魔剣物語異聞録~フラグメンツ・オブ・ラウム~ (朝陽祭)
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魔剣物語異聞録~フラグメンツ・オブ・ラウム~

・注意
本作は、やる夫スレ形式にて作品を手がけているエイワス様作『魔剣物語』及び『魔剣物語AM』の二次創作となります。
今回の執筆に伴い、エイワス様より許諾を頂き作成しております。
また、一部別の二次創作者様の設定を踏襲している部分があります。
そして重要なことですが、本作は『剪定事象』です。スレをご覧の皆様ならご存知でしょう。

※やる夫スレの性質上、便宜的にクロスオーバータグを設定しております。

それでもよろしいという方は、どうぞ御覧ください。


 

 

 

 

 

 

 

「僕らは死なない。死ねない。」

 

 

「生きて諦める事は死んだも同然だ。故に諦めも許されない。」

 

 

「生きて抗う道を模索し続ける。それが僕の役目で、僕が君たちに望んでいる役目だ。」

 

 

 

その言葉は、【賢老七十二臣】と呼ばれる我々の胸にしかと刻み込まれた。

 

 

いや、正確に言えば改めて自覚したのだ。

 

 

この新たなる熾火(ギムレー)と呼ばれる国において、『王と並び立つ七十二の柱』がどれほどの重みなのかを。

 

 

望まぬのならば降りてもよいと王は言う。あぁ、確かにこの重責は常人には耐えきれないであろう。

 

 

 

「――――侮らないで頂きたい、新たなる火を熾した王よ。」

 

 

 

 

それを口にしたのは誰だったか。

 

 

いや、この場に集う七十二柱の総意であった為、誰が言っても変わらない。

 

 

我々はこの国に住まう民を守る為に、王に選ばれ、自ら望み柱となることを選択したのだから。

 

 

そして、我らの言葉に笑みを浮かべ感謝の言葉を述べる王を見て――この方こそ我らの王だと、誇りに思うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、それはそれとして姫様の為に全力で王様を働かせるんですね。」

 

 

「当たり前だ我々にもソロモンにも休んでいる暇はない。ほれ、在野の戦力の抽出、及び既存の傭兵部隊の練兵計画の承認はぶんどってきたぞ。都市間の連携は【兵装舎】に一任されたが、こちらは調整がまだまだかかるだろうな。場合によっては貴様ら親衛隊も、教導隊のような形で出向させる必要があるかもしれん。」

 

 

「さっすがー♪頼りになりますね【兵装舎】の金庫番様は!王様を呼び捨てなのは元老院の皆様にとって今更なのであれですけど!」

 

 

「はん、俺には武勇も魔力もないからな。ハルファスやバルバトスのようにはいかん。せいぜい兵達の為に資金を叩いて戦力を準備させるくらいしか出来ぬよ。」

 

 

「いやいや、兵糧は大事ですよ?姫様からもほら、お礼の手紙を預かってきていますし。」

 

 

「なぜそれを先に言わぬか貴様ぁ!」

 

 

 

女騎士から手紙をひったくり飾り気のない、だからこそ誠実で純粋に気持ちを伝えてくる新たなる熾火(ギムレー)の姫、からの文に涙を流すその男。

 

 

――今は元老院【賢老七十二臣】が一人【ラウム】と名乗るその男は、姫からの手紙を堪能しつつも山のように積まれた書類を片付けながら、自らの手駒である女騎士へと話を振った。

 

 

 

「それで、そっちはどうだ?」

 

 

「いつも通り薄氷の上を歩いていますよ。快勝は続いていますが、何か一つでも歯車が狂うだけで、きっと私達は――いえ、人類は滅びますね。」

 

 

「違うわたわけぇっ!俺が戦況を把握していない訳ないだろうが!姫様に悪い虫はついてないか?という話だ!その為にわざわざ親衛隊を作って貴様を送り込んでいるんだからな!」

 

 

「ええええええぇぇぇぇぇぇ…………なんで女子ばかりを集めたんだろうとか思ってたんですけど、親衛隊ってそういうことだったんですかぁ?」

 

 

「全くもって遺憾だが、この国の戦女神と呼ばれるくらいに姫様は強い。だからこそ、姫様に悪い虫を近づけさせず、それでいて姫様を守る為には可能な限り姫様と同等くらいには戦える女性が必要だったのだ。幸いなことに元老院の連中からは満場一致で承諾を得て秘蔵っ子をかき集めることができたがな。ついでに言えば貴様が政治に明るくないのも幸いした。もう少し軍略に詳しければ親衛隊長に推したのだがな」

 

 

「いやー、私は一番槍が性にあっているので!……毎度思うんですけど、姫様のことになると全力過ぎませんか元老院の皆様?」

 

 

「当たり前だ――本来ならば、姫様を戦場に出したくはないのだ。だが、あの方がそれを望まれた。自分には武力しかないからと。民を想い、王を想い、国を想い前線に立つあの方を我々が支えねばどうするのだ。」

 

 

 

 そうぼやくと、ラウムは資料の山に隠してある報告書へと視線を向ける。

 

 

 

 【魔剣量産計画】――モンティナ・マックスが王から承認を受け、独自に進めているその計画。

 

 

 

 王がどのような考えを持ってそれを進めているのかはおおよそ理解できる。

 

 

 

 なぜならば、他の元老院が独自に砕けた魔剣の行方を捜索している――その事実を王に伝えたのはラウムなのだから。

 

それにも関わらず、王が直接動いたのはそういうことなのだろう、ラウムは思案する。今手元にある情報も、ラウムが独自に調べさせた結果なのだ。

 

 

(まったく、王の深謀は図りかねる。だが、だからこそ――)

 

「まぁ、あんな姫様だからこそ護らねばってなるのはわかりますよ。任せてください!親衛隊(ロイヤル・ナイツ)の名に賭けて、姫様の幸せとお命は守ってみせます!」

 

「……ふっ、頼りにしているぞ。確か、貴様は報告が終われば休暇をとる形だったな?束の間の休息だしっかりと英気を養え。」

 

「ありがたき幸せ!ではでは、私はこの辺で!」

 

思考の海に沈んでいたラウムを、女騎士のあっけらかんとした言葉が現実に引き戻す。

そして、らしくもなく笑顔を浮かべ労りの言葉を述べたラウムは、女騎士を見送ると再び政務に取り掛かったのだった。

 

 

だが――ここで、ラウムは見落としていた。いや、気がつけなかったのだ。

 

 

(さーて、姫様は今頃無事に手紙を出しにいけた頃でしょうか?上手くいくとよいですが)

 

 

親衛隊に選ばれた騎士達は、いずれも元老院の厳正なる審査によってその武勇と人格が保証されている。

そんな彼女達が、言葉を悪くすれば、元老院を虜にしてしまうほどの魅力を持つ姫君と日夜を共に、戦場を共にして、果たして影響を受けぬのだろうか?

 

 

 

 

否、否である。

 

 

 

 

結果的に彼女達は、元老院の意向等関係なく、姫君に命を賭け姫君を守護する女傑集団と化した。

 

それ故に、姫君が運命と出逢った後。

都市防衛隊【戦争狂の守護者】に教導と言う名目で親衛隊が度々赴き、とある新人隊員を発端にした騒動が度々巻き起こるのは――また別の話としよう。

 

 

彼の苦労は、始まったばかりなのだから。

 

 

続く?




余談:本二次創作を作るに当たって、キャラ作成の参考として振ったダイス

賢老七十二臣:ラウム

「武勇:【1D100:17】」 「魔力:【1D100:20】」 「統率:【1D100:79】」

「政治:【1D100:88】」 「財力:【1D100:83】」 「天運:【1D100:26】」

→明らかに内政向けになったので本来騎士系キャラの予定を七十二臣に変更。

女騎士
「武勇:【1D100:89】」 「魔力:【1D100:5】」 「統率:【1D100:33】」

「政治:【1D100:8】」 「財力:【1D100:57】」 「天運:【1D100:37】」

→部下用として振ったらなぁにこれぇとなるあれ。


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親衛隊編その1

キャラが降りてきて頭の中で小話を繰り広げるので、続きのような何かを書いてみました。


「……ふぅ、今日も地獄ながらいい朝ね。」

 

 

――親衛隊副長、護煌(マグナ)の朝は早い。

 

寝汗に濡れた体を水浴びと石鹸で清め手早く用意した朝食を口に放り込むと、前日に手帳に纏めていた姫君の予定(スケジュール)を確認し、宿舎で働いている侍女達に指示を出していく。

 

親衛隊副長と聞こえはよいが彼女に求められたものは他の親衛隊員と違い、その政治的な手腕である(それでも、武力や魔力はとある世界線において、数奇な運命をたどる錬金術師程はあるのだが)。

 

なぜこのような人材が求められたのかと言えば、姫君が政治に疎いことが理由である。

 

武勇、魔力、共に優れ戦女神(アテナ)とも称されるこの姫君は、少々……いや、自分の限界すら超えて行動しようとする傾向がある。

 

ようは「他の皆さんが頑張っていらっしゃるのに、私だけが見ている訳にはいきません」と、頑張りすぎてしまうのだ。

 

その点を姫君が幼い頃より把握し危惧していた王と王弟により、彼女は姫君の公私を管理する為に、親衛隊として任命されたのだ。

 

その結果、一癖も二癖もある親衛隊員に時に振り回されたりもしながら、彼女は秘書兼専属侍女長のような形で姫君を支えていくのだが、それはさておくとして。

 

侍女が用意した礼装(ドレス)の確認を終えた護煌(マグナ)は、前日までの激務を思い返し遠い目をしつつ、それも今日までだと気持ちを入れ替え姫君の宿泊する寝室へと向かった。

 

 

 

 

 

――ここで少しだけ、彼女達親衛隊がどのような政務を行っていたのか、語るとしよう。

 

元老院【賢老七十二臣】によって決定した都市間の連携及び練兵計画。

 

この計画の一つとして、姫君の前線巡回に合わせ、練度の高い面々が集う親衛隊が都市防衛隊の教導を行うことになった。

 

それだけならばまだよかったのだが……ここで、元老院と親衛隊のみが把握している、とある事実が事態をややこしくさせていた。

 

それは、この都市防衛隊【戦争狂の守護者】に、『姫君が好意を持つ兵士が居る』ということだ。

 

いや、なぜ居るのかといえば元老院の思惑により箔をつけさせる為に放り込まれたのだが。

 

当然、この事実を知っている親衛隊員はそれはもう張り切ったのである。

 

 

曰く『姫様に相応しい男かどうか私が判断してやろう』

 

曰く『姫様が泣くのは心が痛くなるから、死なない程度に鍛えてやろう』

 

曰く『姫様の心を射止めるとか許せん』

 

 

そんな多種多様な思惑が複雑に絡み合った結果、明らかに教導というレベルを超えてやりすぎたのだ、親衛隊は。

 

苦笑いを浮かべる防衛隊長に対し頭を下げ。防衛隊の業務が滞りなく行われるよう薬品やら人材(という名の元凶共)を手配し。なんやかんやで乗り切ったのだ。

 

後は、姫君が都市を管理している元老院との会談を終わらせれば、次の都市への巡回へと向かうことができる。

 

少しは、この苦労も報われるだろう――そんなことを考えながら、護煌(マグナ)は姫君の寝室へとたどり着き、その扉を拳で軽く叩いた。

 

 

「おはようございます姫様、着替えの用意ができましたのでお迎えに上がりました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

声掛けと共に、ノックを数回。しかし、姫君の返事はない。おかしい、と護煌(マグナ)は訝しむ。いつもならば、心を潤わせるような姫の尊い返事が聞こえてくるはずなのに。

 

 

 

「……姫様っ!」

 

 

嫌な予感がした護煌(マグナ)は、扉の取っ手に手をかけると勢い良く扉を開けた。

 

外に面した窓は開け放たれており、カーテンが風に揺らめく。寝台は綺麗に整えられており、争った形跡はない。

 

 

 

 

 

いや、争った形跡がないのは当然だ。

 

もし、(そもそも姫君相手にそんなことができるのかは置いておくといて)姫君が暗殺や誘拐などの事態に陥った場合、姫の警護を担当している親衛隊員絶影(スレイプニル)閃駆(ジエス)が報告を怠る訳がなく、他の親衛隊が気づかない訳がないのだ。

 

護衛の二人もろとも姫が居なくなっているという事は……その予測通り、寝台の横にある小箪笥の上に置かれた書き置きを、護煌(マグナ)は発見した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひめさまとおでかけしてきます。かいだんにはまにあわせるようにするので、しんぱいしないでね♪あるふぁ』

 

 

――その、いかにも急いで書きましたと言わんばかりの書き置きを、護煌(マグナ)はわなわなと握りしめる。

 

 

護煌(マグナ)、なんだ先程の声はっ!?……ど、どうしたいったい?」

 

 

護煌(マグナ)の声を聞きつけたのか、親衛隊長である終極(オメガ)が部屋へと飛び込んでくる。が、護煌(マグナ)が待とう気配に終極(オメガ)はたじろぎ、恐る恐る声をかける。

 

後に終極(オメガ)は、『あの時の護煌(マグナ)は邪龍を相手にするよりも恐ろしかった』と語る。

 

 

 

「……………………っっっっっっっっっあぁぁあああああるぅぅぅぅぅふぁあああああああっっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 

――そして護煌(マグナ)の怒声が、宿舎に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし魁刃(アルファ)さん、他の方にも一声かけた方がよかったのでは?」

 

「いいですっていいですって。姫様はこの街に居るのは今日が最後ですし、会談以降は慌ただしくなってろくに動けないじゃないですか。怒られるのは私と絶影(スレイプニル)閃駆(ジエス)なんですから、姫様は胸を張っていればいいんです」

 

魁刃(アルファ)、それは賛成できない。姫様が胸を張れば、せっかく変装しているのにその美貌で気づくものがいるかもしれない。」

 

「お姉さんも閃駆(ジエス)ちゃんに賛成ね。《認識阻害》の術式が施された眼鏡があるとはいえ、気づく人は気づいちゃうかもしれないもの?」

 

「何を言っているんですかお二方!?」

 

 

 

さて、場面は移り変わり都市の市場。まだ朝方にも関わらず活気のあるその通りを、4人の女性が歩いている。

 

一人は、《認識阻害》の術式が施された眼鏡をかけ、目立たぬようにと用意された衣服を纏った姫君。

 

一人は、【賢老七十二臣】が一人【ラウム】によって親衛隊に任命された、魁刃(アルファ)を冠する騎士(もちろん私服である)。

 

一人は、【賢老七十二臣】が一人【フラウロス】によって親衛隊に任命された、絶影(スレイプニル)。その胸は豊満であり私服を纏っていた。

 

一人は、【賢老七十二臣】が一人【アンドラス】によって親衛隊に任命された、閃駆(ジエス)。その胸は平坦であり私服を纏っていた。

 

早朝に襲来した魁刃(アルファ)と諌めるどころか手を貸すように準備を整えた絶影(スレイプニル)閃駆(ジエス)によって瞬く間に服装を整えられた姫君は、困惑しながらも待ちゆく人達の日常に、頬をほころばせていた。

 

 

「……魁刃(アルファ)、そろそろ来る。」

 

「お、さっすが閃駆(ジエス)の情報網ですね!たとえ護煌(マグナ)に怒られるという未来が確定していたとしても、決行した甲斐があったというものです!」

 

「うふふ、それじゃあ姫様?私達は少し姿を隠すけれど、ちゃあんと影から見守ってるから安心してね♪それじゃ!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!?ど、どうすればよいのでしょう……」

 

 

姫君を見てニヤニヤしていたかと思うと、そんな言葉を残して魁刃(アルファ)達三人は、周囲の一般人が違和感を感じさせない隠形を用いて姿を隠す。

 

その突如とした行動に、一人残された姫君が困惑していると――

 

 

 

 

「あれ、君はあの時の……どうしてこの街に?」

 

「え?あ――せ、先輩!?」

 

 

 

 

――それは、仕組まれた再会だった。

 

巡回とはいっても、姫君がその都市について多くの事を知る訳ではない。

 

そして、元老院や他の親衛隊も、わざわざ姫君に一兵士のことについて教えることはあまりない。

 

というより、妙な嫉妬心から教えてないだけだが。

 

それを逆手に取った、小さな恋を応援する為のお節介(サプライズ)

 

他の親衛隊が兵士を見定めようとするなか、この街に兵士が来てからの行動を調べ上げ、予測し、確実に姫君と出会える瞬間を策謀(セッティング)する。

 

その結果がこれだ。

 

兵士と楽しそうに話す姫君の笑顔を報酬としながら、三人の騎士はその光景を微笑ましく見守っていたのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど、理解はしました。しかし、それはそれとして覚悟は出来ているんでしょうね?」

 

「「「申し訳ありませんでした!」」」

 

 

なお、会談に間に合うようにと急いで姫君を送り届けた後、怒髪天を衝いた護煌(マグナ)に三人が平謝りすることになったのは、自明の理なのであった。

 

 

 

 

「フラウロス!アンドラス!貴様らが送り込んだ人材はどうしてああなった!?」

 

「「貴様に言われたくないぞラウム!?」」

 

「「「だが、それはそれとしてよくやった!姫様の笑顔に勝るものはない!」」」

 

「君達、ほんとぶれないね?」

 

また、この件が護煌(マグナ)から王弟を通して元老院へと伝わった時、このようなやりとりがあったとかなかったとかで、王が呆れたらしい。

 

 

 

続く?




