新約 コードギアス (編集長)
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国史年表概略

まだ2話しか投稿していないことと、今後話を詰めていくうえで自分の頭の中の整理も兼ねて考えている展開に繋がるよう、過去の出来事を年表に起こしてみるのが参考の一助になるかと思い作ってみました。と言っても、詳しく書こうと思うと膨大になること間違いなしなので、さらっとしてます。

年号と出来事は「コードギアスwiki」さんの年表とその下にあるコメント欄から引用させてもらってます。具体的な表記がないところや字が潰されてる箇所、前後の出来事から外せない年号と出来事は私の妄想で埋めてあります。というより、ほぼ私の妄想です、公式さんごめんなさい。


              ◆神聖ブリタニア帝国史年表概略◆

 

                           年号は西暦。()のなかの数字は皇歴。

 

古代

 

 58 B.C

   ユリウス・カエサルがガリア(フランス)へ遠征。8年に及ぶ征服戦争の後、ガリア(フランス)を平定し、共和政ローマの支配下へ組み込む。

 

 55 B.C

   ユリウス・カエサル、ブリテン島に上陸。ケルト諸部族と戦争状態に入る。

 

 2 B.C ~

   西暦元年 (皇歴元年以後)

   ケルト諸部族の中からアルウィンが頭角を現し、ローマ帝国軍を破り、独立。アルウィン1世と名乗る。

 

 9 A.D (9 a.t.b)

   対ゲルマニア戦において、ローマ帝国はトイトブルク森の戦いで惨敗。これによりローマ帝国は領土拡張政策から領土防衛政策へと軍事政策を転換する。

 

 

 

近世

 

 1603 A.D (1603 a.t.b)

   エリザベス1世崩御。エリザベス1世の息子がヘンリー9世として即位。

 

 1642 A.D (1642 a.t.b)

   第一次ブリタニア内乱勃発。当時の国王エリザベス3世は王都ロンドンから追放される。

 

 1645 A.D (1645 a.t.b)

   革命勢力との間で行われたネイズビーの戦いに敗北。さらなる後退を余儀なくされる。

 

 1646 A.D (1646 a.t.b)

   エディンバラ城で革命勢力に包囲される。カレー伯(現在のブリタニア公)の尽力によりアメリカ大陸へ脱出、現帝都ペンドラゴンへ遷都し、王室の存続に成功する。

 

 1775 A.D (1775 a.t.b)

   南北戦争(第二次ブリタニア内乱)勃発。当初は革命軍に圧倒されるも、レキシントン・コンコードの戦いで盛り返す。

 

 1783 A.D (1783 a.t.b)

国王軍の勝利。内乱を終結させる。

 

 

 

近代

 

 1813 A.D (1813 a.t.b)

   テューダー王家断絶。ブリタニア公リカルドが新たに王位に就く。同時に王制を帝制へと改め、国号をイングランド王国から神聖ブリタニア帝国へと改める。神聖ブリタニア皇帝リカルド1世として登極。

 

 

 

現代

 

 1939 A.D (1939 a.t.b)

   第一次世界大戦勃発。ヨーロッパ大陸を主戦場として、イギリス連邦、フランス共和国を中心とする連合国側と、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、大日本帝国を中心とする同盟国側に分かれて7年に及ぶ総力戦が展開される。神聖ブリタニア帝国は静観を保つ。

 

 1941 A.D (1941 a.t.b)

   大日本帝国による神聖ブリタニア帝国への宣戦布告があり、第一次太平洋戦争勃発。1942 a.t.bまで主だった戦闘は起こらなかったが、時勢の変化によりブリタニアが先制攻撃し4年あまりの総力戦に突入。

 

 1945 A.D (1945 a.t.b)

    ドイツ帝国、大日本帝国の降伏。第一次世界大戦終戦。

 

 1950 A.D~ (1950 a.t.b)

   国力の回復を図るため、孤立主義を推進し内需の拡大に努め始める。

 

 1973 A.D (1973 a.t.b)

   現E.U.の前身であるE.C.発足。27人委員会の主導で、ヨーロッパ大陸にある国家群の運営方針が決議される。

 

 1986 A.D (1986 a.t.b)

   現皇帝シャルル陛下戴冠。

 

 1992 A.D (1992 a.t.b)

   欧州連合条約の締結、E.U.発足。40人委員会が組織される。

 

  

 

 




一応書きました。今後も加筆修正はしますが、評価、コメントなどで邪魔だとか、なくてもいいというコメントが多ければ内容は保存したうえで削除しようと思います。


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壱話:砲声の轟く時

初めての投稿です。拙い文章で大変申し訳ないですが、よろしければ読んでやってください。


 「おい、一体どうなっている!?どこの馬鹿だ、弾薬庫に火をつけたのはっ?!」

 

キンメル大将の怒鳴り声が指令室一杯に響き渡り、尉官を中心とした連絡将校があたふたとオペレーターを通じて当該区画警備隊に問い合わせ始める。夜明け前に突如として弾薬庫が一瞬にして吹き飛んだのだ、ぐっすり寝ていた司令官がベットから転げ落ち、軍服にも着替えずに指令室に飛び込んで激怒するのも無理はない。そこへ当直の中で一番位階が高い少尉がキッチリと敬礼をして報告をする。

 

 「申し訳ありませんっ、目下捜査中でありますっ!」

 

 「何が捜査中であるかっ、さっさと仮眠している部隊から一小隊引き抜いて確認してこいっ!」

 

 「は、はっ!」

 

若い少尉が大慌てて指令室を飛び出していくのを横目に見てからほっ、と息をつく。つい愚痴が口をついて出てしまう。

 

 「これだから本国の教育は甘いのだ、ぬくぬくと温室で育てるような教育を施すからいざというときに動けん、まったく。」

 

キンメルは元来た道を戻り、自分の居室に入ってすぐさま軍服に着替え始める。その間も、自分のそば付きである少佐に自分と指令室間の連絡を絶やさないよう命じ身支度を急いだ。

日本国が半年前に大日本連邦と名を変えて東南アジア、オセアニア、南アジアを席巻し、大亜細亜共栄圏構想とかいう、どうかしているとしか思えない計画に沿ってその版図を広げ始めてからこのハワイ基地は緊張しっぱなしだ。

 

なにしろ僅か1か月足らずで瞬く間に東南アジアを制し、ブリタニア領であったオーストラリアを割譲しろ、と強引な交渉が日本から持ち掛けられ行われたのがつい3か月前だ。

オーストラリアには駐留部隊がいたが、本国の皇族を中心とする上層部はオーストラリアをあまり重要な地とは見なかったようで、オーストラリア東部に点在する基地周辺地域を除いてそっくりそのまま日本に譲り渡した。

 

そのオーストラリアに点在する基地も半年の急ピッチで撤収し、駐留部隊はハワイに合流することになっているのだ。この状況で弾薬庫を焼失するなど失態もいいところだ、とキンメルは青筋を立てながら爪を噛みそうなのを必死に我慢する。

 

と、そこに新たな爆発音が立て続けに大きな揺れとともに聞こえてくる。中将はその怒りを一度治め、新たな爆発の原因を疑問に思った。先ほどの弾薬庫とは違う区画が爆発したのが居室から見えたのだ。

どう考えてもおかしい。弾薬庫から引火して隣の区画が爆発するならまだ理解できるが、まったく反対側にある区画が爆発するなど、ありえない。

 

 「・・・どういうことだ、単なる失火ではないのか?なんだ、この違和感は・・・。」

 

と、そこへ先ほどキンメルの命令を聞いて指令室に飛んでいった少佐から連絡が入る。

 

 「どうした?」

 

 「申し上げます、先ほどの弾薬庫爆発は事故ではありません!日本軍による破壊工作です!先ほど向かわせた小隊からの救援要請で、大隊規模の敵勢力が基地内各管区に向かって浸透中とのこと!」

 

 「なんだとッ?!」

 

 「沿岸部の警備隊との連絡途絶!おそらく大規模な攻勢です!閣下、至急こちらへお越しください、閣下の居室では危険です!」

 

 「えぇい、猪口才な真似をしおってッ・・・!わかった、今すぐそちらに向かう!」

 

居室から飛び出した中将は指令室への道を全速力で走り、指令室に再度入った。そこで現状確認をするべくオペレーターに向かって一声を発する。

 

 「報告しろ!」

 

 「はっ、現在、弾薬庫、兵舎の一部を焼失、兵員の損害は軽微。しかし、すでに燃料庫、備品庫を押さえられ防衛ラインを食糧庫を中心として引き直し中です。」

 

 「何たるざまだ・・・、これではこの基地を失陥するではないか!そうすれば、本国に日本軍が雪崩れ込んでくるぞ!そもそも、宣戦布告はどうした、奴ら、何も言わずに土足で上がり込んできおって!」

 

 「その件ですが、・・・一方的に沿岸警備艦隊に通知された後、その警備隊を全滅させたようです・・・。それと偵察機を出しましたが、大規模な敵航空戦力と戦艦2、巡洋艦3、小型艦10隻余りが全速力で基地に突っ込んできているそうです。」

 

 「ッ野蛮な奴らめ・・・。・・・本国の宰相閣下に繋げ。」

 

 「はっ!」

 

今度こそ爪を噛んだあと、オペレーターに命じると臣下の礼をとってモニターの前にキンメルは跪いた。数瞬の後、画面に顔が映ったが時々ひどい砂嵐がモニターの中で暴れまわる。相手の顔を確認したのち、頭を下げる。

 

 「宰相閣下、緊急の要件でご連絡差し上げましたご無礼、どうぞお許しください。」

 

 「構わないよ、大将。君と私の仲だ。それでなにかあったのかい?ひどい通信状態のようだが。」

 

 「ハワイ基地に日本軍が突如宣戦布告とともに来襲。すでに基地の半分を制圧され、もはや長くは持ちません。この分だと退路もすでに押さえられているものと思われます。我々はここで玉砕致します。どうか、急ではございますが軍備を整えていただきたく。」

 

 「・・・退路は未だに確認していないのだろう?玉砕を覚悟するのは早いと思うが。」

 

 「残念ながら殿下、この基地の地理的要件、敵戦力の想定規模を鑑みるに脱出は不可能であります。」

 

 「そうか・・・。わかったよ、すぐに軍を編成しよう。それまで持ちこたえるのは・・・無理だろうね。」

 

 「はっ。急な援軍要請で申し訳ございません。しかし、このハワイ基地を失陥した場合、本土に日本軍が雪崩れ込むのは時間の問題であります。それだけは何としても避けねば。」

 

 「・・・悲しいことだ、君を失うことになるとは。」

 

 「もったいなきお言葉。小官は直参にあらずとも殿下の臣としてお仕えできたこと、光栄であります。」

 

 「これまでの忠節、忘れない、よく仕えてくれた。・・・願わくは君の生きた雄姿をもう一度見ることができればいいね。」

 

 「はっ。お約束はできませんが、全力を尽くすところと致しましょう。では、小官はこれにて。」

 

通信が終わった後、今度は陸軍に通信を繋げるようオペレーターに命令を下し、応対した陸軍の士官に向かって尋ねる。

 

 「ショート中将は起きてるか?」

 

 「はっ、つい先ほどご起床なされましたので、すぐいらっしゃることと思います。」

 

 「よろしい。」

 

しばらくすると、パリッとしたノリのきいた軍服に身を包んだ真面目そうな顔をした男が画面に映る。

 

 「おはようございます、キンメル大将閣下。爆発音がこちらまで聞こえました、何事です?」

 

 「おはよう、中将。非常によろしくない知らせだ、日本軍の宣戦布告を受けてすでに我が海軍基地は半分が制圧された。こちらで善戦はしているが、もう長くは持たないだろう。先ほど宰相閣下に連絡を取って援軍の要請をしたが、間に合うまい。奴ら、海から攻めてきたのだから、陸軍にも逃げ道はもうない。・・・すまないな。」

 

 「・・・そうですか。ならば、なるべく時間を稼がねばなりますまい。閣下、こちらへは脱出できそうですか?もしできるならば、陸軍基地を盾にゲリラ戦に持ち込むべきでしょう。

  幾ら持つかわかりませんが、それならば多少は・・・。」

 

そこで画面の向こうから爆発音が聞こえてきた。怒鳴り声もする。

 

 「どうやらそちらはあくまで陽動だったのでしょうね・・・。こちらも敵航空機を発見しました。閣下、私の案は使えません。各自でゲリラ戦に移るしか・・・。」

 

 「なんということだ・・・。わかった、中将、一応連絡手段を残そうと思うが・・・、使えまいな。」

 

 「えぇ、通信手段を残しても奴らのジャミングからは逃れられないでしょうな。では閣下、こちらも臨戦態勢に入ります。ご武運を。」

 

 「君もな、中将。生きて帰ったらオススメのバーで奢ってやる。」

 

ショート中将が敬礼してモニターから消えるとキンメルは矢継ぎ早にオペレーターを介して各部隊に応戦の指示を与えていく。

それにしてもまさか、帝国宰相からあのような言葉をかけてもらえるとは、とキンメルは心の中で微笑んだ。モニターを各管区の映像に切り替えるとそこかしこに自軍の兵士の死体が転がっている。

地面に時折刺す薄暗い光から、敵航空機のその多さがわかる。キンメルはオペレーターに残存の全兵士に通信を繋げさせると自らの最後のものとなろう訓示を下した。

 

 「帝国軍兵士諸君に継ぐ。諸君もすでに理解のことと思うが、我々はすでに幾重にも包囲され、四面楚歌の状態にある。だが宰相閣下は我々に永遠の奮戦を期待された。しかし、それは死を意味しない。生き抜くことこそが戦いだ。

  諸君、銃を取って、兵器に乗って生き抜くための戦いを始めよ。以上をもって訓示とする。オール・ハイル・ブリタニタアァ!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・36時間の激闘の後、両基地の司令官であるキンメル大将、ショート中将は激しく抵抗した末、射殺されハワイ陸軍・海軍両基地は日本の艦船、航空機の黒々とした鉄の大波に飲み込まれた。

 

 

 

         ◆        ◆        ◆

 

 

 

 キンメル大将による報告を受けたシュナイゼルは、側近であるカノンに至急、御前会議を開く旨を各要人に伝えるよう命じると、宰相執務室を出て父帝シャルルがいるであろうアリエス宮へと向かった。あの父のことだ、間違いなくマリアンヌやルルーシュ、ナナリーと歓談中だろう。

心の中で苦笑しながらアリエス宮の正面玄関を速足でくぐり、宮殿の裏にある庭園へと足を向けたとき、中庭で自分がその才能を愛してやまない弟に会った。

 

 「兄上?珍しいですね、政庁の休憩時間までは今少し時間がありますが・・・?もしや、何か起きましたか?」

 

 「やあ、ルルーシュ。流石だね、その通り、嫌なことが起きた。緊急の要件でね、父上はこちらにいらっしゃるかい?」

 

 「えぇ。お呼びしてきましょうか?」

 

 「そうだね、呼んできてもらえないかい?それと、ルルーシュ、君にも来てもらいたいのだが、いいかな?」

 

 「俺も、ですか?ですが、父上を呼ぶということはおそらく御前会議でしょう、そんなところに俺がいても大して・・・。」

 

そこにシュナイゼルが途中で遮る。

 

 「いや、おそらくだけど、御前会議を聞いたらルルーシュ、君の頭脳が間違いなく必要だと私やコーネリアは思うだろう。それだったら最初から君を一緒に連れ出しておいたほうが後々楽だろうと思ってね。」

 

 「・・・わかりました。お供します、兄上。」

 

 「ありがとう。では父上を呼んできてもらえるかな?」

 

シュナイゼルの言葉に頷いた後、ルルーシュは急ぎ足で庭園の方向へと消えていった。しばらくすると、1台の車椅子の後ろに父シャルル、その後ろにほとんど隠れてしまっているが妹と弟が着いてきているのが見えた。シュナイゼルは先頭の車椅子の主に頭を下げ、挨拶をする。

 

 「これは、マリアンヌ皇妃殿下。ご歓談中でしたでしょう、申し訳ありません。」

 

 「あら、いいのよ。シュナイゼル、この人を呼びに来たということは御前会議でしょ、この人毎日ここに入り浸ってるんだからたまには仕事らしいこともしなきゃ。」

 

そこにシャルルが間に入って文句をマリアンヌに言う。

 

 「そのようなことはない。確かに毎日ここに来るが、それは仕事を終えてから来ておる。変な偏見はやめい。」

 

マリアンヌも黙っていない。

 

 「あら、そうなの?でも、私が気付くといつもナナリーのそばでナナリーとアーニャの剣の稽古してるの眺めてるじゃない。結構早い時間からやっていますし、始めてから1時間くらいで私も稽古を見て、そのあとあなた、ずっとこの宮殿内にいるじゃない。どの時間にお仕事していらっしゃるのかしら?」

 

 「ぐっ・・・。あ、あのだな、そ、その・・・。と、とにかく、仕事はしておる!変に疑うでない!」

 

この返答を聞いて、シャルルを抜いた一同がクスクスと笑いを堪えようとする。バツが悪くなったシャルルは、一度大きく咳をして、シュナイゼルに問うた。

 

 「それで、シュナイゼル、儂に何用だ?」

 

 「そうでした、父上、至急御前会議を開きます。どうか円卓会議場へお越し願います。案件は今後の本土防衛計画及びハワイ奪還作戦の詳細を詰める会議です。」

 

 「何?ハワイが堕ちたのか?相手は?」

 

 「それも含めて今会議で討議いたします。まずは議場へ。それと、どうか、ルルーシュもお連れ頂くようお願いします。」

 

 「・・・ルルーシュを連れて行くのは少し早いのではないか?確かに、すでに18ではあるが、まだ軍大学を出ておらんぞ?」

 

 「父上、ルルーシュだけ贔屓にするのはお辞め下さい。飛び級で大学でも首席を維持し続けているルルーシュは即戦力です。コーネリアも参謀としてぜひ戦場に連れていきたいと申しているのです。」

 

 「・・・はぁ・・・・。」

 

そこでシャルルは後ろにいたルルーシュに声をかけた。あの時以来、子煩悩に拍車が掛かっている父のことだ、ルルーシュの年でもまだまだ手元から離したくないのだろう、声音に渋々という文字がべったりとのっているのがわかる。

自分やコーネリアの時はあっさりと大任を任されたものだが、と心中複雑にも思わなくもないシュナイゼル。

 

 「ルルーシュ。シュナイゼルはこう言うのだが・・・。お主はどう思う?」

 

 「おr、・・私はシュナイゼル兄上の言葉が正しいと思います。この年にもなって未だ初陣すら飾れてないのは父上とてあまり手放しには喜べないでしょう?それに、私も、私の親友たちも早く一緒に戦場に立ちたいと思って最近は鬱屈としてました。」

 

ルルーシュの言葉を聞いてシャルルは長い溜息をつくと、シュナイゼルに向かい合い、注文を付けて言う。

 

 「・・・よかろう、シュナイゼル、ルルーシュの同行を許す。だが、あまり危険なことはさせるでないぞ?」

 

 「父上、それはコーネリア次第です。妹のことです、自発的に危険に晒すことは絶対ないでしょう。それに、ルルーシュは体力はともかくとしてその他の能力はラウンズと同等もしくはそれを遥かに凌ぎます。父上の騎士に加えても良いのでは?そうすれば立場はラウンズですが、ビスマルク卿の右腕としてラウンズの頭脳になりますし、父上にもその英邁を見せてくれるでしょう。」

 

 「・・・それは良い案かもしれぬ。よし、ルルーシュの初陣の結果を見て戦果を挙げているようであればラウンズに加えよう、それが良い!」

 

ルルーシュは止めようとしたが、もうここまで来てしまえばシャルルの気を変えることはできない。

まぁ、今回は何も言わないでおくか、と心の中でルルーシュは思い、ふと目線を兄に向けると表情は変わっていないが、目の奥に明らかに楽しんでいる色が見えた。

瞬間、やられた!とルルーシュは思ったが、ここはぐっと抑える。突発的なことに弱いのは自分の短所だ。見事に兄に突かれてしまったことになる。

その兄が父に向って声をかけた。

 

 「父上、そろそろ行きましょうか。ではマリアンヌ様、またの機会にお会いしましょう。ナナリー、父上とルルーシュを少しの間借りていくよ。」

 

そこで今まで一言も発していないナナリーがシュナイゼルに笑顔で告げる。

 

 「はい、シュナイゼルお兄様。それとシュナイゼルお兄様、アーニャは連れて行くのですか?」

 

 「どうだろうね。アーニャもラウンズの一角。出動要請が掛かるかもしれないけど、なるべく残す方向で頑張ってみるよ。ナナリーとしてもアーニャがいなくては稽古に張りがなくなってしまうだろうからね。」

 

 「はい、お願いします。ではシュナイゼルお兄様、兄のこと、よろしくお願いします。」

 

ナナリーのその言葉を聞いてシャルルがうんうんと力強く頷きながらマリアンヌとナナリーに、では行ってくる、と声をかけルルーシュ、シュナイゼルと続いた。そこへマリアンヌが声をかける。

 

 「そういえばシュナイゼル、私に役目が回ってくることはあるのかしら?」

 

 「おそらくないと思いますよ。それにマリアンヌ様、もう帝国士官学校の校長は飽きてしまったのですか?」

 

 「そういうわけではないんだけど・・・。なんて言うのかしらね、戦場の活気があればもっと面白いのに、ってここのところ思うのよ。」

 

 「そうでしたか、それなら、いずれ帝国士官学校の生徒を率いて実地研修にいらっしゃればよろしいのでは?幸い、ルルーシュが出陣するのです、観戦の機会をいくらでも設けてくれるでしょうし。」

 

 「あ、兄上っ、それ以上は・・・!」

 

 「それはいいわね。ルルーシュ、お願いね?」

 

で、ですが、母上・・・、とオロオロするルルーシュを横目に、その母と異母兄は、相変わらず突発的なことには弱いな、と悪い笑顔を示し合わせて頷きあう。これにはルルーシュも仕方なしに母に戦場の観戦の場を設けることを約束した。

 

 

 

          ◆         ◆         ◆

 

 

 

 さて、とシュナイゼルは声をあげ、自分と同じ段で広々としたテーブルを囲う面々、そしてこれを取り巻くように1階高いところに設けられた席に座る面々を見上げて静粛にするよう合図をし、これに皆従った。それを見て取って、シャルルが厳かに告げた。

 

 「では、御前会議を始める。帝国宰相シュナイゼル、今会議での議題を述べ、そののち各自思うところを忌憚なく述べよ。」

 

 「はっ。今回の議題はつい先ほど入った報告で、日本による我が国に対する宣戦布告、および本土防衛計画の見直しとハワイ奪還作戦についてです。」

 

これを聞いて、先ほどまで静かだった議場が大きくどよめく。真っ先に発言したのはコーネリア。

 

 「兄上、宣戦布告は本当なのですか?それに、ハワイ奪還作戦ということは、すでにハワイ基地は陥落したと?」

 

 「そうだね、コーネリア、私の友人であるキンメル大将が知らせてくれた。未だに抵抗しているけど時間の問題だそうだ。彼らが頑張っている今、我々は早急に軍を編成しこれに備えなければ。」

 

 「・・・そうですか。ならば、この私がアラスカを起点に軍を編成しハワイへと南下しましょう。この際、本土防衛をするより南征して、ハワイを取り戻したほうが早いでしょう。」

 

そこで貴族たちの代表格である侯爵が口を挟んできた。

 

 「コーネリア殿下のなんと勇ましいこと、さすがは戦女神というべきですかな。ですが、本土が危なくなっては孤立無援になるでしょう。ここはやはり、本土防衛を優先して行うべきでしょう。」

 

続けて、もう1人の代表格の侯爵が、

 

