうです。実感は湧かない、でも確実に死んでいる。そう分かっているから、人を惨殺し、自己肯定感を得ていたんです」

「な、なんてこと……!!」

「そしてそれを、今にも終わらせようと、動いている人達がいる」

「あ……!!」

 

その時、シノンの中で、タスクの難解な言葉の意味が、自然と現れてくる。

 

攻略組を、そしてその最大勢力、血盟騎士団を、ラフコフらレッドプレイヤーが、止めようとした理由。

 

それは……

 

「つまり彼らは……」

「自分たちの欲求を満たしたいがために、世界の終わりを阻止しようとした……そういう事?」

「そういう事です」

「……!!」

 

するとタスクが、そこまで言って、懐かしくも悲しそうな目を引っ込め、どこか怒りの感情が含まれた目を地面にむける。

 

「……」

「……」

 

そしてその後、しばらくの沈黙の後。

 

どこか……その怒りを抑えているような、必死に息を押し殺した声で、こう……話を続けた。

 

「それでそのうち……彼らはその欲望を暴走させるようになります」

「……」

「そしてそれを止めるべく、僕らが組織されて……」

「……!」

「するとだんだんと、その欲望の矛先が、僕らに向いてきて……」

「……!!」

「僕ら裏血盟騎士団を、()()()()、壊そうとした」

「あっ……!!」

「とてつもなく残虐に、そして永遠に……」

 

するとその時、シノンの中で、全ての話が繋がる。

 

裏血盟騎士団の()()

つまりそれは……いわゆる「()」のこと。

 

「彼ら……いや、連中は……」

「……!!」

 

 

 

 

「アユムを誘拐、監禁したんです」




いつになったらこの章が終わるのかって?

え、SJ編のプロットができてからです!
ヽ(゚ω。)ノ≡ヽ(。ω゚)ノウヒャヒャヒャ

すみません(笑)

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Episode75 比率 〜ratio〜

「ゆ、誘拐?」

「そう」

「それに……監禁って……!」

「そのまんまさ」

 

キリトが、目を見開いて店主の言葉に食いつく。

 

店主は今、ラフコフの欲望がだんだん裏血盟騎士団に向いてきた、と言った。

人殺しに快楽を求めるあの連中を止めようとして、逆にその矛先を向けられた……と。

 

ならば、次にくるのは「殺害」やら「暗殺」やら、いわゆる「命を落とす」系列の言葉……だと、思っていたのだが。

 

実際はそうではなく、やってきたのは「誘拐」と「監禁」という、今までの過激さと比べればどこかヤワそうな単語。

 

「ふふ……なんで、と言わんばかりな顔をしてるね」

「……!!」

 

その時、店主がポカーンとするキリトを見て微笑んだ。

キリトは、その顔をあえて見返して説明を求める。

 

すると店主は、キリトが言わんとしていることを自ずと察し、話し出した。

 

「確かに、彼らは人殺しに快楽を見出す集団。それは、間違いない事実だ」

「……」

「でもね、彼らとて人間だ。いずれ()()が来る」

「……!?」

「人間は、()()が来ると次に何をすると思う?」

「……!!」

「彼らはね、殺しのレパートリーを増やしたんだ」

「レ……レパートリー?」

「そう……レパートリー。ま、言っちゃえば種類、だね。そのひとつが、今まさにこの状況さ。誰かの大切な人を攫って、その誰かが助けに来たところで、目の前でその大切な人を殺す」

「なっ……!?」

「その後、その誰かも殺す。殺す側はそれだけで2人も殺せるし、何より大切な人を殺されたその誰かの絶望した顔も見れる」

「っ……!?」

「まあ、こう言っちゃあなんだけど、殺す側にしてみたら楽しいことこの上ないだろうね」

「な、なぁっ……!!??」

 

そう話しつつ店主は、どこか怖い笑みを浮かべ始める。

そしてキリトの顔は、それに比例して、あからさまな引き顔へと変わっていった。

 

「……で、その状況がまさに裏血盟騎士団な訳さ」

「あっ……!!」

「当時、『知のアユム・武のタスク』なんて言われるくらい、彼らは猛威を奮っていた」

「……!!」

「そんな2人、同い歳なこともあって、仲がいい。そしてその歳も、14、5とまだまだ若い」

「う、うわ……!!」

「もう、彼らにとっちゃぁこの上ない状況だよね。これが成功した暁には、なかなかない子供の殺害が2人もできる上、敵対勢力の指揮系統崩壊(モラルブレイク)、さらにはその勢力の壊滅だって目じゃない」

「……!!」

 

キリトはいつの間にか、机を見つめて顔を歪めていた。

 

心無しか、店主の顔が見れなくなったのだ。

それはただ単純に怖くなったのか、それとも何かまた別の理由があるのか。

 

分からない、だが分からないが故に、尚更怖い。

 

「……ふふ、怖くなっちゃった?」

「いっ……いえ……」

「はは、声が震えてるよ」

「っ……!!」

 

店主のあっけらかんな声が前から聞こえてくる。

キリトはそんな声での指摘に言葉を返せず、結局黙り込んでしまう。

 

……そして、店主はついに、こう切り出した。

 

「……でまあ、かくして、ついに『アユム事件』が起こっちゃったわけさ」

 

 

「手順は至って簡単でした」

「……」

 

一方、こちらはタスクとシノン。

 

タスクはあぐら、シノンはしゃがんで、墓へ斜めに向いて、半ば3人で丸く座っているような感じで、話は続いていた。

 

「当時、裏血盟騎士団の最大の敵はラフコフ。という事はつまり、()()()()()()()()()()は、ラフコフへの対処な訳です」

「え、ええ……」

「ですから、その……そうですね、「比率」で考えてみてください」

「……?」

「戦力、つまり人は、無限にはありません。どこかへ多くの戦力を、そして人員を投入すれば、必然的に他の所の戦力は低下します」

「そ、そうね……」

「とすれば、それを逆に捉えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、相手方には必ず隙が生まれる訳です」

「……!!」

「ラフコフのリーダーは、その加減がすごくうまかった。僕らがそうせざるを得なくなる状況まで、その……ラフコフへの特段の警戒心も利用されて、あっという間に持っていかれてしまったんです」

 

そう話すタスクの顔は、微笑みを保ちつつもどこか暗く沈んでいた。

シノンはその顔を伺いつつも黙ってその話を聞いている。

 

「ただ、僕らも自覚がなかった訳ではないんです」

「……?」

「嫌な予感はしていたし、なんならアユムは、もしかしたらわかっていたのかもしれません」

「でも……」

「ええ……そうなんです。()()()()()()()()()()()。ほんとに、してやられましたよ」

 

そう言って、タスクは大きく息を吐く。

シノンは、相変わらずその様子を見つめ、黙り込んでいた。

 

そうして、しばしの沈黙が訪れ……

 

「……で、じゃあ具体的に一体どうなってしまったかと言うとですね」

「……!!」

 

……たのだが、タスクがその沈黙を破るようにまた話し始めた。

シノンはシノンで、そんなタスクの話に素直にまた、耳を傾ける。

 

 

 

 

そしてまた……タスクの、そして今は亡きアユムの、凄惨な過去の断片が語られていった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやぁ、長いですね(笑)
『光と影』編、想定よりだいぶ長くなりそうで、申し訳なさ半分、こんな長々とした作品を読んでくださる嬉しさ半分、とっても微妙な気持ちです(笑)

……で、ですね。
なかなか終わりが見えてこないこの章に、流石の読者さんも「例のアレ」が気になってしょうがなくなっているのではないか?と思い至りましてですね。

Twitterでのアンケートを経て……

『キャンペーンキャラの名前、一言セリフの設定集追加』

を決定しました!!

非常にお待たせしておりますので、半ば緊急措置のような形になります。

本当に申し訳ないです(笑)
今後とも、この長々とした物語をよろしくお願いします。

では……

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Episode76 暗殺者 〜Assassin〜

「い、いいのか?」

「ええ」

 

暗い部屋の中、とある2人が、ロウソクの火を挟んで話し合っている。

 

1人は、30代後半辺りのような顔つきをした、それでもどこか、威厳を湛えている女性。

 

そしてもう1人は、まだ顔に幼さが残りつつも、明確な意思を目に宿らせた、少し身長の低めな少年。

 

「……()()()を残す事になりかねんぞ」

「構いません」

「あ……あのな……考え直せ、カズ」

「……決めたことです」

「だがな、お前がそれこそ……()()()()()……」

「命に価値の差などありません」

「っ……!!」

 

カズ、と呼ばれたその少年の一言に、女性は言葉を詰まらせる。

 

なぜならそれは、その少年……カズが、言わんとしていることを見抜いていた事を悟ったからだ。

 

「……僕一人の命をとるか、その他大勢の命をとるか」

「……!」

「それに僕は、()()に狙われる材料を持っている。これ程都合のいいことはありません」

「……!!」

()()は、自分たちの存在を大々的に宣言した。それも……2024年の元旦に。もはやこれは……そうとしか考えられないでしょう」

「く……!!」

 

女性の顔が、みるみるうちに焦りと恐怖に染まっていく。

 

すると、そんな顔を見て、カズはふふ、と微笑んだ。

 

「それにね」

「……!?」

「僕が死ぬ、と決まったわけではないんですから」

「……!!」

「彼を信じましょう」

「彼……()()()、か」

 

その瞬間、2人が目の視線がお互いに合わさる。

 

そしてカズが、

 

 

 

大蛇(オロチ)を……ね」

 

 

 

……と呟き、微笑んだ。

それにつられて、相対する女性も少し笑みを浮かばせる。

 

 

 

 

ただ……その女性は見抜いていた。

カズの顔には、いつになくどこか、「悲壮」の感情が浮かんでいる事を。

 

 

時は、2024年。

SAOという名のデスゲームが始まって1年と少しが経った頃。

 

とある層の小さな街の薄暗い路地で、()()()()()が、所狭しと立ち並ぶ建物の隙間から、明るい青空を仰いでいた。

 

「……」

 

地べたに腰を下ろし、足を投げ出し、後頭部を壁につけて、何の言葉も発さず、何の身動きもとらず、まるで銅像かのように、その少年はただひたすら、空を眺め続けている。

 

その少年の服装は、布を何重にも巻き付けたような、でもどこか様になっていて整っている、まるで中世の()()()のようなもの。

 

配色は、黒色を下地に、青色のラインのみ。

現状、最強とまで謳われる「血盟騎士団」の制服の、()()()()()()にあたる配色であった。

 

ピピピ……ピピピ……

「……んおっ」

 

するとその時。

 

何かを知らせるアラーム音と共に、彼の視界に、《Gift box for Kazu》という長細いウィンドウが表示される。

 

その少年は、迷わずそのウィンドウをタップした。

 

そしてその後、次にそこに現れた正八面体のオブジェクトを手に取ると、だらしない体勢をやめ、膝を立ててしゃがむ。

 

……と同時に、その正八面体のオブジェクト……時限式録音クリスタルから、予め録音されていた音声が流れ出した。

 

そうして彼は、目を伏せてその音声に耳を傾けた。

 

『おはよう大蛇(オロチ)君。今回、君に与えられた任務(ミッション)は……』

 

()()()()()カズの声が、淡々とその少年……大蛇(オロチ)に与えられた任務(ミッション)を説明していく。

 

大蛇(オロチ)は、その声に、またもや微動だにせず、耳を傾けた。

 

『……というわけだ。君も知っているだろうけど、先の《ラフコフ設立宣言》のお陰で、裏血盟騎士団全体がごった返している。よって君が捕えられ、もしくは殺されても、こちら側は一切感知できない。幸運を』

 

そしてその内、そのメッセージは終わりを迎える。

 

すると大蛇(オロチ)は、その正八面体のオブジェクトが消えたのを確認すると……

 

「……層、……で、……を……する……了解。」

 

今一度、任務内容を小声で呟き、ようやく顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

そして彼は、路地の壁を交互に蹴り、屋根に上がると、走り出して消えた。




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Episode77 敬意 〜respect〜

「な……!?」

 

黒装束に身を包み、トンガリ屋根の上にしゃがむとある少年、大蛇(オロチ)は、とあるメッセージを前に、驚愕する。

 

なぜならば、ついさっき、任務を受けて、今やっと、目標(ターゲット)発見に至った所だったのに、この瞬間から、その任務を否が応でも放棄せねばならなくなったからだ。

 

「おいおいおいおい、まてまてまてまて……!!!!」

 

あからさまな焦りを口にし、大蛇(オロチ)は屋根を走り出す。

 

隙間を飛び越し、煙突を乗り越え、壁を蹴り登って、全速力で彼は急ぐ。

 

行き先は、メッセージの送り主がいる、とある場所。

 

 

 

 

 

 

……そう、それは、「カズ」の元である。

 

 

「へへ……ついに裏血盟も終わりだなぁ? ええ? カズさんよォ……」

 

あからさまに油断し、舐めるに舐めきった声が、薄暗い洞窟に響く。

 

それに対し、カズは……

 

「ふん……仕事中に気を抜くような連中に、僕らが負けるとでも?」

 

……と返し、その男を鼻で笑って軽蔑の眼差しをむける。

 

そこには、その男の他にもまだたくさん、男達がいた。

ただ全員、もれなく舐めた顔をしていて、視線は一点に集まっている。

 

その一点、それは、立てた棒に()()()()()()()()()カズであった。

 

「おーおー、こわいこわい。ただなぁ、そんな格好で言われても……なぁ?」

 

すると、その男達の中から、また別の声が聞こえてくる。

そしてその一言で、その場に笑い声が響いた。

 

「……ふん」

 

カズは、そんな男達を見て、また鼻で笑いつつ床を見る。

 

《正直……()()だな……》

 

そして一人で、考え事をし始めた。

 

《まさか……()()ではなく、こんな所に連れてこられるとは……》

 

カズの手に、自然と力が入っていく。

 

……が、その時だった。

 

ガッ

「ぐっ……!?」

 

カズの体に、衝撃と痛みが走る。

 

あまりの突然さに、カズが前を見ると……

 

「大人が話しているだろう?子供はちゃーんと聞いてなきゃぁ……」

「なん……だと……!?」

ゴッ

「ぐぅ……!」

 

そこには、先の舐め腐っていた男がいて、カズの横腹を殴っていた。

 

「大人に対する敬意ってもんが足らねぇなぁ?」

「そうだそうだー! やっちまぇー!!」

ガッ ゴッ バキィ!!

「がぁっ……!!」

 

その男の暴力は、周りの野次馬の声に乗せられ、どんどんヒートアップしていく。

 

そしてカズが、一言も発さなくなった時。

 

「へへ……どうだ?」

 

その男は、やっと暴力の手を緩める。

 

……だが、カズはまた、顔を上げた。

そして同時に、その男に唾を吐く。

 

「な……!!」

「敬意……だと?」

「っ……!!」

 

唾を吐かれたその男は、逆上してまたカズに拳を振りあげようとする。

 

……が、今度はできなかった。

なぜならそれは、カズの眼差しが大きく変わっていたからだ。

 

「……っ!?」

「敬意、というのは、あくまで自発的に行うからこそ、価値があるものだ。誰かに言われたから、やったほうがいいから、やるのが普通だから……と、行う敬意は、敬意ではない。それはもはや……」

「……!!!!」

「自分を守るために相手を騙す、単なる自己防衛でしかない。そしてそれは、敬意でもなんでもない。ただの嘘つき、詐欺師、ペテン師だ」

 

カズの今までとは違った眼差しと、それに比例して強く変わった口調での叙述に、その場の男達は、竦んで身動きが取れなくなる。

 

「……この餓鬼ィ!!」

 

すると次の瞬間、その男達の中から、一人の男が拳を振り上げて殴りかかって来た。

 

カズは、防御ができないが故、目を閉じてぐっと歯を食いしばり衝撃に備える。

 

……だが。

 

グシャッ

「がっ……!?」

 

その男は、その拳を振り下ろすことは無かった。

 

それどころか、カズの目の前で立ち尽くし、動かなくなる。

カズはその男を恐る恐る見上げ……

 

そしてにっ、と微笑んだ。

 

「なっ……!!」

 

そして今更になって、周りの男達が、その男の異変に気づく。

 

その男は、()()()()()()()()()()()いた。

それも……刀という、湾曲した刃物を。

 

「あ……が……!!」

 

その男は、悶絶しながら2〜3歩後ずさる。

そしてそのまま立ち尽くすと、光の粒子になって消えた。

 

「……!!!???」

 

あまりの光景に、周りの男達は目を疑う。

 

……だが、視線は自然とカズに集まり。

そしてそのカズが見る先へと集まった。

 

するとそこには……

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

黒装束に青のライン。

何かを投げた後のような姿勢で、洞窟の外の光を背に佇む……

 

 

 

 

 

大蛇(オロチ)が、いた。




新元号、あけましておめでとうございます。
今元号も、よろしくお願い申し上げます。

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Episode78 無双 〜Matchless〜

そこは最早、戦場ではなかった。

 

ただただ凄惨な光景が存在する、()()()と言ったような所。

 

ゴッ……ガッ……バキィ!!

「がぁっ!」「ぐっ!?」

 

多種多様な武器を持つ男達の中で、1人だけ武器を持たぬ小柄な体の少年……大蛇(オロチ)が乱舞している。

 

男の首筋に踵を叩き込み、その男の首を支点に体を捻って、反対側にいる剣をいまにも振り下ろさんとする男の目を突く。

 

二人の男が倒れると同時に地面に降りて、低い姿勢のまま手をつくと、足を回して正面の男の足を払い、落ちてきた頭にもう片方の足を叩き込む。

 

「この野郎っ……!?」

ゴッ

「っ……!?」

 

そして今度は、あまりの()()状態に、思わずつぶやきを漏らしつつ、武器を構えた男の腹が陥没した。

 

「止めろ! 下がるな! なぜちっこい餓鬼一人が止めれんのだ!!」

 

後ろの方で、リーダー格の男が喚いているのが聞こえる。

その声に呼応し、また男達が大蛇(オロチ)に向かっていく。

 

……だがその勢い虚しく、ことごとく返り討ちにされた。

 

 

そんな構図が、ひとしきり続いた後。

 

「くっ……!!」

 

ついに大蛇(オロチ)は、その男の前に立つところにまで至っていた。

あまりの勢いで来たため、その男は後ろに仰け反り倒れている。

 

大蛇(オロチ)の足元には、結局、最初投げつけたきり、使わなかった刀が、待ってましたと言わんばかりに足元に転がっていた。

その刀をトン、と踏んで宙に浮かし、体の目の前で掴み取ると、その先端を男に向ける。

 

「やるなら……やれよ……!!」

「……!!」

 

するとその男は、大蛇(オロチ)を睨みつけ笑みを浮かべた。

刀の先端を向けられているとは思えないほど、自然な笑みを大蛇(オロチ)に向けている。

 

……だが。

 

……シャキン

「……何?」

 

大蛇(オロチ)は、しばらくの間の後、刀を鞘に収めた。

男は、思わず疑問符を口にしてしまう。

 

その時既に大蛇(オロチ)は、カズの元へと寄り、縄を解こうとしていた。

その男は、あまりの驚きからか、目を見張ってその場に硬直する。

 

……するとしばらくの後。

 

「無抵抗の敵は斬らん」

「……!?」

 

大蛇(オロチ)が、カズに肩を貸し、立たせながらそう言った。

 

「僕が斬った人は、すべて武器を手に持ち、僕に向かってきたからだ」

「ぐっ……!!」

「そんな無様な姿を晒すような奴を斬るのは、道理に反する」

「……!!」

 

男は、悔しさに顔を歪め、地面に伏す。

 

「……帰るぞ、カズ」

 

そんな姿を横目にみながら、大蛇(オロチ)はカズの速度に合わせ、ゆっくりと洞窟を出ていった。

 

 

 

 

 

 

だが、彼らは気づいていなかった。

 

地面に伏した男の顔が、企みを隠す微笑みに変わっていたことを……。

 

 

「もう……ここまで来れば、大丈夫でしょ……」

 

それから、少し歩いた頃だった。

不意に、カズがそう呟きを漏らす。

 

「な……ま、まだ、敵の勢力範囲内だ。街までは気を抜けない。モンスターだっているんだぞ?」

 

すると、そんな呟きに大蛇(オロチ)が狼狽え、慌てて反論した。

 

「……ふふ」

 

それを聞いたアユムは、わずかばかり微笑む。

そして、そんなカズの顔を見て、大蛇(オロチ)がぐっと顔を強ばらせた。

 

《今作戦は……失敗だったな》

 

すると、カズは頭の中で、そんなことを考え出す。

 

《僕が戦闘にめっぽう弱いが故に……全員倒さざるを得なくなってしまった。あの男も、まさか吐きはしないだろうしなあ……》

 

そして、その考えを巡りに巡らせて、カズはため息をついた。

 

その時、そのため息に気づいた大蛇(オロチ)が、慌てて彼を気遣う。

 

「だ、大丈夫か!? 少し……歩くのが速かったか?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。先を……急ごう」

 

そしてその気遣いに、カズは笑って答えた。

 

……のだが、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

ドスッ

「ぐっ……!?」

「カズ!!」

 

 

突如として、カズのうめき声と、大蛇(オロチ)の叫び声がこだました。




さあ、【光と影】編も残すところあと数話!!
ラストスパート、駆けていきましょう!!

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Episode79 選択 〜Choice〜

「カズ!!」

 

大蛇(オロチ)の悲痛な叫び声がこだまする。

それと同時に、カズがその場に崩れ落ちた。

 

「だ……大丈夫だよ……投げナイフを……食らっただけだ……」

「だ、だけって……!!」

 

そう言って、カズは後ろ腰に刺さっているナイフを引き抜く。

 

「ライフは!? 大丈夫なのか!?」

「大丈夫……だから。それより早く、大蛇(オロチ)()()()を追って……!!」

()()()……?」

 

そして、カズは少し前の茂みを指差してそう言った。

 

するとその時、大蛇(オロチ)の目に、その茂みから少し行った木の陰に、人影が隠れたのが映る。

 

大蛇(オロチ)はその瞬間、カズの言わんとしていることを理解した。

 

「僕なら大丈夫、だから君は早くあいつを追うんだ。運が良ければ奴らのアジトの場所が……!!」

「……っ!!」

「早く!! 逃げられたら、元も子もないよ……!!」

 

大蛇(オロチ)の中で、カズの叫び声が響く。

 

確かに、これは千載一遇の好機だ。

これを逃せば、もうアジトを特定する機会など、到底恵まれないだろう。

 

それに、カズは一見、大丈夫そうである。

後ろ腰に一刺しされただけだし、ライフもそこまで削れてはいないはずだ。

 

「わかっ……た……」

 

そう思い至り、大蛇(オロチ)はコクリと頷く。

すると、それを聞いたカズが、ふ、と微笑んで大蛇(オロチ)を送り出す。

 

そして一言……

 

 

 

「うん、頼んだよ……()()()

 

 

 

そう、呟いた。

 

ただもうその声は……大蛇(オロチ)、もといタスクには、聞こえていなかった。

 

 

「くそ……待ってろよ……カズ!!」

 

一方、こちらは大蛇(オロチ)

 

なんとか、視界に入る程には追いついたあの影を追いつつ、カズを気にかけてもやもやしていた。

 

「はやくアジトを特定して……戻らないと……回復薬があるとはいえ、何が起こるか分からないしな……」

 

そう独り言を呟きつつ、やたら早く進み続ける影を追う。

 

林を抜け、丘を越え、まだまだ進んでいくその影。

大蛇(オロチ)は、その影を追いつづけ、林や丘を進んでいく。

 

……だが、途中からだんだん、違和感を覚えてきた。

 

「……?」

 

それとなく……その影が、()()()()しているように感じてきたのだ。

 

もちろん、その意図があからさまに出ているわけではない。

 

同じところなど一切通過しないし、風景は目まぐるしく変わっていく。

 

だが、どうしてか、()()()()()()()()()のだ。

 

「……いやいや。そんなわけない」

 

すると、大蛇(オロチ)はそんな迷いを断ち切ろうと、首を振ってそう呟く。

 

ただでさえ、邪念を振り払い、集中せねばならない局面なのだ。

いらぬ心配で任務を、そして最大の好機を逃す訳にはいかない。

 

「くっ……!!」

 

大蛇(オロチ)は、より一層気を引き締めてその影を追い続けた。

 

 

「ここ……か!!」

 

小声で、でもしっかりと、大蛇(オロチ)は呟いて確信する。

 

眼前には、見覚えのある顔から、そうでない顔まで、皆見事に揃ったタトゥーを入れた男達がたむろしていた。

 

「連中、こんな所に……そりゃぁ見つからんわけか……」

 

大蛇(オロチ)はそう呟いて、顔をぐっと強ばらせる。

 

そう、彼は今、その影を長々と追った末、ついに目的のアジトらしき所にやってきていた。

 

……正確に言えば、そのアジトから少し離れた、岩の後ろにいるのだが。

 

「とりあえず……位置情報っと」

 

大蛇(オロチ)は、そそくさとウィンドウを開き、とあるプレイヤーへのメッセージ欄に、ひょいひょいと情報を打ち込んでいく。

 

現在位置や、装備・食糧の貯蓄、敵の推定保有戦力まで。

 

「……なかなか大きい……な。まあ仮にも、大々的に設立宣言なんてことをした連中だし、当たり前っちゃ当たりま……っ!!」

 

手馴れた手つきで、かつ迅速に、ウィンドウに打ち込んでいた、その時だった。

 

大蛇(オロチ)の心臓が、バクりと跳ね上がる。

 

直後、きゅぅ……と胸と頭が締め付けられ、ゾワゾワと鳥肌が立ってくる。

 

「ま……まさか……まずいっ……!!」

 

彼はボソボソとそう呟きながら、肩で呼吸をし始めた。

変な汗が出てきてやまず、鳥肌が体自体を揺らし始める。

 

そんな大蛇(オロチ)の視線は、いつの間にか虚ろになっていた。

その先には、たった今、彼が追いかけていた()()()がいる。

 

「くっ……!!」

 

途端、大蛇(オロチ)は走りだした。

 

まだ文章は書き途中のままだが、そんな事はお構いなしに、ウィンドウの《送信》ボタンを押して直ぐに消す。

 

 

そしてその直後、彼の追いかけていた()()()は、親しい仲間に呼ばれて振り返った。

 

その影の正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョニー・ブラック」だった。




光と影編、残りあと【3】話。
新章情報、近日公開。

お楽しみに……!!

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Episode80 成功の代償 〜The cost of success〜

大人の風格をもつ男女が、宮殿のような煌びやかな通路を並んで歩いている。

 

少し前を歩くのは、細身で美しい体型をした女性。

体にフィットした鎧を身にまとい、腰には刺剣がさしてある。

 

対して、少し斜め後ろを歩くのは、ガタイのいい、どこかぼんやりとした男性。

女性とは対照的に、ゴツゴツしい鎧を身にまとっており、背中には珍しい「薙刀」を背負っていた。

 

「……それで、彼の状態は?」

「ああ……うん」

 

すると、前を歩く女性が、男性に質問を投げかける。

男性は、その質問に少し遅れて反応した。

 

「あい……かわらずだね」

「あいかわらず……というと?」

「部屋から出てこず食事もあまり。刀さえ机に置いて、ずっと外を眺めてるよ」

「そう……か」

 

男性の言葉に、女性は視線を落として眉間に皺を寄せる。

 

「ただね、塞ぎ込んでるわけじゃぁ……ないみたい。会いに行けば、誰だって部屋に入れてくれるし、言葉も交わしてくれる」

「……」

「ただね……」

「ん?」

 

その時、男性の言葉の語尾を濁りを、女性は敏感に受け取った。

 

男性も男性で、意味ありげに口をつぐんでいる。

 

「なんだ、話せ」

「う、うん……あのね」

「……」

 

そして次の瞬間、男性の言葉を聞いた女性は、ぎりっ、と拳を握り締めた。

 

「彼の部屋には、至る所に『戦略』に関する本が散らかってた」

「っ……!!」

「ジャンルとかは実に様々だったよ。1対1のデュエルに関するものもあれば、対フロアボスの指揮の仕方、とか何とか」

「やはり……な」

 

女性は、納得したような言葉を漏らし、ため息をつく。

 

裏血盟騎士団を支える2大柱と言われたカズ……もとい、アユムの戦死。

そしてその影響をもろに受けたもう1人の2大柱、大蛇(オロチ)……もとい、タスクの甚大な精神的ダメージ。

 

作戦自体は、()()した。

ただその分の()()が、大きすぎたのだ。

 

急いで戻ってきた先にあったのは、ジョニー・ブラックの毒ナイフのみ。

あとはそこには何も無かったと言う。

 

また別の者の話によれば、タスクはその光景を、毎晩毎晩夢に見て、うなされているらしい。

 

これでは、実質裏血盟騎士団を支えるに2大柱が両方折れたのと同義だ。

たとえ一時的とはいえ、このことは、本人達のみならず、裏血盟騎士団全体への歪みをも生じさせていた。

 

「……で? どうするの、()()

「……ん?」

「彼のこと。血盟側は、早急に出撃を要請、ラフコフの殲滅を……って言ってきてるんでしょ?」

「あ、ああ……」

 

そして、血盟騎士団からのこの威圧。

 

相手側の言い分としては、「敵の拠点が分かった以上、少しの猶予さえ与えてはならない。一刻も早く、()()()()()()()()()を投入せよ。」なのだが……

 

この要求は、その女性……裏血盟騎士団、団長には受け入れられなかった。

 

「まったく……僕としては、この要求は到底、飲み込めないけどぁ」

「……うむ」

「副団長としてもだけど、僕個人としても……ね」

「そ……! そうか……」

 

それは、どうやらその男性……もとい、裏血盟騎士団、副団長も同じであるようで、腕を組んでふるふると首を横に降っている。

 

「……私としても、この要求は断固、拒否するつもりだ。計り知れない精神的ダメージを負ったあの状態では、()()()()()だって、十二分に起こり得る」

「そうだよね。その通りだ」

 

そして、そんな彼を見て安堵したのか、団長も強くその意思を口にした。

副団長も、その言葉を強く肯定し、今度は首を縦に振る。

 

そんな様子を背後で感じつつ、団長はまた、眉間に皺を寄せていた。

 

なぜなら、彼は出すべきではない、とは言うものの、その代替策など到底思いつかないからだ。

 

それに、いくら甚大な被害を受けたとはいえ、いつかは、復帰してもらわねばならない。

その時期の目処は? と問われるのも、これまた困ったものなのだ。

 

またさらに言うならば、これは裏血盟騎士団全体への信頼度の低下にも繋がりかねない。

 

重要な局面である事もまた事実。

そんな時に、主力を出し渋るのもいかがなものかと自分でも思うのだ。

 

「それにね、団長……いや、()()()

「っ……!?」

 

するとその時、不意に副団長からプレイヤーネームで呼ばれる。

団長……もといユリエは、驚いて後ろを振り向く。

 

するとそこには、ぐっと口を噤んで、こちらを見据える副団長がいた。

 

「君は一人で背負い込み過ぎだ」

「っ……!!」

「僕は君と付き合って長い。だからいい意味でも悪い意味でも、君のことなら手に取るように分かる」

「そ、それは……!!」

「裏血盟騎士団の団長……()()()()としての自覚は分かるよ。でもね、副団長の僕…… 弁慶(ベンケイ)のいる意味を考えてほしい」

「べ、ベンケイ……!!」

「彼……大蛇(オロチ)くんが、()()()()()()なのは、僕もよく知っている。でもだからこそ、君の重荷を半分背負わせてくれ」

「……!!」

 

彼のまっすぐな眼差しに、思わずユリエは身じろぎしてしまう。

 

……だが、数秒の後、ふっ、と息を吐くと、しかと微笑んでその視線を見返した。

そしてその笑みをニヤリと歪めると……

 

「分かってるわ。()()()さん」

「……!!」

 

そう、一言だけ言葉を返して踵を返し、また歩き出す。

 

今度は、副団長……もとい、タモンが、ポカーンとしてしまった。

だが、彼もまた、数秒の後、ふっ、と息を吐いて、しかと微笑むと、また彼女の背中を追って歩き出す。

 

そして彼は、歩きながらも、まだふふふ、笑い出したのであった。

やれやれ、と言わんばかりにため息も交えて……。

 

 

そして二人は、ついに目的の扉の前へと到着する。

 

「さあ……行こうか」

「うん……行こう」

 

ユリエは、扉を睨みつけながら。

タモンは、不敵な笑みをたたえながら。

 

それぞれ一言呟いて、扉を開け、奥へと踏み行っていった。

 

今は亡き偉大な戦友のために。

亡き戦友を嘆く、一人の少年のために。

 

そして何より……

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()を、血で染めないために。




光と影編、残りあと【2】話。
新章情報、次話にて、公開予定。

お楽しみに……!!

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Episode81 駒 〜Piece〜

「そ、それで……どうなったんですか?」

 

不意に口を噤んだ店主に、キリトが喰ってかかる。

 

気づけば、話し始めてから、約30分が経過していた。

淡々と語られた、裏血盟騎士団の活動の断片。

その結果失ってしまった、()()()()

 

キリトとて、仲間を失った経験が0ではない。

でも……彼、タスクのように、いやあえて言うならば大蛇(オロチ)のように、()()()()()()()()()()()()()()なんていう失い方は、した事がなければ、そもそも起こる可能性がほぼ0に等しかった。

 

故に……キリトには、その痛みや苦しみは理解できない。

だが同時に、その苦しみを経験してなお戦い続ける彼の強さを感じた。

 

「その後……はね」

「……はい」

 

すると、また店主がポツポツと話し始める。

 

「交渉に交渉を重ね、なんとか、彼の出撃は免れた」

「……!!」

「もちろん、彼も彼で、十分に休養を与えたし、対モンスター戦闘でのリハビリも少しづつこなしていったんだ」

「なるほど……」

「それである程度、復帰の兆しが見えたところで……」

「ところ……で?」

 

そこまで話し、言葉を濁した店主の顔は、少し強ばっていた。

 

 

「血盟騎士団側が、突然、『ラフコフ討伐隊』を設立したんです」

「『ラフコフ討伐隊』……!?」

 

一方、こちらはタスクとシノンである。

 

相変わらず墓石をを含めて円形に座り、話し込んでいた。

 

「そ、それって……!!」

「血盟騎士団のメンバーの他、攻略組の有志メンバーも含まれていたそうです」

「まさか……」

「話によれば、()()()くんや、()()()さんも……」

「……!!」

 

タスクの言葉を聞き、下を向くシノン。

 

「そのこと……だったんだ」

「……え?」

 

そしてそう、ボヤいた。

すると、今度はそのボヤキを聞いて、タスクがシノンの方を向く。

 

「その事……って?」

「あ、ああ……あのね、タスク」

 

そうして、タスクの質問を受けたシノンは、慌てて説明し始めた。

 

「実は……BOBでね」

「……?」

「キリトが言ってたの。『自分は人を殺したことがある』って……」

「……!!」

「その時の記憶が蘇ったのかな……蒼白になって座り込んでさえいたわ」

「……そう、でしたか」

 

タスクは、シノンの言葉に俯く。

そして少し震えた声で、ポツリと呟いた。

 

「……やはり、僕が弱かったせいだ」

「っ……!!」

「元々、()()()()()をさせないために、僕らが立ち上がったはずなのに……」

「そ、それは……」

「結局……彼が全てを救った。酷いことをさせてしまった」

「……!!」

 

シノンは、タスクのあまりに弱々しい声に言葉を失う。

なぜならその声は、今まで聞いてきたどんな声よりも心の奥深くまで突き刺さってきたからだ。

 

強い、そんなイメージしかない彼が発したとは到底思えない、いや、だからこそ、心に突き刺さる声音。

 

 

《……悔しい》

 

 

ふと、彼女の中に、そんな気持ちが芽生えてくる。

 

自分も、そういった経験はしたことがあるはず、()()()

思い返せば、その話は、今タスクが話してくれた話の()()として、話すつもりだったのだ。

 

……だが実際、蓋を開けてみれば、自分の過去など到底及ばないような、凄惨極まった物がそこにあった。

 

「……!!」

 

もちろん、()()()自分がやった事に悔いはないし、間違っているなど微塵も思わない。

ただ……彼、ひいては店主を含め、裏血盟騎士団の過去は、二段も三段も上の段階に位置する、とても高すぎる物だった。

 

今、シノンが歯がゆいのは、まさにそれである。

 

何段も上にあるものに、どう手を出したらいいのか分からない。

そもそも、()()()()()()()()()()()()()()、分からない。

 

したがって、今の彼女の状態といえば、気の利いた言葉はおろか、相槌さえも返せず、話を聞いたまんま、黙り込んでいるだけ。

そんな状況が、そしてそれを打開することさえできない自分自身が、歯がゆくて、悔しくてしょうがないのだ。

 

「まあ……その後」

「あっ……!!」

 

すると、しばらくの沈黙の後、また、タスクが話し始める。

シノンは結局、何も口を開けずにいるしかなった。

 

「ラフコフは事実上崩壊。討伐隊、ラフコフ、お互いに相当数の犠牲者が出ました」

「犠牲……者」

「そうです。考えてみれば当然でしょう、なにしろそれまで、モンスターとしか戦ってこなかった人達だ、人殺し集団に真っ向から立ち向かって互角になれる訳ないんです」

「た、確かに……」

 

GGOでもそうだ。

そう、シノンは内心で相槌を打つ。

 

まあ……GGOに関しては、使用する武器さえ、変わるのだが。

 

「これは僕の憶測ですが……きっと、数で押し切ったんだと思います。その証拠に、戦死者は前衛職の方々が多かった」

「そうな……の?」

「ええ……一応、裏血盟も猛抗議してましたし、報告だけは出してもらえたんです。まさに予想通りでした」

「……!!」

「人数が多ければ多い程、隊列は重要です。統率のためでもあるし、味方同士で邪魔し合ってしまう可能性がでてきますからね」

「それで……その……隊列の前衛職の人達が……」

「そう、殺られしまった。僕はそう思います」

 

そこまで話し、ふう、と息を吐くタスク。

その隣で、そんなタスクを横目に見つつ、シノンは俯いた。

 

「時々……ね、思うんですよ」

「ん……?」

 

すると、少しトーンの落ちたタスクの声が聞こえてくる。

シノンはぱっとまた前を向く。

 

「こんな時、アユムはどうするだろう、もしあの時、アユムならどうしていただろう、ってね」

「……」

「色々学んだ今でもなお、断言できます。彼は、アユムは、戦略の天才だった」

「!!」

「ただそうであるが故に……最後の最後に自らの命さえ、駒にしたんです。それを何故かと彼に聞けばこういうでしょう」

「……」

「『自分も人を駒にしてきたから』とね」

「……!!」

 

タスクはいつの間にか、微笑んでアユムの墓石を見つめている。

その横顔には、悲しさと、親しみと、懐かしさが入り混じっていた。

 

その横顔を、見つめるシノン。

自分もいつか、こんな顔をできるようになるのかな、そんな思いが心の中で渦巻いた。

 

 

「……さて、すっかり夜ですね!!」

「えっ……ああ、そうね……」

 

そうして、しばらくの後。

タスクとシノンは立ち上がって、そんな事を言いながら歩き出していた。

 

「いやぁ、なかなか長くなってしまいました」

「ん……いいのよ」

「退屈じゃありませんでしたか?」

「そんな……、話してくれて嬉しかったわ」

「そりゃよかった」

 

そんな、他愛のない話をしつつ、墓地の出口へと歩いていく。

タスクはケラケラ笑っていたが、対してシノンはそうではなかった。

 

「……!」

 

どこか思い詰めた顔をして、俯いて歩いている。

そんな彼女を見て、タスクがふと問いかけた。

 

「シノンさん? 具合でも悪く……」

「いっ……いや、そうじゃないの」

「……?」

 

どこかいつもと違うシノンを見て、タスクはキョトンとする。

シノンは焦りを隠そうと、ごねごね何か呟いているが……

 

「……ふふ」

「その……え?」

 

タスクが突如、立ち止まると、にっ、と微笑んで、シノンに真っ直ぐ体を向けた。

シノンはドキリと心臓が跳ねる。

 

そして少し見つめあった後……

 

「話があるなら、聞きますよ」

「っ……!!」

「相談でも、愚痴でも、なんでもいいですから」

「いや……その……」

「あなたが話してくれる事なら、僕は何も拒絶しません」

「っ……!!!!」

 

タスクの真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉に、シノンは思わず目を逸らしてしまう。

 

……が、その瞳と言葉に、シノンは救われたのだった。

どこか諦めたように、はぁ……と息を吐くと……

 

「……分かった。話したいことがあるの」

「……おや、なんでしょう」

 

そう、言葉を返して、タスクを真っ直ぐ見返した。

そんなシノンを見たタスクは、その視線を受け止めて、また見つめ返す。

 

「あなたのように……とても長くなりそうなんだけど……」

「……ほう」

「あなたにも、知ってて欲しい話」

「……では、場所を変えましょうか」

「……え?」

 

 

 

「食事でも行きましょう。あなたさえ……良ければね」

 

 

 

「……!!」

 

そうしてタスクはまた、ケラケラ笑い出す。

結局シノンはタスクから目を逸らしてしまった。

 

二人の上に浮かぶ月は、いつもと違って美しかった。




光と影編、残りあと【1】話。



【次章】『ピンクの彗星』編、近日始動!!

新たに参入した総勢6名のプレイヤー(CP)達。
店主、もといオセロットは、そんな彼らに「とある任務」を命じた。

『君達の任務はただ一つ。()()()の首を……狩る事だ。』

乞うご期待!!

※CP…キャンペーンキャラ


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Episode82 光か影か 〜Light or shadow〜

「そう……だったんですね……」

 

キリトはそう、相槌を打って俯く。

 

あの恐ろしい記憶の影には、そんなことがあったのか。

知らなかった、いやもはや、知りようのなかったその事実を知り、彼はどこか、複雑な気持ちになっていた。

 

「……君は、強いよ」

「っ……!!」

 

すると不意に、また店主が話し始める。

キリトはその言葉に、ビクリと反応する。

 

「結局、あの世界の全てを、救ったのは君なんだよ」

「……え?」

「血盟騎士団団長、つまり()()()を倒し、皆を解放したのも君」

「……!!」

「攻略組の永久敵だったラフコフに、トドメを刺したのも、君だ」

「そ、そんな……!!」

「君は強い。信じられない程にね」

 

店主の真っ直ぐな瞳に、キリトは目を合わせられない。

 

違う、俺は強くなんかない、そう言いたかった。

でも何故か、それが言い出せない。

 

そんな葛藤を抱えたキリトを、まるで()()()()()()()()かのように、店主は微笑んで見つめる。

 

すると……

 

「……さて、話を戻そうか」

「は、はい……?」

 

そう、店主は話を()()()

 

キリトは、はっとして背筋を正す。

そうだった、そもそもここには、()()()()()()()()()()()を伝えにきたのだった、と。

 

「僕が君にこの話をしたのはね?」

「……?」

「君は本当にそれでいいのか、と疑問に思っているからだ」

「どういう……ことですか?」

 

店主の言葉に、キリトは怪訝な顔をして店主を見る。

対して店主は、複雑な顔をしてキリトを見据えていた。

 

「君はいわゆる「光」だ。僕らのような、「影」じゃない」

「っ!!」

「君は今まで、「光」の領域で戦ってきた。それは素晴らしい事だ。SAOはもちろん、少し前のALOだって、ましてや先の死銃……GGOでだって、君は数えきれない人達の命を、心を救ってきた」

「……!!」

「でも今、君はその領域を()()、「影」で……いや、敢えて言うならば「闇」で、戦おうとしてる」

「そ、それは……!!」

()()()()()()()人達の、仲間になろうとしてる。それは、本当に君がすべきことなんだろうか……とね。僕はそう思うんだ」

 

店主はそう言って、キリトから目線を外し、そのまま床に落として、息をつく。

キリトもキリトで、俯いて机を見て、黙り込んでしまった。

 

実は店主も、内心、少しかわいそうなことを言ってしまったかな、とは思ってはいるのだ。

少年が大きな決断をしてきて、その一歩を踏み出そうとしているのに、それを受け入れる側の人間すらも、それを阻もうとしている。

それもそれで、なんだかな、と思わなくもないのだ。

 

……でも、店主は同時に確信してもいる。

自分の言っていることは、真実と寸分違わぬことだと。

 

今まで自分がしてきたのは、そういう事なのだ。

少年の親友や姉の命を見捨て、()()()()()()()()の命も見捨ててきた。

 

そんな道を、現時点で()()()()()()()少年に、歩ませるわけにはいかない。

 

「お……お言葉ですが、店主さん」

「ん……?」

「それは……違います」

「……!!」

 

するとその時。

 

キリトが、硬く結んでいた口を開き、店主を真っ直ぐ見据えた。

対する店主も、キリトのその真っ直ぐな視線に応え、真剣に見返す。

 

そしてキリトは、今までになくハッキリした声で、話し始めた。

 

「俺が今まで「光」で戦ってこれたのは、その……いわゆる『目標』があったからであって……」

「……!」

「その『目標』を達成すべきところが「光」だった、ただそれだけです」

「……」

 

店主は、そんなキリトの話を黙って聞いている。

……が、その目は、先程と違ってどこか輝いていた。

 

「そして、今の俺の『目標』は、『大切な人を守る』事です」

「……!!」

「そのためには、モンスターと戦える強さではなく、()()()()()と戦える強さを得ねばならない」

「……」

「もっと言えば、それに並行して出てくる()()にも、耐えうる強さを得ねばならないんです」

 

そう言って、キリトはぐい、と体を前に倒して、机に肘をつき、店主を見た。

店主は少し顎を下げて、その視線に応ずる。

 

「店主さんはさっき、自分達のことを、()()()()()()()人達だと言いましたよね」

「ああ……確かに言ったね」

「それはつまり、()()()()()()()()()ということです」

「っ……!!!!」

 

するとその時、店主の目が明らかに見開いた。

いつも、どんな時でも、飄々としていた店主の顔が、初めて素を出したかのように。

 

「俺はそれをまだ分かってない。命を奪ってしまったことばかりに囚われて、そこから先にある()()を、まだ知らないんです」

「……!!」

「俺はそれを知りたい……いや、()()()()()()()()()()

「……」

「そのためには、店主さん達と同じ舞台に立たねばならないと思っているんです。()()()()()()()()()()()()()()()()

「なるほど……ね」

 

そしてキリトは、そこまで話すと、ぐっ……と口を噤んだ。

店主も店主で、ふぅ……と息を吐くと、なんの言葉も発さず、キリトを見すえて黙り込む。

 

……ただ、その目は、もう先程までと違って、やさしく、またどこか嬉しそうな感情が入り交じっている。

 

そうしてついに、この話に()()がついたことは、店主はもちろん、キリトも、図らずとも察した。

 

 

「……ふふ」

 

そしてその後、10分ほど経った頃。

店主は、既に帰途についていた。

 

街灯が寂しく照らす中、ひとり孤独に歩いている。

ただその顔だけは、いつになくニコニコしていた。

 

「すべては彼の予想通り……か」

 

彼はそう呟いて、また笑う。

 

今日、キリトに会いに行く前、タスクに言われたこと。

それが頭の中で駆け巡っては、それと全く同じことを言うキリトの顔が浮かんでは消える。

 

実を言うと、タスクは全て、見抜いていた。

キリトが何を思って挑んできて、そして負けて、何を考えているのか。

その結果、彼がこれから、どう動いてくるのか、その全てを。

 

「それに加えて()()()()……か、 タスク君もすごいこと言うね」

 

そしてその結果を踏まえて、タスクが店主に託したある()()

 

「いくら本名が桐ヶ谷(キリガヤ) 和人(カズト)くんだからって……ねぇ?はは……」

 

そう言って、店主は上を向いてまた笑う。

その後、続けて一言……

 

 

 

 

 

 

 

「まさか彼のコードネームが、『カズ』とはね」

 

そう言って、また微笑んだ。




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第五章 ピンクの彗星 〜The pink comet〜
Episode83 後ろの後ろ 〜Back behind〜


赤みがかった太陽の光。

どこまでも続く砂の大地。

 

そして、それら自然の条件が重なり現れる、()()()()()()

 

今となってはもう何世紀も前の形式の戦車の残骸。

どうしてここに……と、思わずにはいられない巨大な岩。

 

「今ぉ日はどんな人が来っるのかな〜勝ってるっかな〜!!」

 

そんなフィールドに、()()()()はいた。

 

水筒を隣に置き、耳にはヘッドフォン。

流しているのは、もちろん「神崎エルザ」のNEWアルバム。

 

足を前に投げ出し、背中を戦車の残骸に預けて、完全にリラックスモードでくつろいでいる。

 

これが噂の「ピンクの悪魔」だと知ったら、さぞ騒いでいるプレイヤー達は落胆するだろう。

そんな事まで思わせるほど、そのチビ……レンは気を抜いて、グダついていた。

 

 

 

……ヘッドホンを撃ち抜かれるまでは。

 

 

「ふん、ふん、ふふ〜ん」

 

あまりに人が来ず、あまりに暇を持て余したレン。

思わず、ここがGGOであることを忘れ、鼻歌を歌い始めた次の瞬間。

 

バキン!!

「ひゃっ!?」

 

突如として、弾丸が左耳のすぐそばに飛んできて、ヘッドホンを撃ち抜いた。

 

反射的にレンは頭を下げて、腹に置いていた愛銃、《Vz61 スコーピオン》二丁を両手に持つ。

 

すると次の瞬間。

 

バキィ!!

「ひええ!!」

 

今度は、隣に置いてあった水筒が光の粒になってしまった。

 

しまった、油断した、と後悔をしても後の祭り。

とにかく、この場を離れようと立ち上がる。

 

そして、持ち前のAGIにものを言わせて残骸の影から飛び出すと……

 

ドッ

「ぎゃっ!?」

 

今度はレンの腹に、()()、飛んできた。

 

レンはAGI特化型。

STRもある程度上げているプレイヤーの拳に耐えられる訳もなく、軽々と4〜5m吹っ飛ばされてしまった。

 

「くっ……!!」

 

ただ、何とか転倒だけは抑えたレン。

ちくしょう、やってくれたな、と言わんばかりに、手に握りしめた愛銃と共に、その拳の主へと顔を向ける。

 

するとそこには……

 

「な……っ!?」

 

かくや自分の2倍はあろうか、という大きさの、ガタイのいい、ゴツゴツしたプレイヤーが立っていた。

レンは、飛びかかって反撃する、なんてことを忘れ、思わずその巨体に見入る。

 

やたらゴツゴツしている、と思いきや、よく見たら体の至る所に埋め込まれている防弾鉄板。

ハーフのガスマスクに右目眼帯のせいで顔が全くわからず、ただただ強い、そんな雰囲気を漂わせている。

 

それに加え、よく見たら右手にはハンドガン、背中には何やらどデカい銃。

それも、ハンドガンは「デザートイーグル」とかいう、暴れ馬みたいな代物な上、おそらく背中にしょっているのは「アンチマテリアルライフル」と呼ばれる、これまた強力な代物。

 

どんなステータスしてんだこの人、てか、眼帯つけてよく狙えるな、そんな感想がポンポンと頭の中で出てきては消えるレン。

 

「……お前が、ピンクの悪魔か」

「はっ!!」

 

そんなレンは、不意に飛んできた低い声に、我に返()()()()()()()

 

「なるほどな、低い身長に砂漠に合わせた迷彩色。おまけに銃も小さく高レート。そんでもって極端なAGI特化。そりゃ手練が何人も屠られる訳だ」

「くっ……」

 

そして、この冷静な分析。

 

正直この状況は、今まで敵に出会って5秒足らずで仕留めてきたレンにとっては、初めてだった。

 

だからなのか、同時にないと思っていた、「屈辱」のような感情が浮かんでくる。

 

「さて……どうする、おチビちゃん」

「……!!」

「すまないが……()()なんでな」

チャキッ

「っ……!!??」

 

すると、そんなことを考えて固まっていたレンに、その巨体は少し煽りを含めた声をかけてくる。

同時に、デザートイーグルの銃口をレンに向けた。

 

レンは、ここまで対峙して、会話しておいてなお、この男は私を殺す気でいるのか、と半ば驚いた目をしている。

 

「……ふむ」

ダァン!!

「なぁっ!?」

 

すると次の瞬間。

その男が、突如、レンに向けていたデザートイーグルを発砲した。

 

レンは飛び上がってその弾を避ける。

 

「くっ……そぉぉぉぉ!!!!」

「はは、なんだ、戦うんじゃないか」

 

そしてそのまま、その男に向かってレンは飛び込んだ。

その男もその男で、楽しそうに呟きながら、レンへとまた銃口をむける。

 

レンは、その小さな体を生かし、その男の懐へと潜り込もうとした。

 

デザートイーグルは反動が大きい。

つまり、一発撃った後、二発目を撃とうと思ったら、反動でブレた照準を戻す必要があり、そのためにはどうしても1テンポの時間が必要となる。

 

レンはその1テンポの間に、懐へ潜り込んでしまおうとしたのだ。

……が。

 

ドッ

「がっ……!?」

「そう簡単にはいかんぞ」

 

レンは、懐まであと少しという所で、その男の重たい膝蹴りを喰らった。

拳よりさらに強い一撃を加えられ、さっきよりはるか遠くへ吹っ飛ばされる。

 

「くぅ……」

 

いい感じまで距離が離れたし、もうこのまま逃げてしまおうか。

だんだん、そんな感情が込み上げてきた。

 

どう考えたってこの勝負に勝ち目はない。

 

自分は、一気に距離を詰めて、一気にケリをつける戦い方。

一撃必殺、ヒット・アンド・アウェイ、そんな戦い方なのだ。

 

そもそもからして、ステータスが違いすぎる。

それはすなわち、経験値が違う、と言っても過言ではないのだ。

 

そんな人に挑んで、勝ち目なんかない。

そう、結論が出てしまい、レンは咄嗟に方向転換しようとする。

 

……だが。

 

「っ……!?」

 

レンは突如、動きを止めた。

そして、両手に持つ愛銃、Vz61 スコーピオンを数秒眺める。

 

すると……

 

「くっ……しょうがない……なぁ!!!」

 

そんなことを呟いて、またその男へと突進した。

 

その男は、きょとん、としてレンを見ている。

だがすぐにまたデザートイーグルを構えると、数発、突進中のレンに発砲した。

 

ダァン ダァン ダァン

「……!!」

 

レンは流石のAGIか、3発の弾丸を全て躱し、その男の懐へと接近。

その男は、それに対応して発砲を諦め、肉弾戦の迎撃準備をする。

 

……だがレンは、それをも凌駕する動きに出た。

 

ギュン……!!

「……ほう」

「はぁぁぁ!!!!」

 

レンは、その男の懐のさらに下、股下へと、滑り込んだのである。

 

懐に入ったところで、どうせ膝蹴りやら、下への肘打ちやら、真下へのフックがすっ飛んでくるのは目に見えている。

 

だったら、()()()()()()()()()()()のだ。

レンはそう、考えたのである。

 

また、最初対峙した時、一旦我を忘れて見入ったのも、この判断を助けただろう。

身長が高い、それ即ち、足も長い、のである。

 

「はぁぁぁ!!!!」

「なるほど……な」

 

そして、完全に背中を取ったレンは、満を持して愛銃をその男に……

向けなかった。

 

もう一段、フェイントをかましていたのだ。

 

レンは今、その男の上にいる。

股下をくぐり抜けた後、即座に上を飛んだのだ。

 

この男は、相当のトッププレイヤーだ。

ただ後ろに回り込んだだけじゃ、対応されるに決まっている。

 

だったら、()()()()()を、とればいいじゃない。

経験やスキルではなく、人間である以上、必ず持ち合わせているであろう、「驚き」の感情を引き出すことによって、隙を作ろうとしたのだ。

 

そんなとんでもない考えの元、レンは行動に移したのだった……が。

 

ジャッ

「っ……!?」

 

そんなレンの考えをも凌駕する強さを、その男は持っていた。

 

レンが着地し、愛銃、Vz61 スコーピオンを向けようとした時には既に……

 

「残念だったな」

「な……!!」

 

その男は、レンの眉間にデザートイーグルを突きつけていた。

 

レンのVz61 スコーピオンは、まだ腰の位置にある。

対して、この男のデザートイーグルは、既に自分の眉間の位置。

 

負けた。

レンは、この時ばっかりは、潔く認めるほかなかったし、実際認めていた。

 

「まだ戦うか?」

「んえっ……!?」

 

だが、その男は、再度、そんなことを聞いてきた。

レンは硬直して、また答えを返せずにいる。

 

……と、思っていたのだが。

 

「い、いや。もういい……です」

「……そうか」

 

またいきなり撃たれても困る、と、体が勝手に動いたのか、そう、咄嗟に口走っていた。

すると、そんな答えを聞いたその男は、目を見開いて面白そうに相槌をうつ。

 

そして……

 

ダァン ダァン

「ひっ……!!」

 

その男は、()()()()()デザートイーグルを、立て続けに2発、発砲した。

 

てっきり、眉間をぶち抜かれると思っていたレンは、恐怖のあまり体全体が力んで縮こまる。

そして次の瞬間、レンは、両手が不意に軽くなったのを感じ、またそれにより、自分がまだ生きていることに気づいた。

 

「すまんな、仕事なんだ」

「へ……? し、仕事……?」

 

すると、前からもはや聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「そう、砂漠で暴れ回っている謎のPK、『ピンクの悪魔』の無力化」

「無力……化」

「だからお前さんを殺す必要はない。武器さえ壊しちゃえばな」

「え……」

 

そして、その声によってやっと、自分の両手に持つ愛銃が、きれいさっぱり消えて無くなっているのに気がついた。

 

「殺しはしない……が、仕事上、君に戦闘能力があっては困るんだ。すまない」

「い、いや、別に……」

 

命だけでも……と言いかけて、この世界が仮想世界であることを思い出し、すんでのところで踏みとどまる。

 

ただ同時に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という、その男の優しさにも気がついた。

 

この人、本当は優しい人なのかな?

不意に、そんな考えが、レンの中にぽっ、と浮かび上がってくる。

 

おそらく、レンにとっては、初めての経験だったのだろう。

()()()()()()と戦い、そして少し、会話したのは。

 

 

「ふぅ……終わったな」

「ええ……」

 

そしてそれから、数分後。

 

ピンクの砂漠に座り込み、赤みがかった太陽の光を浴びながら、遠くを見つめて黄昏ている、()()()姿があった。

 

片方は、もちろん「ビック・ボス」。

そしてもう片方……際どい服装に、やたら長くでかい銃を抱えた少女、「クワイエット」。

 

二人は、ついさっき仕事を終えた、バディ同士である。

 

「あんた……あの子に何か話してたけど、何話してたの?」

「ん? ああ、それは……な」

 

すると、クワイエットがビック・ボスの方をジト目で見て、そんな質問を突き刺してきた。

 

「しかもあの子の武器壊して、ナイフだけ持たせてSBCへ走らせるなんて……いっそ殺してあげた方がよかったんじゃない?」

「ま、まあそう……だな。けど……」

「けど……なによ」

 

そんな指摘に肯定の意を示しつつも、どこか口篭るビック・ボス。

クワイエットはそんな彼の挙動に、さらにジト目のジト具合を加速させる。

 

そしてついに、観念したのか、ビック・ボスがその口篭った理由を話し出した。

 

「ナ、ナイフの方が、彼女のような、近接戦闘では有利な場合もある。それを教えてただけ……だ」

「……じゃなんで殺してあげなかったのよ」

「う……そ、それは……」

「ナイフが有利なのは認める。だけど、だからってナイフ一本ほいって渡して、まあまあな距離あるところまで走らせたのはなんで?」

「それ……は、だな。その……」

「……」

「またあの子と、戦いたかったからだ」

「……はあ?」

 

クワイエットは、ビック・ボスの答えに思わず変な声を上げてしまう。

仮想世界では、命はひとつではない。

なのに彼は、そんなことを言うのか。

 

でもその直後、まぁでも、彼らしいっちゃぁ彼らしいわね……と、内心でため息をついた。

 

すると、ビック・ボスは、ごにょごにょと言い訳を繰り出しはじめる。

 

「だいたいな、クワイエットが初弾を外さなければよかった話……」

「な、な、なんですって? 戦いたそうにうずうずしてたのはどいつよ」

「う、そ、それは……」

 

そんな二人は、どこか楽しそうであった。




大変、お待たせ致しました。

SJ編、そして、『ストーリーダイブ・キャンペーン』のキャラ登場章、開幕!!

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Episode84 異質な2人

「レンちゃん、今日はもう落ちるのー?」

「え、いや、あの……実は……」

「ん?」

 

そんな仲睦まじい女性同士の会話が、殺伐としたGGOの世界に響く。

 

ここは、SBCグロッケン。

ご存知、GGOの中心とも言える、プレイヤーなら一度は足を踏み入れたことがある、巨大な宇宙船である。

 

と言っても、今はもう残骸らしく、そこに人々が都市を形成した……という設定、なので、宇宙船というよりは、もはや都市、なのだが。

 

「私さ、新しい……実弾銃を探しててさ」

「ほほう……さては「軍拡」、だね?」

「そ、そんな大それたことじゃないよ……!!」

 

その宇宙船……もとい都市の、大きなメインストリート。

ネオンやらでやたらケバケバしい装飾が施された建物たちに挟まれた幅広の歩道で、その女性達は会話していた。

 

右に歩いているのが、もはや水着と言っても過言ではないほど攻めるに攻めた服装の、長身で黒髪の女性。

頬に大きなタトゥーが入っており、女性ながらになかなかGGOの世界観に溶け込んでいて、彼女が相当なヘヴィープレイヤーなことは誰が見てもわかる。

 

対して、その隣。

左に歩いているのが、まさに右の人とは対照的な、全身ポンチョの低身長な女性。

上から下まで全部カーキ色のポンチョに包まれており、それ以外の情報といえば、GGOでは珍しい、「低身長」なことくらい。

 

そんな、どちらも別方面で「異質」な2人は、周りの男達の視線など目もくれず、会話しながらスタスタと道を歩いていた。

 

「う〜ん、私のかわいいかわいい実弾銃はあげられないしなぁ」

「い、い、いやピトさん、そんな……!!」

「あぁ!! そーだレンちゃん!!」

「んぇ?」

 

するとその時。

ピトさん、と呼ばれた黒髪長身のプレイヤー、ピトフーイが突然、レンの肩を叩く。

そしてレンちゃん、と呼ばれた全身ポンチョの低身長プレイヤー、レンがビクりと体を強ばらせた。

 

「せっかくだからさ、いいお店、教えたげるよ」

「いい……おみ、せ?」

「そ、プレイヤーが開いてる、いわゆる「プレイヤーショップ」。NPCショップと違って、お店によって価格も性能も全然違うからね」

「へ、へぇ〜」

「レンちゃんには、私のとっておきのお店を教えたげる!! いわゆるまいしょっぷ!!」

 

ばちこーん、と効果音がつきそうなウインクをぶちかまし、稚拙な発音で話すピトフーイ。

 

レンは、マイショップというと、言うべき立場は経営者じゃないの? あでも、広い意味では合ってる……のかなぁ、なんてことを考えながら、やたらはしゃぐピトフーイを眺めている。

 

ついこの間知り合ったばかりなのに、このはしゃぎ様。

実を言うと、レンは半ば面食らっていた。

 

でも、いい風に捉えれば、これは人付き合いが上手くいっているとも言える。

今までここまでうちとけた人といえば、親友の()()()くらいだけだった。

 

VRMMOって、確かに自分の世界を広げるなぁ。

いつか見ていた、ドキュメンタリー番組の謳い文句を思い出す。

 

「ささ、いこー!!」

「う、うん!」

 

ただ、ピトフーイはそんな事などつゆ知らず、レンを置いて走り出す。

レンは、その背中を追いかけていった。

 

 

「ここ?」

「そ!」

 

それから、少しした後。

 

ピトフーイら一行は、とあるプレイヤーショップ『ガン・マリア』に来ていた。

 

「はぇ〜、キレイだね」

「お、やっぱそう思う?」

「それに、こんな大きなお店、建てれるん……だね」

「それなぁ〜!!」

 

お店の外観を見て、思わず言葉を漏らしてしまうレン。

ピトフーイは、その言葉を聞いて、少し嬉しそうにはにかんだ。

 

今までレンの行ってきたお店と言えば、どデカいマーケットか、路地裏の暗くて汚い、こじんまりとしたプレイヤーショップばかり。

こんな大きくて、綺麗なプレイヤーショップは初めて見た。

 

汚くて暗い路地裏ではなく、割と人通りのある歩道に面している上、この世界ではもはや珍しい、()()()()()がお店の看板を照らしている。

 

それに加えて、ショーケースの下には観葉植物も据えられていて、遠目から見たらもはやカフェにしか見えないかもしれない。

 

「私の知る限り、この世界で一番のお店だよ。品揃えはもちろん、カスタムの腕もなにもかも、ここに勝てるお店はない。それに噂じゃ、()()まで各地に出てるんだって」

「そ、そんなに!?」

「割とマジらしいよ? ほんとすっごいんだから!!」

「へ、へぇ〜……」

「それに……ね」

「ん?」

 

すると、意気揚々と話していたピトフーイの声のトーンが、心做しか下がる。

レンはそのトーンに合わせたつもりか、体勢を低くして耳を傾ける。

 

「このお店にはね……!」

「う、うん……!」

 

ピトフーイが神妙な顔をして、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。

レンは、いつのまにか、今か今かと言葉を待ち構えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()がいるんだって」




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Episode85 ギャップ 〜gap〜

確かこの前、どこかで聞いたことがある気がする。

 

「傭兵のいるプレイヤーショップは、だいたいいいお店なんだぞ」と。

 

なんでも、傭兵稼業を成り立たせられるプレイヤーは、ほんのひと握りらしいからだと。

そしてそんなプレイヤーが通い、従っているお店はまず間違いないのだと。

 

考えてみれば単純な話だ。

プロさえいるようなこの世界で、顧客に満足いく結果を提供できる者なんて、それはそれは相当な練度に決まってる。

 

ただレンは、その情報を耳に挟んだ所で、特に何も考えなかった。

主な買い物はあらかた大きなマーケットだし、たまーにいくプレイヤーショップなんて、傭兵のよの字もなかったから。

 

だが、そのピトさんに誘われていくお店とはいえ、確かまだ4軒目か5軒目に行くプレイヤーショップが、まさかトップレベルの敷居のお高いお高い、恐ろしいお店だとなると、話が違う。

 

こういうお店って、何十軒も回って辿り着くものじゃないの!?

てか私が入っていいの!? ついこのあいだ強い人にボコられた上に武器も何も無いのに!?

 

そんな悲鳴が心の中で響いている。

……その結果。

 

「……それで、どんなやつがほしいのかな?」

「えっ……ええっと……」

 

困ったぞ。

レンはそう、内心で悪態をついていた。

 

「いいよ〜、なんでも。うちはあらかた揃ってるから〜」

「は、はい……はは……」

 

目の前で微笑む、ピトフーイからは店主、と紹介されたやたらガタイのいい男性プレイヤーに、レンは苦笑いで答えることしかできない。

 

ここは、『ガン・マリア』というお店のカウンター。

ピトフーイに引きずり込まれた挙句、店主を紹介されるやいなや、「じゃ、わたしはこれで」と言わんばかりに放り出され、店主に勧められるがまま、カウンターに座ったのである。

 

助けてよピトさん!?

そう念じてみるも、当の本人は《ショットガン》と書かれたショーケースの前で、

 

「ムッハーーー!?!?!? こぉれめっっっっちゃレアなやつじゃん!!!!!!」

 

とかなんとかいって、もはやこっちに目を配りさえもしないご様子。

 

「何が欲しい?」って聞かれても、私どう答えたらいいのか分かんないよ……。

きっとここで、「今武器を持っていない」なんて言ったら、私笑われるんだろうなぁ。

「いつ頃からやってるの?」とか聞かれたらどうしよう……それこそなんて答えたらいいのか……。

 

そんな不安と憶測が、駆け巡っては止まらない。

 

……するとその時だった。

 

「よしわかった」

「……んぇ?」

 

店主はそう言って、おもむろに、カウンターの下から椅子を取り出して座った。

そして顔をぐいーと下げて、レンと目線の高さを合わせる。

 

もちろんレンは戸惑う。

何かを言おうとしているが、結局パクパクしてるだけ。

 

そんなレンを見て、その店主は微笑みながら話してくれた。

 

「まず、レンさん……いや、レンちゃん、でいいかな」

「あっはい、そう……です」

「ん! おっけ、そいじゃーレンちゃん」

「は、はい……?」

 

あれ、この人、意外と話しやすい人……?

レンの中に、そんな感情が芽生える。

 

ただ、その感情は、一瞬で刈り取られてしまった。

 

「あなた、このゲーム始めて、割と日が浅いでしょ?」

「ん!?」

「え〜と、もともと使ってたのは二丁持ち系だね。ま、さしずめ《Vz61 スコーピオン》かそこらでしょ」

「えっあっ……ええ?」

「そいで、得意なマップはおそらく砂漠だね、敏捷系ならなおそうだろう」

「……!?」

「……で、今。武器を何も持ってない……よね?」

「……」

 

ニコニコしてそう話す店主に、レンは思わずポカーンとしてみてしまう。

 

あれ、この人、意外と怖い人……?

ついさっきと真反対の感情が、さっきより三倍増しで膨れ上がった。

 

「どっ……どどっ……どうして……!?」

 

つい反射で、そんなことを聞いてみる。

……すると、またもや感情をひっくり返すような言葉が、彼の口から飛び出てきた。

 

「ふふ……ごめんね、実は最初の質問、ちょっとしたひっかけなんだ」

「はい?」

「あの質問にね、例えば特定の銃の名前をだす人は、大抵ガンマニア」

「は、はぁ……」

「アサルトライフルとか、カービンとか、銃種をだす人は、まあ普通の人」

「ふむ」

「高威力だとか、高レートだとか、そういう性能のことをだす人は、割と競技志向というか、ガチ勢さん」

「なるほど……」

「で、ロマンとかいう人は変態」

「変態……!?」

「関わらないほうがいいよ」

「へっ……へぇ……」

 

あ、私そういう人しってるー。

レンはつい、そう口走りそうになってやめた。

 

すると店主が、一段と微笑んで机に肘をつき、体をぐい、と前に出す。

 

「でね」

「……?」

「レンちゃんのように……」

 

何を答えればいいのかわからくなって黙りこんじゃう人、ですよね。

レンは勝手にそう想像して、ため息をつきそうになる。

 

……だが。

 

「何かうまく答えようとして、逆に不安そうな顔してしまう人。そういう人は、割と初心者さん」

「ゔっ……」

 

想像していたよりはるかに刺し込んだ回答が、レンの心に刺さってきた。

 

あ、あれ〜、私、意外と感情が表に出ない人なんだけどな。

そんな考えが浮かんできて、レンは思わず苦笑いする。

 

「はは、リアルとのギャップに迷うよね、最初の頃は」

「え……あっ……!?」

 

そうじゃん、ここ、仮想世界じゃん。

レンは、いまさらすぎることを思い出す。

 

この世界では、自分の涙を無理矢理止めることはできないように、感情のセーブも現実世界と比べるとしにくくなる、とピトフーイに教わっていた。

 

「までも、あらかたあなたのことはわかったよ」

「は、はいぃぃ……」

 

ダメだ、この人に隠し事は絶対できないっ!!

そんな叫びが心の中でこだました。

 

もうさらけ出すものは何も無い。

 

……と思いきや。

一瞬、リアルの()()()()()()()()()()が頭をよぎる。

 

ははは、いくらなんでも、まさかこれだけはバレまいて……

レンは思考をかき消すように、心の中で首を振る。

 

「ふふ……かわいらしいね」

「あ、えへへ……」

 

店主が、一人、物思いにふけっている少女……いや、強いて言うなら幼女を見て、そう言いつつ微笑んだ。

対してその()()と言えば……

 

 

 

 

満更でもなく、照れていた。

 

 

それから、数分後。

 

「ふふ、じゃーさレンちゃん」

「は、はい?」

 

店主が微笑みを保ったまま、改めてレンに問いかける。

レンはその問いかけに、ぱっと顔を上げて答える。

 

ニコニコした店主の顔が、レンの視界いっぱいに映る。

レンが視線を見つめ返してきたのを見て、店主は少し、ニヤッとした雰囲気を含ませた笑みを見せる。

 

レンは少し変わった笑みを見て、どこか探るような目を見せるが、店主になにか言葉を発したりはしない。

 

……そして、しばらくの沈黙の後。

店主はこう、切り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かわいい銃、とかどうかな?」




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です……!!

大変お待たせ致しました。
キャンペーンキャラクターの準備をしてたらつい……(言い訳)

さて、皆様お気づきになられたでしょうか。
実はこの章から、原作SAOAGGOの時雨沢さん風な地の文になっていることを……

あの独特な敬語調まではいきませんが、レンの心情を地の文に追加してみました。
これ、どうですかね(笑)
是非意見を感想欄にて教えてください(笑)

今後ともよろしくお願いします。

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Episode86 分店 ~Branch~

ついに……登場!!(一部)


「こ、こんにちは……」

「いらっしゃいませー」

 

かわいらしい声と共に、小さな少女が小綺麗な店に入る。

 

入ってすぐ見えてきたのは、きらびやかに装飾された銃器の数々。

 

炎を模したペイントのアサルトライフル。

オモチャみたいな、緑と黄色、それに青をふんだんに使ったカラーリングのハンドガン。

 

ちょいと視線を動かしてみると、今度はなにやらちっこいアクセサリーが所狭しとならんでいる。

 

「ふぉぉ……!!」

 

それらGGOではなかなかみれない貴重で奇妙な代物に、その小さな少女、レンは目を輝かせた。

 

すごいなにこれめちゃかわいいあこれすごかっこいい……

見るところ見るところみんなかわいらしく、またかっこいい代物ばかりで、レンの心は感想が尽きることなく溢れかえる。

 

「うっほ〜!? こんなお店あるんだ!?」

 

すると、少し遅れてピトフーイが入ってきた。

こちらも同様、目を輝かせながら。

 

「うわぁ……よくこんなの作れるなぁ……」

 

そして店内を見回すや否や、ピトフーイは一つの銃をまじまじとみながらそう呟く。

 

「こ、こういうの作るのって、難しい……の?」

 

おや、あなたがそういうなんて珍しい。

そう言わんばかりの目をして、レンはピトフーイの隣に立った。

 

するとピトフーイは、レンを一瞬チラリと見た後、すぐまた眼前の煌びやかな銃に視線を戻し、熱く語り始める。

 

「レンちゃん……これは、ほんっとにお目にかかれない、相当貴重な代物よ」

「えっ、そ、そうなの?」

 

そう語るピトフーイに、異常なほど熱い視線を注がれている銃を見つめ、レンは息をのむ。

 

赤の下地に、金の龍がペイントされた、AK−47。

グリップからマガジンまで、ものの見事に赤く塗られ、そして煌びやかな金の点が散りばめられている。

 

確かに、こんなものは見た事がない。

ピトフーイでさえ見た事がないのだ、レンが見た事あるわけない。

 

「GGOのシステムはね……()()()()()を作るための機能なんて、はなから搭載されてないのよ」

「……ど、どういう……?」

「ようは、()()()()()()()()()()()()()()()なんてものはないの」

「……?」

「この世界のペイントカスタマイズでできることなんて、せいぜい()()()()()()()()()()()()か、何かの図形、マークをちょこんと入れられるくらいなのよ」

「……!?」

「こんなどでかい龍なんて、作り上げるのにいったいどれだけ時間がかかることやら。きっとこれ、図形を何百、いや何千枚も重ねて作られてるわ」

「な、何千!?」

 

わ、私またとんでもないとろにきちゃった!?

