忘れられた龍の秘跡 〜MonsterHunter Legend 〜 (妄猛総督)
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プロローグ
エピソード: zero 時は過ぎ、忘れるモノ


ーーー これは小さな、されど一つ間違えれば世界が壊れてしまったかもしれない災厄を起こす龍達について語る物語の断片だ。

 

それは今この時代に生きる者には語られる事はない。

 

彼らは今眠っている。どれ程の激動があったとしても目覚めない。

 

いにしえに語る石版にもモノリスにも書物にも描かれない。

 

口伝でのみそれを知ることが出来る。

 

 

さあ、世界の真実その一端に君達は触れる時だ。

 

それを聞いて君達は信じるか?殆どは信じないだろう。口伝だけでたった1人の語り部が綴る龍の姿を、大自然の象徴『古龍』、

 

 

(しん)(りゅう)』と呼ばれた存在と

 

三界の巨龍と呼ばれた者達を可能な限り見ていこうと思う。

 

みんな、準備はいいかな?では、始めようーーー

 

 

 

ひらひらと白いワンピースを着た少女はいつ建てられたかもわからない古びた塔の頂にて静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

険しく、雄々しい槍のようにそびえ立つ山脈の麓、シャーナ村。

その夕暮れにそれはきた。

 

ここに気球船に乗って1人の学者風の男と護衛だろうかハンター四名が降り立った。

彼の名は『リッカート』。ドンドルマの大長老からこの地域の調査を命じられてやってきたのだ。

 

エリエンテ地方ともいわれるここは未だ見たことのない生物の生態系が見ることが出来、豊富な資源にも恵まれた豊かな場所である。

初めて訪れる新天地(フロンティア)にリッカートもハンター達も興奮が抑えきれない。そんな彼らに近づいてくるのはここのシャーナ村村長だ。

 

 

「おやまあ、よくぞ来てくれたねぇ。歓迎するよ。」

 

見た目はポッケ村の村長と同じくらいか。だが特徴的な耳は竜人族の証。かなり高齢で多くの叡智を持っていると推測できた。

 

「初めまして、村長さん。私はドンドルマの古龍観測隊所属のリッカートと申します。」

 

まずは挨拶。どんな時でも挨拶は大切だ。

 

「まあ、聞いてるよ。後ろのハンターさん達はこの村にしばらくいることもね。」

 

どうやらここにくる前に通達か何かで知らせてあったようだ。だとするならば話も円滑に進むだろう。

 

「そうですか、なら話は進めやすいですね。そうです。彼らはここで専属のハンターとして派遣されました。私は調査を命じられましたが彼らのサポーターでもあります。どうかよろしくお願いします。」

 

「そうかい、なら頼もうかね。まずは歓迎の催しをせんとな。詳しい事は明日聞くでね。今夜はゆっくりしていってくれ。」

 

かたじけない、そう返事をすると村長はニッコリと笑い今度はハンター達に体を向けた。

 

「では主達の部屋を案内しておこうかね、こっちについてきてくれんか。」

 

村長の小さな背中を追いかけながら村の中を順繰りに見ていく。それなりに交易があるようで時折複数のキャラバン商隊が見える。

 

大きく立派な建物があり、ギルドの紋章が見えるためおそらくは集会場だろう。

 

その隣には香ばしい香りが漂うため飲食店なのだろうと推測できた。

飲食店の名前が彫られた看板があり、『シャルケン食堂』と書かれている。

その隣には武具屋があり、その中にオトモ用の武具屋がある。ハンター達は武器や防具が気になるのか妙にそわそわしている。まあ仕方ない、ハンターたるサガだ。大目に見ておこう。

 

「おや、武具屋が気になるかい?なら見ていくといい。」

 

村長の許可が降りたのを知ると4人は真っ先に武具屋に向かっていく。

 

「へい、らっしゃい!何をお求めで?お?見ない顔だねあんたら。新人ってわけでもないな、それなりのランク持ちか。あいよ、武器ならこんなものがあるよ。」

 

そう、彼らは新人ではない。ドンドルマの大長老が召集したG級ハンターだ。中にはメゼポルタ出身までいる。

自分も気になったので少しだけ見せてもらうことにした。

やはりというか自分達が知るモンスターの素材で出来た武器が少ない。やはり討伐などをこなさないといけないようだ。

 

「そりゃ、そうさ。なんたってこのエリエンテ地方はあんたらの住んでる地方とは全然違うんだからな。例えばこの辺でよく見かけるモンスターといえば鳥竜種で『エルドゥス』なんてのがいる。こいつは羽毛を持っててな、木から滑空するように獲物を襲うんだ、まあ、そいつは親玉の『ドスエルドゥス』がやるんだ。『エルドゥス』は獲物を円で囲み逃さないようにする。こいつから作る防具は流水というスキルがつくぜ。どんなスキルかはつけてからのお楽しみだ。」

 

鳥竜種『エルドゥス』。聞く限り他の種と比べてかなり独特の進化を遂げたようだ。木から滑空するように獲物を仕留めるのはナルガクルガを連想するがおそらく素早さはそれに引けを取らないと思われる。

 

もし、仮に狩猟してきたら、素材の一部は提供して欲しいものだ。我儘かもしれないが生態系を知る為だ。我慢して貰いたいところ。

 

あらかた見終わったのか4人は村長の所に戻ってくる。

 

最後に目に入ったのは神殿、そういう見方しかない建物があった。聞いてみると巫女兼語り部が住まう場所なのだとか。

 

「あれはね、エリエンテ地方の伝承を口伝する巫女が住んでるのさ。この村の掟でな、この地方の伝承、伝説は口伝だけしか伝えてはいけないのさ。でも、口伝だけでは伝承は磨耗し、有る事無い事が付け加えられてしまう。学者さんがきてくれて助かったよ。記録に残してくれてありがとう。これで悪しき風習から解放される。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの後、夜になり歓迎の宴が催された。私は酒の席で、この地に眠る古龍の伝承を聞いて見た。

 

聞いてみれば古龍観測隊に秘蔵する書物に記されてない古龍が聞くことが出来た。私は羊皮紙とペンを走らせて色々な人々に聞いてみる。

 

 

 

聞き込んで見た結果、口伝だけとはいえ信じられないことを知ることができた。

 

 

巫女や母親が子守唄として語るのだが聞いてみると驚愕する。

 

歌詞としてはこうだ。

 

 

 

眠れ、眠れよ天を統べる者よ。

 

祖なるものが抱く揺り籠で。

 

目覚めの時は訪れない。

 

子が育ち、地に満ち、溢れる大地よ

 

人の踏み込まぬ大空の

 

天に浮かぶ浮島に今は眠れよ天空龍。

 

 

 

静寂に微睡む母なる海に

 

光届かぬ岩底に

 

砂の蓋を閉じて

 

今は眠れよ、眠れ。

 

煌めく王冠は群青に輝き

 

ホウズキの瞳は深淵を知る。

 

貴方は目覚めの時は訪れない。

 

静かに眠れよ海王龍

 

 

 

 

永遠の愛着を求め

 

彷徨う大地よ

 

何もいらない

 

何も知らない

 

ただ、静かに眠れよ、眠れ。

 

その背に世界樹を背負い、

 

何処の最果てを求めて、

 

ただ微睡みの底に帰る時

 

今は眠れよ峰陵龍

 

 

 

 

 

最後に四つ目があるらしく、軽く酔った村長が教えてくれた。

 

 

 

三界ノ龍帝滅スル時

 

 

星ハ終焉ヲ向カウ

 

 

星ノ命ヲ糧トシテ

 

 

星ヲ覆イ全テヲ喰ラウ

 

 

汝ノ名ハ何カト尋ネルト

 

 

其ハ大地ノ全テヲ翼トシテ

 

 

星々ヲ喰ラウ『神龍』ナリ

 

 

 

 

人ニ語ル事ナク地ノ底デ

 

 

タダ眠ルノミ

 

 

 

にわかに信じられない。まるで黒龍伝説のようだと思った。そもそも黒龍伝説は禁忌だ。それが湾曲されて作られたと思ったがそれにしても違和感がある。

 

私の勘が告げている。

 

この伝承で語られる古龍は目覚めさせてはならないと。

 

私は酒を飲むことを忘れて、羊皮紙にペンを走らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日を境に数ヶ月後メゼポルタの飛行船が、天に浮かぶ浮遊大陸を発見したという。

 



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エピソード:01 探索、浮遊大陸1

時は移ろい、メゼポルタのギルドマスターは最前線のG級ハンターを招集していた。

理由は勿論新たに発見された『浮遊大陸』である。どのような原理で浮いているのかは謎であるがそこを開拓できれば新しい発見に繋がる。

当然未知な場所なので未熟なハンターは探索に参加できない。ドンドルマの大長老は昔、何かが眠っていると聞いていると言っていたが‥‥‥。

ともかく天廊や最果ての地など切り開いていかないといけないのだ。

 

 

パローネキャラバンと連携して浮遊大陸に出発する気球船を遠目に眺めながら、これで3回目の出発を見送る。今度は範囲を広げていく方針でハンター達に伝えてある。

 

 

 

 

Now・loading〜

 

 

 

「見えたぞ!」

 

「あれが浮遊大陸‥‥‥‥!!」

 

「すっげぇ、ほんとに大陸が空に浮かんでる。なんで今まで見つかってなかったんだ。」

 

「中央の大きなのを中心にして後はさほど大きくない小島で構成してるのか。だとしたら着陸地点を確保できるな。」

 

「大陸って言うけど実際大きな島が浮かんでるだけじゃない?大陸ならもっとでかいと思うんだけど?でも綺麗なとこじゃない!!」

 

 

この気球船に乗り込んだハンター達は皆最先端の戦線を潜り抜けた猛者だ。それでも新たな発見の前に興奮を隠しきれないようで双眼鏡を手にしてワイワイ騒いでいる。

 

「おーい、てめえらはしゃぐのはそれまでにしておけ。なにが起こるか分かんねえんだからな。今から先遣隊が作成した地図を配る。といってもほぼ即席な奴だからこれから俺たちが綿密に作成しねえといけねぇ。よって班を二つ作る。」

 

甲板に1人のハンターがやってくる。名前は『オルト』。今回の調査のリーダーであり、単独で【妖星のミラボレアス】を撃退した英雄である。

 

「地図を作るのは共通だ。一つは生態系を確認しながら、安全地帯、クエスト出発地点を確保だ。もう一つは何処になにがあるのか採取、採掘地点の確認。それらを地図に記録し、綿密な地図に仕上げてくること。」

 

「この浮遊大陸はかなりデカイ。この地図でも半分は記録できてない。あそこ全て記録するには最低でも五年はかかる。だが俺たちに五年以上ここにいられる訳じゃない。何度も調査員が送られてくるはずだ。帰りたい奴はきた奴らと交代する形にしてくれ。」

 

オルトの言葉を聞き逃すまいと全力で聞いている。

 

「さあ、新天地(フロンティア)の開拓だ!野郎ども、気合の貯蔵は充分か!?」

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!!!!!!!!!

 

木霊する雄叫び。ハンターの声が重なり、気球船を大きく揺らすほどに。

 

気合は充分だと大きくうなずくオルト。だが彼らはこの後ここに来たことを後悔する。浮遊大陸の後方に大きな嵐がやって来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切り立った崖の中腹にある岩の割れ目。そこから鉱石が覗いていたのでピッケルを使って掘り出していく。

カーン、カーン。

 

「うし、これはマカライト鉱石だな、こっちはクラーレアム鉱石!そしてこれは見たことない鉱石だな。サンプルにしよう。おーい、そっちどうだー!?」

 

 

「似たもんッスよ!俺らの知ってる鉱石ばっかりだ!」

 

「やりぃ!新種類の鉱石掘り当てたぜ!」

 

「マジか!戻ったらお手柄じゃねえか!」

 

戦勝ムードで喜んでいる矢先背後いや、近くで崩れる音がした。

 

ドーーーーーン!!ガララッガララッ‥‥‥

 

「どうした!怪我はねぇか!」

 

「怪我はない!ただ壁が崩れて‥‥‥見通しが効かない空洞が‥‥‥‥‥。」

 

深さはわからない。信号灯を落としてみるがその光が見えないとこまで落ちたようでその明かりも役に立たない。

 

「報告だな、一旦引き上げるぞ。ここは危険だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサッ、バサッ!

ひらけた草原のような場所で採取する組がいた。近くには林があり豊かな自然を感じられる。

 

「ふう、あまり変わらないわね。キラビートルにタロウ虫、マンリキノコギリ、あら、綺麗な蝶。図鑑にはない、新種ね!」

 

 

虫網を草むらに振り下ろし、掛かったものを確認する。

 

「?どうしたの、何か見つけた?」

 

女性ハンターと同行してた男性のハンター、ハンマーを担いだその人は地面の土を何度もすくっては捨てるということを繰り返していた。

 

「‥‥‥‥‥‥、おかしい。」

 

え?っと女性ハンターは首をかしげる。なにがおかしいのか、さっぱりわからなかったからだ。

 

 

「動物が、1匹もいない。」

 

「隠れてるだけなんじゃないの?ほら、私たちぞろぞろやって来たし。」

 

「いや、痕跡すらないんだ。植物や昆虫といった小さなものは今見つけているが、動物の足跡や糞、獣道、全てがない。」

 

その意味を理解した時、おぞましいナニカを感じ取った。第一線で狩りをするハンターだからこそ理解したことだ。

 

 

「ここは一体なんなんだ‥‥‥‥‥‥。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、こなくそ!!む、むぅーーーー、ディヤァアアア!!!釣ったぞおおおおお!」

 

「はぁ、喧しい!!魚が逃げるだろうが!!空気読め!この脳筋が!!!」

 

「お前も充分喧しいんだよなぁ‥‥‥。」

 

 

彼らがいるのは浮遊大陸の中央に近い大きな湖だ。ここを発見した彼らは仕事と気晴らしを兼ねて釣りを楽しんでいた。

 

この湖は地下からの湧き水で構成されているようでかなり澄んでいる。今まで釣れたものはカジキマグロ、サシミウオ、黄金魚、など彼らの知る魚だけであった。

 

 

「ふああぁ、特に変化はねぇや。眠たくなってくるわ‥‥‥。」

 

「だな、暇だ‥‥‥‥。てかあいつもう寝てるしな、さっきまで騒いでたのに。」

 

「ZZZZZZZZZZZZZ!」

 

そう、ここは比較的変化が少ない、昼間のうちは‥‥‥‥。

それに気づくにはまだ早すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???????のエリア

 

 

それはこの浮遊大陸の主人で誰も踏み込まぬ地下深く凍てついた絶対凍土の中にそれは眠っていた。

 

 

何処からか転がって来た信号灯の明かりが消えゆく瞬間にそれを写しあげた。

 

 

 

体型は竜蛇型、頭部は大型モンスター四頭半ほどの大きさを持ち何より特徴的なのは牙ともいえる天に伸びた吻だろう。

 

更に胴体、腰にそれぞれ一対の翼を有している。

その大きさは、並みの超大型モンスターを遥かに凌ぎ、これに対抗できるモンスターは「絶島主」と天剣の蛇龍ぐらいだ。

 

そんなナニカは眼を閉じたままであり目覚める兆候はなかった。死んではいない、挫折聞こえる心音は微弱ではあれど確かに生きている。

 

それの体には胸に大きな穴が空いていた。塞ぎかかって新たな皮膚が形成されている。

信号灯が写せたのはそこまでだった。あとは暗闇だけが広がっていった。

 

この浮遊大陸に踏み込んだ彼らがここに辿り着くにはまだ早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてある地方において全天と神の座を賭けて古びた塔の上空で祖なるモノと闘い、傷付き深い眠りについたという伝説がある。

 

いつの日か再び再戦するために‥‥‥‥‥。

 

 

 



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エピソード:01 探検、浮遊大陸2

「動物のいない浮遊大陸か。ケルビとかはいそうな感じはあったんだがな。それと持ち帰ったこの鉱石‥‥‥‥。龍属性が活性化されている。俺の武器の属性値が二倍になってやがる。何だ、これ‥‥‥。」

 

 

オルトは夜間のこの時間調査を打ち切り戻ってきた班の報告を聞き、地盤、空中に浮いている時点で地盤が〜はおかしいと思うが地下が空洞だらけなのではないかという割と冗談では済まない仮説が立てられていた。

 

更に地表部分には生物が痕跡すらないと報告を受け、ますます怪しいと感じてきていた。

 

 

様々な班から報告を受け取るとオルトはため息をつく。地図の作成は順調で意外とすんなり進んでいるようだ。

 

あとこれが一番重要なのだが

 

この浮遊大陸は移動する。およそ一時間に200メートルは進んでいる。移動速度は遅いものの無視は出来ない。最悪嵐龍の支配する暴風圏などに突っ込んだりすれば即座にお陀仏である。

オルトは自分たちの知る地図に浮遊大陸が移動する地点を計測をしている。測定器を使い、目に見える見知った場所、狩猟地の距離とここの地点を照らし合わせおおよその移動ルートを算出する。

 

おおよその場所が分かれば気球船に乗っていく必要が減るのだ。

 

 

 

「ハァーーーー、徹夜かなぁこりゃ。」

 

地図と睨めっこしながら盛大に溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

「深いぞ、ロープ足すか?」

 

 

「頼む。ロープを伸ばしてくれ。これ以上進めない。」

 

 

重装備な格好ではなく採掘するための装備を着込んだハンターの1人が身体にロープを巻きつけ、鉱石を探す際発生した洞穴に潜入していた。

深い洞穴だが順調に進んでいったが、突如何かに引っかかり、行動出来なくなる。

 

 

 

「どうしたーーー!?」

 

 

「穴が狭くて入らない。ここが限界だ。引き上げてくれ!!」

 

 

洞穴はさらに続いていたが、人が通るには狭すぎる穴になっていたのだ。

 

彼らの洞穴の調査はここで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間、誰もいない物静かな浮遊大陸の一画、とある湖で。

 

 

 

ある時間が経過した時湖は急激な変化を見せた。それは湖の中心部で巨大な渦潮を発生しながら周りの水を巻き込み次第にその量を減らしていく。

ゴボゴボとではなくゴゴゴゴゴゴゴと音を立てながら渦を巻く光景はさながら大海原の大渦潮のようである。

 

全てが収まった時、そこには中心部に巨大な大穴が開いており、周囲には魚がビチビチと跳ねていた。

 

中心部にある大穴は何処までも深くて暗く見えづらい。

 

ただ深く暗い底には凍てついた永久凍土から漏れる冷気が穴から吐き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ、お話がございます。」

 

それは赤い服をきた謎の出で立ちをした男。顔はフードに隠れて表情が見えない。そんな彼が見つめる先は古びた塔の頂、その上空である。

 

雲から漏れる木漏れ日を背景に暗闇でもその存在を照らす白銀の体毛と何処までも白な体格をした龍がいた。

 

龍は早くしろというように首を軽く振る。

 

「蒼穹の天帝が目覚めつつあります。このままいけばハンターによって復活してしまい、最悪【三界の龍帝】全てが目覚め貴女様と対を成す【神龍】が目を覚ましてしまいますぞ。いかがなされるのか、お聞きしてもよろしいか?」

 

白い龍はカッと輝くと人、純白のワンピースを着込んだ少女に姿を変えた。そして、重力を感じさせずゆっくりと垂直に降下してくる。

 

トンッ、と軽く地面に着地すると赤い服をきた男を見つめてくる。

 

「天帝が目覚めるの?確かにまずいね。」

 

ならば、どうするのかと男は声を出そうとしたが「でも、」という言葉に遮られて出す機会をなくした。

 

「それはそれ、目覚めたらでいいんじゃないかな。それに、私としては天帝と決着つけたいし。あの戦いは実質相討ちなんだよね。天帝は胸に私の雷を喰らい、私もあいつの雷霆を心臓に当てられたからね。」

 

「ならば、神龍に関してはどうなされるのか。あれが目を覚ませばどうなるかは分かっておられるでしょうに。」

 

 

「神龍は兆候が出たら即対応するよ。あれは文字通り星を食らう。大地の化身のラヴィエンテや天剣のダラ・アマデュラなんか比較にならない。だってそうでしょ?星を卵としてその中で眠り、時が来れば羽化して卵たる星を食らう。そして新たな命の星を目指して星海を彷徨う怪物だ。古から星を知る私たちと精霊が力合わせないとまともに相手にならないよ。」

 

「かの神龍を知る知己は数少ない。人間ですらほとんど知らないんじゃないかな。」

 

「人間であるハンターでは神龍に太刀打ち出来ますまい。神の領域でなければ文字通り紙のように吹き飛ぶでしょうな。」

 

「だろうね、でも今はまだ時期じゃない。もう少し見ているとするさ。」

 

「‥‥‥‥‥っ、では私めはこれで失礼いたします。」

 

モヤのようにまるでいた痕跡がなく、そのまま男は姿を消した。あとに残る少女も光になって消え、残るのは古びた塔のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

騒がしい。

 

 

 

 

 

 

 

騒がしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

やかましい。

 

 

 

 

 

これはなんだ。

 

 

 

 

 

静かに眠っているというのに

 

 

 

 

 

 

我が物顔で我が領域に踏み入り

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りを妨げるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚かな。矮小な人の身でありながら

 

 

 

 

 

 

 

分をわきまえぬ愚か者め。

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、

 

 

 

 

 

 

牙を剥くだけよ。

 



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エピソード01: 探検、浮遊大陸 覚醒する天帝

「おい、なんだよこれ‥‥‥‥。」

 

 

それは彼らが以前いた場所とは大きく乖離していて原型を留めていない、綺麗な湧き水で満たされた湖のはずだった。

 

「知るか!この前釣りした場所がなくなって、現れたのはどでかい風穴だなんて知るかよ!!」

 

 

「ほお、てめえら地図作んのサボって釣りしてたわけだ。」

 

 

「あっ、」と声を漏らすとあっという間に調査団長オルトにぐるぐる巻きの簀巻きにされてしまい転がされてしまう。

 

 

「よーし、てめえら罰としてこの風穴に潜り込んで調査してこい。いやとは言わさねえぞ。」

 

 

有無も言わさず罰を伝える。釣りをしてた三人は否定できないので承諾するしかなかった。簀巻きにされて調査しろというのもおかしな話だが。

 

風穴は底から冷気を絶えず吹き出しており、ホットドリンクは必須であると思われた。一応慈悲として防寒に優れたマフモフSシリーズに装飾品をいくつかつけたものを渡されて命綱と一緒に風穴に降下していく。

 

光源は松明のみであるが先に閃光玉を投げて一時的に明るくしておく。モンスターさえ怯む閃光玉であるがこういった見通しの効かない風穴の中だとむしろ必須である。

 

数メートル間隔で縄梯子に金具を取り付けて取れないように固定する。

やがて最深部にたどり着くと雪山とかくや凄まじい寒さが彼らを襲った。

 

 

「クソ寒いな、ホットドリンク飲まねえと‥‥‥‥‥。」

 

 

「ヤベエよ、雪山や極海よりも寒いんだが‥‥‥!?」

 

 

「ホットドリンクと合わせて強走薬も飲んでおこう、おい俺の予備だ。」

 

「ありがたい、使わせてもらう。」

 

「サンキュー!」

 

 

 

 

 

松明を手に降り立った場所を見渡してみると、そこは本当に湖の底なのかと疑ってしまいたくなる光景だった。

 

 

それは形成されてから何千、いや下手をすれば万年単位で作られた天然の鍾乳洞。そして鍾乳洞のほぼ全て永久凍土に覆われているのだ。

 

さらに冷気を溜め込む永久塊が重さに耐えきれず崩壊していくのも見えた。崩壊する際に多大な冷気を吹き出して。

 

「っ、とにかく先に進むぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このフィールドを彼らは浮遊大陸地下鍾乳洞と名付けて羊皮紙を広げてエリアを確認していく。

 

彼らの持つ松明だけが唯一の光源であり、不安の拠り所でもあった。

 

 

「一つ一つのエリアがかなりの広さを持っているな。エリアは四つ。通路は大体小型モンスターなら通れる広さだな。」

 

「ああ、エリアの広さは最大で絶島地下並みの広さだ。これは骨が折れるぞ。」

 

「というか地上じゃ生き物がいなかったって言ってたよな。だったらよ、ここならいるんじゃね?」

 

 

彼らは今記録したエリアの中で最も広いエリアを探索していた。

 

 

最大の広さをもつエリアこれをエリアGと仮称しているがいかんせん広すぎるのだ。

 

絶島の主人であるラヴィエンテが三つ並んでいることが出来るほど。

 

此処まで広すぎると当然見落とすものもあり、見つけるものもある。

 

 

 

 

「ん?なんだこれ?」

 

「どうした?何か見つけたのか?」

 

 

「いや、これって‥‥‥‥‥‥、鉱石調査してた連中が投下した信号灯じゃね?」

 

「確かに‥‥‥‥、消えてるが‥‥予備がつけてあるな。着けるぞ。」

 

シュワッ!!と音が鳴り響きあたりを強く照らし出した。

瞬間だった。彼らの背中にゾクッとした感覚が走ったのは。彼らとて最前線で力を振るうG級ハンターだ。そんな感覚は新人でハンターなりたての頃、初めてリオレウスに対峙した時と同じでーーーーーー。

 

そして彼らは見てしまった。

 

 

信号灯が消えかけた時に映し出したものを

 

 

「おい、なんだよアレはよ‥‥‥‥‥。」

 

そうこぼした言葉で理解する。これは理不尽な塊。ハンターでは手に負えぬ、ギルドですら知らない古の大禁忌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤き衣の男と彼が王と呼ぶ存在からはこう呼ばれた。

 

 

 

 

 

【蒼穹の天帝】の異名を持ち、全天を支配し、世界を意のままに掴み取る古龍ーーーーーーー

 

 

 

【天空龍 : グラン・アガレス】と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

信号灯が映し出した時と違うのは、それは彼らを凍てついた大地の中から見つめていたことだ。

 

そして閉じ込められているからかその巨体を小刻みに動かし始める。やがて大きくなる振動とひび割れる永久凍土、崩れ始める鍾乳洞。

 

 

「やべ‥‥‥‥‥、逃げるぞ!!!!!!」

 

「言われなくても!!!!」

 

「やべえ事には変わらねえ!!」

 

暴れる事で次第に崩壊が大きくなり崩れる音が鳴り響く。振り向いている時間はない。足を止めれば待っているのは死だ。

 

 

彼らは死に物狂いで元来た道を全速力で走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴゴゴゴゴっっ!!!!

 

 

「な、なんだ!!何が起きた!?」

 

オルトは馬鹿どもを風穴に叩き込んでから目算二時間以上だった時のこと。

 

突如として浮遊大陸が大きく揺れだす不測の事態に陥った。

 

「ぜ、全員、避難だ!飛行船に全速力で迎えっ!!」

 

 

「オルトさんは!?オルトさんはどうするんですか!?」

 

 

1人の女性ハンターがオルトの身を案じて声をかけてきた。

 

「俺はアイツらを待つ。お前は先に行け、アイツらを拾ったらすぐ追いつくさ。」

 

そういうと女性ハンターは一度振り向いてからすぐ走り出した。それを後ろ目に風穴にかけられた縄梯子を見つめ続けた。

 

 

「早くしろよ、ずっと待ってられねえぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ドンドルマの大長老の前に1人の男がいた。

 

「久しいな、ドンドルマの大長老よ。」

 

 

「赤き衣の男よ、いやこう呼ばせてもらおう。アリストテレス。此度は何用に参ったのだ、言葉次第では、ギルドナイトに命じて捕縛させてもらう。」

 

剣呑な雰囲気に彼を取り囲むギルドナイト達。それを見てほくそ笑むアリストテレスと呼ばれた赤き衣の男。

 

「では、簡潔に。聞くがいい、終焉のラッパは鳴らされた。第一の災厄、【天帝】が目覚めた。我が王は【神龍】の目覚めを危惧しておられる。

【天帝】が目覚めたならば残る三界、【海神】、【世界樹】も目覚めるだろう。これを倒さねばならないがーーー、倒せば世界が終わる。星を喰われ骸と化すだろう。回避するにはただ一つ。精霊種について調べる事だ。かの者たちの封を解き、三界撃破に当てよ。」

 

「それだけだ。この星は急速に死に向かっている。終わらせたくば、急ぐ事だ。」

 

 

 

 

それだけを言い残し、ギルドナイトをくぐり抜けて窓から飛び降りる男。窓から覗いてみれば彼はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「急げ、飛行船は準備できてる!」

 

オルトは辛うじて調査に向かわせた三人を拾い、全速力で拠点を目指す。

 

「助かった、あんたが引き上げてくれなかったら瓦礫の下敷きになるところだ。」

 

「ああ、走りながらでいいか、オルト。俺たちはあの場所で見たモンスターについてだ。」

 

「結論から言うぞ?ラヴィエンテの大討伐と想定したモンスターだ。正直言って勝てる相手じゃねえ!」

 

 

三人から聞いた限り、この浮遊大陸の異変は浮遊大陸地下に眠っていたモンスターが目覚めたときの影響だと言う。

 

 

「詳しい話は後だ!まずは飛行船に乗り込むぞ!!」

 

 

少しでも早く、早く拠点を目指して走る。彼らは結論から言えば、飛行船にたどり着き浮遊大陸から全員脱出したとだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界を当てもなく漂い続ける浮遊大陸。

 

 

異変は突如として起きた。

 

まず大きな振動と共に中央の山脈が吹き飛び、多大な瓦礫が世界中に降り注いだ。

砂埃の中、飛行船を操作しながら彼ら調査団はそれを目の当たりにした。

 

 

 

 

 

もはや原型を留めない浮遊大陸に巻き付くように蠢く影。

 

 

身体は嵐龍アマツマガツチと同じく竜蛇型で翡翠色の鱗が目立つ。

 

頭部は王冠のように中央の巨大な角とそれには劣るが立派な無数の角を生やし、ラヴィエンテの牙のように大きくしなった牙。

 

背中には甲殻が発達したと思われる背ビレのような物があり、背中と腰に当たる部分にはそれぞれに一対の翼がある。

 

 

 

腕はさほど発達してないが、それでも大地をえぐり取る事が出来そうな鋭い爪を有していた。逆に足は退化しているのか泳ぐ形になっておりヒレ状になっている。

 

 

今、永き時の眠りから【天帝】が【天空龍: グラン・アガレス】がこの時代に天を支配せんと咆哮する。

 

 

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈緊急クエスト 発令〉

 

 

「目覚める天帝は万物を睥睨す」

 

クリア条件: なし (強制敗北)

 

受注料: 0z

 

報酬金: 0z

 

 

赤き衣の男: 遂に目覚めた天帝を君達は目にしただろう。かの者は我が王と神の座と全天をかけて争い痛み分けになった古の龍帝、その1である。

 

刮目するがいい、あらゆるモンスターを狩りし狩人たちよ今こそ真の絶望を目にする時である。

 

フ、フフ、フハハハハハハハハっ!!!ハァーーーーーハッハッハッハーーーーっ!!!!

 

 

 

 



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天の帝は空を夢見る
吠ゆる天帝 万物は大地に平伏すが如く


天帝こと【天空龍: グラン・アガレス】が現れた丁度数時間前にエリエンテ地方ではギルドの古龍観測所職員であるリッカートは特別に席を用意して貰ったこの地方の巫女との会談に臨んでいた。

 

 

 

「この度は、このような場をいただいてありがとうございます。」

 

深々と頭を下げて、感謝を述べたリッカートを巫女は静かに制した。

 

 

「頭を下げないでください。むしろ頭を下げるべきは私なのですから。」

 

 

「いえ、そのようなことをさせるわけには‥‥‥‥‥、いや話が続かなくなるので本題に入りましょう。」

 

 

 

「具体的には【三界】についてです。【天帝】とやらが目覚めたと聞きましたが。村人たちが大慌てになってましたよ。」

 

 

 

「そうですね、三界が目覚めたというのは事実です。」

 

これをご覧くださいと示された宝玉、数は三つ。トライアングルに配置されていた。

 

 

そのうちの一つ、若葉色に輝く宝玉が他の宝玉と比べてまるで生きているのかのように光り輝いていた。

 

 

 

「天帝は、いえ【天空龍: グラン・アガレス】は確かに目覚めています。これは本来ありえないのです。」

 

「ありえない?何故です?」

 

 

「天帝は竜大戦と呼ばれる大戦争よりも約二千年前に祖なる者、と戦い互いに痛み分けになり、」

 

言葉を区切り、更に続ける。

 

 

「傷ついたところを精霊が一柱、【幻天狐】により永久の眠りによる封印を受けたのです。ーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!》

 

 

その雄叫びはまさしく天地を揺るがした。比喩ではない、文字通り天が、地が、星が ーーーーーーーー

 

 

砕けんとばかりに世界全てに轟いたのだ。

 

 

それはここから反対に位置するバルバレの遺跡平原に住むモンスター全て、皆即死するほどであった。

 

当然間近にいたハンター達は、その咆哮に命を落とした者も少なくない。

メゼポルタが誇る最前線のG級ハンター、彼らの多くは超高級耳栓、耐震+2、暴風圧無効を備えるスキル〈豪放〉を持つ。中には最近発見されたモンスターの特異中の特異個体〈辿異種〉が行う超咆哮を緩和する耳栓強化を入れた彼らはいかなるモンスターの妨害行為も意味をなさない、そのはずだった。

 

 

「ぐ、ぐあ、ああああぁぁぁっ!!?」

 

「い、痛い、痛い!頭がぁぁあ!!」

 

「みんな、こっちだ!範囲ガードを発動する!その中なら体制を整えるはずだ!」

 

 

耳栓強化がないハンター達は鼓膜をズタズタに裂かれ、脳を高速で揺すられてまともに動けなくなる。耳栓強化があったとしても耳栓がない状態で咆哮を食らうような、要はあってもなくても致命的な隙を晒してしまうということだ。

 

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!》

 

 

 

轟く雷鳴、それと同じく晴れた空に重い雲が現れて、大雨が降る。古龍のブレスさえ耐えうる飛行船は天空龍が呼び寄せた神の雷霆の如く叩きつけた雷になすすべもなく機関を破壊され、一つ、また一つと墜落する。

 

調査団長たるオルトが乗る飛行船は天空龍の雷撃を巧みな操作でかわしていく。

 

 

 

「く、くそぅ!離脱出来ない!」

 

ピシャーーン!!

 

雷撃が飛行船のすぐそばに落ち、冷や汗が降りてくる。

 

結果論からいえばまともに動けるのはオルトを含めて六人のハンターのみでそれ以外の乗員は先程の咆哮で行動不能に陥っていた。

 

 

「ダメだ!バリスタを当ててるが全部弾かれる!」

 

「貫通弾もダメ!榴弾も、酸弾も効かないわ!!」

 

「新搭載されてる螺旋バリスタの矢はどうだ?」

 

「くそ!近接武器だから、バリスタしか出来ないとはいえ‥‥‥‥まともなダメージ見込めない!」

 

「とにかく離脱に専念するしかない!団長を信じるしか‥‥‥‥!」

 

 

 

がむしゃらに逃げながら、天空龍にバリスタやボウガンの弾などといった遠距離武器で怯みを狙うが、全て弾かれてしまう。

 

いや弾かれているというよりは到達する前に勢いを完全に殺されている、というべきか。

 

 

風の鎧ではない。ではなんなのか‥‥‥。それはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

「天空龍の古龍としての能力は、

 

『重力』です。無重力と過剰重力、二つを巧みに操るのです。副次的に天候操作、雷雨を呼び寄せることも出来るのです。」

 

 

「重力?つまり‥‥‥‥。」

 

 

「はい、いかなる攻撃も重力に晒されてはほぼ無意味になります。天帝以外の全ての生けとし、生ける者すべてかの者に平伏すことを強要するーーー星の影響を受ける私たちに彼に太刀打ちすることはほぼ不可能なのです。」

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

天空龍は目の前に無様に逃げ回る、己の雷撃を躱し続ける空飛ぶ一隻の飛行船に苛立ちを覚える。

 

彼がとった行動は単純でーーー

 

 

 

己の体で圧壊させる、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モンスター、急速接近!」

 

 

「近寄らせるな!撃て、撃て、ウテェェェェ!!!」

 

 

 

「不味い!奴め、巻きつくつもりか!」

 

 

 

ドオオォン!!!

 

 

ギュル、ギュル、グル‥グル‥‥!

 

「巻きつかれた!!」

 

 

「確実にこの船を落とすつもりか!総員、離脱用意!負傷者は戻り玉で拠点に戻せ!それ以外の奴は各自の判断で逃げろ!」

 

オルトは舵を取りながら、内通管で全部屋に通達する。

 

 

 

 

 

「戦闘できる奴は、巻きついている今がチャンスだ!攻撃して引っぺがせ!!」

 

 

 

 

 

 

巻きついたことで、近接武器のハンターは極の型全部器抜刀ダッシュ

を使い、攻撃を行う。

 

「喰らえ!」

 

 

「オラアァァァ!!」

 

 

「やアァァ!」

 

 

ハンマー、大剣、スラッシュアックスFであるが、大討伐と同じように直感であるが一番ダメージが当たりやすい箇所を攻撃する。

 

 

ガキン、

 

ガチン、

 

 

バッキィィーーン!!

 

 

が、すべて弾かれる。秘伝効果など意味は為さず、挙句武器の切れ味はほぼ一瞬で最低の赤になる。

 

 

「嘘だろ‥‥‥‥!」

 

 

 

 

 

絶望。

 

 

これ以外の言葉がなかった。

 

 

特にハンマー使いのハンターはG級進化武器のハンマーを使っていたが、不退込みでまるで意味が成さない事に言葉が、出なかった。

 

呆然とするハンター達を見下すように唸り声を上げる天空龍。

 

 

攻撃する不届きものに誅を下すべく、大きく鎌首を上げた。

 

そして、

 

 

すべて、すべて地に叩きつけられた。上から特大重量の岩を載せられるように飛行船を別としてハンターは皆甲板、床に縫い付けられた。それだけならまだ良かっただろう。

 

更にその上から更に押さえつけられて、内臓が悲鳴を上げ始める。

 

 

 

 

重力やられ

 

 

 

 

 

状態異常の一つ。

 

これを受けると身動きが取れなくなる。解除方法は時間経過のみでスキル、アイテムなどでは回復出来ない。

 

古の龍帝たる天空龍のみこれを操るとされていて、この力を持って全天と世界の全てを支配しようとしたという逸話がある。

 

 

 

「ぐあぁ‥‥‥‥!!ち、ちくしょ‥‥ぉ!」

 

「ごほ、ぐ、ゴボェ‥‥‥!」

 

「う、動け‥‥!俺の身体!く、クソおおおおお!!」

 

 

 

「いやあ‥‥‥死にたく、ない!」

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥つぅ‥っ!!」

 

 

 

 

 

舵をとるオルトは鉛のような重すぎる身体を気合いで舵をとる。、巻きついているからといえど脱出出来ない訳ではない。

 

これ以上は、全滅してしまう。

 

その危機感だけで身体を動かしている。

 

「人間、舐めんじゃねえ‥‥‥!!」

 

 

何度も、何度も、無駄とわかっていながら、操作するオルトを嘲笑うように飛行船は四方から、ゆっくりと潰れていく。

 

ミシ、ミシ、ギギギギギギ‥‥‥‥

 

 

「ちくしょお‥‥‥‥!ここまでか!!」

 

 

 

かつて、極征征伐戦にて使われた大型飛行船を改良した今回の調査用大型飛行船。

 

今、人々の目には人の技術の結晶とも言えるそれを巻きつきながらゆっくりと嬲るように圧壊されていく様は、人など無力であると見せつけているようで。

 

 

 

この日、天空龍と呼ばれるモンスターの襲撃により、第四回浮遊大陸調査は、調査員殆どが壊滅した。

 

 

ギルドはこのモンスターを新たに判明した地方、エリエンテの伝承に基づき

 

 

第一種禁忌指定として【天空龍: グラン・アガレス】と正式に認められ、全世界に震撼させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ、悪い知らせです。」

 

 

 

「時を同じくして、【海神】、【世界樹】の封印が解けかかっています。」

 

 

「【天帝】もここ塔を目指すでしょう。貴方との決着がまだなのですから。」

 

 

白い少女は目を閉じながら、赤い衣の男の言葉を聞き遥か先、地平線の彼方にいるであろう、眠りから目覚めた【天帝】を思う。

 

 

「あの日、天帝を堕とし、精霊に頼み封印したけど。結局、運命は変えられないんだね。」

 

「【神龍】が目覚めた時は、この身滅んでも必ず‥‥‥‥‥止める!今回は精霊には頼めない。人がいるこの時代に彼らはいてはいけないんだ。」

 

 

祖龍の化身である少女は赤い瞳に確かな決意を秘めて塔の奥へと消えた。

 

 



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猛進する嵐の王、目指せ天の頂

画像投入します。上手いとは言えない。


雷鳴が轟く。

 

空は分厚い雲に覆われその雲もこの世とは思えぬ戦火の空の如く。

 

 

翡翠色の鱗を内包するその巨体が空を唸りながら飛行する。

 

彼が目指すのはバシュバトム樹海、フォンロンの古塔、その頂上である。

 

【天空龍: グラン・アガレス】はかつての因縁に決着をつけるべく遥か遠き場所を嵐という戦火を従えながら突き進んでいく。

 

 

時節彼は、厚ぼったい雲を抜け、晴天たる高高度の空を駆けていく。

 

遥か遠くで自らが落とした人種の船が並行してついてくる。が、そんなことはどうでもよかった。

 

か弱い人間など、赤子の手を捻るよりも簡単なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高高度の空を生息地とする天翔龍や金塵龍、天彗龍を観測する高高度古龍観測隊のメンバーは遥か15000マイル離れた位置に突如現れたモンスターに驚愕する。

 

蛇竜種に、いや大巌竜によく似た体躯で二対の翼を備え、翡翠色の鱗が美しい。それだけではなく、背中の甲殻が発達した背びれは時節発光しており、その時には膨大な龍属性エネルギーが漏れ出していた。

 

 

「っ!隊長!!あれを!!!」

 

「わかっておる。あんなモンスター、見たことがない。長いこと生きてきたが何もわからぬ。」

 

 

「間違いなく、古龍でしょうね。サンプルが手に入ればいいけど‥‥‥‥‥。」

 

 

「やめておけ、あれには手を出すな。たった今思い出したが、アレは世界を終焉に導くいにしえの龍帝の一角じゃ。儂らには何も出来んよ。

 

 

天を駆けよ嵐の王、天空龍。

 

真祖と天の座を賭けて争うは

 

天地否、それ滅びなん。

 

天を駆ける天帝よ、全てを支配し

 

どこへ行かんーー

 

 

儂の故郷エリエンテの湖村に伝わる言い伝えじゃよ。」

 

 

「不用意に近づかなければ、いいのか?」

 

「残念だなぁ、新種でしょ?サンプル採りたかった〜〜〜。」

 

「諦めい、儂らも命は惜しいんじゃ。触らぬ神に祟りなし。この空域から離れるぞい。」

 

 

 

高高度古龍観測隊メンバーは未知なる新たなモンスターを目の前に、その危険性を危惧してその場を離れるのだった。

その判断は正しく、あともう少し留まっていれば雷撃を落とされ撃墜されていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空龍はゆっくりと塔への進撃を進めていく。

 

途中、縄張りを荒らされたと現れた天翔龍や金塵龍が雷ブレスや風ブレスをぶつけて来たが目立った傷も動きが阻害される様子もない。

 

ただ少し鬱陶しいと感じたのか自らの能力である重力操作で地上に叩き落としていく。

 

天空龍にとって自分以外のものは不要と考えている。天に昇るのはただ己のみ、それ以外は悉く疾く去ねというかのように。

 

 

更に高速で突っ込んでくる天彗龍もぶつかってくるところで何も痛くも痒くも無い。

 