 「その通り、本土に敵を入り込ませることになれば我々の寄って立つ地は文字通り無くなります。ならば、北ブリタニア大陸西岸に重点を置いて大規模な防衛軍を編成するべきですな。」

 

この2人の貴族の発言にそうだ、そうだと続く貴族が相次ぐ。これを見て取ったコーネリアは忌々しそうに小さく舌を打った。

 

 「だが、そうなれば、南ブリタニア大陸と中央ブリタニアはどうするのだ。北に軍の大半を割けばこの片方もしくは両方を失うかもしれないのだぞ?」

 

 「もちろん最低限の防衛軍は残しますとも。ですが、南太平洋はいかに海軍が強い日本軍とて横断はできますまい。そう考えればハワイから直近である北大陸を守るほうが先決でしょう。」

 

 「しかしッ・・・。」

 

 「それともコーネリア殿下は皇帝陛下のおわすこの帝都すら危険に晒してハワイに行くというのですかな?アラスカを起点と言ってもあそこには大した兵力は存在しない。どう頑張ってもハワイには辿り着けますまい。」

 

 「くっ・・・。」

 

ギリッと奥歯を鳴らしてコーネリアは黙り込んでしまった。

 

 

 

ここでスッと手が上がる。

 

 

 

議場の全員がその手の主に顔を向け、貴族連中は顔半分を袖で隠してヒソヒソと何やら語り始める。それと対照的に皇族は一様に少し驚いたような顔を。1階高いところに座るラウンズや眼下にいる主たちの副官は面白そうな顔をして。

シュナイゼルはすぐに少し驚いた顔をすぐ引っ込め微笑みながら意見を促した。

 

 「どうぞ、ルルーシュ、言ってごらん。」

 

 「では。ラウンズをアリューシャン列島に沿って進撃させ北海道を急襲します。その後、コーネリア殿下がアラスカを起点に編成した軍を南下させハワイを奪還します。これで相手の攻勢は間違いなく潰せるでしょう。現在の状況でなすべきは、消極的防衛ではなく、積極的防衛です。ハワイは太平洋方面における、言わば本土防衛のための前哨基地。これを失陥したとすれば、本土防衛を志向してもうまくはいかないでしょう。本土と言っても南北に伸びる大陸の西岸全体は守り切れませんし、万が一にも中央のパナマ地峡を失った場合、帝国そのものが立ち行かなくなります。それに、E.U.の動きも怪しい。いつまでも日本に掛かりきりになるわけにはいきません。」

 

貴族たちは、反論できる糸口を探しているのか、特に何も言わない。ルルーシュは続けて、

 

 「ラウンズを動かせるのは陛下だけですが、もし、陛下がラウンズを動かして頂けるなら、必ず、ハワイはブリタニアが手にすることができます。そうすれば、ハワイは前哨基地として再度機能し、日本に攻め込む姿勢を示せるでしょう。そうすればこちらのものです。」

 

そこで貴族たちが騒ぎ出す。本当に必ずなんだな、一度言ったからにはその責任は取らなければならないぞ、などとまるでルルーシュが墓穴を掘ったと言わんばかりに囃し立てる。そこにシュナイゼルが静粛にと促すと、さすがに貴族たちも

まともに相手にできないシュナイゼルの言に従う。静かになった議場にシュナイゼルの声がスゥっと通った。

 

 「それで、ルルーシュ、君がそう言うからにはそうなんだろう。では、指揮官は誰にする?ハワイ攻略軍の指揮官は先ほどコーネリアだと君自身が言ったことだ。ラウンズは本来作戦指揮官を戴かないが今回に限ってはそれはまずいだろう。誰がいいと思う?」

 

そこでルルーシュは一瞬だけ考え込むとすぐに答えを返した。

 

 「第9席のエニアグラム卿がいいでしょう。コーネリア殿下と知己ですし、突破力で言えば第7席の枢木卿、第10席のブラッドリー卿と肩を並べます。北海道急襲はとにかく時間との勝負。いかに早く一撃離脱ができるかが問われます。その点でもエニアグラム卿は最適です。」

 

 「そうか・・・。陛下、ルルーシュの言、私も全面的に賛成です。我々はこれ以上敗北は許されません。となると、積極的防衛から消極的攻勢を掛け、相手を牽制するのが最善の手と思われます。」

 

貴族がこれ以上しゃしゃり出てこれないよう、ここで貴族の鼻っ面を叩く。それに、ルルーシュの初の公式会議の出席と発言だ、ここで花を持たせたほうが後々この会議での風通しが良くなる。

そういう思いからシャルルに話を振ると、シャルルも心得たもので、

 

 「うむ。両侯爵の意見も尤もであるが、ここは我が息子ルルーシュの意見が正しいように思う。よって、ルルーシュの意見を採用する。ラウンズには追って私が命じよう。それとルルーシュは会議の終了後、ラウンズとともに儂のもとへ来い。シュナイゼル、E.U.への牽制は任せる。」

 

 「はっ。ではこれにて御前会議を終了いたします。」

 

 「うむ。」

 

と、2人でちゃっちゃと会議を終了させてしまった。

 

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

会議の後、ルルーシュはラウンズが控えているラウンズ専用の共同リビングに向かっていた。左右にはカレン、スザクがついて歩いている。

 

 「それにしてもルルーシュ、あんたがあの場で発言するとは思わなかったわ。会議は聞き流して裏からコソコソ細工して貴族の連中を騙すと思ってたんだけど。」

 

カレンが口火を切ると、それにスザクも続く。

 

 「そうだね、僕もてっきりカレンの言う通り、うやむやにしてから一気に片を付けるつもりだと思ったんだけど。どういう心境の変化だい?」

 

これにぶっきらぼうにルルーシュは答えて、

 

 「お前たち、少し俺に対して失礼じゃないか?・・・まぁいい、そうだな、お前たちが戦場に出て俺だけ置いてきぼり、というのは正直あまりいい気がしていなかった。それに今回のこの日本の唐突な行動、おかしいと思わないか?俺は何か裏があると踏んでいる。それが何か直接知りたいからというのが今回の行動の要因だ。」

 

 「・・・それってギアス関連で何か動いてるってこと?嫌になるわね、まったく。」

 

 「僕とカレンはよく知らないけど、8年前のあの事件に関係してるってことだよね?」

 

 「そこまではわからないが、とりあえず日本政府の裏側で何らかの取引が行われていたのは間違いないだろうな。」

 

ここまでの陰鬱になる話を切り上げ、目的地の手前にあるドアの前までくると2人に向かって言う。

 

 「陰気くさい話はここまでだ。中に入ったらお前たちの最近の話を聞かせてくれ。」

 

そう言って、先に部屋の中へと入っていき、2人もそれに続いた。

 

中に入ると、すでにカレン、スザク以外のラウンズのメンバーが揃っていた。一番出入り口に近いところに立っていた第1席のビスマルクが口を開く。

 

 「ルルーシュ殿下、先ほどの議場での発言、誠に立派の一言です。あの会議を初見で、正面切って発言できる胆力を持っているのは後にも先にもシュナイゼル宰相閣下のみだろうと思っておりました。ですが、さすがにシュナイゼル殿下が見込まれただけはある。」

 

 「ありがとうございます、ヴァルトシュタイン卿。そう言っていただけると、発言した甲斐があったというものです。」

 

 「殿下、私のことはビスマルクと呼び捨てになさって結構です。あなたほどの聡明な方に畏まられると私としても体がむず痒い。」

 

 「・・・ではビスマルク卿、と。さすがにラウンズの方々を呼び捨てにできるほど私は偉くないので。まぁ、カレンとスザクは別ですが。」

 

 「おい。親しき仲にも礼儀ありって聞いたことないの、あんた?」

 

 「ひどいよ、ルルーシュ。確かに僕たちは友達だけど、こういう場面ではさすがに自重しようよ。」

 

この2人の反応に一斉にラウンズの面々は吹き出した。そこへシャルルの伝言を授かった近衛兵が部屋に入ってきた。

 

 「ご歓談中のところ、失礼いたします。皇帝陛下がお呼びです。陛下の執務室までお越しください。」

 

こう言って、飛ぶように近衛兵は帰っていった。

 

これを見送ったビスマルクが全員に号令し、ラウンズは一団となって執務室へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?自分で読んでいるとなんと単調で味気ない文章だろうかと我ながら情けなくなってきます。ですが、段々とわかりやすく臨場感を持った文章を書けるようになったらと思います。

一応1週間に1本のペースで投稿しようと思いますが、4月まではなるべく多く投稿出来たらと思います。


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弐話:初陣

評価ありがとうございます。
期待されることに慣れてないので、だれないよう無理せず続けていこうと思います。

あらすじについては、ほぼ見切り発車なので順次補足していこうと思います。コメント欄など、まだまだよくわかってないので、指摘、助言していただけるととても助かります。

一応、公式設定を引用していますが展開が原作と全く違うので(予定)、オリジナルの設定をちょくちょくぶっこんでいこうと思います。ただ、オリジナルキャラクターは今のところ入れる予定はなく、コードギアスシリーズの登場人物だけで完結させたいと思ってます。


 ビスマルクを先頭に、ナイトオブラウンズとルルーシュは皇帝の執務室へと足を踏み入れた。

そこには、アンピール様式の椅子とローテーブルが並び、さらにその奥に皇帝のための奢侈ながらどっしりとした執務用の机が鎮座しているのが見え、その左右の壁は全面ガラス張りでちょうど昼下がりの日光が部屋一面に差し込んでる。そして、そこから皇宮の外を眺めていた皇帝シャルルが入ってきた面々に振り返っていた。ナイトオブラウンズが一斉に、少し遅れてルルーシュも皇帝の前へ跪く。ビスマルクが代表して皇帝へ奏上する。

 

 「シャルル陛下、命によりナイトオブラウンズ、ルルーシュ殿下、ここに参上いたしました。」

 

 「よく参った、皆楽にしてよい。さっそく本題に入ろう。ルルーシュの案によれば、ナイトオブラウンズのうち幾人かを北海道へ急襲させる、その指揮はエニアグラムが執るということであったな。ルルーシュ、何人向かわせればよい?」

 

皇帝の質問に間髪入れずルルーシュは答えた。

 

 「はっ、北海道を占領する方向で進めるのであれば3人、あくまで一撃離脱に留める場合2人がよろしいかと思われます。まず、占領する場合流石にラウンズだけでは戦力が足りませんのでラウンズ麾下の直属部隊と占領地保持のため1個軍団は必要になると思います。次に一撃離脱する場合ですが、突破力のあるラウンズであればおそらく単騎でも被害を与えられると思います。日本軍から宣戦布告をしてきているので防衛部隊はいると思いますが、東南アジア方面への派兵で大して日本本土には兵力は残っていないでしょう、襲撃は容易だと思われます。」

 

 「そうか。・・・占領する場合の軍は1個必要だと言ったが、集められるのか?ハワイが陥落した今、アラスカからかき集めても足りないのではないか?」

 

 「その通りです、陛下。故に、この度は一撃離脱に留めるべきだと私は思います。」

 

そこでしばらく、シャルルは黙考する。あくまで今回の目的はハワイ奪還だ。アラスカにある兵力を動かしてまで北海道を取るメリットは少ない。むしろ、ハワイへ日本軍が集結する可能性が高い今、北海道の占領は悪手だろう。そこまで考えてシャルルは決断を下した。

 

 「よし、今回は一撃離脱に留める。突破力のある騎士とは言うが、エニアグラムのほかは誰が良かろうか?ここでよいから、お主らで結論を出せ。」

 

この言葉に、ラウンズの面々がその場で議論し始める。まずは第10席のルキアーノが口火を切る。

 

 「ここは俺だろ。ほら、機体だって攻撃特化だし、俺の趣味皆知ってるだろ?」

 

そこに第4席のドロテアと第2席のカレンが揃ってつっこむ。

 

 「お前はただ単に剣を振り回したいのと、事務作業から逃げるためだけだろう。それにお前が素直にノネットの指示に従うとは思えん、却下だ。」

 

 「そうよ、あんた、ただでさえいっっつもほかの人に事務仕事を押し付けて山か海に出かけてるじゃない、今回くらい我慢しておとなしく事務仕事してなさいよ。」

 

 「あぁん?毎回勝手にお前らが俺の執務室から書類大量に持っていってんだろうが。それに俺は別に事務が嫌いなわけじゃない。」

 

 「それはあんたが仕事ほったらかしにしてこっちの作業が進まなくなるからよ!それに嫌いじゃないんだったらちゃんとやりなさいよ、こっちも迷惑してんのよ!」

 

 「お前らが勝手に書類持っていくのが悪いんだろうが!いい汗かいてからパパっと終わらそうと思って毎回わざわざ夜に登庁するのに、全然ねーんだもん、骨折り損のくたびれ儲けだぜ、まったく。」

 

 「あ、あーーーんた~~~ねーーーー!!!!!」

 

流石にこれ以上皇帝の目の前ではマズい、と第3席のジノが割って入る。

 

 「ま、まぁまぁ、紅月卿もブラッドリー卿もその辺にしといて、皇帝陛下の御前ですし。話を戻しましょう。私としては紅月卿かアールストレイム卿が適任だと思いますけど、ヴァルトシュタイン卿はどう思われますか?」

 

 「そうだな、しかし、最近枢木卿が最新鋭の第7世代KMFを受領したと聞いたし、その試験運用を兼ねて枢木卿を派遣するのも良いのではないか?シュナイゼル殿下の特派には我々もかなり世話になっている、向こうが望むことをたまにはしてやっても良いだろう。」

 

それを聞いて第7席のスザクが張り切って反応する。

 

 「自分も新しい機体をなるべく早いうちに試乗してほしいと言付かっているので、ぜひ、北海道急襲に参加したいです。」

 

それを聞いて、他のラウンズの面々が少し顔を曇らせ考え込む。しばらくしてカレンがおずおずと、だがハッキリとした声でスザクに問う。

 

 「その、スザク、あんたが日本に行きたいのは皆分かってるわ。でも、その、あんたもあたしも日本の血が流れてるのよ?ごめん、こんなこと言いたくないんだけど、あんたの場合、新機体の試験運用じゃなくて別の目的に囚われてるんじゃないかって思っちゃうのよ。あたしは別に向こうに家族を残してきてるとかじゃないから未練なんてないけど、あんたは違う。そこを分かって行くって言ってるんならあたしは止めない。」

 

 「・・・確かに僕は何としても日本に行きたい。でも、自分ではそっちを優先するつもりはないよ。今回の目的は一撃離脱だ、東京まで行くわけじゃない。だから、我慢、するよ。」

 

その言葉に皆少し後ろ髪を引かれる思いだったが、最終的にラウンズ全員が渋々納得した表情をしたのを見て、ビスマルクが決定だな、と呟いて皇帝に改めて上奏した。

 

 「陛下、北海道急襲へノネット・エニアグラム卿及び枢木スザク卿を派遣したいと思います。よろしいでしょうか?」

 

 「うむ。では直ちに準備に入れ。ビスマルクを除く残りのラウンズはシュナイゼルから情勢と何か要請を聞き、各自の判断で動いてよい。それと、ルルーシュ。」

 

 「はっ。」

 

 「既にコーネリアが軍を招集しておる。お主はコーネリアの下に就き、太平洋方面軍参謀本部長として参陣せよ。参謀本部長着任の詔書はあとで国防省へ届けさせよう。では卿等の奮闘を祈る!」

 

 「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」

 

皇帝の力強い一声を受けラウンズが次々に部屋から出ていく中、シャルルはラウンズに続いて部屋から出ていくルルーシュの女と見間違いそうな細い後ろ姿を見ながら一言、頑張れよルルーシュ、と心中で呟いた。

 

 

 

         ◆         ◆          ◆

 

 

 

 皇帝の執務室を出た後、ノネットとスザクに声をかけてルルーシュはコーネリアのいる国防省へと3人で赴いた。コーネリアのいる作戦会議室までの道すがら、雑談をしながら緊張をほぐす。

 

 「それにしてもお久しぶりです、エニアグラム卿。士官学校でのKMF操縦訓練以来ですね。」

 

 「堅苦しいのはなしだ、ルルーシュ。コゥを通じてよく会うじゃないか、今はお前の友人であるノネットだ。」

 

 「ふふ。あなたはそういう方でしたね。そういえばスザク、ラウンズには慣れたのか?」

 

 「ああ、皆いい人ばかりだよ、ルルーシュ。まだあまり話せてない人もいるけど、大体どんな感じなのかは掴めたと思う。とりあえず言えるのは、ヴァルトシュタイン卿とエルンスト卿には逆らっちゃダメってことかな。」

 

 「おっ、さすがラウンズに選ばれただけあるな、スザク。あたしもあの2人には逆らえないよ、ありゃ正真正銘化け物だ、味方でよかったって思うね。」

 

 「2人がそこまで恐れるのか、ナイト・オブ・ワンとナイト・オブ・フォーは。どういう方なんです?ビスマルク卿は話している分には普通の騎士とそう違いは感じませんでしたが。」

 

 「うーん、ここで言っちゃマズいな。あとで教えてやるよ。」

 

 「そうだね。エニアグラム卿に賛成だ。コーネリア殿下と4人だけのところでだったら大丈夫だよ。」

 

 「・・・それは『目』に関係することか?」

 

 「うん、だからここではダメだ。ちゃんとあとでルルーシュにも教えるよ。」

 

 「ってか、スザク、あたしのことはノネットでいいぞ。エニアグラム卿なんて言いにくいだろ、あたし自身言うのメンドくさいし。」

 

 「・・・じゃあ、ノネット・・・さん。」

 

 「ノネット。」

 

 「・・・ノ、・・・・・ノネット。」

 

 「よし。ラウンズは対等なんだ、呼び捨てでいいんだよ。あ、でも公の場所ではやめろよ?貴族どもがうっさいから。」

 

 「了解、・・・ノネット。」

 

そんなこんなで、作戦会議室が見えてきたところで、ルルーシュとスザクに向かってノネットが唇に人差し指を当て忍び足で歩き始める。2人は怪訝な顔をしながらもノネットに続いて忍び足でついていく。部屋の前まで来るとノネットは2人に向かって小声でひそひそと喋る。

 

 「いいか、この中にコゥがいる。驚かしてやろうと思うからルルーシュ、なんか策を出せ。」

 

 「はぁ・・・、さすがにここでやるのはマズいと思うんですが。ノネット、あなたが全責任を負ってくれるのなら出しましょう。」

 

 「ル、ルルーシュ?マズくないかい?僕は、」

 

 「スザク、乗りかかった舟だ、おとなしく巻き込まれろ。だいたいノネットの姉上に対する悪戯はほとんどの場合効く。ノネットが全責任を負うのなら俺たちは知らぬ存ぜぬで通せばいい。追及はされるだろうがそこは任せろ、口八丁で丸め込んでやる。」

 

このルルーシュの言葉にノネットはニヤリと、スザクは呆れ返った顔をしてそれぞれ了承した。

 

 「・・・相変わらず考え方が狡猾だね、ルルーシュ。はぁ、わかったよ、それで?」

 

 「いいだろう、あたしが全責任を負う。これで、ルルーシュもスザクも満足だろ?それで、ルルーシュ、策は?」

 

 「いいでしょう。いいですか、まずはスザクが先頭で・・・、・・・・、・・・。」

 

こうして3人のコーネリアに対する悪戯計画が説明されたあと、スザクが部屋の扉に手をかけた。ちなみに、皇帝の詔書を携えた文官がこの光景を遠目に見て、何か重要な事を3人が話し合っていると思い込んでコーネリアに告げ口をしたことを3人はまだ知らなかった。

 

 

 音も立てずに開いた扉から2人は部屋の中へスルリと身を滑り込ませた。部屋はテニスコートと同じくらいの広さで、コーネリアの良く通る声がおおまかな作戦概要を説明しているところだった、すでに会議は佳境を迎えているらしい。そこに現れたスザクとルルーシュの姿を目にしたコーネリアが声をかけ、それを聞いた武官や騎士たちが出入り口のほうへと顔を向けた。

 

 「やっと来たか、枢木、ルルーシュ。ルルーシュ、すでに参謀本部長への着任は承認した。お前抜きでもう粗方ハワイ奪還作戦の概要は詰めてしまった。ん?ノネット先輩はどこに行ったのだ?」

 

 「遅れてしまって申し訳ありません。皇帝陛下へ謁見し、北海道への急襲についてラウンズをお借りすることの許可を得ていました。エニアグラム卿は先にシュナイゼル宰相閣下の下へ赴いて情勢の確認をしてくるとのことです。」

 

 「そうか。では、ルルーシュ私の横の席へ。枢木、じゃなかった、枢木卿はルルーシュの隣でいいだろう。」

 

コーネリアの催促で、ルルーシュとスザクは席へと座る。それを見たコーネリアは、では改めて、と会議机に居並ぶ面々を見まわして声をあげた。

 

 「我が弟、ルルーシュが今回北海道急襲作戦及びハワイ奪還作戦の参謀本部長として着任した。ルルーシュ、ハワイ奪還作戦については私がすでに大まかな陣立てをしてしまった。残りの北海道急襲作戦について頼む。」

 

ここで、ルルーシュがテーブルを囲む面々に向かって挨拶する。

 

 「はい、姉上。改めて、今回今作戦における参謀本部長として着任した、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。非才の身ではあるが、よろしくお願いする。では、早速だが、北海道急襲作戦の概要を説明する。当該作戦はハワイ奪還作戦の前哨戦として、ラウンズをアリューシャン列島に沿って隠匿行軍させ、アッツ島より全力出撃、ネムロを直撃したのち、反転離脱する。これを数時間おきに不定期に行い日本軍の目を彼らの本土へと逸らすことによってハワイ奪還作戦を効率的に行うことを目的とした作戦だ。」

 

ここでコーネリアの横にいる黒髪の眼鏡をかけた騎士が声を発する。

 

 「殿下、1つ質問してもよろしいでしょうか?」

 

 「許可する。」

 

 「作戦目標は理解できました。ですが、アリューシャン列島には兵站拠点がありません。また、現地調達するにしてもエナジーフィラーの充填は難しいでしょうし、食糧もないでしょう。いくらラウンズといえど、補給ができなければ戦うことはできません。その点はどうするおつもりなのでしょうか?」

 

 「その点についてはすでに宰相閣下から物資供給のための補給艦隊ととある秘密兵器を借りることを取り付けた。短期的な作戦の上、消耗に関しても2人のラウンズと、その直属部隊の分だけで済む。問題は補給艦隊をどこに置くかだが、戦略的に考えてアッツ島が良いと考えた。臨時的な基地をアッツ島に建設し、ハワイ奪還作戦期間中だけ運用し、作戦の成否に関わらず作戦終了と同時に破壊する。」

 

ルルーシュのこの説明を聞いた武官や騎士たちはどよめいた。中には、無理だ、基地なんて建設すればすぐに日本軍に気付かれる、考え直すべきだと言い始める者までいる。そこで今度は先ほどの騎士の横に座っている偉丈夫が声をあげた。

 

 「ルルーシュ殿下、他の者も申していますが、臨時的であっても基地を建設すれば日本軍はアッツ島を占領しに来るでしょう。そうなれば、北海道への急襲など夢のまた夢です。お考え直したほうがよろしいのでは?」

 

 「ふん、来るなら来い。この作戦の重要な骨子は積極的防衛。つまり、奴らの目をとにかく引くことにある。わざわざ向こうから軍を率いて来てくれるのだ、それだけでハワイ防衛に必要な戦力を削ることができる。要は囮の役目を果たすことさえできればこの作戦は半分成功と言っていい。」

 

 「殿下、さすがにラウンズとその麾下だけでは持ちこたえるのは厳しいのでは?」

 

 「問題ない、私も付いていくのだからな。」

 

これにはその場にいた面々だけでなく、コーネリア、さらには作戦を遂行するスザクも驚いた。

 