レンは、内心で悲鳴を上げる。

 

レンの何千倍もやり込んでるピトフーイがこんなこと言うのだ。

恐ろしいったらありゃしない。

 

すると、その時だった。

 

「それはだいたい……1週間くらいかかりましたよ」

「「へっ?」」

 

後ろから、いきなり声が飛んできた。

ピトフーイとレンは、二人揃って同時に振り向く。

 

「いやぁすみませんね。あまりにマジマジと見てくれるものだから嬉しくてつい」

「「……!?」」

 

するとそこには、糸目のこれまたニコニコした店主、と思われる男性キャラクターが立っていた。

体は細くも筋肉質で、糸目なのも相まってどこかほんわかしている。

 

「それは、赤基調の迷彩模様の一部を下地に、だいたい3千5百枚の四角と円の図形パーツを組み合わせて作ってあります」

「さ、さんぜん……!!」

「価格は……ごめんなさいね、ディスプレイ用に作ってあって非売品なので……」

 

ひばいひん!?

レンはいよいよもって頭がクラついてきた。

 

非売品になる物なんて、この場合はおそらく、あまりに高額すぎて市場に出回ったらまずい物、と言う意味だろう。

 

「こ、これ……欲しい……」

「は?」

 

ほしいぃ!?

レンはもはや、自分が正気でいるのかどうか定かではない。

 

いくらピトさんとはいえ、非売品を欲しがるわけがない。

きっと今のは聞き間違えだろう、何を勘違いしているのだ私は。

 

……と、思っていたら。

 

「値段にしていくら!?」

「え、ええ〜と、うーん」

 

どうやら頭がおかしかったのはレンではなく、ピトフーイのようであった。

 

 

「あ、なぁんだあそこの紹介か!! なるほどね」

 

それから、数分後。

何故かレンもお店側に回り、何とかピトフーイを諌めた後。

 

それで、なにかご要件で?

と問うてくれた店主の優しさに甘え、レンはやっと本題に入ることが出来ていた。

 

「この店、あそこの分店だからねぇ。来てくれて嬉しいよ」

「え、分店なんですか!?」

「そうよー? あそこの店主さんに色々お世話になっててね」

「そ、そうなんですか……」

「たまたまね、ペイントやその他装飾的なカスタマイズ専門店としてお店出してみたら……? って言われたんだ」

「は、はぇ〜……」

 

なるほど、道理でとんでもないわけだ。

レンは内心でため息をついた。

 

そんなレンを見かねてか、その店主はどんどん話を切り出してくれる。

 

「たぶん……あれでしょ、新しく銃を新調したから、何か個性を持たせたいーって、ここに来たんでしょ」

「そ……!! そうです!!」

「うんうん、だろうね」

 

レンは、今度は安堵のため息をつく。

今度は、心を抉られなくてすみそうであった。

 

 

「ギフトのやつ、やたら楽しそうだな」

「はは、そういう君だってニヤニヤしてるじゃないか、プルーム」

「な、た、タウイ!! べ、別にそんなこと……!!」

 

一方、店の奥。

 

この店にも設けられているレストスペースに、2人の男性プレイヤーが腰掛けて、やたら騒がしいこの店の店主、ギフトと呼ばれた男性キャラクターの方を見て、微笑んでいる。

 

プルーム、と呼ばれた方の男性キャラクターは、背中にHK416A5-11、後ろ腰にP228を装着した、最もベーシックな軍隊スタイルな装備。

ただ、最もベーシックとは言えど、見る人が見たら……いや、GGOを始めて少しした人なら見ればわかる、相当なカスタマイズが銃器のみならず、服装などにも施されていた。

 

対して、タウイ、と呼ばれた方の男性キャラクターは、背中には何も背負っていないものの、右肩から長く細い鉄の板らしきものを垂れ下げている。

そしてその板には、白線が適度に切られて描かれており、左上には大きく「タ」と書いてあった。

 

「しっかしあの子、ちぃさいねぇ。うちのライト君とひけをとらないんじゃない?」

「そうだなぁ……、までも、ライトはボス……いや、タスクとどっこいどっこいだから、あそこまで小さくはないかと」

「それもそうか……なんにせよ、珍しいね」

 

そんな会話をしつつ、2人はそれぞれの飲み物を啜る。

 

「あんなちっこいの、相手をするなんてことになったらたまったもんじゃない」

「はは、それは言えてる……な」

 

そして、プルームのぽつりとした呟きに、タウイは頷いて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ただ、その予感は、的中することになるのである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやぁ、アリシゼーション2期、いいですねぇ。
アリスの凛々しさと言ったらもう……!!
是非たるんだ僕の日常をお叱り頂きたいです……(*´﹃`*)デレデレ

!!!( ゚д゚)ハッ!!!
ごほん、ええー、大変失礼しました。

さて、本題に入りましょうか。
大変お待たせ致しました、今話より、ついに『ストーリーダイブ・キャンペーン』のキャラクターの登場になります!!

1周年記念としてスタートしたこの企画、気づけば2周年記念になってしまいました。
(おいこら、反省しなさい)

またそれにあたり、今話登場したキャンペーンキャラクター分の設定集の更新を行いました。
(未登場のキャラクターの情報はまだ開示しておりません)

読者さんが一生懸命考えてくれた、渾身のキャラクター達です。
是非御一読ください。

最近だんだん寒くなってきましたね。
皆様お体に気をつけてお過ごしください。

台風に関する被害を受けられた方々、いち早い復興を心よりこの作品と共にお祈り申し上げております。

では。

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Episode87 雪化粧 〜Snow makeup〜

「ふ、ふえっくしょい!!」

「おーおー、大丈夫?」

 

一面真っ白の雪化粧をした丘に、それぞれ大小のプレイヤーが座っている。

 

くしゃみをした小さな方は、89式5.56mm小銃とM26 MASSを背負い、H&K MP5とベレッタM12の二丁をぶら下げた挙句、右太腿にはデザートイーグルとワルサーPPK、左太腿にはコルトパイソンを取り付けた、STRの暴力な装備。

額にはどでかい赤いレンズのスノボゴーグルがひっついていて、これも装備同等いかつい感じ。

 

それに対し大きい方は、黒いニットキャップに青レンズのスノボゴーグル、さらに口元には青スカーフで、防弾チョッキと海軍迷彩柄のズボンを履いた、身軽な感じの全身青黒キャラクター。

 

手元にはやたらでかめなマガジンを装着したF−2000が携えられ、また後ろ腰には異様な色をした50cmほどの小太刀がついていた。

 

「うぅ〜ん、風邪引きましたかね、僕」

「それか、誰かが君の噂をしてるのかも」

「ええ!? どんな噂だろう……?」

 

そんな会話を、まるでそこが戦場フィールドである事を忘れているかのように、やたらいかついスノボゴーグル兄弟はしている。

 

「ま、ライトくんはかわいいから、きっと悪い噂じゃないよ」

「か、かわいいって……!! 僕、タスクの奴よりは大きいですからね!!」

「ふふ、そこだよライトくん、君がタスクくんよりかわいく見られるのは」

「そ、そこってどこですかレックスさん!?」

 

小さい方のライトは、大きい方のレックスの方へ、勢いよく首を振る。

だがレックスは、いつの間にかゴロンと仰向けに寝転がり、今にも寝息を立てそうな顔をしていた。

 

「ふわぁぁぁ〜……暇だなぁ、任務中って事を忘れそうだよ」

「そうですよレックスさん、今は任務中です!! 早く起きて!!」

 

ライトに無理矢理引き起こされ、レックスは危うく飛んでいきそうになりなる。

 

「まったく……どんなSTRにしてんだか」

「こ、これでも、まだタスクには……」

「はは、あの子はレベルが違うよ」

「むぅ〜!!」

 

すると、レックスのそんな一言に、ライトはプクーっと頬を膨らませた。

 

 

ギィ、ギィ!!

「お、おかえりー」

 

それから、数分後。

 

相変わらず昼寝直前の日向ぼっこに勤しんでいた2人の元に、一匹の()()が帰ってきた。

 

「どうだー? お目当てはいたか? スー君」

ギィー

 

レックスの問いかけに、飛び回って答えるスー君。

全身銀色の、プテラノドンのような姿の彼は、テイム主であるレックスに何かを必死に伝えようとしていた。

 

「ストイフくん、目標を見つけたっぽいですね」

 

そんなGGOでは珍妙な光景を、ライトは眺めつつそう呟く。

 

「そうだね、それじゃ、いこーか!!」

 

そしてその呟きに答えて、レックスは勢いよく立ち上がった。

 

「案内して、スー君。先に行って、上空を旋回飛行」

ギィー!!

 

それに加えて、レックスはそう、スー君……もといストイフという名のテイムモンスターに指示を出しつつ、ゴーグルのスイッチをつける。

 

「さ、行きますか!!」

 

それを見たライトが、楽しそうにゴーグルを額から目元まで下ろしてそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、スノボゴーグル兄弟は立ち上がり、()()()()()()を実体化させると、任務へと向かって白い斜面を滑っていった。

 

 

「僕に何の用だい、菊岡」

 

同刻。

現実世界の、とあるビルの一室にて。

 

店主、もといタモンは、珍しく菊岡に呼び出され、お店を(また)カチューシャに任せて、半ば嫌々ながらここに出向いていた。

 

「いやぁ、すまないね。ちょっと話したい事があってさ」

「話したい事?」

 

菊岡の言葉に、どこか違和感を覚えるタモン。

だからなのか、菊岡に自然と疑いの眼差しを向ける。

 

何だ? 最近は大人しくしているはずだが、また何か言われるのか?

そんな推測が、タモンの脳裏を飛び交っては消えた。

 

「はは、そんな目で見なくたっていいじゃない」

「ふ、こちとら何されるか分かったもんじゃないからね」

 

菊岡はこちらに笑顔を向けてくるが、やはりそこはタモン。

それに隠された()()()()()を、確実に感じ取っていた。

 

「まあ……もう少しだけ待ってくれよ」

「?」

 

すると、菊岡も菊岡で悟られたのを察したのか、息をついて背もたれに寄りかかる。

 

タモンはますます分からなくなってきた。

話したい事があるとかなんとか言っておいて、今になっては待てと言い始める。

 

まだやり残したカスタム依頼やら、今日届く予定のパーツやら、色んな心配事が頭を過ぎってはやまない。

 

「……はぁ」

 

ため息のひとつぐらいつきたくなるのは、実にもっともだった。

 

 

それから、数分後。

 

ガチャ

「いやぁすみません、遅れました」

「お、やっと来たね。」

 

どうやら菊岡が待っていたらしい人物が、そう言いながら部屋に入ってきた。

綺麗に整えられたスーツを着こなし、20代後半くらいの、少し太っていて、身長がだいたい175cm程度の男。

 

タモンはそんな男の姿を見ると、急に何かを思い出したかのように目を見開く。

 

「あ、あなたは……!!」

「こんばんは」

 

 

 

 

 

「三村さん!!」

 

 

 

 

 

「ええ、お久しぶりですね、タモンさん」

 

驚きを隠せないタモンとは逆に、彼に三村と呼ばれた男性は少し嬉しそうだった。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

やっとですね、やっと!!
キャンペーンキャラ総勢6人、登場させることが出来ました!!

何やら菊岡の策略も動き出したようで……
策略に巻き込まれていくキャンペキャラ達と、その先にまちうける『ピンクの彗星』との決闘やいかに……!?

乞うご期待!!

※設定集に関しては、少し遅れて投稿致します。
今しばらくお待ちくださいませ。

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Episode88 電話 〜phone〜

確かあれは、SAOから帰ってきた直後ぐらいだった。

菊岡とかいう男の事情聴取の後、もう一人、話を聞きに来た男がいたのだ。

 

名前は、「三村光」。

覚えが正しければ、この男は「サイバー対策課」という部所に属する、警視庁に務める立派ないち警察官だった気がする。

 

「どうしてあなたがここに……?」

「いやぁ、とんだご縁がありましてね」

 

その男……三村は、そう言ってはにかむ。

そしてそのまま、菊岡の隣に座った。

 

菊岡と三村はどちらともスーツで、対してタモンは普段着のような感じの服装。

なんだか居心地が悪くなってきたな、とタモンは苦笑する。

 

すると、三村が早速、と言わんばかりに鞄をあさり出し、そしてそれを見た菊岡が、満を辞したかのようにこう、話し出した。

 

「まずは……()()を読んでくれるかい?」

()()?」

「こちらです」

 

菊岡の言葉に首を傾げたタモンに、三村がわざわざ両手で()()()()を差し出す。

タモンはそれを受け取り、上から順に目を通す。

 

……そして。

 

「これは……!!」

()()には、これに協力してもらいたい」

「……!!」

「悪くない話だろう? タモン」

 

驚きの顔をしたタモンに、光の反射で目が隠れた菊岡がそう、切り出した。

 

その言葉を聞いて、タモンはすぐに我に帰ると、また疑いの眼差しで書面を見つめる。

少しの間を置いて二人を見つつ、眉間にシワをよせため息をつく。

 

そんな彼を見て、菊岡は言葉を捕捉的なニュアンスで割り込ませてきた。

 

「その計画は、()()()()()()()()()()ものだ」

「……!!」

「それと同時に、僕ら警察にも来たみたいで……」

「ふむ……ということはだ、菊岡」

「ん?」

「お前のいう、我々って……」

「そう、()()()のことだ」

「はぁ……」

 

一段と深い息をつくタモン。

それを見てにっ、と微笑む菊岡。

 

「協力……してくれるよな?」

「僕からも是非、お願いします」

 

まるでトドメのような言葉。

タモンは思わず書面から目を離し、背もたれによりかかって身を引いた。

 

この書面は、確かに我々にはまたとないチャンスだ。

ただ同時に、この書面の計画に乗っかれば、それ即ち菊岡の()()()()()()()管理下になってしまう。

 

それはなかなか許容しがたい事だった。

だいたい、それ以前にだ。

 

「……」

「どうしたタモン、何か迷うことでもあるのか?」

 

黙り込んでしまったタモンに、菊岡が白々しく疑問符をかけてくる。

するとタモンは、その言葉を聞いて、何かが切れた気がした。

 

同時に、ぎらりと菊岡を睨む。

菊岡は思わず身を引く。

 

「だいたい、それ以前にだ、菊岡」

「っ……!?」

「この話、きちんと()に通したんだろうな?」

「……!!」

 

すると菊岡は、タモンがそう問うた瞬間、しまった、というより、バレた、といったような顔をした。

 

それを見たタモンは、書面をぺっ、と机に投げる。

 

「そもそも彼に話が通っていないのなら、この話には我々は乗らない。我々のボスは彼だ。彼が我々の動きを決める」

「だ、だがなタモン、彼はまだ()()()なんだぞ」

「それ以前に、彼が僕らの()()なんだ。すまないな菊岡」

「ど、どうして君はいつもそうやって……!!」

「呆れるなら呆れればいいさ、僕は僕のボスに従っているだけだ、自衛官としてそれくらいは分かるだろ」

「ぐ……!!」

 

明らかに焦っている菊岡に、いつになく怒ったタモンは毅然と言い返す。

 

何度も彼……タモンと話してきた菊岡は知っている。

こうなってしまった彼はもう、なだめすかす事は不可能なのだと。

 

こちらが譲歩しなければ、そもそもこの計画自体が頓挫してしまう。

仮に失敗した時、依頼した団体が「()()()()()()()()()()()」なんて事が発覚したら、タダじゃ済まされない。

 

でも……彼らはそれでも頼む価値があるのだ。

ここはこちらが折れるべきだ、菊岡はそう悟った。

 

「わ、わかったよタモン、今から電話でいいかな、電話越しに彼と話させてくれ」

「…………」

 

タモンはそれでも納得いっていなかったようだが、黙々と携帯を取りだし、彼……タスクに電話をかけた。

 

 

「……で、あの電話でこちら側に編入を希望してきたプレイヤーが、あの人ですか」

 

数日後。

GGOの店主の店、『ガン・マリア』にて。

 

カウンターに座ったタスクは、奥に立つ店主にそう、問うていた。

 

「そ、名前はコルト、コードネームは、ベネットだよ」

「ふーん……」

 

店主のその囁きを聞き、タスクは頷きながら丸椅子を回転させ、スタッと飛び降りて立つ。

 

そしてそのまま、てこてこと奥のテーブル席に座る男……コルトの前まで行くと……

 

「こんにちは、コルトさん。これからよろしくお願いします」

「えっ……あっ、ああ」

「僕の名前はタスクです。コードネームは……」

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

「!?」

 

コルトが驚いて目を見張ったのは、言うまでもないだろう。




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Episode89 求められているもの 〜What is sought〜

「視察?」

「そう」

 

初めてビック・ボスと会ってから、数日後。

ベネットは、店主に「任務がある」と呼び出されていた。

 

「し、視察って言っても、いろいろあるじゃないか」

「うん、そうだね」

「場所? それとも何かの組織? それ次第では、ガラリと話が変わっ……」

「えっとね、ベネットさん」

「……?」

 

ただ一言、視察と言われても。

そう言わんばかりのベネットを、店主は微笑みを保ったまま、言葉を制した。

 

ベネットは、微笑みが一切変わらない店主を見て、ますますわからなくなる。

すると店主は、一呼吸を置いた後、ゆっくりとした口調で話し出した。

 

「行き先は、()()なんだよね」

()()……?」

「そう、ようは、()()()さ」

「……!?」

 

あまりの意外な回答に、ベネットは言葉を詰まらせる。

 

すると店主が、カウンターから出てきて、ベネットの座るカウンターの隣の席に座った。

ベネットは、自然とそちらの方向へ椅子を回す。

 

「確かに、あなたは強い。流石は、警察としてこの殺伐としたゲームの監視を任されるほどだ」

「……!!」

「ここ数日だけ見ていてもわかる。初期からの古参プレイヤーとして、実に素晴らしい強さをあなたは持っている」

「……?」

「……でも、僕らに求められるものは、そういうんじゃないんだよね」

「っ……!?」

 

店主の声が、心なしか低くなったように聞こえる。

同時に、目つきも険しくなった気がした。

 

「じゃ、一体求められているものってなにか、というとね。それは、自分で気づかなきゃ意味がないんだ」

「だ、だから……?」

「そう。それら求められているものを、既に持っている人達を見て、気づいて欲しいんだよね」

「……!! 分かりました」

 

するとベネットは、そんな店主の言葉を聞いて、そういうことなら、とコクリと頷きながらそう答える。

 

いくら(おそらくは)最古参とは言え、自分はここではまだ新人。

実に警察官らしい自律心が、そこにはあった。

 

 

 

 

……加え、菊岡に常々言われていた、

「彼らは、()()()()()()」という言葉。

 

その言葉の真意も、確かめてみよう。

そんな探究心も、少し混じっていた。

 

 

それから数十分後。

 

ベネットは、店主に「まずは今日、ここにいる2人を見てみて」と言われた場所へと、やって来ていた。

 

そこは、赤茶色の大地が広がるエリア。

初心者が肩慣らしに来たり、玄人が銃の試射をしたりする、ようはおまけステージのような所。

 

「おーい、こっちこっちー!!」

「あっ……!!」

 

するとその時、ベネットを誰かが背後から呼んだ。

その声に反応して振り返ると、すぐそこに2人のプレイヤーが立っている。

 

それを見たベネットは、早足でその2人の所に寄っていく。

おそらく彼らが、店主の言う2人であろうからだ。

 

「あなたが、ベネットさん?」

「あ……はい、そうです」

「そっか、僕はラクス。店主から話は聞いてる、会えて嬉しいよ」

「ど、どうも……」

 

すると、それに合わせてラクス、と名乗ったプレイヤーが、気さくに声をかけてくれた。

ベネットは、ある種安心して、その声に答える。

 

するとラクスは、バラクラバ越しでも分かる笑顔をニカッと向けると、ふいと振り返って後ろのプレイヤーに声をかけた。

 

「さてカチューシャ、始めようか」

「……ああ」

 

カチューシャ、と呼ばれたプレイヤーは、ラクスの言葉に一言相槌を打つと、のそのそと歩いていく。

 

するとそれを見ていたラクスは、なんだか申し訳なさそうにベネットに話しかけた。

 

「いやぁ悪いね、あいつ極度の人見知りでね」

「そ、そうなんですね……」

「中身は良い奴だから……そうだな、一度一緒に任務に出てみれば分かると思うんだけどね」

「は、はぁ……」

 

そんな話を聞いたベネットは、この人達、連携とかどうしてるんだろう、と実に古参らしい疑問が浮かび上がってくる。

 

……だが、彼がここに来たのはそういった疑問を解消するためではない。

ベネットは気を取り直して、彼ら2人がしようとすることを、注意深く眺めた。

 

「……ここでいいか」

「うん、少し待ってて」

 

すると、ラクスはそこらへんに転がっていた机を持ってきて、カチューシャの正面に配置する。

 

そして左手のウィンドウを操作した。

すると……

 

「……!?」

 

びっくりする量の銃が、机の上に次々と生成されていった。

 

それも、ハンドガンやらアサルトライフルやら、はてはスナイパーライフル、ロケットランチャーまで、多種多様な銃種。

 

これで一体何を?

そんな疑問を抱えながら、ベネットは黙って見ている。

 

すると最後に、ラクスは意外なものを取り出した。

 

「よいしょっと……ほい、やるよ」

「おう。」

 

それは、たまに見る録画用のアイテム。

ラクスはそれを起動し、自分の頭上に浮かせて配置した。

 

「……よし」

 

すると今度は、カチューシャが左手のウィンドウを操作し始める。

そして出てきたのは、これもまた意外なもの達だった。

 

まず出てきたのは、下が大きなそりになった銃座。

バラバラのパーツを組み立て、どしん、と地面に置く。

 

そして次に取り出したのは、何やら鉄板を重ねたようなもの。

カチューシャはそれを、組み立てた銃座の上についた金具に置くと……

 

「よっこい……しょ」

 

そんな事を言いながら、()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

もちろんベネットは、驚いて目を見張る。

こんなもの、見たことなんかないからだ。

 

カチューシャは、まず最初に板を横に展開する。

ガチャ、ガチャ、と重厚感ある音。

 

すると今度は、左右に広がった鉄板を、全体的に上にあげた。

内側に固定金具がついているのか、今度はバチン、バチン、と音がする。

その後下にも、カチューシャは思い切り、板の下部分を掴んで引き下げた。

そしてまた、固定金具らしき音がたつ。

 

そうして一通り板を広げた後。

 

ベネットからはもはやカチューシャの姿が見えないが、代わりに板の真ん中の穴から、2本の銃身が伸びてきた。

 

そしてその瞬間。

 

「ラ、ラハティ……!! それにブローニング!!」

 

ベネットは思わず感動して、声を出してしまった。

 

あの二本の銃身は、確かに見覚えがある。

GGOに実装されている、と聞いてはいたものの、なかなかお目にかかれなかった超一級の2品だ。

 

このGGOで唯一、20×138mmB弾を使用する、アンチマテリアルライフルの中のアンチマテリアルライフル、《ラハティ L-39》と、現実世界で1933年に生産されてから、今でも絶大な人気を誇る伝説の名機関銃、《ブローニング M2》。

 

そしてそれを際立たせる背景かのように、堂々たる大きさの防弾シールドと、薄く切り抜かれた覗き防弾窓。

 

まさに、「()()」。

ガンマニアなベネットにはたまらない光景が、そこにはあった。

 

「ふおおぉぉぉ……!!」

 

目を輝かせているベネットをしり目に、カチューシャのガジェットの完成を見届けたラクスは、頭上に浮いていたアイコンをポチ、と押す。

 

そして並べられた銃の名前、使用弾薬を一言も噛まずに羅列し、最後にテストナンバー29、と言い終えると……

 

 

 

 

 

 

それら全ての銃の弾倉一つ分の弾薬を、カチューシャ目がけてぶち込んだ。




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Episode90 個性 〜Individuality〜

「ふわぁ〜……」

 

店主が、『ガン・マリア』のカウンターで、退屈そうに欠伸する。

現実世界ではもう夜なのか、客がほとんど来ないからだ。

 

店主はあまりに暇なので、もうお店閉めちゃおうかな、なんて考え始める。

 

するとちょうどその時。

 

「ただいま戻りました」

「あ、おかえりー」

 

ベネットが、視察から返ってきた。

店主は、彼の姿を見ようとカウンターから出る。

 

そして中央の通路から歩いてきた彼の顔を見ると。

 

「……!!」

「……」

「『答え』、見つけてきたみたいだね」

「……ああ」

 

ベネットの言わんとしている事を悟り、微笑んだ。

 

 

「……で、どうだった?」

 

その後、店主が二人分のコーヒーを入れ、カウンターに並んで座ったところで、店主はそう、話を切り出した。

 

それに答えベネットは、ゆっくりと話し出す。

 

「あなたに言われた通り、今日一日、いろんなプレイヤーを見てきた」

「……うん」

 

そう、実は、ラクスとカチューシャのテストを見終えたあの後、ベネットは、次から次へと傭兵達を見て回っていた。

 

電気工学に長けたプレイヤーや、4匹の銀龍を操るプレイヤー。

緑のドローンを操るプレイヤーに、ヒビ割れがひどいようにしか見えないゴーグルを使いこなすプレイヤー。

中にはお店を開いているプレイヤーもいた。

 

「今まで見たことがない、素晴らしいプレイヤーばかりだった。驚かされてばかりいたよ」

「……ふふ」

「同時に、俺はなんて狭い世界を見てたんだろう……って思った」

「……!!」

 

その時、店主は素直に驚いた顔をしてベネットを見る。

最古参の彼がそんなことを言うなんて、と。

 

……ただ、言われてみれば至極当たり前の話だ。

()()()のプレイヤー達とは、もはや乖離しているのが彼らなのだから。

 

ベネットは、そんな店主の驚き顔を気にもせず、話し続ける。

 

「菊岡の言う通りだった。ここの人たちは皆、()()()()()()

「っ!? あいつ……!!」

「確かに俺は……基本的な能力には自信がある」

「……うん」

「でも、店主さんがいる世界は、それじゃ通用しないんでしょう?」

「……!!」

「で、そう思った時に分かったんだ。あなた方に共通していて、なおかつ俺にはない、すなわち、『求められているもの』が」

「……!!」

 

するとその時、ベネットが椅子を回して店主を正面に見据えた。

店主は、それに応えて体を向ける。

 

そして……

 

 

 

「俺に足りないもの、それは『固有ガジェット』、だろう?」

 

 

 

「ふふ……正解だ」

 

そう、店主に問いかけた。

すると、店主は満足そうに頷いて笑う。

 

どうやら彼は、正しい答えを導き出せたようであった。

 

 

「あ、あの……」

「……?」

 

それから、数日後。

 

『ガン・マリア』のカウンター席の後ろにあるテーブル席に座っていたカチューシャに、ついこの間見た顔のキャラクターが話しかけてきた。

 

「カチューシャさん……ですよね」

「あんたは……たしか、ベネットだったか?」

 

そう、ベネットである。

 

「そうです。先日はありがとうございました。お休みのところ恐縮なんですけど、お話を聞いてもらっても……?」

「……ふ、まぁ座れよ。あと敬語はいい」

「……!!」

 

ベネットのあまりのぎこちなさに、カチューシャが(ヘルメットの中で)苦笑する。

 

対してベネットはカチューシャの言葉にあやかり、カチューシャと対極の席に座った。

 

「それで? 話ってなんだ」

「あ、ああ、それなんだけど」

「……?」

「今、俺の固有ガジェットを作ろうとしててさ」

「ああ……あんた最近入ったんだっけか」

「そうなんだ。それで、俺のやつはこれなんだけど……」

 

そう言うと、ベネットはおもむろに左手を動かし、カチューシャにメッセージを送る。

カチューシャはそのメッセージを開き、中に添付されている画像を開く。

 

「こ、これは……!!」

「……」

 

するとそこには、『エイミングシールド』と名のついた、一枚の設計図があった。

 

彼のメインウェポンであるG36Cの特殊ハンドガードに、大きなシールドがついている。

そのシールドは、上と左右に広がっており、全面が透明。

また、設計図の脇には「使わない時は取り外し可能」と書いてあった。

 

「見ての通り、これはあなたの固有ガジェットから着想を得たものだ」

「……!!」

「あなたの固有ガジェットは素晴らしかった。そしてそれと同時に、こう思ったんだ。「これを小さくしたら、室内戦に有利になれるんじゃないか」ってね」

「なるほど……いい考えだ」

 

カチューシャは、設計図を食い入るように見つめている。

そんな彼は、ヘルメットでよく分からないが、どこか楽しそうだった。

 

するとしばらくした後。

今度は彼が左手のウィンドウを動かし始める。

 

ベネットは、それを見て首を傾げた。

 

「カチューシャ?」

「まあ待て」

「?」

 

するとカチューシャは、用が片付いたらしく、左手のウィンドウを閉じ、設計図をまた一目見たあと、ベネットを見据える。

 

そして一言、こう、ベネットに笑いかけた。

 

 

 

「こういうのは、()()()()()()()()()()に聞いた方がいいだろう?」

 

 

数分後。

 

「ようカチューシャ、メッセージで言ってたのはこの人のこと?」

「あなたから言われることなんて滅多にないから、とんできたよ」

 

そんなことを言いつつ、2人の元に、2人のプレイヤーがやってきた。

2人ともベネットが視察に行かなかった人達なのか、初めて見る顔だ。

 

「そうだ、名前はベネット。最近入った」

「ベネットさんか、よろしく。俺はフォートレス」

「僕はプルーム。ポイントマンをしてる」

 

すると、カチューシャがベネットの名前を言い、2人はそれに準じて挨拶をしてきた。

 

ベネットは、2人の気さくさに正直驚いたが、慌てて言葉を返す。

 

「あ、よ、よろしくお願いします。ベネットです」

「はは、いいよそんな敬語なんて」

 

プルームが、ベネットのあまりの丁寧さに、思わず吹き出して言葉を制した。

 

するとカチューシャが、呆れたように言葉を付け足す。

 

「さっきも言ったが、敬語はいらない。連携の時に邪魔になる」

「……!!」

「俺たちはある種、連携して真価が発揮される。そのために個性を尖らせてるんだ」

「な、なるほど……!!」

「もちろん、個性を尖らせればその分弱点が顕著化する。だから逆にそこを尖らせた仲間の個性がカバーするんだ」

「……!!!!」

「そしてそのためには、皆が平等でなければならない。ボス以外はな」

 

なるほど、とベネットはカチューシャの言葉に頷く。

確かに、カチューシャの言うことには一理あるからだ。

 

現実世界では、警察という大きな組織の中で、個性は徹底的に否定されてきた。

だが彼らは、逆にその個性を逆手にとって、大きな組織を成り立たせている。

 

よくもまぁ、こんなことができたもんだ。

そんな感嘆符が、心の中で浮かび上がってくる。

 

そして同時に、もう一つの言葉が浮かび上がってきた。

菊岡の言った、あの言葉。

 

 

 

 

 

「彼らは、()()()()()()

 

確かに、そうだな。

ベネットは、そう、心の中で頷いた。




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Episode91 吉と出るか、凶と出るか。 〜Is it good or bad?〜

「……で、どうなりそうですか」

「んー?」

 

廃墟の鉄骨に腰掛け、デザートイーグルをくるくる弄ぶタスクが、そう店主に問う。

 

対して店主は、タスクの真下に積み上がった瓦礫の上にどっかりと座り、こちらもまたシングルアクションアーミーをクルクルと回して楽しみつつ、さも退屈そうに声を返した。

 

すると、それを聞いたタスクが呆れたように言葉をつけたす。

 

「《例の計画》の話です。もちろん、『スクワッド・ジャム』を利用するんでしょう?」

「ああ……そのこと」

 

そしてその言葉を聞いた店主が、上を向いて笑った。

タスクは相変わらず真顔で店主を見下ろしている。

 

「大丈夫、準備はほとんど終わってるよ」

「ほう」

「あとはメンバーの発表と目標を伝えるだけ」

「……ふむ、最近入った彼の固有ガジェは? 彼もメンバーでしょう?」

「ああ……あれは心配ないよ。プルームさんとカチューシャさん、それにフォートレスさんが協力してくれてるし」

「……そうですか」

「うん、準備万端ってとこさ。待ち遠しいくらいだよ」

「はあ……」

 

すると、店主の言葉を聞いたタスクは、店主から目を外し前を見て、ぐぐっと眉間にシワを寄せる。

その顔は、どこか不安そうであった。

 

そんな顔を見て、店主はタスクに声をかける。

 

「どうしたんだい、そんな、不安そうな……」

「い、いえ……」

 

するとタスクは、店主の言葉に首を振って応えた。

……のだが。

 

「…………ボス?」

「っ……!!」

 

店主の絶妙な間と、その後に繰り出されだ呼び名に、タスクは黙っていることが出来なかった。

 

「その……ね」

「?」

「確かに、《例の計画》は素晴らしい。あれが成功すれば、僕らの至上命題が達成されるのはほぼ確実です」

「う、うん……」

「でも……逆に、あの計画に使われている《革新的な技術》は、悪用される可能性だってあるわけで……」

「……!!」

「もし仮に悪用されたら、それこそ僕らの至上命題と真反対のことが起きてしまう。現行VRゲームの、ほぼ全てが破壊されてしまう」

「そう……だね」

 

タスクの悲しそうな目を見て、店主も思わず下を向く。

 

実はこの事は、店主も菊岡に話を持ってこられた時、ちらりと頭によぎったのだ。

()()()()、そしてそのために開発された、あの()()()()()()

 

現状、この計画や技術の存在を知るものは数少ない。

それこそ、悪用を防ぐためである。

 

ただもし、この計画が実行され、あの技術が投入された時。

VR界隈は、ひどい混乱状態に見舞われるだろう事も、容易に想像できてしまうのだ。

 

成功か失敗か以前に、投入しただけで混乱は確実。

それがもし失敗なんてことになったら。

 

そんなこと考えたくもない。

 

でも……それでも。

この計画は、そしてこの技術は、VRという、素晴らしい世界を救える、1つの鍵になれる。

 

そう思い、タスクと店主はこの計画を受諾した。

……のだが。

 

「やっぱり、不安です」

「……!!」

「良い使い方ができるよう、最前の努力は惜しみません。でも……」

「うん……」

 

 

 

 

 

 

タスクの言葉に続く言葉は、容易に想像できた。

ただ店主は、あえてそれは口に出さなかったのである。




今回は少し短めでした。
次回より、いよいよスクワッド・ジャムへ動き始めます。

お楽しみに。

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Episode92 証明 〜Proof〜

「『スクワッド・ジャム』ですか」

「そう」

 

店主の店、『ガン・マリア』のカウンターに、6人のプレイヤーが座っている。

右からプルーム、タウイ、ギフト、レックス、ライト、そしてベネットだ。

 

「大会があるのは知ってますけど、それに僕ら、出るんです?」

「そう」

 

プルームが、いささか疑問調で店主にそう言う。

その言葉に、隣の4()()はうんうんと頷いた。

 

自分達は裏世界プレイヤーなのだ。

なぜ、そんな陽の当たる所に行かねばならない?

実にそう言いたげである。

 

ただ店主は、そんな気持ちをまるで見透かしているかのように、言葉を返した。

 

「いや、というのもね」

「……?」

「最近、組織的に動く連中が増えてきたんだよね」

「組織……」

「今まで、二人一組で行動してもらってはいたけど、それもだんだん厳しくなってきているのも現状だ」

「……ふむ」

「だから今回、なるべく無作為で選んだ6人……つまり君達を、言わば試してみたいんだよね」

「……ほう?」

 

するとその時、6()()はあからさまに「試す」という言葉に反応を示した。

 

店主はそれを見て微笑む。

 

「僕ら裏世界プレイヤーは、各々『固有ガジェット』なるものを持ってるよね」

「は、はい」

「それは言ってしまえば、『個性』。現実世界の特殊部隊を想像してみてよ、あういうのって、徹底的に『個性』を否定されるでしょ」

「……」

「でも、僕らは違う。お互いの『個性』を活かしあって、部隊として機能できるはず」

「……!!」

「現実的じゃないかもしれない、まず不可能、そんなことは百も承知だ。僕が求めるのはそれを否定し、存在しえることの証明なんだよ」

「証明……!!」

「それを、君たちに任せてみたい。だから言ったんだ、『試す』とね」

「……!!」

 

店主の言葉に、5()()は言葉を詰まらせる。

 

ようは、現実世界ではありえないこと……()()()的な事を、やってみろ、と言われているからだ。

 

……だが、そこは流石、()()()()()()()()

 

「分かりました、任せてください」

「……!!」

 

プルームの一言に、他5()()が頷いて店主を強く見つめる。

各々、決意を店主にぶつけるかのように、鋭く力強かった。

 

「……よし、任せた」

 

そして店主はそう言い、笑った。

その笑顔は、少し嬉しそうでもあった。

 

 

それから、すぐ後。

彼ら6人は、早速作戦会議に取り掛かっていた。

 

「そもそも、スクワットジャムまであと何日?」

「えーと……あと3日? くらい?」

「なるほど……」

 

そんな会話が、カウンターで弾んでいる。

するとそんな中。

 

「そういえば、目標ってどーします?」

「ん?」

 

不意にライトが、そう呟いた。

それに反応して、レックスがライトの方を向く。

 

「そ、そりゃぁ、優勝でしょ」

「ま、だろうね……」

 

そしてギフトが言葉を差し込んで、タウイがその言葉に相槌をうったその時。

 

「あ、そうそう、それに関してなんだけど」

「?」

 

いきなり店主が、レジの方から声をかけてきた。

6人全員、カウンターの机から、奥の方を覗き込む。

 

すると店主は、そんなある意味滑稽な光景に微笑みつつ、言葉を続けた。

 

「優勝はもちろんだけどさ、もう1つ達成してほしいことがあるんだよね」

「も、もちろんなんだ……」

「しー! 静かにライト!!」

 

つい言葉を漏らしたライトを、レックスがおさえる。

そしてそんな彼らをしり目に、プルームが聞き出た。

 

「……して、もう1つの目標は?」

「うん、それはね……というか、優勝は()()()()()()()だから、これがただ一つの目標……否、『任務』と言っても過言ではないかもね」

「っ……!?」

 

あまりの店主の言いように、6人はまた言葉を詰まらせる。

そして店主は、あくどい笑顔を彼らに向けると……

 

「最近さ、『ピンクの悪魔』って人がいるじゃない?」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

「君達の任務はただ一つ。あの子の首を……狩る事」

 

そう、言い放った。




【次回】
『スクワッド・ジャム』、開幕。

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Episode93 僕らの良さ 〜Our goodness〜

2026年 2月1日。

遂にこの日がやってきた。

 

記念すべき第一回『スクワッド・ジャム』、開催当日である。

 

この日、実に多くのプレイヤーが、SBCグロッケンの一角、大通りに面した大型酒場に集まっていた。

 

ただ大型酒場といっても、それはあくまで母体の話。

テナント、という扱いなのかはわからないが、喫茶店やらレストランやらが入ってるし、なんなら隣のショッピングモールと繋がってさえいる。

 

言わずと知れた、人気スポット。

初心者から上級者、誰もがたまには訪れたくなる、殺伐とした世界観から切り離された、娯楽の場所であった。

 

「いやぁ~、楽しみですな」

「ま、チーム戦なんてなかったからなぁ」

 

今日、そんな人気スポットは、史上最高レベルの大盛況を誇っていた。

なぜなら、ここが『スクワッド・ジャム』の大会本部だから。

 

参加者は転送開始時間までにここに集い、その時を待つことになっている。

それに加え、このイベントはここでしか中継されないため、観客も自然とここに集う訳だ。

 

「でかいスクリーンはどこだ!?」

「あ、あれとかどうだ!!」

「よしみんな、あそこの最前列を……!!」

 

したがって、そんな争いもあちこちで起きている。

 

現在時刻、13時40分。

『スクワッド・ジャム』開始まで、あと10分。

 

 

「あと10分切りましたね」

「りょーかい!」

パシン‼︎

 

大型酒場の一角。

ゲームコーナーにて。

 

6人の男達が、2つ並んだ的に3人ずつ別れ、ダーツに勤しんでいた。

身長はみんなバラバラ、でも体格はみんなガッチリしている。

 

「実体化はともかく、アイテム欄の確認ぐらいはしておくか……」

「そうだな、俺も不安だ」

 

自分以外の人がダーツを投げている間、他の男達は、左手のウィンドウを凝視する。

 

注意深く、念入りに。

戦闘時、「あれがない!?」なんて間抜けなことにだけはなりたくないようだ。

 

そして……もう、おわかりであろう。

そう彼らは、()()()()()()()()()、6人である。

 

「ん〜……まあでも、ここに来る前に確認したしなぁ」

「万が一なくても、ショッピングモールが真隣にありますしね」

 

その6人のうちの2人……ギフトとベネットがそう言って、退屈そうにウィンドウを閉じる。

 

すると、ダーツを投げ終えた別の2人、レックスとライトが戻ってきた。

 

「はい、次はベネットさんですよ!!」

「「……」」

 

ニカッと笑ってダーツを差し出すライトを見上げ、ソファーに座ったベネットと、ついでにギフトは、笑いつつもため息をつく。

 

「緊張……とかないんですか」

「てかあと数分後だし……」

「ええ〜?」

 

それに対し、ライトは相変わらずの笑顔で首を傾げて見せた。

 

「ええ〜、別にそんな、心配する要素ないじゃないですか!!」

「うんうん、ライトの言う通り。楽しんだもん勝ちだよ、こういうのは。なー、コー君!!」

ギィー

 

すると、ライトの言葉に乗じて、次の番であるプルームにダーツを渡し終えたレックスが、タイムモンスターのコー君、もといスコーンを肩に載せながら近づいてきた。

 

「うわぁ!! こ、怖い〜!!」

「はは、ほれコー君。行っといで〜!!」

「ちょっ、待っ……ああ〜!!」

 

元々動物が苦手らしかったギフトが、コー君を見るや否や体を引いて怯える。

 

するとレックスは、それを面白がり、肩からコー君を飛び出させ、そのままギフトの胸元へと()()()()()

 

ギィー!! ギィー!!

「ひいい〜!!」

「あっはは!!」

 

コー君も面白いのか、ギフトの太ももの上で、グルグル歩き回っては鳴いている。

それを面白がり、レックスは腹を抱えて笑っていた。

 

 

「ギフトのやつ、やたら楽しそうだな」

「ま、これが()()()()()だよ」

 

一方、ダーツに向かうプルームと、タウイである。

 

彼らは、銀龍と戯れて笑い転げる4人を遠目で見つつ、迫るスタート時間を待っていた。

 

「まあそうだが……大丈夫かなぁ、あんなんで」

「はは、緊張しすぎだよプルーム」

「!!」

 

すると、タウイの一言にプルームの動きが止まる。

 

「大丈夫。確かに、気を抜きすぎも良くないけど、あんなことやっててもちゃんと強い人たちさ。なんたって彼らは……」

「裏世界プレイヤー……か」

パシン!!

 

そしてその後、タウイの視線を受け、プルームは、続きの言葉を口にした。

それと同時に、気持ちのいい音を立て、プルームは的のど真ん中を見事にダーツで撃ち抜く。

 

 

 

 

 

 

「今日は頼むぜ、旗艦(リーダー)

「この艦隊(スクワッド)に勝利を」

 

そしてプルームがそう呟いて、それに反応しタウイがグラスを掲げた直後。

 

 

 

 

 

『スクワッド・ジャム』開始のファンファーレが、鳴り響いた。




次回、『スクワッド・ジャム』開始。

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Episode94 砂漠か街か 〜Desert or city〜

プレイヤー達が待機ルームへ転送され、10分の後、スクワッド・ジャムが始まった直後の大型酒場。

 

「始まりましたね、スクワッド・ジャム」

「そうだねぇ、楽しみだ」

 

タスクと店主が、2人カウンターに並んで腰掛け、観客としてディスプレイを眺めていた。

 

「割と……均等にって感じですね」

「BOBのシステム……なのかなぁ、流用したっぽいね」

 

各チームの初期リスポーン地点が、大きなメインディスプレイの隣の小型ディスプレイに、各チームの空撮に混じって表示されている。

 

森あり、街あり、砂漠ありの、大型としては典型的なフィールド。

そこに、各チーム一定の距離を保って配置されていた。

 

ただ、高低差がある所は、有利不利を考慮してか、少しズレたり、距離を伸ばし縮めしてある。

 

()()はどこですかね。ど真ん中じゃなきゃいいんですが」

「ふふ……あ、あそこだ」

 

そんなマップを眺め、タスクがずいと体を前に倒し楽しそうにディスプレイに見入る。

それに応じて、店主がディスプレイを見やり、すぐその()()を見つけた。

 

中央から右下。

砂漠と市街地の境界線辺り。

 

「うわぁ、これ、彼らどっち行きますかね」

「ん〜? ふふ、どうなんだろう」

 

あまりに極端な配置に、2人とも楽しそうになっていた。

 

街か、砂漠か。

どちらも危険な区域である。

 

至近距離か、超遠距離か。

どちらも恐ろしい死角である。

 

「まぁでも……チームメンツ的に」

「そうでしょう……ね」

「彼らが選ぶのは……」

 

……ただ、2人にはもはやお見通しのようであった。

彼らが選ぶのは、そう。

 

 

 

 

 

「『街』……だろうね」

 

 

 

「プルーム、ライト、頼むぞ」

「了解」

「はぁい!」

 

一方、こちらはSJフィールド。

裏世界プレイヤー達。

 

店主らの予想通り、彼らは、『街』へ入ることにした。

 

理由は簡単。

街なら、各チーム隠れ家を求めて集まってくるだろうし、せっかく近くに湧いたんだから、先手を取るのが定石だからだ。

 

「一応気をつけて。街のど真ん中にスポーンしてる連中がいるかも」

「わかった」

 

リーダーのタウイから、プルームの耳元の通信アイテムに淡々とした指示が飛んでくる。

 

プルームとてベテランだ。

ポイントマンとして死んだ数だけ経験がある。

 

「ブービーかかるか頭抜かれるか」

「それでも我らは逝かねばならぬ〜♪」

 

プルームの言葉に、その後ろのライトが鼻歌調子で付け足した。

 

「そうか……なら突撃は頼むぞ」

「ええ〜!?」

 

おちゃらけに乗じてやり返されたライトは、やられたと言わんばかりの声を上げていた。

 

 

「こちらに2名……近づいてくる敵影が」

「……?」

 

こちらは、とあるビルの高層階。

 

基本的な装備で固めた狙撃手が、リーダーと思しき男に声をかけていた。

 

「……あれはポイントマンだな。とすると、後ろに本隊がいるはずだ」

「んー……あ、いました、奥の建物。連中、割と大胆ですね」

「ふん……いくら強者とて、所詮はゲームか」

「……」

 

すると、リーダーと思しき男は狙撃手の言葉を聞いて、ふん、と鼻を鳴らす。

狙撃手の男も、少し笑ってスコープを覗いていた。

 

「現実世界じゃ、通用しないですよね」

「……この世界を訓練に使えとは。()()()も目が鈍ったか」

 

そう、彼らは本職の自衛官。

()()()()()に頼まれ、SJに来てみたのだが……

 

「こんな調子の連中ばかりなら、このゲームは我々がとったも同然だ」

「……ですね。どうします、下の別働隊に対応を?」

「そうするとしよう」

 

眼下のプレイヤーの動きを見て、なんだか気が抜けてしまったようであった。

 

ただ、彼らは分かっていなかった。

その()()()()()が何故、彼らに行くよう指示したのかを。

 

そしてそれが仇となって、

()()』を受けることになるのである。

 

 

数分後。

突如ブッパし始めた「全日本マシンガンラバーズ」を全滅せしめた後。

 

リーダーの淡々とした声が、通信アイテムに飛んできた。

 

「各員、よくやってくれた。至急街に戻り、ポイント4の2で待機」

「了解」

「現在、南からこちらに向かっているチームがある。そいつらを後ろから叩きたい」

「……待ち伏せ、ですか?」

「そうだ、よろしく頼む」

「了解」

 

そして、その無線を聞いた後、彼ら別働隊は、すぐさま方向転換し、街の中に消えていく。

 

そうして、その直後だった。

 

「各員、建物に待避!!」

「……!?」

バババババ!!!!!!

 

彼らのいる路地から見える少し前の大通りで、戦闘が始まった。

もちろん彼らはすぐさま最寄りの建物に飛び込む。

 

そしてそれと同時に、通信アイテムに声を飛ばした。

 

「リーダー!! なんですかこれは!?」

「スキャン完了するや否や、2チームが通りではちあったみたいだ」

「偵察は……!?」

「把握してはいたが、まさかお互い突撃するとは思わなんだ」

「はっ……所詮は、ですか」

「そう、ゲームなんだよ」

 

リーダーのもはや嘲笑に近い声が、別働隊全員の耳に入る。

それに乗じ、別働隊にもだんだん緩んだ空気が流れ始めた。

 

「……とにかく、彼らには損耗してもらう」

「了解」

「おそらく、南のチームが漁夫の利狙いでくるだろう。2階からグレネードでもお見舞してやれ」

「わかりました」

 

そうして、別働隊の返事を皮切りに、通信アイテムに声が届かなくなる。

別働隊は、そそくさとその建物の2階に上がり、その時を待つ事になったのであった。

 

 

「おおっと……こいつぁ、面白いことになりそうだ」

 

一方、少し時を戻して、タウイである。

 

プルーム達を少し先で待機させ、2回目のスキャンを眺めていた彼は、ついついそう呟いてしまった。

 

「何かあった? タウイ」

 

すると、タウイの背後を見ていたレックスがそう尋ねる。

対し、それに応えたタウイは、面白そうに地図を画面から大きなホログラムに変え、レックスに見せた。

 

「……!!」

「お、おお……!!」

 

プルーム達がいる所の少し先の交差点で左に曲がった通りに、2チームが並んでいる。

そして自分たちから見て斜め右、ちょうど大きなビルのど真ん中に、もう1チーム。

 

「漁夫の利いっちゃう?」

「グレネードの用意は出来てるよ」

「初戦闘が不意打ちかぁ……」

 

その場にいる誰もが、楽しそうにそう口々に呟いた。

 

「……よし、そうしよう。右のチームは恐らくビルの上だ。狙撃なぞ建物に隠れればどうってことない」

「そうと決まれば!!」

 

そして、その締めくくりのような形で、タウイが決定を下す。

それに合わせ、ギフトがグレネードを持ち、ベネットが銃を握り直した。

 

「プルーム、ライト。その先の交差点左に2チームがお互い至近距離にいる」

「……ほう?」

「恐らくもう間もなく戦闘するだろう。我々は漁夫の利狙いで突っ込みたい。本隊を待て、すぐに行く」

「……よし!!」

「あーあと追加で、右に曲がって斜め左にあるビルにもう1チームいる。恐らく狙撃手がいるだろうから、そちらにも注意を」

「了解した!」

 

通信アイテムからも、ライトとプルームの声が弾んで聞こえてくる。

そしてその声を聞き、本隊全員が立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

……ただその時、()()()()()()のは、プレイヤーだけではなかった。




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Episode95 成功 〜success〜

「タスク!!」

「!?」

 

不意に、聞き覚えのある声で名前を呼ばれたタスク。

反射的にぱっと振り返る。

 

するとそこには……

 

「行くなら言ってよ……私も行ったのに……」

 

少しご立腹気味のシノンと、

 

「あー……はは、こんにちは、店主さん」

 

少しお疲れ気味のキリトがいた。

 

「……あれ、二人とも。 こんにちは」

「こんにちはじゃないわよ……!!」

 

驚いた顔をするタスクに、シノンはため息をつく。

その横に並ぶキリトは、愛想笑いを浮かべている。

 

「その様子だと……大変だったみたいだね、キリトくん」

「ま、まあ……はい」

 

そんな様子を見て、店主は微笑みを彼に向けた。

 

「どうやら、シノンさんに締められた感じだね、その顔は」

「そ、そうです……」

「あんたは余計なこと言わなくていいの!!」

「あっ……て!!」

 

すると、キリトの腹にどかっ、とシノンの拳が食い込む。

そんな彼らを見て、店主は相変わらず笑っていた。

 

「御三方……仲が良いのは結構ですけど、試合の方が……」

「あっ……!!」

 

そんな中、タスクがディスプレイを眺めつつ、三人に横槍を入れる。

三人は、その声にはっと我に帰り、ディスプレイの方を向く。

 

そしてちょうどそのタイミングで……

 

 

 

 

()()……が、作戦を成功させた。

 

 

タァン…‼︎

「がはっ!?」

 

二チーム間の激しい衝突の末、唯一生き残ったプレイヤーが、背中にたった一発の銃弾をうけ、死亡する。

 

「いくら手負いとは言え……流石に一発でやられちゃうとはな……」

 

そしてその様子を、平屋建ての建物の窓から見ていたプルームが嘆くように呟く。

するとその隣のライトが、構えていた銃を下ろしつつ……

 

「相当な乱戦だったんでしょうね……」

 

そう呟いて、ゴーグルを外した。

 

この瞬間、漁夫の利と言うにはあまりに寂しい結果で終わったが、彼らは作戦を成功させた。

 

乱戦に乗じ、お互い損耗した二チームを一気に叩いて殲滅する。

 

結果的には、その場に着いた頃には乱戦は既に終わってしまい、生き残ったのは体力ミリのプレイヤー1人だけだったのだが。

 

「他には?」

「いない……かな。デッドタグは12個全部確認できた」

 

さらに奥の窓から銃を覗かせていたベネットが、隣で顔だけ出しているタウイにそう尋ねる。

それに対しタウイは、淡々とタグの数だけ数えて答えた。

 

「一応、リロード挟みますねー」

「はいよー」

 

そしてその声を聞いて、最後の一人を屠ったライトが、自身の構えていた銃、【H&K MP5】のマガジンを差替える。

それを見つつ、プルームが代わりに銃を構えるが、どうやらその必要もなさそうだった。

 

「ここからどうする、タウイ」

「んー……」

 

それでも、万が一に備えてしっかりと警戒の目を光らせるプルームは、タウイにそう尋ねる。

すると、リロードを終えたライトも、プルームと反対側を見る役割に入る。

 

「こっち側見ときますね」

「おう、頼んだ」

 

そんな会話をしつつ、ピッタリと背中を合わせて窓から覗く2人。

 

「スキャンまで後数分かぁ……微妙だね」

「そうなんだよ……」

 

その後ろで、時計を眺めつつため息をつくレックスと、それに相槌を打つタウイ。

 

ベネットとギフトは、いつの間にか建物の2階に上がって、少し奥まで見渡せる大きな窓から、周りを見ていた。

 

「……よし、決めた」

「お?」

 

すると、突然タウイがそう声を上げて、立ち上がる。

その声は、通信アイテムを介して、皆の耳に入る。

 

「我々は、居住区に入る」

「居住区……というと、ここから西の?」

「そうだ。都市にいると死角が多すぎるからな」

 

そしてその声に、疑問調で言葉を返すベネット。

タウイは、立ち上がりつつ、その声に返事をした。

 

「なるほど……適度な遮蔽物を求めてってことか」

「待ち伏せかぁ、楽しみだ」

 

すると、ギフトとレックスがそんな反応を見せつつ、各々準備を開始する。

それを見たタウイは、プルーム達や2階にいる2人に指示を出しつつ、自分も出口へと歩き出した。

 

「よし、移動開始。プルーム、ライト、頼んだぞ」

「了解」

「はーい!!」

「ベネット、ギフト、後ろを頼む」

「了解、すぐ行きます」

「はいよー」

 

そして、出口からゆっくりと、かつ一人づつ、大通りへと出ていく。

 

ただ……次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()が、彼らを襲った。

 

 

一方、少し時を戻して、大型酒場。

何とか落ち着き、カウンターから個室へと場所を変えたタスク達一行である。

 

彼らは、中型のそれなりに大きなディスプレイを眺めつつ、広々とした個室の中で、各々好きな所でくつろいでいた。

 

タスクとシノンは中央のソファ。

店主はその右にあるクッションに腰かけ、クッションを抱いている。

キリトは、奥についている小さなカウンターに座っていた。

 

「……して、タスク君」

「はい?」

 

すると、不意に店主がタスクを呼ぶ。

タスクはその声に答えて、前かがみになり店主の方を向く。

 

そしてそれを見た店主は、少しニヤけながら、タスクにこんな質問を投げかけてきた。

 

()()()()()()として……彼らをどう見る?」

「……はは!!」

 

対して、それを受けたタスクは、彼も彼で楽しそうに笑うと、どっかりと背もたれに背中を預けて、ディスプレイを睨むように見る。

そして少し笑みを保ちつつ……声のトーンを変えて、質問に答えた。

 

 

 

 

 

「彼らには……決定的に()()()()()()がある」

「……ほう」

 

 

 

 

 

その声のトーンは、まさに彼、()()()()()()の声であり、隣に座るシノンは途端に背筋が伸びてしまう。

 

ただ、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

その()()が、悲劇に襲われた。




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Episode96 悲劇 〜tragedy〜

悲劇は、突然やってきた。

 

「ベネット!! 直上!!」

 

大通りを進んでいた彼らの最後尾、ベネットに、突如、タウイがそう叫ぶ。

そしてその直後、その声に反応して、ベネットは反射的に上を向く。

 

するとその視界の真ん中に、小さな円柱の物体が見えた。

 

「あれは……っ!!」

 

見覚えのあるフォルムに、ベネットは思わず顔を歪める。

 

その円柱の物体の正体は、《MK3A2攻撃手榴弾》。

一般的な破砕手榴弾、《フラググレネード》とは違い、鉄片ではなく爆発による衝撃で敵を殺傷する、いわゆる《コンカッショングレネード》である。

 

「ああ……クソ!!」

 

まるでスローモーションのようにその光景を見つつ、ベネットが走り出す。

 

この手のグレネードは、フラグと違って爆発の威力が非常に大きい。

鉄片が飛び散らない分、殺傷能力はフラグに劣るものの、使われる場所によっては話が変わる。

 

ここは()()()なのだ。

 

ひび割れたコンクリートが、鉄片の代わりに飛び散る可能性は充分ある。

それも、フラグより遥かに高い爆発力によって、だ。

 

そのグレネードは、ベネットのほぼ真横辺りに落下するコースを辿って来ている。

 

「ぐっ……!!」

 

どう頑張っても、ライフ5割損失は免れない距離。

こうなったら、いっそ自分がこいつを抱いて、犠牲を1人にした方がいい。

 

そう考え、走る向きを180度変えかけた、その時。

 

「下がれ!!」

「なっ……!?」

 

驚くほど強い力で引かれ、ベネットは後ろに吹っ飛ばされる。

そして代わりと言わんばかりに前に出ていったのが……

 

 

 

 

 

タウイだった。

 

 

少し前。

 

乱戦をやり過ごし、漁夫の利を得たチームを屠るべく淡々と待ち構えていた例の男達は、ついにその時がやってきていた。

 

「まだだ、まだ待て……」

「……」

 

下の方から、ドンパチ合戦の音が止まることなく響いてくる。

男達は、はやる気持ちを抑えきれないかのように、少しうずうずしていた。

その中でもリーダー格の男が、他の男達を制す。

 

「いいか? あえて漁夫の利を成功させ、気が抜けたところで、まず俺がこいつを最後尾に落とす」

 

そしてそう言いつつ、胸の防弾チョッキからひとつ《MK3A2攻撃手榴弾》を取って、ぐっと握り直した。

 

「その後、下の連中が最後尾に気を取られたところを、お前達がそれを落とす」

「……これですね」

 

すると、リーダー格の男が、顎をくいとさせて、正面にしゃがんでいた男の胸元をさした。

 

「リアリティを求めたいが、この場合は仕方ない。リアリティより、確実性をとる」

「了解」

 

そして、顎をさされた男が胸からそれを取り出す。

はたしてそれは……

 

 

 

 

 

《プラズマグレネード》だった。

 

 

「タウイ!!」

ドォォォン!!!!

 

盛大な爆発音と共に、タウイがベネットの頭上を吹っ飛んでいく。

そしてその後、ぐしゃっ、という音と共に、路面に大の字に横たわる。

 

「次が来る!! 上だ!!」

 

直後、レックスがそう叫んで、建物の最上階の窓に掃射し始めた。

 

「何やってるベネット!!」

 

すると、いつの間にかプルームが隊列の先頭から走ってきて、そう叫びながらタウイの腕を引っ張っている。

 

ベネットは、はっと我に返ると、慌ててタウイのもう片方の腕を引っ張り、直近の建物の中に滑り込んだ。

 

 

タウイを2人が引きずっているさなか。

 

「牽制頼みましたよ!!」

 

そう言って、ライトがレックスが掃射している建物の1階部分の窓に突撃して行った。

 

「よし、入った!!」

 

すると、レックスの隣で同じく掃射していたギフトがいきなりそう叫び、銃を投げ捨てローブの中に手を突っ込んだ。

 

そして取り出したのは、フラッシュバン。

 

「今ライトは……よし」

 

すると、建物のを上から下へ舐めるように見た後、目を閉じて両手のフラッシュバンのピンを抜く。

 

……そして。

 

カチッ……

「今だ!!」

 

レックスのマガジンが弾を切らした瞬間、ギフトが建物の最上階の窓へ完璧な軌道でフラッシュバンを放り投げた。

 

 

一方、例の男達である。

 

「くそっ……!! 連中、案外反応早いな!!」

「こ、これではプラズマグレネードは投擲できません!! 誘爆の可能性が……!!」

 

彼らは今、留めなく突き上げてくる弾丸に、なかなかプラズマグレネードを放り投げられずにいた。

 

当然だ。

プラズマグレネードは、その強さから、決定的な弱点を付与されているからだ。

 

それは、他のどんなグレネードよりも弾丸に弱いということ。

 

今ここで下手に放れば、自分達のいる階層の窓のすぐそこで爆発したっておかしくない。

 

ただ、リーダー格の男は、まだ取り乱しはしなかった。

 

「待て! これだけ撃ってればもうすぐ弾切れを起こすはずだ!!」

「り、了解!!」

 

プラズマグレネードを握ったまま、男達はただひたすら弾幕が止むまで耐えようとする。

 

そしてその指示の直後、弾幕がピタッと鳴り止む。

 

「今だ!! やれ!!」

 

そのさらに直後、リーダー格の男が叫ぶ。

 

……だが。

 

カランカラン……

「……なんの音だ!?」

 

()()()()が、男達のいる空間に響く。

そして。

 

バァン!!

「くっ……そ!!」

 

リーダー格の男が、悔しそうに悪態をいた。

 

今、投げ込まれたのは()()()()()()()

爆発を受けた相手を一時的に麻痺させる、特殊なグレネードである。

 

「……っ!!」

 

作戦失敗。

この四文字が、頭の中を駆け巡った。

 

そして、次の瞬間。

 

バタン!!

「こんにちは!!」

 

 

 

 

 

ライトの【H&K MP5】が、火を噴いた。




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Episode97 色 ~color〜

「あーっ……てて、派手に飛んだね、僕」

「ちょっと黙ってろ……まったく」

 

時は、レックスやライト、ギフトがドンパチしている真っ只中。

それに背中を任せ、直近の建物に滑りこんだプルームらである。

 

「ライフは……8割損失か、まあまあだね」

「0距離で受けてこれくらいなら、十分だな」

 

そんな会話をしながら、プルームがタウイの胸元へ治療キットを乱雑に突き刺す。

 

タウイは、爆発によって左腕と右足を、それぞれ根元から吹き飛ばされていた。

 

「残り2割だけど……どこまで増やしとこうかなぁ」

「全部使うのは勿体ないと思う……が、指揮系統がそうそうに死なれても困る」

「はは……プルームは真面目だね……」

 

気の抜けたタウイのボヤキに、呆れたようにまた治療キットを乱雑に突き刺すプルーム。

 

そんな彼らのいる建物の窓際。

スキャンの時には見当たらなかったが、一応……ということで、ベネットがドンパチの範囲外を見ていた。

 

「……」

 

ただその顔は……少し、険しそうである。

 

「クソ……」

 

なんというミスを……そう言いたげに、一層シワを寄せる。

 

ベネットは、自責の念に駆られていた。

自分が、もっと良く考えていたら……そんな後悔が。

 

スキャンという名の()()()()に、まんまと嵌められてしまったのだ。

スキャンはシステム上、リーダーの位置しか示さない。

そしてそこに、チーム名を表示する。

 

だが、そこに()()()()()()()()()()()()

 

「別働隊……充分考えうるものだったじゃないか……」

「……?」

 

つい、そう呟くベネット。

後ろにいるプルームとタウイがさっ、とベネットの方を向く。

 

ベネットは、GGO歴の長さと、その確かな実力から、色々なスコードロンに助っ人参戦してきたプレイヤーだ。

 

その中で、様々な作戦に出会い、実行し、時には実行されてきた。

 

別働隊。

名の通ったプレイヤーがいるスコードロンがよく取る作戦だ。

 

あえて敵に姿を晒し、交戦することで、名の通ったプレイヤーを仕留めようと躍起にさせ、スコードロンから別働隊として数人を側面や背面に回り込ませ、挟み撃ちにして仕留める。

 

何度も嵌められ、また、何度もその作戦を崩してきたベネットにとって、まさかこんなことが起こるとは思ってもいなかった。

 

ようは、()()()()()()()()()、なのだ。

名の通ったプレイヤーが、リーダーになっただけ。

 

ただそれだけなのに、その穴にまんまと嵌められて、結果こちらのリーダーに大損害を与えてしまった。

 

「……!!」

 

悔しさというか自らへの憤りというか、そんな感情が煮えくり返る。

銃のグリップを握りしめ、顔を更に歪めたその時だった。

 

ザッ

「ベネット」

「!」

 

隣に、プルームが座ってきた。

もちろんベネットは驚いて、チラリとプルームを見る。

 

「……何も、気にしなくていい」

「!?」

 

すると、プルームがそう言ってベネットの肩を上から叩いた。

 

「な、何も……って……!!」

「あのな、ベネット」

 

ベネットが少し苛立ち気味にプルームを見る。

だがプルームは、相変わらず外を見たまま、その言葉を遮った。

 

「お前は、俺たちを、お前の関わってきたスコードロンの有象無象と同じように見てるのか?」

「っ……!?」

「俺達のこの戦いの目的は何だ? 勝つこと? 違う、()()()()()()()()()()()()()だ」

「……!!」

「そこらのスコードロンのような、仲良しグループじゃない」

「っ……!?」

「正真正銘の、チームとして、動き、機能すること。そしてそれが、可能であることを示すこと。それが俺たちの目的だろう」

「そ、そう……だな」

「だったら気にしなくていい。現状、このチームはきちんと、寸分の狂いもなく機能している」

「……!!」

 

圧倒的な気迫と正論に、ベネットは続く言葉が出てこない。

何もかもが見透かされている気がして、下手に何かを言えない。

 

すると、不意に後ろから一転して柔らかい声が聞こえてきた。

 

「はは、プルーム? 言ってる事は正しいが、それじゃ少々……お堅いよ」

「ま、まあ……」

「あのねベネット。別にプルームは、怒ってる訳じゃぁ、ないんだよ」

「は、はぁ……」

 

もちろんその声の主は、タウイである。

 

「ただ僕らは……彼の言う通り、単なる仲良しグループ、スコードロンじゃなくてね……」

「……?」

「僕らには()()がある。それぞれの好みに合わせて、突出させた得意分野、()()が」

「!!」

「店主さんは、その個性をお互いに噛み合せて、チームとして機能するかを見てるんだ」

「……!!」

 

そう言えば、なんてことは言えないが、確かに忘れていた。

それに、確か似たような事をカチューシャにも言われていたのを思い出す。

 

「個性は、突出させればさせるほど、その分だけ対極の弱点が露出する。それを他の人が……ま、極端に言えばその弱点が逆に個性の人が、カバーする。これが、チームとして機能する、ということ」

「……!!」

「店主さんがベネットに『固有ガジェット』を作れって言ったのも、それじゃないかなと思う。ベネットさんは、色んなスコードロンを回る中で、自らの長所に割くべき時間を、短所を埋める時間に当ててしまった」

「た、確かに……」

「『固有ガジェット』は、誰でも自分が好きなものを作りたいよね。それを作らせて、あなたの『好き』を、ようは、『個性』を引き出そうとしたんだと思う」

「……!!」

 

いつしかベネットは、自分への憤りや、タウイに対する申し訳なさなどは全て消え去って、タウイヤプルームの言葉に一心に聞き入っていた。

 

「今回の場合、君だけじゃないけど、爆発に対する防御力の低さという弱点を、僕がカバーした」

「あっ……!!」

「圧倒的な防御力、という個性でね」

 

するとタウイが、そう言ってにっ、と笑う。

ベネットは、その顔を見て、少しばかりの笑顔を返した。

 

「十人十色、各々色んな個性、色があっていいんだよ。だって僕らは……」

 

 

 

 

 

 

「『VRF』、『バーチャル・レインボー・フォース』だからな」

 

 

 

 

 

「あーっ!! 最後だけとりやがった!!」

「いいじゃないかそれくらい……」

 

プルームが横槍を入れ、タウイががたっ、と立ち上がる。

いつの間にか、手足も回復しているようであった。




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Episode98 大番狂わせ 〜big upset〜

「す、すげぇ……」

「あいつらあの連中を殺りやがったぞ……」

 

大型酒場の中は、喧騒から一転、とても静かな状態になっていた。

理由は、いわゆる()()()()()が起きたから。

 

1番大きなディスプレイに映る、都市の一角の俯瞰カメラ。

左上には『Narrow vs VRF』と見出しがついている。

 

「お、俺だったら絶対逃げてるわ……」

「俺も……」

 

騒然とする観客達が、口々に仲間にそう呟く。

 

すると、大型ディスプレイの見出しが変わり、『Replay』と表示され、時折スローモーションとカットを挟みながら、大番狂わせの様子がありありと見せられた。

 

「まず漁夫の利をとるだろ……?」

 

ライトのMP5が、乱戦を生き延びた唯一のプレイヤーを、背中から無慈悲に仕留める。

 

その後、周りを警戒しつつ、ゆっくりと彼ら、VRFが通りに出てきた所に、MK3A2攻撃手榴弾が降ってきて……

 

「ここだよ!! ここ!!」

「すげぇよなぁ……」

 

観客達が、一気に湧いた。

 

一旦逃げようとし、すぐさま反対に踏み込んだベネットを、隊列中央から走ってきたタウイに後ろに引き戻され、代わりにタウイが前に出る。

 

そしてその瞬間、画面の動きが、最もスローになった。

 

「すげぇ……あんなのどこで……」

「いやぁ、あれは多分、自作だと思うぞ?」

 

観客達は画面に映る()()に、惚れ惚れしたかのようだ。

 

タウイが、左肩についていた長方形の長い鉄板、甲板のようなものの下に左手を伸ばし、即座に前に突き出す。

 

すると、甲板は左肩のジョイントから外れ、左手にくっついて一緒に前に出てくる。

そして次の瞬間、板の表面が真ん中でバックリと割れて、横に広がった。

 

「か、かっけぇ……」

 

そんな甲板に、目を輝かせる人も多数。

 

その直後、グレネードが地面スレスレで爆発。

0距離にあった甲板に、否が応でも膨大な衝撃波を叩きつけ、そのまま吹き飛ばした。

 

すると、ここで一旦スローが終わり、画面の視点が一気に高く、広くなる。

 

「あっ……こりゃたまげたな」

「え?」

 

その瞬間、察しのいいプレイヤーたちは、思わず笑みがこぼれてしまう。

対し、察しの悪いプレイヤーたちは、良いプレイヤーたちの方を見て、不思議そうな顔をした。

 

その顔を見て、良いプレイヤーたちは、一層笑みをもらす。

 

「見てみろよ……()()を」

()()……? あっ……!!」

 

そしてその良いプレイヤーたちの笑みと視線を見て、悪いプレイヤーたちも悟ったようだった。

 

カメラが上に動いたことで、半ば俯瞰のようになったその画面には、隊列に属する一人一人の動きが鮮明に捉えられていた。

 

「先頭の2人……判断が恐ろしくはええ。見た感じどっちもポイントマンだ。どちらが敵のいる室内で有利だと思う?」

「そら……小さい方だ」

「だろ、あいつらそれを、グレの爆発前に判断して……」

「……っ!?」

 

走り出していた。

もちろん、プレイヤーたちは驚愕する。

 

画面は俯瞰映像のまま、グレネード爆発直前の状態で止まっている。

隊列のメンバー達の動きを、見せるためだろう。

 

観客の中の一人が解説したとおり、プルームとライトは即座に行動していた。

 

プルームは既にタウイの着地点を見ているし、ライトは敵の方など見もせず、建物の一階部分の窓に視線を集中している。

 

ポイントマンとして少し先行している()()()を、十分打ち消し得るタイミングだ。

 

「で、だ。 隊列中央のやつらもすげぇ。ポイントマンの2人が来るのを見もしないで……」

「銃を構え始めてる……!!」

 

観客達はもはや唖然としてディスプレイを眺めている。

 

隊列中央の2人……レックスとギフトは、ライトが走って来ているのをもはや知っていたかのように、銃を上に構えかけていた。

 

隊列のど真ん中から走り出していったタウイの方を見るわけでもなく、向かってきているライトの方を向くわけでもなく、ただただ、敵のいる方向、建物の最上階へ、バレルを向けかけている。

 

「こういう時、普通は味方の方を少しくらいは見るんだ」

「確かに」

「だがこいつら、チラリとも見やしねぇ。真っ先に建物の最上階へ意識ごと向けてやがる」

「……!!」

 

観客の一人が解説するなか、俯瞰映像が少しずつ動き出す。

 

「それに、盾があったとはいえ音は凄まじかったはずなのに、あいつすぐ立ち上がってやがるしよ……」

「普通あんな綺麗に投げれねぇよ……」

 

爆発の余波に頭を揺られたベネットが無理矢理に体を起こす様子も、ギフトの軌道・タイミングが完璧なフラッシュバン投擲も、VR世界であることをいいことにありありと映し出された。

 

「あのさ……あいつらさ……もしかして、だけどよ……」

「ああ……」

 

すると、観客達の中に、まさかと言わんばかりの空気が流れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

「プロプレイヤーのチームじゃね!?」




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Episode99 お手柄 〜credit〜

「ふぅ……」

ジャリッ……

 

ため息をつきつつ、ライトが建物の一階のドアから出てくる。

 

そこは、つい数十秒前までけたたましい銃声が鳴り響いていたとは到底思えないほど、静寂に包まれていた。

 

「お疲れライト」

「どうも」

 

すると、レックスがライトを出迎え、トントンと彼の肩を叩く。

それを見つつ、ギフトも笑って背伸びをしていた。

 

「んーっ……初戦闘でこれかぁ、なかなかハードだね」

「まあまあ、それが楽しいじゃん?」

 

そんな会話をしつつ、各々戦闘の後処理を行っていた。

 

「よいしょ……」

 

ライトは、ゴーグルを外して額に付けると、使用した銃器のリロードをする。

 

「バレル大丈夫かな……全弾ブッパは流石に……」

 

レックスは、そんな小言を言いながら、F-2000のマガジンを交換していた。

 

「えーと……あ、あったあった」

 

1番動いているのは彼、ギフトで、彼は使用武器をフラッシュバンに切り替える際、愛銃を放り投げていたので、今いる場所から少し動き回らねばならなかった。

 

「ん〜、キズはともかく、ガタはない……よね。よしよし」

 

ギフトは、そんなことを言いつつ愛銃のG36を上から横からと眺めている。

すると、その時だった。

 

「……あれ」

 

大部分、銃を映している視界の奥に、大きな鉄の板が転がっていた。

例の……

 

「タウイの甲板じゃないか!!」

 

 

「あ、タウイ!!」

「大丈夫でした!?」

 

しばらくして、タウイら一行が奥の建物から出てくる。

タウイはいつの間にか回復した手足で、ピンピンして立っていた。

 

「ベネットさんも大丈夫でした?」

「最後尾の不運だったね……」

 

すると、ライトが今度はベネットの心配をしてそちらへ顔を向ける。

それに続き、レックスもそちらへ顔を覗かせた。

 

「あー、いや、ほぼ無傷でした……」

「そっか……それなら良かった」

 

それに対し、笑顔で答えるベネットに、2人はほっ、と安堵する。

そうして5人が安心しきった顔をする中。

 

「おーい!! みんなー!!」

 

ギフトの声が、少し遠くから聞こえてきた。

 

 

「ほい、俺からのプレゼント」

「あー!! ありがとうギフト!!」

 

遠くからやっと合流してきたギフトが、タウイにどデカい物体を差し出す。

 

そう、タウイの装甲甲板だ。

 

たまたま、ギフトが銃を放った方向と同じ方向に、爆風で飛ばされていたのである。

 

「キズは……おお、ほとんどなし!!」

「着艦に問題は?」

「この程度なら全然ないよ。あってないようなキズしかないからね」

 

タウイが思わず喜び、プルームが横から甲板を覗く。

 

するとギフトは、そんな二人をしり目に、今後はレックスの方へ向いた。

そしてにっと笑うと、手をレックスの方に向ける。

 

「ほい、レックスおにーさん!!」

「え?」

「君にも僕からプレゼント!!」

ギィー!!

