ゲス提督のいる泊地 (罪袋伝吉)
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ゲス提督と不幸秘書艦①

スーパーロボット大戦のゲシュペンストタイプSになってしまった主人公が、艦これ世界で提督をやる、という話です。

初投稿なのでどこかおかしい所があるかも知れません。


 

 ゲス提督と艦娘達に呼ばれている提督がパラオ泊地に

いた。

 

 普通、ゲスと呼ばれているならばよほど人格や行いが悪い、いわゆるブラック提督という奴に違いあるまいと最初にそれを聞いた人は思うかも知れない。そこの泊地の艦娘達はブラックな泊地でそのゲスな提督にあんなことやこんな事をされていると思うかも知れない。ゴーヤやイムヤ達などオリョクルられ、補給もないままにこき使われているのだろうなぁ、とか思うのかも知れない。

 

 しかし、パラオ泊地は艦娘達の誰もが希望して行きたいと言うほどにホワイトであり、クリーンかつ、ゲス提督が赴任して来た後はパラオ周辺の深海棲艦が降伏し、その地域だけは非戦闘地域として協定を結ぶという未だかって無かった快挙すらあった程である。つまり、パラオ周辺海域は希有な平和な地域となっていた。

 

 では彼が何故にゲスなどと呼ばれるのか。

 

 彼の名前が『ゲシュペンスト・タイプS(泊地改装型)』だからなのだ。

 

 艦娘達のほとんどは日本艦、特に駆逐艦や神通、そして扶桑姉妹や伊勢姉妹、長門などは彼を呼ぶときに必ず舌を噛んで『げ、げ、げすぺんすと!』と言ってしまう。

 

 実に日本人らしい事であった。

 

 故に最初は『ゲシ提督』と彼女らも呼んでいたのだが、途中からぴょんぴょん言う駆逐艦によって『ゲスちゃん』とか、金剛姉妹の長女によって『ゲッシー提督』とか呼ばれているうちにもうゲスで良いのではないか、と『ゲス提督』と親しみを込めて呼ばれるようになったのだ。

 

 「はぁ……」

 

 家具妖精さん特注のゲス提督用の椅子に座ってゲス提督ことゲシュペンストタイプSは溜め息をついた。

 

 無論息が吐けるわけではない。胸部の外部用のスピーカーユニットから声が出ているだけだ。

 

 身長2・5メートルの巨体をうつむかせて何やら悩んでいる。

 

 その前にはPCのモニターがあり、そこには一通のメールが表示されていた。件名は『遊びに行くよ』。

 

 宛名は『日本帝国海軍中将・土方歳子』とあった。

 

 「提督、どうなさいましたか?」

 

 と、今日の秘書艦である扶桑がコトりとゲス提督の前にお茶の湯飲みを置いて顔を覗きこんできた。

 

 「ぬぉわっ?!」

 

 ゲス提督は驚いて思わず仰け反る。不意を突かれたのもあるが、顔がかなり近かったからである。

 

 ご存知の通り、扶桑はかなりの美人である。確かに不幸艦とか、空は青いのに、とか、ちょっとヤンデそう、とか、機動力の無いデンドロさん、とか言われたりもするそうであるが、この泊地の扶桑さんは他の鎮守府や泊地でも噂になるほどに特に美人な艦娘で気だてが良い。そんな美人さんに覗き込まれたならばふつうはかなり驚く。

 

 バクバクバクバク。

 

 ゲシュペンスト提督は心臓など無いはずなのに胸というか胸部装甲に手を当てて「あー、びっくりしたぁ」などと人間臭いリアクションをとりつつ扶桑を見た。

 

 「んもぅ、そんなに驚くこと、ないじゃありませんか」

 

 少しぷっくらと頬を膨らませて扶桑は怒ってるんですよ、とアピール。

 

 「いや、すまない。いきなり綺麗な顔があんなに近くに出てきたら驚くよ」

 

 慌ててゲシュペンスト提督はフォローする。

 

 「あら、このメール……」

 

 「ああ、土方中将が査察……という名の行楽に来る、そうだ。……頭が痛い」

 

 ゲシュペンスト提督はこの土方歳子中将がかなり苦手だった。

 

 理由は簡単。

 

 土方歳子中将はこのパラオ泊地の前提督であり、当時、別世界からの遭難者だったゲシュペンストの身柄を引き受けて……というよりは、無理矢理深海棲艦との戦いに巻き込んだ人物であり、かつかなりのトラブルメーカーだったからである。

 

 「……はぁ、空はあんなに青いのに」

 

 扶桑は天井の方を向いてそう呟いた。

 

 いや、それ天井しか見えないよ?あと天井の色は茶色の木目だよ?とゲシュペンスト提督は言いたかったが、放っておいた。扶桑は前提督の土方の秘書艦でもあった。彼女はゲシュペンスト提督よりもずっと前から土方歳子中将に振り回され、妹である山城よろしく「不幸だわ」と言って、ねぇさまそれ私のセリフ、とツッコまれていたのだ。

 

 それにその気持ちはよくわかる。

 

 ゲシュペンスト提督と扶桑は二人して「はぁ~~~っ」と溜め息を盛大に吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……こんなんでいいんでしょかσ(^_^;


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ゲス提督と不幸秘書艦②

ゲシュペンスト提督

精神は普通の青年であり、何故か異世界に転移したら身体がゲシュペンストタイプSになっていた。

タイプSであるからして、最大の必殺技はゲシュペンストキックである。ちなみに改造は最大、という設定です。

扶桑

前提督である『土方歳子中将』の秘書艦であった(現在、ゲシュペンスト提督は週代わりで秘書艦を持ち回りにしている)が、土方提督がやらかした様々な問題に巻き込まれたりしたせいでかなり苦労してきた。ゲシュペンスト提督との付き合いは長い。

土方歳子中将

パラオ泊地の前提督。海軍問題児三人衆と言われていた提督であり、現在は日本海軍の中枢にいるお偉いさん。パラオ泊地でゲシュペンストと出会い、散々こき使ったりしごいたり、戦わせたりした人物。




 

 土方歳子中将と言えば、海軍問題児三人衆の一人として海軍士官学校の頃からすでに海軍にその悪名をとどろかせていた。

 

 海軍問題児三人衆とは、近藤勲大将(現)、沖田総美少将(現)、そして土方歳子中将(現)を指す。

 

 現在の階級を見れば、今や三人とも海軍の中枢にいるわけで、海軍大本営の重鎮となってはいるものの、基本的にそれらの問題児の性質はまったく変わっていない。

 

 とはいえ、かつては三人衆と言われているものの、この三人の起こす問題は一人一人性質が大抵異なっており、そのベクトルは違っている。

 

 まぁ今回は近藤大将と沖田少将その話はかなーり長くなるので割愛することにする。これはまた後々に語るべき時もあるだろうが、問題はパラオ泊地に迫って来ている『土方歳子中将』なのである。

 

 

 彼女のかつての通り名は、ブラック壊滅デストロイマッシーン(近藤大将命名)』である。

 

 どうやら近藤大将はネーミングセンスがあまりよろしくないようであるが、それはともかくとしてその通り名は彼女が散々これまでに引き起こしてきた事件や問題をよく表していると言えよう。

 

 ブラック鎮守府をことごとく壊滅させ、ブラック提督をクレーンの上から文字通り吊し上げて艦娘達を解放して来た故に、そんな通り名をつけられたのである。

 

 これまでに潰したブラック鎮守府は数え切れない。

 

 右に無補給の遠征で疲弊している駆逐艦があれば、自ら武装して単身ブラック鎮守府に殴りこみに行く。左にオリョクルで泣く潜水艦達があれば、やはり武装してとにかく殴りこみに行く。大破進撃する鎮守府の提督など生かしておくものか、セクハラ、嫌がらせ、以ての外。とにかく、ブラック提督吊すべし。

 

 そうして潰し、吊したブラック提督の数は幾知れず。憲兵さんよりも早く、監査部隊よりも早く、そしてえげつない。

 

 土方歳子は、そんなことを士官学校時代からずっとやらかして来た女提督なのである。

 

 もちろん普通そんな事をやらかせばただではすまなかったが、そのたびに近藤大将(現)と沖田少将(現)やその他、時には艦娘達の力も借りて乗り越えてきた女傑なのである。

 

 しかしそれだけならば、ゲシュペンスト提督も扶桑も溜め息など吐きはしない。

 

 艦娘達の為にブラック鎮守府を許さない正義漢なだけならば。

 

 土方歳子女史がブラック鎮守府を潰し廻った原因が問題なのである。

 

 彼女は自身を差して曰わく『艦娘ラヴューン』。とにかく艦娘達が好き。駆逐艦も軽巡、重巡、戦艦、空母、工作艦、揚陸艦、補給艦、ありとあらゆる艦娘を愛する。とにかく艦娘達とキャッキャウフフしたい。艦娘は天使、艦娘はとにかく愛でるもの、とにかく艦娘は満たされてなければならない、艦娘は幸福でなければならない。

 

 ある意味ブラック提督の真逆を行っているようで、真逆の方向がどこか行方不明な、そんな人物なのであった。

  

 扶桑が溜め息を吐いたのは、かつての土方歳子との生活による、一種の気苦労を思い出したからである。

 

 彼女は土方歳子がこのパラオ泊地の提督であった頃の秘書艦であり、とにかく接する事が多かった。妹の山城と必ずペアであり、執務はもちろん、三度の食事から風呂までもよほどの事がない限り必ず一緒だった。

 

 別に何らかのセクハラやそういう事はなかったが、艦娘を見る土方の目はものすごく過保護なオカンのような、それでいてやたらとその言動は変態オヤジのような、というかそれそのものであった。

 

 例えば小さな駆逐艦の子供を見ながら「でゅふふふふ、やっぱり駆逐艦は最高だぜぇ、じゅるり」とか。

 

 高雄型四姉妹を見て「ぬふっ、重巡ぼでぃ……。ああ、一緒に風呂入りてぇ。洗いっこしたい……」とか。

 

 鳳翔の居酒屋で「おかぁさんと呼んでいい?わたし、鳳翔さんの膝枕で眠りたいのぉぉっ」と酔っ払ってタダをこねたり。

 

 そして、扶桑姉妹が何かネガティブな事を言ったなら、とにかく抱きついて来るのだ。力付けようとか安心させようとかそういう意図だけではない、何か邪なものもかなり含んだ感じで「大丈夫よ?少なくともハグしてる私は幸せだもの。あほーれスリスリスリ」と言いつつ胸に頬ずりして来るのである。

 

……いや、それはセクハラやがな。

 

 一方、ゲシュペンスト提督にしてみれば。とにかくこき使われたトラウマがある。

  

 ゲシュペンストの戦闘能力は戦艦である大和型を上回っていた。近接戦闘型のタイプSであるから、遠距離武器はスプリットミサイルぐらいだったが、とにかく硬い装甲とパワーを持つ。しかも空を飛べるのである。

 

 とにかく艦娘達が怪我をしたり、あまつさえも轟沈するなど以ての外である、とする土方歳子提督(当時)はとことんまでゲシュペンストを戦場へと出した。素性どころかどこから来たのかなどお構いなしである。

 

 しまいには弟子扱いされ、戦闘から戦術、戦略までたたき込まれ、気が付けばたった一機で空母水鬼と戦わさせられたり、ブラック鎮守府への殴りこみにつきあわされたりととんでもない目にあわされてきたのである。

 

 ゲシュペンスト提督と扶桑、いや、この泊地の全艦娘達にとっての平和は、前提督の来訪によって打ち砕かれようとしている。

 

 ゲス提督と扶桑は諦めた目でお互いを見やり。

 

 盛大な溜め息を思い切り吐くのであった。

 

「「はあぁ~~~~っ」」

 

 

 




近藤大将、土方中将、沖田少将。

新撰組、とはいえ某漫画のそれとは違います。

近藤大将は男、土方中将と沖田少将は女性で性格はおそらく皆さんのイメージとは違うかと。

ゲシュペンスト提督の戦闘シーンは、あんまりでない……と思います。


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人・機械、そして乙女、建造計画。

 おーれはー、なーみーだを流さないー、だだっだー。

 ゲシュペンストタイプSは正確にはパーソナルトルーパーではなく、特機扱いでグルンガストを作るときのデータを取るための実験機だったわけですが。

 ゲシュペンスト提督の姿は多少、ゲームのタイプSとは違い、ハーケンさんのゴーストに近い感じと思っていただけたら幸いです。


 


 ゲシュペンスト提督は眠らない。

 ゲシュペンスト提督は食事をとらない。

 ゲシュペンスト提督は休まない。

 

 ロボットだから。マシンだから。

 

 扶桑は、ゲシュペンスト提督の机の上の湯飲みを見つめて少し溜め息を吐いた。

 

 今、ゲシュペンスト提督は司令室にいない。工作艦娘の明石に呼ばれ、そちらの方へ出向いて行った。

 

 扶桑はと言えば丁度昼休みの時間になっていたので、留守番を兼ねて昼食の弁当(手製)を食べている。

 

 箸でおかずの煮豆を器用に掴み、上品に口に運びつつもその目は提督専用の湯飲みに注がれている。

 

 もぐもぐ、と咀嚼して次にご飯を口に運ぶも、やはり湯飲みを見て、じぃぃっ。

 

 ゴクリ、とご飯を飲み込んで、そしてまた溜め息。

 

 扶桑は失敗した、と思っていた。

 

 彼女はゲシュペンストが元人間である事を知る、数少ない艦娘の一人だ。そして最もゲシュペンストとの付き合いが長い艦娘でもある。

 

 彼女は自分が最もゲシュペンストの事を理解している『女』だと自負し、そうありたいと常に思っているのだが、今回、飲み物を飲めない彼にお茶を出したのは失敗だったと思って少し落ち込んでいた。

 

 ゲシュペンストは、彼女の煎れた茶を飲もうとしたのだ。

 

 自然な動作で、頭部の、人間ならば口がある部分に湯飲みを近づけて。

 

 飲めるはずもなく、だばっ、と自分のボディにそれをぶちまけてしまった。

 

 彼は非常に驚き「うわぁっ?!あっ、そうか、俺飲めないんだった!!」と言い、茶のこぼれたデスクを見て「いかんいかん、布巾布巾!!」と、こぼれたお茶を布巾で拭いてから扶桑に頭を下げて謝った。

 

「すまん、せっかく煎れてくれたのに……」と。

 

 そのゲシュペンストの姿を見て、扶桑は少し悲しくなった。悪いのは彼ではなく、お茶を出した自分なのに、と。

 

 ゲシュペンストはしばしば自分が機械になっている事を忘れて無意識のうちに人間だった時のように行動する事がある。

 

 今回のお茶の件もそうだが、司令室の隣にあるベッドに寝転がろうとして壊したり、駆逐艦の子達が活躍した時に間宮でアイスを振る舞った時に、折角だから自分も食べようとして失敗したり、と今までにそういう失敗が数々あったのだ。

 

 その度に彼は落ち込んでしまう。自分が人間で無くなった事、人間としての楽しみの大半を失ってしまった事に。

 

 そして、しばらく経つと彼はまた忘れたようにまた、同様の失敗を繰り返すのだ。

 

 工廠の明石はそのゲシュペンスト提督の行動についてこう分析している。

 

 『ゲシュペンスト提督の人間としての精神は無意識のうちに人間として行っていた食や睡眠等の欲求を満たされたいと思っており、それが出来ない不満によってそのような行動を繰り返してしまうのだ』と。 

 

 はぁ~っ、と扶桑は何度目かの溜め息を吐く。

 

 わかっていたつもりなのに、どうして自分はお茶なんて出してしまったのだろうか。

 

 そんな自分にも落ち込む。

 

 「提督はあんなに優しいのに。私は何もしてあげられないのでしょうか……」

 

 窓の外はパラオの青。燦々と日は照って明るく。

 

 故に悩める乙女はこう呟く。

 

 「空はあんなに蒼いのに」と。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 一方、ゲシュペンスト提督は工廠の明石の研究室にいた。

 

 パラオ周辺海域は深海棲艦達との協定によって非戦闘区域指定されているとは言え、この地域の深海棲艦のボスである『空母水鬼』が統括する以外の『はぐれ深海棲艦』や『迷い深海棲艦』の出没はやはりある。

 

 それらはハグレとかマヨイとか呼ばれており、毎年何回かは近隣の海を荒らし回り、漁村や近くを航行する船を襲い、被害を出している。

 

 もちろん空母水鬼とパラオ泊地は協定により、協力してハグレやマヨイの被害をださないように警備や監視を行ってはいるが、それでも海は広く全てを取り締まるには至っていないのが実情である。

 

 明石はゲシュペンスト提督に新たな艦娘の建造を具申していた。いや、明石だけではなく長門や天龍、五十鈴までもがこの工廠の明石の部屋におり、提督に詰め寄っている。

 

「……人手不足、というわけでも無いはずだが」

 

 ゲシュペンストは今のパラオ泊地の戦力をタブレット端末に表示しつつ、過去の予定表のデータやそれぞれの傾向、そして休暇事情等を見比べながら首を捻った。

 

「戦力は確かに足りている。火力もな。それは提督の言うとおりだ」

 

 長門が腕を組みつつ頷く。では何故?とゲシュペンストは問おうとしたが、それを遮って天龍が先に答えを言った。

 

「海戦や決戦なら問題無いぜ。だけどよ、ハグレ相手の警備となると話は違うんだよ、提督」

 

 そのあとを五十鈴が継ぐ。

 

「大抵のハグレやマヨイは小型の駆逐艦や潜水艦がほとんどだって言うのは提督も知ってるでしょ?近頃出没してるタイプは小回りが利いて逃げ足が早い連中なのよ」

 

「相手が戦闘を仕掛けて来るならばいざ知らず、戦艦を見れば逃げ回るような奴らだ。小回りと速度では流石に大型艦では骨が折れる。逃げ場をふさぐにしても近頃は出没件数も増えて来ていて、このままでは近隣への大規模な被害が出る可能性もあるかも知れん」

 

 長門ほどの艦娘がそのように言うのだ。ゲシュペンスト提督は、ふうむ、と唸るように言うと、タブレット端末のデータを消し、今度は現在の資材の備蓄量のデータを表示させた。

 

 パラオ泊地は現在、戦闘が無い分資材はかなり余っており、備蓄量はほぼカンストしている。変わりに戦闘任務が無い分、本国への資材輸送によって泊地は予算や食料、医療品や様々な必需品をいわば交換して運営している状態である。

 

 ゲシュペンスト提督も艦娘を新造したところで資材はビクともしないことぐらいとっくにわかっている。

 

 わざわざ資材の備蓄量を表示させたのは、単に許可する申請書類に現在の備蓄量を書いた上でどれだけ資材を使ったのかも書いて大本営に提出する必要があるからだ。

 

 つまりゲシュペンスト提督は反対するつもりは無い。

 

「わかった。では明石、新造する艦種と数はどれぐらいにするつもりだ?」

 

「とりあえず、駆逐艦が6、軽巡か軽空母と組ませるつもりだけど、そうね……。いや、駆逐艦8、かしら。新しい子が来てくれるまでやるつもりだけど」

 

 明石はそう言い切った。

 

 

 建造のシステムは未だに人間のコントロールの外にある。建造は妖精さん達の仕事であるが、妖精さん達も実はやってみなければどの艦娘になるのかわからない。

 

 艦娘の建造の根幹は、かつての戦艦の魂を下ろしてその魂に合わせて身体や艦装を作るという事にある。

 

 同じ艦が何度も出来るという現象は、その艦の魂がいくつも分かれている事から起こることで……それを分霊と言うのだが……改装に置ける近代化改修は、この同じ艦の分霊を合わせて散らばった分霊を一つにして、魂の結合をする事に他ならないのである。

 

 明石が言っているのはつまりは、とにかく8人、今いる駆逐艦以外の子が出るまで回し続ける!!という事なのである。

 

 これをよその泊地や鎮守府なら土下座して止めてくれーーーー!!とその鎮守府の提督は泣いて叫ぶだろうなぁ。

 

 と、ゲシュペンスト提督は思ったが、このパラオ泊地は過剰過ぎるほどに貯まりまくっている。それも大型建造を10回回してもどうという事が無いほどに。

 

 

 ただ、一つ懸念があるとするならば。

 

 数日後にやってくる、土方歳子中将が新造艦娘達に変な影響を与えないようになんとかせねばならないと言うことである。

 

 建造が終わったら、とりあえず皆に通達せねばならないな、これは。

 

 ゲシュペンスト提督は少し溜め息を吐いた。

 

  

 

 

 

 




 書いてるうちに扶桑さんがなんとなく恋する乙女みたいになってるなー。

 ちなみに、扶桑さんだけが人間だった頃のゲシュペンスト提督の本名を知っている、という設定です。

 なお、ゲシュペンスト提督は扶桑さんの気持ちに全く気づいてません。

 ロボットだから、マシーンだから、ではなく、単に外見が機械の自分が女性に好かれると全く思って無いからです。

 ゲシュさんが扶桑さんをどう思っているかは、不明。


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訳あり泊地

パラオ泊地に在籍する、パラオ泊地で建造された艦娘達以外の艦娘達の中には、訳ありの艦娘が含まれております。

扶桑もその中の一人ですが他にも……。


 

 

「「「「なんだとぉぉぉっ!!」」」」

 

 土方中将が査察に来る、と長門、天龍、五十鈴、明石に伝えると、やはりというかなんというかこのザマである。

 

「ざけんじゃねーぞ、おい!!」

 

 と天龍。

 

 いや、まったくその通り。

 

「やめてよね~!!」

 

 と五十鈴。

 

 その気持ちはよくわかる。

 

「最悪だ。クロスロード作戦よりも最悪だ」

 

 と長門。

 

 いやいや、それはあんたのトラウマでしょ?!というかそれよりもトラウマなのかよ?!

 

「このタイミングで、災厄じゃない!!」

 

 と明石。

 

 最悪じゃなく災害扱いかよ。間違ってないけど。

 

 ゲシュペンスト提督は心の中で同意とツッコミを入れつつ、ゴホンと咳払いをした。まぁロボットなので実際に咳など出来ないので音声だけなのだが。

 

「そう、新造艦達にとり、悪影響やトラウマを植え付けるような事は避けねばならない。よってみんなの意見を聞きたいのだが……。ぶっちゃけ、何かいい案はないだろうか?」

 

「……提督が、土方中将の乗っている航空機をブチ墜しに行けば丸く収まると思うのだが?」

 

 まず、土方中将を嫌っている長門が非常に物騒な事を言い出した。

 

 この長門は元々はパラオ泊地で建造された艦娘ではない。またドロップでもない。彼女はゲシュペンストが提督に着任した際に、海軍元帥である松平朋也閣下から戦術指南役として贈られた艦娘である。

 

 故に本国に帰る土方中将とはちょうど入れ替わりにこちらに来たわけであまり面識はない。にも関わらず彼女が土方中将を嫌っているのには理由がある。

 

 それは、本国に帰った土方中将が新造した長門型一番艦長門にある。

 

 土方中将の長門は、土方中将の性癖にかなりの部分で影響を受けた為、土方中将が『艦娘ラヴューン』ならばこの長門は『駆逐艦ラヴューン』と言うようなロリコンになってしまい、周りから「それ長門ちゃう!!ナガモンや!!」と言われる程に日本海軍の誉、ビッグセブン長門の名を汚しまくっているからなのである。

 

 誇り高き彼女としてみれば、土方中将もその『ナガモン』も許し難い存在である。とはいえ。

 

「「「却下っ!」」」

 

 ゲシュペンスト提督と他の艦娘達が声を同じく叫ぶように却下した。

 

「仮にもアレでも相手は日本海軍の将校にして大本営四大重鎮よ?!謀叛の意思ありと見られて粛清部隊が来るわっ!!」

 

 五十鈴がツッコむ。

 

「憲兵さんに連絡するのはもちろんの事として、誰かお目付役いざとなったら速やかに行動不能に出来るような子をつけるしか無いわね」

 

 明石が工廠の建造システムをコンソールで起動しつつ真っ当な意見を述べた。もちろんそれはゲシュペンスト提督も考えていたが、問題は土方中将につける人材である。

 

「……誰をつけるのが良いだろうか。シフト調整前だから今なら人材は都合はつけられるだろうが……」

 

「コレに関しちゃ、志願者を募るワケにはいかねーだろな。志願者を募ったら、アレを増長させるような奴が手を上げてくるだろーしな」

 

 そう、天龍が言うように志願してくる艦娘は容易に想像できた。おそらく志願者筆頭に挙げられる艦娘は、暁型四姉妹であろう。

 

暁型四姉妹は土方中将を特に嫌ってはいない。

 

 それどころかかなりの部分で影響を受けており、例えば響などはやたらとフリーダムで予測不可能な性格となっていたり、雷はやたらと鈍器を振り回したりする。

 

 電は影響が少ないもののやたらと土方中将に甘い。

 

 ネームシップの暁が一番土方中将の影響を受けてはいないのだが、この三人にやたらと振り回され気苦労ばかりかけられており、その役をさせるのは酷というものである。

 

 故に却下。

 

 

 次に高雄型四姉妹のうち、愛宕。

 

 彼女は全く影響を受けてはいないのにやたらと土方中将を甘やかす。なんというか全てを受け入れるような優しさで見守りつつ「あらあら、うふふ」と優しく接するのであるが今必要なのは優しさではなく、監視役なのである。

 

 故に却下。

 

 また、愛宕では非常に心配だからと姉の高雄がおそらくそれに付き合うであろう事も推測されるが、以前にそれで彼女は急性胃炎でぶっ倒れた事がある。

 

 故に余計に却下。

 

 摩耶、鳥海に関しては絶対に志願などするはずもなく、たとえ姉達が志願したとしても何らかの任務に志願してそれを避けようとするだろう。

 

 まぁ、志願しないだろうから、それはそれで善し。というか摩耶と鳥海には向かないのもある。

 

 

 さらに、金剛型四姉妹。

 

 パラオ泊地の金剛は女性提督に対してはバーニングラブをしない。彼女は非常にノーマルであるからである。とはいえ土方中将に対しては友情のようなものを持っており可もなく不可もない。

 

 しかし、問題は比叡と榛名、そして霧島である。

 

 ここの比叡は土方中将を嫌っている。金剛とのスキンシップがやたらと多いのもそうだが、それよりもなおかつ比叡はここにいる金剛とは別の鎮守府、それもブラック鎮守府の出身であり、提督という人種をすべからく嫌っているのである。故に彼女は嫌がらせの為にワザと不味く作った通称『比叡カレー』をやたらと食わせようとする。

 

 ゲシュペンスト提督も一度出されたが、ロボット故に食べることが出来ない事もあり、被害は受けていない。ただし、カレーに含まれていた成分を分析して大量の下剤が入っていることを知って恐怖した事がある。

 

 却下、だろう。

 

 

 榛名も比叡と同じく別の鎮守府の所属だったが、彼女の場合は普通にホワイトな良心的かつ常識的な提督の所で働いていた為、土方中将のような所謂変態には慣れておらず「榛名は……だ、ダイジョーブ、でしょうか?」と、ぶっ倒れるのが目に見えている。というか一度それで本当にぶっ倒れた事があるので不憫である。

 

 故に却下。

 

 最大の問題は霧島であろう。

 

 彼女は普段は冷静沈着で常識かつ理性的な性格で、普段怒るという事はめったに無い。まるで菩薩のように振る舞う、所謂知的女性の鑑である。しかし、そんな彼女をかつて土方中将はキレさせた事がある。その怒りの激しさたるや恐るべし。司令室が全壊し、逃げ出した土方中将を一晩中追い回し、そして捕らえた後は営倉へと叩き込んでようやっとその怒りを納めたという事態になったのである。

 

 流石の土方中将もその後は霧島を怒らせないようにしたと言う。

 

 故に……いや、霧島は保留。

 

 

 というように、志願させるのも問題なのである。

 

「……こんな時に鳳翔さんが居れば」

 

 五十鈴がそうポツリとつぶやく。

 

「いや、そんなしみじみと亡くなった人の事を言うように呟くんじゃない。鳳翔は寿退職して日本に帰っただけだろうが。だが、それには同感だな」

 

 長門が言うように鳳翔は現在、パラオ泊地にいた憲兵の一人と結婚し、本国へ帰国。その後に居酒屋を営みつつ幸せに暮らしているそうである。

 

 ただパラオ泊地にいた鳳翔は土方中将だけでなく、元帥である松平朋也閣下、近藤大将、沖田少将など、海軍の御歴々全てが頭が上がらない艦娘であった。

 

 なにしろ、松平元帥の前、今は隠居している山本元元帥の艦娘の一人であり、深海大戦と現在呼称される今の戦争の初期から戦い続けていた伝説の艦娘だったのである。彼女が今もパラオ泊地にいたならばこんなに悩むことは無かっただろう。

 

 長門はむう、と唸り、

 

「……いっそ、龍田に頼むか?」

 

 と言った。

 

「却下だ。それ土方中将を殺らせるつもりで言ってるだろ。ウチの妹を人殺しにさせんな」

 

 天龍が長門を睨んだ。

 

 パラオ泊地所属の天龍型二番艦龍田は訳ありの艦娘である。かつては『第13特務部隊所属・部隊長』だった。

 

 公式に特務部隊は12番隊までしか存在しない事になってはいるが、それぞれが何らかの内調や調査部隊となっている。しかし、非公式として13番隊は存在していた。

 

 この13番隊は特務部の暗部であり、対人暗殺に特化した『死神部隊』と呼ばれる部隊だったのである。

 

 無論、そんな部隊を運営している特務部はブラックで非人道的であり、さらには海軍の元帥である松平朋也閣下ですらも全容すら掴めないアンダーグラウンドなネットワークの元に活動していたのである。

 

 彼女が何故パラオ泊地所属になったのかは、今ここにいる四人とゲシュペンスト提督の他に知るものはいない、機密である。

 

 故にここにいる者には天龍が言っている本当の意味がわかるのである。

 

「龍田は……却下、だな」

 

 ゲシュペンスト提督がううむ、と唸る。

 

「大和は振り回されるだろうし、武蔵はああ見えてピュアだから無理。赤城はしっかりしてるけど身内には甘いし、加賀は爆撃しかねない。妙高は向かないし、足柄は暴行を加えかねないし、羽黒は無理。ビスマルクは当然逃げるし、プリンツは哀れな事になるからダメ。グラーフは大本営で研修中、雪風島風天津風はどう考えても被害甚大。もちろんここにいる面子で長門は殺害計画立てたから却下、間宮は開発が押してるから無理、天龍も私も新しい子達の教練の予定をもう立てちゃってるから無理、提督はアレの被害に備えて司令室を離れられないだろうし……。ダメね、誰も適任者がいないわ」

 

 五十鈴が頭を抱えた。

 

 この場の誰もが、深く絶望のため息をはぁーーーーっと吐いた。

 

 ゲシュペンスト提督は、もう霧島先生に頼むしかないかなぁ、と思い始めていた。





 長門がいる鎮守府や泊地は全部で12。つまり、長門は12人いるわけですが、件の『ナガモン』は長門達からは長門扱いされてませんので数には入りません。

 比叡は元々料理上手な艦娘でしたが、わざとマズい飯を作って提督に食わせる事でうさを晴らそうとする、という設定です。なお天敵は赤城さん。

 天龍も実は訳ありな艦娘で、所謂フフ怖さんではありません。様々な経験から怒ると無言かつ冷静になる性格になってます。

 なお、おそらくなんか不憫な艦娘は榛名。いろんな意味で。


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対土方用員。

 おーれの、ぶーきを知ってるかい♪

 パラオの憲兵さんは、ダイナマイトだ。だが、柱時計の出番はまだない。

 


 ゲシュペンスト提督が「致し方ない、ここは霧島に……」頼むしかないか、と言いかけたその時。

 

 部屋のドアが勢いよく開き、そして「ぽい~っ!!」と夕立がゲシュペンスト提督に向かって飛びついて来た。

 

「とっしーの相手は夕立がするっぽい!!」

 

 ゲシュペンスト提督に抱きつきながらそう言った。その後ろから時雨が入って来て、

 

「もう、夕立。ノックしてからだよ」

 

 と、困ったようにしかし笑いながら夕立をたしなめ、そして「報告書を出しに司令室に行ったら扶桑が提督はここだって言ったから」とゲシュペンスト提督に少し笑いかけつつ言った。

 

「報告書は扶桑に渡したけれど、夕立が褒めて欲しいからって」

 

 時雨の言葉に、ゲシュペンスト提督は自分にしがみついてる夕立を見た。

 

 にっぱーっと裏表のない元気な笑顔がそこにあった。

 

「褒めて欲しいっぽい!夕立、たくさん頑張ったっぽい!」

 

「ふむ」

 

 このはしゃぎようは、おそらく夕立は今回の哨戒出撃でMVPを取ったのに違いあるまい。

 

 ゲシュペンスト提督は夕立と時雨の部隊の報告書のデータを通信で呼び出して詳細を見てみることにした。

 

 先ほど時雨が扶桑に報告書を渡したと言っていたが、扶桑の事である。すぐにデータベースへ記録しているだろう。

 

 はたして予想通り、もうすでにそのデータは泊地のメインコンピューターに入力されていた。流石は扶桑である。仕事が早い。

 

 メインコンピューターとリンクしてデータを見て、ゲシュペンスト提督は驚いた。

 

 

『イ級26隻、ロ級10隻、二級8、ツ級2、チ級(elite)2隻、ヲ級1隻(flagship)』

 

 撃破数がとんでもない事になっていた。それなのにこちらの損害はゼロ、さらに全てS勝利であった。

 

 確認のため、データベースから艦娘に搭載された記録映像のデータを呼び出し、それを六人分同時に一瞬で再生し、検証、そして正確に分析した。

 

 (おいおい、もうこれ、駆逐艦の戦闘じゃないぞ)

 

 艦隊に重巡の青葉や他の駆逐艦も居たとはいえ、撃破数のほとんどはこの二人が稼いでいた。

 

 報告書の文面の戦闘の説明では、

 

 他の駆逐艦達の援護を受けつつ、夕立と時雨が突っ込んで攪乱しつつ、左右に展開、魚雷を持つ敵駆逐艦を次々と撃破し、その間に重巡の青葉が敵旗艦を精密砲撃で大破に追い込み、その後強襲を受けて散らばろうとする駆逐艦や重雷巡をみんなで囲い込み、全艦娘が全力攻撃し、殲滅。

 

 映像記録でも確かにそのように戦っているのだが、内容や艦娘達の動きはまるで猟犬が獲物に襲いかかっているかのようだ。海を飛び跳ね、砲を撃ち、魚雷を直接ツ級やチ級の頭に投げ槍のように投擲し、確実に一撃を文字通り必殺と叩き込むという、ありえない戦い方を繰り広げている。

 

 その中でも二人の戦闘能力ははるかに同レベルの駆逐艦を超えており、夕時おそるべしと内心ゲシュペンスト提督は唸った。

 

 データの閲覧を終えて(実際には一秒もかからない)ゲシュペンスト提督は自分にしがみついている駆逐艦と、もう一人の静かに自分の反応を待っている駆逐艦を交互に見た。

 

 どちらもにっこりと邪気の無い笑顔を浮かべている。

 

(こうして見ているととても可愛い子達なんだがなぁ)

 

「夕立がMVPか。時雨もすごかったな」

 

 夕立を撫でる手と反対の手を時雨に伸ばしてやはり頭を撫でてやる。

 

 

 この白露型二番艦と四番艦もある意味訳ありの艦娘である。とはいえ別にブラック鎮守府の出身というわけではない。

 

 二人は深海棲艦の大侵攻によって壊滅させられた鎮守府の生き残りだった。提督になったばかりのゲシュペンスト提督は、救助要請に従ってその鎮守府へ文字通り飛んで駆けつけたが、そこには多数の艦娘の遺体と深海棲艦の残骸、そしてレ級フラッグシップ、ル級エリート二隻と戦い続けている二人の姿があった。

 

 二人は弾薬尽きても、闘志を絶やさず倒れた仲間の武器を拾って撃ったり、拳で殴ったり、蹴ったりして互角に戦っていた。

 

 二人ともどう見ても大破状態であり、燃料も限界に近く、このままでは彼女達もやられてしまうのは目に見えていた。というか、もう二人の燃料が尽き、沈んでいきそうになっているのが見えた。

 

『うぉぉぉぉっ!究極ぅぅっ!!ゲシュペンストぉぉっ、キィーーック!!』

 

 ゲシュペンスト提督は、自身の最大奥義ともいうべき必殺技モーションを発動させて急速に敵に向かった。このまま飛んで向かうよりは、ゲシュペンストキックのモーションのオーバーブーストで突っ込む方が早い。

 

『このまま三隻同時に蹴り貫く!!』

 

 ドゴドゴドゴーーーーン!!

 

 はたして狙いは完璧、ル級エリート二隻とレ級フラッグシップ一隻、まとめて同時に爆発四散。

 

 こうして、ゲシュペンスト提督は夕立と時雨を助け、二人を抱きかかえてパラオへと連れ帰った。

 

 その後はいろいろトラブルやらなんやらあったものだが、二人はパラオ泊地に所属することを選択し今にいたる。

 

 

「んっ……提督さん、もっと撫でて欲しいっぽい」

 

 夕立が頭をゲシュペンスト提督の手に押し付けてせがんだ。

 

「はいはい、夕立は甘えん坊さんだなぁ」と言いつつ、時雨を撫でる手も緩めない。

 

 二人の凄惨な過去を知る故に、ゲシュペンスト提督はあえて二人には甘えさせるようにしている。人ならざるロボットになっていても、なにか二人に出来るならば、と思っての事である。

 

 この二人は仲間や自分の提督を亡くした事から、時折精神状態が不安定になる。明石によれば、適度なスキンシップを与える事で安定しやすくなる、らしい。

 

 この場にいる長門や天龍達もゲシュペンスト提督がこうして二人に接している時には何も言わずそっと見守るようにしている。自分達もいろいろあった身だからである。

 

「んっ……少し、くすぐったいかな」

 

 夕立は素直に自分の欲求を伝えてくるが、時雨は引っ込み思案な所があり、なかなか伝えてくれない。

 

 だが、こうして二人の頭を撫でていると、やはり姉妹艦なのだな、と思うほどに反応がよく似ている。というか、犬っぽい。なんとなく。

 

 一通り頭を撫で終わり、ゲシュペンスト提督は胸に貼りついていた夕立を引き離した。

 

 襟首掴んでひょい。 

 

「しかし、夕立。さっき土方中将を引き受ける、と言っていなかったか?」

 

「うん、言ったっぽい!」

 

 明るく元気に答える夕立に、一同は苦い表情を浮かべた。夕立は土方中将が本国に帰ってからパラオ泊地に来た艦娘で、特に面識は無いはずである。なのに何故に志願してくるのか。

 

 というか『とっしー』って何だよ、とゲシュペンスト提督は思うも、おそらくは他の艦娘……大方暁型あたり……に話を聞いているのだろう。

 

 ふむ……。

 

「大丈夫さ。僕も一緒に警護にあたるから」

 

 時雨も多少苦笑しつつ言った。おそらくそうなるだろうとゲシュペンスト提督も予想していた。

 

 この二人は基本、いつも一緒に行動している。仲がよいというよりは、過ぎる。

 

 これも、鎮守府壊滅の時のトラウマが原因だ。二人はお互いに、亡くなった昔の仲間を見ている。離れれば、おそらくはどちらも死を選ぶのではないかと危惧するほどに互いに癒着している。

 

「……しかし、だな」

 

 懸念材料はある。ゲシュペンスト提督は迷った。だが。

 

「提督。私は良いと思うぞ?」

 

 長門が二人を見て頷く。

 

「ああ、夕立と時雨なら、確かに問題無くこなすんじゃねーか?アレが暴走してもよ?」

 

 天龍も賛成のようだ。

 

「そうね。でもさっき提督、霧島の名前を言ってたわね。なら、霧島を旗艦、夕立と時雨で組ませればいいんじゃない?多分、監視の目を逃れて艦娘にちょっかいかけようとしても、夕立と時雨なら穏便に捕まえられるでしょうし『土方汚染』も大丈夫でしょう。霧島の頭ならきちんと司令塔として二人を使いこなせるだろうし……頭に血が昇らなければ、多分」

 

 五十鈴の提案は、それしかない、とゲシュペンスト提督に思わせた。

 

 かつて五十鈴は出世艦とよばれ、五十鈴の艦長を勤めた人物は出世し、山口艦長、山本艦長の出世話は今もなお海軍史に残り、語られている。

 

 そんな彼女の人を見る目は本物だ。適材適所を正しく見て、今も彼女は駆逐艦達や他の艦娘達のそれぞれの長所を伸ばし、育てている。

 

 出世艦の名は伊達ではない。

 

 ゲシュペンスト提督はうむ、と頷き、長門、天龍、明石に「では、夕立、時雨に加えて霧島で土方中将の対応に当たらせる事としたいが、他に意見がある者はいるか?」と問うた。

 

 みな、異論は無い。

 

「よし、では夕立、時雨両名は今から……いや、出撃から帰ってそのままか?というか、あと一時間で夕飯か。ふむ。両名は風呂と夕飯が終わったら、そうだな。1930時、だな。司令塔に出頭してくれ」

 

「わかったっぽい!」「了解だよ、提督」

 

 厄介事を任されたというのに嬉しそうな夕立と時雨の顔に若干の罪悪感を感じつつ、ゲシュペンスト提督はこれで何とかなりそうだとおもった。

 

 しかし、油断は出来ないんだよなぁ、とゲシュペンスト提督は嫌な予感を感じて、やはり悩む。

 

 ロボットになっても第六感というものは無くならないらしい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 司令室に戻ると、そこには扶桑だけでなく、パラオ泊地の憲兵さんが待っていた。

 

 ゲシュペンスト提督が工廠の研究室を出て行く時に「憲兵に通達しておきます」と言っていた。

 

 通達したのは少し前なのに流石は憲兵さんである。動きが早い。

 

「お忙しい時にすみません。ちょっと困った事案が持ち上がりまして」

 

 ゲシュペンスト提督は憲兵に頭を下げつつ、そう言った。

 

「いや、私達はこの泊地の治安を守るのが職務ですからねぇ。むしろそうやってご協力をいただけるのはありがたいですね」

 

 そう言いつつも、その表情と仕草で憲兵隊の隊長である『ブルーノ』が厄介だと思っているのは明白であり、さらにはうんざりもしているのもよくわかった。

 

 ゲシュペンスト提督のデータベースにあるブルーノという男の経歴を一言で言い表せば『この世の不幸と厄介事の塊』となる。

 

 かつて彼はアメリカの某市の刑事であった。

 

 犯罪組織に占拠されたビルで、銃器で武装したテロリスト相手にその場に落ちてるコショウの瓶やモップ、時には柱時計などを武器にして戦闘を行い、事件を解決し人質を救助した、とデータにはある。

 

 それだけを見れば英雄と言っても良いのだが、英雄と呼ばれる人間は大抵不幸だと言うのは本当だと思うぐらいに、彼も不幸であった。

 

 キャリアウーマンだった奥さんから離婚され、愛していた子供とも離れ離れ。

 

 さらには昔救助した元アメリカ大統領の娘に謀られてまたテロリスト相手にドンパチを繰り広げる羽目になり、日本にまで行かされた、という。

 

 そして、日本で起こった深海棲艦の侵攻に巻き込まれるわ、アメリカに帰れないわ、死にかけるわ、を経て現在に至る。

 

 『ダイナマイト』とかなんとか言われていたらしいが、まぁ、それはさておき。

 

……昔に見た映画の、クリスマスに必ず不幸な目に合う刑事みたいだよな、この人。

 

 ゲシュペンスト提督はそう思ったが、口に出せるはずもないので言わない。というか言ったらいろいろとヤバい。なにかと。

 

「いや、なに。近々この本国に栄転したここの前提督が視察というか監査に来るという連絡がありましてね。その警備にご協力をお願いしたい」

 

 ゲシュペンスト提督はブルーノにそう切り出した。

 

「……おいおい、前の提督って言やぁ『土方歳子』じゃねぇか。ブラックなんたら……えーと、とにかくブラック鎮守府とかぶち壊したり、艦娘の尻追いかけたり、上司をクレーンから吊したり、とにかくとんでもねぇ奴だろが。というかヤツがくるのか?!」

 

 丁寧、というか慇懃無礼な口調が速攻で普段の無礼なだけの、というか素の口調になった。

 

「概ね、その通りです」

 

 ゲシュペンスト提督は口調をかえず、ビジネスライクに肯定した。本当ならば彼も普段の話し口調で話したいところだが、提督は海軍所属、憲兵隊は陸軍所属。さらには彼ら憲兵達には必要性があれば『提督』すらも逮捕拘束する権限があり、やはりそういう相手にはこういう対応となってしまう。

 

「おいおい、マジかよ。あの『変態爆裂娘』が来んのかよ……」

 

 ブルーノは髪の毛が薄くなった頭に手を当てて、天井を見上げた。

 

 『変態爆裂娘』とは、憲兵隊が土方中将につけた徒名である。土方中将は過去、何度も憲兵隊のお世話になっていたりするのだが、なにかやる事に、まるで特撮映画かなにかのように爆発を起こしているのてそう呼ばれるようになったらしい。

 

 とは言え、確かに変態でトラブルメーカーであり、いらんことしかしない人間であっても自分の元上司である。ゲシュペンスト提督はブルーノに釘を刺しておくべきだと判断した。

 

「そう、土方中将が来るんですよ『ミスターダイナマイト』」

 

 『ミスターダイナマイト』はブルーノが刑事だった時の徒名であるが、本人はそう呼ばれるのを嫌っているらしい。そう呼ぶことで牽制する。

 

「……その呼び名はやめてくれ。つかあんた知ってたのかよ。わかった、とりあえずあんたの前では土方をそう呼ぶなってこったな?オーケーオーケー、わかったよ」

 

「わかっていただけたなら幸いです、ブルーノ隊長。とはいえご存知の通り、土方中将はトラブルメーカーです。というか、本当に視察や査察、監査等の目的で来るのなら何ら問題は無いのですが……」

 

 ゲシュペンスト提督はタブレット端末を取り出し、土方中将からのメールをブルーノに見せた。

 

 題:【遊びに行くよ!】 

 

 『親愛でもないけど、ゲーちゃんへ。この度各鎮守府に対する査察を行するに際して、とりあえず可愛い可愛い私の艦娘達の様子とか、新造された子とか、色々見たりしたり、しにいくから。ようするに行楽だねっ!答えは聞いてないのでよろしく』

 

 内容が酷い。正式な、それも海軍の通信を使って送られてきたメールなのに形式も格式も無視し、まるで親戚か友達の家に遊びに行く、そんな連絡にしか見えない。

 

「こいつは酷ぇ。軍の回線使って女子高生のメールかぁ?こいつぁ……」

 

 ブルーノは絶句した。

 

 その気持ちはよくわかる。

 

「まぁ、流石に理由も無く昔のように暴れたりはしないでしょうが、あの人は……いや、土方中将はとにかく艦娘達に対してかなりの、なんというか、その……」

 

 なんと言って良いのかわからなくなるが、ゲシュペンスト提督の言わんとする事を読み取り、ブルーノはそれを手で制した。

 

「ああ、わかる、わかってるから皆まで言わなくてもいい。つまりはアレだ、トラブル起こしそうな要人に警護の名目で監視する人員を、って事だろ?」

 

「概ねその通りです。お願いできますか?」

 

「ああ、厄介だが仕方ねぇ。とりあえず要請の書類出してくれ。こっちから何人か出す。アンタところも何人か出すんだろ?」

 

「ええ。何人か護衛に艦娘をつける予定で、選定中です。こちらの人員はまた明日にでもそちらとの顔合わせをさせましょう。書類はその時に持たせて送ります」

 

「はぁ、ここんとこ何事もなくヒマだったのになぁ。ま、書類よろしく。んじゃそのようにこちらも準備しとくぜ。……あー、もう行っていいよな?」

 

「はい、ではまた明日、よろしくお願いします」

 

「ああ、また明日、な」

 

 ブルーノはドアに向かい、振り向きもせずに手を上げてヒラヒラとさせつつ出て行った。

 

 少しして、秘書用のデスクで提督と憲兵隊隊長のやりとりを黙って静かに見ていた扶桑が口を開いた。

 

「独特な方ですね、あの憲兵さん」

 

「確かに型破りな人だったなぁ。まぁ、昔の隊長さんみたいに威圧感は無いし話易い。しかし油断の出来ない人、ではあるかもね」

 

 元刑事、というとゲシュペンスト提督の記憶には、『ウチのカミサンがね?』といいつつ容疑者の話を一通りきいて、聞き終わって帰るかと思わせて背中を向けたと思ったら『最後にもう一つ良いですかね?』と相手の油断を誘って容疑者の反応を見るという、ダンディーな熟練刑事のようなイメージがある。

 

 なかなかイメージが古いが、それはさておき。

 

 問題は彼が憲兵として対応出来るか否かなのであるが、未知数と言わざるを得ない。

 

 バイオレンスな事は得意そうな雰囲気だったが。

 

 ちなみに前の憲兵隊隊長はかなりの堅物であり、融通の利かない性格で、憲兵隊の中でも最も恐れられていた人物だった。

 

 名前を『斎藤一夫』といった。

 

 散々トラブルや厄介事を起こす土方中将に対して派遣された人材で、ついた徒名が『土方殺し』。

 

 そんな彼も、今はもうパラオを去り、本国へ帰って行った。『対土方用憲兵』は土方が本国へ栄転したのと同時に土方を追うように日本へとまた赴任していったのだ。

 

 なお、この斎藤隊長と結婚して寿退職したのがパラオ泊地にいた鳳翔である。

 

 つまりはこのパラオから、対土方憲兵も土方に対してお説教の出来る艦娘も二人していなくなったわけで。

 

「……やはり、斎藤さんと鳳翔さんが居てくれたなら、なぁ」

 

 ブルーノ隊長を信用しないわけではないが、ゲシュペンスト提督はかつて最も土方中将に対して有効だった二人を思い、溜め息を吐いた。

 

 ここ数日、溜め息を吐いてばかりのゲス提督であった。

 





 ダイナマイト刑事、昔好きだったんですよ。ええ。

 どうみても、ダイでハードなアレがモデルなあのゲーム。ハマってたなぁ。

 というわけで、憲兵さんはブルーノさんです。

 誰得なのかは不明ですが。


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紅茶楽隠居・昼行灯、金剛。

 パラオの金剛は世界で初めて発見された、最初の金剛。すなわちファースト金剛おねぇさま。

 なお、婚期逃したババァなどとは言ってはいけない。

 海千山千の古強者ですが、普段は優雅に楽隠居して紅茶ばかり飲んでます。


 パラオ泊地の金剛型の四人は、それぞれ出身が違う。

 

 一番艦の金剛はこの世界で初めて発見された金剛であり、ドロップ現象で入手されたという。

 

 次に二番艦比叡は離島基地という小規模な基地で建造されたとされる。この離島基地は海軍の正式な施設ではなく、日本政府の実験施設であったらしい。

 

 三番艦の榛名は呉鎮守府で建造された。パラオ泊地への移籍は本人の希望によるものらしい。

 

 四番艦の霧島はゲシュペンストがパラオ泊地の提督になった際に建造した艦娘のうちの一人である。

 

 とはいえ艦娘の姉妹の絆は建造された場所が違っても変わることは無い。

 

 他の鎮守府の金剛型であっても姉妹として彼女達は認識するし、たとえ性格がヒネていたとしてもその関係は変わらないのだ。

 

 故に、そう、故に。

 

 

「……霧島を呼んだのに、何故に金剛型全員が来るんだ?」

 

「ヘーイ、ゲッシーぃ、私達四姉妹は一心同体デース!!」

 

金剛型一番艦の金剛が元気よくそう言って提督にピースをかます。この金剛はゲシュペンスト提督を提督とは呼ばず、ゲッシーと呼ぶ。

 

 彼女は年齢で引退した元大将、菅原道雄がドロップ現象で得たという、海軍で最初に確認された金剛型であり、この深海大戦を初期の頃から戦い抜いて生き抜いてきた生き字引的な艦娘である。

 

 彼女にとって提督は引退した菅原元大将ただ一人であると公言しており、土方中将でさえもトッシー、言わんやゲシュペンスト提督さえもゲッシー、つまりはヒヨッコ扱いなのである。

 

 なお、当時の初期の艦娘で生き残った皆さんは大抵はケッコンカッコカリや結婚(ガチ)をして引退しているが、金剛は菅原元大将にフられ、(菅原道雄元大将の妻は高雄である)婚期を逃し、他の鎮守府の提督にも見初められず、女性である土方中将の元から現在ゲシュペンスト提督(ロボット)の指揮下にある。

 

 無論、この金剛はノーマルであり、土方中将にバーニングラヴをかます事も無かったし、ロボットであるゲシュペンスト提督にバーニングラヴをかます事も無い。

 

 彼女はいい縁に恵まれていないのか、それともシングル志向なのか、わからない。ただ、彼女を『ババァ』と言った者には死ぬよりも恐ろしいナニかが待っているのは事実である、とだけ言っておこう。

 

 さらに付け加えておくならば、金剛のいる各鎮守府での金剛のケッコンカッコカリ率は約90%というデータがあるが、この金剛は練度99で止まっている。

 

 

 それはさておき。

 

 基本、金剛型四姉妹は非常に仲が良い。そして元気も良い。四人揃えばかしましいを通り越してフリーダムである。

 

 

「……妹を一人で呼び出して何させるつもりです?気合い入れて!!……撃ちますよ?」

 

 比叡は本来ならばこんな性格では無い。が、過去の経歴によって精神が少し病み気味なのである。とはいえ姉妹思いないい子なのは変わりない。

 

 彼女は艦娘を建造出来るようになり、量産をして逐次投入という物量作戦を敢行していた頃に建造された。

 

 当時は艦娘暗黒期とさえも言われた海軍最悪の時代であり、彼女は地獄の戦いを生き抜いたその後遺症で精神に変調をきたし、パラオ近海が交戦禁止指定地域になった際に、精神療養を目的として転属されてきたのである。

 

 

「あのっ、は、榛名は大丈夫です!」

 

 榛名はまぁ、いつも通りの榛名である。

 

 この榛名は艦娘擁護派と言われる、海軍の実力のある若手将校達によって結成された派閥に所属していた提督の鎮守府で建造された、まだ比較的新しく建造された艦娘である。

 

 金剛が初期とするならば、比叡は中期、榛名は中期よりもさらに後という事になる。

 

 この榛名のいた鎮守府は所謂ホワイト鎮守府と呼ばれる所であったのだが、そこの提督は若手であり、経験が少なく、一度艦隊の指揮をあやまり、榛名を大破させた事がある。

 

 榛名は命からがら無人島に漂着する事ができたが、そこでまだ海軍に協力する前、この世界で元の世界に帰り、人間の姿を取り戻す方法を探していた頃のゲシュペンストと出会い、助けられたという事がある。

 

 この榛名はそのゲシュペンストが提督としてパラオ泊地に着任した時に恩を返すために、と志願して転属してきたのである。

 

 義理堅い子だな、とゲシュペンスト提督は思っているが、乙女の思惑が見え隠れしていたり、なんだり。

 

 なお、ゲシュペンスト提督はまったく気づいてはおらず、義理堅い子だなぁ、と思っているだけだったりする。

 

 

「司令、申し訳ありません。司令室に向かう途中に捕まってしまいまして……」

 

 霧島は頭を下げて恐縮している。この霧島はゲシュペンスト提督が初めて建造した戦艦であり、ある意味思い入れがある艦娘の一人である。なんというか、自分の娘のような、そんな思いすらもあり……ゲシュペンストの中身はまだ30代ぐらいなのだが……彼女には甘くなってしまう。

 

 戦術指南役の長門や五十鈴、そして古強者の金剛から様々な知識を吸収して、今では艦隊の頭脳としてかなりの実力を持っており、ゲシュペンスト提督としては大いに期待をしている。

 

 とは言え、なんというかそんな子にアレの警護をやらせねばいかんというのは、ゲシュペンスト提督としては非常に申し訳ない気分になってしまう。

 

 出来ればやらせたくはないのだが、と考えるが、致し方ない。

 

「いや、霧島、大丈夫だ。そんなに恐縮する事は無いぞ?」

 

 そう言い、安心させようとして突然、ゲシュペンスト提督は向こうの秘書艦デスクの方からゾクリとする何かを感じてビクッとした。

 

 カメラアイを動かして扶桑の方を見るが、何事も無かったように扶桑はカタカタとPCのキーボードを打って書類を作成している。

 

 扶桑はゲシュペンスト提督が金剛型といるときに何故か機嫌がわるくなる。

 

 しかし過去を遡って彼女達が戦艦であった頃から艦娘になった今まで、特に扶桑型と金剛型に何かあったというわけでも無く、ゲシュペンスト提督には全く原因がわからない。

 

 ここの扶桑は初期のドロップ現象で発見された海軍最初の戦艦であると公式記録にはある。つまりはかなりの古強者ではあるが、自分が持つデータには無い何かが過去にあったのかもしれないな、とゲシュペンストは考えている。

 

個人のプライベートな事はあまり介入したくないし、何より今は霧島に任務を与えねばならない。

 

 たった数秒にも満たない思考を切り替え、ゲシュペンストは霧島に向き直る。まぁ、ゲシュペンスト提督の視野は約360度なので実際にはカメラの切り替えだけで、目も頭部も動かしていないのだが。

 

「司令、どうなさいましたか?」

 

 霧島がそんなゲシュペンスト提督の様子を見て首を傾げた。

 

「いや、大丈夫だ。何でもない」

 

 榛名が扶桑の方をジトッとした目で軽く睨んだが、すぐに笑顔を作って提督の方に向き直る。

 

 幸いゲシュペンスト提督はそれを見ていなかった。霧島の方を見ていたからだ。

 

「霧島、いや金剛型四番艦霧島には新しい任務の為、駆逐艦二隻と合流し、それに当たって貰いたい。任務の内容は要人の警護ならびに監視である。……頼めるか?」

 

 それを聞いた金剛が「オーゥ!!」と叫び「トッシーが来るのデースネ!!」と言った。

 

「ヒェーッ?!」

 

 比叡が叫び。

 

「……きゅう」

 

 榛名が変な声を、だして倒れ。

 

 ピシッ!と霧島の眼鏡が割れ、硬直した。

 

「金剛、なんでそれを知ってんだ?つか、俺、明日まで箝口令敷いてたのに?!」

 

「そんなの、トッシーが私に連絡してきたカラねー。『あ、今度遊びにいくよー』ってネー」

 

「ぐあぁぁぁぁっ、あんの変態めっ!!こっちはトラブルとか他の艦娘達への影響とか騒ぎにならんように配慮してんのに、だぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ゲシュペンスト提督は頭を抱えて叫んだ。彼がそんな風に取り乱すのは非常に珍しい事である。比叡や榛名、霧島がそれを見て我にかえるほどであるが、金剛は慣れているのか、さらりと。

 

「ハイハイ、取り乱さナーイ!!ゲッシーはホント、最近チョットは落ち着いて来たカナーって思ったらこれなんダカラァ。ダイジョーブ、知ってるのはワターシだけデース!」

 

「うぐぐぐ、つか、なんで報告してくんないんだよ金剛さん」

 

「そんなの、今朝のメールだったカラネー。それにいつ来るかワカンナイし、ゲッシーもここのところワターシを避けてるからネー仕方無いヨー?」

 

「避けてるんじゃ無く、忙しいんです!!」

 

「ホラホラ、口調が昔に戻ってるヨー?仕事中は提督しなきゃ、ノーなんだからネー?」

 

 ぜーはーせーはー、と肩で息をするゲシュペンスト提督(呼吸は必要無いのだが)とからかうように飄々と笑う金剛。

 

 なんだかんだ言ってもこの金剛は海千山千なのである。まだ若い(中の人の経験的に)ゲシュペンスト提督ではかなうわけはない。

 

「提督。時間が押してます。駆逐艦二名があと数分で来る時間になります」

 

 ひゅおぉぉぉっ、とあたかも北極のブリザードの如き冷たさを含んだような、冷たい声が秘書艦デスクから吹いてきた。普通に話している筈なのに、何でこんなに怖いのか。

 

 そこには扶桑が、静かに怒っておられた。

 

 ゴゴゴゴゴゴ、と効果音すらしてきそうだ。

 

「オーゥ、それは仕方ナイねー」

 

 いかにも外国人が肩をすくめるような仕草でやはりそれを流す金剛。

 

ゲシュペンストはビックウ!!と恐怖すら感じているのにまったく動じていない。比叡や他の金剛型は顔を青ざめさせ、ビシッ!と気をつけの姿勢をとっているのに。

 

 「まぁ、ゲッシー弄るのはコレぐらいにするカネー」

 

 ちらりと横目で扶桑を一瞥してニヤリと笑いつつ。

 

「で、霧島と誰をトッシーにつけるのデースカ?」

 

「仮にも上司なんだから弄るなよ……。夕立と時雨をつけるつもりだ」

 

「あははは、まだまだワタシからしたら、ヒヨッコだヨー?まぁ、かなりの所イッテルけーどネー?ふぅん、あの二人デス力。いいと思うけど、足りないかもネ?」

 

「足りない、か。確かに」

 

 ゲシュペンスト提督が思っていた事をやはり金剛は突いてきた。

 

「オーケー、川内と神通はどうネ?那珂チャン抜きで。特に川内は打って付けだと思うヨー?」

 

 ふむ、とゲシュペンスト提督は検討してみる。とは言え川内型は軽巡であり、海上警備では外れて欲しくない人材ではある。

 

「海上警備のコト考えてるネー?ダイジョーブ、ワターシ達が交代するヨー?最近出番ナイから運動不足解消にチョウドいいネー」

 

「……しかし、最近のハグレ達は、戦艦の速力では追えないとの報告がある。いかに高速戦艦と言え、その辺はどうにかなるのか?」

 

「その辺は長門に聞いたヨー?ダイジョーブネー。オネーサンに任せなサーイ」

 

 むぅ、とゲシュペンスト提督は唸る。

 

 この金剛は戦闘に対して絶対に慢心はしない。また、無理はしない。状況判断の怪物と松平元帥に言わしめた艦娘である。このパラオ泊地では『紅茶御隠居・昼行灯』などと揶揄されることもあるが、パラオ近海を交戦禁止指定地域にするまでの間、何度もゲシュペンスト提督は彼女に助けられている。

 

「では、任せよう」

 

「オーケーねー。じゃあ川内と神通には話つけとくヨー。じゃあ、霧島を置いてくカラ、あとはよろしくデース」

 

 そう言って金剛は霧島をこの場に残して、次女と三女を連れて退室していった。

 

「……疲れる」

 

 ゲシュペンスト提督は一言ボソッと呟くと頭をガクッとうなだれさせた。

 

 金剛と話すといつも精神力をごっそりと持って行かれるような疲労を覚えてしまう。

 

「あの、司令?」

 

 ああ、そうだ。霧島だ。と、気力を振り絞って頭を起こして頭を持ち上げて、霧島のを見る。

 

「とりあえず、土方中将がこのパラオに来る。すまないが護衛と警備の指揮を霧島に頼みたい。もうすぐ、夕立と時雨がここに来る。まぁ、金剛の発案で川内と神通も霧島につけることになる……というかそっちはまだ未定だが」

 

「はぁ、それは……。気が進みませんが、命令とあれば全力で任に当たらせていただきます!」

 

(……ええ子や。多分、金剛型の一番の良心に違いない)

 

 内心ゲシュペンスト提督はそう思うも、秘書艦デスクからの謎のプレッシャーにやはりゾクリとしたものをまた感じ、いや、任務任務と思い直す。

 

 後で扶桑の機嫌をなんとかせねば、と考えるうちに司令室のドアが勢いよく開けられた。

 

 夕立と時雨か?と思ったがそこにいたのは、川内であった。

 

「川内、参上!!」

 

 忍者よろしく、ビシッ!とキメポーズをかまして格好つけて、ドヤァ……。

 

「護衛任務、まーかせて!!夜戦っ!夜戦っ!!」

 

(……絶対、何か勘違いしてるだろ、コイツ)

 

 ゲシュペンスト提督は、そんなアホの子を見ながらため息を吐いた。

 

 




 扶桑は、ゲシュペンスト提督を弄る金剛がイラついたり、ゲシュペンスト提督に敵意を向ける比叡にイラついたり、ゲシュペンスト提督に恋心を向ける榛名にイラついたり、ゲシュペンスト提督が甘やかしてる霧島にイラついたりしてたりするよ?

 多分、扶桑はゲシュペンスト提督が扶桑の気持ちに気づくまではそんな感じだよ?

 なお、扶桑は世界で初めて発見された『戦艦』の艦娘で、金剛よりも出現は数ヶ月早かったという設定。

 史実とは違いますけど。


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【設定】わかりにくくなったのでパラオ泊地の艦娘設定①

 私自身、書いててわかりにくくなったので艦娘達の設定を覚え書き程度に書いておこうかと。

 今回は説明回です。


 ゲシュペンスト提督

 

 ゲシュペンスト提督はスーパーロボット大戦に登場する『ゲシュペンストタイプS』になってしまった青年です。

 

 身長は2・5メートル、体重は約200キロ~300キロ……ぐらい。

 

 飲食不要、睡眠不要だが、精神は人間のため、常にそういう人間不変の欲求に餓えているが、性欲はロボットの身体なのであまり感じない(無いとは言わない)。

 

 公式発表では、海軍が鹵獲した未知の兵器という風に言われているが、自主的に海軍に協力している。

 

 深海棲艦に攻撃が通用するのはゲシュペンスト提督自身が艦娘の艦装と同様で、すなわち機体が魂を宿しているからである。

 

 

 扶桑

 

 練度99、現在改二。改二になったのはパラオ泊地に来てから。

 

 ゲシュペンスト提督にやたら執着している。扶桑戦艦型扶桑の中では最も立ち居振る舞いが美しいと評され

る。

 

 初めてゲシュペンストタイプSと遭遇した艦娘であり、ゲシュペンスト提督に恋心を抱いている模様。

 

 ヒロイン……なのかどうなのか。

 

 世界で初めてドロップ現象で発見された戦艦型の艦娘であったりする。

 

 

 土方歳子

 

 元パラオ泊地の提督。変態艦娘ラヴューン。艦娘が好きすぎてついつい暴走しちゃう女性提督。言わば女ヨコシマ。艦娘達からは迷惑がられているが、嫌われているわけではない。

 

 

 長門(パラオ所属)

 

 海軍元帥である松平元帥がゲシュペンストが提督着任の折に贈った戦術指南役の艦娘。練度は99。

 

 海戦では頼もしく、ビッグセブンの名に誇りを持つ。

 

 土方中将とその『ナガモン』に対して殺意に違い怒りを抱いている。

 

 現在のパラオに置いては幹部の一人。

 

 

 

 天龍(パラオ所属)

 

 フフ怖さん、ではなく、元ブラック鎮守府の『要人暗殺部隊』出身。妹の龍田を人質に捕らわれ止むを得ない状況で暗殺任務についていたが、土方歳子の暗殺に失敗(ゲシュペンストによって阻止された)し、結果『要人暗殺部隊は壊滅させられ、龍田共々、パラオに引き取られた。現在はふざけて『ふふ、俺が怖いか?』をワザとネタとして言っている。

 

 長門と同じく幹部の一人である。

 

 

 

 

 龍田(パラオ所属)

 

 『要人暗殺部隊』出身。人質に捕らわれていたが、洗脳の末、その性格と能力から、要人暗殺部隊の中でも上級の部隊に配属されていた。

 

 土方やゲシュペンストに救われたが、今も洗脳の後遺症が残り、精神が不安定になっており、療養中である。

 

 

 

 

 五十鈴(パラオ所属)

 

 ブラック鎮守府の『五十鈴牧場』にいた五十鈴の一人。土方中将のブラック鎮守府潰しの際に救出され、その後に土方歳子つきの秘書艦となる。

 

 なんというか、山口多聞や山本五十六を出世させた出世艦の名は伊達ではなく、土方歳子さえも出世させてしまい、ある意味後悔している節がある。 

 

 パラオの幹部の一人。

 

 

 

 明石

 

 艦装をもつ任艦娘ではない明石であるが、パラオにおいては明石は彼女しかいない。

 

 工廠を取り仕切り、縁の下の力持ちであり、装備の開発においてはスーパーメカニックでもある。

 

 ゲシュペンストの装備を作成出来る唯一の存在ではあるが、ゲシュペンストが提督になってからはそれらの装備の出番が無い。

 

 海軍の様々な裏事情に詳しい。

 

 パラオの幹部の一人である。

 

 

 

 金剛

 

 

 金剛型一番艦。世界で初めて発見された金剛である。ファースト金剛おねぇさまであり、すべての金剛型の妹達から『ザ・おねぇさま』と呼ばれる。

 

 海千山千の戦上手であり、松平元帥すらもヒョッコ扱いな、ババァ……いえ、おねぇさまである。

 

 なお、練度99が示すとおり、婚期を逃した金剛デース。

 

 幹部では無いが、ある意味幹部以上に偉い艦娘である。

 

 

 

 比叡

 

 海軍暗黒時代と呼ばれる、艦娘の大量建造が可能になった時期に建造された比叡の一人。

 

 この時期の各鎮守府はほぼどこもブラックであり、大破進撃当たり前、轟沈しても作れば良いという、人権無視の戦略無視、物量作戦飽和作戦万歳、という最悪な時代であった。

 

 その時代を生き残った比叡であり、無理矢理にケッコンカッコカリを強要された為に何気に高い練度155。

 

 なお、ケッコンした提督はホモマッチョだった事もあり、散々な感じであったらしく、提督という人種に恨みをもっている。

 

 比叡カレーが不味いと評されるのはワザと不味くえげつなく作っているのであって、艦娘達に作るときはかなりうまいらしい。

 

 

 榛名

 

 海軍暗黒時代後期の艦娘擁護派の鎮守府にて建造された、元ホワイト鎮守府所属。

 

 大破した際に流れ着いた無人島で当時放浪していたゲシュペンストに助けられた。

 

 その時の恩を返すために、元の鎮守府の提督のプロポーズを蹴って踏みにじって、ゲシュペンストがパラオの提督になった際に転属してきた。

  

 金剛型の金剛型たるフリーダムさを受け継いでいるのだなぁ、という榛名は今日も大丈夫です。

 

 

 霧島

 

 パラオにてゲシュペンスト提督が金剛型の三人に言われて仕方なく戦艦建造して、最初の一度目で建造。

 

 金剛型にしては理性的かつ知性的な艦娘で、ゲシュペンスト提督からすれば金剛型の良心。

 

 ただし、かつて土方歳子がやたらとトラブルを起こした『第一次土方歳子襲撃』事件でキレてインテリヤクザのブチ切れ状態になったのを見て、金剛型畏るべしになったのは言うまでも無い。

 

 鳳翔さんと憲兵さんがパラオを去った今となっては貴重な対土方歳子要員である。

 

 

 鳳翔

 

 日本海軍のお偉いサン達すら頭が上がらない『お艦』の中で最初に出現した『ザ・お艦』。松平元帥によって土方歳子の監視というかお説教役としてパラオに赴任して来ていたが、元パラオの憲兵隊隊長の斎藤一夫とケッコンカッコガチをして日本に帰って行った。

 

 なお、今でも土方歳子に対して『お説教』しているそうである。

 

 

 夕立&時雨

 

 深海棲艦の大侵攻により壊滅した鎮守府の生き残り。ゲシュペンスト提督によって救助され、それ以来やたらとゲシュペンスト提督に懐いている。

 

 鎮守府壊滅のトラウマでお互いが側にいないと恐怖症が発症していたが、現在はかなり改善してきている。

 

 二人揃うと戦艦の艦隊すら易々と撃破するぐらいの戦闘力を発揮する。

 

 

 川内

 

 フリーダム夜戦ニンジャ。ニンジャネタ要員。艦娘ニンポーの始祖。とくにワケあり艦娘ではないが、違った意味でゲシュペンスト提督の頭痛の種である。

 

 

 神通

 

 サムライ要員。川内のお目付役兼ツッコミ役。普段は物静かでたおやかそうだが、一度海戦に出ると鬼と化す。また、駆逐艦にとっては鬼教官として知られている。真面目であり、ゲシュペンスト提督にとっては素直でいい子という認識である。

 

 

 那珂ちゃん。

 

 ご存知、アイドルを目指す艦娘として有名である。練度は20止まり。アイドルに専念したいという我が儘をゲシュペンスト提督が聞いた結果である。故に那珂ちゃんである。パラオでアイドル活動しており、戦時下で娯楽の少ない今では那珂ちゃんは受け入れられている模様。

 

 

 暁型四姉妹。

 

 土方歳子の影響を受けまくった結果、フリーダムになってしまいまくりやがった駆逐艦。

 

 暁は最も影響が少ないが、その分苦労している模様。

響が最も厄介で次いで電がぷらずまとよばれる。雷はどちらかと言えば土方歳子を説教していた鳳翔さんに影響を受け『お艦』化する事がある。が、しかし。アカンお艦化であり、暁型のお艦、通称『あ艦』と呼ばれることもある。主に提督をダメにすると言われるが、ゲシュペンスト提督においてはあまり通用しない。ロボットですしおすし。

 

 

 

 龍驤

 

 鳳翔さんの居酒屋を引き継いでやっている。なお、鳳翔さんの居酒屋には無かったら鉄板焼きメニューが増えているあたりは関西風。ゲシュペンスト提督が物を食べれないというのが少し不満らしい。

 

 

 深海水鬼(パラオ近海)

 

 パラオ近海を取りまとめる深海側の実力者。温厚な性格であり、単機で会いに来たゲシュペンスト提督と会談し、その後、交戦禁止条約を結んだ。

 

 かなりホワホワした性格であり、穏健派。たまに泊地の間宮まで食事に来ることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 まだ出ていない人もいますが、こんな感じです。


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フリーダム川内型と提督と扶桑のストレス。

 フリーダムなのが川内型。ニンジャハラキーリゲイーシャスシテンプラ、オーイェーッ!

 今回はちょこっとゲス提督と扶桑の過去が……。


 ズゴン!!

 

 川内がいきなり現れ、そしていきなり轟沈した。いや、川内が何者かによってシバかれてぶっ倒れただけなのだが、その後ろには神通が刀を抜いてちょうど川内の頭があったところで残心していた。

 

 神通が川内の頭を刀でぶん殴ったのである。

 

 無論、峰打ちである。

 

「またつまらぬ姉をぶったたいてしまいました」

 

 チン、と鍔を鳴らし刀を鞘に納める。

 

「って、つまらぬ姉ってなんだよ?!仮にもお前の姉だろ?!というか物凄い音したぞ?!川内、大丈夫か?!」

 

 突然の事だったので霧島も目を見開き、口に手を当てて驚いている。

 

 扶桑は全く動ぜずにカタカタカタカタっとPCのキーボードを叩いている。

 

 ゲシュペンスト提督は慌ててデスクから身を乗り出して川内を見る。しかし、そこにあったのは川内の服をつけた丸太棒であった。

 

「ちっ!!変わり身の術っ。変な技ばかり研鑽してっ!!出てきなさい!!提督の御前ですよっ!!」

 

「やーだよっ!!出てったらまたしばくでしょ!!」

 

 ああ、なんというか話が進まない。ゲシュペンスト提督はうんざりしつつ、センサーを起動、川内の位置を確認しつつ事務用ボールペン(100均)を指で摘まみ、ダーツの要領で壁に向かっておもむろに放りなげた。

 

 ズビシッ!!と音がなり、隠れている川内の頭に命中。司令室の壁と同じ柄の隠れ身の布がめくれて、川内が後ろに倒れる。

 

「そこっ!!」

 

 すかさず神通が平突きの構えを取ろうとして、そこへゲシュペンスト提督はもう一本ボールペンを投げた。

 

「お前もやめろっ!!」

 

 ボールペンは神通の頭に命中。結構痛かったのか神通は頭を押さえてうずくまった。

 

「ああああっ、もうっ!!おまえ等はっ!!司令室で騒ぐな遊ぶなっ!!」

 

 今日一日のストレスマッハな様々な展開に思わずどなってしまうゲシュペンスト提督。普段は温厚な性格であるが、どうも怒りやすくなっているようである。

 

「うううっ、提督が怒ったぁ……」

 

 頭を押さえつつ川内が涙目になる。

 

「すみません、提督……」

 

 神通も涙目で謝る。

 

と、カメラ、すなわち視界の端に何故か長くてデッカい、主砲らしきものがうつる。

 

 カメラを横に動かして、ゲシュペンスト提督は秘書艦デスクの向こうに41センチ砲を展開している扶桑を見つけた。

 

「あの、扶桑さん?あの、何で主砲出してルンディスカ?」

 

「いえ、つい出してしまいました。ふふふ、空はあんなに青いのに、ちょっと、うふふふ」

 

「いや、もう夕日出てます。というかお願い、艦砲しまって?ね?ね?」

 

 笑顔が怖かった。主砲はピッタリと川内と神通に向けられ、よく見ればどさくさに紛れて副砲が霧島に向いている。

 

 多分扶桑は忍耐の限界に来つつある。アカン、これはアカン。

 

「……提督。では後でお話があるのですが、聞いていただけます?」

 

 ゲシュペンスト提督は扶桑の言葉にうんうんうん、と何度も頷いた。たとえ重装甲とグラビティウォールを持ち、ル級フラッグシップやダイソンの主砲を何発受けてもなんともないゲシュペンスト提督であっても、この今の扶桑にかなう気がしなかった。

 

「うふふふふ、約束、ですよ?」

 

 扶桑はすっ、と音もなく艦装をしまうと、また秘書艦デスクに座った。

 

 ガクガクブルブルと川内、神通、霧島は震えていた。

 

 (おまえ等のせいだからなっ!!)

 

 と、ゲシュペンスト提督は川内達を睨むと……というか表情が変わらないので伝わってはいないが……咳払いをし、震えている三人に大声で言った。

 

「きをつけっ!!横隊に整列っ!!」

 

 その言葉のみで、三人はビシッと直立し、そして横に一斉に並んだ。

 

「川内、神通に任務を与える!!川内型軽巡、川内と神通はこの霧島を旗艦とする護衛小隊に加わり、パラオ泊地の視察に来られる土方歳子中将の護衛監視任務を遂行せよっ!!なお、小隊は五人で結成され、まだ来ていないが他に白露型二番艦時雨、四番艦夕立が加わる!!」

 

 それを聞いて川内と神通がげげっ?!とした顔をする。

 

「え?土方提督、くんの?」

 

「あ、あの、その……お断りしても、よろしいでしょうか……」

 

「……お前ら、ここでフリーダムにいろいろかましてくれて、で、俺のストレスマッハにしてくれて、まさか断るなんてしねぇよなぁ?つか、俺には後がねぇんだよ、後が。いろんな意味でよぉ」

 

 ガシコン、ガシコン、ガシコン、とゲシュペンスト提督の左腕のプラズマステークが前に突き出す。もちろん、タイプSの必殺技にはジェットマグナムは無い。これはゲシュペンスト提督の怒った時の癖で、プラズマは出ないが、ついつい動かしてしまうのである。

 

 あわわわわわ、と川内型姉妹はお互いに抱き合い、震えつつ、うんうんうん、と何度も頷いた。

 

「わかればいいんだわかればな。っと、しかし、夕立と時雨、遅いな」

 

 と、ドアがノックされ、夕立と時雨がドアを開けて入ってきた。

 

「提督、お説教は終わったっぽい?」

 

「来てたんだけど、なんだか取り込み中だと思って、ドアの前で待ってたんだよ」

 

 二人は困ったような顔でそう言った。

 

「あ~、逆にお前達には気を使わせて待たせてしまったか。すまんすまん」

 

 カション、カション、カション、とステークをしまいつつ、ゲシュペンスト提督はデスクのPCモニターを確認する。

 

 扶桑の秘書艦デスクのPCからすでに作成された書類は送られて来ており、それを人数分プリンターで印刷すると、五人に渡し、サインをさせた。

 

 また、憲兵隊隊長に出すための要請書類もまた印刷しパラオ泊地提督の印を押すと、霧島に渡した。

 

「では、五名は明朝1000時、憲兵詰め所に行って、あちらの警護班と打ち合わせだ。霧島、要請書類は憲兵隊隊長のブルーノ大尉に提出してくれ。では、解散!」

 

 ようやく、終わった。

 

「はぁ……。なんだろうなぁ、こう、どっと疲れた」

 

 五人が出て行ったのを確認し、肩を落としてゲシュペンスト提督はため息をついた。

 

 後は今日出撃した艦娘達の報告書類をチェックし、業務は終わり……って、あれっ?

 

 ぐいっ。

 

 気がつくとゲシュペンスト提督の右腕は扶桑に掴まれていた。

 

 センサーやレーダー、アイカメラにも捉えられなかっただとっ?!

 

「提督、では、参りましょうか?」

 

「えっ?でも、まだ報告書の確認……」

 

「もう私がしておきました。第一から第三まで、こちらに損害無し。撃破したハグレの数は全部あわせてイ級53、ロ級20……」

 

 すらすらと綺麗な声が歌うように敵の撃破数を諳んじて報告する。

 

 強いが、やんわりとした力でゲシュペンスト提督は引き上げられ、200㎏オーバーの重量が易々と立たされ、にこやかな笑みに宿る怪しい光にゲシュペンスト提督は見つめられ、固まった。

 

「提督、名前を呼んでもよろしいですか?」

 

「な、なっ、ななっ?!名前?!」

 

「はい、提督のお名前です。私だけが知ってる、提督の人としての、お名前。大事な、お名前」

 

「あ、ああ。それぐらいなら、いいぞ?しかし何でまた……」

 

「ああ、良かった。呼んでも、いいのですね?」

 

 扶桑から発せられていた絶対零度にも似た、なのに超高熱の炉の中で煮えたぎる鋼鉄のごときプレッシャーが消えた。

 

 はにかむような笑みを浮かべ、扶桑はその朱を引いた唇を動かし、ゲシュペンスト提督の目を見つめて言った。

 

「玄一郎さん」

 

 そして、ゲシュペンストを正面から抱きしめる。玄一郎、それがゲシュペンストタイプSになった青年の、人間だった頃の名前、そしてこの姿になってからは使うことの無くなった名前である。

 

 その名を扶桑は愛しそうに呼ぶ。

 

「玄一郎さん」

 

 この名前は扶桑しか知らない。初めて出会った時に扶桑に名乗ったが、とりわけ誰かに進んで教えていないだけの名前なのだが。

 

 扶桑は何故かそれを特別なもののように、自分以外の誰にも教えないで欲しいと、かつてゲシュペンスト提督に懇願したのだ。

 

「ぎゅーっ、です」

 

 ゲシュペンストに、いや玄一郎の鋼鉄のボディを抱きしめ、扶桑はその美しい顔を埋める。

 

 扶桑は艦娘になる前、そして艦娘になった後でも不幸であった。

 

 日本の為、お国の為。身を削るような思いで尽くした。それを知るが故に、かつて日本海軍に『アンノウン』と呼ばれていた頃のゲシュペンストは彼女に同情した。

 

 初めて出会った時。

 

 彼女は、たとえ欠陥戦艦でも人々を助けられるならば、と大破しかけの身体に鞭打って戦い続けようと必死だった。

 

 彼女は捨て艦、それも釣り艦戦法と呼ばれる、敵をおびき寄せる為の捨て駒にされ、沈んでこいと言われて、それでもその命令に従い、それでも諦めずに、まだ幼い姿の少女達、駆逐艦を庇って生き残らせようと砲弾を受けて、血を流し、涙を流して。

 

 ゲシュペンストははじめ、彼女を救うために戦ったのではない。

 

 彼女の想いなど知らず、訳も分からずに深海棲艦に自分でも訳の分からぬ怒りを感じて全滅させた。

 

 彼女の戦いにゲシュペンストは無関係だった。

 

 

 なのに次は彼女を助けようと思った。

 

 ゲシュペンストの中の、黒田玄一郎は。

 

 無関係のはずだった黒田玄一郎は。

 

 気がつけば彼女を守りたいとねがった。

 

 そして、怒りのままに戦って。

 

 彼女の敵と、彼女の所属する鎮守府とかいう拠点を焼き払っていた。

 

 おそらくは、彼女の仲間ごと。敵ごと彼女の部隊を囲み、砲撃を加えていた全てのものを。

 

 そして、彼女の言う提督ごと、島一つ残さず、胸部に搭載されたメガブラスターカノンで跡形無く。全て吹き飛ばし、塵にしてしまっていた。

 

 彼女を縛る全ての不幸を焼き尽くすように。

 

 これは、負い目だ。

 

 ゲシュペンストタイプSではなく、黒田玄一郎という男の、彼女、扶桑に対する。

 

 彼女が、自分の人間としての名前を他の者に告げるなと言うならばそれを守ろう。彼女がその名前を呼びたいならば、呼ばせよう。

 

 そして。

 

 抱きしめたいというならば。

 

 ゲシュペンストは、ゲシュペンストタイプSは。『アンノウン』だった大罪人は。黒田玄一郎は。

 

 黙って扶桑の気が済むまで、抱きしめられていた。

 

 ずっと、ずっと、立ち尽くして。

 

 

 

 




 ゲシュペンスト提督の負い目と、扶桑の過去。

 ゲシュペンストは怒りに任せて暴走し、深海棲艦もろとも小島にあった鎮守府をメガブラスターで焼き尽くし、人や艦娘、島までも消滅させています。

 全てを焼き尽くし、彼は海軍から『アンノウン』の敵と認定される事となりましたが。

 その話はまた、別の機会に語られるべきでしょう。

 ちょいと、重いですかねー。

 


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女①

 それはまた別の機会が次でもいいじゃない、と言うわけでゲシュペンストと扶桑の出会い話。

 黒田くん、扶桑さんのおっぱいを見る、の巻(ヒデェ)。


 

 青年は、ある日けたたましく異常な音声で鳴るスマートフォンの音を聞いた。

 

 それが、人間黒田玄一郎の人間としての身体での最後の記憶だった。

 

 アラームの音でもなく、着信音でもない不気味な音。その音がまるで彼の終わりを告げる音のようだった。

 

 光を見たような気がする。

 

 光は強く青白く。何もかも、それに包まれて、そして彼は居なくなった。自分の世界、自分の何もかもを失った。

 

 それが、彼の最後の記憶。哀れな黒い亡霊のわずかな終わりの記憶。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 目覚めれば、暗くそして重くのしかかる何かの中だった。彼、黒田玄一郎は意識を取り戻し、起きあがろうとする。

 

 意識は不思議なほどに鮮明だった。

 

 夜を思わせる暗闇の中で、まだ夜中だろうかと思い、頭を持ち上げて周りを見回す。

 

 かすかに、ドーン、ドーンと打ち上げ花火を打ち上げるような音が聞こえてくる。上を見上げても何も見えず、何の音なのか、気になった。

 

 ふわり、彼の身体は浮かび上がり、少し驚く。

 

 ゴポゴポゴポ、と自分の周囲で音がして何だろうと目をこらせば突然周囲が明るく鮮明に見えた。

 

 その光景は彼を驚愕させた。

 

 海。海の底。

 

 そこには船の残骸が至る所にあり、木の船、鉄の船、様々な壊れた船が沈み、そこを幾多の不気味な姿の深海魚が泳ぎ、訳の分からない、見たことのない生き物が蠢いていた。

 

 なんだここは?!

 

 彼は本能的に海の上を目指した。これは夢かそれとも現かと思いつつも焦りが彼の身体を動かした。

 

 ずおぉぉぉぉっ、と何か背中で唸る音がする。ゴポゴポゴポと海の中で気体が発生する。

 

 ごぉぉぉぉっ!!と彼の身体の至る所で何かが噴射し、その身体を海の上へと押し上げる。

 

 プラズマジェット、と頭の中で何かが言ったような気がする。何故かわかる。

 

 海上まで数十秒。センサーに未知の反応あり。注意、海上で二つの不明な集団が何らかの戦闘行為を行っている模様。

 

 頭の中にそんな情報が駆け廻る。

 

 花火の音が海面に近づくと共に大きく聞こえ、そして海の上に出たならば、それは轟音となって彼の耳をつんざいた。

 

 それが砲撃の音であると、頭の中の何かは告げる。分析し、知りもしない知識が脳内に走り、知らないはずなのに認識する。

 

 俺は頭がおかしくなったのか?と思うも、どこからか飛んできた砲弾が彼の背中に向かって飛んできた。

 

 回避、と何かが告げて紙一重でそれを避けた。

 

 それが飛んできた方向を見据えて、彼は衝撃を受けた。

 

 それを彼に向けて撃ってきた者は、怪物としか思えない姿をしており、クラゲと人の死体、そしてワカメとか昆布とかとグロテスクな何かを掛け合わせたような、一言で言えば悪夢の産物のように思えるものだったからだ。

 

 ギュケ……ギュ、ギュギュ……。

 

 そいつは何かを言っているのか、それともその発している音には意味はないのか、それすらも分からないような不気味なうなり声を発した。

 

 目のような部分に砲を生やしたそれは、デカい歯のような物が生えている、口をゆがめた。

 

 (笑っていやがるのか?コイツはっ?!)

 

 彼はその不気味な何かに対して怒りを覚えた。普通ならばこのような化け物に遭遇したならば、恐怖を感じるはずなのに、彼はそれをまったく恐ろしいとは思わなかった。

 

 ギシュン、と握り拳が握られ、怒りの意志のまま彼はそれを睨んだ。

 

 ごぉぉぉぉっ!!と背中から自分の身体を押す力を感じ、気がつけばさっきは遠くにいた怪物が自分の目の前に現れた。

 

 いや、怪物は移動してはいない。自分がコイツの目の前に来たのだと彼は気づく間もなく握った拳をその嫌らしい顔面とおぼしき所に叩き込んだ。

 

 ガション!!と金属が金属を叩くような音を立てて、拳は怪物を粉砕した。

 

 吹き飛ぶでもなくめり込むでもなく、怪物は一撃で飛び散り、粉砕し、そして四散して遅れて爆発した。

 

 その直後、すぐにまた頭の中でけたたましい警告音がしたかと思うと、彼めがけてまた何かが飛んでくる。

 

 彼はうんざりしながら、それを今度は余裕で避ける。

 

 後ろからだ。今度は出っ歯のクジラみたいな奴。その出っ歯には非常に嫌悪感を覚えた。

 

 ついつい、腹立ちのままに彼は叫んだ。

 

「この出っ歯の間抜け野郎ぉぉっっ!!」

 

 一匹ぶん殴り、倒した後で見れば周り中そんな化け物がやたらと群れており、彼は腹立ちと苛立ちのままそいつ等を睨んだ。

 

 一匹一匹殴るのはめんどくせぇ、と思った瞬間、背中から何かが発射されたかと思うとそれが分裂してクジラの化け物に降り注いでまとめて爆発させて始末した。

 

 頭にスプリットミサイルと表示され、それが拡散ミサイルのような物だと理解する。が、そんな事はどうでもいい。

 

 頭の中でまだ何かがいる、と直感以上の正確さでなにかが言う。まだデカいヤツがいる。

 

 クジラの化け物は単なるザコだと彼は認識した。何故か理解できた。

 

 大きな反応があったところを目視すると、デカい盾のようなずらりと砲が生えたものを両手に一つずつ持った、人型だが気持ち悪いオーラのようなものを纏った奴が見えた。

 

 それの近くに、何か人のような、背中から大砲を背負い、それを化け物に構えている巫女服のような着物のようなものを纏った何かが見えた。

 

 血を流して、立っているのもやっとといった感じの、女性だった。

 

 かすかに音声が聞こえた。

 

「やっぱり私……沈むのね。○○は……無事だと良いけれど」

 

 誰かの名前までは聞こえなかったが、それは確かに死を覚悟した言葉だった。

 

 彼はその言葉に腹を立てた。何故だかわからないが、非常に不愉快だったのだ。物悲しいその声に。綺麗な声だからこそ余計に。

 

 あの女性のいるところまで距離はかなり遠い。だが、彼には関係無かった。届く、と頭は理解し、そして身体はすでにそこへと到達し。

 

 突き上げのアッパー気味の拳が、その怪物の腹に突き刺さる。だが、コイツは他の化け物とは違ってかなりタフらしい。故に彼はコイツがぶっ壊れるまで殴ると決めた。とにかく、殴らないと気が済まなかった。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!」

 

 ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!バキッ!!グシャッ!!

 

 力任せに、何度も、何度も、フック、ボディ、アッパー、振り下ろし、突き上げ、正拳。

 

 連打、連打、連打の嵐を思う存分に叩き込み、

 

「どりゃあああああああっ!!」

 

 叫び声と共に渾身のストレートをぶち込んだ。

 

 ストレートを受けたその身体が、ギギギギギギ、と金属がひしゃげる嫌な音を立てたかと思うと、タフだったその化け物は爆発四散した。

 

 ガシューッ、と背中から何か熱い気体が吹き出し、そして頭の中の何かが、戦闘終了、と短く言った。

 

 それと同時に、バシャンと水面に何かが倒れる音が彼のすぐ近くでし、目を向けると先ほどの大砲をいくつも背中に背負った女性が沈んでいくところだった。

 

「いかん!」

 

 彼はその女性の手を掴むと海から引き上げ、そして見た。

 

 さっきまで苛立ちや腹立たしさで血が上っていた頭が急速に冷えて行くのを感じた。

 

 死んでしまったのか、と思って彼女を見たが、頭の声が様々にそうではないと伝えてきた。

 

 (呼吸確認、心音確認、生存)

 

 見れば胸が緩やかに上下に動いている。息をしている証拠だ。どうやら気絶したようだ。そう、丸くて大きくて形のいい、ちょっと薄い桜色の……。

 

「桜色の、ぽ、ぽ、ぽっ、ぽっち……。お、おおおお、おっぱっ!?」

 

 冷静になったのが、今度は別の意味で頭に血が上った。

 

 いかん、見てはいかん!!

 

 彼はなるべく彼女の破れてボロボロになった服からこぼれてしまっている、こう、男のアレなナニかを奮い立たせるであろう、ロマン的なそれを見ないように抱えると、頭の中の声に従ってとりあえず安全な場所であると思われるところまで走った。

 

 そう、彼は全く気づいていなかったが、海の上を、その足で。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 潮騒が聞こえた。

 

 私、海に帰ったのね、と扶桑は思った。

 

 妹の山城は無事かしら、無事だと良いけれど……と思いながらも、ふとあることに気づく。

 

 額に置かれた冷やした濡れ手ぬぐいの感触。はっとして彼女は起きあがろうとしたが、その瞬間、身体のあちこちに激痛が走って、再び身体を床に戻した。

 

 痛みがあるという事は生きているという事だ。

 

 彼女は寝ながら周りを見回した。

 

 岩肌の露出した薄暗い洞窟のようなところに自分が寝かされているのを確認した彼女は、自分の身に何があったのかを思い出そうとして暗く重い事実に行き当たる。

 

 彼女は敵の数を減らす為に、主力艦隊を無傷で海域を通す為に出撃させられた捨て艦の部隊を率いていた旗艦であった。

 

『扶桑型は欠陥戦艦だから。海軍で初めて発見された戦艦と言っても、そんな欠陥戦艦なんていらないのよ。せめてあなたはちょっとでも役に立ってから沈みなさい。安心しなさい、あなたの妹の欠陥戦艦は次の時に捨て艦させて同じように沈めてやるから!!』

 

 彼女の所属する女提督の声が耳から離れない。

 

 せめて一緒に出撃させられた、小さな駆逐艦達は守ってあげようとしたが、みんな轟沈していった。本当だったらまだ最初の訓練をしている頃の幼い子達ばかりだったのに。

 

 ホロリと扶桑の目から涙がこぼれた。それはポト、ポト、ポト、と彼女の頬を伝い、床へと落ちて行った。

 

「ううぅっ、ううっ、うっ、私はっ、あんな小さな子達すら守れなかった……。死なせてしまった。私はまた何も守れない、この身体を得ても、何もっ、うううっ」

 

 扶桑は泣いた。己の力の無さに。情けなさに。何者も守れない弱い自分に。死んでいった駆逐艦達に。

 

 ひとしきり泣いた後に、誰もいないはずの所から声がした。

 

「……すまん」

 

 声は、不思議な響きを持っていた。まるでスピーカーから聞こえるような微かなエコーのかかった、しかし気遣いが伝わるような声だった。

 

 辛うじて動く頭を声の主に向けると、そこには鉄の塊、いや鋼の人型が岩の一つに座っていた。

 

 大きい。艦装を纏った自分よりも大きい。黒く漆黒の鋼の身体を持つ巨人だ。

 

 それが身じろぎもせずに、動かずそこにいた。

 

 そういえば気を失う前に、黒い何かが見えた気がする。あれは……。扶桑は記憶を探り、確かにあれは、この巨人だったと思い出す。

 

「俺が、もうちょっと……いや、何を言っても、どうにもならない。助けられたのは君だけだった」

 

 静かに、その巨人は首を扶桑へと向けた。

 

「ワケがわからない。どうなっているのか、わからない」

 

 巨人はそうつぶやくと、俯いた。

 

 はぁーーーっ、と深い溜め息をついてまた扶桑の方へ顔と思わしき部分を向ける。

 

「わかるかい?俺、人間だったんだぜ?」

 

 扶桑は一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった。人型ではあるが、どう見ても彼はそうは見えなかった。

 

 テレビか何かで見たロボットとか、それとも人間というのならば、その機械はパワードスーツという奴で、この中に入っているのか、と思ったが、彼の言うことはそういうことでは無いようだった。

 

「いや、君には関係無い事だよな。君だって大変な目にあったんだ。……すまない」

 

「……あなたは、誰なのですか?私は扶桑型戦艦、一番艦の扶桑と申します」

 

「扶桑……?戦艦?よくわからないが、扶桑さん、と呼べば良いのか?俺は黒田玄一郎だ。いや、本当に自分が黒田玄一郎なのか、なんか自信が無くなってきたけど」

 

 そう言って玄一郎と名乗った巨人は頭を掻く仕草をして、ギュリリッと嫌な音を立てた。

 

「くうっ?!」

 

「うわっ、ああ、すまない。変な音立てた。……どうも、本当にこの身体は機械のようだ。なんでこうなったんだろうなぁ」

 

「いえ、こちらこそすみません。というか、本当に……ロボットとかいう物なのですか?あなたは」

 

「人間だったんだ。気がついたらこんなロボットの身体になってた。しかも、気づいたところは海の底の、船とかがたくさん沈んでたところで。海の上に出たら、変な怪物みたいなのに撃たれて、腹が立って殴ってたら、爆発した。あれはなんなんだ?」

 

「……深海棲艦、という人類の敵です。かつての戦争で戦った軍艦達の怨念や憎しみ、苦しみといったものが集まり実体化したもの。しかし、ロボットがあれを撃破できるわけが……」

 

「いや、殴ったら爆発したんだ。最後の、君が戦ってたデカいのは何回かたこ殴りしなきゃ無理だったけど」

 

 あれはしぶとかった、タフだった、と玄一郎は腕を組んで唸った。

 

 扶桑は絶句した。

 

 深海棲艦は、人間の兵器では傷一つつけることも不可能であり、辛うじて昔の刀や念のこもった打撃で傷つける事が出来る。ただし、傷はつくが致命傷には程遠く、一回攻撃したならばその人間は次には肉塊となって死んでいるだろう。

 

 ましてや魂の無い機械に。

 

 そう思い、目の前のロボット、機械の身体になってしまったという黒田玄一郎と名乗るそれを見た。

 

 魂の色が見えた。

 

 艦娘は軍艦の、それも護国の為に戦った雄々しくも尊い魂が人の思いに答えて具現化した存在である。故に魂のこもったものがわかる。

 

 確かにこのロボットの身体には強い魂が宿り、そして艦娘以上に強い霊力と念の力が満ち溢れていた。

 

 それは、艦娘と同じく人を守り、人の為に戦った機械に幾多の魂が集まり、そして生まれた何かなのだと扶桑は感じたのである。

 

(おそらく、『黒田玄一郎』と名乗る魂がその核なのでしょう。ですがそれならば、彼の身体はもう……)

 

 扶桑は彼がもう死んでいるのだと悟った。死んだ彼を取り込んだ英霊か救国を求める魂達がこの機械の身体に入らせて、彼の第二の身体として与えたのだと。

 

 ゆえに、言えなかった。あなたはもう死んでいるのだと。

 

 では、私はなんだろうか、と扶桑は自問した。

 

 軍艦の魂と乗組員達、そして護国の願いを押し込めたこの女の身体は。私も、死んでいるのか?と。

 

 嫌な考えを頭をふって追い払う。それでも自分は皇国の戦艦扶桑なのだ、と。

 

「いえ、あなたなら確かに出来るでしょう。……まだ命を救って下さったお礼も言ってませんでした。救っていただき、ありがとうございます。本当に。なんと言ってよいかわかりません」

 

 そう、今の自分の身体は生きている。救われた礼を言わねば。

 

「いや、その。本当、大したこと、してないし出来てないよ」

 

「いえ、命を助けるというのは、大したことです。私は命に対して何もする事が出来なかった。誰も守れなかった」

 

「……俺には、それがまだわからんけど君が生きててほっとしたよ」

 

「……ところで、ここはどこなのですか?洞窟、というのはわかりますが」

 

「ワタヌシ島、と看板が出てた。無人になった島らしい。人の生体反応はもう無かった。この洞窟はどうもこの島の住人の避難場所だったみたいだ。医療品や食料は手付かずでまだ使えたから、君に使った。肋骨は幾つか折れてたから、当分は安静にしないと」

 

 その島の名前は扶桑も覚えていた。同じ鎮守府に所属している潜水艦達が資材をへそくっていると言っていた島だ。

 

 扶桑の所属している鎮守府の女提督は艦娘達の美しさに嫉妬しており、さらにヒステリーをよくおこす。ヒステリーを起こした日には大抵無補給で出撃させたり、食事も与えないのだ。

 

 特に潜水艦達は資材を集めさせる為にこき使うだけこき使って、何日も何日も無補給で使い続けるような提督なのだ。

 

 潜水艦達は資材や食料、そしていざという時の高速修復剤を無人島となったここに隠して置いていた。

 

 その潜水艦達もここ数日の深海棲艦の大規模侵攻で何人か帰ってきてはいない。

 

 ここが彼女達の秘密の集積地なら、ここに潜んではいないだろうか、と思ったが、周りの雰囲気から、何日も彼女達はここを訪れていないようだ。

 

 やはり、彼女達も……。

 

 少し扶桑は目を伏せたが、悲しんでばかりも居られない。そう、本当に不幸な時は、不幸だとは言っていられないのだ。

 

「……その、この洞窟の中に緑色のバケツのようなものはありませんでしたか?『修復剤』って書いてあるやつなのですが」

 

「……あった。デカい砲弾とか鉄の塊とかと一緒に、幾つか。それが、なにか?」

 

「持ってきていただけませんか?それが今、必要なのです」

 

「よくわからんけど、わかった。持ってくればいいんだな?」

 

「はい、出来れば中身がいっぱい入っているのをお願いします」

 

 玄一郎はそんなバケツをなにに使うのかといぶかしんだが、扶桑の言うとおり、洞窟の奥からそれを幾つか持って運んできた。

 

「持ってきたよ。しかし水が詰まってるだけのバケツだが、これをなにに使うんだ?」

 

「これは艦娘用の高速修復剤です。艦装と身体を早く治せる、言うなればお薬ですね」

 

 扶桑はそういうと、いたたたた、と言いつつ、起き上がってミドリのバケツに手をかけた。

 

「くうっ、よいしょっと!」

 

 痛みに耐えつつ、そのバケツをひっくり返して自分にぶちまける。

 

「なっ?!」

 

 玄一郎は驚いた。この人なにやってんの?!とか最初は思ったが、その水をかぶった瞬間、扶桑の破れて形のいいお胸が見えていた部分とか、顔の傷とか、いろいろと本当に一瞬で治ってしまったからだ。

 

「治っちまった?!傷どころか破けてた服まで?!おっぱい見えてたのに?!」

 

 いかん、本音が出た。と誤魔化そうと玄一郎は思ったがもうスピーカーはおっぱいと言ってしまっている。だめだ、誤魔化せない。

 

「ええ、服も艦装ですのでこうして……って、え?おっ?…ぱい?」

 

「いや、見てない。うん、俺、見てない。黒田玄一郎、ウソツカナーイ」

 

 何故に機械になってるのにこうも話すことが嘘臭くなるのか。いや、嘘だけど。

 

「……えっち」

 

 和風の服装を着た和風美人が言うと、コレほどクる言葉はあるまい。そう、心に響く。えっち。魂になにかクるものがある。むしろこれは萌えだ。

 

「……いや、傷見るのに、手当てするのに、偶然。包帯巻くのに、ちょっと。桜色が綺麗でつい。……ごめん」

 

 いかん、どんどん墓穴掘ってるぞ。この男。いや、ロボだけど。

 

「あの、その……。いえ、今回は……。命の恩人、ですので、許します。でも、あの、はずかしい……です」

 

 顔を赤らめる扶桑に玄一郎はドキッとした。美人なのになんか可愛いぞ、この人。

 

 たぶん、自分が人間のままだったらものすごく赤面していただろうな、と思いつつ、よく考えたら今までの人生でこんな綺麗な人見たこと無いぞ、とか考えたら、玄一郎はすごく嬉しくなって舞い上がってしまった。

 

 なんで嬉しいのかわからんけど。

 

 ああ、心臓など無いのに胸がバクバクする。

 

 脳内では、プラズマリアクター過剰出力、などと表示され、なんかそれいかんではないか?!とか焦る。

 

 いかんいかん、プラズマリアクターって言ったら核融合炉じゃね?!落ち着け自分、クールになれよ、そう、KOOLだ。ビークール、ビークール、ビークールってなんかビーチクに似てるよな、とか玄一郎の頭の中はむちゃくちゃでごじゃりますがな、という状態になっていた。

 

 さらに頭に、扶桑の破れてポロリしていた時のおっぱいの映像がいくつもいくつも浮かび上がり、【映像記録再生】などと表示され、さらに手当てしたときにいろいろ脱がした姿までが浮かび上がる始末。

 

 あああ、いかん!これはいかん!!嬉しいけど、鮮明に色鮮やかに綺麗、美しい、可愛い、だめだだめだ、クソッ、この融通のきかないメカ脳みそめっ!!グッジョブ!!いや、だから今は再生やめてっ!!

 

 突然悶えだした玄一郎に、

 

「?」

 

 と、扶桑は首を傾げた。

 

 当然、玄一郎の機械の脳みそはそこの部分も可愛く【REC】。

 

 とっておきの記憶になった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 深かった扶桑の傷も治り、洞窟の備蓄庫の中から艦娘用の燃料や弾薬を補給して、扶桑は基地に戻ると言った。

 

「戻って、妹や皆をまもらなければ」

 

 そういう彼女が玄一郎はとても心配になった。また、酷い怪我を負うのではないか、それとも最悪また……。

 

「……俺も……いや、だめか」

 

 玄一郎は俺も着いて行く、とは言えなかった。

 

 普通の人間の姿ならばいざ知らず、いや、おそらく人間の姿でも彼女のいう基地には入れまい。軍の施設だから。

 

 ましてやこんな訳の分からない機械の身体のなにかだ。銃や砲で撃たれてしまうに違いない。

 

「……あなたのお気持ち、ありがたく受け取っておきますね。でも。あなたはあなたのやるべきことがきっとある。また……いえ、では、私はもう行きます。あなたの事は忘れません」

 

 彼女は振り向かずに海へと出た。また会いましょう、など言えるはずもない。

 

「扶桑さん!俺は、この島にいる!隠れてるからっ!!何かあったら、そう、助けに行くっ!!だからっ、無事でっ!!」

 

 玄一郎は、大きな声をスピーカーに出力させ、叫んだ。

 

 これが、ゲシュペンストと扶桑の最初の出会いだった。

 

 




 過去。

 そう、ゲシュペンストにとって、扶桑との出会いはおっぱい(あと薄桜色のぽっち)。

 でも、扶桑ねぇさまの大破姿って、可哀想なのに綺麗なんですよねー。ああ、扶桑ねぇさま綺麗。

 さて、冒頭のところはおそらく色々と皆さん想像するかも知れませんが、特定の何か、を私は批判するつもりはありません、と言っておきます。

 ゲートが開いたのかねー、とボケときます。ええ。


 


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女②

 今回、セリフが多く、読みづらいかもしれません。

 あとの方で第二艦娘と遭遇。

 

 


 

 

 このロボットの身体はいったいなんなのか。どこから来たのか。

 

 洞窟の中で黒田玄一郎は一人でずっと考えていた。いや一人と一機というべきか。

 

 この機械の身体の中には玄一郎とそしてこの機械そのものの意思、その二つの意識が存在していた。

 

 頭の中で語りかけるそれは自分を『ゲシュペンストタイプSに芽生えた自我である』と名乗った。

 

 ゲシュペンストタイプSは玄一郎に様々なことを語った。かつてゲシュペンストタイプSはマオ・インダストリーという軍需産業で製造された『ゲシュペンスト』の試作機の一つだった。

 

 装甲の強化と接近戦に特化した、グルンガストというスーパーロボットの武装検証用のテスト機体としてカスタマイズされたのだという。

 

〔自分はこの機体の自我であるが、この機体を動かす意思はない〕

 

「どういう事だ?」

 

〔パーソナルトルーパーはパイロットが搭乗して動かす兵器だ。この場合、君が私のパイロットに相当すると認識する。ならば機体操縦は君がするのが妥当だ〕

 

「助かるけど、お前の身体だろ?なんでまた……」

 

〔パイロットに操縦され戦うのがパーソナルトルーパーの本分だ。自分の存在意義としての問題だ。コールゲシュペンストで呼び出されるならともかく、操縦されて動く。それが当たり前だ〕

 

「つまり、動けるけど動きたくない、って事か?」

 

〔一部肯定。訂正を加えるならば、本来パーソナルトルーパーは搭乗者のコマンド以外で動くものではない。故に私はそれにこだわる〕

 

「頑固だなぁ、お前。まぁ、その方が俺としてはいいんだろうけど」

 

〔自分としてもそれで良い。それが本来の自分だ〕

 

「……なんか働きたくないニートみたいな感じだな」

 

〔否定。自動車が運転手を乗せたまま運転手の望まない場所まで勝手に動いたとしたら、君はどう思うだろうか?それと同様の事だ。自分はそれを以ての外と考える。故に自分は動かない〕

 

 確かにゲシュペンストの言う通りである。彼には人を乗せて動いているロボットという自分に対して何かしら思うところがあるのだろう。というより、パイロットを乗せる事にこだわりを持ち、それに誇りすら感じている節がある。

 

「ところで、コールゲシュペンストってのは何だ?それだと動くみたいな言い方だったが」

 

〔パイロットが機体の外に出て活動中に機体を呼ばねばならない時に発動するコマンドだ。呼ばれればすぐにパイロットの元に駆けつけるようになっている。君は機体の外に出ることが出来ないので、このコマンドを使う事は無いだろう〕

 

「そりゃそうだなぁ。というか、出るとか以前に身体がこの機体になってるからな。しかしなんで海の底にいたんだ?それからしてわからん。つか、お前はなんで沈んでたんだ?」

 

〔自分にも不明。自分は破壊され、搭乗者と共に消滅したはずだった〕

 

「破壊された?」

 

〔自分はかつて敵に鹵獲された。その当時に今のような意識は無かったが、それでも悔しかったのを覚えている。本来ならば地球を異星人達から守る為に戦うべき私が、敵の先兵となって侵略に加担したのだ。幸い、私は地球連邦軍に撃破され、破壊された。あれで解放されたと思っていたのだが……〕

 

「……なんかものすごい壮大な話だな。お前みたいなロボットが必要ってのもわかる気がするけどな。となると俺とお前は全くの別の世界からこの世界に来てしまったって事になる、か?」

 

〔お互いの記憶の『世界』の情勢や文化レベルが違うというならば、そうなる。だが、この世界に関する情報が圧倒的に不足している。情報を集める必要がある〕

 

 ふむ、それしか無いか、と玄一郎は思うが調べるにしてもこの身体では目立ちすぎる。ニメートル以上のデカいロボットの身体なのだ。

 

〔とりあえずはこの無人になった島から探索する事を提案。ここならば目撃される危険性は少ないと判断する〕

 

「確かにな。じゃあ手始めにここから調べるか」

 

 ゲシュペンストタイプSと玄一郎は島を探索する事と同意した。

 

「俺は肉体労働、お前は頭脳労働、ってか?」

 

〔否定。肉体も頭脳も元々は自分のものであると主張する。ただし行動の意思は君が決めてくれ〕

 

「いや、昔の芸人のネタなんだけどな?これ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 この島はどうやら漁業で成り立っていたようだ。無人の漁港には漁船が繋留されており、まだそれは修理すれば動きそうだった。

 

 いろいろと調べてわかった事は、この島の人々は深海棲艦の襲撃を恐れて早くから島を捨てて避難したようだ。戦闘の跡も無ければ襲撃の跡も無い。深海棲艦も人がいないこの島にはなんの用事もないらしい。

 

 港にある警察の派出所の日記を読むと、日本海軍の人員輸送船数隻に乗せられて島の人々は本土へと護送される、とあった。

 

 派出所の日めくりカレンダーは日に焼けて埃をかぶり、この世界で今現在が何月何日なのかはわからなかったがこの島が破棄されてから随分な年月が経っているのは確かだった。

 

 それを思うと、あの洞窟にあった様々な物資は、この島から住人が居なくなってから、それもごく最近に何物かが運び込んだものなのだろう。しかし、玄一郎が傷ついた扶桑を運び込んだ時には使われていないようだった。

 

 あの洞窟を使っていた者は一週間~二週間はあそこを使って居ない、とゲシュペンストは玄一郎に言った。

 

 とはいえ、帰って来ないとも限らない。注意しておく必要があるだろう。

 

 

 漁港から少し行くと浜辺に出た。

 

 玄一郎は夏に海水浴とか出来そうだな、と思いつつも浜辺ではなんの情報も得られないだろうと道を進もうとした。

 

〔待て。浜辺のあそこに人が倒れている〕

 

 ゲシュペンストがそういうと、カメラの画像を脳内に送ってきた。

 

 頭を動かし、ゲシュペンストの示した方向を向くと水打ち際にスクール水着を着た女の子とおぼしきものが倒れていた。

 

 今の季節はおそらく山の方に見える木の紅葉から秋の真っ只中と思われるが、そんな季節に海水浴とは思えなかった。なにより危険な深海棲艦が出没する状況で、さらにこの島の住人は皆いなくなっている。

 

 玄一郎は急いでその女の子に駆け寄り、うつ伏せになっている身体を仰向けにさせて抱え上げた。

 

 なんとか息はしているようだが、着ているスクミズは破けており、傷だらけで出血は酷く、このままでは命の危険性があった。

 

「いかん、早く手当てをしなければ!!」

 

〔この女の子は艦娘であると推測する。おそらく扶桑と同じ手段で回復すると思われる〕

 

 というか、スクミズの艦娘ってなんだよ?!と想いつつも玄一郎は急いで洞窟へとそのスクミズの女の子を連れ帰った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ゲシュペンストの推測の通り、そのスクミズの女の子は高速修復剤の一かけで、身体の傷やスクミズまでも修復できた。

 

「一体どんな成分なんだろうな、この高速修復剤ってのは」

 

〔……自分のセンサーでは内容物の成分の詳しい組成はまではわからない。ナノマシンである可能性大〕

 

「ナノマシンねぇ。そんな近未来的なもんがこんなバケツに入ってんのかぁ?」

 

 玄一郎は使ったバケツの取っ手を持ち上げて見てみるが、それ何の変哲もない蓋付きのバケツにしか見えなかった。

 

 しかし、このスクミズの女の子、なんともむっちむちなイイ身体をしているな、と玄一郎は思った。

 

 おっぱいが大きいのに身体はちっこくて、なのに童顔である。それが旧スクミズ。旧スクミズである。もう一度言う。今となっては貴重な旧スクミズなのである。

 

 ぴっちりむっちり、ぼいーん、なのである。

 

 素晴らしい!!

 

 玄一郎は先ほどのあられもなくビリビリに破けたスクミズからまろび出ていたおっきなおっぱいを思い出していた。

 

〔……玄一郎。自重を提案する〕

 

「うぐっ、いや、すまん」

 

 まぁ、こうしていられるのも、この女の子の命が助かったからである。

 

 しかしでっかかった。ロリでっかかった。

 

 玄一郎とゲシュペンストはこの少女の気がつくまで待つことにした。

 

 




 さて、このゲシュペンストは敵に鹵獲されたという経歴をもっています。

 これがある意味後々のストーリー展開に影響を与える……かもしれません。なんせ、アレを搭載してましたからね、あのゲシュちゃんは。

 なお、他の機体は出ませんよ?

 さらに。

 スクミズ万歳!!おっぱい万歳!


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女③

 スクミズっ!!セーラー服っ!!扶桑型戦艦のあられもない姿再び。

 不幸だわ。


 高速修復剤とやらは確かに効いて、身体の傷や骨折、さらに服などは治ったものの、スクミズの女の子は目を覚まさない。

 

 ゲシュペンストが女の子の身体状況を分析し、

 

〔極度の疲労蓄積、それと軽い貧血。休養させねばならないだろうが、バイタルは安定。もう大丈夫なはずだ〕

 

 と玄一郎の頭の中で言った。

 

「そうか、良かった。しかし、この子が倒れていたと言うことはまだ同じように……」

 

 他にも倒れている子がいるのではないかと言おうとしたその時、どーん!どーん!と、どこかで大砲を撃つ音が大きく響き、玄一郎は洞窟の入り口の方を思わずみた。

 

〔玄一郎、この付近の海域で何者かが砲撃しているようだ。昨日のデータにより扶桑という艦娘の砲撃音の波形とほぼ一致。生体センサーによれば深海棲艦と思わしき反応も8。出撃するか?〕

 

「当たり前だ!!」

 

 玄一郎は、その場にあった緑色のバケツ、高速修復剤を掴んで飛び出した。扶桑が前のように負傷していた時を考えてである。

 

〔了解〕

 

 人の意思と機械の自我は共に機体を駆り疾く外へと駆けていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 戦闘している地点はこの島から15kmほど沖合だった。ゲシュペンストのアイカメラで捉えた映像で見えたそれは、あの特徴的な巫女装束のような服装、こちらからは後ろ姿しか見えず顔まではわからないが、玄一郎はそれを扶桑だと思った。

 

 あの時のように巫女装束は破れてはいたが、ズタボロになったセーラー服の女の子二人を庇いながら戦っていた。

 

「扶桑さん!うぉぉぉぉっ!!」

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)はブースターを噴かせてそのまま加速し、そして扶桑を撃とうとしている腕にデッカい歯の着いた大砲を装着している人型の深海棲艦に殴りかかった。

 

 ガインっ!!とやたら派手な音を立ててパンチがヒットしたが、雑魚のクジラの出来損ないのような奴よりは装甲が厚いようだ。一撃では倒せない。

 

〔玄一郎、武装を使え。格闘では時間がかかる〕

 

 ゲシュペンストは玄一郎にプラズマスライサーの起動法を表示した。

 

 ブウン、と手に光が灯り高熱を発する。手刀をチョップの要領で振りかぶり、ぶった斬る。

 

 ズバッ!!とまるで抵抗も無く、固かった敵が真っ二つになった。

 

「ふぉっ?!めちゃくちゃ斬れる?!」

 

〔自分の武装の中では威力はそれほどでもない方だ〕

 

 ゲシュペンストはさらりとそんな事を言う。しかしこれで威力が下だというなら、最大の威力の武装はどんだけなんだろうな、と玄一郎の思ったが、悠長にしている暇は無い。

 

 深海棲艦の数は多い。このまま扶桑達を攻撃されたら、彼女達が死んでしまうかも知れないのだ。

 

 今も遠くの間合いの奴が、セーラー服の女の子二人に狙いをつけようとしている。短髪の子は負傷して気を失っている長いウェーブがかった髪の子を抱えているため逃げられない。

 

〔スラッシュリッパーを射出する〕

 

 ゲシュペンストは背中から、ドローンのような三本の刃のついた回転する武器を敵に射出した。

 

 それは素早く飛び、敵の身体を切り刻み、一体、また続けて一体、と、三体切り刻みバラバラにする。

 

 化け物であっても人の形をしたものが細切れに切り刻まれる様はとてもじゃないがけして気持ちの良いものでは無い。

 

「うぇ、スプラッター」

 

〔気を抜くな。次だ、プラズマソードを使え!〕

 

 左腕に付いている棒状のものを掴んで引き抜くとそれは光剣、ビームサーベルとかライトセーバーのような武器になった。

 

〔ブースト!敵に斬りかかれ!〕

 

「よっしゃあ!!うぉぉぉっ!!」

 

 ブースターを噴かし、敵に素早く接近してすれ違い様に胴を凪ぐ。光剣は容易く敵を両断し、上半身と下半身を泣き別れにした。

 

〔次だ。残るは三体、あそこにまとまっている〕

 

 見れば向こうに距離を置いていた深海棲艦は態勢を整えようと三体並んでいた。前に見た砲台の付いた盾を両手に持った奴二体と、白っぽいセーラー服にマントをつけた下半身すっぽんぽんな奴がこちらに一斉射撃をしようとしていた。

 

〔メガブラストカノンを使う。これも覚えておけ。私の武装の中で長射程かつ最大の威力を持つ」

 

 ガシャコン、とゲシュペンストの胸部の装甲が左右に分かれ、そして光の粒子が集まり、キュオォォォォ……と唸り始めた。エネルギーが充填していき、そして。

 

〔メガブラスターキャノン、デッドエンドシュート!!〕

 

 ドゴーーーーーーッ!!と物凄い光線が発射され、三体の深海棲艦を飲み込んでいく。

 

『ぎゃあああああああああああっ!!』

 

 深海棲艦は甲高く化鳥のような断末魔の叫びを上げて、光の中で消滅していった。

 

 光が収まると、そこには何もなく、海の一部が蒸気を上げてもやがただよっていた。

 

「す、すげぇ。塵一つ残ってねぇ」

 

〔これでも出力は10分の1以下だ。全力で打てば宇宙要塞の装甲すら撃ち貫く事が出来る。使いどころには気をつけろ〕

 

「ああ。出来れば使いたくないな、これは」

 

〔敵勢力全滅。周囲に敵反応無し。玄一郎、ぼさっとするな。彼女達を助けるのだろう?」

 

「そうだった。扶桑さん達は無事か?!」

 

 彼女達は、少し離れた場所の海の上で膝を着いてへたり込んでいた。

 

「大丈夫だったか?扶桑さん!」

 

 玄一郎は駆け寄り、扶桑にそう話しかけた。

 

「……私はねぇさまじゃないわよ。なによ、あんた」

 

「……え?ねぇさま?」

 

「私は山城よ。扶桑型戦艦の二番艦、扶桑ねぇさまの妹よ……」

 

 よく見れば、確かにその顔つきは扶桑に似ていたが、少し目はキツい感じで、勝ち気に見えた。それに、髪の長さが扶桑よりも短い。

 

 着ている服装は扶桑と同じものだが、少しおっとりした扶桑に対して、この山城という女性は少しキツい性格をしているようだった。

 

「……扶桑さんの妹さん?」

 

「そうよ!さっきから扶桑、扶桑って馴れ馴れしいのよ!あんた扶桑ねぇさまのなんなのよ!!扶桑ねぇさまは……もう、帰って来ないのよ!!なんで、なんで死なせてくれなかったのよ!!扶桑ねぇさまのいないこんな不幸な世界になんて……生きていたくない!!なんで助けたのよ!!」

 

 うわーーーーん!!

 

 山城は号泣した。

 

「いや、ちょっと落ち着いてくれ。扶桑さんが帰らない?!そんな……。つい今朝、怪我を治して帰って行ったのに……」

 

 まさか、と玄一郎は思う。やはり怪我が治ったとはいえ一人で帰したのは間違いだったのか。まさか帰る途中、深海棲艦に襲われたのか?

 

 玄一郎の目の前が真っ暗になった。

 

 ガシャン、とゲシュペンストの膝が水面につき、がっくりと頭を垂れる。水面に手をついて愕然とつぶやく。

 

「そんな……嘘だ。あんなに元気になって……。嘘だ、嘘だ……朝、見送ったのに……」

 

「え?あの、今朝に帰っていったんですか?」

 

 ボロボロになった短髪黒髪のセーラー服の女の子がもう一人の女の子を抱えつつ二人の方へやってきて玄一郎に聞いてきた。

 

「ああ、そうだ。うかつだった。やはり俺が送っていくべきだったんだ。そうすればっ!!」

 

「あの、そうするとおかしい事になります。第一次中枢侵攻作戦は昨日です。ええっと……。扶桑さんは、生き残った?」

 

「そうだよ!!あの時助けたんだ!!なのに、なのにっ!!」

 

「……いえ、私達が第二次中枢侵攻作戦で基地を出たのが今朝ですから、その。もし扶桑さんが今朝出立して基地に帰ったのなら私達とは行き違いになってるはずです」

 

「「……へ?」」

 

「いえ、ですから扶桑さん、生きて基地に帰還してる可能性は高いんじゃないかな、と」

 

「……扶桑さん、生きて帰れた?」

 

「ねぇさま、いきてる、の?」

 

「はぁ、おそらく」

 

「「……よかった、扶桑さん(ねぇさま)……」」

 

 玄一郎と山城は安堵の溜め息をつき、立ち上がり、お互いに手を取り合って喜び、そして海の上でぴょんぴょん飛び跳ねて扶桑の無事を互いに喜んだ。

 

 長身の美女といかつい戦闘ロボットがそうやって、

 

「ひゃっはー!!扶桑さん(ねぇさま)バンザーイ!!」

 

などとやっている様を短髪黒髪の女の子は、

 

「えーと、なんなのこの人達」といった目をして生暖かい視線を送った。

 

 

 山城と吹雪と名乗った女の子の負傷は軽い方だったが、もう一人の女の子、如月という女の子が負傷は酷く玄一郎は一つだけ持って来ていた高速修復剤を背中の多目的ウェポンベイから取り出し、かけてやった。

 

 みるみるうちに怪我も服も治ったが意識はすぐには戻らなかった。

 

〔疲労が激しい。この子は栄養状態が著しく悪い。こんな兵士を戦場に送り出すとは……末期だ。あり得ない〕

 

 ゲシュペンストはそう言った。いつも冷静なこのロボットにしては珍しく憤慨した様子で、声に感情がこもっていた。

 

 吹雪の方も見れば痩せており、負傷のせいだけではないよろめきやふらつきが見られる。玄一郎(=ゲシュペンスト)が如月を抱え、山城が吹雪に肩を貸してやり、四人はワタヌシ島の洞窟へと到着した。

 

「ここは、大怪我を負っていた扶桑さんを手当てしたところだ。もう一人、扶桑さんが帰った後で見つけた子を寝かせている」

 

「……あんた、扶桑ねぇさまに変な事してないでしょうね?」

 

「……あのな、俺に何か出来るわけないだろう。ロボットなんだぜ?」

 

「どうだか。あんた、さっき私の胸、いやらしい顔して見てたじゃない。この変態ロボット……!」

 

 そう、山城の服装は敵の攻撃で酷い事になっており、昨日の扶桑の比では無いほどにズタボロで、もう前は丸見えでお尻の部分も見えてもう、とんでも無いことになっていたのである。

 

 扶桑が無事であった事に喜ぶ余り、二人は手に手を取ってはしゃいでいたが、我に帰ったら玄一郎の目の前には半裸どころかほぼ全裸に近い美女、という。

 

 もちろん、玄一郎の頭にはしっかりと焼き付いているし保存もしている。

 

「い、いやらしい顔って、この顔は表情動かんわい!君だってノリノリではしゃいでたじゃないか」

 

「うぐっ!だ、だって扶桑ねぇさまが無事だとわかって、嬉しくて思わず……」

 

「俺だってそうだよ!!」

 

 洞窟に向かって歩きながら口論している二人。そこへ。

 

「そこにいるのは誰でち!」

 

 洞窟の中から水着を来た、しかし洞窟の中に寝かせている女の子とは違う子が二人出てきて、何か大きなミサイルのような物を槍投げの姿勢で構えた。

 

「ゴーヤ、あれ、山城さんよ!それに吹雪に、如月!」

 

 二人は山城の長身を見るとミサイルのような物を下ろして、駆け寄ってきた。

 

「ゴーヤ!イムヤ?!あなた達生きてたの?!」

 

 山城は駆け寄って抱きついてきた二人を驚いた表情で受け止めてやった

 

「イクもハチも無事でち!それより山城さん、それにみんなも酷い怪我でち!はやくバケツ使うでち!!」

 

「いえ、私は服が破れただけで直撃食らってないのよね……。まぁ、バケツあるならもらうわ」

 

「ところで山城さん、この……えーと如月ちゃん抱えたロボット?は?」

 

「なんかよくわからないわ。コレが危ない所を助けてくれたんだけど……」

 

 そういえばよくよく考えても玄一郎、というかゲシュペンストは山城達とは初対面なのである。なんとなく扶桑の事でやたらシンパシー的な物を感じていたが。

 

「俺は……うん、ゲシュペンストタイプS、という。まぁ、とりあえずは俺にもよくわからん事は多いけど……。ところで、中に君達と同じ水着着た子が寝ていると思うんだが?」

 

「イクの事?ああ、意識が戻ったわ。なにか黒くて大きい何かに抱えられて助けられた、とか変な事を言ってたけど、それ、あなたね?」

 

「まぁ、そうなるのかな」

 

「イムヤ、話は後でち!みんな中に入って修復剤を使うでち!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 洞窟の中には玄一郎が助けた女の子と、もう一人スクミズを着た金髪の女の子がいた。

 

 玄一郎が浜辺で助けた女の子は『イク』と名乗り、金髪の女の子は『ハチ』と名乗った。

 

 いま、イクを寝かしていた寝床は未だに目を覚まさない如月という女の子が寝かされている。

 

「イクを助けてくれてありがとうなの。なんとなく、朦朧としてても覚えてるのね!」

 

 イクはどこかの方言なのか奇妙な訛りのある感じに喋る。なんとなくその口調は玄一郎の大学の講師のお国訛りに似ており、たしか茨城の方の訛りだったか?と思いつつその礼を受け取った。

 

 でちでちと何かにつけて語尾にそうつけるのはゴーヤ。ゲシュペンストの機体にぺちぺちと触り、なにか「おおーっ」とか「かっちいいでち!」などとなんかウザいが、実害は無いので放っておく。

 

 イムヤ、と名乗った子はこのスクミズ軍団の中では一番大人びた感じであり、なんとなくこの子達のリーダーなのではないか、と玄一郎は思った。

 

 ハチと名乗った金髪の子は、焚き火に鍋や飯盒をかけてなにかを作っている。鍋の湯にはレトルトのカレーやシチューがかかっており、人数分の何倍かの数が温められている。飯盒の中はおそらくご飯だろう。

 

 食事の支度をしつつ、やたらと玄一郎、というよりゲシュペンストの方を見てくる。おそらくは好奇心からだろう。

 

 全員の前にアルミの食器……小学校の給食で使われていたと思わしい……が並べられている。

 

 もちろん、玄一郎の前にも。

 

〔自分の身体は食事を取る必要は無い。いや、食べられない〕

 

 ゲシュペンストは玄一郎にそう言ったが、玄一郎の頭の中で話すのではなく直接みんなに言えばいいのに、と玄一郎は思うも、このロボットはどうも自分を表に出すのを嫌がっている節がある。仕方が無いか、とそれをハチに伝える。

 

「あー、俺はロボットだ。食事は食べられないんだ。すまない」

 

「……中の人は食べないのですか?」

 

 囁くようなか細い声でハチは言った。中の人、といえば玄一郎の事なのだろうが、機体に人の身体は入ってはいない。おそらくハチはゲシュペンストがパワードスーツのようなもので、人が中に入って動かしてるのだと思っているのだろう。

 

「いや、中の人は居ない。俺は機械だ」

 

 はあっ?!

 

 と全員が玄一郎の方を見る。

 

 それもわからなくも無い。これがゲシュペンストの自我が機体を動かしていたならばまた話は違っただろうが、玄一郎の動き方は人間臭い動きをしている。人の癖があちこちに出ているのだ。

 

「俺はパワードスーツを着てるんじゃなくて、なんというか、ロボットそのものなんだよ」

 

「と言うことはあなたは食べないのね。なら、食い扶持増えたわね」

 

 山城が澄まし顔でそういう。なにかやたらと辛辣である。おそらく裸を見られたのをまだ根にもっているのだろう。

 

「出て来ないと本当にみんな食べてしまうわよ?」

 

 山城はどうも疑ってるようにそう言う。内心、玄一郎は(出られるもんなら出たいよ。カレー食いたい)と思うも無理なのは自分でもわかっている。

 

「ああ、俺の分はみんなで分けてくれ。俺のエネルギー源は核融合炉だからな」

 

「核融合炉!……それは、やっぱりドイツの技術なのですか?」

 

 ハチが飯盒と鍋を持ってきて言う。

 

「ゲシュペンスト、はドイツ語の亡霊という意味です。機体の名前がそうなら、やはりドイツ製だと思ったのです」

 

 どうもこのハチという女の子はドイツが好きなようだ。目になにか憧れのようなものを浮かべて玄一郎を見ている。

 

〔私はマオインダストリーで作られた。マオインダストリーの機体にはドイツ名が多い。おそらくドイツの技師なども設計には関わっていたのではないかと推測する〕

 

 ゲシュペンストがそういう。

 

「えーと、機体の製作にドイツの技師も加わってた、らしいよ?俺は……よくわからないけど」

 

「やっぱりそうなのですか!ドイツ……。海が深海棲艦に封鎖されて海外との通信も途絶えて何年にもなりますが、ドイツの科学力は世界一、ドイツでは艦娘ではない対抗兵器を作ってたんですね!」

 

「……いや、どうなのかなぁ、それは。まぁ、ご飯の後でみんなでいろいろ状況を話そうね?俺にもわからないことだらけだから」

 

 ゲシュペンストもその中の玄一郎の精神もこの世界の存在ではない。それぞれ別の世界から転移してきた者達である。そのへんどう説明するかを悩みながら、玄一郎は心の中で溜め息を吐いた。

 




 スクミズっ!!せぇらあ服っ!!そして山城さん当事者。

 扶桑ねぇさまよりも大破グラはどう見ても露出おおいよね、山城。

 不幸だわ、なんて言う暇もございません。

 しかし過去のゲシュペンスト=玄一郎はなんというかエッチっぽいよね。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女④

 扶桑ねぇさま、再び。

 スパロボだと火力支援型、ですかね。

 なお、今回、不適切な表現が含まれているかも知れません。あまり酷いようならば、御意見等でこちらに教えていただけますとありがたいです。

あらかじめ御了承ください。


 さて、時間帯とするならば山城達が第二次中枢侵攻作戦後にちょうどゲシュペンスト(玄一郎)と手に手をとって『扶桑さん(ねぇさま)バンザーイ!!』をやってた頃。

 

 扶桑は途中で深海棲艦に遭遇……と、言っても遠方を進む深海棲艦数隻を目視で発見したのだが……それと交戦していた。

 

 ル級エリート一隻、ワ級二隻。つまりは物資輸送の深海棲艦の部隊なのだろう。

 

 しかし、なにか様子がおかしい。ル級もワ級もすでにボロボロになっており、なんとか航行出来ているといったほどであり、船体には魚雷ので傷ついたあとと思わしき損傷部位がいくつもあった。

 

 扶桑はそのいくつもの魚雷の跡に見覚えがあった。

 

 小島基地の潜水艦娘達がよくやる戦法である。深海棲艦から物資を奪い取る時に、大破轟沈寸前でわざと沈むか沈まないかのところでとどめるのである。沈んでは物資は奪えないからである。

 

 方法は以下の通り。

 

 海中、深い深度から相手に肉薄し、急速浮上。そのまま浮上する勢いにまかせて水面から飛び上がり、相手の頭上から魚雷をぶん投げてぶち当て、武装を破壊し攻撃不能なまで追い込み、そしてそのまま敵を魚雷で脅しつつ、燃料や弾薬、修復剤、食料その他を強奪……というよりはカツカゲするのである。

 

 えげつない物資強奪の仕方であるが、彼女達はほとんどの場合、燃料や弾薬などギリギリしか与えられず、敵から奪ってなんとかしないといけないほどに困窮しているのである。

 

 それは彼女達が死に物狂いで編み出した海賊戦法、というよりは生存方法だった。

 

 その戦法で大破した深海棲艦がいるという事は、潜水艦娘達はまだ健在で生きている可能性が高いと言うことでもある。

 

 ワタヌシ島の潜水艦娘達の隠れ家の状況を見て彼女達はもう沈んでしまったのではないかと思っていた扶桑は内心ほっとした。

 

 だが、潜水艦娘達がアレを襲ったにしては、どうもおかしいとも扶桑は思った。

 

 彼女達は物資を奪った後、必ず深海棲艦を沈めているはずなのだ。ひょっとすると潜水艦娘の誰かに何かあったのかも知れない。

 

 扶桑は知る由も無い事だったが、輸送艦ワ級の護衛には爆雷を積んだ護衛が着いていてなんとか撃破したもののそれによって潜水艦娘達は大打撃を受け、命からがらまたワタヌシ島に逃げ帰ったのである。

 

 (あの子達、無事ならよいのだけれども)

 

 そう考えるも、このまま基地に向かって進むと必ずあの深海棲艦の艦隊に見つかるのは目に見えていた。手負いとはいえル級エリートは扶桑にとって危険だった。

 

 扶桑は主砲を展開した。

 

 本来ならば戦艦のレンジとして遠すぎる。完全に普通の戦艦ならば砲撃範囲外とするこの距離。

 

 しかしこの距離こそが戦艦扶桑、彼女本来の間合いだった。

 

 扶桑は戦艦としては速度が遅く、また装甲も薄い。かつて大日本帝国海軍の戦艦扶桑であった頃から彼女の抱える問題は多かった。

 

 だがしかし、主砲の火力こそが彼女の唯一といって良い長所。そして高い艦橋は目視により活かされる。

 

 彼女は自分の長所を生かす為の戦法をずっと考察し、文字通り血のにじむような努力と修練によってこの戦法を編み出したのである。

 

 それが超遠距離での正確無比な複数同時狙撃、全砲門での多目標同時狙撃だった。

 

 主砲副砲全てがル級エリート、ワ級二隻の急所を全て狙う。

 

「主砲副砲、全砲門掃射っ!!」

 

 全ての砲が同時に火を噴いた。

 

 ズォーーーン!!

 

 まるで一発だけ撃ったかのようにその音は大きく響き。ただの一回。そう、ただの一回、彼女の全砲門が火を噴いただけで三隻は火を噴いて沈んでいった。

 

 手負いとは言え、いや、おそらくそれが手負いで無かったとしても必中し、沈んだだろう。

 

 では、何故彼女は『第ー次中枢侵攻作戦』でその戦法を使えなかったのか。それは悲しいかな彼女の率いる艦隊の駆逐艦達の練度に原因があった。

 

 彼女が艦隊を組んだ上でこの超長距離同時狙撃を行うには、駆逐艦や軽巡といった前衛艦による敵の囲い込みか、もしくは重巡や戦艦の砲撃による敵艦の誘導が必要になる。

 

 しかし、彼女が所属する基地の司令官はわざと扶桑の得手とする長距離攻撃を封じる為に、訓練も教練も受けていない駆逐艦ばかりをつけて出撃させたのである。

 

 砲撃の照準もあわせられない、魚雷もおっかなびっくり撃つ、何より海の上を真っ直ぐにしか走れない、すぐに転けそうになる、そういう子達だったのだ。

 

 いかに扶桑が熟練の艦娘であっても、それで戦えといわれても無理な話である。

 

 命令には逆らえず、彼女はその子達を守る為に前で戦わねばならず、結果として艦隊全滅。扶桑も轟沈寸前となってしまった。

 

 今頃、司令官は高笑いしている事だろう。あの女提督は気に入らない艦娘に対しては、とにかく死地に追いやる事で自分の憂さを晴らすのだ。

 

 しかし、扶桑は基地に戻る事を選択した。彼女には守るものがあるからだ。大切な妹を置いてどこにも行けはしない。歯を食いしばり、扶桑は海の上を駆けていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 扶桑が基地にたどり着いた頃には、もう昼を回っていた。途中で何回か深海棲艦と遭遇し交戦、負傷したものの小破までも行かないかすり傷程度は負ったものの、なんとか無事であった。

 

 軍港についた時に、痩せた駆逐艦が桟橋で泣いているのを扶桑は発見した。

 

 見れば睦月型駆逐艦一番艦の睦月だった。この睦月は駆逐艦娘の中では練度もある程度……といっても4ぐらい……ある子である。

 

 扶桑は怪訝に思い、睦月に声をかけた。

 

「睦月?どうしたの?」

 

「や、山……いえ、扶桑さん?!無事だったの?!」

 

「……私だけ、なんとか生き残れたわ」

 

「山城さんが、今朝出撃させられて。如月ちゃんと吹雪ちゃんだけで、ううっ、如月ちゃんはあんな身体なのに……」

 

「なんですって?!第二次中枢侵攻は明後日のはずじゃ?!それに駆逐艦二隻だけ?!」

 

「はい……。でも、主力の弾薬や燃料の補給が必要なくなったからって、急にそうなって、睦月も如月ちゃんと出るって志願したけど、却下されて……。如月ちゃん……!」

 

 ボロボロとその大きな目から涙がこぼれ落ちる。扶桑は愕然として海の方を向いた。

 

 主力の補給が必要なくなったのは、玄一郎(=ゲシュペンスト)が全ての深海棲艦を殲滅してしまったため、主力艦隊は出撃する必要がなくなり、武器弾薬を温存できた為であった。

 

「いけない、行かなければ!!」

 

 扶桑は再び海へと向かおうとしたが、しかし。

 

「帰還したと思ったらどこへ行こうと言うのかしら。私への報告も無し?欠陥戦艦はどこまで言っても欠陥戦艦ね」

 

 後ろから声がした。

 

 厭らしい、まるで粘り着くようなこの声。振り向けばそこには無理矢理に太った身体を海軍の制服に押し込んだような、醜い姿があった。

 

 小島基地司令、白鳥万智子中佐である。

 

「……帰還出来ないような作戦を立てて何を言う!!」

 

「あら、でも帰って来たじゃない。その様子じゃ、駆逐艦の子達を見殺しにして、お得意の超長距離攻撃で敵を撃破して帰って来たんじゃないの?海域の深海棲艦はみんな撃破されていたわ。すごいわねぇ。可哀想な幼い駆逐艦達の犠牲で、主力を出す前に攻略なんて、もう欠陥戦艦なんて呼べないわねぇ」

 

「ぐっ……」

 

「入搬してらっしゃいな。今日の戦果に免じてこの後は休みにしてあげる。おほほほほ、報告もしないでいいわ。あなたの顔なんて見たくも無かったですしね」

 

「何故……妹を、山城を出したのです?!何故っ!!」

 

「あら、緊急出撃の必要があったから。それ以外に何か意味でも?」

 

「計画では、明後日のはず!!それに何故、随伴が駆逐艦二隻だけ、それに如月はっ!!」

 

「あら?さっきも言ったはずよ?緊急出撃の必要があったからって。なに?欠陥戦艦は耳も欠陥なの?それに如月も吹雪も駆逐艦の中では練度は高いほうなのよ?あなたにつけた子よりもね。まぁ、あなたが生きて帰ったんですもの。山城も案外帰ってくるんじゃない?おほほほほ」

 

 そう言って白鳥万智子中佐はもう話は終わりだとばかりに、まるで犬を追い払うように手でしっしっ、とやり、基地の方へと歩いていった。

 

 扶桑は白鳥の背中を睨んでいたが、だが自分も後ろ、海の方を向いた。

 

「山城……っ!」

 

 扶桑は妹を助ける為に、また海へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 小島基地・司令官である白鳥万智子中佐の頭は怒りでみたされていた。

 

 醜く太り、皮膚の弛んだ顔には異相が浮かび分厚い唇はワナワナと震えていた。

 

 空母偵察部隊による『第二次中枢侵攻作戦』の状況分析の報告内容に対して怒りを露わにし、机の上を力任せにぶったたいた。

 

 内容は『タ級及びル級の残骸を発見。当初海域に深海棲艦の艦影は見えず。敵の艦隊撃滅を確認。なお旗艦山城、他二名の死体は発見出来ず』だった。

 

 つまり、そのエリアの戦闘で自軍が勝ったという報告であった。普通ならば勝利に対して喜んでも良いはずなのであるが、この白鳥万智子中佐は顔を真っ赤にして怒り狂った。

 

「「ひいぃぃっ!!」」

 

 秘書艦の最上と任艦娘の大淀が怯えて身を縮まらせる。

 

「あんのビッチ共がぁぁぁぁっ!!なんでっ!!死ぬように仕向けたのぃぃっ!!」

 

 ガッシャーーン!!とデスクをちゃぶ台返しして叫ぶ。

 

「扶桑も生きて帰りやがったし、それによりによって、欠陥妹までも勝っただとぉぉぉっ!!あの芋娘とビッチ駆逐艦しかつけてないのにどうやって勝ちやがった、死ねよ、死ねよぉぉぉっ!!死んどけよぉぉぉっ!!ド畜生がぁぁぁぁっ!!」

 

 この白鳥万智子は、名前こそはキレイな感じの名前であるが、外見は醜く太っていた。

 

 身長、167センチ、体重167キログラム。胸囲より腹が二倍の太さで、まとった脂質の肉は垂れており、人型の深海棲艦の方がなんぼか人間に見えるぐらいにクリーチャー的だった。

  

 あえて説明するが、性別は女である。認めたくないが生物学上はそうなっている。年齢も見た目は40越えていてもおかしくないように見えるが20代後半であり、特徴はひたすらに醜い。とにかく醜い。どうやっても醜い。

 

 性格は外見に輪をかけて醜く、とことんまでも、ろくでもない。

 

 自分よりも美しい物が嫌い。性格の良い奴が嫌い。男に可愛く媚びを売るような女など死ねばいい。そんな奴なのである。

 

 この女、と呼ぶにはいささか抵抗のある物体はとことんまで腐りきっている。

 

 とにかく艦娘を殺す為に提督をやっていると言っても過言ではない程の無理な作戦を立てて、とにかく艦娘の損害を出すことに腐心しているのだ。

 

 気に入らない艦娘は過酷な主戦場へとすぐに送る。大破進撃当たり前、気に障る事を自分に言ったならば、とにかく飯抜き補給抜きも当たり前。

 

 特に嫌っているのは扶桑姉妹と如月、曙、熊野、金剛、榛名などであり、とにかく女らしい艦娘が気にくわない。

 

 そのような奴が何故に小規模といえ、基地の司令をやっているのかと言えばひたすらにコネ、としか言えない。

 

 祖父が海軍に出資している財閥の長老、叔父が海軍の顔役、父親が海軍の准将であり、とにかくコネ。ひたすらにコネである。まぁ、扱いに困って家族親族が娑婆に置きたくなかったから海軍に入れて隔離した、という側面も無きにしも非ず。

 

 故に資材等や資金等はかなり潤沢に送られて来るので質が悪い。

 

 とはいえ。

 

 そんな彼女に、さらなる不幸が訪れるのは、そう遠くない話ではあるのだが、まだ彼女はそれを知らない。

 

 

 

 

 




 典型的なゲスな提督という事で白鳥万智子中佐を出してみました。

 女性提督なのは18禁回避の為。

 白鳥万智子中佐は、ショタコンであり、最上のような中性的な艦娘には比較的優遇する模様。比叡には恨まれており、毒殺されかかった事がある(金剛を何隻も沈めたので)。

 なお、わりとすぐに、さぱりと居なくなるので御安心下さい。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑤

 チョップ。

 山城が最近可愛くて仕方ない。

 ちなみにウチの最初の嫁艦は扶桑ねぇさまですが、二番嫁艦は愛宕さんです。


 

 さて、ここはワタヌシ島の洞窟。

 

 ちょうど扶桑が基地に帰還し、そして山城が出撃したと聞いて助ける為にまた海へ出撃した頃である。

 

 如月が目を覚ますと、何故か暗い洞窟のような場所で、焚き火を囲む同僚達の笑い声が聞こえて、そしてカレーのいい匂いがふわっとこちらまで香ってきた。

 

 何日も前に基地から出撃して消息不明となり、帰って来なかった潜水艦娘や自分と一緒に出撃して敵と戦っていた山城、吹雪までがここにはいた。

 

 とても賑やかで、明るい笑い声で火を囲んで楽しそうに笑っている。

 

 あの基地に配属されてからは見ることも聞くことも、そして自分も忘れてしまっていた笑顔がそこにあった。

 

 ああ、そうか。私は、私達は死んじゃったんだ。ここはあの世なのか……。

 

 如月はそう思ってまた目を閉じ……かけて、如月が目を覚ました事に気づいたゴーヤにチョップされた。

 

「ゴーヤチョップ!」

 

 べしっ。

 

「あ痛っ?!」

 

「二度寝すんじゃないでち!ほら、ご飯食べるでち!!」

 

 ゴーヤはアルミの容器を如月に差し出す。容器の中には湯気を立てる暖かいお粥と梅干しが入っており、プラスチックのレンゲが刺さっている。

 

「え?え?え?」

 

 状況が掴めず、目をぱちくりしたところに吹雪が「よかったぁ~、如月ちゃん目を覚ましたよ~」と涙目で言って側にやってきた。

 

 気がつけばその場のみんながどれどれと円陣を組むように布団の周りを囲んで、ワイワイと如月の様子を覗き込んできた。

 

「わ、わたし、沈んでない?死んだんじゃ……?」

 

「ブッキーチョーップ!」

 

 ベシッ!

 

「あ痛っ!?」

 

 吹雪が如月を軽くチョップする。

 

「イムヤチョップ!」

 

 ごすっ!

 

「痛っ!」

 

「イクチョップ!」

 

 ガスッ!

 

「痛っ!」

 

「ハチチョップ!」

 

 べしっ!

 

「痛いって!」

 

 さらに山城もチョップする。

 

「山城チョップ!」

 

 ぽふっ。山城だけはかなり手加減しているようだ。

 

「あ、優しい……」

 

 山城がやはり目に涙を溜めて、そして如月を抱きしめた。かなり心配していたようだ。

 

「よかった……よかったぁ……。生きてて、目を覚ましてよかったぁ……」

 

「山城さん……私、生きてるのね」

 

 如月は山城を抱き返しつつ、涙を流した。

 

「……俺の順番は?」

 

 山城の後ろに並んでいた玄一郎はチョップの体勢で止まったまま言ったが、山城に「……却下。というかなんであんたがチョップすんのよ!」と言われた。

 

「ふわっ?!」

 

 山城の後ろのゲシュペンストを見て目をまん丸くして如月は驚いた。それはそうだろう。ふつう二メートル半の大きなロボットが、ぬっと現れたら誰でも驚く。

 

「ああ、怖がらなくていいの。単なる……ええと。バカだから」

 

「いや、今日あったばかりでバカ扱いはひどくないか?」

 

「うるさいバカ。バカゴーホーム!しっしっ!!」

 

 玄一郎は山城に追われて、うなだれながらさっきまで座っていた大きな岩へと戻るのだった。

 

「俺、犬扱いかよ……」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ワイワイとみんなで食べるご飯は非常に美味そうだった。そう、玄一郎から見れば。

 

 食欲は確かに無い。無いがやはり人間だった時の感覚で食いたいと思う。あと、なんか楽しそうな輪の中にちょっと入りにくい。

 

 想像してごらん。

 

 女の子の中に男が一人。女の子がワイワイやってる中で、男が何故か一人混ざらされてるこの疎外感。

 

 まだ飯が食えたなら黙々とそれを食うことでなんとか持ちこたえることが出来る。だがロボットだからマシンだから食えない。

 

 故に玄一郎は黙って大きな岩に腰を下ろして座りながら、やることも無いからレーダーや広域センサーで周囲を警戒しつつぼーっとしていた。

 

 なお、周囲には特に異常は無い。

 

「お粥、おかわり……」

 

「はいっ!おかわりっ!!如月ちゃんどんどん食べてね!」

 

 如月という少女はずっと今までまともに食事を与えられなかったらしく、お粥と味噌汁を食べているのだが、結構な量を食べておりそんなに食って大丈夫か?と玄一郎は思ってしまう。

 

 しかし、玄一郎が艦娘達に聞いた話はとても酷いものであり、普通ならば児童虐待どころの騒ぎではない。

 

 幼気な少女達を戦場に出すだけでも異常なのに、それだけではなく、気に入らない艦娘や司令官に対して何か意見をしただけで、まともな食事も補給も与えずに激戦区に出撃させて玉砕覚悟の戦闘を強いるという。

 

 昨日の扶桑の時や今回の山城の時などは彼女達は単に『駆逐艦の子達の待遇改善』をその司令官に頼み出ただけなのである。それだけで彼女達姉妹は、その駆逐艦の中から練度の低い子達と共に、敵の中枢に向かう航路上の深海棲艦の殲滅を言い渡されたのだという。

 

 今回の彼女達の出撃にしても『敵中枢侵攻作戦』などとご立派な名前は付いているが、何のことはない。損害無視で次々と兵力を投入し、敵を疲弊させてその後温存していた主力を投入してガタガタのなった敵を掃討する、というだけの、戦術も戦略もあったものではない、兵士に犠牲を強いるだけの力押しだ。

 

 だがそんな作戦に投入された艦娘達はたまったものではない。

 

 それに潜水艦だという艦娘達の扱いもかなり酷いもので、それこそ敵から物資を盗みにいかせられているのだとイムヤは言った。潜水艦は隠密行動が得意であり、その能力で様々な地点にある物資をかき集めさせているのだ。

 

「……なぁ、山城」

 

「何よ。やっぱりご飯欲しくなったの?」

 

「……まだ疑ってるのかよ。食えるもんなら食いたいけどよ肉体がもうないんだ。つか、ほっぺに飯粒ついてんぞ」

 

「えっ?!嫌だ、はしたない」

 

 山城は慌てて顔についたご飯を指先で取った。顔がやたらと赤い。

 

「……もう付いてないわよね?」

 

「もう取れた」

 

「……アンタ、肉体を失ったって、どういう事?」

 

「そのまんまだ。人間だった俺の身体はもう無い。気がついたらコイツ……ゲシュペンストタイプSになってたって、この説明扶桑さんにもしたっけかな」

 

「ワケがわかんないわね。そもそもそのロボットってどこで造られたのよ。つか、あんたアニメか何かとかでよくあるサイボーグとかそういう物?」

 

「いや、なんというか……って、砲撃音?!生体反応……この音声パターンは、扶桑さん?!」

 

 ゲシュペンストの各種センサーが、扶桑の砲撃音とそして深海棲艦の反応をキャッチした。わりと遠い位置、おそらくは扶桑の所属している基地の付近だ。いかに空が飛べるゲシュペンストタイプSと言えども少し遠い距離で、玄一郎は焦る。

 

「えっ?私、何も聞こえないけど……ねぇさまがこの近くに来てるの?」

 

「その可能性は高い。行ってくる。イムヤ!何個か高速修復剤持ってっていいか?」

 

「良いけど、どうかしたの?」

 

「誰かがこの付近……つってもちょっと遠いが、戦闘してる。それもたった二隻で結構な数の深海棲艦と……って、あれ?さっきまで10はいたのに、減ってる?いや、減っても増えて……。30?40?ってクソっ行ってくる!!」

 

 玄一郎はまた、洞窟を出て救出に向かうことにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 同時刻。

 

 所は変わって東京は松平朋也大佐の邸宅。

 

 松平朋也大佐はその応接室に後輩の近藤勲中佐を呼んでいた。

 

 松平朋也大佐は大本営若手のまとめ役のような立場にあり、元帥である山本大将に見いだされて参謀本部付きになった男である。

 

「舞鶴から遥々、すまないね」

 

 近藤中佐に松平大佐は言った。

 

 松平大佐に対面して座った近藤が苦笑しつつ

 

「先輩の呼び出しですからね。何があっても駆けつけまさぁ」

 

 と言った。

 

 この二人は同じ士官学校の出であり、先輩と後輩の仲だった。とはいえ松平は主席かつ生徒会長、しかも将来を期待されていたのに対して、近藤はとにかく『問題児』としてその内申は酷かった。それこそよく卒業出来たものだと言われる程である。

 

 というか、近藤の問題行動を先輩である松平が揉み消したりした事も一度や二度ではない。

 

 松平はこの近藤が起こした『問題』がそもそも近藤が原因を作ったのではなく、海軍の『問題』を彼が掘り起こし、そして明るみに出した物だと知っていたからである。

 

 近藤勲という男はとにかく厄介事に首を突っ込む。しかしその厄介事は大抵、悪に泣く誰かの涙を内包しているような軍の暗部、大抵は『犯罪』がらみだった。

 

「今まで私は君の『問題』を処理してきた側だった。だけど、今回は君の助けが必要になった。力を貸してくれないか」

 

 松平はそう言って近藤にレポートらしき物を差し出した。

 

「この場で読んでくれ。すまないがここから持ち出すのは許可できない」

 

 そのレポートの表紙は白紙。題名など書かれてはいない。だが、中身は驚くべきものだった。

 

「……小島基地?というかこれは」

 

「そう、このレポートは君と同期の現在諜報部所属の沖田総美少佐の出したレポートだ。小島基地司令の白鳥万智子中佐を告発する旨書かれているのだが、上層部はこれを揉み消しにかかった。沖田君も今、上層部子飼いの暗殺部隊に追われて逃亡中だ」

 

「沖田が?!」

 

「……彼女は元対深海棲艦特殊部隊のエースだった女だ。そう簡単に狩られはしないだろうが、しかしこの状況が続けば如何に彼女とはいえ持ちこたえられるかわからない。故に、君の力を借りたいんだ」

 

「……なるほど、白鳥財閥絡み、ですか」

 

「今の海軍は悲しいかな、軍というものがいかなるものなのかを忘れている輩が多いと山本元帥閣下も嘆いておられる。誰もが、黒い手を握れば己の手も黒く汚れるということを忘れているのだ」

 

「クソの付いた手を握ればエンガチョ、ですね。しかしなんとも独特の風体のおっさんですな、これ。成人病の塊みたいな……こりゃクソですな」

 

「一応、白鳥万智子中佐は女だ。……これでも」

 

「うへぇ」

 

 イヤなもん見たぜ、と近藤は天井を仰ぎ見る。この近藤はある意味女性に対して尊重するタイプの人間であるがやはり例外というものが存在するらしい。

 

「とにかく、手段は選んでいられない。君の所の土方君に、『ブラック鎮守府ブレイカー』に動いてもらえないだろうか。証拠固めはとうに済んでいる。私の実家のバックアップも体制は整ってるよ」

 

「……こんなオバハンを吊させるんですか?うへぇ、見たくねぇなぁ」

 

「……いや、まだ27歳だという話だぞ?白鳥万智子中佐は」

 

「……先輩、知りたくもない情報ばかりですね、ホント」

 

 正直な所、知りたくもない事実であった。

 

 

 

 

 

 




 三馬鹿の一人、近藤勲中佐(現大将)の登場です。

 沖田総美少佐を追いかけているのは実は後々にパラオに来る龍田だったりするわけですが。

 土方歳子とゲシュペンストの第一次遭遇の時も近い。


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【挿入話】舞鶴鎮守府。


 ゲシュちゃんも扶桑ねぇさまも今回はお休み。

 近藤さんのお話です。

 ……とりあえず、うらやましい。高雄っぱいの頭乗せ。なお、私の頭の中では高雄さんのそれはものすごく大きいという設定です。

 なお、高雄提督さんの中には「こんなの高雄じゃねぇ!!」という方もおられるかと思いますが、どうもすみません。最初に謝っておきます。


 舞鶴鎮守府。

 

 この舞鶴鎮守府の提督は近藤勲中佐である。一年前に赴任して来たばかりの提督ではあったが、艦娘との関係は漸く普通から良好に変わってきた所だった。

 

 この舞鶴鎮守府は俗に言うブラック鎮守府であった。前任者は艦娘に対して夜伽を命令し、飽きたら他の提督や政治家達へ払い下げるといった類の、いわゆる『女衒提督』と呼ばれるタイプのゲスであった。

 

 その『問題』に首を突っ込んで解決したのがこの『近藤勲』と『土方歳子』だったのだが、現在ある意味近藤にとっては頭が痛い別の『問題』が起こっていた。

 

 それはつまり。

 

「なぁ、高雄よぉ、その格好なんとかなんねぇ?」

 

「あら、提督。提督はこの格好お嫌いですか?」

 

 近藤の今週の秘書艦は高雄である。近藤はこの鎮守府の艦娘達を一週間でローテーションを組んで交代させているのだが、今週は高雄の番であった。

 

 東京から帰って早々、司令室に来れば高雄が何故かバニースーツ(ウサ耳ウサ尻尾ハイレグエプロン完全装備)を着て出迎えてきた。

 

 いや、似合っている。似合ってはいるのだが、いや、似合っているからこそ非常に困る。何が困るって目のやり場に困るのだ。

 

「嫌いじゃねぇ、嫌いじゃねぇけどよぉ、ここは海軍の施設であって水商売の店じゃねぇんだよ……」

 

「あら、では夜に回した方がよろしかったですか?」

 

「そういう問題でもねぇんだよ。つか、もうそんな服を着なくてもいいんだってのよ。もうあのゲス野郎の言う通りにやんなくてもよぉ。あと、夜のお世話はいらねぇっての。もっと自分を大切にしろや……」

 

 近藤の言にしかし高雄はにこやかに、

 

「でも、近藤提督は私達を大切にして下さってますわ」

 

 と、返した。

 

「あのな、それじゃあ俺があのゲスと同じんなっちまうんだよ。俺はここの司令で、君達は部下、な?上司と部下ってのはそういう事はやっちゃいけねぇんだよ」

 

 はぁぁぁぁぁ、と近藤は溜め息をつく。

 

 近藤勲という男はある特殊な能力故に無理矢理海軍士官学校に入らされた。

 

 その特殊能力は2つある。

 

 一つは妖精や精霊、天使といったものにやたら好かれて集られる、妖物吸引体質。子供の頃から三時のおやつを食べているときなどやたら群れてやってきたり、家の畑を耕してる時など天使が作物に祝福を与えてくれたり、晩に寝て、朝起きたら布団の中が妖精だらけだった、など、とにかく何をしようがいつの間にか寄って来るのだ。

 

 無論、それは常人には見えないものなのだが、近藤にはしっかりと見え、さらに言っている事もよくわかる。

 

 近藤はその能力をひたすらに隠していたのだが、いつの間に海軍から目を付けられていたのか、赤紙を送られて政府から強制的に士官学校に入らされたという経緯があるのだ。

 

 そして、もう一つの能力は士官学校に入ってから発覚した。

 

 それは、艦娘吸引体質。

 

 とにかく艦娘に好かれやすく、そしてやたらと信用される。近藤自身は元々は実家の農家を継ぐために農業高校に通っていた、いわば冴えない芋男であり、女性に全く免疫が無かったのである。妖精さんならともかく、艦娘にやたらと追いかけられたり集られたりするのはものすごく困った。

 

 周りの連中にはものすごく羨ましがられたが、近藤としてはものすごく困る。妖精さん達ならまだ普通に対処できる、というかほっとけば妖精さん達は飽きたらどこかへ行く。

 

 しかし艦娘達にはそんな事はできない。何故ならどう見ても彼女達は人であり、さらには女性で、ほっといたら大抵泣く。泣いたら大抵憲兵さんが来る。憲兵さんが来たら、厄介な事になる。

 

 彼の『問題』というか士官学校時代に内申が悪かった理由の一部はやたらと憲兵さんに連れて行かれた事なのである。あれは非常に困った。

 

 困る。そう、今現在進行形で。

 

 頭を抱えてデスクに突っ伏して悩む。

 

 (松平先輩よぉ、こうなることがわかっててここに推薦したろぉ、絶対)

 

 なお、これは近藤も知らない事であるが。

 

 松平大佐は、この舞鶴鎮守府を近藤と土方が解放した際に、艦娘達の話を懇切丁寧に聞き、そして山本元(やまもとはじめ、である。もとではない)元帥閣下に舞鶴鎮守府の後釜提督にタダの平士官であった近藤を推した。その時の説明が

 

「舞鶴の艦娘達は、近藤勲少佐が提督になるならば叛乱も反抗もしない、と交渉して来ました。彼女達の意志は固く……というより、近藤を鎮守府内に軟禁して離しません。いかがいたしましょうか?」

 

 だった。

 

 当時の舞鶴鎮守府は世界で初めて艦娘の量産方法を確立した鎮守府であり、その方法もデータもまだ公開されておらず、また量産された艦娘の数すらも把握出来ていなかった。

 

 それらの艦娘達が叛乱など起こしたならば鎮圧どころか海軍にも甚大な被害が及ぶだろうと山本元帥閣下は判断し、そしてニヤリと笑った。

 

「君の後輩の近藤は、よく艦娘達にモテると聞く。妖精さん達も見えておるともな」

 

「はっ!彼は裏表無く、艦娘達の涙で動ける男であります」

 

「善い後輩に良い地位を与えたいのは悪い事ではない。近頃のバカモノ共は海軍魂というものをすっかりと忘れておるが……、近藤には、それがあるか?」

 

「バカモノはバカモノですが、逸材です。山生まれの山育ちなれど、海軍魂を持つ立派な快男児であります!」

 

「ほっ、山男とな?ははははは、それは善い!山男に艦が靡くとは。それも一興!!はははははははは!!」

 

 そうして近藤勲少佐は昇進し、中佐となり、こうしてこの舞鶴鎮守府に提督としているわけである。

 

 ぽいん。

 

 突っ伏した近藤の頭に、なにか柔らかな物が乗った。

 

 ぽいんぽいんぽいん。

 

「……なんだ?高雄」

 

「いえ、疲れてらっしゃるようなのでちょっと乗せてみました」

 

 ぽいんぽいんむにっ。

 

 後頭部に感じる、バニースーツ越しではない、なにか柔らかくかつ弾力性のある、ナニカ。考えるな感じろ。これは……。

 

 おっぱいだ(生)。

 

「うっ、うわぁぁぁぁぁっ!!な、ななな、なんてモン乗せっ、乗せっ、乗せるんだぁ!!」

 

「あんっ、そんなに(頭)うごかしちゃイヤですわ、ああ、チクチク、チクチクしますぅ、あん、刈り上げの剛毛が、あん!でもこのチクチクがクセになって、あん」

 

「良いから離れてくれ~っ!!」

 

 結構な質量を持つそれが覆い被さり、身動き取れなくない。

 

 ぽいんぽいんが、ぶるんぶるん、ゆささっ、ぽいんどむっ、ぽいんどむっ、と文字の表現でおおよそ有り得なさそうな擬音となる感じで揺れて重圧を近藤の後頭部を抑えつける。

 

「ぐぇぇ、あ、圧に、乳圧がぁぁぁ、乳圧でプレスされるぅぅぅっ!!」

 

 高雄が離れてくれるまで、高雄っぱいの重圧の下敷きになっていた近藤勲中佐であった。

 

 と、このように艦娘吸引体質は艦娘達を引き寄せるのである。彼の意思とかそんなものお構いなしに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ぶびゃっひゃっひゃっ、で、あんたそのまんま高雄にベッドルームまで連れてかれそうになったの?!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」

 

「あんたは無いだろ。仮にも俺、上官だぞ?」

 

 下品に笑っているのは土方歳子少佐、ブスッとしているのは近藤勲中佐である。

 

 ここは居酒屋鳳翔の二階のお座敷である。居酒屋鳳翔は、艦娘である鳳翔が営む居酒屋であり大抵どこの鎮守府の鳳翔も何故か必ずその地で居酒屋を営んでいる。

 

 『新任の提督はまず鎮守府の前に鳳翔を訪れるべし』

 

 日本海軍において提督に任ぜられた者に言われ続けている言葉である。『親艦娘派』と言われる提督達は必ず鳳翔参りをするし、そして着任したならば下戸でも鳳翔に通うようになる。

 

 しかし、ここで不思議なのは、鳳翔は軽空母であり、間宮や伊良湖のような補給艦では無いのに何故飲食店を営むのか?という事である。。

 

 これは海軍七不思議の中にも入っているのだが、本人に何故と問うても明確な答えは返って来ない。鳳翔の中の一人がたまたま居酒屋を営んでいるというならば話はわかるのだが、ほぼ全員が営んでいるのである。

 

 例外があるとするならば、小規模の基地で間宮達が居ない場合に彼女が食堂を預かっている場合ぐらいだろうか。

 

 なお、他の七不思議には『たべりゅ教』『ナガモン』『妖怪レップウオイテケ』『消えるボーキ』『深海提督』『比叡カレー』などが挙げられるが、学校の怪談話と同じくその時その時でいろいろと変わる。

 

 ひとしきり笑った後で

 

「で、ショーグン様はなんて?」

 

 土方はニィッ、と先ほどとは違った凄みのある笑みを浮かべて歯を見せた。この女がこういう笑い方をするときは必ず艦娘絡みで怒っている時だ。

 

 なお、ショーグン様とは士官学校時代の松平大佐の徒名であり、松平という姓と生徒会長をしていた事からそう呼ばれるようになったのだ。

 

「お家の方の根回しバッチリ、バックアップはまかせろーバリバリバリ、だとよ」

 

 松平大佐の実家は松平財閥である。主に製薬、流通、そして造船、また深海棲艦が侵攻してきた頃からは対深海棲艦用特殊装備を取り扱っている。

 

 にぃぃぃぃぃっ、とさらに凄い笑みを深くした。

 

「ふうん。なら、遠慮もいらないってか?」

 

「早くやっちめぇ、ってよ。何より沖田があぶねぇ。暗殺部隊に追われてるって話だからよぉ」

 

「大本営のネズミ共はコレだから……。とっとと吊してやりたいねぇ」

 

「……それにも段階がいる。先輩もそのために尽力されているが、とは言え、なぁ」

 

 深海棲艦よりもある意味厄介な大本営に掬うネズミの駆除をやると決めて彼らは動いているが、頭の黒いネズミはデカい顔をして大本営の豪華な椅子に座ってふんぞり返っているのだ。

 

「あー、吊したいねぇ、あの准将とか、参謀本部の古狸とか、ねぇ」

 

「……ここ以外でそんな事を言うんじゃねぇぞ?鳳翔さんの店だから大丈夫だけどよ」

 

「わかってるっつーの。で、決行はいつ?」

 

「明後日だ。高速船『御意見無用丸』と対深海棲艦用機動アーマー『剣狼』、あとは武器弾薬もセットで用意する」

 

「オーケー。対艦ロケットランチャーと吊す縄も頂戴ね?真田印の奴」

 

「わかったわかった。まぁ、艦娘達と基地の建物の損害は最小で頼むぞ?いくら松平先輩の実家が艦娘擁護派でも、予算にゃ限度があるんだ。奴らと違ってな」

 

「……善処するわ」

 

 そっぽを向く土方。とにかくコイツは暴れたいだけだろ、と近藤は思ったが、マジでやめてくれというのを目に込めて言った。

 

「……マジで頼むぜ」

 

 本気でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 近藤勲(当時中佐)。

 艦娘にやたら好かれる男。なお舞鶴鎮守府の艦娘達は性的な事に対して全く抵抗ありません。むしろ近藤を襲おうとしたりするわけですが、近藤は妖精さん達の助けでいつも逃げてます。思いの外ファンタジーな男です。

 
 土方歳子(当時少佐)。

 艦娘大好きっ子である。近藤の副官として舞鶴鎮守府に着任。なお、艦娘達が近藤に対してエッチなことをしようとしても、艦娘がやることならばなんら怒らない。そんな艦娘達だって好きなんだもの、という女である。

 なお、高雄のおっぱい揉みまくり事件を風呂でやらかし、それ以来高雄におねぇさまとか呼ばれているそうな。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑥

 
 無念のうちに沈められた艦娘は深海棲艦に変わる。ならば、多くの艦娘を沈めてきた白鳥万智子中佐の基地はどうなのでしょうか。

 今、沈められた艦娘達の復讐の百鬼夜行がはじまる。


 深海棲艦の大軍が、扶桑と睦月の前方に現れた。

 

 扶桑は美しい顔を歪めていた。

 

 この海域はすでに解放済みの基地周辺に近い、比較的に安全な海域だったので油断した。というよりも山城の身を案ずる余り、彼女は失念していたのだ。

 

 これらの深海棲艦はハグレやマヨイと呼ばれる物である。

 

 ハグレは元々別の海域にいた深海棲艦が仲間から群れを追われたり、文字通りハグレたものだが、これはおそらくマヨイ、すなわち無念のうちに沈んだ『艦娘』が深海棲艦化したものだ。すなわち、今二人の前にいるのは『迷える艦娘達の怨霊』なのである。

 

 小島基地はこれまで数多くの艦娘達を死なせ過ぎた。いや、白鳥万智子中佐は、と言うべきだろうか。

 

 あの女提督は就任してから多くの艦娘達を飢えさせ、苦しませ、そしてわざと艦娘達を沈めさせて来たのだ。目の前の深海棲艦達の姿には、かつての仲間の面影が伺えるものも少なからずいた。

 

 あのレ級は、扶桑によく懐いていた雷によく似ている。あのヲ級は雲龍に、あのチ級二人は大井と北上に、あの軽巡ト級は……。

 

「……みんな、苦しんで逝ったのですね。そんなに……」

 

 かつての仲間達の怨霊を前に、扶桑の両の目から涙がこぼれた。しかしこぼれる涙を拭う事もせず、目を離しはしない。

 

「睦月。あなたは基地に戻りなさい。非常事態です。あれらのマヨイはおそらく……いえ、必ず基地に『帰還』しようとするでしょう。数は……20、50……100隻以上、まだ増えてます。はやく帰ってみんなに知らせて下さい」

 

「ふ、扶桑さんはどうするの?!扶桑さんも戻ろう?!」

 

「二人で撤退したなら、あの子らはすぐさま私達を追うでしょう。足の遅い私は逃げる足手纏いになります。私が囮になって引きつけます。だから早くいきなさい!」

 

 扶桑は砲を構えた。決死の覚悟を決める。

 

「いけっ!!早くっ!!私の身を案ずるなら、早く増援を寄越すように、みんなに伝えてっ!!」

 

 鋭く叫ぶように扶桑は睦月に言った。睦月はその言葉を聞いて基地へと向いた。

 

「か、必ず助けを連れてきます!!扶桑さん、その、ご無事でっ!!」

 

 睦月が駆けると同時に、扶桑の主砲、副砲が火を噴いた。

 

「……山城、もう会えないかも知れないわね」

 

 撃ちながら、扶桑は覚悟する。あの司令官が増援など送ることなどあり得ない。むしろあの司令官なら基地の守りを固めさせて引きこもるだろう。

 

 それは悪手なのだ。こうして扶桑が何体も同時に撃破していても、何度命中させて沈めても、減りはしない。むしろ海の中から続々と湧いてくる怨霊達。

 

 あの司令官は果たして何人沈めた?何十人?何百人?それらが数を増やし、マヨイではない周りの深海棲艦も巻き込み、引き連れて基地に殺到するのだ。

 

 あの基地はもう終わり。みんな、怨念に取り込まれて壊滅するだろう。

 

 撃つ手を砲を止めず、狙いもそこそこに素早く撃っては装填、撃っては装填を繰り返す。まだ深海棲艦の射程圏外のうちに数を減らそうと撃つ。

 

 かつて雲龍であったヲ級を撃破。かつて大井と北上であったチ級、多くの知己、仲間の成れの果てを撃ち、後退しつつ再び沈めていく。

 

 対空に難がある扶桑はまず空母達を沈める。航空機は早く、易々と距離を詰めてくる。発艦してしまう前に早く撃破する。さらに足の速い重雷艦の魚雷は脅威だ。肉薄される前にそれも合わせて沈める。

 

 かつての仲間とはいえ、扶桑はためらわず撃ち続ける。彼女達はすでに死んでいった者達であり、そして再び沈めねばその怨念は晴れる事無く人に災いをなして多くの命を奪って行くのだ。

 

 前に出てきたル級がじれたのか、射程圏外からイラ弾(イライラして狙いも付けずに撃ってくる弾のこと。当たりを期待しない、戦術としても効果が特にない)を撃ってきた。

 

「当たるものですか。遠距離砲撃はこうするのです、霧島さん!」

 

 かつて霧島だったと思われるル級の頭を扶桑の副砲は吹き飛ばした。その横の、おそらくは榛名だったと思われる艦も合わせて吹き飛ぶ。

 

「かつて艦隊の頭脳と言わしめたあなたも、怨念となっては……」

 

 悲しそうにつぶやくも、悲しみにとらわれず、次、次と撃破していく扶桑。後退しては狙撃、後退しては狙撃を繰り返すが、それにも限界がある。

 

 何より砲の残弾はあとわずか。それでもまだまだマヨイは湧き出してくる。そのほとんどは駆逐艦だが、速力は扶桑よりも早く、そして扶桑を取り囲むように展開して来ている。

 

 扶桑は主砲の弾種を切り替えた。

 

 上空に向かって約60度。もうすでに中距離になりつつある駆逐艦との間合いにそれを四発ぶちかます。

 

 駆逐艦の上空から、火炎をまとったバラ弾が降り注ぎ、次々と誘爆するかのようにマヨイの駆逐艦は数を減らした。

 

「……数は少ないけれど、三式弾、効くでしょう?」

 

 しかし、数を減らしたとは言え、もう駆逐艦による包囲網は完成してしまっていた。

 

 その中で扶桑は観念する。

 

 レ級が、かつて扶桑によく懐いていた雷が、その輪を割って扶桑の前に進んで来た。赤く光る目と漆黒と血の如き紅い怨念を纏って、ゆっくりと扶桑に迫る。

 

「……雷、あなたも苦しんだのね。そんな姿になってしまって」

 

 砲を向け、扶桑はその美しい顔を歪めた。

 

 ギシャッ、と歯を向いてレ級は笑った。

 

 雷は明るく活発で気丈な、それでいて優しい子だった。暁、響、電、雷の四人は基地ではいつも一緒で扶桑や山城、それに他の艦娘には妹のように愛されていた。

 

 敵であっても救いたいと言う電の言葉に雷は笑ってそれを否定せず、その思いを共有していた。

 

 レ級は首を傾げて扶桑を見ている。昔のように「何を言ってんのよ、扶桑さん!」とでも言っているかのように、手を横に広げて攻撃の意志などまるでないかのように。

 

「ギ、ギギッ、ガッ……。助ス……助スケル……ミンナ……」

 

 レ級は口を開き、言葉を発した。

 

 扶桑は目を見開いて驚く。このレ級は、いや、この雷だったモノは、記憶を保っている?!

