とある転生屋敷しもべ妖精の努力話 (零崎妖識)
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転生初期
一時間の睡眠の後、俺は行動を始めた。尖った木片と布を手に取り、自室を出る。
俺の目の前には銀の甲冑。さあ、仕事の時間だ。
「お疲れ様でございます、ギヴァー班長。我々が起きるよりも早く起床し、甲冑磨きをしているとは……わたくしたちも見習わせていただきます!」
「いえ、これは私が好きでしていることなのですから、自分一人にやらせてください。あなた方はすぐに厨房へ向かって朝食の準備を、そちらの皆さんは洗濯を、残りの皆さんは各教室と大広間、玄関ホールの掃除を担当してください。くれぐれも、手を抜くことのないように」
『わかりました!』
同僚に指示を出し、目の前の甲冑を磨く作業を再開する。これまでは装飾の溝の汚れを上手く落とせなかったから、気分が清々しい。
ふと、俺はこれまでのことを思い出していた。なぜ俺がここにいるのか、そして、これから俺が何をしたいのかを。
◇◇◇◇
俺は平凡な日本人の男だった。強いて特徴を言うなら、他の人よりも活字が好きだったことだろうか。
俺の最後はあっけないものだった。どこぞの珍しい合作ラノベ風に言うなら、『ある日唐突に、俺は死んだ』。
トラックに轢かれるわけでもなく、犯罪に巻き込まれたわけでもなく、不治の病に罹ったというわけでもない。気づいたら死んでいた。
ともかく、俺は死んだ。
では、なぜ俺がこうして意識を保っているのか。
それは、俺がいわゆる転生をしたからだ。
神様に会ったわけでもなく、いつの間にか転生していた。多分、輪廻転生する魂がたまたま記憶と自我を保ったままだったんだろう。
俺は新たな人生を謳歌することを決めた──その直後、自らに嘆いた。
ああ、運命よ。この世界──ハリー・ポッターの世界に転生させてくれたのは嬉しい。だけど……だけど!
何も『屋敷しもべ妖精』じゃなくてもいいじゃないか!
◇◇◇◇
こうして、俺の第二の人(?)生が始まった。
人間として暮らせないのは寂しいが、案外充実している。
妖精の呪文は人間の扱う呪文よりも使いやすいのだ。おそらく、魔法体系が違うのだろう。あちらは知っている呪文しか使えない。だが、屋敷しもべ妖精は本能的に魔法を使える。というか、効果の明確なイメージができれば何でもできる。さすがに死者蘇生は不可能だが、致命傷程度なら治療できるし、変身術だって扱える。
ただ、自由自在に魔法を使えるのは俺だけのようだ。しもべ妖精の固定観念がないからみたいだ。
以上を確かめた俺は、ある計画を立てることにした。
原作死亡キャラの救済──特に、ポッター夫妻とシリウス・ブラック、フレッド・ウィーズリー、セブルス・スネイプ、リーマス・ルーピン、ニンファドーラ・トンクス──とりあえず、ハリー・ポッターに関わる人物達を。
最終目標は──みんなが笑って、明日を迎えられる世界だ。今はただの屋敷しもべ妖精だが、やれる事をやり尽くして、この世界を改変してみせよう。
まずは、ダンブルドアの所に行って就職かな。今が原作の何年前かも知りたい。できる限り昔の方がいいな。その方が、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターを救える可能性が高まるから。
主人公
ギヴァー
種族:屋敷しもべ妖精
性別:男
備考:転生者、ホグワーツ魔法魔術学校所属屋敷しもべ妖精長
ハリポタ世界に転生した日本人男子。漫画、本、ラノベ、ネット小説が好き。活字中毒。
原作死亡キャラを助けようと思い、容易に近づけるホグワーツへ就職した結果、いつの間にかホグワーツの屋敷しもべ妖精達のトップに立っていた。
屋敷しもべ妖精の固定観念に縛られずに、独創的な魔法を使う。だが、結局はワーカーホリック。
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就職
どこにホグワーツがあるのかはわからないので、自身に〈目くらまし術〉をかけた状態でキングズ・クロス駅、九と四分の三番線へ向かう。
あとは、列車に轢かれないことを祈りながら線路の上を〈姿現し〉で高速移動。半日ほどかかったが、ホグワーツに到着した。今は夏休み中なのか、城に活気がない。門も閉まっているから、入っていいのかもわからない。
暫く門の前でウロウロしていると、門の中から誰かが出てきた。キラキラした目の、背の高い老人──アルバス・ダンブルドアだ。
「よかった、まだここにおったか。君が門の前でウロウロしているのを、ほれ、あの廊下から見かけてのう。どうしたのかと、話を聞きに来たんじゃ。わしはアルバス・ダンブルドア。この学校──ホグワーツ魔法魔術学校の校長をしておる」
俺は大げさにお辞儀をして、自分の屋敷しもべ妖精としての名前がないことに気がついた。そして、自分がトーガのように来ているカーテンに、名前が刺繍されているのを見た。
「私はギヴァーと申します、ダンブルドア校長先生。私は仕事を持っていないのですが、ここでなら仕事を貰えるかと思い、やってまいりました。どうか、わたくしめに仕事を与えてはくれないでしょうか」
「おお、それなら大歓迎じゃよ。人手はいくらあっても多すぎることはないじゃろう。一つだけ質問させてもらうが、これは形式的なものであって、決して、君を不快にさせるつもりのものではない。君は給金と休みは欲しいかね?」
少し悩んだ。屋敷しもべ妖精の本能は必要ないと言っているし、俺は少しぐらいは必要だと思う。確か、ドビーが一週間に一ガリオンと、一ヶ月に一日の休みだったはずだ。
「では、二週間に一シックル、二ヶ月に一日の休みをお願いいたします。本来ならばここまではいらないのですが、どうしても必要となる場合に備えたいのです」
「よかろう。他のしもべ妖精達に仕事内容は聞くとよい。一日に二時間の休みがあることも伝えておこうかのう。その時間は自由に行動してよい。仕事についても、君がすべきだと思ったようにしてよい。なんなら、わしのことを老いぼれ偏屈じじいと呼んでもよいぞ?」
この人をそう呼べる妖精がいたら見たい。きっと勇者だろう。
「明日から仕事をしてもらおうかの。最後に、質問はあるかな?」
「今が、何年の何月何日かを教えていただきたいです」
「1960年の八月一日じゃよ」
1960年……ハリーの入学どころか、ジェームズ・ポッター達の入学より十一年も前だ。これなら、色々と実験や細工ができる。
◇◇◇◇
それからの五年は、本などで読んだり、ネットで見た知識の実践に当てた。そしたら、屋敷しもべ妖精達に慕われ始めた。
その後の二年は、料理の改善に当てた。具体的には、日本食を作ったりした。そしたら、マクゴナガル教授が厨房に突撃して来て、カレーを作ったのは誰かを問い詰めた。俺が作ったと正直に答えたら『また作ってください』と言われた。
三年は俺の魔法がどこまで万能になるかを実験してみた。
ホグワーツ内ではマグルの機械は使えないと書かれていたが、実際には少し違う。電気を使うような機械が使えなくなる。でなければ、機械式時計とかも使えなくなってしまうだろう。
話は変わるが、魔法効果を物品に付与することは普通にできる。クィディッチの箒は座りやすくなる魔法がかけられているし、クァッフルは落ちるスピードがゆっくりになる魔法がかかっている。ならば、条件付での魔法付与もできるのではないか?