「うわぁ!?」

 

その瞬間、ギフトの背中から、レックスのテイムモンスターのコー君が飛び出した。

 

「こ、コー君!! おかえり!!」

 

レックスは驚きつつも、肩に乗っかりピョンピョン飛ぶコー君を迎え入れる。

 

「……しっかり任務も果たしてきたようだね」

「……!!」

 

すると、脇からタウイがそう声を掛けてきた。

彼の前には、いつの間にかサテライトスキャン端末の拡大マップが広がっている。

 

そしてちょうど、レックスがそのマップを見た時。

10分おきの、そして回数にして3回目の、サテライトスキャンが終わった。

 

「見て……これ。漁夫の利作戦の前にここにいたチームのリーダーが死んでる」

「あ……ほんとだ」

「道の脇で死んでるってことは……恐らく彼、上にいた人らを落としたんだね」

ギィー!!

 

タウイの笑顔に、コー君は嬉しそうに反応する。

 

「あの建物にいたのは4人だから、同一チームと仮定して残り2人。ま、さしずめリーダー兼観測手と狙撃手でしょうね」

「なるほど……」

 

すると、ライトはそう言って、激戦を繰り広げた建物を見やる。

 

合計6人。

ちょうど1チーム分な上、リーダーマークが赤から灰色に変わっている。

 

勝利と言ってもいいだろう。

それが彼らの感想だった。

 

「コー君お手柄だね」

「全くその通り」

 

彼らの間には、そんな緩い空気が流れていた。

 

そう、実はコー君、漁夫の利作戦開始直前に、いきなりレックスの背中から飛び出してきたのだ。

 

普段はS12Kに変形している彼が、突如変形を解除し、()()()()()()、レックスに一声鳴いたのである。

 

レックスはもちろん、その声にGOサインを出した。

 

ただまさか、2名とも屠って帰ってくるとは。

できても狙撃の妨害くらいだろうなと思っていたが、彼なりに奮闘してきたようであった。

 

「……それで? 旗艦(リーダー)。次の進路は」

「……!!」

 

するとプルームが、そうタウイに尋ねる。

他のメンバーも、自ずとそちらの方を向く。

 

それに対しタウイは、ニヤリとした笑みと共に、こう返した。

 

「予定通り、居住区へ向かう。そして……」

「……!!」

 

そして話しつつ、拡大マップのある一点をタップして……

 

 

 

 

 

 

()()()()を、叩く」

「!!」

 

そう、宣言した。

 

その指の指す所、そこは……

 

 

 

 

 

居住区中央に位置する、『LM』のマークであった。




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Episode100 とんでもないこと 〜Ridiculous thing〜

「ふむ……」

 

薄暗い部屋の中で、2人のプレイヤーがサテライトスキャン端末を眺めている。

 

1人は、全身が目立つピンクの小柄なプレイヤー。

対してもう1人は、全身が迷彩の大柄なプレイヤー。

 

そう、レンとエムである。

 

「……エムさん、どう?」

「うむ」

 

何やら神妙な顔をして、スキャンされていくマップを見ているエムに、レンは不安そうな顔でそう尋ねる。

 

するとエムは、淡々と話し始めた。

 

「まず我々がいないエリアだが……」

「う、うん」

「順調に数が減ってきている。これはいい傾向だ」

「確かに」

 

エムの言葉に、レンはコクリと頷く。

 

自分達が戦わなくても、順位という結果で見れば「勝った」ことになる。

ようは何もしなくても勝ち続けているということだ。

 

広々とした解釈かもしれないが、レンにとってはそうしないとやっていけないのである。

 

「それで……俺たちの周辺だ」

「う……うん」

「分かるだろ、レン」

「と、()()()()()()()()が……」

「ああ、起きてる」

 

すると、エムがすっと指をホログラムの地図に当てて、声を一段と低くした。

それを感じ、レンも息を飲む。

 

この地図が示す、いつの間にか起こっていた、『()()()()()()()()』。

 

それは……

 

「まさか()()()()()()()()なんて……」

「うむ……」

 

そう。

彼らが知らない間に、大番狂わせが起こっていたのだ。

 

場所は、都市部中央。

 

「恐らくこれが……プロチームのリーダーの位置だったやつだろう」

「……」

 

エムが、道路脇の点を指す。

 

「それで……これらが屠られる予定だった3チーム」

「……」

 

そして次に、少し移動した先の3点が密集している場所を指した。

 

エムの予想としては、最初に指した道路脇のチームが生き残り、密集した3点のチームが全滅する、というものだった。

 

……が、現実はそうではない。

 

「まさか……とは思ってたけど……」

「ああ。どうやったのかは知らないが、プロが漁夫の利チームに負けた」

 

レンが明らかに動揺し、青ざめていく。

 

生存を示す光点は、密集した3点のうちのひとつであった。

少し離れて独立した点、要はプロチームを表す点は、その代わりのように、灰色に変わっているのである。

 

「ね、ねぇ、エムさん」

「ん……?」

「こ、これってつまり……さ」

「ああ……」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()がいる……って事だよね?」

 

 

 

 

 

「そういう事だ」

 

レンの恐る恐るな質問に、エムは頷いて答える。

そんなエムもどこか、厳しそうな目をしていた。

 

 

「それで、俺たちの進路だが……」

 

それから、数分後。

現状、生存しているチーム全ての予想進路を立てた後。

 

レンとエムは、最後に自分達の進路を決めようとしていた。

 

「彼らはおそらく、こちらへ来るだろう」

 

そう言って、エムは都市部にある光点……『VRF』を指差す。

 

「なんで?」

 

そんなこと言えるの?

そう言いたげなトーンで、レンはその言葉に返した。

 

するとエムは、レンの方を向きもせず、おもむろに室内を見渡しながらその言葉に言葉を返す。

 

「都市部は不利だろう?」

「確かに……って、それだけ!?」

「いや、問題は……敵の数だ」

「……!!」

 

なるほどそういう事か。

レンは納得して地図をまた見る。

 

現状、都市部から見て北の森や南の砂漠、もしくはその周辺地域には、少なくとも敵チームが2チーム以上はいる。

 

だが、西の居住区にはレン達1チームしかいないし、周辺地域にも敵チームがあまりいない。

 

さらに奥の沼地の1チームが来ると想定もできるが、マップを見る限り、1か2回前のスキャンの時からずっと宇宙船から離れていない。

 

さらにはその周辺には全滅を示す灰色の点が複数ある。

これは、ここに陣取っている証拠で、つまりはそこから動きがあるとは考えられない。

 

「標的を1つに絞れるエリアに進撃してくる……と」

「そうだ」

 

そこまで考えが至ったレンが、そう呟いてマップを閉じる。

であらば、レンが思いついた行動はただ一つ。

 

「ねえエムさん」

「ん?」

「もちろん私たちはさ」

「……ふ、その通りだ」

 

すると、エムもその考えに同意するかのように、少し笑ってレンを見る。

 

「我々は、ここに潜伏し迎撃する」

「そうこなくっちゃ!!」

 

レンはつい、嬉しくなってそう叫んでしまった。

 

「……ただし、だ」

「?」

 

するとその時、そんなレンを気に求めず、エムが後ろを向ききつつその叫びを遮る。

レンは両手を突き上げたまま、エムの方に胴体ごと向く。

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

「普通の迎撃じゃ、つまらないだろう」

「!!」

 

 

 

 

そう言って振り返ったエムの手には、()()()()()()()()()が携えられていた。




新年あけましておめでとうございます!!
駆巡 艤宗です!!

ついに始まりましたね、2020年!!
オリンピックがやって来ることを始め、2010年代からちょっと未来に進んだ感じがして、なんだか楽しみです(笑)

この作品も、あと半年で3周年を迎えるというところまで来ておりますし、今話、記念すべき第100話となります。

これも全て、皆様の応援のおかげです。
改めて感謝を申し上げます。

ありがとうございます!!

本来は年末に後書きにて感謝を申し上げるつもりだったのですが、気づいたら年を越してしまっていたので、新年最初の投稿にて、このように書かせて頂きました。

新しい年、みなさんは何か変わったことがあるでしょうか?

是非、その変化を大切に。
実はこの作品、思いついたのは5年前の年越しシーズンだったりします(笑)

この作品が、どこかの誰かの心にとまっていていてくれれば、僕は幸いです。

今年も僕とこの作品を、どうぞよろしくお願いします。

駆巡 艤宗

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Episode101 会敵 〜encount〜

ヴーッ ヴーッ

「!!」

 

小さく折り畳まれた体の真ん中で、腕時計が振動する。

 

時刻は14時39分30秒。

四回目のサテライトスキャンまで、あと30秒。

 

「んん……」

 

もう長い時間こうしているせいか、小さく柔らかい体にも少しガタが出始める。

 

でも、ここは()()()()()()()()

体を伸ばすのはもちろん、腕時計を見ることさえも、ましてやサテライト・スキャン端末を見ることさえもできないのである。

 

「ふわぁ……」

 

すると体が、どうにかしようとするのを諦めたのか、段々力が抜けていき、その場の状況に馴染むようになってきた。

 

伸ばせもできないし、それどころか動くこともできやしない。

体が、そして脳が、休息の体制に入るその時……。

 

「レン、来たぞ」

「!!」

 

耳元に飛んできた一言で、瞬時に全身が強ばり、目も覚めた。

 

「300m前……ゆっくり接近中」

「……!!」

 

淡々としたエムの声が、レンの心臓を刺激するかのように聞こえてくる。

 

出るのは5mまで引き付けてから。

ここに入る前、エムに散々言い含められた言葉が、頭の中を駆け巡る。

 

「200m……速度を落とした」

「っ……!?」

 

すると、エムが相変わらず淡々とした声で報告してくる。

レンは、体に包み込まれている愛銃のセーフティが外れている事を指の感触だけで確認する。

 

「100m……クソ、ゴミ収集車で隠れて見えない」

「……」

 

なんだそりゃ。

と言いかけて、ぐっことらえる。

 

同時に、いいのか別に5mまで近づいてくる時にはまた見えるから、と考え直す。

 

「レン、連中スキャンを見てないぞ。ラッキーだな」

「……!!」

「ただ逆に言えば、不意をつくチャンスがひとつ削れた。慎重かつ大胆に行けよ」

「……」

 

そしてまた、エムの声が耳に届く。

 

時間だけで推測すれば、もうそろそろ10〜5m圏内のはずだ。

交差点を挟んだ奥の家屋の奥の部屋からこちらをスコープで覗いているエムからも、そろそろレンの入ったスーツケースに近づく敵が見えるはず。

 

そして、次の瞬間。

 

「レン!!」

「!!」

 

 

 

 

 

 

「南だ!! 南へ逃げろ!!!!」

 

「ええっ!?」

 

今度のは流石にこらえきれなかったようであった。

 

 

「敵狙撃手発見、交戦する!!」

「!!」

 

ゴミ収集車の影から、1人単独で交差点へ向かっていたプルームの耳に、ベネットの声が聞こえてきた。

同時に、爆発音とアサルトライフル……恐らくはベネットのものであろう発砲音が聞こえてくる。

 

ドォォン……ダダダダ!!!!!!!

「大丈夫なのかベネット!?」

「こちらが先に撃った!! 相手は北に後退」

「……!!」

「相手は交差点の方向へ銃を向けてたよ。警戒!!」

「なに!? ギフト……まさかっ!?」

 

すると、ベネットとギフトの声に我に返ったプルームが、はっと前方を向く。

そして次の瞬間。

 

ガチャン!!

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

バラララララララ!!!!!!

 

スーツケースが開く音と、可愛らしい雄叫び。

非常に短い間隔の発砲音の連続が、ほとんど同時に耳に飛び込んできた。

 

「くっ……!!」

ズダダダダ!!!!!

 

それに負けじとプルームも、その可愛らしい雄叫びの主、『()()()()()()』に向かって発砲。

 

バシンバシン!!

ドッドッ……

「んぐっ……!!」

 

プルームの弾丸は路面にあたり、ピンクの悪魔の弾丸2発がプルームの胴体に命中。

 

ただそれと同時に……。

 

「なるほど……そういうことかよ!!」

 

レンは飛び出した方向、つまり南へ、そのまま転がり走りながら逃亡。

対してプルームは、すぐさま方向転換。ベネットとギフトのいる北へと走り出した。

 

「牽制は任せて!!」

「頼んだ!!」

 

すると、いつの間にかプルームの背後に飛び込んできたライトが、既に遠くまで走っているレンに発砲する。

 

その間にプルームは、ベネット達に声を飛ばす。

 

「ベネット!! ギフト!! そのままそいつ、北に追いやれ!!」

「……なぜ!?」

「このチーム、2人しかいない!! 分断させるんだ!!」

「り、了解……!?」

 

説明を一切省いた、その場その時に必要なことだけを言うプルームの声に、ベネットは少し困惑しながらも了解を返す。

 

 

 

……ただ、それ以外の3人。

ライトとタウイ、そしてレックスは、プルームと同じことを察して、既に動き始めていた。

 

 

時は少し戻って、交戦開始直前。

 

「しっかしまぁ、なんで別働隊なんて?」

「まぁ……強いて言うなら勘ですかね」

 

そんな会話をしている2人のプレイヤーが、居住区を進んでいた。

 

「まぁ……経験だとベネットさんの方が明らかに上だしさ」

「?」

「別に反発はしないけど……疑問は残るよね」

「はは……なんだかすみませんね、付き合わせてしまって」

「いいさいいさ、勝利のためよ」

 

お察しの通り、ベネットとギフトである。

彼らは今、いつの間にかすっかり打ち解けていて、ちゃっかり会話を楽しみながらの行軍をこなしていた。

 

「でもビックリしたよ〜? いきなり、『北の方ワンブロック上の道路から別で行っていいですか』なんて言うからさ……ん、ここの通りはクリア」

「了解。いやまぁ、タイミングは少し変だなとは思いましたけども……」

 

ギフトが通りを覗きつつ、そしてプルームがその先を凝視しながら進みつつ、会話は相変わらず続く。

 

そう、実は都市部を抜けて居住区に入る時。

ベネットが不意に、別働隊として動きたい、と提案してきたのだ。

 

タウイそれを、少し迷った末に承諾。

そしてそれに、なんだか面白そう、という理由で、ちゃっかりギフトもついてきているのである。

 

「……ベネットさんは、こういう場所での戦闘の経験はあるの?」

「まぁ、それなりには……」

「へぇ〜、僕初めてなんだよねぇ……はは」

「……はは」

 

お互い違う方向を向きながら、笑い合う二人。

そんな楽しい時間は、戦場では往々にして……

 

「ねぇ……ベネット、今あそこの建物の中で……」

「え……あっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

突如、断ち切られるのである。




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Episode102 光 〜light〜

ベネットとギフトが見たもの。

それは、「()」である。

 

キラキラと窓の奥で輝いている、ひとつの光の点。

一昔前の、()()()()()R()P()G()で光点は、ほとんどが落ちているアイテムの表現として使われていた。

 

ただこのゲームにおいては、話はほぼ180度反転する。

 

それは何か有益なアイテムでも、希望の光的なロマンチックなものでも無い。

 

それは……

 

「あれ、スナイパーライフルのスコープの反射光ですね」

「えっ……!?」

 

()()()、である。

 

「室内戦に持ち込みましょう、相手はまだこちらに気づいてない」

「室内戦……?」

 

ベネットは、即座に淡々と動きを練り始める。

すると、そんな彼を見て、ギフトは急に笑顔になった。

 

「よしきた!! ならば、()()()を使おう」

「……なんですかそれ!?」

 

そして満面の笑みをたたえながら、ギフトがローブの奥から出してきたのは()()()()()()()()()

これはさすがに古参のベネットも見たことがないのか、そのフォルムにぎょっとする。

 

「ふふふ……こいつはね、すごいんだよ……」

「な、なにがどうすごいんですか……」

「こいつはね……なんとね……」

 

ベネットが珍しく息をのんで言葉の続きを待つ。

そしてそれを見たギフトは、満を持したかのように、一言こう、言い放った。

 

()()()()()()()()()()さ」

「なっ……!?」

 

すると次の瞬間。

ギフトは、光の見えている窓枠……の、すぐ隣の壁へ、その球体をぽいと投げた。

 

その軌道を見て、ベネットは一瞬で全てを悟る。

そして同時に……

 

「敵狙撃手発見!! 交戦する!!」

 

そう、一言通信アイテムに叫んで、銃を構えた。

 

 

ドォォン!!!!!

「何っ!?」

 

一方、エムである。

いきなり横から聞こえ、また飛んできた爆音と爆風に、流石に驚いていた。

 

「くっ……そ!! 別働隊か!! レン……!!」

 

少し爆風に押され、尻もちをついた体をなんとか持ち上げつつ、レンに通信を試みる。

 

……だが。

 

ダダダダ!!!!

「ぐっ!?」

 

外から飛び込んできた弾丸が頭の上を掠めていき、エムは反射的にまた尻もちをついた。

 

「ぐぅ……!! レン!! レン!!」

 

するとエムは、もはや立ち上がることを諦めたのか、そのままレンへの通信を試み、何度も呼びかける。

 

だが、向こうからの返事はない。

 

「……!?」

 

まさか、と思い、耳にさっと手を当てる。

実態は、そのまさかだった。

 

通信アイテムが、耳から落ちていたのである。

 

「くっ……!?」

 

エムは即座に周囲の床を見回す。

 

……すると、棚から落ちてきたコップの破片の中に、キラリと光る通信アイテムを見つけた。

 

もちろん、即座に手を伸ばし、拾い上げて耳に押し込む。

頭は上げられないため、もはやうつ伏せに寝そべっているような状態だ。

 

そして、満を持してエムはこう、叫ぶのである。

 

 

 

 

 

 

 

「レン!! 南だ!! 南へ逃げろ!!!!」

 

 

時は少し進んで、プルームが北に走り出して数十秒後。

 

「こちらレックス、4ブロック先まで展開しつつ北北西へプッシュする」

「了解」

「同じくタウイ、2ブロックまで展開。北西へプッシュする」

「了解」

 

プルームの無線に、2人の声が入ってくる。

そしてそれに乗ずるかのように、今度はプルームが、ライトに声を飛ばした。

 

「ライト!! 北にプッシュしてくれ」

「はぁーい!!」

「俺は少し西に展開して、北北東へプッシュする!!」

「りょーかいしました!!」

 

相変わらず元気な奴だ。

そんな感想が、プルームの中で生まれて消える。

 

今、自分たちは、全員スナイパーの方向を見て、進撃している。

後ろ、つまり南に走り去ったピンクの悪魔など目もくれず。

 

実はこの動き、全て相手の状況を読み込んだ上でのものである。

 

相手はスーツケースに一人、奥の民家に一人。

他のメンツが最大4人、どこかにいるかもしれない。

 

だが現状考えられるのは、チームは2人だけ、というもの。

理由としては、()()()()()()()()()だ。

 

考えてみれば簡単だ。

なぜ、囮として忍び込ませていたピンクの悪魔を、即座に逃がしたのか?

他の4人がいるならば、なぜ交差点でクロスファイア、つまり掃射しないのか?

 

理由は簡単。

()()4()()()()()()()()()()()からである。

 

だから片一方の狙撃手が攻撃を受けた時、もう片方のピンクの悪魔を即座に逃がした。

人数的にも、陣形的にも、敵う訳が無いからだ。

 

そのままやり過ごすのも不可能。

サテライトスキャンという便利なものがあるから。

 

自分がやられれば、その時こそ本当の意味での最悪が訪れる。

スーツケースで籠城線だなんて、無理な話にも程がある。

 

だから逃がした。

しかも分かりやすい、対極の南側へ。

 

 

 

 

 

 

 

「予想が外れなきゃいいが……」

 

そう、プルームは呟きつつ、音鳴る方向より左前向きに走っていった。

 




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Episode103 キッチン 〜kitchen〜

時は、エムがレンを南に逃がした直後。

 

ズダダダダ!!!!!

「くっ……!?」

 

室内は、既に戦場と化していた。

ただその様子は……『戦闘』というより『掃討』の方が正しいかもしれない。

 

なぜならそれは、ベネットとギフトの連携攻撃に、エムは為す術がないから。

エムの武器は『M14 EBR』、対する2人の武器はどちらともアサルトライフル。

 

継戦能力に圧倒的な差があるのである。

 

「……ふん!」

 

ただそこはエム。

おいそれと負けるような男ではない。

 

スガンズガン!!

「ぐあっ……!!」

 

突如、ギフトの右太腿に重たい弾丸が2発、飛び込んできた。

そしてそのまま、太腿を持っていく。

 

「ごめん……下がる!!」

「了解!!」

 

ギフトはたまらず後ろに倒れると、そのままの体勢ですぐ側にあった机の足をつかみ、そちらに自らの体を引きずった。

 

一方ベネットは、ずんずん進んでいく。

 

「多分、そこの裏から撃ってきたよ」

「……!!」

「そこ木製でしょ? 貫通だよ、やられた!!」

 

すると不意に、そんなギフトの声が、後ろから飛んできた。

その声に、ベネットは躊躇うことなく自分の意思を固める。

 

そしてその直後、左手をついて、勢いよくカウンターを乗り越えた。

それと同時に、右手の銃を容赦なくぶっ放す。

 

いわゆる「決め撃ち」、だ。

変に詮索するより、こうした方が結果的に被害が少ない。

 

……だが。

 

「チッ……そういうことか!!」

 

ベネットは、カウンターの奥に脚がつく前に、自分の不幸を呪った。

 

左手をついてカウンターを飛び越えると、必然的に体は左に向き、視界も自ずとそちらへ向く。

ベネットの左へ向いた眼が映したもの。それは……

 

 

 

 

 

奥に続く廊下、その先に無造作に開かれた扉、そしてその奥に見える、()()()()()()()()()だった。

 

 

「……ふぅ、なんとか、だな」

 

腰を落としたエムは、そう呟いて息を吐いた。

それと同時に、ゴン、と()()()()()()に背中を預ける。

 

先ほどいたところより、明らかに空気が硬い。

それもそのはず、そもそもこの空間を仕切る素材がガラリと変わったから。

 

そこはいわゆる、「ガレージ」と呼ばれる空間である。

 

先ほどまでいたキッチン、大きく括れば家とは違い、フローリングや木の壁なんてものはない。

ただコンクリートで形を作っただけの、快適性皆無の空間。

 

ここへは、キッチンの奥の通路から、恐らく荷物搬入口なのだろう、扉一枚を介して入れる。

 

「さて、貫通弾がどれだけ時間を稼げるか……」

 

するとエムは、そう呟いて大きめのバンから扉の方を覗き見た。

 

キッチンの入口に入られたと悟ったエムが放った、賭けの2発。

せいぜい牽制程度に、と思ってやったことだったが、未だガレージに敵が入ってきていないあたり、案外効果はあったのか? と自画自賛したくなる。

 

「ひとまず……だな」

 

少しだけ覗き、すぐ顔を引っ込めたエム。

腰を上げ、しゃがみの状態に体勢を変えた。

 

残弾は心配に及ばないほどある。

体力もまた同じく。

 

問題は、どこまでやれるか。

 

「……よし」

 

エムが、そう自分に問いかけて気を引き締めた時。

 

 

 

 

 

バババババ!!!!!!

「!!」

 

キッチンの方向から、銃声が響いてきた。




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Episode104 大馬鹿野郎 〜Great idiot〜

「くっ……!!」

 

ベネットは今、究極の選択を迫られていた。

「このままガレージに突っ込む」か、「増援を待つ」かの二択で。

 

このままガレージに突っ込んで1on1に持ち込んだほうが、戦いやすいことこの上ない。

ガレージの中がどうなっているかなんて今のベネットには分からない。

であるが故に、自由度が戦況を左右しうる。

 

しかし、だ。

 

増援を待った方が、最悪の事態は避けられる。

下手くそなことをして、もし仮に自分がやられるとなったら、それは単純にチームの人数を減らすことになる。

 

なぜならどのみち相手は北に逃げざるを得ないから。

味方……プルーム達が、こちらに迫ってきているからである。

 

結果は決まっている、「相手が北に逃げる」だ。

問題は、ベネットがここで、相手と戦うのか、否か、なのだ。

 

「……ふ、俺は馬鹿だな」

 

すると、不意にベネットは顔を上げて、不敵な笑みを浮かべた。

カウンターを飛び越えた体勢そのままだったので、その姿はさながら今から走り出すのかと思える格好である。

 

そんなベネットが選択したのは、「このままガレージに突っ込む」だった。

またあえて言うならば正解はおそらく、「増援を待つ」であろう。

 

……でも。

ベネットは正解を知りつつも、前に進むことを選択した。

 

なぜならそれは、()()()()()()()、それができると学んだから。

 

「確かにそうだ……分かったよ菊岡」

 

ベネットは不意に、笑みを漏らす。

いつか菊岡が言っていた言葉を思い出したからだ。

 

 

 

『どうしてか、僕には分からないんだけど……』

『……?』

 

 

 

 

 

 

『彼らは自分たちの事を、()()鹿()()()って言うんだ』

 

 

 

「はぁ……はぁ……っ!!」

 

一方、こちらはピンクのチビ……改め、レンである。

 

「エムさん……? エムさん……!!」

 

彼女は今、必死に走りながら、必死に無線に問いかけていた。

 

ただ、無線からの反応は一切ない。

通信圏外とかいう概念のない無線機なので、考えられる要因はただ一つ。

 

エムが無線に応答できない状況にある、ということ。

 

ただそれが、戦闘中で無線をあえて切っているだけなのか、それとも運悪く撃ち抜かれて壊れているのかは分からない。

 

唯一分かるのは、エムがまだ生きている、という事だけ。

それは無線でもなんでもなく、ただ単に視界の上端に表示されている自分とチームメイトのHPゲージがそれを示していた。

 

「くっ……!!」

 

さすがに痺れを切らしたのか、レンはもう無線に問いかけることを諦める。

そして久しぶりに、()()()()()

 

「はぁ……はぁ……っ!!」

 

息切れなんてしないはずのこの世界でも、一応のリアリティとしてなのか、レンの視界は大きく上下に揺れている。

 

……ただ、レンは今それどころではなかった。

 

「どうすれば……いいの……!?」

 

レンは思わずそう呟く。

加え、ただただ後ろに流れていた視界が止まっただけで、何もかもがまずい気がしてきた。

 

指示が、ない。

今まで頼りきってきた、エムさんの指示が、ないのである。

 

「う、うう……!!」

 

情けない、と、ふと自分を省みる。

 

今まで自分は、1人で戦ってきた。

噂になり、討伐隊が組まれるまでに強くなった。

 

……気がしていた、のか。

 

そう、自分で結論を出そうとした瞬間。

 

「っ……!!」

 

憤り、のような感情が、体の奥底深くから湧き上がってきた。

 

だからなんだ、じゃぁここで勝負を投げ出すのか。

答えは「NO!!」、じゃぁどうする!!

 

 

 

 

「とりあえず全員ぶっ殺す!!」

 

 

 

 

 

自問自答を繰り返し、そして最後に声を張り上げた。

もうそこには弱気だった彼女はいない。

 

 

「ふふ……大バカ野郎がもう1人」

 

そんな彼女を見た店主は、楽しそうにそう呟いた。




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Episode105 お前は 〜Former comrade〜

戦いの火蓋は、突如切られた。

 

ジャリッ……

「!!」

 

しゃがんでいたエムが、突如後ろを振り向く。

するとそこには……!!

 

「おああああ!!!」

「くっ……あああ!!!」

 

ナイフを大きく振りかぶったベネットがいた。

そしてそのまま、ベネットはナイフ片手に突進してくる。

 

ゴッ

「っ……!!」

 

お互いの体が衝突して、鈍い音がガレージに響く。

 

ヒュン!!

「くっ……!?」

「はぁぁぁ!!!」

 

ナイフの切っ先がエムの腹を掠めて横切る。

エムはギリギリのところで避けた。

 

……が、ナイフの切っ先は向きを変え、エムの脇腹へと向かってくる。

 

「くっそ……!!」

ガッ

「なっ!?」

 

ただそこはエム。

 

脇腹まであと数mmの所で、ベネットの手首を掴んで止めた。

そしてお互いの動きが止まる……。

 

その時だった。

 

「……!!」

「……あっ!!」

 

初めてお互いの顔を見合せた2人は、はたと気がついた。

 

 

 

 

 

 

「「()()()……!!」」

 

 

 

 

 

 

お互いが、()()()()()()であったことに。

 

 

バタン!!

 

突如、民家の玄関が蹴り開けられる。

そしてしばらくした後、ひょこっとプルームが銃口と一緒に顔を見せる。

 

すると視界に入ってきたのは……

 

「……ギフト、それにベネット!!」

 

床に腰かけ、足を投げ出し、カウンターに背を預けたギフト。

そしてその横で銃を下ろし、棒立ちでこちらを見るベネットだった。

 

「大丈夫なのか、2人とも」

 

そんな2人を見て、プルームもそう言いつつ銃を下ろす。

 

「……ええ、大丈夫です」

「たった今、回復が終わったとこ」

 

すると、ベネットがギフトを見つつ言葉を返し、それに釣られてギフトが笑った。

 

プルームは、そんな2人に歩きよりながら、どこか変なその様子を見て、少し違和感を覚える。

 

「……本当に大丈夫か?」

「ええ」

「ギフトも?」

「僕もOK」

「……そうか……?」

 

首を傾げつつ、一言返して後ろを見やるプルーム。

その顔は、未だ疑問を抱えていそうだ。

 

「……あれ、ベネットさんにギフトさん? すないぱぁ、さんは?」

 

すると、ちょうどプルームが玄関を見たタイミングで、ライトが無警戒で駆け込んでくる。

 

「ふう……到着。ドンパチが聞こえなかったね」

「相手……逃げちゃったのかな?」

 

そしてそれに続き、タウイとレックスが入ってくる。

 

……が、次の瞬間。

 

「「「……?」」」

 

プルームの顔を見て、すぐに何かを悟った。

そしてそれを悟ったのか、プルームが改めてベネットの方を向く。

 

「……で、そのスナイパーは?」

「ふふ……あ、はい」

「?」

 

プルームの問いに、少し微笑みながら言葉を返すベネット。

 

「どうなったんだ、今はどこに?」

「あっ……えと」

 

そんな彼を見たのか、少し食い気味に質問するプルーム。

するとベネットは、そんなプルームを見てはっとした。

 

「北に……逃げました。もういません」

「……どうやって」

「徒歩でしょう、車は使ってない」

「……追撃は?」

「しませんでした」

 

どこか詰まり気味に答えるベネットに、プルームはやはりどこか違和感を覚えるらしい。

何度も首を傾げながら、地面を見つめて息をつく。

 

「……それと」

「!!」

 

すると不意に、ギフトが声を出した。

その声に、プルームはびくっと反応する。

 

そんなプルームを見つつ、ギフトはベネットを見上げた。

 

「少し……()()をしたんでしょ、ベネット」

「えっ……!! あっ……はい、まあ、その……」

「……だってさ、プルーム」

 

ベネットのたどたどしい返事を聞きつつ、ギフトはそう言ってニカッと笑う。

 

……ただ、プルームもそこまで野暮じゃなかった。

 

「……そうか」

「……はい」

 

瞬時に何かを悟ったのか、ふっ、といつも通りの彼に戻る。

 

「で、これからの進路だが……どうする、タウイ」

「……ん、ああ……そうだね」

 

そして早々と、これからの指示を旗艦(リーダー)に問うた。

 

すると、その質問を問われた旗艦(リーダー)……タウイは、少し考える素振りを見せる。

顎に手を当て、地面を見つめて考える彼に、他5人の視線が集中する。

 

……その後、数秒の後。

 

「う〜ん……よし、そうしよう」

「……!!」

 

タウイが、そう言いつつパッ、と顔を上げた。

全員の視線が、少し上へと引き上げられる。

 

それを見たタウイは、ゆっくりと、こう宣言した。

 

「わが隊は、これより……」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

西()へ進攻する」




繋ぎ話が多いですね……(笑)

でも、そろそろ動き始めます。
原作とは違う、別の物語が……。

乞うご期待!!

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Episode106 アウトレンジ 〜Outrange〜

()()()、思いもよらなかったであろう。

まさか自分たちが、()()()()()とは。

 

 

「ほんとにこうしてていいんですかぁ、タウイさぁん?」

「せ、せめて警戒ぐらい……」

 

眠たそうなライトの声と、今すぐにでも何かしたそうなベネットの声が、タウイの背後から聞こえてくる。

 

「んー? いいのいいの、休んでおきな」

 

するとその声を聞いたタウイが、ゆっくり振り返ってそう声をかけた。

 

「っ……て、はは」

「……?」

 

ただその瞬間、視界に入ってきた仲間の()()()()()()に、タウイは思わず苦笑する。

 

レックスとギフトは地べたにぺったり足を組んで座り、その間をレックスのテイムモンスター、スコーンがテテテ、と走り回っている。

 

その前では、あんな声をかけてきたライトが足を無造作に投げ出して、後ろに手を着いて空を見上げている。

 

そしてその少し右で、左膝を立て、右膝を寝かして腰を下ろしたプルームが銃を弄っていて、唯一、ベネットだけが不安そうな顔をこちらに向けて、銃を携えて立っていた。

 

「……いいんだって、座りな」

「え、で、ですが……」

 

するとプルームが、ベネットの腰のベルトを引っつかんで腰を下ろさせる。

ベネットが、小さくうわっ、と言いながらドスン、と腰を地面に落とす。

 

「タウイに援護はいらない。いるのは護衛だけだ」

「そ、それってどういう……?」

「見てればわかる」

 

プルームの言葉に、首を傾げるベネット。

そんな彼らにまた苦笑しながらも、タウイは前へと視線を戻す。

 

「……さて」

 

時刻は、15:02。

回数にして、6回目のサテライト・スキャンの直後である。

 

ピンクの悪魔は南に、随伴するスナイパーは北に逃げた。

予測するにピンクの悪魔は、南の砂漠・荒野での乱戦に生き残った1チームと交戦する。

 

北に逃げたスナイパーは、ベネットが「絶対に来ない」と豪語した。

理由は分からないが、ここは信じることにする。

 

となると、残るは西のチーム、『MMTM』。

 

今自分達は居住区をぬけ、広大な池のほとりにいる。

ついさっきのスキャンで、『MMTM』は()()()()()()()で向かってきていた。

 

「乗り物……か。むしろ好都合だよ」

 

タウイはそう呟いて、池の奥を睨む。

 

 

 

 

 

「……撃ち合いは面倒。()()()()()()で……決めようか」

 

 

 

 

 

そしてにいっ、と、少し笑った。

 

 

「ひゃっはー!! 気持ちいい〜!!」

 

一方、こちらは『MMTM』である。

 

彼らは今、広大な湖の上を、「ホバークラフト」なるもので疾走していた。

 

「いやぁ、まさかこんな運に恵まれるとはねぇ、リーダー?」

「ふん、天が我らに味方した……のかもな」

 

彼らは、気分上々でそんなことを言い合いながら、東へぐんぐん進んでいく。

 

宇宙船の残骸での籠城戦を見事耐え抜き、相手がいなくなったが故、しぶしぶ出てきてみたら、目の前に広がる湖、そして人数分の半数のホバークラフト。

 

操縦士と射手に分かれて乗り込んでみれば、ちょうどスキャンが始まる。

そして反対側のほとりに煌々と光る、敵チームの点。

 

これはもう、「討ち取りにいけ」という神の思し召しにほかならない。

そう解釈した彼らの気分が上がるのは、仕方がないことであった。

 

「よし!! 総員よく聞け!!」

「!!」

 

すると、真ん中に位置するホバークラフトの射手席に座ったリーダーが、無線を通して凛々しい声を張り上げる。

 

「我々はこれから、反対側の岸にノコノコと居座る()()鹿()()()どもを討ち取る!!」

「おお!!」

「……しかし、ただ単純に突っ込むのではこちらが不利になりかねない。撃ち合いも面倒である。よって!!」

「……!!」

 

 

 

 

 

「狙撃手を用い、()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

「「「「おおおお!!!!」」」」

 

チームの指揮が、ぐん、と高まるのを本人達はもちろん、それを見ている観客らも感じたであろう。

 

……しかし。

 

「リ、リーダー!!」

「……なんだっ!?」

「あ、あれ……!!」

「……なっ!?」

グワーン!!!!!

「た、待避!! 回避行動を……!!」

 

 

 

 

 

 

()()は、突如、訪れるのである。

 

 




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Episode107 着艦 〜Landing〜

一体自分は、どれくらい走ったのだろうか。

そんな疑問が、ふと脳裏を掠めた。

 

はたと足を止める。

足が動いている感覚が残っていて、少しクラクラしてくる。

 

ここは仮想世界。

決して息切れやら、筋肉痛やら、ましてや靴擦れなんてのは起きやしない。

 

……が。

その代わりに、精神力が酷使される。

そしてそれに付随する神経も。

 

「むぅ……」

 

ふと思い至り、腕時計を見る。

するとそこには15、と示されていた。

 

すなわち午後3時。

この大会……スクワッド・ジャムが開始されてから、ちょうど一時間である。

 

「!!」

 

ちょうど一時間。

そのフレーズに何かを思い出した彼は、ゴソゴソとズボンのポケットを漁り出す。

 

そして出てきたのはボロボロの紙切れ。

 

大会が始まる前……

 

『大会が始まって、ちょうど一時間たったら、この紙を読みなさい? その前には絶対読まないこと。いいわね……?』

 

そう言って、()()()()()から渡された、紙切れである。

 

「……ふん」

 

その言いつけを律儀に守るべく、彼……エムは、もう一度時計を見る。

 

15時、00分、45秒。

これならば、絶対に怒られまい。

 

そう安心し、ついにその紙の中身に目を向けた。

 

この付近に敵がいないことはスキャンを見なくてもわかる。

スクワッド・ジャムはもう終盤だ。

彼ら……『VRF』と戦う前の時点で、北の方にいたチームは消えていた。

 

したがってエムは、この野原でゆっくりと腰を下ろし、安心して紙切れの中身を拝見することができる、というわけだ。

 

南に逃がしたレンが心配ではある。

だがそれよりも、ピトフーイの紙切れが大事であった。

 

そうしてついに、エムはゆっくりと紙切れを広げる。

その後ゆっくりと……下に読み進めていく。

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

「……すまない、レン。()()()

 

エムは、震える手でその紙切れを握りしめ、そのまま目を閉じてうずくまった。

 

 

どどん、どかん、すどーん。

遥か西から、何かの爆発する音が立て続けに響いてくる。

 

「……お、始まったね」

 

するとそれを聞いたタウイが、にっと笑って目を細める。

 

その後ろで、唯一ベネットだけが、不思議そうな目をしてタウイの見る方向へ目を向けていた。

 

「……何が……おきてるんですか?」

 

いくら目を凝らしても見えない距離で起きているので、その正体はどうにもベネットだけでは分かりようがない。

 

すると、隣に座るプルームが、銃の中を覗き込みながらやれやれと言わんばかりに答えた。

 

()()()()()()()だ」

「……え?」

「さっき飛ばしてただろ、でっかいやつ」

「い、いや、それは見てましたけど」

 

プルームの呆れ声に、ベネットが意味不明と言わんばかりに食いつく。

 

「言っただろう、『タウイに援護はいらない。いるのは護衛だけ』って」

「は、はぁ……」

「言うなればあいつは()()。俺ら()()()()()()には、援護のしようがない」

「な、一体なんの……」

「ま、そういうことだ」

「???」

 

一人で完結し、また銃弄りに戻るプルーム。

謎はむしろ深まったと言わんばかりに、顔をしかめて首を傾けるベネット。

 

……ただ次の瞬間。

 

ガチャコン

「よいしょっ……と」

 

タウイが何も見えない西に向けて、肩に着いていたでかい鉄板を真っ直ぐに突き出した。

そしてそのままずっと静止。

 

「???」

 

相変わらず謎を抱えたベネットは、とりあえずその様子を見ていることにする。

 

すると、空の彼方から白い何かが飛んでくるのが見えた。

太陽を反射し、キラキラと輝きながら、三角形を彷彿とさせる陣形で3機。

 

「あれは……タウイさんの偵察……」

「違う」

「!?」

 

それを見たベネットが、そう呟いた瞬間。

隣に座るプルームが、また声を上げた。

 

「あれは()()()だ、()()()なんつうちゃっちいもんじゃない」

「ば、()()()……!!」

 

ああ、そういうことか。

ベネットの中で、全てが繋がった。

 

そりゃそうだ。

僕らにできることは何もない。

 

てっきりあのドローンが敵を見つけ、それを元に動くと思っていた。

だから周りのあまりの体たらくぶりに、これじゃぁすぐに動けるもんも動けないぞ、なんてのも思っていた。

 

だが本当はそんな心配さえ無用だった。

 

なぜなら()()()()()()()()だから。

15時のスキャンの時に見た敵チームの距離からして、例え徒歩だとしても、もう接敵していてもおかしくない時間だ。

 

だが実際は、敵チームなんている気配すらない。

……つまりは、そういうこと。

 

ドローンが、()()()()()()()()、のだろう。

 

「さて、そろそろ準備だ。あいつの着艦作業が終わり次第、次の進路が出るだろうから……」

「ま、てかもう分かりますけどね。南でしょ」

 

すると、ポカーンとしていたベネットの後ろから、そんな会話が聞こえてきた。

 

「ほらいくよ、ちゃんと背中に戻って」

ギィー!

「グレネードの補充してくる」

 

さらに奥からも、そんな声が聞こえてくる。

 

耳も騒がしかったが、変えることがなかった視界にも驚くべき光景が映っていた。

 

タウイの上をクルクルと円を描きながら待っている2機のドローン。

あえて遠くに行ってから、Uターンしてまっすぐゆっくり、高度を下げてきてタウイの鉄板……もとい、甲板に着艦する1機目のドローン。

 

そしてそのドローンを甲板から外し、後ろに差し出したタウイ。

 

「はいはい、今行くよ」

 

すると、ギフトがドスドスと立ち……否、座り尽くしているベネットの横を通って、そのドローンを受け取った。

 

約100年昔の艦載機を思わせる、深緑に塗られた機体。

そんな機体を片手に持ちながら、左手のウィンドウを操作して円柱型の爆弾を実体化し、機体の下部に取り付けるギフト。

 

 

 

 

 

「へぇ……」

 

 

 

 

なんか、このチームの初めて()()()()()()一面を見て、ベネットは惚れ惚れと、残り2機の着艦作業を見届けていた。




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Episode108 彗星 〜Comet〜

酒場は大盛り上がりであった。

 

なぜならそれは、色々なサイズのディスプレイがあるなかで、真ん中に異様な貫禄を持って居座る、一番大きなディスプレイ。

 

その画面の中で一人、孤独になりながらも奮闘する、()()()()()()が、思いのほか素晴らしい戦闘を6人のアマゾネス軍団に対して繰り広げているからだ。

 

プロ集団……と、酒場の観客達には勝手にそう呼ばれている『VRF』によって、南北に分断されたたった2人の極小チーム。

 

幾度となく迫った危機を何とか乗り越えてきた彼らは……否、厳密には彼らの()()、南に逃げ延びた()()()()は、また危機を乗り越えようとしていた。

 

なんと、南に待ち構えていたアマゾネス軍団に、たった1人で、()()したのである。

 

「速すぎだろ……」

「やっちまえー!! 俺のレンちゃん!!」

「おめぇのじゃねぇよ!!」

 

そんな声が色んなところから聞こえてくる。

 

そんな中……より少し外れた所にあるバーカウンターで、タスクら4人はディスプレイを眺めていた。

 

「……ふふ、頑張ってるね、レンちゃん」

 

オレンジ色の飲み物を飲みながら、店主は微笑んでいる。

 

食い入るように見つめているシノンとキリトはそんな声など聞こえもしていないようだった……が、タスクだけは違ったようだ。

 

「あの動きは……はは、()()的です」

()()、ねぇ」

 

タスクがそう言いつつ、彼もまたオレンジ色の飲み物を啜る。

すると、店主がはたとタスクを見て……

 

「僕にはこう見えるかな……()()みたいな?」

()()……?」

 

またディスプレイに視線を戻し、そう呟いた。

 

「一昔、というより、僕が生まれるかそこらの時代だけど、あの子に似たような動きをするキャラクターがいるアニメがあったんだ」

「……ほう?」

「ロボットアニメでね……あ、そのキャラは敵なんだけど、彼専用に作られたロボットでどんどん薙ぎ倒していくんだ」

「……へえ」

「速くて、強くて、でね。それに加え、彼の機体はね……」

「?」

 

そこまで話すと、店主がディスプレイから視線を落とし、少し笑いながら下を向く。

タスクは、不思議そうな目で彼の方をむく。

 

すると、店主はタスクの方を見ながら、笑いかけつつ首を振った。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()、なんだよ」

 

 

 

 

 

 

「……!!!???」

 

そんなの、まんまじゃないか。

タスクはそんな目をして、店主を見る。

 

「い、いやまぁ、ね。厳密に言うと、設定的には()()なんだけどさ」

「は、はぁ……」

「ほら、ずぅっと昔のアニメってさ、色が少し褪せるじゃない?」

「ああ……言われてみれば」

「だから……さ、ピンク色に見えるんだよ、それでね」

「?」

 

店主はぐい、と体を起こす。

視線はディスプレイに向いたまま。

 

「そのキャラのあだ名が、『()()()()』なのさ」

「……ああ、だからですか」

「そ! あの子に関しては赤じゃなくて、ちゃんとしたピンク色だから……」

 

 

 

 

 

 

「さしずめ、()()()()()()、ということですね」

 

 

 

 

 

 

「そゆこと」

 

タスクが笑いながら店主の言わんとしていることを口にした。

店主は少し嬉しそうに、その言葉にニカッと笑う。

 

そして画面の中では、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンがアマゾネスの首を斬った。




もえあが〜れ〜 もえあが〜れ〜
正義のぉ〜光をぉ〜

※レンちゃんとアマゾネスの戦闘シーンは、原作通り、と考えて置いてくだされば幸いです。
エムさんが倒した分も、レンちゃんがやったって事で。(ガバガバ)
すみません!! 尺が(以下略)

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Episode109 決戦へ 〜To the decisive battle〜

時は、15時10分。

 

やばいやばいやばいやばい。

小さな女の子の頭の中は、この単語でいっぱいであった。

 

理由は、愛銃のP-90、ピーちゃんがいなくなってしまったから。

 

しかもそれが、どこかに飛んでいったり、地面に埋まってしまったり、なんていう理由ではなく……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「どっ、どどっ……どうしよう……!?」

 

ピンクの小さな生き物は、頭を抱えてピンクの塊になった。

 

今、自分の手元にあるのは、ナイフ1本だけ。

対して、残っている相手チームは、あの交差点の奇襲さえもしのぎ、むしろ自分たちを分断させるまで至った強者達。

 

絵に書いたような、()()

 

「うう……相変わらずエムさんは返事してこないし……」

 

無線からの声が、ここまで恋しくなったことはない。

 

しかし。

泣いても笑っても、どうしようもないのだ。

 

「……よし」

 

ピンクのチビは、立ち上がった。

そして覚悟を……決めたようであった。

 

 

対して、その強者たち。

 

「ここのどこかに、あのチビがいる」

 

そう、タウイが呟いた。

眼科に広がるは、広大な荒野。

 

市街地のハズレにあった建物から見渡せる範囲でも、相当な範囲がある。

 

「15時10分のスキャンはついさっき終わった」

「そう」

「あのピンクは速い」

「だね」

「したがって?」

「……そゆこと」

 

プルームの言葉に、タウイが頷く。

 

ピンクのチビは、相当速い。

とすると、次のスキャンまでに移動できる範囲は普通よりはるかに広い。

 

ただ少なくとも、市街地には来ないだろう。

となれば、この荒野のどこかに、いることになる。

 

さすがに、隣の砂漠や、遺跡に行くまでは至らない。

それはいくらなんでも遠すぎる。

 

でもだからといって、すぐ見つけられるような地形でもなければ、そもそもそんな距離ですらない。

 

「……厄介」

「だぁね」

 

ベネットが息を着いて目を細めた。

レックスが呆れたような、面白そうな、そんな笑みを浮かべて首を振る。

 

「ま、泣いても笑っても、これが最後、だね」

「ええ〜、もう終わりかぁ」

 

ギフトが伸びをしながらそう笑った。

彼の体にずっしりのしかかり続けているグレネード達も、ローブに引っぱられて上にあがる。

 

ライトは相変わらずお気楽そうであった。

 

 

 

 

 

 

……そして、男たちは決戦の地へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

……ただ。

ベネットだけは、どこか不安げな顔をしていた。

 

 

一方、相変わらずうずくまっているエムである。

 

手紙の内容は、至って簡単。

「ゲームであなたが死んだら、リアルでもあなたを殺す」

 

んなばかな、冗談な、そう思うかもしれない。

だが、()()()はやりかねない。

 

そう思うと、震えが止まらない。

 

こうなれば、レンがやられたらリタイアするほか道はない。

リタイアするな、とは書いてない。

それに加え、別に()()()、わけでもない。

 

したがって、今自分がすべきことはただひたすらこの敵も味方もいないこの地で、その時を待つだけ。

 

レンがやられれば、リタイア権を有するリーダーの資格は自分に移る。

そしてそのままリタイアすれば、何事もなく、無事に終わるはずだ。

 

「……僕は、まだ死にたく……ないん……だ」

 

もし死んでしまった時のことを考えると、それだけで涙が出てくる。

 

……すると、その時だった。

 

ピピピッ

「ひぃ!」

 

不意に、腕に着けていた時計が振動し、音を発した。

 

15時10分。

7回目のスキャンを知らせる、予め設定しておいたアラームである。

 

エムは、慌てて胸ポケットからスキャン端末を取り出す。

そして縋るように、地面に表示させた地図を見る。

 

ゆっくりと、北から、白線が地図を撫でていく。

それをまるで、合格発表の受験生のような目で追うエム。

 

灰色の点がいくつも表示される中、ぱっと光った白点で表示されたのは、『VRF』。

 

彼らは今、マップ中央から見て南西に少しズレたところに位置。

居住区から荒野へと、もう既に移動を開始しているようだった。

 

スキャンはさらに下へ。

 

すると現れたもう1つの光点。

『LM』である。

 

その光点はなんと。

 

「な、なにを……!!??」

 

『VRF』に向かって、まっすぐ移動していた。

つまり、言ってしまえば「正面突撃」。

 

『VRF』も、恐らくはスキャンを見ているだろう。

こころなしか、レンの方へ進路が向いている気がする。

 

「……はは」

 

すると、エムは不意に笑い始めた。

それは、()()()()()()()()()()()()

 

ついさっきまで、レンが死ぬのをあれほど期待していたのに。

傍観者になった途端、レンの無謀な行動に、死ぬぞアイツ、と焦り始めた。

 

「結局は僕も……いや」

 

そして、エムはのっそり立ち上がる。

 

 

 

 

 

()()、大馬鹿者……だ」




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Episode110 接敵 〜engage〜

ヒュン!!

 

その時は、風の音しかしなかった。

……が、その次の瞬間。

 

ドシュウ!!

「んぐっ……!?」

 

彼ら……VRFの1人、レックスが、太もも内側からポリゴンの血を吐いた。

 

「レックスさん!!」

「こっちを見るな!! 周りを……!!」

「あっ……クソ!!」

 

咄嗟に反応してしまったライトが、今度は首筋からポリゴンの血を吐く。

 

 

 

 

「あいつだ……()()()()()()だ!!」

 

 

 

 

ライトはそう叫びながら膝を着いた。

 

「クソ野郎……どこ行きやがった……?」

 

プルームとベネットは、銃を握り締めて当たりを見回す。

 

一面に広がる荒野。

地面から生えるように点在する岩。

申し訳程度に生えた雑草。

 

パッと見は普通の荒野だが、この視界のどこかに、()()がいる。

 

するとその時だった。

 

ヒュン!!

「っ!?」

「プルーム!!」

 

プルームの向いていた方向から横に90度。

右側だから、およそ3時の方向。

 

()()()()()()が、斜め上からナイフ片手に落っこちてきた。

 

「……ぬん!!」

バキッ

「あっ……!?」

 

だがそこはプルーム。

思い切り銃のストックを突き上げ、彼女の腕のリーチに入る前にその小さな悪魔を突き放す。

 

「……今だ!! 早く2人を連れて後退を……!!」

 

すると、タウイがそんな2人を見つつ、ライトを背負って走り出す。

それにならい、ベネットとギフトがレックスの肩を担いで走り出した。

 

銃を突きつけプルームが対峙するは、かの有名なピンクの悪魔。

 

「……へぇ、銃はお持ちじゃないのかい、お嬢ちゃん」

「さっきの戦闘で壊されちゃってね。今はこの子だけなの」

 

向き合い、流れる緊張の時間に、プルームはレンにそう話しかける。

それに対しレンは、意外と普通に言葉を返した。

 

通常であれば、勝負ありとなるこの状況。

一方が銃を突きつけ、一方は銃を失いナイフのみ。

 

ただそれが()()()()()()となると、話は変わる。

 

たとえ引き金を引いたとしても、避けられる確率は正直五分五分。

そしてもし仮に避けられた場合、自分に彼女のナイフが刺さるのはもはや間違いない。

 

「……ふ」

「?」

 

すると、プルームが一息、そう笑うと、ゆっくり銃を下ろした。

レンはそんな彼を見て、キョトンとした顔を横に傾ける。

 

ただ次の瞬間。

 

()()()にいこうじゃぁないか。ええ?」

「……!! そういうことね……!!」

 

プルームは、しゃっ、と後ろ腰からナイフを取りだした。

レンも改めて、ナイフをギリッと握りなおす。

 

 

 

 

 

じりっ、そう聞こえてきそうなほど、張り詰めた空気が荒野に流れた。

 

 

一方、プルーム以外のVRFである。

 

「……もう、大丈夫。なんとか……」

「無理するなライト、まだ出血は続いてる」

 

一際大きな岩山の裏に座った彼らは、治療キットを惜しみなく使い、救急活動に勤しんでいた。

 

首筋を切られたライトは、出血のデバフのせいで、あまり視界がはっきりしていない。

対し、太もも裏を切られたレックスは、これも出血のデバフのせいで、足に力が入らず座り込んだまま。

 

時間の問題ではあるが、これではこの2人はまだ戦えない。

 

状況はこちらが圧倒的に有利。

人数的にも、経験的にも。

 

……しかし。

 

「ひとつだけ……不安材料がある」

「っ……!?」

 

するとその時、不意にタウイがそう言った。

全員の視線が、タウイに向く。

 

それに対してタウイの視線は、()()()()に向いていた。

 

「あのスナイパー、だ」

「!!」

 

そして次の一言で、今度は視線が全てベネットに移る。

 

「約束……したって言ってたよね」

「……ええ」

「こういう界隈ではよくある話さ。だから内容は聞かない」

「……」

「でもね。その代わり、してあげられることは何もない。むしろ、チームのためにしてもらわなければならない。君、1人で」

「……はい、分かってます」

 

タウイの目はあくまでやさしい。

だがしかし、その奥に見えるのは、真っ直ぐとした揺るぎない芯。

のほほんとしていて、時々冷たいプルームの諌め役で、そして我らVRFの旗艦(リーダー)

 

ベネットには分かる。

これは、信頼の証なのだ、と。

 

新参者の、実力も足らない、そんな自分が勝手にしてしまった約束を守らせてくれた。

チームの勝敗を分けるかもしれないこの事態を、ベネットにも肩代わりさせてくれた。

 

その信頼を、裏切る訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

「任せてください。必ず終わらせて、帰ってきます」




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Episode111 時間稼ぎ 〜Time earning〜

おかしい……どうして!?

そんな疑問符が、レンの中で暴れ回っていた。

 

普通のプレイヤーなら、もうとっくに死んでいてもおかしくない。

だって()()()()()()()()()から。

 

だが現実はそうじゃない。

 

今、目の前に立ってるまるで米軍兵士のようなこの男は、平然とナイフを構えてこちらを睨んでいる。

 

やっぱり、ただの強い人じゃない。

レンはそう、心の中で呟く。

 

なんてったってあのプロに勝ったチームだ、当然と言われればそうかもしれない。

 

さっきから何度も斬りつけてるのに、ダメージが入ってるのかさえ怪しい。

ただ、ダメージエフェクトはついている。

ナイフの軌道と全く同じ線が、体のあちこちでキラキラと光っている。

 

「……くっ!!」

「もう……終わりかい、お嬢ちゃん」

 

そうこう考えているうちに、相手の男がそんな声をかけてくる。

恐らく、そこそこの時間、睨み合っていたのだろう。

 

自分が考えている間、よくこの人攻撃してこなかったな、とふと思う。

 

……が、次の瞬間。

 

「……!!」

 

咄嗟に体が動いていた。

理由は、ナイフが()()()()()から。

 

「えっ……!?」

 

レンは何とか避けはするも、驚きを隠せない。

なぜこの状況でナイフを投げるのか。

 

それは、もはや()()()()()()と捉えても間違いではない程のことだ。

 

「くっ……はぁぁぁぁ!!!!」

 

またとない好機。

レンはすかさず男の股下、大動脈へとナイフを構えて飛び込む。

 

ただその時だった。

 

ダァン

「んぐっ……!?」

 

少し離れた岩の影。

なにかが光ったと思ったそのすぐ後。

 

 

 

 

レンの肩を、一発の弾丸が貫いて行った。

 

 

「うんうん……いいね」

 

店主が、ディスプレイを見て呟く。

 

「いい……んですか、これが」

 

それを聞いた隣に座るキリトが、店主にそう尋ねる。

 

「うん、チームとして、すごく上手く回ってるよ。本音は想像以上だ」

「……!!」

 

店主はキリトの問いにそう答えた。

それに対しキリトは、少し怪訝な顔をしてまた尋ねる。

 

「まっ、まぁ、カバーはちゃんとできてますけど……」

「……」

「チームとして回るって、今みたいな仲間を助けることじゃなくないですか?」

「……ふふ」

 

そんなキリトの問いに、店主はキリトの方を向く。

そして言葉を発する前にいつもの柔和な微笑みを見せた。

 

キリトは相変わらず怪訝な顔をしている。

 

……ただ次の瞬間。

店主が一言、こう返した。

 

 

 

 

「いつ誰が、カバーをしたんだい? キリトくん」

 

 

 

 

「えっ……?」

 

あまりに予想外の返答だったのか、キリトは思わず言葉を詰まらせる。

 

あれは、カバーではないのか。

ナイフを投げる、その()()()()()()をしてしまった仲間を助けるべく、別の仲間が機転を効かせて股下を通す狙撃を行った。

 

キリトが思い描いている話はこんなものだ。

これのどこが、カバーではない、のか。

 

……すると、次の瞬間だった。

 

「全部、計算済みのことよ、キリト」

「……!!」

 

意外な声が、その疑問にこたえてきた。

……そう、シノンである。

 

「け、計算済み?」

「そう」

 

キリトは思わず聞き返す。

それに対しシノンは、淡々とその言葉に言葉を返す。

 

「プルームさんがわざわざナイフ勝負を挑んだのは、時間を稼ぐためなのよ」

「……?」

「最初に襲撃されたあの時、レックスさんもライトさんも、そこまで瀕死じゃなかった。ただ出血のデバフで一時的に戦闘不能になるだけ」

「た、確かに」

 

そう答えながらキリトは回想する。

確かに、レックスやライトは倒れこんではいたものの、HPが0になるようなことには全くならなさそうであった。

 

「するとあの時必要だったのはただ単に『時間』。そうすると、最も有効なのは()()()()よ。銃撃戦みたく、見失ってチーム本体へ回り込まれる心配がない」

「……!!」

 

シノンのあまりにも淡々とした、かつ完璧な説明に、キリトは心なしか気圧されている。

 

「とりあえず戦って、あえて斬らせて逃げようと思わせず、時間稼いで。ま、後はプルームさんの経験の勘でしょうね。準備が出来たと思われるタイミングで、ナイフを投げて足を広げた」

「……!!」

 

そしてそのタイミングで。

キリトはそう内心で相槌を売ってディスプレイを見る。

 

「彼が……肩に一発入れたってわけ」

「……!!」

 

店主がそう言って、ニット笑った。

ディスプレイの中にいるのは、岩に肩を預けて遠くを狙う()()()キャラクター。

 

彼の手にある89式5.56㎜小銃には、なんのカスタムも見て取れない。

だが今までの彼とは違うところが、一点だけ存在した。

 

「ゴーグル、つけてる……」

 

そう。

彼は自分の顔より圧倒的に大きいスノーボード用のようなゴーグルを付けていた。

 

「彼はあんなんでも、射撃の腕は上位1%に入る名手だ」

「い、1%……!?」

 

店主のつぶやきにキリトは驚きを隠せない。

 

……ただ、次の瞬間。

驚いたからこその、疑問が浮かび上がってきた。

 

「え、で、でもじゃあ……」

「?」

「なんで、肩なんですか。頭に入れれば……」

 

キリトはそう言って首を捻る。

これだけ作戦が上手くいってるんだから、頭に入れて終わらせればいいのに、そう言いたげな顔をして。

 

すると店主は、そんなキリトの顔を見て、微笑みを少しだけ険しくした。

 

「ふふ、キリトくん」

「……?」

 

 

 

 

 

 

「言ったでしょう? ()()()()だって」

 

「……!!」

 

はっ、としたような顔になり、キリトはディスプレイに視線を戻す。

そしてそこに、大きく映し出されていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()だった。




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Episode112 数奇な運命 〜Strange fate〜

バシン!!

「!!」

 

突如、ベネットの足元の砂が跳ねる。

だがベネットは動じない。

 

「……来た、か」

 

すると彼は視線をゆっくりと上げ、そのまま周りを見渡す。

 

分かっている。

この1発は、いわゆる()()()()である、と。

 

少し考えればわかる話だ。

 

エムは恐るべきスナイパーだ。

昔から彼を知っているベネットは、それを嫌という程分かっている。

 

そんなスナイパーが、こんな足元に弾を()()()当てる訳が無い。

そもそも、頭を狙って撃って、こんな足元に外れることなんてありえない。

 

これは狙って放たれた一発。

わざと、足元を狙って、放たれた弾丸だ。

 

だからベネットは動じない。

エムに、受諾の意志を示すため。

 

「……」

 

しばらくの沈黙。

その間にも、ベネットは辺りを見回し続ける。

 

そして、次の瞬間。

 

「っ!」

ダァン

 

ベネットの顔の横スレスレを、弾丸が掠めて行った。

 

これは確実に仕留めに来た弾丸。

攻撃の弾丸である。

 

「どこだ……!!」

 

ベネットはしゃがみ、近くの岩に身を寄せ背中を預ける。

飛んできた方向だけは分かるので、その方向から見えないように姿を隠すのだ。

 

ただ問題は()()()()()()()()()()()()()

正確な位置が必要なのである。

 

「右か……?」

 

したがってベネットは、ゆっくりと顔を右側に出してみる。

 

バチン!

「っ……と」

 

その瞬間。

ベネットの顔のすぐそばがえぐれる。

 

「ということは、こっちに回っても大丈夫……?」

 

そしてベネットは次に、顔を岩の左側に出してみる。

 

「……お?」

 

すると今度は、打って変わって弾丸が飛んで来る気配すらなかった。

 

つまり、だ。

 

「あいつは1時から2時にいるのか」

 

ベネットの中で、大体の予測がついた。

 

右側に出した以上、ベネットがこの岩にいることは相手に分かられている。

かつ、顔を出した瞬間撃ってきたということは、相手はおそらく常にこちらを見続けている、ということだ。

 

したがって、左に顔を出した時、撃ってこなかったということは、それ即ち()()()()()()()()()ということ。

 

すると大体の予測がつく。

距離はともかく、自分が移動できる範囲と、岩を原点とした点対称の位置のどこかに相手がいる、という事だ。

 

「……ふ、()()()()()、か」

 

すると、ベネットはそう呟いて笑う。

そしておもむろに左手を空中に振って、ウィンドウを表示した。

 

「まさか……自分の作ったガジェットが、因縁の対決にピッタリだなんてな」

 

そして、ベネットの左手に、()()()()()()()()()()()()

 

その板は透明で、少し湾曲している。

真ん中には何か黒い円が描かれており、その周りにも何か数値がたくさん。

 

「固有ガジェット……実戦だ」

 

 

 

 

 

そしてベネットはそう言うと、その板を()()()()()()()()()()()

 

 

「すーっ………」

 

一方、エムである。

 

()()()()、1人で北上してきたベネットに宣戦布告の一発を放った後。

宇宙戦艦の装甲を改造した防弾シールドを展開し、少し小さめの岩たちの中に潜んだ。

 

「……はぁーー………」

 

ベネットの位置は分かっている。

 

正面に見据えた大きな岩。

そこの裏に、彼はいる。

 

絶対に、逃がさない。

次顔を見せたら、確実に仕留めて終わらせる。

 

そんな確固たる意志の元、エムは全神経を右目と右人差し指に集中させた。

 

 

「っ!!」

ダァン!!

 

そして数秒の沈黙の後。

 

ベネットがいる岩から、何かがぬっ、と顔を見せる。

その瞬間、エムは反射的に引き金を引く。

 

……が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボゴン!!

「なっ……!?」

 

聞き慣れない、()()()()()を響かせて、弾は弾かれた。




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Episode113 約束 〜Promise〜

『逃がしてやる。その代わり、この後必ず俺と勝負しろ』

 

ベネットの真剣な眼差しと共に、この言葉が脳裏に蘇る。

 

少し前。

居住区で、彼と鉢合わせた時の「()()」である。

 

彼はナイフを持つ手を掴まれてもなお力を入れ続けながら、そう言ってきた。

 

最初のエムは、もちろん困惑した。

だが、よくよく考えてみれば理にかなっているのである。

 

まず今のこの状況。

もし戦うか、逃げるかを選ぶことができるなら、間違いなく逃げるを選ぶ。

敵の増援が迫る中、のうのうとつかみ合っている場合ではないからだ。

 

ただ、そう簡単に逃がしてもらえるわけが無い。

そこには何かしら、()()を要求されるはず。

 

そう、それが、()()()()()()という部分。

これは、レンを孤立させ、かつ、ベネットを倒さないと合流できないことを意味している。

 

紐解いてみれば実に簡単な話だ。

ようはただの時間稼ぎである。

 

エムは逃げたい。

ベネットはレンとエムを遠ざけたい。

 

そのどちらをも取れる策。

それが、この提案なのである。

 

ただ実に利口な案なのも事実なのだ。

 

レンの孤立はエムの孤立を意味するが……

ベネットの孤立は、その他の孤立を意味できない。

 

もしこれが赤の他人なら、約束を裏切って合流するか、そもそもここで自決するかもしれない。

 

だがこれが戦友となると、話が変わる。

今後の関係に影響を出すかもしれないという恐怖が付随する。

 

これはただのゲーム、遊びであるが、本物の戦闘。

間違いなく相手は敵であって、また間違いなく相手は友人である。

 

この、ゲームであるが故に生まれる特異な状況を、上手く利用してきた手が、この提案なのだ。

お互い譲歩しているように見えつつ、実際は微々たるところでベネットに有利。

 

さすがは歴戦。

様々なスクアッドを渡り歩いてきた程はある。

 

 

 

 

 

 

……ただ、気がかりなのがそのスクアッドである。

 

ベネットは、様々なスクアッドを渡り歩いてきたが故に、チームワーク重視の傾向が強い。

 

そんな彼が、1人で勝負を挑んでくる?

チームメイトに相談もせずに?

 

そんな疑問も無くはないのだ。

 

そのスクアッドが、取るに足らないほどなのか。

考えられなくはないが、ベネットはそもそもそんな連中の輪には入らないことを、エムはよく知っている。

 

彼は、いくら金を積まれたとしても、そのスクアッドに納得できる強さ、あるいは面白さがなければ、絶対に仲間に入らない。

 

と、言うことはだ。

恐らく、彼が入っているのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()スクアッド。

 

そう、考えられるのである。

 

 

ボゴン!!

 

その考えが、確信に変わった。

今まで一度も聞いたことがない音がしたから。

 

「なっ……!!」

パパパン!!

 

反撃の音が消えてきて、エムは反射的に顔を下げる。

防壁があるのでその必要は無いのだが。

 

それより今、確かに見たもの。

相手の銃の上に確かにあった、()()()()

 

「なるほど……な」

 

彼が入ったスクアッドが、やはり並ならぬものであると確信する。

 

彼は基本に忠実だ。

そして絶対、自己流に走らない。

 

そんな彼が、あんな見た事ないものを使うわけが無い。

ということはつまり、そういう事だ。

 

仲間に触発されたのだろう。

その、()()()()仲間に。

 

「……ふっ」

 

面倒なことになった。

そう言いたげに、エムは少し笑った。

 

 

「すごいぞ……これ……!!」

 

対して、岩の裏のベネットである。

 

そんなことを呟きつつ、弾痕で真っ白にひび割れたパネルを、半ば強引に殴るように切り離す。

そしてまた虚空から現れた新しいものを取り付ける。

 

想像していたより、遥かにいい。

 

「これが固有ガジェットか……!!」

 

そう呟きながら、岩に背中を密着させて少し笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は、初めて自分が、()()()()()()()()()ことに気づいていない。

 




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Episode114 難儀な話 〜A difficult story〜

ゴトン!!

「……できたぞ」

 

時は少し戻り、SJ開催の約1週間前のこと。

 

素っ気ない声と共に、あまり聞きなれない音が店主の店の休憩スペースに響いた。

 

その音に驚いたベネットは、くるりとカウンターの椅子を回す。

 

するとそこには……!!

