東方古神録~幻想幼女~ (しおさば)
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番外編
番外編/大晦日の出会いと悲しい別れらしい


どうだ!間に合ったぜ!!( ・´ー・`)ドヤァ


「……うっわ。さっむ」

 

肌を刺すような痛みを伴う寒さの中、霞は誰に聞かせるわけでもない独り言を呟いていた。

本日は大晦日。

博麗神社の掃除も(主に夢乃が)終えて、暇を持て余していた。

そんな中、夢乃に人里へと買い物を頼まれたのだ。

 

「霞様、申し訳ありません。お醤油がきれてしまいましたので、買ってきて頂けませんか?」

 

どこの世界を探しても、自らの祭神を買出しに送り出す巫女がいるのは、恐らく博麗神社だけだろう。

霞としては、コタツの中に潜り込んでいる二人の式神にでも行かせようとも思ったが。ごねられ、暴れられでもしたらその方が面倒だと判断し、結果この寒空の中人里へと向かっていた。

 

「あれ、師匠。どうしたんですか?」

 

人里についた頃、後ろから声を掛けられた。如何にも呑気そうな喋り方をするのは霞の二番弟子、紅美鈴。

彼女もまた、使いに出されたらしくその両手には数十人分は用意できるであろうという食材たちが抱えられていた。

 

「お前と同じ、使いっパシリさ」

「……さすが夢乃さんですねを師匠にそんなことさせられるのはそう居ませんよ」

 

かく言う美鈴は、先程から小刻みに震えていた。見れば彼女は防寒らしい防寒をしていない。と言うか、マフラー一つ巻いていない。

 

「……お前、寒くないの?」

 

「師匠が見た通りの状態ですよ」

 

どうやらクソ寒い様だ。チャイナ服の構造や材質なんて知る由もないが、少なくとも何処ぞの氷妖精でも無ければこの冬は超えられないだろう。

 

「しょうがない。奢ってやるから茶でも飲むか」

「善哉も付けてくれます?」

「……善哉だけじゃなくかき氷も食わせてやるよ」

 

大通りに面した一軒の茶屋。普段ならば幾人かの客がいるこの店も、今日は霞と美鈴の二人だけだった。どうやら世間は大晦日で忙しいらしい。

 

「いやぁー。流石に凍死するかと思いましたよ!」

「この季節にその格好の奴が悪いと思うが?」

「……こればかりは師匠にも責任があるんですよ」

 

思わぬ責任転嫁だと講義しようとした霞。しかし言葉は遮られた。

 

「おや、神条様。と紅魔館の門番。このような場所で珍しいですね」

 

遮ったのは金髪の美女。二つに先の分かれた帽子をかぶり、背後には髪と同じ金色に輝く九本の尻尾を携える。八雲紫の式神、八雲藍。

 

「藍か。俺たちはただの買い物だよ」

「師匠に逢引に誘われました!!」

 

聞く人が聞けば錯乱しそうな台詞を、何の気なしに口走る美鈴。霞はこの時ほど美鈴を弟子にしたことを後悔しなかった。

 

「門番。逢引と言うのなら、せめてもう少し服装をなんとか出来なかったのか。見ているだけで寒いぞ」

 

藍も信じたようだ。

 

「やめてくれ。頭痛の種はウチの式神だけで十分だ」

「私としては、そこに我が主人も加えてほしいのですがね」

「紫さんですか?」

 

八雲紫。この幻想郷で知らないものは居ないであろう、妖怪の賢者と呼ばれる存在。

そんな彼女も、冬の間は冬眠をする。

スキマ妖怪という種族的に果たして冬眠が必要なのかは甚だ疑問ではあるが。それでも現状、紫は冬眠をしている。

その間の幻想郷の管理は式神の藍が代理を務める。

 

「紫がどうした?」

「……冬眠前に、この冬を超えられるだけの用意した食料を食べてしまったんです」

 

「……アイツ、そんなに食うのか?」

 

藍の頭にはそれが可能な人物が思い浮かんだが、今回の事には無関係だろうと頭の中から追い出した。

 

「私が所要で少しの間家を離れていたあいだに……」

「それが本当ならば、アイツの認識を改めなきゃいけないな」

「暫く見ない間に沢山食べるようになったんですねぇ」

 

紫は霞の一人目の弟子になる。つまり美鈴にとって兄弟子ならぬ姉弟子。

 

「その為に今はまた買い出しをしなくてはならなくなりまして」

「どこもかしこも計画性がないのか。この幻想郷は」

「返す言葉もございません。なので申し訳ありませんがこれで失礼します」

 

そう言うと藍はそそくさとその場を跡にした。最後に見たのは尻尾を嬉しそうに振りながら豆腐屋に入っていく後ろ姿。

 

「……あれ、絶対油揚げ買うな」

「きっと1枚や2枚じゃないですね」

 

そんな話をしていると、外で何かが崩れるような大きな音がした。

 

「な、なんだ?!」

 

慌てて外に飛び出すと、そこには恐らく重さに耐えきれなくなったのだろう、壊れた荷車とそれを見て呆然とする一人の少女がいた。

緑色のベストとスカート。赤色のマフラーを首に巻いた銀髪の少女。それだけならば別段不思議なことではないが、少女の隣に薄らとだが何かが浮いていた。雪で白く染まった人里ではより見えにくいが、確かに何かが浮いている。

 

「どうしたんだ?」

「えっ?あ……、荷車が壊れてしまって」

 

地面にはどう考えても一人で運ぶには多すぎるだろうと思われるだけの食材が散乱していた。

 

「これを……一人で?」

「流石に無茶ですよ」

 

普段紅魔館で酷使されている美鈴でも、かわいそうに思えてくるほどの量。

それを荷車があるとはいえ、一人でなんて無理だろう。

 

「あ、でも家はココから近いので。荷車さえあれば何とかなるんですよ」

「その荷車は壊れたけどな」

 

トドメを刺されたかのように崩れ落ちる少女。

少しばかり可愛そうになった霞はその場で荷車を治してあげることにした。

両手を合わせ某錬金術師よろしく、新たな荷車を創造する。

 

「……え、えぇ?!」

「サービスで荷車を引く牛もつけてやるよ」

 

創造神の霞が創り出したのは、壊れた物とは比べ物にもならない程の頑丈さを誇る荷車。霞の霊力でコーティングされ、凡そどんな衝撃・重さにも耐え切る代物だ。

 

「あ、あの。ありがとうございます!!」

「んにゃ礼には及ばんよ。それにしてもかなりの量を買ったんだな」

 

落ちている食材を再び荷台に乗せながら、霞は見渡す。

計5人暮らしの博麗神社でも、この量があれば冬だけじゃなく春も当分は持ちそうな程だ。

 

「えぇ、ウチの主人がよく食べる方なので」

「いや、限度があるだろコレ」

「先日もご友人の家に行って、そこの備蓄を根こそぎ食べてしまったらしいんですよ」

 

いったいこの少女の家のエンゲル係数はどうなっているのか、少し考えたが怖くなって辞めた。

 

「本当にありがとうございます。このご恩はいずれお返し致します」

「いやいや。そこまで気にしなくてもいいよ」

「ですが……」

「それに、早く帰らないとその腹ぺこ主人が待っているんじゃないか?」

 

時計を見た訳では無いが、夕餉を準備するにはいい時間だろう。日も西に落ちかけている。

 

「そ、そうですね。ではこれで失礼します」

「うむ。気をつけて帰るんだぞ」

 

そう言って少女へ人里の外れへと消えていった。

残されたのは霞と美鈴。

二人はしばらくの間言葉を発しなかったが、顔を見合わせ、同時に呟いた。

 

「「あの子の家の家系が心配だ(ですね)」」

 

 

 

-----

 

「妖夢〜!遅い〜!!」

「も、申し訳ありません幽々子様。いま、夕飯の準備をしますので」

「急いでね〜」

 

屋敷についた少女--妖夢は食材を抱えて台所へと入っていく。広い屋敷の中で住んでいるのは妖夢と、その主人である西行寺幽々子だけだった。

 

「あら、妖夢。この牛はどうしたの?」

 

屋敷を出る時には無かった牛が荷車を引いていることに気が付いた幽々子は、台所で包丁を手に目にも止まらぬ速さでキャベツを千切りしている妖夢に訊ねる。

 

「あぁ、それは親切な方が-「美味しそうね!」荷物を……えっ?」

 

見れば指をくわえ、牛から視線を外さない幽々子がいた。

牛も何かを察したのだろう。じわりとだが幽々子から距離を取ったように見える。

 

「……ステーキでいいですか?」

「しゃぶしゃぶも捨てがたいわ!!」

 

 

 

その後、その牛の姿を見たものはいないという。

 

 

----

 

「霞!遅いわよ!!」

 

その頃霞は、何故か式神の姫咲とルーミアに怒られていたという。




本年もご愛読ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。

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1章/春が来ないらしい
1話/古い神様の話は続くらしい


はい、お久しぶりです。

再度言います、こちらは「東方古神録」の続編です!!


side ??

 

世界は夜の帳に包まれた。

寝静まった住宅街に、1人の男の叫びが木霊する。

その声は悲愴に満ち、恐怖に彩られ、絶望を孕む。

「な、なんなんだ!!」

その声に、誰も答えない。目の前まで迫るのはもはや人間とは呼べぬ存在。開ききった瞳孔に、剥き出しになった犬歯は、牙と言っても差し支えないだろう。

 

「お、俺が何をしたって言うんだ!!」

 

彼は何もしていない。

強いて言うならば、迫り来る恐怖の前にその姿を見せてしまった事。

目の前に差し出された獲物を前に、獣が大人しくしている道理は無い。

 

突き出された腕に、男は抵抗虚しく貫かれる。

吹き出す血の濁流。一瞬にして周囲は赤く染められ、その部分だけ日常と切り離される。

獣は吼える。不気味なまでに輝く月に向かって。

 

 

 

「うん。もうココには用は無いかな……」

 

惨劇を一部始終、静観していた。

獣と餌の、何の変哲もない狩りの様子。しかしそれは、僕の心を僅かばかり潤す結果となった。

人間の流す血とは、なんでこんなにも美しいのだろう。

人間の奏でる叫びとは、どうしてこんなにも心地よいのだろう。

 

理由なんてわかってる。

 

それは僕の心が狂っているから。甘美な狂気に心を奪われ、既に「人」としての心なんて、捨て去ってしまったのだから。

何時からだと聞かれれば、きっとあの日だろう。

唯一残っていた良心が、突如として目の前から消え去ってしまった瞬間。

心を留めていた楔が、解き放たれてしまったのだ。

 

良心という檻から、化物が解き放たれてしまった。

もうその轡は手から離れる。ならば化物の好きにさせよう。きっとその先に、良心は居るはずだから。化物の好きにさせよう。

 

「そうか、次はそこに行きたいんだね」

 

化物の次の獲物は、もはやこの世界には居ないようだ。

 

「うん。わかったよ……。次は……幻想郷なんだね……」

 

化物が疼く。その世界にきっといるんだね。

僕の良心。

 

()が。

 

 

 

 

 

-----

side 霊夢

 

鈍色に染められた雲から降り注ぐ白い氷の結晶は、博麗神社の境内を1面の銀世界へと変えてしまう。

こうなってしまっては、当分は参拝客なんて見込めるはずもなく、私は温められた部屋の中で寛ぐことしか出来ずにいる。

 

「いや、雪だけが原因じゃないだろ」

 

いつもの如く私の家に入り浸る白黒魔法使い-霧雨魔理沙は、勝手に炬燵に入り蜜柑を剥いていた。

 

「煩いわね。今日はたまたま(・・・・)誰も来ないだけよ」

「……寝言は寝て言うもんだぜ」

 

第一、アンタもここを利用するなら賽銭くらい入れなさい、と叶うはずもない文句を言いたくなる。

ここのところ、週に3日は魔理沙の顔を見ている気がする。友達いないのかしら。

 

「ここは居心地が幻想郷一良いからな」

 

否定は出来ない。

他の家を見た訳では無いけれど、恐らく他所よりは快適にこの冬を過ごせる場所だろう。

炬燵に、えーとなんて言ったかしら。この温かい風が吹き出るやつ。「エアコンだった筈だぜ」

そう、それがあるせいで私はこの部屋から出られないで居るのだから。

それ以外にも、今は使っていないけれど床暖房なんて物もあるわけだし。

 

「ほんと、至れり尽せりだぜ」

 

それもこれも、隣で座布団を枕に寝転がっている神様のお陰。

あんまり認めたくはないけれど。これでもこの世界を創り出した、創造神なのだから。

 

「……この文々。新聞ってのは、天狗が作ってるんだっけか?」

「そうだぜ。まぁ、殆どが嘘っぱちのデタラメ新聞だけどな」

 

今朝届けられた新聞を読んでいた神様-神条霞(かみじょうかすみ)さんは、反動をつけながら起き上がる。

 

「俺の知ってる天狗ってのは、気の小さな奴だったんだけど。時代は変わるもんだな」

「アナタが言うと説得力あるわね」

 

なにせ創造神なのだから、この世の誰よりも長生きなわけで。その分、歴史を知っている。

なんでそんな偉い神様がここにいるかと聞かれれば、ここの祭神だからとしか言えない。

私も、最初に聞かされた時は信じられなかった。紫は知っていたはずなのに、何も教えてくれなかったし。何より、この人が神様だなんて信じられなかった。

だって、ココ最近の霞さんの行動を思い出せば、神様らしいことなんて何もしていない。

寒いからと言って神社から1歩も外に出ないし。かと思えば、ほんの小さな異変にすら興味本位で顔を突っ込む。

創造神でありながら、『自由』を司る神。なるほど、自由奔放だ。

 

