Fate/Fantasy 〜妖星乱舞〜 (うどんこ)
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第一楽章 その①

初めての方は初めまして。前作をお読みの方はお久しぶりです。今回はアンケートで掲載希望のあった短編を上げました。ケフカのキャラ全然出せてねえよと感じるかもしれませんが、そこは広い心で許して下さい。それとケフカはどちらかと言うとFF6よりもDFFやDDFF寄りになっております。

えっ? 冬木大橋の死闘の連載? ……ホントスミマセン、もう少しお待ち下さい……

※ちなみにケフカはDDFF、DFFにある、こちら側が見えてる設定です。


 

──聖杯戦争。

 

 願いを叶える『聖杯』を求める七人のマスターと、彼らの手によって召喚、契約された七騎の英霊(サーヴァント)が、命を賭けて競い合う七組による戦争。

 

 その戦争の舞台である冬木の街、古い屋敷の地下室に二人の男が存在した。

 一人はパーカーを着た白髪の男、床に倒れ込み、苦しそうに(もが)いている。その顔には死相すら浮かんでいた。

 もう一人は和服を着た老人。しかし周りに漂う雰囲気は人間のものではなかった。まるで、化け物のようである。

 

 間桐雁夜。

 

 今回で四度目となる聖杯戦争に参加するため、身体に刻印蟲を埋め込み、無理矢理急造の魔術師となり、令呪を得て英霊(サーヴァント)を召喚しようとしている。

 その結果、床で踠き苦しんでいるのだ。正規の方法で魔術師になっていないため、当然の結果とも言えるだろう。この様な無茶をした代償は、己の命であった。

 

 彼が自分の命を捨ててまでして聖杯戦争に参加するのには訳があった。彼が愛した女性の娘が今、この間桐の家にいる。養子としてこの家に来てしまったのだ。雁夜が間桐の家を出なければこの様なことは起こらなかった。

 聖杯を手に入れる事が出来れば、愛した女性の娘──桜を解放すると取引をした。その為に刻印蟲を身体に埋め込み、英霊(サーヴァント)の召喚準備をしていた。それが彼なりの彼女達への償いであった。

 

 間桐臓硯。

 

 倒れ込む雁夜を楽しそうに見ている老人がそうである。実際は500年を生きる化け物であり、間桐家を支配する存在。そして、雁夜が聖杯戦争に参加するきっかけの元凶である。

 

「どうした? 英霊を召喚する前にくたばるつもりか? それならそれで手間が省けるのじゃがな」

 

 臓硯は今回の聖杯戦争の結果などそもそも期待などしていない。聖杯を持ち帰ったら御の字、例え敗れようとも余興としか考えていないのである。雁夜の苦しみ足掻く姿を楽しむ事だけが目的であった。

 

 そして雁夜は全身の至る所から血を吹き出しながら、英霊召喚を始めた。

 雁夜の魔術師としての格は幼い頃から鍛錬を続けてきた者たちとは比べ物にならないくらい低い。その為、どれだけ優れた英霊(サーヴァント)も弱小クラスまで陥ってしまう。

 だから今回、狂戦士のクラスで英霊(サーヴァント)を召喚する事にした。狂化で少しでもステータスを底上げする為である。

 但し、デメリットもある。燃費が兎に角馬鹿にならないのだ。今までのバーサーカーの敗因が、マスターの魔力切れによるものであると言えば分かりやすいであろう。

 無論、雁夜もその事は承知である。しかし少しでも勝ちの可能性を上げる為にはその方法しか思い浮かばなかった。

 

 一人の少女の顔を思い浮かべながら、呪文を唱える。これがせめてもの償いになればと願い。

 

 そして心の何処かで願った──願ってしまった。「こんな世界、いっその事壊れてしまえばいい」と。

 

『滅ぶとわかっていてなぜ作る?

 死ぬとわかっていてなぜ生きようとする?

 死ねば全てが無になってしまうのに』

『命…… 夢…… 希望…… どこからきて どこへゆく?

 そんなものは…… このわたしが破壊する!!』

 

 雁夜の耳にそんな言葉が聞こえた気がした。

 

 呪文を唱え終わると、魔方陣から辺り一面に光が放たれ、地下室を照らした。どうやら召喚は上手くいったようである。その事に雁夜は安堵し、臓硯は皺だらけの顔を歪ませ笑った。

 しかし、二人とも異変に気付く事は出来なかった。召喚の途中、僅かな次元の歪みが生じていた事に。その歪みは召喚の儀式の影響でドンドン大きくなり儀式に干渉した。そして召喚は終了する──本来(もたら)される筈であった結果を大きく歪めて。

 

「画面の前の紳士淑女の皆様、初めまして! イッツ ショ〜〜タ〜〜イムッ!!」

 

 (やかま)しい奇声を上げながら現れたのは派手な格好をした金髪の道化だった。身長も普通の成人男性より少し低い位であり、体格もヒョロッとしていてあまり強そうではない。

 

「何ぼくちんが格好いい登場をしたのに呆けてるんだよ。ホラ! 拍手、拍手!!」

 

 その場の重さが分かってないのであろうか、間の抜けた声が雁夜と臓硯に拍手の要求をしていた。

 

「フン、ハズレのようじゃな」

 

 臓硯は馬鹿にしたような口調で吐き捨てる。それもそうだろう。バーサーカーとして召喚したのに明らかに肉弾戦に向いていなさそうな風貌である。そして、バーサーカーのキモである『狂化』も、まともな会話が出来る知能が残っているならたかが知れている。

 臓硯の様に考えてしまっても仕方がない事であろう。

 

「なんだァ? このジジイは? 全身蟲だらけにしてでも長生きしたいんですかぁ? あ〜ヤダヤダ、こんな害虫だらけの所、殺虫剤撒いちゃいたいくらいだ〜」

 

 そんなバーサーカーの発言に臓硯は眉を潜めた。なぜ自分の身体の殆どを蟲に置き換えている事を知っているのか。始めは馬鹿にして見ていたが、どうやら気を抜くのはいかんせんよろしくないようだ。

 

「そんなことはどうでもいいや。で、ここで血反吐を吐いてぶっ倒れてるのがぼくちんのマスターなのか〜。

 まぁ〜〜っ! 頼りないマスターでぼくちんチョー不安っ!! まさにお先真っ暗なのだぁ!!」

 

 警戒し始めた臓硯から自分が召喚した英霊(サーヴァント)を呆けた顔で見ている雁夜に視線を移したバーサーカーは、相変わらずふざけた口調で自身のマスターを揶揄(からか)い始めた。

 

 文句を言いたいのはこっちである。自分の命を文字通り削って召喚したのがこんな強くなさそうなイカれたバーサーカーだったのだ。そんな不満を、小馬鹿にしてくるバーサーカーにぶつけようとしたが、バーサーカーの顔がいきなり目の前に来たため言葉を発することが出来ず、飲み込む事しか出来なかった。

 顔は道化らしく笑っていたが、目は笑っていなかったからである。

 

「でも、ぼくちんを『キャスター』ではなくて『バーサーカー』として呼んだ事はほーんのチョッピリだけ評価してあげよっかな。まあ、もっといいクラスはあったのだけれどもね〜。元が底辺だから、あんまり贅沢は言わないで置こうかなッ!!」

 

 どうも相手を馬鹿にせずにはいられない性格の様である。雁夜はバーサーカーに対する不快感を抑え、関係を良くしようと試みた。

 

「俺がお前のマスターである間桐雁夜だ。お前が言う通り頼りないかもしれないが、今回の聖杯戦争を一緒に勝ち抜こう」

 

 あまり高圧的な態度を取ってバーサーカーに不信感を与えるのは良くないと考え、当たり障りない挨拶をしたつもりだった。が──

 

「……イイコぶりやがって……もっとクロいクロいまーっクロい感情を吐き出せよ。”俺”を呼び出す時に願ったようによ」

 

 バーサーカーの口調がドスの効いたキれたような感情のものに変わる。その瞬間、雁夜に身の毛のよだつ寒気が襲い掛かった。

 

「ま、仲良くしましょうや。”短い”付き合いになると思うけどね」

 

 そう締め括るとバーサーカーは雁夜からスキップしながら離れていった。

 それと同時に臓硯が雁夜を馬鹿にしたような目で見ながら近づいてくる。

 

「ふん、こんなイカれて御せない英霊を召喚しているようじゃこの先不安じゃな。分かりきった結果を見るより、桜の教育を始めた方が幾分有意義な気がするのう」

 

 そのまま部屋を出て行こうとする臓硯に殺意の篭った目を向け、大声で叫ぶ雁夜。

 

「約束が違うぞ! 聖杯戦争が終わるまでは手を出さないと言ってただろ!!」

「約束は約束だ、お前が負けるまで手は出さんさ。まあ、時間の問題だとは思うのじゃがな」

 

 そしてそのまま臓硯は部屋から消えた。雁夜も暫く臓硯が消えた扉を睨んでいたが、気を切り替えてバーサーカーの方を向く。バーサーカーは相変わらず謎の言動をしていた。

 

「え? もう終わった? あ、ハイ。

 それとこっちは1カメじゃなくて2カメ? そーゆーのは早く言ってよね」

 

 何もない空間を見ながら、そんな謎発言を終えたバーサーカーは、雁夜の方を向くと小刻みに歩きながら近づいて来た。

 

「あの痴呆ゴキおじちゃんとの”たーのしい”面接はもう終わりなのかな? そしたら早く外に出ちゃおうよ。ぼくちん早く遊びたくてウズウズが止まらないのだぁ! ああ、先ず何から壊そうかねぁ〜」

 

 何やら不穏な発言をしているが、最後の方は聞き取れていなかったようだ。

 

「いや、ここを出る前に桜ちゃんに挨拶してくる。それが終わったら出発しよう」

 

 聞き慣れない名前を聞いたバーサーカーは面倒臭そうにしている。先程雁夜と臓硯の会話にも出て来ていたのだが、どうやら聞いていなかったようだ。

 

「なぁ〜にその子。もしかしてキミの子ども?」

「いや、違う。俺が今回の聖杯戦争に参加する切っ掛けだ。あの子を守る為に参加したんだ」

 

 そんな発言を聞くや否や、バーサーカーは身体をガクガク震わせ始めた。

 

「ウヒェ〜〜! 寒い寒い! ぼくちん凍えちゃう!! 何だいその薄っぺら〜い正義心は。正義なんて役立たず以下のクソみたいなものは、さっさとドブ川にでも捨てちゃいなさいな。キミには似合わないんだからさ〜」

 

 そんなバーサーカーの言葉は、流石に雁夜も苛立ちを抑えられなかった。

 

「バーサーカー、言っていい事と悪い事が有るのは知っているか? これ以上減らず口を叩くのなら令呪を用いてでも黙らせるぞ」

 

 流石に不味いと思ったのであろうか、雁夜に対して取り繕い始めた。

 

「いや〜ん! ぼくちんお喋り出来なくなっちゃうと退屈で死んじゃう! だから、さっきの発言は水に流してぇ〜。あーやまーるかーらさっ、ゴメンチャイ!!」

 

 バーサーカーは頭も下げずにヘラヘラとしたままであったが、これ以上侮辱されないのであれば良いと思い、桜が居る部屋に行こうとした──のだが、バーサーカーはそれを許しはしなかった。いきなり雁夜の眼前に自身の顔面を突きつけて来たのだ。その顔は微塵も笑っていなかった。

 

「とでも言うと思ったか? お前には正義なんか似合わない。これは紛れも無い事実だ。この”私”を召喚したのだから。

 憎いのだろう? あのジジイが。その子の父親が。ニクくてニクくてユルせないのだろう? 壊したくて壊したくて堪らないのだろう? だから”俺”を召喚出来た。普通なら出来ない筈のこの”ぼく”を」

 

 ”このバーサーカーは一体何者なんだ” そんな考えが雁夜の中で一杯になった。明らかに異質な存在であると、今ので身を持って体感した。

 明らかに警戒の色を強めた雁夜から、バーサーカーは顔を離すと普段の口調で喋り始めた。

 

「ま、さっさとキミの用事を済ませちゃおうか? その子に会うだけなんだろぉ? ほら早く早く早くハヤく」

 

 そのままバーサーカーは雁夜の背中を押していく。そのまま促されるように桜の部屋の前までやって来た二人。

 桜をバーサーカーに会わせるのは不味いのではないかという直感がここに来てやっと働き始めたが、既に遅かった。バーサーカーが勝手に扉を開けたからである。

 

「あっ、雁夜おじさん……とあなたはだあれ?」

 

 明らかな不審者であるバーサーカーに困惑した様子の桜。それもそうであろう。いきなりアブない気配を放つ道化がすぐ目の前にいるのだ。大声あげなかっただけでも偉いものである。

 当のバーサーカーはと言うと、何も言わず目を細め、値踏みするように桜をねっとりと見つめていた。

 