 「ルルーシュ、さすがに私は看過できんぞ、初陣で敵の数もわからない、さらには囮で少数での拠点防衛も考えられる局面で太平洋方面軍の作戦立案のトップが最前線に行くなど自殺行為だ。」

 

 「そうだ、ルルーシュ、聴いているだけでも危ないのがわかるのに、そこに君が加わるとなるといくらエニアグラム卿と僕でも庇うことは難しい。作戦を立てるだけならアラスカからでもできるじゃないか。わざわざ最前線に出る必要はないと思うよ。」

 

なんとかルルーシュを翻意させようとコーネリアとスザクが代表して言い募るが、ルルーシュは首を横に振る。

 

 「だからこそ、私が行くのだ。姉上はハワイ奪還でスザクたちラウンズの行動を見る暇はないだろうし、姉上の立てたハワイ奪還作戦の概略を見たが十分勝算のある作戦だ。それに、方面軍の(おさ)である姉上がアラスカにいることで日本軍は否応でも(いやおう)ハワイに南下してくる姉上に目がいく。ならば、私が別行動をとって密かにラウンズのほうに付いていくとは日本軍の首脳も思うまい。」

 

なおもコーネリアがルルーシュに言い募るが、遂にルルーシュは首を縦に振らなかった。長い溜息をついてコーネリアも初陣を迎える可愛い異母弟を説得することを諦めた。ただし、ルルーシュに条件を付けることは忘れなかった。

 

 「しょうがない、いいだろう、ルルーシュ。だが、条件がある。文字通りの最前線には行くな。一歩引いた地点でとにかく観察しろ。お前はいずれ宰相閣下と双璧をなす国家の至宝となるだろう。いや、この作戦が終わればすぐにでもなる。お前の命はお前だけの物じゃないのだ、この言葉をこころに刻め。」

 

 「買い被りですよ、姉上。ですが、分かりました。あくまで私は観戦に徹しましょう。では、北海道急襲作戦の概要はこれで終了する。」

 

 「よし、皆の者、直ちにアラスカに急行する!遅れる者は容赦なく置いていく、付いてこれる者だけ付いてこい!では解散!」

 

コーネリアの一言によって、コーネリアに一斉に挨拶をするとバタバタと皆、部屋から出ていった。ほぅと一息ついたコーネリアは、まず自分の右に座っていた2人の騎士を見、それからルルーシュとスザクに目を向けた。

 

 

 

          ◆         ◆         ◆

 

 

 

 ルルーシュとスザクに向かってコーネリアは声をかけた。

 

 「お疲れ様、ルルーシュ、それに枢木もな。そう言えば紹介がまだだったな、私の選任騎士のギルフォードと、直属の部下であるダールトンだ。」

 

ここで紹介のあった2人がそれぞれ挨拶をする。

 

 「お初にお目にかかります、ルルーシュ殿下、枢木スザク卿、アンドレアス・ダールトンと申します。お二人のお噂は予て(かね)より耳にしております。」

 

 「同じくお初にお目にかかります、ギルバート・G・P・ギルフォードと申します。コーネリア皇女殿下の選任騎士を仰せつかっています。」

 

 「ダールトン将軍というと、あのグラストンナイツを養育なさっているダールトン将軍ですか?自分は一度グラストンナイツを見る機会がありましたが、動きもいい、連携がきちんととれた良い部隊だと記憶しています。」

 

 「まさか、ナイトオブラウンズに褒められるとは・・・。奴らも枢木卿の言葉を聞いたらさぞ喜ぶでしょう。」

 

スザクの反応にダールトンも少し照れたようで、しかし誇らしい顔をしていた。

 

 「あなたが『帝国の先槍』か。それにしても姉上、よくこのような立派な騎士を見つけ出しましたね。俺はてっきり姉上のことだから、選任騎士など持たずナイトオブラウンズでも目指すのかと思ったのですが。」

 

 「うるさいぞ、ルルーシュ。それに私とてラウンズになれればそれに越したことはないが、あいにくそこまでの突出した才能は私にはない。なら一軍を率いる将として大成してみせようと思ったのだ。それにラウンズになるのであれば、ルルーシュ、お前のほうが適任だろう。体力はからっきしだが、それ以外の分野であればラウンズに余裕で届く。父上もルルーシュがご自分の騎士となってくれると聞けば大いに喜んでくらっしゃるだろう。」

 

 「失礼ながら、姫様、姫様でも十分ラウンズはお勤めできるのでは?ルルーシュ殿下はラウンズにもなれますが、いずれは我が国そのものを背負う重職にお就きになるでしょう。」

 

 「そうは言うがな、ギルフォード、私以上に適任なのがお前の目の前にいる私の異母弟(おとうと)なのだ。重職に就く前にラウンズとして帝室に仕えてくれるとなれば、これ以上の戦力はないだろう。ともかく、これで私の部下たちにも顔合わせができたな。それで、ルルーシュ、ノネット先輩はどこだ?この部屋にいるのだろう?」

 

最後の言葉を聞いてルルーシュはピタッと固まり、スザクは即座に明後日の方向を見て、これから準備しなきゃいけないのは・・・、などとあからさまに部外者の態度をとった。そこへあちゃーっと声がした。いきなりの声にギルフォードとダールトンが飛び上がった。

 

 「バレてたのなら仕方ないか。よっ、コゥ!」

 

 「お久しぶりです、ノネット先輩。それで、いつ入ってきたのです?」

 

 「んー、ルルーシュがラウンズについて最前線に行くって言った時。ピッタリのタイミングで入ったのに、なんでバレた?」

 

 「はぁ、先輩、部屋の前で3人が肩を寄せ合ってヒソヒソと話をしていればあからさまです。何か重要事項を直接私に言うのではないかと気を利かせた文官が私に教えてくれたのです。それにルルーシュがノネット先輩と密談という時点で、私には確信がありました。まったく、ルルーシュもルルーシュだ、小さいころからユフィとよく悪戯をしていただろう、私が気付かないとでも思っていたのか。」

 

 「・・・あ、姉上、俺はノネットに提案をしただけであって、最初に悪戯を仕掛けよう、実行しようと言ったのはノネットです。それに、協力すると言わなければ何をされるかわからない。俺には選択肢がなかったんです。姉上もノネットに弄ばれた経験があるでしょうし、わかるでしょう?」

 

 「ルルーシュ、それはあたしにひどくない?確かに全責任を負うとは言ったけど、お前もノリノリだったじゃん。それにスザク、お前はいつまで部外者のフリしてんの。」

 

 「枢木もか・・・。順調にルルーシュに毒されているようだな。そのようだと、当分はユフィをお前と一緒にはしておけん。」

 

 「なっ。お、お待ちください、コーネリア皇女殿下!ぼ、僕は止めようとしたんです、だけどルルーシュもノネットも参加しないと後が怖いぞって・・・。だから僕は一切悪くないんです!だから、どうか、ユフィに会えなくなるだけは!どうか!」

 

 「スザク、責任転嫁はよくないぞ。俺は、確かに乗り掛かった舟だ、巻き込まれろとは言ったが、巻き込まれなければならないとは一言も言っていない。つまり、お前は自分の意志で参加したんだ。まぁ、ノネットが全責任を負ってくれると言ったから俺とお前は無罪だが。」

 

 「ゆ・う・ざ・い、だ。ルルーシュ、枢木、後で覚えておけよ。」

 

 「な、なんだと・・・。姉上、それではノネットはどうなるのですか!?」

 

 「ノネット先輩はどうしようもない。だが、お前たちが別だ。」

 

コーネリアの答えにガックリと肩を落とし、茫然と立ち尽くすルルーシュ。スザクに至っては頭を抱えて、ユフィが、ユフィが、と呟きながらカタカタと震えていた。それを横目に眺めて少し満足したコーネリアはノネットへ向き直った。

 

 「それで、先輩、兄上は何と仰っていました?」

 

 「それがさー、E.U.の動きがどうにもおかしいって。つい先日までE.U.圏内で権力争いしてゴタゴタしてたはずなのに日本軍が東南アジアを占領したあたりからピタッとまとまって軍備を整え始めててさ。あと、中華連邦もたぶん日本と密約を交わしたんじゃないかって、動きが日本を追認する形になってるのが気になるって。」

 

 「・・・確かに、ブリタニアと並ぶ超大国2つが同時に日本に有利な状況を作ろうとしてるのは気になります。下手をすれば、広大な戦線を大西洋にも向けて持たなければならない可能性はできるだけ排除したいですね。」

 

 「そうなんだよなー、一応シュナイゼル殿下が内部工作を仕掛けてみるって言ってたけど、あまり期待しないほうがいいかもね。それに殿下としてはハワイをちゃっちゃと奪い返して日本を一時占領後、正当な政権を立てて撤退ってのが理想って言ってたし。」

 

 「正当な政権?どういうことですか?」

 

 「うーん、スザクには残酷な話になるけど、枢木ゲンブ首相が以前は日本国の実質的な指導者だっただろ?それが、なにが原因だったのかは知らないけど、軍部が暴走してキョウト六家とゲンブ首相がブリタニアに亡命しようとした事件あっただろ?」

 

 「ありましたね、その時期に枢木が帝都に来たのでよく覚えています。」

 

 「あのあと、ゲンブ首相はどうなったのか知らないけど、軍部が結局キョウト六家とゲンブ首相引き戻して、新たに、ス、ス、スラメギ?だか日本の象徴だかを軍部が担ぎ出してキョウト六家の政権ができた。それがシュナイゼル殿下曰く、当時の日本国憲法に違反する不当な政権交代なんだと。」

 

そこでダールトンが口を挟んだ。

 

 「スメラギ、ですね。カグヤ・スメラギ。確か日本の皇帝一族最後の直系だったはずです。日本国が民主主義へと移行してから国の象徴として、国事行為を国民を代表して行う特別な一族だったかと。」

 

 「そう、それだ!なるほど、言われてみればあくまで象徴のはずだったそのスメラギが政権のトップとして機能してるのはおかしいな。」

 

 

 

 

そこで、部屋の一か所が急に重たく冷たい雰囲気になる。その中心にはスザクが立っていた。

 

 

 

 

 「・・・・・・・・軍部が反乱を起こしたんだ。もう少しでハワイに着くってところで、日本軍の船に補足されて、奴らに捕まった。キョウト六家の人たちは大人しく捕まったけど、父と僕は違った。父は暴れまくって、僕が逃げる機会を作ってくれた。それで、父に通じていた藤堂さんっていう軍人に縄を切り解いて(ほど)もらって、船を飛び降りてハワイに逃げたんだ。」

 

 「・・・そうか、スザク、お前、そういう理由(ワケ)でブリタニアに来たのか。」

 

 「そうだよ、ノネット。おそらく父はもう殺されてる。たぶん神楽耶たちキョウト六家は軟禁状態だと思う。僕は、僕は、・・・・・俺は日本をあいつらから取り戻す。そのためにブリタニア軍に入った。たとえ、戦争にならなくてもブリタニア軍で身に着けたことが、日本を軍部の支配から解放することに役立つと思うから。」

 

スザクの目には復讐の炎が静かに揺らいでいた。それを見て取ったコーネリアは、穏やかな口調でスザクを諫めた。

 

 「枢木、お前の復讐への熱望は私にはわからない。だが、今はまだその復讐心は抑えろ。ハワイ奪還作戦が上手くいけば、確実にトウキョウへ攻め込むことになるだろう。そう長いことではない。それまでの辛抱だ。」

 

 「・・・イェス、ユアハイネス。」

 

 「ふぅ・・・。さて、我々もそろそろ準備をしなければ。そういえば、ルルーシュ。」

 

ようやく立ち直ったルルーシュがコーネリアに答える。

 

 「なんです、姉上?」

 

 「いつ、兄上に補給艦と、なんだ、秘密兵器?の借用を取り付けたんだ。そんな暇なかっただろう?」

 

 「簡単ですよ、姉上。ノネットについでとばかりに頼んだんですよ。それにどちらにしろ、本作戦には補給艦隊が必須です。無断で持っていっても兄上なら笑って事後承認して下さいます。さすがに秘密兵器のほうは渋るでしょうがね。」

 

 「あの兄上相手によくそこまでできるな・・・。私には絶対に無理だ。恐ろしくておくびにも出せん。まったく、どこまで計算しているんだ、お前は。」

 

 「ふっ。できる限界までですよ。では姉上、ご武運を。」

 

 「お前こそな、ルルーシュ。死ぬんじゃないぞ。ノネット先輩、それではまた。枢木もな。ギルフォード、すぐに直属を集めろ、ダールトン、部隊の編成は任せる。」

 

 「「はっ。」」

 

颯爽と部屋から去っていく3人を見送りながらノネットが残ったルルーシュとスザクに向かって音頭をとる。

 

 「んじゃま、あたしらも行くとするか!」

 

 「あぁ。」

 

 「うん。」

 




ノネットの姐さんの一人称がわからん・・・。やっぱり手元に資料がないのはつらい。4月になったら一通り揃えて、おかしいところあったら適宜修正だな。それまでの間は、コメントなどで指摘していただけるととても助かります。


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参話:蠢く者たち

感想を下さった方、ありがとうございます、励みになりました。この調子で投稿できれば、と思います。

弐話の最後文章が抜けていたので加筆修正しました。


 ルルーシュたちと別れたコーネリア一行は、部隊の編成を終え、将兵たちを鼓舞して周っていた。

 

 「さすがに平民出身の者たちは動揺を抑えきれてないな。だが、貴族出身の者がほとんど動揺していないおかげか、思ったより混乱は少ない。」

 

 「姫様、ダールトン将軍がうまく兵たちの心理を誘導しているようです。先程まで国防省の中ですら慌ただしかったというのに、ダールトン将軍が歩くだけで常時のように雰囲気が戻りましたな。」

 

 「あぁ、長いこと前線にいただけあって胆力も相当だ。我々も見習わなくてはな、ギルフォード。国内の細々(こまごま)とした貴族どもの反乱を鎮圧してきたのは我々とて同じだが、ダールトンはそれに加えて戦後の空気がそれほど薄れていない時分に生まれたとあって、ほどよい緊張感を保つことに慣れている。あのような者が軍にいれば、自ずと兵は纏り、士気が安定する。出陣するにあたっては良い傾向だ。」

 

 「はい、姫様。」

 

こんなことを話し合いながら国防省を出て、その正面に止めてあった車にコーネリアは乗り込み、ギルフォードに運転を任せる。車はピクリとも振動せずゆっくりと動き出し、皇宮外にある空軍基地へと向かい始めた。コーネリアはふと思い、ギルフォードに問いかけた。

 

 「ところでギルフォード、先程ルルーシュが言っていた北海道急襲作戦だが、ルルーシュの下に武官を付けたほうがよいだろうか?あんな(なり)でKMFの操縦も白兵戦も人並み以上だが不安だ・・・。」

 

 「姫様、今頃になって心配なさるとは・・・。そうお思いなさっていたのなら先程ルルーシュ殿下に申し上げればよかったではありませんか。」

 

 「ルルーシュの態度があまりに自信に溢れていたから言うのを止めたのだ。だが、今になって不安になる。どうしたものか。」

 

 「ならば姫様、今回の従軍者の中からルルーシュ殿下と面識のある者を、ルルーシュ殿下にお付けになされば良いのでは?幼い頃より多くの者が謁見しているはず、その中にも軍に進んだ者も多少はいると思いますが。」

 

 「・・・そうだな、従軍する騎士をリストにしてルルーシュに送ってやろう。ルルーシュも断るまい。少なからず直属の者がいれば、人を使うことには慣れているだろうルルーシュのことだ、上手く使ってくれるだろう。ギルフォード、すまないが基地に着いたら至急、騎士階級の者を見繕ってくれ。」

 

 「はっ、姫様。」

 

空軍基地に着いたコーネリアとギルフォードは一旦別れ、コーネリアは直接、兵を大型輸送機に乗機させる指揮にあたった。

 

 

 

 一方ルルーシュとスザク、ノネットの3人はとある博士の下を訪れていた。

 

 「あはっ、殿下、お久しぶりです~!晴れて参謀本部長となったことですし、デヴァイサーやりません?」

 

 「ロイド、何かにつけて俺をデヴァイサーにしようと勧誘するのはやめろ。そもそも俺は最前線に向かないし、デヴァイサーとしてなら十分すぎる能力を持つスザクを紹介したじゃないか。」

 

 「それはそれ、これはこれです~。殿下ほどの頭脳を持ち人並み以上にKMFを動かせるんならデヴァイサーとして欲しくなるじゃないですか!それにスザク君はラウンズになっちゃったから、うちで面倒見るの当然になっちゃったし~。」

 

そこに女性士官が割って入る。

 

 「ロイドさん!申し訳ありません、殿下!」

 

 「構わないセシル、いつものことだ。それで、ロイド、今回は従軍するのか?」

 

 「もちろんです、殿下。ラウンズの機体を開発している僕たち特派が着いていかなくちゃ、メンテすら覚束(おぼつか)ないでしょ~?おめでとう、セシル君、これで僕らも晴れて従軍経験者だ、勲章の一つでも貰えるよ!」

 

 「ロイドさん!!」

 

ここまで聞いていたスザクがそれぞれセシルとロイドに尋ねる。

 

 「それで、自分たちの機体は準備できているのでしょうか?」

 

 「できてるわ、スザク君。それとエニアグラム卿。エニアグラム卿のための専用KMFが完成しました。スザク君のランスロットと共に今回が初の運用となります。不具合や、改善点があれば遠慮せずお申し付け下さい。」

 

自分専用の機体ができたと聞いたノネットは張り切ってセシルに聞き返す。

 

 「お、遂にできたか!どんな奴?」

 

 「残念でした~それは見てみてからのお楽しみ~!ただ、面白いですよ~!」

 

 「ロ・イ・ド・さん!申し訳ありません、エニアグラム卿、ただ見てもらったほうがご理解が早いと思います。早速見て行かれますか?」

 

 「そうね、ついでにスザクが乗ることになったランスロットだっけ?も観てみたいな。スザク、一緒に行かないか?」

 

 「そうだね、それじゃあ案内お願いします、セシルさん。ルルーシュはどうする?」

 

 「俺は後でいい。ロイドと話したいことがあるから、話し終わったらロイドに案内させる。」

 

 「了解。じゃあ、セシルさん、お願いします。」

 

こう言って、セシルがノネット、スザクを伴って特派の拠点であるヘッドトレーラーから降りていくのを見届けてからルルーシュはロイドに話しかける。

 

 「それで、アヴァロンは動かせるのか?セシルが開発したフロートユニットはまだ試験運用段階だろう、兄上からアヴァロンがもう『飛べる』と聞いたときは驚いたぞ。」

 

 「セシル君は優秀ですからね~、あとは僕がまとめて飛行航空母艦の形にもっていくだけでしたし、大して苦労しませんでしたよ?ただ~、エネルギー効率化問題が片付いていませんから、ブレイズルミナス展開時の飛行時間はあまり期待しないでください~。」

 

 「アヴァロンを実戦使用するのはなるべくなら避けたい。兄上に無用な借りは作りたくないからな。現段階では特派が乗り込むことを考慮してラウンズ用の臨時の洋上補給拠点としたい、その方がラウンズの2人も楽だしな。」

 

 「僕としても直接戦闘行為に介入するのは嫌ですし、殿下に賛成~!それで、殿下~、やっぱりデヴァイサーやりません?殿下向けの機体を開発中なんですよね~。」

 

 「俺向け?どういうことだ、なぜ俺が使用することを前提とした機体を作ってる?」

 

 「厳密には、殿下しか扱える人がいないっていうのが本当のところです~。簡単に言うと、指揮官機としての運用がメインコンセプトなんですが、多数を相手にしても勝てるよう試験でハドロン砲を載せてるんです。あと、何と言っても目玉は、ドルイドシステム!電子解析システムなんですが、こいつの制御が僕とかシュナイゼル殿下とか、超一級の頭がないと使いこなせないんですよね。だから、殿下向けかな~って。」

 

 「なるほど。まぁ、それは今回の作戦が終わったら見に行ってやる。今はアヴァロンのことだ、ラウンズ用の機体に必要なものは積み込んだな?」

 

 「はい、殿下。まだ余裕はありますし、なんならさっき言った実験機も予備パーツ込みで載せれますよ?」

 

 「・・・・・そこまでして俺を載せたいのか、それに。・・・・・・・はぁ、分かった、載ってやる。あとで概要をまとめて見せてくれ。」

 

 「やった~!!!これでハドロン砲とドルイドシステム、フロートユニットは試験運用できて、さらには上手くいけばセシル君のエナジーウィングが開発段階まで持っていけるかも!おめでとう~、これで当面の課題はエネルギーの問題だ、ラクチンラクチン!」

 

 「その辺にしておけ、ロイド。さぁ、スザクとノネットの後を追おう。」

 

 「はあーい、殿下。こっちですよ~。」

 

 

 ロイドについてヘッドトレーラーを降りたルルーシュは、しばらく歩いてから見えてきた巨大な構造物を見上げて息を呑んだ。

 

 「これがアヴァロンか。壮観だな。」

 

 「驚くのはまだ早いですよ~、殿下。では中に入りましょう。」

 

そのままロイドについていくと、2体のKMFとその前に立つセシルがそれぞれの機体に乗り込んでいるスザク、ノネットにインカムを通して話しかけているを見つける。

 

 「ハンガー到着~。セシル君、どう、2人の反応~?」

 

 「あ、ロイドさん、スザク君はすぐ慣れたようですけど、エニアグラム卿はまだ少しかかりそうです。まぁ、ユーウェインはかなり特殊なKMFですから時間をかけて調整したほうがいいでしょう。」

 

2体のKMF、一方は白と金を基本色としたスリムなボディに両肩と頭部の突起が特徴的な機体、そしてもう一方は特徴的な形をしていた。まず、特に目を引くのは4足であることだ。そのくせして隣の白金の機体より一回り大きく見える。色は黄をメインにところどころに赤が配色されている。

 

 「こっちの白いのがランスロット、黄色いのがユーウェインです~、殿下。」

 

 「これがランスロットか。ユーウェインは特徴的な見た目だな。なんでこんな形になった?」

 

 「いやー、軍用KMFが実用化されて戦場の動きが速くなったでしょ~?一応、今は事前偵察で地形の把握したり、航空管制したりして戦況の把握に努めてるけど、これからじゃ戦況把握が追い付かなくなるかな~って思って、ドルイドシステムを簡素にして乗っけた自動走行するKMFをくっつけたのがこのユーウェインでーす!4足に見えるけど、運用するときはユーウェイン本体と自動走行するKMFが分離するから実際は6足で、自動走行するKMFは本体から指令を出すことも、自律して動くこともできるようにしてあるんだよ~!」

 

ここでルルーシュがロイドに問いかける。

 

 「つまりこのユーウェインも実験機なのか?」

 

 「つまるところそういうことですね、殿下。」

 

 「はぁ、ロイド、作るのは構わないがもうちょっと実用的な段階に入った機体を使ってもらおうとは思わないのか?いくらなんでも、3体とも実験機とは頭が痛くなってくる・・・。」

 

 「殿下~、ここは特派ですよ?そんな平々凡々とした機体作って何になるって言うんです?それに面白くないじゃないですか、そんな機体。」

 

 

 ルルーシュがこのロイドの言葉に溜息をついたとき複数のカンカンと高い足音を聞きつけ、ロイドとルルーシュは来た道を振り返った。そこには3人の武官が立っていた。先頭にいた青い髪の、キャラメル色の目をした男がルルーシュの前に跪き、後ろの灰色の髪の女とオリーブ色の髪の男の残りの2人も続く。

 

 「ジェレミア・ゴッドバルト、ヴィレッタ・ヌゥ、キューエル・ソレイシィ、ルルーシュ殿下の下に付き補佐をせよとのコーネリア皇女殿下の命により、参上仕りました。」

 