・親衛隊
姫君をお守りする為に選抜された女騎士やら何やらの集団。
なお、姫様が恋をした結果それぞれが思い思いに行動する為、元老院ですら制御できない模様
現時点では13人ほどだが場合によって増減する模様。
なお、個人を識別する為に称号的なものを名前代わりにしているので、本来は別の名前があります。
元がやる夫スレというのもあるので、好きなAA当てればいいと思うよ。

以下、今回の登場人物

護煌(マグナ)
親衛隊副長にして苦労人(ストッパー)。怒らせると怖い。内政特化。

終極(オメガ)
親衛隊長。ステータス的には姫君に並び親衛隊内では最強。戦闘時は輝くが平時はぽややんとしている。

魁刃(アルファ)
前話の女騎士と同一人物。つまりあの極端なステを持つ一番槍。

絶影(スレイプニル)
ダイナマイトバディなニンジャ。姫君の恋応援し隊筆頭。

閃駆(ジエス)
スレンダーなニンジャ。姫様の恋応援し隊筆頭。


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断章:転星者

魔剣物語の二次創作の為こっちに入れてますが、独立したお話です。
超重要なことなのですが、剪定事象だということを念頭に置いてください。


――過去(ユメ)を観ていた。

 

それは、未だ龍が支配者たる時代の物語。

 

苦難もあった。喜びもあった。

 

色褪せることのないあの旅は、あの善き仲間と、善き龍王と共にあったことは、黄金の輝きとなって今もこの胸にある。

 

 

 

――現在(ユメ)を観ていた。

 

それは、永きに渡る闘争の続き。

 

砕け得ぬはずの【魔剣】が砕け、【災厄】が産み落とされた。

 

【魔王】を超えし【魔王】によって絶望に苛まれながらも――それでも、この輝きは消えることはない。

 

 

 

残された時間は少ない。

 

いつ、この薄氷の上にあるかのような均衡が崩れるともしれないのだから。

 

紡がれる詩篇は、『人』の時代だけではなく、『星』すらも終わりかねない、刹那に呑まれた泡沫の夢。

 

――それでも。

 

それでも私は、未来を望むのだ(ユ メ ミ テ ル)

 

 

 

『星の王の手記』

 

 

 

 

 

 

 

 

虹色に煌く空。

 

果てすら見えぬ、色とりどりの花が咲き乱れる庭園。

 

そんな庭園の中央にそびえ立つ『塔』の下で、『彼女』は詩篇を詠んでいた。

 

『彼女』の周囲に浮かぶのは、様々な詩篇。

 

 

それは、数奇な運命を辿る錬金術師の詩篇。

 

それは、流星を追い求めた者の詩篇。

 

それは、彼の地に住まう人々の、『あり得たかもしれない可能性』を綴った詩篇。

 

それら一つ一つを、『彼女』は丹念に詠み解いていく。

 

 

 

 

 

《――無駄だ。いくら詠みふけろうと、それらの詩篇は刻の楔(クォンタムロック)に刻まれた剪定事象(イフ)。お前が望む未来へと繋がる詩篇は、未だ顕現しておらぬ。》

 

 

 

ふと、『彼女』の魂にそんな『言葉』が響き渡る。『彼女』が天を見上げると、そこには雄々しき(くろがね)の鎧を纏いし巨神が、腕を組みながら『彼女』を見下ろしていた。

 

 

「確かに、その通りかもしれません。ですが私は、まだ諦めたくないのです。人類(ひと)の可能性が、終着点が、このような終わりではないと言うことを。」

 

 

《――好きにするといい。今はまだ、この地も剪定事象(イフ)であり顕現するには至らない。だが、あの【魔王】が戯れを止めた時。この星を静止させようと動くその時。それが終焉の原初と知れ。》

 

 

そう言い残し、巨神は霞へと姿を変えながら消えてゆく。その様子を見送った『彼女』は白い外套(マント)を棚引かせながら、背後の『塔』――『星の槍』と呼ばれるモノへと視線を向けた。

 

 

 

――【人類悪】と称される【魔王】が『星』の魂を己が手中に収めたあの日。『星』の寿命が定まったあの日。この地は生み出された。

 

それは、人に例えるならば悲鳴のようなものだった。【箱庭】たる『星』が、自らの終焉を否定する為に生み出した、星の最果て(アヴァロン)

 

彼の地に紡がれし理を束ね、生み出されたのは【魔王】を討滅せんとする、3つの終焉。

 

 

 

終焉の壱、邪龍を食らう【星の獣】を無限に生み出す【星獣の王】。

 

終焉の弐、邪龍に蝕まれし大地を焼き尽くす、【星の巨神】。

 

終焉の参、囚われし全ての魂を解き放ち、新たな輪廻へと導く、【星の槍】。

 

 

 

その担い手として、『龍の時代』を終わらせた『彼女』は選ばれた。自らが切り開いた『未来』を終わらせる為に。

 

だが、『彼女』の目には、その魂に宿る黄金の輝きは、未だ燻らない。

 

例え絶望という闇に飲まれようと、希望の光は残っているのだと、信じたいから。

 

 

『塔』から視線を戻すと、『彼女』は一つの詩篇を手に取る。

 

 

――それは、とある少年の物語。

 

魔剣を生み出した古龍によって彼の地に招かれ、魔剣を手に取らなかった少年の物語。

 

かつて魔王だった者と、英雄に近き少女と、古龍と、共に歩まんとする、物語。

 

その瞳に、浮かぶのはいかなる想いなのか。それを推し量ることはできない。

 

 

だが、『彼女』は。だから、『彼女』は。

 

詩篇を詠みながら、こう口ずさむのだった。

 

 

 

 

 

「願わくば、あなたが【魔剣】の物語を終わらせる、『勇者』とならんことを。」

 

 

 

 

――最果ての地で、【星王】は願い続ける。かつての理想(ユメ)を。これからの未来(ユメ)を。




魔剣物語における聖王様ネタを書きたいと思った→
大魔王様の『星の自転を止める』というパワーワードがひっかかってた→
これ人類だけの問題じゃなくなるよね?とネタが浮かぶ→
別の二次創作様のネタを見て『そ の はっ そ う は な か っ た』となる(宇宙とか自転止めるってまさか?とか)→
結果こうなった。

まぁ流れには乗っけてないのですが、今回の登場人物達が仮に魔剣物語の世界に出現する=魔王様が自転を止めようとしている=怪 獣 大 決 戦です。

どっちが勝っても人類の時代は終わる。


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親衛隊編その2

親衛隊ネタを扱ってくれる方も居たりして胸がほっこりとしています。
今回は、『おーるゆーにーどいずぐだ』の前日譚的な剪定事象です。


 

 

七星国家が一国、新たなる熾火(ギムレー)

 

そこでは、今日も賢王と元老院【賢老七十二臣】による、国政が行われていた。

 

 

「では、本日の議題だが……まずは『兵装舎』に任せていた各種計画についての進捗を聞かせてもらおうか。」

 

「ラウム、頼むぞ。」

 

「任された。」

 

 

議長である【ゲーティア】、兵装舎の長である【ハルファス】両名から促されると、【ラウム】は手持ちの資料を広げつつ立ち上がり計画の進捗を述べていく。

 

 

「まず、都市間の連携についてだ。諸君らの快い協力に伴い、兵装舎が独自に予測していた想定を上回る速度で各種配備が進んでいる。このまま進めば、月の終わりには完了する予定だ。」

 

「それは何よりだ。いつ、何が起きるかわからぬからな。」

 

「備えあれば憂い無しという。ぜひ、そのまま進めてくれたまえ。」

 

「一方で、義勇兵の募集については芳しくない。こちらは義勇兵の人数というよりは事務側の処理能力の問題だ。【兵装舎】が用意している窓口から悲鳴が上がるほど殺到している。こちらについては、【情報室】の協力を要請したいがいかがかな?」

 

「あいわかった。早急に人員を手配しよう。正式な書類は後々承認をいただくとして、よろしいですなソロモン。」

 

「あぁ、異論はないよ。後で書類を持ってきてくれ。」

 

「練兵計画の方についてはどうだ?」

 

「そちらは私が答えよう。親衛隊による教導を試験的に行ったが、対象となった五都市中四都市の防衛隊から『業務に支障をきたしかねない訓練は控えてほしい』と苦情が入った。後日現場の意見を反映させた練兵計画を親衛隊側に提出させる予定だ。」

 

「よろしい。では、続いて姫様の前線巡回についてだが――」

 

 

所々で他の【柱】が言葉を挟みつつ話が進んでいく中、とある項目でラウムは額を抑え、呻くように言葉を漏らす。

 

 

「どうしたラウム、疲れているのか?【賢老七十二臣】が倒れては元も子もないぞ?気分転換が必要なら手配をするが?」

 

「「「ゼパル、今は真面目な話をしているのだ。娼館の話は止せ!!!」」」

 

「雌堕ちさせるぞ貴様ら?????」

 

「いや、心配は無用だゼパル。」

 

 

もはや恒例となりつつある【溶鉱炉】ゼパル弄りをよそに、ラウムは苦々しい表情で言葉を紡いでゆく。

 

 

「……姫様から、巡察と現地守備隊と共同による対邪龍戦演習の提案があった。場所は、【例の都市】だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、刻が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「――試練だ。彼の者に試練を」」」」」」」」」」

 

「待て待て待て待て待て待て待ってぇっ!?君達、アイコンタクトからの結論がぶれなさすぎるよ!?」

 

 

そして、再起動が完了した後。元老院の意思が物騒な方向で一つとなったことに、【賢王】ソロモンは冷や汗を流しながら場を落ち着けようとする。

 

 

「ソロモン!貴様にはわかるまいソロモン!実の親だからといい気になっている貴様には!」

 

「不敬にあたるがあえて言わせてもらおう!『私には武力しかないから』と前線に自ら志願した姫様がこのような提案をなさる訳がない!誰だ姫様に余計な知恵を植え付けたのは!」

 

「そんな姫様も尊いがそれはそれ、これはこれというやつだ!」

 

「【兵装舎】!親衛隊は何をしていた!親衛隊は件の兵士と姫様を可能な限り近づけさせぬよう一致団結したと報告を受けたのだぞ私は!?」

 

「まてしれっと重要な情報を口にするんじゃないフラウロス!?貴様、独自に情報を得ていただと!?まぁそれはともかくとしてこちらもそういった報告を聞いたのだぞ!?」

 

 

堰を切ったように、混乱する元老院達は議論による殴り合いを始めていく。その様子を呆れながら観ていたソロモンは、ふと元老院達の議論に参加せず、ただその推移を見守る【議長】――弟でもあるゲーティアに、こっそり声をかけた。

 

 

「ゲーティア、君は参加しないのかい?」

 

「いや、儂は護煌(マグナ)から正しい報告を受けているのでな。」

 

「あぁ、僕らが選んだあの子から。それで、彼女はなんだって?」

 

「――多少暴走した輩はいるものの、親衛隊の総意としては姫の恋を応援するとのことだ。おそらく、姫からの頼みならば元老院も断れまいと入れ知恵をしたのも、耳障りのいい報告で撹乱を行っているのも親衛隊だろう。」

 

「場合によっては派閥争いによる内乱になりかねないんだけどなぁそれ……まぁ、まだこの国が平和を享受できているという証拠でもあるか。」

 

「そうだな。」

 

「何をしているソロモン!ゲーティア!貴様らも議論に加われ!」

 

 

そんなやりとりを重ね、ソロモンとゲーティアは顔を見合わせ笑みを浮かべると、事態を収拾する為に議論へと挑んだ。

 

結果、姫君の提案に協力する形でまとまり、元老院達は涙で枕を濡らしたというが――それが真実かは、定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、という訳で!無事元老院からの承諾は奪い取りました!皆さん、拍手!」

 

「皆さん、協力してくださってありがとうございます。」

 

「姫様、安心するのはまだ早いですよ?承諾を取り付けたからには、きちんとした成果を出さねば彼らも納得しませんから。」

 

 

 

――一方、親衛隊達はというと。

 

姫君と共に円卓(テーブル)を囲み、作戦会議を行っていた。

 

司会と務めるは魁刃(アルファ)護煌(マグナ)終極(オメガ)は姫君の隣で、静かに眼を閉じ会議に耳を傾ける。

 

 

 

「はいはーい、まずはお姉ちゃん達からね♪」

 

「既に情報操作、及びあちらとの調整は対応済。」

 

「そちらは私も関わりましたので、問題はないでしょう。」

 

「三人ともご苦労様です。」

 

「「「あぁ、姫様の笑顔尊い。」」」

 

 

 

まず口火をきったのは、絶影(スレイプニル)閃駆(ジエス)だった。彼女達に続き、護煌(マグナ)と同じく姫の内政面を支える導政(ロードス)も頷く。

 

三人の報告を聞き、姫が労いの言葉を投げかけると三人は蕩けたように円卓(テーブル)へともたれかかり、少々見せられない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「……えー、トリップしてしまったお三方はおいといて。では続いて錬金チームの皆さん進捗は?」

 

「こちらが管理している資料と引き換えに今代の開闢(カリオストロ)の工房からいくつか資料を拝借している。」

 

「いずれ姫様の隣に立つのに相応しい鎧に仕上げてみせるわ。それはそうとお師匠様が悪いお友達となんか変なの作ってそうなんだけど。」

 

「あ、そっちはこちらで取り扱ってないので見なかったことにしましょう、ネ?」

 

「アッハイ。」

 

 

 

続けて、親衛隊の中でも有数の実力を持つ錬金術師、冥珠(クレニアム)天巌(エグザ)が、取り掛かっている鎧作成の進捗を述べていく。

 

その中で今代の開闢(カリオストロ)の弟子である天巌(エグザ)はいささか不安そうな顔をしていたが、その不安は魁刃(アルファ)のいい笑顔で黙殺された。

 

 

 

「よっし!次はアタシ達の番だな!まぁ、アタシ達はこれからが本番なんだけど!」

 

「然り。我らは姫様の剣。その力を示すのは戦場――件の兵士だけではなく、【戦争狂の守護者】は粒揃いだ……腕が鳴るな。」

 

「ふ、二人共落ち着いてね?この前やりすぎて怒られちゃったんだからちゃんとしよ?」

 

「「そうはいうけどあの時一番暴れたのお前だ(じゃん)、豪腕(ガンクゥ)?」」

 

「あ、あぅううう……」

 

「…………すまん護煌(マグナ)、この場で頼むのは申し訳ないが追加で薬の手配を頼む。できれば以前のよりも効くものがよいな。」

 

「苦労をかけて申し訳ありません、深謀(ドゥフト)。」

 

「一応訓練の名目は『対邪龍戦演習』ですからね?そこんとこ履き違えないでくださいよ三馬鹿戦闘民族?」

 

「「「はーい(了承した)」」」

 

 

 

そして、円卓(テーブル)の後ろでやたら張り切っている二人の騎士――烈風(デュナス)蒼閃(アルフォース)を、姫君に近い年齢と思われる騎士豪腕(ガンクゥ)が諌めようとするが、二人の返す言葉に顔を赤らめていた。

 

事実、【戦争狂の守護者】に教導と称して訓練を行った際。対『魔王』を想定した形式として一対多数の模擬戦形式を行ったのだが、豪腕(ガンクゥ)は阿修羅のごとく守備隊をなぎ払い、訓練を中止せざるを得なくなってしまったという話がある。

 

その様子を思い出し、この三人がまた何かやらかさないかと思案した結果、腹部を押さえ呻く深謀(ドゥフト)護煌(マグナ)が労り、魁刃(アルファ)が釘を刺す。

 

 

「さて、あまり元老院の方々を笑えないのだが――隊長、つまるところ結論としては、いつも通り『姫様の為になると判断したら自由に行動してよい』、ということになりますかな?」

 

「――そうだな。姫様、よろしいでしょうか?」

 

「は、はい!えぇと、不安がないと言えば嘘になるのですが……私は皆さんを信じていますから。改めて、ご協力をよろしくお願い致します。」

 

((((((姫様尊い))))))

 

 

――そして、親衛隊三番手である焔星(デューク)の問いかけに終極(オメガ)が姫君へと促す。姫君はと言うと急に話をふられた為多少慌てるが、精一杯の笑顔を浮かべ礼をする。

 

その姫君の尊さに親衛隊の心が一つになった所で、その日の会議は終わることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、欠片のように煌めいた、日常のひととき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、今日もおれと一緒に遊んでくれる玩具(おもちゃ)を探しにいくか。」

 

 

――だが、そんな儚くも尊い日常は、『災厄』によって瞬く間に砕けてしまうのが、この地獄(せかい)なのだ。

 

 

 

 

 

 

続く?