 

「お、おお……!!」

「……ふふ」

 

発注からたった1〜2日。

カチューシャから紹介された2人のうち1人……フォートレスは、そんな短い期間で、ベネットの設計図を忠実に再現した代物を持ってきた。

 

「設計図がわかりやすかったからな……作りやすかったよ」

「あ、あはは……ありがとう?」

 

そんなことを言うフォートレスを横目に、ベネットは早速その代物を持ち上げる。

 

ただその瞬間。

とある、()()()に気がついた。

 

「え……?」

「ん……? ああ、そうそう」

 

キョトンとした顔をするプルームを見て、フォートレスが思い出したように話し始める。

 

「実は……少し手を加えさせてもらった」

「えっ……!?」

「まぁ、といっても形は変えてない。なんせあのプルームの修正入りだからな、これが最善なんだろ」

「は、はい……?」

 

相変わらず、分からないと言う顔をしているベネット。

 

実を言うと、ベネットの書いてきた設計図は、カチューシャが2人を呼び寄せた後、諸処諸々の修正を加えられていた。

 

修正点は主に形状。

そして発案者は、ほぼ全てプルームである。

 

彼はポイントマンとして歴戦であるが故に、どこに、どういう角度、速さで、どれくらいの確率で弾が飛んでくるのかを熟知していた。

 

そしてその経験と知恵を用いて、ベネットが想定している使用場面で最も適切な形状へと少し修正を加えてくれたのだ。

 

守るべきところをきちんと守るのはもちろん。

意外な盲点や、当たった弾がどの方向へ弾かれるのか、またベネットのアバターの体型から、取り回しがしやすいのはどの形なのかなどなど。

 

感心どころか感銘を受けるレベルの知恵と知識を、加えてくれたのである。

 

……ただ。

 

「え、じゃ、じゃあその、修正ってのはどこに?」

「……ふふ、それは……な」

 

形状が変わらないとすると、他のどこに修正が入るというのか。

ベネットは、さっきからずっとキョトン顔をである。

 

ただフォートレスはそんな彼に、意外な答えを返した。

 

 

 

 

 

()()、さ」

 

 

「え、えーと、う、ううん?」

 

それから数分後。

 

ベネットはキョトン顔から一転。

なんなのだこれはという、驚き顔に変わり果てていた。

 

その理由は、ベネットが今置かれている状況。

 

彼は今、店主の店の試射スペースにいる。

そしてフォートレスは、ベネットに向かい合うように立っている。

 

フォートレスの斜め後ろには入口の扉があり、目の前の台には多種多様な銃が所狭しと並んでいる……というか、もはや積み上げられている。

 

それに対しベネットの後ろには……()()()()

その他には何も無い、殺風景な感じだ。

 

「えっとあの……これどういう?」

 

……そう、彼は今。

シューティングレンジの()()()()のである。

 

「……シールドを銃につけて、こちらに向けて構えて。あ、マグは抜け」

「????」

 

そんな彼に飛んでくるフォートレスの言葉は、尚更意味不明……

ではなかった。

 

その瞬間気づいたのである。

 

「それじゃ行きます」

「あっ……!!」

「どの弾なら何発まで耐えられるのか。体で覚えろ」

「えちょまぁぁぁぁ!!!!!」

ダァンダアンズバズダドドドド!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、あまりの容赦なさに、店主が笑いながら覗きに来たのは全くの余談である。




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Episode115 説明 〜Explanation〜

※切るところをミスりました。めちゃめちゃ短いです。
楽しみにしてくださった方々、申し訳ありません。


「ひぃ……ひぃ……」

カランカラン……

 

何かが焦げたような、そんな匂いが充満する。

それを示すかのように、同じく白煙もその場を埋め尽くす。

 

「も、もう……」

「ふふ、すまんすまん」

 

ベネットが言いかけたことを察してか、フォートレスが少し笑って答えた。

 

ゴト……

「ふぅ」

 

そしてそれと同時に、構えていた銃を台に置き、一息つく。

ベネットも、それを見て同時に銃を下ろす。

 

するとそれを見たフォートレスが、顎をクイッとしながら話し始めた。

 

「……で、これで分かったでしょ」

「え?」

「そいつの特性」

「……!!」

 

その言葉に、ベネットは思い出したようにそいつ……()()()()を見る。

 

ひび割れて、真っ白に濁ったその表面は、もはや前なんて見えようがない。

ただし、しっかり銃に着いていて、かつベネットに飛んでくる弾を全て弾き返してくれた。

 

「……見てのとおり、そのシールドに使われている素材は、()()()()()()()()

「は、はい」

 

そして、そう。

ベネットはついさっきまで、ハンドガンから対戦車ライフル用の弾丸まで、この世界に存在するほぼ全ての弾丸を、この1枚のシールドの後ろで受けた。

 

そしてその時、不思議なことに、散々ひび割れて散々濁りまくったはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「その素材は、言わば膜だ。薄い透明の膜が、何枚も重ねられている」

「ほ、ほう?」

 

すると、フォートレスが淡々と説明し始めた。

ベネットは、それを聞きつつ、シールドを二転三転させて眺める。

 

「衝撃が加わると、その膜が歪み、その膜たちの間の空間が潰される。そのおかげで、少しだけ衝撃が吸収される」

「なる……ほど」

「ただその代わり、その膜を通る光が乱反射するようになって、白く濁る。イメージは……ラップだな。ほら、ご飯とかに被せるアレ」

「あ、ああ……あれですか」

 

なるほどわかりやすい。

 

ご飯を一時的に保存する時に被せる、透明の膜、ラップ。

あれは確かに、くしゃくしゃと丸めると向こう側が見えなくなる。

それとほぼ同じような現象、ということか。

 

「ちなみに、完全に潰れた……ま要は、完全に真っ白になった所は、通常の数倍硬くなる。ただその分、衝撃がもろに来るようになるから、すぐに交換した方がいい。貫通はしないが、その代わり接合部がイカレちまうからな」

 

ふむ、とベネットは内心で相槌を打つ。

 

貫通はしない。

しかし、衝撃はモロに来るようになる。

 

そのせいで、接合部がやられてしまう恐れがあるから、すぐ交換した方がよい。

 

……ならば。

 

「あのぉ……フォートレスさん」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後にもう一個だけ、追加パーツ、いいですか?」

「!?」

 

そう言って見上げたベネットの目は、確かな意思が宿っていた。




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Episode116 度胸 〜courage〜

そして時は戻って……

 

パチン!パチン!

「……ふ」

 

エムの牽制射撃が地面を削る。

 

岩に隠れているので、ひとまず当たることはない。

しかし、そう言ってうかうかしていると、なにかが起きるのが戦闘の常だ。

 

ここはもはや、一気に出るのが最良だろう。

 

「……っと、その前に」

 

ベネットは、慌てて銃についたシールドの上方を殴る。

 

すると、バゴン、というくぐもった音と共に、シールドが外れて下に落ちた。

そして左手のウィンドウを弄り、新しいシールドを実体化して銃につける。

 

「よし」

 

しっかりとついたシールドを確認して、ベネットは顔を上げた。

 

「すーっ…………ふぅ……」

 

一度深呼吸を挟む。

体から余計な重荷も抜けたような感覚になる。

 

パチン、と音を立てて、セレクターが回る。

フルオートから、セミオートへ。

 

ベネットは目を閉じた。

そして最後にもう一度、()()()()を、思い出す。

 

『このシールドは、絶対に貫通しない』

『この形状なら、あんたに届く弾はないよ』

 

確かな自信を持って言う二人、フォートレスとプルームの手が、背中を押している気がする。

 

そして最後。

 

 

 

『最終的には度胸だ。いかに強く、確実に前に出れるかだ』

 

 

 

 

そんなカチューシャの声が、背中をドン、と押した。

 

 

「いった!!」

 

誰かがそう叫ぶ。

それと同時に、どっ、と歓声が上がる。

 

局面は最終局面だ。

レンと本隊は膠着状態だから、もはや映すものはこれしかない。

 

バゴンバゴンという音が、大きなスピーカーから響く。

画面の中のベネットのシールドに、エムの射撃が炸裂している音だ。

 

彼は今、()()()、岩から体をずらして相手に晒し、少しづつ横に移動しながらエムの射撃の猛攻に耐えている。

 

「……おいおい、大丈夫なのか!?」

 

だんだん、民衆の中からそんな声が出てくる。

それもそのはずだ、なぜならベネットが()()()()()()()から。

 

しかもそれどころか、じわじわゆっくりとエムの正面に向かっているのだ。

しっかりと銃を構え、腰を落とし、シールドがもうまもなく真っ白になりそうなくらいヒビ割れさせて。

 

 

 

 

ただ、次の瞬間だった。

 

 

ズダァン!!

 

単発の発砲音。

 

「っ、そういうことか!!」

ドッ!!

 

そして全てを理解したエム。

 

咄嗟に顔を逸らす。

だが、顔は免れたものの肩に一発もらう。

 

「んぐっ……!!」

 

()()()()()()その弾丸は、斜めに貫くことなく、しっかりとまっすぐエムの体の中にくい込んで止まる。

 

完璧だった。

小さな穴に、真っ直ぐ通す弾丸。

大きな体に真っ直ぐくい込んで、全ての運動エネルギーを体に伝える角度。

 

銃撃の猛攻に揺られながら放たれたその弾丸は、信じられないほど正確だった。

 

そしてそのせいで、ワンテンポ銃を覗くタイミングがズレる。

 

「くっ……そ!!」

 

エムは無理矢理に体を起こす。

そうしてやっと銃座に着いた時。

 

「……!!??」

 

 

 

 

 

()()()()()姿()()()()()()()()()()()

 

 

「おぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ベネットはもう、考えてなかった。

本能、もはやその次元まで、意識は集中していた。

 

エムのシールドに、針に糸を通すような射撃をカマしてからすぐ。

彼は気づけば走っていた。

 

「よし、よし!!!」

 

我に返ったのか、まさか上手くいった結果に少し高揚する。

 

真っ白にひび割れたシールド。

下に垂れ下がった銃。

 

この2つが、自分をこんな所まで連れてきてくれた。

 

「いける……いけるぞ!!」

 

ベネットは、かつてない高揚に身を震わす。

 

そして無造作にシールド上方を掴むと……

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()




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Episode117 形状 〜shape〜

「あっ、そういうことか!!」

 

ここは、GGOの酒場。

()()()()()()()()()がカウンターに座り、群衆の中でディスプレイを見ている。

 

「何が?」

「んー?」

 

声を上げた男の方を見て、傍らの女が首を傾げる。

すると、その男は笑いながら飲み物を啜り、言葉を続けた。

 

ズズーッ

「ん、いや、あのね」

「うん?」

「ベネットさん、SJ直前になって、()()()()()()を注文してきたんだよね」

「へぇ。それがあの……?」

「そう。当時は意味わかんなかったけど、そういう事ね」

「ふぅーん……」

 

ニヤニヤが止まらない男を見て、相槌を打ちつつまたディスプレイに向き直る女性。

 

……するとその女性は、何かに気づいた様子を見せた。

 

「……!!」

「……ん?」

 

そうして今度は、男が首を傾げる番になる。

そんな彼を見て、女性は肩を叩いた。

 

「ね、ねぇねぇ!!」

「な、なになに!?」

「シールドの形ってさ!?」

「うん? プルームさんだけど……?」

「ちゃ、それはそうよ、そうじゃなくて!!」

「???」

 

そりゃそうって、そんじゃ何よ。

そう言いたげな顔をするその男。

 

そりゃそうに決まってんでしょ。

そう言いたげな顔をする対する女。

 

「あの形、いつ決まった!?」

「い、いつ!? えーと……最初?」

「最初!? ありえない……すごいよ……」

「何が?」

 

まだわかんないの!?

もはやびっくりした様子を見せるその女は、男の顔をぐいとディスプレイに向ける。

そして、よく見て、と言わんばかりにディスプレイを指さした。

 

「あの形!! まるでああ使うように最初から分かってたみたいな形じゃない!?」

「……!!」

「形状は最初から決まって、変わってないんでしょ?」

「う、うん……そう……確かに、そう言われてみればそうだ……!!」

 

今度は、男の方も目を見張っている。

 

ベネットのシールドの形は、確かに最初、プルームに手を加えられてから全く変わってない。

 

……が、今見てみると、たった今ベネットが見せたシールドの使い方、追加パーツの用途に、驚くほど最適な形をしている。

 

 

 

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「あんな形、偶然でなるわけないわ」

「確かに」

「てことはもしかして……」

「うん……だろうね。信じられないけど……」

 

そしてその男女は、改めて食い入るようにディスプレイを見つめる。

 

するとその時、画面がパッと切り替わる。

かの小さな戦士と、彼らの本隊が睨み合っている。

 

2人が注目するのはただ一人。

 

 

 

 

 

プルームの口元が、心なしか笑った気がした。




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Episode118 変わらない 〜does not change〜

「おおおおああああああ!!!!」

「くっそ……!!!!」

 

ナイフを構えたベネットが落ちてくる。

必死にスコープで彼を探していたエムが上を見上げ、反応が遅れる。

 

ガチン!

 

剛健なナイフが地面の岩に当たり、火花と鈍い音を放つ。

エムが咄嗟に横に転がり、ベネットのナイフが地面に当たったからだ。

 

エムは即座に立ち上がる。

ベネットも即座にそちらを見る。

 

エムは防弾板から身一つで転がったので、愛銃も防弾板も何も無い。

全てはベネットの目の前に置いてきてしまった。

 

……が、一つだけまだ武器を持っていた。

こんな時のための、()()()()()だ。

 

「終わりだ……!! ベネット!!」

 

わざと長めに転がったのはそのためだ。

ナイフのリーチから外れ、ハンドガンのリーチで立ち上がる。

 

そして映画さながらの仁王立ち構え。

歯切れよく数発撃ち込んだ。

 

……しかし。

 

「……なっ!?」

 

ベネットのしゃがんだ体に隠れていた左手が前に回ってくる。

そしてそこについている()()()()()がベネットの前に立ち塞がる。

 

ボン!ガン!バチン!

「……!!!!」

 

結局、放った数発は全て弾かれ、ベネットの周りの地面を削った。

 

あまりの驚きに、エムは呆然と立ち尽くす。

ハンドガンのスライドは、薬室を開けたまま止まっている。

 

それすなわち……弾切れだ。

 

「く……!!!!」

 

睨むベネットの目に、少し狼狽え後ろに足を着くエム。

 

その瞬間。

ベネットは、立ち上がるベクトルを斜めにして、飛びかかるようにエムに向かってきた。

 

エムも慌てて後ろ腰のナイフを引き抜く。

 

 

 

 

ヒュン!!

 

ただ風を切る音だけが、その場に響いていた。

 

 

「やぁぁぁ!!!!」

「どりゃぁぁぁぁ!!!」

 

一方、レンとVRF本隊である。

 

VRFは、ライトを先頭に出し、レンと戦闘させながら、そこを中心にするように包囲網を敷いている。

 

ライトとレンは、小柄の俊敏同士、拮抗したドンパチを繰り広げていた。

 

『……ストップ、そこでいい、よ』

 

タウイの無線が入り、VRFの面々は足を止める。

各々、戦闘を繰り広げる2人を岩陰から見つつ、所定の位置で待機となった。

 

「何だか観客みたいだ」

 

レックスが楽しそうに座り込んで見ている。

 

……思い出す。

あの日、S()A()O()()()()()()

 

確かあの時も、自分はかの戦士……()()()()が、血盟騎士団団長と戦っているのを、ただひたすら眺めてたっけ。

 

結局変わらない……。

そんな思いが少し芽生える。

 

「ま、いんじゃなぁいの。 ね?コー君」

ギィ?

 

すると彼は、笑って背中のモンスターに語りかける。

 

そのモンスターは、銃の一部を変形させ顔を見せると、疑問符のような声を上げてまた戻った。

 

 

そんな風な、感傷に浸れるほどの暇を持て余していた彼ら。

特に、包囲網に加わらず、ドローンの上空映像に見入り、指揮していたタウイは、突如入った無線に困惑した。

 

 

 

 

 

 

 

「あの……どうしたらいい、ですかねこれ」

 

その声の主は、ベネットだった。




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Episode119 撤退 〜Withdrawal〜

ベネットが追加したパーツ、それは「ジョイント」である。

 

通常の「ジョイント」は、長方形型のシールド下方の長辺における中点にある。

これは、誰もがわかる()()()接続のためのものだ。

 

ではベネットが追加を依頼した「ジョイント」はどこか。

それは、長方形のシールドにおける短辺のそれぞれの中点に位置している。

 

そう、つまりこれは、()()()()()()()()()ものである。

 

装着するのは、手首と肘のすぐ下。

したがって、どれだけ手を動かしても装着状態に変化はない。

 

そして不思議なことに。

この使い方は最初、想定していなかった使い方である。

 

しかし。

なぜだか、驚くほど形状がしっくりくるのである。

 

「……まさか」

 

ベネットの脳裏に、もしかして、なんていう言葉がよぎる。

 

ただ彼は、すぐにその思考をもみけした。

そんなはずはない。()()()()()()()

 

 

 

 

 

でも実は……

その予想は、数奇にも()()()()()()()

 

 

そして時は進んで現在。

 

「な、なんじゃそりゃ」

 

タウイが、思わず疑問符をあげる。

他のメンバーからの交信はないため、おそらく皆一様に唖然としているのであろう。

 

 

 

……ベネットからの無線は、にわかに信じがたいことだった。

 

 

 

彼は、(どうやったかはともかく)エムに接近し、ナイフ戦に持ち込んだ後、戦闘の末彼にマウントを取った。

だがしかしその後すぐ、彼がなんと、「()()()()()」らしい。

 

しかも、「殺さないで、ほんとに死んでしまう」とかなんとかいって、今じゃ土下座の域に至っているとかなんとか。

 

極めつけはベネットだ。

ベネットはそんな彼の隣に座り、背中をさすりながら無線を飛ばしてきたらしい。

 

「はは……え、は、はぁ?」

 

タウイは、そんな言葉しかでてこない。

 

それもそのはず。

こんなの、急展開を飛び越えてもはや謎展開だ。

 

沈黙が訪れ、しばらくそのを占有する。

……ただ、突如その沈黙を破ったプレイヤーがいた。

 

 

 

 

 

他でもない、プルームである。

 

 

『終わりだ、タウイ。撤退(リザイン)だ』

 

タウイはまた耳を疑う。

 

「プルーム? い、いいのか?」

 

そして思わず、無線を送り返す。

すると、プルームは落ち着き払った声で言葉を返してきた。

 

『ベネットに引き金を引けとは言えんだろう。それにベネットも、引きたくないはずだ』

「し、しかし……!!」

『タウイ、旗艦(リーダー)としての責任や意思は分かるし、尊重する。だが、な』

「……?」

 

不意に言葉を切ったプルームに、タウイは沈黙で答えを待つ。

すると、プルームは一息ついて、核心的な一言を放った。

 

 

 

 

『これが()()()()()()なら、必ずこうするだろうさ』

 

 

 

 

タウイははっとする。

 

確かにそうだ。

ビックボスなら、あの人なら、きっとそうするだろう。

 

普通、世界のどこの部隊でも「結果至上主義」だ。

もちろん、それはVRFも例外ではない。

 

上は結果を求め、素人は結果で判断する。

そしてそれ故、本職の人間は、結果でしか成果を示しえない。

 

()()()()()()()()()()のである。

 

何らそれは悪いことではない。

むしろ至極当然、当たり前である。

 

……しかし。

あの人、ビック・ボスはそうではない。

 

結果より、人としての圧倒的な強さがある。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ボスの任務歴は実際の所、周りとそう大差ない。

むしろ少し劣るくらいである。

 

でも、誰もが口を揃えて言うのだ、「あの人には勝てない」と。

 

それは単純に、確かな実力があるのを知られているからでもある。

しかしそれだけではなく、むしろこれは付属的な要素でしかない。

 

周りにそう言わしめ、そして屈強な強者をまとめ引っ張りあげる強さの真髄は、そこには無いのだ。

 

「…………」

『……タウイ』

「!!」

 

躊躇うタウイ。

無線から聞こえてくる声はプルームのものしかない。

 

他は皆沈黙。

それをもってして、同意とする。無線の原則である。

 

 

 

 

 

 

 

「わかっ……た」

『……all over……mission fai……』

ブチッ

 

そうして彼らは、その場に伏した。




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Episode120 矛盾の中に 〜In contradiction〜

「…………」

 

酒場は、沈黙に包まれていた。

 

一般の方は、賑わっている。

最後の最後まで、小さな戦士達が戦い、その末で男の方が負け、その後だったからだ。

 

 

 

 

 

 

彼らが、撤退(リザイン)したのは。

 

 

沈黙はこちら。

タスクらがいる、個室である。

 

相変わらずのほほんとしたタスクと、厳しめな目で床を睨み、カクテルを仰ぐ店主。

目を伏せて息をつくシノンと、最高に居心地が悪そうなキリト。

 

どうなるんだろう。

そんな風にしか見ていなかったディスプレイで起こった悲劇。

 

泣いて伏す大男の背中をさすり、無線を飛ばすナイファー。

呆気に取られ、呆然とした中、レンとの決着を待って、リザインを押した本隊。

 

そして肝心のレンとの試合も、()()()()()()()()()

重苦しい雰囲気になるのも致し方なし、むしろ当然かもしれない。

 

「……して」

「っ!」

 

すると、店主がゆっくりと顔を上げた。

キリトはその横顔を、恐る恐る見る。

 

「どう、評価する? タスク君は」

「……うーん」

 

そんな顔を向けられながらも、のほほんとした態度を崩さないタスク。

そう問われ、飲んでいたワインをクルクルと回すと……

 

コト

「……ま、上出来、でしょうか」

「上出来……かい」

「ええ」

 

明らかにそうじゃないだろう。

そう言いたげなキリトの目が、タスクと店主を行き来する。

 

……するとその時だった。

 

「……落ち着いてキリト」

トントン

「んえ……?」

 

シノンが、キリトの背中をつついた。

キリトはゆっくりとそちらに振り返る。

 

「……彼らはよくやったわ。上出来よ」

「ええ……!?」

 

すると彼女まで、そんなことを言い始めた。

キリトは思わずシノンを凝視する。

 

そして勢いよく店主へ振り返ると。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ〜そりゃそうよなぁ〜!!」

「……えっ」

 

 

 

 

先程の雰囲気と一転。

店主がカウンターにひれ伏した。

 

 

そして時は流れ、その日の晩。

 

すっかり日も落ち、夕食も腹に入れ、あとは寝るだけなキリト。

……否、現実世界の、桐々谷和人である。

 

彼は今、電気を消した自室でベッドに横になり、天井を眺めていた。

 

「……」

 

不思議な感じがまだ抜けない。

 

今日の試合はLMが勝った。

問題はその後。

 

結局、あのチームには報酬は何もなかった。

 

後から聞けば、ピンクのチビに負けたのも、わざとらしい。

理由は、敵チームにリザインの選択肢を与えてはいけないから。

 

筋が通っている。納得もできる。

……しかし。

 

それらに対するタスクらの反応。

不思議な感じはここからである。

 

シノンも含め、彼ら3人に一貫して共通していたのは、「彼らはよくやった」という意見。

 

よくやったなら……報酬をあげてもって思うのは、『甘い』のか。

 

あの後、あの店主が、すごく項垂れていた。

しかしそれはがっかりというより、そうなっちゃっかぁ、というような、笑いを含めた項垂れだ。

 

 

「任務が絶対、そう言っているのに、何も達成しなかった任務に対して、『よくやった』…………んん?」

 

 

寝返りを打ち、今度は壁を眺めつつ、そう独りごちる和人、

 

矛盾。

頭には、そんな単語がよぎる。

 

……しかし、だ。

この一見矛盾した状況の中に、()()()()()()()がある気がするのだ。

 

()()()()()()()()()の、秘密が。

 

 

それから数分後。

 

ピピピ……

「ん、んん……?」

 

いつの間にか寝ていた和人は、スマホの着信音で目を覚ます。

 

「誰……だ? こんな……時間……に」

 

そして手探りでスマホを手繰り寄せ、眩しい画面に目を凝らす。

 

するとそこには、「明日奈」と書かれていた。

 

「アスナ……!? どうしたんだ一体」

ピッ

 

キリトは慌てて緑色の通話ボタンを押し、スマホを耳に押し当てる。

 

「は、はい……もしもし」

『……もしもし!! いきなりごめんね、キリトくん』

「……ん、いやそれはいいけど……何かあったのか?」

 

和人は、体を起こしてベッドに座り込む。

 

いつものパソコンを介したテレビ電話ではなく、スマホでの通常通話な辺り、普通の電話、では無いのは確かであろう。

 

疑問、と言うより心配、が彼の心に染みでてくる。

 

『ん、いや、いまALOから帰ってきたんだけどね……』

「あぁ……うん……?」

 

ALO、いかにもいつも通りな単語が出てくる。

和人の心に、少し疑問が増えてきた。

 

……そしてしばらくの沈黙の後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私を……GGOに連れてってほしいの』




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Episode121 組織の苦悩 〜Organizational distress〜

「あーぁ……!!」

「はぁ……」

 

白い個室に、大人二人のため息が漏れる。

ここはとある政府の建物の一室。

 

もう陽も落ちようかという時間帯で、窓からはオレンジ色の槍が差し込んでくる。

観葉植物の影が大きく、床全体に広がるようだ。

 

「いやその……申し訳……ない、が……」

「いや、分かるよ。そこは君たちの信条だ、尊重する」

「しかし、そう簡単な話じゃないでしょ?」

 

2人用のソファーに腰かけているのが店主。

もといタモン。

 

対して、真反対に1人用に座るのが菊岡。

 

珍しく意見が食い違わない2人。

その理由は、ついさっき終わった、「スクワッド・ジャム」である。

 

「……『例の計画』のために実績を……のはずが」

「僕とてあんな形で終わるとは思わなんだ」

「うーん……いや、君が、タモンはもちろん、君らVRFが悪い、って訳じゃあないんだ」

「何度も聞いてる」

「ただなぁ、うーん……」

 

そう。

問題はその結果であった。

 

傭兵として、厳しい世界で戦い抜いてきた連中なら、あんな大会簡単に勝てる。

そう踏んで、店主は送り出した。

 

例の計画の実行には、実績が必要だった。

それも分かりやすく、明確な。

 

しかし。

彼らの信条故、思わぬ結果で終わってしまった。

 

「もちろん、僕とて自衛官だ、あの結果を否定したい訳では無いが、なぁ」

「うん……分かるよ、()()()()、だろ」

 

タモンの言葉に、深く頷く菊岡。

 

 

 

 

 

懐かしい……これが組織の苦悩……か。

 

 

 

タモンは内心、()()()()を思い出していた。

 

 

「……で、何とかする、と」

「うん。」

 

その後。

現実ではすっかり夜中だが、GGOでは朝であった。

 

店主は、菊岡と別れたあと、すぐにGGOに戻ってきていた。

他でもない、タスクに報告するために。

 

「どうせあれでしょう、都市で戦った連中、自衛隊でしょう」

「……!!」

 

すると、全てを見通したかのような顔と声で、タスクがそう笑いながら言った。

 

店主はびっくりした顔で彼を見つめる。

 

「あれ、気づいてませんでした?」

「い、いや……そんなことはないけど、まさかと思って言わなかった」

「ふふ、僕も最初はコスプレかと思ってました」

 

タスクが楽しそうにカクテルを回す。

店主は前かがみになり、続きを待つ。

 

「彼ら、発砲時の薬莢に意識が寄ってました。自衛隊は基本薬莢受けをつけますからね」

「……!!」

「ま普通、スルーできると思いますが、ゲームなのにこんなリアルな薬莢!? なんて言うのも加わったんじゃないですかね、たぶん」

「……はは、流石だよ」

 

そこを見るか。

店主は驚嘆して顔を伏せる。

 

VR世界では、感情を表に出さないでいることは難しい。

それ故に、もはや無意識下の意識の変動でさえ、アバターの動きに微小な変化をもたらす。

 

そこを見抜くとはやはり彼か。

そんな感情が頭をよぎる。

 

「で、彼らに証言でもさせるんじゃないですか」

「あいつら強え、って?」

「そ!!」

 

チュー、とかわいい音を立てて、タスクがカクテルを啜った。

店主は半笑いでタスクを見やる。

 

「十中八九、菊岡さんでしょ、彼らを派遣したのは」

「ああ……だろうね」

「僕らに隠すのも分かりますよ。それでもし僕らが負けちゃったら、話になりませんからね」

「実際危うかったし……事後とはいえ隠すか」

「ええ、彼はそういう人です」

 

呆れたように椅子でクルクル回り出すタスク。

 

「ええいこの!!」

「あーれー!!」

 

それを見た店主が、タスクの肩を引っ掴んでさらに回し始めた。

 

「……何してんだあいつら」

「対G訓練かなんかでしょ?」

「タスク、たまには撃ちなさいよ」

 

するとそこへ、ちょうど射撃演習を終えたプルーム、ラクス、シノンが出てくる。

 

三者揃って呆れ顔。

ただ微かながらに笑みがこぼれている。

 

のほほんとした雰囲気だった。

これが傭兵団だとは誰が思おうか。

 

……しかし、そんな雰囲気はすぐにかき消された。

 

ガチャッ

「あ、いらっしゃいませー!!」

「こ、こんにちは……!!」

「ちょ、いってくるね」

 

回り続けるタスクを放置し、店主はカウンターを回り、真ん中の通路へと出ていく。

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、こんにち……っ!?」

 

店主が、明らかに声を詰まらせた。




こんにちは!!
いつもありがとうございます。

駆巡 艤宗でございます!!

いやぁ、ついに!! SJ編完結となります。

長かったなぁ……(笑)
ストーリーダイブ・キャンペーンのキャラクター達も、上手く活躍させてあげれてたか心配だったりします。

さて、物語はこれより、ユウキ編へと入っていきます。
Twitterの方では、ユウキが来るのか来ないのか、なんていう予想が飛び交っていたりいなかったりしましたが……?

おめでとうございます!!
ユウキ参戦!!

ということで。
本当は、ここで()()()()()を発表する予定でしたが、作者感想だけで終わりそうですので、発表はまた次回にします。

僕自身早く書きたくてうずうずしてるので、多分すぐ上がると思います。

お楽しみに!!

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第六章 紫陽花の戦姫 〜Hydrangea war princess〜
Episode122 珍客 〜Rare guest〜


ユウキ編、開幕!!


「あ、あなたは……!!」

 

初々しいお客の声に、慌ててカウンターから出てきたタモン。

しかし、そこには予想しえないお客が立っていた。

 

明るい栗色の髪の毛と瞳。

すらりとした体に、ふっくらと膨らむ胸。

 

店主がこの姿を見紛うはずがない。

 

 

 

「ア、アスナ……さん!?」

 

 

 

「アスナァ!?」

「ア、アスナさんですって!?」

 

店主の声と共に、シノンとタスクが飛び出してくる。

 

「ちょ、どうしたのよアスナ……!? 来ちゃダメよこんな所……!!」

「シノンさん?」

 

ポカーンとしている店主を押しのけ、シノンがずいとアスナに詰め寄った。

 

タスクはヨレヨレと倒れかかる店主を支える。

 

「シ、シノンちゃん!! よかったぁ……」

「い、いやいやいや、そうじゃなくて!!」

 

シノンを見たアスナは、心底ほっとしたような顔を見せた。

思わずぱっとシノンの手を握るアスナ。

 

「「………!?!?」」

 

そんな光景を、店主とタスクはポカーンと眺めている。

 

すると、逆にその光景が目に入ったのか、アスナがはっ、と我に返った。

 

「あ!! そうそう……!!」

「?」

 

自分の後ろを見て、ハッとした顔をするアスナに首を傾げるシノン。

しかしアスナは、もはやそんなシノンなど目に入らなかった。

 

「て、店主……さんでよかったですか」

「う、うん……? そうだけど」

「あの、えと……」

 

すると、アスナはシノンの手を握っていた自分の手を離し、左手でウィンドウを操作して、店主にとあるファイルを送る。

 

タイトルは……

 

 

 

 

「『ALO 統一トーナメント』?」

 

 

 

 

「!!!!」

「アスナ!?」

 

近頃ある、と普段ALOにいるレックスが言っていた大きな大会、その名前だった。

 

「そうです。あの、そ、そこに……」

「まさか」

「はい、タスクさん!!」

 

すると、いきなり話の矛先がタスクにむく。

タスクはあからさまにビクリとして、ちょっと身を引く。

 

 

 

 

 

 

「あなたに、出て欲しいんです!!!!」

 

 

「……なるほど」

 

それから、数分後。

急展開過ぎて、皆立ったままであることにあまり意識が向いておらず……

 

奥からのプルームの、

 

「あの……まず座ったら、どうで……すか?」

 

という提案のおかげで一旦休戦。

 

そしてその後、かくかくしかじかとその理由を説明された。

 

概要としてはこうだ。

ユウキ、という名の凄腕剣士がいる。

彼女(らしい)の腕前は、なんとALOのほぼ全ての剣士を凌駕しうる程だそうで、あのキリトにさえ、片手縛りありとはいえ打ち勝ったとか。

 

ただその彼女、事情は言えないがもうすぐALOができなくなってしまうらしく、大会も近かったので、思い切ってアスナが提案してみたんだそうだ。

 

『キリトの本気に勝った剣士と、戦ってみたくはないか』と。

 

「……で、その舞台がこれ」

「はい」

「ほんで相手が僕」

「そうです」

 

なるほど腑に落ちた。

そう言いたげな顔とトーンで、同時に息を着く店主とタスク。

 

そんな二人を見て、緊張の面持ちで座るアスナ。

……と、後ろから見守るシノン、ラクス、プルーム。

 

「んー………」

「……」

 

たっぷり間を置いて、店主が唸った後。

 

「ま、いんじゃないですか」

「タスクくん!?」

 

タスクのあっけらかんとした声が、店主の思考を遮った。

 

その場にいる者、全員がタスクの方を見る。

アスナなんかは特に勢いよく。

 

すると、タスクはちょっと身を引き、キョトンとした顔で説明し始めた。

 

「だ、だって別に、なにか事件の最中でもないし、出たからと言って僕らの存在が明るみに出るわけじゃないし」

「ま、まあそうだけど、ALO統一トーナメントだよ!?」

「それはそうです。確かに目立ちはするでしょう。までも、そんなのはもうキリトくんとの決闘の時点で、ね」

「た、確かに……」

 

一理ある、という顔で、店主がまた考え込む。

確かに、目立ったところでALOなら「神出鬼没の謎プレイヤー」で済むかもしれない。

 

「それに……」

「……?」

 

するとその時、タスクが何かを言いかける。

店主はその声に、ぱっとタスクを見上げる。

 

そんな店主を見て、タスクは少し意志を含めた笑みを見せた。

 

「強い人がいるなら、戦いたい」

「っ……!!」

「ってね!!」

 

バチコーン、という音がしそうなウインクをかますタスク。

一瞬緊張した空気が、また緩む。

 

アスナは内心、確かに威圧がすごいけど、タスクくんって実はかわいいんだな、と思ってしまう。

 

「……アスナ」

「はっ、ごめんシノンちゃん!!」

 

その瞬間、ドスの効いたシノンの声が飛んできた。

アスナは身体をびくつかせる。

 

……もちろん、周りはキョトンとしていたが。

 

「それに、あの決闘以来、なんか僕あだ名がついてるらしいじゃないですか」

「え? そうなのアスナさん?」

 

すると、そんなことに気づきもせず、淡々と話し合っていたタスクと店主から話題が飛んでくる。

 

アスナは慌てて言葉を返した。

 

「え、あ!! はっ、はい!!」

「?」

 

 

 

「タスクくんは、ALOでは『闘剣』と」

 

 

 

 

「『闘剣』……へぇ」

「かっこいい……気に入った!!」

 

すると店主とタスクはそれを聞いて、意外と思ったのか感嘆する。

 

『闘う剣士』、略して『闘剣』。

きっとこれには、『闘犬』も掛けてあるんだろうな、と店主は勘づく。

 

格闘技と剣術を織りまぜた、彼だけのスタイル。

そして、畏怖すら覚える獰猛な戦闘意志。

 

ピッタリじゃないか?

そんな感想が漏れて出そうになる。

 

チラリとタスクを見てみる。

 

 

 

「へぇ……『闘剣』、ふふん……へへ」

 

 

 

あっ、これはやる気だ。

もう何言っても聞かないなコレ。

 

そう、察した店主は、そそくさとカウンターの奥机についた左手のウィンドウを開き、「ALO統一トーナメント エントリーフォーム」と検索。

要項やら同意事項やらを慣れた目付きで流し読みし始める。

 

するとその時。

 

「出て……くれますか?」

「ん? ああ」

 

頭上から飛んできたアスナの声に、店主はぱっと顔を上げた。

そして不安そうな顔をする彼女に、にっと笑いかける。

 

「はは、まぁ……タスクくん乗り気だし」

「え、じゃ、じゃぁ……!!」

「行きます!! タスク参戦!!」

 

タスクもノリノリで、一昔前のゲームのシーンを再現している。

いつの間にか後ろに回り込んでいたのシノンが、クルクル回る彼を止めた。

 

……ただ。

 

 

 

 

「やった……!! あ、あ、あ、ありがとうございます!!」

「……う、うん」

 

 

 

 

一番はしゃいでいたのは、アスナだった。

 

 

「やれやれ」

 

それから時が過ぎ。

 

終わるまで外で待っていたらしいキリトと二人で、アスナが帰っていった店内。

 

「ふわぁ〜……、じゃ僕、軽い依頼まとめて片付けて来ますねぇ……」

 

そんな間抜けなことを言いながら、ボスに着替えたタスクが店内をドスドスと出ていく。

もちろん、シノンを引き連れて。

 

「ん……行ってらっしゃい」

 

そしてそれを見送る店主。

その背中を見届け、首を前に戻す。

 

……するとそこには。

 

「……あ」

 

アスナに気を取られてからそのままになっていた、「ALO統一トーナメント エントリーフォーム」の画面が浮遊していた。

 

「……たしか、アスナさんタスクくんの分もしてくれるって言ってたよね」

「ええ、確かに」

「じゃ……」

 

席に座ってこちらをむくプルームに確認をとりつつ、その画面の右上、赤いバツ印に指を伸ばす。

 

……その時だった。

 

ガシ

「……!!!!」

 

突如、カウンターの向こう側から伸びてきた手に、その腕を掴まれる。

店主は驚いて顔を上げる。

 

すると、手をがっちりと掴むラクスと、テーブル席から、体もこちら側に向けて見つめてくるプルームが視界に入った。

 

そしてしばらくの沈黙の後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたも、でしょ」

「!!」

「強いヤツと戦いたい、そんな()()鹿()()は」

 

プルームが、コーヒーを啜りつつそう言って笑った。




こんにちは!!
いつもありがとうございます。

駆巡 艤宗です。

さぁ!!お待たせ致しました!!
ユウキ編、開幕!!

それに加えて、皆様にお知らせが3点ございます!!

前回尺都合で延期したやつ……(笑)
あ、全部いい話なのでご安心を。


では早速1つ目!!
『ベネットの固有ガジェット、【防弾クリアシールド】の情報を追加しました!!』

実はかなり前から公開はしていましたが、告知はしていませんでしたのでここにご報告します。



続いて2つ目!!
『あとがきのアップデートを行います!!』

今話に使われているあとがきを、全ての話に適用します。
またそれに従って、あとがきの多少の改稿も行います。



最後に3つ目!!
『公式LINEができました!!』
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はい!! こちらが今回の目玉になります。
この度、公式LINEを作成致しました。
あとがきの改稿も、実はこれに伴うものです。

公式LINEでは、
・各キャラの公式LINE限定セリフ
・作中オリジナル用語の意味検索
・設定集のピンポイント検索
などなど、たくさんの便利な機能があります!!

ぜひお楽しみください!!



コロナ下で、緊張の日々が続いています。
読者の皆様におかれましても、より一層の警戒をお願い致します。

1回落ち着いてからが一番危険です。
この作品の場ではありますが、同じハーメルンユーザーとして、共に感染防止に務めましょう。

ではまた。


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Episode123 無 〜Nothing〜

「おお!! ここが……!!」

 

しっぽと獣耳がぴょこぴょこ跳ねる。

 

青緑色の髪と眼。

後ろ腰に地面と平行に携えられた鞘と刀。

 

そう、タスクである。

彼は今、シノンと一緒にALO統一トーナメントの()()()()に来ていた。

 

「さ、さ、早く行きましょ!!」

「あ、ちょ、待ってよタスク!!」

 

久々の明るい世界だからか、やたらはしゃぐタスク。

シノンはそんな彼に半ば呆れつつ、慌てて後を追いかけた。

 

ALO統一トーナメントの開催はALO内時間で2日間。

 

1日目、つまり今日は、予めの戦い、つまるところ「予選」である。

ABCDの4つのグループに、参加する全プレイヤーが分けられ、そこでトーナメントが行われる。

 

そしてそのトーナメントの勝者、4名のみが、2日目の本当の戦い、「本戦」へと歩みを進めることが出来るという訳だ。

 

観客はもちろんのこと、選手の数も多いため、1日目は特にごったがえしている。

明らかに参戦プレイヤーもいれば、明らかに観戦プレイヤーもいて、見ていて実にワクワクさせられる。

 

……ただ。

 

「……んぉ?」

 

タスクの周りだけは、雰囲気がガラリと変わっていた。

 

「おっ……見ろよ!! Cブロック優勝候補、タスクだぜ……!?」

「マジか……ってかちっちぇな!?」

 

周りはそんな噂話で盛り上がっている。

 

「『闘剣』、だっけ? どんな感じなんだろうな……」

「キリトとの決闘を見に行った連れが言ってたが、えげつないらしい。なんでも……」

 

コソコソと聞こえてくる言葉はやはりアレ。

あの時、つまりキリトとの決闘の時の話。

 

「あーっ……はは」

「タスク……あんたねぇ?」

 

そんな声が聞こえてしまったのか、タスクがなんとも微妙な笑いをシノンに向ける。

何しろ影で生きてきた分、注目されるのが苦手らしい。

 

「大丈夫大丈夫、私がいるから」

「うぅ……いやまぁ、はい……」

 

さっきのはしゃぎ様とは一転、すすす、とシノンのそばにタスクがよってきた。

 

かわいい。

シノンはそう言いかけて飲み込んだ。

 

 

「ここ……のはず」

「ほへぇ」

 

数分後。

 

そそくさと人混みを通り抜け、シノンに連れられた先は、競技場の下のバー。

 

ここに、キリトとアスナ、リズやシリカなど、いわゆる()()()()()()()に加え……

 

「ここに、彼女がいるんですね」

「……らしいわ」

 

そう、彼女。

『絶剣』、ユウキが、ここにいるらしい。

 

バーの中は、人でごったがえしている。

スーパーマーケットのような広さだが、そこに敷きつめられたかのようにプレイヤーがいる。

 

丸いテーブルがあるのがチラチラと見えるが、プレイヤーの頭の絨毯に隠れて何も見えない。

 

天井は高く、ガラス窓から太陽の光が差し込んでいて明るくて、奥に見えるカウンターの上には、でっかくメニューらしきものが光っていた。

 

「すごい人ですねこれ……」

「うん……想像以上だわ」

 

あまりの人の多さに、タスクとシノンは、入口入ってすぐで、ポカーンと口を開けて突っ立つことしかできない。

 

……とその時。

 

「シノノン!!」

「アスナ!?」

 

アスナが、人混みからいきなり現れた。

シノンの方へ手を伸ばしたアスナは、そのまま走ってきて肩を掴む。

 

「はぁ、はぁ……やっと会えた」

「や、やっと?」

「私たちね、1個上の、2階のロフトのバーで飲んでるの。ちょうど手すり沿いの席でね、シノノン達が入ってくるの見えたから私が代表で……!!」

「ああ、なるほど、それで人波にもまれてここまで来てくれたのね」

「そう!!」

 

地面を見て、ゼイゼイと息をつくアスナ。

それを見つつ、背中をさするシノン。

 

別に降りてこなくても、メッセージで……

そんな二人を見つつタスクはそんなことを考える。

 

しかし、これが彼らの良さであろう。

そう思って言うのをやめた。

 

とことん崩さない、仲間を大切にする姿勢。

キリトを始め、彼らの持つ独特の良さ。

 

……なるほど、ね。

 

そんなことを考え、タスクはふふ、と笑みを漏らした。

 

「はぁ、はぁ、はっ……ふぅ、おまたせ。タスクくんも」

「えあ、はい」

「みんなのところに案内するね、階段はあっち!!」

「ちょアスナ!! タ、タスク!! タスクこっち!!」

 

すると、アスナが息を戻し前を向く。

そしてそのまま、シノンの手を引っ張って行った。

 

それに慌てて反応するシノン。

置いていかれかけてあわあわしていたタスクの手を握り、タスクを引きつつ、アスナに引かれて行った。

 

 

 

 

「うぉわぁ〜〜!!」

 

 

 

 

タスクはそんなことを言いながら、シノンに引っ張られて行く。

その顔は実に楽しそうであった。

 

 

「みんな!! 来たよ!!」

「おお!!」

 

人混みにもみくちゃにされながら登った2階。

 

そこの手すり沿いの丸テーブル席2つに、見慣れた人達が丸く座っていた。

 

手前の丸テーブルにはキリトを始め、クライン、エギルなどが。

そして奥の丸テーブルには、リーファにリズ、シリカと……

 

「……紹介するね、こちらタスクくん」

「……!!」

 

アスナがタスクの見る方向を見て察したのか、彼の前に歩み出た。

 

「こちらが、『スリーピング・ナイツ』のみなさん」

「あ、どうも」

 

向かいの席に座っていた見慣れない数人がいっせいに会釈をくれる。

タスクはそれに会釈で返す。

 

「そして、この子が……」

 

それを見たアスナは、満を持して一人の少女を手で指した。

 

 

 

「『絶剣』、ユウキ」

「はじめまして」

 

 

 

一人彼らの中から立ち上がった紫色の髪の女の子。

ユウキ、と紹介された彼女は、そう言ってタスクに手を出した。

 

「……どうも」

 

それに応え、タスクも手を差し出し握手を交わす。

……そして一言。

 

「……戦えるといいですね」

「!!」

 

そう言って、微笑んだ。

 

 

「あれが……タスク、さん」

 

その後。

予定があるから、と、席に座らず去っていったタスクらを回想し、ユウキがそう呟いた。

 

「……意外だったでしょ?」

「うん、正直想像以上」

 

アスナの問いに、頷くユウキ。

意外に素直な回答に、目を丸くするスリーピング・ナイツの面々。

 

「僕ね、握手する時、大体わかるんだ。その人がどれくらい強いのか……」

「……」

「例えばアスナと初めて会ったあの決闘の日。あの日も、握手した時ビビってきたんだよねぇ!!」

「へ、へぇ〜……」

 

ユウキは、そう言うと飲み物を仰いであっけらかんに笑う。

アスナはそんな彼女を見つつ、自分も飲み物をグイ、と仰いだ。

 

「それで? ユウキ。えと……()()()()()は?」

「ん? ああ、そうそう、それでね」

 

すると、早く結果が知りたいと言わんばかりに、彼女の隣に座る大人びた女性……シウネーが、ユウキを小突く。

 

その促しにユウキは、少し俯く。

そして一言。

 

 

 

 

 

「それが……()()()()()()()んだよね」

「!?」

 

 

 

 

 

彼女の意外な回答に、会話が止まった。

キリトたちのテーブルまでも、全員がこちらを見ている。

 

「強い、とも弱い、とも感じられなかった。言わば、『無』かな」

「『無』……!!」

 

アスナはびっくりしたようにユウキを見つめる。

 

「ただ、いや、だから、なのかな」

「?」

 

すると、ユウキがパッと顔を上げて、皆に微笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

「すっごく怖くて、すっごく楽しみだよ!!」




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Episode124 帰ってきて 〜Come back〜

「ついたー!!!!」

 

闘技場下のバーから離れて数分後。

彼らは闘技場の正面通りを歩き、最寄りの街に来ていた。

 

目的を知らされず、ただ着いてきたシノンは、今更ながら聞いてみる。

 

「ねぇ……タスク?」

「はぁい?」

 

何やらご機嫌に前を歩いていたタスクが、ピタリと止まって振り返る。

 

「そういえば、なんで街に来たの?」

「んぇ、ああ、言ってませんでしたっけ」

 

すると、タスクが頭を掻いて笑いつつ、ゆっくり歩き出しながらシノンを見た。

 

「いや、その、武器を新しく買おう、と思って……」

「!!」

「キリトくんとやった時、もう少し良い奴ほしいなって思ったんですよね。そこら辺の店で適当に選んだやつだったので……」

 

そう言いつつ笑うタスク。

 

……ただ、シノンの顔は。

 

「……シノンさん?」

「っ……!!」

 

()()()()()()()()()()

 

その異変に気づき、体を反転させてシノンに駆け寄るタスク。

慌てて顔を覗き込み、肩を掴む。

 

「だ、大丈夫ですか!? どうしたんです!!」

「いや、えと……」

 

そんなタスクに、つい目をそらすシノン。

間近に迫ったタスクの顔が見れない。

 

「……!?!?」

 

そんなシノンを見て、タスクは分からないと言ったような顔を見せる。

 

……すると、その時だった。

 

「……っ、えと!!」

「!!」

 

シノンが、意を決したように左手ウィンドウを操作し始めた。

タスクはその動きを邪魔しぬようにと、少し下がる。

 

そして。

 

「こ、これ」

「!!!!」

 

シノンが、実体化した()()を、タスクの胸に押し付けた。

 

「えっ……!!」

「い、いつもの……感謝」

「!!」

「それと……その……」

 

そこまで言って、シノンは口ごもる。

 

タスクは、今目の前に起こっている事を信じられないと言うような顔で、呆然としている。

 

そしてそんな彼を前に。

シノンはついに、口を再び、開いた。

 

 

 

 

 

「勝って、帰って……きて」

 

 

「あっ!! みんな!!」

 

同刻、闘技場下のバー。

突然、リズが円卓を囲む戦士達に声を上げた。

 

皆が驚いた顔をして、リズを見る。

するとリズは、そんなみんなを見据えて、大きくVサインを出した。

 

そして一言。

 

「シノノン、渡せたって!!!!」

 

すると次の瞬間。

 

「おおお!!!!」

「やったぜ!!!」

 

アスナとクラインが飛び上がって喜んだ。

キリトはにっ、と微笑み、シリカとピナは目を合わせて微笑む。

 

「やったぜシノノン!! 頑張った甲斐があったなキリト!!」

「ああ……」

 

クラインが感慨深そうにジョッキを仰ぎつつ、キリトもそれに準ずる。

 

そう、実は。

アスナがGGOに乗り込んできた翌日。

 

今度はシノンが、ALOに乗り込んできたのである。

 

と言っても、いつも休みの日にはALOに来ていたシノンだ。

別にみんなからしてみれば、普通のことである。

 

ただ唯一違ったのは。

シノンが、皆と合流して放った一言目であった。

 

 

「「「「「タスクにプレゼント!?」」」」

 

時はアスナGGO侵攻の翌日。

いつも通りのALO内アスナ宅にて、そんな声があがった。

 

「そ、そう……えと……その……」

 

あまりの周りの驚きように、シノンは恥ずかしそうに斜め下の床を見る。

 

珍しく獣耳も垂れ下がり、手も太ももの上にあり。

実に縮こまって、座っていた。

 

皆、あまりの驚きに沈黙する。

あのキリトでさえ。

 

……しかし。

その沈黙を破ったのは、意外にもクラインだった。

 

「んんー、俺はいいぜ、協力する」

「クラインさん……!!」

「いいじゃねぇの、そういうの!! やれることならなんだってするぜ。なぁキリト、みんな」

「……!!」

 

クラインの明るい性格は、ここで発揮されるのか。

シノンは意外な目付きでクラインを見上げる。

 

そしてそんなクラインにつられ。

 

「やらない訳にはいかないわ!!」

「そうですね、やりましょうか!!」

 

リズとシリカが立ち上がった。

 

 

 

 

 

かくして、彼らの計画が始動したのである。




今回は少し短めでした!!

予選開始まで、あと少しだけ、物語が入ります……
乞うご期待!!

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Episode125 完成 〜Complete〜

シノンが、タスクにプレゼントしたもの。

それは、「()」である。

 

 

タスク本人も言った通り、彼の刀はキリトとの決戦前、街にあった小さな武器屋の手頃なやつだった。

 

彼自身曰く、「僕は刀だけでは戦わないからいいのいいの」とかなんとか言って、さすがにシノンもびっくりするような適当さで選んでいたため、実はずっと気にかけていたのだ。

 

結局、決闘は無事、言った通りほぼ関係なく終わった。

 

……が。

今回もそうとは限らない。

 

という訳で……

 

「私達に頼ってくれたのね!!!!」

 

やたら張り切ったアスナがふふん、と胸を張った。

シノンはそんな彼女に苦笑いする。

 

「刀かぁ……鋳造はリズがするとして」

「まいどぉ」

「素材はどうするんだ?」

 

いつの間にか食い付き気味なキリトが、そんなことを言いつつ歩み寄ってくる。

すると、それに答えるシノンは恥ずかしそうに下を向いた。

 

「そ、それも、みんなに聞こうと思って。私、ALOあんまり……」

「なるほどなるほど!!」

「採集も鋳造も、みんなになら任せられるなぁって……」

「ふんふん!!」

「だ、だからその……!!」

「まっかせなさい!!」

 

シノンの肩を鷲掴んだアスナは、鼻息荒く目を輝かせる。

 

もしかして。

そんな不安がよぎる、が。

 

 

 

 

「っしゃぁぁいこおおお!!!!」

 

クラインに連れられ、シノンは連れられるがまま外に出ていった。

 

 

そして、その日の夜。

 

「で、できたぁ〜!!」

「やっとかぁ〜……あぁ……」

 

リズベット武具店で、一同がそんな弱々しい声を上げた。

 

「はい! シノノン!!」

「……!!」

 

その中で、唯一特段の笑顔なリズは、どすん、と音を立ててその「刀」を店のテーブルに置いた。

 

真っ黒い柄に、青い目釘。

金色の鍔から伸びる、美しい刀身。

 

「名前はね……『艤斬 雷電』、だって」

「ギゼン……ライ……デン」

 

リズが刀から出るウィンドウを見つつ、シノンにそう告げる。

するとシノンは、その言葉を繰り返しつつ、その刀に見入った。

 

キリトが提案した、大海に潜むボスモンスターを討伐し手に入れた鱗。

そしてそれを錬成し鋳造して現れたこの一品。

 

「こいつは一級品どころか、超一級品だよ!! どの数値も見たことないくらい高い。苦労した甲斐があったってもんさ」

「……!!」

 

そう言ってリズは微笑む。

キリトやアスナ達も、皆にこりと笑う。

 

この屈強なパーティーでも、丸一日かかったモンスターからできた刀だ、これでタスクにも引けを取るまい。

そんな自信も、その面々には浮かんでいた。

 

 

 

「みんな……本当にありがとう……!!」

「!!!!」

 

 

 

すると、シノンがその刀を抱えて涙ぐむ。

 

一日中戦い続け、ボロボロになった戦士達は、その顔だけで救われたような、そんな気分であった。

 

 

その後しばらくして。

 

「しっかし、タスク……だっけか、そいつもまぁ、羨ましいなぁおい!!」

 

すっかり元気になった彼らの中のクラインが、そんな声を上げる。

 

「……どうして?」

 

その声を聞いたアスナが振り返って問う。

アスナと話していたシノンも、首を傾けてクラインを見る。

 

すると、クラインが核心を突いた一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「シノンちゃんの愛情籠った超一級品だぜ!?」

 

 

 

この後。

クラインがどうなったかは言うまでもない。

 

 

……時は戻って、現在。

 

フードを被った大柄なケットシーが、露店で買った串刺しの肉らしきものを頬張る。

 

「ん〜!! これおいひぃ……!!」

 

そんなことを言いつつ、すぐそこの配り子が配っていたチラシに目を落とした。

 

「AB……そしてC」

『Aブロック 優勝候補 キリト』

『Bブロック 優勝候補 ユウキ』

 

その二文を眺め、ふ、と少しだけ笑う。

そしてそのすぐ下。

 

『Cブロック 優勝候補 タスク』

「……しかしまぁ、すっかり有名人になっちゃって」

 

そこを読み、一段と、ニヤリと笑うその男。

 

「ま、せっかくもらった機会だ」

 

すると、その男はたん、と立ち上がった。

手に持っている串には、もう何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しまなきゃぁ……損だよね」

 

 

そしてそう呟くと、目の前にある闘技所を睨んだ。




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Episode126 いってらっしゃい 〜Good luck〜

「んー、ふふ」

「?」

 

早速刀を腰に据え、満足そうに歩くタスク。

そのすぐ隣を、まだ紅く頬を染めながら続くシノン。

 

彼らは、先程の進路とは一転、闘技場へ向かっていた。

 

すると、タスクは手を後頭部で組んで、空を見上げてふと呟く。

 

「あれが……ユウキさん、ですか」

「……なにかあったの? タスク」

 

ユウキのことを考えているタスクを見て、シノンは不思議そうに覗き込む。

 

「いや、なんか……ね」

「?」

()()()()、そんな気持ちなんですよね」

「懐かし……い?」

 

意味がわからない、と言いたげなシノン。

相変わらず空を見上げるタスク。

 

「どういう……意味?」

 

すると、シノンもタスクにならい、空を見上げつつタスクにそう問う。

ただ、その瞬間。

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 

シノンは、タスクがただ空を見上げていた訳では無いことを知る。

そこに浮いていたのは、「()()()」。

 

 

 

 

 

 

タスクは、GGOでたまに見せる、暗い目をしていた。

 

 

午前に行われる予選A・Bブロックは、ほぼ予定通りに、滞りなく進み、そして終わった。

 

大方の予想通り、Aブロックはキリトが、Bブロックはユウキが優勝し、明日の本戦の準決勝への切符を手にしている。

 

そして昼休憩を挟み、午後。

 

「ついに……来たね」

「うん」

 

いち早く観客席に着いていたユウキは、アスナとそう、息を飲んだ。

 

 

 

Cブロック予選、第一回戦。

タスク vs ルージアである。

 

 

 

 

オオオオオ!!!!

「うわぁ〜お……すぅごいすごい」

 

Cブロック予選開幕のファンファーレが響き渡ると同時に、観客席は大いに沸き立つ。

 

それを、選手控え場所の観客席の真下の部屋でタスクとシノンは聞き、感嘆しつつ笑っていた。

 

「大丈夫なの? そんな悠長な……」

「んぇ? ああ。さすがに……ですよね」

 

すると、タスクの余りの悠長さに心配を隠せないシノンが、ついそう言ってタスクを急かす。

 

タスクは、それにハイハイ、と言わんばかりにまた笑って、選手入場口に向かった。

 

 

「プレイヤーネーム、タスクさーん?」

「はぁーい!!」

 

入口直前の係員のキャラクターが、タスクの名前を声高に呼ぶ。

それに反応し、ぴょんぴょん跳ねながら選手の中から出ていくタスク。

 

心なしか、他の選手の視線が異様に集まっている気がする。

 

「ちょ、ちょっとタスク!! TPOってものを……!!」

「ええ〜いいじゃないですかぁ。楽しみなんですもん!!」

 

シノンが必死に諌めるが、タスクはウズウズが止まらないらしく、まだかまだかとそわそわしてる。

 

「あと1分後、名前が呼ばれますから、タスクさんのみが闘技場内へ入ってください」

「りょーかいです!!」

「付き添いの方はこちらへ」

「ああ、いえ。私は見送ったあと、観客席に戻ります」

 

係員のキャラクターがテキパキと指示を飛ばし、二人はそれに聞き入り、了解する。

 

……そして。

 

「あ……」

オオオオオ!!!!

 

タスクの名前が呼ばれ、タスクが振り返る。

そんな彼の背中を、シノンはグイと押した。

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい、タスク」




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Episode127 快進撃 〜Unstoppable〜

「うっそ……でしょ?」

 

ユウキがそう、一言漏らす。

 

隣に座るスリーピングナイツはもちろん。

アスナたちやキリトでさえも、目を見張って沈黙している。

 

「……」

 

ただその中で、唯一。

シノンのみが、少し微笑んで彼を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

熱狂する観客の声援を笑って受ける、タスクを。

 

 

Cブロック予選は、大方の予想を遥かに超えていた。

 

大番狂わせが起きた訳では無い。

優勝候補そのものの予想が、遥かに超えていたのだ。

 

 

 

第1試合。

真っ直ぐ突き出してきた槍を右脇に逸らし、受け流したタスク。

するとその槍を左手でつかみ、そのまま右に回って相手の顎に一撃、後ろかかと回し。

 

首が折れた判定となり、相手のHPは一瞬で0に。

史上最短、3秒で決着が着いたのである。

 

 

 

続く第2試合。

今度は片手剣使いだった相手の繰り出した渾身の上段切り。

羽を使った急降下による、ダメージ増加も加えた一撃だ。

だがタスクは、なんとその相手に背中を向けた。

 

するとそのまま剣を振るう手を掴んで背負い投げ。

ひっくり返った状態で落ちてきた相手の頭が、地面に着く前に首元に一蹴り。

そしてそのまま、またもや一発KO。

 

 

 

第3試合は相手が善戦した。

双剣使いだった相手は、タスクが懐に入らぬよう、小刻みに位置を変えながら応戦。

さすがのタスクも苦戦したのか、試合時間が前の2つより長引く。

 

……ただ。

右剣を突き出し、左剣を頭上に添えた、突き構えの姿勢で飛び込んできた相手の隙を、タスクは見逃さなかった。

 

相手で言う右剣、それ即ち、タスクから見た左側の剣である。

タスクはそれを、またもや右に受け流した。

 

しかし、今度は脇ではなかった。

()()()に、剣を通したのである。

 

……と言っても、飛び上がった訳ではなく。

相手が突進してきた瞬間に、タスクは右足の回し蹴りを繰り出したのである。

 

通常より少し高めに足を上げていたため、タスクの腹に向けて飛んできている剣は、ゆうゆうとタスクの地面と平行な右足の下を通り抜けていく。

 

そしてそのまま、ドシン。

相手の顔面に右足がくい込み、そのまま相手は後ろに仰け反りまたもやKO。

 

 

 

そして実に厄介だったのは第4試合である。

さすがに対策を、と思ったのか、相手は常に空中に浮遊し、弓矢を使って応戦してきたのだ。

 

タスクは前半、相手の撃ち下ろす矢を避けるだけ。

しかし後半に差し掛かったところで、いきなりタスクは飛び上がった。

 

羽が不慣れなことが伺える、ヨレヨレした急上昇。

だがそれでも、相手の隙を着いていたからなのか、タスクはあっという間に相手の真下へ。

 

そしてそのまま足首を掴んで地面にドーン。

ついでにタスク自身も自由落下で相手の喉と腹に肘と膝をドーン。

 

この時ばかりはさすがに微妙な雰囲気が漂った。

 

 

 

そしてCブロック準決勝、第5試合。

 

ここまでこれば、相手もそこそこ猛者である。

そしてその通り、図体のでかい、ハンマー使いが出てきた。

 

だがタスクは逆に、そうであるが故の弱点を突いた。

 

大きく振りかぶり、振り下ろす直前にタスクは相手に()()()

そしてハンマーが地面を叩く直前にすり抜け、そのまま股をくぐり、背中を登って首を固めた。

 

そして窒息させてなんなくKO。

 

 

 

とまあこんな風に。

もはやチートを疑われるような戦いを繰り返すこと、数回。

 

ユウキ達は、それはそれは呆然としていた。

アスナたち、そしてキリトでさえ、ポカーンとしている。

 

だがまあ、それもそのはずかもしれない。

ユウキら、スリーピングナイツはもちろんだが、アスナ達に関しても、彼女らはキリトとの決闘の際、確かに格闘技を見たが、まさかここまでそれのみで戦えるとは思っていなかったのである。

 

そしてそれは、裏を返せばこれも意味しうる。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

という事を。

 

 

……そして、第6試合。

Cブロック予選、決勝戦である。

 

この戦いを制した者が、明日の決勝への切符を手にすることになる。

 

片翼はもちろん、快進撃を見せ続けたタスク。

そしてもう片翼は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()である。




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Episode128 剣先 〜Sword tip〜

時は少し戻って……。

リーファが、Cブロック決勝進出をかけた試合をしている時。

 

「……どう、タスク」

「……どうとは?」

「リーファちゃん、勝てそう?」

 

観客席に通ずる大きな階段の正面の欄干で、タスクとシノンが肘をかけて観戦していた。

 

「ああ……ま、次の相手は彼女でしょうね」

「!!」

 

すると、驚くほど軽いノリで、タスクはそう口にした。

 

ちなみに、タスク自身はもう既に決勝進出を決めている。

つい先程、例のハンマー使いとの準決勝を終えたのだ。

 

「拮抗しているように見えますが、いずれリーファさんが優勢に傾きます。必ず」

「か、必ず……?」

 

シノンはタスクの断言ぶりに驚く。

 

「……彼女、キリトくんの義妹でしたっけ」

「ええ……確か」

「ふふ、やはり()()()()()()

「え……」

 

すると、タスクは微笑んでシノンを見た。

シノンは少し紅潮して後ずさる。

 

「ほら……よく見て」

「……?」

「リーファさん、相手と剣を交わしていない間は、剣先に意識が向いてるんです」

「!!」

 

一瞬タスクを見て、リーファに見入るシノン。

……だが。

 

「……別に……まわりのプレイヤーと変わらない気が……?」

「あれっ」

 

シノンは、そう言って首を傾げた。

タスクはあらら、と言いたげに笑う。

 

「シノンさん? 意識はね、全体を見るんです。目じゃない」

「!!」

「ほら……今なんか特にそう。相手との距離を、()()()()()()

「え……?」

 

やっぱり分からない。

シノンはますます混乱する。

 

どこが……?

確かに相手に剣先が向いているけども、視線は明らかに相手に注がれているし、全体を見ても適切な距離を保って一合、また一合と繰り返す通常の斬り合いにしか見えない。

 

「う〜ん……ああ、こう言えば分かるかな」

「?」

 

すると、そんな顔のシノンを見て、タスクが何かを閃いたらしい。

 

「えとじゃあですね」

「う、うん」

「次、斬り合いが止んで、また始まる直前」

「うん……うん?」

()()と、()()を見ててください」

「え……」

 

シノンはついタスクの方を見る。

するとタスクは試合を面白そうに眺めつつ、口だけを動かしている。

 

「するとね、シノンさん」

「!!」

 

こちらを見向きもしないで、いつの間にかこちらを見ているのを悟り、会話を止めていたタスクがまた会話し始める。

 

シノンはそれに気づき、少し恥ずかしそうにまた前に慌てて向き直る。

 

……そして一言。

 

「リーファさん、必ず()()()()よりも早く、()()が敵の動きに反応しますから」

「……!!」

 

そう言ってるうちに、試合の合が止む。

 

「さぁ……よく見てよく見て……?」

 

タスクの声につられ、シノンは思い切り目を凝らす。

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

パキン!!

「あっ!!!!」

 

 

 

 

 

それは、()()()()()()()()()()()であった。

 

敵が一瞬の隙をつきぐんと距離を縮めた。

そしてその瞬間、確かに彼女のどこよりも早く、まず()()が反応したのである。

 

その次に体が後ろに下がった。

秒にして1秒もないほどのごく僅かなズレだが、確かにタスクの言う通りであった。

 

「す、すごい……ほんとに、剣先が最初だわ」

「ふふ……でっしょぉ?」

 

シノンの素直な感嘆に、得意そうな顔をして照れるタスク。

するとシノンは、そんな彼に率直な問いを繰り出した。

 

「……でも、タスク」

「?」

「なんでそんな所を見たの?」

 

タスクの方を見て問うたシノンに、彼も答えて彼女を見る。

 

「……それはですね」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

 

 

 

 

「ほ、()()……!?」

 

案外壮大な答えに、キョトンとするシノン。

そんな彼女を見たタスクは、また前に向き直り説明し始めた。

 

「キリトくんも、リーファさんも、どちらもおそらく、『()()』が根底にあります」

「!!」

「だから、剣の戦いにおいて圧倒的アドバンテージがある。シノンさんはこちらでも弓手だから分からないでしょうが、()()()()()()()()()()って言うのは、どんな形であれ、仮想世界で優位に働くんです」

 

そう断言するタスクの横顔を見て、シノンは回想する。

 

確かに、GGOでも実銃経験がある人は射撃命中率が高い傾向がある。

全く同じ的を、全く同じように狙っても、だ。

 

タスクはまだ説明する。

 

「仮想世界だと、トッププレイヤーでさえ、現実の経験がない故に、単なる……まぁその、()()にしかなっていない人が多いです」

「えっ……」

「今のリーファさんの相手もそう。現実の経験が、下地がないから、仮想世界のアシストありきの戦闘行為……ようは単なる()()でしかない」

「……」

「まぁ、それが仮想世界の良さでもありますが。でも、仮想世界で強くなれる人って言うのは、結局は現実が問題だったりするんです」

「……」

 

 

 

「キリトくんやリーファさんは正真正銘の『()()』ですね。ただやっつけのそこらの連中とは違う」

 

 

 

「!!!!」

 

その時、シノンの中で全てが繋がった。

つまり、タスクが刀を抜かなかったのは……!!

 

「……ふふ、そういうこと。あんな連中のために、この刀を消耗したくありませんでした」

「タ、タスク……!!」

「次は逆に、()()()()()でいきますねシノンさん。何せお相手が『()()』ですから……」

「……!!!!」

「格闘技なんか使っちゃ失礼でしょう、キリトくんは何故か剣道味が薄かったので使っちゃいましたけどね」

 

そう言って笑うタスクに、シノンもニコッと笑いを返す。

 

……ただ、ふと一つの疑問がシノンの中にぽっ、と現れた。

 

「え、タスク」

「はぁい?」

 

試合に向き直っていたタスクが、またシノンの方を向く。

 

 

 

「か、格闘技が失礼って……タスクも剣士でしょ?」

 

 

 

「……!!」

 

すると、想定外だったのかタスクがキョトンとする。

だがすぐに表情を戻すと、ふっともの哀しげな笑みを見せて、一言……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は『()()』です。「()()()」ではなく、「()()()()()」を極めた、極悪の人間です」

 

「っ……!?」

 

シノンがタスクのその一言に息を飲む。

 

 

 

そしてその時、形勢が一気にリーファに傾き、観客が湧いた。




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Episode129 意味がない 〜meaningless〜

「…………」

 

時は、Cブロック決勝戦の約30分前。

勝ち抜いた選手が、次の試合に向けて休養をとるために設けられた、少し多めな待機時間。

 

そんな時に、闘技場から少し離れた池のほとりに座る妖精が一人。

 

金色の髪をひとつに束ね、豊満な体を膝を抱えて萎ませ、腰の剣をはずし、整った顔はどこか浮かない様子。

 

……意外にも、それはリーファであった。

 

「……はぁ」

 

彼女はため息をついて池を眺める。

 

時間はあまりないはずだが、リーファはそんなことお構いなしのようであった。

 

するとその時。

 

「……あれっ、君って……?」

「!?」

 

いきなり聞き覚えのある声がして、リーファは驚いて振り返る。

 

するとそこにいたのは。

 

「えっ、あっ……!! あ、あなたは……!!」

「やぁ……奇遇だね。お久しぶり」

 

黄土色の髪の毛に、可愛らしい獣耳としっぽ。

がっちりとしたガタイに、背中に背負われた大きな薙刀。

 

そう、()()だった。

 

「えと……確か、リーファさん、だっけ」

「ああ、はい……そうです」

 

黄土色の獣耳をピクピクさせつつ、ニカッと笑う店主。

それに対し、リーファは相変わらず浮かない顔。

 

もちろん、店主はそんな彼女の異変に気づいた。

 

「……おや」

「!!」

「ん〜……、ああ、なるほどなるほど」

「……え?」

 

すると店主は、全てを見抜いたような事を呟く。

 

ドカッ

「!?!?」

 

そしてなんと、彼は()()()()()()()()()()

もちろんリーファは驚き、思わず隣の店主を凝視する。

 

「わかるわかる、君のような()()なら尚更だよね」

「っ……!?」

 

すると、ずーっと奥、湖の彼方まで眺めつつ、店主はそう呟いて微笑んだ。

リーファは何か突かれたかのように言葉を詰まらせる。

 

「ん? もしかして違う?」

「い、いえ……」

「ふふ、話してごらんよ」

「で、でも……」

 

店主の催促にまた言葉が詰まるリーファ。

すると店主は、ふふ、と笑って青空を仰ぎみた。

 

 

 

 

「大丈夫だよ。今日は僕、お忍びなんだ。僕がここにいることは、タスクくんやシノンさんは知らない」

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

店主の言ったことに一瞬耳を疑う。

明らかに目を見開き、店主を食い入るように見つめる。

 

ほらやっぱり。

店主は内心、そう独りごちた。

 

「……どう?」

「っ!!」

 

するとリーファは、店主の微笑みに思わず顔を背ける。

そして……おぼつかない口調で一言。

 

「い、いえっ、これは私の()()なので……!!」

「……おや」

 

そう言いきったリーファは、拳を握りしめ俯いた。

対して店主は相変わらず空を仰ぎ見たまま、言葉を返してこない。

 

沈黙が流れ、リーファはだんだん居心地が悪くなる。

そそくさと立ち上がり、湖に背を向ける。

 

そして一言、「失礼します」と言いかけた次の瞬間。

 

「わ、私、失礼……」

 

 

 

 

「君は今、『()()()()()()()()()』を抱えてる」

 

 

 

 

 

「!?」

 

店主がそう一言、リーファの言葉を遮った。

リーファは、まるで何かに掴まれたかのように体が止まる。

 

すると店主は見向きもせず、言葉を続ける。

 

「ついさっき僕がお忍びって言った瞬間」

「!!」

()()()()()()()()()()()()とわかった瞬間、あなたは少し心が軽くなったよね」

「……!!」

 

全部、当たっていた。

 

相談できるかもしれない。

そう思ってしまい、確かにあの時、心が軽くなったのだ。

 

「……でも流石だね、あなたはそれを()()として自分の中に押しとどめた」

「っ……!!」

 

そこまで読むか。

リーファの拳に、汗が滲む。

 

ただ次の瞬間。

 

「でもね」

「!!!!」

 

空気がピリッと張り詰めるのが体で分かる。

 

今までの口調と一転、()()()()()()()()()の真剣な雰囲気を、リーファは初めて感じる。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな状態で挑むのは、それこそ()()()()()よ」

「!!!!」

 

リーファはついに振り返った。




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Episode130 眼差し 〜look〜

「それって……どういう……」

「んー? そのまんまだよ」

 

驚き思わず振り返ったリーファと、その視線の先に座り、青空を仰ぎみる店主。

 

傍から見たら異様な光景だが、店主はともかくリーファでさえ、そんなことは気にもとめなかった。

 

「君はあと数十分後に始まる戦いに()()()()()()()()

「!!」

「でも今の状態で行けば、()()()()()()()()()()()()()()ってことさ」

「っ……?」

 

店主のあっけらかんな口調に、リーファは違和感を覚えつつも聞き入る。

 

すると店主がゆっくり振り返って、そしてリーファを見上げると、ニコリと笑って隣の地面をとんとんと叩いた。

 

「まぁ座りなよ」

「……はい」

 

リーファはその誘いにしばらくの沈黙の後に答える。

とす、と柔らかい音と共に、リーファがまた店主の隣に座る。

 

そしてそれを見向きもせず、しかし、きちんと座るまで待ってから、店主はゆっくり、話し始めた。

 

「……君は素晴らしい剣士だ。戦い方を見てて分かる、剣道かなにかしてるでしょ」

「……!!」

「それに加えてALOのプレイ時間も長い。SAO未解決状態の時からのプレイヤーだよね」

「ど、どうしてそこまで……!?」

「ふふ、う〜ん……長年の勘ってやつかな」

 

そう言って店主はまた笑う。

リーファはそんな店主を半ば怪訝な目をして見つめた。

 

「っはは、そんな怪訝な目ぇしなくてもいいじゃんか。別に見ただけでわかることさ。探りなんか何も入れてないよ」

「あ、いえ、ご、ごめんなさい……」

 

そんな目に店主は引け目を感じたのか、店主は少し身を引いて弁解する。

リーファはそれをさせてしまったという罪悪感から、慌てて謝りペコペコしていた。

 

普段なら、笑っていれるほどのほほんとした状況。

しかし今のリーファには、そんな状態なれる余裕は到底なかった。

 

すると、店主がそんな彼女を見てため息をつく。

 

「はぁ……あのね、リーファさん」

「……?」

 

呆れたように微笑みながら語りかけてきた店主に、リーファは顔を上げる。

 

そして店主は、またさっきの真剣味を帯びて、こう一言発した。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキさんは別に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

店主から飛び出した驚きの言葉に、リーファは放心するがごとく体が固まる。

 

それを見つつも、店主は言葉を続ける。

 

「あなたあれ、きっとさ」

「……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう感じてるんじゃなあい?」

「!!」

 

図星だった。

そう、まさにその通りであった。

 

ユウキらスリーピングナイツはもちろん、観客達も、「ユウキ対タスク」を期待している。

だれも、リーファが勝つことを望んでいないし、期待していない。

 

それだけならまだいい。

しかし今回は仲間たち、キリトやアスナらまでもが、それを望んでいるのである。

 

そんな戦いに果たして意味はあるのか。

そもそもキリトに勝ったタスクだ。リーファが勝てるわけがない。

 

勝てない戦いに挑まなければならない時はある。

しかしそれは応援してくれている人達のためであって、今回はそんな人などどこにもいない。

 

だったら。

そう、思っても致し方なかろう。

 

それに加え、なんだか見せしめのような、消化試合のような。

そんな雰囲気の中戦いに挑むなんて、それこそプライドが許せない。

 

だからリーファはすっかり気分が落ち、池のほとりに座り込んでしまっていたのである。

 

大切な愛剣を傍らに置いて。

 

「……ふふ、あのね、リーファさん」

「!!」

 

すると店主は、そんなすっかり落ちたリーファの目を真っ直ぐ見据える。

リーファはその眼差しに、心を射抜かれたように体が硬直する。

 

そしてゆっくりと。

 

「ユウキさんも観客も、そしてキリトくんもアスナさん達も」

「……」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()が見たいんだ」

 

 

 

 

 

 

()()……()っ……!!」

 

そう言って、リーファの目を一段と強い眼差しで貫く。

 

「君が負けて欲しいなんて誰も思ってないし、君がもしタスクくんより強かったら、それこそ観客は歓喜するだろうね」

「……!!」

 

すると店主はそんな眼差しを一転、そう言ってふにゃっとほほえむ。

そしてにっと笑うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、それこそかっこいいじゃない?」

 

そう言って店主はまた一段と深く笑った。




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Episode131 宣戦布告 〜Declaration of war〜

開始のゴングは既に鳴り響いた。

闘技場の真ん中に立つリーファは、前に佇むタスクをきっ、と睨む。

 

「…………」

 

ビーッ、と鳴ってから5秒。

戦うどころか動きすらしない。

 

観客の声援は徐々に小さくなる。

剣すら抜かない二人を、不思議そうな目で見始める。

 

するとリーファは拳を握りしめ、タスクに向かって一言。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

そう、言い放った。

流石にタスクも驚いたのか、目を見開いてリーファを見つめている。

 

観客はもはや声援など送りもしない。

どういうこと? なんて言いながら、ガヤガヤと音を立てている。

 

「ただっ……!!」

「!!」

 

……が、観客のガヤが、続く一言でピタリと止んだ。

タスクは変わらず驚き顔でリーファを見つめる。

 

そしてリーファはぐっと息を吸い込み、一段とタスクを睨むと……

 

 

 

 

 

「だから私は、思っきりあなたに()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

そう宣言して、腰の剣を抜いた。

 

オオオオオオ !!!!