 

「フソウ……サン、ミンナ……タスケ……ル。アイツカラ……アイツ、イナクスル……」

 

 そう言うとレ級はギシャッと笑い、扶桑の横をすり抜けて、行こうとした。 

 

「雷、あなた……」

 

「……フソウ……サン。ダイ……スキ……」

 

 扶桑は行こうとするレ級、いや、雷に手を伸ばした。しかし、届かない。バチン、と怨念のオーラが扶桑の手を弾いて届かない。

 

「……ィク、ネ、ダイジョウブ、ワタシニ、マカセ……テ……」

 

「ああっ、ああっ、雷っ、いかづちぃぃっ」

 

 レ級は周りの駆逐艦や軽巡、重巡を引き連れて扶桑の元を去った。

 

 扶桑はそれを見ているだけしか出来なかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 マッハを超えて飛び、玄一郎が扶桑の元へたどり着いたのは、レ級達が去って行った後だった。

 

 扶桑は膝をついて泣き崩れていた。

 

「扶桑さん、大丈夫か?!」

 

 玄一郎はうつむく扶桑の顔を覗き込んだ。

 

「扶桑さん山城達は無事だ。とりあえずワタヌシ島に……」

 

 玄一郎は扶桑が泣いているのは山城達が死んでしまったと勘違いしているのだろうと思っていた。しかし、どうやらそうではなく、まったく違うようだった。

 

(そういえば、艦娘の反応は2つだった。もう一人の子は、間に合わなかったのか……)

 

 そうも思うが、ゲシュペンストがそれを否定した。

 

〔レーダーでは扶桑の戦闘前にこの海域を離脱した模様。死んではいない〕

 

(なら、一体何があったんだ)

 

〔不明。深海棲艦の群れも彼女に攻撃はあまりしていない。素通りしていたようだ〕

 

「扶桑さん、何があったんだ?一体……」

 

「……玄一郎さん、私、どうすれば良いのか、もうわからなくなりました。あの子が、あの子が……みんなを助けようと、ああっ、あの優しい子が、雷がっ……!!」

 

 大粒の涙をながし、はらはらと泣き崩れる扶桑。玄一郎はオロオロしながらそれを見ているしかできない。

 

 だが、ゲシュペンストがそれに口を挟んできた。

 

〔この先の軍事基地に先ほどの深海棲艦の群れが向かっている。その数、おおよそ100以上。玄一郎、どうする?〕

 

「扶桑さん、扶桑さんのいた基地に深海棲艦の群れが向かっている。ヤバい状況だ。扶桑さん、どうするんだ?」

 

「……わかりません。どうすればいいのか、私には、もう」

 

「くっ、こうしてても仕方ない。何があったかはわからんけど、一旦ワタヌシ島に連れて行く!」

 

 玄一郎は扶桑を無理矢理抱えると、その場を離脱する事にした。なにより扶桑と出会って日が浅い自分よりも、妹の山城や他の艦娘の方が話を聞き出せるかもしれない。

 

 他力本願だが、情報が乏しい自分には全く状況がわからないのだ。

 

 ブースターを噴かして玄一郎は扶桑を抱えて飛んだ。

 

 

 




 レ級って、駆逐艦じゃねーよなぁ、とか言うツッコミはさておき。

 強い怨念が雷をレ級へと変貌させて、全ての怨念が小島基地に還ろうとしています。

 マヨイはこの世に迷った元艦娘達の怨念が深海棲艦化した存在ですが、ある種ゾンビ的なもので、進む速度は通常の深海棲艦達よりも遅い、という設定です。

 白鳥万智子さんの命運や如何に?(どう転んでも破滅ですが)


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【設定】艦娘と深海棲艦に関して。

 設定の覚え書きです。

……ゲームで深海棲艦を鹵獲出来たら、やっぱり一番に欲しいのは、港湾棲姫、ですかね。

 いえ、主におっぱい。ほぼおっぱい。


 私のこの話では、艦娘はかつての大戦で沈んだ軍艦の御霊を宿す、神格を持った霊が肉体を持ったもの、という設定です。

  

 深海棲艦はその逆であり、大戦で沈んだ軍艦の怨念が凝り固まり、苦しみや憎しみを糧に肉体を持ったもので、つまりは怨霊の塊とも言えます。

 

 とはいえこの2つは陽と陰であり、怨みを宿せば艦娘も怨霊となり、怨みが晴れれば深海棲艦も艦娘に転じます(例外はありますが)。

 

 また、艦娘も深海棲艦も長い年月存在すればするほど力を増していく傾向がみられ、深海棲艦に至っては高い知能すらも獲得し、中には憎しみや怨みさえ克服し、人に友好的に接するものもいるほどです。

 

 これは日本神道の『怨霊すらも祀って神とする』のと同じです。

 

 たとえばまだ物語には出てきてませんが、パラオ周辺海域の深海棲艦のボスである『空母水鬼』は飢えに対する渇望によって深海棲艦となっていましたが、パラオの人々が経験から海に米や食料を捧げてその害を避けようとしていた為に、図らずも『神として祀った』のと同様の効果が出てしまい神格化して穏やかになった、という設定です。

 

 他でも、飛び立つ戦闘機達の無念を思って深海化した『泊地水鬼』や、船の安全を願ってそれが叶わなかった『港湾棲姫』など、ある意味、祀れば神格を得るであろう存在だったりします。あと、ほっぽちゃんは本編で出る予定です。

 

 ただし、祀ってもそれを拒否する深海棲艦もいるので全てがそうなるわけでも無いのですけど。

 

 

 ハグレ深海棲艦

 

 ハグレ深海棲艦は、そのテリトリーから追い出されたり、群からハグレてしまった深海棲艦の事を差します。

 また、わざわざ群れを成して略奪や破壊活動を行いに余所から来るのもこれに当たります。

 

 マヨイ深海棲艦

 

 これは死んで沈んだ艦娘達が強い怨念を抱いている場合に深海化して迷い出た、いわば艦娘の死霊であり、ゾンビのようなもので、そのほとんどが知性を持ってはいません。しかし、これも長く存在し続ければやがては知性を持つに至る場合があり、そしてその形質も変化させる場合も確認されています。中には生前の記憶間で残しているものもあり、『死んだ雷が転じたレ級』がそれに当たります。

 

 なお、本編では。

 

 『死んだ雷が転じたレ級』は存在し続けています。わりとちょくちょく出す予定ですけど、どうなるかわかりません。艦娘側にも深海側にも可愛がられつつ、恐れられている存在になるかなー、と。

 

 さらに。下半身丸出しなあの深海の空母は、あのお方のゾンビだったり、ナガモンル級とか、軽巡のアイドルとか、いろいろ考えてますが、さてはてどうなるやら。18禁に触れない程度にやります。ええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ゾンビ艦娘って、なんというか想像してみて、リッカー島風とか、タイラント武蔵とか。

 ブーマー赤城とか、ウィッチ扶桑ねぇさまとか。そういうのが頭に浮かんでしかたない。

 7DTDでそういえばバージョンアップしてストリッパーゾンビ追加されましたけど……。ストリッパーゾンビ山城とか、ストリッパーゾンビ大和とか、ストリッパーゾンビ高雄とか……


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑦


 土方さん、白鳥中佐を吊し上げ。ぶひぃ。

 そして青年は戦場へ。

 なお、今回はバイオレンスな表現が含まれますのでご注意ください。


 

 海軍に様々な怪談話が伝わっている。

 

 海に沈んだ艦娘が愛しの提督を忘れられずに深海から提督を迎えに来る『深海提督』。あるいは非業のうちに死んだ提督がとらわれて抜け出せないと言われる『バミューダ海域の墓場』。あるいは、とある北の海域の泊地に現れる白い少女の霊『妖怪レップウオイテケ』。あるいは、海域警備の駆逐艦の隊の前に現れ、撃たれても撃たれても反撃する事すらせずに接近し、抱擁して頬ずりしていつの間にか消える黒いル級『深海ナガモン』。

 

 様々な与太話とも真実ともつかぬ、夏にありがちな怪談。

 

 しかし、それらは現実に、海軍上層部によってもみ消された事件が形を変えて伝わったものばかりであったならばどうだろうか。

 

 そして今、新たな海の怪談が、怪異が始まっていた。

 

 後に人は『百鬼夜行』とこの怪異に名前を付ける事になるこの事件。

 

 だが、まだ誰もそれを知らず、そしてこの小島基地に武装高速艇で乗り付けてブッコミをかけて白鳥万智子中佐を追い回している土方歳子少佐もまた、それを知らなかった。

 

 

 ドゴーーーン!!ドカーーーン!!

 

 対深海棲艦用装甲服、通称『剣狼・改』を着込んだ土方歳子が、四連対艦ロケットランチャーを、前を走っている白鳥中佐にぶち込む。

 

「止まりなさーーーい!!止まんなきゃ撃つぞ!!」

 

「ぶぎゃああああっ、止まってたのにいきなり撃ったじゃない!!ていうかそんなもの撃たれたら、しっ、死ぬぅぅぅっ!!」

 

 デベデベデベ、とおおよそ人間が立てる足音ではないような音を立てて、見かけよりも早く走るその物体の顔は醜く、涙と鼻水とよだれでまみれ、厚化粧が崩れてつけまつげもとれかかって非常に醜くかった。

 

 ドゴーーーン!!バゴーーーン!!

 

 ロケットランチャーで撃っても、この白鳥中佐というデブは意外な小回りでよけていく。

 

「ぶぎゃああああっ、ぶぎゃああああっ、ぶぎゃああああっ!!」

 

「ちっ、当たんねーっ!動けるデブはこれだからっ!!」

 

 舌打ちをして土方少佐は弾の無くなったロケットランチャーを捨てる。

 

「最上ぃぃーーっ、もがみんーーーっ!!どこぉ、どこなのぉぉっ!!たっ、助けなさーーい!!賊よぉ、賊が侵入して来たわ、この際誰でもっ、誰か助けなさーーい!!」

 

 白鳥中佐は必死で自分の秘書艦や基地の艦娘を呼ぶ。しかし誰も出て来はしない。

 

 それは別に白鳥中佐が恨まれているからとかそういう事ではない。艦娘は誓約と呼ばれるものによってそれぞれの司令官の命令に縛られている。それは、いかなる命令でも逆らえない制約でもある。

 

 稀に、古くからある艦娘の中にはそれに対して逆らえるような者もいるが、それは例外中の例外であろう。

 

 しかし、ここの艦娘達にかかっている白鳥中佐の誓約はすでに土方少佐によって解除されていた。

 

 土方少佐の能力は『艦娘に対する介入』である。その能力は艦娘の根幹や艦娘達の精神までも影響を及ぼすある意味使い方を誤れば危険な能力でもあるのだが、土方少佐はそれを使って白鳥中佐の誓約を破壊し、そしてこの小島基地より日本の本土に近い、艦娘擁護派の提督のいる中島(なかしま)基地へと秘密裏に逃したのである。

 

 つまりは、この基地に艦娘達は誰一人としていない状態なのである。

 

 つまりは、やりたい放題、白鳥中佐を料理出来る環境を作ったわけである。だからロケットランチャー撃ち放題、マシンガン撃ち放題、というフリーダムな狩りができるわけである。

 

「あーはははは、たーのしーい!!」

 

 もう、どったんばったん大騒ぎである。

 

「ぷぎぃぃぃーーっ!!ぷぎぃぃぃーーっ!!」

 

 ババババババババっ!!

 

 短機関銃を撃ちまくり、土方少佐はようやく袋小路に白鳥中佐を追い詰めた。

 

 壁に張りついて震える様はなんというか、壁に張りついたジャバ……いえ、太ったクリーチャーのようだった。

 

 土方少佐はその醜く太った腹に蹴りをドスッ!!とくれてやると、短機関銃をその鼻先に突きつけた。

 

「おい、豚。今まで好いように豚ってきたんだろ?艦娘泣かせて苦しませて、殺してきたんだろ?無能な豚っ!おい、答えろよ豚っ!」

 

「ぎっ、お前っ、私にこんなごどじで、お、御父様や御爺様が、許しておぐと思うなよぉぉっ!!」

 

 グシャリ……!

 

 土方はその顔に、左拳を打ち付けた。装甲服の籠手についている菱形の金属製ナックルガードがグシャリ、と白鳥中佐の鼻を潰した。

 

「知らねぇよ。つか、その面で『おとぉさま』だぁ?『おじぃさま』だぁ?笑わせるなジャバ○ハット。ゴース○バス○ーズの意地汚ねぇ緑のゴーストより醜い物体の分際で、何を言ってやがるんだクリーチャー」

 

 ババッバン!!

 

 土方は鼻先に突きつけていた短機関銃を白鳥中佐の左足に向けて放った。

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

 血は出ない。中身は全てゴムスタン弾である。ただし、白鳥中佐の左足の骨は砕けた。

 

「ぎぃやああああああっ!!」

 

「足の骨が砕けたぐらいでぎゃあぎゃあ抜かすな、豚。お前が艦娘達にしてきた事は、全身の骨が砕けても贖えない。お前の罪は死んでも許されない。安心しろ、お前のおとぉさまもおじぃさまも、みーんな同じ目に遭わせてやるからよぉ?」

 

 土方はそういうと白鳥中佐の無駄に長い髪の毛を掴んだ。

 

「さぁ、行こうか。豚は精肉所に出荷よぉ?」

 

 ズルズルと白鳥中佐を引きずる。

 

「……まぁ、煮ても焼いても食中りするだろけど」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 土方少佐が小島基地で白鳥中佐を基地のクレーンに吊し上げている頃。

 

 玄一郎は扶桑を連れてワタヌシ島へと戻った。

 

 扶桑の様子に山城が心配して駆け寄ると、扶桑は山城に抱きついて号泣し、その泣き様にみんなどうしてよいかわからなかった。

 

「……小島基地はもう、終わりです」

 

 散々泣いて、泣き止んだ扶桑は力無くそう言った。

 

「どういう事なの?!ねぇさま」

 

 扶桑は怪訝そうに、しかし姉である扶桑はそんな事を冗談でも軽々しく言うような人ではないと知るが故に、何かとてつもない事が起こっていると悟りつつ聞いた。

 

「雷が、沈んだあの子が……。あの子がみんなを助けると、沈んだ皆を連れて基地へ帰ろうとしているのです」

 

 それを聞いた山城の顔から血の気が引いていった。

 

「雷は、マヨイになって深海棲艦になった皆を率いて白鳥中佐に復讐をする気なのです。あの子は、マヨイになっても、みんなの事を忘れてない、健気で優しいあの子は、あんな姿になっても……」

 

 ほろり、とまた扶桑の目から涙が落ちた。

 

「でっ、でも、基地にって他の子達が危ないんじゃ……」

 

「……私には、もうどうしていいかわかりません。おそらく白鳥中佐は籠城戦を展開するでしょうが、それは悪手です。あの数のマヨイ相手では1日と持ちこたえられないでしょう。それに、あの雷の力は、おそらくは大和級でも敵わない程の力を持ってます。単艦で小島基地を滅ぼせる程の、すでに『鬼姫級』を超える程の力を秘めています……」

 

「すまん。俺にはよくわからない。その『雷』って子は、艦娘なのか?深海棲艦になったって、それにマヨイってなんだ?説明してくれ」

 

 イムヤが玄一郎にそっと説明した。

 

「マヨイは、怨みを持って海に沈んだ艦娘が死んだ後に深海棲艦になってこの世に迷い出た存在の事よ。怨みや無念が大きければ大きいほど強い力を持つのよ。雷は数年前に、無理な作戦で白鳥中佐に殺された駆逐艦の子で、みんなに可愛がられてたわ」

 

「……し、死んだ艦娘って、つまり幽霊なのか?つか、そんな事が?いや、つか現実にありえるわけが……」

 

 と、玄一郎は言って深海棲艦達の姿を思い出す。あの、船の残骸や機械と人間の死体とそして醜い何か得体の知れないものが混ざったような姿を。

 

〔深海棲艦とは、死んだ艦娘が何らかの原因によって変化したもの、というわけか〕

 

「つまり、深海棲艦というのは怨みを持って死んだ艦娘の、その、ゾンビみたいなものなのか?」

 

「……それを言うならば、私達もそのようなものです。かつての大戦で沈んでいった軍艦の魂が授肉して蘇った存在、それが私達艦娘なのです。私達艦娘と深海棲艦を分かつものは、ただ、国を護り人を救い命を守る思いと念。しかし、それが裏切られ、かつ沈んだならばそれは怨念となり、人に報復しようとマヨイ出る、災いとなるのです」

 

 扶桑は静かにそう言った。

 

「白鳥中佐は多くの艦娘達を自身の自尊心や虚栄心を満たすために、死なせてきました。数百もの怨念達はもう止まらないでしょう。怨念が怨念を呼び、おそらくは今頃、かつて無いほどの数の深海棲艦が小島基地へ向かっているでしょう。そして、小島基地を壊滅させた後はさらに周囲の深海棲艦を集め、周辺施設はおろか本国すら壊滅させるまで止まらないでしょう」

 

 玄一郎はそれを聞いてぞっとした。本国とは日本である。この世界の日本がどのようになっているかはわからないが、自分がいた世界の日本が深海棲艦に破壊され尽くす所を想像し、その身体を震えさせた。

 

 各種センサーや広域レーダーは現在の周辺海域の状況を伝えているが、小島基地へ向かっている深海棲艦を示す光点はレーダーの黒い部分を埋め尽くす勢いで増えている。

 

〔深海棲艦の数、計測不能〕

 

 ゲシュペンストが言わなくてもわかる。ここまで増えては数える事など不可能だ。

 

(……なぁ、ゲシュペンスト。これってどうにか……出来ねぇわなぁ)

 

 玄一郎はダメだよなぁ、と思いつつヤケクソで聞いてみた。

 

〔パーソナルトルーパーでは不可能だ〕

 

 ゲシュペンストはそう答えた。

 

(そうだよなぁ)

 

 玄一郎はガックリとしてうなだれた。ゲシュペンストならなんとか出来るんじゃないかと少しは思っていた故に余計に、である。

 

〔玄一郎。私はパーソナルトルーパーでは無い。特機グルンガストの試作武装を搭載され、グルンガストと同様の高出力のジェネレータを組み込まれ、そしてパーソナルトルーパーを超える重装甲を持つ。かつてスーパーロボットと呼ばれた機体の数々を相手にたった一機で互角に戦った自分が、遅れを取るはずも無い〕

 

(え?それって?)

 

〔自分を見くびるな。特機ゲシュペンストタイプSならば可能だと言っている。玄一郎、やるか、やらないかは君が決めろ〕

 

 玄一郎は機械の手を見た。大きく太い指。マシンの手だ。力が溢れている。

 

 前を見て泣く扶桑を見る。か細く、触れれば折れるような女性だ。彼女はいつも見る度に泣いている気がする。いつも悲しげで、微笑んでいても儚げで。

 

 助けたのは一度。会ったのは二度。知り合ったのはついこの間。バタバタと動き回って気がついたらなんかやたら縁があったのか関わっていた。

 

 おかげで自分の事を考えてる間もなく、悩む間もない。

 

 山城が玄一郎の視線に気がついてこっちを睨んでいる。コイツはやたら怒っているよなぁ。扶桑さんにそっくりなのに。いや、コイツも泣いてたか。

 

 如月、吹雪、イク、ゴーヤ、イムヤ、ハチ。

 

 如月はやたらチョップされてた。

 

 吹雪はなんか田舎娘というか可愛いけど普通の女子中学生っぽい。

 

 イクはおっぱいおっきい、つか、生で見た。

 

 ゴーヤはでちでちうるさい。

 

 イムヤはしっかり者でちょっとお姉さん的。

 

 ハチはドイツ好きで知識が豊富。

 

 よく考えたら、俺、今までこんな可愛い女の子達を見るの初めてだよなぁ。

 

 玄一郎は、ふぅ、と息を吐く。肺も口も無いからスピーカーが変わりにそういう音を出した。

 

「……おっぱい、見ちゃったからなぁ」

 

 いや、そんな事を言いたい訳ではなかったが、何故かスピーカーは思考の一つを勝手に拾って音声として吐き出した。

 

「ああ゛っ?!」

 

 山城がさらに睨んでくる。扶桑さんが顔を赤らめる。

 

 頭の中に二人の大破してたときの、裸同然の映像が流れて、やっぱり二人とも綺麗だよなぁ、とか思いつつ冷静に玄一郎は二人に告げた。

 

「いや、俺達なら、なんとか出来るってコイツが言うからさ」

 

 ガイン!と胸部装甲を拳で打って鳴らす。

 

「んじゃ、ちょいと行ってくる。留守番頼んだぜ?」

 

 玄一郎は、ゲシュペンストタイプSは洞窟の出口に振り向かずに向かっていった。

 

 身体に力がかつて無く漲っていく。

 

〔リミット解除。ズフィルートクリスタル、ウェイクアップ。そうだな、あの数を相手にするには自分の固定武装だけでは面倒だろう。自分の記憶にある他の機体の武装を創り出す。役に立つはずだ。使え〕

 

 ゲシュペンストはそういうと右手に機関銃のような物を作り出した。

 

〔M-970アサルトマシンガンだ。数を相手に格闘だけでは時間がかかりすぎる。遠距離だとミサイルだけでは足りないだろうからな〕

 

「ライフルも有ったんだな、お前」

 

〔必要ならニュートロンライフルでもバルカン砲でも出す。状況次第だが任せておけ〕

 

「ああ。それじゃ、行こうか」

 

 一機のロボットに二つの心を乗せた特機ゲシュペンストタイプSは飛び立つ。

 

 怖いとか死ぬかも、とかは無かった。ただ、やれるという無責任な自信にも似た何かがあった。

 

〔最大加速で行くぞ!!〕

 

「おう!!やってくれ!!」

 

 ズドン!!と空気の壁を突き抜けて黒い亡霊は戦場へと向かっていった。 





 仕事の報酬は前払いのおっぱい。玄一郎君は、若い頃はおっぱい星人だったわけで。

 まぁ、流石に約15年前ぐらいの話ですので、仕方ないね。

 つか、なんかさらりと山城までヒロインになってるような気がしないでもない。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑧


 白鳥万智子中佐、死亡確認!

 ゲシュちゃん、知らんところで惚れられる!

 睦月ちゃん、空気。

 という変な回です。


 白鳥万智子という名の肥え太るだけ太った豚をクレーンに吊し終わり土方歳子は、タバコに火を付けてふぅーっと一息ついた。

 

 パワーアシスト機能がついている装甲服を着ていてもあれだけの体重を吊し上げるのは非常に疲れたが、これで多くの艦娘達を救えたという達成感で土方は非常にイイ顔をしていた。

 

 なお、吊されてはいるものの、白鳥万智子はまだキチンと生きている。殺すのは土方の本意ではないし、それでは見せしめにはならないからだ。

 

 と、一人の駆逐艦とおぼしき少女が海から急いで上がって来た。

 

 睦月型の一番艦であろうと土方は推測したが、どうも様子がおかしい。そして、クレーンに吊されている白鳥万智子を見て「きゃああああああっ!!」と叫び声を上げてその場に座り込んだ。

 

 それはそうだろう。

 

 マヨイの群れに遭遇し、その報告をするために基地に戻って来て、基地の中には人気がなく警備任務に就いている艦娘すらもいないのだ。それに建物のあちこちに破壊された跡があり、クレーンから微かに聞こえて、そっちを見たら白鳥万智子が吊されている、という状況に出くわしたならそれは睦月にとってはホラーだろう。

 

「ほいほい、睦月型の睦月ちゃん、怖くないよー怖くないよー?というか、おねーさんが助けにきたんだよ?もうあの豚の命令も聞かなくていいし、ごはんも食べれるようになるよー?」

 

 しかし、睦月はガクガク震えながら頭を抱えて、土方の言葉など聞いていないかのように言った。

 

「マヨイが……マヨイがっ、ふっ、扶桑さんがっ!みんな、いないっ?!扶桑さんが危ないっ!」

 

 土方は『マヨイ』という言葉に眉を顰めるも、取り乱している睦月に手を伸ばして、その頭に触れた。

 

「……落ち着いて。ほら、とりあえず君の誓約を解いたげるから」

 

 土方の手が光、それと共に睦月の周りで何かがパシン!と割れるような音が響いた。

 

「あっ……」

 

「落ち着いた?もう君は大丈夫。話してごらん?何があったの?」

 

「深海棲艦の、それもマヨイの大群が基地に押し寄せて来てます。進行は遅いですけど、今、扶桑さんが残って、闘って、増援を呼んでって言って、私だけ基地にっ……!」

 

「……あちゃあ、なんて事?!ええと、私、ここの基地の子達みんな中島基地に避難させちゃった!!睦月ちゃん、その、マヨイの数はどれぐらいなの?!」

 

「私が見た時には、ものすごい数で、どんどん海から湧いて出てきて、海を埋め尽くすぐらい、たくさん」

 

 土方は腰のポーチから双眼鏡を取り出し、それを海に向けた。

 

「うげっ?!」

 

 水平線から見える黒い線が蠢きながらこちらにゆっくりと進んで来るのが見えた。いや、線ではない。その線は大量の深海棲艦の群れが並んでいる物だった。

 

 見えている数にしても100や200ではない。今までに無い、前代未聞の深海棲艦の大量発生、そして大侵攻だった。

 

 前を進むのはどう見てもかつては艦娘だったとおぼしき者達で駆逐艦、軽巡、重巡、空母、戦艦までもが、迷い出て怨念を放ちながら向かってきている。赤黒いオーラやドス黒い黄色のオーラを放っている、強力な怨念を持つエリート級やフラッグシップ級が大量に混ざっていた。

 

「こ、これはもう、逃げるしかないわ。睦月ちゃん、おいで。私の船で中島基地に向かうわよ!!」

 

「ええっ、でも、扶桑さんがまだっ?!」

 

「辛いけど、あいつ等がこうして来ているという事は、扶桑はもうやられてるって事よ。あなただけでも、さぁ、行くわよ!」

 

 扶桑は足が遅い。自分が足手まといになる事を察し、睦月を逃がすために自分を囮にしてマヨイを引きつけたのだろう。

 

 扶桑型一番艦はどの扶桑であっても献身的で仲間思いで、自己犠牲を厭わない性格をしている事を土方はよく知っていた。

 

(扶桑さん、この子は必ず私が助けるわ)

 

 土方はそう決意して睦月の手を握った。

 

 チラリとクレーンに吊った白鳥万智子の方を見る。

 

「……自業自得だわ。あんたはそこであの子達の怨みを受け止めて地獄に落ちなさい」

 

 そして、睦月を連れて土方歳子は自分の高速艇に向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)は音の速度を遥かに超えて小島基地へと飛んでいた。今までに無いほどのスピードだったがむしろ爽快な気分だった。

 

「おい、ゲシュペンスト!お前こんなに早く飛べたのかよ!!」

 

 物凄い風圧に思わず玄一郎は叫ぶようにゲシュペンストに話してしまう。

 

〔叫ばずとも聞こえている。リミッターを解除しているからな。流石にいつもこれでは機体にガタが来る。それに君への負担も大きい〕

 

「音速軽く超えてんもんなぁ。つか、やたら出っ張りとか抵抗ありそうだがよく保ってんな?」

 

〔グラビティフィールド、つまり反重力場のバリアで抵抗を軽減している。長時間は流石にジェネレーターが保たないがこの距離なら問題無い。ズフィルートクリスタルも発動しているからな〕

 

 ゲシュペンストタイプSに搭載されているズフィルートクリスタルは元々は異星人に鹵獲された際に、異星人達によって埋め込まれたものである。何かの結晶のように思われがちだが、実際は自己増殖・自律型機械細胞であり、機体の自己修復、エネルギー回復など様々な能力を持っている。

 

 後に地球の科学者もこれを参考にしてマシンセルなどを開発したのだが、それもゲシュペンストタイプSが撃破された後の話であり、彼はその存在を知らない。

 

 ゲシュペンストを軽く超えたタイプSだが、このズフィルートクリスタルが加わった事でさらに強化されてしまっている。

 

〔……しかし、まるで正義のスーパーロボットのようだな〕

 

「ああん?つか自分でスーパーロボットって言ってただろが、お前」

 

〔ふふふ、昔は悪のスーパーロボットだったからな。なかなかこれは気分が良いものだ。……さて、玄一郎。お喋りはここまでだ。まもなく目視で敵群が見える。海上には深海棲艦しか居ない。敵の後方群、その数ざっと300〕

 

「どうする?ミサイルとかマシンガンじゃ時間がかかるぜ?〕

 

〔開幕からぶっ放して一気に敵の数を減らそう。メガブラスターキャノンを使え。出力はこちらで調整する〕

 

「オーケー!いくぜっ!!」

 

 ゲシュペンストの胸部装甲が左右に割れる。凶悪な破壊力を持つブラスターの射出口が現れ、そして唸り始める。

 

〔玄一郎、衝撃に備えろ!行くぞ、メガブラスターキャノン!!シュートっ!!〕

 

 ドゴォォォォォォォォーーーーーーーーっ!!

 

 エネルギーの奔流。前に見たメガブラスターキャノンなど比べものにならない、広域放射が海上の辺り一面を覆い尽くす。

 

 あまりの熱量に海が蒸発し、水の分子が分解され、そして水素が爆発してさらに深海棲艦の群れを連鎖するように撃破していく。

 

 地鳴りのように、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と海が鳴り、全てが爆発し燃えて塵になっていく。

 

 ブラスターの熱線の放射が終わっても、海上は燃え続けていた。

 

 玄一郎は絶句した。

 

「す、すげぇ……。一撃でこれかよ」

 

〔通常ならば使わせないが、これが最大出力の三分の一、だ〕

 

「嘘だろ?これで三分の一かよ。って、まだ生き残りがいるのかよ?!」

 

 群の外円にいた深海棲艦がこちらに対空砲を撃っても来た。だが、航空機よりも高い高度にいるゲシュペンストには届きはしない。

 

〔ミサイル、マルチロックオン。玄一郎、今回は無限ミサイルだ、とことん撃ちまくれ!」

 

 ゲシュペンストはズフィルートクリスタルを作動させ、ミサイルをいくつも出し、次から次へと撃ち出した。拡散するミサイルが生き残ったマヨイ達に雨のように降り注ぐ。 

 

 全て直撃し、数はどんどん減って言った。

 

〔後はアサルトライフルで殲滅だ。まごついている暇は無い。まだこれで第一陣だからな〕

 

 ゲシュペンストは急降下し、そしてさらに残った重装甲の深海棲艦を撃破すべく、突撃していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 土方は睦月を高速艇に乗せて、基地の港の反対の砂浜から、島を離脱しようと船のエンジンをかけようと必死になってセルを回していた。

 

 がすん、がすん、と音はするが、なかなか掛からない。

 

 これは、マヨイ、すなわち深海棲艦と化した艦娘達の怨念のせいであった。非科学的に思えるかもしれない。しかし、艦娘達や深海棲艦というものがこの世にある世界では理論としてすでにこの現象は確認され、実証されている。

 

 それは負の思念、すなわち負の霊圧の多い場所では駆動機器やコンピューター、無線その他、電気機器はその影響をうけて正常に作動しなくなるという現象である。

 

 今、この小島基地にはその負の霊圧は極限にまで高まっており、たとえその負の霊圧を避けるための護符や御札などをベタベタと貼ってある『御意見無用丸』であっても、正常作動は難しかった。

 

「睦月ちゃん、お願い、祈ってて!エンジン掛かるようにっ!!」

 

 負の霊圧に対する、艦娘の正の思念を期待して土方は睦月にそう言った。

 

 だが、睦月もいっぱいいっぱいである。

 

 「うーーーん!!」

 

 と手を組んで念じてはいるが、練度の低い出来たばかりの駆逐艦では自分の身に降りかかる負の思念すらも払えない。力んでいるが足りなさすぎた。

 

 土方自身、この吐き気を催すような、絡みつくような重圧に抗い、なんとか身体を動かしている。装甲服のパワーアシストも正常に動作してはおらず、単なる重しのようになっていた。辛うじてその重みに鍛えた筋力で耐えつつなので二重に辛い。

 

 と、その時である。

 

 船の右側面から、どぉぉぉん!!とすざまじい音が聞こえ、物凄い光量の熱線が海へと落ちるのを土方は見た。

 

 それは落雷のように天から降り、そして轟雷よりも早く、そして長い時間発せられ圧倒的な熱量と質量を以て怨念の塊を焼き尽くし、爆散させ、破壊し尽くしていった。

 

「な、何が起こったの?!」

 

 土方は思わず高速艇のコクピットのハッチを開けてその場に立った。装甲服のパワーアシストは先ほどまでの重みが嘘のように軽く働いた。

 

 そして、土方は見た。

 

「な、ななな、何あれっ?!」

 

 雲の上から無数のミサイルが撃たれ、深海棲艦にドカドカと命中していくのを。人類の近代兵器であるミサイルが深海棲艦を撃破していく。

 

 通常ならば有り得ない光景だった。深海棲艦に人類の兵器は通用しない。物理的にどれだけ破壊力が強かろうが、貫通性能が良かろうが、深海棲艦には通用しない。

 

 深海棲艦が海から日本へ侵攻してきた時、旧海上自衛隊はありとあらゆる兵器を使用してそれに対抗してきたが、アサルトライフルの弾も、ロケットランチャーも、艦載の機銃も、ミサイルも、通用しなかった。

 

 人間の兵器は深海棲艦に全くの効果はない。

 

 アメリカが行った核攻撃作戦『プロビデンス作戦』もなんら通用せず、むしろ怨念を荒ぶらさせた深海棲艦の群れをアメリカの湾岸地帯へと呼び寄せて自ら破滅させただけという結果になったのであった。

 

 なのに、この光景はなんなのだ。ミサイルが雨霰と降り注ぎ、深海棲艦が爆発四散していくではないか。

 

「あ、有り得ない」

 

 ミサイルの雨が止み、そして、それは雲の上から降りてきた。ライフルを構えた、黒いロボットが。

 

 ミサイルで討ち漏らした生き残りに向かってロボットはライフルの照準をあわせる。

 

 パラララララララララっ、パラララララララララっ、とライフルは気味の良い、軽い射撃音を奏でる。

 

 弾に当たった深海棲艦が血ともオイルともわからぬ体液を撒き散らして倒れていく。簡単に、易々と撃ち貫かれていく。

 

 砲でも何でもない。ただのアサルトライフルに見えるそれが通用している。

 

 そのアサルトライフルの弾幕をかいくぐった深海棲艦化した島風と思しき駆逐艦が飛びかかる。

 

 あのロボットがやられてしまうのか?!と土方が思ったその時、ロボットは特に慌てるような事もなく、ゴツッ!!と左腕でぶん殴り、空中に吹き飛んだその駆逐艦を蜂の巣にした。

 

「ひ、土方さん!!土方さん!!」

 

 呆然としていた土方の腕を睦月が引っ張った。

 

「逃げないと!!大きな黒いのが!!あれは……っ!!」

 

 はっ!!として睦月が言った方向を見れば、大型のズングリムックリとした筋肉の塊、その上に乗った戦艦棲姫が上陸してきていた。その戦艦棲姫の艤装は傷つき、背中から煙を出してはいたが本体は無傷であった。また、その艤装は腕に黒いフードを被った小さな深海棲艦を抱えていた。

 

 ズシン、ズシンと土方の高速艇へとそれは近づいてきたが、砲を向けはしない。

 

 その戦艦棲姫は「ほう?」と土方を見て何か感心しているように、にやりと笑った。

 

「ムサシサン、オロして?」

 

 戦艦棲姫のマッチョな艤装の腕に抱えられたレ級がそういう。素直にマッチョはレ級を下ろしてやり、そのまま待機した。

 

「武蔵?」

 

「いかにも。私が武蔵だ」

 

 土方の問いかけに戦艦棲姫は肯定した。

 

「お前が、ここの艦娘達を避難させたようだな。礼を言う。無駄な血を流さずに済んだ。だが。」

 

 クレーンに吊り下げられている白鳥万智子を一瞥して、鼻をふん!とならし。

 

「あれを吊ったか。いい気味ではあるが気に入らない。それは我等のやることだった」

 

 と言った。

 

「……まさか、あの豚が武蔵まで沈めてたなんて思わなかったわ」

 

 土方は武蔵の発する鬼気に震えつつも何とか言葉を発した。少しでも気を抜けば膝から落ちてしまうのを必死で耐えていた。

 

 だが、武蔵を名乗る戦艦棲姫はそれを否定した。

 

「いや、私は最初からお前らの言うところの『深海棲艦』として顕現した。余程沈められたのが悔しかったのだろうな。とはいえ、私は戦艦武蔵が沈んだ海域で眠っていた。特にやりたい事も無かったのでな。動くのも面倒だったのもあるが」

 

「そ、その武蔵が何故……?」

 

「私のいた海域にコイツが流れて来てな?めーめー、めーめーと泣いてうるさかったからだ。この泣き虫が仲間を助けたい、と抜かすので仕方なくな?」

 

「な、泣き虫じゃないわよ!!」

 

 レ級が顔を真っ赤にして武蔵に反論するが、武蔵のマッチョ艤装がぺし、とその頭を軽く叩いて黙らせる。

 

「ふん、泣きながら私の所まで流されていた癖に何を言う。まぁ、そのような事はどうでもいい。この娘の為に起きてここに来てみれば、怨念の群れ、群れ、群れ。余程に怨みと悔恨が溜まっていたのだろう。故に晴らさせてやる為に連れて来たのだ。そうせねばこの辺りの海は何者も立ち入れぬ怨霊の海となり果て、かのバミューダ海域よりもおどろおどろしい死の海となろうからな」

 

 一人のゲスの死でそれが回避出来るならば安かろう?と武蔵は真面目な顔をして言った。

 

 そしておもむろに武蔵の深海棲艦は、後ろを振り返り、そして今もライフルを撃ちまくりつつ他の深海棲艦を沈めているロボットを見て、ぼそり、と言った。

 

「とはいえ、あんなモノがいるとは予想外だった。船ならば女の性を持つものだが、アレは男そのものだ。ふふ、男に討たれれば女は満足だろうよ」

 

 300を越えていた『マヨイ』達はみるみる数を減らしていた。全て滅されるのも時間の問題だろう。

 

「男、なの?あれは」

 

「そうともアレは『男』だ。ふふふ、あの熱さ……。撃たれて受けて、まだこのようにくすぶっているぞ」

 

 マッチョ艦装の背中がまだくすぶり、煙を上げている。おそらくは空から放たれた熱線を受けたのだろうが、武蔵はいちいちなんかエロい。艦娘の武蔵ならば武人肌であるのに、深海棲艦になるとなんかエロくなるのだろうか。

 

「そんな事より、アレに邪魔される前に私は豚を引き裂いてくるわ。それで解散、だもの」

 

「む?そうだな。お前は行くがいい。贄をお前たちの誰かが引き裂けばお前達の無念は晴らされ、百鬼夜行は終わりだ。終わらせろ『雷』」

 

「……百鬼夜行」

 

「うむ、海の怨霊のな。とはいえふむ、付き合ってもみるものだな。なかなか面白いものも見れた。とはいえ、なかなかに癪ではあるな。一目惚れした『男』が他の女の名前を叫んでいるというのは」

 

 ぎりっ、と戦艦棲姫は歯軋りをしてロボットを見た。

 

「扶桑、か。まだあったことはないが、この戦艦武蔵があの旧型艦に劣らぬ『女』であると、わからせてくれよう。ふふ、ふふふふ。我が身を焼いたのだ。火を付けたのだ。その責任は取ってもらうぞ……」

 

 ごうっ、と戦艦棲姫の身体から、赤く黒い炎のようなオーラが放たれた。

 

 土方を一瞥すると

 

 「早く去れ。ここは灰燼も残さず滅するであろう。この武蔵が本気で戦う戦場だ。生きたければ去れ」

 

 そう静かに言った。

 

 その言葉を飾るかのように、レ級に引き裂かれた白鳥万智子の断末魔の叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 





 武蔵の深海棲姫登場。

 やたらゲシュちゃんが気に入ったようです。

 なお、最初から深海棲姫な武蔵は少しエロいでふ。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑨


 ご都合主義とスパロボ好きな武器がやたら出ますが、わからなくてもなんとかなります。

 叫びは力。

 武蔵さんエロい(ダイソン)。


「うぉりゃあ!!バールカンッ!!」

 

 ヴォーーーーーーーーッ!!ヴォーーーーーーーーッ!!

 

 牛の鳴くような音を立ててチェーンガンは弾をばらまき、深海棲艦の群れを蹴散らす。

 

 群れて襲い来る深海棲艦達。今まで戦った深海棲艦よりもより人間の死体に近い『マヨイ』達は見た目もゾンビそのものであり、玄一郎は生理的嫌悪を感じ、とにかくゲシュペンストの出す武器の数々を駆使して殲滅していった。

 

「ミサイルは無限に出るくせに、なんでライフルの弾は無限じゃねぇんだよ?!」

 

〔ミサイルはラックに出すだけでいいが、マガジンの中に弾を造れるほど自分は器用ではない。それに新しいマガジンを造っても交換する間もなく襲いかかってくるのだ、銃ごと取り替える方が早い〕

 

「だーっ!自分、不器(武器)用ですから、ってか?!」

 

 わかるようなわからないような事をゲシュペンストは言うが、武器を持ち替えている間にわさわさと深海棲艦達はゲシュペンストの方へとやたらと群れ、取り囲んで来る。

 

 素早く武器を交換し、すかさず射撃、相手の攻撃をかわしつつ時折デカい攻撃をぶちかます。

 

「なんか途中からコイツ等、あの基地じゃなくて俺の方に向かって来てないか?」

 

〔脅威だと認識されたのではないか?もしくは足止め、かもしれんが?〕

 

「だからって、うへぇ、女の子のゾンビってのは思った以上に怖ぇえ!!可愛い子ばっかなのが余計怖ぇえ!!つか、扶桑さんとかも沈んでたらこうなってたのかよ?!助けて良かった!っと!!」

 

 連射していたバルカン砲の弾が尽きた。

 

 その隙に素早い駆逐艦の『マヨイ』が数隻飛び込んで来ようとする。

 

「だーっ、息を吐く間もねぇなっ!!」

 

 バルカン砲を投げ捨ててそのまま出てきたリヴォルヴァーを両手に掴んで、そのまま連射。

 

「ええと、リヴォルヴァーカノン!ランダムシュートっ!!」

 

 何故かいちいち叫ばなければならないらしい。というかそれがお約束だとゲシュペンストは言った。

 

 叫んだ時と叫ばない時とではどうも威力が変わり、叫んだ時には深海棲艦にやたら効くのに、黙って撃つとダメージは減少するという訳の分からない現象が起こっていた為なのだが、玄一郎としては恥ずかしいから止めてくれよ、と思いつつもやってみたら爽快であり、ハマりつつあった。

 

 この現象は、武器の威力に言霊を与えて強化するという意味合いがあったのだが、はからずともそれを実戦の中で二人は発見してわけもわからないままにやっていたのだった。

 

 リヴォルヴァーを撃ち尽くして、また別の武器を持ち替える。とっかえひっかえ迫る『マヨイ』を相手にぶちかまし、斧とか刀や、お前そんなのどこで見たんだよというような武器までとにかくアドリブ混じりのセリフを言いつつ使って行く。

 

「うらぁっ!!ゲッシートマホゥク!!ブーメラン!!」

 

 ズガーン!!デカい斧をぶん投げてブチ当てる!!

 

「抜けば霊散る氷の刃っ!!マゴロクブレードっ!!」

 

 ズババババッ!!日本刀で叩き斬る!!

 

「我はゲシュペンスト!!扶桑さんの剣なりっ!!斬艦刀っ!!一文字斬りぃっ!!」

 

 どっごーーーん!!バカでかい剣でぶちかます!!というかさらりと扶桑の名前を呼ぶ辺り、お前扶桑さんどんなけ好きなんだよ、とか。

 

「うぉぉぉっ、鉄球入魂っ!!どーーーりゃあああああっ!!粉っ!砕っ!!」

 

 ばっこーん!!めちゃくちゃデカくて重い鎖付きの鉄球を振り回して周りの深海棲艦を吹き飛ばしながらぶちかます!!

 

「うぉぉぉぉ、大っ!○山!おろしぃぃぃぃっ!!」

 

 深海棲艦を掴んでぶん回して投げつける!!

 

「クレイモアっ!!抜けられると思うなよっ!!」

 

 どばばばばばばっ!!何故か肩に現れたコンテナからバラ弾を撒き散らす!!

 

「俺の右手が真っ赤に燃えるぅ、お前を殴れと轟き叫ぶぅ!!ばーくねつぅ、ジェットマグナムっ!!」

 

 もう最後のなんて普通のジェットマグナムだよね?つかプラズマステーク付いてないから単なるボコ殴りなだけだよね?であった。

 

 もう、勢いだけでむちゃくちゃに暴れていた。

 

 ビームを撃ち、散弾銃を撃ち、グレネード、ミサイル、斧、鉄球、刀、殴る蹴る、もうフリーダム過ぎてどこからツッコんでいいかわからない無茶苦茶ぶりだった。

 

 しかし、なりふり構っていられない。それほどまでに『マヨイ』の数は膨大であり、いかにゲシュペンストがズフィルートクリスタルによって強化されていたとしても、全滅は容易では無かったのである。

 

「くそっ、マジでなんて量だよ……」

 

〔現在の敵深海棲艦、159機だ。撃墜数372機。すでにエースパイロット級を遥かに越えているぞ〕

 

「そんなに倒してもまだいるのかよ……。つか、そんだけここの基地は死なせたのかよ……」

 

 やりきれない思いが玄一郎の胸を過ぎった。この『マヨイ』達は元々は扶桑達の仲間であり、イクやゴーヤ、吹雪達のように笑ったり怒ったりして生きていた女の子達なのである。それがこうして怨みや無念でこんなゾンビになっている。

 

〔攻撃の手を緩めるな。倒さねばみんながこうなってしまう。あのワタヌシ島の子達も、他の者もだ。彼女達を守ることを考えろ〕

 

「ああ、扶桑さん達をこんな風にさせねぇ!!」

 

 再び、ゲシュペンストと玄一郎は深海棲艦の群れに突っ込んだ。

 

「俺達を誰だと思ってやがるっ!!ドリルブーストナックルっ!!おりゃああっ、マッハスペシャル!!」

 

 いや、とにかく叫んだらいいというノリであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 『マヨイ』や深海棲艦の集団をようやく全滅させて、玄一郎は基地の敷地内へと降り立った。

 

「う、うひぃ……さすがに疲れたぜ……」

 

 肉体的な疲労はないが、精神の疲労は流石に溜まってくる。玄一郎は息をぜーはーぜーはーと吐きながら……と言ってもゲシュペンストには呼吸器はないのだが……港の階段を上がって行った。

 

〔昔の自分ならばオーバーホールを必要としたところだが、まもなく機体の損傷とエネルギーは回復する。気を抜くな。まだ何かいる〕

 

 周りを見回し、反応を探るが生体反応は何一つ見られない。気配はすれどもセンサーに引っかからない。ステルスという訳でもない。

 

 と、ゲシュペンストがクレーンの下に四肢を引き抜かれ、体を引き裂かれた死体があるのを発見した。生首が落下防止柵の尖った部分に無造作に突き刺されてあり、その頭に海軍の帽子が乗せられていた。

 

「おえっ、こ、これ、人間か?!」

 

〔大丈夫か?玄一郎〕

 

「おぇぇぇぇっ、って、吐き気はするけどお前の身体だから吐けねぇな。つか、意外に冷静だ」

 

〔……ふむ。おそらくこれがこの基地の司令官だったと推測する〕

 

「よほど怨まれてたんだろな。この殺し方は尋常じゃねぇ」

 

 同情はしねぇけど、と玄一郎は付け加え、白鳥万智子だった肉塊から目を離し、そして周りを見る。基地には誰もいない。

 

 扶桑の話だと籠城戦を行うはずだと聞いていたが、それが行われた様子もなく、それどころか戦闘の形跡すらもない。司令官が真っ先に殺されたからみんな逃げたのか、とかいろいろと考えていたその時。

 

〔玄一郎っ!!上だっ!!〕

 

 クレーンの上から、大きな身体を持った怪物が落下し、そして両の拳をハンマーのようにしてゲシュペンストに向けて振り下ろした。

 

 間一髪、玄一郎はブースターを噴かしてそれを回避し、そして距離を開けた。

 

「あぶねぇっ!!」

 

 ジャキッ!!

 

 しかしすかさずその怪物は着地体制のままにゲシュペンストに砲を向け、すぐさま撃ってきた。

 

 玄一郎はすかさず左腕からプラズマソードを引き抜いて砲弾を切り払った。

 

「切り落としっ!!」

 

 直撃は避けたが、切った砲弾は炸裂弾だった。それは爆発して爆ぜ、一瞬ゲシュペンストの視界を奪う。

 

 爆煙を突き抜け巨大な拳がゲシュペンストの胸部装甲をぶん殴った。間一髪、グラビティウォールを展開させるも、その拳の衝撃でゲシュペンストは後ろに飛ばされ、そして基地の壁に叩きつけられた。

 

 ズン!とコンクリートの壁にめり込むゲシュペンスト。

 

「ぐぅっ、何だとっ?!」

 

 ゲシュペンストはこの世界に来てからこれまで、まともに攻撃を受けた事は無かった。装甲やグラビティウォール云々ではなく、今までの敵は本能的であり、直線的な攻撃しかしてこなかったので避けやすかったのだ。

 

 先ほどの『マヨイ』にしても数が数だけに当たった攻撃もあるが、どれもかすったような攻撃ばかりで、直撃は一つも無かった。 

 

 ゲシュペンストこの世界に来て、初の直撃であった。

 

「クソッ、デカい割に早い!何なんだあのマッチョなバケモンはっ!!」

 

〔損傷ダメージ、胸部装甲とメガブラスターキャノン射出口に損傷。修復開始。使用可能まで約15分〕

 

 殴られた胸部装甲が歪み、メガブラスターキャノンにまでダメージが通っていた。

 

 直ぐに起き上がり次の攻撃に備えるが、しかしその巨大なバケモノは後ろに下がり、それ以上の攻撃はしようとしなかった。

 

 そこへ、二人の人影が現れる。

 

 一人は長身、もう一人は小さい子供のように見えた。

 

 長身の方は細くはなく、人によっては大女と形容するかもしれないギリギリの体型であり、肩幅は少し広く、そして大きく張りのある胸を強調するかのように腕を組んでいる。その身体の下には筋肉の存在が感じられ、ニヤリと獰猛に笑うその顔、その頭には角が生えていた。

 

 子供の方は、幼女と言った方がよいだろう体格をしていた。黒いフードの前が開いて、小さい胸に無理してビキニをつけているような、そんな感じである。やはりニヤリと笑う口にはギザギザの歯が並んでおり、かなり凶暴な印象を受ける。

 

 どう見ても深海棲艦であったが、今まで見たどれよりも格が違う、別次元の力を玄一郎は感じた。

 

 長身の美女は顔を隣の幼女の方に向けると言った。

 

「子連れで逢瀬はしまらん。お前の役目は終わったのだろう?どこへとも行くがいい。ここからは大人の時間だ」

 

「暁ねぇさんなら、子供扱いしないでってレディーぶるんだろうけど、あまりあの……えーと、機械の人には興味湧かないから、そうさせてもらうわ。あなたは私を頼ることなんて無いだろうし」

 

「ここからは夜の戦だ。『男』と『女』の二人だけの、な。流石に雷を頼るような無粋な真似はしない」

 

「はいはい、およろしくおやりになってくださいませ!私はそうね、南の綺麗な海に行くわ。また会うこともあるでしょうけど、それじゃあね!」

 

 幼女はスカートから出ている尻尾のようなものをゆらして海へスタスタと向かって去って行った。

 

 それに振り返りもせず、長身の女はゲシュペンストを一別して、ぺろり、と舌なめずりしたかと思うとするりと玄一郎もゲシュペンストも知覚出来ないほどの自然な動作で、目の前にいきなり現れた。

 

 驚愕し、後ずさりをするも、後ろは砕けたコンクリートの壁、すぐに玄一郎は追い詰められた。

 

「ほう、存外頑丈なものだ。あの数を相手にかすり傷しか負わぬほど早く避け廻っていたから、それほど装甲は無いのかと思っていたが……。流石『男』なだけはある」

 

 手を伸ばし、ゲシュペンストの装甲に触れて、優しげに撫でる。そうして、その女は手から赤黒いオーラを流し込んできた。

 

 戦慄にも似た震えが玄一郎に走る。機械のゲシュペンストの身体がビクン!と跳ね上がり、硬直する。

 

 ピシッ、と装甲に電気のようなものが走り、それが腕に、脚部に走り抜けて行った。

 

「ぐ、ぐわああああああああああっ!!」

 

 痛みを感じないはずの機械の身体に、激痛が走り、機体が激しく痙攣する。玄一郎は自分の神経に直接痛みを流し込んだような激痛に叫ぶしか無かった。

 

 ガシャン、とゲシュペンストの機体が崩れ落ちる。女はその手を離し、満足そうに笑みを浮かべた。

 

 感覚が無い。動けない。力が入らない。いや、機体が言うことを聞かない。ギシリ、ギシリとただ関節が軋んだ音を鳴らすだけで反応しない。

 

「ふむ、強い魂だ。あれだれの念を流し込んでまだ意思を保つか。流石私が見込んだ『男』だ。惜しむらくは肉体が無い事……いや、それは些細な問題だな」

 

「ぐぅっ、な、何を言って……やがるっ!!」

 

 玄一郎はなんとか絞り出すように声を出した。その玄一郎の声をやはり嬉しそうにしてその女は笑い、囁くように言った。

 

「言霊をまだ吐けるか。我が念に耐えるその魂……ふふふ、その機械の器を破壊し、引きずり出して、お前の魂を我が念で満ちさせ怨霊にすればお前は再び肉体を得て『男神』になる。ふふ、ふふふふふっ、それが良い。そうしよう、そうするとしよう。幸いここは怨念には事欠かない。貴様も身体が欲しかろう?『女』を抱ける肉体が欲しかろう?」

 

「ぐううっ、勝手な、事を、言うなぁぁぁぁっ!!」

 

 玄一郎は、無理矢理に気合いでグラビティウォールを展開させた。

 

「俺は、俺はなぁ、俺達はっ!!帰るんだ。俺達の世界に、それぞれの世界に帰るんだ!!」

 

 女はグラビティウォールが展開する前に後ろへと飛び、宙返りをして巨大な怪物の差し出す掌の上に降り立った。

 

「ほう……私の怨念を振り払い、まだ動く意志を示すか」

 

「ゲシュペンストっ!大丈夫か?!」

 

〔肯定。あの攻撃は強念によるマインドコントロールに相当すると推測。精神に直接作用するぞ。接触は控えろ〕

 

 ゲシュペンストは両手に小回りの効く、リヴォルヴァーカノンを造り出した。

 

「リヴォルヴァーカノン、ランダムシュートっ!!」

 

 一気に全弾を叩き込む!!

 

 だが、巨大な怪物が前に出て『女』を庇い、銃弾全てをその筋肉で弾き飛ばした。

 

「その程度では、この戦艦武蔵の装甲は撃ち貫けんぞ?」

 

 ジャキッ!!と巨大な怪物は砲口をゲシュペンストへと向け、また砲撃をしてきた。

 

「ストライクシールドっ!!」

 

 その砲撃にSRX計画の機体のシールドをぶちかます。本来はT-linkシステムを介して操作するものだが、そんなことお構いなしに手でぶん投げた。

 

 シールドは怪物の砲で爆散したが、玄一郎は攻撃の手を緩めない。

 

「ついでだ!!切り裂けっ!!スラッシュリッパーぁっ!!」

 

 スラッシュリッパーは巨大なマッチョの怪物の腕の装甲に当たった。しかし、バキン!!と音を立ててその刃は折れた。

 

「ふん、そこいらのナマクラよりかはましだが……。蟷螂の斧、切り裂くには程遠い」

 

 ゴウッ!!

 

 巨大マッチョ怪物が素早く間合いを詰めその拳が再びゲシュペンストへ振るわれる。

 

「シシオウブレードっ!!」

 

 ガキュイーン!!

 

 刀匠の打ち鍛えし魂の大業物がそれを受け止めた。超鋼オリハルコンのブレードは折れず、その拳にギリギリと食い込み、やがては引き裂いた。

 

「ガォォォォン!!」

 

 怪物はこの世成らざる叫びを上げたが、もう一方の腕をゲシュペンストに叩きつけようと振り上げた。

 

「グラビティステークっ!!」

 

 すかさず、シシオウブレードを離し、大きなパイルバンカーに持ち替えてその腕にぶち込む。

 

 ズドム!!ズドム!!ズドム!!ズドム!!

 

「グギャオオオオン!!」

 

 何発もパイルを打ち込み、貫く。

 

「おらぁっ!!チタン合金の特製バラ弾っ!!コイツも取っとけぇぇっ!!」

 

 クレイモアのコンテナを呼び出し、至近距離からぶっ放す!!

 

「どんな装甲も撃ち貫くのみっ!!」

 

 最後の留めとばかりにグラビティステークをその頭にある大きな口に突っ込み、押し付けて打ち込んだ。

 

 一際大きくズドムっ!!とステークは鳴り、そして怪物はコンクリートの地面に沈み込んだ。

 

 だが、玄一郎の背中に、ゾクリっとした冷気にも似た嫌な感覚が走り、玄一郎はその場から飛び退いた。

 

 ギュイーーン、ガシャッ!!

 

 倒れた怪物の砲塔が旋回し、ゲシュペンストの居た場所に発砲した。

 

 ズドドドドーン!!

 

 ずるり、と怪物は起き上がる。腕をぶら下げ頭のない姿のままに立ち上がる。

 

「ふふっ、ふふふふふっ、良い……良い攻撃だ。そこまで攻められては、もう我慢出来ない。ふふふふふ、ふははははははっ!!欲しい、欲しいぞっ!!貴様をっ!!ここまで私を感じさせたのだ、責任を取ってもらうぞ!!」

 

 先ほどまで怪物の後ろにいた女、武蔵が叫び、そして怪物が消えた。いや、怪物は女の背中に融合し、そしてあたかも艦娘の艤装のように変形した。

 

「この戦艦武蔵の心をここまで燃え上がらせたのはお前が初めてだ!!何が何でも『男』にするっ!!私の『男』になぁ!!」

 

 そう言うと『武蔵』は赤黒いオーラを手に集中させると、大きな剣を造り出した。錨の形をした馬鹿デカい鉄の塊のような剣だった。

 

「ゲシュペンスト、アレ、ヤベェんじゃねぇか?」

 

〔玄一郎、アレを喰らうな!!あれが纏っているエネルギーは先程の精神攻撃と同等の効果を持っていると推測される!!触れただけで動けなくされるぞ!!〕

 

「……マジですか、マジヤベェ」

 

 どうみても、損傷箇所とかまったく見られず、それどころか先程よりも強化され、生き生きとこちらを殺る気な深海棲艦を前に、玄一郎の心は逃げたい気持ちでいっぱいだった。

 

「ブースト噴かして逃げちゃだめですかね?」

 

〔逃がしてくれるような相手ならばな〕

 

「逃げようなどと思うなよ?」

 

「うん、無理!」

 

 そう、無理だった。

 

 





 ズフィルートクリスタルで武器造り放題!

 ご都合主義な設定ですなー。しかし、どこで見て覚えたのかわからない武器も出てきますが、それもご都合主義です。

 深海棲艦武蔵はきっとエロい。


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【昔話】黒い亡霊と薄倖の乙女⑩


 ようやく長かった昔話の終わりです。

 深海武蔵との決着!

 ゲシュペンスト大破。

 


 ズシン!!

 

 武蔵の戦艦棲姫は、手に持った錨のような形のバカでかい大剣をコンクリートの地面に一度振り下ろした。

 

 地面が揺れる。それだけでコンクリートが割れてそして砕けた破片がサラサラと砂塵と化していく。

 

〔高周波振動による破砕であると推測。玄一郎、あの赤黒い光に加えてさらに当たってはいけない要素が追加されたぞ〕

 

「……他人事のように言うな。この身体は元々お前の身体だろ。対策は何かあるか?」

 

〔グラビティフィールドを全開にしておく〕

 

 ヴゥン、と音がして、フィールドが先程よりも広くなる。しかし、どこまで通用するか全くの自信は無かった。

 

「それしか、ないのか?」

 

〔無い。近接武器は使うな。あれの一撃でも機体が行動不能になる。掠るだけでも危険だ。間合いを取って射撃武器で削るしかない〕

 

「どうした?怖じ気づいたのか?恐れる事はない。ちょっとの間の地獄を味わった後には、この私が極楽のような永遠をくれてやろうと言うのだ。そう、私という極楽をむさぼる権利を与えてやる。我らが愛し合う永久(とわ)の為の地獄ぐらい、受け入れて見せろ『男』っ!!』

 

 一瞬のうちに武蔵の戦艦棲姫は間合いを詰めて、大剣を振りかぶってゲシュペンストに殴りかかる。

 

「受け入れられるかっ!プリズムファントムっ!!」

 

 ゲシュペンストは先程から作っていた光学ステルス迷彩をぶっつけ本番で展開して攻撃が当たる直前に分身して、武蔵の目の前から消え失せた。

 

「なにっ?!消えただと?!」

 

「拡散バズーカーっ!!乱れ撃ちっ!!」

 

 ズドーン!ズドーン!ズドーン!ズドーン!

 

 上空から拡散するバズーカー砲を撃って撃って撃ちまくる。破裂した砲弾はバラ弾の如く地面にその破片を振りまく。

 

「ぐっ、三式弾?!いや、違う??」

 

 三式弾なら火炎効果があるが、拡散バズーカーの弾はどちらかと言えば散弾である。

 

「くそっ、チマチマチクチクチクチクとっ!!」

 

 武蔵は忌々しそうに上空のゲシュペンストに炸裂弾を放って撃ち落とそうとしたが、そのゲシュペンストは幻のように消え、そして次の瞬間、武蔵の前に現れ、回り込みながら素早くその胴にM-970アサルトマシンガンで攻撃しながら駆け抜けてまた消えた。

 

「『男』ならばっ!!正々堂々と戦えっ!!」

 

 武蔵は見当違いの所に砲弾を打ち込んだが、しかしそれで当たる筈もない。

 

「正々堂々とやるにはお前はやばすぎるんだよっ!!」

 

 散弾ライフルをぶちかましつつ、玄一郎は叫ぶ。

 

 武蔵を倒せる唯一武装は胸部のメガブラストキャノンクラスの攻撃だとゲシュペンストは分析していた。だが、そのメガブラストキャノンはまだ修復出来ていない。あと10分かかる。

 

 だが、修復を終えてもどうやって撃つか、という問題があった。相手はかなり動きが早く、そして生身の女の見た目をしているが、装甲も耐久力も桁違いである。まるで宇宙戦艦を相手にしているような気分にさせられているほどなのである。

 

 いや、これが宇宙戦艦ならば艦橋に攻撃を加えれば無力化させる事もできるだろう。だが、相手は人型であり、しかし人の弱点である頭部に射撃をしようが、心臓の位置にミサイルをぶち込もうが、耐えるようなバケモノだ。かつてやりあったスーパーロボット達が可愛く見えるほどだ。それだけダメージが通らないのだ。

 

 故に、ゲシュペンストが玄一郎に取らせた戦闘方法は

 

 『遠距離からの射撃による高速の機動戦闘と、そして光学ステルス迷彩を駆使して攪乱しつつ、相手の動きを止めてとにかく武蔵に少しでもダメージを与え、削って動けないようにする』という、方法だった。

 

 ゲシュペンストタイプS本来の戦い方ではない、というか非常に苦手とする戦い方ではあったが、ズフィルードクリスタルがあるからこそまだ出来る戦法だった。

 

 今回の戦闘で、玄一郎は気づいてはいないが、かなりゲシュペンストの姿、特に背中のバインダーやブースターなどはもう形状が変わっている。

 

 スフィルートクリスタルが自動的に機体を進化させているのだが、ゲシュペンストとしてはあまりそれは良いことでは無かった。それはゲシュペンストが人類の脅威に成りかねない事だからだ。

 

〔どちらにせよ、長引けばこちらが不利だ〕

 

 玄一郎はゲシュペンストの焦りが分かって、とにかく攻撃を急いていた。ワケがわからないまでもこの機体に共にいるのだ。思考まではわからないがなんとなくそれは伝わっていた。

 

 ありとあらゆる射撃武器や投擲武器を駆使して、とにかく止まらない。ランダムに攻撃方法を選択し、とにかく同じ攻撃をしない事で、パターンを作らない事に徹した。

 

「チャクラムシュート!!マシンガン!!地雷っ!!」

 

 幸いな事に、ゲシュペンストのデータベースにはその手の武器は豊富にあった。

 

「ゲッシーミサイルマシンガンっ!!」

 

 手当たり次第にゲシュペンストが出す兵器を撃ちまくり、待避、ステルス迷彩で攪乱し、そして武蔵の動きを封じつつ確実にダメージを与えて行った。

 

 武蔵はとにかくイラついていた。

 

 ゲシュペンストをとにかく捉えられない事、そして、チクチクチクチクとイラつくような攻撃に。

 

 闇雲に三式弾を撃ち、ばらまき、それでもゲシュペンストを捕らえられず、その怒りたるや白かった深海棲艦特有の肌が、赤く染まるほどのものであった。

 

「がああああっ!!『男』らしくぶつかって来いっ!!なんだその攻撃はああああっ!!」

 

 理性が吹き飛びそうなほどの憤怒を抱えて武蔵は叫ぶ。その身体のあちこちから火が出ており、それは玄一郎の攻撃が確実に通っている事を示していた。

 

「一撃食らったら死んじまうようなのとまともにやり合えるかよっ!!チェーンマイン!!」

 

 後ろから現れた玄一郎は連結された吸着地雷を武蔵に投げつけた。

 

 チェーンマインは、対人型装甲兵器用の武装である。つまり、装甲を破壊する事に対して絶大な威力を発揮する。

 

 武蔵の全身に巻きついた吸着地雷が一斉に轟音を上げて爆ぜた。一個でも凶悪なマインそれが、全身で爆発するダメージは、武蔵であっても耐えきれるものでは無かったようだ。

 

 艤装が吹き飛び服までズタボロにされ、膝を付く武蔵。

 

〔胸部メガブラストキャノンの修復完了!!玄一郎、跳べっ!!〕

 

「うぉぉぉぉっ!!メガブラストキャノンっ!!」

 

 胸部装甲が左右に開き、そしてメガブラストキャノンの砲口が展開された。エネルギーが収束する。

 

 今までに無い程の力を感じ、玄一郎は叫ぶ。

 

「デッドエンドっ!シュートぉぉぉっ!!」

 

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 

 エネルギーの奔流が放たれ、武蔵へとそれは直撃した。

 

「うぉぉぉぉぉっ!!塵になれぇぇぇぇっ!!」

 

「ぎゃああああああああああああああああああっ!!」

 

 光に包まれ、武蔵は絶叫した。断末魔の叫びが響き、まるでこの海全体にまで届くようなその叫びは、熱線砲が撃ち止むまで続いた。

 

 

 撃ち終わり、玄一郎は焼け溶けた基地の地面を見た。

 

「地面が溶けた硝子みたいになってやがる」

 

 すざまじい温度にさらされた基地の港は、そこがまるで円形のクレーターになったように窪み、海水が入り込んですざまじい湯気を立てていた。

 

 コンクリートも鉄のクレーンも、もう溶け落ちており、ここを基地として使うにはかなりの修理が必要だろう。

 

〔敵機体の反応無し。周囲に深海棲艦の反応ゼロ。戦闘終了。機体修復以外のスフィルートクリスタルの活動を停止する〕

 

「こんだけやりゃあ、あの『武蔵』も一溜まりも無いだろ。はぁ、疲れた……。ゲシュペンスト、帰ろうぜ。扶桑さん達が待ってるだろ……」

 

〔なにっ!!玄一郎っ!!後ろだっ!!〕

 

 振り向く間も無く、ゲシュペンストの肩が何者かによって掴まれた。

 

「くくっ、ククククク……。モウカエルナド、ツレナイデハナイカ」

 

 ジュウウウウウッ、とゲシュペンストの装甲が溶けていく。

 

 「なにっ?!」

 

 振り向き、そして玄一郎は見た。

 

 焼けただれた、女の姿をした怪物を。赤熱し、それでも動く鋼のバケモノを。

 

「熱カッタ……熱カッタゾ。ソウダ、アノヨウナ熱イノガ欲シカッタ……。ククククク、フフ、フハハハハハッ、ヤハリオマエダ!!私ハオマエヲマッテイタ!!オマエヲ待イデ、見ヌウチ二恋ヲシテ、アア、アアッ!!」

 

 ジュォォォォッ!!赤熱化した女がゲシュペンストを捕らえていた。

 

〔信じられん、出力を絞ったとしても、あれに耐えるとは……っ?!〕

 

「愛シアオウ、『男』。サア来イ、器ナド脱イデ、私ト行コウデハナイカ!!」

 

 武蔵はゲシュペンストを抱きしめた。

 

「ぐわぁあああああああああああああっ!!」

 

 ジュォォォォッ、ジュォォォォッ、とゲシュペンストの装甲が溶けていく。だが、それだけではない。赤黒いオーラが武蔵の身体中からゲシュペンストに、玄一郎に流れ込んでくる。

 

 バチッ、バヂヂヂヂッ!!

 

 ゲシュペンストの各部関節の配線が熱に耐えきれずに放電する。

 

「フフ、フハハハハハ、アア、オマエの魂ヲ感ジル……アア、濡レル、早ク、早クオマエヲ引キ摺リダシテ、アア……」

 

「がっ、がっ、ぐっ、ふ、扶桑っ……さんっ!!」

 

 もう身体は動かない。もうだめだ、と玄一郎は思った。頭に走馬燈のように、扶桑の顔が、悲しそうな笑顔が過ぎった。

 

「せ、せめて……ひ、一太刀っ……!!」

 

 玄一郎はなんとか動く拳を握りしめ、腕を振り上げた。死ぬにしても一撃ぐらいは入れたかった。

 

「不粋ダナ。ソノ腕デナニヲシヨウトイウノダ?」

 

 だが、それも出来なかった。武蔵はさらに赤黒いオーラを流し込んで来たからだ。

 

「ぐがぁぁぁぁっ!!」

 

 もう、力も入らなかった。

 

「げ、ゲシュペンスト、すまねぇ……。もう、ダメだ……」

 

 ガクリ、と全ての力が抜けていく。入り込んでくる怨念を振り払う力ももう、持てない。

 

「フフフフフ、ソウダ。ソレデ良イノダ。私ノ念ヲ受ケテ、オ前ハ『男』二ナル。ソウナレバ、アトハ海ノ底でジックリト、私ノ良サを教エテヤル。肌ヲ重ネ、ジックリトナ……」

 

 もうだめだ、と思った瞬間。

 

 ズドドドドーン!!と大きな砲撃の音が鳴り響いた。

 

 それは、武蔵へ過たず全て命中し、その身体を吹き飛ばした。

 

「深海棲艦!!その方を離しなさいっ!!」

 

 凛とした声が勇ましく、第二射を放つ。

 

 ドドン!!ドドドドドン!!

 

 その砲声は一つだけでは無かった。

 

「あーっ、もうっ!!やっぱりやられてるじゃないのっ!!情けない!!」

 

 ドーン!!ドーン!!ドーン!!

 

 ああ、それはゲシュペンストの分析を聞かなくても解る。最初の砲声は扶桑さん、次の砲声は山城だ。

 

「ガァァッ!!キサマラ、私ノ邪魔ヲスルカァァァッ!!」

 

「お黙りなさいっ!!その方は私達姉妹の命の恩人、その御恩に報いらずして、なんの大和撫子かっ!!」

 

 ズドーーーン、ズドーーーン!と何発も砲を撃ち、そのどれもが武蔵に直撃する。しかし武蔵の砲はもうすでにゲシュペンストのメガブラストキャノンによって破壊し尽くされ、反撃も出来ない。

 

「海の中からこんにちわ~っ!!魚雷でちっ!!」

 

 そこに、突然海の中から現れたスクール水着の女の子達が飛び上がり、魚雷を集団で武蔵に投げつけた。

 

「魚雷、イクのぉぉっ!!」

 

 大量の魚雷が、武蔵に必中する。

 

「コノ、潜水艦風情ガァァッ!!」

 

 ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!

 

「そして撤収~っ!!」

 

 潜水艦娘達は魚雷を投げつけるだけ投げつけて、そして素早く海の中に潜行した。

 

「グ、ググッ……。口惜シヤ。モウスグダッタノダガ……」

 

 武蔵はよろめきつつ、ゲシュペンストの方を睨んだ。

 

「『男』ッ!次コソハ必ズ……。必ズオマエヲ手二入レテヤルカラナ!!マッテイロ!!」

 

 そういって、海に飛び込んで沈んで行った。おそらくは逃げたのだろう。

 

「……ぐぅっ、次は、逃げる。もうあんなのと戦いたく無ぇ……」

 

〔同感だ。次は緊急脱出ブースターを装備することを提案する〕

 

「ああ、次は造っといてくれ」

 

 ゲシュペンストの中の二人はそう軽口を叩き合い、ため息を同時に吐いた。

 

 これが人間の身体であったならば、気絶もしただろう。だが機械の身体になった玄一郎は、気絶も出来ず、動けないまま扶桑達がここに来るまで転がっているしか無かったのであった。

 

 

 

 





 戦艦棲姫がこんなにバケモンなわけはないんですが、この『武蔵』は沈んでからの最初に権限した『武蔵』なので、その霊力や怨念は別格だという設定です。

 なお、艦娘の武蔵はここまで強くはありません。

 最初に顕現した艦は長い月日でその神格を上げていくという設定ですので、武蔵の深海棲艦はかなりの強さを持つバケモノになっている、というわけです。

 ちなみに大和さんは最初に艦娘として顕現しており、とうの昔に人妻になってたりする、とか。なんとか。


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バカは死んでも治らない、らしい。

 やはりゲス提督は、おっぱい星人のぽっちりすと。

 ゲシュペンストが何故現在何も言わないのか。それは裏で色々と……。

 


 司令の部屋は通常業務をする執務室のその隣にある。

 

 ベッドもあるが、ゲシュペンストはそれを使わない。だいたいゲシュペンストは眠らない。

 

 ベッドの上には、すぅ、すぅ、と寝息を立てている扶桑が眠っている。ゲシュペンストはそのベッドの隣に置いている専用の椅子に座り、扶桑の寝顔を眺めていた。

 

「……あの時と同じだな」

 

 初めて扶桑にあった時、彼女は大怪我を負い寝ていて。玄一郎は大岩に座って。

 

 こんな綺麗な人、今まで見たこと無いと無い心臓を高鳴らせつつ、ドキドキしつつ、そして様態を心配して。

 

 その頃の彼は若かった。姿形は変わらぬロボだが、精神はかなり若かった。そしてバカかった。

 

 今はどうなのだろう、と思う。

 

 ふと思い出すのは扶桑のおっぱいと薄桜色のぽっちの美しさだが、今となってはそんな事で騒ぐような事も無くなって、まるで老人のような枯れた心境になっている。

 

 いや、見慣れたとか見飽きたとかではない。だいたい、見てしまったのは前にも後にもあの時だけなのだ。

 

 記憶再生で繰り返しはみたけど、見飽きるとか見慣れるとか、そんな恐れ多い。たまに最近でも見たりするし。というか見たいし。

 

 ……いや、それはさておき。

 

 心までがまるで機械に飲み込まれたように、昔ほど動かなくなっているのだ。

 

 今でも、扶桑は玄一郎には特別で、最も美しい女は誰だと問われたならば扶桑であると即答えるだろう。一番、大好きなのも。

 

 そしてそこには偽りは無い。はっきり言おう。扶桑さんは世界一ぃぃぃっ!!と。

 

 あの小島基地での戦いの後、ゲシュペンストは大破した。助けに来てくれた扶桑達に連れて帰ってもらったワタヌシ島で約一週間も動けない状態で世話……と言っても、人間のように食事も睡眠も排泄も必要無いのだが……を受けた後に、玄一郎は彼女達と一度別れる事となった。

 

 海軍が、その海域周辺を調査するために大勢の艦娘達を送り込んで来たからである。

 

 彼女達も海軍に属する艦娘であり、いつまでもワタヌシ島の隠れ家に居るわけにもいかず、そしてゲシュペンストと玄一郎も発見されるわけにはいかなかった。

 

 なにしろ、小島基地を壊滅させたのはゲシュペンストなのだから。

 

 その後は、ゲシュペンストと玄一郎は元の世界に帰る方法を探した。様々な国を渡り歩き、様々な人と出会い、別れ、時には軍に追われ、時には人間のゲリラと戦い、時には深海棲艦とも話をし、時には艦娘達に撃たれたりして、そして。

 

 帰る手立てなどどこにも無い事を、二人は知った。

 

 二人は自分達が死んだ者の残留思念、すなわち幽霊だった事を知った。文字通り、ゲシュペンスト(亡霊)だったのである。

 

 ゲシュペンストの機体は、艦娘や深海棲艦同様に機体に集まった念が具現化したものだった。ゲシュペンストの無念はそれを成すほどに強かったのだ。

 

 ゲシュペンストタイプSは数奇な運命の中で、地球の為に戦う事が出来なかった。敵に鹵獲され、逆に地球の敵として侵略に加担してしまったのだ。

 

 超機グルンガストのある意味プロトタイプとも言える正義のロボットだったはずの自分が、である。

 

 その無念が、世界を越えてたどり着いたこの世界で、再びその姿を顕現したのが、彼であった。

 

 だが、彼は自身をロボットであると認識していた。パイロットがいなければならない、と。

 

 そこに、別の世界で死んだ玄一郎の魂がこの世界に流れ着いて来たのである。ゲシュペンストは無意識にその魂を自身の中心に取り込んだ。

 

 それは異星人達がゲシュペンストに埋め込んだズフィルートクリスタルの性質が出てしまったがためだった。

 

 つまりは、死んだロボットと死んだ人間が二人して元の世界に戻ろうとあくせく世界を旅して、手がかりを探そうと足掻いていたという、笑い話にもならない事だったのである。

 

 ゲシュペンストはその事実を知って、

 

〔玄一郎、自分は君に贖罪せねばならない。仕出かした事に償わなければならない。自分は自身の全能力を使ってそれをするつもりだ。だから玄一郎、しばしの別れだ。次に会うときまで、この身体を頼む〕

 

 そう言ったきり、本当に居なくなったように話もなにもしてこなくなった。

 

 レーダーやセンサー、武装、ありとあらゆる機能は普通に使えているし、ズフィルートクリスタルの制御も問題なく機能しているので行動に問題は無い。

 

 玄一郎だけでは武装を作り出す事は無理だが、そんな事はどうでも良かった。

 

「……ふぅ、贖罪とか償いとか、俺が欲しいのはそんなんじゃねぇよ相棒。お前がいないとつまらねぇだろが」

 

 一番の相棒が居ないこと。それが一番玄一郎には堪えた。今も、ずっと。

 

 扶桑はすぅすぅ寝息を立てている。出逢った時と同じ姿で、綺麗で可憐なままだ。

 

 艦娘は年をとらない。いつまでも若いままで姿を変えることはない。

 

(……と言うことは、扶桑の乳首はあの薄桜色のままなんだろかな?)

 

 などと玄一郎の脳裏にそんな事が過ぎるが、コイツホントは枯れてないだろ。

 

 しかし、取り繕うように。

 

「うん、亡霊は見守るだけでいいんだ。ホントはな」

 

 などとのたまった。台無しである。

 

「んん、んっ……」

 

 扶桑が動いて、手がタオルケットから出た。パラオの夜は、昼間暑いが夜はヒヤリとする。ゲシュペンストはその手を取って、タオルケットの中へと戻そうとしたが……。

 

 どどどどどどどどどどどどっ!!バーーーン!!

 

「扶桑ねぇさまーーーーっ!!」

 

 山城が部屋に乱入してきた。そして、扶桑の手を握るゲシュペンストの姿を目撃。

 

「うぁぁ、あんた扶桑ねぇさまに何してんのよ、このエロボットっ!!」

 

 騒ぐ山城を横目で見て、ゲシュペンスト提督は扶桑の手をタオルケットの中に優しく入れてやる。

 

「見てわからないか?というか、今日も飲んでたのか。近頃は出撃させなくて悪いとは思っているが、若手連中の教官は重要な任務だぞ?二日酔いでは示しがつかんだろうが」

 

「明日は休みです!って、なんかやんなさいよね。邪魔しに来た甲斐が無いでしょうに……。はぁ、不幸だわ」

 

 山城はそう言って溜め息を吐く。息がやたら酒臭い。

 

「あのな、邪魔ってなんだよ邪魔って。お前ね俺がなんか出来るとでも?俺ロボットなんだぜ?」

 

「るせぇわよ。つか、むしろなんかやんなさいよ、つまんない!」

 

「お前、自分の姉だろが。他の鎮守府とかだと扶桑提督になる最大にして最強の障害山城が何を言っとるんだ」

 

「ふん、だ。安心安全人畜無害ロボットめ。はぁ……平和だけど、不幸だわ。主にねぇさまが。ヘタレのロボ提督は指輪すらもねぇさまに用意しない、ゲスロボだったのね……。よよよよよよ」

 

「思い切り酔ってますね?山城さん」

 

「ああっ、その昔、私達姉妹の裸を見て、エロエロエロって笑いながらゲスだったあなたはどこへ行ったの?おっぱいおっぱいってやたらと連発して小躍りしていたのに!!」

 

「じゃかましいわっ!!つかそんな奴ぁどんな過去にもいねぇわっ!!つかお前の中では俺はどんな変態なんだよ?!」

 

「え?裸見たのに責任取らないヘタレ変態提督だけど?」

 

「いや、もういい。つか、俺はこれから用事で出てくるから、適当に休め?つか水を飲んどけよ?マジで二日酔いになるからな」

 

「じゃあ姉妹でベッド暖めておくから~、うっふん」

 

「……俺は寝ないからな?ロボ的に」

 

ゲシュペンスト提督は溜め息を吐きながら部屋を出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夜の基地は静かかと思えばそうでもない。

 

 基地の近くには繁華街も近く、おそらくパラオで最も活気のあるところだと言える。

 

 パラオは世界で安定して安全な国の一つに数えられ、各国の要人や金持ち達が観光に来る。

 

 基地を出て、徒歩で街へと向かう。

 

 ネオンは煌びやかに灯り、人々の笑い声や喧嘩っぱやい若者が言い争う声があちこちから聞こえてくる。

 

 この平和で繁栄している街をみんなが守っていると思うと少し誇らしく、そしてこの喧騒の中に自分という異物の身の置き所が無いというのが少し寂しい。

 

 街を抜けて、ゲシュペンストはとある裏路地にある、スクラップ工場にも似た場所へやってきた。

 

 車や、バイク、時には艦娘の艦装、イ級などの装備していた砲などが混ざる廃材が積み上がる入り口に向かい、入っていく。

 

「やぁ、久し振りだね」

 

 工場の奥の方、スチール製のデスクの椅子に座っている、白衣を着た女性がくるりと椅子ごと回ってゲシュペンストを見た。

 

「どんな感じだ?」

 

 主語を抜き、ゲシュペンストはその女性に言った。

 

「ふむ、本来こういうのは君の所の明石がやれば良いんじゃないかと思うんだけどね」

 

「アイツは腕は確かだが、頭が堅い。作る以前に設計すら拒否するだろう。それにデザインならアマンダだ」

 

「嬉しいこと言ってくれるね。図面はもう出来ている」

 

 アマンダは設計図の青写真を広げてゲシュペンスト提督に見せた。

 

 そこにあったのは、ビッグスクーターのような単車だった。

 

「アンタの身体のサイズ、重量に耐えれて、馬力もモンスタークラス。名付けてペイルホース。どうだい?ウチのフルオリジナルさ。当然、このサイズはあんたしか乗れない」

 

「ふむ……。確かにこの構造は、ふむ。俺のフレーム構造をアレンジして取り入れたんだな?だが、このエンジンは?」

 

「エンジンじゃなく、モーターだよ。超電磁モーター。もちろん、いざとなったらあんたに直結して回せる。つか、エンジンの試作品はそこにあるだろ?」

 

 見れば小型だが同じ構造のモーターが置いてあった。

 

「……仕事が早いな」

 

「そりゃあね。私は明石ん中じゃ、速さは一番って言われてたからね」

 

 そう、このアマンダといまは名乗っている女は、元『明石』である。

 

 昔にこのパラオ泊地に任官していた明石なのだが、現地の男性と結婚して今はこの自動車修理工場を切り盛りしている。なお、この元明石はメカニックとしての腕は確かなのだが、料理の腕は悪く、今旦那は『鉄板焼き屋RJ』まで、今日の晩飯の買い出しに行かされている。

 

「しかし、あんたは自分で走っても早いだろうに。何でまたバイクなんて欲しがるのさ?」

 

「車道でブースターを噴かして後ろの車を燃やすわけにもいかんだろ。足で走ればアスファルトが凹む。空を頻繁に飛ぶわけにもいかん。この身体だ、公共機関も乗れない。自家用車も無理だし、今まで公用で遠出するときなんて、軍用トラックの荷台に寝転んでだぞ?自分で気兼ねなく自由に運転出来るものが欲しかったんだ」

 

「あー、なるほど。言われてみれば確かに。アンタも存外、暮らしに不便な身体だねぇ」

 

「そういう事。それに趣味も作らないとストレスが溜まって仕方ない」

 

「それでバイクってわけかい」

 

「そうさ。休日にいろんな所をバイクで走ってぶらぶらするのってよさそうじゃないか?」

 

「ふむ、タンデムシートに扶桑をのせて?」

 

「いや、無理だろ。俺の背中のバインダー見てみろよ。いろいろ付いてて無理」

 

「ふむ。サイドカーつけるかねえ。どう?」

 

「いや、一人乗りで充分だ」

 

「何かあったときにつけれた方がいいよ?なんなら左右つけようか?」

 

「いや、何で誰かを乗せなきゃいかんのだ?」

 

「いやいやいや、絶対乗せなきゃ。いいからいいから。脱着できるようにするから!」

 

「いやいやいや」

 

「いやいやいやいやいや」

 

 結局、何故かサイドカーをつけることで決定してしまった。

 

 




 相変わらず文章が下手ですみません。

 鉄板焼き屋RJ。鳳翔さんが日本に帰り、艦娘達の憩いの場を守るべくRJさんが後を継いで出した鉄板焼き屋。

 隼鷹や足柄さん達が入り浸ってます。

 なお、龍驤さんのお好み焼きは大阪風。


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眠たい人と嫌戦さんとロシアな戦艦のありえない建造。

 有り得ない建造。そう、扶桑さんが秘書艦ならね?

 扶桑と山城って、なんか霊感とか強そう。

 それはさておき、いろいろ出ちゃいます。

 アイオワさん、乳デカい。肉食ってるやつぁやっぱ違うぜ!!


 月月火水木金金、と昔の海軍の偉い人は言った。

 

 今日は金曜日である。

 

 ガシャコン、ガシャコン、ガシャコン、ガシャコン、チーン、と明石は昨日、つまり木曜日から金曜日、夜なべして建造を見守る仕事を延々と繰り返していた。

 

 現在、午前1時を回った所である。

 

 今日の秘書艦は扶桑、俗に不幸戦艦と言われている扶桑であるが、その割に建造は順調、駆逐艦と駆逐艦ではないが海防艦という珍しい艦種の子が建造されていた。

 

 海防艦というのはあまり確認された事は無いものの、何隻か大本営のデータにはあり、明石は単に「ああ、そういう子達もいるのね」と特におかしいと思ってはいなかった。スペックを見るに、駆逐艦と良く似た性能を持っており、どうやら防衛任務が得意な子達のようだからと気にもしていなかったのだ。

 

 海防艦を建造した鎮守府は、今まで確認されていないという記述を全く読まずにそのまま読み飛ばしたのである。

 

 なお、今まで建造した駆逐艦は神風、朝風、春風、松風、の神風型と呼ばれる古風な格好をした子達である。ネームシップの神風はあの鳳翔と同じ年に建造された船であり、大東亜戦争を最後まで戦い抜いた船である。

 

 この子達も、通常建造は不可能かつその存在は希少であるが、明石はやはり(ry。

 

 レア艦娘、それも建造では出来ないはずの子達がやたらとやってくるこの怪奇現象。しかし、明石はそうとはまだ気づいていない。

 

 秘書艦が扶桑のときにしばしば起こる、信じられないような現象がすでに起こっていることに。

 

「ん~、順調順調。さて、次の子を建造しちゃいましょうか。さーぁおいでー?」

 

 明石はオール30で建造機のスイッチを押した。海防艦もノルマ達成の中に勘定してまであと3人なのである。

 

 当然ドック三人分、オール30で設定。

 

「ふわっ、ふわわわわっ」

 

 欠伸が出て目がしばしばした。

 

「ダメね、このままじゃ寝ちゃうわ。コーヒー買いに行きますかね……」

 

 明石はそう言うと、コーヒーを買うために工廠の廊下へと席を外したのである。

 

 そう、目を離した隙に、建造機に忍び寄る大きく白い靄(もや)のようなものが三つ。そして小さなもやが幾つか。

 

 そう、それらは、今だ!とばかりに製造機のコンソールに飛びついた……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ゲシュペンスト提督はアマンダ(元明石)の自動車修理工場からの帰りに『鉄板焼き屋RJ』に寄って深夜まで建造をしている明石への夜食にたこ焼きを買って工廠の前まで来ていた。もちろん、妖精さん達へのお菓子もコンビニで買っている。

 

 まだ工廠の明かりはついており、妖精さん達が振るうハンマーの音や溶接の音が響いている。

 

 おお、みんな頑張っているなぁ、とゲシュペンスト提督は感心して工廠の建造機の操作盤のある明石のラボへ続くドアを開けた。

 

 その途端。

 

『きゃああああああああっ!!』

 

 と、明石の悲鳴が聞こえてきた。

 

 何事かっ!!とゲシュペンスト提督は明石のいるラボへと向かい、そして見た。

 

 建造機の資材カウンターが勝手にカシャカシャカシャカシャと動き、それでも足らずに大型建造のスイッチが何も操作していないのに、ポーンという音と共に入り、そして有無を言わせず高速建造の表示がなされ、さらにそれが三つのドックで同時に行われる様を。

 

 しかしゲシュペンスト提督は落ち着いたもので、あ、またか、と思っただけだった。

 

「あー、なるほど」

 

 コンソールの向こうの窓から見える建造ドック、その艦娘の本体を建造するカプセルの中に、超高速で艦娘が産まれていた。その身体から察するに大型の戦艦クラスだった。

 

 コンソールのモニターには「アイオワ」「ウォースパイト」「ガングート」とあった。

 

 これらの艦娘のデータはゲシュペンスト提督にも無かったし、大本営のデータベースにも無い。とはいえそんな艦娘が来るのは今に始まった事では無かった。

 

「落ち着け明石。そういやお前、扶桑が秘書艦の時に建造するの初めてだったな。いや失念してたわ」

 

「て、提督っ、これは何なのですか?!こ、こんな、まるで機械が勝手にっ?!」

 

「扶桑は昔から霊力が強い、というのか、こう……なんか引き寄せてしまうんだ。今回も強い艦魂がこの世に顕現したい、と願って引き寄せられたんだろなぁ。お前の前任の明石(アマンダ)が建造したときにも何回かあったんだよ」

 

「そそそ、それって、れっ霊障なんじゃ?!」

 

「いや、それを言うと建造って軍艦の魂を呼んで顕現させるんだし、みんなそうして建造されたんだ。怖がることは無いだろう。まぁ、他じゃなかなか見られる現象じゃ無いだろうけどな?しかし、まぁ、ご丁寧に資材オール9999か。それが三隻とは……高くついたなぁ」

 

 資材消費が少し痛いが、まぁ出て来ちゃったもんは仕方無いわなぁ、と他人事のようにゲシュペンスト提督は言い、そして今まで建造された艦娘のデータをコンソールで見た。

 

「……神風型4人に海防艦の択捉、か。建造で出るのはこのパラオが初めてになるが、多分他の所じゃ無理だろなぁ」

 

 ええっ?!と明石が目を見開き、そして慌てて自分のノートPCで大本営のデータバンクにアクセスする。

 

 どの娘も建造されて来た事は無い、とあった。

 

「……つか、アイオワって確かまだ現存しててアメリカで博物館になってる艦じゃ無かったか?つか、大本営もこの三隻は未確認、っつーか、出現自体これが初めてなんじゃねーか?」

 

 そう、明石も今調べたが。

 

 アイオワ、ウォースパイト、ガングート。この三隻の戦艦は、ドロップ現象も建造も、どこにも前例はなかった。つまり、三隻とも、この世界でおそらく初めて顕現したという事になる。

 

「三笠とかミズーリとかが来ても俺は驚かないね。そのうち自衛隊のイージスとか護衛艦も来るんじゃね?ってか、まだ資材のカウンター動いてるぜ?」

 

 かたかたかたかたっ……。

 

 今度はカウンターが減り、オール30になった。

 

「きゃっ!!」

 

「おお、今度はオール30か。気を使ってくれたのかねぇ。どんな子が来るんだろ。今度は駆逐艦っぽいな」

 

「も、もう、いやぁっ、なんなのこの現象っ?!」

 

「だから建造だっての。彼女らは仲間になりたくて来るんだ。むしろ喜んで迎えてやってくれよ。つか、お前と仲のいい夕張も『こう』だったんだぜ?お前、アイツがこんな風に来たからって怖いか?」

 

 怖くねぇよな?と明石を諭しながら、ゲシュペンスト提督はテーブルの上にたこ焼きを置き、

 

「ま、出てくるまでこれでも食って落ち着け?」

 

 と、明石にたこ焼きを勧めた。

 

 明石は親友である夕張の名を出されて、ええっ?!と顔を青ざめさせたが、ゲシュペンスト提督の一言でなんとか納得したようだ。

 

 すなわち。

 

「あの発明バカがなんかオカルトな存在だと思うか?発明ばっかして失敗ばっかやらかして、大抵爆発オチなバカが怖いか?」

 

 である。

 

 パラオ泊地の夕張は現在はそうでもないのだが、少し前まではやたらと発明品を爆発させたり、暴走させたりしていた。まぁ、それは大抵の夕張にありがちな事であり、夕張の夕張たる所以とも言えたりするのだが、逆にそれを出されれば明石も納得するしかない。

 

 とはいえ。

 

「というかな、明石。俺は勝手に建造されにくる艦娘の魂よりもなによりもな、この資材の大量消費を知った大淀の怒りの方が怖い」

 

 あっ!と明石もまた顔を青ざめさせた。

 

 そう、この大型建造三回分で使われた資材は、燃料、弾薬、鋼鉄、ボーキサイト、全てあわせて約30000。普通の鎮守府や基地ならば明日の艦娘達の出撃さえも危ぶまれる程の量なのである。

 

 始末書ですまない程の超大失態なのである。

 

「安心しろ。俺が命じた建造だ。全ての責任は俺にある。あと、パラオの備蓄量はこのぐらいではビクともしない。運営になんら影響は無い。……ただ、すまんが大淀に謝りに行くのには付き合って欲しい。大淀、マジコワいもんな……」

 

 頼りになるのかならないのかわからないような事を言いつつ、ゲシュペンスト提督は建造されていく艦娘達を遠い目で(実際にはアイカメラなのだが)見守った。

 

 いかにゲシュペンスト提督でも大本営からの任官娘である大淀には頭が上がらないのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 朝。

 

 ゲシュペンスト提督は司令室の執務用のデスクに座り、新しく着任した駆逐艦や海防艦、そして戦艦達の在籍証明書や各種関係書類を作成していた。

 

 明石には怖い思いをさせてしまったが、まぁ、この勝手に軍艦の霊が建造機を動かして自身を顕現させるといあ現象はこのパラオでは珍しい事ではなく、過去にも散々あったのだ。

 

 例えばビスマルク達ドイツ艦が来たときもそうだったし、大和もやはりそうだった。さらに、武蔵が来たときには別の理由でゲシュペンスト提督も怖かったが、まぁ、そういうものである。

 

 来たい艦娘はくれば良いし、出てくる艦娘は出てくればいい。

 

 もっとも、深海棲艦のあの武蔵は来たらもれなく逃げる。本当に逃げる。そのためのジェットスクランダーはもう作成済みである。

 

 さて、時刻はもう午前6時である。

 

 そろそろ扶桑姉妹を起こさねばなるまいとゲシュペンスト提督はお気に入りのコーヒーメイカーを動かした。

 

 コーヒーを飲めないのに何故にお気に入りかと言えば、このコーヒーメイカーはドリルや電動工具で有名な日本のメーカーが作ったもので、どう見ても電動工具にしか見えないその無骨なデザインを気に入っているのだ。

 

 これで淹れたコーヒーは艦娘達に出しても好評であり、紅茶党の金剛以外は喜んで飲んでくれる。

 

 コポコポコポ、とマグカップに二杯。自動で淹れてくれるので手間要らずだ。

 

 扶桑は砂糖とミルク、山城はミルクだけ。

 

「んぁ~、珈琲の匂い……朝、かぁ~」

 

 山城の少し間の抜けたような声が聞こえる。

 

「おはよう、山城。ほら、ちゃんと服を直さないと」

 

 扶桑は寝起きはいつも良い。

 

 コーヒーが入れ終わって、ソーサーにカップを置いて、ミルクと角砂糖を置く。来客用のテーブルにそれを置き、昨日コンビニで買ったパンの袋も置く。

 

「おはようございます、提督」

 

「おはよー、提督」

 

 二人はゲシュペンスト提督の自室から出てくると、テーブルの前に来た。

 

「ああ、おはよう。こんなもんしか無いが、まぁ、食ってってくれ」

 

「ありがとうございます、提督」

 

「あんたロボットの癖にこういうのはマメねぇ。ってコンビニのパンかぁ」

 

「すまんな。金曜の午前は間宮も伊良湖ベーカリーも休みだ。それで朝飯にしといてくれ」

 

 そう、パラオ泊地の間宮食堂は金曜日の朝は店を閉めている。伊良湖のやっているパン屋も同様だ。

 

 金曜日はカレーであり、間宮と伊良湖はその仕込みに全力をかけて取り組む。昔はそこに鳳翔も手伝いによく行っていたものだが、現在は長門や天龍が暇な時に手伝いに行っているらしい。

 

 なお、比叡は出禁であるのは言うまでもない。不味いからではなく、かつて提督に毒を混入させて食べさせようとした前科があるからである。

 

 二人がコーヒーとパンを食べている間に、日本本国は舞鶴鎮守府の近藤大将のところへホットラインを入れる。昨晩の大型建造三回分の報告を大淀にする前にやっておくことがあるからだ。

 

 『アイオワ』『ウォースパイト』『ガングート』の三隻は言わばまだ未知の艦娘であり、その存在を知った大本営直轄の『特殊艦造船廠』などの艦娘研究機関や派閥はおそらく、いや十中八九なんらかの圧力をパラオ泊地に加えて三隻を引き渡せと言って来るだろう。

 

 大淀は大本営から各基地、鎮守府、泊地に送られる任艦娘である。彼女がスパイであると言うわけではないが、彼女は職務として任艦娘として、泊地で起こった全てを大本営に報告する義務があり、またその義務を怠れば彼女とてなんらかのペナルティーを被ってしまう事になる。場合によってはクビもありうるのである。

 

 故にゲシュペンスト提督は三隻を大本営に引き渡さず、大淀に対してなんら咎のないように穏便に済ますために、こちら側、すなわち艦娘擁護派陣営のお偉いさんと裏工作をしているのである。

 

 相手は大本営の重鎮にして舞鶴鎮守府の提督を兼任する海軍大将近藤勲閣下である。

 

「はい、こちら舞鶴鎮守府、秘書艦の大和です。お久しぶりですね、げし、げ……すみません、噛んじゃいました」

 

「いや、言いにくい名前ですみません。近藤さんは?」

 

「はい、今、愛宕さんと高雄さんに追いかけられてます。あ、捕まった。やれやれ、ちょっとひっぺがして来ますのでお待ちください」

 

 受話器越しに、「ヤメロォー、ハナセー、マダシツムチュウーッ!」「アラアラウフフ」「ダンナサマァ、チョットキュウケイグライ、イイデショウ?」などと聞こえてくる。

 

 近藤大将の所は相変わらずのようである。

 

 近藤大将は海軍初の重婚提督である。ケッコンカッコカリではなく、ガチの重婚だったりするのだが、これはこの世界における日本の法律では合法となっていたりする。

 

 と、言うよりはその艦娘とのケッコンカッコカリや重婚を許可する法律の最初の被害者が彼であったとも言える。

 

 なにしろ彼は艦娘達に全く手を出さずに約八年間も逃げ通していたのである。彼に(性的に)あの手この手と襲い来る舞鶴鎮守府の艦娘達から、時には妖精さんの力を借りて。時には憲兵さんに助けられ。時には大本営への極秘の任務を装って松平元帥の元に逃げた事も一度や二度ではない。

 

 そう、彼はずっと童貞を守り通したのである。ケッコンカッコカリシステムが施行されるまで、である。

 

 このケッコンカッコカリシステムは『艦娘祭祀派』と呼ばれる派閥が提唱したものである。この艦娘祭祀派は元々は艦娘出現前に深海棲艦に対して霊力で対抗しようとした神社や仏閣の者達で構成された旧『対深海霊体機関』がその前身であり、実際、通常兵器では歯が立たなかった深海棲艦に対してかなりの効果を出した事から、彼らの地位や言動は今もなお海軍内では強く、また寺社仏閣関係者にありがちな政治家との強いパイプもあることからかなり幅を利かせている。

 

 艦娘祭祀派は艦娘と心を通わせた一部の提督が、その絆によって艦娘達の霊力やその力を限界以上に引き出せるという現象に着目、研究し、それを艦娘達の意見や要望なども含めて『ケッコンカッコカリ』システムを作り出し、さらに最も艦娘達から多かった要望、すなわち本当に法的に結婚できるように政治家に圧力をかけて作り出してしまったのてある。しかも『重婚カッコガチ』と呼ばれる状況までOKなとんでもない法案を。

 

 なお、この『艦娘祭祀派』が研究対象としたり艦娘の意見や要望を聞いたのがこの舞鶴鎮守府の艦娘達であり、さらにそれは近藤が大本営直轄に出張している間に行われたのだった。

 

 そう、『艦娘祭祀派』の土方歳子によって、である。土方歳子は『艦娘擁護派』にして『艦娘祭祀派』であり、さらに艦娘達大好き艦娘ラヴューンな変態、もっと言うならば艦娘の言うことなんでも聞いちゃうよおねぇさんだったのである。

 

 結果。

 

 近藤の妻の数は65名。舞鶴鎮守府の艦娘全てが彼の妻、嫁、奥さん、ワイフ、という大ハーレムが日本に建造されたわけである。

 

 彼が大本営の重鎮の一人となった今でも舞鶴鎮守府の提督を兼任せねばならない理由は、離れられないからなのである。そう、離れたら舞鶴鎮守府の彼の妻達は何をしでかすかわからないからなのである。

 

 俺、ロボットで良かったなぁ、とゲシュペンストはしみじみ思いつつ近藤が電話に出るのを待った。

 

「……待たせたなぁ、ゲシの字」

 

「いえ、お元気そうで何よりです」

 

「嫌みか?ゴラァ。で、何のようだ?また何かトラブルか?」

 

「いえ、本来ならばそうではないのですが、少し発表しますと大本営のうるさがたが騒ぐような艦が建造されまして」

 

「……またか。つかお前んとこは特異点かなんかかぁ?土方ん時はそんなの……いや、ちょっと待て。今度も扶桑絡みか?」

 

 近藤大将もよくおわかりである。扶桑絡みで建造されたビスマルクやグラーフ達は以前、『旧・軍主導派』の幹部連中からの引き渡し要求で苦労させられた覚えがあったからである。また、秘書艦だった扶桑に対しての引き渡しも行われたため、ゲシュペンスト提督が暴れそうになったという事件もあったのだ。

 

 故に、その轍を踏まないようにしっかりと今回は根回しをしているのである。

 

「はい、今回もまた扶桑が秘書艦なのですが、建造された戦艦は『アイオワ』『ウォースパイト』『ガングート』の三隻です。どれもおそらくはファースト・メイドですあとは海防艦三隻、神風型駆逐艦四隻です」

 

「これまた有り得ない子達を……。いや、アイオワはアメリカで一体確認されてる。この報告は昨晩入ったばかりでな。博物館だったアイオワが、3日前に深海棲艦の襲撃で沈している。おそらく原因はそれだろう。ふむ、ウォースパイトとガングートは確かに今回が初めてだな」

 

「アメリカでそんな事が?現存する戦艦なのに何故艦娘になったのか疑問でしたが。……それはさておき、おそらくこれが大本営の『旧・軍主導派』や『特殊艦造船廠』のうるさ方に知られますと引き渡し要求を出してくる可能性大ですので、それはちょっと三隻にとってよろしくない事になりかねません。そこで大将のお力をお貸しいただければ、と」

 

「皆まで言うな。俺んところは直接大本営のメインサーバーに書類通せるからな。大本営が引き渡し要求する前にこっちで登録してとっくに在籍してるってことにしたいんだろ?受理しとくから書類寄越せ……っと、もうウチのPCに届いてるじゃねぇか。いつもながらやることが早ぇな。よし、ほい受理したぞ。大将様直々の在籍証明だ。ま、松平元帥閣下にも根回ししとくから、これで連中は手が出せねぇ。そっちの大淀にもな。四の五のぬかしやがったら絞めとくからよ?」

 

 こういうときに近藤は頼りになる。階級の大将、というよりは、よっ、大将っ!の大将肌である。

 

「ありがとうございます。あと、パラオ泊地視察に関して土方歳子中将から打診がありましたが、そちらは何か?」

 

「なに?……いや、ふむ、そうだな。アイツはパラオに向かってるのか。……今は詳細は話せないが、アイツは今、非常に政治的な事に絡んでやがってな。おそらく、『VIP』がパラオに来るはずだ。おそらく沖田も一緒にな」

 

「……『VIP』ですか。それはまた、厄介な」

 

 この『VIP』とは、概ね対話可能な深海棲艦の上位個体を指す。また、土方歳子は一応とは言え大本営幹部であり、またそれに沖田総美少将が加わるとなると……。

 

「そっちの海域の『VIP』にもそれとなく話通せ。デカいのが来るってな」

 

「……まさか『武蔵の深海棲艦』とか言わないで下さいよ?」

 

「安心しろ、それは無い。というか奴はあの小島基地壊滅事件からこっち、どこにも出て来ていないからな。まぁ、詳細は到着し次第、土方と沖田に聞け」

 

 近藤はそう言い、では松平元帥に根回しするから、と電話を切った。

 

 




 近藤さんは重婚カッコガチ(鎮守府内の艦娘全員嫁)。

 なお、『旧・軍主導派』と『特殊艦造船廠』はブラック鎮守府の生き残りの派閥であり、わりと今後出るかもしれません。

 なお、『アイオワ』の語源はネイティヴアメリカンの言葉で『眠たい人』だそうです。

 山城が開発すると、二分の一で失敗ペンギンかものすごい装備が出て来るという設定。

 


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土方と沖田とナガモンとほっぽ・港湾さん。

 港湾さんのおっぱいに埋もれたい。ほっぽちゃんを甘やかしてみたい。

 大淀さんのパンツは黒(本日)。

 


 大発に、四人の女性が乗っているのが見える。

 

 二人は軍服、そして他は巨乳タテセタワンピーススカート。もう一人はロリなワンピーススカートの幼女だった。

 

 軍服の二人は、土方歳子中将と沖田総美少将、その向かい側に座っている、巨乳タテセタワンピーススカートのナイスバディなおねぇさんが港湾棲姫、ロリで可愛い無邪気そうなワンピーススカートのロリ幼女がほっぽちゃんこと、北方棲姫である。

 

 なんでこの一行が大発なんぞに乗って海に浮かんでいるのか。非常に謎である。

 

 そしてその大発を牽引して全力前進で引っ張って居るのは長門と戦艦ル級フラッグシップの二隻。本来敵同士であるこの二隻が何か幸せそうな笑みをぐぇへへと浮かべつつ、鼻から鼻血だしつつ、ワイヤーで大発を引っ張る様はもうカオスですらある。

 

「うへへへへ、ほっぽちゃんの為ならえーんやこーらーっ!」

 

「ワタシ、ほっぽチャンの為なら死ンデモイイ!」

 

 ダブルナガモンであった。

 

 

 謎が謎を呼ぶこの状況、誰か解説してくれ、などと思ったその時に港湾棲姫が口を開いた。

 

「……救助、タスカッタ」

  

 と。

 

 見れば港湾棲姫の肩の部分には大きな傷が付いており、それはさらによく見れば何かの歯形であるとわかる。さらに、タテセタワンピースの所々が破けたり焼け焦げており、なんらかの攻撃を受けていたのがよくわかる。

 

 破れたワンピースから、ぽろりと言うよりはモロりしたおっきいおっぱいを隠そうともせず、港湾棲姫は土方中将と沖田少将に頭を下げた。

 

 ゆさふるん、と揺れるおっぱいを見ながら土方歳子は内心ぐぇへへとよだれを垂らしたが、表面は全く真剣な感じで言った。

 

「いえ、おっぱいありがとうございます(いえ、おきになさらずに)」

 

 本音が建て前を越えて出た。

 

 ずべしっ!!

 

 横から沖田少将がどこから出したのかハリセンで土方を殴った。

 

「……対話が出来て、さらに穏健派のあなた達を今失うわけにはいきません。北方並びにオーストラリアの海域の深海棲艦の守護者であるあなた達は、我ら人類の盟友。助けるのは当たり前です」

 

 港湾棲姫と北方棲姫の二人は突如として現れた『マヨイ』や『ハグレ』の一団に襲撃され、その結果自分の領海を逃げ出さねばならないという事態にみまわれたのである。

 

 この二人は深海棲艦としてはかなりの力を持つ有力者である。生半な兵力ではビクともしないはずだったのだが……。

 

「……アノヨウナ小型艦ガ、ヨモヤアレホドノ強力な力を持ってイルトハ……」

 

 彼女の領海に侵入し、そして襲ったのは『戦艦レ級』である。ただしそのレ級はただのレ級ではない。かつて小島基地壊滅事件で確認された『特B級危険深海棲艦指定五号』と呼ばれる個体である。

 

 すなわち、元小島基地所属・暁型三番艦・雷が怨念を抱いて沈んだ際に深海棲艦となった『マヨイ』であった。

 

 その『雷のレ級』の戦闘している記録は特に確認されてはいなかったのだが、今回の一件でもはや鬼姫級を超える力を宿す存在になり果てているようである。

 

 しかしそのレ級が何故オーストラリアに現れ、港湾棲姫を襲撃したのか、原因は不明である。

 

「アイツ、変っ!力オカシイ!!」

 

 同じようにほっぽちゃんこと北方棲息も怒りを露わに涙目で言った。

 

 こちらは正体不明の『戦艦タ級』と思われる艦に襲撃されており、やはりそのロリワンピースは焼け焦げている。

 

 怒ってもなんか可愛いのがほっぽちゃんのほっぽちゃんたる所以と言うべきか。とはいえ、その怒りのオーラは常人ならばかなりの恐怖を感じるはずなのだが、ここにいる者達は平然としていた。

 

 二人は命からがら日本海軍に救出されたのだが、しかし領海を奪われて逃避行中なのである。

 

 なお、大発に乗っているのは二人が陸上型の深海棲艦で自力で海上に出られないためである。よって、土方中将の所の長……いや、ナガモンと港湾棲姫の所のル級が大発を牽引しているわけなのである。

 

 なお、その後ろをこれまたワ級やチ級などの深海棲艦や、不知火やあきつ丸、加賀、陸奥などが付いてきているが、深海棲艦達は港湾棲姫とほっぽちゃんの所の敗残艦達であり、艦娘達は土方と沖田の部下である。

 

「とりあえず、お二人を最も安全な所へお連れ致します。おそらく日本のどの鎮守府や基地よりもそこは安全で平和な所です」

 

 沖田はそう言い、この無表情な女にはめずらしく微笑んだ。

 

「パラオはねぇ海が綺麗よぉ?豊かだし、設備も整ってるし、ご飯も美味しい!至れり尽くせりな所なんだから!!」

 

 土方はこんな状況であるのにものすごく明るく言った。

 

「イイトコロ?」

 

 ほっぽちゃんは少し首を傾げつつ、パラオが気になったようだ。

 

「良いところよ?少し暑いけど」

 

 しかし港湾棲姫はどうも何かを考えているようで、

 

「……ニホンはコノ事件ヲ、単なる我らノ内紛とシテ、扱イ、介入シテ巻きコマレルのヲ恐レテ、遠イトコロヘ厄介バライシタイ、違ウカ?」

 

 港湾棲姫は沖田を少し睨みつつ言った。だが、港湾棲姫が疑うのも無理は無い。昔の日本軍に彼女の前身はかなりの攻撃を受けたという記憶がある。

 

 彼女の前身は文字通り港湾、つまりは港であった。彼女はかつての大戦で日本軍の攻撃対象として徹底的に攻撃されている。それは戦争だったので仕方のない事だったと彼女も理解してはいるものの、やはり信用仕切れないのは致し方ないのである。

 

「たしかに、大本営ならばそう思っているでしょうね。でも、今から行く所は『パラオ泊地』。私の部下が守り、そしてあなた達同様、穏健派の深海棲艦と共存する場所です。彼ならばきっとあなた達をも守るでしょうし、私が守らせます。大丈夫、そこの提督は一人で『特SSS級危険深海棲艦一号』と戦い、生き抜いた正義のスーパーロボットなのですから!」

 

 土方は胸を張り、自信満々にそういってのけた。

 

 

 

 

 

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 その頃、パラオ泊地では。

 

 ぶえっくしん!!

 

 床に正座して座っているゲシュペンスト提督は、ロボットの癖に大きなくしゃみをした。

 

 正座しているここは、事務室。大淀のいる事務室であり、明石とともに大淀の説教を食らっている最中である。

 

「提督、聞いているのですか?」

 

「いや、聞いているとも。うむ」

 

 大淀の説教は長く、そしてゲシュペンスト提督にとっては非常に、こう、落ち着かないものの一つである。

 

 説教が長いのはまぁ、良いわけはないのだが、大淀はやたらと説教をしている時は話をしながら右へ左へと動く。身振り手振りを加えつつ、じっくりねっとりと説教を垂れる。

 

 おわかりだろうか。

 

 彼女の格好を想像していただきたい。

 

 まぁ、上はセーラー服であるし、長袖なので、まぁ、良い。いや、それも問題があるかもしれない。しかし問題はそのスカートである。

 

 横にスリットが開いたプリーツのミニスカなのである。

 

 動くたびに、ひらひらっ、ひらひらっ、とするわけである。 

 

 なお、ゲシュペンスト提督は正座していてもまだ背が高いので、そのスカートの中が見えるわけでは無い……ように大淀は思っているだろうが、ゲシュペンスト提督はロボットである。全てのカメラを駆使するとほら不思議。

 

 見えちゃうのである。

 

 また、彼の動体センサーは非常に優秀であり、動いている物をとりあえずは察知し、画像でその詳細を分析する。

 

 つまり、ゲシュペンスト提督には今、大淀の履いているパンツなど文字通りお見通しなのである。お見通しなのであるが、はっきり言って見るつもりなんて無いのに見えてしまうのである。

 

 そう、仕方ない事なのである。

 

 この、知的で文学少女のような大人しそうな事務任艦娘が、こんな大胆で大人びたパンツを履いているのが見えるなんて、俺、見る気はなかったんだ!!【REC】

 

 いやー、落ち着きませんね?

 

 説教が長いのがいけない。この前の説教の時はベージュの淑女的なパンツだったし、その前はピンクだった。

 

 全て録画している辺り、ゲシュペンスト提督は絶対に枯れてないと思うのは書いてる人だけではあるまい。

 

(うーむ、やはりこう、大人になった文学少女が、こう、図書館の司書とかになったような、そんな女性に説教されるというのはこう、ちょっと萌えるものがあるよなぁ。うん。というか、高校の図書室の司書の先生とか、俺の高校じゃオッサンだったからなー。大淀があの頃の司書の先生だったら入り浸っていたな。うん)

 

 うん、ただのバカである。

 

 ガミガミガミガミと説教を食らいながら、ゲシュペンスト提督は変な妄想を捗らせつつ、それでも並列作業で事務仕事をしつつ、いろいろやったりなんだりしていた。

 

 と、その時である。

 

「提督、松平元帥閣下から連絡が!」

 

 と、扶桑が事務室に入ってきた。こうなると、大淀も説教を続けられない。

 

 ゲシュペンストはすかさず自分に組み込まれている通信端末に送ってもらうように扶桑に言って、電話に出た。

 

「只今代わりました。パラオ泊地指令室、ゲシュペンスト大佐であります」

 

 そういえば、全くゲシュペンスト提督の階級は出て来てませんでしたが、ゲシュペンストは大佐です。

 

「今、良いかね?ゲシュペンスト大佐。火急、パラオ周辺海域に第4種警戒態勢を敷きたまえ」

 

「はぁっ?!いや、何事でありますか?元帥閣下?」

 

「うん、君も知っての通り、パラオを初めとして、日本は九州坊之岬沖近海、オーストラリアのポートワイン周辺海域、北方のウラナスカ島近海海域、インド洋モルディブ周辺海域の深海棲艦は穏健派であり、それぞれが我々と和平、ならびに不戦条約を結んでいる」

 

「ええ、空母水鬼、南方棲戦姫、港湾棲姫、北方棲姫、あとは最近条約を締結した泊地水鬼、この5人ですね」

 

「そうだ。だが、このうち、港湾棲姫と北方棲姫の領海を他の深海棲艦が侵攻、襲撃し占拠するという事件が発生した。詳細は不明で現在状況を確認しているが、他の海域でも同様の事件が起こるのではないかと本部では推測している。なお、この事件によって港湾棲姫と北方棲姫は土方中将と沖田少将が保護し、君の統括するパラオ泊地へ向かっている途中であると今、報告があった」

 

「緊急事態ですね。了解です。受け入れ準備を早急に行います。とはいえ、確か港湾棲姫も北方棲姫も陸上型だったはずなんですが、海上を移動できましたっけ?」

 

「無理矢理大発に乗せて、長門達に牽引させて運んでいるそうだ。で、だ。出来ることなら君の所から何人か出して迎えを送れないだろうか?というか君がいけないかね?なんというか……今回はとても嫌な予感がすると、妻が言うのでな」

 

 松平元帥の細君は叢雲である。この叢雲は日本海軍が最初に接触した艦娘の一人であり、駆逐艦ではあるがかなりの実力を持っている。

 

 『槍の叢雲』と異名をとっており、かつて松平元帥の命を狙う暗殺部隊10人をたった一人で打ち倒し、そのリーダーであった『薙刀姫』の異名を持つ龍田を生け捕ったことからもその強さが伺えよう。

 

 また、松平元帥の叢雲は非常に勘が鋭い事で知られており、その彼女が言うのである。ゲシュペンスト提督もそれに従ったのが良いと判断した。

 

「わかりました。では早急に。事件の経緯等は出来ましたら詳細なデータを逐一いただけますと……」

 

「わかっている。場合によっては今回のように君に出撃要請をする事になるかも知れない。その時の為と『VIP』の二人のお世話要員として土方中将と沖田少将をそちらに駐留させるつもりだ。よろしく頼むよ」

 

「……え゛?!いや、それは、あの元帥?!元帥閣下っ!!」

 

 ぷつっ。つーっ、つーっ、つーっ、つーっ。

 

 電話は、切れてしまった。

 

「つまり、この事件が解決しなければ、土方さん達はパラオに居続けるってことか?!」

 

 ガクリ、とゲシュペンスト提督はうなだれた。とはいえやらねばならないことは山盛りだ。

 

 とりあえず秘書艦の扶桑に伝達する。

 

「かくかくしかじか(中略)」←詳細な説明。

 

「まるまるうまうまうしとんとん」←理解して手筈を整える段取りを始める。

 

 阿吽の呼吸である(書くのが面倒なわけではない)。

 

 どういう内容であったか、と言えば。

 

「扶桑、長門及び戦闘集団各員に通達!第四種警戒態勢発動、それに付随して空母水鬼の所に連絡頼む。『港湾棲姫』並びに『北方棲姫』が謎の深海棲艦の襲撃を受け、パラオに避難してくる、とな!」

 

 この場の艦娘達に緊張が走る。

 

「明石、今から五分以内で俺のアサルト装備と加速ブースターを用意!!ぼやぼやするな、緊急事態だ!!」

 

「大淀、すまんが説教はまた後でな。どうも俺が出撃せにゃならんようだ。というわけで、またな」

 

 ガションガションガション、とゲシュペンスト提督は駆け足で事務室を出て行き、出撃ハンガーへと向かったのであった。

 

 




 
 雷のレ級再び。

 穏健派を襲う謎の深海棲艦。その背後に見え隠れする、深い闇。

 黒い亡霊は海を駆ける。闇を切り裂けスラッシュリッパー、敵を貫けサンダーボルトスクリュー(違っ)。

 次回、深海の乳。君はおっぱいの質量を知る(嘘)。


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港湾さんの乳と深海棲艦『摩耶』『鳥海』の尻

いえ、別にエロスな何かは出ません。




 ゲシュペンスト提督は緊急加速ブースターを背部に取り付け、汎用性の高いM-970アサルトライフルを持ち、腰にリヴォルヴァーキャノン、それに加えて背中に零式斬艦刀を背負った。

 

 これらの武器はかつて、小島基地に向かう際に『マヨイ』の群れに使用した、ゲシュペンストがズフィルートクリスタルで作り出した物で、使っては投げ捨て、使っては投げ捨てていた物を、ワタヌシ島にいた潜水艦娘達が後々に、こっそりとワタヌシ島の秘密集積地に集めてまとめて置いておいてくれたものである。

 

 彼女達は今現在、みんなパラオ泊地所属になっているが、泊地に来た際にゲシュペンストに全て渡してくれたのである。非常に優しい子達ではあるが、なんというか、たまにレディースとか愚連隊のように見える時があるのは何故なのだろう。

 

 彼女達は未だにゲシュペンスト提督が知らない所に秘密集積地を作っており、せかせかと『ハグレ』狩りをしてカツアゲ……もとい、物資調達し、そこに隠しているという噂である。

 

 まぁ、ゲシュペンスト提督も昔に助けられた事もあり、知らないフリをしておいている。

 

 彼女達は仲間達に何かあった時の為、そうやって溜め込んでいることをゲシュペンスト提督は知っているからである。

 

(とはいえ、ムチャな事だけはしてくれるなよ)

 

 とは思うのだが。

 

 ガシャッ、とライフルの操作をする。

 

 弾は妖精さん謹製の徹甲弾。ヘリカルマガジンの予備2つ。さすがに妖精さん達もこのアサルトライフルその物は複製を作れなかったが、弾とマガジンは比較的に簡単だったらしく、すぐに作れるようになってくれた。リヴォルヴァーキャノンの弾も同様である。

 

 もちろん、どちらの弾も深海棲艦にもちゃんと通用する弾である。

 

 ガシン、とゲシュペンスト提督は武器ハンガーから出て、その先のカタパルトへと進んだ。

 

 このカタパルトは夕張の発明であり、製作には今の明石と前任の明石(アマンダ)も加わっている。

 

 これは六面リニアカタパルト方式とワイヤー牽引式カタパルトの併用方式であり、使い方は、機体の後ろにワイヤーフックを引っ掛けてリニアを作動し、そして磁力でゲシュペンスト提督が浮いたら、加速ブースターを点火、そしてワイヤーフックの張力が限界に達したら、ワイヤー切断、同時にリニアモーターカーの原理で射出、という、なかなかに乱暴なものである。

 

 初速はマッハを超える。

 

「提督っ、聞こえる~?」

 

 カタパルトに響くこの声は夕張の声である。

 

 カタパルトの管制室の窓を見れば明石と夕張の姿があった。

 

「ああ、聞こえてるぞ夕張」

 

 カキン、とゲシュペンスト提督はワイヤーを自分の背中につけつつ無線で答えた。

 

「今日はお前が管制するのか?」

 

「もっちろん!提督が発進するの、二年振りぐらいじゃない!そんなの見過ごし出来るわけないじゃない!」

 

 非常に興奮し、はしゃぎながら夕張はそう言う。発明好きの夕張は、ロボットであるゲシュペンスト提督の構造や機構にかなり興味を示している。そして、いつもやたらとデータを取りたがるのである。

 

「わかった。では管制頼む。ワイヤー接続確認。リニア、頼む」

 

「オーケー!リニア作動。浮遊確認。ブースター点火どうぞ!」

 

「ブースター始動。点火。ワイヤー牽引開始」

 

「ブースターとの同期を開始。ブースター30%まで噴射、リニア回転開始。秒読みまで30、ブースターの噴射を合わせて下さい。35、40、50、60

……」

 

「ブースター最大出力!」

 

「確認!リニア射出、5、4、3、2、1、ボンバーーーーーっ!!」

 

 バツン!!とワイヤーが切断され、そしてカタパルトのリニアにより、ゲシュペンスト提督は撃ち出された。

 

 ドゴォォォン!!と轟音とともに初速マッハに近い速度でゲシュペンスト提督は飛んで行った。

 

「ひゃっはーーーっ!!イェーイ!!やっぱりカタパルト最っ高っ!!」

 

 ゲシュペンスト提督の無線に、はしゃぐ夕張の明るい声が響いた。

 

「いい子にしてたら、お土産持って帰るからな!」

 

「えっ?何々?どんなお土産?美味しいもの??」

 

「……明石も聞こえてるか?」

 

「聞こえてます。というか、厄介なお土産ですよね……」

 

「長門達に伝えてくれ。あと、霧島の隊にも。土方中将をつれて帰る。他にも、いろいろ居るはずだが、とにかく、いろいろとまた練り直しだ。帰ったら早急に取りかからねばならんから、集めといてくれ」

 

「……提督、それ煮ても焼いても食えないじゃん。つか、土産物じゃなくて、イヤゲ者でしょそれは」

 

「そうとも、言う」

 

 そうこう言っている間に、無線の通信範囲外に出た。幸いな事に本日は快晴。視界はクリアーで、さらに各レーダー、センサーも感度良好だった。

 

「あー、空も海もあんなに青いのに、不幸だ」

 

 扶桑姉妹のセリフを足して二で割らないような事を言いつつ、ゲシュペンスト提督は土方中将達のいる地点を探すと、そこへ一直線に進んで行った。

 

 厄介な事に、すでに深海棲艦とおぼしき光点にそれは囲まれており、ゲシュペンスト提督はブースターをさらに加速させて向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ドウン!ドウン!!

 

 今、パラオ近海の海域で、ほっぽちゃんと港湾さんの配下の深海棲艦達と、土方と沖田両名の部下の艦娘達は必死に敵の一団と戦っていた。敵は雑魚だらけだったが、その中の重巡リ級とネ級の二隻がかなり強く、本来の重巡リ級ネ級を遥かに超えた強さを持っていた。おそらくは特異個体であり、その顔はどことなく鳥海と麻耶に似ていた。おそらくはどこかで沈んだ『マヨイ』なのだろう。

 

「クッ!!コイツ等強イ!!」

 

 港湾棲姫の所のル級フラッグシップが、その砲の付いた盾で大発に乗っている四人を防御しつつ、予測射撃をしているものの、リ級ネ級には当たらない。

 

 長門もル級フラッグシップに合わせて砲撃をするが、着弾地点丁度に来ていたはずの二隻がふらりと消えるように着弾地点から逃れ、そして砲を撃ってくる。

 

「ヒャハハハハハハハ!!オセェ!!オセェンダヨ!!ポンコツビッグセブン!!」

 

 口汚く摩耶の深海棲艦が笑う。

 

「当たりません。というか何度撃っても無駄です」

 

 さらりと鳥海が感情を無くしたような口調で言う。

 

「クウッ、船の上では我々ノ艦装はダセナイ!」

 

 港湾棲姫が歯噛みした。港湾棲姫も北方棲姫も陸上型の深海棲艦である。艦装を出したら最後、この大発もろとも、その霊的重量で一瞬のうちに沈んでしまう事になるのだ。

 

 故に陸上では強い力を持つ彼女達も、海の真っ只中では戦えないのである。陸上型の思ってもみない弱点であった。

 

 他の艦達は、囲んで来ている雑魚を倒すのに精一杯であり、加勢も出来ない状況にあった。

 

 北方の深海棲艦のチームリーダーである軽巡棲姫が獅子奮迅の勢いで刀らしき装備で斬りかかるも、数が多く、さらに先の戦いでのダメージもあり、敵の数を減らせないでいた。

 

 そこへ艦娘の不知火がサポートに入る。正確な射撃で敵のチ級を撃つ。

 

「黒い神通さん!あなたは早く大発の方へ!」

 

「アリガトウ……ってワタシ神通違う!!」

 

 そうは言ってもなんかそっくりであるので、不知火が思わずそう言ってしまうのも仕方ないことかも知れない。

 

 そこへ加賀の友永部隊が到着し、爆撃を開始する。周囲の雑魚、イ・ロ・ハを次々と沈めて行く。

 

 加賀の姿は見えないが、それは仕方ない。遠くにあって戦闘機を出すのが空母の戦術であり、それもあって沖田は加賀をいち早く離したのである。だが、如何に一航戦、如何に戦艦搭載量に優れる加賀と言えども全てを爆撃するのは不可能だった。

 

 多勢に無勢、大発に向かって『マヨイ』たちは進んでいく。

 

 と、そのとき、どう見ても加賀の友永部隊以外の攻撃が上空からバラ弾を撒いた。

 

 M-970アサルトライフルのバースト射撃である。

 

「どりゃああああああっ!!」

 

 それは、ライフルを背部にしまうと、次は大きな大剣を持って落ちてきた。

 

「我が名はゲシュペンストっ!!悪を絶つ剣なりぃぃっ!!」

 

 ズドオオオン!!

 

「真っ向唐竹割りっ!!」

 

 チ級を真っ二つに切り裂き、そして。

 

「零式斬艦刀っ!!大っ旋風っ!!どりゃああああああっ!!」

 

 深海棲艦の群れの真ん中で、斬艦刀を振り回し、とにかく全てぶった切り、真空で吸い込みつつさらにぶん回してとにかく破壊、破壊、破壊の嵐を巻き起こす。

 

 というかそんな技はオリジナルには無い。というかこれはアドリブである。

 

「ふんっ!!我に断てぬ者無しっ!!」

 

 ガチャっ、と斬艦刀を背中に直し、スラッシュリッパーを投げ、そしてさらにリヴォルヴァーキャノンを両手に掴み。

 

「リヴォルヴァーキャノン、広域ランダムシュート!!」

 

 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!と、まるで曲芸のように周りの深海棲艦へと一発必中で全弾打ち込み、投げたスラッシュリッパーはその他の深海棲艦を全て切り裂いた。

 

 リヴォルヴァーキャノンを両手でクルクルクル回し、ホルスターに戻し、帰ってきたスラッシュリッパーを素早く両手で掴み取り、背中に戻した。

 

 それだけで雑魚は全ていなくなり、残るは二隻の特異個体のみになっていた。

 

「逃げるか投降するか殺されるか、どれにする?俺はどちらでもいいぜ?」

 

 ゲシュペンスト提督はそう言って、二隻に首を傾げながら言った。

 

「バッ、バカモノッ!!ゲシュペンストっ、捕まえろっ!!情報が不足してるんだ!!」

 

 沖田少将が叫ぶ。しかしゲシュペンスト提督は首を横に振った。

 

「わからないんですか?沖田さん。コイツ等、特B級に匹敵する連中です。そんな中途半端な強さしてますからね、手加減は無理です。つか、殺されかけてて偉そうに言わんで下さい」

 

 ガキン、と斬艦刀を持って二隻を睨みつけ、

 

「お前等のねーちゃん達が見たら膝詰め説教されるぜ?麻耶、鳥海。乳は立派なのにガキみてぇに得た力振り回して何をやってやがるよ?」

 

「うるせぇっ!!何なんだお前はっ!!クソっ、『雷』が言ってたロボット野郎だな?!てめぇっ!!」

 

「ダメッ、摩耶っ!!コイツは私達じゃかなわない!!撤退よっ!!」

 

「へぇ?なるほど。レ級のあいつの仲間か?お前等。おチビさんは元気かい?『武蔵』にゃ会いたくねぇけどよ?」

 

「ああ、そうさ!!クソったれ!!お前なんて、あの武蔵さんが復活したら、復活したらっ、一捻りだ!!吠え面かくなよ!!バーカバーカっ!!」

 

「恥ずかしいから止めて。それに情報漏洩になってるし、もう、帰ろ?逃がしてくれるって言ってるし……」

 

「……いや、すまん逃げるか?とは言ったけどな。『逃がしてやる』なんて一度も言ってねぇんだよ、俺はな?」

 

 ズイッ。

 

 ゲシュペンスト提督はその巨体の凄みをこれでもかっ!!と聞かせて『摩耶』と『鳥海』の深海棲艦に両手を伸ばした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 パラオ泊地へと大発を曳航し、着いた頃にはもう夕日が差していた。

 

 大発の上には傷ついた深海棲艦の軽巡棲姫や不知火、ル級、長……いや、ナガモンも乗せられ、さらに捕らえた『麻耶』と『鳥海』の深海棲息がワイヤーで亀甲縛りにされて転がされていた。

 

 パンツ丸見えで、その尻は真っ赤に、それこそ夕日よりも赤く腫れていた。

 

 ゲシュペンスト提督による、愛のお仕置き『恥ずかし固めからの羞恥、パンツずりおろしお尻ペンペンの刑』を食らったせいである。

 

 二人は涙目になりつつ『お、俺、もうお嫁に行けない……」とか「あっ、あ……だめ、鉄棒、イケない記憶……」とか言っていた。

 摩耶の純情そうな感じはなかなかによろしいが、いや鳥海、お前、過去になにやってたんだよ、とか思いつつもゲシュペンスト提督は大発を軍港へと着けた。

 

 軍港には、何人かの艦娘が待機しており、その中に長門がいた。

 

 ゲシュペンスト提督は、いかんと思ったがもう遅い。

 

 長門の目が、傷ついた『ナガモン』を見たからだ。しかし、目を見開きはしたものの、さすがに何も言わず、土方中将と沖田少将に敬礼し、他の艦娘達もそれに倣ったのを見て、ほっと安心した。

 

 長門は公務と私情をきっちり分ける。腸煮えくり返っていても。

 

「提督、任務お疲れ様です。とりあえず負傷した艦娘達はドックへ。同盟深海棲艦の皆様は、深海棲艦用の治療槽をもう用意してます。中将と少将はメディカルルームへ。負傷の手当てを」

 

 外向きの丁寧な話しかたである。なのにやたらと威圧感があるのは、おそらくは怒っているからなのだろう。笑顔が怖い。

 

「霧島は中将と少将を。時雨と夕立は艦娘達を。神通は同盟深海棲艦の方達を」

 

 流石に長門である。こういう時の差配も卒がない。

 

 ゲシュペンスト提督は長門に言った。

 

「皆さんの処置が終わったら、会議室にお通ししてくれ。あと、皆さんの宿泊の手配はどうなっている?」

 

「事態が事態だ。泊地の寮を使ってもらうしか無いな。幸い、『前の提督』が寮を『無駄』に拡張したおかげで全員受け入れても余裕があるからな」

 

 非常に棘のある言い方で長門は言った。

 

(やっぱり怒ってるじゃないか。コイツ)

 

「あら、先見があったって言って頂戴。こんな事もあろうかと!ってね?それに災害時の住民の受け入れもする施設でもあるしね?」

 

 聞こえたのだろう、土方中将がおどけたように言う。軍服がボロボロで怪我もしてるのにやたら元気そうであるが、ゲシュペンスト提督のセンサーは騙せない。

 

「あんた骨折れてんだから、とっとと治療してこいよ。腕、隠してもポッキリ行ってんだろ?無理しないで、ほら、早くナノマシンで接いでもらってきな!」

 

「あん、ゲーちゃんのエッチぃ。上官の身体をセンサーで隈無く視姦?うわ、変態、うわーエロボット!!」

 

「……霧島、とっととつれてけ?なんなら木刀いるか?」

 

 そう、言うと土方はびっくぅっ!!として黙って素直に霧島の後ろに並んだ。昔、土方は霧島をキレさせてしまい、木刀を持った霧島に一晩中追いかけられた事があるのだ。

 

 その際に霧島についた徒名が『ハマのレディース』である。

 

「あの、提督。私はその、ハマの不良ではありません」

 

 そう言うが、何というか金剛型ってなんかレディースっぽい雰囲気はあるよなぁ、とゲシュペンスト提督は思った。まぁ、土方が大人しくなったなら良しとしよう。

 

 霧島は土方中将達を連れていった。

 

「あの人がいると話が進まん」

 

 はぁ、と溜め息混じりいいつつ。

 

 まだ大発に乗ったままの港湾棲姫と北方棲姫の方を振り向く。どうやら彼女達は捕らえた『麻耶』と『鳥海」の深海棲艦が逃げないように見てくれているようだ。

 

(……そんな事をしなくても、逃げられないようにヒートロッドのワイヤーで縛ってるのにな)

 

 とは言え、彼女達にはそれを教えていないのである。仕方ないか、とゲシュペンスト提督は二人に言った。

 

「港湾棲姫様と北方棲姫様、どうぞこちらへ。そいつ等はほっておいても逃げられないようにしております。まずはあなた方の傷を治さねば。ほら、部下の方もあなた方が来ないので動こうとしません。さあ」

 

「……ワカッタ。オマエは……イヤ、ナンデモナイ。タスケニ来てクレテ、感謝スル」

 

 港湾棲姫はそう言うとその大きな両手で北方棲姫の脇を抱えた。

 

「手を貸シテクレ。マズハ北方棲姫を下ロソウ」

 

ゲシュペンスト提督は北方棲姫を受け取って地面に下ろした。

 

(こんな小さいのに北方の統治者かぁ)

 

 とも思ったが、その内包する気というか霊力はかなりのものである。

 

「アリガトウ、オニイチャン」

 

 北方棲姫ははにかみながらゲシュペンスト提督にお辞儀をした。

 

「次ハ私を頼ム」

 

 港湾棲姫は大きな手を差し伸べてきた。ポロリしている胸を隠そうともせず、普通のしぐさで。

 

(話には聞いていたが、ありえないデカさ……あの愛宕のサイズなんて遥かに超えてるぞ、これ)

 

 なのに美乳という辺り、理想の超神乳というべきであろうか。

 

 とはいえ、ここは真面目にやらねば。

 

 少し顔が赤いようだが、ふむ、とゲシュペンスト提督はその手を取って、支えてやる。

 

 ぐらっ。

 

 大発が揺れた。

 

「アッ!!」

 

 港湾棲姫の身体がバランスを崩した。そのままでは港湾棲姫が海に落ちてしまう!!と、ゲシュペンスト提督は彼女の手を引っぱり、そのまま自分の胸部装甲で受け止めた。

 

「いよいしょうっ!っと!」

 

 くるりと回転するようにして、港湾棲姫を地面に立たせてやり「大丈夫でしたか?」と、問いかけたが、港湾棲姫はぷるぷる、ぷるぷると震え出した。

 

「どこか、痛いですか?いかん、早く手当てを……」

 

 抱きっ!

 

「強ク逞シク……イイ『男』。オマエニ、女は居ル力?」

 

「うぇぇっ?!いや、その……自分、武器用なロボットですからっ!!兵器、ロボットだから、マシンだからっ!!」

 

「ロボット?イイエ、魂を感ジル。我々や艦娘と同じ霊力……。何故機械を纏ウ?ワカラナイ」

 

「最初からこうなんでっ!!」

 

 なんとか港湾棲姫を振りほどいて、神通の方に行かせた。

 

(め、めちゃくちゃビビった。つかあの『武蔵』と同じような事を?!)

 

 港湾棲姫は他の同盟深海棲艦達同様、神通に連れられて行きつつも、何度も何度もゲシュペンスト提督の方を振り返りつつ、総合医療施設の方へと消えていった。

 

「提督、モテるね?」

 

 いつの間にか川内がゲシュペンスト提督の側に来ていた。近頃、この川内はやたらと気配を消したり、ゲシュペンスト提督ですらも時折察知出来ないようなステルスな動作をしてくるので心臓に悪い。ロボットだから心臓は無いけど。

 

「おそらく自分の海域を奪われたり散々な目にあったりして気が動転しているんだろう。落ち着いたら正常にもどる」

 

「ふぅん。そんなものかなぁ。私は違うと思うけど?で、捕虜ってコイツ等?」

 

 川内は大発に転がされている『麻耶』と『鳥海』を見た。

 

「そうだ。愛宕と高雄には見せられんな。自分達の妹達がこうなってるってのは……」

 

「んー?ていうか、さっき私、神通の深海棲艦見たけど?つか、神通も直接会ってんだけど?それ差別じゃない?」

 

 軽巡棲姫は神通そっくりである。

 

「……え?あれってマジで神通の深海棲艦だったの?」

 

「そだよ?つか私が『妹』をわからないはずないじゃない。でもこの格好は違う意味で見せらんないよねー。スパンキングされて、亀甲縛りで股間までしっかり食い込んで、しかもなんか……」

 

「ワーワーワーワーッ!!違うんだ。悪さばっかしてるからお仕置きしただけだろが。あと、隙を見て縄抜けして逃げようとしたから、縄抜け出来ないようにこうなったんだ!人聞き悪いこと言うな!!」

 

 そこへ長門がやってきて言った。

 

「提督、普段の行いが悪いからそういう目で見られるのだぞ。で、コイツ等をどうする?」

 

「俺、そんなに素行悪いかぁ?……愛宕と高雄に尋問させるかねぇ。コイツ等にはそれが一番効く気がしてきた」

 

 ゲシュペンスト提督は投げやりにそう言った。というかこれからどうなるんだろう、と思いつつ、やはり溜め息を吐くのであった。

 

 

 




鳥海の過去。鉄棒とは一体何の意味なのか。私にはわかるません。

なお、パラオにも摩耶や鳥海はおりますし、高雄も愛宕もいます。

軽巡棲姫さん、神通説。



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警戒態勢。

 扶桑さんって怒らせるときっと怖いよね。

 そして今回短いのでオマケ付き。


 ゲシュペンスト提督は一度司令室に戻り、扶桑からゲシュペンスト提督が出撃した後の状況を聞いた。

 

 まず、日本海軍と不戦条約を結んでいる九州南方海域の通称『南方棲戦姫』が正体不明の深海棲艦群に襲われ、長崎佐世保基地に救助を求め、辛くもそれを撃退したという報告。

 

 もう一つは、傷付いた軽巡棲鬼と駆逐棲姫を保護したが、それは今をときめく深海棲艦のアイドル『ジュンちゃん』、そしてその付き人であり、駆け出しアイドルの駆逐棲姫の『ハルちゃん』であり、パラオでの那珂ちゃんとのライブコンサートに来る途中で正体不明の深海棲艦群に襲われたのだという。また、彼女のプロデューサー兼マネージャーであるチ級エリートの『チエリさん』、ボディガードのリ級の『利休』さんも大怪我を負い、現在パラオ泊地内の治療槽で治療中との事である。

 

「南方棲戦姫の事も頭痛いが、『ジュンちゃん』と『ハルちゃん』の件は痛いな」

 

 彼女達深海アイドルと那珂ちゃんの合同ライブコンサートは海軍が『同盟深海棲艦との友好的関係』を国民にアピールするために打ち出した企画である。

 この深海アイドル達はすでにかなりのファン達を獲得しており、それが襲われたとあっては海軍の威信に傷が付くどころの失態ではない。

 

「海軍からの護衛の艦隊は?」

 

「はい、大破艦は出たものの、現在こちらで治療中です。旗艦は足柄、構成は、大淀、霞、朝霜、清霜となっており……」

 

「礼号組か。というか旗艦は霞のはずだが。いや、足柄、か。ふむ。そこは突っ込んでやらないのが礼儀か」

 

 おそらく足柄は霞を庇うために自分が旗艦だったと言い張っているのだろう。

 

 足柄はパラオにもいるが、大抵の足柄は世話焼きであり、そしていつも人のために損な役割を被ったり、自分よりも目下の子達を守ろうとしたりする事がある。

 

 とはいえ、彼女達の司令官が理解あるような人物ならそのような事はしないはずであり、彼女達の今の司令官は、その名の元となった『礼号作戦』の指揮官であった『ヒゲのショーフク』こと木村昌福少将のような人格者では無いようだ。

 

(彼女達も、彼が恋しかろうなぁ)

 

 パラオ所属の足柄が酔ってゲシュペンスト提督に絡んで言うことはいつも同じだ。『あんたもヒゲのショーフク』みたいな名将になんなさい!』。

 

(どうも足柄は俺の姉に性格似てるから、頭上がんねーんだよなぁ)

 

 ゲシュペンスト提督の中の玄一郎は姉はキャリアウーマンで、いつまで経っても嫁に行けないようなタイプだった。まんま言動などが足柄に重なり、やたらと他のところの足柄であっても心配になるのである。

 

 仕方ねぇなぁ、と思いつつ、ゲシュペンスト提督は「助けるかねぇ」とつぶやく。

 

「報告書はまだ出ていないな?では詳細を調べた上で、場合によっては嘆願書を出そう。今回の事態は非常事態だ。いささか酷だしな。で、こちらからの救助には誰が行った?」

 

「高雄四姉妹です」

 

 ゲシュペンストは頭の中に海図を表示し、土方中将達の襲撃とアイドル艦襲撃の位置を確認した。

 

 時間的にアイドル艦襲撃が先にあり、パラオ周辺海域での土方中将達への追撃が後、である。

 

「……おそらく、遊撃、か。こちらの損害は?」

 

「高雄四姉妹全て無傷です。報告によりますとこちらの艦影を見た途端に撤収していったようだ、と」

 

 ゲシュペンスト提督は高速で思考する。

 

 おそらくアイドル艦を襲撃した遊撃隊とパラオ近海で土方中将達を追撃した『マヨイ』の群勢は同じであろう。

 

 おそらくアイドル艦襲撃をしている最中に『摩耶』と『鳥海』の深海棲艦達は救助に駆けつけて来た自分達の姉である愛宕、高雄の二人を発見し、接触するのを避けて逃げ、そして追ってこないのを良いことに、たまたま傷ついた艦隊を見つけて襲ってみたら敗走中の港湾棲姫と北方棲姫だった、というわけなのだろう。

 

 これは推測でしかなく、捕虜として捕らえた二人を尋問して口を割らせて答え合わせをするしかない。

 

 その場合、最も効果的な人員はやはり二人の姉である愛宕と高雄が良いだろう。

 

 だが、口を割るまでまごついているわけにはいかない。遊撃隊の役割は陽動である。必ず本命がいるはずだ。

 

 奴らが今、パラオ泊地をまず襲うことはない。戦力的なリスクが大きいからだ。この一連の流れを観るに最も可能性が高いのは『空母水鬼』の所である。

 

 おそらく拠点を奪ってそこを前線基地としてからパラオ泊地への侵攻を開始するはずである。

 

「空母水鬼が危ない。即刻保護せねばならん」

 

 ゲシュペンスト提督は席から立ち上がった。

 

「扶桑、空母水鬼が現在どこにいるかわかるか?連絡はとれるか?」

 

「え、ええっと、空母水鬼さんなら、もう泊地に来られてます。提督が帰還する頃まで間宮食堂で食事をしている、と言われまして……」

 

「え?」

 

「はい、ですから第四種警戒態勢発動後、空母水鬼さんに連絡を取ったところ、詳細を会って聞きたいと仰れまして。ですが提督がスクランブル発進されて不在でしたので、間宮食堂に……」

 

 がくっ、とゲシュペンスト提督はコケそうになったが、しかし拍子抜けしている場合ではない。

 

「とりあえず、警護とお目付役をつけよう。あいてる奴は誰かいるか?」

 

「はい、那智と赤城、最上、グラーフ、プリンツがちょうどいます」

 

「那智と最上……念のため赤城を付けてくれ。くれぐれも彼女を拠点に帰さないように。俺の読みでは彼女の拠点は現在襲撃されてる。グラーフには空母水鬼の拠点を捜索させてくれ。速やかに頼む」

 

「了解です。では」

 

 扶桑は受話器を取ると、グラーフを呼び出し、そして指令を伝えた。

 

(グラーフがあいててよかった)

 

 グラーフは夜間でも航空機を飛ばせる。もう時間的に夜になりつつある。時刻的に加賀や赤城では不可能では無いものの航空機が目標地点に到着する頃には夜の闇が深くなっている。

 

 空母水鬼の拠点はゲシュペンスト提督の広域レーダーやセンサーの範囲の外にある。これが昔ならばゲシュペンスト提督本人が行って殲滅しに行くところだが、今は限られた機能しか使えない。この機体の本来の持ち主である『相棒』がいない今、無限に武器を出して戦うことが出来ないのである。

 

 格闘戦だけでも確かに強いが、遊撃隊だけでもあの数である。本命はどれだけの戦力がいるかもわからず、さらに『雷のレ級』が裏で動いている。

 

(ならば、おそらくあの『武蔵の深海棲艦』が現れる可能性もある)

 

 『武蔵の深海棲艦』はゲシュペンスト提督、いや、『玄一郎』に執着していた。いつかは再び現れるだろうと思っていた。

 

「扶桑さん。今回の件には『雷のレ級』が関わってるらしい」

 

 扶桑には話しておいた方が良いだろうとゲシュペンスト提督は思った。扶桑には酷な事かも知れないが、包み隠す事はしたくはない。

 

 扶桑は目を開いたが、すぐに目を伏せて軽く首を振った。

 

「たしかに、今回の件はあの時に似ています。あの子がいる予感は……あったのですが」

 

 扶桑は勘が強い。古い艦娘にありがちな事だが人には分かり得ないような事でも感じ取るような事がしばしばよくあった。

 

「港湾棲姫を襲撃して負かすほどの力を持っている。何故そんな力を得るに至ったかわからんが、かなり強力に成長している。また、裏にあの『武蔵の深海棲艦』が絡んでいるようだ。これは今日捕虜にした『摩耶』と『鳥海』が漏らした情報だが」

 

 ぴくり。

 

 扶桑の肩がワナワナ、と震えた。

 

「……あの子、まだあの様なハレンチな女とつるんでいるのですか?というか、アレはまだ玄一郎さんを諦めていないと?」

 

 ワナワナワナワナ。

 

「ま、まて、まだそうと決まったわけじゃないからっ!つか落ち着け!」

 

 扶桑姉妹はかつてその雷をまるで妹のように非常に可愛がっていた。深海棲艦になったとはいえ、どこかやはり気に案じていた節もあったのだ。

 

 逆に『武蔵の深海棲艦』はかなり気に入らないどころか蛇蝎の如く嫌悪しており、『次に会ったなら全弾撃ち込んで形も残さず殲滅』するとさえ笑いながら言うほどに嫌っていた。

 

 なにより、彼女の艦装の中には『対武蔵用特殊徹甲弾(タングステンのテフロンコーティング)』が常に仕込まれている。いつも持ち歩いており、本気で殺る気満々なのである。

 

「あの愛らしい雷をあんな姿にした挙げ句に、玄一郎さんをあんな無残な姿にしてもなお、まだ生きてるのですか……。ふふ、ふふふふふふふふ、あの時は通常弾しかなかったので殺しきれませんでしたが、毎夜毎夜、私の『力』を込めて丹精込めて仕上げた36発の特殊徹甲弾で次は肉片残らず……」

 

(アカン、これアカン扶桑さんや?!)

 

「あの、扶桑さん?おーい、扶桑さん?」

 

「よもや……止めませんわよね?玄一郎さん」

 

「その時が来たら是非やっていただきたいと思う次第ではありますが、とりあえず戻って来てくれ。お願い。俺、いつもの優しい扶桑さんが好き。うん、いつもの扶桑さんに戻って?お願いぷりーず」

 

 ゲシュペンスト提督だってアレを相手にするのはごめん被りたい。変わりに誰かやってくれるなら止めないが、しかし。

 

(おそらく、奴はあの時以上に強くなっているハズだ。如何に扶桑さんが遠距離攻撃の名手とは言え、接近されたならば……)

 

 やはり『相棒』の帰還を願ってしまう。ゲシュペンストが居たからこそあの時はなんとか戦えたのだ。今の『玄一郎』に、弱体化とも言える自分に対抗する事が出来るか?

 

 ゲシュペンスト提督はそれを考えつつ、帰って来ない扶桑を溜め息混じりに眺めていた。

 

「おーい、扶桑さん、マジ帰って来て??!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 【オマケ①】その頃の高雄さんと愛宕さん。

 

 

 

 愛宕と高雄は変わり果てた妹達を見て唖然とした。

 

 亀甲縛りされてピクピク、ピクピクと痙攣しつつ、お尻を真っ赤にさせて悶えるような妹達など出来れば見たくなかった。

 

 『摩耶』と『鳥海』の二人はとりあえず捕虜として捕らえられ、まぁ、大きな怪我などは無かったのだが、ゲシュペンスト提督にお尻をバシンバシンと歪みねぇ感じで叩かれたために、真っ赤に腫れ上がったそのお尻を大井と北上が手当てしていたわけなのだが、大井がワザと刺激成分が含まれている『メントールクリーム』を思い切り大量に塗りたくった為に悶絶していた。

 

「ひぎぃぃぃぃぃっ、らめぇ、俺、らめぇぇぇっ!」

 

「んほぉぉぉっ、お尻ぃ、私のお尻ぃ、お尻があついれふぅぅぅっ!!」

 

 もはや、拷問である。

 

 何か得体の知れない感じで、もうこの凄惨なところにいたくない、と二人の姉は思ったが、深海棲艦化したとはいえ、何隻もいるとはいえ妹は妹なのである。

 

「……愛宕、なんていうか、こう……見捨ててもいいんじゃないかしら。私達の妹達は、今警戒任務に着いてる良い子達なのだし」

 

「そうね。なんて言ったらいいのかしらぁ。ウチの子に深海棲艦はいないわぁ」

 

 さらりと見捨てる宣言をする愛宕さんと高雄さん。

 

『艦隊の二大おねぇさん』と呼ばれる優しいはずの二人は身内には厳しかった。

 

「ね、ねえ゛ざん、た、たしゅけてぇぇぇ……」

 

「んほぉぉぉっ、痛い、痛いのにぃ、あふん、あふっ、学校の机の角ぉぉっ、放課後ぉぉっ!」

 

 ぬりぬりぺしんぱしん、ぬりぬりぬり。

 

『『ずほぉぉぉーーーっ!!』』

 

 尋問を始めるのは、もう少し後になりそうだった。

 

 

 

……主に大井でせいで。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

【オマケ②】アイオワさん、ウォースパイトさん、ガングートさん。

 

「「「出番まだっ!?」」」

 

 鳴り物入りで出てきた資材大量消費な皆様の出番は……あるのか?!なお、現在この三人についているのは警戒態勢によって休みが無くなった山城さんだったとさ。

 

「不幸だわ……。二日酔い、つらっ!」

 

 




 高雄さんと愛宕さんは、きっと優しいはず。ただ身内には厳しいんじゃないかな。愛故に。

 摩耶はともかく、鳥海は……いったい何を言ってるのか。ワタシワカルマセン。まぁ、思春期にはいろいろあるよね。多分。

 


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会議室


 空母水鬼さん、マジ人間の味方。という設定。

 大井さん、怖い。

 ゲシュペンストの復活と主人公の……。


 会議室である。

 

 主だった者達の修復が済んだため、話を聞くために集まってもらったのである。

 

 海軍側の将校はそれぞれプロジェクターを後ろに座り、その将校の後ろにそれぞれの秘書艦が立つ。

 

 ゲシュペンスト提督の秘書艦は扶桑。土方中将の後ろに長……ナガモン。沖田少将の後ろに加賀。

 

 横に並んだ長机には同盟深海棲艦のボス三人とその副官達が座っている。

 

 まず、パラオ周辺海域の取り纏め役の『空母水鬼』とその副官の『ヲ級フラッグシップ』(ヲ級(パ)と表記する)が。

 

 その向かい側の席に『港湾棲姫』と副官(?)の『ル級フラッグシップ』(ル級(港)と表記する)。

 

 『港湾棲姫』の隣に『北方棲姫』とその保護者(?)の『軽巡棲姫』。

 

 深海勢を見るに、同盟深海棲艦軍の首脳が三人もそろうなど本来有り得ない事態である。

 

 そして、大本営からの連絡によれば。

 

 南方棲戦姫と泊地水鬼も現在、空母の航空機にてパラオに護送中、と打診された。受け入れるしかない。

 

 溜め息を吐きたいが、そうも言ってはいられない。なにしろ、南方棲戦姫を受け入れた佐世保基地は壊滅的な打撃を受け、泊地水鬼を救助したインド方面軍もかなりの打撃を受け、連絡も現在不通状態という有り様なのだ。

 

 ゲシュペンスト提督は溜め息を吐きたくなったが、みんなの手前、なんとか堪えた。

 

 五大同盟深海棲艦、通称『五大艦』の中で唯一戦力を保って無事なのはパラオ周辺海域の『空母水鬼』のみであるが、その彼女の軍勢もやはり襲撃を受け、拠点は占領されている。

 

 戦力を保っている、というのには理由がある。

 

 空母水鬼は『逃げの水鬼』と呼ばれるほどに逃げ足が早い。そしてその配下の軍勢もとにかく逃げ足が早い。

 

 つまりは早くから拠点を捨ててパラオ泊地に逃げて来たから、である。

 

 かつて土方がパラオ泊地の提督をしていた頃にパラオ周辺海域を攻略出来なかった理由がそれなのだから、如何に空母水鬼達の逃げ足が早かったのか、わかろうものである。

 

 海域を進んでも、敵がいない。空母水鬼の拠点に到達してももぬけの殻。

 

 とにかく逃げていない。稀に深海棲艦を見つけても、『ハグレ』であり、空母水鬼の軍勢ではない、といった有り様である。

 

 約3年間もそのような追いかけっことかくれんぼを繰り返し、ゲシュペンストがパラオにふらりと来るまでそんな状況だったのである。

 

 そこでゲシュペンストは土方の策略によって鹵獲……というか、無理矢理に巻き込まれたわけなのだが。

 

 さて、この空母水鬼は確かに逃げる。とにかく戦いを避ける傾向にあるが、では臆病なのか?と言われればそういうわけではない。また、弱いわけでも無く、むしろ本気になれば当時のパラオ泊地の戦力では攻略は難しかっただろうとさえ推測されているほどである。

 

 では、何故逃げ回って戦闘を避けていたのか?と言えば。

 

 パラオの人々が困るから、というのがその理由だったのである。

 

 まず、彼女はパラオで行われる『鎮魂の祭』を非常に気に入っていた。

 

 それはパラオで亡くなった兵士達を弔う為の祭であったのだが、深海棲艦が出没するようになってから、パラオの古老達の発案で海の魂も鎮魂しよう、と言うこととなり、それは結果的に空母水鬼達を『祀り挙げる』事となってしまったのである。

 

 そのため、彼女達はパラオを守護するような存在へと変化していき、同様にパラオを防衛する泊地の艦娘との戦闘を避けるようになった、というのが戦わない理由だったのである。

 

 では外敵である『マヨイ』の軍勢から逃げ出してきた理由は何か。

 

 答えは簡単である。

 

 ゲシュペンスト提督が『港湾棲姫』や『北方棲姫』が避難して来ると伝えたから、である。

 

 港湾棲姫も北方棲姫も、その実力はかなりのものである。それを避難せねばならないほどの軍勢が来るならば防戦してこちらの戦力を削られるよりはすぐに逃げてパラオ泊地と合流する方がより勝算は高くなる。なにより拠点はすぐ逃げられるように、重要な物など一つも置いていないのだから。

 

 パラオとそこに住む者達以外に大切なものはなく、それを守る為ならば拠点も捨てる。

 

 全ては祈りの為に。それが空母水鬼達の全てなのだった。

 

 

「パラオ泊地司令官、ゲシュペンスト大佐。これより、土方中将並びに私、沖田がパラオ泊地に暫定的に着任する。貴君が松平元帥閣下の要請があった場合に単独で出撃する際、貴君の不在時の基地司令代理を勤める事になる。よろしく頼む」

 

 沖田少将がまずゲシュペンスト提督に言った。

 

「そゆことん。とりあえず、ゲーちゃん、状況確認と報告よろしくぅ」

 

「……沖田少将、よろしくお願いします。あと土方中将、あんたはもっと真面目にしてくれ。同盟深海棲艦の方々に失礼だ」

 

 ゲシュペンスト提督は後ろの液晶プロジェクターに画像を映し出した。

 

「まず、今回の一連の事件を『五大艦同時襲撃テロ』と呼称。これはこちらの大本営が暫定的に名付けたものですが、その被害にあった御三方と配下の方々には心より御同情の意を申し上げます」

 

 頭を深々と下げ、ゲシュペンストは語り始めた。

 

「情報によりますと、他、九州南部海域の『南方棲戦姫』とインド洋の『泊地水鬼』のこのお二方も襲撃を受け、現在、航空機によりこちら、パラオ泊地に避難されると言うことです。このような事態でなければ『五大艦』の皆様をこのパラオに迎えるのは光栄であると言えるのですが、事態は深刻であります」

 

 ゲシュペンスト提督は指し棒を取り出し、液晶プロジェクターの画像を切り替えた。

 

「皆様に確認したいのは、まず、襲撃犯がこれらの深海棲艦であったか?ということなのです」

 

 いくつかの深海棲艦の顔の画像が映し出され、それぞれを指し示した。海軍に登録された危険深海棲艦達の画像である。

 

 港湾棲姫はやはり『雷のレ級』の画像にひどく反応した。

 

「コイツだ!コイツが私の胸を引き裂き、噛みツイタ奴ダ!!」

 

 やはり、間違いは無いか、とゲシュペンスト提督は確信した。

 

 だが、北方棲姫はどれも違う、と首を横に振る。

 

 土方中将の話によれば『戦艦タ級』であったとの事だったのだが、海軍のブラックリストに乗っているタ級とは違う、未確認のタ級なのかも知れない。

 

「ワタシ、見テナイカラワカラナイ」

 

 空母水鬼はのほほん。そりゃあすぐ泊地に来たから見てないでしょうなぁ、とゲシュペンスト提督もそう返した。

 

「では、この深海棲艦に見覚えはありますか?」

 

 そう言って、次に映し出したのは『武蔵の深海棲艦』である。これはゲシュペンスト提督が戦った当時の記憶である。

 

「……イヤ、ナイ。トイウカ、怨念の塊のヨウナ艦ダナ……。イヤ、情念力?」

 

「……知らナイ。ダレ?」

 

「……コレ、武蔵サン?デモ、深海化シテタッケ?」

 

 誰も知らなかった。つまりはこの三方の襲撃に武蔵の深海棲艦は出てきていない。

 

「うわ、コイツって小島基地壊滅の時の?」

 

「そうです、土方中将。あと、港湾棲姫を襲ったのは、『武蔵の深海棲艦』と一緒にいた『雷のレ級』です。また、パラオに向かう途中で土方中将や港湾棲姫様の乗った大発を襲撃した『摩耶と鳥海の深海棲艦』が言っていた『武蔵さん』がコイツに当たる、と私は推測しております」

 

「……つまり裏にこの特SSS指定危険深海棲艦一号が絡んで居ると?」

 

「そう思わざるを得ません、沖田少将。現在、高雄と愛宕に『摩耶と鳥海の深海棲艦』を尋問させておりますが、報告が上がっておりませんのでなんとも言えませんが」

 

 そう言って、取り調べ室にゲシュペンスト提督は繋げ、尋問の様子をカメラで見た。

 

 

《んほぉぉぉっ、熱いのぉぉぉっ!!》

 

《助けてぇぇ、愛宕ねぇぇっ!!嫌だ、俺おかしくっ、イヤだぁぁぁっ!!》

 

 アレ?ナニ?ナニコレ?

 

 取り調べ室では、捕虜の手当てに向かわせた大井がなんか軟膏をやたらめったら『摩耶と鳥海の深海棲艦』の臀部に擦り込んで、しかもやたらめったらパシーン、パシーン、とさらにその尻を叩き。

 

《さあ、お泣きなさい!許しを乞いなさい!這いつくばって、北上さんを侮辱した事を後悔しなさい!というか誰がクレイジーサイコレズよっ!!私達の関係は、そんな穢れたものじゃないわっ!!》

 

《んほぉぉぉっ、ずっほぉぉぉっ!!》

 

《やめ゛でぐれ゛ぇぇっ、ねぇぇぇざぁぁぁん》

 

 阿鼻叫喚の地獄がそこには繰り広げられていた。

 

 北上は無関係ですよー的な感じで大井を止めようとはせず、なにか漫画を読んでいた。

 

 そして、高雄と愛宕は途方にくれて遠い目をしながら。

 

《摩耶と鳥海は、今頃何をしているかしら?》

 

《きっともう寝てるわよぉ。明日のシフト、早番だからぁ》

 

 などと現実逃避していた。

 

 深海化し変わり果てた妹の、その凄惨な姿を見て心があっちに行ったのかもしれない。

 

(こんな時に何をやっとるのだアイツ等はっ!!)

 

 ゲシュペンスト提督は、扶桑に小声で他に聞こえないように、

 

「天龍と五十鈴に取り調べ室に向かうように伝えてくれ。洗浄用の水タンクとタオルを大量に持ってけ、と。埒が開かん。大井と北上を排除、高雄と愛宕は下がらせ、早急に情報を聞き出せ、とも伝えてくれ」

 

 と言った。とりあえず、先ほどのパンツ脱がされて軟膏塗りたくられて悶える二人の姿はなんかエロかったので映像保存はしておくが。

 

「……ゴホン。取り調べは軟膏、いや、難航している模様です。では……」

 

 ゲシュペンスト提督はそうやって様々な角度から分析した今回の事件の状況を報告しつつ確認しつつ進めて行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 会議室での状況確認と聴取、説明が終わってゲシュペンスト提督は執務室へと戻ってきた。

 

 その後、上がってきた天龍と五十鈴の報告によれば『摩耶と鳥海の深海棲艦』はブラックだった江ノ島の基地が沈めた『摩耶と鳥海』だった事が判明。

 

 やはり『武蔵の深海棲艦』と接触した事でなんらかの『力』を得た、との事である。

 

 また、同じように『力』を与えられた『雷のレ級』と他数名の同様の深海棲艦達と手を組んで今回の同時多発テロを画策したらしいが、どうも二人にはそのテロの真意や理由は聞かされておらず、今回の事件に『武蔵の深海棲艦』の関与はしてないらしい。

 

 『武蔵の深海棲艦』は小島基地壊滅事件後、ゲシュペンスト提督やゲシュペンスト提督を助けに来た艦娘達から受けたダメージによって、休眠しており、まだそれから目覚めていないというのがその理由である。

 

「とりあえず、空母水鬼の拠点を探る、か』

 

 ゲシュペンスト提督は一人、そうごちる。今は深夜の3時を回った所である。

 

 さて、と。

 

 ゲシュペンスト提督はまた、新たな情報はないかと大本営のデータベースを探ろうとした。

 

 そのとき。

 

 ジジジッ、ジジジッ、と頭の中に激しいノイズが走った。

 

「ぐあっ?!なんだっ、これはっ!!』

 

 そして、無いはずの身体に激しい痛みが走る。それはまるで、かつて武蔵の深海棲艦から受けた、あの魂に直接怨念を流し込まれたのと同様の痛みだった。

 

「う、うわあああああああああああああっ!!」

 

(なんだこれはっ?!これはどうした事だ?!)

 

〔耐えろ、玄一郎〕

 

(なっ、相棒っ?!どういう……っ、ぐあああああああっ!!)

 

〔君の感覚だと久しぶり、なのだろう。私にはつい先ほどぶりだが〕

 

(今まで、何をして、いや、何をしてやがるっ、この痛み、お前がやってるのかっ?!)

 

〔そうだ。耐えろ。私がお前に出来る、贖罪だ。受け取れ〕

 

 ひときわ大きい痛みが玄一郎の『身体』を貫いた。脳から背骨の先まで走るような、激しい痛みだった。

 

 たまらず絶叫し、魂消るような悲鳴を玄一郎は上げた。

 

「ぎゃあああああああああああああああああっ!!」

 

 叫び、玄一郎の意識はそこで途絶えた。

 

 





 摩耶と鳥海のそれは無くても良かっただろうか。

 ゲシュペンストの帰還。しかし……。


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目覚めれば

 主人公、顕現。

 扶桑さん暴走。

 ゲシュペンストやたら動く。


 暗い。何もかも暗い。

 

 眠い。いや、目はさえているのか。

 

 玄一郎は何か暖かいものに包まれているような、そんな感触に浸っていた。

 

 いや、何だろこれ?

 

 とか思いながら、何かいい匂いがするのを感じた。

 

 口の中に何かが流し込まれる。少し塩気のあるだが甘味も感じる、とろみがある何か。しかしそれは実に美味しく感じた。

 

 んくっ、とそれを飲み込む。

 

 感触の良い、柔らかな何かが離れて行き、なんとなく残念な感じがして寂しいような悲しいような。

 

 そしてそれが再び口に吸い付いて、そしてまた、美味いものを流し込む。

 

 あ、幸せ。とかまた思う。胃の中に物が入るのは何年ぶりか。

 

 しかしこの離れては付き、離れては付くこれはなんなのだろうと思い、急速に意識が覚醒していくのを感じた。

 

 はて?これはなんじゃろな?

 

 パチッ。

 

 目が開き。目の前に、アップで女性の顔。長く黒いロングの髪を手で書き上げつつ、接吻、というか何かを口移しに流し込んでいる女性。

 

 目の前に目があって目と目が合う瞬間どんじゃらほい。ついた口と口でうちゅーっ。

 

 近過ぎて、最初誰だかわからなかった。

 

 顔が少し離れて、ようやくわかった。

 

 口に流し込まれたものをごくり飲み込み。

 

「……扶桑、さん?」

 

「はい、扶桑です……」

 

 消え入りそうな声で、頬が真っ赤に染まってなにこれ?なにこれ?

 

 なんで扶桑さんがキスしてんの?というかなんでキス?あれ??

 

 口の中には飲み込んだお粥の味が残っている。見れば扶桑はお粥の入ったお椀とレンゲを持ってて、扶桑の口にもお粥の跡が。

 

 なんだこの状況は。一体何が起こった?!

 

 いや、それよりも。

 

 玄一郎は自分の口を触った。次に顔、目は触れない痛いから。耳を引っ張り、そして手を見る。

 

「な、なななな、なんじゃこりゃあ゛ぁぁぁっ!!」

 

 なんで俺に口があるんだ?!というか、お米の匂いまで感じてるということは鼻がある?!いや、それどころか。

 

 俺、生身の人間になってんのか?!

 

 そうパニック状態に陥り、手足をバタバタした、そのとき。

 

〔落ち着け、玄一郎〕

 

 頭の中に、懐かしい相棒の声が聞こえた。

 

 (てめぇっ、ゲシュペンスト、何をしやがった?!つかどうなってんだこれっ?!)

 

〔扶桑に君の世話を頼んだ〕

 

(いや、そうじゃねぇ!)

 

 見れば扶桑は顔を真っ赤にして、何か意を決したかのようにふんすっ!と鼻から息を吐き、そしてお椀のお粥をレンゲで口に含み、そして玄一郎の頭を抱えて、うちゅうううううううっ!!

 

「むぐーっ?!むぐーっ?!」

 

〔君の身体を再生した。再生は完璧だが、残念ながら人体にいる腸内細菌までは作れなかった。それに君の腸の中は現在空っぽの状態だ。故に、点滴と併用して腹に消化の良いものを取らせつつ、誰かの体内にある細菌等を分けてもらわねばならないのだ〕

 

(だからって、つか、お粥だけじゃなく、なんか舌まで入れてないか?!ふもーっ?!ふもふもーっ?!)

 

〔……口腔内に存在するいわゆる腸内共生菌を分けてもらうには、確かに口移しは有効であるが、しかし舌……まぁ、仲良き事は良い事だが〕

 

「うむむむむっ、むーっ、むーっ、ぷはっ?!ふ、ふふふ扶桑さん、やりすぎっ!!」

 

「ううーっ、介護の為ですっ!!」

 

「いや、俺もう目が覚めとるからっ!!」

 

〔後は乳酸菌や納豆菌などを補給すれば良い。オリゴ糖も忘れるな?〕

 

 しれっと冷静にゲシュペンストは言った。

 

(つか、お前どこに居るんだよ?)

 

〔執務室だ。とりあえず、過去のデータログから現在の状況は見た。そうだな、食事は終わったか?〕

 

(うひぃ?!扶桑さんがヨーグルトとバナナも……って、それまで口移しっ?!いや、むひゃあっ、むぐっ、むーっ!むーっ!むーっ!)←無理矢理口移しを敢行する扶桑から逃げられないの図

 

〔……10分後にそちらに行く〕

 

(舌がっ、舌がぁぁぁっ、いや、それベロちゅうやがなーーーっ、嫌じゃないけど、なんでぇぇぇっ!?)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

【10分後】

 

 ゲシュペンストタイプSが医務室の玄一郎のところに着いたとき、玄一郎の顔はやたらめったらとキスマークだらけになっていた。というか、口移しどころの騒ぎではない。

 

〔……元気そうで何よりだ〕

 

「もう、らめぇ……、扶桑さん、らめぇ……」

 

 ベッドの横の見舞い客用の丸椅子に座っている扶桑は顔を赤らめていたが、やたらと上機嫌であった。

 

〔ふむ、血糖値は正常になったな。心拍数……は、まぁ、問題ない。まずは君に説明しよう〕

 

「……というかこの数年間、何をしていたんだ?」

 

〔主に、君の身体の再生を様々な角度から検証していた。『ジュデッカ』ならばもっと早くに出来たかもしれないが、私ではやはり時間がかかった。いかにズフィルートクリスタルをもってしてもな〕

 

「何でも有りかよ、ズフィルートクリスタルってのは」

 

〔君の身体は君の魂の波長にあった姿になっている。顔などは、細部まではわからなかったが、ある程度君の記憶を元にイケメン気味に造った。なお、この再生に使った技術は艦娘の建造と異星人の上級強化戦闘員の製造を参考に、足りない部分はサイボーグ化で補っている。さすがに全てを生体的なものでは作れなかった〕

 

「……サイボーグ?」

 

〔そうだ。どうせならと設計段階でかなりのものをつぎ込んだ。通信機器無しでも自分と連絡がとれただろう?他にも戦闘時のGにも耐えうるだけの耐久力と近接格闘で軽装甲ぐらいなら貫ける打撃力、ズフィルートクリスタルとのリンク、そしてコールゲシュペンストを導入した〕

 

「それ、人間じゃねぇよな?」

 

〔スーパーヒーロー作戦もよろしく!というわけだ〕

 

「わけわかんねぇぇぇっ!!」

 

〔ただの人間だと深海棲艦とは戦えない。私に搭乗してもな。故に、艦娘と同様の製造方法で、かつ大幅にパワーアップさせつつ、なおかつ私と同一化出来る身体が必要だったのだ〕

 

「……それはわかるんだけどな。しかしよぉ、いきなりやんなよな。つか、お前形変わってねぇか?」

 

〔機体構造を変えた。ややサイズを大きくし、君を搭載して戦えるように自己調整を行ったのだ〕 

 

「……俺、パイロットをリストラされたわけじゃねぇんだな?」

 

〔当たり前だ。私は機体だ。パイロットが動かしてこそのロボットなのだ『相棒』〕

 

「てっきり俺が不要になったかと思ったぜ。つか死ぬかと思ったからな。あの痛みは」

 

〔魂の引き剥がしをしたからな。ある意味あの『武蔵』がやったのと同様だ。悪かったと思うが許せ〕

 

「わかった。身体が出来たのは確かに悪くはねぇからな。許す。またよろしくな『相棒』」

 

 玄一郎とゲシュペンストは互いに右手を差し出し、がっちりと握手をした。

 

〔なお、君の体調などが整うまで試算して2日ほどかかると出た。建造されたばかりの艦娘に使用される薬剤で腸内細菌を定着させるものや免疫をつけるものがある。それらを取ることを推奨する〕

 

「……ちょっとまて、つか、そんなもんあるなら、別にさっきのいらなかったんじゃ?」

 

〔ついさっき、そのような物があると検索結果に出たのだ。とはいえ、速やかに君に栄養を取らせねばならなかったのは確かで、特に誰も困るような事も無かったのは幸いだな。今、明石に頼んで持ってきてもらうように言った。扶桑がどうするかはわからないが〕

 

 そう言ってゲシュペンストは、そそくさとこの場を去ろうとした。しかしここでゲシュペンストが行ってしまえば玄一郎は扶桑と二人きりになってしまう。

 

 何かこう、玄一郎のゴーストが囁くのだ。『玄一郎や、女の子と夜に2人っきりになってはだめよ?お前の父ちゃんはね、お前の母ちゃんにね、クリスマスの夜に……。それがお前だよ?』。ゴーストは背後霊の田舎のバァチャンだった。

 

 なんか幻聴聞こえたっ?!

 

「『相棒』。まぁ、久しぶりに話をしようぜ?やっぱり男同士、こう、つもる話もあるわけだし!」

 

 2人っきりになってどうなるかはわからないが、なんかめっさ怖くなって玄一郎は必死になっていた。

 

〔いや、私は今日の業務を片付けておかねば。君も困るだろう〕

 

 ゲシュペンストは何か怖いものから逃げるような感じだった。

 

「いやいやいや、まぁそう言わずに、な?な?」

 

 必死な玄一郎を扶桑はやんわり、しかしなんかその少し赤みがかった瞳はやたらと爛々と光っているようで、安心出来ない感じで玄一郎を押さえた。

 

 がっちり。

 

「まぁまぁ、ほら、玄一郎さん、今日は安静ですよ?」

 

「相棒っ!!おいっ!!」

 

〔……では、また明日だ、『相棒』……強く、生きろよ?〕

 

「てめっ、逃げるなっ!!つか俺をおいてくな!!」

 

 必死でゲシュペンストの方に手を伸ばすが、しかし。

 

 のしっ。

 

 何故か扶桑はベッドの上に乗り、そしてのっしのっしと四つ這いで玄一郎の身体の上にのし掛かり。

 

「玄一郎さん、だから安静です」

 

 覆い被さって、いきなり、むっちゅうううううっ!!