 

空の王者リオレウスも雷の反逆者ライゼクスも空の山岳ヤマツカミも名も知らぬ飛竜種も関係ない。

 

邪魔立てすれば、堕とす。手をかける必要もない。この手で相対するは天を賭けて痛み分けにした真祖のみ。

 

 

ああ、見える。我が宿敵、天を焦がす赤雷よ。待っていろ、再び神の座をかける時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たね。」

 

 

「王よ、ご武運を。」

 

 

遥か地平の彼方、目視でも確認出来るいにしえの天帝を見ながら白い少女は赤い電気を纏い塔の上空へ飛翔する。

 

 

そして赤き閃光の中から現れたのは白い龍、だがそれはいつも見慣れている王冠のごとき角ではなく、三本の角だ。透き通るような青い角で二本は後方に伸び一本はまるでキリンのように前方に突き出している。

 

翼をは天使の翼のような形状ではなく、悪魔じみた刺々しいものへと変わっていた。

 

真なる祖。

 

祖龍と呼ばれる存在がさらなる段階を遂げた。アリストテレスはかつて天帝と争った時、そして砦跡で試練を成し遂げたハンターの前に対峙した時、その時顕現させた姿に歓喜した。

 

 

 

 

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!》

 

 

咆哮で塔が崩れ落ちていく。

 

そして飛翔。その余波で更に崩れていく古塔。

 

 

アリストテレスは再び起こるであろう神話の続きの戦いに思いを馳せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

真祖となった祖龍は遥か上空にて、かつての宿敵と対峙する。

 

己より何倍も大きい、天の皇帝に相応しい風貌、そこから滲み出る他者に対する絶対的殺意もーーーー

 

 

 

 

互いに持つ属性は同じ。ただ能力が違うだけ。

 

かたや『起源』という始まりを表す力。

 

かたや『星の力』、重力という密度や質量、重さに対して絶対的優位を持つ力。

 

 

 

 

 

祖龍は赤い雷を纏い、天帝は金色の雷を纏う。

 

 

 

 

 

今、神話の再現が古き塔の上空で行われるーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターリスト追加。

 

 

 

【天空龍: グラン・アガレス】

 

全長:不明

 

種族: 古龍種

 

モンスター説明

 

 

近年発見された浮遊大陸の奥部にて凍結状態で発見された古龍種。

調査隊の踏み込み調査により復活。メゼポルタの誇る飛行船を短時間で全滅させるという力の差を見せつけ、新区分である第1種禁忌指定となる。

 

メゼポルタ近海で目撃される大巌竜に似た体格を持ち、二対の翼を備えるなど、今まで確認されたどのモンスターにも当てはまらない特徴を持つ。

 

種族は不明とされたが、生き残った調査隊の装備に僅かに付着していた組織片を徹底調査したことにより、古龍の成分が確認された。これにより大長老と古龍観測隊により古龍種と断定された。

 

 

なお時を同じくして開拓を進めていたエリエンテ地方のにて本種と思われる伝承が存在したことが明らかになった。今後更に調査を進めていく方針である。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 



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神話の再現、現界するは夢幻の狐

戦いにbgmを脳内再生してください。

kalafina 『magia』、MHX『オストガロア第2形態』bgmなどがよろしいかと


天が震える。

 

 

赤き雷が、黄金の雷が古びた塔の上で互いにぶつかり合い、打ち消し、消滅していく。

 

天空龍の能力、重力操作により、塔の瓦礫が互いの雷でスパークし帯電、天空龍の従者として付き従う。

 

別に瓦礫を帯電させて攻撃手段とするのは、古龍種であるルコディオラなどが行うため珍しくはない。辿り変異したルコディオラも数が増えたがさほど変化はない。

 

 

が、問題は大きさだった。天空龍は帯電した瓦礫を寄せ集め、更に周囲の土砂内の鉱物を重力操作でガチガチに固めてそれを無数に生成する。

 

それは最大で、直径200㎞。ちょっとした小惑星である。

 

それを重力操作で巧みに操り、祖龍の視界を塞ぎ背後から同じものをぶつけていく。

 

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?》

 

 

わかっていたが、躱せなかった。物体の質量が桁違いであった為だ。

赤雷である程度砕いたが、焼け石に水で、圧倒的質量がぶつけられてやや、体制を崩してしまう。

 

その隙を見逃すわけもなく、追い打ちとばかりに、重力操作で祖龍の周りの重力に過負荷を掛け撃墜を試みる。

 

なんともあっさり堕ちていく祖龍は塔に激突する。幾多もの瓦礫を撒き散らし更にその上に瓦礫や土砂が降り注いで祖龍を覆い尽くしてしまう。

 

瓦礫に埋もれた祖龍を遥か上空にて眺める天空龍はいつでも祖龍の反撃に対応できるように体制を万全にしている。

その判断は間違っておらず、直ぐに瓦礫は赤雷により木っ端微塵に吹き飛ばしていく。僅かに血が滲んでいるが、闘志は薄れてはおらず喝を入れるように大きく咆哮する。

 

 

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!》

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!》

 

 

 

負けじと天空龍も大きく咆哮し、両者の咆哮は激突時に凄まじい衝撃波を伴い、空間震が発生する。

 

そして周りに降り注ぐ赤と黄金の雷が全てを壊し、無へと送り返している。

 

 

それはまさしく神話の再現であった。ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、避難です。急いで〜〜!!」

 

「押さないでください、慌てず落ち着いて避難してください!」

 

ギルドの職員とハンター達の誘導でフォンロン近くの村や町には避難勧告が即座に発令された。

 

神話の再現に人間が割り込もうなど、塵に帰すなど生ぬるい。大長老はアリストテレスの言った通り、天帝と呼ばれた古龍が今塔で白い龍と戦っていると情報が流れた途端、真偽を確かめる間も無く即座に避難勧告を発令した。

 

 

「ふう、此度は‥‥‥、我らもハンター達に任せるということは出来んのう‥‥‥。」

 

「仕方ありません、大長老。あれは存在が桁違いであります。重力操作ともなれば、私達に勝ち目はありませぬ。」

 

「アリストテレスめが言っていた龍達の調査は何処まで進んでおる?」

 

 

「リッカートの調査結果が更新されるまで特に進んでいません。なにぶん、此処に所蔵する書物全てに記述がないゆえ‥‥‥。」

 

 

「精霊については何かわかったことはあるか?」

 

 

「そちらに関しては、彼女が調べています。エルミィ、報告頼む。」

 

エルミィと呼ばれたギルドナイトの女性は束になった羊皮紙を大長老に提出する。

 

「精霊に関してですが、此方は此処の所蔵する書物にいくつかありました。」

 

「断片的なものですが、かなり凄まじい力を持つ存在のようです。

 

例えば、森を背負う天の雄牛、灰から灰へ転生する焔の翼、夢幻の毒性の天狐などあります。ですが、近年姿を見たという情報は一切ありません。最後の記録が、竜大戦の一度のみ、です。」

 

 

「古の龍帝に対して、優位に立つには、精霊の力が必須と言っていましたが‥‥‥‥何処にいるのかもわからなければ動こうにも動けません。」

 

 

「自然の摂理に従うしかあるまいて‥‥‥。情報を待つのみじゃ。今は耐えるときぞ。」

 

「「ハッ」」

 

 

 

人は何も手をこまねいているわけではない。今は時を待つことを選んだ。この時ばかりは、ハンターを派遣するわけにはいかないからだ。煌黒龍の時も、黒龍の時も、いつも可能性があるハンターを派遣し、見事に果たしたのを知っている。しかし、此ればかりはどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

赤雷と黄金の雷が線を描いてぶつかり合う。

 

祖龍は赤白い稲妻の光を、天空龍は神の雷の如く黄金の光を放つ。

 

ぶつかり合う光は完全に拮抗しており、その余波は一時的にオーロラを発生させる。拮抗する光の束はやがて大きく弾け、衝撃波は両者に襲いかかる。

 

それでも怯まず再度、赤雷と黄金の光の束が吐き出される。

 

何度繰り返しただろうか。数十回繰り返したあたりから光を放つことはなくなり、今度は身体に雷を纏わせてぶつかり合う。

 

 

祖龍と天空龍の体格差は最低でも5倍はあるだろう。

 

体格差を気にしないのか両者は取っ組み合いを始める。それは空中のみならず塔さえ巻き込み、地上でも構わず苛烈に行う。

 

祖龍は天空龍の首に噛みつき、天空龍はその長大な体を生かし、祖龍を圧壊せんと巻きつき、圧力を強めていく。両者とも雷を放ちながら取っ組み合いをなおも続いていく。

 

やがて大きく距離を取ると祖龍が先に動いた。

 

大きく吠えると、全身から赤雷が発生し天に向かって打ち出される。

 

そして天空龍の真下から光の柱が迸り、天空龍を覆い尽くしていく。

 

存在の完全消滅の概念を持つ祖龍最大の技、『雷鎚』

 

これを受けると、さしものの超人たるハンターさえ、概念ごと消し去ってしまう恐るべき技であった。

 

更にこの雷鎚は祖龍の本当の意味での全力であり、天空龍のいたあたりは大地概念ごと赤熱しており、所々スパークし、プラズマが起きているのがわかる。それ以外の場所は完全に黒焦げになっており、バシュバトム樹海はほとんどが焼け落ちていた。

 

煙が晴れると、黒焦げになった天空龍が映る。天空龍は球体になっており咄嗟に防御体制をとったのだろう。祖龍はそれを睨み付けると、ボロボロと焦げ付いた鱗が落ちていく。そしてなんともないように無傷の天空龍がいた。

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!》

 

 

無論見た限りで無傷である、当然ダメージは受けていた。だがこの痛みが天空龍の闘志を更に燃やすことになった。これこそ宿敵であると。ならば我が一撃受けるがいい。そう言っているかのようであった。

 

 

背中の背びれが尾から頭に向かって順に発光していく。その際、膨大な属性エネルギーがほとばしる。

 

口を大きく開けると瞼は瞬膜に覆われ、自らの力で目を焼かれぬよう措置を取ると今度は大きく発達した牙が左右に開く。牙は遂に頭部にきた属性エネルギーが口元に集中し、収束するときに牙から微細な振動が発生、左右の牙にはそれぞれプラスマイナスになっており、電磁航路になる。

 

天空龍の牙は変圧器の役割を持っており、もともと持っていた電気エネルギーを増幅し、極大な一撃を放つ際使用される。

 

そして電磁加速された雷球は更に大きくなり、突如縮小する。

 

そして、稲妻を描いた光とは違い、それはレーザーであった。

 

黄金の光のレーザー。祖龍はその危険を感じとり即座に離脱。外すもののそのまま祖龍を追跡、薙ぎ払う。

 

触れたところから大地は溶岩とならず、気体、岩石蒸気になり更にその熱に空気が触れたことで凄まじい爆発が起きた。

沼や湖などの水源に触れれば水蒸気爆発になり、周囲を吹き飛ばしていく。

 

祖龍は何度も何度も逃げ惑う。

 

祖龍の雷鎚が異なる世界において雷帝トールのもつミョルニルだとすれば天空龍のそれは全知全能のゼウスの持つ雷、雷霆に他ならないだろう。

 

そして、逃げ惑う祖龍に遂に天空龍のレーザーが直撃してしまう。直後に赤雷で反発させることで威力を半減することに成功する。電子運動による直線的レーザーであるため反発させれば威力は大きく落ちる。しかし、それでも威力は凄まじく、きりもみ状態になりながら地上へ落ちていく。

 

追い打ちとばかりに再度チャージを開始、レーザーを放つ。凄まじい爆音と崩れる塔。

 

 

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!》

 

眠りながら闘志を燃やし続けた者と永く時を見守り続けた者との差、実力差ではない、執念の差とも言える。

 

だが天空龍は知っている。この程度で倒せる存在ではないことを。そう、土煙の中、全身を赤く染め禍々しく変化した祖龍を見て、更に闘志を燃やす。

 

 

 

未だ、神話に終わりは訪れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か北方の山岳にて目を覚ました者がいた。全身は白と黒を基調とした動物としての狐に似ている。全長はおおよそ1,800㎝。何より特徴なのは尾である。

 

その数、9本。全身には雲をイメージする模様があり、目つきは龍のそれである。

 

 

彼は、精霊の一柱。かつて天を地に堕とし、その地を空浮かぶ浮島に封じた星の使い。

 

 

 

 

 

『幻天狐: ヒラサカノカミ』

 

死を司る黄泉の化身。奢り、慢心する天の皇帝に二度めの誅を下すべく自らの意思で覚醒した。

 

 

 

 



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真赤の祖、天の皇帝、其は定める運命なれば

ここで借り受けた何処の作品とは言わないけど出現させたよ。あっているかはわかんないけど。

今回は心情について書いているので、コレジャナイ感がパナイです。ご了承を


「うわー、凄いねぇ。そう思うでしょ?ジンオウガ。」

 

グルルルと唸り遥か彼方でその瞳が映す光景にその少女の言葉に肯定を示した。

 

 

「古から眠り続けたという天の皇帝、その逸話は間違いじゃなかったんだ。うん、戦いたくないな。祖龍ですら激昂しているのに互角なんだもん、多分私が戦っても負けることはないと思うけどぁ‥‥‥。」

 

 

グルルル。お前はそうでも俺は無理だ、そう言っているかのようで。

 

「まぁ、関わらないが正解だよね。」

 

その時目に映ったのは、黄金のレーザーが大地を薙ぎ払い、岩石蒸気が発生しているのを横目に。

 

あんなモノを喰らえば自分とて龍体になったとしても勝ち目はともかく傷を負うのは免れない。

 

ただ、彼女はこの世界において存在しないもので。

 

この世界の平行線ともいうべき世界において始まりの種とされた存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤く禍々しく変化した真祖は全身を力を込めて頭部のキリンのように突き出た角から赤い光を放出する。

 

天空龍も黄金のレーザーを吐き出し向かい打つ。

 

その衝撃たるや、推して知るべし。

 

余波で岩盤は捲れあがりまたその岩盤は電撃で帯電し磁石のようにくっついたり、離れたりを繰り返す。空は赤く黒く染まり、絶え間なく雷鳴が鳴り響く。

 

真祖の腕が一閃する。

 

するとそこから属性エネルギーが放出され光の鞭となり天空龍なり襲いかかる。

 

大きく吹き飛ぶ天空龍。樹海を滑るように吹き飛んでいく天空龍は大きく上昇、更に大きく息を吸うと先ほどの黄金のレーザーとは比べ物にならない淡い翡翠色の光が発射された。

 

理屈は簡単だ。

黄金のレーザーに必要な変圧を変えて圧力を大きく加えただけ。

 

ただそれだけなのに光の大きさも威力も射程も比べ物にならなかった。

光はスパイラルを描きながら真祖たる祖龍に向かっていく。

 

だが今度は祖龍は逃げない。全身から赤雷が漏れ出し、口元に集中、だが突如赤雷から青白い光に変わり、そして青白い雷撃なる光が吐き出された。

 

激突する閃光。世界はただ光に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大地は荒地となり、空は戦火に染まり、空気は枯れ果てた。

 

沼は、湖は蒸発し、バシュバトム樹海はその原型を留めていない。

 

ある飛行船からその戦いを見つめていた一団がいた。

 

 

 

 

「伝説の通り、祖と天帝は争うのですね。それが定められた運命。」

 

 

「巫女よ、多くの古龍は竜大戦をへて人の醜さを知った。だが天帝を含めた三界の龍帝はそんなものは興味がなかった。己だけの力で世界を手にしたかったと願っていたのだからのぉ。じゃから知らないのじゃ。」

 

 

「人の可能性と人の祈りによって目を覚ます者たちの力を認めることはない。」

 

 

「矮小な我ら人では太刀打ちできぬ。だが人とモンスターが手を取り合った時、或いはモンスターが人の力を発した時、三界を打ち破る唯一の手だ。」

 

巫女と呼んだ初老の男を含めた彼らはエリエンテ地方から天帝と祖龍がぶつかり合ったことを知り、神殿から飛び出してきたのだ。更にギルドに無理を言って古龍観測隊の飛行船を借り受けこうして見ているのである。

 

「でも、私ライダーですけど‥‥‥‥、アレに割り込むとか無理なんですけど!」

亜麻色のツーサイドテールにまとめた少女は遥か向こうの塔で行われている人智を超えた戦いを一瞥し、涙目になる。

 

グルオオン!そうだ、そうだと彼女の相方であるリオレウスも唸ることで肯定する。

 

 

「なに、お前さんに行かせようなどとは思わんよ。」

 

「ホッ、良かった〜〜。」

 

胸を撫で下ろし安堵する少女に老人は更に言葉を紡ぐ。

 

「元々、天帝は祖龍と戦う運命じゃった。それが命は定められた時の中にあればこそ。竜大戦より遥か昔に起きた痛み分けより何千年とたっておる。おそらくだが‥‥‥‥」

 

「天帝はおそらく悟っているのでしょう。この戦いに勝利したとしても、自分は長くないことを。時が止まっているからこそ、ああして戦えている。でも、」

 

巫女は手元の宝玉を見る。黒と白の入り混じったなんとも言えない輝きを放つそれはドクンドクンと心臓が脈を打つように輝いている。

 

「彼の時は動き出そうとしている。精霊は目覚めた、彼を天の浮島に閉じ込めた執行者。だから、彼は生きていると感じるために祖龍に挑む。天に一番近い存在に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苛烈を極める天空龍と祖龍の戦いは常に拮抗している。

 

 

 

天空龍は黄金の光を放ちながら、自らの体が軋んでいるのを感じている。

 

絶対凍土の中に封じられ目覚めた時は今はもう何千年と過ぎていたのを感じた時、老い先短いことを理解した。

 

いかに古龍とて凍りついた時間の中で停滞した時間を無理やり動かせば崩壊する。長い時間を生きるということは常に時間を動かしていなければならない。祖龍は何千年と生きているが、それは常に動いていたからだ。

 

だからこそ、目覚めた時人間などに邪魔はされたくはなかった。矮小な人間や飛竜などに邪魔はされたくはなかった。

 

この短く消え去る命に例え意味はなくても、価値があるものとして天に一番近いお前に挑むのだとそれだけがこの身を動かす唯一の意味だ。

 

 

大きく体当たりをぶち当て、祖龍は宙を舞う。そして連鎖的に雷を呼び、直撃させる。

祖龍も即座に体制を立て直し、赤雷を放つ。

 

周囲が焼け落ち、消え去りそこに住まう小さいものたちの叫びを聴きながらなおも両者は戦うことをやめない。

 

空が雷を響かせて嘆きの音を鳴らす。

 

大地が気体となった岩盤が周囲を焼き払い小さな命を刈り取っていく。

 

命を支える水が、枯れ果てて絶望を突きつける。

 

 

 

天が欲しいと、願ったそれは世界を壊してしまう、破滅願望にしかならないことに気づきつつもそれしか出来ないことを天空龍は思う。

 

だが、それがどうしたと己を奮い立たせる。偽善だ、無意味だと今こうしてやっていることが己の全てなのだと軋む体をフル稼働させて、能力である重力操作を振るう。

 

祖龍のいたあたりが大きく陥没し、まるで隕石のようにクレーターが出来上がる。祖龍はそれに耐えているものの羽ばたくことが出来ない。

重力操作で周囲の瓦礫を集め、擬似小惑星を形成、マシンガンのように連続で放つ。

 

穿れ、激突する大質量。

 

祖龍は耐える。赤雷を全開にして威力を抑えて、ただ耐える。

 

 

天空龍は翡翠色の光を放つべく大きく力を溜めたが、

 

 

 

 

そうしてーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

終焉はすぐ訪れるもので、

 

 

《クオオオオオオオオオオオオッ!!!!》

 

 

漆黒の影が、天空龍の右側頭部に直撃し、光はあらぬ方向へ吹き飛び、その先にあった街を一瞬で消しとばした。

 

それは尾が9本を持ち、常にその周囲は陽炎に揺れて実態はつかめず、ただ姿形は狐に似ている。

 

【幻天狐 ヒラサカノカミ】は、天帝にとって死を届ける死神が今、天空龍の首に地獄の鎌を突きつけた。

 



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堕ちよ天帝 掴んだ空は泡沫に消ゆる

ーーーーこれは

 

 

懐かしい夢を見た。

 

ーー

 

 

 

塔もなく、樹海もまだ生まれてから時間が経っていない。のちの時代に古塔と呼ばれるあの場所で、真赤の祖と天の皇帝が対峙していた。

 

両者も世界中を回り続けて、戦い続けた。

 

 

人からは神々の戦いと呼ばれた時もあった。

 

常に戦い続けてきた。

 

常に傷だらけだった。

 

だからこれが今まで戦ってきた中で、最後の一撃だった。

 

これに打ち勝てば、自分はあの広大な空を手にする大きな躍進になるはずだった。

 

 

最後の、渾身の光の奔流を互いに打ち出す。

 

だが、運命は数奇なもので、光は衝突しなかった。互いの身体に突き刺さるように直撃したのだ。

 

戦い始めてから、休むということをしなかった。

だからだろうか、両者の天の雷は胸に突き刺さったのだ。

 

引き分け。いいや。

 

敗北だ。その日初めて、天から堕ちたのだ。

 

祖龍も自分も、大きな地響きを立てながら堕ちた。

 

 

なのに、いつもなら体制を立て直しているのに、全く動かないのだ。冷えていく身体に死の恐怖が浮かぶ。

 

違う、これは()()()()()いる。

 

そう気づく時には、すでに遅かった。いつから見せられていたのか、祖龍はこちらを見ながら、赤い瞳を微かに揺らして見つめている。

自分はもう一度空を見た。

 

黒い瘴気のような幻幕を身に纏い、九つの尾を不気味に揺らしてその其々の尾からは赤黒い光の玉が不気味に輝かせる漆黒の狼とも狐とも言えるものがあり、それは

 

天高く、大きく吠えた。

 

 

《クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッッッッ!!!!》

 

自分の周囲の空気が瞬時に凍りつき、大地を巻き込み、瞬く間に己を氷の壁に押し込めた。それだけではない。

 

九つの尾が従えていた赤黒い光の玉が光の筋を放つと大地を切り裂き、更に己の中にある重力を制御する力に干渉してきた。自分の持つ力でこの大地を空高く浮かびあげて、周囲の土の瓦礫を凍りついた壁に無造作に繋ぎ合わせる。

 

それは二重に折り重なる牢獄で、世界を彷徨う浮遊大陸となった。

 

何千年の間、人が踏み込むまで、この身は永遠の眠りになったのだ。ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空龍を吹き飛ばし、更に押さえつけた存在に気づくと祖龍は人に戻った。

即座に現れたアリストテレスに解放されると崩れ落ちた塔の一室に解放されていた。

 

 

「王よ、大事ないですか?」

 

 

「アリストテレス‥‥‥‥、あの時の再現だ。でも今回は封じるだけでは済まないと思う。」

 

「結局、決着は‥‥‥‥‥‥‥‥付かなかった!」

 

「天の皇帝は、貴女様をあそこまで追い詰めた。永き時の中で、あそこまで迫れたのは、 このアリストテレスの記憶を辿ってもかの天空龍のみでございます。」

 

「故に、何故あのタイミングで割り込んだのか、精霊の意思が読めませぬ。」

 

 

 

 

 

 

 

「精霊の意思は私達でも読めないよ、だってーーーー星の使いに意思なんてないんだから。」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

許せない、

 

 

例えこの身が許されざる存在とて

 

 

二度目だ、天を、神の座に近づくための我が闘争を

 

此奴は二度も遮った。

 

 

天空龍の身体全体が、ドス黒い雷が走り出す。

 

精霊は何かの危険を感じとり、その場を離れる。

ゆっくりと起き上がる天空龍。翡翠色の鱗の隙間からそのドス黒い雷が漏れ出している。

 

更に空の雷雲も何処か黒く染まっているのも間違いではないかと思ってしまう地獄の光景。

 

黒い雷は天空龍の黄金の雷と一体となり、金と黒の入り混じった雷となる。

変化はそれだけではない。鱗から漏れ出した黒い雷は天空龍の身体全て覆い隠し。

 

 

《オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッ!!!!!》

 

今までの咆哮が可愛く見える、咆哮だけで周囲の存在概念が消し飛ぶ、光速を超えた音だけで爆撃が響き渡る。

 

天空龍を覆い隠していた黒い雷が晴れるとそこにかつての美しい鱗を持った天空龍は存在せず。

 

全てが黒く染まり、翼膜や背びれ、牙や角といった特徴のわかりやすい場所は脈打つように点滅する赤黒い光を湛えていた。

 

モンスターというものは怒り状態と言われる形態がある。無論、ハンターやギルドがそう定義しているだけで正しくもあり、正しくない。

 

それでも、

 

 

この天空龍の姿はまさしく怒り狂う天帝に相応しいといえるだろう。

 

 

いつの間にか消えていた祖龍を無視し、この目の前の敵を全力で、屠るべく、何処に瞳があるのか分からぬ爛々とギラつく目で眼下の存在を睨みつける。

 

そして、黒い一閃。

 

それは天空龍が自らの尾にエネルギーを集中させ、剣のように、鞭のようにふるったからだ。

幻天狐は神速を超える天空龍の一凪ぎに青色に輝く膜のようなものを展開し、防ぐ。

即座に発生する爆発の嵐。そして余波で陥没する地形。

 

 

 

《ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッ!!!》

 

すかさず重力操作により、小惑星を大量に生成、祖龍に当てたものの比にならぬ漆黒の雷を纏った重機関銃の如くそれが炸裂する。

 

まだ終わらない。今度は身体中から、正確には鱗を強制的に剥離、再生を電気により行わせ雨あられと漆黒の雷を纏った鱗が降り注ぐ。

 

炸裂した場所には、ただ概念がない。綺麗な球形のクレーターがあるのみで。

 

 

だが、それでも目の前の青色に輝く膜のようなものは健在であった。

 

まだ、これで終わりではない。

 

 

天空龍は小さく吠えると、黒と黄金の雷を纏い、さながら長大な槍のように思えた。大きく上昇、厚ぼったい雲を抜け、眼下を見下ろす。

 

体を線のようにピシッと整えると、尻尾を振るい、推進力に変えるとそのまま落下した。

それだけではなく、体を回転させて更に勢いを増し、敵を屠らんとする。

 

 

それは、アリストテレス曰く、

 

 

(あめの)(すめらぎ)の破魔矢 】と呼んだという。

 

 

 

 

幻天狐の名を持つヒラサカノカミは青色の膜を今度は二重に展開し、天の矢を向かいうつ。

 

天より飛来する黒き雷を纏った矢を注視する精霊は確かに、ほくそ笑んだ、ように見えた。

 

間髪入れず、鳴り響く激突音。

 

大地は捲れ、所々から地底にあったマグマが溶岩となって吹き出す。

だが驚くべきは、激突するその場所だ。

 

青色の膜は天の矢を完全に受け止めていた。膜の周囲は矢の衝撃により、もはや大地とはいえず、広大な峡谷と化した。

 

だが、受け止めているは良いものの少しずつ亀裂が生じていく。

恐るべきは天空龍、天の皇帝に恥じぬ終焉の一撃。

 

 

パキ、

 

パキ、パキ

 

《クルルルルルルルゥゥゥゥ‥‥‥‥‥‥‥!》

 

やがて、もたぬことを悟ったのかヒラサカノカミは膜の内部から黒い瘴気のようなものを纏い、爪を一閃する。

 

なぜ、そんなことをしたのか。それはヒラサカノカミの特性である。

 

 

幻天狐ヒラサカノカミ。かの特性は、現実として成り立つ虚栄にして幻覚である。

 

つまり、ヒラサカノカミに対して、もたらす攻撃は現実のものとして存在しない幻覚であり、ヒラサカノカミがもたらす攻撃は幻覚でありながら現実として傷をもたらすのである。

 

だが、これには条件があり、ヒラサカノカミ単体に対してである。広範囲にもたらす攻撃は対象ではなく、身を守らなければならない。

 

天空龍が繰り出した天の矢は一点集中でありながら、もたらす被害は広範囲に及ぶ。膜の周囲がそれを物語るだろう。

 

一閃された爪は、まるで紙のように天空龍を吹き飛ばした。その余波は天の矢と合わせてクレーターが生じる。そして大きく九つの尾を広げ、黒い光が天空龍を追い詰める。

 

 

 

クレーターから這い出たヒラサカノカミは空中に浮かぶ、もはや気力を果たしたのかフラフラの状態の天空龍を見た。目は虚ろで、何を写しているのかさえわからない。

 

だが、この皇帝を相手取った経験からか何十もの膜をとっさに張り巡らした。

 

天空龍の背びれから黄金と漆黒の属性エネルギーが尾、背中、首、角と辿りつつ、光が蓄えられていく。

黒く染まった牙の変圧はもはや暴走状態にあり、天空龍の制御が追いついていない。

 

口元から形成された雷球は黄金と漆黒、そして、龍属性だろうか赤黒いモノが入り混じった物が作られていた。

 

その背後から余波として天空龍の体を焼き尽くしていき、空を焦がして、空気を燃やしていった。

 

 

そして、放たれる光の奔流。

 

ヒラサカノカミはその膜で受け止めることに成功した。だが、恐ろしいことに今なお攻撃力が際限なく上昇しているのだ。

 

ヒラサカノカミは九つの尾をきらめかせて、光の奔流を膜で包んだ。なおぶつかる光の奔流を常に包んだ膜へ送っていく。

 

球体に包まれた光の奔流を光の奔流へ送り出した。流れに逆らい、天空龍へ向かうそれはついに逆流の上にたどり着き、天空龍の頭部に炸裂した。

 

 

 

 

何秒、何分、何時間と感じたのだろうか今なお光で景色が見えず、空は晴れない。

 

やがて光が収まると、牙は全てへし折られ、角は砕けて、目は片目が潰れて、美しかった鱗は血を流し、空を包む二対の翼はグシャグシャに潰れてた、空に浮かぶ天空龍の姿が。

 

 

グラリ、と体制を崩し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その巨体を墜としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、天空龍編終了。

なお、文章が下手くそなので脳内でイメージ膨らませてくだせえ‥‥‥‥‥‥。



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天は歌を口ずさみ、海は新たな序曲を奏でる

天空龍編終了。次回、オリジナルモンスターを焦点に当てます。プロローグで出た鳥竜種から。

なお、bgmを流すこと推奨。fgo7章《終焉》ピアノのテンポがあっている気がしガス。


空が晴れた。

 

 

あれほど荒れ狂っていた空は、青く澄み渡って鳥たちの声が聞こえる。

戦いの傷跡は、何千、何万年かけても元の姿には戻らないだろう。雲の隙間から漏れ出た天の梯子が完全に崩れた塔と周辺の地形を照らしている。

 

 

祖龍と天空龍、そして精霊種。

 

 

これらのモンスターが争った結果、フォンロン地域一帯は永遠に封鎖されることになった。

 

天空龍が堕ちたことで、この世界は一時的に安寧を得た。

 

そして、古龍観測隊と大長老は此度の件で古龍種の危険性に改めて認識した。

 

それほどまでに天空龍のもたらしたものは凄まじいとの一言だけ。

 

 

 

 

 

 

 

人は、大自然の恐ろしさを、古龍の恐ろしさを改めて思い知った出来事だった。人もハンターも皆同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空が青いね。アリストテレス。」

 

 

「さようで。天帝は、あの広大な青い空を欲したのですな。」

 

 

 

2人は精霊が見つめるのを横目に大地に倒れた天空龍をただ見ているだけだった。

 

自らの光で自らを焼き尽くす。あの最後に放った光は、おそらく天空龍最後の一撃だったに違いない。

 

でなければ、光の奔流が迸るたびに体を焼き尽くして、血を垂れ流して、背びれが溶けたりしても、空を空気を焼いたりしない。

 

史上最大の一撃でも精霊種には届かなかった。

 

 

白い少女は胸に虚しさだけが残った。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

《ウ、ウオオオオオォォォォォォォォ‥‥‥‥‥‥‥ルゥゥ‥‥》

 

 

 

大地に堕ちた天空龍が動いたのだ。ボロボロになった翼を羽ばたかせて、少しずつ、少しずつ、上昇する。

 

 

 

「そんな、彼にはもう動く力なんてないのに‥‥‥‥‥‥!」

 

天空龍は白い少女もそばにいる精霊種にもたった一度だけその片目で一瞥して、そして見なくなった。彼が見つめているのは、雄大で、広大な青い空だった。

 

「天空龍の願い。それは空を手に入れたい。だが、もはやそれは叶わぬ泡沫の夢。だから最後の力で、仮初めでも空を掴もうと‥‥‥‥‥!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと上昇する天空龍。それにはかつての優雅さもなく、ただ惨めに大地を這う蛇のようにゆっくりと空を目指した。

 

上昇するたびに体からおびただしい血が流れ出し、背びれがロウのように溶けていく。

 

 

やがて、宇宙に一番近いところまで上昇することができた。

 

 

天空龍はそのボロボロに、砕けた爪、いや手を宇宙にある太陽に伸ばした。そして、掴むように握りしめ、最後に大きく、何かを成し遂げたように吠えた。

 

 

《ウオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!!!!!!!!》

 

 

天空龍の心臓は今、停止した。

 

高度1万メートル上空。初めて仮初めとはいえ天を掴み取った天空龍は、そのまま流れるようにまっすぐ落ちていった。

 

 

 

異なる世界の神話。偉大なる発明家の息子は、蜜蝋で固めた翼で空を大きく飛ぼうとした。だが、神の怒りに触れ蜜蝋は溶け落ち、発明家の息子は海へと落ちた。

 

 

落ちていく天空龍の体は体から剥がれた鱗が雪のように散らばり、太陽の反射で幻想的な輝きを生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠れ、眠れよ天を統べる者よ。

 

祖なるものが抱く揺り籠で。

 

目覚めの時は訪れない。

 

子が育ち、地に満ち、溢れる大地よ

 

人の踏み込まぬ大空の

 

天に浮かぶ浮島に今は眠れよ天空龍。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剥がれた鱗は大地に触れると、なんと不毛とかした大地に緑が広がっていった。

 

天空龍の遺体は大地に届く前に全て霧散した。天空龍のカケラは大地にに触れるだけで死に絶えた大地が緑に溢れたのだ。

 

 

 

天の歌が聞こえる。凱旋せよと歌う。ああ、人よ、天は誇りを貫いた。次は海だ。

 

海は再生を望む。心せよ、三界は未だ潰えず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大長老!一大事でございます!」

 

 

「何があった!」

 

 

大慌てで駆け込んできた職員にギルドナイトが問う。

 

 

「タンジアと、その周辺、厄海が‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水没しました!!!!」

 

 

 

ゴボボボ。

 

見事という二本の角をその手で粉々に砕き、深海で六つの眼光がきらめく。

 

かの大海龍を首、腕、尻尾を其々の口で咥え、そして食いちぎった。

 

 

かの名を【海神(わだつみ) アモン・レヴィアタン】。

 

三界の一角にして、深海の王。

 

 

 

 

 

別名、海王龍。

 

 



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モンスター生態編
モンスター生態編 未知なるモンスター、滑空の鳥竜種エルドゥス!


鬱蒼と茂る大森林のとある場所で、丸々としたガーグァが何故か1匹で雷光虫を食べていた。おそらく雷光虫を食べるのに夢中になり群れからはぐれたのだろう、これをこれまた大きく育った木の上から見つめる影があった。

 

龍歴院が見つけたマッカォに似ているが、何より特徴なのが翼としか思えない、いや翼に進化しかけている腕を持っているのだ。

 

全身がカラフルな羽毛に覆われ、尾は鳥類の尾翼に進化しかけている。

足は掴むことと走ることに重点に進化していてこれも鳥類によく似ている。

 

異なる世界の化石として鳥類の始祖と言われた始祖鳥、それに極端に酷似していた。

 

 

それは身体を揺さぶり、カラカラと微小な音を発生させた。獲物を捕捉されないように静かに仲間に合図を出す。

 

《アゥオォーーウォォーーーー!!!》

 

 

 

突如として茂みから木の上にいる個体より少し小さいけれど同じ種族であろうモンスターが走り出してくる。

 

《クワァ!?クゥワァァァ!!!》

 

驚いたガーグァは走って逃げようとするが、小型のモンスターがガーグァの周りを包囲していて逃げ場がない。

 

一定の距離から近づこうとせず、けれど行きたい場所へ行かせない見事な包囲網。

 

 

そして、木の上にいたソレは、包囲しているガーグァにむかって滑空、そのまま組み伏せてしまう。

 

暴れるガーグァを頭から押さえつけ足の握力でガーグァの首をへし折る。

 

《クワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

大きく吠えて、獲物を仕留める宣言をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスエルドゥス。

 

エリエンテ地方において、中小型の鳥竜種でありながら後述する連携性、凶暴性により上位からしか受けれない珍しいモンスター。

 

大きさはドスジャギィより小さいものの手下であるエルドゥスに獲物見つけると獲物を包囲させ、滑空して致命的な一撃を加えるという。

 

翼は進化途中なのか滑空しか出来ず、羽ばたくことは出来ない。その代わり滑空できる距離内であれば自在に移動でき、およそ5トンに及ぶ握力で獲物を確実に捉える。

 

このモンスターは、ギルドが絶滅種であるイグルエイビスによく似ているため、極めて原始的なモンスターであるとして積極的な調査を続けている。

そもそもエリエンテ地方はギルドが把握している地方から隔絶されていた。そのため今日まで原始的な姿を留めていたと思われている。

 

 

事実、調査員として送ったリッカートの資料によれば、かなり、原始的なモンスターが数多く生息していると言われ、なんとかのセルレギオスの先祖と思われているシェルレウスと思しきモンスターも確認されているという。

 

これが事実であれば、モンスターの生態の歴史、その常識を打ち砕いてくれる原石であるとし、さらなる調査を求められている。

 

 

 

 

 

 

 

「リッカートの旦那!エルドゥスの一体を仕留めてきたぞ、調査にいるんだろ?傷は少ねえ、満足してもらえると思うぜ。」

 

 

「ありがとう。早速。資料室に運んでくれ、私も手伝おう。」

 

 

 

 

「ん?早速解体か?」

 

「うん。今までの調査では、外から観察、外見の特徴を既に出来上がってる。あとは解剖で調査だね。あと1人はハンターさんの協力が欲しい。」

 

 

「任せろ、確かエリスの奴が酒を飲んでたな。呼んでくるわ。」

 

頼むよ、リッカートはそう言ってシートをエルドゥスのしたいに被せてカートで自分の研究室兼資料室へ持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ〜、んで何手伝うの?」

 

「ああ、解剖したいから、解体をお願いしたい。一応、未知のモンスターだからね。小さければ自分でも出来るんだけど、ここまで大きいと少しね。」

 

 

「りょーかい、内臓は傷つけないんだよね?解剖しやすいように不要な部分だけ取ればいいのかな?」

 

「ああ、頼むよ。」

 

 

 

ハンターの協力で、エルドゥスはその構造を知ることができた。

 

やはり、進化途中のモンスターで、資料で見たことがあるイグルエイビスから鳥類に近い進化へいたる中間の生物であること。

 

羽ばたくための胸の筋肉が途中まで発達していて、腕は爪の痕跡はあるものの大部分は翼骨に変わろうとしている。

 

これで、群れを統率するドス個体がいるというのだから鳥竜種の特徴も持っているのだろう。

 

「実に興味深い。ここまで原始的なモンスターがいるなんて。噂ではシェルレウスに酷似しているモンスターまでいるというじゃないか。調べて見たいな。」

 

「だったらよ、今度狩猟場一緒に行こうか。あんたはキャンプで待っていていればいいからよ。終われば合図を出す。来てもいいが絶対守れるという保証がないからな。」

 

思わぬチャンスにリッカートは学者として二つ返事だった。

未知なるモンスター、太古の証明に立ち会える喜びにリッカートは一晩中、ガッツポーズを取っていたという。



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モンスター生態編 闘魂!拳王!!その名はバルキリディス!!!

《キィシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!》

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!》

 

 

未知なるモンスターが多く存在するエリエンテ地方のとある高原にて

二体のモンスターが縄張り争いを繰り広げていた。

 

一方はご存知リオレウス。

 

もう一方は、なんだろうか?

 

砕竜ブラキディオスに似ているが、全く違う。

 

粘菌を纏わず岩石のようにゴツゴツとしていて手は殴るためなのだろうか、まるで巨人の拳のよう。

 

特徴的な頭部の丸まった角も鬼の二本角みたいに太く短い。

首には首を守るためなのかディアブロスのような襟巻き状の骨が付いている。

 

リオレウスが空中から火炎弾を吐く。

 

ブラキディオスに似たモンスターは避けようともせずもろに火炎弾を食らってしまう。煙に包まれ、リオレウスは空中をぐるりと旋回する。

突如危険を感じたリオレウスは大きく上昇、その際飛んで来た岩塊が先ほどの空域に突っ込んで来た。

 

そこにいたのは、無傷のモンスター。地面に大きな腕を突っ込み、自身の3倍の岩塊を引っこ抜いている。

大きくモーションを起こして投擲、更に目にも留まらぬ速さで投擲した岩塊に着地、更に蹴りつけてリオレウスに肉薄。

 

そのまま身体を捻り、発達した右足がリオレウスの足に突き刺さる。

 

回し蹴り。

三次元的な動きにを繰り出すモンスターにリオレウスは大きく吹っ飛び、地面に衝突する。

更に追い打ちとばかりに握りしめた拳がリオレウスが落ちた場所へ振るい落とされる。

 

響き渡る轟音、だが手応えがなく砂埃の中で、音を頼りに探し出す。

 

見つけた、リオレウスは咄嗟に飛翔して逃げたのだ。

 

火炎弾をまるでマシンガンのように吐き出して来る。

辺りはまるで火の海に包まれ、モンスターを焼いていく。

 

爆炎の煙に包まれて視界が見えなくなるまで火炎弾を吐き続けたが故にリオレウスは勝ったと思った。

 

 

 

 

 

真下からアッパーをかまして来るモンスターに気づくまで。

 

顎を粉砕され、這々の体で逃げ去るリオレウスを横目にモンスターは勝ち誇る咆哮が響く。

 

《キィシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!》

 

 

 

 

だが、このモンスターは満足しなかった。この程度の痛みでは魂は燃えないと。

 

もっと、

 

もっと、もっと、

 

 

 

たくさん、たくさん、

 

 

 

 

 

この身が、闘魂に燃えるほどの闘争と痛みを、

 

与え給えと吠えるのだ。

 

このモンスターの名は、

 

 

闘竜、竜のグラディエーターとも言われる拳王。

 

 

バルキリディスという。

 

 

このようにリオレウスと戦った高原、アルトマリア高原というのだが、この高原を中心に強者を求めて徘徊する狂った竜。

 

格上と常に戦いたがり、それから齎される痛みに、苦しみに、逆境に自ら突っ込み、魂を震わせて勝利に酔う。

 

今、彼の前に神の采配だろうか、高原の殆どを副次的に放たれる光で焼き払われ、舞い降りる高原の主に、狂った戦うだけの竜は本当の意味で格上たる古龍種に己の限界を超えるべく走り出す。

 

 

走る、走る。

 

 

拳にあらん限りの力を溜め込み

 

 

 

大自然の化身たる古龍に肉薄する。

 

 

 

痛みを!

 

 

 

苦しみを!

 

 

 

 

逆境を!

 

 

 

もたらしてくれ!