「……ってか、いい加減認めないか?」

 

向かいの魔理沙が蜜柑を頬張りながら話す。

何を認めろというのだろうか。

 

「いや、暦をみてみろよ!明らかにこの冬は長すぎるだろう!!」

 

壁に掛けられた暦は、卯月になっている。

うん。少し(・・)長いかもしれない。

 

「いや、少しどころじゃないぜ。とっくに花見の季節じゃないか」

「……異常気象ってこの事を言うのね」

 

確かに長いかもしれない。でも、ただ長いだけだ。決して異変なんかじゃない。

 

「……どうあっても認めないのか」

 

そう言うと魔理沙は立ち上がる。

壁に立て掛けていた箒を手に取り、外に繋がる障子を開いた。

 

「ならこの異変は私が解決する。博麗の巫女はそこで大人しくダラケてるんだな!!」

 

そう言い残し、魔理沙は空へと飛び立っていった。

……せめて閉めていってほしかった。

 

「あれ?魔理沙さんは帰ってしまったのですか?」

 

入れ違いで入ってきたのは夢乃さん。何を隠そう、初代博麗の巫女である。

どういう原理かは知らないけれど、昔ある事がキッカケで不死になってしまったようだ。

 

「せっかくお昼にお蕎麦を作ったのですが……」

 

お盆に乗せられた六つのお蕎麦は、湯気を燻らせている。

 

「しょうがない。これから来る(・・・・・・)奴に食べてもらおう」

「??」

 

霞さんの言葉に疑問を覚えつつも、私は夢乃さんの作ったお蕎麦に舌鼓を打つ。うん、美味しい。

 

「そう言えば、アイツらは?」

 

そう言えば今日は静かだ。この家の住人は全部で5人。私、霞さん、夢乃さん。そして霞さんの式である2人。

 

「お腹が空いたのかー!!」

「アンタはさっき、私の団子を食べたでしょうが!!」

 

そんな騒がしい声と共に、2人の幼女が現れた。1人は白と黒の洋服に身を包み、頭に赤いリボンの様なものを付けた娘。名前をルーミア。

もう1人は赤い着物に、頭には1本の角が生えている娘。名前を鬼ヶ原姫咲。

この2人が霞さんの式。時々思う、霞さんは幼女趣味なのだろうかと。

 

「霊夢。お前、いま失礼な事考えてたろ」

「まさか。気のせいじゃない?」

 

まぁ、この2人の姿は、本来のものじゃない。2人とも恐らく幻想郷でも一二を争う強さを持つ妖怪なのだ。

少なくとも、私は相手をしたくないと思ってしまうほどには。

ルーミアは、太古の昔から生きる「常闇の妖怪」と呼ばれる大妖怪だし。

姫咲は全ての鬼の祖とも言える「鬼子母神」。そんな2人を式として扱える霞さんも、異常と言える。

流石創造神だ。

 

「あら、お昼だったかしら」

 

余計なことを考えながらお昼を食べていると、障子が開けられた。

そこに立っていたのは紅魔館のメイド。十六夜咲夜。

青を基調としたメイド服に白いコートを羽織っていた。

 

「アンタらは、私の家で勝手しすぎじゃない?」

「賽銭箱の前でいくら呼んでも顔すら見せない方が悪いわ」

 

どうやら食事に意識を集中させすぎていたのか、咲夜の来訪にも気が付かなかった。

 

「嘘つけ、一言も喋らずにここに来たくせに」

「あら、流石に創造神様にはバレてしまいますか」

「……悪いが、気がついてないの霊夢だけだから」

 

私以外は気がついていたらしい。なんとも悔しい。

 

「で、なんの用よ」

「お嬢様からの伝言よ。博麗の巫女はいつまでこの異変を静観しているのか、とね」

 

あのカリスマ(笑)吸血鬼め、余計なことを。

 

「このままだと、暖炉の薪も底をつきそうなのよ」

「準備を怠ったそっちが悪いんじゃないの」

「そうね。私の予想を超えた冬の長さなのはしょうがないけれど、このままだと紅魔館の全員がこの博麗神社にお世話になるわよ」

 

この性悪メイド。ここが幻想郷で1番居心地良い場所だと知っているからか、あの館の全員で押しかけるつもりらしい。これ以上、私のプライベート空間に入り込まれてなるものか。

タダでさえ今でも多いというのに。

 

「……はぁ。分かったわよ。やればいいんでしょ!!」

 

箸を置き、立ち上がる。この寒い中外に出るとか、億劫にも程がある。それにこの異変を解決したくない理由は他にもあるのだけれど……。それを鑑みても、紅魔館の連中がここに居座られるよりはマシか。

 

「まったく。この異変の犯人はただじゃ置かないわ」

 

そう言いながら、私は空へと浮かぶ。空は相変わらず曇り、不気味なほど静かだった。




と、言うわけで春雪異変!!

あの方も登場しますよ!!

夢「咲夜さん、お蕎麦食べます?」
咲「あ、はい。頂きます」

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2話/八雲一家の冬らしい

とりあえず、書けるだけ書いちゃうかな……。


side 霞

 

長く続く冬。あきらかに異変と言えるだろう。

我らが博麗の巫女は、ようやくその重い腰を上げ、解決へと乗り出した。

まぁ、霊夢が動くのならば恐らくは解決できるだろう。何時ぞやのような、俺でしか解決出来ない異変とほ思えないし、その気配もしない。

俺は炬燵へと潜り込み、天板に顎を乗せる。

一向に暖かくならない季節は、ここ数日の降雪を促す。

暦の上では既に卯月、四月になっているのだから、そろそろ花見をしながらの酒と洒落こみたい所なのだが。

 

そう言えばこの寒さの中、紫は何をしているのだろうか。

確か、冬の季節は冬眠をしているはずだが、これだけ長い間冬眠なんぞしていたら、幻想郷の管理にも支障を来すのでは?

俺は気になったので紫の家を尋ねることにした。

 

ワームホールを創り出し、抜けるとそこには純和風の屋敷が建っていた。

辺りは木々に囲まれ、容易にはココが何処だか分からない。

門を潜れば広い前庭があり、小さいながらも池なんかもある。紫のくせに立派な家に住んでるもんだ。

どれもが雪で覆われ、白一色になっているが、春になれば美しい花々が咲く、良い景観だろう。

玄関を開き、声をかける。

 

「ゆ〜か〜り〜!遊びましょ〜!!」

 

暫くして出てきたのは割烹着に身を包んだ金髪の美女。背後に髪色と同じ、金色の尻尾を揺らしながら、紫の式八雲藍が出迎えてくれた。

 

「か、神条様?!どうされましたか?」

「おぅ、藍。紫はどうしてる?」

 

客間に案内されると、「少々お待ちください」とだけ告げて、藍は奥へと戻っていった。

転生する前もそうだったが、他人の家に行って一人にされると落ち着かない。勝手に何かいじる訳にもいかないし、だからといって寛ぎ過ぎるのもどうかと思う。

いくら弟子の家だとはいえ、最低限の礼儀は弁えなければ。

俺は炬燵で蜜柑を頬張りながらそんなことを考えていた。うん、甘い。

炬燵に足を突っ込むと、中に柔らかく丸いものが幾つかある。なんだ、この家は猫でも飼っているのか。

そう思い炬燵をめくってみる。

何を隠そう、俺は生粋の猫派だ。一目猫を見れば、周りが引くくらい愛で続けるぞ。

 

「どれどれ、猫はどこかな〜?」

 

「……Zzzz」

 

ゆっくりと炬燵を戻す。ん?なに?

確かに猫は居た。ミケからブチまで。それぞれが丸くなって可愛く眠っていた。それは良い。一瞬だが俺の心も綻んだ。問題はそこじゃない。

 

あの娘誰?!

なんか猫達の中心で丸くなって幼女が眠っていた。あれか?紫が何処かからお持ち帰りしちゃったのか?!

 

「神条様、お茶をお持ちし……どうしました?」

 

タイミング良く藍が入ってくる。俺は驚きを隠せない顔をしているのだろう。俺の顔を見て藍も驚いていた。

 

「な、中に幼女が……」

「え?……あぁ……」

 

何かに気が付き、藍は炬燵の中に手を突っ込む。数匹の猫が驚いていて中から飛び出してきたが、藍の手には先程の幼女がぶら下がっていた。

 

「これは私の式で、橙と申します」

 

まだ眠いのか、目をコシコシと擦りながら大きな欠伸をする幼女。

見れば頭には猫耳が付いているし、尻尾も生えていた。

つまり猫の妖怪か。

 

「ん?藍って紫の式だよな?」

「はい」

「その藍の式?」

「そうです」

 

式の式ってなんだよ。ペットがペット飼うようなもんじゃね?ニュアンスが違うかもしれないけれど。

しっかりと目を覚ました橙は、床に飛び降り、辺りを見回す。状況確認らしい。

 

「おはようございます!藍さま」

「あぁ、おはよう橙。今はお客様がいらっしゃっているからね、そちらにもご挨拶しなさい」

 

そこで俺に気が付いた橙は、向き直り良い笑顔を見せた。

 

「はじめまして、橙は『橙』と言います!!」

「あ、あぁ。神条霞だ、よろしく」

 

なんとも腑に落ちないが、言ってもしょうがないだろうと諦める。

まぁ、藍程の妖力があれば、式を持っていても不思議はないのかもしれない。

 

「それで、紫は?」

「……申し訳ございません。紫様は未だに眠ったままです」

 

予想通りの答えが帰ってきた。アイツの冬眠は、暦でのものではなく、気温によるもの。つまりは動物達と同じだと言うこと。夏になろうとも、寒ければアイツは「冬眠」を貫くだろう。

しかしながら、幻想郷の管理はどうするんだ。現に今、異常気象という異変が起こっているのだが。

 

「それに関しては、私が代行しておりますので」

 

なんとも、弟子が苦労かけるな。

それにしても、寝すぎではないだろうか。いくら寒いからと言って、とっくに春なのだ。そろそろ起きてもらわなければ。

 

「起きてもらうか」

「……お願い致します」

 

藍もほとほと困っていたらしい。管理を任されているとはいえ、紫でなければ処理できない問題も多少はあるだろう。それが積み重なれば、幻想郷にとって宜しくはない。

 

膝に座っていた橙を横に降ろし、俺は立ち上がる。ってか橙は俺に懐きすぎだろう。一応、初対面だぞ。

藍に案内され、紫の寝室へと向かう。幸せそうに眠っている紫を見ると、何故か腹が立ってきた。

多少手荒に扱っても良いだろ。良いよな?

返答の無い問を心内でしながら、俺は左手を紫の頭に添える。

俺は左手で触れた者に夢を見せることが出来る。細かい指定をしなければ、どんな夢になるか俺にも分からないが、今回は違う。

トラウマものの夢をじっくりと見てもらおう。

 

次第に苦痛の表情を見せる紫。

よっぽど恐ろしい夢を見ているのだろう、可哀想に。

言葉とは裏腹に、恐らく俺は悪い顔をしていたのだろう、橙が少し怯えていた。

 

暫くして、紫は勢い良く飛び起きた。冷や汗をかき、目の焦点も定まってはいない。

 

「おう、起きたか紫」

「……へぇ?!し、師匠?!」

 

 

 

 

 

 

「いくら師匠でも、あれは酷いと思います」

「暦見てみろ。こんなになるまで寝ている方が悪い」

 

半纏を着込み、炬燵に潜る紫。その姿からはいつもの妖艶さは微塵も感じられなかった。

 

「うぅぅっ、寒いですよ」

「いや、だから異変なんだろうが」

 

なんか、紫を起こしに来るまでですげぇ疲れた気がする……。

 

 

 

 

「そうだ、丁度いいです。師匠に紹介したい人物がいるんですよ」

「紹介したい?」

 

唐突に思い出した紫は、ポンと手を叩く。

どうでも良いが、半纏が似合わないな。

 

こう見えて、紫は交友関係が広い。少なくとも幻想郷で知らない人物は居ないし、もしかすると現世でも顔が知られているのではないだろうか。

そう思ってしまうほどには、意外なまでに知り合いが多かった。

冬になれば引きこもるのに……。

 

「紹介したいのは、冥界の管理人なんです」

 

冥界、という言葉に少し身構える。

以前起きた異変を解決した際、地獄と冥界には多大なる迷惑をかけてしまった。その事から、僅かばかり苦手意識が芽生えている。

 

「私の長年の友人でして」

「……紫に友達っていたのか……」

「師匠、流石に失礼ですよ」

 

まぁ、異変は霊夢達に任せてあるし、問題は無いだろうから、俺は暇なわけで。

 

「なら、こないだの詫びも兼ねて冥界に行ってみるか」

 

こうして、俺たちは一路冥界へと向かうことになった。

そこであんな事が起きるとは思いもよらずに。

 

 

「師匠、変なフラグを建てないでください」

 




八雲一家、嫌いじゃないぜ!!

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3話/夏に冬の話は書きにくいらしい。

はい、サブタイトルは思いっきり作者の愚痴です!!


side 魔理沙

 

タンカを切って博麗神社を飛び出したはいいけれど、今になって無謀だったと思う。なんせ今も、考えなしに空を飛んでいるのだから。

何度目かの深いため息を吐きながら、私は人里までやって来た。ここならば、何かしらの情報を得られるんじゃないかと僅かな期待をしていたからだ。

だけどそんな淡い期待は降り立った瞬間に消え去ってしまう。なんせ人影が全くない。

いつもなら、昼時ともなれば賑わいを見せる大通りですら、白く染められ住人達は家の中に引きこもってるんだろう。寧ろ、こんな寒空の下外に出ている方が頭おかしいんじゃないか?

