GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり (にょろ35106)
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人里事件

 

 

 

 

 

幻想郷、人里。

 

「なんだ、これ?」

 

昼近い時間の人里の中心とも言える繁華街に奇妙な現象が発生していた。

 

時間が経つにつれ、それは実体を持ち姿を現わす。

 

誰もが思った。

 

また「異変」かと。

 

異変なら博麗の巫女の出番である。

 

「おい、おめぇひとっ走り博麗神社まで行って来い」

 

「えぇっ!?お、おらがだか村長!?」

 

「おめぇが一番足早いでねぇか。つべこべ言わずに行け」

 

「わ、分かっただよ・・・・」

 

この男は運が良かった。

 

悲劇が起きる前に村を出たのだから。

 

 

 

「う、うわぁっ!?妖怪だぁっ!!」

 

「ひ、ひぎゃああぁっ!!」

 

逃げ惑う人、ワイバーンに喰いつかれたが即死できず悲鳴を上げながら死を待つ人。

 

オーガの棍棒で叩き潰され、兵士の剣で体を斬り裂かれ・・・・。

 

阿鼻叫喚の地獄。

 

人里に出来上がる骸の山。

 

その骸の山に兵士が旗を突き立てる。

 

「蛮族どもよ!」

 

指揮官の勝利宣言にも似た台詞が炎を上げて燃え盛る民家や商店の間の民間人のいなくなった通りを抜けていった。

 

「ふむ、しかし・・・」

 

足元に転がるうつ伏せの死体を蹴り飛ばし仰向けにさせる。

 

「やはり蛮族だな。まともな服も作れぬらしい」

 

「家々も木で出来ている上に紙の窓です。火を付ければあっという間に燃え尽きてしまいますな」

 

「「「ははははははっ!!」」」

 

周りの兵士達がその言葉に笑った直後だった。

 

「貴方達ね?殺戮と略奪を行なっている野蛮人って」

 

どこからともなく聞こえた女の声。

 

発生源を探そうと辺りを見回していた彼等は見た。

 

何もない空間に亀裂が出来上がっていた。

 

その亀裂は広がり、その奥には奇妙なものが見えた。

 

無数の目。

 

兵士の誰かが悲鳴を上げた。

 

 

 

その亀裂の中から現れたのは二人の女。

 

二人とも金色の髪をしており、だが辺りの死体とは異なる見栄えのある服を着ている。

 

「ほう、野蛮人の中にも見目麗しいご婦人がおられるとは」

 

下卑た笑みで二人を見る。

 

「あら、お上手ね?」

 

一人は笑顔を浮かべつつも目は笑っていない。

 

「下衆が・・・」

 

嫌悪感を露わにするもう一人の女。

 

その女には幾つものが尻尾が生えているのに気付く。

 

「怪異どもの同類か?」

 

「・・・・・っ!!」

 

「あら?私の藍をそこにいる連中と一緒にされたらたまったものではないわね・・・。藍、見せつけてあげなさい」

 

「はい、紫様」

 

一瞬。

 

藍は紫とは直線上の反対の位置にいた。

 

その間には数体のオーガ。

 

藍が振り向くと同時にオーガはスライスされた所がズレ落ち地面に汚い染みを作る。

 

誰かが気付いた。

 

爪が鋭い光を反射している事に。

 

オーガ達はこの爪で斬り裂かれたのだと。

 

「藍、適当に残して後は貴女に任せるわ」

 

一方的な殺戮劇が始まった。

 

スペルカードの弾幕は弾幕ごっこの制限を解除され殺傷力を持ち異界の軍団を蹂躙する。

 

弓兵が弓を射ち、ワイバーン兵が上空から襲撃する。

 

それらは藍を中心に放たれた手加減無しの弾幕で無力化され、さらにそのまま弾幕の餌食になる。

 

 

「もういいわよ、藍」

 

紫の言葉と同時に数分間の殺戮劇は終わった。

 

「申し訳ありません紫様。幾人か逃してしまいました」

 

いくら圧倒的な戦力差があろうとも一対多数。

 

当然討ち漏らしがあり、門の中へ逃げたもの、門から離れた所にいた一部の者は人里から森へ山へ逃げて行った。

 

「構わないわよ。門には結界を張ったから再度出てくることはないでしょうし、森や山で逃げた連中は遅かれ早かれ山や森の妖怪達が始末してくれるでしょう」

 

そう言いながら紫は門を見つめながら何かを考えていた。

 

 

 

幻想郷の何処かにある八雲家。

 

「紫様、門の向こうへ行くの?」

 

式神の橙がつい先ほど紫の下した決定を聞き返す。

 

「ええ。あの門を調べたんだけど、異界の神が関わってるようね。それと、これを見て」

 

八雲家のお茶の間に紫がスキマからテレビを出した。

 

電源を入れると映ったのは外界の放送だった。

 

《銀座事件から1ヶ月がたちました。犠牲者遺族の痛みは心中察して余りあります。現在の世論調査ではこの“ゲート”と呼称される物体の爆破を求める意見もあり・・・・》

 

「外界にもあの異界門が・・・・」

 

「出て来た軍勢の数も外界の方が桁違いだったらしいわね」

 

そんな紫と藍の会話に割り込む者がいた。

 

橙ではない。

 

「あ、あの~、俺は一体何をすれば・・・あははは・・・」

 

男の声だった。

 

「伊丹、貴方には間も無く結成される幻想郷防衛軍に参加してもらうわ」

 

「え?えええ~~~っ!?」

 

 

伊丹耀司。

 

それがこの男の名前だった。

 

かつては外界において自衛隊と呼ばれる国防組織に属していたが休暇中のある日幻想郷に迷い込んだ。

 

運良く博麗神社に行こうとしていた魔理沙に見つけられるも元の世界に帰るか暫く悩む。

 

悩んだ結果暫く幻想郷で過ごしてみようと思い立ち帰るのを保留にしていた。

 

尚、自衛隊には霊夢経由で休職の旨を手紙で郵送済みである。

 

 

「指揮官は私だけど、いくつか貴方にも指示を出してもらうわ」

 

「無理無理!無理ですって!」

 

「安心なさい。外界の軍隊みたいにガチガチじゃないわ。いくつかの勢力ごとに分けて基本はその勢力任せ、大体の方針を指示すればいいのよ」

 

「その、拒否権は?」

 

「無いわ(はぁと)」

 

「そーなのかー・・・・」

 

思わずルーミア口調になってしまう伊丹であった。

 

 

 

 






皆さんはどのキャラが好きですか?

作者は八雲紫です。

そして何故か伊丹は幻想郷勢力側なので外界での銀座事件には関わっていません。








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アルヌスの丘の・・・

勢いのままに書きました


アルヌスの丘。

 

 

異世界への派兵から数ヶ月後の現在、その丘は反撃に出た異世界の軍隊である自衛隊により制圧されていた。

 

門の周りには戦車が展開し、有刺鉄線や柵、更には日本語と異世界語で立ち入り禁止の看板が立てられていた。

 

その門から僅か2キロほどの距離。

 

そこにももう一つの門があった。

 

その門の存在を知った自衛隊側はそれを第二ゲートと呼称した。

 

 

「偵察隊からの第二ゲートに関する第一次報告書です」

 

報告書を受け取る特地方面派遣部隊の指揮官・狭間。

 

幾つかの事柄が書かれ写真も添付されていたが簡単にまとめると以下の事が判明した。

 

・第二ゲートの近くには小さな湖が存在し、その湖の畔りに館が存在する。

 

・館は全体が紅い色をしている。

 

・正門前に門番と思われる帽子を被った女性が立っている。

 

・女性の服装は中国風であり、帽子には可能な限り近付き望遠撮影した添付の写真にあるように漢字で“龍”と書かれている。

 

・女性は常に目を瞑っており、恐らく熟練した戦闘技術を身に付け気配を探っているのでは無いかと偵察隊は考える。

 

・他にも第二ゲート付近において幾つかの人影が確認できた。

 

・用途は不明だが機械のような物体も確認される。

 

・偵察隊としては第二ゲート勢力との接触を具申する。

 

 

「う~む・・・にわかには信じられんな」

 

「私もそう思いました」

 

報告書を持ってきた幕僚・柳田も同意見だと言う。

 

「中国風の服装に“龍”と漢字の書かれた帽子・・・中国人か・・・?」

 

「しかし現在、中国側にゲートが開いたと言う情報はありません。情報操作・・・も考えられますが、この館は明らかな洋風建築。加えて特地派遣に参加させろと相変わらず言ってくる中国側にゲートが開いているのならば嬉々として人民解放軍を派兵し国際社会に向けて我が国にもゲートが存在すると喧伝し国際社会での優位性を主張するのではないかと・・・」

 

「うーむ・・・第二ゲート側の戦力が不明な以上、迂闊に接触するのは避けたいな。最悪、我々と同等の戦力を持っていた場合に戦闘になれば・・・」

 

「では、第二ゲート勢力との接触は特地側の武装勢力の対処後に?」

 

「それが最善かもしれん。この報告書は上に上げておこう。斥候には引き続き監視と調査を進めるように。ただし、接触は極力避けるように」

 

 

 

第二ゲート側の湖畔の館・紅魔館。

 

幻想郷の紅魔館そっくりに建てられている幻想郷の一大勢力であり、現時点での幻想郷防衛軍前線基地である。

 

その敷地内に古風な洋風建築とは異なる建物が建っていた。

 

「にとりさん、小型原子炉のチェック完了しました」

 

「オッケー。じゃあ引き続き、防衛用荷電粒子砲の組み立てを続けて」

 

作業机の上の図面を細かくチェックしながらある物を組み立て途中のにとりが指示を出す。

 

幻想郷防衛軍技術工廠であり河童達のテリトリーだ。

 

紅魔館そのものに入るには筆頭メイドの咲夜の許可が必要ではあるが紅魔館への電力供給と引き換えに敷地内での自由が認められている。

 

「荷電粒子砲って、外の世界より明らかに進んでるじゃないか・・・」

 

呆れながら呟く伊丹がそこに居た。

 

「あ、盟友。もう来てくれたんだ、もうちょっとまっててね」

 

組み上げ終わった機械を念入りにチェックするとその機械を伊丹に押しつけるように渡す。

 

「じゃあ、ちょっと試射に付き合ってよ」

 

「試射?これ武器なのか?」

 

にとりの後を付いて行きながらその機械を角度を変えたりしながら見る。

 

よく見れば構え方とかが銃に似ている気もする。

 

「じゃあ、説明するね。それはにとり特製の電気式投射機だよ」

 

「電気式・・・磁力投射機?」

 

「うん、電気の力で磁力を発生させて金属の塊を射出するんだ」

 

伊丹はその言葉の一つ一つをゆっくりと考えて行く。

 

 

青年思考中・・・。

 

 

 

「って!これレールガンじゃないか!?」

 

思い当たる兵器の名を叫ぶ伊丹であった。

 

 




幻想卿の河童の技術力は世界一ィィィィッ!
月の都「ほぅ?」



目を瞑っている門番さん?
もちろんその後に咲夜さんに居眠りがばれてお仕置きされましたとも。


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吸血鬼の夜

注・捏造設定と残酷な表現が存在します。

7/13 誤字報告ありがとうございました。


アルヌスの丘、紅魔館。

 

「咲夜の紅茶はいつも美味しいわね」

 

「感謝の極み」

 

「ねぇ、気付いてる?」

 

「はい。恐らくはもう一つの門の・・・自衛隊という組織の偵察隊ですね?」

 

「ええ」

 

ふふふ、とレミリアは笑う。

 

「排除しますか?」

 

「敵意は感じないからそのままでいいわ。事が起これば私達の力を目撃する証人になるのだから」

 

「流石でございます、お嬢様」

 

「咲夜、今何時かしら?」

 

「ちょうど11時になった所でございます」

 

「あら、朝・・・いえ、昼更かしし過ぎたわね。飲み終わったら寝るとするわ」

 

コクッと紅茶を一口飲む。

 

「寝室の準備は出来ております」

 

「そうそう、私が起きる前にもしフランが起きてきたら勝手に動かない様に伝えてちょうだい。姉妹同時に・・・のシチュエーションを予定しているのよ」

 

「畏まりました。妹様もお嬢様との共闘を楽しみにする事でしょう」

 

「河童の防衛装置でありえないとは思うけど・・・あの野蛮人達が昼間に攻め込んできたら咲夜が適当に相手をしてやりなさい。それともし自衛隊が接触してきたら、丁重にお出迎えして差し上げて」

 

「畏まりました」

 

恭しく礼をする咲夜。

 

 

「動きませんね・・・」

 

窓を拭きながら咲夜は紅魔館から数百メートル程離れた場所に隠れている迷彩色の物体と服を着た集団を眺めながら呟いた。

 

動かないならば動かないに越したことはない。

 

もし来訪して来たのなら複製とは言え主人の魔力によって創り上げられたこの紅魔館の手入れに割ける時間が減ってしまうから。

 

 

 

「夜襲ならば、あるいは・・・」

 

その日、リィグゥ公が自衛隊への夜襲を計画した。

 

 

 

暗闇に紛れて進軍する帝国兵。

 

諸王国連合軍に自衛隊の相手をさせながらも部隊を温存し潜んでいた帝国軍がリィグゥ公と時を同じくして紅魔館へ夜襲を行なった。

 

 

「!?」

 

諸王国連合軍側の上空が明るくなり帝国兵達が動揺した。

 

ドン・・・!ドン・・・!ドン・・・!

 

パパパパパパパパッ・・・!パパパパパパパパッ・・・!

 

ヒュルルルルルル・・・ズガーーンッ・・・!ズガーーンッ・・・!

 

パパパパパパパパッ・・・!パパパパパパパパッ・・・!

 

離れた場所から聞こえる未知の音と上空から地上を照らす光に帝国兵達は身構える。

 

くぐもった爆発音と同時に丘の向こう側が赤く燃えるような色を放つ。

 

次第に音は散発していき、やがて静けさを取り戻す。

 

上空の明かりは2度、3度と増えたがそれも消えつつある。

 

ほっ・・・っと、帝国軍兵士達が安堵した時だった。

 

「まったく、無粋ね。威力はあるけど優雅でも美しくもないわ」

 

突然の声に声のした方向に一斉に視線が向けられる。

 

 

 

「まったく、無粋ね。威力はあるけど優雅でも美しくもないわ」

 

用意されたテーブルと二つの椅子。

 

二つのティーカップには湯気の立つ紅茶が注がれ砂糖の入った小瓶も置かれている。

 

テーブルの上のランタンの光がゆらゆらと辺りを照らす。

 

その椅子の一つに紅魔館主人、レミリア・スカーレットが腰掛け紅茶の香りを楽しんでいた。

 

「そうかなぁ?凄い音で楽しそうだけど」

 

サンドイッチに齧り付きもぐもぐと食べるもう一つの椅子に座るレミリアの妹のフラン。

 

「妹様、お口に汚れが・・・」

 

さっとナプキンを用意し主人の妹の口を拭う咲夜。

 

「咲夜、ありがとう!」

 

笑顔で咲夜に礼を言うフラン。

 

「ねぇ、あなた達も優雅で美しくないと思うでしょ?」

 

視線を数十メートル離れた場所にいる帝国兵達に向けながらレミリアは言った。

 

 

 

自衛隊偵察部隊。

 

館へと進軍する自衛隊側へ向かう部隊とは異なる部隊を暗視スコープで監視していた。

 

「な、なんだ!?」

 

部隊の少し離れた場所に突然テーブルと3人の人物が現れたからだ。

 

転移魔法・・・?それとも、時間を止めた・・・?

 

この世界には魔法が存在する事を知識のみだが知っていた彼等は戸惑いを最小限に抑え暗視カメラと指向性のある集音マイクを向け注視しながら集音マイクが拾う音を聴き逃すまいとする。

 

『咲夜、ありがとう!』

 

『ねぇ、あなた達も優雅で美しくないと思うでしょ?』

 

集音マイクの拾った音声に偵察隊が戸惑いの表情を浮かべる。

 

第二ゲート側と思われる勢力の言語を初めて耳にした。

 

まだ日本で解析途中の特地語ではない、日本語だ。

 

 

 

帝国兵は何かを叫ぶ。

 

「あら?何を言ってるのかしら?」

 

「どうやら、私達が何者かと言っているのではないでしょうか?」

 

「言葉がわからないと言うのはやっぱり不便ね。では、早々に退場して頂きましょうか」

 

椅子から立ち上がるレミリア。

 

フランも立ち上がる。

 

「弾幕ごっこのルールなんて存在しない、本当の私達の力を見せてあげるわ。咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

咲夜はレミリアの意図を理解し顎を上げ星空を見上げる。

 

風向きが悪いのか自衛隊の行なった攻撃による煙が少し流れて星空を淀ませていた。

 

顎を上げ上を向く・・・それは咲夜の喉が無防備に曝け出される事になる。

 

 

ガブッ・・・。

 

ガブッ・・・。

 

左右の首筋に甘美な痛みを感じる。

 

二つの暖かい存在が咲夜の首筋にそれぞれ二本ずつの牙を突き立て、皮膚を突き破り血管に到達する。

 

「ああ・・・お嬢様・・・妹様・・・」

 

ちゅう・・・ちゅう・・・こくっ・・・こくっ・・・。

 

二人の吸血鬼が左右から同時に血を吸う。

 

痛みはない。

 

いや、その逆だ。

 

咲夜の目は潤み、恍惚として表情を浮かべていた。

 

血を吸われる快感。

 

自らの血が主人姉妹に吸われ、同時に力も流れ出す心地よい脱力感。

 

だがそれでも咲夜は微動だにしない。

 

やがて二人の牙が同時に抜かれ、離れていく。

 

暖かい感触がなくなり、レミリアとフランの唾液に濡れた咲夜の首筋の皮膚が脳に寒さを伝えるが微動だにせず主人姉妹の姿を再び視界に捉える。

 

 

「やっぱり、戦いの前には咲夜の血を吸わないとね」

 

「うん!有象無象なんかとは比較できないほど美味しいしね!」

 

ニィッと、レミリアとフランが帝国兵達を見ながら笑う。

 

 

 

帝国軍兵士は見た。

 

ニィッと笑った幼い二人の口から覗く血に濡れた牙を。

 

いや、最初からおかしかったのだ。

 

あの従者共々と突然のように現れた。

 

何より・・・二人の背中には翼が生えていた。

 

「ばっ、化け物!!ええい!かかれ!」

 

 

兵士達が動き出した。

 

とんっ・・・。

 

レミリアは軽く地面を蹴り、ジャンプした。

 

そう、軽く20メートルほどジャンプしただけだ。

 

右手を空に突き上げ、何かを掴むような仕草をする。

 

「神槍!スピア・ザ!」

 

レミリアの魔力が右手にそれを構築した。

 

「グングニールッ!!」

 

地上の帝国軍兵士達に向かって投擲。

 

弾幕ごっこでは複数回に分けて投擲している。

 

だが、この戦いには弾幕ごっこのくびきの存在しない。

 

投擲されたそれは無数に分裂し、運の悪かった何人かの帝国兵の体を串刺しにし地面に突き刺さる。

 

「ふふふっ・・・それでは、遅くなってしまったけどこんばんわ、そして、さようなら」

 

パチンッと、レミリアは指を鳴らす。

 

それを合図にかの如く、全ての魔力槍が炸裂した。

 

周囲に破壊を振りまく。

 

 

 

「ひいぃぃぃぃぃっ!!」

 

「に、逃げろ!」

 

「こんな化け物と戦えるかよ!!」

 

運良く?スピア・ザ・グングニールから逃れた一部の帝国兵達が戦意喪失し脱兎の如く逃げ出す。

 

だが、スピア・ザ・グングニールで死んでいた方がマシだったのかもしれない。

 

 

「「「「ねぇねぇ、どこいくのー?」」」」

 

前後左右から同時に聞こえる同じ声。

 

同じ容姿、同じ声の4人の少女に囲まれている。

 

「「「「お姉さまだけじゃなくって、フランとも遊んでよ~」」」」

 

4人の同じ容姿の少女達が手を突き出す。

 

こいつも化け物だ・・・。

 

言葉は分からなくても本能が理解し兵士達の心を恐怖が支配する。

 

「「「「きゅっとして」」」」

 

「がっ!」

 

「あがっ!?」

 

「ひっ!?」

 

兵士達が悲鳴をあげる。

 

突然の事に悲鳴をあげられない者も何人かいた。

 

バラバラに逃げようとしていた兵士達がフランが手を握ると同時に一ヶ所へ勢いよく吸い寄せられたからだ。

 

ぎゅううっ・・・・。

 

ギシギシギシ・・・・。

 

ミシ・・・ミシ・・・。

 

「いでぇっ!!いでぇよっ!!」

 

「やめてよしてやめて・・・」

 

「折れ、折れる・・・!!」

 

「うげ・・・が・・・ごぉっ・・・・」

 

「「「「うーん、何言ってるか分からないからいっか。どかーーーーーんっ!」」」」

 

圧縮されていた兵士達の塊が爆発し、血と肉と内臓を撒き散らす。

 

その様子を見ていたレミリアは息も絶え絶えだがまだ生きている兵士や二人の攻撃から逃れた兵士達に向け数百匹いや、千匹には届くかもしれない吸血蝙蝠の群れを何処からともなく呼び出し後始末をさせる。

 

たちまちに吸血蝙蝠に集られ干涸びたミイラが何体か出来上がった。

 

 

「咲夜、終わった事だし帰りましょう」

 

「はい、お嬢様」

 

主人に返答をした咲夜の首筋の四本の牙の傷跡は既に塞がってた・・・。

 

「咲夜、ご飯なに?」

 

フランが目をキラキラさせながら聞く。

 

「本日は妹様のご期待に応え、すき焼きの用意をしております」

 

「やった!咲夜大好き!」

 

「すき焼き・・・ああ、この間守矢の巫女が話していた食べ物ね。咲夜、確か倉庫にこたつがあったわよね?」

 

「はい」

 

「じゃあ、こたつを出してすき焼きにしましょう。伊丹も呼んで、咲夜も一緒に四人で食べましょうか」

 

「畏まりました。具材を多めに準備いたします」

 

そう話しながら惨劇の現場を後にする。

 

 

 

 

「隊長・・・これどうやって報告すればいいんですか・・・?」

 

「お、俺が聞きたいぐらいだ・・・・ありのままを報告するしかないだろう・・・」

 

自衛隊の偵察部隊は改めて自分たちが大変な任務に就いていることを自覚し溜息を吐く。

 

偵察隊員達の胃薬処方量がまた増える合図でもあった。

 

偵察隊員達の頭の中を色々なことが駆け巡る。

 

第二ゲート側勢力は日本語を話す。

 

魔法のような力も使い、威力は途方も無い。

 

すき焼きってあのすき焼きか?

 

こたつもあるのか?

 

伊丹って誰だ?日本人の名字か・・・それとも実はイトゥアミって名前か?

 

分からないことだらけなのでそのうち偵察隊員達は考えるのをやめて報告書作成に取り掛かった。

 

 




当家のお嬢様はブレイクしない天元突破するカリスマMAX・・・カリスマックスです。

咲夜さんの傷の治りが早い?

当家の咲夜さんはスカーレット家に仕えて100年以上経っています。

レミリアに気に入られて吸血鬼化しない程度に血を分け与えられ身体能力向上と不老長寿になっています。

ええ、めっちゃ捏造設定ですとも。


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吸血鬼の夜 かりちゅまおぜうさまと瀟洒な従者の忠誠心は鼻から出るver

吸血鬼の夜のレミリアがカリスママックスでは無くかりちゅまだったり瀟洒な従者である咲夜さんが実は忠誠心は鼻から出る場合バージョンの番外編です。

勢いとノリだけで書いた、後悔もしていないし反省もしていない。

ついて来られる奴だけついてこい(ヲイ)


尚、重複部は大分はしょりますと言うか省略します。


紅茶を飲み終わり、レミリアが就寝する。

 

だが、時を止めれば簡単に侵入でき咲夜はビデオカメラを構えながらレミリアの寝顔を撮影し続ける。

 

「はぁ・・・はぁ・・・お嬢様・・・」

 

眠る幼女を息を荒くしながら撮影する咲夜。

 

そこにいたのは瀟洒な従者ではなくただの変態であった。

 

 

 

夜。

 

帝国兵が動き出したがレミリアが起きて来る気配がなく咲夜は主人を起こしに来た。

 

「お嬢様、敵が動き出しました」

 

「う~ん・・・咲夜ぁ・・・あと5分・・・」

 

ズッキューーーンッ!

 

咲夜にクリティカルヒット!

 

咲夜は動けない!

 

結局待っているのに飽きたフランが呼びに来てくれたので事なきを得た紅魔館勢であった。

 

 

 

 

戦闘前の吸血。

 

主人の意図を理解し空を仰ぎ見る。

 

主人姉妹が動く気配がし・・・。

 

ゴチンッ!

 

そんな音がして思わず下を見る。

 

レミリアとフランが額を手で押さえながら涙目で蹲っていた。

 

「痛いわ・・・咲夜ぁ・・・」

 

「お姉様・・・おでこ痛い・・・」

 

ああもう!可愛いなぁ!と身悶える咲夜さんであった。

 

 

 

戦闘。

 

レミリアが跳躍し、その手に魔力を集める。

 

「神槍!しゅピア・ザ!」

 

レミリアは顔を真っ赤にしながら涙目になっていた。

 

「グングニーりゅっ!!」

 

帝国兵が爆散していくのを背にしながらレミリアは咲夜を見上げた。

 

「しゃくや・・・ひたはんひゃった・・・・」(咲夜・・・、舌噛んじゃった・・・・」

 

涙目で咲夜を見上げるレミリア。

 

「だ、大丈夫ですかお嬢様っ!!」

 

「いひゃい・・・」

 

ぼふっと咲夜に抱きつくレミリア。

 

(ふ、ふおおおおおおおっ!!?お、お、お、お嬢様が私に抱き付いて!?)

 

「うう・・・・しゃくやぁ・・・」

 

「だ、大丈夫ですよお嬢様・・・」

 

あやすように頭を撫でる。

 

「えへへ・・・・」

 

まだ涙目だが笑顔を見せるレミリア。

 

(な、な、なんですかこの可愛い生き物は!?永久保存!永久保存しないと!)

 

時間を止めそのレミリアの表情をブン屋以上の集中力とシャッター速度で撮影する咲夜であった。

 

鼻血を出しながら静止した時間の中で様々なアングルからシャッターを切りまくる変態淑女の姿がそこにあった。

 

 

戦いを終え。

 

「じゃあ、こたつを出してすき焼きにしましょう。伊丹も呼んで、咲夜も一緒に四人で食べましょうか」

 

(お、お、お、お嬢様と一緒に食事ですって!!?あの男も同席には納得できませんが、さ、さ、最高です・・・・!!)

 

 

 

おまけ

 

すき焼きを囲む4人。

 

「咲夜!食べさせて!」

 

「はい、妹様」

 

溶き卵に漬けた具材をフランに食べさせる咲夜。

 

「まだフランはお子様ね」

 

そう言いながらもチラッチラッと羨ましそうに見るレミリア。

 

「ほら、お嬢様も意地はってないで・・・ほら、あーん・・・」

 

伊丹が別の皿で卵を溶き、予備の箸で具材を掴みレミリアの口に持って行く。

 

ぱぁっと嬉しそうに笑いそれを頬張るレミリア。

 

ぴしぃっ!!

 

咲夜の中で謎の効果音が鳴り、能力を発動してもいないのに時が止まった。

 

Q・この男は何をしている?

 

A・レミリアお嬢様にあーんしてあげている。

 

「咲夜、次はお肉食べたい!」

 

フランの声にハッとして肉を取り、フランの口に運ぶ。

 

「伊丹、私もお肉を食べたいわ」

 

「はいお嬢様、仰せのままに」

 

軽口を聞くように返事をする伊丹。

 

(こ、こ、こ、この男は・・・私の!お嬢様にまた!)

 

主人の手前ニコニコしているが心の中の咲夜は般若の表情をして血涙を滂沱の如く流していた。

 

「え、ええと・・・咲夜・・・さん・・・?」

 

「はい、なんでしょうか伊丹さん」

 

いつもと変わらない口調。

 

「い、いえ、気のせいみたいでした・・・すみません・・・」

 

気のせいだと思い込み再び伊丹はレミリアが要求する具材を食べさせる。

 

また空気が気のせいか凍りつくような感覚がした。

 

なんだろう、なんかぱるぱるっぱるぱるぱるぱるって聞こえる気がする・・・。

 

おかしいな・・・パルスィはこっち来ていないはずなのに・・・。

 

咲夜の嫉妬心が伊丹にパルスィの幻聴を聞かせ続けた食事会であった。

 

 




最後の方におまけエピソード入れてみました。


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幻想郷防衛軍、異界調査隊結成

遂に異界(特地)の調査隊が結成、出発します。


特地の自衛隊アルヌス駐屯地上空を飛ぶ一つの人影。

 

対空レーダーに反応が出て自衛隊は警戒態勢に移行した。

 

すわワイバーンによる偵察かと上空を双眼鏡で捜索する。

 

見つけた。

 

「・・・・・天使?」

 

最初にその姿を見た自衛隊員は思わず呟いた。

 

翼の生えた人影。

 

太陽の光で影しか見えない為、自衛隊員は天使かと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「あやや、こんなものは見たことないですよ。これは文々。新聞の記事になりますよー」

 

地上を走る装甲車や待機中の戦車、烏天狗・射命丸 文にとって初めて見るものだった。

 

カシャカシャカシャ。

 

次々とシャッターを切る。

 

『ちょ、文さん何してるんですか!?』

 

霊力を込めた護符を使用した遠距離通話護符から慌てる伊丹の声がした。

 

「何って、文々。新聞のネタ探しですよ。何人たりとも真実を追求する文々。新聞の邪魔はさせませんよー」

 

『真実を追求って、ゴシップ・・・・げほんげほん!いいから戻って下さい!って、自衛隊が警戒態勢に入ってるじゃないですか・・・!』

 

「あやや、三十六計逃げるにしかずですね」

 

幻想郷最速を自負するだけあり、あっという間に文は自衛隊基地上空から姿を消す。

 

 

 

 

 

 

「ほ、報告書です・・・」

 

顔色の悪い柳田が特地方面派遣部隊の指揮官・狭間の執務室にて報告書を渡す。

 

「柳田・・・顔色が悪いぞ・・・」

 

そう言う狭間の顔色も悪い。

 

「いえ、少々胃が・・・」

 

「君もか・・・」

 

今朝見た報告書と映像。

 

小さな女の子二人が100人近い武装勢力をあっという間に皆殺しにした。

 

理不尽なほどの戦力差を手ぶらの少女・・・いや、幼女が未知の戦闘能力で覆した。

 

日本語を喋り、従者かその他か不明だが日本人らしい名前も口にしていた。

 

報告書には吸血鬼かも知れないと非常識なことが書かれていたが映像を見ればなるほど納得できる。

 

これをどうやって本国に報告するかと悩んでいたところにこの騒ぎだ。

 

「もう、何が起きても不思議ではないな・・・・。柳田、先に見ているんだろ?口頭で伝えてくれ」

 

「はっ。先ほどの未確認飛行物体ですが・・・」

 

「目撃した隊員達は天使だとか噂しているな・・・」

 

「恐らく、天使ではなく天狗ではないかと・・・」

 

「天狗?あの天狗か?」

 

「こちらが天狗と思われる未確認飛行物体の拡大写真です」

 

狭間は手渡された数枚の写真を見る。

 

全身の写った写真、引き伸ばされた写真。

 

「なるほど、姿は確かに天狗だな・・・」

 

カラスの様に黒い翼、修験者の様に見える服装と頭襟(ときん)を頭に乗せている。

 

「気のせいか、少し小柄に見えるな・・・」

 

「いえ、恐らくそのままです。分析した者の所見では、恐らく女性だと・・・」

 

柳田は引き延ばしの限界で顔は判別できないがスカートの様なものを履いていることと胸部が膨らんでいることから女性体ではないかと付け加える。

 

「なるほど、天狗と言えば男のイメージが強いが女性の天狗も伝承にいたな・・・」

 

「ますます、第二ゲート側の勢力の正体が分からなくなって来ました・・・」

 

胃を抑えながら柳田が言う。

 

「どうでしょうか、言語が同じなら接触は容易だと考えられますが・・・」

 

「うーむ・・・流石に私の一存では判断出来ないな。上に指示を仰ごう。政治的な交渉が必要になるかも知れないからな・・・」

 

「はっ」

 

 

 

紅魔館・幻想郷防衛軍作戦司令室。

 

とは名前ばかりで酒盛りしてる二人の鬼がいたりフリーダムな空間だ。

 

「以上が今回の概要よ」

 

そう言いながテーブルの上のお菓子を一口つまむ紫。

 

「伊丹をリーダーに、私と魔理沙の三人ではたての見つけた村を調査すればいいのね」

 

「そうなるな。でも、調査する村は二つだから一つにあまり時間かけられない。そして未知の生物との遭遇、戦闘が発生する場合も想定すれば・・・」

 

腕組みをして考える伊丹。

 

「藍さん、にとりさんの例の研究はどうなっていますか?」

 

紫の側で橙の髪を梳いてやっていた藍に話しかける。

 

「ああ、例のあれですか。まだ量産体制に入ったばかりですが、試作品なら必要なら使ってもいいと言っていました」

 

「ありがとうございます。では、その試作品も使用しましょう」

 

「決定ね、伊丹足引っ張らないでよ?」

 

少し意地悪い笑いを浮かべながら霊夢が言う。

 

「おいおい、伊丹もかなり上達してるんだぜ?先生の腕がいいからかもな」

 

「自画自賛してる魔法使いがここにいるわ・・・」

 

魔理沙の反論に霊夢がうわぁ・・・と表情を変えた。

 

 

数刻後。

 

紅魔館の庭に伊丹、霊夢、魔理沙が集まる。

 

カチカチカチッカチカチカチッ。

 

そんな三人に向けてある人物が二つの物体をぶつけ合いカチカチと音を鳴らしていた。

 

「って、そこの尸解仙、火をつけようとしないでください」

 

伊丹が付け火が大好きな尸解仙もとい物部布都を制止する。

 

「むっ、無礼な。これはおぬしらの無事を祈願しておるのだぞ」

 

「そんな祈願方法、あったかしら?」

 

霊夢が記憶を手繰る。

 

巫女だけあって礼儀作法や祈願方法についての知恵はかなりの物だ。

 

問題は面倒臭がってほとんど実践しない事だが・・・。

 

「鈴奈庵で立ち読みした本に書いてあったぞ」

 

「あんた、貸本屋で立ち読みって・・・」

 

「そんな所より、紅魔館の地下図書館の方が本も多い上に貸し出し無制限なのだぜ」

 

「おおっ、そうなのか?では次からはそこに行くとしよう」

 

「いえ、魔理沙さん。世間一般ではそれ借りたって言わないのでは・・・・」

 

呆れる伊丹。

 

「ま、まぁ、祈願してくれてるならありがたく受け取ってさっさと行きましょう」

 

「だな。布都、ちゃんと火の始末はするんだぜ?」

 

魔理沙がふわりと浮くと霊夢と伊丹もそれに続く。

 

なお、動かない大図書館の心労がのちに増えることになったらしい。

 

 

 

「バレておったのか・・・」

 

さっきまで三人が立っていた場所の近くにこんもりと落ち葉が集められていた。

 

その中には芋。

 

「まぁよい、早速焼き芋を焼くとしよう」

 

手に持った火打ち石でカチカチと着火する。

 

「しかし神子様も酷いではないか。マッチを取り上げられてしまうとは・・・」

 

うまく火が付き煙が上がる。

 

「おお、後は焼きあがるのを待つだ(バシャーーッ!)わ、我の焼き芋がー!?」

 

「あなた、紅魔館の庭で誰に断って焚き火をしたの?」

 

咲夜が少し低い声で布都に話しかけた。

 

「むっ、断る必要があったのか・・・すまなかったな」

 

「あら、素直に謝るなんて意外ね・・・。じゃあ、ここは片付けて。外でなら好きにするといいわ。美鈴の分も焼いてあげなさい。お芋は準備しておくから」

 

咲夜の情けで焼き芋にはありつけた布都であった。

 

 

 

 

 

自衛隊偵察部隊。

 

「あれは・・・焼き芋か?」

 

「ええ、焼き芋ですね。食文化は似ているのかも」

 

グーっと誰かの腹の虫が鳴いたとか鳴かなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、本当に上手になったじゃない」

 

伊丹の飛行をしばらく見ていた霊夢が言う。

 

「ええ、感覚を掴むまで大変でしたけどね」

 

正直な話、伊丹自身の霊力は並みで相当修行しなければ浮くのも難しかった。

 

だが紫が霊力を込めた飛ぶための霊符を使って現在は飛行している。

 

「筋はいいし、紫の霊力が呼び水になれば霊符無しでも飛べるようになるかもな」

 

「そうかなぁ・・・・?あまり自信がないんだが・・・・」

 

 

 

 

 

 

自衛隊偵察部隊。

 

「飛んでますね」

 

「ああ、飛んでるな」

 

「一人は箒にまたがってますけど、巫女服と和服は何もなしに飛んでますね」

 

「ああ、そうだな。・・・・っと、すまん、薬の時間だ・・・・」

 

「隊長も胃薬っすか・・・・」

 

「ああ、お前もか?」

 

「ええ。それに狭間陸将もこの間大量の胃薬を出されてましたよ・・・」

 

 

 

 

 




自衛隊の胃が持つのか?


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おいでよ、エルフの森(ただし焼け野原)

今回は自衛隊側と幻想郷側(特に霊夢)に独自設定と改変があります。


「・・・ここもか・・・」

 

伊丹が黒焦げになっている死体を前に合掌する。

 

少し前に霊夢が見つけた煙と燃える森を見つけた。

 

地上に降り様子を見ていると巨大なドラゴンが飛び立つのが見えた。

 

「何もないところで炎を吐く習性あるのか?」

 

と伊丹が口にした直後、魔理沙がはたての見つけ、そして少し前に寄った一つ目の村で聞いた村が森の中にあると言う情報を思い出し急行した。

 

 

 

 

「あれ?霊夢は?」

 

霊夢の姿が先程から見えない事に気付き魔理沙に聞く。

 

「ああ、霊夢ならあそこに」

 

井戸の淵に腰掛けていた魔理沙が指差す先に霊夢はいた。

 

何やら舞らしきものを舞っていた。

 

「あの舞は?」

 

「博麗の巫女の鎮魂の舞だってさ。いつもは妖怪に喰われたりして死んだ連中の鎮魂で舞ってるんだぜ。ここじゃかなりの人が死んだらしいからな。せめてもの供養って言ってた」

 

「初めて見たな・・・」

 

いつも伊丹が見る博麗神社での霊夢は境内の掃除をしているか団子を食べて茶を飲んでいるかどう見ても幼女な鬼と酒を飲んでいるかピンク髪の仙人の修行に付き合わされているかのどれかだった。

 

「まぁ、鎮魂の舞だからな。いつもは夜遅くに舞ってるんだぜ。妖怪の犠牲者が出るのも夜が殆どだしな」

 

「そうだったのか。じゃあ、舞が終わった時の霊夢の為に水でも用意しとくとしますか」

 

井戸の淵のそばに置かれていた桶を井戸の中に落とす。

 

スコーンッ。

 

「ん?変な音がしたな」

 

水の音でもない、空井戸に落ちて桶が壊れる音でもない。

 

「くそ、暗くて見えないぞ。魔理沙、明かり頼めるか?」

 

「ああ、お安い御用だぜ」

 

魔理沙が魔法で井戸の中を照らす。

 

「ひ、人だ!!」

 

伊丹はすぐにそれを見つけた。

 

 

 

 

ばしゃっ。

 

井戸の中に降り、伊丹はまずその人物が生きているかを確かめた。

 

「どうだー?」

 

上の方から魔理沙の声がした。

 

「大丈夫!気を失ってるだけみたいだ!」

 

再びその人物を観察する。

 

「いや・・・人じゃなくてエルフか・・・・?」

 

まずはそのエルフを背負うと彼女が落下しないようにしっかりと自分自身の体と結ぶ。

 

「いつもより、慎重に・・・」

 

普段飛ぶ時は一人だからただ飛ぶ事は霊符に任せ切りだ。

 

だが今は気を失った相手を背負って飛ばなければならない。

 

魔理沙の飛行訓練を思い出す。

 

「イメージして・・・力を広げるように・・・」

 

じゃばっ。

 

二人の体が浮き、水面から離れる。

 

「おおっ?上手いぜ!そのままゆっくり!」

 

霊夢は舞に集中し、魔理沙は伊丹が制御に失敗して勢いよく飛び出してきた時に備えそちらに集中し、伊丹は初めての自分以外の者も飛ぶたべに霊力制御に集中力を割いている。

 

だからこそ、その音に気付かなかった。

 

 

 

 

 

ほんの少し前。

 

 

ブロロロロロロロッ・・・・キィッ。

 

自衛隊の特地深部偵察隊の車両が焼け跡の集落に到着した。

 

約1時間前に遠方から双眼鏡でドラゴンを目撃した。

 

コダ村にて森の中の村の話を聞いていた彼等はドラゴンが立ち去るのを確認し再び車を走らせここに来ていた。

 

隊長の任を受けた桑原 惣一郎が部下達に捜索を命じる。

 

無線越しに聞こえるのは全て黒焦げになった死体があると言う報告ばかり。

 

彼自身も目の前の子供を守ろうとして一緒に焼き殺されたと思われる二人の黒焦げ死体に手を合わせていた。

 

『た、隊長、倉田です。巫女さんがいます』

 

「すまん、もう一度言ってくれ」

 

『巫女さんです。少し変わった巫女服を着ていますが、巫女さんです』

 

「巫女って言うと、あの神社とかの巫女か?」

 

『はい。その巫女さんが舞を舞っています』

 

『こちら栗林。こちらでも確認しました。こちらからですと井戸の側に他に二名が確認できます。一人は帽子を被って箒を持った金髪の少女、もう一人は黒髪の和服を着た成人男性です。その・・・・日本人に見えます』

 

「分かった、不用意に接触するな。栗林、現在地の詳しい場所を知らせろ。総員、栗林の待機しているところまで迎え。三人に気付かれるな」

 

無線の向こうから部下全員が了解と答える。

 

「もしや拉致されて逃げ延びた民間人か・・・?いや、巫女はどう説明する?コスプレイヤーって言うやつか?」

 

分からないことだらけの中、合流ポイントへ向かう。

 

幸か不幸か、彼等には第二ゲートから飛び立った三人組の存在は連絡がされていなかった。

 

 

 

そして現在。

 

桑原を先頭にして接触をする為に井戸に向かう。

 

金髪で帽子を被り洋服を着た少女が井戸の中を覗き込んで声を出している。

 

もう一人は井戸の中に降りたと栗林から報告を受けているが井戸には引き上げる為のロープなどはなく、井戸水をくみ上げる為の桶の為のロープらしき物が少したわんでいるだけだ。

 

「そのままそのまま!上手いぞ!」

 

少女が声を出した。

 

特地語ではなく日本語だ。

 

恐る恐る声をかけるが気付かれない。

 

「もうちょいもうちょい!さすが私の生徒だ!」

 

「あの」

 

ポンっと魔理沙の肩に手をおく桑原。

 

「少し待っててくれ霊夢・・・・あれ?」

 

思わず霊夢かと思ったが男の声だった。

 

「うわっ!?誰だおっさん!?」

 

「おっ・・・・」

 

思わず凹みかける桑原。

 

だが次の瞬間それは驚きへ変わった。

 

井戸の中から金髪の女性を背負った和服の男が浮き上がって来たからだ。

 

「な、何!?」

 

思わず反射的に栗林が伊丹に向けて銃口を向けてしまった。

 

同時に何か騒がしいと伊丹が少し目を開けた。

 

伊丹の目に銃口が見え、危険を察知する。

 

途端に霊力を制御していた集中力が無くなった。

 

「まずっ!耀司!?」

 

「うひゃーーーーー!?」

 

霊力が暴走し伊丹は一気に上空へと飛び上がり、滅茶苦茶な軌道を描いて飛ぶ。

 

「たーーーーすーーーーけーーーーてーーーー・・・・!!?」

 

「おっさん、話は後だ!間に合え!!」

 

箒を掴むと即座に跨り急上昇する。

 

「ま、魔法少女・・・・?」

 

倉田が思わず呟いた。

 

 

 

 

「耀司!落ち着け!霊力に振り回されるな!わたしが教えたことを思い出せ!」

 

「ま、魔法はパワーだぜ!?」

 

「馬鹿!違う!」

 

「だ、弾幕は火力だぜ!?」

 

「って、わざとじゃないだろうな!?ってか弾幕はまだ教えてないぞ!?なんで知ってるんだ!?」

 

「ええと、ええと・・・」

 

「焦れったい!わたしが教えうぎゃっ!?」

 

魔理沙が女の子が言ってはいけない悲鳴を上げ、箒から放り出される。

 

突如として再び伊丹の軌道が変わったのだ。

 

180度反転。

 

つまり・・・・、伊丹の頭が魔理沙の頭に直撃した。

 

それは伊丹と魔理沙の二人を気絶させるには十分な衝撃だった。

 

 

 

「まずい!二人がぶつかった!」

 

倉田が双眼鏡で見えた状況を報告する。

 

「二人とも気絶しているのか!?」

 

桑原が自由落下を始めた二人を見て意識が無いのを察する。

 

「あの高さから落ちたら即死だ!!」

 

勝元が叫ぶ。

 

「わ、私のせい・・・?私が、銃を向けて怯えさせたから・・・」

 

自責の念で落ち込む栗林。

 

各々が様々なことを考えるが地面に向けて落下して行く二人を見ている事しか出来ない。

 

 

 

フヒュッ!

 

 

 

そんな自衛隊員御一行様の真横を赤い何かが高速で通り抜けた。

 

突然の事に彼等は突風かと思った。

 

だが赤い何かが急上昇しながら落下する二人の元へ向かっている。

 

倉田が双眼鏡を覗く。

 

 

 

ガシッ!

 

パシッ!

 

華奢な霊夢の両腕が空中で伊丹と魔理沙の片腕を掴み高度を落としながら飛行を続ける。

 

霊力で強化していなければ二人を助けた時点で霊夢の腕にかなりの負荷をかけ、良くて脱臼悪くて両腕が千切れていただろう。

 

 

「た、助かった・・・?」

 

桑原が安堵の息をする。

 

見れば赤い巫女服の少女がもう目の前まで来ていた。

 

「そこ、使うから退いてくれる?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

それが自衛隊と幻想郷の住人との最初の会話であった。

 

霊夢は自衛隊が開けた場所に伊丹と魔理沙を寝かせると井戸水を汲み上げそれを二人の顔に勢いよくぶち撒けた。

 

 

 




霊夢さんのスパルタ式目覚ましです。

自衛隊側の調査隊は原作から伊丹だけがいないメンバー構成でおやっさんが隊長を拝命しています。

霊夢の舞は代々受け継がれてきたと言う捏造設定です。
霊夢だって一方的に殺された人に対する憐れみを持っていてもいいと思います。(建前)






巫女さんといえば舞でしょ?(本音)


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接触

いやー、東方二次創作のゲームって面白いの多いですね。

え?
そんなのやってる暇あったらとっとと続き書けって?



勘弁しておくんなまし。

8/5追記。
感想欄でご指摘がありましたので。
本作品では自衛隊のおやっさんこと桑原 惣一郎と伊丹は過去にあったことがないという設定でお願いします。
かつておやっさんが伊丹の訓練教官だったらしいのですが作者はそれを知らず・・・。
書き直すとなるとかなりの量になってしまうので・・・・。
堪忍や・・・・。


「で、何か言う事は?」

 

「マジすんませんっした!」

 

仁王立ちする本気怒りモードの霊夢にびしょ濡れ状態の伊丹は見事なジャンピングDO・GE・ZAを敢行した。

 

「ったく、しょうがないわねぇ・・・・。帰ったら特訓よ」

 

「う、うすっ!」

 

 

自衛隊員達が見守る中、伊丹が霊夢に叱られていた。

 

魔理沙は建物の陰で濡れた服を着替えていた。

 

一応女の子らしく恥じらいは「マスタースパーーーク!!」ピチュンッ!

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、伊丹だって悪気があったわけじゃないんだし、そもそも・・・」

 

着替え終わった魔理沙が伊丹を擁護するも

 

「魔理沙、あんたがついていながらなんて有様なのよ?」

 

「藪蛇だったぜ・・・・」

 

 

 

 

「こほん。もういいかな?私達は日本国の陸上自衛隊の者なのだが・・・」

 

桑原が聞きたいのは彼等が何者かという事だ。

 

三人が三人とも空を飛んだ事から銀座から拉致された民間人と言う可能性は消えた。

 

残る可能性は二つ。

 

元からこの世界の何処かに日本と似た和風の文化があるところがあるか、あるいは・・・。

 

「私の名前は桑原 惣一郎、この部隊の隊長を拝命している」

 

「あら、ご丁寧に。楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢よ」

 

「東洋の西洋魔法使い、霧雨 魔理沙だぜ」

 

「えと、一般人の伊丹 耀司です」

 

この時、自衛隊側は全員が《東洋なのか西洋なのかどっちだ!?》《空を飛ぶ一般人がいるか!》と心の中で突っ込んだとか突っ込まなかったとか。

 

「君達は、どこから来たのか教えて貰ってもいいかな?」

 

「嫌よ、面倒臭い」

 

「ちょ、霊夢!一応接触したんだからちゃんとやっとかないと」

 

「じゃあ、あんたがやってよ耀司。紫がお遊びで作ったとはいえ、一応幻想郷防衛軍って組織のサブリーダーだっけ?なんだし」

 

面倒臭そうに霊夢が伊丹に丸投げする。

 

魔理沙は腕組みをしうんうん唸りながら何かを思い出そうとしている。

 

 

伊丹と桑原の会話は続く。

 

「ええと、俺達の拠点はあの丘の近くにある湖の畔の紅魔館て館です」

 

「紅魔館・・・。じゃあ、やはり君達はあの第二ゲートから・・・」

 

「たぶん、そこだと思います。こっちの方は異界門って名前ですけど」

 

「異界門・・・か。君達の世界はなんて名前なんだ?」

 

「一応、幻想郷って名前ですけど」

 

「幻想郷・・・それが星の名前か国の名前なのか?」

 

伊丹は答えに窮する。

 

どう答えたものかと考えあぐねていた時だった。

 

 

ポンっていい音がなりそうな感じで魔理沙が手を叩いた。

 

「思い出した!自衛隊ってどこかで聞いたと思ってたら伊丹が幻想郷に来る前にいた職場だかの名前だったな!」

 

「ちょっ!?魔理沙!?」

 

盛大に伊丹の過去を勝手にカミングアウトしてしまう魔理沙だった。

 

「ああ、そういえばそうだったわね。自衛隊って所宛の休職届ってのを伊丹に頼まれて外界に出て適当に近くにあった郵便ポストってのに入れた事もあったわね、懐かしいわ」

 

「霊夢まで!?」

 

「あれ?言っちゃダメだっけ?」

 

「いや、ダメってわけじゃ・・・。ああ、バレたら仕方がない」

 

ザッ!

 

ビシッと桑原に向かって敬礼する。

 

「三等陸尉、伊丹 耀司であります!一身上の都合により、現在自衛隊を休職中であります!・・・・・・多分、失踪でとっくに除籍されてると思いますが・・・・」

 

伊丹の発言にも桑原が驚く。

 

その背後では他の隊員達も驚く。

 

「自衛隊員なのか・・・・!?」

 

「一応・・・・でありますが・・・・・」

 

「伊丹、あなたはもうとっくに幻想郷の住人なんだから外の世界の身分とかにこだわる必要はないんじゃない?」

 

「そうだぜ。お前はとっくにわたしの弟子なんだしな」

 

「ううむ・・・とりあえずは本部に確認を取りながら引き返すとしよう。例のドラゴンがコダ村を襲うかもしれない・・・。良ければ一緒に行かないか?スペースに余裕はあるからな」

 

特に断る理由もなく、自衛隊に幻想郷防衛軍側は同行することにした。

 

 

 

「うげ・・・・気持ち悪い・・・」

 

「うぷっ・・・。もう勘弁だぜ・・・」

 

早々に乗り物酔いになってしまった霊夢と魔理沙は空を飛んで行くことにした。

 

伊丹は車に残り桑原と情報交換を行っている。

 

 

 

 

「深部偵察隊からの緊急報告です」

 

柳田が顔色を変えて狭間のところに来た。

 

「どうした?」

 

「はっ。ドラゴンと思わしき生物に襲撃されていた村に到着後、四名の人物に遭遇。一名は意識不明状態の現地の生存者ですが、残りの三名は第二ゲート勢力との事です!」

 

「なっ・・・接触したのか・・・・」

 

「使用している言語は間違いなく日本語であり、コミュニケーションには支障がないとの事です。なお、女性二名、男性一名。女性二名は未成年と思われるが男性一名は成人と」

 

「ううむ・・・。他には?」

 

「接触した人物の名前ですが、彼らがした自己紹介文をそのまま読み上げます。女性二名は一名が《楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢》もう一名が《東洋の西洋魔術師、霧雨 魔理沙》残る男性一名ですが・・・」

 

「どうした?」

 

《伊丹 耀司、三等陸尉。休職中とのことです》

 

「なにっ!?自衛隊員だと!?」

 

「現在、彼の言っていたことが真実かどうかを所属していたと言う駐屯地に問い合わせ中ですが・・・」

 

「そうか・・・・。ううむ、複雑だな。第二ゲートの向こうの世界については?

 

「はい。第二ゲート側の向こうの世界の名前は《幻想郷》との事です」

 

「《幻想郷》か・・・・」

 

バタバタバタッ!ガチャッ!

 

「し、失礼します!第二ゲートに関する緊急報告です!!」

 

上官の部屋に名乗りも上げずに駆け込んで来る。

 

平時なら叱責ものだが第二ゲートに関する緊急報告という事もあり狭間は不問にした。

 

「し、失礼しました!」

 

柳田に報告書を渡して退室する隊員。

 

柳田は報告書に目を通していくがその目は次第に見開かれ汗を流し手は震えている。

 

「ほ、報告します。伊丹 耀司三等陸尉の記録がありました。全て彼の供述と一致しています。駐屯地の責任者が当時の彼の身辺上の事情を鑑みて特例で休職届を受理したとの事です」

 

「そうか・・・。その驚き様、他にもあるんだろう?」

 

「はっ。幻想郷に関して深部偵察隊からの追加報告です・・・」

 

「言ってくれ」

 

「幻想郷の人間は日本人との事です・・・・幻想郷は日本国内に存在すると・・・・」

 

「な、なんだとっ!?いや、他の地域にゲートが出現したとの報告は一切ないし、そもそも空を飛んだり吸血鬼の様な存在が日本の何処に・・・・」

 

「これによりますと、《博麗大結界》と呼ばれる巨大な結界に幻想郷全体が包まれ、一種の位相の異なる隔絶空間を構築しているらしいと・・・・」

 

「つ、続けてくれ・・・・」

 

「彼らは明治時代に結界を張り、それ以降結界内で暮らして来たそうです・・・」

 

報告が終わり、見れば狭間はデスクから胃薬を取り出しザラザラ大量に飲んでいた。

 

それを見て柳田もポケットから胃薬を鷲掴みで取り出すとボリボリと噛み砕き一気に飲み込んだ。

 

「お互い、次の健康診断が心配だな・・・・」

 

「えぇ・・・・」

 




医務局長

「大至急胃薬の追加発注だッ!」


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日本政府の反応

今回は日本政府側の話です。
話の都合上、時系列では第二ゲートが初めて報告された時に少し戻っています。
総理以下閣僚の話し方や会議の進め方等違和感があっても気にしないでほしいです。


 

 

side・日本政府。

 

 

 

最初の報告。

 

 

首相官邸。

 

「では、現地より送られて来た報告書の会議を行います」

 

進行役の自衛隊幹部が会議室で日本の指導者を前に礼をする。

 

「自衛隊と特地武装勢力の初めての特地での戦闘ですが、自衛隊側の死傷者ゼロの結果で終わりました。現在は陣地を構築中であります」

 

その言葉に本位総理大臣を始め各閣僚が安堵のため息をつく。

 

「ご苦労でした。自衛隊側の死傷者ゼロは喜ばしい」

 

「全くだ。死傷者が出ていた日には野党が大騒ぎする材料になりかねない」

 

閣僚の一人が本位に同意する。

 

「次にこちらをご覧ください」

 

プロジェクターが投影する画像に“ゲート”が映し出される。

 

「これが向こう側のゲートか?いや、自衛隊が写っていない・・・?」

 

「これは銀座に繋がるゲートより二キロ程離れた場所にて確認されました。現在自衛隊では“第二ゲート”と仮称しています」

 

会議室がどよめく。

 

「別のゲート・・・と言うわけか。これは?」

 

本位総理が湖の湖畔に見える建物を指差して聞く。

 

「推測でありますが、第二ゲート側の勢力の可能性があります」

 

 

「真っ赤な館だな・・・まるで吸血鬼の館みたいだ」

 

嘉納大臣が率直に言う。

 

「こちらをご覧ください」

 

映像が切り替わり望遠撮影された目を瞑る赤髪の女性が映る。

 

「こいつぁ・・・・」

 

女性の服装は中華風。

 

更に帽子の部分が拡大され“龍”の 漢字が映し出される。

 

「中国人・・・?」

 

「いや、しかし館は洋風だぞ・・・・」

 

会議室がざわめきに包まれる。

 

「中国にゲートが現れたと言う情報は?」

 

「確認できません。現場では接触の有無を判断しかねており、接触を行うかどうかを決めて頂きたいと」

 

総理以下閣僚達の話し合いが行われ、現状維持で相手から接触して来た場合はこの限りではないと結論が出された。

 

 

 

リィグゥ公夜襲失敗後。

 

 

「以上が、特地での武装勢力による夜襲に対する反撃戦闘の報告になります」

 

自衛隊幹部の説明が終わった。

 

今回も自衛隊員の死傷者は無し。

 

喜ばしい限りだ。

 

「報告は以上かい?」

 

嘉納大臣が自衛隊幹部に聞く。

 

「いえ、続きがあります。ほぼ同時刻に特地の武装勢力の一部が第二ゲート勢力と思われる相手に自衛隊に仕掛けたように夜襲を行いましたが第二ゲート勢力の勝利で終わりました」

 

「ほう?武装勢力の人数は?」

 

「画面に映る範囲からの推測ではありますが、最低で100名はいるかと思われます」

 

「どんな武器を使用していたんだ?第二ゲート側の人数は?」

 

「それが・・・」

 

自衛隊幹部が手元の資料に目を落とす。

 

先に戦闘の映像を見ているが今でも信じられない。

 

「どうしました?」

 

怪訝な表情で本位総理が話しかける。

 

「失礼しました。まず、第二ゲート側の人数ですが・・・三名で実際に戦闘を行なったのは

 

二名になります」

 

「たった二人で?」

 

「いや、遠距離からガトリングガンのようなものを使えば・・・」

 

「こちらの映像をご覧ください」

 

暗視カメラで撮影された映像。

 

カメラが映しているのは進軍する武装勢力。

 

「「「「「!?」」」」」

 

その武装勢力から少し離れた場所にテーブルとそれに座る二人の少女と一人のメイドが何の前触れもなく現れた。

 

「これは一切の編集を行なっていません。現地からも突然現れたとしか思えないと・・・」

 

映像は続く。

 

『咲夜、ありがとう!』

 

『ねぇ、あなた達も優雅で美しくないと思うでしょ?』

 

スピーカーから再生される音声。

 

「おい、こりゃあ・・・!!」

 

「あ、ああ・・・」

 

「日本語だ、日本語を喋っている・・・」

 

西洋人が日本語を喋ってもおかしくない、だがそれは地球での話であって特地ではあり得ない。

 

まして二人の少女にはそれぞれ異なる翼が生えていた。

 

二人の少女がメイドの喉元に噛み付いた。

 

その後少女の一人が軽々と小さなビルほどの高さまでジャンプし、未知の力で地面の上の敵を攻撃した。

 

爆発も起き、地面が抉れる。

 

逃げ出そうとした者達の周りを4人の少女達が囲む。

 

その姿、動き、指向性マイクの拾った音声は全て同じである。少女が手を握った瞬間に幾人もの逃走者が一箇所に、まるで本人の意思を無視して集められ、そして破裂した。

 

「こ、これは・・・・・」

 

本位総理も言葉を失う。

 

最初にジャンプした少女が何かをしたかと思えば夥しい数の蝙蝠が現れ、まだ息のあったと思われる者達を襲う。

 

「あの屋敷を初めて見た前の会議の時、吸血鬼の館みたいだと言ったが、こいつぁマジで吸血鬼なのか・・・・」

 

嘉納大臣が今の映像、そして少し前の映像でメイドの血を吸ってるように見えたのを思い出しながら言う。

 

引き上げる少女達。

 

『本日は妹様のご期待に応え、すき焼きの用意をしております』

 

『やった!咲夜大好き!』

 

『すき焼き・・・ああ、この間守矢の巫女が話していた食べ物ね。咲夜、確か倉庫にこたつがあったわよね?』

 

映像と音声は続く。

 

「すき焼きって、あのすき焼きなのか・・・・?」

 

「こたつも言ってた。それに守矢の巫女?第二ゲート側には神社もあるのか・・・・?」

 

理解を超える出来事の連続に最初にゲートが開き異世界の存在が確認された時に感じた胃痛を彼らは再び感じた。

 

「なお、偵察隊の消耗物資で胃薬の消費が増えたようです」

 

最後に自衛隊幹部の発した言葉を彼らは身をもって経験していた。

 

 

 

 

後日。

 

「本位さん」

 

嘉納大臣が昼食を終えた本位の元を訪れた。

 

「嘉納大臣、何か緊急の要件ですか?」

 

「まぁ、そんなところです」

 

急に真面目な顔になる嘉納大臣。

 

「聞きましょう」

 

「本位さん、あんた前回の第二ゲートに関する報告の時に“守矢の巫女”って言葉が出て来たのを覚えてるかい?」

 

「ええ、誰だったか覚えてませんが神社があるのかって言っていましたね?」

 

「気になって、調べてみたんだ。神社本庁に問い合わせてな」

 

「神社本庁に・・・?」

 

何故異世界の事を問い合わせたのか考え、ある考えに至る本位総理。

 

「当たりだったよ。守矢神社、巫女さん一人で切り盛りしていたらしい」

 

「らしい・・・・?」

 

「二、三年程前、送った郵便物が宛先が存在しないって戻って来たらしい。最初は住所の記載ミスかと思ったらしいが間違いはなく、記録の住所でそれまで何度も郵便を送っていた」

 

「・・・・・・・・・」

 

「神社本庁は放置したらしいが、気になって現場に行って見た。更地になってたがいくら調べても解体した業者が見つからず、おまけに航空写真に存在した湖も消えて無くなっていた・・・」

 

嘉納が現地で撮って来た写真と何年も前の神社と湖の航空写真を見せる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。神社はともかく、湖が消えたら大騒ぎに・・・」

 

「本位さん、地元や周辺住民が神社や湖の存在を忘れてしまっていたら・・・・?」

 

「そ、そんな馬鹿なことが・・・・」

 

「東風谷 早苗、守矢神社の巫女さんの名前だ。義務教育の記録があって中学の時の教師に会えたよ。二人の神様と一緒に住んでいるとか言っていた不思議な子だったのを覚えていた。まぁ、周りの連中は頭が可哀想な子だって腫れ物を扱うような接し方だったらしいが・・・なぁ、ここからは俺の勝手な想像だが・・・・。もし、本当にその子に神様が見えて、もし超常の力が存在したら・・・・」

 

数ヶ月前なら一笑されただろう。

 

だが、今では銀座に異世界へのゲートが存在し自衛隊が特地に駐屯している。

 

ゴブリンやオーク、ワイバーンと言った架空の存在の死体が様々な研究機関で研究されている。

 

「その早苗って巫女さん、こっちの世界に嫌気がさして神様と一緒に第二ゲートの向こうの世界に神社と湖ごと引っ越しちまったのかもな・・・・周りの人間の記憶から自分達の事を消して・・・・・」

 

 




早苗さんの設定は捏造です。
なお、作者の中の早苗さんは高校に進学せず中学卒業後に幻想卿に来た設定です。


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アリスの悪戯

ご感想、ありがとうございます。
今回はネタ回で短いですがお付き合いください。
設定なんてガバガバだよぉ。


第二ゲート・紅魔館。

 

「気に入って貰えたようね」

 

「ええ、美味しい紅茶ね」

 

アリス・マーガトロイドは館の主人であるレミリアの対面に座り紅茶を飲んでいた。

 

「で、“魔法使い”の私の意見を聞きたいと?」

 

「ええ、吸血鬼に見えて魔法使いに見えない、もしくはその逆もありえると考えたのよ」

 

「そうね、ざっと見た感じだけど例の外界の“自衛隊”の人間の中にも多少は魔力を持っている人はいるわね。でも使い方を知らないから本人は“疲れにくい”や“勘が鋭いだけ”と思っているわ。まぁ、それでも訓練して浮くぐらいが関の山の魔力量しかないようだけど」

 

「あっちの方の感じ方は私と同じね。じゃあ、この異界の方は?私には魔力がかなり薄いと思えるんだけど」

 

「それは貴方が吸血鬼だからでしょ。幻想郷と比べれば薄いけれど、この異界の方が広いから薄まってるんじゃないかと思うわ。幻想郷は博麗大結界と紫の結界で閉ざされているから魔力が外に向かって拡散しないで止まっているからね」

 

「アリス、貴方の見立てではこの世界の魔法使いはどのレベルかしら?」

 

「全滅した兵士達の中には少し使うのはいたけど、恐らく初歩中の初歩ね。魔法使いとして研究しているのがいれば話は別だけど、異界の調査がある程度進まないと何とも言えないわ」

 

「あら、慎重なのね?」

 

「私は慎重で確実な時にしか大胆にならないわ。長生きの秘訣よ?」

 

「ふふっ、吸血鬼に長生きの秘訣よって、あなた・・・・ふふふ」

 

レミリアは笑いながらもアリスを観る。

 

彼女の体からは無数の魔力の糸が伸びている。

 

一本は彼女の傍の人形に繋がっている。

 

無数の糸は室外に伸びており、そのまま館の外へ。

 

館の外に出た魔力の糸は更に枝分かれを繰り返し数百体もの上海人形、蓬莱人形に。

 

ふよふよと館の周囲を漂う数百体の人形が見たもの、聞いたものはそのままアリスに流れ込む。

 

膨大な視覚・聴覚情報を魔力で強化された彼女の脳が平然と処理して行く。

 

「少し、悪戯してみたら?」

 

クスクスと笑いながら吸血鬼が言う。

 

「嫌よ、上海と蓬莱達に汗臭さと埃臭さが移ってしまうじゃないの。でも、そうね・・・」

 

クスリと、アリスが少し笑った。

 

 

 

「た、隊長・・・・人形が、人形がぁ・・・」

 

「え、ええい、わかっているっ・・・。この間、皆で決めただろうが、常識など捨ててしまえと・・・」

 

そう言いながら双眼鏡を再び覗き込む。

 

今朝からこの館の周囲を無数の人形が浮きながら色々なことをしているのだ。

 

屋敷の四方に配置されているワイバーンを撃ち落した対空レーザー砲と思われる機械の操縦席に立って砲台を動かしている人形、門番の中華服に飲み物や食べ物を差し入れる人形。

 

「むっ・・・・?」

 

「ひ、ひぃぃぃっ、人形がこっちに向かってる・・・・」

 

「狼狽えるな、いいか、早まるなよ?落ち着け、落ち着くんだ」

 

部下に指示しながらも自らに言い聞かせるように言う偵察隊隊長。

 

ピタリと、人形が数メートル手前で止まる。

 

草むらに隠れている偵察隊隊員はゴクリと唾を飲み、高機動車の運転手はいつでもエンジンを掛けられるよう待機しながらも窓越しに数体の人形を見る。

 

 

『『『『『『貴方達、埃と汗臭いわ。ちゃんとお風呂入ってるの?』』』』』』

 

同じ声で人形が声を出した。

 

「「「しゃ、喋ったあぁぁぁっ!!?」」」

 

パニックに陥る偵察隊。

 

人形達はそれだけ言うとふよふよと館に戻っていく。

 

「た、隊長!人形がしゃ、しゃべっ、しゃべ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「た、隊長・・・・?」

 

「・・・・・・」

 

バタッ。

 

「た、隊長が気絶してるーー!?え、衛生兵!衛生兵!」

 

「メディック!メディーックッ!」

 

「も、もうだめだぁ、おしまいだぁ・・・・・」

 

数分後意識を取り戻した隊長は任務継続を指示しつつ、却下されるだろうが転属願い出そうかと考えたとか考えなかったとか。

 

 

 

 




え?
何で短いのかって?






シンフォギア面白いよシンフォギア。
一期から見続けてよかった。
ええ、気付けば録画をループ再生で見ています。


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炎龍から逃げよう

注・炎龍そのものはまだ出ません。

出来るだけ多くのキャラは出したいけど、登場キャラが増えると一人当たりの出番は短くなる・・・・悩み所です。


 

コダ村。

 

桑原がカメラの液晶画面で撮影した炎を吐く赤いドラゴンの画像を村長に見せた。

 

「こ、こりゃぁっ・・・・炎龍!!」

 

画像を見た村長はすぐに近くの村人にこの事を村中に伝えるよう指示する。

 

「村、捨てる?」

 

村長の慌てようと所々理解できる単語を繋ぎ合わせて彼等の意図を知る。

 

村長から肯定の返事が来ると桑原は車まで戻る。

 

「どうでした?彼女の事、受け入れてもらえそうでした?」

 

伊丹が聞く。

 

「いや、無理だそうだ。彼等も避難するようだ」

 

「おーい、なんかあったのか?村中が慌しくなってるぜ?」

 

上空から村を見ていた魔理沙が降下しながら頭上に来て声をかけて来る。

 

「いや、こっちも避難するらしい。例のドラゴン・・・炎龍って言うらしいが、この村に来る可能性もあるみたいだって」

 

「マジか・・・・。あんなデカブツ、霊夢と二人掛かりでも倒すの無理っぽいぜ・・・・」

 

「マジ?」

 

「マジよ。あんなの無理に決まってるでしょ。被害度外視して撃退できるかどうかよ」

 

民家の屋根に降り立った霊夢も言う。

 

「これも、あんな巨体には効果なんて雀の涙程度だろうしな・・・・」

 

伊丹はショルダーバッグにしまってあるにとり特製のレールガンをさすりながら言う。

 

「紫に頼んで見たら?スキマ使って避難とか、人里で使った手もあるんじゃない?」

 

「いや、それが連絡付かないんだ。藍さんが言うには取り込み中だって」

 

「じゃあ、仕方がないわね・・・」

 

村の喧騒は大きくなっていくばかりだった。

 

積み込めるだけの馬車に荷物を積み込む人々。

 

 

「お、重い〜」

 

コダ村の魔法使いカトーが大量の本を抱えて家から出て来る。

 

弟子の水色の髪の少女レレィは馬の支度も終わり、馬車に乗ってカトーが本を積み終えるのを待っている。

 

食料や貴重品よりも本の方が多い。

 

既に本の重みで馬車の車輪が地面にめり込んでいる。

 

「お師匠、早く乗って欲しい」

 

冷静に、だが催促する。

 

「儂はお前なんぞに乗っかる少女趣味なんぞないわい!どうせ乗っかるなら、もっとこう、ボンッ、キュッ、ボーンッなおまえの姉のような・・・」

 

プチッ。

 

無言で氷の粒手をカトーに向けて放つレレィ。

 

「お師匠・・・・」

 

「す、すまぬ・・・・・」

 

レレィから放たれる殺意にたじろぐカトーであった。

 

ともあれ、カトーも馬車に乗りレレィが馬に鞭を入れる。

 

グンッと馬が進もうとするが馬車はピクリともしない。

 

「お師匠、荷物が重すぎるみたい」

 

「ど、どうにかならんのか?どれも二度と手に入らん貴重な書物ばかりじゃ・・・・」

 

「魔法はみだりに使うものではないけど、この際仕方がない」

 

レレィが魔法を行使し、馬車の重さが軽くなり馬が進み始める。

 

 

 

 

「ん?」

 

上空から村を見回っていた魔理沙が魔力の動きに気付いた。

 

「魔法使いがいるのか?」

 

少し高度を上げて村中が見渡せる高さまで上る。

 

「あいつか?」

 

見れば馬車の上で杖を掲げる少女。

 

同時に魔力の変動を感じ、馬車が軽くなったのか動き出すのが見えた。

 

「まぁ、悪党じゃないっぽいからいいか」

 

再び降下して見回りに戻る。

 

自ら進んでやっているわけではなく、紅魔館に戻ったら一度幻想郷に戻りミスティアの屋台で奢ると伊丹に頼まれたからやっているだけだが。

 

 

 

 

カトーとレレィが乗る馬車は村を出る道で馬車の渋滞に出くわした。

 

「一体、どうしたんじゃ?」

 

全く進む気配のない渋滞に苛立ちを覚えたカトーが進行方向から来た村人の一人に声を掛ける。

 

「ああ、カトー先生。実はこの先で荷物の積みすぎで車軸の折れた馬車が道を塞いでまして、今みんなでどかしているんですよ。まだ少しかかりそうです」

 

そう言うと村人は去った。

 

その時、レレィは聞きなれない言葉を耳にした。

 

その声は複数あった。

 

「お師匠、少し見て来る」

 

そう言い残し馬車から降り前方に進む。

 

現場は車軸が折れ傾いた馬車と放り出された一家が倒れていたりした。

 

ヒヒーンッ!!

 

興奮した馬が暴れ馬と化し、レレィにのしかかろうとした。

 

パンパンパンッ!

 

数回の破裂音とともに馬の胴体に赤い花が咲き、そのまま後ろ向きに倒れる。

 

「あなた、大丈夫!?怪我はない!?」

 

緑のまだら模様の服を着た女性がレレィに声を掛けた。

 

言葉は分からないがレレィにはこの女性が自分の身を案じているのが直感で分かった。

 

「隊長!この少女が一番危険です!脳震盪や骨折の恐れも・・・・」

 

「なんて事だ・・・」

 

日本なら大怪我をしても救急車を呼べば来てくれる。

 

場所が場所ならヘリが来る。

 

だがここは特地であり、そもそもエンジン自体が存在しない。

 

骨折なら添え木を使い非常措置として車に乗せる方法がある。

 

だが脳震盪は不用意に動かせない。

 

どう対処しようか桑原が考えあぐねていると・・・。

 

「おーい!霊夢こっちだ!」

 

伊丹がこっちに向かって飛んで来る霊夢に手を振って合図をしていた。

 

生身の人間が何も使わずに空を飛ぶと言う常識外れの光景だが桑原は幻想郷とか言うとことはそんなところだと考えることにした。

 

本当にそんな場所が日本国内にあるのかと信じられない思いだが・・・。

 

「で、どいつよ?」

 

「ああ、この子が一番危ないらしいんだ・・・」

 

「ふーん。ま、ちゃっちゃと済ませてしまいましょ。あなた、邪魔よ」

 

シッシッと言うような手つきで看護をしている女性を退かす。

 

「あなた、何を!?この子は一番危険な状況なのよ!?」

 

「だからよ」

 

突然空を飛んで来た少女にレレィは興味を惹かれた。

 

魔法を使っていたようには見えないのに空を飛んでいたし、何故か脇の部分が開いた紅白色の初めて見る服装をしている。

 

緑まだら服の一行とは違うようだ。

 

そして何より、この少女は緑まだら服の人達と同じ言葉を喋っているのに所々だが言葉の意味がわかるのに興味を惹かれた。

 

まぁ、何故言葉が一部わかったかといえば幻想郷一行が持って来た河童の試作品翻訳機が中途半端に翻訳しているからだが・・・。

 

にとり曰く、もっと異界の言語を学習させる必要があるらしい。

 

 

ペタッペタッペタッ。

 

霊夢が倒れている少女の頭やら手足に霊符を貼っていく。

 

僅かに霊符が発光し、やがて少女が目を覚ました。

 

少女が目を覚ますと霊夢は霊符を剥がし代わりに湿布を貼る。

 

嘘のように頭痛や痛みが消えていく。

 

「永琳特製の万能湿布よ。自然に剥がれるまで貼っておきなさい」

 

そう言うと霊夢は他の意識がある負傷者に湿布を貼り終わる。

 

まるで事故が嘘のように一家は立ち上がり、家族の無事を喜んでいた。

 

馬車を諦め、荷物の中から持てるだけの荷物を担ぐ。

 

「な、なんなの・・・・?」

 

一番危険だった少女ですら平気で荷物を担いでいる。

 

「あなた、一体何をしたの・・・・?」

 

信じられないようなものを見た女性自衛隊員が言葉を発した。

 

「?気付け用と痛み止めの霊符で応急処置して永遠亭特製の死んでなきゃ何にでも効くっていう触れ込みの特製湿布貼っただけよ?感謝してよね、あの湿布買ったら高いんだから」

 

実際には代金を永遠亭に支払って異界調査用に配備したのは八雲一家なので霊夢自身の懐は痛んでいないが。

 

湿布という貼り薬であんなに即効性のあり動けるようになる効果に自衛隊側は戦慄した。

 

 

 

 

そんなコダ村からキャラバンを組まずに村を離れた一家がいた。

 

炎龍の出現の報の恐怖が勝り、野盗に襲われるかもという危険性を忘れてしまったが故の惨劇。

 

一家の長は必死に馬を走らせたが所詮は農耕馬であり、走るための馬ではない。

 

男は用無しとばかりにさっくりと殺され、娘と妻を奪われた。

 

焚き火を囲み、奪った食料と酒で腹を満たす。

 

「あーあ、俺たちも早く楽しみたいぜ」

 

「我慢するんだな、結局は俺たちは下っ端。兄貴達が満足した後のお零れで楽しむしかないのさ」

 

「あー、でもあの娘の柔らかい腕、今でも思い出すぜ」

 

「どっちかと言うと俺は母親の方がいいがな。十分に熟れてて美味そうじゃねぇか」

 

そんな下卑た会話をしながら笑い合う盗賊達を暗闇の中から見つめる一人の少女がいた。

 

そしてその少女も気付かなかった。

 

少し離れた所から二人・・・いや、一羽と一人が近づいていると言うことに。

 

 

 

 

「おっととと、おいおい、あんまり揺らさないでおくれよ。酒が溢れちまうじゃないか」

 

「だったら、歩いて欲しいな」

 

「はっ、こっちの方が効率いいんだよ地獄鴉」

 

「この暗視装置って機械、わたし嫌いだな・・・・」

 

霊烏路 空・・・通称お空は頭部に被った暗視ゴーグルが鬱陶しかった。

 

「我慢おし、あんた鳥目なんだから暗闇ダメじゃないか」

 

お空が抱えるようにして運んでいる星熊 勇儀が酒を飲みながら言う。

 

「うにゅ・・・・・。だったら朝になってからでも良かったんじゃないかな?」

 

「細かいことガタガタ言ってないで飛び続けてな」

 

「じゃあ、せめて休憩しようよ。あそこに火みたいのが見えるからそこで休もうよ」

 

「仕方ないねぇ、じゃあ、さっさと降りてあんたも一杯付き合いな」

 

「お酒、苦いから嫌いだなぁ・・・」

 

「この美味さがわからないとは、可哀想に。伊丹の爪の垢でも煎じて飲みな」

 

「そんなの飲んだらお腹壊しちゃうよ」

 

 




と言うわけで、盗賊御一行様にはロゥリィだけでも無理ゲーなベリーハードなのに勇儀姐さんとお空も加わるルナティックモードをお楽しみいただきたいと思います。

暗視ゴーグル?
自衛隊が使ってるのを見て河童達の発明意欲が刺激された結果です。
エネルギー源?
動く核融合がそのゴーグルを被ってるじゃないですか。




ふと疑問が・・・・お空って放射線・放射能等はどうなっているんだろうか・・・・・。


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盗賊達に合掌

戦闘描写がこれほど難しいとは・・・・・・。
偉大な先人達を尊敬します。

お、お気に入りが70件突破・・・・UAも7000越え・・・・だと?
こ、こんな駄文に・・・・・?