「おいバーサーカー、桜ちゃんから少し離れろ!」

 

 そんな雁夜の命令も無視し、バーサーカーは桜へとヘラヘラ笑いながら話しかける。

 

「お嬢ちゃんからはとってもぼく好みの気配がするな、どうだいぼくちんと一緒に遊ばなぁい?」

 

 そんなバーサーカーに怯えながらも律儀に言葉を返す桜。とても偉いものである。

 

「……何して遊ぶつもりなの?」

 

 桜が言葉を返してくれた事が嬉しいのか、かなり興奮気味で捲し立てる。

 

「そりゃあお嬢ちゃんみたいな女の子も大好きなお人形遊びさ! ぼくちんが人間役で〜、お嬢ちゃんは()()()なのだッ! さあてどうやってぼく好みにしていこうかなぁ〜」

 

 まるで傀儡を操っているような手の動きを見せるバーサーカー。これ以上バーサーカーと桜を対面させるのは不味いと判断した雁夜の行動は早かった。

 

『令呪をもって命ずる。バーサーカー、桜ちゃんの前に2度と姿を表すな!』

 

 令呪を用いてまで桜から遠ざけようとした雁夜。そんな雁夜に対してのバーサーカーの反応は意外なものであった。

 

「はいはい、お邪魔虫はこの愛の巣からさっさと立ち去れって事ですね分かります。それじゃぼくちん、屋敷の外で一人悲しく待ってるからお楽しみもホドホドにして早く来てね〜。じゃないとぼくちん、寂しくなっちゃう!」

 

 軽口は叩くものの、文句を言う事なくその場からふてぶてしく退散していった。どうやらあの異質なバーサーカーでも令呪の力には逆らえないようだ。対魔力が高い者やバーサーカーは令呪に抵抗するのも不可能ではないらしいので、あのバーサーカーに令呪が効くかは不安があった。ここで令呪を一つ消費するのは痛いが、あと2回は逆らえない命令を与える事が出来る。それを知る事が出来ただけでも大きな収穫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とか考えてるんでしょうねぇ〜あのおマヌケさんは」

 

 雁夜から部屋を追い出され、間桐家の外で佇むバーサーカーはそんな事を言っていた。

 

「ぼくちんみたいな『狂いきって壊れている』奴に、令呪なんて効くわけないじゃーん」

 

 1人芝居をするように大袈裟に体を動かしている。まるで誰かに見せるように。

 

「令呪が効かないのになんで従ってるんだ? って言いたそうな顔してるねぇ。そんなの決まってるじゃないか〜。楽しいタノしーいお人形遊びを邪魔されないようする為だよ」

 

 舞台の上の役者の様に大きく動くバーサーカーは、喜劇を演じている様な口調で喋るのを続ける。

 

「おマヌケさんとゴキブリホイホイジジイが油断している間に〜 あっ 陰からぼく好みに”教育”して〜 あっ ぼくちんのお気に入りのお人形に仕立て上げる」

 

 あっちにトコトコ、こっちにトコトコと歩きせわしない動きを続ける。

 

「最後はぼくちんと一緒に楽しくこの街を、世界を破壊! ハカイ! ハカイ! ハカイ! ゼ〜ンブ ハカイだ!! あぁ〜、その時が来るのが楽しみで楽しみで仕方がない!」

 

「ホワ〜ッホッホッホッホッ!!!」

 

 冬木の街に狂気の篭った笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、次もよろしく」




長くて一回に収まらなかったので分けました。
次回もその内投稿します。

次回予告

「セイバー、バーサーカーにキレる」
「ランサー、バーサーカーにキレる」
「アーチャー、バーサーカーに激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」

の三本立てです! 乞うご期待!

○バーサーカーに令呪が効かないのはなぜ?

令呪を介して命令すると、肉体的、精神的に拘束され、命令に反する行動を取れなくなってしまうらしいです。
ただ、対魔力が強かったり、バーサーカーであったりするとその令呪に抵抗するのが可能になるようです。
今回のケフカは精神的にブッ壊れたキャラなので精神的に拘束は全く効かない設定です。例えるなら、バラバラになって砂みたいになったものを鎖で縛ろうとするようなもんと考えて下さい。
肉体的の方はバーサーカーの狂化スキルのおかげって考えてやって下さい。
これらはネットで拾った情報に独自設定を加えたものなのであまり深く突っ込まないで下さるとありがたいです。

簡易ステータス

CRASS:バーサーカー
真名:ケフカ・パラッツォ
性別:男性
身長:167cm
体重:48kg
属性:混沌・悪

筋力:D 耐久:C 敏捷:B++
幸運:E 魔力:EX 宝具:EX

クラス別スキル
狂化:EX
特殊仕様。他のステータスは上がらずに、魔力だけが上がる。理性が最初から崩壊いる為、思考の単純化などのデメリットは殆ど起こらない。

※因みにケフカがどんなキャラか知らない人はDFF、DDFFのケフカ登場シーン集を見ると手取り早く分かります。
それと、作者のケフカに対しての印象は、清々しいまでの悪役といった感じです。


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第一楽章 その②

※注意

・今回からケフカの口の悪さが目立ちます。許容出来ない方は素直にブラウザバックする事をオススメします。
・ケフカは主人公ではなくラスボスポジションです。基本ゲスい事しかしません。
・バニシュデスやバリアントナイフ二刀流乱れ打ち、アルテマれんぞくまは当SSでは禁止です。使うなら感想欄でケフカさんに向けて使って下さい。間違っても作者に向けて使わないで下さい。




 冬木市にある倉庫街の奥、そこでは二騎の英霊(サーヴァント)が激戦を繰り広げていた。

 一騎は長さの異なる二本の槍を華麗に操る美男子。そしてもう一騎は小柄であるが、凛々しさのある少女。どちらも名のある英霊なのであろう。一進一退の互角の戦いが繰り広げられていた。

 その傍らにはどちらかの英霊のマスターと思われる白髪の女性が一人、真剣な眼差しで戦いを見つめていた。他の者は見渡す限り確認できない。恐らく遠くからか、隠れてこの戦いを見ているのであろう。

 

「おやおや、昼ドラの如く爛れた三角関係が大好きな色男と、部下に不倫された哀れな王様と創り物のお人形のドロドロ愛憎劇ですか? これはまた屁が出るほど退屈な『屁』ですね〜。 フヒヒッ 『絵』ですね〜」

 

 そんな騎士の誇りを賭けて戦っている二人を馬鹿にするかの様に、白髪の女性の背後にいきなり姿を現したのは不気味な道化。ヘラヘラと笑いながら女性の隣へ動く。

 その道化の動きに英霊達は咄嗟の反応をするが、生身の人間である女性はいきなりの事に反応出来ずにいた。二つの槍を操る男──ランサーは決闘の邪魔をされた事に憤りながらも警戒して距離をとり、ランサーを相手取っていた少女──セイバーはかなり焦った様子で己のマスターを助けに急ぐ。

 

「そこの貴方! アイリスフィールから離れなさ──」

 

 

プゥッ

 

 乾いた空気の音が倉庫街に響き渡った。そして呆気にとられた表情で闖入者以外の三人が動きを止める。

 

「 こ い て し ま い ま し た 」

 

 そのふざけた態度には流石のセイバー、ランサーもかなり腹が立った。

 

「なんですか貴方は! いきなり現れてアイリスフィールを人質に取るのかと思えば、その……下品な音を鳴らして! 私達を侮辱しているのですか!」

 

 そんな風に怒っているセイバーにゆっくりと近づきながら、嘘臭い笑みを見せる。

 

「おやおや、これはいけない。うら若き乙女がお下劣な会話にもついていけないとは。それではエグい話を連発する現代の若者の会話に参加できませんよぉ?」

 

 体を揺らし、笑いを堪えている。セイバーを挑発しているのであろうか。やはり馬鹿にしている様にしか感じられない。

 

「貴様、我々の決闘に水を差すだけでは飽き足らず、俺からセイバーの相手を奪うつもりか? いくら名のあるであろう英雄と言えども、先約を横から掻っ攫うのは許さんぞ」

 

 敵意の篭った視線と槍の先を道化に向けるが、当の本人は全く物怖じする事なく面倒臭そうにしている。

 

「まっっったくウルサイですねぇ。ぼくちんはお前に話しかけてないんだ。女誑しの飼い犬は黙ってろ!!」

 

 流石のランサーもこの言葉には腹が立った。マスターから「キャスターが危害を加えて来ない限り、無視してセイバーを先に始末しろ」との命がなければ飛び掛かっていた所だ。どうやらランサーのマスターは、道化を見た目などから『キャスター』と判断した様だ。そしてその発言から周りの者も道化を『キャスター』なのだろうと思い込んだ。

 

「キャスター、それ以上私達を挑発し続けるのなら、私はランサーと組んで貴方を先に片付けますよ」

 

 セイバーにも敵意を向けられた道化は、ワザとらしい溜め息をつきながら下がっていく。

 

「ハイハイハイ、じゃあね あの、私は黙って見学してますから えぇ」

 

 そう言ってアイリスフィールの隣へと、やれやれと頭を動かしながら再び移動する。

 

「ぼくちんはこのお人形さんと楽しく実況してるから、お二人は仲良く乳繰りあっててくださなさいナ」

 

 お目当の位置に着くなり身体を宙に浮かせ、器用に寝転がる。その行為に周りは驚きつつも、やはり『キャスター』なのだろうと認識を深めた。宙に浮く魔術などそうそう使えるものではないのだから。

 一度白けた場で、再び熱くなる様な戦いをするのは中々難しいものである。ましてや、再び邪魔しそうな存在がいれば尚更だ。しかも、セイバーはそれに加えて、マスターの側にその存在がいるのだ。たまったものではない。

 

『何をしている? 宝具を使って即刻セイバーを片付け、次にそこにいるキャスターを始末しろ』

 

 ランサーのマスターは痺れを切らしている様だ。さっさと茶番を終わらせろというように命令する。ランサーも渋々といった様子でセイバーに襲いかかる。セイバーもそれを迎え撃つが、どうも動きがどちらも先程までの勢いがない。あの『キャスター』に見られていると落ち着かないのだ。まるで値踏みするような眼で見ているのだから。

 当の道化はというと、尻をポリポリとかきながらセイバー達をニタニタしながら見つめ、アイリスフィールに何か話しかけていた。

 

「そういえばキミの旦那さん、お仕事まだ終わってないみたいだねぇ〜。何かトラブルでもあったのかナ?」

「……何の事かしら」

 

 何故そんな事をと思いながらもしらを切るが、場を読まない道化の前では悪手であった。

 

「おやおやぁ? あまり人に知られたくない事でしたかぁ? そしたらもっと声を『小さく(大きく)』して内緒話しないといけませんねェ!」

 

 ケラケラ笑いながら地に足を付け、銃を構える動作をとある方へ向け、大声で喋り始めた──ランサーのマスター、ケイネス・アーチボルトがいる場所に向けて。

 

「高みの見物で油断している相手の頭をズドン!! これでランサーは脱落! セイバーのマスターも中々いい趣味してますなァ……でもそんなものはつまらん!」 

 

 最後の一言を放つ瞬間だけ先程までのおちゃらけた気配が消え、どこか狂気が篭っている様であった。

 

「と思ったからキミに『ヒソヒソ(デカデカ)』と聞いて見たんだけど間違ってたかナ?」

 

 これだけの声量であればケイネスも聞こえているだろう。そして咄嗟に身を隠し、ランサーに警戒させるであろう。完全にこの道化の所為で作戦がオシャカである。

 アイリスフィールが隣の道化を睨むも、本人はどこ吹く風といった様子でのうのうとしている。

 

「やっぱり隠し事はすぐにバレちゃうわね〜。何がいけなかったのかしらね。ぼくちん分かんなァ〜い!」

 

 全く悪びれる様子もなく、この状況を楽しんでいるようだ。ケイネスもこの異様な道化に危機感を感じたのか、ランサーへの命令を変更する。

 

『ランサー、セイバーよりも先にキャスターを始末しろ。アレからは嫌な予感がする』

 

 そんなケイネスの思い切った発言に道化はワザとらしく驚いた。オーバーリアクションが更にワザとらしい。

 

「おおっとぉ!? 良いんですかぁ? 折角あの犬っころがアホ毛を追いつめていたのに、その機会を捨ててぼくちんを狙うなんて」

 

 アイリスフィールも意を決したようにセイバーへと指示を出す。

 

「セイバー、ランサーと協力してキャスターを倒しなさい」

「しかしアイリスフィール、奴は貴方の隣にいるのですよ!」

 

 セイバー陣営にとっては道化に手を出しづらい状況なのである。いつ人質にされてもおかしくないのだから。

 

「何ですかこの状況は? まるで私が悪いみたいな空気じゃないですかあ。いや〜ん、人気者は辛いわね」

 

