東京喰種 もう一人の『:re』 (Mr Muu)
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#001 平凡

半年前にupしていた小説を書き直したものです。途中までは前の文のストックがありますが更新頻度は遅めです。この作品は一応ノリで書いた処女作ですので温かい気持ちで読んで頂ければ幸いです。


暖かく柔らかな風、冬の寒さが嘘のように思えてくる春。

彼は教室の窓から空を眺めていた。

 

「・・い、おい!いい加減起きろ!」

 

この声は唐突に彼の意識を元の世界に戻した。

 

「ふぁい?」

 

「神流お前は一体いつになれば先生の授業をちゃんと受けてくれるのかなぁ?」

 

「いえ、あの、そ「言い訳はいいから 今日も補習ね」

 

この補習を食らった生徒の名は、神流 佳未(かんな よしみ)

清巳高等学校 普通科 1年2組の冴えない高校生だ。

 

しかし、"普通"の高校生ではない。

群衆に紛れ、ヒトの肉を喰らう、ヒトの形をしながらヒトとは異なる存在"喰種”である。

 

 

 

------------------放課後------------------

 

ヨシミは居眠りをしていた罰として補習を受けていた。

 

「ここがこうなるから、ここの値は?」

 

「え〜と、3√11?」

 

「正解、お前寝てたのに授業内容はわかってんじゃねえか」

 

とヨシミを皮肉った。

 

「今日はここまで。明日こそ寝ないようにしてくれよ」

 

「すいません」

 

「わかったならさっさと帰る。もう6時過ぎだぞ」

 

「へ〜い、ありがとうございました。」

 

(久しぶりにあそこに足を運ぼうかな)

 

そう呟き、ヨシミは教室を出た。

 

 

ーーーー同日 夕方 あんていく ーーーー

 

カランカラン〜とドアに取り付けてあるベルが鳴る。

 

「いらっしゃいヨシミくん」

 

カウンターに立っているシワの深い老人、芳村は優しく微笑んだ。

 

「そういえば最近、ここに新しく2人白鳩が動員されたみたいだねぇ」

 

「うわぁ…何ででしょう?」

 

「月山くんや新しくここに来た子達の影響だろうねぇ」

 

「そうですか。あの人達なら奴らに見つかっても返り討ちに出来るかもしれないけど僕たち弱小喰種にとっては、迷惑でしかありませんよ」

 

「そうかい。じゃぁ、くれぐれも白鳩に見つからないようにね」

 

そう言うと芳村はコーヒーを彼の前に置いた。

 

「えっ?」

 

「最近疲れているんじゃないかい?なかなか食料にありつけていないんだろう。これは私からのサービスだよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「 もしよかったらうちで食料を提供してあげてもいいんだよ?」

 

「いえいえ、自分で調達できるように頑張りますよ」

 

そう言ってヨシミはコーヒーを啜った。

 

コーヒーは人間と喰種が唯一共有できるものだ。ヨシミがそのことを知ったのはほんの数ヶ月前なのだが…。

 

「やっぱ、店長の淹れるコーヒーは格別に美味しいです」

 

「はは、これは嬉しいねぇ」

 

「おっと、これは聞き捨てならないなぁ。 この"魔猿"ブレンドもなかなかだと思うけどね」

 

そう言いながらテーブルを拭いているのは、自称、かつて魔猿と人々から恐れられた古間 円児だ。

 

「ヨシミくん、今度飲んでみるかい?」

 

すると佳未は『はあ』と苦笑いしながら、

 

「遠慮しておきます」

 

と丁重に断ったのだが古間は懲りることなく他の客にも同じことを言っている。

 

「店長はどうして古間さんを雇ったんです?」

 

芳村は少し間を空けて

 

「さぁねぇ。」

 

と話をはぐらかされた。

 

コーヒーを飲み終えた佳未はゆっくりと立ち上がる。

 

「店長、僕そろそろ帰りますね。コーヒーごちそうさまでした」

 

「またのお越しを」

 

芳村は微笑し、佳未を見送った。

 

ーーーー数分後 路地裏 ーーーー

 

「あ〜〜〜っ」

 

(今日こそは何か食べないとどうにかなりそうだ)

 

その時、とてもかぐわしい香りがヨシミの鼻を刺激した。

 

「っ!?この臭いは!」

 

ヨシミはその匂いのする方向へ駆け寄った。そこには死体と死体のものと思われる臓物を手に持った仮面の男が立っていた。

 