うっ・・・・胃が・・・・・。

なお、勇儀さん達の河童印の翻訳機は伊丹達の持っているものよりバージョンアップしています。


「ちっ・・・・胸糞悪いねぇ・・・・」

 

暗視ゴーグル越しに見える光景に勇儀は気分を害した。

 

幾人もの男達が無抵抗な二人の女を嬲っていた。

 

「せっかくの酒が不味くなる」

 

ぐぃっと盃に残っていた酒を飲み干す。

 

「おい、地獄鴉。あたしをあいつらの所に降ろしな」

 

「うにゅ?」

 

「あの外道共、見過ごすわけにゃあいかないんでね」

 

眼科の光景には下っ端と思われる連中の所に向かってる鎌のような武器を持った少女が向かっているのが見えた。

 

ならこっちは女二人を嬲っている方とばかりにお空に降ろす場所を伝える。

 

 

 

「ぷはーっ。へへっ、久々の上物だったな。もう少ししたらあいつらにも楽しませてやるか」

 

盗賊団首領の男がワインをラッパ飲みしながらお楽しみ中の配下を見ながら言う。

 

そろそろ下っ端連中にも楽しませてやらにゃ不満が溜まるだろうと考えていた。

 

「おいお前ら、そろそろ下っ端共と交代してやりな」

 

「へぇ、あんたが首領かい?」

 

頭上から声がし、何事かと首領を始め盗賊団の面々が声の聞こえた方を見る。

 

ドスンッと音がし、反射的にそっちを見る。

 

身長が二メートルはあるかと思われる大柄な女がそこにいた。

 

「おおっ、すげぇ・・・・」

 

一人の盗賊が勇儀の胸に目を取られていた。

 

「そんな目であたしを見るんじゃないよ!」

 

怒気を含めた声。

 

だが盗賊団首領を始め戦闘慣れしている一部の者は勇儀の頭部に大きな角が生えている事に危機感を感じ戦闘態勢に入る。

 

「はっ、やる気かい?そう来なくちゃ面白くないけどね」

 

鬼に付き物の金棒を肩に担ぐ。

 

「さぁ、かかってきなよ」

 

盗賊団を挑発する。

 

 

 

「ひ、ひぃぃぃっ!!」

 

仲間の頭が胴体と泣き別れ地面に転がる様をまざまざと見せつけられる下っ端達。

 

「そ、その格好は・・・・エムロイの神官服!十二使徒の一人、死神ロゥリィ!?」

 

多少知恵のある一人が盗賊の一人をたったいま殺した巨大なハルバードを軽々と振るう少女の姿を見て叫んだ。

 

「マジかよ!」

 

「んな化け物とやり合えるかよ!?」

 

蜘蛛の子を散らすかのようにバラバラに逃げ出す下っ端一同。

 

「あらあら、駄目よぉ、逃げてはいけないわぁ」

 

跳躍し、一人、また一人と盗賊を屠って行く。

 

「あらぁ?」

 

死者の魂はエムロイの神に召される為にロゥリィの体を通ってエムロイの元へ行く。

 

今自分が屠った以外の魂がすぐ側から流れ込んできたのをロゥリィは感じた。

 

それを好機と殺された仲間達とは別方向に逃げていた集団がこのまま逃げるべく死に物狂いで走り出す。

 

「逃げちゃ駄目だよ?」

 

空から声がしたかと思えば急に逃げ道が炎に覆われた。

 

バサッバサッと音がし、見れば黒い烏の様な翼の生えた少女が目前に降り立つ。

 

「ひぃぃっ!?ロゥリィって奴の仲間か!?」

 

ごしゃっ!

 

隣にいた盗賊の一人がハルバードによって真っ二つにされる。

 

「うにゅ?ろーりー?それ誰?あなたの事?」

 

お空は少女に聞く。

 

「ええ、私はぁ、ロゥリィ・マーキュリー。あなたはぁ?」

 

その場で回転する様にハルバードを振り回し周囲の盗賊を屠る。

 

「わたし?わたしは霊烏路 空!よろしくね?」

 

バサッと飛び上がり、何事かとロゥリィは興味を持つ。

 

「もう!逃げちゃダメってさっき言ったじゃん!」

 

生き残っていた一人が逃げ出したのを見つけたからと理解した。

 

捕まえようとするが盗賊は運良くちょこまかと動き回り逃れようとする。

 

「もう!消し飛んじゃえ!」

 

イライラしたお空は逃げようとした盗賊を核融合で発生した超高熱で消し炭にしてしまった。

 

高熱の余波がロゥリィにも届いた。

 

「あらぁ、あの子凄いじゃない。あんなのぉ、初めて見たわぁ」

 

お空が降り立ち、歩いてくる。

 

一歩、二歩、三歩。

 

ピタッと歩みを止め

 

「うにゅ?あなた誰だっけ?」

 

鳥頭ぶりを発揮した。

 

 

 

時は戻り、勇儀が盗賊団首領達と対峙している所まで戻る。

 

「はっ!なっちゃいないねぇっ!」

 

斬り掛かってきた盗賊の剣を金棒で砕く。

 

「そうらっ!歯ぁ食いしばりなっ!」

 

ぶんっ!

 

勇儀の握り拳が盗賊の顔面に炸裂し吹き飛ばす。

 

もろに直撃した結果、盗賊の一人は歯が全部折れただけでなく顔面が凹んでいた。

 

周りの盗賊は瞬時に理解した。

 

この角の生えた女は素手で仲間を、それもたったの一発で殴り殺したと。

 

「あん?向こうも騒がしくなってきたねぇ」

 

その言葉に首領は下っ端達のいる方からも悲鳴が上がっているのに気付く。

 

盃にトクトクと酒を注ぎ、ぐぃっと飲み干す。

 

「ぷはぁーっ。体も温まってきたし、あたしも本気を出そうかねぇ」

 

ぶんっ!と金棒を振り回す。

 

 

 

「て、てめぇらっ!一斉に掛かれば勝機はあるっ!」

 

首領の飛ばした檄に一斉に剣を構える。

 

ジリジリと異様な大女を囲む陣形になる。

 

盗賊なれどもこの道十年近い猛者達ばかりだ。

 

そう自分達に言い聞かせ、首領の命を待つ。

 

「掛かれーーーっ!」

 

首領の声と同時に部下達は一斉に突撃した。

 

「ふんっ!」

 

金棒を大きく振り回す。

 

めきゃっ!

 

バキバキバキッ!

 

グシャッ!

 

勇儀の金棒がある盗賊の頭を砕き、ある盗賊の上半身を下半身を引き千切り、あっという間に肉塊と臓物の塊にして行く。

 

金棒の一振りで勇儀に向かってきた盗賊達は全員死んだ。

 

最後まで一縷の望みを持って勇儀に立ち向かってきた盗賊達。

 

外道だが、その最期の度胸に勇儀は敬意を払って殺した。

 

「ギリッ・・・・」

 

勇儀が噛み締めた歯が軋む。

 

そう、目の前の死体達は外道だが生き延びようと必死に抗った最期の姿には敬意を払えた。

 

だからこそ許せなかった。

 

部下に死ねと命令した張本人・・・・真っ先に背を向けて逃げ出した首領を。

 

「この・・・・外道がぁっ!」

 

ズンッ!

 

地面を思い切り踏みつけた。

 

勇儀を中心に地面が割れ、それは逃げ出した首領まで届き転倒させた。

 

ダンッ!

 

思い切りジャンプし、さらに逃げ出そうと悪足掻きをする首領の前に着地する。

 

「どこに行く気だい・・・?」

 

酒を飲んで陽気だった勇儀の姿はそこにはない。

 

まさに鬼という言葉がピッタリの雰囲気を出していた。

 

やはり異界でも卑怯な人間がいるのかとかつて地上を捨て地下に移り住んだ時の苦い記憶が蘇った。

 

ぶんっ!

 

勇儀の拳が首領の腹に炸裂し首領の身体が吹き飛ぶ。

 

「楽に死ねるとは思わない事だねぇ・・・」

 

今の勇儀の目を直視できる者はいないだろう。

 

地獄の閻魔の四季映姫・ヤマザナドゥですら目線を逸らしてしまうかもしれない。

 

それほど怒りに満ちていた。

 

 

 

その光景をロゥリィとお空が見ていた。

 

「あー、勇儀が激おこだよ」

 

「ゆ、勇儀ってあの角の生えた女の人のことかしらぁ・・・?」

 

少し顔色の悪いロゥリィが聞き返す。

 

三歩歩く度に何度名前を教え直してもお空の鳥頭ぶりが発揮された。

 

ようやく名前を覚えてもらったころには亜神の身になって初めて胃痛と言うものを経験した。

 

人の身だったなら胃に大穴が開いていただろう。

 

勇儀の怒りが収まるころには日が昇り始めていた。

 

死んだ母娘含め盗賊団はお空のお友達の地獄鴉達がわざわざ旧地獄から駆けつけて美味しく頂きました。




お空が死体を食べる描写はおいらには無理っす・・・・・。
なので地獄鴉さん達に出張ってもらいました。

盗賊さん達、原作では数人程度みたいでしたが本作品では合計20人近い大所帯を想像してください。


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唐揚げは国民食、異論は認めない

作者はレモンかけない派です


一方、場所は変わり自衛隊アルヌス駐屯地。

 

構築された陣地の正面門。

 

当番の自衛隊員は目を擦った。

 

空間に亀裂が入ったように見えたからだ。

 

だがいくら目を擦っても亀裂はそこにある。

 

その亀裂は広がり、幾つもの目が浮かぶスキマの内側から日傘をさした紫が藍と共に出る。

 

紫と藍が出てすぐにスキマは閉じ、亀裂も消えた。

 

「御機嫌よう、自衛隊の皆さん。私は八雲 紫、あなた達が第二ゲートと呼ぶ内側より参りました。上の方とお話をしたいのですが?」

 

 

 

「何?第二ゲート側の代表者が?」

 

電話での連絡を受けた狭間が突然の事態に緊張する。

 

ちょうど報告に来ていた柳田も動揺した。

 

「防衛ラインの隊員はその二名に気付かなかったのか?・・・・そうか、分かった。応接室にお通ししてくれ」

 

受話器を置き、柳田を見る。

 

「第二ゲート側の代表者二名が正門前に現れたそうだ」

 

「現れた・・・・?」

 

「空間に亀裂が走り、その内側から出て来たそうだ・・・・」

 

「なんと・・・・」

 

 

 

「日本国特地方面派遣部隊指揮官、狭間 浩一郎です」

 

「同じく日本国特地方面派遣部隊幕僚、柳田 明です」

 

狭間と柳田が最初に名乗った。

 

「これは御丁寧に。私は八雲 紫・・・幻想郷の代表者です」

 

「私は八雲 藍、紫様の式です」

 

藍の自己紹介に狭間と柳田が顔を見合わせる。

 

「すみません、その式と言うのは・・・?」

 

「藍は私の使役する式神ですの」

 

「式神・・・ですか」

 

「九尾の狐をご存知ですか?」

 

紫の問い掛けに狭間は頷く。

 

「確か、狐の妖怪でしたか?玉藻前と言う名の九尾の狐ならその話を聞いた事があります」

 

「藍はその九尾の狐に私の組み上げた式を取り憑かせたのです。しかし、玉藻前ですか」

 

少し遠くを見るような感じになる紫。

 

「あ、あの、何か御気分を害してしまいましたか・・・?」

 

「いえ、少々昔の事を思い出してました。ふふ、玉藻前ですか、懐かしい名を聞きました」

 

「懐かしい・・・・ですか?

 

「ええ、結構無茶な事をする子だったのを覚えています。結局、無茶しすぎて退治されてしまったんですけどね」

 

女性に年齢を聞くのは失礼だ。

 

だが、玉藻前は確か平安時代の・・・・つまり、目の前の貴婦人は1000年以上生きている事になる・・・。

 

「あの、お話を進める前にお尋ねしたい事が・・・」

 

「あら、何でしょう?」

 

「その、幻想郷に東風谷 早苗と言う神社の巫女をしている方がいるのかお聞きしたいのですが・・・」

 

日本国総理より届いた指示書の中に、もし第二ゲート側の勢力と接触した場合に確認し報告が欲しいと書かれていたのだ。

 

「早苗・・・・守矢神社の巫女ですね。去年辺りに幻想郷で異変を起こしたのでよく知っています。博麗の巫女に解決されてからは大人しく信仰集めをしているのを人里で見かける事が多いですね」

 

「その、この写真の中に写っていますか・・・?」

 

嘉納が調べていた時に手に入れた学校の集合写真の紫に見せる。

 

「ええ、この子ね」

 

セーラー服を着用しており雰囲気的に若干異なる早苗を紫はあっさりと見つけて指で指し示す。

 

「ありがとうございました」

 

話はしばらく続く。

 

「外界とは、結構面倒なところなんですね・・・」

 

藍が呆れたように言う。

 

「ええ、でも、幻想郷とは違うのだから仕方がないでしょう?」

 

紫が諭すように藍に言う。

 

幻想郷では基本的に勢力ごとにルールがあり、幻想郷存亡に関わる自体でなければ幻想郷全体の総意と言う形を取ることはない。

 

妖怪が勢力同士で争っても紫は干渉せず、人里に被害が出なければ霊夢も無視している。

 

 

 

「あら、そうだったわ。お近づきの印に、手土産を用意したんでしたっけ」

 

紫が思い出したとばかりに言う。

 

「何処かに、少し開けた場所ありません?」

 

紫が聞いてきた。

 

「屋外でよろしければ」

 

狭間が案内し、陣地内の空き地に案内する。

 

「ええ、十分な広さね」

 

そう言い、紫はスキマを開いた。

 

スキマの中から布で覆われた小さな部屋ほどの大きさのある物体が取り出され、地面に置かれる。

 

「お近付きの印に、幻想郷より日本政府への贈り物です」

 

「これは・・・・なんでしょうか?」

 

「ふふ、覆いを取れば分かります。藍、お見せしてあげなさい」

 

「はい」

 

藍が紫の指示で覆いを取った。

 

中身は檻であり、その中には数十羽の鳥が入っていた。

 

すべてちゃんと生きており、同一の種類だと想像が付いた。

 

「ま、まさか・・・・」

 

柳田がその鳥の特徴に気付いた。

 

「し、失礼します!すぐに戻ります!」

 

柳田は大慌てで宿舎に戻った。

 

「見事な鳥ですな」

 

「ええ、幻想郷で6〜70年程前から急増した鳥です。意外と唐揚げにしても美味しいんですの。人里でもよく食べられている鳥です」

 

お一ついかがですか?とばかりにスキマから揚げたて状態の唐揚げを取り出し、自らも一つ食べながら勧める。

 

「では、失礼しまして・・・・」

 

断るのも失礼かと、唐揚げを一つ食べる狭間。

 

「おお、これはいけますな」

 

「ええ、お酒のつまみにもいけますのよ」

 

バタバタと柳田が戻って来た。

 

その手には分厚い鳥の本。

 

必死にあるページの鳥と目の前の鳥とを比較していた。

 

何か必死だった。

 

「柳田、八雲さんから唐揚げを頂いたぞ。お前も一つ食べてみろ、すごく美味いぞ」

 

心を落ち着かせようと柳田も唐揚げを一つ食べる。

 

「お、美味しい・・・・。何の唐揚げですか?」

 

「目の前のこの鳥だそうだ」

 

途端に噎せ出す柳田。

 

「お、おい、どうした柳田?この鳥がどうかしたか?」

 

「こ、この鳥・・・・・トキです・・・」

 

ピシッと狭間も硬直した。

 

トキの唐揚げ・・・・・すごく美味しかったですと意味不明の言葉が頭に浮かんでいた。

 

 

 

日本、首相官邸。

 

「そうか、分かった」

 

スピーカーモードで室内にいる全員が電話での連絡を聞いていた状態だ。

 

「嘉納さんの予測、当たりましたね・・・・」

 

「ああ、例の巫女さんがいるって事と、自衛隊が入手した情報が事実なら・・・・」

 

幻想郷は日本国内の内陸部に存在するが互いに互いの存在を知覚する事は出来ない。

 

「しかし、幻想郷・・・・ですか。にわかには信じられませんな・・・・」

 

「しかも休職中とは言え、現職の自衛隊員が向こう側にいるなんてな・・・」

 

「伊丹 耀司三等陸尉、レンジャー資格所有者か・・・。まさか、拉致・・・・?」

 

「いや、この情報によると“神隠し”と呼ばれる現象はその幻想郷に迷い込んで消えてしまった人間を指す場合もあるとか・・・」

 

「それに、現地での・・・いわば妖怪に遭遇しその、食い殺される事がほとんどだそうで・・・。運良く逃げ延びた後に結界を管理する博麗の巫女とやらに頼んでこちら側に送り返してもらうことも出来るらしいがその場合、幻想郷での記憶は消されるそうだ。少数だが、向こうに住み着く者もいるらしい」

 

「警察に捜索願の出ている人物の写真や情報を渡して向こうで確認してもらうのはどうだろうか?もし向こうで暮らしている人物がいれば、捜索対象から除外できるし家族も安心するのでは?」

 

閣僚達が各々意見を言い合う。

 

プルルルルッ。

 

再び電話が鳴る。

 

「本位です」

 

総理が電話を取りる。

 

「そ、それは本当か・・・・?うん、分かった。ありがとう。引き続き、新しい情報が来たら報告をしてくれ。以上だ」

 

受話器を置き、閣僚を見回す。

 

「たった今、特地からの連絡が来た。しばらく前、幻想郷の代表である八雲氏から日本政府へと鳥の贈り物がされたらしい。自衛隊が鳥類学者の協力を取り付け、確認したそうだが・・・・」

 

「鳥?一体どんな鳥なんだ?」

 

嘉納が興味深く聞いてくる。

 

「トキだ・・・少なくとも三十羽はいるらしい・・・・」

 

「な、トキ!?生きていたのか!!」

 

「なんか、某世紀末救世主に出てくる台詞みてぇのが聞こえたが・・・」

 

「幻想郷では6〜70年前程から急増したそうだ。今では幻想郷で普通に食べられているとか・・・。唐揚げが美味いらしい・・・」

 

トキの唐揚げ・・・




え?
トキは美味いのかって?
食べたことないから分からない(当たり前だ)


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炎龍と遭遇

アイエエエエエッ!
UA一万越え!?一万越えナンデ!?
お気に入りも90越え!?

作者はしめやかに失禁!
コワイ!


 

 

「ねぇ、さっきのは本当に必要だったの?」

 

霊夢が徐行走行中の車の真横に降りて窓越しに伊丹と自衛隊員達に聞く。

 

さっきの・・・・とは、壊れた馬車に火を放たせた事だった。

 

「仕方ないよ、あのままあそこから動きそうになかったんだし。炎龍がいつ襲ってくるか分からない現状じゃあ、他の村人達を危険に晒したまま待っているわけにもいかないし・・・な・・・・」

 

「そっ・・・」

 

納得し、再び霊夢は空中に戻る。

 

「あの、本部に連絡して助けを求めればよかったのでは・・・」

 

倉田が桑原に聞くが彼は首を横に降る。

 

「ねぇ、倉田ちゃん。今なんで隊長さんが首を横に振ったかわかる?」

 

短い時間だが同じ車に乗って会話をしているうちに伊丹と倉田は意気投合していた。

 

「え?」

 

「ここ、敵地のど真ん中でしょ?」

 

「ええ、はい」

 

「今は少数だけだから見逃してもらえてるかもしれないけど、大部隊が移動したのを知ったら?向こうさんも侵攻してきたって思って部隊を差し向けて、結果戦闘に突入・・・避難民にも被害・・・って可能性もあるんだと思うんだよね」

 

伊丹の考えに倉田はハッとした。

 

ここは敵地。

 

いつ帝国の軍隊が現れてもおかしくない。

 

「流石っすね、伊丹さん・・・」

 

「まぁ、幻想郷で色々あったからね。ある程度先を読む癖がついちゃってるんだよ」

 

「色々、ですか?」

 

「そ、色々」

 

再び前方を眺める伊丹。

 

しばらく進み、やがて前方に黒い何かが伊丹の視界に入った。

 

「カラス・・・ですかね?」

 

「ああ、カラスだな。死体でもあるのか?」

 

「うぇっ・・・・」

 

伊丹は村の外に出て妖怪の餌食になりカラスのたかっている死体を何度か見たことがあるからある程度耐性がある。

 

「うーん、死体にたかっているにしてはなんか変だな・・・」

 

伊丹の言葉に倉田が運転しながら双眼鏡を覗いた。

 

特にぶつかるものも無い。

 

「・・・・鎌?」

 

「鎌?」

 

「ゴスロリ!」

 

「マジ!?」

 

「体操着!」

 

「体操着!?」

 

「堕天使!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

伊丹の中で予感めいたものがあった。

 

「倉田ちゃん、双眼鏡を貸してもらってもいいかな?」

 

「ええ、いいっすよ?」

 

「ありがと」

 

倉田から双眼鏡を借り、覗き込む。

 

「うわー・・・・知ってる顔が混じってるよ・・・・」

 

「お知り合いですか?」

 

「うん、鎌を持ったゴスロリ以外はね」

 

最初鎌と聞いててっきり小町がいるのかと思ったが違い少し安堵する。

 

「体操服に見える格好している方は勇儀さんで・・・堕天使って倉田ちゃんが言ったのは地獄鴉の妖怪のお空って子だ」

 

「体操服の方は・・・?」

 

「ああ、勇儀さんね。彼女、鬼なんだよ」

 

「怖い人なんすか・・・・?」

 

「いや、文字通り鬼って種族。旧地獄に住んでる鬼の四天王の一人」

 

「鬼って本当にいるんすか!?ってか、地獄もあるの!?しかも旧地獄って何!?」

 

「うおっ・・・耳が・・・」

 

突然の大声に思わず耳をふさぐ。

 

「あ、すんません・・・」

 

「いや、いい。驚くのも無理ないよな。でも、実際鬼っているんだよ。まぁ、勇儀さんの場合は気さくな姐御って感じだな。あ、勇儀さんは嘘と卑怯な行動が大っ嫌いだから気を付けて。本気を出したらこの部隊全滅するよ」

 

「わ、わかりました・・・」

 

「で、旧地獄ってのは地獄のスリム化のために引っ越した後の跡地。鬼を始め地下に住処を移した一部の妖怪が住んでる所」

 

「地獄ってあるんすね・・・・。じゃあ、閻魔大王も・・・・?」

 

「ああ、幻想郷の閻魔様は四季映姫・ヤマザナドゥってロリッ子」

 

「ろ、ロリッ子閻魔様!?」

 

思わず食いつく倉田。

 

「あ、本人の前で言うなよ?外見はロリッ子でも何百年も生きてるわけだし怒ると滅茶苦茶怖いんだ」

 

「あ、会ったことあるんすか・・・・?」

 

「うん、用事で地獄の手伝いに行った時にね」

 

「じ、地獄の手伝いって・・・・」

 

「ちなみに外界の閻魔様は厳ついおっさんらしいよ」

 

「死ぬ時は幻想郷で死にてぇっす・・・・・」

 

倉田が想像し呟いた。

 

そうこう話しているうちに双眼鏡で姿を確認できる程度の距離だったのが今や十数メートルまで接近していた。

 

 

 

 

 

 

 

「神官様だ!」

 

避難民の子供達がロゥリィを慕うように駆け寄って行く。

 

「あなた達、どこへ行くのぉ?」

 

「分からない。炎龍から逃げてるんだ」

 

「無理矢理じゃないのねぇ」

 

「はっ、そこに伊丹がいつもの感じで乗ってるのに無理矢理はありえないって言ったろ?」

 

「おーい、れーむに魔理沙ー」

 

「お空に勇儀じゃない。なに、あんた達も来たの?」

 

「ああ、お前達と合流しろって紫が言って来てな。ついでに河童の翻訳機とやらの機能が向上されたって言ってたな。近付いてしばらくそのままでいれば機械の方が勝手に同期とかってのをやるって言ってたな」

 

「それはご苦労さん。生憎俺たちはこの人達連れて炎龍って奴から逃げてるのさ・・・・って、ちょ、お、お嬢さん・・・・?どうしてそこに・・・・?」

 

「だってぇ、座り心地がいいんですもの。それからぁ、私の名前はロゥリィ・マーキュリー。ロゥリィって呼んでいいのよぉ?」

 

「さ、さいですか・・・」

 

ロゥリィが伊丹の膝の上に座った。

 

倉田がそれを羨ましそうに見る。

 

「あー・・・・、んで、炎龍だったかい?なんだいそりゃあ」

 

「火を吐いて村を焼き尽くす巨大な龍だよ」

 

「へぇ、こっちにはそんなのも居るのかい?面白いねぇ」

 

「勇儀さん、あの人達の近くじゃ面白いなんて言わない方がいいですよ。その龍が近くに出たってだけで村を捨てて逃げ出す程ですし・・・」

 

「そいつは失言だったね・・・・」

 

 

 

「うにゅ、眠い・・・・」

 

「は?」

 

霊夢と魔理沙と話していたお空が目を擦って言う。

 

「うにゅ、昨日寝てないの・・・・。勇儀にお酒付き合わされて・・・・」

 

「そいつは災難なのだぜ・・・・」

 

魔理沙が同情する。

 

 

 

 

道中。

 

 

「すぴー・・・すぴー・・・」

 

伊丹が頼み込んでお空は焼き尽くされた村から助け出した金髪エルフの横で寝息を立てて寝ていた。

 

「う・・・ううん・・・・」

 

お空の翼が顔に当たったりするお陰で金髪エルフはうなされていた。

 

「うにゅ・・・・お燐・・・それわたしのごはん・・・・・」

 

「あらあら、よだれ垂らしちゃって・・・・」

 

女性自衛官の黒川がお空のよだれをティッシュで拭いてやる。

 

「黒川さん、そっちの子の方はどんな感じです?」

 

「いつ意識を取り戻してもおかしく無い状態ですよ伊丹さん」

 

「そりゃよかった。どれぐらい水に浮かんでいたか分からなかったからな・・・」

 

 

 

 

「根性出せーー!押せーーー!」

 

泥濘に車輪がはまり動けなくなった馬車がいた。

 

自衛隊員が汗だくになって押すのを手伝うがなかなか脱出できない。

 

「難儀してるようだね。ちょっとあたしにかわりな」

 

「え?いや、いくら鬼って言っても一人じゃ無理なんじゃ・・・・」

 

「無理と言われたら余計燃えるのがあたしさね!」

 

グィッ!!

 

あっさりと泥濘から車輪が脱出する。

 

「ま、軽いものさね」

 

訓練した大の男数人がかりでも苦労していたのがあまりにもあっさり終わったのを見て戦慄する隊員達であった。

 

 

 

「んー・・・・だだっ広い場所だなぁ・・・・」

 

「こんなところで襲われたら、ひとたまりも無いっすよね・・・」

 

「倉田ちゃん、なにフラグ建ててんの・・・・」

 

そう呟きながら外を眺める。

 

「外界も幻想郷も異界も、太陽はやっぱ黄色いんだなぁ・・・・」

 

太陽に黒い影が映った。

 

野生のワイバーンだろうか。

 

ふっ・・・と、そのワイバーンが影に覆われ、巨大な牙が生えた炎龍に食い殺された。

 

「で、出やがった!炎龍だ!!」

 

「総員!応戦準備!避難民の退避を援護する!倉田、喰いつかれるなよ!?」

 

「りょ、了解!!」

 

アクセルを踏み込み、ハンドルを捌く。

 

 

 

 

コダ村の避難民達も炎龍に気付き、パニックを起こす。

 

馬に鞭を入れ、全力で逃げ出す。

 

徒歩の者は必死に走る。

 

 

「うわあああぁっ!!?」

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

炎龍の吐いた炎が馬車ごと村人を焼き殺す。

 

 

 

「撃て撃て撃てっ!!」

 

パパパパパパパパッ!パパパパパパパパッ!

 

自衛隊車両が炎龍に向かって突進し窓から身を乗り出して銃を発砲する。

 

だが鉛の弾は硬質な炎龍の鱗に弾かれる。

 

パシュッ!パシュッ!

 

伊丹が独特な音を出すにとり特製小型レールガンを撃つ。

 

「うおおっ!伊丹さん何すかそれ!?」

 

「うちの河童特製のレールガンだよ!くそっ!効いてるように思えない!あんなデカブツとやりあうなんて思ってもなかったから弾丸も少ししか無いぞ!!」」

 

「レールガン!?マジッすか!?」

 

「倉田ちゃん!ブレスが来るぞ!?」

 

「こ、こなくそおぉぉっ!!」

 

ハンドルを勢いよく切り、ブレス直撃を避けるが一気に車内の温度が上がる。

 

 

 

 

 

「やらせないぜ!!マスター・スパーーーーーク!!」

 

弾幕を張りつつ必殺の一撃を叩き込む。

 

だが、弾幕が消えた後にあったのは無傷の炎龍。

 

微かに鱗が煤けている程度だった。

 

「き、効いてない!?マジかよ!?」

 

炎龍から距離を取るため再び弾幕を張る。

 

 

 

 

「おりゃぁぁっ!!こいつを喰らいな!!」

 

勇儀は一抱えもある岩を放り投げると金棒で思い切り殴りつける。

 

ガッギイィィィィィンッ!!

 

ビリビリと腕が痺れるがそのままで金棒を振り抜く。

 

勇儀の全力で殴りつけられた岩は炎龍に直撃し体勢を崩す。

 

炎龍が勇儀に向かってブレスを吐くが勇儀はその脚力で地面を踏み砕き、即席の土壁で直撃を防ぐ。

 

「いいねいいねぇ、この命のやり取り!最っ高だよ!!」

 

勇儀は闘いに血の滾りを抑え切れない。

 

 

 

 

 

「助けて神様!神様!!」

 

炎龍に追われる女性が神に助けを求めるが炎龍の口内がブレスの準備を始める。

 

ああ、神様なんて在るだけで助けてくれない・・・。

 

「いやああああぁぁっ!死にたくない!誰か助けてーーーっ!!」

 

ゴオォッ!

 

熱風が襲いかかる。

 

「二重結界!!」

 

熱風は弱まり、何事かと目を開ける。

 

緑の人とは違う紅白の奇妙な服を着た女の子の後ろ姿。

 

炎龍のブレスはその少し手前で見えない壁に阻まれていた。

 

「あんた!大丈夫!?まだ走れる!?」

 

その剣幕にコクコクと頷く。

 

「だったら振り向かずに必死に走りなさい!いくら神に祈っても無駄よ!あいつらにとっちゃ、人間が死のうが生きようが気にしないんだから!」

 

あまりにも必死な霊夢の剣幕に霊夢が助けた女性は彼女が過去に辛い経験をしたと思った。

 

ふっと、炎龍の影以外に別の影が女性と霊夢を覆った。

 

 

 

 

 

「そいつは聞き捨てならないね!博麗の巫女!」

 

その声は大騒ぎの混乱状況にある人々にも聞こえた。

 

ドガァッ!!

 

空から降ってきた巨大な何かが炎龍にぶつかる。

 

それは複数あり、巨大な注連縄の巻かれた木の柱だった。

 

いくつかはそのまま地面に突き刺さる。

 

単純な大質量の直撃に流石の炎龍も痛みからか咆哮を上げた。

 

「言ってくれるじゃあないか、博麗の巫女。そうまで言われちゃあ、神の沽券に関わるってもんだよ。なぁ、諏訪子」

 

「そうそう。この世界の神がどうかは知らないけど、私たちは違うもんね神奈子」

 

霊夢の近くに突き刺さった巨大オンバシラの上に守矢の二柱が立っていた。

 

 




そのうち伊丹が幻想協で冒険(紫のパシリとか)していた頃の番外編書きたいなぁ・・・。

映姫様は様々な二次作品のロリッ子Ver、お姉さまVer、熟女Verのどれも好きですが本作品ではロリッ子Ver。



え?
霊夢の過去の辛い経験?
大晦日も正月も一年中賽銭箱が空なのは辛いでしょ?


なお、個人的には霊夢は比較的裕福だと思ってます。
個人的な想像では参拝客は来なくても生活には困らないかと。
食料は八雲家の紫や藍が持って来てると思います。
博麗の巫女は結界の維持と言う大役を担う代わりに紫に生活を保障されているかと。
博麗の巫女が飢え死にとか洒落にならないし・・・・・・。



オンバシラ直撃はシドニアの騎士の大質量砲を見て思い付きました。
あ、シドニアがオンバシラに見えました。


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さよなら炎龍

もう完全に妄想前回です。
物理的にありえねぇっ!な展開等ありますがスルーするのが吉。


地面に突き刺さる無数の巨大オンバシラ。

 

地上を逃げ惑っていた人々には炎龍から身を隠す壁として役立つ。

 

そして大質量の直撃を受け炎龍は体勢を崩していた。

 

 

 

 

 

「あんた達、何しにきたのよ?」

 

「ご挨拶だね博麗の巫女。それが命の恩人に言う台詞かい?」

 

「そりゃどうも。でも、どーせ近くを通りかかってピンチの一般人が居たから助けて信仰を集めるチャンスだと思ったんじゃないの?」

 

ギクッ!

 

ギクッ!

 

神奈子と諏訪子は平静を装うも冷や汗をかいていた。

 

「何故バレたかって聞きたいみたいね?そうね、そのオンバシラの注連縄のところで失神して目を回してる巫女がいなけりゃ完璧だったわね。大方、突然の進路変更と急降下の連続衝撃に耐えきれずに失神ってところかしら?」

 

ギクッ!

 

ギクッ!

 

「あ、でも最後の着地の衝撃はどうかしら?もしかしたら、早苗の内臓が破裂してたりして・・・・」

 

「うわぁぁぁんっ!早苗死んじゃやだよー!」

 

「くっ、やるじゃないか博麗の巫女・・・!」

 

「いや、あんた達の自爆でしょ・・・」

 

まさか本当だったのかと呆れる霊夢。

 

諏訪子、早苗の治療の為戦線離脱。

 

「ま、まぁ、早苗の事は諏訪子に任せてわたしはあのでかいトカゲモドキの相手をしようかねぇ」

 

「まぁ、やる気になってるのなら構わないわ。せいぜい足を引っ張らないでよ?」

 

霊夢はそう言い残し神奈子から離れた。

 

(あいつら、多分紫に言わずに勝手にこっち来たわね。そうじゃなきゃ勇儀達みたいに翻訳機持たされているはずだし・・・)

 

そう、守矢勢は誰一人として翻訳機とその保護袋を持っていなかったのだ。

 

「ふふふっ、ここで大活躍してこっちにも分社作って信仰心確保よ」

 

下心ありまくりな神様であった。

 

 

 

 

「あらあらぁ、面白いわぁ。あの二人、神なのねぇ」

 

自衛隊側は炎龍に畳み掛けるべく銃を発砲し続けブレスの前兆があればオンバシラの陰に隠れる作戦行動を繰り返していた。

 

亜神のロゥリィには神奈子と諏訪子が神である事が直感で分かったらしい。

 

その隙にオンバシラからオンバシラの影へと魔理沙が合図して生き残った村人達は炎龍から離れる。

 

秘策を伊丹は考え付いていたのであった。

 

だが、その為には生存者を出来るだけ炎龍から引き離す必要があった。

 

炎龍を追い払うか倒すか、二つに一つ。

 

しばらく前に金髪エルフ・・・テュカと名乗った・・・が目を覚まし、目を狙えと言って来た。

 

ロケットランチャーが目に直撃したがオンバシラ攻撃やら魔理沙が意地で弾幕によって炎龍を陽動したりした結果、どうやら獲物ではなく敵認定されたのか手負いになっても去らず執拗に自衛隊車両をつけ狙い始めていた。

 

しかし銃火器の火力ではパワー負けしている。

 

そう、銃火器の火力では。

 

日が沈みかけ、辺りが暗くなる頃に避難民の退避は完了したと霊夢から連絡があった。

 

数時間にも渡り、炎龍を避難民の元へ行かせないべく自衛隊は奮闘した。

 

ハンドルを捌きまくった倉田の腕はパンパンに腫れていた。

 

神奈子と諏訪子も意識を取り戻した早苗と退避した。

 

この作戦を伊丹から聞いた神奈子は一言「正気じゃない」と言ったそうだ。

 

神様に正気じゃない宣言をされた・・・・されちゃったのである(後日、レレィ嬢談)

 

 

 

 

「よし、行けぇっ!!」

 

伊丹の合図に自衛隊車両の後部が開き一つの影が飛び出した。

 

「全車両、指定ポイントまで退避!全速力でだ!!」

 

桑原の合図で一斉に自衛隊車両がオンバシラの影から飛び出し、一方向へ向かう。

 

滅する対象が無防備に背を向けたことを本能で察した炎龍は攻撃を行おうとした。

 

だが、その攻撃は行われなかった。

 

炎龍の目の前に一つの影が降りて来たからだ。

 

炎龍の体躯からすれば腕の一振りで消し飛ばせる大きさ。

 

だが炎龍は本能で危険を察したかもしれない。

 

目の前の存在の危険性に。

 

 

 

 

お空は炎龍の前に立ちふさがるように空中にとどまっていた。

 

霊符が伊丹達の準備が整ったことを知らせてくるのを待つ。

 

炎龍が動こうとすればお空はそれを防ぐように動く。

 

そしてその合図が来た。

 

「ごめんね、炎龍さん。わたし、あなたに恨みはないけど伊丹達を殺そうとするなら・・・・」

 

お空の胸の八咫烏の目が輝き出す。

 

「あなたがもう少し大人しければ、もしかしたらさとり様のペットになれたかもしれないのに・・・・」

 

 

 

「お空、そもそもそんな巨体では地霊殿まで連れてくる事ができませんよ?」(後日、さとり様談)

 

 

 

 

炎龍を囲む様に無数の弾幕が展開される。

 

だがその一つ一つが弾幕ごっこのルール適用外の殺傷力を持った超高温の弾幕。

 

炎龍の逃げ場を塞ぐかの様に円形に展開された弾幕。

 

バサッ!バサッ!

 

炎龍が大きく羽ばたく。

 

分厚い弾幕だが上に抜け出られると考えたのだろう。

 

そんな炎龍の目に飛び込んで来たのは一際高密度で巨大な球。

 

その球は時間とともに縮む。

 

お空の核融合制御で更に高密度になって行く。

 

炎龍は生命の危機を感じ取り、自らを逃さない為に周囲に張られた弾幕を強行突破しようとした。

 

「じゃあね、バイバイ」

 

お空は制御を放棄する。

 

途端、上空の一際高密度の球が内包していたエネルギーを一気に解放した。

 

 

 

 

アルヌス駐屯地。

 

日が沈み、人工の明かりが敷地内を照らす。

 

食事に行こうと食堂に向かう隊員達。

 

彼らは見た。

 

 

カッ!

 

 

遥か遠方で閃光が走った。

 

何事かと全員がそっちを見た。

 

閃光はすぐに収まったが遥か遠方の空が赤く見えた。

 

ある隊員が双眼鏡で覗き込む。

 

 

「お、おいおい!冗談だろ!!?」

 

隊員は思わず叫ぶ。

 

双眼鏡で見えた物。

 

それはキノコ雲だった。

 

 




最初はアビスノヴァ辺りにしようかと思いましたがオリジナルで核爆発にしました。
調べたら核兵器は核分裂兵器と核融合兵器に分類され、水爆が核融合側だったので。
でもまぁ、小規模な核爆発でお空の力で微弱な放射線も出ないご都合主義ってことで。


サラダバー!(逃走)


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日本政府の反応 その2

お、お気に入りが遂に112件に・・・・・。
感謝感激です。

私事ですが感想有難く拝見しています。
が、作者どうやら夏バテになってしまったようです。
返事書こうにもその返事を考える余力が出ない・・・・。

作品は書けるのに・・・・。


 

時間は遡り、炎龍と戦闘に突入した時間帯。

 

side:日本政府

 

 

緊急閣僚会議が招集されていた。

 

「本位さん、急な呼び出しだったけどなんかあったのかい?」

 

「はい。第二ゲートの情報が一部、中国に流出したそうです。恐らく、マスコミもそう遅くないうちに嗅ぎつけるでしょう」

 

ざわつく会議室。

 

第二ゲートの事はまだ機密情報で公開していない。

 

「で、向こうはなんて?」

 

「馬鹿馬鹿しい言いがかりですよ。ほら、例の・・・紅魔館とか言う館の門番の紅美鈴氏の写真を見たらしい。中国人の拉致だ、解決の為に人民軍を特地入りさせろと」

 

「スカーレット氏の提供情報によれば、彼女は妖怪で明治17年に上海で彼女と初めて接触。その後スカーレット氏の従者として北欧へ行き、近年になって幻想郷へ移住したとある。だが、全ての情報は手に入れられなかった様だな。こう言ってなんだが、人間でないから拉致という人権侵害もそもそも成立しないのでは?」

 

「もしくは、知った上でこの門番・・・紅美鈴嬢を拉致したといい通す気かもな」

 

「とにかく、マスコミが騒ぎ出す前に少しでも早く情報公開をしなければ。幻想郷の情報もある程度は公開してもいいと特地で八雲氏が自衛隊に伝えていたのがここで吉と出るとは」

 

「では、記者会見をセッティングして下さい。嘉納大臣、よろしくお願いします」

 

「あいよ、本位さん」

 

 

 

 

緊急記者会見場。

 

一部マスコミは中国がリークした中途半端な第二ゲートの情報を手にしていた。

 

ネット上でもソース元の存在しない噂話が尾ひれを付けて広まり始める。

 

「それでは、会見を始めさせていただきます。えー、嘉納大臣、よろしくお願いします」

 

司会に紹介され、嘉納大臣が会場へ入る。

 

壇上に一礼し、登る。

 

「えー、発表します。特地の自衛隊駐屯地より約2キロ離れた地域におきまして、もう一つのゲートが存在するという情報が一部ありますが、それは事実です」

 

パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

シャッターを切る無数の音が連続し、ストロボの光が無数に走る。

 

ある記者が手を挙げ、質問を受け付ける。

 

「経産新聞の佐々木です。何故、今までその情報を公開しなかったのでしょうか?」

 

 

「はい。えー、まず、特地の通称“帝国”との戦闘を終わらせる為にそちらに自衛隊の能力を割き、第二ゲートは斥候による観察のみに留めました。帝国は第二ゲート側へも攻撃を仕掛けておりましたが第二ゲート側は独自の戦力でそれを撃退していました。政府の判断により、まずは情報収集を優先し不用意な接触を避けておりました。また、敵対関係でない中立の存在である彼等を交流も持たずに勝手に憶測だけで発表していいのか。もし文化の違いがあり、彼等が自らの存在を広めるのを許さない文化を持っていた場合に戦闘状態へ突入するのを防ぐ為、機密情報として扱ってきました。ワイバーンに対して対空レーザー砲で迎撃していたなど、一部突出した科学技術を使用していた為に慎重を極めました」

 

「では、彼等とコンタクト出来たと?」

 

「はい。驚くべき事ですが、彼等の使用言語が日本語だったのです。当初は発音のよく似た独自の言語かと思い調査しましたが、日本語そのものであると判明しました」

 

パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

「どういう事でしょうか?日本語を使用する世界が他に存在するのでしょうか?SFでよくある並行世界とかでしょうか?」

 

「いえ、第二ゲートは日本国内に繋がっていたのです」

 

パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

ざわざわざわざわっ。

 

記者達がどよめく。

 

「に、日本国内にですか!?ですが、何処に?そもそも、さっきの発言にありました対空レーザーとか・・・明らかに最先端の軍事技術を超えているのですが?」

 

「はい、驚くべき事ですが彼等は日本国内に存在しながら日本国内に存在していない・・・いわば一種の位相の異なる空間に存在しているそうです。少々オカルトじみた話ですが、彼等は大規模な結界で自分達の存在を覆い隠しています。なお、基本的にはこちら側からも向こう側からも互いに互いを知覚する事は不可能・・・例えばこちら側でその場所に建物を立てたとしても向こう側ではその建物は存在すらせず、人が歩いても何もない空間として通過できるとのことです」

 

「信じられません・・・・それで、第二ゲートの向こう側を何と呼べば?」

 

「彼等は自分達の住んでいる場所を“幻想郷”と呼称しています」

 

記者の質問は続く。

 

「その幻想郷・・・ですが、どのような場所なのでしょうか?科学技術が高度に進歩しているのでしょうか?」

 

「文化的には日本の江戸時代後期から明治時代初期のままです。最近になって電気が一部に普及し始めたそうです」

 

「おかしくはないですか?ようやく電気が普及し始めたのに電力を大量に消費するレーザー兵器を所有しているのですか?」

 

「ここからが幻想郷の驚くべきところです。人間が住んでいる場所・・・通称人里は先ほども言った通りの文化なのですがレーザー兵器を開発したのは人間以外の存在なのです」

 

「は?」

 

思わず記者が素の声を出した。

 

記者席がざわめく。

 

この中継を見ていた人々も嘉納大臣がおかしくなったのかと思った程だ。

 

「幻想郷が何故幻想郷と言うのか、これは名は体を表すという言葉どおりです。この世界から幻想となった存在・・・科学技術の進歩により迷信と化し存在を否定されてしまった、みなさんに馴染みのある言葉で言えば“妖怪”等が住んでいる場所なのです。幻想郷に住む人間の大半はその妖怪を退治する事を生業としていた人々の子孫であるとの事です。信じられないことが多いと思いますが、後日幻想郷の代表をお招きして交流を持ちたいと政府は考えております」

 

「し、質問を終わります・・・・・」

 

理解を超える内容の連続に海千山千の記者達も頭の中を整理するのに時間がかかっている。

 

「他に、質問のある方は?」

 

記者達が次々と手を挙げる。

 

嘉納大臣はその中の一人を指名する。

 

敢えてその記者を指名した。

 

「えー、毎朝新聞の大村です」

 

記者が名乗る。

 

「えー、一部にこのような怪情報が飛び回っています。その第二ゲート側に中国人と思われる女性がおり、中国政府は拉致ではないかと。また、ネット上にてこのような写真も流れています」

 

来やがったな・・・と嘉納の目が鋭くなる。

 

記者が出した写真・・・それは拡大された紅美鈴の写真だった。

 

「この女性が来ている服は華人服にもチャイナドレスの様にも見えます。政府はどの様に考えますか」

 

(怪現象が飛び回ってるだぁ?お前らの飼い主がばら撒いてるのを知ってる癖に、とんだマッチポンプ連中だぜ)

 

毎朝新聞・・・まるで中国の手先の様に日本国内で反日報道に邁進する報道機関である。

 

嘉納は内心悪態をつきながらも表面上は平静を装う。

 

「えー、まず、彼女の名前は紅美鈴さんと言います」

 

「やっぱり中国人の方じゃないですか!?」

 

「毎朝新聞さん、あのね、まだ私が話している最中ですよ?」

 

「・・・・・失礼しました」

 

嘉納大臣が嗜めると大村は憮然としながら渋々下がる。

 

「まぁ、いいでしょう。えー、この紅美鈴さんですが、中国人どころか人間ではないと言ったらどうしますか?」

 

「今のは重大な差別発言だ!!」

 

「まぁまぁ、実は自衛隊と接触した際に幻想郷の代表である八雲紫氏のご提案で、この紅美鈴さんを撮影した映像があります。まずはそちらを見て見ましょう」

 

 

 

 

会見場にモニターが運び込まれ、映像が流れる。

 

『これに私の動いてる姿が記録されるんですか?凄いですねー』

 

流暢な日本語で喋る美鈴の姿が画面に現れる。

 

『えーっと、紫さんに得意な事やって見てくれって言われてるので、今からあの岩を砕いてみせます』

 

映像が岩へパンし、自衛隊員が至近距離で岩に銃弾を叩き込みそれが本物の岩である事を証明する。

 

『では、行きますね』

 

岩の前に立ち、功夫の構えをする。

 

『破っ!!』

 

バカンッ!

 

美鈴の一撃で岩が砕ける。

 

その岩が本物であるかどうかをカメラはそのまま写す。

 

映像が動き岩へ近付き、ナイフで砕けた岩をランダムに突く。

 

幾度目かの岩のかけらで遂にナイフが刃こぼれする。

 

映像は終わる。

 

 

「えー、この様なことが可能な“人間”がいるでしょうか?」

 

「し、CGだ!そうに決まってる!!」

 

はぁー、と嘉納は溜息をつく。

 

(おいおい、往生際悪すぎだぞ。そんなに“本国”から指示受けてんのか?)

 

「えー、実はこの紅美鈴氏も妖怪です。この映像は後ほど希望される報道機関の方に配布する予定です。どうぞお好きなCG専門家にでも見て頂いて貰ってください。ともかく、日本政府としての公式見解では紅美鈴氏は拉致されてあちらにいるわけでは無いという事を主張いたします。まぁ、大方あちらの国はこれを口実に特地へ介入したがっているのでしょうが、日本政府としては他国の武装した軍を国内に入れることは出来ないと言う従来の方針を変更する予定はありません」

 

最後の方は中国以外にも介入したがっている国への牽制だ。

 

「では、他に質問のある方。えー、じゃあ、あなたで」

 

「はい、にょほにょほ動画の鈴木と申します。えー・・・」

 

その後の流れは比較的スムーズだった。

 

 

 

 

日が沈み、首相官邸。

 

 

「嘉納大臣、お疲れ様です」

 

「はぁー。ったく、毎朝の連中も飽きないねぇ。どんだけ中国マネーが流れ込んでるんだか」

 

本位の労いの言葉を聞きながら愚痴る。

 

「まぁまぁ。報道の自由がある以上は仕方ありませんよ。正直、鬱陶しいですけどね。どこから情報が漏れたか、公安に調査を指示しました」

 

「本位さんがそう言うんじゃあ、相当だなぁ・・・」

 

「まぁまぁ、みなさん。お酒では無いですが、無事に会見を乗り切ったお祝いをしましょう」

 

「茶かよ、酒の方がよかったんだがな」

 

「ははは、じゃあ今夜にでも飲みに行きますか?」

 

「お、いいねぇ」

 

「では、お茶ではありますが。乾杯!」

 

総理始め全閣僚がお茶に口を付け、飲み始めた。

 

バタバタバタ!ガチャッ!!

 

「き、緊急報告!特地にて核爆発が!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「ブーーーーーッ!!?」」」」」」」」」」」」」」」」

 

室内にいた本位総理を含めた16名が口に含んだお茶を吹き出してしまった。

 

「ゲホッ!ゲホゴホッ!!」

 

「か、かく・・・・ゲホゲホッ!!」

 

 

 

総理大臣以下全閣僚呼吸整理中

 

 

 

 

「えー、本当に核爆発なのですか・・・・?」

 

吹き出してしまったお茶をスタッフが拭き終え本位総理が神妙な表情で報告に駆けつけた連絡員に聞く。

 

「あ、せ、正確には、核爆発と思われる大規模爆発です。こちらが特地からの映像データです」

 

備え付けのディスクプレイヤーがディスクを飲み込み映像が流れる。

 

アルヌス駐屯地の観測用定点カメラの映像だ。

 

ピカッとまるでカメラのフラッシュの様な光が画面に映る。

 

映像がズームされ、拡大に拡大を重ねる。

 

暗闇の中、キノコ雲が映る。

 

どよめく閣僚達。

 

「本当に核爆発なのか徹底的に調査を。もしや特地には核爆発と同等の威力がある何かがあるのかもしれません・・・」

 

徹底的な調査を指示した本位総理であった。

 




明治17年の上海アリスは名曲。
本作品ではその年に美鈴がレミリアと邂逅した設定にしました。


ところで、特地と日本の時差ってどれくらいなんでしょうかね?
アニメの最初で自衛隊が特地に足を踏み込んだ時、日本は昼間なのに特地は夜間で帝国の篝火が見えていた。
しかしピニャ達と国会での参考人質疑に向かった時は特地も日本も明るい。

wikiだと年単位で差が出ているみたいですが・・・。
面倒なので本作品では特地のアルヌスの丘も日本も同じ時間を刻んでいく感じで行きたいと思います。


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ピニャさん初登場

遂にピニャさんも登場します。


作者は漫画版のピニャさんが好きです。



お気に入り190件突破・・・・ぐはっ(吐血)


 

 

side:中国

 

「全く忌々しい。門が日本に開いただけでなく、幻想郷なる異界の様なものまで存在するだと・・・・。その様なものは我が中国こそがふさわしいと思わんか?」

 

薹 徳愁国家主席は忌々しげに日本政府の記者会見の報告書を読み終える。

 

「全くその通りです」

 

イエスマンの秘書が同意する。

 

「党をあげて国内の自称を含めた仙人という仙人、道士という道士を掻き集め幻想郷と同じ様な結界を作らせろ。拷問しても死んでも構わん」

 

「わかりました、すぐに手配します」

 

だがこの行為は修行中を含めた本物の仙人や道士を見つけることすら出来ず、売名目的で仙人や道士を名乗っていたインチキ仙人やインチキ道士が拷問の末に大量死する結末で終わった。

 

だが中国共産党の隠蔽で全てはなかった事にされる。

 

 

side:out

 

 

 

 

太陽が顔を出して数時間が経っていた。

 

ブロロロロロロロッ・・・・・。

 

「よく生きてましたね、俺たち」

 

「うん、そだねー」

 

「炎龍、ボロ雑巾になってましたもんね」

 

「うん、そだねー」

 

倉田の話しかけに少し魂が抜けた様な返事をする伊丹。

 

後ろに目をやると金髪エルフ・・・後にテュカと名乗る・・・が寝ていた。

 

炎龍の目を狙えと言った直後に岩で車体がバウンドし頭をぶつけ昏倒し今に至っていた。

 

エルフにたんこぶが出来ているというシュールな光景だ。

 

その横には疲れて眠っているお空。

 

相変わらずお空の翼が金髪エルフの顔に被さったりしている。

 

自衛隊車列の後ろには炎龍襲撃で両親を失ったり避難していたものの頼る先のない人々だ。

 

ほとんどの避難民とは炎龍撃滅後の犠牲者の弔い後に別れた。

 

 

 

あの時。

 

自衛隊車両は一直線に勇儀が全力で掘った穴に突っ込み勇儀が突入口を内側から岩で塞いだ。

 

無論それだけでは不十分だ。

 

賭けはお空が制御を放棄してから爆発が起こるまでのわずかな時間だった。

 

お空に霊符の反応を目印に急降下する核反応制御不能ダイブしてもらい着地と同時に反転し核熱バイザーを展開しあの灼熱地獄を乗り越えた。

 

避難壕内は滅茶苦茶暑くなったが・・・・。

 

避難民達は神奈子が複数のオンバシラを出して障壁にし、更に霊夢の二重結界を神奈子と諏訪子と早苗が霊力を霊夢に供給することにより広範囲展開し乗り切った。

 

自衛隊一行が穴から出て見たものはクレーターと一部ガラス化した大地、そしてボロ雑巾の様になった原型を留めない炎龍の死体だった。

 

辛うじて一部の鱗が残っており、それで炎龍と分かった程。

 

炎龍を滅ぼした地上に現れた太陽を見た避難民達はお空の事を《オクー様》と呼び慕っていた。

 

ロゥリィ曰く、どうも新しい神だと思われているとか。

 

守矢勢だがオンバシラによる防御壁などを作って避難民を守った結果、お空には及ばないが霊夢と共に信仰心の確保に成功。

 

この爆心地・・・・後に特地グラウンド・ゼロと自衛隊が命名・・・・に博麗と守矢の分社を作るらしい。

 

懸念されていた放射線量だが調査隊が所持していたガイガーカウンターを使用した結果、自然放射線レベルで核汚染は見られないとの事だった。

 

 

 

「安請け合いしちゃったかなー。でも、あそこで見捨てて行くなんて無理だしなぁ・・・」

 

伊丹がぼやく。

 

紫に避難民がいたら連れて来てもいいとは一言も言われていない。

 

「まぁ、紫さんに土下座でもなんでもしてOK貰わないとな・・・」

 

「伊丹さん、自分からも上官に掛け合ってみます。伊丹さんの行動は人として当然の行動ですよ」

 

隊長の桑原が伊丹に敬意を示し敬礼する。

 

「ちょ、やめてくださいよ、自衛隊の階級としては自分は隊長さんより下なんですから」

 

「ですが、今は民間人ですよ」

 

桑原が笑いながら言う。

 

「ん?ヘリが飛んでくる・・・?」

 

「昨夜の爆発の光とか音が届いたのかもしれません。その調査かと。栗林、無線で連絡をとってみろ」

 

「了解。上空を飛行中のヘリへ。こちら特地深部調査派遣隊、応答求む」

 

ヘリとのやりとりの結果、やはりアルヌス駐屯地から光が見え、核爆発かどうかの調査を日本政府より支持されたと判明。

 

こちらの事情を説明し放射線量は自然放射線レベルと伝える。

 

 

 

自衛隊アルヌス駐屯地。

 

「だ、誰が連れて来ていいと言った!?」

 

こめかみをピクピクさせながら桑原を叱責する柳田。

 

「はっ!しかし、行く当てもない避難民を置き去りにする事はとても出来ませんでした!」

 

柳田の頭の中では後に拉致されたとか強制連行されたとか言い出されたらどうすると言う考えがあった。

 

良くも悪くも、戦後の自虐史観教育を受けた者の悲しい性であった。

 

 

 

幻想郷アルヌスの丘紅魔館。

 

「あら、いいわよ?」

 

紫があっさりと許可を出しながらレミリアとのケーキとティータイムを楽しむ。

 

「へ?」

 

紫が怒ると思っていた伊丹には拍子抜けであった。

 

椅子を勧められた伊丹にも咲夜が紅茶とケーキを出す。

 

「伊丹、幻想郷は全てを受け入れるのよ?それが幻想郷を滅ぼす意志を持っていない限りは」

 

とは言っても・・・と紫は続ける。

 

「無理に幻想郷へ連れて行くのは不本意ね。自衛隊の方でも受け入れるかどうか考えてるんでしょ?だったら・・・・」

 

紫は手紙を書くとスキマを開いてそれを自衛隊側の指揮官である狭間の目の前に置いた。

 

突如スキマが開いてにゅっと手紙を持った手が現れた時には狭間の心臓が止まりかけたが。

 

自衛隊アルヌス駐屯地と紅魔館の中間地点に避難民の受け入れ施設が作られる事に決まったのはそれからすぐの事だった。

 

 

 

避難民初の異世界の食事タイム。

 

自衛隊側と幻想郷側が食料を提供している。

 

「んまーい!このパン!モチモチ!モッチモチじゃぁーっ!」

 

「お師匠、もう少し静かに食べて欲しい。でも、すごく美味しい」

 

「ほんとぅねぇ。こっちの“オハギ”と言うのも、甘くて美味しいわぁ」

 

パン自体は食べ慣れていたがおはぎは未知の食べ物であり、その甘さに驚く。

 

 

 

ロゥリィは幻想郷と伊丹に興味津々であり、レレィは自衛隊の近代装備と幻想郷の見たことも聞いたこともない魔法とも違う力に興味津々、そしてようやくたんこぶの消えたテュカは父親の幻覚を見ているかのように振る舞う。

 

 

なお、レレィの師であるカトーは魔法使いである事から紅魔館の地下図書館の主人パチュリーに招かれその蔵書量に驚愕。

 

世界は違えど同じ魔法使い同士、意気投合しカトーは紅魔館の地下図書館近くに部屋を与えられほとんど図書館に入り浸り異世界の文字を学習していた。

 

 

 

 

どこかの街、酒場。

 

帝国の皇女ピニャ・コ・ラーダは部下の騎士ノーマ他数名と情報収集でその場末の酒場を訪れていた。

 

その酒場で酔った客達がある話で盛り上がっていた。

 

「炎龍を倒したぁっ!?」

 

「ああ、そうとも!ありゃあ凄かったねぇ!」

 

「おいおい、さすがに冗談だろ?大型のワイバーンと見間違えたんじゃねぇか?」

 

「ま、そりゃそうだな。はははは!」

 

「本当に炎龍を倒したんだって!ったく、誰も信じちゃくんないよ」

 

ぼやくウェイトレス。

 

「その話、もっと聞きたい」

 

「おや?騎士様は信じてくれるのかい?」

 

「ああ、信じてもいい。だからもっと詳しい話を頼む」

 

「どおしようかねぇ。あたしも今仕事中だし・・・」

 

「これでどうだ?」

 

金貨を見せるピニャ。

 

「しょ、しょうがないねぇ!」

 

ひったくる様に金貨を手にすると「コホン」と咳払いをする。

 

「まず、ニホンとか言うところから来たって言う緑の人とゲンソーキョーって言うところから来たって言う神様と神官様達があたし達の村に炎龍が出たって知らせてくれたんだ。当然村を捨てて全員で逃げてた。その最中さ、炎龍が出たのは」

 

「それで?」

 

「もうあたし達は必死になって逃げたね。でも、何人かは炎龍に喰われちまったり焼き殺されちまったり。必死になって神様に祈っても無駄だと思ったさ。でも、緑の人とゲンソーキョーの神様と神官様達は炎龍に立ち向かった。最初に炎龍に手傷を負わせたのが鉄の逸物さね」

 

「鉄の逸物?」

 

聞き慣れない言葉にピニャ達はもちろん酒場の客達も興味津々だ。

 

「たぶん魔道具の一種じゃないかと思うよ。緑の人が『コウホウノアゼンカクニ』って呪文を唱えるとその鉄の逸物から魔法が飛び出して炎龍の顔面で爆発したのさ」

 

「じゃあ、ゲンソーキョーって言うのは?」

 

「まぁまぁ、ここからだよ盛り上がるのは。突然、空から巨大な大木が降って来たんだ。本当に巨大でね、炎龍の炎にも耐え、炎龍に直撃して炎龍がフラつく程にね。カナコって神様が出したオンバシラって言う大木さ。本当に助かったよ。なんせ炎龍の炎でも燃えなくてね、あたし達はそのオンバシラからオンバシラへと身を隠しながら逃げたのさ。途中でスワコって神様が雨を降らしてくれたおかげで水にも助かったね。そして日も沈んだ時に、オクー様が太陽を作り出して炎龍を焼き殺したのさ」

 

「オクー様?太陽を作った?」

 

「ゲンソーキョーから来た太陽の神様さ。何でも、カクユーゴーって力で小さな太陽を作り上げたって言うのさ。物凄い大爆発が起きてね。一部じゃ地面まで溶けて固まっちまったのさ。その爆発の後には炎龍がズタボロになって死んでいたってわけさ」

 

ゴトリとウェイトレスが何かを置いた。

 

「死んだ炎龍の鱗の一部、あたしの宝さ」

 

真っ赤な鱗の欠片、それは一部が溶けていた。

 

周囲がざわめく。

 

「これを譲ってはくれないだろうか?」

 

ピニャが持ちかける。

 

「え?困るよ、さっきも言ったろ?あたしの宝だって」

 

「無論、ただでとは言わない。金貨5・・・いや、10枚出そう!」

 

「じゅ、10枚!?本当かい!?」

 

「ああ、ツケでとかではない。今この場で払おう」

 

じゃらっ。

 

「ほ、他ならぬ騎士様の頼みだし・・・・分かった!譲るよ!」

 

「ありがとう!じゃあ、金貨10枚だ」

 

「た、確かに10枚!毎度あり!」

 

上機嫌で10枚の金貨を大事に抱えてテーブルを去るウェイトレス。

 

「ひ、姫様!まさかあんな与太話を本気に・・・・?」

 

「まさか。流石に炎龍は盛っていると思うが・・・なぁ、ノーマ。たとえ突然変異の翼竜だとしても、鱗をこの様に溶かせるものか・・・・?」

 

「そ、それは・・・」

 

「ニホンとゲンソーキョー・・・帝国最大の危機かもしれん・・・」

 

ピニャは溶けた炎龍の鱗の欠片を睨みながら呟いた。

 

 

 

 

 

おまけの駄文

 

 

もしこの作品世界に転生者がいてその転生者の反応

 

 

この世界に転生して早数年。

 

チートすらない一般人として転生した。

 

ニュースで北条総理、ディレル大統領という名前を見て「あ、この世界GATEの世界だ」と直感した。

 

出来るだけ銀座に近付かないように気をつけていたらやっぱり銀座事件が起こった。

 

しかしGATE主人公にして銀座事件での英雄伊丹耀司がいなかった。

 

少しだけがっかりしつつも普段通り生活を続けある日テレビを見てたら特地に別のゲートがあるとか言う記者会見をやっていた。

 

んで、嘉納さんの口から信じられない言葉が発せられた。

 

“幻想郷”・・・東方projectの弾幕シューティングゲームの舞台となる博麗大結界に閉ざされた世界。

 

もう一つのゲートはそこに繋がっているという。

 

思わず「は?」と呟いた。

 

しかも映像で美鈴が岩を砕くシーンが流されたり八雲紫という名前もちゃんと出て来た。

 

後ろに写ってる真っ赤な館って紅魔館?

 

・・・・・銀座にばかり集中してて失敗した・・・・?

 

幻想郷行けばワンチャンあったかな・・・・・?

 

 




最後におまけの駄文を付け加えてみました。

駄文のおまけの駄文・・・・。


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イタリカの街へ行こう

遂にピニャさんが出会ってしまう・・・・


数日後。

 

「街に行くって?」

 

紅魔館に連絡に来た倉田から避難民達が自衛隊から譲り受けたワイバーンの鱗を売りに行く事を聞いた。

 

避難民達の自立を支援する自衛隊はこれを支援する事に決めたそうだ。

 

紫に許可を貰いに向かう間に待っていた倉田は咲夜を見て「リアルメイドキター !」と叫んでしまい思いっきり不審者認定されてしまい時間停止の餌食になりナイフの冷たい感触を味わった。

 

 

 

 

 

自衛隊車両は既に待機し、幻想郷側の一行を待つ。

 

「すんません、お待たせしました」

 

先頭は伊丹だが、後ろにいるのは霊夢と魔理沙ではない。

 

「初めての方は初めまして、紫様の式の八雲 藍です」

 

「霍青娥よ。気軽に青娥娘娘って呼んでもいいわ。こっちは宮古芳香、私の可愛い部下よ」

 

霊夢は博麗大結界に解れや歪みが発生していないか博麗の巫女としての本来の仕事に一旦戻り魔理沙は新種のキノコの噂を聞いて近くの森へ探しに行ってしまっていた。

 

「あ、あの!そ、その芳香って子、すごく顔色悪いんですが・・・お医者さんに見せた方が・・・・」

 

栗林が芳香の土気色の顔色を見て言う。

 

と言うか、なんでこの子は額にお札を張っているのだろうか?と栗林は真っ先に思った。

 

「あら、この子はこれでいいのよ?」

 

「そーだぞー。よしかはいつもこうだぞー」

 

「ねぇ、もしかしてぇ、その子魂がないのぉ?」

 

ロゥリィが真っ先に芳香の在り方に気付いた。

 

「ゾーンービーだーぞー。こわいだろー」

 

「ひっ!?ひいいぃぃっ!?ぞ、ゾンビーーー!?」

 

栗林が悲鳴をあげる。

 

「あら、ゾンビなんて無粋ね?この子はキョンシーよ」

 

「同じじゃないですかーー!?」

 

「いつまでやってるんだ・・・」

 

藍の呆れた様な声がした。

 

「それでは、出発しましょうか」

 

伊丹は別に芳香を見るのが初めてではないから耐性があった。

 

「青娥、ひとつ言っておく。私は紫樣の命だからお前と共にいることを忘れるな」

 

「もう、藍ちゃんのいけず」

 

「藍ちゃんと言うな・・・」

 

「はーい、藍ちゃん」

 

「・・・・・もういい・・・・・」

 

「あ、芳香。車に乗るときは頭に」

 

ゴンッ!

 

「遅かったわね・・・・」

 

「いーたーいー・・・・」

 

頭を抑えて蹲る芳香。

 

「ほらほら、痛いの痛いの飛んでけー」

 

「おー、痛くなくなったー」

 

「じゃあ、頭に気をつけてね」

 

「あーい」

 

次は青娥が手を添えてやって無事に乗り込んだ。

 

 

 

走り出してしばらくし会話にも花が咲く。

 

「いやー、やっぱめい☆コンはいいよなー」

 

唐突に伊丹が言う。

 

「どうしたんです、急に?めい☆コンが神作品なのは認めますが」

 

倉田も同意する。

 

「いやー、この間めい☆コンの限定版が届いてね。時間を忘れて見ていたよ」

 

「めい☆コンの限定版って・・・この間発売されたばかりじゃないっすか!?特地にいながらどうやって買ったんです!?」

 

「いやー、ちょっと幻想郷での伝手があってね。あ、そう言えばあと2、3日でステーションプレイのマスターアイドルが発売だっけ。倉田ちゃんも限定版予約した?」

 

「そ、そりゃもちろん予約してますけど・・・一体どうやって買ってるんだこの人は・・・・」

 

幻想郷と言う世界から外界の同人誌やらCDやらゲームソフトをどうやって買っているのか倉田は疑問だった。

 

 

 

なお、その伝手とは・・・。

 

東京は秋葉原を中心に全国展開するアニメ・同人ショップ、タイガーホール通信販売部門。

 

そこの人々は入荷したソフトを箱詰めし運送会社の伝票を貼っていた。

 

「えーと・・・ステーションプレイのマスターアイドル超豪華限定版が2本か。支払い済みで送り先は・・・・ああ、いつもの佐渡ヶ島の二ッ岩商事さんか。会社みたいだけどなんでいつもゲームソフトとかアニメBDを複数買いするんだろうな?そのわりにこの間は往年のロボットアニメの復刻版BD-BOXは単品買いだったけど・・・・」

 

呟きながら注文の品を箱詰めして行く作業員であった。

 

 

 

 

 

 

一方、伊丹達が向かっている街イタリカでは・・・。

 

帝国皇女ピニャ・コ・ラーダは狂いまくっている予定に頭を抱えていた。

 

前の街を立つ直前にフォルマル伯爵領のイタリカの街が襲撃を受けていると知った。

 

咄嗟にニホンかゲンソーキョーと戦闘状態になっていると思い馬を早駆けで駆け付けた。

 

しかしそこで見たのはアルヌスの丘を支配しているニホンとゲンソーキョーとの戦いに敗れ野盗に身を落とした連合諸王国軍の敗残兵達の姿だった。

 

見捨てて行くわけにもいかず、援軍としてフォルマル伯爵家に身を寄せ敗残兵・・・いや、野盗達と戦っていた。

 

野盗が撤退し、次の襲撃も予想されるなかピニャは伯爵家へと戻り仮眠を取ることにした。

 

緊急時に起きなければ水をぶっかけてもいいとフォルマル伯爵家のメイド長に伝えて。

 

 

 

 

 

 

 

今回は全員が車に乗っているためそれなりの速度で街に近付く。

 

「あれは・・・煙か?」

 

藍が真っ先に気付いた。

 

「あれ、本当だ」

 

「また煙かよ・・・・今度は何なんだ?」

 

倉田の双眼鏡を借り見る。

 

「あれは・・・かぎ・・・?」

 

「いや、火事」

 

「そう、火事・・・?」

 

不慣れな日本語でレレィは原因を推測する。

 

「なんか、煙に縁があるよな俺達・・・」

 

「ですねー」

 

街に近付くと街を囲う壁に焼けた痕跡やらが見える。

 

「うっわー・・・もしかして取り込み中かな・・・?」

 

不安を覚える伊丹だった。

 

 

 

 

ばしゃあっ!

 

突然冷水を浴びせられピニャは飛び起きた。

 

「お起きになりませんでしたので」

 

にっこりと笑いながら水の入っていた桶を手にしたメイド長が言う。

 

いくら本人の許可があるとはいえ帝国皇女を水をぶっかけて起こす度胸が凄い初老のメイド長である。

 

メイド長から内容を聞きながら着替えるピニャ。

 

だがその話の内容は今のピニャに追い打ちをかけるものも同然。

 

(馬の居ない鉄の馬車に緑の服・・・ニホンとか言う異世界の軍勢か・・・?見たことのない格好しているのも何人かいる・・・ゲンソーキョーか・・・?)

 

情報を整理しながら街の正面門に向かう。

 

途中で目に入る野盗対策の準備をしている兵や疲れて眠ってしまっている市民兵、不安そうな顔でこちらを見る子供達・・・。

 

いざ門まで来ても気後れしてしまう。

 

覗き窓から外を見る。

 

確かに馬の居ない鉄の馬車に緑の服の集団。

 

何人かは既に馬車から降りている。

 

「あれは・・・・なんと見事な尻尾だ・・・・亜人か?」

 

思わず声に出す。

 

他にも額に奇妙な札を貼った少女がぎこちない動きをしている。

 

その次に降りて来たのは・・・・

 

「あれは・・・!ロゥリィ・マーキュリー!?エムロイの十二使徒の一人!」

 

思わずあげた声に周りの兵も騒めく。

 

「お、おい、今、エムロイの神官様って・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

これで門を開けない訳にいかなくなった。

 

他の連中だけなら街の安全の為と追い返せばいいがエムロイの神官が居ては追い返すのは失礼にあたる。

 

そもそも、何故異世界の軍勢と思われる一団とエムロイの神官が一緒にいるのだろうか・・・。

 

よく見えないがまだ数人、馬車の中にいるように見える。

 

「ええい、ままよ!」

 

思い切ってピニャはドアを開けた。

 

 

 

 

ピニャがドアを開ける少し前。

 

「おー、なんだかふらふらするぞー」

 

どうやら乗り物酔いしたらしい芳香。

 

キョンシーでも乗り物酔いするとか大発見だと伊丹は思った。

 

藍はあいも変わらず凛としている。

 

ロゥリィが降りて来て伸びをする。

 

「じゃあ、行きますか・・・!」

 

決意を固め、入口らしいドアのような場所に向かう。

 

「たのぶぎゃっ!?」

 

ガンッ!