 




・一言メモ的な新キャラ紹介

焔星(デューク):三番手ではあるけれど、副長の護煌(マグナ)が内政特化なので事実上のナンバー2。実は愉快な性格しているイメージ。

烈風(デュナス):元気っ子。姫様ガチ勢。

蒼閃(アルフォース):サムライガール的なイメージ。姫様ガチ勢。

豪腕(ガンクゥ):徒手空拳で戦うイメージ。武勇は勝手な想定で100ぐらいです。姫様ガチ勢。

深謀(ドゥフト):上の姫様ガチ勢に主に振り回される人。胃薬は欠かせない。

冥珠(クレニアム):錬金術師としてはホーエンハイムさんに及ばないまでも近しい実力を持っていたという裏設定あり。年齢?聞くな。

天巌(エグザ):上と同じく、ホーエンハイムさんの弟子という裏設定あり。剪定事象ということで許してくれると助かる。師匠のライバルが上司である彼女の明日はどっちだ。

導政(ロードス):内政特化組。こう、某メイド長みたいなイメージ。


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聖剣姫とある魔道士の小話

オルガマリー王女がすごくツボに来たので、何か書いてみたいなと思いました。
例のごとく剪定事象なので、自分が書く話としても続くか未定です。


 

 

七星国家が一国、新たなる熾火(ギムレー)

 

その国家には、二人の姫が居る。

 

一人は、【賢王】の娘たる戦女神(アテナ)、【聖盾姫】。

 

一人は、王弟の娘たる戦女神(ミネルヴァ)、【聖剣姫】。

 

 

 

これは、【聖剣姫】に使える一人の青年の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やれやれ、まったくあの姫君は。いい加減御身の重要さを理解してもらいたいものだな。」

 

 

穏やかな日差しが差し込む、そんなある日。

 

『彼』は青空を『自由に舞うかのように飛び』、眼下の街で人を探していた。

 

 

――その身に溢れる、『魔道』の才能と、神に祝福されたかのような『天運』。

 

世が世なら『学院』の最高峰にまで上り詰めたであろう彼がこの新たなる熾火(ギムレー)に所属しているのは、簡潔に言えば生まれの為だ。

 

元老院【賢老七十二臣】が一人『グシオン』の息子として生まれた『彼』は、年が近いこともあり【聖剣姫】の遊び相手として親交を深めた。

 

そして時が経つにつれ、【聖剣姫】は武力の才能を、『彼』は魔道の才能を開花させ、それぞれの道を歩む――はずであった。

 

 

 

この世界が、『大魔王』によって滅亡の危機に瀕しているのでなければ。

 

更に、王の娘である【聖盾姫】が自ら志願し、前線へと出たことも影響を及ぼした。

 

双方が意識していた訳ではないが、【聖剣姫】もまた英雄と呼ぶに相応しい実力を備えた才女。必然的に前線へと出ることになる。

 

そんな【聖剣姫】を支える為に、彼はこの国で軍人となることを決意したのだ。

 

 

 

「――ようやく見つけたぞ、こんなところにいたか。」

 

「……あら、どうしたのよ?何か緊急の案件でもあったか……いひゃいいひゃいいひゃいっ!?にゃにしゅりゅにょよ!?」

 

「クハハ、何をするのかだと?護衛の眼をかいくぐり街に繰り出すお転婆姫を叱るのは、当然のことだろうさ!お目付役も兼ねている俺の苦労を知ってほしいものだな!」

 

 

 

街を探していると、【聖剣姫】の姿を見つけた『彼』はすぐさま駆け寄り、その頬を引張る。

 

場合によっては不敬罪と扱われても仕方がない行動だが、その様子を見ていた街の人々はというと。

 

 

「あぁまた始まった。」

 

「昔から微笑ましいものよねぇ。」

 

 

と、温かい眼差しでその様子を眺めていた。

 

 

 

「あー、また変な笑い声の魔道士様が姫様いじめてるー!」

 

「みんなー!姫様を助けろー!」

 

「このかれしづらー!」

 

「おい待て、群がるなお前達!それと誰だ彼氏面等と言った奴は!?どこでそんな言葉を覚えてきた!?」

 

「ふぅ、ありがとうみんな。あー、それと勿論だけど子供達を傷つけては駄目よ?」

 

「えぇい、わかっているそんなこと!いいだろうお前達、盛大に遊んでやろう!クハハハハハハ!捕まえれるものなら捕まえてみろ!」

 

「「「わー!鬼ごっこだ捕まえろー!!!って、空飛ぶとか大人げないぞー!?」」」

 

 

すると、【聖剣姫】の姿を見かけた子供達がよってたかって『彼』へと飛びかかっていく。

 

群がる子供達の相手をしながら、『彼』は横目で【聖剣姫】の様子を確認する。孤児院長が話をしつつ頭を下げているのを見ると、どうやら孤児院に顔を出しては寄付をしつつ子供達の相手をするつもりだったようだ。

 

そんな彼女を内心誇りに思いつつ、『彼』はため息をつく。

 

このご時世において、【聖剣姫】の行動は焼け石に水でしかない。それだけでなく負傷した兵士達への補償も自分の懐から出そうとするので、仮にも姫だと言うのに個人的な財政は火の車だ。

 

なまじ武力に特化している為に最前線にのみ注力している【聖盾姫】とは違い、彼女は政治等にもある程度の理解を示していた。それ故に、自分に出来ることをやろうとし様々な事に手を出していくのだ。

分かりやすく活躍している【聖盾姫】に対し、『自分も頑張らねば』と奮起しているのも、それを後押ししているのだろうと『彼』は考える。

彼女の父である議長はというと『自分で稼げ』と匙を投げて関わらないようにしているくらいだ。

 

幸いにも(個人の財政こそ稼ぐ側から吹き飛んでいくが)全体として見れば収益が出ているのがその非凡な才能が発揮されている証拠なのだろうが、破綻しないうちに元老院に手助けを求めてはくれないだろうか、と『彼』は思う。差しのべられている手を取ってくれれば少しは楽になるだろうに。

 

 

「……がふっ!?」

 

「よっしゃ大当たりぃ!みんな捕まえろぉ!」

 

「「「とー!」」」

 

「待て、待てお前達!一度に乗っかってくるんじゃない!?」

 

そんなことを考えながら飛んでいたからか、いつの間にか建物の中へと忍込み窓から落下(ダイブ)してくる子供に体当たりを食らう。元々子供達がギリギリ捕まえれるかどうかの高度で飛んでいた為、体勢が崩れてしまえば後はこちらのものと言わんばかりに子供達が次々と飛びかかっていく。

 

そんな様子を見て、周りの大人達も【聖剣姫】も涙を浮かべるほどに笑いだすのだった。

 

 

 

 

 

――それから、どれくらいの時が流れただろうか。【聖剣姫】が子供達と共に遊んだりしているのを眺めていた『彼』だったが、突如として爆音が遠くから聞こえてくるのに気づく。『彼』は懐から通信用の術式が施された水晶を取り出すと、砦を守護しているはずの防衛隊へと連絡を取る。

 

 

「――防衛隊、何事だ!?」

 

『例によって邪龍の襲撃です!行動周期から判断するに【魔女】は居ない模様!』

 

「はっ、運がよいのか悪いのか……姫を連れてすぐに向かう!これ以上姫を財政難にしたくなくば、全力で生き残りつつ街を守れと前線に伝えろ!」

 

『言われなくてもわかってらぁ!聞いたなお前らぁ!姫様が来るまで持ちこたえろぉ!姫様を涙目にさせる奴はあの世で袋叩きにあうと思えぇ!』

 

『『『おぅよ!』』』

 

「……という訳で急ぐぞ、捕まれ。」

 

「物申したいことはあるけれど我慢するわ。みんなも避難を急いで!」

 

そう言うと、姫は当然のごとく『彼』の腕に――所謂『お姫様抱っこ』という形で捕まり、それをしっかりと支えた『彼』は勢いよく地面を蹴り、空を駆けていく。

 

 

「……あの二人、あれで婚約とかしていないのだから不思議だよなぁ。」

 

「見守るしかないとはいえ、姫様も恋愛事には奥手だものねぇ。さ、それはともかく避難しましょ。みんな、急ぐわよ。」

 

「「「はーい!」」」

 

 

その様子を眺めながら住民達はそんな会話を交わすと、慌ただしく避難していくのだった。

 

 

 

 

 

続く?

 

 




今回のお話を作るに至って
1.話を作る参考にお付であるキャラのステをダイスで振った結果こうなった(素質による補正設定済)。
【素質:【1D10:4】】
【武勇:【1D100:68】】【魔力:【1D100:93】+20】【統率:【1D100:5】】
【政治:【1D100:15】】【財力:【1D100:37】】  【天運:【1D100:91】+20】

財政はカバーできなかったけど、なんかオルガマリー姫様の魔力と天運を補う形になったのであぁなった。
モチーフが露骨に某彼氏面王なのですが、どちらかと言うと原作のエデポジに姫様が居る形で、続きを書くなら『恋愛感情はないけど親愛は抱いている』感じにしたい(願望)。


余談
親衛隊のアルファさんのステは素質を考慮しない所謂凡人()ステなので、素質を追加で振った上で補正を足してみた結果

【素質:【1D10:3】】
「武勇:【1D100:89】+10」 「魔力:【1D100:5】」 「統率:【1D100:33】」

「政治:【1D100:8】」 「財力:【1D100:57】」 「天運:【1D100:37】+10」

……なんか更に尖った


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聖剣姫とある魔道士の小話その2

当初は没ネタにしようかなと思ってたんですが、せっかくなので投稿しようかと思います。


――七星国家が一国、新たなる熾火(ギムレー)が都市の一画に存在する、最終防衛線ともいえる砦。

 

そこでは兵士級(ポーンクラス)と呼ばれる邪龍達が津波のように押し寄せていた。

 

 

 

「負傷者は後方に下げろ!絶対に死なせるんじゃねぇぞ!」

 

「撃て撃て撃て撃て撃てぇっ!!あいつらをこれ以上近づけさせるな!」

 

「ちくしょう、きりがねぇ!」

 

「諦めるんじゃねぇ!姫様が来るまで持ちこたえろ!」

 

 

防衛隊に所属する兵士達は士気こそ高くかろうじて死者は出ていないものの、負傷者は多く。

 

このままでは防衛隊は全滅し、都市にまで被害がでるかと思われたその時だった。

 

 

 

「――クハハハハハハ!待たせたなお前達!我らが姫のご到着だ!」

 

 

 

空から雷光が降り注ぎ、紫炎が邪龍達を包み込んでいく。そして、最前線に『彼』と【聖剣姫】が降り立つのだった。

 

 

『おっせぇぞこの野郎!?』

 

「あとてめぇ!姫様をお姫様抱っこってどういうつもりだ!?羨ま……ゲフンゲフン、けしからんぞごらぁっ!?」

 

「ささ、姫様はこちらに!その魔道しか取り柄がない奴がぶっ放している間にご準備を!」

 

「……どうやら、憎まれ口を聞けるくらいには元気のようだな?」

 

「みんな、生きててくれてありがとう!……それじゃあ、お願いね?」

 

「あぁ、時間稼ぎは任された。さて――邪龍共、少しばかり舞踏会(ダンス)に付き合ってもらうぞ!」

 

 

怒号が響く兵士達に【聖剣姫】を預けると、『彼』は宙へと舞い上がり、次元軌道(ジョウント)と呼ばれる幻影を纏った飛行術で邪龍達を撹乱し、時に雷光を放ち、時に紫炎を纏った飛ぶ斬撃を放っていく。

 

一方で【聖剣姫】と言うと、どこからともなく何重にも鎖が巻かれた剣を取り出し、その鞘ごと地面に突き刺すと、何やら言葉を紡ぎ始める。

 

 

 

「――十三拘束(シール・サーティーン)限定解除(リベレイト・オーダー)

 

第一術式から第六術式(アクトワン・フォー・シックス)拘束解除(リベレイト)

 

 

【聖剣姫】が紡ぐ言葉と共に、剣に纏わりついていた鎖が光となって消え去っていき、徐々に剣が輝きを放っていく。

 

 

――さて、ここでとある話をしよう。

 

それは、かつて【魔剣】を封印していたという【聖剣】の話だ。

 

とある国の聖王がその魂を捧げ、聖王の祈りを糧とし力とする剣。

 

当時の魔王を討ち取った後、次代の魔王が現れるまで【魔剣】を封印していたとも称される剣。

 

再び魔王が現れてからは行方知らずとなっていたその剣は――何の因果か幾多もの封印を施され、先代の王によってこの新たなる熾火(ギムレー)へと保管されていた。

 

由緒正しき神器である盾を受け継いだ姫が【聖盾姫】と呼ばれるのならば。

 

彼女は【聖剣】を受け継いだが故に【聖剣姫】と呼ばれるのだ。

 

 

 

七聖術式『守護剣封陣』(セブンセンシズ・ロード・カルデアス)議決承認(ディシジョン・ログイン)!」

 

「さぁ、目覚めなさい!」

 

 

 

【聖剣姫】の詠唱と共に、ひときわ大きな光が剣を包み込み、その鎖を解き放つ。

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の伝説は12世紀から始まった。あれは日差しの強い真夏だったかな?いや……肌寒くなる秋だった……当時は私も「(ワル)」でね?そういえばもう冬だったかもしれない。すごく「(ワル)」で巷でも有名な「(ワル)」だった。悪そうな奴はみん 『虫唾ダッシュ!』 ぶべらっ!?」

 

 

 

 

 

――剣があった場所に現れたよくわからない聖剣(ナ マ モ ノ)を、【聖剣姫】が蹴り飛ばしたのだった。

 

 

「ヴァカめ!私の武勇伝を遮るとは何事だ!朗読会も聞かない、使い手に守って欲しい1000の項目も見ようとしない!あぁ、この国の使い手はいつだってそうだ!このような拘束で私を意のままに操ろうとする!なんたる事だ!」

 

「はいはい話は後。今はあれを蹴散らすのが先よ?」

 

「えぇい、またメイドイン【魔剣】の奴らか。だがしかし、この私の内に宿る聖なる力(ぱぅわぁああ)が奴らを鎮めろと叫んでいる……致し方あるまい、この私の武勇伝の新たな一頁を刻むことを許可しよう。」

 

「えぇ、お願いするわ【聖剣】。」

 

 

話の邪魔をされたことにわめく聖剣(ナ マ モ ノ)を【聖剣姫】がうまく誘導していくと、聖剣(ナ マ モ ノ)は光り輝く剣の姿となって【聖剣姫】の手に渡り、その背中に光り輝く翼を宿らせる。

 

 

【聖剣姫】が【聖剣】を撫でるように一振りした、次の瞬間。

 

――そう、軽く振っただけだ。ただそれだけで、兵士級(ポーンクラス)の邪龍達が真っ二つになった。

 

 

 

 

 

「……やれやれ、拘束は半分ほどしか解除していないというのに恐るべき威力だな。かつて魔剣を手にした魔王を討ち取るのに貢献したというだけのことはある。」

 

「あ、この彼氏面しれっと避けて姫様の隣確保してやがる。」

 

「ねぇなんなのその以心伝心っぷり?見せつけてるの?」

 

「処す?処す?」

 

「五月蝿いぞ貴様ら。」

 

「「「「お?」」」」

 

「あ?」

 

「何邪龍がまだ居るのに喧嘩してるの!?さぁ、残りを蹴散らすわよみんな!」

 

『おおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっ!!!!!!』

 

 

【聖剣】が振るわれるのを察知し、離脱した後【聖剣姫】の傍に舞い降りる『彼』と防衛隊の兵士達が(彼女視点)何故か一触即発になろうとしているのをたしなめた【聖剣姫】は、剣を天に掲げ兵士達を鼓舞する。

 

そして、その号令と共に彼らは――都市を守る刃となって、邪龍の群れに立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、姫様達が居てくれて助かったよ。おかげでうちの防衛隊は死人もなし、被害はあっても運営には支障なし。いやはや、姫様さまさまだねぇ。」

 

「そんなに褒めるようなことじゃないわ『グシオン』。私は私にできることをやっただけ、後はみんなが居たからこその勝利だもの。」

 

 

邪龍の群れを退けたその後。【聖剣姫】と『彼』は、都市を管理している元老院【賢老七十二臣】が一人、『グシオン』との会談を行っていた。

 

 

「はぁー、姫様はほんとにいい子だねぇ。そうは思わないかい、馬鹿息子?」

 

「少しばかり空回りしている点は多いがな。ただし俺の誇りにかけて厨房には入らせん。それと姫とはいえ多少は部屋の片付けをできるようにはなってほしいものだな?少し放って置くと俺の手にも負えなくなる。」

 

「ちょっと、何よその言い方!?悪いとは思ってはいるし改善しようとはしているでしょ!?」

 

「そうじゃない、そうじゃないんだよこの馬鹿息子が…………」

 

「私の午後はアフタヌーンティーにて始まる。」

 

「そしてなーんでしれっと紅茶を飲んでいるんだいこの【聖剣】様はっ!?拘束はどうしたのさ拘束は!?」

 

「ヴァカめ!私は不可能を可能とする聖剣だ!それはそれとして私の紅茶を飲むといい、気分が安らぐぞ?」

 

「あらどうも…………ぐっ、無駄に美味しいのがまた腹立つ…………」

 

 

 

 

 

軽く話題を振ったつもりだった『グシオン』であったが、何故か姫の部屋事情等を熟知している『彼』と、それが当然かのように流して言い合いを始める【聖剣姫】のやり取りに頭を抱える。

 

そして拘束が施されているにも関わらずしれっと部屋に居た【聖剣】から紅茶を受け取って口をつけると、口論を続ける二人を他所に「まーたあの場所に行こうかなー」などと現実逃避を始めるのだった。

 

 

「あー、はいはい。二人共そこまで。ただでさえ疲れているのにもっと疲れるよ?それはそうと、お母さんたまには馬鹿息子の手料理が食べたいなー?あんたいっつも姫様の傍に居てここに帰ってくることなんざ滅多にないし。」

 

「…………ほう、俺の料理を呼んだな!いいだろう、ならば腕によりをかけて作ってやろう!」

 

「あら、それじゃあ私も楽しみにしているわね?」

 

「ふっ、当たり前だ!」

 

 

 

 

 

――これは、つかの間の平穏を取り戻した、そんな一日の話である。

 

 

続く?