 「あんれ~ジェレミアだ、なんでこんなところにいるの?」

 

 「ロイド、殿下の前で失礼であろう!」

 

 「良い、ジェレミア、ロイドはほっとけ。それよりもジェレミア、どうせ姉上のことだ、今更になって俺の身の回りの心配をしてわざわざお前たちをハワイ攻略部隊から引き抜いたのだろう?」

 

 「さすがですな、殿下。恐らくはその通りでございます。コーネリア殿下は、ルルーシュ殿下の下に使えるコマがいなければ殿下は苦労なさるだろう、としか仰っておられませんでしたが。」

 

 「まぁいい、来たからには働いてもらうぞジェレミア。」

 

 「はっ。ご期待に沿えるよう全力を尽くします。」

 

 「ヴィレッタとキューエルといったか。お前たちもよろしく頼む。」

 

 「「イェス・ユアハイネス。」」

 

こうして新たに3人を加えた北海道急襲部隊は、出兵へ向け準備を急ぐのであった。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 シュナイゼルはシャルルに呼ばれ、アリエス宮へと出向いていた。中庭を通り、宮殿の裏にある庭園へと出て左右を見回すと、右のほうにある闘技場にナナリーとアーニャの姿を見つけ近寄った。屋根を支えている、大人2人分はあろうかという太い大理石が立ち並ぶ間を通って闘技場に入ると、奥にシャルルが椅子に座ってナナリーとアーニャの決闘を見守っていた。

そこから少し手前にはマリアンヌが車椅子の上から声を張り上げてナナリーとアーニャのダメ出しをしている。そこへシュナイゼルは近づいていき、シャルルの前で跪いた。

 

 「父上、お呼びでしょうか。」

 

 「おぉ、シュナイゼル、よく来た。ちと話をしたくてな。まぁ、儂の横に座れ。」

 

では失礼して、と断ってからシュナイゼルはシャルルの左にある椅子へと座った。

 

 「それで、父上、話とはなんです?」

 

 「ルルーシュのことよ。あやつにはまだ、」

 

 「ギアス、ですか。父上、すでにルルーシュはギアスのことを知っております、あとは契約だけでしょう?」

 

 「その通り。だが与える前に出発してしまった。」

 

 「失敗ですね。日本とE.U.の動き、おそらく裏ではギアス嚮団が動いています。E.U.には潜り込んでいることは火を見るよりも明らか、それにあの悲劇から8年が経過している以上、日本にもおそらくですが潜り込んで直接政府を動かしているでしょう。」

 

 「となると、やはりギアスを無理やりにでも引き留めて与えるべきであったな。」

 

 「・・・父上、そもそも叔父上は今、何を目的に動いているのです?以前お話し頂いた計画はすでに破綻も同然、しかし、なぜずっと活動を続けているのか。」

 

 「わからぬ。そもそも、儂とマリアンヌ、C.C.の同盟関係に自分で(ひび)を入れたV.V.が、未だにあの計画を遂行しようとしているとは考えられぬ。こればかりは本人に聞いてみるしかあるまい。」

 

 「遺跡の方に変化はありましたか?もしあれば、何を企んでいるのか推測はできます。」

 

 「特になかった。だが、遺跡は未だ謎が多い。もし儂らが知らないことをV.V.が知っていれば隠すことは容易だろう。」

 

 「そうですか。しかし今となってはルルーシュが無事に帰ってくることを祈るしかありません。」

 

 「・・・うむ。何事も起きなければよいのだが。」

 

そこから2人は黙り込んで、しばらくナナリーたちの決闘を見ていると、決闘が終わったのか、ナナリーがアーニャの手をグイグイ引いて闘技場から出ていき、宮殿の中へと消えていった。声を張り上げていたマリアンヌが、シュナイゼルたちの前へと車椅子の向きを変え近寄ってくる。

 

 「いらっしゃい、シュナイゼル。何のお話をしていたのかしら?」

 

 「挨拶が遅れ申し訳ありません、マリアンヌ様。そうですね、ルルーシュのことです。」

 

 「構わないわ。あら、あの子は問題ないでしょう。ちょっと、おっちょこちょいなところはあるけど、心配するだけ無駄よ?」

 

 「マリアンヌよ、あやつ自身のことではない、ギアスのことだ。」

 

 「まさか、契約し損ねたの?!あなた、それはダメよ、何としてでも連れ戻さなければ!」

 

 「ぬぅ・・・。しかし、」

 

 「V.V.の居場所がわからない以上、ギアスなしにあの子を外征させるのは危険よ。かと言ってC.C.を皇宮から出すのもあまりいいとは言えないし。」

 

そこに別の女の声が割り込んできた。声のした方向を見やると、緑色の髪をした、美しい『少女』が立っている。

 

 「心配ないさ、私はむしろ坊やのことの方を心配するべきだと思うぞ。」

 

 「C.C.!でもあなたがV.V.に捕らえられれば向こうが大きくアドヴァンテージを得れる。それだけはさせてはいけないわ。V.V.が今、何を考えて動いているのかわからない以上、余計なカードを向こうに掴ませる可能性はなくさないと。」

 

 「だが、ルルーシュとは契約できていない。ギアス嚮団相手にギアスを持っていないのは、武器を持っていないことと同じだ。なら、私が出向いて契約を結んでくるしかないだろう。」

 

 「でも!」

 

マリアンヌとC.C.が早々にヒートアップしかけているところを、シュナイゼルが水を差す。

 

 「マリアンヌ様、C.C.、言い争っても益はありません。行動を決めてそこから逸れることのないよう、最大限の対処を考えることのほうが良いと思います。」

 

 「シュナイゼルの言う通りよ。この際仕方あるまい。C.C.、お前は今すぐルルーシュの下へと向かえ。ルルーシュが予想していない事態に間に合いさえすれば良い。」

 

 「わかったよ、シャルル。」

 

そう言うとC.C.はふらりと闘技場から出て行った。

 

 「なら、これでルルーシュの問題は一旦解決です。あとは何か起きてからでないとわかりません。父上、日本が攻めてきた以上、E.U.も動き出すのは時間の問題でしょう、前もって動員を行えば対処しやすいと思いますが。」

 

 「動員するのはよいが、誰が指揮を執る?」

 

 「私、と言いたいところですが宰相として一方面軍に留まるのは好ましいとは言えません。かと言って、コーネリアはしばらく日本に釘付けされるでしょう。」

 

シュナイゼルの言葉に3人が考え込むが、答えは出ない。シャルルが考え込む素振りをしながら口を開いた。

 

 「・・・とりあえず、動員だけは済ませておけ。指揮官は後に決めても遅くはなかろう。」

 

 「ではそのように。」

 

そこにナナリーとアーニャが装いを変えて闘技場へ入ってきた。ナナリーがスタスタと近づいてくるのとは対照的に、アーニャはゆっくりと歩いて、シャルルとシュナイゼルの前で跪く。

 

 「こんにちは、シュナイゼルお兄様。遊びにいらっしゃって下さったのですか?」

 

 「やあ、ナナリー。そういう目的で来れればよかったのだがね、宰相にもなってしまうとそうもいかない。今日は父上から呼ばれて来たのだよ。」

 

 「そうですか・・・。あまりいいお話ではなさそうですね・・・。」

 

ナナリーに変わって今度はアーニャが挨拶をした。

 

 「皇帝陛下、アーニャ・アールストレイム、御身の前に。宰相閣下、お久しぶりです。」

 

 「アーニャ、ここには身近な者しかおらぬ、そう畏まるな。」

 

 「そうだよ、アーニャ。もっと楽にしてくれないと。」

 

では、と返事をしたアーニャは立ってナナリーの隣に並び、いつも持ち歩いているラウンズ用の携帯を取り出し、1枚写真を撮る。その様子にシャルルは苦笑した。

 

 「変わらぬな、アーニャ。その写真はどうしておるのだ?」

 

 「毎日の日記に貼付します。ただ、ルルーシュ殿下の写真はブログに時々アップします。」

 

 「ほう?あやつには許可をもらっているのか?」

 

 「はい。殿下の写真を投稿した日は反響がすごいので、折を見つけてはアップするのが最近のマイブームです。」

 

 「はははははは、ルルーシュは皇族だがあまり顔を知られていないからね、新人の俳優か何かと推測されているんじゃないかい?」

 

 「はい、殿下。でも、もう俳芸能人である可能性は既に排除されてて、高貴な家の生まれではないかと議論が交わされています。」

 

 「当たりでも外れでもあるところだね、ただ、ルルーシュは今後一気に有名になる。そうなったらブログの投稿者がアーニャだとバレる可能性も高くなるが。いいのかい?」

 

 「構いません、殿下。ラウンズを相手にしようと思う者は数えるくらいしかいないでしょう。そのときはこの携帯にとって記録にします。」

 

アーニャはそういう意味で取ったか、とシュナイゼルが呟いたのが聞こえたのか、アーニャがそういう意味?、と問い返し2人の間で問答が始まる。それを横目に見てマリアンヌがナナリーに話しかけた。

 

 「ナナリーもそろそろ将来どうするか決めないとね、婿を取るのか、コーネリアのように軍に入るのか、いずれの道を進むにしろ好きにするといいわ。」

 

 「はい、お母様。・・・最近は軍のことを考えています。スザクさんとアーニャにも聞いてみたんですけど、2人とも厳しいけど、やりがいがあるって。だから、早いうちに士官学校とかを見に行こうかなって考えているんです。」

 

 「そう。まぁ、私のときは、座学はそれなりにしたけど、実技は本当につまらなかったわ、途中でラウンズに入ることになったから退学したけど。」

 

 「お母様はあまりに格が違います!とにかく、私は士官学校に行ってみます。」

 

 「あら、ナナリーも案外、私と同じようになるんじゃないかしら?すぐに退屈すると思うわよ?」

 

 「そうでしょうか・・・?」

 

 「そうよ。それにアーニャと互角に戦えてる時点で、士官学校の実技は合格したも同然だわ。あとは座学だけど、ルルーシュに聞けばすぐ教えてくれるだろうし、退屈極まる学校生活になるかもしれないわよ?現校長の私が言うのだから間違いないわ。」

 

マリアンヌの言葉に再度考え始めるナナリー。そこにシャルルが声をかけた。

 

 「ナナリー、ある程度士官学校で学んでからコーネリアに付いていくのもいいかもしれぬぞ?コーネリアとその麾下は歴戦の猛者どもだ、士官学校では学べないことも多く学べるだろう。」

 

 「そういう手もあるのですね、お父様。それだったらいずれお兄様に付いていくこともできるのでしょうか?」

 

 「そうだな。マリアンヌとの約束の手前、ルルーシュも否とは言えないだろう。そういえばマリアンヌ、士官学校の生徒を連れての戦場観戦はどうなったのだ?」

 

 「今のところ、士官候補生を中心とした4年次以降の生徒を中心として、ルルーシュが派遣される方に放り込むつもりで段取りをつけてるわ。今回は無理だけど、次はルルーシュがメインとなって主導する作戦を立案してってコーネリアにも言っておいたし。」

 

 「・・・それだとナナリーは付いていけないな。まぁ、ルルーシュのことだ、妹に流されて連れて行ってくれるだろう。」

 

不憫な奴よ、とルルーシュを心の中で慰めたことに自己満足したシャルルは、侍女を呼び時間を確認する。昼の休憩は終わり、そろそろ執務に戻らなければならない。

 

 「さて、アーニャ、シュナイゼル、その辺にしておけ。そろそろ執務に戻らねば。お主らも仕事に戻れ。」

 

シャルルの一言に、これ幸い、とばかりにアーニャとの問答を切り上げたシュナイゼルは心なしか安堵した表情を浮かべて、もう一方のアーニャは遂にシュナイゼルから明確な答えを得られなかったことを残念がっていた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 

 

 真夜中、京都。その中の、寝殿造で建てられた広大な日本家屋の中で密談が交わされていた。いずれもこの国の象徴する血統の者たちが日の光の当たる場所で議論できないこの状況が、どれだけこの国が変化したかを示している。権力者にはならないと決めたはずの者たちが、皮肉にも周囲に担ぎ上げられて権力者となる現状を憂い、そして打破するための策を模索していた。

集った者たちの名は、通称『京都六家』。天皇の血筋である皇家、天皇の血筋から出た分家の中で最も尊いと言われる吉野家、朝廷が成立する以前の時期から続く古き名家である宗像家と刑部家(おさかべけ)、幕府を率いた武家が再度公家化した公方院家(くぼういんけ)、戦国時代に公家となった桐原家の六家を総称する。その中で発言力のある桐原家の当主、桐原泰三が口を開いた。

 

 「軍部の阿呆どもめ、戦を始めおった。そして、よりにもよって相手が、あのブリタニア。これは我ら『京都六家』も腹を括る必要があるやもしれぬな。」

 

刑部家の当主、刑部辰紀、公方院家の当主、公方院秀信が次々に苦言を呈する。

 

 「そもそも、文民統制の効いていない軍が我が国の代表者のような顔をして政治をしている現状がおかしいのだ。さらには憲法を違反してまで皇家の神楽耶を担ぎ上げて、神楽耶を頂点とした全体主義を推し進めている。議会も今や軍部の犬だ。」

 

 「議会と軍部の関係が逆転していることも問題だが、それ以上に軍部が何を考えているのか読めないのが頭の痛いところだ。奴ら、内部で何を考えているのやら。」

 

吉野家当主の弘嗣、宗像家当主の唐斎も続いて言う。

 

 「立法府が軍部に押さえられている以上、何もできない。神楽耶から何かを提言させようにも軍部が出張ってきて、政治は我々にお任せください、の繰り返しだ。法律で国家反逆罪の適用範囲が異常に広げられた今、民衆レベルですら迂闊なことは言えないと聞く。」

 

 「完全に三権分立の原則が崩れておる。国外に助けを求めようにも不必要な介入を招くことを考えれば得策とは言えぬ。手詰まりだ。」

 

 「まだそうと決まったわけではありませんわ。」

 

そこに一人の年若い女の声が響く。それにつられて全員が御簾の奥へ目を向ける。代表して宗像唐斎が御簾の奥にいる人物へ問いかける。

 

 「それはどういう意味か、神楽耶。」

 

 「枢木家の跡取りの足取りが掴めました。それによると、現在はブリタニアにて皇帝直属の騎士に叙任されているとのこと。また、ブリタニア皇子と友人関係にあるとも言われています。」

 

それは本当か、と他の六家はにわかに浮足立つ。もし本当のことなのであれば、枢木家を通してブリタニア帝室に話を持ち掛けることができる可能性がある。ブリタニアがテーブルにつくかは未知数だが、もしつけばいくらでもやりようはある。何より日本は、地下鉱物資源の一つで今やどのような工業製品にも必要不可欠なサクラダイトの一大採掘国だ。世界のサクラダイトの採掘量の実に半分が日本で採れる。

採掘業は桐原家が資本となっている桐原鉱業で大部分が行われている。その桐原鉱業が産出する量のいくらかを優先的にブリタニアに回すことを交渉のカードの一枚として引き合いに出せば、それなりに対等な交渉をすることができるだろう。そうとなれば、まず桐原産業を軍部に接収されないように地均しをしなければならない。そこまで話し合い、具体的な対策を出し合う。

 

 「ブリタニアと戦争となると、国家を挙げての総力戦になることは間違いないだろう。となると、早い段階でブリタニアと通じること、また、戦争中に接収できないよう桐原ともども保護する必要がある。」

 

 「桐原鉱業を神楽耶の私物とすることはどうか。そうすれば軍部も手は出せまい。そうして現在軍部に供給しているサクラダイト量のうち、いくらかを軍部の目が届かない場所からブリタニアに流して先に恩を売っておく。」

 

 「神楽耶の私物とすることには賛成だが、軍部の目につかない場所などあるのか?それに、桐原鉱業だけを私物化すると返って目立つ。どうせなら一旦、桐原財閥そのものを神楽耶の皇財閥の傘下に収めさせれば良いのではないか?桐原公は桐原財閥のトップとして桐原鉱業を運営し、それを皇財閥で管理しているという建前を作ってしまえば絶対に軍部は手を出せなくなる。」

 

 「それが良かろう。あとはブリタニアとの連絡をどうつけるかだが。神楽耶、お主の情報筋は使えないのか?」

 

 「残念ながらそこまではできないようです。ただ、直接の面識はありませんが、1人だけ心当たりがあります。その方なら連絡をつけてくださるでしょう。」

 

 「信用はできるのか?」

 

 「・・・おそらくは。そういった依頼を受け続けてきた家系です、腕も信用も確かです。それに、こちらから頼むのです、信用の一つくらい見せないでなんとします。」

 

 「良かろう。では神楽耶、早急にその人物へ依頼することを頼む。我々はいろいろと工作せねば。桐原鉱業の過去の財務諸表の改竄、採掘量のごまかしなど、やることは多い。皆頼むぞ。」

 

桐原泰三の一言をもって密会は終了した。天皇が住まう御所の中で行われた密議は、喋りさえしなければ軍部に漏れることはまず有り得ない。あとは如何に軍部の目を潜り抜けるかが『京都六家』の課題だった。

 

 

 翌日の昼、神楽耶は真夜中の密会で提言した相手を御所へと呼び出した。本来は軍部の力が強くなったことに危機感を覚えたことからSPとして雇うつもりだった相手を、国外との連絡係にする。それが神楽耶が思いついた案だった。侍女が相手の到着を告げる。

 

 「失礼します、神楽耶様、お客さまがご到着されました。」

 

 「通しなさい。」

 

一旦下がった侍女が1人の女性を伴って、再び神楽耶の部屋へと現れる。神楽耶は女性を部屋の中に入れると、侍女に部屋の周囲に絶対に人を近づけるな、と厳命して部屋の外へと侍女を追い出した。

 

 「お初にお目にかかります、皇神楽耶様、篠崎流37代目当主、篠崎咲世子と申します。本日よりSPとしてお側に侍ることとなります。何なりとお申し付けください。」

 

 「初めまして、篠崎咲世子さん、お待ちしておりましたわ。・・・それで、言いにくいのですが、SPとしてではなく、連絡係をして下さらない?」

 

挨拶も早々に神楽耶が突然の契約内容変更を申し出てきたことに咲世子は眉を顰めた。SPとしての腕が信用ならないと言っているのだろうか、と見当を付けて神楽耶に問い質す。

 

 「・・・どういうことでしょうか?私の腕が不安になられているのなら、」

 

 「いえ、そういうことではありませんの。突然ですが、現状の日本をどう思われますか?」

 

これまた突然だ。どう答えるべきか、神楽耶の性格をまだよく知らない咲世子は当たり障りのない答えを探して返す。

 

 「そうですね、軍部が東南アジアへと兵を派遣し、亜細亜連邦建設計画は現実味を帯びて、国民の生活も少しですが良くなりました。このままいけば、さらに国民の生活水準は良くなるのでは?」

 

 「それが一瞬の繁栄だとしたらどうしますか?」

 

 「どうして一瞬だとわかるのでしょうか?」

 

 「今、日本は軍部が政権の中枢を握り、議会に圧力をかけて立法権も意のままに、司法権力も正常に機能せず、軍部に取り込まれかけています。戦争には人間が必要です、このままでは、いずれ軍部は国民を使い捨てにし始めるでしょう。これはれっきとした国民への冒涜、私たちはこれを正さなければなりません。人なき国家など、国家ではありません。人と自身の信ずる心あってこその国家。そのためにあなたを国外との連絡係として雇い、戦争状態へと入った神聖ブリタニア帝国に秘密裏に交渉を持ち掛けたいのです。」

 

神楽耶の言った言葉をゆっくりと飲み込んだ咲世子は、神楽耶に問いかけた。

 

 「事情は分かりました。では連絡係として雇って頂くという契約に変更しましょう。連絡先の相手はどのような方が対象となるのでしょうか?」

 

 「先代の日本国首相、枢木ゲンブの一人息子である、枢木スザクを通して、彼と面識のあるブリタニアの皇子が直接の交渉相手となるでしょう。」

 

 「では、その枢木スザクという方を探し出して神楽耶様の言伝をお伝えし、返事を頂いてくればよいのですね?」

 

 「そうなるでしょう。ブリタニア軍の動きを注視していてください、必ず接触できる機会があります。」

 

 「分かりました。では、これにて。」

 

 「少し待って下さる?契約をまとめた正式な書状を今から書きますからそれを持っていてください。」

 

 「それならば、神楽耶様、その書状とは別にもう一通書いていただけませんでしょうか?」

 

 「それはどのような?」

 

 「私が神楽耶様にお仕えする者であるという書状です。これがあれば、万が一にも軍に捕まったとしても、下手に手を出せなくなると思います。」

 

 「まあ、それはそうですわね。分かりました。すぐ書き上げるので、少し待っていてください。」

 

そう言うと、神楽耶は文机を持って来て、咲世子の前でさらさらと2枚の書状を書き上げ、天皇家の菊花紋を朱肉につけ両方の書状に()してから、契約書の方を菊花紋が金色で捺されている紫の封筒に入れ、さらに金色で色付けされた蝋で封筒を閉じ、まだ熱い蝋に菊花紋の印綬を捺して封をしてから、これまた菊花紋が焼き(ごて)で捺してある細長く、薄い桐箱に収め、その上から金糸と銀糸でできた細い組紐(くみひも)で箱を縛り、その組紐にも蝋を垂らして菊花紋の印綬を入れて厳重に封をした。もう一方の書状は紫の封筒に入れ封をせずに桐の箱に収めて、書状の準備は整ったようだった。両方の桐箱を神楽耶は咲世子に手渡す。

 

 「念を入れて組紐で縛ってある方が契約の書状、簡素な形にしてある方が任命状です。有事の際は、組紐で縛ってあるものは見せるだけ、任命状の方は中まで見せても問題ありません。」

 

神楽耶から書状を受け取った咲世子は、2通の書状を大事そうに懐にしまい込んで挨拶をした。

 

 「ありがとうございます、神楽耶様。では、私はこれにて。」

 

 「侍女にお送りさせましょう。」

 

 「いえ、結構です。神楽耶様に報告させてもらうときも2人きりのほうが良いでしょう、失礼ながら勝手に出入りさせてもらうことになること、お許しください。」

 

そう言って、篠崎咲世子は部屋から出て行った。ふぅ、と一息ついた神楽耶は侍女を呼び出す。

 

 「失礼します、神楽耶様。お客様の、・・・あら?」

 

 「ふふ、あの方はすでに帰られましたわ。お茶を用意してくださらない?」

 

 「・・・っあ、はい、ただいま!」

 

側付きの侍女の間が抜けた顔を見れたことに満足した神楽耶は、先行きに一抹の不安を覚えながらも大いに期待をかけていた。

 

 京都御所を神楽耶以外に気付かれずに抜け出した咲世子は、早速情報を集めるためにまず軍部の動向を探ることにした。だが、軍部に直接入るのはリスクが高い。まずは順当に全国・地方に限らず、国内で発行されている新聞を集めてみましょうか、と今後の方針を決め早速今日の分を買い出しに行った。全国紙からまとめて買い、地方紙を扱っている店を片っ端から周っていく。

流石に京都では全地方の新聞を揃えられなかったので、東京へ移動を開始する。1時間後、東京への列車に乗り込んだ咲世子は先ほど購入した新聞紙の束に目を通し始めた。どれもトップに書かれているのは東南アジアに進出した企業の好調っぷりを称賛するものばかりで、2面や3面も大して変わらず、国内に関して書いてあるものがほとんどだ。国外に関する情報は、文化欄やスポーツ欄を除くと全く見当たらなかった。

東京まで行かなければ後はわからないか、と諦めかけた咲世子は、そこでヒソヒソと話し合っている2人の男を見つめた。ところどころ軍部、ブリタニア、と言葉が聞こえる。咲世子は東京で新聞を買い集める予定を変更し、この男たちの後を尾行してみよう、と考えた。