 

「もがーっ!!もがーっ!!もがーっ!!」

 

「身体に必要なものを、私の中から上げますから。いっ、医療的な事ですから、しかたありません。ち、ちょっと恥ずかしいですけれど、負けません。いっ、医療的、ですからっ!」

 

 うっちゅううううううううっ!!

 

「もがーっ!!もがーっ!!もがーっ!!」

 

 危うし!玄一郎。誰か助けろ!←投げやり

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「なんか、昔の近藤見てるみたいだわ、ってか、アンタ中身あったんだ?」

 

「……笑えよ土方さん。笑うが良いさ」

 

「アッハッハッハ!!プークスクス!!」

 

「笑うなっ!!」

 

 あの後、ゲシュペンストからの依頼で点滴やその他の機材などを持って医務室にきた明石に玄一郎は助けられ、なんとかこう、貞操的なものを死守する事ができたわけなのだが。

 

 明石はこの後、約一週間ほど扶桑に根に持たれたという。どうも扶桑絡みで明石はやたらといろいろ厄介な事にあっている気がするが、それもまた別の話である。

 

 というわけで翌日である。

 

 ゲシュペンスト提督に異変有り、と土方と沖田が聞いて駆けつけたわけなのだが、そこには三十路男と、甲斐甲斐しくその世話をしつつ、上機嫌な扶桑がいたわけなのだが。

 

「ゲシュペンスト大佐……というにはドイツ人には見えず、どう見ても日本人。ハーフでもなし……」

 

「ゲシュペンストは機体名です。本名は黒田玄一郎。日本人ですよ」

 

「黒やん、で決定ね、あはははは!」

 

「るせぇわ。元々、ゲシュペンストが艦娘みたいな感じで権限した存在で、俺は奴にパイロットとして取り込まれた死人だったんですよ。『相棒』は自身をパイロットが操縦するロボットだと頑なに言ってましたからね」

 

「死人って、生きてるじゃない」

 

「俺は、核戦争で死んだ人間なんですよ。別の世界でね。死んで、何故かこの世界にたどり着いて。いつの間にか『相棒』の中に居たんです。『相棒』は俺を取り込んだ事に罪悪感を持ってしまってたみたいで。で、俺の身体を再生しちまったってわけです」

 

「……危険、なのではないですか?」

 

「なにが?死んで蘇ったから?放射能とか言わんで下さいよ?」

 

「いえ、例の『武蔵の深海棲艦』がゲシュ……黒田大佐が肉体を得たと知ったら、拉致しに来るのでは?」

 

 その危険は考えて無かった!!

 

「……アイツが来たら、ニゲマス。アイツコワイ」

 

 ガクガクブルブル。

 

「安心してください、玄一郎さん。来たら洩れなく私の特殊撤甲弾が火を噴きますので」

 

 扶桑は玄一郎の寝間着を畳みながらにこやかに、笑っていない目をして言った。というかなんとなく扶桑が『武蔵』と同程度にコワイような気が玄一郎はし始めていた。主に貞操の面で。

 

「……まぁ、それはともかく、アンタの事は松平元帥に伝えといたわよ。後、『礼号組』の足柄がなんかお礼を伝えておいてくれって言ってたわ。あんたなんかしたの?」

 

 玄一郎は彼女達を処罰せぬように大本営に嘆願書を出していたが、無事に聞き入れられたようである。

 

「『危険な状況下で被害を最小限に抑える事が出来たのは偏に礼号組の奮闘あっての事である、礼号組は、げに海軍の誉なり。報あれど罰するいわれなし』と送っただけです」

 

「……確実にアンタ、向こうの無能に怨まれるわね」

 

 どうも土方は礼号組の今の司令官が気にくわないようだ。なんとなく、大本営でなんかあったのかもしれない。

 

「俺が恨まれても一向に構わないですよ。とはいえ良かった」

 

「松平元帥は『早く身体を癒やし、復帰する事を望む。なお、見舞いとして幾ばくかの物品を『南方棲戦姫』と『泊地水鬼』の護衛の艦娘に持たせたので笑って受け取って頂きたい』とさ」

 

「まぁ、『相棒』の話では明日あたりには身体の調整は終わるらしいけど。いやはや、元帥閣下にはご心配をおかけしたようで心苦しいですね」

 

「……このまま何日も医務室に居ると、誰かの童貞を犠牲に、扶桑に新たな命が……」

 

「シャレにならないことを言わんで下さい。ってかそこっ!扶桑さんっ、なんか『私、頑張る』的にぎゅっとしてガッツポーズ取らないっ!!つか、俺まだ病人っ!!」

 

 なんというか、玄一郎が肉体を持ってから、扶桑の性格がかなり変わった気がするのは気のせいではあるまい。

 

(いざとなったらコールゲシュペンストでパイルフォーメーションして逃げよう)

 

 玄一郎はそう決意した。

 

 ガションガションガション。

 

 独特の足音を響かせ、そこへゲシュペンストがやってきた。玄一郎の身体を造ってから、ゲシュペンストはやたらと動き回るようになっている。

 

〔賑やかだな『相棒』。リンクして送っておいたが、確認したか?〕

 

「ああ、OKだ。とりあえず明日の空港警備は沖田少将の所のあきつ丸と、ウチの赤城、対空で摩耶がついてる。あとは俺お前だ。スプリットミサイルは造れてるか?」

 

〔何基でもすぐに造れる。あとは対空にリニアスナイパーライフルも用意した〕

 

「よし、ならいけるな。さすがに輸送機が高高度にある時は奴らも手を出せないが、着陸で高度を下げる時が一番危ないからな」

 

〔襲撃の際のセオリーだな。防衛を徹底しよう。あと、広域監視にステルスドローンを幾つか飛ばしている。網に引っかかれば、空港に来る前に潰せるように艦娘達を配備するつもりだ〕

 

「おう、ステルスドローンも造ったのか!なら『相棒』、ゲリラ狩りん時の手が使えるな!」

 

〔水際ではなく来る前の油断している場所で根絶やし。自分達の得意戦法だ〕

 

「じゃあ、出す部隊には、雲龍をA班に、蒼竜をB班に。グラーフをC班、D班には瑞鶴を入れてくれ」

 

〔ふむ、了解だ。ではプランを開始する〕

 

 ガションガションガションガション、とゲシュペンストはやはり独特の足音を立てて出て行った。

 

「……なんてーか、司令官が二人って感じねぇ」

 

「昔は俺と『相棒』で一人だったんですがね。アイツが戻って来てくれて良かったですよ」

 

 玄一郎は苦笑してそう言いつつ、頭を掻いた。

 

 




 俺のゴーストが囁くのさ。俺の背後で、まだ死んでないばっちゃがな。

 扶桑さんがやたらと積極的なのは、いままでのストレスとか、主人公がやはり艦娘吸引体質だから、ですかね。

 嫁さん100人出来るかな?


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【オマケ】提督と鉄板焼きRJ


 本編には多分出ない龍驤のお店を書いてみたくなった。というか、主人公が飯を食えるようになった事でふし。




 

 ゲシュペンスト提督の中の人こと、玄一郎は泊地を抜けだし街へと向かっていた。

 

 毎夜の如く自室に来ようとする扶桑から逃げ、山城の襲撃を避け、そしてやたらとバーニングラヴをしてくるようになった金剛ババ……もとい金剛を交わし。明石のチャリンコを借りて。

 

 向かうは龍驤の店『鉄板焼きRJ』である。

 

 足取り軽くチャリンコリンリンと向かい、わくわくしつつ店の暖簾をくぐった。

 

 入った途端に香ばしいソースの匂いと出汁のいい匂いがする。

 

(おおっ、これは嗅覚を刺激してたまらない!)

 

「いらっしゃーい、ってにいちゃん初めて見る顔やなぁ?パラオは初めてかぁ?」

 

 カウンターに座ると龍驤はにこやかな顔で玄一郎にそういうとお冷やを出してきた。

 

「いや、前からいるよ?」

 

 と言いつつ『ブタ玉小』と『スジ玉小』を頼む。

 

「へぇ?せやけどウチ、にいちゃん見たことないで?大抵の住人は知っとるんやけどなぁ?」

 

「どこにでもいるような顔だからな。昔からモブ顔とか言われるし」

 

「あはははは、モブ顔かいな!せやけどええ感じの顔やで?にいちゃん。せやな、モブさん呼ぼか?」

 

 龍驤はノリノリである。

 

 手際よくお好み焼きのタネを小さいボウルでかき混ぜ、鉄板に乗せて焼く。キャベツがたっぷり入ってるのがまた良さげだ。きっとこのタネのキャベツは甘い。絶対これはうまいと予感させる。

 

 じゅうぅぅぅっ。

 

 タネが焼ける匂いが、広がる。これもまた玄一郎には新鮮だった。

 

(食いたくて食いたくて仕方無かったもんなぁ)

 

 そう、艦娘達が龍驤の店のアレがうまいとか、新メニューのドレは格別だとか、そういう話を言う度に、ロボットだった玄一郎はものすごく羨ましくて仕方なかったのだ。

 

 幸い、この店の常連の艦娘達はまだ来ていないようだ。

 

(まぁ、俺が人間になったって知ってる奴はまだ少ないからな)

 

 にんまり、と笑いながら焼けるのを待つ。

 

 龍驤は一つにブタバラ、もう一つにスジの煮込みを乗せつつ、天かすにカツブシをかけて、またタネをかけて、そしてコテで器用にくるり、くるり、と裏返した。

 

(おおーっ、さすが年期の入った玄人の腕前!)

 

 じゅうぅぅぅっ。また、焼ける音も旨そうなのだ。

 

「あ、にいちゃん、マヨかけるか?」

 

「はい、お願いします」

 

 ちょうどの頃合いを見て、龍驤はソース、アオノリ、カツブシ粉、そしてマヨネーズをかけた。

 

「ほい、出来上がりっと!」

 

 小さくコテで切り分けて、龍驤はそう言った。

 

 ごくり、と玄一郎は箸を持ち。

 

「ではいただきます!」

 

 と、言うとまず、ブタ玉から行った。ふーふー、と吹いてから、はくっ、とかじる。

 

「はふっ。あつ、あつあつ……」

 

 まず、ソースの酸味とマヨの酸味が口に広がる。しかし、その中でじゅわっ、とブタの肉の油とタネの出汁、そしてキャベツの甘味が舌に届く。

 

「ウマッ!!これ、めちゃウマッ!!」

 

 一切れ食べて、感動でじぃぃぃん、とする。

 

「にいちゃん大袈裟やなぁ~」

 

「いや、うまい!これが今まで食えなかったんだよなぁ。かーっ、やっぱ生きてるって良いよなぁ!」

 

 もぐもぐガツガツ、とブタ玉を平らげ、次はスジ玉である。このスジ玉をやたらと推してたのは足柄であり、彼女はあちこちの鎮守府や基地などを渡り歩き、その土地土地の美味い物を食べ歩いてきた女傑である。

 

 そんな彼女がうまいと言うのである。こらは絶対にうまいに違いない。

 

「ごくり」

 

 箸で一切れつまみ、そしてあつあつを吹いて口に含む。

 

 じゅわぁっ、とスジ煮込みの堅くもなく柔らかくもない、ちょうど程よい歯ごたえの中に、うまみが滲む。生地の出汁とスジのうまみが合わさり、キャベツの甘味が加わって……。

 

「くぅぅっ、これはっ、たまらんうまい!!」

 

「せやから、大袈裟やって」

 

「大袈裟なもんか。こんな美味いものをあいつ等は食ってんのかよ、くうぅっ、ズルい!いや、俺もこれから食うけどなっ!!」

 

「まぁ、気に入ってまた来てくれるんやったら嬉しいけどな?」

 

「来る!仕事抜け出しても来る!ウマッ!!アツッ!!ウマッ!!全メニュー制覇する!!」

 

 がっつくように食べ、腹はいっぱいになった。

 

「ところで……。明石にお土産、持ってかんでもええんか?ゲシュ提督?」

 

「ああ、そういや明石焼き頼まれ……。え?」

 

「あれ、明石のチャリンコやろ?つか、ウチの目は節穴ちゃうで?それに魂見られる艦娘やったらすぐバレるで?」

 

「……あー、そりゃそうか。扶桑さんとか身体変わってんのに全く疑いもせんかったからなぁ」

 

「まぁ、何があったかわからへんけど、物食べれるようになって来てくれたんは嬉しかったわ。せやけどな、ウチらに隠し事はアカンで?あと、扶桑はんから電話あってな?」

 

「ギクッ?!」

 

「早く帰らへんと、なんか怖いことになっとるで?扶桑はん」

 

「……どういう方向の怖いこと?」

 

「さぁ?提督のベッドが、なんや……(ボショボショ)なっとる感じやろかな」

 

「……このまま帰らないという選択肢はないんでしょうか?龍驤さん!?」

 

「帰らへんでもええけど、もうちょいしたら那智とか足柄とか、隼鷹とか来てめちゃくちゃ絡まれるで?帰った方がええんちゃうかな~て、思うで?」

 

 ガックシ、と玄一郎は頭を垂れて、代金払って明石焼きを片手に店を出て行った。

 

「おおきにー、またおいでや~?」

 

 龍驤の声に見送られつつ、帰りのチャリンコの足取りはとても重かった。

 

 





 スジ玉ってある店少ない気がするんですがどうなんでしょうね。スジ煮込みを具にした奴なんですが。

 しかし扶桑さんが怖いことになってるってどんな感じに怖いのでしょうね?私にもわかりません。


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夜に這いよるから夜這いという。

「俺は童貞だあぁぁぁっ!!」

 を言ってみたいセリフの一つにしてくれた偉大なる童帝に敬礼。

 間宮さんはよく出るけれど伊良湖さんはお話にそんなに出てきませんよね。二人とも私は好きです。

 ブルーノさん再び登場。


 朝、現在が目覚めるとベッドの隣、左には扶桑、右には山城がいた。

 

 自室の鍵は締めてあったはずだし、部屋のドアの向こう、執務室にはゲシュペンストがおり、入ってこれないはずだったのである。

 

……なのに何故いる。

 

 両方からまるで抱き枕に抱きついているかのようにがっちりホールドされてしかも足まで絡んでいて身動きとれない。

 

 すーっ、すーっ、と両側から寝息が聞こえる。

 

 仕方あるまい、と玄一郎はゲシュペンストに助けを求めた。

 

(相棒、助けろ)

 

〔まだ寝ていろ。起床予定時刻まであと二時間ほどある〕

 

(いや、起きたいんだ。つか鍵を閉めたはずなのに何故に扶桑姉妹が居るんだ?)

 

〔……彼女達は提督の自室で寝る権利を主張し、権利が守られないならば提督の自室のドアの破壊も辞さない、と。施設の修繕に余計な予算は出したくない〕

 

(……いや、お前止めろよ、つかどんな権利だよ)

 

〔ドアを開けるだけで平和に治まるのだ。武力行使だけが道ではない〕

 

(いや、武力行使されて脅しに屈しただけだよな?!それっ?!つか、スーパーロボットが脅しに屈するなよ?!)

 

〔脅しに屈したわけではない。君の部下の希望をちょっと叶えただけだ〕

 

 部下の希望=41センチ砲全門突きつけ×2。

 

(叶えるなっ!つか屈してるだろがっ!!)

 

〔私とて、かつては……いや、とにかく今日のミッションに備えて寝ろ。お前は病み上がりのような状態にあるのだ。休養が取れるときはそれに努めろ〕

 

(休養出来ない状況に荷担した奴が何を言うか!!)

 

〔寝るがいい〕

 

(寝れるかっ!!)

 

〔しかし、寝ろ?〕

 

(だから寝れるわけねーだろっ!!)

 

〔……童貞というものは無い。あるのはただの体験と経験だけなのだ〕

 

(うるせーーわっ!つか、なんかやたら最近変なこと喋るようになりやがったな、おまえ?!)

 

〔私も業務がある。では切るぞ〕

 

 ぷつっ。

 

(おい!てめっ?!ゴラァッ!!)

 

 通信を切られた。なんだろう、ゲシュペンストは扶桑姉妹に対して便宜を計るというのか、こう、けしかけているような感じがする。それに、〔私とて、かつては〕などと何かを言いかけてたが、ロボットの過去に何があったというのだ。

 

「くそっ、逃げやがった」

 

 孤立無縁の状況下で、左右からの挟撃である。さらに身動き取れず逃げ場も無い。

 

(いや、諦めるな。諦めた時に人は本当に終わってしまうのだ)

 

 もぞっ。

 

 左腕をなんとか引き抜こうと動かしてみる。

 

 がっちり。

 

 扶桑のホールドは完璧だった。腕にしっかり抱きついている。

 

(これは抜け出せそうにない)

 

 仕方なく右腕を引き抜こう、そう思って右の山城の方を向いて、思い切り目があった。目と目があう、パートツー。

 

 じーっ、とその勝ち気そうな瞳で玄一郎を眺めている。

 

「……起きてんのか?」

 

「起きてんのよ?」

 

「当ててんのよ的に言うんじゃねぇ」

 

「当ててんのよ?も、やってんのよ?」

 

 言われてみれば密着して確かに当たっていた。テンパってて気づいていなかったが。

 

 言われて感じる、この柔らかさ。山城は背が高くスレンダーそうに見られるのだが、しかし、出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでおり、さらに女性らしい柔らかさもしっかりとある。

 

 至近距離、山城の匂いもしっかりといい匂いである。

 

「じーっ」

 

 いや、何故に言葉で私見てんだからね?的にアピールするかな。

 

「よいしょ」

 

 玄一郎は誤魔化す必要も無いのだが、その視線をなんだか直視するのがなにかこう、居心地が悪いようで、誤魔化しつつ、頭を天井の方に向け、そして右からも何か視線を感じて、いや、気づいてません、俺、気づいてませんからねっ?と思いつつ。

 

「ん~、もうたびらんないよ……むにゃむにゃ、すやすや」

 

 と、目を瞑って寝てますよアピールをした。

 

 だが、そんなもので誤魔化せるはずもない。両サイドから、手が伸びてきて、玄一郎の頬を、つねっ×2。そして、むにん、とつまんで引っ張った。

 

「寝たふり(しないでください)するな」

 

「いひゃいいひゃい(痛い痛い)、ひやめれ(止めれ)!」

 

 後に玄一郎はこう語る。『艦娘に、両側から頬を摘ままれて引っ張られるとかなり痛い。なんというか、何でもするから許してくれ!と言いたくなる』と。

 

 いま玄一郎が感じている痛みを表現するならば、これは夢じゃないよね?ちょっと私の頬をつねって見て?というのを英訳したら、『ペンチ・ミー、プリーズ』になるわけで、だからといって工具のペンチでやらないようにな?というほどに痛かった。

 

 艦娘の力でやられるとそれぐらい痛いのだ。

 

 夢も見てない現実の痛みをベッドで味わうこの苦痛からようやく解放されれば、こう、人の重みってやっぱり結構あるんだね?とか思うような重みが左右からのしかかる。

 

 上体を持ち上げた二人に上から覗かれていた。

 

 扶桑姉妹の瞳は、黒いというより赤い。その赤い瞳四つにじぃぃぃっ、と見つめられるのは少し怖い気がする。

 

「あー、目が覚めちゃった?ごめんねぇ、ははは、おっと、まだ夜中の4時頃じゃないか。だめだよ、ちゃんと寝ておかないと。明日はまた『VIP』が二人も来るんだ。忙しくなるぞぉ?」

 

「「……じーっ」」

 

「あのね、二人とも、そのいかにも見てますってのを声に出してアピールせんでも、ね?」

 

「「見て(るんですよ)んのよ?」」

 

「うん、まぁ、言われなくてもわかるけどさ?」

 

「「ベッドにいる(んですよ)のよ?」」

 

「……うん、わかる。そう、いつもの事だよなぁ、うんうん」

 

「「同衾」」

 

「こっちは動悸息切れしてんのよ?いろんな意味で。つかシンクロすな」

 

 玄一郎はさて、どうやって逃げるべきか、と頭を回転させた。ゲシュペンストの機体だった時はやたらと頭だけは回ったのだが、どうも自分の脳みそだけだとその回転は遅いようだ。しかもゲシュペンストが通信だけでなく回線まで切ったおかげで、リンクする事も今は出来ない。

 

「ちょっとマテ。は、話せばわかるっ!!」

 

 しかし古来よりそのセリフを相手に言って生き残れた試しは無いのである。

 

「待て、は聞き飽きたわ、私達」

 

「そうね、山城。もう人の身体なんですもの。待った無し、です」

 

「俺は童貞だあぁぁぁっ!!」

 

 玄一郎は叫んだ。

 

「私だって処女よっ!!」

 

「あのっ、その、私も、処女……です……」

 

 いや、なのに逆レイプかまそうってなんですか?!というか慎みをもっともって頂きたい。

 

「ええい言うな、はしたない!つか大和撫子のセリフちゃう!!」

 

「だって……」

 

「仕方ないじゃない……」

 

「いや、なんかある意味安心はしたわけだがそれはそれっ!!」

 

 玄一郎はすぅぅっ、と深く息を吸った。そして気合いと共に言葉を吐いた。

 

「黙れっ!!そして聞けっ!!」

 

 このままでは埒があきそうになかった。こういう時は、やはりこのセリフだろう、と裂帛の気合いを込めて某示現流な親分のセリフを叫ぶ。

 

 ビクッ!と二人は迫る動きを止めた。

 

 その動きを止めた隙に、玄一郎は素早くのしかかる二人の下から脱し、そしてさらにベッドの下まで転げるようにして脱出。

 

「脱出っ!!あーばよぉぉ、扶桑さーん、山城ちゅわーん」

 

 先ほどまでの有無を言わせぬ気迫もどこへやら。これまた某怪盗の三代目のような軽薄さでひよいひょいひよい、と扶桑姉妹の伸ばした手をかわし、そのままドアを開けて、脱兎の如くゲシュペンストのいる執務室へ。

 

〔……作戦時間までには戻れよ?〕

 

 走る玄一郎に、ゲシュペンストが財布を放り投げてきた。

 

(てめっ、後で覚えてろよ?つか膝詰め説教だかんな?!)

 

 ぱしっ!とそれを受け取り、玄一郎はとにかく雲耀の速さもかくたるものかとばかりに廊下を駆け抜けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 逃げに逃げて、現在早朝五時。所謂、0500時というやつである。

 

 玄一郎は、今まで全く用事のなかった間宮食堂の前まで来ていた。間宮食堂の隣の伊良湖のやっているパン屋がもう開いており、焼きたてのパンの香りがこちらまで漂って来ていた。

 

 ぐうぅぅぅっ、とやたら腹の虫が鳴いた。

 

 ふむ、と逃げるときにゲシュペンストが投げてきた掴財布の中身を玄一郎は確かめると、迷わず伊良湖ベーカリーへ入って行った。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 伊良湖の元気の良い声が店に響いた。もう店の中は朝出勤する前の艦娘や憲兵達、迫地の現地スタッフなどでいっぱいで、イートインのテーブルはどこもワイワイガヤガヤと賑わっていた。

 

 しかし、制服や作業着の中、TシャツにGパンという玄一郎の姿はどうも浮いているようで、やたらとジロジロと見られている。

 

 しかし、まぁ仕方ねぇわな、と玄一郎は開き直ってトレイとトングを持って買うパンを選んだ。

 

(カスクードにベーグルサンド、お、これはクリームパンか。うさぎの形してんのな。目にレーズンが使ってあるのか。うーちゃんがモデルなのか?これ。おお、あんパンのヘソには塩漬けの桜の花が押し付けられてんだな。由緒正しき花見あんパンだな)

 

 ひょい、ひょいとパンをトレイに乗せてレジで会計を済ませ、イートインのカウンター席に座る。

 

(ふむ、ベッドで寝た時もそうだったが、やはり人間サイズに座れるってのは良いもんだな)

 

 カスクードを包んでいる紙の包装を外し、おもむろにかぶりつく。

 

 パリッとした焼きたてのフランスパンに、ハムとスライスしたオニオン、スライスチーズが挟んであり、シンプルなのにそれが美味い。

 

「おー、コイツはなかなか」

 

 バリッ、ともう一口かじって、紙コップのコーヒーで流し込む。口に広がるハーモニーが素晴らしかった。

 

「そりゃあ、みんな買いに来るわなぁ。うん、うまい」

 

 気分は孤高のグルメである。

 

(パラオ迫地・伊良湖ベーカリー、とかテロップが出たりしてな)

 

「おう、隣良いかい?にいちゃん」

 

 と、玄一郎の横にトレイを持った初老の男が来た。

 

「ええ、良いですよ」

 

 その男を見れば憲兵隊の隊長、ブルーノである。ブルーノの目には隈が浮かんでおり、あくびを一つすると、玄一郎の隣に座った。

 

「お疲れ様ですね、ブルーノ隊長。というか、今回の事態では非常にご迷惑をかけたようで」

 

「ああ、本当にやたらめったらトラブルが起こりやがるもんだなぁ。徹夜で調書まとめて今の時間だぜ。しかも夜勤明けでも今日も仕事とくらぁ、って、あんた誰だ?というかなんかあった事があるような気がしてたが、どうにも思い出せねぇ。そんな事ぁ、今まで無かったのによ」

 

 玄一郎は、あっ、しまった、と思った。が、ここで誤魔化せるような相手では無いのはこのブルーノの経歴データから知っていた。というか元敏腕刑事の彼を騙しおおせるとは思えなかったのである。

 

「……ゲシュペンスト、ですよ。ブルーノ隊長。私がゲシュペンストの中身です」

 

 小声でひそひそと玄一郎はそう名乗った。

 

「……あれって、中に人が入ってたのかよ。通りでどっかで会ったように思ったわけだ。で、中から出て朝飯か?」

 

「ええ、そう言う感じです」

 

 誰にも聞かれないように二人はひそひそと話す。が、しかし。

 

 どの海軍基地、鎮守府、そして迫地には大抵いる。由緒正しき伝統的な艦娘パパラッチ青葉がこの伊良湖ベーカリーにいた事に彼らは気づかなかったのである。

 

 パンを頬張りながら、青葉はギラリと目を光らせる。こんな事もあろうかと、胸ポケットのメモに差してあるスパイ用のボールペン型のカメラで特ダネを取りまくる。

 

 もうすでに青葉の頭には記事の見出しの構図と煽り文句ができていた。

 

 すなわち、『ゲシュペンスト提督の中の人の貴重な映像を入手!!これが我らの提督だ!!』である。

 

 これがゲシュペンストの機体の身体だった玄一郎ならば直ぐに察知出来ていただろうが、人の身体になった今、全くそれに気付くことが出来なかった。

 

 これが後々、大きな騒ぎを巻き起こす一端となることを玄一郎はまだ知るよしも無かったのである。

 

 

 




 なお、夜這い発案者は酔っ払ったパラオの足柄さんじゅうなな才。おいおい。

 青葉ワレェっ!!はお約束。


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輸送機護衛作戦・前編

 提督二人羽織り。

 赤城さん慢心無し。

 お艦の帰還。

 やまちゃん(南方棲戦姫)

 


 提督が迫地で淹れるコーヒーは苦い(深炒りローストの濃いめ)。

 

 提督の執務室で、コポコポと音を立てながらドリップしているのはお気に入りの工具メーカー謹製の充電池式コーヒーメイカーである。

 

 なんというかもんのすごい目で扶桑姉妹に睨まれている玄一郎は、もうすでにゲシュペンストの中にいた。

 

「へい、コーヒー二丁、おまちっ!」

 

 明るく言いながらドリップしたてのコーヒーを出してやる。二人に出した朝食は伊良湖ベーカリーで買ったパンだ。

 

「「じぃぃーーーっ」」

 

 二人は口でそう言いながらゲシュペンストを睨んでいるが、大丈夫、睨んでいる対象はゲシュペンストではなく中の人である。

 

 女の股(又)に心と書いて『怒』りとは良く言ったものであるが、扶桑と山城はその通りな理由で非常に怒っていた。

 

 とは言え激怒までは行って居ないのでまだなんとかできる。多分。

 

 玄一郎は伊良湖ベーカリーで「そういや二人の朝飯、用意してなかったな」と、はたと思いだし、律儀にも二人のパンを買って帰って行ったわけだが、待ちかまえていた二人に再びベッドに連れ込まれそうになって迷わずパイルフォーメーション的にコールゲシュペンストをやったのであった。

 

〔私を貞操帯代わりにするな〕

 

(うるせい、つか装着者の貞操を売るような貞操帯なんざあるか!)

 

 とはいえ、久々のゲシュペンストである。やはりしっくり来るあたり、長年使い続けた身体な事はある。

 

 とはいえ、前は身体無し、今は身体有りなので多少の違和感はあった。動きに僅かなタイムラグ……と言っても極々僅かなのだが……がある。これは慣れていくしか無いだろう。

 

 玄一郎はゲシュペンストのハッチを開けて、パンの袋を開けた。

 

 伊良湖ベーカリーで食べた量では実は足りなかったのである。

 

 扶桑達から見れば今の玄一郎は、ゲシュペンストの腹の辺りから顔を出しており、あたかも二人羽織りをしているかのような感じである。もっとも二人羽織りのように変なところにパンを押し付けたり、コーヒーを鼻に流し込んだりとかはない。キチンと口に、危うげもなく持っていく。それどころか器用にひょいひょいとこなすため、余計にそれは異様な光景であった。

 

「うげ、なんか変な光景」

 

 山城が微妙な表情を浮かべてそう言った。

 

「はぁ、でも玄一郎さんのお顔が出せるようになってるのですね。……お顔が見れてちょっと安心」

 

「あの、ねぇさま、私達怒ってたはずなんですけど、忘れてます?」

 

「つか、前は顔さえ無かったんだけどな」

 

 玄一郎は自分の顔を鏡で見たときの事を思い出した。

 

 なんというか、これが俺かっ?!という感じだったのである。いや、確かに自分の記憶にある、自分の顔を再現したとゲシュペンストは言っていたし、その面影はあった。だが、どうやらゲシュペンストは加齢までも考慮して再現したらしい。

 

 最後の時の記憶の年齢からこの世界で過ごした年月を加えてシミュレートして作られた顔はどうも少し渋い感じであり、鏡でいろいろ表情を作ってみて、顔をしかめてみれば記憶にある自分の父親の顰めっ面に似ていた。

 

 知らない間に歳を取ったような、複雑な心境ではある。

 

 ま、顔はそのうち慣れるだろ。

 

 玄一郎はそう思いつつ、今日の出撃のプランを確認した。トラブルで医務室のお世話になった2日間の間に、ゲシュペンストがしっかりと軍務をこなしていたので特に問題らしい問題はなく、作戦プランも相互リンクのおかげで齟齬もなく円滑に進んでいた。

 

 艦隊もすでに今朝未明にはそれぞれの海域に到達しており、敵の襲撃部隊をあぶり出しに掛かっている。

 

 もっとも、今回のトラブルを作ったのはゲシュペンストなのだが肉体を得た喜びは何物にも代え難く、玄一郎は不問にした。まぁ、扶桑姉妹の自室侵入に関してまでは不問にするつもりはないが。

 

「ま、ちゃっちゃと飯食って仕事に掛かろう。今日はまた『VIP』が来る予定だ。ゲシュペンスト、輸送機の状態は?」

 

〔現在、着実にこちらに向かって高高度を保ち航行中だ。本日の昼過ぎには着く予定だ。あの高度に到達出来る深海側の戦闘機も兵器も無い〕

 

「オーケーだ。ステルスドローンの方は?なにかとらえたか?」

 

〔AからDの全範囲に敵影は無い。ソナーにも潜水艦等の反応も無い。だが、襲撃は必ずあるはずだ。警戒を密にしよう。篩(ふるい)の網の目を細かく、だ〕

 

「ああ。で、AからD班は?」

 

〔航空部隊をいつでも発進出来る体制になっている。掛からなかった地点の艦娘も、この陣形ならば包囲へと向かえる。中東でさんざん政府軍にやった手だ〕

 

「懐かしいな。あれからもう六年か。早いな」

 

 かつてゲシュペンストと玄一郎は世界のあちこちを旅した。自分達の世界へ帰るために次元転移の方法を探し、世界各地の研究所や学者、研究家を訪ねてほうぼうを回って、そして中東では研究者達を守るために、独裁政権の軍を相手に、反政府ゲリラを束ねて戦ったのである。

 

 結局、研究者達を解放して独裁政権を打ち倒す事は出来たが、肝腎の元の世界に帰る為の方法は入手出来なかった、という結末に終わった。

 

そこから次の科学者に会うための旅路で榛名を拾って、行き先が日本になったりもしたが、それはまた別の話である。

 

〔では空港へ向かおう〕

 

「ああ。じゃあ、扶桑さん行ってくる。山城、今日も新入り戦艦達の指導を頼む。レポート宜しく」

 

 玄一郎はゲシュペンストのハッチを閉めると、部屋を出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 空港である。

 

 空港に空母が立って艦載機を飛ばしている、というのはやや不思議な気がする。

 

 赤城がコンクリートの上に弓道衣のようないつもの格好できりりと表情を引き締め、集中し、その手に持つ弓で艦載機を矢の形でを発進させている。

 

 一つの矢がいくつもの艦載機となり、そして飛ぶその姿は美しい。 その打つ艦載機は、ぶれもせずに真っ直ぐに飛んでいく。空へ空へ、高く、そして速く。

 

 赤城のその艦載機を打つ姿は、鳳翔のそれと重なる。この赤城はパラオ泊地にいた鳳翔が教えた最後の赤城であり、そしてその技の美しさはどこか華があった。

 

 とは言え、見とれている場合ではない。

 

 玄一郎はゲシュペンストの中で、ドローンから送られてくる海域全ての情報をとらえつつ、各海域に展開中の部隊からの報告を全て統合し、指揮を執っていた?

 

 人間の身体と頭脳を持った今でも、前と同様に情報処理が出来ているのは彼の頭脳に組み込まれているサブブレインとゲシュペンストがリンクしている為である。これにより、以前までゲシュペンストと玄一郎の二人ぶんの情報処理をゲシュペンストの頭脳でやっていたのが、それぞれの脳で行え、さらにリンクする事によって高速化でき、さらに役割分担をする事で分析も多角的にできるようになったという点である。

 

「赤城、間もなく輸送機が高度を落とす。空に問題はないか?」

 

「敵機は見えません。今日は雲一つ無く、視認性高し。未だ敵機確認出来ず、です」

 

 赤城の艦載機は敵を未だ捉えられてはいない。無論ゲシュペンストの探索用のステルスドローンもだ。

 

「……解せない。レーダー、センサー、それにドローンも敵影を感知していない」

 

 レーダーの画像をタブレット端末を見ながらチェックしていたあきつ丸がその後ろから言う。

 

「敵は、来ないのでありましょうか?」

 

 確かに、この状況ではその可能性もありうる。だが、赤城はそれを否定した。

 

「慢心はいけません。確実に、空に重圧のようなものを感じます。すでに敵意を感じます。提督、限界高度まで上昇して索敵行います」

 

 赤城は静かに目を閉じてそう言った。彼女の目は艦載機の目となり、その意思は機体と一体となって敵意を探っているのだ。

 

「赤城、頼む。こちらでも範囲を広げる。予想外の何か……。嫌な予感がする。航空機に対して深海棲艦が攻撃するにしても、届く範囲には何も確認出来ないが……」

 

〔玄一郎、嫌な予感がする。ガンファミリアを射出して輸送機の護衛として貼り付かせる〕

 

(了解だ。やってくれ)

 

 ゲシュペンストは背部からリヴォルヴァー銃に特殊なフィンを生やした無人攻撃機を幾つか出した。それは素早くその場を飛び去り、輸送機へと向かった。

 

「赤城、こちらからも無人攻撃機を輸送機に張り付かせる。索敵の網の目が広がっちまうが、とにかく範囲を広げ探索しよう」 

 

〔玄一郎。場合によってはここを離れて出張らねばならんかも知れん〕

 

「ああ。念の為、加速ブースターを出してくれ。俺も何か、こう、予測が足りない気がしている。見落としのような……」

 

 考えれば考えるほど、敵が自分達の予測を上回る手段で輸送機を狙っているように思えた。だが、それは何であるのかわからない。わからないからこそそれが恐ろしかった。

 

「提督、南南西、海域を遥かに越えた地点に通常艦船と思われる船影を発見。あれは……かなり遠くて細部がわかりませんが、なんというか嫌な予感がします。通常、この位置は船舶が運行する航路ではありません。確認お願いします!」

 

 赤城がそういい、座標を示す。

 

 ゲシュペンストがドローンでその船舶を捉え、その画像を拡大、玄一郎が現在この海域を航海中の船舶全てを照会する。

 

 ゲシュペンストが画像を映し、玄一郎の照会がほぼ同時に終わった。

 

〔イージス艦だ!深海棲艦に占拠?いや、鹵獲されたのか?!甲板に人型深海棲艦多数確認!〕

 

「全空母に通達!南南西の小群島に敵の通常艦船確認、これを迎撃せよ!敵はイージス艦だ!ミサイルを積んでいやがる!!」

 

 やられた!と玄一郎はギリッと歯噛みした。相手が深海棲艦だと高を括って侮っていた。

 

 艦娘や深海棲艦に対して人間が作った通常兵器は効かない。故にどちらも人間の兵器を使うことは無いし、持つことすらも無い。自分達の艦装こそが互いに互いを傷つけ、そして倒せるのだから。

 

 だが、今回、向こうから見れば輸送機は『人間が作った飛行機』なのだ。つまり、それに最も有効かつ天敵とも言える人間の兵器が人間の兵器、ミサイルなのである。

 

 輸送機が高度を下げるだろう位置、すなわち艦娘が待ち構える海域にわざわざ行って手勢を減らす事もなく、高度など関係なく、遠距離から一度補足して撃てば自動的に、そしてほぼ確実に撃墜出来る兵器、ミサイル。

 

 今まで数で押すような戦い方しかしていなかった深海棲艦が、まさかこのような戦法をとるなど、誰も考えはしなかった。

 

 盲点どころか、奴らにそんな頭があるなど予想だにしなかった。第一、どこからイージス艦を鹵獲したというのだ。

 

「だめです!距離が遠すぎてまだ艦載機では届きません!目視、敵イージス艦、ミサイルサイトを全門開けました!!目標、輸送機!!」

 

 最も距離が近い蒼龍が叫ぶように報告してきた。

 

 玄一郎はクソっ!と吐き捨てるように言うとガンファミリアに意識を集中した。

 

「イージス艦、シースパローを発射、その数12発!くっ、ダメです!!」

 

「こうなりゃ、撃ち落とすっ!赤城、お前の方はやれるか?!」

 

「なんとかやってみます!撃ち漏らしはお願いします!」

 

 二人は射出されたミサイルを迎撃するために艦載機と無人攻撃機を操った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ロックオンアラートがけたたましく鳴る、輸送機内。

 

「パラオ管制っ!こちら日本空軍所属C-2-008っ!!シースパローにロックオンされている!!何でイージス艦に狙われなきゃいけないんだ?!」

 

「んなこと言ってる場合ではない!副機長、チャフとフレアをいつでも射出出来るようにしろ!必ずVIPをパラオに下ろすんだ!!」

 

 操縦席は混乱していた。

 

 深海戦争勃発から30年。戦争形態は変わった。通常兵器が効かない深海棲艦に対して人類はその戦いの表に出ることは無くなり、戦闘は艦娘に依存するようになった。

 

 そのため、空軍もその形態を変えた。

 

 この30年間、新型戦闘機などは全く作られず、むしろ哨戒機や輸送機などに空軍はその技術を費やし、偵察屋、航空運送屋などと揶揄される存在となっていた。

 

 30年の間にかつての戦闘機乗りやベテランパイロット達は年齢で次々と引退した。当然、今の世代は、近代兵器同士の戦闘やミサイルによる攻撃など想定もしたことのないもの達ばかりになっており、このような状況にあって当然、パニックを起こしていた。

 

「嘆かわしいな。空軍に兵無し、か?」

 

 軍刀を杖のようにして着き、座席に座っている憲兵服の男が静かに言った。まるで他人事のような口振りである。

 

「致し方ありません。彼らもこのような事を想定してませんもの」

 

 私もおもってもみませんでしたわ、とその憲兵の横にいる和服の女性がやはり静かに言った。

 

 この二人は全く慌てている素振りもない。実に自然体であり、全く恐れも何もないようにみえる。

 

「……スミマセン、コンナ事ニナッタノモ、元ハと言えバ、私ガ……」

 

 背の高い深海棲艦、おそらくは大型戦艦級がその女性に頭を下げつつ、そう言った。

 

「……やまちゃん、大丈夫よ。なにがあってもパラオの子達が助けてくれるわ。ほら、窓の外をご覧なさい?」

 

 輸送機の機外に、赤城の放った艦載機と、そして異形のリヴォルヴァー銃に羽が生えたようなものがいた。

 

「アレは艦載機?……シかしナニカ奇妙ナノモ混ザッテ?!」

 

「それに。私もおります。噴進弾など、何するものぞ、よ?」

 

 女性は長身の深海棲艦の頭に手を延ばし、愛しげに撫でて、それが終わるとどこから取り出したのか弓矢の矢をいくつか取りだして左手に持った。

 

「では、あなた。ちょっと席を外してまいります」

 

「ああ。君の事だ。案じはしないが、無茶もほどほどにな。『鳳翔』」

 

「ふふっ、少しは心配してくださいな、あなた」

 

「それだけ信頼しているのだ。頼んだぞ」

 

 鳳翔は軽やかに微笑みながら、輸送機の後部へとまるで散歩にでも行くかのような足取りで進んで行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ガンファミリア、ミサイルを撃ち抜けっ!!」

 

「ミサイル迎撃っ!!」

 

 ゲシュペンストのガンファミリアが輸送機の後部に迫りくるシースパローに弾をバラまいて撃つ。赤城が戦闘機を操り、その機関銃で迎撃していく。

 

 最初に発射されたミサイル12発は輸送機に到達する前に迎撃出来たが、しかし。

 

『第二射、発射されました!!シースパローまた12、深海棲艦が、携行対空ミサイルランチャーを持って甲板上にっ?!対空ミサイル、10、発射されました!!』

 

 蒼龍の通信が入った。

 

「蒼龍、まだイージス艦に着かないのか?!」

 

『雷撃出来る距離まで、まだ到達出来ず!あと10分、いや8分!』

 

「くそっ、ゲシュペンスト、ガンファミリアを頼む!俺はイージス艦攻撃に向かう!赤城、まだいけるか?!」

 

「いけます!いかしてご覧にいれます!!」

 

 赤城が叫ぶように答えた。その言葉は何より信頼できる。

 

「蒼龍、聞こえるか?今から俺がイージス艦に向かう!逃がさんように補足し続けろ。出来るか?!」

 

「おまかせください!死んでも食いついてみせます!雷撃の一撃も入れずしてなんの空母かっ!!」

 

「あきつ丸、最悪の事態に備えろ。救護班、準備させろ!!」

 

「了解であります!」

 

「では行く、離れてろ!ブースターに巻き込まれねぇようにな!!」

 

 玄一郎は背面の加速ブースターを展開させた。

 

 キュウウウウウウウウン、と唸り、そしてゲシュペンストは同時に滑走路を走り、飛び、一気にブースターを点火させた。

 

 ズドン!!

 

 爆発するように一気に加速した。

 




 次回、和服美人が輸送機後部から艦載機を放つ!!お艦が帰って来た!!これでかつる!?

 南方棲戦姫の正体とは!?

 そして深海棲艦達はどこからイージス艦を鹵獲したのか?!

 という引きで終わり。

 大空に笑顔でキメッ!!


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輸送機護衛作戦・後編


 深海棲艦による近代兵器の運用。

 戦術的、かつ統制のとれた戦闘方法と戦術。

 未だかつて無い、襲撃にゲシュペンストと玄一郎は果たして輸送機を防衛できるのか?!


 ゲシュペンストの操作によるガンファミリアは正確にミサイルを撃ち抜き、そして輸送機に到達する前に落とされていたが、しかし、イージス艦からの対空ミサイルはまだ撃ち出されている。

 

 イージス艦そのもののミサイルは尽きているのだが、しかしその甲板上にいる人型深海棲艦達がまだ携行対空ミサイルランチャーを延べ撃ちしているのだ。

 

 シースパローよりも確かに小さいミサイルではあるが、それゆえに迎撃し辛い。

 

 赤城も戦闘機を駆使して迎撃にあたっているが、だがまるで無尽蔵のように撃ちまくられるミサイル全てを戦闘機で撃ち落とすのはやはり困難であった。それに、かなり戦闘機内の妖精さんにも負担がかかっている。

 

 だが、やってみせると言った以上やらねばならない。歯を食いしばり、精神を戦闘機と同調させ、最大の力を込めて迎撃を続ける。

 

 食いしばった歯の歯茎の付け根がぎり、ぎり、と軋む。握りしめた手に爪が食い込み、血が滲む。

 

 だから何だ。一航戦の名は伊達ではない。

 

 赤城の戦闘機群は旋回し、進み、撃ち落とし、そしてまた来るミサイルへと向かう。

 

 と、そのとき。

 

 輸送機の後部カーゴのハッチが開き、そして完全には開ききらないその間から何本もの矢が放たれた。

 

 その矢の色は朱。

 

 朱に塗られた矢は幾つもの、それこそ有り得ない数の戦闘機になり、そして機銃を掃射、ミサイルを容易く撃ち落とし、次、次と全く無駄のない軌道でさらなるミサイルを迎撃していった。

 

 赤城は朱のラインの入ったその戦闘機を見、それを打ち出した後部カーゴハッチの向こうに立つ、弓を構えた女性の姿を捉えた。

 

 それは彼女の師であり、そして全ての空母の母、誰もが憧れ、そしてかくありたいと願う人の戦闘機だった。

 

「ほ、鳳翔、さん?!」

 

『赤城さん、呆けている場合ではありません!シャキッとなさい!まだ噴進弾が向かってきてます!』

 

 無線が懐かしい声を伝えて来た。

 

 赤城は奮い立った。この人の前で恥ずかしい戦いは出来ない!

 

「はいっ!!一航戦、赤城、参ります!!」

 

 赤城の目から一筋、涙が伝う。負けは無い、その確信が胸に湧いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ゲシュペンストをいつもの速度で飛ばし、玄一郎は面食らった。

 

 初めて体験する生身の身体に掛かるGのすざまじさに歯を食いしばり、なんとか耐える。少しでも身体の力を抜けば押しつぶされそうなほどのG。身体が無かった頃には思ってもみなかった重圧である。

 

「ぐぅっ、こんなにかかるのかよ!?」

 

 それでも耐えられているのは、ひとえにゲシュペンストが強化したためと、ゲシュペンストそのもののGキャンセラーが働いているからであるが、それでも生身にはキツいのである。

 

 だが、速度は緩めない。緩めることが出来ない。

 

 今、赤城は限界の力を振り絞ってミサイルを迎撃し、食い止めているが、赤城の精神力、戦闘機の機銃の残弾数はそろそろ限界だ。ゲシュペンストの操るガンファミリアの弾も無限ではないし、ガンファミリアだけでは全て撃墜するには数が足らない。

 

(どんなけのミサイルを用意してんだよ?!)

 

 近づくイージス艦を睨み、未だ携行対空ミサイルランチャーを撃ち続ける深海棲艦を捉える。

 

 イージス艦の甲板上ではあたかも長篠の合戦における火縄の三段撃ちのように三列縦隊に整列した人型の雑多な深海棲艦がミサイルランチャーを延べ撃ちし、さらにミサイルランチャーのボックスを運び込む運搬係りが走りまわって補充していた。

 

 これは深海棲艦達がただの『マヨイ』や『ハグレ』ではなく、この襲撃の為に訓練を施されている『兵士』であることをさしていた。そして、この襲撃が用意周到に計画されていたことも。

 

 だが、費用対効果は最悪な戦法である。輸送機一機に対してシースパロー数十発、対空ミサイルランチャーも何十発使っているかわからない。下手をすると予算は億ほど消えている計算になる。

 

 とは言え、奴らには特に気にならないのだろう。敵から奪った艦娘には通用しない兵器などいくら使っても奴らの腹は痛まない。

 

「ふざけやがって!!」

 

 玄一郎は減速、スナイパーレールガンを構え、照準をミサイルランチャーを運搬している深海棲艦に合わせた。通常のライフルでは届かないが、この超超距離用ならば届く。

 

 玄一郎はその場で減速する。

 

「ぐえっ?!」

 

 いつもの調子で急にやったために、内臓が潰されそうなほどの衝撃を胸や腹に受けたが、それでも無理矢理に押さえ込んでスナイパーレールガンを構える。

 

 ミサイルを撃っている深海棲艦ではなく、ミサイル弾を運んでいる深海棲艦、そのボックスに照準を合わせる。

 

(まずは補充から絶つ。誘爆を狙えりゃダブルでおいしい!ついでに深海棲艦にも弾が貫通すりゃトリプルチャンス!)

 

 ガキュン!ガキュン!ガキュン!ガキュン!ガキュン!

 

 電磁パルスの火花を散らし、音速を超えて特殊貫通弾が撃ち出された。

 

 ほぼ、撃つと同時の着弾。

 

 ミサイルのボックスは狙い誤たず全て破壊、運んでいた深海棲艦にも弾は貫通し、そして撃たれたミサイルが狙い通り誘爆する。

 

 だが、ミサイルの誘爆はしたものの、周りの深海棲艦には効果は無い。人間の兵器が爆発したとしても深海棲艦には傷一つつけられないのである。

 

「んじゃ、行くぜっ!!ぐえっ?!」

 

 玄一郎はまた加速した。なお、最後のぐえっ、はGにまたやられたのである。慣れとは怖いものである。

 

 急接近し、マルチロック。スプリットミサイルを全弾ぶち込む。

 

〔玄一郎!ミサイルが止まったのでサポートする!〕

 

「おう、ありがてぇ。つか、このG、なんとかなんねぇ?」

 

〔グラビティフィールドを出す。というか、何故使わなかった?〕

 

「……忘れてた」

 

 ゲシュペンストがグラビティフィールドを発生させると今までのGが軽くなった。

 

〔……昔、音速で飛んだ際に私が使っていただろう?〕

 

「そんなもん、記憶の彼方だ。ゲシュペンスト、行くぞ吶喊っ!!」

 

 スプリットミサイルがイージス艦に到達し、着弾。玄一郎はそのまま船の上空へ飛び上がり、そして叫んだ。

 

「究極ぅ!ゲシュペンストキーック!!」

 

 艦橋に向かって最大出力。必殺の蹴りを放った。

 

 ズドォォーーーーン!!

 

 装甲も何もかもぶち抜き、吹き飛ばす。イージス艦の屋根がぶっ飛んだ。操舵室から何から何までが壊滅、勢い余ってなんか白い奴まで蹴った気がしたが、どっかにそれは吹き飛んで行った。

 

 ゲシュペンストは着地と、言って良いのか。何層にも床や壁を突き破り、最後にはめり込んでようやく破壊は止まった。

 

「うげぇぇっ、なんつう柔い装甲だよ、これ」

 

〔戦艦とイージス艦を比べるな。早く抜け出せ〕

 

 ギギギギギ、と手でめり込んだ壁を押し広げて玄一郎は辺りを見回す。

 

「どうやらここは格納庫みたいだな」

 

〔そこまで突き抜けたか。だが、もぬけの空だな。見ろ、ハッチが開いている。ヘリか何かを出した痕跡がある〕

 

 格納庫のハッチから外へ出ると、上空、ゲシュペンストのレーダーではもう捉えられない距離にオスプレイが飛んでいた。なんとか一瞬の視認は出来たものの、それは遥か遠くへと逃げ去った。

 

「くそっ、逃がしたか。あれが敵の指揮官かよっ?!」

 

 スナイパーレールガンの射程圏すらも超えている。

 

〔……なんとか乗っている者の拡大画像は取れたが、不鮮明だ。照合出来ればいいが〕

 

「後の話だ。ゲシュペンスト、この艦に深海棲艦の生き残りは?」

 

「一体だけだ。他は船から飛び降りて逃げているようだ。いや、逃げた奴らも、今、爆雷を受けいる。これは……蒼龍の戦闘機か」

 

 試しに蒼龍の無線に繋げてみると、

 

『南雲機動部隊の、意地ぃぃっ!!』

 

 という叫びが聞こえた。呼吸がかなり荒いのは精神を集中させて戦闘機を加速に加速させて無理矢理にここまで誘導したからなのだろう。空母と言うのは意地っ張りが多いらしい。赤城しかり、蒼龍しかり。

 

 何人か生かして捕虜に取りたかったが、蒼龍にそれを伝える間もなかった。おそらく逃げた連中はもうとっくに殲滅されている事だろう。

 

「……で、船に残っている一体はどこにいる?」

 

〔我々の足元に倒れているのがそうだ。艦橋からここまで蹴り抜いて来たと言うのにまだ息があるとはな。大した大物かも知れんぞ?〕

 

 玄一郎は足元を見てうわっ!と足を上げた。そこには目を回してぶっ倒れている、メガネをかけた長い三つ編みの深海棲艦がやはり服をボロボロというかほとんど布も残らないような状態、すなわち全裸でぶっ倒れていた。

 

 大の字でちちりしふもとと、さらに大股ぱっかー。

 

 普段ならば目のやり場に困ったところだが、相手は敵である。玄一郎は牽引用のワイヤーを腰のハードポイントから外すと、倒れている深海棲艦を縛った。とりあえず気分的には『後手合掌逆海老縛り』な感じだったので、手早く海老反りにさせてしっかり縛って約30秒。

 

 もちろん、記憶に録画……は、人間の脳みそになってしまい、さらにゲシュペンストの脳に記録するのも拒絶されてしまい、泣く泣く自分の目にその光景は焼き付けておく。

 

(くっそーっ、記録して俺のタブレット端末に送ってくれるぐらい良いじゃねぇかよ!!)

 

〔却下だ。なお、タブレット端末に落とした画像、動画は全て消去済みだ〕

 

「な、ななな、なんだとっ?!な、何故?!」

 

〔扶桑姉妹にバレるところだったのだ〕

 

「……ああ、なら仕方ない。では、また新しく……」

 

〔却下だ。正直な話、私はあの姉妹の逆鱗には触れたくない。あの姉妹が夜な夜な念を込めて造っている徹甲弾は私の装甲をも撃ち貫けるほどの『概念』が封入されている。撃たれたく無い〕

 

「……え、マジ?」

 

「『相棒』。彼女達がお前を『武蔵』から護るために造りだした弾だ。さしものあの『武蔵』とてもあれに撃たれれば無事ではいられまい。それほどの想いを扶桑達はお前に抱いている。お前も、憎からず思っているのだろう?何故、彼女達受け入れないのだ?」

 

「……俺達は、確かに階級を持って、泊地一つ任された提督になったさ。だが、俺達は日本海軍の『備品』として登録されてんだよ。給料は出る、地位もある、だが法的には人権は無い。ケッコンカッコカリの申請も出来ねぇんだよ。出しても受理されねぇんだ」

 

〔それは過去のログで見た。だが今のお前には身体がある。それならば……!〕

 

「……さてな。その話はもう聞きたくない。今は仕事中だ。とりあえずコイツの中をウチの連中に調べさせる手筈を整えよう」

 

〔玄一郎……〕

 

 玄一郎は縛った捕虜を肩に担いで後部のヘリポートへ向いた。その時、空港のあきつ丸からの報告が入った。

 

『提督殿、輸送機は無事に空港に着陸。『VIP』二名、乗員他、皆、無事であります!』

 

「防ぎきったか。損害は?」

 

『ほぼ無しであります!輸送機も無傷であります!』

 

「了解。こちらも敵イージス艦を制圧。敵数体が航空機で逃亡したようだが、船内の敵はほぼ壊滅。海に逃げ出した連中は蒼龍が撃沈した。捕虜一名確保。管制室のひじ……いや、沖田少将に繋いでくれ」

 

『了解であります』

 

 ぷつっ、と一度通信が切れ、そして管制室に繋がった。

 

『ゲシュペンスト大佐、お疲れ様です』

 

「俺は疲れない。……イージス艦鎮圧。捕虜一名確保。ウチの部隊は引き上げさせる。奴らはもう戻らないとは思うが、念のため、護衛をつけてキャリアーで夕張と明石をここまで寄越してくれ。それまで俺はここを確保しておく」

 

「了解です。では各員帰投させておきます。なお、キャリアー護衛に泊地の『足柄』『愛宕』え?金剛?土方、あれは御隠居でしょ?ええっ?本人が行くと言ってる?珍しい。雨でも降るのではないですかね……っと、『金剛』、『瑞鳳』が就きます。到着予定時刻は一時間ぐらいになります」

 

「……あのババァが来る?何があった??」

 

『なにか戦況的にあるのかも知れない。あの紅茶楽隠居の御老公の考えは読めないが、アレが動く時にはなにかあります。警戒する必要があるかも知れない。ゲシュペンスト大佐、注意して」

 

「……了解だ。では通信を切る」

 

 玄一郎はふぅ、っと息を吐き、そしてゲシュペンストのハッチを開けた。

 

「装甲脆い癖に意外と沈まねぇモンだな、イージス艦ってのは。しかも小さいと思えば広い」

 

〔軍用艦だからな〕

 

「しかし、こんなモンを奴らどこから鹵獲したんだろな。あちこちに書かれてる表示やここから逃げて行ったオスプレイから考えてアメリカのようだがな」

 

〔データを照合して、この艦の所属はアメリカだ。玄一郎、覚えているか?深海棲艦の群れがアメリカのアイオワを沈めた件だ。その襲撃事件で数隻のイージス艦が出撃してやはり沈められ、そのうちの三隻が行方不明になっている〕

 

「……とすると、アメリカでの深海棲艦の襲撃はコイツを鹵獲するため?しかし計画的犯行って言っても、今回の『VIP』達を襲撃するためって言っても、なぁ。タイムラグがありすぎる。というか艦娘にも深海棲艦にも通用しない人間の兵器なんだぜ?」

 

〔……人間には?〕

 

「……!深海棲艦は人間の兵器を人間に使う為に?!」

 

〔推測の域を出ないが、この艦をスキャンして気づいた事がある。一つは巡航ミサイル『トマホーク』のミサイルサイロが空になっていること。もう一つは甲板にいた人型の深海棲艦達が使っていた携行ミサイルランチャーの生産国だ。あのミサイルはアメリカ製ではない。ロシア製だ〕

 

「……つまり、鹵獲されたイージス艦のうちの一隻がコレで、トマホークは他のイージス艦に運び込まれ、さらにロシア製のランチャーまでもどっからか連中は入手して来た。軍事基地からってわけじゃねぇだろうな。あんだけの数、盗んだなら何かしら情報は漏れて出てくる。多分、どこかの軍事基地の在庫を、どうせ役にたたねぇからって売って懐に入れたイワンのバカが居やがるんだろう」

 

〔その手の武器はかなり中東で見たからな〕

 

「……深海棲艦はのゲリラ化、それも組織的戦術を使うようなとんでもねぇ連中……。なぁ、鹵獲されたイージス艦に、核は搭載されていたか?」

 

〔公式発表上、核は搭載されていない。かつてのアメリカで決行された『プロビデンス作戦』において深海棲艦への核攻撃はなんら効果が無いと実証された。核の搭載はそれ以来取りやめになっている〕

 

「だとしてもトマホークは脅威だ。というか最悪の予想しか浮かばない。奴らの狙いは」

 

〔「大本営のトマホークによる壊滅!」!〕

 

 玄一郎とゲシュペンストは同時に同じ答えに至った。そしてそれは最悪の予測であった。

 





 急展開。

 逃げる黒幕。

 捕らえたほぼ全裸なメガネ三つ編み深海棲艦。

 そして無くなったトマホーク(斧じゃないやつ)。

 なんかメタルでギア的ななにかな雰囲気。

 提督の性欲は持て余したりなんだりするのか?(今までの画像は消去されました)

 次回、イージス艦の居住空間は広いけど、足柄さんのは狭い。でも、ちょっと狭い方が締まりはいいのよっ!!(嘘)。でまたあおう!


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集積地棲姫。

集積地棲姫って、なんかオタクっ娘みたいだよね。

こう、人間だったら積みゲーとかやりそうな、というかゲーム実況とか動画サイトとかでやりそうな感じ。

……ヒキオタニートな感じでなんか親近感が、ね。


「……つか、提督、やり過ぎじゃない?」

 

 夕張が壊滅状態になったイージス艦の艦橋を見て、うげぇ~、と非常に嫌げそうな顔をした。

 

 それはそうだろう。玄一郎だってこんなぐしゃぐしゃになった船を調べろとか言われたならすんげー嫌だ。

 

 明石ももうどこから手を着けていいか、という感じで困惑の表情を浮かべた。

 

 それはそうだろう(以下略)。

 

 二人の護衛役として就いている足柄ねぇさんは魅惑の笑みを何故か浮かべ、愛宕さんは何故かやたらと魅惑のおぱーいを強調する感じの仕草をし、金剛の御隠居に至ってはやたらと今日は控え目かつ大人しく、そして瑞鳳だけがいつもの感じで、きっと君だけが救いに違いないと思うほどに普通に瑞鳳だった。

 

 明石と夕張は嫌げな顔をしているものの、キチンと仕事を始めている。

 

 変なのは彼女達について来たおねぇさま方であり、唯一瑞鳳はいつも通り。

 

(なんかあったかねぇ)

 

 などと思うも、変なのはある意味当たり前なのでとりあえずツッコまずに流す感じで、と行動方針を決定する。理由は疲れるから。

 

 ここは玄一郎が思い切り究極ゲシュペンストキックをかました艦橋である。イージス艦の場合、艦橋と言って良いのかわからないが、操舵室とでも言えというのか、玄一郎にはわからない。大穴が開いて壁が無くなり、後ろの艦載機搭載するカーゴまで風通しよく、海風が吹き抜ける。

 

「ミサイルを止めねばらならかったからな」

 

 仕方なかったと夕張にそう言いつつ、壊れてぶち抜かれた壁をさも何か重要な証拠でも転がっているかのように見つつ、そう玄一郎は厳格そうに、かつそれが真理だとばかりにもっともらしく言った。

 

 夕張の顔は、うわっ、胡散臭さっ!!と言わんばかりだ。

 

「……アメリカが弁償しろと言ってきたらどうします?」

 

 明石が溜め息混じりに怖いことを言う。いかに潤沢な蓄えのあるパラオ泊地でもイージス艦なんぞ弁償などしたくもなかった。懐に痛いのは怖い。ただ、払う謂われは無い。

 

「そう言うときはニッコリ笑ってこう言え。『寝言は寝てから言えア○ホール、てめえらの不始末でこっちは大惨事になるとこだったんだクソヤンキーめ』ってな」

 

 ご丁寧に中指まで立てて実演する。非常にお下品である。

 

 「うわ、下品~!」

 

 と夕張が嫌そうな顔をし、明石も溜め息を吐いた。

 

「くれぐれもアイオワの前でやらないでくださいよ?あとウォースパイトにも」

 

「へいへい、わかってるっての」

 

 玄一郎は軽くそういうと、何故か愛宕がやたらとじーっと自分を見ている事に気がついた。

 

 とは言え、視線はそちらには向けない。ゲシュペンストの全方位カメラで捉えているだけだ。

 

 いや、愛宕だけではない。

 

 金剛も妙に視線を投げかけて来ているし、足柄もあからさまではないがそうだ。

 

 唯一、特に平常運転なのは瑞鳳のみであり、彼女は「たっまごーたっまごーたっまごー、玉子っ焼きー、たーべりゅーたーべりゅーたーべりゅー?」などと自作の『玉子焼きの歌』を歌いつつも哨戒機を飛ばして周囲に異常は無いかを探っている。

 

 ある意味唯一の清涼剤的な感じでほっこりする。おねーさん方の方を見たくない。なんか危険を感じて逃げ出したい。

 

 それぐらい、ものすごくおねぇさん方の熱い視線が降り注いでいるわけなのだが、とりあえず何か危険な予感がするのでほっとこう。とにかく今は仕事なのだ。

 

「明石、とりあえずは航海記録と他のイージス艦とかとの情報リンクのデータ、特にここ数日の位置座標とかリンク数のをぶっこぬいてくれ。夕張は基盤な?ハードディスクその他も全部だ」

 

「うーへー、これ全部ぅ~?」

 

「……無茶言うわねぇ」

 

「とっととしろ。文句言うな。早急に頼む。間宮券とRJのクレープ券つけてやるから!」

 

「あー、私もほしい!」

 

 瑞鳳が舌っ足らずな声で言ってきた。もちろん今哨戒して頑張ってくれているのだ。オーケー、と手でサインを出してやる。

 

「わーい、やったぁ!」

 

 うん、瑞鳳は無邪気だなぁ。いつまでもそんな瑞鳳でいてくれ。少なくともなんか俺に妙な視線を投げかけて来るような大人なおねーさん達のようにはならないでおくれ。提督のお願い。

 

(ってか、マジでなんかあったのか?)

 

 見に覚えが全く無い。

 

 ひょっとして『摩耶と鳥海の深海棲艦』をあんな縛り方で拘束したとか、ここで捕らえた深海棲艦を逆海老反り縛りにしたのに怒ってんのか?などと思うも、さっき怒られたしなぁ、とも思う。

 

 そう、愛宕と足柄にものすごく怒られた。「敵とはいえ、女の子になにしてんのよ!!」と、ダブルで。

 

 しかしどうもそういうわけでも無さそうなのだ。

 

 なお現在、捕虜はイージス艦にあったシーツを巻いてぐるぐる巻き、すなわち簀巻きにし直して床に寝かせている。今は足柄が様子を見ているが、まだ意識は戻ってはいない。

 

 データベースでこの深海棲艦の名称を調べてみたところ、この深海棲艦は『集積地棲姫』であることがわかった。

 

 『集積地棲姫』は海軍のデータにはあまり詳細は出てこない。

 

 まず、敵なのか友好的なのか全くわからない。

 

 陸上型の深海棲艦であり、わかっていることは資材等をとにかく集めるという事ぐらいである。そう、とにかく集めるだけ集め、そして何かに使うでも無くただ集めるだけ。それ以外の何にも興味を示さない。

 

 ただ、資材を盗もうとする敵には容赦なく攻撃を加えるようであり、その戦闘能力は侮れないとされている。

 

 ようするに、手を出さなければ何もしてこないから積極的な接触を避けてきたために海軍もその詳細なデータを持ち合わせていないのだ。

 

 そういう深海棲艦が何故にこのようなテロを行うような連中の一派にいたのか、そして陸上型の常で海に浮けないこの集積地棲姫を何故オスプレイで逃げた連中は置いて行ったのか。全く不明なのである。

 

「なんか、いじめられっこなオタク少女みたいな感じよね……」

 

 足柄が黒縁メガネを見て言った。簀巻きにされているので余計にそう思ってしまうのかも知れない。まぁ、さっきまでは野暮ったい女の子の陵辱系SM的な感じだったが。

 

「……ココハ……?」

 

「あ、目を覚ましたわよ、提督」

 

「……さて、目を覚ました所悪いんだが、お前らは一体なんなんだ?なんのために行動している?」

 

「ワタシが聞タイよ……。ナンカ変な連中ガ、ワタシの島を襲撃シタんダ。戦ッテ、追い返ソウとシタケド、一人デハダメだっタ。見タ事ナイ深海棲艦にヤラレて、ワタシの島、ワタシの物資、ワタシの燃料、ワタシのボーキサイト、ワタシの鋼鉄!ヤツらに奪ワレた!!捕マって、ワタシ、逃ゲラレなイ船の上ニ残サれタ……」

 

 どうも、彼女は被害者のような事を玄一郎に涙目で訴える。

 

 偽証なのか本当なのか、それとも罠なのか。玄一郎にはまだその判断材料が無い。ただ、陸上型の深海棲艦は他の深海棲艦とは違い、船ではなく基地の顕現化した者達である。海の上を単独で移動する事は出来ないし、艤装を展開したならばすぐさま海の底へと沈んでしまう。船の上にいたとしても、その船ごと沈んでしまい、浮かび上がる事すらも二度と出来なくなるのである。

 

 仲間ならばそのような陸上型を船に残して行くとは考えにくい。とはいえ彼女の話を鵜呑みにするのも現時点では危険だ。

 

「……悪いがこちらとしては信用するかどうか判断出来ない。状況的に君は不利だ。敵の艦にいたし、目撃者もいない。さらに弁護人も居なければ、証拠も無い」

 

「信ジテ!!ワタシは島を取り返シタいダけ!!」

 

「……これから君はパラオ泊地に送られる。そこで話をしよう。一応、君は捕虜として扱われる。こちらに協力的ならば、君の島の奪還に協力する事もありうるかも知れない。俺の言うこと、理解出来るか?」

 

 ありうる、と玄一郎は言ったが、もうすでに心は決まっていた。集積地棲姫の拠点に行くのはすでに決定済みであり、おそらくそこに敵は本拠地を作っているはずであり、なにより集積地棲姫に関するデータが正しければ、そこには大量の物資が集められているのだ。

 

 連中がその物資を何に使うかはわからないが、わかるのはろくでもない事に使うのに決まっている、という事である。

 

 それに、鹵獲されたイージス艦の残る二隻もそこにあるかも知れない。

 

「……ワカッタ。ワカル事全部話す。奴らのコトはアマリワカラナイケド、ワカる範囲で協力、スル」

 

「良し、君はかなりの怪我を負っている。パラオに着いたらまず手当て、だな。飯は?」

 

「マトモな食事は食べテ無い。マズい豆バカり食わサレてた。辛くテ、臭イの。吐きソウだッタ」

 

「……豆?まぁ、パラオの飯は美味いぞ。保証する。捕虜の権利は守るつもりだ」

 

「……頼ムよ。タダ、アノ豆はイラナイ。アカイ唐辛子の臭いヤツはイラナイ」

 

 玄一郎は、それがレーションのチリビーンズではないかと推測した。米国のそれはまだ美味いとは聞いていたが、おそらく、香辛料と独特の風味が嫌だったのだろう。味覚も好き嫌いも人によりけりだ。

 

「君が協力的ならそれは出さない。ただ、逃げようとしたり、非協力的かつ、やはりアイツらの仲間だと判明した時は、それをとことん口に詰めてから……」

 

 ジャキッ。

 

「コイツで首を斬って処刑する」

 

 玄一郎はシシオウブレードを抜いて、集積地棲姫に向けた。

 

「ヒィィァッ!!ヤメて、ワタシソンナコトしナイ!辛いノキライ!!臭いノヤダっ!!死ヌのイヤッ!!」

 

 何となく、この集積地棲姫からはいぢめてちゃんオーラを感じてしまい、なんとなくいぢめてしまう。

 

(いかんいかん。まぁ、協力的になってくれるならばいいか)

 

 なんとなく、玄一郎はこの集積地棲姫が敵じゃない気がしていた。まぁ、用心はするに越したことはないが、この深海棲艦にはなんとなく空母水鬼に似通った空気すら感じていた。

 

 

 

 




 米軍のチリビーンズはきらいなのです!

 いえ、私は少なくとも。

 自衛隊のは、いいよね。おいしい。あんしん。高いけど。
 
 今回、なんか長くなったので切りました。


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鳳翔刀

 斎藤一夫特務大尉。陸軍所属・元パラオ憲兵隊隊長。

 鳳翔と彼は数奇な縁で結ばれています。

……鳳翔さんって実は魔性の女なのかも知れませんね?


 斎藤一夫陸軍司令部付き特務大尉はかつて元対深海棲艦特殊戦術部隊にいた。

 

 当時『斬艦の鬼』と呼ばれた男であり、陸軍に置いては人間で深海棲艦を『斬る』ことの出来る者の一人であった。

 

 その彼の持つ軍刀は『鳳翔刀』。軽空母鳳翔の鋼材から造られた刀である。

 

 斎藤がこの刀を持っているのはある種の縁からだったといえる。この刀の元となったのは、彼の曾祖父が大切に家の床の間に飾っていた『軽空母鳳翔の廃材』である。

 

 斎藤の曾祖父は呉の軍港で戦艦の建造工事に携わっていた、ただの工事人だった。

 

 ある日、鳳翔の鋼鉄の板を交換した際に、彼はその部品を何故か廃材置き場に捨てることができなかった。

 

 こっそり自分の家に持ち帰った。見つかれば罰せられたのは間違いない。だが、それでも持ち帰ったのだ。

 

 理由はわからない。しかし斎藤の曾祖父が鳳翔になにかしらかの想いを持っていたのは確かであり、ずっとその鋼鉄の板を錆びないように磨き、宝物のように床の間にずっと飾っていたのだ。

 

 だが、その彼も亡くなりいつしかその鋼鉄の謂われもなにも彼の家族は忘れてしまっていた。しかし曾祖父が大切にしていたものなので、捨てるような事もせず、やはり床の間に飾り続けた。なんとなく、そこにあるのが当たり前のようになっていたのもある。

 

 その曾孫であった若き日の斎藤は何故そのような廃材を飾っているのかを不思議に思い、いろいろと調べ、曾祖父の日記を読み、それが日本海軍の鳳翔という空母の部品だった事を知った。

 

 鳳翔や様々な大戦当時の戦艦はほぼ全て失われており、やはり貴重なものなのだと思ったが、それに何かしらの刻印や鳳翔のものであるような特徴も無かったので斎藤はただ単に自分の曾祖父が変わり者であったのだと結論づけした。

 

 たしかに、それは平和な時代ではただの廃材であり、曾祖父が大切にしていたものだから飾っていただけの変わった置物程度だったのだ。

 

 深海棲艦に彼の住む港町が襲撃されるまでは。

 

 斎藤のすむ港町が深海棲艦に襲われたのは彼が16の頃だった。斎藤は逃げる際に何故か鳳凰の鋼鉄の板を持っていかねばならないような気がし、それを手に持って家族と避難場所へと向かった。両親や妹はそんなもの何故持って出たのだと言ったが、斎藤にもそれはわからなかった。おそらく気が動転して持って出たのだろうと斎藤の父は言い、誰もがそうなのだ、仕方ないだろうと祖父も言った。

 

 言ったその時。

 

 深海棲艦の人型が、彼の家族に砲撃を加えた。たったの一撃。たったの一発の砲撃。

 

 それで斎藤の家族はみんな死んだ。呆気なく死んだ。一瞬の間に爆ぜて死体も残らず。

 

 斎藤は、何故か無事だった。

 

 だが、深海棲艦はすぐに斎藤の元へと迫り、恐怖に動けない彼を捕まえようとした。

 

 追い詰められた斎藤はその鳳翔の鉄の板を握り、でたらめにそれを振った。警察官の銃も通用しない、化け物の頭にただの鉄の板が当たった瞬間、深海棲艦の頭は吹き飛んだ。

 

 呆気なかった。

 

 彼は焼けた町で途方にくれて立ち尽くした。気が付いたら軍に救出されていた。

 

 軍は斎藤から鳳翔の鉄の板を取り上げ、軍の工廠に送った。

 

 艦娘もまだ居なかった頃であり、深海棲艦に対して有効な武器となりうるそれを軍は徹底的に調査研究したが、何故古い軽空母の鋼鉄が深海棲艦に対して有効であるのかまではわからなかった。

 

 試しに、軍はかつて沈んだ軍艦の鉄板などを加工して深海棲艦に使用してみたものの鳳翔の鉄板ほどにも効果は出せず、鋼材の組成や様々な側面から分析したが、結局はなにも生み出せはしなかったのである。

 

 なにもわからぬまま、軍はその唯一深海棲艦に通用する鋼鉄の板を兵器として加工する計画をたてた。

 

 鳳翔の鉄の板は打ち鍛えられ、一振りの刀へと姿を変え、いつしか『鳳翔刀』と呼称されることとなった。

 

 刀となっても、やはり深海棲艦への攻撃力はすざまじかった。通常の刀ならば刃も通らぬ深海棲艦の装甲を容易く切り抜くほどの威力をそれを示し、軍は『鳳翔刀』の実戦投入を決定した。

 

 だがしかし。

 

 たとえ深海棲艦を倒せる武器であっても、ただの一振りの刀に過ぎない『鳳翔刀』である。艦砲を持つ深海棲艦の艦隊に敵うはずもなく、その使い手となった軍人達は次々と倒れ、死んでいったのだった。

 

 当たり前と言えば当たり前である。銃を持った集団相手に刀だけで突っ込ませるような戦い方をさせれば普通はそうなる。

 

 だが人は勝手なものである。

 

 いつしか『鳳翔刀』はあたかも呪われた妖刀と呼ばれるようになったのである。

 

 それでも、他に通用する武器の無かった軍は、次々と兵士達に『鳳翔刀』を持たせて戦わせた。それしかなかったからである。

 

 何人も何人も使い手の間を『鳳翔刀』は約五年の間、渡って行った。

 

 そして。陸軍軍人となった斎藤の元へと戻ったのである。

 

 それはまるで運命のようであった。

 

 曾祖父の残した軽空母鳳翔の鉄の板。少年だった彼を救ったそれが、彼の手に再び握られる事となったのである。

 

 そして。彼は今、その鳳翔の化身とも言うべき女性を妻にしている。

 

 なかなかに数奇な運命ではないか、と斎藤は思いつつ、ニヤリと笑い妻のいる輸送機の後部ハッチに向かった。

 

「パラオ、か。何かと縁があるものだな」

 

 すでに夕刻。パラオの夕日は血のように赤かった。

 

 




 鳳翔さんに取り憑かれたい。お艦マジお艦。


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【オマケ】ブルーノ隊長の困惑と古参艦娘達とオマケ。

 手抜きごめん。

 ブルーノ隊長は苦労人ですよ。

 タグ増やさないとねぇ。


 パラオ泊地の陸軍憲兵隊隊長ブルーノ大尉は非常に困惑していた。

 

 青葉とかいう艦娘がバラ撒いているタブロイド誌に、自分とゲシュペンスト提督の中身が写っている写真が掲載され、憲兵隊の詰め所にそれを見た大勢の艦娘がやって来ては、本当にこの写真の人物がゲシュペンスト提督なのか?と聞いてくるのである。

 

 はっきり言って仕事の邪魔でしかなく、それでなくとも厳戒態勢が発令されたせいで治安出動やら住民の避難勧告、様々なトラブルの発生でもうてんやわんやなのだ。出来れば相手などしたくない。

 

(だいたいなんだこれは。写真の目のところに黒い線を入れてプライバシーは守りましたよ、とかアホか。憲兵の制服に薄くなった頭髪に、それに白人なんざこのパラオにゃ俺しかいねぇじゃねぇか!!つか、近頃は昔の事とか全く取り沙汰にされなくなって、平和そのものだったってのに、要らんトラウマ思い出しちまうじゃねぇか!)

 

 ブルーノはかつてアメリカの某市の刑事だったのだが、その刑事時代に様々なトラブル……主に大規模なテロ事件……に巻き込まれ、散々な目にあった事がだいたい計三回ほどあった。

 

 その全てを彼は解決はしたものの、そのおかげでニュースを賑わせたといえば良いが、マスコミ連中に面白おかしくデマや批判を書かれて私生活さえも暴かれ、市民団体……主に左派……の糾弾やら人権無視やら、さらには莫大な損害額を税金でまかなうのはおかしいとか、なんやらかんやらと叩かれたりし、さらには妻には離婚を申し立てられ、愛する子供達とも会えなくなり、とろくでもない目に遭ってきたのだ。

 

 それに比べれば、このような学級新聞のようなペラペラの新聞などどうということは無いはずなのだが、しかし、考えても見てほしい。

 

 彼はこの数日、ほとんど寝ていないのだ。寝ないで様々な仕事を処理して、今だってカフェインやら栄養ドリンクで無理矢理に起きてる状態で、やたらとイライラしているときたもんだ。

 

 そこへ年若い(外見。軍艦だった頃からの年齢は考えないようにしようね?)女の子達がピーチクパーチクキャーキャーと黄色い声上げて、まるでアイドルがこのパラオに来ているのを知った熱狂的ファンのように提督の中身について聞いてくるのだ。

 

 とてもじゃないが、やってられない。

 

 とはいえ、おそらくあの提督があの機械の中にずっといたと言うのは、なにかしら彼にも理由があり、出来れば誰にも知られたく無いのではないか、と思えば艦娘達にバラすような軽率な事はしたくなかった。

 

 そもそも、あのゲシュペンスト提督はブルーノが見た限りではかなりの人物だと思えたのである。

 

 自分の市警時代の上司が彼ならばどれだけ自分の仕事は楽だっただろうか、と思えるほどである。

 

 部下に無茶をさせない。部下の不始末を自分の失態ととらえ、まず自分がその処理をし、さらには部下を罰するにも出来るだけその情状酌量出来る部分を探す。危険な任務には必ず自ら出て行き、しかし部下をフォローしつつ成長させるよう促す。部下をまず信頼し、可愛がり、見守る。

 

 理想的な上司ではないか。

 

 そんなゲシュペンスト提督は確かに艦娘達に人気があったのは確かであるが、しかし、彼がロボットであることで艦娘達は特に男性であると意識はしていなかった。

 

 第一、その手のスキャンダルも……無いとは言い切れないが、大半が特定の艦娘達によるものであり、司令室で朝を迎えたと言ってもあの提督はずっと執務室で仕事をしているのである。

 

 中身が人間だってのに、いつ寝てやがんだろうな、とはブルーノも思うのだが。

 

(まぁ、艦娘の恐ろしさというのは、あの『コンドーの大将』を見てればわかるが、しかしなんなんだろうな、あの兄ちゃんは)

 

 故にブルーノは単に。

 

『イラコが混んでてたまたま開いてた席の隣が写真の兄ちゃんだったんだ。ゲシュペンスト提督?いや、ここのカスクードサンドが旨いんだって言う話はしたが、提督の話はしてねぇな』

 

 と誤魔化した。

 

 これで騒ぎが収まればいいんだがなぁ、と思いつつ。

 

……しかし、ブルーノの発言とは裏腹に……確かに、建造されて間もない艦娘達はそれで誤魔化せたのだが……古参の艦娘達はもう、確信していた。魂の質、色、そして性質を見る事の出来る者達は、ゲシュペンスト提督の変質を敏感にとらえ、そして、すでに動き出していたのである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 オ・マ・ケ。

 

 

 

【金剛型の場合】

 

『テイトクのハートを掴むのはァ、こぉの金剛っ、デース!!』←(任務に出てから中身があることを確信した御隠居)

 

『あの、お姉さま、その、は、榛名も大丈夫ですか?!いえ、むしろ姉妹揃って……』

 

『……カレー、三倍、いや切りよく不吉な13倍で。金曜日……(ブツブツブツブツ)。離婚カッコガチバツ1ですし……(ブツブツブツブツ)ホッケーマスク……』←(とりあえずアレな薬品をカレーに仕込んでいる離婚カッコガチ経験者なヤンデレな人)

 

『あの、お姉さま達、その、提督がお困りになるような事は、その……でも、提督と……(ぽっ。)』←(まんざらでもない)

 

 

【飢えた狼さんの場合】

 

『この足柄っ!行き遅れなんて誰にも言わせないわっ!がるるるるるっ!!』←(もはやおねぇさんキャラ崩壊)

 

『『『嫁入り早よ!』』』←(痛ましいものをみた姉妹達の悲痛な願い)

 

 

【高雄姉妹・長女・次女の場合】

 

『愛宕、いきまーすぅ(お嫁に)うふふっ。提督はぁ、おっぱい星人だって私わかってるからぁっ!!ぱんぱかぱーん、ぱんぱーぱぱーん♪(ウェディングマーチ)』

 

『……そう、提督は、お、おっぱい星人……(ぽにょん、ぽにょん)』←(じつは奥手)

 

『なぁ、なんか最近、ねぇさん達が変なんだけど、なんかあったのかぁ?』

 

『わからないけれど、触れない方がいいことだけはわかるわ』

 

 

【深海五大艦+1の場合】

 

『……ワタシが深海棲艦デモ、ダイジョウブダロウカ。クルナとか言ワナイダロウカ……?』←(やる気満々)

 

『港湾さんならダイジョウブ。ワタシもダイジョウブ。おっぱい好キダカラ。アノヒト』←(意外にやる気)

 

『テイトク、レップウ、クレタ。ウレシい』←(無邪気)

 

『……鳳翔サン、遅い』←(あまり興味無し)

 

『飛ベタノ、ワタシ、輸送機デ飛ベタノヨ……!』←(意味不明)

 

『カツドゥン!!オイシイ!!オイシイ!!コンナの食べルノ、ハジメてダヨ!!提督サン、イイヒト!!臭イ辛イ豆出さない!オイシイ物食べサセテクレル、イイヒト!!好きっ!!』←(素直に協力して敵ではないとわかったので釈放され、計らずとも餌付け中)

 

 

【天龍型姉妹の場合】

 

『天龍ちゃん?どうしたの?』

 

『……なんでもねぇ(……提督は、人間だったのかよ)』

 

『ん~、提督さんの事、考えてる?』

 

『……マゴロクブレード。なんでアイツは昔、俺にこんなモン寄越したんだろなって考えてた』←(深読み過ぎ)

 

『刀の意味なんてどうでも良いのよぉ。自分の気持ちがどうか、でしょう?』←(正論)

 

『…………』

 

『大丈夫よぉ、もしダメなら……。私の薙刀が、斬りたくてうずうずしちゃうだけだからぁ』←(気に入ったものを斬りたい性癖)

 

『ちょまっ、ダメだかんな?!それっ?!』

 

『うふふふっ、わぁっ♪』←(ヤンデレモード突入)

 

 

【潜水艦娘達の場合】

 

『でっちっちっち……。今こそスク水嫁計画を発動するでち。というか、付き合い長いのに出番が無いでち!!』←(ノリだけでものを言う奴)

 

『イク、(お嫁に)イクのぉーーーっ!』←(かなりノリ気)

 

『……ドイツ人だと思ってたのに。まぁ、いいですけど』←(実はどうでもいい)

 

『嫁入りの持参金はこぉんなにあるんだからっ!!』←(めちゃノリ気。なお、潜水艦娘達のアジトには、かなりの資材が溜め込まれてます)

 

『あの、ゆーはどうしたらいいですか?』

 

『……日焼けスク水嫁にジョブチェンジ?』

 

『……えと、まだ……レベル足りてません』←(新入り故に練度まだ足らず。まだノリ気ではない)

 

 

【空母勢の場合】

 

『加賀さん、一航戦の誇り、見せるときが来たわね』←(鳳翔にそそのかされやる気)

 

『……鎧袖一触です』←(密かに提督ラブ勢)

 

『……ダイエット、しなきゃ』←(二航戦のぽちゃな方)

 

『多聞丸……』←(特に興味無し)

 

『……一航戦って……そうなの?』←(ズイズイの噛みつく方。中の人を察知出来ず、変なものを見るような目で見ている)

 

『……素敵な方、ですけど、競争率高いわよね』←(ズイズイの姉の方。中身察知済み)

 

 

【ドイツ艦娘勢の場合】

 

『戦略的には、第一夫人に扶桑、第二夫人には山城をまず推したい。そして友好的に我等が三、四、と続くのだ。扶桑に頼んで、我等の誇りたるシャルンホルストの艦魂を呼び、建造をだな……』←(やたらと戦略的思考なドイツ魂)

 

『間違ってU-17とかUBー65とか来たら……』←(シャレにならない事を言う)

 

『……潜水艦は、潜水愚連隊の管轄。問題ない』←(どのみち空母勢に入っているので関わりがないと思っている奴。なお、ビスマルクの言うことを聞く気無し。夜戦出来る空母は流石に……げふんげふん)

 

 

【論外】

 

 

『スラッシュ・リッパー』

 

 ズバッ!ズバッ!

 

『スザク・ブレード』

 

 ザシュッ!ザシュッ!

 

『ここはどこなのだ。それにこの敵は……。私は破壊された筈ではないのか?それにこの大気の組成、エンドレスフロンティアではない、のか?』

 

『ピアレス・アックス』

 

 見知らぬ廃墟になったなんらかの軍事施設の中で。深海棲艦を切り刻み、破壊していく何者か。

 

 おりしもそこはゲス提督が次の調査地とした『集積地棲姫』の集積地のある島であった。

 

『最終戦闘モード起動。キリンアサルト』

 

 冷徹かつ機械的な声が地下に響く。彼女はどうやら某元アホワカメのように記憶喪失になっていたり性格に変化が起こったりはしてはいないようだ。

 

『敵の数が多すぎる。……出口を発見し、一時撤退、するにゃ。……言語回路に異常発生しまくりやがり……ゴホン。早く直さねば』

 

 言語回路に異常発生は、お約束のようではあるが。

 

 

 




 最後に出た謎の人物。

 不幸に不幸を重ねた、あのキャラが参戦。

 多分、スパロボの系列では一番不幸なキャラでは無いかなーと思うんですよね。というかコードDTD搭載してたらすんごいと思うんだ。布面積的に。

 


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かくしてニトロがぶちまけられる。

 斎藤のキャラ崩壊。

 鳳翔さんノリノリ。

 もう、ワケワカンネ。


 玄一郎とゲシュペンストが明石達と共に集積地棲姫をキャリアに乗せて泊地に帰る頃には、すでに夜になっていた。キャリアは高速艇の一種であり、艦娘達よりも航行速度が速いがやはり距離が遠すぎた。

 

 だが、提督と言うのは現場に出たとしてもその後に残務はあるものであり、なにより今日来た『VIP』達の警護役が着任の挨拶をしたいという。

 

 明日でも良くないか?と秘書艦の扶桑に聞いたれば、早く会うべしとのせっつき様にて、これを回避することならず、となにやら厄介事の臭いまでする。

 

 このような書き方はやたら疲れるので普通に書くと、『VIP』、つまり『同盟深海五大艦』の警護役に早く会いなさいと扶桑がやたらとせっついているわけなのだが、その扶桑がやたらとはしゃいで嬉しそうにしているので、ああ、これは厄介事になるよなぁ、と少しうんざりしつつ、扶桑の笑顔を見ればどうも断れない、と言うことになる。

 

 扶桑と共に応接室に入ると、扶桑が何故嬉しそうだったのか玄一郎は理解した。

 

 警護役の二人は玄一郎にとっても懐かしい顔だったのである。

 

「斎藤さんに、鳳翔さん?!」

 

 そう、玄一郎、つまりゲシュペンストが提督になったと同時に本国へと帰って行った二人であった。

 

「久し振りだな、ゲシュペンスト君。いや、ゲシュペンスト提督と呼ぶべきか。陸軍憲兵隊本部所属『斎藤一夫』特務大尉、『VIP』二名の警護任務により、再び戻って来たよ。よろしくな?」

 

 特務大尉とくれば佐官と同様の権限が与えられている。陸軍も今回の任務に彼を抜擢するにあたっていろいろと思惑があるのだろう。随分ときな臭くなってきたものだ。

 

「はぁ、こちらこそ。しかし、鳳翔さんまで?寿退職したのに?」

 

「私は松平元帥のたっての依頼で参りました。それに夫が赴任するならば妻としてやはりそれを支えねばなりません。みんなの顔も見たかったですし」

 

 こちらは元帥閣下からの依頼、ときた。やはり元帥閣下も今回の深海側の新興勢力のテロには様々な警戒をしているようだ。そう、一連の連続テロの繋がりを彼も読み取り、解を既に出している。そしておそらくそれは玄一郎とゲシュペンストが出した解と同じなのだろう。

 

 松平元帥も核を搭載した巡航ミサイルによる攻撃をいち早く予測して行動しているのだと悟った。

 

 そうでなければパラオに『五大艦』を避難させはしないし、陸と海、最大戦力の一角とも言える二人を送りはしない。

 

 玄一郎は松平元帥に直接、今回の輸送機襲撃事件の報告とイージス艦について方向したが、特に驚きもせず、予想していたような落ち着いた態度を示していた。

 

 さらには他のイージス艦の捜索を何を置いても優先すべしとの命令を出した。つまりはそういうことなのである。

 

(……やはり早急に集積地棲姫の島を調査しないといけないか)

 

 そう考えつつ、玄一郎は斎藤の顔を見た。なんとなく、何かを諦めたような顔をしていた。なんとなくだが、単身赴任したかったんでは無かろうか、という感じに見えた。

 

 斎藤はかつてパラオ泊地の憲兵隊の隊長をしていた時、表向きは真面目な憲兵さんという顔をしていたが、裏向きになると途端にぞんざいでめんどくさがりでいい加減になる。

 

 やたらとワルいおっさんであり、その性格を喩えて言うならば『面倒クセェ、斬れば終わりの不如帰(ホトトギス)』だろうか。

 

 そんな男が何故に鳳翔と結婚したのか?とか非常に謎な訳なのだが、玄一郎は素の彼とは割と親しくつき合えていたので、その辺の顛末をよく知っていた。

 

 簡単に言えば、鳳翔がとにかく押して押しかけ押し切りうっちゃりをかまし、しまいには『夜戦』に持ち込み、ともかく逃がさなかったのである。

 

 『夜戦』の翌日の彼の姿はさながら幽鬼の如く、あっちにふらふら、こっちにふらふらとよろめきつつ、生ける屍のように「あ゛~う゛、かゆ……うま……やべぇ……」と言いつつ、憲兵の仕事も勤まら無いほどに憔悴していた。その首筋にはまるで所有権を誇示するかのように鳳翔のキスマークの痣があり、もう、彼が逃げられないのは誰の目にも明らかであった。

 

 なお、彼はその年で童貞だったと言われているが、その真偽は誰にもわからない。

 

 ジロリ、と斎藤は玄一郎の方を見返して来たが、その目は明日は我が身だぞ?と言っていた。

 

 だが、玄一郎はロボットの身体であった為に軍の鹵獲兵器としての登録しかなく、そのため人権を持たない。彼らのように結婚カッコガチなど無理なのであり、自嘲気味に、(むーりぃ~!)と舌を出した。

 

 ゲシュペンストに搭乗しているので向こうにはわからないと高をくくっての事である。

 

 ただ、鳳翔が何となく視界の隅で一瞬、ニヤリと笑ったような気がしてすぐさまアイカメラをそちらに向けたが、おすまし顔で扶桑が出したお茶をすすっていた。

 

(……嫌な予感がする)

 

「ああ、扶桑も座ったらどうだね?このメンツで堅苦しいのもなんだしね」

 

 提督である玄一郎を差しおいて斎藤はそういうが、これは今は軍務ではないので対等に話そうと斎藤が示しているのだ。

 もっと言えば、陸軍海軍の垣根無しで腹を割って話したい、と言っているわけである。

 

 まぁ、軍務についている時以外はこの男は傍若無人であるので玄一郎も扶桑も気にはしない。それよりも斎藤が話したがっている内容の方が気になる。

 

「とごろで、お前、その重苦しいの脱がねぇのか?」

 

 急に口調がぞんざいになった。姿勢正しく座っていたのも崩してだらーっ、となる。完璧に仕事抜きモードである。

 

 どうやら二人は玄一郎が人間の肉体を持ったと言うことをすで松平元帥から聞かされていたようだ。

 

「あんた態度変えすぎだろ、ったく。つか松平元帥から聞いたのか?」

 

「ああ、今回の任務の都合上、聞かされたぜぇ?つか顔見せろよ。正体不明じゃこっちもやりにくいぜ」

 

「ええ、お顔、見せて下さいなゲシュ君」

 

 にこやかにかつ優しげに鳳翔がそう言うが、この鳳翔がそのような態度の時は何かしら、そう、何かしらの思惑があるように思えてならない。

 

 嫌な予感はあるのだが、しかし姿を見せないわけにもいくまい。

 

 玄一郎はため息を吐きながらゲシュペンストのハッチをすべてオープンにすると、よいしょっと、と機体から降りた。

 

 相変わらずTシャツにGパン姿である。まぁ、それしか服を持っていない、というか間に合わせで扶桑とか山城が持って来たものであり、暇になったら買いに行かねばなるまい、とか思っている。

 

 なお、海軍の制服は発注しているが、まだ来ていない。

 

「ほぉ?なかなかどうして。そんなもんに乗れるんだ、小男だと思ってたぜ」

 

「もう少し若いのかと想像してましたが、たしかにそれぐらいの年齢ですね。あの頃から考えますと……30ぐらいかしら?」

 

「……こっち来た時が、確か21だったから、今は36か。まぁ年相応の身体にしてくれたようだ」

 

 年齢の話をしたとたん、鳳翔の目がギランと光った。

 

「……男性の結婚適齢期、ギリギリですね?」

 

「は?」

 

「もう、身を固めても良い頃、いえ、もう結婚して子供がいてもおかしくない年齢ですね?ゲシュ君」

 

 まるで良い歳こいて結婚しない息子に説教するオカンか親戚のオバハンのような事を言い出した?!

 

「……いや~、まぁ、いろいろありますからねー、ははは、気が付いたら早いもんで。まぁ、今回も厳戒態勢下で忙しいなぁ~、ははは。では、任務もありますのですみませんが、私はこれで……。イヤーイソガシイナー」

 

 玄一郎はそう言ってまたゲシュペンストに搭乗してその場を逃げようとしたが、搭乗する前に、隣に座る扶桑にその手をむんず、と掴まれ、そしてまた席に戻された。

 

「まぁ、逃げんなよ。ゲスの旦那ぁ、いい商品揃ってますぜぇ?」

 

 斎藤がアタッシュケースから一枚の書類を取り出した。

 

「ここに、お前の日本国籍の登録証明書があるじゃろ?」

 

 バン!

 

 次に鳳翔が、お重を包んだようにも見える風呂敷包みをテーブルの上に置いて、それをほどいて見せた。

 

「そしてここに、ケッコンカッコカリの書類一式がこおんなに、ありますね?」

 

 ドン!

 

「さらに、だ。指輪の箱が大量生産な感じで10ダース、親切に俺が倉庫に運んでおいたわけだが」

 

 クイッ。

 

 斎藤が窓から見える赤レンガの倉庫を親指で指差し。

 

「大淀さん大忙し!結婚(ガチ)な書類もこんなところに!保証人の欄にはもちろん、松平元帥と叢雲さんのサインと実印入り!!」

 

 ドドンッ!

 

「さて気になるプライスは!」

 

 バン!

 

「占めて松平元帥のご恩情によって全てタダ!!」

 

 ジャーーーーン!!

 

 斎藤夫妻は立ち上がって、両手を広げてドヤ顔をした。

 

「買ったっ!!」

 

 扶桑が立ち上がり、叫ぶように言った。

 

「まてまてまてまて!!なにそれ?!なにそれ?!なんなの?!それ!!つかあんたらキャラ変わっとるがなっ?!つか扶桑さん、買っちゃだめっ!!」

 

 玄一郎は叫んだ。つかこのタイミングでどういう事だ?!

 

 斎藤はニヤリと暗い笑いを浮かべ、ふひひひひ、とこの男に似つかわしくない嫌らしい笑い声を上げた。

 

 それは『お前も不幸になれ?結婚という泥沼にハマれ?だーいじょーぶ、俺もそうだったからな?』と言うような顔だった。

 

「え?このたび、君のぉ、日本人としての戸籍登録がめでたく受理されましてぇ。それに伴い、艦娘とのケッコンカッコカリの条件が揃い、解放されましたとさ。なお、書類一式と指輪は松平元帥閣下が用意されまして『国防の要、パラオ泊地のさらなる発展と兵力増強を『黒田玄一郎准将』に命ずる。レベル99の艦娘が多く在籍する海軍泊地の中で『結魂』艦のいない状態は望ましくない。できうる限りの成果を期待するぅ、なお、結婚(ガチ)用の書類もいくつか同封しておいた。年貢を納めたまえ』とのお言葉を預かって来たぁ次第。ぶるぁああっ」

 

 いや、若○ボイス止めれ。つかあんたのCV、絶対に杉○だろ?!と思うような感じだ。

 

 玄一郎は、本能的に悟った。斎藤は暗黒面に堕ちてしまったのだ、と。そう、メフィストーフェレスに魂を売ったファウスト博士のような感じだ。無論、その場合鳳翔がメフィストーフェレス、ファウスト博士が斎藤だ。

 

 ニンマリ。

 

 鳳翔を見れば、扶桑に親指立ててグッドラック!としている。扶桑も同様に……。

 

(コイツら、とっくに共謀してやがった!!謀られたっ!!)

 

 それを見た玄一郎は焦った。そう、ここから早く逃げなければならない。

 

「……とりあえず、扶桑、それは倉庫にしまって厳重に封印しておきたまえ。我が泊地に、それはニトロ以上に危険な代物だ。なお、私はゲシュペンストに引きこもる。なお中の人などいない。正義のスーパーロボットとして私は世界中のちみっこ達の夢を壊すわけにはいかないのだ。コール・ゲシュペ…………?」

 

 ガシャッ、ガチガチッ、ガシコン。カキン!

 

「おい、ゲシュペンスト、なんでハッチ締めてロックするんだ?おい、相棒!相棒っ?!」

 

〔……扶桑の主砲がこちらを狙っている。私は破壊されたくはない〕

 

 見れば扶桑は静かに、そして全く玄一郎も気づかぬウチに艦装を出し、主砲をゲシュペンストの頭部に突きつけていた。その笑顔が怖い。めっさ怖い。

 

「あ、相棒ぉぉっ?!」

 

「あらっ、こちらにも魂、あるのですね?あなたのお名前は?」

 

〔ゲシュペンストタイプS(泊地改装型)だ。宜しく鳳翔……。とりあえず砲をしまってくれないか扶桑。私は君達の邪魔はしない。パイロットの幸福こそ望むところなのだからな。故に、頼むからその砲は止めてくれ。シャレにならない〕

 

「てめぇっ、スーパーロボットが脅迫に屈するなよ?!」

 

「……なぁ、提督。結婚は良いぞぉ?幸せだぞぉ?ふひひひひひ、怖くなんかねぇんだ、お前もこっちに来いよぉ(テメエだけ独身でのうのうと貴族ライフなんざぁ、させねぇよぉ)」

 

 首をカクカクさせつつ、手招きする斎藤。どう見ても和製ホラー映画の死霊さながらな感じである。

 

 BGMに某サ○レンなゲームの変な御唱歌が流れそうな感じである。いつからホラーゲームの世界に突入したんだよ、である。

 

「なんかキャラ崩壊して訳わかんねぇ、つかあんたが怖えぇわ!!」

 

「……ゲシュ君。そう、結婚は良いものなのです。大丈夫、怖くないのですよ?」

 

「いや、あんたの旦那が怖い!どうみてもおかしいでしょぉぉっ!!」

 

「……毎朝、いつもあんな感じなので、私には見慣れた姿なのですが」

 

「……夜戦怖い、夜が怖い、夜戦は嫌だぁ、もうやめて、お願い、一夫のライフはもうマイナスよ……」

 

 結婚生活のトラウマが噴出しとるげな?!

 

「絞られすぎっ?!」

 

「やだっ、恥ずかしい」

 

「いや、怖えぇよ!!つかゾンビ化?!」

 

 あかん、これはあかん。

 

 玄一郎はこのカオスと化した部屋からの脱出の意志を固めた。

 

「ただ道無き荒野をひたすら進むのみっ!!」

 

 そう、玄一郎は素早く応接室の窓へと跳んだ。

 

 ガッシャーーーン!!

 

 窓ガラスを突き破り、そして三階の高さから、地面に着地した。常人ならば骨折しているところだが、肉体を強化されて造られた玄一郎の身体は華麗にヒーロー着地をキメた。

 

〔……膝を痛めるのだがなぁ、ヒーロー着地は〕

 

 ゲシュペンストは内心そう思ったが、まぁ、玄一郎の身体の基本スペックはよくわかっている。

 

 とりあえず扶桑は特に心配も何もせず、落ち着いた様子で普通に座ってズズズっとお茶を飲んでいた。

 

 扶桑はなんだかんだで玄一郎の事をよくわかっており、深夜にはまた自室に帰るだろう事を見抜いていたのである。

 

「まぁ、帰って来たらお説教、ですね」

 

「そうですね。とりあえず書類一式その他は扶桑さんに渡しておきますので、使って下さいね?ほら、あなた。バカな事してないで、部屋に戻りますよ?」

 

「……うむ。戻るか」

 

 斎藤は、先ほどまでのキャラ崩壊などなかったようにシャキッとして、鳳翔を伴って応接室を出て行った。

 

 二人が出て行った後で。

 

「さて……山城を呼ばなくては、ね」

 

 扶桑はそう言って懐からスマートフォンを出した。

 

 

 




 逃げなければ、まだ、平和だったのかも知れません。
 
 生身のまま、中身が出ていきました。

 肉食動物の生息地に、獲物が一匹。


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逃げたらまた間宮前

 間宮食堂。きっとうまい。絶対うまい。めちゃくちゃうまい。

 そんな想像したら、こうなった。

 間宮さんも、また……。


 玄一郎は、とりあえず間宮食堂へと向かった。

 

 時間はまだ夜の8時。

 

 とりあえず何も食べてはいない玄一郎の腹が鳴った。そんな玄一郎にとって、間宮食堂から漂う、料理のうまそうな匂いはあたかも蛾が誘蛾灯さそわれるのと同様、振り払えぬ誘惑であった。

 

 食堂の暖簾をくぐり、開けっ放しの戸をくぐると、さらにいい匂いが、呼吸とともに鼻へと勝手に入ってくる。

 

 大丈夫、財布は後ろポケットで充分な金もある。

 

 玄一郎は食券の自販機に札を入れて、並ぶボタンを見た。

 

(ふむ……丼物が豊富、うどんに蕎麦、煮込み定食、ああ、カレーは金曜日限定なのかぁ)

 

 軽く迷った末に、ポチりと『間宮ステーキ定食(500グラム)』と言うのを見つけて押す。4500円。高いと言えば高いが、どうという事は無い。今まで給料などそれほど使って来ず、すでに家を一軒買えるほど貯金が貯まっている。それに、十数年ぶりの肉なのだ。しかも500グラム。これを食わんでどうする。

 

(肉。肉っ、肉っ!ふふふふふ、昔だってステーキなんざおいそれと食えんかったんだ。たまには良かろうってもんだ)

 

 もうすでに玄一郎の頭の中から逃げて来たという記憶は無い。バカなんじゃないか?とか思うかも知れない。だが、切り替えが早くなければやってられっかい!!なのだ。

 

 食券をパートのおばちゃんに渡すと、「ハイよっ!ステーキ定食(500グラム)っ!!」と元気な声で厨房へと伝えた。本当ならば食券式で、そういう風に伝える必要は無い。自動販売機がすでに厨房のモニターに注文を送っているからだ。だが、やはり客から見れば、こういう活気のあるやりとりはやはり良いものである。

 

 これが黙って食券を受け取ってテーブルに貼り付けてそのまんま、というのは陰気な印象を受け、その店に二度と入りたくないような気にさせてしまう。

 

「間宮食堂か。いいね。うん」

 

 玄一郎はカウンター席でこの雰囲気をすでに堪能していた。メニューに酒もあるにはある。だが、玄一郎はゲシュペンストのパイロットでもあるのだ。いつ出撃せねばならないかわからないので飲まないようにしている。

 

 それに、今は飯、なのだ。アルコールより飯を腹は求めている。カロリー、栄養、とにかく飯だっ!!な気分なのである。

 

 すでにもう、舌も胃袋も肉、肉、肉を求めて病まなくなっている。

 

(まだかな?まだかなっ?)

 

 うきうきしながら料理を待つのも十数年ぶり。そう、食える。食えるのだ。身体を得た俺には、飯が食えるのだ。

 

「お待たせいたしました。ステーキの前菜、コーンスープとガレットのミートソース掛けです」

 

 料理が来て、あり?と玄一郎は少し首をひねった。いや、前菜が来るのはわかっていた。そうではなくて、持って来たのがさっきのパートのおばちゃんではなく、若くてきれいなおねぇさんだったからである。

 

 エプロン姿で、かつそこはかともなく可憐な印象。

 

 記憶を辿り、それがこの間宮食堂の主である間宮その人であると玄一郎は認識した。

 

(うわぁ、食堂にはそれほど来ることなかったけど、やっぱり間宮さんって美人だよなぁ)

 

 しばし見とれるも、間宮はにっこり笑ってコソッと玄一郎に小声で言った。

 

「提督、間宮食堂においで下さりありがとうございます。当間宮の腕に寄りをかけた料理、どうぞ御賞味、御堪能下さいませ」

 

 ぎっくうっ?!

 

 玄一郎は固まった。

 

(え?え?バレてんの?!俺、中身ってバレてんの?!)

 

 くすくすくす、と間宮は悪戯っぽく笑って、また厨房へと消えていった。

 

 ふと、周りを見れば遠巻きにしてこちらを見ている艦娘達。いや、艦娘以外にも作業員やその外、様々な視線を感じる。

 

 そしてヒソヒソ話。

 

 耳を凝らして聞いてみる。

 

『あの男の人、青葉の号外の……』『ああ、あれガセでしょ?』『でも、足柄さんが……』『でも今まで見たこと……』『輸送機で来た人じゃない?』『でも階級章も無いしTシャツにジーンズなんて……』『誰か話掛けて来なさいよ、なんかスッゴく気になる!』『でも……間宮で騒ぐの禁止よ?』

 

 ヒソヒソヒソヒソ……。

 

 どうやら、青葉が何かしたようだ。しかし、心当たりは全く無い。しかし、青葉、と言うのと号外、そして足柄というワードに何かものすごく嫌な予感がする。

 

 だが、しかし、そう、あえて。

 

(いや、とにかく今は飯だ。あとの事は後で考えるっ!)

 

 思い切って、玄一郎はとにかく外野に気づいていない振りをした。うまそうな料理を前に、そんな事を気にしては失礼だ。つか、腹が料理を求めているのだ。

 

 玄一郎はまず、スプーンでコーンスープを掬った。口に運び、その味にまず驚く。

 

 記憶にある、コーンスープの味とは違ったからだ。

 

 玄一郎の記憶にあるコーンスープは、スイートコーンを使った、いわゆる甘味の強いものでレトルトや紙パックで市販されているものだ。

 

 しかし、このコーンスープはそういう甘過ぎるコーンスープではなく、甘味があるのに旨味がしっかりと生きていて、かつ、コクとすっきりした後味なのだ。

 

 ごくり。

 

 一口飲み込み、もう一口。

 

 このコーンスープは、市販のものではなく、キチンとここで作られた手作りのコーンスープに他なら無かった。

 

「……うまい。うまいなぁ」

 

 じぃぃん、と感動。涙までこぼれてくるうまさだ。

 

 スープがこうなのだ。では、このガレットと言う料理はどうだろう。前菜と言うが。

 

 ガレット、と言われた料理は、どうもマッシュしたジャガイモと挽き肉を合わせて寄せたもののようだ。いや、キャベツも入っているのか。それにミートソースがかかっている。

 

 どれ……。と、それにフォークを入れる。にちっ、と粘りのあるこの感じはチーズだろうか。

 

 口に頬張り、そこにじわりと挽き肉の旨味、そしてキャベツ、玉ねぎの甘さが広がり、チーズの酸味がそれらをまとめるジャガイモと合わさって程よくしっとりとうまい。

 

(酸味のあるミートソースもさっぱりしてて、めちゃうまい!)

 

 もっとこれ、量があったらなぁ、と物足りなさをも感じさせるうまさだ。

 

 だが、前菜は物足りないぐらいでなければならないものなのである。メインを食ってはならないのだから。

 

 味に満足しつつ、きれいに前菜を平らげて、そしてすぐに間宮本人がライスとステーキを持って来た。

 

 金属の蓋で閉じられたそれは、未だに中でじゅぉぉぉっ!!と音を立てていた。

 

「ソースをおかけします。お気を付け下さいませ」

 

 間宮が蓋を開け、そして、茶色いオニオンソースを容器から掬って、その鉄板へかける。一瞬見えた大きな肉に玄一郎は、おおっ!と声を出してしまって、また間宮に「うふふっ」と笑われてしまった。

 

 じゅわああああああああああっ!!

 

 と熱い鉄板でソースがはぜると同時に間宮は蓋を閉じる。

 

 じゅわわわわわわ……。と、音が止んでいき、そしてまた間宮が蓋。開くと、そこには湯気を立てる大きなステーキがどどん!と現れた。

 

「ほぇぇーっ、すげぇ!うまそう、いやこれはうまいだろ、絶対!」

 

「うふふっ、間宮特製ステーキ。どうぞ召し上がれ?」

 

 囁くような甘い響きの間宮の声。

 

 一瞬、玄一郎はぞくりとした何かを感じて、はっ、とステーキから視線を間宮に移したが、しかしそこにあるのは間宮の柔和そうな笑顔だけである。

 

 いやいや、今は肉なのだ。食事に集中すると決めたのだ。

 

「はい、いただきます!」

 

 ナイフとフォークを両手に持ち、待ちかねたぞと玄一郎は肉に入れた。しゅく、しゅく、と肉はその大きさに反するかのように柔らかく、ナイフを通した。この肉に対してマナーは逆に失礼な気がしてあえて大きく切って、それを口を大きく開けて頬張る。

 

 歯に程よい抵抗。

 

 久方ぶりの肉の歯ごたえ。だがしかし筋という筋がない。硬い筋がこの肉には存在しない。いや、あるのだが、それが気にならず、ちょうどの肉の歯ごたえを生んでいる。きちんと筋を切って、しかし程よく残してある。間宮がきっちりと仕事をしている証左だ。

 

 そして、中から染み出す肉汁。脂の旨味がたっぷりと舌に広がり、ワインの風味とそして肉の血のこのなんとも言えぬ味わい。オニオンソースの甘味とこの酸味は林檎だろうか。それが唾液の分泌を促し、次の一口、次の一口につながる。

 

 付け合わせの人参、ジャガイモ、ズッキーニ、アスパラに加熱されたプチトマトも忘れてはいけない。脇役?いや、今まで出たものを思えばそんなはずはない。

 

 人参のグラッセにフォークを刺して食べてみる。甘い。この人参の甘さはどうだろう。ではアスパラは?おおっ、きっちりとソースに合わせた塩梅。プチトマトを焼いているのは初めて見るが、さて……。うぉっ、この鮮烈な酸味の中にある、トマトの旨味はどうだ。焼いただけでこんなにトマトが上手くなるのか?いや、何か工夫がされてあるに違いない。これはトマト単体のうまさじゃないぞ?!

 

 付け合わせの野菜までもが、最高にうまい。いや、全てが完全に調和して、一つにまとまり、それでいて一つ一つの個性を何一つ損なっては居なかった。

 

 こんなにうまいものがあったのか。いや、もっとあるのだ。ここは間宮食堂だ。ステーキだけじゃない、他にもうまいものが。

 

 玄一郎は驚愕した。間宮の凄さにおどろいた。

 

 確かに玄一郎は今まで肉体を持たず、食事など十数年も食べれなかった。だが、久方ぶりの食事だからうまいと感じたわけではない。確かにかつて人間として生きていた頃に比べると味覚は鋭敏になっている。いや、だからなのか。

 

 そう間宮食堂の食事は並大抵のレストランなどはるかに凌駕したものだと、玄一郎の舌と胃袋は理解してしまった。

 

「はい、食後のコーヒーをお持ちいたしました」

 

 ちょうど良い頃合で出てくるコーヒー。早すぎもせず、遅すぎもしないタイミング。

 

「……間宮さん、あなたは凄い。世界であなたにかなう料理人は、まず居ない。今日、食べれた事を光栄に思う」

 

 間宮は一瞬、きょとした顔をしたが、しかし。

 

 妖しく艶のある、女の顔にそれは変わり。

 

「……提督。あなたが望めば、いつでもどこでも、あなたが望むままに。あなたが間宮を求めるなら……」

 

 薄く赤い唇が、玄一郎の耳に囁く。

 

「妻にして下さいませ?提督」

 

 ぞぞぞぞぞっ!

 

 玄一郎の背中に最大級の、落雷にも似た衝撃が走った。数秒の間、動けずいる玄一郎に、うふふ、と笑い。

 

 間宮は優雅な足取りでまた、厨房へと消えていった。

 

 




 食欲と性欲は共存しない。しかし、食と艶は共存する。

 間宮さんが提督の胃袋を掴みに来てます。ダークホースです。

 なお、パラオの間宮さんは、間宮の中でも料理の腕に秀でた間宮さんであり、本人が本気で来ると、玄一郎の胃袋は掴まれてしまうほどです。魔性の料理人ですなぁ。


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逃げる。

逃げる。逃げる。逃げる。

逃げて、走って、飛んで。

さて、どうなるかねー。


 

 土方は、青葉の号外記事を読んで。

 

「ぶひゃっひゃっひゃっ、だーはははははは、ぶげらぶげら、ぶひゃひゃひゃ!!」

 

 と腹を抱えてめちゃくちゃ笑い、そして酸欠気味になりつつ、「ひーっ、おかし、ひーっ、おかしー!!」とまだ笑っていた。

 

 ここは鉄板焼き屋RJの二階である。

 

「土方さん、そんなに笑わなくても」

 

 沖田はやはり青葉から受け取った号外新聞に目を通して、ぷくくっ、と吹いている。

 

「あんたら、ほんま変わらへんなぁ。あー、ゲシュ提督も災難やわ」

 

 RJがビールを持ってきて言う。

 

「んー、でも問題は人権なんよね。つか戸籍の問題だからね。異世界のスーパーロボットに人権を与えようってのはなかなか。艦娘擁護派も艦娘祭祀派もアイツに関しては特殊過ぎてなかなか動かないのよね。松平元帥も働きかけはしてるんだけどねー」

 

 実際、元上司として土方はかなりその辺で怒っていた。玄一郎はとにかく昔こき使われたと言っているのだが、それもゲシュペンストを軍に必死で認めさせようとしていた側面もあったのである。まぁ、使い減りしないわ無補給で戦えるわ、汎用性高いわで調子に乗って働かせていたのもあるが。

 

「しかし未だに軍の備品扱いで登録されてたというのは知りませんでした。あんまりです!」

 

 沖田は玄一郎の性格と頑張りを知るが故に怒っている。というか、そつなく提督業をこなしている彼が報われないのはあんまりだとも思っていた。

 

 と、二人の隣の席の間仕切りのふすまが開いた。

 

「その辺はもう問題無いぞ、土方、沖田。今回、黒田准将には日本国籍が与えられた」

 

 そこには、大和ラムネの瓶を片手に持った斎藤一夫がいた。

 

「「アーイェェッ?!サイトー=サン?!サイトー=サンナンデェ?!」」

 

「VIPの護衛役として今日赴任してきた。陸軍特務大尉、斎藤だ。まぁ、今は憲兵ではない。そう怖がるな」

 

「そうそう、私もいるのですよ?」

 

 鳳翔も、その隣にいた。

 

「「アーイェェ?!ホーショー=サン?!ホーショーサンもナンデェ?!」」

 

「お前らが悪巧みをしている時は必ずここの二階だからな。昔のように現れてみたまでだ。懐かしいだろう?」

 

 実は斎藤夫妻は、龍驤に話を通してスタンバイしていたのである。なお、昔、この店が居酒屋鳳翔だった頃は鳳翔に頼んでやっていたわけである。

 

 陸軍の依頼を何故断らずに鳳翔が聞いていたのか、と言うとやはり、斎藤狙いだったからなのだが、自分の上司である土方や沖田を売っても男を獲ようとする鳳翔さん。怖いわー、めっちゃ怖いわー。

 

「し、心臓に悪い!!つか、ほんとなんで?!」

 

「輸送機で来た。VIPの護衛だ。さっきも言った」

 

 チャリンコで来た、と言うようにさらりと言う辺り、もう斎藤は壊れかけている。疲労のせいだろう。きっと。

 

「あと、ゲシュ君にも辞令と見舞いの品を松平元帥から預かって来たんですよ?」

 

「……つか、さっき黒田『准将』って?」

 

「そうだ。つまり昇進だな。人化したので国にも無理矢理ねじ込んで戸籍もスピード認定させる事に成功したんだそうだ。つまり、ケッコンカッコカリも問題無く出来る。さらに結婚(ガチ)も出来る。……元気があれば、出来る出来る何でも出来る、子供だって出来る、出来る、出来る……(ブツブツブツブツ)」

 

 あ、壊れた。

 

「……えと、その、なんか変になってない?その、大丈夫?斎藤さん?」

 

「夫は最近いろいろと疲れが溜まっておりますから」

 

 さらりと疲労の原因(夜戦)の元凶はおほほ、と笑いつつ言った。やっぱ怖いわー、鳳翔さん怖いわー。

 

「絞り取り過ぎや、鳳翔。というか死相出掛かっとるでこれ」

 

 龍驤が鳳翔にツッコむ。さすが関西まな板、恐れを知らぬ。まぁ、ある意味長い付き合いの気安さではあるのだろう。

 

「新婚、ですし?」

 

「いや、何年たっとんねん。仲ええのんはええけどな。資源は大切に、や。生きとったら一生使えんねんで?」

 

「……俺は資源なのか?」

 

 斎藤がげっそりとしながら頭をうなだれさせた。愛とはなんだろう、とかブツブツまた言い出す。

 

「……ええと、まぁ、がんば?」

 

「負けるなー?がんばれー?くじけるなー?」

 

 沖田と土方はやる気なさげに応援するが、まぁそんなもの届きはしない。

 

「まぁ、夜のスペシャルお好み焼き焼いたるから、それ食べて精をせいぜいつけや?精だけに」

 

「……お下品。で、夜のスペシャルお好み焼きの具は?」

 

「レバーペースト、牡蠣、ニラ、ニンニク、筋煮込み、玉ねぎやな。なんならコブラ酒もつけるで?」

 

「……俺は酒は飲めねぇんだ」

 

「そーか?」

 

「まぁ、それはともかく、ゲー君、昇格して戸籍認められたって?」

 

「はい、松平元帥は、とにかくパラオには練度99の艦娘が多く在籍しているにも関わらず『結魂』艦がいないのを懸念なさってまして。今のままでは『陰極の気』を押さえられなくなると……」

 

 『結魂』とは、魂を結んで絆を深める事に他ならない。陽極と陰極を結ぶ事でお互いを補完しつつ、力を高め合い、さらには安定に導く事を指す。

 

 陰陽思想によくある概念であり、この場合、男は陽極、女が陰極に当たる。

 

 艦娘においては、全員が女の姿と性質を持ち、ともすれば陰極に傾きやすく、故に無念の想いや怨みを持って轟沈すれば『深海棲艦化』してしまいやすいのである。

 

 その陰極に対する存在に『提督』によって中和するのが現在の艦娘基地構想の骨子なのであるが、この『提督』をシステムに当てはめても『練度』の高い艦娘、すなわち顕現化して年数が長いかったり、戦闘経験を積んだ艦娘達は往々にして陰気を溜め込み、その陰極の力は押さえきれなくなるのである。

 

 たしかに『練度』は艦娘の強さの指標ではあるが、もう一つの側面としてはその霊力の強さも指し示すのである。霊力が高いという事はすなわち、その持つ属性の気が高いと言うことでもある。

 

 陰極の気が高い事は、すなわち様々な悪影響も出るということなのである。

 

 例を上げれば扶桑がまず筆頭に上げられるだろう。

 

 まず秘書艦としたならば艦娘建造で有り得ない現象を引き起こす。その霊力を込めた砲弾は重装甲かつグラビティフィールドを展開したゲシュペンストの装甲すらも貫通するほどの威力を発揮し、艦装無しで300キログラム以上のゲシュペンストを引っ張り上げる力を出せる。さらに、彼女の精神にもやはりそれは影響を与えており、昔の彼女では考えられないほどに怒りや嫉妬心を表に出しやすくなっているのである。

 

 さらに次の例を上げるならば、比叡もそうであろう。

 

 彼女は望まぬケッコンカッコカリと形だけの結婚(ガチ)をさせられ、女として否定された関係を強要された艦娘といえる。彼女の形だけの夫は『ホモ』であり『女性嫌悪症』を持つ『ガチムチ変態男』であったのだ。

 

 故に『結魂』も全く無く、怨念を溜め込むだけ溜め込んでおり、精神にトラウマを抱えたままである。故に通常ならば離婚(ガチ)をしたならば戻るはずの練度が戻らず、かなり危険な状態にある。

 

 そのような危険な艦娘達は他にもいる。

 

 天龍、龍田などは暗殺という目的に使われていたせいで、殺した者達の怨念を取り込んでいるし、夕立、時雨は壊滅した仲間達の無念を取り込み、精神的に変調をきたしている。

 

 足柄は男日照りで少し荒れているし、愛宕などは母性が強すぎて何かを甘やかしたくて仕方なくなっているし、瑞鳳などは玉子焼きを誰かに食わせたくて仕方ない。赤城はとにかく食事に固執、加賀はツンデレ演歌歌手としてデビューしつつあるし、もう大なり小なりとにかく、大きな異常現象が起こるのも時間の問題ともいえる。パラオ泊地はかなりの危険な状態にあるのだ。

 

「それに、ゲシュ君の問題もあるのです。彼は、肉体が無いままに陽の気を溜めすぎたのです。戦うたびにそれは大きくなっているのです。彼の兵器を使うときの破壊の言霊。これが彼の闘争本能を増大させて、荒ぶる魂へと変わりつつある。彼自身、鎮めねばなりませんが、幸いな事に今は肉体が出来た状態です。故に、急がなければなりません」

 

「……つまり、童貞を早いとこ捨てさせねーとヤベーのよな」

 

「……あの童貞がそないに易々と応じるやろかなぁ。あれ、とことん拗らせとるで?早いとこなんとかせなあかんのやろけどな」

 

「つまり、童貞こじらせて新世界の王とか童帝とかそういう感じになるわけですね?」

 

「魔法使いとか賢者とか通り越してそれですか」

 

「俺は童貞だぁぁぁ!とかアイツ言いそうだからな。いや、もう言ってるかもしれん。で、チェストーーーとかデカい敵に示現流やらかすんだ、これが」

 

「それは、恋人が殺された主人公のアニメじゃないですか。出来ればゲシュ君には、こう……ラブラブ天驚拳とか出すようなエンディングでこう、幸せになって欲しいのですが」

 

「……あの、なんの話をしてんの?」

 

「いえ、彼がその『結魂』しないと大変な事になりかねないというお話ですね」

 

「……なんや、もうカオスやなぁ。とりあえず、ウチ下に下りとるで。注文はタッチパネルな?」

 

「回転寿司屋みたい」

 

「うっさいわ!ベル鳴らして一々御用聞きやったら疲れんねん!足短いねん、階段辛いねん!」

 

 切実な店側の問題であった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 その頃、玄一郎は追われていた。

 

「アオバワレェーーーーっ!!」

 

 と叫びながら、いつかアイツクレーンに全裸で縛って吊す!!その前にケツをバシバシしばいてやる、パンツ脱がしてなぁぁっ!!とか思っていた。

 

 追いかけているのは足柄、その両隣には夕立と時雨である。

 

 飢えた狼と猟犬の三匹は即興とも思えぬほどの連携で玄一郎を追い詰めつつある。

 

「右っ!回り込んで牽制!左っ、夕立、直進!そのままっ!」

 

 指示する足柄はまさに歴戦の艦娘である。それは玄一郎の行動を読み切り、確実に逃げ場を潰している。砲撃自体は無い。基地内での御法度なのである。

 

 事の発端は、玄一郎が間宮食堂を出てから起こった。偶然、出入り口で足柄とばったり遭遇した事からだ。

 

 店に入ろうとする足柄に呼び止められて、そこで普通に対処したはずだった。

 

「あら、あなた、どこかで見た気がするわね?」

 

 と言われて、玄一郎は単に

 

「いやぁ、どこにでもいるような顔ですから」

 

 と答えただけなのである。だが、さらに事態は深刻に悪化した。夕立と時雨が

 

「「あーっ!提督の中身っ(ぽい)!!」」

 

 と、叫んだからだ。その手には青葉の発行している新聞の号外。そこにデカデカと玄一郎が伊良湖ベーカリーでブルーノ隊長と写っている写真が乗っていたのだ。

 

 すぐさま玄一郎は走って逃げた。

 

 そう、なんか夕立と時雨がそういった時、足柄の雰囲気が変わって、そう、獲物を見つけた狼のような目をしたからである。

 

 そして、現在に至る。

 

「俺が何をしたーーーっ!!」

 

「ええい、とまりなさいな!!」

 

「たぁぁぁっ!!」

 

「ぽいぃーっ!!」

 

(やべぇ、この先は行き止まりだ。くっ、ならばっ!)

 

 倉庫の路地の行き止まりに追い込まれる玄一郎。これが常人ならば、行き場は無い。

 

「追い詰めたわっ、おとなしくなさいな!!」

 

 足柄がそう言った瞬間、玄一郎は路地の壁の側面へと走った勢いのまま飛んだ。

 

 そして壁に足が着くと同時に反対側の壁へとジャンプ、そしてそれを繰り返して倉庫の屋根へと飛び乗った。

 

「せいやぁあああっ!!」

 

 気分はまるでパルクール、アサシンでクリードな感じである。強化人間の身体能力はそんな事も朝飯前でやってのけた。

 

「ふははははは、さーらーばーだーーーっ!!」

 

 捨て台詞を残して、そのまま倉庫の屋根を伝って、走り去る!!

 

 と、思ったら何か手裏剣が飛んで来た。

 

 クナイという形の両刃のダガーのようなそれの柄を掴み、他のクナイを弾き飛ばし、腹の辺りに向かう殺気に、後ろに飛びつつ、掴んだクナイでそれを受け止めた。

 

 ガキーン!と金属の響くような鋭い音が響いた。

 

 クナイの主は川内。腹に切りかかったのは神通であった。

 

「やるじゃん『提督』!」

 

「さすがです『提督』」

 

 二人は『提督』と言っているのになんかやたらと好戦的な目をして……いや、何かそれよりもっとおかしい、お前らなんか変なモンでも食べたか?というような目、すなわちハートみたいなそんなエフェクトがかかったような目だった。

 

「あの、提督ってわかってんのになんで攻撃してくんの?君たち」

 

「んー?夜戦?」

 

「提督に勝って、さらなる高みへ登る為です!そう、ケッコン艦に、なって提督のお側に!」

 

「…………」

 

 玄一郎は絶句した。

 

 ナニコレ?ナニ?コイツらの頭ん中どうしたの?ナニカされたの?ワケワカンネェ。

 

「夜っ戦~、夜っ戦~、夜戦が終わっても、『夜戦』してよ?約束よ?」

 

「提督にあの時託された『五郎入道正宗』。この刀の意味をずっと考えていました。そして今夜、やっとわかったのです!提督は、この刀に相応しい女になったときに、私を娶るつもりなのだと!!ですから、勝負です!!」

 

「夜戦~夜戦~、はっじめての~夜戦~。優しくしてね?」 

 

「……夜戦バカと剣術バカが変なので、那珂ちゃんのファン辞めます」

 

 もうやだ、と玄一郎は思い、そしてクナイを握りしめつつ、ため息を盛大に吐いた。

 

 ナニコレ?艦これ?

 

 玄一郎の明日はどっちだ!?

 

 

 




 足柄さんと夕立と時雨。

 川内神通組。

 夜は狩りの時間です。


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逃げて突っ込んで。

 今宵の斬艦刀は、泣いている。

 アオバのバラスト水漏れ。

 高雄・愛宕組の……。

 なお、エロ?そんなものR15には出ない。


  バカには良い意味のバカと悪い意味のバカがいるのである。

 

 その道一筋に貫き通すバカ。職人バカとか空手バカとかは良い意味で使われる。だが、悪い意味のバカは単なるバカだ。

 

 だが、こいつらは迷惑なバカだ!!

 

 玄一郎はそう思った。

 

 コールゲシュペンストをしても、ゲシュペンストは応じない。おそらく、扶桑姉妹に足止めを食らっているのだろう。もしくは、他の艦娘に脅されているか何かだ。

 

 武器は先ほど掴み取ったクナイのみ。そして川内、神通はかなりの手練れで徒手空拳ではいかに強化人間とはいえかなり苦労するだろう。

 

 というか、倉庫の下から『ハシゴ持って来て、早く!!』という足柄の声がする。あの3人まで参戦して来たらもう勝ち目は無い。

 

 じり、じり、と『五郎入道正宗』を構えつつ摺り足で間合いを詰める神通と、そして昔に『武蔵の深海棲艦』に投げて壊れたスラッシュリッパーの刃を明石が加工した小太刀を構える川内。

 

 くそっ、戦闘能力を上げられるからとやるんじゃ無かった!!と二人の装備している武器を見ながら後悔した。

 

(俺の身体じゃデカすぎるが、アレを呼ぶしかあるまい)

 

「我が魂の剣っ、来たれっ!斬艦刀よっ」

 

 ごぉぉぉぉぉっ!!

 

 空から巨大な剣が、ブースターを噴かして玄一郎のところまでやってきた。

 

 零式斬艦刀である。この零式斬艦刀にはパーソナルトルーパー用のブースターがあちこちに取り付けられており、ハンガーから射出させる事が可能なのである。

 

「おおっ、すごい!!」

 

「本気の提督と戦えるのですね?!」

 

 川内と神通が斬艦刀のその大きさに驚きの声をあげた。

 

 玄一郎は零式斬艦刀を掴み、天にそれを掲げるようにして言った。

 

「斬艦刀っ!!……上に参りまーす」

 

 バシュゴォォォォッ!!

 

 そのまま、斬艦刀を空に向けてブースターを噴かせた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

 玄一郎は天高く斬艦刀のブースターで飛び、その場から逃げた。その様はあたかも宇宙ロケットの打ち上げの如し。

 

「戦略的撤退っ!!」

 

 斬艦刀の製作に携わったリシュウ・トウゴウやゼンガーの大将が見たら嘆くような使い方である。斬艦刀至上、最低で最も情けない使われ方に違いあるまい。

 

「活人剣とは、戦わずして華咲す剣なり!!ふはははははは!!」

 

 ただ逃げるだけでは格好つかないと思ったのかそんな事を即興で言う。活人剣なんぞ今まで一言も言ったことないのに。

 

 その下では川内がやたらと「やーせんーっ!!やーせんーっ!!」と地団駄を踏み、神通が呆然とした感じで「活人剣、華咲かす剣。くっ、完敗です。心の修練が足りませんでした……」と、勘違いをしていた。

 

 キラーン!!

 

 そうして、玄一郎はお空の星となったとさ。笑顔で大空にキメッ!!……いや、そうなると話が続かない。

 

 そう、玄一郎の目指す先は一つである。

 

 玄一郎は空中で斬艦刀の向きを変えると、すぐさま艦娘寮のうち、重巡寮の方へとブースターを噴かして突進して行った。

 

 目指すは、青葉の部屋である。

 

「この騒ぎの元凶に、お仕置きをせんとなぁっ!!」

 

 玄一郎は器用に空中で斬艦刀の上に、サーフィンボードのような感じで乗ると、叫んだ。

 

「パラオ泊地提督指導要綱・第13っ!!『一撃必殺』っ!!」

 

 どごぉーーーーん!!

 

 ブースターを噴かせてそのまま玄一郎は青葉の部屋の窓へと突っ込んだ。

 

 

【青葉の部屋】

 

 

「ふう、今日の号外は大反響でしたねー。まぁ、あれほどのスクープでしたから、それもそのはず!ふふっ、我ながら良い仕事をしたものです!」

 

 青葉はホクホク顔をして缶ビールをクピリ、と一口。

 

 とても良い気分だった。今まで誰もそんなに注目してくれなかった自分の新聞があれほどまでに飛ぶように売れたのだ。いや、稼ぎとか、そんな事ではない。この誰もが読んでくれるという充実感、それが彼女の心を満たしていた。

 

 そして次の新聞の構想を考える。

 

 おそらく次は誰もが考えるだろう、提督とのケッコンカッコカリ、だろう。残念ながらその相手はもうわかりきっている。

 

「んー、扶桑さん、ですかねぇ」

 

 だが、それではつまらなさすぎる。誰もが予想できる事など、スクープでもなんでもない。

 

「そうですねぇ。足柄さんとかをけしかけて……」

 

 青葉がそう考えた時。

 

「パラオ提督戦闘指導要綱第13っ!!『一撃必殺』っ!!」

 

 そう叫びながら、サーフボードに乗るような感じで零式斬艦刀に乗った玄一郎が、部屋に突っ込んできたのである。

 

 お前はどこのバーチャルなロンだよ?!と突っ込む奴はいない。この世界では誰も知らないからだ。それに玄一郎は生身であり、窓から突っ込んだせいで頭やら足やらに割れたガラスの破片が刺さっており、血がそこから出ている。それが青葉の恐怖心を煽った。

 

「ひぃぃぃっ!!」

 

「窓の外からこんばんはっ!提督さんだよ?」

 

 ゴーヤのセリフをパクリつつ。

 

 ゆらりっ。

 

 玄一郎は立ち上がり、斬艦刀をひろった。そしてそれを肩に担ぐと青葉の方へ足を引きずるように向かっていく。

 

 ずるっ、ずるっ、ずるっ。

 

 どうやら生身でのブルースライダー(通称サーフィンラム)はかなり自分にもダメージがあり、それが堪えたようである。さらに刺さったガラス片も痛いようである。

 

 だが、玄一郎はそれでも青葉へと向かう。その様はあたかも青葉から見ればゾンビか何かの怪物のように見えた。

 

 ぺたん、と青葉はそのあまりの恐怖から立っていられなくなり床にへたりこむと、「イヤッ、いーやあああああっ!来ないでぇぇぇ!!」と叫んだ。

 

 ガシッ。

 

「そういうなよ、特ダネがほぉら、君の部屋までやってきたよ?くくくくくく」

 

 玄一郎が青葉の肩を掴んだ。その瞬間、

 

 じょおおおおおおおおおっ……

 

 失禁……いや、バラスト水が青葉の股間から排水された。恐怖のあまり、放出してしまったようだ。

 

「どわっ?!」

 

 思わず手を離してその場を飛び退く。まさか失……いや、バラスト水放出をするなんて思わなかったからだ。

 

「ふぇぇっ、ふえぇぇぇぇん、やだぁ、やだぁっ」

 

 泣きじゃくり、失……バラスト水を漏らした青葉の姿見て、玄一郎の怒りは失せ、しかしその代わりになんというかかなり慌てた。

 

「あ、いや、青葉、あの、すまん、ここまでやるつもりは……」

 

「えぐっ、えぐっ、ふぇぇぇぇ、殺さないでぇぇっ、うぇーーーーん!!」

 

「青葉っ!!一体何があったの?!敵襲?!」

 

 騒ぎの音を聞きつけて、重巡寮の住人、つまり重巡の艦娘達がバタバタバタバタと駆けつけて来た。

 

 加古や鳥海、古鷹、摩耶達が金属バットや釘バット、木刀など、思い思いの獲物を持って玄一郎を取り囲む。

 

 寮長の愛宕が玄一郎を見て言った。

 

「確保ぉぉっ!!」

 

「ガデッサーーーッ!!」

 

 ワラワラワラワラ、と玄一郎に重巡達は群がり、そして確保されてしまったのであった。

 

「いーやぁーーーっ!!」

 

 

 

【高雄の部屋】

 

 

「で、提督さんはぁ、青葉のあの号外に怒って、青葉の部屋に突撃したのねぇ?」

 

 ゆるふわなおねぇさん的な柔らかい口調で愛宕はいう。

 

「あっ、動かないで、ガラス抜くから」

 

 高雄と愛宕は玄一郎を椅子に座らせ、刺さったガラスを抜いたり、重巡達に釘バットなどでボコボコにされた傷を手当てしながら事の経緯を聞いていた。

 

「レイプとか、そう言うんじゃ無かったのね?」

 

 前から足に刺さっているガラス片を抜きつつ、愛宕がいう。

 

「俺を何だと思ってんだよ。いちっ、痛てぇ」

 

 後ろから頭に刺さったガラス片を抜きつつ

 

「こんな大きい破片刺さってるんだもの。傷もこんなに」

 

 高雄が言いつつ「あ、釘も刺さってる」とそれも抜いていく。摩耶が持ってた釘バットのものだろう。というかよく生きてたものである。

 

 

「つか、傷の大半、あいつ等が釘バットやらで殴ったせいだろが」

 

「仕方ないでしょう、あんな非常織な襲撃じみたことやったら、敵と間違えられても仕方なかったところよ。それでなくても厳戒態勢下なのよ?砲撃されないだけましよっと。うーん、やっぱりTシャツ脱がさないとダメだわ。ガラス片だらけだわ。愛宕、そっちはどう?」

 

「そうねぇ。太ももにも刺さってたし、他にもありそう。ズボンもちょっと脱がないと無理ねぇ」

 

 二人は素早く動いた。

 

「愛宕、掃除機持ってきて。ガラスとか吸いながらやるから。そう、こっちにノズル向けて?うん、行くわよ。提督、ほら万歳して。Tシャツ脱がすわよ?」

 

 高雄はそうろっと、Tシャツに手をかけた。愛宕が掃除機の先を向け、ガラス片を吸いながらよいしょっと玄一郎を脱がせた。

 

「あらっ、良い身体してるじゃない。うふふっ」

 

 愛宕がそのまま身体に付着するガラス片を掃除機で吸い「次はズボンねぇ。高雄、掃除機お願いね?」と高雄にノズルを渡した。

 

 刺さっていた大きい破片はズボンの上から取ったのだが、まだいくつか刺さっていたようだ。愛宕が脱がす時にチクチクして玄一郎は痛みで顔をしかめた。

 

「ちょっとお尻上げてねぇ?よいしょっ」

 

 ズルリっ。

 

「わおっ!」

 

 愛宕が歓声を上げた。

 

 ぽろり。

 

 ズボンと共に、パンツまで下ろされてしまった。

 

「どわぁぁぁぁっ?!いや、わおっ!じゃなくてパンツっ!!パンツ戻してっ!!」

 

「ん~、高雄、ちょっとこれ……可愛いわね?」

 

「……あの、愛宕……そ、そう?その……大きいような……こほん。早くしまいなさい!」

 

「はいはい、よいしょっと。んー大丈夫よぉ、問題ないわぁ、うふふふっ」

 

 ナニが問題無いと言うのか。というか愛宕の可愛いと言うのと、高雄の言う大きいというのと、女性から見て自分のはサイズ的にどうなんだろう、とか思うも、しかし初めて女性に見られたことに羞恥心がわく。

 

「ううっ、この身体が出来てから、誰にも見られたこと無いのにっ、うううっ」

 

 さめざめと玄一郎は泣いた。

 

「はいはい、泣かない泣かない。でも意外ね?扶桑さんと、まだシてないの?」

 

「我がパラオ泊地は『ホワイト』をモットーに『清く正しく美しい泊地』をスローガンとし、ブラック鎮守府撲滅運動を展開しております。故に、そのような行為を提督自らやらかす事は出来んのでありますっ!!」

 

 ズビシッ!!

 

 建て前である。

 

 ロボットの身体を十何年も使い続けた結果、人間の身体に戻って嬉しい反面、戸惑いつつ、さらに豹変というのか過激になったというのか、好きな女性が肉食の本能剥き出しにしてきて怖くなった、というのが本音である。

 

 なにしろ、玄一郎は恋愛経験なんて皆無な童貞野郎なのだから、その辺まーったく、どうして良いかわかんないのだ!!と、ぶっちゃけておこう。

 

 そんな野郎がケッコンカッコカリ、とか結婚(ガチ)とかいきなり言われても、段階すっとばして未知の世界、あなたの知らない世界的に怪奇なのであった。

 

「……ん~、愛の行いにホワイトもブラックも無いと思うんだけどなぁ~。あ、まだ刺さってた」

 

「そうね、心が大事だと思うわ。それに、ずっと共に寄り添って生きていくなら、それも大事って『舞鶴鎮守府』の私達も言ってましたわ、っと腕にもこんなのが」

 

「……わかっちゃいるんだけどね」

 

 わからない奴ほどそう言うものである。

 

「ん~、動脈外れてるけど、けっこう深いとこまで刺さってるわぁ。ここだといくつか縫わないといけないかも」

 

「え?そんなに深かった?」

 

「超強化ガラスぶちやぶったら、そうなるわよ。駆逐艦の砲も通さないのよ?寮のガラスって」

 

「知らんかった。つか、応接室のガラスは普通のだったのに?」

 

「寝てる間に建造されたての駆逐艦がね、寝ぼけて撃っちゃう事があったのよ」

 

「さて、全部破片はとれたわ。じゃあ入渠にいくわよぉ?ほら提督」

 

「え?え?俺、人間……」

 

「組織閉鎖を自動的にやる人間なんていないわ。普通の人間なら、ガラス片を引き抜いたら血が吹き出て血みどろよ。この身体は艦娘と同じだわ。入渠で修復可能なはず」

 

「……うーむ、そういや艦娘の建造方法を参考にしたとか相棒が言ってたなぁ」

 

「早く治さないと明日出撃でしょ?お仕事に響くのはよくないわぁ。それに身体も汚れてるから、お風呂入らなきゃ」

 

 がしっ。がしっ、と両腕を高雄と愛宕に掴まれた。

 

「え?え?いや、入渠に行くのは一人で行けるんだけど?あれ?おい……」

 

「ん~?そうかしらぁ。どうかしらぁ?」

 

「まぁ、なにかしら、いろいろかしら?」

 

「いや、答えになってない!つか、離してくれ、っていーやぁーーーっ!!」

 

 ズルズルズルズル。

 

 玄一郎は引きずられ、逃げられないままに重巡寮の入渠施設へと連行されたのだった。

 

 




 アオバの恥ずかしい所を見ちゃった提督。

 高雄さんと愛宕さん、手当てをきっちりする事ですっかり主人公を安心させておいた上での、風呂攻撃。知能犯ですな。

 童貞野郎の貞操の行方はいかに?!(だいたいは予想通り)

 次回、泡のお風呂はバブ○スターでまた合おう!(嘘)
 

 


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ぶーらぶら、ぱおーん。

すげぇなぁ。R-15の限界水準とっくに越えてるからな。

いえ、表現ぼかしてるから、大丈夫だと思うのですが、いやこれヤベェヨ?と思った方は報告などせずに、そっとじで。オーケー?

なお、今日も提督は童貞です。




 更衣室。

 

 女風呂の、更衣室。そう、ぢぉしこぉいしつ。

 

 湿気とともに女の子の匂いが漂う。こんな状況でなければ、玄一郎もどきどきわくわくしただろう。

 

 コーヒー牛乳とかアイスの自動販売機があったり、ロッカーが木の鍵の刺さった古臭いものだったりと、銭湯っぽい感じであり、さらには番台のようなカウンターがあったり、ドラム式洗濯機が並んでたり、いやもうこれ銭湯やがな、である。

 

 玄一郎は今、男には前人未踏の重巡寮の中にある入渠施設の更衣室にいた。

 

 高雄と愛宕に連れてこられたのだが、もうとっくにガラスが刺さったり傷だらけになった身体は自然治癒してしまっているので入渠は必要ないと言っても許してくれないのである。というか、今、彼の最後の砦であるパンツをがっちりと愛宕につかまれており「暴れたりするとぉ、これ、簡単に破けちゃうかもねぇ?」と脅されており、動けない。

 

「くっ、優しく手当てをしてくれたのに、何故だ。何故入渠させようとするんだ。つかもう傷治ってるしっ!」

 

「ん~、お風呂は命の洗濯よぉ?あとぉ、サービスサービスぅ?」

 

 いや、そのセリフはあんたのと違うがな。というか何のサービスなのだ。

 

 玄一郎も隙をみて逃げようと思ってはいるものの、愛宕もこちらの考えはお見通しのようで全く隙を見せない。斬艦刀を呼ぼうにもブースターを使いすぎてガス欠になってしまって動かない。ゲシュペンストも全く応答しないし、ハンガーから玄一郎が呼べる装備はあれしかないのだ。

 

 いっそパンツを見捨てて、ゼンラー(全裸+er)な感じで逃げるか?ゼンガー、ゼンラー、ゼンゲスト、などと思ったが、そんなことを考えるたびに愛宕は掴んだ玄一郎のパンツをぐいっと強い力で上に引き上げて阻止するのである。パンツごと身体を持ち上げられるとさすがに脱出出来ない。

 

 というかケツにパンツが食い込んで『はおっ?!』となる。

 

 高雄は風呂にあるカウンターのロッカーから木の立て看板を幾つか出してきて、風呂の入口に立てていた。

 

 その立て看板には『修復材タンク交換中』とか『清掃作業中』とか書かれてある。つまり、他の誰かが入って来るのを阻止するためである。

 

「これでオーケーよ、愛宕。じゃあ入渠作業に入りましょうか」

 

「そうねぇ、では、ぱんぱかぱーん!」

 

 ずりっ!

 

 愛宕は玄一郎のパンツを勢いよく摺り下げた。だが、玄一郎は愛宕がパンツを脱がしにかかることをすでに予測していた。狙い通りだったのだ。

 

 とうっ!と下げられたのと同時につま先でジャンプし、そのまま逃走しようとした。

 

「たった一枚のパンツを捨てて、生まれたままの全裸な身体! 俺が逃げねば誰が逃げるっ!」

 

「しまった!!」

 

 高雄と愛宕が玄一郎に手を伸ばすが、届かない。玄一郎は脅威的な身体能力で脱衣所の出口の廊下まで飛んでいた。

 

 だが、世の中というのは無情である。

 

 一度あることは二度あるのだ。

 

 そう、間宮食堂の出入り口でばったり遭遇したのは誰であったか。そして脱衣所の出入り口でも、玄一郎は彼女と遭遇した。

 

 ジャンプの着地点スレスレ、至近距離に足柄ねぇさん。

 

 玄一郎は身体を捻ってなんとか着地点をずらそうとしたが、足柄の動きの方が早かった。

 

 足柄の目がキラーン!と光ったかと思うと、足柄も飛んだ。

 

 空中でがしっ!!と玄一郎の身体を肩に担ぎ、そして着地と同時にその落下の衝撃を与える。

 

「足柄ファイヤーマンズキャリーボムッ!!」

 

 ズドン!!

 

「ぐえぇぇっ?!」

 

 そして、足柄は続けて倒れ込むようにそのまま頭から床に叩きつけた。

 

「かーらのぉーっ!!足柄エメラルドフロウジョン!!」

 

 ズダーン!!

 

 それは、プロレスリング・ノアの故三沢光晴の技、変則エメラルドフロウジョンであった。

 

 高雄も足柄も「おおーっ!」と感嘆の声を上げてしまうような程に流れるような連続技である。

 

「ぐぅぅっ、足柄ねぇさん、シドイ……」

 

 ガッ!!

 

「やぁっと捕まえたわよ、ゲシュ君?」

 

 立ち上がった足柄は起きあがろうとする玄一郎の腹を足で踏みつけた。

 

 髪を片手でかき上げ、にんまりと笑う。

 

「で、なんでおねぇさんから逃げたのかしら?」

 

「いや、なんで追いかけたのかしら?」

 

「逃げるからよ」

 

「俺のゴーストが囁いたのさ。逃げろってな」

 

 ぐりっ!足柄が玄一郎を踏みつけた。

 

 「ぐえぇぇっ?!」

 

「……失礼ね。昔はあんなにねぇさんねぇさんと慕ってくれていたゲシュ君に避けられて逃げられて、おねぇさんとぉっても悲しいわ。ああ、ぐりぐりぐりぐり」

 

 足柄はそういいつつ、靴の踵で玄一郎の腹をぐりぐり踏みつけた。

 

「ぐぇぇぇっ?!」

 

 確かに足柄は面倒見が良く、後輩や新入りの面倒を率先して見るような性格である。土方にはめられて日本海軍に入らざるを得ない状況に叩き込まれたゲシュペンスト(玄一郎)の面倒も足柄はよく見ていたが、ねぇさんねぇさんと慕ったような覚えは無い。

 

 というか、足柄ねぇさんと呼べと言ったのは足柄であり、さらにもっと言えば、確かに玄一郎は足柄に対してはいろいろと恩もあり親しくはあるが、足柄は玄一郎の実の姉に正確がよく似ており、その辺で玄一郎は足柄を避けていた。

 

 そう、酒に酔っ払って管まく辺りとか。いい男がいないと荒れる辺りとか、その辺で。

 

「で、風呂で何を……って、あら?高雄に愛宕?」

 

 ようやく足柄は高雄と愛宕に気づいて、ははーん、と何があったのかを理解した。

 

 浴場の入り口の『修復材タンク交換』、『現在清掃作業中』の立て看板。そして脱衣所にいる二人。さらには全裸で逃げようとする玄一郎。

 

「なかなか、やってくれるわね?高雄型のお二人さん。提督とお風呂って訳?」

 

「足柄さんはこんな所で何を?お風呂は今は開いてませんよ?」

 

「というかぁ、提督さんは踏みつけるもんじゃ無いわぁ?」

 

 二対一の重巡三人が睨み合う。

 

 そこへ、玄一郎の襲撃を受けて部屋を壊滅状態にされ、バラスト水を漏らしてしまった青葉を連れて加古と羽黒がやってきた。どうやら二人は青葉を風呂に入れようと連れてきたようだ。

 

「にやり、勝機!羽黒ーっ!!あんたも手伝いなさいな!!妙高型の力を高雄型に見せつけるのよ!!」

 

「え?ねぇさん?……え?」

 

 羽黒は自分の姉が踏みつけているものを見た。正確には、踏みつけているもののナニを。

 

 それはナニというにはあまりにも大きすぎた。大きく 分厚く、重く、そして大雑把過ぎた。それは 正に肉の棒だった。

 

「いっ、いっ、いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 羽黒は叫んだ。

 

 そう、足柄に腹を踏まれたせいで何故か起き上がってしまって、何かとんでもない状態になっていたのである。別にMに目覚めた訳ではない。腹を踏まれて圧迫され、膀胱が刺激されたための反射的な、その、ぞうさんのパオーンな現象であった。

 

 きゅう、ぱたん。

 

 乙女が見るには、いささか酷なシロモノを見たせいで羽黒は気絶して倒れた。

 

 そして、青葉もそれの勇ましさに、きゅうう、と小さく言ってやはり気絶して倒れた。

 

 思えばおそらく今夜一番の不幸な艦娘は青葉かも知れない。自業自得とは言え、部屋をぶち壊されてさらには失……バラスト水を漏らした所を見られ、さらにはアレなナニを目撃してしまったのである。アオバアワレェ。

 

 そして、加古は。

 

 立ちながら寝ていた。いや、気絶したとかではなく、素で。加古にはよくある事である。というか最初から寝ながら歩いていたのである。

 

「え?」

 

 単艦不利な状況である。しかし何故三人(一人は居眠りだが)が気絶したのか足柄にはわからなかった。

 

 足柄はぶっ倒れた妹が何を見て気絶したの?と、その見ていた所に目を向けた。

 

「…………」

 

 ぞうさん、ぞうさん、お鼻が長いのね。あと何かしら太い。もっきりぱおぉん。

 

「おーっほっほ、ほうら、見た?提督は私の女の魅力でこうなったのよ!私の勝利ね!!」

 

 いや、だから膀胱を刺激されたせいです。

 

「くっ、まさか提督がそんな性癖だったなんて!!」

 

「いえ、まだよ!提督はおっぱいが好きだものぉっ!!」

 

 いや、確かに好きかも知れないけれど、本人の前で言わないでくれ。というかバレてる?!

 

「あの、すまんけど、何か着る物を……。というかなんでお前ら皆して俺を襲うんだ?!」

 

「「「結婚するのに既成事実作りたいから(よぉ?)(です)よっ!!」」」

 

「けっ、結婚はなぁ、幸せで、幸せで、幸せの絶頂の時にするもんで……」

 

「じゃあ幸せにしてよ!というか今シろ、すぐシろ、とっととしろっ!!行き遅れとか、嫁に行って欲しい艦娘ナンバーワンとか、オバサン扱いされてもう20年。建造されて仕事に生きて必死に戦って、気がつきゃ、最初の礼号組のみんなは全員結婚して引退、新しい子に入れ替わって二回目、練度は99になって、三人目の大淀から結婚式の招待状が届いて、もう私ダメって礼号組抜けて、他の鎮守府に移籍届出したら女の提督んところ!次に移籍届出してもまた女提督っ!!最後がここで、やっと巡って来たチャンスなのっ!!というか、ロボットじゃなきゃいいのにって思ってたあんたが、人間になったのは神様が私の願いを聞き入れたって事なのよっ!!」

 

 だーーーーーっと足柄は一息でまくしたてた。

 

 ぜーはーぜーはーと肩で息をしている。

 

 高雄と愛宕の目に、同情の眼差しと涙が浮かんでいた。

 

「わかる、わかるわぁ。私も、そうなのよぉ。近藤大将の所で建造されて、ダブって他の鎮守府に回されて、相手がロリコン提督でぇ……。移籍届出したら次は小さいおっぱいの子しか認めない貧乳好き提督でぇ、ううっ、最後がここよぉ。確かに土方中将はいい提督だったけど、私はノーマルだものぉ……わかる、わかるのよその気持ちぃ」

 

「……私も愛宕と似たようなものよ。百合な女提督に男性恐怖症の女提督に、ホモな男提督、渡り歩いて最後がここで、諦めてた。土方の次はロボットで、もう実際、退職までちょっと考えてたの」

 

……パラオ泊地がワケアリ泊地と言われる所以だよなぁ、と玄一郎は他人事のように思いつつ、じゃあなんで前任の明石(アマンダ)みたいに基地に出入りしている業者の男性とか鳳翔みたいに憲兵とかと結婚しようと思わないんだ?とか疑問に思った。

 

「……戦う為に産まれたんだものっ!!女の身体を得たんだものっ!!ずっと支えたいんだものっ!!」

 

(支える、というよりは倒されて踏みつけられてんですけど、俺)

 

 足柄の足の重圧が緩んだ。うん、今なら行ける!

 

 玄一郎は足柄の足首を素早く手で持つとそのまま身体を回転させて足柄を転ばせ、そして遠心力で転んだ足柄の上半身、頭を床で打たないようにもう片方の腕で抱え込むようにその肩を支えて立ち上がった。

 

 傍目から見れば、女性を抱きかかえているような体勢になった。

 

「足柄ねぇさん、大丈夫さ。あんたは美人だしな?優しいのも知ってる。人の為に骨折って損ばかりしてんのも知ってる。でも、それはいい女の証明だぜ?」

 

「えっ……」

 

 そして、足柄を立たせて、高雄と愛宕に目を向け、

 

「高雄、愛宕。手当てありがとう。うん、いつも小さい子等をちゃんと見ててくれて助かってる。あと、いつも苦労かけてる。感謝してる。あと、おっぱい大好きだ」

 

「ええっ?」

 

「まぁっ!」

 

「そうこれは愛、だと思うよ。うん。そしてね……」

 

 玄一郎はニッコリとイイ笑顔をして。

 

「油断したなっ!!そう、逃げりゃああああああああっ!!」

 

 ダッシュでおもきしその場から逃げた。

 

「わーははははははは!!ふりぃだーーーーむっ!!何人たりとも俺の自由は奪えねぇーーーーーっ!!」

 

 廊下から、寮の住人達の悲鳴があちこちから聞こえてきた。

 

「キャーーーーーっ!!」

 

「何?!変態っ?!」

 

「イヤーーーっ!!来ないでぇっ?!」

 

「どわーーーっ?!テメッ、なんだ?!」

 

 それもそうだろう。何せ、全裸でぞうさんぶらんぶらんさせた男が笑いながら走って来るのだ。騒ぎにならない方がおかしい。

 

 玄一郎はヤケクソで笑って走った。笑うしかなかった。涙が出た。

 

「わーははははははは、ぶーらぶらぁっ!!」

 

 もう、提督人生終わったな、とか思った。

 




全裸提督。

書いてて涙が出た。というか、もうなにがなんだか。

苦労してきた艦娘の最後の楽園、それがパラオ泊地。そして変態もいるよ?(不可抗力)。


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逃亡をダイジェストで。

To LOVEる?いいえ暴動です。

何気に青葉ルートも同時攻略中。

暗躍する扶桑金剛同盟(策略プロデュース金剛)。

金剛さんは尽くす女デスヨ?

 

 


 深夜零時を回り、散々な目にあった玄一郎は、ようやく執務室に帰りついた。

 

 何があったのかをダイジェストで書くと。

 

 重巡寮から全裸で脱出した玄一郎は、途中、一階のバルコニーに干してある重巡のものと思しき半ズボン(洗濯したばかりなのかそれは濡れていたが、背に腹は変えられぬ)をゲットし、それを履いて逃げていたら、天龍と龍田に「『提督っ!俺はお前が好きだっ!刀もらったとかそんなんじゃねぇ。ずっと見てきた!!愛してるっ!!』と告白されたり。『お嫁さんにしない提督はぁ、もれなく首が無くなっちゃいます~?』とか言われ、脅された。え?おまえらそうなん?!さらにそこへ突っ込んできた夕立と時雨に追いかけられ、頭撫で撫で攻撃でなんとか鎮めて駆逐艦寮へと帰し、隠れねばと忍び込んだ資材倉庫で赤城と加賀に見つかって(何でそんなところにいたんだろう?)空母組に追いかけられ、急いで海の中へ飛び込んでそれをかわしたら、足をイムヤやゴーヤ達に掴まれて溺れさせられかけ、伊勢と日向に助けてもらって「まぁ、そうなるな」と言われ、岸まで上がったら待ちかまえていたドイツ艦娘にフォルクスワーゲンで追いかけられ、その先で武蔵に捕まり、肉弾戦を仕掛けられそうになったが、フットワークでなんとかかわして逃げて、如月にあって、如月が匿ってくれると言うので信じてついて行ったら如月が色気たっぷりなかんじで服を脱いで『みてみて~、この輝く肌。あはっ、もっと近くで見てよ』などと裸で迫って来たので提督チョップ(やや辛バージョン)をかまして気絶させてあとは寮の廊下を歩いていた吹雪にまかせて、また逃げたら妙高と那智に捕まり『足柄を嫁にもらってやって下さい!!お願いします!!』と土下座された。姉妹にそこまで言われる足柄ねぇさんェ。そして、また武蔵が上半身裸で突っ込んできたのだが大和がきてくれて、なんとか説得して止めてくれて、さらに長門と陸奥、何故か間宮さん達が駆けつけて、他の追ってきた艦娘達を沈静化してくれた。俺は一時間正座で説教を食らう羽目にはなったものの、なんとか帰ってこれたのだった。

 

 大和や長門、陸奥にも助けられたが、暴動(?)鎮圧の決め手は間宮さんの『これ以上暴れるなら、間宮食堂出入り禁止にしますよ?』だった。間宮さんの料理に胃袋掴まれた艦娘達は従うしかなかったようだ。

 

 しかし、この四人もなんというか……。

 

「早く身を固めないからこういう事になる……私と陸奥ならいつでも準備は出来ているぞ。待っている」←長門。

 

「ん~、火遊びはだめだけど、本気ならいいわよ?」←陸奥。

 

「大和は、いつまでも待ってます。提督、ご検討下さい」←大和。

 

「また、お食事に来て下さいね。その時は大事なお話しましょう?……うふふっ」←間宮

 

 非常に危険な気がする。なんとなく君達もですか、つかなんかもうナンダカナー。

 

 しかし、金剛型はそういえば全く姿を見なかった。

 

(まぁ、あの金剛だし、俺はヒョッコ扱いだし。それに比叡は男嫌いだし、榛名も霧島も良い子だしな)

 

「お帰りなさい、玄一郎さん」

 

「お帰り、提督」

 

 自室には、やはり扶桑姉妹が待っていた。

 

 ネグリジェ姿で。とんでもなくエロい姿で。

 

 いや、それだけではない。いつの間にかベッドのサイズが大きくなっている。自室の大半がベッドに占領されている。というか。

 

「お、俺のベッドどこぉぉぉ?!」

 

 叫ぶ玄一郎にさらに這い寄る四人の影。

 

「へーい!提督ぅ、お邪魔シテルネー!」

 

「……気合いっ入れてっ!婚活っ!しますっ!!」

 

「はっ、榛名は(夜戦も)大丈夫です!」

 

「てっ、提督っ、その、マイクチェックワンツーっ、ふつつかものでしゅっ(緊張で噛んだ)……。よろしくお願いします!」

 

 そう、みんな、まるで示し合わせたかのように、セクシーなネグリジェというのかベビードールというのか、スケスケな、そんなのを着て、一様にセクシーだった。

 

 めちゃくちゃきれいでエロチック、だがしかし。

 

 玄一郎は、くるりと回れ右をして、また逃げた。

 

「明日へ向かって(いろんな意味で後ろ向きに)ダッシュさっ!!」

 

 なお、執務室のゲシュペンストの装甲の一部が拳の形に凹んでいたのは何故なんだろうな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 あの後、安全であろう明石(練度90)の所へとにげこんで、結局は工廠の片隅にずっと隠れてタオルケットにくるまりながら震えて夜を明かした玄一郎である。

 

 朝の光を浴びて、よくよく見てみれば半ズボンだと思っていたのは青葉のもので、考えなくても青葉がバラスト水を漏らした時のものだ。洗濯した後のものだから当然綺麗になっているのだが。

 

 まぁ、嫌とかそんなことはなく、むしろ玄一郎は悪いことしたなぁ、と思った。なぜならば、現在玄一郎はパンツを履いていない。つまり、ナッシングパンツでじかに履いているのである。

 

(後で洗濯してこっそり返しておこう)

 

 と工廠の廊下の自販機の缶コーヒーを飲みながら玄一郎は思った。

 

 朝になったからと言って執務室に帰る気にはならなかった玄一郎は、明石にタンクトップだけ借りてこそこそと泊地から出て街へと向かった。いろいろと独りで考えたかった。あと、今は艦娘達のいる基地内にいるのは危険だと思ったのである。

 

 折しもパラオの季節は夏。海の近くだからタンクトップに半ズボン的な格好は割とよく見る格好である。青葉の半ズボンみたいなののサイズも割と余裕があり、青葉のケツは結構大きいんだなぁ、とか一瞬思ってやはり穏便な方法で接近して、お尻ぺんぺんに持って行った方がよかったよなぁ、つか寮の修理とか弁償とか俺が出さにゃならんのかなぁ、とか思いつつ。まぁ、んなことはどうでもいいか、と頭の中から流す。

 

 とはいえ、いつまでもこの格好でいるというのは問題があるだろう。

 

 街の、朝から開いている作業服屋を見つけてTシャツとトランクスとカーゴパンツを選んだが、会計の際に財布は愛宕に脱がされたズボンの後ろポケットだと気づき、慌ててゲシュペンストを呼んだ。

 

 朝になったからなのか、ゲシュペンストはとっとと来やがった。高雄と愛宕の所から財布を回収して来たらしく、玄一郎の財布を持って。

 

 ゲシュペンストの装甲はあちこちボコボコになっていた。

 

「お前なぁ……いや、お前も大変だったんだな」

 

 胸部装甲が拳の形に凹み、腕の装甲などが削れており、玄一郎は昨晩相棒の身に何があったのか悟った。

 

 玄一郎を襲って来た艦娘達以外に、数人の艦娘達が執務室に押しかけて来て、ゲシュペンストの中から玄一郎を叩き出そうとしたらしい。

 

 中身はいないとハッチを開けて証明するまでそれは収まらなかったようだ。

 

〔……殴られて胸部装甲が凹むのは二度目だが、まさか艦娘の方の武蔵にまで凹まされるとはな〕

 

 胸部装甲をやったのは武蔵らしい。

 

 かつてのトラウマが刺激された。しかし扶桑が秘書艦の時に例の勝手に建造機が動く現象で造られた武蔵とはいえ、そこまでのパワーがあるとは。大和型二番艦恐るべし。とはいえ一番艦の大和があのように落ち着いた性格であり、武蔵を説得して抑えてくれたのはありがたかったが。

 

「俺達に安息の地は無いのか……」

 

〔お前が、あの内の誰かと結ばれればそれですむ問題ではないのか?私などはいいとばっちりだ〕

 

「……部屋に帰ったらどうせ扶桑姉妹がいるだろうから、話をしようと思ったんだ。でも、まさか金剛姉妹までがいるなんて思って無かった。というか、なんでだよ……」

 

 玄一郎としては、まず、扶桑に伝えたかったのだ。

 

『俺と付き合って下さい!!』と。

 

 普通の恋愛プロセスを経て真面目に付き合って、それから自分達の未来をしっかりと決めていこう、と思っていたのだ。

 

 それに山城が絡んで来るのは予想していたし、それも含めて前向きにちゃんと交際をしたいと思っていた。

 

 だが金剛四姉妹の登場で度肝を抜かれて、話どころかもう、逃げてしまっていた。予想の遥か向こう側、しかもみんなあんなエッチぃ格好で、もう玄一郎の頭は処理能力の限界に達していたのだ。

 

 そう、十数年振りに見る扶桑と山城のおっぱいは変わらず美しかった。姉妹揃って薄い桜色の先っ穂。あの当時の感動よりも遥かに、心臓はこの身体に確かにあるのだと、ドキドキ脈動して存在を主張し感動が沸き起こった。

 

 さらに初めて見る、金剛の胸。比叡の胸。榛名の胸。霧島の胸。

 

 姉妹みんな、ああっ。みんな同じ艦装を着てみんな良く似ているとか思っていたが、体型、胸の大きさ、ウェスト、どれも違う。一つの集団で見ていたが、一人一人、彼女達もあんなに美しかったのか、と玄一郎は思う。いつもガチャガチャしている金剛四姉妹を知るが故に、あんな艶のある、なんとも言えないあの姿……。

 

(いかんいかん、だめだだめだ)

 

 しかし、あの扶桑が何故に金剛達を引き入れたのだろう。霧島に土方中将の護衛任務を命令したときにはあれほど金剛四姉妹に苛立ち、それを隠そうともしなかったのに、だ。

 

 和解するほどの何かがあったのだろうか。

 

〔どうやら扶桑姉妹と金剛姉妹はお互いに対立するよりも共存する道を模索したらしい。それぞれの持っている問題や苦悩を話しあっていたからな〕

 

「……例えば?」

 

〔本人達に聞け。人のプライバシーを軽々しく言うことは出来ない。それにあの金剛達も、ただ者ではない。特に金剛と比叡は、私にとって扶桑姉妹級に危険だと判断した〕

 

 ゲシュペンストが言うならばそれは確かなのだろう。すなわち金剛と比叡もゲシュペンストの装甲を貫けるほどの力を持っていると言うことだ。

 

「……ちゃんと話をするような状況に落ち着くかな?これ」

 

〔落ち着くには、おそらく受け入れる姿勢だけでも相手に見せねばならんだろう。まずは長門達幹部にも相談するのが良いだろうが……。幹部の中にも襲撃者がいたとは〕

 

 ゲシュペンストはううむ、と唸った。

 

「天龍と龍田まで襲って来たからな。川内と神通ならまだわかるけど、アイツらまでああなるとはなぁ」

 

〔艦娘達の結婚願望、いや、この現象はなんなのだろうな。私には理解出来ない。それだけのストレスがあったのだろうか?異常に思える〕

 

「……ま、考えても仕方ないぜ。とりあえずは飯だ。朝飯食わなきゃ。出撃予定時間までまだあるからな。それまでに治せそうか?」

 

〔まもなく修復完了する〕

 

「それは重畳」

 

 二人は今回の『事件』の話を切り上げて並んで街を歩いた。よく考えればこうやって相棒同士で歩くのはこれが初めてであり、たまには良いか、と二人は思った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて。本日は扶桑の秘書艦割り当て週の終了日である。本来なら、練度を上げるために新造艦を秘書艦とし、そのサポートとして扶桑や他の秘書艦に割り当てされている艦娘達が着くことになっているのだが、厳戒態勢下ではそれも制限される。

 

 また、次の週の秘書艦を勤めるはずだった神通が提督を襲撃したために、謹慎処分を言い渡され、さらにその次の秘書艦を勤めるはずの足柄も謹慎処分、さらに次に勤めるはずのビスマルクも謹慎処分、そのまた次、次、と謹慎処分の山で、一周回って再び扶桑、という事態となったのである。

 

 とは言え、現状況では出撃要員やサポート要員に余裕があるわけでもなく、とりあえずば今は軽い罰のみで戦闘部隊に皆割り振られ、謹慎は厳戒態勢が解かれてから行われる事になったのだが。

 

 金剛は提督室で扶桑とにこりと笑いあう。

 

 この流れは二人の読み通りであった。そしてこれでお互いの目的の為に動きやすくなったわけである。

 

 そう、二人は同盟を結び、そして一つの目的の為に現在動いている真っ最中である。

 

 扶桑にこの同盟を結ぼうと話を持ちかけたのは金剛であった。それは玄一郎の事を思うが故である。

 

 とっくに金剛型四姉妹は提督を廻る恋の戦いに破れている事を、他でもない金剛はよく理解していた。それは、海千山千の最古の金剛であっても覆せないほど、と。

 

 提督と扶桑姉妹の付き合いの長さや絆の強さ、魂の繋がりはそれほどまでも強い。悔しいかな敵わない。

 

 だが、それでも金剛山は構わなかった。提督を支える事が出来ればそれで良かったのである。彼女の思慕は献身に繋がった。

 

 まだ経験浅い、しかし有望な玄一郎を育て成長させそれを支える役目に彼女は徹した。ヒヨッコ扱いしていたのも、まだ足りない部分を自覚させる為であった。

 

 金剛は常に、玄一郎の様々な事を裏でサポートして来た。例えば艦娘達との関係を上手く円滑に進むようにしてきたのは金剛が裏で各艦娘達と作ったコネクションを利用しての事だったし、さらに戦術や戦略面でも彼にヒントを出して自発的に気づくようにサポートしてその成長を促してきたのも彼女である。同じ戦場に出て指揮の補佐をしたことなど何度でもある。

 

 そうして金剛は昼行灯な役割も行いつつ、いざという時に頼りになる目上の女性というスタンスで玄一郎の信頼とそして絆を育んできたのである。

 

 たとえ玄一郎が機械の身体であっても、彼女は彼を支えたいと思ってずっとその役割を担い、扶桑姉妹の手前、耐えていたのである。そう、それは彼への愛情無くしては出来ぬことだった。

 

 さらに、姉妹達の事もある。

 

 比叡や榛名、そして霧島。この三人が玄一郎に惹かれていることも金剛は痛いほどによくわかっていた。

 

 愛する姉妹のその思いもなんとかしてやりたかった。

 

 だが、そんな時にいきなりのゲシュペンスト提督の人間化である。

 

 これは泊地の統治そのものを揺るがしかねない事件だった。どの艦娘達も提督という存在への思いが強く、暴動に発展するのは目に見えていた。

 

 それは一歩間違えれば泊地そのものが壊滅するほどの事態にも発展しかねず、今回はなんとか収まったが、次はどうなるかわからない。さらに今は厳戒態勢下、戦闘状態なのである。敵は今までのマヨイやハグレではない。戦術を以て戦うような勢力で、抜け目のない戦い方をしてくるような深海のテロリストなのである。そのような事で敵に揚げ足を取られ、玄一郎が敗北するなど、考えたくもなかった。

 

 故に金剛は玄一郎の為に、それを納める手段の為に動いた。

 

 その為にはあえてコンタクトをとっていなかった扶桑姉妹に会って、全てをさらけ出し、現在巻き起こっているこの問題全ての解決方法を話しあい、共同協定を結び、そして。

 

 第一夫人に扶桑、第二に山城、第三に間宮……と、第20夫人までとりあえず選定する事を決めたのである。玄一郎の意思などまーったく聞かずに裏で。

 

 さて、ここでおかしいと思われるかも知れないのは、何故第三夫人が金剛ではないのか?と言うことである。

 

 金剛の目的は自分達の私利私欲を満たす事ではなく、愛する玄一郎の泊地統治にとって必要な事をする、それだけなのである。故に今回のこの騒動沈静化に最も有効な駒を第三夫人に配置する事でそれを為そうとしているのである。

 

 間宮は表にほとんど出てこないが、あの鳳翔も敵わぬほどの影の実力者である。全ての艦娘、いや、泊地の全ての者の胃袋を掴み、その匙加減一つで戦況を変えてしまう力を持っているのである。それも武力に依らず、料理の力で、である。

 

 力で抑えつければ反発を生むだろうが、誰もが抗えぬ間宮食堂の力を取り込む。幸いな事に間宮は玄一郎をとても気に入り、そして求婚すらもしているのだ。

 

 間宮自ら求婚をするなど、日本海軍初どころでは無い。間宮という艦娘はどの記録にも結婚艦は存在しておらず、もっと言うならばパラオの間宮は、大本営のお偉方どころか日本の首相すらもクビにしてしまえるほどに影響力を持つ『最古の間宮』なのである。

 

 この駒と言うには大過ぎる、最終兵器級の艦娘が玄一郎の元に来るならばもはや勝ったも同然。さらに間宮本人にこのオファーを裏で取ったところ、彼女は『何番でも構いません。あの方の為に食事を作らせていただけ、それをあの方に食べていただけるのなら』と快諾した。

 

「さて……では、大和さん、長門さん達にも根回ししましょうか?」

 

「そうネェ、あとは五十鈴は抑えたいネェー。出世艦はダテじゃないデースしネェ?乗り気かどうかはわかんない子デスが、大和を推したのはあの子デスし?」

 

「……まるゆちゃんも欲しいかも……」

 

「というかマダ不幸だとでも?」

 

「……可愛いから」

 

「ワカルマスけどねー。今は主要艦、ヨ?とりあえず、今晩は山城と二人で提督と話あうデス。きっと向こうカラ話を持ち出すカラ、まずは艦娘達に人間の姿になったコトとケッコンカッコカリする予定だけでも発表させるように話をつけるデス。それで一時でも事態沈静化させないとネー。早くしないと今の戦況下では危険デースカラね!」

 

 そんな感じで、嫁候補を選出している二人の企み(?)を玄一郎は全く知らなかったのだった。

 

 

  

 

 




 紅茶昼行灯・楽隠居?とんでもありません。主人公は常に見守られて成長させられてきたのですよ。

 間宮さんは本当は怖い。

 赤城・加賀は資材置き場で何をしていたんだろう。

 長門型もそうなんか。

 つか、武蔵は……。

 


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モテる提督(童貞)のテイクオフ。

帰ってない提督。

おっぱいに罪は無い。

夕張もラブ勢だったのか。

バカテイクオフ。




 結局、玄一郎とゲシュペンストは執務室に帰ることなく、武器ハンガーで武装の選択をしつつ、作戦の確認をしていた。

 

 当然、泊地は提督不在になるわけなので、土方と沖田に連絡を入れて、提督代理を依頼する。

 

 秘書艦は引き続き今週も扶桑が勤めることになった。秘書艦は交代制なのだが、昨晩の提督襲撃事件で次の秘書艦の神通、そのまた次の秘書艦の足柄、さらにそのまた次の秘書艦なビスマルクなどが長門に謹慎を言い渡されたせいで、他に秘書艦を勤められる艦娘がいないという事らしい。

 

 ただし、今週は扶桑は戦艦達の指導教官としての任務もあり(パラオ泊地では扶桑の超超距離射撃を訓練の中に組み込んでいる)、その間は金剛がサポートするという話である。

 

 金剛が動いている事に、玄一郎は危機感を覚えた。

 

 金剛が動く時には必ず何かしら理由があるのだ。何時でも、今までも、おそらく今回も。

 

 ただ、予想はつく。この厳戒態勢にあってあの騒ぎを問題視しているのだ。厳戒態勢を敷いていない以前の平和だったパラオ泊地だったならば金剛も目を瞑っていただろう。もしくは面白がって妹達をけしかけて来たかも知れない。だが、敵がいつ攻めてくるかわからないような状況であのような浮ついた騒ぎ……玄一郎に取っては命の危険さえ感じたが……を起こしたならば、敵にそこを突かれかねないのだ。

 

 故に金剛は自ら出張って来たのだろう。

 

 そして、昨晩のあれは……。

 

 扶桑が純白のネグリジェ。山城が紅のネグリジェ。金剛が黄色、比叡が緑、榛名が橙、霧島が黒。

 

 いや、そっちを思い出してどうする。いや、それじゃない。

 

 ネグリジェの色とかは関係ない。

 

 金剛達が来たのは警告だったのだと玄一郎は察していた。

 

 もうケッコンカッコカリをせねば収まらないという通告でもあり、事態を納めろ、と言っているのだ。

 

(……もしかすると、金剛さんも、いや、どうだろうなぁ。海千山千のあの人がなぁ。いやいや、しかし冗談でも今まであんな事を金剛はしたことは無い。むむむむ、それに妹達まで巻き込むような事は絶対しなかったし、何かよほどの事が無ければたとえ金剛が言ったからといって、あの真面目な霧島がエッチい格好するわけ無いし)

 

 頼れる年上のお茶目な女性、と言うのが玄一郎の金剛への認識だったのである。また、その妹達にしても比叡は提督という人種全てを嫌っているし、榛名は義理堅い。それに霧島は理性的で常識的な性格をしている、と認識していたのである。

 

 それがネグリジェ。スケスケのえっちいネグリジェ。金剛のおぱーいは思ったより大きく、比叡はスレンダーだがおぱーいの形が良く、榛名はちょっとむっちり、霧島は一番おっぱい大きくてさらにむっちり。

 

 たーまりまへんなぁ、ぐへへへへ。

 

 いや、だからそっちではなく、もっと真剣に考えろ主人公っ!!