余談:この彼氏面の衣食住
衣:【1D100:29】 食:【1D100:80】 住:【1D100:58】

ソロモン!衣は人のこと言えないけどなんか食がすごいぞソロモン!


後、別所のグシオンさんがゲスト出演してます。

前の話でグシオンの息子と書いていたので繋げたけど剪定事象ですので(土下座)


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草原の国の彼と彼女のお話

今回の話はエイワス様の過去作リスペクトがあったり、他の二次創作者様リスペクトがあったりします。


【素質:【1D10:9】】
【武勇:【1D100:90】+30】  【魔力:【1D100:88】+30】 【統率:【1D100:83】】
【政治:【1D100:34】】  【財力:【1D100:15】】    【天運:【1D100:37】】


このダイス結果が納得行くようにしたつもりなのですが、まぁ剪定事象ということで。
それでも大魔王に勝てなさそうなんだけど。


 

それは、この地獄(せかい)ではよくある光景だった。

 

【魔剣】が砕け、大魔王たる存在が生まれ出づるこの地獄(せかい)では。

 

邪龍の進撃によって村が焼け落ちることなど、当たり前のことなのだから。

 

 

――そこに、一人の少年が居た。

 

少年は、【希望】に満ち溢れた存在だった。

 

そのまま時が経てば自らの才能を開花させ、いずれは【英雄】と称される存在になったかもしれない。

 

だが、既に瀕死となっている少年の【未来】は、閉ざされようとしていた。

 

 

 

 

 

そんな少年の傍には、村を守ろうと奮闘し死亡した冒険者達によって作り上げられた、邪龍の屍骸が存在した。

 

瀕死となったことで本能が叫んだのか、はたまた神の手による運命なのか。

 

少年は、最後の力を振り絞って――

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、キミは実にオモシロイ」

 

 

 

 

 

 

 

――そんな声が、少年の耳に聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時と場所は移り変わり、七星国家(セブンスターズ)が一星、草原の国(ジャパリパーク)と呼ばれる国。

 

そのとある一画にある、お昼時で混み合ったその飯屋では、剣呑な空気が漂っていた。

 

その食卓(テーブル)に座っているのは、二人の少女。

 

一人は、帽子とマフラーで顔を隠した、『邪竜必殺(グラム)』の剣士と名高い少女。その名は無銘(エックス)

 

もう一人は、長い黒髪をツインテールにしいささか露出の激しい衣装を纏った、全体的に黒い印象を受ける少女。

 

かたや無銘(エックス)は仏頂面で料理を黙々と食べ、かたや少女はその様子を楽しそうに眺めながら料理に舌鼓をうつ。

 

 

 

「おや、どうかしたのかな?せっかくの料理だ、楽しまないと損だと思うがね?」

 

「ふん。その料理の魅力を損ねているのは貴様の気配だがな。まったく、この店がお昼時で混雑などしていなければ、相席などしなかったものを。」

 

「それは至極残念だ。私はキミの姿を見ているのがとても楽しいというのに。完成していた彼女(アルトリア)とは違う、未完全で可能性を秘めたキミがどのように――」

 

「黙れ。そしてさっさと料理を食べろ。」

 

「おや、連れないことだ。まぁ、料理を早く食べるというのには同意しよう。いつ、何が起きるかわからないからね?」

 

 

 

無銘(エックス)の言葉に少女がうんうんとうなずき、料理の残りを食べようとしたその時だった。

 

――微かに。ほんの微かにだが、空気が爆ぜる音と悲鳴が、無銘(エックス)と少女の耳に入る。

 

 

 

「やれやれ、いつだって彼らは人の都合など知ったことではないか。店主、料金はここに置いておくよ。今度はゆっくりと楽しませてもらうから、しっかりと生き延びてくれ。」

 

「…………おい、その金はどこから持ってきた?」

 

「勿論、愚かで脆い私の玩具の懐からだよ。安心するといい、キミの分も払えるからね。」

 

「……彼には、後で謝らないといけないな。」

 

 

そういうと、少女は無銘(エックス)の頼んだ料理の分まで――料金にしてはいささか多すぎる金額を置いて、店の外へと飛び出していく。

 

無銘(エックス)もまた同じように飛び出していくと、砦の方角から煙が上がっているのが見えた。

 

 

「私は先に向かうが、お前はどうする気だ?彼が居なければ戦えまい。」

 

「心配しなくてもいいさ。もうじき――」

 

「あ、いた!マト、何処に言ってたんだ!?急に居なくなるから探したんだぞ!?猫かお前は!?」

 

「――あぁ、実に素晴らしいタイミングだよ愚かで脆い私の玩具。」

 

 

無銘(エックス)と少女が、砦へと向かおうとしたその時、少女の――マトという名前を呼びながら、息を切らせた少年が駆け寄ってきた。

 

 

「狙う緒、その様子だと既に状況を知っているようだな。敵の数は?」

 

「あ、無銘(エックス)さんも一緒だったんですか!?すいません、こいつが何か迷惑を……って、それどころじゃなかった。数は――」

 

騎士級(ナイトクラス)が10に城砦級(ルーククラス)司祭級(ビショップクラス)が30、兵士級《ポーンクラス》に至っては100といった所かな?これは絶好の機会だ愚かで脆い私の玩具!」

 

「なんでお前は嬉しそうなの!?」

 

「私はキミの活躍がみたいだけだよ愚かで脆い私の玩具。」

 

「えぇい痴話喧嘩は後にしろ!恐らくサーバルも戦場に出ているだろうが、走ってでは間に合わん!狙う緒、私を『運べ』!」

 

 

軽装の騎士鎧に身を包んだ『狙う緒』という少年がマトと漫才のようなやり取りを繰り広げている中、無銘(エックス)が痺れを切らしたかのように叫ぶと、狙う緒は頭をかきむしりながら頷き、再びマトへと視線を向ける。

 

 

「――マト、頼む。」

 

「ふふっ、いつだって準備は万端さ愚かで脆い私の玩具。さぁ、開演の時(ショータイム)だ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜魔変生(ドラゴン・インストール)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――場所は移り、草原の国(ジャパリパーク)の砦。

 

 

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃー!」

 

 

そこでは兵士を率いた女王、サーバルが兵士級(ポーンクラス)の邪龍を一体、また一体と仕留めていく所だった。

 

 

 

「お前らサーバル様ばっかに任せてんじゃねぇぞ!」

 

「気合いれてけぇおらぁ!」

 

「みんな!無理しないでね!」

 

『イェス、マム!』

 

 

 

最前線に立つサーバルの鼓舞により前線は持ちこたえているが、それでも無限に増殖するかのごとく現れる邪龍の群れに、ジリジリと削られていく。

 

それでも、サーバルは己の身を顧みずに、邪龍を狩っていく。少しでも、周りの兵士達が傷つかぬようにと。

 

 

 

「!?サーバル様、危ないっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

だが、少しばかり突出していたサーバルが自陣に戻ろうとしたその僅かな隙を狙いすまされたかのように、司祭級(ビショップクラス)の邪龍が急降下してサーバルを噛み砕こうとその顎を開く。

 

とっさに飛び出した兵士の一人がサーバルを突き飛ばし、邪龍の前へ躍り出る。そのことに気づいたサーバルが涙を浮かべながら兵士に手を伸ばし――

 

 

 

 

 

 

「――私以外の邪龍、全員死ねぇっ!」

 

 

 

 

 

空から舞い降りた無銘(エックス)の斬撃が、邪龍の首を斬り落とした。

 

 

無銘(エックス)ちゃん!」

 

「すまない、遅くなった。だが、安心しろ。私と――『奴ら』が来た。」

 

 

サーバルの歓喜の声に、無銘(エックス)が答える。すると、その言葉に呼応するかのように、空に居た司祭級(ビショップクラス)の邪龍が、次々と爆ぜていく。

 

 

――空を舞うのは、奇妙な姿をした『龍人』だった。

 

背中から白銀の翼を生やし、両手両足には鋭い黄金の爪を備え、邪龍を斬り裂いていく。

 

だが、その龍の頭は『胸部』から伸びており、本来人の頭部に当たる部分は真紅の宝玉に包まれた『兜』で覆われていた。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!!!」

 

 

 

魔力の奔流が雷となり。炎となり。氷となり。土槍となり。邪龍の群れを蹴散らしていく。

 

その幻想的な光景に、兵士やサーバル達は目を奪われるのだった。

 

 

「……ちっ、魔術師(ウィザード)の面目躍如といったところか。おい、何をしているお前達。このままではあいつ一人に持っていかれるぞ?」

 

「……負けてられるかぁ!」

 

「おうよ!美味しいところだけ持ってかれてたまるかってんだ!」

 

「つーかあれで厄ネタとは言え美少女と文字通り一心同体になってんだから狙う緒の奴羨ましすぎるわ!?」

 

『よし、この怒りは邪龍共にぶつけろ!いくぞぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!』

 

「…………ふふっ、みんな無銘(エックス)ちゃんと狙う緒ちゃん達が来たら、元気になっちゃった。よーし、なら私も頑張らなくちゃね!」

 

「あぁ、その通りだサーバル。背中は任せろ。私の誇りにかけて、守ってみせる。」

 

「うん、お願いね無銘(エックス)ちゃん!」

 

 

魔術師(ウィザード)によって、草原の国(ジャパリパーク)の兵士達は再び立ち上がり邪龍へと立ち向かっていく。

 

その様子を見て笑顔を浮かべたサーバルも、無銘(エックス)と共に戦線へと舞い戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー、疲れたぁ。」

 

「お疲れ様、愚かで脆い私の玩具。」

 

 

 

――そして、邪龍の群れを退けた、その日の夜。

 

宴会となっている砦内を他所に、狙う緒とマトはバルコニーに座り、星空を眺めていた。

 

狙う緒の頭を膝に載せ、愛おしそうにその髪を撫でるマトに対し、狙う緒はふと、問いかけた。

 

 

「……なぁ、マト。なんで『古龍』のお前が僕を助けてくれるんだ?わざわざ防波堤にならなくたって、この世界を楽しむならあの日僕の体を乗っ取ればよかっただろ?」

 

「それではツマラナイだろう?愚かで脆い私の玩具。人の怨嗟などあの魔剣の中で飽きるほど観てきた。それが外に溢れたこの地獄(せかい)でただ生まれ出づることになったとしても、何も変わらない。」

 

「そういうものなのか?」

 

「あぁ、そういうものさ。キミを助けたのも、かつて観た黄金の輝き(アルトリア)を私なりに再現しようとしているだけに過ぎない。だから、キミが壊れないように守っているのさ。」

 

 

あの時、邪龍の肉を食らったキミは最高に愚かでオモシロイ見世物だったからね、とくつくつ笑いながらマトは呟く。

 

そんなマトにバツの悪そうな顔をしながら、狙う緒は問いかけを続ける。

 

 

「それじゃあ、僕に手を貸すことが、今マトがやりたいことなのか?」

 

「その通りさ。あぁ、それともし血迷って元凶(ニコル・ボーラス)の魂が復活してたらぶん殴りたいし、今の大魔王(バハムート)も見るに堪えないからどうにかしたいね。後者は今のままでは無理だけど。」

 

「……今は無理でも、いつか必ず、成し遂げてみせるさ。」

 

「あぁ、その意気だよ。楽しみにしているさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚かで愛しい私の英雄(ワタシノアルトリア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――月明かりの下。狙う緒の髪を撫でながら子守唄を歌う古龍(マト)のその想いは、風に乗って消えていくのだった。

 

 

 

続く?




・狙う緒&マト(withウィザード)が生まれた訳
ダイスが荒ぶりすぎだよバーカバーカ。こうなったら初期案で没にしてた竜人ネタ使うしかねぇ!古龍役にはカムクラ当てるかー
→……あ、エイワス様でカムクラといったらあれじゃん。じゃあ古龍役あっちの方がいいじゃん!じゃあ狙う緒だね(ガクブル)

だいたいこんな流れ

無銘(エックス)ちゃんと仲が悪そうな理由
だって無銘(エックス)ちゃん邪龍絶対潰すガールだし……実質邪龍のマトにいい感情浮かばないって戦力としては見てても


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『咎人』である少女のお話

(スレを見て)
はぁん、これまた面白いネタが出てきた。ならば書くしかないだろうという勢いで書きました。
一部、大元の非公式二次創作からネタを引っ張ってます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『赤羽根』という男は商人である。

 

正確に言うとするならば、大いなる黎明(シェオール)の財務卿から巡り巡った、楽園の東(イーストエデン)からの嗜好品を秘密裏に輸出することも兼ねた、『商人』として潜入している密偵である。

 

もちろん、名前もこの楽園の東(イーストエデン)で暮らす為の偽名だ。

 

時には、黄金の夢に浸る人々と同じように笑いあい。時には、他の国からの密航者をブローカーから預かり、仕事の斡旋をし。

 

外の地獄(せかい)と中の幻想(セカイ)の温度差に心をすり減らしながらも、それをおくびにも出さずに『赤羽根』は命をかけて任務を行っていた。

 

なぜ、彼がそこまで任務を熱心に行っていたのかは、定かではない。

 

だが、それでも彼は笑顔の『仮面』を被りながら、この楽園の東(イーストエデン)で商人として暮らしていた。

 

 

 

だが、そんな彼にも転機は否応なしに訪れる。

 

一つは、パイプとして確保していたブローカーの一人が突如として『消えた』こと。

 

別口からの情報で、何やら大いなる黎明(シェオール)で動きがあったという話を確認しており、それに『巻き込まれた』のだろう、と推測した。

 

 

 

問題はここからだ。

 

 

 

よりにもよってそのブローカーが、もし自らの身に何かあったのならば『赤羽根』が仕事を引き継がざるをえないよう、置き土産をしていたということだ。

 

確かに、『赤羽根』が楽園の東(イーストエデン)大いなる黎明(シェオール)で築き上げた人脈を駆使すれば、ブローカーの仕事を肩代わりすることはできる。

 

しかし、それは危険度も大きい。

 

『赤羽根』が密偵だということを知るのは、本国側でもほんの一握りしか居ない。大多数から見れば、彼もまた『人類の裏切り者』なのだ。

 

ブローカーの仕事を引き継ぐと言うことは、楽園の東(イーストエデン)大いなる黎明(シェオール)を行き来する必要がある、ということだ。

 

捕らえられ牢獄に入れられるのならば、まだ助かる目はある。だが、密航者から度々話を聞く『密出国者狩り』と遭遇した場合は、恐らく命はないだろう。

 

それでも、それでもだ。

 

『赤羽根』は、その仕事を引き継ぐことを選んだ。いつもどおりの『笑顔』を浮かべ、その内心を覆い隠して。

 

 

 

 

「あなたが、『赤羽根』さんですか?実は、お友達からちょっとお話を聞いたんですけど……」

 

 

 

――そして、もう一つの転機。

 

『赤羽根』が構えている店に、その『少女』が現れたあの日。

 

 

 

 

「……君は?」

 

「あ、そうですね。『咎人(ネフィリム)』とか『斬月』とか言ういかつい名前もあるんですが、可愛らしくないので――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――春香、と名乗っています。よろしくお願いしますね、『仕立屋(プロデューサー)』さん?」

 

 

 

 

 

 

それが、どこかで歯車が狂ったきっかけだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!あのガキどこへ隠れたっ!?」

 

「まぁまぁいいじゃねぇかよ。楽しみは増える方がいいじゃねぇか?」

 

 

 

――『密出国者狩り』の荒々しい声が、森に響く。そんな怒号に怯えながら、『少女』は茂みの奥でガタガタと震えていた。

 

何故、どうして。『少女』が国を逃げ出そうかと思ったのは、ここでは深く語らない。

 

それは、今のこの地獄(せかい)では例え『赤薔薇』の庇護下であろうと、小さくともありふれた出来事なのだから。

 

そんな境遇の子達が集まり、せっせとお金を稼いで、国に居るブローカーとの連絡を取り。後はさぁ脱出するだけだとなったその日。

 

『別件』によりしばらく沈静化していた『密出国者狩り』が再び活発になったのと重なったのは、果たして不運だったのだろうか。

 

こうして、散り散りになった子供達は一人、また一人と捕まっていき。残すのは、『少女』のみとなったのだった。

 

 

 

「おっ、いたいたみーつけたっ!」

 

「ひぃっ!?」

 

「おいおい、何ビビってんだよ。こういうのも承知の上で、お前は逃げ出すことを決めたんだろ?あの裏切り者達の国へよ!」

 

 

 

『密出国者狩り』から身を隠しつつ逃げようとした『少女』だったが、警戒していた箇所とは別の箇所から現れた『密出国者狩り』に見つかってしまい、たちまち囲まれてしまう。

 