そう考えて実験した結果、電熱ストーブもどきが完成した。スイッチと熱の発生場所を魔力で繋ぎ、スイッチを押したら加熱魔法が発動する。マインクラフトでいうレッドストーン回路のようなものだ。上手く組み合わせれば、
調子に乗ってIH調理器もどきや掃除機もどきを作っていたら、今度は屋敷しもべ妖精達に胴上げされた。なぜだ。
そして、1971年八月、俺はなぜか、ホグワーツの屋敷しもべ妖精達のリーダーになっていた。
ホグワーツで車(魔法的改造がされている)は動く。だが、あくまでも魔法的改造がされている車だ。
では、ホグワーツ城にある巨大な時計はどうだろう。映画版では、あれは振り子時計だったはずだ。元々はマグルの技術のはずだから、機械式時計は動かないはず。ならば、なぜ動いている?ハリーの腕時計は動かなくなった。腕時計には電気が使われている。
なら、ホグワーツの敷地内では、電気製品が使えない、ということではないか?
恐らくは、ホグワーツの隠蔽をしている結界に、電気製品無効化の効果も含まれるのだろう。電気を使わない発信機はなかったはずだ。ならば、電気製品無効化だけでホグワーツの位置が知られることはなくなる。
よし、電気を使わずに電気製品再現しよう。魔法を使えば可能だろうし。
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親世代入学
九月。ジェームズ・ポッター達初代悪戯仕掛け人とリリー・エバンズ、セブルス・スネイプが入学した。
シリウスが入学したことで思い出したが、どうせならレギュラス・ブラックも救いたい。彼は不憫枠の一人だろうし。
その前に、まずは料理だ。
事前に下ごしらえは済んでいる。あとは調理して上に転移させるだけだ。
「班長、フライドポテト完了しました!」
「かぼちゃジュースいつでもいけます!」
「班長、ステーキに人員をお願いします!」
「調理が完了している所はまだの場所を手伝ってください!余りはデザートの準備を!去年のようにピーブズが来てもリカバーできるように!」
『はいっ!』
頭脳をフル回転させて指示を出す。
毎年、入学の時期とハロウィーン、クリスマス、学年度末は厨房は戦争状態に入る。特に作る量が多くなるためだ。
そして、去年は危惧していた事態が起こってしまった。そう、この時期の厨房へのピーブズの襲来。その年は新入生が多く、また、七年生の人数も多かったために、厨房では忙しさに対して全しもべ妖精がキレてしまい、怒声が響きわたっていた。そんな中でのピーブズ襲来だ。全員が無言になり、テキパキとリカバーに入る。そして、一番実力があるであろう俺がピーブズの前に立ち一言、
「出て行ってもらえますかな?次にこんな大迷惑を起こしてくれたら……ええ、あなたがいくら死んでいるとしても──絶対に殺す」
これ以来、ピーブズが俺に近づくことがなくなった。とある小説のセリフを真似ただけなんだがね。
その時以来、必ず一人が厨房の外を見張り、ピーブズが来ないようにしている。
『では、食事に移ろうかの』
「総員、料理の転送開始!」
ダンブルドアの声が響く。これを合図に、妖精達は料理を真上の大広間に転送する。
俺が来てから、毎年、入学歓迎会と学年度末パーティのデザートには特別なものが加わるようになった。それぞれの寮を模したケーキだ。ホールケーキの上に獅子の頭を乗せ、ブッシュドノエルに蛇を巻きつける。精巧な木の形のケーキには鴉が止まり、チョコケーキの中央には穴熊を。教師用はもっと特別なのにしてあるけど、それはまた今度紹介しよう。
他のしもべ妖精には悪いが、後片付けは任せることにしている。最近行なっている実験が完成に近づいているからだ。
死の呪文から逃れる方法はないのか。
物理的な防御なら防げることはわかっているが、それ以外では未だ方法がない。少しでも光線に当たってしまえば一貫の終わりだ。だから、ジェームズとリリーを守る方法がない。
なら、死を誤認させてしまうのはどうだろうと考えた。無理だという結論にたどり着いた。
そして、その失敗を踏まえて、できそうなことを考えついた。『例のあの人』ほどの死の呪文だと強すぎるかもしれないが、理論上は防げる。
魔法による光線は、本来の光ではない。だからなんだというのだ。見た目が光線なら、光の性質を持っていても不思議ではあるまい。その考えを押し付けてしまえばいいんだ。
ピーブズへの脅しとその前の状況の参考は、有川浩作『キケン』第四話『三倍にしろ!─後半─』より。
自分以外の人体に作用する攻撃魔法は光線を発する。しかし、それは魔法が通った道を示すだけで、光の性質を持っているわけではない。
だが、『そんなことは知ったこっちゃない』と、『魔法の光線は通常の光の性質を持つ』と思い込んでしまえば、それは光の性質を持つことになるだろう。そう、シュレディンガーの猫理論もどきだ。
相手の都合など無視してこちらの条理を押し付けてしまえばいい。『一定範囲内でのみ、魔法光線に光の性質を付与する』限定的付与魔法を設定すれば簡単だ。
最後に──光、特に光線って、捻じ曲げられるんだぜ?