「いいぞー!!」「やっちまえー!!!!」

 

観客は、まるで先程までの静寂の反動かのように特段に沸き上がる。

 

彼らは見てきた。

噂の存在でしかなかったタスクの快進撃を。

そして定評通りのリーファの健闘を。

 

これは決してエンターテインメントではない。

しかし、そうでないからこそ得られる興奮も確かに存在するのだ。

 

リーファはそれを一段と引き出したのである。

 

「………なるほど」

「!!」

 

相対するタスクはニコリと笑うとリーファを見やる。

リーファはその視線に警戒の色を隠さない。

 

するとタスクは、そんな彼女の目を見つつ、ゆっくりと()()()()()()()()

観客はさらに沸き上がる。

 

()()()()()()、と思ってましたけど」

「っ……!?」

「流石に()()()()()()()()()

「…………!!」

 

そして彼は、そう言いつつ笑みを一段と深めて、()()()()()

 

《まさか……いや、そんなわけない。私が恐れてるだけよ、大丈夫。》

 

リーファは不意に、そんな思考が頭をよぎる。

 

タスクの言った言葉が、つい先程までの自分を暗に意味しているように聞こえたからだ。

 

そんなわけない。そんなわけない。

リーファは繰り返し頭の中でそれを否定する。

 

いくら彼とはいえ、あんな弱い気持ちは想定できないに決まってる。

少なくとも義兄、キリトは微塵も察してなかった。その隣のアスナでさえ、だ。

 

いくらかのタスクとて同じなはず。

 

「くっ……!!」

「……ふふ」

 

しかし、タスクの射抜くような視線と微笑みに、リーファは動揺の顔を見せてしまった。

 

まさか。いや、そのまさかなのかもしれない。

()()()()()()()()()……!!

 

ギリッ、と奥歯が擦れる音がする。

 

ユウキは何も感じないと言っていたこの目の前のケット・シーが、リーファは今恐ろしくてたまらない。

 

「すーっ……くっ……!!」

「……!!」

 

鼻から息を吸い込み、喉元で止める。

剣を前に、両手で持つ。

 

()()()()()

タスクは明らかに警戒の色を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

そしてついに、戦いが始まった。




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Episode132 剣の形 〜Sword shape〜

「リーファ……ちゃん……!!」

 

手をきつく握りしめ、闘技場中央を見つめるアスナ。

その先にいるのは、文字通り手に汗握る闘いを作り上げている二人の妖精。

 

大勢の観客のいる中。

皆がタスクに期待を寄せる中。

 

あんなにはっきり、まさに凛と宣言したリーファは、アスナの目にはとても輝いて見えた。

あの宣言の瞬間、ユウキも心を掴まれたようで、あからさまに興味を引かれた顔をしていた。

 

それはアスナ達だけではないようで。

観客もいつしか、タスクよりリーファを応援している。

 

「リーファさん……いい感じですね!!」

「う……うん!! あの子今、めちゃめちゃノってるわ……!!」

 

シリカとリズは、そんなことを言い合いつつ、アスナらがいる席の前の欄干で前のめりになっている。

 

……しかし。

 

「……キリトくん?」

「……アスナ」

 

キリトだけは、険しい顔をして中央を睨みつけていた。

 

「顔怖いよ……キリトくん」

「あ、ああ……すまん、でもな」

「……?」

 

アスナの指摘に思わず口を緩ませるキリト。

だが彼の不安げな様子は抜けない。

 

「何か……感じるのよね」

「ああ……」

 

すると、意外にもアスナが意味ありげな言葉を投げかけた。

キリトはそれに呼応するようにこくりと頷く。

 

タスクと戦った時に感じた「()()」。

キリトはもちろんだが、アスナも少しは感じるようであった。

 

 

 

 

 

そう。「()()()」である。

 

 

一方タスクら。

 

ヴォンヴォン!!

「っ……と」

 

リーファのX字の太刀筋を一瞬で読み、横にではなく後ろに飛んだタスク。

 

読み違えて横に飛べば必ず当たる軌道。

流石は剣道習得者と言える。

 

しかしタスクにそれは通用しない。

 

「くっ……!!」

「……ふふ」

 

軌道を読まれ避けられたタスクを睨み、苦い顔を見せるリーファ。

タスクはその顔に少しのドヤ味を乗せた微笑みを返す。

 

逆にあの時、ただの袈裟斬りだった場合。

相手は後ろに下がった反動の体勢を立て直すための時間を要する。

 

その隙をつかれることのないよう、袈裟斬りと読んだ場合は横に避けて反撃に移る訳だが、読みを外しXだった時、2本目に当たってしまう。

 

対して放つ方は、もしXであるという読みを外せて後ろに下げれれば、そのまま逆袈裟を放つのが定石であるが、逆に当てられると2本目の時に体制を整えられてしまう。

 

つまりは袈裟斬りかXかの賭けになる訳だが、そこはリーファ。

なるべくギリギリまで判別がつかないよう、袈裟斬りの軌道をなるべく引き伸ばしてXの2本目に入ったはずだったが。

 

タスクはそもそも、()()()()()()()()()

 

Xの1本目。

袈裟斬りと判別がつかないものの時。

 

タスクは足の位置を全く変えず、膝から上のみが太刀筋と逆に傾いた。

そして2本目を悟ると、そこから後ろに飛んだのである。

 

普通、1本目を避ける時は体ごと横になる。

そう。つまりこの時()()()()()()

 

それ故に2本目が避けれなくなるのだが、タスクはその一枚上手であったのだ。

 

「なんで……そんなことが……くっ!!」

「んー……、ふふ」

 

しばらく睨み合っていた2人だが、顔があからさまに違う。

タスクはにっとした笑みを保ち、リーファはギリッ、と歯を食いしばり睨みつけている。

 

すると、そんな顔に少し引け目を感じたのか、タスクが体勢を変えつつ……

 

「……ひとつだけ、教えてあげましょう」

「!?」

 

そう言って、刀を前に突き出した彼らしからぬ構えを見せた。

 

タスクの構えの中の刀は、普通なら下に下がり、前に出ている右足の横あたりにあるものだ。

それはキリトとの戦い、格闘技を使う際も、リーファとの剣術のみの際も変化はなかった。

 

しかし今は違う。

しかと両手で握りしめた刀の先端は、リーファの胸と同じ高さにある。

 

今までとは異なり、上に上がった状態。

リーファはもちろん警戒する。

 

……するとしばらくの沈黙の後。

 

「剣というのはですね」

「……!!」

 

 

 

 

 

()()()()()()。決して、()()()()()()

 

 

 

 

「……!?」

 

そう呟いたタスクは動く。

 

そして次の瞬間。

当たり前すぎて、言葉の本当の意味が分からず、疑問に感じるリーファは一瞬にして……。

 

「なっ……あっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その意味を、()()()()()




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Episode133 兄の言葉の意味 〜The meaning of my brother's words〜

「う……あっ……!!」

 

リーファの体が後ろへ倒れていく。

前を向いているのはそう、「目」だけ。

 

視界に映るのは、この試合中初めて見せたタスクの真剣な顔と、その下からまっすぐ伸びる彼の刀。

 

その先端は、リーファのこめかみの真横にある。

 

普通、こんなところに刀が来ることなんてない。

顔に飛んできた武器は、剣士だとかそんな話以前に人として反射的に避けてしまうからだ。

 

しかし現状はそうではない。

 

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()からであり。

そして同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()からであった。

 

加えてその理由を述べるとするならば。

 

リーファにとってタスクの刀は、今の今まで()()()()()()()()

のである。

他でもない、()()()()()()()()()()()……。

 

 

剣は誰がなんと言おうと人殺しの道具。

その道具を用いた技は、人を殺すための技。

 

リーファは今までそう思っていたが、それは違った。

というより、違うのを否が応でも認識させられた。

 

武道には、「戦わずして勝つ」という言葉がある。

 

戦わないで済む方向を常に模索する。

そしてやむを得ず戦わざるを得なくなった時。

必要最小限度のみの戦いで、相手を制し、戦いを終わらせる。

 

そのための修練であり、技であり、心構えであると。

 

しかし彼らは違った。

 

戦わずに済むのを模索するまではきっと同じであろう。

ガラリと話が変わるのはそこからである。

 

彼らの技は、必要最小限度のみの戦いで……

相手を()()()戦いを終わらせる。

 

その違いが生まれる理由も簡単に想像が着く。

 

武道はあくまで自己鍛錬、自己防衛。

相手を制せばそれでよく、傷つけなくても一度制された事実が今後も生き、自分の身の危険が減る。

 

しかしタスクら殺人術は自己だけではなく、防衛に必ず()()()()()()()

そうすると、制しただけではなんともならなくなってくる。

 

一度制された相手は、襲う対象を変えて犠牲を産む可能性など十分にあるからだ。

 

ともすれば、殺さざるを得なくなってくる。

もう何も、できなくするために。

 

恐らくお兄ちゃん……キリトが言っていた、俺達とあの人たちの間にある大きな隔たりの正体はこれだろう。

 

リーファは身をもった上で体感ごと確信する。

 

お兄ちゃんはいつも言っている。

「お前たちを守るため」と。

 

《なるほど。お兄ちゃん、分かったよ》

 

リーファはタスクを睨みつつ、口だけ微笑んでそう語り掛けた。

 

確かにこれは、私たちでいくら鍛錬してもどうにもならないね。

そんな自嘲さえ込み上げてくる。

 

《すごい……なぁ》

 

リーファはそう思いつつタスクを見る。

 

この人には、戦いはもちろん、考え方も経験も、何もかも勝てない。

すこしだけ、()()のような感情を感じる。

 

シノンさんはいつもこんな人と同じところで戦っているのか。

ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 

いつも笑っていて、優しいお姉さんのようなシノン。

しかし彼女とて()()()()()であって、話によれば彼、タスクの相棒的な立場で動いているとも聞いた。

 

 

 

『ううん、私は裏方よ』

「っ……!!」

 

 

 

するとその時、いつかの会話が脳裏に甦る。

そう言ってニコリと笑うシノンの顔と共に。

 

『え……でも』

『ふふ、私はね、彼のはるか後ろから、彼のはるか彼方を見張る役割なの』

『はるか後ろから……はるか彼方を……』

 

ALOのリーファの自宅での記憶がどんどん引きずり出される。

あれは、暖かい日差しを浴びながら紅茶を啜ったあの日の昼……。

 

『私が銃を撃つのなんて、任務10個あったらほんの1〜2個くらいよ。ほぼ全部、彼がするの』

『へ、へぇ……』

『でもだからといって、私がいなくていいって訳じゃないの。私は、()()()()()()()()()なのよ』

『ん、んん……?』

 

理解できない、と言わんばかりのリーファの顔を見て、シノンがふふふと微笑む。

 

『私の居場所は、敵には決して分からない。だってスナイパーだもの』

『スナイ……パー』

『で、敵がボスに何かしようとした時、どこからともなく私の弾丸が頭を射抜く』

『っ!?』

『相手は何をされたのか分からない。次に目を覚ました時にはリスポーンした後。そこで気づく。ああ、自分は狙撃されたんだなって』

『へ、へぇ……』

『するとね、次またボスに何かしようとする時、気が気じゃないんでしょうね。見てると面白いわよ、私引き金に手すら添えてないのに、相手はボスだけを見て、しきりにソワソワするの』

『……!!』

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()って……ね』

 

 

 

 

 

その時のシノンの顔は鮮明に覚えている。

 

今まで対決したどんな剣道の有段者よりも恐ろしくもかっこよく感じた、純粋にしか見えない微笑みを。

 

この考え方は武道に通ずるところがある。

 

()()()()()()()()」だ。

言い換えれば、「()()()」である。

 

武道が攻撃を主に修練するのもこれが所以である。

 

そしてそれを実践し、こなす人々がいる。

それが目の前のこのケット・シー、タスクであり、シノンであり、店主であり……。

 

リーファはこの時やっと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()」とは、この事か、と。

 

 

ザン!!

「はぁっ……はぁっ……」

 

リーファが、倒れる前に何とか後ろに足を着く。

タスクは刀を突き出したまま静止している。

 

リーファはまた剣を握り直す。

そしてタスクへしかと向け直す。

 

 

 

 

 

 

タスクは悟った。

()()()()()()()()()()()()()のを。




スポーツ漫画とかでよくあるやつ。
1秒以内にすっごい回想するやつ。

今回はそれです。(説明雑かよ)

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Episode134 獣 〜beast〜

リーファは決意した。

かの恐ろしい猫耳少年に一太刀浴びせるまでは、この戦いは絶対に終わらせてやらない、と。

 

「戦わずして勝つ力」、それ即ち「抑止力」。

それに脅えては、この戦いに挑む意味などない。

 

たった一突きだった。

リーファの剣に隠された、タスクの鋭いあの一閃は、リーファの全てを目覚めさせた。

 

「……ふふ」

「っ……ふぅ……」

 

タスクもそれを感じとっているのであろう。

リーファを見据えて微動だにしない。

 

リーファは剣を構え直した。

タスクの顔に、剣先が重なる。

 

しばらくの沈黙が訪れる。

いつのまにか、観客も静寂に包まれていた。

 

そして次の瞬間。

 

「あなたにも、いるようですね」

「……?」

 

「……獣が」

 

「っ!!」

 

タスクの声と同時に、二人の剣がぶつかった。

ギリリ、と金属が擦れる音がする。

 

「恐ろしい獣だ……存在すら感じなかったですよ」

「……!!」

 

鍔迫り合いの中、タスクはじっとこちらを見つめてくる。

リーファは剣を抑えるのに手一杯だ。

 

バチン!!

「くっ……!!」

 

一旦鍔迫り合いが離れた。

……というより、リーファが弾いて離した。

 

「えっ……あ、くっ!!」

ガッ!!

 

しかしタスクはさらに踏み込み、また鍔迫り合いになる。

 

「中々いませんよ、あなたのような人」

「……!?」

「眠ってる気配すらなかった。存在すら察知されない獣の持ち主」

「……!!」

 

真っ直ぐ瞳を見据え、リーファに語りかけるタスク。

 

リーファには、彼の話していることは正確には分からない。

……しかし、似たようなことをキリトが言っていたような気がする。

 

 

 

 

 

()()()()()は、中に獣が住んでる』

 

 

 

 

 

もし、その()とやらが、自分の中にもいるなら。

 

バチィ!!

「くっ……はぁ、はぁ……!!」

 

鍔迫り合いが、今度はタスクの手によって終わる。

リーファを後ろに弾き飛ばす形で。

 

二人の間に間が空く。

タスクはまた剣を構え直す。

 

しかし。

リーファは俯いたまま、剣を構え直さなかった。

 

……すると。

 

「……いるなら」

「?」

 

リーファが小さな声で話し始める。

 

「私の……中にも」

「……!!」

「私の中にも、獣が、いる、なら……っ!!」

 

そして次の瞬間。

 

「その獣、討ち取ってみなさいよ、猫耳!!」

「っ……!? 」

 

そう言って、リーファは今まで誰にも見せたことがない顔を、タスクに向けた。

 

闘争心と衝動に支配された、女性らしからぬ顔。

 

 

「リーファ……ちゃん……!?」

「……!!??」

 

アスナは心配そうな目をしてリーファを見つめていた。

 

否、アスナだけではない。

シリカやリズはもちろん。

 

()()()()()()、リーファを凝視ししていた。

 

「まさか……リーファ、おまえ……!?」

「キリト……くん?」

 

キリトらしからぬ声。

アスナが反応する。

 

すると。

 

「獣……ね」

「!?」

 

後ろから、シノンの声が聞こえてきた。

 

「獣……って?」

「……ふふ」

 

微笑むシノンに問うアスナ。

シノンは変わらずタスクらの方を見つつ、アスナに答えた。

 

()()()()()()()()()()()()()に、()()()()()()()。それが、『獣』」

「け、も……の」

「リーファちゃんの中にもいたのね……。ふふ、タスク今、すっごい楽しいと思うわ」

「……!?」

 

シノンの声が、アスナの体を揺らすようだった。

 

感覚はあの時と似ていた。

 

 

 

 

 

 

()()()()()A()L()O()のあの時と。

 

 

「ああああああ!!!!」

ガキィ!!

 

リーファの剣がタスクの剣の嶺を削る。

 

この剣を作るのにえらく長く時間がかかった。

しかし今となっては、そんなこと知った話ではない。

 

なんでもいい、この少年を倒したい。

 

一太刀どころで済ませる気は失せた。

この少年を、倒してみたい。

 

これはもはや興味感情を超越した、()()であった。

 

 

「ねーぇ……し、シウネー?」

「……ん?」

 

一方、ユウキら、スリーピング・ナイツの面々である。

 

彼らは、アスナ達のすぐ隣で観戦してはいたものの、タスクの戦いぶりに目を取られ、自ずと半独立のような形になっていた。

 

「ぼ、僕さぁ」

「……え?」

 

ユウキが額に汗を滲ませながらシウネーに笑いかける。

シウネーはそんな珍しいユウキに驚きを隠せない顔を向ける。

 

そして。

 

「楽しみだよ、楽しみだけど」

「う……うん」

 

 

 

 

 

 

「初めて……()()かもしんない……」




あけましておめでとうございました!!
(もう開けちゃってますからね)

こんにちは!!
駆巡 艤宗でございます。

いやぁ、年開けちまいましたよ。
大変お待たせ致しました。

実は作者近況、結構忙しくなってしまいまして……
なかなか更新できずにいました。
大変失礼致しました。

来年の夏? か、秋頃にはまた忙しいのが減ると思いますので、そこまではこんなペースが続いてしまいそうです。
(といいつつ、時間を見つけてノリに乗った時にガツガツ書いて、一気に……とも考えています。)
こんなペースでも読んでくださっている読者の皆様には、格別の感謝を申し上げたく……

ありがとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

この作品を、あなたの良き一年の隅に置いておいて頂けると幸いです。


駆巡 艤宗

ーーーーー

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Episode135 「落」〜"Drop"〜

「こ、怖いって……!?」

 

ユウキらしからぬ言葉に、シウネーが思わず彼女を見る。

 

「でも……なんでだろ、すごく……わくわく……する」

「わ……え……?」

 

気づけば、彼女の顔には笑みが浮かんでいる。

 

「……」

 

シノンは見ていた。

 

 

 

 

 

 

彼女の内にもまた、()()()()ことを……。

 

 

戦いはいよいよ大詰めである。

リーファの本性が顔を見せ、沸き立ちが収まらない観客。

 

ここまで魅せるとは思わなかったのであろう、キリトらのすぐ隣、スリーピング・ナイツの反対側に座っていたサクヤらも目を見張っていた。

 

ガン!! キィ!!

「くぅ……!?」

 

体重を乗せた一撃を、いとも簡単にタスクの刀に跳ね返され、リーファが思わずよろける。

 

「……さぁ」

「ぐっ……ううううああああ!!!!」

 

相変わらず余裕なタスクが膝を着くリーファをあえて煽る。

 

リーファは当然それに乗っかる。

 

キュン!!

「ちっ……」

 

鋭い突きがタスクの顔の横を射抜く。

否、正確には、タスクの顔が避けた結果、そうなった。

 

リーファはこれでもダメかと顔が険しくなる。

 

バキィ!!

「がっ……!?」

 

するとその直後、タスクの剣がリーファの剣の柄と刀身の境目あたりを下から斬りあげた。

 

力点のすぐそばである。もちろん、簡単に剣は上を向く。

 

そして続いて2撃。

 

チィ!! キィッ!!

「ぐっ……あっ……」

 

縦になった剣に、容赦なく刀が食い込む。

リーファは思わず後ろに下がった。

 

「……リーファさん、あなたは素晴らしい獣を持っている」

「……!?」

 

すると、タスクが刀を下げてリーファを見た。

 

「しかし」

「!!」

 

そして急接近。

タスクの顔が、リーファの顔の目の前に来る。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「なっ……!!」

 

そう言うと、タスクは身を瞬時に引いた。

するとリーファは脚がお互い重なり……

 

ドサッ

「あぅっ……!!」

 

尻もちを着く。

 

「またやりましょう、今日は……ここまで」

 

そしてタスクは笑い……

 

ヒュン!!

「くっ!!」

 

リーファの上腕を、()()()()()()()横に斬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ブザーがなる。

タイムアウトのブザーである。

 

勝者はタスク。

H()P()()()()()によっての、勝利であった。

 

 

「アンクル……ブレイク」

「キリトくん?」

 

一方、観客席。

 

タスクの勝利にまた湧く観客の中で、不思議そうな顔をするアスナに、タスクが今リーファにしてやった技術を教えていた。

 

「あれは……多分、アンクルブレイクだよ」

「な、なぁに、それ……?」

 

そう。

リーファがタスクの接近と後退で後ろに尻もちを着いた理由。

 

それは、「アンクルブレイク」という、小手先の技である。

 

「確か……バスケだったかな」

「?」

「相手の意識や視線を誘導して、脚を絡ませて転ばせるんだ」

「……!!」

 

アスナは驚く。

と、いうより慄く。

 

なんだそれは、と。

そんなこと、少なくとも戦いの中でやれるもんではない。

 

スポーツなら分かるが、これは戦闘だ。

相手の意識は自分ひとつに注がれているのだ。

 

状況や仲間などに意識を割かねばならない試合とは違うのだ。

 

「俺も……やったことは、ある。ただ、相手の体制を崩す程度だ。尻もちなんてどうやっても無理」

「……」

「そういえば、アスナもユウキにやられたろ? あの試合のとき」

「あ……!!」

 

そういえば、と言わんばかりに記憶が蘇ってきた。

初めて会ったあの試合の時、ユウキが急に接近してきて、驚いて後ろに倒れそうになったことがあった。

 

ああ、あれか。

そんな気持ちが出かけるが、いやいやそれにしたってあっちは尻もちである。

 

そもそも次元が違う。

後ろに倒すならともかく、尻もちは()()()()()()()芸当なのだから……。

 

「ま、なんにせよバケモンだね、彼」

「きゃっ!?」

 

するとその時、いきなり一段上からユウキが顔を覗かせてきた。

アスナはビックリして仰け反る。

 

「うっひひ、いい驚きっぷり、かっわいー♡」

「うぅ〜、もう!!」

 

してやったり顔のユウキにアスナがポカリと拳をあてる。

 

すると、その隣のシウネーが、ユウキをおさえながらキリトに尋ねた。

 

「この後はどうしますか? 今からDブロック予選ですが……」

「ん……ああ、そうだな……決勝にはきっと()()()がくるし、決勝だけ見ようかな」

()()()……?」

 

シウネーがはて? と言わんばかりに首を傾げる。

 

すると寄ってきたサクヤが笑って答えた。

 

 

 

 

 

「ふふ、()()()()()だろう?」

「へへ、正解」

 

 

そのまた他方。

店主もとい、()()()である。

 

彼は歓声を浴びる二人を見て、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「ありゃぁ、()()()な。リーファさん」

 

そう言われるリーファの見上げた視線は、タスクを捉えていた。




前回の後書き?
知らない子ですね。

※たまたま時間が空きましたので仕上げました。


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Episode136 ファイナリスト 〜Finalist〜

「リーファ……お、おつかれ」

 

少し引き気味なキリトが、半ば放心状態のリーファを迎える。

 

「あ、お兄ちゃん……ただい……ま」

「あちゃぁー、こりゃ、精根尽き果てたな」

 

ポツポツと喋るリーファを、クラインが笑って支えた。

リズやその他のメンバーは、そんな彼女を不思議そうに見つめている。

 

それもそのはず。

リーファが、()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

確かに喋る言葉はカタコトだし、足取りもどこかおぼつかないが、どうもやつれているようには見えない。

 

「ねぇ……お兄ちゃん」

「……ん?」

 

すると、リーファがキリトを見て、不意に声をかける。

前を歩くキリトが振り向くにつられ、周りの皆も振り向く。

 

クラインは肩を抱えながらも顔はリーファに向いている。

 

そしてリーファは、ニコリと笑うと……

 

 

 

 

 

「楽し……かったよ」

 

 

 

「……!!」

 

そう言って、ガクリと項垂れた。

 

「わっ……とと!!」

 

クラインが、慌ててリーファを支え直した。

 

 

時は、Dブロック決勝。

……まで、残り数分。

 

キリト達を始め、それに付随するスリーピング・ナイツは、少し早めに客席に固まって座っていた。

 

その隣には、シルフ族首領のサクヤや、ケット・シー族首領のアリシャ・ルーなども座っている。

 

お付きの者も含めればキリトらに引けを取らない大所帯だ。

それに首領ともあらば流石に人々の目を引く。

 

それに加え、隣の大所帯にはそれぞれAブロック・Bブロックの覇者がいるのだ。

そりゃぁもう……近寄り難い雰囲気すら漂っていた。

 

「なんか……陣取ったみたいになっちゃってますね」

「まあ……しょうがないよ、これは……」

 

そんな団体の中で、シリカとリズがそう言って笑い合う。

クラインやエギルも口にはしないがそんな感じだ。

 

……そんな最中。

 

 

 

 

 

不意に、人だかりが静かになった。

 

 

 

 

 

「え……?」

 

いきなり静まりかえる群衆に、かえってキリトらがそちらに目を持っていかれる。

 

するとそこには。

 

「あ……!!」

「えっ……!?」

「お、おお!!」

 

 

 

 

「タスク!!」

 

 

 

 

 

そう、彼がいた。

そのすぐ後ろに、シノンも。

 

そして意外にも。

一番嬉しそうなのはキリトであった。

 

「あのう、リーファさんいますかあ?」

「あ、ああ。ここに」

 

するとタスクは、大所帯を見渡しつつキリトに尋ねた。

キリトは、その問いに答えてリーファの方を見る。

 

それにつられて、タスクがリーファを見つけた。

そしてひょいひょいと座る人の間を縫って、リーファの元へ動き出す。

 

一方シノンは、すぐそこに座っていたリズに話しかけられていた。

 

「シノノン!! あんたも熱心ねぇまた」

「ね、熱心……?」

 

やたらニヤつくリズとシリカに挟まれながら、シノンは少し困惑した顔を見せる。

 

「ま、そんなあなたにライバル登場ってな」

 

すると、クラインがニヤニヤしてシノンの肩を軽く叩いた。

 

「ライバ……ル?」

「うしし……」

 

なんのことかさっぱり分からないシノンは、首を傾げる。

 

しかし。

はっ、と気づいてタスクの方を見た。

 

リーファと笑って話すタスクが視界に入る。

 

「くくく……」

「も、もう〜〜!!」

 

イジワルに笑うリズたちを、シノンは慌ててはたいた。

 

「でっ……!?」

「はぅ……!!」

「げっ……!!」

「もう!! やめてよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

しかしシノンの顔は、明らかに真っ赤であった。

 

 

一方、リーファとタスクである。

 

「ありがとうございました」

「あ……」

 

純粋無垢に笑って手を差し出すタスク。

そこにはなんの邪念も含まれてないように感じた。

 

「こ、こちら、こそ……」

「……!!」

 

ぎゅ、と握り返すリーファを見て、またにっ、と笑うタスクは、ブンブンと手を上下に振った。

リーファはいきなりの事で驚く。

 

「わ、わ!?」

「いやぁ、楽しかったですよぉあの戦いは!!」

「へぇ?」

 

タスクの言葉に、思わず顔を上げるリーファ。

 

自分の言っていたことと、タスクの言ったことが重なり、少し不思議な気持ちになる。

 

するとそんな気持ちが駆け巡る中。

 

「ところで、リーファさん」

 

タスクが、まっすぐこちらを見てきた。

 

「っ……!?」

 

リーファは思わずドキリと心臓が鳴る。

 

少し目を逸らすと、ニヤついてこっちをチラ見するリズ御一行と、それに真っ赤になって覆いかぶさろうとするシノンが見えた。

 

タスクにしてみれば背後のことなので知った話ではない。

お構い無しにぐいと顔を近づけてくる。

 

……そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

「その獣、ぜひ大切にしてください」

 

 

 

 

 

 

「っ……!!」

 

リーファの心臓が、別の意味でまた鳴った。

 

 

それから、数分後。

 

タスクは今度はキリトに捕まり、シノンは相変わらずリズたちと抗争し……で。

 

Dブロック決勝までの待ち時間があっという間にすぎていた。

 

パンパパーン!!

「お!!」

 

そしてついに、高らかなファンファーレが鳴り響く。

 

今日4回目のファンファーレ。

流石に皆、これが()()()()()()であることはもう分かっている。

 

キリトやタスク達、スリーピング・ナイツ、そしてサクヤにアリシャ。

そして闘技場を埋め尽くす観客。

皆が待ちわびていたかのように、闘技場に注目した。

 

『さぁ!! 皆様!! お待たせ致しました!!』

「おおおお!!!!」

 

もはや聞きなれたアナウンス嬢の声に、観客は相変わらず盛り上がりを見せる。

 

 

『本日()()()の!! 決勝戦です!!』

 

 

高らかな宣言。盛り上がる観客。

A・B・Cとも大盛況だったとはいえ、ここまで盛り上がるのはなかなかない。

 

それもそのはずだ、なぜなら……

Dブロック優勝候補が、かの()()()()()だからだ。

 

キリトやユウキとは歴然の差がある古参であり、尚且つ未だなお圧倒的な強さと、それに基づく根強いファンがいる。

 

ユージーンの登場に、ファンはもちろん、一般の観客も大いに沸く。

 

 

 

「ひゃ〜、相変わらず人気だね、ユージーンは」

 

 

 

熱狂するファンを見て、アリシャがそんな声を漏らす。

まあ確かに、戦いが始まってもいないのにこの盛り上がりようは、人気の証かもしれない。

 

そして、それに対抗する、ある種()()()()()なもう一人のファイナリストは……

 

「え、あ、あれって……!!」

 

その時。

不意にアスナが驚いてタスクの方を見る。

キリトも同様に。

 

加え、リズ達はシノンを見、シノンは私も知らないと言わんばかりにタスクを見る。

 

そして当のタスクも、キリトやアスナ、シノンらを見返した後。

 

 

 

 

 

「ぼ、ぼ、僕も知らない……」

 

 

 

 

 

そう言って、闘技場を凝視した。

 

もう……お分かりであろう。

もう一人のファイナリスト、その場に立っていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()、その人であった。




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Episode137 断言と問題 〜Affirmations and problems〜

会場は相変わらず盛り上がっている。

 

それに対し、まさかタスクも驚いてしまい、半ばポカーンとしているキリト一行。

 

「あ、あの人……確か……」

「ああ……キリトとタスクの決闘の時にいたよな」

 

すると、そんな彼らを見てアリシャとサクヤも勘づく。

周りにいるお付きの者も、うんうんと頷いていた。

 

ただ唯一、置いていかれているのは、スリーピング・ナイツの面々である。

 

「ァ、アスナ?」

「ん……? あ、そうか、そうよね」

 

アスナは、ユウキ達の不思議そうな顔に慌てて向き直る。

 

「えっと……ねぇ」

「う……うん」

「え、えぇーっとぉ〜……う、うーんとね」

「うう、ううん……?」

 

明らかに言葉を選び、言いあぐねているアスナに、ユウキは相づちを打つことしか出来ない。

 

他のスリーピング・ナイツの面々も、頭の上に?を浮かべているかのような、明らかな謎状態である。

 

「あの人は、僕たちの仲間です」

「!!」

 

すると、不意にタスクが声をかけてきた。

アスナが振り向き、ユウキたちの視線がタスクに移る。

 

「名前はタモンと言います。彼、ああ見えて、結構強いですよ……」

「え……!!」

 

タスクの口から強い、という言葉が出るなんて。

思わずアスナが声を出してしまう。

 

スリーピング・ナイツの面々も、同じくそう思ったのか、目がいくらか見開いている。

 

「……な、なんです、そんな驚かなくても」

「……」

 

それに対するタスクは、意外な反応だと思ったのか、手を振って彼らの視線を遮る。

 

そしてそれと同時に……

 

「ほら……もうすぐ始まりますよ」

「あっ」

ブーッ!!

 

開始の前になる、予告ブザーが鳴り響く。

 

アスナたちが慌てて前に向き直り、タスクは首を回し前を見て……

少し奥から聞いていたサクヤ達も前を向いた。

 

そして、カウントダウンが始まる。

 

3……2……1……!!

「さあ、見せてもらおうか。そのお手並みを……!!」

 

それに合わせて、サクヤが前のめりになってそう呟いた。

 

キリト達やユウキ達も、そう言わんばかりの目をして闘技場のタモンを見る。

 

 

 

 

ビーーッ!!

「「「「「「オオオオオオ!!!!」」」」」」

 

 

 

 

スタートのブザーと共に、会場が最高に湧いた。

 

 

するとその時、キリトがコソッとタスクに問う。

 

「なあ、タスク」

「はい?」

 

キリトの声の低さに合わせて、タスクも小声で答える。

 

「ぶっちゃけ、どっちが勝つと予想する?」

「……」

 

すると、キリトのそんな問いに、タスクはにこりと笑って返した。

キリトは、そんなタスクの笑顔に不思議な感覚を抱く。

 

「はは、キリトくん。そんなの、予想も何も」

「?」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()。問題はそこじゃない」

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

その瞬間。

その場が凍りついた。

 

コソコソ話なんてもはやあったもんじゃなくなっていた。

 

というより、こんな話、一度耳に入れば、それは振り向いてしまうだろう。

相手はあのユージーンだ、優勝候補ですらあるユージーンである。

 

名前を顔も知らない、ポッと出てきた温厚なケット・シーが、あのユージーンに勝つと断言するなんて、なんなら失言とも捉えられるほど。

 

そしてしかもそれがCブロック優勝のタスクが、言っているのだからそりゃぁもう。

コソコソ話で済むわけがなかった。

 

気づけば、アスナもリズたちもスリーピングナイツも、少し離れたサクヤたちもこちらを見ている。

 

何気に、周りの観客もこちらを見ている気がする。

というか、見ていた。

 

「か、勝つって……ユージーンは……あの、ユージーンだぞ?」

「ええ、分かってます。でも、勝つんですよあの人」

「……!!」

 

どこからそんな断言できるほどの確証が……と言わんばかりに、キリトがタスクを不思議そうに見つめる。

 

すると、そんな周りを見て、タスクがふふ、と笑った。

そして一言。

 

「彼と本気でやりあったことが2回あります」

「!!」

 

そう言って、キリトを見た。

加えて一言。

 

「勝敗は一勝一敗です。僕が一度、彼が一度」

「な……!?」

 

 

 

 

「僕は一度、本気で本気の彼に負けている」

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

その瞬間。

またその場が凍りついた。

 

まさか、タスクから「負けた」という言葉が聞こえてくるとは。

そう言わんばかりに、キリトはマジマジとタスクを見つめる。

 

「ですから、そこが問題ではないんです」

「問題……?」

 

すると、そう言いつつタスクが闘技場に顔を戻す。

キリトも釣られて闘技場を見る。

 

「問題なのは、あの人が()()()()()()()()()()

「……なるほど」

「彼は白兵戦は引退しました。向こうの銃の世界でも、半ば拠点担当です。しかし、()()()()()となれば、そこそこ力を戻しててもおかしくない」

「……!!」

「もし全盛期に近いなら……」

「……まさか」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()、十分に」

 

タスクの意図することは、誰もが察した。




何個か前の後書きはなんだったのか。

いや、その、あれの投稿直後、時間が出来てしまうというね。
はは……(笑)

え、あ、はいそうです。
もうそろそろまた空白になってしまいそうです。

あと2〜3話ギリギリねじ込めたらいいなぁ。

それか、文字数減らして何とか空白を少なくするか……
んむむむむ……

ーーーーー

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Episode138 宣戦布告 〜Declaration of battle〜

3.2.1……

虚空に浮かぶ数字が消えていく。

 

赤く光る両手剣を持つユージーンと、薙刀を持ち相対するタモン。

 

大方の予想はユージーンの圧勝だ。

優勝候補なのもそうだが、何よりタモンの方。

 

彼は、今までの予選全てにおいて、ごく普通の戦い方で終わらせてきた。

周知の通り、ユージーンはごく普通の戦い方が通じる相手では無い。

 

類稀なる技術と経験。

そして、「魔剣グラム」のエクストラ効果。

 

()()()()()()()()()()、直接相手にダメージを与えられる魔剣。

 

見たところ、羽を使えないあたりALOに来て間もないし、ユージーンの武器の特性さえなんなら知らないだろう。

そしてそのまま一撃クリーンヒットで終わり。

 

とまあ、こんなのがあらかたの予想であった。

 

……しかし。

 

「……はは」

「っ……!?」

 

タモンはのんきに笑うと、ユージーンをしかと見据える。

ユージーンはそんなタモンの視線に、警戒の色を含めた視線で返す。

 

するとタモンはギリッと薙刀を握り、一言。

 

 

 

 

 

 

 

「勝つのは僕。悪いけど、ね」

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?!?」

 

そう言って、にっと微笑んだ。

観客は騒然とするどころか、大いに沸きあがる。

 

あのユージーンに、ここまで堂々と宣戦布告した奴が未だかつていただろうか。

 

タモンの実力が怪しいのはさておき、とにかくその意外な、かつ無謀とも取れる行動は、会場の観客を熱狂させていた。

 

そしてその瞬間。

 

 

 

ビーーッ!!

「「「「「「オオオオオオ!!!!」」」」」」

 

 

 

 

スタートの合図が鳴り響いた。

 

「おおおお!!!!」

「……おおう?」

 

直後、ユージーンが羽を使って急接近。

大きく振りかぶった上段の構え。

 

タモンはさも当然と言わんばかりに薙刀を横に突き出した。

 

「わかって……ないっ!!??」

 

サクヤが思わず観客席から身を乗り出す。

 

観客からは、ああ……やっぱり、と言わんばかりに落胆の声があがる。

 

グシャッ

「ぐぇっ……!?」

 

そしてそのままクリーンヒット。

タモンは斬られるどころか吹き飛ばされて、闘技場の壁に激突した。

 

「店主さん!!!!」

「お、おいおい!!!!」

 

アスナとクラインが、思わず立ち上がる。

 

砂煙に覆われた壁面に、皆の注目が集まる。

 

……しかし。

 

「な、な……なぜ……だ!?」

「っ……へへ」

 

()()()()()()()()のは、タモンではなくユージーンであった。

 

「えっ……!?」

 

アスナも信じられないと言わんばかりに前のめりになって目を細める。

 

それもそのはずであった。

なぜなら、()()()()H()P()()0().()1()()()()()()()()()()()()から。

 

「な、なんつう……」

「どんなキャラ育成してんだ……!?」

 

観客の感想が漏れ出る中。

 

「くそっ……おおお!!!」

 

ユージーンが、まだ止んでいない砂煙の中に紛れて突進した。

 

「わっ!?」

ビュン!!

 

地面に垂直めの、袈裟斬りを一撃。

しかしタモンはそれを避ける。

 

視線が完璧に追いついていた。

体スレスレを掠める剣を、笑いながら見送っている。

 

「おっ……おお!!」

 

完璧に見切ったタモンの回避に、サクヤが思わず感嘆した。

 

「ちいっ……」

「はは……そぉらっ!!」

ドゴォ!!

 

すると、ユージーンの腹に今度はタモンが一撃を加える。

 

薙刀ではなく、体勢を落とした横蹴り。

回し蹴りと違い、ベクトルはまっすぐ突き刺すようにユージーンに向いている。

 

「んぐぅ……っ!?」

 

ユージーンは、たまらず距離をとった。

 

ここで斬り合ってもいいが、一歩間違えば自分が壁に追いやられかねない。

一旦真ん中に戻り、広いところで応戦した方がいい。

 

そう考えたからだ。

 

「すっ……ごいね」

「……!!」

 

すると、ユウキがそう言いつつシウネーを見る。

シウネーは、こくりと頷き両手を握りしめた。

 

ユージーンは、決して並の相手ではない。

相対するほとんどのプレイヤーは、圧倒的力の差に屈服する。

 

それが今や対等、どころか少し劣勢だ。

しかも、つい最近ALOにコンバートしてきた相手に。

 

「ひょっとして、さ」

「う、うん」

 

ユウキが、笑いながらアスナを見る。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

「アスナさん、とんでもない人達連れてきたよね……?」

 

 

 

 

 

 

その隣に座るタスクの口が、少し笑った気がした。




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Episode139 君の番 〜Your turn〜

タモンがゆっくりと、闘技場の真ん中へ戻ってくる。

ユージーンは、それを待ち受けるかのように両手剣を構えてタモンを見据える。

 

「初めて見たかもしれん」

「……んお?」

 

サクヤが相変わらず目を見開き、そう呟いた。

アリシャがそれに気づき、顔を覗き込む。

 

すると、サクヤがそんな彼女に気づいて言葉を付け足した。

 

「あ、ああ……その」

「?」

「ユージーンがあれほどまで警戒している様子を見るのは、何気に初めてだなと思ってな」

「ああ……なるほど」

 

サクヤの言葉を聞いて、アリシャも納得して闘技場に向き直った。

 

ズシ

「……さあ」

 

そしてその瞬間、タモンが元の位置まで戻ってきて、歩みを止めた。

 

「こっから、だぁね」

「!!」

 

そう呟いて笑うタモンの顔は、少し怖くなっている。

底知れない強さと、それを覆い隠すかのような笑み。

 

「くっ……!!」

 

ユージーンは、ALOで初めて真剣に警戒した。

今だかつてこんなやつと相対したことはない。

 

怖い。

素直に言えば、その感情一色だった。

 

「……ほら、ね」

「……タスク?」

 

すると、そんなユージーンを見て、タスクが微笑んで呟いた。

それが耳に入ったキリト。

 

不思議そうにこちらを見つめるキリトに、タスクは笑って答える。

 

「見てのとおり、彼に()()()()()()()

「!!」

「持っていれば……内なる高揚に打ちひしがれるはずだから」

「あ……!!」

「獣を持たざる者は勝てません。絶対に」

 

そう言ってタスクは、闘技場に向き直って面白そうに笑う。

それに対しキリトは、厳しい目付きでタスクを見続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてタスクを見つめる人がもう一人。

こちらは少し不安げな目付き。

 

そう、()()()()であった。

 

 

先に動いたのは、タモンであった。

ユージーンもそれに反応し、前に出る。

 

「はぁっ……!!」

「おおおおお!!!!」

 

一息で距離を詰めるタモンに対し、響く怒号と共に迎え撃つユージーン。

 

ユージーン、今度は中段横薙ぎの構え。

対してタモンは。

 

「なっ!?」

ビュン!!

 

まっすぐ構えていた薙刀を、そのまま()()()()()()()

 

否、投げたというより、()()()()()と言う方が正しいかもしれない。

 

一切振れることなく、ただただまっすぐ、ユージーンに向かって飛んでいく。

 

「小癪なっ……!!」

バキィ!!

 

ユージーンは、それを見切って斜め上に弾き斬る。

 

薙刀がユージーンの後ろに飛んでいく。

観客は騒然として、行く末を見守っていた。

 

普通ならここで落胆の声が上がるだろう。

武器をみすみす捨てるなんて、みすみす勝敗を譲るようなものだからだ。

 

しかし今回に限っては違った。

それは彼、タモンなら何かしてくれるはずだという、根拠の無い確信があったから。

 

……そしてそれは、現実となる。

 

ゴッ

「がっ……!!」

「がら空きだ……ユージーン」

 

斜め上に斬り上げたことにより、ガラ空きになった脇腹に、回し蹴りが入った。

 

ユージーンはふらつくが、そこは彼。

懐に入り切った彼に、待ってましたと言わんばかりに剣を振り下ろした。

 

しかし。

 

キュン!!

「なっ!?」

ゴキ!!

「がっ……あっ……!?」

 

タモンにそれは通用しなかった。

 

彼は蹴りを入れた右足を下げると同時に。

体をコマのように回転させて、軸足になっていた左足で、ユージーンの振り下ろそうとしていた剣を持つ手の手首を横に蹴り飛ばしたのだ。

 

一瞬浮いた体から出たとは思えない、鋭く速い一撃。

 

ユージーンは剣こそ離さなかったものの、明後日の方向に向いた剣を慌てて構え直さざるを得なくなった。

 

タモンもタモンで、体を回すために後ろに倒した体がそのまま地面に落ちて倒れる。

 

「!!」

「おおおおおあああ!!」

 

すると、その隙を付いてユージーンがとどめを刺すかのように剣を下に向けて飛びかかった。

 

「ちぃっ、流石。キレだけはすごいね」

「!?」

バチン!! ザクッ!!

 

タモンは悪態を着くと、降りてきた剣を横から叩く。

刃の横腹を叩いたので、タモンにダメージは入らない。

 

対し、横から叩かれた剣はそのまま軌道を変えられ、タモンの顔のすぐ隣の地面に突き刺さった。

 

「くっ……!!」

ガシッ

「そがっ……!!」

 

すると、間髪入れずにタモンがその剣を握る手の手首を掴んだ。

 

そして。

 

「さあ、今度は君の番だ」

「!?」

「耐えられる……かな」

 

そう言って笑うと。

 

 

 

 

 

 

 

ヴン!! ドゴォ!!

「がっ……はぁ……っ!?」

 

 

 

 

 

 

ユージーンの重たい体が、()()()()()()

 

 

「あ……あれは……っ!?」

 

一方観客席。

たった今繰り出されたタモンの技に、意外にもアスナが反応していた。

 

「アスナ……? 知ってるのか?」

 

キリトの問いに、アスナは頷きで肯定を返す。

 

「た、多分だけど、あれは……!!」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

発勁(はっけい)……!!」

 

 

 

 

 

 

聞いた事のない技名を聞いて、キリトは頭に「?」が浮かぶ。

リズたちを始め、サクヤやユウキらもそんな感じ。

 

……しかし。

 

「……ふふ」

「あ……」

 

タスクが笑ってアスナを見つめた。

アスナは、冷や汗のようなものを滲ませつつその視線に返す。

 

するとタスクが一言。

 

 

 

 

 

 

「……正解です」

 

 

 

 

 

 

と呟いて、微笑んだ。




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Episode140 抜け駆け 〜steal a march on them〜

発勁(はっけい)

 

それは、中国武術の術の1つ。

何らかの動きで生まれた運動エネルギーを体内で移動させ、触れた相手に流すという、習得にはその道の達人でなければならないとされる術である。

 

そんな術であるが故、中には触れている状態から相手に倒れ込む程の威力のある打撃を出せる者もいるとかいないとか。

 

「よく……知ってましたねアスナさん。どこでそれを?」

 

そんな、一般人ならまず知らないような技の名前に、意外な反応を見せたアスナはタスクがそう尋ねられていた。

するとアスナは、少しだけ考え込んだ後。

 

「え、ええっと……実は私、ノーム領にある格闘系の道場に少しだけ行ってた時期があって……」

「……おや」

 

そう言って、きまり悪そうにリズ達を見る。

対し、見られたリズ達はきょとんとした顔を返す。

 

……がしかし。

リズがはっ、とした顔をして気づいた。

 

「あぁー!? まさか、一時なかなか来なかったのって……」

「そうなの!! ご、ごめん!! でもタスクくん見てからどうしてもやってみたくって……!!」

「おやおや、それは嬉しい」

 

小さな争いのが発生する中、傍らでタスクがえへへと笑う。

 

「抜け駆けだぁ!! こいつぁ高くつくぞ!!」

「やっちゃえー!!!!」

 

クラインとシリカが飛びかからんとする中。

 

「ア、アスナ!! それでその……」

「あ、ああ、ごめん!!えっとね」

 

キリトが早く知りたいと言わんばかりにアスナを呼び戻した。

早く知りたいのは皆同じなようで、あっさりと引き下がってまた話を聞く体制に戻る。

 

すると、少し恥ずかしそうにアスナが話し始めた。

 

「その……ノーム領の道場の師範が、ある時言ってたの」

「?」

 

 

 

 

 

V()R()()()()()()()が、SAO時代に編み出されていたのではないか」

 

 

 

 

 

「!!」

「って……。それで、名前だけは覚えてたの。SAO絡みだったし……」

「……ふふ、なるほどね」

 

話を聞いたタスクは、納得したように頷く。

アスナはそんな彼を、少し不安そうに見つめている。

 

「して、アスナさん」

「?」

「その師範さんは、発勁については他に何か?」

「あ、ああ。ええっと」

 

思い出そうとして、アスナは斜め上を見上げる。

ううーん、とかなんとか言って、やっとひねり出した記憶。

 

「ああ!!」

「わっ!? は、はい!?」

 

いきなり叫ぶアスナに、今度はタスクがビックリする。

 

「師範さん、確かね」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()とかいう噂も聞いたって言って……た」

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

アスナの後半で途切れた言葉を聞いて、タスクが明らかに驚いた顔をする。

 

そして小声で何か……

 

「どこで……いや、どうやってその話が……?」

「タ、タスクくん?」

「ああ、いや、すみません」

 

すると、そんな彼の顔をアスナが覗き込んだ。

タスクは慌てて話を戻す。

 

「ええとですね」

「……!!」

 

何気なく、辺りを見回してみるタスク。

観客は闘技場に釘付けで、キリトら、サクヤら、ユウキらがこちらを見ている状態。

 

まあ、これならいいだろう。

そう思い至り、一息つくと話し始めた。

 

「まず……そうですね、正解です」

「?」

「あれは間違いなくVR世界の『発勁』です。それも、SAO時代に編み出されました」

「ほ、ホントだったんだ……!!」

 

そこそこ気になっていたのか、都市伝説とか興味無さそうなアスナが一番目を輝かせている。

 

そんな彼女に、苦笑いしながらタスク話し続けた。

 

「ええ……まあただ、不正解もあります」

「!!」

「あのですね、『発勁』は封印されてません。そもそもあれは、編み出した人しか使えない技で、SAOと共に使う機会がなくなって失われたと同義になった。ただそれだけです」

「な、なるほど」

 

噂でよくある話である。

 

起こったことは確かに合ってるが、明らかに尾びれ背びれが付け足されてる、というやつ。

中にはエピソードが2.3個追加されてるやつとか。

 

すると、その話に今度はキリトが反応した。

 

「な……え、タスク、今……」

「はぁい?」

 

 

()()()()()()()()使()()()()って……!!」

 

 

「……ふふ」

 

そこに気づいた?

タスクがそう言わんばかりに微笑む。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ……そうです。『発勁』は、タモンさんしか使えません。僕も無理」

 

そう言って、また微笑んだ。




ちなみに、アスナがノーム領の道場に通っていたのは公式設定です。
(ソードアート・オンライン 第7巻 マザーズロザリオ 78頁 7行目)

ーーーーー

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Episode141 冷や汗 〜cold sweat〜

体全身が揺さぶられ、視界も揺れて、手が痺れるような感触に包まれる。

 

「っ……!?!?!?」

 

今まで経験したことがない、奇妙な感覚と共に、ゆっくりと衝撃らしきものが伝わってくる。

 

そして。

 

ドゴォ!!

「がはっ……!?」

 

気づけば、青空を見ていた。

 

剣腹を叩き、トドメを無理矢理外し、腕を掴んだ挙句、吹っ飛ぶほどの謎の打撃。

 

一体何なのだこいつは。

そんな感情が、ユージーンに込み上げる。

 

……がしかし、慌てて立ち上がって剣を構え直した。

 

「くっ…………!?」

 

ユージーンは、霞む目を何とか凝らして、向かってきているであろうタモンを捉える。

 

だがそこにいたタモンは。

 

「はぁ……はぁ……」

「……!?」

 

ユージーンと同じく息を荒らげ、()()()()()()()()()()()状態で突っ立っているだけであった。

 

霞む目が治ってなお、やはり右手全体がダメージエフェクトに包まれているのは確かに見える。

ユージーンは未だかつて、こんな状態を見たことがなかった。

 

「な、き、貴様、なんだその手……は……!?」

「……ああ、これ?」

 

そう問われたタモンは、右手を一瞥するとはは、と笑って首を傾ける。

右手に力が入らないらしく、代わりに肩を上げてユージーンに見せた。

 

「あの技、久々にやったんだよね。ちょっとヘマしちゃった」

「あの……技……!!」

「まどっちにせよ真っ赤にはなるんだけど……参ったね、骨までやらかした判定くらったよ」

「……!!」

 

そう言って、またあっけらかんに笑うタモンに、ユージーンは少しだけ微笑を見せる。

 

「認めよう、貴様はなかなかのやり手だ。だが……」

「……お」

 

すると、そう言ってユージーンは剣を真っ直ぐタモンに向けた。

対するタモンは、面白そうにその剣先を見る。

 

「ダメージ計算だけは、怠ったようだな」

「……」

「終わりだ!!」

 

そして次の瞬間。

ユージーンが羽を使って急加速し、斬りかかった。

 

そこまでダメージを食らうなら、あの技はいわゆる『()()()』。

これで戦いを終わらせるつもりであったに違いなかろう。

 

ユージーンはそう考えて、ほくそ笑んだのである。

対し、タモンは変わらずユージーンを見て佇んでいる。

 

右上段。

タモンから見たら、左からの攻撃。

 

左からなので、避けた際に必然的に右手側が前に出る。

 

今右手は使えないはず。

勝機、ここにあり。

 

そう思い、ユージーンは笑って剣を振り下ろした。

 

……が。

 

ゴキ!!

「がっ……!?」

 

振り下ろされたユージーンの右手首に、タモンの右足の蹴りが入った。

左から来る剣に、向き合うように体を回転させたタモンは、そのまま足を上げて蹴りを入れたのだ。

 

ユージーンの剣がまた上へ跳ね上がる。

しかしやはり離しはしない。

 

「くそがぁぁぁぁ!!!!」

 

そしてユージーンは激昂した。

 

もう勝てないとわかっているだろう。

なぜ辞めないんだ。

 

そんな気持ちの表れである。

 

……が、次の瞬間。

 

「もう……分かってるでしょ」

「!!」

 

タモンがそう言って、()()()()()()()()()

 

「あ、あれは……!!」

「かけ蹴りだ!!」

 

ここはさすが、見たことがある皆と、そして実際にタスクに受けたキリトが反応する。

 

一旦脚を出した後、その方向と反対に脚を戻す蹴り方。

その様子は、当時の驚きと共にしかと脳裏に刻まれている。

 

そして。

 

バキィッ

「……!?」

 

ユージーンの首に、戻ってきた脚の踵が入る。

その踵は骨を砕き、ユージーンの頭を支える機能を奪う。

 

がくん。

まさにそんな効果音がなりそうな様子で、ユージーンは下に()()()

 

膝をつき、手を下に垂れ下げ、背中も曲がっている。

首が筋肉と皮だけで繋がっているが故、顔は俯くより深く下を見つめていた。

 

「これが……」

「ええ」

 

アスナが何かを言いかけてやめる。

タスクはそれを察し、少し笑ってそれを肯定する。

 

 

 

 

()()()()()、です」

 

 

 

 

アスナは、久しぶりにあのゾクリとする感覚を覚えた。

 

 

観客は熱狂していた。

とんだどんでん返し、恐るべきダークホースの登場に。

 

……しかし、対してキリトら御一行は沈黙を貫いていた。

なぜならそれは、タスクが()()()()()()()()()から。

 

「……タスク、くん?」

 

ユウキがそんな彼に恐る恐る声をかける。

するとタスクは笑みを保ちつつ汗に濡れた顔で一言。

 

 

 

 

 

 

「明日の相手、やっぱり……僕じゃないかもしれません」




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Episode142 興味 〜Interest〜

「「………」」

 

タスクとシノンが、お互い黙って飛んでいる。

 

ここは、ALOの上空に浮かぶフィールド、「浮遊城アインクラッド」。

そう、かのSAOの舞台となった、色んな意味で因縁の場所である。

 

《少し……行きたい場所が。行っても?》

 

そう言って微笑んだタスクの顔は、少し悲しげだったな。

そんな感想がシノンの脳裏に現れる。

 

「もうすぐですよ」

「……?」

 

すると、前を飛ぶタスクがそう言って、少し高度を落とした。

シノンもそれに習い、高度を下げる。

 

厚い雲の中に入り、視界が真っ白になる。

かろうじてタスクの足が見えており、シノンはそれについて行く。

 

「……ついた」

「……!!」

 

そして、雲が一気に開けた時。

シノンは思わず目を見開いた。

 

 

 

眼下に広がる一面の()()()

キラキラと煌めく霧。

 

 

 

「え……こ、ここは……?」

 

シノンは思わずタスクに問う。

……すると。

 

「ふふ」

「……?」

 

タスクは振り返り、そして微笑んだ。

シノンはそんな彼に首を傾げる。

 

そうして2人は地面に降り立った。

なるべく白百合を踏まないように……。

 

「……ここは」

「!!」

 

そしてゆっくりと、タスクが口を開く。

 

その時だった。

シノンは初めて、()()()()を認識する。

 

タスクが話し始めて、体を反転させた時に見えたそれ。

それは、地面に突き刺さった、()()()()

 

「えと……僕の、姉……のですね」

「えっ……」

 

タスクの言わんとすることを、自ずと察してしまうシノン。

心臓がドクンドクンと波打ち始める。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()の、()()()()……です」

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

察してはいたが、彼女の体は凍りついた。

 

 

「……逃がしませんよ」

「げっ」

 

一方その頃。

 

ログアウトすべく、宿屋に向かわんとする店主を、アスナ一行が捕獲していた。

 

「や、やあ……アスナさん」

「…………」

 

苦し紛れに笑顔を作る店主だが……。

アスナは微笑みを保ったまま、店主にずい、と体を押し出す。

 

「え、えと…………」

「…………」

 

無言の圧力に、店主がどんどん小さくなっていく。

キリトらはそれを後ろから眺めていた。

 

……しかし。

それを止めたのは意外にもユウキである。

 

「ア、アスナ、その辺で……ね?」

「だ、だって……!」

 

明らかに物言いたげだったアスナも、ユウキが出てきたとあらば下がるしかない。

 

そうして、代わりにずずいと出てきたユウキに、店主はまた苦笑いした。

 

「こ、は、はじめまして……」

「こんにちは!! ユウキでーす!!」

 

そう言って手を差し出すユウキに、答えて握手する店主。

相変わらず元気なやつ、とキリトが呆れている。

 

「あなた……すごいね、あのユージーンをまさか格闘で倒すなんてさ」

「あ……はは、どうも」

 

ユウキの屈託のない笑顔に、店主は目を丸くする。

 

「……明日」

「!!」

「どうするん……ですか?」

 

すると、不意にアスナがそう口にした。

その場が少し静かになる。

 

視線は明らかに店主に注がれている。

しかし、当の店主の目は泳ぎがちだ。

 

だがやはりここでも出てきたのがユウキであった。

 

「もっちろん、全力で戦うよね!?」

「ユウキ!?」

「っ!?」

 

アスナと店主が、ユウキを見て驚く。

 

「そりゃそうでしょ。僕とて()()()()()()()()()()

「!!」

「シノンさんが言ってたんだ。()()()()()()()()()()()って」

「そ、それは……!!」

「あなたの戦い方を見てれば分かる。タスク君と普通以上に関わりがあるよね。しかも対等に。雰囲気が似てるもん!!」

「ふ、雰囲気……かい」

「そ!! ってことはだ。あなたの中にも()()()()()()()、ってことなんでしょ?」

「……!!」

 

店主の驚いた顔に、ユウキはにひひーと笑ってみせる。

 

リーファ対タスクの戦いの最中、シノンが漏らしたあの言葉。

 

『戦いを欲し、強き者を倒すことに楽しみを覚える』。

そして、そんな者の中にいるという、『獣』。

 

そして極めつけは、ついさっきのユージーン戦でのタスクの言葉。

『獣を持たざる者は、獣を持つ者には勝てない。絶対に。』

 

ユウキは、それらの言葉を聞いて以来、その『獣』とやらにただならぬ興味を抱いていた。

 

「自分でもよくわかんないけどさ。その『獣』とやらにすっごく惹かれるんだよね」

「……!!」

「僕の中に『獣』がいるかどうかはさておいて、僕めっちゃ気になるんだよ」

 

すると、そう言って言葉を切ったユウキの、純粋無垢な笑顔が、少し含めた笑みに変わった。

 

 

 

 

 

「『獣』と『獣』がぶつかったら、どうなるんだろう……ってさ」

 

 

 

 

 

ユウキの意外な饒舌ぶりに、店主を含め一同絶句する。

 

それに、よくよく考えればユウキはこの2人の『獣』のうち、どちらか一方と戦う羽目になるのだ。

 

そんな中でこの言いっぷりである。

よくもまあ、と言ったような、感嘆の意もその沈黙の中には漂っていた。

 

……すると。

 

「っ……はは」

「?」

 

そんなユウキを見て、店主が笑って笑みを返す。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

「うん……よく出来たお嬢さんだ」

 

そう言って、少しだけ目を細めた。




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Episode143 僕の全て 〜All of me〜

「どうしてもここに……来たかったんですよ」

 

そう言ってしゃがむタスクをぼんやり眺めつつ、シノンは心臓の高鳴りを何とかして収めんとしていた。

 

「……シノンさん?」

「えぇっ……ああ、うん」

 

すると、あまりに緊迫した顔をしていたのか、タスクが振り返って少し笑いかけてくる。

 

シノンは、そんな彼にむりやり笑顔を返しつつ、拳を握りしめて鼓動の高鳴りが収まるのを待った。

 

「どっ……どうして……ここ……に」

「……?」

 

すると、シノンが震えた声でタスクにそう問いかける。

それに対しタスクは、より一層微笑んでそんな彼女に振り返った。

 

「そ、そんなに緊張しなくても」

「そそっ、そうなんだけど。なんか……」

 

タスクのあっけらかんとした顔に、シノンは焦りを隠せない。

するとタスクも逆に諦めたのか、またふふふと笑ってシノンを見た。

 

「明日」

「……!!」

「ユウキさんと戦う以前に、()()()()()()()()()()()()()()よね」

「ええ……そっ、そうね……」

 

タスクの真っ直ぐな瞳に、なおさら緊張して声が震えるシノン。

しかしタスクは、すぐにまた剣へ目線を戻した。

 

「おそらくその時」

「……!!」

 

そして次の瞬間。

雰囲気が少し重たく変わるのを、シノンは機敏に察する。

 

タスクはそうして一言。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()を、出さないといけなくなる気がするんです」

 

 

 

 

 

「す、すべ……て」

 

そう言って笑ったタスクは、少しだけ声が震えていた。

 

「店主……、いや、タモンさん。あの人もまた、()()()()()です」

「あ……!!」

「タチ悪いですよね。極端に悪くいえば、僕がユウキくんのために全力を出さなきゃいけない所に、わざわざ滑りこんできたんですよ」

「……!!」

「わかるんですよ。()()()()()()()()。……まあ、その先にいるユウキさんも狙ってはいるでしょうが」

「ね、狙って……!!」

 

タスクの少し沈んだ笑顔に、シノンは戦慄を覚える。

 

獣は、戦いを欲し、強きを求め、強者を破る。

そしてそれに最高の欲求を示す、文字通りケダモノ。

 

店主の中にもそんな獣がいるんだとしたら。

 

タスクが全力でやらざるを得ない状況があるなら、そこに飛び込むのは最早必然ともとれる。

 

「彼は……強いです。普段はあんなんですが……いや、だからこそなんですよ」

「……!!」

 

タスクは、俯いて少し震えている。

シノンは、そんな彼を意外と思い、思わず見つめてしまう。

 

「普段があんなんだから、()()()()()()()()()()んです。それこそ、()()()()()()()()()を使わないと勝てないくらい……!!」

()()……?それに、()()()()()()()……!?」

「……!!」

 

聞き慣れない、というより。

聞いたことがない単語がポンポン出てきて、シノンは思わず聞き返す。

 

タスクはそれに、そのままだと言わんばかりに頷いて返した。

 

「なんなら店主さんは……もう既に1つ出してます」

「あ……は、はっ……えーと……」

「発勁です」

「そ、そうそれ……!! あれも……?」

「ええ。あれは店主さんが編み出して、店主さんしか使えない……。裏血盟騎士団の奥義です」

「なっ……!?」

 

そんな代物だったのか、あれは。

シノンはそう言わんばかりに、目を見開いてタスクを見る。

 

「あれを……店主さんは、あの奥義を、あんな大衆の前で、しかも番狂わせで使ったんです。あれはもはや、宣言に他ならないですよ」

「宣言……」

「ええ。『僕は君に、技を惜しまず使うよ』、とまあ、こんな感じの……」

「っ……!!」

 

そう言って、また剣に向き直るタスク。

そんな彼の言わんとしていることは、シノンに容易に理解できた。

 

同時に、()()()()()()()()()、も。

 

「姉さん……僕は明日」

「……!!」

 

タスクがしゃがんで、剣を撫でる。

そして目が鋭くなったその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()を、出すよ」

 

そう言って、その剣の柄を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで……罪悪感に苛まれているようだ。

シノンはそんな感想を、心の内に抱いていた。




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Episode144 青龍 〜Chinron〜

その日、タスクは朝早くから、ALOの中にいた。

 

ALOと現実の時間は違う。

しかしALOも朝時のようで、薄いキリが立ち込めていた。

 

「……はぁっ!!」

 

息を吸い、吐くと同時に木に蹴りを打ち込む。

バキィ!! と音を立て、木の表面がまた凹む。

 

「っ……!!」

ゴッ、ガッ、バギッ……

 

タスクは続いて木に拳を3発打ち込んだ。

右中段、左アッパー、右フック。

 

木はどんどん皮が剥がれ、タスクの手足は最早真っ赤になっていた。

 

「……ふぅ」

 

すると。

タスクが一息ついて、木から少し距離をとる。

 

「……っ」

 

そして木を睨むと……

 

バギィッ!!!!!

メリメリメリ……ドシン。

 

()()使()()()()()()()()()()()

 

 

「タ……タス……ク」

 

見てしまった。

最初に出た感想はこれだった。

 

水色の髪に長いしっぽ。

背中に携えるは弓、可愛い猫耳。

 

そう、シノンである。

 

彼女は今、とんでもないものを見てしまった。

タスクが、()()使()()()()()()()()()()()のである。

 

「タス……ク……っ!!」

 

斬り倒した木の奥に見える俯いたタスクが、ゆっくりと顔を上げる。

 

その顔は……

あの時、キリトとの決闘の時に見せた顔。

 

殺気に溢れたあの顔であった。

 

「……っ!!」

 

シノンは思わず口をつぐみ、硬直してしまう。

 

今朝目を覚ましてから、ふと携帯を見ると、タスクから《今日は一足先に入ってます》と連絡が来ていた。

 

普段は用事の少し前からしか入らない彼が珍しい。

そう思って、詩乃も軽い朝食を済ませた後、急いでログインしてきたのだ。

 

フレンドであるが故、簡単に彼の居場所は分かる。

ケット・シー領内の深い森の中にある円形の空き地。

 

そこの真ん中に佇む木のすぐ側に、彼を示す赤点が光っていた。

 

ならば、と思い来てみれば。

恐ろしい……おそらく、見てはいけないものを見てしまった。

 

「……」

「……あ、シノンさん」

「あっ……」

 

しかし。

タスクがすぐに彼女を見つけ、笑顔を向ける。

 

シノンは慌てて笑顔を返した。

 

「は、早いのね」

「あー、はは。まあ」

 

心做しか、2人の会話がいつもよりぎこちない。

 

「……」

「……」

 

そしてついに、お互い黙り込んでしまった。

タスクもシノンもお互い気まずそう。

 

しかし、すぐにタスクがシノンに問いかける。

 

「……見ましたか?」

「っ……!!」

「あーその顔は、はは、見ちゃいましたか」

 

その問いにどう答えればいいか分からないと言わんばかりのシノンの顔に、タスクは笑って察した。

 

「ご……ごめんなさい。つい気がせいて……」

「いえ、いいんですよ。見るなとは言ってませんから」

 

シノンがそんな笑顔に慌てて弁明する。

しかしタスクは、気にしないでと手を振って、倒れた木に目をやった。

 

そんな彼につられて、シノンもその木に目を落とす。

 

そんじょそこらの細木ではない。

そこそこしっかり根を張った、抱えたら向こう側で手に触れれない程度の周囲を誇る一本。

 

こんなの、剣や斧でやったってせいぜい5〜8回はダメージを与えないと切り倒すなんて無理だ。

 

タスク、それを格闘技で、しかも一発で……!?