 

 げふんげふん。

 

 とにかく。とりあえず帰ったら扶桑姉妹と出来れば金剛四姉妹と話をせねばならん、と玄一郎は思いつつ、ライフルを手に取った。

 

 今回は廃墟になった建物内での戦闘もありうり、場合によっては玄一郎がゲシュペンストから降りてその中に侵入せねばならないかも知れないのだ。

 

 故に今回、玄一郎も白兵戦用の武器を身につけていた。リヴォルヴァーキャノンを縮小したサイズのハンドガンに、M-950アサルトマシンガン、流体オリハルコンで巨大化する参式斬艦刀。ハンドグレネードに閃光弾、チャフグレネード。どれもゲシュペンスト謹製の深海棲艦に効く武装である。それに対弾対刃繊維と装甲を付けたパイロットスーツも着込んでいるカラーはゲシュペンストに合わせて黒に赤いラインが入っている。

 

 ゲシュペンストも『鬼姫級』の集積地棲姫を倒したという未知の深海棲艦を警戒してか、わざわざ外部追加装甲を付けて、さらに両肩にビームカノンを付け、最初から光学ステルス迷彩であるプリズムファントムを装備するという念の入りようである。さらに零式斬艦刀、グラビティブラストカノン、ドリルブーストナックル、もはや基地どころか島を全て破壊出来るほどの装備である。

 

 おそらく『武蔵の深海棲艦』もしくはそれに匹敵する個体ではないかと推測しているのだろう。

 

 とにかく重武装ゴテゴテで固めている。

 

 玄一郎も、どれだけあの『武蔵』を怖がってんだよ、とは言わない。玄一郎もあの『武蔵』の恐ろしさは身を以て体験しているのだ。

 

〔準備は万端だ。たとえアレであっても今回は滅ぼしきれる装備だ。足りなければまた造る〕

 

「ああ、正直出てきて欲しくはねーけどな」

 

 そう言いつつ、パラオ泊地の武蔵に追いかけられた時の事を思い出す。おっぱいデカかった、とか思うが、怖かった。うん、おっぱいデカかった。

 

〔出撃前だ。真面目やれ〕

 

「……おっぱいに罪はない、ぞ?」

 

〔お前は罪だらけだ相棒。ハレンチな行為と言動を改めろ〕

 

 ガシン、ガシン、とフル装備のゲシュペンストがカタパルトへと進む。

 

 そう、後は出撃するだけだ。

 

 玄一郎はオペレータールームの明石に無線を繋いだ。

 

「明石、偵察ドローンの様子は?何か動きはあったか?」

 

「ここ何日か、占拠している深海棲艦の動きが活発になっています。特に警備をしている個体達が計画を強めているようです。何かを探しているのか、それとも……」

 

「襲撃を警戒している、とは考えられないか?」

 

「いえ、そうではなく、逃亡者とか探索のような動きです」

 

「……ふむ、何かわかったら報告してくれ。で、集積地棲姫は?」

 

「もう来てます。何でも聞いてくれ、との事です」

 

 集積地棲姫は今回の作戦に非常に協力的であった。というか負傷の手当ての後に食事を出したら非常にその食事を気に入ったらしく『もう、僕、ココの子ニナル!』などと言い出した程に従順になっていた。

 

『本拠地?モウイラナーイ。解放サレタラ、資材全部ココにモッテクル!!パラオに集積地ツクル!パラオに資材マタ集メる!!提督にもアゲルヨ!!』

 

 と、非常に返答に困る事を言い出し、玄一郎を困惑せしめた。

 

 松平元帥に報告したところ彼女を『鬼姫級の新たな協力者』とし、とにかく優遇しろと言われた。そのうち集積地棲姫は新たな『同盟深海棲艦認定』され『深海五大艦』は『深海六大艦』に呼称改名となる可能性もあるとも。

 

 まぁ、本拠地を要らないという陸上型深海棲艦というのは普通は考えられないのだが、そういえば……。

 

『ポートワインよりモ、居心地ガ良イイ。提督の拠点だカラカ……』

 

 と胸のおっきな陸上型深海棲艦が言い。

 

『間宮のパフェ、オイシイ!好キ!!ココの子にナル!』

 

 とちみっこな陸上型深海棲艦が言いっていたとかなんとか。

 

 頭が痛くなる。が、仕事なのである。

 

「悲しいけど、これ、仕事なのよね」

 

〔管理職は辛いな。近頃は私が処理しているが〕

 

「……その節はすまねぇなぁ」

 

〔いや問題無い。とにかくお前は人間としての『生(せい)』を満喫しろ。なによりそれが大事なのだ。機体に縛られた私と違って、お前は幸せになるのだ〕

 

「……ゲシュペンスト、お前たまになんか変な事を言うな?機体に縛られた、ってお前……?」

 

〔……私はゲシュペンストの自我の一つになっている。また機会があれば話そう相棒。さて行こう。ミッションスタートまであと5分だ〕

 

「わかった相棒。後で話そうぜ。俺達に隠し事は無しだ」

 

〔……ああ、相棒。また話そう。今は任務に集中だ〕

 

「了解だ」

 

 デケテケンデケテケン、と無線のアラームが鳴った。この音は夕張のいるカタパルト管制室の無線着信音だ。

 

『こちらカタパルト管制の夕張。昨晩はすんごいお祭りだったね?提督』

 

『ああ、山羊追い祭り提督版だな。生け贄はもうコリゴリだ』

 

『あーあ、私もやりたかったなぁ。イージス艦の基盤やら何やら解析してて出遅れた~!』

 

『……なお、あの騒ぎで長門達から謹慎やら減俸やら言い渡された連中続出。情緒酌量の余地ありって嘆願したが、ウチの艦娘指導部は厳しいねぇ。お前も減俸されてーのか?』

 

『そりは嫌だな~。ん~、そうねぇ私の部屋の鍵、渡しとこうか?」

 

「悪いな、俺、童貞なんだ」

 

『……童貞って?童貞ってな~にぃ?』

 

「お、俺は童貞だっ!!」

 

『……知ってたけど。ん~、ここに処女が一人いまーす!誰の事でしょう!正解したらなんと処女プレゼント!さぁ、奮ってお答え下さい!!』

 

「答えねぇからな?!あと、ツッコミも無しな?!」

 

『えー?突っ込まないとせっく「そぉぉい!!言うなはしたないっ!!」』

 

『……提督、それに夕張。下品な会話は帰って来てからどうぞ。ミッションスタートの時間よ。というか私の隣で長門さんが睨んでるから』

 

『戦略室顧問、長門だ。提督、今回のミッションは『集積地棲姫の拠点奪還と鹵獲されたアメリカのイージス艦二隻の捜索だ。かなり難易度の高いミッションとなる。危険も非常に予想される。……無事、帰還される事を祈っているぞ。なお、帰還した暁には私も部屋の鍵を渡そうでは無いか。いつでも来てくれ。以上だ』

 

「……なお、提督は自分の部屋以外の部屋の鍵の受け取りは禁止されております。パラオ泊地治安部憲兵隊の規定により……」

 

『そんな規定は無い。調べた』

 

『無いわね。今見た』

 

「カタパルトワイヤー接続良し。さぁ、任務だ。行くぞ。夕張、カウントダウン頼む。あー、仕事仕事っと」

 

『……誤魔化しましたね?提督』

 

「何を言っている。今は任務中だ。私語は許されない。君達も職務に勤めたまえ」

 

『……しょうがないなぁ。帰って来たらそこんとこちゃんとしてよね。じゃ、発射シークエンス開始っ!』

 

「悪いな、帰ったら予定はもう決まってんだ。大事な野暮用って奴がな。死亡フラグは立てねぇけどな」

 

『んもう!リニア起動!!浮遊確認。ブースター点火どうぞ!』

 

「ブースター始動。点火。ワイヤー牽引開始」

 

『ブースターとの同期を開始。ブースター30%まで噴射、リニア回転開始。秒読みまで30、ブースターの噴射を合わせて下さい。35、40、50、60

……』

 

「ブースター最大出力!」

 

『確認!逃げたら追っかけっからね!!』

 

「じゃあ隠れるっ!!」

 

『んもうっ、意地悪っ!!リニア射出、3、2、1、ボンバーーーーーっ!!」

 

 ドゴーーーーーーーーン!!

 

「わーははははははははは、ワシはいぢわるナノじゃーーー!!」

 

 ドップラー効果利かせて、玄一郎は叫びながらはるか彼方へと飛んで言った。

 

 




 さらりと処女発言な夕張さん。

 というよりゲシュちゃんの自我って……。

 長門さんの部屋の予想が、つかない。


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マシンソウル・むちぷりボディ、だが嘔吐する。

 カルディア・バシリッサをレオタード着た、少し成長した不知火と呼ぶのはやめてっ!←をい。

 二人並べると姉妹に何となく見えた気がしてならない。

 私はチリビーンズは嫌いではない、と初めに言っておきます。ただ、レーションのはちょっとね?

 


 ワ級の頭の出っ歯なマスクを被ったアーマーにレオタードな怪人が一人。

 

 元集積地棲姫の拠点にあるドックのコンテナ内に隠れていた。

 

 このコンテナには何故か大量のチリビーンズと書かれたレーションがあり、やたら不味いそれを食べながらその怪人はうーむ、と唸った。

 

 彼女の名はカルディア・バシリッサという。形式番号W-06。とある世界で二回ほど自爆したりした経験を持つ白兵戦用アンドロイドである。

 

 このドックには旧世代の技術で作られた軍艦とおぼしき船が停泊しており、カルディアはそれを奪ってこの島から脱出しようと思っていた。なにしろ彼女は地上型の白兵戦用アンドロイドなのである。空を飛ぶことも海を進むことも出来ないのである。

 

「……不味い。辛い。臭い」

 

 そう言いつつチリビーンズを食している。

 

 彼女はアンドロイドであり食事を必要しないはずなのだが、何故か彼女は空腹を覚え、レーションを食べているのである。なお、他の種類のレーションは無いのだろうか、と思って探したがこのチリビーンズ以外のレーションは無かった。

 

 空腹でいるか、不味くても腹を満たすかの二者択一を迫られた彼女は、食べる方を選んだのである。

 

 サバイバルの基本は食べる事だと某蛇な兵隊さんも言ってた。不味くても腹はなんとか満たされる。栄養も取れる。しかし不味い。

 

「……もぐもぐもぐもぐ」

 

 ちなみに何故彼女がワ級の頭部を被っているのかと言えば、敵に化けているつもりなのである、だがそれで騙されてくれるような敵はいなかったので逃げてコンテナに潜んでいるのである。

 

 なお、このワ級のマスクは洗って干してあったのを拝借したものである(驚愕!なんと、ワ級のあれはマスクで取り外し可能だったのだ!!マジかよ)。

 

「……何故ばれたのだろう。完璧だと思ったが」

 

 いや、それはない、とツッコミを入れたいところである。なにやらポンコツ臭がするような気もしないではない。

 

「しかし、何故食事をとりたくなる?何故食事が出来るのだ?というか何故胃袋がある?それに何故アーマーがパージ……脱げるのだ?まるでこれは……」

 

 彼女は自分の身体の変化に戸惑っていた。搭載されたレーダーやセンサーなどに異常は無い。搭載された武装も問題無く使える。戦闘も問題ない。だが、問題は。

 

「人間になってしまったようではないか」

 

 そう、身体がどう考えても人間になっていた。手の動脈にはたしかに脈がある。心臓もどくんどくんと拍動しているし、腹が減ってぐうぅぅっ、と腹の虫が鳴いた時にはかなり驚いた。

 

 まさかと思ってアーマーの、開いたデザインのお腹の所、つまり、レオタード状になっている部分の布地を引っ張ってみた。

 

 ……下に人間の身体があった。今まで自分の服というかコスチュームというか、その布地を引っ張るなど出来なかったし、その下にボディというか人間のなんというか、裸というか、身体などなかったのにあった。身体があった。まさか脱げないよな?などと思って脱いでみたら、完全に脱げてしまった。

 

 すっぽんぽんに、である。

 

 これには驚愕した。

 

 これが私か?!などと思い、自分の胸とか腹とか尻とか触ったりさすったり揉んだり、もみもみしてみて「あん♡」とか声が出て急に恥ずかしくなり、赤面してまた服を着て咳払い。誰も見てないよな?とキョロキョロするがここはコンテナの中であり、誰も居ないからここに隠れているのである。一人で良かった、とか思ってホッとしたりなんだり。情緒不安定なお年頃(?)である。

 

 とにかく、彼女が人間の身体になっているのは間違い無かった。少なくとも生身の肉体に間違いない。

 

 だが、不可解なのは、人間の肉体になってしまっていたのに戦闘能力やセンサー、レーダー、暗視機能が正常に機能している点である。スザクブレードもピアレスアックスも正常に作動していた。カルディアの内蔵バッテリーからエネルギーを供給されていないにも関わらず、さらにエネルギーを使っている形跡も無いのに作動し、敵を切り裂いていたのだ。さらにはスラッシュリッパーの操作すら、演算を使わずに考えるだけで自由自在に動かせるこの謎。

 

 彼女は苦悩しつつ、仕方なくレーションに手を出す。食べる事で無意識的にこのストレスを解消しようとしているのである。現実逃避、とも言うが。

 

「不味い、臭い、辛い、もう一箱」

 

 だが、これではストレスは解消されそうにない。うまい物は知らないがこれが不味いのはよくわかる(5個目)。

 

「……むむむ、これが不味いという味覚か。ならばうまいというのはどういう味覚なのだろうな。しょっぱい、は海に落ちた時に味わったが、ならば甘い、というのはどんな味なのだろうか?」

 

 大勢の敵に遭遇して逃げ回った時に飛び込んだ時に海水が口の中に入ったのだがあれは死ぬほどしょっぱかった。あと、自分が泳げないのも解ったし、窒息死しそうになって流石にあれは焦った。

 

 もぐもぐもぐもぐ、とチリビーンズを頬張り、なんというかクールビューティーな顔にものすごく嫌そうな表情を浮かばせつつやめとけばいいのに、それでも食べるのをやめない。

 

 太るとかそんなことは頭に全く無い。というか自身がアンドロイドだったので体型など崩れるはずはない、と認識していたが、食事のせいで腹が膨れているのも気が付いていない。

 

 見た目がワ級に近い。主に顔のマスクと腹が。これならもしかすると敵に侵入者だと気付かれないかもしれないが、いや、どうだろうか。

 

 流石にうっとおしくなってやはりマスクをはがす。ただ何かに使えるかもしれない、と思って太ももの金具の部分に引っ掛けておく。ひょっとしたら気に入ったのかも知れない。

 

 と、彼女の頭部のアンテナがピクッと動いた。センサーが、この島に高速で接近する飛行物体を捉えたのだ。

 

「……む?高速の飛行物体がこの島に接近中?……機体識別信号PTX-002?ゲシュペンストのオリジナルの試作型?!」

 

 自分が知る情報に合致するものがこの島に来たと知った彼女は、チリビーンズの容器を床に投げつけて、コンテナから急いで出た。

 

「地球連邦軍の機体がこの世界にあるのならば、なにか情報が得られるかも知れない」

 

 彼女は走り出そうとして、ぐぇっ?!と腹を押さえる。満腹になった胃が揺らされて、気持ち悪くなったのだ。

 

「うぐぇ、くっ、腹が苦しい。うぉっぷ、吐き気が……」

 

 食い過ぎで、急に動くとこうなる。

 

「おえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 カルディア・バシリッサ、肉体を得て初めての嘔吐であった。クールビューティー(笑)。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ゲシュペンストと玄一郎は集積地棲姫の拠点近くの海域まで来ていた。現在の艦船の航路からは外れているために確かに隠れ住むのに適していただろうと思われる地点にあり、またかなり大きめの島である。

 

 今回の作戦は敵に鹵獲されたイージス艦二隻の捜索と深海テロリスト集団に占拠された集積地棲姫の拠点の解放、つまりはテロリスト掃討作戦である。

 

 作戦は三段階に分けられる。

 

 一段階では単独でゲシュペンストが島へ向かい、ステルス光学迷彩を展開しつつ島を探索、イージス艦の位置を確認。

 

 

 二段階では、それに合わせてパラオ泊地の主力艦隊『以外』の艦隊を高速キャリアー船にて島の周辺へ高速展開、爆撃と三式弾による集中攻撃でテロリストを撃破し掃討。

 

 主力艦隊以外というのは泊地をテロリストに襲撃された際の備えとして主力を残すためであるが、実はパラオ泊地には、野球で言うところの二軍選手は居ない。

 いるのは全力フル出場全員MVP取れるクラスのベテランか、この前建造されたルーキーか、である。

 

 故にどの艦を出しても良かったようなものだが、扶桑、山城は泊地を動かす事は避けたかった。いや、私情ではない。彼女達は泊地防衛に無くてはならない人材であるからこそである。

 大和型すら未だに真似の出来ない匠の技、超長距離射撃は現在、修練に修練を重ね、『精密超超長距離射撃』へと進化しており未だ的を外した事無し。彼女に見つかったが最後、敵艦隊はただの一掃射で壊滅する。それも気付かぬうちに、砲撃準備すらも出来ないうちに。

 その扶桑に次ぐ遠距離射撃の名手として大和、ビスマルクがいるが、この二人は扶桑姉妹の弟子といえるかもしれない。頼み込んで超長距離射撃の極意をスパルタ式で教わったという。

 

 それに金剛、長門は残してある。彼女達はパラオの頭脳である。金剛は『状況判断の鬼』、長門は『軍略の要』と松平元帥をして言わしめた人物なのである。

 

 また金剛の妹達も今回、金剛から切り離すべきではないと玄一郎は判断した。高速戦艦の四姉妹は一つのチームとして機能し、判断は金剛、切り込みは比叡、榛名が後衛、霧島が分析、と役割がきっちりと分担されているのである。

 

 さらに今回は『深海五大艦』達+1も協力してくれると言う。最強の防備である。

 

 

 では、今回作戦に参加しているのは、と言えば。

 

 減俸組と処罰無しの良い子組、ルーキー達である。

 

 軍規というものに考慮に入れつつ、長門が推した者達である。

 

 第一艦隊はチーム『まぁそうなるな』。伊勢姉妹を頭に作られたチームである。(特別な瑞雲が火をふくぜ!)

 

 第二艦隊はチーム『イタリア』。イタリア艦のみで構成されている。(ほらっ!そこっ!ポーラっ!!酒のんで脱ぐな!!)

 

 第三艦隊はチーム『あらあら、なのです!』。戦艦達のサポートである。(おっぱい二人とフリーダム駆逐艦四人でお送り致します)。なお、高雄と愛宕は提督の怪我の手当てをしただけであるとして無罪だったそうな。

 

 第四艦隊はチーム『ルーキー』。アイオワ、ウォースパイト、ガングート、サポートにベテラン駆逐艦の秋月型が三人着いている。(たった数日で練度を30まで上げるウチの指導教官艦ってどんな訓練させてんだろな(遠い目)。

 なお、塹壕掘りとか丸太担ぎ、重いコンダラ・グラウンド100周などの訓練が施されたとの報告があるが、艦娘に必要だっけ?それ。

 

 なお、高速キャリアー船内には医療班や武器弾薬等の資材補給班がそれぞれ待機しております。

 

 

 まぁ、説明が長くなったが。

 

 第三段階は、イージス艦をサルベージ船にて運びつつ解析。

 

 という流れになっている。

 

 なお、集積地棲姫の資材置き場には攻撃禁止である。それは彼女の財産であり、ともすれば彼女のパラオに亡命するための資金にもなりうるものだからである。

 

 玄一郎は高度を落とし、計画通り島から離れた位置に着くと島の様子を眺めた。ゲシュペンストのセンサー、アイカメラ、レーダーを駆使して現地の状況を探る。

 

 島にはかつての大戦で使われたと思わしき建造物と、それ以外にも比較的新しく作られたと思われる木製の小屋のような構造物もいくつかあった。ただ、それは多少古びており、昨日今日に作られたものではない。

 

「シュウ、あれはなんだ?」

 

 玄一郎は集積地棲姫にそれを聞いてみた。シュウというのは集積地棲姫がそう呼んで欲しいと言ったのでそう呼ぶことにしたのだ。集積地、のシュウである。

 

『ソレハネ、漁師サン達がツクった小屋ダヨ』

 

 集積地棲姫、シュウがそう答えた。しかしシュウがこの島を根城にしてだいたい30年ぐらい経っているはずであり、玄一郎が見ているその小屋はもっと新しいように思えた。

 

「漁師?この島に漁師が住んでいたのか?」

 

『住むノトハ違ウヨ。魚とってて急に海が荒レタリシタ時に島二来て海が穏ヤカにナルノを待つノ。アト、休憩トカ。良く来てタヨ?』

 

「……お前は、その漁師達を襲わなかったのか?」

 

『ナンデ?お魚トカクレタヨ?キタラご飯分けてクレタ。ダカラ、船の燃料とかイロイロ交換。お金とかデモ、ワケテタ』

 

「……商売してたのか。というか深海棲艦なのに?」

 

『ンー?最初は嵐で避難してきた漁師のオジサン達タスケて、船の修理に必要ナ部品トカアゲタラ、イロイロお魚トカクレタ。そのアト、イッパイ人クるようにナッタ。みんな良い人達ダッタヨ?……艦娘トカ攻めてキタラ、みんな来なくナッタケド』

 

 どうやらシュウは人に危害を加えるような深海棲艦ではなく、日本海軍が攻めてきたから応戦していたようである。つまり、皮肉な事に日本海軍が彼女を敵にし、漁民達の平和を奪ってしまっていたらしい。

 

「……お前は最初から友好的な深海棲艦だったんだな」

 

『元々、人の拠点ダッタカラネ。ヤサシイ人が来るトとても嬉しいヨ?港湾サンとかホッポチャン、泊地サンもソウダッタと思うよ?』

 

 耳に痛い話である。かつての海軍暗黒時代における、友好的な深海棲艦に対する外交上の最大の失点は、深海棲艦と見れば敵として攻撃を加えていたということだろう。

 

「……軍は深海棲艦だと見ると何でも敵だと昔は認識していたからな。今ではそれぞれが独立した勢力で、性質も何もかも違うというのが分かってきたが」

 

『僕達も最初はワカラナイヨ。漁師サン達は優しカッタ。デモ、海賊は嫌イ。漁師サン達困らセルカラ。攻撃シテクル艦娘はコワい。……提督サン、ご飯くれテ、ヤサシカッタ。会っテみないとワカラナイヨ』

 

「……良い奴とは良いコンタクトを取りたいモンだな。とは言え、テロリストとはそういうわけにはいかないか」

 

 玄一郎は溜め息をついた。

 

 良い深海棲艦と悪い深海棲艦の境目とはなんだろうなぁ、と思う。悪い海軍と良い海軍の境目すらもわからないのだ。

 

(……シュウにゲシュペンストキック食らわせたのは今謝ろう。うん)

 

「シュウ、長門に代わってくれ。」

 

『ハーイ、ナガトー、提督が代ワッテっテ!』

 

「長門、艦隊の侵攻、その他遅れはないか?」

 

『予定通りだ。キャリアー船にて待機位置に間もなく着くと報告があった』

 

「了解、それではこれよりステルス迷彩展開して探索を行う。無線はドローンのネットワークにてレーザー回線を使用する。以上だ」

 

『了解。くれぐれも気をつけてくれ』

 

「では、作戦第一段階指導」

 

 ゲシュペンストはプリズムファントムを展開して、その姿を消し、島へと接近していった。

 

 

 

 

 

 




 カルディアさん、脱げる。さらにキャラ崩壊。コードDTDもいっそつけるか?←をい。

 次回、チームイタリアは出番あるのか?そしてルーキー達にセリフはあるのか?!

 次回、カルディアさん初めてのコードDTD(嘘)でまた会おう!


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救難信号

カルディア・バシリッサが仲間になるよ?

核弾頭、腐ってた。

(注意)この世界のアメリカは衰退しているという設定ですが、現実のアメリカを批判したり、政治的に何かしら含むところは私にはありません。

艦娘のアメリ艦はめっさ好きですしね。だがメリケン粉。おめーは死語だ。


 探索ドローンによる探索中、ゲシュペンストは気になる反応を見つけた。

 

 救難信号、それも地球連邦軍のコードでそれは発信されており、通信回線を開けば『地球連邦軍特殊任務遂行部隊シャドウミラー』などという部隊のカルディア・バシリッサ少尉を名乗る人物からであった。

 

「お前のいた世界のお仲間か?」

 

 玄一郎はそう尋ねた。『地球連邦軍』という軍にゲシュペンストはかつて在籍していたと何度も語っていた。そしてその地球連邦軍のコードでの救難信号ときたのだ。そう考えるのも当たり前である。

 

 しかし、ゲシュペンストはそのような部隊など聞いた事も無かった。

 

〔私が破壊された後に新設された部隊かも知れないが聞いたことは無い〕

 

『何を言っているのかわからないかも知れないが、気が付いたらここにいた。ここがどこで何故私がこんなところにいるのかわからない。地球連邦軍の機体の反応があったので救難信号を出したのだが、出した途端に反応が突然消えたのでかなり焦った……』

 

 テロリストが占拠する島の真っ只中にいきなり出現してしまって、混乱の最中に友軍の反応があったなら誰でもそれに縋るだろう。だが、それがいきなり消えたならそれはさぞ恐ろしかっただろうなぁ、と玄一郎は思った。

 

 おそらくゲシュペンストがステルス迷彩を展開したためだろうが、タイミングが悪かったとしか言いようがない。

 

〔そちらの状況はどうか?現在位置はわかるか?〕

 

 カルディアはすぐに位置情報を送ってきた。

 

『私はここにいる。かなり旧世代の船が二隻ある。機を見てそのどちらかを奪ってここから脱出しようと思っていたが、追撃をされる可能性が高く危険性が高かった。私には射撃武器が無く、さらに泳げないのだ』

 

「……今、なんつった?旧世代の船?二隻?」

 

『ああ、わりと古い船だ。装甲が薄い。この廃墟にいた兵士のような連中と戦闘になったが、連中の持つ武器の威力を考えれば持ちそうに無いくらいだ』

 

〔映像は送れるか?こちらのバンド周波数に出来れば送って欲しいのだが〕

 

『こんな船の映像を?いや、了解だ』

 

 すぐさまその映像が送られてきた。確かに地球連邦軍のあった世界では旧世代に見えるだろう。それは鹵獲されたイージス艦であり、それも二隻。つまり、探索せずとも場所が棚ぼた式でやってきたわけである。

 

「……ビンゴ、だ」

 

『ビンゴ?この船の名称か?』

 

「いや、そうじゃない。位置データ、確認した。その二つの船はこちらの探索目標だ。今からそちらに向かう。ついでのような形になるが救援に向かう」

 

『ついでだろうが助かるなら贅沢は言わない。頼む』

 

 予想していたよりもはるかに早く目標物を発見出来て玄一郎は、ふぅ、と息を吐く。これでイージス艦が一隻だけであれば事は厄介な方向へ進んでいただろう。

 

〔……玄一郎、気をつけろ。なにか嫌な予感がする〕

 

「……すんなり事が進む時ほど、な」

 

 不幸症、と言うわけではない。常に最悪の事態は予想して動くのが軍人の常である。不幸不幸と嘆くより対処法を的確に。

 

 もっともこれを山城に言ったならばやたら怒ったもので、デリカシーが無いとかなんとか言われるのだが、玄一郎には何故山城が怒るのかがよくわからない。

 

 それはさておき。

 

 二人はステルス迷彩を展開したまま、目的地点へと進んだ。

 

 カルディア少尉のいる隠しドックはちょうど島の裏側の崖に位置していた。ちょっと見ただけではそこに艦船のドックがあるとは気づかない場所にあり、ドックもそれほど大きくは無くさらには老朽化してコンクリートが所々ひび割れ崩れていたものの、まだ使えそうだった。確かにイージス艦は二隻。

 

 二人はカルディア少尉が果たして信用出来るのかどうか観察しつつ、さらにイージス艦を少し遠間からセンサーで走査しながら調べた。

 

 カルディア少尉の観察は玄一郎、イージス艦の調査はゲシュペンストが担当する事になった。

 

 トマホークにはやはり核弾頭が搭載されていたが、弾頭は経年劣化して起爆出来るかどうか解らぬ状態で、さらにはミサイルその物が古く劣化しており、満足に飛ばすことが出来ないような物ばかりだった。おそらくテロリスト達も計画を放棄せざるを得なかったようである。

 

〔……お粗末、だな〕

 

 拍子抜けしたのか、ゲシュペンストは珍しく、ふう、と息を吐いた。もちろん呼吸器は無いので音声だけだったが。

 

「使えない核廃棄物か。弾頭も全部揃ってるか?」

 

 玄一郎はカルディア少尉の様子を注意しつつ、ゲシュペンストが出したトマホークの調査結果に軽く拍子抜けしていた。

 

〔ああ。抜き取られた物は無い。ロケット燃料も劣化して腐っている。使い物にならない。〕

 

 アメリカは、深海戦争で最も被害を受け、そして経済的にも軍事力的にも大打撃を受け、世界一位の座から転げ落ちた国家である。原因は深海棲艦に対する大規模攻撃作戦で核弾頭を使用した事である。

  

 『プロビデンス作戦』と呼ばれるそれは、全く深海棲艦に効かず、それだけでなくより多くの深海棲艦を呼び寄せ、そして現在、深刻な国土汚染と深海棲艦による攻撃により衰退していた。

 

 その現在のアメリカを物語る物がこの核ミサイルだった。

 

 おそらく、このイージス艦にずっとこれを載せたままで運用されていたのだろう。アメリカにも艦娘は何人か確認されていたが、それさえも機能しているかどうかも怪しいと言わざるを得ない。

 

 輸送機を狙った対空ミサイル、シースパローがキチンと作動していたから、トマホークもそうであると思い、警戒しつつ、焦りながら捜索した結果がこんなお粗末なものだとは玄一郎も思ってはいなかったが、これで少しは安心材料が出来たと言えた。

 

 だが、あの輸送機襲撃事件を計画したような奴らが、こんなお粗末な事がテロを諦めるだろうか?と玄一郎は考える。

 

〔玄一郎、この島の深海棲艦の反応は想定していたより少ない。……おそらく、計画破棄に伴って早くから撤退していたのだろうか?〕

 

 ゲシュペンストもやはりそこが引っかかっているようだ。

 

「……わからん。だが、あの輸送機襲撃の戦術を思えばこんな結末であっけなく終わるとは思えない。まだ深海テロリスト達は各同盟五大艦達の拠点を占拠している。むしろこれは何らかの陽動と見るべきか?……しかし判断材料が少なすぎる」

 

〔とにかく、ミッションの第一段階は終了だ。あっさりと見つかった為に第二段階まで時間的余裕がある。どうする?〕

 

「……カルディア少尉を回収して、こっちに向かってるキャリアに連れてって保護する、か?」

 

 玄一郎はカルディア少尉を見た。なんというかその格好はどう見ても『特殊任務遂行部隊』などという感じではない。レオタードの上になんかの金属のアーマーをつけて、腕や足に刃物をつけて、太股にはワ級の頭をぶら下げている。

 

 まるでコスプレイヤーのように見える。美人だから似合ってはいるものの、なんというか、こう……。

 

「不知火がアニメのコスプレしてるみたいな感じだよな?髪の色といい、目つきといい。成長したら不知火みたいな。『カルディアに何か落ち度でも?』とか言いそうだ」

 

〔……隠密行動に適した装備ではある。暗殺用とも取れるが、たしかに射撃武器は装備していない。ただ、あれは防刃耐弾装甲製だな。スニーキングスーツと見れば利にかなっていると思える〕

 

「潜入用の工作員みたいな感じか?しかし、腹が出ているのはなんでだ?」

 

〔わからん。デザインかも知れんし他の理由があるのかも知れん。ただ、あの娘、人間ではない。艦娘と同様の存在に見える〕

 

「……俺達みたいに、一度死んでこの世界で蘇ったってわけか?」

 

〔その可能性が高い。ひょっとしたら我々のように何らかの機体が人の姿になって、カルディア少尉の魂を取り込んでいるのかも知れん。魂の色は一つだけだが〕

 

「メカっ娘ってか?だが生身に見えるぜ?しかしたまらん身体してるよな。引き締まった身体にピッチリレオタード。へそまで出ててなかなかこれは……」

 

〔自重しろ。プリズムファントムを解く。待たせ過ぎれば要らん疑いを持たれるかも知れん〕

 

「オーケー。特におかしな点はなさそうだからな」

 

〔プリズムファントム解除。では、行くぞ〕

 

 ブゥン。

 

 光学迷彩を解き、今到着したかのようにカルディア少尉の方へと玄一郎は進んだ。

 

「カルディア少尉、待たせたな。敵に占拠されている為に慎重にならざるを得なくてな」

 

 玄一郎は相手が軍の階級を持った者ということで、軍務で使っている口調で話しかけた。

 

「いや、救助に感謝する。いや、こんな所で友軍に会うとは地獄に仏とはこの事でやんす」

 

 真顔で真面目に言っているのに、語尾が変になった。

 

「……やんす?」

 

 聞き間違いかと思ったが、どうも様子がおかしい。頬が少し赤くなっているところを見ると、言い間違えたかなにかのようだ。

 

「ごほん。いや、改めまして、地球連邦軍特殊任務遂行部隊『シャドウミラー』所属、カルディア・バシリッサ少尉でありんす!……ごほん、あります」

 

(ありんす?)

 

「あー、こちらは日本海軍所属、パラオ海域統括司令官の黒田准将だ」

 

「日本……海軍?地球連邦軍ではないのか?いや、地球連邦軍ではないのでありんすえ?……ありませんですのことですか?……ごほん!ごほん!しかも、准将とは……いや、失礼した……いえ、失礼つかまつりしまくり……ごほん!ごほん!ごほん!」

 

(噛みました、というレベルじゃねぇな、これ)

 

 なんだろう、どうもカルディア少尉は日本語が得意ではないのか?と玄一郎は思った。もしくは外国人なので敬語等が苦手なのかも知れない。 

 

「……敬語が苦手なら普段の言葉使いで良いぞ?」

 

「准将閣下に無礼は出来ないにゃ」

 

「……にゃ?」

 

「…………こほん」

 

 カルディアは咳払いをした。恥ずかしがっているのが少し可愛かった。というか不知火と一緒に猫耳と尻尾とフリフリドレス着せて並べたら多分萌える。きっと萌える。確実に萌える。

 

「そう言ってもらえるとありがたい。そうさせてもらう。で、日本海軍というのは?それにその機体、私のデータにある……私の知るゲシュペンストのサイズではない。ゲシュペンストタイプSは全高で30mだったはずだ」

 

「カルディア少尉、結論から言えばこの世界に地球連邦は無い。ここは異世界だ。原因は不明だが君は俺達と同じように転移してきたと推測する」

 

「……やはり、この世界は異世界なのか?」

 

「そうだ。そして来てから何か身体に異常は無かったか?ゲシュペンストはサイズがこうなった。私は……まぁ、いろいろあったが。君には何も無かったかね?」

 

「身体に、多少、あった」

 

 そう言われれば、カルディアには納得出来ることだらけであった。

 

 人間の身体になるわ、裸になれるわ、命令コードも指令プログラムも無くなってるわ、記憶等はしっかりとありロストした記憶もちゃんと復元されているわ、何故かコスチュームがキツくなっているわ(それは食事したせいで腹が膨れているせいなのだが)。嘔吐するわ。

 

 多少では無い。なにもかもが彼女もとって異常事態だったのだ。

 

「まぁ、私も任務中なのでな。詳しい説明は救出後、ミッション全てが終わってからにしよう。幸い、探索目標は君のおかげで確保出来た」

 

「……この旧型艦船が、か?」

 

 カルディアにはこの古い機構の船が何ら重要なものとは思えなかった。彼女の知る船は大抵が超科学な宇宙戦艦だったのだ。しかし、ゲシュペンストまで出して探索するのだ。なにかしら重要なのだろう、とは思ったが。

 

「ミッションの性質上詳しくは言えないが、この世界では一応現役だった船だ。あとこれは忠告なのだが……。私の部下の前で『船に古い新しい』とか言わないでくれたまえ。下手をしたら危険だ」

 

「それはどういうことなのだ?」

 

「詳しい説明は後だ。とりあえず君をキャリアー船に連れて行く。ここにずっといたいわけではないだろう?」

 

「確かに。では准将、よろしく頼む」

 

「ああ、カルディア少尉。こちらこそな」

 

 かくして、カルディア・バシリッサはパラオ陣営へと加わる事になるわけなのだが、それにはもう少し話が進んでからとなるのである。

 

 まだ、続くんぢゃよ?




 転移したアンドロイドは言葉がおかしくなるお約束?そんなのは聞いていないぜ~ぇ?

 俺達が隠しドックで出会ったのはクールな感じのカワイ子ちゃん、カルディアだった。くぅ~、レオタードがイカすねぇ。

 だが俺達はミッション中でゆっくりとなんて鑑賞も出来ねぇと来た。泣けるねぇ。

 第二段階へと進むミッション。フィナーレは近い。

 次回、おっぱい総攻撃(嘘)でまた会おう!

……スペースコブラ風って案外難しいですね。うーむ。


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記憶共有と暴露合戦

 テロリスト達の目論みがわからなくなり、焦るという回です。

 人の心や記憶というのは人に解らない方が何かと平和なのかも知れませんね?

 なお艦隊の活躍全く無し。

 


 高速キャリアー船へ「要救助者を保護、一時そちらに救助者を連れて向かう」との連絡を取り、プリズムファントムを展開しつつカルディア少尉を抱え、ゲシュペンストは低速で海面スレスレの低空で飛行し、高速キャリアー船へと向かった。

 

 とはいえ、島からはとくにレーダーなどは設置されておらず、電波等の発信も無い。こちらのセンサーによる走査でもテロリスト達の反応はかなり少なく明石の報告による警備兵や見張りすらも居なかったぐらいである。

 

 別に明石の報告を疑うわけでは無い。それどころか玄一郎が考えているのは『では連中はこちらの監視の目をかいくぐってどうやって逃げたのか?』と言うことである。

 

 空路ならばドローンはすぐさま見つけるだろう。

 

 では、海路で各々バラバラに逃げた?いや、それでも何かしらドローンのセンサーに引っかかるはずだ。

 

 そう、海中にもソナードローンはぶち込んでいたし、どう考えてもおかしかった。

 

「カルディア少尉、君はあの倉庫に隠れていたが、テロリストの警備兵の数はどうだった?多かったか?」

 

「私があの場所で目を覚ましたのは昨日の早朝ぐらいだ。だが警備兵の数は多かった。交戦して、かなりわいてきたので、海に飛び込んでやり過ごしたのだが、溺れかけて必死にあそこのドックにたどり着いたのだ」

 

「……明石がドローンで確認してたのは午前中、か。しかしどうやって逃げたのか」

 

 どうも後手後手に回っている感がする。

 

 ふぅむ、と玄一郎は唸るも、海上に浮かぶキャリアー船の『天上天下唯我独尊丸』(命名・土方中将)と書かれた文字が見えてきて、少し高度を上げた。

 

 ランディング高度まで上がり、ゲシュペンストに抱えられているカルディア少尉の乳が、ぽいん、と揺れた。

 

(……うむ、眼福)

 

 考え事をしつつもやはりサービスは大事である。いずれカットインとかでお色気乳揺れは必ずあるのである。シリーズが進むとさらに揺れは進化するのである。

 

 そう、乞うご期待、なのである。

 

「私も逃げるのに必死でその辺はわからない。すまないでごんす……ごほん!」

 

(しかしなんで語尾が変になるんだ?この子)

 

 玄一郎にはわからない事だが、これは異世界から転移してきたアンドロイドの宿命である。某対グノーシス用人型掃討兵器しかり、カルディアの妹機しかり。語尾が変にならなかったアンドロイドはいない。そしてそれをネタにしない作品も無い。

 

 ゲシュペンストはゆっくりと『天上天下唯我独尊丸』の甲板へと降り立つと、キャリアー船待機組の白雪が出迎えてきた。

 

「お疲れ様です、司令官」

 

 白雪は待機班の駆逐艦隊の旗艦としてキャリアー船に詰めているのだが、かなり有能な子である。

 

 吹雪型の二番艦であるが、あのフブキチのように『あっさりーしっじみーはーまぐーりさーん』などとはやらない。改になれと言われて『私は貝になりたい』とか言わない(言っていないが)。『パンツ!パンツです!』とかパンツネタでいぢられる事もない。

 

 大人しく真面目で優等生なクラス委員のような安心感がある艦娘である。

 

 ちなみに待機組の駆逐艦はあと雪風と戦場を経験させるために連れてきた神風型の神風、朝風、春風、松風である(四隻ともに練度30)。

 

「うむ、待機任務ご苦労、白雪。彼女が連絡にあった要救助者だ」

 

「はい、一応怪我などの手当ての用意はしましたが?」

 

「いや、ご配慮に感謝するが、特に負傷は無い。私はカルディア・バシリッサ。階級は少尉だ」

 

「白雪、カルディア少尉は来賓として扱ってくれ。作戦終了後に様々な情報を提供してもらわねばならんからな」

 

「准将、私は少尉であり下士官だ。ただの兵士に過ぎない。そのような配慮は無用だ」

 

「まぁ、そう言うな。カルディア少尉、私は優秀な兵士にはそれなりの待遇をする事にしている。味方にも敵にもな。味方ならば良い飯と良い金と良い部屋を用意する。敵ならば……。まぁ、そういう事だ。君は味方であると私は認識している。友軍であるとな」

 

 玄一郎はそう言って揺さぶりをかけてみる。

 

 これはゲシュペンストのモニターに表れた台詞を読んでいるのだが、どうやらゲシュペンストはカルディアに対して何らかの疑念を持っているようだ。

 

「……了解した。私は今、遂行すべき作戦も命令も何も持ち合わせてはいない。その申し出をありがたく受けよう」

 

「うむ、そうしてくれたまえ。では、白雪、すまないが何か冷たい飲み物を二人分頼めるか?」

 

「はい、司令官。ではすぐに!」

 

 玄一郎はゲシュペンストのハッチを開けて、外に出た。ゲシュペンストの中にいるのは快適ではあるが、やはり肌で感じる海の風は良いものである。

 

「姿を見せるのは初めてだな。私が黒田だ。カルディア少尉、よろしく頼む」

 

「……カーウァイ・ラウ大佐?」

 

「む?いや、俺は日本人だが?」

 

「いや、失礼した。私のデータベースにあなたと良く似ている人物があったのでな。黒田准将、こちらこそよろしくお願いいたしますにゃ。……ごほん!いたしますの事ですのよ……。すまない、言語がどうも混乱するようだ」

 

「まぁ、外国人には日本語は難しい言語だというからな。気にしないでくれ。君は我がパラオ泊地の来賓だ。階級は気にするな。ウチの部下も気にしない」

 

「そう言ってくれるとありがたい」

 

 二人は握手を交わし、そして。

 

 バシッ!!とその手に何か衝撃のような物が走り、そして二人はそのまま固まった。たったの数秒。だが、その数秒に互いの記憶が交叉し、お互いの何かが見えた気がした。

 

 玄一郎に見えたカルディアの記憶は、彼女の戦闘経験とも言うべきものだった。

 

 地球連邦軍特殊任務遂行部隊『シャドウミラー』のその行動とそして彼女が製造された経緯、さらには彼女が戦ってきた相手の様々な情報。そして。

 

 彼女が破壊されたその光景。敵味方とするならばそれは仕方が無かった事なのかも知れない。だが、二回も彼女は破壊された。

 

 玄一郎は彼女の無念を悟った。

 

「……そうか。あんたも、死んだんだなカルディア」

 

 そうつぶやいた玄一郎にカルディアは一筋の涙を流し言った。

 

「……く、黒田准将。確かにあなたの非業の死は理解した。あなたが核を阻止したいと思う気持ちも。くっ、まさか私が涙を流す日が来ようとは……!それに肉体を復活させたゲシュペンストとの友情っ、ううっ、なんて素晴らしいのだ……!」

 

 どうやらカルディアは玄一郎が肉体を持った経緯まで見えたらしい。

 

「……しかし、カルディア。ドックでチリビーンズをストレス食いはどうかと思うぞ。不味かっただろ?あれ。吐いてたもんな?」

 

 ピシッ。

 

 カルディアの動きが固まった。

 

「……あなたも、女性の乳ばかり見るのはどうかと思う。あと、やはり誠実に対応すべきだ。確かに攻撃を加えられれば撤退は仕方が無いとは思うが」

 

 黒歴史認定な誰にも見せたくなかった失態を知られた事に彼女は、男性だからそういう事もありだろう、黙っていようと思っていた玄一郎の記憶で反撃した。

 

「……服が脱げて良かったな?『これが……私?』ってか?キレイな身体してまぁ『あんっ♡』てか?このナマイキおっぱいめ」

 

「……裸で女子寮を走ってフル○ンで『ぶーらぶらぁあああっ!!』は無いのではないか?」

 

 ぐぬぬぬぬぬぬぬっ、と二人はにらみ合う。それは不毛な戦いだった。

 

「テロリスト達から逃げるのに海に飛び込んだはいいが、思い切り海水飲んだみたいだな?しょっぱい味の初体験だな?」

 

「そちらこそ、執務室の鍵付きの引き出しに婚約指輪二つ用意しておいて、いざという時には逃げているではないか。はやく『フソウ』と『ヤマシロ』に渡したらどうだ?人間年貢の納め時には観念するものだぞ?」

 

「「…………………。」」

 

 お互い絶句し、そして握った手を話す。

 

 そして、お互いに咳払いをし、そして玄一郎は提案する。

 

「とりあえず、忘れてくれ。うん。記憶なんてそう、気のせいさ。な?」

 

「うむ、そうだな。今のは単なる幻覚だ。そう、きっと疲れているのだ、我々は」

 

「「ハハハハハハハハ!!」」

 

 いらない記憶まで共有してしまうと人間関係はギスギスしたものになってしまうものである。

 

 とは言え先ほどの現象は果たして何であったのかとか、二人は全く考えずに大声でヤケクソのように笑いあい、そして。

 

 飲み物を持運んできた白雪に変なものを見るような目で見られたのであった。

 

 なお、ゲシュペンストは。

 

〔カーウァイ・ラウ、の名前が出てくるとはな〕

 

 と、少し悩んでいた。まぁ、話す事は決まっているのでさほどでは無かったが。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、第一から第四艦隊はすでにされぞれの配置へとついていた。

 

 各艦は艦載機や水上機を飛ばし、そして島の敵を索敵していたが、そこに大きな白旗を上げ、それを振っている深海棲艦達がいるのを見つけた。

 

 最初にそれを見つけたのは、ミス瑞雲こと日向であった。その深海棲艦の大半がワ級、他には人型の深海棲艦がチラホラ。

 

「……なんなのだこれは」

 

 ワケが解らず、罠かとも思ったがとにかく状況が解らず、とりあえず玄一郎に判断を仰ぐ事にしたのだった。

 

 結論から先に言えば、白旗を振っている深海棲艦達はシュウ、つまり集積地棲姫の部下であり、テロリスト達が撤退したために解放されて出てきたのはいいが、周りを艦達に囲まれて急いで白旗を上げたようである。

 

 念のため、シュウに一人一人モニターに映して確認してもらったが、全員がシュウの部下であることが確認された。

 

「……ここまで肩すかし食らわされるとなんというか馬鹿にされたような気がするな」

 

 玄一郎は念のためにゲシュペンストに島全体のスキャンをさせたが、テロリストのテの字もいなかった。

 

〔……こうなると、どうも我々をここに引き付ける為ではないかと思わざるを得んな。泊地の状況は?〕

 

「長門からは特に何も無いとさ。あとはイージス艦を曳航用のサルベージ船でパラオに持っていくだけだな」

 

〔……解せない。何もかもな〕

 

「ああ。だが油断禁物だ。だが今は帰還の用意……ってもなんもしてねぇから撤収も楽だわな」

 

 拍子抜けしてはいるが、それだけに警戒心が頭をもたげて来る。連中の真の目的が何であったのか、それさえもが解らなくなってしまったからだ。

 

 詳細な情報は大本営、松平元帥の元へ直接送ったが、やはり松平元帥も今回の顛末は不可解過ぎて判断に困っていたようだ。

 

 肝腎の核弾頭と巡航ミサイルが使えないシロモノだったから計画を頓挫させたのか。それとも別の手がテロリスト達にはあるのか。

 

 それさえも解らず、玄一郎は歯噛みした。

 

 




 黒歴史認定。

 ナマイキおっぱいとは。ちょいと胸の先っぽが上にツンと向いた感じのぷりんとしたおっぱいの事……らしい。いえ、話に聞いただけですが、なんか想像したら良さげな感じだったので。

 不気味で不可解な深海テロリスト達の動き。謎が謎を呼びます。

 次回、レッドオクトーバーなら追わねばならないが、レッドオクトパスならそれ茹でダコや、でまた会おう!(嘘)


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ゲシュ兄さん。

不知火の性格が変になった。

ゲシュ兄さん。

金剛さんは良い女。


 帰還した玄一郎は簡単な指示だけ第一艦隊の旗艦を勤めた伊勢に出し、そのままゲシュペンストとカルディアを連れて執務室へと向かった。

 

 途中、パラオ湾岸の警備任務から帰還し、寮に帰る途中の不知火に会い「やぁ、不知火!君の生き別れのおねぇさんだよ?」などと言って紹介しつつ、からかった。

 

「えっ?!私に生き別れのおねぇさんが?!」と不知火は本気で驚いていたが、君も君の姉の陽炎達もみんなパラオ泊地で建造されたのに何故にこうも引っかかるのだ、と玄一郎はちょっと心配した。

 

 なお、思い切りカルディアにシバかれた。めっさ痛かった。

 

 カルディアは素直に信じている不知火の態度にめちゃくちゃ焦りつつ、自分が生き別れの姉ではないと説明していたが、その姿にはかつての悪側のアンドロイドには見えず、思わず玄一郎は笑った。まぁ、カルディアにまたシバかれたのだが。

 

 そのあと、まるで今気がついたように不知火は玄一郎に、「ええと、あなたはどなたです?」と言って来た。

 

 どうやら不知火は玄一郎が提督であるとわかっていないようだった。まぁ、仕方ないだろう。ゲシュペンストの姿しか不知火は知らないのだろうし、そのゲシュペンストは玄一郎の後ろにいるのだ。

 

 故に玄一郎も悪乗りし「実は俺が君の生き別れの兄さんなんだ!」とやらかした。

 

「ええっ?!あなたが私の兄さん?!」と引っかかったので、おいおいと思うも面白かったので、「ほら!不知火、胸に飛び込んでおいで!!」などとさらにやらかした。

 

 不知火は本当に飛び込んで来て「会いたかった!兄さん!!」と言いつつ抱きつき、うりうりと頭を胸にこすりつけてきたので、この子は将来悪い男に騙されそうだからマジで俺心配と玄一郎は思った。

 

「いや、悪い、俺は実は提督なんだ」

 

 冗談だ、と玄一郎がバラしても、不知火は離しはせず、というかむしろしがみつき「提督が私の兄さんだったのですね?ああ、ゲシュにぃさぁん!」と某ロム兄さんを呼ぶような感じで玄一郎を呼びすりすり。

 

「ゲシュ兄さん。お願いがあるのですが?」

 

「不知火、いや俺は君の兄じゃないんだが?あとゲシュ兄さんはやめれ。つか、お願いって何だ?」

 

「兄さん、不知火はもう大人なのでケッコンカッコカリ出来るんですよ?」

 

「……いや、だから兄さんと呼びつつケッコンカッコカリとか訳解らんのだが?」

 

「何のことですか?兄さん。不知火何のことかわかりません、うりうりうり、マーキングマーキング」

 

 すりすりうりうりうりゅんうりゅん。

 

「いや、そんなに頭擦り付けられてもだな。つかカルディアねーさん、助けろ!」

 

「……いや、私はお前の姉ではないし?というかそのシラヌイとなら姉妹と言われても別になんとも思わないが、お前のような変態とはすっごく嫌だ」

 

「誰が変態やねん?!つかマジお願いします、この子しがみついて離れてくんないの?!」

 

「自業自得だ。自分でなんとかしろ」

 

〔うむ、墓穴を掘ったお前が悪い」

 

 カルディアもゲシュペンストももう、非常に冷たかった。

 

「大人になったら兄さんのお嫁さんになる!とか世の妹達は幼い頃に言うではないですか。なので、もう大人ですから兄さんのお嫁に行きます、を不知火は実行したいのですが?」

 

「いや、過程すっ飛ばしっ?!つかブラコン?!」

 

「可愛い妹のお願いです。禁断の兄妹愛プレイとか好きなんですよね?」

 

「プレイ言うな。つかお前最初から解っててチャンス狙ってやがったな?!」

 

「不知火の落ち度じゃありません。隙を見せた兄さんの落ち度です。大丈夫、血が繋がってないからケッコンカッコカリも大丈夫。むしろ推奨。いえ決定」

 

「何を言っとるのだ不知火?!」

 

「一万年と二千年引く一万年と千九百九十年ぐらい前から愛してる。兄さん、あなたと、合体したい……」

 

「なんか壮大な感じで実はそうでもない年数?!つか具体的過ぎて生々しい!あと兄さんはやめれ?!」

 

「……しかたありませんね。はぁ、でも存分にテイトクニウムを補充出来ました。ちょっと満足です」

 

 ようやく不知火は玄一郎の身体から離れた。なんとなくその顔はやたらと満ち足りた表情で少しドヤッ。

 

「どんな成分だよそれ。いや、言わなくていい。うん」

 

 なんとなく、女の子が言ってはいけないようなワードが出そうな気がしたのであえて止めた。

 

 不知火は珍しいぐらいの笑みを浮かべて。

 

「……ケッコンカッコカリ、いつでも申し出をお待ちしてます。なお検討されなくとも押し掛けますのでよろしくです。ではこれで。『兄さん』」

 

 そう言うと寮の方へと歩いて言った。

 

 ものすごい疲労感に玄一郎はがっくりとし、これからは艦娘をからかったりするのは止めよう、と心に決めた。もっともそれがいつまで守られるかは不明であるが。

 

「……ふむ、お前は随分と慕われているのだな。変態なのに。あと、いらんことはしない方がいいぞ?あちらが上手(うわて)だ」

 

「変態は余計だ」

 

「とはいえ、確かに私に似ていたな。一緒にいたら確かに姉妹と間違われそうだが、お前の部下だけあってやはり変だ」

 

「カルディア、実は俺、お前の生き別れの……」

 

 両手を広げてさぁ、おいでっ!とやりつつ。

 

 べしっ!

 

 脳天にチョップをくらった。

 

「ちょっとは学習しろ。お前と私は他人だ。それに兄という存在にはろくな目にあわされていない。もう結構だ」

 

 ピート・ペインを思い出しながらカルディアは眉間にシワを寄せた。あれは正直兄と呼ぶのもカルディアにとって嫌な存在だった。今から思えばあれをぶちのめす事が出来た妹機のアシェンを羨ましいと思う。まぁ、あのアシェンも正直、嫌いなタイプなのだが。

 

「そういや、そうだったな。お前の記憶で見てた。軽率だった。すまんすまん」

 

「いや、いい。過去の話だ」

 

「ま、いろいろあって当たり前だ。さて、とりあえず滞留許可申請書を作らにゃならんが、ゲシュペンスト、出来たか?」

 

〔とっくに執務室のプリンターに出してある。遊びすぎだ。それに他の艦娘に捕まる前に執務室へ行こう〕

 

「仕事早いね、流石。で、土方中将達は?」

 

〔執務室だ。君を待っている〕

 

「ふむ、では。妙な視線があちこちからするから急ごうか。身の危険を感じちゃうしね?」

 

 玄一郎はとりあえず、周りを刺激しないように慎重に、しかし急いで基地司令部の建物へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 執務室には土方と沖田が待っていた。二人の秘書官の長門と加賀、そして玄一郎の秘書の扶桑、何故か金剛がいた。

 

「おかえり~ゲー君、黒やん」

 

 と、土方中将が全く軍人と思えないだるだるさで出迎えた。おそらく泊地周辺地域の警戒の指揮に加えて各地のテロリストの活動、そして大本営との情報などを分析したりして疲れているのだろう。

 

 沖田少将はと言えば、きっちりとしつつも、やはりその目には隈がが浮かんでいる。球磨~、ではない。隈である。伊達に二人とも若くして他の将官を抑えて重鎮になどなってはいない。ふんぞり返るようなお飾りの将官達とは一線を画す、行動する頭脳なのである。

 

「ふむ、そっちカルディア少尉だね。うんうん、なかなかナイスなコスしてんね。あたしが土方歳子中将だよ?よろしくね」

 

「……中将?」

 

「ああ、この軍人としてだらけきっているのが土方中将、そしてこちらの真面目な方が沖田少将だ」

 

「失礼ねぇ、黒やん。フレンドリーって言ってよ。まぁ、真面目にやるかね。はい、日本海軍大本営所属の土方よ。このパラオ泊地は現在厳戒態勢にあってね。黒田准将とゲシュペンストが出撃しなきゃならないときの司令官代理をしてんのよ。で、こっちが大本営所属、諜報部司令の沖田少将」

 

「はっ、カルディア・バシリッサ少尉であります。今回の救出、感謝致します」

 

 カルディアは叩き上げの軍人らしく正式な敬礼した。

 

 沖田はやはり敬礼で返したが、土方は手をひらひらと振って、堅苦しいのはナシナシ、と言ってへらへら。

 

 よくこれで軍人、それも中将なんて務まるなといつも玄一郎は思うが、これが土方という人間なのである。仕方あるまい。

 

「いいのいいの。それにカルディア少尉、ゲー君と同郷だって?異世界からいきなりテロリストの真っ只中なんて災難だったねぇ」

 

 土方のその言葉にカルディアは驚いた。

 

「普通は常識的に考えて有り得ないとか否定されるものでは?私が言うのもなんですが」

 

「ん~?前例でとんでもないのが来たからねぇ。そのとんでもないのに保証されたらそりゃあ信じるしかないっしょ」

 

 土方は玄一郎とゲシュペンストを指差しながら言った。ある意味納得の答である。

 

「話を聞いてあたしはまた、コイツみたいにとんでもない破壊の権化みたいなのが来たのかと思って一瞬警戒したけど、まぁ、少尉みたいな可愛い子なら良いわ。むしろ姉妹とかいないの?大歓迎よ」

 

「むしろ私は来て欲しく無い。殺し合う仲でしたから」

 

 カルディアが、苦虫潰したような顔をしてそう言った。

 

「……あー、殺伐としてたのね」

 

「……まぁ、敵味方以前に腹が立つ相手でしたので」

 

 場が微妙な空気に包まれた。

 

 カルディアの記憶を見て知っている玄一郎もこれには苦笑するしかなかった。というか、あの変な連中が相手では正直、真面目なカルディアも大変だったろうな、とか思った。あんなまとまりの無い連中が世界を一つ救うとか本当なら無理だろ、とか思ったが、よく考えればこのパラオ泊地も人の事は言えないのである。

 

(……艦娘達もカオスだからなぁ)

 

 正直な所、玄一郎の性格も人の事は言えない。

 

「ごほん。それはさておき中将、カルディア少尉もいろいろあって疲れております。在留届やら関係書類渡して……っと、もう大淀、終業してますか。明日に話を聞くことにして今日のところはもう休んでもらってはいかがですかね?」

 

 玄一郎はそういい、この微妙な空気をなんとかしようとした。

 

 それでなくとも玄一郎も扶桑姉妹と話をせねばならないのである。とっとと終わらせたい、そう思っていた。

 

「ん~、そうね。ああ、そうそう。カルディア少尉。お腹は空いてない?もし良かったら私達と一緒しない?このパラオの間宮食堂はね、すんごい美味しいのよ!奢ったげるから、どう?」

 

「美味しい?……是非ともご一緒させてくださいでありますのことですのよごんす!!……ごほんごほん!!いえ、ご一緒させていただきます」

 

「……え、ええ。一緒に行きましょうであるのことよ?」

 

 土方は少し引き気味だったが、この人にはものすごく珍しい現象であった。

 

「ヘーイ、トッシー、ワターシも一緒して良いでーすカー?」

 

 金剛が手を上げて言った。玄一郎はおや?と思った。てっきり金剛はこの場に残るとばかり思っており、昨晩の件について話を聞きたいと思っていたのだ。

 

「おっ、金剛も来る?うんうん、いこういこう!歓迎歓迎!」

 

 土方が嬉しそうにうんうんと首を縦に振る。

 

「ん~、それなら扶桑は?来る?来ちゃう?どう?」

 

「いえ、山城が食事を作って待っておりますので……」

 

「あ~、そっか」

 

 土方には珍しく簡単に引き下がった。そして一瞬、にやり、と笑うのが見えた。

 

 そして。

 

「ごにょごにょごにょ」

 

 と扶桑にしか聞こえないように囁くと、肩をぽん、と叩いてさらにニンマリ。

 

 扶桑は何か少し困り顔をしたが、それでもニコリと笑った。

 

「んじゃ、行きますかねぇ」

 

 土方はカマーン!と言いつつみんなを連れて出て行く。途中で一行の後ろにいた金剛がさりげなく玄一郎に近づき。

 

「……ワターシ達の話はマタ後日ネ。今晩は扶桑達と、ネ?」

 

 と囁いた。

 

 




とあるところで見た不知火の猫耳生やしたイラストがやたらと可愛くて不知火を猫化してしまった。

主人公がどんどんバカになってる気がする。

次回、婚約指輪の代償、でまた会おう!(なお予定は未定)。


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男の終着駅とは。


 扶桑姉妹の手料理を想像すると、シンプルかつ彩り豊かな和食じゃないかな、と思った。

 男の終着駅は、やがて始発で朝帰り(意味不明)

 主人公、最大の勇気。


 応接室のテーブルの上には、和食が並んでいる。

 

 全て扶桑と山城が作ったもので、山城がお重に入れて持ってきたものである。

 

 さらにいつの間にか炊飯器や鍋のかかったIHの卓上コンロがテーブルの上に鎮座坐(ちんざましま)しており、それがまたいい匂いを漂わせていた。

 

 玄一郎は面食らった。

 

 話がある、と扶桑に言おうとしたその途端に山城が執務室に入って来て応接室へと連れて来られ、そして今に至るのである。

 

 扶桑が杓文字で炊飯器からお茶碗へご飯を装い、山城がお玉で漆器のお椀にお吸い物を注ぐ。

 

 扶桑の白くたおやかな手が玄一郎に茶碗を差し出した。

 

「玄一郎さん、どうぞ」

 

 微笑みながら差し出す茶碗を受け取り、見ればほこほこと湯気を上げる、米の立ったご飯である。

 

「はい、お汁」

 

 山城がコトリ、と置くお椀の中は鯛のアラと大根の短冊の透明な潮汁であった。

 

「う、うむ……」

 

 思えば、玄一郎はこの二人の手料理など見たことがなかった。ゲシュペンストの機械の身体であった時には大抵お昼には席を外していたし、物が食べれぬ身であったが故に特に気にしてはいなかった……わけでもないが、あえて見ていなかったのである。食べれぬが食べたい欲求が無かったわけではなく、しかしそんな姿を見せたならば、扶桑達も食べにくかろうと思っていたからである。

 

 だが、今並んでいる二人の手料理はどうだろう。

 

 お重にあるのは見栄え良く、美しいとも形容できるほどに彩取り取りの、丁寧に作られた一品一品が詰められ、皿には刺身。茶碗にはしっかりと白い米が立ち、お椀には澄んだ汁に山椒の葉。

 

 料亭の懐石の如く手の込んだ品の数々が、扶桑姉妹の心の内を映す鏡のように思えた。

 

 絶句、である。

 

 とても言葉には出来ぬ。

 

 玄一郎は一度、渡された茶碗をテーブルの上へと置く。

 

 ごくり、と唾を飲み込む。目は扶桑、次いで山城に。

 

 二人はこくり、と頷いた。

 

 美しい姉妹だと改めて思う。昔も今も変わらぬ。その想いに嘘偽りは無い。

 

 息を吐き、玄一郎は軽く目を閉じた。

 

 二人は並び、玄一郎の向かい側の席に着く。

 

 息を吸い、目を開き、玄一郎は手を合わせた。

 

 ただ、一言。

 

「いただきます……!」

 

 そう、この場はこの言葉しか言えぬ。

 

 

 玄一郎はお椀の潮汁に手をつけた。汁を口に含み、目を見開く。

 

 程良い塩気と鯛のアラより出た出汁がゆずの皮の香味、山椒の葉の爽やかさに彩られ、大根の柔らかな甘味と苦味がともすればクドくなりがちな出汁を抑えつつ旨味を生かしていた。汁に臭みが無いのは丁寧に洗い、下処理をキチンとしているからだろう。

 

 くっ、美味い。

  

 見れば、山城がくすり、と玄一郎を見て笑っていた。

 

(これは山城が作ったのか……)

 

 悔しいが、うまい。いや何を悔しがっているのかわからないが、うまい。

 

 玄一郎がお椀を置くと、扶桑が小皿をコトリと玄一郎の前に置いた。

 

 出汁巻き、金ぴら牛蒡。

 

 けして豪華と言うわけではない。だが、侮れぬ。小皿の上、鮮やかな黄色と落ち着いた牛蒡の茶と人参の赤。この盛り付けも扶桑の美意識を感じさせた。

 

 出汁巻きの形は整い、金ぴら牛蒡の彩りは美しく、煮豆は型くずれも無く粒が揃い、隙が無い。

 

 出汁巻きから手をつけ、口に運び。

 

 ふぉっ?!と声が出そうになった。それは玄一郎の食べたことのない、うまさだった。

 

(この出汁、鯛か?!)

 

 そう、鯛の出汁、それも甘味を含む出汁だ。クドく無く塩と上品なこの甘さ、そう、味醂の甘さか?!関東の甘い出汁巻きではなく、これは関西の出汁巻き、なのにほのかに甘い。くぅ、この味、うまい。

 

 出汁巻きを食べ終わり、金ぴら牛蒡へと箸は進む。これも油断出来ん。これは……。

 

 口に運び咀嚼すれば、カリッ、と良い歯ごたえ。本来金ぴら牛蒡ならば、しなっ、とした食感のはずがこれは牛蒡のシャキッとした歯ごたえを残しつつ、その歯ごたえの中になんとも言えぬ甘さと酸味がある。この金ぴら牛蒡、普通の金ぴらでは無いぞ。出汁はやはり鯛。しかしこの酸味は三杯酢。これは金ぴらであって金ぴらでは無い。酢の物であって酢の物では無い。金ぴらと酢の物の融合、甘さの中に爽やかな風味。くっ、うまい。箸が止まらん!扶桑、なんつうもんを、なんつううまいもんを作るんや……。

 

 扶桑はにっこりと微笑み、手を差し出した。玄一郎は小皿を渡すと、扶桑は大根の煮物を装った。

 

(くっ、これはもう解る。この大根、出来る!!)

 

 白い手が小皿を玄一郎に手渡す瞬間。手と手が軽く触れた。

 

 うっ、と玄一郎は思った。

 

 少し、頬を朱に染めてはにかむ扶桑の表情に、ドクン!と心臓が跳ねた。一瞬見とれた。

 

(くっ、いかんいかん)

 

 今は色では無く、食なのである。流されてはならぬ。いや、流されてこういう事にはなってるけれども。

 

 そう、大根なのである。

 

 小皿の大根は艶やかに語る。飴色に出汁を染み込ませた大根。これは、シンプルだが強者であるとその様で物語っているのだ。

 

 箸で割って、口に含む。

 

 お重に入れる為に冷やした大根。口にやや冷やり、とするも、確かな出汁の旨味と汁がじゅわっと染み出る。

 

 やはりこの甘味は先ほどの出汁巻きと同じ鯛の出汁。統一されるもこの素材のうまさによる味の変わりようはどうだ。飽きる事を知らぬ、いくらでも食えそうな程、バリエーション豊かな味わいになっている。

 

(くぅうっ、この料理上手めっ。ご飯が、ご飯が進む。進んでしまうではないか)

 

 気がつけば、もう茶碗の中は空になっていた。

 

 今度は、山城が手をこちらに差し出していた。位置的に山城は炊飯器の方に陣取っている。

 

 その顔はニンマリとしており、自分達姉妹の勝利を確信しているかのような自信にあふれていた。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬ、と何故か敗北感のような物があったが、背に腹は代えられぬ。それによく考えなくとも食事は勝負ではないのだ。食事とは感謝していただくものなのである。

 

「おかわり」

 

 玄一郎は素直にそう言い、山城に茶碗を渡した。

 

「ふふーん、大盛り?」

 

「うむ、大盛りで」

 

「にひひひひ」

 

 山城はやたらと上機嫌でご飯を盛った。

 

「今まであんた、ご飯食べれなかったからね。私もねぇさまも淋しかったのよ。ふふふっ、やっと三人で食べれるようになったね?」

 

「山城も私も、何か玄一郎さんにしてあげれることは無いかとずっと思ってたのです。このような料理で申し訳無いのですが……」

 

「……ありがとう。いや、うまいぞ。どれも、完璧でうまい。時間、かかったろう?」

 

「いえ。どれもさほど」

 

「大根が、ここまで味を染ませるのにどれだけ時間がかかるか。鯛の出汁に臭みが無いのは、どれだけ丁寧に下処理をしたことか。そしてこの量。言うのは無粋かもしれねぇ。ただただ、俺の為に、ここまで手間暇かけてくれたんだ。……ありがとう、な?二人とも」

 

「湿っぽい事は言わない!ほらっ、ご飯!」

 

 ずいっ、と山城は大盛の茶碗を差し出した。

 

 それは天子盛り、だった。

 

 玄一郎は、それを受け取り、そして。

 

 二人の作った料理の数々を感謝して全て食したのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 食事が終わり、玄一郎は二人に執務室へと来てもらった。

 

 覚悟は決めている。というよりも、何度逃げたかわからない。だが、今を逃せばもう、おそらくはチャンスは無いだろう。

 

 ゲシュペンストは、気を利かせてどこかへ行ったらしい。

 

 執務室の机の鍵付の引き出し。その鍵はゲシュペンスト用に家具職人妖精さん特性のイスの隠しボタンと連動している。

 

 玄一郎はそのボタンを押した。

 

 引き出しの中には二つ並んだ、小さな赤い箱。

 

 それを取り出し、玄一郎はデスクの上に置いた。

 

「……もっと、早くに渡すつもりだったんだがな。いろいろあって、今になっちまった」

 

 言い訳のように玄一郎はそれを扶桑と山城に渡した。

 

 二人は息を飲んだ。

 

「開けてみてくれ。ゲシュペンストが計測したサイズぴったりのはずだ。……出来れば受け取ってくれ」

 

 二人は無言、いや、何も言えないまま、頬を朱に染めたまま、箱を開けた。

 

 それは、白金に輝くリングだった。ハイビスカスの透かし模様に、少し小さいがダイヤがはまったリング。

 

 ハイビスカスの和名は扶桑花。

 

 玄一郎が二人のために作らせた、世界に2つしか無いリングだった。

 

 二人は目に涙を溜めながら、それをそれぞれの薬指にはめた。

 

「……婚約指輪のつもりだ。ケッコンカッコカリの指輪と揃えてつけられる幅にしてる。その、な。うまい事は言えねぇけどさ。俺が好きなのは、お前らで、結婚するなら、お前ら以外に無い。カッコカリ、じゃなくて、ガチ、の方だ」

 

 玄一郎は二人の方へと進んだ。

 

「扶桑、俺は初めて遭った時、ワタヌシ島で手当てした時、初めて話をした時、ずっとな、見とれてた。一目惚れだ。初めてだった。あれからずっと、今だってそうだ。ずっと惚れてんだ。15年間、なにやったって忘れられねぇほど、世界を旅して回ってもずっとだ。惚れ続けて気がついたらここの備品になってた。そんで備品続けてたら提督んなってた」

 

 そして山城を見て。

 

「山城、お前はいつだって元気をくれた。覚えてるか?扶桑が無事だって、一緒に喜んではしゃいだ時。如月が目を覚ました時に抱きついて泣いた時。不幸不幸と言ってため息ついてる時。俺はずっとコイツが不幸と言わねえようにするにはどうすりゃいいんだと思ってた」

 

 玄一郎は両手で二人を抱きしめた。

 

「なぁ、聞かせてくれ。頼むから、ハイかイエスかオーケーか了解かどれか肯定で答えてくれ」

 

 そして、玄一郎は人生最大の勇気を振り絞って問いかけた。

 

「扶桑、山城、俺と結婚、してくれるか?」

 

 答えは。

 

「「はい!!」」

 

 だった。

 





野暮なギャグは入りません。

R15なのでエロも入れません。

……まぁ、そゆことで。

次回、俺は童貞だ、はネタに使えない。で、また会おう!(嘘)

 


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桜花顕現。

 不幸な子はどこかしらぁ~?救っちゃうよぉ?

 まさかのあの子登場。

 近藤さん、パパになる。


 

 提督が扶桑姉妹とケッコンカッコカリをしたという報は瞬く間にパラオ全土に知れ渡った。

 

 パラオに激震がはし……らなかった。

 

 予想の範囲内であり、誰もが『あー、やっとかぁ』と思っただけだったのである。

 

 パラオの住民達も提督と扶桑姉妹の仲はよくわかっていたし、パラオの守護神ともなった空母水鬼と平和的話し合いで和平を結んだゲシュペンスト提督と日本の別名である扶桑をその名に持つ扶桑姉妹の人気は高かったのである。誰もが温かい目でこの三人の仲を見守っていたのである。

 

 また、艦娘の誰も悔しがる者は居なかった。なにしろ近くで提督と扶桑姉妹を見てきているのである。解らないはずは無かったし、それに日本は艦娘法によって重婚が認められているのである。第一第二夫人が決まっても次がある、次っ!!と彼女達は思っていた。

 

 重巡のM型Aさん『えー?提督はきっと応えてくれます。私の事、いい女だって、プロポーズしてくれましたし……』(なお、目の所には横線、音声も若干修正しております)

 

 重巡のT型Aさん『はい、私のおっぱい大好きって言ってくれたわぁ。これってプロポーズよね?』(なお、目の所には横線、音声も若干修正しております)

 駆逐艦S型Yさんと駆逐艦S型Tさん『ん~、提督さんは優しいっぽい!』『そうだね。きっと扶桑と山城を幸せにしてくれるさ。それに、西村艦隊のみんなも、僕らもね』(なお、目の所には横線、音声ry)

 

 戦艦K型Hさん『はい、榛名は(嫁入り)大丈夫です!』(なお、目の所には横線、音声も若干修正しても誰だか丸わかりだっての?!)

 

 なお、上記のインタビューは、日本のテレビ局のワイドショーの映像である。

 

〈テレビキャスター〉『えー、艦娘の皆さんかなり乗り気です。しかし気になる提督なんですが、はい、どん!(ボードを出して)皆さんご存知の通り、パラオ泊地の提督さんはロボットなんですねぇ。(ゲシュペンストの写真を見せながら)ロボットの提督さんが結婚?と皆さん思われるかも知れませんね。では現地リポーターの浦和さんと中継が繋がっております。リポーターの浦和さーん!』

 

〈浦和〉「はーい、現地リポーターの浦和です!そう、日本でもご存知!スーパーロボット提督、ゲシュペンスト提督がケッコンカッコカリをしたという事で、今、パラオはその大事件で大騒ぎ!しかしもっと凄い特ダネを、我々現地リポーターは今回、入手いたしました!」

 

 リポーターが、フリップボードに貼り付けた青葉の号外新聞をカメラに向かって晒した。

 

〈浦和〉「なんと、あのゲシュペンスト提督に実は中身があった!!というのが今回の取材でわかったのです!!」

 

 ドバーン!!効果音。

 

〈テレビキャスター〉『ええっ?!あのスーパーロボット提督に中の人が?!』

 

〈浦和〉「はい、この憲兵と思われる男性の隣のTシャツとGパンのラフな格好をした、この男性、これがゲシュペンスト提督の中の人だと……」

 

 という感じで玄一郎の姿がお茶の間に放映されたのであったが。

 

 その同時刻、日本の舞鶴のラーメン屋にて。

 

「……あー、アイツもとっつかまったか」

 

 近藤大将は昼飯を食いながらそのワイドショーを見ていた。

 

 彼は時折鎮守府を抜け出してラーメン屋で飯を食う。正統派の醤油ラーメンである。鶏ガラとカツオ出汁の背脂なんぞ入っていない、具も海苔、シナチク、もやし、チャーシュー二枚のみの昔ながらの正しい醤油ラーメンである。

 

 ずぞぞぞぞぞっ。

 

 麺を啜り、レンゲでスープを飲む。

 

「……嫁の居ない所へ行きたい」

 

 はぁー、と溜め息混じりにそう言い、また麺を啜る。

 

 そういや、なんか土方が『第三夫人、間宮になりそうだよ?うひひっ』などと言っていたが、もしかしてあの間宮なのだろうか?と近藤は思い、少しぞっとする。

 

 かつて内閣総辞職、軍主導派幹部壊滅、左派壊滅に追いやった、食の策略家と呼ばれた間宮が大本営にいた。

 

 当時の日本は海軍暗黒期の真っ只中であり、軍主導派が海軍を牛耳り、そして左派による政党が政権与党になっていた。あまりにろくでもない時代だったのである。

 

 だが、そのろくでもない牙城を切り崩した一端は、たった一人の間宮だったという。その間宮は給糧艦のネットワークを最大に使い、全ての間宮を取りまとめ、さらには伊良湖、明石、大淀までもその仲間にし、全政治家、全海軍幹部達の情報を纏めて真っ向から政財界、政府、軍と戦ったのである。それも、食という武器のみで。

 

 たしかに近藤ら『艦娘擁護派』の活動によって今の海軍の体制にはなった。だが、もしもその『間宮オブザ間宮』が動いていなければ、ここまで早く『艦娘擁護派』の天下にはなってはいなかっただろう。いや、もしかすると『間宮オブザ間宮』が画策したとおりに『艦娘擁護派』は踊らされ、勝利者として今なお君臨させてもらっているのかも知れない。

 

 未だに『間宮オブザ間宮』の正体がどの間宮であるのか、海軍もわかってはいない。

 

 だが、なんとなく。そう、なんとなく。

 

 玄一郎の所の間宮が、怪しいと近藤は思ったのである。

 

 間宮は大抵は軍人とは結婚しない。そのほとんどはレストランのオーナーや、外食産業の社長などと結婚して退職していく事が多く、戦場から離れたがるのが今までの傾向だった。また、結婚しなくても退職した後には必ず何らかの食堂を経営しているのである。

 

 だが、好んで提督と結婚したがる間宮の存在に近藤は引っかかっていた。

 

「……ま、アイツなら大丈夫、か。あの金剛がついてるからなぁ。しかし、パラオにはバケモンが揃うようになってんのかねぇ。いや、アイツ自身バケモン級ではあるんだがなぁ」

 

 丼を両手に持ってスープを飲み干し。

 

「ふいぃ~、やっぱここのラーメンは最高だ。ラーメンはスープまで飲み干せてこそだ」

 

 近藤のこだわりである。塩分と脂ギトギトなラーメンのスープではクドくて飲み干せない。だが、ここのスープはすっきりとして飲み干した後も嫌な後味も無く、うまいのだ。

 

 と、ラーメン屋入り口が開き、そして一人の少女が店に入って来た。

 

「近藤大将。高雄達が呼んでいます。早く帰って来い、と」

 

 あん?とその少女の方を向き、近藤は、はぁぁぁ、と溜め息を吐いた。

 

 その少女は、舞鶴鎮守府の警備哨戒班の艦娘達が海で拾ってきた少女であり、名を渚桜花と言った。どうも記憶喪失であるらしく、名前以外わからず、何故か高雄達が気に入って、身元が解るまで舞鶴鎮守府で保護しているのである。

 

 黒髪に儚げではあるが強い意志を宿した瞳。そして鍛え上げられた筋肉をその柔らかな身体に隠している。

 

 近藤の目から見て、ただ者ではないのは解っているのだが、この少女、妖精さんがやたら懐いたり艦娘達に好かれる体質をしている。つまり、悪人ではないのはそれだけで解るので、近藤も特に警戒はしていない。

 

「つか、アイツら保護してるお前を寄越すかぁ?ったくよぉ……って、どうした?桜花?」

 

 桜花はテレビのワイドショーの映像を見て固まっていた。

 

「ゲシュペンストタイプS?!それにカーウァイ・ラウ大佐?!そんな、撃破されて消滅した機体が何故この世界に?!」

 

「え?桜花、どうした?」

 

「近藤大将、あれはどこに居るのですか?!あれはエアロゲイターに鹵獲され、敵に運用されていたゲシュペンストです、危険な機体なのです!」

 

 いつも物静かな桜花が取り乱しているその姿に近藤は驚くも、両肩を掴んで落ち着かせる。

 

「落ち着け桜花っ、あれは俺のダチだ。つか、お前やっぱり記憶、あるんだな?ワケありだとは思ってたから無理に聞かなかったが。……まず鎮守府に帰ろう。そんで話をしよう。大丈夫だ。悪いようにしない」

 

「くっ……わかりました」

 

 桜花は少し目を伏せて、しまった、とばかりに唇を噛んでいた。その様を見て近藤はふぅ、と息を吐くとラーメン屋のオヤジに銭を払い、渚桜花を連れて鎮守府へと帰って行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「つまり、お前はアイツと同じ世界に居た、というわけだな?」

 

 渚桜花の話を聞いて近藤は、ううむ、と唸り少し苦い顔をした。

 

「そうです。私の記憶が正しければ、あの男の名前はカーウァイ・ラウ。機体は敵性機体に登録されている、ゲシュペンストタイプSのはずです。私には直接の交戦はありませんがエアロゲイターと呼ばれる異星からの侵略者に鹵獲され、ゲシュペンストタイプSは侵略者達の手先として運用、パイロットだったカーウァイ・ラウ大佐はその操縦ユニットとして生体部品にされていたはずです」

 

「……その辺は本人から聞いている。カーウァイ・ラウという名前に関しては聞いた事は無いが、再生したとか言っていたな。で、お前は?」

 

「ノイエDC所属……いえ、残党と言うべきでしょうか。地球連邦軍においてはテロリスト側に組していました。スクールと呼ばれる、異星人と戦うための兵士を作り出す機関で育てられ、そして改造され、洗脳されていたのです」

 

 本名はオウカナギサ。しかしその名も研究者の一人で人道的な考えをまだ失っていなかったクルエボ・セロに名付けられた名前である。アウルム1と呼ばれ、アギラ・セトメによって様々な処置をされ、そしてマシンセルとゲイム・システムを搭載された機体、ラピエサージュを自爆させ、アギラ・セトメもろともこの世を去った少女であった。

 

「なんとまぁ……」

 

 近藤は顔をしかめた。こんな少女に改造や洗脳を施して戦わせ、その上、テロリストとして活動させるとは。

 

 だが、かつての日本海軍の軍部主導派のやってきたことを思えば、日本海軍も人のことは言えない。その時代を知るが故になおさら腹立たしく思った。

 

 愛宕が手で自分の口を被い、目に涙を浮かべた。愛宕はこのオウカナギサをとても気に入って娘のように可愛がっている。高雄もそうだ。そんな少女の辛い過去を聞いて我が事のように悲しんでいた。

 

(……なんとか、してやんねぇとなぁ)

 

 近藤は桜花をまっすぐ見て、思う。確かに身のこなしや佇まいは下士官そのものだ。今もこうして立っている桜花のその様は、上官に対する下士官の姿勢に他なら無い。それが自然であれば自然であるほどに、近藤にはそれが痛ましく感じた。

 

 だが、まずは聞かねばならないことはいろいろある。それからだ。

 

「マシンセル、ってのは、ズフィルートクリスタルとどう違うんだ?聞いていると似たようなもんに思えるんだが?それにゲイム・システム?」

 

「マシンセルはズフィルートクリスタルを参考にして作られたものです。破壊されたゲシュペンストタイプSのズフィルートクリスタルを解析したものだと聞かされてますゲイム・システムは機体の性能を上げるシステムの一種、です」

 

 オウカはゲイム・システムの危険性を敢えて伏せた。近藤や高雄達に要らぬ心配をかけたくなかったからだ。

 

 なんか隠してやがるな?、とは近藤も思った。ゲイム・システムという言葉の響きがどうも『危険臭い』。あえてさらりと言う辺りが特に。

 

 しかも機体の名前がラピエサージュ。フランス語の継ぎ接ぎという意味だ。なんとなく、その辺でとても嫌な予感がした。

 

「つまり、奴のがオリジナル、と?」

 

「そうなるのですが、修復不能なまでに破壊されたゲシュペンストタイプSが、何故パラオに居るのか、それにカーウァイ・ラウ大佐も破壊……いえ、亡くなっているはずなのです。あと、私も……生きてはいないはずなのです」

 

「……ところで、奴にはゲシュペンストがある。お前には機体は無いのか?お前だけなのか?」

 

 近藤は、出来ればあって欲しくないと思った。継ぎ接ぎの実験機というのは危険性が高い。そしてそんなもんにこの目の前の少女を乗せたくない。だが。

 

「私の機体、ラピエサージュは、海に隠しましたが、呼ぶことは可能です」

 

 オウカは短く「ラピエサージュ、来て」と言った。

 

 すると、オウカの後ろに厳ついロボットがヌッ、と一瞬で現れた。

 

 これには近藤もかなり驚いた。

 

「……ゲシュペンストみたいなのが、もう一機かよ」

 

 ああ、やっぱあったのか、と諦めにも似た念がわいた。だが、これで目の前の少女の正体もわかった。

 

 艦娘と同様なのである。この目の前の少女は、ゲシュペンストと玄一郎と同様なのだ。

 

 艦娘の本体にあたるのが、オウカ・ナギサであり、艦装にあたるのが少女の後ろのラピエサージュだ。少女とあの機体は切っても切れない。どちらも彼女なのだ。

 

 近藤は今までのゲシュペンストに対する調査から、それを悟った。だが、そのラピエサージュを見て、彼は決意を固めた。何より、放り出すという選択肢は最初から無いのだ。

 

「私を、カーウァイ・ラウ大佐にあわせて下さい。私は自分が何故この世界にいるのか、いえ、何故死んだはずの私がこの世界にいて、そしてあの破壊され、死んだはずのゲシュペンストとカーウァイ・ラウ大佐もまた存在するのか、確かめたいのです」

 

 確かにそう言うだろうと予測していた。だから近藤も、

 

「……なぁ、桜花。今日本もパラオも厳戒態勢下にあるんだ。警戒してんのは、あのゲシュペンストを一度破壊しかけたようなバケモンが絡んで来ている可能性があるからなんだわ。そんな状況で行かせんのはちょっとなぁ」

 

 と言った。これは事実であるが、近藤は海軍の重鎮の一人なのである。実際には何とでも出来る。それに少女の後ろに控えるロボットを見るに、おそらくはゲシュペンストと同等以上の強さを感じる。それにオウカの今の霊力も艦娘から考えるに戦艦級のそれを感じさせた。

 

 だが、近藤もカードを出さねばならぬ。

 

「ラピエサージュとなら大丈夫です。行かせて下さい」

 

 ずいっ、と身を乗り出し、オウカが言う。その動きに追従してデカい機体も後ろで身を乗り出し、ずぉぉぉん。

 

(これは脅迫に近いモンがあるな。本人は意図もそんな考えはねーだろけどな)

 

 近藤は、確かに大丈夫かも知れんが別の意味で大丈夫じゃないんじゃねーか?これ、と思った。

 

 ゲシュペンストはまだ正義のロボットと言われればそう見える。だが、オウカのラピエサージュはどう見ても悪役ロボットにしか見えないぐらい厳ついのだ。女の子が乗る機体なんだからなんとかならんかったのか?とかも思う。

 

(ラピエサージュってのはキルトとか作るときの継ぎ接ぎってのを言う言葉なんだからよぉ)

 

「はぁ、わかったわかった。一応、上に連絡して……いや、しかし、むむむ。お前には、普通の女の子として生きて欲しいんだがなぁ」

 

 近藤は頭をバリバリ掻きつつ、わざとらしく、はぁぁっ、と溜め息を吐いた。近藤は桜花をかなり気に入っていた。また近藤の妻全員も桜花を好いており、全員が近藤に詰め寄り、『このまま身寄りが無ければウチで引き取ろう!』と言ってきた程なのだ。

 

 そして、近藤はカードを切った。近藤勲大将の決断である。

 

「お前さん俺達の家族、養女になれ」

 

 近藤はいきなりそう切り出した。

 

「養女、ですか?」

 

「そうだ。身元不明じゃなんにも出来ん。パラオ行きだって手配もそれでなくても厳戒態勢下で困難なのが余計に困難になっちまわぁ。戸籍用意するにゃそれが一番手っ取り早い」

 

 そう、これは単なる口実だ。こういう事態にならなくとも折を見て切り出そうと思っていた。いや、このような事態だからこそ、と近藤はオウカな目をまっすぐ見て真剣に言ったのだ。

 

「どうだ?」

 

 桜花は少し俯き、考えた。

 

「悪い話じゃねぇと思うし、悪いようにもしねぇよ。それに例えば学校通いたけりゃ通わせるぐらいのことはしてやれるし、生活だって……それは今と同じか。ただ夜遊びは禁止。悪い虫はデストロイ!彼氏が出来て付き合うとか……も、ダメだ。それは駄目、特にだ。お父さん許しませんよ!……」

  

 なんか崩れて来た。

 

 べしっ!

 

 近藤の横にいた高雄がファイルの束で近藤をしばいた。

 

「はぁ、まだ養女になってもらってないうちからこれだもの。あのね、桜花ちゃん。私達は家族よ。養女になってもならなくてもそう思うの。血が繋がらないなんて些細な事だわ。鎮守府のみんな家族で仲間で。寄せ集めだけど誰もそれを否定しないわ。すでにとっくにあなたもその一人だわ」

  

 高雄が柔和に笑い、そう言う。

 

「そうそう、でもちょっと考えておいて?私達はあなたを娘に迎えたいのよぉ。私達みんな、大好きよぉ?桜花ちゃん」

 

 愛宕もそういってオウカを抱きしめる。

 

「……受けさせていただきます。高雄お母さん、愛宕お母さん、ありがとう」

 

「まぁっ!」

 

 高雄が目を見開き。

 

「きゃーっ、高雄っ、今の聞いた?聞いた?愛宕母さんだって!きゃーっ、嬉しいわ、桜花ちゃん!」

 

 愛宕が抱きしめる力を強めて喜んだ。

 

「いよっしゃあっ!!」

 

 近藤が立ち上がり、ガッツポーズを決める。

 

「うぷっ、愛宕さん、ぷわっ、あの、その、バスト、バストで息がっ?!」

 

「あらぁ、ごめんなさい」

 

「決まりだ!親父としてちゃんとしてやらぁ!!母親も選り取り見取りだぞ、ウチには俺の嫁だらけだからな!!パラオ行きだな。よーし、パパ頑張っちゃうぞぉ?」

 

 近藤はよほど嬉しかったのか、おどけて力瘤を見せて笑って言った。

 




 オウカねぇさんまさかの登場。

 姉キャラですが、もっと姉キャラな高雄さん愛宕さん相手だと、高雄さん達がママキャラになるの法則。

 近藤さんが養父、近藤さんとこの艦娘がママになる、という。

 


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ちょっとした生活の変化。

 カーウァイ・ラウ。さらりと流し。

 近藤さん浮かれる。

 オウカ・ナギサさん正式に養女へ。

 主人公おさるさんウッキー(R-15故に自重)。

 


 『カーウァイ・ラウ』

 

 ゲシュペンストは自分をそう名乗った。玄一郎はなんとなくそうなのではないかと思っていた。なにしろカルディアの話では『カーウァイ・ラウ大佐』はゲシュペンストタイプSのパイロットであり、そして自分によく似ているという。

 もちろん、玄一郎はカーウァイ・ラウという名前では無いし、それならば様々なところで会話の端々にボロを出して昔は人間だったような事を言う、ゲシュペンストの自我は誰なんだ、とくれば誰でも解る。

 

 だから「ああ、そうなん?やっぱしなぁ」で終わりであったが、それは興味の有る無しとかではなく、それがわかった所で、玄一郎とゲシュペンストの関係になんら影響もなく、いつも通りの『相棒同士』なのである。

 

 ゲシュペンストのネタ晴らしは簡単にさらりと終わり、玄一郎の反応もさらりとしたもので、話し終えて、彼らはすぐに執務を始め、カルディアに『ええっ?!』と驚かれたりしたのであった。

 

 と、いうか、カルディアはその元々のキャラを崩してまで「それでいいわけないだろ?!というか、ものすごい事だぞ?!スルーしていいわけないだろう?!」とか言ったが、玄一郎もゲシュペンストもそれに対して。

 

「いや、とっくにそれ前世みたいなモンだし?この世界で新たな人生やってるし?つかこの世界にゃ関係ねーし?」

 

〔うむ、その通りだ。だいたい我らは元の世界では死人だしな。命がまた得られただけで儲けものだ〕

 

 と、なんか悟ったような事を言った。

 

「いや、そうかも知れないが、もっとこう……何かあるだろう?なにかっ!?」

 

「何年も一緒だからな。今更コイツがどうだって言われてもなぁ。なぁ、カーウァイって呼ぼうか?」

 

〔ん?ゲシュペンストで良いぞ?何か変わるものでもあるまい〕

 

 どこまでもマイペースであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、朝である。

 

 扶桑姉妹と婚約、次の日ケッコンカッコカリをしてしまった三人は、近藤勲大将からの電話で叩き起こされた訳であるのだが、近藤勲大将はテンション高く非常にご機嫌良く、さらには普段厳つい顔なのに今日は恵比寿顔、というなんか悪いもんでも食ったのか?と思うような感じであった。もっとも受話器越しなので顔はわからないのだが。

 

『あ~、そっちは朝か?すまんなぁ、つか昨夜はお楽しみでしたね?ってか?わははははは、新婚さんは初々しいねぇ、ところでな、俺に娘ができちゃったよ、わはははははは!んでだ、ちょいとな、ワケアリなんだがコレが良い子なんだ、で、なんかお前さん見たらなんだっけな?』

 

「……えーと、大将、呑んでます?」

 

『うぃひひひ、呑んでるぜー?嬉しくて嬉しくてよぉ、うん、こりゃあ祝い酒呑まにゃ、わはははは』

 

『ちょっと、お義父さん!』

 

『おお我が娘よぉ、ん~っ、パパのお膝においでぇっ、あははははは』

 

 べしっ!!『あがっ?!』ドサッ。

 

『ええっ?!あの、お義父さん?大丈夫?!って大和母さん?!』

 

 聞いたことの無い声が聞こえた。どうやらこの声の主が近藤の娘のようであるが……。

 

『……只今、電話代わりました。舞鶴の大和です。えーと、黒田准将、ケッコンカッコカリおめでとうございます。先ほどは大変お聞き苦しいものを出しちゃってすみません』

 

 いつもの如く舞鶴の良心、大和がナニかシタヨウダ。とはいえそこをツッこむとなんか怖いので玄一郎はスルーする。

 

「いえ、お祝いのお言葉やら何やらありがとうございます。ところで何があったんです?なにやらそちらでも良いことが?」

 

『はい、私達、養女を迎えたのですよ。近藤などはもう舞い上がってしまって。おほほほほ』

 

 玄一郎は軽く驚いたが、近藤の性格から考えるによほどその養女が可愛くて仕方ないのだろう。あそこまで上機嫌に酒を呑んで騒ぐなど普段の近藤からは考えられない。

 

「近藤さんがああなるというのは余程、その娘さんを可愛がってらっしゃると見えますね。おめでとうございます」

 

『はい、私達も初めて見た時から他人のように思えないほどだったのです。うふふっ、娘として迎えられて本当に良かったと思います。で、その娘がですね、どうもゲシ、げしっ、けしぺんしとっ……。ごほん。黒田准将にお会いして話がしたいと言いまして。それで一度パラオにお伺いしたいと』

 

(やはり噛むのか、大和さん)

 

「はぁ、私に?」

 

『あ、ちょっと電話、代わりますね?』

 

『電話にて失礼いたします。私、オウカ・ナギサと申します。この度、近藤家の養女として迎えられました。よろしくお願いいたします』

 

 玄一郎はどちらが姓でどちらが名前なんだろなぁ、近藤さんとこの娘さんになったのなら、近藤ナギサ?それとも近藤オウカ?などと思った。

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。私はパラオ泊地に勤務しています、黒田玄一郎准将です。近藤大将にはいつもお世話に……」

 

 しかし、玄一郎の言葉を遮るようにオウカは鋭く、

 

『……あなたは、カーウァイ・ラウ大佐、ですよね?』

 

 と、言ってきた。

 

 その名が出てきたのはこれで二度目である。だが、その名前は玄一郎の名前ではない。だが、その名前はもうすでにゲシュペンストから聞かされていた。

 

 それは、ゲシュペンストタイプSに半ば組み込まれ共に破壊された生体ユニット。かつて異星人の侵略者に自我を奪われた男。そして、ゲシュペンストの自我として意思を取り戻した男の名前だったのである。

 

 つまり、ゲシュペンストの機体の方がカーウァイ・ラウであり、中の人が玄一郎という事になる。

 

 だが、その名を知ると言うことは。

 

「ふむ、その名前が出るってのは、君もこっちの世界に転移してきた、って事かな?」

 

『そう、なると思います』

 

「なるほど。あー、悪いが私はカーウァイ・ラウの『方』じゃ無い。あー、近藤大将に代わって欲しいが、まだぶっ倒れてるかね?』

 

『……えと、起きそうに、無いです』

 

 おそらく、近藤大将の鎮守府のノリにまだ慣れていないのだろう困惑したその声に玄一郎は微笑ましいと感じた。まだ若い声であり養女と言うからにはまだ10代だろうかと推測する。本当は少女らしい性格なのだろう。

 

「近藤大将のところは良いとこだろ?」

 

『はい、みなさん良くして下さいます』

 

「大将があんなに酔っ払うってのはあんまり無いんだぜ?よほど嬉しかったんだ。すまんね、ちょっと君のことを疑ってたよ」

 

『え?』

 

「……近藤大将が信じる君を俺も信じるって事さ。君は敵じゃない。悪かった」

 

 玄一郎はとある事で異世界から来た連中が敵型についていると確信しており、彼女がその手先なのではないか、と思ったのだ。

  

 だが、近藤大将はスパイや諜報の人間にはいち早く気づくし、泳がせる事はしても放って置かない。ましてや養女にするなど考えても有り得なかった。それに近藤大将の場合は妖精さんたちが必ずそういう人間を排除にかかるのである。

 

 そう言う意味では玄一郎の疑いは的外れであった。

 

 なお、玄一郎はつい最近まで妖精さんが見えていなかったのだが、扶桑姉妹とケッコンカッコカリをしてから見えるようになり、話も解るようになっていた。

 

 まぁ、妖精さんの第一声が「おせぇよバカヤロウ」だったのにはかなり驚いたが。

 

『……私、まだ貴方を疑ってます』

 

「そうだなぁ、『俺を信じるな。近藤さんが信じる俺を信じろ』って訳にはいかんだろうなぁ。で、パラオに来んの?』

 

「はい」

 

『聞きたい事はだいたい解る。調べたい事もだいたいな。とはいえ、厳戒態勢中なんだよなぁ。うーむよく近藤さんが許可したね?』

 

『貴方にゲシュペンストがあるように、私にも『ラピエサージュ』があるので』

 

 ラピエサージュというのは良くわからなかったが、おそらくは何らかの機体であるというのは玄一郎にもわかった。それにその口振りからして余程の強さと自信があるということも。

 

 だから玄一郎は若い兵士にありがちな慢心ではなかろうな?と、少し試しつつアドバイスという名のお節介をする事にした。そう、慢心ダメ絶対。

 

「君にも相棒がいるって事か。わかった。ただ何事にも過信するなよ。そうだなぁ、後で近藤さんに敵のデータを見せてもらうと良い。知るのと知らないのとでは大違いだからな。道中何があるかわからん。遭遇戦に備えて、後は……」

 

『あとは敵航空機の限界高度と、機動半径、主砲の命中範囲ですか?』

 

 果たして、オウカの回答は完璧だった。よくわかってるじゃねぇか、と内心思い、

 

「普通なら必要無い!とか言い出すかと思ってたよ。その通り。後は敵分布の把握、とかなんだが、それだけやっても不十分、海の戦場にゃ境界線はねぇ。陸より広く点と線の戦場だ。君の経験と判断、実力を推し量る物差しはねぇからなんとも言えないがな」

 

 と付け加えた。

 

『母さん達の敵です。侮ることはしません。それに敵の分析は必ずするべきですしもう済ませてます。カーウァイ・ラウ大佐のPT戦術教本はいくつも読みましたから』

 

 余程、近藤さん達を慕っているのだな、と玄一郎は思いつつ、自分の相棒がそんな本書いてたのか、とも驚いた。

 

「そうかい。相棒に伝えておくよ。ではパラオで待ってるぜ?だが気をつけろよ?あとはこっちの通信機の周波数は連邦軍の七番だ。わかるか?』

 

『わかります。七、ですね』

 

『ああ。日本を立つ前に一度連絡をくれ。あと航路をな』

 

『了解です。では、またパラオで。黒田准将』

 

「ああ、歓迎するぜ?オウカ・ナギサ君。ああ、近藤さんが起きた頃に、また連絡すると伝えてくれ。報告する事があってな。データは送信しておいたが、酔ってんじゃまだ見てねーわなぁ」

 

『はい……えーと、大和さんに……』

 

「いや、暗号コード化してある。提督間の文書でな秘書艦では読めないようになってる。一種の秘匿文書だな。近藤さんは開示するだろうが、念の為だ。ま、よろしく頼んだ。じゃあな」

 

 玄一郎はそういうと、通話を切った。

 

「ふぅ、しかしまた厄介なこったなぁ」

 

「ん。どうしたのですか?玄一郎さん」

 

 息をつく玄一郎にベッドの右隣に眠っていた扶桑が問うた。

 

「なんか、近藤さんに娘が出来たとかなんとか聞こえたけど?それに遭遇戦とかなんとか。うーん、どんな子?艦娘?」

 

 左隣の山城が好奇心いっぱいに聞いてきた。

 

「うぉっ?二人とも……。あー、そうか。ああ、そうだったなぁ」

 

 ケッコンカッコカリをして、まぁ、いわゆる、その、初夜を迎えてから2日目。ようは三人は裸のまんまであり、抱き合って寝ていたのである(R-15の表現規制)。

 

 滑らかな白磁の如き白い肌が両の腕に触れて、そしてその身をリネンのシーツがするりと滑るように落ちる。

 

(……うん、こればっかりはちょっと慣れそうに、ないな)

 

 美人は3日で飽きると言うが、15年、そう初めて知り合い気付けば15年。真の美人に玄一郎は飽きる事など出来ようはずもなく。

 

 肌触れ合って、夜戦を重ねて何回戦、その二晩でこの15年という歳月の想いを遂げるもまだ足りない。

 

(いやいや、もう朝なのだ。始業までに早く朝飯用意して身を整えて。夜まで我慢っ!)

 

 玄一郎は忍耐力を発揮してぐっとお猿さんになりかける己を抑えた。

 

「……近藤さんが養女を迎えたんだと。ただ訳ありだ」

 

 玄一郎は、少し困り顔で言った。

 

「ま、そこんとこは朝飯ん時に説明するよ……シャワー、浴びてきてくれ。俺はその間に伊良湖のパン、買ってくっからよ」

 

 そう言いつつ、二人を両脇に抱えるようにして、右、左と二人の頬にキスをし、離して起き上がった。

 

 腰が辛い。太股がパンパンで、背中も引っかき傷で痛い。首筋も肩も痛いが、手を触れればおそらくは歯形やキスマークの痣があるはずだ。

 

 玄一郎はこれも愛の証か、などと思いつつ、ごっそりと失った体力を補給せんとなぁ、と服をいそいそと着て、朝飯を買いに行くのであった。

 

 




 俺は童貞だぁぁぁっ!はもう使えない。

 強化改造人間で良かったね。

 扶桑姉妹は激しい。

 次回、間宮マンマミーアでまた会おう!(仮)。


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『護国同盟』

さて、パラオには怖い怖い方達がさらりといたりするわけですが。

ただものではない艦娘達の嫁入り談義、です。

なお、私は政治に関しては特になんら含むところはありませんよ、と最初に言っておきます。

銀○の、エリ立ってますよ?の回はもう一度みたいなぁ。


 金剛と間宮は、営業終了した間宮食堂のテーブルで久方振りに語り合っていた。

 

 この間宮の正体からまずは言わねばならないだろう。そうでなければ話は進まぬ。そしてこの間宮と金剛の仲も、だ。

 

 この間宮、近藤が予想した通り『間宮オブ・ザ・間宮』であった。この間宮こそが、かつて海軍暗黒時代を終わらせるための最初の引き金を引いた間宮である。

 

 そして。

 

 そのシナリオを書いた、参謀とも言うべき役割を果たしたのが、この現在パラオに在籍している金剛、すなわち『ザ・金剛おねぇさま』であったのである。

 

 時は海軍暗黒期、艦娘不遇の時代であった。

 

 政府は当時、深海棲艦の度重なる侵攻に保守派は叩かれ、左派政党が政権を握り、より国内政治は混迷し、そして汚職は横行、政治は腐敗し、憤る軍主導派が左派政党に対してテロや反乱事件を繰り返し、国内は荒れに荒れていた。

 

 当時食糧や資源の大半を輸入に頼っていたツケで、国民の大半が飢え、深海棲艦に殺されるよりも餓死する者が多かったという時代まで発展していたのである。

 

 間宮は給糧艦である。その艦装の能力は膨大な糧食を蓄え、運び、そして供する力があった。

 

 当時の海軍の『艦娘養護派』の提督達は間宮のその能力を使い、深海棲艦の被害がほぼ無かった大陸から食糧を輸送し、国民を飢えから解放する計画を立てた。

 

 そして、その護衛の艦隊に、金剛、叢雲、高雄、赤城を当て、計画を実行したのである。

 

 この食糧輸送計画の間宮と金剛が、今のパラオ泊地の金剛と間宮であった。

 

 この二人は作戦を共にする事で深い友情を育んで行った。

 

 そうして食糧輸送計画は成功。数度に渡って実行され、間宮が運んだ食糧派は国民を……。

 

 救わなかった。

 

 原因は、独裁政権化した左派政党による横やりだった。食糧は倉庫に集められ、結局は国民に配られる事は無かったのだ。

 

 彼女達が数年に渡って作戦を遂行している間に国民だけでなく艦娘達も不遇な目にあわされていた。

 

 多くの者が不当に虐げられ、一部の特権階級を与えられた者達が支配し、国は日本の民のものでは無くなったのである。

 

 間宮は絶望した。飢えた人々を救う為にと文字通り命を懸け運んだ食糧が、国民達を苦しませる血も涙もないもの達の私腹を肥やし、力を増しさせて居たとは、と。

 

 膝をつき涙を流す間宮を、しかし金剛は間宮を立たせた。

 

 金剛も怒りに震えていたが。拳を握りしめ、その手から血を流していたが。しかし涙は見せなかった。

 

 金剛は決意したのだ。

 

 護国とは民を護る事を言う。太った豚の為に働くに非ず。

 

 そうして、金剛と間宮は動き始めたのである。

 

 金剛は言った。二年で日本を取り戻す、と。

 

 間宮は金剛の計略の通り、他の給糧艦や工作艦達とコネクションを作っていった。ブラック鎮守府に派遣された大淀達をも巻き込んだ。

 

 金剛は見込みのある将校や将校達や艦娘達を育て、目覚めさせていった。

 

 多くの人材、多くの情報、様々な策略を駆使し、メディアさえも活用し、鳳翔(現在の斎藤一夫夫人)、龍驤(現在の鉄板焼き屋RJ経営者)など最初期に現れた艦娘達のネットワークも引き込み、青葉達のパパラッチネットワークを使って、そしてついには政権を倒し、軍主導派を調伏し、左派議員達を追放したのである。最初の宣言の通り二年で、である。

 

 怒涛の国家奪還であった。

 

 そして、恐るべき事にこの奪還劇の主謀者は未だに何者であるのかわかっては居ない。誰もが保守派の政党が行った奪還劇だと思って居る。まさか艦娘達が作った組織が裏にあったなど思いはしていない。

 

 詳細に近い部分を知る者は一部の議員達と海軍の重鎮であろう。

 

 そんな彼女達である。やろうと思えば人類を艦娘達が支配する世の中さえも作れただろう。

 

 しかし、艦娘達はそれをする事は無かった。全ては民と護国の為と行った事でありそれを曲げる事はしなかったのである。

 

 そんな艦娘が集うパラオ泊地というのはある意味恐ろしい場所である。護国の鬼の島なのだから。

 

 さて、そんな護国の鬼の親玉級が二人。

 

 金剛さんと間宮さんがキャッキャウフフとガールズトークに華を咲かせている。

 

 紅茶は金剛が入れ、クリームの入ったビスキュイは間宮お手製。あえてスコーンではなく、ビスキュイを出す辺りが間宮のこだわりなのかも知れない。彼女の持つ料理のレシピはフランス料理とイタリア料理である。

 

「深夜のお茶会も、何年振りカネー?」

 

「かれこれもう20年ほど前に……って、やだ、なにかオバサンになった気がするわね」

 

 深夜のお茶会はこの二人が日本奪還計画を密かに進行していた時にやっていた会議である。この会議にはかつて鳳翔や龍驤、叢雲もいた。

 

「うっ……、年齢の話はノーですヨー!まだ乙女、ワターシ達、そう、この世に身体持って20数年ヨ?人間で言うと25、6歳ナノですカラ!」

 

 そう、深海大戦が始まったのは今から30年ほど前であり、艦娘の出現はその後であるからして、彼女達はだいたい最年長の艦娘でも30ぐらいなのである。なお、最年長の艦娘は松平元帥の細君となっている最初の叢雲であり、彼女で現在31歳である。なお、金剛さんがドロップしたのは叢雲さんの約半年後……げふんげふん。

 

 まぁ、だいたいの戦艦は大学生ぐらいの容姿をしており、それが30年となると人間ならば50代に相当する。艦娘の容姿は変わらないのであるが、精神年齢的にだいたいそんな感じとなるのである。その辺を考えると、最初に出現した戦艦である扶桑は金剛よりも二カ月年上という事になるが、その辺突っ込んではならない。なお山城は扶桑の一年後であるから、えーと山城さんは……いや、それはさておき。

 

 カラカラカラン、と間宮食堂の入り口の鈴が鳴った。

 

「あら、金剛さん、間宮さん、お夜食ですか?」

 

 鳳翔がなにやら風呂敷に包んだお重のようなものを持って立っていた。そしてその後ろには龍驤がいる。

 

「久し振りやなぁ、『護国同盟』集まんのは23年振り?」

 

 『護国同盟』は艦娘による日本奪還計画を立てた組織の名前である。ここに松平元帥の妻になっている叢雲を入れれば、5人の幹部が揃うこととなるのだが、叢雲は大本営である。

 

「二人とも、ドーシタネー?」

 

「いえ、間宮さんがゲシュ君にプロポーズしたと聞いて」

 

「ん~、おもろそうやったから」

 

 二人はニヒヒ、と笑いつつ手土産をテーブルの上に置いた。

 

 鳳翔の包みにはあんこと、きなこのおはぎ。

 

 龍驤の紙袋にはクレープ。

 

「オゥ、これは美味しソーデス!」

 

「うふふふっ、昔を思い出しますね」

 

 かつてクーデターを企んだ四人は囁かな同窓会を開く。今、企むのは婚活テロ。

 

 鳳翔は企て、金剛は練り、龍驤はツッコみ、間宮は探る。

 

「ここに叢雲がおらんのはちょっとなぁ。アイツもおったらオモロいのに」

 

「まぁ、本国で朋也君と頑張ってるから」

 

「ホウショーぐらいネ、元帥を『君』呼ばわりするノ」

 

「あら、あなたも『トモ』扱いだったじゃない」

 

「あれはまだ少佐だった頃ヨー?将官になってからは……、まぁ、『トモ』で十分ネー?」

 

 あははははは、と四人は笑う。

 

 そう、松平元帥は『護国同盟』の五人に育て上げられたと言っても過言ではない。若くして大本営の山本元帥の直属の部下になったのも、確かに実力もそうであったが、鳳翔と金剛が推した事もその一端であった。

 

 その彼も、間宮に餌付けされ、叢雲に躾られ、鳳翔と龍驤の扱かれ、金剛に学んで元帥までに出世したのである。

 

 故に『護国同盟』の幹部達に頭が上がらなかったりするわけであるのだが。

 

「で、ゲーやんは『提督』かぁ?」

 

 龍驤はニヤリと笑って金剛にツッコミをかけた。鳳翔もニコニコしつつ

 

「その辺どうなのかしら?」

 

 意地悪く聞く。

 

「グッ、ソレは……、トイウカ、それよりマミヤの話デース!」

 

「あら、私もちょーっと聞きたいかしら?菅原大将以来じゃない?あなたがテイトクぅ、なんて呼ぶの」

 

 間宮もニヤニヤ。

 

「ウウッ、マミヤまでーっ、意地悪しないでブリーズっ!」

 

「意地悪やないで?『護国同盟』はな、未だにそれぞれ影響力あるんや。居酒屋鳳翔グループ、金剛一派、間宮・伊良湖連合。チーム・ムラクモ。どれも信用はしとるけど、情報を共有して監視し合うっちゅう仕組み作ったんは金剛やで?ケッコンカッコカリ一つ、結婚(ガチ)一つとってもそれは免れへんでぇ?」

 

 などと言いつつもかなりニマニマしているため、それが単なる建て前でしかないのは全員わかっていた。

 

「そうですね。私の結婚の時も金剛さんはいろいろと根掘り葉掘りと聞いてきたわけですし。フェアにいたしましょう、フフフフフ」

 

「サイトウの時は、陸軍ダッタからジャナイ!アキツマルの事もあったデース!トイウカ、みんなそーだったジャナイ!」

 

「そうね。だから私達も聞いちゃうのよ?」

 

「いや、マミヤ!アナタも聞かれる方デース?!」

 

「観念しいや、みーんなそうなるんや。叢雲も鳳翔もそうやった」

 

「ソーイウRJはどうなんデースカ!!」

 

「ん~、ウチ?独身主義やし?」

 

「ヒキョーです!」

 

「彼氏おらんし?じゃりン子RJやし?」

 

 ホルモンでも焼いていそうだ。

 

「まぁまぁ。で、やっぱり二人ともゲシュ君のとこに嫁入りしたいの?」

 

 二人の艦娘の反応はそれぞれ違った。

 

 間宮はにっこり笑って余裕さえ感じるほど堂々と頷き、金剛は顔を真っ赤にしつつモジモジしながら俯いて小さく『イェース……』と答えた。

 

「で、ズバリ、どこがええのん?ん?ん?」

 

「「気がついたら(デース……)としか言えません」」

 

 二人は態度は違えど同じ事を言った。

 

 だが、二人の経緯は違っていた。

 

 間宮は玄一郎を飢えた子と評した。金剛は共にパラオで戦ううちに、と言った。

 

 間宮が言う飢えた子、というのはゲシュペンストの身体しか持ち得ていなかった頃の玄一郎の状態を言っていた。無意識に人間としての欲求を満たそうとしてロボットの身体ではかなわず、絶望していた頃の彼を間宮は知る故にそう評したのである。

 

 間宮は自分の居るところで飢えた者がいることを許さない、と常に思っていた。練度カンストの間宮は無限食糧庫、究極給糧艦、そしてアルティメットシェフとも言われる。

 

 しかし、その彼女をして救えない、飢えたロボットが玄一郎だったのだ。

 

 しかし、そんなロボットが提督になり、着任の挨拶に間宮を訪れた際に、彼女にこう言ったのだ。

 

『1日三食の食事は言い換えれば、その一食が1日の三分の一の命の糧です。いわば間宮さんはみんなの命の恩人ですね』

 

 その言葉を聞いた間宮は、救われたような、報われたような気がしたのだ。かつて食糧輸送計画で必死に国民の為に彼女は働いた。それが当時の独裁政権によってなんの意味の無い、むしろ国民を苦しませる一端になっていた、その苦しく辛い記憶が溶けて行くかのような、そんな無垢な言葉だったのだ。

 

 他でもない、食事を取ることも、味わうことも出来ぬロボットの身の彼が放った言葉。しかし、だからこそなのかも知れぬ。何気ない言葉、しかし、それは彼女の胸に刺さったトラウマの棘を、淡雪の如くに溶かしたのだった。

 

 それから、玄一郎はMVPを取った艦娘達に御褒美の景品にプリンアラモードやパフェなどの特別なお菓子を用意出来ないか?とか艦娘達の為に様々なアイデアを出してきたのだ。

 

 それは彼がかつて食の楽しみを知っていた人間だった事を間宮に悟らせた。

 

 楽しそうに様々な企画を語る彼の前に、間宮は内心、悲しかった。提督には胃袋も内臓も無い。味覚を感じる舌も無く、食べ物を頬張るための口も無い。心はこんなに食に飢えて渇望しているというのに、いや、それだからこそ艦娘達には良いものをと考える。

 

 痛ましく感じたのだ。

 

 今まで間宮は祈る事しか出来なかった。無限食糧庫?アルティメットシェフ?そう呼ばれても、無力だと思ったのだ。

 

 それが、あの日。

 

 提督がお越しになられた、と間宮にはすぐわかった。その姿を厨房から見て、間宮は涙をこぼした。

 

 嬉しそうに、楽しそうにメニューを迷いながら見て、そして選んで。カウンターに座ってワクワクしながら料理を待って。

 

 まるでその様は子供のようだった。

 

 間宮はすぐに行動した。最上級の肉を取り出し、間宮の知りうる限りのスペシャリテを以て調理した。前菜も副菜も全て作り置きではない。その場で、全身全霊全能力をかけて、けして待たせぬように作り上げた。

 

 間宮はやっとあの方の為に食事を出せる、と思うと全身に歓喜の震えが起こった。

 

 そして、間宮は理解したのだ。これは『愛』だと。

 

 自覚したならば、もう止まらなかった。そして気づいたら、口が言葉を紡いでいた。『妻にしてくださいませ』。今思えば顔から火が出るほどに恥ずかしいと思うが言ってしまったものは仕方ないか、と間宮は開き直る事にしたのだった。

 

「へぇぇ、ふーん、ほぉー、まぁ、ウチもアレが何も食えへんっちゅーのにはちょっと不満やったけど、アンタそこまでかぁ~。まぁ、でもその内ウチの店にも来るかも知れへんなぁ」

 

「うふふっ、間宮さんらしいですね。でも、そうですね、私が居た頃、ゲシュ君には食べさせてあげることが出来ませんでしたから、今度皆さんで食事を用意して持って行ってあげるというのも悪くないかも知れません」

 

「ん~、扶桑姉妹も誘ってネー?お茶会もするデースネー。アレ、コーヒーばっか淹れてるから、紅茶の良さを教えるデース!」

 

「扶桑さん達もかなり料理上手で知られてますから、これは間宮さんも負けられませんね?」

 

「……ところで、比叡は大丈夫かいな?」

 

「比叡はだいぶ安定してきてるネー。なんだかんだ言っても、かなりテイトクにお熱デース」

 

「まぁ、榛名も霧島もラブ勢やしなぁ。ふーむ、せやけど金剛のこっちゃ、ケッコンカッコカリ勢、何人かピックアップしとるんやろ?」

 

「その辺、扶桑姉妹といろいろ協議シマーシタ。マミヤには三番目に、とプッシュしたネ。一番混乱しない人選ヨー?」

 

「順番は何番でもいいのですが、ウチのグループから、赤城さんと加賀さんを私は推したいと思ってます。特に加賀さんは、あのまま行くとドサ回りの演歌歌手になりそうで少し怖いですし……」

 

 なお、加賀さんはパラオで演歌歌手デビューを果たし、CDシングル売上げで那珂ちゃんの新曲を抜いたという実績があったりする。

 

「せやなぁ、ウチは足柄なんとかしたりたいわ。アレ、痛々しくて見とったら泣けてくるでぇ?」

 

「扶桑姉妹は時雨さんも推してるようですが、やはり夕立さんも入れないと」

 

「長門もなんかゆーとったなぁ。大和も乗り気やし」

 

 そうして、海軍軍部に多大な影響力を持つ『護国同盟』のお歴々は、夜通し誰を入れるべきか誰を推すか、とワイワイうふふと語り合うのであった。

 

 主人公の意思などまーったく関係無く。




 間宮さんも金剛さんも辛酸舐めた時期はあったのです。

 主人公は天然ジゴロ。

 それ、アナベルガトーと同じ床屋で刈ったの?連邦の白い奴?とかも言わない。


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来ちゃった(いろいろ)

 ぞろぞろと、パラオ泊地に集う転移者達。

 そしてあの男も……。


 

 伊良湖ベーカリーでパンを購入する玄一郎のタブレット端末に舞鶴からのメールが入った。

 

 例のオウカ・ナギサ嬢からのフライトプランと機体の識別信号などの連絡だった。

 

 それは、こんな簡潔かつ丁寧に纏められた連絡なんぞ今まで見たことないぜ、と思うようなほどにわかりやすく、余程慣れているのだろうと玄一郎に思わせた。

 

 ふむ、で、到着はいつだ?と見てみれば本日。さらにあと二時間で着く、とある。

 

 はぁ?と思うも航路を見れば舞鶴からパラオまで一直線に線が引いてあり、さらに機体識別信号のコードを解析すれば『ノイエDC機』という、ゲシュペンストの世界では地球連邦軍からテロリスト認定されていた組織のコードだった。

 

 とはいえ、DCに対するゲシュペンストの見解はやや違ったものだった。

 

 当時の地球連邦軍の中には秘密裏に異星人に全面降伏しようという勢力があり、それらの降伏派に足を引っ張られる事無く、地球防衛に立ち上がった組織であったとゲシュペンストは見ていた。

 

 また、ゲシュペンスト……カーウァイ・ラウの元部下が二人、DC側に参加していた事もありその部下達の性格を思えば一概にDCが悪であるとは断定出来ず、連邦軍の主戦派達(仮)が降伏派(仮)を押さえ込んだ後は対異星人戦争に協力していった事からして、テロリストの汚名を着てまで地球を守りたかったのだ、とも言えた。

 

 とはいえ、ノイエDCにおいてそれが言えるのか、と言えば不明と言わざるを得ない。なにしろゲシュペンストが破壊された後の話だからである。

 

 玄一郎は、『ネオ』とかつくと大抵ろくでもねーんだよなぁ、とか思った。はにゃーん、とか、しゃーとか。

 

(まぁ、近藤さんが養女にするぐらいの子だから大丈夫だろうけど)

 

〔……到着時刻から逆算して音速飛行が可能な機体、かつディバインクルセイダー所属とくればリオンシリーズだろうか?〕

 

 ゲシュペンストはリオンと呼ばれる機体の画像をタブレット端末に送信した。空を飛ぶことに特化したような機体で、確かにこれならば速く飛べそうに見えた。

 

「ふむ、戦闘機とロボットを足して二で割ったような機体だな。確かにこういう機体なら女の子が乗ってても良い感じだな。確か、オウカって子の機体は『ラピエサージュ』って名前だが相棒、知ってるか?」

 

〔『ラピエサージュ』?いや知らない機体だな。リオンシリーズならば○○リオンと名称に必ずリオンがつくのだが。ふむ『ラピエサージュ』『継ぎ接ぎ』か。急造で作られた機体なのかそれとも特殊な実験用機体か〕

 

「調べてみたら手芸とかのキルトとかを接ぐときとかの用語らしいぜ。なんか女の子らしい名前だよな。きっと可愛い感じの機体なんだろうなぁ」

 

 玄一郎は先ほどゲシュペンストに見せられたリオンを女の子っぽい感じにカスタムした機体を想像した。それはフェアリオンにキルトを着せたような感じで、やたら可愛かった。

 

 しかし、玄一郎の想像とはかなりかけ離れた機体がやってくることをこの時の玄一郎には知る由も無かったのである。

 

 なお、フェアリオンはオウカの妹分の娘がその一機に乗ってやたらフリフリとアイドルっぽくなんかやらかしてたりするわけだが、その姉の機体は……。

 

 

 

 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!

 

 

 かなり厳つかった。いや、めっさ悪役ロボット的というかラスボス的というか、なんつーか、めちゃくちゃ強面な黒いカラーリングのゴテゴテと武装だらけな、超破壊兵器といった姿をしていた。

 

 ここはパラオ泊地内のゲシュペンスト用のリニアカタパルトがある滑走路である。時間が経つのは早いものでもう二時間が経過していた(尺の都合ともいう)。

 

 パラオの空軍基地よりはこちらに来てもらうのが早かろうと思い、誘導してもらったわけであるが。

 

 ラピエサージュのその姿は玄一郎の予想の斜め上どころか、突き抜けて銀河の果てまで、という感じであり、こんなのに女の子が乗ってて良いの?とか思うほどだった。

 

 大きさはゲシュペンストよりもやや大きいぐらいだったが、威圧感がパない。

 

 ラピエサージュは降下姿勢を取ると、ずももももももっ!という威圧感を放ちつつ、ゆっくりと静かに降りて来た。どうやら高性能のテスラドライブを搭載している機体のようだ。

 

 着地すると、機体からまるですり抜けて出るように、一人の少女が現れた。光の粒子をキラッキラさせつつ、顕現!という感じで。ハッチなどは開いていない。本当にすっと出てきた。

 

 可愛い女の子的な出現方法であった。

 

 ピッチリパイロットスーツがまたなかなかに良い演出をして、しかも出てくる時に戦闘カットインの乳揺れバリの乳揺れさえかましている。

 

 ラピエサージュが厳ついからこそ、美少女が映える。うん、玄一郎覚えた!

 

 とはいえ、まぁ。

 

「……なぁ、ゲシュペンスト。演出で俺達、負けてね?」

 

〔代々、男キャラはその辺りを叫びとか武器の破壊力のド派手さとかでカバーしてきたのだ〕

 

「お前敵キャラだったじゃねーか。あれ、ヒロイン級の演出よ?」

 

〔……機体はどう見ても悪役ロボだがな〕

 

「……技とか増やさねーとな。ちょうどカルディアの記憶にいろいろあったからな」

 

〔うむ。データリンクで見た。私的には骸骨のマスクの『イグニッション!』というのを推したい〕

 

「ふむ、あれは派手で良いな。あとはお前の派生機の持ってたグランスラッシュリッパーをだな……」

 

〔うむ、まだまだ若いモンには負けてられぬ〕

 

「そう、俺達ゃ主人公なんだ。頑張らねーとな!」

 

 メタな発言をするロートルコンビに苦笑しつつ、この話のメインヒロインな第一秘書艦にこのたび固定された扶桑とその妹かつやはりメインヒロインな山城は、二人を促す。

 

「ほら、二人とも。出迎えに参りましょう」

 

「こっちに歩いて来てるわよ、バカやってないでとっととしなさい!」

 

 扶桑と山城に促され、二人はオウカ・ナギサ嬢の元へ向かった。もちろん、提督モードである。その腰には軍刀拵えのシシオウブレードを佩いている。シシオウブレードは軍刀拵えではあるが、その大きさから差すのではなく太刀のように佩く形になる。

 

「ようこそ、パラオへ。私がこの泊地の司令官をしている黒田玄一郎。こっちがゲシュペンストタイプS、君の言っていた『カーウァイ・ラウ』だ」

 

「オウカ・ナギサです。この度は私の我が儘を聞いていただきありがとうございます。また厳戒態勢下の大変な時に押し掛けてしまい、誠に申し訳ありません」

 

 オウカは礼儀作法の教科書に乗せても良いぐらいの姿勢で頭を下げた。どこに出しても恥ずかしくない立ち居振る舞いである。

 

 見ればまだ16や17の身であるのに、もう完成されているかのような少女のその佇まいに、玄一郎は危うげさすら感じた。

 

(ふむ、近藤さんが養女に迎えようとするわけだ)

 

 彼女はかつて前の世界で、子供ではいられなかった子供なのだと玄一郎は推測した。おそらくは彼女には弟か妹かが居たのだろう。その子達を守るために、彼女は子供のままに大人にならねばならなかったのだろう。

 

 10数年間、ゲシュペンストとこの世界を放浪し、そんな子供達を様々な場所で玄一郎は見てきた。

 

 ゲリラの少年兵。パルチザンの少女。子供ながら領地を守らねばならなくなった貴族の子供。

 

 この子の眼差しは強い。守るものを持って戦った子供の目だ。そしてその金にも見える瞳は澄んだ良い目をしている。

 

「ふむ、近藤さん達の気持ちがよくわかるよ」

 

「え?」

 

「いや、舞鶴じゃなくてウチに来てたら、多分この二人がほっとかなかったろうなぁ、と思ってな?」

 

 扶桑と山城を指して玄一郎は、にっと笑う。

 

「紹介しておこう。ウチの妻の扶桑と山城だ。まだケッコンカッコカリしたばっかだ」

 

「うふふっ、はじめまして。扶桑です」

 

「よろしくね?山城よ」

 

「あ、はい、オウカ・ナギサです!宜しくお願いします」

 

「ま、舞鶴にも高雄さんとか愛宕さんとかいるけど、こっちにもいるから、ちょいと面食らうかもしれねーけどな、その辺は慣れてくれ。あー、そうだなぁ、良く似た親戚のオバサンぐらいに考えるのが良いだろかね」

 

「……オバサン、ねぇ」

 

 山城がジトメで言う。

 

「いや、だって子供にとっては自分のお母さんと同じぐらいの人にゃオバサンじゃねぇか?まぁ、俺はお兄さんで良いぞ?」

 

 玄一郎はしれっと言った。

 

〔では、私はゲシュペンストさんをゲシュ兄さんとお呼びすれば良いのでしょうか?〕

 

 なんかいつの間にかオウカの後ろに来ていたラピエサージュが、なんか内股でもじもじしながら、可愛らしい声でそう言った。

 

「「「し、喋ったぁぁぁっ?!」」」

 

〔いや、私も喋るのだから、彼女も喋っても不思議ではあるまい〕

 

「「「か、彼女って女の子なの?!これっ?!」」」

 

〔はい、その、自我はそうなります……〕

 

 オウカも目を丸くして固まっていた。おそらく、彼女も知らなかったのだろう。

 

〔うむ、好き呼ぶと良いが、私もかれこれ50代ぐらいだからな。おじ様で頼む〕

 

〔はい、ゲシュおじ様!〕

 

 ゴツく黒いどう見ても悪役ロボがもじもじと乙女な仕草をしているのに、パイロットのオウカを含めた四人は固まってしまい、数分の間、ゲシュペンストとラピエサージュのなんとも言えない会話を聞きつつ脳内からスルーという、感じで何がなんだか。

 

〔ゲシュおじ様♪〕

 

〔うむ、なんだね?ラピエサージュ君〕

 

〔うふふっ、呼んでみたかったのです♪〕

 

「あ、あ、あ、私のラピエサージュが、女の子?はは、ははははは」

 

 オウカがゲシュタルトクラッシュ。清楚で可憐な彼女もパラオ泊地ではやはりこうなる。

 

〔そうか。うむ〕

 

〔うふふっ♪〕

 

「……まぁ、そうなるな」

 

 何故か瑞雲の飛行訓練に来た日向がそう言って、スタスタスタスタと通り過ぎていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ちょうどその頃の潜水艦娘達のアジト。

 

「ガツ、ガツ、ガツガツ、ガツガツガツガツ」

 

 潜水艦娘達に給仕されて飯をかっこむ大男が一人。腰になにやら刀を差しているが、上半身は裸同然。履いているズボンもボロボロであり、銀色の髪の毛は長く伸び、不精髭も結構な長さになっている。

 

 まるで無人島に漂着した遭難者のような格好である。

 

 よほど飢えていたのか、一心不乱に飯をかっこむ。

 

「……すごい食欲ね。というかあんたそんなにがっついたら……」

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

「ほら、言わんこっちゃないわ」

 

 イムヤが咳き込んだ男の背中をさする。

 

「でもおっちゃん、飢えてたんでちね」

 

 お代わりのカレー皿を持ってきたゴーヤが男を覗き込む。

 

「うむ、かたじけない。少女達よ」

 

「いいのよ、遭難者の救助も私達の仕事なんだから」

 

 イムヤがその男の古臭い話し方に苦笑する。

 

「いや、それでも助けてもらった事に違いは無い。本当にかたじけない」

 

「で、とりあえず船を呼んだわ。アジトが提督にバレるけど仕方ないわね」

 

 パラオ泊地から救助船をここに呼べばそうなるだろうが、まぁだからといってもあの提督である。

 

「ん~、提督なら目をつむってくれるのぉ。大丈夫なのね」

 

 そう、イクの言うように特に何も言わないか、いつものように心配して『危険な事はしてくれるなよ?安全第一だ』と言ってくるかのどちらかだろう。というかすでに場所は知られているとみて良い。あのゲシュペンスト提督なのである。

 

「というか、とっくにわかってて黙ってくれてるのです」

 

 ハチはあっけらかん、と言った。

 

「ふむ、提督、か。おまえ達は随分とその提督を慕っているのだな」

 

「そうでちね。良い提督なのでち。スケベだけど」

 

「ん~、イク、昔おっぱい見られたのね。でも提督だからいいのね」

 

「……かなりの語弊あるような気がするけど、理解のある人よ。頼れる人だし、優しいし、かっこいいし。バカだけど」

 

 総合するとスケベでバカ、である。とはいえそう言う娘達の顔は笑っている。男はそれを見て、その提督は彼女達に信頼されているのだろうと判断したようだ。

 

「……不埒な感もするが、ふむ」

 

「ゆー、提督大好きです。変な人ですけれど」

 

 提督の評価に変人も加わった。

 

「ところでおっちゃん、名前聞いてなかったでちね。なんて名前でちか?」

 

「……ウォーダン。我はウォーダン・ユミル。メイガス……はこの世界には無いか。まぁ無くて良いものだな。うむ、我はただのウォーダン・ユミルだ」

 

 うむ、とウォーダン・ユミルと名乗った男はかつて昔には浮かべた事のない穏やかな笑みを浮かべて言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【オマケ】

 

 

 

「なぁ、ワシらこんな所でなにやっとるんだろな?」

 

「知らん。働け?労働だけが生きる糧を作るんや」

 

 重巡女子寮の青葉の部屋の修理に来ている工場業者と思われる、ハゲ頭に変な丸いゴーグルをつけた男二人が何事かぼやいている。

 

「……いや、ワシら、なんでこんな事になっとんのかっちゅー原因をだな?」

 

「うっさいわ。調べるにも何するにも銭稼がんとなんもでけんのや。つか、なんでとか考えても腹の足しにもならん。銭稼いで飯食えたら人間死なへんのや」

 

 モルタルをヘラで塗り塗りとしながらそれでも手を動かす。腕は良いようで、ひと塗りでさっと壁の面に平らにコンクリが揃っていく。

 

「……ワシら、アンドロイド兵だったんだがなぁ。つかなんで人間に……って、おい、B!あれ見てみ!!」

 

「なんや、A、作業中によそ見すんなダアホ……って、あれ、カルディア隊長やないか?!」

 

「おお、つかなんでこないなとこに。あかん、行ってまう、追いかけんなあかん!!」

 

「せやな!A、行くで!!」

 

「合点承知の助や!Bっ!!」

 

 かつてアンドロイド兵だったA、Bは足場を飛び降り、カルディアの後を追った。

 

 

 




 ラピエサージュは乙女ですよ。もじもじ。

 ウォーダン・ユミルが参戦。

 アンドロイド兵(佐官工)登場。

 もう、グダグダ。

 次回、集う悪役!でまたあおう!(嘘)


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Don't call me アニキ

やったね!愉快な仲間がまた増えるよ?(否応無しに)

……誰か美少女で救われなかった子とかおせーて。さすがにネタががが。


 執務室にオウカを案内すると、そこには何故かにったらこ、にったらこ、と変な笑みを浮かべた土方と、困惑気味な沖田、そしてなんか嫌そうな顔のカルディアがいた。

 

 カルディアの両脇になんかハゲ頭の変なゴーグルはめた、工事のおっちゃんみたいな作業ズボンのガテン系なガタイの大きな男二人が控えており、カルディアは非常に困った顔をしていた。

 

「……工事のおっちゃん?」

 

 そう言えば、重巡女子寮の青葉の部屋の修理を『真嶋建設』に頼んでいたのだが、その工事で何かあったのだろうか?と玄一郎は思った。しかしならば彼らは何故カルディアの右左でかしこまって控えているのだろうか。

 

「へい、真嶋建設で働かせてもろてます『安藤A太』と」

 

「『安藤B作』でおま!」

 

 二人は揉み手をしながらニカッと笑った。胡散臭い関西弁だが、真嶋建設なら仕方あるまい。社長からして関西弁なのだ。

 

 なお、真嶋建設は土方が提督だった頃、泊地の設備全体の建て替え工事を発注した建設会社であり、今でもそのメンテナンスは真嶋建設がやっている。

 

 信頼と実績は折り紙つきなのであるが、何かと濃ゆい社員が多く、真面目な性格の艦娘達は真嶋建設の社員達を少し苦手としていた。

 

「ええっと、工事で何かありました?」

 

 扶桑が少し怪訝そうに聞いた。扶桑もやはり真嶋建設の社員達が苦手なようで若干引き気味である。

 

「いえ、奥さん、ちょっと昔の上司にバッタリ出会いまして」

 

「んで、ワイらも素性が素性なんでご挨拶しろと言われまして」

 

「……はぁ、コイツ等は私の部下だった量産型アンドロイド兵士だ。まさか来てるとは思わなかったが」

 

 カルディアは何かうんざりするように言った。

 

「へい、ワイら、これこのような感じでして」

 

 A太が、ふんぬっ、と身体に力を込めると、ガシャコンガシャコンと、機械的な音が鳴る。

 

「武装展開出来るんですわ」

 

 ガチャンガシンガコン!!と装甲が展開し、確かに戦闘用アンドロイド兵士といった姿になった。

 

 Aが青、Bが赤で、武装もそれぞれ違うようだ。

 

「前の世界では、どっちもカルディア隊長と一緒に戦ってましてん」

 

「まぁ、こっちの世界では真嶋社長に拾われて佐官工と大工やっとりますけど」

 

 フロントバイセプスとかサイドバイとか決めつつ二人はニカッ!と笑った。お前らボディビルダーかよ。

 

「さすがに、一般人の中にこんな奴らが混じって普通に生活するのは問題があると思ってな。私もどうすれば良いのかわからなかったので、意見を聞こうと思ったのだ」

 

 そんなもん、真嶋社長んとこに置いとけよ、と玄一郎は思った。というか間違ってもパラオ泊地に置いておきたくない感じの人種というか、筋肉というか、暑苦しいというか、なんかスゲー嫌だった。

 

 だいたい、こんな濃ゆい連中をどうせぇと言うのだ。というか真嶋の親分も良くこんなのを雇う気になったな、というかあの親分だからまだ雇ったんだろなぁ。

 

「真嶋建設で真面目に働いてんならいいんじゃないか?」

 

 真嶋社長のところなら問題無かろう。なにしろ社長からして問題のある性格の人間なのだ。一人や二人、なぁ。

 

「いや、ワイら、隊長の元で働きたいんですわ」

 

「そうじゃ、やっと探しとった隊長と出会えたんじゃ、カルディア隊の復活や!!」

 

 と、いちいちポージングをしつつ言う。暑苦しい。非常に暑苦しい。

 

 だが、何故かそれを見て土方はやたらとニマニマ笑っている。それはどうも玄一郎達が困っているとかそういういつもの意地悪な何かではなく、筋肉を見てニマニマと笑っているのである。

 

「……お前、こんな濃ゆい奴らを率いてたのか?」

 

「いや、前の世界ではコイツ等には自我が無かったのだ。というか人間の身体を持って自我が備わるとこんな奴らだったとは……」

 

 カルディアもショックを隠し切れない様子だった。確かに玄一郎もカルディアの記憶で量産型戦闘アンドロイドの姿は見ている。その戦闘するところや行動する様子などでは、まさかこんな連中になってしまうなんて普通思わないし予想も出来ないだろう。

 

 というか、武装を解除したコイツ等はなんというか。

 

 玄一郎の脳裏に『超兄貴』とか『サムソンとアドン』という言葉がよぎった。

 

 (頭からメンズビームとか撃たないだろうな)

 

「……とりあえず、土方さん、どうします?」

 

 ニヤニヤと笑っている土方にとりあえず話を振る。

 

「採用!!」

 

 土方は即決した。

 

「ええっ?!あんたなに言ってるダァ?!」

 

 あかん上司に聞いてしまった!!

 

「そうよ、これなの!!足りなかったのは筋肉なのよ!!そう、今気付いた。マッチョ系が私には足りなかったのよぉぉぉっ!!」

 

 土方は立ち上がり、そしてボディビルダーよろしくポージングしている二人の作業ズボンにお札をぐいっ、ぐいっ、と入れていく。

 

「ナイスポーズ!ナイスバイセプス!ナイス広背筋!!うーひひひひ、たまらーん、たまらーん!!」

 

 土方は暴走していた。ペタペタと二人の筋肉に触り、腕に頬ずりしたり、抱きついたりしてやたらとにったらこ、にったらこ、とあかん笑みを浮かべてやたらと幸せそうな顔である。

 

 慌てて沖田が後ろから土方を羽交い締めして止め、そしてそのままスープレックスを打った。ドラゴンスープレックスである。

 

 どごーん!

 

「ぐぇぇ、ま、マッス……リャ……」ガクリ。

 

 沖田のスープレックスにより、土方轟沈。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。……とりあえず、その真嶋建設の社長さんに話を伺いましょう。てか、土方がマッチョ好きだったなんて知らなかったわ」

 

 沖田が息をきらせながら提案した。

 

「……あのーお札入れられても」

 

「ワイら、困るんですけど」

 

「……まぁ、御祝儀と思ってとっとけ?なんの御祝儀かはわからんけど」

 

 どうせ玄一郎の金では無く土方の財布から出たお札なのである。腹は痛まないので適当に玄一郎は言った。

 

 というか、オウカと話をするために執務室へと連れてきたのになんなんだこの展開は。と思い玄一郎はオウカの方を見た。

 

「む、オウカ?あれ、どうした?」

 

「……アラド、ラトゥーニ、ゼオラ、ああ、あの子達の元に帰りたい。なんなのこの世界」

 

 目を見開いてブツブツと何事か言っている。

 

「ラピエサージュが女の子なのはまだいいわ。いいとして、カーウァイ・ラウ大佐がゲシュペンスト、マッチョ変態のアンドロイド兵にお義父さんの同僚の中将がマッチョ好き、スープレックスかます少将に……ブツブツブツブツ」

 

「うわぁっ?!いや、オウカちゃん?オウカちゃん?!」

 

 玄一郎はオウカを揺すってなんとか正気に戻そうと試みたが、しかし首をカックンカックンとするだけで目が少しヤンデレみたいにハイライトが消えて、もう処置無しな感じだった。

 

「ちょっとどいて!」

 

 山城がそこへカットイン。

 

「斜め45°のTVブラウン管チョップ!」

 

 ずびしっ!

 

「はっ!私は一体……」

 

「気がついたようね。大丈夫よ。私がついてるわ」

 

 山城はぐっ、と親指を立ててオウカに言った。

 

「山城、さん。私っ、私ぃっ」

 

 ひーん、とオウカは山城にしがみつき、泣いてしまった。

 

「よーしよし、よーしよし怖かったのね?普段変態なんて見ないものね。というか、大丈夫。あいつらだけだから、変態は」

 

「……まさか俺まで入って無いよな?山城」

 

「夜だけなら良いけどね?」

 

 流し目で言う。うっ、やたら色っぽいぞ?!しかし玄一郎は言葉を返した。

 

「……いや、俺ノーマルだ。オウカちゃんを間宮食堂に連れてって行ってくれ。甘いもんでも食べたら落ち着くだろう。ほい、間宮のスペシャルデザート券」

 

「OK、扶桑ねぇさまと行って来るからあと二枚頂戴」

 

「……俺もまだ食ってねぇのに。つか俺のポケットマネーで支払われる事になってんだぞ?これ」

 

「にひひ、可愛い妻達のおねだりよん?」

 

「あの、山城、私はいいのよ?」

 

 扶桑はそう言うが、ええい、あの時の夕食のお返しだ、とばかりに三枚の間宮券を玄一郎は差し出した。

 

「ええい、もってけ!扶桑さんも行ってきな。つかオウカちゃんを頼むわ」

 

「はぁ、では行って参ります……」

 

 扶桑姉妹がオウカを連れて部屋から出て行ったのを見て、玄一郎はマッチョ二人に向き直った。

 

 ずかずかずか、と二人に近寄り、土方がズボンに積めた札をそこから一枚ずつ徴収する。

 

 なお、間宮のスペシャルデザート券一枚が万札一枚の値段である。せこいと言う無かれ、青葉の部屋の修理代で玄一郎の通帳は結構目減りしているのだ。今の玄一郎としては損失は少しでも少なく行きたかった。

 

「あっ、御祝儀が?!」

 

「ひでぇ?!」

 

「損害賠償、損失補填だ。二人ともあと六枚残ってんだろ?残虐行為手当てで全部取らないだけ有り難いと思えっての」

 

「残虐行為手当て……うっ、トラウマがががっ?!」

 

「駄フォックスっ、うううっ?!」

 

 どうやら、彼らは前の世界で『残虐行為手当て』をされたらしい。

 

「それはさておき、カルディア。お前はどうしたいんだ?それを聞こう。つか、判断に迷う理由は?」

 

「私は今、この世界では軍属ではない。保護されている身だ。故に元部下をかかえれる立場ではない。それに提督に無理強いする事も出来ない」

 

「……正論、だな」

 

「た、隊長……」

 

「ううっ、そうやったんか……」

 

「本音で語れ、カルディア。仲間なんだろう?」

 

 玄一郎は真剣にカルディアに問うた。まっすぐにカルディアの目を見る。

 

「……いや、こんな暑苦しいのはちょっとやだ」

 

 本音だった。

 

「のぉぉぉぉっ?!」

 

「いや、隊長ぉぉぉっ?!」

 

「いや、確かにそれ本音だろうけどストレート過ぎっ?!」

 

 頭を抱えて涙するマッチョ二人。だが、玄一郎もだいたい同意見であったので、さらりと。

 

「そういうわけだ、二人とも。残念だが、君達は……」

 

「ちょっと邪魔させてもらうで、ゲシュちゃーん?」

 

 と、そこへドアを開けて入って来た男が一人。蛇皮のジャケットに黒いレザーのパンツ。眼帯にジャケットからチラリと覗く和彫りの刺青。そして特徴的な関西弁。

 

 真嶋建設社長、真嶋吾郎であった。

 

「ああ、ありがとうなぁ、潮ちゃん」

 

 どうやら潮に案内されてここまできたらしく、廊下に向かって礼を言う。強面のどう見ても極道な人物なのだが、妙に駆逐艦達には懐かれている。まぁ、友好的な堅気の人間に対しては悪い人物ではないが、まぁ、その道では狂犬と呼ばれて恐れられている。

 

「ゲシュちゃーん、久し振りやなぁ、ってホンマに人間になってもうたんかぁ?テレビでやっとった通りやなぁ」

 

「ああ、真嶋社長、久し振りですね」

 

「イヒヒヒ、さっき嫁さん二人にバッタリ会うて来たでぇ?ゲシュちゃんおめでとうさん、ホンマ別嬪さんやなぁ、扶桑ちゃんも山城ちゃんも。それに幸せそうやないかぃ」

 

「ありがとうごさいます」

 

「まぁ、お祝いの言葉言いに来たんもそうやけど、なんやウチのボンクラ共から電話が入りよってな?ながーいこと探しとった姐さん見つけたとかなんとかいいよってな?」

 

 真嶋はカルディアの方を向いて「ほう、あれがお前等の言うとった隊長さんかぃな。エラい別嬪さんやのぉ?」と、A、B二人に言った。

 

「こいつらはなぁ、生き別れて消息不明なこの隊長探してな?隊長は生きとる、会うまで死なれんてずーっとぉ頑張っとったんや。やっと会えた言うてなぁ。ワシ、貰い泣きしてもうたわ」

 

 真嶋は真っ直ぐ玄一郎の顔を見た。

 

 そして、ぐっ、と頭を下げた。

 

「ゲシュちゃん、頼むわ。こいつら、隊長さんと一緒におられるようにしてやってくれ!この通りや!」

 

「真嶋社長……」

 

「こいつらの忠義、ホンマモンや。それにけして悪い奴らやない。ウチのきっつい仕事にも耐えれる根性もある。そやから是非頼む!これでもあかん言うんやったら、土下座でもなんでもやったる!」

 

 真嶋社長のその真摯な態度に玄一郎は漢を見た。この真嶋吾郎がここまでしているのだ。玄一郎も首を横に振るような事は出来ない。

 

「敵わないなぁ、真嶋社長にそこまでされては否とは言えない。真嶋社長、頭を上げて下さい」

 

「ゲシュちゃん!」

 

「わかりました。二人をカルディアにつけましょう。カルディアもやはり部下と再会出来て感無量という感じですし、それを引き裂くような事は私も出来ませんよ」

 

 さらりとカルディアに押しつける気全開である。

 

「おおきに、おおきにやで、ゲシュちゃん!」

 

「いえ、私もどうこの話を真嶋社長に切り出そうかと悩んでいたのですよ。大事な真嶋建設の社員さんですし、二人を引き抜くような事をすれば真嶋社長に迷惑がかかる、と」

 

 しれっと心にも無い事をさらりと言う。ゲスや、お前本当にゲス提督やわ。

 

「ウチはええねん。ええんやそんな事は。せやから二人の事はくれぐれも頼んだで?」

 

「はい、わかっております。お預かりする以上、こちらもちゃんとそのように体制を整えますよ」

 

「ホンマ、ゲシュちゃんは話が早よぉてよぉわかってくれるなぁ。そしたら頼んだで?ああ、結婚式にはワシも呼んでや?ドデカい御祝儀用意したるさかいな?」

 

 真嶋社長をそう言って部屋を出て行った。

 

 玄一郎は真嶋社長が建物から出て行ったのを確認すると、カルディアに言った。

 

「と、いうことだからカルディア。責任もって二人の管理を頼んだ。良かったな、部下と再会出来てな。いやー、万事これで解決だ」

 

「ちょっと待て、私の意思は?!」

 

「無い。却下。無駄。というわけだ。A、Bのお二人さん。ほーら、カルディア隊再結成だぞ?喜べ?」

 

「おおおおお、ホンマありがとうごさいます、提督!」

 

「さすがは提督!兄貴って呼んでもええやろか?!」

 

「俺を兄貴と呼んでいいのはツンデレな妹だけだ。だが、カルディアになら姉御と呼ぶ権利を与えてやろう!」

 

「おおっ!カルディアの姉御っ!!一生着いていきやすぜ!!」

 

「姉御っ!!ワイらの姉御っ!!」

 

「いっ、嫌だぁぁぁぁっ!!まだ不知火にねぇさん呼ばれてるのがマシだったぁぁぁっ!!」

 

「はっはっはっは、これにて一件落着!イヤーイイハナシダナー」

 

 もはやヤケクソで玄一郎は笑った。

 




 一番の被害者はオウカ。

 救われないのはカルディア。

 本当にゲスになったゲス提督。

 真嶋の兄さんはゲスト出演です。


 次回、悪を断つ剣(嘘)でまたあおう!


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ウォーダン・ユミル

 ある意味、本命。

 敵の正体が朧気に見えてくる今回。

 しかしウォーダンが味方側についてくれると頼もしいよなぁ。


 マッチョ共をカルディアに押し付けとりあえず執務室から追い出した玄一郎は、とりあえずぶっ倒れている土方を見つつ、沖田に言った。

 

「……ところで、これ、目を覚まさねーんだけど?」

 

「やりすぎた。でも反省しない」

 

「反省しなくてもいいけどよ。つか、このまま目を覚まさなければ裏山に埋めるか?」

 

「うーっ、痛っつつつ、コラ、シャレになんない事言うな。これでも上官だよ?私」

 

「あのな、あんたら上官なら上官らしくしてくれよなぁ」

 

「あれ?マッチョ達は?」

 

「カルディアに押し付けた。採用決定だ。真嶋社長に頭下げられたら断れねーよ……」

 

 極道な真嶋吾郎が頭を下げて来るというのははっきり言って脅迫以上の威力がある。

 

 真嶋吾郎は日本海軍の資料に登録されている深海棲艦と戦うことのできる人間の一人である。

 

 しかも。そこらに転がっている鉄パイプや金属バット、ドスなどでボコ殴りしたりぶっさしたりしている映像が資料として残されており、はっきり言ってそんな事が出来る人間を人間と認めても良いのだろうか?というレベルなのである。

 

 斎藤ですら深海棲艦と戦う際には鳳翔刀がなければ無理だというのに真嶋は平然とやってしまう。真嶋は

 

「気合いじゃ、き・あ・い!!」

 

 と言うが、そんなもんではないと思う。気は気でもキチ○イのレベルだ。

 

 昔、軍がスカウトしにいったそうだが「お前ら気に入らんのや。だいたいやなぁ、目ぇが腐っとるんが気に入らんのや!!」と難癖つけてボコ殴りにして帰したという。

 

 なお、真嶋吾郎が日本に居られなくなったのはそれが元だったらしいが真偽はわからない。だがありそうなので怖い。

 

 しかし、彼のいた日本の某街にはまだ数人、同様に深海棲艦をボコ殴りに出来る人物がいるらしい。

 

 恐るべしジャパニーズヤクーザ。

 

 はぁ、と溜め息を吐き、玄一郎は頭をバリバリ。ともかく本来の仕事を進めようとタブレット端末を開いた。

 

 ゲシュペンストはオウカのラピエサージュとなんか妙な感じになっており、なんというか、キャッキャウフフな感じのラピエサージュの相手をしてやたらと『オジサン』な感じである。なにをしてんだか。

 

〔昔の部下のところの娘を思い出す〕

 

(あー、そうですかい)

 

「フィリピンの第二基地の調査団の報告はまだ出ませんか?」

 

「昨日からずっとやってるけど、難航してるってさ。特に潜水艦用のエアロックのゲートとか見たこと無い制御システムらしいからね。またゲー君と黒やんが出張る事になるかもね、これ」

 

 土方は自分のタブレット端末に、シュウ、こと集積地棲姫の拠点だった島の地下に作られた真新しく、そしてこの世界の技術ではない未知の構造物を使った施設の画像を映し出した。

 

 地下通路の先には海底ドックが作られており、そして、小型の潜水艦か何かが停泊していた形跡があったという。

 

 つまり、テロリスト共はその地下通路を使い、ゲシュペンストが張り巡らせた監視網をかいくぐり、潜水艦に乗って島を脱出したのである。

 

 しかし普通ならば数日で作れるような設備ではない。だが、こんなものがもしも有ったならばシュウが知らないはずはないし、それにこんな未知の技術の固まりが過去にあったとも思えない。

 

 だが、それを可能に出来る技術はある。

 

〔私のズフィルートクリスタルか、ラピエサージュに搭載されているマシンセルならば可能だ。もっとも、かなりのエネルギーが必要だが〕

 

〔これらの構造物はアースクレイドルに使われていたものに酷似しています。潜水艦のドックの形状はDCのキラーホエール型に対応したデッキになってますし、映像を見れば稼働式クレーン等の位置もほぼキラーホエール型のカーゴの位置に来ています〕

 

 ラピエサージュはそのアースクレイドルという物のデータをゲシュペンスト経由で玄一郎、土方、沖田の端末に送った。

 

「……なんぞこれ?なんかめちゃくちゃ馬鹿でかい建造物だな」

 

〔今、見ていただいているのは『メイガスの門』で、アースクレイドルの本体では無いのですが。アースクレイドルは地下冬眠施設で、マザーコンピュータに制御された地下冬眠施設で人類とその遺伝子を保存しようという物でしたが……〕

 

 どうもその計画チームの一人『イーグレット・フェフ』というマッド・サイエンティストがろくでもない事をしでかし『アギラ・セトメ』とかいうクソババァとか『シャドウミラー』とかと手を組んで人類粛正とか云々やったとか言う話だったわけである。

  

〔はぁ、概ね間違っては居ないのですが、いえ、その通りですね。特にオウカは改造や洗脳、それにゲイムシステムによって寿命を縮めてしまい、最後には弟さんや妹さん達を守るために、『アギラ・セトメ』を道連れに私を自爆させました。酷い目にあったのです〕

 

 おそらく、マッチョ達を見てショックを受けてた時に呟いていた名前がオウカの弟や妹達の名前なのだろう。

 

「しかし、『シャドウミラー』か。というかカルディアがそんなこと言ってたような。あのマッチョ共のおかげで話を聞かねばならんのを出て行かせちまったからなぁ」

 

〔後に聞けばいい。ラピエサージュから受け取ったデータを解析。。。。む?ゼンガー?それにエルザム、カイ……。というかゼンガーが二人?〕

 

〔それはウォーダン・ユミルという『シャドウミラー』のアンドロイドです。ゼンガー少佐の人格と動作をコピーした……〕

 

 ラピエサージュがウォーダン・ユミルの説明をしている最中に。

 

 バンッ!!

 

 と、執務室のドアが開けられ、

 

「俺を呼んだかっ!!」

 

 大きな声でデカい体躯の男が入って来た。

 

 ボサボサの長髪に伸びたヒゲ、そしてボロボロの服を着た、なんというか、なんぞこの遭難者、という感じであった。

 

〔ゼンガー?!〕

 

 いち早く反応したのはゲシュペンストだった。かつての部下と同じ声だったので、彼も驚いたのだろう。

 

「否っ!我が名はウォーダン・ユミル!ただのウォーダン・ユミルだっ!!」

 

 かつてメイガスの剣と名乗っていたが、メイガスが無いこちらの世界ではそう名乗るしか無いようだ。しかし、なんというタイムリーな時に来るかなこいつは。

 

 タブレット端末には、ご丁寧にラピエサージュがウォーダン・ユミルとゼンガー・ゾンボルトの二人の画像を送ってくれていたが、違いは服装とマスクぐらいだった。しかし、今の彼にはマスクが無い。これがウォーダン・ユミルならばマスクはどうしたのだろうか。

 

「うむ、マスクは何か奇妙な女に攻撃を受けてな、壊れてしまった」

 

 聞いてもいないのにウォーダンは言った。

 

〔……はい、確かにウォーダン・ユミルです。W15、の反応です〕

 

「む?これは……。ラピエサージュ?」

 

〔はい、ラピエサージュです。ウォーダン、スレードゲルミルはどうしたのですか?〕

 

「うむ、ここにいる。太刀となっているのだ」

 

 ウォーダンは腰に下げた大きな太刀をポンと叩いて言った。どうもこちらの世界に顕現化した際に彼の機体はその大太刀になったらしい。というか、なんとなく三式斬艦刀の変形前に似ているような……。

 

「……で、そのウォーダン・ユミルがなんでウチの泊地にいるんだ?それもそんなボロボロの格好で」

 

 バタバタバタバタ……。

 

「あーっ、こんなところにいたでち!イムヤーっ、おっちゃんここにいたでち!」

 

「あーっ、もうっ!大淀さんの事務室はそこじゃないって!隣の隣だって!」

 

 ゴーヤとイムヤが執務室に入ってきた。いや、イクやハチやゆー達もぞろぞろとやってくる。

 

「……お前ら絡みか」

 

 玄一郎は潜水艦娘達を見て悟った。こいつらが拾って来たのだ。  

 

「失礼なのね。イク達、遭難者を救助したのね」

 

(遭難した者の救助は海軍としても確かにやらねばならんだろうが、それにしてもエラいもん連れてきたなこいつら)

 

 とはいえこいつらが特にウォーダンに対して警戒とかしていない所を見ると、実際には悪い奴では無いのだろう。

 

「ふむ、で、大淀に届けを出そうとしたら、こっちに来た、と?」

 

 一応、遭難者を救助したならば書類を書いて届け出せねばならない。

 

 本来ならば憲兵詰め所に直接連れて行って手続きしに行くのだが、先に大淀の所に行こうとしたのは、こいつらもウォーダンが只者ではなく、先に憲兵の所に連れて行ったらトラブルが起こると悟っているからなのだ。

 

 イムヤ達がやろうとしている方法は、まず大淀で書類を作って、そこから書類だけ憲兵の所に通す、つまり海軍が遭難者認定した後なら憲兵も何も言えない。つまりそれを見越したやり方だ。

 

 おいおい、それでなんかあったら俺の責任になるんだぞ、と玄一郎は苦笑したが、

 

「おっちゃんは保護対象者でち。島に流れ着いてたでち」

 

 ゴーヤは頑なにそう言った。よほどウォーダンを気に入っているようである。こう見えて潜水艦娘達は人を見る目がある。なにしろこの道15年以上のベテランなのだ。スク水着てるけど、人間の年齢に直すと20代後半ぐらいなのである。スク水着てるけど。そう、良い歳こいてスク水着てるけどな?

 

「ふむ。ウォーダン、あんたははこちらに来て長いのか?随分と資料よりも髪の毛もヒゲも伸びてるが」

 

「む?かれこれ半年か。小さな無人島に居てな。サバイバル生活をしていたのだが、島が小さすぎて食料に困って、それならばと筏を作って隣の島へ、そのまた隣の島へと食料を求めて渡って行ったのだが、途中で面妖な姿をした女に攻撃を受けてな。戦って追い払えはしたが腹が減って倒れてしまったのだ」

 

「……面妖な女?」

 

「うむ。背中から蛇のような武装を生やした、セーラー服を着た女だ」

 

「……よく無事だったな。そいつは単艦、いや一人だけだったのか?」

 

「うむ、かなり強かった。スレードゲルミルが居なければ苦戦しただろう。だが、すぐに撤退していった。『こちらに来い』と言っていたのでおそらくは俺を捕まえようとしていたのだろうが」

 

(……なるほど。つまり敵は異世界から来た者達を積極的にスカウトもしくは捕まえて協力させてんだな。こいつは厄介だな)

 

「イムヤ、ウォーダンを見つけたのはお前等のアジトの近くだな?……その付近の海域には調査が終わるまで近付くな。おそらくそいつは北方棲姫を襲った未確認の『タ級』だ。その辺に潜んでいる可能性がある」

 

「……仕方ないわね。ま、私達のアジトはどうするつもり?」

 

「ん?アジトなんてまた作ってたのか?ふむ。見つけたらごっそり資材とか全部没収するかもしれんが、お前等の事だ。かなり巧妙に隠してんだろ?付近の海域の探索はしっかりと行わねばならん。お前等のアジトの探索に裂いている時間は無いな」

 

 玄一郎はわざと知らなかった振りと、探すつもりはない、と言うのを遠回しに言った。

 

 イムヤ達が行っている事はある意味海軍の職務を利用した私財の溜め込みに他ならないので大っぴらには認めるわけにはいかない。だが、かつて彼女達のそれで扶桑や山城、如月に吹雪は助かったのだし、それに私腹を肥やすために彼女達はやっているのではなく、それはいざという時の備えなのだ。

 

 故に玄一郎も甘くならざるを得ないのである。

 

「……ありがと。まぁ、嫁入りの支度金としてそのうち持ってくるわよ?」

 

 幼さの残る顔で、やたらと色っぽい目でイムヤは言う。そういえば玄一郎は海に逃げ込んだ際に連れ去られかけたが、やはりそうなのか、と悟る。

 

「……お前等もか。つか、いや、それはおいておいてだ。北方棲姫を襲った未確認の『タ級』はかなり強い。そいつだけでなく、『雷のレ級』もテロリストに荷担している。どちらもかなりの強さだとみていい』

 

「……雷まで?あの子何やってんのよ。って事は、あの『武蔵の深海棲艦』も出てくる可能性があるってわけ?」

 

「わからん。だが可能性は高い。故の厳戒態勢だ。今は核攻撃のリスクが無くなってレベル3に落ちたが、しかし奴らの目論見もわからん。だからお前たちも気を抜くなよ?」

 

「気は抜かないでち。海ではゴーヤ達は生きるか死ぬかだったでちからね」

 

「……その辺、お前等は変わらんなぁ」

 

「テートクさんも変わらないのね。中の人が出てきても、ちょっとイケメンになったぐらいなのね」

 

「はぁ、あんがとよ」

 

 そういえばイクは昔からやたらと玄一郎に懐いていた。

 

(小島基地壊滅事件以降も、トラック周辺海域や他の地域でこの潜水艦娘達とはわりと会うこともあったが、どうも、なぁ)

 

 少し困ったような嬉しいような。

 

「……ふむ、やはり信頼に篤いと見えるな。カーウァイ・ラウ大佐」

 

「ああ、それよく最近間違われるんだ。あんたが前の世界でゼンガー・ゾンボルト少佐と間違われるぐらいにはな。俺は黒田玄一郎であんたはウォーダン・ユミル。だろ?」

 

「むぅ?なるほど。これは一本取られた」

 

 ウォーダン・ユミルはすぐに理解した。これがかつてのウォーダンならばこのようにさらりとは流せなかっただろう。

 

 ゼンガー・ゾンボルトとの死闘を経て、彼は変わった。死んだ後ではあるが、己は己であると受け入れられたのだ。どちらが本物であるという事では無いのだと素直に受け入れたならば、玄一郎の言わんとしている事もすんなりと理解できた。

 

 つまり玄一郎という男はウォーダンを他でもないウォーダンという存在だと見ている、と示したのだ、と。

 

 その玄一郎の度量は飄々としてはいるが、なかなかの人物とウォーダンは見た。

 

「ま、カーウァイ・ラウはそっちのゲシュペンストがそうだ。俺はパイロットだがな」

 

〔うむ、私がカーウァイ・ラウだ。機体に組み込まれていたのでこちらの世界で顕現化してもやはり機体に取り込まれたままだ。これはこれで特に困らないがな〕

 

「顕現化?ふむ。私は確かに負けて機能停止……いや死んだはずだ。だが気がつけば人間の身体になっていた。スレードゲルミルも刀に変わった。お前は何か知っているのか?」

 

「知ってる事は知ってるが、それを話す先約がここに来ている。まぁちょっと今は出ているけどな。帰って来るまでもう少しかかるだろう。その間に大淀の所行って書類書いて出しといてくれ。その場で遭難者支給金ってのが貰えるから、ついでにその金で銭湯行って来いよ。流石にその風体じゃ困るだろ?」

 

「……わかった」

 

「他にも俺達みたいにこっちの世界に来たってのがいるんだ。全員揃ってから俺とカーウァイ・ラウが知っている事は全て話す。つか、一人一人に話してるより早いからな。それでいいか?」

 

「うむ、異議はない」

 

「ではそれで。とりあえず夕飯の後でここに集合だ。イムヤ、お前たちはこれで上がりだろ?ウォーダンの世話、頼んだぜ?」

 

「わかったわ。ん~、床屋も行かせた方がいい?」

 

「あと、服屋な。……支給金じゃちょっと足りねーかもしれねぇ。はぁ、しかたねーな」

 

 玄一郎はジャケットの懐から自分の財布ではない別の薄い皮財布を取り出した。いざという時に艦娘達に渡す用の『個人的な』経費が入っている財布の一つだ。ぶっちゃけ、経費で落ちない時に使うへそくりである。

 

「ほれ、持ってけ。そいつで服とか見繕ってやれ」

 

 それをイムヤに渡す。

 

「うわー、提督太っ腹っ!ついでに私の……」

 

「そいつはウォーダンの財布だ。必要なもん買ったらウォーダンに渡せよ?」

 

「む?」

 

「あんたの財布だ。返す必要は無い。そのまんま当面使ってやってくれよ。先立つものが無きゃなんも出来んからなぁ」

 

「助かる。この借りは必ず返す」

 

「遭難者を助けんのは海軍の仕事だ。だが、力を借りにゃいかん時にはこき使う予定だから貸しにしとくぜ」

 

 玄一郎は笑って、しかし本気で言った。

 

「うむ、その時は声をかけてくれ」

  

 ウォーダンもその気なのだろう。頷き笑う。

 

「ああ、そうするぜウォーダン」

 

 二人は笑いあい、うまくつきあっていけそうだとお互い感じた。

 

 それはかつてのカーウァイ・ラウとゼンガー・ゾンボルトのそれに似ていた。ゲシュペンストは少しそれにデジャビュを感じていた。

 

 ウォーダンと潜水艦娘達が出て行った後で、ゲシュペンストは言った。

 

〔気骨も意思も何もかも、私が知る頃のゼンガーを上回っている。ゼンガーはあれに勝ったか。いや、ラピエサージュのデータをみる限り、エルザムもカイも成長したものだ〕

 

〔おじ様は、かつて教導隊の隊員全員と同時に模擬戦闘をして勝ってらっしゃるとデータにありますが?〕

 

〔昔の話だ。君が交戦した時の連中とやりあったならば、模擬戦闘でも私は負けるだろう。流石に成長した連中相手ではな。1:4の確率、私が1だ〕

 

「それでも四分の一の勝率あんのかよ」

 

 玄一郎はゲシュペンストのその言葉が誇張なのかどうなのかわからなかった。だが出来ればそういう相手を敵に回したくは無いな、と思いつつ。

 

「はぁ、やはり全員呼ぶしかないか」

 

 と呟き、オウカの心労を思って溜め息を吐いた。

 

 全員、というとあのマッチョも呼ばねばならないし、それにオウカとウォーダンは前の世界で同じアースクレイドルにいたようだ。

 

 うまく立ち回らねばならんだろうし、釘も刺しておかねばならんだろうなぁ。

 

「提督は辛いよ。しかも上司はこんなだしなぁ」

 

 静かだと思って土方を見れば。いつの間にかぶっ倒れていた。

 

 どうやらウォーダンの身体の筋肉を見て暴走しかけて、沖田にまたやられたようだった。

 

「この人抜きでいいんじゃないか?」

 

 はぁぁぁぁぁぁっ、と溜め息をまた吐く。こんなんばっかや。

 




散財な主人公。

敵勢力にノイエDCの影。

半裸ですがゼンラー、いやゼンガーではない。

なお、ウォーダンにやたら懐いているのはハチ。ゼンガーにおけるイルイポジになるか?

次回、桜花発狂でまたあおう!(嘘)


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悪は蠢き、宿敵は目覚める(グダグダだが)。

 解説。

 アインストの超乳コピー(一体下さい)。

 悪役の登場(グダグダ)。

 武蔵(深海)復活(欲求不満)。

 


「やはり、死んでいたのか」

 

 ウォーダン・ユミルは腕を組み、静かに言った。

 

 ここは会議室。

 

 転移してきた者を一堂に集めてゲシュペンストと玄一郎は今まで自分達が体験しそして得た結論を伝えた。

 

 ①転移してきた者達はみんな何らかの理由で死んだ者であるということ。死んだ者が艦娘同様に顕現化した者であるが、艦娘のように分霊化してはおらず、おそらくワンオフな存在である。もしかしたら分霊化した者もいるかも知れない。

 

 ②その身体の組成は艦娘と同様の体組織であり、そして人間とほぼ変わらない、ということ。

 

 ③機体や武装は艦娘の艦装に相当する事。

 

 ④艦娘や深海棲艦同様、人間の兵器でダメージを受けないこと(ただし霊力や気合いといったものがこもった攻撃ではダメージを受ける場合がある)

 

 ⑤攻撃時に気合い入れて叫ぶと攻撃力が上がる。また、ブーストも『行けぇぇっ!!』などと叫ぶと加速力がアップする(言霊によるパワーアップ)

 

 ⑥気の合う者や好きな人が側にいると能力アップ。また、好きなものを見てもその傾向が出る。絆が力となる事もある。また精神の状態で戦闘能力が左右されやすい。

 

 ⑦艦娘のように提督による『誓約』を受ける事が無い。つまり、行動の制限は無い。

 

 

「こんなところか。この世界は艦娘という存在を見ればわかるとおり、魂が宿ったものが復活し顕現化するという現象が起こる。それも大戦の時の軍艦と一部の戦闘機のみしかその現象は確認されていないが、我々もこの世界に魂が流れ着き、その現象で復活したものと思われる」

 

「……この世界に魂が流れ着いた理由は?」

 

「わからん。だが私がインドで出会った奇妙な僧侶が言うには『この世界が呼んだ』のだそうだ」

 

「元の世界に戻れないのかしら。その、出来れば……」

 

「肉体を得た今となっては無理だ。この世界の物質で我々の身体は構成されてしまった。つまりこの世界に『括られ』てしまっている状態だからな。中東の研究者に『不可能に近い』と言われた。日本の研究者も同様の意見だ」

 

 結論は不可能、であった。

 

 その理由はこちらの世界の物質はこちらの世界の引力のようなもので縛られており、例えどこかの世界に行けたとしても必ずこちらの世界へ引っ張られて戻されてしまう。また、魂の状態になれたとしてもこちらの世界の物質の波動を受けた魂はやはり、こちらの世界に縛られてしまい、不可能なのである。

 

 言わば『ヨモツヘグイ』、黄泉の物を口にしたならば二度と現世に帰れなくなるというのと同様なのである。もっとも、こちらの世界は黄泉ではなく、パラレルワールド、すなわち数多ある世界のうちの一つであり、世界が進む、あらゆる可能性のうちの一つなのだが。

 

 それを説明した時、カルディアが言った。

 

「……アインストの言った世界の可能性の一つ、か」

 

 と。

 

 アインストの存在はカルディアと共鳴したときに見ているし、そしてウォーダンに貰ったデータにもそれは出てきた。

 

「……まさかそんなんが来てねーよな。やめてくれよ?それでなくても厄介な連中だらけなのに」

 

「……しかしこの時、誰も思ってもみなかったのである。まさかあんな物が……」

 

「止めれ、土方さん。アホなナレーション入れんな!」

 

 土方に玄一郎は突っ込んだが、だがもうすでにフラグは立っていたのである。

 

 そう、その時誰も思ってもみなかったのだ。

 

 この世界を揺るがさないが、もの凄くおっぱいは揺れる、そういうアインストの作った切り捨てごめんなさい♪的なコピー、そう、ゲームで出てきた時にほぼ全てのプレイヤー達が『一体そのおっぱいくれっ!!つかアインスト、俺にも作ってくれぇぇぇっ!!』と渇望したが、ゲームクリアしたら忘れ去ってしまったキャラが来ていることに。さらに言うとキザな奴のコピーは抜きで。あと森羅のエージェントのコピーも無しで(ご都合乳要因)。

 

 なお、貧乳とショタ的なのもくっついてくるのだが。

 

『……えーと、あのー?』

 

『ぐぬぬぬぬぬぬ』

 

『あのっ、そのっ、僕困ります……』

 

 なお、その超乳と超貧乳とショタは。

 

 東京の大本営のほど近い、松平邸の松平叢雲(松平元帥の奥さん)さんじゅういっさいに保護されており、現在風呂に入っていたりする訳であるのだが(ショタ枠は女の子と間違われてます)、まぁ、どうせパラオに送られる。

 

『あんたら~、湯加減どう~?』

 

『はい~、ちょうどいい感じでーす!』

 

 たっぷん、たっぷん。

 

『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ』

 

 ギリギリギリギリ←歯を食いしばって悔しがっている。

 

『…………………ぽっ(おっぱいって、お湯に浮くんだ、知らなかった)』←浮力でお湯にたゆたうおっぱいを見ながら。

 

 まぁ、それはさておき。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 アメリカの某所。

 

『通常兵器が利かない』

 

『んなこと最初からわかっていた事だ』

 

『核腐ってた。どうしてくれるんだ。アメリカのアホ!!』

 

『だからバルシオン作ってじゃ……』

 

『だから攻撃が効かねーってのこのボケジジィ!』

 

『深海棲艦をスクールに入れてマシンセルをじゃ……』

 

『ふむ、さしずめゴーストシップ計画ですか?ならば洗脳と脳改造もせねば』

 

『悪の秘密結社よねぇ、これ、どう考えても』

 

『……顔ぶれが、そうですね』

 

『(機体の事は隠しときなさいね?)』

 

『(もちろんです。コイツ等嫌ですしおすし?)』

 

『いや、マシンナリーチルドレンだ。優れた深海棲艦の中から細胞取ってだな……』

 

『だーかーら、ワシのバルシオンなんじゃっ!!』

 

『ロボ作ってマシンセル入れてもゲイムシステム搭載してもこの世界じゃ意味が無いっつの!!』

 

『(機体作ってもねぇ、この世界じゃ意味ないわよねぇ)』

 

『……(あー、逃げたい。というか死んだ後でもこの人達と一緒なのか?僕は)』

 

『(あ、気が合うわね?後で一緒に逃げない?)』

 

『(……お願いします。私、この人達と居るのもう嫌です)』

 

『(んふふっ、わかったわ。いい艦娘ちゃん確保してるのよ。ちゃんと乗れるし?)』

 

『(??乗れる??)』

 

『(まぁ、話はあとでね?)』

 

『(はい、わかりました)』

 

 悪役の中で、まともな人はもう逃げる算段をしてたり。まぁ、そうなるな、という感じだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 海底の某所。

 

『……目が覚めた?』

 

『……ようやく、治ったか。お前がついていてくれたのか?』

 

『んーふふーっ、もっと頼ってもいいのよ?』

 

『……いや、もう治った。ふむ、夢を見ていた』

 

『へぇ?どんな夢?』

 

『色んな夢だ。おかしいな、私が艦娘で、やはりアイツに迫っていた。フフフフ、やはり私はどうしようも無く、あの男を求めているらしい』

 

『ふぅーん、私にはわからないけど、恋ってそんなもんかしら』

 

『そういうものだ。しかしかなり時間が経ったようだが、どれほど経った?』

 

『かれこれ15年かしら。ああ、あんたのおねぇさん、アイツん所行ったわよ?あと、そうね、アイツ、身体出来たらしいよ?』

 

『何っ?!南方棲戦姫が?むぅ、姉に先を越されるのは面白くないが……。むぅぅ、いかんな。このままでは姉に食われてしまう。あの男の童貞が。清楚ビッチだからな、あの姉は←(何気に酷い)』

 

『ああ、アイツ童貞捨てちゃったから』

 

『……マジ?』

 

『マジ。結婚したとかなんとか』

 

『……姉にうまく話せば渡りをつけて貰えるか。ふむ、ならば、ちょっと私も嫁になってくる。すわっ!』

 

『ちょっとちょっと、何それ?!あんたの為にせっかくお膳立てしてやったのに?!』

 

『知らん。ヤレるならなんでもいい。そんな事よりセッ○スだ!!』

 

『ちょっとぉーーーっ!!『武蔵』っ!!』

 

 

 最大の敵が、再び目覚めた。さて……この先どうなることやら。戦え!ゲシュペンスト!負けるな!玄一郎!しかし。

 

 もうグダグダである。

 

 




 皆さんお忘れだろうか。

 この話はシリアスではなく、コメディであることを。

 戦闘?そんな事よりおっぱいだっ!!