 不満そうな表情を浮かべながら、アイリスフィールから離れた位置にわざわざ移動していく。何故かセイバー陣営に対しての自分の優位を捨てている。一体何を考えているのだろうか。

 

「でもこのままじゃ1対2、此方の分が悪いですね。んもぅ〜仕方ないッ! 助っ人を呼ぶとしますか」

 

 そう言って指を鳴らすも何も現れない。道化の妄言なのであろうか。

 

『何をしている? 始末するなら隙だらけの今だ、ランサー』

「了解した、マスター」

 

 ランサーが勢いよく道化に向かって飛び出す。それに対しても道化は身構える事なくニタニタと笑っていた。やはり何か企んでいるのだろうか。そう考えながらセイバーはその場で警戒をしていた。

 

「そうそう、その位置。わざわざ自分から出迎えるなんて物好きですねぇ、()()()の猪武者サンは」

「─────AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

 ランサーの頭上にいきなり雷鳴が轟いたかと思えば、ランサーを吹き飛ばし、戦車(チャリオット)に乗った大男と青年が現れた。

 吹き飛ばされたランサーは体制を立て直して大男を睨み、セイバー達も道化を助けた新たな敵を睨みつけた。

 

「ふーむ、余達はどうやら出る機会を完全に間違ったようだのう」

「何呑気な事言ってやがるんですか〜! これじゃ僕達完全に袋叩きだ……終わった……」

「安心しろ坊主、余はそう簡単にはやられぬさ」

 

 そんなやり取りをしている二人組に道化はゆっくりと近付いていく。

 

「いや〜、助かりましたよ。もし来てくれなかったら、ワタシコワァ〜い人達に乱暴されてました。それじゃぼくちん離れて見てますので、勧誘でもなんでも好きなことやっちゃって下さいナ。まあ、出来ればの話だけど。 ケヒヒ」

 

 この状況の元凶である道化はそのまま大男──ライダー達の後ろへと身を隠す。まるで盾にしているようであった。

 

「ライダー、あいつと知り合いなのか?」

「いや? あんな奴など余は知らぬぞ。もし会っていたとしたらあれ程特徴的な奴だ、忘れるなどあり得んな」

「でもあいつ、お前と親しそうにしてたぞ?」

「そうしてあの二人を余になすりつけたのであろう。食えない輩だ。坊主、あやつから目を離すな。あれからは何を仕出かすか分からん危うさを感じるぞ」

 

 そんなライダー二人組に後ろから野次が飛んで来る。先程の道化からのものだ。

 

「二人で無駄話してないで早く話を進めてくんなァい? ぼくちんこの後も予定が詰まってるんだ。残業代も出やしないんだから、ちゃっちゃと仕事を終わらせて定時で上がらせてよね、全く」

 

 よく分からない事を喚く道化。それにはどう反応を返してよいか二人は分からず顔をしかめていた。

 

「仲良さげに話しているとは、やはり貴様はキャスターの味方か。それなら貴様を始末して、キャスターを潰すまでだ」

「手を貸しますよ、ランサー」

 

 セイバーとランサーは協力して、ライダーを潰し道化を叩くつもりのようである。面倒な事この上ない。

 

「落ち着け二人とも。余はうぬらと争いに来たのではない。だからまず話し合いをしようではないか」

 

 どうどうと、まるでじゃじゃ馬を諭すように話すライダーに、若干不満を覚えながらも襲いかかるのを止まる二人。なんだかんだで聞く耳はあるようだ。

 

「フム……先ずは自己紹介とでもいこうか! 我が名は征服王イスカンダル! ライダーのクラスを得て現界した!!」

 

 いきなりの真名のカミングアウトに呆れるセイバーとランサー。その後ろでは、道化が小さな氷の粒を花吹雪のように舞わせ、さりげない演出をしていた。

 ライダーの真名の暴露にはマスターである青年──ウェイバー・ベルベットも予想外であったのか、早速文句を言っていた。その様な状況になっても、道化は花吹雪を舞わせるのを止めない。ウザったらしいことこの上ない。

 

「早速本題に入るが、一つわが軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦をともに分かち合う所存である」

 

 セイバーとランサーの視線は先程よりも更に冷え切った冷たいものであった。それもそうであろう。ただでさえこの道化の所為で乱れた場に乱入して来ただけでは飽き足らず、更には手下になれと言っているのだ。道化程ではないが腹立たしいものである。

 ライダーとランサー、セイバーが口論している様子もニタニタと笑いながら、今度はセイバーとランサーの頭上にも氷の粒を舞わせている。そして更に不機嫌になる二人。そして不機嫌なままライダーの勧誘をハッキリと断った。

 

「むぅ……待遇は応相談だが?」

 

「「くどい!!」」

 

 なおも引き下がるライダーを二人そろって切って捨てる。

 その返事に、本当に残念そうな顔をしてライダーは頭を掻いた。

 

「そもそも貴様にはもう朋友とやらを一人作ってるではないか。それだけでも十分じゃないのか」

 

 ランサーがそう訊ねると、そう言えば訂正していなかったなと頭を掻いて笑いながら、ランサーの問いを否定する。

 

「まだ勘違いさせてしまっていたままであったの。これは失礼した。余の後ろにいる男は朋友でも無いし、わが軍門に入れてやるつもりもない」

 

 そう言って後ろにいる道化を指差す。当の本人は指を差されると同時にキリッと決めポーズをきめていた。此処にいる誰もが見ていないであろう方向へ向けて。

 

「そこの『キャスター』と何か一悶着あったのですか?」

 

 セイバーの疑問も軽く手を振って否定する。

 

「いや、そもそも奴とは此処での邂逅が初だ。まだどの様な奴かは皆目検討もつかぬ。……ただ、奴を仲間に引き入れるととんでもない目に合う気がするのだ。余の勘がそうささやいておる」

 

 豪胆な征服王も流石に遠慮する程の危険な匂いを振り撒いている当の道化は、その言葉に不満そうである。

 

「差別はんたァ〜い! いくらワタシが超絶ハンサムでその美貌に嫉妬してるからって、仲間外れにされるのは心が広〜いぼくでも傷付いちゃうズラ!」

 

 そんな間の抜けた発言をする道化への視線は、全て冷ややかなものであった。

 

『いったい何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば……よりにもよって君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。ウェイバー・ベルベット君』

 

 ウェイバーの姿をどこかで確認したのか、ケイネスの声が倉庫街へと響き渡る。

 

『致し方ないなぁウェイバー君。君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺し合うという本当の意味……その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』

 

 どうやらケイネスとウェイバーと呼ばれた青年は師弟関係であったが、弟子のウェイバーが使う筈だった聖遺物を盗み出してこの地に来たという事らしい。

 そしてケイネスは、ウェイバーを格下だと完全に見下している。

 しかしウェイバーは何も言い返せない。恐怖が勇気を上回り、言葉が出せずにいた。

 

「おう、魔術師よ。察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな」

 

 だが、代わって言い返す者がいた。ウェイバーのサーヴァントであるライダーだ。

 

「だとしたら片腹痛いのぅ。余のマスターとなるべき男は余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ、役者不足も甚だしいぞ」

 

 ライダーがケイネスを腰抜けと馬鹿にして苛立ちが募って来ている時に、更に癪に触る笑い声が聞こえてくる。

 

「呼び出す予定だった脳筋に全否定されてますねぇ。そんなお二方が組んでたら果たしてどうなってたのかナ〜。想像するだけで笑いが止まらないじゃないですくわぁ。

 まあ、根暗の引きこもりと天然タラシのコンビで正解だったんじゃないのォ〜。それでも反りが合ってなさそうです ガ。うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃあ!!」

 

『チッ…………』

 

 舌打ちが聞こえてくる。言い返しても更に酷い罵倒が飛んでくること間違いないであろうから、黙っているしかなかった。

 

「全く、この戦争には腰抜けばかりが多くて困るのう。おいこら、他にもまだおるだろうが。闇にまぎれて覗き見をしている連中は!」

「何を言っているのですか? 貴方は」

 

 セイバーが聞き返すと、ライダーは満足そうな顔をしながら返す。

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、真に見事であった。途中で無粋(ぶすい)な邪魔が入ったが、あれほどの清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人ということはあるまいて」

 

 邪魔と言葉を発した時、ライダーは道化にジト目を向けていた。そんな視線もどこ吹く風の道化は、ケイネスの事でまだ腹を抱えて笑っている。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 その怒号が響いて間もなくして、一騎の英霊が姿を現した。その姿を一言で表すなら『黄金』。金の鎧を身に纏い、傲岸不遜さをこれでもかと溢れ出させている。

 

「我を差し置いて”王”を称する不埒者が一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

 黄金の英霊は軽く怒気を含んだ視線をライダーへと向ける。そんな不遜な英霊の態度に呆れながらもライダーは反応する。

 

「難癖つけられてもなあ……、イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」

「たわけが。真の王たる英雄は天上天下にこの我唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎぬ!」

「そこまで言うなら、まずは名乗りを上げたらどうだ? 貴様も王たる者ならば、己の異名を憚りはすまい」

「問いを投げるか、雑種風情が……王たるこの我に向けて! 我が拝謁の栄に浴して尚、この面貌を知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」

 

 殺意をライダーへと向けようとした時、己を明らかに見下した腹立たしい視線に気が付いた。その視線の元には、馬鹿に仕切った表情を隠すこともなく、ニタニタと嘲笑っている道化の姿があった。

 

「……何が可笑しい、雑種」

 

 殺意を道化へ向け、宝具をいくつも周りに展開するも、道化の態度は変わるどころか、声を大にして嗤い始めた。

 

「何がオカシイって? そんなモノ決まってるじゃナーイ! 雑種雑種叫んでいる本人が、正真正銘、()()()()()()()風情だってことにだよ」

 

 明らかな挑発である。黄金の英霊の殺気が膨れ上がるが、それでもなお道化は蔑みの言葉を止めない。

 

「人間である事も出来ず、神などいう自己中な存在からも厄介払いで低級な神にしかしてもらえなかった中途半端な存在のキミが、一体どぉ〜んなこと考えてその言葉を使ってたのか〜ナッ? もしかして自虐ネタ? ウィッヒッヒッヒッ!」

 

 比較的穏やかな者でも怒りを抑える事が難しそうな侮辱を投げかけるが、黄金の英霊は意外にも声を荒げるどころか、出すこともしなかった。しかし、目だけは怒りの炎で燃えていた。

 

「……もう消えろ」

 

 その言葉と同時に更に展開した十を超える宝具が、道化に向けて射出される。凄まじい勢いで迫る宝具に対して、道化は反応ができないのかはたまた避ける気がないのか、一切身(じろ)ぎする事なくその場に止まっていた。そして数多の宝具が直撃する瞬間、粉塵が舞い上がる。その光景を見ていたマスター達の殆どはその瞬間、道化の脱落を疑わなかった。

 

「ライダー、あのピエロがどうなったか分かるか?」

「……何をしたのかはよく分からんが、あの数本の武具が当たる直前に姿がいきなり消えおった。余が思うに、令呪なしでも瞬間移動が可能なのではないか?」

 

 その言葉を聞いたウェイバーの顔は驚きで満ち溢れていた。

 

「ハァッ!? ほぼ魔法の域にあるものをあいつは軽々と使えるのか!?」

「だろうな。一つ言えるのは見た目とは裏腹に、相当高位な魔術師だったのであろうと言うことだ」

 

 手応えのなさに黄金の英霊──アーチャーが舌打ちをすると同時に、その真後ろから少しおどけた耳障りな声が響く。

 

「シンジラレナーイ!!! いきなり暴力に訴えるなんて! そんなにスーグ怒るなんてキミ、友達いないでしょっっっ!!」

 

 アーチャーがその場から飛び退いても追撃する事なく、悪意に満ちた言葉を紡いでいた。

 

「あ、ゴッメーン! 友達一人は居たね。自称保護者お手製の泥人形には執心だったんだよねェ〜。無能な奴らが作ったクソみたいな泥人形と一緒に友達ごっこするのは楽しかったでちゅか〜? そんなんだからコミュ障の傲慢チキになっちゃったんだよ。少しは反省してる?」

 

 道化は何の躊躇いもなく相手の逆鱗に触れていく。周りの者達は、いっそ清々しいまでの口の悪さに感心していた。

 

「王たる我への不敬の数々、一度地獄を見るべきだな……」

 

 先程よりも更に多くの宝具を展開する。確実に仕留める気のようである。しかし、そんな局面でも道化は少しも慌てておらず、誰も見ていないであろう方向に変なポージングを決めていた。

 

「今回の主役はワァタシ!! 目立ちたがり屋の脇役は映す価値なしになっちゃいますよぉ?」

 

 道化もやっと戦う気になったのか、身体から魔力が漏れ始めた。あれだけこの場を引っ掻き回した者だ。黄金のアーチャー以外の者達は正体を見抜けるよう集中して観察し始めた。

 