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レギュラスの救済
悪戯仕掛け人達が四年生になった頃、リリーとセブルスを引き連れて厨房にやって来た。軽食用にプリンを作っていた所だったので、それを渡しておいた。
次の日に、兄が迷惑をかけた、とレギュラスがやって来た。どうやら、シリウスから入り方を聞いたようだ。今度はホワイトチョコレートを渡した。セブルスとリリーの分も含めて。
それから、七人とはよく話すようになった。セブルスは必ず、悪戯仕掛け人達が居ない時にやって来るし、シリウスが来た次の日には必ずレギュラスがやって来る。仕掛け人達とは雑談などをするのだが、セブルスとレギュラスは主に愚痴を聞いてくれと言ってくる。そんなものをただの屋敷しもべ妖精に話すな。
◇◇◇◇
1976年六月。セブルスが酷く打ちひしがれた状態でやって来た。リリーに嫌われてしまったそうだ。その日はウィスキーを持ち出して、彼の愚痴に一晩中付き合った。俺は屋敷しもべ妖精としては珍しく、バタービール程度じゃ酔えないからな。寮監殿には俺から説明しておくとして、酔い潰れた彼は『必要の部屋』に寝かせておいた。枕元に、リリーと仲直りできるようにチョコレートを置いて。
次の日に、レギュラス救済用に用意しておいた物品が完成したので、レギュラス・ブラックに渡した。一見するとただのネックレスだが、非常時のみ発動する遅延性魔法をかけてある。確か、レギュラスの死因は、分霊箱を守る毒を飲み、その上で亡者に湖に引きずり込まれたからだったはずだ。しかも、あの洞窟は〈姿くらまし〉が不可能。そんな状況下でもちゃんと発動できるように計算した。助かるかどうかはぶっつけ本番となるが、彼の幸運を信じよう。
◇◇◇◇
1978年。ジェームズとリリーが結婚したとダンブルドア校長から伝えられた。お祝いとして、俺が作ったペアネックレスと特製ケーキを持って行った。上手くいけば、これでこの二人も救われるはずだ。
翌年、厨房の地下にこっそりと作っていた隠し部屋に、レギュラス・ブラックが現れた。ちゃんとネックレスの効果は現れたようだ。
ネックレスに込めた効果は、移動と〈姿現し〉。〈姿現し〉が可能な位置まで〈
「僕は、これからどうなる……?」
「しばらくは絶対安静でございます。それと、世間的には死亡したことにするのがよろしいかと。あなたが生きていると知られれば、『あの人』が襲いに来るかもしれませんので。そうですね……クリーチャーの主人を、レギュラス様からシリウス様に変更、それと、偽名を使うのがよろしいでしょう」
レギュラスからクリーチャー宛の手紙を預かり、ブラック邸へ〈姿現し〉する。手紙を読んだクリーチャーは、嬉しさ半分、悲しさ半分といった所だった。レギュラスが生きていて嬉しいが、自分のせいで迷惑をかけることになってしまい悲しい、と。
ついでに、ダンブルドアに俺の事情──転生者であること、この世界のことが本になっていること、その中で死亡した人物を助けたいこと──を話した。余り信用はされていないと思うけど、一つの予言もどきだけしておいた。「ポッター夫妻の子は、シリウスに、ハリーと名付けられる」と。これが当たれば、ダンブルドアも信用してくれるだろう。
レギュラスはダンブルドアの協力のもと、『漏れ鍋』で働かせることになった。魔法で顔を変えて、名前も別のものを使って。
レギュラスに渡したネックレスの仕組み
〈姿現し〉可能かどうか判断→不可能なら可能と思われる方向へ移動→もう一度判断→可能だと判断されるまで先の手順を繰り返す→可能と判断されたらホグワーツ厨房の隠し部屋に〈姿現し〉
この場合、3D(どこへ、どうしても、どういう意図で!)はすでに設定されているため、リスクが少ない。人が〈姿現し〉する場合は直接、行く場所の座標を決める必要があるが、このネックレスはすでに座標を一箇所に確定させ(どこへ)、非常時にのみ(どうしても)、緊急脱出用に(どういう意図で)を設定してある。このため、バラける心配もない。
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ポッター夫妻、ロングボトム夫妻
1980年八月一日。俺は普段は作らないグリフィンドールモチーフ・ケーキを持ってリリーの出産祝いに出席した。悪戯仕掛け人も喜んでくれたし、ハリーも嬉しそうだった。やっぱり子供は天使なんだろう。可愛いは正義と言うが、それがよくわかる。
もう一つ。ダンブルドア校長に信用された。シリウスが名付け親になるのはなんとなくわかるだろうけど、詳しい名前までは普通わからないからだな。
翌年、ハリーに誕生日プレゼントをあげた。体にぴったりと合うブレスレットだ。これには、ジェームズ達にあげたネックレスよりも強い守護の魔法をかけてある。このままでは、リリーの『愛の守護』がハリーにかからないから、代わりに守ってあげれる物が必要だった。その上で、ヴォルデモートを一時的に破滅させられる物が。
約三ヶ月後。十月三十一日の真夜中。俺はゴドリックの谷に居た。セブルスが泣きながらポッター夫妻の家から出て来るのを見計らって、俺はその家に入った。
玄関に横たわるジェームズの身体を触り、かろうじてではあるが息が有るのを確認する。やはり、防ぎきることはできなかったか。リリーも似たような状態だった。
二人に渡したネックレスには、彼らの身体の周りだけ、魔法光線に光の性質を付与する魔法がかかっている。さらに、光を曲げる魔法も。これで死の呪文の光線を捻じ曲げて助ける予定だったのだが……ヴォルデモートの死の呪文は強すぎて、死にはしないまでも最低でも一年は目を覚ますことはないだろう。
驚いたことに、ハリーにはちゃんと『愛の守護』がかかっていた。ハリーのブレスレットには光の反射を付与していたんだが……要らなかったかもしれない。俺は、ただ好奇心に満ちた目で見つめて来る彼の頭を撫で、ブレスレットの機能を封印して、夫妻と共にホグワーツへ〈姿くらまし〉した。
◇◇◇◇
彼らをマダム・ポンフリーに任せたのち、重大なことに気がついた。ロングボトム夫妻のことを忘れていた。急いで魔法具を作り、ダンブルドア校長に渡しに行く。
今回作ったのはイヤリングだ。ネックレスやブレスレットだと取り上げれるかもしれないが、イヤリングならそう簡単には取り外さない……はず。