 

シノンはそう思い至り、今更ながら思わず目を丸くする。

 

「……あれはですね」

「……?」

 

すると、タスクが木に目を向けたまま口を開く。

シノンはタスクの方に目を向けた。

 

「裏血盟騎士団の奥義、『青龍』」

「お、奥義……!!」

「奥義はこれや『発勁』以外にも割と数多くありますが、これはその中でも4本の指に入る代物です。なので当時は禁忌技とされていました」

「きっ……禁忌……!?」

 

昨日のあの……

シノンはそう回想して、背筋が凍る。

 

昨日の話の時点では『発勁』のレベルを想定していたが、これはそんなもんではない。

 

()()()4()に入るレベルの、禁忌とされた技……。

 

「『青龍』で……4……」

「あ、気づきました?」

 

シノンの思考と共に漏れた呟きに、タスクが面白そうに反応する。

 

「あ、う、うん……ひょっとして」

「そうです。残りの3つは『白虎』、『玄武』、『朱雀』です」

「やっぱり……!!」

「よくご存知でしたね」

 

にっこりと笑うタスクに、シノンはえへへと笑みを返した。

 

青龍、白虎、玄武、朱雀。

かの有名な、中国の四神である。

 

東西南北の各方角に、季節と共に守護神として君臨するとされる神々。

 

「『青龍』は僕が。『朱雀』は姉さんが。『玄武』は今は亡き裏血盟騎士団のとあるメンバーが、それぞれ個々の奥の奥の手として開発、いつでも使えるようにと鍛錬していました」

「……それで、『白虎』は……?」

「……もう、わかるでしょう」

 

ああ、なるほど。

シノンは確信を持って、少し笑う。

 

「店主さん……ね」

「あたり」

 

ふるふる、と首を振るタスク。

やれやれと言わんばかりの顔である。

 

「この4つの禁忌技は、それぞれ()()()()()()()()()()を持たせるべく作られています」

「……」

 

 

 

 

「僕の『青龍』は、これで相手の首をちぎります」

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

タスクの笑顔からでた物騒なワードに、思わず跳ね上がるシノン。

 

「っはは、やだなぁ、まだしたことはありませんよ」

「いやいやそうじゃなくて!!」

「……ふふ。分かったでしょ」

「え……」

 

すると、不意に悲しげな顔になったタスク。

シノンはそんな彼に少し驚く。

 

そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕らが僕らのしてきたことを誇りたくない理由が」

 

「……!!」

 

そう言った彼の表情は、見たことないくらいやつれていた。

 

 

 

 

 

 

 

準決勝まであと2時間である。




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Episode145 宣言 〜message〜

「……ユウキ」

「……!? は、はい?」

 

ここは、ALO統一トーナメントの闘技場の観客席。

 

……へ、登る階段の踊り場。

 

不意に後ろから呼び止められたユウキが振り返ると、そこにはシノンが立っていた。

 

「シ、シノンさん……!! いいんですか、見送りは……」

「あ〜……はは、今回はどっちとも身内だから。いいの」

「は、はぁ……」

 

首を傾げて笑うシノンに、ユウキはキョトンとする。

 

「……それより」

「!!」

 

すると、シノンは微笑みを保ったまま、ユウキを真っ直ぐ見つめた。

ユウキはドキッとして、シノンを見る。

 

少し試すような目をする彼女。

うわぁ、こりゃタスクくんデレデレだわ。いいなぁ、なんて思い始めるユウキ。

 

「……な、なんですか」

 

あまりに何も言わないため、ユウキが不意にそう口走る。

シノンはなお沈黙を保って……その後ゆっくりと。

 

「………」

「……?」

 

 

 

 

「タスクから……伝言」

 

 

 

 

 

「!?」

 

そう言って、またあの微笑みを見せた。

それに対し、ユウキの顔からは笑顔が消えて、警戒の色が見える。

 

タスクから伝言?

その言葉が頭の中でグルグルと回り、色んな思考も同時に回り始める。

 

「…………?」

 

そのうち、思い当たりが無さすぎて何だかふわふわした気持ちになってきた。

そんなユウキを見て、ついにこやかになるシノン。

 

「いい?」

「あっ、はい……!!」

 

あまりに悩んだ顔をするユウキに、シノンは一応訪ねた。

聞いてなかった……なんてなっては困るからだ。

 

ユウキもユウキでそれを分かっているからか、慌ててシノンの目を見据える。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

「『この試合が終わった時』」

「……!!」

「『君は()()()()()()()()』……と」

 

 

 

 

 

 

『笑う』。

ユウキには分かる。

 

ここでの意味は、愉快や感嘆、ましてや嘲笑などの類ではない。

 

感情はただ一つ。

()()』。

 

彼らの身の内に住まう獣。

それが目を覚まし、顔を見せる時に出る、あの独特な雰囲気の笑み。

 

狂気の沙汰とも取れる、あの強さに対する執着は、ユウキは感嘆に値するものだと見ていた。

 

しかし。

 

「それって……」

「ええ、そうね」

 

訝しげに問いかけるユウキに、すました顔で答えるシノン。

 

「ぼ、僕の中にも……()()()()ってこと?」

「うん、そうね」

 

まさか、そんな。

ユウキは思わず目を見開いて、身を引いてしまう。

 

「言ったでしょ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

「……!!」

「タスクはきっと、あなたには負けるかも……って思ってるんじゃない?」

「な……!?」

「じゃなかったらこんな伝言しないでしょ。それに、そのことに気づいてないあなたにわざわざ教えたげるなんて……ふふ、こんなのある種()()ね」

「!!」

 

あっけらかんに喋るシノンに、目はもちろん耳も信じられないと言わんばかりのユウキ。

 

だがしかし、彼女の話は確かに筋が通っているのだ。

 

要約すればこう。

『次の試合で君の目を覚まさせる。だから決勝、全力で来い』である。

 

「っ……!! わ、分かりました。ありがとう」

「ん。……確かに伝えたわ」

 

ぐっ、と拳を握りしめ、ユウキはこくりと頷いた。

シノンは満足気に微笑むと、カツカツと観客席へ続く階段を登っていく。

 

するとその時。

 

「あ、あのっ……!!」

「?」

 

咄嗟に、ユウキはシノンを呼び止めた。

 

「……なぁに?」

「あ……えと……」

 

体が勝手に動いたかのような、ほんとに、最早本能的な感じで呼び止めてしまったユウキ。

シノンはキョトンとしてそんな彼女を見ている。

 

……しかし、絞り出して一言。

 

 

 

 

 

 

「シ、シノンさんにもいるの……? その、獣って」

 

 

 

 

 

 

恐る恐る見上げた目は、キョトンとして未だ見つめるシノンを映す。

 

しばらくの沈黙。

上から聞こえる観客の声が大きくなってきた。

 

……そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、いるわ。ちっちゃくて、()()()()()がね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

そう言って微笑んだ彼女は、上から差し込む光に包まれ、それはそれは綺麗にやさしく見えた。




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Episode146 内なる強さ 〜Inner strength〜

「あなたもまた、姑息な手を使う」

 

そう言って呆れた目つきで見てくるタスクに、店主は微笑みを返した。

 

「……はは」

 

闘技場の真ん中で対峙する二人。

 

まだ試合は始まっていない。

選手入場からカウントダウンまでの少しの待ち時間、といったところである。

 

「ま。たしかに、ユウキさんには悪いことしちゃったよね」

「……!!」

 

すると、店主は目を細めてタスクの向こう側を見た。

 

そこにいるのはやはり()()()

そしてその取り巻きや、キリトら。

 

「まぁでも……許してもらえるでしょ」

「?」

「現にシノンさん。彼女からも特にお咎めなしだし……」

「ああ……なるほど」

 

なるほど、そういうこと。

タスクは店主の言わんとしていることを理解し、呆れた笑みを見せる。

 

ようは()()()()()()()()()()()()、ということだ。

 

強い者がいるなら戦いたい。

心から湧き出てくるその歓喜は、抑えようとしたところで無意味。

 

だからこそ、引き止めたりなんてことは普通しない。

 

タスクにとってそれは、突如現れた紫の剣姫、ユウキ。

店主にとってもそれは同じだ。

 

しかし。

 

「そこに僕も含まれちゃいますか」

「もちろん」

 

店主にとっては。

タスク、彼もまた、歓喜を引き起こす()()()なのである。

 

「SAO時に散々やったでしょう? 何をまた」

「んーん、やってない」

「……はっ?」

 

タスクはまた呆れ返った目で店主を見やったが、彼の意外な反応にキョトン。

 

「あれはあくまで練習。どれだけ本気でといっても、所詮は茶番」

「……まさか」

「そう、そのまさかだよ」

 

そしてここで、タスクはやっと悟る。

なぜわざわざ、こんな日の当たるところにまで出てきて、店主が自分に相対するのかを。

 

 

 

 

 

「僕は君と、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「っ……!!」

 

タスクはここで、初めて目の色を変えた。

ああ、この人は本気なんだ、と。

 

もちろん、現段階で仮想世界において命をかけて戦える場所などない。

その上、GGOのこともあるし、そんなことは多方面との関係で許されざる行為だ。

 

しかし。

 

『いいかタスク。命の次に守り、信じるべきものは任務だ』

 

というタスクの姉の言葉の通り。

 

()()()()()()()()()であれば。

賭けてしまえるというわけだ。

 

「ユウキさんには悪い……とは、そういうことですか」

「そゆこと♪」

 

静かにそう問うたタスクに、にかっと笑って返す店主。

 

 

 

カウントダウンが今、始まる。

 

 

 

 

神妙な面持ちで見守るキリトら。

同じく固い面構えで見つめるユウキら。

変わらずに威厳ある顔で見るサクヤと、珍しく真剣なアリシャ。

 

「っ……!!」

 

そんな中で、リーファはどんな顔をしてようかどぎもぎしていた。

 

全力を出しちゃったし、気分はスッキリしている。

かと言って、この雰囲気の中で気が抜けた顔はしてると決まりが悪そうだ。

 

「……あ」

 

そうだ、そんな時は。

 

そう思い至り、リーファはふとシノンを見る。

彼女なら、こんな時どんな顔をするのか……。

 

するとそこには。

 

「…………!?」

 

うっすらと母性を匂わせる、ほほ笑みを湛えた彼女が、お淑やかに鎮座していた。

 

そうか。

そんな顔をしてれば……

 

リーファは何かに気付かされたような気になり、ふと闘技場の方を見やった。

 

「っ!?」

 

するとどうだ。

先程まではなかった殺気と狂気が、満ち満ちていた。

 

もう一度シノンの方を見やる。

 

彼女は依然変わらず、例のほほ笑みを崩していない。

 

 

 

 

 

 

 

ああ、これか。

 

この時リーファは悟った。

シノンを見た時に感じた、()()()()()いうものを。




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Episode147 投げ技か決め技か 〜Throw or submission〜

ビーッ、という開始のブザーが鳴ると共に。

 

「動いた!!」

 

最初に動いたのはタスクだった。

 

右上段回し蹴り、店主は少し身体をのけぞらせて避ける。

 

続いて回転し、軸だった左脚で後ろ蹴り。

後ろ()()ではない、()()()()だ、

 

タスクの背中に隠れた脚が、まっすぐ店主のみぞおちに突き刺さる。

 

ゴッ

「ぐ……」

 

店主はあえてそれを受ける。

後ろに5m吹っ飛ばされて、倒れることなく着地した。

 

「い、いける……?」

 

アスナがそう言って、キリトを見る。

対してキリトは、相変わらず厳しい顔のままだ。

 

「いや、あれは、店主がわざと後ろに飛んだんだ」

「え……?」

「衝撃と同じ速度で同じ方向に移動すれば、実質0になる」

「な……!?」

 

そんな馬鹿な。

アスナも一瞬にして厳しい顔に戻る。

 

武器や魔法を使う戦いと違って、肉弾戦の場合はそんなことができてしまうのか。

 

自分の経験外の、異様な戦いにアスナは緊迫した。

 

グン!!

「っ……」

 

またタスクが仕掛ける。

 

右中段回し蹴り。

 

キュン!!

「っ!! ……と」

 

……と見せかけた、右上段回し。

 

体に当たるギリギリまで中段のコースを辿りつつ、最後に上段に跳ね上がる裏血盟流御用達の蹴り技。

 

もちろん店主は反応する。

 

ガッ!!

「ふん」

 

飛んできたタスクの右脚を左腕で受ける。

 

それを分かっていたと言わんばかりに、タスクは続いて左脚にスイッチ。

右脚が下がりきる前に、左脚が上段回しのコースに入る。

 

しかし次の瞬間。

 

ボゴッ

「んぐっ!?」

 

タスクの脇腹に、店主の左手が触れた。

 

「発勁……!!」

 

思わずリズが呟く。

 

宙に浮いたタスクは横にふっ飛ばされ、10mは吹き飛んだ。

 

ダンッ……グッ!!

「ちぃ……!!」

 

すぐに着地すると、また店主との距離を詰めるタスク。

 

「ど、どうして……」

「ん?」

 

それを見たシウネーが、ゆうきの太ももに手を置いて問う。

 

「どうして、タスクさんはあんなにすぐに近づくの? 一旦離れれば……」

 

すると、ユウキは険しい顔をして答えた。

 

「シウネー、あの人達はね、モンスターと戦って強いわけじゃないんだ」

「……?」

()()()。いわゆる対人戦に特化した人達なんだよ」

「え……」

「モンスターは一定距離離れると仕切り直せるよ、でも人は違う。特に店主さん、あの人に関してはね」

「……」

「ほら、そもそもタスクくんよりリーチがある。タスク君の脚が届かなくても、店主さんの足は十分に届く」

「……!!」

「それにすごく離れりゃ、ああなるよ。ユージーンの時見たく……」

「あっ……!!」

 

薙刀をまっすぐ撃ち出す例のアレ。

リアルな光景がシウネーの脳裏にフラッシュバックする。

 

「つまり……」

「うん。タスク君は極度に接近しないと勝ち目がないんだ。皮肉だけどね」

「……!!」

 

だからって、あんな……!!

 

シウネーはやっと、タスクの立ち位置を把握する。

キリトやユウキが、厳しい顔をしている理由を理解した。

 

中距離は店主しかリーチが届かない。

遠距離はそもそも格闘戦にならず、油断すれば店主の薙刀が飛んできて畳み掛けられる。

 

そして近距離は発勁の危険がある。

 

「正直、よくやるよ」

「……?」

 

絶句するシウネーに、ユウキは笑ってそう言う。

 

「剣持っててもああいうのとはやりたくないね。タスクくんはガツガツ入るけど、僕は……正直やだ」

「ユウキ……」

 

ユウキがそんなこと言うなんて。

シウネーはまた闘技場の方へ向き直った。

 

そこには、距離詰めては離されて、距離は詰めては離されてを繰り返すタスクがいる。

 

ギッ……

「……!!」

 

いつの間にか、シウネーはタスクを応援していた。

 

 

《ははーん、さてはやる気だな?》

 

店主は距離を置いたタスクをみやりつつ、ニヤリと笑った。

 

ここまでお互い一度も武器を抜いていない上、仕掛けてくるのは蹴り技のみ。

 

タスクはもともと拳が得意ではない。

パンチ、フック、アッパーなど、拳を使った技は、基礎的なものでさえ最低限しか修練していないのだ。

 

なぜならタスクの戦闘スタイルは刀と格闘。

手は刀で埋まってしまうから、修練する意味がそもそもないわけだ。

 

その代わりに練習したのは()()()()()()

隙を着いて相手を転がすか、武器を使う部位をへし折って封ずるか。

 

《問題はどっちで来るか。このまま武器戦闘に持ち込んでもいいけど……》

 

店主は相変わらず笑みを保ったまま、ゆっくりと体勢を落とす。

 

……すると。

 

「はっ………!?」

 

見ていたユウキは思わず声を上げた。

店主も笑みが消えて、驚きの顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タスクも応じて体勢を下げ、手を着いたのだ。

それはまるで、()()()()()()()()()




※作者注※
submission (サブミッション)は、本来「降参」という意味なんだそうです。
関節技を決められて、地面や相手の身体をパンパンと叩く仕草、あれです。

しかし、日本の格闘技界隈では、それも含めて関節技(サブミッション)となっている……らしいです。

ちなみに作者は空手勢です。
関節技とか無縁すぎ……(´・ω・`)ユルシテ

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Episode148 絞め技 〜Chokehold〜

「は……?」

 

リーファは困惑していた。

タスクの()()に。

 

店主が体勢を下げたのと同時に。

タスクも体勢を下げたのである。

 

しかもその顔は笑っている。

 

「ど、どういう……?」

 

タスクの意図が理解できず、リーファは思わずそう呟く。

 

店主に関してはただの構えに過ぎない。

タスクの小柄さに合わせた、手の位置を下に置くための体勢。

 

しかしタスクは違う。

店主よりもさらに下、地面に手をついた、さながら相撲取りの力士のような構え。

 

困惑しているのはリーファだけではない。

キリトやユウキ、店主でさえも虚をつかれた顔をしている。

 

「あ……」

 

そういえばシノンさんは……?

不意にそう思い至り、パッとその方向を向いてみる。

 

すると。

 

「なーに見てるのよ? リーファちゃん?」

「え……わっ!?」

 

()()()()、シノンの少し笑ったやさしい声が聞こえてきた。

顔を上へ向けると、ふふふと笑うシノンが見下ろしている。

 

「さっきからチラチラ見てたでしょ」

「うっ……」

「落ち着かないでしょ、分かるわ」

「え……?」

 

試すような、それかもう全て見抜いているような。

そんな目をしながら、シノンは笑ってすぐ隣に座った。

 

リーファは、びっくりしたからなのかしかしそれにしては長い、ドキドキという拍動を、必死に胸の中に押さえ込む。

 

「い、いつのまに……」

「ついさっきよ」

「え?」

「みーんなタスクに目が釘付けだわ。視線誘導の必要もない。簡単な話よ」

「……!!」

 

ケロリと笑うシノンにリーファはちょっと不服そうだ。

 

「そんな顔しないの、悪かったわよ」

「い、いえ……別に……」

「ふふ、正直スッキリしてるんでしょ」

「!!」

「試合終わったし……みたいな」

 

そこも……?

リーファはあからさまに警戒の目をシノンに向ける。

 

自分では精一杯取り繕っていたつもりだった。

タスクには見抜かれるだろう、とは思っていたがまさかシノンにまで見抜かれるとは。

 

……いや、シノンもタスクと同様、見抜けるのか。

 

「ま、いいんじゃない? 無理に周りに合わせる必要はないわ」

「シ、シノンさん……」

 

すると、シノンはそう言ってはにかむ。

 

ほんのりと漂わせる雰囲気。

お淑やかながら、相手に必ず感じさせるほどの根底にある強さ。

 

そして知らず知らずのうちに安心させるほのかな母性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

リーファは思わず、口を開いてしまった。

 

 

「……どういうつもりだい?」

「……へへ」

 

一方試合中の二人。

タスクの意図が読めない店主は、あえて動かないでいた。

 

「試合中ですよ。会話は意識を乱します」

「はは、そう言って君も答えてるじゃない」

 

タスクが笑って言葉を返す。

 

やはり意図が読めない。

凡人ならここで、例えば無視やら、とぼけるやらするだろう。

 

逆に問うかもしれない。

さあ、なんでしょうか、と。

 

「……ふむ」

 

店主は気を抜いて一旦考える。

 

例えば無視なら、話は早い。

会話している余裕がないのだ、言い換えればこちらを警戒しているのである。

 

とぼけるのは、挑発と捉えるのが普通だろうが違う。

自分の手に自信がないのである。自分の手が、相手の予想しえない物かどうか。

 

問い返しも似たような物だ、というか大体がそう。

 

しかし。

その行為に対する指摘とは。

 

なかなか、否、やはりと言うべきか彼である。

これではわからないし、そもそも埒が明かない。

 

「そうか、つまり君は」

「っ……!!」

 

そしてついに。

 

「行った……!!」

 

店主が急速に間合いをつめた。

観客の中の誰かがそう叫び、その他大勢は再び熱狂する。

 

ヴォン!!

「!!」

 

店主の中段フックがタスクの屈んだ頭の上を掠める。

 

相変わらずスレスレ。

観客は感嘆する。

 

「武器じゃねえ、武器じゃねえけどよ」

「ああ……、なんなら武器よりあれの方が当たりたくねえ」

 

タスクは即座に動いた、店主の腹へ前蹴り。

後ろに伸びていた足を、手を支柱に体の下を潜らせ、半ば逆立ちするかのように両方の足を突き上げる。

 

「ふふ」

 

すると店主は、まるで分かっていたかのようにフックで通過した手をバック。

裏拳として、タスクの脇腹へ叩きこもうとするが……

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

ギュン!!

「がっ……!?」

 

 

 

 

 

 

タスクの両の足が一方は腕の外側、一方は内側を通り、そして。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、あれが……狙い……!?」

「うっそぉ……」

 

思わずシウネーとユウキが呟く。

 

 

 

 

 

ガキィッ!!

「がっ……あ!?」

 

 

 

 

 

タスクが繰り出したのは、典型的な()()()()

腕を捉え、首を絞める典型的な()()()である。

 

「ぐ……」

ズズッ

 

店主は、絞められながらも何とかもう片方の手でタスクに触れようとする。

 

まさか、関節技でも投げ技でもなく、絞め技とは。

店主も予想していなかった手に、必死に対抗する。

 

「あっ……!!」

 

そしてアスナが思わず呟く。

誰もが分かる、発勁だ。

 

しかし。

 

グリッ

「がっ……は!?」

ボッ

 

発勁が打たれると同時に、タスクは更に絞めて身体を浮かし、発勁を背中の真下に通させた。

 

店主はたまらず手を引っ込め、地面に手をつく。

このまま体を地面に寝かしたままにすれば、いよいよ呼吸が続かなくなってくる。

 

「ゆ、ユウキ……!!」

「うん……!! 店主さんのHPが……!!」

 

ガクン、と減った。

 

あのユージーンの剣を直に喰らってもほんのミリしか減らなかったあのHPが、目に見えてわかるくらい大きく削られた。

 

「そ、そういうやり方……する? ふつう……!!」

 

至極真っ当なユウキの言葉。

 

当然、この場にいるもの全員、あんなの見たことない。

そして、()()()()()()()()()()()()

 

当たり前だ、あんなのやる前に武器で斬りつけた方が、魔法を打ち込んだ方が、羽で羽ばたいた方が……

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()……!?

 

 

 

 

 

 

「いやぁもう、あれは()()()()()()()()()()

「!!」

 

ユウキが首を振って否定する。

 

この場にいるもの、全員分かっていた。分からないわけがないのだ。

 

あの人たちはそんな次元じゃない。

例え武器でかかろうと、魔法を繰り出そうと、羽で空に逃げようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

そう、言わしめる別格の人間の戦いなのである。




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Episode149 槍の大剣 〜Big spear〜

「まっ……ずい、ね。これ……はっ……!!」

「!!」

 

絞められながら、店主はそう言って笑う。

タスクはその言葉を聞いて、虚を突かれた顔をする。

 

その瞬間。

 

「ふんっ……!!」

ゴキィ

 

店主は、自分で()()()()()()()()

 

「な!?」

 

アスナがそれを見て息を飲む。

 

それにより、一瞬でタスクの拘束に緩みを持たせた。

そしてその腕を、できる限り高く上げて……

 

ビュン‼︎

「くっ……!!」

ゴッ‼︎

 

()()()()()()()()()()()()()

 

ダランダランになった腕を勢いをつけて振ったのだ。

振り子のように余計に勢いづいて、地面に当たる。

 

組みついていたタスクは逃げようと手を離したが、結局巻き込まれて後頭部から地面に直撃した。

 

「がっ……!?」

「いっ……」

 

視界が揺れているのか、タスクは目が泳ぎつつフラフラと、それでも早く、店主と距離をとる。

店主はあえてその場を動かず、離れるタスクをみつつ、ゆっくり立ち上がる。

 

残りHPは、タスクが5割、店主が4割。

 

正直この光景だけで観客は息を呑んでいる。

なぜならこの二人とも、今までの予選でここまでHPが削られたことがないからだ。

 

「で、でもあの腕なら……!!」

 

すると、シウネーが呟く。

発勁は打てない、そう言葉が続きそうであったがしかし。

 

「だよ……ね、そうなるよね」

 

今度はうっすらと笑っているユウキが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「あ……!!」

 

シウネーの顔がまた険しい顔になる。

 

気づけばタスクもいつのにか刀を抜いている。

正面中心、剣道そのもののような構えである。

 

それに対し店主は、折れてない方の腕一本でタスクに薙刀の刃先を向けていた。

 

「……」

「……」

 

しばしの沈黙。

 

バチィ‼︎

「おおっ……!?」

 

と思いきや、一瞬で一合を交わす。

 

観客は湧き上がりかけて静まる。

何が起きたか分からなかったからだ。

 

「今何が……?」

 

腕をぎゅっと握って、注意深く見ていたシリカは思わず呟く。

 

「タスクが一発横から叩いたんだ。薙刀の、側面を」

「!?」

 

すると、キリトが答える。

 

「叩い……た?」

「ああ。今店主が一瞬、突こうとしたんだ。それをタスクが刀で横に叩いて弾き飛ばした」

「っ……!?」

 

いつの間に、そんな顔になるシリカ。

キリトはさすがだ、それくらいは見切れる。

 

店主とタスクの距離がジリジリと縮まる。

 

「……動いた!!」

ビュン‼︎

ゴッ!!

 

そしてまた一合。

 

タスクが正面に突く。

薙刀の柄がそれを弾く。

 

「ぐっ……!?」

 

しかしタスクの狙いはそれではなかった。

 

正確な突き。

しかしそれは、()()()()()()()()()

 

その衝撃はしかと柄に伝わり、店主の片腕をつたって体全体を押す。

 

「ちぃっ……!!」

ヴォン‼︎

 

店主がたまらず後ろに飛ぶ。

タスクの横なぎが腹を掠め、腕の下を通る。

 

するとその瞬間。

 

ゴォッ

「っ!?」

 

刀を横に薙いだ勢いそのまま、タスクの体が一回転。

後ろかかと回しが店主の脇腹に刺さる。

 

店主の体が揺れる。

タスクはもう止まらない。

 

さらに後ろに下がる店主に、今度は上段斬りの構え。

 

……が。

 

ガツン!!

「……はぁ、はぁ」

「あ、と、止まった……」

 

店主の薙刀がタスクの頭に飛んできて、タスクの刀を防御に使わせた。

真っ直ぐ上から下への一線の軌道を辿るはずだった刀は今、タスクの顔の真横で薙刀の柄を押さえている。

 

店主の心底ホッとした顔が見える。

タスクもよく見ると……

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

「な、なんという……」

 

すると、珍しくタルケンが言葉を発した。

 

スリーピングナイツのメンバーで、シウネーの二つ隣に座っている。

緑色の髪色、すらっとした体格で長身、種族はレプラコーン。

 

そしてそんな彼の使用武器は……『長槍』。

 

「ど、どうしたの? タルケン」

「あ、えと……」

 

隣に座るスプリガンのノリが顔を覗き込む。

 

「あのね。普通、槍を()()()()()()で維持できるわけないんだ」

「あんな……?」

 

タルケンの言葉に、スリーピングナイツの面々は顔を闘技場の中心に戻す。

 

店主に視線が向く。

相変わらずだらんと下がった腕と、そうでない方の腕にしっかり握られた薙刀。

 

「「「「「「……!!」」」」」

「気づいた?」

 

すると、みるみるうちに面々の顔が変わった。

 

「あんな、()()()()()()()()なんて、普通無理なんだよ」

「!!」

 

スリーピングナイツの面々はもちろん、キリトらは既に気づいているようだった。

 

店主は現状、()()()薙刀をを持っている。

それも、()()()()で。

 

現実でも、ゲーム内でも、多少の差はあれど力のかかり方や大きさは変わらない。

先端に鉄の塊がついた長い棒を、反対の端っこで片手だけで持つなんて、筋トレ器具もいいところの所業だ。

 

「それにね……」

「?」

 

皆がポカンとしているところで、タルケンがまた話し始める。

 

「あの店主さんが使ってる『薙刀』ってやつ。あれ分類は「槍」なんだけど、「槍」の中でトップクラスの()()()()()を持つの」

「え……」

 

それってつまり。

誰もが理解した顔でタルケンを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通称、『槍の大剣』。通常の槍を片手剣・刺剣だとしたら、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり店主は、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()S()T()R()()()()()()()、ということになる。

 

前かがみで眉間に皺を寄せ、膝に肘を乗せ指を組んだタルケン。

そう言った彼は、口元こそ笑っているものの、少し体が震えていた。




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Episode150 店主は何者か 〜What kind of person is the owner?〜

ヴォン!!

 

店主の薙刀がうなる。

大きく横にひと薙ぎすると、後ろにまわして振りかぶる。

 

ビュン!! ゴォ

 

垂直に地面を叩く。

もちろんそこにタスクはいない。

 

「逃がさない……よ!!」

キュン!!

 

続いて薙刀をタスクに一刺し。

前に出る店主の勢いを乗せた、鋭い一撃。

 

すると。

 

「入った!!」

 

キリトが前屈む。

 

タスクが店主の一刺しをスレスレですり抜け、店主の懐に入った。

腕は折れているし、脚は薙刀の突きの構えで体重が乗り、蹴りは出そうにない。

 

正面上段切りを構えるタスク。

 

しかし次の瞬間。

 

キュン!! バゴッ!!

「なっ!?」

 

店主の空中を突いた薙刀が斜め上に上がったかと思うと、柄をスライドさせてタスクの前に通し、そのまま柄でタスクを叩いた。

 

上段切りを構えていたタスクは当然前方はがら空きである。

もろに食らってまた吹っ飛ぶ。

 

そしてすかさず店主が一撃……と見せかけて。

 

ガッ

「ちぃ……」

 

タスクの刀が薙刀を叩く。

 

「ほんっとに……ハラハラするわ」

「は、はいぃ……」

 

リズとシリカはもうずっとこんな調子だ。

 

キュン!!

「っと」

 

タスクが刀を店主の顔へ刺し込む。

店主は即座に反応、こめかみに若干の切り傷が入る。

 

すると次の瞬間。

 

 

 

 

 

バキィ!!

「がっ……」

 

 

 

 

 

タスクの頭に、店主の回し蹴りが入った。

 

「逃がさない……よ」

ドッ、ゴッ

 

店主はそれでも止まらない。

即座に薙刀を投げ捨てると、体勢が大きく乱れたタスクの顔面にアッパー、その勢いそのまま同じところに膝蹴りをかます。

 

タスクの顔の左下はもはや原型がない。

ぐちゃぐちゃにひしゃげ、ポリゴンがボロボロと落ち、キャラクターの綺麗な輪郭はもはや見る影もない。

 

かろうじて厳しい目つきが認識できる。

口はもはや見てとれなかった。

 

「ヒッ……!?」

「シリカちゃん……!!」

 

シリカはもはや見てられなかった。

アスナの袖をぎゅっと握って目を瞑る。

 

アスナも本音、ゾクゾクと鳥肌が止まらなかった。

 

仮想世界で、こんなにも全身全霊で戦える人がいるなんて。

恐怖心がだんだん露わになってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんのっ……バカっ……!!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

すると、後ろから()()()()()()()()()()()()()()()

アスナは思わず振り向く。

 

そこには、手をぎゅっと握りしめ、目を真っ赤に腫らしたシノンが。

 

「ど、どうしたのシノノン!?」

 

アスナは慌てる。

するとその時。

 

 

 

 

 

 

 

「タスクくん、今シノンさんの剣、守ったんだよ」

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

ユウキの落ち着いた声が、アスナの体を止めた。

 

アスナはふと闘技場の方へ目を戻してみる。

するとどうだ、タスクはいつまにか刀をしまっていた。

 

「店主さんの顔を突いた時……、避けてすぐそばを掠めた刀に、店主さんは()()()()()()

「え……そ、それって……」

 

キリトの落ち着いた声がアスナに事実を気づかせる。

 

発勁。

しかも刀の側面に向けてということは、すなわち。

 

「店主……さん」

「あ……あの人、今、刀を折ろうとしたの……!?」

 

リズがアスナに先行して呟く。

当然、アスナも同じ結論に達している。

 

店主が、あの刀がタスクにとってかけがえの無いものであるということを知っているかは定かでは無い。

しかし、どんな形、経緯にせよ、店主は今、あのタスクとの戦闘中に()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「あぁ……あ……!!」

 

シリカが震えてアスナの袖を持つ。

アスナもシリカの背中に手を回すが、内心ではゾクゾクしている。

 

「はぁ……はぁ……」

「……………」

 

顔が半分潰れたタスクの息は荒い。

店主は笑ってタスクを見つめている。

 

折れた腕はもう時期治る。

試合の制限時間ももうそろそろ、まもなくやってくる。

 

《最後だ……》

 

店主はそう、内心で独りごちた。

 

おそらく、人生最初で最後。

タスクとの、本気でやり合う一戦。

 

 

 

 

 

 

《なぁ……君は……許してくれるかい?》

 

 

 

 

 

 

すると店主は、空を見上げて一段と笑った。

 

もう何も聞こえない。感じない。

観客の声援も、タスクの殺気も、自らの体の感覚も。

 

はるか彼方にぽつりと浮かぶかの城。

それを取り囲む青い空。

 

いつも彼が主役だった。

彼が任務を遂行し、彼が陰の表に立った。

 

彼が主人公なら、僕はどんな役なんだろうか。

 

小さな店の店主? 食いっぱぐれた哀れな男? それとも……

 

 

 

 

 

 

 

婚約者をかの城で失った、哀れな………

 

 

 

 

 

 

 

 

「出しましょう、全て」

「っは……………!?」

 

するとその時。

タスクの声が、店主の思考を遮った。

 

店主がはっと我に返る。

 

「もう……いいでしょう」

「………!?」

 

彼の言わんとしていることが分かる。

頭ではなく、心が反応している。

 

押さえつけてきた、心が。

 

 

 

 

 

 

 

 

《…………行きなさい2人とも。ここはそのためにあるのよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

微かにあの人の声が聞こえ……た。

 

「ひっ……!?」

「っ……!!」

「う……わっ……!?」

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

目をアスナは瞑り、キリトは見開いて、ユウキは口まで開けて、その時を迎えた。

 

「獣」と「獣」の、結末を。




お久しぶりです、駆巡 艤宗です。

5月入って急に忙しくなりまして、こんな遅くなってしまいました。
本当にすみません……そのうち怒られそう。カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ

そしていよいよこの戦いも終わりを迎えます。
何やら意味深なシーンが出てきましたね。

乞うご期待!!

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Episode151 立っていたのは 〜Who stood〜

気づけば、そんな顔をしていたらしい。

隣に座るリーファが、明らかに怯えて声をかけてきたから。

 

泣きはらして真っ赤になった目をクシャクシャに歪ませて。

歯をこれでもかと食いしばって彼らを見つめている。

 

それはまるで、獣のように。

 

瞳に映るは一人の男。

広い舞台にたった一人佇む男。

 

手をぶら下げて、息は荒く、やっとの事で立っている。

 

その男の下には倒れた男。

佇む男に見下ろされながら、定まらぬ視界を見つめている。

 

色々砕け、息は止まり、微動だにせず横たわっている。

 

「行きましょう、シノンさん」

「……グスッ」

 

肩を抱えられ席を立つ。

 

本当は今すぐ駆け寄りたい。

飛び立ってすぐに傍に行きたい。

 

でもできなかった。

体は力を抜くばかり。

 

 

 

 

 

 

観客の惜しみない拍手だけが、その場に響いていた。

 

 

気づけば、そんな顔をしていたらしい。

隣に座るシウネーが、明らかに怯えて声をかけてきたから。

 

体の奥で高鳴るなにかに揺らされて、思わず口角が上がっている。

探していた何かを見つけたが如く、食い入るように彼らを見つめている。

 

それはまるで、獣のように。

 

瞳に映るは一人の男。

広い舞台にたった一人佇む男。

 

手をぶら下げて、息は荒く、やっとの事で立っている。

 

その男の下には倒れた男。

佇む男に見下ろされながら、定まらぬ視界を見つめている。

 

色々砕け、息は止まり、微動だにせず横たわっている。

 

「ねぇ、シウネー」

「な……なに?」

 

目線を外さず一言問う。

 

相変わらず怯えたシウネーが返事を返すが、その続きはない。

 

しばらく間を置いて言葉が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「僕……今……()()()()?」

 

 

 

 

 

 

「う……!! うん……」

 

そう言ってゆっくりシウネーを見るユウキ。

シウネーはこくりと頷いてユウキを見返す。

 

「そっ……かぁ、これが……」

「……?」

「確かにその通りだったよ、タスクくん」

「??」

 

独り言をポツポツと呟くユウキを、相変わらず怯えた様子で見つめるシウネー。

 

「あは、いよいよだね!!」

「え……!? う、うん……?」

 

するとユウキはたん、と立ち上がった。

目線はしっかり闘技場を見つめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ただその目は、あの時のタスクとそっくりな、殺気に満ちた笑みだった。

 

 

視界に映るかの城。

 

超然と浮かんでいる。

青い空も変わらず。

 

やれることは全てやった。

その上で負けた。

 

後悔はない。

 

負けたと言っても、HPがほんのわずか、見えないくらいだが残っていた。

判定上は、タイムアップ。

 

つまり、HP残量での決着となる。

 

とは言うものの、もう動くこともできなかった。

首がへし折れ、全身付随のデバフを受けているからだ。

 

決め手に決め手を返されて、完全に負けた。

 

しかも火の玉にさせてもらえず。

まるで現実の格闘技のように、勝者と敗者がただただ立っている。

 

実に僕らしい。

思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

 

 

 

 

 

するとその時、頭上から声が聞こえる。

それにつられて上を見る。

 

 

 

 

そこに立っていたのは……。




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Episode152 龍と虎 〜Dragon and Tiger〜

まるでスローモーションだった。

最後だと、確信して飛び出したその瞬間から、タスクの挙動が寸分の狂いもなく認識できた。

 

腕がいつの間にか治っていた。

すかさず両腕を前に突き出す。

 

 

 

 

 

裏血盟騎士団 禁忌技 『白虎』。

 

 

 

 

 

タモン、否、()()()()がかつてSAO時代に編み出し、そして使われることなく役目を終えたはずだった技。

 

両肩と首の付け根を両手でおさえ、発勁を繰り出すと同時に頭突きし、首をへし折る禁忌技。

その瞬間、前足で獲物を捉え、首に噛み付く虎のように見えることから、『白虎』。

 

想定では、この技は相手が武器を完全に振り切った時に、不意をついて早期決着を果たせる技。

 

しかしここでは不意をつく必要はない。

タスクは武器をしまっている上、リーチに圧倒的有利があるからだ。

 

「捉え……た!!」

「!!」

 

タスクの首根っこに手が届く。

あとは力を入れて、発勁を……と思った次の瞬間。

 

ボッ

「!?」

 

一瞬にして、タスクがその場から消えた。

両手から繰り出された発勁が、虚しく空間を破裂させる。

 

「下か!!」

 

店主は瞬時に見抜く。

そしてそれと同時に開いていた手を握りこぶしに変えて振り下ろす。

 

……が。

 

ガシ

「あ……!?」

 

その手首を、下にいたタスクに捉えられた。

 

体格に圧倒的差異はあれど。

S()T()R()()()()()においては大して差異はない。

 

「また三角絞め……!?」

 

シウネーはついさっきの出来事に今を重ねる。

しかし。

 

 

 

 

 

「いいや違う。なにか……なにかが……来る!!」

 

 

 

 

 

ユウキは、それを真っ先に否定した。

 

膨れ上がる胸のざわつき、何故か恐ろしいほどに引き寄せてくる何か。

それらがユウキに何かが来ることを予感させる。

 

今までにはなかった、見たことも聞いたこともないような何かが、間違いなく……来る!!

 

そう確信したユウキは思わず立ち上がった。

 

「ま、まさか……君はッ……!?」

 

店主もそれに気づく。

 

 

 

 

 

 

裏血盟騎士団 禁忌技 『青龍』。

 

 

 

 

 

 

タスク、否、()()()がかつてSAO時代に編み出し、そして使われることなく役目を終えたはずだった技。

 

足ががばりと開き、右足が店主の左肩に、左足が店主の右横腹に、それぞれ伸びてくる。

 

それはまるで、()()()()のように。

 

「くっ……!!」

 

店主は距離を取ろうとする。

しかしがっちり掴まれた腕がタスクから離れない。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィィ!!!!!!

「がっ……ぁっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

それぞれの足が、店主の鎖骨を上から、肋骨を下から砕く。

 

「はっ……はっ……」

 

瞳孔が開ききったタスクが店主をしかと見つめている。

 

そうして、ついに。

 

 

 

ドッ

「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ…………」

 

 

 

 

店主が崩れ落ち、タスクもそれと同時に倒れた。

 

 

オオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

ビィィィィーッ!!!

『試合、終了ーーーッ!!!!!』

 

 

観客が大いに沸き立ち、ほぼ同時に試合終了のブザーが響く。

 

「くっ……はぁ……」

 

タスクはゆっくりと立ち上がる。

そしてボコボコにひしゃげ、ポリゴン片がポロポロ落ちるその顔で、店主を見下ろした。

 

仰向けに横たわった店主が、空を見上げて心做しか笑っている。

 

「……あなたらしいですね」

 

それを見たタスクは、少し笑って同じく空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには相変わらず()()()が浮かんでいた。

 




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Episode153 新しい顔 〜New face〜

「おかえりなさい」

 

その声を聞いた時。

思わず店主は驚いてしまった。

 

その言葉がまさか自分に飛んでくるとは思っていなかったからだ。

 

「……店主さん」

「……?」

 

しかし不思議である。

 

シノンは必ずタスクの元に行くはずだ。

何故って……それはともかく。

 

とすると、今自分の隣に立ち、太陽の光で真っ黒にしか見えない……せめて分かってもこの女性は一体誰なのか。

 

「き、きみ……は?」

「……帰りますよ、タスクさんとシノンさんは歩き始めてます」

「え……は……?」

 

訳も分からぬまま肩を貸され、立ち上がる。

 

首が折れているため、下しか向けない。

ゆえに未だ誰かわからない。

 

……が。

 

「ああ……君か」

「……」

 

足腰の服装を見て分かった。

 

「リーファ……さんだね」

「そうです」

 

淡々と言葉を返し、店主をもはや引きずる状態で運ぶリーファ。

その姿には、拍手が送られている。

 

店主は問う。

 

「どうしてまた……君が……きてくれたんだい? リーファさん」

「……リーファでいいです」

「……おや」

 

リーファの意外な言動に驚く店主。

しかし、店主はなんとなく、その理由を察していた。

 

「……はは、あの兄に君ありか」

「!!」

「わかるさ。()()()でしょ」

「……」

 

リーファは何も答えない。

 

でもそれは。

まごうことなき肯定を意味していた。

 

 

「ね……タスク」

「……はい?」

 

一方、前を歩くタスクとシノン。

こちらも同じく、シノンがタスクを半ば引きづって歩いていた。

 

シノンの小声にタスクは少し遅れて答える。

すると、シノンは少し楽しそうにタスクを見た。

 

「また新しい顔が入るわよ……!!」

「新しい……かお?」

 

シノンの言葉に、分からないと言わんばかりの顔で返すタスク。

しかし、後ろを一瞥すると少し笑って察した。

 

「……また」

「私、相談されちゃったわ」

「へ?」

「どうしたら、あの人の元で学べますかってさ」

「あの人……ねぇ。やっぱり」

 

タスクが、シノンの呆れたような言葉になぜか納得する。

シノンは、そんな彼を不思議そうに見つめた。

 

「いや、ね」

「?」

「彼女、僕との試合前に、何かがあったと思うんですよね」

「なに……か」

「そう、()()。今までさっぱり分からなかったんですが、ようやく分かりましたよ」

「……」

 

シノンは深追いして聞いたりはしなかった。

ただそれは、聞く必要がないから……でもあった。

 

タスクとタモンが戦う最中、いつになく真剣に話していたリーファが、ふとシノンの脳裏に浮かぶ。

 

『私も……見てみたいと思ったんです』

『……何を?』

『シノンさんやタスクさん達の世界を。ひいては、お兄ちゃんが求めているものを』

『……何故』

『な、何故って……まぁ、()()()()()()()()()()?』

 

そう言って、少し恥ずかしそうにくしゃりと笑ったリーファの顔は、とても輝いて見えた。

シノンはその顔を、きっとこの先も忘れられないだろうな、なんて思ったりしたのだ。

 

彼女も、間違いなく獣を住まわす戦士。

それも、シノンのみたく大人しめのものではなく、れっきとした暴れん坊。

 

しかも。

それでいて気配を感じない。

 

「シノンさんもわかるでしょ」

「……まぁ、ええ」

 

不意にタスクがそう言って笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白くなりそう、だ」

 

 

 

 




次回!!

ついにユウキ VS タスク スタート!!

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Episode154 目は覚めた 〜She woke up〜

ここはALOの闘技場付属の酒場。

 

「いやはや、負けちゃったなぁ〜!!」

 

そこへ能天気な声を上げて帰ってきたのは、もちろん店主である。

それも、屋台で売られている謎の肉塊の串刺しを大量に手に持って。

 

「え、あ、あれが、タモ……ン? ですか?」

「……のようだな」

 

周りの戸惑いはそれはすごかった。

同席していたサクヤの側近が、思わずサクヤに尋ねた程だ。

 

「お、お疲れ様でした?」

 

キリトがハテナを頭に浮かべそうな顔でとりあえず声をかける。

 

「ん?んぁ、きぎどぐん、あいあどう!」

「はは……」

 

もぐもぐしつつ、串を口から生やしつつ、店主はキリトと会話する。

 

「ゴクン、はい、これあげるー」

「ど、どうも」

 

すると、やっとこさ飲みこんだ店主は、手に持つ串の1本をキリトに差し出した。

 

「これ美味いんだよ〜、GGOでも売ったらいけんじゃないかな」

「……やれやれ」

 

店主の能天気な声を聞いて、タスクが呆れた声を出す。

隣に座るシノンも目を伏せて呆れていた。

 

「ほい……楽しかった、ありがとね」

「ん……僕もです」

 

ただ、店主はタスクにも串を差し出した。

それに若干雰囲気が変わる。

 

タスクもその串と言葉を、微笑んでしかと受け取った。

 

「……」

「……」

 

もぐもぐと食べる2人のケットシー。

雰囲気が変わったが故に、沈黙している周り。

 

「……ん!」

 

しかし、さすが店主、また彼がその沈黙を変えた。

 

「やあやあ、こんにちは、だね」

「!!」

 

今度はスリーピングナイツの面々の座る机に出向いたのだ。

 

「あ、こ、こんにちは?」

「こんちゃー!」

 

もちろん彼らは驚くが、ユウキだけは変わらず元気である。

 

「はーい、これあげるー」

「え……」

「あ、ど、どうも」

 

すると店主はまたもや串を各々に配った。

スリーピングナイツの面々は、それを恐る恐る受け取る。

 

それを見た店主はまた微笑んだ。

 

「はは、そんなビビらなくてもいいじゃないの」

「え、いや……その……」

「ま気持ちは分かるけどさ」

「……」

「で、ユウキさん」

「!!」

 

すると店主は、また雰囲気を変える。

ユウキもキョトンとして店主を見つめる。

 

 

 

 

 

 

「どうだった、獣と獣のぶつかり合いは」

 

 

 

 

 

「あ……!!」

 

その時、シウネーは思い出した。

 

確かあれは……ユージーン戦の後。

アスナが捕まえ、初めて店主と話した時。

 

ユウキが言っていた、あの言葉。

 

 

 

《『獣』と『獣』がぶつかったら、どうなるんだろう……ってさ》

 

 

 

その言葉の結論を、店主は聞いているのである。

 

「う〜ん…………」

 

自然とユウキに注目が集まる中、彼女は少し考える素振りを見せる。

 

……が、ほどなくしてニコッと笑うと一言。

 

「う〜ん、その」

「?」

 

 

 

 

()()()()()……よ」

 

 

 

 

「……へぇ」

 

店主はちらりとタスクを見る。

タスクは未だ串をもぐもぐし、シノンと話している。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ほんとに、よくできたお嬢さんだ」

 

店主はまた微笑んだ。

 

 

「……やっぱり?」

「もちろん」

 

その数十分後。

タスクとシノンは、選手入場口でその時を待っていた。

 

「彼女は剣士でしょ、剣で戦いますよ」

「そ、それはそうだけど……」

「?」

 

言葉に少しつまるシノン。

タスクはそれをキョトンとして見返す。

 

「あの子は全力のタスクと戦いたいのよ、だとしたらと思っちゃうって」

「……ああ、そゆこと」

 

すると、タスクは妙に納得してストンと座った。

 

ベンチに座るシノンの目の前の床に座ったので、シノンを見上げる形になる。

さすがに首が痛いのか、あぐらをかいて後ろに手を着いて体を上に向けていた。

 

「ま、本音言うとですね」

「……本音」

「仮にウェポンズフリー……ようは店主さんと戦う時みたいに、なんでもかんでも使えるとしても」

「うん……」

「僕は剣でやりますね、その方がいいし、そうしなきゃ勝てないと思う」

「……!!」

 

あっけらかんにそう話すタスクに、シノンは思わず驚いた。

 

てっきり、刀しか使わないのは手加減というか、礼儀というか、そういう話かと思っていたからだ。

 

それがあからさまに顔に出ているシノンを見て、タスクが思わず笑う。

 

「んとね、シノンさん」

「?」

「武器術が最も警戒するのは、()()()()()使()()()()なんですよ」

「他の……武器」

「そう。もっとわかりやすく言えば、()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()、そんな状態を欲するんです」

「な、なるほど」

 

シノンは一瞬戸惑うが、何とか飲み込んで理解する。

自分の使う武器が自分にとって一番使い易ければ、確かにそれがいい。

 

「武器というのは言い換えれば()()です、個性は突出した部分ですよね、何かに突出すれば?」

「じ、弱点が出る……」

「そう、だからそこを徹底的に潰している。武器術というのはそういうものです」

 

そのうちシノンは、なるほど、確かになと思い始めた。

 

冷静に考えてみれば、プレイヤーたちがギルドやパーティを組むのはお互いの弱点を補うためだ。

 

それは次第に体系化され、()()と呼ばれたりもしている。

そしてその()()と使用する武器は、ある一定のイコールで結べる関係にあるのだ。

 

では、仲間がいない、単騎の戦いに挑まねばならないとしたら。

 

自分が最も使いやすい武器で戦い、かつ、仲間が補ってくれていた部分を徹底的に潰して置く他無いだろう。

 

「つ、つまり……?」

「……」

 

シノンが何とか理解し、結論を求める。

タスクはそんなシノンを面白そうに見て、目を伏せる。

 

そして少し試すような目を開けると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あえて剣だけで挑みます。彼女が使いやすい剣の使い方しかさせない。本気を引き出して楽しむ」

 

そう言ってニカッと笑った。




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Episode155 纏糸 〜Tenshi〜

タスクという戦士の恐ろしさは、対峙して初めて気づく。

 

彼が、ほんとに、何もかもが未知数であるということ。

あのキリトを負かした彼が、全くもってはったりでは無いということ。

 

「……」

「……」

 

開始のブザーは既に鳴っている。

対するタスクはうっすら笑みを浮かべながら、しかとこちらを見据えている。

 

ユウキはそんなタスクを見返しつつ、剣を握りなおした。

 

「そんな……ユウキが……突っ込まない……なんて」

「!! た、確かに……」

 

スリーピングナイツの面々は驚く。

 

今までの戦いでは大半、ユウキは初手で突っ込み、先手を取っていたのだ。

異常に早い自分のペースを持ち込み、相手を崩す。

 

それがユウキの言わばスタイルだった。

 

ユウキは言っていた。

どんな相手も、ペースを崩せば勝機はある、と。

 

……しかし。

 

「ユウキ……!!」

 

現状、ペースを作るどころか切り込むことさえ躊躇っている。

 

「く……!!」

 

ユウキの顔にだんだん焦りが出てくる。

 

決して畏怖ではない。

ましてや恐怖でもない。

 

()()()()。ただそれだけである。

重心がどこにあるのか、どこをどう攻撃したら、どう返ってくるのか。

 

単純に、純粋に。

 

ビュン!!

「はっ!!」

 

すると次の瞬間。

ユウキの目に目掛けて突きが飛んでくる。

 

ユウキは流石の反射でかわす。

 

「はっ……はっ……!?」

 

あまりの速さに、ユウキは思わず驚いた顔を見せる。

同時に、それを反射でかわした自分にも。

 

「……!!」

 

その時気づいた。

タスクがいつの間にか、自分との距離を離していることに。

 

「ありゃ、気づきました?」

「!!」

 

なるほど、そういうことか。

ユウキは妙に納得した。

 

何故か上手く間合いが取れなかった理由。

重心やら構えの隙やら、今まで読めていたもの全てが、彼だけ読めなかった理由。

 

そもそもの距離が合っていなかったのだ。

 

顕微鏡で言うところの、合っているようで実は合っていなあい、もっと鮮明に見えるのにピントが合ったような気がする、あの感覚だ。

 

「……せええええい!!!!」

「!!」

 

ならば。

もういい、距離0にしてやる!!

 

そう言わんばかりにユウキは突っ込んだ。

 

右袈裟、左袈裟。

からの突きを2回。

 

タスクはそれら全てをかわす。

 

後ろに下がる彼に追い討ちをかけるように、ユウキは更にもう一突きを繰り出す。

 

しかしその瞬間。

 

グン!!

「うわっ!?」

 

ユウキの突きをかわしたタスクは、そのまま体を回転。

背中にユウキの剣を沿わせ、動きを制限しそのまま刀を横に斬ってきた。

 

ユウキは咄嗟に屈んで避けると、剣を半回転させて刃を向け、がら空きのタスクの背中へ。

 

しかしそれもタスクはバク転で避ける。

 

ユウキは剣を返してタスクに追い討ちの横斬り。

タスクはそれを下がって避けると。

 

バチイ!!

「わっ……とと」

 

ユウキの剣のグリップのすぐ上を叩いた。

横斬りの勢いが乗った剣は押されてさらに飛んでいきそうになる。

 

ユウキは慌ててそれを引き止めると。

 

ガッ

「あっ……ぶなぃ!」

 

タスクの上段斬りに剣を打ち当てて受けた。

するとユウキが負けじとタスクの剣を払い、袈裟斬りをかます。

 

タスクはそれを真っ向から剣で受けた。

 

「あぁ……まずいね」

「え……?」

 

するとその時。

 

今まで黙って見ていた店主が、初めて呟きを漏らす。

アスナの耳にそれが入る。

 

「な、くっ……!!」

 

ユウキも同時に気づいた。

 

「え……な、なんで……?」

 

シウネーをはじめスリーピングナイツも違和感に気づく。

 

タスクが咄嗟の反射でユウキの剣を受けた。

そこまでは良かった。しかし。

 

その後、向き直った彼らの。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()のである。

 

 

 

 

 

 

「て、店主さん……? あ、あれって……?」

「ん……ああ、あれはね」

 

アスナが思わず店主に説明を求める。

店主はそれにすぐ答える。

 

「あれは……なんらかの理由で蹴りが出せなくなった時とかのために編み出された剣術」

「……!!」

「要は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のためのやつ」

「……」

 

アスナは闘技場に向き直る。

ユウキは微かに焦りを見せた顔をしている。

 

当然、彼女のあんな顔は誰も見たことがない。

 

「ど、どうして……動かない……の?」

「あんな顔……見たことない……わ」

 

シウネーらも驚きを見せる。

 

するとその時。

 

「……?」

「ああ、わかったわかった」

 

キリトが怪訝な顔で店主を見た。

説明を躊躇っていた店主が、慌てて笑う。

 

そして一息つくと。

 

「あの技の名前は、『纏糸』」

「テンシ……?」

「そう。纏わりつく、糸って書いてテンシと読む」

「……」

「文字通り、()()()()()()()()()()()()()()技さ」

「!!」

 

店主は目を伏せて淡々と語る。

皆は店主と闘技場を交互に見ている。

 

「この技は剣技に精通している人程かかりやすい」

「え……?」

「原理はいわゆる『鍔迫り合い』さ。お互いの加圧が拮抗してる状態なんだよ、いわゆる」

「……!!」

「相手が加圧を強めれば強めるし、弱めれば言わずもがなそのまま斬り込む。結果相手は力を入れ続けることしかできなくなる」

 

店主の顔がいつ間にか面白いものを眺める顔に変わっている。

アスナらは相変わらず険しいが。

 

剣が離れない、いわゆる鍔迫り合いの状態は、一見すると剣がすっ飛んでこない分、まだ安心できる状態のように見える。

 

しかし。

 

「どうする……どうする、ユウキ」

「キリト……くん」

 

鍔迫り合いとはいわゆる「力の拮抗」。

つまりどちらかが崩れれば。

 

ガクン

「わっ……!?」

「ユウキ!!」

 

するとその瞬間、タスクが突然脱力し、ユウキの体勢が前に落ちる。

 

キイッ!!

「がっ……くっ!?」

 

そしてタスクはすかさず上段を打ち込んでくる。

 

体勢が前につんのめっている以上、視線はどうしても下に向く。

すると見えなくなるのは明白。

 

真上。

 

「あっ……ぶない!!」

「よく……受けたね、驚いた」

 

ユウキはそれでもなお、すんでのところで剣を打ち返す。

 

上段で飛んできた剣に、垂直に剣を当てる。

 

「く……!!」

 

また、同じ。

 

「あの技の怖いところはさ」

「!!」

 

店主が目を細める。

 

「急に無力になった感じがするんだ。自分はここからじゃ何もできないってさ」

「……!!」

「剣は、相手を攻撃すると同時に、裏を返せば自分と相手との距離を離してくれる、守ってくれる存在でもあるんだ」

「……」

 

確かに。

アスナは店主の言葉に内心同意する。

 

剣があるのとないのとでは、敵に相対した際の安心感が違いすぎるのだ。

「剣が力をくれる」というのもこの一種であろう。

 

「ただあの技は、それを()()()()()()()()()んだよね。()()()()ってやり方でさ」

「支配……!!」

「刃もちゃんと向いてるし、ちゃんと力も入れている。もちろん剣が当たる距離で。それでも当たらない。それどころか下がれもしない」

「……」

「纏わりつくのはただ単に剣にだけじゃないんだ」

「!!」

 

 

 

 

 

()()()()()()、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シウネーはその瞬間、ゾクりと背中に何かが這う感覚を覚えた。




大変遅くなりました……!!!!

実は色々計画中です。
お楽しみに!!

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Episode156 解禁 〜Lifting of the ban〜

「くっ……!!」

 

ユウキの顔が歪む。

タスクの顔が微笑む。

 

ギッ!!

「っ……と」

 

纏糸によって触れたままの剣に、ユウキが加圧する。

タスクはそれを一歩下がって受けた。

 

「さぁ……どうする、ユウキさん」

「ユウキ……!!」

 

店長が面白そうに眺め、シウネーが不安そうに見つめる。

 

……ただ、次の瞬間。

 

 

 

 

ゴッ

「がっ……!?」

 

 

 

 

()()()と共に、()()()の体勢が崩れた。

 

右横腹にフック。

ユウキがいつかアスナにされた初歩的な格闘。

 

バチィ‼︎

「離れた!!」

 

剣が離れ、すかさずユウキが一発叩き込んで距離をとる。

シウネーが思わず声を上げる。

 

「はは……そうくるか」

「ええ」

「さては……アスナさん、あなたやったね?」

「……もちろん」

 

店主がやれやれと言わんばかりにアスナを見やる。

アスナは目元こそ厳しいものの、口はたしかに笑っていた。

 

 

「アスナがさ」

「?」

 

距離が離れ、一息ついた二人。

ユウキがおもむろに話し出す。

 

「初めて戦った時、おんなじ事をしたんだよね……僕に」

「……」

「初めてだったよ……剣と魔法の世界でさ、まさか拳を食らうなんて思わなかった」

「……?」

 

淡々と話すユウキ。

黙って聞いてはいるが、真意が分からないのか不思議そうな顔をするタスク。

 

「アスナ、言ってたんだ。『あれはとある人の真似なんだ』って」

「!!」

「そしたら、その人についてすごく興味が湧いてさ。それで今日ここに呼んだの」

 

ユウキの目が、タスクの目を真っ直ぐに射抜く。

タスクは少し引いてその目を見返した。

 

()()()()、それ即ち、タスクの事だろう。

 

剣と格闘を織り交ぜたスタイル。

キリトとの試合で見せた……否、()()()、あの戦い方。

 

「だから……さ、僕はね、本当の君とやりたいんだよ」

「……!!」

「アスナ、タスク君は剣しか使わないかもしれないって言ってた。でも僕、そんなのいやなんだよね」

「……」

 

だんだん、ユウキの真意が分かってくる。

タスクの顔が下に俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来なよ、()()()。準備は……してきたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

タスクの雰囲気が変わった。

 

 

「っ……!?」

 

シウネーは、肌で感じる。

この雰囲気、この感覚。

 

間違いない。

店主とやった時の、あの感じ。

 

「起こしたよ、彼女」

「え……」

「タスクの獣」

「……!!」

 

店主がいつになく真剣なトーンでシウネーに言う。

 

「獣……!!」

「うん、それに彼女、ただ起こしただけじゃない」

「え……」

()()()()()。寝起きは相当悪いね」

「そ、それって……」

「うん。そゆこと」

 

ゾクリ、と背中に何かが這う。

そゆこと、つまりは。

 

「容赦なくなるよ。起こしちゃった以上は」

「っ……!!」

 

店主の少ししかめた笑顔は、いつになく高揚を醸し出していた。

 

 

「……」

「……」

 

2人の距離は変わらないが。

緊張度はあからさまに変化していた。

 

タスクは刀を前ではなく下に落としている。

……そう、()()()()

 

「ほんとに……やるんですか?」

「さぁ……どうだか」

 

リーファがシノンの方に向く。

 

タスクは本当にユウキに格闘技を使うつもりなのか。

彼はそういうことをあまり好まないような気がする。

 

ただ。

獣が起きちゃった以上は関係ないのか。

 

「動いた!!」

「「!!」」

 

すると次の瞬間、観客が大いに沸き立つ。

自ずと視線は闘技場に釘付けになる。

 

ゴッ、キィ

「……!!」

 

仕掛けたのはタスク。

ユウキの剣に上からと下からを一発づつ。

 

剣が震えたユウキ。

 

「くっ……!?」

 

タスクが左足を上げる。

蹴りが来る、ユウキは直感で悟る。

 

しかし。

 

「わっ……!?」

バキィ

 

足が来るのと反対、右から刀がすっ飛んできた。

 

ユウキは慌てて剣で受ける。

そして、すかさずタスクの脇腹に肘打ち。

 

ゴッ

「……っ」

 

タスクは今、刀がユウキの剣で受けられ、反対の片足がユウキの背中に沿ってて浮いている。

 

つまり彼はバランスが決していいとは言えない状況。

 

ユウキもユウキで剣は使えない。

しかしタスクのすぐそばにいることは確かで、最短最速で繰り出せるものといったら肘打ちしかなかった。

 

「崩した!!」

 

観客が湧く。

タスクの体勢が後ろに傾いていく。

 

剣が離れたユウキは、すかさず上段切り縦一線を繰り出す。

 

しかし。

 

パン!

「あっ……」

 

タスクはすぐさま左足を地面に下ろすと、そのまま右足で回し蹴りを繰り出す。

降りてきた剣の横腹をしっかり捉え、はじき飛ばした。

 

するとそこで止まると思いきや。

 

ビュン!!

「わっ!?」

 

体が横向きのコマのように地面の上で回転し、通過した右足が地面に着く前に左足がまた浮いて、ユウキの眼前を掠めた。

 

かかと後ろ回し。

 

「はっ……!! はっ……!!」

 

あれがもし、もろに当たってたら。

そう考えるだけでゾクゾクして、歓喜のような感情が込上がる。

 

 

 

 

これが、『獣』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《まぁ……さすがに、ね》

 

店主とシノンの視線が、一瞬険しくなった。




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Episode157 嘲笑 〜Mockery〜

タスクは止まらない。

 

ガッ‼︎ ゴッ‼︎

「はっ……!! はっ……!!」

 

袈裟と逆袈裟の連撃。

ユウキは過呼吸気味になりながらもきちんとそれらをいなす。

 

「よし……!!」

 

キリトが思わず呟きを漏らす。

 

「くっ……この!!」

 

ユウキもやられっぱなしは気が済まないのであろう。

攻勢の逆転を狙う。

 

ビュンビュン‼︎

「!!」

 

相変わらず突っ込んでくるタスクに足を踏みかえて突きを2連。

……しかし。

 

「なっ……あ!?」

ドゴォ‼︎

 

2回の突きを完璧に避け切ったタスクは、刀も構えぬまま懐に入ると、そのまま肩をユウキの喉元に当てた。

場所も相まって、ユウキは思わず動きが止まる。

 

「間合いが離れた……まずい」

 

店主の目が険しくなった。

 

「やぁぁぁぁ!!!!」

 

ユウキはすかさず距離を詰めにかかる。

 

大上段。

思い切り振り下ろす構え。

 

するとその瞬間。

 

 

 

 

「な……!?」

 

 

 

 

ユウキは思わず目を見開いた。

 

なぜならそれは。

 

 

 

 

 

タスクが、()()()()()()()()()()から。

 

 

 

 

 

それどころか、笑ってユウキの目を見つめている。

 

「くっ……!!」

 

ユウキは思わず手を緩めそうになる。

しかしその瞬間。

 

バチィ‼︎

「がっ……あっ……!?」

 

ユウキの剣を、タスクの刀が思い切り弾いた。

剣筋が大きく乱れ、ユウキも一緒に吹っ飛んでいきそうになる。

 

「ぐっ……はっ……!?」

 

何とか体勢を倒さず、足で踏みとどまったユウキは、タスクを驚いた顔で見る。

 

あの時、今まさにユウキが剣をタスクに振り下ろさんとした時。

タスクは、まるで試すかのような笑みで、ユウキを真っ直ぐ、それこそまるで()()()()()()()見ていた。

 

力を抜いて、刀を構えるどころか持ち上げすらせず。

 

「ユウキ……」

「……」

 

動きを止めたユウキを、アスナは心配ならない顔で見つめる。

スリーピング・ナイツの面々はもはや黙り込んでいる。

 

対し、ユウキは。

 

《この人……》

 

眉間に皺が寄ったまま。

動きを見せずに立ち尽くしていた。

 

自分としては、今までにないくらい本気のつもりだった。

 

アスナにタスクの本気の戦い方を聞いてから、格闘もある程度修練してきたし、キリトに色々聞いては対策を練ったりもしたのだ。

 

でも。

()()()に貫かれた瞬間。

 

《分かった、よ。キリト君。君の言う……『違い』ってやつ》

 

全てが分かった気がした。

 

タスク、彼の使う剣は、自分を含め周りの全ての人たちの剣とは『違う』。

自分たちの剣は、あくまで「模擬」。

 

相手と自分の差を見せる、見せられる。

あるいはモンスターなどの作られ、用意された脅威を乗り越え、達成するための剣。

 

しかし彼、否、彼と店主の剣は違う。

 

彼らの剣は、単純かつ明晰。

相手を()()ための剣。

 

もはやそうするしかない、そうしなければ自分の命がない。

決して認めてはならない、自分たちの剣の世界では徹底的に排除された要素、()()()()()()

 

キリトたちも命を賭けていたとはいえ、それよりも残酷な世界。

()()()()()()()()世界。

 

そんな世界で戦い続け、その末に「歓喜」を見出した彼ら。

 

《そんなの……わっかんない、よ》

 

ユウキはわずかながら苛立ちを覚える。

 

彼らがいかに高い次元に存在していたかを思い知らされ。

そしてそれを……完全に見くびり、()()()()()()ことを自覚したから。

 

その上そんな自分を完全に見抜き、半ば嘲笑のような形で思い知らされた自分の情けなさ。

 

「あなたは、強いですよ」

「っ!!」

 

すると突然。

タスクの声がユウキを思索から引っ張り戻す。

 

「な、な……!?」

「ユウキさん、あなたは十分すぎるくらい強い」

「……!!」

 

タスクのゆっくりとした語り口が、ユウキの中に響く。

 

「だからこそ勿体無くて仕方がないんだ」

「……!!」

 

タスクの声が、少し()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキ、アンタは戦いに命を賭けれるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、全てを知られているかのような感覚になる。

ユウキの心臓が、また一段と跳ねた。




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Episode158 負けてもいい 〜I can lose〜

ユウキの動きが、明らかに変わった。

 

より俊敏に、より繊細に。

そして最も感じられるのは……。

 

 

 

 

 

 

 

より、()()()

 

 

もう、止められなかった。

タスクのあの一言を聞いた時。

 

体が動くのは、もはや本能に等しかった。

 

ガッ‼︎ キィ‼︎

「はっ……ぁぁぁぁああああ!!!!」

 

二連撃したユウキの剣は当然の如く弾かれる。

それでもユウキは止まらない。

 

《命……賭けてやるよ、姉ちゃん!!》

 

ユウキは脳裏に大好きだった姉の姿が浮かぶ。

 

アスナは「話していない」という。

自分の境遇を。

 

 

 

 

 

否…………()()を。

 

 

 

 

 

バチィ‼︎ ガキィ‼︎

「がっ……ああああ!!!!」

 

タスクの刀がユウキの剣にあたり、後ろに飛ばされそうになる。

 

ユウキはもう何もかも知られているようにしか思えなかった。

あまりにそう思わせる言い方をタスクがしたから。

 

ゴッ

「ぐっ……ああああ!!!!」

 

タスクの刀は相変わらず重い。

それでも止まれない。

 

とにかく、全てを叩き込む。

 

「いけ、いけぇぇぇぇ!!」

「ユウキーーー!!!!!!」

 

観客の中から、はっきりと聞こえる。

いつものみんなの応援が。

 

ユウキの剣がタスクのこめかみを掠める。

すぐさま飛んでくるタスクの剣を弾いて防ぐ。

 

 

 

ゾクゾクする感覚がしてくる。

 

 

 

《ああ……これが》

「……!! ふふ」

 

ユウキの顔に気づいたタスクはしかと微笑む。

 

 

 

 

 

 

《これが……獣!!!!!!》

 

 

 

 

 

 

バチィ‼︎

「ちぃ……!!」

 

その瞬間、ユウキの剣がタスクの刀に若干食い込んだ。

初めて、タスクの顔が少しだけ歪む。

 

「いけぇぇぇ!!!! ユウキぃぃぃ!!!!!」

 

シウネーの珍しい大声が聞こえる。

だがその声はどこか蚊帳の外だ。

 

ビュンビュン!!

「っ……と」

 

ユウキが得意の突きを二連撃。

タスクは当然見切って避ける。

 

《この戦いに……命を懸けた戦いに……》

ガンガン!!

 

ユウキの剣がタスクの上段斬りで揺れる。

 

 

 

 

 

 

《「()()()()()()」は…………ない!!!!》

 

 

 

 

 

 

ゴッ!!

「がっ……あ!?」

 

その瞬間、タスクのみぞおちにユウキの拳がくい込んだ。

 

斬撃をいなして、その直後。

すかさず懐に潜り込んでの一撃。

 

タスクの体が若干浮く。

 

 

 

キィィィィィ!!!!

「きっ……来た!!!!」

 

 

 

ユウキの剣が紫の光を放つ。

 

アスナは直感で分かる。

この構え、この間合い、このタイミング。

 

間違いない。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()!!!!」

 

 

 

 

 

「はぁぁぁっっ!!!!」

「っ……!!!!」

 

アスナの叫んだ声が、まるでアニメのナレーションのように聞こえる。

ユウキはその声を背中で感じつつ、また背中を押される感覚で、タスクへ剣を突き出す。

 

その瞬間。

 

パリィッ……‼︎

「なっ……!?」

 

ユウキの剣の光が、一瞬にして消えた。

 

剣術破壊(スキルブラスト)……!!」

「あっ……!!」

 

キリトが思わず厳しい目を見せる。

 

そう、キリト自身が対タスク戦で敗北の決定打として受けたことがある、あの技。

キリトの武器破壊(アームブラスト)の、言ってしまえば上位互換。

 

ソードスキルを無効化し、()()()()()

 

「うーわ、よくやるよ。はは……」

「店主……さん?」

 

店主のぼやきにアスナが反応する。

 

「ん? あ、いや、ね」

「?」

「今タスクくん、ユウキさんの剣を上から叩き斬ったんだよ。よくやるなあって」

「な……!?」

 

店主のあっけらかんな言葉に、アスナはもちろん周りは絶句する。

 

突きで出てきた剣を、上から叩き斬るのは想像に難くない至難の技だ。

横から飛んできた剣とは訳が違うし、そもそも当たる確率がこの上なく低い上外した時のリスクがデカすぎる。

 

「上からぶっ叩かれりゃ、さすがのマザロザとて止まるよね」

「……!!!!」

 

店主の言葉はゆっくりだが、戦いは続く。

 

ソードスキルは、通常繰り出した後に「クールタイム」と呼ばれる硬直時間がある。

滅多にない無効化を受けた後でも、それは同じだ。

 

しかし。

 

「なっ……んでだよ!?」

「はあああああああ!!!!!!」

 

タスクは思わず悪態を吐く。

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()()()

 

クールタイムの長さは、そのプレイヤーの技量に準ずる。

 

つまり、極端な話。

そのプレイヤーが極端に強ければ、クールタイムも極端に短くできる、ということだ。

 

キィィィィィ!!!!

「今度こそ……!!」

 

アスナは思わず、自分の手を握りしめる。

 

「おあああああああ!!!!」

「ぐ……!!」

 

再び光った剣が、タスクの体へ叩き込まれる。

 

……しかし。

 

「……!!!!」

キィィィィィ!!!!

 

タスクの目が少し鋭くなる。

同時に、タスクの刀が輝き始めた。

 

「……来る!!」

 

キリトは察したのか、目を細める。

 

 

 

 

 

「『紫電(シデン)』……!!」

 

 

 

 

 

店主の声が脳裏に蘇る。

 

あれは確か……タスクとの決闘のあと。

ダイシー・カフェで、店主と話した時。

 

『ちなみにあれの名前は、『紫電(シデン)』』

『『紫電(シデン)』……』

『そ。その『紫電(シデン)』っていう単語は、元は「研ぎ澄ました刀の反射する光」って意味』

『……』

『その鋭い光のように……刀で敵の弱点を穿つ。それも1回じゃなくて、確かあれは……3箇所、かな。つまりは、あの一瞬の間に3連撃してるのさ』

『……!!!!』

 

キリト自身の感覚では、()()()()()()()()()()と感じた、あの技。

 

「はは、()()()か……タスクくん……!!」

「そっち……!?」

 

しかしその瞬間、店主の一言で、キリトは戸惑いを見せる。

そして。

 

「ああっ!!」

 

アスナが、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ユウキが『マザーズ・ロザリオ』を繰り出した瞬間。

 

タスクは一瞬で、ユウキを貫いたかのように通過した。

 

 

 

 

 

 

 

「決まっ……!?」

「い、いいえ、まだよ」

 

タルケンが身を乗り出すが、シウネーは震えながら首を振る。

 

空に浮かぶ二人のHP表示がガクンと減る。

やっとと言うべきか、赤ゲージに突入した。

 

「キリトくん……ユウキさんに『紫電(シデン)』のこと……言った?」

「え、ああ、まぁ……!!」

 

店主の息をのみつつの声に、キリトは答える。

 

「もしかしたら……、タスクのやつ、()()()()を持ってきてるかも」

「え……!?」

 

その声に、キリトはもちろん、アスナも驚いていた。

あんな、『紫電(シデン)』などという、到底真似できないような技に、まさか()()()()があるのか。

 

「はは、そういうことね。してやられたよ」

「……?」

 

そう言って、店主は納得がいったかのような、少し悔しそうなため息をつく。

 

「キリトくん」

「?」

「あれは『紫電(シデン)』じゃない」

「え……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはね。『紫電 改(シデン・カイ)』だ」




あけましておめでとうございました!!
もうあけちゃってますからね(笑)

改めてましてご拝読ありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

実は年末から年明けで、色々込み合っておりまして投稿がこんなに遅くなってしまいました。

ごめんなさい!!