 

 

 

我が魂を燃やしてくれ!と

 

 

 

そして、お前に勝つ!格上と死闘して得る勝利に酔うのだと。

 

 

 




モンスター生態編はゲームの生態ムービーのようなものだと思ってください。

次回、海王龍編突入です。海の覇者に今度は人が戦う章となります。


なお、バルキリディスの元ネタ。

バーサーカーこと、スパPさんです。


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海の王は命を廻す
現れし第二の龍帝、海の王は何を想う


とても、とても古いお話をしましょう。

 

 

人は、豊かな大地に、実りと血と心を神に感謝して生きていました。

 

神様は、この星の一番深い場所で、人の育みを見てきたのです。

人は、何か不幸があると神に懺悔の祈りをしていました。

 

私たちが夢見ていた『平和』そのものでした。

 

 

 

 

 

 

 

ある日、見事な稲穂の輝きが、たちまち黒い影に食い尽くされてしまいました。

 

大地は干上がり、イチジクの木はなぎ倒され、水は黒いモノの死体で濁ってしまいました。

 

人は、私たちに縋りました。

 

私は、種を与えました。彼は、水と時を知る術を与えました。

 

 

人はそれを使い再び、大地を潤しました。けれど、黒いモノは舞い戻ってきたのです。

 

再び、なぎ倒され、折られ、食い荒らされました。

 

人は泣き明かしました。私も彼も、泣いていたのです。

 

それから何度も、術を変えて、大地を実らせました。

けれど、黒い群れはやってくるのです。

 

人は私たちに罵倒を浴びせました。

 

 

ーーー嘘つき

 

 

ーーー貴方様が、厄を与えた

 

 

ーーー子供が食い荒らされました。どうして

 

 

ーーーなんで

 

 

ーーー私たちが何をしたのか

 

 

 

 

 

 

 

助けてくれないの?

 

 

 

私は、止まらぬ涙に耐えきれず星の裏側へ消えたのです。

彼は、止まらぬ怒りの涙に耐えきれず星の底へ消えたのです。

 

二つの涙は混ざり合い、一つの命に形に変えました。

 

 

それは異形でした。

 

三つの首を持ち、赤い果実の瞳を持って群青色の冠を抱いていました。

異形の首を支える体は、大地を踏みしめるべく四肢は常に大地を掴んでいました。

 

異形は大きく吠えたのです。

 

するとどうでしょう、大地の四方から水の壁が押し寄せてきたのです。しけた海の波など児戯であると教えているように世界すべてを包み込む水の濁流に今、私たちが立ち会った大地は

 

 

水の底へ沈んでいったのです。

 

 

 

 

 

水が引いていきました。命は見た限り何も残っていませんでした。

私は、世界の裏側で生まれた異形に名を与え海の底へ沈めました。

 

砂と鉄と、積み重ねた土の蓋で回帰の深海と海を分けて封印したのです。守り目として大きな美しき年老いた大海龍を境目に住まわせました。

 

 

 

水は引いたとはいえ、それでもかつての大地は帰ってこなかったのです。黒い群れは消えました。人の嘆きの声は搔き消えました。空に生きるモンスター以外も、皆消えたのです。

 

私は、再び彼と出会い、命をやり直しました。

 

もう一度人が生まれました。けれど、今度は生まれるきっかけを与えただけでそれきり世界の裏側に消えました。

 

 

けれど、今は干渉する術をなくしながら見つめ続けます。人が、命を弄び、カラクリ仕掛けの竜を生みました。ある日生まれた天の皇帝が、真祖に挑み星の使者に滅ぼされました。

 

世界一の樹を背負いし龍が安寧を求めて世界を彷徨うのを見ました。

 

 

けれどそれはどうでも良かったのです。

深海に封じたアレが目覚めなければ。

 

そして彼の犠牲を持って、封じた異なる星の海からの使者が生まれなければ。

 

 

いつまでも見守りましょう。我が名は原始龍、母なる祖。

 

 

 

本来の、真なる生けとしものの母。

 

 

『■■■・■■■■』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

「タンジアの被害はどれ程だ?」

 

薄暗い部屋で大長老が見守る中、古龍観測隊とギルドナイトが互いの情報を開示し合っていた。

 

「観測出来ないほどに。完全に海中に没したと見ています。地震等観測出来なかったことから、古龍種の仕業に可能性があります。」

 

「アリストテレスめがいっていた海王龍の可能性が高いな」

 

「なにより、厄介なのがあの海域近くに厄海が含まれていることだ」

 

ざわ、

 

「やはり、禁忌の領域もか。聞くだけでは到底理解できんよ、三界の龍帝は」

 

 

提示される報告の数々。生存者はなし。いや、正確には生きているものもあるかもしれないが、可能性は低い。

 

 

天空龍に続いて、今度は海からの襲来。もう訳がわからない。

 

「三界の龍帝の実力は天空龍で既にわかっていたはずだ。こいつらは既存の古龍種ではない。それに精霊の事もある。我々には知らないことが多すぎる」

 

「大長老!我々は本格的に精霊種調査を展開すべきです。三界の龍帝は今の我々ではとても勝ち目がありません。張り合える存在がなくては!」

 

 

 

巨大な身体がブルリと震えたのが見えた気がした。

 

「気持ちはようわかるがの。今はタンジア周辺の状況整理が先じゃ。天空龍の事もある。焦る事もあるまいて」

 

「はっ」

 

 

 

「人は無力なのかの‥‥‥‥‥」

 

大長老のつぶやきは白熱する会議に掻き消えたという。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

元タンジアがあった場所で今は海になってしまったがそこには撃龍船、いや三つ周り巨大な一部鉄鋼化された船が浮かんでいた。船首の撃龍槍は三門あり、通常の撃龍槍よりやや大きい。

 

 

実はタンジアが海の底に沈む前から、航海にも迎撃にも耐えられる船を開発していたのだが、船乗りの執念というべきか最新のソレは見事完成した。

 

 

 

 

「野郎ども!!いくぞ!あのいかれたモンスターに俺たちの魂を見せつけてやろうじゃねえか!!」

 

 

自分の目の前で濁流に飲み込まれた家族を奪われた船長は有志を集め、あの憎いモンスターを殺してやると誓いつつ、この船を、船員に敬意を覚えた。

 

響く声は船長を支持、いや信じている声だ。

《《オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!》》

 

 

 

「へっ、元気じゃねえか!!いくぞ俺たちの船乗りの結晶。

 

 

『大撃龍戦艦 ヴァルキュリア号』の出陣だぁ!!!錨を上げろぉ!!帆を張れぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「取り舵いっぱい!!!」

 

 

 

 

 

嵐の航海が始まる。

 

人が、世界を壊す龍に挑む、否誇りを胸に気持ちをぶつけるのだ。

 

 

 

 

第2章 海王龍編 クエスト開始



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駆けよ嵐の航海者、荒波の子守唄を謳う

其処は海でありながら地獄の光景。

 

 

嵐の海は別に珍しいものではないだろう。

ただ、其処にたった一つのぞいて生きるものがいない暴威の海域は、ただ一つの生命を許さない。

 

そんな海域の深奥部。

 

海中に佇む巨大な影。

3つの首を持ち、背中には巻き貝のような甲殻をもつ。四肢は太く、されど爪はなんでも引き裂くほど鋭い。

 

翼らしき器官が見られるが未発達なのか退化しているのかは不明だが小さく、歪だ。

頭部には角が縒り集まり固まって出来た王冠を抱き、瞳はホウズキのように赤く命あるものと別の存在とを区別する。

 

 

甲殻は時節隙間から赤い光が漏れており、表面にはフジツボやサンゴの死骸などが付着していて永き時を生きていることが分かる。

 

 

タンジアと周辺の島々、禁忌の領域たる厄海を丸ごと自らの海域に引きずり込んだソレは静かに待つモノを臨んでいた。

 

 

 

 

突如として海中に赤い流動性をもつ液体が流れてくる。更に響く地響き。

 

身体のいたるところから溶岩のようなものを吐き出す異形の龍がやってくる。禁忌のモンスター、煉黒龍グラン・ミラオスは己の縄張りを瞬く間に侵し、奪った存在に怒りを露わにしていく。

黒龍の系譜であるグラン・ミラオスは目の前の存在の理不尽さに本能が先に警告を出した。

かつて大地を生み出したともされる巨人と称えられるグラン・ミラオス、それでもこの海王龍はその一歩先を行くのだった。

 

世界すべてをたった7日で水の底に沈める能力。

津波を自在に操り、大渦潮を生み出し、海上竜巻と、サイクロンを引き起こす太古の大災害。

 

ある二柱の涙が混ざったことで生まれたと伝わるソレは命をリセットし、再生を促す役目を持つ。それが【海王龍 アモン・レヴィアタン】である。

 

対峙する海に関する神話の激突が今起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

エリエンテのある壁画にはただ1つだけ最古の痕跡がある。今の大地と異なる海王龍が滅ぼした古い大地の唯一の痕跡が。

 

目覚めた海の王は、増えすぎた命を再編成すべく終焉の幕引きである災害、『大海嘯』が起こるという‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

「おおう、凄えな。ここからじゃ圧巻の一言だぜ」

 

大撃龍戦艦ヴァルキュリア号船長、そうそう名前はトリヴィスというのだが、このヴァルキュリア号を含めかの海王龍討伐艦隊の数と乗員する水中戦のプロであるハンター達、そして合流した他のキャプテンが集結する様に驚きとは他に滅多に見ることが出来ないこの光景に完全に食い込まれていた。

 

「なーに言ってんだい、このメンツでもあの化け物には五分五分だろう?ならもっと集めんだね!ウチらを纏めんならそれぐらいできるだろ、トリヴィス」

 

「勘弁してくれよ、レガリアの姉御。俺らみたいな連中の航海に耐えられるハンター達は少ねえんだからよ。だから、世間から嵐の航海者とか言われんだよ」

 

「私を姉御と呼ぶのをやめなっていうのを忘れたのかい!キャプテンレガリアと呼べと何度行ったら分かるんだい!?」

 

レガリアと呼ばれた女傑にぶん殴られるトリヴィスはこれでも足りないと言われ、軽くショックを受けた。

寄せ集めではなく、連帯が取れる精鋭を集め結成した艦隊。

 

ヴァルキュリア号をはじめとして撃龍船7隻、小型船25隻、戦列艦5隻からなる艦船決戦なら明らかなオーバーキル。

 

しかし、相手は人智を超えた古龍種にして三界の龍帝の一角である海王龍が相手なのだ。これでもなお力不足を感じ得ないのは何も不思議ではなかった。

 

しかし、船はこれ以上は集められない。よってハンターを集めるしかないのだが大長老により各ハンターに対してハンター業を規制するよう指示してるためギルドに頼ることも出来ないでいた。

 

撃龍船は乗員五十名、ヴァルキュリア号は百名以上乗せることが出来るが実に人数が足りない。

 

 

「くそ、ここでつまずくのか‥‥‥‥。メゼポルタに送った伝書鳩が承認されればいいんだが‥‥‥‥‥‥」

 

 

トリヴィスは皆に悟られぬよう舵を取りながら静かに溜息を吐くのだった。

 

 

大海原を駆ける船団は、各地を回りながら飲み込まれたタンジアを目指す。

風に揺れるマストの音が彼らの子守唄になるだろう。

 

 

 

 

嵐が、二度目の厄災が海を舞台に吹き荒れる。

 

ワイルドハントの始まりである。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォっ!!!》

 

 

《ギュオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!》

 

 

海底内で激しくぶつかり合う巨龍。

 

煉黒龍グラン・ミラオスの身体に3つの首を持つ海王龍が噛み付いて押し出していく。

 

踏ん張ろうとするが虚しいかな何処までも押されて行った。

壁にぶつかると押される力は弱まるが、今度はその巨大な手足でグラン・ミラオスを押さえつけ、何度も何度も踏みつけていく。

 

グラン・ミラオスの流れる溶岩など怖くないというように崩れる岩も視界を封じる砂埃も全く気にしないようで反撃の機会を与えない。

 

ここで初めてグラン・ミラオスが攻勢に出た。砂埃を利用して下から熱戦を吐いたのだ。

 

突然の反撃に戸惑った海王龍であったが、

 

 

 

 

 

 

ダメージは皆無。

 

 

 

 

 

海中に渦を形成してグラン・ミラオスを噛み付いて投げ飛ばした。

行き先はもちろん渦の中だ。凄まじい吸引力でグラン・ミラオスを飲み込むと周囲の瓦礫を吸い込み、渦の中のグラン・ミラオスは吸い込んだものすべての攻撃を受けた。

 

更に、崖に積もっていた泥層を干渉して乱泥流を引き起こし、渦ごと飲み込ませた。

 

濁る海中。

 

不死の心臓とも言われる機関を持つグラン・ミラオスは疲弊しているが、まだ戦う意思がはっきりと感じ取れた。

 

大きく咆哮、四肢踏みで周囲が火山として形成されていく。

吹き出る溶岩を浴びて、枯渇していた噴出口の溶岩液が復活する。

 

両者は、生み出すもの、洗い出すもの。

 

作るもの、壊すもの。

 

互いに相容れぬ存在で、海中で小さいながらも天地開闢の権能を振るう。

 

溶岩で大地を生み出して、水の流れですべて押し戻していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上では、巨大な大渦巻が周囲の海水を飲み込み、天に届く水柱が見える。

 

雷鳴が轟き、大雨が降る。

 

竜巻が海水を巻き込んで無数に出現する。

 

嵐の夜、二体の龍が引き起こしたこの異変はトリヴィス達の目印であり目的地である。

 

のちに大長老からこの一帯をこう呼んだという。

 

 

 

 

『トリトンの絶海』、と。

 

 




前章より表現が難しくて、稚拙に感じるかもしれません。

脳内でイメージです。ごめんなさい。


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決意の船出、摩訶不思議な少女の鼓舞を受けて

「おい、聞いたか。タンジアが突然水の底に沈んだとよ」

 

「ああ、聞いた聞いた。やべえらしいなあそこ。行商の奴ら道が水で埋まってて通れないって泣いてたぞ」

 

 

「タンジアチップスもう食えねえのかーー、美味いものを亡くしたなぁ。あーあ」

 

「言いようってもんあるだろうが。まあ、否定できねえが」

 

 

 

ここはとある街の酒場。狩猟を終えて帰ってきたハンター達を一時的に休ませる中間的な場所だ。

 

エールを飲み、ジャーキーを噛みちぎりながら今日の成果を語り出す。

 

女性の店員がたくさんのエールを乗せたお盆をひっくり返さないように運んでいるのを目の保養にしてエールの肴にするハンターもいる。

 

 

だが、ここ連日ハンター達は狩りに出ようとしない。

 

理由は、第1種禁忌指定と呼ばれる古龍種による災害の影響で周囲の生態系が壊滅状態になってしまったためだ。

 

ここでハンターが狩猟すると生態系のピラミッドが完全に崩落してしまい復活するのに何年もかかってしまう。

 

 

更に追い討ちをかけるように港として交易の主流となっていたタンジア周辺が海王龍により水没、地図から消滅するという事態になった。

 

ハンター達にとってこの事態に3つに分かれた。

 

1つは断固として三界滅すべし!と息荒高に叫ぶもの

 

1つは、倒すことは間違いないが時期を見てからと静観を決めるもの

 

1つは、逃げるものだ。

 

どちらも正しく、そして間違いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう足掻こうが、神龍と呼ばれた怪物は目覚めることは避けられないからだ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

パタパタパタパタ‥‥‥

 

港に船舶した大撃龍戦艦ヴァルキュリア号艦長室の窓から伝書鳩が入ってくる。

足には一封の文が。

 

「メゼポルタの返信が来たか。ラヴィエンテを撃退、討伐するハンター達の力が借りることが出来れば俺は、俺たちはあの海を取り戻せる!」

 

焦る気持ちで伝書鳩の手紙を取ると恐る恐る開封する。

 

中にはこう記されていた。以下を長くなるので要件をまとめると、

 

 

ーー拝啓 トラヴィス殿

 

 

この度の連絡及び要請についてレジェンドラスタやハンター達と協議した結果、残念ながらハンターの派遣はお断りさせていただく。

 

理由は、今回天空龍覚醒に関わった際、多くのG級ハンターがなくなってしまった。生き延びたものもあるが心に傷を負ってしまった者もいる。これでは我が最前線といえど派遣はできない。

 

加えて、天空龍と祖龍の衝突により、一部の地域が再興不可になりその影響でモンスターの大パニックが発生し、その対処で人数を割けることができないのです。

 

よって残念ながら今回のタンジア遠征に介入は出来ませんのでご了承ください。

 

ハンターズギルド開拓地区 メゼポルタギルドマスター印

 

 

 

 

「な、なんだと‥‥‥‥、メゼポルタも三界に関わっていただと!」

 

 

ぐしゃぁ!

 

手紙を握りつぶし、拳を机に叩きつけるトラヴィス。

相手はこと海中においてほぼ無敵である海王龍、それを打倒せんと立ち上がったトラヴィスについて来たハンター達や船乗り達。

 

しかしそれでも足りない、と船乗りの筆頭レガリアに忠告されあらかじめ密書を送ったのだが‥‥‥既に三界に関わってしまったために慎重になってしまったようだ。

 

 

「やるしかない!これは、この戦いは俺じゃない誰かの暮らしを守るための戦いなんだ!勝てるか、じゃない、勝つんだ!!」

 

 

窓から見える月を見上げて決意を固めるトラヴィス。

そんな彼の背後。

 

 

煌びやかな光を浴びて1人の少女が音もなく現れる。

微かな違和感を感じて振り返るとトラヴィスは息を呑んだ。

 

絹を思わせる紫色がうっすらと映える銀の髪、純白のフード付き外套を纏い、金色の装飾が更に白を引き立てる。

金と銀のオッドアイが人ではないナニカを思わせる。

 

そして鈴を転がしたような可憐な声でトラヴィスに語りかけて来る。

 

「こんばんは、おじさま。いい月だよね」

 

「っ!?誰だ!」

 

 

「私?んー、そうだねぇ。エルm、エルって呼んで」

 

「いつ入って来たか聞かんでやるが、こんな夜更けに出歩いちゃいけないぜお嬢ちゃん」

 

「‥‥‥‥‥?ああ、そういうこと。ありがと、おじさま。けどさっき意気込んで叫んでたの聞いちゃって。どんな人かなーって思ったのさ」

 

窓に腰掛ける謎の少女を見ながらタバコを咥えようとしたがやめて精油を使うことにしたトラヴィス。

 

「やれやれ、いま思えば恥ずかしいセリフを吐いちまったもんだ」

 

「そんなことはないよ、あと別にタバコを吸っていいのに。私は気にしないよ、そんなの効かないし」

 

ふぅーー、と息を吐きながらボリボリと頭をかくトラヴィスは嘆息する。

 

「そういうわけにはいくかよ、きたねえ煙を嬢ちゃんに吹かすわけにはいかねえさ」

 

「優しいんだね、まあいいか。おじさま、忠告、というかアドバイスだよ。海王龍を倒すなら遠回りするといい。海の精霊を呼ぶのさ『神魚』を、ね」

 

 

「貴方の旅路は無駄じゃない。力が足りなくても手を貸してくれる人が必ずいるから。人は、団結するほど強くなる。頑張ってねおじさま」

 

精油を変えながら窓にいる彼女の方へ振り向くが、誰もいない。狐に化かされたようなよくわからない事態に空笑いをするしかなかった。

 

「精霊ねぇ‥‥‥‥‥‥。そういや俺のじい様がよくきかせてくれたっけか。たしか呼び名は、『神魚』。海の殺し屋って言ってたな。まさかね‥‥‥‥‥」

 

 

机の上には金色に光るコンパスがいつの間にか置かれていたという‥‥‥。

 

ーー

 

 

 

ピクリとも動かなくなった鍊黒龍を自らの能力の1つである乱泥流に投げ込み遥か彼方の海流へ押し流していく。

 

海中の戦いは海王龍が制した。

 

海中において陸上や空中と違い浮力と水圧と呼ばれる現象のせいで派手な動きは出来ない。よくて高速で直進的に突っ込んでいくことくらいしかない。

 

故にかつて天空龍と祖龍がぶつかった古塔と違い鈍重な戦いに見えたことだろう。

 

二体は共に巨体。いや海王龍の方がふた回り大きいかーーー。

 

肉体が派手な動きができない代わりに環境が派手になる。

二体の戦いの折に水中では渦が逆巻き、乱泥流が流れ込み、岩盤崩壊が発生した。新たに生成された海底火山に乱泥流が流れ込み爆発が起き、溶岩が乱泥流を食い止める。

 

水中では温度が熱水に変わり、水中が赤く染まる。

 

そんな環境で戦いに勝った海王龍。しかし目覚めたばかりで翼も変形しておらず最大の能力、【大海嘯】も使えない。

 

今の現状では肉体の巨大さを生かした肉弾戦しか出来ないのだ。

 

 

《グルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥‥‥》

 

 

嵐が吹き荒れるトリトンの絶海の最深部にて海王龍は時期を見る。

 

 

 



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沈む大地、湯の秘境は閉ざされる

トリトンの絶海、大長老が自ら名付けたその海域はまるで伝説で語られる魔の三角海域のようにおどろおどろしい様をなお露わにしていた。

 

そんな海域の最深部にて海王龍は何を思ったのか海上へ浮上する。

 

空を見上げれば曇天に大雨、雷鳴は轟き波は十数メートルにも達する。

 

所々に大渦が逆巻き、竜巻が海上を蹂躙する。

 

そんな景色を海王龍は何とも思わない。ただ、感覚として気にくわない。生命が生まれるのは喜ばしいことだ。しかし、増えすぎた。

 

生命の管理がこの海王龍の役割にして能力だった。封印されて幾星霜。

 

幾多の生命が、進化を退化を繰り返しながら今を生きてきた。

 

そんな今でも変わらず生き続ける超常の存在、古龍種。あるいは独自の、まるでそんな仕組みさえ分からなかった超進化もみた。

 

人が龍脈と呼ぶ星の血液ともいえる大気、大地、海、それぞれにまたがる神秘のエーテル。

 

海王龍はかつて大地をすべて水の底へ沈めたことがあった。

何もかもが水に沈み、干上がった大地もほんのわずか。なら今の大地は誰が起こしたのだろうか?

 

 

自然の成り行き?

 

 

 

煉黒龍のチカラ?

 

 

 

それとも母なる方の権能?

 

 

いいや、すべて正しく、すべて間違い。

 

 

人が生きたいがために残された地で血を繋げ続けたのだ。

 

幾星霜の時、やがて水が引き、踏み入る地が増える。

 

 

だがそれは自分が海底で封じられ続けたから。

目覚めたならばもう一度洗い流す。

 

タンジアと呼んだあの地に近い場所から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身を震わせて海水が、増えた。

そして、彼を中心にして巨大な水の壁が生まれやがて牙となってある方向へ直進を始めた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

自然豊かな渓流。

 

ジンオウガやナルガクルガ、果てはラギアクルスのようなモンスターも姿を見せるようになったが澄んだ水を讃えるこの場所は確かに命があった。

 

 

 

上流には湯の秘境、ユクモ村があり、海の向こうには孤島、ロックラックがある。

 

 

 

そんないつもの渓流の日、小動物が一斉に姿を消した。

 

ガーグァやケルビ、ルドロス、ジャギィ、ジャギノス、カンタロス、ブナハブラ‥‥‥‥‥

 

小型のモンスターも皆姿を消した。

 

困ったのはこれらを捕食していた大型のモンスター達。

 

アオアシラはいつも通り蜂蜜を舐めていたが。

そんなアオアシラも飢えた大型のモンスター達に襲われ為すすべもなく。

 

 

異常を感知したのかついには大型のモンスターもどこかへ消えて行った。そんなある日、渓流の下流から逆流する水の奔流が。

 

ある世界でアマゾン川で発生するポロロッカという現象がある。

海嘯の一種でこれを見て祭りを起こすところもあるとか。

 

そんな現象が渓流の下流から発生した。

 

濁流ともいえる水の奔流。瞬く間にエリアの殆どを飲みこみ、水底に沈んでいく。

 

 

 

 

〜ユクモ村〜

 

 

 

「た、大変だ!」

 

自称ユクモの門番の青年。ユクモの門の近く、薬草を取りに足を運んだのだが目にしたのは今にもユクモ村に届こうかという逆流するポロロッカ。

 

摘んでいた薬草を放り投げユクモ村の村長に報告に上がるのだった。

 

 

「なんということでしょう、ではユクモ村が孤立したということなのですか?」

 

悲しげにユクモの村長は長い耳をしおらせているように見える。

自称ユクモ村の門番の報告で調査に当たった滞在していたハンター達の協力で以下の通りに判明。

 

「境界門の近くまで水に浸かってる。渓流は完全に水の底だ。ここが標高が高くて助かったが‥‥‥‥これでは」

 

「ユクモの木を使い、船を作るしかない。だが、それまでに村が持つかどうか‥‥‥。ハンター殿の農園を分けてもらっても足りないぞ」

 

「村民を避難させねばここも危ない。霊峰の近くにまだ使える村跡がある。そこに一時避難させては?」

 

ご覧の通り、ユクモ村は浸水により、外界から断絶される事態に。

 

 

「村長、決断を」

 

 

「村人は避難させて、ハンター殿には悪いですけれど原因究明に尽力してもらいたいです。備蓄してあるユクモの木を使って頑丈な船を作ってください。数にあって越したことはないですができる範囲でお願いします」

 

この一言でユクモ村は大きく動き出した。

 

村人は荷物をまとめて霊峰近くの廃村に、選ばれた男手は船を製作し、ハンターは浸水したエリアの調査に当たった。

 

人々の顔は優れず、気力で支えているようなものだ。

 

当たり前だ、突然自分の村が周囲が水に埋まり、孤立した島のような状態になれば。

 

 

彼らは、ヴァルキュリア号に助けられるまでずっとこのままであった。

 

ヴァルキュリア号の船長トリヴィスによればロックラックも孤島も大砂漠の一部も突如発生した津波により水の底へと消えたとのこと。

 

 

ギルドマネージャーは事前に大老殿から送られてきたマル秘の資料を調べ今回の件が第二の龍帝、海王龍による影響であると断定、そして時を同じくして古代林の河口にて厄海の黒龍、グラン・ミラオスの無残な残骸が打ち上げられていたという。

 

 

黒龍の系譜を、ましてや不死の巨人と歌われしかの龍がこのような最後を遂げたとは誰が考えたのだろうか。

 

 

海王龍とは、三界とは。

 

ユクモ村は、まさしく恐怖に飲み込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ痛ぁ!ちょ、ちょっと硬すぎ!」

 

金と銀の、紫色がうっすらと輝く銀髪をゆらして手に持つ宝剣を海上に佇む海王龍に始源の力を渾身に込めて振り下ろした。

 

気配を完全に消した不意打ち。決まったはずだった、いや実際決まっていた。

 

しかし、感じるのは今にも宝剣を落としそうなほどに痺れる鈍痛。

 

蚊に刺されるより痛くない、しかし目障りに感じた海王龍は襲撃を仕掛けたそれに3つある首全てが向けられる。

 

口元には膨大な水属性の、否 深海の海流を体現する奔流。

 

 

「やばっ!逃げるが勝ち!!」

 

 

海上に3つの螺旋を描く濁流が天に届くほどの水柱を上げ余波で近くの沿岸にて二十メートルを超える津波が押し寄せた。

 

着弾地には先の下手人はおらず、逃げたと悟った海王龍はそのまま海底に身を沈めた。



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覚悟と黄金のコンパス、指し示すは三叉に封ず神の魚

ユクモ村の事実上の孤立。

 

 

突如発生した海嘯ポロロッカにより渓流が水没し、付近にあった水没林や孤島、モガの森等はその被害を大いにうけ、大老殿はその処理に大慌て。

 

さらにロックラックや大砂漠の一部も水没したと報告を受けてギルドは海王龍を天空龍と同じく第一種禁忌指定に指定、海に近い場所に住んでいる、あるいは渓流と同じように海とつながっている場所に住んでいる人たちに避難勧告を出した。

 

 

そんな中、天空龍の被害を大いに受けたメゼポルタでは。

 

 

メゼポルタの一角、集中治療区で天空龍の攻撃から辛くも生還したハンター達が治療およびリハビリするための施設で。

 

 

「オルトさーん、診察の時間です‥‥‥‥‥‥よ?アレ?」

 

職員の若い女性が、此度の調査員団長であるオルトの治療にあたっていた。診察の時間を知らせるため、部屋を訪れて見たが誰もおらず。

 

 

窓が全開に開かれてカーテンが風に揺られてバタバタとしていたという。

 

 

 

 

 

 

 

メゼポルタのクエストを受けるための広場では。

 

 

 

「っ!?オルトさん!?」

 

 

「ああ、デメトリアか、マスターは何処だ!?」

 

狩猟迎撃戦の担当を担うデメトリア。彼女は高く止まったお嬢様だが根本的に誰でも優しく多くのハンターに慕われている。

 

そんな彼女は目の前に全身包帯だらけではたから見ればミイラのように見えるだろうメゼポルタが誇るG級ハンター、オルト・デリンジャー。

 

先日の天空龍の襲撃で生き残ったハンターの1人で粉々に破砕された調査用飛行船の操舵室から瀕死の状態で救助されたのだ。その他の乗っていたハンター達もギリギリ生きているという状態であった。

集中治療室で揃って治療に専念していたと聞いていたが何故ここにいるのか理解できなかった。

 

「オルト、お主何故そのような格好で出てきた!?怪我も治ってないというのに無茶をしおって!だいたいーーー」

 

「ギルドマスター!頼む、ハンターに復帰させてくれ!!」

 

「出てきていきなり何をいうのかと思えば!そんなの認める訳いかんじゃろうが!この愚か者が!!!」

 

女性の竜人族で和風な出で立ち、背中に二振りの刀を背負う此の方こそメゼポルタのハンターギルドのギルドマスターである。

 

この騒ぎを聞きつけて、他のハンターやギルドガールズが集まってくる。

 

(おい、あの人って‥‥‥‥‥‥)

(調査団の団長じゃない、例の天空龍の件の‥‥‥‥)

(あんな大怪我してるのに、ハンター復帰だと‥‥‥!むしろ舐めてんのか?)

 

(たぶん気持ちはわかるけどさ‥‥‥、でもなんで)

 

エトセトラ、エトセトラ。

 

 

「くっ、オルトよ、レジェンドラスタの酒場に場所を移すぞ、ここは人の目に留まりすぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜移動中〜

 

 

 

 

 

「オルトよ、気持ちは分かるが‥‥‥先ほど大老殿より通達があってな。天空龍は死んだ。ちょうど一週間前だ。古塔にて真祖ミラルーツと激しい戦闘を行い、そして精霊という未知のモンスターにより、だ」

 

「精霊だと‥‥‥‥‥‥!?」

 

「うむ、確認したところ黒い狐のようなモンスターで、牙獣種に似ているとのことだ。が、牙獣種とは全く違うらしいがな」

 

レジェンドラスタの酒場に場所を移した彼ら。

空気を読んだのかこの場所には彼らしかおらず、レジェンドラスタは皆外に出ている。

 

 

「天空龍に挑もうとしたのは意味がなかったな。だがーー」

 

「タンジアのことを聞いた。天空龍に匹敵する古龍種、ギルドはすでに動いているんだよな?」

 

「すでに耳に入っていたか。情報は規制されているというのに。

 

 

 

 

まあ、ここからが本題だ。近年発見されたエリエンテという場所には天空龍を含めた伝承がある。ツテを使って調べたよ。いや、まさかーーー」

 

「なんだよ、勿体ぶらずに公開できるなら公開しろよ」

 

「天空龍は滅び、次に出現した古龍種、ギルドは海王龍と呼んでいるがこれにはすべて三体だ。伝承では三界の龍帝と呼ばれていたらしい。三界の龍帝は、この世でたった一体しかおらずそして星を破壊してしまう超弩級の危険生物だ。ゆえに三界はその危険性を危惧されて封印されていたのだ」

 

 

「‥‥‥‥‥っ!?まさか。俺たちが調査していた浮遊大陸、あれは天空龍が封印されていて俺たちがその封印を解いた‥っ!?」

 

オルトが先発して率いた調査団は、危険極まりないモンスターを封印していた場所つまりは禁忌地であると知り顔が真っ青になる。

 

「そうだ。だが天空龍を含めて三界の力はお前達も知っての通りハンターでは太刀打ちできん。そのために精霊と呼ばれる星の守護者、彼らの権能により封印されていた。これも後々知ったことだったのだがな」

 

 

 

ドンっ!

 

拳をテーブルに叩きつけ知られざる真実を突きつけられ無気力になるオルト。自分の名を叫びながら落ちていく仲間の声が今でもこびりつく。

 

 

「マスター、海王龍は何処だ」

 

 

「っ!?挑むつもりか、オルト?!」

 

「天空龍はもういないんだろう?だったら海王龍を俺の、俺の手で倒さねえとあいつらが報われないだろう‥っ!?」

 

「生きてこそ報いてやれることがあるだろう!!お主は命が惜しくないのか!?そもそも三界はギルドで決議した際にーーー!」

 

ギルドマスターはオルトの真摯な眼差しを見てしまう。その覚悟した目を。多くのハンターが勝てないとわかっていながら腹をくくり死地に向かう目をーーー

 

「お主、その目、わしの言葉ではもはや止まらんか。好きにしろお前の防具や武器はすでに直してある。親方に感謝しておけ」

 

 

「感謝する。そして無理をいってすまない。」

 

酒場を去るオルト、ギルドマスターは彼の背中を見た。黒く塗りつぶされた生の世界がない黒の世界。

 

「謝るなら、言うではない。馬鹿者が」

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大嵐が吹いていた。雷鳴が轟き、波が今にも船を転覆せんと常に荒ぶる。

 

 

彼の手には黄金のコンパスがあった。北を刺さず常にある方向へ。

 

コンパスをもつトリヴィスはヴァルキュリア号を操舵しながら思案する。

 

このコンパスは魔法のコンパスだ。ただ示すのは、あの海王龍を打倒する可能性を持つ精霊の一柱。

 

あの不思議な少女のアドバイスを受け入れ、タンジアに行きたい気持ちを抑えタンジアとは全く違う方向へ舵を切った。

 

「トリヴィスーーー!!!ここらから魔の海域だーーー!!引き返したほうがいいんじゃないのかい!?」

 

魔の海域、それはまさしく地獄と化したトリトンの絶海に近い人知の通じない魔の域。

キャプテンレガリアの言葉が響くがトリヴィスはただ、

 

「問題ない!コンパスはまっすぐこの先を示してる。レガリア、あんたが手札が少ないっていったんだ。その手札を増やすのにモンスターを使うのは別にいいだろう?」

 

「ヴァルキュリア号は別にいいだろうが、他の船がこの海域の嵐に耐えられないんだよ!!」

 

「ならヴァルキュリア号だけ進む!他の船は一旦引き返すよう伝えろ!」

 

「わかったよ!あんたはヴァルキュリア号を転覆させないように気をつけんだね!!」

 

「させるかよ、阿呆!!」

 

2人のやり取りを見ながら命綱をつけながら作業する乗員達。下手すればこの海域に落ちるので落ちたら待っているのは死だ。

 

彼らは火薬を湿らせないように艦内に運び入れる作業をしていた。戦艦ということもあり、武器が使えないのはただの木偶の坊だからだ。

 

 

ドガンッ!!!

 

一際大きな衝撃がヴァルキュリア号を横から襲う。

 

瞬時に舵を操作して体制を整える。

荒波が甲板を侵入して乗員の踏ん張りを妨げんとしている。雷鳴が響き、感覚が麻痺するのを感じる。

 

ピシャァンっ!!!!

 

近くで雷が落ちたのだろう。衝撃で皆動けなくなり、視界が真っ白になっていた。

 

 

 

 

視界が晴れたとき、目の前には嵐はなく、まるで幻のように消えていた。

代わりにいたのは死だ。

 

 

「これが‥‥‥‥‥精霊!?」

 

「し、死神の間違いじゃないのかよ!?」

 

ーーある世界では、海において無双にして海のギャングと言われる海生哺乳類がいる。

 

知能が高く、人間の言葉をある程度は理解し捕食者の1つ、サメをいたぶるように殺し、群れで自分より巨大な鯨を倒すと言う。

 

名をオルカ、一般的にはシャチと呼ばれる。

 

 

 

濡れ羽色の体色に、鋭利に輝く背びれ、胸ビレ、尾ひれ。

口元がまるで裂けたような、奥には何段にも構成する鋭い牙が。

全体には鎧のように固まった甲殻、そして目は龍のソレ。

 

体長はおおよそ15メートル、体重は3トン、いや5トンは行けるか。

 

それが天に届くような巨大な槍が突き刺さっており、動きが出来ないようだ。

 

感覚としてトリヴィスは黄金のコンパスをその槍にかざした。なぜそんなことをしたといえば体が勝手にとしかいえないだろう。

黄金のコンパスは光の粒子になって消えそして同じように槍も消えた。

 

 

《キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォっ!!!》

 

衝撃が波紋となって広がり、雲を吹き飛ばし、錨で固定していたヴァルキュリア号を何キロにも後退させる程の事象をこれは咆哮で起こしたのだ。

 

精霊種が一柱、海の守護神にして殺し屋。

 

【神魚 アマノヌボコヌシ】が人の手により解放され、そして知る。かつて世界を生み出した創世神の涙から生まれた海の王が再び世界を水の底へ沈めることを。

 

跳躍し、外界へ出発した精霊は止めるために進撃する。ヴァルキュリア号は精霊を追いかけるために出発するのだった。

 

 

 

 

 




サブタイがクソ長くなった‥‥‥‥‥‥。次回からバトルが始まります。


自信ないなぁ‥‥‥‥。応援お願いします!!

やっぱりサブタイ詰めました。ごめんなさい


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海割れの道、志の彼方、世界を正すもの

感想、ブクマ、お気に入りありがとうございます。

海王龍編もいよいよ大詰め間近。神話の怪物とも語られる存在に精霊と人はどう戦うのでしょうか?そして三界の設定に変更に伴い徐々に明らかになる神龍の真実。

明らかに世界観ぶち壊しな感じになる可能性がデカイですが応援お願いします!


感じる。

 

 

世界の、今を維持しようとする世界の尖兵の気配。

 

 

忌まわしい精霊の気配。

 

 

 

一方は果ての海から神の魚。

 

 

 

 

 

一方は、丘の上。海割りの権能。幻の体現。【幻獣】の気配ーーー。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「なんつー速さだよっ!もう豆粒にしか見えねえ距離じゃねえか!!」

 

「相手は海生生物だよ!早いのは当たり前だろっ!?」

 

あまりの速さに思わず突っ込んだトリヴィスにレガリアは当たり前のように諭しながら彼を灰皿で一閃する。

 

取り舵を手放して頭を抑えるトリヴィス。見ればプクーと赤いたんこぶが。

 

 

(よ、容赦ねぇっス、レガリアの姉g‥いえ、キャプテンレガリア!)

 

(幼馴染らしいぞ、あの2人、噂じゃ互いに好きなのに、ソリが合わないという不思議な『余計なこと言うんじゃないよっ!!!』あ痛ぁ!?)

 

(マシトンーーー!?マシトンが死んだっ!この‥‥)

 

((((人でなし!!!)))

 

 

「あんたら、後でお話しなぁっ!!!でも今は仕事中だよ、さっさと動きなあ!」

 

 

カオスと化した船上で、レガリアは望遠鏡を用いて遥か彼方の、自分たちが復活させた精霊を一望する。

 

あれ程の速度、おそらく時速400㎞は出ているはず。船の速度で計算すれば215.984ノット。

しかも水中は抵抗により大幅に落ちているはずだから本来ならもっと出せるはず。

 

この船、大撃龍戦艦ヴァルキュリア号は最大速度で28.56ノット。

練石炭による蒸気機関による補助と帆による風の恩恵フルに使ってである。

 

2つの機能を最大限使ってのこの差。

 

 

 

 

文字通り化け物だ。

 

 

レガリアは嘆息する。これほどの化け物を野に放ってよかったのかと。

 

確かに世界の一大事だから出来た手札であり、策だ。もしすべてが無事に終わったら法のもとで裁かれるのかなと考えてしまう。

 

当たり前だ。非常事態じゃなかったらこんな生態系を破壊してしまうような怪物を世界に解き放つものか。

 

望遠鏡から目を離して、タバコを蒸すレガリア。煙と共に一涙の悩みも一緒に吐き出していたい。

 

「心配すんな、船乗りが法なんかに悩むようじゃキャプテンなんか勤まんねえだろ?堂々としてろレガリア。お前、そんな(たま)じゃねぇだろうがよ」

 

ぽん、と肩を叩かれて我に帰ると舵を取りながら片手でトリヴィスが叩いたのだ。そのセリフに悔しさを感じてその手を払いのけてしまうが、同時に少しだけ嬉しかったのは自分だけの秘密にしておこうと決めたのだった。ほんのり頬が赤くなっていたのはきっと気のせいだろう。

 

 

海を見ればもう精霊なんか見ることもできず青い地平線が見えているだけだった。

 

「ふっ、これじゃあぜーんぶ終わっちまった後に合流かねぇ‥‥‥?」

 

「阿呆、んな事させるかよ。人間様があの野郎をぶち抜いてやるんだからな!」

 

 

ハハハハハっ!!

船乗りたちの陽気な笑いが響き渡る。この笑いは勝利の確信か、それとも心に無理やり安心させるための笑いなのかはわからない。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ゴボボボボっ!

 

 

海底奥深く。

 

泡が呼吸と共に海面に上がっていく。

 

海流の大きな乱れがこの領域の新たな戦いを知らせる終焉の鐘になる。

 

 

 

ーーー来たか

 

 

 

海王龍は上昇し、海面に姿を現した。3つの首をそれぞれの方向へ向けて敵の正確な位置を知るためだ。

 

いた。

 

南東6時の方向。

 

凄まじい速度で目で見える範囲まで接近している。

 

景色は海の災害をこれでもかと発生しているが敵である精霊はなんともなく近づいて来た。そして向こうも敵の位置を知るためなのかメロン波を放出してきた。

 

もはや様子見する必要もないだろうと口元に周囲から集めた海水を凝縮して球体に、そして勢いよく発射する。

 

 

戦端の火種は海王龍から。

 

 

吐き出された水球は海面を叩き割り一時的に水面の浅い海底が露出する。押し出された海水は周囲の海流を乱して精霊の音波を妨害する。

 

一方で、精霊であるアマノヌボコヌシはスパイホッピングを使いながら確実に海王龍の元へと近づいていく。

 

ある程度近づくとアマノヌボコヌシは大きく海面を跳躍、周囲の海水を集めて複数のシャボン玉のようなものを形成した。それを一斉に打ち出す。

 

先ほどの海王龍が放った水球よりも頼りなさげな技であるが、これの本当の恐ろしさは別である。

 

 

放たれたシャボン玉のようなものは海王龍に向かいながら周囲の海水をさらに集め形を変える。

 

やがて水で出来た巨大な槍が形成され渦を巻き込みながら海王龍に衝突する。

 

 

 

大気が揺れる。

 

余波で雲が吹き飛び吹き飛んだ隙間から光が差し込んでくる。

 

直接直撃を受けた海王龍の表面は長年積み重なった表層が完全に消し飛び、本来ある甲殻が露出、その甲殻も穿たれた跡があった。

 

 

《グウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥルルルルル‥‥‥‥‥‥‥》

 

痛みに耐えながら、今度は海水を巻き上げ自身の周りにまるで鎧のように纏う。

 

この海の鎧とも言えるこれは圧縮された海流であり、鉄のように固くあらゆる攻撃が緩和される、自然の摂理を無理やり固めた海王龍が海王龍たる所以でもある。

 

 

それをみたアマノヌボコヌシは水の槍はこれ以降ダメージを見込めないことを悟ったのか再び水中へ。

 

深く潜り込み下からの強襲をかけるつもりなのだろう。

 

いや違う。アマノヌボコヌシは海底奥深く海流が一番安定しない、グラン・ミラオスと戦った水深まで潜り水流を操作。

 

 

海流を全て1つにまとめ巨大な大渦に変貌させ海王龍の足元に直撃させる。

 

体格が絶望的なために少しでも土壌を持ち込む策だ。

突如、足元に直撃した大渦は踏ん張りを弱らせて海中に引きずり込まれる形で倒れた。

 

余波で水柱が世界中で見れるくらいに。

 

 

アマノヌボコヌシは倒れた海王龍の首に噛み付いてその場で回転を始める。ワニが水中で確実に仕留めるデスロールと呼ばれるもの。

 

しかし、海の鎧のせいで深くまで牙が突き刺さらない。

 

すると大きく揺すられて放り出されてしまう。

崖壁に叩きつけられて岩が流れてくる。

 

呼気が一気に吐き出されて酸素不足に。

瞬発力を生かしてその場を離脱、さらに海面を跳躍して再びダイブ。その際に不足した酸素を補充。

 

そして海底からの攻撃を察知、くるのは撃流のブレスかーーー

 

 

 

噛み付かれた海王龍は起き上がる際脳震盪をしてないか確認した際に噛み付いていたアマノヌボコヌシを振り払ったのだ。

 

海面が大きく揺れたのを確認して海王龍は敵は真上であると確信。息を大きく吸い込み海面に向けて口を開けた。吸い込む時に海水も一緒に吸い込まれ亜光速で原始運動が変動、圧縮されていく。

 

 

放たれた3つの水流。何時ぞやに人間に化けた龍が、攻撃した際に牽制も兼ねて放ったブレスである。

 

海面下にいる精霊に向けてこれからに予測される海中ルートを算出してブレスを吐き出した。

 

海面を飛び出したブレスは雲を引きちぎり太陽に照らされて虹が出来た。そして水滴一滴一滴がまるで槍雨のように降り注ぎ遠くにいたルドロスやガノトトスなどに直撃、体中に穴が開いて海面に浮く。

 

海中に吐き出したブレスは海水を巻き込んでソニックブームを水中で起こして周囲を薙ぎ払う。

 

一方で精霊アマノヌボコヌシはそんなブレスをブレスの間を縫うことで回避。尾で加速をかけて全速力を叩き出すーーーー!!!