ただ、急いで作ったからちゃんと機能するかが心配だ。付与した効果は、ゲームで言う『精神汚染耐性』。これで、廃人になることはないはずだ。
危惧していたことは現実となり、ロングボトム夫妻は廃人となってしまった。ただし、社会復帰は可能かもしれない。
精神汚染耐性はちゃんと機能したようで、リハビリを続けていけば植物状態から復帰する可能性がある、と聖マンゴの癒者達は告げた。
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原作直前
本日はリアルで色々とあって、雷雨の中自転車を漕いで帰ることに。そして約一時間後外を見たら……雨が、止んでいた……。心が折れそうになった。私の苦労は一体何だったのか、と。
1982年、夏。マクゴナガル教授が結婚した。お相手はエルフィンストーン・アーカート。魔法省にマクゴナガル教授がいた頃の上司らしい。
俺の記憶ではこの人は独身だったはずなんだが。それはともかく、盛大にお祝いするとしよう。
それと、この年からウィーズリー一家が続々と入学してくることになるんだよなぁ……フレッドとジョージが入学したら、掃除が大変そうだ。
◇◇◇◇
1985年、エルフィンストーンさん死去。有毒食虫蔓に噛まれたそうだ。スプラウト先生やダンブルドア校長達と共に、マクゴナガル女史のヤケ酒に付き合った。
次の日には、彼女は仕事をしていたが、目元は赤かった。そして、生涯独身を貫くと宣言した。
◇◇◇◇
1987年にパーシー・ウィーズリーとオリバー・ウッドが入学し、二年後には双子とセドリックが入学した。これからはこの学校も騒がしくなることだろう。
二年生になった双子は厨房に突撃して来た。悪戯されると面倒なので、たこ焼きを渡して丁重にお帰り願った。次からはお茶漬けでも用意しとこうかな。
もう一つ。ようやくポッター夫妻が目を覚ました。このまま目覚めないのではないか、と心配したが、杞憂に終わったようで何よりだ。
「ほう、来年にはハリーが入学するのか!時が経つのは早いな……僕らから見れば、つい昨日まで彼は赤ちゃんだったのに」
「そうね、ジェームズ。あの子は今、チュニーの所にいるのでしょう?典型的なマグルって聞いてるから、少し心配ね……」
「大丈夫さ、リリー。何たって、僕らの息子なんだから!」
いちゃいちゃする二人を、生暖かい目で見守る。
彼らはしばらくはリハビリだ。十年も眠っていたんだから、筋力は相当衰えている。栄養価の高いものを食べさせて、走り込みもさせなくちゃ。マグルの町に向かわせて、トレーニングジムに放り込むのもいいかもしれない。
二人に、セブルスがこの学校で教師をしていることと、シリウスが捕まったことを話した。
「そうか、パッドフットが捕まったか……ワームテールを追いかけたんだろうな。そして、濡れ衣を着せられたってところかな?ワームテールは臆病だったけど、悪知恵は働く奴だった」
「セブがこの学校に?うーん……ハリーに対して嫌がらせしなければいいんだけど……ハリーはきっと獅子寮に入るわ。私やジェームズと同じように。目の色以外はジェームズにそっくりだし、きっとセブは気に入らないでしょうね」
「スニベルスが僕らの天使に何かしたら教えてくれるかい、ギヴァー。僕がスニベルスを懲らしめてやろう」
「その前にリハビリをするべきでしょう。あなた方の体力が十分回復したと思うまではホグワーツ内を歩かせることはできません。もう一つ言わせてもらえるのなら、ジェームズ様よりもリリー様がスネイプ教授にダメージを与えられるかと」
薄味のお粥を作り、手の空いているしもべ妖精に後を頼む。
さて……来年からはこれまで以上に忙しくなるだろう。セドリックの救済、ダンブルドアの死亡阻止、シリウスの救助、ホグワーツ決戦の死者を減らす──できれば、決戦が起きることすら阻止したい。
その前に、まずはピーブズが散らかした鎧の片付けだな。
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ハリー、入学
て事で感想ください。励みになります、多分。
八月、ダンブルドア校長から使ってない教室を掃除してくれと頼まれた。おそらく、『みぞの鏡』を置くのだろう。
九月。ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、ネビル・ロングボトム、ドラコ・マルフォイらが入学した。嬉しいことに、ハリーは俺が作ったブレスレットをつけてくれていた。今年の特製ケーキはいつもよりちょっとだけ豪華になった。
一ヶ月ほど後、マクゴナガル教授が嬉しそうに、ハリーをシーカーにすることを話してくれた。教授はジェームズ達のことを知っているから、彼らにも一緒に。
「あらあら、ハリーがシーカーに?ジェームズと同じで活躍しそうね」
「そうだね。それで、ハリーの素質はマクゴナガル先生から見てどのくらいなんですか?僕は最高だと信じているけど」
「十五メートルもダイビングして、小さな球を掴みました。彼は過去におもちゃの箒に乗っていたことを覚えていません。あなたやチャーリーと同じぐらい、良いシーカーとなるでしょうね」
「ギヴァー!今夜は赤飯だ!ご馳走を頼む!」
マクゴナガル教授の話を聞いて、ジェームズが興奮して叫ぶ。直後に貧血を起こしてぶっ倒れた。全く、無茶をする。
「今夜だけでございますよ。まだジェームズ様とリリー様の体は本調子ではないのですからね」
その夜は、箒を誰が買うかで議論になった。ニンバス2000を買うことは決定したが、マクゴナガル教授もジェームズもリリーも、全員が自分が買ってやると言って聞かない。三人がギャーギャー争っている間に、俺がコツコツ貯めてきた金で注文しておいた。それから数週間は三人にジト目を向けられた。
ハロウィーンの夜、マクゴナガル教授が興奮した様子で隠し部屋に入って来た。ハリー達がトロールを倒したようだ。
「彼らはいい仲間になるはずです。それに、運も良い。大人の野生トロールと対決できる一年生はそうそういませんからね。あなた方でも無理だったでしょう、悪戯仕掛け人?」
「出来なくはないだろうけど、大怪我するかも。いやはや、さすが僕とリリーの子供だ!」
あ、またジェームズが倒れた。これからは縛っておこうかな?