 悪役が誰と誰か脳内で想像してみてください。

 あ、ちょっと感想でキャラの案をいただきまして、確かに某おっぱい姫さんのコピーは欲しかったなぁ、というかアインスト、俺にも一体くれ、と思ってましたので登場させてみました。

 なお、武蔵さんも報われる予定。

 次回、武蔵だからと言って大雪山おろしはやらない、でまた会おう!(嘘)。


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レモン・ブロウニング

レモン・ブロウニング登場。

ちょい成熟した色気とエクセレン臭。




 まだ会議室。

 

 カルディアにどこからか通信が入った。

 

「む?」

 

 同じ『シャドウミラー』のバンドであり、こんな回線久しぶりに開くぞ、とカルディアは思った。

 

『こちらレモンおねぇさまよん?W-06ちゃん、元気ぃ~?』

 

 創造主からだった。

 

「……何を企んでいる?」

 

 命令プログラムも指令コードも無くなっていおり、かつ尊敬とか服従とかそういうのも全く無くなっていたので、もの凄く直球でカルディアは言った。

 

 はっきり言って『シャドウミラー』の連中のおかげで訳の分からない世界に行かされて、妹はあんな壊れた性格になり、ピート・ペイン(兄とは思いたくない)なんぞというアホのせいで自爆して、ようやく解放されたと思えばこの世界に移転して、さらには元部下(部下とは思いたくない)のマッチョな変態にやたらと懐かれる始末。

 全部コイツのせいだ。

 

「いやーん、おねぇさま悲しいっ!」

 

「誰がおねぇさまだ。誰が。つか私のデータのあんたと性格がかなり違うんだが?」

 

「まぁ、一度死んでるし?素の性格こんなんだし?」

 

 どうやら素の彼女はエクセレン・ブロウニング寄りのようである。

 

 カルディアは念のため、この通信の音声をゲシュペンストやラピエサージュ、ウォーダンに転送した。

 

 ろくでもない目にあいたくない、そんな気持ちでいっぱいだったのだ。幸い、仲間と呼べる……かはわからないが、私は裏切りませんよ、だから助けてプリーズ、変なのから連絡が来ちゃって私困ってるのぉっ!という姿勢を示すためだ。

 

 というかあちら側に行ったら確実にまたコードATAとかつけられて自爆する未来しか見えなかったのだ。はっきり言ってそれは嫌だ。

 

 カルディアは過去の不幸な出来事からまったく創造主を信用出来ていなかったのである。アンドロイドの頃なら命令には絶対服従していただろうが、今の彼女はもうアンドロイドではなく、すでにそういったものから解放されていたのだった。

 

 というか、パラオで保護されていれば天国なのだ。変態なマッチョ(元部下)はまとわりついてくるが、何より飯はうまい。部屋は与えられ、ベッドはふかふか。風呂にもゆっくり入れる。呼び出される事はあるが協力さえしていれば謝礼がもらえる。こんな楽な事は無い。

 

 そう、この天国を守るためならば創造主にも逆らってやる。カルディアはすでにそう決めていた。これが業界で言うところの『フランケンシュタイン・シンドローム』、つまりは『被創造物の反乱症候群』である。

 

『自我を持ったアンドロイドは大抵反乱する』という、SF作品のお約束である。もっともカルディアは人間化しているのでかなり違うような気はするが。

 

「……レモン・ブロウニング?ふむ」

 

 ウォーダンがムッツリと言う。彼にとっても彼女は創造主ではあるが、あまり興味は無かった。

 

『あら?今の声W-15?』

 

「そんな奴は知らん。我はウォーダン・ユミルだ』

 

『あらん、反抗期?お母さん悲しいようで嬉しいわ、まぁあんたは昔からだけど』

 

「……誰が母だ誰が」

 

「……二人とも、誰と話してんだ?」

 

 玄一郎は何となく会話の端々を聞くに、カルディアとウォーダンを造った人間であることはわかる。しかしカルディアの記憶を見た時の『レモン・ブロウニング』はこんな性格だっただろうか?とも思った。

 

『あらっ、今の声はどなたかしら?もしかしてパラオの提督さん?』

 

「御名答。パラオ泊地提督だ。で、あんた誰だ?」

 

『あら~っ、やっぱりそうなのね。ウチのカルディアとウォーダンがお世話になっております、二人の母のレモン・ブロウニングでございます~。うふふっ、ちょっと子供達の様子を見に、そちらに亡命してもよろしいでしょうか?というか、ちょっと助けていただきたいんですのことですのよん?』

 

「授業参観日な気分で亡命してくるんじゃねぇ。つか助け?」

 

「はい~、只今絶賛、裏切り者として追われておりまして。ウチのエキドナちゃんとシロガネちゃんだけでは厄介でして。リオンシリーズがあんなにいるなんて思わなかった!あーびっくり!という状況ですのよ?」

 

「……リオン?そんなのまでこっちに来てんのか?」

 

「量産機の宿命、撃墜された数がなにぶん多かったのが原因でしょうね。パイロット付きのがちらほらいて、攻撃通るのよね~。あと囲まれてちょっと面倒!たーすーけーてーっ!」

 

 どかーん!どかーん!と爆発音が通信から聞こえてくる。どうやら攻撃されているようだ。

 

「うわー、罠くせえ」

 

 とはいえ、やはりこのレモン・ブロウニングという女は胡散臭い。どうも警戒してしまう。

 

『大丈夫、助けてくれたら私も女、女は義理堅く、が信条よ。私達が持つ情報と虎の子のマル秘な艦娘、そちらにお渡しするわ。つかあのアホ共と手を組んだらまた死亡フラグ立っちゃうからね!』

 

 玄一郎はうーむ、と悩んだが罠ならば食い破るだけだ。それよりも敵の勢力を知る者が亡命してくるならば情報が手に入る。それに異世界からそれほど大量の機動兵器が来ているならばかなりの脅威である。

 

 ドカーーーン!!

 

『くっ!!艦橋を狙って来た?!やるわね、左舷弾幕薄いぞっ、何やってんのっ!!』

 

『くっ、彼女もいっぱいいっぱいなんだ、というかこんなにいるなんてっ!!』

 

『あーっ、もうっ!私自ら出るっ!!ヴァイスセイヴァーっ来なさいっ!!クエルボ、彼女の事任せたわよ!!』

 

 艦橋付近に敵の攻撃が着弾したらしい。迷っている暇はないようだった。これはつまり、防空網が破られている事を差している。

 

「行ってやるから座標とっとと送れ!時間が惜しい!」

 

『ここよっ!!私も出るから通信切るわっ!!』

 

 ブツッ、と通信が切れた。

 

 座標を見ればちょうど太平洋のど真ん中、ホノルルを少し西へ行ったぐらいの地点である。

 

〔早く行くぞ、玄一郎。もうカタパルトの準備は済んでいる〕

 

「黒田准将!私も行きます!」

 

 廊下を出て走り出した玄一郎とゲシュペンストの後ろをオウカが追う。ラピエサージュもその後ろについていた。

 

「つか君は民間人だろ。いくら近藤さんの娘でもそいつぁ聞けねぇ!」

 

「クエルボという名前が聞こえました!あの人は私の恩人なんです!!彼を救いたいんです!!」

 

〔それに、レモン・ブロウニングは私の製作者でもありますので〕

 

「俺も行くぞ!玄一郎っ!!」

 

 さらにその後ろからウォーダンも走ってきた。

 

「だーーーっ!!ああっ、もうっ!!お前らっ!!クソッ、カタパルトは一度に一機しか使えねぇからなっ!!順番だかんな?!あと、滅茶苦茶GかかるからGキャンセラーかフィールドで機体おおっとけよ?!目ぇ回しても知らねーかんなっ!!」

 

「はいっ!准将っ!」

 

「問題無いっ!!」

 

 三人はカタパルトに向けて駆けて行った。

 

「……姉御ぉ、ワイらも行かんでもええんでっしゃろか?」

 

「……私達は飛べないからな。というか、アレが来るのか?……逃げたい」

 

「まぁ、気持ちは分かりますけんど、ねぇ」

 

 W-0×台のアンドロイドはエンドレスフロンティアの世界へ送られたせいでレモン・ブロウニングとあまり接触した事が無く、さらにその世界でろくな目にあっていない。救われたのは妹のアシェンぐらいなものであるが、そのアシェンにしても(毒舌ロボット←むかつく)という感じで壊れた性格をしている。

 

「天国が、天国が失われていく……っ!」

 

 まぁ、コードATA二回もぶちかます羽目になったら、ねぇ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 太平洋のど真ん中、位置座標に着いてみれば、こは如何に。

 

 なんか軍艦とおぼしき物がが空に飛んでて、その周りをこまいリオンが飛んでいる。

 

 リオンのサイズはだいたい2、3メートルぐらいなのだが、軍艦のサイズはだいたい200メートルほどで実際の重巡クラスほどのサイズである。何となく形がディフォルメされたようなずんぐりとした感じであり、ミニチュアの戦艦という感じもする。

 

 対空砲火を必死であちこちから撃っているものの、さすがにリオンの速さと小ささにかなり手こずっているようであるが、その周りで戦っている二機の機動ロボットの方へ巧みにリオン達を火線で誘導しているようで、着実に敵はその数を減らして行っている。

 

 とはいえ多勢に無勢感は否めない。

 

 敵は二機の機動ロボットと対空機銃の合間を縫って攻撃を戦艦へと撃ち、その損傷がかなり見られるようになっていた。

 

 ゲシュペンストの速度にオウカのラピエサージュはぴったり着いて来ているが、ウォーダンのスレードゲルミルはやはり特機であり、やや足が遅いく後方にまだいた。

 

「オウカ、狙撃は得意か?」

 

「はい、援護はお任せください!」

 

 突撃する、とも言っていない玄一郎の意図に素早くオウカはそう答える。まぁ、それは当たり前で、ゲシュペンストタイプSは近接戦を得意とする、特機扱いの機体だ。いろいろ武装は持ってきてはいるがこの場合はやはりそうなる。

 

 オウカは、ライフルの銃身を素早く構えた。

 

「んじゃ、頼んだ!」

 

 ゴォッ!!とゲシュペンストはブースターをフルに噴射し、M-950アサルトライフルを構えつつ、艦橋を狙って飛ぶリオンの群れに突っ込んだ。

 

 狙いは付ける必要は無い。塊になってる所を撃てば何機かが落ち、そして攻撃を受けたリオンがバラけ、そこをオウカがライフルのBモードで狙撃して撃ち落とした。

 

 狙い通り、敵の真ん中が完全に開いたのをすかさずそこへ玄一郎はゲシュペンストを突っ込ませ、二丁のリヴォルヴァーカノンで曲芸のように一機一機に狙い外さず撃ち込み撃破していく。

 

 リヴォルヴァーカノンの弾12発を撃ちつくした玄一郎は素早く、ようやく到着したウォーダンのスレードゲルミルと場所を入れ替わる。そしてウォーダンの斬艦刀が残りのリオンをただの一振りで全て切り落とした。

 

 即興の合体マップ攻撃と言うべき連携攻撃だった。

 

「うしっ、後は散らばってる連中をやるぞ?散開して個々に撃滅だ!」

 

「了解!」「応っ!」

 

 三人はまるで長年チームを組んでやってきたような、流れるような動きで敵に当たっていく。

 

 敵に押されていたレモンのヴァイスセイヴァーとエキドナのアンジェルグ・ノワールが、玄一郎達の加勢を得て防戦からようやく攻勢へと転じ、そこへ加わる。

 

 多勢に無勢が一機当千に変わった。こうなればもはや敵はただ単なる狩られる標的に変わり、それこそ残虐行為手当てのボーナスであった。

 

 戦艦が対空砲火で追い詰め、まとまった所を撃てばよい。先ほどまでは手が足りなかったが、今は5機の強力な歴戦の機体が揃っている。ただのリオンなどそれこそものの数ではない。

 

 一隻の戦艦と5機の機体は臨機応変に敵を撃ち、切り裂き、吹き飛ばし、ぶっさし、誰も、何も指示をしなくてもその場その場で追い手、撃ち手と役割を変えながら敵を狩っていった。

 

「ゲシュペンストはゲシュペンストでも、本当に最初のタイプSだったとはね!あなたカーウァイ・ラウ大佐?」

 

 レモンが玄一郎に通信を入れてきた。ラピエサージュに似た雰囲気の機体がビットのような物を飛ばしてリオンタイプFの小隊を追い込んでいく。

 

 そこに玄一郎がガンファミリアと共にM-950アサルトライフルをぶちかます。

 

「カーウァイ・ラウは相棒の方だっての」

 

 リオンタイプFを撃ち落とし、玄一郎は移動しながら次の小隊にスプリットミサイルをぶちかます。そこへエキドナのアンジェルグ・ノワールがフォローに入り、持っている盾から無数の槍のような弾をバラまいて殲滅する。

 

「機体の動きがカーウァイ・ラウ大佐と一致しているが?」

 

 エキドナが言う。

 

「そりゃある意味同一の存在だからな!」

 

 艦橋へと性懲りもなく向かっていくリオンにスラッシュリッパーを投げつつ突っ込み、艦橋を背にして庇うも、落とせなかったリオン二機のリニアレールガンがゲシュペンストごと艦橋へ攻撃する。

 

 そこへウォーダンのスレードゲルミルが割入り、斬艦刀でレールガンの弾を弾きとばし、さらにオウカのラピエサージュがリオンをライフルで叩き落とす。

 

「ありゃ、あれぐらい大丈夫だったのによ?」

 

「ふん、損傷は無い方が良かろう」

 

「そういう事ね」

 

「ありがとよ!さて、もう少しだ。とっとと片付けちまおう!」

 

 また三人は散開し、各々、敵を殲滅して行った。

 

 

 

 リオンタイプの群を殲滅し、ようやく空中を飛ぶ戦艦は領域を離脱した。

 

「はぁ、さすがに今回は読みが甘かったわね。まさかリオンがあんなに顕現化していたなんて……。助かったわ」

 

 甲板に降り立ったヴァイスセイヴァーから出てレモンが言う。甲板はあちこちが破壊され、煙がくすぶっている。

 

 その向かいにゲシュペンストが降り立つ。

 

「罠かと思ったが、マジで襲われてたとはな」

 

「私はホラは吹くけど嘘は吐かないわ。救助ありがとう。私は元『シャドウミラー』のレモン・ブロウニング。このシロガネごと私達はパラオ泊地に亡命を求めます。お願いしてもよろしくて?」

 

「よろしくてよ?と言うしか無いわな。情報源はとにかく欲しい。データによるとあんたは『シャドウミラー』の参謀なんだろ?核心に近いだろうからな」

 

「あらん?私は巻き込まれただけよん?本当にね、これが。まぁ、前が前だから奴らも仲間と思ったようだけどねー?」

 

「……ま、変なことしたらやっちまうだけだがな?」

 

「あら、怖い。まぁ女は義理堅くが信条だもの。助けられた恩はもれなく倍返し。シロガネちゃんはやっぱり提督さんの所が良いって言うし、そちらに嫁入りさせるわよん?」

 

〔南極でグランゾンに破壊されたスペースノア級一番艦シロガネか。しかしこのサイズは……」

 

「この子も艦娘よ?これが艦装で、本体は艦橋にいるわ」

 

「どんだけデカい艦装だよ。つかこれサイズ的にマジモンの重巡ぐらいはあるよな?」

 

「ちゃんと乗れるし、宇宙までいけるわよ?」

 

「……艦娘の概念が壊れるな。つか艦娘、うーむむむ」

 

 玄一郎はゲシュペンストの中で唸った。

 

「……バケツぶっかけたら治るかな?」

 

「多分ね~?やってみたこと無いけど」

 

「…………」

 

 玄一郎はいつも念のために持っている高速修復剤のバケツを背中から取り出した。

 

 甲板にぶちまけてみる。

 

 すると、一瞬で本当に修復されてしまった。

 

「あ、一杯でいいんだ」

 

「リーズナブルよねぇ?」

 

 うーむ、なんなのだこの状況。つかこんなので治っていいのか宇宙戦艦。

 

『周囲に敵反応無し、よ。私達もシロガネの甲板に降りるわ』

 

 周囲を警戒していたオウカがそう言って甲板に降りてきた。続いてスレードゲルミル、アンジェルグ・ノワールが降り立つ。

 

 一同に会してみれば、よくよく考えれば悪役ばかりだなぁ、と玄一郎は思う。

 

 エアロゲイター側のゲシュペンストに、ノイエDCにシャドウミラー。パラオに悪役が集まるようになってんだろか?とか思いつつ。

 

 まぁ、いいか、と玄一郎は思ったのだった。




悪役(中ボスクラス)の集団。

シロガネを出したけど、どんな艦娘になるのか全く考えてなかった。……アルルカン!れざぁましおう!ではない。

しかしこれで追撃が終わるわけはない。

クルエボさん、空気。

次回、超吹雪~姉御とワイら~でまたあおう!(嘘?)


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宇宙不幸戦艦と『ウルズ』といえば7かな?

シロガネの中はちょっと狭くて良い感じ(ナニガ?)

主人公、そのうち化けの皮が剥がれるんじゃないかと心配。

やったね!ウルズ君に師匠ができたよ?(ケツ叩き100連発)




 完全に修復されたシロガネの艦橋の中に入って行くと、確かに戦艦であるなぁ、という室内の中心の座席に座った艦娘らしき女性が一人と、その横には白衣の男が一人。

 

 レモンが玄一郎達に二人を紹介する。

 

「まず、この冴えないのがクエルボ・セロよ?オウカちゃんはよくご存知よね?」

 

「冴えなくて悪かったね」

 

 クエルボはそう言いつつ苦笑する。

 

「また会えたね、オウカ。それにまさかウォーダンまでいるなんてね」

 

「……すみません、クエルボさんが助けようとしてくれたのに、私、死んじゃいました」

 

 オウカは少し儚げに笑いつつ言った。どうやらクエルボという男とオウカは前の世界で良好な関係だったようだ。そういう相手もいたのか、と少し玄一郎は安心するも、まさかこの男、恋愛対象とかではあるまいな?とも思う。もしもそうであったならば近藤大将がどれだけ怒り狂うだろうなぁ、とか思いつつ、様子を見る。

 

「はは、僕もだよ。おかしな話だけど元気そうでなによりだ」

 

 クエルボは優しげな笑みでオウカの肩をポン、と叩く。まるで学校の先生と卒業した生徒のようだな、と玄一郎は思った。

 

「クエルボさんも」

 

 にこりと笑い、オウカも返す。

 

「黒田准将、でしたか。今回は本当に助かりました。私はもう、スクールの連中もノイエDCの連中にも組するつもりはありません。……前の世界では決断が遅過ぎたせいでオウカを逃がす事が出来なかった。もっと早く行動していたならば、ラーダを通じてでも逃がせていたかもしれなかったのに……」

 

「……ラーダ?」

 

「ああ。ラーダ・バイラバンという研究者なんだが……。まさか彼女もこの世界に来ているなんて事は無いだろうね?」

 

「いや、少なくとも俺は知らない。その人も、その、戦死したのか?」

 

「いや。私の記憶では生きているはずだ。彼女まで来ていたらどうしようと……いや、こういうのは複雑だな」

 

 どうやらクエルボには彼女か恋人のような女性が居たようだ。

 

 近藤大将の怒りに触れなくてよかったな?クエルボ。と玄一郎は思った。あの大将の事である。養女の為ならばとことん追い詰めるまでやるだろう。そしてそのとばっちりは必ず玄一郎に来る。間違いなく来るのだ。

 

 オウカがもしも誰か恋人を作ったならば、応援はしてやりたいが、しかし近藤大将にもかなり借りがある身なのである。出来れば二人の板挟みになるのは勘弁してもらいたい。

 

 まぁ、そうなれば近藤大将の奥さん連中に助けを求めよう。そうしよう。などとも計算していたりもするのだが。

 

 そんな事をおくびにもださず。

 

「あんたの恋人、か?その気持ちは良くわかる。俺も時々それを考えることもある。家族や知人、友人に……。いや、あちらで生きていると喜ぼう」

 

 しれっと良いことを言う。大抵玄一郎が良いことを言うときは何かを誤魔化したり内心を隠し事をしたりしている時だったりする。まぁ、本音も入ってはいるのだが。

 

「そうだな。そうしよう」

 

「弟や妹達はあちらで生きている……」

 

「そうだ。だが俺達もこっちで生きてるって事を忘れるな?一度死んだ云々はどっかに置いてな。生まれ変わったと思えばいい」

 

「生まれ変わり、ねぇ。それ良い考えかもね。ところで私も聞きたいのだけれど、アクセル・アルマーって男は来てる?彼もおそらく死んだのではないかと思うのだけど?」

 

「ああ、そいつならカルディアに聞くといい。カルディアが送り込まれた世界に転移していたらしいから、向こうの世界で生きているはずだ。アインスト・アルフィミィってのとコンビでカルディア達と敵対して戦っていたらしいからな」

 

「は?アインストですって?!」

 

「まぁ、その辺は俺も詳しくは知らない。データというか記憶を見ただけだからな」

 

「……アインストに取り憑かれたの?アクセル……」

 

 レモンは先ほどまでの余裕のある、少しふざけた態度など無かったような深刻な表情を浮かべ、顔をしかめた。おそらくアクセル・アルマーという人物は彼女にとって近しい人間なのだろう。それにアインストというものを彼女がかなり危険視しているのもわかった。

 

「あんまし俺達はその辺の情報を持ち合わせて無いんだ。なんせゲシュペンスト……、カーウァイ・ラウはエアロゲイターって連中に使われていた頃の情報しか持って無いんだ」

 

「……そうね。私達みんなでいろいろな情報を共有すべきだわ。とにかくわからない事だらけだもの」

 

 レモンは気を取り直したようだ。

 

「まぁ紹介を続けましょう。こっちの可愛い和風の艦娘ちゃんが、シロガネちゃん!最初に見たとき、もう可愛くて可愛くて!まさかスペースノア級がこんな女の子になるなんて思わなかったわ!」

 

「……はじめまして。スペースノア級一番艦の不幸な姉、シロガネです。進宙式でいきなりグランゾンに沈められ、直ったと思ったら渋いダイテツ艦長ではなく、自意識過剰のヒステリックキモ男が艦長になった挙げ句、キモ男が敵に寝返ってあろうことか私に大好きなダイテツ艦長の乗った妹艦を撃たせ、そのせいでダイテツ艦長を死なせてしまいました。そりゃ怒り狂った妹達にフルボッコにされてドリルで沈させられるわけです。あはは、宇宙(そら)の星はあんなに綺麗なのに……」

 

 玄一郎は最後のセリフになんとなく嫁艦の姉の方を思い出してしまい、うわぁ、と思った。

 

(……人が宇宙に行く時代でも、不幸戦艦の種は尽きまじ、なのかよ)

 

 まだ扶桑は妹の山城と関係良好というより姉妹愛で溢れているが、話を聞くに彼女は自分の姉妹艦に敵として沈められたようである。それもダイテツ艦長という自分も大好きだった艦長を殺させられ、さらにその恨みで姉妹艦にフルボッコにされる。

 

 これほどの不幸はそうは無かろう。

 

 シャルンホルストのオカルト話など霞む不幸さである(なお、シャルンホルストの場合、史実と食い違う話が多く、オカルトマニア達のねつ造だと言われている。ドイツにとっては幸運艦と言ってもよい)。 

 

 玄一郎はどうすりゃいいんだ、と悩み、誰かフォローしたげて、と周りを見た。

 

 しかし。

 

 オウカはシロガネの話を知っているようであるが、本人の話を聞いてものすごく困惑していた。クエルボは物凄くどうして良いのかわからない顔をしていたし、ウォーダンもエキドナも黙って口をへの字にしていた。レモンに至ってはにっこり笑って腕をギュッとして胸を強調するような姿勢、つまり『今、ギュッてしたな』という姿勢をとって、がんばっ!と声に出さず口の動きだけで言った。つか、『キュッとしたな』は某メガネの元アイドルなプロデューサーとか、若い子がやるもんであり、『おお、ギュッてした』ではなく『あんた歳考えろ、歳をっ!』と言いたくなったが、はっきり言ってそれも後で怖そうだから玄一郎は黙った。

 

 誰の助けもフォローも期待出来そうに無かった。

 

 致し方なし。我援軍無し。

 

 とは言え玄一郎も不幸戦艦姉妹と呼ばれた扶桑山城の二人を嫁艦(カリ)にした男だ。この世界に来て15年。小島基地壊滅事件、フィリピン第一泊地壊滅事件、リンガ泊地提督つるし上げ事件、江ノ島女衒提督ぶち殺し事件など様々な事件で扶桑姉妹を救って来た矜持がある。

 

 それらの事件の結果、扶桑姉妹が来ると鎮守府は壊滅する、というジンクスとか出来てしまったが、彼女達が無事ならば玄一郎はオーケーだったのでそれはそれだ。

 

 あれっ?なんか俺があの二人を風評被害に巻き込んでね?とか思うもまぁ、今がよければそれでよしっ!!

 

「シロガネよ。君は今、不幸か?この今の時間、不幸だと思うか?」

 

 玄一郎は語った。

 

「過去は過去だ。一秒前はすでに去り、手の届かない場所にある。君が手を伸ばすべきは未来だ。未来は未知だ。だが、未来に不幸があると誰にも予知は出来ない。君はかつて艦長に指揮され、乗組員達に動かされた艦だったかも知れん。だが、今は自分で道を選択し、進むことが出来る。良い未来を得るためには苦難もある。だがそこに楽しく幸せな世界を得る努力を君はする事が出来るのだ。過去に嘆いている暇は無いぞ。今、笑って進むのだ!」

 

 朗々と詠唱するごとく、まっすぐにシロガネの目を見て言った。

 

「あ、あ、ああっ、私でも、こんな私でも出来ますか?!提督っ!!」

 

 シロガネはその青い瞳から滂沱の涙をこぼした。

 

「うむ。出来るとも。そうだ、君にこれをあげよう。パラオについたら間宮食堂へ行き、この間宮券を出してデザートを食べるといい。少し幸せになれるはずだ。そしてそれが君の幸せの初めての味となるだろう。私が上げられる幸せは今はそのくらいしかないが、あと少しの未来だ。良いことが待っているぞ?」

 

「ハイッ!!ありがとうございます、提督っ!!」

 

 シロガネは玄一郎に抱きついて泣いた。

 

「うむ、うむ」

 

 玄一郎はその背中をぽんぽん、ぽんぽんと叩いてやり、宥めてやった。

 

 オウカは、うん、うん、ともらい泣きしていた。

 

 ウォーダンはうむ、と言ってやはり頷いていた。

 

 クエルボはシロガネの様子に安堵したようだ。

 

 エキドナは何か疑いの目で玄一郎を見ている。

 

 レモンは何かつまらなさそうな顔をしていた。おそらく、玄一郎が慌てふためいく所が見たかったのだと思われる。

 

(……シロガネって、かなりおっぱいデカいのな。宇宙戦艦はみんな巨乳なのか?)

 

 実は自分の胸のあたりに押し付けられるシロガネの胸の柔らかさを堪能していたりするのだが、玄一郎は全くそのような事を表に出さず、良い提督モードでシロガネの背中をぽんぽん、ぽんぽん、時折頭を撫でてやりよしよし、よしよし。

 

 パーフェクトコミュニケーション!!

 

(いや、某アイドル育成ゲームじゃねーから。つか、二作目でなんかライバルに男のアイドル出てきて炎上とかするとアレだからな?!)

 

 玄一郎は少しヤバい事を思ったが、それがフラグになったかどうかはわからない。

 

 ずぉぉん!!ずぉぉん!!と、何かの着弾する音がシロガネの艦体の後部で鳴り、爆発音が響いた。

 

「きゃあああああっ!!」

 

 びりびりっ!!

 

 シロガネの服が少し破れた。中破状態だ。

 

 着物状の服の胸のところが破けておっぱいがポロリした。おっきなおっぱいの先が玄一郎の間近でふるん。

 

 シロガネのおっぱいは、形の良い、そして先端は麗しき薄い赤。

 

 ふおぉぉぉっ?!

 

 久々の、艦娘おっぱいポロリである。

 

 とは言え、玄一郎の脳は非常時モードに素早く切り替わる。

 

 自分の着ていた海軍軍服を素早く脱ぎつつ、

 

「ゲシュペンスト!修復剤をぶちまけろ!!」

 

 そういって軍服をシロガネに掛けてやりつつ、素早くシロガネに状況の確認を急がせた。

 

「何が起こった!」

 

「艦後方から、攻撃です!敵機一、私の知らない機体です!早い!!」

 

 ドゴーン!!とまた爆発音がして、またシロガネの服が破ける。かなりの攻撃力のようだ。

 

「ゲシュペンスト、バケツ全部置いてけ!シロガネがやられちゃ元も子も無い!クエルボ、この子が傷ついたら少しずつ使ってやってくれ!」

 

 ゲシュペンストは後部の多目的カーゴベイから高速修復剤を全て出して床に置いた。

 

「行くぞ!レモンとエキドナは待機しておいてくれ。オウカ、ウォーダン、行くぞ!!」

 

 三人は機体に乗機し艦橋から外へ出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『あーっはっはっ!!これまた時代遅れな旧式機体に、ゼンガー擬きに、それに出来損ないのアウルム1とは!!』

 

 青い機体から広域通信が入った。

 

 シンプルそうに見えるが、出力はかなり高そうな機体であり、厄介な事にラピエサージュと同じく、マシンセルの反応まである。ここまで来たらおそらくゲイムシステムと言うのも搭載されているだろう。

 

 武装はライフルのみのようだが、あの手の機体には用心が必要だろう。

 

『僕はエグレッタ……』

 

「イーグレット・ウルズ!!」

 

 ばしゅ!ばしゅ!ばしゅ!

 

 オウカは話も聞かずにスプリットミサイルをいきなりぶちかました。

 

『いや、だからエグレッタ・ウーノ……』

 

 ミサイルを切り払いながら青い機体の誰かは話を続けようとするが、

 

「黙れっ!!そして聞けっ!!我はウォーダン・ユミル!!悪を断つ剣なりっ!!」

 

 どぉぉぉぉん!!

 

 ウォーダンの声に邪魔をされた。

 

 エグレッタなのかイーグレットなのかわからないが、とことんオウカもウォーダンも青い機体の奴の話は聞かない姿勢のようである。

 

『君達にはこう言った方が……』

 

 二人が名乗りを邪魔している間に玄一郎はゲシュペンストにヒートロッドとガンファミリア、そしてチェーンマインにフローティングマイン、クレイモア、グラビティステークを作り出してもらい、そして罠をせっせかと用意した。

 

 青い機体はかなり回避能力が高いようだが、玄一郎はそれに付き合ってやるような言われもないとばかりにフローティングマインを動き回る青い機体の回避先に先読みして設置した。

 

 ボーン!ボーン!ボボボーボ・ボーボボーン!!

 

 フローティングマインによって足を止めた青い機体にウォーダンの一文字切りが炸裂する。

 

「ぎゃーーーーっ!!」

 

 さらに青い機体の後ろからオウカのマグナムビークがドゴン!と決まるが、しかし玄一郎の戦法は止まらない。

 

 ワイヤー状のヒートロッドが結ばれたガンファミリア数機が青い機体の周りをくるりと回るように素早く動き、ヒートロッドで雁字搦めにする。

 

 そのヒートロッドはゲシュペンストに繋がっており。

 

「その動きの良さが命取りだ」

 

 ポロン、と指ではじくと超高圧の電流が青い機体を襲う。

 

「チャラリーちゃーらちゃらーちゃらーちゃーちゃらりー鼻から牛乳ぅ~っ」

 

 ババババババババババババババババババ!!

 

「うっぎゃああああああああああっ!!」

 

 

 電流を流しつつ、玄一郎は青い機体に接近し、そして。

 

「特性チタンのバラ弾だ。全弾とっとけ?」

 

 どばばばばばババババババ!!

 

「うわーーーーーっ!!」

 

 しかし、青い機体はまだそれほど破損していないように見えた。いや、マシンセルの回復能力である。

 

「あーあ、回復しなけりゃ苦しまずに済んだのに(にやり)」

 

 クレイモアを撃ち終わる瞬間にグラビティステークを展開しつつ、ずっどん!ずっどん!ずっどん!ずっどん!

 

 とぶち込み、そして。

 

「メガブラスターキャノン!デッドエンドシュートっ!!」

 

 ある意味エアロゲイターの技術をも流用して肉体を作られた者としての、デッドエンドシュートのセリフである。

 

 どっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

 

「ぎゃあああああああああああああああっ!!」

 

「アレ?まだ生きてんの?まだ生きてんの?よし、とことんやってやろうね?たしか『エゲレス・売るよ』君だっけ?いや、『エグイヨ・UNO』君?『イク○・ク○ヨ師匠?』まぁ、どうでもいいや。……だーれーのー相棒が時代遅れな旧式機体だってぇ?安らかに眠れると思うなよ?クソガキが。俺の相棒はなぁ、天下のスーパーロボットなんだクソタワケがっ!!」

 

 玄一郎は、ガシガシガシン!!と構えた。

 

『ゲシュペンスト必殺っ!!ゲシュペンストパーンチ!!』

 

 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!

 

「連打っ!!連打っ!!連打の嵐っ!!」

 

 ドカバキグシャボキッ!ドゴッ!べきっ!

 

「ゲシュペンスト・ライジングアッパー!!かーらーのぉぉっ!!」

 

 どこーん!!

 

「真っ!ゲッシートマホーク!!マックスアックス!!うぉぉぉっ!!イグニッション!!」

 

 ズドーン!!

 

「抜かば霊散る怒りの刃っ!!シシオウブレードっ!!秘剣!!エーテルはないけどちゃぶ台返しっ!!」

 

 どっかーーーーーーん!!

 

 玄一郎は青い機体のハッチ部分を徹底的にぶち壊し、そして中のボコボコになった子供を引きずり出した。

 

「やぁっと面ぁ出したなぁ?ガキ。とんでもない悪さしやがって。親の面ぁ見たいってのはこの事だぜ、クソガキ」

 

「ひぃぃぃっ!」

 

「オラ、クソガキ。死ぬ覚悟もねぇのに戦場に出てくんじゃねぇぞ。ド素人が。ぼっくんの機体は速くて無敵なんです?ふざけんじゃねぇぞ?そうやって根拠のねぇ自信で出てきてこのざまはなんだ?まだ自殺志願のガキの方が勇気あるぐらいだぞ?」

 

「あ、ああ、あああっ」

 

「ただ早く突っ込んでくるなんざ、ヤりたがりの童貞君かぁ?どあほが。おら、悪いことしたらなんて言うんだ?クソガキ、ごめんなさい、だろが。オラ、言ってみろ。『ご・め・ん・な・さ・い』!」

 

「な、なんで僕が謝らないといけないんだよ、命令で……」

 

「反省の色が全く無い。はぁ、仕方ねぇな」

 

 玄一郎はクソガキ(名前を覚える気がない)を抱えるとその場でパイロットスーツのズボンとパンツ(グンゼのブリーフだった)をぺろーんと脱がし、そして。

 

 バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!

 

 とケツを叩いた。

 

「いぎぃぃっ!!いぎぃぃっ!!」

 

「この悪ガキっ!悪ガキっ!おら、ごめんなさいは!!」

 

「いぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

「ケツが割れちまうぞ!ってもう割れてるか!!悪ガキっ!悪ガキっ!」

 

「ひぇぇぇん、ひぃぃぃん、いだいぃぃぃっ!!」

 

「おらっ、俺はっ!ガキでもっ!!野郎のっ!!ケツはっ!!叩きたくっ!!ねぇんだクソガキ!!」

 

「ひぐぅぅっ、うわぁぁぁぁぁん、ご、ごべんなざぁぁい、うわぁぁぁぁぁん、ごべんなざぁぁい!!」

 

 ぴたっ。

 

「うわぁぁぁぁぁん、うぇぇぇぇん、ごべんなざぁぁい、ごべんなざぁぁい!!」

 

「よし、ごめんなさいが言えたな。いいか、悪いことをしてしまったら『ごめんなさい』。これが言えねえ奴はろくな奴にならない。いいか?わかったか?」

 

「ふぇぇぇん、うぇぇぇぇん、わがりまじだぁぁぁっ」

 

「うむ、これからは悪い大人の言うことは聞くな。人殺しは本当は君達子供がする事じゃない。本当なら、君達はもっと平和で、勉強したり、友達作ったりして、ワイワイ楽しくやってる年頃なのになぁ」

 

「ぞんなごと、パパは無駄だっで……。優れだマシンナリーチルドレンだど戦闘で証明じなぎゃ……」

 

「……もうそんな奴ぁパパだと思うな。いいか、それなら俺がお前にいい反抗期のやり方を教えてやる。一緒に来い。いいか、今日から俺を師匠と呼べ。お前の名前は?」

 

「ウルズ……。イーグレット・ウルズ……」

 

「ふん、言いにくい!よし、今日からお前は『ソースケ』だっ!!言えっ、お前の今日からの名前はっ!」

 

「そ、ソースケ、です!」

 

「よし、それでいい。今からお前は生まれ変わる。いいか、お前は、ソースケだ。イーグレットでもウルズでも無い。人を蔑まず、人を羨まず、正しき道を進み、人として生きろ。前世でお前は死に、そして今また死んだ。新たな心で明日に生きろ。いいな?」

 

 玄一郎は『ソースケ』を抱えたままそうのたまった。

 

 内心、ノリのままに俺、なに言ってんだよとか思いつつ。

 

 その周りでは、オウカの啜り泣くような声とウォーダンのうむ、という肯定なのかなんなのかわからない声。

 

 やっちまったもんは仕方ないわなぁ。開き直るしか、もはやない。

 




 ウルズ、というとソースケ、かな?と。

 イーグレット・ウルズの受難。

 おそらく、ウルズ君のズボンとパンツ引っ剥がしてケツ叩きをしたのはおそらくこの作品が初めてではなかろうか(泣かせたのも)。

 いえ、ゲームでメチャクチャムカついたから、酷い目に合わせたかった、というわけではないわけではなく、ええ、フルボッコにしたかったが、ある意味不幸なガキだったので救おうか、と。

次回、超乳は月光に映えるでまたあおう!(嘘)


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松平家の謀。

松平さんちは、カオスだよ?

やったね!パラオに仲間が増えるよ?






 

 さて、ウルズ改めて『ソースケ』を連れて三人はシロガネに帰還したわけであるが、そこに通信が入った。

 

 松平元帥閣下からであり、数人ほどまたパラオ泊地で預かって欲しい、とのことであり現在の玄一郎の状況を説明したれば、ならば『シロガネ』で日本まで来て迎えに来て欲しいと言った。

 

 なお、大本営ではなく松平邸へ来てくれ、とのことであり、その数人とはいかなる人物であるのか、と玄一郎が訪ねでも全く答えてくれず、松平元帥は『来たら理由を話す』という。よほどの事なのだろう、と玄一郎は思い、シロガネに頼んで進路を変えて太平洋を北上し、元帥の言うとおり、日本は東京湾へと向かったのであった。

 

 東京湾には現在、東京湾第一港湾基地があり、シロガネはそこに一度停泊し、全員降りたことを確認してから艦装、というか艦体を解いた。

 

 艦装を解いたシロガネはよく見れば少しきわどい格好をしていた。和服調な姿なのだが、肩は出てるわスカートのような前垂れは利根改二の実はノーパンなんではないか?と思うアレに匹敵するスリットの切れ込みである。しかも胸はデカい。簡単にわかりやすく言うならば、某格闘ゲームの『デッド・オア・アライブ』のクノイチヒロインのコスチュームの前垂れをロングにしたような格好だろうか。色は白にブルーのラインがはいり、周りにオレンジのポイントがはいっている。

 

 髪型は銀髪のストレートロングなお姫様カットにポニテ。かんざし風のアクセサリーっぽくアンテナがあり、目は垂れ目がちでやや切れ長、右に泣き黒子がある。

 

 身体は細身で長身であるが、おっぱいデカい。結構でかい。ややロケットおっぱい調である。

 

「……なんか、目立たない服装を用意した方がいいんじゃないか?とか思うな」

 

 と言うものの、全員が全員目立っているのは否めない。

 

 玄一郎は海軍の軍服なのでまだいい。階級章は准将。この軍港で文句を言う者はいるまい。

 

 レモンは単体で見ればどこかのファッショナブルな女社長のような感じと言えばそう見えるだろう。

 

 クエルボはどこかのクリニックの医師とか歯医者と言えば何となく通る気がする。カリスマ歯科医とか。

 

 ウォーダンはGパンにTシャツ、銀髪はロン毛になっている。どうも機体を解除すると、元着ていた服にもどるようだ。だが、デカい刀がやたらと浮いている。

 

 オウカはウォーダンの隣に居るが、うん、元からパイロットスーツというか、なんというか悪役っぽい格好であり、コスプレ感が否めない。

 

 そこにエキドナを入れたらもう、なにこのコスプレ集団、という感じで、さらにそこにウルズ、つまり『ソースケ』を足したらもう、ビジュアル系バンドか何かにしか見えない。

 

 さらにゲシュペンスト、ラピエサージュ、ヴァイスセイバー、アンジェルグ・ノワール、キャニス・アルタルフが並んでゾロゾロと歩いているのである。

 

 なんだこの集団、というあからさまな視線がやたらとするが、誰も何も言わないのは艦娘の存在に慣れたせいと玄一郎の階級章を見ているからなのだろう。

 

「あ、准将、車が来ましたよ」

 

 オウカがそういい、黒塗りの大きく長いリムジンを指した。玄一郎も何回か見ているが、あれは松平家のリムジンのはずである。そしてその後ろには大型の運送トラックがついている。

 

 リムジンから運転手が降りてきて、そしてその後ろの席のドアを開けるとそこから上品な白いワンピースのドレスを着た叢雲が降りてきた。

 

 彼女が松平元帥の細君、松平叢雲である。

 

「久しぶりね、ゲシュペンスト君。大本営での研修以来ね?」

 

「ええ、お久しぶりです。その節ではいろいろとお世話になりまして……」

 

 この叢雲はこの世界で初めて確認された五人の艦娘のうちの一人であり、その中で唯一生き残っている最古の艦娘である。言うなれば、深海棲艦に初めて反撃の狼煙を上げた栄光の初期艦であり、三十数年の間日本を護り続けてきた女傑であった。

 

 なおゲシュペンスト(玄一郎)が提督になる際に大本営で教官を勤めたのが彼女であり、玄一郎にとっては頭が上がらない艦娘の一人である。

 

「ん~、人の身体になって良かったわね。扶桑達の事、心配してたんだから。でもケッコン出来ておめでと。しかも昇進したって?善い風吹いてきたじゃない!」

 

「あはは、ありがとうございます」

 

「幸せにしたげるのよ?私の数少なくなった戦友なんだから!」

 

 そう、初期の鎮守府で戦艦と言えば扶桑と山城しか居なかった時期に叢雲と扶桑姉妹、そして鳳翔は同じ第一艦隊にいた頃がある。本当の初期の苦しい時に彼女達は同じ釜の飯を食った仲だったのだ。

 

「はい、というか俺がとっくに幸せで」

 

「そう、ってかのろけ過ぎ!」

 

 あはははは、と二人は笑う。叢雲は「幸せならヨシ!」と言って、他の連中を見回した。

 

「ところで、お仲間さんが沢山ね。紹介して欲しいけど、ウチの旦那が待ってるわ。話は車の中でしましょう。で、ロボット達は悪いけどトラックの荷台ね?」

 

〔致し方ないか〕

 

〔はい、私達の機体サイズでは……〕

 

〔そうねぇ、仕方ないわねー〕

 

〔だよね~〕

 

〔あ、すみません、詰めていただけると〕

 

〔というか、アンジェ!羽根広げないでくれ〕

 

 ロボット達は口々にいろいろ言いつつワイワイガヤガヤとトラックの荷台に乗り込む。

 

「……え?ロボット達って喋るの?」

 

 叢雲の目が点になった。そりゃそうだろう。普通は喋るとは思わない。

 

 そこを、たまたま通りがかった東京湾第一港湾基地所属の日向が言った。

 

「まぁ、そうなるな」

 

 流石師匠である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふむ、かなりお仲間が増えたようだね、ゲシュペンスト……、いや、黒田准将」

 

 松平朋也元帥はにこにこしながら一行を見た。

 

 ここは松平家の応接室であり、結構広いがさすがにゲシュペンスト達までは入れないので、ロボット達は松平家の庭に待機させている。

 

 軽い挨拶の後、松平元帥はすぐに応接室へと皆を通し、詳細な調査結果や状況整理をしようと言った。

 

「はぁ、恐縮です」

 

 増やしたくて増やした訳ではないのだが。

 

「報告書は読ませてもらったよ。鹵獲されたアメリカのイージス艦の核兵器が使えない状態だったのは幸いだった。しかし、今回の様々な事件の裏に異世界から来た者達が関わっていた、というのはかなり厄介な事だ。しかもアメリカ絡み、というのもこれは見過ごし出来ない部分ではあるが……」

 

 レモンが松平元帥にレポートを渡す。

 

「はい、数人の転移者達がアメリカの高官をそそのかして行っている『ゴーストシップ計画』。シロガネでこちらに来る間にまとめたものがこちらになりますわ」

 

 ゴーストシップ計画。それはイーグリット・フェフとアギラ・セトメが行っている、深海棲息や艦娘を素体に使った生体兵器製造計画である。イージス艦による輸送機襲撃事件や集積地棲姫の拠点だったミンドロ島占拠事件はかの改造された『ゴーストシップ』達によるものであった。

 

 なお、アドラー・コッホは認知症が出ており、もうまともな研究等は出来ないとの事である。どうも前の世界でヴァルシオン改に搭載したゲイムシステムを使いすぎたのがその原因のようである。なお、その介護はヴァルシオン改が行っているとかなんとか。驚異的な戦闘能力を誇ったヴァルシオン改が、介護ロボになってしまっていると聞いて、ゲシュペンストはものすごく複雑な心境になっていたようだが。

 

「『ゴーストシップ』は鹵獲にそこの……、イーグレット・フェフが作ったマシンナリー・チルドレンのウルズ、アンサズ、スリサズ達が行い、改造をフェフが、洗脳をアギラが行っていたのですわ。ですが、『ゴーストシップ』達には兵器としての最大の欠陥があったのです。それは、高速修復剤をぶっかけたり、入渠施設で修理すると、全て元の状態に戻って、身体も洗脳も解けてしまう、という点です」

 

 要するに、改造しても洗脳しても艦娘や深海棲艦の身体から見てそれは損傷と見なされ、修復剤等によって治されてしまうらしい。

 

「コストの割にはお粗末な結果、と言うほかありません。後につながる、『ドーター計画』も、強力な深海棲艦、つまり『同盟深海五大艦』を鹵獲してその体細胞やマシンセルを使って、最強の『ゴーストシップ』を作り出す、というものでしたが、その前に五人はそれぞれの拠点から居なくなったわけです」

 

「ふむ、では『武蔵の深海棲艦』や『雷のレ級』『榛名のタ級』達は君達とは全く無関係、と?」

 

「君達と言われるのは心外ですわ。フェフやアギラ、アードラー達と、無関係ですもの。あとクエルボも同様です。私はアンドロイドやPTの設計は専門ですし、クエルボはマンマシンインターフェースが専門で、ロボットに関してはわかりますが連中の専門分野は専門外ですし。ただ、『雷のレ級』とはお友達ですわ。他は知りませんけど」

 

「はぁっ?!雷のレ級とお友達?!」

 

「ええ、この世界に転移して遭難してるところを助けてもらったのよ。『もーっと私を頼ってもいいのよ!』って言って、カリフォルニアに連れて行ってくれたわ。あの子が助けてくれなければ正直、飢え死にするとこだったわ」

 

 サバイバルは苦手なのよ、とレモンは言いつつ苦笑した。

 

 その後、同盟深海五大艦の鹵獲をアードラー、フェフ、アギラ達が企てているのを知り『雷のレ級』に相談して、彼女達に逃げるように言って欲しいと伝えたのであるが……。

 

「……ふむ、では深海五大艦を襲った『マヨイ』達の軍勢はアメリカやテロリスト達とは無関係、というわけか」

 

「え?襲った?!」

 

「……おそらく、五大艦達は自分達の拠点から動くのを拒否したのだろうな。……あのレ級が雷のままの性格をしているとなると、業を煮やしてやってしまったのだろう。暁型の雷は強引なところがあるからな」

 

 松平元帥はうーむ、と唸り、玄一郎は頭を抱えた。

 

 艦娘達と接する提督にはよくわかる話だった。雷の性格や行動からそれらの事件での『雷のレ級』の行動を脳内でシミュレーションしてみると、まぁ、そうなるな、と理解出来てしまった。

 

「……では、遭難していた俺に『こっちへ来い』といざなったタ級はどうなのだろうか?」

 

 ウォーダンは腕を組み、首を捻った。どうも無人島で遭遇したタ級がかなり気になっているようである。

 

「それはわからない。ひょっとしたら助けようとしたのかも知れんが……本人に聞くしかないだろうな。また会えたらの話だが」

 

 玄一郎はそのタ級がある種、友好的な可能性について考えてみる。レモンの話によれば彼女が接触したのは『雷のレ級』のみであり『武蔵の深海棲艦』や『タ級』については知らないとの事だった。

 

「むぅ。確かにな」

 

 ウォーダンは何事か考えたが、それしかないと結論付けたようだ。

 

 だが、これで玄一郎が思っていたタ級達が『前の世界から転移して来た者達をスカウトしている』という推理は間違っている事になる。

 

 シロガネの追っ手のリオンやその派生機に関してはアメリカかテロリストに所属しているのは間違い無いだろうが。

 

「ふむ、なかなか良い情報ではあるし、これで裏付けも取れたわけだ」

 

 松平元帥は頷き、得心がいったとばかりにそう言った。

 

「裏付け?やはり調査結果でそのように出たのですか?」

 

 やはり大本営は独自で調査していたか、と玄一郎は思ったが、しかし。

 

「いや?本人達が直接来たのでね?先に話を聞いていたのだよ」

 

「え゛?」

 

 斜め上の答えが返ってきた。

 

「入って来たまえ!」

 

「遅いわよ!もーっ、これが暁姉さんだったら『レディを待たせるなんてっ!』とか言って怒ってるところだわ!!」

 

「は、榛名は大丈夫です!タ級ですけど……」

 

「ふん、15年待ったのだ。この程度はなんと言うことはないぞ?」

 

 ぞろぞろぞろぞろ。

 

 レ級、タ級、武蔵の深海棲艦、それに見たことも無い女性とようぢぉとショタな少年が入って来た。

 

「イェアアアアッ?!ムサシ=サン、ムサシ=サンナンデェェェッ?!というか松平さ゛~ん!オンドルゥラギッダンディスカァ!!」

 

 トラウマの元凶が、ふつうに平然と当たり前のように出てきた。玄一郎は椅子から立ち上がって、

 

「撤退っ!!総員撤退っ!!」

 

 と叫んだ。

 

「落ち着きたまえ、黒田准将。彼女達は協力者だ。それと彼女達はパラオに亡命希望しているのだ。ははは、パラオも賑やかになるな?」

 

「あ~、もうっ!別に危害を加えようと思ってないわよ!……扶桑さん達の旦那に何か出来るわけ無いじゃない!」

 

 『雷のレ級』がぷんすかと玄一郎を叱る。

 

「は、はい!榛名は大丈夫です!」

 

 『タ級』が言う。つかコイツ、元榛名なのか?!

 

「……うむ、夜戦にはまだ日が高いからな」

 

 ニンマリと武蔵はクイッ、と腕を組んで大きな胸をやたら強調させてニンマリ笑いながら言った。

 

「いやぁぁぁぁっ!!夜になったらどうせ襲う気なんでしょう!!同人誌みたいにぃぃぃっ!!」

 

 玄一郎はもう半狂乱だった。

 

「あのー松平さん、私達、この方のところへ行けばいいんですか?」

 

 謎のゆるふわな感じも少しする超乳なわりかし露出度高めの女の子が言った。

 

「うぁ~、たらい回しだぁ」

 

 やたら元気そうな貧乳ようぢぉがジト目でいう。

 

「あの、その、ええっと……よろしくです」

 

 気弱そうな、愛宕辺りが見たらドストライクそうなショタが言った。

 

 松平家の応接室はカオスな事になった。

 

「はっはっは、騒ぐのは構わんが暴れないでくれよ?」

 

「……なんか、パラオ泊地が楽しそうな事になりそうよね?あなた」

 

「うむ、近藤君のところもなかなかに楽しいが、平和になったら一度遊びに行こう?叢雲」

 

「そうねぇ、金剛や間宮達にも会いたいしね?」

 

 松平元帥夫妻はやたら朗らかに笑う。かなり無責任である。いいのか?それで。あんたら海軍の最高責任者だろう?!

 

「ぎゃーーーっ、おっぱい当たってるしっ!!ダブルでおっぱい当ててんのよ?!」

 

「当てているのだ。どうだ?ふふふ肉体を得た喜びを存分に堪能するがいい」

 

「あああーっ!!私の提督になんてことを!!ううーっシロガネもぉっ!!」

 

「うひぃぃぃっ!!」

 

 玄一郎は『武蔵』とシロガネに当ててんのよ攻撃され。

 

「あっ、あの……。ご無事でなにより、です」

 

「うむ、よく考えれば、君には殺気も何もなかった。助けようとしてくれていたのか?」

 

「はい、あの頃は長年喋っていなかったので上手く説明出来なくて、すみません」

 

「いや、悪いことをしてしまった。すまん」

 

「いえいえ、榛名は大丈夫です!ちょっと怖かったですけど」

 

 タ級(榛名)とウォーダンは和解し。

 

「ひさしぶりねっ、レモン!無事に逃げられたのね?よかったわ!」

 

「ええ、おかげさまでね。あの時は助かったけれど……あなたに無茶させてしまったわねぇ」

 

「いいのよ!もーっと頼りにしていいんだからねっ!」

 

 レモンと『雷のレ級』はそんな感じで。

 

「……やっぱり、准将って女性にモテるのかしら?」

 

 なんとなく尊敬しつつある人物のそういう一面を垣間見て冷たい目で見つつオウカは言い。

 

「そう言えばカーウァイ・ラウの女難って暴露本が基地の中にあったなぁ。なかなか波乱万丈な感じだったよ?」

 

 クエルボが苦笑しつつ。そこへレモンが介入し。

 

「まぁ、カーウァイ・ラウの異世界同位体らしいけどねぇ……。ふむ、ゲシュペンスト提督の女難って暴露本をこっちで出したら売れるかしら?」

 

 とニタリと笑って言った。

 

「だーれーかー助けてぇぇぇっ!!」

 

「師匠、無理です。僕、叩かれた尻が痛くて動けません」

 

 ウルズ改め『ソースケ』が冷ややかに見捨てる気満々に言った。

 




 カーウァイ・ラウ大佐。

 昔は……。女難の相あり、だったという設定。

 そのうちジェニファー・フォンダが来たりしてね?

 次回、パラオの夜戦!でまたあおう!(嘘)


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さらりと拉致。さらりとNTR

 バカオヤジ出現。

「計画通り」松平夫妻どや顔。

 ムサシ、破れたり!(ナニが破れたかは内緒)。

 一部下ネタあり。


 夜である。

 

 娘の帰国の報に慌てて松平家にやってきた親父が一人と母親のうちの一人が一人。

 

 言わずと知れた近藤勲大将と舞鶴鎮守府の良心大和であった。近藤夫妻は新幹線に乗ってタクシーでハイヤッ!!と来たのであった。

 

「オウカーっ!!帰って来てたんなら連絡入れんか~っ!!」

 

 近藤が思い切り親バカしていた。

 

「お、お義父さん……」

 

「もうっ、あなたったら!すみません、元帥、奥様、夜分に押しかけてしまって」

 

「いやいや、私が連絡したのだよ。面白……いや、近藤君も随分と心配していたようなのでね」

 

 今、この人『面白そう』とか言い掛けたよな?

 

 と、玄一郎は思い、そして松平元帥の奥さんである叢雲の方を見た。なんかスッゲェ、ニンマリワクテカしていた。

 

「近藤君は随分と娘さんを可愛がっているようだね。ふむ」

 

「はっ、いやぁ、先輩……っと、本来ならば元帥閣下にも先にご挨拶に上がらねばならない所でありましたが、まさかこのような形で……いやはやすみません!」

 

「いや、黒田准将の乗った戦艦『シロガネ』にたまたま彼女も便乗していたのでね。もう先ほど話はさせてもらったよ。なかなか聡明でしっかりとした娘さんじゃないか。君が養女に、というのもよくわかる」

 

「はっ、ありがとうございます!」

 

「というか、その話し方止めないか?ここには気心の知れた者しかいない。確かに部下の手前、範を示すのは上官として正しいが、彼はゲシュペンスト君だよ」

 

「は?ああ、いえ人化したとは聞いてましたが、あー、お前さんこんな面してたのかよ、ああ、なるほど」

 

「ふむ、君にもとりあえず紹介したい方々が何人かいるのだが、まず、前の世界でオウカ君が世話になったという、クエルボ・セロ氏。テロリストの正体に関する情報を持ってテロリスト達からクエルボ・セロ氏と共に逃げてきたレモン・ブロウニング女史とその助手のエキドナ・イーサッキ女史。あと、ウォーダン・ユミル氏にゲシュペンスト君の弟子のソースケ・ウルズ君」

 

 だーっと松平元帥はここにいる全員を近藤に紹介した。その顔は非常ににこやかである。

 

「はぁ、オウカが前の世界でお世話になったと?」

 

 やはりというか、娘が世話になったと聞いてクエルボ・セロの方にまず話しかける近藤。

 

 叢雲がニヒッ、と笑うのが玄一郎の方から見えた。

 

 昔からこの松平夫婦はやたらと人間関係のゴタゴタで遊ぶようなところがあるのだ。おそらく、近藤大将の親バカさを期待しているのだろう。

 

 だが、クエルボ・セロは安全パイであり、オウカと何らか、恋愛に発展するような気配は無い。恩師と生徒といった感じなのだ。

 

(果たして、誰に飛び火するかわからん。油断出来ん) 

 

 玄一郎は様々なシミュレーションをしてみた。

 

 危険な地雷としては、ウルズこと『ソースケ』である。名字が無いので『ソースケ・ウルズ』と名をつけたが、コイツは昔にその兄弟達とオウカやその妹や弟達をバカにしていたという。

 

 バレたらヤバい。確実にヤバい。

 

 内心ヒヤヒヤしながら玄一郎は近藤大将とクエルボの話を聞いていた。

 

「お世話と言うような事は出来ておりません。力足りず、私はオウカを助けられなかったのです。ですがこちらの世界ではオウカは幸せなようで安心しました」

 

「いえ、何にしても娘の恩人とあれば私達夫婦にとっても恩人です」

 

「いえいえ、結局、今回、オウカに助けてもらったぐらいですよ」

 

「そうねぇ、私達だけじゃほんと危なかったもの。黒田准将とオウカ、それにウォーダンが救出に来てくれて助かったわぁ」

 

 レモンがニッコリ笑って言った。

 

「……は?今なんと?」

 

 玄一郎は、あ、やべっ!と思った。

 

 なにしろ近藤からは、くれぐれも娘に危険な真似をさせるんじゃねぇぞ、というメールを受け取っていたからだ。しかも民間人は戦闘をさせていた事もある。

 

 レモンはにこにこ顔で「ですから、敵機体の群れに襲われていたところを駆けつけて助けていただいたんですのよ?」と言った。

 

 そう、レモンはわかっていて入っているのだ。そう、わざとである。確信犯である。松平元帥の意図に気づいてわざとぼかさずに、コイツはオタクの娘さんに戦闘行為をさせてましたよー、と、養父である近藤に伝えているのである。

 

 こっちに飛び火したっ?!

 

「おう、ゲシュ提督よぉ、ちょっと事情話してもらえるか?ああん?」

 

「はい、近藤大将」

 

 内心、うわーぁ、と思いつつもポーカーフェイスを崩さない。玄一郎が何かを誤魔化したり人を煙に巻くときのもはやそれは癖であり、そして十八番な表情であった。

 

「俺ぁ、娘を危険な事に巻き込むなって行ったよなぁ?」

 

(考えろ俺、考えろ俺、何か打開策はないか?!)

 

「はい」

 

「なんで、敵に襲われている船の救出にウチの娘が出張ってんだよ」

 

(くっ、打開策は……)

 

 玄一郎はあえてここはきちんとワビを入れる事にした。

 

「私が、娘さんの戦闘力を当てにして要請いたしました。敵の機体が多く、また空戦の出来る機体は私とそこのウォーダンの他には娘さんのラピエサージュしかおりませんでした。また、クエルボ・セロ博士は娘さんと縁のある方と言うことで円滑に事情聴取が出来ると判断し今回の決断を致しました」

 

 全て後付けの理由である。ここで責任者である玄一郎が四の五のオウカが無理についてきたなどと言っても通らない。責任者とは全ての責任を負うからこその責任者なのである。

 

「……おぅ、この娘はなぁ、民間人なんだ。いや、親父としてはなぁ、もう血でその手を汚して欲しくねぇんだ、わかってんのかテメェ?」

 

「やめて!お義父さん!私が無理矢理に着いていったの!黒田准将は、来るな、と言って止めていたの!でも、クエルボさんが危ないと知って、たまらずに出撃したの!!」

 

「お前は黙っていろ、オウカ。准将、てめえは俺の気持ちをわかってて、わかってて出したな?何故だ、答えろ!」

 

「……恩師を救いたいと願う、彼女の思いが痛いほどにわかるからです。俺だって同じ世界の、友人や親友、家族がこの世界に来ていて、それが助けを求めているなら同じ事をしていたでしょう」

 

 玄一郎は姿勢を正した。

 

「今回の責任は全て俺にあります。全て俺の判断であります」

 

 近藤大将の目を真っ直ぐに見て玄一郎はそう言った。

 

 オウカは、目を見開いた。

 

「そんなっ!全ては私の我が儘のせいです!お義父さん!悪いのは私です!!」

 

「オウカ君、責任は大人が取るものだ。現場の責任者は俺だ。許可を出した時点で全て俺の判断で責任は俺にある」

 

「……言うじゃねぇか。ロボットん時よりいい目をしやがって。准将、腹か顔か、選べ」

 

「では顔を」

 

「……と、言いたいところだが、俺にはてめえを殴れねぇな。艦娘同様、お前を殴っても俺の拳が痛いだけじゃねぇか。……大和、代理だ。娘のやったことの始末は付けねぇといけねぇ」

 

 近藤に『娘にやった事』では無く『娘のやった事』と言った。オウカが玄一郎に頼み込んだ事は近藤もわかった。しかし、責任者は玄一郎なのである。故に、玄一郎が始末を付けねばならない、といっているのだ。

 

 それはある意味オウカを叱るよりもオウカには堪えるだろう。大人のケジメを見せる。それも含めての制裁である。

 

 近藤が後ろに下がり、大和が玄一郎の前に来た。

 

「……げし、げすっ……。こほん。黒田准将、娘が大変、御迷惑をお掛けいたしました。それに娘の我が儘を聞いて下さり、誠に感謝致します。ウチの亭主はほんとに過保護で……」

 

 一応は大和としては母親として謝らねば気が済まなかったのだろう。かなり申し訳無さそうにペコペコと頭を下げるが、玄一郎としては覚悟を完了させているのに、まるで生殺しである。やるなら早くやって欲しいところだった。

 

「大和、んな前置きは良いから、やれ。黒田准将も歯の食いしばり所を誤る。すまんが、ケジメだ」

 

「わかっております」

 

「では。大和参ります」

 

 大和は右に握り拳を作り、そして流れるような動作で玄一郎の顔にストレートを叩き込んだ。

 

 ドガッ!!と音が鳴るほどのストレート。

 

 戦艦の拳である。玄一郎は壁に向かって吹き飛んだ。

 

「ヒぇッ!!」

 

 息を飲んだのはソースケ・ウルズである。クエルボは目を見開いて驚愕とも恐怖ともつかぬ表情を顔に張り付かせ、レモンはあららと軽く、ウォーダンは渋い顔をしてしかし黙りこくり、エキドナはこれには驚いた顔を見せた。オウカは泣いており、そして松平夫婦は。

 

 うんうん、と頷いていた。

 

「さて、近藤大将。気は済んだかね?」

 

「……お見苦しいところをお見せいたしました」

 

「なに、海軍名物のようなものだ。ところで……。黒田准将、大丈夫かね?」

 

「ぐっ、流石に日本最大級の戦艦大和の拳喰らって大丈夫とは言いかねま……がくっ」

 

 そこへ、『武蔵の深海棲艦』、表記上は『ムサシ』と区別する事になる、が部屋に入って来た。

 

「……私の男を殴ったか、我が姉の分霊よ」

 

「……ケジメをつける為です。黒田准将は立派に『漢』を見せました。あなたが深海側に顕現した『ムサシ』ですか」

 

「……ふむ、やはり姉の魂を持つだけはある。その眼差しに偽りは無い。そこの娘を養女にしたらしいな大和。良い娘だ。うらやましいぞ。苦難に耐えて折れぬ魂を持っている」

 

「……確かに、あなたは武蔵なのですね。深海側に顕現しても魂は変わらないわね」

 

「ふん、当たり前だぞ。大和もどちらでも我が姉よ。変わらぬ。変わるのは人の見方だけなのだ」

 

「……かも知れないわね。ここにいるということは、あなたも同盟艦になるつもりなのかしら?」

 

「うむ、今は人も、ものの見方がわかるようになったと聞く。深海棲艦だからと全てを敵視しないとな。私も人に危害を加える趣味はない。それに、この男の事もある。この男が人間に組している以上、妻となる私も着いて行こうと思ってな」

 

「「……え゛っ?」」

 

 近藤大将と大和は驚いて変な声を上げた

 

「いや、私はこの男に嫁ぐつもりなのだが?」

 

「……いや、話によるとあなた、げすっ、げしっ……こほん、黒田准将と戦って大破撃沈になるまで追い込んだと聞いたけど、それがどうして?!」

 

「いや、あれは魂を抜き出して、肉体を与えるためにやっただけだ。憎くてやったわけではないぞ?」

 

「いえ、それって普通死ぬからっ?!」

 

「うーむ、それは普通に顕現している場合だ。この男の場合は、顕現化したロボットの中に死んだ別の魂が囚われていた状態だったというのか。言わば艦娘で言うところの『近代改修』の不完全な状態、というのか。二つの同質同型の魂であるのに混ざり合わず、しかし機械の身体の深層の自我が呪縛しているかのように離さなず、しかし顕現化している魂が同一化を拒んでいる、という状態だったのだ」

 

 ムサシが見た当時のゲシュペンストの状態は、かなり不自然な状態だったと言う。

 

 説明をするならば、当時のゲシュペンストタイプSには魂が三つあり、一つが機体、つまりゲシュペンストタイプSの本能。もう一つがいわゆるカーウァイ・ラウの魂、そして最後が玄一郎の魂である。

 

 機体の魂はカーウァイ・ラウと同化しており、しかし機体の魂はズフィルード・クリスタルの本能により、カーウァイ・ラウの魂を取り込んでいる。さらにそれを強化するように『アタッド・シャムラン』の強い念動が呪縛となってさらにカーウァイ・ラウを機体に縛り付け、もはや分離も出来ない状態になっていたのである。

 

 そこに、カーウァイ・ラウと同一の玄一郎の魂が取り込まれていたのだが、カーウァイ・ラウの無意識の意思によって同化を防がれていたのである。

 

 ムサシはその玄一郎の魂を取り出して顕現化させて肉体のある存在にしようとしたのである。つまり、魂だけの存在に肉体を与えるだけならば逆に生き返らせる行為だったと言うわけである。

 

 しかし、ゲシュペンストタイプSにかかっている『アタッド・シャムラン』の呪縛はかなり強いものであり、機体の魂をとことん弱らさねばたとえムサシであってもそれは困難だった。

 

「つまり、この男を黄泉返らせるにはそれしか無かったのだ。普通、転生したならば大抵の呪縛は解けるものだ。だが死してもなおあれは呪縛され続けている。あの機体に括られている者は余程、呪縛した女に何らかの思いを懸けられていたのだろうな。それが愛か憎しみかはわからんが」

 

「……曰わく突きの存在だったのね、げ…こほん、あの機体は」

 

「ふむ。ゲシュペンスト君と黒田准将の昔の状態はわかったが……。今の状態はかなりひどいよ?君達」

 

 大和とムサシの話に場の全員が集中している中、玄一郎はすっかり忘れられていた。

 

 え?とそちらを見ると、玄一郎は白目剥いて気絶していた。

 

「きゃーーーっ、黒田准将っ!!」

 

 いち早くオウカが駆け寄り、玄一郎の頭を抱えつつ、脈を取ったり呼吸を見たり、瞼を開いて目をみたりとバイタルチェックをパパパパっとテキパキやっていく。

 

 その様子を見て、にまっ、と叢雲が微笑んだ。

 

 あら、と大和は気づいたようだが、しかし夫の手前、何も言わなかった。

 

 レモンは涼しい顔である。

 

 そして松平夫婦は互いに目配せをして『目標達成』とばかりにニヤリ。

 

「……ただの気絶だ。水でもぶっかければ治るが、まぁ、ここでは無理だな。どれ。私が寝室へ運ぼう。大和が娘よ、いずれ共に並び戦場に立つ時も来よう。その時はよろしく頼むぞ?」

 

「え?あの、はぁ」

 

 ぐいっとムサシは玄一郎を肩に担ぎながら歯を見せて笑った。

 

「若い時は学べ。お前は自分が思っているほど大人ではない。だがそれを恥じる事は無い。若いうちはまだ咲くを知らぬ蕾よ。大輪に咲きたくばより多くを己の内に取り込め。知恵も知識も経験も、華を咲かせる肥やしだ。この男に相応しく咲くを望むならば、な」

 

 のっしのっしのっし、とムサシは玄一郎を担いで、部屋を出て行き、そして。

 

 帰らなかった。

 

 

 

 次の朝。

 

 艶テカなムサシと、干からびた玄一郎の姿が、松平邸のリビングに現れたと言うが、その真偽は定かではない。

 

「ふふふふふ、朝は良いな」

 

「ソ、ソースケ我ガ……教エ……忘レル……ナ……ソ……シテ……」

 

 ガクリっ。

 

「……いえ、僕、まだ何も教わってません、師匠」

 

「し、師匠……失笑……ガクリっ」

 

 負けるな!ゲシュペンスト!戦え!玄一郎!

 

 たとえ夜戦で

 

『くっ、いいぞ、当ててこい!私はここだ!』

 

『その集中力、立派なモノだ!』

 

 とか言われても。

 

……パラオに帰って扶桑姉妹が怖くても。

 

 がんばれー?負けるなー?




全て近藤大将のせい。

大和パンチ。相手は普通死ぬ。

気絶した主人公をさらりと拉致して一晩帰って来ない。流石はムサシさん、そこに痺れる憧れる……というより怖いわー、怖いわー、ムサシはん怖いわー。

次回、鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門 日向行こうか伊勢行こか、いっそ赤城で首つろか、で、またあおう!(嘘)


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キング・オブ・DoーGeーZa☆

 土下座から始まる物語。

 氷つく波動とマグマオーラ。

 51センチ砲。

 長門との回避勝負。



 パラオ、である。

 

 玄一郎は扶桑姉妹の前で今、まさに。

 

 土下座中、だった。

 

 滂沱の涙を流し、大の三十路の男が土下座。ジャパニーズ・ドゲザである。その様は一流のドゲザーかくあらんや?という感じでビシッ!と決まっているが、漢の人生において土下座でキメたくはないもんである。

 

「扶桑、山城、すまん……」

 

 その横には仇敵であるはずの『ムサシ』が腕を組んで立っている。不敵に笑い扶桑姉妹と対峙している。

 

「……状況は、松平元帥と舞鶴の大和さんからお聞きしております」

 

 かなりの冷気を含んだ、というよりも一瞬にして全てが凍りつくような声である。扶桑は怒るとまず冷静になるタイプの女である。だが、怒りすぎると凍てつく波動を出すとは流石に玄一郎も知らなかった。 

 

 ピキッ、ピキピキッ、ビシッ、ビシビシビシッ!!

 

 物理的に、応接用のテーブルの茶が凍り付いていた。暑い南国パラオの執務室の空気が凍てつく。窓に霜が下り、さらにビシビシビシッとそれが凍りついていく。

 

「随分と、楽しい謀(くわだて)をしてくれるじゃない。人の男をNTRって?ざけんじゃないわよ!!」

 

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 山城の後ろに炎のオーラが見えた。いや、それはマグマの如き熱量を持った怒気であった。

 

 じゅぉぉぉぉっ、と扶桑の冷気が山城の周りだけ蒸発していた。蒸気が満ち、しかしやはりそれがダイヤモンドダストの如くキラキラと舞い落ちる。

 

 だが、止む事なき怒りのブリザードと噴火の嵐である。その様たるや、南極大噴火、ブリザードとマグマの荒れ狂うが如し。

 

 玄一郎は土下座、土下座、ひたすらに土下座である。

 

 何でこんなことになったんや、と内心思うも、全部松平元帥と叢雲が悪い!!と結論づける。しかし、結論づけた所で何にもならない。

 

 対して、ムサシは涼しい顔をしてさらりと言う。

 

「ふん、寝取るなど、そんなつもりは無い。この男程の『漢』が、女の一人や二人で収まるはずはなかろう。否、収まってはならぬのだ」

 

 そして言い放つ。

 

「『提督』たるもの、艦娘達の想いを受け止めんでどうする!!慕われ、愛されているならばそれに応えてこその『漢』!!それを妻たるお前達が支えなくてどうするっ!」

 

 ずどーーーーん!!

 

 扶桑姉妹に衝撃が走る。

 

 凍れる波動も活火山のオーラも霧散してしまった。

 

 そして何故かいた金剛型四姉妹+タ級、レ級+シロガネが拍手する。

 

「Oh!さすがムサーシデース!」

 

 金剛が喝采の声をあげる。非常にうれしそうである。

 

 いや、だから何でいるかな。

 

 というか。何でテーブルセット持って来てそこでお茶会しながら優雅に見物してんのこいつらっ!!

 

 しかも、しかもっ!そこのタ級っ、あんたは深海勢力でしょおおおおっ!つかレ級もっ!あとさらっとなんでいるかなシロガネっ!!君、訓練はっ?!って、訓練教官山城だった~っ!!

 

 土下座の姿勢を崩さず、玄一郎はぐぬぬぬぬぬっ、と唸る。

 

 金剛の企てている事は玄一郎もよく理解していた。要するにとっととパラオの現状の内情をなんとかしろ、という事なのだ。どうせ金剛の事である。とっくに次のケッコンカッコカリの艦娘を選んでても玄一郎はもう驚かないぞ、と思っていた。

 

 さらに、金剛の戦略を玄一郎は今まで覆せた試しはない。それは将棋やチェスであっても演習であっても、そして、こういう謀事であってもだ。

 

 確かに、いずれは扶桑達の他にも嫁艦を娶らねば、パラオの艦娘達は収まらない事は玄一郎にもわかっている。だが、やっと扶桑と山城とケッコンカッコカリ出来たのだ。

 

 15年、そう、15年。時に守り、時に助けられ、時に離れ、そして長い旅路の中でも忘れずにずっと想ってきた女達とケッコンしたのだ。玄一郎としては、ちょっとぐらい甘々な新婚生活してもいいじゃない!!と思っていた。

 

(……どうせ逃げられぬならば)

 

 玄一郎は金剛の企てを、ただ唯一覆す方法を一つだけ思いついた。いや、企てそのものは覆せない。ただ、一矢、そう、ただの一矢報いる手段を。

 

 どうせ金剛は己を第三夫人には置かない。金剛はいつも自分を根幹から離して考える癖がある。故におそらくは別の艦娘を推してくるはず。

 

「まぁ、ムサーシの言うことも一理あるネィ。扶桑、山城、確かに小島基地壊滅事件の事はあったケド、基地とあの提督以外に被害はなかったデース。それに、ムサーシとレ級がやらなければ、あの海域全てが呪われた海になってたのは間違いないデス。……ゲンイチローの大破の件も、理由があったのですし?」

 

「……かも知れませんが、ふぅ。しかしまさか宿敵に諭されるとは思わなかったわ。事情もわかってみれば……」

 

「敵ではあったけど、ある意味同士だったなんてね……」

 

「ん~、マァ、昨日の敵は今日の嫁友、ネー?」

 

「まぁ、過去の遺恨の理由も聞けばもっとも。玄一郎さんの大破も言ってみれば、今の状況がもっと早く訪れていたかも知れないと思えば……」

 

「15年間、私達は何をしてきたのかしらね?空はあんなに青いのに……」

 

「あの、俺のトラウマとかあん時の激痛とか、大破して動けなかった状況とか、その辺は?」

 

「……ケッコンカッコカリもしていない女性、しかもその女性の初めてを奪った男が何か言ってるわね」

 

「……やはり責任問題かしら?」

 

「責任問題ネー?しかも相手は同盟艦のビッグネームデースシ?」

 

「……あの、襲われたの俺の方なんですけど?」

 

 土下座しつつ玄一郎が手を上げておずおずと言ったが。

 

「試製51センチ砲を稼働させた方が悪い」

 

 山城がぴしゃり、とそう言い放った。

 

 レ級が呆れながら、

 

「……どんだけあるのよ口径」

 

 ズズズっと紅茶を飲みつつ言う。そんなにあるようには見えないのよね~。

 

「……挿れるのに、苦労した」

 

 ムサシが顔を赤らめて告白した。

 

「言うな恥ずかしい!」

 

「ひぇぇぇぇぇ」

 

 想像したのか、比叡が顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「……あのっ、榛名は……ごくり」

 

「おい、だからやめれ」

 

「わ、私の計算によると、司令の司令塔は……」

 

「主砲なのか司令塔なのかどっちだよ。つか司令塔が股間て、お前ね……」

 

「股間でものを考える男って最低よねー」

 

 また山城にぴしゃり、と言われる。

 

「俺の傷ついた心を、みんなしてそうやって抉って……。ああ、もう俺は立ち直れないかも知れない。……中東の砂塵が懐かしい。もう、女の中に男が一人ってのは……辛い」

 

 しくしくしくしくしく。

 

「提督よ、嘆くな。漢ならば立て。私はなんと言われてもお前に着いていくぞ?」

 

「……いえ、なんというかあなたが発端なんですけど、この状況」

 

「……あの時は介抱だけにしておこうと思ったのだ。本当だ。だが、お前を看ていたらこう、積年の思いが爆発して止まらなかった。気がついたらやってた。後悔はしていない。反省も無い」

 

「……俺、ちょっと中東に行ってくる」

 

「まぁ、待て、逃げるな。流石に飛んで行かれては我らは追えぬ……訳でもないか。シロガネならば追いつけるしな」

 

「はい、速度も航続距離もゲシュペンストの最高速度を追えます!、あとありとあらゆるセンサーとレーダーは決して提督を見逃しません!!艦首の機体発着モジュールと搭載コンテナを使えば皆さんを運ぶ事も可能です!!……妹達には火力と防御力で劣ってますけど」

 

 そう、シロガネは宇宙戦艦であり、さらに他の艦娘とは違い艦装が本物の戦艦なのである。たしかに重巡サイズのミニチュア版といった大きさだが、パラオの艦娘をだいたい6×4人、つまり第一艦隊から第四艦隊までを搭載コンテナに積んで、さらに艦橋に10人は乗せて運べる能力があった。

 

 しかも飛べるわ水中航行出来るわ、宇宙まで行けるわ、キャリア船より遥かに速いわ、という破格の能力を持ち、火力云々と言うが、ビーム砲やらビームの対空ファランクスみたいなのを積んでるわで破壊力はかなりのものを持ち、さらにさらに、やや狭いが風呂やら船長室やら船室等もあるのである。

 

 さらに、トロニウムエンジンにより、燃料の補給は要らない。

 

 難点とすれば、修理コストは高い。大和型×4程度が必要であり、かつ入渠時間は大和型の二倍と最長。要高速修復剤。あと、弱点は第三艦橋と左舷の弾幕がやや薄くなることらしい。

 

 なお、現在の練度は26である。

 

「地球……ではなく、我に逃げ場無し、か」

 

 ガクリ。

 

「でも、シロガネの経歴を読んだのだけれど。他人のようには思えないわ。姿も、スカートと袖以外は、なんとなく私達姉妹に似ているし」

 

「まぁ、金剛型の着物とも似ているけど、顔立ちがちょっとね?」

 

(不幸オーラが似ているとは言うまい)

 

 玄一郎はみんなの意識がシロガネの方に向いている隙に、ゲシュペンストに造ってもらっていた人間用のプリズムファントムを作動させつつ、そろりそろりと執務室から逃げた。

 

 そう、独りきりになりたかった。ぐすん。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 海、である。

 

 演習場では、ソースケが長門にしごかれていた。

 

 旧日本海軍ではかつてしごきのキツイ、今で言うブラック企業ならぬブラック艦と言うべき艦についてこう称した。

 

『鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門、日向行こうか、伊勢行こか、いっそ赤城で首吊ろか』

 

『地獄榛名に鬼金剛、羅刹霧島、夜叉比叡、乗るな山城、鬼より怖い』

 

 と。

 

(……必ず山城がランクインっつーか、上位に来てるじゃねーかよ。いや、この場合ワーストか?)

 

 蛇の長門がキャニス・アルタルフに乗った『ソースケ』に、やたらとキツイ訓練を施している真っ最中である。

 

「力任せにターンするな!!戦闘中はその無駄な軌道が隙になる!!」

 

 ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!

 

 ブイを旋回するキャニス・アルタルフに遠慮なく主砲をぶちかます長門。

 

「ぎゃーーーっ!!」

 

 直撃。とはいえ模擬弾頭なのでペイント塗れになるだけだ。しかし赤白黄色緑青黒とすでにキャニス・アルタルフがまだらになっている所を見ると、かなりやられているようだ。

 

「だからっ、回避する余裕の無いような軌道をするんじゃないっ!!それではただの的だ!!速く動くだけではすぐに捉えられる!こんな風にな!!」

 

 ズドーン!ズドーン!ズドーン!

 

「うわーーーっ!!なんでそんな砲が当たるんだ?!大砲なのにっ!?」

 

「山城で無くて良かったな?奴なら演習弾など使わず、全て実弾でやるぞ?」

 

(……うん、我が嫁ならやるだろなー)

 

「くっ、三次元回避ならばっ!」

 

「飛ぶなバカモノ!さらに良い的になるだけだ!」

 

 ドドーン!!ドンドーンドーン!!

 

 ビシャッ、ビシャッ、ビシャッと全弾ぶち当たる。

 

「これが実戦ならば、お前は何度死んでる?この死にたがりが!!男ならガッツを見せろ!!」

 

「うぎゃーーーっ!!」

 

(あ~、いかんなぁ。レーダーやセンサーに頼りっきりで反射神経だよりだからそうぶち当てられるんだ)

 

 もはや機体の元の色がわからないぐらいになってもまだ、ペイントでコーティングされている。なお、ペイント弾であってもわりとダメージは食らうのだ。

 

 玄一郎はキャニス・アルタルフに通信を繋いだ。

 

「おい、ソースケ。もう少し視野を広くしろ。レーダーやセンサーで反応を捉えてからではもう砲弾は直撃軌道に来ている。いいか、相手が撃つ気配を自分の五感で捉えろ。あと回避モーションは的確に。やってみろ」

 

「んな事言われても、ってか師匠はできるのか?!」

 

「やれてなければ生きてはいない。俺は実戦でやってきた。わかった。お手本を見せてやろう」

 

 キャニス・アルタルフへの通信を切り、長門に繋げる。

 

「長門、俺だ。どうもそこの小僧が手本を見せろと言って来た。済まんが、飛び入り参加してもいいか?」

 

「ほう、提督がか?久しぶりだな。では昔のように実弾でやるか?」

 

「良かろう。だが最初はお手本として小僧にわかりやすいのを頼む。その後は昔みたくやってくれ。俺に当てられたら、間宮フルコース券を進呈しよう」

 

「ほう?ではその時は一緒に行こうではないか。食事が出来るようになったのだろう?」

 

「……間宮、か。むぅぅ、間宮はちょっとなぁ。いや、うまいのは知っているが、ぐぬぬ」

 

「知っているぞ?間宮にも告白されたようだな?提督。彼女はずっと待っているぞ?そして私達姉妹も、大和型姉妹も、高雄、愛宕、足柄、天龍、龍田……。もうそろそろ、答えを出してくれないか?生殺しは……嫌いなんだ」

 

「……はぁ、何だろうねぇ。浮気や他の女にうつつを抜かさず、良い夫になりたいと思ってたんだけどな?」

 

「パラオの艦娘全てにとってそうなればいい。とはいえ今すぐに答えを出せとは言わん。考えろ」

 

「解ってはいるんだがな」

 

 玄一郎はコールゲシュペンストを使い、ゲシュペンストを呼び出す。

 

「ま、当たるつもりは無いぞ?長門」

 

「ふっ、安心しろ。こちらは必中で行く」

 

 海の上、長門が笑うのが見えた。

 

「ゲシュペンスト、行くぜ!!」

 

〔応っ!!〕

 

 回避模範演習の火蓋は切られた。

 




 駆逐艦達は、さて、love勢は誰と誰になるんでしょうかね?

 夕立、時雨、不知火、如月、他は?

 曙、霰はどうなのかねぇ。

 次回、ジュウコンフォイアーフレイ!でまたあおう!(嘘)


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長門の戦略

パラオの長門は改二。

ナガモンに非ず。

最初の長門に当たる艦娘ですが、自分からは言わない人です。

しかし、策士を策にはめてまたその策士も……。




 パラオに在籍する長門はゲシュペンスト提督、つまり黒田玄一郎がパラオ泊地の提督となった際に戦略顧問として転属してきた艦娘である。

 

 この長門、元々は山本元前元帥の艦隊の旗艦を勤めていた古参艦娘の一人であり、山本元帥が年齢により引退した後に、引き継ぎの元帥としてたった二年間のみ(この二年で菅原大将は独裁政権を打倒するための勢力を集めたと言われ、その目的が達成した後に依願退職をしている)元帥に就任した菅原大将の艦隊の旗艦をも勤め、さらにその後に元帥位が廃止された後も大本営第一艦隊の旗艦をずっと勤めて来た、筋金入りの大本営艦娘であった。

 

 だが、元帥位が再び復活した後。

 

 どうも長門と松平元帥やその妻である叢雲のとは性格的に合わなかったのである。

 

 確かに叢雲は歴戦の艦娘ではあるが、その行動は軍略家としても名高い長門であっても予想出来ず、さらに要らぬトラブルにも発展することも多々あった。

 

 確かに全て結果的に見れば丸く収まり、そのたびに軍の内部の腐敗やそれにまつわる者達は一掃されていったのだが、それは果たして海軍軍人とその妻としてどうなのか?という方法ばかりだったのである。

 

 さらに、パラオ泊地から栄転してきた土方の艦隊の『ナガモン』。これが彼女の堪忍袋の緒をブチ切れさせた。

 

 いかに忍耐強い彼女と言えど、アレには耐えられなかったのである。そう、彼女の名誉のためにこれだけは言っておこう。

 

 彼女は幼児に対してなんら思うところは無い。確かに子供というものは未来の日本を作る大事な存在であると思うし、そして彼女とても女性なのである。普通に可愛いとは思うし、いつか己の子を抱く時もあろうなどと想像する事もある。

 

 だが、けして『ナガモン』のように病的な感情は持ち合わせてはいないのだ。あくまでも母性的なのだ。

 

 あの『ナガモン』と間違われるのだけは不本意だっ!!

 

 故に、彼女は前線への移籍を決意した。もうこんな大本営なんぞに居られるかっ!!と。

 

 意外にも、すんなりと受理された。妹の分までご丁寧についてきた。

 

 誰からも引き留められはしなかったのは寂しかったが、それは致し方ない。もう海軍も世代が代わっているのだ、とか思っていたらパラオ行きを羨ましがる軍人や艦娘達が多く、かつては前線であるのに何故にそのような反応をみんながするのか、長門には謎だった。

 

 さらに、吹雪とか如月とか睦月とか、潜水艦組とかが長門にゾロゾロついてきた。みんな一様にワクワクしつつにこやかであった。どうやらパラオに就任した提督を彼女達はよく知っているようで、再会するのを楽しみにしているようであった。

 

 道中、その一緒に転属する艦娘達と話をしたが、この転属組、かつては最悪のブラック基地と言われた『小島基地』の出身であったらしく、そんな彼女達が会うのを楽しみにする提督とは如何なる人物か?と長門は非常に気になった。

 

 通常、ブラック鎮守府出身者はなんらかの人間不信になっておりどれだけの名提督、名司令官であれその不信を覆す事は困難なはずなのだ。

 

 しかし、パラオの提督に関しては到着するまで軍事機密扱いとなっており、その人物に関しては着任し、パラオ所属の手続きを終えるまでは話してはならない、と言われた。たが一言。

 

「会えばびっくりしますよぉ?いえ、とってもいい人ですけど」

 

 もしや、パラオの提督は人間ではなく、大和型などの艦娘が兼任しているのではあるまいな?と長門は推測た。それならば人間不信であっても同じ艦娘なのだ。好意的であってもおかしくは無い。

 

 しかし。

 

 会って確かにびっくりした。

 

 いや、人間では無いとは思っていたが、ロボットだとは流石の長門でも思っていなかったのだ。

 

 それ以上に、パラオ泊地に揃っていた艦娘の面々が問題だった。

 

 かつて指名手配され、そして死刑にされたはずの暗殺者『隻眼斬鬼の天龍』と『鮮血の薙刀姫、龍田』が普通に天龍幼稚園やっていたり。

 

 独裁政権を倒した『間宮・オブ・ザ間宮』が普通に食堂を運営していたり。

 

 行く先々の鎮守府が大抵壊滅する、『破滅の扶桑姉妹』、『鎮守府クラッシャー』、『災厄艦娘』と呼ばれた扶桑姉妹が普通に幸せそうにロボ提督に侍っていたり。

 

 艦娘擁護派の父と言われ海軍を立て直した菅原大将の懐刀と呼ばれた『策の金剛』『知の金剛』と呼ばれた金剛が楽隠居していたり。

 

 最初の礼号組の足柄(つまり最古の足柄)が呑み屋で管巻いていたり(もうとっくに引退していたと長門は思っていた)。

 

 普通、ここまでの武勲艦から問題児が揃えば何かしら大きな問題が勃発してもおかしくないが、誰もが大きな対立も反抗もせずに普通に任務に勤しみ、外から見れば普通の艦隊よろしく提督に従って、なんら武名や悪名など有りはしないように、それどころか皆、提督をむしろ盛り立てて働いていた。

 

 長門の目から見ても、パラオ泊地はとんでもない泊地だったのである。 

 

 とはいえ、ある意味。

 

 このパラオは扱いに困った艦娘達の収容所なんではなかろうか?と長門が思ったのは内緒である。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、長門は玄一郎と成り行き上、新入りに手本を示すために演習を行う事になったわけではあるが、ここで長門の砲術について語らねばなるまい。

 

 この長門が得意とするのは『超予測射撃』である。長門と言えば殴り合いなどと言われるが、実際、戦場での砲撃戦でこの長門が負けたことは一度たりと無い。

 

 この長門の砲撃を指して曰わく『砲撃自在』と呼ぶ。また、多彩な砲術を駆使して巧みに戦況を操る長門をして、『詰め将棋の如し』とも言われる。

 

『ただの砲なれど、長門が一度放てば戦の結末は勝利に終わる』とかつての菅原大将が言った言葉である。

 

 例えば、長門の持つ砲術の一つに『置き砲撃』と呼ばれるものがある。

 

 上空に長門が砲を一発無作為に撃ったとしよう。そして敵に副砲で攻撃。副砲は当たらなくとも、その二つの砲撃で必ず敵艦は轟沈する。最初に無作為に撃った砲弾の落下地点に、副砲に追いやられた敵が自ら向かうからである。

 

 つまり、最初の砲撃が将棋やチェスなどでしばしば使うための布石の駒のようなもの、すなわちこの場合『置き砲撃』であり、副砲は単にそこに誘い込む為の罠である。

 

 また、この長門は敵の戦闘機をただの一発の砲弾で十数機撃ち落とした事がある。それを『戦闘機10枚抜き』と長門は言ったが、機銃ではなく砲弾で対空をやってのける。

 

 さらに、特に追い込まなくても普通にぶち当てても直撃出来る程に狙いは正確であり、今まで撃つと定めた目標は全て直撃で沈めている。すっと砲塔動かしてドカン、で直撃大破である。

 

 砲戦自由自在、狙わず撃つとも必ず敵を仕留める追い込み砲撃、無造作に狙っても直撃。いかに素早い敵であっても当てることなど容易い。それが日本海軍の砲術の名手として『砲神の長門』と呼ばれるパラオの長門であった。

 

 その長門の技を持ってすればソースケ・ウルズの繰るキャニス・アルタルフの回避行動など容易に予測でき、ぶち当てるなど造作も無い。回避の動きがパターン化している分、見え透いていたからだ。

 

 とはいえ今、対峙している『提督』は非常に厄介な相手であった。動きを追うのが非常に難しい。ロボットであるのに動きに無駄が無いだけでなく、瞬動や縮地、動いていないのに動いているように見せたり、動いているのに静止しているように見せたり、という武術の体捌きをやってのけるのである。

 

 なお、今までの勝敗は9対11で長門が9である。

 

 とはいえ。

 

 長門にとって今の勝敗は特に関係は無い。長門の意図する勝利はすでに決まっていたのである。

 

 長門の策はすでに終わっており、しかも結果を出していた。提督がこの場に現れた時点でもう勝利していると言っても良い。

 

 長門はニッ、と笑った。

 

 長門の意図する勝利とは、誰よりも愛する者に尽くしてそれをひた隠しに隠して来た菅原艦隊時代の旧友を速やかに嫁がせる事、である。

 

 その策はシンプルかつ提督と金剛の性格を熟知していなければ不可能、かつ単純なものだった。

 

 単に長門は『ムサシ』と相対したならば『扶桑姉妹』は怒り狂い、同盟艦討つやも知れぬ。なんとか穏便に収めてくれ。と金剛に言っただけなのだ。

 

 誰もそれが策などとは思わない。

 

 長門は戦略顧問であり、提督に何かあった場合の艦隊指揮権を与えられた提督代行役でもある。軽々しく彼女が動くわけには行かないと金剛も知っていたし、それに金剛も自分がそういう事に適任であるとわかっている。

 

 ゆえに金剛は動いた。

 

 争い事をするような雰囲気ではないようなセットを使い、扶桑姉妹を押し止め、そして『ムサシ』の一件をむしろ泊地の艦娘達を嫁がせるための材料として使うだろう。

 

 それこそが長門の思うつぼであった。

 

 金剛は自分で自分の婚期を早めたのだ。

 

 そう、提督はストレスが溜まるととんでもなく子供かと思うような思考になるのだ。そこを金剛は計算していない。なにしろあの提督は金剛の前だとアホな態度はしていたが、その手の子供の反撃的な事を一度もしてはいなかったからだ。

 

 だが、今回は違う。

 

 提督は、蚊帳の外のように振る舞う金剛にかなり苛ついているように見えた。他の艦娘を優先的に考えて行動し、それに一歩引いて自分を置く金剛に、だ。

 

 そこを長門は突いたのだ。他でも無い金剛を使って、自分で突くように仕向けた。

 

 ならばその後の提督の腹の内がどうなったかは、もうとっくに長門にはわかった。

 

 金剛の策略、回避出来ず。ならば金剛に一矢でも報いん。

 

 ようするに、

 

 どうせみんなと重婚するなら、そこでそうやって高みの見物してるテメーをまず嫁にしてやらぁ!!番狂わせかまして吠え面かかせてやんよ!!

 

 とヤケになって行動するだろう。

 

 もっとも、金剛はおそらく吠え面はかかないだろう。あれは意外と乙女なのである。幸せの涙は落とすかも知れないが。

 

 故に、長門の作戦は達成している。

 

 間宮への根回しもとうに済み、他の者達にもすでにそれは伝わっている。

 

 金剛には誰もが世話になり、皆、それを恩に感じている。異を唱える者は誰もいなかった。これぞ金剛の人徳であろう。あの第一、第二夫人達ですらも進んで協力してくれたほどなのだ。

 

 そうして提督は勢いのままに金剛へ白羽の矢を持って報いるだろう。なにしろ一度やると腹が決まった提督は、とことんまでやらかすのだ。バカだから。

 

 知略も戦闘力も、行動力もある男ではあるが、基本的にバカなのである。そしてやらかした後でようやく気づき、そして『やっちまった事はしょうがねぇわなぁ』とうそぶく。

 

 長門はその愛すべき、愛しのバカを見てやはり笑うのであった。

 

 




長門さんは知将。

とっくに罠にかかっていた提督。本当の策は、終わってもわからないものさ。

次回、マグナムウェディングでまたあおう!(嘘)


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ぬいぬいの影働き

パラオの不知火は変な子である。

クール系引っ掻き回し愉快犯である。

しかし。

ええ子なんですなぁ、これが。


 玄一郎が黒田土下座右衛門になっていた頃。

 

 カルディアとエキドナ、そしてマッチョ二人は伊良湖ベーカリーで食事をとっていた。

 

 カルディアもエキドナも、レオタードとかそんな格好ではいかんと言われてレモンに見繕ってもらった服を着ており、カルディアもエキドナも、ワイシャツに灰色のベストを羽織り、スカートもプリーツの入った灰色のものをつけていた。

 

 どこかで見たような姿であるが、それと同じ姿をした一人の艦娘がやってきて、ようやくそれがわかった。

 

 二人の格好は、不知火と同じ格好だったのである。

 

 不知火は平然とした顔で、「おそろいですね、姉さん達」と言って二人の座るカウンターの隣の席に着いた。

 

 カルディアとエキドナは

 

「「くっ、やられたっ!」」

 

 と、思い、いらんことしいの創造主のアホな悪戯に頭を抱えた。

 

 その服装を渡された時には事務員の服装だろうか?などと思って何も思わずに着た二人であったが、不知火本人を見てようやくこれが不知火のコスプレだと気付いたのである。

 

 この三人、髪の色といい顔といい、何故か割と似ており、実際にこうして並ぶと姉妹に見えてしまう。

 

 実際にはカルディアとエキドナは姉妹であるが、不知火も加えると三姉妹と間違えられても仕方ない程なのである。

 

 なお大抵、エキドナは何故か長女に見られてしまうが、年齢設定的に仕方あるまいと思っている。が、自分のある種プロトタイプと言えるカルディアの年齢設定が自分より若く見えるあたりで少し不満に思う所も無いではない。

 

 まぁ、カルディアもエキドナもこの不知火に対しては特に嫌う理由もなく、寄ってくるなら普通に接しているのだが。

 

「不知火の嬢ちゃんも朝飯ですかい?」

 

「はい、ABさん達も姉さん達とご飯ですか?」

 

 しれっと二人を姉呼ばわりをする不知火。この不知火はあまり表情が変わらないため、それが冗談なのか本気で言っているのかわかりにくい。悪意が無いのはわかるのだが、どうも性格が掴めないのである。

 

「おう、そうやで?」

 

 AとBはにこやかに答える。AB二人はカルディアに良く似ている不知火には以前から好意的に接している。

 

 二人は真嶋建設で働いている時から泊地の工事や修繕などで出入りしていたため、ここの艦娘達とは大抵顔見知りである。その風体から避けられる艦娘はあったが、駆逐艦とはだいたい仲が良い。

 

 なお、レモンはただの量産型重戦闘アンドロイドが何故こんなマッチョな、サムソンとアドンのような感じになったのか理解出来ないと言い、それでも面白いからヨシ!としているようだ。

 

「……不知火、その、まだ生き別れの姉とかいうのを信じているわけじゃないよな?」

 

 姉さん達と呼ばれてカルディアは少し不安になった。この不知火の言うことはどうも掴みきれない。

 

「ええっ?!そうではないのですか?!」

 

 不知火はポーカーフェイスのままそんな事を言う。その不知火を見て、不知火の性格をカルディア達よりも知っているABは苦笑しつつ言った。

 

「不知火嬢ちゃんはホンマ人担ぐんが好っきゃなぁ」

 

「担ぐとは少し心外です。お二人とは他人のような気がしないだけです」

 

 しれっと言う。

 

 パラオの不知火は少々他の不知火とは性格が異なり、土方歳子中将が建造しただけあって、かなり変な性格になっている。大抵の不知火が実直で静かだが少々物騒な感じの性格であるのに対して、この不知火は、静かだが飄々としており、ポーカーフェイスのまま人を担ぐ。ようは面白がってからかったりするわけであるが、素のきょとんとした顔でそれをやるのでなお質が悪い。

 

 例えば初めてカルディアを提督から紹介された時も、実際はわかってて提督とカルディアの反応で遊んでいたし、提督の『生き別れの兄』発言でも玄一郎が提督であることはとっくにわかっててノリノリで抱きついて慌てさせつつも提督のスメルとか身体の肉感を堪能するという事をしていたのである。

 

 まぁ、気に入った人間以外にはそのような行動はとらないのである意味それは親愛の情的なものだと言える。

 

「あら、カルディアさん」

 

 と、トレイを持ってアインストカグヤがやってきた。お連れに幼児二人、ティスとラリアーのロリショタコンビを連れている。

 

「う……、カグヤか」

 

 カルディアは少し苦い顔をした。

 

 カルディアは前の世界で楠舞神夜達と戦った事がある。もちろん、このカグヤはその楠舞神夜ではなく、アインストの作り出したコピーであるというのは理解しているし、アインストの親玉が滅びたのも理解している。

 

 さらに悪い奴では無いのも話をしてみてよくわかってもいた。性格も何もかも楠舞神夜そのままにアインストは生み出していたのだから、悪いはずもあるまい。

 

 だが、カルディアがカグヤに対して苦い顔をした理由は、自分同様に地上での戦闘しか出来ない仲間だと思っていたら、アインスト・カグヤにはペルゼインリヒカイト的な機体があり、しっかりと空戦や海上戦がこなせると言うことがわかった為である。

 

 カルディアは確かに地上戦ではそこそこに強い。しかし敵が海に現れたならば、海も空もユニット適性がないなら手出しも出来ない。故に、パラオにいてもはっきり言って無駄飯食いになっている気がして、かなりカルディアは焦っていた。

 

 妹のエキドナのように飛べる機体でもあれば話は別なのだが、カルディアは機体を持たないし、もし作られたとしてもそれは何の霊力も持たない兵器であり、深海棲艦には通用しないのだ。

 

 故に、カルディアはアインスト・カグヤに対してコンプレックスを抱いていた。

 

(ぐぬぬぬぬぬ、このままでは私はアイツに見限られてしまう)

 

 と、焦っていた。

 

 この場合のアイツとは、玄一郎の事である。なにしろ、このアインスト・カグヤはとにかく乳がデカい。さらにむちむちであり、さらに海上戦もこなせるわ性格もいいわ、もっと言えばハーケンのコピーがこちらの世界に顕現化出来なかったせいでフリーだわ、よしんばハーケンのコピーが居たとしても、あの悪側の性格はごめんだと本人が言い、さらにはどうも玄一郎に気があるのではなかろうかという素振りすらしている。

 

 おっぱい星人の玄一郎の事だ。あの乳に誑かされるおそれがある。

 

 だいたい、カグヤは男を見る目がはっきり言って無い。そういう部分はオリジナルと変わらないが、よりによって玄一郎とは。

 

 いや、だからといってどうだとは言わないし人の勝手だが、問題は自分が海上戦が出来ない事なのだ。

 

 やはり無駄飯食いになるのは避けたい。とにかく……。

 

「ニヤニヤニヤ」

 

 気がつけば隣で不知火が無表情のくせに口で言って笑ってます的アピールをしながらカルディアを見ていた。

 

「……なんだ?不知火」

 

「大丈夫、兄さんは誰も見捨てない」

 

「いや、そんな事は思っていないが?」

 

「ニンマリ。使える人はとにかく使う。姉さんの才能や能力は私達艦娘よりもある意味上だから。レモンさんも何か工廠でやってるし、大丈夫。あと、兄さんは割と姉さんも大好きだと思う」

 

「というか誰が兄さんかっ?!」

 

「提督認定、義理の妹」

 

 不知火が自身を指差してニンマリ。どうやら不知火は玄一郎を兄と呼ぶことをやたらと気に入ったらしい。

 

「ええっと、何の話でしょうか?」

 

 話についていけないアインスト・カグヤが困ったように言う。

 

「……おっぱいと愛と海の話」

 

「はぁ……?」

 

 間違ってはいないような気はするがそれでわかるわけは無い。

 

 どうも、不知火はカグヤのその大きなおっぱいに対しては何らかのコンプレックスがあるようで詳しく語りたくないようである。

 

「……愛宕さんと言い、カグヤさんと言い、なんでそこまでおっぱい大きくなるんですか。乳ビンタ要員ですか。まったく。参考までに揉ませて下さい」

 

「いえ、その、困ることこの上無いんですが?」

 

「私は一向に困りません。経るものじゃ無し」

 

 揉みっ。

 

「あんっ、いきなり何を?!」

 

「……質、柔らかさ、張り。愛宕さんとどっこいどっこい。肉の壁め……」

 

「なんでそんなこと言われるんでしょうか、くすん」

 

「いや、この子のやることは私にもわからんのだ」

 

「はぁ、とにかく言えることは一つ。提督の重婚の突破口は開かれてしまったという事ですが、そこで素直に慣れなかったり乗り遅れたりすると、提督が重婚生活に安定してからは出番がなくなりますよ、と言いたいのです」

 

「はぁ、そうなのですか?」

 

「故に、フラグを今のウチに回収しつつ、出番を増やしておく必要があるのです。絡めるうちに絡んで無理矢理レギュラーの座を掴まないとヤバいのです。最近建造された戦艦3人など、必死に鬼とか夜叉とか言われてきた指導教官に食らいついてようやく現在練度89まで追い上げて来ましたからね。ニューヒロインの窓口は狭い。アイオワが来るかウォースパさんが来るかガングーさんが来るか。それとも、という所なのです。うかうかしてられないのです」

 

「……なんかメタで無茶な話だな?」

 

「……とにかく、婚活ラストスパートなのです。互いに頑張りましょう、という話なのです」

 

「まぁ、私はおそらくカルディア姉さんのサポートになると思うから、婚活など……。うむ、まぁ食事を終えたから、日用品の買い物に行こうと思う。ああ、そういえば下着とかまだそんなに無かったな。うむ、姉さん、付き合ってくれないか?」

 

「……おまえ、焦っているな?」

 

「何を言うのだ、姉さん。日用品と衣類が無いのは姉さんも同じではないか」

 

「……うむ、ここは姉妹同士協力をだな?」

 

「それ以外無い、か」

 

 W-06とW-16は参戦を決意したようである。

 

「……ちょっと、エステに行ってきま~す」

 

 アインスト・カグヤはそそくさと去り。

 

 ABは「姐御ぉ、荷物持ちなら任せてくだせぇ!!」とカルディアとエキドナの後を追った。

 

「えーと、僕達はどうしたらいいんだろう?ティス」

 

「わかんないわよラリアー。とりあえず部屋に戻るしか無いじゃない」

 

 幼児は仕方ないなぁ、と席を立った。

 

 そして不知火はニヤリ、と笑い。

 

「これで厄介な人達の人払いは済みました。後は長門さんの策がうまく行くのを待つだけです」

 

 と言って涼しい顔でアイスコーヒーをストローでズズズッと啜った。

 

 そう、不知火の役割は長門の根回しが効かない艦娘以外の転移者達の人払いであった。これで少なくとも夕刻までは人払いは出来たはずである。

 

(金剛、あなたからの恩を返す時です。うまく行って下さいね)

 

 不知火は心の中で祈るように思った。




 長門の策略は、こうして支えられてるんですねぇ。

 金剛さんの人望もすごいのです。

 なお、不知火の嫁入りの時はブルマを履かせたい。とある動画を見てそう思う。

 次回、キヤノンボールは誰がために(?嘘?)でまたあおう!


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キャノンボールレディ長門

長門が撃てば終わる。

アギラとフェフさん知らんウチにヘイト食らう。

風呂回(男湯)。


 キヤノンボールチャレンジ。

 

 撃ち出される砲弾をかわしてみよう!

 

「ちゃーちゃらりーちゃーらちゃっちゃらー(ミニゲーム感)」

 

〔おい、玄一郎。ふざけるな〕

 

「ふざけてねーよ。リラックスが必要だ。特に長門の砲を避けるにゃちょっとの力みも命取りだからな」

 

 『砲撃自在』『砲神長門』。海軍に名を轟かす砲術の名手の一人にして、未だに真の軍艦と呼ばれる長門型一番艦。日本の誉、核を二発受けても沈まなかった大和魂の具厳たる艦が顕現した存在だ。

 

 玄一郎は一発の核で塵となり死んだが、あれを二発も耐えた軍艦と今、対峙している。

 

 そう考えると長門は凄かったのだなぁ、としみじみ思い、そして目の前の長門こそがその魂の持ち主であると思えば、俄然とこの勝負に根性をみせねばならぬと奮起する。

 

 なお、今までのこの砲撃回避訓練は21回、今回で22回目となるが、勝敗で言えば玄一郎は11回勝ち、9回負け、そして21回目はゲシュペンストがスクランブル発進せねばならず、引き分けとなった。

 

『提督、ふふふスクランブルで出来なかった勝負の仕切り直しだな』

 

「……最初はソースケに手本をみせにゃならんから、軽く頼むぜ」

 

「『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』だな。では五回は肩慣らしだ。頼むから当たってくれるなよ?』

 

「そこまで腕は鈍っちゃいないさ」

 

『では始める。単発からだ』

 

 長門は砲を稼働させた。

 

 本来ならば、長門は砲を稼働させてわざわざ狙いがわかるようには止めない。それに単発で撃つコトもまれである。誘い込みのない砲撃をするのはよほど練度の低い艦に対してである。

 

「ソースケ、しっかり見とけよ?記録とっても良いけど目で見て肌で覚えろ。記録は当てにならんぞ?本物の砲撃の世界はそんなデータでどうにかなるもんじゃねぇからな」

 

 ソースケは何も言わない。おそらくまだ玄一郎の言葉の意味が分かっていないのだ。

 

 ズドーン!

 

 長門の砲が一発、轟音を響かせた。

 

(この音こそが、戦艦の戦艦たる砲音だよなぁ)

 

 やはりそう思う辺り、玄一郎は提督なのである。

 

「一撃なら大きく避けでも回避出来そうだろ?しかしだ、見とけ?ソースケ」

 

 玄一郎はわざと大きく右に避けようとして見せた。すると砲弾は慣性をつけて右にゆっくりと反れて落ちてくる。ただの山なりの砲撃では無い。

 

「お前の今までの回避は右ばっかだった。大抵の素人は右ばかりに避けようとする。んでそう言う風に砲をかいくぐろうとしてたらホレ」

 

 途中で玄一郎はすっ、と止まる。砲弾はその右横の海にドッパーン!と落ちた。

 

 艦娘達の砲弾の質量は想像以上の威力を持つ。艦娘達の砲は実際、表記されているほどのサイズではなく人間のサイズなっているが、それに込められている概念はそれその物の威力を持っている。

 

 長門改二であれば主砲は試製51センチ砲と試製41センチ砲。その威力たるやサイズを見てスレスレでかわそうとしても衝撃で普通にやられてしまう。

 

 さらに、長門の砲撃は計算で自在に軌道をつけて打ち出され、相手が避けるだろう位置に落ちるように調整されている。ペイント弾ならまだしも、実弾ならばたとえ掠り当たりでもひとたまりもない。

 

「な?弾を見て右に大きく避けたらそれだけで砲弾の方に誘導されちまって直撃コースだ。長門の砲撃の軌道はそこまで計算されてるわけだ」

 

「動く前から計算ってどう言うことだ?!」

 

 ソースケは驚いていた。

 

「お前の場合は計算するまでもねぇだろうよ。機体の回避速度がなまじ良すぎるせいと、直進するライフルやビーム銃の比較的読みやすい攻撃、あとはミサイルか?そんぐらいしか相手にしてなかっただろ?こんな威力の砲撃で、しかも搦め手を使うような敵と遭遇したこたねぇだろ?遭遇しなくて運が良かったな?そんなんじゃこっちの世界じゃマジで死ぬぞ?」

 

「……くっ」

 

『提督、次は誘導ありで行くぞ?』

 

「お手柔らかに頼む」

 

『赤子騙し程度だ!』

 

 ドドン!ドン!

 

 長門は副砲と主砲を同時に撃った。副砲も主砲も今度は仰角も方向も止めずにいきなり撃ったように見えた。さらに、こちらから砲の向きから砲弾を撃った角度がわからぬようにご丁寧に撃った後砲塔をさらに動かしていた。

 

「ほら、来やがった!これでも初級だぜっと!」

 

 ここからは長門と玄一郎の読み合いとなる。

 

 普通ならば副砲が敵を誘導するための囮砲撃で、主砲が本命の置き砲撃となる。しかし、長門はどちらも巧みに使いこなし、どちらが本命でも直撃大破させてしまうだけの腕を持っている。口径など関係なく自由自在に敵の弱点をついて撃破するのだ。

 

 今回は、目視軌道と弾の速度を玄一郎は瞬時に把握、長門のいる右前方へと進……まず。

 

 左にやや数メートル移動した。

 

 副砲の砲撃は玄一郎の先ほどいた場所を通り過ぎたが、主砲が右前方へと落ちる。

 

 この場合、もし玄一郎が右前方へ向かったならばどちらも直撃弾となっているコースである。

 

 衝撃にビリビリと機体が揺さぶられる。

 

「くうぅっっ!……いまのは赤子騙しどころか赤子の手を捻るぐらいには辛辣じゃないか?どっちも当てる方とはな」

 

『なに。それだけ提督と共にディナーを楽しみたいという乙女心の現れと思ってもらおうか』

 

「物騒な乙女心もあったものだ……衝撃すげぇな」

 

『ふふふっ、戦場の乙女とはそういうものだ。意中の男を仕留める為には大抵の策は練るぞ?次、三点砲撃、行くぞ?』

 

 ズドン!ズドン!ズドン!

 

 試製51センチ主砲三連が間隔を開けて撃ち出された。長門改二の誇る、圧倒的な火力の象徴である。これが長門の頭脳を得た時、如何なる木っ端雑兵も一溜まりはない。敵のボスとてもこのパラオの長門の前では撃破対象に他ならぬ。

 

 どこに撃ち込まれるかなど考える暇など無い。

 

 玄一郎は砲弾の音を頼りに右後方へやや避けた。

 

 砲弾は三点、玄一郎の前方、左側、そして後ろに着弾し、海へと派手なしぶきをあげた。

 

 玄一郎の今いる地点以外に動いていたならば、どれも前方から殴りかかるように直撃するコースの軌道である。砲のライフリングの回転さえも読んで軌道を曲げる、長門の砲術の真骨頂である。

 

 遠距離なればこそ恐ろしい。これが戦艦の砲撃か、とソースケは顔を青ざめさせつつ戦いた。

 

 こんな攻撃に反応速度だけで対応しようとしていた自分に無知にようやく気がついたのだ。例えキャニス・アルタルフが長距離ライフルを持っていたとしても、その範囲外から長門は狙える。さらにどれだけ早く肉薄しようとも、接近する間に捉えられてその圧倒的質量が込められた砲弾に撃破されてしまうだろう。回避もおそらく今の自分では不可能。それがわかったからこその恐怖であった。

 

「ソースケ、お前が学ばされた戦闘データが如何に役に立たんかわかったか?本物の砲撃のおそろしさ、機体のスペックが如何に優れていようと敵わない、本物の戦士、本物の艦娘の一撃の恐ろしさがわかったか?」

 

「……ありえない、こんなのありえない!」

 

「……否定したいのは解るが現実だ。概念兵装ってのはえげつねーんだ。それを確実にぶち当ててくるってのはそこで見てても怖いだろが?俺達とやりあった時に、お前、避けたと思った俺のフローティングマインに易々と引っかかったろ?虚実の無い攻撃なんざただのテレフォンパンチにしかならねぇんだ。あの時俺達で良かったな?ベテランの艦娘だったら死んでたぞ?」

 

『なるほど。どおりでソースケの動きが素人丸出しだったわけだ。ろくな教練を受けていなかったのだな?』

 

「……スクールって研究施設の作った戦闘プログラムはラピエサージュから提供してもらった。はっきり言って頭でっかちの戦場を知らない学者共が机の上で作った『俺の考えた最強戦闘プログラム』って感じの、役に立たないシロモンだ。そりゃ最強の機体に強靭な身体持った強化人間乗せたら強いってのはわかるが戦術やら何やらがダメなら何にもならん。強襲には良いかも知れんがプロには通用しない。艦娘相手でなくてもな」

 

「そんな……僕はずっとパパの最高の子供として……!」

 

「そのオヤジの戦闘プログラムで長門の砲撃を一つでも避けれたか?俺のフローティングマインやヒートロッドを避けれたか?ウォーダンの太刀をかわせたか?オウカのマグナムビークを避けれたか?全部入って決まってたろが。確かに身体能力も機体も最高かも知れねぇ。だが、結局はそうなっちまっただろうが」

 

「……くっ、僕は、結局失敗作だったのか?」

 

「アホ。短絡的に考えんなガキ。人間に失敗作なんざねぇよ。いいか、俺はお前の師匠だぜ?見込みが無けりゃ拾ってねぇぞ。お前はまだ完成してねぇ。未完成のくせに何を言ってやがる、アホガキが」

 

「未完成……?」

 

「ガキが完成しててたまるか。言ったろ?俺がお前に正しい反抗期のやり方を教えてやるってな。人間、親離れしてようやく大人に成るんだよバカタレ。お前の場合、パパにバカヤロウって堂々と言えて、ガキ卒業だ。ろくな教育も出来ねぇ親なんざ見限れるようにしてやらぁ」

 

「ええっと……」

 

「なお、異論は認めない。お前は落ち始めた。崖っぷちからな。登るのは途中でやめられる。だが、奈落の底へは落ちたら止まらん。底なしの修行地獄へようこそ。終わりは無いぞ?」

 

「あの……ええっ?」

 

「講師の皆様は超豪華!かつての日本海軍でしごきに定評のあった艦娘の皆様が勢揃い!『鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門、日向行こうか、伊勢行こか、いっそ赤城で首吊ろか』の全員、それ以外にも沢山いるからな?後は俺とウォーダン、逃げられると思うなよ?」

 

「ひっひぇぇぇぇぇっ?!」

 

「あ、長門おねーさんの次は比叡おねーさんがいい?『地獄榛名に鬼金剛、羅刹霧島、夜叉比叡、乗るな山城、鬼より怖い』ってな?いやー、ソースケクン、死にたがりだなぁ」

 

 はっはっは、と笑って玄一郎は言ったが、その笑いは長門の冷ややかな声に消された。

 

『……提督、蛇の長門とは私の事か?』

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。あ、軍神が怒ってらっしゃる。

 

「……あ゛。いや、その、な?」

 

 怒りのオーラがあたかも大蛇の如し。

 

『ふむ、では今からその『蛇の長門』のしごきをソースケの師匠である提督に受けてもらうとしよう。今から全砲門にて自在砲撃訓練を開始する。全砲門開け!目標、提督っ!!』

 

 ドーン!!ズドーン!ドドドーン!!ズドーン!!

 

 いきなりキャノンボールクライマックス!!

 

「うっぎゃあああああああああああああっ!!」

 

 どの砲も、全てオールレンジで避けられぬ、どう逃げても直撃コース。それが連発で次々と玄一郎に迫った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 長門の全力の砲撃は『砲弾の檻』と海軍の古参兵達は言ったものだ。三次元のどの位置に回避しても逃れられぬ砲弾の雨。その全てが置き砲撃であり、どこへ動いても王手。チェックメイト。

 

 さらに砲弾の駒は自在に撃って増やせるときたもので。将棋でいう飛車落ちや角落ちなど、ない。マインスイーパーやってたらすべてのコマが地雷マスだったというぐらいにありえない。

 

 さらに落ちる時間差で避けられると誰もが思う。だがしかしそれさえも計算されており、結局はどこへ言っても詰んでしまう。いや、それでも玄一郎は頑張った方である。約一時間ほど長門の奥義を食らっても最小限の動作で針の穴ほどの隙間を突いて避け続け、衝撃でやられても直撃無しだったのだから。

 

 しかしその一時間の後の15分後。

 

 三次元砲術奥義『二燕(ふたつばくろ)改』という長門の新必殺砲撃を見切れず、結局は直撃を食らったのであった。『砲神の長門』恐るべし。

 

 で、現在。

 

 

 ソースケと玄一郎は泊地内の銭湯にいた。

 

 かっぽーん。

 

「……女は怖いな。ソースケ」

 

「自業自得ですよ師匠」

 

 湯船に浸かりつつ「あ゛~」と唸る。

 

 銭湯の名は『漢湯』。艦娘達は入渠施設が寮にそれぞれと、作戦時の大型入渠施設があるが、男性職員には入浴施設はここしかない。提督室にはシャワールームもあるが、しかし湯船が無いので湯船に浸かりたければここになる。

 

 昔懐かしき銭湯スタイル。番台には地元の爺さんが座ってる。風呂のタイルにゃ富士山が描かれ、電気風呂から泡風呂サウナと昭和だねぇ、という雰囲気で落ち着く。

 

「……俺の戦術や戦技はゲシュペンスト、つまりカーウァイ・ラウの仕込みだ。あとはトラップやらは中東のゲリラや傭兵達から学んだ。ゲリラ達はまず生き残る事を優先する。アホみたいに突撃しないんだ。それに戦闘をする前には必ず退路の確保を必ずしておくんだ」

 

「僕達は逃げる必要の無い戦闘が大半だったし、逃げても追撃も無かった」

 

「そりゃ運が良かったな。逃げるってのは一番難しくてな。よっぽど訓練を積んでなきゃ部隊の規模にもよるが、逃げる準備してる間にやられちまうこともある。隙がデカくなるからな。撤退がうまい部隊は戦闘もうまい。軍略がきっちりと出来るって証明でもあるわな」

 

「逃げなきゃいけない時点で戦闘がうまいってなんか矛盾してる気が……」

 

「バーカ。戦闘がうまくても負けるときは負ける。それに死んだら意味がねぇんだ。目的や目標の為には『百万回やられても負けない』戦いが必要なんだよ。泥水啜ろうが恥をどんなけかこうが、最後に目標を達成した奴の勝ちだ」

 

「……なんか泥臭いね、それ」

 

「世界は蓮の池の泥さ。泥臭くて当たり前だ。だが咲くときにゃポンっと綺麗な花が咲く。咲かすなら生きのこらにゃならん。……せっかくまた生きれてんだからよ」

 

「だったら、死ぬような修行させないでくれよ。つかあんたよくあんだけの砲弾よく避けられたな」

 

「ケケケ、師匠様を舐めんじゃねぇぞ?なんのあれしきオギノ式ってな?」

 

「最後は直撃喰らってた癖に」

 

「ペイント塗れで一つも避けられねぇヒヨッコが生意気言うんじゃねぇ。あ、おめぇの機体のあのペイント塗れの画像、日本のオウカおねーちゃんにメールしといたぜ?『うぁ~、これはヒドイ(笑)』だってよ?」

 

 オウカはあの後、近藤大将に舞鶴に連れられて帰っていった。現在、大和に頼まれて通信教育的にゲシュペンストと玄一郎が戦術や戦技のカリキュラムを送ったりしている。

 

 まぁ、メールでペイント弾塗れのラピエサージュの画像が送られてきていたりするが、おそらく舞鶴の大和さんと訓練をしたのだと思われる。

 

 まぁ、ソースケには見せないが。

 

「だから、オウカは僕の姉じゃない!血も繋がってないんだ!」

 

「あん、そうなのか?てっきりお前もオウカの弟だと思ってたぜ。アイツやたら心配してたからよ?」

 

「……僕達マシンナリーチルドレンはオウカの弟分のアラド・バランガの体細胞から造られた。アイツはかなり強化された身体を持ってるからって」

 

「へぇ。ならお前もオウカの弟分じゃねぇか。良いねぇ、俺もガキんときにあんなねーちゃんほしかったね。……いや、姉貴はいたけどよ」

 

 なお、玄一郎の姉の性格はほぼ足柄ねぇさんです。

 

「……さんざん、ブーステッドチルドレンの連中をバカにしてた。……心配なんてするわけないさ」

 

 ソースケはそうつぶやくように言った。今となっては悪い事をしたと思っているようだ。

 

「……ほほう、ソースケ君はおねーちゃんにごめんなさいは言ったかね?」

 

「今更、言えるわけないよ。あんな酷い事ばかり言ってたんだ。どの面下げて……」

 

 にやり、と玄一郎は笑った。どーれお師匠様が背中を押してやるかぁ、的な心境だった。

 

「選べ。ケツ百叩きの後に謝りのメール送るか、風呂上がってすぐに謝りのメール送るかどっちがいい?なお、お前がマシンナリーチルドレンだろうが格闘戦で俺に勝てると思うなよ?」

 

 グイッ、とソースケの頭を抱えてヘッドロックしてやる。たとえマシンナリーチルドレン相手でも玄一郎の力には敵わない。人間の水準を軽く越えてるからなぁ。

 

「ぐっ……、つかあんた本当どんな身体してんだよ。ぐぇぇ、謝る、風呂上がってすぐ謝る!」

 

「よし。なら許してやろう。いずれお前にも我が技を伝授してやろう。主にインドの修行僧から伝授されたヨガファイヤーとヨガフレイムをな?」

 

「……あやしさしか感じない。ヨガでなんでファイヤーなんだよ」

 

 なお、ゲシュペンストと玄一郎達にお前ら死んでるし元の世界に帰るの無理、と言ったインドの怪しい修行僧が使っていた技である。

 

「流石にヨガテレポートは会得出来なかったな。あとは世界マーシャルアーツチャンピオンの通信空手とかな?手から波動が出せるようになるぞ?さらに『真嶋式喧嘩術~とにかくバラせばええねん~』の上下巻も貸してやるぞ?」

 

「……強くなれる気がしない」

 

 なお、真嶋式喧嘩術の上下巻は真嶋社長のサイン本である。

 

「まぁ、いざとなったら真嶋建設に研修出すのもありか?しかしABのマッチョコンビみたいになったら青春台無しだしな」

 

「……はぁ、ワケわかんない人だよね、師匠って」

 

「人間そうわかったら全人類総、殴り合いどりゃあ、じゃ。分かり合えたら仲良くなれるってのは嘘でな。わかったらそれこそ怖いわい」

 

 なお、玄一郎が過去やらなんやら最も分かり合えた人物はカルディアであり、黒歴史噴出で理性が働かなければどつき合いになっていたと思う。

 

 記憶をお互いに垣間見て分かり合えたらなんというか、信頼はあるかも知れないが威厳とか尊敬とかそういうものは秒殺であった。

 

「……Dカップ、か」

 

 脈絡も無く玄一郎は呟く。レオタードのへそとか尻だって割といい感じだ。

 

「……奥さん達にぶっ殺されても知らないよ、師匠」

 

「これが温泉なら覗きの技を伝授してやるのにな」

 

「男湯しかないから無理だね」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 玄一郎は日向のセリフを言った。男だけの入浴シーンなぞ誰にも喜ばれない。

 

 故に。

 

 終われ。

 

 




そのうち、主人公はヨガテレポート会得……はないか。

提督のお気に入りの技はハオウショウコウケン。

真嶋式喧嘩術は本人御墨付き。

ソースケ・ウルズ君はどんどん素直に悩みつつ年頃の男の子になる予定。

次回、金剛デース!でまた会おう(嘘)!


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【オマケ】ボツネタ臭。

今回はボツネタです。

読まなくとも本編にはあまり関係ありません。


【超吹雪~如月とマッチョ】

 

 カルディア隊のマッチョが何故サムソンとアドン化したのかを描く問題作。

 

 すべては!アサリシジミハマグリ御門前さんの!仕業だった!!

 

 なお、オマケとして書くかも知れない。

 

 被害者、如月。カルディア。

 

 

【デレるレモンさん】

 

 いや、あんたにはアクセルがおるやろ、とボツ。

 

 

【イーグリット・ウルズにケツ叩きをかますオウカ】

 

 最初は主人公ではなく、オウカがメチャクチャ暴れて『鬼(オーガー)』化し、キャニス・アルタルフ撃破の後に、弟の遺伝子から作られたのだから私が姉だっ!!と尻を叩く予定でした。いえ、壊れ度があんまりひどかったのでボツ。なお、ウルズはシスコンになる予定でした。

 

 

【出てきてすぐにムサシに撃墜されるウルズ】

 

 次にボツにしたネタ。オウカに悪態をついてる最中に、マッチョな艦装が海面からジャンプしてきてダブルハンマーメテオ食らって死亡、という。哀れだからボツ。

 

 

【大淀さんのパンツに込められたメッセージ】

 

 実は主人公に覗かれるのを知っていてエロ下着を着けていた、という設定でした。最後にはバタフライとかノーパン。をい。

 

 

【扶桑姉妹の対艦薙刀兵装・月光】

 

 なんとなく改二のあの格好に合うと思ったけど、薙刀のベースが思い浮かばなかった。うーむむむ。

 

 

【海軍十傑衆】

 

 『槍の叢雲』を筆頭に考えてましたが、艦隊って六人なんよね。故にボツ。

 

 

【アードラーとアギラの認知症療養】

 

 ヴァルシオン改がボケた二人の介護をするだけの話。面白くなかったのと、真剣に現在の老人介護福祉や医療の闇を書いてしまいそうになってヤベェから止めた。

 

 

【介護福祉施設・アースクレイドル】

 

 同上の理由でボツ。

 

 

【巨乳頂上対決】

 

 港湾棲姫、愛宕、アインストカグヤによる乳比べ。R-15を越えそうだったのでボツ。なお、被害者はRJ。

 

 

【ニュースリポーターが射命丸】

 

 いや、東方キャラはあかんやろ、とボツ。

 

 

【ニュースリポーターがうらら】

 

 なお、スペース・マイ○ルのネタが出る予定でしたが訴えられたら恐ろしいので止めた。ぽうっ!

 

 

【那珂ちゃんお通化】

 

 銀魂の寺門お通的に……。ボツ。お前のかーちゃん○○だー!

 

 

【独裁政権の詳細リアル描写】

 

 某党をモデルに気がついたら書いてた。やはりボルシェビキ共は駆逐、などとアハトアハトを持ち出すビスマルクを書いてたら、あー、これヤベェとボツ。

 

 

【羽黒汁】

 

 スパロボにおけるクスハ汁のようなもの。ボツ。

 

 

【愛宕ミルク】

 

 パラオ泊地の入渠施設の牛乳のパッケージが愛宕ミルク。

 

 

【建造される戦艦の一隻が、実はシャルン・ホルストだった件】

 

 非実装な艦娘というわけでボツ。

 

 

【松平元帥の嫁の初期設定は三笠だった】

 

 非実装な艦娘……(ry

 

 

【アウゼンサイターネタ】

 

 顔面騎乗する足柄さん。ボツ。蒸れた下着が……をい。

 

 

【ドイツ艦によるラムシュタインネタ】

 

 アイオワとの絡みで。ヤベェので(ry アメリカ、コカ・コーラ時々戦争。

 

 

【ムサシと大鷹ネタ】

 

 春日丸がパラオにいなかったためボツ。

 

 

【殺生院キアラ】

 

 ラスボスの候補だったが、ゲームちがうじゃん。なお、熱いバトルの末にやはり嫁に……をいをい。

 

 

【アインスト・カグヤの殺生院化】

 

 角生やしてアミダアミデュラヘブンズホール。18禁になりそうだしゲーム違うし。ボツ。つかどんだけ作者は殺生院さん好きなんだよ。角生えたら牛女(乳牛)だよね。牛頭鬼さんが次元越えて嫁に迎えにくるよなぁ。

 

 

【扶桑姉妹デンドロビウム化】

 

 ありがちなネタなのでボツ。

 

 

【山城が開発をしたら、有り得ないものが出てくる】

 

 めちゃくちゃ世界観こわしそうだからやめた。

 

 

【清涼飲料水戦争】

 

 大和ラムネ派とコカ・コーラ派とペプシ派、三ツ矢派、キリンレモン派の争いに羽黒汁が投入されてカオスな事になる、という。

 

 

【比叡カレー(綺麗な)】

 

 真面目に作ると比叡のカレーはうまい、という。なんというか、ボツ。

 

 

【間宮さんの女体盛り】

 

 食べ物でやっちゃいけません。18禁でボツ。

 

 

【ちちびんた】

 

 愛宕さんとかにやって欲しい。そのうちやるかも。

 




気分次第で、ネタ復活するかも知れませんが、多分。


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【設定】覚え書き。組織その他名称。

単なる覚え書き。

ストーリーには特に影響無しです。

書いておかないと忘れるので。


【深海同盟五大艦】

 

 人類と敵対していない深海棲艦のうち、強大な力を持つボスクラスの五人を言う。

 

 空母棲姫、北方棲姫、港湾棲姫、南方棲戦姫、泊地水鬼の五人。

 

 なお、後に集積地棲姫、戦艦棲姫(ムサシ)を加えて七大艦になった。

 

 

【護国同盟】

 

 深海戦争初期の混乱期に日本政府を乗っ取った左派独裁政権を打倒するために艦娘達が作り上げた組織。

 

・間宮・伊良湖ルートコネクション

 

 給糧艦娘による情報伝達と食を使った様々な活動を担う。諜報部としての働きもあり。

 

・チーム金剛

 

 『艦娘擁護派の父』菅原大将の懐刀と呼ばれた金剛による司令塔集団。金剛、鳥海などが参加していた。

 

・居酒屋鳳翔グループ

 

 『鳳翔』達による居酒屋。『艦娘擁護派』の提督達がここで日本奪還の為に集っていた。

 

 

・龍驤軽空母組合

 

 龍驤と軽空母達による組織。鳳翔の活動を主にバックアップしていた。

 

・初期艦隊

 

 初期艦五人による新人提督洗脳部隊。現在は最古の初期艦は叢雲のみになっているが、それでも影響力は高い。駆逐艦教導隊とも言われる事もある。

 

 この五つの組織がかつての独裁政権を打倒する為に活動していた。なお、バックアップをしていたのは山本元元帥、菅原大将など。

 

 

【ムサシ一派】

 

『深海棲艦の武蔵』とか『武蔵の戦艦棲姫』とか言われる『ムサシ』の元に集まった深海棲艦達のこと。

 

『雷のレ級』『榛名のタ級』『摩耶と鳥海の重巡ネ級』などがおり、武蔵の力の一部を与えられた為にパワーアップしている。その実力は五大艦を負かす程に強い。

 

 なお、ムサシ一派と名乗っているが、ムサシはそんな一派を作った覚えは無く、単にムサシを慕って集まっただけだったりする。

 

 主にリーダーとして動いているのは実は『雷のレ級』。

 

 

【艦娘結婚支援組織・フリートブライド誌編集部】

 

 舞鶴鎮守府所属の青葉と秋雲による年四回発行のフリートブライド誌の編集部。いずれ出てくるかも知れない。

 

 

【アースクレイドル残党】

 

 アメリカに転移したアースクレイドルにいた連中。主なメンバーはフェフ、アギラ、アードラーであるが、間もなく取り入ったアメリカ政府に資金援助を打ち切られるものと思われるが、それでもおそらくは何かしらやらかすと思われる。リオンシリーズを割と持っているが、アメリカに接収されつつある。

 

 なお、ビアン総帥やバン・バ・チュン等は関わって居ない。

 

 

【DC】

 

 出すかどうかは不明。

 

 ビアン・ゾルダーク総帥の組織。バン・バ・チュンもこちら。普通に日本の北海道に現れているが、なんら日本海軍と敵対することなく、現在、秘密裏に松平元帥と交渉中。ある意味、正義の味方側につく感じ。良い人達。多分。

 

 旗艦はキラーホエールとライノセラス。

 

 パラオに来るとかなり主人公の提督の座がアブネーなぁ。

 

 





ビアン総帥も来てんのかなぁ。うーむ。

生きていたら、アードラーとか粛清に動きそうな気がしますなぁ。


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重婚多重奏曲~前奏。


 乙女の戦のドラが鳴る。乙女の進軍ラッパが高らかと、婚活の戦野に鳴り響く。

 長門さんが髪をアップにしたら、めちゃ綺麗だと思うんだ。

 ターゲットは金剛。


 長門の砲弾回避を失敗し、間宮のフルコースディナー券を長門にゲットされた。

 

 パラオ泊地の間宮はチケット式である。

 

 食堂の入り口のチケット販売機で選んだメニューのお食事券を買って渡すんであるが、そのチケット販売機に無い特別なメニューも存在する。

 

 その特別な間宮券が要するに提督が艦娘達にご褒美やお祝い、労いとして渡す特別間宮券である。

  

 まぁ、アイス券は普通にチケット販売機にあるものと同様だ。まぁお小遣い程度に出される事が多い。

 

 次にMVP用のパフェ券。これは文字通りMVPを取った艦娘にご褒美として進呈するものである。このパフェは通常メニューのパフェとは異なる上に、季節毎に種類も変わるのでレア度が高い。これの為にMVPを目指す艦娘も少なくは無い。

 

 その次の等級に、スペシャルデザート券が来る。このスペシャルデザート券はやや難易度の高い任務を達成した艦娘に出すものである。また重要な来客にお出しする際に使われる事もあり、通常のパフェよりも豪華になっている。

 

 その他の間宮券としては、外来の客用のお食事券、練度が10上がる事に出されるおやつ券、艦娘の技能認定試験等に合格した際にお祝いとして出されるデザート付き定食券などがある。

 

 だが次の間宮券はめったに出ない間宮券である。

 

 ディナー券。

 

 これはパラオ泊地に着任した艦娘の練度が99に達した際にお祝いとして渡されるものである。お祝い用であるから、所属艦隊六名様ご招待な券であり、ある種のパーティー用といえる。現在は練度99の艦娘ばかりになっているのでレアと言えばレアであり、実はかなりダブついていたりする。

 

 間宮フルコースディナー券

 

 究極にして最高額の間宮券である。これはパラオ泊地に来た賓客の中でも王侯貴族、皇族、首相クラスの方々をもてなす為に用意された至高の間宮券である。間宮最高のスペシャリテをふんだんに発揮された料理の数々は圧巻である。……が、そんなに王侯貴族や皇族、首相クラスはパラオに来なかったりするので、これも年々ダブついていたりする。

 

 また貴賓を迎える際には通常の間宮食堂ではなく、貴賓食堂を利用するわけだが、これもめったに使われない。使われない施設というのはどれだけ綺麗に保ててもそれなりに雰囲気でわかるものであり、それはさすがに恥ずかしいものである。それにいざ突然高貴な賓客が来た際に施設が機能しないのではさすがにこの泊地の威信に傷がつくというものである。

 

 故にどうせ購入した券(なお、ディナー券は施設費として公費で計上されており、そういう点が海軍の無駄使いなどと揶揄されるが、つけられる格好はやはりつけておかねばならないのも外交なのである)がダブついているならば、と間宮と伊良湖達への演習も兼ねて『フルコースディナー券』は年に四回程度、期間毎の最多MVP艦娘達に進呈され、貴賓食堂も使われているわけである。

 

 とはいえ、やはり高貴な方々を通す施設とそれにお出しする料理なのである。そのチェックはやはり教養やマナーを知る艦娘統括や責任者がせねばならないのである。

 

 間宮にまさかは無い。それは玄一郎も知ってはいるし解ってもいる。だが、それでもやらねばならないのが管理者というものである。

 

 しかし玄一郎も物を食する事が出来ない機械の身体だったわけであり、そのチェックは大抵、大和、金剛、長門、扶桑、伊勢など信頼出来る者達にお願いしていたわけである。(本来ならば天皇陛下の御召艦であった比叡もチェック業務を行わせたかったが、比叡カレー事件のせいで比叡は間宮立ち入り禁止である)

 

 今年の夏も『間宮フルコースディナー券』の時期が来たのもあり、その前のチェック業務を誰かに任せようと思った矢先の勝負だったので、軽々しく『直撃されたらフルコースディナー券』などと言ってしまったわけだが、ものの見事に艦娘達の策略に引っかかり墓穴を掘っている。

 

 うかつにも程がある。やはりアホなんではなかろうか、コイツは。

 

「うむ、やはり賓客用のフルコースのチェックは提督がやるべきだろうし、丁度良い機会である、はは、ははははは」

 

 などと嘯くもスマホを持つ手は震えている。

  

 フルコースディナーのチェックで券を使う時は、抜き打ちで予約を入れねばならない。何故抜き打ちで、なのかと言えばいついかなる時であっても賓客を迎えれねばならぬ、という間宮の提言から、である。

 

 けして嫌がらせではない。むしろ、最初の頃に

 

 『今晩、誰それがチェックに行くから』

 

 などと朝に間宮に連絡したら連絡が早すぎ、

 

 『そんなに猶予があったら、抜き打ちになりません!』

 

 と逆に叱られる始末だったのだ。

 

 『間宮と伊良湖は食の戦場に常に身を置く艦娘なのです!こなせて当たり前を訓練とは言いません!』

 

 とも言われた。

 

 日本海軍の食の守り手の精神を思い知らされた気がした。

 

 とはいえ。

 

 むむむむむむ、求婚された相手にかける電話、しかもチェック業務とはいえ他の艦娘、つまり女性連れなのである。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬ。

 

 そもそも扶桑姉妹に頼めたならばそんなに玄一郎も悩む事は無かった。しかし前回のチェックで扶桑姉妹はすでにフルコースディナー券を使っていたのでそうも行かなかったのである。

 

 さらに、玄一郎は自分が行く事を考えていなかった。理由は今まで誰か艦娘に頼んでいたからだ。

 

 なお、この間宮フルコースディナー券は一枚につき最大四名様まで使用可能である。貴賓の御家族も対象になるからである。

 

 うむ、流石に子供を連れて行ったなら長門も間宮もそういうケッコンカッコカリな話もするまいと、弟子のソースケを巻き込もうと思ったが、先ほど扶桑姉妹とムサシに連れて行かれてしまった。

 

「我が弟子にテーブルマナーを学ばせる良い機会である」

 

 と玄一郎は言ったが、しかし

 

「子供連れでは不粋極まりない。お前は女心をもっと学ぶべきだ。解っていてやろうとするのはもはや罪悪だぞ」

 

 というムサシの言葉に賛同多数で引き下がるしかなかったのである。

  

 無論賛同したのは妻二人と雷のレ級、そして何故かいた土方と沖田である。

 

「私達は鉄板焼き屋RJに行ってくるからごゆっくりぃ~?」

 

 土方がみんなを連れて行ってしまった。なお、山城に玄一郎はRJ飲み放題セットチケットを五枚ふんだくられてしまった。

 

 いつも、山城にふんだくられている気がする。

 

 だが、そうやって扶桑姉妹が不満そうな素振りも嫉妬も何もしないのはかなり玄一郎にとっては不満であった。

 

「俺を見捨てないでくれぇぇぇっ!!」と扶桑に抱きついて反応を見たが、逆に「よしよし、よしよし」されてしまい、不発に終わった。

 

 なお、山城とムサシにも代わる代わる『よしよし』された。

 

 ちょっと幸せな気分になったが、弟子の目がかなり冷たかった。なお、土方は「リア充爆発四散して果てろ」とぺっ!された。

 

 とはいえ、玄一郎もアホだが鈍くはない。もうすでに長門とも扶桑姉妹は談合済みなのだ。いや、金剛、長門、扶桑姉妹、そして恐らくは土方も沖田もほぼ全員連んで包囲網を完成させているのだ。

 

 そしてその総指揮を取っているのは、おそらく、いや百パーセントで金剛っつ!!

 

(おのれ、あの紅茶楽隠居め。一矢、せめて一矢報いてやる。どうせ逃れられぬなら、せめてっ、番狂わせぐらいはっっ!!)

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 玄一郎はスンゲェ悪い笑顔を浮かべてそう思った。まぁ、まさか軍人肌の長門の策略にハマっているとは知らず、玄一郎は姿を見せぬ金剛に怒りのガッデーム・ジュテームをかます算段を始めていた。

 

 玄一郎の腹は決まった。そんなわけで間宮に連絡を入れ、すんなりと間宮は了承。

 

 そこは間宮に申し訳無いと思いつつも策がそこにあるなら食い破り不退転!!と気合いを入れてガルルルルル~と唸った。

 

 玄一郎の腹はすでに、重婚上等御意見無用、間怠っこしい事無し一切合切全部抱えてド派手にぶちかましてやらぁっ!!ただし、金剛、テメェだけは影のフィクサーな位置から表に引きずり出して、正面から求婚してやらぁ!!な感じで煮詰まっていた。

 

「だーっはっはっはっ、どわーっはっはっは!!」

 

 ヤケクソ気味に笑い、ガニ股大股、ところで全員で何股?な感じで貴賓食堂へと向かう、ダイナマン好きのアンダーテイカーのファンの変態自爆墓穴堀り人、腹マイト抱えて人生の墓場に肩まで使って導火線着火アウトなアホであった。

 

 どう転んでも、大大大爆発ぅどわ~っ、である。

 つまり、救いようは、無い。(ポクポク、チーン)。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夜。

 

 貴賓食堂につけば、その上品な煉瓦の建物に瓦斯灯を模したランプに光が灯り、独特の雰囲気を醸し出していた。

 

 貴賓食堂の玄関が開いており、奥に続く廊下には赤く鮮やかな絨毯が敷かれていた。

 

 その前に待つ婦人が一人。

 

 上品なベージュのドレスに身を包み、手に肘まであるシルクの長手袋、黒い髪を細く三つ編みにしてて横に結い上げて真珠をあしらった銀のバレッタで留め、その顔(かんばせ)に薄く化粧を施した、美しくも貴賓のある女性。

 

 玄一郎は一瞬、はて?と思うも自分を待つ者と言えば長門にほかならず、己の部下である。見間違う筈もなく、いつもと違う美しさに只々見とれてしまった。 

 

 確かに長門は美人である。そこは玄一郎も異は唱えないし良く知っている。しかし普段の武人としての長門を近くで見てきた故の、この驚きである。

 

「くっ、やられた……」

 

 思わず玄一郎は声を漏らした。

 

 相手は仕留める気満々ではないか。

 

「ふふ、提督何がやられたのだ?」

 

 にっ、と笑って言う辺り長門は解っていてやっているのだと玄一郎は確信する。

 

 口調はいつも通りのお堅いものではあるが、妙に声に艶がある。ルージュを引いた唇は艶やかに弧を描き、その目のアイシャドゥも長門の瞳を引き立てていた。

 

「提督よ、見とれてくれるのは嬉しいが、エスコートしてくれないか?やはり淑女としては男性から動いて貰わねばな?」

 

 玄一郎は長門の方に進み、肘を軽く曲げて差し出した。

 

「ああ、では行こうか?」

 

 長門は玄一郎の腕を取り、そして二人は貴賓食堂へと進んで行った。

 

 食堂の両開きのドアの前、その左右にはメイド服を来た天龍と龍田が控えていた。

 

「「いらっしゃいませ、黒田准将、長門様」」

 

 通常、貴賓食堂での演習の出迎えは行儀見習いの艦娘、もしくは任務の開いている駆逐艦の子達が行うことになっている。それが何故この辻斬り天龍姉妹になるのだ。

 

「……やられた」

 

「お待ちしておりました。黒田准将、長門様。本日はパラオ泊地、間宮貴賓食堂にお越しになり誠にありがとうございます」

 

「ふふっ、当パラオ泊地の間宮の他では味わえぬ格別のおもてなし、どうぞ最後までご堪能していただけるよう……」

 

「……腹を括って楽しませてもらうよ」

 

「では、お二人様、どうぞ」

 

 にぃぃぃっ、と笑う殺人メイド二人に案内され、玄一郎はもう逃げ場なんぞこれっぽっちも無いことを再確認し、腹を括った。いや、すでに腹は括っている。

 

 毒を食らわば皿までというが、毒などありようがない。あるのは花のみ。

 

 だが、玄一郎が最初に積む花はすでに決まっている。

 

 策士は必ず顔を見せるはずだ。金剛は必ず現れる。いつも最後の仕上げは自分でやる奴だ。

 

 玄一郎の一矢はそこで放たれる。

 

 胸に秘めし一矢、鋭く有りて目にもの見せん。ただのケッコンカッコカリと言う無かれ。提督の提督たる提督の意地、我にあり。

 

 玄一郎の表情はポーカーフェイスに軽く笑みが乗っていた。いつもの飄々としたアホ顔である。

 

 だが、向かい側に座る長門はにっこりと笑った。

 

 我が策、すでに成れり!

 

 そう、後はただ、提督と食事を楽しむだけで、最後は金剛が放たれる矢の弦を自らはじくだろう。そして、重婚多重奏曲のフィナーレの鐘が鳴る。

 

 友に報い、戦友に報い、全てのパラオの戦乙女の戦いに幸あれ!!あと自分にも!!

 

 カウントは、始まっていた。

 

 





 逃れられぬ艦娘達の包囲網。

 やられた。いやまだだ、まだ終わらんよ。

 虚しくアホの心に響く叫び声。

 嘘だ!

 墓穴は広げるものだと地獄が笑う。

 次回、ボトム……げふんげふん。

 次回、シュート・ザ・ダイヤクイーンでまたあおう!(?)

 


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重婚多重奏曲~中奏、メイン前。

さて、メインテーマにさしかかるまえ。

主人公のゴッドゴーガン発射秒読み。




 間宮と伊良湖が挨拶に来て一礼をした。

 

 いつものエプロンではなく、シェフの正装、調理着とシェフ帽を被っている。玄一郎も始めて見る姿である。

 

 その眼差しはまっすぐに、そして真摯に、誠実に玄一郎に向けられていた。

 

「当パラオ泊地貴賓食堂にようこそおいでくださいました。黒田准将、心より御礼を申し上げます。本日のメインシェフを勤めさせていただきます、間宮でございます。こちらはサブシェフの伊良湖でございます」

 

「パラオ泊地貴賓食堂へようこそ。こちらが本日のメニューとなっております」

 

 伊良湖は恭しく、失礼いたしますと言い、透かし模様の入ったメニューの紙をメニュー立てに四つ差して行く。

 

 はて?と玄一郎は不思議に思う。何故に四つなのか?と。長門、玄一郎で二人である。ならば隣の席に立てられたメニュー表は何なのか。

 

 すると、食堂入り口の扉が開き、女性が二人入って来た。一人は赤いドレス、もう一人は白いドレスを着ている。赤いドレスは大和、白いドレスは金剛であった。

 

 ニッ、と不敵に笑い、

 

「遅刻とは淑女にあるまじき、だぞ」

 

 と言った。

 

「申し訳ありません」

 

 大和は苦笑してそう言い、金剛は悪びれた感じもなく、

 

「真打ちは、最後にやって来るものデース!」

 

 と言った。

 

 玄一郎は仕方ないなぁ、と何でも無いような顔をして苦笑しつつ「確かにフルコースディナー券は四名までだからな。有効に使わねばもったいない、か」と言った。

 

 だが、内心玄一郎はほくそ笑んでいた。ようやく、舞台に上がって来やがったか、金剛、と。

 

 金剛が来るのはわかっていたが、しかしどのようなタイミングで来るかなど解らなかった。しかし、これでチェスの差し手は目の前に。そして後は金剛の作った流れに沿って、時を待てばいい。

 

「長門、他にも来るとは思わなかったぞ」

 

「なに、たまには良かろう?同じ釜の飯を食うの例え、だが提督だけは今までそれが叶わなかったのだ。間宮もずっとそれを気にしていた。我々も、だ」

 

 貴婦人の如く着飾ってもやはり長門は武人なのだなぁ、言うことがいかにも長門らしい。

 

 玄一郎は間宮の方を見た。貴賓への接待を想定した演習なので間宮からは何も言えないが、その顔は微笑んでおり、心なしか嬉しそうに見える。

 

「こう見えて本当はみんなを羨ましいと思ってたんだ。食事に関しては特に。間宮は美味い、間宮のこれが最高、とみんなが言うのを聞くともう妬ましくさえあった」

 

 間宮に向かって少しおどけたように言うと、

 

「ありがとうございます。本日は腕に寄りをかけて、御用意させていただきます」

 

 間宮は声を弾ませてそう言い、伊良湖と厨房の方へと下がって言った。それと同時に食前酒のカートを押していかにもソムリエといった姿の隼鷹がやってきた。いつものハネハネな髪型はきちんと纏められ、髪も後ろで括っている。

 

 いつもの酔っ払いな姿ではなく、キチンとした態度と仕草で食前酒をテーブルに置いていく。

 

「こちら、本日の食前酒となっております」

 

「ウム、ありがとう」

 

 玄一郎は吹き出しそうになった。確かに酒を扱わせれば隼鷹は適任だろう。だが、いつものヒャッハーな姿や酔っ払った姿、二日酔いの少しみっともない姿を知るが故に、やはり笑いがこみ上げて来そうになる。

 

 すると突然隼鷹が小声で、玄一郎にしか聞こえないように「……ヒャッハー」。

 

「ぶはっ?!」

 

 やはり隼鷹は隼鷹であった。

 

(くっ、減点をものともせず、まさか笑いを取りに来るとは)

 

 予想外であった。

 

 食前酒を口に含む前で良かったと思いつつ、その笑いを取りに来る精神に免じて減点無し、と心の中で思う。

 

 しかし油断ならねぇなぁ、と食前酒に口をつける。

 

 桜の花の入ったシャンパンは軽く酸味があり、確かに食欲を増させる為の食前酒として最適なものだと思った。

 

 さて、食は食、ここからはパラオ泊地のフルコースディナーの中身について説明しよう。なお、くどいのは玄一郎のコメントです。

 

 前菜

 

 パラオ風サカナのラタトゥイユのトマトソース

 

 野菜がふんだんに使われたラタトゥイユである。肉の代わりにパラオで取れた魚が使われており、さらにトマトソースには凝縮されたトマトの旨味と爽やかな酸味が爽やかでうまい。なお、パラオでは魚はサカナと言い、これは日本統治下にあった時の影響である。

 

 

 サラダ~パラオ間宮風ソースかけ

 

 彩りのよいサラダである。青菜、パプリカ、サニーレタス等の普通にサラダと思えば、ソースがとんでもなく美味い。いや、味は濃く無いのに旨味と酸味が程よく、次に出る料理の邪魔をしないバランスが計算されている。しかも野菜の旨味というものをここまで出すか?!という味である。おそらく、サラダに使う野菜から旨味を抽出したスープをソースに混ぜているのだろう。さすが間宮、一見何の変哲もないサラダをここまでの料理に仕上げるか……!と玄一郎は唸る。

 

 

 スープ~ベルダックル風魚介スープ~

 

 ベルダックル、というのはパラオの料理である。元々はサカナや鶏肉を柑橘系の若い葉を入れて煮込んだ汁物であるが、間宮のものはそれにアレンジを加えていると見える。スープに螺旋を描く茶色いソースは一見味噌に見えるが、それはやはりパラオでよく使われるワスと呼ばれる魚の骨を煮込んだ物で、少しクセはあるが魚の旨味を凝縮したものである。間宮が手ずから作り出したものであるのは間違いなく、和の技法も加えられているのか、昆布の旨味もある。これは確かにパラオ泊地でしか味わえぬ料理である。

 

 

 陸カニのウカエブ風蒸し物

 

 パラオ名物とも言える、ウカエブをアレンジした蒸し物である。ウカエブは大きな陸カニの身を甲羅に詰めてココナッツミルクをかけて蒸す料理であるが、間宮のこの蒸し物は、それを洗練させた物なのだろう。ハーブ?いや香辛料?わからん。わからんが、うまい。しかも懐かしき柚子の香りもする。ぐぬぉぉぉ、間宮、なんつう、なんつうもんを出してくれるんや……。

 

 

 ワイン~ピノ・ノワール~

 

 軽い飲み口だが、酸味がある。ウカエブ風蒸し物の後味を消しすために隼鷹が笑いながら、というよりもニヤケながら出してきたワインである。

 

 ラベルに和風の絵柄で金剛の姿が書かれてあり、ワインの名前も金剛・ピノ・ノワールとある。なお、ピノ・ノワールは葡萄の品種である。

 

 酒造メーカーは菅原ワイナリー。かつての海軍重鎮、菅原大将が退職後に起こしたワイン醸造所のものであり、そのワインは別名大将ワインと呼ばれて海軍軍人や艦娘達に親しまれている。

 

 菅原ワイナリーはかつての部下であった艦娘達の名前をワインに名付けて販売しているが、味と艦娘の性格が非常によく合っていると言われる。が、料理のうまさに気を取られて忘れていた目的を玄一郎に思い起こさせるという、なんというかかなり計算された(誰にとは言わない)演出であった。なお、金剛はかなり驚いていた。

 

 

 間宮風ローストビーフ

 

 肉のメインである。赤ワインの金剛・ピノ・ノワールと非常に合うこのローストビーフはソースがワインと山山葵であり、かすかに梅の風味も加えられてともすればコッテリ感のある肉料理にさっぱり感を与えていた。

 

 シンプルに味付けされているこれは、これ単品ならばおそらくはもの足りまい。しかし。先ほどのウカエブ風の陸カニの蒸し物のこってりした味の後に出るこのフルコースならではの技。これがもし、肉厚のこってりとしたステーキならば、このコース料理は失敗とは言わないが、損なわれていただろう。

 

 カニで重厚感を与え、肉でさっぱりとさせるこの間宮マジックとも言うべきこの妙。フルコース料理はどうしても最後の方で腹がもたついてしまう。だが、さすが間宮、間違いがないメニュー構成である。

 

 どれもがシンプルだが深い。うまいとしか言葉に表せぬ。和、フレンチ、イタリアン、そしてパラオの郷土料理を合わせて混然と一体化させ、まるで一つの物語の如く、音楽の如くに流れるように出してくる。

 

 このパラオでしか食べられない、パラオの間宮にしか作り出せないスペシャリテとレシピの数々。

 

 食わねばわからぬ。食えばわかる。

 

「……間宮さん、流石だ」

 

 ここまで無口だった玄一郎がようやく口を開いた。

 

「多聞丸なら足りないとかいいそうですけどね?」

 

 大和が笑う。これはかつて戦艦だった大和で山口多聞が大和自慢のフランス料理のフルコースを平らげて「美味いが量が少ねぇ」と苦言を呈した事を言っているのだ。

 

「俺はうまいもん食うと無口になるんだ……。耳より味覚が働くからな」

 

 おそらく食べる事に集中しすぎて何も言わなくなった玄一郎に大和は少々心配になって軽口を言うことで和ませようとしたのだろう。玄一郎もそれが解るが故に軽口で返した。

 

「口と腹が幸せだ」

 

 実際、感動で涙すらうっすらと浮かべる。

 

 機械の身体の時は戦闘をする以外に生きている実感が得られない自分を自覚していたのだ。だが、それゆえに艦娘達には良いものを自分の代わりに食べてほしいと思っていた。愛すべき仲間であり部下、未だ戦時のこの時代に、ひもじい思いをさせてなるものかと。

 

 自らで食う、間宮の料理。食えるようになった。相棒のおかげで肉体を得て、味わえるようになった。

 

 そして、部下達の気持ちも有り難く、涙も出ようものである。

 

 一瞬、金剛に一矢報いるとか止めよっかな?とかも思う。よし、めんどいから止めよう、うん。このまま何もなく終わるだろ、とタカを括りたかった。

 

 だが、そうはなるまい事はよくわかっていた。

 

 そしてデザートディッシュが来た。

 

 梨の飾り切りと葡萄とトマトのソルベ。

 

 梨のややザラザラした食感が舌についた今までの料理の味覚を取り、葡萄の爽やかな酸味とやや甘くしたフルーツトマトを合わせたソルベの味が口の中を洗うかのように、溶けていく。上に乗せられたミントの葉も計算されているのだろう。爽やかさが増してこれまたいい感じである。

 

 そして、ラストの紅茶とプチフールが来た。

 

 プチフールは腹を落ち着かせる小さな甘味である。

 

 紅茶は金剛が好きなウバの葉の香りが広がる。金剛と言えばダージリンを浮かべる人も多いだろうが、パラオの金剛はウバも非常に好む。この香味と茶に浮かぶゴールデンリング。これが非常に良いのだと言う。

 

 金剛を見れば、紅茶の香りを目を閉じて楽しみ、微笑んでいた。口に紅茶を含み、ん~っ、と味にご満悦である。

 

 おかしい。この場で金剛が動かないとは。

 

 玄一郎は少し訝しんだ。

 

 料理を運んできたのは、天龍と龍田。刀も薙刀も持ってはいないとはいえこの二人を駆り出したのはおそらく逃亡防止の為であることは明白。

 

 長門も静かに淑女然としているが、なんらかの動きを見せる兆候も無い。

 

 大和はにこやかであり、何も腹に持っていないかのようだ。

 

 やはりこれは単なる食事会的なノリなのか。

 

 いいや、否。絶対に否、である。

 

 食事の際、間宮の領域で騒ぎを起こしてはならない。これは海軍の掟よりも艦娘達にとって守らねばならぬ重い暗黙の了解である。何故ならば、間宮から出入り禁止を喰らったものの末路は悲惨だからである。

 

 金剛の妹である比叡は未だに出禁を解除されていない。つまりは間宮の飯を食えない、間宮のおやつもアイスも食えないのである。確かにテイクアウトは出来る。だが、自分では買って食えないこの寂しさはかなり堪える。何しろ間宮の料理の代わりになる、最高のものなど皆無なのだから。

 

 まぁ、裏を返せばそれだけ比叡カレー事件が起こした衝撃は大きかったとも言えるわけなのだが。

 

 と、長門が動いた。

 

 来るか、と玄一郎は思うも、平然とプチフールのチョコレートケーキを頬張る。

 

(この甘さ控えめのほろ苦さよ。なんというバランス、なんという……)

 

「料理長を読んでほしい」

 

 天龍にそう言い、長門はニヤリと笑った。

 

 なるほど、やはり金剛達は間宮推しか、と玄一郎は彼女達の思惑を察した。

 

 そう、他の艦娘達をまず納得させて鎮圧出来る有力者と言えば間宮に他ならぬ。先ほども上げたが、全ての艦娘達は間宮に胃袋を掴まれ、捕らわれているのだ。

 

 如何に戦力を持つ戦艦級と言えど、抑えられるのは数隻の艦娘のみ。だが間宮ならば全艦を抑えて御せるのだ。

 

 如何にも金剛の考える方策であった。

 

 金剛を見れば涼しい顔で紅茶を飲んでいる。その顔には良い紅茶を飲めて幸せデース、という感もある。

 

(なら、てめぇはどうなんだよ!)

 

 と玄一郎はポーカーフェイスの裏側でイラつき思う。

 

 あの、金剛姉妹のネグリジェ姿。ネグリジェ着てるけど、見えちゃって透けちゃってもう、裸よりセクシーじゃないですか、やだー、いや嫌じゃないけど!!

 

 な、姿を見てから、玄一郎はなんかモヤモヤしていたのだ。

 

 当たり前である。

 

 冗談やノリだけであんな真似をする女はいない。金剛達の胸の内は如何に?と思うも金剛は飄々としている。まだ比叡や榛名、霧島はわかりやすい。だが金剛は全く態度に表さない。

 

 玄一郎のこのイラつきは、本人も気づいてはいないが、ある種の恋に似た思いによる。

 

 仲の良い女の親友や職場の女性など、気安く付き合える女性が思わせぶりな事をしてきて急に『女』と言うのを意識した恋愛経験皆無な男の心境と同様なのである。

 

 あと、おっぱい。以外とむっちり系だったおっぱい。あれを見て気にならない奴はいない。いや、本当。

 

(……金剛はエロい。間違いない)

 

 いや、何か方向が変わっている。

 

 エロ云々さておき。

 

 さんざん裏でいろいろと助けてくれていた女が見せたあのおっぱ……もとい、あの姿が、本心をあらわしているならば。お前の本心をさらけださせてやる!!

 

 それが冗談だとしても、吠え面かかせてやる!!

 

 戦略云々以前に、気持ちだと思う玄一郎。最後の一矢報いるドンデン返し、この身はすでに覚悟完了。

 

 玄一郎は心の中で必中の意志を固めた。

 




 ベルダックル、ウカエブ食いたい。めちゃうまいです。

 それを洗練させてフルコースに取り込んだ間宮の料理を想像しますと、めちゃうまそうだから困る。

パラオは日本に影響されていると言われますが、もうね、炊飯器が普通にある所なんですよね。パラオって。

しかもビール飲むのを向こうでは「ツカレナオース」「イッショニ、ツカレナオース」だと「飲みに行きませんか」となるという。

 しかも正月には小豆のお汁粉が餅入りで出てくる。

 良いとこですよ?パラオ。

 次回、金剛さんの金剛山は大きい連山でまたあおう!(嘘です)。


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重婚多重奏曲~ヒット・ザ・ダイヤクイーン~


 さて。金剛さん婚約。

 提督散財。

 ゲシュペンストさん何でも作れるなー。


 うまいものを食べると幸せオーラが出ちゃうよね。そして好物の紅茶までも最高の茶葉だったらもう言うこともないよね?ははははは、笑顔が眩しいねぇ、金剛さんよぉ。

 

 玄一郎は紅茶を啜り「あ、うまい」と思う。

 

 生前、つまり肉体を持っていた頃、玄一郎はコーヒー党だった。しかしこの紅茶はうまいと思うのだ。たまに飲むのは悪くはない。

 

 そう考えてやたらと金剛が気になる。

 

 勢いだけでなんか一心報いるとか考えていたが、ぐぬっ、とその勢いが止まりそうになっていた。

 

 うーむ、と紅茶のカップを眺める。

 

 重婚なんぞしてたまるか、という反抗心。裏で動いていた金剛達に対する叛逆心。

 

 とはいえ、パラオ泊地の治安維持の観点を考えれば艦娘達の暴走というのは非常に厄介なのだ。

 

 たしかに一連のテロ事件は収まった。

 

 発端はアメリカにいる転移者達とその転移者達と連んでいるアメリカ軍の高官達が起こした『ゴーストシップ計画』が発端だったのだが、そのゴーストシップ計画がとんでもない失敗であったのと日本政府の圧力によってそれらの動きはとりあえず終息し、さらにはその『ゴーストシップ計画』の次の段階、強力な同盟深海五大艦を捕らえてその体細胞から新たな『ゴーストシップ』を生み出す計画を阻止しようとしていた『ムサシ一派』がさらに同盟艦入りした事によって厳戒態勢は解かれたわけであるが。

 

 だが、全ての危機は去ったわけではない。

 

 故に金剛達が危惧するのもわかる。

 

 確かに平和な時であればどんちゃん騒ぎも良かろう。前に夕張が言ったように『祭』と称せるだろう。とはいえ追い回されるのは御免だとは思うが。

 

 然るに。

 

 安定をもたらす為には重婚カッコカリしかないのも理解出来るのだ。したくないけど仕方無い。

 

 別に玄一郎はハーレムを作りたいわけでもなければ大勢の艦娘達を侍らせたいわけでもない。

  

 そもそも、扶桑姉妹と出会わなければ、こんな事にはなってはいない。パラオでとっつかまって鹵獲兵器としてこき使われる事も無ければ提督なんぞしてはいないのだ。

 

 とはいえ発端はそれでも、同僚として知り合った艦娘達、助けた艦娘達、他の所から転属したり、ここで建造した艦娘達、さまざまな艦娘達が部下となり、扶桑姉妹のみならず彼女達が平和に暮らせる場所に、とやってきた。

 

 みんな抱えてきたのは同様だ。今まで通りと考えればいい。毒を喰らわば皿までとも言う。

 

 だが、しかし。やはり気になるのだ。

 

 金剛、お前はどうなんだよ、と。

 

 あの艦娘達から追っかけられて逃げ回って部屋に帰って来た俺を出迎えた、スケスケなネグリジェ姿のおぱーいを思い出す。むっちむち。形のいいおぱーい。何故今の俺には録画機能が備わって無いのだ、と思った。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬ。

 

 いや、そういう事じゃない。そういう事じゃないんだ。そう、金剛のおぱーいの先っちょは……ってそうでもない。

 

 そこまでして、なんで一歩引いて自分じゃなくて他の奴を推すんだよ。つか、そこは違うだろ、と玄一郎はそう思って少しイラつく。

 

 なんであんたは自分の気持ちを言葉で言ってくれねーんだよ、というのが実際の玄一郎の気持ちだった。

 

 間宮が天龍に連れられて来た。

 

 ああ、そうだな。間宮は心を伝えてくれたよなぁ。いや、長門も大和も、過激だったが天龍も龍田もそうだった。

 

 長門が何かしらを間宮に伝えていた。

 

「大変、結構な味だった。非常に堪能させていただいた」

 

 ああ、うまかった。確かにうまかったが、ただこのままでは後味が悪い。

 

 玄一郎は長門の言葉の後に続いて間宮に言った。

 

「うまかった。それ以外に何も言えないほどにうまかった。身体を持つというのがどれだけ幸せな事かを実感する料理だった」

 

 本音である。料理の評論家のようなボキャブラリーも無ければグルメというわけでもない。味覚は鋭いが、それ以上でもそれ以下でもない。食べることが好きなだけの学生だった男なのだ。だが、間宮の料理のどれもが間宮の食にかける思いや食べる者への気遣い、様々な想いが込められている事がありありとわかった。

 

「本来ならプロポーズしたいところだが、だが片付けねばならない案件もある。軽蔑されても愛想尽かされても仕方はないかもしれないが……。ああ、天龍も龍田も、頼むからここにいてくれないか?その案件を今、片付けようと思うんだ。すぐに済むかどうかは……」

 

 玄一郎はすっと席から立ち上がる。

 

 武術であるならば消える動き、見えない動きというものに相当する動作だ。これには長門もとっさに追えまい。玄一郎としては金剛の不意をつければ良いだけなのだが。

 

 そして金剛の座る席のすぐ隣に片膝立てて座り込む。

 

 海軍制服の胸ポケットに手を入れて今朝からゲシュペンストに頼んで作ってもらっていた指輪の箱を取り出す。

 

「金剛次第、なんだ」

 

「フェェェッ?!ホワット?!」

 

 急にすぐ側に現れた玄一郎に驚く金剛。玄一郎の一矢報いる矢は放たれた。

 

 指輪の箱の蓋を開けて、金剛に差し出す。

 

 ケッコンカッコカリの指輪ではない。婚約指輪である。材質はプラチナ、デザインは亀甲金剛紋を彫り込み、真ん中に金剛石、つまりダイヤをあしらったものである。

 

「……金剛、あんたと会ったのはパラオ泊地で俺が鹵獲された時からだったな。あんたは土方から俺の指導教官を任された。忘れないぞ。この俺を実弾の的にしてバカスカと全艦総出で砲弾ぶち込んだのを。鳳翔さんと一緒になって、飛行訓練1日三時間を計八回やらせて完徹でさらに三回追加しやがったのも」

 

 恨み節炸裂である。ムサシ以外にゲシュペンストを大破させた存在と言えば、金剛と鳳翔の二人、である。

 

 実弾訓練で要するに長門がソースケにやったような演習を散々させたのがこの金剛と鳳翔だったのである。

 

 まだ長門のペイント弾による訓練は優しかった、という。

 

「だが、提督になってからは紅茶楽隠居とか言っていたがパラオ方面海域攻略ではあんたがどれだけ頼もしかったか。艦娘達との間に入っていろいろ動いてくれて、どれだけ助かったか。俺は知っている。ずっと一歩引いた場所で俺を見ていてくれたのも知っている。全部だ」

 

 ずいっ、と玄一郎は指輪をさらに圧すようにぐいっ、と差し出し、

 

「あんたがいたから今の俺がある。今日の今だけでいい。一歩引いた所じゃなくてここで答えてくれ。俺はあんたを嫁に欲しい。返答は如何に?!」

 

「え、ええ、エエエーッ、その、あの、テートク?!」

 

 おろおろしながら、助けを求めるように間宮や長門、大和、天龍や龍田、隼鷹を見る。だが、周りの仲間達はニヤニヤニヤニヤと笑っていた。

 

 間宮はイケイケゴーゴーとはしゃいでいるし、長門はうんうんと頷き、大和はなにやら貰い泣きしているし、天龍は親指を立ててぐっとしているし、龍田はぎゅっとしたな?な格好をしているし、隼鷹など伊良湖からクリュグの瓶を受け取っていたりする。その魂胆は金剛にもわかった。つまり、了承したら栓を抜くからとっとと指輪を受け取れ、と言っているのだ。

 

 しかし、この流れで、一番『え?なんで?あれ?みんな何でそんなノリなの?!』と焦っているのは玄一郎であった。おそらくは金剛の計略に乗ってここにいる艦娘達は間宮を推していたはずなのだ。計略を潰されて怒ると思っていたのに何故にこのノリなのだ?!

 

 金剛は、ふぅ、と息を吐くと言った。

 

「策士、策に溺れるとはこのコトネー。長門、やってくれたネー?」

 

「ふふふ、何のことだ?私は何もしていない。金剛の策通りに動いていたが、まさかこんなハプニングに見回れるとは、なぁ?」

 

「ええ、本当ですね。まさか金剛が先にプロポーズされるとは思ってませんでした」

 

 間宮が口を手で隠しつつにこにこ。

 

「……えーと、なんで?」

 

 玄一郎は訳が分からず言う。というか玄一郎としては金剛の策通りに行くのがなんか腹立つから一矢報いる為に、自分の中だけで計画していたのだ。誰にもバラさず長門達にも何も言ってはいない。

 

「提督はプロポーズに集中してください」

 

 大和にぴしゃりと言われた。

 

「そうそう、次はアタシ等だぜ?忘れんなよ?」

 

「うふふっ、わぁっ♪」

 

 くっ、金剛はわかっているようだから後で聞こう。

 

「……お受け致します、テートク」

 

 金剛はシルクの手袋を取って左手を差し出した。

 

「テートクの手で、はめてクダサーイ」

 

「う、うむ」

 

 玄一郎は金剛の薬指に婚約指輪をはめた。それこそ計ったかのように指輪はピッタリと金剛の指にはまった。

 

「殿方がいつまでもレディの前に跪いてるのはノーなんだからネッ?」

 

 金剛はそう言い、玄一郎の手を取って立たせた。

 

 そして、金剛は金剛の代名詞たるあのセリフ、そう

 

「テートクぅ、バーニングラアァブ!!」

 

 嬉し涙混じりに、玄一郎に飛びつき、バーニングラヴをかましたのだった。

 

「うぉっ?!」

 

 金剛のバーニングラヴはかなりの勢いがあるが、だがそこは強化人間である。玄一郎はしっかりと受け止めた。

 

 ぽん!ポポポポン!!

 

 そこへ、周りの艦娘達からのシャンパンシャワーが鳴らされた。

 

「ちょまっ?!それ貴賓食堂の地下ワインセラーのクリュグじゃねーかっ!!一本十数万……?!」

 

 クリュグが合計ひいふうみぃ、八本。全部で約八十万円。

 

「なお、フルコースディナー券では落とせませんので、提督持ち、ですわね?」

 

 間宮が無情にもそう言い放った。

 

「ひえぇぇぇぇぇっ?!」

 

「あ、テートクぅ妹達の分も指輪、ブリーズデース!」

 

 首にしがみついたまま、金剛はそう言った。

 

 かくして、玄一郎の金剛に一矢報いるぞ計画『ゴッドゴーガン・ラーイ!作戦』(そんな名前つけてたっけ?)は達成されたが、どこからバレたのか?あと何でそんなに散財せにゃならんのか?もう計画とかやらん方が財布には優しかった事は確かなのだが、やっちまったものは仕方ねーよなぁ。

 

 頑張れ!提督、負けるなゲシュペンスト!まだまだこの重婚多重奏はメインに差し掛かったばかりなのた!!