そのギラギラとした目つきに『少女』は腰を抜かし震えるしかなかったが、それすらも『密出国者狩り』達には娯楽にしかならないようだった。

 

 

 

「さーて、他の奴はいい値になりそうだったから捕まえるだけだったが、もう我慢の限界だな。」

 

「お、じゃあこいつはぶっ壊しちまってもいいな!」

 

「恨むなら馬鹿な決断をした自分を恨めよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ、こういうのを見るとなんだかやる気が失せるなぁ。まぁ、お仕事だし仕方ないか。」

 

「……あん?がっ!?」

 

 

 

『密出国者狩り』達が、下衆な笑い声をあげて算段をつけようとしていたその時だった。

 

突如として頭上から急降下してきた『影』が『密出国者狩り』の一人に踵落としを浴びせ、地面へと叩きつける。

 

一瞬反応が遅れた『密出国者狩り』達だったが、とっさにその場から飛び退くと、武器を構えだした。

 

 

 

そして、腰を抜かして怯えていた『少女』はというと。自らを守るようにして『密出国者狩り』に立ちふさがる、その白い『影』を唖然として見つめていた。

 

月光で照らされ白く輝く鎧に、右肩を覆う橙色の肩鎧と、肩鎧と同じ輝きを放つ橙色の仮面。

 

赤く輝く弓に刃を取り付けたかのような武器を構えるその『戦士』は、『少女』へ軽く視線を向けるとなんでもないかのように語りかけた。

 

 

 

「あ、ちょっとだけ待っててね。すぐ終わらせてお友達に会わせてあげるから。」

 

「な、何を言って――」

 

 

『戦士』の言葉に『密出国者狩り』が戸惑いをみせ、それでも――邪龍との闘いで生き残った、その実力と連携によって襲いかかろうとする。

 

英雄とまではいかないまでも、『密出国者狩り』もまた熟練の戦士だ。そんな彼らが連携を取って戦うのであれば、並大抵の相手では叶うはずもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、『並大抵』の相手では。

 

 

至近距離から放たれる呪装弾(ガンド)を軽々と避け、大の大人が吹き飛ばされるほどの蹴りを、拳を『戦士』は叩き込む。

 

その弓は矢を構えることもなく、備えられた刃はせいぜい『密出国者狩り』達の斬撃を受け流す程度にしか使わず。

 

文字通りに遊ばれている状態で、『密出国者狩り』達は一人、また一人と地面に沈められていった。

 

 

そして、『少女』が唖然としている間にその場に居た『密出国者狩り』達を叩き潰した『戦士』は。

 

 

 

「――さ、大丈夫?お友達もちゃんと助けているから、心配しないでね?」

 

 

 

優しく語りかけながら、『少女』へと手を差し伸べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、まさか全員連れてくるとは驚いたよ。今までの経験から考えて、『密出国者狩り』に遭遇して無事に来れるのはせいぜい一人か二人かと思ってたんだけどな。」

 

「心配いりませんよ!私強いですから!」

 

「どうやら、そうみたいだな。あの子達も嘘を言ってる様子はなかったし。」

 

「あー、信じてないかったんですね『仕立屋(プロデューサー)』さんは!?もう、怒っちゃいますよ私!?」

 

「それは悪いと思ってるよ。だけど、いくら腕が立つからって言っても、実績も持たないし見た目がか弱い女の子なんだ。信じきれるはずもないだろう?」

 

「やだ、かわいいだなんて……ひょっとして、ナンパしてます?」

 

「してないしてない。」

 

 

――大いなる黎明(シェオール)から離れ、楽園の東(イーストエデン)へと向かう馬車の中。

 

疲れて眠る子供達を荷台に載せ、手綱を握りながら『赤羽根』は隣に座る春香と他愛もない会話を行っていた。

 

 

 

(……冗談じゃない、なんだってこんな奴が楽園の東(イーストエデン)に居るんだ。今までそんな情報はなかったんだぞ?)

 

 

 

そんな言葉とは裏腹に『赤羽根』は思考を回転させ、なんでもいいから彼女の身元に繋がる情報を引き出そうとしていた。

 

ブローカーの仕事と並行して『赤羽根』は春香の調査を行ったが、彼女は『ある日突然』、楽園の東(イーストエデン)に現れたとしかいいようがなかったのだ。

 

密航者も多い楽園の東(イーストエデン)では、新たな住人が増えることなど珍しくはない。だからこそ、楽園の東(イーストエデン)の住人は快く彼女を迎え入れていた。

 

それだけなら『赤羽根』も自分が把握できていないルートがあるのだ、と思うことができた。だが、今回の仕事の成果がそれを覆す。

 

質が悪いとはいえ、『密出国者狩り』達は最前線で戦い続けてきた兵士達だ。

 

それを『自らは無傷で、かつ兵士達を重症に留めておく』程度に一蹴できる存在など、『英雄』級の人材が枯渇している楽園の東(イーストエデン)で噂にならぬはずがない。

 

 

 

(場合によっちゃ、直通(ホットライン)でラスタル軍務卿に報告する必要があるかもな。)

 

 

 

春香には何かある。そう結論づけた『赤羽根』は、本来の上司にどう報告すべきかを思案する。

 

――それが、春香の狙いだとも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで?だからわざわざ邪龍を使わずに行動したってこと?」

 

「はい。だって、姫様(プリンセス)のお母様はそれで失敗したじゃないですか。同じ轍を踏まないようにするのは当然のことですよ。」

 

 

 

――『赤羽根』と春香が楽園の東(イーストエデン)に子供達を送り届けた数日後、王宮の一室。

 

大魔王たる『復讐の魔女』、ジャンヌが楽園の東(イーストエデン)を訪れた際にあてがわれる部屋で、春香は(プリンセス)と呼ばれる半邪竜の少女をあやしながら、ジャンヌと会話を行っていた。

 

 

 

「『邪竜を自由自在に操れる個体が存在する』という事実と『英雄級の人材がこの国に与している』という事実。あちらの視点に立って危険度が高いとするなら、前者ですよ。後者は可能性は低くとも、ありえないとは言い切れないですし。」

 

「それには納得するとしましょう。で、あなたはそれで何がしたいのかしら?」

 

「ただの心理戦ごっこですよ?どうせ『咎人(ネフィリム)』の存在を明かすなら、もっと大きな契機(タイミング)の方がいいじゃないですか。例えば、人類がなんか大魔王様へ反撃だー!って大一番を迎える時とか!」

 

 

 

あどけない笑顔を浮かべながらそんな話をしていく春香に、ジャンヌは笑みを浮かべながら紅茶へと口をつける。

 

 

 

「まぁいいわ。あなた達『咎人(ネフィリム)』を操るのは、その子だもの。好きにするといいわ。」

 

「はい!早くお仲間が増えるといいなー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうして、咎人(ネフィリム)の少女と『復讐の魔女』は、来たるべき人類の絶望へと思いを馳せて、笑い合ったのだった。

 

 

 

続く?




キャラ解説

『赤羽根』/『仕立屋』
【素質:【1D10:8】】
【武勇:【1D100:40】】 【魔力:【1D100:39】】 【統率:【1D100:74】】
【政治:【1D100:23】+20】 【財力:【1D100:26】+20】 【天運:【1D100:96】】

AAイメージはアニメアイマスの赤羽根P。
非公式二次創作の方を読んだ結果、現地で色々動く人間が必要だろうしあの面子だと密偵放っててもおかしくないよなぁと思ったので咎人予定のキャラを能力値が平たくなるように調整。
統率が素で高くなったので、人を使うのがうまいんだろうなということで『仕立屋(プロデューサー)』とも呼ばれているということに=イメージが決まった形です


春香/『斬月』
【素質:【1D10:4】】
【武勇:【1D100:98】+20】 【魔力:【1D100:37】】 【統率:【1D100:61】+20】
【政治:【1D100:97】】 【財力:【1D100:25】】 【天運:【1D100:61】】

AAイメージはアイマスの天海春香/仮面ライダー鎧武の仮面ライダー斬月・真
咎人(ネフィリム)の初期ロットというイメージ。なんで美少女かって?油断させる為ですよ油断。
政治が高いのでなんかこう暗躍してる感じにしたかったけどうまく描写できているのかはわからぬ……


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四塔統べし姫の国の【英雄】のお話

ちょっとダイスを多めに振った結果ネタが湧いてきたので。
今回のノリは下記のような感じです。

ダイス降る→どこにこのキャラぶっこもうか→そういや甘粕が居る国ってやらない夫みたいに活躍が埋もれてる英雄いそうだな。剪定事象だしぶちこもう。




 

 

 

七星国家が一国、四条貴音が治める国。

 

かの国には、『異世界から来た』とされる英雄、『甘粕正彦』が存在する。

 

――だが、彼の威光のみが大きく知れ渡っているが、その影に潜む英雄も勿論存在する。

 

 

これは、そんな英雄の一人である、彼女の物語だ。

 

 

 

 

 

 

「――スターライト、ブレイカァァァッッッッ!!!」

 

 

流星煌(スターライト)の名を冠する攻撃魔法が、司祭級(ビショップクラス)の邪龍達を消し炭にしていく。

 

それだけの【魔砲】を放つのは、白き戦服を纏い、金色の魔杖を掲げる一人の少女だ。

 

 

「こちら壱番星(スターズ・ワン)司祭級(ビショップクラス)の殲滅完了。弐番星(スターズ・ツー)から陸番星(スターズ・シックス)は部隊を率いて兵士級(ポーンクラス)を叩け。」

 

『了解!ところで馬鹿(アマカス)とやらない夫さんはどうしましょう?』

 

「どうせ城砦級(ルーククラス)とか騎士級(ナイトクラス)相手にやらない夫君囮にしてトレイン爆撃してるんでしょ?やらない夫君がピンチだったらフェイトちゃん向かわせるから放置でいいよ。フェイトちゃんは頼めるかな?」

 

『任せて、なのは。』

 

「本当はフェイトちゃんもあんまり前線には出してくないんだけどね……はぁ、やだやだ薄氷どころじゃないんだけどなぁ今の状況。」

 

 

分割思考(マルチタスク)を駆使し、最前線で指揮をする彼女の名は、『高町なのは』。

 

とある商会の娘でありながら、その類まれなる魔導の才能と統率力で、最前線を指揮する守備隊長の任についている。

 

同じく軍に所属する貴族の娘『フェイト・ハラオウン』と親友になり、それぞれ『星光の戦乙女(スター・ヴァルキリー)』と『雷光の戦乙女(ライトニング・ヴァルキリー)』という異名を持つ程だが、その名を知るものは多くはない。

 

なぜならば、上層部の意向により国中へ伝えられるのは、『異世界の英雄』という肩書を持ち、圧倒的な武力と魔力を誇る甘粕正彦の活躍だからだ。

 

無論、政治に疎いなのはでもそのこと自体に異論はない(……が、なまじ政治にも強いが故に親友のフェイトが胃を痛めてるのはどうにかならないかと常々思っている)。

 

だが、これでよいのだろうか、と思うことは常々ある。

 

 

 

――もし、甘粕正彦という『太陽』が堕ちた時。この国を守りきれるのだろうかと。

 

 

 

なのはは上層部に居るなのはに軍略と魔道の力を教えた師匠――太公望の姿を思い返す。

 

前に休暇で会った時は、いつもの飄々としたうさんくささで桃を食べていたものの、その目が諦めの色に染まっていた。

 

あぁ、認めよう。現状のままではこの国に先はない。

 

なぜならばこの国は、『大魔王達がいない』邪龍達に『拮抗』しているだけだ。

 

大魔王が参戦するだけで、邪龍達に新たな戦力が増えるだけで、いともたやすく拮抗は崩れるだろう。

 

 

 

「……師匠は諦めきってるけど、それでも私は諦めたくないんだよね。だから、見ててくださいよ師匠!」

 

 

 

そう自らに激を入れると、なのはは地上の城砦級(ルーククラス)へと砲撃を放っていく。

 

こうして自分達が頑張っていれば、いつかあの師匠の瞳にも輝きが戻るかもしれない。そんな淡い夢を見ながら。

 

 

 

『おい、待てなのは!その城砦級(ルーククラス)達は俺が吹き飛ばそうと誘導していてだな……』

 

「甘粕君、あんまり煩いとフローに言いつけるよ?あ、フェイトちゃんそろそろ撤収するからやらない夫君の回収よろしくー!」

 

『それは止めて!?』

 

『すまねぇなのは、助かった!』

 

『こっちもやらない夫君とは合流したから、帰還するね!』

 

「はーい、じゃあ撤退の援護は任せてね!ディバインバスター!」

 

 

 

砲撃で追いかけてこようとする城砦級(ルーククラス)を撃ち抜いていき、前線ではフェイトが大剣を振るい、道を切り開いていく。

 

なのはの顔には、諦めなど微塵もない笑顔が浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

――これは、『太陽』の光に隠れた、『星』の物語。

 

だが、例えその輝きが見えないとしても……『星』は、そこに輝いているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、現場ではそんな感じなのですか。情報をありがとうございますなのは。あの二人からでは聞けないこともありますので。」

 

「んーんー、いいよいいよ別に。二人のこと気になるんだもんねフローは?」

 

ジャキッ

 

「おーけーおーけー、わかったから銃は置こうフロー?照れ隠しに暴力はよくないよっ!?私魔法以外だとフローよりも弱いからっ!?」

 

「なのはがからかったりするから……」

 

 

 

戦闘が終わり、なのはの実家である商会が経営している飲食店。

 

そこでは、なのは、フェイトと共に医務スタッフであるフローレンスが女子会を行っていた。

 

緊急招集に備える為に武装を持ち込んでいるからか、ちょっとしたそんなトラブルがあったりはするがそれはさておいて。

 

 

 

「でー、フローはどっちが本命なの?甘粕君?やらない夫君?」

 

「……お二人はどうなのですか?商会の娘と貴族の娘ならば、縁談なんてそれこそ山のようにあると思いますが。」

 

「おっとまさかのカウンターが来た!?」

 

「私は婚約者が居るけど、結婚はもうしばらく先だろうなぁ……」

 

「フェイトちゃんの裏切り者っ!?お幸せにね!?私はねー、なんでだろうねー?そういった縁談まったく来てないんだよねー!もう部下からいい人見つけちゃおうかな!」

 

「おや、意外ですね。」

 

「なのは、鬼教官としても有名だからそれは厳しいんじゃないかな……?」

 

「なんでっ!?ほら、魔力以外はか弱い乙女だよ私!?」

 

 

 

……そんな風に、他愛もない話で盛り上がりながら、彼女達は女子会を進めていく。

 

日々の疲れを癒やすように。未来へと希望を持つ為に。

 

 

 

続く?

 




余談:それぞれのキャラダイス

高町なのは
【素質:【1D10:5】】
【武勇:【1D100:21】】 【魔力:【1D100:92】+30】 【統率:【1D100:92】+30】
【政治:【1D100:20】】 【財力:【1D100:80】】 【天運:【1D100:29】】

フェイト
【素質:【1D10:5】】
【武勇:【1D100:77】+30】 【魔力:【1D100:16】】 【統率:【1D100:38】】
【政治:【1D100:96】】 【財力:【1D100:89】】 【天運:【1D100:61】+30】

この見事にお互いをカバーし合う感じだやったぜ
それはそれとして甘粕に二人がかりで挑んでも武勇と魔力じゃ勝てない()

ちなみに1000年前のディアーチェ組とは何の関係もないはず、多分


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Episode :Deus EX machinα ~オワリノハジマリ~

イメージ的には劇場版的なノリです。
ちょっと見切り発車な面もあってどういう結末にするか悩んでいる点はあるのですが、それでもよろしければお付き合いください。


 

 

 

 

 

――その日は、唐突に訪れた。

 

はじめにそれを観測したのは誰だったのか、定かではない。

 

しかし、邪龍に襲われていた都市に光り輝く【獣】達が現れ苛烈な戦いを繰り広げた後、都市に襲いかかっていた邪龍を食らいつくしたという報告が相次いだのは確かだ。

 

そして、その報告に対し七星国家(セブンスターズ)の面々は思案し、対策を取ろうとした。既に『手遅れ』だったとも知らず。

 

 

――それは、唐突に訪れた。

 

それを最初に観測したのは、新たなる熾火(ギムレー)に所属する【賢老七十二臣】、【観測所】の面々だったという。

 

その名の通り観測に優れていた彼らは、まるで『世界の果て』から忽然と現れ、このドラグナール大陸に散らばっていく光り輝く【獣】達の姿を確認した。

 

光り輝く【獣】達は、森を、都市を、人々を意に介さず蹂躙し、ただただ邪龍を狙いとし激戦を繰り広げていった。

 

新たなる脅威に、立ち向かうものも居た。命を落とす者もいた。逃げ惑う者も居た。涙を流す者も居た。

 

 

 

「ちっ、一体何なんだおこいつらっ!?」

 

「やる夫、大丈夫っ!?」

 

 

 

それは、このキングソードの地においても例外はない。

 

最前線で戦う兵士達と共に、ニコル・ボーラスと竜王変生(ドラゴンインストール)し戦闘力を向上させたやる夫と新たな【魔剣】を手にしたユウキは、邪龍と戦いながらも『なぜか』こちらを襲ってくる【獣】達と戦っていた。

 

 

 

「……妙だな。なぜこの【獣】達は兵士達には目もくれないのに、やる夫とユウキと俺を狙う?」

 