 

「よく来たな!歓迎しよう!」

 

・・・・・・・・

 

「ん・・・・?ガンッ・・・・?」

 

普通ならない音の原因を求めると緑の人とは違う服を着ている男が仰向けで地面に倒れている。

 

「ちょっと!あなた人が居るのに突然ドア開ける!?」

 

テュカがピニャを責める。

 

「も、もしかして・・・妾が・・・・?」

 

テュカ、レレィ、ロゥリィが同時に頷く。

 

「おー、青娥、伊丹死んだのかー?」

 

「いいえ、気絶してるだけよ」

 

「よかったー。死ぬのはいかん、死ぬのだけはいかんからなー」

 

「まぁ、もし死んでたら芳香と同じキョンシーにするのも悪くないかも」

 

「おい、青娥。伊丹は紫様のお気に入りのおもちゃ・・・・コホンッ!人間だ。勝手にキョンシーにするなど私が許さない」

 

「え゛っ!?こ、この人今、伊丹さんの事おもちゃって言った!?言ったよね!?」

 

栗林が藍のとんでもない発言に思わず声をあげた。

 

「いや、言ってない」

 

「嘘っ、言ったよ確かに!?」

 

「聞き間違いだ。いいか、何も、問題はない・・・」

 

ジーッと、藍は栗林の目を見つめる。

 

藍の瞳が微かに妖しく光る。

 

「だ、だって・・・・あれ・・・・?・・・・・うん、聞き間違い・・・。・・・・何も・・・・問題は・・・ない・・・」

 

虚ろな目で藍の言った言葉を繰り返す栗林。

 

藍の目の光が消え視線を外すと栗林はハッと意識を引き戻される。

 

「あれ・・・?何話してたんだっけ・・・・?」

 

栗林の反応に口元に微かな笑みを浮かべる藍であった。

 

 




毎日暑いっす・・・・皆様も体はお大事に・・・・。


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激突!咲夜VS亜神

✳︎特地の神様達がどうやって互いに会話するのか分からなかったで本作品では神様空間と言う場所を勝手に作って擬人化し会話してもらいます)

✳︎神様達の性格は勝手な想像です(知識が中途半端なもので)

✳︎オリキャラが出ますが許して。

7/31追記・作者の手元にGATEの小説版がないのとコミックスもまだ6巻までしか所有していないのもあり、神様の喋り方等が完全に作者の想像になっています。


特地の神々が集まっていた。

 

イレギュラーな事態。

 

まだごく僅かではあるが信仰が異世界の神に奪われている。

 

その原因を作ったハーディーに他の神々が非難を浴びせる。

 

「ハーディー、帝国に門を与えたのはいいとしよう。だが、何故あのような世界に繋いだのだ」

 

「分からないよ。以前繋いだ世界のニホンって国に繋いだのは認めるよ。でも、その時の門が分裂してもう一つできちゃったんだから」

 

「では、何故閉じない?」

 

「向こうから固定化されてるんだよ。こっちのからの固定とは全く別の未知の方法でさ。破壊しない限り繋がりっぱなしさ」

 

「では、早急に壊すんだ」

 

「分かってるって。適当な信者の人間を選んで亜神にしてもう破壊に動いてもらってるよ」

 

「ならば、良い」

 

 

 

 

 

 

亜神となったキャスと言う名のハーディーの使徒は森の中に潜み第二ゲート側の拠点となっている館を眺める。

 

ゲートそのものは館の外にあり見た目では容易に誰でも接近出来るように見える。

 

だが亜神となって日が浅いとはいえ感覚が鋭くなったキャスには分かった。

 

だがその周囲には上空も含めて無数の魔力の警戒網が構築されている。

 

そして館に感じる凄まじい魔力の塊が複数。

 

キャスには相当な魔法の使い手がいるように思えた。

 

しばらく前にこの森の中でキノコ狩りをしていた少女がいた。

 

館の方から来たことから敵対組織の構成員と判断したが始末できなかった。

 

ハーディーから賜った門を破壊するための破壊魔法を封じた魔道具は予備も含めて3つある。

 

キャスから見れば戦闘になった場合はともかく、不意を突いて魔道具を使えばその少女が館に危機を伝える間も無く殺す事は容易であると判断出来た。

 

だが亜神となって鋭くなった感覚があるものに気付いた。

 

本人は気付いてる様子もなかったから恐らくは少女よりも遥かに魔法に長けた者がその少女にその魔法を使ったのだろう。

 

少女の身に何かがあれば彼女に繋がっている魔力の糸を通じて異常事態を伝えるのだろうと判断した。

 

 

 

 

紅魔館、咲夜とアリスの会話。

 

「何も私の力を使って魔理沙に非活性警戒魔法を使わなくても、本人に伝えてから使えばいいのに」

 

休憩中の咲夜がアリスとクッキーを食べながら会話をしていた。

 

「だって、それじゃあまるで魔理沙を信頼してないみたいだし、それに・・・」

 

「それに?」

 

アリスは少し顔を赤くしモジモジしながら言葉を伝えた。

 

「は、恥ずかしいし・・・」

 

咲夜はアリスの反応に直感的に何かを感じ取った。

 

「あらあら、ご馳走様。でも、その様子じゃあ自分の気持ちを魔理沙に伝えてないのね?」

 

「だ、だって、変じゃない・・・・女の子同士なんて・・・・」

 

「でも、早くしないと他の人に取られちゃうかもしれないわよ?」

 

「ほっ、他の人って!?」

 

途端に食い付くアリス。

 

「そうね、例えばこの異界調査でよく行動を一緒にしている伊丹さんとか?」

 

「えええぇっ!?親子ぐらい年齢離れてるのに!?」

 

「外界じゃ、少ないけど親子ほどに年齢の離れた夫婦もいたわよ」

 

紅茶を一口飲む咲夜。

 

「ま、魔理沙は渡さないわ!絶対に!」

 

「わたしを誰に渡さないって?」

 

丁度キノコ狩りから戻って来た魔理沙がドアを開けて入って来た。

 

「ま、魔理沙!?」

 

「あら、お帰りなさい。どうだったの?」

 

「いやー、珍しいキノコが沢山あって天国のようだったぜ。今回は一通り採取して戻って来たんだぜ。で、アリスはわたしを誰に渡さないんだ?」

 

「え、ええと、そのね・・・」

 

「あ、そうだった。咲夜、森の中に変な奴がいたぜ」

 

「変?不審者かしら?」

 

「ああ、変な女がわたしをじーっと見てたんだ。気付かないふりしたけどな」

 

「ほっ、他の女!?ライバル!?」

 

テンパるアリス。

 

「お、おう・・・・?」

 

テンパるアリスに少し引く魔理沙。

 

「それで、他に気になった事は?」

 

「ああ、わたしを見る前に異界門をじーっと見てたな。その後にわたしで、最後にここをまるで念入りって感じで見てたぜ」

 

「そう。私は少し用事が出来たから席を離れるわ。魔理沙、少しお腹がすいたでしょ?紅茶とアリスが焼いてくれたクッキーが残ってるわよ」

 

「おっ、ラッキー!アリスのクッキー美味いんだよな!」

 

一口口にする魔理沙。

 

「うっめー。もうアリスをわたしの嫁にしたいぐらいだぜ!」

 

「よ、嫁!?魔理沙の!?」

 

「あれ?嫁じゃ嫌か?じゃあ婿?」

 

「婿っ!?」

 

心の中でアリスは鼻血を出していた。

 

 

 

「アリス」

 

横から掛けられた声にアリスは驚き声の主人を見た。

 

部屋を出て行こうとしていた咲夜がそこにいた。

 

見れば魔理沙は微動だにしない。

 

いや、完全に動きが止まっていた。

 

「ああ、時を止めてるのね」

 

咲夜の能力、時間停止。

 

だが咲夜が触れているものは動ける。

 

この凍結した時間の中で動いているのは二人。

 

咲夜が手を離せばアリスも再び停止した時間に囚われる。

 

「どうやら魔理沙にそういったことの抵抗は少ないみたいね。応援してるわよ。愛の形は人それぞれなんだし」

 

「そう・・・よね!うん、自信ついた!」

 

「ああ、そうそう。話は変わるけど、あなたの部屋掃除してたらベッドの下から大量の薄い本が出て来たわよ。机の上に置いてあるから」

 

ピシッとアリスが止まった。

 

咲夜が手を離してもいないのに。

 

「あ・・・ありがと・・・・」

 

「メイドの仕事だから。じゃあ、頑張ってね」

 

咲夜は手を離し、部屋を出た所で再び時を動かした。

 

ドアの向こうからアリスの声が聞こえてくる。

 

「ま、魔理沙!わ、私!魔理沙の事がーーー」

 

これ以上は野暮と咲夜は部屋から離れた。

 

意識は完全に館の外で魔理沙が見た不審者に向けられている。

 

「お嬢様と妹様、そしてこの館に危害を加える輩は・・・」

 

スカートの下の大量のナイフの様に咲夜の中の殺意が鋭くなる。

 

 

 

 

「あら」

 

自室で読書をしていたレミリアは館を出て行く咲夜の姿を見つける。

 

「行ってらっしゃい、咲夜」

 

咲夜の外出の目的などとっくに理解しているレミリアは再び本に意識を向ける。

 

レミリアは咲夜を信用し信頼している。

 

咲夜が遅れを取ることなど無いだろう。

 

「でも、もし万が一・・・・億が一にでも咲夜の身に何かがあったのなら・・・その時は一族郎党皆殺しじゃ済まないわよ、愚かな誰かさん」

 

森の中に感じる存在にレミリアは同情などしない。

 

 

 

 

「初めまして、誰かさん」

 

キャスは突然目の前に現れたメイド服の女・・・・咲夜に驚きを隠せなかった。

 

いつの間にこれほど接近されたのか理解出来ない。

 

亜神となって鋭敏化した感覚が接近に気付かなかった。

 

「私は十六夜咲夜。紅魔館にてお嬢様に忠誠を誓うただの従者です。短いお付き合いですが、お見知り置きを」

 

丁寧で礼儀正しいがその目は殺意に満ちていた。

 

「名乗られたからには返すのが礼儀よね。私はキャス、ハーディー様に選ばれた使徒」

 

「ハーディー・・・そしてキャス。それが愚かにもお嬢様に楯突くゴミ達の名ですか」

 

ぶちっ。

 

キャスの中で何かが切れる。

 

「ハーディー様をゴミだと!?許さない!死ね!」

 

ハーディーから賜った魔道具を起動させ咲夜に投げ付ける。

 

ゲートを破壊する為に圧縮された魔力が凄まじい爆発を引き起こす。

 

自然に笑みが浮かぶ。

 

「少し驚いたわ、当たっていれば怪我じゃ済まないわね。当たっていれば、ね」

 

いつの間にか自分の背後に立っている咲夜。

 

同時に体に痛みが走った。

 

いつの間に?とキャスは思った。

 

両腕にナイフが突き刺さっていた。

 

「くぅっ!」

 

ナイフを抜く。

 

亜神となって強化された肉体はすぐに出血を止め傷を塞ぐ。

 

「あら、すぐに傷が塞がるのね。あなたは吸血鬼?それとも吸血鬼の主人の寵愛を受けてるの?私の様に」

 

「私の主人は神であるハーディー様ただ一人!」

 

メイスを構え咲夜に向ける。

 

亜神の強化された身体能力で咲夜に連撃を仕掛ける。

 

だが咲夜は難なくそれらを躱す。

 

「何故!何故当たらない!?貴様、亜人か!?」

 

「失礼ね、私は人間よ。ただ、他の人とは少し違うけどね」

 

キャスのメイスが地面に大穴を穿ち、大木を砕く。

 

「大ぶりな上に力任せ。貴方、戦闘経験はほとんどないわね?でも、手加減はしないけど」

 

次の瞬間、視界が真っ暗になった。

 

「があああああっ!?」

 

亜神の身でも耐え難い痛みが両目に走った。

 

思わず目に手をやるがそこに目の感触はない。

 

「貴方が探してるのはこれかしら?とは言え、もう見えないでしょうけど」

 

咲夜が指の間に持つ二本のナイフ。

 

その先にはキャスの眼球が刺さり、視神経がぶら下がっていた。

 

「これ、どうしようかしら?あら、ちょうどカラスがいるわね」

 

少し離れた場所に数羽の烏。

 

ナイフを振ると遠心力で二つの眼球は放射線を描いて烏達の元に投げる。

 

突然降ってきた餌に烏達は群がった。

 

「あら、大喜びで食べてるわ。良かったわね、烏の役に立って。ハーディーってのは烏の神様かしら?」

 

「ぐうぅぅぅぅぅっ・・・・この・・・・・」

 

挑発の中、キャスは一体どうやって咲夜が自分の目を抉ったのか分からないでいた。

 

最初に姿を見せた時も気配を感じさせることなく目の前に突然現れた・・・・最初の攻撃の時もいつの間にか後ろに回られ、両腕にナイフが刺さっていた。

 

まさか・・・。

 

キャスの頭の中に一つの考えが浮かんだ。

 

そんな馬鹿な・・・そんなの神の御技・・・いや、神ですら出来るかどうか・・・。

 

「時間を・・・止めた・・・?」

 

答えは帰って来ず、体に次々とナイフが突き刺さる。

 

前から後ろから、右から左から・・・。

 

移動する気配なんか感じない。

 

(勝てない・・・こんな化け物に勝つなんて無理だ・・・・・)

 

キャスを絶望が襲う。

 

「驚いたわ、何本かは心臓に達してるはずなのに死なないなんて・・・」

 

感心したような咲夜の声。

 

「決めたわ。貴方は殺さないであげる」

 

キャスの心に希望の光が射した。

 

だが次の咲夜の発言で地獄の底に叩き落とされた。

 

「貴方はお嬢様のお食事の時の血液採取用家畜にしてあげる。光栄に思いなさい、貴方の血はお嬢様の喉を潤す事が出来るのよ」

 

上げて落とす・・・まさにその典型だった。

 

 

 

 

キャスの眼球が再生した。

 

最初に見えたのは薄暗いジメジメした地下牢の様な場所。

 

腕には透明な管が刺さっており、血が少しずつ抜き取られている。

 

両手両足には楔が打ち込まれ、壁と地面に打ち付けられている。

 

力を込めるが微動だにしない。

 

「無駄よ」

 

カチャカチャと金属が擦れ合う音と声にその方を見る。

 

咲夜がそこにいた。

 

室内には様々な器具が置かれていた。

 

見た事はないが何に使うかは容易に想像がついた。

 

ここにあるのは全て拷問用の道具だと。

 

「ああ、安心しなさい。定期的な手入れをついでにやってるだけで貴方に使う予定はないから。ここにあるのは全て最後に使ってから50年は経っているわ。手入れしないといざという時に使えなくなってしまうから」

 

引き出しに仕舞い込み道具を片付け終わり鍵をかける。

 

「ああ、ついでに言っておくけどその楔を自力で抜くのはまず無理よ。パチュリー様が多重に魔法をかけてあるから単純な力で抜こうとしたら一本当たり10トンの力が必要なんですって。万が一にも全部抜けても、その首輪があるわ。その首輪はね、この部屋を出ようとすると・・・・バンッ!て爆発して頭を消し飛ばす威力の魔法が掛けてあるわ。再生するみたいだけど、再生し終わる前に館にいる小悪魔が貴方を拘束するわ。じゃあ、そのうちにまた様子を見に来るわね」

 

「ま、待って!一人にしないで!置いていかないで!!」

 

懇願するが咲夜は部屋を出てドアに鍵をかけてしまった。

 

 

 

 

「あ、咲夜。地下室で何してたの?」

 

通りがかったフランが聞いてくる。

 

「妹様、お食事の際の血の準備をしていました」

 

「そっか〜。ねぇ、夕食は何?」

 

「何かご希望はございますか?」

 

「ん〜、ラーメン!この間咲夜が作ってくれたあれ、また食べたい!」

 

「畏まりました。では、ラーメンを準備いたします」

 

「わ〜い!咲夜大好き!」

 

喜びながらフランは去っていく。

 

「あら、咲夜。おかえりなさい。用事は終わったの?」

 

「ええ、終わったわアリス。そう言えば・・・・いえ、聞かなくてもわかるわね」

 

「ええ、今の私は最高に幸せよ!」

 

「あらあら、ご馳走様」

 




作者はアリス×魔理沙派です。

激突って言っておきながら咲夜さん無双だった・・・・。

しかし前回の続きをどうしようか考えていた時に思いついたのが意外と長くなったので投稿しました。

追記・咲夜さんとキャスとの戦い終了時の咲夜さんの台詞ですが、この時点では咲夜さんは亜神は死なないという事を知らない為この様な発言になっています。


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野盗も大好きイタリカの街(襲撃+略奪対象として)

野盗と化した諸王国連合の敗残兵たちも人数を増やします。
構成も変更して原作どおりに死に場所を求めているエムロイ信者の兵士達を指揮官クラス、徴兵された諸王国の農民など民間人からなる一般兵の構成です。
一般兵も一緒にイタリカを襲う理由は本文内に。
まぁ、増えても蹂躙されるだけなんですけどね・・・・。


UAが2万突破・・・だとっ!?


 

「す、すまなかった!!」

 

未知の武力を持つ一行の為、ピニャはプライドを抑える。

 

「い、いえいえ・・・」

 

まだ少し痛む鼻をさすりながら答える伊丹。

 

「歯が折れなかっただけマシですよ」

 

「うぐっ・・・・本当にすまなかった・・・・」

 

伊丹としてはフォローしたつもりなのだがピニャには嫌味に聞こえる。

 

 

 

ピニャから説明された街の状況は悪かった。

 

連日野盗に身を落とした兵士が襲撃を仕掛けて来ている。

 

街の外に出ることも出来ず籠城を余儀なくされ、この街に食料や物資を運んでくる商隊は野盗に襲われてしまう。

 

元々一般兵は農民や商人などの一般人が徴兵されて武器を持たされている。

 

その一般兵は指揮官クラスの兵と違い給金が出る訳ではない。

 

その代わり略奪などを行う事を許され、襲った敵から金品などを奪いそれを自らの物とすることが許されている。

 

指揮官クラスは指揮官クラスで自分達の死に場所は戦いの中だと信じ込み、この街を襲撃して来ている。

 

早い話が一般兵はこのまま帰ってものたれ死にする道しかなく、生きる為に野盗と化している。

 

死ぬ為に街を襲う指揮官クラスとは違うがどちらもイタリカの住民と領主から見れば敵である。

 

では一般兵達に金品を渡せば敵は減ると単純に考えがちだがそうすれば結局イタリカの住民は財産を失い、今度はイタリカの住民が生きる為に野盗に身を落とす事になる。

 

当然、この様な状況では当初の目的である難民達の自活の第一歩となる交易など行える状況ではない。

 

現にイタリカの経済活動は麻痺しているのだから。

 

帝国皇女と言う身分のピニャの案内で伊丹達一行はフォルマル伯爵家の当主ミュイ・フォルマルと会う。

 

そこにいたのはどう見ても子供の少女だった。

 

聞けば年齢は11歳と言う。

 

野盗の襲撃が迫るなか、伊丹達幻想郷一行と桑原達自衛隊一行は相談の末に協力を申し出た。

 

 

「倉田ちゃん、彼女ドストライクじゃない?」

 

「ええ、健気にも伯爵家と言う重い責任を背負っている少女・・・・萌えです!」

 

「でも、わかってるよね?」

 

「当然じゃあないですか・・・・」

 

「「YES!ロリータ!NO!タッチ!」」

 

ハモる伊丹と倉田。

 

「うっわー・・・・駄目だこいつら、早くなんとかしないと・・・・」

 

そしてそれを目撃してしまい汚物を見る様な視線を向ける栗林であった。

 

 

 

 

なお、このあと伊丹は藍にしばらく橙に近付くなと言われ必死の弁解をする。

 

「言い訳があるなら聞こう」

 

「だから藍さん、変な意味じゃないんですって!あれは小さな女の子は温かく見守るべきって意味なんですってば!」

 

必死の伊丹の説得が続く。

 

「そ、そうなのか、そう言う意味なのか・・・・」

 

藍は伊丹に言い包められててしまった。

 

後日・・・・。

 

「YESロリータ、NOタッチ」

 

橙を見ながら何気なく藍はその言葉を呟いた。

 

呟いてしまった。

 

「ら、藍しゃま・・・・?」

 

ダダダダダッ!ガバッ!

 

ものすごい勢いで走って来た紫が藍から橙を引き離しスキマを使って別の場所へ匿う。

 

「ら、藍、あなた疲れているのよ・・・・。思えば、いろいろな事を貴女に頼りっぱなしだったものね。いくら式とは言え、心身をリフレッシュする事も必要よね?藍、しばらく隙を与えるわ。外界での旅行の手配をしてあげるから楽しんでらっしゃい?」

 

可哀想な人を見る様な目で紫が見つめてくる。

 

「え、ゆ、紫様!?」

 

「いいのよ、気にしないで楽しんでいらっしゃい?大丈夫、橙の面倒は私と伊丹が見ておくから・・・」

 

「ちっ、ちが、違うんです!紫様ー!橙ーー!」

 

 

 

ズドドドドドドッ!

 

そんな音が立つ様な勢いで藍は走る。

 

いつもの冷静さなどかなぐり捨て、風圧で髪は絡まったりしてボサボサになってしまっている。

 

目的は一つ、あの男のハウスだ。

 

「ここがあの男のハウスだな!伊丹耀司ーーーっ!!」

 

「ら、藍さん!?どうしたんです!?」

 

「問答無用ーーっ!死ねーーっ!!」

 

「え、ええっ!?」

 

「お前を殺して私も死ぬーーーっ!!」

 

「ひいいっ!?」

 

「待て逃げるなー!」

 

「おおっ!?まさかの展開!?人間の男と幻想郷の妖怪賢者の式神との愛憎痴話喧嘩!?これは記事になりますよー!」

 

ブン屋の烏天狗が何かを興奮して口走っているが今の藍には聞こえていない。

 

「ちょ、文さん見てないで助けてーーーっ!」

 

「あははははははははっ!捕まえたーー!」

 

伊丹が見た藍は血涙を流し、いつも被っている帽子は脱げてしまっている。

 

「ぎゃーーーっ!出たーーっ!?妖怪狐女!?」

 

「元々私は狐の妖怪だ文句あるかーーっ!」

 

ガバッ!

 

「はーっ、はーっ!ゆ、夢・・・・?」

 

すぐ側には橙の寝顔。

 

橙を寝かしつけている間にうっかり眠ってしまっていたのだろう。

 

「な、なんと言う悪夢だ・・・・あの言葉は禁句だな・・・・」

 

橙の寝顔を眺めながらあの言葉を記憶から抹消すると決意した藍であったとか。

 

 

 

そして伊丹と倉田が栗林に汚物を見る様な目で見られていた日の深夜まで時間は戻り・・・。

 

桑原が駐屯地に援軍を要請したのと時を同じくして伊丹達幻想郷側も紅魔館経由で幻想郷に援軍要請を行なった。

 

ロゥリィは伊丹達に戦う理由を問う。

 

エムロイは戦いの神で戦いの中での殺人を否定しないが動機が重要であると言う。

 

伊丹は短く、だがロゥリィの納得の行く理由を答えた。

 

街の人を守りたいのと同時に帝国皇女のピニャに自分たちと喧嘩するよりも友好的になった方がいいと教える為だと。

 

ロゥリィは伊丹の動機に満足し、ぜひ協力したいと言った。

 

なぜかその時いろいろ曲解した上に久々に狂えそうだと嬉々としていたが。

 

 

 

 

人里・異界門隔離結界外縁部。

 

異世界からの襲撃で大ダメージを負った人里は紫の提案で人里を少し外側に向かって拡張する代わりに門を中心に直径約200メートルを異界門隔離結界と河童の作った電磁柵で囲い万が一にも異界門から再度敵が侵入して来た際の防波堤として利用していた。

 

正しい道順で歩かなければ竹林の悪戯兎謹製のトラップが牙を剥く通路付だ。

 

人里の人間から見れば奇妙な光景である。

 

河童が力仕事を鬼に依頼して石造りの四角い建物を建造したのだから。

 

正確にはコンクリートなのだが人里にはコンクリートで建物を建てる技術はない。

 

人里の人間から見れば継ぎ目のない石の建物に見える。

 

その中では異界前線基地の紅魔館から送られてくる全ての情報を大勢の河童達がパソコンで処理していく。

 

そんな中来た援軍要請。

 

ただの力押しなら暴れたがっている血気盛んな地底の鬼達を送り込めばいいだけなのだが今回は距離があり過ぎる。

 

聞けば外界の自衛隊という組織は戦闘ヘリと呼ばれる戦闘能力を持った飛行機械を送り込むとの連絡が来た。

 

天狗を送り込もうにも大勢の天狗を送り込むのには大天狗も否定的だ。

 

なにせその隙を突かれて他の妖怪勢力に天狗の領域を奪われる恐れもある。

 

幻想郷防衛軍は各勢力への協力要請で構築されているのであって強制ではない。

 

その要請を断る権利を大小問わず各妖怪勢力は与えられている。

 

移動速度と武力を両立。

 

武力は各勢力からの協力者からなんとかなるとして問題は移動速度だ。

 

「プロジェクト・Sの進捗度は?不明な点は想像で補ったあれですが・・・・」

 

「ほぼ終わっていると連絡がありました。いつでも使用可能な状態にあるはずです」

 

「急な要請に応えてもらえるでしょうか・・・」

 

河童達の会話が行われ、プロジェクト・Sの協力組織に要請が行われた。

 

結果は快諾。

 

ただしプロジェクト・S協力組織の一行も同行することが条件であった。

 

 

 

 

深夜の自衛隊アルヌス駐屯地を戦闘ヘリの編隊が飛び立つ。

 

「こいつら、キルゴア中佐の霊でも取り憑いたのか?」との呟きが出撃が決まった際に思わず呟かれたとか。

 

幻想郷の存在を知った今、ありえなくもない話だ。

 

問題はキルゴア中佐が架空の人物という事だが。

 

「狭間陸将!柳田幕僚!たった今、幻想郷側からも援軍が飛び立つとの連絡が来ました!」

 

連絡員が伝えに来た。

 

「飛び立つ?」

 

「はっ!紅魔館に滞在している連絡官が映像を中継しても良いとの事で映像が繋がっています!」

 

「わかった、映像ではあるが見送らせてもらおう」

 

狭間、柳田の両名は映像が繋がっているモニターのある部屋へ向かう。

 

モニターには紅魔館のバルコニーからの映像が映っている。

 

紅魔館の兵に配置された照明機器が第二ゲートを照らす。

 

映っているのは第二ゲートを正面から見た映像だ。

 

突如第二ゲートの正面の空間が裂け無数の目の様なものが見える空間が広がる。

 

八雲紫のスキマと呼ばれる異空間で狭間も柳田も幾度か目にする機会があったが今回のスキマは今までとは規模が違う。

 

巨大な何かを通過させる為の大きさがある。

 

やがてスキマの中からそれは姿を現した。

 

「帆船・・・・?」

 

柳田の呟きがそれを指し示していた。

 

 

 

 

 

「新生聖輦船の処女航海です!犬走椛さん、お願いします!」

 

船の舳先に立つ舟幽霊の少女、村紗水蜜が叫ぶ。

 

「わっかりました!ムラサ船長!」

 

後部甲板に立つ犬走椛の手にはこのぐらいならば良いだろうと持ち出しを許可された天狗の団扇。

 

それを振るうと十二分な風が巻き起こり巨体が更に速度を上げる。

 

村紗水蜜はやる気に満ち溢れていた。

 

この新生聖輦船・・・以下聖輦船はオリジナルの聖輦船と比べて2倍を越える大きさを誇り、それに伴い帆も大型になっている。

 

何より自動操縦機能は存在するが切り替えが可能であり、今は手動になっている。

 

暇を持て余していた時とは違う。

 

「進路を現地名イタリカへ!そこに助けを求めている人々もいます!」

 

 

 

「木造帆船だな?」

 

狭間が確認する様に柳田に聞く。

 

「はい、木造帆船です。何か木製の大きな箱を引っ張ってますね?」

 

柳田が見たままを答える。

 

「ああ、引っ張っているな」

 

「どうやって空飛んでいるんでしょうか?」

 

「分からん」

 

「ですよね」

 

二人は考えるのをやめて達観していた。

 

そのおかげからか胃薬から解放されていた。

 

常識を捨てるとは意外にも素晴らしい事だと実感していた。

 

コノ素晴ラシサヲ早ク総理ヲ始メ皆ニ教エテアゲナケレバ・・・・。

 




船乗り用語はほとんど分からないのでムラサ船長には普通にしゃべってもらいます。

聖輦船も補助推進力のマストプラスαありで。


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一方的過ぎる・・・

やっぱ戦闘描写は難しいです。
スラスラ書けている先人達を尊敬します。



なお、一部ネタに走っている要素があります。



悲報・作者のTV用HDDドライブ認識障害により泣く泣く初期化・・・・。
手は尽くしたが再認識されず・・・。

録画溜めしてあった大量のアニメが、AT-Xで一挙放送時に録画したGATE本編が全て消えた・・・・・。

レンタルショップへダッシュ・・・じゃ無理だからバイクで行ったがGATE全巻貸し出し中だったよママン・・・・・。


イタリカの街を野盗が襲撃していた。

 

しかし伊丹達がいる南門ではなく、東門。

 

捨て駒にしてあわよくば野盗達に幻想郷と日本の部隊を始末させようと考えたピニャの目論見は失敗に終わる。

 

東門側が明るくなり、微かに怒声が聞こえる。

 

戦闘状態に入ったのだろうか・・・。

 

「なんでぇ!?こっちに攻めてくるんじゃなかったのぉっ!!」

 

戦いを期待していたロゥリィは敵が反対側にいると知り叫ぶ。

 

 

 

東門の城門は破られ、内側に築かれた防御柵と城門の間の僅かなスペースに野盗が死体を運び込む。

 

以前の襲撃で連れ去られた民間人の死体だ。

 

挑発する様に武装した住民達の目の前で死体を切り刻み、柵の内側へ投げ込む。

 

恋人の夫の妻の死体を嬲られ怒りの頂点に達した住民達はピニャや兵士の制止を無視して柵の外側へ。

 

しかし今この柵の内側にいる野盗は元正規兵の指揮官クラス。

 

付け焼き刃の民兵などが相手になるはずもなく、次々の物言わぬ骸に成り果てる。

 

雄叫びをあげる野盗達。

 

それに呼応し、城壁の上を占拠した野盗、門の外で攻め込むのを待っている一般兵も自らを鼓舞するために雄叫びをあげる。

 

 

 

皆が見ている前でロゥリィが喘ぎながら身悶えていた。

 

何が起きたのか分からなかったがレレィの説明で原因が分かる。

 

戦いの中死んだ魂がロゥリィの身体を通してエムロイの元へ行く。

 

その時にロゥリィの身体には魔薬の様な効果を与えるという。

 

狂えば楽だが亜神は狂えない。

 

無数の魂が通過する為にロゥリィの興奮は高まるばかり。

 

しかも戦場から離れているからこの程度で済み、もし戦場の真っ只中ならば敵と認識した相手を殺戮して回るらしい。

 

流石の伊丹も少し引く。

 

伊丹が知っている限り、幻想郷に戦争の神を見たことは無い。

 

元々いないのか、それとも地球ではまだ紛争やテロなどが起きているから幻想郷に来る必要がないのか・・・。

 

レレィとテュカは今のロゥリィには不用意に近付くなと言いたげだ。

 

「青娥、あれなーに?」

 

「だめよ芳香、見ちゃいけません」

 

「何、このやり取り・・・」

 

青娥と芳香の親子の様なやり取りに栗林が戸惑う。

 

芳香が死体という事には慣れたらしい。

 

 

 

「脆すぎる・・・・!」

 

ピニャが現状に嘆く。

 

士気はガタ落ち、力押しだけの敵に負けている。

 

おまけに一緒に帝都からこの街に来た騎士の一人の姿が見えない。

 

一体どうしたというのだ・・・。

 

 

 

 

「お、おい!ロゥリィ!?」

 

ロゥリィがもう我慢できないと塀から飛び降り、凄まじい速度で戦場へ向かう。

 

「さすがに一人じゃ!?」

 

伊丹もロゥリィの後を追う様に飛ぶ。

 

「芳香、私たちも行くわよ?」

 

「あーい」

 

青娥と芳香のコンビも青娥が芳香を抱きかかえながら飛ぶ。

 

「私も行くが、そちらは?」

 

藍が言い残して同じく飛び立つ。

 

「うわー、空飛べるって便利だよなー」

 

「言ってる場合か倉田!全員搭乗!援護に向かう!」

 

自衛隊側も慌ただしく車に乗り込み東門へと走り出す。

 

テュカ、レレィも車に同乗する。

 

 

 

 

戦闘ヘリが爆音とワーグナーのワルキューレの騎行を大音量で流しながらイタリカの街へ急速接近する。

 

野盗が殺到している城門にターゲットロック、発射する。

 

 

 

自動車でも追いつけない速度でロゥリィが走り、遂に戦場の只中にたどり着く。

 

ロゥリィが野盗達の領域に着地するのと着弾は同時だった。

 

爆炎がロゥリィをまるでその場の主人であるかの様に演出する。

 

野盗達は上空を見上げる。

 

金属の奇怪な物体に乗った人間が攻撃をしてくる。

 

「何だあれは!?人が乗っているのか!?」

 

機銃掃射で街を囲む塀の上に陣取った敵兵士を射殺し対空使用可能と思われる敵武装を破壊して行く。

 

暴風の様な圧倒的脅威になすすべも無くバタバタと倒れて行く野盗達。

 

「卑怯だぞ!」

 

「正々堂々降りて来て戦え!」

 

抗議するが偶然にも他のヘリが発射したミサイルが着弾し抗議していた野盗達は消し飛ぶ。

 

 

 

その様を見ていたピニャは本人も気付かないうちに涙を流していた。

 

「女神の嘲笑・・・」

 

目はヘリを見ていたがピニャは神話の戦女神を幻視していた。

 

地上ではエムロイの神官が地上の暴風の様に野盗を殺戮している。

 

 

 

「しかし、数だけは多いな・・・・」

 

航空部隊の指揮をとっていた建軍一佐は地上の敵兵を見ながら言う。

 

混乱に陥っているが戦い慣れしている様な連中の一部は体勢を立て直して届かないにも関わらず弓を射って来ている。

 

「建軍一佐!幻想郷側より入電!幻想郷側の援軍が到着するので城門上空を開けて欲しいそうです!」

 

「本部から連絡のあったやつか!?コブラリーダーより各機、イタリカ東門より距離を取れ!いいか、常識で考えるなと狭間陸将からの伝言がある!」

 

全機から了解との返答があり、全機がバラける。

 

地上のピニャを含めたイタリカ勢や野盗は突如攻撃を緩め離れた場所に移動したヘリを不思議そうに見ている。

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオッ!

 

轟音が鳴り響く。

 

「速い速い!こんな速い船、初めてです!船長冥利に尽きます!」

 

「こ、この天狗の団扇の出番、発進時ぐらいだったんですかー!?」

 

振り落とされない様に聖輦船の柱にしがみつく椛。

 

「いやー、まさかじえーたいって言うののヘリっていうのがあんなに速いとは思っていませんでしたからね。河童が補助用って言うブースターエンジン取り付けていてくれて助かりました!椛さん、もうすぐあなたの出番再開ですよ!」

 

後方からジェット噴射をしながら戦場に飛び込む空飛ぶ木造帆船。

 

ジェット噴射が止まり、イタリカの街上空を旋回しながら引っ張っていた巨大な箱を繋いでいた縄が解かれ遠心力で野盗が群がっていた場所に落下、そのついでに落下ポイントにいた野盗が箱に押し潰され、止まるまでの間に巻き込まれた野盗がミンチになる。

 

「再び私の出番ですよー!」

 

ジェット噴射時にしまいこまれていた帆が再び張られ、天狗の団扇の出番が再来する。

 

「面舵いっぱい!舳先を街に向けます!お待たせしました聖様!聖様の出番です!」

 

 

 

 

街の住民が、帝国の兵士が、野盗達が、ついでに自衛隊のヘリ御一行がその突然さに思わず手が止まった。

 

全員の思いは同じだった。

 

何故、木造船が空を飛んでいるのか?と。

 

ピニャはなんと無くだがヘリがどうやって飛んでいるのかを想像していた。

 

頑丈な風車の様なものを超高速で回転させているのは見て想像出来た。

 

だがあの空飛ぶ船は?

 

形状はそのまま水に浮かぶ船と同じで帆も張られ風を受けている。

 

 

 

 

 

 

ガシャッ!ドルンッ!

 

薄暗い空間の中に響き渡るキックレバーを踏み込みエンジンが動き出す音。

 

ドッドッドッドッドッドッ!

 

大排気量のアイドリング音。

 

グィッとアクセルを吹かしエンジン回転数を上げタイヤを回転させる。

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!

 

ギャギャギャギャギャーーーーッ!

 

床と急回転を始めたタイヤが擦れ合い、焼けたゴムと木が焦げる匂い。

 

グンッと前輪が浮かび上がりウィリーした状態でそのバイクは聖輦船の甲板を駆ける。

 

用意された板を利用して聖輦船から空中へ飛び出す。

 

そのバイクにはライダー以外にもう一人・・・二人乗りの状態で眼下の戦場へ落ちて行く。

 

 

 

「あれはバイクか!?」

 

「恐らく!でも、空中に飛び出しただって!?」

 

建軍一佐は双眼鏡でバイクを見る。

 

乗っているのは二人の女性でノーヘル。

 

二人とも髪は長い。

 

一人は頭頂部が茶色っぽく毛先に向かって金色っぽくグラディエーションがかった髪、もう一人は真っ白な髪だ。

 

そのまま落下して地面に激突かと思われたがまるで見えない足場があるかの如く地上に向かって走行して行く。

 

 

 

地上に到達したバイクのライダー聖白蓮はそのままバイクを直進させ門の中に飛び込む。

 

門の中では混乱から回復した野盗達がロゥリィとの戦闘を繰り広げていた。

 

ドルルルルルルルルッ!ドッドッドッドッドッ!

 

停車し後部に乗っていた白髪の少女・・・・藤原妹紅が地面に降り立つ。

 

「サンキュー、白蓮」

 

ポケットからクシャクシャのタバコの箱を取り出し、一本咥える。

 

シュボッ。

 

指先から出た炎がタバコに着火し、深く吸い込み吐き出す。

 

「ぷはぁーっ・・・・」

 

「妹紅さん、煙草は体に良くありませんよ?何事も程々にです」

 

「わーってるって。どうせ死なない体なんだからいいだろ。じゃあ、ここはあたしに任せて白蓮は外の連中を頼むわ」

 

「ええ、それではまた後で」

 

そう言うと聖は爆音を轟かせて城門の外へ走り出す。

 

「ったく、説教臭いターボババァだぜ・・・・。あー、つーわけで最近輝夜の奴が新発売のゲームってのに夢中で引き篭もっちまって喧嘩出来なくてイライラしてるあたしの相手はお前さん達だな?八つ当たりさせてもらあぐっ!!」

 

無数の槍が妹紅の体を貫く。

 

「がはっ!!」

 

血の塊を吐き出し息絶える妹紅。

 

「この女、何がしたかったんだ?死なない体とか言ってたが普通に死んだぞ」

 

「知るかよ、死体に聞け」

 

「ぎゃはははははははっ!馬鹿な女だぜ!戦いだ戦いだ!」

 

戸惑いながらも槍を突き上げ妹紅の死体を宙に掲げる。

 

「え・・・・?」

 

ロゥリィは違和感を感じる。

 

戦いの中すぐそばで死んだ妹紅の魂がエムロイの元へ召されないどころかロゥリィの亜神の体を通過しない。

 

それどころか妹紅の死体がたちどころに崩れ塵になる。

 

「あー、めっちゃ痛かった・・・」

 

「ど、どうなっているのぉ!?」

 

流石のロゥリィも戸惑う。

 

そこに立っているのはつい今しがた死んだ妹紅だ。

 

再びタバコを咥える。

 

「ま、そう言うこった。あたしゃただの不老不死の人間さ。あ、でもさっきのは死ぬ程痛かったから仕返しはするけどな」

 

そう言いながら炎を纏って野盗達の中へ回転回し蹴りをしながら突っ込んで行った。

 

次第に回転と炎の出力が上がり移動する着火源と化す。

 

それはまるで回転する火炎放射器が野盗達を焼き殺しているように見えた。

 

「ひゃっはー!汚物は消毒だー!」

 

それを目撃した伊丹は妹紅に香霖堂で見つけた北○の拳全巻セットを読ませた事を少し後悔したとか。

 

 

 

一方その頃、聖輦船内部。

 

「ああっ、宝塔が、宝塔が無い・・・・」

 

「ご主人、また宝塔無くしたのか・・・。もう戦闘は始まっておるぞ・・・・」

 

「ううっ、あれが無いと・・・・」

 

寅丸星とナズーリンは寅丸が船倉で無くした宝塔を探し回っている。

 

河童達の道具が山積みで探すのに苦労しているいつもの二人であった。

 

 

 

 

城門外で聖のターゲットにされた野盗達は大体が幸運だった。

 

殺生を嫌う聖の弾幕によって行動不能にされるだけだから。

 

ただ、ごく一部の不運な野盗がバイクで轢き逃げされたり倒れた所をバイクが通過してタイヤで命ごと肉を削がれたりしたが。

 

だがハイスピードで気分もハイになっている聖は野盗を轢いている事に気付いていない。

 

周囲からの自衛隊のヘリによる攻撃も再開され、聖輦船からは妖精達が爆弾を投下している。

 

だからだろうか。

 

最初に投下され沈黙を保っていた巨大な箱を野盗達でさえ忘れかけている。

 

忘れていない野盗は運悪く足を潰されたりして身動きが取れなかったりしている野盗達である。

 

 

 

 

パチッパチッパチッ。

 

カチカチカチカチッ。

 

暗い木箱の内部にスイッチを入れて行く音が響く。

 

次第にパイロットランプが点灯しモニターが点灯し操作している三人の姿を照らす。

 

緑の髪に蛙の髪飾りの少女、蛙の目のような装飾が付いた帽子をかぶっている幼女、背中にしめ縄を背負っている女性。

 

「早苗!常温核融合炉は正常だよ!」

 

「水圧マニュピレーターもオッケー!」

 

「ありがとうございます。では神奈子様!諏訪子様!さぁ!今宵のグランギニョルを始めましょう!」

 

ふんすっ!と鼻息を荒くする早苗。

 

「もう朝だけどね〜」

 

「早苗・・・・それ、こいつの名前とかけた駄洒落かい・・・・?」

 

守矢の二柱がすかさずツッコミを入れた。

 

「い、いいんです!さぁ、起動キーワードを言いますよ!」

 

「うん、あれだね~。わたしはあの巨大ドリルロボットアニメのセリフが良かったんだけどね~」

 

「あたしとしちゃあ、むせる最低野郎達の・・・・」

 

「く、クジで決めたんです!仕方がないと思います!」

 

「でもさぁ、ロボの起動コードなのにロボットアニメと無関係のキーワードってねぇ・・・・誰があの台詞入れたんだい?」

 

「神奈子〜、早苗〜。早くしないと出番なくなっちゃうかもよ?」

 

「「それは困る(ります)!!」」

 

言い合いを中止し、深く息を吸い込む。

 

「では、お二人様とも!行きますよ!?」

 

「ああっ!」

 

「おっけ〜」

 

覚悟を決め、キーワードを言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「メルクリウス超うぜえぇぇぇっ!!」」」

 

 

 

なお、この台詞をクジに混ぜたのは輝夜だったとか・・・。

 

 




最後のは完全にネタです、本作品にDies要素はありません。








・・・・・・・作者が悪乗りしない限りは。


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守矢勢ロボット開発秘話

今回は短い上に完全なネタ回です。

前回ラストで起動キーワードを音声入力されたロボット開発の話です。


 

グランド・ギニョル。

 

幻想郷側が開発した搭乗型ロボット兵器である。

 

かつて幻想郷で発生した異変の中心とも言える非想天則を模した搭乗型ロボット兵器。

 

かつての非想天則は付喪神化し自我を持つのを防ぐために水蒸気を利用して手足を動かすアドバルーンの様な物であった。

 

だがこの異界では付喪神化の恐れが少ないと判断され建造された。

 

部品ごとにブロックパーツとして守矢神社にて建造・保管され最後の組み立てをこの異界にて行う予定だったのを急遽守矢神社にて突貫して組み立て、命蓮寺から飛び立った聖輦船に引っ張ってもらう形で守矢勢は再び異界へと来た。

 

 

なお、以下は建造時の守矢勢・河童達のやり取りの一部である。

 

 

「えぇっ、腕にこれを取り付けるんですか?武器を持たせて汎用性を高くした方が・・・」

 

「それでは駄目です!巨大ロボと言えばドリル!ドリルと言えば巨大ロボと言うくらい常識なんですよ!」

 

「ねぇねぇ神奈子〜。こいつの肩は赤く塗らないの?」

 

「あんた、塗りたいのかい!?」

 

「えへっ、冗談だよ〜」

 

そんなやり取りを見ている河童達は意味不明と言う表情をしていた。

 

 

だが、その表情を早苗達が見てしまった。

 

そう、早苗達が見てしまったのである。

 

「どうやら、河童の皆さんには巨大ロボの浪漫と言うのがよく分かってないようですね・・・・・」

 

「ああ、これは由々しき事態だね・・・・」

 

「じゃあ、あれ行っちゃう?」

 

諏訪子の言葉に神奈子、早苗が頷いた。

 

 

一人と二柱の纏ったオーラが有無を言わさず河童達を守矢神社の広間に集めさせた。

 

そこには鎮座する一台の大画面液晶テレビ。

 

無縁塚で拾われたものを河童が修理した物のうちの一台だ。

 

そのテレビには早苗がマミゾウ経由で外界から買ったブルーレイプレーヤーが接続されている。

 

「ではまずは、私から神にも悪魔にもなれる力を授けられた少年ロボットアニメからです。その次は三つの心を一つにして合体する変形ロボアニメですよー」

 

「そのつぎはあたしだね。宇宙で最低限の装備のロボット兵器で戦う最低野郎達、全話だよ」

 

「その次はわたしだね〜。わたしからはね〜、天も次元も突破するドリルロボットアニメテレビ版全巻と劇場版前後編セットだよ。あ、もちろん全部マラソンだよ〜」

 

寝ることも許されず、食事休憩を少し挟んだだけのロボットアニメマラソン大会が行われた。

 

何故か途中で作品が追加されたと言うおまけ付きだ。

 

 

 

 

「「「ロケットパンチ!ロケットパンチ!」」」

 

「「「三つの心を一つに!三つの心を一つに!」」」

 

「「「むせる!むせる!」」」

 

「「「ドリルブレイク!!ドリルブレイク!!」

 

「「「コッペパンを要求する!コッペパンを要求する!」」」

 

「「「お前が、お前が死ねえええぇぇぇっ!お前が、お前が死ねえええぇぇぇっ!」」」

 

目の下に隈を作った河童達がすべてのアニメを視聴し終わり境内に出ながら奇声をあげる。

 

境内の縁側、河童達が整列する中で神奈子を中心に諏訪子、早苗がその両側に控える。

 

「今から貴様達はただの技術者を卒業する!貴様らはもうただの技術者ではない!立派なロボット技術者だ!貴様達に問う!ロボット兵器とはなんだ!?」

 

神奈子が目の前の三徹、四徹でハイになっている河童達に問う。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「浪漫!浪漫!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「その通りだ!ロボット兵器はただの兵器ではない!浪漫の塊だ!魂だ!諸君の奮戦に期待する!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

即座にバラけ各々の担当エリアに向かって行く河童達。

 

後に変態ロボット開発集団と呼ばれる河童達の中でも異色の一団がこの時誕生した。

 




早苗さんの影響で加奈子様、諏訪子様の二柱までもがロボットアニメオタクになってしまった守矢神社よりお送りしました。

なお、ネタ元のアニメは順番に・・・・

マジンガーZ
ゲッターロボ
ボトムズ
グレンラガン
フルメタルパニック
クロスアンジュ

です。


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戦いの終わり

勢いのまま続きができちゃいました。
反省はしていないし後悔もしていない。
え?
そこに痺れもしないし憧れもしない?
ごもっともで御座います。


 

「「「メルクリウス超うぜえぇぇぇっ!!」」」

 

 

起動キーワードが音声入力される。

 

同時に起動キーワードが外部スピーカーでて拡大され戦場一帯に響き渡る。

 

イタリカの住民、野盗、ピニャは「メルクリウス?人の名前か?」な状態だった。

 

自衛隊側は自衛隊側で「メルクリウス?ローマ神話だったっけ?」な状態だったがヘリのパイロットや数名の隊員、そして倉田は「は?何でDies iraeのニート?」と戸惑った。

 

 

グランド・ギニョルの起動シークエンスが進む。

 

制御用のKAPPA OSが待機状態から制御モードへ切り替わり画面に外部カメラの映像と機体の各情報を表示する。

 

「さぁ、行きますよ!」

 

「おっけー。機体伸縮開始!」

 

諏訪子が圧縮してあった水蒸気を送り込む。

 

非想天則の一部機構と同様に作ってあり、蛇腹構造の手足が伸びる。

 

バキバキバキッ!

 

箱を内側から破壊してグランド・ギニョルが陽の光を浴びる。

 

「なんだ!?」

 

「ゴーレム!?魔法使いか!?」

 

槍を突き出し弓を射るが表面の金属に擦り傷すら負わせられない。

 

ギュイイイイイィィィィィンッ!

 

右腕の先端のドリルが高速回転を始め早苗の操縦に合わせて野盗の集団に突き入れられる。

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ひぎいぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

回転する金属に肉を抉られ、臓物を引き摺り出され絶命して行く。

 

「むっはーっ!巨大ロボですよ巨大ロボ!必殺技とかないですけど私達今巨大ロボに乗ってるんですね!」

 

興奮状態の早苗。

 

「おやおや早苗、大はしゃぎだね。でもさ、こうやれば必殺技っぽくなると思わないかい?」

 

神奈子の指示通りに早苗は他の野党の集団に向かってパンチを繰り出す。

 

同時に神奈子の神通力がパンチを伝って放出され荒れ狂う暴風と化しその野盗の集団を天高く舞い上げる。

 

あとは重力が仕事をしてくれるだけだ。

 

「これですよこれ!まさに必殺技です!」

 

「んじゃ早苗、次はあれ行こっか?」

 

「はい諏訪子様!ドリルロケットパーーンチッ!」

 

ドリルが回転している方の腕が射出され野盗達をミンチにしながら突き進む。

 

推力を失うと同時に腕と本体を繋いでいるワイヤーがモーターで巻き戻される。

 

その際のワイヤーも攻撃に使用し野盗達の体がワイヤーで弾け飛ぶ。

 

途中に偶然にも聖がいたがバイクをスライディングドリフトさせ完璧に避ける。

 

グランド・ギニョルが歩くたびにズシンッ!ズシンッ!と音を響かせる。

 

 

 

「今度はロボット・・・だとっ!?」

 

その様子を見た建軍は狭間陸将が常識で考えるなと伝えていた理由がわかった。

 

常識で考えていたら身がもたない。

 

 

 

「こ、こんなのが戦いだと?こんなのが戦いと言えるかっ!」

 

「正々堂々戦えっ!」

 

既に城門内でロゥリィに殺された野盗と似たようなセリフをグランド・ギニョルの目の前で叫ぶ指揮官クラスの野盗達。

 

《この人、何言ってるんでしょう?ロボでの戦いは浪漫ですのに》

 

《早苗、構わずに踏み潰しておしまい》

 

《はい、神奈子様》

 

プチッ。

 

グシャッ。

 

そんな感じでグランド・ギニョルは指揮官クラスの野盗を踏み潰した。

 

 

 

更に自衛隊側の度肝を抜く事態が発生した。

 

ふょんふょんふょんふょんふょんふょんふょんふょんふょんふょん。

 

何処からともなく赤色、緑色、そして極め付けは虹色に変色するUFOの大群が現れ地上の野盗達を攻撃する。

 

「ゆっ、UFO!?」

 

「れっ、レーダーには何の反応も!?」

 

当然だ、そのUFOに実体は存在しない。

 

封獣ぬえの霊力で作り出されたのだから。

 

だが実体はないがそこから放たれる光線やら弾幕は霊力で威力を持つ。

 

「幻想郷側の聖輦船・・・あの空飛ぶ木造帆船の船長からの連絡です!あのUFOは向こう側の封獣ぬえと言う妖怪が霊力で作り出したので警戒の必要はないとのことです!」

 

「もはや何でもありだな・・・」

 

「あれ・・・?」

 

レーダーを監視していた隊員が声を上げた。

 

「どうした?」

 

「建軍一佐、恐らくは鳥でしょうが一瞬だけUFOの中にレーダー反応がありました。でも一回映っただけですぐに消えましたので警戒の必要はないかと」

 

「そうか。まぁ、とにかく常識で考えてはいけないと言うのは本当だったな」

 

 

 

 

 

「これ、どんな状況なのよ・・・?」

 

栗林は城門の上から見た外の光景に唖然としていた。

 

真横の同僚達とロゥリィ、テュカ、レレィ達もぽかんと呆気にとられている。

 

既に城門内は鎮圧されている。

 

空飛ぶ木造帆船からは爆弾が投下され、一体の巨大ロボが野盗達を蹂躙し、炎を纏った少女が暴れ回り、混乱している中を爆走するバイクが一台、極め付けに無数のUFOが我が物顔で空を覆う。

 

そう、既に状況は栗林の理解の範疇を超えていた。

 

脳が考える事を放棄してしまっている。

 

少し離れた場所では同じく城門の上から外を見たピニャがいる。

 

目が点となりあんぐりと口を開いたまま固まっていた。

 

お供の兵と思われる人物がピニャの目の前で手を上下に動かすが反応しない。

 

気持ちはよくわかる。

 

 

 

 

戦いは終わり、聖輦船は高度を下げ地上に降り立つ。

 

それを迎える伊丹達地上組と自衛隊一行。

 

「見て下さい伊丹さん!巨大ロボですよ巨大ロボ!」

 

目をキラキラさせた早苗がむふーっ!と言う感じで自慢げに紹介する。

 

「完成したんだ・・・・。ところで動力源の問題は?霊力リアクターだと出力が搭乗者に左右されるって問題視されてたよね?神様レベルだと出力が高過ぎて処理が追い付かなくて暴走しちゃう、人間だと霊力吸い上げすぎられて失神しちゃうって問題点があったけど・・・」

 

報酬に賽銭入れると誘惑され実験体になった霊夢が5分と持たずに根をあげ失神した状態で運び出された時の事を思い出す伊丹。

 

博麗の巫女歴代最大の霊力保持者の霊夢でさえそんな羽目になった。

 

ちなみに丸一日寝込む羽目になり最初の提示額では割に合わないと賽銭の額値上げを脅は・・・げふんげふん!交渉したおまけつきだ。

 

「な・ん・と!常温核融合炉を神奈子様の指南を受けた河童が作り上げたんです!」

 

「じょ・・・・常温核融合・・・・」

 

倉田が唖然と呟いた。

 

「倉田、そんなに驚いているが原子力発電とどう違うんだ?」

 

「お、大違いっすよ隊長!今の地球が使ってるのはどんなに最新のでも核分裂!核融合なんて夢のまた夢なんです!世界中が競って研究中の技術なんですよ!なんせ核融合を行うのに必要な温度はなんと一億度!そんな温度を安定して維持・隔離する技術も大変なもので今のところ1秒未満しか実現してないんですよ!」

 

「そ、そんなに凄いのか・・・・?」

 

「太陽が一番身近な核融合を行なっている物体っすよ!21世紀中に実用化できるかどうかも分からない未来技術なんです!ましてやそれを常温で行う・・・・・!!」

 

倉田の言葉の意味を理解するにつれとんでもない技術だと知る一行。

 

 

 

 

「ご、ご協力感謝いたします・・・・」

 

領主のミュイ・フォルマル伯爵がおどおどしながら感謝の言葉を述べる。

 

彼女もあの戦いの一端を見た一人である。

 

ピニャは彼らからどの様な要求をされるのか気が気ではなかった。

 

自衛隊側は捕虜になった野盗達を人道的に扱う様になど、いくつかの項目を要求する。

 

ピニャは勝者の権利をほとんど求めていない条約文にハミルトンがどんな手を使ったのかと思いを巡らす。

 

だが自衛隊だけではなく幻想郷との交渉がまだ残っている。

 

「さぁて、あたし達はどうしよっかねぇ?」

 

「うーん。昔神奈子の国とわたしの国が戦争やってわたしが負けた時みたいにこの国乗っ取って裏から操っちゃう?」

 

「また懐かしい話をするねぇ諏訪子。じゃあ、まず街の住民を百人ばかり生贄を捧げてもらおうか?」

 

「百人ぽっちでいいの?」

 

「じゃあ、千人にするかい?それとも一万人?」

 

とんでもない話をする神奈子と諏訪子に顔を真っ青にするピニャ。

 

「守矢神社の神様方、お戯れはそれまでに・・・」

 

その声にピニャ、ミュイ、そしてこの室内にいる自衛隊一行とフォルマル伯爵家家臣が驚きながら声の主を見た。

 

そこにはいつの間にかスカーレット家のメイド長・十六夜 咲夜が立っていた。

 

「咲夜さん、いきなり姿表すの心臓に悪いですよ・・・・」

 

「失礼しました。八雲紫殿より手紙を預かり聖輦船に同乗させて頂いておりました」

 

「え?紫さんから?」

 

手紙を開封し、内容を読む。

 

「紫さんにしては常識的な内容だ・・・・」

 

内容は概ね自衛隊側と同じだがいくつか異なる点があった。

 

幻想郷側の伯爵領での無制限行動許可、幻想郷側に対し危害を加えようとした場合の実行犯及び命令者の処罰権、幻想郷側要請時の情報提供等。

 

それらを要求された時もピニャはそれに同意せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

???内部。

 

「危なかったです、一瞬とは言えステルスが機能不全になったなんて・・・」

 

「帰還したら整備玉兎兵に文句言いましょう」

 

「それにしても貴族様達の考えは分かりません。なぜ私達がこんな所まで派遣させられて調査をさせられるのか・・・」

 




最後に会話だけ登場した二人、一体何レイセ・・・玉兎兵なんだ?(すっとぼけ


神奈子様と諏訪子様の生贄要求の会話は神様ジョークです。


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金髪縦ロールさんとショートさん

協定違反、ダメ。ゼッタイ。



お気に入りが250件突破・・・・だと!?


「じゃあ、みんな先に戻ってるよ」

 

伊丹が自衛隊の車両に乗り込む。

 

紫に別命を受けた藍を始め幻想郷の一行は聖輦船に乗って帰る事にしたが伊丹はロゥリィ、テュカ、レレィ達と自衛隊一行と先に戻る事にした。

 

聖を始めとした命蓮寺一行が負傷者の手当てをしながら街の住民と打ち解けようと仏の教えを少しずつ話していたら意外にもイタリカの人々に受け入れられた。

 

伊丹は命蓮寺が聖輦船を解体して建てられたと聞いたことがある。

 

まさかあの聖輦船バラしてここに命蓮寺建てたりしないだろうな・・・と少し心配になる。

 

そんなことを考えながらも倉田とアニメの主題歌を歌いながらとフリーダムだ。

 

ただ同乗しているだけなのもあれなので伊丹は双眼鏡を借り受け警戒役を引き受ける。

 

「うげっ!また煙だよ・・・・!」

 

「俺たち、呪われてるんすかねぇ?」

 

「あー、倉田ちゃん・・・。呪いも実在するからね・・・」

 

「マジっすか!?」

 

「うん、マジ。あー、あれ煙は煙でも土煙だな・・・・。馬に乗って集団で移動してるっぽいな。んんっ?」

 

「どうしたんです?」

 

「ベルばら?宝塚?あー、姫さんが言ってた騎士団ってこの人達かも」

 

「縦巻きロールの実物初めて見たっす!」

 

「総員警戒!」

 

「待ってください!」

 

桑原が指示を飛ばすが伊丹が待ったをかける。

 

「確か自衛隊側の結んだ協定だと敵対行動と取られる動きをしたら協定違反になってしまいます。俺は幻想郷側だから俺に任せてください」

 

「う、うむぅ・・・。し、しかし民間人の立場のあなたを危険な目には・・・・」

 

「俺、こう見えてもリアルで地獄に行って帰って来た男なんですよ。前に言ったでしょ?閻魔様に会ったって。ある程度の修羅場なら幻想郷にいる間に慣れっこになってます、人喰い妖怪に襲われて逃げ延びたこともあるんですから。いざとなったら空飛んで逃げますからここは俺の指示に従って下さい」

 

「分かりました、ご協力感謝します。ご武運を」

 

 

 

停車した自衛隊車両にショート髮の女騎士が近付く。

 

「お前達、どこから来た?」

 

「えーと、私達イタリカから帰る」

 

不慣れな特地語で会話する隊員。

 

「どこへ?」

 

「アルヌス・ウルゥに・・・・」

 

途端、槍を突き出す騎士団。

 

「異世界の敵か!?」

 

団長と思わしき縦ロールが降馬し会話を行なっていた隊員の胸倉を掴む。

 

「もう一度言ってごらんなさい?」

 

問いかけに対し同じ返答をする隊員。

 

 

 

「行ってきます。絶対にこちら側から攻撃しないようにお願いします」

 

桑原のに念を押す伊丹。

 

「あー、みなさん落ち着いて。何か失礼がありましたか?」

 

伊丹に槍が突きつけられる。

 

「降伏なさい!」

 

「は、話せば分かる!話し合いましょう!」

 

「くどいっ!」

 

「話が通じない!?そんな⑨じゃあないのに!?」

 

「なんだ⑨って!?」

 

「お黙りなさい!」

 

伊丹と部下の騎士のやり取りにイラついた金髪縦ロールが伊丹にビンタする。

 

「逃げろ!今は退避を!急いで!」

 

伊丹がとっさに叫ぶ。

 

「彼の指示に従え!急げ!」

 

「隊長!?」

 

「ここで戦端を開くわけにはいかない!今は退避する!!」

 

桑原の命令に自衛隊は車をUターンさせ撤退する。

 

キッ!と金髪縦ロールとショートが伊丹を睨む。

 

「さ、さらばっ!」

 

途端に空に向かって飛び上がる伊丹。

 

「魔法使い!?」

 

「逃すかっ!!」

 

一人の騎士が槍を投げる。

 

「あだっ!?」

 

直撃はしなかったが柄が頭に当たり落下する伊丹。

 

「あ、あははは・・・・」

 

即座に縄で腕を縛られた伊丹は乾いた笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「一体なんて事をしてくれたんだ!!」

 

ピニャの激怒の声が響き渡る。

 

ガシャッ!と金属のカップが金髪縦ロール改めボーゼスの額に裂傷を創りたらりと血が流れる。

 

「え・・・・?」

 

「ひ、姫様!私達が一体何をしたと!?戦いに間に合わなかったとは言え」

 

「黙れ!!」

 

「ひっ!?」

 

ふーっ!ふーっ!と興奮状態のピニャ。

 

「ニホンとゲンソーキョーとは協定を結んだばかりなんだぞ!」

 

「そ、そんな事を私達が知っている訳が・・・!!」

 

「協定を結んだその日に協定破り・・・・それを口実に進軍する・・・・。帝国の常套手段だな・・・・・」

 

どさっ、と力なく椅子に座り込むピニャ。

 

まさか帝国側がその様な立場に立たされるとは・・・との思いがあった。

 

ましてやまだ幻想郷の聖輦船はイタリカの街の外にある。

 

街の中では自由に行動できる権利もある。

 

ピニャの頭の中に盗賊達を蹂躙した巨大な金属ゴーレムの大群が帝都を蹂躙し奇妙な飛行物体の大群が空から地上を攻撃する光景が思い浮かぶ。

 

 

 

「伊丹殿!伊丹殿!ああっ!?」

 

気を失わない様にと声をかけ続けていたメイドの前で伊丹は意識を失う。

 

「すっ、すぐに介抱を!」

 

メイド長が大慌てで指示し伊丹は部屋の外へと運ばれる。

 

 

 

「ああっ、どうすれば・・!!」

 

頭を抱え込むピニャ。

 

「幸い死人はでていません、ここは策など弄さず素直に謝罪されては・・・」

 

「わ、妾に頭を下げろと!?」

 

「しかし、ゲンソーキョーとの協定内には危害を及ぼした者とその命令者の処罰権はゲンソーキョー側にあると結んだ協定には・・・」

 

「そ、そうだが・・・」

 

ガチャ。

 

突如ドアが開く。

 

「誰が外部の者を通しても良いと言っ・・・・た・・・・・」

 

ピニャは固まった。

 

開かれたドアから入ってきたのは九つの尻尾を持つ・・・。

 

「や・・・ヤクモ・・・ラン殿・・・・」

 

室内にいた全ての者が藍から放たれている殺気に当てられる。

 

その目は殺意の篭った目だ。

 

膝が勝手にガクガクと震える。

 

ボーゼスともう一人のショートの女騎士も殺気に当てられ体をガクガクと震わせる。

 

「先程運ばれていったボロ雑巾のようになっていた男・・・我が幻想郷の伊丹耀司に見えたが・・・私の気のせいか・・・・?」

 

「あ・・・ああ・・・・」

 

「確か協定には、幻想郷側に危害を加えた者、及びその命令者の処罰権があったはずだな・・・・?」

 

ギラリッと藍の爪が鋭く光る。

 

「すっ、すまない!命令が行き届いていなかった!」

 

ピニャは思わず謝罪の言葉を口にした。

 

「ほう、まさか素直に謝るとは・・・・」

 

途端に殺気が消え殺意の篭った目も普段の状況に戻る。

 

「まぁ、大方そうだと思っていたよ。今回の事に関し私は口を挟まない。邪魔をした、後は伊丹本人に誠意を尽くすのだな。まぁ、伊丹がどう判断するかだが・・・・・」

 

そう言い残し藍は去っていった。

 

 

 

室外。

 

「これでいいのですか?」

 

藍は無人の廊下で喋る。

 

「ええ、いいわ」

 

天井にスキマが開き紫が上半身を覗かせる。

 

重力を無視し紫の髪や帽子は落下せず。

 

「しかし、分かりません。取り決めを破ったのですからあの場で八つ裂きにすればよかったのでは?」

 

「それだと面白くないでしょ?」

 

悪戯っぽく笑う紫であった。

 

 




さてさて、もうすぐ国会の質疑シーンが来ますね。
ある程度の構想はできているんですがとある壁に突き当たりました。


博霊神社にちょくちょく顔を出しているピンク仙人・・・げふんげふん!えー、「茨木華扇」さんって何歳なんでしょう?
他のキャラは公式非公式である程度わかるのですがピンク仙人だけの年齢が見つからず・・・・。



伊丹の台詞の中にあった「リアルで地獄から帰ってきた男」はそのうち番外編で公開できたらいいなぁ・・・・・・。

初めて幻想協に足を踏み入れた時の話もある程度出来上がって形になりつつあるのでそのうちに公開する予定です。


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様々な思惑

あ、暑い・・・・・。
毎日暑い・・・・・・・。
皆様も熱中症にはお気をつけて・・・・(経験あり)


自衛隊・アルヌス駐屯地。

 

伊丹が騎士団に引き摺られていた頃。

 

狭間陸将と柳田幕僚は建軍一佐が帰還して後に提出された戦闘記録の映像を見ていた。

 

自衛隊側の航空攻撃から始まり、幻想郷の聖輦船到着から戦闘終了までの全てを撮影したヘリの映像記録を全て見る。

 

本国政府に提出する報告書に添付する映像資料だ。

 

「うむ、何も問題はないな」

 

「ええ、何も問題はありませんね」

 

常識を放棄した二人には明らかに異常な戦闘記録が普通に見えた。

 

日本の国会からは既に調査隊隊長の桑原が参考人として国会招致の指示が来ている。

 

その時用の資料と共にこの映像資料を内閣へ至急送る。

 

この時、不幸な事態が起きた。

 

本来送られた映像資料は報告の為に一度説明役の人員が視聴する。

 

所が招致日までの日時が限られている事と資料を積んだ車が渋滞に巻き込まれ首相官邸に詰めている説明役が確認する時間がなくなってしまうと言う事態だった。

 

しかし今まで送られて来ていた資料は全て問題が無かった為。

 

既に陸将と幕僚の常識感が崩壊していることを知らずに・・・・。

 

 

side:日本政府

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

本位総理を始め全閣僚は開いた口が塞がらなかった。

 

以前の核爆発情報はある意味真実だった。

 

問題は使用したのが特地の存在ではなく幻想郷側。

 

しかも科学兵器ではなく八咫烏の力を持った地獄鴉の妖怪の少女が小型の太陽を創り出し炎龍と呼ばれるドラゴンを倒す為に爆発させたと言う。

 

無数に地面に突き刺さったままの注連縄が巻かれた巨大な柱、爆発時に出来上がったクレーターの写真も添付されている。

 

極め付けはイタリカと呼ばれる街を野盗と化した敗残兵達から守る戦いの映像だ。

 

空飛ぶ木造帆船が空域に突っ込んで来て旋回、そして一台の二人乗りのバイクが空中へ飛び出しそのまままるで見えない道路があるかのごとく地上へ向かって走行。

 

一度城門内へ突っ込んだかと思うと一人の状態で再度出現。

 

まるでプラズマ球の様な光の球をばら撒きながら戦場を駆け巡り、敵を跳ね飛ばしたり轢き殺したりしている。

 

投下された箱の中から大型のロボットが出現、腕から暴風を巻き起こし敵を吹き飛ばし、更に逆の腕は先端のドリルを回転させながらロケット噴射で飛び出す。

 

赤緑虹色のUFOが出現し地上を蹂躙する。

 

「な、なお、映像のロボット兵器は、動力に・・・・じょ、常温核融合!?し、失礼しました。じょ、常温核融合炉を搭載しているとのことです・・・・」

 

ドラゴンを倒す際に太陽を創り出したと言うのを何かの例えだと思い平静を装っていた文部科学省大臣もこの常温核融合の台詞を聞いた瞬間気絶したとか。

 

「腕から放たれた暴風は・・・風雨の神が同乗していて使用したとのことです・・・・」

 

「「「はぁっ!?」」」

 

常識外の連発にまともな台詞が出てこない。

 

「か、神って、あの神か・・・?」

 

「ば、馬鹿馬鹿しすぎる・・・・いや、しかし・・・・」

 

「そ、総理、やはり幻想郷に対して依頼した例の件は無期限延期とした方が・・・・」

 

「しかし、もう既に向こう側の人選は終了したと返答があった。今更こちら側の都合で変更は・・・」

 

「それに、例の核爆発に類似した大規模爆発の情報が野党側に漏れている。 マスコミも不確定情報としてだが掴み、既に一部の新聞やテレビで報道されている。中国を始めとしたいつもの連中は我々が特地で核実験を行ったのを隠そうとしているとか言いたい放題だ。これで中止なんて発表してみろ、国内外の活動家のデモが頻発するぞ」

「ううむ・・・・」

「やはり、予定通り行うしか・・・」

 

 

 

side:out

 

 

 

side:幻想郷・永遠亭

 

「あー、もう早くヒールしてよ死んじゃうじゃん!ったく、使えないパーティーだわ・・・やばっ!早くヒール!」

 

かぐや姫こと蓬莱山 輝夜はネトゲの攻城戦イベントで危機に陥っていた。

 

敵の攻撃を受けガリガリとHPが削れて行く。

 

「あーっ!くそっ!やられたっ!」

 

アバターキャラが画面内で倒れる。

 

「あーっ!限定クエストクリア報酬が他のパーティーに取られた!」

 

画面にパンチしかけるが堪える。

 

「ダメだダメだ、パソコンが壊れるだけよ。憂さ晴らしに妹紅の奴を殺ろう。最近殺し合いしてなかったし・・・・・。あ、でもその前にメールチェックっと・・・」

 

PCのメールソフトを立ち上げメールを受信する。

 

「最近チェックサボってたからかなり溜まってる・・・・。スパムメールウザっ、死ねよクソ業者・・・・」

 

セキュリティソフトに弾かれる迷惑メールが普通のメールより遥かに多い。

 

「うーん、セールのメールばかりね。あーっ、この密林のセールもう終わっちゃってる・・・。あれ?」

 

メール受信が終わる。

 

件名の中にあり得ない文字がある。

 

『永琳先生へ』

 

送信者は文字化けしている。

 

「開いてみましょ・・・・・・。え、えーりん!えーりん!」

 

大声をあげながら輝夜はバタバタと部屋を飛び出す。

 

「どうしました、姫?」

 

薬の調合途中の八意 永琳が顔を上げる。

 

「姫、髪ボサボサですよ」

 

「えっ!?嘘っ!?ってそうじゃなくって!いいから早く私の部屋来て!」

 

「なんですか?黒光りする虫でも出ましたか?」

 

「そんなの自分で叩き潰すわよ!いいから早く!」

 

永琳を急かす輝夜に永琳もただ事ではないと感じた。

 

「これ見て!」

 

開いたままのメールの文面を見る。

 

「こっ、これはっ!!」

 

「驚いたでしょ!?」

 

「FXの配当連絡ですが?おや、また儲かったようですね」

 

「そうでしょそうでしょ。みんな私の事ニートニートって馬鹿にするけど私の個人資産は・・・・って、違う!カーソル動いてた!?こっち!」

 

永琳に本来のメールを見せる。

 

読み進めるうちに永琳の口元に自然と笑みが浮かんだ。

 

「・・・・・・・・八雲 紫の申し出にはあまり乗り気ではありませんでしたが、渡りに船・・・とはまさにこの事」

 

「永琳!私も行くわ!」

 

「姫!?」

 

「私の真の自由の為に!優曇華!優曇華は何処!?」

 

「輝夜様?どうかなさいました?黒光りする虫でも出ましたか?」

 

「だからそんなの自分で叩き潰すって言ってるのに!」

 

庭の方から優曇華の声が聞こえ輝夜は障子を開けて庭に顔を出す。

 

鈴仙・優曇華院・イナバが庭の掃き掃除をしていた。

 

「優曇華!私の勝負服の用意をしなさい!」

 

「えっ?」

 

「勝負服よ!私の!」

 

「はっ、はいっ!直ちに!」

 

「で、永琳も優曇華もなんで私が大声で呼んだからって黒光りする虫が真っ先に出てくるのよ!?」

 

「なんで・・・・」

 

「と言われましても・・・・」

 

永琳は輝夜の部屋の床を見る。

 

外界から買ったジュースの空き缶やお菓子の袋が無造作に散らばっている。

 

優曇華は窓から見える輝夜の部屋の中を見た。

 

ゲームのパッケージが今にも崩れそうな山脈を築いている。

 

かぐや姫こと蓬莱山 輝夜、片付けられない女であった。

 

カサカサカサッ・・・・。

 

「あ、ゴキブ---」

 

「ふんっ!!」

 

バシーンッ!!

 

永琳が言い終わる前に黒光りする虫は天に召された。

 

 

side:out

 

 

 

 

夜の暗がりの中、夜間装備をした自衛隊一行がイタリカの街に入る。

 

町の住民や領主の兵は親しげに挨拶してくるが帝国兵が最大の障害である。

 

「隊長、伊丹さん大丈夫っすかね・・・」

 

「全ては私の責任だ。その後始末はする。お前達、付き合わせてすまん」

 

「いいって事っすよ。でも意外だったっすね。あの伊丹さんレンジャー持ちだったなんて」

 

「俺も駐屯地を出る前に知って驚いたよ。だがレンジャー持ちならば不屈の忍耐で耐えるだろう・・・・」

 

「イメージが・・・精強な戦士のイメージがぁ・・・・」

 

栗林は伊丹がレンジャー持ちだと知り何故かショックを受けていた。

 

そんな間にテュカが警備の帝国兵達に眠りの魔法をかける。

 

恐らくここにいるだろうと予測される領主の館の庭にまで侵入を果たす。

 

そこで彼等はある人物と出会った。

 

その人物とは・・・・。

 

「あら、皆様お揃いで。ひょっとして彼を助けに来たのかしら?」

 

青娥であった。

 

何故ここにいるのかと思ったが幻想郷側は条件の中に無条件移動許可とかそんなのを入れていたのを思い出す。

 

「ええ、まぁ・・・」

 

「じゃあ、一緒に行きます?」

 

そう言いながら青娥は領主の館の壁に穴を開いた。

 

しかし既にこんなことぐらいでは驚かなくなった一行である。

 

ちなみに館に入ってすぐに迎えに来た亜人のメイドに案内される事となる。

 

 

 

「いいかボーゼス、今回の失態はお前自身の身体で取り返すしかない。あのような男には勿体なさすぎるが・・・・帝国の命運はお前にかかっていると言っても過言ではない。いいか、頼んだぞ」

 

ボーゼスはピニャからの勅命の言葉を思い出しながら伊丹耀司に当てがわれた部屋の前に立っていた。

 

その姿はもはや下着姿と言っても過言ではない。

 

「貴族の家に生まれたからには、覚悟は・・・・!」

 

意を決してドアを開ける。

 

室内は薄暗い。

 

窓から差し込む月明かりがかろうじて室内の光源となる。

 

歩みを進め、寝息の聞こえるベッドに近づく。

 

「ね、眠っておるのか・・・・?」

 

返事はなく、寝息のみ。

 

一歩、また一歩と近付く。

 

「い、伊丹殿・・・」

 

ギシリ・・・とベッドが軋む。

 

「ぼ、ボーゼス・・・さん・・・・?」

 

ゆっくりとボーゼスの唇が伊丹に近付き・・・。

 

「ぷっ・・・・くくく・・・・」

 

伊丹の口から微かに笑い声が漏れる。

 

その声は男の声ではない。

 

「伊丹だと思った?残念、封獣ぬえちゃんでしたー!」

 

途端に目の前の伊丹の姿がたちまち奇妙な形の翼のようなものがある少女に変わる。

 

(か、からかわれた・・・・・?パレスティー候爵家次女たる私が・・・こんな小娘に・・・・?)

 

プチンッ。

 

ボーゼスの頭の中で何かが切れ・・・・。

 

バチンッ!

 

封獣ぬえの頰にボーゼスのビンタが炸裂する。

 

と、同時に。

 

「このおバカーーーっ!!」

 

スパーーーーンッ!

 

灯りが灯り部屋の小部屋に隠れていた伊丹がスリッパでぬえの頭をはたいた。

 

見ればメイドや緑の人、その他大勢がそこにいた。

 

「面白いものが見れるってこれかよ!?どう見てもこっちが悪者になっちまうじゃないか!?」

 

「あ、あううっ・・・」

 

「ぬえ・・・・?」

 

「ひ、聖さま・・・・・ひっ!?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴッとも聞こえるような雰囲気の聖にぬえが後ずさる。

 

「おいたが過ぎますよ・・・・・?」

 

ニッコリと笑っているが怒りモードの聖。

 

命蓮寺に戻った後、ぬえには説法12時間コースが待っていたという。

 

 

 

 

「で、そこのぬえ殿の頰に・・・・」

 

「あ、頭の方は俺がやりました」

 

伊丹が先に答える。

 

「わ、私がやりました・・・・・・」

 

ボーゼスがしゅんっと自白する。

 

「はぁーーっ」っと溜息をつくピニャ。

 

伊丹だけではなく、このような少女にまで手を上げたのか・・・・とピニャは悩む。

 

ぬえの実年齢を聞けば驚くだろうが。

 

「今回の件に関してはこちらで済ませますので、どうかお気になさらず・・・・・」

 

聖がピニャに声をかける。

 

聖としては完全に善意からである。

 

だがネガティブ思考に陥ったピニャには別の意味に聞こえてしまう。

 

(こ、こちらで済ませるとは、もしや軍に指示を出すということか!?気にするなとは、もう気にしても無駄だという意味なのか!?)と。

 

正に負のスパイラルである。

 

 

「あー、じゃあ、自分たちは先に戻らせてもらいます」

 

桑原が切り出す。

 

「おやっさん、国会から参考人招致がかかってますもんね。遅れたらまずいっすよ」

 

倉田が理由を付け加える。

 

「隊長さん、国会で証言するんですか。大変そうだぁ・・・」

 

伊丹が本音を言う。

 

この時、ピニャはレレィから国会とはニホンの元老院の様なものだと教えてもらっていた。

 

「確か、幻想郷側からも国会に何人か人数は不明っすけど参加するみたいっすね。伊丹さんもですか?」

 

「いや、俺は何も聞いてないけど・・・・」

 

「当然、伊丹にも行ってもらう予定よ?」

 

天井から声が聞こえ幻想郷メンバー以外の皆が驚いてそちらを見る。

 

天井から逆さまにスキマから上半身を覗かせている紫。

 

相変わらず髪と帽子が重力に逆らっている。

 

「紫さん、今なんと?」

 

聞き間違いかと聞き直す。

 

「伊丹、あなたも幻想郷の代表の一員として行くのよ。大丈夫、私も行くから」

 

「お、俺も!?」

 

何が大丈夫なんだ!?とは口が裂けても叫べない伊丹である。

 

なお、この時のピニャは(他国の元老院に招待されているだと!?それ程の重要人物なのか!?)と曲解してしまっていた。

 

(まずいまずいまずい!!まさかそれ程ニホンとゲンソーキョーが親密な間柄だったとは!?)

 

ごくり、と息を飲む。

 

ピニャの脳裏に再び燃え上がる帝都を蹂躙する巨大ゴーレムの大群が思い浮かぶ。

 

(それにこの小隊の隊長とも親しげだ!この隊長が元老院でこの男と行う報告次第では・・・・ゲンソーキョーだけでなくニホンも動く!?)