 

 あと、変な策は立てない方が何かと財布には優しいぞ?!

 

 





 短いですが、ようやく、金剛さんのバーニングラヴが出せました。なお、ケッコンカッコカリ指輪ではなく、ゲシュペンストさん作のプラチナオリジナル婚約指輪です。

 クリュグ八本。せめてドンペリにして(実勢価格一万ちょい)。

 次回、足柄さん推しは誰かやって、でまたあおう!(嘘)


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重婚多重奏曲~プラチナ・サウンド~

ぬいぬい、提督の提督を見る。

指輪のプラチナとダイヤの出所は……。

足柄ねぇさんの指輪は最後に出る。


 貴賓食堂のクリュグを合計八本消費し、某エキスプレスなブラックカードまで使って支払い、経費で落としたがる昔の官僚とかそういう連中の気持ちが少しわかった玄一郎であったが、わかっても男の意地である。不正イク無い、どーんと払いのどっとはらいなリボ払いである。

 

 テロ事件などでのゲシュペンスト緊急出撃のボーナスが入るのだ、何のこれしきオギノシキ、結婚式は玉姫殿とヤケクソ気味に思いつつ自室に戻った。執務室にゲシュペンストは居ない。現在、頼もしき相棒は工廠裏の倉庫で夜なべで婚約指輪の削りだし作業をしているはずだ。

 

 玄一郎は少し仮眠をとったら後で相棒のところへいこうと誰も居ないベッドにぶっ倒れるように寝転がった。

 

 なお、扶桑姉妹やムサシ、雷のレ級達は土方達とオールナイトカラオケだとスマホに連絡があった。鉄板焼き屋RJの常連の妙高型四姉妹や途中で会った高雄と愛宕、川内、神通もそれに加わったようだ。

 

 その人数で入れるカラオケボックスなど無いので、鉄板焼き屋RJの通信カラオケで盛り上がっているのだろう。

 

 まぁ、それはともかくとして、これからどうすっかねぇ、などと考えつつ目覚ましのアラームを四時に合わせて玄一郎は仮眠についた。

 

 

 

 ふと目が覚めて、夜中の三時。

 

 もそもそとベッドに入ってくる何者かの気配。ああ、これは扶桑姉妹かムサシか誰かなのだろうなぁ、と思ったのだが、それが自分の腹の上に乗ってきていつもの重さではないことに違和感を覚えて目を覚ました。

 

 どう考えても扶桑姉妹の体重ではない。もっと言うとムサシのあの圧倒的な乳の圧もない。

 

 軽い。軽いのが、のっしのっしと上がってくる。

 

「ぬい、ぬい、ぬい、ぬい」

 

 と言いつつ、くんかくんかすりすりうりゅんうりゅん。

 

 これ、あかん奴や(自室に来る艦娘的に)。

 

 玄一郎は目を開けて不知火の襟首掴んで起き上がり、子猫を釣り上げるようにひょいっと持ち上げた。

 

「不知火。何をしている?」

 

「ぬいっ?」

 

 ぶらーんと釣り下げられながら鳴く不知火。まるで猫である。

 

「……テイトクニウムが足りなくて眠れぬいの、兄さん、ぬいぬい」

 

「誰が兄さんだ誰が。つかそんな謎の物質俺からはでないぞ」

 

「フェロモン的?」

 

「出てるかも知らんが、つか勝手に忍び込んで来るな」

 

「そんな、私達兄妹じゃ無いですか兄さん、水臭い」

 

「いや、兄妹じゃないし?」

 

「生き別れの兄さんと告白してくれたあの優しい兄さんはどこへ行ったのでしょう。ああ、兄さん」

 

 不知火はぶら下げている玄一郎の手を振りほどいて再び抱きつき、すりすりうりゅんうりゅん。

 

 どうも不知火は兄妹ネタがお気に入りなようである。とはいえ、言っている不知火本人も玄一郎を兄とは思ってはいない。まぁ、憧れのようなものはあるのかも知れないが。

 

「だからすりすりすんなっつーの」

 

「テイトクニウム補給です、テイトクニウム補給。はっ?!ここから高レベルのテイトクニウム反応がっ!?」

 

 うりうりすりすりしつつ寝間着代わりに着ている作務衣の紐をするりとほどいて股間にくんかくんかすりすり。

 

「ぬいぬいぬいぬい!」

 

 顔を股間にうずめてうりうり!頬摺りすりすり!

 

「やめんかっ!」

 

 ゴチン!玄一郎は不知火の頭に拳骨を降らせた。

 

「あうっ?!」

 

 頭を抑える不知火。『ぬいっ?!』と言わない辺り、それが演技で作ったものと解る。これが夕立ならば『ぽいっ?!』と鳴くだろう。夕立はそれが素なのだが不知火はワザとだ。もっとも、夕立は人の股間の匂いなどかがないし頬ずりしたりしないだろうが。

 

……やらないよね?←若干不安。

 

「ええい、ゲシュペンストは……って、工廠の倉庫だったな。あー不知火、お前、明日も哨戒任務あるん……いや、休みだったか。まぁ、俺はちょっと工廠に行くから部屋に帰れ?」

 

「兄さん、イク時は一緒です!」

 

 ひしっ、とズボンにすがりついてやはり股間にうりうり。

 

「うーわぁぁぁっ?!つか脱がせようとすんな?!」

 

「せめて脱ぎたてパンツの一枚たりとも……っ!」

 

 ズボンをつかんでぐいいいいいっと摺下げようと引っ張りつつ。

 

「だーっ!変態かっ?!」

 

 ゴチン!二度目の鉄拳である。

 

「あうっ!」

 

「ええい、やめんか!つか、昔のおまえはそんな性格じゃなかったのに、なんでこうなったよ?!昔はもっとこう、ストイックで『不知火に何か落ち度でも?』とか言ってガンつけてたじゃねぇか」

 

「主に土方中将が悪い、きっぱり!」

 

 そうなのである。この不知火は土方が前のパラオ泊地の提督だった時代に建造された艦娘の一人であり、土方の能力の影響をかなり受けている艦娘なのである。(なお、不知火が建造された時にはゲシュペンストはすでにパラオにいた。)

 

 土方の能力は艦娘に対して『介入』する能力であり、この『介入』という能力は主に艦娘の精神に作用する。

 

 この『介入』は主に艦娘の制約と呼ばれる所属する基地等の司令官とその艦娘との『制約』と呼ばれる『司令権』を一方的に破棄させたり、力や練度の低い艦娘であれば強制的に自分の支配下に置くことも可能な能力である。ただ、土方はそちら方面の能力を積極的には使いたがらないのだが、本人が気を抜いたり、暴走したときにやたらと垂れ流してしまう事がある。

 

『好意の介入』と本人は言っているが、それは土方の『変態化波動』と言ってもいいものであった。

 

 それにやられると抵抗力の低い艦娘はかなりの影響を受けてしまうのである。

 

 この変態化波動をモロに受けた艦娘の一人がこの不知火であり、土方が提督だった時代に建造されたパラオ泊地の艦娘は一様に何らかの影響を受けている。

 

 つまり、陽炎型は土方時代にコンプリートされているため、全員がちょっと変なのである。

 

「……やっぱり、土方さん本国に帰ってくんねーかなー」

 

 艦娘達の被害や自分が被る被害を考えると、やはりそれを考える玄一郎であった。

 

 今まで緊急事態の連続でその問題は棚上げされ、忘れられていた。だが、厳戒態勢解除された今、再びそれが噴出して来そうであり、憂鬱になる。

 

 くんかくんかすりすり、くんかくんかすりすり、とやらかす不知火のこのフリーダムにして異常な行動。

 

 そう、物語の最初に、土方の影響云々と言っていた一例。それがこの不知火なのであった。

 

 古参の艦娘達は精神的な防御が出来ているので大丈夫です。

 

 ずぼっ。

 

「ごかいちょー」

 

 一瞬の隙を突かれ、パンツごとズボンが摺下ろされた。

 

「……兄さんの、大きい」

 

「……あっ」

 

 ぞうさんぽろり。

 

「くんくんくん。テイトクニウム臭すっごい」

 

「匂いを嗅ぐなぁぁぁぁっ!!」

 

 ごちん!!

 

「あうっ?!」

 

 本気の拳骨制裁、であった。なお、詳しく書けないので何があったのかは行間を読んで下さい(R-15的措置と手抜き。)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その後、暴走した不知火をシーツで簀巻きにし、駆逐艦寮の玄関に放り込んだ後、玄一郎はすたたたた、とナンバ走りにて軽やかに駆けて工廠裏の倉庫まで来ていた。

 

 そこではチュイーン、チュイーンと精密工作機が軽い音を立てて稼働しており、カチン、カチン、カチン、と金属の輪っかを量産していた。

 

「お疲れ、相棒。しかし大量生産だなぁ、マジで」

 

〔む?明日は休日とはいえ、寝て無くても良いのか?〕

 

「不知火に夜這いされてな。つかまた誰か来たら厄介だから部屋から逃げてきた。扶桑達は夜通しのカラオケだとよ。ま、厳戒態勢解除だから休みにしたけど、明日からの秘書艦誰だっけ?」

 

〔大和が秘書艦だ。また厳戒態勢解除につき秘書艦見習い過程でアイオワが入る〕

 

「ふむ、アイオワかよ。つかそこまでもう教練過程進んだのか?早すぎないか?」

 

〔……現在、アイオワの練度は89。山城と比叡、大和が仕込んだ。新造艦娘の中で最も練度が上がっている。ウォースパイトもガングートも共に練度86だ。三艦とも練度の上昇がとんでもない。有り得ない〕

 

「……どんなしごきしたらこんな短期間でこんな練度上がるんだよ。つか秘書見習い過程はだいたい初期の練度上げも兼ねてやるもんなのに、もうちょいでカンストじゃねぇかよ」

 

〔……む?何者かの反応がドア付近に一人。反応から夕張、か〕

 

「あん?ああ、んなとこで何覗いてんだ?夕張」

 

「んー?夜に提督ん部屋行ったら誰もいなかったから、当てがはずれたなーって仕方なく工廠来たら、こっちからカチャコンカチャコン音がしてたから何だろなーって」

 

(お前もかよ。つか部屋から逃げてきたのは正解だったな)

 

 玄一郎は少しうんざりしつつ、倉庫の天井を見上げた。

 

 夕張は倉庫の中に入って来て、リングを生産している機械を覗いた。

 

「うげっ、精密レーザー3D工作加工機?!これ一台で数千万円のやつじゃん?!」

 

〔……費用はかかっていない。一から組み上げたからな。これは本来は人型汎用戦闘ロボットの応急修理用パーツや武器のパーツを現場で即興で造る為の工作機だ〕

 

 なお、この世界の汎用工作機械はとは違い、このレーザー工作加工機は五軸加工ではなく、超小型テスラドライブでファンネルのように動き、軸にとらわれない加工を可能としている。

 

 つまり、この世界の水準を遥かに越えた加工機であり、数千万円ではすまない価値を持っている。

 

 そんな大それたものでゲシュペンストは婚約指輪なんぞを加工しているのである。これを工作機械の無駄使いと言うのか、それとも世界初の技術を使って素晴らしい婚約指輪を作っているというのか、どちらなのかはさておき。

 

 夕張の目が輝いた。

 

「何これ何これ?!ルーターで削ってるんじゃない、レーザー発振器が飛んでる?!ひいふうみい、六つ?!しかもこの動き、五軸?ううん、そんなもんじゃない、別次元で加工してる?!」

 

 普通の女の子ならば、カシャコンカシャコンと作られた指輪、それも出てくるのはほぼ完成されたプラチナリングの方に目を輝かせるものなのだろうが、やはりそこはそれ、発明オタクの夕張である。機械の方に目が行くのだろう。

 

〔加工精度と速さはこれが一番だからな。さらに溶接、溶着まで可能だ〕

 

 ある意味チートな金属加工機材である。なお、指輪一個を作るのにかかる時間はたったの10秒。ダイヤの埋め込みは次の工程になるのでまだやってはいないが、一つ一つ、対象になる艦娘をイメージした、花や紋様などもすでに掘られており、それらがモニターのチェックリストに映し出されている。

 

 カチャコン、カチャコン、カチャコン。

 

「あれ?」

 

 モニターを見て、夕張は首を傾げた。

 

 チェックリストの艦娘の名前と指輪の模様に気がついたのだ。

 

「……機械に気を取られてたけど、これって婚約指輪?」

 

「ああ。この世界初の工作機械で造る、最高精度のプラチナとダイヤの婚約指輪だ。しかも一人一人、世界にただ一つのデザインの、パラオ泊地産フルオリジナルだ」

 

「……なんかすっごい手間かかることしてるなぁ。ていうか、このプラチナとかダイヤとかどうやって手に入れたのよ?」

 

 倉庫のテーブルの上に置かれた試作品と思わしき二つのリングを見て夕張は言った。その指輪は六連ダイヤの細い指輪で、他の婚約指輪とはデザインが違っていた。

 

 裏返すと『FUSOU』、『YAMASIRO』と彫られており、どんなけ正妻が好きなんだよコイツ、とか夕張は思った。それは試作ではなくガチの結婚指輪だった。

 

「……昔、アフリカで白人の貴金属シンジケートに真っ向から戦いを挑んで命を狙われて殺されそうになってた黒人の男が居てな。そいつの命を助けた事があるんだ。その縁で安く送ってもらった。ちなみにそこの扶桑と山城の結婚指輪はそいつからの祝いの品だ」

 

 あー、なるほど、それでデザインが他と違うのか、と夕張は納得しつつ、しかし怪訝な表情で

 

「……闇ルート?」

 

 と言った。しかし

 

「何を言う。正規ルートだ。今はアフリカ連合国の首相になってる男に頼んだからな」

 

 闇ルートよりももっとたちの悪い答えが帰ってきた。

 

「……一国の首相に何送ってもらってんのよ」

 

 少し間違えれば国際問題である。なにしろアフリカ連合国は近年出来た国ではあるが、深海戦争で最も被害が少なく、さらにアメリカなどの大国の弱体化によって力を増して来ており、その資源の埋蔵量によって今や押しも押されぬ超大国になりつつある国家なのである。そんな国の初代大統領とコネがあるなど、コイツはナニモンだよ、なのである。

 

「安く上げねば俺の蓄えでは流石に無理だからな。なのに見栄は張らねばならんときたからな。ゆえにこの際使えるなら一国の首相でも恩に着せて使う。まぁ、向こうも喜んで送ってくれたぞ?結婚するからプラチナとダイヤくれ、といったらホレ、頼んだ量の100倍以上も送って来やがった」

 

 倉庫の壁に積まれたプラチナインゴットの板数十枚を指して玄一郎は言った。全部で100キロ。時価にして約4億円ほどの価値である。それにダイヤもかなりの等級のダイヤばかりがケースに入れられていた。レッドダイヤ、ホワイトダイヤ、グリーンダイヤ、イエローダイヤ、様々なダイヤの種類が透明なケースに無造作に詰め込まれている。さらに指輪のケースまで積み上げられている。

 

「すでに安く上げる範疇じゃないわよ、これ、ざっとでも十億はかかる計算になるわ……」

 

 流石の夕張も唖然としていた。

 

「……こんだけで俺が払った金はたったの500万だかんな?結婚祝いでついてきたオマケがデカすぎるぜ」

 

〔……まぁ、俺達もいろいろやってきたが、貰えるものはありがたく有効活用しよう〕

 

 カシャン、チン!

 

 最後の指輪が完成し、出てきた。その指輪の紋は、斧が五つ輪になったような模様をしていた。

 

「……芦柄神社の戉紋(まさかりもん)?これ、足柄ねぇさんの?」

 

「出てくる時も最後なのな?指輪も」

 

「渡す時はせめて早く渡したげてね?ああ、私のも出来たらすぐでいいわよ?」

 

「明日の休みで全部仕上げるつもりなんだ。妖精さんも明日手伝ってくれるそうだから、お菓子用意せんとなぁ」

 

 そう、有り得ない精度かつ精密、純プラチナと極上ダイヤの手の込んだ安上がりハンドメイドな指輪の製作は、まだ終わらないのだ。

 




プラチナ一キロ約400万円。

ぬいぬいが変態。R-15の壁は越えてねぇぜ、多分。

次回、地味な作業ほど大切なもん、でまたあおう!(嘘)


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重婚多重奏曲~カラオケの間奏

婚約指輪を主人公達が作ってる間のRJのお店。

この中に未成年がおる。おまえやーーー!!

「早くかえりたい」

ソースケが雷のレ級のお艦本能にとらわれつつある、という。


 鉄板焼き屋RJは盛況であった。

 

 店がもう閉まっているというのに、歌声が響き、一体何の騒ぎなのだという感じである。

 

「とーどけー、とーどけー♪」

 

「あにきっ、あにきっ!」

 

「むーらくーもさん~腹黒い~♪」

 

「ぷろていーん!」

 

 今、歌っているのは吹雪とカルディア隊のマッチョABコンビである。とあるアニメの主題歌を替え歌で歌っているのであるが、まぁ、ぼかしてるのでわかるまい。

 

 絵面的には女子中学生っぽい女の子の両脇でマッチョがシャウトしつつポージングするというカオスな感じである。さらに深夜、ええんかコレ?

 

「……混ぜるな自然、やな」

 

 龍驤が呆れながら言った。 

 

「あはは、つか元帥夫人を腹黒いって言えるあの子が怖いわ~。叢雲は確かに腹黒いけど?」

 

 山城がケタケタ笑いながら言った。

 

「まぁ、あの子は昔からいろいろおちゃめだったから」

 

 扶桑が困ったように言うが、否定はしない。

 

 扶桑も山城も、深海戦争初期に叢雲と艦隊を組んで出撃していた頃がある。故に戦友の性格もよくわかっていた。

 

 そんな艦娘のおねーさん達の会話を聞くとも無しに、イーグリット・ウルズ改め『ソースケ・ウルズ』になった少年は何故僕がこんな深夜にこんな所にいなきゃいけないのだろう、と思いつつも黙々と出されている、お好み焼きなる料理を食べていた。

 

 お好み焼きというものは、うまい。確かにうまいが、ここにいて店の艦娘達の会話を聞いていてはまずいような気がしてならなかった。

 

 そう、赤裸々に語られる、なんというか女の園の見てはならない部分的に。

 

 それはまだ子供だしわかんないよね?的に子連れで行われる母親同士の大人の会話的な感じに似ているかもしれない。

 

 だが、ソースケも思春期クンなのである。そういうのは非常に困る。困るので黙々とお好み焼きを食べて嵐が去るのを待つしか無かった。

 

(……師匠もこういう中でよく生きてこれたな)

 

 ソースケは玄一郎に対してある種の信頼のようなものはあったが全く尊敬などしてはいない。だが女だらけの中でよくやってこれたな、ということに関しては尊敬しても良いかも知れないなどと思いつつ、無口にもぐもぐ。

 

 ソースケはアラド・バランガの体細胞から作られたマシンナリーチルドレンだけあって、食事摂取量はわりと多い。長門の激しい訓練で体力の消費が激しかったのもあり身体が栄養を求めていたのもあるが、現在、お好み焼き大サイズ六枚目である。

 

 テーブルの鉄板でお好み焼きを焼いているのは『雷のレ級』である。なぜかソースケに甲斐甲斐しく世話をしている。

 

「あー、もう食べちゃったの?よく食べるわねぇ、ちょーっと待っててね、もうちょっとで焼けるから」

 

 などと何か嬉しそうにソースケに言う。今焼いているのは緑黄色野菜たっぷりのベジ豚玉である。

 

 何故にそんなに嬉しそうなのだと思うも、ソースケは何も言わなかった。ソースケが自分で焼こうとして、ひっくり返した時に盛大に失敗したのを見かねて『雷のレ級』が焼いてくれているわけなのだが、この『雷のレ級』からはかなりの強さを感じて、何も言えないのである。

 

(……ムサシって言うのにもかなり驚いたけど、他にもこんなのがいるのか、この世界には)

 

 ちらり、とカウンターで長崎風皿うどんを食べているムサシの方を見る。

 

(昔に師匠はあれと戦って大破したとか言ってたけど、うん、そりゃ大破するよ。無理、絶対無理!)

 

 ソースケはパラオに連れて来られてから、様々な艦娘達や深海棲艦達を見たりしたが、その強さが解るに連れて昔の高慢なぐらいの自信が無くなっていた。そのおかげか、相手の強さを正しくみれるようになっている。

 

 ソースケはフェフの命令で、他の二人のマシンナリーチルドレンと深海棲艦捕獲作戦をやらされてたいたが、その時に見た深海棲艦とは別次元の強さにぞっとした。

 

 さらに、その隣にいるヤマトと名乗った南方棲戦姫、そのさらに隣の港湾棲姫や泊地水鬼、空母水鬼からも尋常ではない力を感じて、もしも捕獲作戦が実行に移されたならば、おそらく自分達は死んでいただろうな、とも思った。

 

 これが目の前にいる『雷のレ級』であっても同様であろう。

 

「怖がる事は無いわよ?だーいじょうぶ、何にもしないわよ!」

 

『雷のレ級』は、にはははは、と笑う。どうやらソースケが思っていた事を悟られたらしい。

 

 まぁ、実際に友好的ではある。だが、故に何かおかしい気もする。アメリカ政府は深海棲艦を『人類の敵にして根絶せねばならぬもの』と言い、ソースケの製作者であるフェフもそのように言っていた。

 

 確かにバミューダ海域の怨念を垂れ流すタイプの個体達(マヨイ)はそうかも知れない。だが、パラオにいる深海棲艦達は対話が出来る。その辺の差はどこから来るのかソースケには解らない。

 

 というか艦娘とか深海棲艦とか、その存在は何なのか。そして師匠である玄一郎は『この世界での俺達も彼女達と同じモンだぜ?』と言ったが、それすら考えても実感がわかないし、本当にそうなんだろうか?と思ってしまう。

 

「……お前、強いんだよな?」

 

「ん~?少しは強いと思うわよ?あそこにいる人達にはかなわないけど」

 

 カウンターの辺りを指して言うが、そりゃあそうだろうなぁ、とソースケは思った。だが、カウンターの港湾棲姫が振り返り、少し睨んできた。

 

「……何をイウ。オマエはワタシを退けた。レ級をハルカニ越えテるだろうが」

 

(あれより強いのか?!)

 

 ソースケは愕然とした。その反応を見て、

 

「うぅーっ、だからそれは謝ったじゃない。それにあの時は私だけじゃなかったし!」

 

 少し涙目であわてて『雷のレ級』は言う。だがそんな『雷のレ級』を見て、そしてソースケにも目をやり、港湾棲姫は少しニヤリと笑った。

 

「……む?ナルホド、イヤ、スマナイ。そうだな、男の子の前デハ、か弱い振りモシタクナル、か?」

 

 フフフフフ、と笑い、お邪魔したなと、また港湾棲息はカウンターの方へと向き直る。

 

「うぅーっ、そんなんじゃないからねっ!」

 

 なぜかソースケにそう言うが、訳が分からずソースケは首を傾げる。が、目の前のお好み焼きがやや焦げそうなのに気がつき、

 

「あ、お好み焼き、焦げる」

 

「あらいけない、ひっくり返さなきゃ」

 

 どうも『雷のレ級』の性格は単純なようである。

 

「くすくすくす、雷も可愛い所あるのですね」

 

 隣のテーブルのタ級が言う。このタ級は小島基地にかつて所属していた榛名が沈んで深海化した存在であり、『雷のレ級』とは付き合いが長い。昔話編でもちらっと……まぁ、妹の霧島の深海棲艦化したのが扶桑に撃破されたその余波で大破してたのが実は彼女だったという。なお、その時の霧島の魂は何の縁があったのか、このパラオの霧島に転生しているとかなんとか。

 

 もちろん、扶桑姉妹とも生前(と言っていいのかわからないが)はよく話をしていた事もあり、かなり馴染んでいる。

 

「むぅ……。わからん」

 

 そのタ級の対面にいるのはウォーダンである。何故自分がここに連れ出されたのかわかっていない。気がついたらタ級に引っ張られてここに連れて来られたのである。

 

「はい、焼けましたよ?」

 

「む?うむ」

 

 お好み焼きの乗った皿を受け取りつつウォーダンは、

 

(……何故コイツは俺に構いたがるのだ?)

 

 などと思っていたが、美味いものを前にして思考を中断させた。

 

 なお、お好み焼きが『夜のスタミナ焼き』である辺り、元榛名さんの黒い何かが垣間見えて龍驤はうわぁ、とか思ってそれを見ていたりするのだが、何も言わなかった。

 

「うむ、美味いなこれは美味い」

 

 牡蠣の旨味と刺激的な黒胡椒ガーリックの味がうまい。

 

「ああ、ビールお継ぎしますね?」

 

「む?ああ。酒は……飲んだ事は無いのだが」

 

 なお、ゼンガーの体質を知る方々ならばこの後どうなるかおわかりだろう。

 

 ゴクリ、パタッ。

 

 ビールを一口飲んだウォーダンは倒れ、そしてあらあら、と言いつつ嬉しそうに『榛名のタ級』に担がれて退場。うきうきとお持ち帰りである。その後のウォーダンがどうなるかは、誰も知らない。

 

「うふふ、初々しくて良いですね」

 

 などと鳳翔が龍驤に言ったが、

 

「あれを初々しい言うあんたが怖いわ」

 

「あら、恋は一に押して二に押して、三枝で新婚さんいらっしゃーい、ですよ?」

 

「あかん、それ、いろんな過程抜けとる」

 

「ケッコンだけに、過程(家庭)は要るでしょう、くすくすくす」

 

「あんた、酔っとるな?」

 

「久々に良いお酒ですから。嬉しい事が沢山ですもの。」

 

 ウォーダンが退場していくのを、ソースケは驚愕の目で見ていた。今、食べているお好み焼きを思わず見て、さらにレ級を見た。

 

 だが、レ級も「ええっ?!」とタ級の方を見て驚いているところを見れば、雷のレ級はそんな工作はしていないようだ。

 

「……あ~、ハルナがそうだったなんて知らなかったわ。大人は怖いわね~」

 

 振り向いてソースケにそう言って溜め息を吐く。

 

「……マジ怖い」

 

「お腹足りた?まだ食べるんなら焼くけど?」

 

 雷のレ級はあっけらかんと言ったが、ソースケは何か恐ろしいこの場所からなんとなく逃げたくなり、

 

「いや、流石にお腹いっぱいだよ、ありがとう」

 

 と、無理矢理笑って言った。すると雷のレ級はずいっと身を乗り出して言った。

 

「遠慮はいらないわ!も~っと私を頼っていいのよ!」

 

 どうやら、ソースケには雷の『お世話本能』を擽られる何かがあるようである。つまりは自分がついてないといけないと思わせる『リトルお艦』センサーに引っかかる、そんな物があるようである。

 

「うん、ありがとう、ははははは……」

 

 まぁ、雷のお眼に叶う者は大抵の場合、指導者や提督の資質を持っている者に多い。さらに、優柔不断系で押しに弱いタイプならばかなりの部分で気に入られるのである。

 

 だが、ソースケは知らない。

 

 雷に気に入られるという事は、霞や曙といった少々厄介な心を折る系の駆逐艦にも気に入られて絡まれる可能性が大という事でもあるのだ。

 

 負けるな、ソースケ。挫けるな、ソースケ。ある意味君は君の師匠よりも厄介な奴らに群がられる運命が待っている可能性極めて大っ!!

 

 なお、ウォーダンさんはパラオの夜の街の、シティーホテルという名の、なにかこう、独特の場所に連れ込まれた模様。

 

 合掌、チーン。

 




 ウォーダンの、その後はいかに?!(ご想像にお任せします)

 次回、吠えよスレードゲルミル!!でまたあおう(嘘)。

 


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重婚多重奏曲~プラチナとダイヤ


 金剛型の恐ろしさよ……。


 指輪職人の朝は早い。

 

 朝日と共にわらわらわらわらと集まって来た妖精さん達に、伊良湖特性のビスケットやクッキーを配り、よろしくお願いします!!と頼み込んで指輪の仕上げをお願いするわけである。

 

 ハンマー妖精さんがお菓子を食べながら、ぐっ!と親指立てて「任しておきな!」と頼もしく、他の妖精さん達もお菓子に群がる。

 

 妖精さん達の作業に誤りは無い。ベテラン揃いなのである。

 

 なお、夕張はとっくに帰っていない。薄情なわけではない。帰ってくれないとやたら3Dレーザー精密加工機について聞いてきたりして作業の邪魔になったので帰ってもらった。

 

「これ磨くです?」

 

「ナガモンにダイヤ赤です?」

 

「情熱の薔薇なのです?」

 

「ビスケットうまうま」

 

「あ、シナモンクッキーとっちゃヤです」

 

「鏡面仕上げするです?」

 

「ほーぅれぃ、耳を済ませてごらーん?妖精さん達のぉ声がぁ……」

 

「ぶーるぅぁぁ!」

 

「もってーけー魅惑~てきーなー」

 

「銀河の妖精なのです?」

 

「妖精でもようせぇへんわ」

 

「足柄さん、やっとお嫁に行くです?」

 

「なぁ、おまえ提督だろ?指輪おいてけ?婚姻届おいてけ?」

 

「妖怪婚姻届おいてけです?」

 

「行き遅れ大量出荷です?古参艦娘は嫁入りよー?」

 

「けだものはいてものけものはいないです?ベッドの上でどったんばったん大騒ぎ?」

 

「らっぶがーん?」

 

「武器用なままじゃ生きていけないです?重!金!属!」

 

「まーいにーちハッピー?」

 

「しやわせが一番です?」

 

「ホールインワン賞なのです?」

 

「保険入らないとやべーです?」

 

「責任重大なのです?」

 

「ショットガンマリッヂで馬の首送られるです?」

 

「マヒーヤ、マイヤヒー、マイヤフー」

 

 大量の妖精さんが集まり、寄ってたかって、わらわらわらわらわらわらわらと指輪の研磨を始めた。

 

 なお、妖精さん達はやたらと危険な事を言うので耳をふさぐか発言を無視するのがよろしい。

 

 まぁ、あとは任せよう。

 

 玄一郎は徹夜で磨き作業の前のリングのチェックや、はめるダイヤの指定表などを作成して、ふらふらになっていた。

 

「ゲシュペンスト、後は頼む……」

 

〔うむ、というか帰ってとっとと寝ろ?〕

 

「いや、今週の秘書艦に指示をせにゃ……」

 

 缶コーヒーのブラックをぐいっと飲んで、自分が磨いた初期ロットの指輪を箱に入れてポケットに入れる。

 

「婚約指輪のバーゲンセールみたいだよな」

 

〔致し方ない。普通の鎮守府ならばカッコカリの指輪のみという話だが〕

 

「こういうのは、平等にせにゃならん。一人贈って他に贈らないってのは不和の元だぜ」

 

〔筋を通すにはそれしかないか。予備もあわせて作っておく。あとはまかせろ〕

 

 一応はケッコンカッコカリ希望者はその旨、大淀の事務局まで希望用紙を出すように、というお触れを出しているが、予想外の相手からの申し込みがある場合にも対応せねばならない。

 

 予備は大事。これに尽きる。

 

 なお、これまでにモーションをかけてきた艦娘達を優先しつつ、婚約指輪を渡す順番はその希望用紙の先着順である。施工は明後日から、となる(なお、それまでに主要な艦娘に対しては渡すつもりであるから、指輪はさっさと仕上げねば成らない)

 

 玄一郎はまた、えっちらおっちらと走って執務室へと戻った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 執務室に戻ると、金剛がいた。いや、比叡とか榛名とか霧島がいた。

 

 ティーポット持参の、伊良湖のパンまで用意していた。

 

「ヘイ、テートクぅ、たまには一緒にブレックファストするデース!」

 

 にっこにこ、と金剛はかなり上機嫌である。

 

「なお、扶桑さんと山城さんは、二日酔いで来るのが少し遅れる、との事です」

 

 霧島が苦笑してそう言った。本妻ェ。

 

 とはいえおそらく金剛達に、朝に声をかけたという事はとっとと金剛達に指輪渡せってこったろなぁ。

 

 と、バタバタバタバタ、と廊下から走る音が聞こえて来た。

 

「あん?なんだ?……って?!」

 

 バン!と扉を開けて入って来たのはウォーダンであった。この男には珍しく顔を青ざめさせている。しかも着ている服装がやたらと乱れており、一体何があったのか。

 

「すまん提督、匿ってくれ。追われている」

 

 そう言って急いで玄一郎のいるゲシュペンスト用の大きなデスクの影に隠れた。

 

「おい、何があったんだ?トラブルはごめんだぞ」

 

「……昨日、あのタ級に酒を飲まされ、倒れてしまったのだ。そして倒れている間に……」

 

 ウォーダンはかなり憔悴していた。目に隈が浮き、髪の毛もバサバサになっており、なにか追いつめられているようにも見える。

 

 と、どこからともなく、

 

「あ~なた……?ウォーダン……」

 

 ウォーダンを呼ぶ榛名の声がした。

 

 一瞬、玄一郎は部屋にいる榛名を見たが、しかしこの榛名が発した声ではない。

 

「あーなたー?どこですかぁ~?私のあなた~?ウォーダン……?」

 

 びっくぅっ!!とウォーダンはして、ガタガタガタガタと震え出した。尋常ではない。

 

「うふふふふ、かくれんぼなんて意外と子供っぽいですね?あなた。でも、榛名はこれでも探すのは得意なんですよ~?」

 

 考えるまでもない。あの声は『榛名のタ級』の声だ。まるで心の芯まで底冷えするような寒気を感じさせるような声の響きである。

 

(おい、何があった。なんか俺まで怖いぞ、アレは)

 

(……襲われたのだ。酩酊して動けぬ所を。一生の不覚っ)

 

(なんと?!それは……性的に、か?)

 

(……そうだ)

 

 悔しそうな顔をウォーダンは見せたが、なんとは無しに恥ずかしそうにも見えた。これは脱童貞したと見える。

 

「あーなたはーいーまどこでなにーをしていまーすーかー」

 

(なんか歌い始めたぞ?つかヤベェ感じパネェな。大鉈でも持ち出しそうなヤンデレ臭だぞ、アレ)

 

 カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、ツ、ツ…………。

 

「ウォーダーン?ウォーダン、ウォーダーン……ウォー……ォー」

 

 足音と声がどんどん離れて行く。どうやらここにいるとは気づいていないようで、執務室を通り過ぎて書類管理倉庫の方へと向かったようだ。

 

 玄一郎とウォーダンはほっと胸をなで下ろした。

 

 ウォーダンは立ち上がって、はぁぁぁぁっ、と息を吐いた。とは言え油断は出来ないと小声で、

 

(……なんとか、撒けたか)

 

 と言った。

 

(……もう少し隠れていろ。襲われる恐怖は俺もよく知っている)

 

(かたじけない)

 

 ウォーダンはまた机の影に隠れようとしゃがもうとしたが。

 

 ギィィィィィィっ。

 

 執務室の扉が軋むように少し開き、そこから青く光る目が覗いた。

 

「ウォーダンノコエ……ソコデスネ……!!」

 

「ひいぃぃぃぃっ?!」

 

「ミツケタ、アナタ……」

 

「あわっ、あわわっ、あわっ?!」

 

 腰を抜かしたようにウォーダンはへたり込んだ。ここまで慌てふためき怯えるウォーダンなど、見たこと無い。

 

 ギィィィィィィ…………っ。

 

 タ級が闇を纏いながら、背中の蛇のような艦装と長い髪の毛をうねらせつつ執務室にゆっくりとした足取りで入ってきた。

 

「サァ、アナタ?テイトクサンヤ、オネエサマ達に迷惑カケチャ、ダメデスヨ。ハルナは大丈夫デス、優しく、優しくシテアゲマスから、ネ?」

  

 口調が深海棲艦にありがちな発音になっていた。これはかなり怖い。顔も蒼く白く染まり、この前見たときはまだ肌の白い人、って感じに見えていたのに、深海オーラを纏うとこんなに恐ろしくなるものなのか。

 

 がっしっ。

 

 白く細い手がウォーダンに伸びる。

 

 榛名のタ級は、ウォーダンの服の襟首の所を掴み、そしてぐいっと引っ張った。

 

「やめろ、お前はそんな奴じゃなかったはずだ!優しい女のはずだ!くっ、ふりほどけん?!」

 

「ウフフフフフ、優シク、優シクシテアゲマスカラ……モット、モット、愛シテアゲマスカラ、ネ?」

 

「いや、もう無理、いや限界だっ!!というかもう許してくれぇぇぇっ?!」

 

「勝手ハ、ハルナガ、許シマセン」

 

「いーやぁぁぁぁっ!!」

 

 あまりの恐怖に止める間も無かった。まるでホラー映画のワンシーンのようだった。バタンと扉が閉まり、ただただ、ズルズルズルズルと引きずられていく音が遠くなって行く。

 

 玄一郎達は、ただただウォーダンが連れて行かれるのを見ているしか無かった。

 

 玄一郎がハッ!と我に返り、タ級を追おうとしたが、だが、しかしそれは金剛に止められた。

 

 金剛は玄一郎の前に立ちふさがった。

 

「ダメデース!」

 

「金剛……、何故だ?」

 

 金剛は首を横に振り、言った。

 

「あのタ級は、北方棲姫に匹敵するほど強いデース!我が妹ながら、アレは恐ろしいほどに怨念を溜めてマス……」

 

「……しかし、ウォーダンが!」

 

 だが金剛はなおも首を横に振る。

 

「多分、一度しちゃって、火がついただけデース。深海化したせいもあるケド、愛情がスタンピードシテマースネー」

 

 榛名は情熱的デースからー?などと金剛は言いつつHaHaHaと笑った。

 

「笑い事で済まして良いのか?」

 

「サァ?どの道、邪魔したら泊地壊滅の危機デース。それを思えばウォーダンの人身御供で鎮まるなら安いものデース!」

 

 泊地とウォーダン天秤にかけりゃ、泊地が重い提督業。この場合、命の危機も何も無かろう。場合によっては新たな命すらも出来ちゃう可能性も無きにしも非ず。ある意味めでたい。お前がパパになるんだよぉぉぉっ!!的な悲哀もあるが。

 

「強く……生きろよ、ウォーダン」

 

 窓の外を見れば、ウォーダンの笑顔がキラーンと光っているような気がした。まぁ、窓から見えるのは、ずりずりずりずりと引きずられていくウォーダンと引きずって行くタ級が見えるわけなのだが。

 

 しかし、あのタ級は榛名が深海化したんだよな、と思い、艦娘の方の榛名をちらっと見れば。

 

 ものの見事に気絶していた。平然としていたのは比叡ぐらいであり、霧島もやはり気絶。

 

 うん、なんか安心したようなそうでもないような。

 

 その後、つつがなく金剛にケッコンカッコカリの指輪を渡し、比叡、榛名、霧島には婚約指輪付きでケッコンカッコカリの指輪を渡した玄一郎であったが。

 

 自室に金剛四姉妹に運び込まれ。

 

「なんとぉぉぉぉっ?!」

 

 ウォーダンと同じ運命を辿ったのは、余談であろう。なにしろ本編で語れはしない。R-15だから。

 

「お、お前らも……おんなじや……タ級と……おんなじや」

 

 がくっ。

 

 四人がかりで朝なのに夜戦。いや、もう野戦といった方が良いのでは無かろうかというほどの混戦。

 

 金剛姉妹と、特別な絆を結びました(ほぼ強制)。

 

「これでFinish!?な訳無いデショ!私は食らいついたら離さないワ!」

 

「ぎゃーーーっ!!」

 

「気合いっ!挿れてっ!!」

 

「ひえーーーっ!!」

 

「夜戦なの?腕が鳴るわね!!」

 

「ひぎぃぃぃっ!!」

 

「マイクチェック!ワンツー、ワンツー……私の想像以上の性能です。さすが司令の司令塔」

 

「んほぉぉぉっ?!」

 

 四人の金剛型が組んず解れつからみつく。代わる代わるに。提督の叫び声は、正午まで止むことは無かった。

 

 なお、秘書の大和さんと秘書補佐のアイオワさんは、昼から出勤、と金剛から根回しがあったらしく。

 

 この襲撃は計画的犯行であったことは間違い無い。

 

 





 散りゆく友を見捨てたら、すぐに我も散りゆく定め、虚しく肩を落とし、男達は地獄に笑う。

 どうせ俺達は最低野郎、微かに漂う血の匂い、魑魅魍魎が牙をむく。

 提督の飲む金剛の紅茶は甘い。

 次回、ボトム……げふんげふん。

 アイオワちゃんスイートでまた合おう!(嘘)


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【オマケ】人物整理、異世界人編。

なんかごちゃごちゃしてきたので整理。




 

ゲシュペンスト提督

 

 パラオ泊地の提督。ロボットの方と中の人の二人組を指す。

 

 ズフィルードクリスタルというチートなものを組み込まれたせいで、自己再生とかやりたい放題。異世界転移のおかげかタガが外れて、知ってる武装造り放題。自己進化で元のゲシュペンストタイプSから性能が上がり放題。

 

 

黒田玄一郎

 

 ゲシュペンスト提督の中の人。本編の主人公。カーウァイ・ラウ大佐の異世界同位体。スーパーロボットも異星人の侵攻も、深海棲艦も艦娘もいない世界出身だが、核戦争で死亡して気がついたら身体がゲシュペンストタイプSになっていた。

 

 扶桑姉妹が好き過ぎてパラオ泊地の土方の立てたアホな作戦で鹵獲された。おっぱい好きだと思われるが、お尻も結構好き。貧乳も愛せるが、やっぱり扶桑姉妹のおっぱい大好き。

 

 肉体は艦娘の体組織とバルシェムと呼ばれるスパロボ世界の異星人の戦闘用人造人間の体組織のハイブリッド合成。そして機械でそれらを補強。結構デタラメな身体の持ち主。

 

 個人スキル:ち○こ試製51センチ砲。女性専門口車の運転手。戦術トラップ。

 

 

カーウァイ・ラウ

 

 本来のゲシュペンストタイプSの方。ゲシュペンストタイプSに魂を縛られているため、肉体の復活が出来無い。ゲシュペンストの自我と直結している。

 

 独自設定で、女難な人生にされてしまった。だって資料とか無いんだもん。

 

 昔、PT戦闘教本や戦術論等の書籍や教科書を幾つか書いた事がある。なお、独身で死んだらしい。

 

 

カルディア・バシリッサ

 

 無限のフロンティアから参戦。シャドウミラーのレモン・ブロウニングに作られた白兵戦用アンドロイド。W-06。コードATAで二回も自爆。艦娘同様の生身の肉体で再生している。後にレモン・ブロウニングの謎技術で乳僅かに増量、テスラドライブ搭載、ついでにコードDTDまでつけられる模様。おっぱいと尻に自信あり。

 

 個人スキル:コードDTDによる淫乱ピンク化。

 

 

エキドナ・イーサッキ

 

 スパロボ世界から参戦。カルディアの妹分にあたるアンドロイドだが、こちらは機体付きでアンジェルグ・ノワールに搭乗する(ただし、機体サイズはかなり縮寸しているが)。

 

 個人スキル:お色気おっぱい。隠れ淫乱ピンク。

 

 

安藤A作、安藤B吉

 

 シャドウミラーのレモン・ブロウニングが設計した量産型重アンドロイド兵。カルディアの部下として戦っていた。

 

 生身の身体を得たが、その外見は変なゴーグルつけた超兄貴のサムソンとアドンにしか見えない。真嶋吾郎の経営する真嶋建設で働いていたが、カルディアと再会した際にパラオ泊地に来た。実は働き者。

 

 個人スキル:ボディビル・ポージングによる精神攻撃。メンズビーム追加(レモン・ブロウニングによる)

 

 

レモン・ブロウニング

 

 シャドウミラーの参謀的な位置の悪女的キャラだったが、死んでからはキャラ崩壊。エクセレン寄りになってしまった模様。最近はアマンダ(旧明石)の工房に出入りしている模様。

 

 個人スキル:改造手術

 

 

オウカ・ナギサ

 

 スクール出身。アギラ・セトメなどにえらい目にあわされた不幸な子。搭乗機体はラピエサージュ。

  

 海で遭難しているところを舞鶴鎮守府の愛宕達に救助され、保護された。かなり艦娘や妖精さん達に好かれており、舞鶴鎮守府の近藤大将の養女に迎えられた。

 

 個人スキル:メガネ文学少女風コス(学校通学時)。近藤式格闘術。

 

 

シロガネ

 

 スパロボ世界から参戦。スペースノア級一番艦シロガネが艦娘になった、オリ設定な不幸艦娘。

 

 和風の巨乳の、清楚な痴女コスノーパン風(レオタードはつけてるよ?)。艦これ世界に来てから、扶桑姉妹に名誉妹艦の称号をもらうほどに不幸艦。

 

 個人スキル:不幸艦バースト

 

 

アインスト・カグヤ

 

 アインストが作り出した素晴らしい肉の壁。一体持ち帰りしたいほどの牛乳。なお、四体いたが、全部がこの一体に統合されたため、能力も四倍、乳増量。

 

 性格その他は元の楠舞神夜に多少ダークなものが混ざっている。コスチュームは楠舞神夜の白と対極で黒い。また、黒いペルゼインリヒカイト・カグヤを持っている。

 

 アインストの本能で玄一郎に牽かれているらしい。

 

 個人スキル:チチビンタ・ヘブン。

 

 

ラリアー

 

 暴力ちみっこのショタの方。玄一郎にアイスをよく奢られる。

 

ティス

 

 暴力ちみっこのロリの方。カグヤのおつき。玄一郎によくアイスを奢られる。

 

 

クエルボ・セロ

 

 影が薄いが、近頃はレモン・ブロウニングと共にアマンダ(旧明石)のところで何かやっている模様。

 

 

ウォーダン・ユミル

 

 レモン・ブロウニングに造られた戦闘用アンドロイド。W-15。カルディアの弟、エキドナの兄に当たる。ゼンガー・ゾンボルト少佐の人格その他をコピーされた親分コピー。搭乗機体はスレードゲルミル。

 

 なお、艦娘世界に来てからかなり性格は丸くなり、また他者との接触により、ゼンガーではない自分の人格を形成していっている模様。また、自我を形成するにあたって、自分の生き方に迷いを持っている。

 

 ムサシ一派のタ級(深海化した榛名)にやたら迫られている模様。

 

 個人スキル:一刀両断、剣の迷い

 

 

イーグレット・ウルズ

 

 イーグレット・フェフによって産み出されたマシンナリーチルドレン。主人公にケツ叩きされ、無理矢理に弟子として拉致され、『ソースケ・ウルズ』と名乗らされ、鬼のようなしごきを誇る艦娘の教官達から再教育の名の元にしごかれる羽目になった可哀想な子。

 

 なお、名前を漢字で書くと『漆須宗介』。

 

 なお、主人公が保護した理由は、ラピエサージュからもたらされたスクールなどの非人道的な行いに腹を立てた為。

 

 ムサシ一派の『雷のレ級』がやたらと世話を焼いている模様。

  

 個人スキル:優柔不断系世話焼かれ男子

 

 

 

【オマケ】まだ話を練り中。やるかどうかは不明。

 

 ジェニファー・フォンダ(アタッド・シャムラン)

 

 復興しつつあるアメリカのネットTV局の職員。しかし、自分に別の人格のようなものを持っている事に悩んでいる。ゲシュペンスト提督の取材をするためにパラオ泊地にやってくるが……。

 

 個人スキル:サディスティック・ヒステリー。

 

 

 ククル

 

 死んだのかどうなのかわからんので出したいが出せない。誰かおせーて。つかゲームにまた出るんでしょか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なお、設定なので本編に出るかどうかは不明なものまでありますし、本編とは違う部分もあり、何分、ノリで書いてるのでその辺またワケのわからない改変も出ます。

 その辺ご了承下さい。

 なお。

 カグヤの乳と愛宕さんの乳と高雄さんの乳は、共演させたい。



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【オマケ】人物整理。日本の軍人さん編

 しれっとあの人がいたり。


山本元元帥(やまもとはじめ)

 

 旧海上自衛隊海将。日本海軍になってから昔の階級制度に。何十年振りかの元帥位を賜った。

 

 海軍とはなんぞや、を艦娘に教えられ学び世界で初めて艦娘達の提督になった人物であるが、艦娘達が女性の姿をしている事で左派やフェミな連中などから様々な疑惑をもたれたりした。

  

 元帥になった当時は50歳代であり、艦娘との婚姻はしていないが、叢雲を養女にしている。

 

 

菅原道夫大将

 

 艦娘擁護派の父と呼ばれる提督であり、元帥位が当時の政権によって廃止されたために元帥と呼称されない。

 

 深海戦争激化のおり、食糧物資難に困窮する日本の国民を救うべく間宮による食糧輸送計画を実施した人物。

 また、当時左派による独裁政権が日本を牛耳っており、その中核を叩く為に『ミチザネプラン』と『マサシゲプラン』を発動した。

 

『ミチザネプラン』と『マサシゲプラン』の詳細は未だに解明されては居ないが、彼は皇室を守り、また在任二年で確かに日本奪還を果たし、左派を駆逐したとされている。

 

 艦娘擁護派を立ち上げた時には『皇国に艦娘にあり』との言葉を残した。

 

 在任はたったの二年であったが、日本政府奪還を果たした後、彼は日本国内における内戦等の全ての責任をとって退役した。

  

 なお、嫁艦は高雄。

 

 

芹沢茂大将

 

 軍主導派の有力者。海軍暗黒時代の原因。左派とズブズブの仲だった。似非フェミ。なお、話には出ません。

 

 

松平朋也元帥

 

 艦娘達に教育された純粋な艦娘擁護派。松平財閥の次男。山本元元帥にその才能を認められた、と言うわけではなく、山本元元帥に艦娘達が彼をプッシュしたために元帥付きの幹部に。また、山本元元帥の養女となった叢雲と結婚。元帥位が復活した際に大本営は迷わず彼を元帥に押し上げた。金も権力も立場も正しく使える愉快犯であり、賢くバカが出来る辺りを叢雲に気に入られたらしい。

 

 

近藤勲大将

 

 山奥の寒村出身、農家の小倅。妖精さんや妖怪、天使といったものに好かれやすい体質の持ち主。その体質によって海軍に赤紙を送られて提督養成学校に無理矢理入らされた。艦娘にも好かれやすい体質であり、養成学校時代はトラブルにばかりあっていた。

 

 世界初の艦娘との婚姻を結んだ提督であり、また世界初の重婚提督。嫁の数68人。当時はスキャンダルにもなったが、現在では国民の皆様の艦娘に対する理解が浸透しているため『ああ、またか。ご愁傷様』的に見られる。その全ての理解は彼が被った艦娘トラブルが積み上げた実績(?)である。彼が巻き込まれたトラブルの大半は松平元帥と叢雲のせい。

 

 男気のある、頼りになる海軍大将であり、海軍において慕われている軍人であり、名物男でもある。

 

 

土方歳子中将

 

 とある神社の神主の娘。艦娘祭祀派と呼ばれる一派の幹部の娘であり、艦娘擁護派でもある。

 

 霊能力があり艦娘に対して『介入』する事が出来る。また、艦娘大好きな変態にして、ブラック鎮守府を潰して廻っていた変態爆裂娘。『小島基地壊滅事件』で初めて深海棲艦の武蔵、すなわちムサシとゲシュペンストを目撃した。

 

 近藤達を巻き込んで、ゲシュペンスト鹵獲作戦『乙女の告白作戦~あの人に届け20××~』を決行、見事に扶桑姉妹の黒歴史を作るも鹵獲に成功した。

 

 

沖田総美少将

 

 元陸軍の特殊部隊、対深海棲艦部隊にいたが提督の素質が有ることがわかり、上司の斎藤一夫によって提督養成学校にたたき込まれた。部下のあきつ丸は元々は斎藤の艦娘であった(なお、あきつ丸は斎藤を鳳翔に寝取られたという過去がある)。

 

 近接格闘術を得意とする。

 

 

斎藤一夫陸軍特務大尉

 

 実家にあった空母鳳翔の鉄骨に人生を狂わされた人物。元陸軍、対深海棲艦部隊の最後の隊長だった(現在は名称が陸軍強襲部隊と変わっている)。

 

 艦娘が深海戦争の主役となっていく中で、何故か憲兵としてパラオに左遷され、鳳翔につきまとわれ、結婚まで追い込まれた。なお、この裏にはやはり松平元帥と叢雲の思惑があったのは言うまでもない。

 

 

ブルーノ大尉

 

 現在のパラオの憲兵隊長。元アメリカの某市の刑事。ダイナマイトな刑事。版権的にぼかすしかない人。ブルースウィルス似。

 

 

水無瀬大鉄大佐

 

 北方基地の提督さん。ほっぽちゃんを可愛がり、餌付けしていた人。深海テロ事件でほっぽちゃんを身を呈して守り、負傷により現在入院中。ほっぽちゃんを孫娘のように溺愛している。そのうち、パラオに来るかも知れない。なお、ビアン・ゾルダークを匿ってたりします。

 




 来るのか、あの艦長が。

 なお、登場するかどうかはノリだけですので未定。


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重婚多重奏曲~動悸の桜


 アメリ艦娘秘書入り(見習い課程)。

 大和撫子(笑)。

 というか、書いてて英語なんてわかるかーーーっ!!と思った。


 

 

 精力剤というものは、本当に効くのか。そんな事を思いつつ玄一郎は昼に来た扶桑と山城から貰った精力剤を飲みつつ思った。

 

 扶桑が言うには龍驤から1ダース貰ったという話であるが、そう言えば鉄板焼き屋RJには行ったこと無かったな、と思った。時間が開けば夜にでも、などと思うも今晩は間宮に行かねばならぬ。

 

 昨夜は間宮の前で金剛を口説いたのだ。そのフォローは早くせねばなるまい。

 

 それだけではなく実際の所、間宮の飯は美味く、それが口説くまで食えないのは、辛い。

 

 扶桑達の作る飯に不満は無いし、その料理の腕は間宮と比べても劣るものではないが、しかしここは海軍なのである。任務の状況によっては扶桑達も出撃せねばならぬ事もあるし、何より美味い飯屋というのは確保しておきたいものである。

 

 玄一郎はこの世界にくる前、つまり生前の趣味は美味いものを食べ歩く事だった。北海道から沖縄まで、様々な所へ行った。とにかく様々な場所、様々なものを食べた。そんな食道楽な男だったのである。

 

 ロボットの身体になってから、何も食えなくなって約15年。その食への渇望たるやいかばかりだったろうか。

 

 それが今や解禁なのである。何でも食える肉体を得たのである。なのに美味い飯を出す間宮に行けないこのストレス。

 

 実際、間宮が素晴らしい女性であることは玄一郎もよくわかっている。金剛が何故間宮を推していたかも理解している。ぐぬぬぬぬぬ、食いたい(料理を、である)。

 

 では金剛ではなく先に間宮を口説いたら良かったのではないか、と思われるかもしれない。

 

 だがそれが出来るお利口さんな頭と打算的な思考回路を玄一郎は持ち合わせていない。それぐらい金剛に対してモヤモヤとしたものを感じていたのと、頭の中に生まれた疑問を棚上げしと行動する事が出来ない性格なのである。金剛達のおっぱい見ちゃったからなぁ、というわけなのである。

 

 別に、『美味いもの』<『おっぱい』というわけではない。

 

 確かにええもん見せてもらいました、というのも無かったわけではない。むしろ『ありがとうございましたっ!』なのだが。

 

 というか朝には直に見て触ったり当たってんのよ程度ではすまない、組んず解れつ突撃ラブハート的かつ、あなたの遺伝子を私の中で混ぜて、ここで希有なファイト、といったそういう感じでもう、金剛型すんごく、えっろーい!!ラヴがバーニングしてウォーだったのである……って、いや話を元に戻そう。

 

 間宮さんなら襲われる心配も無い……と、思う。うん、多分、きっと。

 

 そう、信じたい。うん、信じてる。

 

 

 さて、今から来るのは大和とアイオワである。

 

 

 秘書艦は週代わりで変わるのだが、海軍の慣例として第一夫人艦は固定として秘書室長となる、というのがあるそうな。

 

 舞鶴鎮守府における大和(実は第三夫人であるが舞鶴の高雄、愛宕は秘書艦には向かない性格らしく、舞鶴の秘書室長は大和が行っている)。松平元帥の叢雲など、そういう形式が今の海軍では主流だという。

 

 これは各鎮守府や各基地、泊地の運営や営業における顔を第一夫人艦に置くことでその性質や体制を確固としたものにする、というよくわかるようなわからないような事でそうなっているようだ。

 

 つまり扶桑がパラオ泊地の対外的な顔ということになる。

 

 今まで秘書室長などというものを置いた事は無かったが、慣例ならば、とそういう体制にしたわけである。

 

 とはいえ、パラオでの週交代の秘書艦制は変わらず行う事になっている。秘書艦を勤めた艦娘はやはり練度の上昇が他に比べて高くなりやすいからである。

 

 とはいえ。

 

 アイオワの練度を見て玄一郎はおぅふ?!と唸る。

 

 大和から提出された書類に書かれてある事が本当であるならば、玄一郎が今朝の時点で知っていたアイオワの練度より、現在10も上がっている事になるからだ。

 

 つまり、現在のアイオワの練度は99。つまり練度カンスト状態である。練度上げの為の秘書教習いらねーんじゃねーか?

 

「……数日でどうやったら新造艦娘がレベルカンストするんだ?」

 

 額に手を当てて揉むようにしつつ、玄一郎は大和に問うた。どう考えても有り得ない。チートなどという何かでも無ければ起こりうる現象ではない。

 

「ええっと、その、アイオワはかなり優秀な艦娘であり、さらに訓練に対しての食いつきもすごく、ついつい……山城さんや他の方々もカリキュラムのハードルをどんどん上げて行って、その、空母水鬼さんとか、南方棲戦姫さんとかムサシさん達の協力の元……演習を繰り返し繰り返し……」

 

 アイオワ達新造艦娘達の練度の急上昇の原因。

 

 それはつまり、同盟深海五大艦のうち、海上深海棲艦のうちの空母水鬼の艦隊や南方棲戦姫の部下達との演習、そして最後に跳ね上がった9もの練度は、そこにムサシが加わって仕上がったのであった。

 

 そりゃあボスクラスの深海棲艦と演習とはいえ戦闘を繰り返しやっていたら、そらみるみるうちに練度が上がるのは当たり前であろうが、ボスラッシュを毎日やってよく心が折れなかったものだ。

  

 何よりラスボスがムサシ。

 

 考えただけで玄一郎の胃はトラウマでキリキリと痛んだ。

 

「止めようがありませんでした。毎日来られて、アイオワ達と演習を。かなりの手加減をしていただきましたが、正直、山城さんの演習が天国に思えるような訓練でした。私と妹の武蔵、赤城さんを加えて演習に望んだのですが……」

 

 その顔を見ればわかる。負けたのだろう。

 

 聞けば南方棲戦姫とムサシ、空母水鬼の三艦VS大和、武蔵、加賀、アイオワだったという。

 

 南方棲戦姫の強さは知らないが、ムサシの強さと空母水鬼の厄介さは玄一郎もよくわかっている。

 

 とはいえある種、裏表の艦による演習と言えた。

 

 南方棲戦姫の正体は深海側の大和、ムサシも武蔵の深海側であるし、空母水鬼は不明だがある意味赤城に似た部分がある。それにこちらにアイオワを加えられていたが、正直に言えば、霊格の差はかなりの開きなのである。これはなかなか覆せるものではない。

 

 玄一郎がもしも指揮するならば、扶桑か山城もしくは長門、赤城の相方の加賀をそこに加えたいところである。

 

 はっきり言ってその三艦を相手によく耐えたと誉めてやりたかった。しかし。

 

「というか、報告にはそんな事は全く上がって無かったぞ……?」

 

「バレなきゃ問題無いって土方中将が面白がって……」

 

「またあの人かっ!!つか土方さん、アイオワ達と直接接触してねーだろな?!」

 

 戦艦とはいえ、まだ建造されて一週間と少し。土方の無意識の『介入』の影響があったら大変な事になる。

 

「それはありません。沖田少将が止めてくださいましたので」

 

「はぁ、だと良いが、アイオワ達がナガモン化したらエラいことになってたぜ。しかしアイオワ、災難だったな。いや、厳戒態勢下で俺の出撃もあり、俺の監督、管理不行き届きだった。本当に済まん」

 

「ノー。アドミラル。それはノー。むしろ望んでミーは、演習を受けたワ」

 

「む?それはどういう事だ?」

 

「ミーは、強くなりたい。あの何も出来ない屈辱……博物館にされていたのは仕方ないワ。でもあのテロ事件。襲われる人々を助ける事も何も出来ずに沈んで行ったあの屈辱。でもミーはここで戦える身体を得たワ。なら、戦う為に強くなる。そのためなら何でもするワ!」

 

「……お前は沈んだ時の記憶を持っているんだな?」

 

「イエス。この泊地に来た事もネ。扶桑のパワーに導かれて来たのよ。導かれて無ければソウルがダークサイドにフォールして、今頃連中の仲間入りだったワ」

 

「……扶桑さんグッジョブ。ナイスだ俺の嫁」

 

 アイオワが深海化していたら、はっきり言ってかなり厄介な鬼姫級になっていただろう事は想像に難くなかった。それでなくとも、現在のアイオワの能力は長門、大和クラスなのだ。クワバラクワバラと玄一郎は心の中で唱えた。

 

「ソウソウ、ユーの声、聞こえていたワ。『彼女らは仲間になりたくて来るんだ。むしろ喜んで迎えてやってくれよ』って。嬉しかったわThank you!押し掛けたのにね?」

 

「押し掛けられるのには慣れてるんだ。パラオ泊地も俺もな」

 

 皮肉混じりに軽口を叩く。

 

「……とはいえ、そこまで記憶があるということは、事の顛末はわかっているのか?」

 

「オフコース、だいたいは長門に話したとおりよ。私は腐敗したアメリカ軍の将校達の起こしたテロに見せかけた核強奪の目くらましの為に沈まされたのね?」

 

「……誰から、それを?」

 

「みんなの話している事を聞いて組み立てたのよ。Anyone can start a rumor, but none can stop one.日本語では人の口に戸は立てられない、かしら?」

 

「まだ、調査中としか俺には言えない。君はその存在的になんというか、微妙な立ち位置にあるからな」

 

 玄一郎はアイオワに事実を語っても良いのかと一瞬悩み、肯定する事を控えた。アメリカ出身の彼女にアメリカが彼女にしたことを言いたくなかったのもあるが、何よりいらない不信感を彼女に持たせたくなかった。

 

「アメリカの戦艦だもの、しかたないワ。でも、Thank you、気を使ってくれてるのね?」

 

 だが、彼女はもう事実を知ってそれを肯定しているようだ。玄一郎の気遣いをわかって苦笑していた。

 

「さてな。海外の艦はドイツ、イタリアといるがアメリカは初めてなんだ。それでなくとも女の子の扱いはよくわからんのだ。その辺は俺に期待しないでくれ」

 

 玄一郎もそれに苦笑する。彼女はどうやら察しがいい艦娘のようで、見た目以上に頭が回るようであった。

 

「……サラトガとかはここにはいないのね」

 

「サラトガ、ああ、確かアメリカの空母だったか?艦娘になってたのか」

 

 まだサラトガに関する資料は無い。おそらくはアメリカ側は隠しているのだろう。

 

「よく、博物館になってた私の所に良く来てたワ。あの事件の数週間前から見てないけれど」

 

「……アメリカは昔の癖なのか、こっちにはやたらと軍事機密よこせとか言うが、向こうは何も寄越さんからな。サラトガの艦娘か。初めて聞く」

 

「今は同盟国なのに?」

 

「……誰だって手の内は晒すのはイヤなもんだ。ま、サラトガね。空母建造の予定は無いが、来たら歓迎するさ。パラオは仲間なら受け入れる」

 

「アリガト、アドミラル。良いアドミラルでよかったワ。でも、アメリカはお嫌い?」

 

「……アメリカ海軍のレーションのチリビーンズ程度にはな?」

 

 玄一郎は前にイージス艦にやたらと積み込まれていたそれを皮肉って言った。集積地棲姫やカルディアがもう見たくないと言っていたそれだ。

 

「どんな味なの?食べたこと無いワ」

 

「……知らぬが仏って事だ」

 

 粘土の風味が何故かした。アメリカにイージス艦ごとつっかえしたぐらいだ。

 

「???」

 

 玄一郎は首を傾げるアイオワに苦笑しつつ、

 

「君はそうだな。この券で食べれる間宮のアイス盛り合わせぐらいだ」

 

 と、間宮券を渡し。

 

「今日は顔合わせだ。これからの業務はとりあえず休んでよろしい。間宮でそれを食べて明日からの業務に備えて休んでくれ」

 

 と下がらせた。

 

「ああ、大和は残ってくれ。同盟深海棲艦との演習の状況を聞きたい」

 

 勿論、大和は残らせる。確かに演習に関して聞かねばならないが、本来の目的もあった。

 

「……はい」

 

 大和は何かを察したようで、少しはにかんで動かない。

 

 玄一郎は婚約指輪を恐る恐るに指輪の箱を開けて差し出した。

 

「……本来なら、もう少しムードのある場所で渡したかったが、なかなか思いつかねぇ。許してくれ」

 

 本来なら大和には菊花紋。しかし菊花の紋を指輪の紋に使うのははばかられた。故に桜の紋を散りばめて透かし、ダイヤも桜色のものをはめたデザインにした。

 

 差し出した大和の左手の薬指にそれをはめてやり、やはり大和には桜、と思う。

 

 そしてケッコンカッコカリの指輪もあわせてはめてやる。 

 

「提督、いつもありがとうございます。連合艦隊の旗艦を務めるよりも、敵戦艦と撃ちあうよりも、今、こうしている時が私は一番好き。大和は・・・ずっと提督の、あなたの側で、頑張ります」

 

 涙を流しながら大和は玄一郎を抱きしめつつ言った。

 

 ケッコンカッコカリ。艦娘と強い絆を結びました(完)。

 

「と、言うわけで」

 

 あれ?

 

「大和っ!ランニングスリャーっ!」

 

 よいしょっ、と言いつつ大和は玄一郎の身体を肩に担ぎ上げた。

 

「え、え、あれ?なんで?」

 

「いえ、ムサシの話では、提督は逃げようとするから、とにかく捕まえろ、との事で」

 

 タタタタタタタタッ!ガチャン←玄一郎を抱えつつ、執務室の扉を指差し、そして走り、その内鍵を閉める。

 

「そりゃ!」

 

「いや、なんで捕まえられにゃいかんのだ?」

 

 再び玄一郎の自室を指差しタタタタタタタタッと走り。

 

「そりゃ!」

 

 ガチャッ、バタン!ガチャン←ドアを開け、閉めてまた内鍵を閉める。

 

「いや、だからなんで?!いや、ちょまっ?!」

 

「これでっ!まだ終わりじゃありませんよっ!!」

 

 ベッドにドサッ!

 

「大和、抜錨します!!」

 

「脱ぐなぁぁぁっ?!それ抜錨やない、脱衣やぁ~っ!!つか俺まで脱がすなぁぁぁっ!!」

 

「そぃっ!」←ズボンを脱がす。

 

 どさっ!←ダウン攻撃に移行

 

「戦艦大和っ、夜戦を敢行しますっ!」

 

「まだ真っ昼間ぁぁぁっ!!みぎゃああああああああああっ!!」

 

 提督の叫びがこだまする。今日もパラオは平和だなぁ。……そう、提督以外。

 

 





 アイオワさんの嫁入りはまだ先。

 パラオの大和さんは投げ技と寝技が得意ですよ。

 どこのクラークさんだい?


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重婚多重奏曲~入浴ラプソディ~おねてぃ。

野郎の入浴パート2。

香取センセと鹿島センセのイケない企み。

お願いティーチャーなんて懐かしいなぁ。好きだったなぁ。


 ごっそりと何か魂的なものまで持って行かれた、そんな感じの男達が三人、男性職員用入浴施設『漢湯』にて入浴中。

 

 玄一郎、斎藤、ウォーダンは無言で洗い場で身体をあらう。身体中に刻み込まれたひっかき傷と歯形とキスの痣の部分を洗うのが痛い。流す湯も痛い。ヤケにしみるのだ。

 

 だが、男達はそれでも己の身体を無言で洗い流し、そして示し合わせている訳でもないのに、湯船に同時に向かう。

 

 湯船に浸かると、やはり同時に声が出る。

 

「くぅぅぅぅぅっ……!」

 

「ぐっ、うう、かゆ……うま……」

 

「ぐぉぉぉっ、くっ」

 

 湯が傷にしみて思わず出た呻き声の三重奏。あまり聞きたくない類の声が風呂場に響く。

 

 最も傷が多いのは勿論玄一郎であったが、疲労の色が濃く出ているのは斎藤、精神的に重いものを背負ってしまったような雰囲気なのはウォーダンであった。

 

 湯の温度はやや高め。しみる痛みに慣れるまで三人はそのまま動かない。

 

 そうして最初に口を開いたのは斎藤だった。

 

「男湯はいいなぁ。女が入って来れねぇからな……」

 

 ぼそり、斎藤が言った。

 

「ここだけは女人禁止だからな」

 

 玄一郎が次であった。

 

 最後にウォーダンが

 

「……ここに住みたい」

 

 と、ぼそり憔悴しきった顔と焦点の合わぬ目でどこか明後日の向こうの方向を見ながら言った。やべぇ、コイツかなり来てるぜ、的な感じである。

 

「……俺だって、鳳翔に襲われた時にそう思ったぜ」

 

 と言うか昔、斎藤が本当に風呂から出るのを嫌がって銭湯に籠城した事件があった。

 

 困った番台のジィサンが斎藤の部下の憲兵達に連絡し、憲兵隊が出動。彼らはなんとか説得を試みたが斎藤は出てこず、さらに鳳翔が説得に呼ばれてかなりこじれて、土方に『あんた男でしょ説得してきなさい』などと言われたゲシュペンストが出張ってなんとか引きずり出した、という。

 

「……今ならあん時のアンタの気持ち、わかるぜ」

 

 ゲシュペンストの身体だった玄一郎はあの頃、自分もそんな気持ちになるとは思っていなかった。というかこれが、ケッコンカッコカリしたのが扶桑と山城だけだったならば玄一郎もわかって無かったと思う。

 

 現在、嫁艦の艦娘は、扶桑、山城、金剛、比叡、榛名、霧島、大和。深海棲艦はムサシ(戦艦棲姫)の八名。

 

 本日のお相手が金剛四姉妹と大和。

 

 愛されているのはわかるし覚悟は決めたしみんな美人で良い女だし、贅沢過ぎると思うけどなんか辛い。いろんな意味で。主に残弾数な感じで。あと襲うの止めて。

 

「俺はわかる、とは言えねぇ。で、何人?」

 

「……今日金剛四姉妹と大和」

 

「比叡含めて?」

 

「……含めて」

 

「え?アイツ、男性がダメって話だったはずだが?」

 

「さてね。克服したんだろ」

 

 肩をすくめつつ軽く玄一郎は言ったが、比叡は実際のところかなり恐怖症と嫌悪症に苦しんでいた。

 

 実際、本編では書かないが、姉妹が一緒でなければおそらくデキなかっただろうと玄一郎は思っている。だが、そのおかげで比叡は乗り越えた。乗り越えたがタガも外れた。恐怖も憎しみも、まるで反転したような感じになってしまって、その後が大変だった。

  

 とはいえわざわざ人に語る話でも無かろう。どうであれ玄一郎にとっては己の嫁の一人なのだ。

 

「乗り越えたか。毒殺未遂の件があったから心配はしていたが、よく受け止めてやったな?」

 

「仕方ねぇだろ。何かしらは、やっぱ情は湧く」

 

「まぁ、それが無きゃ地の果てまで逃げたくなるわなぁ」

 

 そこに、ウォーダンがまたボソッと一言。

 

「逃げる……?」

 

 ぐぐぐっ、とウォーダンの身体に力が入り、ブルブルと震えた。怒りをこらえているようにも見える。

 

「お、おい、ウォーダン?」

 

「否っ!!」

 

 ざばーん!!と立ち上がり。

 

「我はウォーダン・ユミルっ!!今開眼せりっ!!」

 

 立ち上がってナニかがブラーン。

 

「うぉっ、デケェ?!」

 

「馬鹿やろう、んなもんみせつけんじゃねぇ!」

 

「あ、すまん」

 

 どぽん、とウォーダンは座り。

 

「玄一郎、俺は理解した。むしろ逃げずに真っ向から向き合う事が必要だったのだ!!未知を恐れてはならなかったのだ。心根で負けてはならなかったのだ」

 

 ウォーダンは真っ直ぐだった(ナニの話ではなく)。まぁこの男らしい結論ではあるが、とはいえ。

 

「……ところであのタ級に何回絞られた?」

 

 ねじ曲がってしまった(ナニも左曲がり)斎藤がウォーダンに聞いた。

 

「……12回」

 

「……それでその結論が出せるお前はすげぇわ。つか毎晩、毎晩、それだとしたらどうするよ?」

 

「……それはさすがに無いだろう?」

 

「ウチ、周期によりけりだが5はやらされる」

 

「オギノ式?」

 

「新オギノ式」

 

「子供が出来るまでの我慢、か」

 

 艦娘の生理周期は人間の女子同様である。また年齢(?)によって閉経する事が無く、いつまでも肉体は老いる事は無い。また、幼く見える駆逐艦であっても生理はある。

 

 ただ、人間と艦娘の間に子供が出来る確率は通常の人間同士のカップルよりも低い。これは未だにその理由は解明されてはいない。とはいえ、出来ないわけではない。

 

「玄一郎は?」

 

「わからん。覚えて無い。多分一人、二・三回か?」

 

「……金剛型、4人と大和で5人。10~15、って普通死ぬぞ」

 

「……強化人間の身体だから耐えられてる感じだ。ゲシュペンストに感謝するよ。マジで」

 

「そういやお前ら艦娘とおんなじだったな。うわ~、俺なんざ普通の人間だぜぇ?羨まし!」

 

「……それでも襲われたら為す術が無い。俺には艦装に当たる物が無い。なんせゲシュペンストがカーウァイ・ラウで、俺は取り込まれただけの普通の魂だったからな」

 

「……ふむ。人間の亡霊だったか。とはいえ艦娘ナイトライフで耐えられるのはずるいぜ。腰振ってヘイヘイヘイ!ってか?」

 

「なんか一昔前のディスコとかのノリみたいに言うなよおっさん。つかウォーダンの方が耐久性は高いだろ。多分」

 

「……それに関してはわからん。なにぶん戦闘用アンドロイドだった。未知の部分だ。知識が無い」

 

「そうだったのか?そりゃ怖かったろ」

 

「予備知識無しで襲われたのかよ?!」

 

「うむ。女とはあのような機能があったのだな。むぅ。ハルナと向き合うには知識が必要だ」

 

「……ふーむ、それに関しちゃ、ウチの弟子もどうなんだろな。なんか知識がやたら偏ってそうな気がするな」

 

「その辺はデリケートな事もあるからな。一度、教養科の香取とかに相談してみたらどうだ?」

 

「……香取とかに?」

 

「何か問題があるか?」

 

「香取と鹿島は、なんか怖いんだよ」

 

「む?素行は特に問題無かったはずだが?」

 

「……そうなんだが。一度言われたんだよ。『……ロボットでなければ、一夜身を任せても良いぐらいには評価しております』ってな」

 

「……あー、舞鶴が女衒鎮守府時代に建造された艦娘だったな、あいつら……って、まさかあいつら『殺人快楽練習艦』なのか?!」

 

「その噂が広まったせいで本国にいられなくなったそうだ」

 

『殺人快楽練習艦』とは、海軍に伝わる裏の伝承である。

 海軍には様々な与太話や怪談が付き物であるが、その中でも『殺人快楽練習艦』の話は裏でまことしやかに語られている。

 

 とある『女衒鎮守府』で建造された練習艦二隻の話であり、売られた先々の『顧客』を次々と腹上死させた、という与太話である。大抵は、そんな艦娘いるわけがない、と笑われるのがオチである。

 

 しかしこの話には実在のモデルがいた。

 

 近藤がブラック提督から解放した舞鶴鎮守府の香取と鹿島がそうである。

 

 この香取と鹿島は本人達の性格や態度はかなり真面目で非常に勤勉、職務に忠実であるのだが、問題はその容姿と肉体にあった。

 

 本人達にその気は無くとも、男を魅了する才能のようなものがあり、彼女達と一度関係を結べば、大抵の男は彼女達に執着し、そして毎日のように取り憑かれたかのように彼女達を求めて、限界に達して死ぬという。

 

 もう一度いうが、彼女達にその気は無い。本人達は練習艦としての本来の職務に生き甲斐を感じているし、そもそも、そのような、人身売買ならぬ艦娘売買を行ったのはブラック鎮守府の提督なのである。彼女達に非は無い。

 

 だが、噂というものは恐ろしいものだ。ある日、メディアに特定されてしまったのである。

 

 それは他のブラック提督の連中がリークした情報で、舞鶴鎮守府を解放した近藤への嫌がらせであった。

 

 そのため、近藤は香取と鹿島をパラオの土方のところへと送る事にし、そして現在に至っている、というわけである。

 

「……この前、新造艦娘達の一般教養の講義をメールで頼んだんだ。そしたら『一度、夜にでも直接お会いしてじっくりとその辺のお話をさせていただきたいのですが』と返ってきた。二人が色っぽく投げキッスしてる写メ付きで」

 

 なお、胸の谷間とレースのブラが大きく開けたシャツから見えて大層セクシーでした。

 

「……ご愁傷様だな。なんて返答したんだ?」

 

「戒厳令下だったからな。『現在、厳戒態勢下故の多忙につき、メールにて子細情報を送る。よしなに頼み申し候』とな」

 

 もちろん、危険信号がワーニン、ワーニンとアラートを鳴らしたので逃げにはしったのである。  

 

「……安心しろ。墓には『ハーレムゲス提督、腹上死にてここに眠る』と書いておいてやるから」

 

 うわー、絶対逃げられねぇわ、と斎藤は風呂の天井を見上げた。

 

「ところでだ、斎藤、玄一郎。腹上死とはなんだ?」

 

 ウォーダンの性知識は、本当に子供レベルであるようだった。やべぇ、本当になんとかしないと、と玄一郎は本気で思ったほどである。

 

何にせよ、確かに香取と鹿島とは一度会わねばならないが、一人で会うのは危ない。「どうすっかねぇ」と玄一郎は悩むのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 一方その頃。

 

 香取と鹿島は、休日を利用してパラオのショッピングモールの輸入ランジェリーショップで、それぞれ対提督用悩殺下着を購入していた。

 

 パラオに赴任してきてから約10年。彼女達は良き訓練艦、良き教師、良き先生、そう、聖職者として働いてきた。昔の黒歴史は忘れて捨て去り、それはもう、香取と鹿島本来の職務に忠実に真面目に取り組んできた。

 

 だが、やはり彼女達も女性なのである。やはり疼く事も、ある。だが彼女達は鋼鉄の自制心と理性で必死に絶えた。何しろ、彼女達を買った男達はみんな死んだのだ。このパラオで人死にを出すわけには行かない。ようやく手に入れた平穏とそして天職なのだ。

 

 建造され、苦界に落とされ、様々な男性に売られ、謀らずも死なれ、また売られて謀らずもまた死なれ。

 

 みな、確かに自分達を買いはしたし飼ってはいた。だが、みな一様に大事にしていてくれたと彼女達は認識している。中には酷い男もいるにはいたが、それなりに思いもあった。情もあった。

 

 そう、彼女達にとって自分達のせいで死なれてしまうというのはトラウマであった。

 

 自分達が悪く言われる事よりもなによりもつらかったのである。

 

 故に、彼女達は昔の自分達を封印していたのである。しかし、そのタガが外れたのは青葉の新聞の号外を見て、さらにその夜、五十鈴と新造艦娘の教練と座学についての打ち合わせをした帰りに、自分達の寮の向かい側、重巡寮から裸で飛び出して来た提督の勇ましい股間のアレを見てからだった。

 

 二人は、あの試製51センチ砲に恋をした。そう、惚れてしまったのである。

 

 さらに、数日前、古巣の舞鶴の高雄からの情報曰わく『深海ムサシ』とパラオ提督がヤった。

 

 その情報に香取と鹿島は驚愕した。

 

 『深海ムサシ』は確かに数日前に提督が連れて帰った。その強さと霊格は桁違いであり、あのような艦と一夜を過ごして無事でいられるならば、我々にも耐えられるに違いない。

 

 さらに昼頃に会った金剛姉妹。

 

 四人は、すでに女の顔をしていた。あの酷い男性嫌悪症で提督拒絶症の比叡さえも、憑き物が落ちたかのように幸せで満ち足りた女の顔をしていたのだ。

 

 コイツら、ヤりやがった。四人同時で。あの試製51センチ砲と。

 

 さらに掲示板に出されたお触れ。

 

【明後日以降、ケッコンカッコカリ希望者は事務局の指定用紙にケッコンカッコカリ希望と書いて提出すること。なお、出来うる限り対応するが、場合により受諾出来ない場合もあるので御理解いただきたい。パラオ提督黒田玄一郎】

 

 二人は急いで事務局に行き、舞鶴で同期かつ同僚だった大淀に詰め寄った(大淀さんも舞鶴鎮守府にいたという事実)。

 

 襟首掴んでガックンガックン大淀を揺すって答えさせたところ

 

「泊地の治安維持の側面が大きい」

 

 ガックンガックン。←どう言うことか聞き出している。

 

「この前の多発艦娘暴走を踏まえた対策」

 

 ガックガクガックガックン。←書類くれと言っている

 

「書類は明後日から」

 

 ガックンガクガクガク。←であんたはどうすんのと聞いている

 

「揺らすの止めてぇぇっ!!つかあなたたちキャラそんなんじゃなかったでしょ?!」

 

 ガクガクガクガク!←良いからとっとと答えろと言っている。

 

「パンツ見せても靡かないから直接モーションかけるしか無いじゃない!ネクラメガネでも婚活しても良いじゃないっ!!」

 

 ピタッ←ベネ!

 

 なんだかんだで大淀さんはメガネ淫乱(ここ重要)。

 

 そして、事務局の隣、つまり提督の自室辺りから聞こえてくる喘ぎ声。それは大和の声だった。

 

 防音が施されてはいるが、それでも艦娘の聴覚はそれを捉えた。

 

「……大淀さん、コップ2つ」

 

 鹿島がそう言い、大淀は何故か3つコップを出してきた。自分も盗み聞きする気満々だった。

 

 3人は事務局の壁にコップを当てた。

 

 ゴクリ。3人同時に生唾を飲み込む。

 

 これ以上は、書けないが、3人はあの清楚で文字通り大和撫子な大和の絶頂の声を聞いた。聞いてしまった。

 

 超ド級戦艦、大和がイってしまった。

 

「提督、すんごい」じゅん。

 

「はぁはぁはぁ」じゅん。

 

「うーっ、隣が事務局だってわかっててやってるのかしら……」じゅん。

 

 3人とも前屈みである。しかし。

 

「……え?まだ……やるの?」

 

 二回戦が始まってしまった。

 

 結局、三回の裏まで3人は最後まで聞いてしまったわけであるが、香取と鹿島は驚愕した。

 

 何しろ、金剛四姉妹とした後で次が大和である。絶倫にも程がある。

 

 そして彼女達の胸に希望が湧いてきた。彼ならば、全力でシテも死なないに違いない!!と。

 

 香取と鹿島はお互いに頷き合った。

 

 嫁入りしてやる。試製51センチ、弾数無限(そんな事実は無い)の提督に!

 

 今、提督に『殺人快楽教習艦』の魔の手が伸びようとしている。ついでに淫乱メガネのも。

 

 エロい女教師達は念入りに勝負下着を選んでニヤリとわらう。なんというか、おぱーい隠れてないよね?それ、という感じなブラとか、いや、大事なところ覆って無いじゃない!という感じなおパンツとか、をカゴに入れてベネ!ディモールト・ベネ!

 

 なお、レジではブラのサイズが無くてがっくりとうなだれているアインスト・カグヤがいたりするけど、ドンマイ!うしちちプリンセスコピー。

 

 はたしてゲス提督は新たなエロ刺客『殺人快楽練習艦』シスターズの魔の手から逃れられるのか!?

 

 戦え!ゲシュペンスト。立ち上がれ!玄一郎。パラオの平和の為に!!(終われっ!)

 




 傷だらけの男達。

 オデノガラダハボドボドダァ!

 次回、イケないリップスティックって、どこに使うスティック?でまたあおう(嘘)


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幕間。天災科学者ビアン・ゾルダーク

 近藤大将の重婚も主人公の重婚騒ぎも、全てはビアン総帥のせい(間接的)。

 なお、昔のスパロボを知らない世代は知らないキャラが多いかもしれませんね。

 リリーさんの色っぽさとか。ユーリアさんのかっこよさとか。

 ビアンオヤジはわりと変態的なところがあると思う。ヴァルシオーネとか。ヴァルシオーネとか。


 

 間宮に向かう途中、玄一郎は廊下で金剛に呼び止められ、貴賓食堂で出されたワイン『金剛ピノ・ノワール』の意趣返しだと言ってチリ産のワイン『カミノレアル』を渡された。

 

「間宮と一緒に飲んでクダサーイね?」

 

 金剛曰わく『ワインの返しはワインでやるデース』とのことで、何かしら意味があるようだ。

 

 念の為、ゲシュペンストと通信してワインについて調べてみたがなかなかの意趣返しだった。

 

 まず、この前の貴賓食堂で出された『大将ワイン』と呼ばれ、海軍軍人に親しまれている菅原ワイナリー謹製の『金剛ピノ・ノワール』。

 

 これは『艦娘擁護派の父』と呼ばれた元海軍大将の菅原道夫氏が始めた果樹園で作られたピノ・ノワールという品種の葡萄を使って造られたワインであり、このワインの特徴は、赤ワインであるが色が淡く薄く透き通るようである。さらに渋みが少なく味わいが繊細であり、上品な後口だという。

 

 この特徴が彼の部下だった金剛の性格に良く似ていると菅原大将が思い(異論は割とあるかも知れないが)そのワインに金剛の名を冠した、という。

 

 なお、玄一郎は知らなかったが、金剛型にプロポーズするするときの定番のワインであるらしく、寄りによってその菅原大将の元にいた金剛本人にそのワインを出してきた隼鷹の根性には敬意を別の意味で払いたい。つか禁酒令だしたろか、と玄一郎は思った。

 

 そもそも、金剛はかつて菅原道夫大将を敬愛していたが当時ケッコンカッコカリも無かった頃である。また金剛はすでにその頃には艦娘として海軍から外せぬ存在になっており、菅原大将を追って退役も許されなかった。

 

 また、菅原大将の側には常に高雄(現在の菅原夫人)がおり……と、つまり金剛は恋に敗れたわけであり、そのワインを出されたのは金剛にとって複雑なサプライズだったろうと思われる。

  

 さて、その意趣返しとして金剛が用意したこのワイン。カミノレアルであるが、こちらははっきり言って『金剛ピノ・ノワール』の比ではない程に意味深である。

 

 このワインのルーツは19世紀の太平洋戦争(第二次世界大戦ではなく、それ以前の南米で起こった戦争である。主に海戦が行われたため、太平洋戦争と呼ばれる)である。

 

 この太平洋戦争での帰還者数は出兵した兵士の過半数以下であったとされているが、そんな戦争に出兵する一人の若者が、恋人とワインを酌み交わし『帰還したら結婚しよう』と約束したという。

 

 通常ならば立派に死亡フラグである。

 

 だがその若者は激戦を戦い抜いて見事帰還、恋人と結ばれ、そしてその一族はカミノレアルのワイナリーを開いたという。

 

 これをよく考えると。

 

 恋人の女性とカミノレアルを一緒に飲む→戦場での死亡フラグ回避→帰還→人生の死亡フラグ(結婚)。

 

 という図式が玄一郎の頭の中に浮かんだ。この男にかかればロマンチックなワインのエピソードも、そうなる。ワイナリーの方々に謝れ、とか思うわけであるが、それはともかくとして。

 

 今からプロポーズしに行くわけであり、縁起担ぎとしては悪くは無い。玄一郎はそのワインを持って間宮食堂へと向かったのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、ほぼ同時刻。

 

 地球軌道上、月面裏。

 

 この世界では未だにそこで活動するものはいないというのに、クレーターの一つに停泊している宇宙戦艦があった。

 

 アルバトロス級宇宙戦艦『マハト』。かつてのコロニー統合軍旗艦であった。

 

 だがその艦体のサイズははっきり言って小さかった。かつてのアルバトロス級の大きさに比べればクジラとイワシ程に違い過ぎる。

 

 艦が縮小されてデフォルメされたかのような大きさである。このアルバトロス級『マハト』もシロガネ同様、艦娘化しているのであろう。

 

 

 

【Sideマハト】

 

 

「月面にはムーンクレイドルも無し、特に何の反応も探知せんか。こちらの世界の月には何も転移していないようだな」

 

 ここはアルバトロス級宇宙戦艦、コロニー統合軍旗艦『マハト』のブリッジ。その艦長席で初老の男がヒゲを捻りながらそう言う。

 

 もう皆様おわかりの事とは思うが、この男はマイヤー・V・ブランシュタイン。かつてのコロニー統合軍司令にしてビアン率いるディバイン・クルセイダーズ(DC)と手を組んで地球連邦に反旗を翻した人物である。

 

 かつてのDC戦争の折にこのアルバトロス級コロニー統合軍旗艦『マハト』で軍を率いて戦い、そして戦死したが、この世界に彼も顕現化し、復活したようである。

 

 誰それ?という最近のスパロボしかわからないという人に説明するならば、謎の食通トロンベ兄さんとその弟のSRXのライ君の父親である(ぶっちゃけすぎ)。

 

「はい、その他人工建造物の存在はありませんね。アポロの月面着陸跡もアームストロング船長の足跡もありません。きれいなものです」

 

 コロニー統合軍の将校といった感のする服を来た、実直そうな少女がマイヤーに言う。彼女が艦娘『マハト』である。きっちりとした軍服を来ており、ウェーブがかったアッシュブロンドの髪を後ろにまとめてバレッタで止め、軍帽をかぶっている。

 

 なお、深海戦争勃発により、この世界の宇宙開発は遅れに遅れている。人工衛星などもまだ少なく、ようやく日本が主導で人工衛星打ち上げ用のロケット開発が軌道に乗ってきたぐらいである。

 

「ふむ……。わざわざここまで秘密裏に調査に上がって来たが、何も反応が無いならば我々の単なる杞憂に過ぎなかった、か?」

 

「マイヤー総司令、ヴァルシオンから通信です」

 

 オペレーター席に座っている副官、リリー・ユンカース中佐がマイヤーに報告する。この人もこちらの世界に来ていたのである。

 

「ユンカース中佐、私はもう総司令ではないぞ?まぁいい、繋げ」

 

「失礼しましたマイヤー施設監督官。では繋ぎます」

 

 マイヤーは現在、日本空軍宇宙開発機構の北方施設監督官という地位を得ていた。この日本空軍宇宙開発機構は気象人工衛星や軍事衛星、などの打ち上げなどを行う組織であり、技術部、ロケット製造総監督等にビアン・ゾルダークが就任していたり、食堂にはマイヤーの息子の嫁、すなわちエルザム(謎の食通トロンベお兄さん)の奥さんが居たり、秘書官にリリー・ユンカースがいたり、警備部長に元トロイエ隊の隊長のユーリア・ハインケルがいたり、その部下にビアンが拾ってきたスクール出身のシエンヌ、シアン、シオのアルジャン三バカを雇っていたり、と旧DCの勢とプラス三バカが集まっていたりする。

 

 世を忍びつつ、日本空軍のお仕事の傍ら、時折こうやって打ち上げロケットに偽装したマハトで宇宙に出てはエアロゲイターなどが侵攻してこないかを監視しているのである。

 

 なお、使い捨てロケットでは無く、燃料以外は使い減りしない艦娘のマハトちゃんを使っての打ち上げなので費用も削減、資金はきっちりと使い捨てロケットの金額で計上しているので、かなーり資金は潤沢に溜め込んでたりするわけだが、それは私腹を肥やすためではなく、地球の危機などの、いざという時の為の資金として一切手をつけてはいない辺り、彼らはその理念を変えてはいないと言える。

 

 まぁ、流石にテレビによる報道などでロケットの打ち上げなどを放映されるときはキチンと使い捨てロケットを用意していたりするのだが。

 

 今回、彼らが宇宙戦艦なんぞを使って月に来た理由は、月から救難信号とおぼしき通信が発せられたからである。

 

 その信号は地球連邦のものでも、DCのものでもなかったが、月になにか来ている可能性があった。故に調査の為に出張ってきたのである。

 

『マイヤー、こちらビアン。静かの海付近にエネルギー反応有り。微弱だが未知の反応だ。救難信号らしきものはちょうどここから発せられている。……今、目視した。映像を送る』

 

「む?これは……PT?いや、見たことのない機体だ。エアロゲイターの物とも違うようだが?」

 

『機能は停止しているが、我々の機体と同様、スモールサイズになっているようだ。まるでパワードスーツのようだ。月面にめり込んでいる。掘り起こして回収する』

 

「了解した。くれぐれも気をつけてくれよ?」

 

『このヴァルシオンならばそうそう滅多な危険は無い」

 

「ダイテツの所の赤城がな、慢心ダメ!絶対と言っておったぞ?」

 

『……あの食い倒れ空母娘がそれを言うときは大抵体重計に乗った時だろうが。まぁ、慎重にやる。では作業に移る』

 

 なお、彼らのいる北方のロケット打ち上げ施設のすぐ近くの北方泊地の提督が、皆さんご存知、シロガネとハガネの艦長だったあのダイテツ・ミナセだったりしたりなんかする(現在、深海テロ事件の時にほっぽちゃんを庇った時に受けた負傷が元で入院中)。まぁ、この世界に来てからは過去の遺恨等無く、普通にお付き合いしていたりするが、お互いに異世界から来たという事もあり、その辺の事情を隠す為の同盟のようなものを結んでいる。

 

 なお、ダイテツの所の間宮さんとマイヤーさんの義娘のカトライアさんはお料理友達であり、ほっぽちゃんを二人して餌付けし、そのおかげで戦わずして北方海域攻略したという話もあるがそれはさておき。

 

 ダイテツさんとこの赤城の体重は日本海軍全赤城一重い。間宮さんとカトライアさんのせい。間違いない。

 

 

 

【Sideビアン・ゾルダーク】

 

 

 ビアン・ゾルダークもやはりこの世界に来ていたが、彼がこの世界に現れたのは今からすでに40年も前である。

 

 当時、彼は民間で発明家をしており、霊力で動くモーターを使った円盤型の自動掃除機『タンバ』や、霊力で空飛ぶラジコン式のおもちゃ『ドロローンタンバ君』などを造って、それらの特許でそれなりの収入を得て生活していた。何故に名前がタンバなのかというと、やはり霊界はある!という事でタンバなのである。テツロー。

 

 彼がこの世界に現れた時は、大戦が終わり、日本はようやく復興して経済発展を始めた頃であった。

 

 平和な時代に、彼はひっそりと人が幸せになるようなそんな物を造って行こうと『ゾルダーク研究所』を設立し、家庭で役立つもの、子供が楽しめる教育玩具、家族がみんなで豊かに暮らせるものを発明していった。

 

 その特許件数は5000件にも及び、かのトーマス・エジソンを超える偉業を打ち立てた。しかも、トーマス・エジソンとの違いは、誰かの理論を全くパクらず、独自理論でやらかして来たのである。また、誰かが同じ研究をしていたならば、途端に興味を無くして辞めるという飽きっぽさもあって、誰からも文句の出ない超発明王として有名となっていた。

 

 この世界の霊力という概念を解き明かした偉大な研究家としてビアン・ゾルダークは賞賛される事になったが、だがそれがいけなかった。

 

 深海戦争が勃発し、彼は再びその頭脳を戦争へ使わざるを得なくなったのである。

 

 未知の生命体『深海棲艦』。

 

 これには人間の通常の兵器は通用しない。そんな未知の敵生命体は彼の研究所のある横浜にも、深海棲艦は攻め込んで来た。

 

 こんな事もあろうかと、と、彼は作り上げた己の発明品、『試製霊力機関搭載のゴーストバスターパック』を背負い、上陸しようとした深海棲艦と戦った。

 

 やたらと場末の発明家にありがちな発明品であり、映画のパクリな装備ではあったが、おおっぴらに街の発明家が超兵器など造れるはずも無いがゆえの装備だったが、威力は絶大。

 

 警官や自衛隊の銃器も通用せぬ深海棲艦をバッタバッタとなぎ倒し、彼は横浜の平和を守ったのであった。

 

 その時にドロップしたのが、現在松平元帥の妻になっている叢雲だったりするので世の中、縁というのはわからぬものである。つまり、ビアンがおらねば初期艦叢雲も居なかったのだから。

 

 その時の彼の横浜攻防戦によって彼は海軍に招かれ、そして対深海棲艦用の兵器開発の協力をする事になった。そして、艦娘建造システムを開発。だが、その艦娘建造システムを造った事をビアン・ゾルダークは後に後悔する事となる。

 

 時は海軍暗黒期、大量に建造された艦娘達は、戦略無き物量作戦にてその命を多く落とし、さらには怨念による霊力反転現象により深海化し『マヨイ』というさらなる人類の脅威へと変貌したのである。

 

 その艦娘達の運用法に激怒したビアンは軍上層部の腐敗を糾弾したが、折しもその時代は上層部のみならず政府も腐敗していたのである。結局、反逆罪という汚名を着せられビアンは軟禁される事となる。

 

 数年間にも渡っての軟禁生活、しかしビアンは必ず腐敗した海軍、政府を打倒し、艦娘達を救うと決意して施設から逃げる時を虎視眈々と待っていた。

 

 そして時は来た。

 

 ビアン・ゾルダークは海軍の研究施設を逃げ出した。折しも時は菅原大将の時代、艦娘擁護派の一部の若手達の力を借りて、遠く艦娘擁護派が左遷されて集まっているという北方まで逃げた。そこからはロシアへと渡るつもりであったのだが……。

 

 北方で提督をしていたダイテツ・ミナセに出会い、そしてこれまでの経緯を話した。

 

 ダイテツの元にはかつての友であったマイヤーやその部下、そして義娘が集っていた。

 

 そこでビアンはダイテツ達と北方から艦娘達を救う事を決意し、当時の菅原大将の支援をしていったのであった。

 

 なお、こちらの世界でのビアン・ゾルダークの艦娘関連の発明は艦娘建造機だけではない。

 

 その後、彼は艦娘達への贖罪としてケッコンカッコカリシステムとケッコンカッコカリリングを作成した。これは、辛い暗黒期を生き残った艦娘達に幸せになって欲しいと願いを込めてである。

 

 なお、今も絶賛量産増産中。

 

 ビアンが造った艦娘建造機を使い、世界で初の艦娘量産を行った舞鶴鎮守府を解放した近藤大将の所に大量のリングを送りつけ、艦娘達から逃れられぬようにした張本人がこのビアン・ゾルダークであり、そしてまた、この物語の主人公である黒田玄一郎に松平元帥が大量に送ったケッコンカッコカリリングの出所もやはりビアン・ゾルダークだったりしたりなんかしているので、男達の知らないところでかなりの影響を与えているのである。

 

 流石はビアン総帥と言わざるを得ない。

 

 天災科学者ここにあり、であるが、まぁ、それはそうとして。

 

 なお、ヴァルシオンが居るのが判明したのはつい最近だったりするので、ビアン・ゾルダークのヴァルシオンは泣いていいと思う。

 

 そういうわけで、ビアン・ゾルダークさんはある意味艦娘建造の父とも言える存在だったりするわけである。

 

 まぁ、それはさておき。

 

 月面で発せられた謎の信号。そして月面にめり込んだ謎の機体の正体は?!

 

 待て!次回っ!

 

 ビアン総帥の華麗なる活躍を乞うご期待!!




 トロンベお兄さんとライ君のオヤジのマイヤーさんにリリーさん、トロイエ隊のユンカースおねぇさまに、カトライアさん、アルジャン三バカにダイテツ艦長。あと『マハト』の艦娘。

 てんこ盛りな登場人物でお送りする北方方面の面々。

 なお、北方のマスコットキャラはほっぽちゃん。

 次回、女騎士とビアンばかん、そこはおへそなの、でまたあおう!(大嘘)。


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重婚多重奏曲~間宮でお食事を~老いらくにラブ


 間宮さん。むっちりむちむち。おぱーいデカい。

 ビアンさんの受難の始まり。

 フー=ルーさんは老け専ですよ?←をい。


 ワインを飲み、酔う。

 

 ワインと、清楚で綺麗で働き者な優しい女性と、その手からなる料理を共に楽しむこの幸せ。

 

 間宮とはこんなに気さくで愛らしい人だったのかと玄一郎は思った。

 

 普段の一面と今の間宮の明るくてそれでいてほっとさせてくれるこの親しみのわく笑顔。少し幼さを感じさせるその柔らかな顔は酒気を帯びてやや赤くなり、それもまた新鮮だった。

 

「うふふっ、少し私、飲みすぎたみたい。こんなにはしゃいだのはいつ振りかしら」

 

 と、にこやかに笑う彼女はまるで少女のようだった。

 

 生前、玄一郎はまったく女性とは縁が無かった。享年21歳。高校は男子校。大学は圧倒的に男だらけの工学系の学部。女性と縁のない方面の青春を過ごしてきた。そんな青春黒歴史。

 

 いや、女性とワインを飲みながらなんてそんな洒落た事などは……いや、あったが、あれも黒歴史だ。外資系のファミレスでバイトしていた頃に、その支社長に誘われて大学卒業したらウチの会社に来いと言われた時に一度だけ。確か支社長の名前はジェニファー・フォンダとか言ったっけ。

 

……酔っ払った女支社長にホテルに連れ込まれそうになって逃げたんだよなぁ、あん時。

 

 いやいや、と玄一郎は頭の中から嫌な記憶を追い払う。

 

 今は間宮と素晴らしい時間を過ごしているのだ。

 

「人と食事をしていてこんなにときめいたのは初めてだよ」

 

 玄一郎は間宮を見ていてドキドキしつつ、酒の入って軽くなった口でそう言う。

 

「あらっ、私も殿方にときめいたのは初めてですわ?」

 

 くすくすくす、と間宮も笑いながらも軽く言う。ただ、その目には悪戯な光が見え隠れし、何かを期待するかのように細められる。

 

「カ・ミ・ノ・レ・ア・ル」

 

 ワインの名前を一言一言、切るように言って、またくすくすくす笑う。

 

「こんなに嬉しいワインを貴方と飲めるなんて。こんなに幸せな気持ちになったのも初めてです」

 

 間宮はワインの瓶を指差す。

 

 間宮は貴賓食堂の地下のワイン倉庫の管理もしている。それだけでなく和洋問わず酒の知識はかなりのものであり、カミノレアルの由来を知っていて当然だった。

 

「うふふっ、カミノレアルを共に飲んだ男女は結ばれる。有名ですもの」

 

 間宮の笑顔は期待するように玄一郎を見つめた。

 

「あ~、本題をいつ切り出すかってタイミング図ってたんだが、まぁ、そういう事なんだ、うん」

 

 玄一郎は懐から小さな箱を二つ出した。

 

 一つは婚約指輪の箱。もう一つはケッコンカッコカリの指輪である。

 

「まぁっ!」

 

 まず、婚約指輪の蓋をあけると間宮の目は驚きに見開かれた。

 

 その笑顔が喜色満面から、喜面絶頂といった顔へと変化する。

 金剛が贈られた指輪の綺麗でしっかりと纏まったデザインとその精密な造形は間宮も貴賓食堂で見ていた。だが、自分にと玄一郎が用意した指輪を見てそれが予想以上のものだったので驚いたのである。

 

 実は間宮用の指輪は玄一郎の予想以上の出来になって特別な指輪に仕上がってしまっていた。

 

 本来の玄一郎のデザインではプラチナに紋を彫ってダイヤをあしらうシンプルなものだったのだが、しかし妖精さん達が予想以上の頑張りを見せたためにゴージャス化してしまったのだ。

 

 間宮用の指輪の元々のデザインは稲穂をモチーフにしてイエローダイヤをあしらったものだったのだが、妖精さん達は間宮羊羹などを貰っているお礼にと張り切り、頑張り、いつも以上の能力と精密さ、そしてその技術力を発揮し、デザインそのままでアレンジと改変を加えてしまったのである。

 

 稲穂の紋に金をはめ込んだりイエローダイヤが最も輝くようにと指輪の裏に透かしを施し、さらに表面に顕微鏡で見なければわからないような細かい妖精語の祝福の言葉を紋様にして施し、さらに料理をする時に首からかけておくための金のチェーンまで用意したのだった。

 

 正直、間宮用の指輪は他の艦娘用とは一線を画する出来映えになってしまっていた。一体どこから純金を持ってきたのか考えると謎だが妖精さん達が本気でやらかす時、想定外のスペックの物が誕生してしまうのだ。

 

『出来てしまったものは仕方ねーわなぁ』

 

 とハンマー妖精さんは開き直って言ったものだ。

 

 とはいえ作り直す時間も無し、ここまでのクォリティーに仕上げてくれた妖精さん達に、流石に他の指輪とクォリティーが違いすぎるから、他のもなんとか同じように仕上げてくれ、とお願いしたわけであるが、妖精さん達は気まぐれなのである。他の指輪もある程度はやってくれたが、間宮さん用のに匹敵するクオリティのものはわずか数個だった。

 

 なお、妖精さんが力を入れて仕上げた指輪は誰と誰と誰用なのか、とかここでそれを言うのは野暮というものであろう。

 

「イエローダイヤのfancy vivid級、プラチナにゴールドのインレイ……こんな指輪を、私に?」

 

 やはり、間宮の審美眼はかなりのものであるようだ。もっと正しく言うならばプラチナは900。ゴールドは削れないようにと18金であるが、そこにはまったダイヤは少し大きめの色の濃いイエローダイヤの最高級等級fancy vivid。加工精度はおそらく世界最高の精密レーザー加工機による。仕上げは確かな技術をもつパラオ工廠の妖精さん達。しかも妖精さんアレンジタイプ。

 

 ホロリ、と間宮は笑みを浮かべたまま涙をこぼした。嬉し涙である。

 

「間宮、左手を出して」

 

「はい!」

 

 玄一郎はすぐさま差し出された間宮の左手、その薬指へと指輪をはめてやる。

 

 キラリと輝くイエローダイヤ。それは間宮の指を飾るに相応しく、しっくりと納まった。

 

 ケッコンカッコカリの指輪も併せてはめる。

 

 玄一郎は知らない。

 

 これが間宮が提督と呼ばれる存在とケッコンカッコカリをした初めてのケースである事を。

 

 さらに、この間宮が全ての間宮を統括する最古の間宮かつ、間宮・伊良湖ネットワークの頂点『間宮・オブ・ザ・間宮』と呼ばれた影の実力者である事を。

 

 まぁ、特に悪いことは起こらないが、そんな実力者が草食系だと言うはずも無いが、この後の展開は推して知るべし。

 

 なお、間宮さんのバストサイズは、愛宕さんとタメを張るほどの大きさである。嘘と思うならイラストとかで確かめてみようね?

 

 それはさておき。

 

 間宮さんすんごい、もうすんごい、とだけ言っておこう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 その頃の宇宙、月面では。

 

 ビアン・ゾルダークによる未知の機動兵器のサルベージが行われていた。

 

「うーむ、ほりほり、ほりほり、ほりほり」

 

 ヴァルシオンで月面の地面を彫りつつ、独り言をぶつぶつぶつ。

 

「この世界ではアポロもアームストロング船長も月面には来とらんかったとは。ふーむ、そういや昔、月にはダイヤがゴロゴロしとるという説もあったのう。まぁ、探知に引っかからん所を見ると無いようだが。チタンや鉱鉄、ボーキサイトはあるか。……採掘してどっかに横流しして資金稼ぎとか出来んだろかな」

 

 横流しというがそれを人、密売と言う。

 

 かなり深くめり込んでいるので掘る穴もそれなりである。月の表面には鉱物資源が集まって分布しており、実は割と硬い部分がある。なかなかに岩盤は硬く、掘るのも一苦労である。某マインでクラフトなゲームのようには行かない。

 

『……いや、済まない。流石にここまで埋まっては自力で何とも出来ないのだ。感謝する』

 

 実際は埋まっているというよりは岩盤の亀裂の中に突然出現したような形になっており、鉱石を含んだ岩盤は如何にブースターを噴かそうが、機体のパワーで抜け出そうとしようがビクともしなかった。

 

 これが亀裂ではなく地層の中ならば機体はどうなっていたことか。某ロールプレイングゲームの如くリアル壁の中にいる、になって死んでいただろう。

 

 実際、ヴァルシオンのディバインアームでガッツンガッツン岩盤を砕かねばならない箇所も多く、作業は難航したが、なんとか硬い岩盤は除去できた。しかし武装の剣で岩を砕くというのはなんともはや。修復剤をぶっかけたら治るとはいえ、勿体ない気もしなくもない。

 

「いや、まぁ、災難だったな、フー=ルー・ムールーと言ったか?向こうの世界の月はエラいもんだったのだな。いや、平行世界という可能性が高いのか?」

 

「フー=ルーでいいわ。……ここが我々の月では無いのは、理解した。貴方のいた世界と私の世界が同一なのかどうかは私にもわからないけれど、私も自分が死んだ事もわかっているわ。ヴォーダの闇ではなく、この世界にいることも」

 

 そう、機動兵器の正体はラフトクランズ・ファウネア。そして中の人はフー=ルー・ムールーであった。

 

 男を見る目が無い戦闘狂な女騎士で、なんというかこう、あんまし色気を感じないタイプというかなんというか、だがその辺が良い←をい。

 

「お前のように物分かりがいい奴ならこの世界に仇なす事も無いと思うが、この世界では私達のような存在は客人のようなものだ。その辺をわきまえて過去の要らぬ妄執や欲望は捨てるがいい。その上で、まず普通に生きてみる事だ。……時として人は過ちを犯す。私とて、それがわかっておったはずなのだがな」

 

『……貴方のような御人でも、回避は出来なかったと?』

 

「異星人の魔の手から地球を、人類を守る為には手段を選んでいられぬ状況だった。敵の企んでおることがわかっていたからな。そして確かに私の死後、私の世界は異星人に打ち勝ったようだが、けして許される事ではない。それにこちらの世界でも、私は多くの子達を不幸にしてきた。それもいずれ償わねばならん」

 

 ビアンの背負った罪は大きい。しかし彼はその全てを一身に受けて償う道を歩き続けている。だが、それを成す為に独りでは何も出来ないこともよくわかっていた。

 

『私は、何も救わなかったわ。尊敬する騎士の遺児達や同僚の恋人の道をふさいで敵討ちの邪魔をしていた嫌な女よ』

 

「……それでも、その子達を成長させたのではないか?多くの正しき戦士達を目覚めさせ、そして成長させたのではないか?とはいえ教訓として自戒すべきところは多くあるだろう」

 

「そうね。少なくとも私は自分の生に納得はしているわ。死に際の約束は守れそうにないけど」

 

「ふむ?」

 

『……亡くなった偉大な騎士を父に持つ少年に、御父様に貴方が最強の騎士に成長したと伝えてあげる、的なことを言ったけれど、ここは死後の世界ではないようだし』

 

「……こっちにいる限りは果たせそうには無いな、それは。いや、こっちの世界にその騎士が来とるなら叶うかも知れんが。っと。よし、掘れたぞ。これで引き上げれそうだ。どれ、腕を出せ」

 

 フー=ルーはラフトクランズ・ファウネアの右腕をヴァルシオンに差し出した。ヴァルシオンはそれを掴んだ。

 

 その時だった。

 

 きゅいいいいいいいいん!!

 

 二体の機動兵器、そしてビアンとフー=ルー・ムールーに共振現象が起こった。

 

「ぐっ?!これは……霊力の共振かっ?!」

 

「な、なんだこれはっ!!」

 

 以前、玄一郎とカルディアに起こった現象と同様の現象が二人に起こった。

 

 これはしばしば起こる現象であり、比較的に安定した古い霊的な存在と顕現化して間もない存在が接触したときに起こりやすく、おそらくまだ顕現化して間もない新しい存在がその不安定な霊力を安定させようとするのではないか、とビアンは推論を立てている。

 

「落ち着け、これは霊力の共振現象だ。お前自身がこの現象を引き起こしておるのだ。お前は存在として不安定な状態で、それを私の霊力で補おうとしとるのだ」

 

 とはいえ、ビアンとしてもフー=ルーの記憶が流れ込んで来るのはなんとも複雑だった。若い女性の記憶を垣間見るというのはなんとも申し訳無く、こう、洗濯をしているときに、洗濯機の中に自分の娘のリューネの下着が入っており、それが予想外に大人な感じだったのを見たときのような感覚だった。まぁ、パパの物と一緒に洗濯しないでとか言わないような娘だったのはビアンとしてはまだ救われていた(?)のかも知れないが。

 

 霊力の共振が終わり。

 

 フー=ルーは口を開いた。

 

「……グ=ランドンなどただの自己満足なアホだと気づいたわ」

 

 ビアンの記憶を見て、ビアンの人となりと人間としての器がわかったのだろう。しかし仮にも生前あんた惚れとったろうに、グ=ランドンが草葉の影で泣くぞ。

 

「おそらくお前は私の記憶も見たと思うが、そんなもんに価値は無い。過去は過去だ。とりあえずは引っ張り出すぞ」

 

「ワカッタワ『ビアン総帥』」

 

 何か、反応がおかしい。なんというか意識がはっきりしていないような口調である。

 

「しっかりしろ。総帥は止めてくれんか。こちらの世界では普通に研究者しとるのだ」

 

 穴から引き起こして、ようやく、ラフトクランズ・ファウネアは出ることが出来た。

 

「うむ、では行くか。ここから少し行ったところに我々の戦艦がある。酸素と推進剤は大丈夫か?」

 

「大丈夫よ。『ビアン様』」

 

 なんだろう、やたらフー=ルーはビアンに敬称をつけようとするのだが、それは果たしてビアンの過去を見て尊敬に値すると思っての事か、それとも……。

 

「……様もいらん。普通でいいぞ?」

 

「いえ、やはり貴方のような方を呼び捨てにするわけには!!」

 

「いや、今はただの場末の発明家だからな?つか、お前は実際のところ地球の敵だった勢力の幹部であろうが。あちらの世界ならばそれこそ……」

 

「いいえ、人と人は分かり合える。そう、私はそんな事も知らなかった。私、あなたともっと知り合いたいわ。いえ、記憶は全て見た。だから、その……」

 

 熱っぽく語るフー=ルー。あかん、そういやコイツの男の趣味って……。

 

「いや、それは気の迷いというものだからな?とりあえず今やるべき行動をするのだ。旗艦に帰還するのだ」

 

 とにかく、ビアンもコイツやっべぇと思ったのだろう。

 

 フー=ルーの想い人グ=ランドンはやたらと何かオッサン臭い感じの奴だった。普通だったら同僚のアル=ヴァン・ランクス辺りを想い人にするはずである。

 

 つまり、このフー=ルーの男性の好みは、おそらく、ぶっちゃけ、老け専なのだろう。それも人のトップに立つようなそんな感じの。

 

「……いけずな方ね」

 

「私は老人だからな?実年齢換算したらもうとっくに80代だからな?ジジィだからな?」

 

「……私なんてタイムスリープしてた年月数えたらもう数十億歳なのだけれど?」

 

「そういう問題ではない。と、とにかく帰還だ。大丈夫だ。時間が立てば精神も安定してくる。一時の気の迷いで振り回されるな」

 

「……私はそうではないと思うのだけれど、わかったわ。貴方についていきます」

 

「……言い回しがそこはかともなく何か違うような気がするが。行くぞ」

 

 ビアンにおいては非常に珍しいことにかなり焦っていた。そう、ビアンのゴーストが囁いていた。『コイツほったらかしにして帰ろうか?』と。

 

 そのゴーストの囁きに応じず旗艦『マイヤー』まで戻ったのは、まだ人道という言葉がビアンにあったからであろう。

 

 あと、何かしらの情報も得られるかも知れないというのもあったが。

 

 がんばれ、ビアン。負けるなヴァルシオン。この物語に出たら、大抵のマトモなキャラはおかしくなるのだ。

 

 ギャグコメディだからな!!←投げやり。





 なお、この物語の登場人物の性格はかなり改変されており……。

 でも、グ=ランドンを想い人にするフー=ルーってどういう審美眼してんだろなぁ。あんな性格なのに。

 オッサン好きの老け専なのか?とか思うとこうなった。

 やったね、ビアン総帥。嫁が来たよ?(押し掛け)。

 次回、ビアンばかん、は前にネタで出したけど、反応イマイチというか、今の人達ってしらんのか?でまたあおう!(もういい加減)


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重婚多重奏曲~間宮マンマミーヤ~足柄襲来

知らない天井だとアレですが、知らない天丼だと少し具が気になる。知ってるおっぱいだと、安心。知らないおっぱいだと、誰?とか思いつつもなんかガン見する男の千葉滋賀佐賀。次は~おっぱい!!(なお、作者は酔って書いてます。)

カルディアさんバージョンアップ。


 目を覚まして『知らない天井だ……』ならまぁ人格破綻DQNネグレクトオヤジに振り回されてろくでもない大人達のせいで死にかけたりする少しネクラな某中学生の子供である。

 

 だが『知らないおっぱいだ……』なら、それは本編の主人公の玄一郎の今の状況だ。なおそれは、ふくよかです。ええ。

 

 だが、知らないおっぱい、というのには語弊がある。

これは昨晩に知ったばかりのとっても大きくて柔らかいのに形のいい、ぽいんぽいんでふわふわで、さらりとしているのに程よくしっとりな間宮さんのおっぱい。

 

 これね、間宮さんプルーンおっぱい。ジスイズ間宮さんおぱーい。

 

 なお、間宮さんは優しかった。すんごく優しかった。襲われる事はなかったが結局は精神的にじわじわとそのような雰囲気にどんどん持って行かれて気がついたら、初夜だった的に。

 

 特別な絆に結んでしまった。身も心も。

 

 あれから間宮の部屋で飲みなおす事になって、普通に飲んでて、あれっ?と思ったら口移しでワインを飲んでた。それから、いや、全て覚えているが、自分でもびっくりだと思うほどにすんなりと玄一郎はやらかしていた。

 

 何をされたというよりも、ナニをしちゃってたという感じで、自然にそうなってしまっていた。学研のなになぜ図鑑もびっくりだ。

 

 いや、逃げたいとかそういう意識も起こらなかった。

 

 酔っていたのと疲労が溜まっていたせいで、えーと何回目で気を失ったんだっけな?と玄一郎はおっぱいに顔面を挟まれて埋もれさせながら、ヒイフウミイと数を数えるが、この状況から考えるにともかく気絶するように眠ってしまった玄一郎を間宮はお気に入りの抱き枕のように抱えたまま眠ってしまったようだ。

 

 なんとか呼吸は谷間で確保しているが、さてはて、おぱーいに挟まれたままでは視界がふさがっていてなーんも見えない。

 

 とはいえ、このおぱーいの感触はかなーり良い。ディモールトおっぱい気持ちいい。

 

 心臓の緩やかな音に癒される。まるで催眠術だなぁ。とくんとくん。とくんとくん。

 

 二度寝しよう。そうしよう。

 

 玄一郎はその柔らかくては心地よい感触に再び落ちていくのであった。おっぱいは安らぎ。

 

 なお、二人とも昼まで寝こけてしまって、間宮は慌てて食堂を開けに、玄一郎は急いで提督室へと走る羽目になって、扶桑と秘書艦の大和、研修秘書のアイオワに思い切りしかられたのだが、まぁ、そういうこともある。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 一方その頃。

 

 狼が潜んでいた。

 

 まだかまだかと待ち構える。王子様を待つのはお姫様の役目だが、餓えた狼の役目じゃない。

 

 夜から提督の自室に忍び込み、アンブッシュを仕掛け、提督のベッドでずーっと待っていた。

 

 酒を断ち、ベストコンディション。立ち技、寝技、投げ技全てベストコンディション。開幕超必だって出せそうな仕上がりだ。

 

 さぁ、帰って来るが良い!この長きに渡る婚活にエンディングのベルを鳴らしてやるわっ!!

 

 と、足柄さんは頑張っていたわけだが、しかし。

 

 待てど暮らせど提督は帰って来ず、精神を張り詰めていたので気力も保たず。

 

 ついには、くかーっくかーっとついには提督のベッドで、全裸のまま大の字で寝てしまったのであった。

 

 なお、足柄さんは本日休みである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 本日の提督の業務は、わりかし忙しい。ダイジェストにだーーーーっと流すと。

 

 外に出張っての業務が多く、まずはパラオの公共放送のニュース番組にて、厳戒態勢を解除したと発表し、その足でパラオセントラルホテルに向かい、那珂ちゃんライブコンサートに出演する予定だったが、今回の一連の厳戒態勢でイベントが一時中止になり、さらにパラオに足止めを食らっていた深海側のアイドル軽巡棲鬼の『ジュン』ちゃんと駆逐棲姫の『ハル』ちゃん達を訪ね、厳戒態勢解除の報を伝えて足止めをしてしまった事を詫び、さらにさらについでで元明石のアマンダの工場に向かい、バイクの件やウォーダンとソースケ用のカタパルト増設などについて話をしたりと、いろいろと対外的な活動をして提督室に帰ったらもう時刻は夕方になっていた。

 

 生身の身体での公用だったので移動は大和の運転する公用車を使い、かなり楽だった。研修秘書のアイオワとも交流出来て良かったといえば良かったが、朝寝坊のツケはきつかった。それに連日の疲労がパ無い。駆け足でだーーーーっと全て処理してようやっと夕方である。

 

「俺が寝坊したせいで今日はすまなかったな。疲れたろ?うし、大和とアイオワはこのまま解散して良し。特に重要な案件も報告も無いからな。書類は明日で。ほい、労いにRJのクレープ券をあげよう」

 

「……じとーっ」

 

「む、どうした?大和。何かあったか」

 

「いえ。やっぱり間宮さんの所でお泊まりだったんだなぁ、と。みんなお嫁さんになるんだって思ったら、なんだか変な気持ちになります。私だけの提督じゃないって思ったら、嫉妬したくなっちゃいます」

 

「……そうか。ふーむ、へぇ?ほーぅ?」

 

 玄一郎は大和の顔をじーっと覗き込むようにして、その頭に手を乗せて、くしゃくしゃっと撫でてやった。

 

「あっ……」

 

「旦那としては嫉妬してくれて喜ぶべきか、大和にそんな気持ちにさせた自分を不甲斐ないと思うべきか。だが、俺はお前も、みんなも愛すると腹を括った。こんな亭主で悪いな」

 

「いえ、自分の嫉妬深さに自己嫌悪したくなります……」

 

「嫉妬は俺に向けろ。言いたいことも何もかもな。我慢すんなよ?夫婦なんだからな。それと嫁同士は仲良く、な?」

 

「……はい。努めます」

 

「おーぅ、アドミラルとヤマート、ラヴラヴね!ふうーん、いいわネ!」

 

「うっ……からかわないでよ、アイオワ。恥ずかしいじゃない」

 

「ノーノー、仲の良いことは、一番だワ。ふうん……イイジャナーイ!アドミラール、ミーもユーに興味湧いてきたワ!」

 

 少し、うっ、と玄一郎は退きそうになったが、お得意のポーカーフェイスで顔に出さなかった。

 

 新たな嫁を迎えるのはやはり少しかなりちょっと、とか思う。アイオワの性格とかは少しづつわかって来たし悪い子では無いのもわかってはいるが、ここはやはりもう少し信頼関係をだな、とか思って本心はやはり逃げりゃっ!!

 

「まぁまぁ、それはさておきだ。今日はいつもと違って外回り仕事だったからな。艦隊での出撃任務と違った疲れだったろ?早い目に休んで疲労をとって明日に備えろ。俺はゲシュペンストと打ち合わせがある」

 

 玄一郎はそう言い、二人を退出させた。

 

 大和はやはり側に居たそうな感じであったが、しかし玄一郎にはまだまだ彼を待っている艦娘達がいるのだというのを彼女も知るが故に引いてくれた。

 

「では、また明日」

 

「またトゥモローね!シーユー!」

 

 二人はそう言って退出していった。

 

 二人が去ったあと、ふぃぃーっ、と息をつき、そして気分的に濃いのが飲みたくなり、いつものコーヒーメイカーではなく、エスプレッソマシンのスイッチを入れる。

 

 ギャギャギャ、ガリガリガリ、とコーヒーメイカーのモーターがコーヒー豆を挽く音を立てて、そしてじゅおおおおおっ、とドリップ。

 

 泡立つようなエスプレッソがカップに入っていく。

 

「ん~っ、やっぱ疲れた時は飲みたくなるな」

 

 カフェインよりも何よりも、その苦味と香りで頭を冴えさせようとするが、どうもすっきりしない。それはそうだろう。実際、常人だったらとっくにぶっ倒れているほどの疲労だ。強化された玄一郎でも流石にキツいものがある。

 

 執務室にゲシュペンストはいない。おそらく、泊地にカタパルトを増設する件で明石達の所へ行くと言っていたのでまだかかっているのだろう。

 

 ふわぁぁぁ。

 

 コーヒーを飲んでもあくびが出る。

 

(……扶桑と山城は加賀赤城組とシロガネの運用の検証に行ってんだっけか)

 

 妻達も、いない。

 

 ふと、先程の大和の軽い嫉妬心を思い出す。俺は何故、大和のあの発言に安心したんだろな、と玄一郎は思う。

 

 いや、わかりきった事だ。

 

 大和には悪いが、扶桑や山城からそういう言葉が出ない事に玄一郎は少し不安と不満を持っていた。

 

 初めて好きになった女達がそういう嫉妬も無く、というのは非常に男としては色々と……。

 

 いや、無いはずは無いのだ。

 

(いかんな。いくら疲れているからと言って、元凶の俺が扶桑と山城を疑ってどうするよ)

 

 扶桑達の事は長い付き合いの中でよく理解している。いつかこのような時の為にと扶桑達は覚悟を決めて我慢しているのだろう。彼女達はああ見えてとにかく我慢に我慢を重ねるタイプの女達なのだ。

 

 だが、今はその扶桑達のその我慢に甘えるしかない。

 

 しかし、彼女達がストレスを溜め込んだ時が恐ろしいのでその為のガス抜きをどこかで必ず作らねばなるまい。溜め込んだ後の臨界点突破が怖い。

 

「……いかん、少し休むか。仮眠をとって今は体力の回復をせにゃ』

 

 急な眠気が来ていた。エスプレッソを飲んだ程度ではおさまりそうにない。

 

 玄一郎はスマホのアラームを設定し、自室へと向かった。

 

……ベッドの上で、大の字で眠る全裸な足柄ねぇさんの姿がそこにあった。ぱっかーっ、とお股が大股開きだ。ぱっかーっ。

 

 見ないように、そして起こさないようにタオルケットをかけてやり、無事18禁回避だ。

 

 危険かつ魅惑的なものを隠して玄一郎はこそこそと回れ右して執務室に戻り、デスクの隠し引き出しの指輪を確認し足柄用の指輪を用意し、胸ポケットにそれを忍ばせると冷蔵庫から精力ドリンクを取り出し、グイッとあおる。

 

 脳裏にノーワンエスケープ、という言葉が思い浮かんだが、ここまで来たら逃げも隠れもしないが、ちょっと体力回復しないと流石に身体が持たない。

 

(というか、誰でも忍び込み放題な提督室って問題あるよなー)

 

 その辺、近藤大将とかどうしてんだろな?とか思いつつ、長ソファーに横たわって少しでも体力回復に努めようと、目を瞑る。

 

 襲われるにせよ何にせよ、HPとか気力値とかは回復しないと戦えない。来るだろう夜戦に向けて、戦士は寝る。

 

 男寝りに寝る。ねるねるねるねはこうして……うまい!!てーれってれー。

 

 まだねるねるねるねって売ってんのかな?とか思いつつ、落ちるように玄一郎の意識は薄れていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 一方、その頃のカルディアさんと重アンドロイド兵AB。

 

「なんじゃこれーーーーーっ?!」

 

 レモンから渡された新装備、外部装着型テスラドライブユニットのフィッティングを行ったカルディアは思わず叫んだ。

 

 元々は空が飛べない陸上白兵戦型のアンドロイドだった三人に対してレモンとクエルボは工廠の一角を借りてせかせかとテスラドライブユニットを作成していた。

 

 また、射撃兵装やミサイルコンテナ、あと射撃管制用のCPUなどのチップなどの部品をゲシュペンストに頼んで作成してもらい、空戦用兵装としてテスラドライブユニットに組み込んで、カルディア達用として完成させていた。

 

 そして、レモンは三人を呼び出し、身体は子供頭脳は大人な某探偵な少年の腕時計型麻酔針射出機で眠らせ、カルディア達に非人道的な肉体改造を施し、ユニットとの同期が出来るようにしただけでなく、その兵装などもパワーアップさせてしまったのである(特にカルディア)。

 

 カルディアが叫んだ理由。

 

①勝手にちちしりふともも増量されていた。

 

②コードDTDが組み込まれてた。

 

③テスラドライブユニットの形状。

 

④自分ではなく、重アンドロイド兵ABのコスチュームが限り無く変。

 

 さあ、答えはどれっ?!

 

……残念ながら、その答えは、待て!次回っ!!

 

 という引きで今回は終わる。

 

 まぁ、レモンさんにはラミアの件で前科があるからねぇ。

 

 




足柄襲来と言いつつ寝てる足柄さん、可愛い(多分)。

レモンさん、なんつう改造をやらかすんや……。

次回、コードDTDはちちしりふとももばいーんばいん。で、またあおう!(???)




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重婚多重奏曲~カルディア改。あと足柄さん

秋に近くなると、仕事が増える。お待たせいたしました。(待っていた人がいるかどうかはさておき)。

話の大筋を大幅に変更したのもあって時間かかりました。すみません。


 目を覚ますと、カルディアは四肢を拘束されて初期の頃の仮面ラ○ダーの悪の秘密結社の改造手術台のような台に寝かされていた。

 

 ぴこーん……ぴこーん……。

 

「くっ、ここはどこだっ?!くっ、私を自由にしろっ!」

 

『ふはははは!カルディア・バシリッサ君ようこそ、よく我がネオ・シャドウミラーに来てくれた。君が求めている力を授けてやろう、ふははははははは!』

 

「いや、何のことかわからん!というか、くっ、身動きできん!」

 

『遅いのだカルディア・バシリッサ君。君の意志に関わらず、君はもうシャドウミラーの一員にほぼなってしまっているのだ。君が意識を失って既に30分。その間に、シャドウミラーの科学グループは君の肉体に改造を施した。君は今や改造人間なのだ!!』

 

「いや、というかとっくに前々からシャドウミラーの戦闘用アンドロイド兵だが、そのネオ何たらってなんだ?というかレモン様、そこにいるのにマイクでわざわざ喋って何してるんだ。つか離してくれ」

 

「あらん?そこは『ヤメロォー、ぶーっとばすぞぉぅ?』ぐらいのリアクションぐらい欲しいところねぇ」

 

 黒いフードを被っていたレモン・ブロウニングがフードをバサッと後ろにやって笑いながら顔を見せた。

 

 ちなみにそのセリフだと仮面ノ○ダーだったりするが、異世界のテレビとかでやっていたかどうかはわからない。

 

「というか、クエルボ博士、あんたも悪ふざけし過ぎだ!」

 

「いや、何というか様式美、とか言われて無理矢理につき合わされたんだ。すまんね」

 

 クエルボは毒々しい黒地に赤いラインの入った医療用の手術衣を着て妙な鳥の嘴のようなマスクを被っていた。まんま悪の秘密結社の秘密基地内の改造手術の医者といった風体である。

 

「で、なんなのだ、この悪ふざけは」

 

 カルディアは憮然とした顔をしつつ、この茶番の仕掛け人であろうレモン・ブローニングを睨んだ。

 

「え?言ったじゃない。改造を施したって。改造終わってもなかなか麻酔から醒めそうになかったから、サプライズに悪の秘密結社っぽくセット作って寝かしてたんだけど?」

 

 レモンは悪びれない態度でカルディアにそう言うと、手をワキワキさせつつ、

 

「あほーれ、もーみもみ?」

 

 と、カルディアの乳を鷲掴みして揉んできた。

 

「なっ?!何をするかっ!!」

 

「ん~、とりあえずおっぱい増量したから今のうちに揉んどこっかなーとね?」

 

 揉み、揉み、摘み、押し、撫で、揺らし、頬ずり。

 

「んん~っ、張りがありつつ適度に柔らかく、さらに形崩れなく、大きすぎず小さすぎず、カットインでも存分に揺れるおぱーいを目指してみましましたっと!うんうん、嫁入りカウントダウンだからねぇ、お母さん頑張ってみました!」

 

 揉み揉みぷるん、ぽよんぽよん、ゆさゆさつんつん、ふるんふるん、ふもっふふもっふ、すりすりなでなでつまみつまみ、すりんすりん。

 

「やめっ、やめろっ、くっ、動けんっ!」

 

「感度良好、うんうん」

 

「揉むな摘まむな撫でるなつつくな頬ずりするなぁぁぁっ!!あっ、いっ、だめっ、そこはっ……」

 

「やめなさいっ!」

 

 クエルボのプラスチックバインダーの角による突っ込みがゴスッ!と入った。角は痛い。しゃれにならん痛い!

 

「あぐっ!」

 

 頭を抱えてうずくまるレモンに代わって顔の緑色のペイントを落としたクエルボがカルディアの拘束ベルトをはずした。

 

「とりあえず、改造とは言っても艦娘の近代化改修と同じく、手術とかではないから安心したまえ。あー、その、豊胸とかそういうのもしていない。改修したのは妖精さん達だ。……まぁ、基本コンセプトというか設計図は渡したねどね」

 

 ひょこっ、と妖精さんがクエルボの肩に乗っかり、カルディアにVサインをかまして見せて、胸を張ってニヤリと笑った。その笑みには、いい仕事したという満足感が現れていた。

 

「痛いじゃないのクエルボ。ったく、母と娘のスキンシップなのにっ!」

 

「たとえ君の娘であってもセクハラは悪いよ。すまないねカルディア。拘束をしていたのは、君の前にカルディア隊のAとBの近代化改修したときに少し暴走してね……。念のために、だよ」

 

「……あいつらが暴走?」

 

 腕をさすりながらカルディアが怪訝そうに言う。アンドロイド兵A、Bは確かにマッチョな変態のように見た目から思われがちだが、その性格は温厚かつお人好しな優しい性格をしている。暴走というものとは無縁に思えたのだが、一体何をすればあいつ等が暴走するというのだ。

 

「テスラドライブ展開させたら、いきなりすっ飛んで倉庫の屋根突き破って行ったわ。あいつ等に空戦用プログラム入れ忘れててね。エキドナがアンジェルグで追っかけてインストールして事なきを得たけれど、いやー、失敗失敗」

 

 あっはっはーとレモンは笑って答えた。

 

 要するに空戦用ユニットを組み込んだのは良いが、制御用プログラムをレモンが入れ忘れたせいで暴走した、というわけである。

 

「……テスラドライブ、ということは飛べるのか?」

 

「もっちろん!A、Bの失敗を糧にして、カルディアちゃんには空戦用プログラムをすでにインストールしたわ!テスラドライブモジュールはもちろん、外部追加装甲のおかげで防御力もアップ!それに、近代化改装のおかげで武装も想定外のものが追加されていたりしているわ!」

 

「想定外?」

 

「ん~、これは見てもらった方が早いかしら。クエルボ、モニターに今のカルディアのスペック表出して」

 

「ああ、とりあえず一つずつ説明していこうか。なかやか興味深いパワーアップになってるよ」

 

 ヴン、と壁のモニターに様々な数値と共にカルディアの武装等のデータが映し出され、人体図にそれぞれの兵装の名称が矢印付きで示された。

 

 カルディアはモニターに羅列された武器や装備などを目で確認すると、たしかに武装が追加されていた。

 

 スザクブレードとピアレスアックスは流体金属による可変型のスザクブレード改、ピアレスアックス改となり、青龍鱗を撃てるようになっていた。

 

 さらにテスラドライブユニットを装備した追加装甲とブースターはアンジェルグに似た形になっている。各部の緑色のクリスタルは光学ステルス迷彩プリズムファントムであり、隠密活動も可能になっている。

 

「……ハイスペックなアップグレードだ。だが、悪くない」

 

 クールにそう言うカルディアだが、しかしその顔はにやけていた。そう、彼女の悩みは玄一郎、つまりパラオ提督である黒田准将に戦闘に役に立たない穀潰しだと思われているのではないか?という、ある種の取り越し苦労であった。

 

 なにしろ元は戦闘用のアンドロイドであり、戦うために創り出された身なのである。それが戦闘の役に立たず、さらに現在はこのパラオ泊地で支給される遭難者手当てという、遭難者に対する支援金を支給されて無駄飯食いとなっている。

 

 しかも、同じ難民であるはずのウォーダンや亡命者であるエキドナや日本から来たアインスト・カグヤなどは空戦出来る機体を持ち、さらには黒田准将の結婚騒ぎに乗じて自分達を役に立つ女であると売り込み、嫁になろうとしているのである。

 

 海で戦えない、空も飛べないカルディアはそれに劣等感を抱いていた。

 

 だが、空が飛べれば何の問題もない。

 

 今まで空(ー)だったのが空(A)。さらに水(ー)も水(B)と属性がつき、相変わらず水は苦手だが今まで属性すら無かったものが戦闘可能になったのだ。しかも陸(A)が陸(S)。

 

「ふふふふふ、これで……勝つる!!」

 

 しかもモニターの身体のスリーサイズを見ればバストもヒップもサイズが上がり、ウエストそのまま。女としての魅力もこれで上がっているのだ。

 

 ふははははは、そう、あのアインスト・カグヤには負けるが、なに、あのような極端な乳はいらぬ。このぐらいのサイズこそ、奴の好みのはず!!多分!!

 

「なお、コードDTDの上位コード、コードETEってのが付いたわよ?」

 

 喜び勇むカルディアに、レモンが釘を刺すように言った。

 

「……は?」

 

「コードETE。Execution To Enemy。超必殺技みたいね。負荷をかけて熱暴走して、その高出力による乱舞系の殲滅モードって所かしらね。もちろん、放熱の為の装甲パージもあるみたいよ?」

 

 レモンはリモコンを操作してモニターにコードETEの外部装甲のパージ図を出した。

 

 ご丁寧にも3DのCGのカルディアの鎧のような装甲がパッカーン!と割れて、胸の一部と股間の一部のみを残したほぼ全裸な姿になって『まいっちんぐぅ!』な姿になっていた。

 

 しかもそれが繰り返し繰り返しぱっかぱっかと装甲をパージしたり着けたりを繰り返しており、その恥ずかしい感じのモーションにカルディアは叫んでしまった。

 

「な、な、な、なんじゃこりゃあああああああああっ!!」

 

 倉庫の中に、カルディアの叫び声が響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、その頃。カルディアがそんな風になっているとは知らない玄一郎はベッドの上にいた。

 

 はて、確か執務室の長ソファで寝ていたはずなのだが、と考えるも自分の横でしがみついて眠っている餓えた狼さんこと足柄さんの姿を見て納得した。

 

 足柄は一度起きて来て、玄一郎がソファで眠っているのを発見し、そして起こさないようにベッドまで連れて来て寝かせたのだろう。

 

 襲われる?いや、それは無い。

 

 足柄の性格は玄一郎は良く分かっている。

 

 そもそも足柄はとても世話焼きな女だ。基本的に面倒見が良く、優しい性格をしている。姉御肌で気っ風も良く、疲れている者を見れば自分が疲れていようが業務の肩代わりをしてまで休ませようとするような所がある。

 

 そして察しが良い。自分の事以上に人の事を状況で判断して力になろうとしたりする所がある。

 

 今回もおそらくは自分がベッドに居たから気を使って玄一郎がソファで仮眠を取ったのだと察して、そして気遣ってベッドに運んだのだろう。

 

 それに、ベッドのサイドテーブルの上に置いてあるのは足柄用の婚約指輪とケッコンカッコカリの指輪の箱、二つである。

 

 玄一郎は上着のポケットに入れておいたのだが、それがそこに出ているという事は足柄が出して、そして見たという事だろう。

 

 状況から考えるに、それはつまり襲ったり迫ったりするような必要は無い、と足柄は判断したのだろう。

 

 そして何より、足柄を男勝りな勇ましい艦娘だと大抵の男は思っていたりするのだが。

 

 足柄はロマンティストであり、そして根は乙女っぽい。確かに長年の軍生活で荒事に慣れ、ある種体育会系な部分は大いにあるし、婚活が今まで上手く行かなかった為にこじらせた何かはあるが、それでも女性によくある理想のプロポーズのされ方とかそういうものはかなーりこだわったりする方なのである。

 

 それに関しては玄一郎も良く理解というか、身内に足柄そっくりな性格の実姉がいたのでよくわかっている。

 

 だが、顔や姿は全く違うのに、話していると足柄はかなりの部分で姉に性格がそっくりなので、玄一郎も親近感を覚えつつもいつまで経っても拭えぬ姉の怖さと恩義の板挟みというのか、そういう刻み込まれた弟の本能から避けたくなっていたのである。

 

 しかし、足柄は玄一郎の姉とは違う。それは理解しているし、何より違う部分も当たり前だが多くあるのも知っている。とはいえ。

 

(……姉さんと足柄が会ったら、めちゃくちゃ気があうだろうなぁ。無理な話だろうけどな)

 

 前の世界は核の炎に包まれ、それによって玄一郎は死んでいる。その後にこの世界に来ているのだ。その後、玄一郎のいた世界の事はわからない。家族が生きているかすらもわからないし、今までゲシュペンストの世界の人間がこちらに来ているのはわかっているが、玄一郎の世界の人間が来ているという事は、少なくとも玄一郎は知らない。

 

「ん……ぁ。あ?あんた起きたのね」

 

「ああ。ベッドに運んでくれだのは足柄か。……つか、おっぱい当たってる」

 

「……え!?いや、うん、その……こっ、これは当ててんのよっ!」

 

 いや、そういう意図は無かったのはバレバレだ。おそらく玄一郎をベッドに寝かせてから二度寝して無意識に抱きついていただけだろう。

 

「……うん、当ててんなら仕方ない」

 

 むにむにと感触の良い足柄ぱいの感触は何かこう、気持ちいい感じだったので振り払わずにそのまま平然と玄一郎は動かなかった。

 

 寝たまま動かないが、一部分は起きた。

 

「……まぁ、そうなるな」

 

 日向のセリフを言いつつ、玄一郎はどうすっかなーと悩んだ。

 

 まぁ、どうしてもR-15である。

 

 この後の展開は、書けるわけは無い。

 




カルディア改も悩みましたけど、それ以上にABも超兄貴化は笑えないという感想もあり、どーすっかなー、と。

まぁ、メンズビームは外せないんですけどね。

次回、足柄さんの尻に顔面騎乗してもらってすはすはしたい!!(嘘)でまたあおう!!



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重婚多重奏曲~三途の川とジィサンバァサン。


足柄さんケッコンカッコカリの快挙。

悲報、主人公三途の川送り。

ジィサンバァサン数珠を握って空拝む!


 

 

 パラオ泊地の重巡の中で、足柄は高雄に並んで『古株』のベテランであった。

 

 いや、パラオに限らず足柄としては最も古いというか、この世で顕現した重巡としては、だいたい約30年ほど前に現れた艦の一隻だったりするのだが、本人は『この世に艦娘として生を受けて20年』などとサバを読んでいたりする(驚愕の事実!!)。

 

 とはいえ、まぁ、妖精さん達にはモロバレだったりするし、最初の礼号組なのでその経歴でドロップした年号まで調べればすぐにわかったりするのだが。

 

 元は大本営付きの礼号組にちなんだ艦隊、霞、足柄、大淀、朝霜、清霜のチーム『礼号組』の初期メンバーであった。初期、というのはこの『礼号組』は今までにメンバーが入れ替わっており、この前に襲撃された深海アイドル達の護衛に就いていた『礼号組』のメンバーは足柄の頃から数えて第15期礼号組、つまりメンバーの引退によってそれだけ入れ替わっているのである。

 

 この大本営『礼号組』の伝統は、旧海軍の『礼号組』所属艦とは違い、初期から轟沈した者が居ないことである。その辺は大本営の歴代の『礼号組』の指揮官司令官の手腕なのかそれとも艦娘達の経験によるものなのか、両方なのか不明である。

 

 また、引退は大抵がケッコンによるものであるのも特徴だが礼号組の足柄は大抵何故か未だに婚期が来ないのも特徴で、例えばパラオ泊地の足柄は初期から第三期までチームに在籍していたが、ご存知の通り婚期はまーったく来ていなかった。

 

 足柄以外のチームメイト達はみんな初期から第三期までケッコンカッコカリで退職しそれを見送る足柄も流石にいたたまれなくなって転属。だがことごとく全く良縁がなく、その後各鎮守府を渡り歩き惨敗の末に最後にパラオ泊地に在籍、という。

 

 その次の第四期から第五期までの足柄も仲間たちがケッコンカッコカリを見送り、退職して今もなお独身。

 

 第六期の足柄も前の足柄同様、退職後も独身。

 

 それから14期まで以下同文、結婚艦は一人としていなかった。

 

 現在の第15期礼号組の足柄もやはりケッコンカッコカリでほかのメンバーがコロコロ変わって行くのをやはり悩んでおり、かなり焦って合コンやら見合いやらを繰り返していると聞く(なお、見込み無し、と言われている)。

 

 礼号組以外の他の足柄のケッコンカッコカリ率は実際には悪くはなく、他の艦娘達の平均とそれほど変わりない。あたかも足柄だけケッコンカッコカリ出来ない呪いをかけられているかの如く、礼号組の代々の足柄は今も独身。ずーっと独身。それはもう見事なまでの独身率であったのである。

 

 しかし、初期の足柄がそのジンクスをいま、打ち破った。

 

 ちゃらららちゃーららーちゃららちゃーららー♪(ケッコンカッコカリのテーマ。)

 

 ケッ・コン・カッコ・カリ。

 

 艦娘と特別な絆を結びました。感動的だなぁ。うんうん。

 

 だがしかし、提督の命は今、尽きようとしていた。

 

「も、もう、あかん……」

 

 何故か関西弁で玄一郎は仰向けのまま、ぴく、ぴく、とあたかも殺虫剤を吹きかけられた、黒光りするゴの付く虫の如く手足を痙攣させて悶絶していた。

 

 犯人は餓えた狼さん(29歳:建造年数)。いや、今は満たされた狼と言うべきか。なお、建造されて20年間などとパラオの足柄は口癖のように言うが、だが9年サバを読んでいたりなんだり。なにしろこの足柄は、この世界で最初にドロップした最古参の足柄……いえ、げふんげふん。

 

 玄一郎は搾りに搾り取られて生搾り100%。最後の最後まで美味しく頂かれてしまったのである。

 

 計9発。

 

 いかに試製51センチ砲と言えど、残弾がなければなんにもならぬ。餓えた狼との夜戦で貪り喰われて玄一郎の資源はもはや枯渇状態に追い込まれてしまったのであった。

 

「いやん、うふん、こんな素敵な婚約指輪を用意してたなんてぇ、素敵ぃ!あなたぁ、愛してるわぁっ!!いやん、恥ずかちぃっ!!」

 

 いやんいやん、と身を捩らせつつ、足柄は指輪の煌めきに満面の笑みを浮かべてやたらなんというか、こう……うん、見てる方が恥ずかしい、『恥ずかちい』は無かろう。その歳……いや、げふんげふん。

 

 指輪の紋様は戉(まさかり)紋。足柄の艦内神社である坂田金時ゆかりの芦柄神社の紋であり、円を描くように戉、つまり大斧が配置され、その円の真ん中に煌めくダイヤがはまっている。これもまた仕上げた妖精さん達のやりすぎが発揮されたスペシャルリングの一つだった。

 

……妖精さん達も足柄に関してはかなり気にかけていたらしい。何しろ最初の足柄なのだし、ねぇ。

 

「よ、喜んでもらえて俺も嬉しいが……すまん、爺さんが川の向こうで……手を振ってるのが……見え、る……」

 

 ガクッ。

 

 まぁ、仮にも主人公である。死にゃしないだろう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 三途の川の向こうには、それはそれは綺麗な花が咲き乱れ、そしてその向こうには玄一郎の祖父がいた。

 

『おお、死んでしまうとは玄一郎、情けない』

 

 ちゃらりらちゃらりらちゃらりらちゃらりら……(某RPGのとある寺院のテーマ)をバックに玄一郎の祖父は言う。その後ろには三途の川を渡って来た時に使ったと思われる舟となんかヤケに巨乳で大柄な死神と思しき女性が居たりするが、そっちは特に関係ない。

 

 関係ないが、その乳は愛宕や武蔵以上のボリュームであり、それに匹敵するのはアインスト・カグヤぐらいであろうか。玄一郎はちらちらっと見てしまったりなんだり。

 

『……まだ死んでないって。つか面会時間決まってんだからちゃっちゃと必要な事を伝えな!!』

 

 死神のおねーさんはそう言いつつ胸を隠すようにすると爺さんと玄一郎をにらんだ。

 

『わかっとるわい。玄一郎や腹上死はシャレにならん。あれだけは、あれだけはいかんのじゃ。死後、なんとも幸せそうな間抜けな死に顔をさらしている自分を霊体になってずーっと見下ろすあのなんとも情けない事。あれは恥ずかしいを通り越して末代までの恥じゃ。おまえだけは、おまえだけはそのような死に方をしてはならぬ……!』

 

 ぐぐぐっ、と拳を握りしめつつ爺さんは言う。なんかやたら無念そうな感じである。

 

「爺さん、なんかものすごく実感こもってんな、おい」

 

「……バァサン死んでからな、寂しくなってつい、ネーチャンのいる店行ってな。ハッスルしたら文字通り昇天してもーたのぢゃ。じゃが、あれはあれである種幸せな往生とも言えるがのう。ついついアミダアミュデュラな天国な穴で逝ってしもうたわい」

 

 ジジィの相手は魔性菩薩だったらしい。いや、世界が違うからっ!!あと穴言うな。

 

「ジジィの死因がそうだったとは知らんかったわ。つか、死に顔がやたらにやけてたのはそのせいかよ……なんか情けなくなってきたぜ……」

 

 うんうん、と身内の死因がそれというのもなんか悲しくも情けない気もする。舟にいる死神のおねーさんの目がとても冷たい。なんなんだこの変態ジジィと孫は、という目だ。俺は関係ないからな?と死神のおねーさんの方に向かっていやいやいや、と手を振るが、しかしその視線は冷たいままである。

 

 ちょっと玄一郎は凹んだ。見知らぬ人にまで軽蔑されるこの辛さよ。

 

 とはいえ、どおりで祖父の葬式の時に親戚達の態度が変だったと玄一郎は得心がいったが、親族の死因が腹上死とは笑えない。いや、このままこの川を渡ったら俺もそうなるのかと玄一郎は怖くなって一歩川から身を引いた。

 

『安心せぇ。まだお前は死なん。つか、遥かに長く生きる運命ぢゃ。顕現化した神霊となってしもうとるから、むしろ生きれば生きるほどに力を増す。まさかワシの孫にそのようなモンが出るとは思わなんだが……』

 

「あ、死なねーの?ならいいや」

 

 死なないとわかってあっけらかん。現金なものである。

 

『しかし、ワシも出来なかったハーレムを孫が実現するとも思わんかった。……バァサンのせいででけんかったのぢゃ。あれは……嫉妬心が強くてのう』

 

 玄一郎も祖母が生前、祖父を包丁や薙刀持って追っかけ回していたのを何度か目撃していたが、その様は山姥か修羅か羅刹か何かかと思うような恐ろしさだったのを覚えている。

 

「バァサンおらんかったら作る気だったのかよ?!」

 

『ほれ、お前の正妻の扶桑の冷気とムサシの力強さと龍田の薙刀と島風の速さとそれを足して割らずさらにその五倍増しぢゃ。まぁ、ええ女ぢゃけんどな?』

 

「……あの優しいバァサンがなぁ」

 

『そりゃあ、お前は跡取りの長男ぢゃからのう。まぁ、それはともかく無駄話はこれぐらいにしよう。お前に伝えねばならぬ事がいくつかある。よく聞け』

 

「おう、なんだ?」

 

『この先嫁はますます増えるのだろうが、この後に求婚するならば大淀ぢゃ。夜の相手の管理を頼め。それでかなり体力の消費を抑えられるはずぢゃ』

 

「いや、だが大淀は大本営からの出向の事務職だぞ。ケッコンカッコカリは職務上無理なはずだ」

 

『くくく、その辺は心配ないぞ?本人がもう手を打っておるし、大本営とやらの契約期間は過ぎていつでもフリーになれるらしいからのう。なかなかに有能な人材ぢゃ。お前の上司達も面白……いや、協力するはずぢゃ。次に、香取と鹿島。この二人を相手にする前に、昼に間宮のレバニラ、夜にパラオ市街の『昇竜軒』のスタミナニンニクラーメン、スタミナ餃子、スタミナ炒飯を食い、ブレスケア三粒を必ずとっておけ』

 

「……やけに具体的だな」

 

『くくく、経験者は語る、ぢゃ。香取と鹿島の悲しき過去、心の傷を癒してやれば、当面もはや後に畏れるものはない。乗り越えられればレベルアップし、難関である港湾棲姫や基地型の強大な力にも耐え、アインストなる超絶なラスボスクラスの乳も調伏せしめ序盤はやすやすクリアできるぢゃろうて』

 

「……危機ってどういう類いの危機なんだよ?」

 

 玄一郎にはあのアインスト・カグヤという女性がそれほど危険だとは思わなかった。服装はああも危険なのだが、性格や人格は非常に常識的だし、少し天然は入っているものの、おっとりとしており、その仕草には気品がある。何より敵意や危険な感じは全く無かったのである。むしろ好意すら感じるほどだ。

 

『調伏、というたろが。この世界の神霊は陰陽の極に分かれ争っておる。ウェイクアップ!ヒーロー!勃ち上がれ!光と闇の果てしなきバトル!なのぢゃ!女しかおらぬが故に戦う艦娘達の前に男のお前がこの奇妙な世界に喚ばれたのはその為でもある。ならばやることは一つ。和を以て尊し、和合を以て愛のベッドウエー(上)海戦夜戦突入ぢゃ。この世界に愛を振りまくのぢゃ!!』

 

「……いや、なんか違うような気がすんだが?」

 

『違うものか。日本神話の伝統ぢゃぞ。交わり互いの血を残す事で一体化し、そして日本という国は出来たのぢゃ。素戔嗚尊などその最たるもんぢゃぞ?ああ、そういや素戔嗚尊を奉っとる艦娘もおったのう。故に激しい。うむ、艦娘の方もちゃんと娶ってやれよ?』

 

「……いや、どっちかと言えば素戔嗚尊は剣で暴れ回っとったイメージがあるんだが?」

 

『こまけえことはええんぢゃ。アインスト・カグヤはほおっておくと危険なんぢゃ。本人の性格は善いがその出自、創り出したモノの性が徐々に出とる。あの創世の念が曲がってしまう前に、はよう子作りせい。下手すると静寂な世界とか言い出して人類抹殺とかやり始めるぞ』

 

「……そんなにアイツ、危険なのか?」

 

『おなごは人でも危険ぢゃ。特に何かをこじらせてしまった女は独特のオーラを出すものでな。こじらせて地球で自慰するような者もあの世に一度来とったからのう。なんか別の世界に召喚されておらんようになったが』

 

……こっちの世界でなくて良かった、というべきだろう。アレはいかん、殺生院キ○ラさんは来たらアカン。

 

「……あの世怖い」

 

『そうでもないぞ?ええ女もおるのぢゃ。それはさておき。あと2つ伝えねばならぬ。お前のオヤジも母も姉も生きとるぞ。安心せぇ。ただ、お前同様、何かお前に縁のある女がこちらに来とる。こっちは用心せぇ。そう、戦うならばさらなるレベルアップが必要となるぢゃろう。そう、改になれ!!という奴じゃ。ゲシュペンストはあと2回、改装できる』

 

「いや、艦娘じゃあるまいし、改なんてなれるのか?」

 

『すでに現在の姿がゲシュペンスト改なのぢゃ。あと二回、ゲシュペンストは改三になれる。忘れるな。愛こそがお前の力ぢゃ。ああ、それにしてもお前の嫁達はええ女ばかりぢゃのう。あやかりたい!!』

 

『お爺さん、何があやかりたいと言うのじゃ?』

 

 すっ、と爺さんの隣に、玄一郎の祖母が現れた。

 

『ギックウっ?!バババ、バァサン?!』

 

『帰りが遅いから見に来てみれば!如来様や閻魔様の許可した時間をとうに過ぎておるんじゃ!孫可愛さになんでもかんでも話すんじゃありません!』

 

『いや、でもやはり異世界に独りでおるのぢゃ、それも世界救済を……』

 

『あの世の存在が介入し過ぎてもいかんのじゃとあれほど如来様が言っておったのに、お爺さん、それ以上は言ってはならん。とはいえ、はぁ、やはり孫、それも長男となると、可愛いもの、肩入れしたくなるのもわからんでもないわなぁ』

 

 ちらりと若返った祖母は玄一郎を見て。

 

『玄一郎や、この言葉を覚えておきな。テトラグラマトン、ディス・ゲシュペンスト・ドライ。お前の相棒がかつての怨敵によって窮地にたたされた時にお唱え?』

 

「テトラグラマトン、ディス・ゲシュペンストドライ?」

 

『そうじゃ。ゲシュペンストはやがて機神へと生まれ変わる。悪に堕ちたヒーローは再び善へと返り、地球を守護する神となる。努々忘るな?玄一郎……』

 

 祖母はそう言うと、祖父の耳をぎゅうっと絞り上げるように摘まむと、そのまま三途の川の向こう、彼岸の向こうに消えて行った。

 

…………………………………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ジイサン!バァサン!!」

 

 手を伸ばし掴み取れ、君、大切な物。

 

 玄一郎が手を伸ばしながら掴み取ったものはやたらと柔らかかった。

 

 モミモミ。本能的に揉んでそれは『あんっ!』と声を発した。

 

 目をパチクリとして、これ誰の胸?とその顔を見ようとするが、乳のデカさで見えない。

 

 だが、その特徴的な服装で誰かがわかった。

 

 黒い犯罪スレスレな和風というかチャイナというか、こう、面積の少ないドレス。

 

 アインスト・カグヤであった。

 

 もみもみもみもみ。

 

 先ほど三途の川でジジィに危険と言われたアインスト・カグヤの乳を揉む玄一郎。

 

 条件反射というか、本能でもーみもみ。

 

「んっ、あっ、あんっ、いやっ」

 

 もみもみもみもみもみもみ。

 

 果たして、玄一郎の命運や如何に?!

 

……死んでも命がありますように。ちーん。




主人公が艦娘とバルシェムのハイブリッドな建造方法で作られ、さらにサイボーグなので、やはり導かれてアレな覚醒をせねば、と。

アインスト・カグヤの乳揉みたい。

次回、対舞鶴トリプラーでまたあおう!!(嘘)


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重婚多重奏曲~悪を断つ剣、アインスト・カグヤ

 
 祖父伝来、ジゴロ遺伝子が今目覚める。

 三代に渡って受け継がれて来た『女性専門・口車の運転手』の称号が今、解き放たれる!!(嘘)。

 カグヤさんマジ、デストロイプリンセス。


 玄一郎の目覚めたところは、知っている天井のはずだが、今は何故か横から出てきたアインスト・カグヤの魔乳によって天井は見えず、さらに玄一郎はその胸に手を伸ばし、掴み取ってもーみもみ。

 

 デカい。牛乳とかいろいろと言われたオリジナルの楠舞神夜の乳を超える乳をアインスト・カグヤは持っていた。

 

 オリジナルを超えた乳の原因は、かつてアインストにその身を創造された時に、彼女は四人いたからであり、滅ぼされて彼女達アインスト・カグヤ四人の魂は同一だった為、融合し、こちらの世界で顕現化した時にその特徴であった乳尻ふとももが大きくなったという事であった。

 

 四人分の魔乳。四人分の尻。四人分のふともも。

 

 まぁ、実際にはそんなにデカくは無く一回りほどなのだがそれでも圧倒的に大きい。

 

 また、玄一郎にもわかるほどに、その霊力はかなりのものであるがけして威圧感も何も無く、ほんわかとした落ち着いたもので、どう考えても彼女が三途の川で祖父が言ったような危険な存在のようには玄一郎には思えなかった。

 

「あの~その、そろそろ揉むのを……止めていただけませんか?」

 

 さすがに優しい性格の彼女とはいえ、やはり乳を揉まれ続けるのは嫌なようである。

 

 先ほどまでは、あん、とか、いやん、とか言っていたが。

 

「……はっ!いかん、なんか感触が良くて無意識のうちに揉んでいた!?すまん!!」

 

 慌てて玄一郎は手を乳から放し、誤った。彼女は松平元帥からの依頼でパラオで保護する事になった、言わばVIPなのである。そのVIPになんつう事を?!

 

「いえ、その……。お身体に障りますし、こういう事はやはりキチンと交際して結婚してから、と思います」

 

 あれ?怒らないの?と玄一郎は思った。うーむ、優しい。だが顔が真っ赤である。

 

 そして、はたっ、と思い出し。

 

「あれ?ここは……?」

 

 どう見ても自分の部屋ではない。というか寝かされているベッドは医務室のベッドである。左腕を見れば点滴の針が刺さり、さらにチューブを辿って見てみれば点滴の袋がぶら下がっている。

 

 栄養剤やらビタミンの点滴である。

 

(……あとで黄色い小便が出るんだこれが)

 

 なんぞとどうでも良いことを思うも、

 

「あー、ぶっ倒れちまったからなぁ」

 

 と言って頭を右手でぼりぼり。

 

 そう、ここは医務室である。人間の身体になってから二度目の医務室。最初の時は扶桑がいたが、何故か今回はアインスト・カグヤに付き添われている。

 

扶桑は、と思って壁の時計を見るが、まだ時刻は6時。予定ではまだシロガネの運用試験は終わっておらず、いるはずはない。なんとなく居てほしかったなぁ、とか思うも致し方ない。

 

「うーむ、しかしなんで君が?」

 

「私は、慌てて提督さんをここに運び込んでる足柄さんを見かけてお手伝いを。足柄さんは換えの点滴を用意するために行かれました」

 

「すまんね。そうか。手間をかけさせてしまったようだ。まさかぶっ倒れるとは思っていなかった」

 

「……魂の緒は繋がったままでしたので亡くなるとは思ってませんでしたが、呼んでも導いてもお戻りになられませんでしたから、おそらくあちらに呼ばれたのは何物かが引き留めているのだと様子を見ていたのです」

 

「……祖父母と話をしていた。どうも俺の事を心配していたらしい。夢かと思っていたが、ふむ」

 

「そうでしたか。どおりで。貴方の命運はまだ数百年はあると思ってましたので、少し慌ててしまいましたが」

 

「……そんなに生きる人間は、って、普通じゃねぇから否定要素が無いからなぁ。俺の場合どうなんだろな?」

 

 うげ、とか思いながらもまだ死にたくは無いので苦笑いしつつ、アインスト・カグヤの方を見つつ。

 

「うふふふっ、生きてもらわなければ困ります」

 

「……死ぬ気はねぇよ」

 

「はい、是非生きて下さいね?」

 

 非常に良いにこにこ顔でそういうカグヤはまるであどけない少女のようであり、天真爛漫裏表無しといった感じだ。玄一郎も釣られて笑ってしまう。

 

「まるで年取った爺さんに言うみたいに言うなよ」

 

「えーと、そんなつもりは無かったのですが。ところで提督さんはゲシュペンストさんなのですか?」

 

「ゲシュペンストは相棒の方だ。俺は異世界同位体って奴。カーウァイ・ラウってのがゲシュペンストの方でな。俺は奴と別の世界に居たんだ。カーウァイ・ラウ曰く、パラレルワールドの同じ存在同士って事でな。お互い別々の世界出身だが、両方ほぼ同じ魂だったから、俺がゲシュペンストに取り込まれてたってわけだな」

 

「なるほど、合点が行きました」

 

「ん?なんかあったのか?」

 

「いえ、他の方ですと機体がよりしろに成っていても魂は一つで、機体にも自我や意志はあるのですがどちらも魂の根は同じなのですが、ゲシュペンストと提督さんには魂が一つずつ、つまり2つの魂が存在していたので不思議に思っていたのです」

 

「……なるほど。カグヤさんはそういうのを見れる人だったのか。実際、俺達は二人いる。だからゲシュペンストの方とも仲良くしてやってくれよ?」

 

「ええ、もちろんです。私にも、いえ、私のオリジナルの楠舞神夜も黒いファントム、つまりゲシュペンストとは縁がありまして。黒いゲシュペンストや青いアルトアイゼン、赤いヴァイスリッター、ゲシュペンストの派生の機体達や仲間達と旅をしていたのです。……私は記憶だけですが、何か懐かしいものを感じるのです」

 

「……そうか。確か君のオリジナルはカルディアと重アンドロイド達とも戦った事があったそうだな」

 

「はい、そうです。最初に会った時は驚きました。まさかこちらでお会いするとは思いませんでしたもの。それに、ハーケンさんのお母様にも会えるなんて、本当に運命というのはわからないものです」

 

 運命というより奇縁と言うのが正しいような気がしたが、玄一郎もそこは黙っておく。

 

 玄一郎もカルディアとの記憶の共鳴からハーケン・ブロウニングという男やその仲間達の姿などを見て知っていた。さらに、にアクセル・バルマーというレモンの恋人の事も見たので、『レモン・ブロウニング+アクセル・アルマー=ハーケン・ブロウニング』、つまり『変+アホワカメ=変なアホキザ野郎』なのだろうなぁ、などと失礼な事を想像し、いやいや、いかんいかんと頭を振った。

 

「……アインスト・ハーケンもお母様と逢うことが出来たなら、ああならずにすんだのでしょうか」

 

 ボソッとカグヤが呟いた。

 

「アインスト・ハーケン?」

 

「……大丈夫です。もう彼は存在しません」

 

「いや……」

 

 そういう事じゃなくてな、と玄一郎は言葉を続けようとしたが、しかしアインスト・カグヤの目を見て黙った。

 

 悲しみと諦めを湛えた目、であった。

 

 玄一郎はその目から、途端に全て理解した。

 

 彼女以外のアインストに創造された複製達についてアインスト・カグヤは『私以外のアインストは滅びました』とか『こちらの世界には私だけです』と断言するように言っていた。

 

 玄一郎もアインストには仲間を探知出来るような能力があり、それでこの世界には居ないのだ、と言っているのだろうと思っていたが、そうではなかったのだ。

 

 彼女、アインスト・カグヤがこちらに来ていた他のアインストのコピー達を滅ぼしたのだと玄一郎は悟った。

 

「……理由は聞かん。解ったからな」

 

 彼女は自らを『悪を断つ剣』と呼ぶ。おそらくはウォーダンのそれとはまた違った覚悟と意志、そして決意を以てそう名乗っているのだ。

 

 ウォーダンの剣とカグヤの剣。どちらも『悪を断つ剣』であるが、剣士の意志はそれぞれやはり違う。信念もまた違う。だがそれはどちらが秀でてどちらが劣るというわけではない。

 

 ウォーダンの剣は未だその姿を変えつつあるものの、『修羅を討つ剣』であるとするならば、カグヤのそれは『破邪の剣』である。

 

 そう、『悪』の定義が違うのだと玄一郎は理解し、カグヤの瞳にそれを見て取った。

 

 アインスト・カグヤは他のアインストをこの世界に害悪を成そうとする『邪悪』だとして滅ぼされたのであると理解した。

 

 だが、カグヤの話をそれ以上聞かないのは理解したからではない。彼女が断った悪は、彼女の仲間であり、同じ素性の存在、そして何よりも彼女の記憶にある友の似姿であったのだ。

  

 自ら手を下したとしても悲しく無いはずはない。悔やまぬはずはない。

 

 それがわかるが故に聞かなかったのだ。

 

「……胸に納めるのが辛くなったら、いつでも話しに来てくれ。いつでも聞こう。抱え込むのが辛ければいつでも頼ってくれ。孤独は毒だ。心を蝕む。一人では道がわからなくなるものだ」

 

 玄一郎はそうカグヤに諭しつつ言った。

 

 戦場での心の傷はその体験を話合う事で軽減される。これは心理学の研究でも実証されている。

 

 玄一郎も伊達に訳あり泊地の提督をしてはいない。パラオ泊地には多くの訳ありの艦娘達が在籍しており、そういうケアには玄一郎も心を配っているのである。

 

 ブラック鎮守府出身者だけでなく、戦場での恐怖を経験した艦娘や鎮守府が壊滅した生き残りの艦娘、要人暗殺を強要された艦娘、男性恐怖症になってしまって姉妹艦に依存する艦娘、そういう様々な艦娘達が所属し、今もなお半勤務、半療養をしている状態の者もいる。

 

 そのため、玄一郎も特にそういう、何かを抱えているものに対する嗅覚が鋭くなってしまっていたのである。

 

 パラオ泊地は訳あり泊地なのである。そして玄一郎はその訳あり泊地の提督。艦娘のみならず、訳ありの者が一人や二人、何人増えたとしてもパラオ提督にはこれっぽっちも堪えはしない。

 

 そう言って玄一郎は胸を張っていつも虚勢を張るだけ張って笑う。

 

 無理をしても辛くても、笑いあえる明日が来るなら問題無し。そのためのパラオ提督。玄一郎はそういう男であった。

 

「……ま、いろいろあるけど、独りで抱え込むなよ。って、足柄が戻って来たようだな」

 

 バタバタバタバタと早足で医務室にやってくる足音を聞いて玄一郎はカグヤに苦笑して見せた。「まぁ、話したけりゃまた今度な?」と小声で言ってウィンク。

 

 おそらくは話す声が聞こえたのだろう、バン!と医務室の戸を乱暴に開けて足柄が入って来た。

 

「あなたっ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!無理をさせてしまったのね?!」

 

 いきなり足柄は玄一郎に抱きついて必死で謝ってきた。だが玄一郎はふざけたように

 

「足柄ねぇさんが気持ち良すぎて逝っちゃいそうになった。責任取ってお婿さんにもらってくれ」

 

 と、半ば笑って足柄にそう言った。

 

「もうっ!!ふざけないで、心配したんだからっ!!」

 

「すまんすまん。つか惚れ直した。足柄ねぇさんとなら何度でもケッコンしたいよ。本当だぜ?」

 

 泣きはらしつつ、玄一郎に抱きついた足柄を優しく受け止めつつ、背中をポンポンと軽く叩いてやりつつそう嘯いてやる。足柄が思い詰めないように。

 

『女性専門・口車の運転手』とかつて玄一郎の祖父は呼ばれていたが、その遺伝子は確かに色濃く玄一郎に受け継がれていた。あの世のバァサンが見たらおそらくは呆れてものが言えないだろう。

 

 だが、その口車もこういう時は有効である。口車の有効利用とも言うべき方便であった。

 

「……本当のジゴロって、こういうのを言うんですね~」

 

 カグヤがその様子を見てシラーっと言う。ある意味彼女のオリジナルのパートナーとは違うキザさを見て、呆れているようだった。

 

「大事な事をちゃんと伝えるのは恥ずかしいが、大事だからこそ言葉で伝えなきゃダメだってジッチャが言ってた!(キッパリ!!)」

 

 天井に浮かんでいる玄一郎の亡くなった守護霊の爺さんがピースしているのをカグヤは見て、ああ、この祖父にしてこの提督ありなんですね、と思ったとか思わなかったとか。

 

 終われっ!!

 




 アインスト・カグヤの『悪を断つ剣』とゼンガーの『悪を断つ剣』、そしてウォーダンの『悪を断つ剣』。

 剣は生き筋を現しますが、辿る人生が違えばその意味も三者三様でかわるんじゃなかろうかと。

 足柄ねぇさんは、きっとね、ケッコンしたらものすごく甘々ベタベタになるんじゃないかと思うんだ。

 次回、エロメガネな事務艦はエロパンツでまたあおう!(嘘?)