「あら、そんなの簡単よ。魔剣を創った私、第二の魔王だったウィリアム、大魔王直々の【魔剣】を手にしたユウキちゃんとそこに居る邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体。『魔剣に連なるモノ』を標的としている【獣】達がロックオンするには十分じゃない?」

 

「なんかニヤニヤしてるそこの邪神様、もったいぶってないで知ってること全部話して貰えます???????????」

 

 

 

襲い掛かってくる【獣】に対し疑問を抱くウィリアムに、やる夫の中からニコル・ボーラスが笑みを浮かべながら答えると、やる夫はこの邪神ほんと隠し事多いよなと思いながら説明を求める。

 

そんなやる夫の様子を眺めながらニコル・ボーラスは可憐な少女のように頬に指をあて、自らが知ることを語り始めた。

 

 

 

「――これはやる夫が知る必要のないことだから黙っていたのだけれど、そもそも刻限(タイムリミット)があったのよ。それが、私の予想よりも早く訪れてしまっただけ。だから、私が意図したことではないわこれは。」

 

刻限(タイムリミット)?なんで黙って――」

 

「私の想定だと、刻限(タイムリミット)は『邪龍王(アジ・ダハーカ)がこの星の自転を止めようとした時』だったからよ。それが来る=人類が完全敗北した時(ゲームオーバー)だからわざわざ語る必要ないじゃない?」

 

「あっはい。というかなんかスケールがでかすぎてツッコミ入れる気にもならないや。」

 

「で、その刻限(タイムリミット)とこの【獣】達がどう関係する?そもそも、刻限(タイムリミット)が来たのならば既に人類に打つ手はないが。」

 

「あぁ、星の自転が止まることもないわよ?ユウキちゃんに魔剣を与えてさぁこれからって時にそんな無粋なことする訳ないじゃない。ねぇ、バハムート?」

 

「――業腹だが、ニコル・ボーラスの言う通りだ。私はユウキに機会を与えた。その機会を摘み取るような真似はしない。」

 

「じゃあ、この【獣】達はいったいっ!?」

 

「あら、少し考えれば分かることよ?【魔剣】による被害を『現在進行系』で被っているのは、人類以外にもあるでしょう?」

 

「!?いや、まさか――そんなことが起きうるのか!?」

 

「……え、いやマジ?ファンタジー世界だからそんなこともありえるの?えー?」

 

 

 

ニコル・ボーラスの問いかけに、僅かに思案したウィリアムが驚愕の表情を浮かべ、やる夫は脳内に浮かんだ答えに額を抑える。

 

そして――その時だった。邪龍達を蹴散らしていた【獣】達が、動きを止めたのは。

 

いや、【獣】達だけではない。邪龍、兵士達――その場に居る『ある2体』を除いた全ての存在が、何かが近づいていることを感じ取り動きを止めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カシャン、カシャン。

 

 

 

 

 

 

 

 

鎧がこすれるかのような小さな金属音が、先程まで様々な音が混じり合っていた戦場に響き渡る。そして、【獣】達はまるで騎士のように道を作り、頭を垂れる。

 

現れたのは、白銀の騎士だった。

 

獅子のような趣の兜を被り、白い外套(マント)を靡かせ、光り輝く螺旋の槍を携えて。その騎士は、やる夫達と対峙した。

 

誰もが、その幻想的な光景に目を奪われ、動けなかった。その騎士が纏う極光(オーラ)に威圧され、はたまた美しさに目を奪われていた。

 

その様子を、ニコル・ボーラスはただいつもと変わらぬ笑みを浮かべ見つめている。

 

そしてもう一体。

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体である彼女は。

 

かつて龍王(バハムート)と呼ばれていた存在の成れの果てである彼女は。

 

 

 

 

 

 

「…………アル…………トリ…………ア…………?」

 

 

 

 

 

 

――あの日見た黄金の記憶を。

 

――腐り果てた魂にそれでも尚焼き付いた輝きを。

 

その存在に見出したのだった。

 

 

 

「――こんな形で再び相まみえるとは思いませんでした。ニコル・ボーラス、そして……『ビィ』。久しぶり、と言った方がよろしいのでしょうか?」

 

 

 

そして、白銀の騎士はその獅子のような兜を脱ぎ、脇に抱える。

 

現れたのは、竜王変生(ドラゴンインストール)したやる夫と瓜二つの少女。

 

 

 

「えぇ、久しぶりねアルトリア。それにしてもご苦労様ね?『星の意思』に残業を要請されて承諾するなんて、お人好しにも程があるわよ?」

 

「――本来ならば、もう少し抑えておくつもりでした。ですが、私にはもう止められない。この『星』は、人類を見限ったのですから。」

 

「まったく、この『星』も我慢弱いわね。せっかくそこの大魔王に新しい玩具が与えられたのだから、様子を見ればいいのに。」

 

「うん、なんか訳知り顔で旧知の仲兼ラスボスムーブしてる所悪いんですけどね邪神様???事情分かってるのあなただけだからちゃんとみんなに説明してくださらない???」

 

「もう少し私に優しくしていいと思うんだけど??????」

 

 

かたや、楽しげな表情で。かたや、さみしげな表情で。周りを置いてきぼりにしてそんなやり取りを繰り広げる二人に、やる夫がツッコミを入れる。

 

そんな二人のやり取りを眺めていた白銀の騎士は、一瞬あっけにとられた顔を見せると、その表情をほころばせた。

 

 

「……ふふっ、ニコル・ボーラスに物怖じせず意見を言えるとは。やはりあなたは面白いのですね『やる夫』。えぇ、だからこそ残念です。もう少し、あなたの物語を見ていたかった。」

 

「やだ、なんか初めて会う人なのに好感度やたら高い。で、この人やっぱりそうなんです???」

 

「えぇ、私をぶっ殺した想定外(バグ)で【聖王】と名高いアルトリアその人よ。そこの邪龍王(バハムート)が星自体を人質に取るような真似をして、悲鳴を上げた『星の意思』が引っ張り出してきたのよ。」

 

「わー、ブラックと言えばブラックだけどまぁ『星はリングじゃねぇ!』って言いたくもなりますよねそりゃ。」

 

「やる夫、もう少し真面目にお願いできるかな!?ボクには衝撃の事実すぎて思考が追いつかないんだけど!?」

 

「なに、かの聖王は所謂旗頭(マスコット)なだけで、そう難しい話じゃない。ようは――こいつらは終わらせに来た、ということだ。」

 

「えぇ、あなたの予測通りです。我が旧友(とも)を打ち倒した森の王にして二代目たる魔王。そして伝えましょう。あなた達に、『星の意思』の宣託(コトバ)を」

 

 

 

ウィリアムから言葉を引き継ぐようにして、アルトリアは謳った。星が下した結論を。

 

 

 

「永きに渡る乾いた戦争も許そう。魔剣の果てに人類(ヒト)が滅びるのならば、それを優しく包み込もう。だが、人類(ヒト)の争いの果てに、この『星』が滅びることは許されないことである。故に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――この【魔剣の物語】への終止符は、我ら『星の意思』が引き継ごう。愚かで愛しき我が仔(ヒト)よ、もうお前達が戦う必要はないのだ。」

 

 

 

~To Be Continued……?~




次回:激突!大魔王対星の意思!

ちなみに最後のセリフはあくまで星の意思を代弁しているだけなのでアルトリアさんが人類を我が子のように思っているわけではないのです。


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Episode :Deus EX machinα ~ゲキトツトキボウ~

なんとかやる夫達を活躍させようとして筋道は整えたけど書きたいネタが多すぎてまとまらねぇ!
ちょっとキャラぶれがあるかもしれませんがご了承ください。


 

 

 

 

――【それ】は、『世界の果て』から現れた。

 

足元で蠢く、光り輝く【獣】の群れを従えて。それはゆっくりと、ある地点を目指して歩いていた。

 

向かう先は、邪龍王(アジ・ダハーカ)の本体が住まう玉座。邪龍達を、村を、森を、都市を、人類を、意にも介さず踏み潰し、【それ】は邪龍王(アジ・ダハーカ)を目指す。

 

 

 

その光り輝く巨体は、さながら『龍』のようでもあった。

 

雄々しき四肢に、かつて存在したと言われる大樹よりも太い尾。

 

時折点滅を繰り返す背から尾にまたがる鰭は雷光を呼び。

 

その瞳には憤怒の色が浮かぶ。

 

 

 

後の時代、わずかに生き残った人々が記した歴史書には、【それ】の名は畏怖と敬意を持って、こう刻まれていた。

 

終焉の壱、邪龍を食らう【星の獣】を無限に生み出す【星獣王】――【ドラグナール】と。

 

 

 

 

母なる大地の名を刻まれた【それ】は、ただただ進軍を続け――ていた訳ではなかった。

 

鰭の雷光がより激しさを増し。

 

口腔に眩い光が迸る。

 

次の瞬間、流星一条(ステラ)を遥かに上回る閃光が、轟音と共に空を駆け巡った。

 

放たれた先に居たのは、大魔王が出現して以来から確認された中でも最大級の、邪龍の軍勢。

 

名だたる英雄達が集結してようやく勝負になるかと推測されるその軍勢を、【星獣王】はたった一撃で文字通り消し飛ばした。

 

 

 

「――ちっ、何よあれ!?私達が言えたことじゃないけど、存在ごと消滅させる閃光だなんて反則もいいとこよね!?」

 

「おいおい、面白すぎておれは滾ってきたぞ?」

 

 

 

かろうじて、その攻撃を避けることに成功した三大魔王の一人、ジャンヌ・オルタはその威力に冷や汗をかき、湊斗光は心を躍らせる。

 

邪龍が『食われる』という想定外の事態に驚き、その元凶たる存在を抹殺する為に邪龍を総動員したのだが、結果は半壊した邪龍の軍勢。更にはそれに群がる【獣】達との戦闘が始まり、状況は混迷を極めた。

 

 

 

「ようはあのデカブツを倒せばいいんだろ!?おれに任せろ!あんな獲物……逃してたまるか!」

 

「あっ、ちょっと待ちなさい!?」

 

 

ジャンヌ・オルタの制止も聞かず、光はその身を【銀星号】へと変化させ、【星獣王】に向かって飛翔する。

 

体当たりによる衝撃と不可視の斬撃で【獣】達を蹴散らし、縦横無尽に駆け巡ることで【星獣王】の巨体から必然的に発生する死角へと潜り込む。

 

 

 

「とったぞ、デカブツ!」

 

 

 

そして、必殺の一撃となりうる重砲撃を【星獣王】へと放とうとした――その時だった。

 

 

 

 

 

 

《――その程度か、大魔王の一角よ?ならば、原初へと還るがよい。》

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

突如として眼前に現れた、(くろがね)の鎧を纏いし巨神の肥大化した豪腕が【銀星号】の胸部へと突き刺さり、その巨体を大地へと叩きつけた。

 

 

 

「くっ、何が――!?」

 

《――流星、覇群(ステラ・バースト)

 

 

 

考えている暇は、【銀星号】には存在しなかった。体勢を立て直して直感に従いその場を離れると、巨神の瞳から――1つ1つが流星一条(ステラ)に等しき流星群が降り注ぎ、大地が砕け散っていく。

 

 

「あははははははははははは!なんだお前、なんだお前っ!?おれが苦戦するだなんて、最高に面白いじゃないか!」

 

《生憎だが、こちらはまったく面白くはない。故に滅びよ、【魔剣】により生まれしモノよ。》

 

「そうつれないこと……いうなよぉっ!!!」

 

 

両腕からブレードを展開した【銀星号】と同じように、両腕から刃を展開した巨神はぶつかり合う。その刃がぶつかりあうたびに大地が抉れ、衝撃波が吹き荒れる。

 

その様子を間近で観察していたジャンヌ・オルタは、冷や汗を流しながら吹き飛んでくる瓦礫を破壊し、身の安全を守っていた。

 

 

「……光のテンションがあそこまで上がった状態で互角だなんて、ほんと悪夢ね。何なのよあれは!?」

 

「――彼の者の名は、【星の巨神】。あなた達に終焉を齎す存在です。」

 

 

その言葉と共に、螺旋のごとき光を纏った槍がジャンヌ・オルタへと振るわれる。その殺気に気づいたジャンヌ・オルタはその手に持つ旗を振るい槍を受け流すと、その勢いのまま距離を取り乱入者の正体を見極めようとしていた。

 

 

「――あらあら、まぁまぁ。私が言えたことではないですが、伝説の聖王様がご降臨ですか?」

 

「えぇ、あなた達を止める為に。我ら『星の意思』は、この滅びを許容しない……あなた達のわがままも、ここで終わりです。」

 

 

現れた乱入者――アルトリアが紡ぐその言葉に、ジャンヌ・オルタは憤怒の形相を浮かべる。

 

そして、ジャンヌ・オルタの感情に合わせるかのように、アルトリアとジャンヌ・オルタの周囲を炎の壁が包み込んだ。

 

 

「――わがまま?わがままと言いますか!私達のこの怒りを!恨みを!嘆きを!えぇ、ならばいいでしょう!『星の意思』など知ったことか。その意思ごと、この炎で焼き尽くしてあげましょう!」

 

「――ならば、その炎を我々は星の輝きで消し去りましょう。例えあなた達が望まなくとも、その魂に救済と眠りを、与えましょう。」

 

「やれるものならやってみなさい!吼え立てよ(ラ・グロントメント)――」

 

最果てにて(ロンゴ)――」

 

 

あらゆる負の感情が入り交じった炎が、ジャンヌ・オルタの旗へと集い巨大な槍と化す。それを見たアルトリアが槍を構えると螺旋の光が激しさを増し、轟音を響かせる。

 

 

「――我らが憤怒(デュ・ヘイン)!」

 

「――輝ける星の槍(ミニアド)!」

 

 

――炎と光の槍がぶつかり、衝撃波と爆発が二人を包み込む。

 

かつての英雄と聖王、巨神と魔神がぶつかり合うその戦場で、【星獣王】はそれを見届けるかのように、動きを止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、という訳で難易度がルナティックからマストダイになった感じがあるんですが、ここからどうにかならない諸悪の根源さん????」

 

「方法がない訳でもないけど、やる夫とユウキちゃんに無茶してもらう形になるわよ?あと、ここまで来たらもう私のせいじゃなくない?????」

 

 

 

――場所は代わり、キングソード。アルトリアが【獣】達を連れて撤退した後、やる夫達は状況と今後の対策を練る為に会議室へと集まっていた。

 

会議室の長机(テーブル)には、アルトリアがやる夫に託していた、掌に収まるような青白い光を放つ宝玉のような物体が置かれていた。

 

 

 

「えーと、どうしてもやらなきゃ駄目?確かにあの【獣】達は厄介だけど、それさえ凌げば大魔王を倒してくれるっていうのなら願ったり叶ったりじゃ……」

 

「そういう訳にもいかないわ。『星の意思』は地球の危機に反応して緊急設置された『精霊』――外敵を駆除する為に全リソースをつぎ込んだ世界のシステムよ?彼らが暴れるだけでこの星のリソースがガリガリ削られてるわ。」

 

「……もし、『星の意思』が邪龍王(アジ・ダハーカ)に勝ったら、どうなるんだお?」

 

「何千年という時間をかけて、この大地のリソースを回復させることになるでしょうね。その間、人類が文明圏を維持できればそれこそ奇跡よ?作物と水源は枯れ果て、生物は絶える。魔道の力は消え失せ、武力も無意味と化す。外敵が存在しなくなる代わり、穏やかな死に向かうのは間違いないわ。」

 

 

 

ユウキの問いかけに対して告げられた、その余りにもあっけらかんとしたニコル・ボーラスの言葉に、重苦しい空気が会議室を包み込む。

 

確かに、邪龍という脅威は取り除かれるのかもしれない。しかし、その果てに待つのがそれでは、結局何も変わらないのではないのか。

 

そんな思いが蔓延する会議室をニコル・ボーラスは笑みを浮かべ、邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体はただ黙して見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「――でも、やる夫とユウキちゃんが無茶すればどうにかなるかもしれないんだお?いや、やる夫はともかくユウキちゃんに無茶させるってのがあれだけど、聞かせてくれお。」

 

 

その状況を打破したのは、やる夫だった。アイコンタクトを送りユウキが頷くのを確認すると、やる夫はニコル・ボーラスに向かって問いかける。それを待っていたかのように、ニコル・ボーラスの笑みが一層歪む。

 

まるで、この状況を楽しんでいるかのようなその笑みに、邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体は憎々しげに舌打ちをしたのだった。

 

 

「その意気よやる夫。では、いきなりだけど問題です。アルトリアという想定外(バグ)が居なければ、私はどうやって【魔剣】を使うつもりだったでしょうか?」

 

「は、なんだお急に?」

 

「――確かに、違和感があると言えばありますね。結局の所、【魔剣】とは剣……人が振るう『武器』です。『古龍』だった当時のあなたには、『武器』という形は扱いづらいはずですが。」

 

「えぇ、その通りよ。最終的に私が【魔剣】を手に入れて頂点に立つ場合、どうしても『古龍』の体ではその力を十全に発揮することはできないわ。だから、【魔剣】を操るに相応しい『(ニクタイ)』を用意するというのが私が出した答え。竜王変生(ドラゴンインストール)はそれを流用したものよ。」