 

生憎とここにはさとり妖怪は来ていない。

 

もし来ていればピニャの考え違いを教えることが出来たであろう。

 

だが来ていないのだから仕方がない。

 

「わ、妾も行く!妾もアルヌスに行くぞ!」

 

ピニャの申し出に自衛隊一行は「えっ?」と言う様な表情をした。

 

伊丹は嫌な予感がして紫を見た。

 

「あら、面白そうね。いいわよ」

 

ですよねー、と言う表情をする伊丹。

 

「じゃあ、早速聖輦船の出航準備をして来ますね!」

 

ムラサ船長が嬉々と部屋から出て聖輦船へ向かう。

 

ピニャ達も急ぎ出立の支度を行う為に部屋を後にした。

 




輝夜さんのネット環境?
月にいたころの技術力の無駄な使い方で外界の回線に割り込んでます。
もちろん足なんてつきません。

ネトゲシーンの元ネタはあの駄天使さんです。


輝夜さんの口調がなかなか掴みにくかったので普通に喋ってもらっています。


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一時の休息(主に作者的に)

今回はかなり短いですがお付き合いください。


 

聖輦船に乗り込む一行。

 

自衛隊の車両はワイヤーを使って聖輦船から吊り下げる事にし自衛隊一行も聖輦船に乗り込む。

 

ピニャ達も乗り込み、アンカーを引き上げる。

 

聖輦船のすぐ側には見送りに来た百人を超えるイタリカの住民達がいる。

 

「聖様ー!また来てくれますかー!?」

 

「聖様!またあの有難いお話を聞かせてください!」

 

「いつか命蓮寺に行ってもいいですかー!?」

 

見送りの住民のほぼ全てが聖に向かって声をかけている。

 

聖もその声に答えるように彼等に向かって返事をしている。

 

イタリカ・・・・後にこの異界において一大宗教となる仏教が初めて伝わった土地として後世の仏教徒の聖地となったとか。

 

 

 

地上を離れ、聖輦船がアルヌスの丘へ進路を取る。

 

後部甲板で小柄な少女・・・・椛が小さな扇の様なもの・・・天狗の団扇で帆に風を送るのを見るピニャとボーゼス。

 

この様な小さな物で船を進ませる風を発生させているのを神の奇跡を見る様な感じで二人は見ていた。

 

 

 

短い時間でアルヌスの丘に到着したのを驚くピニャ達だが地上から聞こえる轟音に更に驚く。

 

戦闘訓練を行っている自衛隊の戦車隊や歩兵の戦闘方法をレレィから解説を受けるピニャは幻想郷も含め何故この様な二大勢力が帝国に攻めて来たのかと呟いてしまった。

 

「あら、あなた達が攻め込んで来たから彼等も私達も自衛の為にこちらに来たのよ?自分達だけが攻め込んでいいだなんて、自分勝手過ぎるのにも程があるのではなくて?」

 

飲み物を給仕していた咲夜がハッキリと言う。

 

その咲夜の一言にピニャは反論できない。

 

「帝国はグリフォンの尾と古代龍の尾を同時に踏んだ。こうなるのは必然」

 

レレィもまたハッキリと帝国が過ちを犯したと指摘した。

 

「そうです!撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけです!」

 

早苗がここぞとばかりにとあるロボットアニメの有名なセリフを叫んだ。

 

 

 

自衛隊一行を基地の手前で降ろし、聖輦船は紅魔館の脇に日当たりの邪魔にならない様に着地した。

 

自衛隊側からの要望でピニャとボーゼスは自衛隊側に同行する事となった。

 

なにやら伊丹に同行したがったが自衛隊側から重要な話をしたいと言われ渋々そこで別行動をするしかないと理解し二人は自衛隊基地に入って行った。

 

 

 

「ロゥリィ・マーキュリーさん?」

 

紫がロゥリィに声をかける。

 

「あらぁ・・・あなたはたしかぁ・・・・」

 

「ええ、こちらでは幻想郷の代表をさせて頂いている八雲紫です。どうぞ紫とお呼びください」

 

「わかったわぁ。それでぇ、その紫さんがどんな用事かしらぁ?」

 

「うふふ、お互いの為となるお話です。私達幻想郷と、あなたが仕えるエムロイと言う名の神様と・・・・ね」

 

「それは興味あるわぁ・・・・」

 

ロゥリィは紫と共に紅魔館内の応接間に消えて行った。

 

 

 

 

 

「この本、凄く興味深い」

 

レレィが地下の大図書館から借りて来た魔道書を読み更けっている。

 

「あの、レレィさん?ここ、俺の部屋なんですけど・・・」

 

「大丈夫」

 

(何が!?)と思いつつもこの会話を何度も繰り返していたので伊丹が折れる形となった。

 

伊丹自身もレミリアから渡された現状の報告書の様なものを読んでいた。

 

(紫さん、暗躍しすぎ!?)

 

異界だけでなく日本で行った紫の行動も記載されている。

 

(これで全部じゃないんだろうけどな・・・・・)

 

あの八雲紫が全て知らせているとは思えない。

 

主に面白いと言う理由で一部の情報を意図的に隠しているのは簡単に想像できる。

 

「っと、もうこんな時間か・・・・?」

 

時計を見ればもう夜中。

 

「レレィは・・・・寝ちゃってるか。俺も風呂入って寝るかぁ」

 

部屋を出て紅魔館内の客人用浴室へ向かう。

 

先客がいないことを確認し着ているものを脱ぎ熱過ぎずぬる過ぎない適温に保たれている浴槽に肩まで浸かる。

 

「明日は数年ぶりの日本かぁ・・・。幻想郷に迷い込んでから色々あったなぁ・・・・」

 

今までの事をゆっくりと思い返していた。

 

・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

「ぷはっ!?」

 

息苦しさに顔を上げる。

 

「やばっ、風呂で眠っちまってた・・・」

 

指を見るとかなりふやけている。

 

相当風呂に浸かっていたらしい。

 

風呂から上がり体を拭いて再び服を着る、部屋に戻る。

 

「どんな状況よ、これ・・・・」

 

ベッドの上にはレレィが眠っている。

 

うん、ここまでは部屋を出た時のままだ。

 

問題は人数が増えている。

 

「なんでフランちゃんと橙ちゃんが俺のベッドでレレィと寝てるんだ・・・・。こんなとこ見られたら事案発生扱い確定だぞ・・・・」

 

即座にドアを閉めて咲夜を探し回り、代わりの部屋を用意してもらい事なきを得たが何故か翌朝三人の機嫌が少し悪かった。

 

橙とフランは伊丹にこの異界の街の話を聞きたかったらしく後日話をしてあげることで取引が成立した。

 

何故レレィの機嫌も悪かったのかは伊丹には理解出来なかった。

 

機嫌といえばロゥリィはやけに上機嫌だった。

 

聞けば紫と話をしていたらしいが詳しい事はまだ秘密だと言われた。

 

 

そして日本に行く面々が次々に紅魔館の前に集まりだす。

 

迎えに来た自衛隊一行にとっても初めて見る顔が多い。

 

 




いよいよ次回、日本に行くメンバーが集まります。


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「炎龍って言うぐらいだから逆の水龍ってのもいたりして。え?いる?マジで・・・・?」by伊丹

何となく「あれ?”炎”龍ってことは他の龍もいるのかな?そうじゃなきゃただの龍だし・・・・」と思いwiki見てたらいましたよマジで。
しかもハーディが絡んでて炎龍と番で卵も生まれてて新生龍ってのがそうだときた。
うん、利用しない術はないと一時間ほど妄想のままに打ち込みました。
日本出発編を楽しみにしていた方すんません!
でもこのネタはやるなら早い方がいいと思い急遽投稿しました。


ジゼルの口調とか水龍の事とかはすべて作者の想像で書きました。
手元に資料がないので・・・・。


話は少しさかのぼり、イタリカから戻ってきてすぐの事。

 

 

 

なんとなくレレィに話を振ってみたら本当にいると返ってきた。

 

「うわぁ〜、絶対遭遇したくねぇ〜・・・」

 

炎龍は炎を吐いたから水龍は水を吐くのだろうか?

 

もしかしたら土龍とか空龍ってのもいるのか?

 

と、伊丹は想像した。

 

 

水龍の巣穴。

 

洞窟の奥にその水龍はいる。

 

ハーディから神託を受け、定期的に様子を見に来ているハーディ信徒の亜神ジゼル。

 

炎龍が随分前に倒されたと知り大慌てでこの水龍の巣へ来た。

 

「さ、さみぃ・・・・なんでこんなにさみぃんだ・・・・」

 

巣穴へ続く洞窟の中は何故か異常に寒い。

 

外の方が暖かいぐらいだ。

 

ようやく巣が見えて来た。

 

「は?」

 

思わず呟く。

 

そこにはカチコチに凍りついた巨大な水龍の姿があった。

 

そしてその凍りついた水龍の頭の上に動く小さな影。

 

灯りをその方向へ向けると水色の髪をした小柄すぎる少女が仁王立ちしている。

 

「やっぱあたいってさいきょーね!」

 

冷気を操る妖精チルノの姿がそこにあった。

 

そう、水は凍る。

 

冷気を操りちょこまかと動き回るチルノに対しどうしても動きが大振りになる水龍はあっという間に氷漬けになってしまったのだ。

 

 

ジゼルは卵をとにかく確保しようとするが目の前の地面が急に凍り、ジゼル自身の足も凍り付き動かせなくなる。

 

「お前、さいきょーか!?」

 

チルノがジゼルの前に降り立つ。

 

放たれる冷気でジゼルの体の感覚が無くなって行く。

 

「た、たまご・・・」

 

寒さで口もかじかむ。

 

「卵?あれが欲しいのか?」

 

コクコクと頷くジゼル。

 

「だめ!あれは大ちゃんと目玉焼きにして食べるんだからあげない!」

 

チルノはさっさと二つの卵を風呂敷に包むとジゼルを放って飛び去ってしまった。

 

ピシッ!

 

そんなジゼルの目の前でピシピシと水龍の氷に亀裂が入る。

 

「さ、さすがは古代龍・・・!さぁっ、あの小娘を追えっ・・・・!!」

 

と感心し水龍に命じたが亀裂は水龍本体にも入り、水龍もろとも崩れ去ってしまった。

 

「あああああっ!?」

 

崩壊した水龍の身体が雪崩のようにジゼルに襲いかかる。

 

崩れた所は凍りついているためジゼルの身体をズタズタに切り裂く。

 

 

 

 

 

「どーだ!でっかい卵だ!」

 

紅魔館にて伊丹はチルノが持って来た卵を目の前にしていた。

 

「うん、でかいね。で、なんの卵?」

 

「わかんない!でっかいトカゲだった!」

 

「で、どうしろと?」

 

「目玉焼き!大ちゃんの分も作って!」

 

「はぁ〜」と、伊丹はため息をつく。

 

そもそもトカゲの卵って食べられるのか?

 

って言うか、大きなトカゲってドラゴンじゃないのか?

 

しかしチルノに難しい話は通用しない。

 

だって⑨だから。

 

「まずはトカゲの卵が食えるかどうかだな。パチュリーさんの所に料理本あるのかなぁ?」

 

10分後、地下図書館。

 

「マジであったよ・・・」

 

小悪魔に聞いたらすぐに持って来てくれた。

 

世界の卵料理と書かれた本。

 

トカゲの卵も食えなくはないらしい。

 

「仕方ない、作るか・・・」

 

パチュリーに本の貸し出しを頼み咲夜に厨房の一角を借りる。

 

「ってか、これ無精卵か?それとも有精卵か?もしそうなら中身入ってるんじゃ・・・・・」

 

触って撫でてみると何やら中で動いている気配。

 

「孵化寸前か!?」

 

ピシッと一つの卵に亀裂が入る。

 

少し遅れてもう一つの卵にも亀裂が。

 

伊丹が唖然としている中、卵の中の龍は殻を破り姿を見せる。

 

「クルルルルルルッ」

 

小さな声で鳴く赤ちゃんドラゴン。

 

すっと目が開き、最初に伊丹を見た。

 

そう、二匹とも最初に伊丹を見た。

 

刷り込みというものがある。

 

一部の動物が最初に見た物を親だと思いこむ習性だ。

 

「キュルキュルキュルキュルッ」

 

二匹の赤ちゃんドラゴンは伊丹を親だと思い懐いてしまっている。

 

 

 

 

「あたいの目玉焼きどこ!?」

 

「えーとね、卵孵っちゃったからこの二匹」

 

「そんなの食べらんない!目玉焼き食べたい!」

 

しばらくのちに騒ぎを聞きつけたレミリアが咲夜に命じてチルノと大妖精に満足行くまで卵料理を御馳走することで騒ぎは収まった。

 

「災難だったわね、伊丹。ところでこの二匹はどうするのかしら?」

 

「野生のドラゴンの生態なんてわからないですし、このまま野生に返しても自力で生きていけるか分かりませんし仕方がないので世話をしようかと」

 

「そう。じゃあ庭の一角にその子達用の小屋でも建てさせましょう。名前はもう決めたの?」

 

「ええ、タマにポチです」

 

「・・・・そ、そう・・・・いい名前ね・・・・」

 

実は密かに名付け親になりたいようなレミリアお嬢様であった。

 

 

「さて、明日は日本行きだし早めにレミリアさんに貰った資料に目を通さないと・・・・」

 

 

 




出発編を楽しみにしていた読者の方マジすんませんでした!
時系列的には前話のイタリカから帰ってきてレレィが伊丹の部屋でパチュリーの魔道書を読みふけっているシーンの間の出来事だと思ってください。



ハーディの手先になって自衛隊に退治される筈だった新生龍二匹を幻想郷側にしちゃいました。

新生龍の生態なんかも分からないのでご都合主義の捏造設定です。


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いざ日本へ

やっと書きあがりました。
うーん・・・・なんか少し説明的な会話が多くなってしまった気もする・・・・・。
相変わらず捏造設定全開です。


 

 

「では幽々子様、行ってきます」

 

魂魄妖夢が幻想郷へと続く異界門の前で見送りについて来た西行寺幽々子に別れの挨拶をする。

 

妖夢にして見れば初の外界だ。

 

まさか外界に行く機会ができるとは思っていなかった。

 

だが主人である幽々子の推薦で行くのだから力が入らないわけがない。

 

「ええ、妖夢。〝また〟後でね」

 

「?はい、戻って来たらお土産話しますね」

 

一瞬幽々子の言葉に違和感を感じたが気のせいだと思い妖夢は集合場所の紅魔館前に向かう。

 

「伊丹さーん」

 

「おっ、妖夢ちゃんが一番乗りかぁ」

 

「えっ!?私が一番最初なんですか?」

 

「うん、まだみんな来てないんだ。まぁ、もうすぐ揃い始めると思うけど。中の適当に好きな場所に座って待っててよ。あ、半霊も一つの席を使っていいからね」

 

「わかりました。ではお先に待ってます」

 

妖夢は初めて乗る自動車に興味津々だ。

 

中の係員がエスコートしてくれているし問題ないと伊丹は判断する。

 

伊丹と一緒にバスの外にいる自衛隊一行は先ほどの妖夢のすぐ側でプカプカ浮いているものがなんなのか聞きたげだが伊丹の「後でわかる」という言葉を信じてあえて聞かずにいた。

 

 

 

「うわっ、きれー」

 

栗林が異界門を通り抜け姿を見せた輝夜に目を奪われる。

 

豪華とも言える十二単を着た和美人。

 

それが自衛隊側が初めて目にした輝夜の第一印象だった。

 

「ちょ、永琳さん?なんで彼女がここに・・・・?」

 

「姫が同行を望みましたので」

 

ささっと倉田が近付いてくる。

 

「伊丹さん、彼女めっちゃ美人じゃないっすか・・・!?こんな人とも知り合いだなんて・・・羨ましすぎっす!」

 

「そうか?」

 

「そうっすよ!」

 

「普段は引き篭もりゲーマーだぞ?」

 

伊丹の発言に自衛隊一行が「えっ?」と声を漏らした。

 

「おー、伊丹。久しぶりー。クエドラクリアした?」

 

「ええ、久しぶりです輝夜さん。いえ、やってる時間がないっすよ」

 

「へぇー。輝夜って名前なんですね。さっき姫って呼ばれてたし、美人だからかぐや姫みたいです」

 

黒川が思わず口にした。

 

「そりゃそうよ、それって私だし」

 

輝夜の返答に「へっ?」っと思わず口にする黒川。

 

「えーっと、こちらは蓬莱山 輝夜さん。まぁ、なんて言うか・・・・かぐや姫ご本人です」

 

伊丹は彼女を紹介する。

 

「ちーっす、かぐや姫本人です。よろしく」

 

「え?え?」

 

「まぁ、彼女・・・・月に帰らなかったんだって」

 

「あんな退屈でクソつまんない所、焼き土下座されたって帰ってやるかっての」

 

「え?じゃ、じゃあ・・・・?」

 

「あ、月の都の事?うん、あるよ。滅茶苦茶退屈な所だけどね」

 

輝夜が答える。

 

「月の都から先日連絡がありました。姫の捜索は打ち切られているけれど手配はされたままだと。その手配情報を永久抹消してもいいけれど少し手伝え、と」

 

永琳が続いて答える。

 

「私の真の自由の為に!」

 

拳を突き上げる輝夜。

 

「かーぐーやー!こんなとこにいやがったかー!!」

 

突如妹紅の声がする。

 

「ちっ、見つかったか!」

 

輝夜が目配せすると永琳は輝夜の着物をあっさりと脱がせる。

 

「よぉ、輝夜。久しぶりだな?」

 

「ええ、久しぶりね」

 

互いに笑いあっている二人。

 

一見仲が良さそうに見えるが次の一言で吹き飛ぶ。

 

「最近鬱憤溜まっててな。主にお前を殺せなかったせいで」

 

「ええ、私も憂さ晴らしにあなたを殺したくて仕方ありませんでしたの」

 

変わって丁寧口調になる輝夜。

 

「はははは、そーかそーか」

 

「ふふふふ、そうですの」

 

伊丹は自衛隊一行にこの場から少し離れるように促す。

 

「ああんっ!?」

 

「おおんっ!?」

 

すぐに二人は一触触発になり。

 

「死にさらせえええっ!!」

 

「てめぇが死にやがれっ!」

 

ドガッ!バギッ!グシャッ!

 

輝夜の顔にストレートがめり込み、だが輝夜はその妹紅の腕を抱え込み膝を妹紅の顔面に喰らわせる。

 

突如始まった殴り合いに自衛隊一行が固まる。

 

輝夜の鼻が折れ血がとめどなく流れ、妹紅は前歯がへし折れる。

 

「あー、お二人さん。時間も押してるんで5分以内に殺し合い終わってくださいね」

 

「い、伊丹さん!?止めなくていいんですか!?」

 

「いいのいいの、これっていつものじゃれ合いで彼女達なりの愛情表現みたいなもんだから」

 

「だれがっ!」

 

「こんな奴っ!」

 

「ほら、息ぴったりでしょ?」

 

「いやいやいや!?」

 

栗林が慌てながらツッコミを入れる。

 

「それに二人とも不死者だし。輝夜さんも妹紅さんと一緒で死んでもすぐ生き返るんだよ。まぁ、最初見た時は俺も驚いたけどね」

 

「あんた達もっと離れてて本気出せないっ!」

 

「お前らもっと離れてろ本気出せねぇっ!」

 

「とっとと、巻き込まれたら怪我じゃすまないからもう少し離れないと」

 

伊丹の誘導で一行は後ろを向いて離れる。

 

後ろからはグジャッ!だのメギャッ!だの凄惨な音が聞こえる。

 

「いい加減にしろっ!」

 

突如後ろから怒声とともにゴスッ!ゴスッ!と二回鈍い音がして凄惨な音がストップした。

 

何事かと一行が振り向けば輝夜と妹紅は頭を抑えて蹲っている。

 

二人の前には一人の女性。

 

「あ、慧音さんだ」

 

「伊丹、話なら後だ。私は少し二人に話をしなくてはいけないからな」

 

(ヤバい、目がマジだ)と伊丹は火の粉が降りかかるのを恐れて一行と共にもう少し離れる。

 

「伊丹さん、今のは・・・・?」

 

「上白沢 慧音さんって言って人里で寺子屋をやっている人だ。妹紅さんとかなり仲がいいんだけど怒ると怖いんだ・・・」

 

「彼女も?」

 

「多分、ここに来ているってことは日本行きのメンバーの一人だな」

 

「あー、じゃあ輝夜様が身動き取れなさそうなので私達は先にこれに乗ってますね」

 

優曇華がバスに向かう。

 

「バニーガール!?」

 

「むっ、私はれっきとした地上の月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバです。間違ってもバニーガールとかなんかじゃありません!」

 

「幻想郷の愛されマスコットにして地上の兎、因幡てゐだウサ」

 

「おい、誰が愛されマスコットだこの悪戯兎」

 

「じょ、冗談だって・・・・。うぅ、最近の優曇華は冷たい」

 

そう言いながら二人?二羽?はバスに乗り込む。

 

「優曇華さんはともかく、てゐさんも・・・。常識人枠とネタ枠の幅が広すぎる人選だ・・・・」

 

優曇華さんが冷たいって、今度はどんな悪戯して優曇華さん怒らせたんだろうか・・・・。

 

「慧音さん、お説教は程々にしませんと出発に支障が出ますよ?」

 

恐る恐ると伊丹が声をかける。

 

「むぅ、それもそうだな。永琳、軟膏で治る怪我か?」

 

「無理ね、この外傷の段階だと自然治癒でも半日は掛かるでしょう。輝夜様、時間も差し迫ってますので・・・・」

 

「分かってるわ。貴方も異論はないわね?」

 

「ああ、ねーよ。つか、こんなボロボロの状態で慧音の見送りなんてできやしねぇ・・・」

 

輝夜は妹紅と向き合い、同時に互いの胸を弾幕で貫く。

 

反対側の景色が見える大穴が胸に出来、輝夜と妹紅はその場に崩れ落ちる。

 

と同時に新しい体が再構築され何事もなかったように二人は立っていた。

 

「いいか、帰って来たらぶっ殺す」

 

「上等、返り討ちにしてやるわ」

 

互いに背を向け輝夜は永琳がすぐに着れるように準備している十二単の元へ向かった。

 

「おう、慧音。土産話頼むぜ」

 

「ああ、留守の間の寺小屋の方は任せた」

 

「おう、と言っても自習だけどな」

 

慧音が先にバスに乗り込み、永琳と輝夜も乗る。

 

まぁ乗る時にまた妹紅と睨み合っていたが。

 

 

 

「えーと、あとは誰が来るんだ?」

 

「伊丹さんも知らないんすか?」

 

「ああ。紫さんが来ればもう誰も来ないって事だってぐらいだけどな」

 

「そうなんすかぁ・・・・。あー、しかし幻想郷ってどんなとこだろ。一度行ってみたいっす」

 

「うーん、紫さんに頼めば行けるかもよ?基本的に来るものは拒まず、去る者は追わずってスタンスだし。まぁ、その前に自衛隊の方の許可とる必要があるかもだけど」

 

「そうっすよね・・・・」

 

少しだけ落胆する倉田。

 

「あ、来ました。小さな女の子です」

 

栗林が二人に参加者が来たことを知らせる。

 

「可愛い、ですか。有難うございます」

 

「へっ!?」

 

倉田が驚きの声をあげた。

 

「何で俺の考えてる事が、ですか。お答えします。あなたの心の声が聞こえたからです」

 

「やぁ、さとりちゃん。さとりちゃんも?」

 

「ええ、お空の代わりに行く事になりました。どうぞよろしく」

 

「も、もしかして・・・・?」

 

倉田が口をパクパクさせる。

 

「ええ、あなたのご想像の通り私は悟り妖怪です。不快な気分にさせてしまったのならば謝罪します。安心して下さい、プライバシーは守ります。では」

 

そう言い残しあっさりとバスに乗り込むさとり。

 

「あ〜、お空ちゃん難しい話駄目だしな・・・・」

 

例の核爆発の説明を聞きたいのだろうがお⑨の異名を持つお空には確かに無理だ。

 

下手したら地図の書き換えが必要になる。

 

「げ、幻想郷ってすげぇっす・・・・」

 

「うん、初めて会った時はびびった」

 

「伊丹さんが最初に読まれた心の声って何でした?」

 

「YESロリータNOタッチ」

 

「サイテーだこの人・・・・」

 

栗林が容赦なくツッコミを入れた。

 

 

 

「どんだけ大所帯で行くんだよ・・・・」

 

伊丹の呟き虚しく今度は三人一度に来た。

 

「い、伊丹さん!あの子足が無いっすよ!?でもって宙に浮いてるっす!?」

 

「ああ、蘇我屠自古ちゃんか。彼女亡霊だからね」

 

「亡霊!?」

 

「おいなんだよ、亡霊じゃ悪いってのかよ?」

 

「およしなさい屠自古。彼は外界の者、外界では亡霊は物語上の存在と聞きます。彼に悪気はないようです、許してあげなさい」

 

「太子様がそうおっしゃるなら・・・・」

 

「あ、神子様もですか?」

 

悩んでも無駄とばかりに開き直る伊丹。

 

「ええ、今の時代の現世の政に興味が湧きました。まぁ、私はよほどの事がない限りは見学ですが」

 

豊聡耳神子が伊丹に答える。

 

「太子様が行くのならば我も行かねば。これも修行の一環だ。間違っても外界を見てみたいという興味からではないぞ?」

 

「布都、本音が漏れてますよ」

 

「はぅっ!?」

 

「久方ぶりの現世です。確かに興味もあるというのも事実。私もそうですから布都が興味本位からでも怒りはしません」

 

「では神子様、バスに乗って待ってて下さい」

 

「この乗り物ですね?分かりました」

 

そう言い終え三人はバスに乗り込んで行く。

 

「可愛い子達でしたねぇ。でも、あのヘッドホンみたいなのをしてた子ってもしかしてパッ」

 

「倉田ちゃん!ちょっとあっちでお話ししよう!」

 

ガシッと倉田の首を腕でホールドするとバスからある程度あるところまで引き摺る。

 

「こ、この辺ならもう大丈夫・・・か?」

 

「ぷはっ!ど、どうしたんすか伊丹さん!?あの子がパッ」

 

「はい黙ろうねー!?」

 

手で倉田の口を塞ぎ指で静かにしろとジェスチャーする。

 

倉田が頷くと伊丹はゆっくりと手を離した。

 

「倉田ちゃん、長生きしたかったらさっきの言葉の続きは神子様の近くじゃ絶対禁句で。いいね?」

 

「わ、分かりました・・・・。で、でも、そんなに強いんですか?なんか伊丹さん、様付けでよんでますし」

 

「あー、強いってのもあるけど・・・・。日本人だからかな?彼女の本名、豊聡耳神子様って言うんだけど・・・」

 

「豊聡耳・・・・?どこかで聞いたことあるような・・・・」

 

「特大ヒント、旧一万円札」

 

「あ・・・あーーーーーー!?聖徳太子!!?」

 

「うん、本当は女の子だったんだって」

 

「れ、歴史が書き換わるっすよ!?」

 

「歴史学者も大変な日になるなぁ・・・」

 

二人は早足でバスまで戻った。

 

戻ると同時にバスのエンジン音とは異なる音が聞こえる。

 

その音はだんだんと近付いてくるが発生源が分からず自衛隊一行は不安げな顔をする。

 

だが音の正体に心当たりのある伊丹は足元の石を拾うとそのまま投げる。

 

「あ、あぶなっ!?盟友、当たったらどうする気なのさ!?」

 

誰もいないのに声がする。

 

「一緒に行くんだろ?ほら、みんなを驚かしてないで姿現したほうがいいぞ」

 

「もうちょっと驚いたリアクションして欲しいんだけど」

 

そう言いながら声の主、河城にとりは光学迷彩スーツのステルス機能をオフにする。

 

音の正体は彼女が背中に背負っている装置のプロペラ音だ。

 

「音だけ聞こえる時点でもう光学迷彩だってバレバレだぞ」

 

「うーん・・・・もっと静音化しないと・・・・」

 

「・・・・・・・・・!?」

 

今までとは真逆の余りにも高度すぎる科学技術がいきなり登場し声を失う自衛隊一行。

 

「いや、プロペラの時点でどうしても風切り音は出るからなぁ。これ以上の静音化は無理じゃないのか?」

 

「物理的限界かぁ・・・。なんかいい方法ないかなぁ・・・・?」

 

あれこれ考えながらにとりはプロペラを畳み込みバスに乗って行く。

 

「ああ、みんなに紹介し忘れたっけな。彼女は河城にとり、ここでは技術開発部門の責任者をやってる河童だよ。商売人としても成功してるから凄いよホント」

 

しみじみと言う伊丹と唖然とする一行。

 

光学迷彩、伊丹は見慣れていて気にしなくなっているが初めて見た一行には超技術の塊である。

 

「あ、霊夢さん。霊夢さんも?」

 

久しぶりに会う霊夢に伊丹が挨拶をする。

 

「ああ、伊丹・・・・」

 

「ど、どうしたんです?なんかげんなりしてますけど・・・」

 

「あんなのをここにくる間中見せつけられたら誰でもこうなるわよ・・・・」

 

霊夢が向けた視線の先。

 

そこに居るのは魔理沙とアリスだ。

 

「百合よ、百合の花が咲いてるのが見えるわ伊丹・・・・。私の気のせいかしら・・・・」

 

「さ、咲いてます・・・・!確かに咲いてます・・・・!」

 

「おいおいアリス、たったの二、三日だぜ?」

 

「二、三日も魔理沙と会えなくなるんだから、今の内に魔理沙分を補充しなくちゃいけないのよ」

 

そこにはなんと、イチャイチャしている魔理沙とアリスの姿が!

 

「ずっとあんな調子よ・・・もうお腹いっぱい・・・」

 

さっさとバスに乗り込む霊夢。

 

結局魔理沙とアリスは紫が来るまでイチャイチャし続けた。

 

それを見た紫は面白いものを見たとでも言わんばかりだった。

 

 

「えーと、幻想郷側は俺を含めて・・・・・」

 

メンバー構成を確認する。

 

永遠亭一同。

 

神霊廟一同。

 

魂魄妖夢。

 

上白沢慧音。

 

古明地さとり。

 

河城にとり。

 

博麗霊夢。

 

霧雨魔理沙。

 

八雲紫。

 

「合計で十五人もっすか!?」

 

改めて人数を確認し大所帯ぶりに思わず叫ぶ。

 

これで異界側のロゥリィ、テュカ、レレィが加わる。

 

「安心なさい、全員が国会に行くわけではないわ。にとりは技術交流、霊夢は外界の『日本巫女連盟』とか言うところとの文化交流、魔理沙はその付き添いで慧音は外界の教育視察、永遠亭は何やら宇宙開発系の連中に用事があるらしいわ」

 

「あれ?神霊廟の神子様達は議会見学ですが・・・・妖夢さんは?」

 

「あの子?おまけよ」

 

「ひどっ!?」

 

見れば、(私、おまけ!?)な表情の妖夢。

 

「冗談よ、一応あなたは空を飛べる様になったけど弾幕はまだ無理でしょ?接近戦とかになった時も困るし、伊丹のボディガードよ」

 

その言葉にホッとしている妖夢がいた。

 

「じゃあ、これで全員ですね?」

 

バスの中を見回す。

 

「ええ、これで全員よ」

 

「?」

 

何故か紫が空席の座席を見て少し笑ったのが気になった伊丹だが時間が押していると倉田が駐屯地からの連絡を受け考えるのをやめ座席に座る。

 

 

バスがゆっくりと走り出す。

 

「た、太子様、牛もいないのに走ってます」

 

「これが今の現世の“自動車”と言う物ですか。現世も便利になったものですね」

 

「見るのと実際に乗るのとでは大違いだな。結構楽しいではないか」

 

神霊廟組は順調に適応している。

 

「ずいぶん揺れるわね・・・まだ内燃機関レベルなのかしら・・・・」

 

「姫、月と比較しても・・・・」

 

「黒い排出ガスの様なものを撒き散らしてますね。こんなのが沢山あるらしいですが、空気を汚しまくってるのでは・・・?」

 

「あたしゃ月の乗り物なんて実際に見た事ないから何とも言えないよ」

 

永遠亭の一部からは結構厳しい評価だ。

 

「これは・・・凄いな。大人数を一度に輸送出来るとは画期的だ」

 

「ほへー、凄いなー」

 

「ええ、確かに」

 

慧音、妖夢、さとりは感心している。

 

「うーん、振動と音が気になるなー。ショックアブソーバーが甘いのかなー?モーターにすればもう少し静かになるのになー。でもバッテリーの問題も・・・」

 

にとりは技術的な問題点の解決法を考えるのに夢中だ。

 

霊夢と魔理沙は一度自衛隊の車に乗ったことがあるから特に問題はないし、紫はリラックスしている。

 

自衛隊駐屯地と紅魔館の中間にある難民キャンプでロゥリィ、テュカ、レレィを拾いバスは自衛隊駐屯地へ。

 

自衛隊駐屯地で何故かピニャ、ボーゼスも同乗した。

 

聞けば日本政府と帝国との間の仲介役になるのを日本政府は期待しているらしい。

 

二人はそのために日本政府から招待され日本行きになったとの事だ。

 

バスはゲートを通り、やがて明かりが見える。

 

自衛隊の管理している銀座のゲートに到着したとアナウンスが入る。

 

ピニャとボーゼスはビル群に見入っている。

 

幻想郷側もその摩天楼に感心したりする者もいる。

 

霊夢と魔理沙はかつてオカルトボール異変の際に外界と思われる場所に来ているためあまり驚かない。

 

逆に「ゴチャゴチャしてる」と辛辣な感想。

 

 

 

一度バスはゲートから一般道へ出る前の連絡等で停止し、敷地内での自由行動を許される。

 

ほとんど降りるものはいなかったが興味から何人かが降りる。

 

「あんたが、“幻想郷”とやらにいたって言う自衛官の伊丹三尉かい?」

 

コートを来た数人の人間が近付いてくる。

 

こんな自衛官だらけの場所で。

 

「えーと、もしかしておたく、公安かな?」

 

「分かるかい?」

 

「何となく、空気がね。それと一応は休職中だから。てか、退職届出してかなり経つんじゃ?」

 

「上の方でも、扱いに困ってるらしい。まさかの日本国内に存在する特地の様な世界“幻想郷”、そこに住んでいた休職中の自衛官。簡単に退職届を受理できんらしい」

 

「あ〜、政治的ゴタゴタに巻き込まれ系な?」

 

「そこまでは分からんよ。しかしもっと分からんのはレンジャー持ちでしかもSなんぞにいたあんたがどうして自衛官の立場をほっぽり出したのかだ」

 

「え、Sううぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

聞き耳を立てていた栗林が叫ぶ。

 

そして「イメージが、イメージがぁぁっ!」と何故か苦悶していた。

 

「ところで、この後すぐに国会?」

 

「いや、まだ二時間程度は大丈夫だ。特地や幻想郷からの来訪者の服を買いに行ったり飯を食う時間ぐらいはあるさ」

 

 

 

日本政府・首相官邸。

 

「いよいよ、今日か・・・」

 

本位総理が閣僚達を前に静かに声を出した。

 

「相変わらず、中国とマスコミは好き放題言ってたが今日のこれで少しは黙らせられればいいがな」

 

嘉納大臣の発言に他の閣僚も頷く。

 

「ところで、幻想郷側からの来訪者の最終報告はそろそろかな?民間団体や公的機関の視察等は調整できているがどの様な人物が来るか・・・」

 

バタバタバタ!ガチャッ!

 

「し、失礼します!」

 

閣僚達はこのパターンにデジャヴを感じる。

 

今度はどんな事態なのだろうか。

 

流石に核爆発級の大爆発を確認した時の報告のような大事ではないだろうが。

 

「おう、どうしたい?」

 

嘉納大臣が飛び込んで来た連絡員にこっちから声をかけた。

 

「げ、幻想郷側の来訪者のリストが届いたのですが、そ、その中に・・・・・」

 

「うん?」

 

「こ、こ、皇族の方がいらっしゃいます!!」

 

「「「「「「はぁっ!!?」」」」」」

 

「こ、皇族ってあの皇族か!?」

 

「は、はいっ!その方の写真がこっ、こちらです!」

 

嘉納大臣に封書を手渡す連絡員。

 

和と書かれたヘッドホンの様な物を耳に付けている。

 

アップの写真と全身が写ったバスの中での写真。

 

「この少女か?」

 

「は、はい・・・・・」

 

「うん?皇族や皇族離脱した元皇族には行方不明になった方はいないはずだが?」

 

そう呟いてリストに目を落とす。

 

ファックスで送られて来た書類に蛍光ペンで線が引かれている。

 

「なになに・・・?名前は・・・・・豊聡耳・・・・神子・・・・?手書きで注釈があるな・・・・。えーと・・・・・・・」

 

そのまま固まってしまう嘉納大臣。

 

「ど、どうしました?」

 

嘉納大臣の様子に本位総理が心配になり声をかけた。

 

口をパクパクさせながら必死にリストをブルブル震える手で本位総理に渡す嘉納大臣。

 

それを受け取り、本位総理が目を通す。

 

「注釈でしたね・・・。ええと・・・・・・しょうとくたいし・・・・・・?」

 

言葉を文字で表したのならおそらく平仮名でだろう。

 

脳が精神を守ろうと自己防衛したのだ。

 

ゆっくと本位総理の脳はその名前を理解して行く。

 

(しょうとくたいし・・・・聖とくたいし・・・・聖徳たいし・・・・聖徳太し・・・・旧一万円札の・・・・)

 

精神が耐えられると脳の防衛機能が判断した。

 

「聖徳太子!!?」

 

本位総理が素で驚きの声をあげた。

 

「「「「「はああああぁぁぁぁっ!!!!?」」」」」

 

同じく耳から入った言葉を脳が防衛処理を終えて理解した閣僚達が素で驚き返した。

 




と、いうわけで日本に着きました。
うん、輝夜さんと月の関係に一部捏造設定で”捜索はされていないけど手配はされたまま”という設定です。
月側が綿月姉妹経由で「協力すれば手配情報どころか輝夜に関する月が保有している情報を抹消してやる」と取引を持ちかけてきたような感じだと思ってもらえば。

神子様=聖徳太子本人で行きます。
いいよね?

日本巫女連盟、架空の団体です。・・・・・・多分。
一応検索してみたけどヒットしなかったから存在しない・・・・よね?

何で魔理沙が霊夢の付き添いかって?
・・・・・・一人じゃ弾幕ごっこできないでしょう?(ゲス顔

自衛隊や内閣ばかりが胃の痛い思いをするのは不公平です。
民間にも同じ思いをしてもらいましょう。


ちなみに最初に書きあがった下書きじゃあもう二人いました。
茨木華扇さんと風見幽香さんです。
しかし本書きを始めている際に華扇さんが日本に行く理由が弱くある意味こじつけっぽかったので除外。
幽香さんは・・・・・オーバーキル過ぎ。
旅館編で旅館が消し飛ぶどころか地形が変わる。
だってせっかくゆうかりん出すんなら、
通称”元祖マスタースパーク”やら通称”ツインスパーク”使ってもらいたいですし。


お空がお花畑な野党連中に批判されたらお空が耐えられないので代理にさとり様。
だってお空だよ?
難しい話ならともかく一方的に批判されたら耐えられないと思う。
国会議事堂消滅議員全員死亡ならマシな方で最悪東京が地図から消える。
皇居にそんな畏れ多い描写出来ないので・・・・・。



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内閣がパニック中な頃、一行は・・・・

佐渡にマミゾウがいた化け狸たちの国があるならこんな連中がいてもいいよね?


 

 

総理以下閣僚達が聖徳太子が実は女性でしかも来訪団の中にいると知りパニックになっていた頃。

 

 

 

衣料品店に立ち寄り服を用意しようとしたが結局買ったのはテュカにスーツ一式のみだった。

 

ロゥリィとレレィは不要だと言い、幻想郷一行もそのままの服装で新たな服は不要だと伝えた。

 

伊丹も今は紫が用意したしっかりとした紋付羽織袴を着用している。

 

「では、食事に行きましょう」

 

牛丼店の前でバスが停止し桑原が降りようとする。

 

だが紫が待ったをかける。

 

「せっかく異界の客人がいるのに、牛丼は如何なものでしょうか?」

 

「はぁ、しかし経費では一食500円までしか・・・・」

 

一瞬伊丹は500円という金額にビビるが外界ではそれが当たり前だと思い出した。

 

日本は戦後にインフレが進んだが幻想郷ではそんな要因は全くなかった為、今でも普通に銭や厘の単位を使用している。

 

そば一杯が5厘前後だ。

 

その金銭単位に慣れきっている霊夢や魔理沙も驚いていたが伊丹が幻想郷での約1銭だと説明をすると納得した。

 

この会話を聞いていた自衛隊一行は幻想郷の貨幣単位が銭や厘を今でも使用している事に驚いていたが。

 

「安心してください、私の奢りですわ。運転手の方、この場所まで行っていただけます?」

 

紫が場所を書いた紙を運転手に渡す。

 

「そんなに離れた場所ではないですね・・・ここから10分程です。どうしますか?」

 

運転手の隊員が桑原に聞く。

 

「分かりました、お言葉にお甘えさせていただきます」

 

運転手に発進を指示しバスは走り出す。

 

目的地前で一行はバスを降りた。

 

運転手はバスを近くに駐車可能スペースに移動させ公安の一同と共に警戒を続ける。

 

桑原は都心近くにまだこの様な場所があるのかと驚く。

 

周囲はサラリーマンやOLが仕事をしているオフィス街だ。

 

だがここは竹が生い茂っている。

 

紫が入り口らしき小道を進み始めたので全員がその後に続く。

 

少し歩いたところで。

 

「あれ?今なんか・・・」

 

伊丹は何か違和感を感じた。

 

「伊丹も気付いた?」

 

霊夢が伊丹の言葉に続く。

 

「ええ・・・なんか違和感を・・・」

 

「結界よ。簡単な結界でいわば音を遮る結界ね」

 

「そう言えば、車の音がしない・・・・」

 

「それと周囲の霊力を集める結界も同時展開されてるわ。とは言っても大量に集める様な結界じゃないわね。地脈とかから漏れている行き場のない余った霊力を集める様な周囲に害を及ばさない様に注意深く張られているわね。紫、あんたの仕業?」

 

「流石は霊夢ね。そうよ、結界が張られてるわ。あ、私は関わってない結界よ」

 

紫が霊夢に答える。

 

話しているうちに突如視界が開ける。

 

そこにあるのは和風建築の建物。

 

暖簾がかけられている。

 

紫はそのまま建物に入り、一行も続く。

 

「八雲様、いつもご贔屓に」

 

料亭の女将の様な格好をした女性が丁寧に出迎える。

 

「お座敷をご用意しております。ささ、どうぞこちらへ・・・」

 

「ありがとう女将さん」

 

女将も紫も互いに顔見知りの様な雰囲気だ。

 

座敷に通され、女中が茶を人数分用意する。

 

5分もしないうちに少し頭の大きい好々爺に見える老人が挨拶に来た。

 

「八雲様、いつもご贔屓に。本日はあまりお時間がないとのことなので、早速ご用意させていただきました」

 

老人が挨拶を終えると女将を筆頭に女中達が配膳する。

 

「それでは、これにて・・・・。ごゆるりとご賞味下さいませ」

 

女中達が退出し終え、老人も挨拶をし部屋を後にする。

 

「さぁ、皆さん。遠慮せずにどうぞ」

 

紫の言葉が終わると同時に霊夢と魔理沙が早速食べ始める。

 

「た、隊長、寿司です・・・。どう見ても高級寿司ですよ・・・・」

 

富田が戸惑う。

 

栗林に至っては固まっている。

 

「う、うむ・・・。や、八雲殿、本当にいいのですか・・・・?」

 

「ええ、むしろ食べていただかないと食材の無駄になってしまいますわ」

 

そう言いながら紫も寿司を食べる。

 

「紫さん、ここってもしかして・・・・?」

 

「あら、やっぱり伊丹にも分かったかしら?」

 

「ええ・・・。女将さん、女中さん、ここのご主人と思われる先程のお爺さん・・・。もしかして全員が妖怪ですか?」

 

「正解よ。規模の大小はあれど、外界にもこの様な場所は幾つかあるわ。佐渡の化け狸達の所とかこことかね。ただ、幻想郷に来なくても存在を維持できる霊力の持ち主とかに限られてしまうけれど。じゃあ、伊丹。先程の老人が何の妖怪か分かるかしら?」

 

「あってるか分かりませんけど、頭が少し大きかったですよね?もしかしてぬらりひょんですか?」

 

「正解よ。ご褒美にいくらを進呈するわ」

 

 

 

「ぴ、ピニャ様・・・・生の魚を食べてます・・・・」

 

「う、うむ・・・。しかし、食欲をそそる香りだ・・・」

 

見ればロゥリィ、テュカ、レレィはすでに美味しそうに食べている。

 

「こ、この“しょうゆ”と言うタレをつけて食べるのか・・・・」

 

「で、では、ピニャ様、ご一緒に・・・・」

 

同時にネタに醤油を付け、見よう見まねで口に入れる。

 

「「んんっ!?」」

 

とろける様な舌触りと口の中に広がる未知の味わいに思わず次のネタに手を伸ばしていた。

 

 

 

「気に入ってくれた様ね」

 

見ればピニャとボーゼスは夢中で寿司を食べている。

 

「でも、紫さん・・・・。ここってすごく高いんじゃ・・・・」

 

「誰もお金で払うなんて言ってないわよ?」

 

「へっ?」

 

「ここ、霊力でも支払いができるのよ。だからここじゃあ基本的に妖怪や神仏の客は霊力払いよ。もちろんお金も使えるけれど」

 

「そう言えば、ここに入ってすぐに変な石に触れてましたけど・・・あれが?」

 

伊丹は入り口にある石を最初に紫が触っていたのを思い出した。

 

最初はオブジェか何かだと思っていたがそんな用途があったのかと感心した。

 

「ええ。もう霊力は分けた後よ。さ、そんな事気にしていないで好きなのを食べていいのよ」

 

紫が促し伊丹も食事を再開した。

 

 

 

「八雲殿、こちらを・・・」

 

食事を終え部屋を出て出入り口に向かうとここの主人のぬらりひょんが二つの包みを渡して来た。

 

「いつもの通り、稲荷寿司の詰め合わせとわさび抜きの詰め合わせをご用意しました」

 

「ええ、ありがとう」

 

紫はそれを受け取るとすぐにスキマを二つ開いて包みをスキマに入れる。

 

「ひょっとして、藍さんと橙ちゃんに?」

 

「そうよ。私達だけ楽しんでいたら不公平でしょう?」

 

話しながら店を出てバスに向かう。

 

 

 

 

 

紫達を見送った後。

 

「ぬらりひょんさん、ちょっといいかい?」

 

「ん?女将、どうした?」

 

「ちょっと気になる事が・・・。先程の八雲様一行は全員で23名だったよね?お土産を入れて25人前。でも27人分の支払いをされていて25人が飲み食いした形跡があるんだよ。どう言う事だい?」

 

「ああ、そんなことか。大丈夫だよ、ちゃんと25人の来客と2人分のお土産だったからね」

 

「?」

 

「さぁ、女将さん。今夜は普通の人間の団体客の予約が入ってるんだ、すぐに準備に入らないと。女中さん達にもいつも通り我々が妖怪だと知られない様に注意する様に伝えておいておくれ」

 

「あいよ、ぬらりひょんさん」

 

女将はぬらりひょんがそう言うのなら大丈夫だと思考を切り替えた。

 

 

 

 

 

バスは途中でパトカーと合流しパトカーの先導で国会議事堂に向かう。

 

敷地内で停車し殆どの人数が降りる。

 

だが紫は座ったままでピニャとボーゼスは降りようとした所を富田に止められる。

 

どうやら非公式来日扱いで富田の同行で外交交渉をするらしい。

 

紫も似た様な要件なので行動を共にするらしい。

 

まだしばらく時間があるらしく議事堂内の一室で待つ事となる。

 

こうなるとどこの世界にもじっとしていられない者が出てくる。

 

「ちょっとお花を摘みに行ってくるウサ」

 

「時間までには帰って来いよー」

 

伊丹が見送るが伊丹自身も緊張の為完全に失念していた。

 

てゐが語尾にウサとつけている時は嘘だと言う重大な特徴を。

 

 

「じっとしてるなんて退屈だわさ。さーって、どこで悪戯しようかな?」

 

すでに殆どの議員が議場入りしている為に人影は殆どなく所々に衛士がいる程度。

 

てゐは上手い事その衛士の目を欺いて廊下を移動しまくる。

 

「トラップ作るのに適した場所が見つからないよ・・・・」

 

はぁっ、と溜息をつく。

 

「そろそろ戻らないと怪しまれるし・・・諦めて戻ろ」

 

早歩きで曲がり角を曲がり・・・・。

 

ドンッ。

 

てゐの体が何かにぶつかり尻餅をつく。

 

「おっと、大丈夫だったかいお嬢ちゃん?」

 

スッと手が差し伸べられてゐは断るのも失礼とその手を取り引き起こしてもらう。

 

「ん?お嬢ちゃんは確か幻想郷からの来訪者だったね?どうしてここに?」

 

「お花を摘んで戻ろうとしたけど迷ったウサ」

 

「それは可哀想に。君、彼女を同行者の方達の所へ連れて行ってあげなさい」

 

「分かりました、総理」

 

てゐがぶつかり、そして手で引き起こした人物。

 

日本国内閣総理大臣・本位であった。

 

彼はてゐと道案内をするよう指示した衛視を見送ると自身も嘉納大臣ら閣僚と警備の衛視達と共に議場へ向かう。

 

そう、彼はてゐと直接接触した。

 

てゐは人間を幸運にする能力の持ち主である。

 

しかし幻想郷で迷いの竹林にて彼女と遭遇した人物はてゐと会える事で生き延びられると言う最大の幸運に恵まれそこで与えられた幸運を使い果たしてしまう。

 

しかしここは迷いの竹林ではない。

 

しかもただ会っただけでなく、助け起こす際に皮膚と皮膚が直接接触した。

 

これで幸運に恵まれない訳がない。

 

事実、彼はこの後様々な幸運に恵まれる事となる。

 




この後の展開には総理に幸運属性があった方がやりやすいので。

紋付羽織袴は江戸時代後期から明治時代初期の庶民の成人男性の今で言う高級スーツに該当するみたいです。

幻想郷以外にも大小いくつかの力のある妖怪や神仏のグループが存在する設定にしました。
まぁ、特に今後の展開にかかわるような設定じゃあないけど。

あと作者は幻想郷の貨幣価値は明治時代のまま設定にしました。
貨幣価値換算の目安はいくつかあったのでその中からそばの値段を基準にした計算方法を。
当時の5厘は今だと280円ぐらいらしいです。
1銭で560円。
1円で56,000円。
こうしてみると今の時代って戦後のインフレで一気に価値が変化しましたよね。
余談ですが作者の手元には500円札が一枚ありました。


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とある国会議員「常識ってなんだっけ?」

期待に答えられるだろうか・・・・・不安。


国会議事堂。

 

そこは議会制民主主義政治を行う日本国の政治の中枢。

 

各選挙区から民意による選挙で選ばれた代議士が国会議員として参議院、衆議院の二つに分かれて国の舵取りをする機関。

 

もっとも民意と言いつつも比例代表という制度で民意では落選しつつもこの比例代表という制度で議員になれたいわゆるゾンビ議員も数多く存在している。

 

そんな議員達の揃った議場内へ姿を現わす者達。

 

特地よりの来訪者、ロゥリィ、テュカ、レレィ。

 

そしてその特地にて遭遇し、なんと日本国内に存在する世界、幻想郷。

 

その幻想郷よりの来訪者達。

 

そしてその幻想郷に住んでいた自衛官、伊丹耀司。

 

特地に派遣された駐屯部隊の深部調査隊隊長、桑原惣一郎。

 

総勢十名が入場をした。

 

屠自古はそのままでは驚かれると渋々床に届くまでの長さのあるスカートを履かされている。

 

パニックを防ぐ為、今の所神子が聖徳太子である事は内閣の判断で伏せられている。

 

「あれが特地と幻想郷の人間・・・・?」

 

「いや、幻想郷には妖怪もいると聞いていたが・・・・」

 

「あの子の横に浮いているの・・・風船・・・・?」

 

「幻想郷の方は伊丹とか言う男以外は全員女の子じゃないか・・・」

 

議員達が思い思いの言葉を言う。

 

用意された椅子に腰掛け、委員長が開会を宣言し質疑応答は始まった。

 

 

 

公共放送の国会中継は高視聴率を出し始める。

 

きっかけは某巨大掲示板に書き込まれた国会中継にエルフが出ていると言う一言。

 

それを目にした人々がテレビのチャンネルを国会中継に変える。

 

街中の巨大ビジョンや家電量販店の販促用展示テレビ、公衆浴場や病院のロビー等に設置されたテレビは全てこの放送を映している。

 

 

 

 

 

一行が待機していた頃から首相補佐官と外務省の役人が特地のピニャ、ボーゼス、そして幻想郷の八雲紫ととある部屋で会談を行っていた。

 

ピニャとボーゼスには通訳として富田、栗林が同行している。

 

まずピニャとボーゼスに伝えられたのは日本国内の無人島の収容所に六千人の捕虜がいるが扱いに苦労していること。

 

日本には身代金を要求する意図はなく、何らかの形での譲渡を求めたい、若干名ならば捕虜の即時引き渡しを行えると伝える。

 

「ところで、幻想郷も特地からの襲撃を受けたと聞きます。そちらにも捕虜が?」

 

首相補佐官が話を振ってくる。

 

「いいえ、幻想郷には異界の捕虜はいませんわ」

 

「いない?一人も・・・ですか?」

 

「ええ。幾人かは門の中に逃げ帰りましたがそのほぼ全てを私の可愛い藍が皆殺しにしましたの。何人かは人里から外の山や森に逃げ込んだようですが・・・」

 

「では、まだ山や森にいるかもと?」

 

「いいえ、まず不可能ですわ。一晩ならいざ知らず、幻想郷の山や森で人間が二晩三晩も生き残るには相当な幸運が必要ですもの。まず妖怪の胃袋の中ですわね。そうそう、襲撃のあった日の夜に散歩をしていたら出会った常闇の妖怪のルーミアがお腹いっぱいで上機嫌だったのを思い出しましたわ。足元に血塗れの鎧と頭蓋骨が転がっていましたの」

 

「・・・・・・・」

 

紫の発言に顔を青くする一同。

 

「と言うわけですので、捕虜はいませんのでお気になさらず」

 

にこやかに物騒な事を言う紫に全員が引いた。

 

「え、ええと・・・・日本国から幻想郷に依頼したいことは・・・・」

 

首相補佐官が紫に依頼した事。

 

それは日本国内の行方不明者の中で幻想郷に迷い込んだ者がいないかどうかの確認だった。

 

「その程度であれば構いませんが必ずしもご期待に添えるかどうかは断言できませんわよ?人里は人間の自治運営ですから、私からは人里に対し依頼するぐらいしか出来ませんので。また、人里に辿り着くか人間に友好的な妖怪に遭遇する前に喰い殺された人もいるかも知れませんが知る術はありませんのであしからず」

 

この時点で紫の交渉は終わった。

 

紫は交渉が終わり次第議場に向かうと伝えてあり、与野党も外務省との交渉が終わり次第八雲紫がこの場に来ると知っている。

 

誰もが普通にドアから入ってくると考えていた。

 

伊丹を含めた幻想郷の一行以外は。

 

案の定だった。

 

しかもあろうことか偶然にもカメラに映っている場所に紫はスキマを開いた。

 

撮影スタッフもギョッとし思わずズームにする。

 

当然、その映像は日本中に放送されている。

 

突如として空間が裂け、その向こうに無数の目が浮いている不気味な空間。

 

その中から紫が出て来るとすぐにスキマは閉じる。

 

なお、ネット上は・・・・

 

 

今の何!?

 

空間が裂けた!?

 

何もないところから人が現れた!?

 

 

 

と大騒ぎ。

 

「静粛に!静粛に!」

 

委員長が騒めく議場内を落ち着かせようとする。

 

「間に合ったかしら?」

 

「その代わりスキマ移動を見た人達が大騒ぎですけれどね」

 

伊丹がさも当然のように答える。

 

伊丹が委員長に今のは紫の能力であることを説明しなんとか落ち着きを取り戻す。

 

 

 

 

落ち着きを取り戻して最初に行われたのは桑原に対する質疑であった。

 

幸原と言う議員が質問者であった。

 

「桑原参考人にお尋ねします。当時自衛隊保護下にあった避難民の六分の一、約百名が、通称ドラゴンによって犠牲になったのは何故でしょうか?」

 

バンッと机にフリップを置く幸原。

 

委員長が桑原を指名し彼はマイクの前に立つ。

 

「お答えします。ただ一言、ドラゴン・・・・特地では炎龍と呼ばれますが、強かったとしか答えようがありません」

 

「私は自衛隊の方針や政府の対応に!問題は無かったのかと聞いているのです!現場指揮官として犠牲者が出たことをどう受け止めているのですか!?その答弁は力量不足の責任転嫁ではないのですか!?」

 

再び桑原が指名される。

 

「私は自分の判断、部下の行動の全てにおいて問題は無かったと確信しています。そもそも、銃の威力が弱過ぎました」

 

はっ?と言う顔をする幸原。

 

「委員長、発言の許可を」

 

伊丹が手を挙げる。

 

「えー、伊丹耀司さん。どうぞ」

 

「ありがとうございます。まず、今現在自分は幻想郷に居住していますが休職中の自衛官です。まぁ、なかなか退職願が受理されないのですが・・・」

 

こほんっ、と咳払いをする。

 

「えー、当時炎龍と戦闘に突入した際の戦いを見ていました。と言うより、自分も参加しました」

 

「み、民間人に銃を渡したのですか!?」

 

幸原が驚きつつも不敵な笑みを浮かべる。

 

「いえ、自前の武器です。小型の試作品レールガンを護身用にと持たされていたのでそれを使いました」

 

「れ、レールガン!?」

 

議員の誰かが思わず声をあげた。

 

ネット上でも

 

 

レールガン!?

 

ハイテクすぎだろ!?

 

米軍ですら大型の試作品を作ってる最中なのに!?

 

とのコメントが流れる。

 

 

「このレールガン、後に当時桑原隊長さんとその部下の方達が使用していた銃器と比較実験を行っています。そうですよね?」

 

伊丹は防衛省の方を見る。

 

「委員長」

 

防衛省の副大臣が手を挙げる。

 

指名され、答弁台の前に立つ副大臣。

 

「えー、伊丹氏の発言にありましたレールガンですが、確かに幻想郷の協力の元に比較実験を行っています。銃器比較実験では伊丹氏の所持していたレールガンの威力は隊員達の使用していた銃より威力があったのは確かです。ですが本省がサンプルとして入手した鱗を解析した結果、ダイヤモンドの次に硬く、そして重量は七分の一です。さらに超高温の炎を吐くと言う、まさに空を飛ぶ戦車。他のサンプルの鱗に行った射撃実験ではレールガンでも表面を削ることしかできないという結果に終わりました。更に付け加えれば、伊丹氏のレールガンは試作品段階であり、また戦闘を想定していなかったために専用の弾丸をそれほど所持していなかったこと、及びバッテリーの連続使用可能時間からみてももし伊丹氏が十二分な弾丸を持ち、また仮にの話ではありますが自衛隊員が同様の武器を所持していたとしましてもこの炎龍を倒す事は不可能であったでしょう」

 

席に戻る副大臣。

 

「えー、防衛省の方ありがとうございます。ついでに言えば退職届を早く受理してくれるともっと嬉しいです」

 

この発言に与党の一部の議員からは笑い声が漏れた。

 

「えー、幸原議員。あなたが本当に質問したいのはこんな事じゃないでしょう?異界・・・・あ、こっちじゃ特地か・・・特地にて確認された核爆発に匹敵する大規模爆発についてでしょう?」

 

「そ、それもあります」

 

「ならばお答えしましょう。あの時炎龍はすでに自衛隊及び我々を“餌”ではなく“敵”と認識していたと思われます」

 

「何故、そう思われたのですか?」

 

「無防備な状態で逃げていた避難民には目もくれずに自衛隊車両を執拗に狙い続けたからです。片目を潰しても逃げずに狙い続けてました。だから私は決断しました。決着をつけるしかない・・・。だから核爆発を起こしたのです」

 

「今、核爆発を起こしたと言いましたね!?核兵器を所持しているのですか!?幻想郷は日本国内にあるなら、当然非核三原則が」

 

「言葉を遮りますが、核兵器は使用していません」

 

「なら、どうやって核爆発を起こしたと言うのですか!?」

 

「お空ちゃんに頼んで小型の太陽を創って貰いました」

 

はっ?

 

と言う表情をする議員一同。

 

いや、議員だけでなくテレビを見ていた人々もほぼ全てが同じ顔をした。

 

ネット上でも

 

 

え?

 

どゆこと?

 

ちょっと意味がわからない

 

 

等のコメントが。

 

「えー、お空ちゃんに関しての詳しい説明は彼女が行います」

 

伊丹の発言の直後にさとりが手をあげた。

 

「えー、古明地さとりさん。どうぞ」

 

伊丹と入れ替わりさとりが答弁台に立つ。

 

なおネット上では、

 

 

ロリッ子キター!

 

かわいー!

 

 

等のコメントが。

 

 

「こちらが私のペットのお空、霊烏路 空です。いい子ですよ?」

 

お空の写真を貼り付けたフリップを出すさとり。

 

「ぺ、ペット・・・・・?」

 

「人間じゃ・・・・いや、黒い翼が生えてる・・・!? 」

 

等、議員席がざわめく。

 

「お空ですが、八咫烏の分霊を持つ地獄鴉の妖怪です」

 

「妖怪・・・!?」

 

「はい。八咫烏は太陽、つまり核融合の制御能力を持ちます。高温が平気なのでお空には地霊殿下の灼熱地獄跡の管理を任せています」

 

パクパクと言葉を出せない幸原。

 

ネット上では

 

 

妖怪!?

 

つか、核融合を制御する妖怪!?

 

何気に灼熱地獄跡って言ってたぞ!?

 

 

等のコメントが。

 

 

「核融合を制御する能力があるので小型の太陽を作ることができます。その小型の太陽の制御を放棄すれば大爆発が起きます。これが恐らくは核爆発というものなのでしょうか?お空を直接ここに連れてこなかったのは鳥頭ですぐに物事を忘れてしまう上に難しい話がダメだからです。面倒になると周りの物を吹き飛ばす困った子なので」

 

ペコリ、と一礼しさとりは席に戻る。

 

唖然とし幸原は幻想郷側への追求を諦めた。

 

その後は再び質疑応答が再開される。

 

幸原は異界のレレィ、テュカの順番で質問をする。

 

だがそれらの質問はどう聞いても自衛隊を攻撃するための材料探しである。

 

 

 

 

 

豊聡耳神子は現世の政に興味があった。

 

だから外界へ来る前に鈴奈庵で借りた無縁塚で拾われ修繕された外界の本“六法全書”を始め憲法・法律関係の本を隅の隅まで読み漁った。

 

それこそ外界の憲法学者・法律学者顔負けの知識を今の彼女は有している。

 

自分が人として生きていた時代から千四百年近く経った今の政がどれだけ進歩したのかを楽しみにしていた。

 

だが。

 

これはなんなのだという思いが湧き上がって来る。

 

聴こえ過ぎを防ぐ為にしている耳当てを外した神子の耳には様々な声が入って来る。

 

常人にはザワザワとした雑音にしか聴こえず誰がどんな言葉を発したかを理解しろなど無理な相談である。

 

だが神子は持てる全ての力を総動員し耳に入る言葉を聞き分けている。

 

 

足の引っ張り合い。

 

粗探し。

 

 

そうとしか言いようがない。

 

与党と呼ばれる政を行う集団に対し野党という有象無象の集まった集団が野次を飛ばし発言の揚げ足をとるのに必死にしか見えない。

 

本来の与党の政に対し欠点を指摘し建設的な提案を行うと言う野党の役割の姿はそこにはない。

 

 

 

「と、屠自古よ・・・・。太子様のお顔が怖いのじゃが・・・・・」

 

「は、ははっ・・・・。ふ、布都、き、気のせいだろう・・・・・・」

 

そう言い返すも屠自古の目にも神子の顔が怒りを抑えている顔にしか見えない。

 

外からはゴロゴロと微かに音がする。

 

「と、屠自古よ、雷を鳴らすでない・・・・」

 

「何もしていないぞ・・・・本当だぞ・・・」

 

蘇我屠自古は亡霊である。

 

亡霊はその力の段階により雷を鳴らす、落雷を起こすなどが可能になる。

 

屠自古は落雷を起こせる。

 

一方、豊聡耳神子はその逆であり神霊・・・神に至っている。

 

亡霊に出来て神に出来ないなど誰が言ったのか。

 

今の国会議事堂上空は神子の怒りに合わせ急速に暗雲が垂れ込めゴロゴロと音が鳴り始めている。

 

だが今のここでは客人の身であり、必死に怒りを抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸原の質問はロゥリィに行われている。

 

政府と自衛隊の非を探すのに必死なその姿。

 

ロゥリィはただ一言、「あなたおバカぁ?」と答えた。

 

言葉が続き、幸原が怒りで口元をピクピクさせる。

 

年長者を敬え、自分は常日頃からそう主張している、とロゥリィに喰ってかかる。

 

ロゥリィの雰囲気が変わった事を伊丹はすぐに察し惨劇を止めようと行動を起こした。

 

「委員長!幸原議員の重大な勘違いを正すために発言の許可を!!」

 

あまりに必死なその姿に思わず発言を許可する委員長。

 

「えー、一般的に人は外見から年齢を判断します。しかし、外見と年齢が釣り合わないこともあるのです」

 

「じゃあ、そちらのロゥリィ・マーキュリーさんはおいくつですか?」

 

女に年齢を聞くものじゃないと言っていたが伊丹が促しロゥリィは年齢を言う。

 

「九百六十一歳よぉ」

 

「十二、三歳にしか見えんぞ・・・・」

 

「そ、そちらのテュカさんは?」

 

「百六十五歳」

 

女性議員がゴクリと息を飲む。

 

「ま、まさか・・・・」

 

議員達がレレィを見るがレレィは「十五歳」と答える。

 

レレィが伊丹と代わり、異界の種族のことを説明する。

 

ポカンとする議員達。

 

「でも、幻想郷も凄い。あそこに座ってる三人、全員千四百歳超えてる」

 

レレィが神霊廟一行を見て言う。

 

「はぁっ!?」

 

思わず何処かの議員が声を上げた。

 

幻想郷は日本国内にあるなら住んでいるのも当然ほとんどが日本人である。

 

そしてあそこにいる一行も古風だが名前からして日本人。

 

その一行が千四百歳越えだと聞かされて驚かないはずがない。

 

議員がさとりを見た。

 

「あ、私も同じくらいです」

 

あんぐりと口を開ける議員達。

 

そのまま視線は妖夢にスライドし

 

「あ、わ、私はそんな年齢じゃありませんよ!?」

 

手を振って否定する姿にホッとする議員達。

 

「私、まだたったの六十歳ですから!ピチピチですから!」

 

まさに上げて落とす。

 

遠くから見てもツヤと潤いのある肌を持っているのに六十歳。

 

女性議員達はその秘訣を知りたがる。

 

そしてそのまま視線は更にスライドし八雲紫が座っているところには何故か八雲紫の服装をした幼女がいた。

 

「やくもゆかり、ろくさいです!」

 

「うわー・・・・」

 

絶対に面白がってると伊丹は確信した。

 

騒めく中で紫は「プークスクス」と笑いながらいつもの姿に戻った。

 

なお、ネット上では・・・・

 

 

今の女の人、幼女に変わった!?

 

もうわけわからん!

 

誰か説明プリーズ・・・・・。

 

 

とのコメントが。

 

 

 

「ここには来ていないけど、待合室で待ってるウサギの人は百八十万歳になったばかりだって言ってた」

 

「「「「「「はああぁぁぁぁぁっ!!!!?」」」」」」

 

レレィの言葉に思わず叫ぶ議員達。

 

伊丹はすぐにてゐだなと呟いた。

 

「委員長」

 

「い、伊丹さん・・・どうぞ・・・」

 

「えー、今の百八十万歳のウサギの人ですが、日本神話の因幡の素兎さんその人?兎?です」

 

「そ、そうですか・・・・神話のウサギさんですか・・・・あはははは・・・・・」

 

胃がキリキリと痛み始める委員長。

 

「し、質問は以上です・・・・・・・」

 

幸原議員が引き下がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

通常はここで終わるのだが今回は特例でこちら側からも質問できることになっていた。

 

「えー、質問のある方はいらっしゃいますでしょうか・・・・・?」

 

なぜか敬語の委員長。

 

スッと二人が手をあげた。

 

豊聡耳神子と古明地さとりである。

 

怒りの中でも冷静さを失っていない神子はさとりがどのような質問をするのか興味が湧いた。

 

悟り妖怪が質問をすると言うことはさとりの知らない言葉でもあったのだろうかと興味を惹かれた。

 

だから神子は最初の質問をさとりに譲った。

 

「えー・・・、古明地さとりさん・・・・」

 

指名され今度は質問者として立つ。

 

「幸原議員さんにお聞きしたいことがあります。いくつかわからないことがあったので」

 

「な、何でしょうか?」

 

幸原は内心ドキドキしつつもチャンスだと思った。

 

千四百歳越えに質問される。

 

議員として箔がつく、次の選挙での選挙運動で有利になると打算的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、さとりは超弩級の爆弾の起爆スイッチを押した。

 

「二重国籍って何でしょうか?バレたら困ると考えてるみたいですが?それと全ては薹 徳愁国家主席の為にとはどう言う意味なのでしょうか?」

 

 

 

なお、この質問を聞いた瞬間の紫は最高に面白いことになると期待からお肌がツヤツヤし始めていた。

 




大丈夫!幸原議員は実在しない架空の人物だから!


次回、公開処刑。
そして国会に落ちる神子様のリアル雷。
(予定です)

さとりさんの年齢は諸説ありましたが1千歳越えにしました。


ところで神子様ってもう神に至ってるよね?
いろいろ調べて神子様は本物の神霊ってあるし神霊は霊の中でも神として崇められているってあるし。


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視聴者「まさに混乱の極み」

大部分をウトウトしながら書いていた・・・・。
無駄な部分とか削り落として足りない部分を書き足して仕上げてみました。
普通なら有り得ない事が多々あるけど生温かい目で読んでやってください。
毎度の事ながら妄想全開の上にちょっと暴走気味で書いてしまった・・・。

色んな機関の関係とかは作者の想像なので違ってても気にしないでね。



こまけぇこたぁいいんだよ!!ヾ(´∀`ヾ)


 

「二重国籍って何でしょうか?バレたら困ると考えてるみたいですが?それと全ては薹 徳愁国家主席の為にとはどう言う意味なのでしょうか?」

 

さとりの口から発せられた言葉を聞いた途端、幸原は固まる。

 

頭の中が真っ白になり、何も考えられない。

 

もしその瞬間がずっと続けばあるいは助かったかもしれない。

 

覚妖怪の弱点は無意識。

 

無意識の妖怪こいしの心はさとりにも読めず、行動の予測出来ない存在である。

 

つまりは無意識こそ悟り妖怪の天敵。

 

しかし無情にも幸原の思考は戻り出す。

 

「成る程、二重国籍とはこの国の制度では認められていない、ですか。薹 徳愁国家主席とは中国の指導者、ですか」

 

「な、ななな・・・・」

 

「スパイだとバレる訳にはいかない、何としても誤魔化さなければ・・・、ですか」

 

「い、一体なにが・・・・ま、まさか・・・・」

 

言葉を失っている幸原に対し次々と爆弾発言をするさとりを見て何かを思いつく委員長。

 

「はい、いまあなたが思った通りです。私は悟り妖怪、心の声が聞こえるのです。そう言えば開会前にあなたの考えていたのはお孫さんがハイハイから歩けるようになった事でしたね。おめでとうございます」

 

「あ、当たってる!?」

 

騒めく議場内。

 

後ろめたいことのある議員は生きた心地がしない。

 

 

なお、ネット上は・・・・

 

 

覚妖怪!?

 

心が読める!?政治家の大敵じゃん!!

 

つか、何気に幸原がスパイだって言ってたぞ!?

 

怖いけど会ってみたい!

 

 

等のコメントが。

 

 

「な、ななな、何を言ってるのかしら、お、お嬢ちゃん・・・・・」

 

内心を文字通り見透かされ挙動不審になる幸原。

 

「わ、わた、私は・・・」

 

何かを発言しようとする幸原。

 

だが次の瞬間他の議員達の怒号が鳴り響いた。

 

「す、スパイだと!?」

 

「国家主席の為にって事は、中国のか!?」

 

「どういう事だ!」

 

「説明しろ幸原議員!」

 

与党は言うに及ばず、極一部の野党党員からも追及の声が上がる。

 

頭の中がぐるぐる回る幸原。

 

「おや、背乗り?どういう意味でしょうか?本当の幸原みずきは別にいる・・・・、ですか」

 

「!!!?」

 

再びさとりの口から発せられる発言。

 

 

ネット上では、

 

 

背乗りかよ!?

 

スパイってマジか!?

 

本当の幸原みずきさんはどこにいるんだ!?

 

なりすましかよ!?

 

 

とのコメントが流れる。

 

 

そしてさとりの口から発せられる特大級の発言。

 

「本物の幸原みずきは土の中、ですか」

 

「!!!!!!!?」

 

 

ネット上では

 

 

おいおいおいおい!?

 

なりすましだけじゃなく、埋めたって事か!?

 

警察早く逮捕しろよ!!

 

本物は死んで、いや殺されたのか!?

 

 

とのコメントが。

 

 

議場内は大騒ぎになる。

 

 

「どういう事だ!?」

 

「本当は幸原じゃないって事か!?」

 

「土の中!?事実ならこれは殺人事件だぞ!!」

 

与党の追求に幸原の取り巻き議員達が必死で反論を始める。

 

「証拠がないぞ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「証拠を出せ!!」

 

「言いがかりだ!!」

 

 

言い争いだけならまだマシだろう。

 

しかしあろう事か議席を離れ取っ組み合いになってしまう。

 

売り言葉に買い言葉の喧嘩状態。

 

 

 

ブチンッ。

 

布都と屠自古は同時に神子からそんな音が聞こえた気がした。

 

 

 

「黙らっしゃい!!!!」

 

ビシャッ!バリバリバリバリッ!ズッドオオォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

神子の怒声と同時に国会議事堂の避雷針に落雷が直撃し振動と轟音が議場内を襲う。

 

突然の轟音にシン・・・と静まる議場内。

 

この時国会の外を撮影していた民間テレビ局は国会議事堂上空で荒れ狂う雷雲と立て続けに発生する稲光と雷音をカメラに収めた。

 

それは正に神子の、神の怒りを体現していた。

 

「一体なんなのですかお前達は!!それでも政を担う集団ですか!!聞いていれば揚げ足取りの言い争いばかり!!この醜態は民も見ているのでしょうに!!恥を知りなさい!!!」

 

「ふ、布都・・・・・。このようにお怒りになった太子様を見たことはあるか・・・・・?」

 

「と、屠自古よ・・・我もこんなに本気で怒った太子様を初めて見るぞ・・・・。すごく怖いのじゃ・・・・・・」

 

思わず屠自古と布都は互いに目を見合わせた。

 

外からは荒れ狂ったような落雷の振動と音が聞こえ続けている。

 

 

ネット上では

 

あれ?何で議員連中黙っちまったんだ?

 

うーん、わからん。この子が怒ってるのに合わせてなんか音が聞こえるけど、何の音?

 

俺の会社から国会議事堂の方角がよく見えるんだけど、なんか国会の周辺だけ物凄く曇ってて雷がドカンドカン落ちてる・・・・。

 

俺、今国会の方の空がよく見える場所にいるからつい今しがた撮った動画うpするわ

 

サンクス

 

 

ネット民動画視聴後

 

 

うわ、何だこれ!?

 

気象的にありえるのか!?ゲリラ豪雨でもこんなに酷い落雷の連発なんてないんじゃ!?

 

みんな民放でも国会の外の映像流れてるぞ!

 

二画面にして見てるんだけど、この子が怒るのに合わせてドッカンドッカン雷落ちてるようにしか見えない

 

リアル雷落としwww

 

え?もしかしてこの子が雷落としてるの?

 

ははは。まさか。そんなのが出来るの神様だけだろ。

 

この子神様だったりしてwww

 

あるあ・・・・・ねーよwww

 

等のコメントが流れていく。

 

 

一方議場内では一時は静かになったものの再び野党が野次を飛ばし始め元の木阿弥状態に。

 

そして何をとち狂ったのか幸原の取り巻き議員達は攻撃の矛先を神子に向けた。

 

これ幸いにと幸原になりすましたスパイも便乗する。

 

だが憲法・法律学者顔負けの知識を得、さらに通常時でさえ十人の声を聞き分ける能力を持つ神子に死角はない。

 

次々とぐうの音も出ない程に論破して行く。

 

しかしあろう事か議論では勝てないと分かると神子に対し罵詈雑言を浴びせかける。

 

流石にこれには布都と屠自古も黙っていなかった。

 

「こ、此奴等、太子様になんと無礼な口を!!」

 

「太子様に仇なす不逞の輩が!やってやんよ!!」

 

屠自古は鬱陶しいとばかりに下半身を隠していた床にまで届くスカートを脱ぎ捨てる。

 

まずいとカメラはパンしたが現れたその下半身に思わず再びカメラは戻った。

 

足が無い。

 

浮いている。

 

本来のスカートからチラチラと姿を見せる霊体。

 

 

ネット上では

 

 

なにあれ!!?

 

本物の幽霊!?

 

ぷ、プラズマじゃ無いの!?

 

幽霊って実在したの!?

 

プラズマです!すべてプラズマで説明でき・・・・ねーよ!マジかよ!?

 

 

とのコメントが流れるが混乱の極みにある議員達には見えていなかった。

 

 

 

ヒートアップする取り巻きの野党議員達。

 

しかし次第に日本語以外の言葉が混じり出す。

 

ネット上では

 

 

何処の言葉だ?方言?

 

いや、どう聞いても日本語じゃなかった。それでいて英語でもない。

 

なんか中国語っぽかった気がする。

 

俺は韓国語が聞こえた。

 

 

 

とのコメントが流れる。

 

 

 

「みなさんお静かに!お静かに!静粛に!静粛に!静かにしろっつってんだろ!!・・・・・うっ・・・・」

 

叫んだ後にバタッ・・・と、委員長が倒れる。

 

「委員長が倒れた!」

 

「とにかくここから運び出すんだ!」

 

すぐに担架が運び込まれ運び出されるが議場内の騒動は治らない。

 

神子の説教はすでに野党だけでなく情けない与党にも向かっている。

 

 

ネット上では

 

 

委員長が倒れちまった!

 

おいおい、どう収拾するんだこれ!?

 

おもしれー!

 

 

等のコメントが流れる。

 

 

 

「み、神子様!神子様!少し落ち着いてください!!」

 

伊丹がなんとか怒りを鎮めようとする。

 

一介の人間が神の怒りを鎮めようとする・・・ある意味神話のワンシーンにありそうな場面だ。

 

だが次の瞬間、なんと神子の顔面に靴が投げつけられた。

 

突然の出来事に神子も混乱に陥っていた議場も静かになる。

 

ピタリと雷鳴も収まっている。

 

布都と屠自古もゴクリと息を飲む。

 

誰が靴を投げたのかと伊丹は飛んできた方向を見る。

 

そこにいたのは偽幸原議員と取り巻き連中。

 

幸原の足をみれば靴が片方ない。

 

そしてこの時、運悪く伊丹は答弁台のマイク近くにいた。

 

マイクの電源は入っている。

 

 

「あ、ああああーーーーーっ!?こ、このオバハン聖徳太子様に靴投げつけやがったーーーーーーっ!!」

 

一瞬の静寂。

 

次の瞬間、議場だけでなく中継を見ていた人々、それこそ街頭ビジョンや家電店、病院のロビー等でこの中継を見ていた人々も含め全員が

 

「「「「「「「「しょ、聖徳太子ーーーーーーーーーーー!!!!?」」」」」」」

 

と叫んだ。

 

 

ネット上では

 

 

え!?しょ、聖徳太子!!?

 

え?でも聖徳太子は男で、女?

 

聖徳太子は女の子だった!!?