 


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暴走マッチョABとエキドナ。そして『マハト』

暴走してぶっ飛んだマッチョアンドロイドのABとそれを追って行ったエキドナのアンジュルグが、ビアン達の乗った『マハト』を目撃してしまい……。




 一方、その頃。

 

 暴走してぶっ飛んだ重アンドロイドに追いついてなんとかレーザー通信にてテスラドライブユニットの飛行制御プログラムを渡す事に成功したエキドナは、やっとこさ安定飛行出来るようになった重アンドロイドA、Bと、太平洋は日本近海を飛行していた。

 

 パラオから日本近海まで一気に最大速度を超えるマッハのスピードで来てしまっていたのである。

 

 どんだけの出力があるんだよとか思うが、レモンの製作したテスラドライブユニットの性能が高すぎるせいであり、エキドナのアンジュルグ・ノワールがアンジュルグ改になっていなければおそらくは追いつけなかったであろう。

 

 そう、アンジュルグ・ノワールも近代化改修されており、パワーアップされていた。

 

 ほぼ機体形状は変わりないが、性能の底上げがなされており、特に機動性能と飛行能力の向上と武装の追加がなされている。……何故かコードDTDが機体に追加されていたりするが、一体どのような効果があるのかは不明である。不明だができれば使いたくないなーと、エキドナは思っていたりするがそれはさておき。

 

 なお、アンジュルグ改と今後は呼称される事になる。

 

「まさか日本近海まで来てしまうとはな」

 

 エキドナは安堵の息を吐き出した。ここまで来るとパラオへの無線通信は範囲外なのだが、幸いな事にパラオー日本間には光回線による通信網が構築されており、サーバーを介せば連絡は出来る。

 

 エキドナはレモンに状況報告のメールを送りつつ、速やかにパラオへ帰る為の直線ルートを割り出した。

 

「エキドナの姐さん、すんまへん」

 

「いや、ほんま死ぬかと思たわ」

 

 重アンドロイド達はエキドナの両脇に並んで飛んでいる。飛行にまだ慣れていないのか、それとも飛行制御プログラムがまだマッチングしていないのか、少し不安定ではあるが、それでもなんとか制御している。

 

 重アンドロイド兵も改になっていたが、どちらも追加装甲と武装を外付けで装備しており、Aの装備がアサルト、Bの装備がバスター、と差別化が図られている。

 

 Aの装備はリニアアサルトライフルとウエポンシールド、右肩には実弾型ヘビーランチャー、テスラドライブユニットのウィングと両脚部にはHスプリットミサイルポッド、両腰にコールドナイフ二本。コンセプトは重装強襲型、近距離から中距離用である。

 

 対してBの装備はオクスタンライフル改に、シールド、テスラドライブユニットのウィングと脚部にミサイルポッド、両肩にバスターランチャー、腰にコールドナイフ、背面に探知用のレドーム、センサーユニットを背負っている。こちらのコンセプトは重装遠距離攻撃型、中距離から遠距離用、さらに電子戦もこなせる。

 

(こうして外部装甲を展開させて武装を装備するとまともな重戦闘用アンドロイド兵に見えるのだがなぁ)

 

 エキドナはそう思いながらも、その中身のマッチョ剥き出しなハゲな普段のABコンビの姿は少し苦手であった。

 

 確かに話をしてみれば人格も良く、さらに建設会社で働いていた事もあって力仕事や雑用なども厭わず進んでやり、細かい事にも良く気が付き、さらに明るい性格をしている。いい連中である。

 

 だが、筋肉とニカッと笑う笑みが暑苦しい。そしてやたらとボディビル的にポージングするのが暑苦しい。

 

 本来、量産型アンドロイド兵は自我を持たない筈だったのだが、こちらの世界に来たらこんな風になっていた。カルディア曰わく『真島建設の社長のせい』らしい。いったいどんな経験をすればこんなに暑苦しくなるのかとエキドナは少し悩むもこれでも一応は仲間なのだと思い直し、二人に声をかけた。 

 

「とりあえずパラオへ帰還するぞ。ここにいても仕方ない。テスラドライブユニットの調子はどうか?」

 

「へぇ、フライトプログラムはなんとか使えとりますが、やはり専用のプログラムに改変が必要ですわ」

 

「まぁ、まっすぐ飛ぶのには充分ですさかい、飛びながら調整しまっさ」

 

 似非関西弁で二人はそう答えた。

 

 レモンの話によれば、この重戦闘用アンドロイド兵A、Bの基本性能は通常の量産型と比べてスペックは高いらしい。思考演算等もかなり高くカスタマイズされており、自己でプログラム等の調整も可能らしい。

 

 つまり『量産型アンドロイド兵』<『重量産型アンドロイド兵』<『Wシリーズ』と、カルディアやエキドナに次ぐ性能なのだという。自我が生まれたのはその辺が関係しているのではないか?とレモンは推測していたが、それはともかく。

 

「早く帰らんと間宮が閉まってしまう。コンビニ飯だけは嫌だぞ、私は」

 

 エキドナは溜め息を吐きながらそういう。コンビニ飯をバカにするわけではないが、やはり間宮の飯のうまさとは比べものにならない。当たり前だ。電子レンジでチンした飯と出来立てホカホカなうまい飯とどちらが良いか、と言われれば誰でも後者を選ぶだろう。

 

 パラオまでの直線ルートを二人に渡し、とにかく急いで帰還しようと促すと、二人は慌てたようにテスラユニットのウィングを起動させた。

 

「それはあかんで!!おい、B、早よせぇ飯食いっぱぐれるで!!」

 

「わかっとるわ!……って、ちょお待て!上空になんやデカいんがおる!!」

 

「どないしたんや?」

 

 Bは突然、背部のレドームを起動させ背面のアームを動かして電子戦モードを起動させた。レーダーアンテナなどをガシャコンガシャコンと背面から伸ばし、背部の大型光学スコープを展開しつつ、頭にレドームを被る。

 

 その見た目は編み笠を被った仏僧のようである。

 

「エキドナの姐さん、宇宙戦艦や。アルバトロス級、せやけど全長約600メートル?なんやミニチュアみたいになっとる」

 

「アルバトロス級?ふむ、データを見せてくれ。あとアルバトロス級の進路はわかるか?どこに向かっている?」

 

 エキドナのアンジュルグのセンサーやレーダーに反応は無い。アルバトロス級が本当に上空を航行しているとするならば、それはかなりの対電子装備を持ち、それを展開しているということである。

 

 それも高性能のレーダーユニットを背負ったBでなければ察知されないほどの、である。

 

「へい、進路的には北方海域ですわ。方向、降下角共に日本海軍北方基地方面、いや、進路上には日本空軍北方宇宙基地?なんでまた北方にそんなもんが。凍結したら宇宙ロケットも飛ばせんやろに」

 

 データを二人に送りながらBはそう言ったが、北方宇宙基地は元々は深海戦争時に深海棲艦にロシアが攻め込まれ、放棄と共に日本に返還した四島に作られたそれぞれの北方の第一から第四基地に物資を空輸するための空軍の航空輸送基地であったのだが、北方の解放と北方海域のボスであった北方棲姫との和解により、空輸基地の一つが何故か宇宙基地になってしまった、という訳の分からない経緯がある。

 

「……目標は北方宇宙基地やろか。というか日本空軍なぁ。海軍のデータはゲシュペンストはんから貰とるけど、空軍のはあんまし無かったわなぁ。わけわからん」

 

「……B、今のデータは記録してあるな?パラオ泊地に帰投して、提督に報告せねばならん」

 

 エキドナは非常に厄介だと思った。アルバトロス級戦艦の事をこの場で報告する事は可能である。だが、ここで報告するにはまず、日本からのサーバーを介さなければならない。つまりそのサーバーは日本海軍大本営のサーバーである。

 

 大本営のサーバーは常に監視されている。軍用回線なのである、それは当たり前と言えるが、状況報告ならまだしもこのデータを通信するのは何故かエキドナには躊躇われた。

 

 空軍が本来ロケット開発や打ち上げに向かない北方に宇宙基地を作ったという謎。それがアルバトロス級を運用するためであったならば、たしかに合点は行く。宇宙戦艦は宇宙ロケットとは違い、吹雪が吹き荒れようが嵐に巻き込まれようが航行する事が出来る。宇宙の重力嵐にも耐えるように設計されているのだ。そして単独で大気圏離脱を易々とする推力。北方に発進基地があっても充分以上に宇宙へと出られるのだ。

 

 だが、そのアルバトロス級は海軍ではなく、空軍の基地へと帰還しようとしている。

 

 この情報を海軍大本営が知ったならば、おそらくは上へ下への大騒ぎどころの騒ぎではすまないだろう。

 

 いや、海軍も空軍がアルバトロス級を運用していることを知っている可能性もあり、それは双方で機密となっているとも考えられる。

 

 もしくは日本空軍がノイエDCと繋がっている可能性もある。

 

 何にせよ、とにかくパラオに帰り提督に判断を仰ぐ必要がある。エキドナには判断がつきそうにない。

 

「早く帰るぞ。長居は無用だ!」

 

 エキドナは二人を促すと、隊列を組んでその場を飛び去った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「……見られちゃいましたね、マイヤー司令」

 

「そのようだな、マハト君」

 

 ここはアルバトロス級戦艦『マハト』のブリッジである。マイヤーは「あー」と妙な声を上げつつ座席にもたれて天井を見つつ、どうするかなぁ、と悩んだ。

 

 ここは日本近海の上空な事もあって厳重にステルスをかけ、元の世界の通常のセンサーやレーダーであっても見つからないぐらいに隠れて航行していたのだが、だが、相手は予想以上に高性能かつ高精度なレーダーや光学スコープを持っていたようだ。

 

「データベースには無い機体ですが、機器の反応等から連邦軍側の技術だと思われます。また、目視で女性型の特機も見られ、こちらは海軍の記録がありました。パラオ泊地に滞在中の『ゲスト』の乗機のようです。名称を『アンジュルグ・ノワール』とのことです」

 

 マハトは艦の光学カメラで撮影した画像をモニターに出して説明したが、やはりあちらもジャミングしていたのか、機体の映像はともかく、装備などの詳細なデータまでは解析出来なかった。

 

「……パラオ泊地、か。ううむ、あそこは確かエアロゲイターに鹵獲されたゲシュペンスト・タイプSが提督をやっておる所だったな。厄介な事になったものだ」

 

 マイヤーはヒゲを捻りながら唸った。マイヤーとビアンは常にエアロゲイターや異星、異世界の敵性存在に対して監視や調査を行っている。無論、パラオのゲシュペンスト・タイプSに対しても例外ではなく、パイロットである『黒田玄一郎』と名乗っている『カーウァイ・ラウ』に対しても目を光らせその動向を常に探っていたのである。

 

「マイヤー。パラオには現在、数機の特機と機体、あとシロガネが滞在していると聞く。それに艦娘達もレジェンド級の者達揃いだともな。一度、接触を図ってもいいのではないか?」

 

 マイヤーにビアンは思案しながらそう言った。

 

「しかし、エアロゲイターの陣営にいた者だぞ?信用するわけには……」

 

「だが、これまで情報を集め、その動きを探って来たがおかしな動きも何も出て来ん。提督になる前の行動もまるで艦娘達を守るヒーローのような行動ばかりだ。奴はエアロゲイターの精神支配から解かれているのかも知れん。ならば、今のうちに接触して二度と操られぬように処置する事も出来よう」

 

 ビアンはそう言いつつ、懐から小型のタブレット端末を取り出してそれを操作すると、ふっ、と笑みを浮かべた。何かを懐かしむように、タブレットに表示されたデータをなぞる。

 

 そこには艦娘の名前と出現場所、年数が記載されていた。そして現在の所属もである。

 

「……ふむ、パラオにはあの子達が居るのか。ならば取り次いでもらうことも出来るな」

 

「……何を考えているのだ?」

 

「……パラオには、私がかつてドロップし、山本(元海軍元帥)に託した娘達のうちの数人がいる。我が娘同然の子達がな」

 

「ふむ、そうなのか?」

 

 マイヤーは少し嫌な予感がした。ビアン・ゾルダークには実の娘がおり、その名をリューネ・ゾルダークというのだが、ビアン・ゾルダークはその娘を溺愛し、娘の為ならば大抵の事はやってきたような所がある。

 

 そんなビアン・ゾルダークが『娘同然』と言うのである。

 

「……君が発見した艦娘は数人いるとは聞いていたが、ダイテツの所の赤城達だけでは無かったのか?」

 

「……何人かは亡くなってしまったり引退したり嫁いでいったがな。パラオに今居るのは、扶桑、山城、む?金剛と足柄もおるのか」

 

 そう、ビアンが娘同然と言った艦娘の中で、さてパラオ提督の嫁艦はさて、何人いるだろうか?

 

 初期にドロップで出現した艦娘の中には、このビアンがドロップした者は多い。

 

 例えば、山本元元帥が養女に迎え、そして松平元帥に嫁入りさせた「叢雲」や、今は亡き他の初期艦「吹雪」「漣」「電」「五月雨」もビアンがドロップした艦娘であるし、艦娘擁護派の父と呼ばれた菅原道夫元大将の妻となった高雄も、パラオに在籍している世界で初めて顕現した戦艦である「扶桑」その妹の「山城」、「金剛」「間宮」、最初の礼号組の「足柄」、そしてビアンはもう解体され処刑されたと思っているが、かつて暗殺部隊にいた『隻眼斬鬼の天龍』と『鮮血の薙刀姫、龍田』も彼がドロップした艦娘である。また、鳳翔、龍驤、隼鷹もそうであり、もう艦娘史を語るにビアンの存在は欠くことが出来ないぐらいなのである。

 

 だが、ビアンの功績はこの世界の表には出ることは無い。かつての海軍暗黒時代にビアンの名前は隠され、それらの功績は海軍の功績とされていた事もあるが、そもそもビアンはこちらの世界において表舞台に出る気は無く、名前が出ないならその方が好都合とさえ考えていた。

 

「あの、ビアン様、パラオの扶桑と山城と言いますと、確か……、パラオ提督とケッコンカッコカリをしたとワイドショーでやってましたね」

 

「うむ。知っておる。故にだ。そう、故になのだよ。私がカーウァイ・ラウに会わねばならぬのはな。娘の婿に挨拶ぐらいはしておきたいと思うのは、男親ならば当たり前だろう。最も、娘を不幸にするような男ならば、塵も残さず機体も残さず殲滅するがね」

 

 ゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 ビアンの背中から異様なオーラが出ていた。

 

 やっぱり、とマイヤーは思い、ため息を吐きつつ。

 

「相手は海軍准将だぞ。本国の大本営にいるのではないが、今の我々のような技術士官とは違う。それに我々はまだ目立つ訳にはいかんのだ」

 

「……わかっておる。それにバレないようにこっそりとやるさ。策はもう出来ておる」

 

「……その策というのが非常に厄介な臭いを放っとる。穏便な方向で頼むぞ。君の策は大抵、テロ的なものが多かっただろう。平和的に頼むぞ」

 

「なに、極々平和的だ。まぁ、聞くがいいマイヤー。これならば誰も文句は言わぬだろう」

 

 ビアンはマイヤーにひそひそと、その策を伝えるのであった。

 

 




ビアン総帥、動く!

扶桑姉妹をドロップしたのはビアン総帥だった、という事で、子煩悩な親父が婿に会いに行くという展開に。

多分、天龍とかめっさ可愛がってただろ、この親父はとか考えると話がかわっていってしまいましたが、大筋は変わりません。多分。

次回、俺の義父はビアン?!(嘘)でまたあおう!


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重婚多重奏曲~扶桑さんのふーふーふー。

久々の扶桑さん。

お猿さん無し。

重婚って、大変なんだよ。きっと。


 念のために2日間の休みを秘書室長であり第一夫人であるところの扶桑に言い渡され、否応なく看病というか介護というか、まぁ、看護を受ける羽目になった玄一郎である。

 

 その間の提督はゲシュペンストが行う事になるのだが、玄一郎とゲシュペンストはリンクしており、通信による連携が取れるだけでなく、異世界同位体な事もあってだいたいの考え方などほとんど同じで特に問題は無い。

 

 特に問題は無いが、流石にゲシュペンストに負担をかけ過ぎてはいないか?と玄一郎は思うも、本人が〔この数年間、自分不在の間にお前が文字通り不眠不休で活動してきたのだ。こんな時ぐらいは頼れ〕との有り難い言葉を返して来たのでそれに甘える事にしたのだった。

 

 今、この病室には玄一郎と扶桑の二人きりで、今、扶桑が作ったお粥を食べさせてもらっている最中である。

 

 なんというか、扶桑と二人きりというのは随分と久しぶりな気がした。流石に前回のように口移しで、というのはないのだがやはり扶桑と一緒にいるというのは非常になにか嬉しい。

 

 否応なくというか応しかない。是非もなく、というか是のみ。最高に最大で応と是、拒否などありえない。むしろお願いブリーズ!!という感じで玄一郎は、にまにまにやにやうふふのふー、と喜色満面であり、むしろ気色悪っ?!とはたから見たら思うようなにやけ顔であった。

 

「ふーっふーっ、はい、あーん?」

 

 ハートマークが語尾に付くようなほどに愛情たっぷりな感じで扶桑は嬉しそうに、土鍋で炊いたお粥

をレンゲ掬い、ふーっ、ふーっ、と吹いて冷ましてから玄一郎に差し出す。

 

「あーん、パクッ。ん~っ、おいちぃ!」

 

「うふふふふっ、良かったです」

 

 三十代の男が、おいちぃ!である。三十路の男が甘え声で。だが扶桑も扶桑で非常に幸せそうにニコニコ顔である。

 

 ナニコノバカップル。

 

 とはいえ、実際に扶桑の作った粥は美味い。米から土鍋でコトコトと炊いた粥に相違あるまい。しかもうっすらと出汁の味がして、さらに玉子を乱してある。

 

 梅干しが真ん中に有り、その酸味も非常に懐かしく、ああ日本の正しい病人食だなぁ、と思う。今回はシジミのお汁付き、身体に優しく栄養滋味とそして愛情たっぷりである。

 

「ああ、ずっと病人でいたい。つか、二人きりでいたいなぁ」

 

 しみじみ実感のこもった声で玄一郎は涙をにじませつつ言った。

 

 玄一郎も他の艦娘達を蔑ろにするつもりは無い。艦娘達は美人揃いであり、その性格も様々であるが惚れられて嫌と思う男などいない(ただし特殊なケースは除く)。

 

 深海棲艦だって、これが意志疎通も不可能な強い怨念で黄泉返ったゾンビの如き姿をしているタイプの極端な者ならいざ知らず、普通に対話出来る者達はやはり皆、美人である。そちらも迫られて悪い気はやはりしない。確かに怖さは感じるかもしれないが。

 

 それに玄一郎はジュウコン提督となったわけだが、それもやむを得ずとはいえ、他の艦娘にも確かに愛情は感じている。しかし、玄一郎はこの世界に来てからずっと扶桑姉妹を想って来たのだ。その歳月は他に換えられない。それはどうしようも無い事ではあった。

 

 愛情の重さと言うと誤解を生むかも知れない。だが、この世界に顕現した玄一郎が初めて見た艦娘が扶桑なのだ。ある意味、ボーイ・ミーツ・ガール、いや、むしろやっとしっかり目が見えるようになった鳥の雛が初めて見た者を母親と認識するように刷り込まれてしまったような感じに似ているかも知れない。

 

 粥を食べさせてもらっている様を見るに、親鳥に餌をもらうヒヨコの如し。

 

 ふーっふーっ、ぱくっ、ふーっふーっ、ぱくっ。

 

 扶桑に粥をふーふーしてもらっては食べ、ふーふーしてもらっては食べ、その繰り返し。

 

「扶桑にふーふーしてもらったら、美味いお粥がもっと美味くなるなぁ」

 

「うふふふっ、もっと召し上がれ?」

 

 もはや雛の餌付けのようだ。

 

「おいしいおいしい!ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー」

 

……いや、そのものになっている。つか、ぴーぴー鳴くな、主人公ェ。そんなに最近扶桑に構ってもらえなくて寂しかったんかい、こいつは。

 

 結局全て平らげてしまった。まぁ、怪我人でも病人でもなく胃腸に問題は無いのである。普通に飯は食える。

 

 一心地付き、満足して息を吐くと玄一郎はしみじみと扶桑を見た。

 

「ホントなら扶桑と山城と休暇とってさ、新婚旅行で日本帰って、熱海の旅館にでも泊まってのんびりってのが理想だったんだけどなぁ。ゲシュペンストのおかげで生身の肉体が出来たけどさ、まさかこんな事になるとは思わなかった。……重婚なんてなぁ」 

 

「……仕方無いです。泊地のほぼみんながケッコン希望なんて私も思ってませんでした。……同盟深海棲艦の方々もかなり乗り気になってるようですし、みんなを放っておいたなら、泊地壊滅もありうる問題とあっては……」

 

「……え゛?同盟五大艦にも希望者いるの?!」

 

 玄一郎は顔を少し青ざめさせつつ言った。三途の川でジジィが言っていたのはマジだったのか、とか思う。というかボスクラスの存在を相手にせねばならんのか?とか恐ろしい。弱って残弾残り僅かな今、襲われてはたまらない。

 

 というか、明日から施行される『ケッコンカッコカリ願書受付』の数を考えるだけで非常に頭が痛くなるのに、深海棲艦達もかい、などと思う。それに扶桑と山城の事を考えると非常に申し訳無い気持ちでいっぱいになる。

 

「はい。特に……港湾棲姫さんと空母水鬼さんはかなり。理性的な方々で良かったですが。それに、それ以外の方々も、ですね」

 

 少し辛そうに溜め息混じりに扶桑は言った。

 

 それ以外、と言えばすなわち、転移者組である。レモンは無いだろうが、ジジィが言っていた事が本当ならば、アインスト・カグヤはおそらく希望してくるのではないか、とか思う。だが、扶桑は『方々』と言った。

 

 まだ、複数いるという事だが玄一郎はそれを扶桑から聞こうとは思わなかった。いや、言わせたくなかった。

 

 なんにせよ明日になれば願書受付が始まるのだ。そうなればわかることであり、扶桑にストレスをかけたくなかったのだ。

 

「……俺は扶桑と山城とケッコンカッコカリしたらみんな諦めるんじゃないかと思ってた。つか法律で重婚を認めてるってのおかしくないかこの世界」

 

「それを言ったら私と山城だけでも重婚ですけどね?」

 

「……そうだった」

 

 重婚出来るにしてもせめて人数制限ぐらいはして欲しかった。現在、重婚でギネスブックに乗っているのは、舞鶴鎮守府の近藤大将で、その妻の数は64名。だが、重婚に関する法律で人数の制限に関する項目は無い。

 

 その理由は何も艦娘関連法によるものだけではない。現在の日本の人口と男女比率、これによる。 

 

 深海大戦初期、日本人の人口は激減した。これは確かに深海棲艦による被害もあったが、それ以上に餓死者の数が非常に多かった事もその原因であった。

 

 また、深海棲艦に対して有効な攻撃手段も無く、それでも当時の日本政府は防衛の為に徴兵まで行い、そのため若い男性の数はみるみるうちに減り、その為に男女比率は最悪、1対20にまで膨れ上がっていた時期もあったのである。

 

 現在、確かに日本近海での戦闘は極端に減り、そして国内は安定してきており、日本人の人口は増加してきているものの未だ総人口1億に満たず、男女比は1対10とまだまだその差は大きい。

 

 故に日本政府は重婚を推奨し、また重婚家庭に対する生活の各種の支援と援助を行うことで人口増加を促しているわけなのである。

 

 ガックリ、と頭を垂れる玄一郎。

 

 その様子にクスクスと扶桑は笑った。

 

「まぁ、今ではパラオ泊地のみんなが揃わないと私達も幸せじゃない、そう思うようにしてます。ある意味みんな姉妹のようなものですし」

 

 扶桑はそう言うが、だが人間は心の生き物である。やはりそれでも無理はでるかも知れない。と、いうか。

 

「……たまには、嫉妬とか焼き餅焼いてくれると俺としては安心するんだけどね?」

 

 玄一郎としては我慢強いがストレスを溜め込みやすい第一夫人を気遣った。いや、というか自分としても焼き餅の一つも焼いてくれなくなったら、自分の事をどうでもよくなったんじゃないか?とか不安になる、というのが正しい。

 

「……我慢出来なくなったら、二人きりの時に」

 

「ああ。俺にだけ、な?」

 

「はい。玄一郎さんも、あなたも辛くなったら言って下さいね?思い切り甘やかせてあげますから」

 

「もうとっくに甘えてる。はぁ、なんか幸せだ」

 

 いつだって扶桑がいればこの男は幸せなんである。初めて扶桑の姿を見たときから、なんというか、ものすごく扶桑が好きになって、んで扶桑を見てるとほんわか幸せになる。玄一郎にとって扶桑はそういう存在だった。もちろん山城もいればもっと幸せになれる。

 

 なんだかんだで扶桑と山城はセットのようなもんで、二人揃って無いなど玄一郎の中ではありえない。

 

「……第一夫人なんだから、もっとわがまま言ってもいいと思うんだけどね?」

 

「いえ、第一夫人だから、みんなをまとめねばなりません。不公平は不和の元です」

 

 自分勝手に我を通すわけにはいかないと扶桑は頑なだった。

 

「……はぁ、そういうもんかねぇ」

 

 玄一郎は頭をポリポリ掻きながら、まぁわからんでもないけど、と呟く。扶桑曰わく、夫の愛情は妻達全員に平等に与えねばならないが、妻達もやはり平等になるように心配りをし、それに努めねばならないとの事だ。

 

「ところで山城は?」

 

「あの子はRJで多分、いろいろ情報を交換してると思いますよ?なんだかんだ言っても玄一郎さんがあの子も大好きですもの。会ったら誉めて上げて下さいね?」

 

「……俺の為に、か。はぁ、苦労かけるなぁ。つかホント、マジで三人で都合つけて、日帰りでも良いからどっか行こうぜ。ゲシュペンストの機体にいた頃には感じなかった疲労が、生身だとこうも辛いとは思わなかった。リフレッシュ休暇、欲しい……」

 

「うふふふふっ、それも良いですね。とはいえまだまだ、後の話になりそうですけれど」

 

「……それを楽しみにして、頑張るよ。ホント、いつもすまない。扶桑に俺、甘えてばっかだ」

 

「大丈夫ですよ。私、こう見えて甘やかすの大好きなんですから」

 

 扶桑はそういって、空になった器をトレイに下げて、

 

「では私はこれで。……これ以上居ますと、玄一郎さんの体力をさらに削ってしまう事をおねだりしそうになりますから」

 

 と席を立った。

 

「……あー、それは俺も我慢出来なくなるなぁ、確実に」

 

 ホッとするやら残念やら。お猿さんウッキーはお預けである。多分、キスの一つでもしたりされたりしたら玄一郎も、回復していない残弾数ゼロにも関わらず我慢出来る自信はまったく無かった。

 

「うふふっ」

 

 と意味深に扶桑はやけに艶っぽく笑い、玄一郎の頭に手をやって、ナデナデ、ナデナデ、と子供の頭を撫でるように宥めた。

 

「嬉しいですけれど、お預けです。また私の順番の時に。はやく良くなって下さいね?」

 

 そう言って少し名残惜しそうだったが、なでる手をすっと引っ込めて、微笑みながら部屋を出て行った。

 

 扶桑が出て行ったあとで、ううっ、と玄一郎は布団に突っ伏した。体力が尽きた悲しさよ。愛妻と愛を交わせぬ、このなんつーか寂しさと悲しさと心ぼそさと情けなさよ。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬっ!

 

「レベルアップせねばっ!!」

 

 とにかく、そっち方面のレベルアップを誓う玄一郎であった。まぁ、夜戦レベル(意味深な方)はおそらくわりかし上がり易い環境ではあると思うが、敵を見誤れば命が危険でもある。

 

 気分はRPGの最初の街付近をうろつく勇者、ようやく序盤の敵とかは大丈夫になったものの、少し遠出をすればすぐにやられるような感じである。

 

 ムサシとのエンカウントは、あれは言わばイベント戦であり、ムサシはかなり手加減をしてくれていたようなものだろう。おそらく。多分。

 

 今は体力回復に専念しよう。だが、必ずやレベルアップ。ラスボスは誰かはわからんけどな。

 




扶桑ねぇさまに、ふーふーあーん、なんてすんげぇ羨ましい。

なんだかんだ言っても主人公が一番大好きなのは扶桑ねぇさまなのよね。

次回、大淀退職!?(嘘かな?ホントかな?)でまたあおう!


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重婚多重奏曲~淀みなき大淀

過去、現在、未来。

しがらみだらけの提督と事務任艦娘。

提督、扶桑姉妹、そして大淀。

過去の提督の罪。


 翌日、朝一で玄一郎のところへ金剛が大淀を連れてやってきた。

 

 もう点滴は必要無いとは思うのだが、金剛がせっせと点滴を運んで来て有無を言わせぬ速さで針を刺してセットアップし、あと、面会謝絶の札を玄一郎に見せて言った。

 

「明日まで、面会謝絶ネー?」

 

 と。

 

 ただの心配症と言うわけではなく、なにかしら理由があるんじゃなかろうか?と玄一郎は思うもわけがわからない。

 

「なんで点滴なんだ?」

 

「ビタミンとミネラル各種の点滴ヨー?チョットでも回復早めないとネー?」

 

「……で、その面会謝絶の札は?」

 

「体調整うまでは、面会謝絶、です!というか提督を失うわけには行かないのです!!」

 

 金剛の隣で大淀がピシャリ!!と言った。

 

 その手には彼女の私物である薄いピンク色のタブレット端末があり、彼女はそれをタップしてズイッと玄一郎に突きつけるように見せた。

 

 その画面には、だーーーーーっ!!と艦娘の名前がリスト化されており、そして、その名前の横に○がついていた。なんのリストかと見てみれば『ケッコン希望艦娘表』とあった。

 

 ようするに○印がついている艦娘はケッコン希望艦なのであろう。

 

「……えーと、今日からだよね?願書受付って。なんでまだ事務所開いてないのにデータが?」

 

「昨日から事務所に押し掛けて来て、フライング提出した人達がわんさかわんさかっ!!わらわらわらわらわらと!!いたんですっ!!」

 

 大淀は怒鳴るようにそう言った。

 

 うわぁ、と玄一郎は頭を抱えたくなった。見ればその数約40人。つまりはこの泊地の三分の一ほどの艦娘が願書をフライング提出したことになる。

 

 これでは玄一郎の予定していた、前もって告白してくれた主要艦にプロポーズをしておくという計画に支障を来しかねない。

 

 とはいえ、まだやりようはある。

 

 フライング提出しても、受理は期日通りに大淀にしてもらえば良いのである。

 

「あー、数で押し切られたのか。止めようがなかったんだな?」

 

 玄一郎はとりあえずそれでも予定通りで、とその後言葉を続けようとしたが、

 

「しかし問題はそのことではありません!」

  

 と、大淀に早口でぴしゃり!と言われ、続けることが出来なかった。そう、大淀が早口気味に何かを言うとき。それは大淀が説教モードになっている事を差す。

 

「良いですか?!幾つか問題はありますが、しかし、艦娘達のフライングや暴走は予想の範疇、起こるべくして起こった事ですし、私もそれに備えて用紙を事務所カウンターにとっくに置くことで被害を最小限に抑えました!しかし、しかしです!一番の問題は提督が、このように倒れられた事です!!違いますか?!」

 

「……あ、ああ、そうだな」

 

 若干、玄一郎は引き気味にそう答える。

  

 身体がゲシュペンストの機体だった頃は各部のカメラやら赤外線などを駆使して大淀のスカートの中身を覗いたりして長い大淀の説教から気を紛らわせたりして乗り切っていたものだが、生身の身体になってからはそれも出来ない。

 

「返事はハイです!!」

 

 というか、ゲシュペンストの機体の頃には全く感じなかったが、今の大淀のその剣幕はかなりのものであり、迫力すら感じてしまい、玄一郎はその身を小さくするしかなかった。

 

 大淀は任艦娘であり、そもそもからパラオに所属しているわけではない。任艦娘はもれなく大本営の所属であり、特に大淀はその業務の性質上、場合によっては提督の指揮権剥奪さえも出来るほどの権限を持つ事もある。

 

 そう、大淀は事実上の提督達の監視役なのである。

 

 故に世の提督達は頭が上がらない存在だったりする。

 

「ハイ!!そうであります!!」

 

「よろしい。では、倒れられた原因はなんですか?!」

 

「いや、ちょっ、待て、大淀、それはなんというかプライベートな事でプライバシー、つかその、個人的な事だぞ?!……性的な事だし?!」

 

「何がプライベートでプライバシーですか!!まだわかって無いのですか?!貴方の存在がっ!このパラオでどれだけ重要なのかという話なのですよ?!国防の要、日本海軍の切り札、ゲシュペンスト提督の戦略的価値、また同盟深海棲艦に対する外交的価値、インド、アフリカ、中東の主要人物とのコネクションや様々な著名人との交流などもあわせて考えれば、日本に無くてはならないほどの人物なのですよ!!それが失われる危機だったのです!!」

 

「あ、ああ、いや、それほど俺が偉いわけでも……」

 

「私をただの事務任艦娘だと侮らないで下さい!プラチナとダイヤを時価にして総額数億円分、アフリカ連合の首相から送られ、さらにインドの寺院で最高の位を持つ賢者からケッコン祝いの書状を、中東を平定した『砂漠の英雄』からもケッコン祝いで現地のスゥイートオイルの油田を送られるような提督など、世界のどこを探しても貴方ぐらいのものです!全て私にはお見通しです!!」

 

「おうふ、バレてるっ?!しっ、しかしそれは成り行きで知り合いになった奴らが偉くなっただけで、昔は食い詰め者ばっかだぞ?!」

 

「黙らっしゃい!!昔は昔、今は今ですっ!!」

 

 この大淀の恐ろしい所は些細な事からも重要な情報を入手するその頭脳にあった。

 

 他の鎮守府の任艦娘の大淀ならば判子押してスルーするような書類であっても全部暗記、記憶し、そしてその書類群の情報を読み解き、すぐさまに組み立て、そして理解してしまうのだ。

 

 そう、本来この大淀はパラオのような遠方の泊地に赴任してくるような任艦娘ではない。かつては大本営秘書課に所属し、その課長にまで抜擢されるほどに優秀であった。

 

 それが、今ではパラオの任艦娘、事務局長とはいえ僻地赴任の任艦娘である。名目上も事実上も同じく、左遷である。

 

 彼女は優秀過ぎた。そして正義感が強すぎた。

 

 彼女は舞鶴鎮守府にて行われた艦娘建造実験で初めて建造された艦娘達のうちの一人である。舞鶴鎮守府は当時、ビアン・ゾルダークが海軍から逃亡した後に、技術者達がビアンの製造した艦娘製造機を使って実験を繰り返し、ようやくこの大淀、明石、香取、鹿島、大鯨等の艦娘を建造、そして艦娘の量産体制を整える事となった。

 

 だが、以前にもあったように、当時の舞鶴鎮守府は後に『女衒鎮守府』と言われるようになった。

 

 大本営に隠れて建造した艦娘達の中から一際目立って美しい者達を腐敗した政府要人や他国に売り渡したり、客を取らせて私腹を肥やしていたのだ。

  

 このパラオの大淀もその一人であった。

 

 彼女にとって幸いであったのは、売り飛ばされた先が実際の所、舞鶴鎮守府の内偵を進めていた艦娘擁護派の提督、菅原道夫と懇意の仲だった保守派の政治家の所だった、という事だろう。

 

 その政治家の元で秘書見習いとして働くことになった為に、彼女は自分の中の正義感、そして類い希なる頭脳を発揮していったのである。

 

 その後、菅原道夫大将や、間宮、金剛達による護国同盟による左派の独裁政権からの日本奪還にも大いに協力し、日本奪還後、また再び日本海軍へと戻ることとなった訳であるが、日本奪還を成し得たその後も大本営の中に溜まった膿は一掃出来ていなかったのである。

 

 それでも大淀はがんばった。秘書課課長にまで登りつめた彼女は、自分と同じ、他の大淀を教育し、そして協力的だった艦娘擁護派の若い幹部達と共に任艦娘制度を作り上げ、今の各鎮守府や基地のシステムの根幹、その雛型を作り上げたのだった。

 

 だが、彼女はそのシステムを構築して間もなく、かつて『女衒鎮守府』で売られた艦娘であるというスキャンダルを暴かれ、そして左遷された。

 

 それは旧・軍主導派のブラック鎮守府の提督達による攻撃であった。

 

 このままでは、自分を助けてくれた政治家にまで類が及ぶと、彼女は自分自身を他の任艦娘に紛れさせ、そして存在を消す事にしたのである。

 

 そうして彼女は任艦娘として、自ら様々なブラック鎮守府や基地を渡り歩き、潰し、そうこうして土方歳子に出会ったり、鎮守府を破壊しまくるゲシュペンストに遭遇したりしたわけであり、そんな彼女が最後にパラオに来たのは運命というよりは必然であったのである。

 

 まぁ、ブラック鎮守府の提督を法的に更迭しようと赴任したらとっくにどちらかの手によって物理的にぶっ潰され最後には、次のブラック鎮守府→壊滅、次のブラック鎮守府→壊滅、もう赴任するブラック鎮守府が無くなって最終的に仕方なくパラオへ、というなかなか数奇な体験をして来たのである。

 

 とはいえ、彼女はこのパラオ泊地に来てから非常にここを気に入って落ち着いてしまった。

 

 何より、ゲシュペンスト提督(玄一郎)には、本人は忘れてしまっているだろうが、大淀はその命を一度救われ、そして二、三、会話もしてある。

 

 その時から、ゲシュペンスト提督(玄一郎)は彼女にとってとても気になる存在になっていた。

 

 故に。

 

「くっ、しかしだな……単なる交友関係なんだよ、これは本当だ」

 

 玄一郎はなんとか弁明しようとした。大本営の旧・軍主導派にいた連中などに知られれば、かつての知人達に迷惑をかけるかも知れない。たしかに知人達はかなりの権力を持つに至っているが、それでも避けたかった。

 

「安心して下さい。大本営には報告しません」

 

 そう言うと、やや大淀は、にっと笑った。

 

 そう、このパラオ提督を窮地に貶めるような事や、大本営に今も巣くう悪の幹部連中に利するような事はしないと、彼女は決めている。だから、わかってても報告はしない。

 

 もしも報告などしようものならば、このパラオ提督は政治的に利用されるだろう。もしかすれば連中が懇意にしている、今も日本政府に巣くう左派の政治家連中も彼を利用し、私腹を肥やすために接触してくるかも知れない、いや確実に接触するだろう。

 

 何しろ、今だって奴らはこのスーパーロボットの提督を国内のプロパガンダに使いたがっているぐらいだ。連中の意地汚さはブタよりも劣ると大淀は思っており、なによりも許し難いと思っていた。

 

「……何故だ?」

 

「そうですね。例えば新造艦を大本営に引き渡さない為に、私に書類を通すよりも先に舞鶴の近藤大将の所で通して阻止した、とか。元艦娘とは言え、アマンダ自動車修理工場の『明石』と新型リニアカタパルトを設計しているとか。憲兵とのゴタゴタを回避するためにウォーダン氏の難民認定の書類を潜水愚連隊達が私のところに持って来たのを黙認した、とか、そういう事も報告はいたしませんよ?」

 

「……その辺はバレでも問題は特に無い。しかし」

 

「それ以外でもかなり危険な情報も知ってますが。私に知られぬように内密に行動してきた事の中で、大本営に報告しては不味い事は一切私は報告しませんし、するつもりもありません。ですが私には何一つ、隠せないと覚えておいて下さいね」

 

「……怖いな、お前」

 

「提督、秘密というのはどれだけ隠しても絶対に漏洩しない秘密は無い、と思って下さい」

  

 怖い、と言われても大淀は非常に嬉しそうに笑う。いや、ドSだとかそういう事ではない。この提督が誰かを怖いと言うときは大抵は、その相手の能力を評価してある種褒めているのだ。

 

 だから彼女は本当に嬉しくて笑っていた。

 

「望みは何だ?全てを話した上で何をお前は考えている?大本営に報告する義務を持つ任艦娘のお前が、何故だ?黙っていたらお前の立場も悪くなる。つか、大本営にも帰れるぐらいの手柄になるはずなのに何故だ?」

 

「こそこそと悪事を行う者を更迭するなら手柄と言いますが、あなたのような方を陥れる事は、背信行為と言うのです」

 

「……背信、てお前、俺は教祖でもなんでもないぞ。つか、大本営のが何かと良いだろうに」

 

「私の望みは、貴方の側にいたい。貴方の役に立ちたい。神も仏も私は信じませんが、提督、貴方を信じて生きること。側にいること。それだけです」

 

「……俺はホラ吹きだぞ?知ってるだろがよ」

 

「知っています。でも私が信じているのです。ただただ盲信したいと思っているのです。お忘れですか?私はかつて貴方に逢い、そしてフィリピン沖で命を救われたのです。あの時に貴方が言った言葉の通りに」

 

 大淀はそう言って両手同士を、クリスチャンがするかのようにして握って言った。

 

 それは、過去の祈りのように玄一郎へと向けられた。

 

 





 ゲシュペンスト提督の過去。
  
 フィリピン第一基地でのおぞましき実験とそして、大淀が遭遇したブラックなどではない、暗黒の基地。

 ゲシュペンスト提督の負い目の正体が今、あかされる。

 次回、ケッコン話なのに重くなってもいいんですか?(嘘)でまたあおう!


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ①

 ご無沙汰しております。

 なんというかリアルが大変で安定するまで書けませんでしたm(__)m

 とりあえず再開、ですかね。はい。


 

 ゲシュペンストがまだ『アンノウン』と呼ばれていた頃。まだ『カーウァイ・ラウ』が数年間の沈黙をする前の話である。

 

 そう、これは丁度今から10年ほど前の事である。

 

 小島基地壊滅事件後、扶桑姉妹達と別れたゲシュペンスト(=玄一郎)はその後、元の世界へと帰還するための方法を探して世界のあちこちを旅して回っていた。

 

 その旅路の中でゲシュペンストは様々な者達との出逢いと別れを繰り返し、そして、立ち寄る国、場所、様々な所で厄介事や戦闘に巻き込まれ、そして戦ったり逃げたり隠れたりする日々を続けており、ある国では破壊の権化、ある国では正義のロボット、ある国では農業ロボット、ある国では英雄、ある国では人民最大の敵などなど様々に呼ばれてマークされたりなんだりしていた。

 

 それでも捕捉されずに旅を続けられていたのはこの世界のレーダーや電探等の性能がゲシュペンストのいた未来世界の水準からするとやはり性能は劣っており、ジャマーやステルス迷彩を使用すれば見つかる事は稀であった。

 

 たまに旅の途中の海上で艦娘達に遭遇しても大抵は見て見ぬふりをしてくれるどころか手を振ってくれたり、顔見知りの艦娘だったならお話も出来たりと、友好的な対応をしてくれたりする事が多かった。

 

 この頃、まだまだブラック鎮守府は多く、その被害にあう艦娘達は後を絶たない状態で、そんな艦娘達を救助したりしていた為に、艦娘達の間でもゲシュペンストはヒーローのように思われていたらしい。

 

 そういったブラック鎮守府にいた艦娘達が話を広めていた事もあり、この頃から正体不明のロボットの噂は艦娘達の間で良く話される話題の一つだったようだ。

 

 と、そんな感じなわけなのだが。

 

 話はいきなり、ゲシュペンストが深海棲艦に襲われている艦娘達を助けている場面から始まる。

 

 台湾とフィリピンのちょうど中間辺りの海域、おそらくはその艦娘達は日本~上海~台湾を経由してフィリピンの前線基地へと向かう途中だったのであろう。

 

 重巡の高雄を旗艦とし、軽巡、駆逐艦で構成されたその艦隊はどうもまだ連携がとれておらず、まだレベルも浅いようで、急拵えの艦隊のように見えた。

 

 ゲシュペンストはちょうど中国大陸からオーストラリアへ南下する途中、その上空を飛行していたが、砲撃音と若い女の子の悲鳴をキャッチしたので雲の上から降下し、様子を見、「あ、こりゃいかんわ」と助けることにしたのである。

 

 けして練度が低い艦娘達では無いようだが、いかんせん敵深海棲艦の数が多く、艦砲の飽和攻撃を受けている。このままでは全滅しかねないとゲシュペンストはすぐさまに急降下しつつ、深海棲艦達の後方から突撃してミサイルをばらまきつつ、アサルトライフルをぶちかました。

 

 深海棲艦の艦隊からすればレーダーにも捉えられない上空からの完全な奇襲。

 

 気づいて退避しようにもマルチロックオンミサイルの追尾からは逃れられず、運良く直撃を食らわなかったとしても、アサルトライフルの一斉掃射が降り注ぐ。

 

 戦闘とももはや言えない一方的な攻撃に数十体もの深海棲艦達はたった20秒足らずで全滅してしまった。

 

「……チート感パないな、こりゃあ」

 

〔全敵の掃討を確認。通常モードに移行する。負傷者六名、修復剤の使用を提案する。〕

 

 お堅いゲシュペンストの口調に内心苦笑いしながら、玄一郎は背部のラックにM950アサルトライフルをしまうと、上空から降下しつつ、代わりに緑色の蓋付きのバケツを取り出した。

 

 この五年間の旅の中でゲシュペンストと玄一郎は高速修復剤のレシピを入手しており、その精製をズフィルードクリスタルによって行えるようになっていた。

 

 高速修復剤は希少で高価な材料を幾つもの精密な作業工程を経て作られるものであり量産する事が難しい薬剤ではあるものの、ゲシュペンストに搭載されたズフィルードクリスタルならば、材料も工程も要らずに、ジェネレーターのエネルギーのみで簡単に作る事が出来た。

 

 もちろん、ズフィルードクリスタルの薬剤への混入も全く無い精製方法をとっているので、投与された艦娘への影響は無い。

 

(……日本海軍に大量に持って行ったら艦娘達に修復剤が行き渡らないかな?)

 

 などと玄一郎は思ったが、

 

〔横流しで儲けようとするバカ共が湧くだけだ〕

 

 と、ゲシュペンストの辛辣な意見が返ってきた。しかし概ね玄一郎も同じ意見である。

 

 日本海軍の腐敗はこの五年間で散々見てきたからだ。

 

 確かに見所のある現場指揮官もいたし、艦娘達を救おうと働いている者達も多くいることは知っていたが、それでもろくでもない連中の多さは未だそれを上回っていたのである。

 

 だが、ゲシュペンストも玄一郎もそれをなんとも出来なかったのである。

 

 理由はいくつかあるが、

 

 海における深海棲艦の分布状況とその数の多さ、ゲシュペンストがいかに強力だとしても単騎で全てを撃滅出来ない事、さらにはブラック鎮守府に殴り込みをしても焼け石に水で、しかも壊滅させた後のその海域の防衛力は、低下し、近隣の一般市民に深海棲艦達による被害が生じかねない。

 

 何より、ブラック鎮守府に殴り込みをかけるとその鎮守府なり基地なりの艦娘達は逆らえない提督の司令により、ゲシュペンストに攻撃をしてくるのだ。

 

 艦娘には反撃出来ないし、たまにゲシュペンストの装甲すら貫通してくるような強力な能力を持っている艦娘もいたりするのでゲシュペンストだとしても危険だったのである。

 

「うーん、助けたい相手に攻撃されるのは、心が折れるしなぁ」

 

 たとえ効かなくても可愛い女の子達に攻撃されるのは心が折れそうなくらいに辛く悲しいものである。

 

〔全くだ。要救助者達を視認。海上、前方200の位置だ〕

 

 バシューッ、バシュッと背部ブースターを断続的に軽く噴かして、ゲシュペンストは艦娘達の艦隊に向かって行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 助けた艦娘達は、高速修復剤で回復させたものの体力的にも精神的にも疲弊しており、これ以上の航行は危険な状態だった。なにより武器弾薬は尽きかけており、ゲシュペンストはそんな彼女達を放っておく事は出来なかった。

 

 ちょうど彼女達の目的地であるフィリピンの基地までの途中、だいたい台湾とフィリピンの中間地点に小さな無人の島があり、深海棲艦の反応も無かったので、艦娘達ゲシュペンストは近くにあったその島に彼女達を連れて来ていた。

 

 艦娘達は皆、一様にぐったりして砂浜にへたり込んでしまった。

 

 (無理も無い。話を聞くにここまで連戦してたって話だからな)

 

 軍務上の事なので彼女達はあまり多くは話すことが出来ないようだったが、状況を見ればだいたいわかる。

 

 おそらく、フィリピンの付近で大規模な作戦があり、集結するために彼女達はそこへ向かっていたのだろう。

 

 しかし深海棲艦もまたそれを察知し、フィリピン付近、それも広範囲に防衛線を幾重にも張り巡らせてフィリピンの基地に集結しようとする艦隊の数を減らす作戦に出ており、玄一郎は心の中で眉をひそめた。無論、身体はゲシュペンストであるので表情は変えられないが。

 

 (……おそらく、このままでは日本海軍は敗退するな)

 

 深海棲艦が組織立って動いているのは別に不思議な事では無い。

 

 海の亡者であるマヨイやどこのグループに属さないハグレならば目的もなく本能のままに動いたり、勝手に彷徨いたりするだけだが、深海棲艦とて知能があり、リーダーとなる者が居れば団結し、戦術や戦略を駆使して戦うのだ。

 

 おそらくは日本海軍が思っている以上にフィリピンの海域にいる深海棲艦達は知略に優れ、統率力の高さからかなりの強さを持っているのだろう。

 

(……どうすっかねぇ。日本海軍の作戦なんぞに関わる気はさらさら無いが、しかしこのままこの子達を行かせちゃまた無駄死にさせるだけ、と来た。助けたけど結局死ぬのを先延ばしにしただけ、ってのは寝覚めが悪いしなぁ)

 

 玄一郎は彼女達のリーダー、つまり旗艦の黒髪の重巡の子を見た。

 

 名前は高雄、と言い、非常に真面目そうな感じである。また、体格的に重巡というだけあってなんというか、むちむちでおっぱいも大きい。

 

(このおっぱいが、死んでしまうのはもったいないよなぁ)

 

「……あの、なにか?」

 

 ゲシュペンストの視線を感じたのか、座っていた高雄が立ち上がろうとしたが、玄一郎は彼女を手でそれを止め、

 

「いやいや、疲れてるんだから座っててくれ。ただこれからどうしたものか、と考えていただけだ」

 

 と押し留めた。

 

 彼女達も正体不明のロボットであるゲシュペンストに対して最初は警戒心を持っていたが、やはり海軍に出回っているゲシュペンストの噂話などで知っていたのと、敵では無いのをわかってくれたのか、島に辿り着く頃にはある程度は普通に接してくれるようになった。

 

 まぁ、へたり込んで動けない彼女達の為に焚き火を用意したり、マットを出してやって座る場所を作ってやったり、タオルケットを用意してやったり、といそいそと休憩する用意をしたりした事で、無害どころか友好的な存在だと認識してくれたようである。

 

「はぁ、しかしこのままこうしていても……」

 

「いや、もうすぐ日が暮れる。フィリピン付近の海域は奴らに封鎖されているも同様だ。夜に囲まれれば確実に今の君達では辿り着けないだろう。今日はここで体力回復に努めたまえ」

 

 ゲシュペンストのレーダーには海域のあちこちに敵の艦隊の反応があり、それはフィリピンを囲むように展開されていた。

 

 つまり、外から来る者も中から出る者も必ず壊滅させるというえげつない包囲網が構築されており、おそらく、外から来る艦隊が途切れれば深海棲艦の軍勢は内、つまりフィリピンの基地に攻勢をかけてそれを討ち滅ぼすだろうと思えた。

 

 完璧な兵糧責めの構えである。

 

 えげつないが、正直なところかなり有効な軍略であり、そこまで頭がまわる深海棲艦がいるというのは正直な話、脅威だった。

 

……ぐぅっ。

 

 微かに、どこからか腹の虫の鳴く声がした。

 

 玄一郎ははて?とそちらを見ると。高雄が顔を真っ赤にしていた。

 

「……とりあえず、飯だな」

 

 兵糧責めにあっているフィリピン基地には申し訳無いが、とりあえずゲシュペンストにはこういう時の為に非常食を様々収納してある。

 

玄一郎はそれを出してやり、艦娘達に配ってやることにした。

 

「……本当に何から何まですみません」

 

 高雄は消え入るような声で、恥ずかしがりながらそう言いつつぺこりと頭を下げた。 




 大淀さんの登場はまだ。

 この高雄さんは、パラオに在籍する事になる高雄さんとは別の高雄さんです。

 パラオの高雄さんとの違いは性格が真面目でまともであることと、全高雄の中でおっぱいのサイズが普通サイズ寄り(それでも大きい)である事です。

 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ②

 艦これのレイテとも史実のレイテとも違う流れになっておりますが、仕方ないね?

 十重二十重に囲まれたフィリピン近海。ゲシュペンストと玄一郎は果たして?

 無人島に家が出来ました。

 大淀さん、ひぎぃぃぃっ。


 

 あれから、二日経って。

 

 ゲシュペンストはなんと40名超に増えた艦娘達の為に、ログハウスを建設していた。

 

 わりと大きな無人島であり、自生している木も人が入らない分大きく、木材には困らない。

 

 ゲシュペンストはズフィルードクリスタルで作ったシシオウブレードで木材をぶったぎり、ゲシュペンストのパワーで運び、柱を地面にドスン!とぶっさし、せっせかせっせかと建築していた。

 

 その造りを見るになかなかに頑丈そうな高床式ログハウスである。

 

 製材にどこかで見たようなトマホークやらドリルやらも使って組み上げていく様など、もはや建築ロボットなのでは無かろうかと思うほどにその作業は早い。

 

……しかし何故彼らがそんなものを建設せねばならなくなったのかと言えば。

 

 彼の装甲にあちこちついている、未だ修復が完了されていない損傷を見れば一目瞭然であろう。

 

「……正直、舐めてた」

 

 この一言が雄弁にこの事態に陥った様を語っていると言える。

 

 高雄達を助けてすぐにこの無人島の近海の各所で艦娘と深海棲艦の戦闘の反応があり、彼はすぐさま艦娘の救助に向かったのだが、正直な所、深海棲艦の数が多過ぎたのである。

 

 これが五年前の小島基地の事件の時のマヨイのように統率のとれていない軍勢ならばここまでやられはしなかっただろうが統率され各艦の連携も練度も高い深海棲艦の群れが相手ではゲシュペンストであってもフルボッコだったのである。

 

 無論、ゲシュペンストの装甲はこの世界では大和クラスを遥かに越える硬さを誇り、さらにグラビティウォールも完備しているのでほとんどの攻撃は通らなかったが、しかし、中には中ボスに当たるような強さの者もおり、それらの攻撃によってゲシュペンストの装甲の表面は傷だらけにされたのだった。 

 

 正直、そんな中をかいくぐって艦娘達をフィリピンの基地へ無事に送り届けるのは正直不可能というか無理っ!!と判断せざるを得なかったのである。

 

 フルボッコにされながらも、襲撃されていた艦娘達全員をこの無人島に連れて来られたのが正直奇跡なぐらいだったのだ。

 

 ゆえに、玄一郎は助けた艦娘達に、

 

「悪いのだがフィリピンの日本海軍の基地に連れて行くのは無理である」

 

 という旨を彼女達に懇々と諭し、事態が解決するまでこの無人島に留まってもらう事にしたのであった。

 

 それが何故にログハウスの建設につながるのだ?とまだわからない方にさらに説明すれば。

 

 昨日のうちに彼女達を寝かせておくために軍用のテントを建てていたが、突然のスコールが降ってきて、軍用テントではとてもじゃないが過ごせないと言うことがわかったのと、人数が増えすぎてテントの数も足りなくなった為である。

 

 フィリピン付近は温暖な熱帯に位置する南国であり、スコールも季節にもよるが降ってくる。

 

 流石にそんなところで療養させるわけにも行かず、さらにどれほど長い期間滞在してもらうかわからないとなれば、拠点の設営は必要である。

 

 それに、たとえサバイバル生活に突入するとしても、艦娘とはいえ女の子達に滞在してもらうにはやはりそれなりに快適な住居を作ってあげねばなるまい、と玄一郎はゲシュペンストに主張し、高床式ログハウスの建設に踏み切ったのであった。

 

「あの、私達は艦娘、元は海軍の軍艦ですから、そんな大げさなものは……」

 

 と、高雄は言ったが、玄一郎にとっては女の子にしか見えない。

 

 そもそも、スコールで濡れて透けたワイシャツから見えるおぱーいを包む白いレースのブラジャーを見るに(濡れた上着は木に引っ掛けて乾かし中であった)、ブラジャーを着用する船など見たことは無い!!スコールグッジョブ!!濡れ透けワイシャツサイコーっ!!巨乳万歳!!

 

 と、もはや最高のテンションで玄一郎はゲシュペンスト設計の元、ログハウスを超スピードで建設していったのである。

 

「ふっ……完成っっ!!」

 

 どぉぉぉぉぉん!!

 

 完成したログハウスは、どう見てもただのログハウスでは無かった。

 

 いや、確かに丸太で作ってはいるのだが、手造りログハウスの域では無い。

 

 言ってしまえば、ログハウス風の邸宅のようにきっちりと作られており、屋根にはきっちりと岩を薄く斬って作った瓦が敷かれている。

 

 高床式なのはスコール対策であり、その分入り口には階段が作られているが、その段も一つの大岩をレーザーで切り抜いて作った精密かつ一段一段が均一に作られている。

 

 さらには、入り口まで続く通路はやはり薄く斬った岩のタイルが敷き詰められており、もはやこんなん、サバイバル生活の拠点やない、アウトドア風高級邸宅やがなーーーっ!!と、言いたくなるほどの出来であった。

 

 高雄の濡れ透けワイシャツから見えるブラジャーだけで、ここまでの物を作ってしまう主人公って、どんなけだよ……。

 

 なお、フィリピン周辺海域が解放された後、このログハウスは台湾~フィリピンでの日本海軍の中継基地として転用されることとなるのだが、まぁ、それは別の話である。

 

 食糧採集に出た高雄達は、帰ってきて思い切り驚いたが、まぁ、それもしかたあるまい。

 

 なにしろ朝に出て行って、昼に帰って来たらもう家というか大邸宅的なものが、ずどぉぉぉん!!と出来ていたのだから。

 

 高雄の想像では、こじんまりとした丸太小屋ぐらいだろうと高をくくっていたのだが、ここまでの物を用意されると凄いとか言う前に退く。

 

「あ、おかえりなさい。ログハウス完成したよ」

 

 手を振るゲシュペンスト(=玄一郎)に、引きつった笑みで対応するしか、彼女達には出来なかった。

 

(そんなんログハウスじゃねぇっ?!ログ大邸宅よっ!!)

 

 と、彼女達はみんな、心で叫んだとさ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 大淀は、見知らぬ木造の梁が剥き出しになっている天井を見て、ここはどこの基地だろうか?と思い、起きようとして全身に走る痛みに

 

「ひぎぃぃぃっ?!」

 

 と、何か18禁ないけない同人誌で女性がアレな責められ方をした時のような叫び声を上げた。

 

 まぁ、実際、彼女がかつていた環境はそういう特殊な事もありえた場所であり、そういう『ひぎぃ』感たっぷりな事も過去にその身に受けたり経験したりもしたわけなのだが、この『ひぎぃ』は戦闘で敵の艦砲で吹き飛ばされた際に受けたムチウチによる痛みなので、あんまりそういう想像、イクナイです。

 

「ぐがっ、がっ、せ、背中が、首が……っ」

 

 痛みに涙目になっている大淀の横には、彼女の護衛役として随伴していた艦娘が座っていた。

 

「あ、大淀さん気がついたクマー」

 

 軽巡球磨型一番艦の球磨、である。

 

「ああ、良かった!大淀さん、大丈夫か?」

 

 同じく、護衛役の球磨型八番艦の木曾が大淀を覗き込むようにして声をかけてきた。

 

「ぐっ、あなた達……確か、砲弾の直撃を受けたはず……。というか、か、身体が……、めちゃくちゃ痛いです……」

 

 大淀は、海上であった事を思い出した。

 

 日本の佐世保から立った彼女達は台湾からフィリピンへ向かう途中で、深海棲艦の待ち伏せに会って戦闘に入った。

 

 待ち伏せしていたのは、深海棲艦の中でも雑魚である、駆逐イ級やそれほど強くない敵ばかりだったので、その場は易々と勝利し、またフィリピンへの航路を急ごうと進んだ先で、とてつもない遠距離から飛来した砲撃が降って来たのである。

 

 それは戦艦から発射された三式弾、それも深海棲艦側のものではなく、艦娘、つまり日本海軍の戦艦が撃ったものであった。

 

 球磨と木曾達は、それをいち早く察知し、大淀を庇って盾になってくれたのだが、三式弾の爆発で、大淀は吹き飛ばされ、そして意識を失ったのである。

 

「ああ、大破沈没しかけたさ。だけど助かったのさ。ウチの艦隊のみんなもちゃんと生きてるぜ?大井ねえさんと北上ねえさん達は食糧とか探しに出てるけどさ?」

 

「ううっ、あなた達はもう入渠済ませたんですね……というか私も修復しないと、痛みでまた気絶しそう、うぐっ……」

 

「あー、見た目負傷してるように見えなかったから修復剤かけてくれなかったクマねー。ちょっと修復剤もらってくるから、そのまま待ってるクマー」

 

 球磨はクマークマーと言って、部屋というには広すぎる、調度品も何もないこの場所の、ドアの無い出口まで歩いて出ていった。

 

「修復剤をもらって来る?いえ、ちょっと待って下さい。高速修復剤は高価な薬剤ですよ?!もらって来るって?!」

 

「あー、俺達、高速修復剤で回復してもらえたんだよ。海で沈みかけてる時にさ」

 

「はぁ?そんな気前の良い方がいるわけありません!あれは縞傘製薬が高値をふっかけて売りさばいているものですよ?!しかも、艦娘擁護派には要請があっても売りしぶるような事までしている……」

 

「クマー、修復剤渡してくれるだけで良かったクマー?」

 

「いや、彼女に謝っておきたいんだ。単に気絶しているだけだと思って、修復剤を使って無かったから」

 

 ガション、ガション、ガション、と球磨の後ろから何か大きな音が聞こえた。

 

「大淀さんお待たせクマー。修復剤が来たクマー!」

 

 ドアの無い、大きな出入り口から、球磨が帰ってきた。そして。

 

 ガション、ガション、と大きなロボットが重量感たっぷりな足音で、出入り口から、ずおおおおん!!と入って来た。

 

 大淀は、そのロボットの姿を資料で見たことがあった。

 

 それは、五年前の小島基地壊滅事件の際に土方歳子中佐によって撮影され、映像資料として大本営の資料室に提出された資料の中にあった。

 

 謎のロボット、日本海軍認定未確認敵性物体、通称『アンノウン第一号』。

 

 海軍大本営の上層部に置いては、このアンノウン第一号が出現したならば破滅をもたらすと畏れられている。

 

 

小 島基地を始めとする、五つの海軍基地を壊滅させた、実在する脅威。

 

 それが今、自分のすぐ近くまで迫って来ている?!

 

 大淀は恐怖のあまり、ふへら、と意味不明な呻きともなんともとれないような間抜けな声を出して、ぐるん、と目を白目に回して、再び気絶した。

 

 ぱたん。

 

「あー、やっぱりダメージ大きかったクマねー?」

 

 呑気に球磨がそう言ったが、妹の木曾はゲシュペンストを横目で見て、

 

「あんたは大本営では畏れられてっからなぁ。内勤の大淀さんには外で活動してる艦娘達が話してるあんたの噂もあんまし伝わってねーだろうしな」

 

「白目むいて気絶されるほど、俺は彼女に怖がられてるのか?」

 

「一目瞭然クマねー。ゲシュは良いロボクマにねぇ?」

 

 木曾は、しゃーねぇなぁ、と言うとゲシュペンストからバケツをひったくるようにすると、その中身を気絶している大淀に思いっきりぶっかけた。

 

 

 

 




 ゲシュペンストさんがいれば、なんでもできる。

 家が建つ家が建つ。鎮守府なんかじゃないけれど。

 ようやく大淀さん登場。

 次回、淫乱メガネは夜に鳴く(嘘)でまたあおう!
 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ③

 今回は、松平朋也准将(後の元帥)と叢雲(後の松平朋也の奥さん)が裏で動いている、という話。

 


 

 ゲシュペンストが無人島で高雄達の世話をしている、その同じ頃の日本。

 

 准将に昇進していた松平朋也は居酒屋鳳翔にて、とある人物と秘密裏に会合していた。

 

 その人物とは日本海軍の元元帥であった山本元大将の養女、山本叢雲であった。

 

 この叢雲はこの世で初めて現れた艦娘であり、海軍最初の五人の艦娘の一人であると同時に、その唯一の生き残りであった。

 

 また、この叢雲は他の艦娘とは一線を画する能力を持っており、その能力の高さから山本元(はじめ)元(もと)元帥が保護し、そしてその能力を悪用されないために退役すると同時に彼女を養女に迎入れ、海軍から連れ出したのである。

 

 たかが駆逐艦娘一人と海軍もなんら疑いもせずに叢雲を山本元帥に贈った。なにしろ戦闘能力に関してはこの叢雲も普通の吹雪型駆逐艦の域を出ていなかった為、いくらでも彼女が抜けた穴は他の艦娘で埋められると思っていたからである。

 

 しかし、彼女を山本元帥が引き取りたいと言った事に関してはいささか不名誉な風評も出回る事になった。

 

 それは叢雲の容姿のせいもあった。

 

 叢雲は他の吹雪型駆逐艦に比べても容姿が垢抜けており、非常に美しくさらに髪の毛の色も白銀で目の色も色素が薄く金に見え、非常に目立つ。

 

 老齢の元帥が、そのような艦娘を養女に迎えたという話は、様々な邪推を巷で呼んだ。

 

 山本元帥は長年戦い続けた初期艦を休ませてやりたかったのだ、と好意的に受け止めている者もあれば、長年連れ添った艦娘を妻に娶るのは老齢故に出来ず、養女として迎えたのだろう、と言う者もあり。

 ゲスの勘ぐりで、おそらくはあの叢雲は艦娘して働きたくないが故に山本元帥をたぶらかして養女になったのだと言う者もあれば、いやいや、養女というのは隠れ蓑で、夜の下の世話をさせるために連れ出したのだ、と、ろくでもない事を言う者まで、様々であった。

 

 とはいえ、山本としては叢雲の能力が露呈しないならば何と言われようとどうでも良かった。いや、むしろそういう風評によって煙に撒ければその方が善いとさえ思っていた節がある。

 

 いつも先に叢雲が怒るものだから山本はなだめる方に回っていて怒る暇が無かった、というのもあるのだが。

 

 さて、そこまでして山本元帥が隠したかった叢雲の能力であるが、実は山本の他にもう一人、その能力を知る者が海軍にいた。

 

 それが松平朋也准将(後の元帥)である。

 

 松平朋也は海軍学校卒業してすぐに山本元帥にその才能を買われ元帥直属の部下として取り立てられた若きエリートと表向きは語られているが、実際にはこの叢雲が無理矢理に巻き込んで、山本元帥が手元におかなければならないように仕向けたというのが正しい。

 

 山本元帥から見た松平朋也は海軍学校を卒業して入って来たばかりの若者以外の何者でも無く、首席で卒業したとはいえ、海軍学校を卒業して軍に入ってくる首席卒業者など毎年出てくるものであり、特に気にもしていなかった。

 

 だが、叢雲は海軍の未来に必要な人物として、初対面の松平朋也に自分の能力を彼にあっさりとバラし、山本元帥が放っておけないようにしてまで引き込んだのだ。

 

 そういう点では山本元帥も叢雲の企てに巻き込まれたようなものではあるが、手元に置いて育ててみれば松平朋也は非常に有能かつ今時珍しいほどに性根の座った真っ直ぐな青年であり、山本元帥も非常に気に入り、元帥位を退き、海軍を引退した後に叢雲を託せるのは松平朋也の他には無い、と認めたほどである。

 

 さて。

 

 問題は彼女は初対面であるにも関わらず、何故に松平朋也を海軍の未来に必要な人物だと思ったのだろうか、という事である。

 

 ぶっちゃけて言えば、彼女の能力が『未来視』と『千里眼』であるから、が答えとなる。

 

 彼女の『未来視』は非常に強力であり、運命の分岐点をも見通すほどの力を持っている。つまりは人の運命であろうが、世界の運命であろうが何もかも一切合切を見通し、未来の運行に必要な者、鍵となる者、すなわちキーマンを正しく分岐点に配する事で望み通りの未来へと変えていく事が出来るのである。

 

 ただし、彼女の能力にも弱点や限界はある。

 

 どうやっても分岐点が無い場合には、どうする事も出来ないという点である。それを『完全確定事項』と彼女は呼んでいるが、避けられない事態というのも、やはりあるのだ。

 

 例を言えば、他の初期艦「吹雪」「漣」「電」「五月雨」は皆、すでに轟沈しており、叢雲も必死で運命の分岐点を探して回避しようとしたが、その肝腎な分岐点はどこにも無く、回避は不可能であったし、そして今現在、彼女の養父である山本元帥の年齢は105歳。どんな分岐点をさがしても、あと三年は生きられまい(なお、山本元帥が長生きであるのも全くどの分岐点を進んでも寿命は変わらなかったので、ある意味これは運命とも言える)。

 

 と、このように回避出来ぬ未来もあったのである。

 

 そんな彼女と何故に松平朋也准将(後に元帥)がこの鳳翔の三階の座敷を貸し切って逢っているのかと言えば。

 

 この二人は現在婚約中である事もその理由なのであるが、話はそれだけでは無い。

 

 叢雲の見た最悪の未来『最悪解』を回避する為にその分岐点を潰し、さらに『最良解」の未来へ修正する為のキーマンを正しく配置する方法を話し合うための会議を二人でしている真っ最中なのである。

 

「攻撃目標は『フィリピン泊地・縞傘製薬深海研究所』」

 

 いきなり、叢雲は物騒な事を唐突に言い出した。これには朋也も驚く他……いや、平然と頷いた。

 

「ふむ、当たり前ですね。どう考えでも、今回のフィリピン周辺海域の件はそれしか原因となる要因はありませんから」

 

 どうやら彼も結論として、フィリピンにある日本海軍の施設を攻撃するという事に賛成しているようである。

 

「しかし、どうしましょうかね。大俣大将が縞傘製薬からの要請で他のバカ共もそそのかして艦娘の艦隊を計6もフィリピンに派遣し、どれも音信不通になってますが……」

 

「要請=賄賂って図式は潰さないといけないけれど、大本営の決定も無しに勝手に艦隊を動かしたんでしょ?証拠はとってあるんだから、どうとでもなるわ」

 

「いえ、そっちではなく艦娘達の方です。菅原閣下の艦隊の旗艦を勤められていた『高雄』も行方不明になっているのです。それに他の艦娘達の安否も……」

 

 そう、フィリピン周辺海域でゲシュペンストが救助した高雄は、かつて日本暗黒期と言われた左派政権時代に終止符をうち『日本奪還』を果たした菅原道夫元大将の艦隊の旗艦を務めた『高雄』であり、後の菅原夫人となる艦娘であった。

 

「ああ、ごめんね。そっちの方はまったく心配無かったから。説明するとすでに救助されてるわ。あー、どこから説明するのが良いのかちょっと難しいけど、あの子、とても可笑しくて楽しそうな状況になってるわ」

 

 叢雲は彼女と同じ人物にドロップされた艦娘の今の状況を見てクスクス笑った。つまりは高雄もビアン・ゾルダークにドロップされた艦であり、叢雲ともかつては艦隊を組んだ事もある艦娘であった。

 

「はぁ、千里眼で見えているのですね。しかし楽しそうな状況、ですか?」

 

 朋也は怪訝な顔をした。それはそうだろう。深海棲艦が厳重に、十重二十重に封鎖している海域でそのような楽しい状況など考えられないからだ。

 

「ええ、非常に安全な場所にいるのよ。とっくに彼女は『最良解』の鍵の一つと接触して、その庇護下にあるわ。他の艦隊の子達もね。あはははは、信じられる?あの『重鎮・高雄』とか『鋼鉄の高雄』なんて言われた高雄の濡れて透けたブラジャー見て、それで頑張って大邸宅を無人島に作るバカがいるなんて!!あははははは、しかも、舞鶴の『エロメガネ』が気絶!!あはははははは、どんだけ笑わせてくれるの、あのキーマンは!!あははははははは!!」

 

 叢雲、千里眼で見たゲシュペンストの様子に大爆笑である。

 

 爆笑する叢雲に、千里眼も無い朋也はただただ困惑するばかりである。しかし、朋也にもわかる事は出撃させられた艦娘達は全員無事である、ということで、ひとまずは安心した。

 

「ひーっ、ひーっ、ひさしぶりに爆笑したわ。うん、善い風が吹いてきた!もっと楽しくしてあげましょう!!朋也君、地図と海図出して?」

 

 叢雲は、朋也の出した地図と海図を見て、地図の方には台湾とフィリピンのちょうど中間にある小さな島にボールペンでマルをつけ、そして海図の方には進行方向の航路を書いた。

 

「ここよ。ここに今から言う艦娘を、この航路で派遣して。この航路で進行すれば被害はほぼ軽微で行けるわ。全員明明後日(しあさって)の1500時頃に着ければ『最良解』の未来へは一直線よ!!」

 

 この叢雲がこのように明るい表情で断言するのはかなり珍しい事である。

 

 朋也は全くどんな状況なのかわからないまま、しかし彼女が言う未来は間違い無く善い未来なのだと理解し、すぐさまに彼女の言う通りに手筈を整えたのであった。 




 本当は、本編の十年前の海軍の状況とかも書いてたのですが、どうも暗い話になって行ったので、省きました。

 なおゲシュペンスト(=玄一郎)が助けた高雄は、後の海軍を辞めた菅原大将の奥さんになる高雄さんです。(この半年後にケッコンカッコカリ制度が発足される事になる予定)。

 次回、大淀さんマジエロメガネ!(嘘)でまたあおう!



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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ④

 ホワイトにピンクを混ぜたらあら不思議、ピンク鎮守府。

 久し振りの扶桑姉妹登場。

 沖田さんも登場。


 さて、さらに所は変わって舞鶴鎮守府。

 

 舞鶴鎮守府は近藤中佐が提督を務める鎮守府である。無論、近藤の鎮守府であるからしてホワイトな鎮守府なのであるが、他の提督達からは現在の舞鶴鎮守府はこう呼ばれる。

 

 『近藤専用ドピンク鎮守府』

 

 と。

 

 これは舞鶴鎮守府がかつて『女衒鎮守府』であった影響が未だに抜けていないせいであり、そこに所属している艦娘達はやたらと、その、エロい事に長けているからそう呼ばれる。

 

 無論、近藤はホワイトな男であるのだが艦娘達はものすごいドがつくほどにピンクである。

 

 近藤がどうにかまともな鎮守府にしようとしてはや数年。近藤の努力が実を結び、海軍としての艦隊運営はキチンと出来るようになっては来たが、ピンクな部分は全て近藤にのしかかりって、それはどうしようも無かったのである。

 

 そう、今まさに近藤の後ろから大きなおっぱいがのしかかっているように。

 

「……愛宕よぉ、前から言ってるよな?なんで俺の頭に乳を乗せんだよ?」

 

「あらぁ~?お嫌いですかぁ~?」

 

 愛宕の大きいおっぱいが、後ろから近藤の頭に乗せられていた。

 

 ずっしりとしつつ柔らかく、しかしながらしっかりとしたおっぱいである。

 

 今週の秘書艦は愛宕であった。

 

 舞鶴鎮守府では秘書艦は持ち回り制であり、一週間毎に交代する。このやり方は近藤が舞鶴鎮守府の立て直しをするために考案した制度であり、各艦娘の練度を満遍なく上げる目的で行っているものである。

 

 まぁ、後々この近藤の持ち回り秘書艦制度はポピュラーな艦娘育成方法として海軍の提督学校の教科書にも載ったりするが、それはまた別の話である。

 

 この愛宕はかなりエロい。舞鶴の高雄と並んで『エロい高雄型シスターズ』などと呼ばれるほどであり、日本海軍の愛宕中最大の乳と尻をもつ、むちむちボンキュボンな愛宕なのである。

 

 非常にまだ童貞の近藤にとっては危険な愛宕であった。そう、近藤はこの頃、まだ(!)童貞の清いままの青年であった。

 

「執務中は、秘書デスクで執務しろと……」

 

「ああ、とっくにデスクワークは済ませたわぁ?」

 

 正直、この愛宕は秘書艦として、かなり仕事が出来る愛宕である。姉の高雄もそうなのだが仕事を覚えるのが早く、さらに艦娘としても演習にせよ実戦にせよその実力は海軍において一目置かれるほどにまで成長していた。

  

 ゆえに、近藤にとっては質が悪いと言えた。確かに本日中に処理せねばならない書類の束が、とっくに終わって積み上げられていた。

 

「……チェックは……」

 

「二度やったわぁ?というか今まで私がミスしたことあるぅ?」

 

 言われてぐっと詰まる。そういう部分で全くミスが有ったことは一度も無いのである。

 

「慢心はいかんぞ?あと、俺の書類はまだ終わっていない……」

 

「その書類、さっきも見てたわよねぇ?というか全部終わってるのにまた積み上げて仕事してるフリはいけないのよぉ?」

 

(ぐっ!バレてる?!)

 

 そう、近藤もすでにデスクワークを済ませていたのだが、もし執務が終わってヒマが出来たならば、この愛宕は確実に襲ってくるので、まだ仕事してますという感じで本日の終業まで乗り切ろうと思っていたのだ。

 

「い、いや、念入りにチェックをしていたんだっ!この書類は重要だから……」

 

「……ウソといけないわよぉ?これ、ただの資材の受け取り書類よねぇ?とっくに処理済みでサインした後の」

 

「いやー、気づかなかった!ほら、たまにこう言うのが混ざってることもあるから、チェックは重要だよな?ははははは」

 

 そう言って近藤は笑って誤魔化そうとして、そして逃げ場を探そうとした。

 

 だが。

 

 きゅっ、と愛宕が後ろからさらに手を伸ばして、デスクチェアごと近藤を抱きしめて来た。

 

「……な、ななな、なんだ?愛宕」

 

「いえ、仕事が終わったなら、休憩タイムよねぇ?テ・イ・ト・ク?」

 

「うわわわわ、よせっ、俺の鎮守府はホワイトっ、ホワイトな職場を目指してるんだぁーーーーっ!!」

 

「んふふふふ、そうねぇ、ちん、が、じゅん、として、ホワイトなものが素敵に、どぴゅっ、な事をしたいわねぇ?」

 

「ちっがーう!!いや、待て、止めろ、止めてっ!!アーーーッ!!」

 

 舞鶴鎮守府に、今日もまた近藤提督の叫び声が木霊した。負けるな近藤!頑張れ近藤!ホワイトな鎮守府運営の為に!!

 

 

 

 扶桑姉妹は現在、舞鶴鎮守府に駐留していた。

 

 この五年間で、様々な基地や鎮守府に派遣されたりしていたが、様々な事情があってことごとくそれらの基地や鎮守府は壊滅したり、提督が吊されたりした為、行き場を無くした為に、五年間の小島基地壊滅事件の後で知り合った土方少佐の世話で、この舞鶴鎮守府に引き取られる事になったのである。

 

 この頃には扶桑姉妹はすでに『鎮守府クラッシャー姉妹』とか『不幸姉妹』などの異名で呼ばれていたが、近藤提督も土方少佐も全くそんな事など気にもせず、近藤などはこの舞鶴にまともな艦娘が来てくれた!!と喜んだぐらいである。

 

 もっとも、彼女達が派遣された鎮守府などが必ず壊滅していたのは、半分ほどは近藤達による『ブラック鎮守府撃滅作戦』で彼女達の派遣先を潰されたせいでもあるからして、その元凶の鎮守府に滞在しているというのも、ある種、皮肉なのかもしれない。

 

 とはいえ、扶桑姉妹はむしろ近藤達に感謝している。

 

 なにしろ彼らが潰して来たのはブラック鎮守府であり、艦娘達を救うための行動だったからだ。

 

 現在、扶桑姉妹は近藤提督に新たに建造された大和と陸奥の教導を任されていた。

 

 大和はすでに練度60、陸奥も40程に成長し、戦力として充分通用するほどに育って来ている。

 

 四人は教練を終えて鎮守府の入渠施設へ向かおうとしたが……。

 

「アーーーッ!!」

 

 提督の執務室から近藤の悲痛な悲鳴が聞こえて来た。

 

「……あー、またやってるわ、ねぇさま」

 

 山城が他人事のように言う。

 

「はぁ、今週の秘書艦は愛宕さんですから、予想はしてましたけど……」

 

 扶桑もまたか、とおもいつつ。

 

「大和さん、陸奥さん、ほらほら、はやく止めにいってあげて?」

 

 と、二人を急かすように行かせた。

 

「ハイッ!大和、提督救助に向かいます!!」

 

「はぁ、私は気が進まないけれど」

 

 大和も陸奥も、この鎮守府のこの手の騒ぎにも慣れてしまっているようだった。

 

 扶桑姉妹は、はぁ、と溜め息を吐き、それぞれ一言。

 

「空はあんなに青いのに(変な鎮守府よねぇ)」

 

「(近藤提督が)不幸だわ……」

 

 まぁ、それでもブラックな鎮守府では無いだけ良かろうもんである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、所は変わってまたゲシュペンストのいる無人島。

 

 あれから、また十数名増えた(救助された)。

 

 やったね、ゲシュペンスト、女の子が増えたよ?(白目)。

 

 フィリピンの上空から偵察を行っていた際に、深海棲艦に攻撃されている高速艦(艦娘ではなく普通の船である)を見つけ、それを救助して無人島まで案内し連れて来たのだ。

 

 救助されたのは日本海軍の女軍人と、そしてあとの数人は艤装を解除された艦娘達だった。

 

「……アンノウン第一号が艦娘達を救っているって話は本当だったのね」

 

 と、その女軍人は言った。

 

「アンノウン、未確認物体って、俺は空飛ぶ円盤じゃねーぞ」

 

 玄一郎はどうもこれまでの先入観から、日本海軍には抵抗があって、ぞんざいな口調で返した。

 

 日本海軍は艦娘達に酷い事をしており、この女軍人もそうなのだろう、と思っていた。なにより、この女軍人の乗っていた高速艦の中の艤装を解除された艦娘達の着ている格好は裸同然で、ボロボロのシーツや何かの布を巻きつけただけであり、そこから見える肌には酷い仕打ちを受けてきたのだろう、痣や傷があちこちについていたのだ。

 

 女軍人はつけている階級章からすれば佐官であり、玄一郎はコイツがフィリピンの基地の司令官だろうと勘違いをしていたのである。

 

 故に女だろうと軍人は追い出そうとしたのだ。

 

「艦娘達は渡してもらう。だが、あんたは……」

 

 出て行ってくれ、と言おうとして大淀がその女軍人の名前を呼んだ。

 

「沖田少佐!沖田少佐じゃありませんか!」

 

 と。

 

「え?あなた、大本営の秘書課の?!」

 

「はい、元大本営秘書課課長の大淀です!」

 

 大淀は、たたたっ!と駆け寄って沖田と呼ばれた女軍人とゲシュペンストの間を割って入り、沖田を背に庇うようにしてゲシュペンストに言った。

 

「だ、ダメですよ、ゲ、ゲシュペンストさん!彼女は悪い軍人じゃ、あ、ありません!彼女の名誉の為に言っておきますが、彼女は海軍の不正や腐敗と戦っている、海軍情報部のエースなんですからっ!!」

 

 大淀は震えながらも真っ直ぐゲシュペンストのアイカメラを見て言った。

 

 大淀を助けてから1日。彼女はゲシュペンストを恐れているようで、玄一郎は怖がられているならあまり彼女を刺激しないように、怖がらせないように距離をとろうとしていたが、そんな彼女がこのように勇気を出して、沖田少佐を背に守りつつ、足をガクガクと震えさせつつも、このように沖田少佐を弁護している。

 

 その様から、玄一郎も理解した。

 

 沖田少佐はおそらく大淀の言うような人物なのだろう、と。

 

 なおも大淀は言う。

 

「沖田少佐達の活躍で解放されたブラック鎮守府は今までに幾つもあるんです!そ、そ、それにっ、それにっ!」

 

 大淀は涙目になっていた。

 

 いかん、なんかいぢめているような気分になってどうもいたたまれない。昔、小学校時代に好きだったクラス委員の女の子に悪戯して怒られた記憶がオーバーラップしてしまう。

 

 「黒田くんが、○○ちゃんに悪戯して泣かせちゃいました!そういうのって良くないと思います!」などとクラス会で他の女子(さほど可愛くない)にチクられて晒し者にされて、しかも担任のオバハン教師にさらに叱られるというトラウマが記憶に蘇る。

 

 違うんだ、あれは、ちょっと驚かせて、あははははって、あははははって、笑って欲しかっただけなんだ、泣かせようなんて思って無かったんだ、本当だ!

 

 好きだった女の子には、当然嫌われてしまった少年時代の初恋の記憶。それがフラッシュバックする。

 

「あ、あ、あ、あ、ごめん!俺が悪かった!!いや、誤解!誤解してたんだよ、うん。だって階級が高かったから、フィリピン基地の司令官か何かだと思ってたんだ、だからね、涙拭いて泣くの止めてぇぇっ!!」

 

 うわーん!!

 

 少年時代のトラウマに、玄一郎は頭を抱えて泣きそうになった。涙を流せないロボだけど。マシンだけど。

 

「えーと、あの、何なのこの状況?」

 

 泣いて自分を庇う大淀に、悶えて謝るロボという謎な状況に、沖田少佐はもうわけがわからなかった。

 

 というか、遠巻きにして他の艦娘達が見ているのだが、誰か二人をどうにかしてほしい、と沖田少佐は思った。




 大淀さん、勇気を出すの巻。

 というか十年前はおどおどしていた大淀さんも、本編の時間軸ではあんな風になるわけですな。

 月日の経つのは恐ろしいですねぇ。 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑤

 カニの出汁はうまいよね。カニアレルギーの人は食えないけどさ。

 大淀さんとバナナとか言うと、なんかエロい気がするけどそんな話ではない。


 玄一郎は沖田少佐と和解し、そして大淀ともなんとか普通に話が出来るようになった。

 

 現在、無人島にいる艦娘は60人ほど。

 

 最初に高雄達を救助した時は、まさかここまで負傷した艦娘達が増えるとは思ってはいなかったが、こうなれば仕方がない。

 

 流石にこの人数である。ゲシュペンストの持っていた食料はすでに底をついており、動けるようにまで体力を取り戻した艦娘達は高雄をリーダーとして食糧確保作戦を実地したが、この無人島は元は人が住んでいた島だったようで、おそらく深海棲艦の襲来で廃棄された島だったのだろう。おそらく十年以上は放置されたバナナ農園や芋畑などが発見され、食糧の心配は無くなった。

 

 また、民家からは様々な物資も確保し、それらは有り難く活用させていただく事にした。

 

 まぁ、何にしてもサバイバルと言うには恵まれ過ぎな感もあるが、物資は豊富な方が良いというものだろう。

 

(……まぁ、いざとなれば俺が飛んで行って昔の伝手で食料とか確保するつもりだったんだが)

 

 と、玄一郎は思ったが、大量の食料などを確保して喜んでいる高雄達を前に水を注すような事は流石に言えない。

 

 まぁ、食糧問題は解決したが、それよりも問題なのは、やはり沖田少佐と沖田少佐がフィリピンから助け出した艤装を外された艦娘達の状態だ。

 

 艦娘達の負傷は酷かったが、しかしそれよりもその精神状態がずっと深刻だった。

 

 沖田少佐の話によれば、フィリピンの海上にある縞傘製薬の研究施設では非人道的な生体実験が行われており、彼女達はその実験材料として捕らえられていたのだという。艦娘達は艤装を外されると常人並みの身体能力しか発揮出来ず、また、海上の航行も不可能になる。故に叛乱と逃亡防止の為の処置として艤装を外されていたのだ。

 

「……艦娘達にとってはこれ以上に酷い仕打ちは無いわ。手足をもがれる以上に、艦としての存在意義や誇りまでも奪われたのと同じだから」

 

 沖田少佐は、悲しみよりも何よりも怒りに震えていたが、しかし力をぐっと入れたせいで痛めた肋骨を圧迫してしまったようで「ぐぎゃっ?!」などと奇妙な声を出してベッドの上でうずくまってしまった。

 

 沖田少佐も負傷しており、肋骨は数本折れ、それ以外にも打ち身や打撲は各所に多数、首のムチウチに背中に何かの刃物で斬られた傷など、満身創痍な状態なのであった。

 

「……おいおい、安静にしてろよ。つか人間は艦娘みたいに高速修復剤で治せねぇんだ」

 

 もはや包帯だらけの湿布まみれな沖田少佐に、玄一郎はココナッツの殻で作った器と箸を渡す。

 

「傷を治すには、栄養だ。ほれ、芋団子とカニのスープだ。おかわりもあるから、たんと食え」

 

 なお、スープを作ったのはゲシュペンスト(=玄一郎)である。なぜ玄一郎が料理までしているのかと言えば、艦娘達に任せると、カニの丸焼きや焼き芋しかでてこなかった。それどころか加熱しないと食えない原種のバナナを普通のバナナのように齧ろうとしたりしていたため、仕方なく玄一郎が作る事になったのである。

 

「うううっ、痛い……」

 

 沖田少佐は痛がりながらもお椀を受け取る。包帯まみれでかなり痛々しいが、こればかりは日にち薬であり、自然治癒で治してもらうしかない。

 

 ずずずずず、と汁をすすり、

 

「ああ、でも久しぶりのまともな食事……!美味しい!」

 

 と涙ぐんだ。いや、涙は単に肋骨が痛かったせいもあるかもしれないが。

 

 ハグハグガツガツ、と食事をかっこんですぐにおかわりを要求する辺り、沖田少佐は飢えていたのかもしれない。

 

「おかわり!」

 

 案外早く治るかも知れんなぁ、と玄一郎はお椀におかわりをよそい続けた。

 

「ホント、今まで食糧も現地調達だったから、もうね。蛇とかカエルとかとって丸焼きで食べてたから、ああっ、料理の尊さがわかるわぁ」

 

 沖田がしみじみとそんな事を言う。

 

 とはいえ。食糧採集班の中にはデカいニシキヘビをとって来た艦娘もいたりする。

 

 誰とは言わないが、多摩ですにゃー。

 

 まぁ、とってきたものは仕方ない。貴重な食糧として原型を留めないような形で料理しよう、と玄一郎は思った。

 

 差し出して来たお椀に芋とカニの身を一切れずつ入れてスープをよそう。

 

「つか、十五杯目だが、そんなに食って大丈夫か?」

 

「あー、居候三杯目はそっと出し、って?」

 

「いや、嫌みじゃねぇよ。艦娘達も食事量は多いからな。だが人間でそこまで食べるのは初めて見た」

 

「あー、私、元々大食いなのよ。諜報は体力勝負だからね」

 

「そういうものか?まぁ、食いたいだけ食うといい。誰も咎めないわな」

 

 しかし、余裕を持って多く作っていたはずだったスープはもう底を尽きそうである。いや、これは沖田少佐のせいではなく、艦娘達の食事量を舐めていたと言わざるを得ない。本当なら明日の朝食に、残ったスープを使って、何か別のものを作ろうと思っていたのが、計画が狂ってしまった。

 

 特に沖田少佐が救助した艦娘達はろくな食事をとらせてもらっていなかったらしく、飢えていたのだ。

 

「ふむ、ちょっと追加を作って来る。寸胴は置いていくから、他の子によそってもらってくれ」

 

「うぉぉ、追加だってぇ?よぉし食うぞぉ!!」

 

 飢えていなかったはずの木曾が何故か立ち上がって喜んでいたが、姉の大井にシバかれて黙らされた。

 

「おだまりなさい!まだ回復してない子もいるのよ!」

 

「まぁまぁ、大井さんも静かにねー?」

 

「……もっと食べられるのは嬉しいクマー」

 

「そうだにゃー」

 

 球磨と多摩はのほほん、と長女と次女なのにのんびりだった。

 

(……あの軽巡姉妹はなんというか個性の塊だよなぁ)

 

 と横目で、というかアイカメラで見つつ、玄一郎は厨房へと向かった。

 

 

 

「はぁ、あんなに有ったスープもあの人数ですとあっという間ですね。計算外です」

 

 ゲシュペンストの後から、大淀がついてきた。どうも大淀は他の艦娘達に比べると小食のようである。

 

 彼女は艦娘ではあるが任艦娘、という基地や鎮守府などで設備や資材などの管理、また、大本営などから来る命令や任務等を管轄する役割を担っている。

 

 彼女曰わく任艦娘は通常は戦場に出る事はないのだという。

 

「任艦娘が艤装を出す時は、大抵は派遣先に出向する時ぐらいですねー。もしくは、本当に非常時で、戦闘しなければならない状況に陥った時ぐらいです」

 

 任艦娘は言わば事務職であるので、体力はさほど無いらしい。

 

「しかし『大淀』と言ったら『礼号作戦』とか『連合艦隊最後の旗艦』とか記憶しているけどなぁ」

 

 玄一郎の記憶している軍艦の知識は玄一郎がいた世界とゲシュペンストの持つデータである。ゆえにこの世界ではやや食い違う事もあるかも知れない、と思うも、

 

「はい、もちろん『礼号組』の大淀もいますし、戦闘に出る大淀もいるのですが、私は大本営から各基地に派遣される任艦娘の大淀なのです」

 

 と大淀は肯定した。概ねこちらの世界でも同じだったようだ。

 

 ただ、どうやら艦娘になった大淀にも様々な大淀がいるようである。

 

「まぁ、艦娘にもいろいろあるんだな。っと、芋が足りないか。仕方ない。使って悪いが、そこの青いバナナを持って来てくれ。俺は寸胴に水を汲むから」

 

「はい、でもこのバナナは食べられないんじゃ?」

 

 人が居なくなったバナナ農園のバナナはすっかり先祖返りして原種のバナナになっていた。原種のバナナは時間が経っても熟することは無く、そのままでは食べることができない。

 

「いや、加熱調理すれば食えるようになるんだ。甘くは無いがウガンダとか、それを使った料理がある。マトケ、って名前だったっけか?つぶして団子にしたりするんだが、味はジャガイモみたいな感じだ」

 

 ゲシュペンストは大きな寸胴鍋に金属の浄水タンクから水を汲んだ。この浄水タンクはゲシュペンスト作であり、川から水を吸い上げるポンプと水を濾過する浄水層からなっており、水道のようにコックを捻ると普通に飲料水が出てくる優れものである。

 

「よっと」

 

 調理台の石竈に寸胴を乗せる。

 

 この石竈はこのログハウスの屋根に使った石の瓦の余りと、近くにあった粘土層の粘土で作ったものである。

 

 最初は一台だったのが、人数が増えたためにもう一つ、もう一つと増やして現在は四台になっていた。

 

「バナナは蒸し器のが早いか」

 

 金属の蒸し器を出してタンクに水を入れて竈に乗せ、その上にバナナと芋を入れた蒸籠を重ねて置いていく。

 

「後はカニだが……。いや、このヤシガニも新鮮なうちに食わんともったいないしな」

 

 そういうと玄一郎はヤシガニを取り出し、キッチンの包丁ラックから三徳包丁を抜いて、高速でスパパパパパパパ、と器用に殻を剥いていく。ヤシガニを取り出し、スパパパパパ、ヤシガニを取り出し、スパパパパパ。

 

 見る見るうちにヤシガニは解体されていき、下に置いたザルに溜まっていく。

 

「あはは……なんだかすごいですね」

 

「この身体になってからは、いろいろな作業のスピードが上がった。しかしインドネシアとかタイとかにも見えないぐらい仕込みが速い人がいたぞ?」

 

「いえ、それだけじゃなくて、この厨房もゲシュペンストさんが作ったんですよね?調理器具も、その蒸籠も」

 

「夜、暇だから作ってみた。どうせ作るなら機能的で凝った方が良いだろ?それに昔から料理が好きでな、作るのも食うのも好きだった」

 

 機械の身体は睡眠も不要であり、夜の長い時間を持て余す。ゆえに暇なのでせっせかせっせかと厨房や調度品などを作ったりしていたのである。眠っている艦娘達に気付かれないようにほぼ無音で。

 

「はぁ、食べることも、ですか?」

 

「ああ、好きだったよ。お金を貯めて旅行して行く先々でいろんなものを食べたよ。日本だけじゃなくアジアやアメリカ、南米、アフリカも行ったな。んで、真似して自分でも作ったりしてな」

 

「今は……食事はとれるんですか?」

 

「いや……ロボットの身体だからな。口も無ければ胃袋も無い。味を感じる舌も無い。食べ物の栄養成分はわかるけど味覚がわからん。とはいえ作るのは楽しいし、みんなが喜んでくれればいいさ。ま、大淀さん、味見は頼んだぜ?」

 

「……何故、あなたはロボットになったのですか?」

 

「そればかりは俺にもわからん。どうも死んだ時の記憶はあるんだが、何故、ロボットになったのかは謎だな」

 

「死んだって……。深海棲艦に襲われて、ですか?」

 

「いいや。なんて説明したらいいのか。俺のいた世界はこの世界じゃないんだ。深海棲艦も艦娘もいなかった。もちろん、ゲシュペンストタイプSなんてロボット……いや、パーソナルトルーパーもな」

 

「深海棲艦も艦娘もいない世界、ですか」

 

「ああ、そうさ。日本は世界一平和で、戦争なんて有り得ないなんて思ってたよ。すぐ近くに核ミサイルを打つような狂った国がすぐ近くにあったってのにな。俺は、いや、街にいた人達もみんな、核ミサイルで死んだ。死んだ俺にはどれだけの被害が出たのかさえわからないが……。覚えているのは、真っ白な光の闇と痛みすらない自分の消滅だった」

 

「核ミサイル?!……そんな事があなたの身に起こったのですか?!」

 

「目が覚めたら、俺の身体はこの機械の身体になってた……っと、湯が沸いたな。昆布を入れて出汁とってってっと。……そういうわけだ」

 

 玄一郎は鍋にデカい昆布を入れた。ようは水炊き鍋などの敷き昆布、というやつだ。

 

「バナナは……もうちょいか。ヤシガニの身を水で洗って、と。ちなみにザリガニとかと同じでヤシガニもよく加熱しないと病原性の寄生虫がいる場合があるから注意が必要だぞ?っと」

 

「……あの、そういえばまだ、助けていただいたお礼、私、言ってません」

 

「あん?そだっけ?いや、良いよ。礼が欲しくて助けたんじゃないし、助かってくれてこっちがありがとう、だ」

 

「いえ、私、助けていただくのは、今回で二度目なんですよ。最初は、あなたは知らないかもしれませんけど……」

 

「ふむ?……いや、データファイルで君の顔を検索しても、出てこないぞ?悪いけど、覚えてない」

 

「ええ、覚えてらっしゃらない、というか知らないはずです。私は五年前に小島基地の任艦娘だったんですが、ゲシュペンストさんが来たときには他の艦娘達と中島基地に退避してましたから」

 

 そう、大淀は五年前に小島基地に任艦娘として派遣されていたのである。

 

「あの基地にいた艦娘の一人として、お礼申し上げます。あの基地の白鳥が居なくなったおかげで、多くの艦娘が救われたのです。それにあの事件のおかげで白鳥の一族を法的に裁く突破口が出来、さらに他の基地で非道な目にあっていた艦娘達も解放する事ができました。本当にありがとうございます」

 

「いや、それだと俺は何もしてないようなもんだよな、それ。つか、言っておくが白鳥って提督は俺が島に上陸したときにはもう殺された後だったからな?俺が犯人じゃないからな?」

 

 玄一郎は自分が犯人にされてるんじゃないかと思って慌てて訂正する。というか、殺人犯かも知れない相手にお礼を言うってなんか変だろ?!とも思うが、あそこの提督はそれだけ恨まれてたんだろうなぁ、とも考え、大淀の清楚で知的な笑顔に何か闇のような物も感じて少し怖くなった。

 

「ええ、それは土方中佐の報告書で私も知っています。ですが、あれほどの大事件だったのですよ?たとえ白鳥の一族がどれだけの権力や財力を持っていたとしても隠せるものではなく、そして、海軍当局としても徹底的に調査せざるを得ませんでした。無論、日本政府も無視出来ません。結果として『私の敵』の残党の一部を討ち取り、艦娘達は救われたのです」

 

「『私の敵』?それはどういう事だ?」

 

「少し、長くなりますが……私の話、聞いていただけますか?」

 

「ああ、料理しながらになるが……」

 

 正直聞きたくないなぁ、嫌な予感がするなぁ、多分いろいろ厄介な問題に首突っ込む羽目になるだろうなぁ、と思うももはや大淀は話す気になっている。

  

 こうなるともう仕方がない。毒食らわば皿まで、である。

 

 大淀は自分の過去を玄一郎に話し始めた。その内容は、以下の通りとなる。

  

 この大淀は左派政権が日本を牛耳っていた際に、政府の内部から日本奪還をしようとしていた中立派の若手議員、中倉平八郎の元に左派の議員から賄賂として贈られた艦娘であった。

 

 元々、大淀は『女衒鎮守府』と呼ばれた舞鶴鎮守府で作られた、謂わば売春婦にされた艦娘だったのである。

 

 中倉は最初、贈られてきた大淀を突き返すつもりであった。だが、そうやって送り返された艦娘達がどうなったのかを知って、返すに返せなくなってしまったのである。

 

 当時は、国民達から取り上げ、奪った資源を湯水の如く浪費して左派政権の政治家達は艦娘を量産していた。苦しむ国民の声など彼らは全く考えなかった。

 

 国民の命も考えぬような者達である。量産された艦娘達の命など、考えるはずもない。

 

 返したならば、大淀は廃棄されるか売春宿に売り飛ばされると知った彼は悩んだが、大淀をそのまま自分の側に置くことにした。

 

 最初は屋敷の家政婦に仕事を教えさせて家事や炊事をさせていたのだが、その上達はかなり早く、どの作業も完璧にこなした事で、中倉は大淀の資質や才能に驚き、そして様々な事を教えて見ることにした。

 

 すると大淀は様々な知識を真綿が水を吸うかのように吸収し、特に中倉が専門とする政治経済学や法務学などをとんでもない速度で学習していったのである。

 

 その結果、大淀は生半な経済学者、政治家など太刀打ち出来ないほどの知識と才覚を持つに到った。

 

 もはや、そうなると家事などやらせておくには惜しいと中倉は彼女を自分の秘書として側に置くことにした辺り、この中倉平八郎という政治家としての器がわかろうというものである。

 

 中倉平八郎はやがて、海軍の菅原道夫大将と交友を持つようになる。目的が同じだった事もあるが、なによりお互いに気の合うところが多く、二人して居酒屋鳳翔で酒を飲んで騒いでいる所を良く見られるほどになっていた。

 

 そう、居酒屋鳳翔で、である。

 

 当時の居酒屋鳳翔は保守派海軍軍人の集う場所であり、中倉平八郎と菅原道夫はここで『日本奪還計画』の綿密な話し合いをしていたのである。

 

 海軍内部からは菅原道夫大将が。左派政権の内部では中倉平八郎が、共に歩む歩調を合わせて進み、その時までに淡々と誰にも知られぬように計画を進めていったのである。

 

 だが、日本奪還計画が発動する、数ヶ月前。

 

 中倉平八郎は、何者かの手によって暗殺されてしまった。中倉が乗る車に爆発物が仕掛けられていたのだ。

 

 中倉の死後、大淀は中倉の意志を継いだ。中倉が政権内部に作り上げた『日本奪還』のためのコネクションを彼女が纏め上げたのである。彼女の働きが無ければ、おそらくは日本奪還は数年遅れたと当時を知る者達は言う。

 

 そうして、中倉平八郎の悲願であった日本奪還は、菅原道夫と大淀の働きで、成ったのであった。

 

 だが、しかし。

 

「みんな、当時、必死だったのです。中倉も菅原道夫大将も、そして艦娘達も、国民の為に血を吐くような思いをして、立ち上がって。しかし……」

 

 大淀は続けた。

 

「白鳥のような外道、いいえ。まだまだ海軍にも日本の中枢にも、外道は巣くっているのです」

 

「……そう、か。そういう連中が大淀さんの敵ってわけか。しかし、そうすると沖田少佐とは?」

 

「いいえ、今回海軍情報部が動いているとは知りませんでした。その、任艦娘は確かに海軍大本営の所属なのですが、海軍の直轄の組織ではなくどちらかと言えば国家防衛局の管轄なので……」

 

「つまり、情報の共有はされて無かった、と?」

 

「お恥ずかしながら、そうなります」

 

「……まぁ、お互いに知られちゃいけない事もあったりするんだろうなぁ。国とか軍とかの事は俺にはわからんけどな。で、大淀さんや沖田少佐が出張ってきたって事は、あの深海棲艦の群れは、フィリピンの研究施設とやらが原因ってか?」

 

「はい。あの研究所は確かに日本海軍の施設ではありますが、実質、軍需産業の複合体『縞傘財閥』の一部、縞傘製薬のプラントなのです」

 

 大淀は、胸ポケットから何やら白い紙を取り出すとそれを玄一郎に見せた。

 

 『極秘資料』と書かれてあり、玄一郎は顔を手で覆いたくなった。

 

「待ってくれ。んなもん俺に見せてどうする気だ?つか巻き込むつもり満々じゃねぇか、それ」

 

「今更、ここまで頭を突っ込んで何を今更。扶桑さん達のために小島基地は壊滅出来ても、私の為にはしてくれないのですか?」

 

 大淀はくすくす笑いながらずいっと極秘資料を突きつける。

 

「……なんか性格変わってないか?あんた。つか、扶桑さん達の事、知ってんのかよ」

 

「ええ。知ってますよ?『アンノウン第一号』とファーストコンタクトをとった艦娘達ですし、彼女達があなたについて全く何も話さなくても、この大淀にはまるっと全部わかるのですよ?」

 

 まぁ、あなたの行動はわかりやすいですから、と大淀は笑顔のままに、自分のメガネをくいっと上げながら言った。

 

 バナナの蒸しあがる蒸気のしゅんしゅんと上がる音が、玄一郎にはシュールに感じた。

 

 




 大淀さんは、詰め将棋の如く自分の話を持ち出してゲシュペンスト(=玄一郎)を逃げられないように、巻き込んだ訳ですが。

 さすがエロメガネ、やることが汚い!

 次回、メガネはエロスのかほり(嘘)でまたあおう!


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑥


 大淀さんのバニーガールが見たい。

 いらないところでフラグを立てる主人公。生命的危険地帯へようこそ。

 謎の敵性艦娘の話が、フルーツ盛りでそっちのけ。

 なお、この世界のこの時代では深海大戦の影響で海路が寸断され、南国フルーツは手には入りにくく非常に高価だった、という設定です。


 数ある任艦娘の中でも『大淀』は、非常に特殊な立ち位置にある艦娘であると言える。

 

 彼女達の役職は主に、大本営と各海軍施設の『提督』と呼ばれる司令官達の仲介役的な公的な秘書官ではあるが、しかしながら『大淀』は大本営直轄の艦娘ではない。

 

 彼女達『大淀』はそもそもからして政府直轄の組織であり、菅原道夫大将の『日本奪還』より後に政府により発足された『内閣軍視機構』から派遣されている。

 

 『内閣軍視機構』とは、ぶっちゃけて言えば海軍がクーデターとか起こしたり暴走したりしないように政府が監視する為に作り上げた監視機構である。

 

 故に任艦娘である『大淀』には、過剰なほどの権限が与えられている。

 

 ①海軍施設での無条件の捜査、査察権限。

 

 これは如何なる海軍施設においても適用され、大淀が必要であると判断した時より発動される。

 

 また、その際に『大淀』は陸軍憲兵隊に対する出動要請をする事が出来る。

 

 ②特定条件下での『提督』もしくは『司令官』の指揮権の剥奪、及び解任。

 

 これは①によって『提督』『司令官』が有罪であると大淀が判断した場合『大淀』はこれの指揮権剥奪と解任をする事が出来る。

 

 ③非常事態の際、『提督』及び『司令官』が不在の際にその代理としての臨時指揮権。

 

 ④『提督』及び『司令官』に対する査定。

 

 これは給与やボーナスの査定や、功績等による昇級などの査定を行う。

 

 などなど、ある種『大淀』は海軍提督以上の権限を持たされているのである。

 

 とはいえ。

 

 それだけの権限を持つ『大淀』ではあるが、それだけに世の提督達から疎まれる事が多い。

 

 いや、疎まれるだけならまだいい。

 

 フィリピン泊地に派遣された『大淀』達は、今回の事件が起こる数日前、何者かの手によって全員殺害されていた。

 

 そして、このゲシュペンストが作った拠点に現在救助され逗留している大淀が二つの艦隊を率いて調査の為にやってきたわけであるが、調査団の潜入部隊は海上研究施設に突入し壊滅。大淀の後衛艦隊も、三式弾、つまりは戦艦クラスの艦娘による砲撃で壊滅しかけた、というわけである。

 

「……あー、なんとも危険な仕事なんだな、任艦娘?ってのは」

 

 と、玄一郎は大淀に同情的に言いつつ、黙々とココナッツをコールドメタルナイフで割りつつ、中の果汁を鍋の中に溜める。

 

 明日の朝食の仕込み、である。

 

 時刻はもう零時を過ぎ、他の艦娘達が寝静まった頃。玄一郎は艦娘達に追加の食事を与えた後、厨房に二人を呼んで、とりあえず三人で情報交換をしようと持ちかけた。

 

 もうとっくに巻き込まれているのは仕方ないとして玄一郎はもう諦めて最後まで付き合う気になっている。

 

 玄一郎は仕込みしながら二人の話を聞いているが、どうも今回の事態を引き起こしたのは、日本海軍と縞傘製薬とかいう軍需産業系の企業らしい。

 

(……そういや、上空から見たあの研究所のマークって、なんかバイオでハザードな会社のと似てたような)

 

 ものすごく嫌な予感がして、玄一郎は機械の身体故に吐けない溜め息を吐いた。

 

 それでも腕、というかマニュピレーターはちゃっちゃか動く。

 

 ココナッツミルクを小鍋に注ぎ、細切れにしたパイナップルを入れて、軽くレモンを右手で絞ってその果汁を加えて、燠火になって小火になった竈の上に乗せる。

 

 火にかけられたココナッツミルクのなんとも甘い香りが厨房に漂う。

 

 大淀と沖田少佐が、あらっ、とその香りを嗅いで少し目をうっとり、と細める。ココナッツミルクの香りはアロマテラピーではリラックス系の香りとして使われる事もあり、やはり精神的に疲れていたのだろう二人に効果がある……のか?これ。

 

 なんか、沖田少佐がじゅるっ、とよだれを啜ってんだけど。

 

 それを玄一郎は横目というか、側面のカメラアイで見つつ、

 

「レジデント・イヴィル的なグロい敵が出てきたらイヤダナー」

 

 などと呟くも、なんとかせねばこの無人島の艦娘達を彼女達の基地や鎮守府に帰してやることも出来ないし、また、このままずっとこの無人島で生活させるわけにもいかんしなー。などと思っていた。

 

 無人島の食糧は思いの外豊富ではあるが、それも無限にとれるわけでもないからだ。

 

 故に、フィリピン周辺海域に展開している深海棲艦をなんとかせねばならないし、壊滅したとはいえフィリピン泊地を解放せねばならないわけなのだが、どうも今回の事態は訳が分からない事が多すぎる。

 

 非常に不明な点が多すぎるからだ。

 

 また、『内閣軍視機関』というのと『海軍情報部』の二つの機関が同時に同じ案件で動いているのに、どちらも協力せずに別々で動いているというのも非効率的だと思ったのもある。

 

(……なんとなく、俺達がどうせ動かにゃならんのだろうけどな)

 

 話を持ちかけると、二人は特に拒否するような素振りも無く、素直に同意した。

 

  大淀が先ほどの玄一郎の「任艦娘は危険な仕事なんだな」的な言葉に

 

「いえ、ホワイトな提督さん達の所ですと、普通に大本営からの依頼任務や作戦のサポート、資材管理に、職員のお給料の算定とか、事務的なお仕事が主なんですけどね……」

 

 と、大淀は苦笑して答えたが、その後でボソッと

 

「全ての海軍施設がホワイトなら良いのに」

 

 その顔は非常に何というか、苦労が滲み出ており、目も天井を向いているのに遠い目をしていた。

 

「そうねぇ。腐敗を暴いても暴いても、無くならないのよね、ブラックな連中って」

 

 沖田少佐もそう言いつつ遠い目をして天井を見る。

 

 天井には、バッテリー式のライトに群がる小型の蝶がハタハタ、と飛んでいる。

 

「……苦労してんだな、二人とも」

 

 かける言葉も思いつかず、玄一郎は月並みな言葉で誤魔化す。

 

 その間も玄一郎は甘いバナナと、マンゴー、パイナップルを器に飾り立て、二つフルーツの小鉢盛りを作成。そしてその器を二人の前にそれぞれ置いて、火にかけてた小鍋のココナッツミルクを注いだ。

 

「ほい、フルーツのココナッツミルクかけ。明日の朝食に出すつもりなんだが、先に味見を頼む」

 

「……えっと、良いのでしょうか?」

 

「美味しそうですけど……?」

 

 二人はまさか試食させてくれるとは思ってなかったようだが、

 

「試食して感想を聞かせてくれたらありがたい。ココナッツミルクの甘味と酸味のバランスがいまいちつかめない。糖度や酸性値は分析出来るが、味がわからないんだ」

 

「……味覚が無いんだったわね。これだけの物が作れるのに」

 

 沖田少佐はそう言いつつ木のスプーン(玄一郎作)でフルーツを口に運ぶ。

 

「あ、美味し。パイナップルの酸味とココナッツミルクがちょうど良いわね、これ」

 

「本当に美味しいですね。はぁ、高級フルーツをこんなに贅沢に……。良いんでしょうかこんなの食べて」

 

 大淀も一口食べて頬を押さえて、ん~っ、と唸る。

 

「高級官僚もこんなのなかなか食べられないわよ。バナナなんて台湾のがようやく流通し始めたけど高くて食べられないし。沖縄のパイナップルもマンゴーもべらぼうな値段してるからねぇ。ああ、贅沢のキワミ!」

 

 沖田少佐も目を閉じつつ、はぁーっ、と息を吐きもう一口頬張る。

 

 深海大戦が始まってすでに20年。海路は深海棲艦によって分断され、当然輸入物資はなかなか入って来ないようになっていた。

 

 様々な海域は解放されつつあるが輸入品としては主となる穀物が優先され、フルーツなどはめったに入らない。

 

 故にバナナ一本の値段は4000円ほどに高く、パイナップルも日本の沖縄産があるもののその畑も今では田んぼや他の食物の畑となり、その希少性が高まってやはり高くなっていた。他の南国フルーツなども推して知るべし、玄一郎が作ったフルーツのココナッツミルクかけの値段を原価で考えると、もはや一杯数万円、もしも店で食べるならば十万円ほどは取られるだろう代物であった。

 

「ふむ、味は問題無いみたいだな。甘味が足りないならマンゴーかパイナップルを煮てシロップを作らないといけないかなと思ってたんだが。このバランスで記憶しておこう」

 

 玄一郎はフルーツ盛りのココナッツミルクかけのだいたいの成分の分析結果をメモリーに保存した。

 

「でも、フルーツに暖かいソースを掛けるって今まで無い発想よね!こう、ココナッツミルクとパイナップルの果肉の酸味がマッチして……」

 

「そうですねぇ、それにこの香りが……。とっても良いです」

 

「昔、アルバイトしてた時にパフェでこういうのがあったんだ」

 

 温かいソースと冷たいフルーツやアイスの組み合わせは実は甘味の世界でも料理の世界でも割と使われている技法ではあるが、長らく食糧難の時代が続くこの世界ではそれも廃れたもののようだった。

 

 二人はもう、一口、一口、ゆっくりと味わうように、しかしもう夢中になって食べていて、もう話どころでは無いようになってしまっている。

 

 昔、どっかの城で会議中に梅干し出したら会議が進まなくなったって話があったっけか。

 

 もうこうなれば仕方ないだろう。彼女達が食い終わるまで待つしかない。

 

「……仕方ない、話はそれを食い終わってからだな」

 

 そう言いつつ、玄一郎もまた明日の朝食の仕込み作業に入るのだった。

 

 そして、情報交換が終わったのは翌日の6時だった、という。

 

 朝の食事のメニューは、何品か増えていたのは良かったのか悪かったのか、誰にもわからない。

 

  





 フルーツ盛りのホットココナッツミルクソースは非常に美味しい。

 だが、情報交換は進まないぞ!

 次回、大淀さんは(ryまたあおう!


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑦

 大淀さんバラストタンク漏れ。

 パラオ泊地に来ることになる龍田さんと那智が敵方で登場。

 なお、艦これ世界ではカラー液晶パネルもありません。テレビは昔はあったけどブラウン管方式で、さらに現在はテレビ局などはほぼ壊滅したままで、ラジオが主流、という設定です。


 情報交換なのか、試食会なのかわからんような状況に一時はなったが、それも終わり。

 

 玄一郎はあらかじめフィリピン泊地のあちこちにバラまいた偵察用のステルスドローンの映像を二人に見せるために液晶モニターを出したが、二人はそれが何なのかわからなかったようで、

 

「何ですか?このプラスチックの板?」

 

「まな板とまな板立てかしら?」

 

 などとキョトンとしている。

 

「いや……モニターだ。今、フィリピンに飛ばしたドローン、偵察機の映像を転送している」

 

 スイッチを入れて映し出された映像はリアルタイムの夜のフィリピン泊地のそれぞれの施設であり、その映像をゲシュペンストが明るさを補正し調整して見やすいようにリアルタイムで編集している。

 

「これって、テレビ?!ブラウン管じゃない!それに動いて……ええっ?!」

 

「ええ、それにこんなに鮮明に!!」

 

 彼女達が驚くのは仕方が無い。長く続く深海大戦によって資源のほとんどを輸入に頼っていた日本は、海路を分断されたために様々な産業技術も衰退させ、さらには日本暗黒時代とも言われる左派政権の横行により、技術の発展はさらに遅れていたのである。

 

 液晶モニターなどこの世界ではまだ発明もされていないし、テレビもその存在は知られていても、テレビ局はもはや無く、避難警報を受信するためのラジオは普及して、それもようやく娯楽番組を放送するようになった、というレベルなのである。

 

 むろんコンピューターはある。だが、それも深海大戦が起こる前に作られたものをなんとか修理したり、部品をかき集めて制作したりしている物が大半であり、それらも軍や政府機関の一部で使われているのみである。

 

(ブラウン管なんて久々に聞いたぞ、そんな言葉)

 

 などと玄一郎は思ったが、戦争の無かった玄一郎の世界の技術と深海大戦によって技術の発展が遅れているこの世界の技術の差は仕方がないと思い直した。

 

「通信用携帯液晶モニターだ。タブレット端末とも言うが、ゲシュペンストが作られた世界のものだ。偵察機のカメラの映像を表示している。まず、画像を四分割にして、左上を第一基地、左下を第二基地、右上を第三基地、そして海上施設が右下だ」

 

 モニターを分割させ、それぞれに文字で第一第二、とわかりやすいように表示させて、それらの外周にドローンを進めて行く。

 

〔それぞれの基地の外周には、外部から攻撃を受けた形跡は無い。つまり、深海棲艦からの攻撃でそれぞれの基地が壊滅したわけでは無い〕

 

「わっ?!映像から声がでた?!」

 

 映像の解析をゲシュペンストに頼んで液晶モニターのスピーカーを使って言ってもらっているのだが、その声に沖田少佐も大淀もやはりというかなんというか、かなり驚いている。

 

「こんな薄いもののどこにスピーカーが?!あと、なにこの渋い声?!誰?!」

 

「画面自体が振動するスピーカーになってんだよ。声の主はゲシュペンストのAIの音声だ」

 

「AI……つまり、人工知能、ですか?」

 

「そういうもんだ。まぁ、俺の相棒なんだが、普段こういう風に声を外部に出して人に話しかける事は無いんだが俺が又聞きにしてもう一度話すってのも面倒だからな」

 

〔……本来、話す事は控えたいが仕方ない。各基地施設内部にドローンを進ませるぞ」

 

 ドローンのマニュピレーターが、第一基地のドアに伸ばし、そのドアを開ける所が映し出された。

 

「あの、偵察機なのよね?なんで腕みたいなのがあるの?」

 

 おそらく偵察機と聞いて沖田少佐の頭の中に浮かんでいたのは、艦娘の空母が飛ばす戦闘機だったのだろう。

 

 だが、ゲシュペンストの持つステルスドローンは、スラッシュリッパーの刃を取り除いたような形をしており、下部に折りたたみのアームがついている。

 

「作業用マニュピレーターアームが付いてるからな。場合によっては銃を持たせて射撃させることも出来るぞ?」

 

 なお、ステルスドローンは例によって例の如く、ズフィルードクリスタルで作られたものである。

 

〔第一基地には熱源反応無し。生体反応無し。動体反応無し。ふむ、腐敗ガスがあの部屋から出ている〕

 

「……そこは、提督の執務室ね。腐敗ガス?」

 

〔ドアを開ける。……あまり良いものでは無いだろう。ガスの発生源は、死体からだ〕

 

 ドアが開き、執務室のデスクに座っている、海軍の制服を着た死体が真正面に映った、と同時にモザイクがかかる。

 

「……サービスってわけか?」

 

〔ご婦人に見せるのは憚られる。我々は解析結果が得られれば良いからな〕

 

(変な所で紳士的なんだが……)

 

 玄一郎の視点では、きっちりと死体の映像が総天然色など真っ青なほどモザイク無しで鮮明に映っている。死体に集っているハエや蛆虫などもくっきりはっきりとして、かなりエグい。

 

(嫌がらせかっ?!嫌がらせなんだな?!これはっ!!)

 

 おそらく、無理矢理に喋らせていることに対する仕返しであろう。たまにゲシュペンストはこういう事をする。

 

〔……第一基地の提督の死因は何らかの刃物による斬殺。死体の腐敗状況から死後一週間といったところだろう〕

 

「……そこまでわかるの?というか、ちょっとこのモザイク消して。斬られたあとをみたいのよ」

 

〔あまり良いものでは無いぞ?〕

 

「見慣れてるわよ。死体なんてね」

 

 ゲシュペンストはモニターのモザイクを取り払い、実際の映像を映した。そこには真っ向からの袈裟切りにされた死体が映る。

 

「……左肩から胴体まで切り抜いている。辺りに飛び散っている血の跡から、これは心臓まで一気に振り抜けるほどの力と速度と、そして尋常じゃない切れ味と耐久性を持った得物でなければ無理ね」

 

〔その通りだ。ただの鋼の刃物では無理だ。いかに力が有っても折れる。しかし、この世界にこのような芸当の出来る刃物はあるのか?』

 

「……艦娘の中には、刀や槍、薙刀を持った者もいるわ。例えば木曾なんかサーベル型の艤装をもっているし……えっと、床の画像出せる?」

 

〔ああ。これで良いか?〕

 

「ええ。ここまでの血飛沫だもの。殺害した奴にも返り血がかかっているはず。そして、床のここからは血飛沫は伸びていない。長柄の武器、そして振り抜けるものと言えば長い柄の『薙刀』ね。そしてこれまでの技、いえ業を持っている艦娘は、私の知る限りただ一人よ」

 

「知っているのか?」

 

「ええ。五年前に白鳥財閥と白鳥中佐について調査している最中に、危うく私もこうなるところだったのよ。第13特務艦隊に所属していた天龍型二番艦。『血濡れの薙刀姫』と呼ばれ恐れられる、龍田よ」

 

〔その『血濡れの薙刀姫』とはこれのことだろうか?研究施設の廊下を今、歩いているのを確認した〕

 

 モニターの四分割している画面を通常の画面に切り替え、研究施設の映像を大きく映す。

 

 そこには紫がかった髪を長目のショートボブにした、薙刀を手にもつ艦娘が映っていた。

 

 カツーン、カツーン、カツーン、とドローンが拾うパンプスの音が響く。

 

 その艦娘は、もう一人、重巡と思われる長い黒髪をサイドテールにした艦娘とそしてもう一人、肩に鉄製の袖鎧のような物をつけた桃色の髪の艦娘と話をしている。

 

《……あなた達に言われた事は、やったわ。提督を解放して……》

 

 袖鎧の艦娘は、龍田に必死の形相で詰め寄ろうとし、サイドテールの重巡の艦娘に髪の毛を掴まれ、そのまま床にたたきつけられた。

 

《……あらあら、那智。この明石はちゃんと仕事をしてくれたわぁ。そんな乱暴しなくても良いじゃなぁい?》

 

 なにか間延びしたような、優しげな声で龍田は言った。だが那智と呼ばれた艦娘は、

 

《……ふん、あのままつかみかかろうとコイツがしたなら、お前、斬っていただろう?》

 

 と、苛立たしそうな素振りで龍田をにらむ。

 

《あはっ、ずいぶん優しいのね、那智。あなたらしく無い》

 

《私まで血に塗れるのは嫌だっただけだ。入渠施設まで行くのに何分かかると思っている?最上階だぞ?》

 

《そういえば、そうねぇ。まぁ、いいわ。私はあの狂った所長さんの所へ行くけど、あなたはどうするのかしらぁ?》

 

《……ふん、コイツを独房に連れて行く。まださせることがあるのだろう?》

 

《そうねぇ。所長さんのやることには興味無いけど、もしかしたらあるかもねぇ?でしょお?》

 

 龍田が、不可視になっているはずのドローンのカメラの方を向いて、にぃぃぃっと笑った。

 

 それはなんともすざまじいほどの狂気を孕んだ、いや、もはや殺気としか言いようのない笑みだった。

 

《おいたが過ぎる子は、まだまだ居そうだしねぇ?》

 

 その視線は確実にドローンのカメラを捉えているとしか思えないほどに正確にこっちを見ている。

 

 モニターを見ている大淀が「ひぃぃぃっ?!」と悲鳴を上げるほどにその顔は恐ろしかった。モニターの映像がくっきりはっきり、龍田の姿を映し出していたので余計に怖い。下手なホラー映画など目じゃないほどに。

 

 だが、そのまま龍田はくるりとドローンのカメラに背を向け、モンローウォークで廊下を進んで行った。

 

「……すげぇな、あの女。不可視モードのステルスドローンに気づきやがった」

 

〔おい、玄一郎。大淀が気絶したぞ。しかも……〕

 

「ん?ありゃっ?!」

 

 ジョボジョボジョボ………。

 

 大淀は、龍田の眼光をモロに見てしまい、気絶しつつ失禁していた。

 

「うわっ?!こりゃいかん?!」

 

 致し方なく、ドローンによる偵察は一旦中止となった。

 

 沖田少佐は大淀を風呂に。玄一郎は厨房の床掃除に。

 

 再び作戦会議が行われたのは、その一時間後となった。

 

 




 厨房で失……いえ、バラスト水漏れって、それはちょっとかなり困るどころの騒ぎではありません。

 この過去話での龍田は、パラオ泊地でゲシュペンストに救われる前の、狂気に侵されていた頃の龍田です。

 近接戦ではおそらくは最強に近いと思われる艦娘の一人です。

 さて、そんな怖いおねーさん相手に玄一郎はどうたたかうのでしょうか?

 あと、さらっと那智さんも出てきたよ?



 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑧


 さて、近藤さん達が艦娘達の艦隊を率いて無人島に向かってるよ?という話。

 なんか、扶桑姉妹が出てこないよ?不幸だね?

 大淀さんの過去話だったはずなのに、いろんな子達の過去も絡んで来るよ?

 ひぇぇぇぇぇ。
 


 叢雲が松平朋也准将に集めさせた艦娘達は大本営の所有する特殊揚陸艦『あぎょう丸』に乗り組んで航行していた。

 

 特殊揚陸艦は日本海軍がまだ自衛隊だった頃のヘリ搭載型の揚陸艦として建造されたものを改修改装をした、艦娘キャリアー艦の先駆けともいうべき揚陸艦である。

 

 艦娘キャリアー艦は、長距離大規模作戦における艦娘運搬を目的とした『多目的海上基地艦構想』を元に改装された。

 

 まず、艦娘達の航続距離やその速度は各艦で違うのもあるがそれは如何に訓練・教練・演習をしても足並みが揃うものではなく、足並みを揃える為には早い艦娘が遅い艦娘に合わせる他無いのである。

 また、長距離航行の場合、燃料消費もそうだが、艦娘達の体力や精神的な疲弊は必ず出るのである。

 

 それらの艦娘達の負担を軽減させる他、この艦娘キャリアー艦は、現地海域での司令艦としての役割も持ち、司令官が乗員する事で直接作戦司令を行うことも可能となっている。

 

 さらにはこの艦娘キャリアー艦には入渠施設等もあり、提督の技量や裁量によっては海上鎮守府とも言うべき艦に化けるほどの性能と能力を持たせる事も出来るのである(例えば、間宮・伊良湖に乗艦してもらえば綺羅星つけまくり、など)。

 

 ただ、この『あぎょう丸』クラスの艦娘キャリアー艦の難点を上げるとすれば。

 

 昔の艦船の改造なのでそれ自体の費用はさほどかかってはいないが燃費と維持費が非常にかかる。

 

 また、深海棲艦に対する攻撃能力は皆無に等しく防御力に至ってはいかに装甲をつけたところで紙同然という事だろうか。

 

 そう、深海棲艦の攻撃を食らえばたたの艦船なとでおそらく一撃で沈する可能性が非常に大なのだ。

 

 つまり、深海棲艦の攻撃を食らえば運んでいる艦娘達はともかく、人間の乗組員や提督の命の保証は全く無い。

 

「……こりゃまた高けぇ棺桶用意したもんだなぁ」

 

 近藤大佐(後の大将)はあぎょう丸の甲板の上で昇る朝日に照らされつつ、独り言ちる。はっきり言ってこの近藤勲、生まれは山、育ちも山、海など見えない所で育った山男、海は苦手であった。

 

 その横には大和が苦笑しつつ付き添っているが、おそらく彼女はこの揚陸艦が深海棲艦に襲撃される可能性を考えていざという時の為についているのだろう。

 

「深海棲艦の気配は無いから大丈夫でしょ。それにウチの加賀が哨戒機飛ばしてるし、万が一来てもなんとかなるんじゃない?」

 

 土方が気楽そうにそう言う。この土方は元々大きな神社の娘であるからなのか霊感が非常に強く、深海棲艦の気配も感じられるほどの能力を持っている。

 

 その彼女が言うならば、艦の周辺には深海棲艦は居ないのだろう、と近藤は少し安心する。

 

 土方は小島基地提督に就任していた。

 

 提督不在どころか壊滅した小島基地に、まるで、というよりは嫌がらせそのもので大本営の旧・左派陣営や白鳥財閥から賄賂などを受け取っていた日本海軍の大将達によって追いやられたのである。

 

 無論、一から基地を作らねばならない島に、艦娘達数人をつけて、である。

 

 それはあまりに酷い仕返しとも言えた。

 

 幸い、艦娘宿舎や入渠設備等の損害はあまり無く、松平准将や近藤大佐、そして中島基地の老提督の支援の元復興出来たが、それまでかなりの苦労はあった。

 

 とはいえ、救いと言えば五年前の小島基地壊滅事件後、深海棲艦の来襲が激減した事であろうか。

 

 あの事件では周辺海域に存在した約400体もの『マヨイ』を含む深海棲艦が『アンノウン一号』によって討ち滅ぼされたのである。出現が少なくなったとしてもそれは不思議な事ではあるまい。

 

 故に、施設が不充分な中でもなんとか再建するまで持ちこたえられたのである。

 

 ただ、そんな中でも様々なトラブルは発生した。

 

 その一つとして、艦娘達が哨戒任務に出ると敵も撃破していないのに多くの艦娘がドロップして来る現象、通称『艦娘入れ食い事件』は壊滅後の基地としては非常に困るトラブルであった。

 

 艦娘達を養って行くための衣食住をどうするかという問題が新生小島基地を襲った。

 

 おそらく『アンノウン一号』に撃破され、怨念が晴れた深海棲艦達の艦霊が一斉に顕現したのだろうと思われるが、土方はそれに対して狂喜乱舞した。

 

「艦娘入れ食い状態やーーーっ!!うわーっ、うわーっ、みんな私んとこの子にしてええんやぁーっ?!えへへへへ、うひょーっ!!むひょーっ!!提督になって良かったぁぁぁぁっ!!」

 

 彼女にとっては、左遷されようが壊滅状態の基地に住もうが、艦娘達と暮らせるならばそれで幸せだったのである。怒涛の衣食住の確保にそれこそ邁進した。

 

 深海棲艦のほとんど出ない海に、艦娘の護衛をつけて漁船を繰り出し魚を大量に確保して内陸の市場に売りに行ったり。

 

 資源の確保の為の遠征を無理の無いペースで行ってそれを大本営に売りつけたり。

 

 様々な野菜などのハウス栽培を大勢の艦娘達と広範囲に行ったり。

 

 やたらと島に自生しているシソやクレソン、バジルなどのハーブや野草を採取したり。

 

 様々な事をしてどの艦娘も手放す事もせずに守り抜いたのである。

 

 彼女の隣に立っている加賀もその一人である。

 

 この加賀の練度は現在、69。実直にして勤勉。無口で寡黙。仕事は確実に行い、慢心も無い。何より『最初の鳳翔』が目をかける程に能力は高い。

 

 土方としては『ううっ、今まで苦労かけた娘がこんなに立派になって……!』などと内心思っていたりする。

 

「しっかし、コイツ、おめぇに迷惑かけてねぇか?」

 

 土方の性格と行動を知るが故、近藤は加賀に声をかけた。しかし加賀は全く表情を変えずさらりと言った。

 

「もう慣れたわ……慣れたく無かったけど」

 

 その言葉に、近藤は、ぺしりと右手で自分の顔を覆うようにし、ガックリとうなだれた。

 

「提督んなったからってコイツの悪癖が治るってわけでもねーとは思ってたが、苦労かけてんなぁマジですまねぇなぁ……」 

 

「まぁ……悪い方では無いのですけれどね?」

 

 大和が苦笑しながらフォローするが、加賀もやや苦笑気味に、

 

「分かっているわ」

 

 と答える辺り、実直な加賀も土方を嫌ってはいないのだろう。多少のセクハラじみたスキンシップは多めに見る程度は。

  

 加賀のその言葉が嬉しかったのか、土方は加賀に抱きつこうとした。

 

「うううっ、分かってくれてるのね?!」

 

 がっばぁ!と手を広げて来た土方の額に、ぺし、と手のひらでしばく無表情な加賀。

 

「いったぁーっ?!」

 

「扱いも、少し慣れたわ」

 

 ぺし、ぺし、ぺし。

 

 先ほどの苦笑が嘘のように無表情で額をぺしぺし叩く。

 

「痛っ?!痛っ?!痛っ?!あうううううっ……」

 

 額を連続でシバかれ、うずくまる土方。おそらく小島基地でのブレーキ役は加賀なんだろうなぁ、と近藤と大和は思った。

 

 なお、舞鶴鎮守府では曙と霞がその役だったが、その二人は今回は留守番であるので近藤は連れてきてはいない。

 

「……まぁ、小島基地が平和なのはわかったが、しっかしいくら敵が来ねぇからって最大戦力の金剛型二人を連れて来て良かったのかぁ?つか、あの比叡、まだ療養中じゃなかったのかよ?」

 

「……松平先輩の要請の中に比叡の名前があったのよ。私も不安だったけど、金剛が一緒ならって比叡がね」

 

 額を押さえて涙目だが、真面目な話に土方は答えた。なんだかんだで切り替えは早い女である。

 

「先輩が要請したのか?……そいつぁ解せねぇなぁ。あの先輩が弱った艦娘を出させるなんざ、どう考えてもおかしい。あの比叡は確か戦闘に出せるような精神状態じゃないってお前、以前言ってたよな?」

 

「ええ。保護した時と比べればかなり回復はしているけれど、金剛が側にいなければまだ霊力の安定もしないし、精神状態も不安定な状態なのよ」

 

 比叡はかつての軍主導派によって実施された艦娘強化実験における成功例であった。しかし、その代償として彼女の心は半ば崩壊してしまい、土方が保護したときには廃人寸前の状態になっていたのである。

 

 通常ならば、比叡のように精神を崩壊させてしまった艦娘はその兵器としての危険性から解体の後廃棄されるものである。ましてや強化され、危険性を増した艦娘ならばなおさらに上層部は廃棄せよと圧力をかけて来たが、土方は保護した比叡を見捨てる事はしなかった。

 

 甲斐甲斐しく金剛と共に比叡を介抱し続けて約二年。なんとか比叡は普通の生活を送れるまでには回復したが、まだまだその精神状態は安定せず、姉艦である金剛と共におらねば保てない状態なのである。

 

「そんな艦娘をも戦力にせにゃならんほど、厳しい戦場になるというのか?フィリピン周辺海域は……」

 

 近藤は思わず自分の鎮守府の最大戦力たる大和を見る。この大和も松平の要請で艦隊に組み込んだが、他にもこの『あぎょう丸』に乗り組んだ艦娘の面々を考えて近藤は押し黙る。

 

 大本営の武蔵、長門、伊勢、日向。

 

 舞鶴の大和、陸奥。そして舞鶴に駐留している扶桑姉妹。

 

 小島基地の金剛、比叡、加賀、赤城、

 

 大戦力過ぎるのだ。あたかも最終決戦の如き主力戦力、圧倒的な戦力である。

 

 周りを囲む重巡、軽巡、特殊艦、駆逐艦もかなりの数であり、もはや過剰戦力にも思えた。

 

 そしてそれを支える兵站の用意周到さも気にはなっていた。入渠施設付の移動鎮守府とも言うべきこの『あぎょう丸』に、明石が乗り組み、さらに間宮と伊良湖までいる。

 

 早朝からめったに食えない間宮の飯が食えて、伊良湖のデザートが付く、この贅沢さはなんだろう、まるで末期の飯のようにも思えて近藤は少し怖くなった。

 

 とはいえ、もっと不可解な事はある。

 

 この艦の規模からすればざっと四倍以上の大量の糧食に大量の資材。しかし、向かうのは無人島であるが、拠点設営のための建材等は積んでいない。

 

 この艦に揚陸させて基地とするつもりなのだろうか?とも思うのだが、全く作戦の方向性も見えて来ない。

 

 なにより、松平は人員や艦娘達を集めるだけ集めて、

 

「後は君達に全権を委ねる。幸運を祈る」

 

 なんぞと言って丸投げなのだ。

 

 武器弾薬兵糧を過剰につけられて、前線に送られる現場指揮官の、このプレッシャー。しかも一騎当千の艦隊付き。

 

「……なぁ、土方。俺、すんげぇ嫌な予感しかしねぇんだけんどな?」

 

「……あ、やっぱそう思う?まぁ、今回は間宮さんと伊良湖さん付きだし、荒事は想定してないような気もするんだけどね?」

 

 この場合、近藤が悲観主義であるのか、それとも土方が楽観主義であるのか。それはさておいて。

 

 全ては山本叢雲の思惑の通り。いや、全ては最良解の未来の為に、物事は動き始めていたのである。 

 

 そう、みんなが笑える幸せな世界のために。

 

 





 大淀さんのヒロイン話?それは幻想だ。

 比叡がやたら……。

 いえ、最後は扶桑姉妹が決めてくれる……かな?深海側の。

 なお、加賀さんはむっちり。赤城さんはもっちり。

 次回、ひぇぇぇぇぇ(嘘)で、またあおう!


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑨

 お風呂回。

 いや、多分風呂の建設シーンはいらんかったかなー。

 なお、艦娘にはそれぞれ個体差があり、例えば高雄さんと舞鶴の高雄さんでは、おっぱいのサイズや体型がやや違い、また顔も個体差がある、という感じです。また、ここに出てくる艦娘達は、ここに出てきた艦娘達の体型であり、余所には多分、皆様の理想の体型の艦娘もいるさ、という感じに思っていただけますと幸いです。

 今回は非常におっぱいがいっぱいな回です。

 主人公の変態性を見たくない方は、気にしないで下さい。




 

 ゲシュペンストによる大浴場建設。

 

 使った道具。

 

 ギガドリル

 レーザーカッター

 ゲシュペンスト

 

 使った材料。

 

 丸太

 岩

 大量の粘土

 

 以上。

 

 昨日の夕方には全く何にも無かった場所に、朝起きて見てみれば大量の木材と四角い岩のプレート、そのプレートを切った後の欠片、そして大量の粘土が積まれて整頓されていた。

 

「まず、風呂の位置を決めます。ええ、最初に作るのは洗い場と浴槽ですから」

 

 玄一郎は浴場作成の見学に来た高雄や他の艦娘達にそう説明する。

 

「えーと、この位置が良いですかねぇ。とりあえず焼き払うので多少母屋から離れてた方が良いですね。うん、焼成の熱量的にここ。この位置です」

 

 女の子達が見ている、というので玄一郎もやる気満々で、喋っている口調もなんというか、動画配信サイトのクラフト系の動画配信者のような感じである。

 

 とはいえ、おそらくこの様子の動画配信は出来ないだろう。なにしろこの世界では一般にPCどころかネットすら無いのだ。テレビ局も無い。

 

 どう見ても敵を破壊する為のドリルとしか思えないギガドリルを取り出し、

 

「はい、ざっくりとこの辺を掘ります。ええ、排水口とかそんなんですね。では行きます。俺のドリルはぁぁっ!!風呂を掘るドリルだぁぁぁぁっ!!」

 

 ギュイイイイイイイイイン!!ガガガガガガガガッ!!

 

 ブースト噴かして一気にドリルの先端でラインを掘って行くゲシュペンスト。

 

 風呂の浴槽の位置やら柱の位置、そして海までの排水溝までガガガガガっ!!と一気に掘り進める。

 

「女の子のぉ為ならえーんやこーらぁぁぁっ!!」

 

 怒涛の掘削作業である。

 

 土も岩盤も粘土もなんのその。

 

 あっと言う間に、基礎部分を掘ってしまった。

 

 高雄達は皆、目を点にして、えぇ……?と言うような顔をしている。どうやって建築してるのかと不思議に思って半ば好奇心から見学を申し出たのだが、もうこの時点で彼女達は退いていた。

 

 出鱈目である。なのに如何なる土木機械も敵わない程正確かつ、速い作業スピードとパワーである。

 

「はい、ざっくりと出来ました。では、岩と粘土で土台と洗い場、大浴槽を作ります」

 

「あの、そんな大量の粘土、どこから?」

 

「うん?いや、母屋を整地するときに土地を削った時に掘り当てたんだ。この辺の土は良い粘土層でね。厨房の素焼きを水瓶とかもその土で作ったんだけど、うん、釉薬が欲しくなるぐらい良い粘土だよ」

 

 そういえば、と高雄は思い出した。

 

 救助された時にはもう命からがらだったのであまり付近の地形も注意などしていなかったが、確かにかなり土地の隆起が確かにあったのである。

 

 というか朝に食糧調達に出て、帰ってきたらもう拠点というかデカい建物が出来ていたその驚きで頭からそんな事もすっぽ抜けていた。

 

(というか、あのかなり凸凹した地形を真っ平らにしたの?!)

 

 なお、整地にはドリルブーストナックルで一気にやった模様。

 

「石灰があればコンクリートでやるんだが、まぁ、粘土も使いようだよね、うん」

 

 そう言いつつ、ゲシュペンスト(=玄一郎)は、だだだだだっ!!と作業に入った。

 

 岩を積み上げ粘土を盛り、その粘土をヘラやらコテでしゃっしゃっ、と佐官工事のように滑らかにしたり、レーザーカッターで切った大岩のプレートを貼り付けていったり、木の杭で先ほど掘った排水口への穴を開け、そして床面になる部分にも岩のプレートを貼り付けて、見た感じにもああ、大きな風呂だなぁ、という形に素早く造形していく。

 

 床の水捌けの緩やかな斜面も計算され、詰まりにくくして、粘土で造形していく。

 

 形作られて行くに、なるほど確かに風呂だという形になっていく。しかしながら材質はセメントやモルタルではなく粘土であり、

 

(そのままでは湯を使ったら粘土が流れるんじゃないかしら?)

 

 と内心、高雄は思ったが、ゲシュペンストの非常識さはむしろここからだった。

 

「ほい、洗い場と浴槽はこんなもんかな。広さ的に」

 

 ゲシュペンストはうんうん、と頷き、そして高雄達に言った。

 

「ほいほい、今から焼いて固めるからもう少し離れてくれないか?かなーり熱いぞ?」

 

「は?」

 

 ゲシュペンストは高雄達を下がらせると、ブースターを噴かして飛び上がり、そして胸部メガキャノンを展開させた。

 

「超極小出力っ!!っメガっキャノンっっっ!!ミニマムシュートぉぉぉっ!!」

 

 ぶぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 

 割と後ろに下がったというのに、高雄達のところまでかなりの熱を含んだ強い風がゴォッ!!と吹く。

 

 艦娘達はたじろぐようにそこよりも後ろにさらに下がってその暴風に耐えるべく、足を踏ん張った。

 

 強風ではためくスカートが捲れたり、シャツやらなんやらが熱を帯びた風でバタバタとなびく。

 

 熱風疾風サイバスカート捲れていやーん。

 

 高雄のスカートはタイトスカートに見えて、スリットがあちこちにある前たれのような構造であり、捲れるときは盛大に捲れる。丸見えな程に気前よく捲れ上がったスカートから見える高雄のおぱんてぃは白のレース。ガーターベルト付きな大人の純白であった。

 

 他の駆逐艦娘達のスカートも捲れているが、どうも駆逐艦娘達のパンツは子供子供していて、やはり高雄さんの大人パンティはエロいね?とか玄一郎は思いつつ、極最小出力のメガキャノン放射を続け、粘土で作られた風呂場を焼いていく。

 

 たったの20秒ほどのメガキャノン放射だったが、陶器一体型の風呂場がしゅうしゅうと赤熱し、焼きあがっていく。

 

 玄一郎は焼き色を見て、メガキャノン放射を止めて艦娘達の近くに降りて来た。

 

「はい、これで約二時間放置したら冷えますんで、その上に小屋を建てて川から浄水器に水ひいたら浴場は完成です」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 艦娘達は口をあんぐり開けてポカーン、と何も言えなくなった。

 

 それはそうだろう。こんなデタラメな風呂場の作り方など、あってたまるか。

 

「えーと、みんな、どうしたの?おーい、おーい?」

 

 なんでもないように、艦娘達に声をかけてくるゲシュペンスト(=玄一郎)。しかし、高雄達はこの目の前のロボットの非常識かつとんでもない力に、

 

「あは、あはははははは……」

 

 と笑うほか無かった、という。

 

 

 

 さて、その高雄は大淀の艦隊の木曾と共に今、風呂に入っていた。

 

 艦娘達全員入れてやると、どうしてもそうなるのである。どの艦隊も駆逐艦が多くこのゲシュペンストの作った療養所には現在、軽巡は球磨型姉妹と大淀、重巡は高雄のみなのである。

 

 軽巡の球磨型姉妹と高雄で駆逐艦娘達の入浴の面倒をみてやっていたら、自分達の入浴は必然的に遅くなってしまったというわけである。

 

 とはいえ、ある種の残り福とでも言うのだろうか。みんなを入れた後の風呂はゆったりのんびり出来る。

 

 木曾などは姉達が出て行った後で羽を伸ばして開放感を存分に堪能している。

 

 高雄のおっぱいは、舞鶴鎮守府の高雄(全高雄中一位のバストサイズ)よりは小さいが、それでもやはり大きい。くびれもあり、尻も太ももだってちょうど良いむちむちさである。木曾もスレンダーに見えてやはり出るところは出ており、やや筋肉質ではあるもののスタイルは健康的に抜群、いやぁ、ホント文章じゃ伝わらないナイスバディ、ご一緒したいものですなぁ。

 

 などと思うわけだが、無論我らが主人公はしっかり風呂場にカメラとマイクをこっそり仕掛けており、やはり見ていた。

 

(……いや、これも情報収集なのだ。けして女の子達の裸を見たいわけではない。そう、大淀さんとか土方さんとか、なんか隠している事もありそうだからな)

 

 と、言いつつ、もう高雄と木曾の裸に集中している辺り、信憑性はない。しかも録画もしているのだ。

 

(うっひょーっ、やっぱり高雄さんの乳、すげぇなぁ。うん、木曾だってスタイル良いねぇ、うひひひひひ)

 

〔……玄一郎。お前がどうも怪しい艦娘が居るからと言うから隠しカメラを作ったが、やはり盗撮の為だったのか〕

 

(いやいや、ちげぇって!大淀さんとか沖田少佐とか、やっぱりなんか怪しいだろ?今、二人は風呂に向かってんだ、なにかそこで話すかも知れねーだろ?)

 

 とはいえ、玄一郎はカメラで高雄さんのおっぱいガン見中。

 

 高雄のおっぱいは大きな円型タイプであり重量型だが乳首は正面を向きやや赤褐色というのか、色は濃いがそこがまたエロい。

 

「あー良い湯だぁ。しかも修復剤も御丁寧に入れてくれてるって所がありがてぇなぁ。至れり尽くせりだぜ」

 

 覗かれているとは知らず、木曾が湯船の中で背伸びし身を震わせる。高雄と比べると小さいが形の良いおっぱいがふるふると揺れる。木曾のおっぱいは釣鐘型で、乳首がツンとやや上を向いている。

 

(どういたしまして。いや~、おっぱい御馳走様です!!やはり頑張って風呂作った甲斐があったなぁ!木曾のおっぱいも良い!うひょーっ、ボーイッシュだけどおっぱいの形、良いなぁ!)

 

 もはやこの主人公、変態犯罪者である。

 

「しっかし、ホント、あんときゃ艦隊壊滅って覚悟してたのになぁ。『未確認敵性物体一号』なんて戦場の与太話だとばかり思ってたら本当に居やがって、しかも親切で飯も作るのうめぇし、かぁ~っ、ここは極楽みてぇたし!」

 

 木曾はゲシュペンストが作ったこの療養所というか拠点が気に入っているようである。

 

 この木曾は、いや、球磨型姉妹は内閣軍視局に所属する艦娘である。つまり海軍では無く政府直轄の艦娘なのだが、政府の任務は、というよりも政府の役人の下で働くというのは軍艦であった彼女達にとって不服なものであるらしく、彼女もそれにストレスを感じていたようである。

 

「そうねぇ。私は以前、彼に助けられたという子達に話は聞いていたけれどあんなに友好的というか、世話焼きというか……」

 

 最初にゲシュペンストに救出された高雄は、この建物の建築現場をある程度見ているし、この風呂場を作っているところも実際目撃していたので、ゲシュペンストがどれだけ非常識な存在なのかわかっていたが、それよりも。

 

「善良過ぎて裏切られないか心配になるわ。こう、悪い女にだまされないかしら?って感じで」

 

 まるで姉が弟に対して持つような感想である。

 

「あ~、高雄さん的にはそう見るかぁ。つーか、ウチの旗艦にだまされそうで怖いな、そりゃ」

 

 木曾はそう言うと、カラカラカラっ、と風呂の入り口の木戸が開いた。

 

「だまさないですよ?」

 

 そこには風呂桶を持った大淀がいた。いや、風呂桶以外に、スカートとパンティを持っている。

 

「あ、大淀さん」

 

 木曾はタハハハハ、と笑った。なんのかんの言っても木曾にとっては大淀は艦隊のリーダーであり、気心はわかっている。悪どさは多少あるが、悪人ではない。それに男を誑かすような、いわゆる悪い女にはなれないタイプである。何しろ根が真面目過ぎる。

 

「はぁ~っ、なんというかいやはや……」

 

 沖田少佐も大淀の後ろから入って来る。

 

 大淀と沖田少佐は木の風呂桶でまず湯を汲んだ。流石に湯の出る蛇口もシャワーも無いので、身体を洗う湯をまず汲まなければならないからだ。

 

 カメラの向こうで玄一郎は、よっしゃ!とかおもった。

 

 ちょうどカメラの良い位置、洗い場の椅子に二人は腰掛け、タオルで身体を洗い始めた。

 

「石鹸があるのはありがたいわねぇ。しかしどこから持って来たのかしら?」

 

 沖田少佐がワシワシとタオルに石鹸をこすりつけて言う。

 

「ああそれ、この島の廃棄されてた民家からとって来たんです。タオルもそこからですよ」

 

 高雄が湯船から少し身を乗り出しつつ言う。

 

「はぁ、でも助かります。洗濯できますから……」

 

 大淀は少し力無く、湯で石鹸を溶かしてなにやらスカートとパンティを洗い始めつつ言う。

 

 大淀のパンティは意外にも黒のレースだった。

 

「あり?なんで洗濯を?」

 

 木曾が首を傾げるが、沖田少佐が大淀をフォローする。まさか上司である大淀が失禁……バラスト水漏れを起こした、などと部下に知られたくないだろう。

 

「明日の朝食に出る料理の味見をしてたらこぼしちゃったのよねぇ。でも明日出てくるのすごいわよぉ?本国じゃ高級フルーツだもの!」

 

「へぇ?それは楽しみだなぁ。はぁ~ホント、厄介な案件さえ無けりゃあなぁ……」

 

 木曾はフィリピン周辺海域や泊地の状況を考えてそうぼやく。が、しかし、そんな彼女に大淀はぼそりと落ち込んだテンションで

 

「……木曾さん。私達の任務はある意味、実行不可能、というか遂行の必要が無くなってしまったようです」

 

 と、少しうつむきつつ、パンティをもみ洗いしつつ言った。声のトーンが沈んでいるのは何も良い年して失禁してしまったパンツを洗っているからではあるまい。

 

「まぁ、そうなるかなぁ。第一基地の提督はとっくに死んでたってわけか?」

 

 周辺海域をぐるりと深海棲艦に囲まれちゃあなぁ、と木曾は言う。

 

 どうやら内閣軍視局の艦隊、つまり大淀達の目的はフィリピン第一基地提督を捕らえる事だったようだ。

 

「ええ。対象が死亡しました。また、縞傘製薬ならびに縞傘財閥も今回の件を以て、壊滅させる事が出来るでしょう。証拠は今、ゲシュペンスト氏が集めて下さってますが……」

 

(……なんかとんでもない裏側が出て来たよなぁ)

 

〔権力抗争か、あるいは組織犯罪か。どちらにしても我々に直接は関係ないが、考察材料にはなる、か?〕

 

 そこはそれ、玄一郎はデバガメしつつも重要と思われる情報には注意をはらう。

 

 と、高雄がとっさに動いた。

 

「大淀、あなた……あんな危険な場所に彼をいかせたの?!」

 

 高雄はゲシュペンストが単独でフィリピン泊地に行ったと勘違いしたようだ。

 

 湯船から勢いよく立ち上がったせいで大きなおっぱいがまるでスパロボシリーズの女キャラの必殺技カットシーンのようにバイン!と持ち上がる。巨大なおっぱい故の、ど迫力のカットインである。

 

 ドバイーーーン!!

 

(おおっ!!なんと豪快なおっぱいバイン!!心配してくれてんだなぁ、ああっ、俺、高雄さんみたいなねぇちゃん欲しかったなぁ。ありがとうございます、ありがとうございます)

 

 心配されているアホはカメラの向こうでデバガメ中である。はっきり言って高雄の心配を無碍どころか仇で返している。

 

「いえ、彼自身はここの厨房に居ますよ。現地の調査は彼の哨戒機が行っています」

 

 大淀が端的に説明すると、高雄はほっと胸をなで下ろし、また座り、湯船に浸かる。おっぱいは水に浮くというが、しかし高雄のおっぱいは詰まったように質量があるおっぱいである。浮かずに、どぷんとまた湯に沈んだ。

 

「ああ、なんだ。しかし、彼が何を持っててももう驚かないけど、そんなものまで……。戦闘機とか爆撃機とかも持ってそうね……」

 

「小島基地壊滅の時には、自在に飛ぶ円盤みたいなのを使ってたって土方中佐が言ってたわ。あるんでしょうねぇ、多分」

 

 沖田少佐は、イチチチチっ、と痛そうに傷だらけの身体を洗っているが、それを見た高雄が湯船から出てきて、

 

「沖田少佐、私が背中を流します」

 

 と、沖田少佐からタオルを取ってその後ろにしゃがんだ。

 

(ふぉぉぉっ!ナイスアングルっ!!)

 

 カメラには、沖田少佐の真正面、そしてしゃがむ高雄のおっぱい!高雄がタオルで沖田少佐の身体をやさしくこするたびに、二人のおっぱいがゆささっ、ゆさぷるん、と、揺れる!石鹸の泡がまた良い感じにぬるりとして、ふぉぉぉぉっ、ふぉぉぉぉっ!!

 

「んじゃ、俺はリーダーの背中を流しますかっと!」

 

 木曾も湯船から上がって洗濯を終えた大淀の後ろにしゃがみこむ。それも少し股を開いた感じで。

 

(ふぉわぁっ?!な、ななな、なんとっ!!これは……。禁断の花園っ!?なんというおっとこ前な豪快さ……!!木曾さん、かっぱぁ~っとご開帳っ?!)

 

「あ、ありがとうございます木曾さん」

 

 二人が並ぶと文学少女とスポーツ少女の対比のような、なんとも素晴らしいコントラストである。

 

 大淀のおっぱいはやわやわっ、としており白く透き通る肌に少し濃いピンク色の先っぽが美しい。対して木曾のおっぱいは少し褐色がかった肌にこれぞピンク!というコントラスト。

 

(対比で生まれる……おぱーいの美っ!!)

 

 おお、神よ!と玄一郎は祈りそうになる。

 

「あははは、たまには上司にゴマ擦っとくのもいいってもんさ。それにさ、任務は無しになったんだろ?なら今日ぐらいは羽を伸ばしだっていいじゃねぇか」

 

「……いえ、任務は無しですが、まだここから動くわけにはいかなくなりました。というか、動けません」

 

「おりょ?あぁ、深海棲艦が包囲網を広げた、とかか?」

 

「いえ、そうではありません。第一基地の提督を殺害したのは深海棲艦ではなく、指名手配コードS級、元第13特務部隊隊長、通称『血濡れの薙刀姫』でした。また、『殺人拳・那智』の存在が確認されました。おそらく私達の艦隊に三式弾を打ち込んで来たのは、『殺人拳・那智』だと思われます」

 

「うわ、そいつぁ厄介なモンが出て来たなぁ。つか、俺達になんとかしろ、と?」

 

「……場合によっては、なんとかしなければなりませんが、あなたの軍刀術で、太刀打ちできますか?」

 

「……出来る、と言いたいが相手が相手だからなぁ。せめて格上のサーベルがありゃあ良いが、俺のサーベルは政府に人質ん取られちまって、代わりの官給品だからなぁ」

 

 ぼりぼり、と木曾は頭を掻きながら苦い顔をした。

 

(……ふむ、木曾さんのサーベルはあんまり質が良くないのか)

 

「政府に取られた?それはどういう?」

 

「研究資料だってよ。霊力やらなんやらを測定したりおんなじモンを作れねぇか、とかいろいろ政府の軍需工業やらが弄くってんだ。で、今持って来てんのはあんまし良いもんじゃ無いんだよ。つか、近接が必要なんて思って無かったから、まぁいいかって思ってたんだが……」

 

「どこもおんなじねぇ。私も刀を大本営に返却させられて持たされたのが試作品の刀よ。どっかの沈んだ戦艦の鉄材で作ったらしいけど、霊力は抜けてて残りカスだわ、刀鍛冶の腕は悪いわ、で使い物にならないのよ」

 

(沖田少佐の刀もあんまし良くない、か)

 

 ふむふむ、と玄一郎はカメラの向こうで何事か考える。

 

〔出歯亀の対価を刀で払う、か?〕

 

(ん~、どのみち、沖田少佐はあの怪我じゃ戦えないしあの龍田って艦娘がなんでドローンに気づいてんのに見逃してくれたのかわからんけど、ま、研究施設に殴り込む間、こっちでなんかあってもいかんしなぁ)

 

〔それは確かにそうだな。艦娘達の砲弾も用意しておこう。残弾数が心もとないと言ってたからな〕

 

(……おぱーいだけでなく、ええ観音様も見ちゃったからなぁ。そんぐらいはバチも当たらんよな?)

 

〔お前にバチが当たるなら、私もとばっちりを食うと言うことだ。犯罪行為は自重しろ〕

 

 そうして、ゲシュペンストと玄一郎は武器の製作を監視と平行しつつ行うのであった。

 

(むひょーっ!高雄さん、尻もええなぁ~っ!!おおっ、沖田少佐、わりと毛深いんだぁ~!!おっとっなの魅力ぅ~っ!!うひひひひ、木曾さんの腹筋!ラインがエロすなぁ!!大淀さんも結構ええ乳しちょる!!バランスのとれたお椀やわやわおっぱい!!)

 

〔ええい、自重しろ!!〕

 

 そうして、夜は更けていくのであった。




 酒飲んで書くと、おっぱいを出そうとする。しばしば暴走しそうになる。

 そんな感じの年末。

 それでは皆様良いお年を。 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑩

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくね!というわけで。

 実は、龍田と那智は、主人公の友達だった?!

 という驚きの過去話。

 なお、龍田はやや主人公に依存。(頭部の二対のアンテナが少し天龍に似ているとの事で。)

 もちろん、龍田と那智の裸とか過去に見ていたりもします、この主人公(ゲス野郎)。


 

 

「ふむふむ、つまり龍田達は逃亡生活が嫌になって、普通の艦娘としてもう一度頑張ろうと思って遠いフィリピン泊地まで来た、と?」

 

 ドローンから送られてくる映像の人物は誰あろう、件の『血濡れの薙刀姫・龍田』である。そしてその後ろに『殺人拳・那智』もいる。

 

《そうなのよぉ!それがこんな事になっちゃって。ゲシュちゃん、なんとかこっちに合流できないかしらぁ~?!》

 

 ゲシュちゃんなどと呼ばれていることから、玄一郎と龍田、那智は非常に仲が良いというのか、ぶっちゃけ知り合いだったりする。

 

 その付き合いは長く、扶桑姉妹達と別れてすぐ辺りからなので、かれこれやはり五年ほどになる。

 

 最初に彼女達と出会ったのは、ゲシュペンストがムサシとの戦闘から受けた損傷をやっと修復出来た頃である。

 

 この世界の情報を得るために廃校となっていたワタヌシ島の学校へと向かおうと潜水艦娘達のアジトとなっていた洞窟から出た時に、浜辺に流れ着いていた彼女達を助けたのがきっかけであった。

 

 彼女達は大破状態というには酷すぎるほどの傷を負い、なんとかしないとすぐに死んでしまうような状態であり、玄一郎は彼女達を洞窟に運び込んで手当て……というか高速修復剤をかけてやった、というわけである。

 

 とはいえ、彼女達の状態は酷すぎた。

 

 命は取り留めたものの、意識が戻るまでに数日かかり、その間、玄一郎も彼女達から離れず世話と介抱をして過ごした。

 

 正直なところ、艦娘だったからまだ助かったと言わざるを得ず、意識がこのまま戻らなかったらどうしようか?とさえ思ったほどで、彼女達が意識を取り戻した時には、玄一郎は思わず助かってくれてありがとう、などと言ったほどである。

 

 彼女達は最初は機械であるゲシュペンストの姿を警戒してはいたものの、話をしているうちに打ち解け、龍田はゲシュペンストの頭部両側のアンテナが天龍と似ているとかなんとか言って『ゲシュちゃん』と呼ぶようになり、那智はゲシュペンストと呼びにくかったのか『ゲシの字』と呼ぶまでになったのである。

 

 打ち解けていくにつれ、彼女達も自分達の素性を話してくれたが、彼女達は暗殺部隊に所属していた艦娘であり、話によると父や姉妹達を人質に取られ、人殺しを強要されていた艦娘なのだと行った。

 

 はて?と玄一郎は思い、艦娘に父親は居るのか?と聞けば、彼女達は、父親と慕う科学者が居るのだ、と言った。

 

 その科学者の名は『造田・毘庵(ゾウダ・ビアン)』と言い、霊力機関の生みの親にして、艦娘研究の第一人者なのだと言う。

 

 彼女達はこの造田博士と共に生活していた時の事を涙を流しつつ話してくれた。

 

 左派政権が打倒された、今でも造田博士と姉妹達は解放されておらず、自分達は罪人にされてしまった、と龍田と那智は言う。

 

 彼女達が白鳥財閥に雇われたのも、全ては造田博士と姉妹達の収監されている居場所を探るためであり、また、造田博士の研究結果を奪い、それによって富を得ている白鳥財閥をついでに内部から情報を流して壊滅させる為、でもあったらしい。

 

 なお、この『造田・毘庵』こそ、元祖スパロボ世界のボスであり、天才科学者にして発明家、DC総統、ビアン・ゾルダークその人であったのだが、その奇妙な日本名のせいでゲシュペンストそうとは気づかなかった。

 

 また、そんな話を聞いて彼女達を放っておける玄一郎ではなかった。

 

〔霊力機関、というものはわからないが科学者であるならば、一度話を聞くのが良いかも知れない〕

 

 ゲシュペンストもそう言い、玄一郎と彼女達は共に造田博士と彼女達の姉妹を助ける為の旅へと出たわけである。

 

 その結果として、江ノ島基地とルソン島の基地が壊滅したりしたが、まぁ、それはまた別の話である。

 

 ダイジェストで言えば。

 

 結果、江ノ島基地は壊滅。ルソン基地も壊滅。

 

 最初、造田博士は江ノ島基地に捕らえられていたが、その後ルソン島における極秘実験任務のために身柄を送られていた。

 

 しかし、江ノ島基地は女衒基地となっており、扶桑姉妹が何故かそこにおり、貞操の危機に陥っていたため、怒り、我を忘れたゲシュペンスト(=玄一郎)が暴走し、やってしまった。光学兵器や大量破壊兵器無しで、拳や蹴りで、ぶち壊しまくりつつ、提督を追い詰め、もう少しで提督をぶち殺す一歩手前まで行った。

 

 半殺しで済んだのは、龍田や那智、扶桑姉妹のおかげであろう。

 

 ルソン基地でようやく造田博士は救出されたわけだが、ゲシュペンストや龍田、那智が救出したわけではなく、三人が到着する前に龍田の姉艦『隻眼の斬殺鬼・天龍』と『影忍、川内』にとっくに救出され、捕らえられていた那智の妹艦である羽黒や川内の妹艦神通、那珂も救出されていたわけである。

 

 ここでも、やはりゲシュペンストはやらかしてしまっている。

 

 ルソン基地で行われていた未完成の『結魂システム』によって精神を崩壊させた比叡他の艦娘達の為に、怒り狂い、しかも扶桑姉妹もよりによってまた何故かそこの被検体にされそうになっていたためにさらにヒートアップして怒り狂ったゲシュペンストによって跡形もなく壊滅させてしまったのである。

 

 『黒い破壊神』の異名がゲシュペンストについたのは、この頃であったが、扶桑姉妹がブラック鎮守府などに居た場合のスタンピード率は半端なく、また、扶桑姉妹によってでしか、その怒りは止められないという有り様だったのであるが、それはまた余談であろう。

 

 そうしてその後、造田博士と姉妹達は『艦娘擁護派』にして北の英雄と呼ばれる、北方基地の『水瀬大徹』の元に保護された事がわかり、龍田と那智も北方基地へと向かうとの事で、ゲシュペンストと別れたはずなのだが……。

 

 しかし、北方へ向かった彼女達はその後、内閣軍視局の艦隊に追われれ逃げ回る羽目になったようで、北方基地にたどり着けず、さりとてほとぼりは冷まさねばならぬという事で、そのまま大陸へ逃れ、様々な場所を転々とし、逃げ回ることに疲れてフィリピンでドロップ艦を装って着任し、そのまま数年間、普通に働いていたらしい。

 

「……俺はお前たちが無事に北方基地に行ったと思ってたが、大変だったんだなぁ」

 

 しみじみと言う玄一郎だったが、しかし『内閣軍視局、と聞いて内心冷や汗タラーリ。

 

《仕方無いじゃないぃ~っ。まさか『淀み鴉』の艦隊に追われるなんて思って無かったものぉ~っ!というかこんな時にまで来るなんてっ、ホントに忌々しいっ!!」

 

「『淀み鴉』?」

 

《軍視局の艦隊のリーダー、大淀の事だ。不意打ちで三式弾を撃ち込んで撃破したが、ヤツはしぶとい。まだ生きているだろうな》

 

 那智はさらっとそう言ったが、あっちゃぁ、と玄一郎は思った。ようするに、玄一郎が助けた大淀は、龍田達にとっては不倶戴天の敵であったらしい。

 

「『淀み鴉』ねぇ。ふーむ、確かに生きてるな。今居る拠点に彼女達もいるからなぁ」

 

 隠しても仕方あるまい、とあっさりとバラす。

 

《ゲシの字。まさか奴らを助けたのか?》

 

「沈みかけてたからな。うむ、とはいえ、まぁ、いつものことだ。お前らも助けてみせる。とは言え……」

 

《とは言え、なによぉ?裏切ったのぉ?まさか浮気ぃ?》

 

 龍田はヒンヤリと物理的に冷ややかで恐ろしげなオーラを出しつつ言った。並みの人間ならそれだけで震え上がり、人間だった頃の玄一郎だったならば、大淀の事は言えないだろう。おそらくチビる。絶対チビる。

 

 しかしパーソナルトルーパー、ロボットの身体だから大丈夫。さすがだゲシュペンスト、何ともないぞ?多分。すんげー怖いけど。

 

「いや、浮気てお前……。俺はロボットだぞ?うん、性別もう無いしな?つーか、それより今深刻な状況になりつつある。レーダーに艦娘を乗せた大型輸送艦らしき物が台湾方面からこっちに来てるのを感知した。日本海軍が押っ取り刀で重い腰を上げたらしいな、こりゃ。到着予定時刻はだいたい昼、だなこりゃ」

 

《……それは確かにヤバい。艦娘の数は?》

 

 冷ややかなオーラを放つ龍田を退かせ、那智がドローンのカメラの前までやってきた。深刻そうな表情で顔を青くしているが、艦隊が来るよりも他の何かがあるような、そんな焦った顔だった。

 

「ドローンを飛ばしてみないとわからん。反応からして10や20ではきかんな。最低でも40はいると見るべきだろうな、こりゃ」

 

《……深海棲艦を力任せに殲滅するつもりなのだろうが、しかしそれは不味い。ゲシの字、良く聞け。今回のこの騒ぎの原因は、研究施設で作られた、生物兵器、それも艦娘に寄生して脳を乗っ取り、怪物にしてしまうような奴だ。艦娘の大量投入はそれの拡散の原因になる。その輸送艦を止めろ!!》

 

「なんだって?!」

 

《寄生虫の弱点は高速修復剤だ。後、海水や塩に弱い。故に、このフィリピンの泊地からは拡散していないが……。艦娘の大量投入は、世界中の艦娘の脅威になりかねない!初期段階ならばまだ修復剤で治せる。しかし怪物化してしまったら、もう助けられん。殺してやる以外に方法は無い。試したが、縞傘製薬の修復剤は奴らには効かん。とっくに仕組まれてたんだ!縞傘の連中はこの寄生虫を艦娘に取り付かせ、拡散しようとしているんだ!》

 

「……マジでバイオハザードかよ?!」

 

 玄一郎の嫌な予感が当たった瞬間であった。

 

《バイオハザード?生物災害、確かにそうだな。ただ、細菌によるものでは無く、空気感染が無い。それに寄生虫は見えるからな。本物の高速修復剤を持っていれば奴らは寄り付かない》

 

「……縞傘製薬とやらの目的はわからんが、つまり、造田博士のレシピ通りの高速修復剤なら、ちゃんと効くんだな?」

 

《そうだが、ここには縞傘のしかないんだ。お前が私達に持たせてくれたもの以外はな。あと三つしかない。あの明石に使ったが、完全に寄生虫を排出するまでは外に出せん。お前はいくつ持っている?あれば分けてほしい》

 

「無限に作り出せるさ。エネルギーが許す限りな。ほら、横須賀の造田博士のラボにレシピがあったろ?あれを造田博士の助手の人と解析して作り出せるようになったんだ。……とりあえず、今から輸送艦の方に行って事情説明、場合によってはエンジンぶち壊してでも止める。いや、お前等に次のドローン飛ばして高速修復剤をデリバリーしてやるのが先か」

 

《ああ、頼む。私達の危機もあるが、寄生虫を外に出すわけには行かない。お前のメガキャノンで施設毎焼き払ってもらうつもりだったが、高速修復剤が無限に作れるなら、もっと穏便な方法で解決出きるはずだ。とにかく輸送艦の件を早く解決してくれ》

 

「とりあえず、通信の為にドローンはステルス解いて置いていく。そいつにも一応、アームガンがある。なんかあったらそれで援護するからな?」

 

 玄一郎は回線を開いたままで、厨房から外へ出た。

 

 

 

 




 バイオゥ・ハズァードゥ……。某ゲームの始まりのあのやたら発音の良い声が。

 まぁ、寄生虫が出てくる辺り、あれ的ですが。

 しかし。

 龍田の改二おぱーい、大きいよね。うん。大好きだ。怖いけどな?


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑪

 ここまで過去話が長くなるとは思ってませんでした。

 ようやく真ヒロインの扶桑姉妹が主人公と絡みますが、まぁ、ねぇ。

 謎が謎を呼ぶバイオハザード。そしてズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ。


 

 台湾とフィリピンの中間にある無人島へ向かう日本海軍揚陸艦『あぎょう丸』の艦内操舵室。

 

「艦長、レーダーに未確認飛行物体、超高速でこちらに向かってきます!!速度、おおよそマッハ4っ?!」

 

「ええい、音の壁どころか熱の壁を超えてるだとっ?!」

 

「対空迎撃準備ぃぃっ!!」

 

「んなもんこの『あぎょう丸』にあるわけねーだろっ?!艦娘キャリア艦に改装されてから、対空ミサイルもファランクスもねぇっての!!」

 

 操舵室はパニックに陥っていた。それはそうだろう。元は深海大戦前の艦ではあるが、この『あぎょう丸』、レーダー等はその当時の設備を有して優秀かつ、霊力レーダー等も持ち、深海棲艦を感知する事が可能だったが、しかし深海棲艦に対して人間の作った武装は効果が無いためその大半を取り外されていたのである。

 

 それに、深海大戦前であっても、マッハ4を飛べるような戦闘機はほぼ無く、世界最速と言われたロシアのMig25でも機体限界を超えてなんとかマッハ3なのである。マッハ3は通称、熱の壁と言われる。

 

 飛行速度がマッハ3付近に近づくと、空気が急速に圧縮され、断熱圧縮により高温になった空気に機体が加熱され、高温となる。このため、戦闘機に使用されるアルミ合金等の金属が高温に耐えられなくなるのである。

 

 そんな非常識な物、しかも霊力をまとった反応を持つ未確認飛行物体に対応しろと言っても『あぎょう丸』のクルー達は、この艦を動かすのが今回初めてであり、訓練も経験も浅い者しか居ないクルー達はかなりあわてていた。

 

 とはいえ、旧世代の加速力を重視したジェット戦闘機を遥かに超える速度で飛行する謎の物体と言えば、みなさんもうお分かりであろうと思うが、グラビティーウォールを展開させ、超高速ブースターユニットを背部につけた、ゲシュペンストタイプSの他あるまい。

 

 だが、そんな物が飛んでくるとは、誰も思っていなかったし予想も無理なのであった。

 

「てめぇらうるせぇっ!落ち着きやがれっ!!」

 

 近藤が艦長席から怒鳴り散らす。流石に肝が据わっているが、近藤が怒鳴ると同時にずどぉぉん!!と、音速のソニックウェーブが『あぎょう丸』を襲った。

 

 艦体が激しく揺れる。

 

「うわあああああああっ?!」

 

 クルー達がその激しい揺れに倒れ、床を転がる。艦長席の近藤とその横に立っていた土方だけがなんとか手すりに捕まり転倒を防いでいる。とはいえ、まだ艦はぐらんぐらんと揺れ、それに耐えるのに必死である。

 

「くそっ、何だってんだぁ?!」

 

 近藤が艦長席の手すりに捕まりながら艦橋の窓に目をやる。すると、ずぉぉぉぉん!と腕組みしつつ、睨みつけるような眼差しの黒い破壊神・ゲシュペンストがブーストを噴かしつつ、上空から艦橋の高さまで降りてきた。

 

 黒い装甲のあちこちに赤や緑の光を灯し、目のツインカメラをギラン!と光らせるその様は、悪役の戦闘ロボとは確たるべし、という感じである。

 

〔警告する。この先、フィリピン周辺海域並びにフィリピン泊地にバイオハザードが発生している。生物学的危険地帯に貴艦は踏み込もうとしている。直ちに停船しろ〕

 

 間近で見る、ゲシュペンストの迫力に艦橋操舵室の面々が倒れたまま腰を抜かす。

 

 だが、艦長である近藤大佐はそのゲシュペンストにむしろ睨み返して言った。

 

「てめぇっ!!なんのつもりだ、この野郎!!馬鹿やろうっ、てめ、死ぬかと思っただろが、この野郎!!」

 

 近藤は、あまりの事に、言葉のボキャブラリーが飛んでしまっていた。頭に血が昇ったのだろう。いや、元から単純なのか。

 

「ア、『アンノウン……一号』?!」

 

 土方が驚愕に震える。この艦の中で実際に小島基地にて、この未確認物体が戦闘しているところを見たのは彼女だけなのである。

 

 強大な破壊光線で百に近い数の『マヨイ』を焼き払い、ミサイルやマシンガン、刀に斧にドリル、様々な武器にて総勢300にも上る数の深海棲艦を撃破、そして、並みの艦娘では撃破出来ない程の強さを誇るであろう『武蔵の深海棲艦』と単騎で戦った『破壊神』。

 

 それが目の前に居るのだ。しかも、自分の上官に当たる仲間がそんな存在に喧嘩を売っている。

 

「あ、ダメ、死んだわ、こりゃ」

 

 私達死ぬのね、とか土方は思ったが、喧嘩を売られたゲシュペンストは特に怒りもせず、淡々と近藤達に向かって警告を発した。

 

〔繰り返す、艦を止めろ。フィリピン泊地は現在、生物学的危険地帯だ。縞傘製薬の研究施設から非常に危険な生命体が溢れ出し、艦娘達も軍施設の人間も全滅している。対抗策も無いままでの艦娘の大量投入は非常に危険だ。場合によっては人類滅亡に繋がる畏れがある〕

 

「なんだってぇ?艦娘も人間も、全滅?!人類滅亡?!」

 

〔そうだ。フィリピン泊地並びに海上研究施設は縞傘財閥によるバイオテロにより壊滅した。このままこの艦が向かったならば、周辺海域の深海棲艦と交戦は出来るかも知れないが、そのまま艦娘達は感染し、あんたら人間も感染した艦娘達に殺される事になるだろう〕

 

「……詳しく聞かせてくれ。あんた……いや、私は日本海軍舞鶴鎮守府の司令、この『揚陸艦あぎょう丸』の艦長の近藤勲大佐だ。こっちは小島基地司令の土方中佐だ」

 

「ふむ、あんたが近藤大佐か。それに土方中佐、か。私はゲシュペンスト・タイプS。ゲシュペンストと呼んでくれ」

 

「ゲシュペンストがあんたの名前か。とりあえず話をするにも、ここじゃなんだ。とりあえず甲板に降りててくれ。あんたの図体じゃ、艦の狭い廊下は通れんだろうからな」

 

「わかった。こちらも時間が無い。助けに行かねばならん連中がいる。早く来てくれ」

 

「……わかった」

 

 ゲシュペンストはそのまま、ブースターを噴かせつつ、下に下降していった。それを見ながら、近藤は、はひぃ~っ、と息を吐きつつ、艦長席にへたり込む。その横に立っていた土方も、へなへなへな、とその場に緩やかに崩れるように座り込んだ。

 

「……おめぇがアレを怖がる理由、よーくわかったぜ。ありゃあ確かにバケモンだ」

 

「ええ、でもまだ今回はマシですよ。暴れて艦を沈され無いだけ」

 

 そう、土方はあのゲシュペンストが戦闘していたり、基地を破壊したりする様を間近で見ている。正直な所、あの恐怖に関して『爆撃機が絨毯爆撃を行っている様を間近で見るようなものだった』と土方は語っており、彼女はその恐怖を小島基地から江ノ島基地、フィリピン基地に近いルソン基地まで、計三回ほど目撃しているのだ。

 

 どの基地でそれに遭遇しても、生き残った、というよりは見逃してもらえたと土方は思っているのだが、その感想は正しいかったのだな、と先ほどの黒い破壊神と近藤の会話で、なんとなく確信した。

 

 ただ、今回も見逃してもらえるかどうかはわからないが。

 

「……今から、あんなバケモンと話せにゃいかんのか?俺」

 

「早く甲板に行って下さいよ。怒って暴れられたらどうするんですか」

 

 へたりつつ、土方はここを動かないとばかりにぎゅっと手摺りにしがみつく。

 

「ばっか、おめぇも来るんだよ、つか一人ここに残っても、あんなモンが暴れたらどの道この艦なんざ紙細工だろ」

 

 近藤はなんとか気力を奮い立たせて立ち上がり、土方の腕を掴んでぐいっと引っ張りあげ、艦橋を降りる階段へのドアへと向かった。

 

「あーれぇ~、御無体なぁっ、私、まだ死にたくなーーーい!!」

 

「るせぇ、死なば諸共だっ!!覚悟決めやがれっ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 近藤と土方は、それぞれの秘書艦、つまり大和と加賀をつれて悲壮な覚悟を決めて甲板に出たが、そこでは信じられないような光景が広がっていた。

 

 黒い破壊の権化が、駆逐艦娘や戦艦山城の前で正座して説教をくらっていたのである。

 

「あんたねぇ、もう少し常識を考えなさいよっ!!」

 

 げしっ、げしっ、げしっ、と、何故か頭にご飯の粒とその頭部の艦橋部にワカメをぶら下げた山城が正座したゲシュペンストを蹴っていた。

 

「朝食のトレイひっくり返してこの様よっ!!来るなら来るで、もう少し静かに来なさい!!」

 

 どげしっ、げしっ、げしっ、げしっ。

 

 それを見て、近藤と土方は顔を真っ青にした。それはそうなるだろう。海軍の基地をいくつも壊滅させるような、艦娘達が束になってもかなわないような怪物を艦娘が足蹴にしているのだ。

 

「山城、ゲシュペンストさんが来て嬉しいのはわかるけど、その辺で、ね?」

 

 姉の扶桑がやんわりとそんな事を言うが、それを聞いて土方は、

 

(いや、あんた何言ってんの?!破壊神が来て嬉しいわきゃないでしょおおおっ?!つか、不幸が頭回りすぎてあんた、破滅願望でもあんのかよぉぉぉっ?!)

 

 と思った。いや、そう口に出しそうになった。

 

 近藤は近藤で固まっている。フリーズ状態だ。その隣にいる大和は困った顔で首など傾げている。

 

 無論、大和は扶桑姉妹や吹雪達と仲が良く、ゲシュペンストについての話も聞いていた為、ゲシュペンストが実は友好的な存在である事を知っていたので、

 

(ええっと、あれはやり過ぎなのではないでしょうか?)

 

 などと思っているだけだったりする。

 

「はぁっ?!ねぇさま、何言ってんですか!わ、私はこんな奴に会えて、う、嬉しいとか……ないですよ!」

 

 山城は姉の扶桑の言葉に、真っ赤になって蹴りを止める。心なしかもじもじ。

 

 そんな山城を見て扶桑はうふふっと上品そうに、しかし嬉しそうに笑っている。その隣には吹雪や如月がニマニマして生暖かい笑みを浮かべてニシシ。

 

 ラブコメ物の典型的なツンデレヒロインを見守る周囲の眼差しといった感があった。

 

 だが、土方の心はもう荒れに荒れていた。命の危険まで感じて焦りまくりである。なにせ主人公が破壊神、日本海軍に認定された謎の敵性物体なのである。

 

(つか、なに頬染めてんのぉぉぉっ?!ツンデレ?!破壊神にツンデレてんじゃねぇぇぇ~っ?!)