「誰だ?お前」

 

「いや、あの……」

 

ヨシミはバツが悪そうに後ずさりをする。

 

「俺の喰場荒らしにきたの?」

 

若干苛立ちを帯びている聞きなれない声を聞いてヨシミは理解した。彼が例の他の区から来た喰種だと。そう考えていると男の方から紅く鋭い触手のようなものが佳未の身体を貫いた。

 

「がはっ!」

 

「ぼけっとしてたら死んじゃうぜ」

 

ふてぶてしく立っている彼の腰からは、鮮やかで美しい鱗のついた尻尾のようなものが伸びていた。

 

鱗赫だ。

 

彼の赫子がヨシミを再び襲う。その瞬間、金属を打つような鈍い衝撃音が響いた。

 

「ハッ、お前甲赫か」

男は相性の良い甲赫を見て軽く笑った。ヨシミの右肩甲骨からはまるでサバイバルナイフの刃を彷彿させる大きく平たい赫子が出現していた。ヨシミはあまり赫子を使わない。不慣れながらも男に決死の攻撃を仕掛けるが、あっさりかわされてしまう。

そして男の反撃。鋭い鱗赫が佳未めがけて伸びていく。佳未はとっさに赫子でガードし、弾きかえす。そしてその隙を見て男に斬りかかる。

 

「下手だな 使い慣れてなさ過ぎ」

 

バカにしたのがヨシミのスイッチを押したのだろうか。動きが段違いに速くなる。

 

「やればできんじゃん 楽しくなって来たぜ」

 

男の赫子が佳未の腕ごと赫子を掴む。

 

「グアアア!」

 

ミシミシと骨が軋む音とヨシミの呻き声が路地裏に響く。しかし、ヨシミもおとなしく殺されるような喰種じゃない。

 

「うおりゃあ!!」

 

ヨシミは自分の体ごと回転し赫子を切り裂いていく。

 

「な、なんだと?俺の赫子がこんな素人に …クソが」

 

男は不恰好になった赫子でビルをよじ登り、そのまま姿を消してしまった。

 

「ハァ、ハァ 」

 

かなり体力を消耗したのかヨシミは今にも倒れそうなほど息を切らしていた。

 

「食事を…とらないと」

 

そう思い、ふと目線を下ろすとそこにはさっきの男が捕食していた死体があった。

 

「仕方ないか..いただきます」

 

ヨシミは死体に手を合わせてから死体の腕をもぎ取り口に運んだ。久しぶりの食事だ。佳未は夢中で頰張りつずけた。程よい硬さの筋肉とその周りの脂肪。舌に絡まる血液。なんとも言えない高揚感が佳未を包む。

 

食事を終えたヨシミは余った肉を袋で包み家に持ち帰った。次はいつ食事にありつけるかわからないからだ。ヨシミにはヒトを殺す勇気がない。だから他の喰種の食べ残しや自殺死体などを持ち帰って喰べている。今日のような戦闘は稀だがないことはない。しかし相手が悪かった。あの男は低くてもAレート以上はある。まだ再生し切っていない傷を服で隠しながら自宅へ戻る。

 

「これで当分はなんとかなるか…」

 

ーガチャ

 

そう思いながらヨシミはアパートの一室の鍵をあけた。

 

 

 

 




次回、ついにあの人と対面⁉︎


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#002 人間?

Profile
神流 佳未(かんな よしみ)
•16(8/5生)男 •Blood type:B
•Rc type:甲赫
•Like: 店長が淹れたコーヒー,世界史,春の雨上がり
•Hobby:特に無し


「やっぱリ自分の家が一番落ち着くな」

 

大きすぎる独り言を呟きながらヨシミは畳の上に大の字になって寝転んだ。ヨシミはオンボロアパートに住んでいる。大家が喰種であり、特別にバイト代で賄える家賃で住まわせてもらっているのだ。

 

「寝よ」

 

明日は日曜で学校はない。さっきの戦闘もあって、佳未の身体はヘトヘトだった。そのせいだろうか。ヨシミは5分足らずで深い眠りについてしまった。

 

 

 

ーーーーー翌日ーーーーー

 

小さな窓から差し込む陽の光がヨシミの顔を照らす。

 

「朝か…」

 

ヨシミは伸びをしながらふと時計を見た。11時20分。

 

「11時ぃ?」

 