自分の事を棚に放り投げ、それでも私は積もった雪をかき分けながら歩く。もしかすると誰かいるかもしれない。そんな一縷の希望に賭けてみるのも悪くは無い。

「いや、んなわけないだろ」

自分の考えに自分でツッコミを入れる。こんな時、霊夢が居ればジト目ながらも心地よいツッコミを入れてくれるのに。

硬く閉ざされた戸が並ぶ通りを抜け、とうとう人里の反対側の入口まで来てしまった。ここまでに出会った人間はゼロ。なんとも泣きそうになる。でも泣かない、悔しくなんかないんだぜ!!

少し潤んでしまった目を空へと向ける。鈍く染められた雲が覆い尽くした空は、また白い結晶をチラホラと注ぎ込む。あ、ダメだ。泣くの我慢出来ない……。

 

ふと、そんな空を一つの黒い影が横切ったように見えた。それはボヤけてしまった視界で見た幻か、はたまた寂しがり屋な私が見せた妄想か。

慌てて目を擦り、もう一度空を見る。

間違いじゃない。確かに居た。それは夢でも幻でもなく、ましてや鳥でしたなんてオチもない。明らかに人の形をした何かだった。……多分、鳥だったとしても追いかけていたと思うが、それは胸の中に閉まっておこう。

私は箒に跨り後を追う。やっと会えた人間(?)なんだ、せめて話をするくらいは良いだろう。欲を言えば、ソイツがこの異変の情報を何か持っていることを願うが。つーか、情報なんてどうでもいいから、せめて少しでもこの寂しさを紛らわせたい。

 

「おーい!そこのお前!!止まれー!!」

 

大声で呼びかけると、ソイツは気が付いたのか動きを止めて振り返る。

近づいてみると、ここいらでは見かけない少女だった。青いワンピースに白い肩掛け。手には1冊の本を大事そうに抱えた、金髪の少女。うん、少なくとも言葉は通じそうだ。

 

「……誰かしら?」

「おう、私は魔理沙。普通の魔法使いだぜ!!」

「……そう」

 

それだけ言って再び飛んでいこうとする。いやいや、せめて名乗ったんだから名乗り返せよ。

 

「貴女が名乗ったからと言って、私が名乗る義理はないわ」

「義理はなくとも礼儀はあるだろ?」

「……アリスよ」

 

アリスと名乗った少女は、先程から目線を合わせようとしない。あれか?恥ずかしがり屋なのか?

そんな態度を取られたら、意地でも目線を合わせようと思うのは普通なはず。……普通だよな?

逸らされ下を向いている視線の先に身体ごと移動する。それに気がついたアリスは、今度は反対方向を向こうとする。それにも私は回り込んで視界に入ろうと潜り込む。今度は上。下。右。左。

 

「もう!何なのよ!!」

「お前が人の目を見て話さないのがいけないんだろ!!」

 

そこで気付く。コイツ、こんな寒空の下で何してたんだ?

こんな寒い中外に出るなんて馬鹿のすることだぜ。

 

「そっくりそのままお返しするわ。そのセリフ」

「私は別に良いんだよ!それよりもアリスは何してたんだ?」

「別に」

 

頭の中で『沢尻エ〇カかっ!!』とよく分からないツッコミが聞こえた気がしたが無視する。

どうも怪しくないか?もしかして、コイツが今回の異変の犯人なんじゃないか?

そんな事を思い始める。そうなると止められない。頭の中ではもう既に、アリス=異変の犯人って等式が成り立っていた。証拠?そんなモンいるのか?

 

「……お前がこの異変の犯人だな?」

「……ねぇ、腕の良い医者を紹介しましょうか?」

 

ほら、会話が成り立っていない。これは益々怪しいぜ。

 

「問答無用!弾幕ごっこで勝負だ!!」

「……せめて会話する意思を見せなさいよ」

 

私はポケットからミニ八卦路を取り出し、少し間を開け、飛びながらも弾幕を張る。アリスはため息を吐きながらも、それらを避けていく。

 

「……だから他人と関わるのは嫌なのよ」

 

そう言ってアリスは懐から2体の人形を取り出した。それぞれ体の大きさに合わせた槍のようなものを手に持ち、アリスが魔力を込めると、まるで意志を持ったかのように動き出す。

 

「咒符『魔彩光の上海人形』」

 

スペルカードの発動と共に、二体の人形はアリスの周りを回りだした。

規則的に円を描き、大きな円だと思えば、小さな円だったり。

それだけならばタダの面白い人形劇で終わるんだけどな。

人形はそれぞれ弾幕を張る。それらもまた円を描き、幾重にも重なった円は幻想的で綺麗だった。

 

だけど……。

 

「簡単にはやられないぜ!!魔符『スターダストレヴァリエ』!!」

 

ミニ八卦炉から無数の煌めく星を放つ。

アリスの弾幕とぶつかり弾けると、私は一気に間合いを詰める。こいつは霊夢と同じような小手先が器用なタイプ。私の最も苦手とする相手だ。ならばさっさと終わらせるに越したことは無い。

 

「接近戦なんだぜ!!」

「……もう帰りたい……」

 

雪がちらつく中、2人の勝負はまだまだ始まったばかりだった。




ウチの魔理沙はとてつもなく書きにくい。
寂しがり屋なワガママ娘って感じ。

お父さん、そんな子に育てた覚えはありません!!

魔理沙「育てられた覚えもないぜ!!」

感想お待ちしております
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4話/紫の友達らしい

はいどーも。しおさばです。

お待たせしました。続きです!!


side 紫

 

彼女と出会ったのはいつの事だっただろう。

アレは確か、師匠の元を離れてすぐの事だったかしら。

 

「アナタはだぁれ?」

 

大きな屋敷に咲く桜を眺めていると、不意に声をかけられた。

振り返れば美しくも儚げな少女が立っていた。

 

「綺麗な桜ね」

 

そう、まるで桜の様だった。

触れてしまえばその花を散らし、眺めているだけで満足してしまう。そんな感想が彼女の第一印象。

 

「アナタは悪い幽霊?」

 

「幽霊じゃないわ。妖怪よ。善悪は別だけど」

 

それから私は、毎年春になればこの屋敷に足を運んだ。そのうち、春以外にも訪れるようにもなったけれど。

 

彼女の名前は西行寺幽々子。

この屋敷に数人の小間使いと共に暮らしているという。

こんなだだっ広い屋敷で寂しくはないのだろうか。

 

「寂しくはないわ、だってアナタがこうやって遊びに来てくれるんだもの」

 

なんて普通ならば恥ずかしいような台詞を平気で発するような。

彼女と話をしていると、コチラが赤面してしまうような時がある。彼女にしてみれば、意識せず普通に思ったことを話しているだけなのだろうけど。

 

意外だったのは、彼女の食欲だった。

初めて食事に誘われた時は、私以外に誰か客でも来るのかと問うた位だ。

机いっぱいに並べられた料理の数々。私と幽々子の二人では到底食べ切れるはずがない。小間使いを含めたとしても、数十人単位で宴会が出来るほどの料理を、用意する必要はない。

そんな心配は、数分後には杞憂に終わった。

次々に口へと運ばれる料理。いったい何処に入るのか。もしかして私と同じような能力でも有るのだろうか。胃袋辺りにスキマでも作られているのだろうか。

そんな感想を持った。

 

「ちょっと足りないわね」

 

食後に放った一言に、私は驚愕を通り越してドン引きした程だ。

 

 

 

それから何年かたった頃。

彼女の周りで異変が起こった。

 

最初は屋敷にいた小間使いの人達。

次いでよく屋敷を訪れていた客。

それらが次々と死を迎えていた。

それは自殺だったり、病死だったり。理由はそれぞれだけれども、原因は分かっていた。

 

『死を誘う程度の能力』

 

元々は『死霊を操る程度の能力』だったものが、時が経つにつれてそのカタチを変化させる。

ただ単相手に死を与えるだけならば何も恐れることはない。自制をすれば済む話だ。

 

問題なのは、それが無意識がで無差別に発動する事。

唯一屋敷で生き残っていた庭師の男に聞いた話では、日に日にその効力は強まっており、それに本人は気が付いていた。

 

能力の持ち主、西行寺幽々子は庭にある桜の大木が満開になったある日、木の下で自らに刃を突き立てた。

 

 

 

私には、声を大きくして言うことではないが、友達と言える存在が少ない。いや、少ないというよりはいないと言っても良いだろう。

師匠ほ元より、美鈴は妹弟子だし、姫咲さんは友人と呼ぶには何か違う。

そんな私が唯一と言って差し支えない友人を亡くすという事が、どれ程の衝撃だったか。

人間の死には慣れているつもりだった。妖怪と人間。狩る側と狩られる側。私ですら、生きていくために人間を殺したことだってある。

それでも、そんな妖怪である私でも、『友人』の死には耐えられなかったらしい。

 

 

 

涙も枯れ果てた頃。

彼女はひょっこりと姿を表した。

何事も無かったかのように、何があったかも分からないように。

 

 

 

「彼女の能力は稀有であり、再び同じ能力が現世に現れるのは何十年、いや何百年後かも分からない。ならば輪廻を外れ冥界の管理を任せるべきだと判断しました」

 

後に閻魔から聞かされた話。要は死体に鞭打つ所業というわけだ。

 

「私個人としては、彼女の苦しみを考え、自刃という悪行に対して酌量したつもりでもあるのですがね」

 

コッチは裁判所を離れ、酒の入った閻魔から聞き出した言葉。

 

どちらにしろ、彼女は記憶を失い再び私の目の前に立っている。

また一から関係を築く必要はあったが、そんな事はどうでも良かった。

亡霊となり、人間の寿命という楔から離れ、初めて妖怪の私と共に生きる事が出来る。それが何よりも嬉しかった。

 

 

 

----

 

「そうして彼女は今も、この幻想郷で冥界の管理を行っているのです」

 

ひと通りこれから紹介する友人の事を師匠に話終える。

本当ならばもっと語りたいことはあるのだが、それよりも直接会ってもらう方が早い。

 

「ふむ」

 

師匠は聞き終えると何か考え、一人納得する。

 

「つまり、お前はコミュ障だと?」

 

「今の話にそんな表現ありました?!」

 

 

 

----

side ??

 

結界というのは厄介なものだ。

 

『外』から『内』を守るために存在するそれは、視認するだけでも本来ならばできるものでは無い。

でも、僕は運がいい。

つい先日、『内』で何が起こったのか、一部の結界が緩んでいた。それはほんの些細な綻びとも呼べないほどの揺らぎ程度の緩み。それでも、僕の能力を使いさえすれば、そんな綻びだけで十分だった。

 

そうして、僕は内側へと入り込むことが出来た。

 

外側は探し尽くした。

後は内側だけだ。

 

「ここに居るんだろう?僕の可愛い妹は……」

 

さぁ、始めようか。妹を探すために、何もかもを犠牲にしてでも。

 

例え、それでこの『幻想郷』が無くなったとしても。



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5話/冬の人形劇らしい

さ、今年最後の投稿だぁ!!


side 魔理沙

 

「くそっ!ちょこまかと!!」

 

私の信条は一撃必殺。弾幕はパワー。

1発でも当たれば倒せる自信があるけれど、それも当たればの話。

さっきからアリスは動き回って尽く私の弾幕を避けていく。それだけならば普段霊夢と弾幕ごっこをしている時と変わらないんだけど。

アリスの周りをうろちょろしている人形が鬱陶しい。

時には弾幕を避け、時には盾で弾幕を逸らす。人形に集中すればアリスからの攻撃を受けそうになるし、アリスに集中すれば人形への対処がおざなりになる。

 

「いい加減諦めたら?」

「私の辞書には『諦め』って言葉は無いんだぜ!」

「なにその辞書。不良品ね」

 

諦めないにしても、現状打つ手が少ない。

人形ごとアリスを狙う高出力の極大レーザー。

人形とアリスのリンクを途切れさせる。

そのどちらか。

 

レーザーに関しては、アリスも警戒しているのだろう、上手く人形を自分と同一線上には動かさない。

それに、高出力の為に一発勝負。外したら魔力切れで動けなくなりそうだ。

ならアリスと人形のリンクを切る方。

これはさっきから試している。

人形が動くたびにアリスは左右の指を動かしていることから、恐らくそれで操っているんだろう。

それが魔力の糸なのか、若しくは別の、例えば魔力の波長や音とか。

面倒なのがどちらにしろ目に見えないこと。

例えアリスと人形の間に入り込んでも、人形が動き続けるから糸の可能性は低いけれど。

 

「ならこいつだ!」

 

私はポケットから一つの小瓶を取り出す。

コイツは魔法の森で魔力を発する特殊なキノコを探す時に作り出したもの。

辺りに振りまけば一定時間だけ魔力の流れを可視化できる。

 

「名付けて『マジック・ミエール』!!」

「なにその容易に効果が推測できそうなの」

 

小瓶の中身の液体を振りまくと、それは空気に触れて一気に気化する。無色透明だけど、魔力に反応するとそこだけ紫色に光る。

 

「……でも無駄よ」

 

そう言ったアリス。確かに、これには私のやる気も失せかけた。

私の予想は外れて、アリスの指からは紫色に光る糸が伸びていた。左右で5本ずつ、計10本。

 

「なんじゃこりゃ」

 

私は気付いた。余りにも時間を掛けすぎたと。

指から伸びる糸は、上下左右、前後に至るまで辺りを囲うように張り巡らせられていた。

 

「この糸はね、途中からでも先を分裂させることが出来るの。例え糸を切られたとしても、またどれかの糸に触れさえすれば、再び操ることができる」

 