 

 

大きく接近し頭から頭突きをかます。時速400kmの突進。物質なら自壊も考えねばならない速度。

 

頭突きを受けて大きく仰け反る海王龍。後ろに二歩、三歩よろけて背後から大きく転倒する。

 

海中の第一次海戦は互いに決定打もなく膠着状態に入ることになった。アマノヌボコヌシは単体では精霊の中では最弱の部類であり他の精霊と組むことで真価を発揮するタイプである。

 

海王龍もまだ、目覚めきっておらず能力にも枷がかかっている状態。

 

 

互いに睨み合い、肉弾戦へと移行することになるーーー

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

ある場所で、タンジア近くの入江、そのそばの丘にて。

 

 

1匹の獣が海を見つめている。

 

白銀の体軀、劔、いや槍を連想する白金の角。目は碧色で、四肢は蹄である。たてがみはライオンを連想するほどに立派なもので。そのたてがみも白銀のよう。

 

《キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!》

 

一啼きしたかと思うと目の前の大海がまるで真っ二つの切り開かれていた。

 

 

 

 

ーーかつて神の声を聞き、神王の元を離れた聖人がいた。神王の軍勢が迫ると聖人が神に祈った。すると目の前の海が割れ、道が出来た。聖人と彼が共に逃げた大勢の人々はこの海割れの道を歩いた。

 

当然、軍勢が後を追うが彼の連れの最後が渡り合えると海は閉じられ軍勢は海の底へ消えた。

 

 

 

 

獣は割れた海を優雅に歩く。ふと振り向くとそこには誰もいないがまるで来いといわんばかりに頭を振る。

 

そこから1人のエルゼリオンと不退で装備で固めたハンターが。

 

彼はオルト。かつて天空龍にほとんどを奪われて、天空龍亡き後海王龍に挑むため独自で精霊を解き放った男だ。

 

割れた海を海をオルトは進む。今度は遅れはとらないと心に誓いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユクモ村上空。

 

 

その日の夜嵐だった。

 

備蓄を避難させていたアイルー曰く、嵐の中に龍をみた、と



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激化せんと顕現す、嵐の神と戦女神の船


ごめんなさい、実力不足でかなり、端折ってます。

どうしてこうまで文才がないんだ‥‥‥‥。海の描写は難しいし、人の繋がりも荒すぎる‥‥‥‥。ちくせう_:(´ཀ`」 ∠):
思わず顔文字使っちゃう‥‥‥‥。


縄張りが荒らされた。

 

 

 

 

嵐の渦巻く積乱雲の中、災害を引き起こす存在が心中にあったものだ。

 

災害の名は嵐龍 アマツマガツチ。

 

ユクモ村、及び周辺の村々、そして霊峰を縄張りにする嵐の化身。

同じ嵐を起こすクシャルダオラの纏う風の鎧など比較にならぬ嵐の鎧とも言える大雨と洪水の象徴。

 

 

周囲に嵐を従えながら縄張りを侵した存在を撃滅せんと高き空を優雅に舞う。

嵐龍は直感であるが今回の敵は勝てないと認識した。

 

自分の上位互換とも言える存在がいる。

 

しかし、この身も古龍種としての矜持がある。

行き先はタンジア。

 

縄張りではないが、そこに我が敵はいる。

 

そして我ら古龍種の最大の敵にして天敵、星の守護者もいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊種の出現は、この星の完全なる消滅を予言する。人が栄華として測った古代文明と古龍種との戦争もシュレイドと黒龍の戦争も蟻の大きさに等しい。

 

 

 

なぜなら、蟻と空の月どちらが大きいか分かるはずだろう。星の庇護下にあるものは皆蟻の大きさなのだから。そう、この身も‥‥‥。

 

ーーー

 

 

 

「さっきまで晴れていたのに急に湿気てきやがったな。おう、お前ら嵐が来るぞ帆を半分畳んどけ。」

 

 

 

ここはヴァルキュリア号。

 

ヴァルキュリア号は精霊種アマノヌボコヌシが移動した海路をたどりながらのことだ。

突如として空が暗雲に包まれ、波が荒く立ち始めたのだ。

 

タンジアまではまだ遠い海上でここまで荒れるというのであれば、恐るべきは海王龍とその精霊種という二体の怪物だろうか。

 

此処まで生物が環境に多大な影響を与える存在はお伽話で出てくる黒龍伝説、嵐の神アマツマガツチ、天空山の奥地にいるという神などだろう。

 

 

実際、衛生カメラがあればタンジア周辺の空域は超巨大な台風、あるいはハリケーン、サイクロンに完全に覆われている。時節、雲が吹き飛び大気圏まで届く水の奔流が見られるが再び雲が覆い尽くしてしまう。

 

暴風域は風速時100km以上、カンストである。風速時100kmで木が根こそぎ吹き飛ばされるのだから、それ以上ということは木が根こそぎだけではない。大地は吹き飛び、家はそれごと風に乗る。この世界はコンクリートなどないから簡単に吹き飛ばされる。無論コンクリートで固めてあっても捲り上げられて吹き飛ぶだろうが。

 

ある世界の太古の時代ではこの程度は普通だったという。大気が不安定で、安定することは稀。

 

つまり、この世界今は太古の時代に戻ったことに他ならないだろう。水の災害は最も起源が古いのだから。

 

 

「レガリアぁ!推進器使うと思うんだが、鎌わねぇよなぁ!?」

 

「あれを使うのかい!?あれを使うと使ってる限り撃龍槍や破龍砲が使えなくなるよ!?」

 

 

「使わねえと追いつけねえ!!試作品だろうと使うのは今だろう!?」

 

「勝手にしな!船長はあんただ!その指示に従うさね!!」

 

 

トリヴィスがいうのは天彗龍バルファルクの属性エネルギー推進能力だ。その原理を解明し、燃石炭の熱で擬似的に開発することに成功した。ただ、凄まじいエネルギーを食うために使用時他のエネルギー消費型武装が使えないという欠点がある。

 

 

運用方法は簡単だ。

 

燃石炭を制御する基盤をピッケルで叩く。

 

すると燃石炭の熱でタービンに熱が送られてタービンが回る。そしてそれぞれの噴出口へ熱がタービンを伝って送られると噴出口奥のエネルギア鉱石の熱反応で増幅しながら射出される。噴出口は六門あるので、28ノットが最大のヴァルキュリア号は約3倍の速度84ノットまで叩き出せる。

 

ちなみにエネルギア鉱石は熱を受けると中で熱を増幅させて放出する珍しい鉱石。

 

 

 

艦尾の備え付けられた推進器を完全点火させ、凄まじい加速を見せた。

それは他の船を置き去りにしてしまうほどには。かろうじてついてきているが撃龍船以外の船は撃龍船にワイヤーを投げ渡してハンターや船員はヴァルキュリア号を敬礼を持ってその場にとどまった。

 

 

戦女神の名を冠した自分たちの誇りの船が、必ずや海王龍を打ち倒すことを信じて。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!!」

 

 

〈キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!》

 

 

左右が水の壁に挟まれ割れた海の底をかける幻獣とオルト。

 

幻獣の名は、何の因果かキリンであった。

 

見た目は古龍種としてのキリンと何ら違わない。だが、纏う気配は古龍種のキリンとは比較にならない神性のオーラ。

 

古龍種のキリンは雷が付きまとうものだが、精霊種であるキリンは光。破光とも言える神の使いに輝く光である。

 

そんな幻獣キリンはその背にハンターであるオルトを乗せて割れた海を駆ける。

峡谷を軽々飛び越え、山を踏破し

谷の下を神速に駆けていく。左右が海であり、幻獣キリンの権能で割っているため行く道は真っ直ぐだ。最短で海王龍と神魚との決戦の近くまで行くことが出来る。

 

時節飛び出してくるガノトトスを携える太刀『真大蛇ノ太刀玲瓏』を抜刀、キリンにまたがりながら刃をガノトトスの口の中央に当てそのまま駆け抜ける。後には刺身おろしにされたガノトトスだけ。

 

 

「悪いな、ガノトトス。お前に構っている暇はねえ!

 

 

 

 

 

 

っ!見えた!タンジアの目印である交易港だ!あの向こうが俺の倒すべき敵‥‥‥‥‥‥‥!」

 

すでにほとんど埋まっていたのだろうか土と僅かながらフジツボが付いていた。そしてその標識の向こう側、雷雲と雷鳴、大地を捲り上げる暴風、度々立ち上る水柱。そして、ここまでも響く轟音。

 

 

「タンジアは船のメッカだ。撃龍船があるかもしれない。海中に沈もうがビクともしねえのがタンジアの撃龍船だ。多分倉庫にあるはずだ!」

 

「くそ、何処だ!」

 

瓦礫を掻き分けて、沈んだタンジアの一部地域を探索する。

 

いくら探しても見つからなかった。それもそのはず。タンジアの戦力となる船は無事なものは皆トリヴィスの指揮下の元集められていたからだ。

 

「くそ!!船がなくちゃ海を渡れないだろうが!」

 

行く道が同じだったから精霊種に乗せてもらってここまできたが向こうは自分の力で渡らないといけない。

万策尽きた、いや、怨讐に囚われたオルトは本来こんな行き当たりバッタリな策を講じない男だ。天空龍に関わり、死んだ仲間に報いるために走った。それがオルトを大いに焦らせた。

 

 

「畜生っ‥‥‥‥‥‥‥‥‥!」

 

 

 

 

「ははは、お困りか!?ハンターさんよっ!!」

 

そんなオルトを背後から声が響く。正確には割れた海の海である部分からつまり頭上からだ。

 

戦女神のシンボルを掲げ、船首に三門の撃龍槍。甲板から見える巨大な破龍砲に側面には約十二門の大砲。鉄鋼で船を覆い、撃龍船の何倍も大きい正に戦艦。

 

そこから声が聞こえた。背中に破岩砲シュライアーを背負う男と双剣の豪雷双剣ツインクルスを持った女傑、そのほかに見知ったハンターや船乗りがいる。

 

「運がいいな、ハンターさん。このヴァルキュリア号に見つかってよ!今、鎖をおろしてやる。ここにいるったぁ目的はあの向こうの海王龍だろ?なら協力しようや!!」

 

「いや、問題ない。鎖を登る必要はない」

 

オルトはそういうと幻獣キリンに目配せしその背中に乗ると幻獣キリンは一度の跳躍で、ヴァルキュリア号の甲板に音もなく着地する。

 

「モンスター、いやそいつも精霊か」

 

「ああ、一時的に協力することになったんだ。それと俺はオルトでいい。一応メゼポルタのハンターだ。今回は俺の独断だかな」

 

「メゼポルタには協力出来ねえとか言ってたが、きてくれたんだな。よろしく頼むぜオルトの旦那」

 

がしっ

 

トリヴィスとオルトは向こうで起きている超常の世界を見て互いに手を取り合う。

細かい事は全てが終わった後でいい。今は同じ目的を果たすことが先であり、他はどうでもいい。

オルトを含めてヴァルキュリア号にいるハンターは42人。G級ハンターは34人。後はG級を控えた上位ハンターだけだ。人が集めた中で最高戦力。

 

さあ、海王龍よ首を洗って待っていろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!》

 

《キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!》

 

海王龍と神魚、両者は荒れに荒れた海の上で凶器に変えた水を操り激化する。

 

雲を吹き飛ばす海王龍の激流のブレス、吹き飛ばされた雲があったところは木漏れ日が差していたがすぐに暗雲が覆い尽くしてしまう。

 

神魚の頭突きが海王龍に突き刺さる。すると海王龍の背後の海水が衝撃により多大な水柱をあげる。頭突きにより、衝撃が突き抜けたのだ。

 

海王龍が巨大な前足を振り下ろす。地面に直撃すると波が壁になり牙向く津波と化す。神魚はその津波をバックソルトで回避、遠心力で尾を叩きつけた。爆音が響く。だが、体格差で受け止められ逆に吹き飛ばされてしまう。

 

 

しかし、終息は終わりを近づけた。

長き中で戦う二体は不意に互いに違う向きをむいた。

 

神魚は内陸から嵐がやってきたと。

 

海王龍はもう一体の精霊がきたと。

 

 

《クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!》

 

突如として咆哮が響くと海王龍の激流ブレスには劣るけれど紛うことなき水流のレーザーが海上を薙ぎ払う。

遥か上空にて嵐龍はかく現れる。

 

 

一方、

 

「見えたよ!!野郎ども!砲撃ヨーオイ!!!破龍砲発射ァ!!!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンっ!!!

 

空間が破裂するほどの爆音を鳴らして海王龍の肩を少し吹き飛ばした!

「ようやっと追いついたぜ!海王龍ゥゥゥゥ!!!!!」

 

「手を休めんじゃないよ、連投して打ち続けな!!」

 

ドンッ、ドンッ!!!

 

 

戦女神の船は今、海の王の戦場に立つーーーーー!

 

 

 



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変性する獣、氷結する翼を広げ空を凍てつかすか

ブクマ、感想、ありがとうございます。

ついに海王龍覚醒、覚醒すれば海王龍編もあと2、3話で終われると思います。そして人形焼きさん以外のゲストもちょろっと登場。

これからも応援お願いします


「方位角、11時固定!弾道計算400mに設定!撃龍槍装填!!ーー今だ!破龍砲『単発式短弾製撃龍槍(グングニール)』発射ァ!!」

 

巨大な破龍砲のチャンバーに螺旋を描く大人三人分はある槍が装填される。送られた槍は標準に合わせた砲口内にセットされ打ち出す時を待つが‥‥‥‥‥‥

 

「キャプテンレガリア!!オーバーヒートです!発射出来ません!」

 

「なら、発射出来るまでの間大砲に切り替えな!カノン砲用意、弾込めぇ、装填!」

 

 

「アイ、アイサーッ!!」

 

破龍砲は高威力ゆえにどんなに頑張っても五分に一回オーバーヒートを起こしてしまう。そのため装填は出来ても発射できないのだ。

 

ドンッ、ドンッ、ドンッ!!!

 

着弾する大砲弾。

 

しかし、荒れに荒れた海の上で弾道計算は至難を極めた。標準がブレるのだ。結果的に弾は海王龍にほとんど当たらず。

 

風に煽られ、あるいは高波に威力を落とされ、射手のミスでやはり当たらない。

 

キィィィィィィィン、ズドォン!!

 

海王龍のブレスがヴァルキュリア号のすぐ側に直撃する。

音を置き去りにした空間を裂くつんざくようななんとも言えぬ衝撃がヴァルキュリア号を襲う。

 

「狼狽えるな!持ち場につけ!被弾してねえから攻撃をやめんじゃねえ!!」

 

トリヴィスの声で慌てて持ち場に着く船員。ハンターはガンナーによる飽和射撃で海王龍を撃ち抜いていく。狩猟笛の鼓舞によるバフの嵐で秘伝書によりカンストしないはずのステータスがこの時は完全にカンストしていた。

 

 

「貫通弾が尽きたわ!支援お願いっ!」

 

「支援隊はあっちでいっぱいいっぱいだ!俺のくれてやる、終わったら請求するからな!」

 

 

 

「チッ、弓兵から報告!貫通矢が届かない!もう少し船を近づけてくれ!」

 

「ダメだ!これ以上近づけると船が被弾しちまう!このまま維持だ!!」

 

 

「バリスタの弾が来たぞ、バリスタを当て続けろ!!」

 

 

「嵐龍のブレスが来るぞ、拘束用バリスタ弾撃て、撃てぇ!!!」

 

「面舵いっぱい!!その後3時方向取舵回しなっ!」

 

各々のハンターはガンナーを中心に海王龍に攻撃を当て続ける。

時節敵と判断したアマツマガツチの攻撃が迫るが、トリヴィスの巧みな操作とレガリアの航路判断がヴァルキュリア号の被弾を逃れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリンは滑るように水上を駆け抜けている。キリンの足元には水面に触れておらず水面との間に風が流れている。

 

幻獣キリン、精霊種としてのキリンは霊長の王としてある地方において真なる崇拝を受けるほど強大な存在。

 

 

行く先に風を吹き込み、空気の幕を作り常に大地を歩く。草を踏まず虫を殺さず、慈悲の心を見せる。

彼が一歩歩けば、大地は花が咲き誇り、死にかけた大地は息吹を吹き返す。

 

一啼きすれば、芽生えぬ種子は大きく芽を出して目を覚まさぬ者たちは一様に目を覚ます。

 

されど一度怒りを覚えたならば、額の角は光の剣と錯覚するほど肥大化し、頭上に嵐が荒れる。しかし、自然に一切の危害を与えず害あるものだけを滅ぼす存在になる。

 

 

今、キリンは雷光を従えて海王龍へと疾走する。光の剣と化した角を槍のようにして突進する。

 

 

そして、同じく精霊種である神魚アマノヌボコヌシが浮上し、キリンの踏み台になる。

 

アマノヌボコヌシの背を借りて跳躍、光の剣を振り下ろすーーー!!

 

 

無論、海王龍も抵抗しないわけがない、3つの首からブレスを吐き出し、押し出そうとする。

 

光の剣となったキリンは激流を引き裂き突き進んで行く。そのスピードには衰えはない。

 

危機感を覚えた海王龍はブレスを維持しながら前足を海底に叩きつける。現れるのは牙向く瀑布の壁。

流石のキリンもこれも同時に受けながら剣を突き進むのは至難であった。

 

弾き飛ばされると思いきやーー

 

 

ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

ギュイィィィィィィィィィィン、ギャリギャリギャリッ!!!!!!!

 

ズズゥゥゥゥゥゥン!!!

 

 

《グウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!?》

 

「よぉし、『単発式短弾製撃龍槍(グングニール)』着弾!!海王龍、あんたの相手は何もモンスターだけじゃないんだよ!人間忘れちゃいけないねぇ!!!」

 

 

 

先ほど発射出来ずにいた破龍砲の弾である槍が高速で接近、海の鎧を簡単に貫通し甲殻を吹き飛ばし肉を回転しながら抉り出す。吹き出す鮮血。

 

思わず、悲鳴の咆哮を上げブレスも鎧も外してしまう海王龍。

 

そして此処ぞとばかりにアマノヌボコヌシは右端の首に噛みつき反動をつけて何倍もある巨体を投げ飛ばした。

 

 

《ぐうゥゥゥゥアアアアアアッ!?》

 

投げ飛ばされた方向には幻獣キリンの光の剣。絶え間なく打ち出されるヴァルキュリア号のカノン砲の嵐、ガンナーによる飽和射撃。

 

さらに嵐龍の水流ブレスもなぎ払うように海王龍を打ち払う。

 

キリンの光の剣が一閃される。

 

《グギャァァァァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!?》

 

体に巡る熱と、吹き出す鮮血。胸元を深々と切りつけられ海中に叩き落される。着水と同時に起こる高波。

 

海王龍の巨体が海水を押し出して並みの撃龍船であれば転覆は免れぬ高波。

 

着水した場所から、打ち出される砲弾、弾薬、落雷ーーー

 

 

「やったか?」

 

誰かが呟いた。

 

それほどに静かだったーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、さすがに三界。ある世界じゃこれぐらいは日常らしいけど‥‥‥‥‥それでも上から数えても遜色ない強さじゃない?どう思うトール?」

 

「俺に聞くな。だがお前ならともかく俺があいつに勝てるとしたら‥‥‥‥‥そうだな、いかに覚醒させず‥‥だろうな」

 

銀色の髪を揺らして少女がそばにいる武人に似た男に問いかける。トールと呼ばれた男は腕をすくませてやれやれとなんともはっきりしない答えを出す。

 

「ふぅん?なら覚醒しないなら勝てるの?」

 

目を細めながら面白おかしく笑みを浮かべる少女。その顔は悪い顔である。

 

「覚醒させずに戦えば勝率はそうだな。ギリギリ3割いけばいい。それも運が重なった上で、だ」

「それを踏まえればあのヴァルキュリア号はよくやってる。おそらくあれを上回る兵器は今後現れんだろうな、全く人という奴はいつも可能性の化身だな関心するよ」

 

 

「それには同意見。でも彼らは苦労するよね。だってーー相手は創世の怪物。覚醒すれば一瞬で世界が氷河期になるなんてーーー誰もわかるわけないじゃないか」

 

「まったくお前は‥‥‥‥‥人を手助けしたかと思えば今度は傍観か。はっきり定まらぬ主人よな。さて、そろそろ出てきたらどうだ?この世界の龍滅刃よ」

 

ガサ、と茂みから出てきた1人の男は至高の武器の一振りとも言われる天上天下無双刀の最終形態、三千大千世界無双刀を背負う。

 

「お前は、この世界の異変には傍観なのか介入するのかどちらなのか?」

 

武人、トールに問いかけられた龍滅刃と呼ばれた男は

 

「俺の狙いは、最強と言われるーーーー精霊王だけだ。あいつは俺に史上初めて勝てないと恐怖を覚えさせた奴だからな。リベンジという奴だ」

 

「アレに挑むつもりか? 対峙するものより絶対に強くなる

(・・・・・・・・・・・・・・)星の最強種だぞ?星の内に生きてる生命は勝てない、そういう権能だ」

 

 

忠告を受けた男はフッ、と不敵な笑みを浮かべて心からの本音を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「俺より強いやつが星焔以外にいるなんて許せるわけないだろうが」

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「おい、なんか変じゃねえ?」

 

「なんだアレは‥‥‥‥‥‥?」

 

 

ブクブクと白い泡を出しながら、周囲の海水が煮立ったように範囲が広がっていく。

 

「いけねえ!!全員衝撃に備えろ!!」

 

 

パキパキ、パキ‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

ピシッ、ピシッ‥‥‥‥

 

 

そして海面に高速で広がる凍結面。さらに空気中の水分が凍りつき、ダイヤモンドダストが発生する。それだけではない、振り続ける雨さえ凍りつき、雲もガスを維持しながら凍りついた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

大気も、温度が下がりすぎて何も見えない白となる。

 

ガシャンっ!!

 

1人のハンターが凍った海面に大剣を振り下ろして衝撃の事実が。

 

「っ!?なんだよこれ‥‥‥」

 

「海面じゃねえ、海水丸ごと凍りついてやがる(・・・・・・・・)。」

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ‥‥‥‥!

 

 

続いて鳴り響く地響き。

 

ズドォォォォォォォォォン!!!

 

凍てついた海面を突き破り、3つの首を持つ異形の巨体がおどり出る。

 

 

《グゥウウウウウウウウウウゥゥゥゥアアアアアア‥‥‥‥‥!!》

 

 

そして変化する。

 

海王龍は背中の未発達と思われた翼と思わしき機関が殻を吹き飛ばしながらまるで蝶が、蝉が蛹から羽化する際弱々しい羽を伸ばすように萎れたように見える翼が背中から突き破るように出現する。

 

更に背中に引っ張られたのか胸元からひび割れて中央から赤く輝く紅玉がまるで巨大な目玉のように露出する。

 

 

「どうやら、ここからが本当の正念場らしいな‥‥‥‥」

 

 

《グウアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

海王龍は大きく咆哮をすると地平線の彼方から天に届こうかという白いナニカーーーーー。

 

 

 

衛星があればこういう風に見えただろう。星をまるで、飴玉に包むように津波が覆い尽くそうとしているとーーー

 

 

そう、これこそが

 

 

 

 

 

 

世界太古の災害、【大海嘯】である。

 

 

海王龍、幻獣、神魚、嵐龍、戦女神の船ーーー新たな神話の紡ぐ戦いが真の意味で始まろうとしていた。

 

 

 

海王龍、覚醒ーーー!



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終局の狼煙、凍れる世界に防げ、大海嘯

多分一番多く書いたんじゃないかな。

感想、ブクマ、評価ありがとうございます。海王龍編ももうすぐ終わります。どうぞ、応援よろしくお願いします(●´ω`●)


ああ、はじまってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、鳴いた

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、泣いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、啼いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が軋んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が壊れていく。

 

 

お願い、悲しい力を怒りのままに振るわないで。

 

母なる海から、父なる空へ。母なる原始から、父なる星核へ。

 

貴方に祈りを。

 

 

どうか帰ってきて、今の命の廻りを閉じないで。

叫びは終わったの、黒い厄災は過去へ消えたの。

 

だから、貴方の役割はもう終わったの。

 

 

海の王、神龍を縛る海の楔の一柱。もう、眠る時間。

 

 

帰ってきて、我が子アモン・レヴィアタンーーーー。

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「なんだい、ありゃァ‥‥‥」

 

「デケエ‥‥‥‥津波だ‥‥‥‥‥‥」

 

空を見上げても全貌が見えぬ世界規模の津波が海王龍によって引き起こされた。

 

重要なのは今なお海が凍りついていて津波は海から発生していないことにある。

 

これはもう創造の領域。ある星では海と大陸の割合は7:3である。

 

もし、7割ある海が全て凍りついていたとすると津波を引き起こすのは不可能である。起こすための水がないからだ。

 

なのにそれが起きている。

 

理由は、単純なもの。

 

海ではなく、空気中、生物、あるいは鉱石、それらから含む水分を増幅させて集めているから。海に対して大気中、生物などが持つ水分は微々たるもの。しかし、それでも水分を持つことは変わらない。水分の総合量に全人口、全生物、全ての水分を持つ鉱石の数だけ掛けて出た量を海王龍は扱えるのだ。

 

そうして発生した津波は水分であるから凍りつく。

 

さらに津波は発生する。

 

凍りつく。

 

それを延々と繰り返して、真っ白な世界が世界を覆い尽くして行く。

 

 

 

 

この日、『灰の日』と呼ばれこの日だけは正に氷河期が到来したのだ。

 

大海嘯とは、星全てを氷で覆い尽くして、それを水に還す(・・・・)

 

海が凍りついているとはいえ、そのままなのだ。ならば海と同等の量と計算されるこの世界を覆い尽くす氷の壁が水に変換されたらどうなるか。

 

そして海が再び戻ったらどうなるのか。

 

完全に世界を覆い尽くしてしまえば、打つ手はない。ならば、覆い尽くしてしまう前に

 

 

 

 

 

倒すしか他ない。

 

 

時間は、およそ二時間。

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

海面が完全に凍りついているために地上と同じように動くことが出来た。

 

凍土と同じ感じなので滑ることはないだろう。むしろ滑るならばハンターとして未熟ではないだろうか。

 

海面が凍っているために一番気にしていたことがあった。

 

見た目は完全に魚類、正確には海生哺乳類の見た目だが精霊種であるアマノヌボコヌシである。

 

自分たちが目覚めさせた切り札の1つがここで戦えないなど笑い話にもならない。

 

そう懸念していると、

 

パキパキ、ピキイ‥‥‥

 

ガシャアアアアアアアアアアアアン!!

 

ドリルのように体を回転しながら飛び出してくるおおよそ15mの魚類モンスター、精霊種アマノヌボコヌシ。

 

背ビレにある刃のようなもので氷を引き裂きながら問題なく凍った海を渡る。

 

立つ位置が地上と変わらないと知ったハンター達は各々の武器を抜刀、海王龍へと疾走した。また、ハンター達を巻き込まぬようトリヴィスは推進機能を使い、ヴァルキュリア号は掘削して進んで行く。ただ、幾分遅く感じてしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

やはりというかハンターが動き出したと、同時に海王龍の翼は完全に完成したようで翼の形状はまるで蝶のよう。

 

翼膜は淡い空色で葉脈のような濃紺なラインが美しくも毒々しい景観を出す。

 

胸元から露出した赤い紅玉は心臓のようにドクンドクンと脈を打ち、やがて周囲の甲殻が縒り集まり紅玉を覆い尽くして行く。

 

四肢はより鎧のように固まり、甲殻の隙間から赤黒い波動が迸る。

 

世界が凍りつこうとしているのに海王龍の上空は空が赤紫色に染まり、白い稲妻が轟音を立てて凍りついた海面を砕く。

 

あまりの威力に直撃した場所は『ナニカ』と戻っていた。

 

更に空気中の水分が凍りつき、海にいるのにも関わらず、乾燥している。湿度0、環境の温度は平均マイナス90℃。凍死するのも、凍傷起こすのも普通の人間ならば避けられない人間が生きるのには過酷すぎる第3層氷結結界(ムスペルヘイム)

 

さしずめ海王龍は霜の巨人ユミルといったところだろうか。

 

各々のハンター達はあまりの寒さにホットドリンクが数分で切れるのに気づくとスキルの実を取り出し食べる。

 

スキルの実『氷界創生』

 

凍王龍トア・テスカトラの持つ武具に含まれる希少スキル。内包するスキルは冬将軍、モンスターに対して防御率無視の削りダメージ、切れ味消費を抑えるなどだ。

 

寒さ対策をとると再び武器を構え抜刀ダッシュで間合いを詰める。トリヴィスとレガリアは防寒コートを羽織ると、ホットドリンクをがぶ飲みし破龍砲を起動する。

 

「さあ、ここが一番の踏ん張りどころだよ。ついてきな、トリヴィス!!」

 

「アホ抜かせ、てめえがついてこいレガリア!!」

 

 

 

「「破龍砲単発式短弾製撃龍槍(グングニール)、発射ァ!!!」」

 

 

ーー

 

 

「寒っ、寒いっ!!!」

 

「寒いのは分かる、結界維持を解くな!!」

 

この世界の何処か遥か上空、2人の男女が淡い光で世界を包もうとする氷結結界を抑え込んでいた。

 

「そんなこと言ったって!!!これを封じるのに物凄い力が使われてるんだよ?!あぁっ、手が、手が凍りついた!!」

 

見れば少女の手に霜が付いており、徐々に形が大きくなり少女の手を凍て付かさんとする。このままなら2人とも氷の彫像と化すだろう。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!早く倒して!!私の肌を荒らす気!?」

 

「無茶を言うな!!人間も頑張ったんだ、俺たちも頑張んなきゃ意味ないだろうが!!」

 

この世のどこかで世界が凍らぬように踏ん張る2人がいた。

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

「大変じゃ‥‥‥‥、大老殿に通達せよ、タンジア沖合にて海王龍と何十人かの非公式ハンターと交戦、絶界の中、支援なし!!拘束用バリスタ搭載飛行船の許可を貰うのじゃ!!彼らを見捨てるわけにはいかん!!」

 

 

吹雪の中、古龍観測所の職員の竜人族の老人は望遠鏡に映る開戦の狼煙を見て救援を仰いだ。

 

印をつけた伝書鷹を放つと吹雪の中を勇ましく飛んでいく。

 

大老殿に到着した伝書鷹はヘトヘトになりながら大長老に届くことになった。

 

それからはあっという間に話が進んでいき、過酷な環境に耐えられる飛行船を15隻、それを海王龍との決戦に使われることになった。

 

大長老は、ギルドナイトと共に突如起きた真っ白な世界に驚きを隠せなかったが、海王龍の仕業であると確信するのは早かった。

 

 

「世界はどうなるのだろうな、このまま終局に突き進むのだろうか‥‥‥‥?」

 

「天空龍の時と同じです。此度も祈るしかないのです。我々は無力であると実感してしまった。触れてはならないものを触れてしまったのです。ならば過程を見届けるしかないのでしょう。信じましょう、彼らを」

 

 

白に染まった大老殿の中、何かに縋るように祈るギルドの人間達。

 

どうか、彼らに幸あらんことを‥‥‥‥‥

 

 

 

 

 

ーー

 

 

「貫通弾を調合するわ、カバーお願い!!」

 

「強走の旋律を重ねがけしておいた、しばらくは自由に動けるはずだ!!」

 

貫通弾を打ち込んでいた女性ハンター、見た目変更をしているが司銀龍の防具を着込んだライトボウガンの使い手。手待ちの貫通弾が尽きたようで弾の調合をするべく機材を展開するために船を目指す。極寒の地で味方のサポートなしではなし得ない。極寒の景色が、寒さがスタミナを奪う。

 

すると鳴り響く狩猟笛の音色で女性ハンターのスタミナは強走効果が付与され無事船の中に飛び込み調合を開始する。

 

 

 

 

「酸弾を打ち込んだぞ!集中攻撃だ!!」

 

「極鬼人化!!バックアップ頼む!」

 

ラヴィエンテの素材をふんだんに使用した進化武器から放たれた肉質を極端に軟化させる酸弾を打ち込む。すると海王龍の足の一部にシュワシュワと溶ける音が聞こえる。

 

肉が溶ける感覚に海王龍は悲鳴に近い咆哮を上げて近寄る小さきものを近付かせんと暴れまわる。

 

 

 

「っ!!右の首からブレスのチャージを確認、退避よおーい!!っ!?危なっ!!」

 

「ちくしょう、やりやがったな!狩技『ドラグーンアーマー』!!重ねて狩技『獣宿し・闘覇』!!」

 

 

狩技ドラグーンアーマー。

 

使用時、回復系アイテムが使用できなくなる代わり武器倍率1.17倍になる。会心率が30%上昇効果。防御力1.5倍付与効果が付いている火力特化の狩技。

 

獣宿し・闘覇。

 

獣宿し系狩技の最高峰。スタミナが減り続ける闘覇に似た狩技で、使用時スタミナが減り続けるが次にモンスターに対して与える倍率を防御率なしで、3倍にする。

 

 

使用者であるこのハンターはメゼポルタに渡り、ラヴィエンテを狩猟し不退を手に入れた。

 

反則すれすれの狩技であるがラヴィエンテを狩猟したことで使用を許可されたという。

 

次の瞬間、酸弾で軟化した場所に破龍砲が直撃する。

 

《グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!?》

 

バシュゥゥウン!!

 

《キュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!》

 

 

幻獣キリンの光の剣が更に海王龍の軟化した部位に直撃する。吹き出る鮮血、肉片。

もはや絶叫。最前線に立つG級ハンターが、精霊が互いに海王龍を追い詰める。

 

「よし、怯んだ!畳み掛けろ!」

 

海王龍は軟化していない方の腕を叩きつけると氷の壁が幾億の氷の波となってハンターや精霊を薙ぎ払うべく雪崩のごとく押し寄せる。

 

「戻り玉、用意!!」

 

フッと消えるハンター、対象を失った氷の波はそのまま氷海を滑る。

 

このままでは死ぬ。

 

海王龍は一策を練る。

 

全ての力を一点に集め‥‥‥‥‥待つ。

 

「よし、再び開始する‥‥‥‥‥‥‥‥ぞ!?退避!!!」

 

 

 

《グアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!

 

去ね、小さきもの!

 

白い光の烈光が海王龍から放たれた。

 

「させるか!!」

 

レガリアが阻止するために破龍砲を放つ。

 

「待て、レガリア!!伏せろ!!!!!」

 

トリヴィスに頭を抱え込まれて甲板に伏せる。

 

 

近くにいたオルトも同じように咄嗟に物陰に隠れ、烈光をやり過ごす。直後、吹き荒れる極寒の風、いや嵐。

 

音が止み、顔を上げるとそこは銀世界。破龍砲から放たれた撃龍槍も空中で凍りつき、ハンターも氷の彫像と成り果てた。見ればまだ息があるので生きているがあれでは復帰は無理だろう。

 

精霊は、膜のようなものを展開しておりそれでやり過ごしたようだ。

 

 

 

 

形成逆転。

 

追い詰めていたはず。だが、海王龍が一計を案じて放った銀の烈光により反転するーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海王龍は逆転できたことに安堵し、この身動き取れぬ小さきものを薙ぎ払うべく3つの口から激流ブレスをチャージする。

 

 

その時ーー

 

 

 

海王龍の脳裏にあるシーンがよぎる。

 

 

白いエーデルワイスに似た氷の花弁。それは花吹雪となり脳裏を一時的に支配する。

 

 

 

遥か果てにて、吠える星の御使の雄叫びが死を告げる鐘のようにーーー

 

何処か遠くで、鐘の音が聞こえた気がしたーーー

 

 

 

 

 

 

 

ジャラジャラ、ジャラ!!!!

 

 

《ッ!!!!??》

 

キュラキュラキュラ、ジャラララ!!!

 

 

 

「くそう、一歩遅かったか!だが、まだ生きているな、待ってろ今支援する!!」

 

 

突如として拡声器から響く声と海王龍の体を拘束する杭が鎖とともに展開される。

 

遥か上空、嵐龍の風の追い風に守られ進む飛行船が。それにはメゼポルタの紋章、ドンドルマの紋章、ミナガルデの紋章‥‥‥‥ギルドの紋章を掲げた飛行船が、拘束用バリスタを打ち海王龍を縛る景観。

 

メゼポルタの飛行船には群青色に輝くオーブを持った巫女の姿が。

 

 

 

 

 

「海王龍、今一度告げましょう。暗き海へ帰りなさい。今の世に貴方の力は必要がないのだからっ!!!」

 

 

 

《グアアアアアアアァァァァァァァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!》

 

認められない。このような小さき者などにーーー!!!そういうように吠える海王龍を凛とした声で海王龍を否定する。

 

 

 

役者は揃った。

 

後は海の終局へ走るだけだ。凍れる世界に後戻りできぬ戦いは終わりを鳴らす。




※ここに出ている狩技はオリジナルのものです。


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沈め海神、さよならとはいわないで

海王龍編あと1つとなりました。感想、評価、ありがとうございます。


《グアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!》

 

 

 

「く、拘束用バリスタをもっと打ち込め!!自由にさせるな!!」

 

「衛生兵!!凍りついたハンター殿たちを救出せよ!!」

 

「鎮静石をもっと打ち込め!!破壊の鉱石も準備せよ!!」

 

絶え間なく行われる15隻からなる飛行船団の空中支援。

 

海王龍を縛る拘束用バリスタはまるで木乃伊なようにグルグル巻きにして、絶島地下より運び出した支援用の鉱石をありたっけ積んだ飛行船より打ち出される。

 

 

睡眠効果を持つ青い鉱石が打ち出されると拘束を外そうと暴れる海王龍の動きが鈍くなる。

 

更に白い鉱石が飛ぶと翼の一部に着弾。凄まじい爆発と共に海王龍の翼を一部ボロボロにする。

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッ!!!!??》

 

 

「翼、翼膜破壊確認!!更に胸元から核と思われる宝玉の露出を確認!!破壊の鉱石を装填願います!!」

 

 

「破壊の鉱石を装填!!目標、胸元の核、コアだ!!」

 

 

「装填完了!発射します!!」

 

バシュウっ!!

 

ズドンっ!!!

 

「コア、破壊至らず!!されどコアの欠けに成功!コア再び肉体に埋まりました!!」

 

海王龍は多大なダメージを負うとおそらく弱点であろう胸元のコアが露出すると確認された。そのコアこそ大海嘯を制御する力のみなもとであると。

 

「なら、もう一度やるまでだ!!旋回せよ!」

 

「アイサーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

ガンっ!!

 

「硬い!荒療治だが。大タル爆弾持ってこい!連鎖起爆で氷を砕く!!」

 

「しかしそれではハンター殿たちが危険では!?『馬鹿野郎、ハンター殿たちも危険なのは承知だが!!我々もずっと居られるわけではない!!』了解っ!!」

 

幸いにしてハンター殿たちは密集して凍りついていた。

 

衛生兵達は大タル爆弾を規則正しく並べて中央に小タル爆弾をおいて爆発の範囲外に退避する。

 

数秒数えて響く爆音。

 

 

 

「「「「「ゲホゲホ!!助けるのになんで爆弾なんだよ(なのよ)!!!???」」」」

 

「それしか手っ取り早く済ます方法がなかった。すまん。」

 

「「「「軽くねっ!!!??」」」」

 

「ほら、隊長、怒ってるじゃないですかぁ!!」

 

「大丈夫だ、叫べるならば元気に決まっている、だってハンターだから!!」

 

妙なサムズアップが殺意を加速する。

 

あれ?この人こんな人だったけ?

 

 

「取り敢えず秘薬配るからなーー、飲んだらさっさと奴さんのしてこい!!」

 

 

‥‥‥‥‥‥‥もう何も言わない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

絶え間なく我が身を打つ小さきもの達の猛攻。

 

怒りに身を任せようにも、青い鉱石が我が身の怒りの熱を奪う。

 

暴れようにも幾重にも重ねた拘束用バリスタが身動きを封じてくる。

 

他の駆けつけた小さきもの達が凍らせた武器持つ小さきもの達を救出し、再び我が身をえぐる矢じりが此の身から血を吹き出させていく。

 

 

だが。

 

時は満ちた。

 

 

 

何処かで誰かが、この力を食い止めているがもはや止められぬ。

 

《ウウウウウウウウウウゥゥゥゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!》

 

 

空気を震わす我が咆哮。

 

空間を砕き、空間の断層により空気の地震が起こる。

 

それに引き寄せられるように氷の壁はここ目掛けて接近する。

 

 

凍りついた、世界を覆う白い影である大海嘯はここ海王龍を最終地点として目指していた。海王龍の頭上にやってくればあとは、落とすだけだ。

 

 

ならばこの煩わしい拘束も我慢することもない。

 

ブチ、ブチブチブチ‥‥‥

 

 

ギリギリ‥‥‥ブチブチブチ‥‥‥‥‥‥!!!

 

「っ!拘束用バリスタを引きちぎるつもりか!!なんて力だ!」

 

「もっと打ち込め!!鎮静の鉱石を打てぇぇ!!!」

 

ドォォォン!

 

シュゥゥゥゥ‥‥‥‥!!!