「楽しい楽しいお遊戯会の始まり始まり〜。さあ、あ〜そび〜ましょ!」

 

 くねくねと軌道が不安定な魔力の球が大量に放たれ、アーチャーの周りをクルクルと回りながら取り囲んでいく。

 

「ヒャーーハッハッハッハッハッ!!! 踊れ! 踊れーーッッッ!!」

 

 四方八方から迫り来る、道化の放つ魔力の球を数多の宝具を発射して防ぐ。放たれた宝具は球を打ち消しても威力を少しも落とす事なく降り注ぐ──道化以外の者達へと。

 

「狂宴の始まり〜ィ!!」

 

 セイバー、ランサー、ライダーは己の獲物で宝具の雨を凌いでいるが、英霊ではない者達にはたまったものではない。ウェイバーはライダーの戦車の中で縮こまり、アイリスフィールはセイバーに守ってもらっていた。しかし、姿を見せていない者達にもアーチャーの宝具が迫っていく。ケイネスや切嗣、舞弥、更には時臣の使い魔や既に脱落していると皆が勘違いしている筈のアサシン、そして自身のマスターである雁夜が隠れている場所にも少なくない数の宝具が牙を剥く。

 

「アイリスフィール! 出来るだけ私から離れないで下さい! 少しでも離れられると守れるか保証出来ません!」

「セイバー、今すぐ切嗣を助けに向かうのは出来ますか?」

「少し厳しいですね……貴女を守りながら切嗣の元へ向かうとなると、アーチャーの流れ弾の量が減らないと前進もままなりません」

「私を置いて向かうのは駄目ですか?」

「駄目です。切嗣達の方よりも私達の方に大量の流れ弾が来てます。恐らく、足止めするのと同時に、何処に隠れているかもお見通しだと警告しているのでしょう。それと、まだ切嗣の存在を周りの者達に知られる事になる動きは控えた方が良いでしょう。……あの道化のせいで、既に手遅れかも知れませんが」

 

 セイバー陣営から必死に巻き添えから身を守る会話が聞こえ、ライダー陣営からも少し焦った会話が聞こえる。

 

 

「ライダ〜、あいつらを止めてくれ〜!! 今現在全く生きた心地がしない」

「ぬぅ……ちとキツイのう。宝具を使えば可能だが、魔力の消費量を考えると勧めることは出来ぬ」

 

 偶に道化へも宝具が放たれるが、その宝具は道化に届く前に、魔力の球に阻まれ、撃ち落とされていた。そしてそのオシオキとばかりに、くねくねと動く魔力球が宝具の間を掻い潜り、アーチャーの身を脅かす。そしてその度に、アーチャーの目の中の炎が更に燃え上がっていった。

 

「我の腸を煮えくりかえらせるだけでは飽き足らず、ましてや我が宝物を利用するなどと……一刻も早くこの世から消えよ!! 狂人ンンン!!!」

「クックックッ……ここまで自尊心が高いとますますイジめたくなっちゃうじゃないですか〜。頑固者で考えが時代遅れの古臭い化石は埋め直さなきゃね……」

 

 禍々しい笑みを浮かべると、そのまま身体を宙に浮かせる。

 

「ホワァ〜ッホッホッホッホッホッホッ!!! ぼくの力を少しだけ見せてあげるよ」

 

 今は夜である筈なのに、空を神々しい光を放つ雲が覆い始め、その雲の間からは更に眩しい光が漏れる。

 

「さあ、崇めなさァ〜い……」

 

 光輝く雲の合間から溢れる光が、更に増していく。一瞬だけ、道化の背中から六翼の翼が生えている姿が見えた気がした。

 

こ こ ろ な い て ん し(フォーレン・ワン)

 

 その瞬間、この場にいる全ての者に可愛らしい小さな天使が纏わり付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、次もよろしく〜!」

「何を言っている? 狂人」




お待たせしました。二ヶ月ぶりの投稿です。このSSは不定期投稿なので次の更新も気長にお待ち頂けるとありがたいです。

『こころないてんし』は原作仕様だと余りにもエゲツなさ過ぎるので少し弱体化させてます。まあ、仕方ないね! ……それでも反則臭くなってますが…… 因みにルビは、技名の英語表記です。
因みに原作の効果は、回避不可・防御不可で、全員を瀕死(HP1)にして来ます。

それとケフカさんのCVは千葉繁さんで脳内再生して下さい。よく知らない人はワンピースのバギーやレレレのおじさん、幽白の桑原、ドラゴンボールのラディッツ、北斗の拳のナレーションの人です。

スキル説明

スキル名:第4の壁
保有者:ケフカ・パラッツォ
クラス:バーサーカー
ランク:EX
読者や作者側の世界が見えている状態。時々メタ発言をするのもこの為。因みに、今回の話ではfate/zeroを少し視聴して予習して来ている。



あと、全く関係無いですけど、キングハサンとゴルベーザってシルエットが似ている気がしません?

〜〜おまけ〜〜

ケフカ エンカウントボイス集

VSランスロット
「どっち付かずはキライなんだ!」

VSモードレッド
「チチ離れも出来ないガキンチョめ!!」

VSヴラド三世
「蚊取り線香でもいかがです?」

VS源頼光
「ンまぁ〜ッ!! 野蛮なヒトォ!!」

VSフランケンシュタイン
「化け物はどう足掻いても化け物なんだよ……」

VSキングハサン
「死ぬ準備は いいですか?」



幻聴(いいですとも!)


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第一楽章 その③

前回のあらすじ

「なんだァ? てめェ……」

ギルガメッシュ、キレた!!


 可愛らしい天使がふよふよと英霊、魔術師関係なく、そこにいる全ての者に纏わり付く。

 英霊達は追い払おうとしたり、手を出さずに様子を見たりしており、魔術師達は咄嗟に自分の身を守ろうとしている。しかし警戒する者達とは裏腹に、天使達は周りを飛ぶ以外の事は何もせず、すぐに何処かへと消えていった。

 その瞬間、英霊達は自身への違和感を感じ、そのマスター達は何が起きたかを即座に理解し驚愕の表情を浮かべていた。

 

「アイリスフィール! 風王結界(インビジブル・エア)が!」

「セイバー! それどころじゃないわ! かなり不味い状況よ!!」

 

 マスター、サーヴァント間で現状の情報の整理をしようとしている最中、(しゃく)に障る道化の笑い声が聞こえて来る。

 

「アホ面見せてるキミ達に、ワタシが特別に授業してあげましょうじゃないですくゎ! ぼくちんのこの力の効果は大きく分けて三つ」

 

 自慢するかのように、本人は分かりやすいつもりの解説と共に指を一つ一つ折ってゆく。

 

「一つ、キミら全員の全ステータスの低下。キミらのマスター達は既に気付いているだろうけど、AくらいあったものがCくらいまで下がってるんじゃないかなぁ? あ、元から低い奴には殆ど効果はないよ。だって奪える程力がないんだからねぇ〜。これと同じ原理でマスター達にはほぼ無害だ。ヤッタネ! これだけでも十分腹が立つよね〜!」

 

 明らかな挑発を言葉に混ぜながら、楽しそうにその場に居る者全てが聞き逃さぬよう大きな声で続ける。

 

「二つ、宝具の威力・性能の低下。キミらの虎の子の宝具もキミらの弱体化に引きづられてだーいぶ可愛らしくなってるんじゃない? 威力が半減したり、とある効果がなくなってたりとかね! この二つだけでももう商売上がったりでやってられないよね! ワタシもそう思います! ひゃ ひゃ 」

 

 そして三本目の指を曲げたり伸ばしたりと焦らしながら、こちらへと問いかけてくる。

 

「そして三つ。感のいいキミらは薄々感づいてるんじゃない? 特にそこの金ピカ。あのアホ毛の剣が丸見えになってるように、キミも落ち着かない状況になってんじゃないのぉ?」

 

 金のアーチャーは道化を射殺さんばかりの鋭い目で睨むが、攻撃の為の宝具を一つも展開しない──いや、出来ていない。その普通ではあり得ない状況から、他の者達は信じられないといった様子で何が起きたかを理解した。

 

「まさか……私達の宝具を封じているとでも言うのですか!?」

 

 セイバーの道化への問いの答えは、(さげす)みのこもった大きな笑い声であった。

 

「ピンポーン! そのまさかだよォ! キミらの戦力という名の口座はぼくちんが凍結したのだぁ! お引き出しは出来ませんのでご注意下さ〜い!」

 

 そして三本目の指をゆっくりと折っていく。わざとらしい笑みと共に。

 

「三つ、一部の宝具の封印。剣士は剣を隠す事が出来なくなり、槍兵は魔力を貫く槍が力を失い、騎兵は立派な戦車が愚鈍な牛車へと早変わり! そして弓兵……お前は宝具をしまった宝物庫の鍵を失ったんだよ。全額貯金してたのが仇になっちゃったねぇ」

 

 道化の宝具がこれ程凶悪とは思わなかった者達は、どうにかしてこの道化の真名を知り、対策をせねばと考える。

 

「時間は最初の二つが一時間、そして最後のものは5分。たかが5分、されど5分。5分間丸腰で戦えるぅ? 『()()』?」

 

 これまでにない屈辱にアーチャーは道化の存在に怒り、そしてこの道化を先程まで甘く見ていた己にも腹が立った。決して油断してはいけない相手であったのだ。

 

「狂人が……我へのこれ程の愚行、唯で済むと思っているのか?」

 

 金のアーチャーは絶望的な状況であるにも関わらず、傲岸不遜さを引っ込める事はなかった。それでも、道化は機嫌を悪くするのではなく、不敵な笑みを浮かべる。

 

「フッフッフッ……理解してないのか? お前はさっきまで見下していた俺に慈悲深い心で生かされているんだぞ。それすらも分からずに吠えてるのは、最早恥知らずで馬鹿丸出しの間抜けだ」

 

 悪辣な言葉は尚も続く。

 

「非力の癖に、無駄にキャンキャン吠えるチワワは滑稽なんだよ。いや、違うか……お前にはチワワほどの愛嬌もない、醜い虫ケラだ。これ以上恥を大きくしたくないならさっさと帰るんだなカスが」

 

 アーチャーのマスターもこれ以上は不味いと思ったのか、令呪を用いてでも撤退させようとしているようだ。しかし、弱体化しているといっても流石は英雄の王を名乗る者、令呪一画には抵抗を見せている。よほどお冠のようだ。そんなアーチャーへと道化は捲し立てる。

 

「はっきり言ってあげましょうかぁ? 目障りな裸の王様は、部下(時臣)の諫言を聞いて、さっさと尻尾を巻いて消えろって言ってんだよ、負け犬がァ!!」

 

 更に燃料を投下する言葉にアーチャーは憤るが、それと同時に令呪の力が抵抗に勝り身体の自由が効かなくなる。不本意であるが、退散せざるを得なくなった。忌々しそうに踵を返し始める。

 

「雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い……だが」

 

 黄金の英霊の視線が道化へと向かう。それは最早人に向けていいようなものではなかった。

 

「貴様は別だ狂人。貴様は許さぬ。我が全力を以ってして、貴様に死よりも辛い苦痛を与え、償わせてやろう! 忘れるなよ……」

 

 そしてそのまま姿を(くら)ました。そんな中、道化は手を大きく振りながら訳の分からない事を叫ぶ。

 

「はい、お疲れ様でしたー! 今回の分のギャラは明日、ちゃんと口座に振り込んどきますね〜。不備がないか時間がある時に確認お願いしま〜す!」

 

 そうして一息つくと、先程までのふざけた雰囲気が消え、何を考えているか分からない不気味な気配を漂わせ始めた。

 

「フン、負け惜しみだけは一丁前か? まあいい」

 

 腕を組み、口角を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべる。

 

「お前の存在はまだ使える……これからも働いて貰わないとこっちが困るんだよ」

 

 笑っていない眼が更なる妖しさを生み、人々を楽しませる筈の道化を得体の知れない怪物へと変貌させていた。

 

「楽しみはこれからだ……せいぜい最後は無様に散れるよう しっかりと監視していてやるよ……フッフッフッ……」

 

 もう誰もこの道化に対し、侮りを持つ者はいなかった。そしてこの厄介な相手とこれからどう争っていくか考えざるを得なかった。

 

「貴方は一体何を知っていて、何を企んでいるのですか?」

 

 セイバーの声を聞くなり、空中で身体を捻って浮きながら寝転がり始める。他者と真面目に会話するような態度ではない。

 

「あー知ろうと思ってもムダムダ〜!  んー♪ キミらはタネを知っても()()()()()()()()()んだ。知ったところで理解出来ないだろうし、信じもしないだろうしね。黙ってぼくちんの活躍でも指を咥えて見ていなさいナ」

 

 何も教える気は無いようだ。腹は立つが、しばらくは此方が圧倒的に不利である。喧嘩を売らない方が賢明だろう。

 道化が姿勢を変え、そのまま何処かへ行こうとするも、大きな声で呼び止められる。

 