十一月のとある土曜日、いつものようにマクゴナガル教授がやって来た。内容はもうわかるので、ジェームズが倒れてもいいように点滴を用意しておいた。
「ハリーは最初の試合でスニッチを取ることに成功しました。取る、と言うよりは飲み込んだと言った方が適切でしょうが、手に入れたことには変わりありません」
今回は何か叫ぶ前にジェームズが倒れた。リリーは笑ってないで彼を止めなさい。
次かその次あたりで賢者の石は終了かも。
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賢者の石終了
クリスマスにはターキーと特大のケーキを。ターキーはオリジナルであるロック鳥のものと、某道頓堀に投げ込まれた人形の店のものを用意。ケーキは教師用特製ケーキをさらに豪華にしたバージョンだ。
てっぺんには羽を持ったイノシシの砂糖菓子を配置。その一段下から四つの区画に分けて、それぞれの寮のモチーフを。グリフィンドールは獅子の砂糖菓子を置き、ケーキはイチゴとパイナップルのミルフィーユ。レイブンクローはブルーベリーに烏のホワイトチョコレート。銅のカプセルをケーキの中に入れてあり、その中には少し難しい
これを、毎年クリスマスに出している。カロリーと味が気になるが、そこは魔法で調節した。魔法ってマジ万能。
それと、ハリー宛に箒の手入れセットをクリスマスプレゼントとして贈る。これは、ポッター夫妻が購入したものだ。まだ出歩けるほど回復しているわけではないが、ホグワーツ校内ならしもべ妖精の手を借りればフクロウ小屋まで行ける。
俺自身は磨き粉と銀の磨き方、燻し銀にする方法を書いたメモ帳を贈った。ハリーのブレスレットは
翌年六月。ホグワーツ校内に、とある噂が蔓延した。ハリーが悪い魔法使いから『何か』を守ったと言う噂だ。
ジェームズは狂喜乱舞し全快を遠のかせ、リリーはあらあらと微笑むだけだったが瞳の奥には「危ないことはしないように叱らなくちゃ」と言う意思が見て取れた。
ハリーにはお見舞として胃に優しいお菓子を送っておいた。
少しして、ハグリッドからポッター夫妻の写真を持っていないか、持っていたら譲ってくれないかと言われた。もちろん譲る。ただし、ちょっとした悪戯心で、一枚だけ現在の写真を含んでおいた。
「君も人が悪いね、ギヴァー」
「あなた様に言われたくはないのですがね、ジェームズ様」
「ハリー、気づいてくれるかしら?」
「きっと気づいてくれるでしょう。何せ、あなた方の息子なのですから」
ついでに、シリウスにも同じ写真を送っておいた。どんな顔をすることやら。
今回の優勝記念ケーキはグリフィンドールモチーフ。上の飾りつけはスリザリンなので、部下達は混乱していたが、ダンブルドア校長からの指示だと言うとみんな納得した。これまでもこういったサプライズはよくあったから。
翌日、ハグリッドに話しかけられた。
「お前さん、あの写真はどう撮ったんだ?」
もちろん、紛れ込ませたあの写真のことだろう。ハグリッドに話すと、いつどこで情報を漏らして来るかわからないから言うわけにはいかない。だから、とある小説の言葉を借りてこう言おう。
「世の中には、知るべきではないこともあるのですよ」
一年が終わる。次はバジリスクだったか。アレも救って置きたいが……はてさて、どうするかね。
ここまでハリー達三人が喋らない小説があっただろうか。
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ロックハート
謎のプリンスまで終わったらしばらく休載する可能性があります。死の秘宝を買ってこなくてはならないので。
七月。新しい教師が発表された。ギルデロイ・ロックハート。一言で言うなら詐欺師である。俺としては、あいつの記憶なんてどうなってもいい。と言うか、なくなった方が世のためになるかもしれない。
八月。ロックハートがやって来た。が、俺達屋敷しもべ妖精が彼に会うことはなかった。誰も厨房やしもべ妖精用の部屋の存在は教えなかったようだ。
ついでに、とある魔法具を作っておいた。効果は
発動タイミングはテスト三日前──五月二十九日の正午過ぎ。試験は六月一日から始まるそうだし、逆算するとこの日にジニーが攫われることになる。あとは、魔法具をどうにかしてバジリスクに持たせればバジリスクをホグワーツから出すことができるし、ハリーもバジリスクと戦わなくて済む。ついでに、少し保険をかけておこう。原作通りに行かずに、直接バジリスクの眼を見てしまう者が居ないように。
蛇語は話せないので、狭い水路を無理やり通って秘密の部屋に侵入。秘密の部屋は水浸しなんだから、どこかしらから入ることができる。最悪、湖に潜るって手もあったけど。
サングラスをかけて、眠っているバジリスクの前に立つ。手には魔法具と鏡二つ。鏡一つで死を与える魔眼が石化に変わるのなら、鏡二つなら麻痺程度で済むだろう。サングラスをかければほぼ完璧に防げる。よって、俺は二つの魔法具を無事に装着させることができた。二つで一つの魔法具だ。
問題は、どうやってバジリスクをおとなしくさせるかなんだよなぁ……。
九月。ハリー・ポッター並びにロン・ウィーズリー、空飛ぶフォード・アングリアでホグワーツに襲来。同時に暴れ柳大惨事。
これに対してのポッター夫妻のコメントが以下である。
「これは……ハリーは拳骨を貰いたいみたいね?」
「流石僕の息子。ただ、暴れ柳は無事で居て欲しいな。あれは僕らの思い出の木なんだ」
「あなたも説教が必要みたいね?」
「え、ちょっと、落ち着くんだリリー!待て、話せばわかる!」
できる屋敷しもべ妖精はこのタイミングでその場を離れる者だ。数分後には魂の抜けたようなジェームズの姿があった。