 

男たちは東京駅に着くと、新宿方面への電車に乗り込んでいく。すかさず咲世子も男たち後をピッタリと付け一緒の電車に乗り込んだ。しばらく電車に揺られ新宿駅に着くと、男たちは降りていき北口を出て歩き始める。15mほど離れて男たちの後を付けながらさりげなく2人の男の身なりや仕草を盗み見る。

左の男は天然パーマで背が高く、服装はパッとしない。そして、もう一方の男との受け答えから明確な主義主張をしない、日和見主義的な傾向を持っているように見える。もう一方の、右を歩いている男は、紅に近い茶髪に引き締まった体付きをしていて、スーツを着こなし、気付かれないように周囲を確認しながら歩いている。

もしやりあうことになったら右の男のほうが厄介だろう、と見当を付けておいた咲世子は、2人の男が歌舞伎町の一角にある『呑みや 玉城』という看板が立てかけてある地下室へと通じる階段を下りていくのを見届けてから、周囲の飲み屋をぐるりと回って、10分ほど経ってから先程男たちが下りて行った階段を下りた。

下りた先には『呑みや 玉城』の表札が和風の扉の横に下げてある。扉に手をかけゆっくりと開けて中を確認すると、カウンター席だけがある狭い飲み屋だった。しかし、明かりがついているのに誰もいない。そう、カウンターの向こう側にいるはずの料理人すらいないのだ。何か変だと思った咲世子が、一歩だけ足を店の中へ踏み入れた瞬間、こめかみに冷たいものが当たった。

横に目を向けると先ほどの茶髪の男が、自分の頭に銃を突き付けているのが見えた。その男が口を開く。

 

 「何者だ。なぜ我々を付けていた?」

 

 「・・・気付かれていましたか。」

 

 「あぁ、東京へ向かう列車の中で変な空気を感じたが、気のせいだと思った。しかし、新宿駅へ向かう電車の中で明確に視線を感じた。それが貴女からのものだというのは、降りて駅を出てから気付いたよ。さあ答えろ、なぜ我々を尾行していた?」

 

男の詰問に答えざるを得ないと状況から判断した咲世子は、渋々ながら自分の尾行の理由を話した。

 

 「・・・列車の中で軍部、ブリタニアという言葉を耳にしたからです。」

 

間を空けた咲世子の返答に、横の男はカウンターのほうへと少しだけ顔を向け溜息をつくと、そのままカウンターへ語りかける。

 

 「だから言ったんだよ公共の場で滅多なことは言うなって。」

 

 「す、すまない、直人。緊張して思わず喋ってしまった・・・。」

 

 「言っただろ、絶対厄介を招くことになるからどうでもいい話題を話してればいいって。あと、こういう場合のときは本名で呼ばない!はぁ、それにしてもこの人、どうすっかな・・・。」

 

あ、あぁ、と戸惑い気味に返事を返してくる背の高い天然パーマにもう一度、この直人と呼ばれた横の男が溜息をついた。そこにでもよー、とさらに別の男の声が割り込んでくる。

 

 「殺すにしてもこの近辺でやるのだけはやめてくれよな!そしたら直人も困るだろ、この店使いにくくなるぜー?」

 

 「本名を言うなって言ってるのに・・・。あぁ、分かってるよ真一郎。」

 

ここまで黙っていた咲世子は、一番話してくれそうな真一郎と呼ばれた男に問いかけた。

 

 「あなたたちはお互いに知人なのですか?でも私の横にいらっしゃる直人さんという方は、失礼ですが残りのお二方とは別世界の住人のように見えるのですが。」

 

 「んなこたぁー俺が一番知ってるわ、直人が俺ら2人とは出来がちげーってよ!!だけどな、直人のためなら俺は喜んで働くぜ、なんたって親友だからよ!」

 

玉城の答えに咲世子は、これは素直に腹を割って話したほうがいいかもしれないと思い、自分の目的を3人に正直に話した。

 

 「そうですか、ところで、日本軍についての動向を知っているのですか?もし知っているのなら、教えてくださいませんでしょうか?」

 

 「なぜ、俺たちが知っていると思う?物的証拠はないし、状況証拠としても、俺とそこの男が列車の中で軍部、ブリタニアと言ったというだけの、弱いものだ。」

 

 「信じてもらえるかどうかはこの際、問いません。私は皇神楽耶様からとある依頼を受けて、日本軍とブリタニアの動向を探ろうとしているのです。ですので、たとえ弱い証拠であっても逃すわけにはいかないのです。」

 

咲世子の言葉に背の高い天然パーマが、直人へ声をかけた。

 

 「なあ、俺たちの目的を言ってもいいんじゃないか?あの、『京都六家』の皇神楽耶様の伝手ってことは、俺たちが味方するべき相手なんじゃないのか?」

 

この言葉に直人が冷たく返す。

 

 「この女が皇神楽耶様とどう関係しているのか、明確な証拠がない。見せられれば別だが、そんなもの、持ってないだろう?」

 

早速使いどころが来たな、と咲世子は懐から組紐で縛られていない桐箱を取り出し、直人に見えるよう掲げた。

 

 「ん?・・・それは・・・、本当に神楽耶様の・・・?」

 

 「はい、有事の際はこれを見せるよう言われております。これで証明になりますか?」

 

 「・・・中身はまだ見ていない。開けて中にある書状を見せろ。」

 

では、と咲世子は箱を開け、中にある任命状を直人の目の前に突き出す。間違いなく、天皇家のみが使用できる菊の御紋が朱印で捺された正式な書状だった。咲世子のこめかみに当てられていた銃が下ろされる。

 

 「確かに確認した。はぁ、分かりました、我々が知っていることを貴女に教えましょう。ここで話せば外に漏れる可能性がある。奥に行きましょう。・・・貴女のお名前は?」

 

書状を見て態度を改めた直人は咲世子を協力者として取り込めないか考え始めていた。

 

 「篠崎咲世子と申します。」

 

 「では、篠崎さん、奥へどうぞ。真一郎、店は通常営業していてくれ、あとで結果を教える。要、奥に行くぞ。」

 

こうして咲世子は、未だ目的を掴めていない相手とともに店の奥へと続く通路へと消えていった。




ラウンズの機体は、原作ではそれぞれのラウンズに直属の技術チームがついて専用機体を開発していますが、スザクの下についた特派の新名『キャメロット』しか技術チームの名前がわからなかったので、こちらでは特派が一括でラウンズの機体を開発・整備していることにしました。新たな組織名として、特派には新しいチーム名を付けようと思います。
あとせっかくラウンズの一員なのに、原作では特に円卓の騎士の名を冠した専用機体を所有していないノネットさんにオリジナルで専用機体をプレゼントしました。

『京都六家』のメンバー、名前に漢字を当てられていないキャラクターもいたので、当て字をした上で、姓から連想される役割を後で与えようと思います。

はい、覚えている人は覚えているでしょう、直人は『紅月ナオト』です。おそらくですが、ブリタニア人とのハーフかなと思ったので、勝手に漢字を当てました。
漢字が当てられていない日本人名のキャラには基本的に漢字を当てています。

オリジナル設定はこれくらいでしょうか?
少し、というより5000字くらい多くなってしまいました。次もこれくらいになるかも?


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肆話:急襲準備

評価の高い方の書いたものを読むと、あぁこんな書き方もあるなとつくづく勉強になります。あとは世間一般で評価されている作家さんとかの作品もいい勉強になるので、もっといろんな本を読まなければ・・・。


 寥々とした大地にKMFがせっせとコンクリートでできた四角いブロックを積み上げていく。ここはアッツ島。ルルーシュを指揮官として出撃した北海道急襲軍は、敵に発見されることもなく順調にアッツ島まで辿り着いていた。到着した直後から臨時基地建設に取り掛かり、半分ほどまでの作業工程を終えたところである。次の日の、日の出までには基地を完成させなければならないことから、ラウンズ直属だけでなく、ラウンズ本人たちまでもが作業に従事していた。ちなみにルルーシュも最初だけ手伝ったが、体力のなさから早々に物資整頓及び管理のためアヴァロンの中へと引き戻された。

手早く資材管理を表にまとめたルルーシュは、アヴァロンに届く基地の建設進捗の報告を見て頬を緩ませる。

 

 「基地建設は順調だな。よし、あとは周辺の詳細な地域把握とそれに沿った基地防衛計画の策定さえすればいいだろう」

 

それには連れてきた100名ほどの中から4人の班を5つ作ってアッツ島内部と周辺を調査させる方向で、と考えていたところにロイドを連れたジェレミアが近寄ってくる。

 

 「殿下、基地建設はほぼ予定通りの時刻に完成します。そこで、そろそろ島内の探索と周辺地理の把握をしようと思うのですがいかがでしょう?」

 

 「俺も今それを考えていたところだ。ジェレミア、早急に4人ずつ組ませた班を5つ編成し、西を中心に探索を、」

 

そこでロイドが手をわちゃわちゃさせながらジェレミアとルルーシュの中に割って入ってきた。

 

 「殿下、そこで提案なのですが・・・。ユーウェインのデータを取りたいのです、島内探索をエニアグラム卿に任せていただけませんか?それと殿下のガウェインですが、そちらもデータを取りたいのでお暇な時に特派に来ていただけるといいのですが」

 

 「・・・実戦前の試験運用か。分かった、ロイドはすぐにエニアグラム卿を周辺探索へ向かわせろ。それとガウェインのデータ取りはあとで特派に向かうからそれまで待っていてくれ。ジェレミア、編成はそのままでアッツ島周辺海域の探索を任せる。それとキューエル卿を呼んでくれ」

 

 「「イェス・ユアハイネス」」

 

ロイドとジェレミアが駆け出していく姿を見送り、入れ替わりで来たキューエルに声をかける。

 

 「キューエル卿、貴方には補給路の確保を頼みたい。アッツ島までの道に少しづつ兵を置いてきたが、アラスカとの補給路を確立しておかねば私たちは動けなくなる」

 

ルルーシュの言葉にキューエルは少し顔を顰めて問い返してきた。

 

 「殿下、それは私を前線から遠ざけるということですか?」

 

 「あぁ。騎士としてはやりたくないと思うのは無理ないことだが、こればかりはどうにもならん。私に回されてきた直属の中で、熟知できているのはジェレミアだけだ。貴公とヴィレッタはまだよく把握できていない、能力の正確な把握という意味でもどういうことが向いているのか知りたいのだ」

 

 「・・・そういうことでしたら。では、ヴィレッタもお付け下さらないでしょうか?伸びきった補給路は維持することが難しい。そのためにも、気心知れる者と連携をとって行いたいのですが」

 

 「いいだろう。ただ、ヴィレッタはジェレミアの副官だ。先にジェレミアに確認を取っておけ。あとで面倒なことにならないようにな」

 

 「イェス・ユアハイネス」

 

これで補給路の心配もひとまずはなくなった、ではロイドのところに行くか、とアヴァロンのハンガーへと足を向けた。

 

 

 通路からハンガーを覗いてみると、ちょうどランスロットのスザクを載せての初期起動が終わったようだった。ユーウェインがないところを見ると既にノネットは探索に出かけたらしい。ランスロットの横に置いてある様々な機器とモニターから目を離したロイドがルルーシュに気付き声をかけてくる。

 

 「あ、殿下~、ちょうどいい頃合いに来ましたね。それにしても殿下のお知り合いはとびきり優秀なパーツが多いですね、枢木卿なんてランスロットの初期起動で適合率95%超えましたよ!エニアグラム卿も凄かったですけど、KMFの操縦技術においてはあのマリアンヌ様に迫るものがありますよ枢木卿は!」

 

 「そうか、お気に召して何よりだロイド。スザク、ランスロットの乗り心地はどうだった?」

 

 「シートの座り心地って意味だったら最悪もいいところだけど、機体性能のことを言ってるなら今の僕にとっては最高だよ!士官学校で少しだけ乗らせてもらったKMFとは大違いだ、少しだけ腕を回したりした程度だけどハッキリ違いが分かった。あとは実際に出撃してみてのお楽しみだね」

 

 「そうか、流石ロイド、KMFにかける情熱は桁違いだな」

 

 「それはもう!では殿下、あちらをご覧下さい」

 

ロイドに促され見やった方に通常の1.5倍ほどの大きさの黒いKMFが鎮座していた。機体の大きさもそうだが、両肩についた金色の突起、背面に見える赤い6本の光背にも似た細長い爪のようなものが印象的な機体だった。近づいて横から眺めると、両肩も全面に向けて盛り上がっている。

 

 「・・・これがガウェイン・・・。でかいな」

 

ルルーシュの無意識の呟きに敏感に反応したロイドが説明を始める。

 

 「そうです殿下、これが我が特派の試験段階のドルイドシステム、フロートシステム、加粒子砲の一種であるハドロン砲を実験的に組み込んだガウェイン!ドルイドシステムとは、現在KMFに搭載されているファクトスフィアをさらに発展させた解析装置で、多次元の分析・解析作業が一瞬でできる電子解析システムです。フロートシステムとハドロン砲は、って殿下に説明するまでもないか~、枢木卿でもあるまいし」

 

ロイドさんそんなに言わなくてもいいじゃないですか、と膝を落として涙を流すスザクをよそにロイドがルルーシュに向かって喋り続ける。

 

 「ガウェインの一番の問題はドルイドシステムによる火器管制、通信管制とかの制御と機体操縦の両立が非常に難しい点です。なので複座式になってますが、とりあえず、ドルイドシステムの制御でフロートシステムが正確に作動するかが知りたいことなので殿下おひとりでも動かせると思います。」

 

 「何はともあれ、乗ってみないことには分からん。ロイド、セットアップは頼む」

 

 「りょうーかーい!」

 

気が抜けるロイドの返事にルルーシュは苦笑しながらガウェインへと乗り込む。内部を見るとロイドの言葉通り複座式で、前部座席は通常のKMFの操縦桿、後部座席には通常のKMFの操縦桿に加えて、両側からキーボードのようなものが飛び出ている。おそらく後席に付いているキーボードがドルイドシステムの制御をおこなうためのインターフェイスなのだろう。これを一人で操作するとなると確かに骨を折りそうだ。

 

 「ロイド、今回のテストはアヴァロン内で動かすのか?」

 

 「いえ、殿下、実際に外を飛んでもらってデータを取りますよ。大丈夫、操縦は枢木卿に任せればいいので!」

 

 「・・・いや、操縦も俺一人でやってみよう。それにスザクはランスロットがあるし、実戦になればペアがいない限り俺一人で動かすことになるのだろう?」

 

 「それはその通りですが、よろしいのですか?」

 

 「操縦を後部座席でも行えるかどうかのみが問題だ。あとは俺の技量と慣れで何とかなる」

 

 「了解しました。では、ドルイドシステムに操縦プログラムも組み込みますので、少々お待ちを~」

 

そういうや否や、ロイドは脚立をガウェインの頭部にかけて大きなソケットを持って上がり、頭部装甲をひっぺはがし無造作にソケットを差してガウェインの横に持ってきたパネルを覗き込んでキーボードを叩き始めた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 「うぃーさみぃー!」

 

ルルーシュから出された指令によってユーウェインの試験運用を兼ねた島内探索にでたのは良かったが、空一面曇り模様に加えて準備してきた防寒具がやや足りなかったようでノネットは先ほどから寒い寒いと文句を繰り返していた。それは通信を開いているセシルのほうにも届いていたようで、微苦笑しながらノネットがいる周辺地域の地形情報を転送してくる。

 

 「エニアグラム卿、防寒具が足りなかったのですか?あ、そこから先クレバスに注意です」

 

 「はいよ。いやー、防寒具は仕方ないとしてもKMFの中がこれだけ寒いとか聞いてないよ、エネルギーの放出熱で少しは暖かいと思ったのに」

 

ノネットはぶつくさ言いながらも手元にある操縦桿を握りなおして集中する。今動かしているのはノネットが搭乗している本体のユーウェインではなく、ユーウェインから分離した『ライオン』だ。ガウェインとは比ぶべくもないが、それでも一般のKMFに比べると遥かに性能の上回る簡略化されたドルイドシステムを介して、『ライオン』に搭載された碧の目の形をしたカメラから周囲の情報を得ては予測を付けて雪山の中に『ライオン』を突入させる。それがここ1時間ほど続けられていることだった。

 

 「仕方ありませんね、実験機な上にまだ脱出装置もつけられてませんからコックピットと外との壁が薄いですし。その上、今は『ライオン』のほうを動かしている状態ですから本体が寒風に晒されている現状、機内の温度は下がる一方です」

 

セシルの続く言葉にノネットは少しだけ驚いた。

 

 「へ?こいつ、脱出装置付いてないの?」

 

 「え、ロイドさんから聞いてませんでしたか?!」

 

 「うん、聞いてないけど」

 

画面の向こうでセシルが黒いオーラを発し始め、あぁこれはロイド死んだな、と少しの哀れみをロイドへ送った。まぁ、言わなかったロイドが悪いのだ、長々とした説教で終わることをロイドは祈るほかないだろう。やがてセシルの、ロイドへの呪詛にも似た文句が終わり先程までと同じように事務的な連絡のみを行いあう。

正直つまらないものだ、本来ラウンズとはこんな地味な役はやらず、皇帝の刃鋭き剣として一騎当千、万夫不当の気概を持って敵軍を打ち破るのが仕事であり、使命だ。何か退屈凌ぎになるものないかなー、とノネットが思案を巡らしていたところにセシルの緊張した声が耳に入ってくる。

 

 「エニアグラム卿、上空西方向から所属不明の機影を複数確認しました。至急確認お願い致します。」

 

お、これは?、とノネットは昂り始めようとする己を鎮めながらセシルに了解して、『ライオン』の頭部を上空へ向けて偵察し始めた。普通の映像からは何も感知できないが、サーマルビジョンを通して観察すると、すぐに青紫に映る空の中にオレンジ色の点がぽつりぽつりと姿を現す。

 

 「これはマズいかも。セシル、すぐにルルーシュに連絡とって。あたしはこのまま偵察を続けるからその情報をそのままルルーシュに転送し続けて。アウト」

 

セシルの返事を聞かずに一方的に通信を切ったノネットは、遠距離まで届く武装があるかユーウェインを確認し始めた。ランスロットよりほんのすこしあとに製作が始まったユーウェインには、基本的にランスロットと同じ武装を装備していて、ないのはヴァリスくらいだ。この場面でヴァリスがないというのは痛いが、この機体のコンセプトを考えると近接を中心にした武装が大半を占めるのは仕方のないことだろう。

それでも何か、武器になり得るものがあれば牽制の意味合いでこの場に縫い留めることができる。そう考えながら、パネルに映る武装スロットをしたまでスクロールしていくと、『ライオン』のタブに何かあった。クリックしてみるとハドロン砲、とある。どのように使用するかを確認すると、ユーウェイン本体に『ライオン』を再接続すれば発射できるようになるようだった。

ならば、と偵察に出している『ライオン』を、上空を偵察させながら全速力でユーウェイン本体へと戻す。来た道を引き返すだけだ、注意する必要のある所はすでに確認済み、あとは所属不明機群がどう出てくるかだ。そう考えながらパネルを睨んでいると、青紫に映る点々が俄かに赤く、大きくなり始めた。

 

 「おいおい、確認もなしに射撃体勢に入るつもりかよ頭大丈夫か?」

 

未だこちらが何者かわからないはずであろうに、勧告も警告もなしに射撃体勢に入るとは根性のあるやつらだ、とノネットは思いながらオープンチャンネルを開いて声を張り上げた。

 

 「こちら神聖ブリタニア帝国軍所属、ナイトオブラウンズが一角、ノネット・エニアグラムだ。当方はそちらの熱源を感知した。そちらの所属を明らかにせよ、繰り返す、そちらの所属を明らかにせよ。」

 

返事はない。これはいよいよ日本軍かもな、と思い始めたところにルルーシュから直接通信要請が届いたのを見て、迷わず開く。

 

 「エニアグラム卿、所属不明機を複数確認したらしいな、現状は?」

 

 「ただいまこちらの所属を明らかにした上で所属を問いましたが応答しません。奴ら、どこの、お?」

 

ルルーシュに返答していたところ、所属不明の機影が旋回していることを確認する。

 

 「どうした?」

 

 「奴ら、旋回しています。元来た道を引き返すつもりのようです」

 

 「まずいな、こちらの行動が筒抜けになる。エニアグラム卿、牽制程度になる武装はあるか?」

 

 「あります、牽制程度でよろしいのですか?やろうと思えば撃墜できると思いますが」

 

ノネットの回答にルルーシュは少し逡巡した後、ノネットに命令を下した。

 

 「なるべく牽制に留めてほしい。逃げられそうなら撃墜せよ」

 

 「イェス・ユアハイネス」

 

通信を開いたまま、本体と合流を果たした『ライオン』を変形させる。頭部は上下に開き、前足は地面に固定され、後足はユーウェインが持つハンドルとなり、尻尾のように上を向いていた通信用アンテナは根元から折れ曲がって『ライオン』の胴体上部にぺったりと張り付き照準器となった。所謂固定砲台というやつだ。モニターにはパネルに映してあったサーモが全面に映し出され、そこにハドロン砲照射時の予測射線が表示されている。

 

 「では、いっちょ撃ってみますか!」

 

そう言うと、ノネットは射程が伸びるよう本体のエナジーも固定砲へと充填していき、充分なエナジーを確保したことを確認した後、ハドロン砲を発射した。

 

禍々しいまでの赤の射線が大地から天へと槍投げのように突き抜けた。そのあとには、空を覆う雲から一点の陽光が大地を照らし始める。

 

ハドロン砲の牽制射撃を受けた所属不明機群は慌てふためき、その場をさらに旋回、ユーウェインへと突撃してきた。そこにもう一発、ノネットはハドロン砲を撃ち上げる。機体には当てていないが、すぐそばをとんでもない熱線の塊が通り過ぎるのだ暑いなんて生易しいものではないだろうに、それでも所属不明機は揃って突っ込んでくる。そこに10体の小さな飛翔体がユーウェインの背後から飛んできて、所属不明機の翼をコックピットに当てずに切り裂いていき、すべての所属不明機が翼を折られ、天から落ちていった。

ノネットが背後を確認すると、上空に腕を前方に突き出しているガウェインの姿があった。その下をランスロットが猛スピードで所属不明機へと駆けていき、自分を瞬時に通り過ぎていく。これは所属不明機のパイロット捕獲が目的だ、と気づいたノネットは固定砲から本体を切り離し、ランスロットの後を追随した。ランスロットは次々と落ちてくるコックピットを受け止めては地に転がし、転がしては受け止めて、とまるで軽業師のようだった。

ノネットもそれに倣い、落ちてくるコックピットを受け止めていたが、パイロットが逃げないよう、MVSを起動させ構えておく。そこにルルーシュの声が空から降り注いだ。

 

 

 

         ◆          ◆          ◆

 

 

 

 ルルーシュは、スザクがコックピットを受け止めているのを空から眺めながら、そろそろか、と頃合いを見図ってオープンチャンネルを開いた。

 

 「所属不明機に搭乗していた諸君に告げる。当方は神聖ブリタニア帝国軍である。投降せよ。おとなしく投降するならば、ハーグ陸戦条約に則り捕虜としての身分を保証する。再度勧告する、投降せよ、投降するならば捕虜としての身分を保証する」

 

これで少しは降りてくるはずだ、と高を括ったルルーシュは次の瞬間信じられないものを目にした。

 

「なっ!」

 

翼をもがれた鳥から出てきた所属不明の人々は、腰元のホルスターから拳銃を抜いたかと思うと次々に自らの頭部を撃って自決していったのである。止める間もなく、全員が一瞬の迷いすら見せず死んでいった光景にルルーシュは大きく動揺した。人が死ぬ光景を初めて見たこともショックだったが、それよりもなぜ死を選んだのだ、という疑問が頭の中を支配する。