 

 

大和の言葉にニコル・ボーラスは自らが導いた答えを述べる。続けてそれに異を唱えたのは、ウィリアムだった。

 

 

「だが、お前は現状やる夫を介してしかその力を振るうことはできまい?確か3分程ならば全力を出せると以前言っていたが、その間に決着をつけるつもりか?」

 

「いいえ、皮肉なことにアルトリアのおかげで条件(ピース)は揃ったわ。私と相性のいいやる夫を(コア)として、アルトリアが置いていったその『星の欠片』で対邪龍王(アジ・ダハーカ)用の『(ニクタイ)』を作る。更に――」

 

 

そう言うと、ニコル・ボーラスはユウキの方を向いて、笑みを浮かべる。その笑みが何を意味するものなのかは、ニコル・ボーラス自身にしかわからない。

 

 

「その『(ニクタイ)』に魔剣ごとユウキちゃんを突っ込んで、力と技をカバーする。これで、理論上は邪龍王(アジ・ダハーカ)に対抗できるわ。後はやる夫とユウキちゃん次第ってところだけど、成功すればあの【獣】達もこの地から去るでしょうし大勝利よね。」

 

「つまり、やる夫がエヴァンゲリオンになってユウキちゃんとシンクロするってことかお。シンクロ率400%超えないようにしなきゃ。」

 

「やる夫、よくわからないんだけどその説明???????」

 

「ユウキちゃんは死なないお。やる夫が守るから。」

 

「いい加減にしないとボク泣くよ????????」

 

「あっはいすいません一度言ってみたかったんですこの台詞。そしてウィリアムさん、弓を構えるのやめて。」

 

「ちっ。」

 

「……あの、それってやる夫君とユウキちゃんが一心同体になるってことですよね?」

 

「「「「「「「あ?」」」」」」

 

「おう、座ってろ。全員女じゃイケない体にされたいの???」

 

「「「「「「「ひぇっ」」」」」」

 

 

 

ニコル・ボーラスの言葉にやる夫がこの世界の人類(ヒト)にはわからない相槌を入れると、ユウキが困惑の声をあげて泣きそうになる。それを見たやる夫は背後でウィリアムが弓を構えるのと同時、勢い良く土下座の体勢を取った。

 

それを他所に、ふと大和が呟いた言葉に一部の兵士達が立ち上がるが、アストルフォのドスが聞いた声に寒気を感じると、大人しく席に座る。

 

先程までの重苦しい空気は何処へやら。こんな事態だというのにいつも通りな彼らにため息をつきながら、領主は今までの説明を聞いて気になっていたことを口にした。

 

 

 

「しかし、その『星の欠片』とやらはなぜそこまでできる?そんな代物をぽいっとくれた聖王様の考えもわからんがの。」

 

「『星の欠片』は【獣】達と同種の力――『精霊』の結晶なのよ。ぶっちゃけ魔剣以上のチートアイテムよね?要するに、アルトリアは『なんとか時間は稼ぐし力も貸すから決着をつけろ』って言ってるのよ。」

 

「……つまり、聖王はこのような事態になってもなお、人類を信じているということか。人類の手で、解決を果たすべきだと。」

 

「えぇ、そういうこと。まったく、サービス残業させられているのに随分とお人好しよねあの子?無茶振り度合いは変わらないけど、提案した段階で一緒にお助けアイテムもくれるだけどこかの誰かさんよりマシだと思わない?」

 

 

そのニコル・ボーラスの煽るような言葉に邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体は何も答えず、窓の方へ向かうとその縁に足をかけた。

 

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

「――お前達の答えは出たのだろう?ならば、それに相応しい舞台で待つだけだ。私とて、このようなオワリは本意ではない。私を打ち倒すのは――黄金の輝きを持つ、人類(ヒト)であるべきなのだから。」

 

 

ウィリアムの警戒にそう答えると、邪龍王(アジ・ダハーカ)の分体はチラリとユウキに向けて視線を向け、窓の外へと飛び出し恐るべき早さで何処かへと去っていった。

 

 

「あらあら、ここからが面白い所なのに……まぁいいわ。王子様が舞踏会の準備をしてくれるのなら、魔法使いは魔法使いらしく灰被り(シンデレラ)に魔法をかけてあげなくちゃね。さぁ、やる夫にユウキちゃん――お着替え(ドレスアップ)の時間よ?」

 

「邪神様、なんで手をワキワキさせてるんです??????」

 

「どうしよう……すっごく不安になってきた……」

 

 

そんな様子を見ながら、まるでチェシャ猫のような笑みを浮かべ手を顔の横でニギニギとするニコル・ボーラスを見て、やる夫とユウキはため息をつくのだった。

 

 

 

~To Be Continued……?~




次回:降臨!聖騎士たる龍帝皇!

『星の意思』の元ネタ
【星獣王】:ぼくらの怪獣王
【星の巨神】:最近ゲッターのヤバい方と共演したマジンガーのやばい方

あと、本編でやる夫に厄ネタが詰め合わされたとしてもこの剪定事象やる夫はちょっとヲタ知識があったりする男の子だよ!!!!


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Episode :Deus EX machinα ~マケンノオワリ~

こう、うまく表現できているのかぐぬぬとなる今日この頃。


 

 

 

 

 

「おい!邪龍達は何をしている!?さっさとあの獣達を追っ払え!咎人(ネフィリム)とかいう奴らは愚民達の避難を誘導させろ!」

 

 

――大陸中で繰り広げられている、邪龍達と【獣】達の激戦。それは、この楽園の東(イーストエデン)においても例外ではなく。

 

むしろ、人類を裏切って邪龍側に頭を垂れたが故に。この楽園の東(イーストエデン)は今や、ドラグナール大陸において一二を争う地獄と化していた。

 

だが、その地獄において。誰よりも必死に声を荒げながら、指揮を行っている者がいた。

 

その者の名は、シンジ。この楽園の東(イーストエデン)の王を自称する者であり、人類の裏切り者と称される者であった。

 

 

「陛下!陛下もお逃げください!」

 

「今のは非常時に混乱しているからということで見逃してやる。いいか、僕はこの国の王だぞ?この国唯一の『英雄』だぞ!?僕には民を導く義務が――護る義務があるんだ!だから、この国の愚民共を一人残らず避難させるまで、この国を離れることなどあってはならないんだ!」

 

「……っ!申し訳、ありませんでした。」

 

「お前こそ、咎人(ネフィリム)にでも担いでもらってさっさと逃げろ。これは、僕の……僕だけの役目だ。父上にも、死んでいった英雄達にも、あの赤薔薇にだってできない。今、僕がやるべき役目なんだからな!」

 

 

宰相タンユウにそう告げると、シンジは炎に包まれた街へ歩きだす。

 

 

――その日、楽園は地獄と化して燃え尽きた。

 

だが、そこに住んでいたはずの人々と、楽園の王がどうなったのかは――人の時代が終わった後の歴史にも、記されていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでこの姿にならないといけないんですかねぇ?」

 

「こっちの方が安定するからよ?どうせユウキちゃんとやる夫に対して力を調整するのなら、最初からやる夫と一緒になってた方が楽だもの。」

 

 

――キングソード城砦。

 

再び竜王変生(ドラゴンインストール)したやる夫とユウキ、そして城壁の屋上へと集まった領主、ウィリアムを含む面々は、その儀式が無事成功することを見守っていた。

 

やる夫とユウキは重ね合わせた手で『星の欠片』をしっかりと握りしめ、空を見上げるように立っていた。

 

 

 

「やる夫、バルスって言ってもいいのよ?」

 

「洒落にならないからやめるお。ユウキちゃんも言っちゃ駄目だからね?」

 

「う、うん。」

 

『はぁ、つまらないわね……それじゃあ、いくわよ?竜皇変生・極限疾走(ドラゴンインストール・オーバードライヴ)

 

 

 

軽い漫才めいたやり取りを挟むと、ニコル・ボーラスは何時になく真面目な表情で言葉を紡いだ。

 

――その言葉と共に、『星の欠片』から螺旋のごとき光が放たれ、やる夫とユウキを包み込んでいく。

 

その奔流と共に体が宙へ浮かんだ二人は、それぞれの手をしっかりと握りしめ、奔流にその身を任せる。

 

やがて、螺旋の光はキングソードの上空に浮かぶ巨大な卵となり、ピシリという音と共にひび割れ、はじけ飛ぶ。

 

光の欠片が雨のように降り注いでいく中――『それ』は、姿を現した。

 

 

 

 

雄々しき翼と尾を携えたその姿は、一見すれば『龍』のようでもあった。

 

一方で、眩い白の光に包まれたその体は、騎士が纏う『鎧』のようでもあった。

 

そしてなにより――その手に握られた剣は、白金の光を放ち、キングソードに住まう全ての人々を魅了していた。

 

 

 

《――すごい。こんなに大きくなってるのに、まるで自分の体みたいに違和感がないや。》

 

《これが、今のやる夫達かお……で、名前は何ていうんだおこの姿?》

 

《そうねぇ。かつての私は、総ての龍を統べるモノという意味で龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)と名付けていたわ。でも今はさながら、聖なる騎士(パラディン)といった所かしら?》

 

《それじゃ、聖騎士たる龍帝皇(インペリアル・ドラゴン・パラディンモード)って所かな……なんか、実感がわかないなぁ。》

 

《まぁ、ユウキちゃんだけに背負わせるつもりもないお。それじゃあウィリアムさん、守りはお願いします。》

 

「はっ、生きて帰ってこなかったらその頭を射抜いてやるからな、覚悟しておけ。」

 

《こわっ!?》

 

《あはは――それじゃあ領主様、みんな。ボク、行ってきます!》

 

 

 

 

 

そして、聖騎士たる龍帝皇(インペリアル・ドラゴン・パラディンモード)となったやる夫とユウキは一時の別れを告げると、大空へと舞い上がり邪龍王(アジ・ダハーカ)が待つ玉座めがけて飛翔した。

 

それはまるで――大空を斬り裂く、流星のようだったと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて――お前達、準備をしろ。あいつらの帰ってくる場所を護る時が来たぞ。」

 

「「「「「おう」」」」」

 

 

 

 

 

 

やる夫達を見送った後、領主は柄になく真剣な表情で城砦の外に広がる光景を見つめ、兵士達に指示を出す。

 

兵士達も、武器を構え眼前に迫る――進軍を続ける【獣】達の群れを、見つめていた。

 

先程キングソード城砦を襲っていた【獣】達は、確かにアルトリアの手によって撤退した。

 

だが、それはあくまで『アルトリアが制御できる範囲内に居た【獣】達』にしか有効でなく、『魔剣』に連なる存在を滅ぼそうと顕現する【獣】達には関係のないことだった。

 

 

 

「ふっ、俺を囮にすればある程度誘導はできると思うがな?」

 

「だが、それではユウキが悲しむだろう。」

 

「えぇ、戻ってきたあの子には笑顔でいてほしいですから。」

 

「そうそう!まぁ、ここが最後の踏ん張りどころだと思って頑張ろうよ!みんなで、ハッピーエンドを掴み取るためにもさ!」

 

 

 

ウィリアムの言葉にアルトリウスが異を唱え、大和とアストルフォがそれぞれの決意を胸にする。

 

そして、【獣】達の咆哮が響くと共に――再び、戦闘が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どうやら、彼らも動き出したようですね。」

 

《あれは、貴様の差し金か。結末は変わらぬというのに、ご苦労なことだ。》

 

「おや、他人事ですね。あなたの子孫にあたる者も共にあるというのに?」

 

《【森の王】たる我はあの日、晩鐘の音と共に深淵に沈んだ。今この場に存在するは、【星の巨神】たる存在なり。》

 

「素直じゃないですね……まったく」

 

 

 

やる夫とユウキが、邪龍王(アジ・ダハーカ)が待つ玉座へと向かう頃。

 

もはやクレーターとすら呼べぬ程に大地が砕け散ったその戦場で、流星の輝きを垣間見ていたアルトリアは、その右手で物言わぬ躯となりかけていた【銀星号】の喉を掴む巨神と、まるで親しき友と語らうかのように雑談を重ねていた。

 

アルトリアが視線を移すと――そこには、全身を『光り輝く焔』に焼かれ息も絶え絶えとなっているジャンヌ・オルタの姿があった。

 

――ジャンヌ・オルタも、【銀星号】も、己の全能力を、全異能を駆使し死力を振り絞った。

 

だが、かつてユウキの斬撃すら受け止めたその体はいともたやすく打ち砕かれ、【銀星号】の異能の一つである時間操作は、同様の能力を発動した巨神によって無効化され。

 

そして、何より。

 

『逆行運河・創世光年』と称すべき、『邪龍王(アジ・ダハーカ)がこの星の魂を掌握する以前からこの星が誕生したその日まで』を逆行し、集められた『精霊』達。

 

それらを総て注ぎ込まれたその『出力差』によって、人類に対し猛威を振るった彼女達は、人類と同様の立場に追い込まれたのだった。

 

 

 

「……っざけん……じゃ……な……わよ……私は……まだ……」

 

「……だ……まだ……れは……びたりな……」

 

「諦めなさい。あなた達の奮戦は、もはや何の意味も持たない。」

 

《晩鐘は汝らの名を指し示した。》

 

 

 

その言葉と共に、アルトリアの持つ『星槍』が――『星焔』の螺旋がうねりをあげ。

 

同時に、巨神の胸部からも『星焔』が激しさを増し。

 

 

 

「――最果てにて輝ける星の槍(ロンゴミニアド)!」

 

《――終焉の時来たれり、其は星を守護するもの(ファイナル・ノヴァ)

 

 

 

 

 

 

閃光と共に、星を揺るがすほどの衝撃が世界を包み込み。三大魔王たる二柱は、ここに討ち倒されたのだった。

 

そして、それを見届けた【星獣王】は天に向かって雄叫びをあげると、再び邪龍王(アジ・ダハーカ)が待つ玉座へと進撃を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――美しいものを見た。

 

 

 

 

 

最早数えることすら叶わないほど遠い過去。今は遠き黄金の記憶。

 

 

魂は根元から腐れ堕ち、己が何者であったかさえも掻き消えた。

 

―――――それでも尚、決して色褪せぬことのない光。

 

それがもう届く事のない、星の輝きに過ぎないとしても。

 

淡く砕け散った月光よりも儚い、一滴の夢の雫に等しいとしても。

 

まだこの胸の中には、あの日に得た歓喜を覚えている。

 

 

 

例え、ニコル・ボーラスの言葉が真実の一面を捉えていたとしても。

 

あの日見た黄金の輝きが、星の光に塗りつぶされたのだとしても。

 

――――あの日見た輝きが悪ではないと、“私”が証明してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

ジャンヌ・オルタと【銀星号】の存在が消滅したのを認識しても。

 

【星獣王】が、こちらへ向かってくるのを認識しても。

 

すでに、十大脅威(テン・コマンドメンツ)どころか邪龍達が【獣】達によって消滅していても。

 

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)は、玉座から動こうとはしなかった。

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)は、待っているのだ。自らを討ち倒すのは、あの日見た輝きを持つモノなのだと。

 

 

 

 

そして、『それ』は舞い降りた。

 

『竜』のようでもあり『騎士』のようでもある白き鎧を纏い、己の祝福(ノロイ)を施された剣を手にした『それ』。

 

忌々しき怨敵(ニコル・ボーラス)の魂が宿っていながら、邪龍王(アジ・ダハーカ)が選んだ勇者(ユウキ)の魂も宿す、矛盾した存在。

 

だが、もはやそれすらも邪龍王(アジ・ダハーカ)にとっては些細なことだった。

 

 

 

 

 

 

「さぁ――与えた機会を示す時が来た、ユウキ。その剣で、私を斬り伏せてみよ。」

 

《あいにく、やるのはユウキちゃんだけじゃないお。》

 

《そうだ――『ボク達』で、お前を倒す!》

 

「よくぞ吠えた!ならば、見せてみろ!『汝ら』の輝きを!」

 

 

 

その言葉が火蓋となり、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)邪龍王(アジ・ダハーカ)は激突した。

 

まず手始めにと邪龍王(アジ・ダハーカ)から放たれた竜炎(ブレス)を、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)はその翼をはためかせた三次元的な軌道で回避する。

 

お返しと言わんばかりに龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)がその剣を邪龍王(アジ・ダハーカ)へと突き刺し無造作に振るえば、その鱗が斬り裂かれ邪龍王(アジ・ダハーカ)は歓喜の叫びをあげる。

 

振るわれた尻尾による薙ぎ払いが龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)を地面に叩きつけ、竜炎(ブレス)を火球状に変化させた一撃を、豪雨(スコール)のように放つ。

 

その火球は龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)を捉え、爆煙によって視界が悪くなる。しかし、爆煙の中から飛び出してきた魔力を伴わない斬撃――秘刀“絶剣”の連撃が、邪龍王(アジ・ダハーカ)の尾を斬り飛ばす。

 

その痛みに一瞬怯んだ矢先。気がつけば三つある首の一つに龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)は接近していた。

 

顎を開き噛み砕こうとする瞬間、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)の胸部にある、龍の頭を模した装飾が同じように口を開き、そこから砲身のようなものが伸びていることに気がつくが時すでに遅し。

 

 

《やる夫!》

 

《ぶちかます――龍星、一条(ギガ、デス)!!!》

 