ロックハートが居ない隙に部屋を掃除していたら、捕らえられたピクシー妖精達が居た。ロックハートによる直接的な被害は屋敷しもべ妖精には来ていないが、間接的な被害はある。よって、報復を仕掛けることにした。俺が忠誠を誓ってるのはあくまでダンブルドア校長とホグワーツだ。ロックハートはその対象には入っていない。
後日聞いた話によると、グリフィンドール二年生の授業でロックハートが大変な目にあったそうだ。なんでも、ピクシーの被害が全てロックハートに集中したらしい。他の生徒達には目もくれず、哀れロックハートはパンツの死守には成功したそうだ。
いやー、なんでこんなことがおこったんだろーなー。
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蛇語使い
ハロウィーン直前。厨房とは離れた一室で『絶命日パーティ』用の料理を作る。このパーティ料理は腐っていたりしないと意味がないために、他の料理に被害が及ばないように、注文が入った時は必ずここで作る。誰も使わない地下牢だから俺以外には被害はない……はず。
数日後のハロウィーンの日、ミセス・ノリスが石になった。
スリザリン対グリフィンドールのクィディッチ試合の日。だいぶポッター夫妻が回復してきたので、コートからは見えないように観戦することを許した。
どこかでドビーがブラッジャーに細工したのは変わらないようで、一つがハリーばかりを狙っていた。
「おい僕を試合に出せあのブラッジャーを粉々に砕いてやる僕の杖はどこだ箒を持ってこい!」
「落ち着きなさい、ジェームズ。私だってあれを砕きたいけどね?これはハリーの試合なの。今は選手じゃないあなたが手出しすることじゃないわ」
ブラッジャーがハリーの腕に当たった瞬間、ジェームズが飛び出そうとしてリリーが軽く絞め落とした。この家族の力関係はリリー>ジェームズのようだ。
ハリーがスニッチを取った瞬間、気絶していたジェームズが飛び起きた。
「ギヴァー、カメラを貸してくれ!息子の勇姿を写真に収めるんだ!そしてパッドフットに自慢する!」
「落ち着いてください、ジェームズ様。絞め落としますよ?」
で、案の定ロックハートがやらかして、ジェームズとリリーがお怒りに。今手出しするのはまずいので、就寝時間の後に夜襲を仕掛けることを許しておいた。
翌日。ロックハート教授が無残な姿で発見されました。残念なことに生きていますが。
ロックハートが『決闘クラブ』とやらを開くことになった。ハリーも参加するようだと言ったら、ジェームズとリリーが見たいと言ったので、上の方にある隠し小窓から見ることに。
「ロックハートだったか?あの男は少なくとも実戦じゃ役に立たないな」
「ええ。決闘なんて、実戦だと全くないものね。『例のあの人』が時々見せしめにやったぐらいだったかしら?」
ロックハートが杖を上げた所で、夫妻はもう興味をなくしたようだ。
少しして、広間の真ん中にドラコ・マルフォイとハリーが出てくる。
「あれは……マルフォイのとこの坊ちゃんか?親父に似て嫌味なやつだ」
決闘が始まった途端、ドラコの杖から蛇が出る。そして、
自身のことがバレるのを厭わずにジェームズが出て行こうとした時、ハリーが蛇語を使った。翻訳魔法を作っていないので、なんと言っているのかはわからない。
「まさか、ハリーは
「そのようですね。恐らくは、『例のあの人』の力の一部がハリーに移ってしまったと思われます」
呆然とするジェームズとリリーに解説する。まさか、実の息子を恐れるなんてことはあるまい──と思っていたら、
「ハリーがヴォルデモートの力を奪っただって?凄いじゃないか!僕でもそんなことはできなかったぞ!?」
「ハリーに悪影響がないといいんだけど……ダンブルドアならなんとかしてくれるかしら?」
親バカだということが発覚しただけだった。
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バジリスク/秘密の部屋終了
二月。どこぞの無能がやったバレンタインの後片付けをすることに。俺は人間じゃないし、ロックハートに『服従の呪文』かけても罪にならないんじゃないかって思い始めた。罪になるからできないだけで、やっていいならやる。
ハーマイオニー・グレンジャーとペネロピー・クリアウォーターが襲われた。もうしばらくしたら、魔法具の仕掛けが発動するだろう。
バジリスクを移動させる場所は、ギリシャのとある島だ。認識阻害結界が張られた、地図に載っていない島。名付けるとしたら、『形なき島』ってところかな?バジリスクは蛇で魔眼持ちだし、ゴルゴーンになぞらえて。
調教が完了したらホグワーツに戻すつもりだけど。
あ、移動させる前にバジリスクの毒を絞っておかないと。日記への対抗策がなくなる。
ハグリッドがアズカバンへ送られ、ダンブルドアの停職が決まった。一縷の期待を込めて、ハグリッドに、ジェームズが撮った『スニッチをキャッチするハリーの写真』を持たせる。もしシリウスに会うことがあったら渡しといてくれと。
次の夜。こっそりとバジリスクの毒を絞り小瓶に入れる。グリフィンドールの剣が出てきたら、この毒瓶を壊させて毒を吸収させる。うまく行けば、これで日記を壊せるはずだ。瓶は、フォークスに持たせておいた。
ジニー・ウィーズリーが攫われたと連絡があった。
屋敷しもべ妖精達が混乱している間に、こっそりとギリシャの島へ〈姿現し〉する。うまく行ったようで、あたりを見渡すバジリスクがいる。
後ろからそっと近寄り、『服従の呪文』を付与した首輪をつける。ハリーのブレスレットと同じく、つけた者にぴったりの大きさになるので、うっかり外れることはない。おしゃれ……と言うか、アクセサリーとしても使えるよう、前に錠前が付いているデザインだ。……よくよく考えたら、束縛系のアクセサリーじゃないか。
バジリスクに体を伏せさせ、慎重にコンタクトレンズを入れ替える。バジリスクに使用した魔法具だ。