空中に浮遊させていたガウェインを地上に下ろし、既にそれぞれの機体から降りたスザク、ノネットの下に走り寄る。スザクは立ち尽くしたまま握り拳をこれでもかというくらい握り込んで目を(つぶ)っていた。ノネットは手近な死体に向かって黙祷(もくとう)した後、死体の横に転がっているコックピットの中を調べ始めていた。スザクの横に立ったルルーシュはスザクにどう声をかけたものか、迷ったがスザクが先に口を開いた。

 

 「ルルーシュ、これが今の日本の姿だ。間違った考えを持った奴らによる統治の結果だ。僕は認めない。正当な手順を踏んで統治権を得た者のみが正しい政治を行える、そして僕はそれを実行するために戦う」

 

 「まだ、この所属不明の人々が日本人とは限られた訳じゃないだろう」

 

 「いや、日本人だよ。ほら、そこのマスクを取った顔、見えるだろ?あれは日本人の顔立ちだ」

 

かつて日本に旅行に行ったことのある程度で顔立ちだけでは判別がつけられないルルーシュだが、スザクがそういうならそうなのだろう、と思い、スザクから離れてノネットのほうへ足を向ける。

 

 「ノネット、何か見つかったか?」

 

 「あぁ、ルルーシュ、さっきはありがとう。見つかったよ、3つ調べたけどすべてにこれが貼り付けてあった」

 

そう言ってノネットがルルーシュへ差し出した(てのひら)には白地に赤い丸が縫われた小さな布切れだった。見るも明らか、日本の国旗だ。スザクの言う通り、彼らが日本人であった事実と何も言わずに死んでいった光景にルルーシュは胸が張り裂けそうだった。

 

 「なぜ死んだのだ、たとえ恥辱であろうとも生きていればいくらでも(すす)ぐ機会はあるはずなのに・・・」

 

 「そう教育されている可能性もあるけど、・・・ルルーシュ、ギアスが絡んでいる可能性も否定しきれない。何も言わずに自殺なんて普通はおかしい、裏があるぞ、これは」

 

ノネットが発したギアス、という言葉にルルーシュは感情を押し込めて、頭の中で計算を始めていた。ノネットの言う通りだ、いくらそうあれ、と教育されていたとしても一瞬は迷うはずだ。人間であるならば、回顧し、自らの将来を予想しそれに絶望してなお、自殺できない人だっている。それが全員が全員、あっさりと命を投げ出すなど本来あってはならない事態だ。となると、条件付けのギアスを何者かにかけられていた可能性が高い。

そう考えると、ハッキリと日本の背後に何がいるのか分かり始めた。日本の背後にギアス嚮団がいる。しかも軍の末端にいるであろうパイロットたちにかけられるということから、日本軍部の中央まで入り込んでいることになる。これは相当厄介なことになるだろうな、とルルーシュは早速本国に連絡するべき事項が出てきたことに嘆息した。ルルーシュは再起動したスザクの肩を叩いてから、スザクとノネットに命令した。

 

 「スザクとノネットはこの場を保持しろ。敵機を認知した場合は即刻撃墜させ、所属不明の場合は友軍の場合を除きこれを排除せよ」

 

そこにノネットが質問してくる。

 

 「もしE.U.軍だった場合はどうしましょう?」

 

 「いずれ戦端はE.U.とも開かれる。向こうが撤退しない場合は撃墜していい、責任は俺が取る。これから俺は回収部隊を呼ぶからそれまで2人で頼む」

 

 「「イェス・ユアハイネス」」

 

2人を残したルルーシュは基地へと全速力で取って返した。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 基地に着いたルルーシュはロイドとセシルを呼び出し、予備のエナジーフィラーを4つ持って、スザクとノネットの下へ急行させた。その次に、島周辺部の探索に出ていたジェレミアを基地に呼び戻し再補給させたうえで死体とコックピットの回収へと向かわせた。これが終わると、コーネリアに通信を求め、本国との中継を頼みシュナイゼルに会見を求めた。長めのコールが続いたあと、少し眠そうなシュナイゼルが顔を出した。

 

 「宰相閣下、夜分遅くに申し訳ありません。ですが至急連絡いたしたい議がございましたので、」

 

 「いいよ、ルルーシュ、これは帝室専用チャンネルだ、変に畏まらないでくれ」

 

 「では。兄上、日本軍にギアス能力者が紛れ込んでいる可能性があります。さきほど、アッツ島に日本軍機が少数乗り込んできたので撃墜し、尋問を試みましたが瞬時に自害されて果たせませんでした」

 

ここで中継をしているコーネリアが声を挟む。

 

 「それはそういう風に教育されていたとかではないのか?」

 

 「それは考えましたが、それにしては自害するまでが早すぎたのです、姉上。普通、どれだけ自殺しようと思っても、少しは逡巡するはずです。ですが彼らは、戸惑いなく自害しました」

 

 「その様子から日本軍内部にギアス能力者がいるのでは、と?」

 

 「はい兄上。もっと言うならばギアス嚮団そのものが日本軍を裏で操っている可能性があるのでは、と俺は思ってます」

 

 「・・・いよいよ動き始めたということか。ルルーシュ、周囲には気を付けるんだよ?今C.C.を君のほうへ向かわせているが、コーネリア、C.C.はそちらに着いているかい?」

 

 「既に到着し、大量のピザを入れたコンテナを補給部隊に引き渡してからルルーシュのいるアッツ島へと向かっていきましたが・・・。兄上、C.C.を皇宮の外に出してよかったのですか?」

 

 「本来ならば避けたい事態だが、ルルーシュは契約する前に出撃してしまった。ギアスを持たずに皇族が皇宮の外を歩き回るのは本当は帝室の暗黙の了解に反することなんだがね」

 

シュナイゼルの言葉に勢いに乗って出撃してしまったルルーシュとそれを失念していたコーネリアは、揃って、うっ、っと詰まったがルルーシュが何とか立て直す。

 

 「それは申し訳ありませんでした、兄上。しかし、兄上がC.C.をこちらに遣わすことでその問題も消えます」

 

 「あぁ。あ、それとルルーシュ、C.C.はそのままそちらで預かっていてくれ。また連れ戻して駄々をこねられると私も父上も痩せるほど辟易する、頼んだよ」

 

 「え、はっ?」

 

ルルーシュが困惑した声を上げた瞬間にシュナイゼルを映していた映像タブは砂嵐に覆われた。中継していたコーネリアがルルーシュに目線を移し、語り掛けてくる。

 

 「ルルーシュ、日本軍が現れたと言っていたが、被害はあったのか?」

 

 「大丈夫ですよ、姉上。先に発見したのが特派のセシル嬢とエニアグラム卿でしたので、エニアグラム卿に押さえてもらって俺とスザクで撃墜、捕獲しました。被害はありませんでしたよ」

 

 「そうか、それはよかった。こちらはアラスカに軍を集結し終えたところだ。今夜に出撃、明日の未明にハワイ基地に襲撃をかけるつもりだが、それでいいだろうか?」

 

 「構いませんよ、姉上。こちらは姉上の襲撃のタイミングを見計らって北海道に急襲をかけることにしましょう」

 

 「そうすると、今夜に同時出撃だな。だが、ルルーシュ、C.C.を待ったほうがよいのではないか?兄上もああ言っていたし、ギアスの契約をしてからでも遅くはないと思うが」

 

 「そのことなのですが、特派が建造したガウェインという機体を私が搭乗することになったのですが、複座式なのでいざとなったらそこに一緒に入ってもらうことになると思います。その時に契約するほうが手っ取り早くていいと思いますが、どうでしょう?」

 

 「・・・いいのではないか?私はあまりあの者が好きではない、煙に巻かれている感覚がどうにも好かん、奴が嫌いそうなことをお前がするなら全面的に賛成だ」

 

 「酷いですね、姉上。俺は少ししか会ったことがないのでよくわかりませんが、まぁ仲良くしてみましょう」

 

巻かれるなよ、と念を押すコーネリアに、笑いながら分かりましたよ、と返したルルーシュは通信を切った。その後、死体と機体を回収したジェレミアの部隊と共に帰ってきたスザク、ノネットに今夜襲撃をかけること、そのために今から仮眠を取るよう促し、ジェレミアには死体の火葬を頼んだ。ロイドとセシルには回収した機体からデータを抽出するよう命じると自分も仮眠をとるためアヴァロン内にある仮眠室へと向かい、寝台に寝っ転がるとすぐに意識が微睡の中へと落ちていった。

 

 夜の帳が下り室内の寒さに目を覚ましたルルーシュは、自分の寝ている寝台に無理やり入り込もうとしている人影と目が合った。

 

 「ほおぁっっっ?!」

 

ルルーシュの上げた奇声にその人影はくくくっ、と可愛らしく、くぐもった笑い声を上げた後ルルーシュを寝台の奥へ奥へと押しやると、壁と自己の間にルルーシュを挟み込み機先を制して挨拶をした。

 

 「やぁルルーシュ、私はC.C.。初めましてではないが、よろしくな」

 

 「お、お前がC.C.か。幼いころに母の隣にいたような覚えしかないが・・・」

 

 「あぁ、あのあとはひたすら遺跡を調べていたからな、マリアンヌやシャルルとは顔を合わせることが多かったがお前たちとはなかったな。それにしても、マリアンヌに似て美しく育ったな、貰ってやってもいいぞ?」

 

 「なっ、誰が婿に入りに行くかっ、冗談にしては面白くないぞ?!」

 

 「ふふっ、ちゃんと冗談とわかっているじゃないか」

 

そう言うと、C.C.は腕をルルーシュの首に回し抱き着く。いい匂いだ・・・、このままもう一度寝るか・・・、などとトリップしかけたルルーシュは、はっ、としてからC.C.腕に手をかけて体を離そうともがいた。

 

 「離れろ、そろそろ出撃だ。おいっ、聞いているのかっ」

 

 「聞いているとも、だがお前にはギアスを授けなければならない」

 

 「っ、そ、そういえばそうだったな。いいだろう、ここでやろう」

 

C.C.はルルーシュの首から腕を(ほど)くと、ルルーシュの手をおもむろに取った。その直後、C.C.の額に前髪で隠されていた緋色の紋章が光り始めたかと思うと、ルルーシュは真っ白な世界にいた。そこに脳内に直接語りかけてくるようにC.C.の声が厳かに響く。

 

 「これは契約、王の力をお前に授ける。その力はお前を孤独にするが、お前が本当に望むものを与えてくれる、・・・」

 

その声が聞こえた後、ふと我に返ると、先程と同じようにC.C.と一緒に寝台に横たわっている自分がいた。体を起こして、異常がないか確認するが、特に何もない。疑問に思ったルルーシュは隣に未だ寝そべっているC.C.へと問いかけた。

 

 「本当に契約は為されたのか?」

 

 「あぁ、だがギアスとは本当に自分が望むものに至るために必要な力を具現化するもの、死に瀕するようなときにやっと発現するものだ。今はまだギアスが覚醒していない、皇族では今はシャルルとマリアンヌくらいしかギアスは発現していないだろう」

 

 「そういうものか。まぁいい、これで契約は成された。C.C.、お前はどうする?ここに残るか?」

 

 「そういえば出撃するのだったな、暇だ、私も連れていけ」

 

 「い、いや、俺は別に戦場に立つわけではないんだが・・・」

 

 「ならお前も出撃しろ、私は暇だ」

 

 「俺は指揮官だ、基地を離れるわけには、」

 

 「屁理屈をこねる奴は嫌いだ、さっさと機体に乗り込んで出撃しろ、私も付いて行ってやるから」

 

 「なんて横暴なっ、もごっ」

 

C.C.の言葉に文句を言おうとしたルルーシュの口に手を当て、ルルーシュの右手を引っ張って立たせると、C.C.は意気揚々、アヴァロンのハンガーへとルルーシュを引きずっていった。

 

 不本意ながらも、ガウェインに乗せられたルルーシュは、仕方ない、と諦め、前部座席に乗って明らかにワクワクしているC.C.を無視して、パネルに映っているスザク、ノネットに声をかけた。

 

 「準備はいいか、2人とも」

 

まさかルルーシュも付いてくるとは思ってなかった2人は困惑しながらも返事をする。

 

 「あ、あぁ、僕は大丈夫だよルルーシュ」

 

 「あたしもいけるよ。それにしてもルルーシュ、お前は出撃しないものだと思ったんだが」

 

 「俺もそのつもりだったんだが、急遽予定変更で付いていくことになった。基本俺は後方で警戒に当たるから、指揮は予定通りノネットが執ってくれ」

 

怪訝な顔をしていたスザクとノネットだったが、まぁ戦場視察とでも思えばいいか、とルルーシュに聞こえない秘匿回線で喋りあった後、ノネットが声を張り上げた。

 

 「了解、じゃあ行くか!」

 

ノネットの掛け声にそれぞれ返事をした後、ラウンズとその直属部隊、それにルルーシュとC.C.を加えた一行は北海道の根室目指して、アッツ島を飛び立った。

 



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伍話:伝言

2週間更新できずすみませんでした。私用で北、南と往復したり、本読んだりしているうちに気づいたらこんなに時間が・・・。

ちまちま書き溜めてたつもりなんだけど・・・。


 アッツ島を出撃したナイトオブラウンズとその直属部隊、そしてルルーシュを加えたホッカイドウ急襲部隊は、隠密を徹底した行軍でエトロフ、クナシリ、シコタン、ハボマイの諸島を素通りし寝静まったネムロ上空へと到達することに成功した。時間は夜半の3時、雲によって月光が遮られていて夜襲をかけるにはいい条件だ。ノネットの号令によってそれぞれが再度武装の確認を行い、襲撃の準備を整える。

その間にルルーシュは上空から判別できる限りの建物をドルイドシステムに解析させ、ノネットへと情報を転送した後、部隊から距離を取った。C.C.は距離を取ったことが不満だったのか、後ろに座るルルーシュへと不平を口にした。

 

 「おいルルーシュ、なぜ距離を取る。時間帯も問題ないし天候もこちらの味方だ、私たちも参戦すればさっさと帰還できるじゃないか」

 

 「C.C.、こちらはラウンズが2人もいるのだぞ、戦力が過剰だ。それに、お前はともかくとして俺はホッカイドウ急襲軍のアタマだ、落とされるわけにはいかない」

 

 「なんだ、つまらん。お前はマリアンヌのガキなんだろ、敵の一機も撃墜して見せろ」

 

余計なお世話だ、とルルーシュは返したが、C.C.はこちらを見て小馬鹿にするように笑う。道すがら、このC.C.という女と会話をいくらか交わしてみたが、とにかく気分屋で行動の予測がつけにくい、とルルーシュは苦々しく思った。新緑を思わせる髪に月光を連想させる目をし、ほっそりとしながらも出るところはとことん出ている姿は見るだけなら妖艶な女だが、中身ですべてが台無しで、一度口を開けばこの女に対する淡い希望は、恒星が超新星を起こして砂粒すら残らいない様と大して変わらないまでに霧散する。

とりあえず言わせたいだけ言わせて後は無視すればいい、今はノネットとスザクの様子と敵の動き、目標物の破壊数と援軍の有無に目を光らせておかなければならない、とルルーシュは意識を変える。士官学校でも情報解析とその通達は演習を通して経験したが、それに加えて今回は敵援軍に備えて即応待機がある。要は敵からしてみればいいカモだ。

 

 「・・・俎上の魚にだけはならないようにしないとな。余計な負担をノネットたちにかけるわけにはいかない」

 

 「なんだ、だったら死中に活を求めればいいじゃないか。お前、そういうの得意そうだしな」

 

 「っ、聞こえていたのか。だが、そのような行き当たりばったりで事を運ぶのは悪手だ。予め想定しておけば余計な労力を割かずに済む」

 

 「前言撤回だ、お前は死中に活を求めるタイプではないな。むしろそのまま押し込まれて死ぬ」

 

 「黙れ魔女」

 

もう一言二言言ってやろうかと口を開きかけたが、そこにノネットからメッセージが自動音声を介して伝えられた。作戦開始。その短く、簡単なメッセージを受けて目を正面のモニターへと移すとちょうどノネットとスザクが先頭を競うように日本軍の空軍基地に突貫をかけているのが見えた。ユーウェインはまだフロートユニットを持たないため、KMF専用空輸機から脱着していたが通常のKMFより重量がある分、落ちるスピードが速い。そのまま、ランスロットとユーウェインはほぼ同時に敵航空機を踏み潰して着地した。

そのあとに続くようにラウンズ直属が次々と日本軍の基地へと着地していく。敵からすれば恐怖だ、なにしろ闇の中、上から踏み潰しにくる可能性を秘めた重量物が突然姿を現されれば驚かないほうが無理だろう。あとはラウンズ直属部隊が飛んでいる航空機を相手にどこまで立ち回れるかで、KMFがどの程度、既存の航空兵器に対抗できるかの指標の一部となる。

KMFの既存兵器に対する有効性は、ブリタニア国内の限定的な実験によって検証されていたが実戦では初めてだ。海はともかく、陸と空では絶対優位を確立した上で、KMFが既存兵器よりも安く、多く配備できることを示さなければならない。その為にも、ガウェインで戦闘映像は録画し、ロイドへの良い手土産としなければならない。今のところは動けない敵を一方的に叩いているだけだ、航空機が飛び始めてからがこの戦闘記録を残す意味を持つ。

 

 慌てふためいた日本軍が軍隊蟻のように列をなして逃げていく。所々に抵抗を試み、ヘリコプターに乗り込んで空へと舞い上がる者たちがあったが、それもラウンズ直属部隊によってスラッシュハーケンで矢継ぎ早に落とされていった。これでブリタニア帝国軍に配備されているKMFのうち、グロースター以降に開発された世代のKMFは対航空実用性が優位であることが確定した。早速ロイドへの土産ができたな、とルルーシュはほくそ笑む。そこにC.C.が声をかけてきた。

 

 「おい、お前が設定していた目標物のほとんどが破壊されたみたいだぞ。ルルーシュ、ノネットたちは掃討戦に移るみたいだが私たちはどうする?」

 

ふむ、と顎に手を添えてルルーシュは少しの間考え込む。ノネットたちが掃討戦に移行した以上、敵の援軍が来たとしてもこちらはさっさと撤退すればいいだけだ、リズムさえ崩されなければいくらでもなんとかなる。それに目標物を破壊できたということは、この基地に残存する敵兵力の無力化にほぼ成功したと言っていい。ならアッツ島にいる自軍をネムロ基地に呼び寄せて占領してしまえば、こちらはそのまま日本本州を攻撃する橋頭保を確保できる。

ここまで瞬時に思い巡らせたルルーシュは、来た道を戻って素通りした諸島を攻撃するために部隊を動かすことを決めた。手持無沙汰に面白くなさそうにモニターを眺めたり、横の小さいパネルを見ていじったりしているC.C.に返事を返す。

 

 「C.C.、お前が待ちに待っていた戦闘だ。先ほど素通りしたエトロフ、クナシリ、シコタン、ハボマイの諸島に部隊を動かす。アッツ島からでは1時間半ほどはかかるだろう、その間にスザクを連れて各個撃破する。」

 

 「やっとか。退屈すぎて死にそうだったよ、くふふっ」

 

 「・・・何か面白いことでもあったか?」

 

 「死ねないやつの死にたいジョークだ!・・・何でもない、さっさとお前がするべきことをしろ」

 

なんだこいつは、とルルーシュは思いながらも、バックアップとして連れてきたアヴァロンに乗っているロイドにアッツ島臨時基地へ中継を頼む。しばらくして繋がったモニターにジェレミアが映った。

 

 「殿下、お呼びでしょうか」

 

 「あぁ、ラウンズがネムロ基地を攻略した。ゆえに、このまま占領するため素通りした各諸島をこれから攻略する。ジェレミア、お前はキューエルと交代して補給路の確立、キューエルとヴィレッタはそちらに呼び戻してアッツ島を出撃させろ」

 

 「なんと、攻略してしまわれたのか・・・。分かりました、では」

 

 「待て。キューエルたちに伝言だ。早く来ないとスザクに全部取られるぞ、と。あとジェレミア、姉上にこちらの補給路確保を任せてお前も飛んできてもいいぞ、姉上なら何とかしてくれるだろう」

 

 「それは真にございますか!それは私もぜひ合流せねば!では殿下、失礼いたします!」

 

 「あぁ、頼んだぞ」

 

ジェレミアとの通信が終わった後、ロイドに戦闘録画を転送する。その間にも、ルルーシュはノネットと連絡を取りスザクを各諸島確保に向かわせてほしいことや、部隊の被害状況などを把握していた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 ノネットとスザクはルルーシュから連絡を受けた後、ノネットがネムロ基地の掌握、スザクが周辺地域の警戒及び巡撫に分かれて占領の準備を進めていた。

兵舎や司令部は破壊したが、倉庫が集まる区画は最優先で確保を目指したことで損傷は比較的軽微だった。これならあとはアッツ島から持ってくる物資を流用して簡易的な建物を建設さえすれば基地としての最低限の機能は復活するな、とノネットは心の中で溜息をこぼす。もし倉庫群が跡形もなく消えていたらルルーシュからネチネチと小言を言われること必至だ。

 一方、基地周辺の巡撫を任されていたスザクは基地周辺に点在する沼沢地という意外な敵に悪戦苦闘していた。

 

 「事前に配布されていた地図と実際の沼沢地の位置と範囲が違う?なぜ・・・」

 

そこにスザクの下に臨時で派遣された騎士たちのうち、北方出身の者がスザクの疑問に答えた。

 

 「時期が冬であること、そして上陸してしばらくして気付きましたが地面が柔らかいことから、雨や雪が降る季節はこういった状況になりやすいのではないでしょうか?」

 

 「これは思ったような地点防衛ができなくなるな。・・・この際、沼沢地は無視したほうがいいかもしれない」

 

 「し、しかし、それではせっかくほぼ損害なしで手に入れた基地をみすみす手放してしまうことに・・・!」

 

 「いや、ルルーシュはそうは考えないだろう。彼なら奪取した基地をそのまま前線基地として利用すると思う。それなら、沼沢地を抜ける道を探すか作るかを考えたほうがいいだろう」

 

 「・・・そうでしょうか?聡明なルルーシュ殿下のことです、おそらく防衛を主軸にして今後の作戦をお考えのはずだと思いますが?」

 

その北方出身の臨時の部下の言葉に他の騎士たちも同意し始める。ここで反論してもこの人たちは聞いてはくれないだろう、とスザクは開きかけた口を閉じた。シャルルの代から人種差別を徹底的に取り締まるようになったブリタニアは表面的には差別がないとされるが、それでもブリタニア至上主義のような人種差別は未だに根強く貴族や騎士の間に残っている。

カレンやドロテアなど、有色人種がその実力を示して高い地位にいることは最近になって認められてきたが、そもそも彼女たちはブリタニアの血が半分流れているのだ。自分は違う。純粋な日本人で一滴たりともブリタニアの血は流れていない。だから、貴族や騎士の者たちに侮蔑や嘲笑されることは昔から多かった。皇帝や宰相、ナイトオブワンに認められて最近ラウンズに入団したが、まだ自分の実力を疑問視している者たちが大半だろう。本国に帰ったらラウンズ直属騎士団を選抜することになっているが、一工夫考えなきゃな、とスザクは思った。

 

 そこにノネットからコールがかかる。すぐに応答すると、モニターにノネットの顔が映り込んだ。

 

 「ルルーシュからご指名だぞ、スザク。素通りした島々の掃討をルルーシュとお前の2人でやるってさ」

 

 「わかった。あ、でも僕に着いてきている騎士たちはどうするんだい?」

 