……なんだっけ、こう言うのを。

あの霞みたいなやつの事。

 

あぁ、そうだ……。

 

「そんなん、チートだチート!!」

「……なによちーとって」

 

まったく、嫌になるぜ。これじゃ人形とのリンクを切るのは難しいな。

 

さて、どうしたものか。

正真正銘打つ手はない。と、思うんだが。

 

そんな時、ふと少し前に霞と弾幕ごっこをした時のことを思い出した。

あの時はまだ弾幕ごっこをした事がないって言う霞を、揉んでやろうと意気込んで向かっていったんだっけか。

結果としては、一切スペルカードを使われること無くボッコボコにやられたんだけど。

 

そういやあの時、霞がなんか言ってたな。

 

『なんて言うか、魔理沙は色々と勿体ないよな。そのミニ八卦炉……だっけ?そーいう工夫が出来るのにさ、行動の選択肢が少ないんだよ。1度自分が出来る(・・・)事を思い出してみ?きっと選択肢は増えるから』

 

だったか。

ふむ。なら思い返してみよう。

私に出来ることを。

 

「あら、やっと諦めてくれた?」

「あー、ちょっと黙っててくれ。いま考えてるから」

 

……そうだ。意外と簡単な話だったんだ。

アリスが妖力・霊力ではなく、魔力(・・)を扱っている時点で。

気がつけば呆気ない。少しだが霞に感謝することにしよう。ほんの少しだけど。

 

「さて、作戦は決まったぜ。後はそれを実行するだけ」

 

この手(・・・)の魔法には慣れている。

なにせ毎日のように使っているからな。

私は慣れた感覚で魔法式を組み立てる。いつもと違うのはごく一部。

 

そう、『動くな(・・・)』と命令するだけだ。

 

私は箒に魔力を込めてアリスへと距離を詰める。

当然ながら、アリスは逆に距離を離そうとするが、この幻想郷で私より速い奴なんてそうは居ない。あっという間に距離は縮まった。まぁ、体捌きが上手いアリスには幾ら近づこうとも意味は無いんだけど。

でも、私の狙いはアリス自身じゃない。

 

「その糸だ!!」

 

後ろに距離を離そうとしたから、糸はアリスの前に。つまりは私の方に流れる。そうなれば糸に触れることなんて容易くなる。

そして触れさえすれば終わりだ。

 

「その糸、使わせてもらう!」

 

先程組み上げた魔法式。普段箒を操るのと同じように、魔力をアリスの糸に流し込む。

私の魔力は糸を伝い人形へと届いた。そう、『動くな(・・・)』と書き込まれた魔法式が。

 

私の魔法がうまく発動したらしく、人形は動きを止めた。地面に落ちるでもなく、空中に浮かんだままだが、それも動くなとしか命令してないから。

 

「なっ!?命令の上書き?!」

「どうだ!!これでもう人形ほ操れないぜ」

 

「ふ、ふん。迂闊ね。人形は2体だけとは言ってないわ」

 

そう言ったアリスは再び懐から人形を取り出そうとする。

しかしそこで気がついた。

 

左右の指が動かない(・・・・)事に。

 

「え……」

 

「だから言ったろ。『操れない』って」

 

当然だ。人形に伝わる魔法が、同じ糸で繋がっているアリスの指に伝わらない訳がない。人間に使うのは初めてだったから、指だけしか効果はないみたいだけど。それでもアリスにとっては致命的。

指が使えないのであれば人形は操れない。

 

「勝負ありだな」

「……はぁ。どうやらそのようね」

 

大きな溜息を吐いたアリスは、両腕を空に上げ降参のポーズを取った。

まったく、めんどくさい相手だったぜ。

でもこれでこの異変は解決だな。

 

「……何言ってるのか分からないけど。この異常気象に私は関係ないわよ?」

「は?」

「この子達の服を作るのに材料が足りなかったから、買出しに出てただけよ」

 

 

 

どうやら本当にめんどくさい事をしてただけらしい。




では皆様、良いお年を!!


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6話/冥界と枯れ桜らしい

新年明けまして…………






おめでとーーーーーございまーーーーーすっ!!!!!


side 霞

 

紫の開いたスキマを抜けると、ひんやりとした空気に包まれた。だが、先程までの下界の寒さに比べたら、逆に暖かく感じるくらいだ。

ここは冥界。上層雲と呼ばれる雲が作られる高さよりも更に上。大体13キロ以上の高さにある。

まぁ、ごく普通に生きているあいだは足を踏み入れる事など叶わない場所だ。

雲の上のはずなのに、ここには地面がある。それは雲と空の間にある結界で守られ、この地だけ別空間となっているためだ。紫曰く、最近その結界も薄れてきている様だが。

冥界自体は、死後閻魔の裁きを受け、成仏か転生をする間の、所謂休憩所だ。

つまりココには生きている者は居ないのだ。

 

なるほど、確かに辺りを見回せばフヨフヨと色の薄い綿飴大の白いのが浮かんでいる。

一応は閻魔の裁判を受けた魂しか居ないために、悪霊と呼ばれる魂は見当たらない。

 

「師匠?どうしました?」

 

黙っていた俺を不安げに紫が見上げる。

俺は慌てて首を振った。

 

何かの間違いであって欲しいと思ったからだ。

 

だって、さっきから感じるコレは、朗らかに『悪意』と『殺意』。

ココの管理を紫の友人が担当しているのであれば、それに気が付かないわけがない。ならば考えられるのはその友人に何かが起こったか、若しくはその友人も関係しているかだ。

言葉は悪いかもしれないが、まだその友人に何かが起こっている方が良い。その問題を解決すればいいだけの話だからだ。

だが、友人も関係しているとしたら?

それを知った紫がどんな行動を起こす?

 

まったく頭が痛くなりそうだ。

 

----

 

 

紫に連れられ、案内された先には冥界には不釣り合いのようで、それでいて何処かしっくりくる様な、ドでかい屋敷が建っていた。辺りを土壁に囲まれ、全体を見ることは出来ないが、門前から伸びる階段から見ても、ココがこの冥界の中心的な建物だと分かる。

 

「ココが友人の屋敷。白玉楼です」

「いや、デカすぎだろ」

 

だって次の曲がり角が見えない程先だぞ?

下手すりゃちょっとした学校の校庭よりも距離はあるんじゃないか?

 

「人里の民家が一区画分位は入る庭が有りますよ」

「これだからブルジョワは……」

「ブル……ジョワ?」

 

聞き慣れない単語に首を傾げながらも、紫は門を叩く。暫く待って、漸く中から返事が聞こえてきた。

 

「は~い。どちら様~?新聞なら間に合ってますけど〜」

「私よ私」

「ん~。『わ・たし』さんなんて知り合いは居ないはずですけど〜」

「そんな珍妙な名前の奴なんて私も知らないわよ!」

 

……なんで俺はここまで来て漫才を見せられているんだろうか。

クスクスと上品な笑い声と共に、潜戸が開かれ中から一人の女性が顔を見せた。

鮮やかな蝶が染められた青い着物に、それと合わせた色の帽子。肩辺りで揃えられた桃色の髪、幽霊だからであろう白い肌。紫もそうだが、この女性もかなりの美人だ。

口元を扇子で隠し、久しぶりの友人の来訪を喜んでいるようだった。

 

「久しぶりね紫。この時期は冬眠していると思ったわ」

「暦見てみなさいよ、もう卯月よ。流石に起きるわ」

 

俺が起こさなかったらまだ寝てたであろう紫が何かを言っていたが、俺の耳には聞こえなかった。うん、聞こえてない。だから決して帰ってから説教するのも、そのつまらない小さな嘘のせいじゃない。

 

「あら、そちらの方は?」

 

そこで俺に気がついたらしく、西行寺幽々子は俺を見定めるかのように眺めている。

 

「こちらは神条霞様。神様で、私の師匠よ」

「……あぁ、紫がいつも話してた人ね〜」

 

紫がどんな事を話していたのかとても気になるが、まぁ今は置いといて。

 

「どうも神条霞だ」

「西行寺幽々子です。よろしくお願いします〜」

 

差し出された右手を握り返す。やはり彼女の手は冷たかった。

その時、ふと不思議な感覚が体の中を駆け巡った。それはまるで外部から体の中を鷲掴みされるような。締め付けに似た圧迫感。

 

「……これは君の能力かな?」

「あら、紫の言う通りね。私の能力が効かないわ~」

「幽々子、まさか師匠に能力を使ったの?」

 

確か事前に聞かされた話によれば、彼女の能力は『死』に関する能力だったはず。ならば俺には全く通用しないだろう。

何せ今現在では『死』の概念が俺には存在しないからだ。

 

「ちょっとした挨拶よ。本気じゃないわ」

「だろうね。恐らく死ぬ直前で能力を解除するつもりだったんだろう?」

「そこまで見抜かれちゃいましたか〜」

 

紫の大きな溜息と共に、俺たちは屋敷の中へと案内された。

純和風の広大な敷地を誇る屋敷。部屋に入るまでに幾つもの部屋を横切り、その都度俺は「掃除大変そうだな」とか、「何人まで泊まれるかな」とか庶民的な事を考えていた。

 

「そう言えば、今日妖夢は?」

「あの子には少しお使いを頼んであるの」

 

この屋敷にはこの幽々子ともう一人しか住んでいないらしい。それが妖夢と呼ばれる人物。この屋敷の管理を任されているらしい。

 

「この広さを一人で?無茶だろう」

「あら、そんなことは無いわ。亡霊達も手伝ってくれるし」

 

らしいと言えばらしいのか。亡霊の徘徊する屋敷なぞあまり住みたいとは思えないが。

そういや目の前にいる女性も、亡霊だったな。

 

ふと、開けられた障子から外を見れば、紫の言う通り広い庭が目に入ってきた。

池には橋が掛かり、よく日本庭園と言われるような造りの庭。素人目に見てもかなり手入れのされた庭の隅に、一本の大木があるのが見えた。それはこの季節では珍しくもなく、枝には葉すら付けていない、どうやら枯れた木の様だ。

 

しかし俺にはどうしてもそれが気になった。

何故かと訊かれれば、「何となく」としか答えられないが。それでも一度視界に入れてしまえば、どうしてもそれから目が離せなかった。

 

「西行寺、あの木は?」

「あら、幽々子でいいわ。あれは私の父の時代から、若しかするともっと前からあるかもしれない桜の木よ」

 

俺が聞きたかったのは木の種類なんかじゃないんだが、何故かそれ以上は訊けなかった。訊いてはいけない気がしたのだ。

 

 

 

 

俺は後悔した。この時、もっとあの木について聞き出しておくべきだったと。

そうすればあんな面倒な事にならずに済んだのに、と。

 

そんな後悔をするのは、それから1時間後の事だった。




紫「そう言えば、あなた去年の年末に私の家の食料を食べ尽くしたでしょ」
幽「……美味しかったわ!!」
紫「誰が感想を言えと!?あれから私が藍に怒られたんだからね!!」


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7話/うっかりと怠惰な巫女らしい

連日更新!

だってもう正月休みは終わりなんだもん……


side 魔理沙

 

まったく、無駄な時間を過ごしちまった。

結果だけ見れば、異変とは無関係なアリスと弾幕ごっこで遊んでただけじゃないか。

アリスもアリスだ。関係ないならもっと早く言えってんだ。

 

だけどまったく無意味な訳じゃない。アリスから少しばかり有益な情報を手に入れることが出来た。

 

「ここ数ヶ月、『春』を集めている人物がいたわね」

「『春』を集める?」

 

その『春』ってのがどんなもので、何なのかは良く解らなかったけど、それでもこの長い冬の原因が分かったことは十分な収穫と言える。

ただ、問題なのは私の残りの魔力がかなり少ないという事。時間をかけて体を休めれば、それなりに回復はするけれど、そんな暇は今はない。

 

何故って?