「待て、最後に一つ聞かせろ!」

「え? スリーサイズを知りたいの? イヤ〜ン、それは内緒よ」

 

 征服王の問いにふざけた返事が返されるも、気分を害する事なく続ける。

 

「お主は一体何者だ? 良かったら余に教えてはくれぬか?」

「知りたかったら黄金色に輝く菓子を包んで持って来るくらいしてよね〜。もしくはそれの替わりになるものをさ」

「お主を助けてやったであろう? 余は不本意であったが……その礼として話してもらっても良いではないか」

 

 その返しが気に行ったのか、道化は楽しそうに此方へ向き直った。

 

「しょ〜〜がないですねぇ〜。そんなにワタシのヒミツを知りたいのでしたら特別に教えてあげまshow!」

 

 右手を腰に当て、左手を胸の前に掲げ、まるでサーカスが始まる前の挨拶のようなポーズをとりながら告げた。

 

「ぼくの名前はケフカ。ケフカ・パラッツォというよく居る帝国お抱えの人造魔導士だったものダス。サインが欲しい方は後でどうぞ〜」

 

 異様な道化──ケフカは今度こそ話は終わりだいった様子で反転し、背を向ける。

 

「それじゃワタシ、まだ営業のお仕事残ってるのでこの辺で……」

 

 姿がどんどん霞んでいく。そして一瞬にしてその姿を消した。

 

「バイバァ〜〜イ!!」

 

 最後に残った言葉と共に倉庫街での死闘は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

────────

 

 

 倉庫街から離れた所で男2人の声が響き渡る。どうやら片方は少し怒っているようだ。

 

「様子を見るだけだとあれだけ言っただろ! なんで勝手に姿を現して喧嘩を売りまくり、真名を明かした? もう色々とメチャクチャだ!」

 

 雁夜が溜まった鬱憤をぶち撒けるがバーサーカーもそれに反論する。

 

「だっっっっっっって!!! 楽しそうだったんだもん!! ぼくちんだけ仲間外れなんてズルゥゥゥゥゥイ!!」

 

 ただの我が儘であった。しかし、なんだかんだ言いながらも雁夜はバーサーカーの事を気に入っていた。碌に戦えない奴かと思えば、あれだけの英霊を前にしても引けを取らず、ましてや時臣自慢のサーヴァントすら圧倒し、コケにする姿には快感すら感じた程だ。贅沢を言えばあの時にトドメを刺して欲しかったが、この性格だ。令呪を使わない限り難しいだろう。

 

「それで? この後一体何をするつもりだ? 単独行動をさせろと言っていたが理由を言わないと許可は出せないぞ」

 

 揉めているもう一つの理由はこれである。こんな危険な奴を野放しにする程雁夜も愚かではない。当然理由なく許可を出せる筈がなかった。

 

「だ〜か〜ら〜楽しみは後でのお楽しみって言ってるでしょぉぉ! 早漏なおじちゃんはキライって桜ちゃんに言われちゃうよン? 絶対傷付くでしょ、そんな事言われたら」

 

 すごく腹が立った。こいつは人を馬鹿にしないと生きていけないのであろうか?

 

「とにかくだ! 理由を述べない限りお前の単独行動は許さない! 分かったな!」

「ハァ……分かりました分かりました〜。言えばいいんでしょ言えばぁ〜」

 

 駄々を捏ね続けると思っていたが違った。以外とあっさりとした所が少し不気味である。

 

「次からあの金ピカを相手取って行くのは少々骨が折れるんですよ。慢心しなくなったらねぇ〜。だから協力者を探して来ようかと思ってね。キミもあの金ピカのマスターをブッ壊したいでしょ? それなら尚更必要だと思うよ」

 

 確かに一理ある。協力者はいた方が戦いが有利になって行くからだ。しかし懸念が一つある。先の戦いで確実に全陣営から警戒されている筈だ。こんな奴を交渉役にして、逆に敵対されたりしないのか。かなりリスクは高いが、自分が行った方がいいような気がしないでもない。

 

「大体分かった……で? 一体何処の陣営と話をつけて来るつもりだ? セイバーか? それともライダーか?」

 

 そして返されるバーサーカーからの言葉は意外なものであった。

 

 

────────

 

 遠坂時臣との通信を終え、一息をつこうと思った矢先、アサシンからの報告に耳を疑った。

 一体何が目的でここへ来たのか。そして何故アサシンのマスターが自分であると知っているのか。そういった考えで頭がいっぱいになるが、平静を保ったままアサシンの報告で出て来た客人の相手に向かう。そこには──

 

「アサシン死亡の偽造なんてぼくちんにはお見通しだよ。あ、この紅茶は美味しく頂いてまーす!」

 

 先程の通信でも話題となっていた雁夜のサーヴァント──ケフカ・パラッツォの姿があった。

 

「これはこれは……それで『キャスター』が一体どのような要件で此方へ参ったのですか?」

「キミ『ら』がぼくのクラスを知ってる事もお見通しだよ。別に隠してた訳じゃなくて勝手に勘違いされただけだから普通に呼びなサーイ! それとキミの主人の様に敬語はいりマセーン! 気軽に話しかけてね」

 

 どうやら時臣と手を組んでる事も全てのサーヴァントを把握している事もお見通しのようである。食えない輩だ。

 

「そうか、それで貴様は何が目的で時臣様の弟子である私の元へ来たのだ?」

 

 単刀直入に問うが道化の返答は取り留めもないものであった。

 

「キミは現状に満足しているかい? 楽しいと思って生きているかい? 何かに縛られてる事を苦痛に感じたりしていないかい?」

「どういう意味だ?」

「いやちょっとね、キミと会う前に会った連中とかけ離れてたからね〜。カレ等はそれはもう楽しそうだったよ? 自分の欲望のままに行動をする。中々良いシュミもしてたしすぐに気が合ったね! それに比べてキミはなんだ? 誰かの命令をへーこらと聞いてて楽しいのかい?」

 

 挑発しているのであろうか? しかしアーチャーへ向けていたあの悪辣さは感じられない。

 

「……要件をはっきりと言って貰おうか」

 

 この時は気づかなかった。道化の提案が自分を大きく変えてくれるという事になるとは。

 

「キミの奥底に眠っている素晴らしい願望をぼくが叶えてあげようと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! チャンネルはそのままでお願いしまーす!」

「バーサーカー、何を言っている?」




ケフカさん相手に慢心するとまあこうなりますわな。これで「慢心せずして何が王か!」が言えなくなりました。王の尊厳傷付けられても尚言えたらそれこそ勇者だ…。

こころないてんし(フォーレン・ワン)』はDDAC寄りの性能になりました。それでも尚弱体化調整してますが……これに毒やら睡眠やら混乱やらの状態異常が残ってたらそれこそエグいです。でもある特性は抜いてないからまだエグいんですがね……
この技、無敵状態を貫通してデバフがブッ刺さるんですよ…


宝具名
こころないてんし(フォーレン・ワン)
ランク:EX
種別:対人宝具
レンジ:50
最大捕捉:−

相手に様々な弱体化をもたらす。また、範囲内にいる限りどの様な状態ーー弱体無効・無敵状態の相手にも発動する。

宝具はこれだけではないので楽しみにお待ち下さい。まあ、簡単に予想できると思いますが…


〜〜おまけ〜〜

ケフカエンカウントボイス集 その2

VSシャーロック
「アヘンで頭がヤラれちゃった?」

VS新宿のアーチャー
「次はナイアガラに挑戦しましょ!」

VS新宿のアヴェンジャー
「白い毛皮と並べてあげようか」

VS三蔵法師
「その格好で僧侶は無理でしょ!」

VSパッションリップ
「デカけりゃ良いってモンじゃないのよ」

VSメルトリリス
「ハァ……まぁ牛乳飲んで頑張りなさい」

VSエミヤオルタ
「レゲエでも一緒に踊る?」

VSマーリン
「頭の中もお花畑?」

VSアストルフォ
「男でも誑かしてみるぅ?」

VSジャンヌ・ダルク
「眉間にシワがよってますよぉ?」

VSジャック・ザ・リッパー
「子どもはねんねの時間よ〜」


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第二楽章 その①

皆さん、あけましておめでとうございます。
久しぶりの投稿です……ええ、本当に久しぶりです。大体3ヶ月ぶりくらいですかね…
更新は不定期ですが暖かい目で見守ってやって下さい。

ちなみに今回から第2楽章です。
ちなみに第3楽章からはstay nightに入るのを予定してます。(予定は未定)


 

「青髭の旦那、俺興奮が止まんねえよ! 聖杯戦争ってのに俺たちも一枚噛むんだろ」

 

 暗い部屋の中に青年の声が響き渡る。声の主は何かが待ち遠しい様な雰囲気を醸し出していた。

 

「そうですよ龍之介。私達もこの戦争の関係者の一人なのですぞ。まさか()()が現界しているとは思いませんでしたが、むしろ喜ばしい誤算です。私の願いは既に叶ってしまいましたからな。あの『バーサーカー』も私達に協力してくれる見たいですし、幸先がとてもいい」

「バーサーカー? ああ、あのピエロのおっさんね。あのおっさんめっちゃいい人だったなぁ、こいつらをもっと良い声で鳴かせる方法を教えてくれたからね。ああ、あの叫びを思い出すだけでもゾクゾクしてきた」

 

 龍之介と呼ばれた青年は身体を興奮で震わせていた。そしてそれを見ている小さな瞳は恐怖で震えている。

 

「アレは素晴らしかったですね。私もアレには感動で震えが止まりませんでした。でも龍之介、貴方のアートも負けてませんよ」

「ああ、あのピエロはつまんないとか言ってたね。なんでも壊れる瞬間が一番面白いとかなんとか。ま、わかんないでもないから良いけどね」

 

 そして小さな瞳の方向へと向かって行く。そして暗闇の中から見えてきたのは手足の縛られた小さな少女であった。そしてその少女は龍之介の姿を視認すると同時に、()()の表情を浮かべていた。

 

「お、()()()()……助けて!」

 

 どうやら幻覚で龍之介が自身の母に見えてしまっているようだ。

 

「ほんとイイ趣味してるよね、あのピエロのおっさん。この安心しきった表情が絶望と恐怖に一瞬で染まるんだから益々やめられなくなっちまうぜ」

 

 そして手に持った凶器を目の前の小さな命に振り下ろした。鮮血が飛び散り、甲高い悲鳴が響き渡る。

 

「なんで……やめて、やめてよぉ……お母さん……痛いよぉ……痛いよぉ………」

「まだ母親に見えてんなんて笑えるなぁ。信頼しきってた人に殺されるってどんな気持ち何だろうね旦那。まあどうでもいいや、この表情と悲鳴さえ聞ければ些細なことか」

 

 そしてどんどん甚振(いたぶ)っていく。教わった嬲り方を実践するとほんとに良い声で鳴いてくれる。ずっと続くのではないかと思われた悲鳴も少しずつ弱くなっていき、やがて聞こえなくなった。

 

「では龍之介、私はジャンヌをお迎えに行ってまいりますので留守は頼みましたよ」

「ああ、分かったよ旦那。こいつで最高にCOOLな作品作っとくから楽しみにしててくださいよ! そういや旦那はあのピエロのおっさんからは何もらってたんすか?」

 

 先程まで忘れていた事を訊ねてみる。すると旦那と呼ばれていた男、『キャスター』は懐から小さな石を取り出した。

 

「これですか? バーサーカーの話によると『魔石』というものらしいですよ。何でも幻獣の力が秘められているとかなんとか。罠でないことは調べて分かりましたから今度使って見ましょうか。それでは」

 

 そしてキャスターは姿を消した。

 

 

────────

 

 

 車の通りが殆どない山道の道路を凄まじい速さで車が駆け抜けていく。その車に乗っているのは二人の女性であった。

 

「アイリスフィール、少し飛ばしすぎなのでは? 先程も対向車線を走っていましたし」

 

 アイリスフィールと呼ばれた銀髪の女性はそれでも速度を落とすことなく車を進ませる。

 

「大丈夫よ、車も私達のしか走ってないみたいだしいざとなれば私が華麗に躱して見せるわ」

 

 車体をフラフラさせながら言っても全く説得力がない。事故が起きた時は何というのであろうか。

 

「……随分と達者な運転ですが、運転手を雇っても良かったのでは?」

「駄目よ!! そんなの私が楽しくないじゃな……、じゃなくて、危険じゃない。巻き添えは出したくないでしょ?」

 

 本音がほぼ漏れてしまっている。せめてもう少しだけでも速度を落とすように言おうと思った瞬間、セイバーに悪寒が走った。

 

「止まって!」

 

 それと同時に深くブレーキを踏み込む。アイリスフィールには悪いが急ブレーキの反動に耐えてもらおう。そして前方に現れた人影に当たる手前で車を止めることができた。そしてその人影は先程の暴走車に全く驚く素ぶりもなくその場に佇んでいる。どうやら人間ではないようである。