ユウキ編は楽しみにしてくださってる方が多くいるかと思います。
色んな意味で、ね。

今後の展開は、できる限り多くの人が楽しんでもらえる展開を予定しています。
来たる、『例の分岐』に関しても、ね。(笑)

乞うご期待!!




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Episode159 終わりの時間 〜Time to end〜

「なんでかなぁ、と思ってたんだよ」

「何を……?」

「え、ほら。タスクくん、彼さ」

 

どこか意味深な店主の言葉に耳を傾けるキリト。

 

 

 

 

「彼、僕との試合の時、一回も『紫電(シデン)』使わなかったじゃない?」

 

 

 

 

「あっ、た、たしかに……」

 

言われてみれば。

キリトはもちろん、アスナも思い返してハッとする。

 

確かに、タスクは店主との試合の時、一度も『紫電(シデン)』を使っていない。

 

「色々辻褄が合わない? 僕に使わなければさ、つまりユウキさんに見せなければさ」

「!!」

「隠し玉としての技なら、『紫電(シデン)』が来る、って思わせられるよね」

「な、なるほど……」

 

つまりはこういうことだ。

 

もし仮に店主との戦いで『紫電(シデン)』を見せていれば、かえってユウキに不思議がられることもありうる。

「『紫電(シデン)』は隠し玉のはずなのに、なぜ出してしまうのか?」と。

 

すると、別の技の存在を警戒されることにもつながりかねない。

 

しかし敢えて見せないことで、その技が隠し球であることを確信させれば。

別の技の存在を疑わせることにならず、回り回って、本来の隠し球である『紫電 改(シデン・カイ)』を隠し通せると言うわけだ。

 

「結構……全力だったんだけどな。タスクのやつ、それでもユウキ戦を見据えてやがった。はは……」

「……」

 

店主が首を振って笑う。

 

「ぐ……!?」

「ユ、ユウキ……!!」

 

闘技場では、ユウキがガクリとふらつく。

シウネーが思わず立ち上がる。

 

「タス……ク……!?」

 

シノンも、動き出さないタスクに少し不安の色を見せる。

 

「な、なあ、タモン……だったか?」

「!!」

 

するとその時。

なんとサクヤが、店主の方を向いた。

 

「その…… 『紫電 改(シデン・カイ)』とは、一体……?」

「え……ああ、えっと」

 

あまりに意外だったのか、店主は少しオドオドしつつも説明し始める。

 

「あれは……キリトくんの時の 『紫電(シデン)』の改良版。と言っても、中身は全くの別物だけど」

「……」

「『紫電(シデン)』は、ただの突きを3回だけ。弱点に、瞬間的にね」

「……あ、あの速さでか」

「うん……だってタスクくんだし」

「……」

 

店主のあっけらかんな言葉に、サクヤは面食らったようにおし黙る。

だってタスクだから、で通じてしまうのがなんとも言えないのだろう。

 

「ただね、『紫電 改(シデン・カイ)』はそうじゃない」

「!!」

「あれは、突きではなく斬り」

「何……!?」

 

突きではなく、斬り。

それはつまり……とんでもないことだ。

 

突きと斬りでは、動作の範囲も所要時間も全然違ってくる。

言わずもがな、多くを要するのは斬りだ。

 

突きならまだしも、斬りをあんな速度で叩き込めるわけがないのである。

 

「下から上へ、そして上から下へ。2回の斬撃を、瞬間的に出してるのさ」

「はっ……!?」

「ただもちろん、普通にやってちゃあ間に合わない。だから、下からと言いつつちょっとだけ斜めに斬り上げてる。それも刃の先端だけ使って……ね」

「……」

「股下から股の太い動脈を斬って上へ、その後すぐ切り返して斜め上から首へ」

 

なるほど、それなら……とは言えないが一応筋は通る。

 

真上に斬りあげるとすれば、それは体を真っ二つにせねばならない。

そんなことはあの戦闘中には到底不可能である。

 

しかし斜めに斬って、早いこと刀で切り終えてしまえば。

それも刀の先端だけで。

 

あの一瞬の間に、斬れないこともない。

 

「ユウキ……」

「!!」

 

シウネーの震えた声に引かれ、ユウキを見やる。

 

ゆっくりと立ち上がり、なんとかタスクに向き直らんとしているユウキ。

店主の解説通り、金的から腰にかけて斜め上を向いたものと、首元から反対の二の腕までの斜め下を向いたものの二つの大きな切り傷が、遠目からでも見て取れた。

 

「タスクは……?」

 

それに対し、タスクは。

 

動きを止めていたはずの彼は、いつのまにかユウキに向き直り、刀をしかと構えていた。

ただ彼の胸にもやはり、点で描かれた綺麗なX字の切り傷が見て取れる。

 

まごうことなき「マザーズ・ロザリオ」の切り傷。

 

「お互い、しっかりと受けたようね」

「はい……」

 

険しい顔で見つめるシノンと、それに相槌を打つリーファ。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

実はその時。

店主も、険しい顔をして闘技場を見つめていた。

 

《しかしタスクくん……ここからどうする》

 

店主の目がぎゅっと細くなる。

 

《ユウキさんに少し崩されたとは言え、格闘は牽制にしか使っていない》

 

いつになく真剣な目をして闘技場を見つめる店主。

 

《それはつまり……》

 

無意識に手を握りしめ、眉間にしわを寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

《『紫電 改二(シデン・カイニ)』は使わない……ってことだ》

 

 

 

 

 

 

 

店主の額に汗が滲み始める。

 

 

《どうするつもりだ……!! タスクくん……!!》

 

 

 

「はは……な、何、今の……」

「……!!」

 

一方ユウキとタスク。

ユウキをしかと見据えて待つタスクに、ユウキがやっと向き合う。

 

「『紫電(シデン)』ってのがくるとは聞いてたけど……あれは確か、突きだった、よね」

「……今のは、『紫電 改(シデン・カイ)』。それの改良版です」

「かい……、かいりょう、ばん……。そんなの……ずる、くない?」

 

ユウキのポツポツとした喋り方は、もはや限界を迎えているようにしか見えない。

しかしタスクはそれでも構えを解かない。

 

「もう、獣は引っ込みましたか」

「……!!」

「実戦だったら、あなたはとっくに()()()()()

「死ん……で……!!」

 

タスクの意外な言葉に目を見開くユウキ。

 

途端、姉やスリーピンングナイツのみんなの顔が脳裏に蘇る。

もちろん……アスナの顔も。

 

「がっ……は……!?」

「……」

 

するとその時。

ユウキの口からポリゴン片が溢れ出す。

 

「もうすぐ時間です。試合も、あなたのHPも……」

「……」

 

 

 

 

 

 

「その他諸々、()()

 

 

 

 

 

 

「……!!??」

 

タスクの言葉に、ユウキの心臓が一段と跳ねる。

 

……まさか、という考えがよぎる。

いやそんなわけない。首を振って否定する。

 

……いやでも、もしかしたら。

 

「さあ」

「……!!」

 

タスクの声に、完全に驚いた目を返すユウキ。

その時のタスクの目は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく、黒かった。

まるで底がなく、悲しみや闇を抱えているかのように。

 

 

 

 

 

 

そして最後の一合が、今……!!




次回、遂に決着!!




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Episode160 時は、来たれり。〜Time has come〜

「おあああああ!!!!」

 

ユウキは、もう一度剣を握りしめた後。

最後の一絞りの力で、急激にタスクに近づいた。

 

 

 

これが、()()

 

 

 

そう思えば思うほど、神経が研ぎ澄まされていく。

手の指先の先端まで、驚くほど綺麗に感覚が伝わる。

 

「ああああ!!!!!」

「……ふふ」

 

するとその瞬間。

タスクの口元が笑う。

 

ビュン‼︎

「……!!」

 

直後、タスクの顔めがけて一突き。

タスクは最も簡単そうに見切って避ける。

 

ビュビュン‼︎

「よっ、ほ」

「っ……!!」

 

続けて二連撃。

これも流石のタスク、たやすく躱す。

 

しかし、次の瞬間。

 

 

 

キィイイイイイイイ!!!!!!

「!!」

 

 

 

ユウキの剣が輝きを放つ。

 

彼女の狙いは最初から「コレ」。

突きはハナから当たると思っていない。

 

 

 

「『マザーズ………………なっ!?!?」

 

 

 

しかし。

次の瞬間のことだった。

 

タスクはあろうことか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のである。

 

「!?!?」

 

ユウキは当然、虚をつかれて固まる。

しかしその直後、構わずにその手を肘から切り上げた。

 

「ぐっ……!!」

 

タスクの片腕と開いた手が宙に舞う。

ユウキは再度、剣に力を込めようとする。

 

……が、次の瞬間。

 

 

 

「え……」

 

 

 

心臓が、一段と跳ねた。

 

それもそのはず。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

技を出すには、タスク相手ならなおさら彼の剣の位置が重要になる。

とは言うものの、もはやこの段階では気にしても仕方がないのだが、それが()()()()()()となると話は別だ。

 

いやがおうにも意識が持っていかれる。

 

するとその時。

 

「!!」

 

ユウキの顔に、一つの細い影が差した。

反射的に顔を上げる。

 

上段斬りの腕が伸びている。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

そしてその瞬間。

 

「あっ……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

「あ、あれはっ!!!!」

ガタン!!!!

 

その瞬間、店主が叫んで立ち上がる。

そのまま欄干に手をかけて前屈みに。

 

手が腕もろとも斬り上げられ、宙を舞ったかと思いきや。

その腕は放物線の最高点で地面と垂直になり、上段斬りの構えをする()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、つまり。

斬られて宙を舞った腕は、そのまま、反対の手から伸びる()()()()()()()()のである。

 

そしてそのまま自身の腕をも斬り裂き、脳天に一直線。

相手はただただ長い腕に気を取られ、それをも切り裂いて現れた刀に成す術もない。

 

 

 

もはや()()の域に達した、素人目には思いもつかないような技。

裏血盟騎士団時代、アユムにより考案されるも無理難題として放棄された技。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『月姫(カグヤ)』!!!!!!」

 

 

ぐしゃり。

 

そんな擬音が実によく合いそうな音と共に、ユウキの体は刀を受けた。

 

タスクの優しさだろうか。

脳天ではなく、鎖骨あたりから刀が入ってきた。

 

「がっ」

 

がくん、と力が抜ける。

 

間違いない。

HPがゼロになった感覚。

 

 

 

「ユウキィィィィ!!」

 

 

 

この声は、シウネー……だろうか。

視界が暗くなっていくと同時に、聞き慣れた声が遠のいて聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、試合終了のブザーが鳴った。




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Episode161 未来予知 〜Future Sight〜

目を開けると、そこにはよく知った二人の顔があった。

もちろん、アスナとシウネーである。

 

二人は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「はは……そんな顔しなくたって」

「だって……だってぇ……!!」

 

ユウキの言葉に、アスナが涙を堪える。

 

膝枕をされているのだろうか、頭が若干地面から離れている気がする。

体は……言わずもがな、大の字に広がっているのを感じた。

 

「立てる……? いける?」

「え……ああ……はは、こりゃ無理だ」

 

アスナがユウキを起こそうとするが、ユウキは自分の体に力が入らない。

 

「……というか、どう……して?」

「え……?」

 

するとその時、なんとか抱えて持ち上げようとしていたアスナとシウネーに、ユウキが問いかけた。

二人はキョトンとしてユウキの顔をみる。

 

「ボク、負けたよね。なんで体が……」

「……タイムアップ、よ。タスクくんの最後の一撃を受けて、HPが0になる直前で時間切れになったの」

「……」

「ズタボロとはいえ、HPはまだある。だから体がそのままなのよ、場所もね」

「え……あ」

 

そしてその時、ユウキはやっと自分がいる場所を認識する。

言わずもがな、闘技場のど真ん中だった。

 

意識したからだろうか、今更になって観客からの拍手が聞こえ始める。

 

「あぁ……わざわざ迎えに来てくれたんだ、二人とも」

「うん……」

「ありが、とう。へへ、僕は幸せ者だね」

「ユウキ……!!」

 

ぐっ、と笑ったアスナの頬には、涙が筋を作っている。

シウネーも同じく、だ。

 

「とりあえず。下がろうか、終わったもの」

「うん……」

 

すると、ユウキがそう言って立ち上がろうとする。

 

……しかし。

 

「ちょっ……ユウキ!!」

「え……あ……?」

ガシッ

 

がくん。

ユウキの視界は、すぐに下を向いた。

 

崩れ落ちそうになったユウキをアスナとシウネーが慌てて支え、何とか倒れずに済む。

 

「あーもう、だめ、だね」

「もう……!!」

「と、とにかく、ゆっくり行きましょ」

 

苦笑いするユウキを両側から支え、なんとか三人は動き出す。

 

拍手が三人を包む。

ユウキはうなだれているが、アスナとシウネーは前を向いている。

 

「……最後」

「?」

 

すると、不意にユウキが話しだす。

 

「悔しい、な。完全に負けたよ」

「……」

 

ユウキの言葉に、シウネーが悔しそうに下を向いた。

 

脳裏に蘇る、その時の光景。

大きく振りかぶるタスクの刀に、驚いた顔のユウキ。

 

「よくもまぁ、あんなのやるよね」

「……」

「やるどころか、思いつきもしないよ。ま、仮に思いついてもやろうと思わないけどね……はは」

「……」

 

ユウキの声は、心なしか震えている。

二人を掴む手に、ぎゅっ、と力が入る。

 

「すごい、すごいけどっ…………!! ボクッ……!!」

 

ユウキの体が強張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悔しいっ……、悔しいよ……!!!! なんだよ、あんなの……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキの目には、涙が溢れていた。

 

 

「僕、初めてだったんだよね」

「初めて……?」

 

翌日。

アスナとユウキら、スリーピングナイツは、キリトとアスナの例の……『ログハウス』に来ていた。

 

それぞれ、各々で、好きな形で時間を過ごしている。

まあいわゆる、束の間の休息、というやつだ。

 

最近は大会の準備を含め、色々忙しかったのだ。

それも一応、昨日の大会を最後に、ひと段落ついたというわけである。

 

「ボクさ、前『ぶつからなきゃ伝わらないこともあるよ』って……言ったじゃん」

「う、うん……」

 

ユウキとアスナは、池のすぐそばにシートを敷いてくつろいでいた。

池を眺めながら話すユウキと、それに耳を傾けるアスナ。

 

「僕、初めて……()()()()()んだ。あの時」

「……!!」

 

何を、と聞こうとして思いとどまるアスナ。

それは単純に、愚問だと気づいたからだ。

 

そして当然、ユウキは言葉を続ける。

 

「あの……最後の技、()()

「え、う、うん」

「あの技さ、言っちゃえば『全部』知ってなきゃできないんだよね。」

「『全部』……と、いうと」

 

 

 

 

 

「うん、ボクのステータスはもちろん、剣の振る速度と角度とか攻撃パターンとか、その他もろもろの癖。加えて、ALOの物理演算システム、ダメージ算出アルゴリズム。とにかく……『全部』」

 

 

 

 

 

「……!!!!」

 

とにかく、ということは、実際はもっとあるのか。

想像して、アスナは言葉に詰まる。

 

「僕があんな大かぶりの大上段斬りのあの剣をよけれなかったのは、斬り上げた彼の腕に剣が隠れていたから」

「……」

「タスクくん、あの人……、知識を元に、あの位置へ意図的に腕を飛ばしたんだ」

「……!!」

 

もはや、そんなことができるのか、などと驚いたりしない。

 

あの人たちは、ぶっ飛んでいる。

そんなことは重々承知しているからだ。

 

「もう、さ。あんなの、『未来予知』に等しい芸当だよ」

「……うん」

「あの時、あの瞬間。僕の剣が下がったあの位置にあることも、手を出された結果斬り上げるという選択を取るのも、その結果手があの位置に飛ぶのも、ボクが虚をつかれるのも、彼は全部知ってるし、なんなら故意に引き起こした」

「……」

 

ユウキの淡々とした語り口に、無言で聞き入るアスナ。

しかしその時、そんなアスナの手がふと温もりを感じた。

 

「ねぇ……アスナ」

「っ……!!」

 

気づけば、ユウキがアスナの手を握ってこちらを見つめている。

アスナは、少しドキッとしてその目を見返す。

 

すると、ユウキは少し目を落として、それからもう一度アスナを意を決したように見ると、手をいっそう握ってひとこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タスクくん……さ、ボクの秘密……気づいてると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

アスナは、流石に驚きを見せてしまった。

 

いくら『全部』を知っているといえど、いくら『未来予知』、あるいはそれと似た芸当ができようとも。

流石にそれは……!?

 

ユウキは止まらず語り続ける。

 

「ボクね、あの戦い、()()()()()()()()()()()()()の。きっとそれはタスクくんも分かってる。でも……」

「で、でも……?」

 

ぐっ、とユウキが俯く。

その時、アスナの手の甲に水滴が落ちた。

 

それは言わずもがな…………涙。

 

()()()()、ボクを生かして終わらせた。ボクの秘密も、『命を賭けてるつもりでやった』のも、全部分かった上で」

「……!!!!」

「分かってる、2回目なんかない。でも、タスクくんはまるであるかのようにあの戦いを終わらせた」

「……」

 

 

 

 

 

 

「彼だからなのかな、まだチャンスがあるような気がして……、チャンスがあると思うからこそ悔しさが湧いてきて……だけどそんなチャンスが巡ってこないことに、昨日の夜、みんなと別れた後……改めて気づいて……ボク……それがっ……!! すごくっ……!! 悲しくて……!!!!」

 

 

 

 

 

 

生かして……、おそらくはあの事だろう。

最後の一撃を、脳天ではなく、肩口から入れてHP消失ギリギリに留めておいたこと。

 

「それでもね、ボク、伝わったんだよ。あの時、戦いの中で確かに伝えられたんだ」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()……って」




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Episode162 別解〜Another solution〜

すっかり日も落ちた東京。

その大都市の一角にあるのが、エギル、もといアンドリューの経営する「ダイシー・カフェ」である。

 

今宵はそこに、とある二人の少女が集まっていた。

 

「いきなり呼び出してごめんね……しののん」

「ううん、いいの」

 

言わずもがな、アスナとシノンである。

もっとも、ここでは明日奈と詩乃であるが。

 

「エギルさんも……ごめんなさい、ほんとは交代の時間なのに」

「なぁに、気にすんなよ。()()()()()()()()()ってのは、つまり……『アレ』だろ」

「『アレ』……?」

 

明日奈の言葉に、笑って返すアンドリュー。

と同時に、含みある言葉に首をかしげる詩乃。

 

そんな詩乃を見て、明日奈は机に視線を落とすと。

 

「あ、あのね、しののん。実は……ユウキのことなんだけど」

「ユウキ……」

 

流石の彼女も感づいたのであろう。

わずかながら、顔が深刻になった。

 

 

「なるほどね」

「うん……」

 

それからしばらくして。

二人は暗い雰囲気に包まれていた。

 

明日奈が淡々と語った、ユウキの悲しい運命。

タスクと戦いたい、と言った理由。

 

「びっくり……した?」

「え、ええ、まぁ」

「それでね、その……しののん、これを、タスクくんに……」

「ああ、それなら」

 

明日奈が申し訳なさそうに顔を上げた、その時。

彼女の目に映ったのは、穏やかに微笑む詩乃の顔。

 

意外な顔を見せられ、明日奈は言葉につまる。

 

「いや、その、実は……ね」

「……!?」

 

 

 

 

「タスク、気づいてる……んだ、全部」

 

 

 

 

その瞬間、アスナの脳裏にユウキのあの言葉が蘇る。

 

《タスクくん……さ、ボクの秘密……気づいてると思う》

 

かえって申し訳なさそうに苦笑する詩乃を、明日奈はただ、見つめていた。

 

 

時は、数日前。

ユウキとの試合があった日の夜。

 

ALOは、とある街の、とあるレストラン。

その屋上にあるテラス席の一番端の席で、タスクとシノンは食事をとっていた。

 

ささやかではあるが、軽いお疲れさま会のようなものである。

 

「で、今日はどうだったのよ、タスク」

「ユウキさん……ねぇ」

「?」

 

シノンの言葉に少し含みある言葉で返すタスク。

 

「何か……あったの、あの子と」

「いえ、そう言うわけではない、です」

「?」

「あの……ですね、その」

 

タスクにしては珍しく、言葉がつまり気味である。

シノンは珍しいからか、キョトンとしてタスクを見ている。

 

「今から言うことは、あくまで憶測……です」

「う、うん?」

「正しいとは限らないし、そう言うつもりもないです」

「う、うん」

「その上で、聞いてほしいんですけど……」

 

そういうと、タスクは視線を落とし、何か深く考えるような仕草を見せる。

そしてその後すぐ。

 

 

 

 

 

 

「ユウキさん、多分……もう長くないんじゃないですかね」

 

 

 

 

 

 

シノンは彼女の中で、時間が止まったような感覚に襲われる。

心臓の鼓動が大きく、ゆっくりになったように感じる。

 

「え……それって」

「ええ、そうです。ユウキさん、おそらく余命はそう長くないと思います」

「どっ……どうして? 聞いた……の?」

「いえ、何も。ただ、なんとなくそんな気がするんです」

 

夜空を仰ぎ見つめるタスク。

決して、シノンの方を見ない。

 

「というのも、です」

「……」

「覚えてますか、リーファさんの試合を見た時のこと」

「ええ……」

 

それはシノンもよく覚えている。

 

タスクの次の試合の相手が、リーファか否かが決まる試合の話だ。

その時タスクは「リーファが勝つ」と断言していたのをよく覚えている。

 

「その時、僕いいましたよね。『あらかたのプレイヤーの戦闘は仮想世界のアシストありきのもの……ようは単なる動作でしかない。そんな相手は恐るるに足らない』って」

「え、ええ……確かに」

「実はそれ、()()がありまして」

()()……!!」

 

タスクの顔が、心なしか暗い、と言うような、悲しい、と言うような、そんな顔になる。

 

「『相手が仮想世界の住人である場合、その限りではない』んですよね」

「仮想世界の、住人?」

「そう。ま、分かりやすくいえばS()A()O()()()()()()()()()()人のことです」

「え……!?」

 

その瞬間、シノンの中で、タスクの時折見せる仕草の記憶が全てつながる。

 

トーナメント前、タスクがユウキについて言った、「懐かしい」という言葉。

何度か見せた、浮遊城アインクラッドを見つめる悲しそうな顔。

 

その他諸々、ここ最近のタスクのアインクラッドやユウキを見た時の悲しそうな仕草。

 

「あの話は、あくまでその人の日常生活が現実にあるから、です。しかし、常日頃この世界にいる人になると話が変わります」

「……」

「それがどうも……SAOと重なって」

 

タスクの顔がぐっと強ばる。

シノンはシノンで、そんな彼を前にどうすることもできず視線を落とすしかない。

 

「それで……あんな、悲しそうな」

「まぁ……はい、でも、ほんとはもっと、別の理由があります」

「別解……?」

「ええ……そうですね」

 

すると、タスクが体を回し、欄干に体を向ける。

そしてゆっくり顔を上げる。

 

その先にあるのは、言わずもがな『浮遊城アインクラッド』。

 

「ユウキさんの戦いを見てたらすぐ分かったんです。ああ、彼女は以前の僕らと同じような……SAOのような生活をしているんだなって」

「……」

「それでもですね、単純に疑問でしょう。今、そんなことができるところはない。食事や睡眠をとりにすらいかず、この世界にいれるなんて、並の人間には不可能です。それ相応の環境と、それに伴う金銭的な負担はとんでもないものになります」

「な、なるほど」

 

シノンはなんとなく、話の全容がつかめてきた。

 

確かに、タスクのいう通りユウキのようなプレイスタイルをしようと思えば、それなりに環境が必要だ。

生活の軸をこっちにするのだから、食事すら現実に取りに行くことはできない。

 

仮にするとしたら考えられるのは点滴とかだ。

またそうでないにしろ、なんらかの手段で現実の体を維持する必要が出てくる。

 

ただそれをしようとするならば、必要な専門的な知識と技術は紛れもなく、『医療』。

 

普段聞き慣れているはずなのに、この時ばかりは流石にこの言葉が重たかった。

タスクの『もう長くない』という言葉を考えれば、なおさら……。

 

「でも現実、できている。動機や理由が全くわからないが。であれば、発想を変えて、『もし彼女が、そうせざるをえなくてそうしている』のだとしたら」

「……分かった、わ」

「……ね、辿り着く先は一つでしょ」

 

タスクがふっと微笑んでシノンに向き直る。

シノンもその顔に、少しだけ笑んで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そればっかりは……『別解』がない、わね」




【予告】
ここから、原作とは違うルートへ入ります。



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Episode163 正解と不正解 〜Correct and incorrect answers〜

「ああ、どうも、すみませんわざわざ」

「いえいえ、こちらこそ……」

 

3月の頭。

とある男が、とある大きな病院に訪れていた。

 

「……彼女は、どこに」

「ええ、すぐご案内します」

 

訪ねてきた男は、早速と言わんばかりに応対した医師に詰め寄る。

医師も医師で、早々に頷くと足早に歩きだす。

 

「えと……話が通ってるはずです」

「あ、はい……」

 

途中、受付カウンターに寄り、その男はそう言って名刺を差し出す。

医師は黙って後ろに立っている。

 

そこに書いてある名前は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『菊丘』

 

 

「タスク」

「?」

 

一方、GGO。

店主の店でくつろぐタスクの元に、シノンがログインしてやってきた。

 

「おやシノンさん」

「今日は暇そうね……よかった」

 

あたりを見回し微笑むシノン。

タスクはそんな彼女を見上げ、見つめている。

 

「シノンさん?」

「……ええ」

 

タスクの鋭さは相変わらず。

 

観念したかのように頷くシノンは、彼の隣にストンと腰を下ろした。

タスクはどこか得意げに、ふふんと笑って少し横にずれる。

 

対し、少し不服そうに息をついたシノン。

ぐっ、と何か決心したかのように手を握りしめる。

 

そしてたった一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの話……正解」

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……ですよね」

 

少し呆れた感じのシノンの言葉に、タスクは嬉しそうにはにかんだ。

 

「アスナびっくりしてたわ。何なら若干引いてた」

「まあ……そりゃ気持ち悪いですよね」

「自覚あるのね……」

 

シノンは今度こそ呆れたようにため息をつく。

 

……が。

 

「……までも、そう……ですか」

「……!!」

 

すぐ隣から、低く重たい声が聞こえてくる。

それを聞いたシノンの顔も暗く沈む。

 

「やっぱり……残念?」

「……まぁ」

 

シノンが問う。

タスクは窓の外を眺めて息をつく。

 

「まあでも」

「?」

 

しかし、次の瞬間。

タスクがたん、と立ち上がると、窓の外を眺めつつ微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は生き続けます。()()()()()()ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

タスクの横顔を見つめるシノン。

彼女は思索を巡らす。

 

「いろんな形」とは。

技が残る? 思い出が残る? それとも記録?

 

視線を感じる。

ふと顔を上げる。

 

「……!!」

 

すると、いつの間にかタスクがシノンを見て微笑んでいた。

 

「な……なによ?」

「ん……ふふ」

「……?」

 

シノンの怪訝な目に微笑みを返すタスク。

不思議そうに首を傾げる彼女を見つめる穏やかな目つき。

 

……そんなタスクは、たった一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その考えは全部、不正解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不正……解!?」

 

穏やかながら全てを見抜いた彼の目は、相変わらず黒く澄んでいた。




大変、お待たせしました。
お久しぶりです、駆巡 艤宗でございます。

3月はまるまる音沙汰無し、4月もあわや、と言うところでの投稿になってしまいました。

Twitterで心配のお声を下さった方、何も言わずただただ信じて待って下さった方、ありがとうございました。皆様大変ご心配をかけました……

実は私。
新型コロナ陽性が出てしまっていました。

しかもしっかり体調を崩しまして……。

もちろん、今はとっくに完治しております。
3月の半ばあたりの話です。

それに伴い、色んなところへの復帰やらなんやらに勤しむあまりこんな時期に……。

大変申し訳ございませんでした!!!!

実は今話の原稿は3月頭には完成しておりました。
ただ、今話、「新しい試み」を導入した記念すべき回であり、どうしても中途半端には出せず、この時期になってしまいました……。

ではその「新しい試み」とは、一体何か。




それすなわち、『伏線話』の導入です!!




今話の文字数がかなり少ないことに、皆様お気づきかと思います。

実はそれが『伏線話』の最大の特徴です。

文字数を減らして、余計な話をあまり挟まず。
記憶に残しやすく、かつ伏線であると明確に察してもらう。

これが今回の新しい試みです。

当然、伏線というのは本来、あまりおおっぴらに言うものではないことは承知しています。

しかし、読み返しやすさだったり、ネット小説はおろか、小説自体がまだ初めたての人にもなるべく読みやすくしよう、と言うのがこの作品の根底にあります。

もちろん玄人向けにかなり手の込んだ伏線も散りばめてあります。

……が。
そんなのよりもまず、伏線というものの面白さを知りたい!! と言う人向けに、今回導入してみました。

わかりやすいように、今話の伏線の回収はすぐにやってきます。

今後ともぜひ、お楽しみください!!



駆巡 艤宗


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Episode164 バー 〜BAR〜

「あの話、通したのかい」

「あぁ……うん、彼女は快諾してくれたよ」

「そうか……」

 

都内、とあるバー。

菊岡と店主、もとい多門が、カウンター席に並んで座っている。

 

「いやはや……ね」

「?」

「厄介になると思っていた親権者とかの話が驚くほどすんなり進んだんだ」

「……」

「複雑な気分になったよ……こんな僕でもね」

「……そうか」

 

首を傾け息をつく菊岡。

多門も少し複雑そうな顔になる。

 

「かわいそう、という単語を使うのがかわいそう……かな」

「……」

「あんな子が……いるんだな」

「ああ……」

 

菊岡の独り言のような語り口に、多門はただただ聞き入っていた。

 

「お待たせしました」

 

するとその時。

マスターが頼んでいた飲み物をトレイに乗せて持ってきた。

 

「ああ……ありがとう」

「どうも」

 

二人は各々、自分が頼んだものを受け取る。

 

……と、その時。

 

「お顔が……暗いですね多門」

「ん……ああ、まぁね」

 

マスターが、優しげに微笑みながら多門を見た。

 

「マスター」

「はい?」

 

すると多門が顔をあげ、マスターを見る。

 

「もし君が……」

「?」

 

 

 

 

 

「自分が恵まれていない、と感じたら、どう考える?」

 

 

 

 

 

「恵まれて……いない?」

 

そんな質問は至極当然、というような顔をしている多門と、きょとん、としているマスター。

今度は菊岡が、ただただ二人を見つめて聞き入っている。

 

「私は……きっとこう思うでしょう」

「……」

 

すると。

マスターは下を向いてグラスを拭き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()………………恵まれている、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどな」

「ええ」

 

多門が不意に微笑んで、飲み物を仰ぐ。

マスターもそれに応えて微笑みを返し、語り続ける。

 

「その逆境は、きっと恵まれていなければいないほど、大きく、困難でしょう」

「……」

「それを乗り越えれるか否か……そこにその人の強さがあるのではないか、と」

「……さすがだな」

「ふふ……恐れ入ります」

 

 

 

 

その他方、菊岡は二人を見つめている。

顔はどこか沈み気味だった。

 

 

「……ああ、そういえば」

 

バーからの帰り道。

多門が思い出したように話し出す。

 

「今度のSJ、君らは来るのかい?」

「……!!」

 

SJ。

そういえばなんかついこの間、開催の案内が来てたような。

 

菊岡も今更思い出したような顔になる。

 

「んー……まだ検討中だ、お陰様で向こうがなんて言うか分からないし……」

「あーっ……は、それは……すまない……」

 

菊岡の言わんとしていることを多門は察する。

 

前回のSJでは、リアルにこだわりを見せた菊岡のチームを、ゲームならではすぎるやり方で圧倒してしまったのだ。

 

そりゃ、向こうも考えが変わるだろう。

それがいい方向か悪い方向かは……ともかく。

 

「いや、でも」

「?」

「ひょっとしたら……出ない方がいいかもね」

「……?」

 

多門の意味ありげな言葉に首を傾げる菊岡。

 

「いや、その……」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次、()()()くんに出てもらおうと……思ってるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

菊岡は目を丸くした。




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Episode165 その日来たる 〜The day has come〜

()()()は、突然やってくるものだ。

 

 

 

 

 

 

ALO統一トーナメントから1ヶ月と少し。

3月最後の日曜。

 

アスナから、関係するありとあらゆる人の元へ。

一通のメッセージが届いた。

 

 

それはもう、言わずもがな……。

 

 

 

GGOの荒野。

大柄な男と華奢な女。

 

ビック・ボスと、クワイエットである。

 

『標的、1,8キロメートル。風なし。いつでも』

『よし』

 

クワイエットの照準には、とあるプレイヤー群が映っている。

その数メートル横の岩陰にボス。

 

彼女は今、そのプレイヤー群とボスを、ちょうど真横から見下ろせる丘に伏せていた。

 

「……!!」

 

その瞬間、ボスが飛び出して走り出す。

グン!! とライフルの銃口を回すクワイエット。

 

『残り1,5キロ』

 

ダン、ダン、と小刻み良い音が響く。

次々倒れていくプレイヤーと、その最中を駆け抜けていくボス。

 

『俺から10時、スナイパー』

「っ!?」

 

すると突然、ボスから無線が飛んでくる。

慌ててそのスナイパーを探すクワイエット。

 

「見つけたっ……!!」

ダン!!

 

シノンの右斜め正面。

ちょうどボスを介して反対側の岩山上に、スナイパーを見つけた。

 

当然、発見し即発砲。

 

『ナイスキル』

「……!!」

 

見事に命中。

死体が落ちていくのが見えるが気にせず照準を元の位置へ。

 

『残り300』

 

クワイエットは残りの距離報告をするが、内心感嘆する。

あれだけの距離を、あの重装備で、もうここまで。

 

ダン!! ダン!!

『以上、捕まえれば終わり』

『よくやった』

 

そして一人を残してクワイエットは全ての敵を始末し終える。

途端、ボスの無線が途切れる。

 

「……」

 

念のため、クワイエットはスコープから目を外さない。

一人残されたプレイヤーがあっさりとボスに捕らえられ、尋問されているのが見える。

 

「容赦のなさ……よ」

 

その様子を眺めてひとりごちるクワイエット。

 

今回の任務は、言うなれば『脅威プレゼンス』だ。

簡単に言えば「脅し」である。

 

最近追加された新エリアに、新しく追加された「素材」がある。

 

その素材は、今回追加されたあらゆる新アイテムの根本的存在であり、その素材がないと何も始まらないほど重要なものだった。

 

それほどのものであるが故に、運営はかなり簡単に手に入るように出現率をかなり高めに設定し、新エリアの各所から出るようにした。

 

制限はたった一つ。

『そのエリアでしか手に入らない』ということ。

 

しかしこれがまずかった。

 

とあるプロプレイヤー群が、そのエリアを実効支配のような形で占拠。

その素材を大量に手に入れては、高値で売り捌き始めたのである。

 

そうなってしまっては一般プレイヤーではどうしようもない。

そんな報告を受けたボスと店主は、当然その状況を打開すべく立ち上がったのであった。

 

 

 

 

『主力隊だけを圧倒し、リーダーだけを捕らえて解放を要求する』

 

 

 

 

これが、今回の任務。

 

 

無事任務を終えた二人。

休憩がてら、大きな岩山の影に背を預けて座っている。

 

目の前には今にも沈まんとしている太陽。

 

いくらGGOとはいえ夕焼けは綺麗だ。

真っ赤に染まり、深紅の光を二人に差し向けていた。

 

 

 

 

「メッセージ……気がついてた?」

 

 

 

 

「……ああ」

「……そう」

 

クワイエットの言葉に、端的な言葉で返すボス。

 

ボスは、夕日を眺めつつタバコのような何かを吸っている。

その横顔を少し見つめて、すぐ下を向くクワイエット。

 

「行きたかったか」

「……ええ、まぁ……本音は」

「……だろうな」

 

ボスの言葉に、彼女は少しつまり気味に返す。

 

 

 

 

 

「…………逝ったか、ついに」

 

 

 

 

 

「……ええ。ついに……」

 

するとボスはタバコを口から離し、夕日を見つめてため息をつく。

……隣からは、すすり泣く声。

 

ボスが彼女の肩を寄せ、頭を優しく手で包む。

クワイエットは胸に顔を埋めて泣きじゃくる。

 

 

 

 

 

 

 

ボスの視線は変わらず夕陽を向いていた。




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Episode166 英雄たる所以 〜Why she is a hero〜

桜散る、4月初めての土曜日。

時刻は午後3時を回ろうとしている。

 

丘陵の上のカトリック教会。

小さな人だかりが点々と。

 

その輪から少し離れた建物陰のベンチ。

そこには二人の女性が腰掛け、空を眺めていた。

 

栗色の長髪、明日奈と。

黒いワンピースのシウネー……もとい(あん) 施恩(しうん)である。

 

「……」

「……」

 

桜が舞う中、二人は静かに彼女……ユウキに思いを馳せる。

 

実感が湧かない……というよりかは、今もまだ……そばにいてくれているような。

どこかふわふわとした感情を抱えている。

 

……その時。

 

「「……?」」                   

 

二人は一人の足音が背後から近づいてくるのを感じた。

 

「……どうも」

「は、はい……?」

 

声を掛けられたので、思わず揃って振り返る。

 

するとそこに立っていたのは、一人の青年。

背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯。

歳もほぼ同じだろう。

 

顔は整っていて、目は黒く深い。

浮かべている優しげな微笑みは、二人の心を見ているような……。

 

言わずもがな。

二人は信じがたいが察する。

 

この人が、あの……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして……内嶺(うちみね) (たすく)といいます」

 

 

「……タスクくんは、どう考えるの?」

 

それからしばらくして。

お互いの現実での自己紹介や、彼女との思い出話に花を咲かせた後。

 

不意に、明日奈が祐にそう問うた。

 

「どんな風に……何を、ですか」

「その……何というか……」

 

あまりにざっくりしていたからか、祐が少し戸惑う。

 

……しかし流石の彼。

それとなく察すると、ゆっくりと話し出す。

 

それはおそらく、彼の経験からすると、この出来事はどう映るのか。

そしてどう受け止め、どう考えるのか。

 

「あぁ、まぁ……」

「……!!」

「確かに、友人の死は辛いです。でも……」

 

言葉を詰まらせ、空を向く祐。

そんな彼を見つめる二人。

 

 

 

 

 

 

「でも。その死の()()を、僕は考えるようにしています」

 

 

 

 

 

 

()()……?」

 

明日奈は視線を地面に落とし、少しだけ思案に耽る。

施恩も同じく、どこか考え顔だ。

 

祐は、そんな彼女らを見つつも話を続ける。

 

「確かに彼女は、あのまま生きていればアスナさん達のかけがえのない親友、戦友になっていたでしょう」

「!!」

「VRMMO界にも、革命を起こせたはずです。特にALOのような、肉弾戦のMMORPGではね」

「か、革命……!!」

 

『革命』、その言葉が二人の思い出とリンクする。

 

ユウキの戦闘に宿ったあの美しさと逞しさ。

そしてなんといってもそこから醸し出される強さ。

 

「……でも、彼女は亡くなってしまった」

「っ……」

「それは悲しいことです。僕も実はまだ、信じられない」

「タスクくん……」

 

黒い穏やかな目に、若干の悲しみが宿る。

 

「だから意味を、考えるんです。彼女がなぜ、命を落とさねばならなかったのか」

「……」

「そうするとね、ご存知ですか? 彼女の人生は、現代の最先端医療を少なくとも5年は推し進めた、という話を」

「……え?」

 

明日奈と施恩は驚いて祐を見る。

 

「僕の知り合いから聞いた話です。その人は医師で、主に仮想世界を応用した治療の研究に当たっている人なんですが……」

「……」

「その人が言うには、彼女の人生……つまり、どのように生まれ、どのように育ち、どのようにあの機械……メディキュボイドに入り、そこでどのように生きて、そして死に至ったのか。その全てが、もはや奇跡的、とも言えるほど貴重極まりないデータなんだそうです」

「奇跡的……な……」

「そしてそのデータは、あらゆる方面の研究に役立てられ、そしてそれが総合されると、進歩の度合いで言えば、少なく見積って、5年は軽く超えるんだそうです」

「す、すごい……!!」

 

ポカン、とした顔の明日奈と、目を落とし少し息をつく施恩。

そんな二人を見て、祐はまた微笑む。

 

「医療」という分野は、進歩がかなり早い。

それはただ単純に、「需要が尽きることがない」からだ。

 

ありとあらゆる知識、技術を持った人たちが。

莫大な資金を投じられ、誇りと重責を抱えて日夜邁進している。

 

そんな人たちが歩む道は、一年であっても壮大で、途方もない道のりだ。

 

それの5倍。

5年は5年でも、それは単なる5年とは比べようがない代物。

 

「だから、僕はこう考えています」

「!!」

 

 

 

 

 

「彼女は、彼女が単なる『戦士』であることをよしとしなかった」

 

 

 

 

 

「どういう……こと?」

 

祐の言葉に、二人は首を傾げる。

対して彼は、あくまで微笑みを崩さず続ける。

 

「『彼女は』、では無いかもしれません。神かもしれないし、もっと他の何かかもしれない。誰か、或いは何か、が、彼女を「素晴らしい人物」で終わらせられなかったんです」

「……」

「彼女が亡くなる……、その事によって、医療の進歩が5年は進んだ。考えてみてください。その革新的なデータは、様々な分野に役立てられているんです。その分野ごとに、患者さんがいらっしゃいます。複数の分野が必要な患者さんもいらっしゃるかもしれない」

「……」

「彼女の……ユウキさんのデータは、それら全ての患者さんを、救える可能性を秘めているんです」

「……!!!!」

 

こちらに向く祐の眼に、二人は今にも射抜かれんとしている獣のように息を詰まらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かあるいは何か、またもしかすると彼女自身は、彼女を、自らの命を賭けてたくさんの人の命を救った『本当の英雄』にしたんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当の……英、雄……!!!!」

 

二人の心に、確かにその言葉が響いた。

 

 

「……あれ」

 

一方、和人である。

 

式が終わり、各々が各々の輪で話を咲かせる中。

彼は、少し離れる、と告げてからあまりに帰ってこない明日奈を気にかけて、キョロキョロしていた。

 

離れるとは言ったが、視界にあまりに映らない。

和人はだんだん気掛かりになってくる。

 

そうして周りを見回していると。

 

「……あ」

 

見覚えのある背中が、一人ベンチに座り教会を眺めているのを見つけた。

 

「あ、あの……」

「……おや、久しぶり」

 

寄って行って、声をかける。

その男は、和人を見るといつもの微笑みを見せ、少し嬉しそうに答えた。

 

ガタイのいい、のほほんとした雰囲気のその男。

……言わずもがな、店主、もとい多門である。

 

「……あ、あの」

「ま座りなよ、ほら」

「い、いやそんな」

「いーからいーから」

 

和人は、多門に腕を掴まれ座らされる。

 

さすが、と言うべきか力が強い。

それどころか、腕が全く痛くなかった。

 

あくまで簡単に、ストンと腰が落ちる。

 

「……お、俺、今……」

 

 

 

「大丈夫大丈夫、アスナさんなら、今シウネーさんと一緒にタスクくんと話してるよ」

 

 

 

「え……」

「ほら」

 

あくまで全てを見透かした多門は、微笑んで和人を見る。

多門が顎で示した先には、確かにベンチに座る三人の姿が。

 

「あ……」

「ね、大丈夫でしょ」

「……」

 

にっ、と微笑む多門に、和人は苦笑いで返すしかない。

 

「……それより」

「?」

 

すると、不意に多門の声が低く、真剣になった。

和人も思わず身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の『SJ2』。もしアスナさんがまだ……()()なら、そばにいてあげて」

 

「!!!!」

 

和人の顔が、一段と強ばった。




あとすこぉーしだけ、ユウキ編は続きます。


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Episode167 音声ファイル 〜Audio file〜

「……この部屋も、じきに解体が始まります」

「え……」

 

告別式の日の夜。

担当の倉橋医師と和人と一緒に、明日奈はユウキのいた部屋を訪れていた。

 

「メディキュボイドの中に蓄積されるデータは、ほとんどが取り出し不可なんです。患者の生活の全てがそこにある訳ですから、その……まあいわゆる、プライバシーの観点から、ですね」

「だから……」

「ええ、その通り。唯一アクセスが許された信用できる研究機関に、丸ごと引き渡します。そこでちゃんとした研究データ化されて、広く世に明け渡される訳です」

「……」

「なんとも言えませんね……僕とて、長年通い詰めた場所だ」

 

ガラスに手を添え、少し寂しそうにする倉橋医師。

 

電灯はついておらず、全ての機械は電源が落とされ。

あくまでそこに、()()だけ。

 

明日奈は、その部屋をただただ見つめていた。

 

 

「お待たせ」

「ん、ああ、おかえり」

 

病院のロビー。

誰もいない、静まり返った空間のソファに一人座っていた和人は、明日奈の声で振り返った。

 

「お待たせしました」

「いや、全然」

 

後ろから歩いてきた倉橋医師にも、和人は会釈をする。

 

「んしょ……」

「大きな箱だな……」

 

明日奈は抱えていた箱をキリトの前の机に下ろし、キリトの向かいに座った。

倉橋医師は、その二人を正面に見れるように椅子を引っ張ってきて座る。

 

「これは、メディキュボイドのパーツ類です」

「え……!!」

 

中身が気になるのか、ソワソワするキリトを見て、倉橋医師が微笑んで話し出した。

 

「本来はご存知の通り、許されませんが、今回だけ特別に許可を出してくれたんです」

「す、すごい……」

「ええ……まぁと言っても、外装パーツとか、彼女が使用していたヘッドレストくらいですが……」

 

微笑む二人を見て、和人も思わず微笑む。

 

こんなことは、本来ならありえないことだ。

前述の通り、ユウキのメディキュボイドはかなりのレベルでの機密をもって扱われる。

 

外装パーツはおろか、ヘッドレストでさえも、普通なら触ることすらできないのだ。

 

「向こうの機関の中で、かなりこちらに譲歩した説得をしてくれた先生がいらしたみたいです。お名前は確か……」

「へ、へぇ……」

「あぁ、多中医師です。わざわざこちらに出向いて、これはいい、これはできない、と御指南いただきました」

「多中……医師。いつかお礼を言わなきゃだね」

「そ、そうだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人は、どこか()()()()()を感じていた。

 

 

その後、三人は並んで帰途についていた。

 

倉橋医師が、『ユウキくんの生活を支えてくれたお二人に感謝したい』と言って、飲み物を奢ってくれた流れから、帰り道が近くの駅までは同じ道だと分かったからであった。

 

黙って歩く三人。

沈黙がどこか寂しさを滲ませんとしたその時。

 

「私は……」

「「?」」

 

倉橋医師が、不意に呟くように話し出した。

 

 

 

 

 

 

「仮想世界の技術がアミューズメントととして世に出てよかった、SAOが起こってよかった……と、思っています」

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

二人があまりにびっくりした顔をするので、倉橋医師は少しだけ苦笑いを見せる。

 

「ああ、いや。不謹慎であることは重々……!!」

「いえ……それはお気になさらず……」

「え……?」

 

慌てて弁明する倉橋医師とは裏腹に。

二人は不謹慎? はて、と言った顔を見せた。

 

「いえ、その……先生、以前は『アミューズメント用途で開発されたのが失礼ながら残念である』と仰っていたから……」

「あ、あぁ……あの時はどうもとんだ失礼を……」

「いやいやそんな……!!」

 

ペコペコと頭を下げる倉橋医師を、二人も慌てて遮る。

 

「……ただ」

「「?」」

「私はあなた方お二人を見て考えを改めたのです」

「え……」

 

すると。

倉橋医師は立ち止まって二人を正面から見つめる。

 

二人も少し遅れて立ち止まると、振り返って向き合った。

 

「よくよく考えたのです。もし、仮想世界技術が以前の私がいうように政府主導で最初から医療目的で開発されていたら……?」

「「……」」

「そもそもユウキくんが、あそこまで生き生きすることはなかった……。我々医師陣の予想をはるかに超える頑張りを引き出すことはできなかったでしょう。何故ならそこに()()()()()()()()()()だろうから」

「「!!」」

 

倉橋医師の言わんとすることは、二人には十分理解できた。

 

そもそもアミューズメントとして世に出ていなければ、二人はユウキと出会うことはおろか、仮想世界の存在すら知らなかっただろう。

 

ユウキにしても、あそこまで仲間やファンに囲まれ、輝くことはなかったし、頑張る意味さえ見つけられなかったかもしれない。

 

「それにもしそうであったとしたら、上の人間はあの技術の危険性ばかり注視して、決して世の中に出さないでしょうね。そのうち技術の取り合いも起こり得ました」

「なる……ほど」

「だからあの……茅場は、アミューズメントとして、仮想世界技術を大成させたんだと思います。ザ・シードを和人くんに託したのも……」

「……」

「仮想世界技術を誰もが手が届くところにおいておくことにより、それそのものの価値を下げたんです。そしてその取り合いを未然に防いだ」

「……」

「そしてそれが回り回ってユウキくんと皆さんを繋げたんです。終末期医療という、狭い狭い世界から、広く大きな世界へと……」

 

そう言って、倉橋医師は夜空を見上げる。

都会であるはずなのに、今日はどこか星がくっきり見えるような気がする。

 

「ただ……もちろん、危険性も必ず見なきゃいけない。想像がつかないほど大きな、そして計り知れない、危険を……」

「……だから、ですね」

「ええ」

 

和人は同じく夜空を見上げながら。

倉橋医師の言葉に頷き、拳を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、茅場は自分の夢に乗せて、あの事件を起こしたんだ…………SAO事件を」

 

 

それから数時間後。

明日奈はやっと帰宅し、自室の窓から空を見上げていた。

 

手元にあるのはUSBメモリ。

 

「……聞こうか、な」

 

重い腰をあげ、PCに差し込んでヘッドフォンをつける。

 

このUSBメモリは、倉橋医師から直接手渡されたものだった。

 

『ユウキさんからです』

『自宅で、一人で、聞いてほしいそうです』

 

たった二言だけで渡されたこのUSBメモリは、彼女にとってかなり重たいものだった。

 

抑えている感情が、爆発しそうな……そんな予感がする。

でも聞かない訳にはいかない。

 

中にあったのは音声ファイル。

『聞いてほしい』というから、なんとなく予想はついている。

 

カーソルを合わせ、カチリ。

読み込みのサークルがクルクル。

 

……そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アスナ…………大丈夫。また、会えるよ。約束する。必ず、会える、よ!!!!』

 

 

 

元気な彼女の途切れ途切れの声が、明日奈の心を解放した。




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Episode168 遺品 〜The memento〜

「とりあえず」

「……ええ」

「お疲れ様。ありがとう……、助かりました」

 

シャンパンが入ったグラスが二つ。

二人の男の間で、小さく掲げ合わされる。

 

告別式のあった日の夜、都内のとあるバー。

言わずもがな、多門の行きつけの例のバーだ。

 

したがって、座る男の片方は多門。

もう片方は……。

 

「かなり……無理をさせたね、多中さん」

「いえ……」

 

ラクス……もとい多中(たなか) 従道(よりみち)である。

 

「菊岡さんの助けがなければ僕とてできなかった。僕だけではないですよ」

「……謙虚だな」

 

ユウキの遺品についての話だろう。

つい先ほど、倉橋医師から無事手渡されたとの報告が入り、二人はとりあえずひと段落……というわけだ。

 

「しかし……これから忙しくなるね」

「ええ」

「ここからは君たちの出番ってわけだ」

「……重いですね」

 

多門の言葉に微笑む従道。

 

従道は、普段は国の研究機関で仮想世界を用いた医療の研究に当たっている。

当然、ユウキのことは知っていたし、なんなら時折データ回収や診療で彼女の元に訪れていたくらいだ。

 

店主らの元にいるのはそれと全く関係なく、ただ単に趣味で楽しんでいたところをスカウトされただけだったのだが。

 

今回でGGOだけではなくなってしまった。

 

「まぁでも」

「?」

「現実でお役に立てるのは嬉しいです。何か……新しいスキルを手に入れたみたいだ」

「……ふふ」

 

そう言うと従道は、ぐいっとシャンパンを飲み干す。

 

()()()()に関しても、結局僕らのところに話がきそうですしね」

「……やっぱり」

「ええ、だから僕はすごく……奇妙な立ち位置になりそうです」

「……」

 

心なしか二人の顔が少しだけ暗くなる。

 

立場、仕事、関係。

人間特有のややこしい()()

 

「……大丈夫」

「?」

 

すると、多門が微笑んで従道を見た。

 

「ボスも僕も。たとえ君が敵対しても、見放したりはしないよ。約束する」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

「僕らはそういうの、好きじゃないんだ。ボスなんかは特に……ね」

 

 

 

 

 

 

多門の優しい暗い声。

従道はなんのことなのか、すぐに察した。

 

 

同刻、GGO内。

タスクとシノンが、任務に行かんとログインした直後。

 

「あぁ……タスク、来てるよ」

「ん……ありがとう」

 

何やら箱を抱えたプルームが、店主の店『ガン・マリア』のカウンターの奥から出てくる。

 

店主が留守の時の店番としてすっかり板についた彼。

 

店主が店にいる時に必ずしているエプロンを彼もつけ、売り上げ管理や手入れ、修理に相談など、もはや独立できるほどになっていた。

 

「しかしまた何を頼んだんだい」

「ふふ……まぁ、見てからのお楽しみ……」

 

プルームが差し出した箱を受け取ったタスクは、早速その箱を開け、中身の梱包材を取り出す。

 

 

 

 

そうして中から姿を表したのは、()()()()

 

 

 

 

中は空洞になっていて、これが物体ではなく()()()()()()であることが窺える。

 

それもただ単に鉄でできた腕ではなく、いかにも機能が詰め込まれてそうなゴツゴツしい外見。

後から付け足せるようにだろうか、いろんなタイプのレールやソケットも見て取れた。

 

そしてこの腕の向きは……()()

 

「こ、これって……」

「僕の新しい装備です、『義手』をイメージして作ってもらいました」

「『義手』……か」

 

何かを察したプルーム。

相変わらずキョトンとしているシノン。

 

「つまりそれは……今は亡きあの()()の」

「ええ、そうです」

「……?」

 

合点が言ったような顔をして頷くプルーム。

シノンは完全に置いてけぼりを食らっていた。

 

すると、タスクがウィンドウを操作して……。

 

「俺は……」

「タス……いえ、ボス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで戦った偉大な戦士につけられた()()は、残しておく主義なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()…………ああ……!!」

 

一瞬で着替え、ボスになった彼の言葉で、シノンはやっと気づいた。

 

()()()()()()

間違いない。

 

 

 

()()()のことだ。

 

 

 

彼はユウキとの試合、最後の最後に左腕を切り落とされている。

厳密には、切り落とさせたのだが。

 

今はなき偉大な戦士につけられた大きな傷跡を残す、つまり左腕が切られたままの状態を示す()()を、今後常に身につけるということなのだ。

 

それで、『義手』。

 

「……じゃ、じゃあ……さ」

「?」

 

すると、不意にシノンがおずおずとボスの顔を覗き込んだ。

義手をつけて、手を握ったり振ったりしていたボスは少し驚いてシノンを見る。

 

「そ、その……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その()()も、そういう傷跡…………なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

今度はあからさまに驚いた顔をするボス。

シノンを見つめて、少し固まる。

 

しかしすぐ目を逸らすと微笑んで一言。

 

 

 

 

 

 

 

「…………まぁ、そのうち……な」




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Episode169 淑女 〜The Boss〜

パキパキ。

薪が割れて、火の粉が散る音。

 

グツグツ。

何かを煮込む、お腹の空く音。

 

「ん、んんぅ……」

 

()()()()は、ぼやける視界に目を擦る。

 

「んん……?」

 

ようやく見えてきた視界に映るは薄暗い空間。

だんだん体の感覚も起きてきて、ほのかに温かい感触を横から感じる。

 

目を凝らすと木目が見えた。

 

 

 

 

 

 

ここは……ログハウス?

 

 

 

 

 

 

「……ああ、起きたか」

「……?」

 

するとその時。

聞き覚えのない声が彼女に気づく。

 

「いいタイミング。ちょうどできたんだ……ほら」

 

そう言って、コツコツと音を立てて歩いてきたのは、()()()()()

かたり、と彼女の前のローデスクに料理をのせた盆を置いた。

 

少女はそれを見ると、ゆっくり体を起こす。

 

「体の調子は。動かないところ、痛みはないか」

「……は、はい……大丈夫」

 

淑女の言葉に答えつつ、その少女は寝ていたソファーに座り直す。

 

正面の暖炉から暖かい風を感じる。

手前のローデスクに置かれたシチューがとても美味しそうだ。

 

その淑女は、彼女のシチューを見る目を見て、安心したように微笑む。

 

「ん……よさそう、だな」

「……」

 

美味しそうなシチューを見つめ続けるその少女。

 

「さ、召し上がれ。()()()()に来て最初の食事だ」

「!!」

 

すると淑女はそう言って、台所だろうか、元いた場所に戻っていく。

対して少女は、何かを思い出したかのようにその淑女を見た。

 

「……ふむ、記憶も正常のようだな」

「あ、あ、あの。ここが……」

「まあまあ、そう先を急ぐな。時間は無限にある」

「……!!」

 

何かを聞こうとするが言葉に詰まる。

 

少女に向けられた淑女の目。

まるで()()()()()()()()()()()()………、見覚えのある、あの目。

 

「……まずはそれを食べなさい。腹が減ってはなんとやら、だ」

「……いただき……ます」

「はい、どうぞ」

 

淑女の優しい声色が後ろから聞こえる。

 

乳白色、とはまさにこの色と言わんばかりの美しい色。

具材は全て適切に火が通され、どれも気持ちのいい歯応えを返して噛み切れる。

 

味もくどくなく薄くなく、極めて美味。

 

「お、おいひっ……!!」

 

久しぶりに食べた、()()()の料理。

その少女の額には涙が。

 

「ふふ……」

 

淑女は、そんな少女の横顔を眺めつつ、台所から持ってきた自分の分のシチューを口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少女はもう。

何もかも忘れてそのシチューに夢中になっていた。

 

 

「ごちそう……さま……でした」

 

数分後。

シチューをあっという間に食べ終えた少女は、我に返ったように手を合わせていた。

 

「……いい食べっぷりだったぞ」

「おいしかった……から……」

 

淑女は微笑みながら、空になった器を下げていく。

その様子を一瞥し、会釈程度に頭を下げるその少女。

 

コツコツ、と足音が遠ざかって。

また近づいてくる。

 

……そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

その少女は飛び上がった。

他でもない、()()()()()を、知るはずのない人から呼ばれたから。

 

「……そんな驚かなくても」

「……!!」

 

そう言って微笑みつつ、その淑女は少女……否、ユウキの斜め向かいのソファーに座る。

 

「まぁ……なんだ。色々聞きたいことはあるだろうが」

「……?」

「まずはあなたのことを、()()()()()()()、聞かせておくれよ」

「……」

 

穏やからがら、どこか儚げな……。

()()()()によく似た、優しい目。

 

ユウキは相対するその淑女を、食い入るように見つめる。

 

外見は30代程だろうか。

淑女、というにはまだ若いかもしれないが、もう十分なほど高貴さと儚さを備えた美しい女性。

 

体は細く身長は高い。

しかししっかりと肉付きがある。

 

ユウキにはわかる。

この女性は、間違いなく…………()()

 

「名前くらいは、述べておこうか」

「……」

 

 

 

「私の名前は……ユリエ」

「ユリ……エ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりあってみてどうだった…………私の()()は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!!!!」

 

その瞬間。

ユウキは全てを理解した。




お久しぶりでございます、駆巡 艤宗でございます。

いやぁ、やっと終わりました『ユウキ編』。
間隔が大幅に空いてしまったこともあり、なんだかんだ言ってほぼ二年かかってしまいました。

お付き合いいただき本当にありがとうございました。

……さて、では本題に入りましょう。




『第二弾大型アップデート』を行いました!!




【。」を全解消】
以前より御指摘があり、あえて残してきましたが、この度全話において全撤廃しました。

【公式LINE 大幅更新】
・各単語追加
・隠し要素2つ追加
・7章あらすじ追加
・キャラ情報を最新バージョンにアップデート

【設定集 更新】
・キャラ情報を最新バージョンにアップデート
・ガジェット欄から奥義と禁忌技の削除(文章量調整のため。詳細は全て公式LINEに移行済です。)





以上になります。

この作品も、なんだかんだ言って続けてこれております。
最近は地味にお気に入り数が伸びており、また嬉しい限りです。

これもひとえに。
ここまで読んでくださる皆様のおかげです。

ひとまずユウキ編、これにて完結になります。
お付き合い頂き、ありがとうございました。

この章は思い入れのある方が多いでしょう。
今作の結末はいかがでしたか? ぜひ感想をお聞かせください!!

ではまた。


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第七章 恐るべき子供達 〜Les Enfants Terribles〜
Episode170 虎穴入らずんば虎児を得ず 〜Nothing ventured, nothing gained〜


「あ、あのぅ……」

「……おや、こんにちは」

 

2月頭。

SJが終わってから、1週間とちょい。

 

レンは、また店主の店……ガン・マリアに来ていた。

 

「ああ、分かるよ。アレでしょ」

「え?」

 

相変わらず緊張するのか、おどおどしているレン。

そんな彼女を見つつ、店主は分かりきっていると言わんばかりに微笑んだ。

 

「……はい」

「!!!!」

 

ごとり、と重たい音を響かせてカウンターに置かれたもの。

もはや言わずもがな。

 

P90である。

 

「え、あ、ありがとう、ございます……!!」

「ふふ」

 

あまりの驚きに目を丸くするレン。

 

「で、でも、どうして? 私何も……」

「どうしてって……そりゃ」

「?」

 

そしてレンの質問にわざとらしく目を丸くする店主。

 

「動き見てりゃ分かるよ、()()()()()()()

「!!」

 

レンの脳裏に、SJ前この店にやってきた時のことがフラッシュバックする。

変に取り繕おうとした結果、結局全部見抜かれて撃沈したあの時。

 

「うぅ……」

「はは、まそんな気張らずにおいでよ」

 

俯いて顔を背けるレンに、店主はケラケラと笑った。

 

「ねぇねぇところでさ」

「?」

 

すると、店主がカウンターから身を乗り出すようにレンを見る。

 

ただでさえ小さいのに、俯いたらさらに見えなくなる。

乗り出すと言うより、もはや乗るに等しいくらいに店主はつんのめる。

 

「もし、もし仮に、だよ」

「は、はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「次のSJ、あったら……出る?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……!!!!」

 

レンはそれに、うん、とは答えられなかった。

 

 

「あの顔……あんまり、出る気ないみたいでしたね」

「うぅ〜ん、できれば、再戦をお願いしたいんだけど、なぁ……」

 

それから数分後。

 

店主は上手く話を逸らし、レンを次の目的地……ギフトの店へと送り出した。

 

今店内にいるのは店主とその他3人。

 

カウンターに座るベネット。

そしてその前にあるテーブルに座るレックスとライト。

 

「話は聞いてますけど……その、あんまりやりあえなかったって」

「んー、やりあえはしたんじゃない?」

「やりあえてない! できたのはプルームだけ!」

 

ベネットは話半分だが、レックスは妙に納得し、ライトはできてないと嘆く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……………」

 

店主はどこか、思案顔だった。

 

 

「こんに……ちは?」

 

続いてレンがやってきたのは、カスタム専門店『ギフト』。

目的は言わずもがな、P()9()0()()()()()()()()()()

 

「あ、おやおやおやおや!! こんにちは、いらっしゃい!!」

 

初めて来た時にも良くしてくれた店長が、小走りで出迎えてくれる。

 

「あ、ど、どうも……」

「よく来てくれたね、レンちゃん」

「……!!」

 

あまりの歓迎ぶりに、少し照れ笑いのレン。

 

「こないだのSJ見てたよ、P90、ぶっ壊されちゃってたよね」

「あ……!!」

 

この人、知ってくれてる……!!

レンは思わず目を見開く。

 

であれば話は早い。

早速……

 

「で、『ガン・マリア』で2代目を買ってきたんでしょ」

「え」

「それでもっかいピンクに染め直しに来てくれたってわけね」

「……」

 

ニコニコしながら話す店長を見てレンはふと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人達、本当に奇妙なくらい話が早い。

 

 

「ん……あ、来てるね」

「……?」

 

そのすぐ後ろ。

レストスペースに座るタウイとプルーム。

 

二人は店長……ギフトに迎えられているレンを見つつ、コーヒーを啜っていた。

 

「店主さん……SJの後すぐに()()()にP90取りに行かせてたけど……」

()()()で正解だったな」

「うん」

 

プルームの静かな声に、タウイはこくりと相槌を打った。

 

「しかしまぁ……すごいよな()()()。いくらガジェットが向いてるからってさ」

「まぁ……確かに」

「知ってるか? 店の素材とかレア武器とか」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()が6割方仕入れてるんだってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……!?」

 

プルームは思わず、タウイを二度見した。

 

 

「へっっっっっきし!!!!!」

 

だだっ広い野原。

()()()()()が、くしゃみをかます。

 

「うぅ……だれか、なんか、あたしを……うわsへっきし!!」

 

側から見れば、GGOという銃の世界で広いところに佇む愚か者。

 

しかし次の瞬間。

()()()()の周り、数十メートル半径の円状を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()が囲んだ。




いつもありがとうございます!!
駆巡 艤宗でございます。

お待たせ致しました、ついに。



『SJ2編、始動!!!!』



です!!

やっとですね、時の流れは早いものです。
(お前の小説が遅いんだよ)

さて、それでですね。

わざわざ後書きに現れたのには、理由があります。

『時系列の説明』です。

今話冒頭にも書きましたが、ここから語られるお話はSJ直後あたりから、になります。

つまり前章で言うところの1番最初。
アスナがGGO凸してきた次の日あたりのお話
からです。

はいはい分からなくなってきましたねぇ大丈夫ですよはい深呼吸深呼吸〜ひっひっh()

……すみません。(笑)

要するに単純な話、
『SJ2とユウキは時系列が丸かぶりしている』
という訳です。

これから、今作で言うEp.122とEp.123の間。
ALOに行くまでに、GGOでは何があったか(SJ2の導入)を描いていきます。

(SJ2が始まってさえくれれば、ユウキ編は終わるのでかぶらなくなるんですけどね……ゴニョゴニョ)

また、今後もこの章は時系列丸かぶりの影響で所々時系列改変が入ります。

その都度後書きに現れて解説を入れようと思います。

加えて、この作品は基本アニメ準拠です。
(原作のままの描かない部分をイメージしやすくするため)

GGOはアニメと原本でも時系列が異なるんですよね。
もし時系列を確かめたければ、アニメの方の時系列をオススメします。





最近、お気に入りがまた伸び始めており、作者本人としては嬉しい限りです。

感想も是非是非、お待ちしております。
ほぼ全てに返信しておりますので、質問などもありましたらどうぞ……!!

今後とも是非、拙作をよろしくお願い致します。

それでは、また。



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Episode171 少女 〜Monster〜

「……ふぅ」

 

時刻は昼ごろ。

GGOは、『ガン・マリア』。

 

()()()()()が、店に帰ってくる。

 

「……お帰り」

 

みるからに疲れきった彼女は、店の奥から聞こえてくる声に頷きを返した。

 

「……お客は?」

「いない」

「……ん」

 

するとその少女は。

いきなり奥のソファーに倒れ込むなりため息をつく。

 

「……相当お疲れだな」

「そりゃそうさぁ……自分で行けって話だよ、()()()

「まぁまぁ……採集系はお得意じゃない」

「そうだけど……」

「今頃刀片手に暴れてるよ」

「はぁ……」

 

ソファーに顔を埋めて文句を垂れるその少女。

そんな彼女を見つつ、プルームはココアを持ってカウンターから出てきた。

 

「……ありがと」

「気にするな」

 

匂いを嗅ぎつけたのだろうか。

その少女は、プルームが近づいてくると即座に顔を起こした。

 

「……すっかり板についたね、プルーム」

「ん……そうか?」

 

その少女は熱々のココアを啜りつつ、店のエプロンをかけたプルームを眺める。

 

「今や店主さんも出撃()るようになったしな。代わりに張っていられる人間が必要なのは明白だろ」

「それは分かるけど……プルームってのが面白い」

「面白い……」

 

ココアをまた啜ると、その少女はケタケタ笑う。

プルームは呆れた顔をしながらも、自分もコーヒー片手にソファーに腰掛けた。

 

 

 

 

「……で、見せてくれよ。()()

 

 

 

 

滅多に笑わないプルームが、そう言って少し笑って少女を見る。

 

すると、対するその少女。

 

「ん……いいよ」

 

目を伏せてココアをもう一口。

そして何やらウィンドウで操作した、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()が、目の前のローテーブルに姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「おお……!!」

 

プルームは思わず声を漏らす。

 

黒一色の全身。

トリガーの後ろにマガジンがくるいわゆる『ブルパップ』と呼ばれる方式の形状。

極め付けは上に大きく乗っかった遠距離スコープ。

 

「これが、噂の」

「うん。つい最近実装された新・()()()()()()()()()()()()……」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ゲパード GM6 Lynx(リンクス)』、だよ」

 

 

その夜。

相変わらずいない店主の代わりに店番をしているプルームのところに、今日()()()()()()が現れた。

 

「あら……おかえり」

 

プルームは変わらず声をかける。

 

この少女も、外から帰ってきた。

ただそれは店の外、ではなく。

 

()()()()、から。

 

「……ただいま、です」

「……」

 

その少女とは言わずもがな。

シノンである。

 

「……いいのか、帰ってきて」

「……!!」

 

シノンには、プルームの言わんとしていることがすぐに分かる。

 

「ええ、まあ。タスクはまだALO(むこう)です」

「……そうか。今日は……たしか予選だったな」

「はい」

 

そう。

今日は、『ALO統一トーナメント』の予選当日。

 

タスクが、最後のリーファの試合を除いて()()()()()()()()()()()、あの日である。

 

「どうだった、予選」

「……無事に通過……しまし、た」

「……そうか」

 

プルームの問いに、静かに答えるシノン。

 

そんな彼女の声音はどこか上の空。

プルームはそんな彼女を不思議に思い、ふとそちらを見やると。

 

「……あれって」

「ああ、あれはね」

 

シノンは、ソファの奥の棚に置かれた一丁の黒い銃を見つめていた。

 

なるほど。

納得したプルームは、ちょうどできたココアとコーヒーを持ってカウンターから出る。

 

「ついさっき仕入れ……いや、この場合は調()()、か」

調()()、ですか」

 

そう言いつつローテーブルにココアを置くプルーム。

軽く会釈を返すシノン。

 

「そう。あれは……」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボスの()()()()()()()()、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

シノンの目の色が明らかに変わる。

 

「え、じゃ、じゃあ『バレット M82A3』は……?」

「今日の朝売りに出したら、昼には売れたよ」

「え……!?」

「もともとそうするつもりだったらしい。店主の工房にずっと置いてあってね。ALO行く前には既にノーマルに戻してあった」

「……」

「そして()()()に依頼だけしてALOに行った。今頃向こうで、予定通り調達できて安心してると思う」

「……そうなんですね」

 

そもそも何故、とか。()()()って誰、とか。

色々疑問に思うところはあるが、シノンはとりあえず聞かないで置くことにした。

 

ふぅん、というような顔で銃を見つめるシノンに、今度はプルームが質問する。

 

「……で、君はなんで帰ってきたんだ?」

「……ああ、依頼を少し片付けっ……」

 

すると、その時。

ガチャリ、と扉が開く音。

 

シノンは咄嗟に口をつぐむ。

 

「いらっしゃい」

「……」

 

プルームが少し体をのけぞらせ、入口の方を見やると。

 

 

 

 

 

 

「ここに『バレット M82A3』があると聞いた。まだあるか」

 

 

それからしばらくして。

 

プルームは、()()()()を眺めてカウンターに座っていた。

手元には入荷したてのハンドガンと拭くためのウエス。

 

「……」

 

屈強な女戦士たちに囲まれるシノン。

プルームはそれを眺めては少しだけ哀れな気持ちになる。

 

先ほど来店したのは、例の『アマゾネス』達。

SJで暴れ回った末、レン単騎に崩壊を喫したあのスクワッドである。

 

彼女達はたまたまそこに居合わせたシノンを見つけるやいなや。

「お話を聞いてもいいですか」とかなんとか言って、彼女を取り囲んでいた。

 

シノンとの会話を聞けば、なんでも、

「レンに再戦をしたいが、となるとエムを破らねばならない」

「そのためにはあの装甲をぶち抜ける銃が必要」

だとかなんとか。

 

そんな折、今日の朝方『バレット M82A3』入荷の情報が出回り、遅くなったが駆けつけたわけだ。

 

「……でも、まだSJ2が開催されるなんて話は」

「別にSJじゃなくてもいいんです!!」

「あの練度、連携ならば、二人とも相当やりこんでいるはず!! フィールドで出くわせばそこででも!!」

 

シノンの言葉に前のめるアマゾネス達。

プルームは相変わらずその様子を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は()()が多いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボソリ、そう呟いて少し笑った。

 

プルームが思うに、おそらくアマゾネス達も中身は少女だろう。

SJのアーカイブを何度も見返している彼にはわかる。

 

戦闘中はもちろん、安静時も、そして今も。

ところどころ、『若さ』が所作の中に滲み出ているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに行けばドロップしますか!?」

「どれくらいの装備が必要ですか!?」

 

気づけば、シノンが屈強な肩に囲まれて見えなくなっている。

 

なるほど。

ない、となれば自ら取りに行こう、というわけだ。

 

それでシノンに食いついた、と。

 

プルームは、哀れな目でその光景を見つめることしかできなかった。

 

 

……ちなみに。

 

「これ、ちょうだい!!」

 

そう言って昼に『バレット M82A3』を買って行ったのは、()()()()()()()であった。

真っ黒なスーツに、顔を覆うようなタトゥー。

 

そして溢れんばかりの異様な殺気。

 

彼女に関しても、彼はちゃんと見抜いていた。

間違いなく、あれも中身は少女だ。

 

アバターの動きの一致率ですぐ分かる。

レンと同じだ。

 

最も、彼女は()()()()()()だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず取り囲まれるシノンを見つつプルームは思う。

 

シノン、アマゾネス、()()()()()、『バレット M82A3』を買って行った()()()()()()()

そして…………レン。

 

「……はは」

 

プルームは一人笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれらは…………()()()()()()()()()()()()()、だな」




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Episode172 僕の 〜mine〜

3月最初の週のとある日。

 

レン、もとい、香蓮は、2月最後の週から今日まで、久々に北海道に帰っていた。

まあいわゆる「帰省」と言うやつである。

 

とは言っても、もう帰り道なのだが。

 

「……楽しかった」

 

飛行機のシートに背中を預けると、ふっと息が抜けて思い出が脳裏に浮かんでは消える。

 

帰省、といっても、したことといえば実家にいるか親友の美優と懐かしの場を巡るかしかしてない。

 

相変わらず彼女は元気だった。

懐かしのカラオケで、SJの話から始まり、ALO統一なんとかの様子を興奮気味に話す様子が既に懐かしい。

 

「ふふ」

 

結局、懐かしの場所、その場にいさえすればそれでいいのだ。

そこで生活を営むこと、それが最も心安らげる瞬間なのである。

 

香蓮は息をつくと、窓の外で離れゆく故郷を眺める。

 

次帰れるのはいつになるだろうか。

そんなことを思いつつ眺め……そして。

 

次第に眠りについた。

 

 

「……ん?」

 

その後香蓮が目を覚ましたのは、意外にも数分後の事だった。

ズボンのポケットの中で、しきりにスマホが震えたからである。

 

おぼつかない視線をまぶたでおさえつつ、香蓮はスマホを取り出す。

 

すると。

 

「!!」

 

スマホの画面にあったのは。

 

 

 

 

 

『SJ2 開催決定のお知らせ』

 

 

 

 

 

「や、やるんだ……!!」

 

香蓮は目を見張る。

 

まぁでも、それもそうか。

みんなやる気満々だし。

 

聞けば、前回大会はかなり好評だったらしい。

 

そもそも、BOBが個人戦であること自体、不満に思うプレイヤーが沢山いるのだ。

 

モンスター狩るにも、それを狩らんとするPKプレイヤーも。

言ってしまえば絶対にスコードロンを組んでいる。

 

『スコードロンとして強い奴がいちばん強い!!』なんてことを言い出す者もいる始末。

 

「……はは」

 

でも。

香蓮はさらさら、出る気が起きなかった。

 

よく見ると、日程に「予選」なんてものが追加されている。

 

参加者爆増を予見しているのだろう。

尚更出る気が失せる。

 

前回はマイナーだったから何とかなったのだ。

 

そもそもレン自身、最後の戦いは相手のリザインで終えている。

譲られたにすぎない、というのが、彼女の考えなのだ。

 

今回なんて、ただでさえ前回で苦しめられたガチモンスコードロンが爆増するに過ぎないのだ。

 

そもそも仲間がいない香蓮……いや、レンには、到底無理なお話。

 

「……ふぅ」

 

香蓮は、そそくさとスマホの画面を閉じると。

また眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマゾネス達からのメールが来ていることも知らずに。

 

 

「……お」

 

一方。

GGOの『ガン・マリア』。

 

「……へぇ」

 

店の奥、工房スペースで、コーヒー片手にくつろいでいた店主がぐい、と体を起こした。

おもしろそうにページをスクロールする。

 

「……なるほど」

 

一通り読み終わったのか、ページから目を離すと天井を見上げて少し笑う。

 

「ちょうど彼、新しくなるし。タイミング最高じゃない」

 

そう呟いて、前に向き直ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん〜、僕も、少し頑張っちゃおうかな」

 

そう言って、目の前の机に置かれた()()()()()()()()を軽くなでた。

 

 

 

 

その顔には、少しだけ悪巧みが……。

 

 

「……ねぇ」

「ん?」

 

一方、GGOフィールド。

小高い丘に、いつもの2人が構えている。

 

ヘカートIIを構え、地面に寝そべるクワイエットが、後ろでしゃがむボスに問う。

 

「……あの銃、使わないの」

「……」

 

あの銃。

言わずもがなゲパードであろう。

 

ボスは覗いていた単眼鏡を目元から下げ、クワイエットを見た。

 

こちらを見もせずヘカートを覗き続けるクワイエット。

言わずもがな、答えを待っているのが分かる。

 

「……あれは……な」

「……」

 

ボスがゆっくり話し出す。

 

 

 

 

 

 

「あれは、俺のじゃない」

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

予想外の答えに、思わず言葉を返すクワイエット。

スコープの視線は外さないが、明らかに反応している。

 

「あれは、な」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の、です」




お久しぶりです。
大変お待たせ致しました。

明日、またこれくらいの短いものを投稿します。
繋ぎ話をどうにかしようとしましたが、もう開き直っちゃいます。

うはうは!! (?)