 

 

 

それは私の少し前を飛んでいる、怪しげな奴を追いかけているからだ。

アリスと別れ、再び異変の調査へと戻った私だが、魔法の森を飛んでいた時にソイツを見つけた。さっきの失敗から学んだ私は、直ぐには声をかけない。先ずは泳がせて、尻尾を出すまで待つんだ。

 

ソイツは森の中を行ったり来たりしていた。普通の人間ならば、その濃い瘴気のせいで入ることすらできない魔法の森だけれど、コイツは至って平気そうだ。それだけでも充分怪しいんだが。何より怪しいのは背中に担いでいる麻袋だ。

時折、何かを見つけてはその袋にしまい込んでいる。

恐らく、あの袋の中に『春』を集めているんだろう。きっとそうだ。そうに違いない。

だがまだ慌てるな。ここで焦っては、全ての『春』を取り返せないかもしれない。

 

 

 

そんな訳で、私はソイツを尾行中なのだ。

 

麻袋を担いだ奴は空を飛び、その高度をどんどんと上げていった。もう既に地面は遠く離れ、魔法の森が小さく見えた。

雲の層をいくつか潜り、気が付くと目の前には空間の歪みのような、裂け目が広がっていた。

以前、紫や霞の使う空間と空間を繋ぐヤツを目にしたことがあるが。それとはちょっと違う。言うなれば結界の裂け目。隠しているものが少しだけ垣間見得る場所の様だった。

その裂け目に、ソイツは迷うことなく入っていく。どうやらココがヤツの隠れ家なんだろう。

私も慌てて後を追う。裂け目を潜ると、そこは薄暗く生温い空気が漂っていた。

 

「なんだココ」

 

裂け目の正面には先が見えないほど長く続く石階段が伸びている。

こんなもん態々一段ずつ上って行ったら日が暮れちまうぞ。

そう言えば博麗神社のとこの階段もちゃんとに上ったことがないな。

そんな事を考えていると、階段の脇に並ぶ灯篭に徐々に火が灯る。まるで私を歓迎しているかのように。

 

「ここまでついてきましたか」

 

そのセリフと共に、さっきの奴が姿を現した。緑色の服に銀髪。黒いリボンを頭につけた、同い年くらいの少女。ただ見慣れないのは、その周囲をフワフワと飛んでいる白い綿飴見たいなやつ。そう、よく言われる魂みたいなの。

 

「何処から気がついてた?」

「最初からですけど」

「……魔法の森から分かっていたと?」

 

「えっ?……あ、えぇそうです」

 

あ、コイツ気がついてなかったのか。

ちょっと抜けてる感じの銀髪おかっぱ頭は、背中に背負った麻袋を降ろすと、何処から出したのか二振りの刀を取り出した。

 

「出来ればそのままおかえり願えませんか?」

「そいつは出来ない相談だぜ。コッチは冬が終わらなくて困ってるんだ」

 

刀を取り出した瞬間から、銀髪の雰囲気が変わった。何処か抜けてる感じは形を潜めて、朗らかな殺気をこちらにぶつけて来る。

 

「これより先は我が主の命により、誰一人通すことは出来ません」

「ならその主さまに用があるんで通してもらうぜ」

 

ぶっちゃけ帰りたかった。こんな残りカスの様な魔力で相手するなんて、無謀にも程がある。

ここまで付いてくるだけでもかなりしんどかったのに。

 

「私の名は魂魄妖夢!この手に握る二振りの剣にかかれば……!」

 

そう言って少女--妖夢は飛んだ。一気に距離を詰め、両手に携えた刀を振り下ろす。

間一髪でそれを避けると、地面には綺麗な2本の切れ目が残っていた。

 

「切れないものなど、あんまり無い!!」

 

 

 

「あんまりなんだな……」

 

 

----

 

side 霊夢

 

……どうしよう。

神社を出たあと、勘を頼りに飛んでいた。私の勘はどんどん上を告げていく。それに従ってどんどん上っていけば、見慣れない結界とその裂け目を見つけることが出来た。恐らく、この裂け目の先に異変の犯人がいるんだと思う。

足を踏み入れて先ず感じたのは、喉元にまとわりつくような不快感。

まるで常に喉に手をかけられているような。何時でも殺せると、脅されているかのような圧迫感に似た何か。

その正体がなにかまでは分からないけれど、それでも歓迎されていない事だけは理解出来た。

 

まぁ、歓迎されても困るんだけど。

どこの世界に自分の企みを邪魔する奴を歓迎する馬鹿が居るのか。居るならば見てみたいものだ。

しかしこの空気をいつまでも感じているのは不快極まる。

普段ならばさっさと解決して、こんな場所とはおサラバしたいんだけど。

 

少しくらいココで時間をかけよう。

ちょっとでも長く、この異変が続くように。

違う。異変が続いてほしいんじゃない。異変が解決して欲しくない(・・・・・・・)んだ。

 

面倒な事には変わりはない。正直、こんなクソ寒い冬はさっさと終わりを告げてほしい。それでも暖かい季節とアレ(・・)を天秤に掛ければ、迷ってしまう自分がいる。

 

「……ココの方が外より幾分か寒くないし、少し休憩しましょ」

と、自分自身に言い訳をしながら、私は長く続く階段の脇にある、灯篭の影に腰を下ろした。

 

それがいけなかったのかな。

異変解決をサボるなと神様からのお告げなのかしら。だとしたら余計な事をと霞さんに八つ当たりするんだけど。

ウトウトしてしまった私が、目を覚ますと階段の下には見慣れた人物と見慣れない人物が対峙していた。

あの白黒もどうやら自力でここまで辿り着いたようだ。

 

それは良い。魔理沙がこの異変を解決するのならば、私はなんの苦労もなく済む。

問題は、その魔理沙が朗らかに疲れていること。そして、アレだけのタンカを切って飛び出した魔理沙が、ココで素直に引き返すわけがない事。

状況はめんどくさい方向へと転がっている。ココで魔理沙を手助けすれば、異変解決は早まるだろう。しかし「ココで何をしていたのか」を問われれば、そこでまた一悶着起こしかねない。

幸い、二人は私には気がついていないようだし、バレないうちに移動するべきか。しかしそれは魔理沙を見捨てることになる。今の魔理沙ではどう考えても勝てないだろう。

 

さて、どうしよう。

 

 

 

まったく。今回の異変の犯人は本当に面倒なことをしてくれる。

そんな八つ当たりとも言える事を思いながら、私は懐から一枚の札を取り出しながら重くなっていた腰を上げる。

しょうがないからコレは貸しにしてあげようかしら。

 

きっと魔理沙は返してくれないだろうけどね。




魔「ちょっと休憩しないか?」
妖「……お茶でも飲みますか?」
霊「いや、何呑気に和んでんのよ!!」

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8話/言ノ葉は帰らないらしい

side 西行寺

 

 

言葉とは、1度自らの口を離れれば2度と戻ることのない、『時間』と同じく取り返しのつかない厄介なものだ。

特にそれが格上の相手ともなれば、不用意な失言は我が身を滅ぼすのに十分な理由になり得る。

 

私は言葉を選んでいた。

それはまるで1歩でも踏み間違えれば無事では済まない、針山の上を歩くかのように。

 

「この大木は?」

 

「それはもう何年も咲くことのない桜よ」

 

扇子で口元を隠し、不必要な情報を与えない。

焦りを見せず、企みを見せず、ただ友人と話すかのように。

 

「ほぉ、こんだけデカイなら咲けば嘸かし綺麗だろうにな」

 

「でしょう?私も見てみたいのよね」

 

焦ることは無い。急ぐ必要も無い。

それでも相手は話に聞く『創造神』。何を切っ掛けに企みが露見するか分からない。ならば最新の注意を払うに越したことはない。

 

「そんじゃもう1つ序に訊いてもいいかな?」

 

「あら何かしら。乙女の秘密以外なら何でも答えるわよ」

 

そう。ここまで何も落ち度はなかったはず。その証拠に彼の後ろにいた友人ですら、なんの警戒も見せずにいた。

 

なのに。

 

 

()は何を企んでいるんだ?」

 

 

side 妖夢

 

「いい加減諦めて帰ってもらえませんか」

 

私の後をつけてきたという魔法使い。彼女は何故か最初から疲れた様子だった。ここに来るまでにそれ程速度を出した覚えもないし、何処ぞでこうやって無関係な人に手当たり次第に戦いを挑んでいたのだろう。そう考えれば、厄介な人物に見つかったものだ。

私は深いため息を吐いた。

 

「お前が大人しくこの異変を終わらせるなら帰ってやるぜ」

 

肩で息をしながらも、彼女は精一杯の強がりを見せた。恐らくだけど、彼女が万全の状態ならばここまで一方的な状況にはならないだろう。私の斬撃を尽く躱し続けることから見ても、それなりに実力はある。苦戦を強いられるか、若しくは負けるかだ。

そんな相手に余力を残しながら圧倒的に有利な状況を作れることは、限りなく幸運と言えるかもしれない。

これで噂の『博麗の巫女』が来なければだけれど。

 

でも、今の私は幸運なのだから、そう都合よく博麗の巫女が来るとは思えない。

ならば彼女を追い返すなり倒すなりしてしまえば、事は済むはず。

そうすれば幽々子様も褒めてくれるだろう。

 

「ならば致し方ありません。ここの亡霊達の仲間入りをしてもらいます」

 

 

 

 

「なにヘバッてんのよ、情けないわね」

 

聞きなれない声が聞こえた。それは誰もいるはずの無い、屋敷へと続く階段からだった。

 

「なんでここに居るんだよ…」

 

それは魔法使いからの言葉。彼女も心底驚いている様子から、全くの予期せぬ出来事のようだ。

 

階段の中腹から仁王立ちをし、こちらを見下ろすの赤と白の巫女服に身を包んだ少女。下級妖怪程度ならばその姿を見ただけで逃げ出すと噂の少女。

 

「博麗の巫女……ですか」

 

「あら、こんな所にまで私の噂は届いているのね」

 

無論、知らぬはずがない。異変を起こせば問答無用で退治され、何もしてなくても退治されるという、噂の『暴力巫女』。

多分だけど、その噂は正しいだろう。ふんぞり返ったその立ち姿は、あまり褒められたものでは無いが、それでも一瞬も隙を見いだせなかった。かなりの数の場数を踏んでいるに違いない。

 

「しょうがないから助けてあげる。これは貸しよ?」

 

「ならそれも『死ぬまで』借りておくぜ」

 

魔法使いの言葉に、反応してしまった。ほんの一瞬だけ巫女から目を離してしまった。魔法使いの言葉には、少しだけ力が戻っていたから。

それがいけなかった。

巫女にとってみれば、私の一瞬など長く感じたのだろう。

肩に置かれた手の感触に、私は凍りつく。私と巫女との間は、階段で言えば数十段はあった。

それがこの一瞬で?

ただ後ろを振り向いただけで?

 

「封印」

 

それが私が最後に聞いた巫女の声だった。

 

 

side 紫

 

空気が一気に冷えきった。今までの和やかな雰囲気は見る影もなく、言葉を発すれば飲み込まれそうな程に静まり返る。

 

「……あら、企みなんて」

 

「ふむ。言葉が悪かったかな。いやなに、何をしようとしているのか分からなかったからな。興味本位で訊いてみただけなんだが」

 

「どういう事ですか?師匠」

 

やっと声に出せたのは何とも情けない言葉だった。

幻想郷でほ妖怪の賢者と囃し立てられる私だけれど、これまでの1連の流れに何の違和感も感じられなかった。ただ、友人と師匠が世間話をしているかのように見えていた。

 

「そうだな。まだ幾つか訊きたいことはあったんだけど、先ずは言わなきゃいけないことがあるな」

 

「あら、何かしら」

 

 

言葉を紡ぐ。

それは私の予想外の言葉。

私が気付かなかった違和感。

 

 

 

 

 

 

「君は、誰だ?」



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9話/亡霊の殺意らしい

今更ながらに、幼女成分が不足してるなぁ、と思ってしまった。
まぁ、次の章から幼女成分マシマシなんで!!


静寂が辺りを包んだ。

時折吹いていた生温い風も、今ではピタリと止んでしまった。

ごく一般的な感性を持っているのならば、ここまでの庭を造ろうなんて考えもしないであろう程広大な庭の中、一本の桜の大木の前で三人は互いを牽制し合うように立っていた。

 

「言ってる意味が……分からないわ」

 

それもそうだ。いきなり普通に会話をしていた相手から「君は誰だ」等と問われれば、相手の頭が急にあさっての方向に飛んでいったか、若しくは自分の知らない間に日本語の使い方が変わってしまったか。そのどちらかを疑う。

凡そ大体が前者であるが。

しかし、今回の場合は少しだけ状況が違う。それは問われた本人が良く分かっていた。

 

「し、師匠。私にも分かるように説明願います。幾ら師匠でも、私の友人を侮辱するのは許せません」

 

霞の隣に立っていた紫も、霞のセリフに戸惑っていた。

紫の師匠である霞は確かに『創造神』であり、尚且つ『自由を司る神』でもある。その言動が突拍子も無いことはあった。それでもその言動が無駄に終わったことは紫が知る中では一度もない。

それはつまり、自分がその考えに至っていないだけで、霞にはより先が見えているのだろう。そう思う程には霞を信頼していたし、恐らくこの先もその思いは覆ることは無い。

 

だが、今回は違った。

つい先程まで、霞は普通に会話をしていた。傍から聞いていても何気ない会話すぎて聴き逃しそうになるくらい、平和なものだった。たまたま目を惹くほどの大木が庭にあり、それが何の木なのか問うただけだ。

 

「紫、お前の友人ってのは、今日あったばかりの相手に殺意を抱くような人物なのか?」

 

「……門前での事なら謝るわ。ちょっとした遊び心だったのよ」

 

紫が霞を紹介した時、彼女は揶揄うつもりだったのだろう。その有する能力を発動させた。彼女曰く、直ぐに解除するつもりだったらしいが、元より霞には『死』の概念が無いために効くことは無かった。それでその場は終わったはずだ。紫の知る霞ならば、長く根に持つようなことはないと思っていた。

 

「あぁ、違う違う。まぁ紫が気が付かないのも無理はないか。かなりうまく隠してるものな」

 

そう言うと霞は右手を払う。すると空間が裂け、その中に手を突っ込んだ。

 

「会話自体には違和感なんて無かったよ。そりゃぁもう、初めて会ったって言うのにも関わらず、長年の知り合いのように話すんだもんな」

 

空間から取り出したのは霞の愛刀『夜月』。長らく霞と共にある一振の太刀。

 

「それが何か問題かしら。もしかして馴れ馴れしかったとか?」

 

「そんな事気にしないさ。問題なのは、殺意を隠して俺をこの木から遠ざけようとしている事だ」

 

「……」

 

「君にとってこの木がとても大事で、若しかすると触れて欲しくなかったり、もっと言えば近づいても欲しくないのかもしれない。それならば、それだけならば俺も素直に謝ってこの話は終わりにするんだけどね」

 

紫は固唾を飲んだ。さっきから霞が何を言っているのか分からなかった。友人が霞に対して殺意を抱くとはどういう事だ。紫の知る友人は、あの大木に対してそこまで敏感ではなかったはずだ。

少なくとも近寄られただけで殺意を抱くなんてことは無いと断言できた。

 