 

 

「っ!?効いてないっ!?さっきまで効果があったじゃないか!!?」

 

「観測班、何があったか報告せよ!!」

 

 

「海王龍、拘束用バリスタを引きちぎりこの場を離脱する模様!甲殻のいたるところから属性エネルギー観測!特に翼に属性エネルギーが集まってます!!これは‥‥‥‥‥‥飛翔するつもりか!?あの巨体で飛行するというのか!!?巨戟龍もそうだがあれを上回る巨体でどうやって!?」

 

 

「なんだとっ!!?」

 

 

吹雪が吹き荒れる中、肉眼でも見える海王龍の放出する属性エネルギー。

 

あれほどの巨体で飛行するなど到底考えられなかった。

 

鎮静の鉱石が効かないというのも驚きだが、海王龍が飛翔するという事実の方が遥かに衝撃的だった。

 

しかし、なぜ今になってと疑問が浮かぶ。

 

「っ?!皆、上を見ろっ!!」

 

「「「「「‥‥‥‥‥‥?‥‥‥‥‥‥っ!!???」」」」」

 

 

白い壁がもう海王龍のすぐ真上まで来ていたのだ、制限時間である二時間はすでに超えていた。

 

白が世界を覆い尽くした。

 

天を仰ぐように海王龍は空に向け大きく吠える。

そして翼を羽ばたかせてゆっくりと地上からいや凍りついた海上から飛び立った。

 

そうはさせじと左右から飛びかかった二体の精霊、アマノヌボコヌシとキリン。

 

だが、海王龍は3つのうち1つの首が真下に向け極寒のブレスを放つ。

するとどうだろうか。四方八方、上下斜めから氷の槍が高速で海王龍を中心に展開される。

 

それは空を覆う白い世界からも展開される。

 

まさしく氷槍の檻。

 

圧倒的というには生ぬるい大質量の氷槍。

 

これは事実無限に展開される。なぜか。

 

世界中を覆う白い世界、それは全て水であるということ。海王龍が立っていた場所は凍りついていたとはいえ元は海。

 

海全てを枯れ果てさせぬ限り止める術はないに等しい。

 

圧倒的な質量に弾き飛ばされる精霊達。

 

精霊だけではない。上空を飛んでいた飛行船も氷槍が貫き、力なく墜落する。支援用の鉱石を積んでいた飛行船は墜落と同時に大爆発を起こした。

 

移動できず、砦と化していたヴァルキュリア号も氷槍が貫き、船体が引きちぎらんとしていた。

 

「化け物めっ!!」

 

吐き捨てるオルト。今にも吹き飛ばれそうになるがなんとか耐えている。

 

歯噛みするオルトを、トリヴィス、レガリアその他のハンター達を他所に遥か上空を目指して飛翔する海王龍。白い世界が海王龍を覆い、滝のように流れるーーー世界の終わりに。

 

 

鈴の転がす声が聞こえた気がした。白く視界が塞がっていて確認もできない。

 

 

 

「させるわけないじゃないか。海王龍。君が支配するのは海だろう?だからさーーー

 

 

 

 

 

堕ちなよ、ギ●ラもどき!!!」

 

海王龍を上から叩きつける空間が割れる衝撃。

 

《グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!?》

 

見える人はいないが、この少女は紫がかった銀の髪を揺らして海王龍の背中にかかと落としを敢行したのだ。

 

「流石にその力を解放するのは認めないよ!前は様子見だったけどもう容赦しない!!」

 

こいつはーーあの時襲撃して来た人に化けた龍。いやーーーこの気配はーーー!!!

 

 

我が母君、原始龍『マザー・ドラゴン(・・・・・・・・・)』の分体かっ!!母君から分かたれた祖なる者たち。その一存在。

下手をすれば抑止力の排除対象だ。なぜならこの世の祖なるものはいるのだから。

 

焦りながら、無限に展開する氷槍がこの母君の分体を貫かんと四方八方、上下斜めから檻のごとく乱雑に展開する。

 

 

「ふふん、どこを狙っているんだい?そんなの私には当たらないよ?出直しきてきな!!」

 

少女の拳が胸元をえぐりとる。露出するコア。

 

到達する前に拳を当てさせるのは止めたが、失墜している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕ちていく、落ちていく。

 

 

多大な衝撃を発生してスノーバーストが発生する。

 

それはなんの因果だったのだろうか。

 

落ちた衝撃で船体のほとんどが吹き飛び、破龍砲は大破、カノン砲も大破している。しかし、最大の武装が残る船首の大撃龍槍がまだ生きていた。

 

衝撃波で遥か彼方に飛ばされたトリヴィスとレガリアはかろうじて生き延びていた。

 

オルトは瓦礫に体を挟まれ、無理に脱出したために足を犠牲にした。

 

「くそ、がぁァァァァァァァァァァァっ!!!」

 

自身に吐き捨てるように叫ぶオルト。

 

そしてオルトに覆いかぶさる影が。

 

起き上がった海王龍が、すぐそばに来ていたのだ。

 

死に体の体で這っていくオルト。巨大な影はゆっくりと大破したヴァルキュリア号を踏み潰さんとしていた。

 

ズン、と衝撃が。凍りついた海上にめり込むヴァルキュリア号。踏まれたのだ。海王龍に。

 

 

絶対危機的状況。

 

けれど、運命は捻り狂う。踏まれたことで船首の大撃龍槍が海王龍を狙うように向きが変わったのだ。

 

ふっ、とほくそ笑むオルトに。

 

ピッケルを握りしめ、そしてーーー

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォォっっ!!!!!!」

 

 

『いっけえ!!』

 

遥か上空から少女の声が聞こえた気がしたが今はこれが最後のチャンスだ。

 

振り下ろすピッケル。

 

 

 

 

 

 

白夢の中、海王龍はすぐ近くから起動音を感じ取り眼下を下ろした。

 

そしてーーーー

 

 

ギュイイイイイイイイイィィィィィィィィィィン、ドシュゥゥゥゥン!!!

 

起き上がったばかりで、視界は自身も掴めぬ白い世界。足元を怠った海王龍の胸元目掛けてーー

 

 

ヴァルキュリア号搭載 三連装大撃龍槍が1つの回転する槍に変形して『滅龍槍トリアイナ』が防御する甲殻を突き破り、コアに到達する。

 

 

コアのみならず『滅龍槍トリアイナ』は背中を突き破り、そして機能停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、世界が白から青へと変わっていった。




エルが乱入しないといったな、あれは嘘だ。(キリッ

やりたかっただけなんだ、許して?


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凍てついた海の愛よ、泡になりましょう

ついに海王龍編終了です。次回はモンスター生態編となります。まずはシャルバタラスク。星焔龍とのコラボとなります。その後、外伝としてif3次作ストーリー精霊王と龍滅刃との関係を迫ろうと思います。作風が違うので違和感があると思いますが応援お願いします


ザアアーーーー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

雨が降る。

 

いや、これは世界を覆い尽くしていた白の世界の残骸だ。それが世界に帰っていく。

 

大海嘯は、世界を再び沈める災害は人の手により食い止められた。

 

 

変化は空だけではない。

 

激戦地であったタンジアとその周辺、すなわち海王龍との戦いの地だ。

 

 

【滅龍槍トリアイナ】が海王龍を貫いた時、時が止まっていた。

 

白い世界が元の青に戻る時、止まった時が動き出した。

凍てついた海面は海の概念ごと凍りついていたが元の海水へと戻っていく。

 

 

ズズズズズズズズズズ‥‥‥‥‥‥‥

 

地響きもかくやという音を立ててゆっくりと溶けていく海水へ沈んでいく海王龍。

 

もはやその目は何も写しておらずただ、自重によりただ深みへと落ちていった。

 

海中へ沈んでいく海王龍は何故か身体から尋常ではない量の泡が出ていく。それと同時に体は泡に変えながら確実にその身を砕いていった。

 

 

 

 

 

 

ーー昔々、人間に恋した海の姫君がおりました。

 

海の姫君は、上は人で腰から下は魚でした。いわゆる人魚でした。恋した人間は、人間の国の王子様でした。恋しくて恋しくて、我慢が出来なかった姫君は海の国一番の魔女に人間になりたいと願いました。

 

魔女は姫君に言います。人間になることはできる。けれど二度と海の住人には戻れない。それに其方は口もきけぬ、その王子に華を開く言葉を紡げぬ。

 

そして、王子が其方を選ばぬならば、其方はその心の臓を砕かれ海の泡となって永遠に消えるのだ。それでも其方は考えを改めぬのか?と。

 

姫君は初めての恋心に決心したのだと魔女に訴えます。

それに決意が硬いと知った魔女は姫君に魔法をかけました。

 

願い通り人間になれたのです。そして魔女に言われた通り、喋ることも出来ず、そして初めて大地を歩いたことでもう立つこともままなりませんでした。

 

それでも姫君は這ってでも進もうとします。

 

するとなんということでしょう、なんの因果でしょう。白馬にのった姫君が恋い焦がれた王子が近くを通りかかったではありませんか。

 

大丈夫か、美しき人よ。

 

その声に姫君の頬が赤くなるのを感じます。

大丈夫です、と答えたいのに口が動きません。パクパクと口が開くだけで声が出ません。

 

口がきけぬ人だと知った王子はすまないと謝りながら姫君の頭を撫でます。

 

頭を撫でられるだけで心が満たされます。やはりこの気持ちは本物だったと知ったのです。

 

王子に抱き抱えられた姫君は王城で束の間の幸せを手にしました。けれど約束された運命は来てしまったのです。

 

王子に婚約者が出来たのです。

 

本当は声をあげて泣きたいのにそれでも口はパクパクと動くだけで声は出ることはなく、ただ静かに頬を涙で濡らしたのです。静かにその場を去った姫君は初めて王子に出会った港を歩いていました。

 

締め付ける気持ちが残酷に真実を突きつけます。

姫君は覚悟を決めました。一度、王城に戻ると王子を服を引っ張ることで呼び出します。姫君は王子にあるものを渡しました。それは瓶に詰められた星のかけらです。

 

それを渡すと、姫君は涙を流しながら、部屋を飛び出しました。そしてもう一度あの港に立つと、少しずつ心の臓が静かになっていくのがわかります。

 

すると白馬にのった王子が姫君に追いつきます。姫君は神様に祈りました。どうか実らぬ恋にただ一度だけでいい、声をくださいと。

 

天の神様は、覆すことはできぬ理にそれでも想いを変えなかった姫君に共感して魔法をかけました。たった一度だけの言葉を紡ぐ魔法を。

 

「愛していました」

 

その身を海へと投げ出します。王子は即座に海に飛び込みます。けれど姫君の身体は今までで一番の笑みを浮かべて泡になりました。王子が拾うことが出来たのは彼女がつけていた髪飾り。

 

泣かないで、愛しい人。貴方にふさわしい人と幸せにーーー

 

 

 

 

 

泡になって、消えていく海王龍。その身に突き刺さった滅龍槍トリアイナに備え付けたヴァルキュリア号も同じように沈んでいく。

 

オルトは指1つ動かすことも出来ず、流されるままそのままヴァルキュリア号と運命を共にすると思われていた。

 

滅龍槍トリアイナを起動後、海王龍が沈む衝撃で、崩れた残骸がオルトの体を再び拘束する。

 

 

「ははっ、道連れってやつか?いいぜ、もはやこの怪我だ。付き合ってやるよクソ野郎!」

 

 

沈む最後に見れば撃ち落とされた飛行船には別の飛行船が救助している。

 

そうだ、それでいい。

 

 

ゴボゴボ、ゴボボ‥‥‥‥‥‥‥

 

 

意識が遠のく。

 

 

 

 

 

 

ーー!!

 

 

 

 

 

何か聞こえる

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーんなっ!!

 

 

 

 

 

 

 

もう、休ませてくれ

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーめんな!

 

 

ザバァァン!!

 

何かが飛び込んで来たのか?

 

 

 

 

ーーー諦めんな!!

 

 

 

それはトリヴィスだった。ロープをくくりつけて剥ぎ取りナイフでオルトを縛り付ける残骸を取り除いていく。

 

やがてとり除けたのかトリヴィスはオルトを抱えると、ロープを引っ張り、やがて浮上する。

 

トリヴィスは最後に見た。

 

 

完全に泡となって消えた海王龍が、最後に残った頭部がブレスを吐くのを。攻撃ではなかった。それは推進力。そして、完全に消え去った海王龍を見届けた精霊アマノヌボコヌシが見えた。

 

 

精霊は確かにこういっていたのかもしれない。

 

 

ーーー生きろ

 

 

 

ああーーー、任せろ!

 

指を立てて生きると精霊に誓うトリヴィス。オルトを抱えて生の世界へ帰還する。

 

 

「トリヴィス!!どうだったい?!」

 

心配げに浮上して来たトリヴィスに問いをかけるレガリア。それに対してトリヴィスは親指をぐっと立てると歓声が上がる。

 

甲板に上がるとまずレガリアの抱擁だ。女性の感触に若干青い気持ちになるがそこは割り切ろう。

 

オルトはそのまま救助されたギルドの衛生隊に引き取られ治療を受けるそうだ。

 

 

海は、青く澄んでいた。

あれほど荒れていたのが嘘のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂に微睡む母なる海に

 

光届かぬ岩底に

 

砂の蓋を閉じて

 

今は眠れよ、眠れ。

 

煌めく王冠は群青に輝き

 

ホウズキの瞳は深淵を知る。

 

貴方は目覚めの時は訪れない。

 

静かに眠れよ海王龍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、いい話だったねトール。これがハッピーエンドっていうやつだよ。」

 

「取り敢えず言いたいことは山ほどあるが‥‥‥‥今はもう帰って休もう。これで三界はあと1つだな。」

 

「そうだね、そろそろ戻ろうか私たちの世界へ。これ以上いると精霊王の干渉を受けて再起不能になるのは嫌だからね。」

 

「いや、精霊は我々の世界にもいるからな?何のための抑止力だと思っている。」

 

「そこは気にしなーーい!」

 

 

 

 

海王龍編 完



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モンスター生態編2
特別コラボ:モンスター生態編 陽が射す天高き楽園の光


やっぱ難しいね。作風が違うからどうしても表現がうまくいかない。まあ、きっかけだからいいのかもしれないけど‥‥‥‥。

やっぱこういうのは頻繁にやるもんじゃないね(・ω・`)

赤評価ありがとうございます。感想も感謝!!!


ふっふ〜ん。

 

ふんふん、ふん〜ふーふん‥‥‥‥‥。

 

 

カラッと晴れた空気が美味しいアルトマリア高原にて、鼻歌を歌う白を主にした東方にあるという神社の女性が纏う巫女服の少女。

 

けれど噂で聞いた巫女服とは少し違うようだが‥‥‥

 

 

清楚なる装束なのにヘソは丸出し。

 

何故かスカート。

 

そんな見た目なのに人物は見た目は白金色の髪を持つ凛々しい人なのだから違和感が半端ではない。

 

 

背には白を基調としたクイーンブラスター系弓。赤いラインが時節発光しているのが美しい。

 

彼女はキアラ、と呼ばれていたらしい。

度重なる戦いに飽き癒しを求めて飛び出したはいいが場所を決めてなかったので放浪していた。迷子とは最後まで言わないようだが‥‥‥。

 

 

「んーーー!空気が美味しい!!流石世界一の名所よね。お姉ちゃんに内緒で来てよかった〜」

 

 

少女の姉は少々、いやかなり重たいまでに病んでいると語っておりここに来るために幾重にも張り巡らせた作戦を練って来たのだ。

 

少女キアラはアルトマリア高原を一望できる高度から景色を眺めた。

 

アルトマリア高原は上から見れば薔薇の花弁のように切り立った岩壁が標高五千メートルの高原を覆うことで構成されており岩壁から下の岩壁へ向けて水が流れ落ちていく。しかし高さゆえに下まで落ちず霧と化して霧散していく。霧散するその間に虹がかかる。

 

雲から見える木漏れ日が、高原を照らし高原のあちこちに転がっている見たことない鉱石がプリズム反射のように光が届かない場所に吸収した太陽光が差し込む。

 

頂にはいつ建てられたのか不明な神殿跡があり、その周囲には無数の透明な結晶鉱石が塔のようにそびえ立つ。

 

岩壁にも緑豊かに、多種多様な動植物が生息しており、最下層にはアルトマリア高原を囲むように湖が鏡のように映し出す。それは万華鏡と例えたほうがしっくり来る。

 

目を凝らせば、岩壁の一部を使ってリオス種の番が巣を作っている。

 

バキッ

 

 

音が発生した場所を見れば、キアラが鏃を一つ一つずつむしり取っている。ブツブツと何かを一人つぶやいている。

 

 

「リア充め、引きちぎってやる‥‥‥‥。なんで私には、私の周りには常識の通じない化け物しかいないのに‥‥‥‥!あんな仲睦まじくして‥‥‥‥‥!!」

 

 

 

心なしか白金色の髪が白く見えるのは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この少女、キアラは人ではない。竜である。限りなく龍に近い竜。

 

何の理由か不明だが、世界の法則、生態の樹の理を覆して、その身に龍脈を宿して、新たなる可能性の神話と言われたーーーリオレイアである。

この特異すぎるリオレイアの周りは彼女がいう通り、何があったのかと問い詰めたいくらいの異常さであった。

 

幾重の戦いを星は観測した。

 

龍脈の化身の一つ、ラヴィエンテを己を進化させて殻を破り打ち倒し、神の敵と言われたアルバトリオンを疑似ブラックホールで消滅させ、天敵がいなくなり、極限なまでに成長したオストガロアを宇宙の果てに投げ、そして己の領域に住まう生命を生命をこえた何かに変えた、このリオレイアの存在を。

 

 

当然、介入しようとした。これほどの存在は精霊王をもって最悪抹消、よくて力の縮小。

 

しかし、それは叶わぬことになった。星の最強の精霊種である精霊王に干渉して来た存在があったから。

 

 

それはかのリオレイアの姉と名乗り。そして祖龍であると。自分が世界をしっかりと管理している。そして、それでは足りないなら自らも霊界の末席に入ると約束してきたことで星は手を打ち干渉しないことにした。無論、条件付きで。

 

ーーーそんな裏事情はリオレイアの姉と名乗る祖龍と精霊王、星の意思だけ。

 

ーーーしかし、祖龍は原始龍『マザー・ドラゴン』の欠片、様々な世界に、並行する世界にばら撒かれた世界の行く末を見守るための機構。それが祖なるものを冠する存在のはずだった。それが人の魂と混ざるなど誰が思いつくだろう。

 

だが、約束した通り彼女が見る世界は管理されている。手に余る存在も一人の人間により手懐けられている。

 

なら、介入はしない。ーーーーーーーーー今は、な。

 

約束を違えば、力を制限すると星は祖龍に厳格に意思を伝えた。

 

 

 

 

そんなこともつゆ知らず、この妙な巫女服を着た少女キアラは

 

「この鉱石美味しい!!なんだか火属性が強化されていくみたい!!」

 

この鉱石は太陽照石といい、太陽光を溜め込む性質を持つ。溜め込んだ太陽光エネルギーは約1キログラムで三ヶ月間分の電力エネルギーに変換できる。

 

外部から衝撃を与えると溜め込んだ太陽光が放出するため、扱いが難しいがいざという時には頼りになるアイテムでもある。

 

叩きつけるだけで最大大タル爆弾Gを上回るエネルギーを放出することができる。

 

ただ、太陽照石は採掘が制限されており、無闇な採掘は罰せられてしまうのだが‥‥‥‥彼女に限ってはそんなの御構い無しである。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

アルトマリア高原は他にはない素材が手に入るが、忘れてはならないことがある。ここは常にエリエンテ地方にあるハンターズギルドの高原監視隊がある古龍種を見張っているのだ。

 

長年の観測の結果、かなり知能が高く敵意の有無、危険性の予知に優れ、時たま見せる照射と呼ばれる現象は大規模で行われる虫レンズに太陽光を照射して焦がすようなもの。

 

雲の切れ間から放たれる照射は照らされた場所にいた動植物が概念ごと消え去り、影が焼きつく様はドンドルマに記されているどの古龍種にも該当しない。

 

 

シャーナ村の巫女が語る古龍、シャルバタラスク。太陽の輝きはあらゆるものを俯瞰し、支配して裁くという。

 

また、この古龍種の力なのかこの高原には夜という現象が起きない。常に日の光が差し込むことから不夜の高原とも呼ばれるアルトマリア高原。

 

 

そのためこの古龍種の存在のためにギルドが発行する特別な許可証がなければ立ち入れない神聖な場所でもあった。

 

今、アルトマリア高原を監視するギルドの監視隊は望遠鏡を使って採取に励む白い少女を見ていた。

 

このまま進めばおそらく中心部、そこへいくだろう。

 

いつ建てられたのかわからない崩壊した神殿跡がある、あの古龍種が降り立つ場所に。

 

 

何もなければいいが‥‥‥‥‥。職員の胸中は不安が渦巻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥んー、お姉ちゃんがいる塔と素材が似てるなぁこの神殿。いつ建てられたのかな?崩壊してるから規模はわかんないけど‥‥‥。これ絶対どっかの古龍の縄張り、よね?だって‥‥‥‥‥‥龍脈の龍穴がこの頂上にあるんだからいないわけ、ないよね‥‥‥?」

 

 

キアラは瓦礫をどかしながら、不安の汗を拭き神殿の中へ。

瓦礫がほとんどだが周りには太陽照石の大結晶塔、そして太陽の光でスクスク育っている高原の花々。見た目的にはシェイミの花束に似ているかも。

 

龍穴。龍脈が集中する特異点。体で言えばリンパ節といえばいいか。

己が居を構える領域に下手すれば匹敵する龍脈の源泉。

 

あっちこっち探して見たが大して収穫はなかった。あったといえば祈り場に置かれていた、おそらくここを縄張りにしている古龍種のレリーフ。

 

ただ、顔の部分が欠損して、端が欠けていてどのようなビジュアルなのかはわからない。

レリーフには伝承のようなものが彫られていた。

 

 

 

ーー

 

太陽はかく輝き王性を示す。

 

夜が来ぬわが高台に不浄なるもの焼き尽くさん。ーー

 

あとは崩壊のせいか文字が読めない。

 

 

「え、これだけ?穴だらけとは言っても読めるのこれだけ?」

 

 

もっとないのか、と思うのは仕方ないと心の中にしまっておく。

 

「うーーん、絶景なのは間違い無いんだけど‥‥‥‥‥。なんか拍子抜け、龍穴だったくらいしか驚きはないかな」

 

神殿を出ると相変わらず雲の切れ間から木漏れ日が差し込み、時節太陽が顔を出す。高原特有の清涼ある風が気持ちいい。

 

「さて、帰ろう。まあ、気分転換にはもってこいな場所だね」

 

神殿を後にしてこの場所を去ろう。そう決めて一歩踏み出す、すると違和感が。

 

空に太陽が二つ。彼女の生命の限界を超えた五感が警報を鳴らす。

 

「っ!?」

 

 

キィィィィィィィィィーーーーーーーン、ジュワッ!!

 

突如、昼間なのにスポットライトが当たったように木漏れ日から光が彼女を包み込んだ。

 

そして遅れて、爆音。

 

キアラは間一髪瓦礫の陰に隠れてやり過ごすことに成功する。そして空を見上げる。

雲の隙間から見えた陰。

 

後光のせいでシルエットしか見えないが間違いなく自分に攻撃した敵だと認識した。

 

瓦礫に隠れながら、流体金属から作った矢を白い弓に番えて放つ。音速を超え矢はそれに肉薄する。

 

しかし、反応が消える。いや、溶かされたーー!!

 

間髪入れず、光がスポットライトのようにキアラが隠れていた瓦礫を照らす。すると瓦礫は砂のように粉々になり植物の影が焼きつく。

 

「なんてやつーーー、これ人間体じゃ勝ち目ないじゃない。おまけに上取られてるし‥‥‥厄介だね」

 

 

 

 

 

 

 

ーー転々と移動を繰り返しながら、光の照射をやり過ごすとふと攻撃が止んでいるのがようやくわかった。

 

「脅し、威嚇攻撃か。わかったよ、出てけばいいんでしょ、出てけば」

 

 

少女キアラは白い霧のようなものを発生させると、肉体を龍穴に放り込み本来の姿になる。

 

リオレイアの体を白くし、甲殻の隙間から、鱗の間から赤い属性エネルギーを放出する。

脚は太く、爪先には爆発性のある粘菌が住まう。

 

翼はバルファルクのように可変でき、かつ飛竜としての翼を保っている。

 

顎の横についている牙が発達した器官はまるで槌のように太く、かつなんでも切断できそうである。

 

新たな可能性という神話の具現、星焔竜。

 

勇ましく羽ばたくと初速で音速を突破し遥か彼方へ姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を最後まで目撃した雲の上から見ていた存在、陽光龍シャルバタラスクはゆっくりと神殿跡に着地する。余波で辺りを焼き払うが気にしない。

 

 

《シャルウゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!》

 

 

 




おまけ



光がまるで神々しく輝く世界と切り離された別次元。

そこは輝きの丘といい、普通はどのような存在であれ入ることは出来ない。

その場所にただ一つ佇む存在があった。

全体のシルエットは狼、首からマントのようにたなびく器官とジンオウガのように前に突き出す角ではなく規則正しく並ぶ頭角。腰には扇のように広がる外殻。

腕は前足がブレード状になっており、なさがらトンファーブレード。


彼は虚空に向けて唸る。するとまばゆい光とともに白い、ドラゴンが現れる。白い龍は、カッと輝くと人の姿になる。

「ん、またあったね。精霊王」

震え上がる体を抑え、うわずむ口を抑え声を紡ぐ。精霊王と呼ばれたそれは一挙同全てが恐ろしく感じられる。

するとどうだろう。

精霊王もカッと輝くとこの世全ての理想を体現する絶世の青年の姿が。
閉じられていた目を開くと、

「さて、聞かせてもらおう。貴様、この世界をしっかりと手綱を握る、と誓っていたようだが‥‥‥‥‥‥‥?



実行されておらんぞ?」



ーーーブッ‥‥‥‥‥‥‥

ーーー
ーー


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モンスター生態編: 牙向く森はガガンドルム

感想、評価、ブクマありがとうございます。なお、この投稿後、質問コーナーみたいなの設けますので、ここどうなってるの?など聞いてください。答えられる範囲でお答えさせていただきます。

※なお、生態編のみ他作品のキャラクターの裏の動きがありますので、もしよければネタください


ズシン、ズシン‥‥‥‥‥

 

エリエンテ地方中央部にあるコリア・アチュリ大樹海。

世界でも類を見ない、古塔近くのバシュバトム樹海が3つ収まるくらいの広さを持つ大樹海。

 

そんなコリア・アチュリ大樹海にて鳴り響く重量感ある足音が木霊する。

 

体長36m、体高9mという巨体。

 

巨躯に生えている苔や小さなヤドリギ、キノコなどが付着しておりさながらこの森の長老の如し。

 

サイのように一本の太い角を持ち、口元は笑う三日月、上顎から伸びる太い牙は、ベリオロスなど比較できないだろう。

 

大きく発達した筋肉質な腕はあらゆるものを引き裂き踏み潰す。

 

 

樹王竜 ガガンドルム。

 

コリア・アチュリ大樹海に住まう、アカムトルムやウカムルバス、オディバトラス、ポボルバルムなどに含まれる超大型飛竜種モンスター。

 

その見た目は、巨大な山。新緑に満ち、瑞々しい緑の山だ。

 

そして何より特徴的なのは、腕にある退化していているのかと問い詰めたいほどに発達した翼殻だ。

 

 

腕から足にかけて膜があり、モモンガのように滑空する形なのだろう。

 

ガガンドルムは今ある場所に向けてゆっくりと進んでいる。それはコリア・アチュリ大樹海にある洞窟だ。

 

 

ここに何がいるのかは、ただ単にガガンドルムの好物がいるとだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ある洞窟の比較的浅めの場所でスヤスヤと寝息を立てているのは、エスピナス、辿異エスピナスだ。

 

捻り狂った毒々しい見た目の角を持ち、蔓のようなものが巻きついて長い間生きているのがよくわかる。

 

背中や翼、尻尾にある棘からは毒液が流れ常に垂れ流しだ。

触れた小動物が青紫色に変色して即死する。

 

天井に僅かに空いている隙間から溢れる日光が心地良い。

 

凶暴極まるこの辿異エスピナスも元のエスピナス同様、寝るのが好きなようで気持ちよさそうにいびきをかいている。

 

ズズッ

 

 

スピー‥‥‥‥‥

 

なにやら音が聞こえるが気にしない。気にならないといえば嘘になるが。

 

 

 

ズズズ‥‥‥‥‥

 

 

 

 

ぐー‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

近づいている。敵かどうかはわからないが気にしなくてもいいだろう。この体が敵を突っぱねるのだから。

 

 

ゴゴゴゴゴ‥‥‥‥‥‥

 

 

 

 

 

クピー‥‥‥‥‥‥

 

 

洞窟が揺れる。パラパラと砂埃が舞う。掘り進んでいるのか、洞窟内が揺れる揺れる。

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

 

爆音とともに天井に大きな穴が空き、巨大な塊が迫ってくる。

 

突然の轟音で目を覚ましたエスピナスは大きく飛翔、崩れた天井から飛び出して逃げることに成功する。

 

近くに着地すると、快眠を害されたことで激昂、大気が震えるほどの咆哮を上げ、時速90kmの突進をその敵に向けて特徴的な毒角を突き刺さんとする。

 

身体から発光するまでに苛烈になった毒を身体全体に纏い、一つの槍になる。

人間からは解毒薬でも直せない毒と言われ、この辿異エスピナスから取れる抗毒液しか解毒できないのだ。

 

自分より3倍の大きさだろうとお構いなくそれに突進した。

 

余談だが、ティガレックスは突進するときの時速は50km、辿異種としてのティガレックスの時速は80km、ある世界では時間制限があるものの時速120kmを出せる動物がいるのでなんらおかしくはない。

 

この突進ならば、倒せると思っていた。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

めのまえがまっくらになった(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

ガガンドルムは匂いを追って洞窟で寝ていたお目当ての獲物、エスピナスを強襲した。

 

一撃では仕留められず、逃げられたがかなり歴戦の猛者だったようで怒り心頭といった様子で素直にまっすぐ突っ込んできた。

 

かぱぁっと口を開ける。迎え撃つつもりなのかはわからないが噛み付くというのはよくわかる。

 

だが、ここからがガガンドルムの正体である。

 

口をさらに力を込めるとさらに口が拡張したのだ。元々の口の横に普段は閉じているが、捕食するときだけ開く裂けた口。竜の口が、ワニのように長く開く。そして、突っ込んできたエスピナスをそのまま口を閉じて、およそ30tの圧力で噛み砕いた。

 

これは今は化石でしか見られないいたとされるメガロドンの20tを上回る。

 

飛び散る鮮血、折れた発光する毒角。溢れる毒液。

 

 

 

ぐっちゃ、ぐっちゃ‥‥‥‥‥ベキベキベキ‥

 

 

 

ゴリゴリ、メッキャッ!!

 

 

 

噛み砕く。

 

硬い甲殻なぞなんのその。

 

突進してきた辿異エスピナスをそのまま飲み込み噛み砕く様は異様というほかない。

あらかた食べ終えると尻尾を支えに雄々しく立ち上がりそのまま倒れこむ。

地震と見間違うほどの轟音。

 

そのままの体制で天を仰ぐように大きく吠える。

 

 

 

 

《ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!》

 

 

樹海の真の支配者は、未だ敵を知らない。小さな箱庭の王国で、閉ざされた秘境で絶対者として生きている。

 

 





おまけ



???「どうしたの?ジョー君。お腹すいた?」

恐暴竜のようなナニカ「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!」

???「え、え?キャアっ!?どこ行くのっ!?」

その後、視点は暗転した。



ーーーー
ーーー
ーー


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とある書記隊の精霊観測: 転輪する灼熱と不死の大羽

今回は、精霊にスポットを当てます。短いですが、生態ムービーみたいなものなので、ご了承くださいませ


燃え盛る火柱が幾重にもほとばしる灼熱の秘境。

煮えたぎる溶岩の湖からもうもうと上がる噴煙の中、一つの輝きがある。

 

極彩色の長い尾羽があり、煌煌と輝く焔の翼。

 

天の輪に似た冠を抱き、黒曜石に似た嘴に朱色の羽毛。

 

爛々と輝く金色の瞳は、高貴なるそれ。

 

 

 

精霊種の一柱、【不死鳥: ニニギノカグツチ】

 

世に火がある限り、永劫不滅とされる精霊種で精霊王に匹敵する強大な存在。

一説には火そのものが肉体ではないか、とされるほどだ。

 

舞い踊るように、灼熱の空を飛ぶ。

 

不死鳥は、古来より存在すると密かに信じられてきた。

 

曰く、その尾羽より漏れ出る光を浴びれば、あらゆる怪我を治すという。

 

曰く、その涙を飲めばどんな病さえ癒すという。

 

 

曰く、その血を飲めば不老不死を得、精霊の王でもなければ殺せない無敵な肉体を得るという

 

曰く、曰く‥‥‥‥‥‥

 

 

数え上げればキリがないほど伝承に上がる逸話は多い。

 

数多の権力者が、かの者を追い求め、夢に散った。

 

かのシュレイド王国の国王も、ミラボレアスに滅ぼされる寸前でさえ不死鳥の力があれば‥‥‥‥と嘆いたという逸話があるほどだ。

 

また、竜大戦と呼ばれる大戦争の時も、時の権力者が、追い求めていた。

そもそも竜騎兵自体が、精霊種を捕獲するためではないか、という説もある。強大な精霊種を手に入れるために、竜騎兵を製造したのでは、という説だ。

精霊種と渡り合うために、何十と超える竜や龍を兵器の材料にしたとすればなるほど、妙に信憑性があるだろう。

 

 

ギルドもかの存在は古い書物に記されているのを知ってはいるが実在はしないと信じられていた。

 

これほどの存在が語られているにもかかわらず、一切の目撃例がないためだ。

 

目撃例がないとされるモンスターは前例があるためにこの不死鳥もその類と思われていた。

 

だが、この事実も今回で終わりである。

 

全ては巫女の同伴によるギルドの書記隊によって目撃されたからだ。

書記隊にはリッカートもいた。事実上、リッカートがこの書記隊のリーダーだ。

 

 

 

世界最大の火山帯、ゼエト・テュポン火山帯。

 

麓の村人からは、以下の二つ以外のことで入山することを禁じている聖なる山。

 

1、巫女の断りなく入ることを禁ず。偽って入ると、元の場所を永遠と彷徨う。

 

 

1、邪なる心を持って入ることを禁ず。聖なる鳥は、心を映し出すからだ。

 

 

随分と単純な決まり事だ。要は、巫女の容認なしで登るな、勝手に登れば、ずっと入り口に戻ってくることになる。

我欲で登るべからず、不死鳥は我欲を持つものを鏡のように移し、裁きを下すと。

 

 

今回は巫女の同伴であり、我々が知りたい真実を見ることが任務だ。我欲がないといえば嘘になるが、人として我欲を持つことは致し方ないのである。

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

険しい山道を登ること、三時間半。

 

ゼエト・テュポン火山帯の最高峰、ミオクリ山の山頂にして溶岩湖である。

 

 

「書記隊の皆様はここでお待ちください。」

 

巫女に呼び止められ、頷く書記隊の面々。

巫女は溶岩湖のすぐ近くにある小さな岩棚に立つと、唄を紡ぎ出した。

 

透き通るような声は轟音が響く火山に乗るように鳴り響く。

不死鳥は美しいものを好む。とりわけ美しい詩を歌う巫女を。

 

これについてはよくわかっていない。抑止の化身である精霊種の一柱である不死鳥が人の、人の歌声に惹かれる理由は一切わからない。

 

 

歌い出した巫女を見つめ続けて、何分経っただろうか。

 

立ち込める噴煙と吹き上がるマグマしか見えず、クーラードリンクを飲みながら現状を見つめるしかなかった。

やがて、変化があった。

 

立ち込める噴煙の中、キラキラの輝く光が舞うように巫女をめがけてやってくる。

 

それは溶岩の熱を浴びて、燃え上がると聖なる姿を現した。

 

巫女はなお歌い続ける。

巫女の歌声に合わせて、現れた不死鳥は火口の中で舞い続けた。

 

灼熱の中、聖なる炎の舞を、歌を聴いていると自分たちの心の汚れが落ちていくのがわかる。

 

 

舞い踊る不死鳥の体から朱色の羽毛がパラパラと落ちてくる。羽毛は地面に触れるとあっという間に燃え尽き、残るのは灰だけだ。

 

残念に思えてくるのは仕方ない。だが、伝説とされる精霊種、その中でお伽話に出てくる不死鳥を実際に目の当たりにできたこと自体、自分たちは幸運としか思えなかった。

 

 

このことを書記隊の面々は羊皮紙に書き殴るように記している。不死鳥の姿、幻想的な炎の舞、巫女との対話、伝承の差異。あげればキリがない。

 

リッカートも年季が入った調査紙に見た通りに書く。

 

これを皆でまとめ上げ、ギルドの大長老に届けるのだ、失敗は許されない。

 

 

やがて、巫女も歌い終えたのか静かに礼をした。そして、ゆっくりと目を開けいつの間にか接近していた不死鳥と対面する。

 

 

《クルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥっ》

 

 

美しい。

 

ただのモンスターの声にかかわらず、耳に鮮烈に残る。

不死鳥は巫女に頭を近づけると巫女の髪の一房を抜いた。やがて、飛び立つと不死鳥は光に変わり、いずこかへと消え去った。

 

巫女がいた場所の近くに、煌々と輝く、極彩色の尾羽が落ちていた。

 

巫女は尾羽を拾うと、加工されたユクモの木箱に絹の布を敷き詰めそこに尾羽を入れた。

 

 

「さあ、帰りましょう。これ以上は、暗くなり帰れなくなります。」

 

 

書記隊の皆は、十人十色だ。

 

幻とされた存在を見れて涙を流す者、新たな神秘を探そうと決意する者。多くのものに見たことを語ろうと考えるもの。様々だ。

 

 

リッカートはまだ、満足していないほうだ。

 

精霊種だけじゃない、絶滅したとされるモンスターの生態や、古龍種の調査などやることは山積みだ。

 

だが、今回はしばらく余韻に浸っていたいと思っていた。

 

 

 

 

 



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汚れた世界樹は、痛みに吠える
最後の龍帝、渦巻く狂気と汚れた世界樹


最後の三界になります。此処からは星焔竜世界の人物を大胆に使います。

感想、評価、ありがとうございます!!質問もなんでも聞いてくださいねヽ(・∀・)


「あれ、なんかおかしいね」

 

「うん、なんかおかしいね」

 

「せかいじゅ、かれてきてる」

 

 

 

パタパタ、と小さな羽を羽ばたかせている小さな小さな存在。

彼女?彼ら?はなんなのだろう。

見た目は人型。愛くるしい顔立ちで遠目からは光の球体が飛んでいるように見える。

 

目の前には大きな広葉樹とも針葉樹とも似つかぬ大木。長さはどこまであるのだろう、天を貫いているようにも見える。そして横に伸びる枝が、世界の空を覆いつくさんとする様は異様だ。

 

そして、不思議な彼ら達が言っていたようにその大木は紫色に変色し、腐りかけていた。

 

 

「じゃあくなちからかんじる」

 

「これまずいんじゃない」

 

「おうさま、おこるかも」

 

「こわいよ」

 

「ぜったい、おこるよね?」

 

「これ、どうみてもじゃれいだよ!じゃれいのせいだよ」

 

彼らの正体はこんな形であるがれっきとした、

 

 

 

 

 

精霊種である。

 

妖精 ピクシー。

 

強大な力を振るう精霊種の中で唯一、力を持たない精霊で世界樹を監視及び管理していた獣人種寄りの精霊種だ。

 

彼らがここまで慌てているのは、突然世界樹が謎の腐敗を起こしたからだ。

そう、ついに残る最後の龍帝である峯陵龍、その背に聳え立つものこそ今、ピクシー達が慌てている大木そのものだから。

 

「いたいよね、きっと」

 

「たぶん、いたそう」

 

「いたくて、いたくて、せかいこわしてしまう」

 

「こういうとき、どうするんだけ?」

 

「めざめるまえに、なんとかしなきゃ」

 

「にんげん!にんげんにたよる!」

 

「だれにたのむの?」

 

「おうさまにたのんで、じげんのとびらあけてもらう!」

 

「あ、かれらがいたか!よぼう、よぼう!」

 

「「「「うん、りゅうめつ‥‥‥?なんだっけ、あとひめ‥‥こ?ひめみこさんも!」」」」

 

 

 

 

 

 

ーーー「「へっきしっ(くしゅんっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、だいじょうぶなの?このあやふやないっぱいなせかいからおしつけられたごみばこによんで?」

 

「しかたないよ、むしろごみばこですんでよかったよ。しんりゅうが、さんかいがほかのせかいにながれないようにするのがおしごとなんだから」

 

「それにちゃんともとのせかいにかえせるし、だいじょうぶなはず」

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリストテレス、ついにあと一つになったね」

 

「左様で。運命とは残酷なものですな。あらゆる世界と繋がるいつ消えてもおかしくないこの世界で顕現してしまった三界の龍帝と、神龍。私めの説明が足りないせいで人間たちも真実を知った暁には絶望するでしょう」

 

 

「都合の良い物語、都合の良い世界。滑稽だよね、全てが終わる頃にはこの世界は本来の世界の記憶から消されるなんて。そして、神龍が目覚めるのも回避することも出来ないなんて、私たち道化じゃない」

 

 

 

粉々に壊された古塔のかつての頂、そこに少女と赤い衣の男アリストテレスが悲しげな表情で下界を見下ろしている。

 

もう戻れない。いや、ある意味ではまだ救いがある。

 

三界を全て倒しても絶望が来るわけではない。三界は封印の楔、すなわちそれを縛る要石があるということだ。

 

この星の最深部にある神龍のカケラ(・・・)、それを完全に滅ぼした時こそこの世界が終わりを迎え、他の世界に現れるのだ。真に覚醒した神龍が。

 

そんな絶望に彩られた世界など想像したくもない。

 

なぜ、こんな怪物が現れたのか?いつ生まれたのか?さっぱりわからない。

 

 

 

「でも、ああ、やはり人は挑むんだね最後の龍帝に。そして、交わる世界だからこそ。」

 

でも、覚悟せよ。最後の龍帝は龍帝にあらず、其は魔王の巣窟である。

 

非力なる妖精よ、枝分かれした同じ世界から英雄を呼ぶか。汝らが王と呼ぶ者が認めるかな‥‥‥‥?

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーーー!』

 

 

「ーーーー?」

 

 

 

 

「どうした、エクセリア。そっちはなにもないぞ?」

 

「いえ、何か聞こえた気が‥‥‥‥‥‥。気のせいでしょうか」

 

 

今日は珍しく二人でクエストを終えて、その帰り道。

 

黒く染まったリオレウスと、これまた何処までも混沌と黒く染まった恐暴竜を従えるエクセリアと呼ばれた女性は自身の脳裏に何かが聞こえた気がして何もない虚空を見つめていた。

 

「いえ、何もないようです。早いこと帰りましょう、ルークやクララがお腹を空かせているでしょうし」

 

「おう、今日は珍しく極海近くの知り合いからな、トロサーモンを貰ったんだ。これをトロトロムニエルにしてくれ。酒の肴になるしな」

 

「もう!栄養が偏ったらダメでしょう!!子供達に示しがつきませんよ?」

 

仲睦まじく二人の男女は、クエスト対象である捕獲した修羅種ゼナセリスを乗せた荷車を押しながら帰路につくのだった。

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

「ハハッ、とうとう見つけたぞ!!世界が縛る要石!!」

 

赤い刺繍が織り込まれた黒い衣の男が、世界の何処かの地中深く、世界から切り離された別次元にてドクンドクンと波打つ淡い赤色の超巨大な結晶を見つめていた。

 

その大きさは直径にして1200m。

 

そう、

 

これこそーー

 

「神龍のカケラ!!既に封印の楔である三界は残る一つ!!あとはこれを開放すれば神龍は目覚める!!!」

 

「目覚めさせるために、わざわざピクシーの目を盗み、世界樹に魔王の因子を埋め込んだ甲斐があった!!これで、世界は!精霊は!人類は最後の龍帝を倒さざるを得ない!!!この薄汚れた世界を粉々にしてくれる!!この神龍のカケラがあればな!!ハハッ、ハハハハハハハハハっ!!!!!」

 

男、ダモクレスは狂気に憑かれた言葉と表情で封印されし地で高らかに笑う。

 

 

 

ーーーヴゥン‥‥‥‥ーーー

 

ーーー

ーー

 

 




ピクシーの容姿ですが、「人類は衰退しました」に登場する妖精さんに可愛らしい翼がついたとイメージしてください。

可愛いよね?