 

つか、何気に幸原の事をオバハンって言ったぞwww

 

 

とのコメントが流れる。

 

サーバーが持ち堪えていられるのが正に奇跡である。

 

 

靴の直撃で神子は少し落ち着きを取り戻したらしい。

 

「ええ、確かに私は後世の現世では聖徳太子と呼ばれているそうですね。ですが!なぜ私が男として伝えられているのですか!?私は生まれてからずっと女です!!」

 

「あ、やっぱ気にしてたんだ・・・・・」

 

神子の叫びに伊丹が呟いた。

 

 

 

 

 

歴史学者・岡村(モブ)は日本史を大学で教えている。

 

世間では特地やら幻想郷やらからの訪問者が公共放送で見れるらしいが興味はなかった。

 

貴重な歴史書や遺跡発掘現場の写真を眺めている方が有意義だと考えている。

 

「きょ、教授!テレビ!テレビを見て!」

 

助教授がドタドタバタバタと駆け込んできた。

 

岡村は少しムッとした。

 

悠久の過去に想いを馳せる至福の時を邪魔されたからだ。

 

「そんな物を見て何になる。君も落ち着いて悠久の昔に想いを馳せなさい」

 

「ああもう!日本史がひっくり返るかもっていうのに!!」

 

助教授は焦れったいとばかりにリモコンを探し当てテレビを付ける。

 

映ったのは民法だ。

 

だがこの時点ですでに民法も公共放送から映像を入手してトップニュースで伝えていた。

 

「全く信じられません!日本の歴史がひっくり返ります!現代に蘇った聖徳太子!しかも聖徳太子は女性だそうです!」

 

映像は議員に説教をする神子の姿。

 

その映像は伝承通り十人の声を聞き分け的確に反論を行なっている姿だ。

 

岡本が固まる。

 

チャンネルを変えると同じようなシーンだがこのチャンネルでは布都と屠自古の予測解説をしていた。

 

「この子ですが、名前からして恐らくは物部布都姫ではないかと思われます。布都姫は悪女として伝わっていますが、この映像からはとてもそんな感じには・・・・。そしてこちらの足が幽霊のような少女。名前から判断するに、恐らくは刀自古郎女ではないかと。刀自古郎女は女性で聖徳太子の妻として伝えられていますが、聖徳太子が女性であったと言うことは実は姉妹の様な間柄だったのではと想像されます。詳しくは彼女達に聞く機会があればいいのですが・・・・」

 

「教授・・・・・?」

 

バタッ。

 

「きょ、教授が倒れた!119番!誰か119番!」

 

 

 

 

 

場面は国会へと戻り。

 

少しは落ち着いたのも束の間、幸原議員偽物疑惑で再び紛糾していた。

 

ちなみに後ろめたい覚えのない議員が複数人、自ら人柱となりさとりの能力を証明。

 

公安がさとりから詳しい情報を得て捜査を開始を始めている。

 

公安が幸原の政治資金に疑問を持ち調査していたものの確証が得られず断念していた違法献金疑惑があったらしい。

 

さとりの読み取った幸原のバレたら困ると考えていた事の中にこれを裏付けられそうな物証の存在があった事から公安はまず政治資金の方面から調査を開始し始めていた。

 

 

 

 

 

言い争いをしている与野党の姿を見ている神子の顔が再び怖くなる。

 

外からは再びゴロゴロと微かに聞こえ始める。

 

「しゅ、収拾がつかねぇ・・・・。あ、あれ?紫さんは?そう言えばかなり前から姿が見えない気が・・・・」

 

「紫さんなら助っ人を連れてくると仰ってましたが・・・・」

 

妖夢が答える。

 

「す、助っ人・・・・?嫌な予感しかしねぇ・・・・・」

 

 

 

しばらくし、神子の怒りが再び落ちそうになった時。

 

スキマが開き紫が戻ってきた。

 

カメラは再びスキマから出てくる紫を撮影する。

 

だが今度はもう一人いる。

 

その人物を見た瞬間の伊丹はもしギャグ漫画なら顎が地面に着く程の驚き様だった。

 

 

 

 

 

「紫、私を外界に連れてきてどうする気なんですか!?外界は私の管轄じゃないって知ってるでしょう!?」

 

四季映姫・ヤマザナドゥ・・・地獄の閻魔様だ。

 

「あ、大丈夫よ。こっちの方の担当してる方には許可もらったから」

 

あっさりと言う紫。

 

「だとしても!私が裁くのは死者であって生者では・・・・!」

 

 

パンパン!と手を叩き注目させる紫。

 

「えー、皆様大変混乱していると思います、そこで幻想郷から助っ人をお連れしましました。ご紹介します、四季映姫・ヤマザナドゥさんですわ」

 

「あ、どうも。こんにちわ、どうも」

 

ペコペコと挨拶をする映姫。

 

 

ネット上では

 

 

またロリッ子キターーーーー!

 

もうどんなのが来ても驚かない。

 

今度はどんなトンデモなんだ?

 

 

 

とのコメントが流れる。

 

 

「では、映姫さん。自己紹介をどうぞ」

 

紫がノリノリで司会を行う。

 

「は、はい!し、四季映姫・ヤマザナドゥと言います!幻想郷の地獄の最高裁判長をやってます!」

 

 

 

ネット上では

 

 

 

は?

 

えーと、じごくのさいこうさいばんちょう・・・・?

 

閻魔様じゃねーか!!

 

閻魔大王だ!!

 

ごめん、驚かないってさっき言ったけど無理・・・・つか、じゃあ地獄って実在するの!!?

 

ロリッ子閻魔様!?

 

 

 

 

等のコメントが流れる。

 

 

 

「補足をいたしますと、彼女は幻想郷の閻魔でありまして外界・・・つまりはこちら側の閻魔ではありません。こちら側の閻魔は・・・そうですね、一言で言い表すなら・・・・」

 

ゴクリと議員や視聴者達は固唾を呑む。

 

「人間で例えるならもう少しでお孫さんに『お爺ちゃんお口臭い』と言われ加齢臭で凹んでしまう様な年齢になる感じの外見の方ですの」

 

ネット上では・・・

 

 

 

いやだあああああぁぁぁぁぁっ!!

 

なんでや!なんで幻想郷はロリッ子閻魔でこっちは加齢臭じじぃ閻魔なんや!!

 

夢も希望もない!!

 

このロリッ子閻魔様に死んだ後裁かれたい!!

 

 

 

と阿鼻叫喚。

 

 

 

「で、誰を見ればいいんですか・・・・?」

 

諦めモードの映姫に紫が指差す人物。

 

渦中の人、偽物疑惑の幸原である。

 

見た瞬間、映姫はその真っ黒過ぎに眩暈を覚えた。

 

ここまでの真っ黒はなかなかお目にかかれない。

 

反射的に「有罪!」と叫んでいた。

 

 

 

その後。

 

委員長が永琳の治療後に復帰しなんとかこの場を閉会にできた。

 

後の日本の国会史に残るとてつもない議会となったが。

 

 

なお、後日。

 

豊聡耳神子、布都、屠自古から詳しい話を聞くことの出来た歴史学者達が半信半疑で調べた結果証言通りの複数の場所から遺物が出土。

 

半数近くは痛みが激しかったものの残りは保存状態が良好。

 

炭素年代測定により飛鳥時代の物であると確認された。

 

遺物の中には水の侵入を防ぐ為に蝋で覆った箱も有り、内部より後に重要文化財に指定される当時の政を記した本や未だ知られていなかった遺跡が出土。

 

過去の神子の事を記述した知られていなかった官報やとある貴族と神子がやり取りした手紙の様なものも良好な保存状態で出土等の証拠が重なった結果。

 

次年度からの教科書は大きく変わり本人がいるのだからとカラー写真で豊聡耳神子、別名・聖徳太子と記述される様になった。

 

また悪女として悪名高かった布都姫も実はアホの子、刀自古郎女はヤンキー娘だと日本史に刻まれてしまったのはまた別の話。

 

その他にも色々と新事実が発覚し日本史は大きく書き直される事となる。

 

なお、一番泣いたのはセンター試験で日本史を選択するつもりで勉強していた受験生達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸原議員!一言!一言お願いします!!」

 

「偽物疑惑の真偽は!?」

 

「中国のスパイというのは事実なんですか!?」

 

記者達が幸原議員をもみくちゃにする。

 

「の、ノーコメント!ノーコメント!通しなさい!」

 

数人の秘書が車までの道を開けさせようとする。

 

衛視達が幸原と記者達の間の壁になるが彼らの内心はすべて「何でこんな奴を仕事だからとは言え守らないといけないんだ」と共通していた。

 

 

 

それを部屋の窓から眺める伊丹。

 

「幸原ももうおしまいだな」

 

公安の駒門が話しかけてきた。

 

「さっき報告が上がってきた。令状を持って幸原の事務所に強制捜査が入ったが、まぁ出るわ出るわ。違法献金、贈収賄、選挙法違反容疑の証拠のオンパレードだ。これだけの騒ぎになったからか捜査の妨害も来なくなった。例の二重国籍も事実だった。奴さん、中国との二重国籍だったぜ。こうなるとスパイってのも真実味を帯びてくるな。地元の警察だけじゃあ不安だってんで、公安からも応援が向かってる。例の悟り妖怪の読んだ通りに死体が出て来りゃあチェックメイトだ」

 

「は、ははは・・・・。なんて日だよ今日は・・・・」

 

流石に疲労感が出てくる伊丹。

 

「駒門さん」

 

公安の部下だろうか、駒門に声をかけて来た男がいた。

 

「は?そいつぁマジか?」

 

「ええ・・・・。これがその映像を収めたディスクです。再生しますか?」

 

「ああ、頼む」

 

駒門が伊丹に向き直る。

 

「別件でちょいとした問題が持ち上がった。一緒に見てもらえるかい?」

 

「映像・・・・ですか?」

 

「ああ。国会の出入り口の映像だ。撮影していた時は気付かなかったらしいが、編集してる時に気付いたらしい」

 

映像が再生される。

 

興味から近くにいた妖夢もそれを覗き込む。

 

何気ないいつもと同じ国会前の出入り口の映像だ。

 

衛視がいつもより厳重に警備に当たっている事以外は。

 

と、内側から出てくる人物が二人いる。

 

一人はまだ子供、もう一人は二十代後半に見える。

 

だが衛視の誰も気にしない・・・いや、気付いていない。

 

そして映像の中のその人物を見た瞬間。

 

「こいしちゃん!?」

 

「幽々子様!?」

 

伊丹と妖夢の叫び声が上がった。

 

 

 

 

 




幸原議員終了のお知らせ。
うん、暴走してしまったけど反省もしていないし後悔もしていない。


本来は映姫様は出すつもりじゃなかったけど気付いたら出ていた。
何を言っているのか分からないと思うが作者にも分からない。
でも面白そうだったからそのままにしてみた。

最後に発覚したこいしと幽々子様がこっそり?ついてきていたという事が判明。
こいしの能力に捏造設定を加えてこいしが他の人物にも無意識や目に見えても道端の小石(駄洒落じゃないよ?)のように気にされない事が出来るように能力拡大してみました。
撮影時には気付かれなくても電子機器だから後から映像を見たら映っているって事はあると思う。
だって映像を確認した時にはもうこいしちゃんは近くにいないわけだし。

まぁ、次回はそんなに大騒ぎにならない回です。


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新チャンピオン爆誕

作成に使用しているタブレットがアップデート失敗でまさかの文鎮化。

試行錯誤し何とか工場出荷時状態に戻せ直前にバックアップ取ってたため作品は無事でした、取っててよかったバックアップ。

今回は一部に他作品のパロディが混じっています。

宗教関係とかは宗派とかで色々あるんで気にしないのが吉。


感想の返信が遅くなりすまぬ、本当にすまぬ。
皆さんも夏風邪には注意しましょう。
なかなかなおらないっす。


「こいしちゃん!?」

 

「幽々子様!?」

 

伊丹と妖夢が同時に叫ぶ。

 

「やっぱ幻想郷の奴等か。んで、どうして衛視連中が二人に気付いてないんだ?」

 

駒門の問い掛けに伊丹が答える。

 

「無意識を操る・・・ねぇ。なるほど、衛視連中と門の前に居た連中に認識されない状態だったって事か?」

 

「えぇ、そのような感じです」

 

「しかし、こいつぁ地味に堪える案件だな。認識できないんじゃ探しようがないぞ。カメラに映ってても認識できないんじゃあ、後から確認して見つけても後手後手だぞこりゃあ・・・。撮影された時刻が開会前、その時間からだともう二時間近く経ってるな。どこを探しゃあいいんだか・・・」

 

「駒門さん、一つ頼まれてくれませんか?」

 

「ん?まぁ、俺の権限が及ぶ範囲でならな」

 

 

 

キィィィィッ!

 

何度目かの急停車。

 

車が止まると同時に伊丹と妖夢が飛び出しリストを片手に建物に入りすぐに出てくる。

 

「こっちはもうやられてた!」

 

「こっちもです!」

 

「そうか!駒門さん次に!」

 

「お、おうっ!」

 

もはや運転手状態の駒門が伊丹の指定した場所へ車を走らせる。

 

既に何回同じ事をしたことか。

 

キィィィィッ!

 

再び急停車し伊丹と妖夢が降り、すぐに戻って来た。

 

「こっちはもう終わってました!そっちはどうです!?」

 

「駄目だ!こっちも終わってた!駒門さん次!」

 

「し、しかしなぁ、あんたらそんなので本当に見つかるのか!?」

 

「「当然!!」」

 

「お、おぅ・・・・」

 

二人の剣幕に再び車を走らせる。

 

しかし同じ事の繰り返し。

 

「これでこっち方面のリストは全滅だ・・・・!!」

 

「他の所に移動したんでしょうか・・・!」

 

ピピピピピッ。ピピピピピッ。

 

駒門の携帯電話がなる。

 

「俺だ。何っ?うん、うん、そうかわかった。引き続き頼む」

 

ハンズフリー状態で駒門は短い会話を終える。

 

「お二人さんの言った条件にピッタリの場所があった!飛ばすぞ!」

 

駒門はハンドルを捌きある方向へ向かい出す。

 

「どんな場所です!?」

 

伊丹が聞く。

 

そして駒門の答えに伊丹と妖夢が同時に頷く。

 

十分ほど走り続け、目的の場所に着く。

 

「ここだ」

 

駒門が車を止める。

 

 

 

 

「外資系バイキング形式レストラン日本初出店記念と民放の番組がコラボした途中でも飛び入り参加大歓迎の大食い大会だ」

 

駒門が言った。

 

 

 

 

数々の大食い記録を樹立する大食いタレント達や他の大食い大会でチャンピオンになった一同は目の前の存在が信じられなかった。

 

この大会は『早食い』ではなく『大食い』大会だ。

 

飛び入り参加大歓迎なのでスタートから終了までの時間内に食べた量で勝敗が決まる。

 

飛び入り参加受付終了から大会終了までの時間は一時間。

 

最初から大食いタレントやチャンピオン達が参加している時点である意味での出来レースだ。

 

タレントが勝ってもチャンピオン達が勝っても番組的には美味しい。

 

ただそれだけではただの大食い大会番組と変わらない。

 

だからこそ飛び入り参加大歓迎の大会にしたのだ。

 

もちろん飛び入り参加者はタレントやチャンピオン達に華を添える為の小道具的な物としてスタッフは見ている。

 

厨房のスタッフ達も参加者達の食べるペースが落ち一定になった事で調理の忙しさから解放され一部の調理人達は各々休憩に入っていた。

 

だからこそ、休憩中の調理人達は急に自分達が呼び戻された時は何が起きたのかと思った。

 

厨房に入ってすぐに見たのは戦場のような忙しさの職場。

 

料理長からすぐに調理を手伝えと言われ全員が訳も分からずにただ指示通り調理に入った。

 

入ってすぐに撮影中の番組内で配膳をしているウェイターやウェイトレスが立て続けに入って来た。

 

「飛び入り選手、第三波完食!第四波も完食目前!」

 

「なんて胃袋だ!全員手を休めるな!作って作って作りまくれ!」

 

料理長の指示が飛ぶ。

 

 

 

番組のプロデューサーはポカンとしていた。

 

参加受付終了目前という不利な条件下で飛び入り参加して来たのは一人の女性。

 

体型はやや細身で大食いタレントやチャンピオン達のようないわゆるおデブさんとは真逆の体型。

 

コラボ企業のレストランの味を様々な人に知ってもらいたいと言う意向から老若男女問わず時間内なら参加可能な為、昼食、夕食の代わりに一食だけと言う参加者もOKと言う太っ腹ぶり。

 

彼も最初はこの参加者がそんな部類の参加者だと思った。

 

しかし料理が出て来て1分もしないうちに皿は綺麗になっていた。

 

すぐに次の皿が出されるがそれも同じ1分未満に完食。

 

映像を見返してさらにその凄さに驚いた。

 

早食いの場合はほぼ全ての選手が口に詰め込んで食べている。

 

だがその真逆。

 

テーブルマナーは完璧であった。

 

ただ、その速度が恐ろしく異常である。

 

それでも早食い大会ではなく大食い大会であるからすぐにギブアップする、そう思っていた。

 

だがしかし、ペースは全く落ちず逆に厨房からの料理が遅れだし催促を始め出す始末。

 

急遽大半のスタッフが休憩から呼び戻され厨房は大会開催直後の忙しさを取り戻す。

 

「料理長!こっち出来上がりました!」

 

「料理長!こっちもOKです!」

 

「料理長!皿が足りません!!」

 

「何ぃっ!?非常手段だ!会場の皿を回収してすぐ洗え!」

 

「押忍っ!!」

 

会場から皿が回収され洗われすぐに再利用される。

 

「りょ、料理長!大会用の食材が底を尽きました!!」

 

「構わん!責任は俺が取る!明日用の食材も使え!」

 

「えっ、ええっ!?」

 

「聞こえなかったのか!?」

 

「わ、分かりました!!」

 

「いいぜ・・・明日のオープンが延期になるか、あんたの胃袋が勝つか・・・・勝負だ!!」

 

「料理長!」

 

「なんだ!?」

 

「料理人冥利に尽きますねぇ!」

 

「違ぇねぇ!おらぁてめぇらっ!てめぇらの腕の見せ所だぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」」

 

いい意味でヒートアップする厨房であった。

 

 

 

会場に入って伊丹がすぐ見つけたのは能力を使用していない為認識可能になったこいしがフードコートエリアでお子様ランチを美味しそうに食べている姿だった。

 

「もぐもぐもぐ・・・あ、伊丹だ。やっほー。コクコクコクッ・・・・けぷっ・・・。このコーラって言うのしゅわしゅわしてて美味しいよ。伊丹も飲む?」

 

「こいしちゃん、何か言うことは?」

 

「言うこと?うーん・・・お子様ランチのお代わりおねがいします?」

 

「うぉいっ!?」

 

「冗談だよ〜。着いて来ちゃった、てへぺろ?」

 

「それどこで知ったのやら・・・。はぁ・・・。あれ?こいしちゃんお子様ランチとコーラ頼んでるけどお金は?」

 

「幽々子が待ってる間にお腹空いたら使っていいってこっちのお金くれたよ。こっちの世界の一万円くれた」

 

「ああ、早食いチャレンジの賞金か・・・」

 

途中で幽々子が荒稼ぎした早食いチャレンジの店のチャレンジ達成者のインスタント写真の中に彼女の写真が貼られていた店は20を超える。

 

 

 

「な、なんて胃袋なの・・・・あれだけ食べて体型に変化ないの羨ましすぎ・・・!」

 

女性大食いタレントの一人は幽々子を見て羨ましがる。

 

「し、質量保存の法則を無視してる・・・・なんて胃袋だ・・・・!!大食い界の超新星だ!」

 

男性大食いタレントの一人がその胃袋に称賛を送る。

 

 

 

「食ってるなー」

 

「ええ、食べてますねぇ。はぁ・・・幽々子様・・・・」

 

「白玉楼の経費の9割が幽々子さんの食費って噂が真実味を帯びるな・・・・」

 

「それ、間違いです」

 

「だよね、流石にそんなには」

 

「9割9分9厘が幽々子様の食費で消えていきます」

 

「もっと上だったか・・・」

 

 

 

 

 

カウントダウンタイマーは残り時間十分を示している。

 

カンカンカーン!

 

鐘の音が突如なり料理の配膳がストップする。

 

「食材終了!レストラン内の食材が全て無くなりました!」

 

どよめきが走る。

 

「まさかの結果!まさかの結果です!突如として飛び入り参加して来た謎の美女により全ての食材が底を尽きました!まさにブラックホール胃袋!」

 

「あらあら、勝っちゃいました?」

 

「いやいやいや、勝っちゃいました?じゃないですよ。勝手について来ててしかもこいしちゃんと二人で抜け出していたなんて・・・」

 

「バレちゃってました?」

 

「カメラの映像にしっかり映っていましたよ。はぁ・・・」

 

伊丹が近付いて言う。

 

「たった数時間で早食いチャレンジ二十数店舗食い荒らした挙句にここの食材全て食い尽くしたんですか」

 

「ええ、美味しかったわ。そうだ伊丹さん、確か今夜は皆さんで宿泊でしたね?そこも食べ放題なんですか?」

 

「え?いや、どこに泊まるかはまだ聞いて・・・・・って!まだ食う気ですか!?」

 

改めて幽々子の胃袋に恐怖を覚える伊丹であった。

 

 

 

 

「ところでみんなは?」

 

伊丹が駒門に聞く。

 

「ああ、無事だ。工作員の皆さん、ダミーのバスを追いかけてご苦労さんって感じだな。裏口から出た後に地下鉄で移動さ。まぁ、目立ったらしいがな。しかし、例の八雲って妖怪のスキマ移動?ってのは便利だな。妨害工作で電車が途中停車したんだが連中が電車に到着した頃には別の場所に移動済みって連絡があった。ここからそんなに離れていない場所で合流予定だ。時間が長引けば長引くだけリスクが増す。その二人はゲスト登録しておくから早く移動するぜ」

 

駒門の運転する車に乗り込み合流場所に向かう。

 

 

 

合流地点には一行が既に待っていた。

 

駒門も駐車スペースに停め降りてくる。

 

「バスの方は手配済みだ。しっかし、電車を止めるぐらいの工作が空振りして連中も次の手を出してくるぜ?次はもっと直接的な・・・」

 

チラリと駒門は物陰を見た。

 

その物陰からサングラスとマスクと帽子で顔を隠した男が飛び出してきた。

 

「こんな風にな」

 

男はロゥリィのハルバードを奪おうとしたがそのまま押し潰されてしまう。

 

「あー、なにやってんだか・・・・」

 

駒門はロゥリィのハルバードを拾おうとした。

 

伊丹が止めようとしたが遅かった。

 

グギッ!!

 

「ひぎゃっ!?」

 

駒門はその場から動けなくなる。

 

伊丹は駒門の携帯電話を借りて救急車を要請した。

 

「俗に言うギックリ腰ね」

 

触診で永琳はすぐに判断する。

 

「今すぐ使えるのはこれぐらいだけどないよりはマシだわ」

 

駒門の腰に一枚の湿布を貼る。

 

「お、おおっ!?」

 

駒門が驚嘆の声をあげた。

 

痛みが一瞬で引いたからだ。

 

動こうとするが永琳が止める。

 

「今のは最初の効果の痛み止め、治ったわけじゃないわ。そのまま半日はじっとしていなさい」

 

やがて救急車が来て駒門が運ばれて行く。

 

「取り敢えず、今日は市ヶ谷会館に行くようにしてくれ」

 

永琳の指示通りにじっとしたままの駒門が担架の上から桑原に話しかける。

 

「了解しました」

 

駒門の乗った救急車を見送り桑原が移動ルートを考える。

 

「まずはJRに乗って・・・」

 

「でも、また妨害工作が来そうですわね」

 

紫が桑原に話しかける。

 

「私に少々当てがありますの」

 

紫が言った通りに妨害が予想される。

 

桑原は紫の常識が通じない行動に賭ける事にした。

 

少し歩き人通りが少なくなった場所で紫はスキマを開き全員がそこを通って全く別の場所に出た。

 

周りを見れば都会の光が見え、行き交う車のヘッドライトの光と大量の行き交う人々。

 

だがその人々はスキマ移動して来た一行に見向きもしない。

 

「さ、こっちよ」

 

紫の進む先には有名な高級ホテル。

 

しかし数歩歩くとグニャリと景色は一変した。

 

高級ホテルは消え去り広大な敷地とその中に立つ二、三階建てと見える建物が見えた。

 

「紫さん、ここは・・・・?」

 

来た方向を見れば都会の光は見えるし車や人々が見える。

 

しかしやはり人々はこちらに見向きもしない。

 

「ここ?ホテルよ?まぁ、小型の幻想郷のような空間に存在してるくらいかしら?外の景色が見えるのも違いの一つね」

 

そう話しながら進むと門が見える。

 

門の左右にはホテルマンが立っているが獣耳が生えていたり尻尾があったりと明らかに人間ではないホテルマン達だった。

 

「失礼、予約無しだけど構わないかしら?」

 

「いらっしゃいませ。本日は十分な空きがございます。どうぞお進みください」

 

紫の問いかけにホテルマンが答え門を開けた。

 

「人間のお客様もいらっしゃるのは珍しいですね。当ホテルのことは内密に願います」

 

ホテルマン達が一例して見送る。

 

 

一行が進む先から一台のホテルの送迎リムジンが走って来た。

 

一行は脇に寄り進路を譲ったがそのリムジンは一行の後方で止まりガチャっと音がして誰かが降りたのが分かった。

 

桑原は一瞬工作員を疑い警戒したがここでそれはあり得ないだろうとすぐに警戒を解く。

 

「やっぱり、紫ちゃんじゃない」

 

声と着ている和装からして女性だろう。

 

「あら、どちら様かし・・・」

 

ピシッというような音が聞こえた気がした。

 

「珍しいぜ、紫が固まってるぜ・・・・」

 

魔理沙が少し驚く。

 

「紫の知り合いみたいね。邪魔になっちゃうのも悪いし、先に行ってましょ」

 

霊夢の提案で一行は先にホテルのロビーに向かった。

 

しばらくし少しげっそりした紫が入って来た。

 

その姿に幻想郷側一同が戦慄した。

 

あの紫がそんなになったのだ。

 

「ゆ、紫・・・・?一体どうしたのよ・・・・・」

 

「ああ、霊夢・・・・。お茶を一杯もらって来てくれないかしら・・・」

 

あまりの紫の状態に文句一つ言わずにお茶を用意した。

 

「ふー、一息ついたわ・・・・・」

 

少し落ち着く紫。

 

「あ、あの、紫さん。さっきの女の人です?と言うか、こんな結界の中にあるホテルに泊まるぐらいだから、もしかして大妖怪とか?」

 

「いえ、逆よ逆。さっきの方、アマテラス様よ」

 

「はい?」

 

「だから、天照大神様。久々に降りて来て旅行していたんですって」

 

あまりの大物だった事に全員が黙り込んでしまった。

 

「こ、こっちの世界にも神様って住んでるんだ・・・・」

 

栗林が呟いた。

 

「そうよ。ちなみに今年の春頃には日本の田舎町で伊邪那岐様と伊邪那美様がガチの夫婦喧嘩してたわよ」

 

もっと大物の名前も飛び出し流石の霊夢も「えぇっ・・・・」と引いていた。

 

ロビーに設置されている大型テレビは外界の放送を受信しており報道番組を流している。

 

ロゥリィ、テュカ、レレィは昼間の国会の様子を封じる報道番組で自分達の姿が映っているのを魔道具か何かかと興味深そうに見ている。

 

その次のシーンは紫が記者達の質問に簡単に答えている映像だった。

 

取り留めのないやり取りだが最後に紫が爆弾発言をしているのが耳に入った。

 

それは他の国にも神は実在するかという質問に対する答えだった。

 

「今はもうそこにはいませんが、少し前までイエス・キリストさんとブッダさんが立川のアパートで暮らしてました。ついでに言えば、意外と異世界と日本は接触することが多々あり、某飲食店で日本に来た異世界の魔王がアルバイトしているのを見たことがあります」やら発言して記者達の度肝を抜いていた。

 

後日。

 

ローマ法皇とダライ・ラマが緊急来日し立川を訪れた。

 

立川が仏教徒とキリスト教徒の新たな聖地に認定されたのはまた別の話だが。

 

紫がフロントで宿泊手続きをしているとテレビが緊急速報を流した。

 

「えー、繰り返します。公安及び警察が幸原みずきさんと見られる白骨死体を山中から発見した模様です。なお、先程幸原みずきさんを騙っていた女が国外逃亡を図りましたが空港にて公安により拘束、殺人・死体遺棄及び公職選挙法違反の容疑で逮捕されました。警察では余罪があるものと見て慎重に捜査を行なっています。次のニュースです。先ほど、市ヶ谷会館にて火災が発生、消防が消火に当たっています」

 

テレビの音声がロビーに流れていた。

 

 

 

 

 

 

早朝、首相官邸。

 

「何?特地と幻想郷からの来賓が行方不明?昨晩市ヶ谷会館で火事があった?で、君の第一報が六時間も経った今なのは何故だ?ああ、もういい」

 

電話を切り思考する。

 

米国のディレル、ロシアのジェガノフ、中国の薹。

 

このうちのロシアは発言力の低下がなければ警戒する必要は無い。

 

アメリカはまだ比較的常識が通用する。

 

危険度一、警戒度最高なのが中国の薹だ。

 

なにせスパイを国会議員に仕立て上げて潜入させていた。

 

昨晩の外務省を通じた抗議にもシラを切っている。

 

「野党、NGO、マスコミに芸能界、特地や幻想郷に入れろとうるさい連中ばかりだ。北条さんはよく耐えられたよ・・・・」

 

胃痛を再び感じ胃薬を飲む。

 

「そもそもだ、幻想郷に入れろって言うが八雲氏の許しもないのに勝手に決められるわけがないだろうが・・・・!」

 

ボスンッと枕を殴る。

 

「はぁ・・・」

 

溜息をつき嘉納に電話をしすると来賓の行方不明とその対策会議を朝一で行う旨を伝えた。

 

 




立川にいたブッダさんとキリストさん。
原作は続いてますけどこっちでは二人は引越しした後って事で。

異世界から来た魔王がバイト。
勇者はテレアポセンターで働いてるあの作品です。

田舎町で伊邪那岐様と伊邪那美様がガチの夫婦喧嘩。
カッ!なカットインの4なあの作品です。
3と5は発生せず4だけ発生したと思ってくだせぇ。


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異文化交流・上白沢慧音の場合

今回は短文です。
相変わらず捏造設定です。
慧音先生の年齢分からなかったから作者の捏造設定で。
後、今回も他のアニメネタを突っ込んでいます。
慧音先生の口調って難しい。
少しでも油断すると男っぽい感じになっちゃう・・・・・。
ま、いいか(ヲイ


堪忍や。



翌朝、対策会議前に首相官邸に紫から電話があり行方不明になった来賓の捜索会議は中止、予定通りの交流等が行われる事になり総理は安心した。

 

 

 

 

慧音はとある公立中学校を視察する予定になっている。

 

今日は幻想郷の教育者が来校するとの事で校長教頭及び視察対象の教室の教師達は緊張していた。

 

幻想郷からの来賓もそうだが付き人の役割を持つ文科省のお偉いさんも来るからだ。

 

いいところを見せれば今後の予算申請も通りやすくなるかもとの打算もあるが。

 

「校長、来賓の情報は?」

 

「教頭先生、こちらです。氏名は上白沢 慧音、女性。幻想郷にて唯一の寺子屋を開いているらしいです」

 

「唯一、ですか・・・・」

 

「ああ、唯一のだそうです」

 

「一人だけ、ですか?」

 

「ええ。教育者は彼女だけだそうです」

 

「一人で全教科を教えてるのですか・・・・。っと、校長。来賓の車が敷地に入って来ました」

 

駐車場に停められた車から慧音と文科省のお偉いさんが降りて校舎の入り口に向かう。

 

慧音は普段幻想郷で着ているいつもの服装だ。

 

「当校の校長です。本日は当校の視察に足をお運びいただき・・・・」

 

校長が無難な挨拶をする。

 

慧音も校長の挨拶が終わると挨拶を返す。

 

「上白沢 慧音だ。本日はこちらの世界の教育機関を知る機会を与えていただき感謝している。なにぶん勝手が分からずに迷惑をかけるかも知れないがよろしく頼む」

 

校長と握手をし校内へ入る。

 

慧音は幻想郷にはない様々なものに興味を惹かれていろいろ質問し、それを校長や教頭が答える。

 

「ところで、慧音先生はどのような教科がお得意なのですか?」

 

「得意な?そうだな、歴史・・・特に日本史が得意だな」

 

「おおっ、それは丁度いい。実は次のクラスは日本史の授業をやっていまして。もし良ければ教鞭をとってみては?生徒にとっても又とない経験になると思うのですが・・・如何でしょう?」

 

校長は慧音と文科省の役人を見る。

 

「文科省としては生徒の経験になるのならば特には」

 

「うーん、そちらが良ければ私は構わないが・・・・」

 

こうして次の教室での慧音の授業が決まった。

 

しかし、校長、教頭、文科省の役人は油断していた。

 

幻想郷には今教えている教科書とは異なる歴史が存在していることを。

 

昨日の聖徳太子が実は女性だったと言う衝撃ニュース以上の事はないだろうと思って。

 

 

「幻想郷の寺子屋で教鞭を取っている上白沢慧音だ。短い時間だがよろしく頼む。まずは聞きたいこともあるだろうし、少しだけ質問していいぞ」

 

歓声を上げる生徒達。

 

「慧音先生に彼氏はいますか!?あとおいくつでしょうか!?」

 

興奮した男子生徒が一気に二つ質問した。

 

ちょっと男子ー、と女子生徒達が呆れて質問した男子生徒に軽蔑の眼差しを送った。

 

「残念ながら今まで付き合った男はいないな。後、女性に年齢を聞くのは失礼に当たるから今後は気をつけるように。今回は特別に答えてやるが八百二十四歳だ」

 

慧音の発言に生徒だけでなく教師達全員が凍り付いた。

 

校長は六十近い。

 

教頭は五十になったばかり。

 

歴史の教師は三十二歳。

 

そんな中生徒達に年齢が一番近そうな外見の女性が校長の十五倍は生きている事に。

 

「け、慧音先生も妖怪なんですか・・・・?」

 

一人の女子生徒が恐る恐る聞いて来た。

 

「ん?ああ、半分な。元々はお前達と変わらないごく普通の人間だったぞ。ハクタクっていう妖怪に取り憑かれて妖怪化したからな。さぁ、そんな事より授業だ」

 

「えー?」

 

という声があちこちから上がる。

 

「はいはい、静かに。静かにしないと頭突きだぞ」

 

生徒達を静かにさせる慧音。

 

静かになった生徒達と教師陣は内心(なんで頭突き!?)と思っていたが。

 

「えーと、今日はどこの部分を?」

 

慧音が歴史担当の教師に聞く。

 

「今日は本能寺の変の所です」

 

「ああ、あそこか。うん、ここは大事なところだ。寺子屋でも必ずテストに出してる所だ。ここなら教科書無しで空で教えられる」

 

「え?」

 

教科書無しと言うところで歴史教師は何か嫌な予感がした。

 

「天正十年六月ニ日、西暦だと千五百八十二年六月二十一日になるな」

 

年代や日付は正しい。

 

生徒の教科書を覗き込みながら(考えすぎか・・・)と歴史教師が安心する。

 

「この日の早朝にだが、吸血鬼・織田信長が妖怪退治師の明智光秀に討伐された」

 

自分達の知る歴史とは異なる歴史が炸裂した。

 

「はぁっ!?」

 

「うぇっ!?」

 

「吸血鬼!?」

 

あちこちから生徒と教師達の声が上がった。

 

「ん?なぜ驚く?常識だぞ?正確には織田信長に成りすましていた吸血鬼・ノスフェラトゥが討伐された。本物の織田信長は本能寺の変のより遥か以前にこいつに血を吸い尽くされ殺されてるからな」

 

「け、慧音先生!ストップ!ストップ!」

 

校長がストップをかける。

 

「どうした?」

 

「そ、それ・・・・事実ですか・・・・?」

 

「嘘をついてどうする?ああ、若い頃の本物の織田信長はかなり・・・こっちで言うところのいけめん?とかだったぞ」

 

慧音は当然の様に言う。

 

日本史に改定が必要な証言がまた一つ飛び出した瞬間だった。

 

 

 




分かる人いるかなぁ・・・・・吸血鬼・織田信長。
GS美神の劇場版ネタを突っ込んでみました。
劇場版は映画館で見たっけなぁ。
らんま二分の一と平成犬物語バウとの同時上映だった。
あかん、年がバレるwww
あ、この世界戦ではGSという職業は存在せず、いいね?


作者の中では慧音先生は半妖怪化した後少しやさぐれて各地を転々。
その途中で妹紅と知り合い腐れ縁に。
500年前幻想郷が紫によって作られた時に住み着き寺子屋を開始。
しばらくしてもこたんインしたお!と妹紅が転がり込んできて以降ほぼ同居と言う設定です。


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異文化交流・河城にとりの場合

お、お気に入りがごひゃくにじゅっけん越え・・・・
((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ピクピク

・・・・・・・・・・マジで?
コロコロコロ…
( Д ) ..._。..._。





様々な感想ありがとうございます。
返事を全く送れていませんが全て読ませていただいています。
相変わらず捏造設定全開の御都合主義ですがこれからもお付き合いください。


「うーん、動かないねぇ」

 

にとりの乗った車は渋滞にはまっていた。

 

「すみません、どうやら人身事故が発生した様で・・・」

 

運転手兼付き人の文科省の役人が機嫌を損ねない様に言う。

 

「事故じゃ仕方がないよ、気にしないで。でも、予定の時間まで後どれくらい?」

 

「十分です・・・。遅れると連絡を入れてありますから大丈夫だとは思いますが・・・」

 

「目的地はあそこに見える建物の敷地内なんだよね?」

 

「ええ」

 

「じゃあ、私は飛んでいくから後から追いかけて来てよ」

 

「ええ、わかり・・・・え?」

 

ガチャっとにとりはドアを開け道路に出る。

 

「うひゃー、こうして見ると本当に混んでるねー。自動車って便利だけどこうなるとただの金属の塊状態だよ」

 

「か、河城さん!危険です!」

 

「あー、大丈夫大丈夫。でもここは少し狭いかな?上に乗らせてもらうね?」

 

そう言うと戸惑う役人を尻目ににとりは車の屋根によじ登ってしまう。

 

流石の役人も車から降りて車内に戻る様に促す。

 

 

 

 

この時、中国の工作員達がにとりを拉致しようと周囲を人混みに紛れて囲んでいた。

 

この事故も工作員がにとり拉致の為に引き起こした事故であった。

 

後は催涙ガスを周囲に撒き混乱に乗じてにとりを攫うだけであった。

 

しかしここで急に拉致対象が車から降りて屋根によじ登ってしまった。

 

運転手も降りてしまい、周囲の通行人や周囲の車のドライバーや同乗者からの注目を浴びている。

 

工作員のリーダーは作戦決行のゴーサインを出せない状態でいる。

 

拉致対象が目立ち過ぎている。

 

 

 

 

「にとりさんお願いします。何をするのか分かりませんけど、危険ですから・・・」

 

「システムはオールオッケーっと。じゃあ、先に行ってるよー」

 

にとりがそう言うと背中に背負っていたリュックからポールの様なものが飛び出した。

 

役人が戸惑い周囲の通行人や工作員達が何事かと思っているとそのポールからブレードが飛び出し回転を始めた。

 

回転はすぐに高速になり、そのままにとりの体を空中に浮かび上がらせる。

 

「じゃーね、先行ってるよ。あ、でもこのままじゃ目立っちゃうよね」

 

もう十分目立っていますと役人は心の中でツッコミを入れた。

 

「じゃあ、目的地まで光学迷彩スーツをオンにしていくから安心しててよ」

 

そう言い残しにとりは飛行を始めそのまま透明になった。

 

遠ざかっていくプロペラ音を聞きながら役人、通行人、工作員はポカンとするしかなかった。

 

少しして工作員のリーダーは作戦の失敗を力なく報告するしかなかった。

 

拉致対象が宙に浮かび透明になって去って行きましたと報告をした。

 

だが本国からは「お前寝ぼけてるのか?粛清だ」と返答が来て粛清命令を受けた他の工作員に頭を撃ち抜かれ処刑される運命となる。

 

 

 

 

都内の貸しイベント会場に各企業から応募し国から許可を得たエンジニアの集団がその会場にいた。

 

敷地の周囲は警察が、内側は自衛隊が警備を行なっている物々しさ。

 

「松上さん、幻想郷の頭脳集団の一人が来るって話ですがどんな人が来ると思います?」

 

「SOMYさん、人じゃなくて河童らしいですよ」

 

「ああ、そうでした。河童と言うと水辺に住んでて頭に皿があるイメージですよね?」

 

「ええ、しかし渋滞に巻き込まれて遅くなると連絡があったみたいですがまだでしょうかねぇ?」

 

そんな中、プルルルルルルルッと奇妙な音が近付いてきた。

 

参加者達は辺りを見回す。

 

「やぁやぁ、遅くなってしまってごめんごめん」

 

光学迷彩スーツの機能をオフにし姿を現わすにとり。

 

背中に背負ったリュックから伸びたプロペラで空中に浮いていた。

 

「あまりにも渋滞ってのが凄くて進めそうになかったから先に飛んで来たよ」

 

地上に足を着け、プロペラを折り畳みエンジニア達の前に立つにとり。

 

「こ、こんなに小さい子が・・・?」

 

「いや、河童だって言うから・・・ほら、昨日のテレビでやってた国会中継の様に私達よりずっと年上かもしれない。外見で判断はできない」

 

「あ、ああ、確かにそうだ。えーと・・・」

 

「ああ、にとりでいいよ?」

 

「わ、わかった・・・・。じゃ、じゃあ、にとり。先程突然姿を現したのは、何か妖怪としての力かな?」

 

「ううん、違うよ。河童に出来るのは水を自在に操る程度だよ」

 

ザワザワとエンジニア達が騒めく。

 

「水を自在に操るだけでもすごいのに、程度って・・・」

 

「水を自在に操れれば水を使用する作業に有利だ・・・」

 

等率直な感想が出て来る。

 

「さっき私が姿を消してたのはこの光学迷彩スーツの機能だよ。河童はみんなこのスーツを着てるんだ」

 

「こっ、光学迷彩!?」

 

あまりのハイテクぶりに思わず声が上ずるエンジニア。

 

「今、光学迷彩って・・・・」

 

「普通の服にみえるのに・・・・。そもそも、スーツの機能であの機械を含めて何も覆っていない顔や手を不可視化・・・・空間の光を屈折させてるとしか思えない・・・!」

 

「米国・・・いや、どこの国でもこんな風に透明になる物は・・・」

 

「いや、しかし本当にこのスーツだけで?」

 

この発言ににとりが反応する。

 

「やっぱ最初はそう思うよね?だから・・・・ジャーンッ!もう一着あるんだよ。流石にあげる事は出来ないけど誰か試してみる?」

 

この提案に食い付かなければそれはエンジニアではない。

 

事実、にとりの発言の直後に全員が試してみたいと立候補する。

 

結局、順番で試す事になったが本当に透明になると本人も周囲も大興奮に陥った。

 

試した後はにとりに質問が殺到する。

 

その答えにエンジニア達は

 

「まさかそんな物質が存在するとは!?」と未知の物質の存在に興奮したり、

 

「こんな小型の端末で制御してるなんて!」と光学迷彩システムの制御装置の説明で衝撃を受けたり、

 

この質問に対する答えだけで応用は光学迷彩以外にも効く予感を感じさせエンジニア達は技術的ブレイクスルーの予感を感じた。

 

にとりの使っていた飛行機械も注目の的で同じくいくつもの質問が来た。

 

他の質問では河童は物質転送装置を開発済みであり無機物はもちろん人間も転送可能だと知らされ衝撃を受ける。

 

更には既に量子コンピュータの開発に成功しており、そのポータブル端末を使用させてもらったエンジニア達は歓声をあげた。

 

「今度はこっちから質問いいかな?」

 

にとりからの問いかけにエンジニア達は緊張する。

 

幻想郷頭脳集団の河童代表からの質問だ。

 

何を聞かれるのかと緊張しないわけがない。

 

「こっちの世界のエンジニアの君達にとっての障害って何?」

 

技術系の質問が来るかと思ったエンジニア達は拍子抜けすると同時ににとりの言いたい事をなんとなく理解した。

 

「やはり、産業スパイやコンピューターネットワークからのの侵入・・・ですね」

 

今やエンジニア達は河童の技術力に高さに敬意を抱きにとりに対しても自然と敬語になっている。

 

産業スパイ、特に国外からのスパイだ。

 

それがにとりが一番聞きたいものだと思ったのはここにいるエンジニア達の人数だ。

 

にとりに当初知らされていた人数の半分以下の人数のエンジニアしかここにはいないのだ。

 

昨日、さとりが人の心を読めると証明されている。

 

そこで政府がさとりに協力を要請し技術交流会の参加者達と入場前の所持品検査と同時にさとりにリーディングをして貰った。

 

結果、参加者の半分以上が国外の企業や外国政府が送り込んだ産業スパイであると判明。

 

しかし現状の日本の法律では罰せられず、参加不許可を伝える。

 

当然だが反発が出たがさとりが自ら彼らの前に姿を見せると我先にと逃げ出した。

 

一緒に来た同僚がスパイだったと知らされショックを受けていたエンジニアもいた。

 

 

なお、この知らせを受けた内閣は昨日の偽幸原のスパイ事案もあり、早急にスパイ防止法の成立を目指さなければならないと実感する。

 

 

「コンピューターネットワークでの侵入は目に見えませんから、やはり重要なデータはスタンドアロン端末で使用するしか・・・」

 

「製品作成の作業用機械に侵入されて部分的なデータを盗まれることもやはり・・・・」

 

「部分委託している子会社のコンピューターに侵入された事件もあります」

 

「でもそれって、えーと・・・・会社名忘れちゃったけどあめりか?って所の会社のOS使ってるからだよね?確か世界シェアNo.1なんだっけ?」

 

世界中で使用されているからこそ侵入脆弱性を悪用される。

 

開発者が使用するOSは異なるOSだがやはりそれも世界中で使用されている上にオープンコード。

 

日本で独自OSを開発しようとする動きもあったが頓挫している。

 

「そこで幻想郷の河童一同から同じエンジニアの志を持つ外界のエンジニアのあなた達にプレゼント!」

 

にとりは一枚のディスクの入ったケースを掲げる。

 

「河童謹製のOS、その名もKAPPA-OS!あ、ちゃんとこっちのパソコンで動く事は確認済みだよ。ライセンスフリー、コピーしたければコピーして使ってもいいよ。あ、互換性なら気にしないで。盟友・・・あ、幻想郷に迷い込んで来た伊丹の事だけど、伊丹もこのOSの入ったパソコンでインターネットに接続して外界の蒸気?ってところからパソコンゲーム買ってよく遊んでるけど問題が出たなんて一度も聞いた事ないから。誰か試してみる?」

 

その提案に一人のエンジニアが自身の会社のノートパソコンを提供、重要データをUSBメモリに退避させた後OSをクリーンインストールした。

 

インストールはすぐに終わりOSが起動する。

 

河童のイラストが数秒だけ表示され画面が現れる。

 

ネットの回線にも普通に繋がり、試しにと危険なサイトにアクセスするとウィルスも弾いた。

 

操作性は快調でいくつかのアプリケーションがデスクトップに表示されている。

 

「侵入に対する対策は?」

 

操作しているエンジニアがにとりに聞く。

 

「攻性防壁。人のパソコンに侵入する悪い奴のパソコンなんか壊しちゃえばいいんだし。あ、ちゃんと正規ルートでのリモートアクセス機能もあるから安心していいよ。ついでにプログラミング言語は日本語だから同じ日本語を使うあなた達なら改良とかもすぐにできるようになると思うよ。一通りの使い方とかは中にヘルプ機能があるからそっち見てよ」

 

エンジニア達は提供されたOSの挙動を確認しながら歓声を上げる。

 

「すごい技術力だ!」

 

誰かは分からないがエンジニアの一人が大きく声を上げる。

 

にとりはその場から少し離れて空を見上げる。

 

そこには薄っすらと姿を見せる月。

 

幻想郷で見る月も外界で見る月も同じだ。

 

「すごい技術力・・・・か。でも、河童の技術力は月の連中の足元にも及ばないんだけどね・・・・」

 

にとりの呟きは興奮状態のエンジニア達の耳には届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

なお、KAPPA-OSの汎用性は異様に高く、おまけにライセンスフリーでデフォルトで人工知能型アンチウィルス機能と攻性防壁付き。

 

現状のアプリケーション等も問題なく動き、次第に日本国内の個人用PCにまで普及して行く事となる。

 

なお、普及後に人工知能の画面表示方法が判明しネット民が外観を変更することに成功。

 

毎年の様に人工知能たんは俺の嫁コンテストが行われるようになりそれを見たにとりが大爆笑したとか。

 




スパイ防止法は現実世界でも必要だと思う。
河童の物質転送装置は東方二次創作の某ローグライクゲームより。
量子コンピューターは捏造設定だが核融合と同じく人類の夢だから幻想郷で先に河童達が開発しててもおかしくはないと思う。
河童だから人工知能実用化しててもおかしくない。


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異文化交流・蓬莱山輝夜と永遠亭の場合

今回は永遠亭のターンです。
月の都や軍備に関して多数の独自解釈、捏造設定がありますけどいつもの事ですしおすし。

永琳お姉さんの解説コーナー、はっじまっるよー。



あ、序盤にちょいグロ描写あります。




ガーッ。

 

自動ドアが開きコンビニから出て来る輝夜。

 

両手にはこれでもかと言うほどにお菓子とジュースの詰まった買い物袋。

 

プシッ!

 

ペットボトルの蓋をあけると炭酸ガスが内圧から解放される小気味いい音がする。

 

ゴッゴッゴッゴッゴッ・・・・・。

 

五百ミリリットルのコーラを一気に飲み干す輝夜。

 

「ぷはーっ!五臓六腑に染み渡るわー!」

 

「姫様、早く行きませんと・・・」

 

店の前で待機していた永琳が話しかけて来る。

 

「分かってるって。あれ、車は?」

 

コンビニ前に止まっていたはずの車が無い。

 

「送迎の車なら先に優曇華とてゐを乗せて目的地の駐車場に向かって貰っています。このような往来の激しいところでの駐車は迷惑になりますし、優曇華には目的地の安全確保に問題はないか、てゐは妨害工作を想定して対工作員用のトラップを仕掛ける為に先行させました」

 

「えー、歩くのー?」

 

「ただ横断歩道渡るだけじゃないですか。もう目的地は目の前なんですから・・・・」

 

「ぶーぶー・・・。そう言えば、すぐそこで河童が技術交流会するんだっけ?」

 

「ええ、そのように聞いています。姫様、信号とやらが横断可能サインになりました、行きましょう」

 

「はぁ・・・車があるからこんなに買ったのに先に行ったら意味ないじゃない・・・重っ・・・・。えーりん、半分持ってー・・・って、先に行っちゃってるし!?」

 

慌てて永琳を追いかける輝夜。

 

「あー、マスゴミの皆さんごくろーさんね」

 

見れば目的地の前でマスコミのカメラがスタンバっている。

 

幻想郷の一行の一部が宇宙関係の重大発表と言う情報を得て待機しているのだろう。

 

既にカメラがこっちを向いている。

 

「生中継かなー?録画かなー?」

 

そう呟く輝夜。

 

だが横断歩道の向こうではマスコミも一般の通行人も何かを叫んでいた。

 

「ん?何よ?つか、エンジン音で何も聞こ」

 

グシャッ!

 

輝夜の言葉は最後まで発せられなかった。

 

 

 

目撃者A氏は輝夜の後にコンビニから買い物を終えて出て来た。

 

青信号を渡るロングヘアーの少女の後ろ姿を眺めつつ何気なく視線を動かし背筋が凍り付いた。

 

トラックが信号無視して突っ込んで来る姿が目に入った。

 

その先には先程の少女・・・輝夜の姿。

 

とっさに叫ぶが間に合わずトラックはその細い体を轢いた。

 

事故を目撃したのは初めてだ。

 

ましてやブレーキを掛けた様子すらなくトラックが突っ込んで来た。

 

少女を轢き、そのまま信号待ちの対向車に突っ込み横転、道路を塞ぐ。

 

「キャーッ!」

 

「人が轢かれたぞー!!」

 

「け、警察!」

 

「バカ!んなとこより先に119番だろうが!!」

 

悲鳴が上がったり負傷者の救護に当たる人々。

 

だが先程の少女はもうダメだろう。

 

さっき、目が合った。

 

彼女の頭がタイヤに踏み潰される直前に。

 

 

 

 

「ひ、ひでぇ・・・!」

 

「・・・・こりゃ、もうだめだ・・・・」

 

「ああ・・・死んでる・・・・」

 

その凄惨な姿に耐えられなかったのか次々に嘔吐する人々。

 

頭は轢き潰され脳も潰れ、裂けた腹からは内臓が飛び出している。

 

折れた手足からは白い骨が突き出し、無事な足がピクピクと痙攣している。

 

ボワッといきなり死体が燃え出したちまち塵になって行く。

 

その異様な光景を周囲の人達や近くにいて駆けつけて来た警察官達は唖然としながら見ている。

 

輝夜の肉体が再構築され何事も無かったかのように立っている。

 

「あれ?お菓子とジュースは?」

 

手に持っていたはずの買い物袋が無いので辺りを見回す。

 

「姫様」

 

「あ、永琳。ねぇ、何があったの?と言うか、私なんか凄い注目されてるけど・・・」

 

「あのトラックと言うのが突っ込んで来て姫様を轢き殺しました」

 

「ああ、なるほどね・・・・。ちょっとどいて」

 

野次馬を退かせる輝夜。

 

その先には無残に中身をまき散らしたジュースやお菓子。

 

「ふ、ふふふふ・・・」

 

横転したトラックに飛び乗りドアに手を掛ける。

 

「ふんっ!」

 

ベキッ!

 

トラックのドアを力尽くで引き千切り放り投げる。

 

むんずっ!と運転手の男を引っ掴みそのまま片腕で宙吊りにする。

 

「おい、私のお菓子どうしてくれるんだゴルァッ!」

 

しかし男の口からは日本語ではない言葉が出て来る。

 

「は?何言ってるのか全然分からないんですけど。あー、もう面倒くさっ」

 

男を地面に放り投げるとその上に飛び乗りタコ殴りにする。

 

「あ、き、君!少し落ち着いて!」

 

警官が止めに入る。

 

既に男の顔はパンパンに腫れている。

 

「は?こいつ、この私を一回殺してこのぐらいで済むんだから泣いて感謝する程の慈悲なんですけど?」

 

男から手を離すと男のポケットから財布を引っ張り出す。

 

「シケてるわねぇ、二万円しか入ってないじゃない。お菓子とジュースの弁償代と慰謝料でこれは貰っておくから。感謝しなさいよ、ここが外界じゃなくて幻想郷だったら永琳の人体実験材料にしてたわよ」

 

「姫様、こんなの私要りません」

 

「あらそう?じゃあ永琳、私もう一回コンビニ行って来るから」

 

「しかし姫様、予定の時間がすぐそこまで・・・・」

 

「待たせておきなさい」

 

「はい、承りました」

 

輝夜を見送り永琳は先に会場入りした。

 

その場に残されたのはタコ殴りにされ失神したにとり拉致の事故を起こす役の工作員と事故処理の警察官達、そして死んだ少女が目の前で無傷で生き返ったのを目撃した野次馬達だった。

 

しばらくしてコンビニから出て来て両手に買い物袋を引っ提げながら横断歩道を渡りつつコーラを飲む輝夜を事故処理の警察官達と野次馬達は信じられない物を見るような目で見るしかなかった。

 

 

 

 

会場は先程の事故をカメラに収めたマスコミ達が興奮状態でいた。

 

輝夜のリザレクション時の姿は既に局へ送信済みである。

 

あまりのマスコミの様子とビルの窓からそれを見ていた宇宙開発関係者と各国が送り込んだ大使館からの参加者達のある種の興奮で会場はざわめきが収まらない。

 

そんな中へ永琳と勝負服の十二単を着た輝夜が入って来る。

 

すかさずマスコミがカメラを構える。

 

「皆様、本日はこちらの要請によりお集まりいただき感謝します」

 

永琳が一礼する。

 

「私は八意永琳、幻想郷の永遠亭において医師を務めています。こちらは永遠亭の主、蓬莱山輝夜様です」

 

「その様子ですと、先程のことを見ていた方が多数のようですね?では、本題の前に質問を受け付けたいと思います。ありますか?」

 

室内の全員が手を挙げた。

 

誰でも同じ質問だろうと適当に一番近くにいる宇宙開発関係者を指名すると立ち上がり質問を行い

 

「先程、そちらの方が凄惨な事故に遭われました。ところが遺体が突如として燃え、傷一つなく今もそちらにいます。何故でしょうか?」

 

輝夜と永琳以外が頷く。

 

「お答えします。それはこちらの輝夜様が不死者であるからです。正確には肉体が滅びてもすぐにリザレクション・・・復活できるからです。ああ、私も同じくできます」

 

どよめきと驚きの声。

 

「それはまた・・・しかし、輝夜さんですか。着ている服も綺麗ですし、まるでかぐや姫みたいですね」

 

質問を行なった宇宙開発関係者が座りながら言う。

 

「ああ、それ自衛隊の人にも言われたっけ。うん、よく言われるよ?だって本人だし」

 

「・・・・・え?」

 

「どうも、皆さん初めまして。月に帰らなかったかぐや姫です」

 

ペコリと座ったまま一礼する輝夜。

 

「は、はは・・・え?」

 

意味が分からないと困惑する。

 

「では、本題に入りましょう。まずはアメリカ大使館の方、いらっしゃいますか?」

 

永琳が言うとアメリカ大使館員数名が急な指名に戸惑いながら立ち上がる。

 

「では、前に出ていただけますか?お渡しするものがあります」

 

戸惑いながら前に出る大使館員達。

 

永琳が合図すると室内に幾つかの葛篭が運び込まれる。

 

永琳が葛篭を開け中身を覗き込む大使館員。

 

「星条旗!?」

 

中に入っていたのは少し汚れた星条旗。

 

それを手に取る大使館員。

 

「こ、この星条旗が、何か?」

 

意図が分からず戸惑いながら流暢な日本語で聞く。

 

「その星条旗はアポロ計画で月に立てられた物です。月から投げ返され幻想郷で妖精のおもちゃになっていました」

 

もう一つの葛篭を開け中身を見た大使館員達は再び驚愕する。

 

アポロ計画で月面に飛行士達が置いて来た物がずらっと入っている。

 

「月には月人が居住しています。私と姫様も千三百年程前までそこの住人でした」

 

「でも、めっちゃ暇で退屈な所なんだよねー。規則でガチガチだから貴族の私は一日中屋敷の縁側でお饅頭食べてお茶飲んでの繰り返し。参っちゃうわ。支配者層の貴族連中はガチガチの石頭揃いで保守的な引き篭もり連中。そんな毎日にうんざりして永琳に蓬莱の薬作ってもらって屋敷で速攻飲んでやったの。そしたら屋敷を玉兎兵がぐるっと囲んで武装警備隊に拘束されてその場で斬首されたわ。あー、あの時の警備隊の連中の慌てようったらなかったわ。今思い出しても笑える」

 

けらけらと笑う輝夜。

 

「月では蓬莱の薬・・・いわゆる不老不死薬の製造、所持は罪に問われませんが服用は不老不死の誘惑に負けた事と穢れを発生させる罪により重罪に問われます。しかし不死者となった輝夜様は処刑してもすぐに復活するため、地球への追放処分となりました。そこから先の話が竹取物語、いわゆるかぐや姫というお伽話として現在に伝わっています」

 

永琳が淡々と解説する。

 

「あの時は楽しかったわ。何もかもが新鮮で、お爺ちゃんとお婆ちゃんには今でも感謝してるわ。あ、でも結婚だけは嫌だったから無理難題ふっかけてやったのよ。案の定、ほとんどの奴らが脱落したの。でも、藤原・・・なんだっけ?妹紅の父親だけどそいつが本物の蓬莱の薬を持って来た時はなんで地上人が本物の蓬莱の薬持ってんのよってマジで焦ったわ。いや、ホント」

 

記者達のプロ意識は凄まじく、真実かどうかは後回しに輝夜の発言を一字一句ノートPCへ入力して行く。

 

宇宙開発関係者は状況についていけていない。

 

「もう結婚なんて御免被るって、とにかく必死だったわ。蓬莱の薬を偽物認定してやって追い返したの。そこまでは良かったんだけどね・・・、そいつの娘の藤原妹紅に父親に恥をかかせたって恨まれちゃってね、妹紅の奴蓬莱の薬強奪して飲んじゃったのよ。おかげで妹紅の奴も不死者になっちゃって相当辛い思いしたみたい。それだけは本当に悪かったって思ってるわ。まぁ、今じゃほぼ毎日のように殺し合いする仲なんだけどね。あ、ちなみに月から私を迎えに来た使者の一人がこの永琳。他の使者は面倒だったから殺して埋めちゃった。月なんて退屈な所、焼き土下座されたって帰ってやるかっつの」

 

机の上のコップの水をグビッと飲む。

 

「ああ、ちなみに月の都の場所は月の裏側ね。ま、幻想郷のような結界で隠れてるから探査衛星程度じゃ発見不可能だけど」

 

サッと一人の宇宙開発関係者が手を挙げた。

 

永琳が指名する。

 

「そ、それが事実だとすると、月は地球との交流を求めて今回の会見を行なっているのですか?」

 

興奮状態での質問。

 

「あー、逆よ逆。連中、地上人を見下してるから。月は永遠に近い浄土、地球上は穢れに満ちた場所ってね」

 

「これを説明するには、月人の歴史を解説する必要があります。かつて月人は地球上にて暮らしていました。月への遷都が行われたのは今よりおよそ一億年前になります。これは姫様が地上に追放される以前に遷都一億周年記念の式典が月の都にて行われていたので確実です」

 

再びサッと手が上がる。

 

「どうぞ」

 

「作り話ならもっと上手い作り話をしたらどうですか?一億年前なんて恐竜の時代ですよ?そんな時代に人類がいるわけが」

 

「言葉を遮りますが、月人は現生人類及び化石にて確認されている類人猿とは全く異なる種です。いえ、人類というよりも神に近い存在でした。当時の地球上の生物には寿命という概念が存在していなかったのです。恐竜も含め、全てがある程度まで成長した後は致命的な外傷を追わない限り死ぬ事はない存在でした。私も姫様もその時代には既に存在していました。ところが、ある時期を境に地球上に穢れが発生し地球上を覆い尽くしました。穢れは寿命を発生させます。その事実が確認された時は混乱し、自暴自棄になる者もいました。しかし研究の結果、穢れは地上から離れるほど薄くなる事実が確認され月の都建造計画が立ち上がりました。私もその設計に携わりました。穢れは加速度的に濃くなっており、月の都建造計画開始から十万年後には百年も生きられない濃度になるとの結論が出され、五千年以内での移住完了が命じられました」

 

再びサッと手が上がる。

 

「どうぞ」

 

「それが事実だとしても、今までのどの地層からも文明の痕跡なんて出て来ていませんよ。そこはどう説明するんですか?」

 

「支配者層の命令により、地上に残すものは全て焼き払った後に原子分解されました」

 

会場からは失笑が漏れる。

 

「月は地球との交流は一切求めていません。そこで我々永遠亭に協力要請が来ました。月の意向を地球上に伝えるために。一言で言うならば、月にこれ以上関わるな、です。月以外に行けと言う意味です。ところで、アメリカの方。NASAはどこまで事実を公表していますのでしょうか?」

 

突然の指名に戸惑うアメリカ大使館の面々。

 

「玉兎兵の通信を又聞きしているのですが、NASAの飛行士達は月面において玉兎兵と幾度か戦闘を行い全て負けて追い返されている模様ですが?ああ、説明していませんでしたが玉兎・・・月の兎とはこう言う感じです」

 

永琳は立ち上がると会場の外に声をかける。

 

ドアが開くと優曇華が入って来た。

 

「先に言っておきますが、バニーガールとかではありません。本物の耳ですよ」

 

優曇華の耳を掴みグィッと上に引っ張る永琳。

 

「いたたたたたたたっ!?ちょ、師匠やめてください!?痛い痛い痛い痛いっ!!ち、千切れちゃいます!!ちょ、本当に千切れる!!!!?」

 

パッと手を離すと兎耳の付け根を涙目でさする優曇華。

 

「お疑いの方、どうぞご自分の目と手で優曇華・・・・この玉兎の耳が本物だと言うことを確認してください」

 

途端に揉みくちゃにされる優曇華。

 

「ちょ、くすぐった!?ちょ、変なところ触らないでください!!そ、そこ弱いんですからやめひゃうんっ!?」

 

「優曇華、感じちゃってる?」

 

「ちょ、か、輝夜様変なこと言ってないでたすけ、そ、そこらめぇっ!」

 

「彼女が俗に言う月の兎です。ああ、ちゃんと地上の兎もいますので」

 

しかしここでてゐを出す必要はない。

 

ある程度経ったところで永琳がストップをかけ優曇華が解放される。

 

「優曇華、今度耳触ってる時の声録音していい?結構売れると思う」

 

「輝夜様のお願いでも絶対に嫌です!」

 

「そんなに嫌だったんだ・・・・なんかごめん」

 

「優曇華、警備に戻っていいわ」

 

永琳の言葉と同時に脱兎のごとく部屋の外に逃げ出す優曇華。

 

「月ではこの月面基地開発に来た地上人との戦いを月面戦争と呼んでいます。先程の驚き様では予想通り月面戦争の事は知らされていない様ですね」

 

「月人も地球人も、指導者層はプライドが高いのは同じみたいね」

 

輝夜が一言言う。

 

「私が今発表した事が事実であることの証明を、日本時間の今夜七時から月の都が行います」

 

騒めく会見場。

 

「今夜七時より、二十四時間に渡り月の表、正確には静かの海等の地上人が降り立った場所を中心に月軍による大規模軍事演習が行われます。この演習の光は地球上からも肉眼で観測可能です」

 

「あいつら、地球人が月面に到達した痕跡全部消し去るつもりなのよ。・・・・・・コーラ飲みたい・・・・・」

 

水を飲みながら輝夜が付け足す。

 

「演習への投入戦力は月からの連絡では、地表戦力は月面戦車二十万両、航空戦力は月軌道上に戦艦十隻、駆逐艦八十隻。使用兵器は通常砲弾は勿論のこと、原始的な核兵器から始まり反物質兵器、プランク爆弾等を使用し宙対地爆撃演習を行う予定とあります。全ては今夜七時以降に証明されることになります。なお、月の都は軍事演習開始と同時に月軌道へ入る全ての探査機、宇宙船を有人・無人の区別無く迎撃する事になります。最悪の場合、探査機を打ち上げた国に月が攻撃を行う可能性もあることをお知らせします。本日はお集まりいただき有難うございました」

 

深々と礼をする永琳。

 

「ご、号外だ!夕刊の一面空けておけ!!」

 

「デスク!トップニュースです!詳細は今メールで送信しますから確認してください!」

 

「撮影データをすぐに局に送信しろ!スクープだ!どの局よりも早く放送させろ!!」

 

「アメリカ大使館の方、先程のは事実ですか!?」

 

「わ、分かりません!大至急本国に問い合わせなければ・・・・!!」

 

米国大使館員の連絡はすぐに就寝中の米国大統領ディレルに報告されNASA長官がホワイトハウスへ呼び出される事になる。

 

各国からも事実確認の連絡が殺到し一時ホワイトハウスの電話処理能力をパンクさせてしまう事に。

 

だが、そのホワイトハウスのパニックもその後に起きた事から見れば可愛いものであった。

 

 

 

 

「予想通り、パニックですね」

 

「だよねー、想像通りだよ。ま、これで月に対する義理は果たしたし私は晴れて完全な自由の身だー!」

 

「おめでとうございます、姫様」

 

「あ、今何時だろ・・・・げっ!永琳、早く行くよ!!」

 

「姫様の私用でしたね。優曇華とてゐを呼んで来ますので控え室でお待ちください」

 

「オッケー!私を拉致ろうとか考えてるヴァカな奴いたら全殺ししておくから安心して呼んで来て!」

 

「せめて半殺しにしておいてください、後々面倒ですから」

 

 

 

 

 

 

姫様移動中・・・・。

 

 

 

とあるメイド喫茶。

 

「た、タンクさん、ギルマス遅いですな・・・」

 

「え、ええ、突撃バカさん・・・・」

 

「う、うふふ・・・・い、今さっきギルマスのカグカグさんからメールあった・・・少し遅れるって・・・」

 

「そ、それは本当ですか、回復天使さん・・・・」

 

彼らはとあるネトゲのとあるギルドに所属している。

 

いわゆるオフ会であり、今回は初めてギルドマスターのカグカグが所用で東京に来ると言う事だが引き篭もりの多いギルドでありこの三名以外がオフ会に出席する事は滅多にない。

 

言わばネトゲオフ会の常連三人組であり気心が知れている。

 

「し、しかし、さっきから繰り返し流れている映像、何度見ても信じられないでござる・・・」

 

「し、死んでもり、リアルリポップとか、チートすぎ・・・ふひひひ・・・」

 

「か、かぐや姫が実在でござるか・・・・・」

 

「月の都も実在とか・・・それなんてギャルゲ?」

 

「し、しかも七時から月面で軍事演習とか・・・・・もしかして軍事政権でござるか?」

 

ピロリンッピロリンッ。

 

回復天使のスマホがメール着信を知らせる。

 

「か、カグカグさんが店の前に着いたって・・・・。今から入るらしい・・・・」

 

カラララーンッ。

 

「お、入って来たでござるな・・・」

 

ここからでは入り口がちょうど見えないからまだ姿は見えない。

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢さ・・・・・えっ!?」

 

「お帰りなさいませ、お嬢さ・・・・・嘘っ!?」

 

出迎えた二人のメイドが取り乱した声をあげた。

 

「と、取り乱すとか、メイドの風上にもおけないでござる・・・・」

 

「た、ただしイケメンに限る。キリッ。とかですなきっと・・・ふひひ」

 

「あ、あれ?で、でも、カグカグさん女の人のはず・・・」

 

入り口が見える席に座ってる客達も入って来た新しい客を見てざわつき、スマホで写真を撮ったりしている。

 

入店して来たのは四名。

 

「ほへっ!?」

 

「ふひっ!?」

 

「ふぁっ!?」

 

その姿を見て三人も素っ頓狂な声を上げる。

 

テレビを見ればそこには同じ顔が二つ映っている。

 

「ちーっす。カグカグこと蓬莱山輝夜ただいまとうちゃーっく」

 

「師匠ー、私耳引っ張られた挙句もみくちゃに耳触られまくったんですから好きなの頼んでもいいですよねー?」

 

「仕方がないわね、特別よ?」

 

「あたしゃ昆布茶が飲みたいのさ。トラップにこーさくいんってのが引っかかりまくってて笑いすぎて喉乾いたよ」

 

パクパクと口を動かすことしかできない三名。

 

「あ、そう言えばギルドの合言葉まだだっけ。“働いたら負けだと思っている”」

 

「か、か、か、カグカグ氏で・・・・ござるか・・・・?」

 

「だからそうだって言ってるのに。何見てるの?」

 

ギルドメンバーが見ているメイド喫茶設置のテレビを見る。

 

ちょうど輝夜がリザレクションする時の映像が流れてた。

 

「へー、自分がリザレクションする時の姿なんて初めて見たなー。いつも妹紅の奴のしか見てないし。あ、私コーラフロートパフェ特盛サイズで」

 

永琳、優曇華、てゐは隣のテーブルに座り、輝夜は初めてのオフ会を十二分に満喫した。

 

後日、ギルドマスターが蓬莱山輝夜だと知った他のメンバーはオフ会参加しなかった事を後悔しまくったとか。

 

 

 

 

その夜、月面で瞬く様に光る月面軍事演習の光を世界中が目撃し月人の存在と圧倒的な科学・軍事力の差を思い知らされることとなった。

 

竹取物語も改定の必要を議論され、旧竹取物語と新竹取物語の二つに、御伽噺のかぐや姫にも旧版と新版の二つが発行されることとなった。

 

一部の国内外の金持ちが実在する不老不死に目がくらみ、永琳に蓬莱の薬を作ってくれと札束やら金塊やら宝石やらを積んだが永琳は首を横に振り、蓬莱の薬の調合レシピは月の都に置いて来た。もう千年以上前に作ったきりだから作り方を覚えていない。と門前払いであしらわれた。

 

諦め切れなかった更に一部の金持ち達は地上で藤原妹紅の父親が蓬莱の薬を見つけたという千三百年前の事実に一縷の望みを掛け惜しみなく大金を使い、ある者は詐欺に引っかかり破産し、ある者は偽物の猛毒を飲み死亡し・・・・と、不老不死に踊らされる金持ち達が続出したが遂に本物の蓬莱の薬を手に出来た者は現れることは無かった。

 




神主さんが酔った状態で月の都一億年発言したらしいけどその設定を使用するために月人は現生人類や類人猿とは無関係な全く別の神に近い種にしました。

輝夜さんのリザレクションはもこたんと同じ感じにしました。

にとりが巻き込まれた渋滞の人身事故の被害者は輝夜さんでしたとさ。

wikiとか漁ったけど色んな解釈があったりしたもんだからもう月もブーストしちゃえって考えて月の軍事力強化しました。
地球の科学技術進歩に脅威を感じて急ピッチで軍備化を推し進めた結果こうなった感じだと思ってもらえれば。
河童より遥かに技術力上だから艦隊運用なんか人工知能でやっててもおかしくない。


月の都の住民は月の表をいじれないとかって設定もあったけど月の兎が月面に置かれた測定用の反射板を悪戯で動かしたってのもあるから月人は自由に干渉可能、ただほとんど表側をいじらないだけってことにしちゃいました。
いいよね?


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異文化交流・博麗霊夢と霧雨魔理沙の場合

常識にとらわれてはいけない。


相も変わらず駄文です。
弾幕ごっこ描写むずい。
スペルカード描写は想像で書いてます。
そして日本巫女連盟という捏造設定組織。


 

「くかー、くかー」

 

「すぴー、すぴー」

 

「・・・・・・・・」

 

運転手兼付き添いの役人は後部座席で寝息を立てている二人を起こさないよう無言で車を走らせている。

 

日本巫女連盟が用意した場所は都心から離れた田舎のような景色が多く残る場所でありまだ暗いうちにこの二人を拾い既に二時間近く車を走らせていた。

 

奥多摩方面のさらに先にある目的地まではまだ時間がかかる。

 

それまでは寝ていていいだろうと周囲を警戒しながら車を走らせた。

 

不思議と今までに妨害を受けていない。

 

昨日ダミーのバスを公安の護衛から引き剥がしたり電車を止めたり市ヶ谷会館に放火したりした工作員達の気配も感じない。

 

 

 

 

ブロロロロロッ・・・。

 

霊夢と魔理沙を乗せた車を距離を開けてゆっくりと尾行する車が一台あった。

 

「くそっ・・・だめだ、応答ありません」

 

無線機を持った助手席の白人男性が運転席の白人男性に報告をする。

 

霊夢と魔理沙の目的地ははっきりとしている為、この一本道になる山道で前と後ろから挟み撃ちにしての拉致実行を米国は計画していた。

 

ところが進行方向で待機しているはずの仲間と連絡が取れない。

 

「くそっ、何やってんだ・・・!こんな絶好の機会を・・・!!」

 

「仕方がない、取り敢えずこのまま走り続けよう。向こうの無線機の不調かもしれん」

 

スピードを上げつつ対象の車の視界に入らないように細心の注意を払いつつ尾行し、ガクンッ!と急に浮遊感が工作員を襲った。

 

浮遊感は続き、周囲は山間部だったはずなのに青い大空。

 

「うわああああああーーーーっ!!?」

 

「ぎゃあああああーーーーーっ!!?」

 

米国工作員の二人は絶望の絶叫を上げた。

 

日本の山間部を走っていたはずの米国工作員の車は今眼下に海が広がる大空を自由落下していた。

 

周囲に陸の姿はなく、海のみ。

 

急激に近付く海面。

 

チラッと海面に何かの残骸が見えたが二人の脳はそれを無視し存在しない生にしがみ付く。

 

「いやだいやだいやだいやだーーーーーっ!!!」

 

「た、助けて!助けてママーーーーッ!!」

 

グシャッ!!