ヨシミは慌てた様子で自宅を出る。アパートから全力疾走すること5分。彼が辿り着いたのはあんていくだった。

 

「ギリギリね」

 

店に入るとカウンターに立っていた黒髪の女性が声をかけてきた。

 

「さぁ、早く着替えて。お客さん来ちゃうわよ」

 

「あれ?今日は入見さんだけですか」

 

「トーカちゃん、急用が入っちゃたみたい」

 

「日曜に僕と入見さんの二人だけは厳しいですね」

 

「ヨシミくんまだ聞いてないの?新入りの子が入ったこと」

 

「えっ…初耳なんですけど」

 

ヨシミが驚きの表情を露わにしていると奥から芳村が誰かと話しながら出て来た。中肉中背、黒髪に眼帯をしている。僕よりも背が高いし大学生だろうか。

 

「店長、おはようございます」

 

「やぁ、ヨシミくん。おはよう。というよりこんにちはかな」

 

ヨシミは挨拶を交わしつつも眼帯の彼に奇異の視線を向けている。芳村はそれに応えるように彼の紹介を始める。

 

「ヨシミくんにはまだ紹介していなかったかな。今日からここで働くことになった"金木 研"くんだよ」

 

芳村がそう紹介するとカネキは『よろしくお願いします』と会釈した。ヨシミも会釈を返すが彼の存在に違和感を覚える。喰種ならば同種かそうでないかは匂いでわかる。しかし、彼からは女性の喰種と人間の青年の匂いがするのだ。

 

「君の名前は?」

 

カネキはヨシミの違和感を断ち切るように口を開いた。

 

「あっ…僕はヨシミ。神流 佳未です」

 

「ヨシミくん....か。いい名前だね」

 

初めてこんなことを言われてヨシミ少し嬉しくなった。

 

「ヨシミくんは高校生?」

 

「はい、清巳高校に通っています」

 

「清巳高校、トーカちゃんと同じ学校だね」

 

「トーカさん、知ってるんですか」

 

「うん、いろいろあってね。ところで、ここで働いてるってことは君も喰種?」

 

「はい、僕は店長に勧められてここに入ったんです。他の喰種にボロボロにされた僕を助けてくれて」

 

「へぇ〜そうなんだ。ほとんど僕と同じだね」

 

こんなに他の人と喋ったのはいつぶりだろうか。そんなことを思っていると、

 

「親睦を深めてもらうのは構わないんだけど仕事、してもらえるかしら」

 

『すいません』

 

とカネキとヨシミが同時に謝り、入見がクスッと笑った。

 

「あなた達って似てるわね」

 

「そうでしょうか?」

 

「ええ、とっても」

 

そう言われ、2人は首をかしげた。

 

そして夕方、

 

「じゃあ、お先に上がらせて頂きます」

 

ヨシミはそう言って、頭を下げた。

 

「お疲れ様」

 

とカネキが言う。佳未は再び頭を下げて店を出た。

 

 

ーーーーー翌日ーーーーー

 

ヨシミは学校で退屈そうに授業を受けていた。今は4限目。この後は学生にとってはとても重要な昼休みだ。しかし、ヨシミは違う。

昼休みということは昼食を取らなければならない。無論、人間の食事の。4限目終了のチャイムと共に佳未は水とオニギリを机の上に置いた。米は水でさらりと流せるので非常に飲み込みやすい。そうオニギリだけなら。

 

「お前、ほんっとうに少食だなぁ」

 

男にしては高めの声。ぱっと見、不良っぽい男がヨシミの前に座る。

彼は鈴原 竜一。佳未の数少ない友人のひとりだ。見た目は不良だが根はいい奴…というか子供だ。

 

「お前、こんなんじゃ体壊すだろ」

 

と自分の弁当のおかずを佳未の前に差し出した。ヨシミは「ありがとう」と言い卵焼きをつまんだ。竜一の気遣いはとてもありがたいのだが、迷惑でもある。

 

「うん、おいしいよ」

 

この様子だけを見れば、仲の良い2人組にしか見えない。竜一もまさか自分の親友が喰種だとは思わないだろう。

 

「そういえば、朝のニュース見た?」

 

「いいや、見てないけど。ってか竜一もニュース見るんだ」

 

「マジか?結構な話題になってるぞ」

 

「へぇ〜、でどんなニュースなの?」

 

そう聞くヨシミだが、ある程度予想はついている。

 