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揺れる大地、交差する世界と吠ゆる霊王

コラボ先の成分多めよーー!
閲覧注意!!!

この章より精霊王が度々出ます。ただし、人に化けた分霊で、ですが。

感想、評価、ブクマありがとうございます!!


あの日からエクセリアがおかしい。

 

謎の声が聞こえるようになったと、度々聴くようになったからだ。

正確には、絆石を使用している時に聞こえるらしい。

 

どんな声なのか、と聞いてみれば最初は「」と聞こえにくい雑音だったのが、次第に『助けて』だの、『声が聞こえますか』、『お願い‥‥‥!』などになったという。

 

流石に気味悪くなったので、よく知る知己に相談したんだが‥‥‥‥、そのそいつの姉が偶然聞いていたらしく、顔面蒼白にして駆け込んで来た。幼げな顔立ちのくせして音が後から来るってどうなっているんだか。

 

色々尋ねられたが、要約すれば『絶対に関わっちゃいけない』案件だったようだ。

 

どういうことか聞いてみたいが、頑なに教えてくれない。

知己はなんでかわからないといった様子で、キョトンとしているため、戦力にならない。

 

「ジェスト、いい?貴方達は呼ばれかけてるの。」

 

「呼ばれているだと?誰にだよ」

 

「‥‥‥‥‥‥最近知ったことなんだけど、抑止力と呼ばれる力がある。私達のこの世界にも世界を正そうとする抑止力があるの。強大すぎる力を振るいすぎたり、無秩序に破壊すると修正するためにある存在が送り込まれる。」

 

「?なんだ、突然。話が見えねえぞ?」

 

「私やバルカン、ボレアスでも出来ることなら戦いたくない存在なの。ごめん、盟約で言えない‥‥‥‥‥

 

それにこの前、殺されかけたし‥‥‥‥(ボソッ」

 

強大とかお前らが言える立場じゃねえだろう、かく言う俺も大して変わんねえが。

 

「とにかく、エクセリアは絆石を介して別次元から干渉を受けてるの。モンスターの心と通い合わせられる彼女だからこそ選ばれたと思うんだけど」

 

いつもあいつとの会話を聞いている陽気なセリフとはかけ離れた張り詰めた言葉が何故か緊張感を解かせてくれない。

 

「ねえ、お姉ちゃんがやけに真面目と言うか緊迫した様子なんだけど‥‥‥」

 

知るか、俺も知りてえわ。いつもみている姉の姿に不思議に思ったのか隣に奴が来ていた。

 

「とにかく、関わっちゃダメだよ!精霊なんかに関わっちゃろくな目に合わないからね!」

 

「まて、精霊ってなんだ?聞いたことないんだが‥‥?」

 

「っ!しまった、つい‥‥‥‥」

 

つい、ってなんだ、ついって。そんなに言いたくないのか。

 

「わーったよ、悪かったな深掘りしてよ。エクセリアにもよくいっておくよ」

 

俺は手を振り、あいつがいる大樹を後にする。

はあ、全っ然情報が得られなかったな。まあ、あては他にもあるし気を取り直すか。

 

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

ーー

 

「お姉ちゃん、どう言うこと?やけに緊迫してたけど」

 

「妃星、貴方はこれには特に関わっちゃダメ。死にたくないならね」

 

「私が死ぬ?お姉ちゃんとか蝕星龍とかならともかくあり得ないんだけど?」

 

「貴方は、星の下に生まれた(・・・・・・・・)という事実がある。その事実がある限り、精霊種には逆らってはダメ。貴方の為にアレと盟約を結んだんだから」

 

「とにかく、貴方はこの世界を生きなさい。これはお姉ちゃんとの約束。貴方は確かに強くなったけど、知ってはいけないことがある。そういうことだよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

ズズズズズズズズズズ‥‥‥‥‥‥‥

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

大気が震える。

 

鳥が、小動物が、ランポスが、アプトノスが。

はてはエスピナスやリオレウス、ライゼクスなど、強力なモンスターも本能からくる恐怖から世界樹を背にして四方へ逃げていく。

 

「たいへんだぁ、おきるよ、おきちゃうよ!!」

 

「こわれちゃう、こわれちゃう!!」

 

「おうさま、ほんきでおこってたからもうあのせかいによびかけられないよぉ!」

 

「だからこっそりやろうっていったのに!!りちぎにいうから!!」

 

 

地面が捲り上がり、木が、土が、そして、世界樹の根と思われるものが引きちぎりながらその下にいた巨体が姿を現した。

 

《グゥボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッ!!!!!!》

 

大地を踏みしめる太く、しなやかな四肢は動かす度に地割れが、地崩れが、土砂崩れが発生するほどの振動が起こる。

 

伸縮自在な首とゴツゴツとした頭部は龍というには少し違う気がする。目は、昼の猫の目のように細く金色の輝きを放つ。

口元は牙は見当たらず嘴の内側にはすりつぶすための歯がある。

 

 

背中には丸みを帯びて、側面には岩肌がフジツボのように付着し全体的に植物がコケのように生えている。

そして背中の中心には天を貫く超巨大な木が生えていた。

少し、体を揺するだけでその自重により大地が陥没し、地割れが発生し、断層が発生する。

 

世界樹に住んでいた生き物は、本能から逃げたいのに逆に逃げられず、世界樹の蔦に絡め取られ生命エネルギーを吸い取られて死んでいく。

そして、世界樹の芽から沢山の花が咲いていく。それは、花粉を飛ばし日光に当てられて金色に輝く。

金色に輝く花粉を吸い込んだモンスターや生き物は、冬虫夏草のように体を食い破るように芽が出、巨大なモノリスが出来上がる。

 

 

 

「おわる!おわっちゃう!!」

 

「めがさめた、さめちゃったぁ!!」

 

【世界樹】の名を持つ三界の龍帝、【峯陵龍 ジャルグ・バアル】。

この世界で最後の龍帝が目を覚ますーーー!!

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバァ!!!

 

ずんっ、と大きな音をたて目の前のモンスター(転生者)【ブラキディオス】が倒れこむ。

 

「ふん、この程度か。終わりなき成長と進化する存在などと聞いて星より派遣されたが‥‥‥‥‥‥話にならんな。人に化け、挑んで見れば‥‥‥一秒も持たぬとは。

 

 

 

 

終わりだ、来い。《煌流星アンフィスバエナ》」

 

無手だった絶世の青年は何もない空間から夜空をそのまま切り取ったと思われし太刀を顕現させた。

そのまま一閃、ただ一振りしただけで何も派手な演出もないのに、切られた存在が何もなく塵も残さず消し去った。

 

「さて、三界も後一つ。そろそろ星も本腰を入れて、確実に神龍を消すつもりだな。今まで我が否定していた他世界の存在を呼び集めるつもりか、物好きめがーーー」

 

 




質問コーナー設けたけど人気ないね。質問がないということはいいことなのかな?(・ω・`)


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過去の記憶、超越する存在と対峙するもの

難しい‥‥‥‥‥‥。


精霊王はとんでもないチートモンスターなのですが、物理法則をまるっきり無視してて、なかなか表現が難しい。文章が拙く感じる。悔しい(´・ω・)


「最後の‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥龍帝、か。これでこの世の異変は最後になるかの?」

 

「どうでしょうか、私どもとしてはこれで終わるはずがないと思います」

 

「そうだな‥‥‥‥‥‥。我々が、心血注いだ歴史は崩れ去った。三界と呼ばれる規格外な存在にな。世界は無慈悲じゃな、人は今でも弱いままか‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!」

 

「だが、我らはあの大戦と、かの王国のようにはならぬ。例えどれ程強大であろうと‥‥‥‥人は必ず生き延びる。何処までもずる賢く、執念深く、生きようとする生き物は人以外ありえん。抗うぞ、三界よ、精霊よ、我らは必ず生き延びてみせる!!」

 

 

ーー

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

 

世界が生まれる創世の黎明にこの意識が目覚めたことを思い出した。

 

初めは、小さな光の玉であった。

 

幾星霜と、時を眺めていた。まだ、星々は生まれたばかりで赤く煌煌と輝いていて命など生まれてはいなかった。

 

抑止の命が産声を上げるのを見ていただけだ。

やがて、星は周りの星とぶつかり始めた。融合して、またぶつかって‥‥‥‥‥

 

やがて、何万年とたったのだろうか。

星の数も落ち着きが出始めてたのは。

 

光の玉はやがて、二つに分裂した。

 

二つの光の玉は広大な世界(アナザースペース)を光では何億光年とかかる広さを何光年と短い速さで駆け巡った。

 

元の場所に戻ってみれば、星は緑が、水が出来ていた。まだ、命の兆しはない。

 

光の玉は、形を取ろうとした。

 

 

初めての命のプロトタイプの形であった。

しかし、この身はアストラルであり、エーテル体であるために事象に触れることができない。

 

だから、光を放ち間接的にこの水で満たされた世界を廻した。

 

酸素が出来た。

 

二酸化炭素を酸素に変える初めての生命が生まれた。

 

他の生命を糧にする捕食者が生まれた。

 

 

陸が出来た。

 

緑が満たされた。

 

光のエーテルは一度一つになり、一つの塊をその世界に落とした。

それは、卵だ。

 

そして並行する世界に同じように卵を落とす。

 

 

少し、エーテルが少し多い卵があったが気にしない。3割方此方に近くなるだけで生命としては大丈夫なはずだった。

 

 

 

 

 

ーー【夢を見ていたな、母なる龍、いや宇宙の意思よ】

 

 

【精霊王ーーー?そうですね、夢を見ていました。黎明の記憶を】

 

世界から切り離された輝きの丘に虹色の空を見上げ語りかける絶世の青年に応える次元の狭間の向こうの主。

 

【珍しいな、やはり神龍の覚醒が間近になったことで目覚めている時間が多くなっているな?

 

 

 

そして、聞いておきたい。世界は、他世界の存在を集めようとしている。母なる龍よ、あなたはそれには容認できるのか】

 

【ーーーええ、やはりそうなのですね。ですが、この身が離れ、現界すれば世界はますます混乱するでしょう。そして、あなたは秩序を守ろうとして幾星霜と分体を送って始末してると聞いてますよ、あまり‥‥‥‥‥いじめてはダメ】

 

【それに、貴方は確かいくつかの生命を監視しているでしょう?たしか、星焔竜、そして、霊位に至った我が半身《祖龍》にして星焔竜の姉、此方側に少し近しい我が半身《始源龍》に銀滅龍、そして変異した蛇王‥‥‥‥に、魂砕竜も見ているのでしょう?キリがないですね、精霊王】

 

【奴らは、この世界、そして並行するこの世界とは違う世界の有象無象の神が死した魂をこの世界に転生という形で投げ捨てたのが殆どだ。始末してしまうのが手っ取り早いが分体では荷が重いのと世界が原型をとどめないのでな、それでは秩序が成り立たん。まあ、そうだな星に穴をあけるなどの蛮行を働けばこの我自ら現界するだろう、分体などという生ぬるい事はしない】

 

ーー 一瞬で終わらせてやる。刹那も感じさせん

 

【程々に、ね。仮にも私の子供達なのですよ】

 

【自重すればいいだけの話だ。力を振るいすぎて魔王として堕ちていく同胞や元から狂っているイレギュラーなどに堕ちてしまうのは、忍びない】

 

虹色の空には並行するこの世界がリアルタイムで映し出されていた。

一番、新しいのは、巨大なゴグマジオスに対して超新星もかくやというエネルギーを圧縮しレーザーを放つかの星焔竜。

 

【‥‥‥‥‥‥‥‥星が防御した事で貫通はしなかったか。運がいいヤツめ。

 

だが、あの火力なら神龍にかすり傷は負わせられるかーー?】

 

【精霊王、かの世界には貴方の分体がそこの祖龍と盟約を結んでいるのでしょう?なら貴方が出る事はないのでは?】

 

【やはり分体に任せるか。母なる龍よ、創世の光よこの世界の末を見届けてほしい】

 

【はい、わかりました。精霊王】

 

 

虹色の空にあった次元の狭間は小さくなりやがて見えなくなる。

輝きの丘にて精霊王は世界を俯瞰する。

 

(おれ・わたし)は、世界を守る。如何な手段だろうとそれが最善ならば下すまで‥‥‥‥‥‥】

 

絶世の青年の側に、彼によく似た絶世の美女がいる。さらに幼げな少女が虹色の空に浮かんでいる。

 

近くにある岩に幼げな少年が腰掛けている。

 

気づけば、輝きの丘に彼とよく似る彼らがいた。

皆、青年と似た顔立ちで、同一であることがわかる。

 

 

【我は精霊王。世界を守り、命を繋ぐ】

 

【然り、だね。こちらは特に問題ないよ】

 

【こちらの世界は、始源龍が三界の力を持ち帰った。最悪、奴1人が三界として顕現するぞ】

 

【星焔竜がまたやらかした。あの姉は何をやっているのか。一度問い詰めねばなるまいて】

 

【銀滅龍は、未だ脅威にあらず。様子は見るがな】

 

【分体たちよ、報告ご苦労であった。引き続き頼む】

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

 

ギィンッ、!!

 

 

「「オラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」

 

赤毛が目立つ2人の男と男の子。

 

互いに剣戟に火花を散らしながら、古代林を舞台に縦横無尽に駆け巡る。

 

「ハ、甘えぞ!ルーク!!」

 

「それは予想済みだっ!!!」

 

彼らは何をやっているのかというと、ただのスキンシップだったりする。スキンシップで、古代林がバッサバッサなぎ倒され、動物たちが逃げ惑い、衝撃波が大地を捲る。

 

 

だが、終わりは突如としてやってくるもので

 

 

パシッ

 

パシッ

 

 

「「っ!!?」」

 

「少し、話を聞いてほしいな」

 

2人の男子が喉を鳴らすほどの絶世の美女が突如として現れた。その目は金紅に輝いていた。

 

 

 

 

 

 





精霊王のチートな理由が一つ明かされました。これは‥‥‥‥‥酷いな。


文章が、という意味で


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猛進、焔嶽の誓いと震える霊亀



様々な質問、ありがとうございます。

ですが、精霊種は未だ未知の生命体で、作者である我輩もよくわかってない設定にはない隠し設定なるものがあります。
それはどんなものでしょうか?お楽しみに。





ズウゥゥゥゥゥン‥‥‥‥‥

 

 

ズウゥゥゥゥゥン‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

ズウゥゥゥゥゥン‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

 

 

 

《コフゥーーーー‥‥‥‥‥‥‥‥、コフゥーーーー‥‥‥‥‥‥‥、コフゥーーーー‥‥‥‥》

 

 

 

一歩一歩踏み出すたび、耐震のスキルでも耐えきれぬ振動が、行く果てもなく響き渡る。

 

峯陵龍ジャルグ・バアル、峯陵龍の由来はその背にある世界樹ではない。

その背には世界樹を中心にして、様々な時代の陵墓、つまり権力者の墓が建てられているのだ。

 

幾星霜と永き時を生き理想の地を求め彷徨う世界樹を背負う霊亀、それが最後の龍帝の姿だった。

 

あるときは川の氾濫を利用し豊かな土壌を得る熱砂の国に王家の墓としてその背が墓として建てられた。

 

いかなる時も枯れぬ大樹に民は、神王は神樹と崇めたのだ。そして神に近くなるようその近くに墓を作った。

 

 

あるときは今の時代滅びた種族『エルフ』の崇める大樹であった。

毎日、欠かさず手入れをしていた。

栄養を奪う蔓を毟り、大地を秘薬で回復させ、モンスターによる食害を守っていた。

 

 

『エルフ』の国は恵まれた大地に根付き近くの国を見ていた。

 

戦争が起きた。国は焼かれ、人々は殺された。生き残った人々は火に晒されても燃えぬ世界樹に逃げ延びた。

 

世界樹は蔓を伸ばし、『エルフ』を、戦争を起こし追いかけてきた人間を見境なく捉え大樹の養分とした。

 

 

あるときは、常に海を揺蕩う島の中央にいた。

祭りがあるたびに、司祭と思わしき人物は常に捧げものを世界樹に捧げた。

 

皆、笑顔だった。

 

ある日、大雨が降ったとき、珊瑚でできたこの島は瞬く間に海中へ沈んでいった。

生き残った人々は世界樹へ逃げ延びた。

 

そして‥‥‥‥‥同じように殺した。

 

 

 

どこへいっても、理想はなかった。

 

ついに誰も近寄らぬ秘境の地で眠りについた。

人ではない、星の使者がこの世界樹を見ていた。この場所を星の使者は結界を持って切り離し未来永劫閉ざされたはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビキッ

 

峯陵龍の身体から黒い血管のようなものがまるで生き物のように蠢いてそして皮膚の下へ消えた。

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「緊急連絡!!ドンドルマの決戦場に焔嶽龍ケオアルボル接近!!」

 

「なんだと!?」

 

 

ドンドルマのある昼に伝令兵から齎された情報は今までの三界と比べれば可愛いものだが、それでもケオアルボルが齎らす被害は生半可なものではない。

 

さらに慌てて駆け込んできた伝令兵からさらなる凶報が。

 

 

「伝令!!防衛砦からラオシャンロン接近!!そして‥‥‥‥‥‥これは兵から又聞きなのですが。ミナガルデ近くの山岳にて精霊種の確認が!!」

 

 

「ハンター達を直ちに派遣せよ!!特にケオアルボルを最優先で防衛せよ!!防衛出来ねばドンドルマは灰になる!!ラオシャンロンはメゼポルタに早馬を出しレジェンドラスタの応援を得よ!!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

「なお、古龍観測隊を出し、ミナガルデで確認された精霊種を観測せよ。精霊種は未だ謎のモンスターだ。すぐに手配せよ」

 

「かしこまりました」

 

 

 

突然の古龍種の襲撃。三界に何も出来ないギルドはこの時は全力を持って防衛に当たったのだった。

 

 

「世界の終わりなぞ儂が生きているうちに知るとは思いもせんかったわい‥‥‥‥‥」

 

 

ドンドルマの大長老はその大きな体を椅子に預けて何も変わらぬ青い空を眺め続けていた。

 

 

空はどこまでも

 

 

どこまでも

 

 

青かった。

 

 

ーー

 

 

山のように巨大な影がV字谷を逃げるように進んでいく。その背後はシュレイドではなく何処かにある仮初めの理想郷だ。

 

逃げなければ。

 

 

黒龍とは違う。

 

格が違う。

 

太古から生きる一つの大陸並みの異様さを持つ龍帝の一角。

 

長い時を生きる古龍種であるラオシャンロンでもあれは怪物だ。

 

目の前に障害物。人が建てた防衛線。

 

でも形振り変わっていられない。

無理矢理にでも乗り越えて、世界の果てまでも逃げる。

 

生きたい

 

生きたい

 

 

《ゴオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!》

 

 

「ラオシャンロン、接敵ーー!!バリスタ用意!!!第一次防衛線接近!!撃て、撃て撃てぇーー!!」

 

「大砲、弾込めぇ!!まだだ、まだ惹きつけろ!!撃て!!」

 

 

「発射ぁ!!」

 

 

ドオオオオン!!

 

濛々と立ち上がる煙から鱗が僅かに削れたラオシャンロンがあるだけだ。

「これだけで撃退できるわけないよな!!手を休めるな、撃てぇーー!!」

 

ラオシャンロンは立ち上がり、咆哮する。

 

 

 

《ゴオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!》

 

 

ーー

 

 

 

「急げ!耐火防壁を準備するんだ!!」

 

 

慌ただしく決戦場の内部にて耐火性に優れたグラビモスの甲殻を利用した持ち運び用防壁を何度も行き来している。

 

「メゼポルタにしか目撃例がない古龍種のはずなんだが‥‥‥‥‥何故‥‥‥?」

 

「考えても始まらんだろ、さっさと手を動かすんだ」

 

 

焔嶽龍ケオアルボル。

 

 

メゼポルタにて発見された超大型古龍種。

 

常に高温に包まれており、その熱で甲殻が膨張するという特徴があるが、一定の時間が過ぎると放熱を行う。

 

その熱は、グラビモスの放熱なぞ比較に出来ず火山の噴火のような爆発を起こし、さらに放たれる熱線は超人が多くいるというメゼポルタの防衛線を軽く焼き払うという。

 

「なんかよ、俺たち明日のお日様を拝めるのが一番有難いと思えるようになったんだ。三界の海王龍のあの白い世界を見たときさ、俺、死ぬんだ‥‥‥‥って思ったんだ」

 

 

「世界は、どうなっちまうんだろうな。ちっぽけな俺ら人間が何が出来るのか?それが知りたくてたまらないんだ」

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」

 

 

 

 

 

 

衛兵は、ただ何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い霧の中、巨大な影が地響きを鳴らして進行する。

 

牙獣種のラージャンに似た顔つき。

はたから見れば巨大なラージャンだと思うだろう。

 

体高20000cm。

 

その背には大小様々な木々や植物が生えており、さながら森だ。

 

 

 

 

古の書物にこうある。

 

 

 

 

 

果てにある大地と大地をその巨腕で手繰り寄せ力でつなぎ合わせた。

 

その背に億の年月を耐える森を背負い、世界を霧の中から見守る金の牡牛。

 

守り給え

 

守り給え

 

守り給え

 

 

真なる森猿よ

 

 






我輩、現在イラストを描いております。今は精霊王だったかな?それ以外でこれ描いて!などありましたらどうぞお気軽に。暇を見つけては描いて生きたいです。

幻天狐?確定に決まってるじゃないですか(´・ω・)


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星の伝道者、交わる世界に飛び込む者

今回、会話が多いです。地の文が少なくてあっという間です。なので、失望しないで(´・ω・)


 

「誰だ、てめえ‥‥‥‥」

牙向く獅子のように己の銀閃を片手で摘まみ取ったその相手を睨みつけた。その美貌に一瞬世界が止まったかと錯覚した。

 

「誰だ、か。そうだね‥‥‥‥‥うん、ソフォクレスと呼んでくれないかな?」

 

 

「あぁ!?聞きてえのはそういう事じゃねえんだよ!!」

 

「父さん!落ち着いて!」

 

陽気な、そして他人を無自覚に煽る口調に少しブチ切れるジェストとそれを止めようとする息子のルーク。

 

 

「あははっ、ゴメンねぇ。ジェスト・スレイヤー、息子君のスキンシップ邪魔して」

 

さて、とその美女ソフォクレスは一息いれると改めてジェストに向き直る。

 

「私がここにきたのはね、他でもない。星が君を、そしてエクセリアを望んでいるからなんだ。ここではない、世界の特異点と呼ばれるこの世界の最終防衛線に来てもらうためさ。ちなみに拒否権はないからね」

 

「君は知らないだろうけど、君たちが生きている世界は並列する世界がある。ここもその一つだ。だが、並列する世界に存在する星の意思は共通でね、私たちはあらゆる時間軸の出来事を知る事が出来る。

 

まあ、とにかく。来てもらえればわかるさ。星の意思だけじゃない、友人のピクシーにも頼まれていてね。うん、君たちなら出来るさ」

 

 

ソフォクレスは指を円を描くように空間を廻すと時空が歪み始め人一人通れる空間の歪みが出来上がる。

 

「おい、待てや。誰が行くと言ったんだよ、それに‥‥‥‥‥‥てめえ、人か?あいつらと同じ匂いがするが‥‥‥てめえも同じ類か?」

 

「くふふふふ、どうだろうね。想像にお任せするさジェスト・スレイヤー。人でありながら、龍の領域に足を踏み入れた勇者君。かの精霊王も君を、エクセリアも果てはライバルである星焔竜をずっと見ているからね。私も君は興味深い」

 

だからこそーー

 

 

「まあ、これもお仕事なのでね。半分は精霊王の嫌がらせさ、かの王には少し焦ってもらった方が面白いし!愉悦ってやつだよ」

 

右手を軽やかに動かすとジェストの体が磁石のように引っ張られてそのまま、次元の狭間に放り込まれてしまう。

 

「父さんっ!!お前っ!!!」

 

「なんだこりゃっ!!テメェ覚えてろよぉぉぉぉぉぉぉぉ!?「あっ、この瞬間にもね、エクセリアに同じ現象が起きてるから、って聞こえてないか」

 

 

 

ーーー同時刻

 

「うーーん、ダメだね。絆石と完全にリンクしてるからそれ持っている限りその声はずっとかも」

 

 

「そうですか‥‥‥、仕方ないですよね」

 

「壊すとしても、思い入れがあるだろうし‥‥‥どうしよっか」

 

エクセリアは今現在、祖龍と一緒に女王領域に来ており星焔竜と話し合っていた。

理由は無論、絆石を介して干渉して来た存在だ。

 

「だから、私がぶっ潰してやろうか、って言ってるじゃん」

 

「妃星、前にも言ったけど。貴方はこの世界以外には関わっちゃダメ。宇宙をバンバン作るのはこの際もうどうでもいいけど。作ったところでこの世界と同じだからね。でも世界を渡るともなれば話は違う。

 

貴方の法則はこの世界でこそ生きているのであって、並行する世界では法則は弱まるの。そこへ精霊王や精霊種と戦ってみなさい?

すぐ、やられるわよ」

 

前と同じように真摯な顔つきで妃星と呼んだ少女を諭す祖龍の少女。そこへ話を聞いていたエクセリアが自ずと手を挙げ質問して来た。

 

「あの、気になっていたのですけど。精霊王とか、精霊種って、なんでしょう?モンスターの種別だと思うのですが‥‥‥‥」

 

 

精霊種。あの祖龍から何度か聞いているモンスター。

なんでも世界の意思によって動くモンスターを超えるモンスター。

 

そして、絆石に干渉しているのも精霊種だという。気にならない方がおかしい。

しかし、やはりというか、

 

「エクセリア、知らなければ幸せなこともあるんだよ。貴方は、まだ人だから‥‥‥‥」

 

「気になりますが‥‥‥仕方ないですね

 

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ!!?」

 

ゾワっ、そんな身体の危険信号が一気に駆け上がってくる。

 

「?どうしたの、奏音。寒い?」

 

「いや、違うよ妃星!!」

 

そんな時、エクセリアの背後から空間が歪み、人一人通れる空間の歪みが現れそこの奥から声が聞こえる。

 

『うん、やっと繋がった。まったくここは磁場がおかしいからねリンクするのに手間取ってしまったよ。

 

さて、はじめまして。エクセリア・スレイヤー、巫女姫殿。モンスターから愛された自然の寵児よ。迎えに来たよ』

 

「貴方は‥‥‥その声はソフォクレスっ!?嘘でしょ、星の伝道者(メッセンジャー)である貴方がなんで、なんでエクセリアを?!」

 

焦るような声で祖龍の少女がその声にまくし立てる。ついでに祖龍の翼を広げていつでも迎え打てる格好だ。

 

『ん?その声‥‥‥‥霊位に上り詰めた祖龍かな?んーー、本来君には関係ないんだけどね、まあ、いいか。簡単なことだ、星が、世界がそう望んだからだよ。琥珀君』

 

『無駄話は終わりにしよう、こう見えてもこの世界は危機に瀕している。だから、精霊王が認めなくても私は星の意思に従うし、最善と思えばやるのだよ。

 

さあ、エクセリア。新たな世界へようこそ。君の旦那さんも向こうで待ってるからね』

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!『おっと、乱暴だな、君は』》

 

妃星の呼ばれた少女は白いリオレイアに姿を変えてその空間の歪みにエクセリアを傷つけぬようブレスを吐き出した。着弾と同時に埃を払うような仕草と思える声が聞こえ、ブレスが効いてないことがわかる。

 

「え、ちょっと待ってください!!あの人も向こうにいるって聞こえましたけど!!」

 

エクセリアの疑問は自分の夫であるジェストがすでに向こうにいるという事実に確かめたかった。

無論、それは事実でーー

 

『勿論だとも、それに全てが終われば元に戻してあげられるからね。心配する必要はない。さあ、行こうか』

 

 

空間の歪みはあっという間にエクセリアを飲み込み消えようとしていた。

 

「待ちなさい!エクセリアを、奏音を返して!!」

「妃星っ!!ダメッ!!」

 

消えかけの空間の歪みに突撃し、祖龍の声を聞かずに飛び込んだ妃星。あとは取り残された祖龍のみ。

 

「マズい‥‥‥、精霊王以前に世界を渡るためには‥‥世界の裏側に行かなくてはいけないのに!!案内なくあそこを通ればいくらあの子でも、高濃度のエーテル体を浴びたらっ!!」

 

世界創造の力であるエネルギー、エーテル体。宇宙とは世界の一部であり、並行世界も世界の一部であり、異世界を除いて世界は同じである。世界創造とは異世界を作り上げることであり、それを行うためには一兆度の火さえ圧倒的に出力が足りない。

 

 

それは祖龍の少女でさえどうしようもない、ただ祈るのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うーん、このパターン。前にもあったんだよね‥‥‥ちょっとイタズラ心で始源の龍を拉致した時と変わんないなぁ。トール君がかなり健気だったなぁ‥‥。

 

 

 

いやあ、面白い!!二度あることは三度ある。ふふふ、飽きないよこの世界は』

 

場所は違えど、二人を戦いの地へ誘う星の伝道者ソフォクレス。

だが、間違いなく断言できるだろう、二人は間違いなく神龍の戦いで鍵の一つを握るだろうと。

 




別にマーリン爆死したからモデルにしたなんてことはないよ、多分ね、きっとね(´・ω・)

それに近い冠位クズだけどw

後、幻天狐の質問が圧倒的すぎて、顎外れました。そんなにモフモフ成分は重要なのか(´・ω・)


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滅と絆の勇士は世界の樹を垣間見る

まだ、この世界線の出来事は書きません。

あと二、三話の後に三界と相対すると思います。伏線を回収しないと行けないのでね。もう少し、お待ちを


目の前に広がるのは広大な空、今ジェストとエクセリアは空中遊泳なるものをリアルタイムで実体験していた。

 

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああっ!!?」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!?」

 

 

「あはは、どうだい空中を泳ぐなんて人生初めてだろう?「「ふざけんな、このビッチ!!!」」おぉっと、エクセリア君からとんでもない台詞が。安心してよ地上には激突しないから、地上には、ね」

 

愉快そうに笑いながら、本人は落下なんて気にしないふうにし二人を茶化す。二人は怨嗟の表情と情けない声が相まって余計に面白く感じてしまう

 

「地上以外には激突する、みたいなこと言うんじゃねえ!!さっさと元の世界に、いや待て、エクセリアを先に帰らせろ!!」

 

「愛されてるねえ、仲睦ま「「まじいい加減にしろよ?してね?」」残念ながら、無理なんだよね。

 

 

 

 

 

 

王様にバレちゃった」

 

「「えっ?」」

 

ザシュッ

 

二人が間抜けな声を重ねて出した時、ソフォクレスの体が半分に切り裂かれていた。

 

よく見れば彼女の切られたところから次元の歪みがありそして、声が聞こえる。

 

【また貴様か、ソフォクレス。始源の龍のときに言うた筈だぞ。無闇矢鱈に世界をまたいで連れてくるなと。

 

そしてもう次はない、とな】

 

 

「こふっ、相変わらず、デタラメだよね精霊王。『時渡(・・)』なんてさ

 

その万里さえ見通す瞳は時を超えて、現象である私を殺すなんて。やっぱ、バレちゃうか」

 

【ふん、そう言う貴様も、生命ではあるまい。言い放ったように現象、形を持ったエネルギーであろう。相変わらず不死身のやつめ】

 

「あはは、でも私を殺したところで彼らはもうこっちにきちゃったからね使命を果たしてもらうまで、いくら王でも彼らを戻せないし、殺せないよ?」

 

【阿呆めが!貴様のせいで、監視対象の星焔竜が僅かに残った次元の狭間に彼奴らを追いかけてマザードラゴンの領域に踏み込んだのだ!!お陰で奴はエーテル体に耐えきれず死にかけ、我がサルベージせねばならんのだ!無自覚に二次災害を起こしおって!!】

 

ジェストとエクセリアの二人の目の前で起きた謎の現象。

何もないのに声が轟き、血を吐きながら半分になったソフォクレスが何事もないように返事をしている。

 

だが、彼らが聞き逃してはならない言葉があった。

 

星焔竜。

 

ーー 俺たちを追いかけてきたーー?

 

ーーマザードラゴンの領域?

 

 

 

「あー、君たち気になるだろうけど時間がないから手短に3つ言うね。

 

一つ、今空中にいるわけだけど右を見てごらん。大きな木が見えるだろう?あれが君たちが倒すべき存在。三界の龍帝、峯陵龍ジャルグ・バアルだ。君たちが知る古龍種とは別次元だからね」

 

言われた通り、見て見れば女王領域にある大樹には流石に及ばないがそれに近い巨大な大樹がそびえ立つ。それはたしかに動いていて、頭部はなるほど、龍のそれだ。

 

「なんだよ、あれ‥‥‥。デカイってレベルじゃねえぞ」

 

「あれは生物として成り立っているのがビックリです。まるで、大陸そのもの、ですね」

 

「そうだね、で二つめだ。この世界にはこの世界で生きてきた君たちがいる。ややっこしいかもだが彼らはこの世界の異変に詳しい筈だ。協力を仰ぐといい。ただ、彼らは君たちの世界と違って別の未来を歩んでる。そこはファイトだ。

 

で、最後だけど、エクセリア。君のオトモンを私が選別して三体持ってきたよ。さらにこれを渡そう」

 

ーーこれは?

 

エクセリアの手首に巻かれた腕輪は金色に輝いていて美しい。

「それは、龍装ミスティックアーマー。ざっくりだが、そうだねオトモン一体を概念を書き換えて一時的に君の鎧にするアイテムだ。オトモンが強ければ強いほど鎧は強くなる。私が選んだモンスターは

 

蝕星龍、黒星龍、熾凍龍?みたいなナニカ。

そして、これは頼み事だ。頼むから、何があっても絶望をしないでくれ」

 

 

そう言い残し、ソフォクレスは淡い光となって消えた。

 

「って、俺たち落下中じゃねえかっ!!どうすんだこれぇぇぇ!!!?」

 

「あわ、あわわわ、お願い、フィー君!!ライドオン!!」

 

《グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが、舞い降りた。星が願った勇者。

 

最後の龍帝と激突まで、あと少しーーーー

 

 

 

ーー

 

 

 

「ようやくか、別の俺よ。待ちくたびれたぞ」

 

双眼鏡を除いて、遥か上空でディスフィロアに乗せられて降下する二人の男女。

 

「やはり、別の未来とはいえ複雑な思いだ。

 

俺は、守れなかったーーーーーー精霊王の手でな」

 

生きてはいるとはいえ、もはや巫女として、ライダーとしては絶望的な後遺症を負わせられた彼女の別未来を見ながら、その男の目は久し振りに涙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

【手間をかけさせおって、マザードラゴンの頼み事でなければ異物として廃していたものを。貴様の器ではエーテル体は耐えきれん。かくいう我も五分しか持たぬのだからな。

 

宇宙開闢の熱も、内包する世界のうちにすぎん。世界を一から作り出すエーテル体はお前には不要なものだ。

帰るがいい、お前はあの世界で一の命として暮らしていろ。後は分体がやるだろうがな】

 

《グルアアアアアァァァァァァァ‥‥‥‥》

 

絶世の美青年は、虹色の空が目立つ精霊王の領域である輝きの丘に白い純白のリオレイアを片腕で引っ張っていた。

白いリオレイアの体はエーテル体の膨大というには規格外すぎるエネルギーに晒されて、酸に溶けるような煙を上げていた。

 

【さて、分体に奴に向かいに行くよう連絡をさせたが‥‥‥‥そろそろだな。

 

『妃星!!良かっだぁぁぁぁぁあァァァァァァァ!!』落ち着かんか!!それでも霊位12位か!】

 

【はあ、さっさと連れて行け。こいつを死なせばお前を抑えるのにいくつの並行世界を犠牲にせねばならぬ。

 

それと、よく言い聞かせておけ。二度と世界を跨ぐようなことはするな】




注意


ーーあくまで、この世界での彼らの結末ですからね!?本来の彼らとは別人みたいなものですからね!?決してアンチなんかじゃないんだからっ!!(´・ω・)

更にさらっと追加された精霊王の力。

『時渡』

宇宙速度をもってすれば多少の前後の時間には行き来は出来る。が、精霊王は違う。それはもはやタイムトラベル。過去、過去の並行線、現在と現在の並行線、未来と未来の並行線の時間軸に自由に行き来することが出来、なおかつ対象に時渡の応用で死の時間すなわち寿命、あるいは死ぬ可能性をサルベージし付与するというもの。

これは権能ではなく、精霊王のみに与えられたモンハン世界というジャンルが押し付けたギフトである。


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森を背負いし賢猿、天手力男の如く



久しぶりにコラボが絡まない純粋な拙作の表現。

皆さんは、MHW買います?私は買いたいけど、買えない‥‥(・∀・)


ドォォォォォォォォン!!

 

ガラガラガラ……‥

 

ズズゥゥン……

 

 

巨大な前足が地面につくたび、大地震にも例えられる振動が響き、ただでさえ狭い峡谷を無理やり通るのだから落石どころか岩盤そのものが落下してくる始末。

 

しかし、世界樹を背負うそれは何も感じず吹く風のように気にしない。

 

そして、峡谷に住んでいた動植物を世界樹の蔓が刹那を感じさせず絡めとり養分に変えて行く。

 

峡谷の広さは4250㎢。だが、峯陵龍は世界最大の古龍種だ。下手な島々は峯陵龍には及ばない。故に、峡谷を抜けるのに対して時間はかからなかった。

 

峯陵龍が通った後は峡谷の面影は皆無で瓦礫が積み上がり、砂塵が舞い、流れる水源は閉じ込められ、あるいは決壊して周囲に濁流として流れて行く。

 

だが。これにより被害を受けたのはこの、峡谷の支配者であった存在であろう。

 

悪魔のような角を携え、例えるならディアブロスかーー。あらゆるところから棘を生やし、テスカトを思わせる翼と四肢を持つ。

古龍種、滅尽龍の名を持つネルギガンテ。

 

未だ、生態が分かっていない謎に包まれた古龍種で、ある大陸では調査団の前に何度も立ちはだかり脅威をまき散らした存在。

 

峡谷の主人らしく2300cmを超える巨体を持つが、いかんせん敵意を向ける峯陵龍に対して体格差がありすぎる。

 

いや、そもそも勝負という土俵に入れていないのではないか。

 

岩をも砕く剛爪とて、島より大きいともいえる峯陵龍に対して効果があるのか、というと

 

《グギュェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》

 

ズゥオっ!!

 

振り下ろされる剛爪。

そう、いくら巨大とて生身故に傷を負わせることは出来ると確信はしていた。

 

ガッ、ギリリリリリリリリリ………、バリィン!!!

 

結果は、やはり通じない。岩を砕くといえども岩盤のように年月をかけた歳月の鎧はその皮膚にも及んで、世界樹の根が複雑に絡むことにより更に強化されたその体躯ーー。

 

言うに及ばず、ネルギガンテの爪は粉々に砕け、峯陵龍の首を曲げる動作で吹き飛ばされて砕けた岩盤の中へ埋もれてしまう。

 

埋もれたネルギガンテの前足が僅かに覗かせていたが、峯陵龍の足が無慈悲に振り下ろされたことで、あっさりと絶命した。

 

いや、埋もれた時点で死んでいたかもしれないが。

 

《コオオオオオオオオオォォォォォォォォ………、グルルルルルルル》

 

呼気は常に白く覗かせ、峯陵龍の代謝熱により辺りに霧が発生する。

どこへ行こうというのだろう、この龍に、安寧と静寂がある場所は世界中探してもないというのに。

 

峯陵龍はただ前を見据えている。

険しい山に囲まれた、天然の城塞にして幾たびも大型の古龍種を退けた砦が、街が見えていることだろう。

 

現にその砦方面より気球船がやってきていた。

間違いなく、古龍観測隊の気球船だ。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「デカいな、モーラン種何体分あるんだろうな?」

 

「アレが、三界の‥……。なんて大きんでしょうか」

 

「デカいから、一歩一歩はそれ程じゃないにしろ移動速度が半端じゃない。ラオシャンロンなんか目じゃないぜ」

 

彼らは気球船に備わっている双眼鏡を覗き、接近しつつある最期の龍帝を監視していた。

 

各々が感じたのは恐怖よりも理解できない、が正しいかもしれない。

 

「完全な四足歩行型、見た目は、陸亀か?」

 

「それ以外にないですね、動きは完全に陸亀です。ですけど古龍種にどの生物が似てるかなんて些細な違いでしょう。それでーーー、隊長、奴はこのまままっすぐ砦を突破してドンドルマのルートでしょうか?」

 

「ん?ああ、間違いねえな。奴さんは間違いなくドンドルマを横断するだろうな

 

 

日数的に、よくて半月、最悪7日でドンドルマ到達といったところか」

 

「っ!」

 

「あまりに時間がなさすぎるっ!!ラオシャンロンやケオアルボルを対処してもあんな化け物、手に負える相手じゃない!!」

 

「非道な言い方だが、俺たちはあくまで観測員だ。実際相対するのはハンターたちだ。つまり、ハンター殿に期待せざるを得ないんだ」

「それだけじゃない、俺たちの任務は生きて情報を早く届けることだ。今、砦で、決戦場で防衛戦が行われようが、俺たちは観測されたことをただ行い、正確に届けること。彼らには彼らで頑張ってもらわないといけないだ」

 

ーーそう、今の一番危険なこいつの情報を。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

進んでいく。

 

進んでいく。

 

戦場の血潮の匂いを追い風に、己の武器()を携えて命を削って守るべきものを、あるいは誇りを、それはただ単に簡単な計算式。

 

 

 

 

 

 

「まずい、大熱線だっ!!」

 

「直撃するぞっ!!!退避ィィィィィィィ!!!!」

 

ゴゴゴゴ…‥…

パウッ!!!

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

焔嶽龍ケオアルボルは限界まで溜まった熱を放出するべく口内に凄まじい熱が蓄えられる。

 

直後、バーナーが試しで放出するようにゆっくりと焔が吐き出されると、特大のブレスが吐き出される。

 

爆音と爆発、衝撃。

 

「被害報告っ!!」

 

 

「第六バリスタのエリア壊滅!死傷者多数っ!!」

 

「第七大砲エリア、多大な損害、大砲は大破っ!!」

 

「主戦場のエリア、ハンター達は無事です!戻り玉で緊急避難した模様!」

 

 

 

 

「っ!!第二波、きます!!総員、衝撃備え!!」

 

見れば、ケオアルボルが体を大きくのけぞらせて口元から高温のエネルギーが満ちている。

 

パァァァァァァァァ‥‥‥

 

パウッ《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!》

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァっ!!?》

 

 

 

 

彼らが見たのは、いつの間にか発生していた濃霧と体のほとんどが森で出来ており、まるで森を背負っているかのようでーー

 

ケオアルボルの頭を摘むように持ち上げ、引きずるように去る巨大な影。

 

 

その先には、その目には世界の樹が映っていた。

 

 

 






よっしゃ、幻天狐の擬人化イラスト、下書き出来たぜオラァン!!

ペン入れして、パソコン読み込んで、色乗せていつ終わるのか(´・ω・)


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極点の至りし交差の奥義、交わりて得よ



グアア、難しいィィィィィィィ!!!