「君の殺意は『妖力(・・)』を含んでいる」

 

 

 

紫の友人である『西行寺幽々子』は亡霊である。

今は亡き肉体から魂だけが離れ、成仏せずにこの冥界で管理を任されていた。

そう、亡霊(・・)なのだ。

妖怪でも魔族でも、ましてや神でもない。つまり彼女が使う力は『霊力』でなくてはならない。そんな彼女から霊力以外の力が感じられ、それを隠そうとしている。これが意味するのは。

 

「妖力なんてこの冥界では異質だろ。良いとこ紫か、藍が来た時位じゃないか?」

 

紫は会話に口を挟むことが出来なかった。それは霞の言葉に反論出来ないのもあるが、何よりも友人の変化に気が付けなかったからだ。

長く付き合いのある友人の変化に、まだ会って数時間も経っていない霞が気付いた事実は、紫の言葉を奪うのに充分だった。

 

「……なんだ。気が付いてたんだ」

 

「おぅ。神様舐めんなよ」

 

霞は夜月を腰に差す。その姿は欠けていたピースがピッタリとハマり、完成された一枚の絵のようだった。

 

「ついでに言うと、君の正体も大体は想像がつく」

 

「そう。ならばどうするの?」

 

そう言って紫の友人であったものは両腕を広げる。無抵抗を現すかのように。

 

「ふむ。俺が終わらせても良いんだけどな。それよりも適役がもうすぐ来るんでね、そっちに任せるよ」

 

そう。霞は気が付いていた。門前から伸びる長い階段の下に、よく知る二つの気配がある事を。その二人にならば任せられると。

 

「自由な神様が必要になるのは、もう少し後のようだしね」

 

霞がそう言った瞬間。屋敷の門が派手な音をさせながら無遠慮に開かれた。

許可も挨拶もなく、傍若無人な態度で屋敷へと足を踏み入れたのは、紫もよく知る赤と白の巫女服に身を包んだ少女だった。

 

「魔理沙、アンタ重い!」

 

「あ、乙女に向かってそのセリフは禁句なんだぜ!!」

 

紅白巫女の肩には、これまたよく知る白黒の魔法使い。

反対の手に握られたロープに縛られているのも、また紫がよく知るこの屋敷の庭師の姿だった。

 

「ゆ、幽々子様~。申し訳ございません~」

 

何故か半泣きで。その周りを彼女の半身でもある半透明の魂がふよふよと浮かんでいる。

 

「……なんで霞さんと紫が居んのよ」

 

「ちょいと野暮用でな。なに、今回は手出しをしないから、存分にどうぞ」

 

「私としては、寧ろ霞さんがやってくれた方が助かるんだけど」

 

「……魔理沙には階段のこと黙っててやるよ」

 

「……さぁ!!アンタがこの異変の犯人ね!!」

 

紫には二人が何の会話をしているのか分からなかったが。少なくとも分かることが一つだけあった。

 

 

「師匠、面倒くさくなりましたね」

 

「そ、そんな事ねーし……」




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10話/西行寺家の事情らしい

今更ながらに、幼女要素ねぇなぁ……。

次章からはタイトル回収しますんで!!
少々お待ちを!!


side 霊夢

 

長く続く階段を魔理沙と白髪少女を抱えながら飛んで上ると、そこには大きな屋敷がたっていた。

私が縦に並んでも二人ぐらいなら余裕を持って潜れそうな門を過ぎる。

 

「魔理沙、アンタ重い!」

 

ドサッと魔理沙をその場に落とす。カエルが潰れたような声が聞こえたが、ここまで運んであげたんだから文句は言わせない。

 

ギャーギャーと何やら叫んでいる魔理沙を無視して前を見れば、屋敷に見合うだけの広い庭が広がり、なんとも意外な事に見慣れた人物の姿があった。

 

「……なんで霞さんと紫が居んのよ」

 

わが博麗神社の祭神(疑)と幻想郷の賢者(笑)。

どちらか一方でも面倒な気配がプンプンするのに、その二人が揃えば、もはや確定事項で面倒事だ。

漂う空気も重々しい。まるで私達が場違いな程に。

 

 

 

 

「うん、どんな経緯があったか全く分からないんだけどね」

 

霞さんに異変解決を任され、私は一人の女性の前に立つ。

何処かのご令嬢と見まごう程に優雅な佇まいは、紫とはまた違った大人の色気を感じる。

私としては紫よりもこういう奥ゆかしい大人になりたいものだ。まぁ、無理だろうけど。

 

「私は博麗霊夢。幻想郷の素敵な巫女よ」

 

「あら、これはご丁寧にどうも。私は西行寺幽々子。冥界の素敵な亡霊よ」

 

幽々子と名乗った女性。口元を扇子で隠す仕草は紫もそうだが、様になっている。あれかしら、大人ってのは扇子をうまく使えるとなれるのかしら。

 

水色の着物は、辺りの雰囲気と相まってより冷たく、暗く見える。幽々子の肌も亡霊だからか白く。まさに亡霊と言うに相応しい。

 

「一応聞いとくけど、この異変を止めるつもりは?」

 

「ふふっ。面白いことを訊くのね。あれば初めから異変なんて起こしてないわ」

 

だと思った。どうしてこうも異変を起こす奴らは、それが齎す結果を考えないのかしら。

春が来ないということは、冬が終わらないということ。確かにこの冥界にいる限り、下界がどうなろうと知ったことではないのかもしれないけれど。

 

「……流石に寒いのよ!!」

 

幾ら霞さんのお陰で部屋の中ならば快適に過ごせるとしても、こう寒ければ参拝客も来やしない。それではコチラの生活に直結する問題となる。死活問題だ。

 

「だからココでアンタをぶっ飛ばすわ」

 

「その冗談は、あまり面白くないわよ?」

 

私は懐から札を取り出す。幽々子に向かって投げると、札は霊力を纏い弾幕となる。

広範囲に広がる弾幕を、余裕そうに避ける幽々子。その姿はまるで何かの舞を舞っているようにも見えた。

 

「まぁ、怖いわぁ」

 

「嘘つけ、余裕の癖に」

 

実際、幽々子は明らかに余裕を見せている。少なくとも私はこういった事に手を抜かない。何時でも全力を尽くす。さっさと終わらせたいからね。

それでも、幽々子の表情に焦りの色は見えないし、動きもまだまだ機敏だ。

 

「それじゃ今度は私の番ね」

 

そう言うと、幽々子は扇子をパチンと閉めてこちらに向ける。扇子の先に霊力が溜まっていくのがわかった。

放たれた霊力はその形を次第に変え、蝶へと変化した。

本物の蝶のようにヒラヒラと舞う蝶は、正直動きが読み辛い。

辛うじて避ければ、また次の蝶が飛んでくる。一匹二匹程度ならばまだ良いが、大量の、正しく弾幕ともなれば避け続けられている自分でも驚きだ。

 

「ふふふっ。必死ね」

 

「当たり前でしょ。こんな所で負けるわけにはいかないのよ!!」

 

ふと脳裏に蘇るのは、気紛れに霞さんが見てくれた修行の日々。まだ数日程度だけれども、私にとって新しい発見の連続でもあり、また自分の実力の低さに落胆するばかりだった。

 

---

 

頭では理解していた。

普段の言動を見ているとは言え、相手は神。それも原初の神である創造神。その実力は私を遥かに超える。それでも、今までの経験から勝てないまでも善戦できる自信があった。

しかし結果は気弾を当てることどころか、触れることすらも出来ないほどの圧倒的な敗北。

どんなに贔屓目に見ても、『善戦』とは言い難い内容。

余りの悔しさに、涙すら出てこない。

 

『霊夢は強いな』

 

投げかけられた言葉は、私を惨めにするためのものではない。それは理解出来た。

 

『霊夢は強い。だけどそれは不必要な隙を生む。人はそれを油断って言うんだよ』

 

油断。確かに私は油断していたんだろう。

これまでの経験。博麗の巫女の勘。それらが私の鼻を伸ばしたのだろう。

霞さんはそれに気が付き、敢えて完膚なきまでに叩きおってくれたんだと思う。

 

---

 

だからこそ、油断はしない。

どんな弱小妖怪であろうと、『博麗の巫女』に敗北は許されない。

だからこそ、全力を尽くす。

 

私は数枚の札を取り出す。

迫る蝶へと向かい投げると、札は霊力で繋がる。

円状に繋がった札は互いに霊力の膜を張り、一枚の壁となる。

壁にぶつかる蝶は霧と消た。

 

「あら、硬いわね」

 

余程の霊力を込めたのであろう蝶。それですらビクともしない壁に幽々子は表情を変えこそしないけれど、驚いているようだった。

 

「悪いけど、全力でいくわよ」

 

 

---

side 妖夢

 

幽々子様と博麗の巫女が対峙してからどれくらいだろう。

幾ら幽々子様と雖も、相手は博麗の巫女。勝負はすぐに着き、異変も終わるのだろうと思っていた。

幽々子様には申し訳ないけれど、あの博麗の巫女を相手に勝つのは難しいだろうし、何より幽々子様の性格上すぐに飽きてしまうと思っていたから。

 

でも、実際は違った。

幽々子様はいつもと違い、諦めることなく未だに勝負は続いている。

 

幽々子様へ違和感を感じ始めたのはいつの頃からだったろうか。

長く一緒に居たからこそ感じることの出来る、言葉にするのも難しいような、感覚的な違和感。

何処が違うとは、明確に言える訳では無いけれど、それでも微々たる違和感は積もり続ければ無視出来なくなる。

 

それでも私は気が付かないフリをした。

 

「幽々子様……」

 

「いや、その格好で神妙な空気出されても、失笑しか出てこないぞ?」

 

私の隣に座るのは、いつの間にか屋敷にいた紫様と知らない男性。正確には名前の知らない男性だった。

 

「ぷぷっ。笑えるぜ」

 

「いや、アナタもよ魔理沙」

 

力なくうつ伏せに倒れ込むのは魔理沙と呼ばれる魔法使いの少女。

コチラを向く気力もないのか、顔を地面に付けながらも会話には参加する。

かく言う私はと言えば。

 

「あのー、それで私はいつまでこうしてればいいんでしょうか?」

 

ロープでぐるぐる巻きにされていた。

 

「んぁ?……俺としては解いても良いんだけどな」

 

「なら解いてください」

 

「……そっちの方が面白そうだから」

 

「鬼畜ですか?!」

 

モゾモゾと自由の効かない身体を蠢かせる。私の半身でもある半霊が心配そうに私の周りをフヨフヨと漂っている。

 

「まぁ半分は冗談だが」

 

「半分は本気なんですね?!」

 

「西行寺の変化には、君も気が付いていただろう?」

 

その言葉に、私は動きを止めた。

この人は気がついているのだろう。今の幽々子様が違うと言うことに。

 

「師匠。そろそろ説明をお願いしたいのですが」

 

男性の隣に座っていた紫様が業を煮やしたように説明を求めた。

 

「さっきも言ったろう?あの西行寺からは霊力ではなく、『妖力』を感じると。本来ならば霊体である西行寺幽々子は霊力しか扱えないはずだ」

 

「た、確かにそれはそうです」

 

「そんで、この冥界にはもうひとつ、西行寺以外に妖力を発するものがある」

 

この言葉で私は気がついた。そうだ、確かに幽々子様の変化とアレは時期が同じだ。

 

今回、博麗の巫女がこの屋敷を訪れる原因となったこの異変。

『春を集めなさい』

そう幽々子様に命じられた頃からだ。違和感を感じ始めたのは。

『春』をココに集めろと命じられたのは……。

 

「あの桜の大木」

 

---

side 霞

 

「原因は分からないが、恐らくアレは自我を持ってしまっている。所謂妖怪桜ってヤツだな」

 

きっと、生前の幽々子によって死んでいった者達の恨みや憎しみといった、負の感情があの桜を妖怪へと変えていったのだろう。

しかし、妖怪としては不完全。大木から形を変えられないことからもそれは解る。だからこそ、春といった力を集めさせたのだろう。

その為に、身近にいた西行寺幽々子を操って。

 

「な、ならあの桜を切ってしまえば事は済むのでは?」

 

「初期段階ならばな。もう既に魂の深いところまで根が張られている。無理に断ち切れば、幽々子も無事では済まないよ」

 

だからこそ、霊夢に西行寺の相手をさせて俺は準備(・・)をしているのだ。

それに、幾つか別の疑問も浮かぶ。

紫がこの桜のことに気が付かなかったこと。そして、それをあの人物も気が付かなかったのか、と言うこと。

 

「まぁ、霊夢の方も俺の方ももうすぐ終わるから。そしたら一つずつ解決するさ」

 

そう言いながら、俺は霊夢達の方に意識を向ける。

 

 

 

 

どうやら、事の終わりは近いようだ。




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11話/神様と人間と妖怪らしい

side 霊夢

 

正面に展開した札による結界も、そろそろ悲鳴をあげ始めた。

多少の弾幕でもビクともしないだけの強度を誇る私の結界だけれども、幽々子の弾幕はその上をいくらしい。

次々に舞う蝶を正面から受け止め続けながら、私は次の手を打つ。

あの亡霊には、生半可な弾幕では躱されてしまう。ならば、躱しきれない速度と範囲を用意すればいい。

博麗の巫女が、弾幕だけの戦闘狂だと思ったら大間違いだ。

 