 

「……アイリスフィール、どうやら相手はサーヴァントのようです。私の後に続いて車外に出て下さい。なるべく側を離れないように」

 

 異様な威圧感をもつ巨大な体躯とインスマスのような風貌。その顔に戦いに赴いたとは到底思えぬ満面の笑みを浮かべたキャスターはセイバーに向かって恭しく頭を垂れる。

 

「お迎えに上がりました、聖処女よ」

 

 仰々しく頭を下げるキャスターのサーヴァント。セイバーとアイリスフィールは浮かんだ疑問を口にする。

 

「? どういうことだ、残りのクラスはバーサーカーだけではなかったのか? 何で普通に会話が出来ている」

「セイバー、あなたの知り合い?」

「いえ、見覚えがありません。円卓の騎士の誰かの知り合いという可能性もありますが」

 

 セイバーのその言葉に相手は信じられないと言った様子で両手をわなわなと震わせる。

 

「おお、何ということでしょうか!? やはりバーサーカーの言っていた事は本当だったのですね!」

 

 セイバーもアイリスフィールもその言葉に混乱していた。この者がバーサーカーではなければ一体誰がバーサーカーだというのか。

 

「何を言っている。バーサーカーは貴公だろうが。キャスターとでも言うつもりか」

「その通りですよ、ジャンヌ。現界の時の衝撃で記憶を失ってしまわれるとは思いませんでしたよ。前もって聞いていなければ私も錯乱していたでしょう」

 

 自分はジャンヌではない。そもそもこの自称キャスターの言うバーサーカーとは誰のことだろうか。

 

「おかしな事をおっしゃりますね。もう既にお会いになったではないですか」

 

 その言葉にセイバーもアイリスフィールもはっとした表情を見せる。まさかそんな筈はといった表情を。

 

「ケフカ・パラッツォ。彼が第四次聖杯戦争のバーサーカーですよ。気づかなかったのですか?」

「アレは明らかに魔術を使っていたぞ! バーサーカーのクラスの者に普通使えぬような高レベルのものを! その様な者に狂化が発動していたとは思えない!」

 

 まるで信じたくないといった勢いで捲し立てられる言葉を、軽く諌めるように遮る。

 

「ですが思い返してみて下さい。彼はキャスター呼びに反応は示しているだけで肯定はしていなかったり、理解し難い行動をとってはいませんでしたか? 誰もいないのに変な事をしたり、誰に向けてか分からない言動を行なったり」

 

 思い返せば確かにあの道化の行動や言動には訳のわからないものも多々あった。だからと言ってそれがバーサーカーだと決める要因にはあまりならない。

 

「まあ、本人に聞けば分かる事でしょう。確認も取れたことですしまた会いましょう、ジャンヌ」

 

 そうして混乱させる言葉だけ残して消えようとするキャスターをアイリスフィールが呼び止める。

 

「待って、貴方はセイバーに会いに来た。本当に目的はそれだけなの?」

 

 他に罠を張っているのではないかとセイバー達は身構えるが、キャスターは何もする素ぶりすら見せない。手をポンと叩き、思い出したといった様子以外何も見せなかった。

 

「そういえば名前を教えていませんでしたね。もしかしたら名前を聞いて記憶が戻るかも知れないのに何たる失態! あとバーサーカーからの伝言も忘れてました」

 

 その言葉にセイバー達は眉を顰める。あの道化の伝言とは一体何なのだろうか?何か嫌な予感がする。セイバーの直感がそう囁いていた。

 

「貴女の忠実なる僕であるジ・ル・ドレェです。聞き覚えはありませぬか? もしくは何か思い出せそうになりませぬか?」

 

 全くと言っていいほどセイバーには聞き覚えがなかった。アイリスフィールは名を知っているようで、反応を示す。

 

「貴公が名乗りを上げた以上、騎士として私も名乗ろう。我が名はアル──「いえ、偽名は結構です。貴女はジャンヌ、それ以外の何者でもありません」…………」

 

 セイバーは腹が立った。騎士が名乗ろうとしているのにそれを途中で遮られた事、そしてその名乗りを聞かずに未だに自身をジャンヌ呼ばわりしていることに。しかし今斬りかかったら道化からの言葉が聞けないため、ぐっと堪えて続く言葉を待つ。

 

「それではバーサーカーからの伝言です」

 

 キャスターは何やら水晶玉のような物を取り出し、それを地面へ放り投げる。そして地面にぶつかり砕ける音が響いた瞬間、忘れられもしない半透明の姿の道化が笑いながら姿を現した。

 

『オッハー! みんなのダーイスキなぼくちんのトウジョーだぞ〜。ほら拍手拍手!!』

 

 道化のそのノリにはセイバーもアイリスフィールも、更にキャスターも何ともいえない顔をしている。

 

『まっっっっったく拍手の音が聞こえないんですけど〜。こんなんじゃぼくちん拗ねちゃって何も言わずに帰っちゃうゾ!』

 

 本当にコレは伝言なのであろうか。リアルタイムで言葉を発しているような気がしてならない。しかも伝言したい奴がそれを伝えないのはどうなのだろうか。

 

『ホラ! まだ拍手が聞こえてこないよ!! ヒーローショーの主人公を呼ぶときみたいな大きなパチパチをプリィィィィーーーズ!!』

 

 無視して帰りたくなって来た。この伝言を伝えに来たはずのキャスターも凄い疲れた表情を見せている。こんな事になるとは思っていなかったのだろう。このままでは拉致があかないので仕方なく全員軽く手を叩いた。

 

『ハイザンネーン! この映像は録画でーす! なので別にずっと無視してても話は進んでましたァ!! 騙されてやんの〜、オモシローイ!』

 

 伝言とは喧嘩を売ることであったのであろうか。剣に手を掛けるセイバーを必死に抑えるアイリスフィール。そしてセイバー達と一緒に何故煽られているのだろうとキャスターは少しナイーブな気持ちになっていた。

 

『茶番はここまでにシトコッカナ? そろそろアドリブはヤメローって監督に怒られるかもしれないからね。でも喜ぶヒトもいるからやめられないジョー』

 

 先程もキャスターが言っていた意味のわからない発言である。一体どういった意図があるのだろうか。

 

『ワタシはこの伝言を伝えている今、どこにいるでしょーーか!! 三択で答えてね。①番! この街で一番大きな橋。②番! 貴女達の真後ろ!!』

 

 二つ目の選択肢を聞くと同時にアイリスフィールを抱えて前へ飛びのき後ろを警戒する。しかしそこには誰もいなかった。

 

『ウェハッハッハッハッハッ! ドシタノ? 首に毛虫でも落ちて来たの? イヤーン、騎士の癖に毛虫が怖いなんてシンジラレナーイ!』

 

 やはりこちらを見ているのではないだろうか。こちらの行動に的確に言葉を返してくる。

 何処かに隠れているのではないかと辺りを見渡していると、先程までとは雰囲気が変わり、ドスの篭った声が発せられる。

 

『③番、お前達の要──衛宮切嗣のすぐ後ろ。さア、どれだ?』

 

 一瞬でセイバー達の顔が青ざめる。サーヴァント相手に勝ち目などある筈がない。道化の容赦のなさも前の戦いで知っている。早く助けに行かなければ。そんな表情を見てからなのか、それとも最初から録画されていたからなのか、何も口に出していないのに答えが返される。

 

『ピンポーン! 答えは③番! ぼくちんはホテルの解体ショーを見に行ってきま〜す。サプライズも用意してるから旦那さんにも伝えておいてネ♪ ひゃ ひゃ ソレジャご機嫌よう。ホワァ〜ッホッホッホッホッホッホッ!!!』

 

 道化の特徴的な高笑いと共に映像は途切れた。そして残ったのは静かな静寂のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あけましておめでとう! 次もよろしく〜!」

「何を言っている? キャスター、早くそれを返せ」




次回、「芸術! ホテル解体ショー」
   「切嗣、キレる」
   「ケイネスとランサー、脱出危機一髪〜〜ソラウを添えて〜〜」

です。お楽しみに。

因みに今回出て来た魔石はFF6で初登場したあいつのものです。お楽しみに。

因みに幻獣でもねえし、魔石にならねえよと言う反論は来るかも知れません。……分かってるよ、分かってるんだよそれは! 出したかったからちょっと無理しちまったんだよォ! これだけの情報でわかる人は凄いです。


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第二楽章 その②

前回、第三楽章からstaynightになるかもと言ったな、あれは恐らく無理だ。
※多分staynight編はタイトル変えてやると思います。まあ、この話が終わったらの話ですが……

それと、このssの表記を短編から連載に変えた方がいいのだろうか……


 

「舞弥、そっちの状況はどうだ」

「ケイネス、ソラウ共に部屋から出ていないようです。切嗣、始めますか?」

「ああ、もし相手が動くような事があればすぐに連絡を」

 

 そう言い切ると切嗣は無線を切った。そして目の前に建つ冬木ハイアットホテルのある一室を見上げる。ケイネスが泊まっている部屋を。相手は恐らくこのホテルの至る所に対魔術師用の罠を大量に仕掛けているのだろう。そして、そんな罠を突破出来るものなどいないと高を括っている事だろう。確かに自分や舞弥では突破は出来ない。だが、自分達はそんな魔術師の常識などとは無縁の存在だ。悪いが自分達のやり方で魔術師様御自慢の罠を無視させてもらう事にしたのだ。

 無関係な人々を巻き込まない為にもまずはボヤ騒ぎを起こしてこのホテルから避難してもらう。その仕掛けを作動させるためのリモコンに手に持ち、スイッチを押す──が、ホテルからは煙が上がってこない。何回か押して見るものの、相変わらず何も起こらなかった。電波が届いていないのであろうかと思い、ホテルに近づこうとした時、一度聞いたら忘れられないおどけた笑い声が聞こえて来る。

 

「いい大人にもなって夜に火遊び? そーんな不良みたいな真似して子供が真似しちャッたら奥さんに怒られちゃうよ〜」

 

 咄嗟に懐から銃を抜きながら前方へ飛び、背後から語りかけて来た相手に向ける。やはりというか後ろにいた相手は想像通りの存在であった。

 

「まぁ落ち着け。銃を突きつけられちゃあビビって話もできやしねぇ。リモコンは無事だ旦那。少なくとも今の所はな。この先どうなるかはあんた次第だ。無事取り戻したければ俺たちに協力しろ。OK?」

「キャスター……貴様……それを早く返せ」

 

 突如背後に現れた道化は飛び退いた切嗣に何もする事なく、手の中にある電話を弄って遊んでいた。嫌な予感がしたため自身の身体を探るも、()()()の電話が見当たらない。一体いつの間に取ったのであろうか。するとキャスターは不満気な顔をこちらに向けて来る。人の物を取っておきながらよくそんな顔が出来たものだ。

 

「はぁ……全然ワカッテナーイ! そこは『OK!』って言って、鉛玉を返すのが様式美なのに〜。アナタ、ノリが悪いですねぇ」

 

 意味不明である。無関係の人々を巻き込むかもしれない物を奪われているのにそんな行動を出来るはずがない。

 切嗣は目の前の道化にバレぬよう無線を入れ、音を拾わせる。異変に気付いた舞弥に道化の手の中にある電話を狙撃させて破壊する為だ。特定の番号を入力しないと起爆しないが念のためである。計画は崩れるが、道化に今ボタンを押され、無関係な人々を巻き込むのだけは避けなければならない。なるべく時間を稼ぐために嫌々ながらも道化に話しかけた。

 

「キャスター、それをこちらに返せ。お前には必要無いもののはずだ。そもそもそれが何なのか分かっているのか?」

 

 すると道化はわざとらしく悩む仕草を見せ始める。まるで演劇のように。

 

「いや〜、見当もつきませんね〜。一体このボタンを()()()()()で押すと何が起きるのかぼくちんワカンナーイ! まあ、押せばわかるでしょ、それじゃポチッと──「止めろ!!」」

 

 まるで起爆コードを知っているかのような口振りだった。いきなり起爆しようとしていたため咄嗟に発砲する。電話に当たって破壊出来れば御の字だが、当然事はそう上手く運ぶことはなかった。軽く躱され、それと同時に放たれた小さな魔力の球が切嗣の武器を弾き飛ばす。

 

「ひゃ ひゃ ウソウソ知ってますよ〜。この大っきな建物をブッ壊すためのお電話なんでしょ? 返して欲しい? ン〜、そうですねぇ……モノマネでワタシを笑わせられたらすぐに返してあげよう!」

 

 電話をプカプカと浮かせて道化も宙に浮かんで寝転がった。明らかにこちら側を舐めきった動きである。先程の発砲音も舞弥に届いているはずだ。後は狙撃を待ち、ここから脱出するだけである。しかし、何故この道化は自分達の計画を知っていたのであろうか。