 

数百メートル上空から海面へ叩き付けられた車はあっけなく潰れ、ブクブクと水泡を立てて海に沈んで行く。

 

衝撃で二人は即死出来た事がせめてもの救いであろう。

 

それを遥か上空から見下ろしながら扇子で口元を覆い隠す八雲紫の姿。

 

だが隠された口元は笑っておらず、青い海に出来た小さな点が消え、漏れたガソリンやエンジンオイル等の油が海面を漂う様を眺めている目はただただ不快感に満ちた目であった。

 

 

 

 

日本巫女連盟。

 

日本中の本職巫女が所属する巫女の機関である。

 

本職巫女は神職の娘や近親者、縁故の者が多い。

 

また巫女の定年が平均二十代後半な事もあり指導役の元巫女の神社職員も所属している。

 

今日は幻想郷を代表する博麗神社の巫女を招いての交流会という事もあり普段の集まりよりも多くの人数が集まっている。

 

普段は来ないテレビ局やら新聞記者がチラホラ見えている。

 

巫女の写真を撮る目的の巫女ファン達もカメラを構えている。

 

連盟の代表を務める現役巫女の芳子は緊張する。

 

祖母の代から女児は巫女を務めている厳しい家庭で育てられた巫女である。

 

交流会の為にいつも巫女連盟が使用している敷地の入り口から車が入って来る。

 

車は巫女達の最前列にいる芳子の目の前で止まる。

 

芳子の合図で会場の全巫女が礼をする。

 

ガチャっとドアが開き降りて来る人の気配。

 

「博麗神社巫女、博麗霊夢様。遠路はるばるご足労いただき誠に・・・・え?」

 

挨拶をしながら頭を上げる。

 

そこにいたのは白黒の洋服を着て先の尖った帽子を被り手に箒を持った金髪の少女。

 

芳子の挨拶が途切れたことが気になった巫女達は次々と顔を上げる。

 

「あー、いやー、丁寧な挨拶してもらって悪いんだけど、わたしは霊夢じゃないんだぜ・・・・・」

 

ポリポリとばつが悪そうに頬を掻く魔理沙。

 

「ちょっと魔理沙、何ボサッと突っ立ってんのよ?邪魔だから早く退いて」

 

「あ、あぁ、悪かったぜ・・・・」

 

魔理沙が横にずれ、車内の人影が動く。

 

芳子が再び礼をすると他の巫女達もそれに倣う。

 

足が砂利を踏む音。

 

「博麗神社巫女、博麗霊夢様。遠路はるばるご足労いただき誠に・・・・はい?」

 

再び頭を上げながら今度こそ霊夢の姿を見て又もや挨拶が止まった。

 

他の巫女達も再度芳子の挨拶が途切れた事で次々と顔を上げた。

 

ここにいる巫女は全員が同じ巫女装束。

 

足元が隠れそうなほどの緋袴に白い小袖。

 

頭は儀式ではないから何もつけていない。

 

巫女連盟の構成員、巫女ファン、テレビ局のカメラマンや新聞記者が見た幻想郷を代表する神社の巫女。

 

その姿はほとんど赤かった。

 

袖は白いが何故か脇が露出しており、袴の下からはフリルにようなものが姿を見せ脚は膝から下が見え、そして頭部にこれでもかと巨大な紅いリボンをしていた。

 

「・・・・・・・何で挨拶が止まったのよ・・・・・・」

 

「・・・・・・・巫女・・・・・・?」

 

「そうだけど?」

 

それが外界の巫女達と博麗霊夢との最初の会話だった。

 

 

「は、博麗神社の巫女様は皆様がそのような格好を・・・・?」

 

「まぁ、そうね。先代も先々代もこの格好よ?」

 

少しホッとしながら「では、他の巫女様達は私達の様な巫女服を?」と聞く。

 

芳子はこの格好が博麗神社の巫女のトップが着るものだと思っていた。

 

「他の巫女?博麗神社の巫女は私一人だけど?」

 

「・・・・・・・お一人?」

 

「ええ、一人」

 

他の巫女達は霊夢の言葉に顔を見合わせる。

 

「それは・・・・さぞ大変でしょう。お一人で神主様や宮司の方のお手伝いを?」

 

芳子が心配して声を掛けたが霊夢は少し頭を傾げる。

 

「神主?宮司?ごめん、それって何?」

 

ここにいる巫女全員が衝撃を受ける。

 

神主や宮司を知らないと言う事実に。

 

「あ、あの、神社で神事を行う方達なのですが・・・」

 

「へー、外の世界には神社にそんなのがいるんだ。楽できそうでいいわね」

 

ピクピクと芳子の頰が引き攣る。

 

「で、では、博麗神社に他の方は・・・?」

 

「んー?先代が現役の時は一緒に暮らしてたけど引退してからは私一人よ?たまーにピンク髪の仙人やら大酒飲みの鬼やらが何日も入り浸るけど」

 

「ほ、保護者の方は・・・?」

 

「保護者?」

 

「霊夢さんのご両親の事です」

 

「あー、知らない。だって私捨て子だったもの。紫に拾われなきゃとっくにおっ死んで犬の餌になってたかもね」

 

あっさりと特大の発言をする霊夢。

 

「そ、それは失礼しました。と、ところで、博麗神社はどの神様を祀っていらっしゃるのでしょうか?」

 

他の巫女達は上手く芳子が話題を変えたと思った。

 

「祀ってる神様?」

 

「ええ、祀っていらっしゃる神様です」

 

「そんなの知らないわよ、むしろこっちが聞きたいぐらいだわ。先代も先々代も知らないって言ってたし」

 

別のベクトルの特大発言が飛び出す。

 

ヒクッヒクッと芳子の頰がさらに引き攣る。

 

霊夢が本当に巫女なのか芳子は疑い出していた。

 

「そ、それでは、博麗神社の巫女様は普段どの様なお仕事を・・・・?」

 

「そうね、とりあえず境内の掃除して縁側でお茶飲んで、暇潰しに奉納とか演舞の練習して縁側でお饅頭食べて、たまに妖精が悪戯してくるからその時は追い返してるわね」

 

芳子は聞こえ間違いと思い妖精の部分をスルーする。

 

「そ、それでもあなたは本当に巫女なんですか!?」

 

だが我慢の限界に達した芳子は口調を荒くしてしまう。

 

何人かの巫女も頷く。

 

「ええ、巫女よ。博麗の巫女の仕事は博麗大結界の維持・管理と解れが見つかった際の修復。あとは時々発生する異変の調査と解決ね。大変なんだから」

 

やれやれ、という様に肩をすくめる霊夢。

 

「ところで、芳子の所はどの神様祀ってるの?」

 

「諏訪神社において建御名方神様を祀っています」

 

自信を持って言う。

 

「あー、あいつらね」

 

少しうんざりした様に霊夢が言う。

 

「あ、貴女、いい加減にしなさい!建御名方様をあいつらとはなんですか!」

 

「だって、存在しない神様を真面目に信じちゃってるんですもの、おかしくって」

 

これには周りの巫女も芳子に加勢する。

 

「幻想郷には神様がいるのでしょう!?存在しないとは何事ですか!!」

 

「あー、言い方が悪かったわね。正確には、“建御名方”と言う神は存在しないって言う意味よ。だって、建御名方って守谷の二柱がでっち上げた名前だけの存在だもの。見せてあげるわ。って、魔理沙?」

 

後ろを見るが魔理沙の姿が無い。

 

「ま、魔理沙さんでしたら、少し前に喉が渇いたとおっしゃられてあちらの自動販売機のところに・・・・」

 

成り行きをハラハラしながら見守っていた役人が指差す。

 

五十メートル弱ほど離れた場所にある自動販売機のところで魔理沙がジュースを飲んでいる。

 

「ちょっと!魔理沙!!」

 

足元の石を掴むと思いっきり投げる。

 

重力に引かれ石は地面に落ちるがその音に気付いた魔理沙が振り向く。

 

大きく手を振りながら何かを言っているがよく聞こえない。

 

空き缶をゴミ箱に捨てると歩くのが面倒だったのでそのまま箒にまたがり霊夢のところまで飛んで来た。

 

箒で空を飛ぶ。

 

その魔女の様な姿に巫女達は言葉を失い、テレビ局のカメラや新聞記者、巫女ファン達が思わずその姿をカメラに収める。

 

「霊夢、呼んだか?」

 

「ええ、確か魔理沙先週の守谷での宴会の時に伊丹が撮ってくれた写真を持ってたわよね?」

 

「ん?ああ、栞がわりに使ってる奴だけどな」

 

「なんでもいいから、出して」

 

「まぁ、構わないぜ」

 

カバンの中を漁り一冊の本を取り出す。

 

「見た事ない本ね。あんた、またパチュリーの所から盗んで来たのね?」

 

「失礼な。勝手に死ぬまで借りるだけだぜ」

 

「それを世間じゃ盗むって言うのよ。って言うか、なんか禍々しい気配漂わせてる本じゃない・・・・」

 

「ああ、何でも外なる神々って言うのを研究した魔導書って言ってたな。面白そうだから借りて来たんだぜ」

 

魔理沙が本を取り出した瞬間、周囲にいる人間のほとんどが気分が悪くなり一部は顔から血の気が引いていた。

 

だが魔理沙が写真を霊夢に渡してカバンにしまうと嘘の様にそれらが消える。

 

「ほら、こっちのちんまいのとこっちの注連縄背中に付けてる奴が建御名方を考えた諏訪子と神奈子よ。諏訪子に神奈子が戦争仕掛けて神奈子が勝ったけど、諏訪子の祟りを恐れた当時の人間は信仰を放棄しなかったから建御名方ってのを諏訪子と神奈子が考え出して崇めさせた。それが建御名方の正体。つまりこの諏訪子と神奈子が建御名方の正体なのよ」

 

「そんな写真で誤魔化せると思ってますの?」

 

「いや、本当なんだけどね。はー、外の連中は頭が固いのが多いって紫が言ってたの、実感するわー。あー、じゃあ神様じゃないけど貴女達こんなの見たことある?」

 

霊夢はそう言うと役人にトランクにしまってある荷物を取り出してもらう。

 

それはひと抱えはある四角い箱。

 

霊夢はそれを地面に置くと中身を取り出す。

 

箱の蓋を閉め、蓋の上に中身を置く。

 

「さぁどうぞ、開けてみて」

 

芳子に封を解くのを促す。

 

「大きなお椀ですわね。これが何なのですか?」

 

封を解き、蓋に手を掛けようとした瞬間。

 

「ぷはぁっ!!」

 

蓋が飛び上がり小さな声がした。

 

「霊夢さん酷すぎます!」

 

それは霊夢の姿を確認すると霊夢に抗議する。

 

「な、なな、なななな・・・!!」

 

芳子は腰を抜かしてしまう。

 

「何よ、ちゃんと昨日ご飯に砂糖水あげたじゃない」

 

「砂糖水しかもらっていないって言うんです!カブトムシ扱いなんて酷いです!」

 

霊夢に抗議するのは身長が二十センチ程しかない小人。

 

周りの巫女達も目を剥き、カメラのシャッター音が鳴りまくり、テレビカメラの前で興奮状態のリポーターが何かを大きく叫んでいる。

 

「紹介するわ、少名針妙丸。一寸法師の末裔よ」

 

「あ、みなさんどうも!お騒がせして申し訳ありません!」

 

ペコペコと頭を下げる針妙丸。

 

「このぐらいでいいでしょう」

 

お椀の蓋を閉めようとするが針妙丸が必死に抵抗する。

 

「ちょっと、閉められないじゃない!」

 

「もう閉じ込められるなんて嫌です!このままでいます!」

 

「仕方がないわね」

 

霊夢はお椀を抱えると役人に預ける。

 

役人が少し視線を下げればそこには自分が抱えるお椀の中に身長二十センチの小人の姿。

 

「神奈子が酒に酔って愚痴ってたわ。幻想郷に来る前に諏訪子と一緒に日本中の建御名方を信仰している神社を巡ったって。もし一人にでも自分達の姿が見えたなら幻想郷への引っ越しを延期するつもりだったらしいわ。でも、早苗と一緒に幻想郷に引っ越して来た。貴女を含めて、早苗以外の全員に自分達の姿が見えなかったって事ね」

 

ふぅっ、っと一息付く霊夢。

 

「外界の人間の霊力がガタ落ちしてるってのは聞いてたけど、そこまで酷いとは思ってもなかったわ。自分の信仰する神の姿を見ることも出来ないなんて。その程度の霊力で貴女達、どうやって異変を解決してるのか教えてくれない?」

 

「・・・・・異変?」

 

「ええ、異変。妖怪やら神様やらが悪さをして人間に被害が出るあの異変よ?」

 

顔を見合わせる巫女達。

 

「え、どうしたの?」

 

何人かが声を上げる。

 

異変など遭遇した事もないと。

 

「え?一度も?」

 

コクリと頷く一同。

 

「・・・・・・マジ?じゃあ、神様見たことある人は?」

 

全員が首を横に振る。

 

「はぁ・・・・昨日地上を旅行中のアマテラス様と会ったけど彼女の姿もまさか見えてすらいないのしら・・・・」

 

少し騒めく巫女達。

 

「何処かの田舎町で今年初めに伊邪那岐様と伊邪那美様が派手な夫婦喧嘩してて、神降ろし出来る男子高校生ってのが巻き込まれてたって紫が言ってたから少しは期待してたんだけど・・・・」

 

始祖神の名前まで飛び出す。

 

「あ、あの・・・・・」

 

おずおずと一人の巫女が霊夢に声をかける。

 

「ん?」

 

「異変と言うのが起きた時、どの様な方法で解決を・・・・?」

 

彼女はどの様な儀式を行うのか興味があったのだが・・・。

 

「弾幕ごっこよ?」

 

「え?」

 

「弾幕ごっこで完膚無きまでにコテンパンにしてやるのよ。ああ、弾幕ごっこってのは幻想郷での人間対異種族間紛争の解決方法よ。ルールがちゃんと設けられてるわ。そのルールを破ったら幻想郷中を敵に回すことになるから今の所完全に破るバカは出て来てないわ」

 

「ど、どの様なことを行うのですか?」

 

「弾幕を撃ち合うのよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「霊夢、ざっくりしすぎだぜ・・・・。紫がもし知りたいとか見たいとか言ってたら実際に見せてやれって言ってたな」

 

「ああ、言ってたわね。・・・・・・まぁ、外界の記念に一勝負しますか」

 

「へっ、今回は負けないぜ!」

 

「それはこっちも同じよ!」

 

霊夢と魔理沙は同時に空に飛び上がる。

 

それを唖然と見る地上の巫女達を含めた全ての人々。

 

紅白巫女と白黒魔法使いの外界初の弾幕ごっこの始まりの合図だった。

 

 

 

上空を覆う霊夢と魔理沙が撃ち合う弾幕。

 

「ミルキーウェイ!!」

 

魔理沙がスペルカード宣言し弾幕を展開する。

 

空を覆い尽くす様な弾幕。

 

だが霊夢は躊躇なくむしろ逆にその中に飛び込み接近する。

 

「やっぱこの程度じゃ足止めにならないよな」

 

急上昇し弾幕の中を突っ切って来た霊夢を躱す。

 

弾幕をばら撒き態勢を立て直す。

 

 

 

同時に、ネットの動画配信サイトにこの弾幕ごっこがアップされる。

 

ある者はストリーミング配信、ある者は二台のスマートフォンを使い分けて一台がアップロード、もう一台でその間の弾幕ごっこの撮影。

 

動画配信サイトのにょほにょほ動画やyour tubeでは昨日の国会での動画が軒並み上位ランクを独占していた。

 

サムネイルにはテュカが耳を「自前ですよ」と言った時の映像やロゥリィの「あなたおバカぁ?」映像やさとりが幸原の正体を暴いた時の映像、神子が国会にリアル雷落としをした時の神子と国会の外の荒れ狂う落雷映像を並べた映像が並んでいた。

 

そんな中、アクセス数急上昇のランキングに躍り出る弾幕ごっこの映像。

 

テレビ局もこの映像を見てアップロード者にコンタクトを取ろうと四苦八苦している中、突如としてとあるチャンネルが緊急特番として霊夢と魔理沙の弾幕ごっこを放送し始めた。

 

巫女の交流会などあまり視聴率を取れないとほとんどのテレビ局は無視したが一社だけクルーを派遣した局があった。

 

元々は録画をしておいて夕方のニュースの一部にでもしようとの考えだったがリポーターの興奮した様な電話と中継車から送られて来た映像を見て急遽生中継に切り替えたのだ。

 

 

ネット上ではこの動画配信やテレビでの生中継を見て様々なコメントが流れる。

 

 

なんだこれええぇぇぇぇっ!?

 

あれが幻想郷の巫女?って、なんで巫女が空飛んでんの!?

 

箒に跨って空飛んでる子が魔女っ子に見える件について。

 

↑オサーン。今の時代なら魔法少女だろJK

 

魔法少女は実在した!?

 

奇跡も魔法もあるんだ!!

 

あの子三話でマミらないだろうな?

 

なんの三話だよwww

 

すっげぇぇぇぇぇっ!!

 

 

等のコメントが。

 

アップロード者にコンタクトが取れ使用許可や金額面で折り合いのついた局から次々に通常の番組編成を変更してこの弾幕ごっこを放送し始めた。

 

 

 

「隙あり!マスタースパーク!!」

 

「くっ!二重結界!!」

 

避けられないと判断した霊夢は咄嗟に攻めから守りに転じる。

 

広範囲の魔力光の奔流の中を二重結界で耐える霊夢。

 

このマスタースパークの光は一直線に飛んで行ったために近くにハイキングや登山に来ていた行楽客の大勢が目撃し警察や行政に通報やら報告が上がってくる。

 

だがこの時点で既に警察もテレビで弾幕ごっこの中継を見ていた為通報を受けた警察はすぐにその情報を通報者に提供し心配はいらないと情報提供を行う。

 

 

マスタースパークを耐えた霊夢は再び攻めに転じ魔理沙と接戦を繰り返す。

 

いつまでも続くと思われた弾幕ごっこだが流石に霊夢と魔理沙に疲労が現れ始める。

 

「魔理沙!次で決めるわよ!」

 

「上等だぜ!」

 

互いにスペルカードを構える。

 

「ファイナルマスタースパーク!!」

 

「夢想天生!!」

 

空一面を太陽を超える光と轟音が覆い尽くし・・・・。

 

 

 

ピチューン

 

ピチューン

 

 

 

同時にそんな音が地上にいた人々に聞こえた。

 

 

「そこまで!両者引き分け!」

 

突如した声に全員がその声の主を見た。

 

そこにいたのは八雲紫。

 

一体いつからいたのかと誰もが思った。

 

 

地上に降り立つ霊夢と魔理沙に芳子が声をかけた。

 

「あなた達・・・・あなた達って何なのよ・・・!?」

 

愚問とばかりに霊夢と魔理沙は答える。

 

「楽園の素敵な巫女、博麗霊夢よ」

 

「普通の魔法使い、霧雨魔理沙だぜ」

 

 

 

ネット上では

 

 

普通!?魔法使いなのに普通って何!?

 

だから何で巫女が空飛べるのさ!?

 

それを言ったら魔法使いだって飛んでるぞ。

 

つか、後ろでポカンとしてる人が抱えてる大きなお椀に小さな女の子が入ってるんだが。

 

今度は一寸法師か?

 

昨日は国会で覚妖怪が幸原がスパイだって暴いて亡霊が映って更に聖徳太子様が実は女の子で国会にリアル雷落としでこれ以上のトンデモはもう出てこないと思ったのに・・・

 

うん、それは俺も思った。まさかこんなトンデモが来るとは・・・・

 

常識は通用しない、いや、むしろ幻想郷とやらが関わるのなら常識は捨てるべきだ。

 

 

等のコメントが流れた。

 

 

 

つまり、この日の各テレビ局の放送は大まかに・・・・・

 

朝は前日の国会中継のまとめやダイジェスト放送。

 

昼頃には霊夢と魔理沙の弾幕ごっこと一寸法師の末裔の姿を繰り返し放送。

 

昼過ぎから夕方にかけては輝夜のリザレクション姿から始まりかぐや姫の実在、竹取物語の真実と不老不死の実在と月人の存在を繰り返し放送。

 

ニュース速報のテロップで吸血鬼・織田信長の情報が流れ、

 

夜は月軍の軍事演習が予定通り決行され月面に瞬く核兵器や反物質兵器、プランク爆弾の爆発光を地上から撮影した映像や天文台が月を観測した映像を放送。

 

特に天文台が観測した月面戦車と思われる移動する点の大群や軌道上に前日まで見られなかった人工物・・・月軍の戦艦や駆逐艦とみられる物体の観測を繰り返し放送。

 

だが、どの局もこぞって緊急特番に切り替えている中で唯一放送スケジュールを変更せず、テロップなど流さず、夜間においてはきちんと予定通りアニメを放送したチャンネルが一つだけ存在し日本がまだまだ平和だと人々は安堵する。

 

しかしそれでも日本中の薬局がごった返し、陳列棚から胃薬という胃薬が姿を消し大型薬局から個人薬局に至るまで胃薬の棚には品切れ中の貼り紙が貼られ製薬会社は増産を迫られる事になる。

 

処方箋での胃薬は医師の判断で常用の必要がある患者や緊急性の高い患者が出た時に限り処方する事でこの年末が迫る時期に発生した胃薬クライシスを乗り切る事になった。

 

 

 

にとりに関してだが、彼女のもたらした情報や技術のヒント、提供されたOSに関してはこの時点では機密性が高い特定秘密として扱われ情報解禁されるのはまだ先になる。

 

 

なお、霊夢が始祖神夫婦喧嘩発言した時の映像を見た当事者の学生達は思いっきり咽たとか。

 

 




この日のテレビ局の放送・・・・なんだこのカオスは・・・・。


やっと次回は旅館襲撃編・・・・の予定。
変なアイディアを妄想しない限りは。


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一行「温泉へGo」工作員御一行「温泉へGo!ハリーハリーハリーハリーー!!」

少し長くなるかもしれないので二分割。
先行して書きあがった方をうpします。


「一体どういう事なんだね!!」

 

ドンッ!

 

まだ空が白み始めてすらいないワシントンD.C。

 

ホワイトハウス大統領執務室において米国大統領ディレルの怒声と机を叩く音。

 

机の上にはNASAがこれまで歴代大統領にひた隠しにしてきたアポロ計画とそれ以降の月面基地開発の真実が書かれている書類の山。

 

月人及び玉兎兵との月面での戦闘記録。

 

なんとか撮影に成功しているブレた状態での突撃して来る月面戦車らしきものが写っている写真。

 

深夜にホワイトハウスからの電話で叩き起こされたNASA長官は歴代長官達と連絡を取りこの書類をかき集めた。

 

 

「と、当時の大統領令により、月に関する真実はNASAのトップシークレットに指定され、それ以降の大統領にも機密にしろとの命令でしたので・・・」

 

NASA長官がディレルの問いに答える。

 

日本経由でもたらされた月人の存在と月軍の軍事演習の情報は今や世界中を駆け巡っている。

 

既にどこの国も、とある半島の独裁政権国家以外の国では情報統制をする猶予すらなく広まってしまった。

 

月人の情報だけならば科学者は笑い飛ばしただろうが突っ込んできたトラックで轢死した輝夜がリザレクションする姿を見てからは何も言えない。

 

特にNASAが月の都の存在をひた隠しにして来たと言う情報は陰謀論者やオカルトマニア達にはすんなりと受け入れられ拡散している。

 

極一部では輝夜のリザレクション姿の映像を見て二千年前のキリスト復活の言い伝えからキリスト月人説まで飛び出している。

 

 

 

とある国のとある町。

 

パンチとロン毛の二人が買い物途中に街角でこのニュースを見る。

 

「ねぇ、もしかして月出身だったの?」

 

「違うよ!?」

 

と会話していたとかいなかったとか。

 

 

 

ディレルは執務室のテレビをつける。

 

報道ヘリからの映像でSNSで広まった「月人が攻めて来る!」というデマでパニックに陥った人々が暴動を引き起こし略奪行為にまで発展し鎮圧に警察が投入されている映像が流れる。

 

アラスカのアンカレッジでの集団パニックは日本との時差の関係でまだ起きている人間の数が多かったために知事が州兵に待機命令を出している。

 

ディレルはNASA長官にこのパニックを収めるために会見をNASAで行うように命じ退室させる。

 

「日本時間での夜七時まで後一時間か・・・」

 

執務室の時計は米国ワシントンD.C.の現在時間である午前五時を指していた。

 

「くそっ・・・・。しかし、月の事が事実であろうと連中は地球内の事には干渉しないだろう。地球をリードして行くのは我々ステイツでなければならん」

 

少し頭痛を感じアスピリンを飲む。

 

月人の情報が飛び込んで来た為に深夜に起こされ今に至る。

 

再び眠りたかったが間も無く特殊部隊が特地及び幻想郷の来賓達とコンタクトを取る為に行動を始める。

 

場合によっては政治的なやり取りが必要になるだろう。

 

「私だ。眠気覚しに熱いブラックコーヒーを頼む」

 

秘書に内線で指示を出しNASAの置いていった書類を眺める。

 

「もっと早く月の事を知っていればそれなりの交渉が出来たかもしれんし、上手く行けば月の技術を我々が独占出来たかもしれんのに・・・大馬鹿どもめが・・・」

 

一人ディレルは呟いた。

 

 

 

「温泉だーーー!!」

 

栗林と幻想郷女性陣は着衣を脱ぎ裸になって温泉に突進する。

 

ロゥリィ、テュカ、レレィ、ピニャ、ボーゼスは初めて見る温泉に興味津々である。

 

ロゥリィがお湯に飛び込みかけるが栗林に羽交い締めにされる。

 

「ダメ、まずは体を洗ってから!」

 

ズルズルと引きずられて行くロゥリィ。

 

こっちでも湯船に浸かる前に体を洗うのかと自分達との文化の共通点を見つけるピニャとボーゼス。

 

見れば霊夢を始め幻想郷の全員が身体を洗い始めている。

 

「あれ?そう言えば慧音は?」

 

テュカが慧音の姿が見えないのに気付く。

 

「ああ、あいつならもう一人部屋よ。今日は満月だしね」

 

「ああ、満月だからな」

 

「??」

 

「ま、早い話が今夜はそうっとしておけってことよ」

 

霊夢の言葉の意味がわからなかったが宗教的なことか何かだろうと思いそれ以上の追求はしない。

 

「紫の奴も来ればよかったのにな」

 

「確か東京で野暮用があるって言ってましたね。でも、一人にして置いて大丈夫なのかな・・・・?」

 

栗林が体を洗い終え湯船に浸かりながら言う。

 

「大丈夫よ、だって紫だから」

 

「ああ、紫だからな」

 

霊夢と魔理沙がそれに答えるように言いながら湯船に浸かり始める。

 

身長が二十センチしかない針妙丸はそのままだと溺れてしまうから桶に温泉の湯を入れてそれに浸かっている。

 

桶自体はプカプカと温泉に浮かべてある。

 

 

 

「ふぃーっ、いい湯だー」

 

湯船に浸かる伊丹が思わず声を出した。

 

桑原、富田も同じく湯船に浸かる。

 

「隊長、お一つどうぞ」

 

「ああ、すまんな富田」

 

徳利と銚子で熱燗を楽しむ。

 

「おっ、始まったなー。って事は今七時かー」

 

月を見上げた伊丹の言葉につられて二人も月を見上げる。

 

綺麗な満月だが所々がチカチカと光り始める。

 

「あれが・・・ですか?」

 

「信じられない・・・」

 

「多分、小さな光が核兵器だろうなー。中ぐらいのは反物質兵器、一際大きなのがプランク爆弾って奴だろうなー」

 

「今頃、世界中が大騒ぎになっているでしょうね」

 

「ああ、天文家は大騒ぎだろうな」

 

月を見上げる三人。

 

「伊丹さんは月に行った事が?」

 

「ん?ああ、一度だけあるよ。ま、咲夜さんの下の雑用係で妖精メイドに混じってたけど」

 

「凄い・・・。どんなロケットで行ったんですか?」

 

富田が狂み深く聞いてくる。

 

「ああ、それがね、なんと木造」

 

「「・・・・・木造?」」

 

桑原と富田の声がハモる。

 

「最初見た時は驚いちゃったよ。だってエアロックかと思ったら普通のドアで窓は開くし。まぁ、外のロケットとは全く別の霊力・魔力式のロケットだったよ。だってエンジンが霊夢さんで予備エンジンが魔理沙さんだったから」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「どったの?」

 

「「ロケット・・・・?」」

 

「そ、ロケット」

 

 

 

一方、女風呂では。

 

「お、おおお・・・・月が・・・・」

 

「あー、連中始めたわね」

 

ボーゼスの驚く声に霊夢が答えた。

 

「く、栗林殿、あれは一体・・・・」

 

「わ、私に聞かないでよ・・・・聞くならあっちに聞いて・・・・」

 

ピニャの問い掛けに応えることのできない栗林は永琳と輝夜、優曇華を指差す。

 

てゐはテュカと温泉を泳いで霊夢に拳骨をくらっていた。

 

ピニャとボーゼスは永遠亭一行に近付き話しかける。

 

「か、輝夜殿、あれは一体・・・・」

 

「あー、あれ?永琳、お願い」

 

「分かりました姫様」

 

(永琳と呼ばれる女、こちらの輝夜殿を姫と常に呼んでいる・・・)

 

ピニャは思い切ってその事も聞こうと決心する。

 

「あれは月の都の軍が演習を行なっている光です」

 

「つ、月に人が住んでおるのか!?」

 

「ええ、月人と呼ばれる民が住んでいます。私と姫様も昔はあそこに住んでいました」

 

「で、では、輝夜殿は月の姫君・・・?」

 

ボーゼスが呟く。

 

「はい。しかし姫様は今や月とは無関係でありますのでお気になさらずに」

 

 

 

 

 

パシュッ!

 

サプレッサーの微かな音がし旅館を取り囲む森の中で一人が死んだ。

 

「クリア」

 

無線で本部に報告をする。

 

自衛隊特殊作戦群は温泉に近付く工作員を排除して行く。

 

特地及び幻想郷の来賓達を拉致する目的であろう。

 

それだけの大人数を拉致するのだ、現在確認されている工作員達の総数は三桁に達している。

 

「今の戦争がこんなんだとはな。まるでゲームみたいだ」

 

作戦司令室で嘉納大臣が前方の大型モニターを見ながら呟く。

 

「なぁ、二佐。お前さんが拉致側だとしたら、昼間のアレを見ても拉致したいと思うか?」

 

可能が言うアレ・・・霊夢と魔理沙の弾幕ごっこ。

 

人間が空を自在に飛び回り、プラズマの様な光の球を大量にバラ撒く姿。

 

そして必殺技としか見えない技。

 

「ファイナルマスタースパークに夢想天生・・・・か。木の一本にでも当たってりゃあどれぐらいの威力があるのか想定材料になったんだがな・・・」

 

「私見ですが、場合によっては個人で大軍を相手に出来るかもしれない。正直に言えばすぐに逃げたいでしょう。ですが軍人は命令に逆らえない。特に中国なんかでは・・・・」

 

「ああ、死に物狂いだろうな。連中の事だ、家族を人質に取って裏切りや脱走を防いでてもおかしくねぇ。それに接近されて催眠ガスでも使われりゃあガスマスク付けた連中が有利になるだろう。奴ら、それに掛けてるのかもな。しっかし、連中の動きはバラバラだな。統一性のとの字も見えーーーー」

 

嘉納の言葉が途切れた。

 

「なぁ、連中の顔、確認出来るか?」

 

「え?」

 

「嫌な予感がしやがる・・・」

 

 

 

 

都内。

 

八雲紫は一人街中を歩いている。

 

その姿は人目につき、彼女を尾行している米国工作員達にとっても楽な尾行である。

 

ラーメン屋に入り食事をしたりショッピングをしたりと紫の行動は普通の人間と何ら変わらない。

 

街中を歩く紫だが少し視線をあげれば光が瞬く月の姿。

 

大多数の人々は月を見上げている。

 

だから工作員達にとって楽な尾行だ。

 

 

 

 

箱根。

 

部屋でまったりしていた伊丹、桑原、富田は女性陣によって酒盛りの場に連行されていた。

 

ピニャとボーゼスも出来上がっており、霊夢と魔理沙と共に酒を飲んでいる。

 

「ああ、こりゃあ明日は二日酔いだな・・・・」

 

伊丹は覚悟を決めた。

 

 

 

箱根山中。

 

「なぁ、こいつやけにいい装備だな・・・・」

 

「今時のサバゲーマーもこんなんだぜ?」

 

「マジ?よし、ライトを使う。持っててくれ」

 

光が外部に漏れない様にカバーをかけてライトを点灯。

 

「ど、どうなってんだこれ・・・・」

 

すぐに無線を掴む。

 

「ど、どうなってんだこれ!黒人だ!繰り返す!ターゲットは黒人だ!」

 

 

 

作戦司令室。

 

無力化したターゲットが黒人だと言う情報が上がってきた途端に騒つく司令室。

 

「だ、大臣、これは・・・・!!」

 

「後だ!至急首相官邸に繋げ!大至急だ!!」

 

嘉納は首相官邸に電話をつなぐ様に受話器に指示を出す。

 

「実行部隊に黒人が混じってる国なんかアメリカしかねぇ!!」

 

 

 

 




よく陰謀系の映画では大統領も真実を知らされていなかったりするのでディレルさんは月の事を全く知りませんでした。

工作員もマシマシで三桁に。
しかし一方的に蹂躙される未来しか見えないのは何故だろうか・・・・。

後、旅館編の漫画で月の描写が見つからなかったので勝手に満月にしました。
満月・・・慧音・・・ハクタク・・・。
うっ、頭が・・・・(物理的に)


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八雲紫と工作員達

注・グロシーンありです。

前話前書きで二分割と書きましたが二分割じゃ足りない・・・・。
なので三分割か四分割に変更します。




期待に答えられるかなぁ・・・・・。


 

 

「総理、米国のディレル大統領よりホットラインが・・・・」

 

「わかった、繋いでくれ・・・・・」

 

本位総理は米国大使館員が機密扱いの荷物として置いていった書類の山を見ながら答えた。

 

「やぁ、モトイ。私からのプレゼントは見てくれたかね?」

 

「だ、大統領、これをどうやって・・・・」

 

「なに、優秀な部下が働いてくれたおかげだ。ああ、私の手元にはそれの原本があるよ。ちょっと用心深くしてみただけだがね。でだ、私は日本語が不得手なので良くわからないのだが・・・この書類には大臣や官僚の不正や汚職、裏献金の情報が書かれているそうじゃないか。ああ、私の部下が新聞社に持ち込まれる前に気付いて本当に良かったよ。友がスキャンダルで失脚する様など見たくはないからね」

 

本位総理はディレルがどんな要求をしてくるのか気が気ではなかった。

 

「ところで、友として頼みがあるのだがね。今そちらに特地の高貴な来賓と幻想郷からの来賓がいるそうだが、是非彼女達にも我がアメリカを見て頂きたいのだよ。送迎員を既に送っているのだがね、ガードが固くてなかなか会えないらしい。友としての頼みだ、なんとかならないかね?」

 

「そ、送迎員ですか・・・。ずいぶんとせっかちなことで・・・・・」

 

「私も別世界の人間と会って見たい気持ちが逸ってしまっていてね。なんとかならないかね?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「モトイ?」

 

「が、ガードには面会希望の方々がいると伝えましょう。で、ですが、その招待を受けるかどうかの選択権は招待を受ける側である彼女達にあります。彼女達が拒否してもこちらに責任は問わないで頂きたい・・・・」

 

「ああ、もちろんだとも。ありがとう、感謝するよモトイ、では、また直に会う時を楽しみにしているよ。はははははは」

 

ホットラインが切れ、受話器を置く。

 

 

 

 

「作戦中止!?どう言うことです総理!!」

 

嘉納の驚愕の声が作戦司令室で作業をしている全員の耳に届いた。

 

「ディレルの野郎に何か言われたのか!?本位総理!?」

 

「米国は・・・内閣のスキャンダルを掴んでいます・・・・。ホワイトハウスにはその原本が・・・・。でも、私はガードを解くといっただけです。引き渡すとは一言も言っていません。明日の朝、辞任を発表します・・・・。それで米国の野望は全てご破算・・・・。これが打てる最善の手です・・・・。後を・・・お願いします・・・・」

 

「・・・・・・・・・・あの野郎、最後だけカッコつけやがって・・・・・」

 

嘉納大臣は受話器を置く。

 

「だ、大臣・・・・・」

 

「聞こえたな、作戦中止だ・・・」

 

「りょ、了解・・・。作戦中止を通達します・・・・・」

 

オペレーターの悲痛な声がした。

 

 

 

「妖夢」

 

「幽々子様・・・・」

 

窓辺で外を眺めながら酒を飲んでいたロゥリィと妖夢の所に幽々子が歩み寄ってきた。

 

「妖夢、貴女も気付いてるわね?」

 

「ええ・・・このみょんな・・・・・コホンッ・・・妙な気配、恐らくいくつかの魂が外界の冥界に向かっています」

 

「こちらに世界の魂は私達の管轄外・・・。でも、魂が向かっていくのは分かるのね、大発見だわ・・・。もしかしてロゥリィさんも気付いていて?」

 

「ええ・・・そぅよぉ・・・。エムロイは戦いの神・・・こちらの世界の戦いで散って行く魂もわかるわぁ・・・・」

 

 

 

パスパスッ!シュカカカカカッ!

 

サプレッサーで減音された発砲音がいくつかある。。

 

森の中で戦闘を繰り広げる特殊作戦群と各国工作員達。

 

だが突如として特殊作戦群の妨害が止まる。

 

「上と話がついたらしい。予定通り護衛の自衛隊員を排除してエスコートに行くぞ」

 

「こ、ここまでやられたのも予定通りだっていうのかよ!?」

 

「日本の特殊部隊がいたのは想定外だが、任務は任務だ。行くぞ」

 

「ちっ!!分かった・・・・」

 

妨害が無くなり旅館に接近する米国兵。

 

しかし彼らは想像すらしていなかった。

 

自分達以外にも旅館に向かっている集団がいる事に。

 

 

 

 

都内。

 

紫は次第に人気のない場所へ歩いて行く。

 

米国工作員達は地図を確認し行動を起こすべく部隊を二つに分ける。

 

コツコツコツコツ・・・・。

 

紫の足音が喧騒から離れた道に響く。

 

紫がある小さな交差点を通り過ぎると同時にそばに止まっていたトラックの荷台から作業服を着た男が二人降りてくる。

 

男二人はガチャガチャと通行止バリケードをトラックから下ろし道路に広げる。

 

偶然紫の数十メートル後ろを歩いていた二人の中年サラリーマンがいた。

 

二人は出来上がっており千鳥足で歩いている。

 

「部長、次の店はこっちなんですかぁ?ヒック」

 

「ああ、そうだとも。ヒック、少し寂れた所にあるんだけどな・・・ヒック、綺麗所が揃ってる穴場なんだよ。ヒック。あれぇ・・・・?」

 

目の前に広げられて行きく黒とオレンジのシマシマの入った金属のバリケード。

 

「スミマセン、工事中デス」

 

片言で通行止だと告げる。

 

「工事ぃ?ヒック・・・」

 

「おかしいなぁ・・・ヒック、そんな予告どこにも・・・ヒック。まぁいいじゃないかぁ、まだ始まってないんだろ・・・?ヒック」

 

「そうそう、ヒック。あのお姉ちゃんも通ってるんだし、通っていいだろ・・・?ヒック」

 

「スミマセン、工事中デス」

 

「堅いこというなよぉ〜ヒック」

 

「ドウカシマシタカ?」

 

もう一人の作業員がサラリーマン達に声を掛ける。

 

ガタイのいい白人と黒人の二人。

 

「モウシワケナイデス、工事中デス・・・!」

 

少し低い声で二人のガタイのいい外国人に少し凄まれて一般的なサラリーマンが耐えられるだろうか?

 

「あ、あぁ〜、工事中じゃ、し、仕方ないですよね〜。ね、ねぇ、部長・・・・?」

 

「あ、あぁ、そ、そうだとも。ヒック。お、お仕事ご苦労様です・・・・!!」

 

二人のサラリーマンは回れ右して逃げ出す。

 

足を縺れさせながら逃げるサラリーマン達の姿を見送る二人の工作員。

 

「ああいうのは片言で脅せば一発だ」

 

「だな」

 

無線機を取ると通行止にしたと合図をする。

 

その合図を受け、紫の進行方向にもバリケードが築かれる。

 

 

 

「あらあら、この道路は工事中になるのね?」

 

進行方向のバリケードを見て紫が言う。

 

「こんな工作までして、いじらしいわね」

 

その言葉に工作員達がぞろぞろと姿を表す。

 

前後に五人ずつ。

 

合計十人。

 

「八雲紫さんですね?」

 

「ええ、そちらは?」

 

「私達はアメリカ合衆国ディレル大統領の命を受けて貴女を合衆国に招待しに参りました」

 

「あら、そうなの。でも、それにしては少し物々しくはなくて?」

 

「いえ、これはエスコートを妨害する輩を排除するために必要な物です」

 

ジリジリと紫を囲む範囲を狭めて行く工作員達。

 

「合衆国は貴女を丁寧におもてなしします。さぁ、我々と同行を」

 

「もしお断りしたら?」

 

「不本意ですが、力尽くでも」

 

「・・・・・・・・・」

 

「貴女を尾行させていただきましたがお食事やショッピングがお好きなようで。合衆国の誇りにかけて貴女のお好きな物をご用意しましょう」

 

「あら、本当に?」

 

「ええ、お好きな物を。我がステイツの誇りにかけて」

 

「本当に、“好きな物”を?」

 

「もちろんです」

 

クスッっと紫が笑う様を見て工作員達は作戦の成功を半ば確信し警戒を緩める。

 

「では、少し味見しましょう」

 

「え?」

 

紫はトンッと軽く地面を蹴る。

 

一人の工作員の真横を突風が駆け抜け、紫の姿が消えていた。

 

反対側の工作員達の視線を頼りに全員が一斉に後ろを見る。

 

そこに先程まで正反対の位置にいた紫の姿があった。

 

銃を持っている。

 

いや、“銃を持った手”を持っていた。

 

「ぎゃあああああああああああああっ!!?」

 

一人の工作員が絶叫を上げる。

 

何事かと全員が仲間を見た。

 

腕が無くなり血が吹き出していた。

 

バリバリと言う嫌な音がして全員が音のする方向を見る。

 

「やっぱり・・・ボリッボリッ・・・・合成繊維は・・・・バキッ・・・・不味いわねぇ・・・・」

 

紫は腕を食べていた。

 

「それに・・・・モグモグ・・・・合成着色料・・・・ボリッ・・・・のおかげで・・・ボキッボキッ・・・・最近の外界の・・・・むしゃむしゃ・・・・ごくん・・・・人間は不味いったらありゃしないんですもの」

 

腕を一本食べ終え口元に付いた血を拭き取る紫。

 

「腕ぇぇぇぇぇぇっ!!俺の腕えぇぇぇぇっ!?」

 

錯乱する腕を捥がれた工作員の一人。

 

「な、何をする!?」

 

「だって、好きな物を用意してくれるって仰ったでしょ?だから私が満足するか味見しただけよ?」

 

「な・・・・・」

 

「ラーメンもカレーライスもステーキもお寿司も大好きだけど・・・・私の主食、人間ですもの(はぁと)」

 

にこりと邪気の一切ない本当の笑顔を見せる紫。

 

「くそおおぉぉぉぉぉっ!!このバケモノがあああぁぁぁぁっ!!」

 

激昂した一人がアサルトライフルを乱射する。

 

「あら、危ない」

 

傘を開き銃弾を全て弾き落とす。

 

「か、傘で銃を防いだ!?」

 

「催涙弾!催涙弾を使え!総員ガスマスク装着!!」

 

ポンッポンッ。

 

そんな軽い音と共に催涙弾が発射される。

 

紫はそれを同じく傘で落とす。

 

カラカラカラ・・・・。

 

紫の足元に転がる催涙弾からは催涙ガスが吹き出し周囲を覆う。

 

「あら?見えないわね?」

 

困惑するような感じの紫の声。

 

移動する気配を感じ警戒を高める。

 

だがしばらくしてゲホゲホと咳の音が聞こえ始めた。

 

男の咳では無く女の咳だ。

 

「効いてるぞ!」

 

「はっ!科学の勝利だ!!」

 

「げほげほっ・・・」

 

咳の音を頼りに工作員達が紫を囲む。

 

地面に蹲るようにして苦しそうに咳をし涙を流している紫の姿が工作員達の目に入る。

 

「あいつの仇だ!!」

 

ガッ!

 

うずくまる紫を蹴飛ばす。

 

「手間かけさせやがって!何が妖怪だ!!」

 

ドカッ!ガスッ!

 

足で蹴飛ばし、銃床で殴る。

 

「い、いた、や、やめ・・・・」

 

弱々しい悲鳴が上がる。

 

「ふんっ!!」

 

工作員達のリーダーは紫を思い切り蹴飛ばすと部下に命じて縛り上げさせる。

 

「このっ!抵抗するな!!」

 

「ビッチが!!」

 

縛られた紫が地面に転がされている姿を確認する。

 

催涙ガスが風に流され薄くなっているのを確認すると全員がマスクを外す。

 

工作員のリーダーは無線機を手に取る。

 

「来賓、ヤクモユカリの招待に成功。少し強引な招待になった。負傷者有り。オーバー」

 

「あら?私は招待に応じた覚えはなくてよ?」

 

唐突に聞こえた聞き覚えのある女の声。

 

全員が一斉に地面に転がっている紫を見る。

 

一人が足で蹴飛ばし仰向けにさせる。

 

だが紫は気絶している。

 

「どこを見ているの?私はここよ?」

 

声ははっきりと頭上から聞こえた。

 

全員がその方向を見る。

 

街灯の上に無傷の紫が立っている。

 

扇子で口元を隠しているが相変わらずの微笑みを浮かべていた。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

反射的に全員が地面に転がされている紫を見る。

 

そこに転がっているのは紫のはずだった。

 

全員が紫の顔を確認していた。

 

だが、今そこに縛り上げられて転がっているのは工作員の一人の黒人の姿。

 

殴られ蹴られ、顔の一部は腫れている。

 

「少し認識の境界をいじってそちらの方が私と認識されるようにしてみましたの」

 

ストンッと紫が街灯の上から降り立つ。

 

「ば、バケモノ・・・・」

 

「よく言われるわ」

 

「か、構わない!殺っちまえ!こいつは危険だ!!」

 

リーダーの命令下、一斉に紫に向けて銃口が向けられ銃弾がばら撒かれる。

 

それを先程と同じく傘で防ぐ紫。

 

「回り込め!!防いでいるって事は弾に当たりたくないって事だ!!」

 

傘での直線上から左右、扇状の位置に移動する。

 

紫の姿は丸見えだ。

 

「ふわぁ・・・・」

 

「あ、あくびだと!?」

 

「な、舐め腐りやがって!!」

 

退屈そうにあくびをする紫の姿に激昂。

 

左右から銃弾のシャワーを浴びせる。

 

傘で防いだとしてもどちらかの弾は紫に当たる。

 

「あ、当たってるのにどうして倒れねぇんだ!!?」

 

だがそんな弾丸のシャワーを紫は意に介さない。

 

当たっているがダメージが通らない。

 

「お肌の境界をいじってみましたの」

 

にこりと笑う紫。

 

「先程は腕でしたが、脚はどうかしら?」

 

逃げる間も無く目の前にまで接近され紫を攻撃していた男が驚きたたらを踏んで転ぶ。

 

そんな男の足を紫は軽く掴むとあっさりと捥ぎ取る。

 

「あぎゃあああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

絶叫が上がる。

 

紫は一口脚を齧るが表情を歪めるとその脚をポイッと苦痛に悶え地面でのたうち回る持ち主のところに捨てる。

 

「・・・・・・胸焼けしそうなほど不味いわ・・・・・。何を食べていたらこんな不味い人間が出来上がるのかしら・・・・」

 

その光景を見てまだ無事な工作員達は自分達が相手にしているのがとんでもない怪物だという事を思い知る。

 

「む、無理だ・・・・こんなバケモノ相手に出来るか!!」

 

「に、逃げろ!!」

 

作戦の遂行どころか皆殺しにされる。

 

我先にと逃げ出す工作員達。

 

自分達が設置したバリケードが目の前に迫る。

 

あれを突破すれば・・・。

 

 

ぶにょんっ。

 

 

「・・・・・・・・え?」

 

突破できなかった。

 

まるで空間に弾力があるかの様に突破を阻まれる。

 

押しても見える景色が引き延ばされるだけで手を離せばすぐに元通りに。

 

「な、なんだこれ・・・・・なんだよこれえええぇぇぇぇぇっ!!?」

 

殴り、ナイフで突き、銃弾を撃ち込む。

 

その全てが無駄に終わる。

 

「無駄よ?貴方達は最初に私と会話した時から私の結界に囚われていたの。おかしいと思わなかったの?あんな大騒ぎをしたのにサイレン一つ聞こえていなかった事に」

 

「バラけるな!各個撃破される!固まって集中攻撃すればまだ勝機は・・・・・!!」

 

「や、やってやる!死んでたまるか!!」

 

「む、昔のジャップ達がこいつらを追い詰められて俺達にできないはずがねぇ!!」

 

指示に従い固まる工作員達。

 

「あら?手間が省けましたわ」

 

クスリと笑う紫。

 

何が来るかと警戒を高める。

 

カッ!

 

背後から凄まじい光が差し込む。

 

何事かと振り向く工作員達。

 

プアアアアアァァァァァァァァンッ・・・・・!

 

「は・・・・・?」

 

ガタンゴトン・・・ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!

 

プアアアアアァァァァァァァァンッ!!

 

開いた巨大なスキマ。

 

その中から突き進んで来るライトを点灯させた電車の姿。

 

グシャッ!グシャグシャグシャグシャッ!!

 

ガタンゴトン!ガタンゴトン!

 

プアアアアアァァァァァァァァンッ!!

 

もしこの場に鉄道ファンがいたら涙を流しただろう。

 

何十年も前に廃線となり車両自体も現存していない幻のローカル廃線電車が電気もないのに走っている姿を。

 

「人生の途中下車ね」

 

もう一つの巨大スキマに電車は走りながら姿を消す。

 

残ったのは血に塗れた肉の塊となった工作員達だった物。

 

「あら?」

 

もぞっと動くものが視界に入る

 

工作員の一人が生き延びていた。

 

腕を捥がれた工作員と脚を捥がれた工作員は失血死、リーダーと運悪く電車の進路上に転がされていた縛られた黒人工作員を含めた七人は轢死。

 

この一人は僅かな怪我。

 

「感心するわ。咄嗟に進路上から逃げたのね」

 

「うひっ・・・うひひっ・・・・」

 

「あらあら・・・・?」

 

「あひっ!あひゃひゃははははははっ!」

 

ケタケタと笑い出す工作員の生き残り。

 

だが余りの恐怖に発狂していた。

 

「えひっ!ひひひひひひひひっ!」

 

ニタニタと笑いながら小便も漏らしている。

 

「・・・・・・どうしようかしらコレ・・・・。あ、そうだ。いいこと思いついちゃったわ」

 

悪巧みする時の笑みを浮かべ紫はスキマを開き結界内の死体を全て回収する。

 

狂った工作員もスキマに飲み込む。

 

結界が消え、微かな喧騒が戻る。

 

紫が立ち去った後には血痕の一つも残ってはいなかった。

 




総理は原作通りに辞任を覚悟します。
え?
幸運設定どこ行ったのかって?
幸運を実感するには一度不幸になりかけなきゃいけないでしょ?(ゲス顔

まず先に紫対工作員達を書きました。
旅館戦闘は次回の予定。


そしてスキマに飲み込まれた紫を襲撃した工作員達の死体の山と発狂してしまった唯一の生き残り。
洗脳とか妖怪の食料にとかではありません。
ちゃんと有効利用します。
では、続きをご期待ください。


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番外編・月の反応

今回は番外編です。
まだ旅館編は終わっていませんが同時進行で起こっている出来事と思ってください。
勢いのまま書いたので少し短いです。


9月から少し更新頻度が下がるかもしれません。
何でかって?
9月頭に東方天空璋が届くからですよ。
下手の物好き、STGは下手なのに大好きというあれです。


月面・月の都防衛軍

 

 

嘗ては地球から来る対妖怪の小さな組織であった。

 

増長した妖怪達を率いて月の技術を手中に収めようとまだ野望に満ち溢れていた頃の八雲紫が月に攻め入った。

 

結果は八雲紫の惨敗。

 

月に攻め入った妖怪の殆どが死ぬか弱体化し、紫もなす術もなく逃げ帰ると言う苦渋を飲まされた。

 

それから千年。

 

かつて人間を脅かしていた妖怪等の勢力は地球人類の科学技術が進歩するに従い弱体化。

 

五百年程前に八雲紫が妖怪達の楽園を作るべく幻想郷を創立。

 

百年程前に博麗大結界を構築し小さな世界に閉じこもった。

 

監視を緩めたことはないが月での幻想郷に対する警戒度は最低に位置付けられていた。

 

代わりに警戒度が上昇したのは地球全体。

 

蒸気機関による鉄道網の構築から始まり地球人の科学技術の発展速度は異常に早かった。

 

飛行機械により空を飛び始め、次第にその高度をあげて行く。

 

やがて地球の外・・・宇宙空間に人工物を打ち上げるほどになる。

 

月の地球人類に対する警戒度は中に高められる。

 

この頃から月は地球人類にとって身近な天体・・・自分達が住むこの月に到達するのは時間の問題との結論に達する。

 

この時期に立ち上げられた防衛軍創立計画。

 

そして遂に地球人が月に辿り着いた。

 

警戒度は高に引き上げられる。

 

まだ計画完遂には程遠い段階ではあったが当時の地球人を月から追い払うには十分な装備だった。

 

その後何度も地球人類は月面基地建設計画で月に来た。

 

玉兎兵及び月面戦車と地球の宇宙飛行士達の戦闘で玉兎兵にも数多くの犠牲が出たが月は勝利。

 

地球人は月に手を出さなくなった。

 

しかしこの異常な進歩速度は科学技術の進歩が緩やかな月の技術レベルを追い越す可能性が高くなる。

 

今のままではいずれ月は地球に負ける。

 

この危機感が高まり防衛軍の拡大が急務となり今の大規模な防衛力を持つ軍が出来上がった。

 

そして一週間ほど前に八意永琳に蓬莱山輝夜のメールアドレスを利用しメッセージを送信。

 

輝夜の手配を含むすべての情報を月から抹消する事を条件に月の代理人として地球人に今後一切月と関わるなと公式にメッセージを送った。

 

予定通りに軍事演習を行い地球との技術力の差を見せつけることにより月に手出しをさせないために。

 

「なのに、だ」

 

月の防衛を担う綿月姉妹。

 

その妹の方である綿月依姫は玉兎兵が今しがた行って来た報告にこめかみをピクピクとさせる。

 

師である永琳先生はこちらの要請通りに行動してくれた。

 

相変わらず輝夜はフリーダムだったがそれは問題ない。

 

地球から発せられる指向性の電波を受信したとの報告が上がって来た。

 

電波の向けられた方向は月。

 

その電波は映像であった。

 

「月の皆さん、初めまして。私は地球を代表すると言っても過言では無い大国であるアメリカ合衆国大統領のディレルです。月に生物が居住しており、地球を凌ぐ文明を持っていると知り驚いております。私もつい先ほど知りましたが、かつて月面基地開発を強行しようとした地球との不幸な戦いがあった事は残念です。今の我々にあなた方に対し侵略する意図はありません。逆にあなた方の素晴らしい技術を師として互いに手を取り合い広大なる宇宙に共に進もうではありませんか。良いお返事をお待ちしております」

 

そう映像の中の地球人・・・米国大統領ディレルはメッセージを送って来た。

 

「この地球人は馬鹿なの?一切関わるなと永琳先生は伝えたのにそれを理解できないのかしら?」

 

姉である綿月豊姫も同時に映像を見ていた。

 

はぁっ、と溜息を吐く。

 

「で、どうするのかしら?」

 

「姉さん、決まっています。メッセージには返事が必要でしょう?」

 

「あら、返事を送るの?」

 

「ええ、同時に警告の見せしめを行いましょう」

 

「どれにするの?核?反物質?プランク?」

 

「プランク爆弾にしましょう」

 

「でも、これは警告よ?」

 

「分かってるわ姉さん。ちゃんと無人地域に・・・そう、無人島のどれかを消滅させればこの馬鹿も理解できるでしょ」

 

 

 

唐突に地球上のすべてのテレビの電波がジャックされた。

 

電波の送信元は月。

 

地球上のすべての放送形式に復号可能な電波で送信されていた。

 

「お初に目にかかる。私は月の都防衛を担う一人、綿月依姫だ。先刻、アメリカ合衆国のディレルと言う者から我が月に通信が行われた。今からその返答を行う」

 

突如の電波ジャックに騒然とする視聴者達。

 

当然ワシントンもホワイトハウスも大騒ぎになる。

 

ディレルも執務室のテレビを閣僚達と見ている。

 

「大統領・・・!!」

 

「メッセージは届いた。返答を行うとは我々を無視しないと言うことか?」

 

緊張の面持ちでテレビに釘付けになる。

 

「ただ一言、“馬鹿め”だ。もう一度言う、“馬鹿め”だ。私達は月に一切関わるなと永琳先生を通じて地球上にメッセージを送った。それにも関わらず通信を送って来た」

 

一呼吸置く。

 

「警告を兼ねた見せしめを行うと通達する。通信終了直後に米国とやらの無人島の一つにプランク爆弾を送り込む。壊滅的な爆発影響圏内に人間は居住していない事は確認済みである。これ以上関わるになら、人口密集地に同様の行動を行う事も月は厭わない。二度と月に関わるな。繰り返す、二度と月に関わるな」

 

直後に通常の放送に戻る。

 

顔を赤くさせ手をプルプルと震わせるディレル。

 

電波ジャックでどれほどの範囲に放送されていたのかこの時点では知る由もなかったが放送電波と同じ周波数で馬鹿めと言われたのだ。

 

固唾を飲んで閣僚達が見守る。

 

 

 

 

同時刻。

 

太平洋上の米国領の無人島消滅。

 

その爆発光は夜間であった一番近い有人島を十数秒真昼間のように明るく照らした。

 

衛星が捉えた核を遥かに凌駕する大爆発、そして島が消滅したとの報告がディレルにもたらされる。

 

「だ、大丈夫だ・・・・」

 

先程とは代わり顔面を真っ青にさせたディレルがコーヒーを飲もうとカップを手に取るがその手はカタカタと震えていた。

 

「だ、大統領・・・・」

 

「え、映像の中で、ら、来賓の一人のことを先生と言っていた・・・・。つ、つまりは、月にとっても無視できない重要人物だと言うことだ・・・・・」

 

自分に言い聞かせるディレル。

 

閣僚達は本当に大丈夫なのか、むしろ逆に月を怒らせてしまうのではないかと不安に駆られた。

 

 

 

なお、依姫のメッセージは地球全土に月の技術で言語の壁を無視して届いた。

 

中国の薹、ロシアのジェガノフ、北の将軍等の米国とあまり仲の良くない国や組織のトップ達はこの放送を見て大笑いしたとか。

 




感想欄を見ていたらこのネタを思いつきました。


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工作員達の夜

みんな大好き旅館襲撃。


うーん・・・・うまく書けたかどうか・・・・・・。


ザッザッザッザッザッ・・・・・・。

 

草を踏み分け、米国工作員が旅館の日本庭園手前まで移動した。

 

情報通り、日本の特殊部隊は完全に手を引いたようであり妨害は完全に止まった。

 

「ジャップが、身の程を思い知ったか・・・・」

 

侮蔑の言葉を吐き歩みを進める。

 

 

バッタリ。

 

 

そんな言葉が最適だろう。

 

彼等全員がまさか自分達以外の勢力が居たとは露ほども思って居なかっただろう。

 

だからこそ、同じ言葉が発せられた。

 

「「「「「!?」」」」」

 

五つの勢力の工作員達が固まり、全員が無言で互いの姿を確認しあった。

 

直後に各勢力の工作員達全員が銃を構える。

 

 

バンッ!

 

 

雨戸が蹴破られ二つの影が飛び出す。

 

その影は庭園の岩の上に降り立つ。

 

「みなさまぁ、こんな夜中にわざわざご苦労さまぁ」

 

「幽々子様に危害を加える者は・・・斬る!」

 

鎌のようなハルバードを持った浴衣を着たままのロゥリィと愛刀・楼観剣を構えた妖夢の姿。

 

ロゥリィが火蓋を切った。

 

ハルバードが手近に居た工作員を数名斬り殺す。

 

何処の工作員が銃を最初に発砲したのかは分からなかった。

 

すぐに工作員同士の撃ち合いとなり、迫って来るロゥリィと妖夢に銃を撃つ者もいた。

 

だがロゥリィはハルバードで、妖夢は半霊が放つ弾幕で弾を防ぎ工作員に肉薄し斬り倒す。

 

 

「こ、こちらシックス!作戦は失敗!失敗だ!!」

 

「どうした!?日本政府との話はついているはずだ!!日本の妨害か!?」

 

「違う!き、着物の二人の女が・・・・!!そ、それに俺達だけじゃない!!」

 

「どう言うことだ!?」

 

「ロシアに中国に韓国に北朝鮮の連中も同じことを考えていた!!」

 

「なんだと!?」

 

「乱戦状態だ!ここはもう戦場だ!!情報部はなにをやっがふっ!?」

 

本部に通信を送っていた米国工作員が最期に見たのは自分を撃ち殺した女の姿だった。

 

 

 

「きゃあっ!?な、なんなのよ!?」

 

突然始まった戦闘に理解が追いつかない栗林。

 

「どうやら、私達を連れ去ろうとしている連中がいたみたいね」

 

輝夜があまり緊張せずに答える。

 

「ちょ、そんな!?」

 

「優曇華、行ける?」

 

「私だって元は月の玉兎兵です!戦闘が仕事だったんですから!」

 

部屋から飛び出し地面を転がりながら転がっているアサルトライフルを拾い上げ死体の影に隠れる。

 

カシャッ!ジャキッ!

 

いくつかの部品を触りながら確認する。

 

「行ける!」

 

ザッ!

 

死体の影から銃を構えながら飛び出す。

 

通信きらしきものに向かって何かを叫んでいる男を視界に捉え銃口を向け躊躇なく引き金を引く。

 

パラララララララッ!

 

サプレッサーが壊れていたのか派手な発砲音を轟かせ弾が飛び出す。

 

弾は優曇華の狙い通り男の頭に全弾命中する。

 

「この銃、残弾が少ない・・・?ならっ・・・・!」

 

素早い動きで今殺した男の元に飛び込み装備を漁る。

 

新しい銃と弾薬、手榴弾を手に入れ優曇華は主人の永琳と輝夜、ついでにてゐを守る為に森の中に姿を消す。

 

 

 

「ゆ、幽霊だ!!」

 

パパパパパパパパパパパッ!

 

ロシア人の工作員達が銃を撃つが弾丸は屠自古の身体を通り抜けて行く。

 

「何言ってるのか全然わかんねーから日本語で言えよ・・・・・。それにお前達馬鹿だな、亡霊に普通の攻撃が通じるかよ?」

 

そう言うと雷を発生させ落雷で数名を感電死させる。

 

既に庭園から森の中に戦場は移っていた。

 

 

 

「くかー、くかー」

 

「すぴー、すぴー」

 

「すぅ・・・、すぅ・・・」

 

霊夢と魔理沙はこの大騒ぎにもかかわらず酔い潰れ熟睡している。

 

さとりは普通に熟睡だが。

 

神子が攻撃を防御するための結界を構築し終わった。

 

外からは銃声や悲鳴が絶えることはない。

 

ドスドスドスドスッ!

 

伊丹は廊下を勢いよく踏む音に気付いた。

 

「あちゃー・・・・」

 

足音の主人に心当たりしかない。

 

バンッ!

 

襖が勢いよく開け放たれる。

 

「うるっせえええぇぇぇぇぇっ!!!」

 

あまりの大声に銃声や悲鳴よりもその声の方が一瞬だが勝った。

 

がるるるるるるるるっと言う唸り声を出しそうな雰囲気でズカズカと歩く。

 

窓から差し込む月明かりがその顔を照らした。

 

テュカ、レレィ、栗林、富田、桑原が唖然としながらその人物を見た。

 

顔は知っているが知らない人物という矛盾した表現が合うだろうか。

 

顔は知っているが髪の色が違う、両側頭上部から鋭く長いツノが生えている。

 

「あー、け、慧音さん、こんばんわー・・・・」

 

「伊丹・・・・・」

 

ギロリと伊丹を睨みつける慧音。

 

「はっ、はひっ!?」

 

「この騒ぎはなんだ・・・・」

 

「え、ええと・・・ま、招かれざる客が大勢来たというかなんと言うか・・・・・」

 

「そうか・・・・・」

 

スタスタと外に向かって歩いて行く慧音。

 

「夜中に大騒ぎする悪い子には教育的指導だ!!」

 

獣のような速さで慧音は森の中に消えていった。

 

「い、伊丹さん・・・・今の・・慧音さんなんですか・・・・・・?」

 

突然の事に完全に酔いの冷めた栗林が聞いてきた。

 

思わず丁寧語になってしまっている。

 

「ほら、今日満月でしょ?」

 

「え、ええ、はい・・・・」

 

「狼男のハクタク版って言えばわかる?ワーウルフならぬワーハクタク。ちょっと好戦的な性格になっちゃうんだよ・・・・」

 

「「「「「・・・・・・・ちょっと?」」」」」

 

テュカ、レレィ、栗林、桑原、富田の声がハモった。

 

 

 

ロゥリィがハルバードを振るうと木々や竹と共に工作員達の体が纏めて切断される。

 

「固まれ!一斉射撃!」

 

ロゥリィに向かい中国工作員達による一斉射撃が行われる。

 

流石のロゥリィも一斉射撃をガードしているものの十丁近いアサルトライフルの衝撃と不安定な足元で進むこともままならずいっその事突っ込もうかと考えていた矢先。

 

「ぎゃぁっ!?」

 

「ひぎぃっ!?」

 

「がぁぁっ!!」

 

悲鳴と共に銃撃が止む。

 

見れば全員が銃ごと腕を妖夢に斬り落とされている。

 

そのまま薙ぎ払うように一閃。

 

そこにいた工作員達は楼観剣で斬り殺される。

 

「妖怪の鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまりない!」

 

「えぇっ?そこは斬れぬものは全くないじゃないのぉ?」

 

「き、斬れないものもあるんです・・・・・」

 

少し顔を赤くする妖夢。

 

 

 

「うわあああああぁぁぁっ!!」

 

「助けて!助けてくれぇっ!」

 

逃げ惑う韓国工作員達。

 

パララララララッ!

 

背後から鉛玉を浴びせられバタバタと倒れて行く。

 

「く、くそぉっ!」

 

少しでも生き延びようと追跡者に銃を向ける。

 

「いない!?」

 

「兎の脚力を舐めるな!!」

 

人間には不可能な高さに跳躍した優曇華。

 

そのまま慣性の法則に任せ韓国工作員の口に銃口を突っ込む。

 

「あがああぁぁぁっ!!」

 

歯が折れ血が出るがお構いなくそのまま優曇華は引き金を引く。

 

パララララララッ!

 

工作員の頭が弾け優曇華に返り血が掛かる。

 

パンパンパンッ!

 

米国工作員の死体から頂戴したハンドガンを背後を振り向くこともなく撃つ。

 

バタッと何かが倒れる音。

 

はぐれロシア工作員が倒れた音だった。

 

「この程度、月での地獄の訓練に比べれば遊びにもならないわよ!」

 

かつて玉兎兵だった頃の過酷な訓練を思い出す。

 

八意家、しかも月の頭脳と呼ばれた八意永琳付きの玉兎兵になる為に泥水を啜りどれだけの血を流したか覚えていない。

 

「・・・・・・こいつらの武器、なんか嫌な予感がする・・・・。あっちの方のにしましょう」

 

韓国工作員の死体の山の装備を無視し倒したロシア人の装備を剥ぎ取る優曇華。

 

軍人としての本能で武器の欠陥を見抜いた優曇華であった。

 

「あっ、これAK-74M!ラッキー♪」

 

ロシア人から武器を剥ぎ取った優曇華が小躍りしたくなる程嬉しくなった。

 

こっそり輝夜のPCで外界の銃器動画を見まくっている隠れ銃マニアの優曇華であった。

 

ちなみに動画閲覧履歴で輝夜にはバレバレだが。

 

 

 

 

「う、うわぁぁっ!!で、デーモンだぁっ!」

 

「教育的指導!!」

 

ガッ!と頭をホールドされガスッ!と頭突きが炸裂する。

 

人間状態の慧音の頭突きでさえ生徒が悶絶するのだ。

 

妖怪化し威力の上がった頭突きは頭蓋骨骨折させるには十分な威力。

 

そのまま昏倒する米国工作員。

 

「し、死ねぇ!!」

 

中国工作員が木陰から飛び出し慧音に向かい発砲。

 

顔に向けて撃った。

 

頭が仰け反り倒したと思った。

 

「プッ・・・痛いじゃないか」

 

「う、嘘だろ!!?」

 

だが弾丸を口から吐き捨てられた。

 

「教育的指導!!」

 

中国工作員達に頭蓋骨陥没級の頭突きが炸裂する。

 

 

 

「じょ、冗談じゃねぇ!こんなところで死にたくねぇっ!」

 

一人の韓国人工作員が仲間を見捨ててただひたすらに走る。

 

この時、自衛隊が民間人の通る可能性のある道路に姿を見せたら射殺するか可否を求めていたがまだ返答はなくスナイパーは命令が来るのを今か今かと待っていた。

 

スコープ越しに見る敵性工作員が突如動きを変えた。

 

何事かとスナイパーは警戒を高める。

 

ジリリリリリリンッ!ジリリリリリリンッ!

 

韓国工作員は戸惑う。

 

道路に出たと思ったら古びているが使用可能な電話ボックスの電話が呼び出し音を鳴らし始めた。

 

山を駆けている途中で無線機を落とすと言う失態を犯し連絡手段を失っていた。

 

冷静に考えればおかしいと思っただろうがある種のパニック状態のこの男はきっと優秀な諜報部隊が優秀な自分に連絡を取ろうとしているに違いないと妄想してしまった。

 

電話ボックスに駆け込み受話器を取る。

 

聞こえたのは日本語。

 

しかし日本潜入歴の長いこの男にはその言葉がハッキリと理解出来てしまった。

 

「もしもし、私メリーさん」

 

少女の声だった。

 

「今、あなたの後ろにいるの」

 

とっさに振り向く。

 

ザシュッ!

 

見えたのは月明かりを鈍く反射させたサバイバルナイフ。

 

それが男の頚動脈をザックリと切り裂いた。

 

薄汚れた電話ボックスのガラスに切り裂かれた頸動脈から吹き出た真っ赤な血がホラー映画のワンシーンの様に降りかかる。

 

スナイパーはその光景を唖然としながらスコープ越しに見た。

 

 

 

 

 

北朝鮮工作員達が無線で集合する。

 

「よし、揃ったな」

 

集合命令を出した工作員のリーダーが全員を見る。

 

応答があった者は全て揃った。

 

応答が無かった者は死んだと見て間違いないと全員が思った。

 

工作員達はリーダーの言葉を待つ。

 

彼らにとってリーダーの言葉は朝鮮労働党委員長・・・将軍様の言葉と同義である。

 

逆らう事は死を意味する。

 

「喜べ、偉大なる将軍様のご期待に我々は報いることができたぞ」

 

顔を見合わせる北朝鮮工作員達。

 

「幻想郷の一人を捕らえた。刮目せよ!」

 

縄を引っ張ると縛り上げられた優曇華が引き寄せられる。

 

「くっ!殺せっ!」

 

「殺すものか。貴様は貴重だからな」

 

工作員達の喜びの声が響き渡る。

 

マンセー!マンセー!マンセー!

 

中には涙を流す者もいる。

 

失敗=粛清、運が良くて強制収容所送りだから当然だろう。

 

「全員、これを見ろ。綺麗な目をしているとは思わないか?」

 

その言葉に全員が優曇華の赤い瞳を見る。

 

見てしまった。

 

「ふぅっ」

 

優曇華を縛っていた縄がパラパラと地面に落ちる。

 

「みんな集めてくれてご苦労さん」

 

工作員部隊リーダーが優曇華の言葉にコクリと頷く。

 

工作員達のリーダーだけあってこの男は日本語を自然に近い形で使用出来た。

 

使用出来てしまったが故に優曇華に利用されてしまった。

 

最初に遭遇し優曇華が赤眼催眠を発動、それを見た。

 

そして日本語が理解できると言う事は優曇華の言葉も理解できる。

 

優曇華の命令通り、工作員リーダーと言う地位もあり生き残っていた北朝鮮工作員達を一ヶ所に集めるのに役立ってくれた。

 

「全ての武器をここに全部捨てるよう命令しろ」

 

優曇華の命令にリーダーが従う。

 

異国の言葉を使用しているから日本語が理解出来ない者もいる可能性を優曇華は考慮した結果だ。

 

朝鮮語で全ての武器を捨てるように指示がリーダーから下されその命令通りに北朝鮮工作員達は武器を一ヶ所に捨てる。

 

優曇華は北朝鮮工作員達を少し離れた場所に移動させるとロシア人から奪った手榴弾のピンを抜き捨てられた武器の山の中に投擲。

 

手榴弾の破裂は北朝鮮工作員達が捨てた武器の中の手榴弾を誘爆させ彼らの武器を全て使用不能にさせた。

 

「オーケー。じゃあ、全員私の眼を見るように命令しなさい」

 

リーダーが朝鮮語で命令を下しこの場にいる北朝鮮工作員達が全員優曇華の眼を見る。

 

優曇華の狂気の瞳をじっと。

 

「うわああああああぁぁぁっ!!!?」

 

「ああああああああっ!!?」

 

「ひいいいぃいぃぃぃぃっ!!?」

 

悲鳴をあげ始める工作員達。

 

優曇華は何もしていない。

 

ただ北朝鮮工作員達を発狂させただけだ。

 

発狂した工作員達を置き去りにして優曇華は他の国の工作員を狩る為に姿を消す。

 

後は仲間同士で殺し合うか他の工作員に殺されるか崖からでも転落するか野生動物に殺されるか野垂死にか。

 

ある意味とても残酷な方法である。

 

 

 

 

「はぁっ・・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・・」

 

中国人工作員の一人は仲間と逸れ一人匍匐状態で辺りの気配を伺う。

 

遠くから悲鳴や銃声が聞こえ続けているがその数は確実に減ってきている。

 

特に銃は弾薬がなくなれば意味はなくなる。

 

チャイナコピーのAK-47を命綱にじっと息をひそめる。

 

もはや任務完遂は不可能、今はただこの場から生き残る事を最優先にする。

 

時折山兎や狸や狐等の野生動物が姿を見せる。

 

トンッと背中に何か軽いものが乗った。

 

野生の小動物だろうと思い追い払おうと手を伸ばそうとしたが・・・・。

 

「とりゃっ!!」

 

ブスッ!

 

「かっ・・・・・はっ・・・・・・!?」

 

鋭い痛みを感じ全身を硬直させ、だがすぐに弛緩させる。

 

中国人工作員は絶命していた。

 

背中に乗ったのは小動物などでは無く針妙丸であり、感じた痛みは彼女の剣である針で心臓を一突きにされたからだ。

 

地味なこの方法ですでに何人もの工作員を葬っている。

 

「小さいからって馬鹿にしてると後悔しますよ?」

 

すでに死んでいる工作員に決め台詞を吐いて立ち去る針妙丸。

 

立ち去る後ろ姿は凛々しいが内心「カッコよく決まった・・・!」と考えているが。

 

 

 

 

「師匠、粗方の敵は排除しました」

 

優曇華が銃を引っ提げて帰投した。

 

「そう、ご苦労様」

 

労いの言葉をかける永琳。

 

「おかえりー」

 

いつもの輝夜。

 

「ちっ、生きてたウサか・・・・」

 

生きて帰ってきた事を残念そうに言うが語尾でそれが嘘だとバレバレのてゐ。

 

 

ポタッ・・・・・ポタッ・・・・・。

 

 

優曇華の指から赤い液体が垂れている事に栗林が気付いた。

 

栗林の視線は腕にある大きな赤黒い染みに気付く。

 

「う、優曇華ちゃん!撃たれてるじゃない!?」

 

その言葉に桑原、富田、流石の伊丹も顔色を変える。

 

優曇華は蓬莱人ではなく玉兎、病気もすれば怪我で死ぬこともあると知っているからだ。

 

「ああ、これですか?大丈夫です、弾は抜けていますから撃たれたうちには入りません」

 

だが輝夜はそうっと優曇華の背後に回り込み、「ツンツン」と口に出して優曇華の腕を突つく。

 

「いっだああああぁぁぁぁぁぁっ!?嘘です痩せ我慢です!!カッコつけてみたかったんです!!本当はめちゃくちゃ痛くて泣きそうですから突つかないでーーーっ!!」

 

涙目になり輝夜に懇願する優曇華。

 

「優曇華、いいからこっちにきなさい。まったく、痛いなら痛いって言えばいいものを・・・・」

 

はぁっ、っと溜め息をつきながら永琳は私物の鞄を開く。

 

中には一通りの外科治療ができる器具が入っていた。

 

「自分でした止血は問題ないわね。でもこのままじゃ腕が壊死するから少し緩めるわよ」

 

「今日は私が助手をするから心配しないで」

 

ふんすっ!と意気込む輝夜だがその手には麻酔剤のつもりで手に取ったのは無害だが麻酔剤では無かった。

 

「姫様、お気持は私も優曇華も嬉しいのですがそれ、麻酔剤ではありません」

 

「あれ?」

 

「流石に今回は重傷ですので私一人で処置します」

 

「う、うん・・・ごめん・・・・」

 

しゅんっとする輝夜。

 

永琳は慣れた手つきで麻酔剤を優曇華に注射すると弾の破片や異物が患部に残っていないか念入りに確認する。

 

「ねぇ、優曇華」

 

「何でしょうか輝夜様?」

 

永琳の治療を受けながら輝夜に答える優曇華。

 

「優曇華を撃ったの、どこの奴?」

 

「いやー、それが・・・・。すみません、流れ弾にあたるなんて玉兎兵として迂闊でした・・・・」

 

襲撃者同士の撃ち合いの流れ弾が当たったと説明する優曇華。

 

つまりは何処の誰かが分からない。

 

「伊丹、襲ってきた連中分からない?」

 

「いや・・・ごめん、俺にも分か」

 

「アメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮です」

 

伊丹の言葉を遮り神子が輝夜の問いに答えた。

 

「襲撃者の一人が妖夢殿に倒される前に無線機とやらで話していたのが聞こえました。“ロシアに中国に韓国に北朝鮮の連中も同じことを考えていた”と。加えて、恐らく私達には日本政府が護衛として自衛隊の方をつけていたことは容易に想像できます。その護衛が手を引かされた。そのような事を日本政府に強要できるのはアメリカぐらいではないかと」

 

外界に来る前に日本と海外の政治関係も調べた神子様である。

 

「アメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮だね・・・・」

 

輝夜はそう低く呟くと私物のノートPCを取り出しキーボードを叩き始めた。

 




ええ、工作員を送り込んだところもマシマシにしました。
ロゥリィ&妖夢にコンビ組ませてみました。

あと優曇華が何気に今回のメイン・・・・。

追記
メリーさんからの電話はこいしちゃんです。
東方深秘録のこいしちゃんの怪ラストワードです。


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不幸な大統領

下手だから東方天空璋がなかなか進まない。
気分転換に書いた。


「これでよし・・・・っと」

 

優曇華の傷を縫合し終わり包帯を巻く。

 

「傷が塞がるのを促進する玉兎用の薬よ、飲みなさい」

 

永琳に出された薬を飲む優曇華。

 

 

「伊丹、荷物の方は全部大丈夫よ」

 

「ああ、まとめ終わった」

 

 

戻ってきた慧音に叩き起こされた後、酔いを覚ます永琳の薬を無理矢理飲まされ今は素面の状態になっている霊夢と魔理沙。

 

「こっちはいつでも行けます。それから先ほど紫さんから連絡が、都内で米国の工作員十人と戦闘になったそうです」

 

桑原に状況を伝える。

 

「それで、どうなりました?」

 

「九人は殺したそうです。一人は狂ってしまったと」

 

「一人で九人も・・・・」

 

「恐らく、紫からしてみれば遊びね。紫が本気で殺しにかかったら周りが跡形も無く吹き飛んでてもおかしくないから」

 

霊夢が自分の荷物を持ちながら言う。

 

「それで、狂った一人は?」

 

「飼い主に返す、とだけ・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・・・後は、印を押すだけだ・・・・・」

 

本位総理は執務机に座り辞任の為の書類を作成し終えつつあった。

 

後は総理大臣の印を押すだけ。

 

インクが付いているのを確認し、書類に押し当てる直前。

 

電話が突如鳴る。

 

深夜にいきなり鳴る電話だ、重要でないわけがない。

 

印鑑を押すのを中断しそれを取る。

 

「私だ。・・・・何!?それで!?」

 

電話先からの情報を一字一句聞き逃さないように注意深く聞く。

 

 

 

 

 

 

少し前。

 

アメリカ合衆国首都ワシントンDCホワイトハウス・大統領執務室。

 

米国の最高権力者である大統領の住む白い家。

 

当然だが最高の警備体制が敷かれ地下に核シェルターをも完備する。

 

その周囲は月の軍事演習や月からの警告放送、島が一つ消滅したと言うニュースを見た国民が不安に駆られ集まり、更に各マスコミも集まり報道を行なっている。

 

そんなホワイトハウスの大統領執務室には大統領以下副大統領、下院議長、上院仮議長、国務長官、財務長官、国防長官、司法長官、内務長官、統合参謀本部議長と重鎮が勢揃いしていた。

 

執務室では彼ら要人が議論を交わしていた。

 

議論を交わす彼らが囲むテーブルには様々な機密資料やNASAや関係省庁から掻き集めた書類が置かれている。

 

ディレルが本位総理を脅す際に使用した日本政府要人や官僚の汚職情報の原本も今やその一部になっている。

 

「合衆国の領土が一つ消滅したのだぞ!無人だとは言え、これが軍事的、経済的、資源的にどれだけの損失になるのかわかっているのか!」

 

「だから即攻撃しろとは短絡的だ!第一、相手は三十八万キロの彼方にいるのだ!ミサイルを撃って届く距離か考えてみろ!」

 

「そうだ。もし届いたとしてもあの圧倒的な戦力を前に敵うと思うか?」

 

「軍のレーダーにも宇宙から飛来するミサイルのような物は写っていなかった。完全にステルス状態なのか、それとも物質転送を実用化しているのか」

 

「大統領、やはり来賓の招待を中止した方が・・・・」

 

「いや大統領、その必要はありません。我が軍は優秀なエージェントを派遣しました。彼らがジャップ相手に失敗することはありません」

 

「そうだ。それに来賓の一部は月のプリンセスと付き人なんだろ?そいつらの首にナイフでも押し当ててる映像を送れば月など恐るるに足りん。前回敗退したのだって、もしこちらがそのかぐや姫とやらを確保していれば負けてはおらんよ」

 

彼等はつい数時間前まで自らの国家が最強であると信じていた。

 

しかし突如頭上に圧倒的な技術力を持つ存在がいる事を知らされ、だが今なお地球の考え方で議論を交わしていた。

 

議論を交わす彼等の一人、統合参謀本部議長の職務用携帯電話が鳴る。

 

「失礼します。はは、きっといい報告ですよ。ああ、私だ。ああ、今大統領執務室にいる。・・・・・・・なんだと?・・・・・・・・・・・そうか、分かった」

 

静かに携帯電話をしまい溜息を吐く。

 

「作戦は失敗だ・・・・・・・」

 

力無く呟く。

 

「ど、どう言う事だ!?日本とは話がついているのだぞ!?」

 

ディレルが信じられないと言う感じで叫ぶ。

 

「ロシア、中国、韓国、北朝鮮の工作員と遭遇、戦闘に突入。以降、一切の連絡がつかない。都内でヤクモユカリを招待しようと動いていた連中も連絡が途絶えた・・・」

 

「ロシアと中国だけじゃなく、韓国に北朝鮮もだと・・・・!?」

 

「くそっ!!」

 

ドンッ!と机を叩くディレル。

 

ポタッ・・・・。

 

ほぼ同時に要人が囲んでいるテーブルの上の書類に赤い液体が落ちシミを作る。

 

「んっ?」

 

一人がそれに気付く。

 

ポタッポタッボタボタボタッ。

 

あっという間にに勢いを増すそれに全員がギョッとする、と同時に。

 

執務室の天井に開いた紫のスキマから。

 

ベチャベチャベチャベチャッ!!