今回の龍帝はかなり長くなりそう。海王龍より長くなるかも。


「唐突だが、俺と戦ってもらう。もう一つの俺ジェスト・スレイヤー」

 

「いきなり、現れて何いってやがるんだ」

 

「今のお前たちでは三界にまともなダメージは与えられるとも思えねえんでな。構えろ、さもなくば

 

ーー死ぬぞ」

 

引き抜かれた太刀は、微細に振動しており紫電がバリバリ音を立てている。

ジェスト、いやこのままでは互いにかぶる為今殺気を立てる方をジェスト・オルタ、呆れた顔をするのがこの世界にやってきたジェスト・スレイヤーだ。

 

「いったはずだ、構えろ、ってな。

 

 

ーー秘伝開眼、奥義狩技。

 

絶・覇道『瞬斬』」

 

 

その時、ジェストはかつてない体験をする。人の身では最上位の自分が感じた濃厚な死。

同じ自分(ジェスト)だからとはいえ到達する領域が別に進化したのか。ともかく、ジェストはオルタが己の首を落とすヴィジョンが見えたのだ、ハッキリと。

 

 

なぜ、こうなったのか。エクセリアは回想するーー

 

 

 

ーーー

 

 

「どうするよ、これから」

 

ディスフィロアから降りた二人は、ドンドルマの近くまで来ていた。第1級危険生物であるディスフィロアに乗ったままなぞ誤解されてもおかしくないし、そこまで愚行を働くつもりもなかった。

 

二人は、取り敢えずの方針を決めるべく焚き火をしながらすでに暮れた空を見上げていた。

夜空の星々は世界が変わっても同じらしい。きらめく天の川が幻想的だ。

 

 

「言うまでもないです、彼女の言う通りなら三界?という古龍種を倒さないと帰れないらしいじゃないですか。ならやるしかないじゃないですか」

 

「だな。いつも通り、ってやつだ。あのリオレイアがいないって但し書きがあるがな」

 

「ええ、ジョー君やフィー君であれば片手間で終わりますよきっと」

 

 

笑顔でいつも通りと通す二人。

彼らの世界で、彼らの常識で、彼らの認識ではこれが当たり前。自分たちは何かが狂った世界で鍛えられたのだ。

 

そう、あの白い陸の女王、新しい神話の化身に。

 

だが、彼らは盛大に間違えていることが二つ。

 

一つは、三界の龍帝は下手をすれば彼らの世界で、上位の古龍種と渡り合うどころか逆に総ナメされるということもあり得る規格外の古龍種だ。一部の古龍種は銀河さえ雷で吹き飛ばすらしいためにそこは除外されるが。そもそも三界の龍帝は祖龍には及ばないが龍大戦より古い時代に封印された存在である。

 

故に、実際に相対せねばわからないということ。

 

一つは、あの世界に彼らがいたということはこの世界に彼らがいるということだ。

 

つまりーー

 

「ふん、大した自信じゃねえか。ジェスト・スレイヤー()。あの外道(ソフォクレス)から聞いていた通り、かなり場数を踏んだみてえだな」

 

いつの間にいたのだろうか、デスギア装備を違法に改造した外套を纏い、色あせたシルバーソルZX装備を着込んだ見たことない太刀を背負う男が。

 

気配を一切感じさせず、ジェストのすぐそばに現れていた。すぐに距離を取り、エクセリアを庇うように立ち、背中の三千大千世界無双刀をいつでも抜ける体勢だ。

 

「てめえ、いつの間に。いつからいやがった?」

 

「いつから、か。それを知ってお前が意味あるのか?お前たちがやるべきことはあの馬鹿みたいにデカイ最後の龍帝を倒すことだろうが。なあ、生きたまま、人のまま古龍の領域に踏み込んだ勇者さんよぉ」

 

「貴方は‥‥‥何者なんですか?いえ、その声、その雰囲気、まるで‥…」

「エクセリアか、まだお前には明かすべきじゃない。薄々感づいているかもしれんがな」

 

ジェスト本人ではないのかーーと言いかけてその男に言葉を重ねられて言えないでいた。

 

「ま、お前らには不本意かもしれんが。ジェスト・スレイヤー、武器を構えな。この世界でお前らが生きていくために、勝ち残っていくために(ジェスト)が試験官になってやるよ」

 

ーー

 

 

 

 

「ーー秘伝開眼、奥義狩技。『絶・覇道 :瞬斬』」

 

ジェストが捉えたのは人間が瞬きするするくらいの瞬間に肉薄し袈裟懸けに太刀が振るわれる、瞬間だった。

ーー速えっ!?

 

「ぐぅ、狩技『返し桜』!」

 

わかっていたのに、即座に反応できなかった。本来、この手のカウンターはジェストの得意とする戦術の一つ。

だが、ジェストは奇妙な違和感を覚えた。動きの一つ一つが、似ているのだ。

 

ーーいや、似ているどころじゃねえっ!これは、この技量は!!

 

「まさか、てめえは!」

 

「ふん、エクセリアがもっと先に気づいていたぞ?それと、遅えよ」

「がっ!?な、め、ん、なぁ!!」

 

交差する一閃。

互いに武器は吹き飛ばされて、戦いの余波で周囲はエクセリアの場所を除いて完全に更地になり、ひどいところは断層のように地形が変わっていた。

 

さらに余波はそれだけではとどまらない。

彼のシルバーソルZXのヘルムが留め金を破壊されて吹き飛ばされていった。

 

「「っ!!?」」

 

彼は、ジェストと同じ、顔立ち、同じ髪色、同じ、同じーーー

 

つまり、同一人物だった。エクセリアは薄っすらと感じていたものの、ジェストは戦いの中でようやく気づけたのだ。

 

「あーあ、身バレしちまったか。まぁ、仕方ねえな。初めましてだな、ジェスト・スレイヤー、エクセリア・スレイヤー。ようこそ、精霊と、大災害なる龍が住まう異境の地へ。

 

 

俺が、この世界のジェスト・スレイヤー()で、お前は、俺だ」

 

「そして、お前たちには見てもらわんといけないものがある」

 

 

絶句する二人を横目に、この世界のジェストは

二人のすぐそばに立つと両脇に抱えて、跳躍する。

 

木々を軽々と飛び越え、岩壁を難なく駆け上がり、襲いくるモンスターを蹴り飛ばし、逆に足場にして跳躍する。

 

 

「「なあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」」

 

二人の悲鳴は夜空に響き渡ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、目的地に着いたらしく彼は二人を降ろし水筒を手渡した。その際、エクセリアには林檎の水溶液を、ジェストにはただの水を渡した。

 

「おい、流石に酷くないかっ!?」

「うるせえ、それよりあれを見ろ。外道から聞いているし見たと思うが。あれが龍帝だ。人間では太刀打ち出来ねえ、精霊を持ってしてようやく、だ」

 

日が昇るはるか彼方に見える巨大な大樹を背負う超巨大な龍を指差す。

 

「もうすぐ、奴に対処に当たる精霊が現れるだろう。そして、奴を倒す使命を帯びたお前たちには、特にジェストには体得してもらわんといけないもんがある」

 

彼の背中はやはり、彼ゆえか同じ感覚を覚える。

 

ごくり、と喉を飲み込むとエクセリアは聞きたいことを聞くことにした。

 

「精霊を、と言いましたか。私は気になるんです。精霊とはなんですか?」

 

「それは後で教える。だが、こっちが先だ。

 

 

 

ジェスト・スレイヤー、お前は狩技の奥義『共鳴連携(ユニゾンリンク)』を覚えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 







奥義とは。(哲学


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激震の巨腕と四肢、吠えるは二雄

やっと戦闘回に突入出来そうです。

あとはおいおい前書きを書いていきますね。


峡谷を突破した峯陵龍はドンドルマを通る道を何故か通らずシュレイド跡地へと進めていったと観測員よりギルドに、大老殿にもたらされた。

 

それは、かつて黒龍から逃げてきた老山龍とは違い戦うべき敵を察知したと感じたとこぼしていた。

 

「ドンドルマに被害が及ばなかったのは僥倖だが‥‥‥‥、何故シュレイドなのか」

 

ホッととりあえずの安心を取り繕うため大長老は眼下のギルド職員を見つめていた。

 

「あそこは、黒龍の領域です。ですが、今までの経緯から黒龍が三界の敵である可能性は非常に低いかと」

 

「たしか、ケオアルボルが現れた決戦場はシュレイドの近くだったはず‥‥‥!まさか!!」

 

「可能性は非常に高いな、到達時間は軽く見積もっても3日でシュレイド近くの決戦場に到達する!」

 

「あれだけの巨体だ、周辺の村々で集団パニックを起こされたら対処は出来んぞ、3日では避難勧告も通達できまい!」

 

地図をテーブルに広げて模型を用いて状況シュミレーションを行う職員達。

中央の大きな模型が峯陵龍だろうか、他のと比べてかなり大きい。

 

そこへ一人の衛兵が駆け込んでくる。

 

「急報です!シュレイド近くの決戦場に出現したケオアルボルは、突如出現した精霊種と思わしきモンスターに倒され、精霊種はそのままシュレイド跡地方面に向け直進していきました!」

 

ざわっ

 

「つまり、シュレイド跡地にて精霊種と峯陵龍が激突する、と!?黒龍の縄張りだぞ!!」

 

「しいっ!!それは禁忌だぞ、迂闊に何度も言うんじゃない!しかし、そうなれば被害はどれほどになる!?」

 

「もともと、シュレイドには人気はおろかモンスターも近寄らない地よ、仮にそこで激突したとしても廃墟。今までと違って軽微だと思うわ」

 

彼らは地図に置かれた模型を見ながら、今後を話し合うのだった。

 

ーー

 

 

 

 

轟音が、瓦礫を吹き飛ばしながら響き渡る。

 

かつて、国を守る城塞、あるいは砦とされるシュレイド王国跡地の砦エリアにて下手な島々を凌駕するやもしれない巨体が通過していく。

 

歩く振動で、古龍の攻撃に耐えうる城壁は無残に崩れ落ち、その皮膚が触れた建造物は砂のように粉々になる。

 

不幸か幸いか、その周辺には生きるものがいなかった。強いて言えば、植物の類いだろうか。それが踏み潰されると言えば生きるものがいないといえるだろう。

 

目の前には山があり、その向こうには僅かに建造物、シュレイド城が見えている。

いつもならばシュレイド城の上空には暗雲がかかって雷鳴が響き、謎のエネルギー体が収束して時節破裂しているのだが………それがない。

 

実は、黒龍はこの事態をすでに見抜いており巻き込まれることを恐れて一時的に塔に移動していた。

 

当たり前である。

いくら邪龍といえど星の守護者たる精霊と一体で世界を壊せる三界の龍帝との戦いに介入するなど、勇者でもあるまいし無謀であったからだ。

 

曰く、

 

『三界と精霊を一度に相手していられるかっ!』ということだ。

 

無論、祖龍とて避けたはずだ。

超越者であるからゆえに、それに迫る、あるいは超える超越者がぶつかるところに飛び込むのは、今はいない。

 

 

峯陵龍はその大きな前足を山の斜面につけると自重で陥没し山体が崩壊する。本来山はそう簡単に崩壊するものではない。幾重にも年月をかけて蓄積された地層と岩盤、植物の根による張り巡らしで強固な天然の要塞である。

 

しかし、峯陵龍の自重に加えてその周辺の地質は花崗岩であったことだ。花崗岩は脆い。風化でぼろぼろになってしまうほどには。

 

だから、拳で山そのものを殴り飛ばしてくる巨大な影も峯陵龍にははっきりと捉えていた。

 

飛ばされてくる山をその頭を持って砕く。

元より頑丈な身体である。山をいくら持ってこようが堪えることは容易い。

煙が晴れた向こう、姿を現したのは森を背負う、雄牛のごとく立派な角を持つ巨大な獣。

 

 

腕はこれでもかと筋肉で構成されており、ガチムチだ。

胸元は胸筋が凄まじく発達しており、人間であれば鍛え上げられた筋肉美。

 

獣、【森猿 ヒラテヅカミ】。精霊第3位に位置する強大な精霊で、太古の昔陸地と陸地をその手で手繰り寄せ、つなぎ大陸にしたという伝説がある。

 

《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!》

 

大きく立ち上がり、胸元を膨らませ特大の咆哮を出す。背後にあるシュレイド城を守るように立つ姿は、かつて罪の国とはいえど星の守護者たらしめる勇姿。

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!》

 

負けじと峯陵龍も咆哮を持って対抗する。二体の人智慮外の巨人の咆哮は大気を震わせ、地響きが轟き、水面が沸騰する。

 

森猿が大きく跳躍し、その巨腕で殴りかかる。

森を背負うといえどその森は軽く樹海二つ分はある。すなわち体高だけで数十キロメートルにも及ぶ巨体。

 

科学的にはありえない運動性を見せた森猿を迎え撃つようにどっしりと構える峯陵龍は大地を踏み鳴らすと凄まじい勢いで木々が成長して束ねられ胴回り50メートルの鞭になり空中にいる森猿に巻きついた。

 

巻きつかれたことで、出鼻をくじかれ落下する。落下の影響で大地震が発生し、ドンドルマには崩落する施設が起きた。

 

しかし、森猿も腕に巻きつくそれを力づくで引きちぎると今度こそ峯陵龍に躍り掛かった。

 

《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!》

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!》

 

手四つのような押し合いになる。

 

大地は陥没し、溶岩が溢れ出し周りは火の海に。

 

峯陵龍は大きく口を開くと、蛇の顎関節のように縦にさらに開き森猿の腕に噛み付く。

森猿も峯陵龍をひっくり返さんと豪腕をもってして足を持ち上げていた。

 

互いに抵抗して大地が、大気が痛がるように震え出す。

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

 

響く轟音。

 

揺れる地響き。

 

「きゃっ!?」

 

「あぶねえ!!」

 

あまりの衝撃に立つことさえ難しくなっているジェスト・スレイヤーとエクセリア・スレイヤーはシュレイド城の方へ視線を向けた。

 

「始まったか。古の巨人がぶつかり合う、それがここまでとは‥‥‥‥」

 

「お前ら、もう時間はねえ。すぐ移動するぞ、遅れずについてこい!!」

 

シュッとあっという間に消えたもう一人のジェストを追うように、別の並行世界から呼ばれた二人の勇者は駆け出すのだった。




「ふっふー、妾の立ち姿ももうすぐ終わるのじゃ!楽しみにするがよいぞ!!」

??? cv 丹下桜


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狩の極致、技と技の合技なれば

ふいーー、難しいよーー(´・ω・)

さて、そろそろ出すかな。





《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!》

 

硬く握り締められた拳が振り下ろされる。

だが拳は空を切り、噛み付かれた片腕は既に自由だ。

 

ガラ空きになった胴に鈍い衝撃が走る。

 

ズガンっ!!!

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!》

 

ソニックブームが発生する凄まじい勢いで森猿に頭突きをぶつける峯陵龍は爛々と輝く瞳に怪しい意思を称えるかのようだ。

 

 

《グボアアアアアアアアアアアアアアアア、ルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》

 

 

咆哮と共に大地が盛り上がり幾千に束ねられた植物が意思を持つかのように読めぬ軌道を描き鞭のように振るわれる。

 

それだけではない、周囲の山にある植物も異常なほど成長して、上だけではなく粘菌のように広がっていく。

そこから竹林のように無差別に、高速に成長し始め森猿の足を貫かんと展開される。

 

さらに峯陵龍の背にある世界樹から蔓がまるで弓のツルのようにしなり、絡め取った岩石や瓦礫を弩のように番え、放つ。

 

放たれたソレは音速の壁を初速で超え、マッハの領域へ。空気の抵抗により角ばっていたソレは円錐型に削れて貫く矛に見える。

 

しかし、ソレも森猿の突き出した崩拳で粉々に。

さらにはいくつかを見事にキャッチして逆に投げ返し世界樹の枝のいくつかをへし折る。へし折れたところから赤い血のような樹液?が流れ出し付着したところは酸のように白い煙を上げている。

 

《ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!?》

 

世界樹の樹液はソレを背負う峯陵龍でさえ苦しむ猛毒で、大地に降り注げば真っ白に脱色し、そしてそのまま溶けて液体になる。ソレに触れた虫が煙を上げながら一瞬で溶けてしまう。

 

だが、森猿もこれはまずいと判断したのか、体から種子をまいた。溶けた大地に落ちると溶け落ちることなくむしろ大地を補強する形で綺麗な花が咲く。

 

痛みに怒りを震わせる峯陵龍はさらに蔓をまとめ上げ、自身を持ち上げることが出来る領域まで数を、太さを増やす。

 

手足を内側に引っ込めて防御のために頭も引っ込める。もはや触手同然となった蔓を投石機のように自身を打ち出す準備も出来た。

 

刹那に打ち出された回転する超超大質量の物体、一つの弾丸となった峯陵龍。

 

周囲に世界樹の花粉がばらまかれ、気流に乗るとソレを吸った生き物は体から発芽して巨大なモノリスと化す。

 

《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!???》

 

そのたくましい肉体を持って受け止めようとする森猿は、受け止めること叶わずシュレイド城を粉々にして吹き飛ばされかなり遠い山脈にぶつかり山体崩落を起こして動かなくなった。

 

死んではいない、気絶しただけのようでその体は、かの輝きの丘に還っていないのがその証拠である。

 

しかし、その体の中心は見事なまでの風穴が空いており重症なのは明らかである。

 

 

 

 

 

森猿を一時的に退けた峯陵龍。

 

あたりは、超超大質量を持つ二体のモンスターにより地面は更地になるどころか、地盤は5キロメートルまで沈下し、擬似的なクレーターに。

 

溶岩が沈下する地盤に耐えきれず、隙間から絶えず吹き出し、森猿の体からこぼれ落ちた種子により周囲の環境に合わせて育った溶岩に燃えない、世界樹の樹液にも耐える植物と、かなり混沌とする場所へと変貌していた。

 

《グボアアアア‥‥‥グフゥ、ゴボオォォ‥‥》

 

峯陵龍の口から血のような、毒々しいドス黒い液体を吐き出した。

吐き出す最中に、峯陵龍の体には、血管が浮き出るように、ミミズのようにのたうつナニカがうごめいていた。

 

だが、それも一瞬だったようで、すぐさま復帰するとそのままクレーターを出ようと一歩を踏み出そうとした。

 

 

しかし、それを世界は許さないのだろう。

 

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》

 

黒い、死をその身にまとう峯陵龍からすればアリのように小さい怪物がその足に噛みついている。

 

しかし、振りほどこうと持ち上げるが、その身のどこにそんな力があるのか何倍もの差がある峯陵龍と拮抗する恐暴竜(蝕星龍)

 

「ジョー君、離しちゃダメよ!逆に抑え込んで!!」

《ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアはっ!!!!》

 

場違いな凛と澄み渡る声が響くと、その怪物は顎を持って峯陵龍の足を持ち上げる。

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!?》

 

「フィー君、焼き払え!!」

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

突然の大爆発、そして、体格差を無視した慮外な力で押し返される。

 

「おいおい、喉元ガラ空きだぜ?狩技!『紫電迅閃』!!」

 

シルバーソルZXを身に纏う、三千大千世界無双刀が峯陵龍の喉元へ振るわれる。

そこへ、黒い、高速で接近する影。

《ガルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!》

 

目にも止まらぬ速さで火球を連射する黒い空の王者、黒星龍は狙いを定めた傷つけたと思われる喉元へ炸裂させる。

 

これが刹那の瞬間に起きた出来事。

大抵のモンスターや強いというモンスターも彼らからすれば確かに片手間だろう。

 

 

しかし、だ。

 

それはあくまで、彼らが見てきたモンスターの強さが片手間で終わるというだけだったということ。

 

三界の龍帝は、伊達に龍帝を名乗っているわけがない。

 

土煙が晴れると、確かに喉元には亀裂があるが、良く目を凝らさねば見えぬほどの小さな傷。

さらにその周りに少しだけ焦げ付いた跡がある。

 

 

「だから、いっただろうが。向こうと同じ感覚で狩ると倒せねえぞこいつは。向こうは星が救援を出さなかった、だがこいつは、こいつらは星が世界を跨いでも救援を要請させるほどの怪物だぞ。気をひきしめろ、ジェスト・スレイヤー()!」

 

もう一人、ジェスト・オルタは風になって現れると、太刀を一閃。ジェストの背後から忍び寄っていた世界樹の蔓がバラバラに引き裂かれる。

ついでに投げナイフを取り出すと、複数まとめて投擲、同じようにエクセリアにも忍び寄っていた蔓を切り裂く。

 

 

 

 

「さて、ぶっつけ本番だがやるぞジェスト・スレイヤー()

 

新たな狩の極致、狩技と狩技の合体、融合技。

 

いいかーー

 

 

俺はお前で、お前は俺なんだ。

 

 

 

魂のレベルで合わせられる。

 

 

 

 

 

二人が同時に駆け出す。

武器を構えながら、高速で大地を駆け抜ける。

 

 

二人は互いに跳躍すると光のオーラのようなものが二人を包み込み軌跡が交わりながら交差する。

 

武器の太刀は赤く輝きながら、その時を待つ。

ジェスト・オルタは駆け抜ける中、ジェストに語りかける。それは詠唱にも似た詞。

 

 

ーーこれぞ、行き着く狩の極致なれば

 

ーー絆、友情、愛慕、あらゆる良きかな心に接続(リンク)する

 

ーー強きもの、一人なく心合わせる者あれば

 

 

ーー狩技と狩技を合わせ真と新とする一撃とせよ!!

 

 

「「『共鳴連携(ユニゾンリンク)』合技!【乱れ桜、華吹雪】!!」」

 

 

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!?》

 

右前足に伝わる一撃は峯陵龍の腱を切り落とし、体を崩れさせるのに十分な一撃だった。

 

しかし、復帰が早く。

彼らが再び向き合う頃にはすでに峯陵龍は立ち上がる動きを見せてはいたが、

 

ただ世界樹はーーーー根元から紫色に変色し始めていた。




下手だから、勘弁してね。
幻天狐ちゃん書けたので投下。





【挿絵表示】


左手が違和感バリバリ(´・ω・)


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汝は心失いし、嘆哀の叫びの鐘の音也

最後の龍帝編そろそろ終わりが近いようです!!

これが終われば、遂にラスボス、神龍へ。続くかな
ぁ(´・ω・)


「復帰すんの早くないか、こいつ」

 

「みてください、ジェスト。切られたところを。植物の蔓を絡ませて補強してる。

 

ジェストとジェスト・オルタの共鳴連携による合技狩技、【乱れ桜、華吹雪】を発動させた。一つの斬撃を一秒間でn乗に増やし、秒数増やすごとに倍加する。結果、一つの斬撃から幾万の斬撃を派生させるのだ。

それはまさに剣撃の檻。

 

似たように倒された海王龍も覚醒後氷剣による剣叉の檻を展開していたが、似て非ずあちらは規模が世界全てに対し、こちらは個による連撃、その究極であろう。

故に巨体であるため凄まじい耐久力を持つ峯陵龍の右前足をズタズタに切り裂きダウンを取ることができた。

 

補強された右足とは別に、峯陵龍は左足を地面に叩きつけた。直後に発生する地響きに並大抵の人間ではバランスを取ることも出来ず無様に這いずることだろう。

しかし、彼らとその3匹は超越者といっても過言ではない人たちとその別側面としての人物である。

星に巡る龍脈を操作して、エクセリアを守りつつ地響きによる行動不能を回避する。

 

間髪入れずに、土の壁が津波のように押し寄せてくる。衝撃が土を巻き上げて接近するというのは自然界でもよく発生が見ることができるがこれは純粋に土が意思を持つかのように波濤のごとく三人と三匹に押し寄せる。

 

 

《ゴルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!》

 

動いたのは蝕星龍。死と、消滅の概念を持つブレスが吐き出し土の波濤を消滅させていく。

 

続いて、エクセリアを乗せた黒星龍。彼はエクセリアを乗せライダーとして戦うつもりのようだ。

 

「いくよ、レウス君。君の真の力、見せて!!

 

 

『フレイムダストシュート』!!!」

 

 

 

一条の輝きが矢のように峯陵龍に向け突き刺さろうとする。

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

峯陵龍は世界樹の蔓を巧みに操り壁を形成する。

しかし、黒星龍はその壁と壁との間を華麗にアクロバティックな飛行を持ってくぐり抜けていく。

 

ボンッ!

 

音を置き去りし、峯陵龍の蔓の壁を抜け峯陵龍本体に肉薄する黒星龍を駆るエクセリア。

 

「行きますーーー!!」

 

《ボアルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》

 

「マズい、下がれぇ!!エクセリア!!!」

 

キラ、キラと金色の粒子が峯陵龍の咆哮とともに出現する。

だが、臆せずともエクセリアは突っ込もうとするがジェスト・オルタの叫びで間一髪で引き返すことに成功する。

 

「どうしてですか!?チャンスなのでは?!」

 

「あの粉、花粉を吸うな!!全身から発芽して苗床にされて死ぬぞ!!」

 

「っ!!」

 

ーーー厄介だ

 

それが三人の共通の認識。

一人を除き、自分たちが知るモンスターの常識を覆えすやもしれない超を超えた超弩級モンスター。

いつぞみた異常に成長したオストガロアの何倍の巨体に加え、異常成長する蔓の壁に死に誘う花粉、そして、類を見ない耐久力を有する。

 

ーーこんな時、あいつならどうするだろうか。

 

脳裏に浮かぶ星焔の龍姫の勇姿。

 

「いっておくが、あの龍姫でも倒せる確率は7割を切る。お前たちがいたあの世界で、だ。

故にこう呼ぶのさ、三界の龍帝と。あいつが新しい神話、新たな人理の開拓者ならこいつらは過去の人理の残滓、だから乗り越えなきゃならねえ」

 

天を握ろうとした、運命の神に反旗した天の皇帝。

あまりの強さ故に、精霊の不意打ち、相性差により滅ぼされた。

 

大海原の化身にして、過去の世界を海の底へ沈めた深海の海神。

人の信念と、諦めない心に真核を貫かれたが、今一度世界を塗り潰そうとした人理修正機(ファイナルリセッター)

 

 

そして、未だ答えを得られず、世界をさまよう世界樹を背負う霊亀。

安寧を、得ようとさまよい未曾有の大災害を撒き散らす。そして、この世界で最後となった龍帝で星が世界をまたいで勇者を呼んだ、人が抗える最後の一戦。

 

「は、何を言いだすかと思えば。怖気づいたのかよ、オルタ。近づけねぇだと?だったら斬撃を飛ばせばいいじゃねえか、あいつの首を刎ねられるだけの威力でな!!」

 

気合いを入れ直すように声を荒げるジェスト・スレイヤー(星が呼んだ勇者)

 

ダンッ!と踏み込む、それだけで峯陵龍が張り巡らせた蔓の壁の一部が消し飛び、僅かに隙間が出来る。

その僅かな隙間をくぐり抜けるべく、音速を置き去りにして接近、背中の太刀を腰に移して腰溜めにして一閃。

 

ーー狩技秘奥義【無空の太刀】

 

無限に有り余る可能性をたった一つだけに絞って放つ空前絶後の一太刀。

必ず当たり、必ず勝てる一手として、峯陵龍の蔓の壁を完全に両断し、さらに峯陵龍の肩と世界樹の一部が切り飛ばされて鮮血が舞う。

 

《ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!?》

 

体を消し飛ばされて、悲鳴をあげる。

 

あのクソでマッドなマネルガーとの戦いの後、星焔龍との決着をつけるために死に物狂いで習得した絶技。

まさか、こいつに使うことになるとは、と心の中で思う。

 

「ち、し損ねたか。思った以上に頑健だな、というか俺たちが戦った中でここまで食い下がったモンスター、あいつ以外で初なんじゃねえか?蝕星龍や修羅種ディスフィロア、黒星龍までいるこのメンツで、だぞ?あり得ねえ………」

 

もし、あいつらがこいつを知った時どう思うだろうか。

あり得ないと一蹴されるかもしれない。そんなモンスター、星焔龍だけで十分だ、と言われるのが簡単に想像できる。

 

「っ!俺とは思えねえ‥‥‥、さすが別世界。同じ俺でもこうでも違うのかよ。無空とか俺には無理だ」

 

ジェスト・オルタが、どこか悔しそうにジェストを見つめている。悔しいが、同時に羨ましいとも。

こっちはあまり良くない結末なのに、だが、嬉しくもある。

 

「負けられねえよな、おい!俺も混ぜろ!!」

 

ーー狩技秘奥義【空位破断】

 

無空とは別、ジェスト・オルタが得た答え。

絶対に勝てる可能性を全部手繰り寄せた極みの太刀。

 

峯陵龍の胸元をいともたやすく切り裂き、同じように鮮血が舞う。

 

《ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

怒りの咆哮とともに壁としてではなく、鞭として縦横無尽に振るわれる蔓。

 

両者は、繰り出される蔓の上を駆け巡り、同時に斬りつけていく。

 

さらに上からも押しつぶそうと迫る蔓を斬ろうと立ち止まろうとするが不意に火球が着弾し燃え上がる。

「私も忘れては困ります!!レウス君!『ヘルファイア』!!」

 

「エクセリアか!助かるぜ!!」

 

「ジョー君、好きに動いて!フィー君も!!あと一押し!」

 

 

《ゴルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》

 

滴る世界樹の樹液を、蝕星龍の消滅のブレスと、ディスフィロアの熾凍ブレスで相殺、消滅させる。

 

 

蔓の上を走る二人は、遂に峯陵龍の目と鼻先にたどり着く。そして、互いに目を合わせるところを見ると、共鳴連携を使うようだ。

 

「いくぜ!ジェスト()!『いくぞ、オルタ!!』

 

 

 

ーー共鳴連携、無空、空位集いて交わる!

 

ーーー【烈空絶波斬】!!!】

 

互いの秘奥義の共鳴連携、それぞれの究極の一たる一撃を共鳴連携した威力は峯陵龍の背中を交差するように傷つけ、かつてない鮮血が迸る。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ズズゥン…

 

 

悲痛の叫びを上げて、倒れる峯陵龍。ただダウンなようですぐに起き上がろうとしている。

 

再び、対峙し両者に走る緊張感。

 

前足を振り上げ、進もうとする、峯陵龍は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ガハァ、ゴボ、ゴボボボボボボ!!!》

 

口からおびただしい血を吐き、バランスを崩してしまう。

 

「な、なんだ一体!?」

「今度はなんだ!」

 

 

《ギィアアアアアアアアアアアアアアアア!!?アアアアアアアア!!ギィgjt) kun gjdntjn jajodt'tnw?"wnd/kwmdm#lon!!、》

 

ボコン、ボコン、!!

 

甲殻が激しく波打ち、鱗は消し飛んでいく。

既に目は正気を宿しておらず、虚ろで。

 

体の至る所から、出血を繰り返し激しく暴れ始める。初めは悲鳴だったのに今では、もはや言葉では言い表せない何かとして響き渡る。

 

更に変化は続く。今度は、体の横から

 

 

 

 

甲殻類に似た脚が突き破るように出現。前足の肘あたりから、鋏のような機関が突き破るように現れ、峯陵龍の頭部はへし折られたようにクニャッとねじれ首元から何か現れた。

 

「おえ、ウエエエエエ!!」

 

あまりの現状に耐えられなくなったエクセリアは遂に吐き出してしまう。

 

「なんて、こった‥‥‥!これは、こいつは!!寄生されてやがった!!」

 

 

 

《キィキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!》

 

峯陵龍ジャルグ・バアル。

 

いや、こう呼ぶのが正しいだろう。

 

堕ちた精霊、邪霊あるいは魔王。その一柱。

ーー【天殻魔金蠍 シャドーナ・マキリス】

 

かつて精霊第4位であったが、力に溺れて堕天した堕落した星の守護者の成れの果て。

 

勇者は、龍帝ではなく堕ちた魔王と対峙するーー




ところで、幻天狐ちゃんどうかな、ど素人だから、アドバイスあればください。


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かくして暴威は荒れ狂い魔王は語る

うーーん、なんかちょっと違う。そのうち、この内容を改稿するかも。


ベキ、ベキ。

 

《キキキ、キィーーーーーーキキキキキキキキキキキキキキキィィィィィィィ!!!》

 

 

峯陵龍だったものを脱ぎ捨てるように姿を現した異形。

 

ネルスキュラなるモンスターがいる。これはまんま蜘蛛のような甲殻種モンスターで自身の身を守るためモンスターの皮を被るという。しかし、ネルスキュラはモンスターを倒してその皮を被るのだがーー

 

 

姿を見せた異形は、まずアトラル・カと呼ばれるカマキリのような上半身が立直で下半身が蜘蛛のように這う基本姿勢。

シオマネキのように大きさが違う鋏を持ち、なおかつ腕を組むように複腕がある。胸元には目玉のような常に胎動する宝玉のような機関。

 

脚は8本でシェンガオレンより二回りはあるだろう、黒曜石のように黒く艶めかしい。

 

目は左目に当たる部分が四つ、右目に大きな複眼があり、ナルガクルガのように眼光が走る。

 

なにより目を引くのが頭上に輝く赤黒い天の円環。

その光が届いた植物がどんどん生気が失われ萎れて枯れていく。

 

植物だけではない、その場にいた彼らにも影響を及ぼした。

 

ーー蝕星龍は見るからに嫌そうな顔をして僅かに後退している。

 

ーーディスフィロアはそわそわして落ち着いていない。

 

ーーエクセリアを乗せた黒星龍はエクセリアを何度も見てはキュウゥ‥‥とか細い声で催促していた。

 

 

《ケケケケケケ、キキキ、キキキキキキキキキキキキ、ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!》

 

聴くもの鳥肌が立つほどおぞましい声がやかましく脳裏に響く。

気がつけば辺り一帯が紫色の煙というか、霧が立ち込んでおりジェスト達彼らを取り囲もうとしていた。

 

立ち込める霧が万象に触れるとそこから砂に変わっていく。

 

岩肌なら、風化するように

 

植物なら植物のまま砂に変わり崩れ落ち

 

動物、この場所では小さな昆虫が砂に変わり果てバラバラと崩れていく。

 

 

 

「ヤベェ!この場を一旦離脱すんぞ!!脱出できなくなる前にだ!!ディスフィロア、蝕星龍!俺らをこの場から連れ出せ!!」

 

オルタの怒号に、キョトンとしていたがすぐさま行動できる辺りこの状況の危険さを理解していたということだろう。

 

エクセリアを黒星龍が、ディスフィロアにはオルタとジェストを乗せ、蝕星龍が消滅のブレスを持って活路を開き脱出を試みる。

 

そこは衝撃的なものを見た。蝕星龍の消滅のブレスは紫色の霧を吹き飛ばしたのだがブレスの先端は砂状の結晶に変えられて更に消滅で上書きを繰り返す。

 

もう一度言うが、拮抗している。あの異形の発した霧と自分たちで知る滅殺なら右に出るものなしと言われた蝕星龍のブレスが。

 

「チッ、黒星龍、ディスフィロア!このまま霧が登らない高度まで上昇しろ!蝕星龍!地面に潜って戦線を離れろ!今はーーー仕切り直しだ!」

 

しかし、オルタの叫びをあざ笑うように霧は追い縋らんと無制限かと思われるほど霧の範囲が広がっていく。しかし、ここはとてつもない深さのクレーター擬きの中心地。オルタは人が営む領域までたどり着くのには流石に時間がかかると踏んでいた。

 

だが、だがしかしーー

 

 

霧は崖に触れると崖を砂に変えてしまい、砂は堆積し始め異形の位置は確実に上昇している。

 

 

「なんていうーーー、怪物!物質を砂に変換するなんて!」

 

「全くだ、あいつも物質操作?だったか似たようなことをやるが……ここまでの規模ではなかったはずだ。鉱石を別のものにするのも錬金なんてもんがあるんだ、珍しくもない。だがーー

 

「「生命を、生きているものさえ砂に変えてしまうのはあいつら(彼ら)でさえ難しいぞ(厳しいと思う)」」」

 

はるか上空になんとか逃げ切れた三人は眼下にいる異形に対し恐怖を含ませた感想が溢れる。

 

「一回、撤退だ。あれは流石に手に負えん。毒なら、無効化すればいい。酸素を奪われるなら呼吸を止めればいい。過重力なら抗えればいい。だが、触れるだけで存在ごと書き換えられるアレは俺たちは耐性がない」

 

ーーー蝕星龍の消滅のブレスさえ掻き消えず上書きされ砂に変わる。

 

「ソフォクレスは言っていました、どんなことになろうとも絶望はしないでくれ、って。でも思うんです、負けてやる気はありませんがアレがもし私たちの世界に現れたら、って思うと正直怖いです」

 

《キケケケケケケ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ、ケケケケケケケケケケケケ!!!》

 

「「「っ!!?」」」

 

「レウス君、退避!!」

 

ブゥン!

巨大なハサミがまるでワニが飲み込むかのような心象を携えて真下から迫っていた。

かなりの高度を飛んでいたはずーーなのだがどうして届くことが出来たのか。

 

「伸縮自在かよ、気持ち悪いな!!」

 

ジェストの悪態のつく通り、魔王たるシャドーナ・マキリスは触手のように腕を伸ばして高高度の彼らを狙ったのだ。

もっともご覧の通り避けられてしまったが。

 

片腕が雲に触れると雲でさえ砂に変わり、パラパラと地上に向かい降り注いでいる。

 

彼らは立ち止まらぬように旋回して事態をどう解決するが悩んでいた。

 

「なんなんだよ、アイツは。あんなの聞いてないぜ?」

 

「ええ、ソフォクレスさえあのような存在は言っていませんでした。私も寄生?されているそのようなそぶりはなかったというのに」

 

しかし、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー片腕だけ伸縮自在なんてそんな都合の良いものがあるだろうか?

 

「きゃあっ!!?」

 

雲のかかった真下、丁度旋回していた時に通りかかった際音もなく真下からもう片腕が峯陵龍の蔓を纏いながら黒星龍を襲撃してきた。

蔓はシュルシュルと黒星龍とエクセリアを拘束し地上へ降下する。

 

「エクセリアっ!?」

 

「くそっ!!今、行くぞ!!」

 

ディスフィロアもジェスト二人を乗せてエクセリアの後を追いかける。

 

ゴウッ!!

 

ディスフィロアの熾凍属性のブレスが着弾、蔓に見事に直撃するが黒星龍は脱出できたものエクセリアは更に蔓に絡め取られてしまう。

 

エクセリアは手を伸ばすが、彼らに届くことはなかった。

 

ただまっすぐ地上に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードスンっ!

 

「きゃっ‥‥‥‥!っ!!」

 

地上に近づくと蔓は緩やかに解かれて地上に尻もちつく形で着地する。お尻が痛いが、すぐさま口元を抑える。

 

生命さえ、砂に変換してしまう驚異の霧を吸わぬようとっさの行動だった。

 

 

《キキキキキキキキキ、キケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケっ!!》

 

ーーゾクッ

 

 

背後に感じるネットリとした悪意。脳裏に響く揺さぶられるような嫌悪感を感じるソレ。

反射的に振り返り、やはりと後悔することになった。燃えるように爛々と輝く瞳がせせら笑うようにエクセリアを見下ろしており、引き絞るようにその巨大な鋏が振り下ろそうとしていたのだから。

 

エクセリアは尻餅をついたまま、背後に下がろうとする。

 

「っぁ、………ぁぁっあ!」

 

「っ!エクセリアァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!」

 

絶望しそうな時、自分のパートナーである彼の声が聞こえてくる。

 

「ジェストっ!」

 

 

空からディスフィロアと黒星龍と共に高速で降下してくるが、間違いなく魔王であるソレが振り下ろす方が早いのは自明の理。

 

《ヒヒヒヒヒ、キケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケっ!!》

 

「「やめろおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!》

 

ドオオオオオオオオオオンっ!!!

 

ジェストとオルタの叫び虚しく魔王の慈悲なき一撃が振り下ろされた。

砂煙に包まれて、あたり一帯は衝撃による爆風と一時的な砂嵐で視界が完全にふさがってしまう。

 

 

「テメエェェェェェェェェェェェェっ!!」

 

ディスフィロアの背から飛び降りようとするジェストをオルタが羽交い締めにする形で静止する。

 

「何しやがる!エクセリアの元に行くんだっ!止めんな、オルタ!!」

 

「馬鹿野郎!今向かったところでなんになる!視界は見えねえ中で動いてもあの霧に触れてお陀仏だ!!」

 

「クソォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!」

 

 

ーー

 

 

ーー私は、まさに死んだと思いました。

 

ええ、彼らが異常なだけで私は人間ですから、あの一撃を食らえば死ぬのは当たり前、だと思っていました。

 

あの瞬間、今までの経験が一度に瞬間的に再生されて噂に聞く走馬灯であることを実感したから。私は思わず目を瞑ってしまいました。

 

「……っ!! 生きて、る?ど、どうして‥‥?」

 

ーーけれど結末は違ったようです。

 

 

段々と晴れて行く土煙の中、エクセリアを覆うようにかばう巨大な森。

魔王の鋏による一撃はその生物の背にあたり、エクセリアには直撃はしていなかった。

 

 

《ルモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!》

 

エクセリアを守ったのは、精霊種の一つである【森猿ヒラテヅカミ】。

峯陵龍の一撃で気絶していたのだが、どうやら復帰して戻ってきたらしい。

雄々しい雄叫びと共に、魔王の鋏を払いのけ渾身のアッパーが叩き込まれる。剛腕に身体をぶつけられたのだから紙のように吹き飛んでいく。

 

 

《ルモォォォォォォ…》

 

巨大な森を背負うソレは心配そうな声を出しながら眼下のエクセリアを見つめていた。それを見ていたエクセリアの耳にいつぞやのソフォクレスの声が聞こえてくる。 加えて、小さな、可愛らしい羽の生えた人型がソフォクレスと森猿の周りを飛び交っている。

 

『いやぁ、ごめんごめん。峯陵龍の復活、ソレは私たちは感知していたけど堕ちた同胞だけは感知出来なかった。まさか、峯陵龍の気配が消えて堕ちた同胞の気配が代わりに現れたからビックリしたよ。気絶していた彼を癒して空間を曲げてたどり着いたら君が殺されそうだったのでね、迷惑だったかい?』

 

 

『おうさまがはなしをきかないからこういうことになるなのっ!』

 

『まったくだ、精霊王は忠実すぎて柔軟性に欠けるからねぇ。真面目なのに残念なんだよね、ピクシーはそのために何度も謁見を望んだのに」

 

「そ、そのありがとうございます。あの森猿さんもありがとうございます」

 

『うんうん、なら良かった。けど、峯陵龍なら君たちが倒すはずだったんだけど、堕ちた我らの同胞、邪霊に関しては君たちは流石に荷が重すぎる。

 

だからね、ここからは私たちの戦争だ。君たちは、下がっていてくれ』

 

「エクセリアっ!!良かった無事だったんだな!!」

 

「ジェストっ!!」

ヒシッと抱き合い、喜び合う二人。後からオルタがディスフィロアに乗りながら二人に乗るよう促す。

 

「ここを離れよう、巻き込まれるのはごめんだぜ」

 

 

ディスフィロアと黒星龍は再び高高度の領域へ羽ばたきやがて豆粒大になるほど見えなくなる。

 

その様子を見ていたソフォクレス。

 

 

『行ったか。うん、それでいい。

 

 

さて、どのような形で蘇ったかは知らないけど裁きの時だ堕ちた同胞。森猿が君の相手じゃない。流石に今回は無視できない。だから、久しぶり、そしてさようなら。さあ、見上げろ、堕ちた精霊よ、お前に二度目の死を与える死神が世界の果て、輝ける丘より来たる時である!!』

 

 

その時、世界は初めて史上最強の守護者を人型ではなく顕現することを認めこの地にソレが舞い降りることになる。

 

 

【アオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!】

 

『がいせんだよ!くるよ、われらのおう!』

 

空間が割れ出現した次元の狭間から聞こえる遠吠え。それは魔王にとってもっとも恐れる存在。

 

《キキキ、キ、キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ!!セ‥‥‥レイ、オゥ、オ、オノ、レ…!》

 

事実、魔王の一柱である天殻魔金蠍シャドーナ・マキリスはその雄叫びが聞こえると僅かに背後に後退しているのがその証左だった。

 

 

 

 

 

ソフォクレスの声がかの存在を讃えながら凛と空に響く。

 

 

『さあ、次元の狭間から現れるは我らが精霊王!真なる真名を聞くがいい。汝の名は【龍狼 ウツノカミヤラビ 】である!!』

 

ザッ、空間から獣の足が大地を踏みしめるのだった。




ラストが(´・ω・):

精霊王、本格的に介入。まあ、魔王だからね、堕ちた精霊種なんて流石に、ね?