 

 

――放たれた閃光が、首の一つを消し飛ばす。たまらず腕を振るい、その爪で龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)の翼を引き裂く。

 

響き渡る、二つの悲鳴。続けざまに竜炎(ブレス)を叩き込み、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)を吹き飛ばすついでに大地を抉る。

 

 

 

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)は歓喜の咆哮を轟かせ。

 

龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)は奮起の咆哮を響かせる。

 

 

 

余りにも永き時のようでいて、しかして刹那の如きその攻防は邪龍王(アジ・ダハーカ)龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)がまるで流星になったかのようにぶつかり合い、続いていく。

 

だが、やがて物語も終わりに近づく。

 

ボロボロになった龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)が天高く舞い上がると、その頭上に剣を掲げる。

 

すると、螺旋を描くかのように光が刀身に集まり、それは黄金の輝きを放つ。

 

 

 

勝利すべき(オメガブレード)――》

 

 

 

やる夫の声が響く。龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)の突撃と共に。

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)が迎え撃つかのように竜炎(ブレス)を放つが、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)は捨て身のごとく、邪龍王(アジ・ダハーカ)めがけて急速に落下する。

 

 

 

《――終極の剣(カリバーン)!!!》

 

 

ユウキの声が響く。その黄金の刀身は邪龍王(アジ・ダハーカ)の額へと突き刺さり、龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)の飛翔と共にその体を斬り裂いていく。

 

 

 

《おおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!》

 

 

 

二人の声が響き終わる。剣を振り切ったと共に龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)邪龍王(アジ・ダハーカ)の背後へと着地する。

 

すると、まるで役目を終えたかのように剣が砕け散り――邪龍王(アジ・ダハーカ)の躯が、音を立てて崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あぁ、最後に。オイラにいい夢を見させてくれて、ありがとう。」

 

 

 

 

 

その躯に浮かび上がった、少女の姿をした分体は。

 

かつて、龍王(バハムート)とも呼ばれた、その人類にとっての災厄は。

 

最後に、笑顔を龍帝皇(インペリアル・ドラゴン)に向けて、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日を持って、ドラグナール大陸から『三大魔王』と呼ばれる脅威は、消滅した。

 

だが、それは同時に――人の時代が終わりを告げたことを、意味するのだった。

 

 

 




もうちょっとだけ続くんじゃよ。


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Episode :Deus EX machinα ~ハジマリ~

エイワス様及び二次創作者様、そしてスレ住民の皆様に感謝を。


 

 

 

――三大魔王という脅威が消滅してから、二ヶ月が経った。

 

人知を超えた、邪龍と【星獣】と呼称されるようになった怪物の激戦による爪痕も、ようやく回復し始めた頃。

 

新たなる熾火(ギムレー)においては、賢老七十二臣による会議が行われていた。

 

 

「――以上が、【観測所】によって観測された事象『精霊休眠化』の報告となります。」

 

「うん、ありがとうグラシャ=ラボラス。」

 

 

そこでは、一人の女性――今は【観測所】が調査官、【グラシャ=ラボラス】の名を冠する才女【ラクス・クライン】が、【観測所】総出となって行われた調査結果を報告していた。

 

それは、ほんの些細な出来事――オルガマリー王女に仕える青年『エドモン・ダンテス』が飛行魔法を行った際、ほんの少しだけ高度と速度が下がったことだった。

 

持ち前の才能が故に、それを疲れや衰えのせいだと考えずに調査を行った彼は母である『グシオン』を通じて【観測所】へと調査を依頼した。

 

その結果、【観測所】は魔法を行使する際に『精霊』への干渉がしづらくなっていることを突き止めたのだ。

 

彼らは原因を【星獣】にあると考え、調査を進めていき――過剰なリソース消費に伴い、それを回復する為に『精霊』が休眠することでそのリソースを回復しようとしているのだと、結論づけた。

 

 

 

「『精霊休眠化』は我々が計り知れないサイクルで行われているので具体的な時期は不明ですが、いずれ我々は『魔道』という叡智を失うでしょう。それが、【観測所】の出した結論です。

 

「この大地がそこまで犠牲を払ってようやく終わらせることの出来た『魔剣』か――我々人類は、とてつもない負債を残してしまったものだな。」

 

「しかし、悲観してばかりもいられまい。今まで人類の旗頭となっていた英雄達もいずれは消えていく。負債があるというのなら、次代にそれを引き継がせないようにしていくのが今代に生きる我々に課せられた使命だ。」

 

「その通りだみんな。確かに、三大魔王という最大の脅威は消え去った――だが、だからこそ我々は今まで先送りにしてきた困難に立ち向かわなくてはならない。この平和を維持していく為にも、これからの未来をより善きものにしていくためにも。力を貸してくれ。」

 

 

 

王たるソロモンの言葉に、賢老七十二臣は頷きを返す。そして、彼らによって次々と議題が提案され、会議は進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、それで。次はマシュとオルガマリーの結婚式についてなんだけど……」

 

「ソロモン!ならばぜひとも我々【兵装舎】のプランを見ていただきたい!」

 

「たわけっ!姫様の結婚式プランはこの【覗覚星】がいただく!」

 

「あ、【廃棄孔】はどのようなプランでも警戒任務にあたりますので。ほらそこ残念そうな顔をしない。」

 

「ふっふっふ……式場は【観測所】、【情報室】、【管制塔】により最適な場所を確保しております。」

 

「ソロモン!ソロモン!初夜についてもばっちり場所を確保して……」

 

「「「「「「「「「「控えろゼパル!!!!!」」」」」」」」」」

 

「やれやれ、ついこの間までとは掌を翻したかのような形だな……」

 

 

――会議がまったく違う方向性に発展していたとしても、それは、平和の証なのかもしれない。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

「左近さん、お疲れ様です!」

 

「おぉ、かばんどん!差し入れでごつか?」

 

「はい、皆さんの分のじゃぱりまんです!サーバルちゃんも駆け回ってるんですが、なかなか手が回らなくて……こちらはどうですか?」

 

「わこぅ連中を使ってやっちょるが、まだまだかかりそうばい。おーい各々方!かばんどんからの差し入れにごつ!ありがたくいただくように!」

 

「「「おぅ!」」」

 

 

 

――場所は移り、草原の国。

 

かばんが訪れたその場所では、難民の居住区画が急ピッチで作られていた。

 

星獣による被害でかろうじて邪龍に耐えていた小さな村や町も壊滅状態になり、七星国家全体に難民が押し寄せてくる。

 

特に草原の国はその気質故か特に難民が押し寄せており、女王であるサーバルもまた笑顔で難民を受け入れていった。

 

幸いなことに草原の国の民もその笑顔に答えようと、かつての出自に囚われず、皆が協力してこの困難を乗り越えようと努力していた。

 

 

 

「……本当は、狙う緒さん達も居てくれるとよかったんですけれどね。」

 

「仕方がなか。あんにはあんの事情があるばい。戻ってくるのを待つのも、家族ばい。」

 

「……はい!じゃあ、私は次のところに行きますね!」

 

「応っ!気をつけるでごつ!」

 

 

……無論、新たに輪に加わる者も入れば、去る者も居る。

 

無銘(エックス)と並び立つ武勇を誇っていた魔術師(ウィザード)――狙う緒とマトは、「やらなければならないことがある」と草原の国を離れていた。

 

かばんにはそれが何かは分からず寂しさを感じていたが、左近の励ましに笑顔を浮かべると、次の場所へと駆け出していった。

 

 

今日も、この草原の国には笑顔が溢れている。

 

それは、かけがえのない、太陽のような輝きに染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ!ようやく見つけましたよ師匠!」

 

「ぬぬっ、なのはか……えぇい見なかったことにしろ。儂はぐーたらしたいんじゃ。」

 

「だーめーでーすー!コンゴウさんとフェイトちゃんから師匠を見つけたら捕獲してこいって言われてますんで!」

 

「さてはあやつめ今までの憂さ晴らしも兼ねておるな!?……で、なのはよ。なぜお主は隣に座る?」

 

「まぁ、捕獲してこいとは言われましたけど『いつまでに』とは言われてないので?ちょっと休憩でもしようかなぁって。」

 

「にょほほ……お主もワルよのう?ほれ、口止め料の桃じゃ。お主とフェイトが小さい頃はよくご褒美にくれてやったのう。懐かしや懐かしや。」

 

「あの頃から師匠は変わってないですよねほんと。」

 

 

 

――見果てぬ水平(ニライカナイ)の、ある庭園にて。

 

そこでは、花が咲いた樹木の下でぐーたらしている太公望の隣に座り、共に桃を食べるなのはの姿があった。

 

そよ風を肌で感じながら、なのはは空を見上げる。

 

 

 

「いやぁ、今でも信じられないですよ。ついこの間まで邪龍と戦うのが日常茶飯事だったのに、こんな穏やかな日々が送れるなんて。」

 

「財政のジンや民事のルカはてんやわんやだがのぅ?まぁ、コンゴウはお主達には負担をかけっぱなしにしていたからな、今はゆっくり休むがよい……そういえば、甘粕殿はどうしたのだ?」

 

「あぁ、なんかどっかで知り合った冒険者と一緒に海へ征くとか言ってましたよ。師匠も、外交がんばってくださいね?今は、無限の未来が広がっていますから!」

 

「コンゴウめそんなとこまで漏らしておったか。当てつけのつもりか?……まぁよい、次代に何かを託すのも先達の努めだ。ではゆくとしようか。なのは、着いてこい。」

 

「あっ、ちょっ!?私まだ休憩中なのにー!」

 

 

 

そんなやり取りを繰り広げながら、なのはは立ち上がって去っていく太公望の背を追いかけていく。

 

誰も居なくなった樹木の下では、花弁がくるくると踊るかのように、風に舞い上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――すまないな、色々あって来るのが遅れてしまったよ。まったく、本当に平和式典にまで駆り出されるとは思わなかったさ。」

 

 

――かつて、ペルフェクティオ王国とも、暁帝国とも呼ばれていた、星の爪痕と今は呼ばれるその地において。

 

ひっそりと建てられていた小さな墓標達の前に、アルタイルは立っていた。

 

アルタイルは自らの手で作り上げた菓子を墓標達に備えていくと、まるで懐かしい友に向かって語りかけるかのように、今まで会った出来事をぽつり、ぽつりと呟いていく。

 

もはや、擦り切れた記憶の奥底に眠るものだろうと、それは彼女にとって、きっと大切なものだったのだから。

 

どれくらいの時間が経ったのか、もはやアルタイルにもわからなくなった頃。アルタイルは立ち上がると、帽子をかぶり直して、そう呟くのだった。

 

 

 

 

「悪いが、まだ私はそちらにいけそうもない。紅玉が赤薔薇に何か仕掛ける為色々と動いているようだが、せめて約束は果たさないといけないからな……」

 

 

 

 

 

 

 

また、会いに来るよ。だから、逝った時は笑って出迎えてくれ。

 

 

 

 

 

 

――完全者(アルタイル)が浮かべていたそのエガオは、彼女自身にもわからないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、大いなる黎明(シェオール)でかつて最前線だった街、キングソードでは。

 

 

 

「いやー、ようやく旦那を見つけたと思ったら全てあふたーざかーにばるであちしどうしよって思ったけどまぁ結果オーライだわね。」

 

「いや、お前ほんとなんなんだお……?」

 

「まぁ、あちしのことは置いといて。旦那は買い出し?あちし猫缶ほしいの猫缶。」

 

「……まぁ、お金に余裕はあるから買ってやってもいいお。今日こそは、選びに選びぬいた食材で権造さんに勝つんだお……!」

 

「これまで食戟を挑んで20戦20敗だけど、飽きないわねやる夫も。」

 

「ま、まぁ領主様も息抜きで楽しんでるみたいだしいいんじゃないかな……?」

 

 

妙なナマモノ(ネコアルク)を頭に載せながら、右側にはユウキ、左側にはニコル・ボーラスと、何も知らない健全な男子が見ればうらやまけしからん状況になりながら、食材を探し求めてやる夫は市場を歩いていた。

 

 

邪龍王(アジ・ダハーカ)を倒してからの彼らの日々はと言うと、そこまで変わることはなかった。

 

星獣達による災害によって結果的に、やる夫とユウキを【英雄】にするというウィリアムの計画は頓挫し。

 

また、最終的に三大魔王を倒したのが謎の『4』体という情報が各国に伝わった為、やる夫の特異性もユウキが新たな『魔剣』を手にしていたことも、ウィリアムという劇薬が再び現れていたことも、キングソード内に居たもののみが知る秘密となった。

 

ウィリアムもまた、役目を終えたと言わんばかりにやる夫達の帰還を見届けた後消滅し、やる夫(となぜか未だ現世に残っているニコル・ボーラス改め沙条愛歌)はちょっと不思議な力を持つ存在として、キングソードに留まることになった。

 

 

 

「いらっしゃーい、草原の国名物、じゃぱりまんだよー」

 

「ねーねーやる夫、疲れたから休憩しましょうよほら。あそこで美味しそうなもの売ってるわよ?」

 

「えー」

 

「そこのナマモノには猫缶買ってあげるのに私達にはないのかしら?????」

 

「ネコ差別よくないと思うよあちし!?」

 

「はいはい、わかりました……すいませーん、そのじゃぱりまんというの3つくださいお!」

 

 

 

 

やる夫達が食材を求めて市場を歩き回り数十分後。駄々をこね始めた愛歌に根負けし、やる夫は屋台に並ぶその食べ物を買う為、店員へと話しかけた。

 

 

 

「まいどどうも。では、どう……」

 

「ん、どうかしましたかお?」

 

 

すると、その黒髪をツインテールにしていた店員はやる夫の傍に居る愛歌の姿を見ると動きが止まり。

 

 

「 」

 

「あれ、どうかした邪神様?」

 

 

ユウキは、冷や汗を流し硬直する愛歌へと困惑する。

 

 

 

「――いやぁ、こんな偶然もあるとは驚きだ。あの白い竜騎士を遠目に見た時から確信を持っていたけど――懺悔の用意はいいかい、ニコル・ボーラス?まずは一発殴らせろ。」

 

「ひ、久しぶりじゃないウィザー!元気そうでなによりだわ!」

 

「「あっ」」

 

「やっぱりこの元凶トラブルホイホイでは?」

 

 

ネコアルクのそんな言葉をきっかけに始まった追いかけっこを眺めつつ、やる夫とユウキは――顔を見合わせると、頬を引きつらせた笑顔を、浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――彼らの物語は、続いていく。しかしそれは、『魔剣の物語』ではない。」

 

 

 

――最果ての理想郷(アヴァロン)にて、アルトリアは誰に聞かれるでもなくそう呟く。

 

その手には、かの『聖焔』を模した光――『星焔』を螺旋のごとく纏う星槍が、うねりを上げていた。

 

 

 

「魔剣に囚われた魂達を癒やし終わるまで、私はこの地で見守りましょう。この永きに渡る争いの果てに傷ついた、全ての魂に――安らぎと幸せを。」

 

 

 

そして、彼女は祈る。全ての魂が癒やされる、その日まで。

 

 

 

 

 

 

 

それから――永い、長い月日が経った。

 

 

いつしか、魔剣の物語が、遠き遠き御伽話となるような、果てしなく永い月日が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぅ、遅刻、遅刻だ!なんで今日に限ってみんな俺を置いてくんだよ!?」

 

 

 

俺の名前はモードレッド!ヴォルラス女学院に通う高校一年生だ!

 

とは言っても、今は遅刻しそうなんで学院に向かって全力疾走してるところなんだけどな!

 

そんなことを考えながら、いつものように通り道の角を曲がろうとすると――

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「おわぁっ!?」

 

 

 

どんって音と共に、俺は思わず尻もちを着いてしまう……やっべ、人とぶつかっちまったっ!?

 

 

 

「わ、わりぃ!急いでたんだっ!怪我はないか!?」

 

「えぇ、私は大丈夫です。」

 

 

俺と同じくらいの、青と白の服を着けた女の子の手を取って立ち上がらせると、俺はほっとため息をつく。

 

よかったぁ……これで怪我させたりしてたら大変だも……やばっ!?時間が!?

 

 

「そっか!本当にごめんな!じゃあ、俺急いでいるから!」

 

「えぇ……気をつけて、『モードレッド』」

 

「?え、なんで俺のなま……」

 

 

 

そのまま走り去っていこうとする俺に、その女の子が俺の名前を呼びながら見送ってくる。

 

そこに違和感を感じた俺はとっさに振り向いたが、すでに少女の姿はなかった……え、なにこれホラー?

 

 

 

「……まぁ、みんなへの話題にはなったりするか。それよりも遅刻の方が問題だぁっ!?」

 

 

 

俺はクラウチングスタートの体勢を取ると、学院へ向かって全力疾走を始めた。カリオストロ先生に見つかったら大目玉だからなっ!?

 

 

 

 

 

 

 




これにてデウスエクスマキナ編終わりです。
本来は邪龍と対をなす感じでアルトリア+αをぶちこもうってネタのはずが他の二次創作やらリプレイやら本編やら見ててネタが膨らんだ結果なんかこうなった。
こう、やっぱりちゃんと話考えようってなると自分の書きたい展開をうまく伝えられる文章になっているのかが悩みますね。
今後はまた単発ネタを書く感じに戻りたいです。


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