 切嗣が無言で睨みつけているのをまたしても不満そうに見て、欠伸しながら尻を掻く。敵と相対しているのに油断しすぎである。

 

「ふぁ〜あ、ホンットノリが悪いですねぇ。ぼくちんが振ったボケの機会を二回もパスするなんて、そんなんじゃワタシの中の人も出たポプテなんちゃらとかいうクソアニメに出られないですよ?」

 

 コイツは何を言っているのであろうか。理解不能な発言は尚も続く。

 

「いや〜、アレは良いですねぇ。普通NGの所を使ってるのが特にイイ! あぁ、昔の金属生命体のアニメを思い出しますナァ……」

 

 訳の分からない発言をしながら思い出にふけり始めた。切嗣にしてみれば都合が良いが、正直話を聞いているだけでも疲れてくる。

 

「……一体何の話だ?」

「おっとイケナーイ! 話が脱線シチャッタ! ええと何のハナシしてたっケ……ああ! どうやったらアドリブが上手くなるかでしたね。そんなもん常日頃の練習にきまってるじゃないですくゎ」

 

 相変わらず対話するつもりはないようだ。それならそれで良い。もう時間的にも狙いは定まっているはずだ。無線の横で指を小さく連続して鳴らし、撃てと合図を送る。しかし、待てども待てども何も起こることはなかった。

 

「アルェ〜〜〜? ドゥシタノ? 愛人の人と連絡が取れなくて浮気を疑っちゃってる? ぼくちんはカンケーないから八つ当たりはしないでネ」

 

 こちらの抵抗の目は完全に潰していたらしい。全くもって相手に回すと厄介な相手である。しかし舞弥と連絡を取った後すぐに現れたコイツは一体いつ舞弥を襲ったというのであろうか。

 

「あ、そうそう。今ならそのお電話に誰か出てくれるかもしれないよ。ぼくと一緒に呼んでミヨー! せーの、コンバンハー!!」

 

 道化の喧しい声が辺りに響き渡る。どうやら誰かと組んでいたようだ。すると無線から声が聞こえてきた。

 

「いつまで遊んでいる? ()()()()()()。こっちの仕事は済んだ。お前も早く終わらせろ」

 

 淡々とした男の声が聞こえてくる。こいつが協力者のようである。しかし、一つ引っかかる言葉があった。()()()()()()()()()()()()()

 

「ハイお疲れ様。ナンパは上手くいったぁ? そうなら新しい彼女の喘ぎ声をぼくちんにも聞かせてよね」

「揶揄うのはよせ。生憎済んでの所で逃げられた。だが、狙撃銃は置いていっているからそっちの邪魔されることはないだろう」

「オーケーオーケー。それでジュウブン! それじゃ、そこの特等席からこれからのショーをしっかり見て聞いててね!」

 

 切嗣を置いて二人だけで会話を続けている。会話の内容からして恐らく舞弥は無事なのだろう。すると無線の声がこちらに語りかけてくる。

 

「貴様が衛宮切嗣か。魔術師なのにしようとする事は派手だな。まあ、バーサーカーに目を付けられたのは運が無かったな」

「お前は何者だ。そこのキャスターのマスターか?」

 

 切嗣の問いに一瞬口が止まるも、そう時間を置く事なく通話が再開される。ただし、道化に対してであったが。

 

「……バーサーカー、まだ伝えてなかったのか?」

「ン? 勝手に勘違いしてるヒトにいちいち訂正するのも面倒臭いじゃない?」

「……という事だ。後、私はバーサーカーのマスターではない。ただ協力を請われただけだ。ではさらばだ」

 

 そして無線は切れてしまった。そしてバーサーカーは逆さまで宙に浮き、ニヤニヤとしながら電話でお手玉を始める。

 

「なぁに、これはもう少ししたら返してあげるさ。ぼくちんの目的はただ一つ。ホテルの爆破を遅らせる事だけだからね」

 

 目的は本当かどうかは知らないが、その理由が分からない。何故爆破を止めるのではなく、遅らせるのか。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前の本当の目的はなんだ?」

「ナニって、今言ったじゃないですか。もしかして耳遠いの?」

「それは過程だろうが。その行動をする事でお前に何のメリットが生じる?」

 

 道化は目を細めると半回転して地面に降り、ヘラヘラとしながら聞いてきた。

 

「何でこんなコトしてるか知りたい? 知りタァ〜イ? なら……」

 

 そして耳障りな大声で叫ぶ。

 

「オシエナーーイ!!!」

 

 こちらの癪に障る言動しかしてこない。いつもなら無視するのだが少し苛ついていたため、切嗣はつい言葉を荒げてしまった。

 

「ふざけるな!」

「スミマセン」

 

 全く気持ちが篭っていない不真面目な謝罪がすぐに返される。感情を僅かに吐き出した事で多少は落ち着いたのか今度は何も言わずに睨みつけた。声には出していないだけであまり変わっていないが。

 

「どうせスグに分かるんだ。キミもあの中にいる根暗(ケイネス)を狙っていたんだろう? ぼくちんも似たようなものさ。まあ、標的はちょっと違うけどね」

 

 その言葉で大体想像がついた。この道化も切嗣と同じようにこのホテルに仕掛けを施しているのだ。そして、その仕掛けを発動する前に爆破されるのを防いだといったところであろうか。しかし、引っかかる点が一つあった。まるでケイネスの婚約者──ソラウだけを狙うかの様な口振りであったが、この厳重な守りの中、()()()()()()()()()()ものなのであろうか。

 

「戦争と名の付いた戦いに恋人連れてきて惚気るってどういうシンケーしてるんだろうね。奥さん連れてきたキミもそう思わなぁい? だからチョッッッットだけお灸を据えてやる事にしたんだ。こんな戦争中にシャワーを浴びようとするなんて浮かれ過ぎだと思うでしょ?」

 

 そして道化は狂気と残忍さが篭った笑顔をこちらに見せる。そして分かった──分かってしまった、この道化の企みに。たとえどれだけ自分の部屋に至るまでの道に罠を仕掛けようとも()()に注意を向けることはないだろう。ましてや、他の人間もいるのだ。貯水タンクは一つなのだから普通そんな事をしようとは考えないはずだ──他の人間全てを避難させない限りは。それなのにこいつは……コイツは…………

 

「あれ? 気づいちゃった? 中々察しがいいですねぇ」

「止せッ! 早く止めろッ!」

 

 道化のドスの効いた悪辣な声が切嗣へと発せられる。

 

「もう遅い……ほら、聞こえてきた 死にゆく者たちの嘆きの合唱が……」

 

 その言葉と同時にこの世のものとは思えない凄惨な叫び、呻き、断末魔が一つの建物から響き渡る。それらが奏でる大合唱は道化が何かをしているせいか、遠くまで届いているようだ。踠き苦しむ苦痛の呪詛は、冬木の街を確実に包み込んでいたのだった。

 

「ヒッヒッ……何百もの悲鳴が奏でるオーケストラはなんて聞き応えがあるんでしょう……もはや芸術ですねぇ……」

 

 この地獄を作り出した張本人は恍惚の表情を浮かべている。切嗣はあまりの出来事に呆然としていたが、道化が次に取った行動を目にして我に返る。ホテルに仕掛けた爆弾の起爆コード何一つ違わずに入力していたのだ。最後の一つを入力する前に手を止め、こちらをニタニタと笑いながら見つめてくる。

 

「これはお前の仕掛けだ。フィニッシュはお前に決めさせてやる……ホラ、返してやるよ」

「なっ!? やめっ──」

 

 いきなり近寄った道化は切嗣の腕を掴んでくる。この際起爆コードを知っていた事などどうでもいい。コイツは罪なき人々にトドメさした出来事を切嗣に押し付けようとしているのだ。抵抗しようとしたが、身体が金縛りにあったかのように動かない。そして──

 

 

 

 

 

 

「ポチッとな」

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい轟音が響き渡り、亡者達の悲鳴を掻き消した。そして冬木ハイアットホテルはその音と共に崩れ落ちる。

 ホテルの周りには既に騒ぎを聞きつけた野次馬達が群がっており、その者達の頭上にホテルの瓦礫が降り注ぐ。そして第ニの阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がった。

 

「ホワ〜ッホッホッホッホッ!!! 笑いが止まらん!!」

 

 道化の不気味な高笑いが喧しく耳に伝わる。そして切嗣の我慢が限界を超え、何も考えなしで道化の胸倉を掴みかかった。それでも道化は何の抵抗もする事なくヘラヘラと切嗣を見て笑っている。

 

「あれ? どしたの? キミもちゃんと目的を果たせたんだから喜ばないと」

「ふざけるな!? 僕は彼らを巻き込むつもりは微塵もなかった! それをお前が、お前の勝手な行動が死ぬ理由もない人々の命を奪ったんだ!」

 

 それを聞いて、道化はあからさまに苛ついた表情を見せる。

 

「いいこぶりやがって……」

「なっ──「あの時点ではまだ死んだ奴はいなかった筈だ。あとまだ毒を浴びていない奴も数多くいたんだよ。それなのにお前は、勝手に思い込み、自分の意思で彼等を吹き飛ばしたんだよ」」

「お前が押させたんだろうが!」

「フッフッフッ、都合の悪いことは頭に残らないのか? 俺は電話を()()()()()()()()()()()()()()()。それなのにお前は自分の判断でした事をぼくちんに押し付けるのかなぁ〜?」

「……嘘だ……」

「あ〜らら、現実逃避? ま、全てキミの手柄になるんだからもっと喜びなよ」

「……どういう事だ」

「どうもこうも、この出来事を引き起こした犯人は、聖杯によって召喚されたこの世にいない筈の人物でした〜って、誰が信じると思う? 魔術師達は信じるかもだけど」

 

 その言葉に切嗣は何も言い返せない。

 

「毒を流したのも、ホテルを吹っ飛ばしたのもゼンブゼーンブお前がやった事になるんだ。都合の悪い真実よりも、納得出来る虚言の方を大衆は信じたいからね〜。()()()()()()()()()()()。そしてキミの成した『正義』はぼくちんがちゃんと皆んなに伝えてあげるんだ。嬉しいでしょ〜?」

「そんなもの正義でも何でもない!」

「それならお前は『正義の味方』よりも最悪の『テロリスト』の方が似合ってるんじゃなぁい? 実際お前の仕掛けが多くの人の命を奪ってるんだ。そんなもの仕掛けておいて、あまつさえ使っておいてそんなつもりはなかったなんて綺麗事が通じると思っているのかナ?」

 

 コイツは絶対に倒さなければならない。コイツは──悪だ、それも今まで感じたこともない程の。切嗣は心からそう思った。

 すると道化はそんな考えは読んだのか、切嗣の理想を否定するような言葉を吐き捨てた。

 

「『正義』なんて所詮は自分の理想の押し付けだ。そんな自己満足は他の奴の邪魔をする。全く『正義』なんてものは……ウザッたらしくて ヘドが出る!!」

 

 コイツとは一生分かり合うことはない。そう確信した。

 

「一つ聞かせろ。あのホテルの宿泊客は何故殺さなければならなかったのか。その理由を──その意味を。」

 

 その質問への答えは笑い声であった。

 

「キミは何か物事をするのに理由を求めるのかい? そんな事してたらすぐに老けちゃうと思うナ。ソダネ〜強いて言うとしたら……」

 

 大きく息を吸ったかと思うと、まるで役者のように大きく体を動かして叫んだ。

 

「意味のある破壊などつまらん! 意味もなく壊すから楽しいんだよ!!」

 

 これが道化の行動理念なのだろう。そして、それを知ってからは何故だか道化の笑い声が()()()聞こえるような気がした。

 

「おおっと、もうこんな時間〜。そろそろ行かないと不味いからぼくちん帰るね。また遊びましょ♪ それじゃ、サヨナラ」

 

 そのまま道化は切嗣に危害を加える事なくあっさりと姿を消した。

 それと同時にあの道化の重圧から解放された切嗣は倒れそうになり、今来た舞弥に支えられる。そしてひとまず自分達の拠点に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「許さん、許さんぞ……我が愛する者をこんな目に合わせた者を……ランサー、衛宮切嗣は絶対生きたまま捉えてこい……私がこの手で八つ裂きにしてその罪を償わせてやらないと気が済まない」

 

 どこかでそんな声が聞こえた気がした。そして、この街で聞こえる筈のない列車の汽笛の音が聞こえた気がした。

 

────────

 

 

間桐邸のとある一室、そこには一人の少女が気持ちよさそうに眠っていた。この部屋の主、間桐桜である。胸の中にはデフォルメされた女の子の人形が収まっていた。髪の色も長さも桜と同じくらいのものである。恐らく桜をイメージして作られたのであろう。

 この人形は少し前にいつの間にか枕元に置かれていたものである。臓硯に聞いても知らないとの事であった。おそらく雁夜がプレゼントしてくれたものであると桜は思っていた。そしてすぐに桜のお気に入りになった。

 そんな人形が胸の中で動いたような気がし、目がさめる。寝惚け眼を擦りながら確認すると案の定その姿はなかった。キョロキョロと頭を動かして探すと人形はベッドから転がり落ちたのか少し離れた所に倒れていた。眠そうにしながらも大事な人形を拾いに行く。そして持ち上げようとした瞬間、その手を避けるように窓の方へと転がっていく。普通であればこの時点でおかしいと気付くのだが、あいにく桜は寝ぼけた子供である。何の疑問も持つ事なく転がる人形を追いかける。そして誰かの足元で止まった。窓の前には誰もいなかった筈である。人形はそのままプカプカと浮き、謎の人物の手の中に収まる。恐る恐る顔を上げ、謎の来訪者の顔を確認した

 

「お嬢ちゃ〜〜ん あっそびっにきったよ♪ にっひっひっひっひっひ!」

 

 その場にいたのは、以前雁夜と一緒にいた狂気に染まった道化であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホラ、お嬢ちゃんも一緒に。次回もよろしく〜」

「いきなりどうしたの? バーサーカーのおじさん」




ドマ国の悲劇、再び!

ff6をやった事がある人はやりやがったな! このやろう!と思う事でしょう。そして知らない人に説明するとケフカさんは毒を川に流して国の人間を皆殺しにした事があります。その流した毒がやばいもので、本人曰く触れただけで即死との事でした。あ、因みに宝具ではないので名前はないですよ。
何で宝具じゃないのにそんなもん持ってんだよ、クソが! と思う方、そこはケフカさんの存在事態がイレギュラーだからと言う事でお許しください……

そして、最後に聞こえた汽笛……一体何列車なんだ?