普段の弾幕用の札とは違う、特殊な梵字の書かれた物。

何時もならばこの札を使わずに事は済むのだが、今回ばかりはそうも言っていられない。

早く終わらせなければ、嫌な予感がする。

私は札に残りの霊力を込める。込めた量によって効果の強度も違うからだ。ならば出し惜しみなんてしていられない。

私の霊力によって淡く輝き出した札を、幽々子に投げる。八枚の札は真っ直ぐに幽々子へと向かうが、余裕の表情を崩さず避けられた。

いや、避けてくれた。

もしこれが勘のいい相手ならば、札を弾幕で相殺したり、若しくはかなりの距離を取ろうとする。

それでも幽々子は必要最低限の動きだけで避けた。それは私を侮っているのか。

何にせよ、これで勝負は決まりだ。

私は札の効果を発動させる。弾幕でも結界でもない。

博麗の巫女の取っておき。

 

「夢想封印!!」

 

 

 

---

 

side 霞

 

霊夢が普段とは違う、特殊な札を投げたのは分かった。

言うなれば気配が違う。いつもの弾幕ならば『攻撃』、結界ならば『拒絶』といった具合に、それぞれの含まれた意思が感じられるのだが、今回は違った。

その気配は『静止(・・)』。

その気配を感じ取ったのと同時に、霊夢は札を発動させたようで。

周囲に投げられた札がそれぞれ霊力によって繋がり合い、西行寺を囲うように立方体を作った。

なるほど。これが当代の博麗の巫女が使う封印術か。相手の力を跳ね返すのでもなく、打ち消すのでもない。吸収して外に逃がす。これならば幾ら強力な霊力や妖力を持っていたとしても、生半可な事では脱出出来ないだろう。

俺との遊びの中でも使わなかった、恐らく霊夢の切り札であろう術に、素直に感心しながらも、俺は西行寺の動きを注視した。恐らく、動くならばこのタイミングだろう。そして、ここからは霊夢では荷が重い。

 

封印によって霊力を吸い取られたのだろう、西行寺はゆっくりと落ちていき、地面へと膝をついた。

その表情は披露を隠せず、俺の後ろで寝ている魔理沙と同じような状態だった。

 

「し、師匠」

「あぁ、弾幕ごっこはこれでお終いだ」

 

そう。弾幕ごっこは。

 

---

 

side 霊夢

 

幽々子の霊力を粗方吸い取ると、私は術を解いた。もう幽々子には霊力によって気弾を打つことも出来ないだろうと思ったからだ。これでこの異変も終わり。後は集められた『春』を返してもらうだけ。

だけど、幽々子程の力を封印するためとは言え、私も霊力を使いすぎたようで、空を飛ぶことも億劫になるほど疲れ果てていた。これでまだ勝負は終わっていないとか言い出したら、今度こそ霞さんに代わってもらおう。そう思い紫の隣にいるはずの霞さんへと視線を移した。

 

「余所見とは余裕だな、博麗の巫女」

 

初めて聞く、嗄れた声が響いた。この場にいる誰のものでもない、老人のような男の声。それは幽々子の方から聞こえてきた。

 

「しかし、幽々子をも倒すとは、なるほど侮れんのも事実」

 

霊力を吸い取られ動けないはずの幽々子が、ゆっくりと立ち上がる。その表情はさっきまでの女性らしさが消え去り、悪意に満ちた下卑た笑みを浮かべていた。

 

「……あんた、誰」

「くっくっく。よもや同じ日に同じ問をされるとは思わなんだ」

 

そう答えると、幽々子だったものは右手を振るう。それと同時に庭の大きな木が揺れ動いた。

 

「我が名は西行妖。死の怨念を募らせ、全ての生命に死を与えるもの」

「……なんか中二くさいわね」

 

以前、霞さんに教えて貰った痛々しいセリフの数々。あのかりちゅま吸血鬼ならば喜びそうとしか思わなかったけれど、こんな所でその知識が出てくるとは。決して役に立っているわけでは無いけれど。

 

「さて、完全体に成るまでにはまだ幾ばくか力が足りぬ。それ迄の依代を変えさせて貰うとしよう」

 

そう言って西行妖は妖力を纏う。それは今までに知る下級妖怪とは比べ物にならないほどの濃さと圧力で。私に向けて放たれた。

霊力を使いすぎた私は、咄嗟に動くことが出来ず、妖力に絡め取られる。

 

「な、なにすんのよ!!」

「知れたこと。貴様の身体と力、その両方を貰い受けるだけよ」

 

何を言っているのか分からないけれど、このままでは良くないことはハッキリ分かる。無理矢理にでも振り解こうとするけれど、私の身体を縛る妖力はビクともしない。

 

「それでは、その身体開け渡せ」

 

そう言って、幽々子の口から黒い靄のような塊が出てきた。恐らく、アレが西行妖なのだろう。靄は私の目前まで迫った。

 

 

 

「はい、捕まえた」

 

あと数センチで私の口の中へと入り込もうとした靄が動きを止めた。見ればいつの間にか霞さんが靄を片手で捕まえている。……明らかに素手で触っていいものではないと思うのだけれど、そこは霞さんだから大丈夫なのだろうと納得する。

 

「邪魔をするか、創造神」

「そりゃするでしょ。つーか途中から俺の事忘れてなかった?」

 

 

 

霞さんはそのまま靄を投げ飛ばす。スポンっと小気味よい音をさせながら、靄が完全に幽々子の身体から出てきた。

 

「俺、そこまで影が薄いかなぁ」

 

なんかよく分からない理由で霞さんは落ち込んでいるけれど。

 

「ちぃっ!ならば再び幽々子の身体に……」

「いや、させるわけないでしょーが」

 

そう言うと、霞さんの掌に青い球体が造られた。それを握りつぶすと、辺りに霧となって広がり、空間を埋めつくす。

 

「久しぶりの、『掌握』」

 

私が使うものなんかとは比べ物にならない、任意の対象以外への干渉不可な結界。今までに何度か見たことはあるけれど、やはり創造神は桁が違う。

 

「お前が幽々子の身体から出てくるのを待ってたんだわ。流石に俺が相手すると幽々子自体も無事じゃ済まないし」

 

と、言っているが、恐らくは面倒くさかっただけだと思う。

だって私だってそうするし。

 

「邪魔をするな!!創造神!!」

「俺から言わせりゃ、幽々子の邪魔をしてんのはお前だよ。西行妖」

 

霞さんは両手を合わせる。まるで神であるにも関わらず、神に祈るように。

 

「神力一割解放。神様モード」

 

その瞬間、神々しいまでの神力が霞さんを包み込んだ。普段は周囲に影響を与えないためか、神力を隠し霊力を扱う霞さん。その霊力ですら、普通の人間の何倍もの量を誇るのだけど、『神様』になった時のその力は他を寄せ付けない。一割の力ですら、私でも慣れなければ立っていることもままならないほどだもの。

 

「そんじゃ、斬らせてもらうぞ」

 

腰に差す一振の刀。霞さんの力の影響か、抜かれた刀身はうっすらと青く輝いている。聞けば遥か昔から愛用するという。名を『夜月』。『森羅万象を断ち切る程度の能力』を付加された、所謂神器の一つだ。

 

『断ち切れ、夜月』

 

そう言って振り抜かれた刃は、青い軌跡を残して靄を真一文字に切り裂いた。

 




霊「なんか後半、私解説しかしてなくない?」

霞「文句は作者に言ってくれ」

作「今作初の霞さん戦闘シーンをあっさり終わらせたかったので……」

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12話/いただきますは最低限の礼儀らしい

作「はい、第一章は今回で終わり!」

霞「なんか最後の方はやっつけじゃなかったか?」

作「この後の事を考えると、これ以上は伸ばせませんでした……」

霞「相変わらず計画性のない奴だ」


side 霞

 

『断ち切れ、夜月』

 

俺の神力を纏った夜月は、青く輝き、横一文字に軌跡を描いた。

無論、幽々子の身体には傷一つ無い。俺が断ち切ったのは幽々子と西行妖の繋がり。

繋がりの切られた黒い靄は行き場をなくし、やむなく西行妖へと戻った。そうなってしまえば、もう後はどうとでもなる。この大木を切り倒すなり、創造神様の本領発揮で根っこすら残さず消滅させるなり、手段はいくらでも考えられる。

しかし、西行妖もただ切られるのを待つわけもなく、器用にもその枝をしならせ、触手のようにコチラを攻撃してきた。

その能力を付加された妖力を纏った枝は、触れれば即死へと誘われる。まぁ、俺は死なないんだけど。

それでも痛いのは嫌だし、何よりあの身体を内側から締め付けられるような感覚は二度とゴメンだ。

迫る枝を夜月で切り払いながら、どうするか考えていると、背後から小さいながらも声が聞こえた。

 

「桜は……残して……」

 

それは今にも消え去りそうなほど弱りきった幽々子の声だった。

紫に支えられ、半身を起こした状態で何とか絞り出した願い。俺としては残す必要もないと思うのだが、幽々子にとっては少なからず思い入れのある桜なのだろう。

 

桜の木は、他の木よりも弱いという。枝を折ったくらいでは分からないが、幹の部分に傷でも出来ようものなら、そこから病気にかかってしまう。

つまり俺は桜を傷付けずに西行妖を切らなくてはならなくなった。まったく面倒な事だ。

 

「しょうがないなぁ」

 

これが霊夢だったら無理な話だっただろう。これだけの妖力を溜め込んだ妖怪桜相手に、生半可な封印術では意味をなさないし、傷つけないという選択肢が凡そ思いつかない。なにせ大雑把だから、あの子。

 

さて、ここで問題だ。

俺の夜月は、『森羅万象』なんでも斬る事が出来る。しかし、切ったからと言ってそれが無くなる訳ではない。肉体があるものならば、その肉体の構成を断ち切って分解させることは出来るが、この西行妖のように、『意思』そのものは切っても無くなる訳では無い。寧ろこの場合だと分裂させるという意味になる。

ならばどうするか。

 

 

答えは簡単だ。妖力は妖力を使う者へ。

 

「……はい、ご飯の時間だよ」

「……貴方、喧嘩売ってるの?」

 

ワームホールを開き手を突っ込んで引っ張り出したのは、昼寝をしていたのだろう姫咲。まぁ、ルーミアでも良かったのだが、最初に掴んだのが姫咲だったから、しょうがない。

 

「今からアレ斬るから、妖力食べていいよ」

「あんなもの食べたら胃もたれしそう」

 

姫咲ならば、あれくらいの妖力を喰らったとしても、西行妖に飲まれることなく、逆に飲み込んでしまうだろう。

 

「私をゴミ箱扱いとは、いい度胸ね」

「神様厳選の銘酒」

「あれくらい訳ないわ」

 

なんとも、最近の姫咲は扱いやすくて助かる。後で天照にでも酒を用意してもらうとして、俺は再び夜月に神力を込める。

姫咲も臨戦態勢へと入った。

 

迫り来る枝を切り払い、死角のものは姫咲に任せる。逆に姫咲の対処出来ないものは俺が切り裂く。

即席とはいえ、長い付き合いだからできる二人の連携に、徐々に桜との間合いは詰められていった。

 

そして。

 

「断ち切れ、夜月!」

 

再度、俺は夜月を振るう。

青い軌跡は桜を切ることなく、妖怪の部分だけ断ち切った。

切り口の部分から漏れ出した靄を姫咲は掴み取り、そのまま口へと運ぶ。

こら、せめて「いただきます」くらい言いなさい。

 

靄を丸呑みにした姫咲は、満足そうに舌なめずりをしている。

「意外といけるわね。なんて言うの?珍味って感じかしら」

いや、知らんけど。妖力なんて食ったことないし。

 

 

 

こうして、『春雪異変』と呼ばれる異変は幕を閉じるのだった。

 

この時、俺の知らないところで果てしないほどの大きな異変が動きつつあるのも知らずにいた。

 




作「次回からオリジナル異変」

霞「今回のラスト、すげぇ意味深な事になってるんだけど」

作「いやぁ楽しみですね!」

霞「それはお前だけだろ」


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2章/行方知れずの代償
13話/人里ではよくあることらしい


お久しぶりです。

今回はちょっと短くしましたが、今章からタイトル回収をしていきますっ!!


side霞

 

「突然だが、体に悪いものが食べたい」

 

妖怪桜が起こした異変『春雪異変』を解決してはや一ヶ月。

暖かい陽気に誘われるように、俺はルーミアと姫咲を連れて人里を歩いていた。

あれだけ積もっていた雪もすっかり融けて、やっと活気が戻ってきた。

そんな中、とくに行く当てもなくブラブラと店を冷やかしながら、冒頭の一言をつぶやいた。

 

「・・・このキノコ、食べる?」

 

ルーミアはポケットから米国でも吃驚なほど色とりどりのキノコを取り出した。どこにそんなのが生えてたんだ。傘の部分が虹色って長く生きてきた俺でも始めてみたぞ。

つーかそんなのさっさと捨てなさい。

 

「いや、そういう直接的に命にかかわるような、体への悪さじゃなくてさ」

 

俗に言うファーストフードだったりジャンクフードだったり。

もしくはこの際カップ麺でもいい。

 

「なによその『かっぷめん』って」

「ほら、お前にも食わせたことあるだろ?ラーメン。あれを即席で食べれるようにしたやつだよ」

「・・・なに?外の世界ではみんなあんたみたいな能力があるの?」

 

確かに俺にかかれば手間隙かかるラーメンも、手を合わせるだけで完成の超即席麺にはや代わりだが。

そういうんじゃなくて、あのお湯を入れて三分間待たされた後に訪れる至福の時間。生麺タイプで五分間だったときの絶望感。夜中に食べるカップ麺の罪悪感。そんなんが懐かしいってことなんだが。どうもその辺を理解するのは幻想郷の住人には難しいらしい。

 

「三分待つくらいならあんたが創ったほうが速いじゃない」

「いやそうなんだけどさ~」

 