「我ながらよく考えたものです。側で見ても気づかれにくく、かつバジリスクが自ら外すこともない。それに、認識阻害の魔法をかけておけば魔眼を抑えることも可能なのですから」
今度のコンタクトは三重で認識阻害を付けている。石化どころか、麻痺すらしないだろう。
ただし、ホグワーツに対して敵対心を持つ者相手にだけ、認識阻害を二つ解除するようになっている。頑張ってホグワーツの結界に効果を追加して、結界と連動できるようにした。
ここまでの細工をできたのは、ロックハートが色々と注目を集めてくれたおかげだ。いやー、助かった。
ホグワーツに戻って秘密の部屋へ。ちょうど、トム・リドルとハリーが相対した場面だ。リドルはスリザリンの石像に向かっている。
リドルが何かを呟き、スリザリン像の口が広がる。リドルはハリーの方を向き、高笑いした。
「さあ、あいつを殺すがいい、バジリスク!■■■■■■!……おい、バジリスク?■■■■■?どうした、出てこい!……なぜいない!?」
遠くからパシャリ。うん、いい困惑顔。ハリーの方もいい困惑顔だ。
ここでハリー、グリフィンドールの剣を引き抜く。フォークスに差し出された瓶を剣で割り、一歩ずつ、リドルの方へ向かう。
「ま、待て!これは何かの間違いだ!そうだ、明日、明日までジニーを生かしておいてあげよう!だから今日は帰ってくれ!お願いだ!君も、バジリスクがいないと張り合いがないだろう?」
「ごめん、やれることはやれる時にやっておくべきだよね」
「本当に待ってくれ!これだと僕が咬ませ犬みたいじゃないか!いや、咬ませ犬どころの話じゃない。ただ自信満々に出てきて格好つけて大失敗しただけだぞ!?せっかくラスボス感出したんだぞ?あんまりじゃないか!」
「問答無用」
黒い日記に、ハリーが剣を突き立てる。
日記からどす黒いインクが溢れ出て、リドルは二重の意味で悲鳴をあげながら消えて行った。
その日の夜、ダンブルドア校長からの伝言です、とマクゴナガル教授が祝宴を開くと伝えに来た。
「これは、我々屋敷しもべ妖精一同が、全力を尽くして、これまで以上の美味しい料理を、これまで以上の量で作りあげるべきです。全員、得意料理を報告。同じ料理が得意な者同士で組んで、さらに高め合いなさい。どれも得意だと言う者は誰も作っていないものを!手が空いた者は交代でピーブズの見張りです!駆け足!」
翌日には、厨房には全力を出しすぎて、死んだかのように深い眠りにつく屋敷しもべ妖精の群が見えたとさ。
◇◇◇◇
「……お主、バジリスクをどこへ持って行ったんじゃ?」
「もう少ししたら、ホグワーツの守護者として戻すつもりです」
「いや、だから場所じゃよ」
「ギリシャの島です。誰も近寄る心配はありません。魔法具による認識阻害で、バジリスクの目を見ても死にも石化もしません」
「お主の発想は……生徒に被害はないのだろう?」
「もちろんでございますとも。私はできるしもべ妖精ですから」
「バジリスクが暴走する危険は?」
「『服従の呪文』を使った魔法具を着用させております。直接的な主人は私ですが、ダンブルドア校長先生にも命令権はもちろんございます」
校長室で、ダンブルドア校長と今回の事について喋る。バジリスクが学校に戻ることについては許可を得た。ついでに、ホグワーツの結界を弄ったことについては、少し怒られたが「しょうがないのう」と許された。
「ところでじゃが、ギヴァー。君はもうちとフランクに話しても良いと思うのじゃよ。わしは君の秘密を知っておるわけじゃし、ほれ、もっと砕けた話し方をしてみると良い」
「この喋り方以外無理なようです。丁寧語フィルターでも搭載されてるようでして」
「……丁寧語での毒舌は案外心にくるんじゃよ。それを浴びせられる者達のことも考えてやってくれ」
ギヴァーは必ず敬語/丁寧語で喋ります。砕けた話し方をするのはモノローグのみ。どのように喋っても丁寧語に変換されてしまうのです。
バジリスクで一番やばいのは魔眼。なら、眼を認識できないようにしてしまえばいい。ニックと言うフィルターだけで石化まで抑えられるのなら、コンタクトでも平気なはず。
ただし、コンタクトだとニックや鏡と比べて薄すぎる。これだとほとんど即死が軽減されず、せいぜい即死から悶絶死に変わった程度。
なら、コンタクト自体に認識阻害を付けることで、バジリスクの眼に認識阻害をかけてしまえばいい。
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脱走とリーマス・ルーピン
七月三十一日。
ホグワーツに届いた『日刊予言者新聞』を読みながら、ハリーに贈った誕生日プレゼントのことを考える。今年はお菓子の詰め合わせだ。喜んでくれるといいが……。
新聞には、小さな記事ではあるが、ウィーズリー一家がくじを当てたことについて書かれていた。写真付きだ。明日にはシリウスが脱獄した記事が一面に載ってるだろう。
八月一日。
やはり、シリウスの脱獄があった。その記事をジェームズ達に見せてみた。
「さすがパッドフットだ!とうとうやりやがった!くそう、僕も手伝いたかった、そうすればバレずに済んだだろうに!!」
「ジェームズ、あなた犯罪者になりたいのかしら?それはともかく……ギヴァー、教えてくれてありがとう。もしも、彼がホグワーツに来たらここでかくまってあげてくれないかしら……?」
「リリー、『もしも』じゃない、あいつは必ずホグワーツへやってくる。多分、あいつはまだワームテールを追いかけてるんだ。昨日の新聞を見ただろう?ほら、ワームテールが映ってる!これを見たんだろうね」
「ええ、私としてもシリウス様が冤罪のままなのは心苦しいです。ですので、精一杯の協力をお約束しましょう」
ジェームズは喜び、また貧血で倒れ込んだ。そろそろ学習してくれ。完全回復するのが遅くなるぞ?