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人の夢と書き儚きは、ただかつての守りし輝きなり

多分今までで一番書いたと思うよ。次回、最後の龍帝編は終わり、神龍へ。


今までかつてない絶望が現れる。【予告】


パリィっ………!ブゥンッ!!

 

 

ビリビリビリビリ……!

 

ピシャアアアアンッ!!!

 

まさに空気が震える、そんな表現が一番しっくりくる。

 

空間が歪み、姿を現した精霊王はなんと表せばいいのだろう。

 

どこまでも威厳に満ち、荘厳で優雅で、神聖で、不可侵で、いやもう表すことさえおごまかしい。

溢れ出る神気は、あの魔王でさえすくみ、その場を動かないのだから。

 

太陽の輝きさえ精霊王の背負う後光の一部に過ぎず、溢れ出る王のオーラはあらゆるものを畏怖の底へと突き落とす。

 

ーー白銀と淡い薄緑の外殻に、七色に輝く尾が焔のように動く。

琥珀色の瞳は獣のように冷酷で常に正せと象徴のように。腰の部分にある折りたたまれた扇のような外殻機関は薄緑色にラインが入り、時節発光し美しい。

 

前足にあるあまりにも目を引くブレードは爪が肥大し肘まで伸び敵を切り裂く。

王者の貫禄を讃える鬣は太陽の光を浴びて銀色に光る。

 

だが、眼下を見下ろしてソフォクレスに対し怒りを静かに放つ精霊王。星が望んでソフォクレスに命じ連れてきたことは遺憾だが認めようとした。

 

だが、魔王の復活、その事態を読めなかったことに怒りを抱いているのだ。

 

『むーー、そふぉくれすいじめちゃだめ!おうさまにはなんどもじきそしたのに!!きいてくれないんだもん!!』

 

ピクシーは抗議の声を上げながら精霊王の周りを飛んでいる。しかし、精霊王は牙を剥かせながら前足を叩きつける動作をした。それだけで地盤が砕け、空間は軋み或いはズレ、龍脈がズタズタに引き裂かれる。人型でない分、獣としての本能が滲み出るようだ。

 

『精霊王、流石にそれは今のこれを解決してからでいいんじゃないかな?堕ちた同胞は精霊王、貴方が処すると決めたのではないですか』

 

やれやれ、と肩をすくませながらソフォクレスは精霊王に意見を申し上げた。

すると、精霊王は獣としての姿がカッ!と光り輝くと人の姿に姿を変えた。以前と違うとすれば、人に獣の要素が多く含まれていることだろうか。

 

人の目より鋭い琥珀色の三白眼、スラリと美しい狼の耳に、白を基調とした七色に輝く尾が焔のように揺らめく。引き締まった腕は肘から爪が肥大したと思われるブレードが両腕にあり、刀身は尾と同じく白に七色に輝く。

 

上半身は裸で、下は袴である。上半身には常に胎動する幾何学模様の入れ墨のようなものが刻まれている。どうやら、今回は男性として現界したようだ。

 

【ふん、堕ちた同胞と聞いたが‥‥‥‥‥変砂の蠍王か。くだらん、我など必要ない。ソフォクレス、貴様が呼び込んだ勇者どもで十分だ】

 

 

『ーーっ!?いや、流石に無理じゃないかなっ!?いくらなんでも精霊王よ、無茶が過ぎるよっ!?』

 

精霊王の言葉に絶句し、更にはまくし立てるソフォクレス。上下身分などかなぐり捨てて精霊王に言葉を投げつけた。

 

【くっくっくっ、見る目がないなソフォクレス。それで伝道者か、戯け者が。『雲海の蜂王』や、『血河の豹王』ならばあやつらでは話にならん。だが、変砂の王であるならば、我は必要ない】

 

そういうと、手を何もない空間にかざすと時空の歪みが発生しその中に入ろうとする。

 

『お待ちをっ!!どうか考えを改めてくださいませんか!?例え、彼らが勝てるならば彼らに一つでも可能性の道を拓くことは出来ないのですか!?』

 

縋り付くように精霊王を引き留めようとするソフォクレスに精霊王はただニヤリと笑うのみ。

 

【これ以上監視対象が増えるのは我は気に入らん。下手に魔王を倒した、などと増長する可能性もある。新たに増えた監視対象の『蒼零』ラギアクルスとその血族、そして、ああ奴ら(ジェスト)の決戦に裁定者として分体を派遣せねばならん。彼奴らが決戦より後の未来だとしてもあの監視対象が多すぎる世界の出身者などに力を貸す義理はない。

 

ーーー我らの大義を忘れたか、ソフォクレス。我らは星の存続が最優先なのだ。それを忘れたら魔王として堕ちてしまうのだぞ?】

 

【しかし、貴様のいうことも一理ある。一手だけならば考えなくはない。どうする、あれらを呼び込んだのは貴様だろう?】

 

 

精霊王は空の上を指差しながらソフォクレスに問う。

ーーやはり、読めないお方だ。それがソフォクレスの内にこぼした感想だった。

 

『いいでしょう、精霊王よ一度だけお願いします。神龍の件も懸念される中来てくれただけ僥倖なはずなのに』

 

【ふん、決まりだ。なら、奴らをこちらに戻さねば話にならんな。

 

ーー時空調律、相位転移送 】

 

精霊王は空に向けて手をかざすとギュッと握りしめてそのまま切り捨てるように振り払う。すると、空間がねじれてそこからジェストを含む三人と三体が落ちてくる。

 

「きゃっ?!」

 

「うおっ!?」

 

「なっ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

今まで空に逃げていた自分達と地中に撤退していた己がいつのまにか王のオーラを纏うそれに引き戻されていた。

それを面白く感じないのはいうまでもない、蝕星龍である。

 

ーージェストにも劣る人間風情が!如何なる所業で余を使うなど許さんっ!!!

 

去ね、人間っ!!

 

すべて、星を食らうアギトが精霊王に対し怒りのまま食らいつこうとする。

 

ガキンっ!!!

 

 

ーーゴバンっ!!!

蝕星龍の力を知る人ならばこれで精霊王と呼ばれた存在は掻き消えたと思うだろう。しかし、結果はーー

 

精霊王に頭を片手で押さえつけられて地面に伏せさせられた蝕星龍の姿が。

 

【ハハハ、なるほど!星を喰らうとはよく言ったものよ!!だが、この我に立ち向かうには少々力不足よ。分かるか?我は星の元に生まれたものに対し常に優位に立てる、という特性だ。残念ながら星の守護者である我に挑むのはーーー愚行であったな?】

 

驚いたのはジェストとエクセリアだ。一対一ならばほぼ無敗である蝕星龍が一瞬で無力化されたからだ。

 

ーーこれが精霊王。祖龍から断片的に聞いていた存在。それがここまでなんて!!

 

エクセリアの心中は分からなくもない。最強のオトモンである蝕星龍と精霊王。どちらが強いか、なんてエクセリアの目からしてもわかりやすいのだ。

 

 

ソフォクレスは蝕星龍を介抱しながら、精霊王に敵対はよせと遠回しに忠告をする。

『まあ、まがりにも精霊王ご本人で、その半獣体の形態だからねぇ。蝕星龍、せめてあの星焔龍を軽くあしらえるぐらいじゃないと土俵入りすら無理じゃないかな?

ーーそれと精霊王、少々脱線しております』

 

【ふっ、まあいい。貴様らを呼び寄せたのはな。お前たちであの魔王は倒せるからだ。だが、そうだな。慈悲として一撃だけ力を貸してやる、見ているがいい】

 

 

ふわっ、と重力を感じさせない軽やかな動きで魔王の前に浮遊するように立つ。

 

【久しぶりだな、我が同胞。いかに目覚めたかは知らぬが………その権能、剥がさせてもらおう】

 

《ギ、ギキキキキキキキキキ、キィーーーーーーーー!!!》

 

やめろ。と確かに聞いた気がした。

 

ーー星明決裁(パニッシュメント)

 

世界から色が消えて、白黒の世界に変わる。しかし、それも一瞬のことで、すぐ元の世界に戻るのだが、変化は激変している。

 

まず、峯陵龍とほぼ同じくらいの大きさであった魔王、シャドーナ・マキリスはいまや、蝕星龍と同じくらいまで縮小し。

 

万物を砂に変えていた紫色の霧は霧散し。

 

魔王の頭上に輝く円環は輝きが色あせている。明らかに弱体化している、いや堕ちたといえども精霊が持つ権能、すなわち力の源を奪ったのだ。例えるならばリオレウスに飛行する能力を奪うように。

 

初めて対峙した時より、威圧感は激減しており、たしかに自分達でも倒せそうに見える。あの程度ならば、超巨大に膨れ上がったオストガロアと同等だろう。

 

【こんなものか。勇者ども、あの蠍王は権能をこの我が7割封印した故なあとは貴様らに一任するとしよう。ーーせいぜい人の可能性とやらを見せてみるがいい】

 

そういうなり今度こそ精霊王は時空の裂け目に入ってしまい、空間の捩れはふさがってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、なんというんだろうね。すまないけど精霊王は君たちで決着をつけろ、と仰せだ。まあ、弱体化しているから倒せるでしょ多分。それにーーーえっ?】

 

先ほどまでの態度はどこへやら飄々とした口調でジェスト達に無責任に押し付けるソフォクレス。

だが、彼女が言い終わる前に魔王シャドーナ・マキリスの鋏が横薙ぎに振るわれ鞠のように吹き飛んでいく。畏怖の存在である精霊王がいなくなったことと、この矮小な人間ごときに倒されろ、などと舐められたことで徹底的に潰すことにしたようだ。

 

砂に変換する権能は失われたが、それでもこやつらを圧倒するには十分だと認識したから。

 

 

ーー身体も小さくはなったが、逆に小回りも利くようになった。踏み込むと同時に蝕星龍の背後に回り込む。黒星龍やディスフィロアがすぐに反応して攻撃するが、直撃したのは残像で蝕星龍の眼前に。

 

大きな方の鋏を開き、切断せんと迫るーー!

 

 

 

バゴォンっ!!

 

ーーーグチュリッ

 

 

 

 

 

 

 

《Ahaaaaaaaーーーーーーーーーーーーー!?》

蝕星龍は傷一つ負ってはおらずそのアギトには黒い外殻の鋏が加えられていた。

 

先ほどの激突音は、蝕星龍が眼前に迫ってきた魔王の腕を噛みちぎつたことで魔王の叫びでもあった。精霊王によって弱体されていなければ、おそらく結末は逆になっていただろう。

 

ーーここに形勢は完全に決定した。

 

 

蝕星龍は怯んだ魔王に踊りかかり右肩の部分をそのアギトで噛みちぎる。

その反動で、後ろにひっくり返った魔王は起き上がろうとジタバタと暴れながらよたよたとなんとか起き上がることに成功する。

 

次の瞬間に蝕星龍のタックルがぶちかまされクレーターの壁に激突する。

 

《ギ、a aaaaaa!?》

 

瓦礫を吹き飛ばし、残る片腕を伸ばして蝕星龍を搦め捕ろうとするが尻尾にいとも簡単に弾かれ逆に噛み付かれて投げ飛ばされる。その際に魔王の鋏は既に失われて残るのは胸元の宝玉を守る複腕のみ。

 

バリバリ、蝕星龍は魔王の腕を噛みながら飲み込み大きく咆哮。そのアギトから放たれたのは暗黒、だった。

 

魔王はすぐさまその場を跳躍して回避。魔王が先ほどまでいた場所はすべて消滅するのみならず、その場の空気の成分が砂に変わって一時的に真空と化す。

 

「嘘だろっ!?あいつ、魔王の力を取り込んだのかっ!!?」

 

「嘘、ですよね?ジョー君、嘘だと言って…………!」

 

 

 

魔王の力を取り込む。それはほとんど悪い意味をもたらす。その一つ、堕ちた精霊である魔王の力を取り込むことで制御不能になり暴走を起こすこと。これがなにより恐れていることで、現実的にあり得ることだった。

 

事実、エクセリアの声は聞いておらずディスフィロアや黒星龍、ジェスト達を無視し、魔王を食い殺さんと圧倒する蝕星龍。

 

弱体化させられたことで、力を振るえず為すがままにされている魔王を蝕星龍は噛み付いたり、蹴り飛ばしたりして魔王を蹂躙する。

 

それはある意味暴走と並行して八つ当たりかもしれない。精霊王に挑んで軽くあしらわれた怒りを魔王にぶつけて鬱憤を晴らすように。

 

 

 

ーー

 

あちこちをボロボロにされた魔王シャドーナ・マキリスは蝕星龍から大きく距離を取り、円環を回し始めた。それはある意味悪あがきかもしれない。しかし、この技ならば蝕星龍のブレス範囲外から放てる。

 

円環は収縮し、黒いエネルギー体を形成する。

 

そして、閃光。

 

暗黒のレーザーが蝕星龍を薙ぎ払うように放たれる。直撃したところは溶解し、煙を上げ、爆発を引き起こした。

蝕星龍もブレスの範囲外なために接近しないといけないのだが、魔王のレーザーによって近づけなくなっていた。

 

このレーザー、連射ができるようで弾幕と化していた。

 

 

蝕星龍としては無論、無理やり掻いくぐることも出来たのだが気付けば背後にエクセリア達がいたことに気づき、立ち往生を余儀なくされていたのだ。

 

ーー今現在、エクセリアやジェスト達、そしてオトモン含めて魔王を圧倒できるのは蝕星龍のみであった。

 

「ジョー君を援護します、手伝ってください!!

 

行くよ、レウス君。ライドオン、黒星龍!!」

 

《グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

「「おい、待てって!!ちい、ディスフィロア背中借りるぞ!!」」

 

 

ーー

 

 

光条の束が休みなく打ち出され蝕星龍に前進を与えない。しかし、魔王の攻撃は明らかに焦っており、複眼を回して蝕星龍の背後にいるであろう人間にも目を向けないといけなくなった。

 

下手に介入されて、蝕星龍が懐に入り込まれたら今度こそ終わりだからだ。

 

腕を両方奪われ、複腕は心臓部の宝玉(コア)を守るのに使っているためにこのレーザー以外対抗出来るものがなかった。

精霊王の介入は警戒してはいたものの、やはり格の違い故に何もできず能力を奪われた。

 

一心不乱に円環から光条を放ち、周囲が土埃で見えなくなっても放つ、放つ、放つーーー!

 

やがて、レーザーは撃てなくなったのか円環の運動が止まり魔王はその場で周囲を見渡す。風で土煙が晴れると、何も残っておらず荒野と化して頭上にある太陽が眩しい。

 

ーー流石に、死んだか

 

心はあるのだろうか、もしあるならばそう思ってはいた。

 

 

凛とした声が背後から聞こえてくるまでは。

 

「いいえ、これで倒せるわけがありません。あの子はあの程度で倒せるわけではありませんよ!!」

 

背後を振り返れば、黒いリオレウスに乗った人間の女。一度、捉え殺す一歩足手前までいけたはずだった。そして、注意がエクセリアに向いたことで蝕星龍から意識が外れてしまう。

 

それを見逃す蝕星龍ではない。前方の土が盛り上がり、勢いよく飛び出す蝕星龍は魔王の胸元めがけてアギトを開く。

 

円環を急いで回転し光条を放とうとするがーー

 

「おい、俺を忘れるなっつーの。このポンコツ」

 

「油断大敵だ、魔王シャドーナ・マキリス!!」

 

二つの剣閃が複腕をそれぞれ切り飛ばし、宙を舞う。

 

《ギ、ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?》

 

ーーそして、露わになった胸元の宝玉(コア)に蝕星龍のアギトが大きく開いて

 

 

バクンッ!!

 

食い千切らられ、上半身を失った魔王が鮮血を吹き出して大地を『Ⅳ』の字に染めていった。

 



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終焉を謳う、うつろいでいく宇宙の世
絶望の始まり、狂い啼け神の龍の雄叫び 前編


三界終了。ついにラスボスの回へ。しかし、ここは前編後編分けて書きますので、ご了承を。後編終わり次第、活動報告にて神龍編閲覧に向けての注意事項を載せます。




「く、くはは、ハァーーハッハハハ!!いいぞ、ついに、ついにこの時が!!」

 

淡く赤く光る【神龍のカケラ】を背後にして、目上で展開される映像を見て歓喜する黒衣の男。

 

峯陵龍の肉体に魔王シャドーナ・マキリスの因子を埋め込み、もろくんだ通り戦いの最中峯陵龍を食い破って覚醒。

 

精霊王というイレギュラーがあったが結果的に最後の龍帝は死に、目覚めた魔王はこれより行う工程の時間稼ぎとして立派に努めてくれた。

 

「さあ、目覚めの時であるぞ神龍よ。精霊王も祖龍も気づくのにまだ時間がかかる。クックック、救いのない話よな。すべては一万二千年前、精霊王よ、貴様が手をかけて要石にした人間と同じように同じ過ちを繰り返すのだ」

 

高らかに笑う男、ダモクレス。その背後にある神龍のカケラを縛る楔は全て砕けており、中心にある要石はヒビが入っていてカケラはドクンっと波打つのだった。

 

その要石は、悲しげに色あせて一雫の涙がホロリと流れたのだった。

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったなーー、なあエクセリア」

 

「ええ、終わりましたねジェスト。これで元の世界に帰れますね。連れてきたソフォクレスさんがいないのがアレですけど……」

 

「そうか、たしかにこれで終わり、か。短いようで長え付き合いだったな」

 

元シュレイド王国城塞があった場所のクレーターの真ん中で大の字になって転がる三人。

 

「なんだか達成した、って気がしねえんだもんなぁ。帰ったら星焔龍と殺るか」

 

エクセリアの手を取りながらジェストは立ち上がり空を見上げた。どこまでも、青く、蒼くーー。

 

 

ふとするとオルタがジェストとは正反対の方向へ歩き始めていた。

 

「おい、どこ行くんだよ?」

 

「これで見納めさ、俺にはやることがある。せいぜい幸せになジェスト()

 

みずくさい、それが第一に抱いた感想。

 

「オルタさん、その、短い間でしたけどみずくさいじゃないですか。もう少しここにいても……。それに聞きたいこともありますし」

 

黒いリオレウスに背中を持たれながらエクセリアがオルタを引き止める。しかし、オルタはエクセリアの方を向かず歩を進めようとしてーー

 

蝕星龍が目の前に立っていなければ良かったのだが。

グルルルルル、と唸りながらエクセリアの方を向けと促しているかのようで。

 

「はあ、わぁーったよ。んで?聞きたいことってのは?」

 

「この世界のジェストとして聞きたいんです。この世界での()はどこにいるのでしょうか?」

 

 

 

訪れた静寂。ヒュゥウウウウウウウウウ…と風が吹き両者との間が沈黙と化した。

 

「貴方がこの世界、特異点とかいう世界のジェスト・スレイヤー、私の夫であるジェストとは別の未来を送ったと聞きました。ならば、この世界にも私がいる、違いますか?」

 

「こりゃまた、ドギヅイの聞いてきたな。あーー、あいつか。あいつはーー

 

 

 

 

 

集中治療室だ。もう、もう二度とライダーとして巫女としては絶望的なんだよ。ルークがある日、原因不明の病になった時にな不死鳥の聖山に単独で無茶してな……。何があったかは省くが、それだけ必死だったんだよあいつは。結果的に『涙』を手に入れたが、その代償に、な」

 

「無論、俺も世界中回ってあいつを治す手段を探したさ。だが、見つからなかった、いや存在しなかった、が正しいな。まあ、生きているだけ良かったというべきか」

 

ホロリと涙を流しながら空を仰ぐオルタ。その顔は後悔だろうか、それとも自分自身に対する怒りだろうか。

 

「私に合うことは出来ますか?」

 

「オススメはしねえな、これはこの世界の俺たちの問題だ。さて、湿った話はこれで終わりだ。そろそろ迎えが来るんじゃねえのか?」

 

『やあ、呼んだかい?呼ばれた気がしたから来てみたよ』

 

陽気な、女性の声がオルタの背後から聞こえてきて反射的に飛びのいた。見れば魔王に吹き飛ばされておきながら服が多少破けている以外は無傷であった。

 

 

「ソフォクレス、お前不死身なのか?」

 

ジェストが抱いた疑問に三人とも同じ感想を抱いていたのは事実。

 

『うん?私はね、人の姿をしているけど人じゃないんだよ。命というより現象のようなものでね、そうだなぁ幽霊に近いものかもね。あー、エクセリア君、幽霊と聞いて卒倒しないでくれあくまで例えだからね?』

 

幽霊と聞いて思わず生理的に卒倒しそうになったエクセリアをサッと支えるソフォクレスは苦笑しながらエクセリアを立たせるのだった。

 

「それで?これで元の世界に帰れるんだよな?」

 

『その通り、三界は倒して魔王も倒した。これで君たちは晴れて元の世界に帰れるというわけさ。

 

 

じゃあ、早速時空間を開いてーーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

ズズウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥン!!!

 

天地が突如として震えだした。

 

「な、なんだ!?何が起きた!?」

 

『まさか……!?いや、ありえない!!こんなことは起きるはずがない!!』

 

「お前、何か知ってるのか!うわ、た、立てねえぞ地震なんてもんじゃねえ!!」

 

 

天地が震え、大気が軋み、まさしく突如として起きた天変地異。空は、飛竜や鳥類が大慌てで四方八方に散り散りに逃げていくのが見えた。

 

ソフォクレスは顔を青ざめてガタガタを体を震わせ始める。明らかに異常事態である。

 

すると、空間が砕かれ、聞き覚えのある声が聞こえる。精霊王だ。

 

【ソフォクレス!!今すぐ戻れ!!!認めたくない、認められないが要石がある封魔殿で、要石が壊れ始めている!!至急帰還せよ!!】

 

『済まない!!緊急事態だ!君たちを元の世界に戻すことは今は無理だ。君たちは至急ドンドルマに向かってほしい。拠点で一時的に休んでほしいんだ』

 

「あ、ちょっと待ってくだーー、行ってしまいました……」

 

「一体何があったんだ。尋常な雰囲気じゃなかったぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

フォンロンにある崩れた古塔の頂上にて二人の男女が震わせる世界を見て一雫の汗が流れ出す。

「っ!アリストテレス!!」

 

「まさかっ、本当に目覚めるとは……。これが忌龍のーー」

 

「本当に目覚めるなんて……!あの子の決死の行動が、精霊王の覚悟が消えちゃう………!繰り返される!」

 

 

「王よ、かの一万二年前のことは知りませんなんだ。故に確かめに行くことを提唱します」

 

アリストテレスは精霊と精霊王の過去のことは知らない。けれどだいたいは知りえていた。かつて、神龍は目覚めかけた際一人の人間を精霊王は泣く泣く要石にしてその封印を確固たるものしたということだ。その人間は、精霊が堕天する前、すべての精霊から愛されていたということも。

 

 

「うん、わかってる。行くよアリストテレス、封魔殿に。何が起きているのか確かめに行こう!」

 

 

少女は白く輝く龍へ姿を変えて時空を超え精霊王のもとへ。

 

 

 

 

 

ーー

 

けたましい警報とともに輝きの丘には虹色の空ではなく赤黒く雷鳴が轟く地獄へと変わっておりその中で精霊王は原因を調べていた。

 

【一体、何が起きている!これは、封魔殿か!?封魔殿のマナが異常に変動している……まさか二重の封印が解けている?!】

 

そもそも封魔殿は厳重に封印されており入ることは出来ない。精霊王が封印したということもあり立ち入れないはずだった。つまり、精霊王の目を盗み何者かが封魔殿に侵入して封印を外しているということになる。

 

【ソフォクレスめを呼び戻さねばならんか、む、祖龍だと?霊位ではないな、特異点の祖龍か。世界を預かるものとしてきたということか】

 

「精霊王、ただならぬ気配がしたのできてみたけど何があったの!?」

 

【見ての通りだ、封魔殿の要石に異変が起きている。ソフォクレスの合流を持って封魔殿に突撃する。

何をしているのだ、ソフォクレスは】

 

精霊王は時空をこじ開けて、ソフォクレスの元に集合せよ、と声をかけた。すると、顔を青ざめてソフォクレスが輝きの丘に飛んでくる。

 

【来たな、ソフォクレス。これより封魔殿に突入する。ソフォクレス、合図に合わせて空間の座標を合わせよ】

 

『御意、相転移、座標固定、空間固定、定義完了ーーー!いつでもいけます!』

 

ーーブゥンーー

 

 

その後に彼らは空間から消えて、雷鳴が轟く輝きの丘があるだけだった。

 

 

 

 

 

ーー

 

 

怒っているような、悲しんでいるような、絶望しているようなありとあらゆる負の感情が風になって吹き荒れる洞窟のフロアのようなエリア、封魔殿。

 

中央に座するように神龍のカケラがあり、三つの鎖が杭によって繋ぎとめられカケラを縛り、カケラを覆うように要石が円環状に配置されている。

 

ーーバシュゥゥゥゥゥゥンーー

 

 

「ここが…封魔殿。気持ち悪い……」

 

【ここは、世界の異物による世界の負のエネルギーを溜め込む場所でもある。転生者も然り、ありえざるものたちが死することにより彼らの恨みつらみが宇宙の負のエネルギーとなる故に。それらを並行世界含めてここに溜め込まれる。祖龍よ、お前が感じたのはそういうものだ】

 

『やはり要石が砕けてる。中央はまだ大丈夫だけど、鎖は三界が滅したことでもう縛るための機能は失ってる。結論的には目覚めかけてる、ねーーー」

 

「その通りだ、ようやく来たか。精霊王、祖龍、伝道者よ。随分と待たせてくれたではないか」

 

カケラのすぐそばから声が聞こえる。するとカケラの陰から黒衣の男が姿を現した。

 

 

 

 

 

ーーー

 

【貴様、貴様か!!ダモクレスゥ!!!一万二千年前の襲来を忘れ、今再び目覚めさせるつもりか!!!】

 

「クッ、ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!愚問、愚問だ精霊王!!忌龍の復活こそ我が悲願、我が夢よ!一万二千年前は外から飛来したばかりで大した力を震えず、失敗したがかつてよりやりやすくなったぞ!なにせこの要石を破壊して今度こそ世界を滅ぼせばいいのだからなぁ!」

 

精霊王のいつもと違い怒りを何より表に出して声を荒げている。そして、誇らしげに、歓喜を隠さず高笑いをする黒衣の男ダモクレス。二人は時を遡り一万二千年前から因縁があったのだ。

 

怒りのままに精霊王はダモクレスに向け疾走するが謎の見えない防壁により阻まれる。

 

【小癪なーーー!】

 

拳を握り殴りつける。それだけで結界のようなものは砕け霧散する。そして、ダモクレスに向けて飛びかかった。

 

【ダモクレス、死ねえェェェェェェェェェェェェ!!!】

 

「ーーー。いいのか?大事な、大事な要石が壊れても?」

 

【ーー!?】

 

だが、ダモクレスが中央の要石を人質にするように立ったことで精霊王は止まざるをえなかった。

ダモクレスの手から暗黒の光弾が打ち出される。精霊王は大きく後退すると拳を一閃して光弾を弾く。弾かれた光弾は天井に直撃し、瓦礫が降ってくる。

 

「貴様らの相手をしていても時間の無駄だ。この要石を破壊すれば我が悲願は果たされる!!」

 

ーーチャキ、一振りの剣がダモクレスの手に握られて要石に切っ先が向く。

 

『君だったんだね?峯陵龍に魔王の因子を埋め込んだのはーー!確実に滅させるためにーー!!』

 

「その通りだ、伝道者よ。ピクシーめの目を盗むのは精霊王貴様の目を盗むより難しかったぞ?まあ、貴様はあの星焔龍どもの分体を向かわせるのに力を削いでいたからな、盗むのは容易だったよ。お礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

振り下ろされる切っ先、中央の要石はやすやすと突き刺さった。

 

【や、ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!】

 

ーー要石が砕けると同時に、カケラから暗黒の光の柱が天井を突き破って放出される。その余波で天井が崩れ、大地はめくられて地割れが起き、かつての封印は奈落へと落ちていった。それと同時にダモクレスも高笑いをしながら飲み込まれていった。

 

『精霊王、脱出しましょう!!もう、ここは危険です!』

 

【ッ!!!庇護する約束は守れなかったーー】

 

ーー

 

 

 

ーーある世界では。

 

「お姉ちゃん、これは、一体ーー!?」

 

「嘘でしょ…!?なんで、なんで目覚めるのよーー!!」

 

 

星の焔と、霊位祖龍は世界が崩落するのを見た。とりわけ姉である祖龍はもはや自分たち禁忌を含めても法則が一切存在出来ない、勝てる見込みが一切ないーーー、神龍の覚醒をじかに感じ取っていた。

 

 

ーーある世界では。

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥン!

 

「な、何が起きているんだ……!!?」

 

大地が、世界が震えだしたことで銀滅龍は庭園でただならぬ事態を感じ取っていた。すると、空間を破って祖龍が現れる。

 

「ここにいたのね!?銀滅龍、急いでーーー

 

 

 

 

逃げてっ!!」

 

 

ーーある世界では。

 

 

「神龍が、目覚めたっ!!」

 

恐れていた事態だ。まだ、この世界で強者となるはずのモスはまだその領域に達していない。

「く、なんてことなの!?よりによってこのタイミングで目覚めるなんてーーー!」

 

 

ーーある世界では、

 

 

ーーある世界では

 

ーーある世界では

 

それぞれの並行世界含めて忌龍の覚醒を感じ取っていた超越者たち。されど、自分たちでは勝てる見込みがほぼ見つからなかった。

 

ーー

 

 

 

「おい、なんだよアレ……」

 

天地が震えだすと同時に宇宙にむけて暗黒の光の柱か登るのが見えた。取り残されたジェストらはあの光の柱に始めて明確な恐怖を覚えたのだ。

 

「みてくださいジェスト!!アレは、アレはなんですか!?」

「あ?アレは………、おい。オルタ、アレは俺の見間違いじゃなけりゃーーー」

 

「見間違いじゃねえよ、ありゃぁ……刻竜の群れだな。何体いんだよ、数万、いや億の数いるんじゃねえのか?」

 

刻竜ラ・ロ、あるいはunknown。別名、黒いリオレイア。その刻竜はこの世界だけではなく、並行世界から何億、何兆という群れを伴ってこの特異点に集約していた。

 

 

一万と二千年の時を超え、かのものは宇宙より来て、星を食らうもの。人と古龍と精霊達の敵対者が、今目を覚ます。

 

 

 

 



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絶望の始まり、狂い啼け神の龍の雄叫び 後編

まだ、ですよ。描写が甘いのは許して。




昔の話をしよう。そもそもかの者はいつ生まれたのか?という話だ。

 

これは私もわからない。かの精霊王もその存在は知ってはいたがどのようなものなのかは分からなかったようだ。

 

これはマザー・ドラゴンだけが唯一知っていると思うだろう。事実、その通り。

 

私はかつてそれを問うたことがある。マザー・ドラゴンである彼女はポツポツと語ってくれた。

 

曰く、それは世界(モンスターハンター)という星。その外から来た侵略者。

 

生きとし生けるもの、全ての敵対者。かの黒龍に類似した、否、凌駕した己以外のものを認めず、喰らい、踏み潰し、薙ぎ払う。

 

生態系を自在に作り替えるわけでもなく。

 

逃れぬ運命でもなく。

 

世界を凍てつかせるのでもなく。

 

まさしく、かの龍こそ歪みそのものに身を置く概念なのかもしれない。

 

この星に今の文明が生まれるずっと前から、遥か彼方より現れし神と呼ばれし悪龍。それが忌龍。今まさにこの地に降り立つものこそ、一万二千年前に世界を滅ぼしかけた忌まわしき龍そのものであると。生物の6割が絶滅しかけ、その結果、その力を恐れた人々は禁を犯し、後世にて竜大戦に発展させた厄災にしてそこから古きシュレイドの愚を犯した。

さらに、その名は忌み嫌われたが故にこう名付けられた。

 

ーー『忌龍』 メドラヘリオス

 

暗黒の太陽と呼ばれた、モンスターハンターにあり得ざる外宇宙からの侵略者(プレデター・ドラコニス)

 

 

 

 

ーー

 

封魔殿の上空。そこに暗黒の光はあった。並行世界から現れたおびただしい数の刻竜が暗黒の光に飛び込んでいく。あらゆる概念を無視してそれに群がる刻竜は飛び込むごとに形を形成していく。

 

先ずは腕が。おそらく右腕だろうか?

 

艶もない漆黒の腕にドクンドクンと波打つ血管のような機関が気味悪く胎動する。

 

そして左腕。

 

次に胴体が形成された。露出した心臓が生々しく胎動しそれを守るかのように肋骨に似た甲殻が覆い、無数の目に似た器官がギョロギョロと動く。

 

次に翼。シャガルマガラのように翼爪、翼腕があり、翼膜は星から見上げた天の川のように。

 

次に下半身が。太く、強く、巌のような、重量感溢れる四肢。

 

そして、頭と尾が形成された。羊のようにねじれ曲がった角を持ち、その頭上に黒い円環が輝く。眼は虚で見る者の心を改竄する。尾はしなやかに、常に揺れて止まることがない。

 

ーーあまりに生物として異形。龍の名を冠するとしてもその姿は禍々しい。

 

星の外より現れし侵略者は永き時を経て再び現世に姿を表した。

 

 

 

【止められなかったか。奴の限界したことで並行世界がこの特異点と融合したのだ。奴が暴れれば世界が消えるというのを忘れるな】

 

時空が異なるある場所で。輝きの丘ではない。霊界と呼ばれる精霊たちが本来の力を封じ込めている場所。早い話が控室である。

 

そこには精霊王含めて、幻天狐、森猿、神魚、幻獣、妖精、そして、伝道者が揃い踏みであった。

 

 

神龍の覚醒を確認するやいなや精霊王は分体を全員呼び戻し、さらに精霊全員招集した。流石に霊位祖龍はここにはいない。

 

【最終確認だ、神龍が現界したことはこの際置いておくとして。

まずはソフォクレス、貴様はあの異常空間を閉鎖、隔離しろ。あのままだと奴の超重力で、この星が捩じ切られる】

 

『御意』

 

【幻天狐、妖精よ貴様らは人間と共に防御壁を展開せよ。防衛拠点を設置し、確実とせよ】

 

《クオオオオオオオオオオオオオオオオ!!》

 

『はいなの!!』

 

【他は各自に動け。だが、先ずは神龍迎撃に必要な環境を整えてからだ。それと、これだけは言っておく。この戦いが我々星の守護者としての最期の戦いとなるだろう。文字通り、最期だ。ここが我々の死地となるだろう】

 

かつては、死に物狂いで戦い、生態系を一から作り直すレベルまで世界を荒廃させ、その末に一歩手前で封印できたが。しかし、現状目覚めてしまった。

 

【時間だ、ゆくぞ】

 

 

 

その日、忌龍から見れば小さな六つの光が天をかけて行った。

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん?どうしたの、結界なんて張って?」

 

「妃星、貴方は神龍って知ってる?」

ーー知らない、少女はたしかに答えた。

 

「私たちはね、たしかに法則でほぼ無敵。インフレを通り越してナニカになっている。けどそれは世界から逸脱してないでしょ?」

 

ーーそれはたしかにあるけどさ。

 

「じゃあ、貴方、いくつも宇宙作り出しているけど、このモンスターハンターの世界を創生はできないでしょ?かくいう私も星における創生はできるけど基盤となる原始界の創生は出来ないんだけどね♪」

 

ーーそうだ、宇宙をいっぱい作ったけど。ブレス一つで宇宙消し飛ばせるけど。星を生み出して、ブラックホールさえできるけど、世界を創生はできてない。いや、出来ない。創生に必要なエネルギーがこの身では到底足りない。

 

「神龍はね、かつて世界を滅ぼしたことがあるの。いや、どちらかといえば完全に滅びる寸前かな?本当に本当に滅びる寸前まで抗い、星の生命の三分の二が消える代償に何とか封印した規格外。言っておくけど並行世界含めた生態系3分の2だからね?私も見たこともないし、話を断片的に聞いただけだから、雰囲気でなんだけどね」

 

ーーなにそれ、怖い。そんな化け物が目覚めた?ははっ、笑えないよ。

 

「うん、笑えないね。貴方の目なら見えるんじゃない?ほら、アレがーー全ての敵対者たる忌龍メドラヘリオスだよ」

 

指差してその方向を目一杯視力を注いで見た。

ーー絶句。いや、いやいやいや、ありえないでしょ!なにアレ!!あんなのどう相手しろと!?規模が既にオーバーヒートしてるんですけど!!?

 

「そうだね、禁忌みんなで攻撃すればワンチャンあるかもね。攻撃できていると認識が出来ればだけど」

 

 

 

ーー

 

 

 

「ありえねえ………どう相手しろと?」

 

庭園のあるエリアで祖龍から見せられた世界の異変の元凶。それを見た感想がこれだった。

 

勝つ、負ける以前に例えるなら人間を蟻、相手を溶山龍くらいのこの差をどう埋めろ、ということだ。

 

「今、精霊たちが戦ってるわ。けど、彼らではほぼ勝ち目はないといってもいい」

 

「そりゃ、そうだろ。前に出てきた精霊王でもビビりかけたのにこんなの、戦意なんてとっくに消えてるぞ」

 

なんて小さいんだろう、自分たちは。ダラ・アマデュラという規格外な古龍種がこの神龍を見れば何と小さいことか。

 

「覚醒直後で動きが緩慢なのが幸いだね。けど、慣れてきたらもう……。それまでに倒さなくてはいけないんだ、正直、私も逃げたい気持ちだよ」

 

 

 

ーー

 

 

『くう……!!なんて、パワーだ。今ので……銀滅の世界の境界線が破壊されたかな?!星焔は……霊位の祖龍が結界を張ってるからまだ待つけどいつまで耐えられるか……』

 

ーー既に繋がってしまった世界は少し、面白いモスの世界が。

 

『結界も壊れかけてるね、神滅の世界は。あのアルバトリオンでも神龍の攻撃は堪えるみたいね』

 

【ソフォクレス、なにをやっている!!幻天狐と同時に防御壁を展開しろ!!腕の薙ぎ払いがくるぞ!!】

 

『え、えわ、あわわわぁ!?』

 

大慌てで、杖を振るい、幻天狐の『黄泉の冥鏡』を強化して薙ぎ払いを阻む。

 

そして、凄まじい速度で横薙ぎに降るわれた右腕が強化された黄泉の冥鏡に直撃する。それはまるで壁。果てが見えない壁が押し寄せているように見えた。

 

ーーく、くぅぅぅ、アアアアァァァァァァァアアアア!!?

 

《クウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?》

 

阻止はできたが、余波で半径五キロの環境が粉微塵と化した。川が、湖が、山脈が、森が、平原が、街が。何もかもが砕け散る。いや、神龍にとってそれは砂でできた城を壊す脆い何かでしかないのだろう。

 

そして、きりもみに吹き飛ばされて木の葉のように吹っ飛んでいった。

 

その際に構築していた結界が破損する。破損したところから神龍の古龍種としての力、存在定理により消滅し、超重力の渦に取り込まれる。

 

【く、やはり。星のバックアップ持ってして防御を回しても防ぎきれんか。仕方がない。

 

 

ーー星よ!!容認したまえ!!】

 

広大な宇宙を翔けるように飛翔している精霊王は、全力を出せるよう制限をかけている抑止力に働きかけた。

【っ!?なにを、何を躊躇っている!】

 

しかし、この身に流れた力は本来の力の役八割しか流れてこない。やはり全力での現界を認めないらしい。神龍の現界になにを躊躇うのかはわからない。

 

 

 

空間を裂き、光を纏う。光の中から白銀を基調とし虹色に輝く狼が姿を現わす。

以前、姿を現した時と違うのはたなびく羽織のような器官が透明で七色に光る翼に変形していることだろうか。

翔ける精霊王の背後は彗星のように美しく軌跡を描き、神龍との距離を詰める。

 

距離があまりにも遠いところは森猿の遠心力を使い、距離を稼いでもらう。

 

しかし、神龍の異様さは常軌を逸脱している。たどり着くまでにすぐと思われるほどなのに、あまりにも遠い。

 

【ちぃ、また並行世界が!】

 

時間がもはやない。

 

すると、神龍が爪を振り下ろそうとしている。先程、防御壁を展開できる幻天狐はまだ、復帰していない。

さらに追い討ちとしてなのか、その体から幾億の刻竜が群れとなって押し寄せてくる。

 

【《ウオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーォォォン!!!》】

 

右腕のブレードが未知の属性エネルギーの奔流となって極極太の光剣が生まれる。それは神龍の爪と同じくらいの巨大さを誇り、渾身の力をもって振り下ろす!!

 

精霊種の力の源であり、星が生きていくための生命エネルギーである星精(マナ)。精霊王はいま、神龍によって壊された並行する世界とこの特異点、その星の輝きである星精は精霊王に託された。

 

 

 

 

爪と光剣がぶつかり、凄まじい振動が結界を完全に消し飛ばし、並行世界に伝わりその余波はさらに周囲を襲う。空間に亀裂が入り、疑似的なブラックホールとなって吹き荒れる。しかし、互いの威力は同じであったため、衝撃発生点を重ねることで最終防衛ラインに対する衝撃はゼロになった。

 

オオオオオオオオオオォォォォォォォォァァァァァァァ…………… !!!!!!

 

神龍のうなり声は、その口から漏れ出る吐息に触れた大地はドロドロに溶けた岩石になることもなく、気体と化した岩石、岩石蒸気となって熱風が吹き荒れる。

 

【《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!》】

 

ただ息をしただけで精霊王は木の葉のように吹き飛ばされてしまう。森猿が吹き飛ばされながらとっさに受け止めなければどこまでも吹き飛んでいったに違いない。

同じように神魚も吹き飛ばされ、妖精は紙のように飛んでいった。

 

先程の一撃は、押し寄せていた刻竜、約七割を削ったが、まだ残っている刻竜が防衛拠点に押し寄せて破壊せんと群がる。

パギャンっ!!

 

あり得ざる雷鳴が刻竜を焼き払う。雷鳴を放ったのは幻獣キリンと特異点の祖龍である。

 

しかし、多勢に無勢。広範囲に吹き飛ばしても無限に沸くかのように刻竜は神龍の体から羽ばたいてくる。無限とも言える数が概念を飛び越えて襲いかかってくる。

 

《キュウゥゥゥゥゥゥン!!!》

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

幻獣キリンは角を制御して前方に向けて雷の剣を可能な限り形成する。

祖龍も真祖として力を解放して赤い雷撃を放つ。

 

白く染まり、閃光に飲み込まれていった。だが、忌龍にとってはそれは小さな光に過ぎなかった。侵略者は翼を羽ばたかせて侵攻する。

 

 

精霊と忌龍、初撃は精霊の大敗、圧倒的な数と巨体の暴力に撤退を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

 

 

忌龍による世界と生物、文明の完全なる蹂躙まで『ーーーー』



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