そんな他愛もない話をしていると、通りの向こうに見覚えのある人影が見えた。長く伸ばした銀髪に白いシャツ。赤いもんぺをサスペンダーで留めた、まるで戦時中の女学生のような出で立ちの少女。

 

「お、妹紅だ」

 

どうやら向こうも気がついたらしく、こちらへと駆け寄ってきた。さながらその姿は久しくあえていなかった友人に駆け寄るようで。

 

「・・・どう見てもあんたを殴り飛ばそうと助走つけてるわよ」

 

すでにそれは『駆け寄る』ではなくなっていた。まるで短距離走でも走っているかのような全力疾走で行きかう人の間をすり抜ける。よくもまあぶつからないもんだ。

 

「創造神んんんんんんんんんっ!!!」

 

そう叫びながら、妹紅は跳んだ。右手に込められた霊力は、なるほど長い年月を生きただけはある。

しかし。

 

「はい妹紅、『お座り』」

 

俺のその一言によって、物理法則を無視して空中から地面へと叩きつけられた。

土煙を上げて急停止した妹紅は顔面から地面と接していた。

 

「おぉう、女の子がしちゃいけない格好してるぞ」

「あんたがさせたんじゃない」

 

妹紅の履くモンペにはいくつものお札が貼られていた。それらは俺が作り出したものだが、それぞれ効果が異なる。そのうちのひとつ『俺、もしくは本名を知るものに『お座り』と言われた瞬間、モンペの重量を三百倍にする』というものだ。いくら鍛えてあるとはいえ、三百倍にも増えた重量は容易に立ち上がれないだろう。

 

「元気そうだな妹紅」

「くそがぁぁぁ、ぶっ殺してやる・・・」

 

顔だけ動かしこちらを睨むが、如何せん体制が四つんばいから上半身を地面に伏せたような格好であり、なんとも怖くない。

 

「まーだ諦めてないのかお前は。いいかげん懲りないか?」

「うるせぇ!いつか必ずお前と輝夜を殺してやるからなっ!!」

 

以前に起きた大異変。その際に輝夜に倒され紆余曲折あり人里のある人物へと預けられた。

 

「どうしたんだ妹紅、急に走り出し・・・おや霞殿」

「やあ慧音。元気かな?」

「あぁ、おかげさまで息災に過ごしているよ」

 

妹紅がやってきた方向から歩いてきたのは青いワンピース状の服に身を包む知的そうな女性。頭にはこう、形状を説明しにくい帽子(?)のようなものを乗っけている。名前を上白沢慧音。人里で寺子屋を営み、教師をしている。

 

「・・・また霞殿に襲い掛かったのか」

 

地面に伏せている妹紅を見下ろし、小さくため息をついた。

度々人里を訪れた際、妹紅は俺を見かければその都度襲い掛かってきた。俺の記憶が正しければ、今回で二十一回目だ。

なんとも飽きないものだ。

 

「霞殿は買い物か何かか?」

「いんや、散歩みたいなもんだ。いうなれば日曜日に家を追い出されたお父さん」

「??」

 

どうやらこれも幻想郷の人間には理解できない感覚らしい。世のお父様方よ、ぜひとも幻想郷には来ないことをお勧めする。

 

「ま、まぁ散歩というならば、どうだろうかこれから寺子屋に来ないか?」

「寺子屋に?」

 

以前に一度だけ顔を出したことがある寺子屋。少し広めの敷地に人里の子供たちが集まり、慧音が算術や読み書きを教えていた。

前回は結局子供たちにもみくちゃにされて終わったのだが。

 

「是非とも神という者の生き方などを子供たちに教えてやってほしいのだが」

「前回もそう言われて、結果おもちゃにされて終わったんだが?」

「・・・今回は・・・大丈夫さ」

 

なんとも心強いことを目を逸らしながら言ってくれる。

まぁ、今回はルーミアを姫咲という生贄・・・もとい見た目同世代が一緒なわけだから、俺への被害も少なくなるだろう。

 

「あんた今失礼なこと考えなかった?」

「滅相もない。そんじゃちょいとお邪魔しようか」

 

こうして暇をもてあました俺たちは、慧音の勧めで寺子屋へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「おいっ!私をおいてくなっ!!」

 

 

 

 




霞「妹紅の扱い、あれでいいのか?」

作「大丈夫、次回は妹紅が大活躍するから」

妹「ほんとだろうな!嘘だったら燃やすからな!」

作「・・・」

妹「なんか言えよっ!!」


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14話/短パン小僧はどんな世代でも一人はいるらしい

長らくお待たせしました。
一応、今年中にあと何本か上げるつもりです。

……気長にお待ちください。


霞「気長にって、今年はもう何日もないぞ?」



side 霞

 

人里の片隅で営まれていた寺子屋に、子供たちの叫び声が響き渡る。

 

「うわぁぁぁぁっ」

「こっちに来たぁ!!」

 

子供たちは蜘蛛の子を散らすように広い庭を駆け回る。

追いかけるのは一体の鬼。その眼はギラ付き、鋭い牙を覗かせている。

 

「こっちに来るなぁっ!」

「やべぇ!鈴木が狙われてる!!」

「しょうがない、俺に任せろ!」

「田中!!」

 

なんか一人の少年が男を魅せようとしているが。

なんてことは無い。今、俺の目の前で繰り広げられているのは姫咲が鬼の鬼ごっこ。正真正銘の鬼ごっこだ。

 

「やーい!こっちだペッタンコ〜!!」

「……今言ったのは誰だァァァあっ!!」

 

あ、姫咲がキレた。流石に子供相手に本気は出さないようで、俺としては目を疑うほどの手加減ぶりだ。

 

「ねぇねぇ神様、今度はどう折れば良いの?」

 

庭を駆け回る男の子とは逆に、女の子は縁側に座る俺を取り囲み、和やかに折り紙をしていた。

何故かそんな中にルーミアも混じっているのだが。

 

「んぁ?次はな真ん中をこう……いい感じに折るんだ」

「飽きるの早いのかー」

 

だってここに来てから俺、折り紙の折り方しか教えてないぞ?

本来なら歴史やらなんやらを教えてくれって話だったんだが。慧音も半ば諦めているし。

 

「申し訳ない、霞殿」

 

いや、俺もこうなる事は想像ついてたけどね。

しかしながら、予想外なのが……。

 

「……なんだよ」

「いや、妹紅が子供たちに人気で嬉しいよ」

「嫌味にしか聞こえねぇ」

「うん。だって見ててめっちゃ面白いもん」

 

俺とは離れながらも縁側に座る妹紅。その膝の上と背中には子供が引っ付いている。以前の妹紅を知る身としては、驚きを隠せないし、面白い。

 

以前はこの世界そのものに絶望し、無明と共謀して異変を起こした妹紅だが。根はそんなに悪いやつじゃないらしい。その証拠が今の姿だ。

 

「今の姿を見たら、輝夜も腹を抱えて笑うだろうな」

「あ、アイツに言ったらただじゃおかねぇ!」

 

 

 

そんな平和を凝縮したような空間に、俺達は束の間の平和を味わっていた。

 

「ところが、人里はあまり平和とは言えない状況なのだ」

 

と、突然慧音の纏う空気が変わった。

 

「人里が?さっきは何も感じなかったが」

「それは恐らく霞殿が居たからだろう。この幻想郷で霞殿の目の前で事を起こそうとする輩はいないからな」

 

なるほど、俺の存在が犯罪の抑止力になっているのか。ならばこれからはちょくちょく人里を訪れるべきか。

と、そんなことを考えていると、慧音が今人里で起こっている事件の話を始めた。

 

「事の始まりはまだ雪が積もっていた頃からだ。その頃は寺子屋も休みにして、子供たちは皆それぞれの家にいたんだ」

 

先日の異変--春雪異変の時のことらしい。

 

「言葉にすれば簡単な話だ。どこの誰かは分からないが、子供が攫われ、行方不明になったんだよ」

 

簡単と語られた言葉は、しかし簡単に見過ごせるような内容ではなかった。

 

「攫われたって……誘拐か?」

「いや、子供の親にはなんの要求もなかった。それに攫われた子供は翌日、無傷で人里に戻ってきたんだ」

 

はて、どういうことだ。途端に分からなくなる。いくら文明が外の世界とかけ離れているとはいえ、誘拐した相手をそのまま逃がせば、少なからず情報が伝えられ、自らの首を締めることになる。言葉にはしないが、殺すなりなんなりの口封じはするはずだ。

 

「その子供からは何も聞き出せなかったのか?」

「……うむ。いや、聞き出せたのだが……」

 

どうも慧音の言葉が詰まる。

 

「その子供は何も覚えていなかった(・・・・・・・・・・)んだ」

 

 

 

 

side 慧音

 

--1ヶ月前

「どういうことだ?」

 

私は伝えられた内容が分からず、聞き返すしか無かった。

子供が一人攫われたと聞いたのはつい昨日のこと。日は既に落ちて、子供が一人で外にいるのはあまりに危険な刻限になった頃。外で遊ぶことも出来ないほどの吹雪の中、家の中から子供が消え去った。

その話を聞いた時、まず思い浮かんだのが一人の妖怪のこと。あの妖怪ならばスキマを使えばどんな場所も容易に侵入でき、子供の一人くらいならば攫うのになんの苦労もないだろう。

しかし、それでも幻想郷の賢者と呼ばれる者。何よりも妖怪と人間の調和を望むあの者が、態々争いの火種を着けるような事はしないだろうと、直ぐに頭の中から振り払った。

 

「戻ってきたんだな?」

「え、えぇ。先程、里の前にいるのを自警団の人が見つけてくれました」

 

知らせを聞いて、直ぐに里の自警団を動いた。広い人里とは言え、そこに住む住人は皆顔見知りだ。誰かが居なくなったとなれば、全員が一丸となって捜索に当たるし、それが子供となれば尚更だった。

しかし、事件は余りにも簡単に収束しようとした。

 

「とりあえず怪我などはないんだな?」

「はい。特に外傷はないようです」

 

そう答えたのは自警団の一人。

子供を見つけた一人だった。

 

「……しかし」

「しかし?」

「……何も覚えていないと言うのです」

 

--現在

 

「なんも覚えていない?」

 

霞殿も驚きを隠せないようで、私の言葉をオウム返しするだけだった。

 

「あぁ、私もその子に話を聞いたのだが、攫われた瞬間から自警団に発見されるまでの記憶がないのだそうだ」

「……なるほど。記憶操作をされたってことか」

 

恐らくその通りだろう。犯人は自分の情報が少しでも伝わるのを恐れ、能力なのか、何か薬物なのか分からないが子供の記憶を消したのだ。

 

それだけでも理解の出来ない不可解な事件なのだが、話はそれだけで終わらない。

 

「そんな事件がこの1ヶ月でもう七件も起きているのだ」

「……なんだと?」

 

凡そ一週間に二人。そのどれもが攫われた翌日には発見され、そして誰もがその間のことを覚えていないと言っている。

 

「まず、この事件に紫は関係していない。アイツはつい最近まで冬眠していたからな」

「だとは思っていた。こんな手の込んだ事件を起こさなくとも、八雲紫ならばもっと簡単に、尚且つ証拠すら残さず事を起こせる」

 

だからこそ理解が出来ない。何故、犯人は記憶を消してまで子供を帰すのか。言葉は悪いが、そんな手のかかる事をするならば、殺してしまえば済む話だ。

結果として無事に帰ってきているのだから、良いのだが。次がそうなると誰が言いきれるだろうか。だからこそ、今人里はよく分からない緊張感と疑心感に苛まれているのだ。

 

「どうか霞殿も犯人捜査に協力してもらえないだろうか」

「ふむ。流石にこれは看過できないな」

 

今日、霞殿に出会えたのは僥倖と言える。神々の頂点である創造神の霞殿に協力してもらえれば、鬼に金棒だ。

これだけ心強い協力はない。

 

「わかった。俺もこの件で少し動いてみよう」

 

 

こうして、霞殿の協力を得たのだが。そんな話をしている間に、またしても事件は起きているのだった。

 

 

それも、予想の遥か外をいく意外な者の消失をもって、私達はその事実を知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side 霞

 

慧音から事件の概要を聞かされ、子供達に名残惜しまれながらも寺子屋を後にすると、空はオレンジ色に染まっていた。

 

ひとまず神社へと帰り、夢乃や霊夢にも話を伝えようと帰路へとついた俺達の前に、意外な人物が現れた。

 

「久しぶりね、創造神」

「んぁ?吸血鬼姉じゃないか」

「……その呼び方、なんとかならない?」

 

日が沈みかけているとはいえ、まだ明るい内にコイツの姿を外で見るとは思わなかった。いくら日傘を差しているとはいえ、吸血鬼が外に出るような時間じゃない。

 

「どうした?霊夢にでも会いにきたのか?」

「半分はそうよ。もう半分はアナタ」

「俺に?」

 

ふと気が付く。吸血鬼姉--レミリアは一人だった。何時もならばメイド長の咲夜が片時も離れずに傍に居るはずなのに。

 

「そう言えば咲夜はどうした?一人なんて珍しい」

「……」

 

そこでレミリアの空気が変わった。初めてあった時のあの余裕のなさが思い出される。

 

「……咲夜が消えたわ」

 

それは俺の想像を超えた、長く大きな異変の始まりを告げる言葉だった。




と、言うわけで物語が動き出しました。

妹紅「……おい、何処に私の活躍があるんだよ」

霞「なんだ、信じてたのか?」

妹紅「え、嘘だろ?……おい」

…………

霞「あ、逃げた」

妹紅「まてごらぁぁぁぁっ!」


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