 

勢いよくテーブルの上に錆の匂いを漂わせる赤黒い液体と共に生肉が降り注ぐ。

 

肉だけではない、腸や肺、心臓と言った内臓、砕けた骨、バラバラになった手や足、生首が降り注ぐ。

 

「う、うわぁっ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

それは一人や二人分と言った量ではない。

 

もっと多い。

 

生臭い悪臭を漂わせる臓物や破れた腸から漏れた汚物が悪臭を放つ。

 

それらの中に銃や手榴弾と言った武器も血肉にまみれて落下してきた。

 

ドスンッ!!

 

纏まった塊が落ちてきた。

 

全員が天井を見るが既にスキマは閉じており大統領執務室の天井しか見えない。

 

「うひっ、えひひひひっ」

 

臓物塗れのテーブルには落ちてきた塊はケタケタと笑っている。

 

紫のスキマに飲み込まれた発狂した米国工作員だ。

 

「ば、化け物だ、うひひひひひっ!」

 

相変わらず狂ったままだ。

 

「あひゃははははははっ!合衆国バンジャイ!いひひひひっ!」

 

ちゃっ。

 

ハンドガンを片手で構える。

 

照準も定まっていない、その体勢で撃てば腕の骨が影響を免れない持ち方で。

 

要人達が大統領を守ろうと咄嗟に大統領をガードする形になるが。

 

カチッ!カチッ!カチッ!

 

銃は弾切れで虚しい金属音だけがカチカチと鳴る。

 

「U・S・A!U・S・A!U・S・A!」

 

弾切れのハンドガンのトリガーを何度も引きながら祖国を讃える発狂してしまった工作員。

 

大統領以下閣僚はこの時、初めて自分達が利用しようとしていた存在が一人でも十人の武装工作員を殲滅出来るとんでもない化け物だとようやく実感した。

 

次に考えるのはまずはこの場をどうしようと言う事だ。

 

執務室のドアは重要会議と言うことで鍵を掛けてある。

 

この大量の原型を留めない死体の山と狂人をどう処理すればいいのか。

 

この時、不運にも全員がその事を考えてしまった。

 

だから工作員の行動に気付くのが遅れた。

 

ピンッと軽い金属音がした。

 

「はっ?」

 

ディレルが阿呆のように声を出した。

 

「うひっ、うひひひひっ」

 

工作員は口にピンを咥えていた。

 

何のピンかと手に持っているものを見る。

 

「まずい!大統領伏せて!!」

 

誰かが叫んだ。

 

工作員の手から落ちるのはピンを抜かれた手榴弾。

 

それはコロコロと血肉の坂を転げ落ちてコンッと埋もれていた銃に当たり宙を舞う。

 

「うわああああぁぁぁぁっ!!」

 

「ひいいいぃぃぃぃっ!!?」

 

「こんな馬鹿なあああぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

ホワイトハウス。

 

そこはアメリカ大統領の住居であり執務を行う場所。

 

大統領と言うアメリカの最高権力者。

 

当然、その地位にある者を守る為に防備は完全だ。

 

屋上には不審者を射殺する事が許されているスナイパーが二十四時間体制で警備している。

 

不審な飛行物体を迎撃するスティンガーミサイルも配備されている。

 

歴代大統領やホワイトハウス関係者の誰も突如大統領執務室に脅威が出現するとは想像だにしていなかっただろう。

 

破裂した手榴弾は工作員の身に付けていた手榴弾と弾薬を誘爆させる。

 

屋上の警備をしているスナイパー、庭を警備している者、執務室の前で待機しているシークレットサービス。

 

そのほか大勢のホワイトハウス職員が大統領執務室から響く爆発音に身を硬くした。

 

爆音はホワイトハウス前の群集やマスコミにも聞こえた。

 

特に執務室前のシークレットサービスは内側からの悲鳴にドアを破って大統領を守りに行こうと蹴破ろうとした矢先にドアが吹き飛び砕けた破片が体に突き刺さったりして負傷したりと散々な目にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

本位総理は電話を終え、受話器を置くと完成間近だった辞任の書類をシュレッダーに掛ける。

 

「どうやら、辞任している場合ではないようだな・・・・・。まずは・・・・」

 

ディレルが脅しに使ってきた汚職の証拠。

 

これを元に内閣と官僚の大改造を行う必要があると確信した。

 

「その前に・・・・」

 

携帯電話を取り出すと嘉納大臣に電話をかける。

 

「嘉納さん、私です。どうやら辞任している場合ではなくなりました。ええ、はい。深夜と言えども一部のテレビ局では緊急速報を流していますからそちらを見てもらえれば。ええ、はい。それでは」

 

通話を終える。

 

 

 

「テレビを見ろだぁ?おい、ここってテレビ観れるか?」

 

作戦指揮室でスタッフに聞く。

 

「ええ、見れます」

 

スタッフが正面モニターを民放受信に切り替える。

 

チャンネルを報道系の番組にする。

 

「えー、先ほども言いました通り、ホワイトハウスにて爆発があり、現在とても混乱している状況です。未確認情報ですが、ディレル大統領以下閣僚の安否が不明と・・・あ、今入ってきたニュースです。え?こ、これ本当なの!?あ、し、失礼しました。先程、ディレル大統領以下閣僚含む十名の死亡が確認された模様です。繰り返します、ディレル大統領以下閣僚含む十名の死亡が確認されました。また、現場には身元判定が困難な損傷の激しい遺体が複数あるとのことで、現在合衆国は大変な悲しみに包まれています。また、CIA、FBIを含む合衆国政府機関にサイバーテロが行われた模様です。現在もサイバーテロの影響範囲は広まっており、未確認情報ですがいくつかの空港機能が麻痺しているとの情報もあり・・・・・・・・」

 

「こ、こいつぁ・・・・」

 

指揮室の誰もがただ事ではないと感じていた。

 

 

 

 

後日。

 

トップシークレット扱い・ホワイトハウス爆発事件及び米国全土同時多発大規模サイバーテロ簡易報告。

 

容疑者・不明。

 

ホワイトハウス爆発事件。

 

犠牲者・ディレル大統領以下閣僚十名と統合参謀本部議長、海兵隊員数名。

 

海兵隊員の遺体は損傷が激しく身元判定が不可能な遺体も有り。

 

爆発したのは海兵隊員の手榴弾及び誘爆した弾薬と推定。

 

しかし海兵隊員達が何処から執務室に入ったのか不明。

 

一部ではユカリ・ヤクモの関与も噂されたが証拠は無く、更にユカリ・ヤクモの拉致をディレル大統領が命じたとの噂が事実だとすればある意味正当防衛で有り、米国の恥部である。

 

合衆国の尊厳を守る為、これ以降のユカリ・ヤクモに対する事件関与の捜査は大統領令により中止される。

 

 

同時多発大規模サイバーテロ。

 

サイバーテロ攻撃元は米国軍事通信衛星まで辿れたもののそれから先は解析不可能であった。

 

CIA、FBI含む政府機関のネットワーク接続端末上の情報が漏洩。

 

電力・水力・ガス等のインフラ麻痺。

 

しかし医療機関、消防、警察等の人命に関わる機関や施設は攻撃から除外され供給が続いていた。

 

この事が犯人の目的を分からなくさせている。

 

米国内の全金融データが消失。

 

バックアップからの復元までの間の金融取引がほぼ不可能であった為に現金を所持していなかった者達の間で物々交換が行われていた。

 

普段カード決済が主なハリウッド俳優やセレブ達が服や時計を食料やガソリンと交換していたとの目撃情報もある。

 

金銭的損害は天文学的数字である。

 

CIAが行なっていた海外要人の暗殺や脅迫が白日の下に晒され、米国の国際信用度は失墜を免れない。

 

今や中東に頭を下げて原油を買っている状況がそれを示している。

 

報告終わり。

 

 

 

 

ディレル死去に全米が衝撃を受けていた時点(嘉納大臣が作戦指揮室でテレビを見ていた時)まで時は戻る。

 

「・・・・・・・マジ?」

 

アメリカ合衆国農務長官は目が点になっていた。

 

穀倉地帯視察中の彼は少し前まで大統領の死にマスコミから質問責めにされようやく解放されもはや昼飯になった朝食を食べようとしていた。

 

そこにいきなりヘリが飛んで来て何人もの人間が降りて来た。

 

何事かと思い外に出るとその中の一番偉そうな男が口を開いた。

 

「農務長官、合衆国法典第三編第十九条により貴方が大統領になります」

 

「・・・・・・・・・・リアリィ?」

 

「現実です。貴方より上の大統領継承権者は全員がホワイトハウス爆発事件において死亡が確認されています」

 

「・・・・・・ちょっと、ほっぺたつねってくれる?」

 

「・・・・・失礼します」

 

「いひゃいいひゃい!ゆ、夢じゃない・・・・・?え?わ、私が大統領!?無理無理無理!!」

 

「では、私に続いて復唱してください」

 

「マイガッ!?」

 

後に《米国が一番大変な時期に大統領になってしまった男》と自伝を発行しそこそこ書籍が売れた大統領の誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

月の都・地球上への電波ジャックより約三時間後。

 

 

「ど、どう言うことなんだこれは・・・・・」

 

プルプルと震える綿月依姫。

 

「あら?どうしたの?」

 

姉の豊姫がただ事ではないと思い声をかける。

 

「い、今、地球上のインターネットという物に割り込んで地上の情報を集めていたんだけど・・・・・これを見て・・・・・・」

 

「あらまぁ。素敵じゃない?」

 

「どこがよ!?」

 

依姫が見ていたのは日本のとあるホームページだ。

 

別に政治関係や軍事関係の情報ではない。

 

むしろそれとは全く無縁だ。

 

トップページの上部にデカデカと表示されるサイト名とサイトの説明文。

 

 

綿月依姫様非公認ファンクラブサイト

 

 

電波ジャックでお姿をお見せ下さった月の綿月依姫様のファンになった人々が集うサイトです。

 

月と関わるのは禁止なので非公認ですが依姫様の魅力を世界中に発信しましょう!

 

 

と。

 

 

コメントページを見ると

 

 

依姫様に見下されたい!!

 

冷たい目で見下ろされながら「豚のようにお鳴き」と言って欲しい!

 

ブヒイイイィィィィィィィィッ!!

 

踏んでくださいお願いします!!

 

ねぇねぇ、依姫今どんな気持ち?ねぇ、今どんな気持ち?

 

薄い本はよ!

 

おいバカやめろ・・・・・どこで薄い本買えますか!?教えてくださいなんでも(ry

 

んっ?

 

んっ?

 

今、何でもって(ry

 

 

 

などなど、色々と手遅れなコメントがずらっと並ぶ。

 

一部分だけどう見ても輝夜が投稿したとしか思えないコメントがあるが・・・。

 

「お、落とさなきゃ・・・・日本にプランク爆弾落とさなきゃ・・・・・」

 

ふらふらと依姫の手が制御装置に伸びるがそれを制する豊姫。

 

「駄目よ?日本はこちらの忠告を破ってはいない。こちらから約束を破って攻撃することは禁止します」

 

「ね、姉さん・・・・」

 

「ええと・・・・書き込みはここね?じゃあ、管理人グッジョブ!っと・・・・」

 

「姉さん!?」

 

 

 

非公認綿月依姫ファンサイト、非公認で姉の豊姫に認められた瞬間であった。

 

しかしわずか三時間でファンサイトが立ち上げられ無数の書き込みが行われる。

 

日本の紳士達には造作もないことである。

 

 




サブタイはディレルではなく、名も無い元農務長官です。


ディレル死亡は最初からの予定ですので問題ありません。
農務長官が大統領・・・・内閣総辞職ビームならぬ大統領継承権者総辞職手榴弾・・・・。
とりあえず今回は米国の件だけを書きました。
紫の行動と輝夜の行動は全く別々に進行したので調査している人も大変だったでしょう。
足なんか付くわけ無いけど。




輝夜を怒らせた他の国は次回以降に。


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その他の国々

輝夜による報復ウィルスプログラムの被害とその後の状況です。
今回は短いしあまり面白くないかも・・・・。


 

 

輝夜の仕返し・米国以外編

 

 

中国。

 

 

中華人民共和国、共産党政権の一党独裁国家であり国民の権利は制限が多い。

 

例をあげれば中国国民は中国で土地を財産に出来ない。

 

土地は使用権を買っているのであって所有権は国にある。

 

用途により異なるが四十〜八十年でその権利は消滅してしまう。

 

また、国家事業などでの住民の追い出しも日常茶飯事だ。

 

多数の国と異なり国民による選挙制度が存在せず中国共産党全国代表大会で共産党員が代表を選ぶなどの時に共産党員だけの選挙が行われる程度だ。

 

そして一党独裁の為、党に都合の悪い情報を隠蔽したりと情報操作は日常茶飯事。

 

ごく稀に民主化を進めようと立ち上がる者もいるが大体が当局に拉致され思想教育と言う名の拷問を受ける。

 

また中華思想により周辺国家への侵略も行なっている。

 

チベット、西沙諸島など既に支配された国や地域もあればフィリピン、インド、日本、台湾と領土問題を起こしている。

 

そしてかつて天安門事件・・・民主化を求めた学生達に対する大量虐殺が行われた。

 

しかし執拗な共産党の隠蔽工作と情報操作により今では死者は出ていないと信じる者までいる。

 

 

「この映像は何処から来ている!!」

 

「わ、分かりません!国外とのネットワークは間違いなく全て切断し終えています!!」

 

その日の昼から中国国内はある種のパニックに陥る。

 

テレビは当局の指令で放送停止措置が取られた。

 

ラジオも同じく停波させられる。

 

個人が持つスマートフォン等のモバイル機器、PCによるインターネット接続も現在党命令によって通話・接続が制限状態になっている。

 

まず、昼いきなりテレビ電波を通じて中国最大のタブーである天安門事件での学生射殺・戦車による轢き殺し映像が流れた始めた。

 

昼だけあり、繁華街や家電量販店の展示テレビを見ている家族連れも数多くいた。

 

そんな中、突如として天安門事件の映像が流れ始めたのだ。

 

この映像は物理的に電源が切られるか送信装置を当局が破壊するまで垂れ流し状態である。

 

次にインターネット上でまるでウィルスのように天安門事件に関する動画や画像が増殖して行った。

 

動画投稿サイトの動画が全て天安門事件に関する動画にすり替わり、スマートフォンのストレージやPCのHDD等の記憶装置に天安門事件の動画や画像が勝手にダウンロードされて行き、所有者の意思に関わらず勝手に動画再生が始まったり画像がスライドショーで表示されたり。

 

この事態が薹総書記の耳に入った時、薹は顔を真っ赤にして激怒し党の総力を挙げて首謀者を草の根分けても探し出せと厳命した。

 

中国の一党独裁の利点で最終的に国内の電力・通信網を遮断する事で映像や情報の拡散を防ぐことが出来た。

 

電力遮断は二日間にも及ぶ。

 

しかしこの行動が国内の民主化勢力に火を付けた。

 

再び天安門広場に集まる今の学生や民主化団体。

 

薹のとった行動は過去の再来。

 

再び戦車や銃弾で血に染まる天安門広場。

 

通称、第二次天安門事件。

 

しかし今の時代は外国人旅行者の数も増えており情報の拡散速度も桁違いになっている。

 

周辺のホテルに宿泊していた外国人旅行者がSNSで虐殺の現場を世界中に拡散したりスマートフォンで撮影した動画が動画投稿サイトに投稿され国際的な非難を浴びる。

 

当局は発見次第撮影した外国人をでっち上げの罪状で逮捕して行き大使館や本国政府が中国に対し即時釈放を要求する抗議を行い中国は国際社会から孤立して行くこととなる。

 

 

 

 

ロシア。

 

 

現在はロシア連邦、かつてソビエト連邦と呼ばれた共産主義陣営の盟主であったがソ連崩壊に伴い無数の国に分裂した。

 

その中の首都があったモスクワを今の首都とする連邦国家。

 

ソ連崩壊からある程度の民主化が進んでいるがかつての体制の名残が所々に見受けられる。

 

中国と同じく昼頃にそれは始まった。

 

現在の大統領ジェガノフには大統領選挙時に票の操作が噂されていた。

 

しかしそれらは一部団体の主張程度という形で取り扱われていた。

 

SNSを始めネット接続端末に送り込まれる投票所の監視カメラが撮影しかつて不正選挙と主張していた団体の提示した証拠映像。

 

それらは直接ジェガノフに関連はしないがジェガノフが当選した選挙でありネットを中心に炎上。

 

前大統領選挙は無効だと主張を始める。

 

そして米国同様に発達したコンピュータネットワーク網では米国と同じ大規模サイバーテロが発生。

 

米国より多少強権が発動しやすい国風もありパニックは早々に抑えられたがそれでも金融取引が復帰までの間の金銭的損害は膨大でありジェガノフ以下閣僚達は火消しと混乱した経済の立て直しにかかりきりにならざるを得ない状態になった。

 

この時に日本が人道的見地から孤立した北方領土のロシア人に物資や燃料などを援助をしたことがきっかけになり後に北方領土問題の全島返還実現に繋がっていったのは別の話だが。

 

 

 

韓国。

 

 

何か起こるとすぐに「謝罪と賠償を要求する」が口癖の朝鮮半島の半分を領土とする国家。

 

隣の北朝鮮とは戦争状態が継続中であるが何故か当の韓国国民は戦争はもう終わっていると思い込む者が多く緊張感が低い。

 

また国を挙げての異様な程の反日教育で国内の不満を日本に向けさせている。

 

現に異界と幻想郷の存在が知らされた際も『アルヌスは我が領土』『幻想郷は我が領土』やら『幻想郷は日帝残滓だ』『幻想郷に韓国軍を駐留させろ』だの妄言やら言い掛かりを付ける者達が大勢いた。

 

ちなみに幻想郷は我が領土であるや韓国軍を駐留させろ主張したことを聞いた紫は冷笑し、藍は主人の功績に泥を塗ったとマジギレし紫が放っておけと制止しなければ今頃この半島は無人の地になっていただろう。

 

また、何故か大統領経験者が任期終了後に逮捕されたり不審死を遂げたり自殺したりと奇妙な国である。

 

歴代大統領は支持率低迷時に反日を叫び、日本領土である竹島を不法占拠し現大統領がそこに上陸するなど日本が普通の国であったらとっくに戦争に突入していてもおかしくない国なのだが日本国内に多数いる工作員の反日活動やら自称識者と言う名のシンパ達が何故か日本が悪いと日本政府を批判する奇妙な現象が起きている。

 

そんな国だが一通りのネットワークは機能しており輝夜の作った報復ウィルスプログラムの餌食となる。

 

当然ながら社会は混乱する。

 

だが大統領が爆死すると言う重大事件の起こった米国でさえ僅か三時間以内に大統領継承権者が不安を隠せない状態だが宣誓を行い就任し国民に向けてすぐにメッセージを送った。

 

だが何故か別に大統領が死んでもいなく事故にもあっていない韓国では大統領は休暇でゴルフに興じており国民の前に姿を現したのはその日の夕方と言う異常事態であった。

 

当然国民からは非難を浴びる。

 

マスコミの連日の大統領叩きが始まる。

 

そして大統領府近くで何故かはわからないがろうそくを持って集会を始める集団が登場。

 

通称ろうそく集会に参加する人数は回を重ねるごとに増え、何故か歌手までもが参加しステージまで作られ大音量で「これが国か」と嘆きながら大統領は下野せよと歌う。

 

そしてこの国最大の特徴、国民情緒が法を上回ると言う事と法律が過去に遡及すると言う他国から見ればあり得ないことが平然と行われる。

 

反大統領派が大多数を占めた途端検察が動き出し大統領の親族会社が政府から優先的に仕事を回してもらって利益を貪っていたとして弾劾裁判が行われる。

 

歴代大統領のほとんどがやっているのだが・・・・・。

 

結局この大統領は罷免されるのだがこのろうそく集会に味を占めた国民はこれ以降自分達が気に入らないとろうそく集会を行い都市機能や経済活動を自ら麻痺させると言う事になり自ら混迷の時代に突入して行き最初に攻撃を仕掛けた輝夜もドン引したとか。

 

 

 

そして最後に北朝鮮。

 

 

朝鮮民主主義人民共和国と名前とは真逆のとある一族の当主が独裁を行なっている自称国家である。

 

韓国と中国の間に存在する朝鮮半島の半分を支配している。

 

日本を含めほとんどの国がここを国として認めていない。

 

日本海に向けてミサイルをポンポン飛ばしたり人工衛星と称するミサイルを打ち上げ韓国より先に自力で宇宙へ到達したという凄いのか凄くないのかよく分からない集団である。

 

そして唯一、輝夜による報復ウィルスプログラムが不発に終わった集団である。

 

理由は単純であり、ネットワークに繋がっている端末が少な過ぎる事であった。

 

そして大元のLANケーブルを引っこ抜くというアナログな方法でその少ない端末も感染から免れる。

 

輝夜のウィルスプログラムに足が付かない最大の特徴がウィルスプログラムが作動してから最初に動いたウィルスが残りの稼働時間をカウントダウンすると言うものがあった。

 

感染先では減少した時間からスタートして行くのでどのウィルスも時間が来れば一斉に自壊する仕組みである。

 

その為に唯一、しばらくの間支配者である北の将軍がインターネットを楽しめないというダメージで終わったが怒り狂った将軍はネットワーク管理者を一族郎党迫撃砲の的にして残骸は犬に食わせるという鬼畜ぶりを発揮した。

 

 

 

輝夜曰く、ローテクは手強い。

 

 

 

 

 




今回は会話ほとんど無かった・・・・・。


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レレィのパソコン初心者教室(教えてもらう側)

人は慣れる生物です。


合衆国大統領ディレルの爆死事件は世界中を駆け巡った。

 

反米国家はお祭り騒ぎであったがその他の国々は日本も含め首相や大統領と言った国の代表者達が哀悼の言葉を米国に贈った。

 

ディレルが爆死していなければそこには辞任を発表した本位総理の映像が流れていたのだろうが今はホワイトハウスに献花をする米国人達の映像が流れている。

 

他には中国やロシアでのサイバーテロがちょっとだけ取り上げられている。

 

頭脳を失った工作員を派遣した在日米軍基地では門から異界と幻想郷へ戻る一行を拉致するために待機していた残りの工作員達を引き揚げさせていた。

 

中国・ロシアもサイバーテロ等で混乱しており、手足となる工作員達への指揮系統が混乱し異なる命令が違う指揮系統から降ってきたりして現場は右往左往しているうちに公安や警察に不審者として拘束され一行はゲートの向こうへ帰って行ってしまったのだった。

 

 

 

門を抜けると見慣れた自衛隊員達には見慣れたアルヌス駐屯地の姿。

 

そして眼鏡をかけた見慣れない男が一人立っていた。

 

腕に許可証の意味を持つ腕章を付けていることと服装から幻想郷側の人物であると思われた。

 

「魔理沙」

 

その男は脇目も振らずに車から降りた魔理沙に近付く、

 

「げっ、香霖・・・・。つ、ツケの話か?だったら悪いけど、また今度に・・・」

 

「確かにツケは溜まってるけどそんなことを話しに来たわけじゃない」

 

その場からそそくさと逃げようとする魔理沙だが香霖・・・・森近霖之助はその言葉を切り捨ててしまう。

 

「じゃ、じゃあ、何の用だよ・・・・・?」

 

少し気弱な感じになる魔理沙。

 

その先の言葉を想像しての反応だろうか。

 

ピニャを始め異界一行と自衛隊一行は男女関係のもつれによる修羅場かと一部は不謹慎にもワクワク、一部はハラハラしながら成り行きを見守る。

 

「君は、いつになったら霧雨店に戻って来るんだい?」

 

「だ、だから何度も言ってるじゃないか!あの店は香霖にやるって!」

 

「そんな簡単に言わないでくれ!」

 

言い争いを始める二人。

 

「はいはい、私達は行くわよ」

 

「そ、それじゃあ霖之助さん、また今度〜」

 

霊夢と伊丹が野次馬と化した異界一行と自衛隊一行をその場から移動させる。

 

取り敢えず近くの建物の影まで移動すると「はぁ〜」と霊夢と伊丹が同時に溜息をつく。

 

「いつかこうなるとは思っていましたけど・・・・・」

 

「仕方ないわよ。魔理沙の奴、父親と喧嘩別れしたままだったからね」

 

「あの二人、仲悪い・・・・・?」

 

置いてけぼりになっていたレレィが少し心配そうな顔をする。

 

同じ魔法使い同士意外と魔理沙と気があっているようだ。

 

「ああ、違う違う。霖之助さん・・・・あっちの男の人は魔理沙を心配してるんだよ」

 

「そりゃそうよ。魔理沙の奴、父親の葬儀の時見たこともないぐらいわんわん泣いてたし。それで葬式が終わったらまた家飛び出して霖之助さんに店を譲るって一方的に手紙送りつけたっきりだから、思い詰めてないか心配なのよ。霖之助さんから見れば魔理沙は妹みたいなものだし」

 

「お葬式・・・魔理沙のお父さん、死んだの?」

 

「ええ、あの日は人里への襲撃で二千人が死んだから・・・」

 

「霧雨さん、御高齢で走って逃げられなかったんだ」

 

レレィの問いに答える霊夢と伊丹。

 

二千人が死んだ日、襲撃の言葉にピニャの表情が曇る。

 

「ん?なんであんたがそんな顔してるの?」

 

霊夢がピニャの表情に気付く。

 

「いや・・・・その・・・・」

 

「悪いのは襲撃を命令したあんたの父親で、あんた自身は命令したり襲撃に参加したりしてないんでしょ?だったら気にするだけ無駄よ」

 

「いや・・・そうは言っても・・・だな・・・」

 

だんだんと霊夢が面倒臭くなって来た時。

 

「こーりんのバーカバーカ!!」

 

「あっ!こら魔理沙!話はまだ終わって・・・!!」

 

魔理沙と霖之助の一際大きな声がしたと思ったら魔理沙は箒にまたがって伊丹達の頭上を飛び越え紅魔館へ戻って行った。

 

「まったく、魔理沙は・・・・」

 

霖之助のやれやれと言うような感じの声。

 

「ああ、耀司まだそこにいるんだろ?」

 

流石にバレていたかと伊丹は姿を見せる。

 

「ど、ども、霖之助さん」

 

「ああ、別に怒ってるわけじゃないから普通でいいよ。それにしても、相変わらずだな魔理沙は・・・」

 

はぁっ、っと溜息をつく霖之助。

 

「耀司、霊夢。悪いけど魔理沙の事をよく見ていてやってくれ。無茶なことしなければいいんだけど・・・・」

 

「まぁ、いいけどね」

 

「分かりました。それとなく気を配っておきます」

 

「ああ、頼むよ」

 

 

 

紅魔館に先に戻った魔理沙はパチュリーに持ち出した本を返してくれと懇願された。

 

冗談で魔理沙は土下座でもすれば返してもいいと言ったら小悪魔と一緒にパチュリーが本当に土下座して来たので戸惑いながらもパチュリーに本を返す。

 

「戻ったわ!こあ、再封印するわよ!」

 

「準備は出来ています!」

 

パチュリーと小悪魔は大急ぎで図書館内の禁書封印室に駆け込みしばらくして出て来た。

 

「はぁ・・・まさか再封印の準備中に魔理沙に持ってかれるなんて・・・・油断していたわ」

 

「でも、本そのものの封印が機能していて助かりました・・・」

 

「そ、そんなにやばい代物だったのか・・・・?」

 

「ええ、あれはやばい代物よ。研究書でも封印が完全に解けていたら魔力汚染で周囲の人間が廃人になるレベルのね」

 

「・・・・・・マジかよ・・・・」

 

なお、図書館を去る際に魔理沙はちゃっかりと図書館内の本を数冊勝手に持ち出していた。

 

「魔理沙はーーー!」

 

本が無くなっているのに気付いたパチュリーが何時も魔理沙に本を持ち出された時のお決まりの言葉を言っていた。

 

「でも、あっちのヤバイ本持って行かれるよりは遥かにマシだけど・・・・」

 

禁書封印室。

 

その中には大国を魔力汚染で滅ぼせるほどの本当にヤバイ最悪の本が何十冊も厳重に封印されている。

 

魔理沙が持ち出していた研究書はそれらに比べれば可愛い方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日はピニャ達一行も含め異界組は紅魔館に宿泊する事になった。

 

「で、レレィさん。日本でそんなものを買ったから使い方を教えて欲しいと」

 

伊丹の部屋にレレィが押しかけて来ていた。

 

ロゥリィ、テュカも興味から同席していた。

 

紅魔館の伊丹に割り当てられた部屋の机の上にはレレィが日本で買って来たノートPCの箱が鎮座していた。

 

「レレィ、一つ聞くけど電源はどうするつもりだったんだ?」

 

「電・・・源・・・?」

 

「ああ、こんな機械を動かす為の力だよ。こう言った電子機器は電気が必要なんだけど紅魔館の電力は電圧の関係で使えないからなぁ・・・」

 

「電気?」

 

「あー、そこからか。ほら、雷とかがピカッて光るだろ?あれが電気。あ、でも魔法で電気出すってのは無しだぞ?間違いなく壊れて火を噴くから」

 

「・・・・困った」

 

「んー・・・一度技術工房で見てもらうか」

 

伊丹は箱を持つと全員でゾロゾロと紅魔館の敷地内にある河童の工房へ向かう。

 

「ちーっす、にとりいるかな?」

 

「いるよー?」

 

遮光グラスを掛けて作業をしていたにとりが返事をして来た。

 

「盟友、今日はどんな用かな?」

 

「ああ、実は・・・・」

 

「これをニホンで買って来た。でも、伊丹が言うには電気と言うのが必要と言う。紅魔館のは電・・・・電・・・」

 

「電圧な」

 

「そう、電圧の関係で使えないって・・・」

 

「ふーん、つまりは変圧したいって事か。オッケー、私もいくつか外界で買って来た物を充電する必要があったしちょうど今変圧器作ってたんだ」

 

「じゃあ、タイミングが良かったって事か」

 

「そう言う事。予備も含めていくつか作ったから一つあげるよ」

 

 

 

れれぃは ねんがんの へんあつきを てにいれた。

 

 

 

再び伊丹の部屋にて。

 

「じゃあ、変圧器を間に挟んで・・・」

 

変圧器を通してコンセントを繋ぐ。

 

ノートPCの充電ランプが点灯する。

 

「じゃあレレィ、そこの少し凹んでいるところを軽くグッと指で押して」

 

「こう?」

 

伊丹の言う通りにレレィは電源ボタンを押す。

 

液晶画面に起動画面が現れ最初のセットアップ画面になる。

 

「ユーザー名を入力か。じゃあ、レレィって打ってみて」

 

「こう?」

 

レレィはキーボードを不慣れな手つきで押す。

 

;;E

 

「・・・・・?」

 

首をかしげるレレィ。

 

「あー、そっか。レレィは日本語は少し字もわかるようになったけどローマ字入力はまだ無理か・・・・」

 

レレィが押したのは平仮名の書かれたキー。

 

「ちょっと待ってな。えーと、入力切替で・・・・よし、もう一度」

 

「分かった」

 

れれい

 

「あ、最後の文字はこっちのシフトキーって言う矢印のついたボタンを押しながら。このボタンで一文字戻れるから」

 

「ん」

 

れれぃ

 

「で、最後にこの少し長いボタンを押して・・・」

 

レレィ

 

「そう。で、最後にエンターキーって言うこの少し大きめの曲がった矢印が書かれたボタンで決定」

 

「やってみる」

 

キーを押すと確認画面が出て来て決定する。

 

「次はパスワードか」

 

「ぱすわーど?」

 

「合言葉みたいなもの。これを決めておけば勝手に他人に使われないように出来る。レレィしか使わないなら使用しないことも選べるけど誰でも使える状態になったまま」

 

「使い慣れるまで、そのままでいい」

 

レレィはパスワードを未設定にする。

 

「操作で分からないことがあれば俺でもだいたい教えられるけど、機械の故障とか知りたい事があれば俺よりもさっきのにとりの所に行けばいいから」

 

「分かった」

 

異界の魔法使いノートPCに夢中になる。

 

後日。

 

「スペック不足。CPUの処理能力もメモリも全然足りない。ノートPCじゃグラフィックボード刺せない」

 

「・・・・・・・レレィさんや?」

 

「あ、伊丹」

 

「すごく詳しくなったね?」

 

「ん。この動画のゲームってのやってみたい。でもこれじゃスペック不足。デスクトップのゲーミングPCって言うのがいいらしい」

 

「どんだけ詳しくなっているんだ本当に!?」

 

困った時の二ツ岩商店。

 

数日後レレィはマミゾウ経由で本当にゲーミングPCを手に入れていた。

 

マミゾウもレレィから手数料込みの代金を異界の金貨払いで受け取りホクホク顔をしていたとか。

 

「あの、レレィさんや?」

 

「あ、伊丹」

 

「なんのゲームをプレイしているんですか?」

 

「ちょっと待って。今、銀行強盗ミッション中」

 

「G○Aじゃないか!?」




レレィがゲーマー化してしまう・・・・・?




魔理沙パパは襲撃時に死亡しています。


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ピニャ様、皇族やめるってよ

酒は飲んでも飲まれるな


 

「やってられるかああぁぁぁぁぁっ!!」

 

「お客さん、もうそれぐらいにしといた方が・・・・」

 

「らいじょーぶら!金は沢山あるかりゃしんぱいするにゃっ!!」

 

「ま、まぁ、確かに異界の金貨や銀貨は使えるけどさ・・・・」

 

紅魔館脇に毎夜来る屋台。

 

その屋台の店主、ミスティア・ローレライは今日は厄日だと思った。

 

ここに店を出してそれなりに経つ。

 

最初は紅魔館でこの異界調査に来ている面々だけが客だったが最近では外出許可の出た非番の自衛隊員やここに避難して来たコダ村の避難民もちょくちょく来るようになった。

 

おかげで一台の屋台では足りず連結式の屋台で商売をしていた。

 

今日はそろそろ店仕舞いにしようかと思っていた時に来た二人組が酔ってひたすら愚痴っているのだ。

 

「ピニャしゃま、もう一杯ろーぞ」

 

「おっととと、しきゃし、こにょ熱燗っていうのはなかなかいけるにゃ・・・。あー、次はちくわちょーらい」

 

「わらしははんぺん〜」

 

「毎度〜」

 

まぁ、酔い潰れたら紅魔館の内側に入れておけばいいかと考え直し注文されたおでんを皿に出す。

 

 

 

 

時は遡り、その日の昼前。

 

前日夜に帝都に帰還したピニャは元老院で日本政府より渡された捕虜の名簿を公開し日本と戦うのは愚かな選択だと伝える。

 

「ですから!私はニホンを見て来たのです!帝国より遥かに進んだカガクと言う物の力を!なにより、門の向こうはニホンだけではなく、百カ国以上の国があるというのです!中にはニホンより強大な軍事力を持った国が幾つかあると!」

 

元老院で父であり帝国の皇帝であるモルトに訴えかける。

 

「もし門の向こうが本気でこちらの世界に来れば、この大陸が炎に包まれてしまいます!しかもゲンソーキョーには強力な力を持った神々やヨーカイと言う怪異の力を持つ存在が無数にいると言うのです!ニホンだけでも強敵なのにもしニホンと他の国とゲンソーキョーが同時に攻め込んで来たら帝国に勝ち目はありません!無辜の民が犠牲になるのです!」

 

「ピニャよ・・・・」

 

モルトが口を開く。

 

「貴様は、我が帝国が負けると本当に思っておるのか?我が帝国は危機に陥るたびにその危機を乗り越えて来た。此度もそうである。それに、ニホンには魔法を使えるものが一人もいないそうではないか。そのような蛮族共に我が帝国が負けると?」

 

「はい」

 

「・・・・・・本日の議会はこれまでとする。ピニャ、昼食を済ませて後ほど謁見の間に来るがよい」

 

そう言い残し議会を後にするモルト。

 

これと言った手応えを感じられない無力感に苛まされピニャも元老院を出る。

 

「ピ、ピニャ様・・・・」

 

ピニャを待っていたボーゼスが憔悴した主人の姿に戸惑う。

 

「相変わらず、父は石頭だ。昼食後に謁見の間に来るようにと仰せられた」

 

「わかりました。このボーゼス、どこまでもお供いたします」

 

 

 

ピニャとボーゼスは共に昼食を終え、謁見の間に向かう。

 

ボーゼスは謁見の間の前で歩みを止め、ピニャに一礼する。

 

呼ばれたのはピニャのみであり、ボーゼスは付き人としてここで待つ。

 

 

 

 

 

「父上」

 

「ピニャ、先程言った事だが今一度問う。お前はこの帝国が負けると本当に思っておるのか?」

 

「はい、確信しております」

 

「ふっ、まんまと敵の策に乗せられた愚かな娘よ。お前の見て来たものは大方薬でも盛られ見せられた幻であろう。我が帝国より進んだ国などあり得ぬ」

 

「なっ!?」

 

「しかも神々が実体を持っているゲンソーキョーなる世界だと?そのような物、あり得ぬ。恐らくは怪異と混血した卑しい者共がいるだけの世界であろう」

 

「ち、違います父上!」

 

なんとか説得しなくてはと焦る。

 

旅館と言うところのテレビで見た霊夢と魔理沙の弾幕ごっこと言う戦闘、更に月人と言う日本と幻想郷を遥かに上回る圧倒的な存在をなんとか言葉で説明する。

 

「ピニャよ、お主は少し疲れておるのだ」

 

可哀想な人を見る目でモルトは娘を見た。

 

「月に人が住んでおるだと?まず、どうやって月まで行くのだ?ピニャ、お前は公務から離れ好きなだけ静養するがよい。衛兵、ピニャを塔の部屋へ連れて行け。あそこなら見える景色も良い」

 

「はっ!ではピニャ様、どうぞ此方へ」

 

「なっ!?ち、父上!?無礼者!妾に触れるでない!」

 

困った様にモルトを見る衛兵。

 

「構わぬ、引きずってでも連れて行け」

 

「はっ!」

 

「はっ、離せ!離さぬか!」

 

「お前も手を貸してやれ」

 

大臣の言葉にもう一人の衛兵が頷き二人の衛兵がピニャを両脇から抱えて引きずって行く形になる。

 

「ええい!離せ!離さぬか!帝国が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだぞ!!」

 

「ピニャ様!落ち着いてください!」

 

「皇帝陛下はピニャ様を心配しておられるのです!」

 

ボーゼスが見たのは衛兵に引きずられて謁見の間から連れ出される主人の姿。

 

「ま、待て!ピニャ姫様に何と言う無礼な!」

 

「下がっていろ!これは皇帝陛下の命令だ!」

 

「なっ!?」

 

ドアから見える皇帝モルトの姿を見ながら何が起きたのか想像を巡らすボーゼス。

 

「ボーゼスとか言ったな?」

 

大臣がボーゼスに近付きながら声をかける。

 

「ピニャ様はお疲れのご様子。皇帝陛下が塔の部屋での静養を申しつけられた」

 

「なっ・・・・?」

 

「静養中は会う事はまかりならぬ。お主はピニャ様が公務に復帰する時に備え騎士団の備えをしておれ」

 

そう言い残して大臣も消える。

 

「塔の部屋だと・・・・?あそこに入れられた者は・・・・・!」

 

 

 

塔の部屋。

 

モルトが命じてピニャを幽閉したここは乱心した者・・・いわゆる精神異常の皇族を軟禁する所であった。

 

今までここに入れられた者が次に出て来たのは棺桶に入れられて出て来たことしかない。

 

「ええい!開けろ!開けぬか!」

 

内側から扉を叩くピニャ。

 

しかし扉の向こうには人の気配すらない。

 

一番近くにいるのは塔の外で警備をしている兵士ぐらいだ。

 

夕方になり扉の横の小窓から食事と飲み物が入れられたぐらいだ。

 

「ああああっ、ここまで石頭だったとは・・・・。このままでは帝国だけでなく、無辜の民達が犠牲になってしまう・・・・」

 

空腹には勝てず少し冷めた頃に食事に手を伸ばしながら一人呟く。

 

「お困りの様ね?」

 

「ああ、困った、本当に困っ・・・えっ?」

 

聞き覚えのある背後からの声に振り返ればそこに紫がいた。

 

「貴女の頑張っていた姿は見ていたわ。説得は出来なかったみたいだけど」

 

「ああ、まさかあそこまで盲目的な石頭だとは・・・」

 

紫が突然現れるのは幾度か見て経験もしているのでピニャは紫が神出鬼没と言うことに慣れ始めていた。

 

「八雲殿、恥を承知で頼みがある。妾をここから連れ出してはもらえぬか?」

 

「お安い御用だけど、いいのかしら?貴女にもここでの立場があるのではなくて?」

 

「分かって聞いているであろう?ここに幽閉されたら最後だ」

 

「いいのね?」

 

「ああ、それから幾つか頼みたいのだが・・・・」

 

 

 

ボーゼス自室にて。

 

「ああ、ピニャ様・・・」

 

ボーゼスは部屋の中を意味もなく行ったり来たりを繰り返していた。

 

そんな彼女の元にスキマが開き中からピニャと紫が出てくる。

 

ピニャは持てるだけの荷物を持っていた。

 

「ピニャ様!?」

 

思わず声をあげてしまったがピニャが静かにする様にとのジェスチャーをするのを見て自分の口を手で塞いだ。

 

「ぴ、ピニャ様・・・・・ご無事で・・・」

 

「ああ、塔に幽閉された時は最後かと思ったが紫殿が来てくれたおかげで脱出出来た」

 

「ところで、そのお荷物は?」

 

「ああ、それを含めてだが・・・・ボーゼスに別れの挨拶をしたくてな」

 

「別れ!?ど、どういう事ですかそれ・・・・!?」

 

思わず大声をあげてしまったがすぐに声のトーンを落とす。

 

「妾は父上の石頭ぶりには愛想が尽きた。このままでは帝都の無辜の民草に血を流す者が出るかもしれん。妾はゲンソーキョー側に一度身を隠して妾に出来ることをしたいと思う。ボーゼス、本当ならお前も誘いたかったがお前の家名に傷を付けてしまうだろう。だから・・・」

 

「何を言うのですか、私の主人はピニャ様のみです。何処までもお供いたします。すぐに身支度を整えますのでお待ちください」

 

「あ、あぁ・・・本当に良いのか・・・・?」

 

「もちろんです。八雲殿、済まぬが私の実家に一度行きたい。離縁の手紙を書く故」

 

ボーゼスが手紙を書き終え身支度を整え終えると紫のスキマで全員が移動をした。

 

ボーゼスの家の位置を聞き離れた場所へスキマを開きボーゼス自身が門番に手紙を預けるとすぐに紫の元へ移動し再びスキマ移動をする。

 

 

 

紅魔館には既に向かい合わせで二人の部屋が用意されていた。

 

「それでは、ピニャ様、ボーゼス様。何か分からない事や必要な物があれば遠慮なくお申し付けください」

 

客人として滞在する事になった二人に咲夜が挨拶をする。

 

「手間をかける」

 

「よろしくお願いします」

 

ピニャとボーゼスも返答をする。

 

「早速ですまないのだが、ちと妾達は帝国での出来事で愚痴を言いながら酒でも飲みたいのだが・・・・」

 

「成る程。それでは料金がかかりますが紅魔館ではなく外にあるミスティアの屋台が一番でしょう。ご案内します」

 

「屋台・・・とな?」

 

「移動式の飲食所の様な物と考えてください。こちらの世界での通貨でも支払いは可能ですのでその点はご心配なく」

 

「そうか。では手数をかけるが案内を頼む」

 

 

 

そして現在へ至る。

 

「もるろ様の石頭〜!」

 

「父上の石頭〜!」

 

酔っ払いが二人、紅魔館の内側に転がされていた。

 

幸いにしてスカーレット姉妹は一時的に幻想郷の紅魔館に私用で一時帰宅していたのでこの二人の醜態を目にすることは無かった。

 

「ピニャしゃま、ひっく、あしょこの小屋で休みましょう・・・・」

 

「そうりゃなぼーれす。ひっく。小屋れ寝るのりゃ・・・」

 

二人は泥酔者の足取りでよろよろと小屋に入るとそのまま地面で寝てしまう。

 

「ぐかー・・・ぐかー・・・」

 

「しゅぴー・・・しゅぴー・・・」

 

そして朝。

 

「ほぅら、ポチ、タマ、朝ごはんだぞー」

 

野菜やら肉やらを混ぜた餌を桶一杯に入れて伊丹がポチとタマの小屋に入る。

 

「酒臭っ!?」

 

最初に嗅いだ匂いは酒の匂いだった。

 

「ぐかー、ぐかー」

 

「しゅぴー、しゅぴー」

 

「えぇぇぇ・・・・・?」

 

ピニャとボーゼスが来ている事は咲夜から聞いていた。

 

ポチとタマに餌をやってから挨拶しようかと思っていたが酔っ払いと化した二人がポチとタマの小屋の中で地面で直接寝ているのだ。

 

出奔したとは言え、一国の皇女と貴族が酔い潰れたサラリーマンの様に。

 

「クルルルルルルッ・・・・・」

 

「キュルキュルキュル・・・・」

 

困った様に伊丹を見る小屋の隅にいる二匹の龍。

 

余りの酒臭さに隅へ避難した様だ。

 

「偉いな二匹とも〜。それに引き換え・・・はぁぁぁ・・・・」

 

大きくため息をつく伊丹であった。

 

 

 

 

「あっははははははははっ!!」

 

「ぷくく・・・・笑っちゃいけないけど・・・・無理・・・・・」

 

「ぷっ・・・・笑うなと言うのが無理・・・ぷぷっ・・・・」

 

「わ、忘れてくれ!頼むぅぅぅっ!!」

 

「こ、このボーゼス、一生の不覚・・・!!」

 

伊丹がなかなか戻ってこないので様子を見に来たロゥリィ、テュカ、レレィは小屋の中で酔い潰れている二人を見る事になる。

 

取り敢えず館に運び込み紅魔館にあった永遠亭の置き薬から酔い覚ましを用意すると少し意識を取り戻した二人に飲ませた。

 

どうやら昨夜酔い潰れて小屋の中で寝た事は覚えている様だ。

 

そして今、ロゥリィ、テュカ、レレィが思い出し笑いをし、ピニャとボーゼスが恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

 




よくファンタジーものじゃ塔の上の部屋は幽閉に使われてるので帝国では精神に異常をきたした皇族が幽閉される場所にしました。
まぁ、現代みたいに精神医学が発達していない世界や時代では皇帝やらが都合の悪い人物を政治的に抹殺するために悪用したりとかもお約束ですし。


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ハーディとジゼル

ジゼルさん再登場。


日本と幻想郷は忘年会シーズン。

 

当然アルヌス駐屯地の自衛隊員達も忘年会を楽しみにしている。

 

今回は何と言っても紅魔館主催の忘年会に自衛隊が招待されている。

 

一部だけでは不公平だとレミリアが提案し交代で数日間に渡り忘年会が行われる。

 

 

そんな浮き足立つ隊員達が多いアルヌス駐屯地の建物の一室。

 

ピニャ、ボーゼス、紫と日本で会談を行った首相補佐官と外務省の役人が話し合いを行なっていた。

 

「すまない、妾の力不足で・・・・」

 

「い、いえ、お気になさらず・・・・・

 

首相補佐官と外務省の役人はしばらく前に会談を行ったピニャとボーゼスの二人が幻想郷側に亡命してきたと聞き慌てた。

 

そして二人の方から再度会いたいと伝えられスケジュールを調整してアルヌス駐屯地で会談を行っていた。

 

「貴方方から頂いた名簿は元老院に見せた。だが父上・・・皇帝が頑固な石頭でな・・・。いくら説明しても帝国が負ける訳がないと言い張っていてな・・・・。あの根拠のない自信は何処から来ているのやら・・・」

 

前回と違い、今回の会談は幻想郷の河童が作成した翻訳機を通した自然な会話で行われている。

 

日本側は日本語、ピニャ達は異界語で話しているが自然に会話ができる装置に最初は補佐官と役人も度肝を抜かれていたが。

 

「挙げ句の果てに、妾を狂人扱いして幽閉したのだ。八雲殿が来てくれなければ死ぬまで閉じ込められていたであろう・・・」

 

「そんな事が・・・」

 

「期待に添えず、申し訳ない」

 

ピニャの謝罪に日本側は慌てた。

 

日本の要請で伝言を伝えた結果に親子関係が破綻したと捉えていたからだ。

 

「そちらでは後から帝国が皇女を拉致や強制連行されたと言いがかりをつけられてはお困りでしょう。幻想郷でしたら基本的に敵意がなければ来る者は拒まずですので受け入れられます」

 

紫の言葉に日本側は安心する。

 

何しろ日本は数十年に渡り拉致や強制連行と言う難癖を一部の国や国内の反日団体から言い続けられ、ある種のアレルギーの様になってしまっているからだ。

 

「話は変わりますが、先日のご依頼の件のご返答です。詳しくはこちらに書いてありますので・・・・

 

紫は先日日本政府より渡された行方不明者のリストを返却した。

 

リストの一番上には毛筆で稗田阿求確認済と書かれている。

 

「失礼します」

 

パラパラとめくると数は少ないが所々に毛筆と墨で書き込みが行われている。

 

生存や死亡の文字。

 

そして数名が行方不明と書かれている。

 

死亡の場合はいつ亡くなったかが記入されている。

 

そして首相補佐官は死亡者の大部分が同じ日付に亡くなっているのに気付いた。

 

その日付が何の日かはすぐに分かった。

 

銀座事件の日付。

 

幻想郷の人里にもほぼ同時に襲撃があった事は聞いていて知っている。

 

「ありがとうございます。こちらは日本に持ち帰らせていただきます」

 

「それと、河童の方から提案があるそうで・・・・」

 

河童からの伝言を伝える紫。

 

「それは・・・!分かりました。その件は確実に総理にお伝えいたします」

 

「ええ、よろしく」

 

その場では即答できない提案に首相補佐官は新たに緊張を覚えた。

 

 

 

 

紅魔館門番の紅美鈴は四六時中門番をしているわけではない。

 

食事の時や就寝時は当然ながら館の中にいる。

 

休日は幻想郷へ買い物に戻ったり近くの森で鍛錬をしたりしている。

 

その時も昼食の為に門を施錠し食事に向かう。

 

その紅魔館の塀を乗り越える影。

 

人の気配がしないのを確認し敷地に侵入する。

 

尖った氷でズタズタになった体が治癒した亜神ジゼルだ。

 

卵にマーカーの様な魔法を使用していたおかげで大体の場所がわかりこの館を見つけた。

 

魔法は何故か消えてしまったがその反応の場所が分かりやすいアルヌスの丘だった為に迷わず辿り着いた。

 

大きな施設が二つあったが片方は緑色の服を着た人間が大勢いる為侵入を断念。

 

人数の少ないこの館に侵入する事にした。

 

門番はほとんど目を瞑っているがかなりの使い手とジゼルは判断した。

 

ちょっとした動きでも気配を察しているのかすぐに気付かれ警戒を高める為とにかくじっと隠れていた。

 

その門番が姿を消したのをチャンスと言わないで何をチャンスと言うのかの様な感じでジゼルは紅魔館に侵入を果たした。

 

そしてまずは真新しい小屋を覗く。

 

「あれは・・・!!」

 

二匹の龍が首輪もつけられずに小屋の中で眠っていた。

 

「あの時の小娘、卵を食べるとか言っていたが先に孵ったのか・・・」

 

これはチャンスと小屋の扉に手を掛ければ簡単に開く。

 

小屋の中に入るとその気配から二匹の龍が起きる。

 

ジゼルの姿を見て首をかしげる様な仕草をする。

 

「二匹とも無事か。よし、こいつらを魔法で操ってけしかけてやれば・・・!」

 

「「グルルルルルルルッ!」」

 

だが一定の距離を超えて近づいた途端二匹が同時に唸り声を上げジゼルを威嚇する。

 

「ギャウギャウギャウッ!」

 

「シャーーーーッ!」

 

「ま、待てって!ひっ!」

 

噛みつかれそうになり大慌てで天井の梁の上に飛び乗る。

 

下では二匹の龍が威嚇を続けている。

 

「面倒だな・・・・。よし、魔法で眠らせ・・・・」

 

ギィッと扉が開き一人の男が入ってきた。

 

「おーい、ポチにタマ。散歩に行くぞー・・・・って、どうかしたのか?」

 

二匹の龍が天井を睨んでいるのに気付き上を見るが特に何もない。

 

ジゼルは上手い事梁の影に伏せていた。

 

「ん〜?変な虫でもいたか?こんどリグルに来て貰って調べてもらおうかな?っと、ははっ。分かった分かった。散歩に行くか」

 

伊丹が歩き始めるとその歩みに合わせて二匹の龍が着いて行く。

 

 

 

「くそっ、龍は後回しだ。無様な姿をハーディ様に見せられない・・・」

 

今回の潜入にはハーディもジゼルに期待をしていると伝えており、ジゼルの見聞きした物はそのままハーディに伝わると言うジゼルにしてみれば栄誉な任務だった。

 

魔法で気配を消し、館内部に入り込む。

 

 

レミリア私室。

 

「予定通りに館の周りをウロチョロしていた鼠が屋敷に入り込んだわね」

 

本を読みながら側でベッドメイキングならぬ棺桶メイキングをしている咲夜に話し掛ける。

 

「はい。しかし宜しいのですか?放置して」

 

「構わないわ。鼠は気付いていないでしょうけど、この館の近くに来た時から既に私の手の上」

 

ぺらりとページを捲る。

 

「あの亜神とハーディとやらにある種の絶望を教えて上げましょう」

 

鼠の姿をロゥリィに見せた時にこの鼠がハーディとか言う神の亜神と知った。

 

そしてこの策を考えついた。

 

レミリアの運命操作でジゼルは既にその運命に囚われていた。

 

「それでは、私は妹様のおやつの支度に入らせて頂きます」

 

「ええ、お願いね」

 

咲夜が退室する。

 

ジゼルは妖精メイドや屋敷にいる者に会わない様に移動をする。

 

もしこの時のジゼルの移動を第三者が地図上で見ればまるで誘導されていように見えただろう。

 

その誘導先は地下の大図書館。

 

大量の蔵書に目を見開くジゼル。

 

そして魔力を感じる小さな部屋。

 

大事なものがあると見てジゼルはその部屋に入り込む。

 

その部屋の中では本棚ではなく一冊一冊がそれぞれ別々の机の上に置かれ何らかの魔法がかけられている。

 

ジゼルは抗いがたい衝動に駆られその中の一冊を手に取り読む。

 

字は分からないのに何が書いてあるのかわかると言う奇妙な現象。

 

そしてその知識はジゼルを介してハーディにも伝わる。

 

そしてハーディは知る。

 

知ってしまった。

 

外なる神々と旧支配者の存在を。

 

宇宙の外に広がる邪悪と混沌の存在を。

 

この世界も今まで生物を連れて来るために他の神も行なっていた門を繋いだ異世界も、そして今現在繋がっている日本と幻想郷の存在する世界も。

 

そして自らを含めた全ての世界の生物と神々も。

 

全てが邪悪な神性アザトースが見ている長い微睡みの中でその存在を許されているだけの存在であり、一度目覚めれば抵抗する間も無く捻り潰される矮小な存在だと言う事を知ってしまった。

 

そして様々な世界で黒人神父や女子高生の姿になったりして暗躍している無貌の神、這い寄る混沌ニャルラトホテプの存在も同時に知ってしまう。

 

ジゼルの耳に幻聴が聞こえ始める。

 

そしてハーディにも聞こえ始めてしまう。

 

ふんぐるい むぐるうなふ くぅとるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん

 

いあ いあ あざとーす いあ いあ にゃるらとほてぷ いあ!いあ!

 

ジゼルは辺りを見回す。

 

誰もいない。

 

なのに聞こえる。

 

「な、なんだよ・・・なんだよこれぇっ!」

 

そして部屋の隅の角を見たジゼルの目が見開かれる。

 

遂にジゼルには幻覚が見え始める。

 

青黒い煙が見え、その煙が何かを形作る。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁっ!!?」

 

恐怖に慄き逃げ出すジゼル。

 

ジゼルは地下から地上へ逃げる。

 

「げっ・・・・」

 

ジゼルの姿を廊下を歩いていて遭遇したロゥリィはあからさまに嫌な顔をし身構える。

 

「どけっ!どけぇっ!追って来る!追って来るぅうぅっ!!」

 

だがジゼルはロゥリィなど眼中にないかの様に悲鳴を上げて何かから逃げる様にロゥリィの脇を走り抜ける。

 

そんなジゼルの姿を見てロゥリィは首をかしげる。

 

「追って来るって・・・・なにがぁ?なにもぉいないじゃなぁい?」

 

ジゼルが来た方向を見ながらジゼルが何に怯えていたのか考えるが答えは出ない。

 

「一体、なにに怯えていたのかしらぁ?」

 

「怖い幻でも見たのかしらね?」

 

廊下を歩いて来たレミリアがクスクス笑いながら話し掛けてきた。

 

「狂えないって言うのは、ある意味残酷よね」

 

窓から館の外へ走って逃げてゆくジゼルを見ながらクスクス笑い続けるレミリアにロゥリィは追求を止める。

 

世の中には知らない方がいいこともあると直感で察したのだった。

 

 

 

紅魔館地下図書館。

 

パチュリーはレミリアの指示で緩めていた封印を再度強固な物に張り直す。

 

小悪魔はその助手を務める。

 

「終わったわ」

 

「狂えないって言うのはある意味不幸ですよね」

 

「ええ。でも、人間でも奴等の目を欺いた切れ者がいたのをあなたは覚えてるかしら?」

 

「ええ、よく覚えています。まだ紅魔館が外界にあって百年ほど前に道に迷ったアメリカ人旅行者を一晩泊めた時の事ですよね?確か名前は・・・なんでしたっけ?」

 

「ラヴクラフト氏よ。最初から狂っていたのか、それとも狂わずにいられたのかは分からないけどね」




SAN値マイナスになっても狂えないのは辛いよね。
ちなみに設定だけで本編にはクトゥルーとかニャルラトホテプ様とかは直接関わりませんのでご安心を。

と言う訳で、ジゼルさんとハーディさんは宇宙の真実に気付いてしまいましたとさ。


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年末年始の出来事

今回はちょっとごった煮かな?


 

師走。

 

師も走るの字の如く忙しい事を意味する。

 

日本と幻想郷は暦も日付も全く同じだから年末年始は大忙しだ。

 

そして別の意味でも忙しいのが本位総理だった。

 

なにしろ内閣の大改造を決行したからだった。

 

与党内の派閥の力関係などを考慮して本来行われている組閣は今までの慣例をぶち壊す形で行われた。

 

当然派閥のトップ達はいい顔をしなかったが総理が自ら個別に会いディレルの遺品となったリストの内容を少し匂わせただけで不利だと理解し引っ込む。

 

官僚も大幅な人事異動が行われ、結果内閣で続投した閣僚は嘉納大臣一人だと言う状況になった。

 

そして現在、本位総理、嘉納大臣、防衛大臣と自衛隊の幹部数人が首相と会談を行っていた。

 

補佐官と外務省に役人が国会招致の日に会談を行ったピニャとボーゼスの二人が幻想郷へ亡命した事。

 

日本全国で確認されている行方不明者の内の十数名が幻想郷で確認された事。

 

半数近くは生存しているが残りは既に死亡している事。

 

死因は幻想郷で寿命を迎えたり事故で死んだり急病で治療が間に合わなかったりと様々であるが死者の大部分が銀座事件と同じ日付で死亡している事。

 

だがある意味それ以上の重要な事を話し合っている。

 

「総理、それは本当ですか?」

 

防衛大臣は聞き間違いでないかと確認をする。

 

「ええ、こちらの銀座ゲート防衛の為にレーザー砲台を用意できると。どうやら八雲紫と言うのはこちらの海外情勢にも相当詳しいようだ。何処かの国が潜水艦からミサイルを撃って来たりした時に備えてと河童が彼女の話を聞いて提案して来たそうです。こちらの反戦主義者の反発を想定して設置場所は銀座ゲート周辺のビルの屋上に限定。制御はAI制御で常時ステルス状態での設置が出来るとのことで」

 

「そいつは願っても無い話だが・・・・」

 

「即断はできません。熟慮に熟慮を重ねる必要があります」

 

この議題は持ち越しとなる。

 

そして幻想郷で生存や死亡が確認された人物の親族に安否が報告されていた。

 

生存者の家族には本人が同意すれば会うことが可能と言う事を伝え、死亡していた家族にはお悔やみを伝えた。

 

しかし何と言っても一番影響があったのは神社だろう。

 

大晦日の昼だと言うのに既に初詣待機の行列が日本全国で見受けられる。

 

八百万の神々が実在すると知った人々が初詣で神社に殺到すると予測されていた。

 

 

 

 

紅魔館・大晦日夕食時間。

 

現在紅魔館にいる全員が揃っている。

 

館の主人、レミリア・スカーレットが広間に集まっている面々を一望出来る場所から話しかけて来た。

 

「皆、今年一年は大きな出来事があったけど各々が力を尽くしそれらを乗り越えて来たわ。言葉にすると長すぎるから割愛するけど一言だけ言わせて貰うわ。良いお年を!」

 

レミリアの言葉に全員が「良いお年を」と返す。

 

ピニャとボーゼスも事前に聞いていた通りに言う。

 

「今日の夕食は年越し蕎麦よ。もちろんそれ以外にも用意してあるけど最初の一食は年越し蕎麦。後、食べ物と飲み物のお代わりは自由だけど今日はセルフサービスよ」

 

レミリアの言葉にペコリと私服の咲夜が軽くお辞儀をした。

 

咲夜だけでなく、美鈴も門番の仕事を終えこの場に来ている。

 

レミリアも自分の席に着く。

 

「いただきます」

 

レミリアが言うと全員がほぼ同時に「いただきます」をし食事を始めて行く。

 

ピニャとボーゼスは初めて見る蕎麦にどうやって食べるのかと少し戸惑っていた。

 

すぐ近くの魔理沙の食べ方を真似するがまだ箸の使い方がぎこちない二人には麺は難易度が少し高かった。

 

「ん?なぁピニャ、別に無理して箸で食わなくてもいいんだぜ?フォーク使えば楽だしさ」

 

魔理沙が四苦八苦しているピニャ達に声を掛けた。

 

「ありがとう魔理沙。しかし妾はみんなと一緒の食べ方をしてみたい」

 

「そっか。頑張れよ」

 

そのやり取りを少し離れた場所から蕎麦を啜りながら見ていた霊夢と伊丹。

 

「どうなるかと思ってたけど、結構ウマが合うのかしらね?」

 

「意外と似た者同士だしな」

 

両方ともお嬢様で父親に反発して飛び出して来たようなものだと感じた。

 

 

 

 

魔理沙の父親は襲撃で亡くなっている。

 

何度か魔理沙と顔を合わせる事があったピニャは先日思い切って魔理沙に謝罪をした。

 

だが最初の魔理沙の返事は「は?」だった。

 

不機嫌でもなく相手を拒絶するのでもなく、ただ普通に何故ピニャが自分に謝って来たのかわからないと言う様なニュアンスの「は?」だった。

 

「悪い、なんで私は謝られてるんだ?」

 

「そ、それは・・・妾の父上が原因で・・・・そなたの父上が亡くなったから・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「いや、お前馬鹿だろ?」

 

「ば、馬鹿とはなんだ!妾は真剣に・・・!」

 

「いや、だってさ。それとお前に何の関係があるんだ?お前が襲って来いって命令してたなら私は絶対許さないけどそうじゃないんだろ?」

 

「あ、あぁ・・・。進軍に妾が口を挟む余地はなかった・・・」

 

「だったら尚のことお前は謝る必要ないじゃないか。あれか?親が極悪人なら子供もその罪を背負わないといけないって考えなのか?」

 

「い、いや、そうではないが・・・」

 

「ちなみに私ならそんな考えの奴がいたら思いっきりお前馬鹿じゃね?って言ってるな。親は親、子供は子供なんだからそこはキッチリと分けて考えるべきだと思うぜ?まぁ、その子供が極悪人の親を肯定する奴だったら救いようがないけどな」

 

「そ、そう言うものなのか?」

 

「ああ、そう言うもんだ」

 

「な、悩んでいたのが馬鹿らしくなって来た・・・」

 

「まぁ、あれだ。紫が見てたらプークスクスって笑われてたな」

 

「ぷっ、そうかもな」

 

「ああ、そうだな。じゃあ代わりにプークスクス」

 

「そ、そなたは・・・」

 

少し呆れ口調のピニャ。

 

「あー、いい加減そのそなたって他人行儀なのはやめにしないか?魔理沙でいいぜ?」

 

「うむ、それでは魔理沙殿」

 

「殿も不要だ」

 

「わ、わかった。じゃあ、魔理沙」

 

「おう、これからもよろしくなピニャ」

 

「ピニャ・・・・」

 

「ん?呼び捨ては嫌だったか?」

 

「いや、そうではない。父上や兄上以外から名前を呼び捨てにされるのが新鮮でな。うむ、悪くない」

 

満更でもない表情のピニャだった。

 

 

 

「って事があったのよ」

 

「ほえー。私が来る前にそんな事が」

 

年越し蕎麦をすすりながら霊夢と話している少女・・・宇佐見菫子が霊夢から説明され感心している。

 

外界に住み眠っている時に幻想郷に来れる夢幻病と言う特異体質の彼女の存在は異世界ではなく並行世界を実証する事になった。

 

最初は伊丹も彼女と知り合った時は外界に住む人物だと思っていた。

 

長期休みの時によく幻想郷に来る彼女は次第に友好関係を広めて行き今ではレミリアの館に招待される事もある。

 

冬休みに入り遊びに来た彼女は当然この異界の前線基地の役割を持つレミリアの魔力で構築された第二の紅魔館にも招待される。

 

そこで自衛隊の一行とも会った彼女が最初に言った言葉。

 

「何でこっちに自衛隊の人達がいるんです?まさか部隊ごと幻想入りを?まさか、紫さんが部隊ごと拉致ったとか・・・?」

 

「いや、我々は銀座のゲートから特地に来ました」

 

桑原が答えたが菫子の頭には?マークが消えることはなかった。

 

「銀座のゲート?ゲートって?」

 

ここで伊丹も自衛隊の一行も違和感に気付いた。

 

何故、外界に住む彼女が異界門・・・外界ではゲートと呼ばれる存在を知らないのか。

 

「なぁ、菫子ちゃん。俺たちの姿、テレビで見たことある?」

 

「えっ!?伊丹さんテレビに出たんですか!?どのチャンネルです!?」

 

「いや、次の日には霊夢と魔理沙も出たしその日の夜には月面で月人が大規模軍事演習やったんだけど・・・・」

 

「ほぇ?」

 

理解が追いつかない菫子。

 

「宇佐見さん、銀座事件って知ってる?」

 

「ええ、あれは嫌な事件でした。確か無職の男が無差別通り魔をして何人か亡くなった事件ですよね?」

 

栗林の問いかけに対する答え。

 

ここで決定的になった。

 

菫子の知っている銀座事件は無差別通り魔事件。

 

国会のテレビ放送も知らず、世界中が目撃した月面軍事演習も知らない。

 

「まさか・・・・並行世界・・・?」

 

倉田が呟いた言葉が事実を物語っていた。

 

自衛隊が菫子から聞き出した住んでいる場所の住所。

 

日本の送られたそれはしかし似た地名があるものの該当する地名が存在しなかった。

 

彼女が在籍していると言う東深見高校と言う学校も似た名前の学校はあったが在籍者及び卒業生の中に宇佐見菫子と言う名前は存在しない。

 

幻想郷や特地の存在だけでも物理学者達はいっぱいいっぱいなのにここに来て並行世界の日本人が現れた。

 

ようやく慣れて来た物理学者達は再び胃薬と再会する羽目になった。

 

 

 

 

除夜の鐘が鳴り響く。

 

日本中の有名な神社は例年以上の参拝客が訪れている。

 

あまり名前を知られていないち地方の分社も新年の参拝客が大勢訪れる。

 

時計の針が一月一日の午前零時になる。

 

あちこちで参拝客が連れや知り合いに新年の挨拶をする。

 

次々と投げ入れられるお賽銭、飛ぶように売れる破魔矢やお守りの類。

 

「ねぇねぇ、ママー。あそこに着物を着た人がいるよー」

 

「誰もいないわよ?眠いのかしら?」

 

「パパー、時代劇みたいな格好をした人がいるー」

 

「どこにだい?」

 

小さな子供連れの参拝客の多くがそんな体験をする。

 

それは日本各地で多発した。

 

信仰心が少しずつ増えた結果、多感な時期の霊力が比較的強い子供達に見えた八百万の神達の姿であった。

 

 

 

 

「なんでよ・・・一体私がどんな悪いことをしたって言うのよ・・・・」

 

博麗神社、夕刻。

 

夜中から起きていた霊夢だが彼女は打ちひしがれていた。

 

賽銭箱の中は空っぽ。

 

元日の現時点での参拝客数、ゼロ。

 

「えぐっ・・・えぐっ・・・」

 

博麗神社、別名妖怪神社。

 

人里から離れているため人里から近い守谷神社に人々は参拝している。

 

「何やってるんだ霊夢・・・」

 

「ぐずっ・・・魔理沙・・・」

 

「よっ、初詣に来たぜ」

 

魔理沙の後ろには伊丹、ロゥリィ、テュカ、レレィ、ピニャ、ボーゼスと続き紫、藍、橙と続いていた。

 

伊丹、魔理沙、紫、藍、橙が賽銭を入れ二礼二拍手一礼する。

 

異界組もその動作を見様見真似する。

 

「さて」

 

紫がスキマから大量のお酒と食材を出す。

 

「宴会よ(はぁと)」

 

夜遅くまで宴会は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




書き終えた後見直してて気付いた・・・。
最後の宴会のシーン、男は伊丹だけじゃないかと・・・。


ま、いいか。

そしてピニャと魔理沙の関係も改善しました。
改善というか一方的にピニャが引け目を感じていただけですが。


作者はメリー=平行世界の紫派かな。


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自衛隊激おこ

暇さえあればエンドレスで某⑨周年動画を見まくっている作者が駄文をお送りします。


ドドドドドドドドッ・・・・。

 

何頭もの馬が地を駆けて行く。

 

 

正月月も終わり紅魔館も自衛隊のアルヌス駐屯地も平常運転だ。

 

ここに来て一月近く経ち、ピニャとボーゼスの二名も慣れて来ている。

 

何か手伝いがしたいと言って来たが現時点ではどこも十分な人手があるため二人に任されたのはアルヌスの丘の一部に向日葵の種を植える作業を手伝う事。

 

コダ村の避難民の孤児達も混ざり、風見幽香の指示通りに種を植えて行く。

 

ピニャとボーゼスは汚れてもいい様に自衛隊のPXで買ったTシャツを着て作業をする。

 

(とてもそんな風には見えないが・・・)

 

チラッと幽香の姿を見てピニャは思った。

 

伊丹から説明された幽香は幻想郷の最強妖怪の一人。

 

紫や藍よりも強いかもしれないとの説明だった。

 

向日葵を見て見たいと孤児の子供達にせがまれて数本の向日葵を急速成長させ開花させた彼女の姿は植物の成長魔法に長けた魔法使いにしか見えない。

 

「あら?」

 

幽香が何かに気付いて遠方を見る。

 

「馬に乗った集団が近付いてるわね。距離は・・・二キロぐらいかしら?」

 

そんな距離が道具もなしに見通せるのかとピニャとボーゼスは疑問に思う。

 

「全員女性、敵意は無い様な感じね。薔薇の様な旗が見えるわ」

 

幽香の見ている特徴に思いつく所しかないピニャ。

 

「ゆ、幽香殿!」

 

「どうかした?」

 

「そ、その集団の先頭にいるのはどの様な人物か分かるか!?」

 

「ええ、ショートヘアーで髪の色は・・・」

 

幽香に伝える特徴にボーゼスも興奮状態になる。

 

「幽香殿済まぬ、手伝いはまた後ほど!!」

 

ピニャとボーゼスは作業に使っていた道具を柵の側に置くと柵を乗り越えて紅魔館の方へ走って行った。

 

「知り合いみたいね。さぁみんな、種を植える作業に戻るわよ?」

 

幽香の言葉に子供達は元気のいい返事をした。

 

 

 

紅魔館は迎撃体制に移りつつあった。

 

美鈴も咲夜も門の前で臨戦態勢になっていた。

 

そこにストップをかけたのがピニャ。

 

なんとか咲夜を説得しピニャとボーゼスがここに向かっている集団に対し応対する事になる。

 

紅魔館手前で集団を待つピニャとボーゼスの姿を確認した集団は速度を落としピニャの手前で止まると全員が下馬する。

 

「ピニャ様!薔薇騎士団総員、ピニャ様の元へ馳せ参じました!」

 

一斉にピニャに跪く一団。

 

「お、お前達・・・・。しかし、なぜ妾がここにいると分かったのだ?」

 

「それが・・・姫様が幽閉されてしまったと伝えられてどうしていいか分からないところへヤクモと言う女性が来まして・・・。皆、姫様に忠誠を誓った身。全員が実家に離縁状を叩きつけここに参りました!」

 

「隊長ばかり姫様と同行なんてずるいです!」

 

「何故私達を誘ってくれなかったのですか!」

 

「い、いや、お前達分かってるのか?妾は帝国から出奔したのだぞ!」

 

しかし帰ってくる言葉は全てピニャに忠誠を誓う言葉。

 

「よ、よく考えるんだ!妾のしようとしていることは帝国への反逆になるのだぞ!」

 

「百も承知です!!」

 

「お、お前達・・・・」

 

「さ、誘わなくて悪かった!」

 

その異常なまでの忠誠心にピニャとボーゼスは滂沱の如く涙を流した。

 

そう、異常なまでの忠誠心。

 

よく観察していれば騎士団全員の目がグルグル目だと気付いたかもしれない。

 

なお、グレイはイタリカの町に滞在し情報収集を行っているという。

 

 

「紫さん、なにかしましたね・・・・?」

 

後方でそれを見ていた伊丹がギギギギッと横に来た紫を見ながら言う。

 

「あら、特に何もしていないわよ?ただ彼女達の居場所を教えてあげて自分の心に素直になってもらっただけよ?」

 

(やっぱやってるんじゃないっすかやだー)

 

口に出せず心の中で言う伊丹であった。

 

「ああ、そうそう」

 

紫が何か思い出したかの様に声を出す。

 

「伊丹、これから自衛隊と一緒に帝国へ行くわよ」

 

「はぃっ!?」

 

「だから、帝国へ行くの。モルトとか言うのと会いにね」

 

「・・・・・・それって、帝国の皇帝じゃあ・・・・・?」

 

「そうよ?」

 

「・・・・・・・・・マジっすか?」

 

「ええ、大マジよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

紫が何を考えているのか普段でも掴みづらいのに今はどう言う意図で帝国へ行こうと言うのか分からない伊丹であった。

 

 

数時間前、自衛隊アルヌス駐屯地に紫が訪れていた。

 

紫の持って来た情報は自衛隊を震撼させる。

 

帝国内の数ヶ所で黒目黒髪で日本語を喋る人間達が奴隷として働かされていると言う情報。

 

その情報は即座に本国政府に送られ救出作戦の立案が下命された。

 

紫が提供した場所の情報は十数ヶ所に渡る。

 

そして一人の日本人奴隷がバカ皇子ことゾルザルの慰み者にされていると言う情報は日本政府だけでなく自衛隊員を激怒させて居た。

 

テロリストには容赦しない、これが日本政府と自衛隊の総意であった。

 

帰りの足を用意した部隊が紫のスキマを使い急襲を仕掛ける合同作戦。

 

 

 

日本政府は近隣諸国がきな臭くなっている現在、地球と特地で同時戦線展開は避ける方が賢明と判断。

 

特地の武装勢力・帝国を黙らせる事を決めた。

 

そう、地球もきな臭くなって来ていた。

 

米国の権威が失墜し反米主義が燻っていた国々ではそれらが台頭。

 

大統領が民衆のロウソクデモで罷免された韓国では新たに就任した大統領が人気取りの為に前大統領以上の反日ブーストを最初からぶちかまして来た。

 

熱狂した韓国国民達は愛国無罪を免罪符に韓国内の日本製品を商店やデパートへ押しかけ制止しようとする韓国人従業員を袋叩きにし日本製品を叩き壊したり首都ソウルの広場に集めて火を放ったりした。

 

個人で旅行していた日本人が襲撃される事件も頻発。

 

おまけに歴代大統領がガス抜きで国内向けに言っていた反日発言を大統領が公式メッセージとして日本に通達する始末。

 

今や韓国は外務省がレベル三・渡航中止勧告を出す国になっていた。

 

駐韓大使が必死に仕事をしているが焼け石に水状態である。

 

中国では相変わらず平然と言論弾圧が行われており第二天安門事件後に民主主義化活動を表立って行なっている人々は減ったが大多数は地下に潜り活動を続けている可能性が濃厚。

 

混乱した米国を建て直し中の現在、もし中国が暴発したら・・・・。

 

そんな漠然とした不安感が日本中に漂っている。

 

中国の工作員が日本の国会に紛れ込んでいたのだから他の国の工作員が紛れ込んでいないとなぜ言えると言う意見も国民の間で出て来ている。

 

本位総理は解散総選挙をぶち上げ、現与党の選挙公約に憲法第九条改憲のための国民投票実施、スパイ防止法等を掲げた。

 

一部からは先の国会で工作員の存在を暴いた覚妖怪に候補者全員を見てもらった方がいいとの意見もあったが流石にそれは憲法が定める思想の自由への干渉になるとの総理判断で見送られた。

 

代わりに与党が行ったのは自発的な戸籍謄本の開示。

 

もちろん個人情報に関わる所は隠しての開示でそのうえ他党には一切それを要求しないと言う手段。

 

対抗する野党や無所属候補者も慌てて開示したが中には開示しない者や開示した戸籍謄本に不自然なところがあるとネットで指摘・映像を解析され改竄の痕跡が噂され早々に候補を取り下げた現職野党議員もいた。

 

この議員は公安マーク対象になり後日議員資格喪失後に公文書偽造で逮捕され他国からのスパイであったと判明した。

 

 

時は拉致被害者救出作戦にまで戻る。

 

 

拉致被害者のいる場所のそのうちの一つ、とある鉱山の外。

 

商人が所有する奴隷達が残飯の様な昼食を与えられて居た。

 

まだかろうじて生き延びて居た数人の日本人奴隷達は死んだ様な目で目の前のそれを生き延びるために食べる。

 

背中や腕にある生々しい鞭の跡が過酷さを表している。

 

「いつまでチンタラ食ってやがる!とっとと作業に戻りやがれ!!」

 

現場監督が鞭を地面に叩きつけて威嚇する。

 

日本語ではないがここで働かされていれば嫌でも何を言っているのかわかる様になった。

 

疲労と痛みに苛まされた体を無理にでも動かす。

 

他の亜人奴隷達と共にゾロゾロと薄暗い鉱山に戻る行列が出来上がる。

 

その奴隷の列に鞭を振るう幾人もの奴隷監視員。

 

 

「ったく、面倒かけやがって・・・」

 

奴隷達に背を向けグビッと酒を一口飲みそのまま固まる現場監督。

 

目の前で空間が大きく裂け、無数の目が浮かぶ不気味な空間・・・スキマが見えたからだ。

 

「な、なんだよこりゃぁっ!?」

 

現場監督の叫びに奴隷監視員や亜人奴隷達がその方向を見た。

 

言葉はよく分からないが何かが起きたと日本人奴隷達もそちらを見る。

 

見た事もない奇妙な現象。

 

「え、ええい!騒ぐな!」

 

奴隷監視員の一人が奴隷達に鞭を振るおうとし・・・・

 

パンッ!