 「あたしが面倒みるよ。どうせ嘗め切った態度取ってるんでしょ?あたしが一発喝入れてやるよ。一旦ネムロ基地まで戻って来な」

 

 「了解、そこで交代だ」

 

通信を切り、部下に帰投を命令してからランスロットは最大出力で基地へと翔けた。

 

 

 ネムロ基地へ戻ったスザクは休憩もそこそこにエナジーフィラーを交換したランスロットに再び乗り込んで、ガウェインとともに海上へと飛び立ったところにルルーシュから通信が入りリンクを繋げて真っ先に尋ねた。

 

 「それで、ルルーシュ、これからどこに行くんだい?」

 

 「素通りした島々があっただろう?その島々に残留しているであろう敵部隊をこれから2人で掃討する。最初は一番北に位置するエトロフ島からだ」

 

 「それはなんでだい?ここからだったらハボマイ群島が目と鼻の先じゃないか」

 

 「単純にE.U.圏に逃げられると敵わないからだ。未だにブリタニアとは戦争状態に入っていないE.U.に入り込まれると余計な口実を向こうに与えるからな、それを阻止するために最北の島から順次南下して攻略するわけだ」

 

 「なら二手に別れて南と北の挟み撃ちにした方が良くないかな?」

 

スザクの尤もな意見にルルーシュは少し黙り、ややばつの悪そうな顔をしながら答えを返してきた。

 

 「まぁ、俺も最初はそう考えたんだが・・・。スザク、ノネットから聞いたぞ、ラウンズなのに侮られてるとな。俺はそちらをどうにかしたい。正直なところ、さっき言ったE.U.の問題が面倒というのは八割がた何とかなる問題だ。それよりも味方の士気のほうが気になる」

 

 「僕は別に構わないんだけど・・・。まぁルルーシュがそう言うなら」

 

 それからエトロフ島へと向かう中、自分の考えているラウンズ直属騎士団の選抜に関して、意見をルルーシュに求めてみる。スザクはどうするつもりなのか、と逆に聞き返されて、答えたのは自分が試験官となって1対1もしくは志願した相手全員と戦う、という至極単純なもの。理由は簡単、侮られているなら実力をもって相手を叩き潰す。昔から世界中で行われてきた伝統ある方法が一番だと考えたのだ。

ルルーシュの反応は左手で両のこめかみを抑えて大きな溜息だった。だが、その左手をどかした下には、苦笑しながらも面白そうだ、という表情が顔に浮かんでいた。

 

 「いいんじゃないか?他にもやりようはあると思うが、お前がどういった信念を持っているのかを示すという意味でも悪くはないと思うぞ?」

 

 「そうかい?てっきり僕は反対されるものだと思ってたよ」

 

 「反対はしないさ。諫言をするだけして、あとはお前次第だという風に持ち込むだけだ。だが、その方法で行くならやはり今回の諸島攻略、暫定でスザク単独で行わせて、俺はバックアップに回ろう」

 

 「いいのかい?」

 

 「あぁ、お前が打ち漏らした敵を俺が叩く。あとはお前の戦いぶりを録画して持ち帰れば、少しは他の連中もお前のことを見直すことにもなるだろうしな」

 

 

 エトロフ島に着いたランスロットは、島内に点在する敵の観測所やKMFが集合している前哨基地に突貫していった。まさしく獅子奮迅、万夫不当、破竹の勢いをもって次々に落としていき瞬く間にエトロフ島を制圧した。その勢いを保ったまま、クナシリ島へと突っ込んでいく。

 

一方でルルーシュは、アッツ島を出撃したキューエルたちをハボマイ群島へと誘導し、制圧させていく。個人と集団を比較するのも変な話だが、スザクほどの勢いはないものの、セオリーに沿った用兵で着実に島の一つ一つを潰していく様を見て、姉上はいい騎士たちを送ってくれたな、とルルーシュは満足しながら、C.C.にスザクの打ち漏らしを指定して攻撃させる。

 

スザクのラウンズとしての名誉の確立、部下の力試し、C.C.のガス抜きなどを一挙に行える現況は、ルルーシュにとってまさしく最も望んだ状況だった。すべてが上手くいっている、途中途中で作戦の変更が生じたが自分のおおよその予想からは外れていない。

 

 「フフフフッ、フハハハハハハハハハ!」

 

ルルーシュの高笑いは、C.C.が振り返ってルルーシュの脛を思いっ切り捻るまで続いた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 新宿歌舞伎町の一角にある『呑みや 玉城』の奥で、三者は改めて対面した。まず口火を切ったのは篠崎咲世子。

 

 「では、改めて。篠崎咲世子と申します。」

 

咲世子の挨拶に赤毛の青年がそれぞれ自己紹介する。

 

 「俺は紅月直人。ブリタニア出身だ。こちらは大学時代以来の友人で、扇要。それで、篠崎さん、貴女はなぜ日本軍の動きが知りたい?」

 

 「・・・具体的には申し上げられません。ですが、日本軍の動きを知ればブリタニア軍がどこにいるのか多少ではありますが予想がつくと思いましたので」

 

 「ということは・・・、ブリタニアに接触したいのか・・・?なぜ?」

 

 「その質問にはお答えできないのです。しかし、ブリタニアを排除したいというような考えからではないことは確かです」

 

咲世子の返答に直人はしばらく黙り込んで考えをまとめ始める。つまり、咲世子は皇神楽耶というとんでもなくビックな依頼人から、ブリタニアに穏便に、しかも秘密裏に接触したいという依頼を受けてブリタニア軍の来るであろう場所で待ち構えるということだ。おそらく彼女はただの伝達役、なら真意を問い質すべきなのは依頼人である皇神楽耶だ。とすると、問い詰めても彼女はほとんど何も知らないだろう、と結論を下すと直人は口を開いた。

 

 「なんとなくではありますが、理解しました。では、接触する相手はブリタニア軍ということでいいのですね?」

 

 「・・・いえ、本命は枢木元首相のご子息です。あの方は無事ブリタニアへと亡命できたと伺っております、その方を通して面識のあるブリタニア皇族と連絡を取り持ってほしい、というのが神楽耶様のご依頼です」

 

 「ブリタニアの皇族と?」

 

 「はい、以前日本に来日された皇族の方と面識があるようなので、その方を頼りたいとのことでした」

 

ここでまたも直人は考え込む。皇神楽耶は何を考えているのか。もう一度『京都六家』の亡命を企てているのか、それとも別の何かを求めているのか。いまいち何がしたいのか掴めない。

 こうして直人が考え込んでいる間に、咲世子は扇に質問していた。

 

 「あなた方は何を目的に動いているのですか?紅月さんはブリタニア人とのことですし、ただ単に大学の同窓会で集まったというわけでもないのでしょうし」

 

 「え、えぇと・・・、俺たちは今の日本の政治を何とか変えられないか、そのために活動しているんだ」

 

 「紅月さんとはどういう風に出会ったのですか?」

 

 「直人は元々ブリタニアの大学でサクラダイトについて研究していたんだ。そのサクラダイト関係で日本に留学してきて、新宿でやっていた政治家の街頭演説に訂正を入れていたのを聞いて俺が声をかけたのが付き合いの始まりさ」

 

 「そうなのですか」

 

そんなこんなで咲世子が扇と話していると、頭の整理が終わったのか直人が会話に加わってきた。

 

 「ご歓談中のところ悪いんだが、要、一旦お前に活動を預けてもいいか?俺は咲世子さんをブリタニアの皇族に引き合わせようと思うんだ」

 

 「別に構わないが・・・、今は厳しくないか?出入国制限でブリタニア行きは無理だろう?」

 

 「直接ブリタニアに行かなくても、皇族に引き合わせる手段はあるさ」

 

 「どうやって?」

 

 「それは秘密だ。言ってしまったら最後、お前も真一郎もこの国で生きていけなくなるだろうし」

 

 「・・・そ、そうか」

 

 「それじゃあ早速で悪いけど、咲世子さん付いてきて下さい。要、とりあえず1週間くらい頼む」

 

 「分かった。二人とも、気を付けて」

 

扇の言葉を背に、直人は咲世子を伴って『呑みや 玉城』を出て、新宿から政治の中心が集まっている霞ヶ関にほど近いブリタニア大使館に移動した。ほぼ顔パスの直人を見て咲世子は心の中で驚く。現況は日本にとってもブリタニアにとっても非常に微妙で、一瞬で崩落する橋のようなものだ。この状況下で大したチェックも行われずに大使館の門を潜れるということは、相当信頼度のある人物ということかもしれない。

 『呑みや 玉城』に入ったときは少し早まったかとも思ったが、ここまでトントン拍子で来ている。これはもしかしたらひょっとしたらひょっとするかもしれない、と咲世子は人知れず喜んだ。神楽耶から受けた依頼はまず枢木スザクとの接触、次に彼と交友があるであろう皇族に取り次いでもらうこと、この二つである。果たしてスザクがブリタニア皇族と交際があるかどうかという点は疑問があるが、一時は日本の実質的な最高権力者だった男の息子だ。伝手くらいはあるだろう。

 

 重要なのは枢木スザクを通してブリタニア皇族と接触するという一点だ。『京都六家』が秘密裏に行おうとしている計画は、亡命に成功した枢木スザクを連絡係に見立てて、日本の主権者の一人でありなおかつ日本の象徴として害される恐れが少ない皇神楽耶が、神聖ブリタニア帝国の主権者である皇帝と対等に話すことを前提としなければならない。もしこの前提を無視すれば、神楽耶は日本国民から売国奴として非難されることになり、また、戦争に負けた場合ブリタニアの傀儡にされる可能性が出てくる。

 

そんなことを考えながら大使館の守衛から検査を受け、すぐそばで待っていた直人に声をかけると、直人は少し顎をしゃくって大使館の廊下を奥へ奥へと進み始めた。それに咲世子は付いていくとやがて、エレベーターが現れ直人とともに乗り込む。咲世子がエレベーターに乗り込んだことを確認すると、二人を載せた鉄の箱は上へと少しづつ加速して上っていった。

 

 最上階に着きエレベーターの扉が開くと、そこは東京全体を一望できる全面窓ガラス張りの部屋だった。床は間違いなく高級な濃紺のカーペットが少しの隙間もなく敷かれ、奥には濃い色の木材で出来たどっしりとしたテーブルが置かれている。そのテーブルで書類を読んだり、サインしたりしている人物がおそらくブリタニアの特命全権大使だろう。その人物に直人が声をかけると、チラリと直人たちに目をやってから面倒くさそうに返事をした。

 

 「なんだ、私は見ての通り忙しい、余計な案件は抱え込んでほしくないのだがね」

 

 「申し訳ありません閣下、しかし特定資料の閲覧には閣下のご許可が必要ですので」

 

 「今度はなんだ、何が見たいのだ?」

 

 「軍の行動予定表と作戦概要とその結果に関連する資料を閲覧したいのですが」

 

 「・・・その横にいる女に教えるためにか?ならん、それに貴様は過去に何度か逆らって私の予定を台無しにした過失がある、おいそれと許可は与えられん」

 

この言葉に直人は少し顔を顰めると、少しお耳に挟みたいことが、と断って大使に近づき小声で何事かを囁いた。それを聞いていた大使の顔が一瞬大変化したのを咲世子は見逃さなかった。直人たちの入室以来明らかに不機嫌だという目が、欲望に火が付いた目へと一瞬だけ変化したが元の不愉快そうな目に戻る。それから大使は目を瞑ってしばらく考えると、目を開いてまた書類を確認しながら直人に言い渡した。

 

 「いいだろう、行動予定表に関しては無理だが、作戦結果の資料の閲覧は許可しよう。だが、先ほどの話、虚偽であったのなら今度こそお前は本国送還だ」

 

 「ありがとうございます。では失礼いたします」

 

そう言って、直人は咲世子を促してエレベーターに再度乗り込んだ。その扉が閉まる寸前、見えた大使の顔は気色の悪い満面の笑みだった。

 

 

 エレベーターを降りた直人たちは資料室に直行した。直人は大使の許可は得ていると突っぱねると、ブリタニア軍に関連する真新しい資料を残らずひったくって資料室を後にする。資料室の扉の横に待機していた咲世子の腕を取って引っ張り、急ぎ足で自分に与えられた事務室に向かい、着くと迷わず咲世子を先に押し込んで、自分も入室すると厳重にカギをかけて直人はほっ、と一息ついた。

 

咲世子を手近な椅子に座らせると、直人も椅子に座って先ほど資料室から奪取したブリタニア軍の資料を半分に分けて、咲世子に半分投げよこす。間違いなく部外秘の重要資料をポンと自分に見せるのはいかがなものか、と咲世子は思い直人に声をかけたが、すでに直人は心ここにあらずで、一心不乱に資料を片っ端から読み漁っていた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 帝都ペンドラゴンには皇宮に併設されてラウンズ専用の広々とした営舎がある。営舎とは言っているが、その実態は皇宮と遜色ない豪華さを誇るいわばラウンズのための宮殿で、その敷地にはラウンズそれぞれの私室はもちろん、談話室や娯楽室、大浴場といった憩いの場から、プール、射撃場に闘技場といった訓練場も備えている。その中のうち、食堂に四人のラウンズが集い昼食を取りながら会話を交わしていた。

 

 「紅月卿、個人的な会話を交わすのは初めてだな。私のことはドロテアでいい、何かあれば気軽に聞いてくれ、答えられる範囲で答えよう」

 

 「こ、こちらこそ!あ、あたしのことはカレンって呼び捨てにしてください、変に畏まったりするのあたし苦手なので・・・」

 

カレンはそうドロテアに返すと、隣に座るモニカ、目の前に座っているアーニャにも同じことを言う。改めて思うとすごいメンツだ、とカレンは思う。なにせナイトオブワンに比肩すると言われる女傑のドロテア・エルンスト、砲撃戦をさせたら右に出る者がいないと言われているアーニャ・アールストレイム、生身でもKMFでも世界屈指の狙撃の名手に数えられるモニカ・クルシェフスキーと同じ食卓を囲んでいるのだ。自分もラウンズになったのだなと否でも実感する。

そこにモニカが質問を投げかけてきた。

 

 「私のこともモニカでいいわ。せっかくだしカレン、貴女のご家族のことを教えてくれない?私も父の代にモスクワから移民してきた家系だから同じハーフである貴女のこと、結構心配しているのよ」

 

 「モニカ、それを言ったら私はどうなる。この黒い肌に黒髪、どこからどう見ても私も移民の家系ではないか」

 

 「エルンスト卿、貴女は家系なんて吹っ飛ばす実力の持ち主です、わざわざ喧嘩を吹っ掛けに来る人なんてヴァルトシュタイン卿くらいのものだと思いますよ?」

 

 「ほぉ、言うようになったなモニカ?今度模擬戦闘でもしてみようか?」

 

そ、それはちょっと、とドロテアに引きつった顔を向けたモニカにカレンはクスクスと笑うと、先ほどまで事務的な雰囲気だったのが一気に崩れ和気藹々とした空気に少しずつ変化していく。そこに目の前の眠そうな少女がモニカとドロテアに声をかける。

 

 「二人とも、イチャイチャしないで。カレンが家族のこと教えてくれるんだから」

 

 「アーニャ、私はイチャイチャなどしていない。モニカに私が移民の家系であることを思い出させようとしただけだ」

 

 「そうよアーニャ。だいたい、私とエルンスト卿じゃあ私の格があまりに低すぎてお話にならないわ。それよりもカレン、教えてくれない、家族のこと?」

 

いいですよー、とカレンは応じて自分の家族について語りだす。あまり好きではない貴族としてのシュタットフェルト公爵家に、日本から何も知らずに転がり込んだ母、優秀なのかそうでないのかわからないがとにかく優しい兄のことなど、自分が知っている家族のことを三人に聞かせた。話を聞き終わった三人は、よく聞く話の実例が目の前にいるのかと興味深そうにカレンを見ていた。一概に言い捨てできない問題だけに慎重にドロテアが口を開く。

 

 「移民の家系はいろいろあるが、大抵は貴族と貴族の政略結婚で生まれることが多い。が、純粋な恋愛結婚でシュタットフェルト家ほどの名家が移民の家系になるとはな」

 

 「そうですね、私の家もロシア貴族とブリタニア貴族の政略結婚でしたし」

 

 「ブリタニアは元々移民の国、私のアールストレイム家も遡ればたぶんドイツ系」

 

 アーニャの言う通り、ブリタニアは元々ケルトが居住していたブリテン島に、ゲルマン民族を中心にしていろいろな民族が古代に雪崩れ込み、それが近世になって新大陸、すなわちブリタニア大陸に移住した国だ。今でこそ帝国としてまとまっているが、ゲルマン系はもちろんのこと、奴隷貿易が行われていた近代には多くのアフリカ系移民、ブリタニア大陸北方に入植したラテン系移民など様々な民族が入り混じる多民族国家だ。

多民族国家ゆえの鷹揚さや妄執的な価値観などが認められているこの国は、母にとっては厳しい世界だが、自分にとっては居心地のいいものだ、とカレンは思った。もちろん、差別は大いにされたが、その分得難い友人を少ないながらも得られたし、その中には皇族がいる。いざとなればその皇族を相手に(けしか)けてやればいいのだ。

 

 そこでカレンのポケットが小刻みに震えた。ポケットから携帯を取り出し、相手を見るとつい先ほど皆に話した兄からだった。ドロテア、モニカ、アーニャに断って席を立ち電話と取ると、懐かしい兄の声が耳朶を打つ。お互いの近況を報告しあいながら、カレンは兄からの電話とは珍しい、と首をひねった。その心中を察してか、兄が若干言い淀みながらも自分に一つ提案をしてくる。

 

 「カレン、ラウンズとしてホッカイドウ方面に出撃しているという枢木卿に連絡を取ることはできないかな?」

 

 「別にラウンズとしてでなくても、あたしからだったらスザクは連絡断らないわよ?あいつ友達だし」

 

 「そうか、それはよかった。実はその枢木卿を通して面識のある皇族の方に連絡を取り付けられないか模索しててね」

 

 「皇族と?なんでまた?」

 

 「これ以上はこの回線では話せないかな。とにかく大切なんだ、誰かいないだろうか?}

 

 「・・・一人心当たりがあるわ。スザクともあたしとも面識のある奴。頭も切れるし、その人だったらお兄ちゃんの条件に合うと思う」

 

 「そうか、なら枢木卿とその方にカレンから連絡を入れてくれないか?そうだな、具体的には日本に待ち人がいると教えてくれ」

 

否に抽象的な伝言だな、と思いながらも兄の言葉に了承を伝えて席に戻る。モニカが尋ねてくる。

 

 「誰から?」

 

 「ん?お兄ちゃんから。なんか変な伝言してくれって言われて」

 

 「ふーん、誰に?」

 

 「スザクとルルーシュにして欲しいって。具体的なことは何もわからなかったけど」

 

そのカレンの言葉にドロテアがふむ、と右手を顎に添えて考え込み始めた。ナオトというカレンの兄は、ブリタニア外務省に所属し、今は軍の情報部に出向しているという。スザクとルルーシュ、その両方に用があるとはどういうことだ、と接点を探すがわからない。情報が少ないのだ、これ以上考えてみても得られるものはないだろうと判断し、目を上げて周りを見回すとすでにカレンが電話をスザクとルルーシュの両方へとかけていた。

 

しばらくすると、ルルーシュの声が電話から飛び出してくる。

 

 「どうしたカレン、何かあったのか?」

 

 「うん、スザクも聞いて、あたしのお兄ちゃんから伝言だって。日本に待ち人がいるってさ」

 

 「待ち人?どういう意味だろう、それ以外にカレンのお兄さんは何か言っていた?」

 

 「何も。ただそれだけ伝えてくれって」

 

随分抽象的な伝言だと電話の向こうで恨みつらみ言われているのを聞いて、カレンは自らの兄の言葉足らずを兄を恨みながらも誠心誠意謝っていた。

 




深夜から朝にかけて書くもんじゃないな、集中力が全然持たないし、頭も大して回らない。今度からはもうちょっと早い時間に書こう。

最後の方投げやりなの許してください、集中力が切れちゃったんです・・・。


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陸話:転進

 ナオトの姿が完全になくなってから駐日ブリタニア全権大使は机に備え付けられているタッチパネルを操作し相手に通信を求めた。数コールののち、(あらかじ)め机に収納していたモニターに真っ黒なマントを着た小柄な人影が現れたのを見て、大使は椅子を引き最上の礼を相手に示して言葉を待った。

 

 「どう、上手く流せた?」

 

 「はい、猊下。仰せの通り、餌を撒きました。内偵の男は食いつき軍を確実に引き込むことになるでしょう」

 

 「まだわからないよ。まだその才能を完全には示していないとはいえ、相手はあのシュナイゼルが認めてるやつだしここは慎重を期さないと」

 

 「分かっております。それで、猊下、私はこの後どのようにすれば・・・」

 

 「日本には粘ってもらわないといけないから、日本軍を裏で支援してあげなきゃね。ヨーロッパの方もそろそろ開戦だし、上手くいけば本国からブリタニアの皇族を引き離せるかもしれない」

 

 「そうなれば・・・」

 

 「うん、僕たちの勝ちだ。それまでちゃんと指示に従っていれば君は晴れて本国で栄誉を受けられる」

 

相手のこの言葉に、大使の男、カラレスはその赤ら顔を大きく歪めて、静かに悦に浸っていた。

 

 

 

 どこかへ電話をかけていた直人が隣の部屋から戻ってきたのを見て、咲世子は誰に電話をしたのか聞いてみるべきだろうと判断し口を開く。当然だ、一応大使館に入る前に検査を受けたとはいえ、別に捕虜になったわけでもない日本人の自分が、治外法権が行使されている敵国に足を踏み入れているのだ。お土産としてブリタニアへ連れていかれるのは困るのだ。

 

 「どなたへお電話していらしたのですか?」

 

 「少し妹にね。別に大した身分でもないんだが、妹はブリタニアでも名門校に通ってるからブリタニア皇族と知り合いがいないか聞いてみたんですよ」

 

返ってきた言葉に思わず顔を(しか)める。神楽耶は日本軍には気を付けろと暗に示唆していたが、どこに潜んでいるかわかったものではない。もしこの大使館に鼠が紛れ込んでいれば、日本軍が神楽耶の措置を軟禁から監禁へと変え、『京都六家』も次々に逮捕されるだろう。そのような事態は絶対に避けなければならないのだ。その心中を察してか、直人は笑いながら続ける。

 

 「大丈夫、名前は一切出していないですよ。それに日本軍の盗聴対象から僕は完全に外れていますし」

 

 「大使館に潜り込んでいる可能性もあるのですが・・・」

 

 「その点でも問題ありません。詳細は明かせませんが、特定の秘匿回線を使用したので」

 

 「ならばよいのですが・・・」

 

あとは貴女をブリタニア軍が攻めてくる場所まで移動させたら仕事は終わりだ、では行きましょうか、と声をかけてくる直人に、咲世子は不安を感じながらも従って大使館を後にした。

 

 

 直人は東京駅で北海道直通特急リニアレールのチケットを1枚購入しそれを咲世子へと渡すと、声をかけてきた。

 

 「僕が付き添うことができるのはここまでです。ここから先はおひとりで。酷ですが、敵国の中をウロウロはさすがにできないので」

 

 「十分助かりました。あまり長い間街を歩くことも良くないのでしょう?」

 

 「えぇ。ではお元気で。無事上手くいくことを願っています、篠崎さん」

 

 「ありがとうございました。紅月さんこそ、お体ご自愛ください。では」

 

そう言って直人と握手を交わすと、咲世子はリニアへと乗り込んだ。

 