トランスフォーマー……ビーストウォーズ……アドリブ……モノマネ……うっ頭が


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第二楽章 その③

※今回の行動は全て雁夜おじさんは知りません。
なのでみんな内緒にしててあげようね、ケフカお兄さんからの約束だよ。


 

 綺礼は自室でゆっくりと腰を下ろして、先程までの出来事を思い返していた。事の始まりはまずあのバーサーカーの一言であったのは言うまでもない。

 

『キミが求めている素晴らしいものをその目に見せてあげるヨ』

 

 最初はその言葉を訝しんだ。しかし、何故か心惹かれるものがあり、時臣からの命令のついでに一度だけ協力することにしたのだった。

 そしてケイネスが潜むホテルを見下ろす廃ビルに来た時、その時が来た。日常では確実に聞くことができない怨憎の篭った叫び、悲鳴、断末魔。常人が聞けば気が狂いそうなコーラスに加え最後はホテルを吹き飛ばす爆発。普通の感性を持つ者がそれを見れば普通気を失うか怒りで気が狂うものである。だが、綺礼は違った。それを見て、聴いた時、綺礼はなんともいえない感覚に襲われていたのだった。心が満たされていくような充実感はなんとも心地いいもので、しばらくは興奮でその場から退散することすら忘れていたのだ。今思い出すだけでも身震いする。自分の奥底に眠っている感情に気がつかされたような気がした。

 あのホテル爆破事件は全て衛宮切嗣がやったことになっている。あのホテルに泊まっていたもののほぼ全てが犠牲になっており、更にそのほかの二次災害で命を落とした者も少なくなかった。確実に聖杯戦争で問題ある行動だと認定されるだろう。時臣はその報告を全く疑わなかったが、ギルガメッシュは何か違和感を感じていたらしい。

 先程もこの部屋にやって来た時に「あの時何があったか、何者かと接触しなかったか」など訊ねられたものであった。何もなかったと言えば少し険しい顔をしながら「好きに動くのは構わない、だが、敵対するようであれば容赦はせんぞ」と言葉を残して消えていった。勘付かれているのかもしれない。

 それよりも目の前に並べられた三つの物に目をやる。これはここへ帰る際にバーサーカーから手渡されたものである。なんでも彼の力の根幹を示すヒントとなりえる物らしい。

 一つは時計である。ゾロアスター教の紋の付けられた銀色の懐中時計が時を刻んでいる。時を司る何かなのであろうか。

 もう一つは女神像であった。頭の部分が牛になっておりとても特徴的である。

 そして最後はこの世で最も有名な書であろう旧約聖書のコピー本であった。

 バーサーカーが言うにはこれらの全てが彼の力に関わっているらしい。どれも出自は違うものでありそうであり、関連性が見えない。一体どのような者の力を得ているのであろうか。そもそも、どのようにして彼の様な存在が生まれたかが謎である。

 ゾロアスターの時を司る者、牛の頭を持つ女神、旧約聖書の中の存在の一つ。それらから連想されるものは何かかれこれ数時間頭を悩ませていた。

 

『ぼくちんのヒ・ミ・ツ教えてあ〜げる。ミンナニハナイショダヨ?』

 

 これらを渡して来た時の台詞が思い起こされて来た。なんとなくだが腹が立つ。すると、頭の片隅に追いやっていたとある考えがよぎった。常識では考えられないから追いやっていたあるものが。

 そもそもあの道化がイレギュラーなのだ。普通に考えるべきではなかったのだ。あの三つのものが何か一つを指し示しているのではなく、そもそもあの三つの司る存在が、道化の力の根幹なのだとしたら。それならあれだけの力も頷ける。知名度補正も旧約聖書由来のものなら凄まじいものであろう。

 早くあの道化の正体を知りたいと思うと同時に、あのふざけた道化に心惹かれて来ている自分がいた。あの道化は自分の求めているものを教えてくれるかもしれない。本当にそう思えるような気がして来たのだ。ギルガメッシュも愉悦を進めていたが似たものがあるのかもしれない。そして、あの道化が最後に残していった言葉に頭を悩ませていた。

 

『キミもキンピカのマスターもテロリストもみんなクソアニメに出ちゃったねぇ……早速ぼくちんの煽りが裏目になっちゃったよ』

 

 一体どんな意味が込められた言葉だったのであろうか。全く意図が読めない言葉であった。そもそも何も考えずの発言なのだろうか。

 

「綺礼様」

 

 気配のない真後ろから声がかけられる。アサシンだ。彼は一歩も動くことなく綺礼の背後に佇み、報告を始める。

 

「キャスターに動きがありました。各家庭から子供を数十人攫ってきているようです」

「そうか」

 

 少し前の話でキャスターを全てのサーヴァントで討伐するようにすることは決まっていたため。今更キャスターの聖杯戦争を目的としたものではない動きに驚きはない。しかし、気になるのはそこからであった。

 

「そして、儀式か何か行ったかわかりませんが森の中に巨大な竜を一瞬だけ召喚していました」

「巨大な竜?」

 

 宝具か何かであろうか。しかし、何もせずに引っ込めた点は謎である。何かの準備なのだろうか。

 

「召喚された竜は翼がなく、首と尾が長く、鋭い顎など持ち合わせていない奇妙な存在でした。ただ、姿を消した後は森の一部が風か何かで吹き飛ばされていましたが」

 

 その報告を聞いた綺礼はその不思議な竜の報告を聞いて、あり得ないと思いながらもある物を思い浮かべていた。人類が存在する前からいたあるものの姿を。そして何か悪巧みをしているバーサーカーの顔が一瞬だけよぎった。

 

 

 

─────────────

 

「おじさん、何しに来たの?」

 

 怯えた様子の桜に、ケフカはニマニマと笑みを浮かべながらトコトコと小刻みに歩きながら近寄っていく。

 

「そういえば自己紹介がまだだったねぇ〜。ぼくちんの名前はケフカ・パラッツォ。気軽にケフカと呼んでね。お嬢ちゃんのお名前は?」

 

 雁夜から既に聞いているはずなのだがそれでもお構いなく愉しげに聞いてくる。その姿はとても不気味であった。

 

「……桜、間桐桜……何しに来たの?」

 

 それを聞いたケフカはそれはもう嬉しそうに全身で喜びを表現しながら語りかかける。

 

「それはもう! 桜チャンとお友達になりたくて! キミもぼくちんとお友達になりたいでしょ?」

「……別にいい」

 

 それを聞いたケフカは顔をしかめて桜が聞こえない程度の声で呟く。

 

「これだから現代っ子は……そんなにピエロが怖いのか? これもホラー映画のせいだ」

 

 すぐに調子を戻したケフカはおちゃらけた声で大きく言い放つ。

 

「キミも友達少ないだろ? だから特別にワタシが友達になってあげよう。あ、拒否権はないよ。かわりにいい()()()()()を一杯教えてあげるからさ」

「おまじない?」

「そう! それもぼくちんのとっておきのスンゴイやつ。気になるでしょ?」

 

 興味を持ち始めた桜にゆっくりと近づいて触れる距離に入ろうとした。すると突然、横から黒い蟲が飛んで来て邪魔をする。

 

「こんな夜中に侵入者かと思えば…何をしておるバーサーカー。聖杯戦争はどうした。それと桜に何をしておる」

 

 明らかに苛立たしげな顔を浮かべた臓硯にケフカは白けきった顔を向ける。まるで馬鹿にしているようであった。

 

「ぼくちん今忙しいんだ。話なら後にしてよ。桜チャンも怯えちゃってんじゃん」

 

 別に自然体である桜をよそに、臓硯はバーサーカーに睨みを利かせ言葉を出す。

 

「桜に一体何をしようとしているのだ。返答次第では貴様のマスターを殺して、貴様を消すぞ」

 

 そんな言葉もなんのその、体をわざとらしくくねらせながら相手を挑発していく。

 

「やーん、ゴキブリが粋がってる〜。怖ーい。キンチョール後で撒いとかなきゃ。まあ、安心なさい。キミのお手伝いみたいな事をしようとしただけサ」

「手伝い?」

「ソソ、この子が立派な()()()になれるためのお手伝いをね。キミも早く取り掛かりたいのだろう?」

 

 バーサーカーの提案に深く考える臓硯。正直、悪い提案だとは思ってないようだ。桜に手を出してはいけないのは臓硯だけで、バーサーカーが何をどうしようと雁夜との約束は違えていない。しかも、遠坂の英霊を相手取ってなお余裕な様子であった。そのような相手に魔術の手解きをしてもらえるなどかなりの事であろう。

 ただ不安な点が一つある。何を考えているのかが一切分からないことである。万が一でも桜に何かあればたまったものではない。

 そんな考えがよぎった結果出した答えは──

 

「貴様の言い分は分かった。ただし、少しでも妙な真似をすればただでは済まないからの」

 

 バーサーカーの意を飲むことであった。その返事に気をよくしたケフカは手に魔道書を出現させ、桜へと手渡していく。

 

「この本がキミにいっぱい()()を教えてくれるから手放しちゃダメだよ。あ、別に開かなくてもいいからね!」

「魔術じゃないの?」

「まあ魔術みたいなものさ。この本は()()()()にしてね。お友達からの約束だよ」

 

 桜に渡された本の表紙には派手な格好をした道化が描かれている。どうやらケフカ本人のようである。臓硯はそんなやりとりをやはり疑問に思いながら聞いていた。本を持つだけで魔術など覚えたり鍛えられたりするものなのであろうか。

 そんな臓硯の視線をうざったらしそうに手で払いながら吐き捨てる。

 

「聞き耳立てないでくれる? そんな虫酸が走る視線を飛ばされるとこっちもカナワナーイ! だからぼくちんもう帰るね。録画し忘れた番組もあるし……あれ? ゴミ捨て日も今日だった!」

 

 そしていきなり慌て始めたケフカは完全に置いてけぼりな臓硯と桜を尻目にその場でスキップをしながら窓へと飛び出していく。

 

「それでは紳士淑女の皆様御機嫌よう! ゴミはちゃんと指定日当日に出すようにするのだ、分かったな!」

 

 そして窓から飛び出すと同時に放屁の音を残し、姿を消した。臓硯はやはり判断を間違えてしまったのではないかと頭を抱え、この先の聖杯戦争をある意味で心配していた。桜はその行動をただ楽しそうに見ていた。そして、桜が持つ道化の魔道書の表紙が一瞬だけ笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴミ収集待ってー! あ、次もよろしく〜」




三つの神々はFFをある程度お知りの方なら予想が付くはず……一柱に関してはそれほど詳しくなくても名前は聞いたことありますからね。魔道書は後々の為の重要なフラグアイテムなので覚えておいてください。そして次回予告!『巨竜、顕現す』『壊れたオモチャはいらないんだよ……』
の予定です。お楽しみに。

スキル説明

スキル名:シリアルキラー
保有者:ケフカ・パラッツォ
クラス:バーサーカー
ランク:A+
神性、王族に対して優位に戦えるようステータスが上昇し、特攻をもつ。相手がどちらも持つ場合は効果は重複する。
生前、皇帝を殺し、神々から力を奪ったから得たスキルである。


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