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Episode173 無理難題 〜Unsolvable problem〜

「どうしよう……!!」

 

帰省から帰って、はや一週間と少し。

香蓮は、頭を抱えていた。

 

「そんなん無理だよう、どうしろっていうのよう……!!」

 

自宅で一人。それも夜中に、頭を抱える香蓮。

 

 

 

 

 

 

 

彼女がこうなるのには、とある『理由』があった。

 

 

ことの発端は、つい数時間前。

自宅マンションの近くを散歩し、帰ろうとしたその瞬間。

 

自分はMだ、と名乗る男が、いきなり声をかけてきたのだ。

 

それだけで怪しい。

正直気乗りはしなかったが、どうしてもというのでフリースペースで話を聞いてみると。

 

 

 

 

『ピトがSJ2に出る。自分はそれに同行する』

『もし彼女が死ねば、彼女は自殺する。加えて自分も殺される』

 

 

 

 

そんな馬鹿な。

香蓮はMの話を一蹴した。

 

しかしどうやら本気らしい。

間に受けないのは承知の上だの、いずれ真実は分かるだの。

 

御託を並べては真剣に話してくる。

 

でもそんな話をして、いったい自分にどうしろと。

 

すると続けてMが言う。

 

 

 

 

『レンは以前ピトと、GGOで真剣勝負をして、レンが勝ったらリアルで会う、と言う約束をしたでしょう』

『GGOで彼女を倒し、その約束を果たさせろ。であれば彼女は死なない』

 

 

 

 

……それは真実だった。

確かに、以前ピトとその約束をしたのは事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……でも。

 

 

「じゃあ倒します、とはならないのよ!!」

 

香蓮はそう言って、ベッドに飛び込んだ。

 

ピトフーイを倒す?

そんなことがそもそもできるのか。

 

加え、次のSJはレベルが高い。

前回の比じゃない。

 

そんな中で、ピトフーイ生き残れるのか。

 

「いや……それはまあ……大丈夫、か」

 

ふと香蓮は、それに気づく。

 

ピトフーイはめちゃくちゃに強い。

そんじょそこらのチームにペッと倒されるなんてことはまずない。

 

……つまり。

 

 

 

 

 

 

「実質、ぜーんぶ倒さなきゃいけない……? そゆこと……!?」

 

 

 

 

 

 

ということ。

 

「……はぁ、とりあえず」

 

すると、香蓮はぐいと体を起こす。

 

『スクワッド・ジャム』は「スコードロンの戦い」なのだ。

そもそも「仲間」がいなければ話にならない。

 

「……誰か、いたかなぁ」

 

スマホをスクロールし、GGOのフレンド欄を開く。

 

「……」

 

もちろん、0人。

 

思い返せば、SJ2に出る気がどうも出なかったのは「仲間がいないから」という理由もあるのだ。

そんな彼女に、さらに難しい条件をクリアできる仲間なんているわけない。

 

意味がわからない、ぶっ飛んだ事情を理解してくれて。

本人の強さはもちろん、連携能力もかなりの練度が必須。

 

「……ん?」

 

その瞬間。

香蓮の脳裏に、とある人物の顔がぽっ、と現れる。

 

「あ……!!!!」

 

いる!!!!

香蓮はその瞬間、飛び上がりそうになる。

 

事情、強さ、連携。

全てクリアできる、おそらく唯一無二の「仲間」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はすぐさま、その「仲間」に電話をかけた。




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Episode174 参戦 〜Participation〜

時は、3月中旬。

 

「は……!?」

 

そんなことあるのか。

レンは言葉を失いました。

 

「ふふん……どうよ!」

「……!!」

 

今、レンの目の前に仁王立ちするは、仲間、と聞いて真っ先に思い浮かんだたった1人のプレイヤー。

現実では大親友、仮想世界では師匠なあの人。

 

香蓮の親友、美優もとい。

 

「フカ次郎!! GGO参戦!!」

 

その人でした。

 

 

「うっひょ〜!! すげぇ!! カワイイ!!」

 

フカは相変わらず元気だった。

 

金髪ロングで低身長。

レンといい勝負の少女である。

 

ステータスは化け物そのもの。

敏捷性こそレンに劣るものの、それ以外全ての項目においてはなんと圧勝。

 

「なあなあレン!! 早速案内してくれよ!!」

「はいはい、今から今から」

「武器!! 武器見に行こうぜ!! どんなのがあるのか想像もできん!!」

「わーかったわかった」

 

ぴょんぴょん飛びながら駆け出すフカ。

レンも慌てて着いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

ここからが長かった。

 

 

「……おや、こんにちは」

「おいっす!!」

「こ、こんにちわぁ……」

 

それから、何だかんだ言って巡ってなんと数日後。

二人は、店主のお店『ガン・マリア』に来ていた。

 

半笑いの店主と元気な金髪娘。

そして……疲れきったレン。

 

「その様子は……だいーぶ回ってきたっぽいね」

「……はい」

「で、いいのがなかった、と」

「お見通し……ですよね」

 

レンのあまりのやつれ具合に、思わず笑う店主。

となりの金髪娘の元気さと相まって、なお面白い。

 

「……あなたは」

「フカ次郎です!! フカって呼んでね!!」

「ふ、フカちゃん……でいいかな」

「フカちゃん!! カワイイ!! それで!!」

「はは……元気な子だ」

 

店主の微笑みを見て安心したのか、ため息をつくレン。

金髪娘、もといフカはそんな店主を見てカウンターに乗り出した。

 

「店主さん……!! わたしゃぁ……こう……びびっとくる子をさがしてるんだ……!!」

「うん……君はそういうタイプよね」

「!!」

「GGOは全然。でも相当やりこんでるゲームがあるでしょ。たぶん……ALOとか」

「へ?」

 

あっ、始まった。

レンは内心で察した。

 

「お、お会いしたことありま……へぇっ!?」

「はは、ないよ。今日はじめまして、だよ」

「えっじゃあなんで……」

「立ってる時の姿勢が羽がある時のままなんだ。見たらわかるさ」

「……!?」

 

驚きすぎたが故か、仮想世界バフが剥がれたが故か。

突然敬語になるフカに、微笑みを返す店主。

 

驚いたフカは咄嗟にレンを見た。

 

「れ、レン……この人、ひょっとしてどえらい方なのでは……?」

「というわけで、私は色々見てるから。終わったら教えて」

「え、ちょレン!?」

「どえらい方だから。もうおまかせしちゃっていいかなって」

「ちょ、そばにいてっ……ねぇっあっ」

 

フカの気弱な言葉を尻目に、そそくさと退散しようとするレン。

 

「れ、レンちゃん、とりあえず武器を選べばいいのかな?」

「あ、はい。その他装備もモロモロ……できれば」

「ん、了解。まかせて」

「お願いします」

「えっあっ」

 

店主の笑顔の頷きに、レンはぺこりと頭を下げる。

相変わらずフカは二人を見ておどおどしていたが、もうどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武器選びの時。

たしか店主が、こんなことを言っていたような気がする。

 

『で、ロマンとかいう人は変態』

『変態……!?』

『関わらないほうがいいよ』

『へっ……へぇ……』

 

「正解だった……」

 

レンは棚と棚の間で息をつくレン。

 

あの時はピト、しか思いつかなかったが。

世界が違うだけで、フカも極めて強力なプレイヤーだ。

 

当然、こだわりも強力。

 

「最初からここにこれば、よかった……な」

 

レンはふぇええ、と息を吐いた。

 

 

「で、フカちゃん」

「はいっ!」

 

一方カウンター。

店主とひらきなおったフカが対峙する。

 

「まずは武器を決めよう」

「おす!!」

 

 

 

 

「……どんなやつがほしい?」

 

 

 

 

「……!!」

 

するとその時。

フカの目が、心做しか色が変わる。

 

「……どんなやつ」

「うん、ざっくり。イメージでいい、こんな子がほしい、っていうの、ない?」

「い、イメージ……」

 

店主の言葉に、深く考え込むフカ。

 

「んー……」

「……」

 

色々思考を巡らせているのだろう。

目を閉じ、眉間にシワが寄る。

 

「……ん」

「?」

 

パッと目を開いて、店主を見るフカ。

そんな彼女に目を丸くして見返す店主。

 

そしてフカが一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美しい、けど強いやつ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっこれは。

店主の笑顔が固まった。




あけましておめでとうございます!!
駆巡 艤宗です。

いやぁ、2023年ですか。
SAOは未来の話どうのとか、いよいよ言ってられなくなってきましたね。

今年もどうぞ、よろしくお願い致します。

さて、今回あとがきに現れたのは、何も新年のご挨拶だけではありません。

今回のお知らせは大きく2つ!!



1つ目。
【アイコンが変わりました!!】

既にお気づきの方が多いと思います。
TwitterとLINE公式アカウント、それぞれアイコンが変わりました!!

LINEの方は結構頑張って作ってみましたがいかがでしょうか……?
よければ、Twitterにて感想をお願いします!!(笑)



2つ目。
【LINEでお知らせサービスを開始します!!】

はい!!
こちらが今回のメインとなります。

今まで、Twitterでしかしてこなかった新話投稿報告を、これからは公式LINEアカウントからも行います!!

諸事情で中々実装できませんでしたが、この度やっと叶いましたので、新年一発目このタイミングでスタートしようと思います!!



とまあ、こんな感じで。

2023年も、タスクや店主はじめ、様々なキャラクター、世界で物語を紡いでいこうと思います。

まだ出てこない原作とキャラクターは、それぞれ既に5作・6人に上ります(!?)

いずれ、出てきた時に。
皆様がまだ読んでいてくれたら、嬉しいです。

ではまた。

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Episode175 独特ではなく奇妙 〜Not unique, but strange〜

「れー---ん-----」

「お、終わったよ」

 

店内に響く二人の声。

 

「はぁい」

 

棚の隙間からひょっこり現れるレン。

 

「会計は?」

「あぁ、まだだった」

「まさかとおもうけど。買いすぎてないよね?」

「ダイジョブダイジョブ~」

 

レンの不安げな声と裏腹に、あっけらかんとしているフカ。

 

「……はぁ」

 

レンは半ばあきらめたかのようにため息をつくと、カウンターに置かれた銃を見る。

 

全体的に華奢なフレームに、圧倒的存在感を放つ()()()()()

レン自身、こんなのみたことないが故か、独特、ではなく奇妙、という感想がふさわしいように感じる。

 

 

 

……ぶっさいく。

 

 

 

正直、感想はそれしかなかった。

 

「気にしないで、ってあまりに言うからほんとに気にしなかったけど」

「はい!!」

「ほんとに払える……? かなり、というか結構な額だよ?」

「大丈夫です!!」

 

珍しく苦笑が漏れる店主。

レンは店主に同情の眼差しを向けた。

 

そしてもう一度カウンターを見やる。

 

下から見ていたから気づかなかったが、よく見たら同じ銃がもう一つ奥にあるではありませんか。

加えて、そこそこいい防弾チョッキはじめ、明らかに高そうな装備品がちらほら。

 

「いくらMさんにもらったからって……」

「いーのいーの」

「ほんとに足りる? 少しくらいなら……」

「あー!! ダメダメ、そうなっちゃうならツケでもいいから!!」

 

レンのあきらめた声に、店主が慌てて止めに入る。

 

「え、でも」

「いやいや!! さすがに」

 

店主があまりにとめるので、レンは下がるしかない。

フカは二人を見てキョトンとしている。

 

「て、店主さん」

「あ」

「とりあえず、一旦」

「わ、わかった」

 

フカの声に、店主が恐る恐る計算を始めた。

なぜかレンが息を呑む。

 

「えっと……合計が」

 

 

 

 

 

 

 

「「……はぁ!?!?!?!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

……言わずもがな。

起業でもするのかっていうレベルで、桁が違った。

 

 

それから、しばらくして。

 

結局。

あの大金はフカがポン、と払ってしまった。

 

店主のポカーンとした顔が目に焼き付いている。

 

その後、銃の説明やら、そもそもこの世界の説明やら。

アフターサービスで色々してもらった後。

 

色々疲れたのも相まって、店を出るに出れなくなった二人。

店主のやさしさに甘えて少しだけのんびりさせてもらうことにした。

 

「なぁなぁ、レンさんや」

「はいはい」

 

フカの声にレンが振り返る。

 

「……これ」

「ん?」

 

フカが指差す一つの張り紙。

指先につられてレンも見やる。

 

「傭兵、だって」

「うん」

「これ、お願いしてみない?」

「うん!?」

 

またこの子は!!

レンはもう何度目か分からない、ポカーン顔でフカを見た。

 

「ちょちょちょ、何言ってんの!?」

「いやだってさ、そもそも私ら二人って、厳しくね?」

「そらそうだけど!! お金は!?」

「まだ全然ある」

「え」

「店主さーん」

「ちょ……」

 

相変わらずフカは話が早い。

ポカーンとするレンを置いて、早速カウンターに駆けていく。

 

確かに、フカの言う通りではある。

 

そもそもSJが前回からかなりボリュームもレベルも上がるのは間違いない。

フカがあまりに強力であるが故、あまり意識していなかったが、冷静に考えてやはり2人参戦は無謀に等しい。

 

GGOに精通したMさんとタッグで、マイナーだった前回であの結果だったのだ。

 

GGOニュービーのフカと、メジャーなりかけ勢いマシマシな今回で、上手くいくかと言われると。

 

「う、うぅ……」

 

フカの意見は、正しい。

 

「レーン!! は・や・く!!」

「は、はぁい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急かす声に、レンは慌ててカウンターに向かった。

 

 

ブーッ、ブーッ

「ん?」

 

東京は、とある一軒家。

キリト……もとい和人のスマホが、不意に震える。

 

見慣れない通知に、首をかしげて画面を見つめる和人。

 

……すると、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

和人は思わず目を見開いた。




次回!!!!!!
()()()、ついに登場!!

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Episode176 強い人 〜strong person〜

「やあ、急にごめんね」

「お久しぶりです」

 

GGOは、少しお高めなレストラン。

タモン、と名前を伝えると、上階の個室に通された。

 

昨晩の招集に応じ、ALOからやってきたキリトである。

 

「キリトー、ここ」

「ありがとう」

 

シノンに促されるまま、指定された席に収まるキリト。

 

「……さて、あと一人、だね」

「あと一人……」

()()()、ですか」

「そ!!」

 

店主とタスクの言葉に、二人はキョトンとする。

 

「そういえば、キリトくんはもちろんだけど」

「はい」

「シノンさんも、初めてだよね」

「そう……ですね」

 

ここ最近よく耳にする()()()

シノンは、あ、またか、と気づく。

 

それこそ、ほんとに最近。

その()()()、という言葉をよく聞くようになった。

 

シノン自身、かなり活動しているため、そこそこメンバーや協力者の顔と名前を覚えた気でいたが。

その()()()、の存在によって、ここにきて未だなお知らないメンバーがいることを知ったのである。

 

「あぁ、ここだよ」

「……!!」

 

すると、店主が手を挙げて誰かを呼ぶ。

それにつられて振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたね」

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、シノンは目を見開いた。

 

 

それから30分ほど。

4人は次々運ばれてくる料理を頂きながら、近況の報告などに花を咲かせていた。

 

タスクとシノンは言わずもがな、日々の任務の話だが。

キリトの話は面白かった。

 

ユウキが現実で羽を伸ばせている話。

 

色んなところにアスナと共に向かい、学校にも訪れて。

授業に参加までしているそうな。

 

話はその場を和ませて、皆の雰囲気はとてもよかった。

店主も相変わらずのニコニコ顔だ。

 

「はぁ、料理も落ち着いたし」

「……」

「そろそろ話そうか」

 

……そして。

話が切れたタイミングで、店主が食器を置いて話し始める。

 

いわゆる『本題』、だろう。

 

「……そうですね」

「あの話してもいいかい、タスクくん」

「ええ、そろそろ」

 

ワインのような何かを飲みながら、ふぅと息をつくタスク。

店主はそんなタスクを見て笑う。

 

そして。

 

「……では」

「……!!」

 

店主の笑みが、少しだけ固くなった。

シノンは思わず緊張する。

 

「次の任務なんだけど」

「「……」」

「メンツはここにいる4人+依頼者2人で」

「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『SJ2』に、出てもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……!?」

 

驚きを隠せないシノンとキリト。

微笑みを崩さない店主と、その横ですまし顔のタスク。

 

そして……相変わらず眠そうな()()()

 

「どっ、ど、え、あの」

「……」

「いいん……ですか? 私達が……()()()()

「ううん、ダメ」

「……?」

 

狼狽えるシノンの言葉に、店主が微笑んで答える。

 

「だから、少しだけ……そうだな」

「工作、ですかね」

「うん、まぁ、タスクくんの言う通りそんなとこ」

「工作?」

「そう。工作したんだ、僕ら……()()()()()()が、表に出ないように」

「「???」」

 

店主とタスクの言葉は相変わらず分からない。

シノンとキリトは掴めない顔をして店主を見つめる。

 

「大丈夫、ちょっとややっこしいけど」

「「……」」

「説明するね、色々あるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、店主は飲み物をテーブルに置いた。

 

 

「いやぁ、なんでも聞いてみるもんだな!!」

「はは……ほんとに、フカのそゆとこ、すごいよね……」

 

時は戻って、数日前。

SBCグロッケンの大通りである。

 

2人のチビ……レンとフカは、並んで歩いていた。

 

「でもこれで安心だな!! 傭兵貸してもらえるんだから!!」

「よ、傭兵……なのかなぁ、なんか少し違くなかった?」

「でも強い人って」

「まぁそう……そうだけど」

 

フカの言葉に、レンは疑問を呈す。

 

ついさっきまで二人は、例のプレイヤーショップ……『ガン・マリア』にいた。

本来は、フカの装備を揃えるために行ったのだが。

 

その先で、思いがけぬ収穫を得たのだ。

 

「本物の傭兵さんはダメだって言われたじゃん、たしか」

「あぁ……そうか、そうだった」

「やっぱり仕事にしてる人は厳しいよ、そりゃ」

「……」

 

フカがたまたま見つけたチラシ。

そう、言わずもがな……『傭兵』のチラシだ。

 

事情が事情ゆえ、懐や時間が許す限り、拾える助け舟は拾いたい。

 

そこで、その『傭兵』を出してもらえないか掛け合ったのだが……。

 

 

 

 

 

 

結果はNG。

 

 

 

 

 

 

なんでも、仕事柄表に出てはいけないような仕事も沢山こなすそうで。

そんな人達だから、そもそも表に出せないんだそうだ。

 

……しかし、こっちもそんなこと聞いてられない。

 

「でもやっぱ話してみるもんだよ、何事も」

「……」

「こっちも色々やばいんだよねって言ったら、理解してもらえたじゃん」

「そうだ……ね、そうだよね」

 

そこでレンは、フカに背中を押されて意を決して話してみたのだ。

 

命が絡んだ話であること。

だからどうしてもあの大会で勝てるだけの戦力が必要であること。

 

すると。

 

「でも……()()()って、一体どんな人なんだろうな」

「んー、傭兵じゃないけど、傭兵レベルの人達って言われたよ」

「まとにかく強いってことか」

「そうだね」

 

店主の顔が明らかに変わったのだ。

常に協力的な姿勢の彼が、それすら飛び越えて積極的に。

 

色々話を聞かれて話して。

色々考えてくれた末、彼は一言二人に言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『傭兵は出せないけど、こちらから強い人を紹介することはできるよ』

 

 

と。




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Episode177 表の傭兵 〜Player〜

「……」

「……」

 

広い荒野。

寝そべる二人のプレイヤー。

 

「……シノン、さん?」

「……」

 

そのうちの一人は、シノンである。

へカートのスコープから目を離し、ストックの向こうの声がする方に顔を向ける。

 

「なに? ……えっと」

「みーしゃる」

「ああ、そう……ミーシャルさん」

 

そしてもう一人の方。

隣で寝そべる、小柄な女性プレイヤー。

 

……そう、言わずもがな。

()()()、である。

 

「……敬語やめよ、喋りづらい」

「……分かった」

「シノ……シノノンって呼んでいい?」

「!!」

「私はミィでもなんでも、好きに呼んでいいから」

「……ん、了解」

 

眠そうに目を擦りながらそういう()()()……もといミーシャル。

シノンは思わず少しだけ笑みがこぼれる。

 

背は低く、髪は栗色。

ふわっと膨らんだかわいらしいボブカットで、いかにも女の子、って感じ。

 

服装もいかにもで、一応コルセットリグを身に着けてはいるものの下は白ワイシャツにネクタイだ。

下はこれもふわっとしたかぼちゃパンツ。

 

その様子はさながら制服。

まるで……JKのよう。

 

GGOという殺伐とした世界で、こんな子がいるのか。

食事の時思わず見つめてしまった。

 

よく見れば、足は素足だ。

綺麗な細い足が、かぼちゃパンツから下に出ている。

 

うん、女の子。

 

「で……、なに? ミィ」

「……どう思う? あの話」

「あの話……、SJ?」

「うん」

 

どう思う? と言われましても。

シノンは少し考えこむ。

 

「店主さん、面白いこというよね」

「……」

「私よくわかんないや。なんだか話が複雑。ごっちゃごちゃだよ」

「……まぁね」

 

そう。

実はつい先ほどの食事の時。

 

店主に示された任務は、かなり複雑な要件をはらんでいたのだ。

 

「まずあれでしょ、護衛対象がいる」

「ええ」

「でその対象とSJ2に出る」

「……」

「で次に、その対象がどうしても倒さなくちゃいけない相手がいて」

「そう」

「それが、命を懸けてるんだよね」

「……そうね」

 

ミーシャルが空を見上げながら話す。

 

任務の内容は、あらかた彼女の言葉通りである。

 

ようは単純な話、ライバルをSJ2で倒したいプレイヤーがいて、そのお手伝いというわけだ。

 

普段なら断るような任務内容だが、どうやらそのライバルが勝ったらそのライバル本人が自殺をしてしまうらしく、店主が傭兵を出すことを決めた。

 

なんともぶっ飛んだ、とんでもない話だがどうやら本当らしい。

 

「こっからがわっかんなくなるんだよ私」

「……」

「向こうは、私たちが命が懸かった試合であることを知らないと思っていて」

「……うん」

「その上私たちは傭兵じゃないことになっている……んだっけ」

「ん……と、ちょっと違う」

「んぁあ分かんないよぅ」

 

ただ。

店主的には、やはり傭兵をそのまま出したくはないようで。

 

「えとね、ミィ」

「うん……」

 

シノンがスコープを覗きながら微笑む。

 

()()()()。簡単に言えば()()()()()()よ」

「……うん」

「普段の私たちみたいなガチガチの仕事はしないけど、軽い仕事をたまにやる傭兵さんがいる……」

「……」

「ってことにしたのよ、店主さんが」

「ことにした……?」

「そう」

 

ミーシャルの声にまた疑問符が乗る。

シノンはだよね、と言わんばかりにまた微笑んだ。

 

つまり。

店主が()()()()()()()()()、というわけだ。

 

当然の話、傭兵は出せない。

表の、注目度が高いところに、大っぴらに出して、何があるか分からないから。

 

ただかといって。

仮想世界で命を懸けた決闘を放ったらかしにするわけにもいかない。

そういうことを防ぐためのVRFなのだから。

 

そこで店主は咄嗟に。

 

 

 

 

『傭兵は出せないけど、こちらから強い人を紹介することはできるよ』

 

 

 

 

そう提案したのである。

 

そこから色々聞かれ、あれやこれや説明を付け足していくうちに……

 

『傭兵として登録はしないけど、副業程度にたまに任務をこなして収益を得たい人のための制度』、すなわち。

 

『予備傭兵』、ができあがってしまったのである。

 

そこに所属するプレイヤーであることにすれば、傭兵ではない体で傭兵をSJに出すことができる。

 

任務を遂行するにあたり、傭兵である姿を見せずに済む、というわけだ。

 

「まぁ……私たちみたいに傭兵になるとさ」

「うん」

「行動がすごく制限されるじゃない」

「……うん」

「そこまでしたくはないけど、たまにGGOでお金稼ぎたいって人はいるじゃん」

「……?」

 

イマイチ掴めないのか、ミーシャルはシノンの方を向いて ? な顔をする。

シノンは思わず苦笑してしまった。

 

「あ、ま、とにかく。つまりまぁ……()()()()()()()()()()()()()もいるってことにしたの」

「あぁ!! 社員は出せないけどバイトさんならいいよって、そんな感じ!?」

「えっまっうーん、そ、そうね! そういうこと」

 

色々語弊が産まれそうな言い方をするミーシャル。

シノンはまた苦笑するしかない。

 

ま、でもいっか。

本人がなんとなく分かればOK。

 

「で、私たちはその『予備傭兵』として、依頼者とSJに出る、と」

「そう」

「あぁ、だから……」

「?」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことね」

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、そういうこと」

 

ミーシャルは合点がいったのか、なるほど。とか言って頷いている。

シノンはそんな彼女を尻目に、少しだけ不安な顔をしていた。

 

()()()()()()()()()()()、それ即ち。

シノンが、()()()()()()()()ということだ。

 

今まで任務は全てコードネームで遂行してきた。

それはただそうしろ、と言われたからに過ぎなかったが。

 

ただここに来て、コードネームがただの隠れ蓑ではないことを、シノンは自覚したのだ。

 

()()()として、負けたくない。

()()()として、任務に身を投じれる自信が無い。

 

コードネームによる隔てが無くなったが故に。

 

傭兵としてあるまじき、ある種()()が、シノンの中に予期せず巣食ったのである。

 

「……たぶん、私が呼ばれたのはそれもあると思うんだ」

「?」

 

すると。

ミーシャルが不意に話し出す。

 

 

 

 

 

「私、普段()()()()()()使()()()()から」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

シノンは思わずミーシャルを見る。

ミーシャルもその視線を察してか、仰向けの姿勢から首だけ傾けてシノンを見た。

 

ふにゃっと笑った顔がかわいい。

 

シノンは思わず頬が緩みそうになるのをとっさにストックで隠す。

 

「そりゃ素性を隠せ、コードネーム使えーって言われたら、できるよ。その装備の用意はもちろんあるけど」

「……」

「私は素材集め専門。任務で人と関わること、ほとんどないんだ」

「あ、あぁ……そういうこと」

 

確かそんなことを、誰かが言っていたような。

朧気な記憶を思い出すシノン。

 

「さて!」

「?」

 

すると、ミーシャルががばっと起き上がる。

シノンは変わらずスコープを覗く。

 

「シ、シノノン」

「?」

「モンスターどんな感じ」

「……えと」

 

今一瞬躊躇ったわね。

シノンは内心で少しだけ微笑む。

 

「少しこっちに近づいた。大体……400m」

「400ね、ありがと」

 

何か後ろでゴソゴソしているがさすがシノン。

スコープを覗いて目を離さない。

 

すると次の瞬間。

 

「シノノン、見せたげる」

「ん?」

 

シノンは意味ありげな言葉に振り返る。

するとそこには。

 

「な……!? 何それ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、私が素材集めに徹しているのか」




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Episode178 顔合わせ ~First meeting~

「キッ……キリトさん!?」

「キリト……!?」

「シノンさんまで!!」

「……!?」

 

現実日時、3月24日。

昼下がり。

 

GGO内。

ガン・マリアにて。

 

驚愕するレン。

その横で、キリト、という名前に反応するフカ。

 

今日は、SJ2に出るためのメンバーとの顔合わせだ。

指定された日にち、時間に、お店に来てねーと店主に言われていた。

 

どんな人達なんだろう、なんて気の抜けた考えをしてやって来てみたら。

 

強い、超えて()()が、揃って待っていたのだ。

 

「ちょ、て、店主さん!?」

「んー?」

「つ、つつつ強い人って言っても、まさかこんなに……!!」

「はは……まあ、この店もお陰様でいろんな人の目にとめてもらえるようになったからね」

「自ずと人脈もつくって……ワケですか」

「そ!」

 

呑気な店主と裏腹に、二人は気が気じゃない。

 

シノンとキリト、と言えば。

アンチマテリアルライフル、フォトンソードという、どちらも尖りまくった装備で、第三回BOBの共同優勝を果たしたとんでもないトッププレイヤーだ。

 

フカからしても、キリトのすごさはよく分かる。

 

「キ、キリトって、あのキリトだよな」

「え?」

「いや、ALOでもキリトっているんだよ、めっちゃ強い」

「あ、まぁ、そう……です」

「ええ!?」

 

フカの素っ頓狂な声に、苦笑いで返すキリト。

 

「え、ALOなら、あいつのほうが……」

「?」

「な、()()()

()()()!?!?」

 

フカはまた変な叫び声をあげる。

 

立っている二人の奥。

ソファに座って、のほほんとココアをすすっていたタスク。

 

いきなり名前を呼ばれたからか、少しびくっとしてフカを見た。

 

「こ、こんにちは」

「どどどっ、どどうも」

「……フカ?」

 

こくりと会釈をするタスクに、きょどって返すフカ。

レンは何のこっちゃとフカを見る。

 

「こ、この方もスゴイ方なの……?」

「すごいも何も!!」

 

 

 

 

 

 

 

A()L()O()()()()()()()()()()だよこのお方!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……?」

 

レンの目が丸くなって、そして止まった。

 

 

「なぁ、レン」

「なに、フカ」

 

光のない目で荒野に佇む二人。

 

「これ、私たちいらなくね」

「うん、ピトさんもこの人たちに殺されれば満足すると思う」

 

顔合わせからしばらくして。

一行は、そのままクエストに挑むことにした。

 

……のだが。

 

「人数が多いってだけじゃない、明らかにレベルが違うよコレ」

「うん……」

 

あまりの練度の高さに、すっかり気合いを持っていかれていた。

 

二人がいるのは丘の上。

少し前にシノンが寝そべり、へカートⅡを構えている。

 

丘の下には、キリトとタスク。

それぞれ、フォトンソードとACE23を使って、ボスのHPをゴリゴリ削っている。

 

ミーシャルは、シノンの横に寝そべり観測手についていた。

 

「あのボスモン、結構強くなかった?」

「うん、かなり強いやつだよ」

「開始数分で残りHP2割だけどどう思う?」

「やばいと思う」

 

無慈悲に蹂躙されるボスモンスターを見て、真顔に拍車がかかる二人。

 

『僕らの戦い方を見て、どう使うかを決めてほしいです』。

そう言ってボスモンスターに突っ込んでいったタスクの顔が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダーが私って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ある意味災難だぜ……」

 

レンのため息に、フカは笑って答えるしかなかった。




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Episode179 クレーター 〜crater〜

3月も末に近づき、25日。

レンフカ、その他4人一行は、引き続き練習に励んでいる。

 

ようやくお互い馴染めてきたのか、連携が取れるようになってきていた。

 

「なぁ、そこの……」

「ん?」

「お嬢さん?」

 

レン、タスク、キリトが眼下でモンスター相手に奮闘する中。

丘の上で待機するシノンと、残りの二人。

 

フカとミーシャルである。

 

「……ミーシャル、です。敬語いらないよ」

「お、おう……」

「フカ……ちゃんだよね、かわいい」

「あり、ありがとう」

 

相変わらず眠そうなミーシャル。

フカもそのペースに合わせてしゃべる。

 

「……で、なに?」

「!!」

「何か、聞きたいんでしょ」

「お、おお」

 

体操座りするミーシャルが、フカをみてふにゃっと笑った。

 

かわいい。

フカは思わず言葉に詰まる。

 

「い、い、いや、その」

「?」

「ミーシャル、なんかしないのかなって」

「……ああ、ね」

 

すると。

フカの言葉にミーシャルはクス、と笑った。

 

「そうだよね、不思議、だよね」

「……」

「大丈夫、ちゃんと()()()よ」

「?」

 

よくわからない、と言わんばかりのフカの顔。

 

それもそのはず。

一行はここ数日、顔合わせから毎日練習を重ねている。

 

お互いの動き方や戦い方。

それぞれの()()()()がなんとなく分かってきている段階だ。

 

そこで今日は例の()()()()()()()()()を初めて使ってみてもいる。

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「私は」

「!!」

「フカちゃんとほぼ一緒だよ」

「え?」

()()()()()。それも……()()()()()()

「……?」

 

かなり強め。

そう言われても、と言わんばかりのフカの顔。

 

「……ふふ」

「?」

「分かんないよね、分かるよ」

「分かる分から……ん?」

 

ふわふわしたミーシャルの言葉に、フカの頭までふわふわしだす。

 

「ミィ」

「!!」

 

2人の横からシノンの声。

 

「『そろそろ使ってもいい』」

「ほんと!!」

「……って。タスクが」

 

スコープから目を外さず、あくまで淡々と。

 

うわプロかよいやプロだわそうだったわこの人。

フカはいよいよ分からなくなってくる。

 

「やったぁ……いい加減ヒマだったんだよね」

「え……」

 

意味ありげな言葉を話すミーシャル。

フカは思わず彼女を見る。

 

すると。

 

「ごめんねフカちゃん、実は私、タスクにさ」

「タスク……?」

 

 

 

 

 

 

 

「『強すぎるからまだ使うな』って……言われてたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「は……!?」

 

 

「キリト、レンさん」

「「!?」」

 

一方、崖下の三人。

キリトとレンは、タスクからの突然の無線に思わず動きをとめる。

 

「下がりましょう、いい感じですし」

「いい感じなら……」

「チャ、チャンスなんじゃ……!?」

 

タスクの意味深な言葉に、不思議な顔を見せる二人。

 

それもそのはず。

今戦っているボスはかなりの相手。

 

そのHPをやっと4割まで落としたのだ。

これからさらに削るしかない。

 

「攻めるべきではない……ってことか?」

「?」

「ええ、まぁ……」

 

最善かと思われる選択肢をあえて捨てるタスクに、レンはともかくキリトは一旦問いかけをみせる。

 

タスクは若干急ぎ気味に、下がり始めつつ答える。

2人も一応追随する。

 

「攻める……ため、です」

「?」

「早くしないと巻き込まれる」

「巻き込ま……?」

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来るんです、()()が」

 

 

 

 

 

 

「「()()?」」

 

そして次の瞬間。

タスクの指差す方向……()を見た二人は。

 

「なっ……!?」

「えっ……」

 

 

 

 

 

 

 

それが何かを……知る。

 

 

大爆発。

それと共に砕けて飛び散るポリゴン片。

 

ボスがいたであろう場所にあるのは、()()()()()のような大きな陥没穴。

 

「来るって……」

「はい」

「そういう……?」

「そう」

 

ポカーンとするキリトとレン。

タスクは苦笑いで頷く。

 

「は……?」

「はは……そうなるわよね」

 

それは崖上でも同じなようだ。

フカがポカーンとしていて、シノンが苦笑い。

 

ミーシャルだけ、一人ニコニコで佇んでいた。

 

「い、今飛んできたのって……」

「いわゆる……その……」

「ええ、そうです。あれが彼女の武器……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()です」

 




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Episode180 確認 ~confirmation~

そんな馬鹿な話があるか。

レンは思わず疑いました。

 

ボスを粉砕し、それどころかクレーターまで作っちゃうなんて。

でその方法が『個人携行できるミサイルシステム』。

 

いやいやそんなのまさかあるわけ。

 

「これだよ」

「あほんとなんだ」

「うん」

 

悪態と疑念が渦巻くレンの前に現れた大きな箱。

その横に立つミーシャル。

 

レンはもう信じるしかありませんでした。

 

 

「ぽ、ぽーたぶる、ヴぁーてぃか、ろーん……え?」

「『ポータブル・ヴァーティカル・ローンチング・システム』、だよ」

 

あからさまに混乱するフカを見て、ミーシャルは笑う。

 

『Portable Vertical Launching System』、通称『P-VLS』。

その名の通り、『携行型垂直発射装置』である。

 

極めて高威力のミサイルを、極めて高速で、かつ極めて正確に叩き込む、遠距離においては『()()』であること疑いなしの代物だ。

 

当然、そんなバランスブレイク甚だしいものを運営が実装する訳もなく。

 

「こ、こんなの一体どこで……」

「どこにもないよぅ?」

「え?」

「自作。ぜーんぶ、私が作ったの」

「はっ?」

 

一から全部、それもかなりの時間をかけてミーシャル自身が独自に開発した固有ガジェットである。

 

大きさはそれほどではない。

だいたい高さは165cm程であろうか。タスクより少し高い、くらいである。

 

「えぇっと? その装置の名前がポータブルなんとかで?」

「そう」

「中身のミサイルは?」

「また別物」

「はぁ、なるほど……?」

 

フカがなんとか理解しようとするが、さっぱり分かってないようで。

どんだけ話を聞いてもやっぱりハテナ顔だ。

 

そう。

『P-VLS』自体はただの機械が詰まった箱に過ぎず。

 

ミサイルそのものはまた別物だ。

そしてそれももちろんミーシャルお手製。

 

試作機含め、今まで数々のミサイルを開発しては打ち上げて来た。

そのミサイルたちはまたいずれ書くとして、ここでは割愛する。

 

「箱の名前がP……えー」

「……」

「ミサイルが……うん」

「……はは」

 

うんやっぱり全然わからんわ。

どうやらレンはあきらめの境地に達したようで。

 

隣のキリトが苦笑いでレンの隣に並ぶ。

 

「ミサイル……なの、これ」

「うん、そうだよ」

 

すると今度はシノンが呟く。

ミーシャルはニコニコで頷いてみせた。

 

彼女の疑問は実に最もだ。

はたから見たらただの異質な箱なのだから。

 

「撃って……みる? あんまバカスカ撃てるわけじゃないけど」

「え……」

「あと一発ならいける、よ」

「……」

 

ミーシャルのにへら……とした笑顔に、一同はタスクを見る。

 

チームのリーダーはもちろんレンだ。

ただこの場合、チームではなく()()()()()()()の場合は話が変わる。

 

「ミィがいいなら、いいんじゃないですか」

「!!」

「せっかくだし、見て損はないでしょう」

「ほんとに!!」

「……なかなか見れるもんじゃありませんし、ね」

「?」

 

皆からの視線を受けたタスクは、迷うことなく答えた。

少し意味ありげな言葉が聞こえた気がするが、フカやレンにはどうやら聞こえていない様子。

 

ただそこはシノン。

タスクの方を少しだけ見やる。

 

すると。

 

 

 

 

 

 

「……はは」

「!!」

 

 

 

 

 

あきらかに微妙な顔で笑うタスクが……。

 

 

「みっ、見せちゃったの!?」

「え、うん」

 

その日の夜。

閉店後の『ガン・マリア』。

 

照明が落ちた店内で、唯一ついたままのカウンター。

そこに、店主とミーシャルが並んで座っている。

 

「何、別にいいでしょ?」

「いやいけないとは言わないけど……」

 

あからさまに驚く店主を、ミーシャルは怪訝な目で見る。

 

すると。

 

「……分かるでしょ店主さん」

「?」

「あなたなら」

「……ああ」

 

ミーシャルが声のトーンを落とし、店主の方へ半身を向ける。

 

店主もミーシャルを見ると、彼女の言わんとしていることを察して息をついて答えた。

 

実はミーシャル。

つい最近、開発志向を大きく転換したのだ。

 

今まで一貫して『対 モンスター』であったのが一転。

() ()()()()()()』、『() ()()()()()』へと。

 

「タスクとか、店主さんとか、相談して」

「うん」

「色々考えた末、決断したよね、私」

「そうだね」

 

机の木目を見つめ、淡々と話すミーシャル。

指を絡めて、眉間に皺を寄せて。

 

店主はそんな彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「もう、()()()みたいにはいられない、って」

「……」

「この世界、GGOに来た時点でそうだったけど……」

「……」

「ちゃんと、()()()()にシフトしたよね」

「……そうだね」

 

まるで確認するかのよう。

淡々と話すミーシャルに、店主は頷く。

 

「……で、この任務にアサインした」

「!!」

 

ああ、これは。

店主は気づく。

 

「そういうことでしょ」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

れっきとした、()()、だった。




こんにちは!! お待たせ致しました。
駆巡 艤宗でございます。

もうさすがに、報告するまでも無いかもしれませんが、一応。



『設定集にミーシャルが追加されました!!』



お待たせ致しました!!
色々気になる部分があると思いますが、それも全部設定集で解決!!(かどうかは分かりませんが……笑)

まだ未出の情報もしれーっとのせておきました。
今のうちにご確認ください(笑)

さあ、いよいよですね。
表と裏が交錯するSJ2、まもなく開幕です!!

ではまた。

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Episode181 調整 〜adjustment〜

4月1日。

店主の店のカウンターにタスクがひとり座っている。

 

「まさか、と思ったけど」

「いやぁそのまさかでしょう」

 

奥から出てきた店主。

苦笑するタスク。

 

二人の前に浮かぶホロウィンドウ。

その中にデカデカと表示された、とある『お知らせ』。

 

「『SJⅡ 延期』ですか」

「延期と言っても、微々たるもんだけどね。どっちかっていうと……」

 

 

 

 

「日程調整、ですね」

 

 

 

 

「……だね」

 

そうか、とタスクはどこか安堵の顔を浮かべる。

 

SJIIは本来、4月3日の夜に予選、その後4月4日昼過ぎに本戦の予定であった。

 

しかし。

突然、キャンセルを申し出るプレイヤーが続出。

 

その理由は。

 

「そりゃ、ユウキさんの名前はALO外にも知れ渡ってますからね」

「はは……とは言うけどまさかここまでとは」

 

 

 

()()()である。

 

 

 

そう。

実は、今度の土曜日4月4日のSJⅡの本戦の日程が、かの剣士()()()の告別式の日程と丸被りしてしまったのである。

 

ALOとGGO、世界観にしろ運営にしろ、全く違う無関係の存在ではあるのだが。

一部、という名のかなりの数のプレイヤーにとっては無関係というわけにいかず。

 

これを受けて運営は、3日の予選と4日の本戦の全ての日程をずらし、5日の日曜日に詰め込む形で予選と本戦を行うこととしたのだ。

 

「まあ僕らとしても?」

「助かるよね、よかったよかった」

 

安心したように笑う二人。

彼らも例外なく、二つの日程の狭間で悩んでいた当事者だったからだ。

 

当然、悩むも何もSJⅡが優先であり、出ることに変わりはないのだが。

 

心持ちというか、なんというか。

なんだか気が向かないでいたのである。

 

「ただ」

「?」

 

すると、タスクがトーンを落とした声で呟く。

 

「キリト君に関しては、まだ安泰とは言えませんね」

「……うん」

「告別式の日、おそらく接触するでしょう。その日に」

「分かった。アスナさんは頼むよ」

「ええ、おまかせください」

 

店主は当然、タスクの言わんとすることを察する。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の顔は、終始穏やかだった。

 

 

同刻。

 

「こんにち……は」

 

からんからん。

ベルが鳴る。

 

「……おや」

「!!」

 

かつんかつん。

靴が鳴る。

 

不安げな顔をした少女の前に現れたのは。

 

「……ようこそおいでくださいました」

「……」

 

 

 

「セニョリータ……シノン」

 

 

 

「!?」

 

スーツに身を包んだ、()()だった。

 

 

「本日はどのようなご用件で」

「え、と……」

 

気品溢れる、なんだか落ち着かないザ・社交界のような雰囲気の店内に通されたシノン。

 

頭を丸め、細めのスクエアタイプの眼鏡を掛けた先ほどの紳士に誘導されるがまま、大きな全身鏡の前に立たされる。

 

「新しい……」

「お召し物ですね」

「は、はい」

 

さも分かっていたかのように微笑む紳士に、緊張した顔で答える。

 

「お作りになるのは移動用でしょうか? それとも会議用?」

「えと、い、移動用……」

「お召しになるのは朝でしょうか夜でしょうか」

「……朝です」

 

紳士からの質問に答えるシノン。

ミーシャルに言われた通りの答えを返す。

 

「お召しになられた先でシャッターは浴びますか?」

「浴び……ます」

「舞台には……?」

「立ちません」

 

まるで女優か何かに質問するような言葉が出てきて、シノンは少し興奮する。

ほんとにこう聞かれるんだ、と。

 

「その場所は暑いですか? 寒いですか?」

「暑い、です」

「お食事は……」

「多少、()したいです」

「……なるほど」

 

すると、肩幅や足の長さ背中の幅などを測っていた紳士がふっ、と身を引いて微笑む。

 

「かしこまりました。セニョリータ シノン」

「……」

「お召し物はどちらまでお届けにあがれば」

「えと」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()に」




時系列改変に癖強新キャラ。
繋ぎ話で全部ぶっ込むなって(笑)

お待たせしました!!

ーーーーー

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Episode182 それだけじゃない 〜That's not all〜

「……明日、ね」

「……はい」

 

4月は、4日の夜。

 

言わずもがな、『スクワッド・ジャム II』の前日の夜。

そして、『ユウキ告別式』の夜、だ。

 

「……珍しいですね、シノン……いや、詩乃さんからお誘いくれるなんて」

「なによ……しちゃだめ?」

「……いいえ、嬉しいです」

「!!」

 

東京の、とあるビルにあるレストランの窓側席。

 

シノンもとい詩乃と、タスクもとい祐は、珍しくリアルで二人で夕食を取りに来ていた。

 

「とりあえず、ご苦労様でした……詩乃さん」

「……そちらもね」

 

詩乃が口を噤んでしまったので、祐が笑ってグラスを掲げる。

 

料理が来る前に楽しむ飲み物。

当然、2人はまだお酒が飲めないので、それっぽいやつ……だが。

 

「告別式……ありがとうございました、ついてきてくれて」

「着いてくも何も、私もいかなきゃいけないわ」

「いやその……だいぶほったらかしてたし」

「いいの。私にもなんだかんだ、声をかけてくれる人がたくさんいたから」

「あらほんとに……!! ならよかった」

 

にへら……と何故か嬉しそうにはにかむ祐。

詩乃は少しだけジト目で飲み物を飲む。

 

「それにしても……今日と明日、忙しい週末になりますね」

「……そう、ね」

 

すると、詩乃につられてか祐も飲み物を口元に運びつつ、目を伏せて一息つく。

 

詩乃もその言葉に頷いてかえした。

 

「明日はなんだかんだ重大な任務ですからねぇ……やれやれ」

「……」

「ゲームに命をかけるなんてナンセンスですよ全く」

「……あなたほどそれを言える人はいないわね」

 

あくまでも口調は軽く。

でもしっかり先を見据えて話す祐に、詩乃は微笑んだ。

 

明日の『スクワット・ジャム II』。

依頼主はあの「ピンクの彗星」ことレンとその仲間、フカ。

 

出場者の一人が命をかけて出るらしく、その一人をレンが倒せば阻止できるらしい。

 

与えられた任務は、レンを何としてもその一人に会わせ、誰にも邪魔させず、勝たせること。

 

「……で、詩乃さん」

「……?」

 

すると、祐が突然前かがみになって机に手を着いた。

詩乃は思わず身構える。

 

 

 

 

 

 

 

「明日。実はそれだけじゃないんです」

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

思わず目を丸めた詩乃。

 

祐の顔はあくまで笑顔。

でも声はいたって真剣だ。

 

「そ、それだけじゃないって」

「……そう、それだけじゃない」

 

とりあえず復唱する詩乃に、うんうんと頷いて復唱し返す祐。

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は、ですね」

 

 

「……」

 

詩乃は一人、考えていた。

 

夜も遅かったので、家まで祐に送られて。

その後GGOで少しだけやろう、という話になっていた。

 

「……ふぅ」

 

とは言うものの、祐もそこから家に帰って色々準備して、なので、そうすぐには始まらない。

 

詩乃は早めに入って一人でなにかしていようかとも考えたが、どうもその気にはなれなかった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

アミュスフィアを見つめる詩乃。

 

祐に伝えられた話。

色々あるが、特に重要だった一点。

 

「そうだったのね……」

 

何かを()()、詩乃の少し悲しそうな顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミィ……」




大変お待たせ致しました……!!

6周年!!
ありがとうございます!!

(忙しくてアニバーサリーなんとかできずに終わっちゃった……泣)



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Episode183 余り物 〜Leftovers〜

わいわい、がやがや。

GGOのどの酒場も、まさにそんな単語がぴったりな様子だった。

 

4月5日。

SJII、開催当日である。

 

「ふぃ〜きたきた」

「す、すごい……わね」

 

その中、参加者集合場所に指定された酒場に、タスクとシノンはやってきた。

 

「前回より多い、と聞いてはいたけど……」

「これは……予想以上ですね」

 

思わず苦笑する二人。

 

前回の二人は、観戦者として酒場にいた。

それ故に今この状況から、SJというものが前回と比べてかなりの盛り上がりを見せているのかよく分かる。

 

「ほ、ほんとに見せていいの……? わ、私はともかく」

「うぅん……はは」

 

あまりの盛況ぶり、集客ぶりに、思わず不安が漏れるシノン。

タスクは笑みこそ崩さないものの、汗が額に滲んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

「……長そうね、今日は」

 

シノンが笑って息をついた。

 

 

それから、しばらくして。

 

「おーおー、こりゃ思ったより狭いですね」

「……」

 

酒場のディスプレイには、『予選』の様子が映し出されていた。

 

SJIIは、前回より格段に規模が拡大。

その影響で大会の中身も大きく変わった。

 

従来の全員一斉にフィールドに放り出される形式を『本戦』とし。

その前にもう一度、『予選』と呼ばれる形の試合が行われていることになっている。

 

規定の時間になると、かなり狭いフィールドに各スクワッドが2組づつ飛ばされ、タイマンを張る。

勝った方は本戦出場。負けた方は敗者復活戦へ。それでも負ければ予選敗退。

 

本戦出場枠の二倍の数のスクワッドがやってきたが故に、綺麗に半分を削ぎ落とす、至ってシンプルなルールだ。

 

しかしそこには例外が。

 

「……私たちは出なくていいのよね」

「はい」

 

 

 

いわゆる、『()()()()』の存在である。

 

 

 

「僕たちはレンさんがいるで『シード枠』対象チームです。だから出なくていい」

「うん」

 

『シード枠』対象チームは前回のSJで3位までの入賞スクワッド3組。

当然、タスクたちのいるスクワッドはレンがいるため、『シード枠』の対象だ。

 

他の2チームは、言わずもがな。

 

「……して、残りの2つについて少し気掛かりが」

「……ええ、わかるわ」

 

するとタスクの声のトーンが下がり、シノンもそれを察して口を噤む。

 

一応言っておくと、残りの2枠はそれぞれ前回大会の2位と3位。

例のアマゾネス集団、『SHINC』と。

 

「『VRF』、ね」

「そうです」

 

店主が送り込んだ()()()()だ。

 

「しれーっとエントリーしてます。彼ら」

「らしいわね」

 

そう。

なんと『VRF』は、前回と同じ編成で、しれっと『シード枠』を使って参戦しているのだ。

 

前回2位ということで、彼らも予選は免除。

 

「まぁそれはそれでいいんですよ」

「うん……」

 

まぁぶっちゃけ、それは別に構わないのだ。

いくら前回2位とはいえ、言うなれば「身内」な訳で。

 

今回の作戦の助っ人のような形で参戦してくれているの()()、しれない。

 

ただ。

 

「問題は……」

 

 

 

 

 

()()、ね」

 

 

 

 

 

二人は、たった今特段大きく映し出されたとあるチームを見やり、苦笑した。

 

チーム名『Leftovers』、直訳すると、『余り物』。

 

6人全員、見たことがあるような装備をしているが顔は完全に隠れている。

各々至って普通な装備を揃えているが、リーダー格の男だけ少し浮いていた。

 

その男の装備は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()、である。




……はい、えー()

お待たせしました。
お久しぶりです、駆巡 艤宗です。

なんだかんだ1ヶ月、音沙汰なしでしたね……。
Twitterもほとんど動かさず……何やってんだ全く()

8月はあと数話、投稿できる……と思います!!
乞うご期待!!

感想がとっても励みになるので、よければぜひ……(その前に書きなさいって? ウッ)

ではまた。

ーーーーー

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Episode184 待機所 〜waiting area〜

「さて、行きますか」

「ええ」

 

4月5日、午後。

大盛況のSJ2は、いよいよ本戦を迎えんとしていた。

 

予選の時点でかなりの盛り上がりを見せていた酒場の熱気は、ようやくと言わんばかりに最高潮に。

 

タスクらを含めた本戦参加プレイヤーたちは、開始十分前の薄暗い待機エリアに飛ばされていた。

 

「よ……よろしく、おねが……」

「レン、なぁんだよその声は!!」

 

おずおずしたレンと、相変わらず元気はつらつなフカ。

そんな彼女らを見て、タスクら4人は微笑んだ。

 

「……緊張しないで、私たちがいる」

「し、シノンさん……」

「きっと上手くいく。大丈夫よ」

 

シノンの微笑みに、思わず安堵するレン。

曲がりなりにもこれから命を救いに行くのだ、精神的負担は計り知れない。

 

するとその時

 

「きっともなにも」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対大丈夫、です」

 

そういってタスクが微笑んだ。

 

 

「オセロット……ほんとによかったんですか」

「んぇ?」

 

一方、『Leftovers』である。

のんきにあくびをかます店主……もといオセロットに、ラクスが話しかけていた。

 

「予選終わった後の酒場にタスク君らいたの気づいてました?」

「あぇ、そうなのぉ……? てっきり個室とってんのかと……」

「レンちゃんとフカちゃんはそうなんじゃないすかね。あの場いなかったし」

「ちゃん付けすんな変態」

「あいでっ」

 

あとから話に入ってきたフォートレスと、それにツッコむウォッカ。

 

「タスク君すごい苦笑いしてましたよ、めっちゃこっち見て」

「そらそうだろ。俺も内心マジかよって思ってるもん」

「カチューシャ……」

 

ラクスの呆れた顔に、ふん、と仏頂面のカチューシャ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……後ろで微笑んで立つ()()()姿()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予選終了から本戦開始までほぼ直後ぐらいすぐのため、用意することもあまりないのか、各々自由に過ごすメンバーたち。

 

 

 

 

 

「うん、実にいいチームだ」

 

店主はそういってほほ笑んだ。

 

 

「よおおおおしいっちょやったりますかぁぁぁぁぁ」

「ラーーーイト、まずは任務だからね」

 

かたやもう一方。

言わずもがな、VRFである。

 

前回が不本意だったからかやたら気合を入れるライト。

レックスが諫めに入るが、お構いなしだ。

 

「今から気合いれても別に構わんが、レンと対峙できるのは終盤も終盤だぞ」

「わ、わかってますぅ」

「ならいい」

 

プルームの冷静な言葉に、ライトはふくれっ面で答える。

 

彼らVRFは、出場に当たって店主からタスクらの任務の内容と、それを邪魔しないことを言われていた。

当然と言えば当然だが、今回は任務でもなんでもない彼らには少しばかり耳が痛い。

 

「ま、とにかく楽しもうよ!! せっかく任務外で出ていいって言ってもらえたんだしさ!!」

「……そうですね」

 

ギフトとベネットの落ち着き様は相変わらず。

 

そして6人目、最後にしてリーダーのタウイが立ち上がって一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしいこう……出撃!!」

 

 

 

その瞬間。

10分を数えていたタイマーに、すべての0が出そろった。




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Episode185 対極 〜The opposite〜

カウントダウンの0と同時に視界が変わる。

 

「……なるほど」

「一旦低く」

 

レンの一言で一同がしゃがむ。

 

ついに始まったSJ2。

レンはもちろんだが、フカも緊張の面持ちだ。

 

「まずはスキャンを待つ。変に動いても……だし」

「了解」

「了解しました」

「OK」

 

リーダーであるレンの声に、各々返事が返ってくる。

 

レン達が転送されたのは、外国にありがちな平屋建ての住宅街。

道は広く、建物も低いが、ひとまず初動で狙撃される心配は無さそうだ。

 

「レン……()が見える」

()……?」

 

すると、スコープを覗いていたシノンがレンを呼んだ。

レンも単眼鏡を取り出し同じ方向を見やる。

 

すると。

 

「あれが境界線……ってことか」

「おそらくは」

 

黒く巨大な壁が、地形を真っ二つに分断するかのように真っ直ぐそびえたつ様子が確認できた。

 

想像に難くない、あれがマップボーダー……いうなれば「()()()」だ。

 

「おーおー、なんか昔こんな漫画あったよね、でっかい人間が人食べるやつ」

「……また懐かしい話を」

 

フカの頓珍漢な話を聞き流しつつ、レンは単眼鏡から目を外す。

そしておもむろにサテライト・スキャン端末を取り出すと。

 

「今は……ここか」

 

マップを展開し光点を指さした。

 

正方形の斜め上、いわゆる端っこ。

方角でいえば北西の位置。

 

「ふむ……そういうことですか」

「……タスクさん」

 

すると、展開した地図を眺めつつ、タスクがふむふむと見入った。

 

「これ多分、シードを四隅に散らしてますね」

「たしかに……そんな気がする」

「え……? どういうこと?」

 

納得するようにマップを見る二人を尻目に、フカはイマイチ理解ができない様子。

 

「まてまて、シードって3組だろ?」

「……フカちゃん、ちょっと違う」

 

すると、ミーシャルがいつのまにフカの後ろに。

そしてそのまま真横にストンと座ると、顔を覗き込んで話し出した。

 

「シード、は、3位までの入賞チーム……の、()()()()なんだよ」

()()()()……」

 

フカの難しそうな顔に、ふふふと笑うミーシャル。

 

「そう。だからそのチームのメンバーが別チームに別れたら、それぞれシードになる」

「……あぁ」

「レンちゃんの元 チームメイトはMさん。そのMさんは、今回別チーム……でしょ」

「そゆこと……」

 

ゆっくりとした話し方に、なるほど、と納得した様子のフカ。

 

簡単な話、今回シード権を有するのは全部で4チーム。

前回入賞したチームのうち、レンとMさんが別れたことにより、シード権が2人の所属するチームそれぞれに与えられ、結果4つに増えた、ということだ。

 

すると、正方形の角の数とシード権を有するチームの数が一致する。

ただの推測ではあるものの、十中八九そうだろう。

 

 

 

「次のスキャンまではこのエリアから動かない。一旦そこの家の隙間に入ろう」

 

 

 

「了解」

「OK」

「よしきた!」

 

レン達はようやく、動き出した。

 

 

13時10分。

 

……の、少し前。

SJ2が始まって、ちょうど10分経過の直前だ。

 

それ即ち。

 

「そろそろですね、1回目」

「お願い、ピトさんの近くに……!!」

 

サテライト・スキャン 第1回目の時間までもうすぐだ。

 

「いやいや……どうせマップの隅のどこかっしょ? 言うて大差ないって」

「フカちゃん、3分の1でど真ん中突っ切らなきゃいけなくなるんだよ」

「え? あっ、そっか……そうだわ……」

 

祈るレンの横で、漫才に似た何かを披露するフカとミーシャル。

 

それも仕方のない話。

 

二人は遠距離支援専門で、この状況でやることがないのだ。

近距離を警戒するも何も、最強も最強が周りにいる。

 

加えて中・長距離はシノンがいるし、マジでほんとにやることが皆無なのである。

 

 

 

「来た!!」

「おっ」

 

 

 

するとレンが思わず声を上げる。

スキャンが始まったようだ。

 

今回のスキャンは、真北から。

ゆっくり舐めるように進むスキャンに、マップ上に光点が次々に出現しだした。

 

「PM4……PM4……」

 

変な呪文のように唱えつつ、片っ端から光点を触るレン。

手で触れなきゃ名前が出ない設計なのがなんとも意地悪。

 

そんな様子を見守るタスク。

彼もまた、レンの手が届かない所の光点を次々に触れていく。

 

そして。

 

「うっっっわ……!?」

「レンー?」

 

まるで最悪、と言わんばかりのレンの声に、フカが思わず声をかけた。

続けてレンをふと見ると、それはそれは典型的な苦虫を噛み潰したような顔。

 

「……まさか」

「引いちゃったんだね……」

 

怪訝な顔になったフカ。

その隣で息を着くミーシャル。

 

そんな2人と、周りを警戒し続けるシノンとキリトに、レンは一言。

 

 

 

 

 

 

 

「PM4、南東の角」

 

 

 

 

 

 

対極も対極。

 

最も遠く、最も都合の悪い位置に、ピトがいた。




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Episode186 贅沢 〜The luxury plan〜

スキャンを眺めたレンが一言。

 

「とりあえず、南東に行く」

 

続いてタスクが返して一言。

 

「了解しました」

 

レンの一言とタスクの二つ返事で決まった方針により、一行はとりあえず最短ルートでピトの元へ向かうことにした。

 

「一番近くにいるチームまでどれくらい?」

「えーと」

 

すると、端でスコープを覗いていたシノンが目を離して近づいてくる。

 

「1500メートル南。他チームはむしろ離れた」

「ほとんどのチームが中央に向かったみたいです」

「ふぅん……じゃまぁ、初戦は彼らね」

 

そう言ってシノンが指したのは、一番近くに存在を示されている光点。

 

自分たちの前に横たわる大通りを南下した先にいるチームだ。

 

「進む方向にちょうどいるし、変に迂回すると背中を取られそうだし」

「衝突はむしろ避けたくないですね」

 

レンの言葉にタスクも頷く。

 

 

 

 

 

どうやら決まったようだ。

 

 

「うわわっ」

 

その瞬間は、突如やってきた。

 

『フカちゃん!!!!』

「キリトさん!! シノンさん!!」

ドォォォォォン!!!!!

 

 

 

ブービートラップである。

 

 

 

「ミィ!! 彼女を!!」

『おっけいおっけい……!!』

 

無線から聞こえるミーシャルのキツそうな声。

 

それだけでも分かる。

彼女はフカを引きづっている。

 

つまり完全にやられてはないということ。

 

「レンさん!! フカさんがやられた、ミィが側にいるから大丈夫、キリトさんとシノンさんがこっちにダッシュ中!!」

「りりり了解!!」

 

矢継ぎ早に飛んでくるタスクの報告を何とか頭に入れ、レンはすかさず行動に出る。

 

「タスクさん!! 牽制お願い!!」

「了解!!」

 

タスクに一言がなって、レンは道路に飛び出した。

 

フカとミィがいるのは、敵に対して隣の家。

 

敵が待ち構えているのを遠目から把握していた一行は、かなり手前から分散と包囲網を兼ねて横に広がって前進していたのだが。

 

それが災いし、まさか敵の目前で真ん中にいたフカがダウンしてしまった。

 

「しまった……フカをカバーしやすいからって他4人で挟むことばっか考えて……」

 

レンは家を飛び出し道路に踊り出る。

 

「フカが敵の目の前に来るのを完全に忘れてた……!!」

 

敵に目視されたレン。

掃射を受けるが意に介さない。

 

「トラップなんて……目の前の死角に置くに決まってんのに……!!」

 

レンの自己嫌悪が止まらない。

極めて基本中の基本であるが故に、なおさら。

 

すると次の瞬間。

 

『いや……むしろ正解ですよ』

「!!」

 

タスクの一言が、無線から聞こえてきた。

その瞬間、鳴り響く銃声。

 

『1名ダウン、2名負傷。下がらせました』

『シノンよ、位置に着いた。撃っていいなら撃つけど』

『キリトだ。俺も行ける』

 

三人の無線が頼もしい。

 

ミスはともかくとして、レンは一旦退避することにする。

 

無理に突っ込むのはナンセンス。

仲間がいるなら頼るが吉。

 

「……よし」

 

そうして、横の民家に飛び込んだレンは、息をふぅ、と吐き出した。

 

『……どうします、レン』

「……!!」

 

あくまで淡々としたタスクの無線。

 

銃声は変わらず響いているが、どこか消極的だ。

おそらくは牽制射、膠着状態だろう。

 

膠着した状態で最も厄介なのは、その()()()だ。

 

打開すべく動けば必ず相手に隙を見せることになる。

だからと言って待ちの姿勢では消耗するだけだし、第三勢力の誘引もにもつながる。

 

ならばと全方位警戒をすればそもそも相対している相手の隙を見逃しかねないし、かといって全集中は言わずもがな危険。

 

 

 

結果。

弾薬、気力、時間の消耗だけが続く。

 

 

 

続けることによって失われるものと、それを止めるべく動くことによって失われるものが、絶妙に釣り合って歯がゆいのだ。

 

『……レン』

「っ……!!」

 

無論。

そんな状態を続ける意味はない。

 

……それに。

 

 

 

 

 

「頼れることは、間違いないもんね」

 

 

 

 

 

今のレンには、()()()()()()()()

 

『……タスクさん』

『……』

 

自然と無線に手が伸びたレン。

タスクは沈黙を持って答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『贅沢しても……いい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わらず沈黙を貫くタスクの無線。

しかしどこからか、笑みを感じた。




ご無沙汰しております。
駆巡 艤宗でございます。

いやぁ、今年ももう終わりかぁ……()

なかなか投稿できない中で、細々と続けてきたこの小説。
年末にあと一話だけ、と頑張らせて頂きました。

次の投稿はあけましておめでとうですね。
良いお年を、と言わねばなりませんね。

私自身の職を色々したり、別名義でYouTubeチャンネルを始めたり(Twitterから飛べます)。
色々大変な年でした、本当に。

この小説はこれからもまだまだ続きます。

が、しかし、今年の更新はここまで。

良いお年を!!
来年もよろしくお願い致します!!

駆巡 艤宗

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Episode187 楽しんで 〜Have fun〜

「うん、それでいいんです」

 

タスクが面白そうに笑う。

 

レンからの無線。

たった一言、『贅沢してもいい?』

 

その言葉が示さんとする意味は、字面以上のものだ。

 

 

 

 

『えぇ、もちろん。楽しんで』

 

 

 

 

無線越しのレンの息遣いに、明らかな変化が見て取れる。

タスクはふふんとほほ笑んだ。

 

『シノンさんはその場を維持。敵が側面に逃げないようにしてください』

『了解』

『キリトさんは一旦大丈夫。万が一飛び込んできた際に対処できるようにフカ・ミィのそばに』

『分かった』

 

無線でやりとりした直後、シノンの無線が切れる。

集中している合図だ。

 

キリトも、隙を見て建物間を移動しているのが確認できる。

 

そして。

 

『……タスク』

「!!」

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

 

『……どういたしまして』

 

レンの端的な無線が耳に届いた。

途端、耳をつんざくような銃声が鳴り響く。

 

「……」

バババ!!!!

 

銃声から察するにかなり善戦……いや。

 

()()しているようだ。

 

「……ふむ」

 

手助けはいらなそうだ。

 

身を隠しているタンスの後ろで、タスクはどっかり腰を下ろした。

銃声とかすかな悲鳴を聴きながら天井を仰ぎ見る。

 

彼女……レンは、いわば「遠慮」をしていた。

 

ただ単純に初対面がゆえか、それか裏にある()()がゆえか。

それともメンツがメンツなゆえだろうか。

 

かなりの量をこなした練習の中で、かなり打ち解けはしたものの、やはり実戦となるとまた変わるもので。

 

練習時とは違い、そこには「()()」が生じる。

 

「でもねぇレンさんねぇ……」

 

タスクはひとり、否定する。

そして。

 

 

 

 

 

 

「あなたの魅力は、その先にあるんだよネ」

 

 

 

 

 

 

タスクはひとり、微笑んだ。

 

 

「ごめんよぉ〜ごめんよぉ〜ほんとうにごめんよぉ〜」

「いいっていいって、ありゃ無理だよ」

 

数分後。

全ての敵を片付けたレンが戻ってくると。

 

 

 

 

 

そこには泣いて土下座するフカがいた。

 

 

 

 

 

「……なにこれ」

「えなんか……ずっとこうで……」

「……何食べてんの?」

「あこれ……ちゅーるれーしょん……」

 

シノンやキリト、そしてミーシャルが必死にフカを慰める奇妙な構図。

それを細長い何かを食べながら見守るタスク。

 

そして、それら全体を帰隊した瞬間に見せつけられたレンの微妙な顔。

 

「……はぁ」

 

頼りになる仲間達はどこへ? てか今試合中だよね?

いやというよりフカお前何やってんだよそれくらい妥当だよ!!

 

言いたいことが次々頭を駆け回るが、どれも絶妙に不適切な気がする。

 

「ふふ……」

「?」

 

ふと笑う声がする。

見ると、タスクが笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう」

 

レンはようやく、タスクの言葉の意味がわかった気がした。




お久しぶりです。
駆巡 艤宗です。

最近色々忙しくて全然触れませんでした……泣

別名義でYouTube始めたり、色々プロット整理したり。
ある種準備のためのお休み期間、と言ってもいいかもしれませんね。

またポツポツ上げていきます。

まだまだ伏線残ってるしね……(笑)

ではまた。

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