 

と破裂音と共にその頭が弾け飛んだ。

 

目玉や脳を撒き散らし地面に倒れる。

 

他の奴隷監視員は何が起きたのか分からず狼狽える。

 

奇妙な空間・・・スキマから一斉に飛び出す迷彩服の武装集団。

 

集団の後からは数台の装甲車も姿をあらわす。

 

「拉致被害者を奪還しろーーーーっ!」

 

「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

「テロリストに対しては射殺許可が出ている!遠慮はするな!たらふく喰わせてやれ!」

 

「「「了解!!!」」」

 

自衛隊員と装甲車に続き武装ヘリも一機スキマから出てくる。

 

それで打ち止めとばかりにスキマは閉じる。

 

奴隷達の反乱を防ぐ為に雇われた傭兵達の一部が集団で剣を振りかざし突撃して来たが武装ヘリのロケット弾でバラバラに吹っ飛ぶ。

 

即死した者は幸せでそれ以外は手足が吹っ飛ばされ激痛に泣き叫びながら地面の上を転がり回る。

 

「メインディッシュにベリーウェルダンステーキはどうだい!?遠慮するな!俺からのプレゼントだ!」

 

だがテロリストと定義されたそれらは火炎放射器で消し炭にされる。

 

「いっけねぇ、焼き過ぎちまった!炭は体に悪いんだ。すまねぇ」

 

バラバラに襲い掛かる傭兵達は自衛隊からの鉛玉のプレゼントを受け取りバタバタと倒れてゆく。

 

 

何とか助かろうと考えを巡らせる現場監督は襲撃者達の肌の色、髪の色、瞳の色で一部の奴隷達と同じ人種と言う可能性に思い至り日本人奴隷の一人を人質にする。

 

「よーし!てめぇら好き勝手するのもここまでだ!!」

 

自衛隊は河童提供の翻訳機を装甲車やヘリに設置している。

 

だから一番近い装甲車の運転手にその声が聞こえ停車する。

 

装甲車の上部ハッチから身を乗り出す車長。

 

「抵抗をやめて降伏しろ!」

 

車長が降伏勧告を行う。

 

「うっ、うるせぇっ!てめぇらこそ降伏しろ!さもなきゃこいつをぶち殺すぞ!!」

 

「ひっ!ひいぃぃぃっ!た、助けて!あ、あんた達自衛隊なのか!?頼む助けてくれぇっ!」

 

「大人しくしやがれ!!いいか、殺すぞ!本当に殺すぞ!」

 

「我々はテロリストとは交渉はしない!」

 

「何だテロリストってのは!?」

 

「お前の様な奴のことだ!」

 

「ああ、そうかい!」

 

「それよりもお前、背中がガラ空きだぞ?」

 

車長の言葉に背後を確認するが現時点で生き延びている奴隷監視員数名と襲撃の対象外の奴隷達がいるのみだ。

 

「へっ、脅そうとしても無駄だ!とっとと降伏しやが!?」

 

背中からの激痛に言葉が途切れた。

 

「あっ・・・がっ!?」

 

なんとか背後を見るが何も居ない。

 

いや、居る。

 

気配がする。

 

背中に何かが突き刺されグリグリと捻られている。

 

「あがああああぁっ!!?」

 

激痛に人質を手放し背後の気配を何とか手で掴む現場監督。

 

何もないところで何かを掴む感触がしパシッとその手を払われる。

 

「ふぅっ」

 

一人の男が何もないところから姿を現した。

 

「よーし、よくやった」

 

車長は自衛隊員達が人質と他の日本人を確保し装甲車の方へ歩いてくるのを見て背後から急襲した自衛隊員に労いの言葉をかける。

 

「いやー、光学迷彩様様っすね。ただ他の隊員達からも見えないから流れ弾とか飛んで来ないかヒヤヒヤでしたよ」

 

装甲車に近付く光学迷彩服を着た自衛隊員。

 

自衛隊は異界での活動に限り河童より貸与された光学迷彩服を導入し使用していた。

 

衛生隊員が救助された日本人拉致被害者の治療をしながら他に日本人がいないかを確認するが他にいた若者を含む数名は既に死亡していると伝えられる。

 

奴隷監視員数名が重要参考人として拘束され一台の装甲車に放り込まれる。

 

日本であれば人権を最優先にするから被疑者は最低限の人権は守られる。

 

自衛隊も非戦闘状態であればそれを遵守する。

 

本来であれば自衛隊員達もそれを苦々しく思うだろう。

 

だがこの場にいる自衛隊員達は違った。

 

いや、ある意味同情しているかもしれない。

 

そう、誰も重要参考人を“日本で取り調べる”とは言っていない。

 

彼らの行き先はアルヌスの丘の吸血鬼の館だから。

 

 




バカ皇子どうしよっかなー?(棒)




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帝国最後の日 前編

今回は某洋画ネタを取り入れました。


10/12追記。
大統領制にしましたが今後の展開も鑑みて帝国を帝政に戻しました。
混乱させてすんません。


銀座・ゲート前に列を作るトラック。

 

運転手は全て身元を調査された企業の従業員達。

 

ゆっくりとゲートを覆うドームの扉が開き次々とゲート内に入って行く。

 

それを報道するテレビカメラとリポーターや記者達。

 

テレビの画面ではそれを苦々しく思いながら本位総理の手腕を渋々認めざるを得ない反日コメンテーター達。

 

国政から反日工作員がそれなりに駆逐されているが民間に強制するわけには行かず未だ反日勢力が必死にワイドショーで政府の揚げ足取りをするがそれを嬉々として見ているのは同類の反日活動家のみであり既に一般の視聴者は冷めている。

 

スポンサーへの抗議も急増しメディアから反日勢力が駆逐されるのももはや秒読み段階ではないかと囁かれている。

 

「しかし、そうは仰いますが国内企業への恩恵は計り知れないのですよ?特地と言う巨大マーケットをみすみす見逃せと?」

 

中立で有名なコメンテーターが正論を言う。

 

「いや、私は特地の自然な文化を壊すなと言いたいのです!これは言わば武力をともわない侵略・植民地化です!」

 

「植民地?工業製品を特地に輸出し特地の生活レベルを向上させることが侵略?特地が日本から輸入した医薬品によって病気や感染症による死亡者が減り、乳児の死亡率が減少し、トラクターを導入した穀倉地帯では次の作物の収穫見込みが既に今までの十数倍と現地の農業従事の方々も大喜び。基本的人権と言う概念の導入によって亜人と呼ばれていた人々へ対する差別が減少している事が侵略なのですか?」

 

「いや、私が言いたいのは日本製品だけでは不公平だと言いたいのです。何故韓国や中国の工業製品は除外されているのかと私は政府に問いたい!」

 

「あなた、主張が支離滅裂なのに気付いてますか?先程は特地の自然な文化を壊すなと言っておきながら今は韓国や中国の工業製品の除外が不公平と言っている」

 

「う、ぐぐぐぐ・・・・!」

 

「それにこれが侵略・植民地化なら先進国が行う発展途上国への支援も侵略であり植民地化だとでも?」

 

二人の後ろのモニターにはゲートに入って行くトラックが相変わらず映っている。

 

トラックの荷台に積まれているのは基準を満たした冷蔵庫や洗濯機等の工業製品や医療物資等々。

 

近々特地では初のテレビ放送も予定されている。

 

都市部限定だが娯楽として建てられた映画館では特地の字幕・吹き替えで許諾を得たハリウッド映画や邦画を公開したところ常に長蛇の列で噂を聞きつけ田舎から映画を観に出てくる人々もいる。

 

帝国はあの日滅亡し、そして新しく生まれ変わった。

 

現在の皇帝はピニャである。

 

 

 

帝国最後の日。

 

謁見の間にスキマを開き八雲紫と藍に伊丹、それに続き武装した桑原、栗林、富田、柳田を含めた自衛隊員が続き狭間陸将、柳田幕僚と続いて謁見の間に現れる。

 

当然ながら近衛兵達は大慌てで皇帝を護る布陣となり謁見の間の騒ぎを聞きつけた帝国兵達も駆け付ける。

 

「お初にお目にかかりますわモルト皇帝陛下。私の名は八雲紫、幻想郷から参りました」

 

わざとらしい丁寧な口調で挨拶をする紫。

 

「日本国特地方面派遣部隊指揮官、狭間浩一郎です。我々は日本政府を代表して参りました」

 

狭間も日本を代表し挨拶をする。

 

「早速ですが本題に入りますね?さっさと降伏していただきたいと思いますの」

 

紫が降伏勧告を行う。

 

「降伏?我が帝国がか?あり得ぬ!そも無礼であろうが!」

 

「戦争中ですもの、礼を徹底する必要なんてありませんよ?第一、仕掛けて来たのはそちらですが?」

 

コクコクと頷く栗林。

 

「あ、そうそう。栗林さん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「後三十秒でそこの扉から全裸の日本人奴隷を引き摺ったバカが飛び込んで来ますから殴っても良くてよ?」

 

「!!ご協力感謝します!」

 

きっかり三十秒後。

 

「父上!今朝の揺れがまた来るとノリコが!」

 

中の状況もろくに確認せず飛び込んで来るゾルザル。

 

ゾルザルが引き摺っている奴隷の中に黒い髪の女性がいるのを確認すると。

 

「鉄拳制裁!!」

 

「ぶべらぁっ!!?」

 

栗林の全力パンチがゾルザルの顔面に炸裂する。

 

吹き飛びながら血液混じりの唾液と折れた歯を吹き出すゾルザル。

 

「殴ったな・・・・!?皇子である俺を!一族郎党死罪の重罪だぞ!!」

 

「無礼者!皇子殿下に手を上げたなっ!」

 

「生きてここを出られると思うな!」

 

「皇子をお守りしろ!」

 

衛兵や兵士たちがゾルザルを救い出そうとするが・・・・。

 

パパパパパパパパパパパパッ!

 

栗林を含めた自衛隊員達が一斉に発砲したちまち自らが流す血の池に沈む。

 

その圧倒的な戦力差に他の衛兵や兵士達は二の足を踏む。

 

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

栗林の話す懐かしい日本語と迷彩服、装備している銃を見てそれに縋り付く女性。

 

「に、日本人・・・・自衛隊・・・・!?」

 

「ええ、そうよ!」

 

「ノリコ・・・・?」

 

「大丈夫よ・・・・!私たち助かるのよ・・・・!」

 

「そっちの人も!?」

 

もう一人黒髪の少女が引き摺られていた。

 

「それが・・・・・彼女、幻想郷っていう場所に住んでいたって・・・」

 

「って事は・・・人里の行方不明者!?」

 

伊丹が叫ぶ。

 

襲撃以前に何人かの行方不明者が発生し人里は大騒ぎになったが結局は人里の外に出て妖怪に襲われたのかもしれないと諦められていた人達がいたのを思い出す。

 

「その声・・・里の外れに住んでる・・・・」

 

「ああっ!?よく見れば定食屋の!?・・・・・・・・・・紫さん、俺もこいつ殴っていいっすか?」

 

「いいけどまだ殺しちゃダメよ?」

 

「うっす。・・・・・てめぇのせいで定食屋のおばちゃんがどれだけ悲しんでいたか!!」

 

「あがぁぁっ!!?」

 

伊丹と栗林にボコられるゾルザル。

 

「腕の一本も折ったらあっ!」

 

ゾルザルの腕を伊丹が抱え込み・・・・目配せで意図を理解した栗林がその腕に銃床を叩きつけ腕をへし折る。

 

「ぎゃあああああっ!!?」

 

 

 

「・・・・・はぁっ。力の差を見せつけてあげないといけないようね?栗林さん、私の合図でそのバカの頭を吹き飛ばして差し上げて」

 

紫の言葉に栗林は狭間を見る。

 

コクリと頷く狭間を見て拳銃を構え銃口を必死に腕を庇うゾルザルの頭に向ける。

 

何故栗林が紫の指示にも従っているのか・・・。

 

答えは単純明白、この降伏勧告は幻想郷側の指揮下で行われている。

 

日本としては襲撃の責任を取らせ賠償が行われればいいと言う判断。

 

そもそも紫がいなければこの作戦自体実行に移せたかどうか・・・。

 

「一分だけ考える時間を差し上げますわ。いかがしますかモルトさん?」

 

「八雲とか言ったな。貴様が幻想郷の支配者か」

 

「貴様・・・紫様に何と言う口を・・・」

 

ゆらりと藍が動く。

 

放たれる凄まじい殺気だがそれは紫によって抑えられる。

 

「藍、少し落ち着きなさい」

 

「見苦しいところをお見せしました・・・」

 

「支配者?いいえ、私は幻想郷を作っただけ・・・。支配なんてしてませんわよ?」

 

「支配をしていないとな?成る程、統治できぬ言い訳と言うわけか。ははははははっ」

 

紫を嘲笑うモルトに藍の表情が険しくなるが今回は紫の命もあり殺意を抑える。

 

「私は幻想郷に危害を加えない限りは基本的に傍観していますの。その方が面白いんですもの」

 

クスクスと口元を扇子で覆いながら笑う紫。

 

「ところで、後十秒を切りましたが返答は如何に?」

 

「我が帝国が降伏などあり得ぬ!」

 

成る程、ピニャが言っていた通り石頭・・・いや、ただ現実が見えていないのかも知れないと思う紫。

 

「八、七、六・・・」

 

カウントダウンを進める紫。

 

「ちっ、父上!?」

 

自分がモルトに切り捨てられたと理解しそれでも縋ろうとするゾルザル。

 

そんなゾルザルと栗林の構える銃の間に割って入る人影。

 

見に何も纏っていない全裸の兎耳を生やした亜人。

 

「殿下を・・・殺さないで・・・・」

 

一見すればゾルザルを守ろうとする忠誠心の強い奴隷に見える。

 

栗林は躊躇する。

 

「あら?そこのバカを焚き付けて操っている気になって戦争を継続させたがっているウォーリアバニーの元族長テューレさんってあなたね?」

 

紫が唐突に図星を突く。

 

「・・・・・!!」

 

「私の時は誰も助けてくれなかったのに〜って悲劇のヒロイン気取りは楽しいかしら?」

 

クスクスと笑う紫。

 

「なっ・・・・!」

 

内心を言い当てられ動揺する。

 

「どうして知っているって聞きたいの?答えは簡単、私の藍は優秀だけど藍だけが私の式ではないわ。ただ情報を集めるだけの式ならこの大陸に無数に放っているもの。そこのモルトがピニャさんの必死の説得を無視していた元老院の会議もここでピニャさんを精神異常者扱いして塔に幽閉した時も・・・全部見て聞いていたわ。もちろん、あなたの独り言や手先に使っている亜人との会話も・・・」

 

パタッと扇子を閉じる紫。

 

もうその口元は笑っていない。

 

「みんなで私の事を裏切り者扱いしている、私の時は誰も助けてくれなかった・・・・。貴女のそれはただの逆恨み」

 

スッと目を細める。

 

「貴女、黙っていても仲間は私の事を分かってくれているって思い込んでいたのよ。助けてくれなかったのに?貴女、助けてって言葉にして助けを求めて手を伸ばしたのかしら?それすらせずにただ恨むだけ・・・」

 

ズバズバ言う紫に反論できないテューレ。

 

「っと、もうとっくにタイムオーバーだけど・・・。少し気が変わったわ。栗林さん、銃を納めて下さいな」

 

「はい」

 

銃を下げる栗林。

 

助かった・・・とゾルザルは思った。

 

「銃で楽にしてあげるなんて優しすぎるわ」

 

ゾルザルとテューレの足元にスキマが開く。

 

そのスキマに二人は落ち、すぐに塞がる。

 

パンッと手を叩く紫。

 

「素敵な提案があるの。あのバカとおまけがその後どうなったのかみんなで見て見ましょう」

 

紫が再びスキマを開く。

 

そこに現れたのは百インチはありそうな巨大な液晶モニターの画面。

 

紫がリモコンのようなもので電源を入れる。

 

ファンファーレのような音楽と共に映像が映る。

 

現れた画面は中心部に惑星が描かれその上に鳥のようなマークがある。

 

そしてそのマークの上下に表示されている文字は英語。

 

 

FEDERAL

 

NETWORK

 

 

そして日本語と異界語で地球連邦放送と字幕が表示される。

 

「紫さん、あれは?」

 

「バカとおまけを放り込んだ並行世界の地球の放送よ」

 

まるでプロパガンダ放送のような放送の後に「もっと知りたいですか?」と選択する画面が表示され紫はYESを選んで行く。

 

ちなみに伊丹と倉田は時々流れてくる聞き覚えのある単語に少しずつ真っ青になっていく。

 

入隊すれば市民権が保証される、アラクニド・バグズ、クレンダス星等々。

 

「い、伊丹さん・・・これって・・・」

 

「あ、あの映画だよな・・・?見たこともない映像も多いけど・・・え?並行世界?新作出たの?」

 

「し、新作なんて出てないっすよ・・・・」

 

「こちらの世界にはバグズは存在してないから安心していいのよ?」

 

紫の言葉にホッとする二人。

 

(その代わりもっと厄介なのがいるんだけど・・・・知らない方が幸せよね)

 

唐突に画面が変わる。

 

画面に映るのはその世界の機動歩兵の装備を着た橙の姿。

 

「紫様見えてますかー?私は今、惑星Pって言う場所に来てまーす。カメラマンは私の式が行ってくれてまーす」

 

「見えてるわよ橙。なかなか似合ってるわね」

 

「ありがとうございまーす。えー、ついさっきこの先にある人間の前線基地が陥落して生き残りが脱出艇に乗って宇宙に逃げて行きましたー。式を飛ばして見ていましたが隊長の人間は自分が負傷して脚が千切れたら部下に自分を殺すよう命令しましたー。すごい勇気ですー」

 

時々見る外界のリポーターの喋り方を真似する橙。

 

「えーっと、あっちの方にさっき紫様がスキマで送り込んで来た人間と妖怪兎のようなのがいまーす。では、様子を見て見ましょー」

 

橙が移動しカメラマンの式も後を追う。

 

カメラが時々人間や敵性巨大昆虫型異星生物バグズの死体を映す。

 

「あ、いました!」

 

橙が指差しカメラがズームする。

 

岩と砂だらけの荒野を当てもなく歩く二人。

 

「あっ!大変です!あっちから数匹のアラクニド・ウォリアーが!」

 

カメラがパンしゾルザルとテューレの進む先の丘の向こうから移動をしているアラクニドの群れを映す。

 

そして遂にアラクニド達が丘を越えゾルザルとテューレの姿を捕捉した。

 

逃げようとするゾルザルとテューレだがあっけなくウォリアー達の鋭利な前足で体を貫かれ他のウォリアー達が群がり二人をバラバラにした。

 

「うわー、こうして見るとエグイですね〜。って、あー、私もあっちの方からくるウォリアーに見つかってしまったみたいですー。早速逃げまーす」

 

猫又の姿になり地を駆ける橙。

 

その先に小さなスキマが開き橙は迷うことなくその中に飛び込み出口である紫の腕の中に着地した。

 

すぐにスキマは閉じる。

 

「紫様、藍様、ただいま戻りましたー」

 

「お帰りなさい橙。いい子いい子」

 

「わーい、紫様に撫で撫でしてもらっちゃった」

 

式が破壊されたのかカメラが地面に落ち遠くのゾルザルとテューレのバラバラ死体が横倒しになった画面に延々と映る。

 

 




バカ皇子とテューレはインスマス送りにしようかと考えていたけど久々にスターシップトゥルーパーズのサントラ聞いてたらこんなシーンを思いついて書きました。
リコ達が惑星Pを脱出して少ししてからバカ皇子とテューレが送り込まれたような感じのイメージです。


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帝国最後の日 後編

今回はめっちゃ短い。
前回投稿は徹夜状態でこのままじゃ寝落ちすると思い大急ぎで投稿したけど意味無かったかも・・・・。

10/12 全話改変に伴い序盤のモルトとの会話も改変しています。



「さて・・・・返答は如何に?」

 

真顔に戻りモルトを見る紫。

 

「降伏など・・・・・」

 

先程の光景は魔法か何かだろうかと言う考えがモルトの頭の中をグルグル巡る。

 

近衛兵や兵士達を数秒で死体の山に変えた。

 

ゾルザルと奴隷をこの場から消し魔法の様なよく分からない方法でその死を見せ付けられた。

 

「降伏・・・など・・・」

 

状況は圧倒的に不利、ここに来てようやく自分達がどんな存在と戦っているのか理解し始める。

 

「降伏・・・したら帝国はどうなる・・・・?」

 

「周辺国家への影響もあるので帝国は存続しますがモルト殿には退位して頂きピニャ殿を即位させて頂きたい。一般人への影響は最低限に抑えられる様に支援は惜しみません」

 

狭間が答える。

 

「貴方は流石に無罪放免とは行きませんが、降伏すれば戦争は終わりますので生命は助かります。その後の貴方の処遇は新たに即位されるピニャ殿との協議で決まります」

 

柳田が続く。

 

「・・・・・しばらく一人で考える時間をくれぬか?五分程度で構わぬ」

 

「・・・・・いいでしょう。我々は外で待機しています」

 

謁見の間を後にする自衛隊と紫達。

 

「・・・・・余は一人になりたい。お前達も外で待っておれ」

 

「はっ!」

 

近衛兵や兵士、大臣も部屋を後にし残されたのはモルトただ一人。

 

 

 

やがて五分が過ぎ、十分が過ぎるがモルトの入室許可の声はしない。

 

「・・・・・・遅いわね」

 

「まさか・・・隠し通路とかから逃げたんじゃ・・・?」

 

「入って見ましょう」

 

紫の提案に自衛隊も乗り謁見の間に入る。

 

玉座に座っているモルトが目に入る。

 

「へ、陛下・・・・?」

 

心配になり後ろからついて来た大臣がモルトに声をかけるが返答は無い。

 

さらに近付く。

 

モルトの足元に何かが落ちている。

 

「へっ、陛下!?」

 

それが目に入り大臣が駆け足でモルトに駆け寄る。

 

紫達もその後に続く。

 

「・・・・・・・自害したか」

 

藍が床に落ちていた盃と溢れた少量の液体と座ったまま絶命しているモルトを見て呟いた。

 

「へ、陛下からの遺言だ・・・」

 

嘆き悲しみながら大臣がモルトの亡骸の膝の上にあったそれを読み、紫達に手渡す。

 

帝国の交渉権を日本と幻想郷の事を帝国内で一番よく知っているピニャに一任するとの内容。

 

ディアボではなくピニャに皇位を継がせるというディアボ絶望の文もある。

 

「戦争は終わったか・・・・」

 

安堵の息を吐く狭間。

 

「・・・・陛下の葬儀ぐらいは構わぬだろうか・・・・?」

 

大臣が聞いてきた。

 

「構いませんが・・・その前に検視はさせて頂きます」

 

聞き慣れない言葉だったが狭間と柳田の説明で理解する。

 

 

数日後。

 

検視により服毒自殺と認定されたモルトの遺体は帝国の国葬で見送られた。

 

帝都に戻ったピニャは薔薇騎士団護衛の元に戦後処理と皇帝即位の準備に忙殺される事となるがこれ以上民達に危険が及ぶことはないと安心しながら書類の山と対峙していた。

 

もう一人の皇子であるディアボは自らの野望が潰えた事を知り帝都より姿を消した。

 

 

 

 

世の中には自分そっくりの人間がいる。

 

特徴を決める遺伝子の数が限られているからだ。

 

時の為政者は自分そっくりの人間を影武者に仕立て上げたりしていた。

 

それは異界でも同じであり・・・。

 

自害したモルトは影武者であり本人はまんまと隠し通路から脱出し帝都の地下に潜んでいた。

 

信頼の置ける腹心達はモルトからの手紙によって呼び出されそこでモルトと再会、油断をしているピニャ達を強襲し再度皇帝の座に戻る企てをする。

 

「往生際が悪いわね?」

 

その場にスキマを開いて現れる紫。

 

「それにしても、いい餌だったわ」

 

モルトと言う餌に食い付いた皇帝派の一同を見回す。

 

わざと本物のモルトを放置し抵抗勢力を釣り上げた。

 

「き、気付いておったか・・・」

 

「言ったでしょ?式を無数に放っているって」

 

次々とスキマが開き飲み込まれて行く腹心達。

 

「あなたは死んだことになっていて葬儀も行われた。つまりはもう存在しない」

 

スキマがモルトを飲み込む。

 

「さて、どうなるかしら」

 

その先は容易に想像つくがあえて紫は一人つぶやき無人となったモルトの隠れ家から姿を消した。

 

モルトの側近達は海の上やら火山の火口やらに送られすぐに死を迎えた。

 

だがモルトがスキマで送られたのはだだっ広い平原。

 

そしてそのモルトを囲む大勢の人々。

 

そこに居る人々は歳や外見は様々だが共通しているのは黒目黒髪。

 

帝国の侵略によりただそこに居ただけで理不尽に殺された人里や銀座に居た人々の遺族であった。

 

自分に向けられた殺意を感じ取り後ずさるモルトだがその後ろからも殺意が放たれる。

 

集団は何かを叫ぶがモルトには分からない。

 

やめてくれと叫ぶが飛んでくる拳や蹴りに黙らされる。

 

歯が折れ鼻血が噴き出す。

 

顔面は腫れズタボロになったモルトは大きな杭に縛り付けられ火炙りに。

 

火が消えた後には焦げた杭と真っ黒焦げになったモルトだったものが残った。

 

 

 

幻想郷からの人々は別だが、銀座事件の犠牲者遺族達は全員が銀座事件首謀者に復讐すると言う夢を見たと少しの間だが話題となった。

 

 




モルトフルボッコからのバーベキュー。

前話でテューレさんが理不尽に殺されたのも銀座や人里で帝国の襲撃によって大勢の人々が殺されたのも同じ理不尽だと思っています。
両者に共通するのは“ただそこにいただけで殺された”と言う理不尽だと思ってます。


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おいでませ幻想郷

遂に幻想郷へ行く一行。
まったり幻想郷巡りか異変に巻き込まれるかはまだ未定。


なお、作者の周辺環境変化の為に更新間隔の間が大きく開くときもありますが堪忍や。


 

「幻想郷かぁ〜、行ってみたいなぁ・・・・」

 

ある日倉田が食堂で何気なく呟くいていた。

 

「行ってもいいぞ?」

 

後ろからの声に反射的に立ち上がり敬礼をする。

 

そこに居たのは狭間。

 

「まぁ固くなるな、楽にしろ」

 

そう言い終えると狭間は倉田の向かいの席に座る。

 

倉田もそれに続き座る。

 

「り、陸将、先程なんとおっしゃいましたか・・・・?」

 

「幻想郷に行ってみたいと言っていたから行ってもいいぞと答えた。実はな、以前日本に行った特地の三名が幻想郷へ行く事になった。その時に八雲氏から今度は逆に日本から来賓を受け入れてもいいと言ってきてな。幻想郷は日本国内であって日本ではないし時には人間に害をなす妖怪が現れる事もあるそうだ。その為、護衛をつける事になったが・・・まぁ、護衛と言っても半分は休暇のようなものだ。あの三人と付き合いの長いメンバーを予定してたが説得する手間が省けてよかった。一応、護身用に銃器の持ち込みも構わないとのことだがこれは人里内での無闇な使用は禁じられている。ただ、幻想郷で発生した事に関しては全て自己責任となるが・・・」

 

「行きます!行かせてください!!」

 

「そ、そうか・・・」

 

倉田の必死さに思わず引く狭間であった。

 

 

 

そしてやってきた幻想郷への出立の日。

 

伊丹が指定してきたのは幻想郷へ乗って行く車両はスタッドレスタイヤかチェーンが絶対必要という事。

 

事前に幻想郷は雪が積もっている事が説明されていた。

 

当然だが舗装道路などはない。

 

そして出発は夜。

 

人里には“飛び出すな、車は急に〜”のお決まりの標語とは無縁だから万が一を想定し人気の無い夜間に出発となった。

 

各々が乗り込み第二ゲートへゆっくりと進んで行く。

 

日本から特地へ行く時と同じような光景の中を通過し、やがて通り抜ける。

 

「お待ちしておりました」

 

「よう、いらっしゃい」

 

ゲートの向こう側・・・幻想郷では藍と伊丹が出迎えた。

 

紫は少し手が離せない用事があるといいこの場には来ていない。

 

ゲート・・・幻想郷名・異界門の周囲は金属やコンクリートの建物があったがそれらは全て妖怪の作ったものだ。

 

「来たんすね!幻想郷に!」

 

感極まったかのような倉田が歓声を上げる。

 

「こちらは皆様に、紫様からお渡しする様に仰せつかっております」

 

日本と異界からの一行に封筒を手渡して行く。

 

「あの、これは・・・・?」

 

倉田が伊丹をみて言う。

 

「幻想郷の通貨だよ。一人につき一円が入ってるってさ。あ、日本の通貨に換算すると四、五万円くらい」

 

「そ、そんな大金を・・・!?」

 

自衛隊一行が藍と伊丹を見る。

 

「そっちだって俺達が外界に行った時にいろいろしてくれてたんだし、そのお返しだって思えばいいと思うよ?」

 

伊丹の言葉に藍が頷く。

 

「そ、そうですか・・・・。それでは、紫殿と会う機会があった時にこのお礼は・・・」

 

「んじゃ、行こっか」

 

藍はこの後紫に任された仕事があるということで別れ、一行は伊丹を加えて車に乗り込む。

 

「倉田ちゃん、道は案内するからその通りににお願いするよ」

 

「オッケーっす」

 

「それで、最初はどこに行くんです?」

 

富田が聞いてきた。

 

「まずは俺ん家。そこで朝まで寝て明日の昼前に里の外に出る感じで」

 

「分かりました、ナビを頼んます」

 

「んじゃ、まずは・・・」

 

伊丹の言う通りに異界門周辺の敷地を出る。

 

ヘッドライトが照らす夜の人里。

 

コンクリートとガラスの建物に慣れきっている自衛隊の一行は時代劇でしか見ることの出来ないような例えれば江戸の町のような感じの中をゆっくり走って行く。

 

たまに聞き慣れない音に興味を惹かれた人が障子を開けてこっちを見たり何処の世界にでもいるほろ酔い気分の飲兵衛の集団が自動車を見て腰を抜かして慌てて伊丹が助け起しに行ったりと一筋縄では行かなかったがそれでも次第に建物がまばらになって行く。

 

 

「あれ・・・・・?」

 

伊丹の声に思わず倉田がブレーキを踏む。

 

「どうしたのぉ?」

 

ロゥリィがそんな伊丹に聞く。

 

「いや・・・・俺ん家電気点いてるんだよ・・・・」

 

「スイッチの切り忘れ?」

 

レレィが誰もが良くやるポカでは無いかと指摘する。

 

「いや、少なくともここ二ヶ月は帰ってなかったし家出る時にブレーカーそのものを下ろしたのは確実なんだ・・・・」

 

「も、もしかして、泥棒が入った・・・?」

 

テュカが一番高い可能性を思い付き言う。

 

「いや、もしそうだとしても灯りを点けっぱなしは・・・。倉田ちゃん、あそこの家の少し手前から徐行でお願いできる?」

 

「了解っす。泥棒だったらふん縛ってやりましょう!」

 

ゆっくりと車を進め家の少し手前で止まる。

 

桑原の提案でサーモグラフィーゴーグルを掛けた栗林と富田が先行し家の周りを調べて戻って来た。

 

「障子で直接は見れませんが内部に熱源反応が四あります」

 

「四人?ずいぶん大所帯な泥棒っすね」

 

「倉田、まだ泥棒と決まってはいないぞ?だが、家主の彼が知らないとなると不法侵入なのは確かだな」

 

「伊丹さん、ちなみに幻想郷では他人の家に勝手に上がりこむって習慣あったりします?」

 

富田が聞く。

 

「いや、そんなのないよ。そんなのやるのは魔理沙さんがパチュリーさんの図書館に忍び込むぐらいだって」

 

全員が顔を見合わせる。

 

「伊丹さん、奥さんとか子供はいます?」

 

栗林が聞く。

 

「いや、俺独身だし。って言うか、居たとしたら忘れちゃまずいっしょ」

 

直球な質問に直球で返す伊丹。

 

「・・・・・・つまり、不法侵入者が中にいるのは間違いない・・・。声はしたか?」

 

「音はしましたけど・・・映画か何かを見ているような音でした」

 

「・・・・ここでこうしていても始まらない・・・・。伊丹さん、玄関以外に出口は?」

 

「勝手口が裏にあるだけだし、雨戸は全部閉まってるし・・・・他には無いっす」

 

全員が頷き、富田が裏口を確保し伊丹を先頭に桑原、倉田、栗林が玄関に向かう。

 

「鬼が出るか蛇が出るか・・・・!」

 

ガシッと引き戸を掴み少し動かす。

 

戸締りは確実にしたはずなのに動いた。

 

「くぉらっ!誰だ人ん家に勝手に入ってる奴は!?」

 

自宅に踏み込み、居間の襖を開け伊丹は叫んだ。

 

「「「「うきゃあああああーーーーっ!!?」」」」

 

可愛らしい悲鳴が四つ上がった。

 

そこに居たのは小さい・・・小さすぎる四人の少女達だった。

 




さて、伊丹の家に勝手に上がりこんでいたのは・・・・

9/28追記
当作品の伊丹は独身の未婚者です。


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侵入者の正体

当分の間短文での投稿が続きます


 

 

「「「「うきゃあああああーーーーっ!!?」」」」

 

居間に踏み込むのと同時に上がる四つの悲鳴。

 

居間に置かれたテレビはアニメ映画が再生されている。

 

こたつの上にはカセットコンロとその上でグツグツと煮立つ鍋料理に中身が半分以下に減った酒瓶。

 

そのこたつを四方から囲んでいる小さな少女達が突然の大声に驚き悲鳴をあげたのだ。

 

伊丹だけでなく自衛隊一行と異界一行にもそこにいる少女達が人間でないのはすぐに分かった。

 

体が小さすぎるのだ。

 

「ちょ、ちょっと!誰よあんた達!?」

 

一人の少女・・・いや、妖精が抗議の声をあげた。

 

「ここを私達の新居と知ってるの!?」

 

「なぁにが私達の新居だ!ここは俺ん家だ!」

 

「「「「へっ?」」」」

 

四人の少女は戸惑いの声をあげた。

 

「ちょ、ちょっと!ここって空き家だったんじゃないのサニー!?」

 

「え?だ、だってこの家見つけて一ヶ月以上誰も来なかったんだもん!ルナにスターだって新しい家だって喜んでたじゃない!」

 

「一ヶ月誰も来なかったって・・・それで空き家だって思ったの・・・・?」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

沈黙してしまうサニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドの通称三月精。

 

「あたいの引っ越し祝いの立場が・・・・」

 

意気消沈したもう一人のピエロのような服装の妖精クラウンピースが呟いた。

 

 

 

 

「「「「ごめんなさいっ!」」」」

 

四人は素直に謝って来た。

 

妖精が素直に謝って来るのに思わず面食らう伊丹。

 

妖精達の思いは一つ、((((下手したらあの巫女に退治される))))だった。

 

伊丹本人は気付いていなかったが彼の姿は何度か博麗神社で見かけたことがあるからだ。

 

博麗神社近くにも彼女達の住処はある。

 

特にクラウンピースに至っては博麗神社に住んでいるも同じ状態。

 

以前の異変では霊夢にコテンパンにされているからだ。

 

ちなみに彼女達は家主が亡くなって空き家になっていたと思ったらしく家具があっても不思議がらなかったとか・・・。

 

それを聞いた伊丹は思わず「縁起でもない!」と反射的に大声をあげた。

 

「それで、引っ越しパーティーを開いていたと・・・・」

 

栗林の発言にコクコクと三月精とクラウンピースが頷く。

 

「伊丹さん、彼女達はどうします?」

 

倉田が聞いて来た。

 

ちなみに倉田は本物の妖精を見て最初はもの凄く、下手をすれば事案発生と思われかねないほど興奮していた。

 

「そうっすねぇ・・・。悪気そのものはなかったみたいですし・・・」

 

少し考える。

 

「じゃあ、こうしよう。俺はまだ当分の間は紅魔館に居ることになるからこの家を貸してもいい」

 

「ホント!?」

 

「ただし!使った分の電気代はちゃんと君達が集金の河童に支払うように」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

「ん?どした?」

 

突然沈黙してしまう三人。

 

「いやー・・・」

 

「そのー・・・」

 

「なんと言いますか・・・」

 

途端に口ごもる三人。

 

「お兄さん、妖精がお金持ってると思う?」

 

三人の思いを知ってか知らずかクラウンピースが代弁した。

 

コクコクコクッと三人が一斉に頷く。

 

「・・・・・・そうか、なら仕方がない・・・・。体で払って貰おうか・・・?」

 

この時の伊丹の顔は三月精視点ではまさにゲス顔に見えたとか見えなかったとか。

 

「え?」

 

「かっ、から、から・・・」

 

「体でって・・・・」

 

三人がガクガクと震えた。

 

「キャハハハハッ。おにーさんのエッチスケベー」

 

クラウンピースが囃し立てる。

 

「引くわー・・・」

 

「あの、伊丹さん、流石にそれはいくらなんでも・・・・・」

 

「さ、流石にこんな小さい子に・・・・」

 

「ドン引きっす」

 

栗林、桑原、富田、倉田が少し引き気味に言いう。

 

「なるほど、伊丹は小さい方が好き・・・と」

 

「面白いわぁ・・・・」

 

「なんだか負けた気がする・・・・」

 

レレィ、ロゥリィ、テュカも続く。

 

ロゥリィに至ってはジト目だった。

 

ここでようやく伊丹は自分が何げなく言った一言が捉え方次第でとてもやばい発言だと気付いた。

 

「い、いや、体でってそういう意味じゃないぞ!?」

 

必死に否定する。

 

伊丹が誤解を解くまで十分近くかかった。

 

「なーんだ、そう言う事ならそう言えばいいのに」

 

ホッとしたサニーが笑いながら言う。

 

早い話が家の周りの雪掻きや雪が溶けたら家の裏手にある小さな畑を耕したりする様にと言う条件だった。

 

「取り敢えず、今晩だけはここで寝てくから君達は居間で我慢するよーに」

 

「「「「はーい」」」」

 

四人が返事を返して来た。

 

 

 

「しかし、一人で住むには少し大きな家ですね」

 

一人暮らしなのに広い客間や寝室を見て栗林が呟いた。

 

「以前は三世代で暮らしていた一家が住んでたんだけど俺がここに来る少し前に引っ越してて丁度空いてるからってここが俺の家になったんだ」

 

伊丹は押入れを開け事前に紫がスキマで送っておいてくれた人数分の布団を引っ張り出しながら答えた。

 

寝室は女組、客室は男組に別れ就寝する。

 

 

 

早朝。

 

「ちっがーーーうっ!!」

 

栗林の絶叫が心地よいはずの朝の目覚めを慌ただしいものにした。

 

寝床から飛び起きた伊丹に続いて桑原、倉田、富田と続いて声の上がったと思われる場所へ向かう。

 

居間の襖が開いており、栗林の後ろ姿が見えた。

 

「どうした!?なにがあった!?」

 

伊丹が栗林に聞く。

 

「私、幻想郷に来たら妖精に会えると思ったのよ・・・・。前に妖精もいるって聞いたから・・・」

 

栗林が目線を落としながら言う。

 

「妖精ってさ、花や木が似合って可愛らしいものだと思ってたの」

 

その目は目の前の存在を見回す。

 

「確かに可愛らしかったのよ。うん、可愛かった・・・・。でも、でも・・・・空になった日本酒の瓶を抱き締めながらよだれ垂らして寝てる妖精なんて・・・!!」

 

そう、目の前には三月精やクラウンピースが酔い潰れたままこたつで眠り込んでいた。

 

サニーに至っては日本酒の瓶を抱き締めている。

 

幻想郷において幻想を打ち砕かれた栗林であった。

 




と、言う訳で侵入者は三月精とクラウンピースでした


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予兆

忙しくて疲れているのに書いてしまっている・・・・


「すごいすごーい!牛車や馬車なんて目じゃない早さだよ!?」

 

クラウンピースが自衛隊車両の中ではしゃいでいた。

 

何故クラウンピースが自衛隊の車に同乗しているかというと・・・。

 

「博麗神社に行くの?じゃああたしもついてく!」と言い出したからだ。

 

他にも行くところがあるから博麗神社に行くのは日が沈む頃になると伝えたが特に予定もない彼女は一行と行動を共にすることになったのだった。

 

人里が一望できる小高い場所に着いた一行は写真を撮影する。

 

倉田や栗林が私的な撮影なら桑原や富田は日本政府に提出する報告書や簡易的な地図を撮影するために写真やビデオ撮影をしていた。

 

「それが外の世界のカメラですかー」

 

上空からの声に撮影を止めて上を見る一行。

 

天狗の姿格好をした少女がそこに居た。

 

「どうもー。清く正しい射命丸でーす。ちょっと取材させて下さーい」

 

「「「「取材?」」」」

 

自衛隊一同が同時に疑問に思った事を口に出した。

 

「はい。実は私、文々。新聞という新聞を発行してまして。是非とも外界からの来訪者である皆様を取材したいのです!あ、自己紹介が遅れました。烏天狗の射命丸文と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

文が地上に降り立ちながら答える。

 

既にその手には取材ノートと愛用のペンが握られて居た。

 

「た、隊長、どうしますか・・・・・?」

 

「う、うむ・・・弱ったな・・・」

 

富田と桑原が困り顔で言葉を交わした。

 

ここにはロゥリィ、テュカ、レレィの護衛と言う名目で来ているが自分達の発言が日本の公式な意見として報道されたら困ると考えたのだ。

 

「あー、隊長さん。そんなに真剣に悩まなくても軽い気持ちで受け答えしていいと思いますよ?」

 

伊丹の言葉に少し拍子抜けする桑原。

 

「そうですとも!いやー、伊丹さんは分かってますねぇ!さっ!ズバッと聞いてスパッとお答えください!」

 

「文々。新聞はゴシップ紙なんで真面目に考えるだけ無駄っすから」

 

「ちょおおおぉぉっ!?ひ、酷い!ゴシップ紙なんて酷いです!」

 

「じゃあ、俺の時にはなんて書いたか覚えてる?」

 

何故かとても優しい笑顔と声で文に質問する。

 

「えーっと、確か・・・地霊殿でさとりさんとお会いした時の事でしたよね?YESロリータ!NOタッチ!ですね。意味は分かりませんけど」

 

「それだよおぉっ! ?意味も分からず書いちゃダメじゃん!里の人達も意味わからなくて放置してくれたけど一部の外界から来て定住した人達から暫く白い目で見られたんだぞ!?」

 

「ふむふむ、つまり後ろめたい言葉だと・・・これはスクープの予感です!」

 

藪蛇だったか!?と伊丹は後悔したがすぐに救いの手が差し伸べられた。

 

「あー、射命丸さんでしたっけ?その言葉、別に深い意味のある言葉じゃないっすよ?小さな子供は遠くから見守ってあげようって意味っすから」

 

「え?そうなんですか?なーんだ、期待して損しました」

 

再び文は桑原の方に向く。

 

グッと倉田が伊丹に向かってサムズアップをし伊丹もそれに答えた。

 

「安心してください!情報は鮮度が命なので極たまに誤報する事もありますが!」

 

自信満々に言う文に不安しか感じない桑原は当たり障りのない受け答えのみをした。

 

 

ピロロロロロッピロロロロロッ。

 

 

唐突にその場に似合わない電子音が鳴り響いた。

 

「あれ?電話?でも幻想郷って電波届かないっすよね?」

 

倉田が自分のスマホの圏外表示を見ながら言う。

 

「ああ、これは私のですね」

 

そう言いながらスマホを取り出したのはなんと文だった。

 

どこからどう見てもスマホだが背面に河童のロゴマークが刻印されている。

 

「椛、どうしましたか?え!?それは本当ですか!?大スクープの予感です!やっぱ椛にスマホを持たせて正解でした!あ、でも大天狗様には見つからないようにお願いしますよ?では!」

 

通話を終えスマホをしまう文。

 

「文さん、いつの間にスマホを・・・しかも河童のマークって・・・」

 

「にとりさんの新商売ですよ。すみませんが急ぎますのでこれで!」

 

飛び立つとあっという間に小さな黒点になる文。

 

幻想郷最速は伊達ではない。

 

「じゃ、じゃあ、次に行きますか・・・・?」

 

「え、ええ、そうですね」

 

まるで突風のようだった文に少し気圧された桑原が伊丹に答えた。

 

 

 

自動車の中では相変わらずクラウンピースが様々な機器に興味津々だったが栗林がここで思い切ってクラウンピースに聞いた。

 

「ね、ねぇ、クラウンピースちゃん。クラウンピースちゃんは何の妖精なの?」

 

サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドの三月精達が何の妖精なのかは本人?達に聞いていたがクラウンピースにはまだ聞いていなかったのだ。

 

その陽気な性格や可愛らしいピエロの様な姿格好から夢のある答えを期待していたのだが・・・・

 

「あたし?あたしは地獄の妖精だよ?」

 

「ごめん、もう一度いい?」

 

「うん、いいよ?地獄の妖精だよ」

 

「・・・・・・・・き、聞き間違いじゃないーーーっ!?え?地獄!?地獄なのに妖精なの!?」

 

「うん」

 

聞いたことを後悔している栗林にかける声もなく車を進める。

 

 

 

暫く行くと荷車に仕留めた猪を載せて人里への道を進んでいる集団に出会い車を止める。

 

ほとんどが人里の人間だったが一人だけ目立つ格好をしている。

 

ピンク色の髪に片腕が包帯に包まれている人物・・・茨木華扇であった。

 

「華扇さん、お疲れ様です。護衛ですか?」

 

伊丹が降りて挨拶をする。

 

「えぇ、妹紅さんの都合がつかないと代理を頼まれました。最近、山で見慣れない妖怪を見かけたと言う噂話があるそうで・・・・」

 

「見慣れない妖怪・・・ですか?」

 

伊丹も興味を惹かれる。

 

人里内は安全だが人里の外に長時間出るときは華扇の様な仙人や妹紅の様に強い者か人間に友好的な妖怪にお願いして守ってもらう必要がある。

 

最近の妖怪は友好的な存在が多いがまだまだ未知の妖怪が潜んで居て人間を襲う場合もある。

 

妖怪に対する情報は知っておいて損はない。

 

「因みに、どんな妖怪なんですか?」

 

「私も直接見たわけではありません。人伝に聞いた伝聞なので正しいかは保証できませんがいいですか?」

 

「ええ、お願いします」

 

伊丹は頭を下げて頼み込む。

 

この情報がいつどこで役に立つか分からないからだ。

 

桑原や富田も貴重な情報かもとビデオカメラを構え撮影したりメモを取ったりする。

 

「わかりました。とは言っても近付いて見た者はいないそうですが・・・・。まず、身体は少し平べったい様ですが背丈は人の背丈より少し高いそうです。目撃者が見た時は吹雪いていた様で全体がはっきり見えなかった様ですが鼻と思われる部分が長かったそうです。目撃した者に害を加える様な動きはしなかったそうです。ただ・・・・」

 

「ただ?」

 

「ええ、目撃した者を人喰い妖怪が狙って背後から忍び寄っていたようなのですが・・・・件の見慣れない妖怪が雷のような音と衝撃で消し飛ばして助けたそうなんです。件の妖怪は唸るような声をあげながら立ち去ったそうです。その人物はお礼を言おうと追いかけようとしたそうなのですが吹雪と積雪で見失ってしまったとか・・・」

 

「うーん・・・・。分かったような分からないような・・・」

 

「飽く迄も噂ですから、尾ひれがついているかもしれません。話半分に聞いておいてください。では」

 

「いえ、貴重な情報をありがとうございます。みんなも気を付けてな」

 

「ああ、そっちもな」

 

華扇が話を切り上げると伊丹はお礼を述べ猟師たちとも軽い挨拶をして別れる。

 

「うーん・・・?何か引っかかる妖怪だな・・・・?」

 

伊丹は車の中でも考え続けたが答えは出なかった。

 

 

 

「これがその見慣れない妖怪の足跡ですか!」

 

パシャパシャと文が写真を撮る。

 

「文さん、まだ妖怪と決まったわけでは・・・・」

 

「じゃあ、幻想郷に新たなUMA現る!見出しはこれで決まりです!」

 

「しかし、もう少しズレていたら完璧に天狗の領域を侵犯していましたね・・・・。知ってか知らずか・・・」

 

その足跡を見ながら考え込む文と椛。

 

「でも、見事なまでにまっすぐな足跡ですね」

 

「うーん・・・・足跡なんでしょうか?これ・・・・。足と足の幅がかなりありますね・・・」

 

二人は真っ直ぐ続くその二つの足跡?を辿りながら考える。

 

 

 

伊丹達は文が自分達への取材を切り上げた情報と華扇から得た情報が自衛隊一行をも巻き込んだ異変に繋がることになるとはこの時点では知る由もなかった。

 

 

 




と言う訳で、異変有りに決定しました。

勘のいい人は正体不明の妖怪?UMA?の正体がもう分かっちゃっているかも。


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博麗神社にて

お久です、最近忙しくてなかなか時間が取れなかったです。

これからさらに忙しくなりそうな気がするのでタグに念の為に亀更新と不定期更新を追加しました。



それと47、48話を一部改変しました。
帝国を帝政に戻しピニャが新皇帝に改変しました。


博麗神社。

 

そこは人里から遠く離れ訪れる人は少ない。

 

守谷神社が幻想郷へ越してくるまでは幻想郷唯一の神社であったがより人里に近い場所に新たな神社が在るとなれば自然と人はそこに集まりだす。

 

結果、先代巫女の代から参拝客の少なかった博麗神社へ訪れる人は更に減り一ヶ月の間に知り合い以外の参拝客が一人も訪れないこともザラである。

 

現在の博麗神社の主人である霊夢ですら何の神を祀っているのか知らないのである。

 

妖怪に襲われる危険を考えれば足が遠のくのは自明の理。

 

少しでも参拝客を取り戻そうと祭り等の催し事を開催したりするがそれ以外の日には参拝客を見ることはない様な状態である。

 

異変解決の際に知り合った鬼やら妖怪やら天狗やら仙人やらが訪れる事は多々あり、時には入り浸る。

 

結果、別名・妖怪神社と呼ばれる様になった。

 

しかしそんな状態でも境内の掃除や自分で可能な修繕は怠らない。

 

先代巫女にみっちりと叩き込まれ最早生活習慣の一部となっている様な状態である。

 

怠けて体力が落ちて異変解決に失敗しましたなんて事になれば笑い話にもならない。

 

「おーい、霊夢ー」

 

魔理沙が訪れて来た。

 

「なぁ、今噂の正体不明の妖怪って知ってるか?」

 

「正体不明の妖怪?初耳ね。最近はあまり人里に行ってないし」

 

「まぁ、正体不明なだけあってみんないろんな噂してて尾ひれ付きまくってもうどれが最初の情報なのか分からなくなってる様な状態だけどな。まぁ、人間に危害を加えるどころか逆に助けてくれたってところは共通だから異変になるかどうかは分からないけどな」

 

「魔理沙、縁起でもないこと言わないでよ。異変なんて起きないに越した事はないんだから」

 

「まぁいいや。で、今夜伊丹達がここに泊まるんだっけ?」

 

「ええ。宴会の準備ももう整ってるわ」

 

「気のせいか?縁側でもうおっ始めてる奴がいる気がするんだが・・・・」

 

そう言いながら魔理沙は縁側で一人で酒盛りをしている鬼を見る。

 

「目の錯覚よ」

 

「いや、何処をどう見ても萃香だろあれ・・・・」

 

「・・・・・どこで聞きつけたのやら・・・・よ。まぁ、お酒なら萃香は好きなだけ出せるから問題ないけど。なんか、勇儀も聞きつけて来るらしいわよ。食材は持って来るって萃香が言ってたけど何を持ってるのやら」

 

噂をすれば何とやら、勇儀が両手に荷物を担ぎ上げた状態で境内に現れた。

 

「おー、勇儀ー」

 

酔った萃香が真っ先に声をかけた。

 

「萃香、もう飲んでるのかい?あたしも混ぜな」

 

「おー、飲め飲めー」

 

ずしんっ、と勇儀が担いでいた物を下ろす。

 

「よう霊夢、久しぶりだな」

 

「ええ、そうね。それで一体どんな大荷物を持って来たのよ?」

 

「ああ、まずはこっち。旧地獄の鬼の必需品、鬼殺しさ」

 

「ちょっとあんた、今日の参加者はほとんどが普通の人間よ?そんなの飲んだら一瞬で酔い潰れるわよ」

 

「まぁ、そこは気をつけるさね。んで、こっちが酒の肴になりそうな物を適当に、こっちは鍋料理用の具材の詰め合わせさ」

 

「詰め合わせ・・・。ちゃんと人間が食べられる物よね?」

 

「その点は心配ない、持ち出す前にさとりに半分以上減らされた。こんなの食べたら普通の人間は死にますよ?だって言われてな」

 

「・・・・・さとり、グッジョブ!」

 

「旧地獄でも珍しいキノコもあったんだけどねぇ・・・。残念だったよ」

 

「キノコ!?」

 

魔理沙が食いつく。

 

「なんでさとりなんかに見つかったんだよ!?」

 

「い、いやぁ、面目無・・・・ちょっと待ちな、なんであたしが魔理沙に怒られなきゃならないんだい?」

 

「魔理沙のビョーキよ」

 

「ああ、そう言えばそんな事以前聞いたっけな。まぁ、諦めな」

 

「うぐぐ、せ、せめて場所教えてくれ!今度取りに行く!」

 

必死に食らいつく魔理沙に勇儀は困った顔をした。

 

「おいおい、いいのか?旧地獄下層部だぞ?」

 

「問題ない!」

 

「はぁ〜、そこまで覚悟があるなら教えてやるよ。手伝わないけどな」

 

「構わないぜ」

 

魔理沙は詳しい話を聞くために酒盛りをする萃香のところに向かう勇儀に着いて行く。

 

その後ろ姿を見送る霊夢の耳に聞き覚えのある微かな音が聞こえた。

 

「あ、これ確かエンジンって奴の音だっけ?伊丹達着いたのね」

 

予想通り、しばらくして石段を登って来る一行の姿が見えた。

 

 

 

夜、人里周辺。

 

人里外周部にある無数の畑の上空に射命丸はいた。

 

にとりから借りた暗視機器で周囲を見回す。

 

あの後UMA?と思われる足跡を辿って来ていた。

 

しかしここまで辿っている間に本当にこれは足跡なのだろうかと疑問が出て来た。

 

端から端への間隔が誤差のない程に均等であり、なおかつ段差や障害物以外では一切途切れない一直線。

 

方向転換したと思われる場所に至っては長い物が横滑りした様な痕跡だったのだ。

 

その跡はここ人里の外周部とも言える畑近くまで来ていた。

 

しかし人里へ入るでもなく遠巻きにぐるっと回り込む様な形で続いている。

 

まるで人里を守っている様にも見える。

 

やがて射命丸の目に光学処理された獲物が見えた。

 

「チャンス!出来るだけ近付いて・・・!」

 

だがすぐに気付かれたのかそれはその場で旋回する。

 

「気付かれた!?こうなったら・・・・・!!」

 

すぐにカメラを構える。

 

同じくにとり製の夜間撮影特化カメラである。

 

パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!

 

急降下で近付きながら一心不乱にシャッターを切る。

 

シャッターを切りながらスクープの事で頭が一杯の射命丸だったがその片隅では何処かで見た何かに似ている様か気がしていた。

 

噂では正体不明の妖怪の鼻と呼ばれていた物が射命丸を直線上の射程に捉えた。

 

ドンッ!

 

そんな音と共に超高速で一直線にそれは射命丸に直撃。

 

ピチュンッ!

 

射命丸は撃墜される。

 

これが弾幕ごっこであったなら残機とやらが一機減る程度で済んだだろうがそれなりの威力があった為射命丸は追跡を諦めその場を離脱。

 

撮影に成功した為当初の目的が果たされた事もあり、そのまま新聞発行の拠点に戻る。

 

既に椛が手伝いの準備をしていたがボロボロになった射命丸見て驚いていた。

 

ともあれ、その記事と写真は無事に朝刊のトップを飾ることが出来た。

 

人里以外でも博麗神社にもそれは配られる。

 

そして偶然それを見た自衛隊一行はこの異変に巻き込まれる事となった。

 

 




もう音で正体不明の存在の正体わかっちゃったよね?


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珍騒動

みなさま、お久しぶりでございませう。
設定ミスって完全非公開設定にしまっていたと気付いた時はしばらく放心状態でした。




設定弄って遊ぶもんじゃないね。


「うぅ〜・・・頭痛い・・・・」

 

ガンガン痛む頭を抑えながら霊夢は起きる。

 

昨晩は自衛隊と異界の三名と飲みに飲んだ。

 

いつもの寝室に寝間着姿で寝ていたと言うことはみっともない姿を見せなくて済んだと言うことで安心する。

 

「はぁ〜・・・。いま何時だろ・・・。まだこんな時間?あ〜、でも頭痛くて寝てらんないし・・・・もう起きちゃえ・・・」

 

痛む頭を我慢しながら寝間着から普段の巫女服に着替える。

 

 

「あー、耀司達はちゃんと寝室に行ったのかしら・・・・?」

 

ガラッと昨晩宴会をしていた広間の襖を開ける。

 

「あー、うん。まぁ、予想はしていた」

 

伊丹の姿も異界の三名と自衛隊の一行の姿はない。

 

あるのはぐぅぐぅと寝息を立てている二体の鬼と昨晩の酒宴の途中で飛び入り参加してきた守矢の二柱の姿だ。

 

「勇儀も萃香に神奈子に諏訪子も、どんだけ飲んだのやら・・・・。いたたたっ・・・・。うぅ・・・・・迎え酒しよ・・・」

 

適当に手近にあった酒瓶を手に取る。

 

「あら、まだ開けてないのがあったんだ・・・・。これでいっか」

 

一口飲み、意外に美味な事に驚く。

 

「あ、確かこれって外界のお酒だったわね。意外といけるじゃないの、貰っちゃおっと」

 

ぐぅぐぅと寝ている鬼と守矢の二柱を放置して一人で酒を楽しむ霊夢。

 

「んー?あー、暇ー。・・・・・境内の掃除でもしてましょ」

 

霊夢は一人呟きながら境内に出る。

 

「うー、さぶっ。まぁ、動いていれば暖かくなるでしょ」

 

境内に積もった雪を雪掻きしながら霊夢は体を動かす。

 

 

 

「うぅ・・・さぶっ・・・」

 

客間で一人先に起きた伊丹は少し前に境内を掃除している霊夢の姿を見かけた。

 

この寒い中大変だと思い、茶を沸かし自分の分と共に霊夢に渡そうと境内に出る。

 

「おはようございまーすっ!毎度お馴染みの文々。新聞でーっす!」

 

「あー、文じゃない。上機嫌ね、なんかスクープでもあったの?」

 

「もちろんです!詳しくは紙面を読んでください!」

 

「まぁ、後で期待せずに読んでおくわ」

 

そこに伊丹が近付く。

 

「文ちゃん、おはよう」

 

「はへっ!?」

 

伊丹の登場に素っ頓狂な声を上げる射命丸。

 

「うぉっ!?ど、どうしたんだ!」

 

「まだ日が昇る前の早朝の博麗神社・・・・伊丹さんと霊夢さんが二人で・・・・。むっはーっ!大スクープの予感です!そのお茶は!?ひょっとして朝チュンで寝起きのお茶って奴ですか!?やる事やっちゃいましたかーー!?」

 

興奮しながらパシャパシャと写真を撮り始める射命丸。

 

「はっ!?いや、違っ!これは霊夢さんが寒いと思って入れただけで!ちょ、霊夢さんも黙ってないで何とか言ってよ!?」

 

「そーよ、文」

 

ほっとする伊丹。

 

ぐぃっ、むにゅっ。

 

腕を寄せられ何か柔らかい感触がする。

 

(意外とあるっ!?って、そーじゃねー!なんか変だぞ!?)

 

「ねぇ、子供は何人がいいと思う〜?」

 

「な、な、なに口走ってんだこの脇巫女はーっ!!?」

 

「お、おおおおおっ!ほ、本人の口から語られました!?スクープ!大スクープです!急いで号外を!それじゃ!!」

 

衝撃波が起きそうな勢いであっという間に姿を消す射命丸。

 

「おいまてこのパパラッチ!!」

 

追いつけないと分かっているが追いかけようとするが腕にしがみついている霊夢の為に追い掛けられない。

 

「ちょ、どうしたんですか霊夢さん!?って、酒くさっ!!」

 

しがみ付かれて気付いた。

 

とてつもなく酒臭い。

 

思い切って霊夢の顔を見る。

 

真っ赤だがそれは酒のせいだろうか。

 

目がグルグル目になっている。

 

「ありぇ〜?耀司が沢山いりゅ〜。うぷっ・・・・・」

 

「ちょ、だめ、そんなところで吐いたら・・・・アーーッ!!」

 

 

 

霊夢を取り敢えず広間に寝かせ境内の後始末をする。

 

そして気付いた。

 

縁側に置かれている酒瓶に。

 

「ちょっ、まさか霊夢さんこれ飲んだのか!?もしかして半分も!?」

 

その酒の正体。

 

それはとある酒蔵が持て余していた製造段階で失敗した日本国内では販売不可能な度数のお酒。

 

幻想郷に住んでいる鬼が大の酒好きと知り、ただ捨てるのも勿体無くもし気に入ってもらえたのなら鬼に対する一種の輸出も視野に入れ瓶詰めし何本か提供したいと業界団体を通じて政府に要請をし今回の幻想郷行きの際に持ち込む品の一部に入っていた品である。

 

因みに勇儀と萃香曰く、〝薄いけど旨い、もう少し強目にしてほしい〟と注文がついた。

 

それを霊夢が飲んでしまった。

 

それなりの酒豪である霊夢をも泥酔させるとは恐るべしと伊丹は思っていた。

 

 

 

「しっかし、マジでどうすんだこれ・・・。霊夢さんは酔い潰れてるし文々。新聞の印刷場所なんて知らないぞ俺・・・・」

 

はぁっ、と溜息を吐きながら縁側に放置したままの先程射命丸が配達して来た文々。新聞を手に取る。

 

外界の新聞のように連絡先や連絡方法などが記載されていないか僅かな希望を持って。

 

バサッと一面を見る。

 

「んっ?んんん〜っ?」

 

一面トップは巷で話題になっているらしい正体不明の妖怪とかについての記事だ。

 

紙面では〝UMAか!?〟とも書かれている。

 

不鮮明だが写真も載っている。

 

伊丹はその写真に写った〝それ〟のシルエットが何かに似ていると思った。

 

もっと鮮明な写真がなかったのかと思ったが生憎とそれが射命丸が撮影した中で一番まともな写真であると記事にも書かれている。

 

「ふわぁ〜あ・・・・。あ、伊丹さんおはようっす」

 

倉田が欠伸をしながら出てきた。

 

その後ろには桑原と富田、つまり自衛隊一行の男側が勢揃いである。

 

「それって新聞っすか?へ〜、これが幻想郷の新聞っすか。あれ?でもなんで幻想郷の新聞の一面トップに戦車っぽいのが載ってるんすか?」

 

「あ・・・・あーーっ!そうだよ!この形!なんかに似てると思ってたけど戦車だよ!え?戦車?」

 

事態は深刻だとすぐに理解した。

 

この幻想郷で戦車が徘徊している可能性があると言うことだ。

 

すぐに伊丹は思考を活性化させる。

 

これが戦車だとしたらどこの戦車で乗員は?

 

武装は?燃料は?

 

そもそもこの一両だけなのか?

 

伊丹が真剣に考え込む姿に倉田もただ事ではないと眠気が吹っ飛ぶ。

 

「と、とにかく、詳しく調べないといけないっすね・・・・」

 

「そうだな・・・・。伊丹さん、この新聞自衛隊に送りたいのだが構わないだろうか?日本で解析すれば何かわかるかもしれません」

 

「そ、そうですね。取り敢えず霊夢さんには俺から話しておきま・・・・その前に失礼!」

 

バサッと再び新聞を捲りながら連絡先が無いかと探すが・・・・。

 

見付かったのは〝特ダネがあれば配達中の射命丸文にお声掛けください〟の一文だけであった。

 

そして日が昇りきった時にようやく霊夢は起きたがさらに酷い二日酔い状態でその日の活動は不可能だと一目で分かる状態だった。

 

何しろ迎え酒を飲んだ後からの記憶が無いと言う始末。

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、人里。

 

「号がーーーい!号外でーすっ!博麗の巫女に一足早い春の訪れでーーーっす!!」

 

人々が活動を始め職場に向かう大人や寺子屋に向かう子供達で一番賑やかになる時間帯。

 

上空から射命丸が号外と叫びながらビラのように号外記事をばら撒く。

 

その内容にある者は微笑ましい気持ちになり、ある者は羨ましい気持ちになり、そして・・・・。

 

「「「「なにいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」」」」

 

ある一部の人々からは嫉妬に狂った叫びが上がった。

 

彼等は人里に存在する本人の知らない博麗霊夢非公式ファンクラブの構成員達であった。

 

バラバラの場所でその号外を目にした彼等の思いは一つ。

 

〝伊丹耀司許すまじ、慈悲は無い〟であった。

 

もしこの幻想郷にとある異世界の悪魔が居たら確実にこう言ったであろう。

 

「その悪感情、大変に美味である」と。

 

 

 

余談だが、この後に伊丹は嫉妬に狂った彼等によって安住の地を失い博麗神社に転がり込み、

 

「しょうがないわねぇ・・・。あ、変な事したらぶちのめして叩き出すから」と霊夢が神社の手伝いを条件に受け入れる事となった。

 

この時、もし霊夢が伊丹を追い返していたり伊丹が転がり込む先がゲーム仲間の輝夜のいる永遠亭か伊丹をオモチャにしている紫のいる八雲家であったのならいつもの文々。新聞の誤報だったのかと自然消滅していたのかもしれない。

 

しかし伊丹は博麗神社に住み込んでいる。

 

話題の二人が同じ場所に住んでいると言うことは外部から見れば同棲しているようにしか見えない。

 

外部から見れば珍しい事だ、文々。新聞のスクープが事実だったと。

 

二人がそれに気付いた時は時すでに遅し、守矢神社や永遠亭や白玉楼や地霊殿や紅魔館等々、そして何故か月からもお祝いの言葉とお祝いの品が届き出す。

 

そして悪ノリした紫からは大量のベビーグッズが送られてくる始末。

 

この事態に伊丹と霊夢は頭を抱える羽目となるのはまた別の話だが。

 

 




中盤から後半は悪ノリして書きました。
とある世界の悪魔とはこの〇ばのバ〇ルさんです。
ネタで突っ込ませていただきました。
アニメ三期はよ。


と、言うわけで正体不明の存在は幻想郷を徘徊している戦車でした。
でも霊力弾をぶっぱして来た時点で普通の戦車じゃないけど。




う~ん、このまま霊夢とくっつけちゃおうっかなっと悩み中の作者。
魔理沙とアリスは百合ん百合んカップル、輝夜と妹紅は殺し愛カップル。
まぁ、どうなるかは話の進み方とその時のノリで決めようかと思います。


ちなみに迎え酒は一時的に痛みや気持ち悪さを麻痺させるだけで結局苦しむ時間が長くなるだけの悪手らしいです。
した事ないけど。


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正体不明の戦車を待つ

めっちゃ久しぶりの投稿です。
と言うか、サイトへのアクセス自体も久しぶり・・・・。
パスワード忘れていてめっちゃ焦った。


 

 

「ドローン?」

 

「そそ。ほら、この間外界に行った時ににとりが興味持っていたアレ。自分で作ってないかと思ってさ」

 

「一応、試作品はあるけどさ。何するの?」

 

にとりの工房にて伊丹とここの主であるにとりが発明品やら外界から流れ着いてきたジャンクが所狭しと並んでいる部屋で話している。

 

「これだよ」

 

伊丹が出したのは文々。新聞の例の記事。

 

「ああ、これね。外界の戦車ってのに似てるけど、やっぱり?」

 

「多分。それを確かめるためににとりのドローンにカメラ積んで撮影したいんだ。自衛隊に送る追加情報に必要みたいでさ」

 

「いいけど、実用に耐える改良を加えなくちゃいけないから1日はかかるよ?」

 

試作品のドローンを棚から引っ張り出しながらにとりが伝える。

 

「ああ、それで十分さ。で費用はどれくらいかかりそう?」

 

「お金より、交換条件はどう?」

 

「交換条件?」

 

ニヤッとにとりが笑う。

 

「秋葉原ってところのジャンクショップってのに行きたいんだよね。前行った時に見かけたんだけど面白そうだし」

 

「うーん・・・。向こうとの絡みもあるから即答はできないな・・・。一応は話をしてみるけど」

 

「オーケー。じゃあ、早速改良に取り掛かるから出てった出てった」

 

技術者モードに切り替わったにとりに伊丹は工房から追い出される。

 

 

 

 

博麗神社。

 

「と言うわけで、にとりからの条件は秋葉原に行きたいって事だったよ。何処で知ったのか、ジャンクショップに興味深々でさ。どうにかならない?」

 

「いや・・・流石に即答は・・・」

 

「だよねー・・・」

 

伊丹と桑原が難しい顔をして話し合いをしていた。

 

「話に割り込むっすけど、今の秋葉原には行かないほうがいいと思うっすよ?」

 

カメラをチェックしていた倉田が意味ありげな事を言ってきた。

 

「?倉田、何かあるのか?」

 

桑原が倉田の意味ありげな言葉に問い返す。

 

「最近なんすけど、秋葉原に奇妙な若い男女の二人組が出没しているようなんですよ。自分は直接見たわけじゃないすけど、ネットの掲示板とかで目撃情報が書き込まれたりしていて・・・・」

 

「奇妙な二人組?」

 

伊丹も興味を惹かれた。

 

「男の方は何処にでもいそうな感じらしいんですけど、もう一人がかなり可愛い感じの女の子なんですけど・・・・」

 

「リア充爆発しろ」

 

「伊丹さん、気持ちは分かるっす。で、その二人組なんですけど・・・街中で通行人を襲って服を引き剥がしているとか・・・」

 

「へぇ、外の世界にも追い剥ぎっているのね」

 

近くで茶を飲んでいた霊夢も少し興味を持ったらしい。

 

「強盗って事?でも、噂になるぐらいなんだからとっくに警察が・・・」

 

「それが、被害届が全く出されないようで警察も動けないってネット上で現役警官を名乗る人物が嘆いているんですよ」

 

「どうして被害届が出されないんだ?襲われた連中は後ろめたいことがあるような連中なのか?」

 

桑原が疑問を率直に口にする。

 

「襲われている側なんですけど、ネットの書き込みじゃあ男女問わず学生やらオタクやらコスプレイヤーやら統一性がないんですけど・・・ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「いえ、襲われて衣類を引き剥がされた後に黒い煙になって消滅しているらしいんです・・・・」

 

「へぇ・・・。人間社会に紛れ込んだ妖怪で男女の方は現在の妖怪退治かな?」

 

幻想郷のルールに慣れきった伊丹が思いついた言葉をそのまま口にする。

 

「もう一つ、噂が眉唾っぽい理由に二人組の女の子の方が時々違う子に変わっているらしいんです」

 

「リア充爆発しろ」

 

「伊丹さん、よーーーーっく分かります!噂の通りならボーイッシュな女子に黒髪少女、金髪外国人のメイドにどっかの製薬会社の女社長にそっくりな美人を取っ替え引っ替えなんですから!それに信じたくないっすけどRinちゃんそっくりな子まで!羨ましいっす!」

 

「あ、ごめん、誰それ?」

 

「ええっ!?伊丹さん知らないんすか!?・・・・・・って、そりゃそうっすよね」

 

外界の芸能情報だから知らないのも当然なのに気付く倉田。

 

そんな他愛もない話をしながらも準備を進める一行。

 

 

 

翌日整備の終わったにとりのドローンにカメラを取り付け、昼間のうちに動作確認や操縦の慣熟訓練を行いバッテリーを充電し夜を迎えた。

 

「・・・・来ないっすね・・・・。もうすぐ3時になるっすよ・・・・」

 

「毎日来るかどうかなんて分からないからな・・・・。長丁場も覚悟する必要があるかも。あ、おにぎり食べる?」

 

「いただくっす」

 

伊丹と倉田がペアで人里外れの作業小屋に身を潜めていた。

 

他の自衛隊員達も反対側の人里外れで監視をしたり交代要員として仮眠を取っていたりしていた。

 

結局その日は現れず、翌日は昼間寝て夕暮れに昨日と同じ場所へ配置についた。

 

人里が寝静まった夜更けを過ぎた頃。

 

「そろそろ交代の時間かぁ・・・」

 

倉田が時計をチラッと見て呟く。

 

「今日も現れないかも・・・・ん?」

 

伊丹が微かに聞こえる音に気付いた。

 

「エンジン音・・・?倉田ちゃん、無線で誰かエンジン動かしたないか確認して」

 

「は、はい・・・!」

 

二人とも緊張する。

 

倉田が無線でもう一箇所の監視場所や待機組に確認を取る。

 

「だ、誰も動かしてないそうっす!」

 

「来たか・・・!?」

 

大急ぎでドローンの電源を入れ飛ばす。

 

伊丹はカメラからの映像を見る。

 

「サーモグラフィーには何も写ってないな・・・。倉田ちゃん、カメラの向きをこの小屋に向けて見て」

 

「はい」

 

伊丹は小屋の扉を開け画面が見える位置を維持しながら小屋の外に半身を出す。

 

画面にはきちんと伊丹の発する体温が映し出される。

 

「熱源反応が無い・・・・?エンジンが遮蔽物に隠れているのか・・・・?」

 

「暗視モードに切り替えて見ます」

 

倉田がカメラの操作装置を弄ると画面の映像が白黒の暗視モードに切り替わる。

 

しばらく変哲のない人里周辺の光景が映し出される。

 

「あ、今何か・・・」

 

ドローンをホバリング状態にしてカメラの操作に集中する。

 

「いた・・・!」

 

白黒の映像の中に動く〝それ〟を見つけた。

 

「カメラをサーマルに戻して見ます」

 

映像が再びサーモグラフィーに切り替わる。

 

「エンジンが動いてるならその熱がかなりあるはずなのに・・・。待った、履帯部分をズーム出来る?」

 

「うっす」

 

伊丹の言う通りに履帯を拡大する。

 

「履帯にだけ微かな熱源反応があるな・・・・。地面との摩擦熱か?」

 

「でも、排気熱すら・・・」

 

「・・・・燃料使ってなかったりして・・・」

 

「え?まさか・・・」

 

「霊力で動いてる付喪神かも・・・。以前、道具が意思を持つ異変があったし・・・」

 

伊丹は過去に起きた異変のことを思い出す。

 

「と、取り敢えず、可能な限りのデータを収集します」

 

倉田は当初の目的通りドローンを操作してその戦車にゆっくりと近付きながら戦車の周囲をぐるっと回るように全体の姿を暗視モードにて撮影する。

 

「気付かれた!?」

 

突如として動きが止まり砲塔が旋回し主砲がドローンの方へ向いた。

 

緊張が走るが砲撃はない。

 

「撃ってこない・・・・?倉田ちゃん、ドローンをもう一度ゆっくりとあの戦車を中心に旋回して」

 

「は、はい・・・・」

 

倉田も緊張しながらドローンの操作に戻った。

 

ドローンの動きに合わせて砲塔がピッタリと旋回する。

 

やがてドローンに敵意が無いと判断したのかその戦車は再び前進を始めた。

 

「ドローンのバッテリー限界が近付いてます。隊長の方に引き継いでドローンを回収します」

 

作動限界時間が近付きこちら側の仕事は終わった。

 

翌朝、戦車が再び人里周辺から去って行くのをドローンのカメラが見届けた。

 

撮影した映像は全て特地の自衛隊駐屯地を経由して日本に送られた。

 

防衛省に届けられた映像はすぐに解析班に手によって特定する為の映像解析に掛けられる。

 

解析班のメンバーのデスクには紙媒体・電子情報で日本国内外を問わず古今東西確認されている戦車の写真やイラスト、スペック等の情報が大量に揃っていた。

 

映像に戦車と共に近くに映り込んでいた物のサイズを測っている映像もあり、車体の大きさや主砲のサイズを可能な限り推測して行く。

 

解析班全体に疲労が隠せなくなりつつも解析を進める。

 

やがて一人の解析班員が一番似通ったスペックの戦車を見付け呟いた。

 

「・・・・・これ・・・四式中戦車か・・・・・?」

 

と。

 

 

 

 

 




なかなか時間が取れないっす。
そして読み返して思った。
あれ、今回も特地勢の出番全くない・・・・と。
ま、まぁ、幻想郷で自衛隊側が異変に巻き込まれている話ですしおすし・・・・。


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