八月四日。
漏れ鍋にいるレギュラス──今はレイナード・ノワールと名乗っている──から、ハリーが漏れ鍋に泊まることになったと連絡があった。やはり、マージは膨らませられたらしい。
そこの似た者夫婦、笑ってないでちゃんとご飯食べなさい。完全にあなたの遺伝じゃないか、ジェームズ。
数日後、
新任の教師──教えるのは『闇の魔術に対する防衛術』だ──がしもべ妖精達に挨拶に来た。その理由が…………『時々盗み食いに来るかもしれないから』。まったく…………時が経っても変わらないようだ、リーマスは。
「まだ君がいるとは思ってなかったよ、ギヴァー」
「貴方が、教師になるとは思ってもいませんでした、リーマス様」
「このご時世、人狼を雇ってくれるところなんか少ないからね……ダンブルドアには感謝してるよ。ところで、どこに向かってるんだい?」
今は、リーマスを隠し部屋に案内している。そして、十何年越しに、彼らは再会した。
「───プロングズ?まさか、本当に?それにリリーまで!?君たちは死んだはずじゃ……」
「ところがどっこい、生きてたのさムーニー!感謝ならギヴァーに言ってくれ、彼のおかげで助かったみたいだからね」
「久しぶりね、リーマス。積もる話もあるでしょうし、今夜はゆっくりしていきましょう?」
今日の彼らの夕食は、少しだけ豪華になった。
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吸魂鬼
ジェームズ、リリーとリーマスが再会した翌々日、リーマスは残りの自分の荷物を持ってくるためにロンドンへと戻って行った。今回は大きな荷物だけを持って来たらしい。おそらく、次に来るのは九月一日だろう。
彼を送り出した翌日、ダンブルドアから屋敷しもべ妖精全員に通達があった。シリウス・ブラック捕獲のために、アズカバンから
「万が一生徒に何かあった時、助けてやってほしい。それに、生徒が吸魂鬼と揉め事を起こさぬよう見張っていてほしいのじゃ。無論、できる限り見つからぬようにのう」
見つからないように、と言うのは、『そちらの方が面白そうだから』というダンブルドアの趣味と、屋敷しもべ妖精たち自身が、家事をしている様子を見られずに、こっそりと仕事をして驚かせたいという『小人の靴屋』的発想のためである。それにより、俺たちは生徒たちから尋ねられる以外は、基本的に姿を現わすことはない。
また、ダンブルドアは俺にだけ耳打ちをしてきた。
「…………もし、シリウスが来たら匿ってやってくれんかのう。彼は無実じゃと、ジェームズたちからも聞いた。無実の者を吸魂鬼に引き渡すなど、そんな道理は通らんからの」
「もちろんですとも。そもそも、ジェームズ様にもそう言われております。シリウス様を見つけ次第、ジェームズ様、リリー様の元へと案内いたします」
「うむ、頼んだ。
……………ケーキを一つ、頼めんかのう?」
「申し訳ありませんが、お菓子の食べ過ぎにより始業式まで甘味は禁止です」
項垂れるダンブルドアをよそに、俺はしもべ妖精たちに掃除の指示を与えていった。
九月一日。
いつもよりも少し遅れて、ダンブルドアから料理の合図が来た。
彼からの指示で、今回のデザートはチョコレートを多めにしてある。精緻に飾り付けられたチョコケーキに、トリュフなどの丸いチョコ、ホットココアも用意しておいた。それに、それぞれの寮の紋章を入れたコインチョコも。新入生たちにはコインチョコが人気のようだ。フレッドとジョージの『いつもおいてくれてたらいいのに』という声も聞こえた。
翌日、各寮のベッドメイキングに向かった。これも、毎日朝と昼、夕方の三回、生徒のいないタイミングでやっている。
ハリーのベッドを整えていた時、トランクから『怪物的な怪物の本』が見えたから、少しばかりこれを扱うアドバイスを書き残すことにした。
付箋を一枚本に貼り、『ペットが喜ぶことをしてみましょう』と書く。この本を無事に開ける方法は、『背表紙を撫でる』だったはずだ。たいていのペットは、撫でられると喜んだはず。問題があるとしたら、ハリーがちゃんとわかるかどうか…………ヘドウィグがいるし大丈夫だろう。
さて、あとは教師たちのベッドと、ポッター夫妻の料理、シリウスを迎える準備もある。少し時間を取られてしまったから急がなければ。
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