 幸い開戦してまだ1週間も経っていないのだ、移動の制限などないし、灯火管制もまだ敷かれていない。開戦直後である今しかブリタニア軍に接触する機会はない。これをみすみす逃せば日本軍に察知されずに接触する機会は極端に少なくなるだろう。そんなことを考えながら直人と握手した手を握り締めると、何かが手の中にあった。掌を開いてみると、それは小さい紙片だった。目的地に着いたら開いてみようと思い一度ポケットの中へとしまう。

列車が発車すると、あっという間に東京都から30分足らずで福島の会津盆地へと入っていく。外の世界は白銀一色で街や山々も白化粧をしていた。そこからさらに山を突っ切り、冬空の晴天の中、仙台を通り、岩手を突き抜け東京を出た1時間半後には青森へと辿り着いていた。目的地の札幌まではあと少しだ、その間に軽く腹ごしらえしておこうと、咲世子は席を立ち後続車両にある食堂車へ足を向けた。

食堂車に着くとウェイターが案内を引き受け、椅子を引いて座るようさりげなく促してくる。つられて席に座り、目の前に差し出されたメニューを開いてみてみると、和食だけでなく、中華やフランスのフルコースまで幅広くあった。是非ともフルコースを頼んでみたかったが、あいにく時間がない、中国料理で簡単に食べれる小籠包などをいくつか注文して咲世子は食欲を満たした。

 1時間半後、咲世子は札幌で列車を下りた。本来ならば根室まで続いているのだが、この先の根室はすでにブリタニア軍によって占領され、日本軍によって列車の通行が禁止されていた。ここからは他の移動手段を確保して、根室から進軍してくるであろうブリタニア軍に接触しなければならない。しかも平和的に上陸軍のトップに会わなければならないのだ、そう簡単にはいかないがどうしたものかと咲世子は首を捻りながらもレンタカーを調達し根室へと車のエンジンをかけた。

 

 

 

 藤堂鏡志朗は陸軍参謀本部の命を受けて、帯広にいた。ブリタニア軍に攻撃されあっけなく根室を失陥してしまった事態を受けて、軍事省の陸軍庁は大慌てでブリタニアの侵攻を食い止める作戦を立案することを余儀なくされている。なにせ北海道は山々はあれど広い、一度敵を見失えばどこにどの時間に来るかわからない。しかも根室を占領した相手の情報がとにかくないのだ。根室から脱出した部隊は、隊としての体裁を保つことすらできないほどに損耗し戦場全体を俯瞰する立場にある士官は1人もいなかった。

証言からおそらく、四つ足の変わったKMFと真っ白なKMFがいるというのが分かってはいるがそれだけだ。誰が軍を指揮し、どのような部隊がいるのかということまでは一切分かっていない。だが、特殊なKMFが2機確認されたということは、もしかすると噂に聞くナイトオブラウンズが出てきたのかもしれないと鏡志朗は思った。そこへ女性士官が声をかけてくる。振り返ると千葉凪沙中尉が歩み寄ってきていた。

 

 「藤堂中佐、我々はこれからどちらへ?」

 

 「千葉か、おそらく海岸沿いに進軍することになるだろう。北海道の内側に閉じ込められたら我々は行き場を失う、ゆえに釧路に向かうことになるだろうな」

 

そこへ他の3人の部下が割り込んできた。藤堂中隊、通称四聖剣と呼ばれる直属の卜部巧雪少尉、朝比奈省悟中尉、仙波崚河大尉と先に声をかけてきた千葉凪沙中尉の4人の部下たち。鏡志朗が8年前の六家亡命未遂事件以来、『京都六家』やその近縁である枢木家に出入りしていたという理由だけで軍から冷遇されている中、軍の評価に左右されず自分を直接見聞きして付いてくることを誓ってくれた者たちだ。

本来ならば連隊もしくは大隊規模の部隊を任されるが、六家亡命未遂事件によって昇進や待遇の改悪など、挙げれば切りがないほどの扱いを受けてきた中で、辛うじて保持し続けることに成功した権利が自身の中隊編成とその運用に関することだった。それを用いて、軍内に広がる軍部至上主義に染まっていない人物、そして能力の高いもしくは潜在能力のある者たちへ、鏡志朗が直接出向いて交流を持つ、その活動の中で自主的に従うことを選んでくれたこの4人は藤堂にとって、まさに得難い人材(たから)だった。

 

 「北海道東南部を失えば兵站どころか、民間の食糧供給もままならなくなる、か。まぁ、ブリタニアもおそらく同じことを考えているでしょうな、中佐」

 

 「あぁ、しかも太平洋に出られなくなれば、ハワイを奇襲して占領した価値がなくなる。それだけは避けなければ」

 

 「それにしても軍も扱いが荒いですね、藤堂さんと僕たちを南アジアの最前線へ飛ばしたかと思えば、今度は領土北端に近い北海道まで行って来いって。まったく、藤堂さんを何だと思ってるんだか」

 

 「中佐を付けろ、朝比奈。まぁ、そうはいっても仕方あるまい、8年前よりこの扱いには慣れている。それよりも今回の敵だ、相当のやり手だぞ」

 

 「敵が強いなら、やりがいがあるじゃないですか中佐。それに相手の先鋒はナイトオブラウンズだって情報もあります、腕が鳴りますよ」

 

 「卜部、我々は白兵戦や砲撃戦ならばともかく、KMFにおいては向こうに遅れている。軍がチャウラー博士を無理に軟禁したせいで、汎用KMFに乗らざるを得ない我々はハンデを負った状態で彼らと戦わねばならないのだ、相当苦戦するぞ?」

 

 「承知の上ですよ、中佐」

 

 

 帯広には軍の施設がないことから緊急性を要する兵科や食料などの物資を扱う兵站部が乗り込んでいる輸送列車が優先で釧路へと流されている関係で、遊撃の一角を担当する藤堂隊は1日休暇を得たので帯広の市街地を散策していた。鏡志朗の隣を歩いている凪沙は、チラチラと鏡志朗のことを見ては何か言い出そうとするが話題を思いつかないのか、口を魚のようにパクパクさせていたが、ふと1台の車に目が吸い寄せられた。

軍が出入りするようになったことから危険を感じ取ったのか、釧路や網走など、北部、東部を中心に帯広を経由して北海道西部へと避難していく民間人によって市街地の札幌方面へと向かう道路は車で埋め尽くされていたが、逆にスカスカである対向車線を堂々と走っていく車があったのだ。迷いない走行で釧路の方向へ走り去っていくように見えた。思わず鏡志朗に声をかける。

 

 「藤堂中佐、今の車見ましたか?」

 

 「ん?どの車だ?」

 

 「釧路方面へ迷いなく走行していく車がいたのです、珍しいと思われませんか?」

 

 「確かに珍しいとは思うが、家族を避難させるために車で迎えに行ったのではないのか?すでに新幹線や普通列車の運行は軍によって制限されているしな」

 

 「それにしては車が小さかったのです。おそらく2人乗ってあと荷物が少し載るかどうかぐらいの」

 

 「・・・そうか。千葉、仙波達に連絡しろ。集合してその車、追ってみよう」

 

承知!、と千葉が返事をして他の四聖剣を集めに間借りしているホテルへと駆けていくのを鏡志朗はしばらく眺めていた。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 ジェレミアの報告を受け、コーネリアは直ちに軍をハワイへと進めることにした。ホッカイドウ急襲に一刻も早く参加したい様子のジェレミアに、代わりの兵站輸送担当を用意することを請け負ってやったときの喜びようと言ったらこれ以上ない笑顔だったな、とコーネリアは思い出す。軍内部でも堅物と有名なジェレミアがモニターを通してではあるが笑顔で任務の引継ぎをしたのだから、よほど戦闘に参加したかったのだろう。

同じく厳格で有名な部下のダールトンでさえ、ジェレミアに注意することを忘れたくらいには珍事だった。まぁ、これをハワイを制圧する面々に噂として流せば、余計な緊張も取れるだろうし、ギルフォードにそれとなく流すように言っておくか、と考える。そこへ当の本人であるギルフォードが書類を片手に近寄ってきた。

 

 「姫様、先鋒に必要な部隊数は整いました、編成も完了しています。その後続部隊も第二陣はもう間もなく編成完了、第三陣は部隊数がそろったところ、とのことです」

 

 「そうか。よし、先鋒を率いてハワイ基地を奪還する。残りの部隊も編成が完了次第、順次ハワイ基地に送り込め。敵はハワイ基地を制圧してそう時間がたっていない、補給路もまだ確保できていないのは確認済みだ。今力押しで攻めれば奪還できる勝算は高い」

 

 「姫様自ら指揮を?」

 

 「そうだ。私のような皇族が陣頭に立ってこそ、兵士は付いてくるものだ。古来より軍は指導者が後ろにいて勝てた(ためし)がない」

 

 「では第二陣はダールトン将軍に任せますか?」

 

 「そうだな、ダールトンに言っておいてくれ」

 

 「イェス・ユアハイネス」

 

ギルフォードの返事を聞いて将官用の個室に戻ったコーネリアを支配したのは、戦慄や恐怖といった感情だった。ブリタニアは第一次世界大戦以来、国内の反乱を鎮めてきたこと以外に戦いというものを経験していない。それに対して、日本は西に位置する中華連邦と長年国境を接していることから軍の練度が桁違いな上、ここ半年で東南アジアを制圧、今は南アジアに勢力を拡大しようとする姿勢を示していることからも、日本軍が旺盛なことが分かる。

KMFという戦術、戦略に大きく響く兵器が登場して戦争のやり方は変わったが、それでも最後に戦いを左右するのは人間だ。気力が満ちていれば自ずと勝利への道は開かれ、逆に気力が萎えれば屍を晒すことになる。戦いは最初が肝心だ。初戦で負ければ、余程の転換点がない限り泥沼にはまってズルズルと負け続ける。その為にもハワイ奪還は絶対に成功させなければならない、失敗すればそのまま帝国の衰亡に繋がるかもしれないのだ。情報収集、兵站輜重の確保、士気の高揚など考えられる準備はすべて行った。あとは賽を投げるだけ。

自分は方面軍司令官だ、弱気な態度は兵の士気に響く、しっかりしなければとコーネリアは無理矢理に自分を奮い立たせ、当面の戦闘に意識を集中した。そこへダールトンへの命令伝達と先鋒の第一陣が出撃待機に入ったことを伝える通信が入った。気を引き締めなければとコーネリアは改めて思いながら、格好を整え部屋を出た。

 

 夜のアラスカ基地から黒々とした鋼の蝙蝠が南を指して飛び上がっていく。鉄の巨人と血の通った人間を載せた大きな蝙蝠が、来る戦いの音を幻聴しながら暗い大空へと次々に羽ばたいていく光景は、圧巻の一言だった。そんな風に目を見張って眺めているうちに自分の番が来た。

KMFに乗り込んで、輸送機に乗り込む。コーネリアの乗る輸送機は中盤の便だ。自分は先頭の輸送機に乗り込むと主張したが、周りの士官に猛反対されての結果だった。夜の10時にアラスカ基地を離陸した第一陣の輸送機群は、順調に航路を飛行し、ハワイのオアフ島に位置するハワイ基地の北西の海岸でKMFを発進させた。もちろんコーネリアはギルフォードとともに先頭集団に躍り出る。

 

 「ギルフォード、一気呵成、基地まで突っ切るぞ!」

 

 「イェス・ユアハイネス!」

 

ギルフォードを先頭にして、後ろにコーネリア、その周りを親衛隊のKMF、さらにそのあとに指揮官に遅れるなとばかりにどんどんとKMFが続いていく。10分ほどKMFを走らせると、陸軍基地の外壁が見えてきた。最優先目標を再度徹底して伝達する。

 

 「いいか、最優先は司令部と兵站倉庫だ!司令部は我々の設けた場所とは違う可能性がある、だが倉庫は1か所にしかない!まずは倉庫を確保せよ!」

 

突貫!と声の限り叫ぶと、ギルフォードがKMFの体当たりで力任せに壁を突き破る。それとは別に、追いついてきた他の部隊も同様に壁に大穴を開けて基地へ飛び込んでいく。そのまま倉庫がある区画へとKMFを走らせると、そこかしこに焚かれた火が鈍色に火影をゆらゆらと映しているのが見えた。瞬間、そこから小さな爆発が起こる。咄嗟に身を翻すと後ろで厚い鉄板が破れる大きな不快な音が聞こえてきた。カメラを横に向けると、胸部真ん中にぽっかりと空洞ができ、機体の後ろの景色が見える。

戦車、しかもかなり貫通力のある弾頭を使っているのだろう、KMFの前面から後背を文字通り貫通するなんて、とコーネリアは驚いた。敵の戦車部隊を撃滅しなければ、後々厄介になると考え、号令を下す。

 

 「散開!敵戦車、相当威力のある弾を積んでいる、各個に撃破せよ!」

 

部下たちの声を聞きながら、自分も先ほど撃ってきた戦車に目標を定め、スラッシュハーケンを飛ばす。だが、相当硬い金属で表面を覆ているのだろう、ハーケンが刺さらなかった。舌打ちをして、不定期に左右へ移動しながら前進。戦車の前に躍り出て、戦車の上に飛び乗ると持っていた大型ランスの切っ先を下に向けて大きく振りかぶり、そのまま振り下ろす。突き破った感触を得てから即座に退避すると、戦車は爆散した。

横のモニターに味方の位置情報を写すと、それぞれが戦車を撃破していることから戦況はとりあえずのところ、ブリタニアに有利、海軍基地へと向かった部隊からも特に損害なしという報告が来ていることからブリタニア優勢と判断できる。案外ダールトンが来る前に片が付くかもな、とコーネリアは思った。

 

戦況が落ち着いてきたことを見て取って親衛隊とギルフォードに少しの間休憩するよう命令した刹那、右後ろにいた親衛隊の1機が不意に爆発した。

 

 「何っ?!」

 

急いで振り返ると、大破したグロースターのさらに後方に半身を建物から晒しているオリーブグリーンのKMFが目に入る。それは旧世代のグラスゴーだった。だが、カラーリングが本来の砂色とは異なっていることから極秘裏の任務にでも就いているのであろうか?それが左右に乱立する建物の陰から1機、また1機と現れた。

 

 「なぜ味方をうっ・・・?いや、敵か?」

 

思わず我を忘れて叫ぶが、よく見ると頭部の形が本来のグラスゴーと異なって頭部のファクトスフィアを保護する装甲が分厚くなり、面を被っているように見える。間違いなく派生型のコピー品だった。すぐさま距離を取り相手の武装を目視で確認する。見える限りではグラスゴーと大差ないことから、第5世代が普及しているこちらはそう苦戦せずに撃破できるだろうと推測を付け各機に伝達。

 

 「相手はおそらくグラスゴーのコピーだ!モノが違うところを見せてやれ!」

 

叫ぶと同時に、先ほど撃ってきたグラスゴーもどきに突進する。まっすぐ突っ込んでくるとは思いもよらなかったのか、動揺した相手が茫然と棒立ちになった一瞬をコーネリアは見逃さなかった。右手に持っていたランスを逆手に持ち、槍投げの要領で相手のコックピットめがけて投げつけると、それは吸い寄せられるように飛んでいき、グラスゴーもどきを貫通して建物の壁へと機体を縫い付ける。

投げると同時に距離を詰めていたコーネリアは縫い付けた相手に足をかけてランスを引き抜くと、建物の陰の奥に待機していたもう1機を見つけ、槍を構え相手を突き刺そうとしたが切っ先が入らなかった。分厚い戦車の鋼板に続いて、装甲が厚くなっているコックピットを狙って刺したせいでランスの先端は耐えられる限界を超えたのだ。その為、ランスの先端は大きく欠けていた。

メインに使う武器が一つなくなったことに苛立ちを覚えながらも、使い物にならなくなったランスを構えると、相手に突貫しながら強化ハーケンを放ち相手の両腕を切り飛ばしてそのまま相手を押し倒す。構えていたランスの石突でファクトスフィアと破壊し、頭上でランスを半回転させてランスに付属するブレードで機体を地面に縫い付けて動きを止めた。

ランスがきちんと貫通しているかを確かめたのち、モニターに味方の配置図を表示させて形勢の優劣を見ると、グラスゴーもどきは大半が駆逐されこちらの損害も最初の大破機以外は2、3の小破で済んでいるようだった。そこにギルフォードが近寄ってくる。

 

 「殿下、敵KMF集団の撃滅を完了いたしました。それと、海軍基地の制圧に向かった隊も第2陣の応援で制圧を完了したとのことです」

 

 「そうか、ダールトンは海軍基地を叩きに行ったか。よし、そのまま第2陣には海軍基地の掃討と施設の確保を任せる。我々はこのまま陸軍基地の掃討及び施設の確保だ。第3陣はもうアラスカを発っているか?」

 

 「いえ、ですがもう間もなくとのことです」

 

 「では、急いで第3陣の出発を中止させて施設補修のための資材を運ばせろ。施設を補修したのち、第3陣を先鋒として再編成して待機だ」

 

 「イェス・ユアハイネス」

 

同時進行的に行われたホッカイドウ急襲とハワイ奪還は、当初の予定通り完了し、それどころかホッカイドウ急襲のほうは日本本土を攻める橋頭保の確保にも成功した。問題は、ハワイで遭遇した敵KMF。旧世代のグラスゴーの模倣品であったのは幸いだったが、帝国の技術が、どこからか敵国に漏れている可能性が少なからずある、という点を浮き彫りにした。これが杞憂で、単に敵が鹵獲品を改造したというような類であればよいのだが、とコーネリアは危惧を覚えずにはいられなかった。

 

 

 

         ◆         ◆         ◆

 

 

 

 ホッカイドウの東南部、ネムロ半島を中心とした一帯を占領することに成功したホッカイドウ急襲軍は、ノネットとスザクは補給を受けた後、半島の付け根に存在するオンネトウと呼ばれる巨大な沼の両端を通る道に臨時の関を作るようルルーシュから命令され出撃、一方のルルーシュはアッツ島経由でハワイにいるコーネリアと通信会談をしていた。つい先ほど戦闘が終わったばかりなのか、コーネリアはパイロットスーツに身を包んだままだった。

 

 「お忙しいところ申し訳ありません、閣下」

 

 「よい、ルルーシュ。それにこの回線は特派のスペシャルだろう、姉上でよい」

 

 「では姉上、さっそく本題に入ります。こちらはホッカイドウ急襲に成功、目標であったネムロ基地の奪取に成功しました。現在はネムロ基地があるネムロ半島の掌握に努めていますが、それも間もなく終わります」

 

 「そうか、こちらもハワイ基地の奪還に成功し、基地の修復を行っているところだ。しかし、いやに日本軍はあっさり引いたな。ホッカイドウ急襲は一撃離脱を繰り返すことになると思ったのだが」

 

 「完璧な夜襲だったので、余計に敵は混乱したようです。同士討ちをした痕跡が残っている場所もあったので。それに敵が奥深くに我々を引き込もうとしているかどうかは、もう少し進軍してみなければわかりません。それまでは進軍し続けますよ」

 

そこで割り込みが入る。突然の割り込みに驚いたルルーシュとコーネリアは目配せしあって通信を切ろうと身構えたが、モニターに映ったもう一人の参加者の顔に肩を下ろした。映っていたのは金髪に藤色の瞳、蝋人形じみた白皙の青年、我らが宰相閣下、シュナイゼルだった。

 

 「いけないな、ルルーシュ。君には別任務があるよ」

 

 「兄上、いきなり割り込まないでください、驚きます。それで、別任務とは?」

 

 「そうだね、どこから話したものか・・・」

 

シュナイゼルがそう言いながら、かいつまんで話し始めたのはE.U.の成り立ちについてだった。あまりに唐突な話題転換に一瞬困惑したルルーシュだったが、E.U.について今シュナイゼルが何か策謀を巡らしているらしいということを瞬時に導き出し、コーネリアを煙に巻いているシュナイゼルに溜息をこぼしながら問いかける。

 

 「兄上、姉上を苛めるのはそのくらいにしてください。姉上も、兄上の話をいちいちまともに取り合っていればキリがありませんよ?」

 

 「ひどいな、私は何もコゥを苛めようと思ってこんな話をし始めたのではないのに」

 

 「そ、そうだな、ルルーシュ。兄上、単刀直入にお願いします、私たちはまだ後処理が残っているのです」

 

 「分かったよ。では改めて」

 

今度こそ本題に入ったシュナイゼルの口から出てきたのは、E.U.内部で行われている権力闘争だった。

E.U.内では、君主制を否定したイギリス、フランス、ロシアを中心とする急進派は『アメリカ大陸の血筋からの解放』という名目でブリタニアに開戦するべき、一方のオーストリア、イタリア、スペインを中心とする王統を保持し続けてきた穏健派は国力差を考えれば到底敵うはずがない、外交を中心にして友好関係を保つべき、と二手に別れて、E.U.の今後を実質的に決める『40人委員会』は紛糾。

第一次世界大戦で敗戦し永世中立化宣言をしたドイツ、ドイツより以前に事実上の永世中立国として振舞ってきたスイスに対して、反ブリタニア過激派組織の送り込みや、ブリタニアとの貿易妨害など様々な干渉をイギリスとフランスが独断で行ったことで、E.U.を離脱しようとする国まで現れたことでその混乱は頂点に達した。

しかしどういう訳か、離脱を志した国々のトップが突然心変わりしたようにE.U.離脱を取り消したり急死したりしたことで、事態は一旦沈静し、共和派対王党派ともいうべきE.U.内部の抗争という元の構図に戻っている、というのが大まかな状況だった。

いまいちシュナイゼルの真意を掴めないルルーシュは疑惑の目で威圧しながら問い質す。

 

 「兄上、E.U.についてはこの際置いておきます。私に何をしてほしいのです?」

 

 「そんな目で見ないでくれ、ルルーシュ。私としてはホッカイドウ方面侵攻軍司令は別の者に任せて、ルルーシュには一度本国に戻ってきてほしいんだよ」

 

シュナイゼルとしてはルルーシュに軍事だけでなく、政治の方面でもその能力を伸ばしてほしいことから、外交合戦が現時点で一番熱いE.U.で任務についてほしい、E.U.と開戦した暁にはコーネリアには大西洋の向こう側で転戦することになるであろうこと必至であるから、その下見も兼ねてルルーシュと一緒にヨーロッパ大陸で友好国であるドイツに渡ってほしいということだった。

 

衝撃のある一言をいつもの微笑みとともに出した宰相は、返答は君たちの後処理が終わってから人心地着いてからでいいよ、という言葉とともにモニターから消えていった。即答しかねる要請に二人して頭を捻る。コーネリアのこれからどうするかという問いかけに一つずつ答えを出しながらルルーシュは別のことを考えていた。

コーネリアが現時点で太平洋方面戦線をうまく手懐けられる人物を頭の中で探していることはルルーシュにも想像できた。それよりもルルーシュが疑問に思ったのは、なぜこのタイミングでシュナイゼルがこの要請に見せかけた命令をしてきたのか、ということだった。

日本と開戦してまだ数日、ブリタニア軍は宣戦布告と同時に失陥していたハワイの奪還、それと同時にニホン本土への襲撃を達成し戦場はニホンになることは誰の目から見ても明らか。その情勢の中、次はニホン攻略という目に見える功績を挙げられる場面から新進気鋭の参謀本部長と方面軍司令官の両方を、特に失敗してもいるわけでもないのに解任して別方面に派遣するのだ、贔屓目に見ても明らかに波風が立つ。

 

シュナイゼルから理由を聞く機会を逃したのは失策だったとルルーシュは考え、気落ちする。推測で理由を見つけようにも、『ルルーシュの成長』という言葉で片付けられることは自分でもよくわかっているし、何よりも、またもやシュナイゼルに一本取られたのだ、冗談交じりに聞かされた話にあれよあれよと乗せられて、自分の知りたいことは一切分からなかった。

返答するときに何としてでも理由を聞かなければとルルーシュは英邁すぎる異母兄への態度を新たにした。



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