「ここの近くで喰種が出たんだとよ」

思った通りだ。学生の間で話題になるニュースなどその程度だ。

 

「喰種ってアレだろ?姿形は人間そっくりなんだろ。」

 

「そうらしいね」

 

「もしかしたらこの中にも喰種がいるかもな」

 

ヨシミはドキッとした。竜一はあまり深く考えていないようだが。

 

「んっ、どうかしたのか?」

 

ヨシミはハッと我に戻る。

 

「いいや、なんでもないよ」

 

「ふ〜ん。ならいいけど」

 

そう言いヨシミは立ち上がった。

 

「竜一、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「おぉ!ウ◯コか?」

 

ヨシミは竜一の言葉を無視しトイレに向かう。目的地に着くと便器に向かってさっき食べたオニギリを吐き出した。人間の食事は、喰種の身体にとっては毒だ。消化が始まる前に出してしまわないと、体を壊してしまう。しかし、怪しまれないようにするにはこうするしかない。

佳未はすべて吐き切ると、竜一のもとに戻った。

 

「悪い、遅くなった」

 

「長かったな!」

 

その時、昼休み終了のチャイムが鳴った。

 

「じゃぁな、ヨシミ」

 

「おう」

 

そして5限目の授業が始まった。

 

 

放課後、ヨシミはいつも通り、あんていくに向かった。今日は大雨だ。肩を濡らす雨が冷たかった。その前をアタッシュケースを手に歩く男が歩いてくる。佳未は彼と目が合った気がした。

 

 

ーーーーー同日 あんていく ーーーーー

 

ヨシミがあんていくのドアを開けるとそこには親子が2人、コーヒーを飲んでいた。

 

「あっ、笛口さんじゃないですか。お久しぶりです」

 

そう言うと母親である笛口リョーコは微笑み、

 

「ヨシミくんこそ久しぶりね。さっ、ヒナミもご挨拶しなさい」

 

「ヨシミさん、こんにちは」

 

「こんにちは、ヒナミちゃん」

 

二人に挨拶をし終えるとカウンターにいたトーカが二人がここに来た経緯を控えめの声で説明してくれた。

 

「ヨシミくんはヒナミちゃんたちのこと知ってるの?」

 

変えのタオル取って戻って来たカネキがヨシミに尋ねる。

 

「はい。時々ここに食料をもらいにくるんですよ」

 

「これはさっきトーカちゃんから聞いたよ」

 

「あっそうだ、カネキさんコーヒーお願いします」

 

ヨシミは唐突にカネキに注文する。

 

「えっ、僕?店長に淹れてもらったほうが美味しいと思うよ」

 

「いやいや、僕知ってますよ。いつも残ってコーヒーを淹れる練習してるの」

 

「なんで知ってるの?」

 

「前に古間さんが言ってました。皆さんに」

 

「本当!?」

 

このやり取りを聞いていたリョーコとヒナミは顔を見合わせ笑っている。

この光景を見ていたトーカの表情は普段は見せない優しい顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーCCG20区支部ーーーーー

 

大窓から外の景色を眺める二人の白コートの男がいた。

 

「どうかね亜門君、奴らの情報は?」

 

「はい、真戸さん。数件の目撃情報があります」

 

「そろそろ戦うだろうからクインケの手入れをしないとな」

 

「ということは何か大きな手がかりがあるのですか?」

 

「いや、勘だよ亜門君」

 

そこに黒いコートに身を包んだ男が現れる。

 

「いやぁ、2人とも仕事熱心ですねぇ」

 

「これはこれは、山村准特等殿。どうしてここに?」

 

「モグラ叩きがなんとか終わったんで戻ってきたんです」

 

「真戸殿、こちらの男性は?」

 

山村が真戸の隣の屈強な男について尋ねる。

 

「彼は私の新しいパートナーの亜門君だ」

 

そう真戸が紹介すると亜門は深々と頭を下げた。

 

「ほう、君が期待の。君はうちの班でも有名だよ」

 

「いえいえ、それほどでも」

 

亜門は謙遜する。

 

「いやぁ、20区も物騒になりましたな。大食いに美食家、さらには"アイツ"まで来ているらしい」

 

「私としては駆除しごたえのあるクズが一箇所にまとまった絶好のチャンスだと」

 

「さすがは真戸殿、おっしゃる事が違いますねぇ」

 

そう言うと山村は去っていた。

 




次回、山村準特等大活躍⁉︎


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