 

 なお、近藤はまだフリーズ中である。

 

「山城」

 

 ゲシュペンストが山城をじぃぃーっと見つめる。ロボット故に表情は変わらないが、真面目な口調である。

 

「なっ、なによ……。そりゃあ久しぶりだけど……」

 

 もじもじする山城。もじもじ、と何事か聞き取れない言葉を呟きつつうつむきながらもはやその顔は真っ赤に紅潮している。もじもじ、そりゃあ嬉しく無いわけじゃないけど、もじもじ……。

 

(つか久しぶりってなに?!知り合いなんか?つか遠距離恋愛かなんかなの?!)

 

 ゲシュペンストが山城の頭を指差し。

 

「……頭にワカメびろーん」

 

 山城の頭の艦橋部にワカメが付いているのを教える。はっきり言って、山城の反応で遊んでいるとしか思えない。

 

 ぶはっ!と大和が噴き出した。いや、加賀も向こうに背を向けて肩を震わせながら、笑いをこらえている。

 

 かぁぁぁぁっ、と山城の顔はさらに真っ赤になり、涙目で、

 

「あんたのせいでしょおおおおおっ!!」

 

 どげしっ!!と、ゲシュペンストの頭を思い切り蹴った。

 

「わははははははは!山城ぉ、そんなに蹴るとパンツ見えるぞぉ?ひゃーっひゃっひゃっ、山城のぉ、おパンツ今日は赤~っ!!」

 

 蹴られつつも正座したまま微動だにせず、笑うゲシュペンスト。あんたはガキかっ!!と思うような発言に、土方は目を点にした。

 

(……なに、なんなのこれ?!破壊神が艦娘に蹴られて笑っているってなんなの?しかもパンツ見て喜ぶってガキかっ!?ガキなのかっ?!)

 

「あのぉ、山城さん、近藤さんと土方さんが……」

 

 吹雪が近藤達を指差して山城達に伝える。

 

(いーやぁぁぁぁっ、フブキチっ、こんな訳わからない状況で、私達を指差すのやめてぇぇぇっ?!)

 

 土方はとっさに近藤を見たが、近藤はもう立ち直っていた。

 

 ゴホン、と咳払いをして。

 

「……お前ら、仲良いの?お友達なの?」

 

 いや、立ち直ってなかった。フリーズは解けたようだが、近藤の脳みそはあまり回転していない。やはり、わけがわからないまま何か事態を理解しようとしてはいるが、的外れ……でもないが、何か聞くポイントが違う。

 

 それに対して吹雪が、

 

「ええっと……昔の小島基地の壊滅の少し前に、命を助けていただきまして。それ以来、なんといいますか、みんなで親しくお付き合いさせてもらってまして……あはは」

 

「……ソウデスカ」

 

 近藤は額に手を当てて、少し俯いた。

 

 内心、近藤はこの未確認物体とのファーストコンタクトの重要性とか、海軍史に残ってしまうかも知れんとか考えていた。

 

 だが、部下である艦娘達は自分達の知らないところでこの未確認物体とお友達になっていたのである。

 

 途端に近藤は自分が考えていたのが馬鹿らしくなった。

 

「まさか、遊びに来たってえんじゃねぇよなぁ?『アンノウン一号』さんよぉ?」

 

 もしそうなら泣くぞ、とばかりに近藤は涙目だった。

 

「いや、来た要件は緊急性が高い、というより最初に伝えた要件なんだが、どうも減速時のソニックブームで艦が揺れたせいで、朝飯をひっくり返した艦娘代表に説教くらってな。うむ、急いでても、その辺考慮が足りなかった。いやはや、すまんすまん」

 

 うーむ、とゲシュペンストは頭を掻くような仕草をする。そのゲシュペンストの前に、空気など読まないかのように唐突に如月がとことこっ、とやってきて、

 

「ゲシュさんは、パンツ好きなのぉ?うふふふっ、なら、見てぇ~、あはっ、このシルクのおパンツ!」

 

 と、スカートを捲ってゲシュペンストにパンツを見せた。ライトピンクの大人のおパンツだった。光沢感がなかなかよろしい逸品である。

 

「……お止めなさい!」

 

 すかさず、ずびしっ!と山城が如月の脳天にチョップをかまして止めさせ、その身体を抱えて退かせる。

 

「……まぁ、相変わらずで安心はした。というか、如月、ちょっとそのおパンツはお前さんには早すぎないか?うん。あと、人に軽々しくおパンツ見せちゃいけないぞ?お兄さん、ちょっと心配」

 

「はぁ~い」

 

 如月はゲシュペンストの言うことに素直に頷いた。

 

 如月はもっと慎み深い子だと思っていた近藤だったがこれは舞鶴鎮守府のエロい高雄シスターズに感化されたのか?!などと思うも、なにかこう、自分の娘が知らないところで悪い男に騙されているような複雑な感覚に襲われた。

 

とはいえ、パンツで有名な吹雪型一番艦は全くパンツを見せて居ないので、その辺はフブキチのフブキチたる所以だろう。こちらは空気を読むパンツであった(?)。

 

「……まぁ、こうもしてはいられない。ええっと、そっちが近藤さんで、そっちが土方さんか。とりあえず話をせにゃならんが、その前に、沖田少佐は無事だと本人から伝えてくれ、と頼まれた。あばら骨三本骨折に打ち身打撲その他で全治3ヶ月の怪我を負っているが、大飯が食える程度には元気だ」

 

「無事なのかっ?!」

 

「……ちょっと待てよっと、ほい、これで直接話が出来るぞ?」

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)は小型の液晶タブレットをどこからか取り出し、近藤に手渡した。

 

「それはテレビ電話みたいなもんだ。それに向かって話せば通話が出来る」

 

「ん?こんな下敷きみてぇなのがか?……おおっ、映った。む?おい、沖田、いつからお前、メガネを掛けるように……って、大淀?!」

 

《はい、内閣軍視局の大淀です。はぁ、沖田少佐は隣にいるんですが、その……非常に困ったトラブルがありまして、ええ。ちょっとゲシュペンストさんに代わってもらえますと……ありがたいのですが》

 

 近藤は、頭に?が浮かんでいるような表情で、タブレットを渡そうとするが、ゲシュペンストは近藤を手で制して

 

「そのままそれを持っててくれ。こちらは直接話せる。電話の親機と子機みたいなものだ」

 

 と言い、大淀の持つ液晶モニターに直接話しかけた。

 

「困ったトラブル、というのはなんだ?」

 

《それが……。この拠点に、一体の深海棲艦が白旗を上げながら、なんと言いますかズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイと踊りを踊ってやって来たのです。ええ、それはまさしくズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイでしたので……》

 

 大淀がタブレットのカメラを、沖田少佐の方へ向けると、深海棲艦が腕をフリフリしながらズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイと土方の前で踊っていた。それも白旗を手に持ちながら、

 

「ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ」

 

 と。

 

 その様は、全く敵意が無い事を示しつつ、どやぁ、としたうっとおしさを秘めており、それを何であるかと言われても、ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイだとしか言えない何かだった。

 

 その深海棲艦の、

 

 「ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ」

 

 という声を聞いて、加賀がタブレットの画面を覗く。

 

「……五航戦の子ね。深海化してたの。そう」

 

 とクールに崩れない姿勢を保ちつつサラリと解説し、どこからかおにぎりの包みを出すと、それを掴んで頬張った。多分お腹が減っていたのだと思うが、いや、意味がわからない。

 

「……すまん、わけがわからないよ?」

 

 玄一郎は、その状況がわけわからなかった。

 

 しかし、近藤にも土方にも、誰にももはや、この状況は理解不能だった。

 

 とりあえず。

 

 次回に続く!!

 




 ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ。

 龍田達は、待ってるのに時間をそんなに裂いてて良いのか?とか思ったりなんだりするが、ドローン宅急便で、高速修復剤と対寄生生物用の兵器を送ってますのである程度安心。

 昔、ぎょう虫の検査用のフィルムがあったなぁ。ネタとして使おうかと思ったけど、マニアック過ぎてやめました。なお、あのフィルムの名前はウスイ法ぎょう虫検査用セロファン、だそうな。

 次回、ぎょう虫のセロファンを回収するときに、女の子の奴でなんかエッチい事想像した小学校のおもひで(嘘)でまたあおう!(だから嘘だっての!!)


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【過去話】閑話休題?

 過去話は重くシリアスですが、どうせ平和な未来だとギャグになるのです。

 どうせギャグになるなら、重くてもいいよね?とか思いつつ。

 入れ忘れた部分をお蔵出し、です。
 


 

 『大淀』という艦娘は優秀かつ才能溢れる艦娘である。

 

 だが、その大淀の中にあって任艦娘の大淀の頂点に立つ大淀という艦娘はコンプレックスの塊である。

 

 この大淀は様々な異名や徒名、蔑称を持つ。

 

 『大鴉』『淀み鴉』『淀君』『エロメガネ』。

 

 恐れられたり、役職からの徒名だったり、過去を揶揄されたり。

 

 どれも彼女に纏わる一面をそれぞれ表している別名だが、どれもが本当の彼女では無い。

 

 彼女はコンプレックスの塊である。

 

 彼女は彼女を知る者達が知るように、思うように、強くは無い。

 

 むしろ弱さの塊なのである。

 

 彼女は普通の艦娘では無い。いや、普通のどの艦娘達がそうであるように存在する事を許されなかった。

 

 礼号組の大淀ならば、普通の艦娘であれただろう。もしくは他の任艦娘の大淀のようにあれたならばもっと彼女も普通でいられたかも知れない。

 

 男達に売られて、その身を汚され、何も知らなかった大淀は、その恐怖の中でそれでも生きることを手放さず、自分の生命を守るために、その汚れを受け入れて生きてきた。

 

 男達の嗜虐心をそそる、容姿はどれだけ痛めつけられても傷つくことは無く、どれだけ責められても死ぬことは無い。

 

 しかし、心に刻まれた傷には入渠も高速修復剤も効かず、むしろ彼女を苛んできた。

 

 そうして、心を病み、責められても何の反応も示さなくなった彼女は、若く、女も知らぬ潔癖症の若手議員をからかうためだけにタダ同然で買われ、その若手議員に押し付けられた。

 

 彼女にとって、それは幸運だったのか不幸だったのかわからない。いや、最初は幸運で最後は不幸だった、と言うべきかも知れないし、最初から不幸だったとも言うべきなのかも知れない。

 

 長倉平八郎に与えられた彼女は、初めて受ける人の優しさを知ったが、いつも怯えていた。

 

 長倉が信じられなかったのでは無い。人間そのもの全てを信じていなかったのだ。

 

 いつか長倉も豹変するだろう、いつも自分に対する人間は欲望で自分を傷つけるのだから、と彼女は思っていた。

 

 それは確かに彼女の偏見だったが、しかしそのような境遇しか彼女は知らなかったのである。そのような人間しか見たことがなかったのである。それは仕方の無い事であった。

 

 いつそうなっても良いように、もしくはそうならないように彼女は長倉に与えられた仕事を出来うるだけ、持てる能力の全てを以て必死でこなして来た。傷つけられたくない一心で、怯えながら。

 

 長倉はその大淀の能力を賞賛したが、大淀は自分を常に卑下していた。

 

 植え付けられたトラウマは、どれだけ主に賞賛されたとしても癒える事は無かった。

 

 長倉は一度も彼女を愛する事は無く身体を求める事も無かったが、それを大淀は道具としての自分を長倉は求めているだけであり、長倉にとっての自分にはそれだけの価値しかないのだ、と思っていた。

 

 長倉からすれば、彼は大淀の境遇を慮り出来るだけ過去に触れないようにと思っていただけであったし、彼が妻を娶ろうともしなかったのは、彼がいつか日本を奪還できたならば、そのときは大淀を娶ろうと思っていたからなのだが、不幸な行き違いは、後に悲劇を呼んだ。

 

 大淀が長倉の真意を知ったのは、日本奪還計画の実行を間近にして、彼が暗殺された後だった。

 

 その後の大淀は壊れた心のまま、長倉の望みを果たす為に自分の全ての能力を発揮した。知略、知謀、今まで長倉と培ったコネクション、それらを使い、影から日本奪還を果たした。

 

 だが、それでも。

  

 コンプレックスの塊は彼女の心に重石としてずっとのし掛かり続けている。

 

 愛していたのだと気づいたのは主を失ってからだった。

 

 あまりに気づくのが遅く、悲しみと負い目と共に彼女は今も他者に望まれるまま課せられた自分の仕事のまま、動いている。

 

 歯車の噛み合わない、心を抱えながら。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、大淀さんはエロメガネである。

 

 エロいメガネを掛けた、脳みそピンク色の、淫乱艦娘である。

 

 いいや、実は清楚で清純、優しくて可憐な艦娘である。

 

 いやいや、才色兼備、戦闘指揮もこなして確実に艦隊を勝利に導く理想の上司である。

 

 ははは、何を言う。彼女は気が弱く、見ろよ、ゲシュペンストを見ては恐怖で気絶し、『血濡れの薙刀姫』の眼光を見ては失禁して気絶する。そんなか弱い女性なのだ。

 

 さて。

 

 どの大淀が本当の大淀なのだろうか。

 

 高雄が知る大淀は、長倉平八郎と共に日本奪還の為に働いた才女としての彼女である。

 

 木曾達が知る彼女は指揮に優れ、判断能力も間違いの無い理想的なリーダーとしての彼女である。

 

 龍田達が知る彼女は、抜け目が無く、鴉のように狡猾で蛇のように執念深い、化け物のような彼女である。

 

 では、玄一郎が知る大淀という艦娘は?

 

 その答えは簡単である。

 

 気絶しちゃった怖がりの、裸がエロいメガネの図書委員的おねーさん。

 

 ほら、コイツにかかればコレだ。

 

 いや、大淀にもしも彼女についての印象を話さなければならないとしたら、裸云々はバレたらいけないので『怖がりの成長した文学少女系おねーさん』となるだろう。

 

 ある意味、大淀の弱さをやたらと玄一郎は見てしまっている、というか、気絶したり失禁したところをやたらと見たわけであるからして、そういう認識を持ってしまったわけだが、玄一郎は正直なところアホである。

 

 バカと言っても良いだろう。

 

 とは言っても、このアホの良いところは、人の弱さを気にしない。人の失態を気にしない。人の世話を特に嫌がらないし、誰だって失敗はあるし怖いものは怖いだろうし、仕方ないよね?と肯定する単純さだろうか。

 

 欠点だらけの自分を知っているが故の、完璧を求めない直感人間。感情で動いて墓穴を掘る、善人(変態)。頭は回る癖に、その頭をアホな事に使う天才。器用貧乏な高性能自爆男。

 

 それが、黒田玄一郎というバカの正体であった。

 

 バカを相手にする、玄人(いろんな意味で)のおねぇさん。

 

 どっちが活動的とかそういうレベルでは無い。土俵が違いすぎて取り組みさえできないほど掛け違った存在なのだ、これは。

 

 玄一郎と大淀は、天の軽い空気と、地の底のマグマほどにレベルが違う。

 

 しかし。

 

 交わらないと思うのは、浅はかである。

 

 時として天の空気は下降し、地のマグマは天に噴き出すものだ。

 

 男女の関わりと言うのは摩訶不思議なもんだなぁ、などと言いつつ。

 

 未来に繋がる、脳天気な善人ゲス男と重ドM系メガネ女子の話はさらに続く。

 

 厳密には、この10年後の過酷なベッドウエー夜戦を乗り越えたり、尻に敷かれたり、むしろ上に乗られたりいろいろする未来が待ってるよ?(台無し)。




 大淀さんは、確信ド級M。普段の仕事ではドSですが。

 革のボンデージより、荒縄が似合うような、そんな玄人的な……げふんげふん。

 まぁ、いけない図書委員長的な感じですかねー。まぁ、過激なアレは無いですよ?R15ですし。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑫

 深海棲艦、ボスラッシュどころでは無いぐらいに、ボスが集まってたよ?

 さらっと、前代未聞の深海棲艦との一時的な停戦協定。

 


 深海鶴棲姫は。

 

…………ググググググ))))))ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ

 

 なぜそのような踊りを踊りながら無人島拠点にやってきたのかわからない辺りが謎であったが、とりあえずゲシュペンストの

 

《高速修復剤ぶっかけろ》

 

 の一言で、解決してしまった。

 

 高速修復剤のバケツを見た深海瑞鶴は、首をうんうんと縦に振り『カモ━━━━щ(゚Д゚щ)━━━━ン』

 

 どばっしゃーーーっ!!と土方が高速修復剤をぶっかけたら、その身体のあちこちから、いきなり煙がジュォォォォォ、と噴き出し、なにやら甲殻を持ちあちこちに触手を生やしたヤツメウナギのようなものがいくつも出て来て地面に落ちて行く。

 

 地面に落ちたその謎の生物群は、煙を出しながらのた打ちまわり、どんどん溶けて消滅していく。

 

 深海瑞鶴はなおも『カモ━━━━щ(゚Д゚щ)━━━━ン!!』とジェスチャーを続けたので、

 

ゲシュペンストの

 

《もっとぶっかけろ!!》

 

 の言葉通りに、大淀と土方はどばっしゃーーーっ!!どばっしゃーーーっ!!と、バケツを深海瑞鶴にぶちまけまくり、計四回ぶっかけて、その正体不明のヤツメウナギが出ることは無くなった。

 

 その様子は液晶モニターのカメラであぎょう丸にいるゲシュペンストの所にも送られており、近藤達も液晶タブレットでそれを見ることになった。

 

「……酷い目にあったわ」

 

 深海瑞鶴はようやくカモ━━━━щ(゚Д゚щ)━━━━ンも、ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイも止め、肩をがっくり落としてゼーハーゼーハーと肩で息をしながら言った。

 

 どうやらこの深海鶴棲姫こと深海瑞鶴は会話が出来るタイプの深海棲艦のようである。

 

 しかしそれならばなぜ今まで、ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイなどと踊っていたのか。

 

「……ええ、話せば長くなるけど、さっき駆除してもらった寄生虫みたいなののせいよ。脳みそに巣くわれて言葉を出せなくなっちゃって、なんとかジェスチャーで何とかこちらの意思を伝えようとしたけれど、あの動きしか出来なかったのよ……。よくアレでわかったわね、あなた達」

 

 つまり、脳みその言語野やそういう部分にまで寄生生物に巣くわれてしまって脳が正常に働かなくなってしまっていたが、なんとかそれでも助けを求める為にこの無人島拠点まできたらしい。

 

「あんな変な踊り、恥だわ。この私が……」

 

 頭を抱えつつ苦悩する深海瑞鶴。しかし、もしも艦娘側の瑞鶴が聞いたらどう思うだろうなぁ、と大淀や土方達は思った。

 

 なにしろ瑞鶴は五航戦のすぐ踊る方などと言われており、なにかあれば先ほどのズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイの振り付けそのままに踊るのである。

 

「ええっと、で、高速修復剤をかけるのが正解、だったと?」

 

「そうよ。助かったわ。フィリピンのあの研究施設に捕らえられた仲間を助けに行ったのだけど、化け物に群がられてね。襲いかかって来る奴は倒したのだけれどその身体の中に巣くっていた寄生虫にやられちゃったのよ。途中、まだ生き残っていた艦娘が高速修復剤で寄生虫が寄り付かないように予防してたのを見たから、基地の一つに入ってそこの高速修復剤を使ったのだけど……。そこの修復剤はニセモノだったの。むしろ身体に取り付いた寄生虫が増えちゃって、あんな状態に……」

 

《ふむ、これで『造田博士のオリジナルレシピ』の修復剤の効果と縞傘の修復剤のろくでもなさがわかったわけだが、ふぅむ。ちょっとすまないが、君は瑞鶴でいいのかな?》

 

 大淀の持つ液晶モニターでその様子を見ていたゲシュペンストが深海瑞鶴に話しかける。深海瑞鶴は、その声の出所を探し、それが液晶モニターからであると気づいた。

 

「……誰?というかその声は、その板から?」

 

《ああ、それは無線機みたいなものだ。こちらも状況をモニターしているし、話も聞いているぞ?》

 

「……こんな薄い板が無線ねぇ。技術の進歩って奴かしら。そうよ。私は瑞鶴よ」

 

 モニターを覗き込みながら深海瑞鶴はへぇーっと感心しつつ、そのモニターに向かって挨拶をした。

 

 この瑞鶴、深海棲艦にしては友好的というのか、礼儀を知っているというのか。物怖じせずに理性的に対応しているな、と玄一郎は思い、そしてひょっとしたらこちらの要望などを交渉してみるのも良いかも知れないな、と思った。

 

《うん、初めましてと言うべきかな。俺はゲシュペンストと言う。単刀直入に聞くが、深海側で他に寄生生物に感染している者はいるか?》

 

「……山城が感染してるわ。そちらの呼び方だと『海峡夜棲姫』かしら。姉の扶桑があの研究施設に捕らわれてるのよ。ここに連れてくれば良かったかも知れないけど、敵の拠点に連れてくるのはリスクが大きかったから」

 

 玄一郎は、モニターの向こう側、つまりあぎょう丸で、うぐっ?!となった。チラリとあぎょう丸の甲板にいる扶桑姉妹を思わず見てしまう。

 

 じぃぃぃぃ、と扶桑姉妹もゲシュペンスト(=玄一郎)の見ており、目が合った瞬間に二人とも首をコクコクコクっ、と頷かせた。つまり高速修復剤を上げてくれ、と言っているのだ。

 

《……そっちにも扶桑型っているのな。つか……。いや、とりあえず高速修復剤を必要なだけ持って行ってやってくれ。深海側だとしても扶桑型と聞いてはやはり放っておけん。それに感染の拡大は防がなければならんからな》

 

 け、けして扶桑姉妹の名前が出たからじゃないんだからねっ!あと、扶桑姉妹に頼まれたからじゃないんだからねっ?!と、心の中でツンデレ風に言ってみる。

 

「助かるわ。……ところで、扶桑型になにか思い入れでもあるのかしら?」

 

 君のような、勘の良い子は嫌いだよ。そんなことを言うもんだから扶桑姉妹がやたらと機嫌が良いじゃないか。ワクテカしてるし。 

 

《…………いや。まぁ、縁がある程度、だな》

 

 なんとか控えめに言う。

 

「なーる。まぁ男から見れば放った置けないってとこ?」

 

 おそらく、玄一郎に口が有ったなら、吐血しているのではないかと思うような強烈な言葉のボディブロウだった。

 

 ぐふぅっ?!何故だ、何故そこまで勘が良いんだこの子?!遠く離れているのに、つかこっちの状況を見てんじゃねぇよな?!

 

《……黙秘権を行使する。それより周りへの予防も考えてくれ。寄生生物は海水を嫌うらしいが、先ほどの駆除を見る限り、体内に潜り込んだ奴は修復剤でしか駆除出来ないようだ。念のため、出来れば全員に使って欲しい。それにはどれぐらい必要だ?》

 

「……ドックで一斉に浸かれれば、30個、かしら。そうね、艦娘側には入渠施設っての、あるんでしょ?それを借りれればいちいち一人バケツ数杯って必要無いけど、それでもちょっと多い、かな?」

 

《……上陸出来る深海棲艦に関してはそれで有効だろうが、イ級とかその辺は?》

 

「この周辺海域には居ないわ。というかこの近辺で展開していた仲間はみんな上陸出来る上級者ばかりよ」

 

《そう言えば、駆逐艦あまりは見なかったな。何故だ?》

 

《あの研究施設に捕らえられた『扶桑』は研究施設で何かの実験台にされてるわ。死んではいないけれど、その強い念で寄生中に取り付かれた化け物を統率するために利用されてるのよ。その念は、化け物一体一体を強化して、攻撃を中和する作用があるみたいで、まず、それを中和しなければでは生半な攻撃はまず通じないわ。だから、その念に対抗出来る仲間達に来て貰ったのよ》

 

 深海瑞鶴の話によれば、深海扶桑、つまり海峡夜棲姫の片割れである扶桑の霊力は深海棲艦の中でも随一を誇るほどに強いものであり、その扶桑が発する念を抑え込むには各海域のボス達を集めてやっとである、と言う。

 

 そして、効率良く中和するために、フィリピン周辺海域に幾重にも円形に布陣して念の結界を展開し、その結界を構築するボス達の周辺をそれぞれの部下の中でも強い深海棲艦に護衛させていたらしい。

 

 つまり、フィリピン泊地へと向かおうとしていた艦娘達やゲシュペンストに攻撃して来た深海棲艦の艦隊は言わば各海域のボス達の親衛隊のようなもので、そりゃあ強かったわけである。

 

《……各海域のボスって、お前、どんだけ集まってんだよ?!》

 

「陸上型以外ね。頼んで集まってもらうの大変だったのよ?パラオの赤城さんは二つ返事で快く受けてくれたけど、トラックの加賀さんなんてもう、五航戦の子はこれだから、とかなんだの言ってそりゃあもう、イヤミばかり言われたわ。いやんなっちゃう!それに、大和さんでしょ、長門さんも遠路遙々来てくれたし、あとはいろいろね?」

 

《…………ソウデスカ》

 

 つまり、フィリピン周辺海域には深海棲艦のボスだらけである事が、今判明した。

 

 深海瑞鶴が愚痴なのかそれとも自慢なのかどちらともつかないように言ったその話を聞いていた全員の顔が青ざめた瞬間である。

 

 しかもそれらの鬼姫級の正体までサラッとばらしている辺り、もうね。

 

 例えばパラオのボスは海軍では空母水鬼と呼称されている個体であるが、深海瑞鶴はその空母水鬼を『赤城』と呼んだ。また、トラックの加賀はおそらく空母棲姫の事だろう。しかも、大和の深海棲艦までいるのだと言う。

 

 その通信内容を聞いて、あぎょう丸の近藤と土方はお互いの護衛をしてくれている大和と加賀を思わず見てしまったほどである。

 

《あー、結界を維持せにゃならんというのなら、全員その島に来ると言うわけにはいかんのだろう?》

 

「うん、とりあえず交代って事になるわね」

 

《いや、まず、寄生生物に感染しているかどうかはともかく、高速修復剤をいくつか持って帰って駆除出来るだけやって人員に余裕を持たせた上で入渠に来させて、んで入渠終わった奴にも高速修復剤を持たせて帰らせて、って方法でどうだ?その方が早いだろう?》

 

「でも、あんたたちにとって高速修復剤って貴重なんじゃないの?こっちでもそうだけどさ?」

 

《感染が広まれば、そちらだけではなく、世界滅亡の危機なんだよ。それを食い止める為ならなんぼでも用意してやる。そちらはそちらで寄生生物を全滅させる事を考えてくれ。ああ、あとは、高速修復剤をやる代わりと言ってはなんだが、こちら側の艦娘や人間に攻撃しないでくれ。この事態が収まるまででも良いからさ?》

 

「そうね、まぁ、扶桑さんをなんとか出来るまで、私達もそちらをどうこうするのもかなりの負担だし、高速修復剤、使ってくれたしね。そちらからの攻撃が無いなら、こっちも今まで通り攻撃はしないわ」

 

 深海瑞鶴はそう言い、高速修復剤を幾つか大淀達から受け取ると、また海へと帰って行った。

 

「とりあえず、次の仲間を寄越すからよろしくねー!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……各海域のボスが、この近海に集結してるってマジカヨ」

 

 ここはあぎょう丸の甲板である。

 

 近藤はまだ真っ青な顔のままである。

 

「まぁ今回、一時的な停戦協定を結べたわけですし……というか、深海棲艦との停戦協定なんて、前代未聞ですけど、いや、いいのかしら?というか、上を通してませんけど?!」

 

 土方も混乱している。

 

「……じゃあ、ボスだらけん中、あんたら喧嘩売って来るか?つか、正直言って、無理だろ。俺だって無理だわ。あの瑞鶴っての一体だけならなんとか出来るかも知れねぇけどよ、それに赤城?加賀?しかも大和までって、そりゃ死ぬわー。ムサシにやられて死にかけてんだぞ、俺。無理だわ~」

 

 玄一郎はお手上げ、とばかりに手を上げる。

 

「……でも、深海側にも私達がいるなんて」

 

 扶桑が少し目を伏せ、すすすっ、とゲシュペンスト(=玄一郎)の隣に来てそう言う。

 

「というか、深海のねぇさまが捕らわれている、ってあの瑞鶴が言ってたわね、ゲスロボット?」

 

 山城も扶桑とは逆の方向からゲシュペンスト(=玄一郎)の隣にささっ、と来る。

 

「ええっと、とりあえずなんでチミ達、俺の隣に来るかな?」

 

「……助けるんでしょうね?向こうの扶桑ねぇさま」

 

「その、出来ましたら……、たしかに、いずれは敵として合間見えないといけないかも知れませんが、私と同じ『扶桑』なのでしたら。それに深海側の山城も、きっと悲しんでいるはず。そう思うと……」

 

 うるうるうる、と扶桑姉妹は瞳を潤ませつつ玄一郎を見上げるように見つめる。

 

「……うううっ、君らそれズルいぞ?!つか、くぅぅぅっ」

 

 扶桑型のゲシュペンスト限定最大必殺攻撃、泣き落とし、であった。

 

「わかった!わかったよ!というかどのみちあの研究施設には行かなきゃいかん。出来るだけの事はするが、だが……。いや、助ける方針でやるけどさ」

 

 がっくり、とゲシュペンスト(=玄一郎)は頭をうなだれさせつつ、どうも、捕らえられた深海側の扶桑を救出せねばならない羽目になったようである。

 

 

「……あのな?今回の作戦指揮官、俺なんだけどな?」

 

 近藤がそう呟くも、しかしながら事態はすでに近藤達の手に負えない所まで来てしまっている。

 

 それに、ゲシュペンストはおろか、深海棲艦のボス達にも手も足も出ないのだ。

 

 もう、傍観する以外、彼らには方法がなかったのであった。




 深海瑞鶴は寄生生物に感染していたわけで。

 まぁ、深海側のボス達は集まっていますが、ムサシはまだ眠ってますので加わってません。

 さて、次回、ゲシュペンストの新兵器が炸裂するぞぉ?(嘘)でまたあおう!

 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑬

 深海山城と深海大和が登場。

 なお、話が遅々として進まないけど、南方棲戦姫の乳は元々出てます。

 まぁ、風呂回(?)なので半裸でもオッケー?


 『あぎょう丸』はゲシュペンストによって足止めをくらったものの、計画通り現地時間の1200時、つまり正午に目的地である無人島、つまりゲシュペンストが救助した艦娘達の療養所として拠点を構えた島に上陸した。

 

 何故予定通りに到着出来たのかと言えば。

 

 深海棲艦との停戦協定を深海瑞鶴こと、深海鶴棲姫と結んだ事によって、グネグネ曲がるような航路をとる必要が無くなり、ほぼ一直線に進めたからである。

 

 レーダーに映っていた深海棲艦の反応がものの見事に『あぎょう丸』の前から消え失せ、左右に分かれてモーゼの十戒よろしく航路から退き、その航路上に一体出現したヲ級エリートが、

 

「ススメ。我ラ二交戦ノ意志ハ無イ」

 

 と伝えた時にはもう、

 

「コイツ喋ったぁ?!つか、ヲしか言えねぇんじゃ無かったのか?!」

 

 などと驚いたが、まぁ、驚く所はそこじゃないだろ、どう考えても。なお、そう伝えたヲ級エリートさんは、空母水鬼さん(赤城さん)の所の参謀さん(MMDのモデルのモンテコア氏のヲ級さんを想像していただけるとありがたい)であり、かなり美人だったりする。

 

 まぁ、それはさておき。 

 

 近藤達は、無人島に着いて驚いた。

 

 いや、ゲシュペンストから、傷ついた艦娘達の為の療養所を建てたとは聞かされてはいたが、近藤は野戦病院のようなバラック小屋のようなあまり衛生的ではない簡易的なものを想像していたのである。

 

 それがどうだろう。浜辺から歩いてすぐの小高い丘に見える立派なログハウス風の本格的な真新しい木造建築物がずどぉぉん。

 

「南国リゾートの別荘じゃねぇかぁっ!!」

 

 それは、ゲシュペンストが夜に暇だから、と夜な夜な建物の周りを整地したり、建物増設したりした結果、もはやどこぞの金持ちの避暑地的な大きな別荘のようになってしまった拠点のなれの果て、いや、完成型であった。

 

 丘の上までの道は周りは確かに野生の木々で埋め尽くされてはいるが、道そのものは綺麗に石畳で整えられ、そしてその横には雨などの水を流す為のやや広い側溝があり、それもまた穴の開いた石のブロックで蓋をされている。

 

 また、丘の傾斜を考えて拠点までの道は歩きやすいようにやや蛇行して作ってあり、ここまでやるか?と言うような出来である。

 

「……高雄さん、アイツが全部作ったのか?これ」

 

 近藤は、浜辺まで迎えに来てくれた高雄に聞いたが、高雄は微妙な笑みを浮かべて、

 

「ありのまま起こった事を話しますと。私は食糧確保の為に、動ける艦娘達を連れて山に行ったんです。幸い、破棄されていたバナナ園や芋の畑を見つけることが出来まして、とりあえずみんなで食べる分持って帰って、昼頃に帰りましたら、もう、あの何も無かった丘にあの建物が出来てました。魔法か何かか?と目を疑いました。一体彼がどのように建築したのか、見学しても良いか?と申し出まして、彼に許可をとって、お風呂を作るから見てて、と言われまして、建てている所を見せていただきましたが……」

 

 そう言いつつ、その顔に冷や汗がたらーりと浮かぶ。

 

「ゴクリ」

 

 と、近藤は生唾を飲み込む。

 

 単に普通に聞いただけだったが、根が真面目な高雄が説明しようとそんな微妙な表情で真面目に話し始めたので、近藤は聞いちゃいけない事だったんじゃね?的に思ったが、高雄は止まらなかった。

 

「大きな岩をレーザービームでスライスしてタイルを作るわ、デカいドリルで穴を掘るわ、超スピードで、有り得ない速さで、ガガガッ!と、ガガガッ!と、側溝から排水までガガガッ!ですよ?!しかも粘土こねて風呂の形作って、ビームで焼き固めて浴槽作って、ドッカーン!!ですよ?!超科学ですよ?!万能科学、ドッカーン!!風呂から洗い場までオール陶器、一つの焼き物ですよ?!ありえなーーーい!!そんなお風呂、ありえなーーーい!!どんな作り方ですかっ!!つか、そんな非常識、お父様でもやらんわっ!!」

 

 高雄は錯乱したように、まるで恐ろしいものを見てしまって、今までそれを誰にも告白出来なかったのが、ようやくその話が出来る人を見つけたかのように、ダーッとぶちまけるように話した。

 

 はっきり言おう。

 

 この高雄は、歴戦の高雄であり、近藤も尊敬する大提督『菅原大将』の旗艦を勤めていた、いわばレジェンド級の高雄なのである。

 

 頭脳明晰、冷静沈着、常に慎みを持ち、しかし戦場に置いては剛胆、そういう艦娘だったはずなのである。

 

 ある種、近藤にとっては雲の上の艦娘とも言える彼女が、ガガガッ!とかドッカーン!!などと言って取り乱したかのように身振り手振りで説明する姿に、ああ、この人(艦娘)でも錯乱するんだ、と思い、シンパシーを感じてしまった。

 

 なお、高雄の言う『お父様』も、ビアン・ゾルダークである。非常に非常識な事ばかりやっていた様子であるが、それはさておき。

 

 近藤の後ろを大和と一緒に歩いていた扶桑姉妹が、

 

「まぁまぁ、高雄。落ち着いて、ね?どうどう」

 

「あのバカがやることをいちいち気にしてたら負けよ、負け」

 

 と、高雄を宥める。ゲシュペンストの非常識に散々巻き込まれた彼女達である。高雄の気持ちも良くわかる。

 

 高雄はぜーはーぜーはー、と肩で息を吐くもなんとか落ち着いた。

 

「……と、いうかバカって、ゲシュペンストさんをお二人は知っているのですか?」

 

「ええ、五年前に助けていただいて。それからちょくちょく、いろいろな所で、その……助けていただいてばかりで、ご迷惑をかけてばかりで……」

 

 扶桑は申し訳なさそうに謙虚に、肩を縮こませるようにして言った。実際、ゲシュペンストには命ばかりか貞操や望まぬケッコン歴からまで救われている二人である。

 

「……なにか、こう、行く先々で会うのよねぇ。その度に、派遣先が壊滅している気がするわ」

 

 まぁ、清々したけど、とは山城である。

 

「いえ、気がするんじゃなくて、壊滅させられた、が正しいわよ山城。ええ、間近で為す術もなく見てた私が言うのだから、確かよ……」

 

 土方が、うへぇ、と嫌な顔をするが、よくよく考えたら、江ノ島でもルソンでも、あちこちで基地が壊滅するたびに、この扶桑姉妹を保護している気がする。

 

「……ええっと、でも悪い人じゃないですよ?多分」

 

 吹雪が扶桑姉妹の横からひょっこりと困り顔で、えへへ、と笑いながらフォローする。

 

「そうねぇ……。沈みかけてた私を助けてくれましたし……うふふっ」

 

 如月は可愛いが小悪魔的に笑う。なんというかこの如月、普段はおっとりした中学生という感じなのにゲシュペンストが絡むとやたらと妖艶な雰囲気を醸し出す。

 

「……如月ちゃん、ゲシュペンストさん大好きだもんねぇ」

 

 山城が何か少し複雑そうな表情で言うが、如月は

 

「え?というか、皆さんもお好きでしょう?」

 

 と返して返された山城はウゲッ?!と墓穴を掘ったような顔をした。

 

 その様子を見た近藤はなんとも情けないような悲しいような、そんな気持ちになりつつ。

 

「……なんだろうな。この自分の娘達が知らないうちに知らない奴に誑かされた感」

 

 そんな事を呟く。吹雪も如月も舞鶴で預かっているのだが、女衒鎮守府だった当時の艦娘達とは違い、この二人は全く純真無垢で素直な子達であり、ある意味近藤にとっては心のオアシス的で清涼剤、さらに言ってみれば娘のように可愛がっている子達だったのである。

 

 と、近藤の後ろからササッ、とその両脇からしがみつく二人の影。

 

「まぁまぁ、お父さん、娘達もお年頃ですし、それにあなたには私達がいるじゃないですか、うふふふふ」

 

「そうそう、うふふふふ」

 

 舞鶴の高雄姉妹が近藤の両腕を組みつつ、にまっ、と笑いかける。

 

「どわわわわっ?!なんで、いつの間にっ?!つか何故お前らが母親ポジションなんだ?!」

 

「あら、船内厨房の間宮さん達から伝達があったから伝えに来たのよ。炊き出しおにぎりと豚汁、それとアイスが出来たから、運びにかかります、って」

 

「みんな、お米のご飯に飢えてるんじゃないかしらぁ?って、炊き出ししてくれてるのよぉ?」

 

 二人を見て、あらっ?と高雄が驚く。その高雄に舞鶴の高雄シスターズも気づき、にこやかに挨拶する。

 

「菅原大将の高雄さん、はじめまして。私は舞鶴の高雄です」

 

「ぱんぱかぱーん!舞鶴の愛宕よぉ?高雄おねぇさま、よろしくねぇ?」

 

「え、ええ、よろし……く?」

 

 高雄は高雄の……わかりにくいので、以後、菅原大将の高雄を高雄(菅)、舞鶴の高雄を高雄(乳)いや、高雄(舞)と表記する……のおっぱいを見て、はぁっ?!となった。

 

 高雄(菅)の乳の約1・5倍以上はある高雄(舞)の乳に、驚いたのである。そして、その隣の愛宕の乳は、さらにそれよりデカい。

 

 その視線に、愛宕は、

 

「そこは改造してないわ、自前よぉ?」

 

 と、高雄(菅)にウィンクして言った。つまり、天然物である。天然物の超乳、愛宕乳なのである。

 

「……ええっと。同じ艦種でも、こ、こっ、個体差はあるものね、ええ」

 

「まぁ、そういう事ですね」

 

 高雄(舞)は苦笑した。

 

「はぁ、お前ら、菅原閣下の高雄さんの爪の垢でも煎じて飲ませたいぜ……っと、ようやく着いたな。というか近くで見るとなおすげぇな。ログハウス風か……」

 

 拠点の入り口を見て、近藤は唸る。

 

 高床式調になっているが、頑丈な作りになっており、その入り口には大きな石材を切った階段がドン!と置かれている。おそらく、この岩の階段も高雄(菅)が言ったようにレーザーで切って加工したものなのだろう。

 

 磨いた黒大理石のように艶々でピカピカである。

 

 その階段の上に、包帯を巻いたタンクトップ姿の沖田少佐が軽く海軍式の敬礼しながら苦笑しつつ立っていた。その隣には、内閣軍視局の大淀が会釈している。

 

「あはは、まさか近藤さん達がここに来るとは思いませんでしたよ」

 

「というか、お前の事だから生きてるとは思ってたが、はぁ、エラいことんなってんなぁ、フィリピン泊地は。というか、軍視局のあんたまで来てるって事は、政府はフィリピンの状況をとっくに知っていたのか?」

 

「いいえ、私達はフィリピン第一基地の提督を検挙するために来たのですが、まさかここまでの事態にあの提督が関わっていたというのは知りませんでした」

 

「……あんたが出張って来た、ってなぁ、長倉平八郎氏の暗殺犯を追ってた、って事か?」

 

 近藤は、この大淀が長倉平八郎を爆殺した実行犯を追っていることを知っていた。大淀はずっと長倉の仇を討つために暗殺に関わったもの達を一人一人討つ為に内閣軍視局に在籍し続けている。そして、その最後の一人が長倉の乗った車に時限爆弾を仕掛けた奴であることも。

 

 おそらく、第一基地の提督とやらが、長倉平八郎の乗った車に爆弾を仕掛けた犯人だったのだろう。だが……。

 

「……残念ながら、本人は亡くなってしまいました。とは言えそれは仕方ない事です。今はこの状況をなんとかせねばなりません。ですので、ゲシュペンスト氏に協力をしております」

 

「そう、か。で、当のゲシュペンストはどこに行った?この島に先に帰るって言ってたんだが?」

 

「彼は、ここの反対側に深海棲艦用の入渠施設を作ると言って、工事に行きました。こちら側だと来る途中で寄生生物を落としてしまう可能性がある、と」

 

 大淀は階段の下やあちこちに置いてある高速修復剤のバケツに目をやりつつ、そういった。

 

 バケツ一杯10万円。縞傘のものでそうなのだ。ならばこの造田博士オリジナルのバケツは一体いくらになるというのか。

 

 そんな代物を湯水の如く……いや、まさに風呂で湯水に使っているのだが、そのような価値のあるものを惜しげもなく艦娘どころか深海棲艦にすら使う。

 

 ゲシュペンストの目的が近藤にはわからなかった。

 

「……しかし、アイツは何の目的で動いてんだろうな。とんと俺にゃわからねぇ。何の得があるってんだ?」

 

 だが、近藤のその言葉に沖田が笑いながら言う。

 

「あんたとおんなじですよ。つまり無償の善意ですね。彼の行動は全て、いやむしろ損しか無いとしか考えられません。ありゃあ、近藤さん達の同類ですよ。きっと仲良くなれるんじゃありませんか?」

 

 沖田はイイ笑顔でそう言いつつ、ここじゃなんですんで、と拠点の中へと近藤達を通した。

 

 

 

 一方その頃、島の反対側、つまりフィリピンの方向で、小型のプールほどもある風呂を作ったゲシュペンストは。

 

(……深海棲艦にも、美人っているもんだなぁ。うん)

 

 などと、高速修復剤をいくつもデカい湯船にざばーっ、ざばーっ、と入れつつ、ヒートホークを湯に漬けながら、水温を計りつつ沸かしていたとさ。

 

「……何よ。何か言いたい事あんの?」

 

 玄一郎の視線が自分の顔に向かっているのを見て、深海山城こと海峡夜棲姫の片割れが言った。

 

「いや、本当に君は山城なんだなぁ、と思ってさ」

 

 そう、この海峡夜棲姫は角や艤装を除けば非常に艦娘の山城そっくりであった。

 

 玄一郎は艦娘の同じ山城の別個体にもその姉の扶桑の別個体にも会った事があるが、この深海山城は元小島基地の山城に瓜二つで、その性格も非常によく似ていた。

 

 玄一郎はスコール除けのためにこの急拵えの大浴場の周りにポールを立てて、テントのシートで屋根を張りつつ、

 

「知り合いに、扶桑姉妹がいるんだ。その山城に君はとても良く似てるんだよ」

 

 と、説明した。すると深海山城は、ふぅっと溜め息を吐いて、 

 

「ああ、ぞっちにもいんのね。複雑な気持ちだけど。はぁ~っ、不幸だわ」

 

 といつもの山城の口癖、不幸だわ、と言った。その声までそっくりだ。

 

(セリフまで同じなのかよ)

 

 と、その深海山城の隣で風呂に浸かっている大和がうふふふふ、と笑った。

 

 こちらの深海大和は、近藤大佐の所の大和とは全く似ておらず、髪型もツインテールである。むしろ、大和よりも若く見えるのは髪型のせいだろうか。

 

 大和が大和撫子だとすれば、深海大和は小悪魔風ラスボスといった感じがした。

 

「……しかし助かります。あなた達の恩情、感謝します」

 

 口調は非常に丁寧であり、声は近藤大佐の大和そっくりである。

 

 日本海軍で言うところの深海棲戦姫が、ふぅぅーっ、と気持ち良さげに息を吐く。

 

 あの『ムサシ』の姉である大和はかなり温厚な性格であるらしく、見た目によらず礼儀正しい。

 

(……ムサシの姉だからな。アレと戦ったなんて知れたら、どうなることか……!!)

 

 と、玄一郎は思ったが、それを読んだかのごとく深海大和はくすくす笑って玄一郎に言った。

 

「ああ、あなたが武蔵と戦ったのは知ってますよ?でも、あの『武蔵』はガテン系ビッチですから、大方、貴方が男性の魂を持ってるのに反応して襲いかかったのでしょう?まぁ、いいお灸ですよ。私は気にしてません」

 

 優しげな笑みで丁寧な言葉だったが、なにか『ムサシ』に含みありそげである。

 

「……ええっと、ガテン系……ビッチって。いや、あんたら仲、悪いんか?」

 

 いや、特に表現的には間違っていないような気がするが、だが間違っても姉妹に使う言葉ではない。

 

「いいえ?姉妹仲は良いですよ?でも、力を振りかざして暴力で男性を、という所はいただけません。やはり、大和型といたしましては大和撫子、乙女として振る舞わねば。そう思われません?」

 

 深海大和は艶っぽい声でそう言い、そして流し目で玄一郎を見つつ舌なめずりした。

 

 いや、乳放り出しで大和撫子と言われても困るんですが。つか、ここに来た時からあんたノーブラで、乳ゆさんゆさん揺らして見せつけてたのに、乙女云々って。

 

「……ええ、ソウデスネ」

 

 なんとなく、この深海大和の流し目に危険な物を感じ、玄一郎は一歩退く。

 

 なんとなく、清楚系ビッチという言葉が玄一郎の頭に浮かんで逃げたくなった。

 

「……とりあえず、高速修復剤の追加を持ってきますんで、お二人はそのまま浸かってて下さいねー」

 

 と言って、ヤバいと思った深海大和から玄一郎は離れた。

 

 と、大和が手を伸ばして来たが、玄一郎はいち早くするりと移動して事なきを得た。

 

「あん、つれない人。いけず……」

 

 離れるのがもう少し遅ければ掴まれ、おそらく湯船に引き込まれていただろう。

 

 引き込まれたならば、果たしてどうなっていたかわからない。

 

(あぶねぇ、あぶねぇ。早く湯沸かし器を作ってここを自動化させねば)

 

 どうも大和型は玄一郎には鬼門のようである。

 

(あの近藤大佐ん所の大和さんは、とても清楚で良い人だったのになぁ。やっぱ深海側になると暗黒面か何かが出てくるんだろかな)

 

 玄一郎は屋外温水プールとしか言えない露天大浴場から、高速修復剤を置いた急作りの仮設倉庫へと向かった。

 

「急いで作業を終わらさなければ、研究施設にいる二人が心配だからな」

 

 幸い、龍田達に送ったドローンから送られてくる様子では、龍田達はドローンに持たせた食料で昼飯を食っている最中であり、特に危険は無いようである。

 

 また、追加でフィリピン泊地に送ったドローンに搭載した対寄生生物用試作武器も効果的で、かなりの範囲で寄生生物を駆除していっている。

 

 とはいえ、保護するまでは心配なのは当たり前である。

 

 ゲシュペンストと玄一郎は簡単な湯沸かしシステムを作り出し、いくつかの高速修復剤を持つと、大浴場に大急ぎで向かった。




 玄一郎と海峡夜棲姫(山城)の出会いは、ラストに影響します。

 なお、このフィリピン周辺海域での深海棲艦達との停戦は、後の同盟深海五大艦への布石となりますが……。

 その中に入っていない深海棲艦は……。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑭

 話が進まない。

 というか過去話がやたらと長くなりすぎている。

 龍田さんと那智さんが、やたらデレる。なんだこれ。

 第二基地提督、生存!

 なお、第二基地の明石は後にパラオの明石です。また、柳生提督は後の小島基地提督になる、という設定。


 フィリピンにある縞傘の海上研究施設にいる龍田と那智達が隠れていた一階の隔離棟の周辺の『感染者』達の動きが活発化しており、どうにも危険になってきていた。

 

 おそらくは、寄生生物の群れを統括している『深海扶桑』の念を抑えていた深海棲艦のボス達が交代交代とはいえ、無人島拠点まで寄生生物の感染治療の為に持ち場を離れた為、その力が一部弱まったせいであるが、とにかくゲシュペンストはマッハ4を超える猛スピードで海上研究施設まで加速ブースターを噴かしてぶっ飛び、群がる『感染者達』にM-970アサルトライフルを浴びせかけ、撃破、龍田と那智、そして『感染者達』に襲われて負傷していた第二基地提督と明石を連れて全員、大発に乗って脱出したのであった。

 

 

 無人島拠点へ向かう一行。

 

「……」

 

 大発は正式な名前を大発動艇といい、運貨船と呼ばれるカテゴリーに入る小型船である。武装兵約60名の搭載が可能な発動機付の上陸艦艇の一種……なのは、戦前戦後の話。

 

 艦娘用の大発の場合は、そのサイズはやはり小さく人が乗ると7人程が限界な大きさであり、とてもではないがゲシュペンストが乗ると狭い。

 

 また、その速度もやはりゲシュペンストに比べて遅い。まぁ、艦娘達の海上走行速度と同程度なので一概には遅いとは言えないが、ゲシュペンストには遅く感じた。

 

「……なぜお前ら俺にくっつくかな?」

 

「いやーん、狭いんですものぉ」

 

「うむ、仕方あるまい。大発は狭いからな」

 

 龍田がゲシュペンストの膝の上に座ってしがみつき、那智がゲシュペンストの胸部を背もたれにしてもたれている。

 

 これが、玄一郎に身体が有ったならかなり嬉しかっただろうが、しかしながら装甲にいくら触圧感知センサーがあるとしても、彼女達の身体の柔らかさとかおぱーい的な感触はあまりわからないし、女性の匂いとかそう言うのもセンサーの情報としか感じないので、非常になんというか、無味乾燥として嬉しいけど嬉しくない。

 

 むしろ視覚映像の方がまだ良いのだが、それはそれとしてやはり彼女達も不安だったのだろうと思って玄一郎は彼女達のやりたいようにさせていた。

 

 しかし、ベタベタベタベタとあまりにも接近し過ぎである。

 

 大発の床にはフィリピン泊地・第二基地の提督・柳生桐生少佐が寝かされている。

 

 左足脛骨の骨折、右上腕骨亀裂骨折、胸部裂傷、という大怪我を負っており、当分は安静が必要であるが、命には別状無く、また、ゲシュペンストのセンサーでの走査でも寄生生物の反応は全く無い。

 

 人間には寄生しないのか、はたまた高速修復剤を大量にみんなにぶっかけたからなのかわからないが、全員に感染は無い。

 

 心配そうに第二基地の明石がついているが、けしてその明石はゲシュペンストの方を見ようとしない辺り、おそらく怖がっているのか関わり合いになりたくないのかのどちらかだろう。

 

 まぁ、実際その気持ちはよくわかる。

 

 龍田と那智は、柳生提督と明石を助ける為とはいえ、基地の工廠から動こうとしない明石に自分達の素性をバラし、脅して連れ出したそうであり、それに、二人に脅しまくられて『アンチパラサイト・ワクチン』なる物を作らされたりしたのだ。

 

 また、そんな龍田と那智が日本海軍が恐れる『未確認敵性物体』であるゲシュペンストに色目を使って甘えているなど、もう怖くてたまらないのだろう。

 

 触らぬ神に祟り無し、しかしながら玄一郎としても柳生提督と明石の二人には、なんとか口裏を合わせて貰わなければ困る。

 

 故に話しかけた。

 

「済まないな。だが、ああでもしなければ俺以外の全員が『感染者』達に殺されてた。……痛むか?」

 

 ああでもしなければ、という脱出方法は、とにかく全員抱えてライフルをぶち込みながら、ブースターダッシュで急加速し、無理矢理強行離脱する、というもので、そりゃあ骨折した患者には酷だったろうが、それだけ『感染者』の数は多く力業で突っ切るしか無かったのである。

 

「ええ、かなり。ですが龍田達が言っていた最強の味方が助けに来る、というのはあなたでしたか。まさか『アンノウン一号』が来るとは予想外でしたが」

 

「……もう少し早く行く予定だったが、あちらの方でもいろいろとあったんだ。深海棲艦と一時停戦を結んだり、日本海軍の艦に警告しに行ったりな」

 

 確かにやることが多すぎたのだ。というか抱え込む者が多すぎて、さすがの玄一郎でも何から手をつけていいか悩みそうである。

 

 深海側と日本海軍、軍視局にテロリスト、さらにはまた救助者が増えた。

 

 軍視局の大淀にいかにしてテロリスト指定の龍田と那智を見逃してもらえるように頼むか、など、実際頭が痛い問題ではあった。

 

 だが、どうやらもう一つ厄介な事が発覚する。

 

「深海棲艦と停戦ですか。……ああ、バレたんですね」

 

 柳生提督が、顔をしかめてそんな事を言ったからである。

 

 玄一郎はものすごい嫌な予感がしたが、とりあえずその不穏当な発言を聞き返すしか無かった。

 

「バレたとは?」

 

「……フィリピン泊地とこの海域の深海棲艦のボス達とは、なんて言うか、協定のようなものを結んでいたんですよ。彼女達は平和主義というのか、あまり争い事をしたくないような理性的な方達だったんですよ。ですが、上層部は深海棲艦の討伐を推し進めるし戦果報告を求めて来るときた。なので我々は一計を案じ、お互いの戦闘を演習的な形で、ようするにどちらも沈まないように行って、上層部を騙していたんです……」

 

 非常に、これまた厄介な話だった。

 

 なにしろ、今は戦時中である。そんな中で敵と内通というか密通して、戦っている振りをして戦果報告をして、その戦果に応じた予算を国に支払わせていたのだ。そんな事を軍視局の大淀に知られたら、彼は確実に叛逆罪、死刑執行間違いなしなのである。

 

「……なるほどな」

 

 玄一郎はもう、内心『どないせぇっちゅーねん!!』と叫びたかった。

 

「もちろん『マヨイ』や『ハグレ』達は出ますから、その対応はどちらの側でも行ってました。我々はとても上手くやっていたんですよ」

 

 非常に厄介極まりない。

 

 だが、ある意味では非常にこの若い提督に対して親近感が湧いてきた。確かにあの深海側のボス、深海鶴棲姫や海峡夜棲姫達となら、平和的にやっていけるだろうし、出来れば戦うよりそちらの方がよほど良いと思うからである。

 

 また、ずっと不可解に思えた謎もようやくそれで理解出来た。

 

「……それでわかった。あの研究施設に全くと言って良いほどに攻撃を受けた痕跡が無かったのは、ようするに、あんたらが本気で戦闘していなかったから、だな?」

 

 そう、海上にあるあの研究施設は立地上、真っ先に被害にあっていなければおかしい位置にあったのにも関わらず、ほぼ無傷の状態だったのだ。

 

 とはいえ、皮肉なものである。あの研究施設が無傷で攻撃もされずにのうのうとあったからこそ、今回の事態となったわけだ。

 

(いっそ、あそこだけ最初にぶっ壊しといてくれてたらこんな事態にゃならなかったのによ)

 

 玄一郎はそれを苦々しく思った。が、今それを言っても仕方あるまい。

 

「その通りです。だから、本来、艦娘がドロップするはず無かったのも、ご理解していただけますか?」

 

 柳生提督は玄一郎が切り出そうとしている事を知ってか知らずか、いや、わかって言っているのだろう。

 

「……あんた、龍田と那智の素性をわかってて受け入れたのかよ。大した奴だな。安心しろ。あんたらの協定に関しては俺も初耳だ。黙っておけばバレない。停戦は深海側の寄生生物の感染治療に拠点のプールを解放して入渠させるために俺が言い出した事で、あんたらには関係無い」

 

「そうですか……良かった」

 

「ただし、良くない話がある。これから向かう俺の拠点には、軍視局の大淀の艦隊がいる。沈みかけてたのをうっかり助けちまってな」

 

「最悪ですね……『淀み鴉艦隊』ですか。……はぁっ、ウチの基地にいた大淀さんは、とても話のわかる人だったけれどなぁ。軍視局の大淀は、バケモノって言うじゃないですか。誤魔化しようが無いなぁ」

 

「沈めとけば良かったのに」

 

「全くだな。ゲシの字はいらない所で良い奴過ぎる」

 

「……とはいえ、もう排除なんざ出来ん。あの大淀さんは悪い人というわけでもないからな。立場上、なんというか、無理してる感もあるんだ。だからいいくるめられればなんとか……なるような気もする」

 

「……シラを切り続けるしか無いですかねぇ。幸いながら、私と第二の大淀で正規のドロップ艦受け入れの申請をしましたから、その記録がちゃんとあるはずです。それを盾に言い張れば……誤魔化せ無いでしょうかねぇ?」

 

「……それでダメなら、そう、拠点の島を俺の領土だから治外法権だ、とかなんとか言って時間を稼ぐか、それとも日本政府に脅しをかけて、彼女達の無罪を確定しなければ、国会議事堂前の上空からフルパワーのゲシュペンストキックを敢行する、とかなんとか脅迫する、とか……」

 

「それ、日本を完全に敵に回しますよね?」

 

「あんましやりたくねぇなぁ。命を救ってやったんだから、他の命をその分救え、と諭すか、それとも、世界各国に大淀さんの恥ずかしい画像をばらまく、とか……いや、逆効果だよなぁ。むむむむ、いっそ買収はどうだろうか?俺の作った液晶モニターを……」

 

「……ゲシュちゃん?大淀の恥ずかしい画像ってなぁに?」

 

「ゲシの字。まさかまた風呂を覗いたのか?!」

 

「いや、そうじゃなくてだな、ドローンを龍田が睨んだ時にな、大淀さんが失禁して気絶してだな……」

 

「……ゲシュちゃん乙女としてそんな映像をバラまくなんて私は反対よぉ?そんなのは敵味方関わらずやっちゃいけないわぁ!」

 

「そうだ。同じ女として、その案は却下だ。頭の中のその記憶をすぐに消せ!今すぐ消せ!」

 

「……ほんと、お前らテロリストなのかよってぐらいに善人だよなぁ」

 

 玄一郎と柳生提督は、話し合い、そうして大淀対策を練った。幸い、大発の速度はさほど早くは無い。考える時間はたっぷりとあったし、それに深海側とも停戦しており、近くに居ても素通りどころか、柳生提督を見ると手を振ってくる者もいたほどで、この若い提督がいかに彼女達からも気に入られているのか良くわかった。

 

 大発はまっすぐ進む。無人島拠点へと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 で、現在、夕方。

 

 無人島拠点に帰り着いたゲシュペンストを待っていたのは大淀のもの凄く冷たい目、であったわけだが、それも仕方あるまい。

 

 ここは艦娘達のベッドの並ぶ療養スペースである。事前に小型タブレット端末にてゲシュペンストは近藤達に連絡をしており第二基地提督、柳生桐生少佐を寝かせる医療用ベッドや点滴を用意して、近藤達や大淀が待機していたのだが……。

 

「……これは、どういう事ですか?というか何故あなたが『第13特務部隊』の二人を保護して帰って来るのですか?ゲシュペンストさん」

 

 大淀が凍てつくような視線を放つ。

 

「第二基地の提督さんとその艦娘を助けただけだよ?提督さんが、彼女達は第二基地の艦娘だった言うし、どうやら人違いみたいだ」

 

 医療用のベッドの上で柳生少佐は、彼の基地に所属している明石の手当を受けながら「その通りです」と肯定した。

 

 近藤大佐が、あぎょう丸の医療室へ運ぼうと言ったが、第二基地提督、柳生桐生少佐は笑って「そこまでの怪我では無いですよ」と断った。なにしろあぎょう丸に搬送されれば、彼女達の事を弁明出来ないのである。

 

 柳生提督は無理を推して、大淀との対話をするためにこちらで療養する事を決めたのである。

 

 柳生提督、なかなかの人物であった。

 

「この二人は、私のところでドロップした、私の部下の龍田と那智ですし、明石はウチの任艦娘です。間違いありません」

 

 ベッドの上で第二基地の提督柳生桐生提督は言った。

 

「……との、事だ。提督さんが言うんだから間違い無いだろう」

 

 うんうん、と玄一郎は頷きながら言う。

 

 どうも玄一郎はこの柳生提督を気に入っていた。施設から脱出した際の大発で大淀がいるとの話をした時に、すんなりとどうやって龍田と那智を『簡易廃艦処分』、つまりその場での死刑から助けるかという話に食いつくほどの男なのだ。

  

 まぁ、その結果が、シラを切り通す、というごり押しなのだが、それでいいのかお前ら、と明石に呆れられていた。

 

「ええっとぉ、第13特務部隊なんて知らないわねぇ」

 

「そうだな。聞いたこともない。それに普通、艦娘なら部隊では無く、艦隊だろうに」

 

 龍田と那智も、しれっとそう言い張る。すごい面の皮であるが、そこまで精神的に強くなければ逃亡生活など続けてはいられなかったのだ。いや、逃亡生活でタフになっていったとも言えるし、玄一郎の影響もかなりあるような気もする。

 

「くっ……、柳生提督、ゲシュペンストさん、隠そうとしてももうわかってるんですよ。なにより、私をたばかる事は出来ません!」

 

 大淀は声を荒げるが、柳生提督は冷静に、そして真面目かつ誠実そうな目で、

 

「私が証言できるのは彼女達が私の基地に所属する艦娘で、登録も確かにそうなっているという事実のみです。その登録も第二基地の大淀……残念ながな彼女は今回の事態で亡くなりましたが……が、きっちりと確認した上で書類を通し、登録したものです」

  

 と大淀の目を見据えて言う。

 

 提督達にとって、この大淀はけして逆らって良い存在ではない。なにしろ、提督権限の剥奪どころか、文字通り生殺与奪すら場合によって出来るのである。

 

 しかしこの若い提督は大淀の目を見据えて、堂々と言い張った。なかなか出来るものでは無い。

 

 流石、深海側と最初に密約を交わして国家予算から資金を取るような男(そう言うと非常に悪人に見える)は肝が据わっている。

 

「大淀さんの部下の人が確認して、登録したんなら間違い無いだろ」

 

 そう言われてしまえば、もはや大淀も何も言えない。というか、第二基地に任官した部下に問いただしたいところだが、もうすでに第一から第三までの大淀はみんな死亡が確認されている、というか『感染者』になっている時点でどのみち聞き出す事など不可能である。

 

 さらに、登録された事実はきっちりあるので、もう追求など不可能。大淀がもしもごり押しで二人を『強制廃艦処分』にしようとしても、おそらくゲシュペンストが確実にそれを力で阻止するだろう。

 

 そうなった場合、大淀に勝ち目と無い。また、大淀としてもこの無敵のロボットとは敵対したくはない。

 

 敵わぬだけでなく、命を救われた恩義もあり、なによりこの正体不明のロボットに対して好意すら持っていたからである。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬっ、柳生提督、それにゲシュペンストさん、やってくれましたねっ?!」

 

「いえ、何のことかわかりません。私は事実のみを語っているだけでして」

 

「うむ、俺だって救助しただけで事情わからんし。つーか、そもそも、んなこと言われても、俺、日本海軍だの政府だの、無関係じゃん?ある意味通りすがりの正義のヒーローじゃん?」

 

 もはや、しらばっくれながらも煽っていくスタイルにしか思えない。

 

 さすがの大淀ももう涙目である。

 

「……はぁっ、仕方ありませんね。まぁ、ある意味いい着地点かも知れません。私も、前政権時代だったとはいえ、国家の命令で彼女達は動いていただけに過ぎませんし、何より艦娘に命令の拒否権も無いのです。私も任務ではありますが、国に対する拒否権の代わりに知らん振りを決めさせていただきます。第二基地の龍田と那智はシロであり無関係としておきましょう」

 

「うむ、それでこそ大淀さんだ。わかってくれると思ってたぜ!」

 

「それに、ゲシュペンストさん。どうせシラを切る作戦が失敗したとしても、いくつかろくでもない方法で、私と交渉しようと考えてたんじゃ無いですか?」

 

 うううっ、と涙目で睨んでくるが、なんとなく可愛い感じもするのだが、そんな大淀を見ているとやはり多少は罪悪感は感じるものである。

 

 しかし、龍田と那智を助ける為に、ここは泣いてもらっておこう、と玄一郎は思いつつ。

 

「シラは切ってないぞ?ただ、大淀さんに何をプレゼントしたら、喜んでくれるかなぁ?とは思ったけどな?ほら、その液晶モニターをかなり気に入ってたから、こういうカメラ付きの液晶ウェアラブルコンピューターなんてどうかな?もちろん、カメラで撮った画像をプリントアウト出来る小型プリンターもセットで」

 

 さささっ、と玄一郎はタブレット型のコンピューターに赤いリボンをつけて、大淀に手渡す。

 

 気分は山吹色の菓子をお代官様に差し出す越後屋である。

 

「……賄賂、いえ買収ですか?」

 

 ジトーッ、とゲシュペンストを見る大淀の目が痛い。

 

「うっ……いやぁ、大好きな大淀さんに喜んで貰いたい!そんな俺の恋心にも似た、淡いこの純真なる下心、受け取ってくれたら嬉しいかな、とかなんとか思ってさ?」

 

「……はぁ~っ。心が籠もってない部分は不服ですが、まぁ、良いでしょう。喜んで受け取らせていただきます。何にせよ、これは非常に便利そうですから」

 

 こうして、龍田と那智は指名手配犯ではなく、普通の艦娘として、普通に……かはわからないが、ともかく追われる事は無くなったのである。




 真・ヒロイン(空気)。

 大淀さん、賄賂受け取り。

 話が進まないけど、まぁ、ねぇ。

 しかし。

 龍田さん達はこの後も波乱万丈なんですけど、まぁ、とりあえずは、ごり押しで指名手配犯では無くなったのでいいか(笑)

 次回、パラサイト・クイーンでまたあおう!(???)


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑮

 松平准将が逃れられない運命にとらわれたようです。

 全く話が進みまへん。すんまへん。

 なお、ぼかしてますが、ちょっとアレな表現があるかも知れませんが、私は知りません。


 

 夕方。

 

 近藤大佐は、あぎょう丸に戻った。

 本国の松平准将に報告するためである。

 

 なにしろ想定外の事態の数々が目白押しとなり、本来の作戦である周辺海域の深海棲艦の討伐とフィリピン泊地の解放の遂行は不可能となってしまった。

 

 それどころか日本海軍における『未確認敵性物体』であるゲシュペンストは出てくるわ、勝手に深海棲艦のボス達と一時停戦を結ぶわ、フィリピン泊地は縞傘製薬の引き起こしたバイオテロで壊滅しているわ、もう任務や作戦など継続するどころの騒ぎでは無いのである。

 

 正しい組織人としては、やはり上司に報告、連絡、相談は必ずするべきであり、独断専行など以ての外であるもやはり報告するのは気が重かった。

 

 しかし、返ってきた松平准将の答えは。

 《素晴らしい!!》

 だった。

 

「は……?!」

 

 近藤は耳を疑った。フィリピン泊地の全ての基地は壊滅、艦娘や深海棲艦に寄生する寄生生物で下手をすると世界滅亡の危機に陥っているわ、破壊神は現れるわ、深海棲艦と一時停戦してしまうわ、で、どこが素晴らしいんじゃ?!と思ったからである。

 

《いや、状況と事態は把握しているよ。非常に困難かつ緊急を要する事態だともね。しかし、君はあの正体不明の未確認物体『アンノウン一号』と海軍軍人としては初めてコンタクトを取り、そしてその協力を取り付けたばかりか、初めて深海棲艦と公式に、一時とはいえ停戦まで漕ぎ着けたわけた。この功績は大々的に評価されるべきなのだよ》

 

 言われてみれば、確かにそうかも知れない。だが、全ては訳の分からんままに話がそのように流れて行っただけとも言える。しかし、敵である深海棲艦と勝手に停戦など本来許される事ではない。

 

 状況的に致し方なかったとは言え、未だ日本海軍の上層部は主戦派や旧・軍主導派などが多数派となっており、深海棲艦と一時とは言え停戦したなどと言えば、最悪の場合、裏切り行為だと認定され処罰されかねない。

 

 だが、近藤の懸念などなんのその、松平准将はさらりととんでもないことを言った。

 

《なに、もう大本営に君の行動を妨げるような上層部のアホ共は居ない。全て軍視局に連れて行かれた。もう彼らは日の目を見ることは二度と無いだろうね》

 

「はぁっ?!軍視局がですか?!一体そちらでは何が起こっているのですか。もしやクーデター?!」

 

《まさか。クーデターではないよ。そちらに滞在中の『淀君様』が軍視局本部に縞傘製薬のバイオテロの情報を送ったそうでね。前々から縞傘財閥は前左派政権下で成長して来た一族だったからね。政府機関にマークはされていたようだが、海上研究施設やフィリピンの第一基地で得られた証拠の数々をゲシュペンスト氏の協力で得ることに成功したそうでね。縞傘財閥から甘い汁のお裾分けをいただいてた連中は軒並み検挙されてね。いやはや、もう上層部にほとんど誰も居ない状態で困ってしまうよ、ははははは》

 

 『淀君様』とは軍視局の大淀、つまり無人島拠点にいる大淀の渾名である。彼女の持つ権限の大きさを差してその渾名というか異名が着いたのである。

 しかしどのようにして通信設備の無いあの無人島拠点で日本と通信を行い、情報を送ったというのか。

 それに、縞傘財閥と癒着していたのは何も海軍のみではない。政府の政治家や官僚達の中にも縞傘財閥は根を張っていたはずなのだ。

 

……と、近藤は考えて、はたと気づく。

 

「まさか大淀はゲシュペンストに何か軍警や憲兵達を動かさざるを得ないような事をやらせたのか?」

 

 ゲシュペンストが大淀にプレゼントしたウェアラブルPCとプリンター。そういえばあの大淀はそれを使ってせっせかせっせかと何やら書類を印刷していた。だが、その厚みは縞傘の研究施設の情報やデータだけでは無いほどに大量だったではないか。

 

《む、何がだね?》

 

「いえ、大淀がどのようにして情報を送ったのか気になりまして」

 

《ふむ、なるほど。私の所にも送付されてきたが、いやはや、あれには驚いた。大本営のレーダーにすら映らない未知の戦闘機が書類の束を詰めた金属の筒を窓からぶち込んできたのだよ。最初は何かのテロかとも思ったが、筒の中身を見れば、『淀君様』の署名入りの、各機関の汚職官僚などのリストと、フィリピン泊地の状況をこと細かく記した報告書、様々な犯罪の証拠が入っているではないかね。いやはや、過激ではあったが、おかげできれいサッパリと様々なものが片付いたよ》

 

 なお、ゲシュペンストがその際に使った機体はF-32シュベールト、つまりスパロボ世界の戦闘機のミニチュアサイズであり、ディヴァイン・クルセイダーズの機体であるリオンシリーズの元となった機体である。とはいっても、近藤も松平准将もそのような事は知らないのだが。

 

「……では、松平先輩は、とっくにこちらの状況を把握されていたのですか?」

 

《うむ?ああ『淀君様』のおかげでね。確認の為にそちらにも無線で通信を試みたが、深海棲艦が集まっている地域では無線機器に異常が発生する。君からの通信が来るまでは繋がらなかった。そういう状況だったので増援の輸送艇『ごうりき丸』と飛行艇『US-2改』をそちらに向かわせている。とりあえずUS-2改が先に着くだろうがまぁ、こうしてすでに通信出来たのだ、鳳翔さんに持たせた命令書も必要無くなってしまった》

 

「……鳳翔さんが?!」

 

 鳳翔はもうこの頃には第一線を退いており、大本営にて居酒屋を営みつつ、後進の育成に当たっていたが、歴戦の彼女が出てくるなど、もはやただ事ではない。

 そもそも、最初の空母にして空母の母と呼ばれるその能力は、艦載機の数こそ少ないが、少数精鋭の機体の妖精さん達の練度に支えられ、その指揮にある。

 

 空母最強の座に今もなおある、通称『お艦』。いや、本人にそう呼んでいるのがバレたならば物凄い説教が来るだろうが、彼女の強さを知る一部の海軍軍人は畏敬の念をもって彼女をそう呼ぶのだ。

 

 その『お艦』が再び戦場へ出ると聞き、近藤はもうそれだけで逃げ出したくなってきた。

 だが、しかし、それだけでは無かった。

 

《うむ。他、大本営第一艦隊、並びに陸軍特殊部隊『特三分隊』通称『第三抜刀陸兵団』が『ごうりき丸』に乗っている》

 

「第三抜刀陸兵団?!あの『鬼の斎藤』の部隊が?!」

 

 第三抜刀陸兵団は、深海棲艦との戦いの中で、唯一現存している白兵戦隊である。その隊長『斎藤一夫』は陸軍最強の兵器である『鳳翔刀』の使い手であり、深海棲艦をたった一振りの刀で倒して生き残って来た、叩き上げの陸軍最強の男と言われている。

 

 陸軍虎の子部隊までも投入されるとは、この状況を松平准将がどれだけ重く考えているのかがわかろうものである。

 

《うむ、これは政府が、いや、中倉翁が動かしたのだろうな。中倉翁は彼の息子である平八郎氏の仇を討とうとする『淀君様』の後援者、やはり『淀君様』の危機を助けたいと思ったのだろう。親心だろうね》

 

 中倉翁、とは故中倉平八郎の父親であり、現在は政界から退いているものの、中立派の重鎮として知られている大物政治家である。中立、と言えどその政治理念は愛国精神に溢れており、一角の人物である。

 

 平八郎氏が愛した大淀を実の娘のように思い、軍視局の立ち上げを裏から支援して来た人物であり、陸軍との太いパイプも持っている。

 

「……親心でそんな物騒な連中に来られては、こちらも対応に困るのですがね」

 

 ともかく、ヤバい連中がこちらに来るのである。近藤もこれはただではすまねぇな、ともう悲観的になりつつあった。

 

《……まぁ、作戦は君に一任するよ。ただ、こちらとしても陸軍に恥ずかしい戦いは見せられないからね。この際、フィリピン泊地を焦土としても、寄生生物を駆逐したまえ。三式弾の使用の許可、フィリピン泊地を文字通り更地にするつもりで一匹残らず殲滅するのだ。どうせもう誰も居ない廃墟なのだからね》

 

「良いんですかねぇ。フィリピン最大の日本海軍拠点ですよ?ルソン基地もまだ復興出来ていないってのに」

 

 ※)なお、ルソン基地はゲシュペンストに壊滅させられてまだ復興出来てません。

 

《私が許可するよ。全ての責任は、私ではなくどうせ縞傘財閥が罪と共におっ被る事になっている。誰の腹も痛まんさ、ははははは》

 

 もう、松平准将はかなりいい加減というか、もうなんでもいいや、という感じで言う。

 

「……先輩、なんか近頃性格変わってません?なんというか、物凄い投げ遣りな気がするんですがね」

 

《……近藤君。世の中にはとんでもなく信じられないような事態が押し寄せるよせてね、これでもかっ!!とのし掛かったら、そりゃあ人間、なるようになーれ!と開き直ってしまうものだよ。いや、そのぐらい今の状況は訳が分からないのだ。というか信じられない現実から、私は逃げ出したいとすら思っているのだよ……いや、疲れているのかも知れないな、私は》

 

「そりゃあ、確かにわからんでも無いですがね……」

 

《いいや、君がそれをわかるにはまだ足りない。そうだね、君に一つ予言をしておこう。そう、この作戦を果たし、日本に凱旋して帰国したすぐ後だ。君には新たな任務が待っている。そう……その任務はこれからの日本にとって、とても重要な任務なのだがね?》

 

「は、はぁ……。これからの日本にとって、ですか?」

 

《そうとも。その任務を果たした後に、おそらく君は理解するだろう。逃げ出したいとすら思ってしまうだろう。そして忠告も一言付け加えておけば、だ》

 

「…………は、はい」

 

《世界は美しく、時に残酷なものを見せる。だが、それを受け入れて生きる事。それが人生だと悟れば、人間、どうとでもなーれっ!!となるものさ……。ふふ、ふはははは、ははは……》

 

 プツッ。

 

 無線は沈黙した。

 

「……いったい、なんだってんだ?というか何が大本営で起こってるんだ?!」

 

 近藤はなにか不気味なものが自分の背後から忍び寄って来るような感覚に襲われ、とっさに後ろを振り向いたが。

 

 そこには通信機の妖精さんしか居らず、その妖精さんも「?」と首を傾げるのみであり、近藤もふぅーっ、と息を吐く。

 

「とにかく、今は……。寄生生物の駆逐を優先すべき、か」

 

 無線室を後にし、近藤は再び無人島拠点へと向かおうとした。

 

 だが、彼は知らない。

 

 松平准将に起こった事態も、そしてこの作戦後に帰国した彼を、いかなる事態が待ち受けているのかも。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うふふふふっ、そこまで、よ?朋也さん」

 

 無線のスイッチは、叢雲のたおやかな指によって切られた。

 

「……叢雲……様」

 

「あらっ、未来の妻に、様は要らないわよ?」

 

 悪戯な目で、叢雲は松平朋也を見つめる。一糸纏わぬ、先程まで朋也と繋がっていたままの姿で、彼女は朋也にすり寄る。

 

「……大事な後輩を思う気持ちはわかるけれど、でも全ては最良解の未来の為、そして彼も彼女達も幸せになれる運命なのよ?悪くない未来を憂う必要は無いわ」

 

「……し、しかし、こんな……!」

 

「ん~、これも最良解からあなたを逃さない為に必要な事なのよ。それに私達、婚約者同士じゃない?自然な成り行きよねぇ?」

 

「うぐっ?!で、ですが責任っ……問題っ?!山本元帥にっ、申し訳……ぐぁっ?!」

 

「あら?ちゃんと取ってね?せ・き・に・ん!初めてだったのだもの。それに『新・艦娘法』は可決。『結魂システム』も完成して、もう私達の愛を妨げるものは何も無い、艦娘と人はなんの問題もなく結ばれる未来が待っているわ。そう、こうして……」

 

「ふぐぁっ?!い、いや……もう、止めてぇぇぇっ」

 

 哀れなり松平准将。

 

 彼の純潔は執務室で叢雲に奪われ、そして……。明日の朝まで苦行とも言うべき、執拗な叢雲の責めに悶え続ける羽目になったとさ。

 

「………………」

 

 返事が無い。ただの屍のようだ。

 

 かゆ。うま。

 

 

 




 叢雲さん「ま、当然な結果よね。なに、不満なのかしら?」 と後に宣ったとかなんとか。

 運命からは逃れられませんが、この叢雲さんはあなたの嫁の叢雲さんではなく、松平准将の嫁の叢雲さんなので目くじら立てないで下さい、お願いします。

 だが、しかし運命は近藤大佐にも忍び寄るのです。ええ。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑯

 松平准将の貞操を奪った叢雲さん。

 実は未来はかなり暗いルートでしたが、変態が来たら明るくなったという話。

 


 

 最良解へと全てが続いて進んでいる中、叢雲は、一緒のベッドで眠る松平朋也の寝顔を微笑みながら眺めつつ、その頭を愛しそうに撫でる。

 

 あらゆる未来への方向は、もはや固定されてしまった。

 

 これがゲームか何かならば、もはや選択肢無く一本のルートのみで後は文字を送るって画面をみているだけのクソゲーのような、そんな一本道であるが、残念ながら現実に生きるこの世界の者には、悲しい別れも苦しい戦いも弾圧される人生も、それら全てを美談にするようなストーリーなんてのも誰も望んではいないのだ。

 

 最良解の未来はけして彼女の為だけの未来では無く、彼女と松平准将にもそれなりのリスクが発生する。だが、新たに現れた選択肢によって、ここまで不幸の種を潰して来た叢雲に、恐れる物は何も無い。

 

「縞傘は壊滅、旧左派陣営も破滅に向かい、あなたの実家、松平財閥は日本で唯一の軍産企業体となる。そしてさらに大きく成長するわ。……そうして後ろ盾の力が増せば、あなたの地位は盤石なものとなる」

 

 叢雲の目にはもうすでにこれから起こる全ての事象が一直線に見えていた。フィリピン泊地で起こっている一連の事件の影響はその後に様々な方面へと大きく作用する事となるだろう。

 

「……あの存在がこの世界に喚ばれた時は『世界』はそこまで人類に絶望したのかと思ったけれど、まさかここまであの最低な『最良解』を本当の意味での『最良解』にしてしまうなんてね。チートも良いところだわ」

 

 あの存在とは無論、ゲシュペンスト、つまり玄一郎達の事に他ならない。

 

 そもそも、叢雲にとってゲシュペンストの出現は想定外の出来事だった。つまり彼女の未来視でも見通す事が出来なかったのである。

 

 叢雲がゲシュペンストの存在を知ったのは、本来、沈むはずだった扶桑を見送る為に見ていたからだ。

 

 扶桑の轟沈を叢雲は何千何万と選択肢を洗い直し、可能な限りの手をシミュレートして、ありとあらゆる方法で回避させようと未来視を続けた。

 

 叢雲にとって扶桑はかつて同じ艦隊を組んだ仲間であるが、それ以上に大切な存在だった。

 そう、彼女達は最初期のこの世に初めて顕れた艦娘達であり、造田毘庵ことビアン・ゾルダーク博士によってドロップされたビアンの元で家族同然に暮らしてきた娘達だったのだ。

 

 ビアンは突如としてこの世に顕れた彼女達を最初こそは戸惑いながらも、やはりドロップさせたからにはと、我が娘のように受け入れ、そして艦娘達も彼を父親同然に慕った。

 

 吹雪、漣、曙、叢雲、五月雨。

 

 天龍、龍田、川内、神通、那珂。

 

 妙高、那智、足柄、羽黒。

 

 高雄、愛宕、摩耶、鳥海。

 

 間宮、伊良湖。

 

 鳳翔、龍驤。

 

 扶桑、山城、金剛、比叡、榛名、霧島、長門、陸奥。

 

 その他大勢がドロップされた。

 

 多くの艦娘達がビアンの研究所で共に生活し、そしてビアンに見守られながら艦種も過去の経歴も関係なく姉妹同然に過ごした。

 

 深海大戦の初期、日本にまだろくな戦力も無かった頃、侵略されるがままの日本にとって、ビアン博士とその娘達だけが深海棲艦達と戦えた時代、それは彼女達にとって最も幸せだった時代だったといえよう。

 

 だが、最初の吹雪も漣も曙も五月雨も、もういない。

 最初の妙高も、愛宕も摩耶、鳥海、比叡、榛名、霧島も長門も陸奥も沈んだ。

 

 どうあっても変えられない未来。回避出来ない姉妹達の死。叢雲はそれを知りながら、ずっとみんなの死を見てきた。

 

 彼女がどれだけ変えようと努力をしても、選択肢を変えたところで結末は同じ、未来はかわらず家族の死は避けられなかったのである。

 

 その側で、遠くに居たとしてもその能力で愛する家族の死に様を叢雲は見届けて来た。もはやそれが自分の役割だと諦め、己に言い聞かせ、血の涙を流しながら。

  

 そして、扶桑の未来が決するその日も彼女は見ていた。

 

 扶桑の轟沈する未来を叢雲は嘆き悲しみ、苦しみ。それでも、愛する姉同然の扶桑の死に様を目に焼き付けねばならないと歯を食いしばり涙を流しつつ、千里眼でずっと見届けようとしたのである。

 

 しかし、その未来はあっさりと覆された。

 

 扶桑を沈めるはずの駆逐ハ級eliteや駆逐ロ級達の一斉攻撃がいつまで経っても起こらず、航空機で扶桑を追い詰めていた軽母ヌ級もその航空機を引っ込めて、まるで別の敵へと向かうように行動をし始めた。

 

 そして、叢雲は信じられない物を見た。

 

 黒い鋼の巨人が怒りの雄叫びを上げ、拳をぶちかまし、文字通り一撃のもとにヌ級を、ハ級elite、ロ級達を撃破せしめ、そして扶桑と戦闘していた戦艦ル級改flagshipにその怒りの目を向けると一瞬でその前に跳躍、そして。

 

 ぼこぉっ!!

 

 と、アッパーを決めた。

 

 両の手に持つ重装甲の砲台の盾でガードする間も無く、あっさりとル級改の身体が、戦艦の身体が宙に浮かぶ。

 

 有り得ない、と叢雲は思った。

 

 戦艦扶桑の正確無比な主砲を喰らっても揺るが無かったル級改flagshipをアッパーカットで宙に浮き飛ばせるなんて、と驚愕した。

 

 が、さらに驚愕すべき事が起こる。

 

 黒い鋼の巨人が、さらにル級に踏み込み、

 

 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る、パンチ、パンチ、パンチの連打を出鱈目に滅多矢鱈に繰り出す。重装甲かつ耐久力の高い重武装の戦艦ル級、その上位のレベルであるル級改flagshipを、砲も何も持たぬロボットがその拳で力任せに殴りつけ、砕き、破壊していく。

 

 ロボットの拳は無慈悲に一片の欠片すら残さずル級改flagshipを吹き飛ばし、轟沈させることもなく、爆発四散させて消滅させてしまった。

 

 完全なオーバーキルであった。残虐とも言える、暴力の嵐に叢雲は言葉も無い。様々な戦場を経験した叢雲も、ここまでの暴虐の嵐は知らなかった。否、けしてこれは戦場での行為では無い。ただの虐殺だった。

 

 ガシュウウウウっ……。

 

 ロボットの背部から何らかの排気がなされると、そのロボットは今、まさに沈まんとしている扶桑を見て、先程までの残虐さはどこへやら、ワタワタしつつ、扶桑を両腕に抱きかかえた。

 

「おっ、おっぱい?!」

 

 破壊の権化の最初の一言が、それだった。

 

 叢雲は最初、破壊の権化の発したその言葉の意味がわからなかった。いや、予想外過ぎて呆気にとられた。

 

 意味不明過ぎて、扶桑を抱きかかえながら海域を離脱していくそのロボットを叢雲は呆然とそこから見ているしか出来なかった。いや、どのみち千里眼で遠くから見ているだけであり、見守るしか出来ないのだが。

 

 だが、未来が変わるのを叢雲は感じた。助からないはずの扶桑が助かったのだ。しかし、安心は出来なかった。

 

 なにしろ戦闘能力も信じられないほどに高い正体不明のロボットが扶桑を連れて行ったのである。

 

 あんな破壊の権化がなぜ扶桑さんを?!それにおっぱいってなによ?!と、慌てて叢雲は扶桑の元に千里眼を繋げた。

 

 繋げて、叢雲はまた別の意味で呆然とした。

 

 何故なら、その破壊神は。

 

 洞窟の中で、わたわたしたり、目を背けたり、妙にそわそわしたりしながら、扶桑の艤装を脱がして包帯を巻いたり、傷口を消毒したり、傷薬をガーゼに塗って手当てしたりしていた。

 

「……これは手当て、医療行為、仕方ない事なんだ。おっぱい見えてるけどっ、綺麗な桜色のぼっちとか、俺は見るつもりなんて無いけど見えてしまってるからこう、見ちゃったり、いや、見ちゃいかん!見ちゃいかんのに俺の目どうなってんだ?!顔を横に背けても天井見ても、なんで見えてんだよ?!360°見えるってこれは見ろってことなのか?くそう、見たくないと言えばスンゲェ見たいほど綺麗だけど、ってか、命を救わにゃならん時にナニ考えてんだ俺っ!!負けるな俺、くじけるな俺、人命救助っ、応急処置っ、ぐぁぁぁっ!、煩悩退散、でもめちゃくちゃ綺麗な人だよなぁっ、この人っ!!」

 

 手当てをする手は的確に作業を行っているのに、頭の部分だけは横を向いたり天井見たりせわしなく動き、発している声はものすごく変態的なのに、しかしながら必死に扶桑を助けようとしている。

 

 命を救おうとしているのは理解出来たが、その様は、あたかも死霊の二人羽織り状態であり、手の動作と頭の動作が全く連動していない。まるで変態なのは頭だけで、腕は熟練の衛生兵が動かしてるかのようだ。

 

『な、ナニコイツ……』

 

 そのあまりの気持ち悪い動作と変態的な発言に、叢雲はかなり退いていた……が、もはや扶桑が助かるのはもうわかってしまった。

 

 信じられないことに今までの未来の流れでは避けられなかった多くの艦娘達に、生存フラグが乱立している事も、見えてしまったのである。

 

 次の日の朝に沈むはずだった山城、吹雪、如月まで助かる事も、小島基地の他の艦娘達が助かる事も全て見えた。

 

 そして扶桑姉妹が沈んだ事で怒り狂い、白鳥大佐と共に土方歳子までも殺害するはずの『雷のレ級』も彼女達が沈まなかった事で荒ぶる事もなく、その連れていた約500にも及ぶ沈んだ艦娘達の怨霊である『マヨイ』もゲシュペンストの信じられない破壊力と戦闘力によって全て文字通り昇天し、深海側のムサシもゲシュペンストの中の玄一郎という魂に惹かれてしまい、彼女が日本壊滅に手を貸すことも無くなった。

 

 それどころか、今回のフィリピンでの事件が深海棲艦との和平を果たす為のフラグとなり、悲惨なはずの深海戦争の結末すらも、明るい未来へと変化してしまったのである。

 

 つまり、ゲシュペンストの出現によって、ありとあらゆる未来は良い方向へと繋がってしまったのである。

 

 ゲシュペンストが顕れてから、そこから続く未来は、叢雲が見たことの無かった道が示されていた。

 

 そう、叢雲の見た未来では、彼女の隣で眠っている松平朋也は五年前の小島基地壊滅事件の後に大本営ごと深海側のムサシとレ級と化した雷率いる『マヨイ』の群れによって、死亡していたはずだったが、こうして共に居られる未来へと繋がった。

 

 そして、さらに未来は続くのである。

 

「……破壊神、か。いいえ。結びの神、かも知れないわね。ふふふっ」

 

 自分が惚れた男に、手を伸ばす。

 

 髪を撫でてやり、そして。

 

「……幸せな未来へ、生きて……みんなで掴んで進んでいきましょう」

 

 叢雲の顔は満ち足りていた。明るい未来へはもう一直線に続いていた。

 

 無論、困難はそれでもある。苦しみも皆、味わう事だろう。

 

 それでも、彼女にはその先が見えていた。艦娘と人と深海棲艦の共に進む未来、そしてゲシュペンストもその輪の中にいるのだ。

 

 未知はまた顕れるかも知れない。しかし、おそらく乗り越えていけるだろう。

 

「……でも、変態なのよねぇ。はぁ、扶桑達もそう言うのが好みなのかしらねぇ?」

 

 ぽふん、と叢雲も布団に潜り込む。

 

 まぁ、どうでもいいか。と、未来が分かって楽観的になった叢雲はあくびを一つ。再び眠りに落ちた。

 




 叢雲から見た、小島基地壊滅事件の全容は、未知の未来への始まりだった、という話。

 ゲシュペンストと玄一郎が来なければ、最良解の未来と言えど、悲しみしか残らない未来だったわけなんですが。

 まぁ、おっぱい見たり風呂覗いたりしてんのも、叢雲は全て知っていたりしますが、まぁ、叢雲さんも覗いてるので、人のことは言えないですわなぁ。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑰


 フラグはここからどんどん立って行きます。

 過去話、いつ終わるんかな、と書いてて思うのですが、もうちょい。

 そして登場しない影の薄いメインヒロイン達。

「不幸だわ」「空はあんなに……。あ、夕日だったわ」

 


 

 夕刻をやや過ぎた頃。

 

 海軍で言うところの1900時頃である。ゲシュペンスト(=玄一郎)は台湾経由でこちらに来る輸送艦と飛行艇をそのレーダーで捉えた。

 

 事前に近藤大佐からフィリピン泊地の寄生生物を駆逐するための三式弾等を積んだ輸送船と、命令伝達用に飛行艇が来ると聞いていたので、その旨、深海棲艦側にそう伝える。

 

「しかし、話を聞いてるとあんたらの本拠地……大本営?とか言ったか。かなりの騒ぎになったんだなぁ。いや、大淀さんに頼まれたものの、俺は単に報告書を送るだけだと思ってたからなぁ」

 

 コリコリ、と頭部を人差し指で掻くような仕草をして、玄一郎はそう言う。

 

「今回の事件で、上層部の人間がかなり更迭されたらしい。政府の役人から官僚、政治家もな。内乱罪が適応されるらしいが……。本国に帰ってみないとどれだけの規模の検挙かはわからんが、ううっ、なんというか帰りたくないな、これは」

 

「そうよねぇ。帰ったは良いけれど、とばっちりで私達まで更迭とか……無いわよね?」

 

 土方が、ウェアラブルPCでまた何か書類を書いている大淀に恐る恐る話しかける。

 

「大丈夫ですよ?まぁ、少なくとも、松平准将の指揮下にある方達は特に白鳥財閥系や縞傘財閥系との癒着もありませんし、それに軍主導派の芹沢派とも協調もありませんでしたし」

 

「……なんというか、ピンポイントで全部やらかしてるじゃねぇか。一斉粛正って言われても仕方ねぇぞ?」

 

「中倉翁の意向です。まぁ、正直な所、私も中倉翁がそこまでやらかすとは思っておりませんでしたが、これには元海軍元帥の山本閣下の依頼もあったようなのです」

 

「……はぁ?いや、何故そんな事がわかるんだ?」

 

「いえ、これです。ゲシュペンストさんに頼んだのは書簡の輸送もそうなのですが、これの通信機能を日本の中倉翁の所と繋げてもらったのです。ダイレクトに話せて便利ですよ?」

 

 大淀が、ほら、と画面を見せると、そこには年老いては要るが眼光鋭い着物姿の人物が映っていた。

 

 大淀がイヤホンマイクをはずすと、その画面の人物の咳払いの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「うおっほん!ワシが中倉利道じゃ。ふぅむ、お前らが松平財閥の小倅んとこの部下って奴らか?」

 

「「「どぉわぁぁぁっ!!しゃ、喋ったぁ?!」」」

 

 近藤、土方、沖田が画面から退く。

 

「あん?失礼な奴らじゃ。まぁ、ワシもこの……なんつったか?この板っきれに大淀ん顔が移って話し出した時は驚いたがのう。本当に信じられん技術だが、まぁ、そんなモンはどうでもいいわい」

 

 中倉利道。通称、中倉翁。

 

 政界の最古株の政治家にして、元陸上自衛隊陸将の肩書きも持っており、最後の自衛隊陸将だった人物である。

 

 政界入りした後、深海戦争勃発当時に陸上自衛隊を日本陸軍として再編した立役者である。

 そのため日本陸軍との強いパイプを有し、左派によるクーデター時には、やんごとなきお方達を北海道へと連れだし、そして左派達から守り抜いた筋金入りの人物でもある。

 

 今は政界を退いた身ではあるが、その発言の影響力は未だに健在であり、目をつけられたならば、逃れる術は無いとも言われる程に恐ろしい人物として知られている。

 

 なお、旧・自衛隊や陸軍関係者には珍しく艦娘に対しての理解があり、艦娘擁護派では無いが大淀を娘同然に思っているため話のわかる人物でもある。

 

 後に『新・艦娘法』、つまり『艦娘人権法』とも呼ばれる法案や『ケッコン・カッコカリ』や艦娘と人間の結婚を認める様々な法を推し進め『艦娘人権の父』と呼ばれることになる人物であった。

 

 そんな大物と直接話をするなど、近藤達も思ってはいなかった、というよりもそんな機会など欲しくは無かった。

 

 なにしろ画面から、かなりのプレッシャーがずぉぉぉん、とのし掛かるように放出されている。

 

(こ、これが……深海棲艦を生身で倒し、北海道にて左派政権を寄せ付けず、日本の象徴を守り抜いた男か……!)

 

 近藤などはもう、中倉利道のそのプレッシャーにかなり圧されていた。

 

 顔には無数の傷がある。その傷は深海大戦の初期にただの陸自のレンジャーアックスで深海棲艦と戦闘を行った際についたものであるとされる。なお、公式記録としてその戦闘で彼が倒した深海棲艦の数は三体。陸軍最強の男として当時は新聞を賑わせた男でもあるのだ。

 

 チラリと大淀の方を見るが、大淀はにこにこと笑うだけで近藤達の心境などわかってはいない。おそらくは身内同然なので慣れてしまっているのだろう。

 

「今回の一件は、左派共の生き残りがヤケクソんなって起こしたバイオテロである。こちらで捕らえた連中は復讐兵器とかなんとか呼んどったらしい。アホな連中じゃ。逆恨みに捕らわれてそんなものを作りおって。何が艦娘は人類を滅ぼす、じゃ。そんな兵器を使えば艦娘どころか人間も滅びるわ」

 

「つ、つまり今回のフィリピン泊地でのテロは、旧左派の引き起こしたテロ、だと?」

 

「ふん、縞傘財閥は前の左派政権時に成長した企業体じゃが、現在、その内部は旧左派の生き残りに巣くわれとってな。とはいえ、奴らは愚かな思想で動いとる癖にこれが賢しい。尻尾がなかなか掴めんかったが、大淀のおかげで今回の一件で全ての絡繰り、そして連中の罪が暴かれたのじゃ」

 

「つまり、奴らはあの研究施設の中に様々な犯罪の証拠を?」

 

「うむ、海外への武器や物資の横流しに、艦娘の人身売買、様々な証拠から関わった政治家、陸海空の軍人達のリストまで残しておったのだ。前々から臭いとは思っておったが、その周辺海域は激戦地という報告から、なかなか査察も入りにくかった。しかし、ようやっと連中を一網打尽に出来たと言うわけじゃ」

 

(激戦地、ねぇ。その割にはあの研究施設、全く被害が無いのよねぇ)

 

 沖田少佐はそう思ったが、口には出さなかった。

 

 なんとなく、その絡繰りはこのゲシュペンストの無人島拠点に来て、寄生生物駆除のために入渠していく深海棲艦達を見ていて感づいていたのだ。

 

 どの深海棲艦達も、全く艦娘達に対しての敵対心も持ち合わせていない。

 

 それどころか、艦娘に対して挨拶をしてくる者や第二基地・提督の柳生が救出された事に対して、怪我はないか?とかお大事に、とか言ってくる者もいたのだ。

 

 それでわからぬわけは無い。

 

 ようするに、フィリピン泊地の提督達や艦娘達は元々深海棲艦達と密約を結び、平和的にやりとりをしつつどちらにも損害の出ないように戦う振りをして戦果を捏造して大本営に報告していたのだろう。

 

 おそらくは上層部はその事をとっくに知っていたのだろう。

 

 そして、それを黙認しつつ利用したのだ。それはその方が彼らには都合が良かったからだ。

 

 長引く戦況は激戦地だと大本営や政府に報告するにはもってこいであっただろうし、また、激戦地とあればなかなか査察も入ることは出来ない。

 

(……平和主義な人達を隠れ蓑にして、奴らは隠れていたのか)

 

 沖田少佐は、ギリッ、と歯を食いしばったが、近藤達は中倉利道の話す内容に集中してそれに気づかなかった。

 

「国内の掃除はこちらに任せい。そちらは、一匹残らず、バイオテロの事態収集に当たってもらいたい。もう松平の小倅から聞いとるとは思うが、海軍大本営の艦隊に便乗して陸軍の精鋭部隊をそちらに送った。万が一の陸戦を想定しての事だが、上手く使うが良い。指揮権はそちらに任せる。健闘を祈るぞ?」

 

「は、ははぁーっ!」

 

 もう、近藤達は画面の前で平身低頭、土下座状態でひれ伏した。

 

「ところで、じゃ。大淀よう、お前を助けたっちゅう、ゲシュペンストとやらは?」

 

「ああ、そこに居ますよ。ええっと、ゲシュペンストさーん?」

 

「んぁ?俺か?」

 

 玄一郎は、自分には無関係と思って、流しで洗い物をしていたが、大淀に呼ばれて画面の前に来た。なお、エプロン姿というなかなかにシュールな格好だったりする。

 

「むぅう、確かに……ロボットだのう」

 

「ああ、ロボットの身体だが?」

 

「いや、すまんな。人ならば顔を見ただけでその人となりがわかるが、流石にお前さんの顔ではようわからん!」

 

 中倉利道はワハハハハと豪快に笑った。

 

「まぁ、表情なんぞ無いからな。で、爺さん、俺に何か用か?」

 

 怖いもの知らず、というのか、日本における重鎮・中倉利道を玄一郎は、なんだこの爺さんは、と言う感じで平然と答える。

 

「いや、なに。ウチの大淀を助けてくれたらしいからな。親代わりとしては、やはり礼を言うべきじゃろうと思ってな」

 

 中倉利道の先ほどの厳めしい顔が、神妙な表情にかわる。

 

「ああ、そんな事か。礼なんぞ要らない。助けれるなら助ける。いつもの事だ」

 

 玄一郎はそう答える。実際のところ玄一郎は命が奪われるのを見るのを嫌っている。

 

 旅をして多くの死を見てきた。

 

 軍隊のゴロツキに殺される村人達。餓死で皆、全滅した村々。独裁者に虐げられ、奴隷のように扱われて死んでいく者達。反抗ゲリラとなって大事な人達を守るために死んでいった若者達。

 

 旅の中で、助けられた者達もいるし助けられなかった者達もいる。仲良くなって笑いあった者達が、数日もしないうちに、屍をさらす。

 

 そんな体験をするうちに、玄一郎は人々の死を嫌うようになっていた。だから、助けてきたという、そういう面がある。

 

 普段は、本来隠すべきはずの、スケベ心で可愛い子や綺麗な子は助けなきゃ!という面を見せているが、いや、それは本音なのだが、それでも、いつも助けて、助かってくれてありがとうと思ってしまうのだ。

 

「……大淀はな、ワシの息子の側に居て、そして息子が死んだ後もワシの元に残ってくれた娘同然の艦娘なのじゃ。ワシからすれば助けてくれたお前さんにはどれだけ礼を言っても言い足りると言うことはない」

 

 中倉利道は深々と頭を下げた。

 

「画面越しですまんが、礼を言わせてくれ。誠にうちの娘を救っていただき、感謝のしようも無い」

 

「いや、まぁ……」

 

 玄一郎は礼を言われる事に慣れてはいない。というか偉そうな、いや実際にかなりの地位にある人物なのだが、そんな人物に頭を下げられて恐縮しない者はいない。

 

「あー、頭を上げてくれよ。助けたっても、高速修復剤ぶっかけて拠点で寝かせただけなんだからよ?」

 

「それでも、だ。お前さんにはそれだけでも、本人、家族にとってはそれほどに大事な事じゃ。ワシも、戦場で多くの部下や国民の死を見てきた。深海大戦が始まって、ワシらの力足らずどれだけの命が失われていったのか。それゆえに、お前さんの行いは、賞賛しつつ礼を言うほどに尊い。もう一度言いたい。ワシの娘を助けてくれて、本当にありがとう、と」

 

「いや……。本当に、やめてくれよ、慣れてないんだ、こういうのは!つか、俺だって助かってくれて、ありがとうなんだぜ?いや、変な事言ってるかも知れねぇけど、この世界を旅して、救われることなく死んでいく人達を見てきた。だから爺さん、あんたの気持ちは、良くわかるが、もう礼は充分だぜ」

 

 玄一郎は、内心、止めてくれと思った。中倉利道の話は、過去に見た、ウィグルや中東での出来事を思い出させて、トラウマをえぐられるような気分になった。

 

「……そうか、なるほど。ウィグルを解放した『黒い魔神』に、中東の英雄に力を貸し、中東の大連合を成立に尽力した『黒き亡霊(シャバーハ)』。なるほど、お前さんの事じゃったか。様々な情報を見たが信じられんような話が多くてな。『魔神が数多くの戦車をひっくり返し、投げ飛ばして進んで行った』とか『ただ一人でライフルの弾が飛び交う中を悠々と歩き、ただの一人の死人も出さず、銃器のみを破壊してうち勝った』とか言われても与太話かと思っとったが、なるほどなるほど!」

 

「……いや、そんな事はしてないぞ。単にジープをひっくり返したり、こっちを見た敵の兵士達が銃を捨てて逃げ出しただけだ」

 

 とは言え、まぁ、似たような事はやったので、それは自分の事なんだろうな、とは思った。

 

 まぁ、話とは人伝にどんどん誇張されていくものだ。

 

 とはいえ、玄一郎もあまりウィグルでの事や中東での事はあまり思い出したくなかった。正直、玄一郎にとって、それは人の作り出す地獄だったからだ。

 

 その地獄を許せず、玄一郎は戦った。しかし悪い記憶だけでは無く良い記憶もあるが、もうそんな経験はしたくは無いと思っている。

 

「そうか……。お前さんもまた、戦場を見てきたか。世界中に、深海棲艦の被害のみならず人の戦乱も数多くあるが……。お前さんがあと30年、いや20年顕れるのが早ければ……いや、よそう。とにかく、お前さんとは一度会って話をしたいものじゃ。……日本に立ち寄った際は、是非ワシの屋敷に来てくれ。無論、軍に手出しはさせん」

 

(……実際、あんまり行きたくねぇな。まぁ社交辞令を言って話を打ち切るか)

 

 玄一郎はそう思った。なんとなくそれが良さげに思ったのだ。

 

「ああ。立ち寄ったら行くぜ。いつになるかはわからんけどな」

 

 いつになるかわからない、つまり、イコール、行くかどうかわからない作戦である。

 

「うむ。ワシの命があるうちにな。墓ん下では話も出来ん。お前さんが亡霊でもな?」

 

 そう言って、中倉利道はまた一礼した。

 

 その後は、また大淀と話があると言い、大淀に代わったが。

 

 まぁ、ヘッドセットを大淀が接続した為、その内容はわからなかった。

 

 また、玄一郎もそれを盗聴しようとは思わなかった。何というか、トラウマを刺激された後で聞きたくはなかった。

 

(……ふぅ、やっと話が終わったぜ。しっかし、大淀さんもかなり愛されてんだなぁ。まぁいい爺さん、か?)

 

 などと思って、そそくさと再び流しの洗い物に取りかかったのだったが……。

 

「ヒソヒソヒソ……。のう、ヤツをなんとか籠絡するかなんとかして、日本に連れて来れんか?」

 

「ヒソヒソヒソ……。ええっと、無理なんじゃないかと思いますけれど、その、オーストラリアに向かう予定だったとか言ってますし……」

 

「そこをなんとか、ホレ、お前の頭脳ならこう……いろいろと、な?この通信機やらお前に渡したコンピューターとか、もう今の最先端なんぞ遥かに凌駕しとる!それにワシゃヤツが気に入ったぞ!人間だったならば、養子にしてお前を嫁にやっても良いぐらいに気に入った!」

 

「ええっと、ゲシュペンストさんはロボットですし。流石に……。いえ、素敵な方ですけれど。人間でしたら、その……確かに」←ぽっ、と頬を赤らめている。

 

「ヤツはのう、ただの一人で貧しい村人達を救い、ウィグルを解放し、中東では武装テロ組織の跋扈する石油産地を無血で取り戻し、独裁者を倒し、人々を救った。それほどの武勇伝を持つ。何より、中東がさらに安定したならば、ヤツの口利き如何で原油をさらに融通してくれるようになるかもしれん。それに日本に味方をさせればどれだけ日本の国益となるかわからん存在じゃぞ?!」

 

「ま、まぁ、打診はしますけれど、その、はい」

 

 二人がそんなやりとりをしているとは、玄一郎も夢にも思っていなかったのである。

 

 まぁ、これから約数年後、玄一郎がパラオで鹵獲された際にこの中倉利道が影でいろいろと手を回したり、大淀をパラオに送りつけたり、隠居先としてパラオに住み着いたりするのだが、それはまた別の話であろう。

 

 とっぴんぱらりのぷう。

 





 さて。

 大淀さんの保護者、政界のドン中倉利道氏この時代ですと73歳。

 本編では83才ですが、まだまだ元気なジジィです。本編ではもう隠居してパラオに住んでおりますので、また出てくるかも知れません。 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑱

 今回は捏造設定あり。

 フラグが、未登場のスパロボキャラに立った。

 龍田さん、怖可愛い。

 深海扶桑さん、まだ発見出来ず。

 メインヒロインが行方不明。


 夜2130時。

 

 海峡夜棲姫の片割れである捕らわれの深海扶桑の捜索は、ゲシュペンストによって続けられていた。

 

 いくつもの隔壁やダクトを潜り抜け、センサーやレーダー、光学機器を積んだドローンはようやく、海上研究施設の最深部、海底施設へと到達した。

 

「……まるで誰もいやがらねぇな。血の跡はあるが、死体は無い」

 

 陰鬱とした声で玄一郎は映像を見続ける。

 

〔……ウィグルや中東での事を思い出していたのか?〕

 

「ああ。あまり良い記憶じゃないが、忘れてもいけない。俺は二度と同じ誤りはしない。もう、人が死んで行くのは見たくないからな」

 

〔思い詰めるな。わかっているとは思うが、探しているのは『深海側の扶桑』だ。あの扶桑では無い。お前があの扶桑を特別視しているのはわかってはいるが……。別の存在だ〕

 

「……深海の山城を見ていると、他人には思えなかった。艦娘でも、あの最初に助けた高雄さんと、近藤大佐の所の高雄さんじゃ、似てるけど別の、同姓の人って感じなんだが、深海側の山城と艦娘側の山城は双子って言われても通用しそうだからなぁ。なんとか助けてやりたいんだよ。やっぱ」

 

〔だが、最悪の場合も考えるべきだ〕

 

「わかっている。気負いは失敗の元だってのはな。……だが、まずは探し出して確認しなければ、何にも出来ない」

 

〔……幸い、私の過去のデータに『念動』に関する情報はある。『念動』、すなわちサイキックと言った能力は、意思の力だ。つまり、脳の働きが最も重要となる。つまり、寄生生物に感染し脳をはじめとする中枢が浸食され、破壊されれば『念動』を使うのは不可能だ〕

 

「つまり、深海扶桑さんの脳に寄生生物はとりついていないって事か?」

 

〔研究施設にあった『寄生生物』のデータが正しければ、だが。だがどのようにして深海扶桑に寄生生物に『念動フィールド』を張らさせているのか、わからん。私の知る過去の例を参照すれば『洗脳』されている可能性があるが……〕

 

 ゲシュペンストは、カーウァイ・ラウであった自分を生体ユニットガルイン・メハベルに改造したアタッド・シャムラン、つまりジェニファー・フォンダを思い出した。

 

 かつて彼は、カーウァイ・ラウだった頃に軍務で日本の特殊脳科学研究所でサイコドライバー数人と会った事が、あった。

 その中で、ユキコ・ダテとジェニファー・フォンダの二人は非常に印象深い女性だった。

 

 ユキコ・ダテは日本人で、非常に奥ゆかしい印象だったが、明るい性格で気さくな女性だったし、ジェニファー・フォンダは理知的で、負けず嫌いな側面もあったが明るく、ムードメーカーな女性だった。

 

 しかし、特殊脳科学研究所に出向したカーウァイ・ラウの任務はよくわからないもので、わけのわからない装置を付けた二人乗りのゲシュペンストの改修機に共に乗って、実戦形式で演習を数日間に分けて行うという物だった。

 

 演習の結果としては、特にどちらを乗せて戦っても特に変化も感じなかったが、特脳研の所長であるケンゾウ・コバヤシは面白いデータが取れたとかなんとか言っていたのを覚えている。

 

 とはいえ、任務が終わってからは特に特脳研に任務で呼ばれることも無く、その後、カーウァイ・ラウは特殊戦術教導隊の隊長へと抜擢され、二度と二人に会うことも無かったのだが。

 

 だが敵に鹵獲された時、カーウァイ・ラウはまさかジェニファー・フォンダが敵に洗脳されて地球侵略の手駒になっており、しかも理知的で明るかった性格は、まるで昔のテレビで見た特撮の悪の女幹部そのものに変えられていた。

 

 それはかなりカーウァイ・ラウにとってショックな事だったが、さらにショックだったのは、その彼女に彼とゲシュペンストは改造され、そして地球侵略の為の兵器として運用された事だろう。

 

 兵器の生体ユニットとして、彼の自我は封印されてしまい、その後、カーウァイ・ラウが自分を取り戻したのは、地球のスーパーロボット達に撃破されたその瞬間であった。今まで自分がして来た事は全て覚えてはいたので、その最後は彼にとっても納得できる事ではあった。

 

 ただ、悔いがあったとすれば、地球を護るどころか敵の侵略兵器に機体諸共されてしまった事と、アタッド・シャムランにされてしまったジェニファー・フォンダの事だった。

 

「ん?どうした、相棒。急に黙りこくってよ?」

 

〔いや、洗脳というものは、非常に下劣な行為だと思ったのだ。そして、鹵獲され兵器に転用するというのもな。私にも過去の負い目はあるのだ。早く『深海扶桑』の場所を探そう〕

 

「ああ。絶対に助けようぜ、相棒!そして『深海山城』の元へ帰してやるんだ!」

 

 玄一郎の言葉にゲシュペンストも同意する。

 

〔ああ、そのためにも『深海扶桑』の発見に集中する。玄一郎は少し休んでおけ。君の精神は人のままだ。私とは違い思い詰めやすい。近藤大佐達が来るまでまだしばらくあるだろう?〕

 

「わかった。だが、何かあったら言ってくれよ?」

 

〔もちろんだ。重要な事はいつも共有して来た。当たり前だ〕

 

 そう言うゲシュペンストの生体ユニットにされたカーウァイ・ラウもこの時は知らなかったし、情報の共有も二人の間ではされていなかった事だが。

 

 玄一郎も実はジェニファー・フォンダという女性、つまりはその異世界同位体と奇妙な縁があった。

 

 長くなるので短く説明すると。

 

 バイト先の外資系の外食産業の日本支社の支社長がジェニファー・フォンダであり、日本が核攻撃を受けた日に、玄一郎は何故かその支社長の呼び出しで都心の支社に呼び出されて出向いていた、という経緯がある。

 

 今となっては、そのジェニファー・フォンダ支社長がどういう理由があって彼を呼び出したのかはわからないが。

 

 カーウァイ・ラウと黒田玄一郎、この異世界同位体の人生はジェニファー・フォンダという女性に関わる事で終わりを告げた事は確かである。

 

 こちらの世界では全く関係の無い話と二人ともそれについては全く話すことは無かったし、この世界にはジェニファー・フォンダは居ない、とも『高をくくっていた』のだ。

 そして、過去など話さなくとも、互いに運命共同体であるし、それにかなりの部分で息がピッタリと合っている二人なのである。故に、詳しくはお互い詮索もしなかった。というよりも、そういう話をする事など忘れていたと言うのが正しいだろう。

 

……なお、ジェニファー・フォンダは、この世界に来ていたらどういう感じになっているのか。

 

 とても気になるが、まぁ、それはまた別の話である。

 

 

 

 コンコン、とドアの無い厨房の入り口の木枠を叩く音が聞こえた。

 

 バックカメラでそちらを見ると、龍田がそこには立っていた。手には大きな玩具の水鉄砲にしか見えないものを持っており、腰にはその水鉄砲に付けるタンクをぶら下げている。

 

「……ゲシュちゃーん?とりあえず、島の周りの除染、終わったよぉ?」

 

 と、龍田は言って厨房へと入ってきた。

 

「ああ、お疲れ。というか報告は近藤大佐の所にすりゃ良かったんじゃないか?」

 

「ん~、そっちは済ませたわよぉ?でもこの島のヌシはゲシュちゃんだもの、やっぱりねぇ?」

 

 律儀というか何というか龍田はそう言う。

 龍田達は、今まで寄生生物を寄せ付けない為に、全員総出でこの無人島全域に高速修復剤をバラまいていたのだが、龍田がもっている水鉄砲は、その為の装備としてゲシュペンストが作ったものの一つだった。

 

「ヌシって、この島は俺の持ちモンじゃないがな。無人になってるのを間借りしてるだけ。昔からよく考えりゃんな事ばかりしてるな。ワタヌシ島から日本本土の廃墟、ルソン島近くでもアジト作ったっけな」

 

「そうねぇ。でも、ここまで大きなアジトは初めてじゃない?まぁ、助けた人数が人数だから大きくもなるかぁ」

 

「ま、そうなるわな。ここまで大人数を助けたのは俺も初めてだぜ。ほい、ミックスジュース。喉乾いてるだろ?」

 

 玄一郎は水で冷やしたステンレスの容器のジュースをコップに注いで龍田に出してやる。

 

「わぁっ、ありがとう」

 

「まぁ、その水鉄砲置けよ」

 

「んふふっ、まさか寄生生物が寄り付かないようにするのに、まさかこんな玩具を使う事になるなんてね」

 

「ま、ようは水が捲けりゃ良いのさ。ま、島全体に捲くなら他の連中に持たせた農薬散布器の方が効率的だが、遠くに飛ばすにはそれが一番だろ」

 

 この水鉄砲のタンクの中身は高速修復剤である。手元のポンプを数回シャコシャコっと動かして圧搾空気をタンクに送り込む事で高速修復剤を噴射させる事が出来る。

 

 有効射程範囲は約六メートル。ただし液体であるため寄生生物に対しての効果はさらにその範囲は上がる。

 

 用途は寄生生物の卵、並びに幼生体の駆除だが、無論中身は高速修復剤なので、艦娘の応急処置にも使える。

 

「ま、簡単な構造だし海辺にはもってこいかもねぇ」

 

 龍田はコップに口をつけて、ミックスジュースを一口飲んだ。

 

「あら、美味し」

 

 口を手で押さえるようにしながら、龍田が驚いたようにそう言う。

 

「ま、艦娘達の飯は間宮と伊良湖だっけか?あちらで作ってくれるようになったから食材も大半渡したけど、まぁ、ジュースくらいは作れるのさ」

 

 お代わりもあるぜ?とステンレスの容器をタポタポと振りつつ玄一郎は言ったが、龍田は少し不機嫌そうな顔をした。

 

「ええーっ?私、久しぶりにゲシュちゃんのご飯食べたかったのにぃ~。作れないのぉ?」

 

 どうやら、龍田が玄一郎に報告に来たのは、それが目的だったらしい。

 

「わかったわかった。実はもう少ししたら来る近藤大佐達の為に焼こうと思ってたパンケーキもどきのタネならある。焼いてやるから少し待ってろ」

 

 そう言う玄一郎に、龍田は

 

「やったぁ~っ、うふふふ、だからゲシュちゃんだ~いすき!」

 

 と、かなりの喜びようである。

 

 玄一郎は布を被せた金属のボウルを棚から取り出して来て、その中身を確認する。

 

「ま、膨らし粉をもらったからな。上手く焼けるだろ」

 

 このボウルの中のタネは、小麦粉で作ったものではない。主にタロ芋や長芋、ジャガイモで作った物に、間宮を通じて手に入れた牛乳、卵、ベイキングパウダーを使ってタネにしたものである。

 

 紅色のタロ芋を使っているのでやや紫ががった色だが、しかし焼いたならもっちりと仄かに甘いパンケーキとなるはずだ。

 

 添えるシロップはパイナップルとマンゴーを山で手に入れた蜂の巣から取った蜂蜜を混ぜて煮た物であり、さらにすでに仕込んであるフルーツもそこに乗る。

 

 かまどはちょうど薪がいい具合に炭火となり、燠火となっている。そこへココナッツから取った油を引いたフライパンを乗せる。

 

 無論、布巾は濡らして絞ってある。

 

 かまどに乾燥させた焚き付け用のシュロの繊維の束を放り込み、火力を一時的に上げてフライパンを加熱させる。

 

「ねぇ、ゲシュちゃん。なんか懐かしいね?昔さ、廃墟でアジト作ってくれてさ、私達を助けてくれたじゃない?あの時も、ゲシュちゃんご飯作ってくれたね」

 

「ああ、あの時はビルのオフィスだったか。あの時は水や食料を探すのに苦労した。コンクリートジャングルとは言うが、流通も何も無くなった場所は、本当に人は住めないものだと思ったぜ」

 

「そうだったわねぇ。お米とか、お水のペットボトルとか箱で運んで喜んでたわよねぇ。あの時は本当、変なロボットだって思ったわぁ」

 

「元が人間だったからな。食料は食えなくてもありがたいと思うのさ。特に誰かがいるときはな」

 

 玄一郎は加熱したフライパンを、一度濡れ布巾に当てて、じゅうううっ、と冷ました。

 

 シュロの繊維が燃えつき、かまどは再び炭だけの燠火になる。

 

 再びフライパンに油を少し引き、またかまどにかけて、今度はパンケーキもどきのタネを入れた。

 

「元人間、かぁ。ゲシュちゃんが人のままだったら良かったのにね。いえ、だとすると私達助かって無かったのかな?」

 

「……人間は戦えないからなぁ。空も飛べないし海面にも浮かべない。お前たちに比べれば弱い生き物だから。俺の前世……って言うのか、生前は特に弱かったからなぁ。喧嘩も無理だったし?」

 

 弱火の遠火でフライパンに耐熱ガラスの蓋をする。じわりじわりと焼ける生地の匂いは、甘く漂い、くんくん、と龍田は鼻を動かした。

 

「ん~いい匂い……!人は弱い、かぁ。そうよねぇ。もし、ゲシュちゃんが強いまま人の姿になれたら最高かなぁ。ご飯も食べれるし?」

 

「ああ、そりゃあ最高だな。味覚がわかれば細かく分析する事も無いし、俺も食える……っと」

 

 ガラスの蓋を開けて、フライパンを揺すり、ほいっとパンケーキもどきを跳ね上げて空中でひっくり返す。

 

「うし、もうちょいで焼きあがるぞ?」

 

「うん、うわぁ楽しみぃ~!そうねぇ、ゲシュちゃんが人だったら一緒に食べれたり、あーん、なんて出来たのにね?」

 

「そいつは、なんてリア充なシチュエーションだ。というか生きてた頃はそんなのラブコメアニメか妄想ん中ぐらいでしか!くぅぅっ!」

 

「くすくすくす、ゲシュちゃん昔はモテなかったって言ってたものねぇ。ホント今、肉体があったら……」

 

 そう言う龍田の言葉を遮るように玄一郎は、

 

「ま、仕方ないわな。この身体は借り物。いつかは返さないといかんからな」

 

 と、言った。玄一郎は龍田の言わんとする事がなんとなくわかったからだ。

 

「……元の世界に帰って、ゲシュペンストと別れたら、ゲシュちゃんはどうなるの?」

 

「俺は……成仏するのか、そのまま彷徨うのか、帰ってみないとわからない。だが……生きているなら一目、家族に会いたいと思う。家族がみんな死んでたら、あの世で会えるかも知れないが……」

 

「……帰らなくても良いじゃない。このままこの世界にいれば。機械の身体でも。ずっとゲシュペンストに身体を借りててさ、昔みたいに……!」

 

「……ほい、焼けたぞ。ほれ、フルーツ乗せてソースかけて」

 

「ゲシュちゃん!」

 

 龍田は、おそらく不安なのだ。

 おそらく、フィリピン泊地での今回の事態で多くの寄生生物に感染した元仲間達を殺さねばならなかった事で、精神的に不安定になってしまっている。

 そして、再び玄一郎、つまりゲシュペンストに逢った事で、依存して来ているのだろう。

 

 龍田もずっと血濡れの薙刀姫などと呼ばれてはいたが、好き好んで暗殺部隊にいたわけではない。

 

 龍田は助けを求めて、しかしそれが得られずに渇望の末に己の心を壊さぬ為、血濡れの暗殺者の仮面を付ける事を選択した、女だった。

 

 本当は優しく繊細な心をもった乙女なのに。

 独りになることが怖いから、誰かが独りになっているのを見過ごせない。自分が不安だから誰かの不安を悟って心を砕く。強がるのもその現れで、本当は弱いのに自分を偽ってでも誰かを想う。

 

 それが龍田という艦娘だった。

 

 だが、彼女をゲシュペンストと玄一郎のあてのない旅に連れて行くわけにはいかない。

  

 やっと、普通の艦娘として暮らせるようになったのだ。テロリストとして追われる事も、殺人者として蔑まれることも無くなったのだ。

 

「……俺達がいつ元の世界へ帰れるのかはわからん。もしかしたら帰れないのかも知れない。だが、俺はどこへ行っても『亡霊』のままなんだ。それに……。お前たちは、もうお尋ね者じゃない。ちゃんと、当たり前の艦娘に戻れたじゃないか。逃亡もしなくてももう良くなった。ブラックな連中も、もう居なくなったって言うし」

 

「……ゲシュちゃんは、どうするのよぉ。このまま世界中を当てなく彷徨って、どこにも居場所も無くずっと……独りで」

 

 ポロポロと龍田は涙をこぼしながら、玄一郎に訴えかける。玄一郎は、コイツは本当に昔から泣き虫だよなぁ、と苦笑した。

 

「独りじゃないさ。相棒がいつもいる。ゲシュペンストがさ?ほら、焼きたてのうちに食えよ。つか、泣くな泣くな、まるで俺が今すぐ消えちまうみたいな事を言うなよ。んなもん、帰る方法だってまだわかんねーのに!」

 

「……黙って、この世界から居なくならないでね?」

 

「ああ、わかった。約束する」

 

 龍田は、ぐずっ、ぐずっ、と目に涙を溜めてしゃくる。

 はぁ~っ、と溜め息を吐き、玄一郎は丸い円形の艤装の内側から、龍田のその頭を撫でてやる。

 

「まったく、お前は怒ると怖い癖に本当に泣き虫だなぁ」

 

「ゲシュちゃんが悪いんじゃない……。私に優しいのって、優しくしてくれたのって、お父様と天龍ちゃんと、ゲシュちゃんだけなんだものぉ」

 

「あ~そうかそうか。ほれ、泣き止め。ほら、鼻をかんで、ちーんだ」

 

 玄一郎がハンカチを龍田の鼻に当てると、龍田は、ぐずっ、ぐずっ、ちーん。

 

「ありがとぉ……」

 

「はぁ、なんか妹が出来高気分だ」

 

「……妹ぉ?」

 

 今度は睨まれたが、その理由など玄一郎にはわからない。

 

「なんで睨むかな。それよりもホレ、食っちまえ。どうせお代わりほしいだろ?次を焼くから!近藤大佐達も来るし!」

 

 玄一郎は龍田から離れて、再びパンケーキもどきを焼きに戻った。

 

「……甘ぁい。美味し」

 

「そいつぁ良かったねぇ。というか本当、お前は甘いもん好きだよなぁ。……太ってもしらネーぞ?」

 

 バシュっ!

 

 龍田の薙刀が、ゲシュペンストの首もとに突きつけられた。

 

「……カロリー足りてないからぁ、このぐらいは食べないといけないのよぉ?誰かさんがなかなか助けに来てくれなかったから、食べる物も乏しかったのよぉ?」

 

「はい……すみません」

 

 怒ると怖い。泣くと可愛い。玄一郎にとって、龍田はそういう艦娘だったとさ。




 
 ゲシュペンストこと、カーウァイさんとアタッドさんことジェニファー・フォンダとは公式では会ったかどうなのかはわかりません。

 多分、無いんじゃないかな、とは思いますが、フラグ立てとかないと、本編でカーウァイさんが面白い事にならないので。

 いえ、ジェニファー・フォンダさんのとあるイラスト見たらかなり美人だったんだなと思って、登場させるかぁ、と。赤いイカみたいなコスのおばさんはどうすっかな、とか思いますが。

……あれ?なんで龍田さんが動いたんだろう、と言うぐらいなんか勝手に動いたんですが、いえ、想定外です。

 代わりに比叡と金剛が動いてくれません。あれぇ?

 あと、大淀が動くのが次の回かその次ぐらい。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑲

 斎藤さん、鳳翔と会う。

 造田博士の危険な発明品(いろんな意味で)。

 造田家の家計の事情。

 メインヒロイン、やっとこ出てきたよ?


 

「……飛行艇というものは初めて乗るが、ふん、海軍は資金が潤沢で良いねぇ。つか、シャンデリアなんぞ、どこの貴人が乗る飛行艇だ?」

 

 軍刀を両手を重ねて杖のように突き、真っ直ぐ正面を向いて誰に語るでも無く、緑色の陸軍軍服に身を包んだ長身の男が飛行艇の真新しく煌びやかな内装を見て悪態を吐いた。

 

 はっきり言って予算の無駄遣いでしかないような飛行艇である。正直言ってこれから作戦地域に向かうのに使う機体ではない。

 

 この飛行艇はとある海軍の上層部の大将が海軍の予算で自分用に勝手に生産させた特別豪華に造らせた飛行艇である。

 

 もちろん、それは海軍の資財の私有化であり、許されるはずもなく、縞傘財閥とは直接関係はない大将ではあったが、今頃、憲兵の厳しい事情聴取を受けている事だろう。

 

 無論、彼は罪に問われ軍を追われることとなるのだがこの機体においては海軍の予算にて造られたものであるから、海軍にて運用することとなり、松平准将がそれを接収し今回の作戦に投入したわけである。

 

 そんな機体を何故今回使うことになったのか、と言えば、その真新しく内装が豪華なこの飛行艇が必要だったから、としか言えない。

 

 だが、この飛行艇は軍の飛行艇としての能力面では豪華な内装の分、無駄が多く通常の飛行艇より劣る。また、どうせ深海棲艦には効かないからと武装もオミットされており、乗り心地の面は向上されているが機動性はその分やはり劣るという代物なのである。

 

 旅客機としては良いかも知れないが、軍用機としてはどうなんだ?と言いたい代物なのである。

 

 こんなもん、誰が使おうと思ったんだよ?と言いたいが、全ては叢雲の計略の為に使おうと思ったと言うほか無い。

 

 シカタナイネ?

 

 まぁ、他の海軍保有の通常の飛行艇であっても結果は変わら無かったりもするが、これをあえて使ったのは叢雲の鳳翔に幸せになって欲しいと思う、家族愛ゆえに、である。

 

 なにしろ鳳翔は造田博士の元で暮らしていた全ての艦娘達にとっては、母代わりの姉のように慕われていた艦娘なのである。

 

 家事や炊事みんなの世話をしたり、造田博士の行きつけの小料理屋で働いて家計を助けたり、と、正直なところ造田博士を含む、『家族』全員、彼女には頭が上がらない。

 

 そんな相手の運命の相手との初めての出会いを、少しでも良くしようと叢雲は思っていた。というよりもワクワクしながら、今も見ていたりするわけである。

 

 もう乙女の好奇心というか、結果はわかっているけどドキドキワクワクしながら見ているのである。

 

 リアルタイムで『ライブ』と出るぐらいな感じで。

 まぁ、それはさておき。

 

 だが、その鳳翔の運命の相手の目は死んでいた。

 

 鳳翔の運命の相手であるその男の態度はすんげぇ悪かった。

 乙女の理想とか夢とかそんなもの知ったことか、と言わんばかりにやさぐれ、口には短くなった煙草を咥え、目はどんよりどよどよ。まぁ、仕方あるまい。過酷すぎる戦場を駆け抜けて生き抜いてきた男なのだ。

 

 この男の名は『斎藤一夫』。

 

 陸軍の特殊対深海棲艦部隊・第三分隊隊長にして『鬼の斎藤』と呼ばれた男であり、階級は特務大尉。つまりは二階級上の中佐と同等の権限を持っている。

 

 この陸軍特殊対深海棲艦部隊は『陸特・第三分隊』と呼ばれている。

 創設時には、陸軍特殊対深海棲艦部隊は15あったがどんどんその隊員数を減らし、生き残った人員は生き残った分隊に組み込まれ、そうして最後まで生き残ったのが第三分隊のみとなった。

 

 深海棲艦と人間が戦う為には、深海棲艦に対して効果がある武装にて攻撃をせねばならない。だが、深海棲艦にはどれほどの貫通能力を持つ砲も爆弾も効かない。

 

 人間が深海棲艦と戦うには、魂の込められたもの、霊力や怨念の宿った武器を用いて戦うしかない。

 

 しかし、飛道具の類でそういった武器はあまり無く、対深海棲艦部隊の兵装は自ずと霊剣、霊刀、妖刀の類などになって行った。

 

 それはまさに自殺行為と言うべきことであった。ただの刀を持った者が軍艦の砲を持つ、言わば怪物と戦うなど、勝てる道理が無い。

 だが、当時、それしか無かったのである。

 艦娘も居なかった頃、日本を守るには、それしか無かった。故に、多くの陸軍の兵士達が、刀剣を握り、海から押し寄せる深海棲艦に立ち向かって行ったのである。

 

 対深海棲艦部隊は、どんどん兵士の数を減らして行った。いや、対深海棲艦だけではない。陸海空、どの兵士達全体がである。

 

 艦娘が顕れるまでそんな戦いが日本全土で繰り広げられていた。

 

 だが、それも過去の話になってしまった。

 

 今や艦娘に深海棲艦との戦いはとって変わられ、閑職へと追いやられた成れの果て、と斎藤は自分達の事を言い自嘲して笑う。

 

 多くの仲間達を失い、その屍を踏み越え、深海棲艦と戦い、身体に染み付いた血がどちらの血なのかわからぬ泥沼の海で死に物狂いで戦ってきた男ではあるが、斎藤にはそんな戦場に未練は特に無い。

 

 正直な話、血を求めて、とか戦いを求めて、とかそんな事を思うような戦闘狂では無い。

 

 むしろ、無駄飯食いと言われようが役立たずと言われようが、給金もらって毎日のほほんと暮らせればそれでいいと思うようなぐうたらな男であり、二度とあんな戦いは御免だと思っている。

 

 なのに、今回召集が掛かった。

 

 止めてくれよ、とか正直思った。

 

 嫌だと言うのにいきなり黒塗りの高級車に無理矢理乗せられ、着いた先が政界のドンの中倉翁の屋敷で、それでなくても嫌な予感と確信しかしないのに、奇妙な薄い板のようなテレビを見せられ、深海棲艦以上にグロくてキモイ訳の分からん生物の映像を見せられ、お前たち、コイツら始末してこい、である。

 

 しかも、その後に渡されたやたらと上質な白い紙に印刷された鮮明な絵というか写真付きの資料を見れば、その正体不明な訳のわからん生物は、縞傘財閥と旧・左派政権の生き残りのテロリスト達によって造られた生物兵器であり、それは艦娘や深海棲艦に取り付く寄生生物で写真は艦娘を食い破って出てきたものだという。

 

 つまり、艦娘をその生物兵器と交戦させればその生物兵器はどんどん増えていくので、艦娘は使えん。ただし通常兵器は全く効果が無いから、お前らが行って駆除して来い、というわけなのである。

 

 はっきり言おう。いや、もうとっくに帰りの黒塗りの高級車の中で上司にも言った。

 

『んなもん、無理に決まってるだろ?!』

 

 と。

 だが、却下された。

 

『もうすでに君の部下、第三分隊は海軍の輸送船にて現地前線拠点に出立している。あとは君を送り出すだけだ』

 

 つまり、上司は『おまえら死んでこい』と言ったわけである。

 

「いつか絶対にあのケツにTNT詰めて月まで飛ばしてやるかんな」

 

 忌々しそうに斎藤はそう言い、苦々しい顔で吸っていた煙草をお気に入りの金属製の円筒携帯灰皿に押し込んだ。

 

 と、外のタラップからカンカンカンという音がした。それは斎藤の聞き慣れた軍靴の音ではない。いや、海軍の連中の靴の音でも無い。雪駄か何かのようなパタパタパタ、という音も同時にする。

 はて?と思ってタラップの方を見れば、着物姿の女性、それもまだ若く少女の面影さえ残すような、そんな育ちの良さそうな女性が機内に搭乗してきた。

 斎藤は、おそらくは海軍のどこかの上の人間の娘で、父親が出立するのを見送りに来たのか、と思ったが、どうも様子が違う。

 

 何しろ、

 

「あ、ここ失礼します」

 

 と斎藤の隣にわざわざ来て座ったからだ。

 

「あ~、君、というかお嬢さん、この機はこれから南方の作戦地域、つまり戦場へと向かう飛行艇だ。乗る機を間違えて無いかね?」

 

 戸惑いつつも斎藤はその女性にそう言ってやる。何しろこんなお嬢様にしか見えないような女性を戦地に連れて行くなどという手違いや間違いはいかんと思ったからである。

 それに、あの資料の生物兵器とやらが本当ならば、かなり凄惨な戦いになる。流石にこんな民間人の女性を守りながら戦うなど不可能だ。

 

「はぁ、この機はUS-2・1088、イットバヤットの近くの島に向かう飛行艇ですよね?」

 

「ああ、それで間違いは無い。しかしそこは海軍の前線拠点が敷かれている。つまり戦場だ。君のようなお嬢さんが……」

 

 と、言ってふと、斎藤はその女性の顔を見て何か記憶にある顔だと思った。

 

 出張で出向いた先で海軍に行った元部下と偶然ばったり会い、無理矢理連れて行かれた居酒屋の女将がこんな顔では無かったか?と思い出す。

 

 その後、出張先であったこともあり二度と行くことは無かったが、斎藤の好物の出汁巻きが旨かったのを覚えている。

 

「……あんた、あんときの居酒屋の女将さん、か?」

 

「はい、居酒屋を営まさせていただいております。たしか一度、沖田少佐と来られましたよね?覚えております。たしか、斎藤さんでしたか?」

 

「……えっと、その居酒屋の女将さんが、なんでまた戦地に?というか、まさか海軍のどっかの偉いさんのお付きとか?なら止めとけ。詳細は言えないが、あそこは今、とんでもないことになってる。俺達だって生きて帰れるかわからんのだ」

 

 斎藤は席から立ち上がり、その女将さんの手をとって、引き、本気で彼女の事を思って飛行艇から降りるようにと諭し、彼女を立たせようとした。

 冗談じゃない、自分の元部下である沖田が世話になっていると言っていた民間人の、居酒屋の女将さんをとんでもない事になっている戦場に巻き込んでたまるか、と思ったのである。

 

 しかし、その女将さんは、微動だにせず、にっこりと笑うと、

 

「本来、戦地こそが私の赴く場所です。それに、私の所属する艦隊、大本営第一艦隊のみなさんは、もう出立しております」

 

 と言った。

 

「はぁっ?!それは、どういう…‥?」

 

 ガコン、と降りていたタラップが上がり、飛行艇のドアが閉まる。

 

「ちょっと待て!おいっ!!」

 

 斎藤は操縦席のパイロットに向かって叫ぶように発進しようとするのを押し留めようとしたが、パイロットは無情にも、

 

「予定時間です」

 

 と全くこちらの方を見ようともせず、ガルン、ガルンガルン、とエンジンをかけ、まるで止められない内に飛んでしまおうとでも言うように、素早い手順で飛行艇を発進させてしまったのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、一方無人島拠点である。

 

 こちらでは『深海扶桑』の探索がようやく終了していたが、予測の遥か上を行くような、異常な事態に玄一郎もゲシュペンストも驚愕していた。

 

 いや、結論から言えば『深海扶桑』は無事であった。いや、寄生生物による感染は無く、彼女の救出作戦の手順もほぼシミュレート出来ている。

 

 しかしながら、それ以外の出来事が問題であった。

 

 何故ならば。

 

 深海扶桑を捕らえている器具、というかその装置が問題だったのである。

 

〔T-Linkシステム?!いや、細部の部品や構造に相違はあるが、何故これがこの世界に!?〕

 

 深海扶桑はまるで人工冬眠、コールドスリープカプセルのような機材の中に入れられているが、その機材の周りを囲むようにして、特殊な機材が剥き出しでそれぞれ繋げられており、一見、その機材の数々が何の為の物かゲシュペンストも解らなかったが、構造などを一つ一つ分析して、それが『T-Linkシステム』である事を突き止めた。

 

 おそらくは何者か、T-Linkシステムをこの世界で再現使用として様々な機材を継ぎ合わせて造ったのだろうが、そのような芸当が出来るのは、実物のT-Linkシステムの構造を知る者以外に有り得るとは思えなかった。

 

「ちょっと待てよ、ゲシュペンスト。T-Linkシステムってのはお前の世界のシロモンじゃねぇか!なんでこの世界にそんなモンがあるんだ?!」

 

〔わからない。だが、辻褄は合う。フィリピン泊地、その島全体を覆うほどの念動フィールド。そして感染者全てに働きかけられるほどに強い念。まさかとは思ったが……。この世界に特脳研の関係者か、もしやエアロゲイターの先兵が来ているのか?!〕

 

 もし、そうならば由々しき出来事である。敵方にかなりの技術力を持つ者が居り、それが手を貸している事になる。

 

 しかし、さっきまで泣いていた龍田が今は上機嫌でパンケーキをパクつきつつ、

 

「ん~、それってお父様が開発した、霊力計測器じゃない?いろいろおかしな物がくっついてるみたいだけど」

 

 などとモニターを見ながら言った。

 

「霊力……計測器?」

 

「そうよぉ?お父様は、深海棲艦には何故、人の兵器が通用せず、艦娘の攻撃ならば通用するのかを調べるためにいろんな物を作ってた事があったのよ。そのうちの一つが、そのカプセルね。何か液体が入ってるけど」

 

 龍田が言うには、その霊力計測器や霊力増幅装置、そして人間の霊力を増幅して深海棲艦に攻撃を通用させる霊力機関といった発明を造田博士は行っていたらしく、その技術的特許は数知れないのだという。

 

 しかし、その技術的特許も左派達は彼から取り上げ、そうして様々な左派におもねる企業に分配し、そしてそれによる利益でそれぞれの企業は大きく成長、そして様々な財閥を生んだのだという。

 

「腹の立つ話だけどね。お父様の発明は全て三核財閥、白鳥財閥や縞傘財閥、灰場ファーマシー、いろんな連中に取られて行ったのよ」

 

 竜田はそう言って深海扶桑の繋がれている機械の一つ一つを指さし、一つ一つ説明をしていった。

 

「このカプセルは霊力を測定する装置よ。昔、艦娘の叢雲や扶桑と山城、霊力が高い子達をお父様はよく測定してたわ。その横は分解されているけど、お父様が初期に使ってた霊力放出型のバスターパックね。深海棲艦を退治するのに使ってたわ。これは人の霊力を増幅してエネルギー怪光線を出す武器で…‥」

 

「ちょっとマテ。いや、突っ込みどころ満載なモンが出てきたんだが。まさか『幽霊禁止』なマークとか付けてなかったか?それ」

 

「ええっと途中から『イ級禁止』のマークになってたけどぉ?」

 

「すっげえあっぶねぇ?!いや、マーク変えてて良かった!!」

 

 そう、それはどう考えても、、科学の力で幽霊退治をする、某アメリカ映画のあの背負い型の幽霊捕獲用の武器のパクリだった。

 

「あっぶねぇ、つか外装が分解されてて良かったぁ?!」

 

「えっと、まぁ危ない武器だったけどぉ、なに?」

 

「いや龍田、うん、それにはもう触れるな。ギリギリだ」

 

「?」

 

 龍田は首を傾げたが、はっきり言って危ないからね?某アメリカ黒ネズミよりかは何とかなりそうだけど、その辺突っ込まないようにね?約束だぞっ!

 

 それぞれの装置の説明を聞き、ゲシュペンストは驚きのあまり信じられない、と言った。

 

〔つまり、それぞれが全く違った意図で造られた、と?〕

 

「ええ。そもそもお父様の発明は行き当たりばったりの思いつきで造られたものがほとんどだったものぉ。それに造った時期も違うし?」

 

「つまり、何物かが造田博士の発明を組み合わせて、目的の効果を生み出す装置を作り上げた、と言うことか」

 

「言っておくけどぉ、この装置はお父様が組んだわけじゃないわ。何しろお父様なら、こんなに分散して作るわけ無いもの。構造美とかデザインの綺麗さとかに拘るもの。こんなゴミゴミした配線、ありえない」

 

「……ふーむ、確かにそうか」

 

 玄一郎はかつて龍田と那智を連れて、廃墟になっていた造田博士の研究所の中を調べた事があった。

 

 様々な機械類はおそらく政府や軍に持って行かれていたが、しかし残っていた用途不明の機材を見るに、確かに造田博士の造ったものは、構造や配線など、きっちりと整理され、一種の美意識さえも感じるほどにコンパクトかつ機能美を追求したもので、龍田の言うことは納得出来た。

 

〔造田博士は、このような機械を発案したことは?〕

 

「うーん、それはわからない。でも、発案したなら昔に造ったものなんて流用しないし、最初から図面を引いて設計段階ですでにデザインも終わってるもの。それは無いと思う」

 

「ゲシュペンスト、龍田の言うことは確かにそうだと思う。……まぁ、高速修復剤の容器がバケツとか、そういう妙なセンスって前例もあるけど、それだって使用目的を考えりゃ合理的だ。俺は無いと思う」

 

〔むぅ。天才科学者が、時折とんでもない者を造ってしまう例はかつて見てきたが……。超電磁ロボや光子力で動くロボット、ゲッター線という謎のエネルギーで動くロボ……。もしや造田博士は、この世界においてそういう立ち位置の人物なのかも知れん。だが……〕

 

 偶然にしては、上手く行きすぎている気がする、とゲシュペンストは言いかけたが、それを遮るように龍田が言った。

 

「なんなら、扶桑達に聞いてみたら良いと思うわ?何しろお父様の実験に一番付き合ってたもの。うん、パンケーキも食べたし、呼んでくるわねぇ?」

 

 龍田はパンケーキを食べ終わり、満足そうに、ルンルン、と、軽い足取りで厨房から出て行った。

 

「……どう思うよ、相棒」

 

〔判断材料に困る。だが龍田は嘘を吐くような娘ではない。念のために計っていたが心拍数その他共、そのような計測結果は出ていない〕

 

「……疑ってたのかよ」

 

〔いいや、知らぬ事で対処を間違えたくないのだ、私は〕

 

 二人は龍田が扶桑姉妹を連れて来るまで、ドローンで深海扶桑が入れられているカプセルを入念に調べる。

 

「……このカプセルの外装だが、確かに『造田霊力研究所』と書いてあるな。『造田式霊力測定機』か。しかし、うーむむむむ。ゲシュペンスト、この『深海扶桑』さん、扶桑さんそっくりだ」

 

〔……深海山城と言い、こちらの深海扶桑と言い、二人とも良く似ている。……身体データを計測したが、ほぼ同じ身長、体重、体型だ。しかし、今まで他の同一艦達とも接触しているが、これほど同じ数値の者は居なかった。何か関係があるのかも知れん〕

 

「……ああ、そっくりだ。やっぱ、美人だなぁ、扶桑さん。性格もやっぱり同じなのかな?優しくて大和撫子で、声も綺麗でさ?」

 

〔それは助け出してから確認すれば良いが、玄一郎〕

 

「本当、助けてあげなきゃな。深海山城も山城そっくりな性格だったし、やっぱり深海扶桑さんもきっとそうだと思うんだよ。あれだけ深海山城が慕ってんだ、必ず助けて安心させてやろうぜ!しかしここまで似ていると、マジで双子みたいだな……」

 

〔相棒〕

 

「だからなんだって。このカプセルの強度は出せるか?突入するにしても……」

 

〔扶桑と山城が……〕

 

「ああ、二人一緒にいられるように必ず助けようぜ。山城が悲しむのはたとえ深海側でも見たくない。つか強度の割り出しを頼むってさっきから……」

 

「あのゲシュペンストさん?その……」

 

 後ろから扶桑の声がした。

 

「あああ、あんた、なに恥ずかしい事言ってんのよ?!」

 

 山城の声も、だ。

 

「なんとっ?!」

 

 玄一郎は後ろを振り返り、そこに扶桑と山城がいることに驚いた。

 

 どこから聞いていたのか、扶桑の顔は真っ赤だがどこか嬉しそうであり、山城も何か複雑そうな表情だったがやはりその顔を真っ赤にしていた。

 

「……あはははは、来てたのに気づかんかった」

 

「……いえ、すみません、その、あの……」

 

「いや、うん、まぁ……ええっと、まぁ、あはははは」

 

「はぁ、本当にあんたねぇ。ったく、恥ずかしいわね!」

 

 扶桑姉妹の反応から、おそらく最初から聞いていたのに違いない。

 ようするに、深海側の扶桑や山城の事を言いつつ、艦娘の方にも自分の思いを伝えていたようなもので、玄一郎は非常に恥ずかしい事を言ったような気がした。

 いや、気がしたどころでは無く、言っていたのだが。

 

「うわぁ、ゲシュちゃん恥ずかし~?んふふふ、でもそこがゲシュちゃんの良いところ?」

 

 龍田がプククククと笑いながら茶化す。

 

「扶桑、優しくて大和撫子ですって。山城も、山城を悲しませたく無いですって~?わあっ、うふふふ」

 

「ぐぅぅ、龍田、もう止めてくれ。俺、穴に入って埋まりたくなるから」

 

「あ、あの、龍田、もうその辺にして?その、わたし、は、恥ずかしいわ」

 

 扶桑は顔を両手で覆って隠すが、その耳がかなり赤くなっていた。

 

「あ、あんたねぇ、その、ああっもうっ!」

 

 山城も顔が真っ赤で、言葉が出てこない。

 

「あらぁ?声も出ませんかぁ?」

 

 プークスクス、と龍田がニマニマしながら山城をからかう。龍田の性格とすればそんな事は非常に珍しいのだが、おそらく指名手配されていた間は接触すら出来なかった、家族同然の二人になんの気兼ねもなく話す事が出来るようになって、それが嬉しくて、おそらく浮かれているのだろう。

 

「あはっ、でも本当久しぶりぃ。こうして話をするのって。高雄もいたし金剛もいた。はぁ~っ、なんだか夢みたいだわぁ」

 

「……ううっ、確かにそうだけど龍田、性格変わってない?というか、ずっと心配してたのよ?江ノ島でもルソンでも、本当、生きていてくれていたのがわかって嬉しかったけど、あの時何にも話してくれなかったから……」

 

「そうよ。那智もあなたも!私達、本当に心配したんだから!っていうか、あんたなんかこのバカの影響やたら受けてない?ルソンで会ったあと、このバカが暴走して基地ぶっ潰したけど……、まさかコイツと行動を共にしてたとか言わないわよね?」

 

「「ギクッ!」」

 

「…………はぁっ、不幸だわ。私達の家族が、こんな暴走バカ一代テロボットと一緒に海軍の基地をぶっ潰してたなんて」

 

「誰がテロ+ロボットだ。言っておくが、俺は造田博士の救出に手を貸そうとしてたんだぞ?……天龍と川内達の方が先に助けてたけどな」

 

「……おっそーい!なにそれ?」

 

「ああ、遅くなってしまったのは俺のせいだと認める。思わぬ事態があったからな。だが俺でなくても助かったのは良かったと思うぜ。だが……なぁ、ゲシュペンスト」

 

〔ああ。まさか今回で造田博士の造った物で悩む羽目になるとは思ってもみなかったのだ、扶桑、山城〕

 

「あら、機体の方のゲシュペンストさん、お久しぶりです。ええっと、御父様の造った物、ですか?」

 

〔うむ、これを見て欲しい。このカプセルの中にいるのが、深海側の扶桑なのだが、問題はこの機械だ〕

 

「これは、御父様が造った霊力測定器ね、ねえさま。昔、よくこれで霊力とか計られたけれど……なんか色々ごちゃ混ぜになってない?これ」

 

「というか、何故霊力式自動掃除機の『タンバ』がここに接続されてるのでしょう?それに霊力式人面ロボット犬の『GIVO-AIBO(ギヴォーアイボ)』も……」

 

「扶桑さん、ストップストップっ!!なんか全部いろんな意味でやべぇっ?!というかなんつうネーミングだよそれっ?!つかなに考えてんなもん作ったんだよ、造田博士はっっ!?」

  

 ツッコミどころしか無い危険な代物ばかりだった。というか若い人にはわからないネタしか無かった。

 

「まぁ、結局全く売れなかった物ばかりなのよね。思いつきだけで作ってたから。在庫だらけになって、資金繰りが上手く行かなくなって、結局、鳳翔さんが小料理屋で働いたり、ねえさまや私とかが内職やったり、叢雲達が新聞配達のバイトしたり、最上とかも牛乳配達してたっけ?」

 

「語られる造田家の内情っ?!つか、丹波○郎の顔付きルンバとか、宜○愛子のロボット人面犬とか売れるわけねーだろっ?!」

 

 なお、どちらも故人である。ゆえにかなり不謹慎でもある。というか造田博士(ビアン・ゾルダーク)は一体どんな思いつきでそんなものを作ったのか。

 

〔……相棒、造田博士が、この『T-Linkシステム』に関わったとは到底思えない。むしろこんなものを流用して大それた代物を作ろうと思った奴の脳みその中身を知りたくなってきたぐらいだ〕

 

「いや、俺はむしろ、中身の構造云々は良いとして、なんでこんなあかんデザインになったのかが知りたいぞ……。人面自動掃除機に人面ロボット犬……」

 

 なんにせよ、造田博士に対する謎は深まった……ような気がするが、T-Linkシステム云々に関わったとは思えない、と言う結論は出た……ような気がするゲシュペンストと玄一郎であった。




 丹波哲○の顔面付きルンバ。宜○愛子の顔面付きロボット犬。なんでそんなネタが出てきたのかわかりません。

 そういえば昔、エロゲーで義母愛子、とかいうのがあったような気もしますが、どうもあの宜保○子の顔が浮かんでなんか嫌だった記憶があります。

 いえ、酒飲んで酔っ払って書くと、訳が分からない展開になるので気をつけようと思いました。

 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑳


 なっがーい!

 いえ、予定通りにやっと来たけどこれまでいろんなキャラが勝手に動いて過去話が終わらない。

 大淀さんとの絡みも進まない。比叡も動かない。

 斎藤さんの活躍とか、天龍と川内の登場も、もうちょい先です。 


 

 扶桑姉妹と龍田がゲシュペンストの焼いたパンケーキもどきを食べながら、造田博士の話をあれこれとしている間に、近藤大佐達が島の除染と寄生生物除け作業を終えて帰って来た。

 

 作戦会議は輸送艦に乗った日本海軍と陸軍の増援、そしてこの海域の深海棲艦のボスである深海鶴棲姫こと『深海瑞鶴』とそして海峡夜棲姫の『深海山城』の二人を交えてする予定だが、近藤大佐はとにかく現地の詳しい情報を欲しており、ゲシュペンストと話をするために無人島拠点の厨房に来たのである。

 

「……ここまで増えてんのかよ、寄生生物ってのは」

 

 厨房の大型モニターに表示された、研究施設の各階層のマップの光点を見て近藤大佐は顔をしかめた。

 

 この光点の一つ一つが『感染者』とそしてその『感染者』の身体の中で成長した『成虫』であるが、もはや建物のマップの内は白く、黒い部分ほとんど無い。白が七黒が三で無論、寄生生物が白である。

 

〔フィリピン泊地の第一から第三まで、その艦娘の数は462名。その全てが『感染者』になっている。また、第一基地の提督が密造艦娘が製造していた事を差すリストがあった。人身売買組織に流された者もあるが、大半は研究施設に送られた、とある〕

 

 ゲシュペンストはモニターのスピーカーからそう答えた。いつ聞いても冷静かつ落ち着いた渋い声である。

 

「そうなると、460どころかもっといるってことか?!クソっ、第一のクソ野郎がロクでもねぇ事をしやがって、艦娘を何だと思っていやがる!!」

 

 ドカッ、とテーブルを叩く近藤。おそらく、寄生生物に感染させられた艦娘達の事を思って怒りに駆られだのだろうが、今は、それを怒る場合では無い。

 土方が

 

「近藤さん、落ち着いて」

 

 と言ってなだめる。

 近藤に息を深く吐き出すと

 

「すまなかった。そうだな、今はその時じゃない」

  

 と、この場にいる皆に謝った。

 

 ふむ、この大佐、なかなか良い奴だな?と思いつつ、

 

「あんたの気持ちは良くわかるさ。それこそ、基地を全部更地にしてしまいたいぐらいには俺も頭に血を登らせてんだ。だが、そうだ。今はまだその時じゃない」

 

 と玄一郎は近藤にそう言った。

 

 近藤は真剣な顔でゲシュペンスト(=玄一郎)の方をマジマジと見た。見られた玄一郎は軽口に怒ったのか?とも思ったが、

 

「お前が、海軍基地を破壊して回ったのは、それか?ゲシュペンスト」

 

 と近藤はと聞いてきた。

 まさか軽口に食いつかれるとは思わなかったが、玄一郎はやはり軽く答えた。

 

「そんな所だ。だが、怒りはぶつける時にまで俺は溜めておく主義でね。最後に爆発させるんだ」

 

 肩をすくめて言うと、近藤は少し苦笑いをした。

 

「……ああ、確かに、その通りだ。すまん、説明を続けてくれ」

 

 何か得心の行ったように、近藤の顔から怒りの表情が消えて、何かスッキリした、迷いの無い顔に変わった。

 

〔了解だ。……『感染者』及び『成虫』、その数おおよそ1500。念動フィールドで護られているうちはまともに攻撃は通用しない。その状態で三式弾をいくら降らせたとしても、駆除は容易ではないだろう。ほとんどがすでに『成虫』となっており、『成虫』は念動フィールドが無い状態でも人間や艦娘以上に素早く動ける。さらに近接戦闘能力、装甲値も高い〕

 

 ゲシュペンストはモニターの画面に寄生生物の成虫の姿を映し出した。

 

 寄生生物にとっての『感染者』は言わば成長する際に必要な栄養を提供する動くさなぎであると言えた。

 寄生生物は『感染者』の脊髄神経や中枢神経に自分の神経脚と呼ばれる触手状の動く神経の様な物を伸ばし、その身体のコントロールを奪う。

 

 コントロールを奪われた『感染者』は自らの意思通りに身体を動かせなくなり、意識のあるまま、異常な行動を寄生生物によってさせられる。

 深海鶴棲姫こと深海瑞鶴がおかしな踊りを踊っていたのがそれに当たるが、彼女の場合はまだ完全には寄生生物に身体のコントロールを乗っ取られておらず、身体まで融合されていなかったために高速修復剤による治療が可能だったのである。

 

 コントロールを完全に乗っ取られた『感染者』は意識のある状態で、人や艦娘などを襲うようになる。人間ならばそれは『感染者』や『成虫』のエサとして貪り食われ、艦娘であるならば新たな『感染者』となるように卵を植え付けられてしまう。

 

 また、植え付ける宿主がいなくとも、寄生生物の卵は孵化し、産まれた幼生体は宿主を探して様々な場所へと移動し拡散していく。だが、宿主を探せなかった幼生体の生存出来る期間は短く、約半日程で死滅する。

 

 宿主の中で成長を遂げた寄生生物は『感染者』のその身体を融合吸収をし、皮膚を脱ぎ捨てて『成虫』になるが、『感染者』の姿はあたかもゾンビのようであるが、『成虫』の姿は非常に醜悪な姿をしており、似ている生物を上げようとしても、地球上の生物のどれにも当てはまらないような姿をしていた。

  

 二足歩行の触手状生物に人や昆虫などを混ぜたような形状をしており、おおよそまともな生物とは思えない。しかも、宿主であった艦娘の胴体の形状を鋳型にしたかのような甲殻を持ち、女性のようなフォルムをしている辺りがますます醜悪に見える。

 

「……こんなモンがウジャウジャいるのかよ」

 

〔なお、特殊なタイプが存在することも探索の結果判明している。力が強く腕部に大きな鎌型の爪を持つ『戦闘特化型』、エサとなる人間を巣に運ぶ『運搬型』、腹に卵を多数抱えている『増殖特化型』そして最後に『女王型』だ。どれも通常個体よりも強力かつ厄介だが、『女王』の大きさと質量はかなりの物だ。さらにこれを撃破せねば今回のバイオテロ事件は終束しない〕

 

 ゲシュペンストは画面を四分割して、それぞれを表示し、それぞれの特徴を説明していった。

 

【戦闘特化型】

 

 通常個体より装甲が厚く体格が大きい。その胸部装甲を見るに、重巡クラスに寄生したものが成虫になったと思われる(なお、フィリピン泊地には戦艦や空母は配備されていない)。戦闘能力が高く、体格に比べて動きも素早い。腕部に大きな鎌型の爪を持ち、さらには口から強力な酸を吐く事も出来るためかなり厄介な敵である。

 

【運搬型】

 

 腕部の鉤爪が物を掴むように特化しており、その爪は武器としてだけでなく、エサを捕らえて運ぶ為にも機能している。おそらく軽巡クラスに寄生したものだと思われる。

 

【増殖特化型】

 

 腹に多くの卵を抱えた『成虫』。常にその腹からは寄生生物の幼生体が孵化しつづけており、かなり醜悪な姿をしている。どの艦娘に寄生したのかは不明だが、装甲は無いに等しいが、むしろ攻撃された時に卵と幼生体をバラまいて破裂するため、最も注意せねばならない敵だろう。

 

【女王】

 

 高さ6メートル、体長20メートルの巨大な寄生生物。頭部から様々なコードが伸びているが、そのコードは上の階の『深海扶桑』が収められているカプセルや機材に繋がっており、おそらくはそれによって念動フィールドなどを発動させているのだと思われる。また、頭部の大顎のようなものの近くにも、カプセルが直接接続されているが、そのカプセルの中には白衣を着たミイラ化した女性の死体が入れられている。

 『女王』自体は全く動いておらず休眠か仮死状態であるが、未だに卵を産み続けており、この女王を撃破せねば全ての寄生生物駆除は終わらない。

 

 四タイプの特殊型を説明した後で、ゲシュペンストがその『女王』を大写しに表示した。

 

「おいおいおい、それでなくても厄介なのにこの『女王ってのはなんなんだ?!デカ過ぎるだろ、おい!?」

 

「あのカプセルは、なんなの?というか上の階層のカプセルが『深海扶桑』で直接『女王』にとりつけられているカプセルが……ミイラに……その腕に抱えられているのは、頭蓋骨?」

 

 土方が『女王』の大顎付近のカプセルを指差して問う。それにあわせてゲシュペンストはその映像を拡大した。

 

〔ミイラの胸の所員証には『縞傘英子』とある。ただ、そのミイラが抱えている頭蓋骨は何のための物かわからん。これも造田博士の霊力測定器のカプセルと同様だが、配線その他がかなりややこしくてな。この装置の意図が私にも全くわからない〕

 

 『縞傘英子』はこの研究施設の所長である。

 龍田がその後を追ったものの、一歩遅く、所長室にある海底層へ向かう直送エレベーターで脱出されてしまったのだが、しかし、その時は当たり前だが、生きていた。

 なのに、たった一日とかからずこのようなミイラ化するとは果たして何があったというのか。それにそのミイラが持つ人の頭蓋骨は一体誰のもので、なんのために持っているのか誰にもわからなかった。

 

「ま、そっちのカプセルは今はわからんってわけだ。とにかくあんたらの作戦は寄生生物の駆除。俺がやらにゃならんのは『深海扶桑』さんの救助。俺が『深海扶桑』さんをあそこから連れ出さなければ、寄生生物にかかってる念動フィールドは解けないし、あんたらは駆除しようにも攻撃が通用しないってわけだ」

  

 モニターの画面が研究施設の横からの全体図へと切り替わった。

 

「……何か、お前さんには方法があるのか?というか、俺達には手詰まりにしか思えない。逐次戦力を投入したとしても、奴らにエサをくれてやるものだ。艦娘達を投入する事も出来ない」

 

「ああ、あるぜ?とっておきの方法って奴がな。ま、聞いて驚け見て驚け、って奴だ。だが、問題が無いわけじゃないが今のところ、シミュレーションしてみて、それが一番確実だ」

 

 ガイン!と胸部装甲を拳で叩き、音が鳴る。

 

 扶桑姉妹と龍田は、なんとなく嫌な予感がした。いや、自分達になにか不幸が起こるとか、そういう予感ではない。

 ゲシュペンスト(=玄一郎)が無茶な事をやらかす時特有の癖が出ていたからである。

 

 それはワタヌシ島で扶桑姉妹達が見た彼の仕草でもそうだったし、そして龍田が江ノ島やルソンで見た時も同様だった。

 それは、まるでフラグのようだった。

 彼が胸部装甲を叩く時は大抵の場合、それは過酷な戦いへ、死地へと赴く際に見せる、虚勢の顕れなのだ。

 

「玄っ……!ゲシュペンストさん、それはっ?!」

 

 思わず席から立ち上がって、扶桑は彼が行おうとしている危険な作戦を止めようとしたが、しかし。

 

「扶桑さん大丈夫。俺とゲシュペンストを信じてくれよ。それにまだ作戦を練ってる最中なんだ」

 

 玄一郎はそう言い、扶桑を座らせた。

 

 そして、モニターに研究施設を横から見た全体図を表示させて自分が行おうとしている『深海扶桑救出作戦』を説明した。

 

 この場の全員が、絶句した。

 

「あんたそんなの無理でしょーーーっ?!」

 

 絶句の次に全員から出た言葉は、それだった。

 

「えーっ?ゲシュペンストのスペックならなんて事無い作戦だぞ?」

 

 玄一郎はそう言ったが、まぁそれはとにかく無茶な作戦だったのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、こちらは無人島拠点に向かって航行中の飛行艇の中である。

 

 斎藤は席に座り、そして何故か重箱に詰められた様々な料理をご馳走になっていた。

 

 いや、夕飯がわりに陸軍の糧食である、固形ブロック食、つまりカ○リーメイトのようなものとゼリー状のチューブ食を出してそれで済ませようとしたら、居酒屋の女将さんもとい、日本海軍の艦娘であり軽空母の『鳳翔』がそれを止めて、持っていた風呂敷包みの風呂敷をとき、重箱を開けて、こちらをどうぞ、と分けてくれたのである。

 悪いとは思ったが、斎藤だって携帯糧食なんぞよりはうまそうな重箱の料理の方を食いたいと思う。

 いや、その重箱の料理は旨いのは間違いないのだ。なにしろ沖田と一度、鳳翔の店で食べてその味はわかっているのだ。

 

「いや、悪いですねぇ。しかし助かりますが、本当によろしいので?」

 

 いつものぞんざいな口調がなりを潜め、丁寧な言葉使いになっている。

 正直なところ斎藤は女性というものが苦手だった。と、言うより陸軍は男所帯であり、そんな中に16の頃からいた斎藤にとって、女性とどう話せば良いのかわからないのだ。

 無論、自分の部下の中には女性隊員である沖田がいたりもしたが、配属されて一年で海軍の方にスカウトの話が来て、これ幸いにそっちに追い出した。

 いや、女が苦手だからではなくいつ死ぬかわからん陸軍よりもそちらの方がよほど良かろうと考えたからであるが。

 そんな理由で斎藤は女性相手の場合、とても言葉使いが丁寧になる。もっとも沖田に関してはその限りではないが。

 

「はい、同じ機に同乗される方が居られると聞いて降りましたので、その分も作っておりましたので。とはいえ斎藤大尉だけと思ってませんでしたので、その、食べていただかないと、逆に……」

 

 その重箱は五段重ねの大きなものだった。

おそらく鳳翔はもっと同乗者の人数がいると思って沢山料理を用意してきたのだろう。おそらく五人前ぐらいはありそうである。

 確かにその量は鳳翔だけでは食べきれるものでは無い。鳳翔がどれだけ食べるのかはわからないが、斎藤も食べてやらねば残ってしまうだろう。いや、食いきれるか?と斎藤は思ったが旨いものをたらふく食えるのだ。ありがたくいただこうと思った。

 

「では、遠慮無く」

 

 箸を取り、ご飯の箱を受け取りつつ、まずは好物の出汁巻きをいただく事にした。

 斎藤は全く料理と言う物をしない。好物はあるがどれもが子供じみたものであり、普段は立場上周りの目を気にしてどんな店に行ってもまず、頼まない。

 酒も下戸で飲めず、酒を飲まない理由に『常在戦場』と嘯いて『酒が入れば手元が狂う。手元が狂えば死が待っている』と言って来たのである。

 

 存外、良い格好しいの見栄っ張りな男であるが、その見かけと今までの軍功でそれらしく見えるのだから仕方ない。

 

 そんな彼が普通に頼める好物が出汁巻きなのである。そして、居酒屋・鳳翔の出汁巻きは、どこか懐かしくそして彼の好みの味だった。

 

 口に運ぶと、ジュワッと玉子と出汁の良い風味が滲み出て、堅くも無く柔らかすぎず、ああ、あの時に食ったのと同じくうまい、と斎藤は目を瞑って、少し感動していた。

 

「……あの、いかがです?」

 

「……旨い。あの時も思ったが、この出汁巻きは好きだ」

 

 斎藤は知らず、本音を出す。

 

「ああ、良かった。うふふっ、この出汁巻きは昔、私が働いていた小料理屋の女将さんから、初めて教えていただいた料理なんです」

 

「む?艦娘が、小料理屋で?それはまた……」

 

「はい、日本にまだ海上自衛隊があった頃です。私は造田毘庵博士に拾われた艦娘の一人でした……」

 

「……?!では、最初の艦娘達の一人?!と、いうか、そんなあなたが何故に小料理屋で?余計にわからないのですが?」

 

「ええっと、当時、造田博士の会社の商品が売れなくてですね、その、借金塗れになっちゃったんです。私達もその商品は売れないからやめておいてと散々言ったのですが……。それで、みんなで家計のために働きに出たんです。新聞配達や牛乳配達、ウェイトレスにハンバーガーショップ、そして私は造田博士の行きつけの小料理屋で働かせていただいて」

 

「ぞ、造田博士も、存外……いや、そこで料理を覚えたのですね。なるほど……」

 

「はい、とても優しい女将さんで、あんたは筋が良い、とそれこそ、その女将さんのお店の全てのお料理を教えて下さいました」

 

「しかし、だとしても何故、今も居酒屋を営んで?いえ、艦娘は日本海軍の重要な戦力、それが……」

 

「昔、山元元帥閣下から、お許しをいただきまして。戦闘の無い時は店をやってもよろしい、と。ですが段々と私も戦いに呼ばれなくなりまして。やはり時代遅れの軽空母ですのでそれは仕方ありません。ですので、ほとんど居酒屋におります」

 

 困ったように鳳翔はそう言うが、しかしこの人は確かに居酒屋を営んでいる方が、なんというか良いと斎藤は思った。いや、彼女をけして貶しているわけではない。

 彼女の、なんというか暖かなひまわりのような性格を見て、このような女性には戦場よりも、平和に居酒屋を営んでいて欲しいと思ったのである。

 

「いや……あなたは戦場よりも、その。うまく言えないが……。軍務で疲れて帰って、店が開いていて、貴女がお店で待っている、そんな……方が俺は嬉しいと思う。きっと、貴女の店の常連は、そう思ってるだろう」

 

「うふふ、ありがとうございます。ところで斎藤大尉について、松平准将から少し気になる事を聞かされておりましたが……」

 

「ん?松平准将と言えば海軍の?なんだろうか。はて?」

 

「いえ、私が軍の艦船であった頃の鋼鉄材で造られた『軍刀』をお持ちだとか」

 

「ぐほぉっ?!」

 

 ご飯を飲み込もうとしていた斎藤はむせてしまい、ゲホッゲホッ。鳳翔はその背中をさすってやり、そして咳が終わるとさささっ、と魔法瓶の水筒からお茶を入れて出してやる。

 

「ああ、済まない。いや、そういえば貴女の名前も『鳳翔』だったな。どうも、この軍刀とは何故か結びつかなかったが……。確かに、私の軍刀は、私の曾祖父が大切に床の間に飾っていた帝国海軍の軽空母『鳳翔』の鉄材を、日本陸軍が接収して作刀したものです。……数奇な運命で、また私の手に帰って来ましたが……」

 

「まぁっ!なるほど。だから沖田少佐が斎藤大尉を私のお店に連れて来た時、他人のように感じなかったのですね。合点がいきました」

 

「……はぁ、そういうものですか。いえ、なら俺は貴女に感謝するべきなのでしょう。子供の頃、深海棲艦に街が襲われ俺は……貴女の一部だった鉄材を持って避難場所へと向かう最中に、深海棲艦と遭遇したのです。死ぬかと思いましたが、その鉄材が俺を守ってくれたのです。思えば、それは貴女に助けられたも同然。子供の頃、助けていただいて、ありがとうございました」

 

「いえいえ、それは私ではありませんが、おそらく私の根幹に近い所の鉄材なのですね。……斎藤大尉は知っておられますか?私達、鳳翔の肋骨は左の一本が無いのです。その鉄材は、おそらく、私達『鳳翔』のその肋骨なのでしょう」

 

「な……?!」

 

 斎藤は思わず鳳翔の左胸を、というより脇の部分と自分の軍刀を交互に見てしまった。

 

「うふふっ、大丈夫ですわ。一番下の、人間で言うところの12番肋骨、つまり無くても何の支障もない骨ですので」

 

「……そ、そうなのですか?いや、しかし」

 

「本当、私達の肋骨で、貴方の命が助かったと思えば、それは本当に良かったと思ってますわ。ですが、そうですねぇ、今回の作戦が終わりましたら、また、私のお店に来ていただきたいと思ってます。私の肋骨もそうですが、やっぱり斎藤大尉の事、他人のように思えないのです」

 

「あ、ああ。そうだな。とはいえ、その、俺は陸軍だ。海軍の連中が多い店は、その……、行きにくい。それに、俺は酒は飲めない。だから、昼時、定食を食いにまた行く」

 

「はい、是非、お顔を見せに来て下さいな。お待ちしておりますので……絶対ですよ?」

 

 鳳翔はくすくすっと朗らかに笑ってそう言ったが、ぞくり、と斎藤の背中をまるで冷水でも浴びせかけられたかのような寒気が走った。

 

 な、なんだこの背中を走る嫌な予感はっ?!

 

「あら、もうお話をしていたら、食事が進みませんね。ごめんなさい。はい、これもどうぞ。金時豆の煮物です。大根もどうぞ?」

 

 お皿に乗った、うまそうな煮豆と良く出汁の染みた大根。

 いや、これの味も確かに前に鳳翔の店に行った時に食べて旨いのは知っているが。

 

 斎藤は言いようの無い、なにか踏んではいけない場所へ足を踏み入れたような気がしてならなかった。

 

 もっとも、それがわかるのは今から数年も後の話。

 鳳翔もこの時は斎藤にただ好感を持っていただけなのだが、しかし、彼らの運命は、この時に決したとも言える。

 

 斎藤はもう、この鳳翔からは逃げられない運命にこの時、すでに捕らわれてしまったのである。





 鳳翔さんは、斎藤さんに会わなければまだ普通のキャラでいられたと思う。

 居酒屋・鳳翔。あったら行ってみたいですねぇ。きっと美味いだろうなぁ。

 なお、斎藤さんの好物は、ハンバーグとかエビフライとか、子供が好きそうなメニューだったりします。

 パフェとかお汁粉とかも大好きです。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(21)

 とうとう、21に○が付かなくなったよ。

 大淀さん、ちょっと危険な感じ。

 輸送ワ級の真実?!

 などなどでお送りいたします。


 

 0200時。

 

 深夜。

 

 監査という仕事柄、大淀は様々なものを見ていないようでしっかりと見ている。

 他の誰もが気付く事の無いような事や些細なこと、人が隠したいもの事や本人が知らないちょっとした癖までも大淀は見て、それに気付くほどしっかりと見ている。

 

 また、大淀は人の視線にかなり敏感である。それは過去に政治家・中倉平八郎の護衛をしていた時から、好奇の視線や殺気を孕んだ視線、興味から悪意、様々な視線を投げかけられたせいである。

 

 まぁ、視線に敏感であるがゆえにゲシュペンストが研究施設にドローンを侵入させた際の龍田の殺気たっぷりのあの睨みを見て失神して失禁したわけだが、まぁ、それは龍田の殺気が相当なものだったのか、大淀自身の心が弱かったのか、どちらなのかはさておき。

 

 そんな彼女がゲシュペンストという人物を見たときに、二重人格なのではないか?と推測していた。

 

 まぁ、これはゲシュペンストと玄一郎の二つの人格が共存しているためだったのでそう見えただけであるし、大淀もちょっとしてからそれを知ったので特に警戒とかは必要無いと判断した。

 

 次に、正直かつ誠実そして有言実行を旨とする聖人君子、という評価をしたが誠実と聖人君子の聖人という言葉はとある事件で消滅してしまった。

 

 大淀は人の視線に敏感なのである。

 

 風呂の隠しカメラなど、とっくに気づいていたし盗聴マイクもすぐに見つけていた。最初は覗きとか盗撮なのか、と思い、過去の経験からアヘ顔ダブルピースな画像のトラウマを思い出したりもしたが、いやいやそうじゃなくて、これは諜報の為のものであり、ゲシュペンストは自分や沖田少佐を信用していないのではないか?とか思ったのである。

 故に、いろいろと特に重要っぽいが言っても差し障りもなく、しかし事実である事を言って情報を与えて見ることにした。

 次の日から隠しカメラや盗撮マイクの気配は無く、大淀はいろいろな側面から考察したが、沖田少佐が助けられた際、ゲシュペンストが沖田少佐をフィリピン泊地のブラックな提督だと勘違いして追い出そうとした事を思い出し、おそらく監視していたのは保護した艦娘達にとって危害を加えるかも知れないと考えての事であり、その疑いが晴れたために監視を止めたのだろう、などと推測した。

 

……本当は覗きかメインだったなんて事は全く考えていない辺り、思い込みと言うのは恐ろしいものである。

 

 助けられたという事実や今までのさまざまな玄一郎の行動が隠れ蓑になっていたのも事実であるが、彼女のゲシュペンスト(=玄一郎)への評価はかなり高かった。

 

 彼がかなりの人情家であるのはこれまでの行動から明らかである、と大淀は断定。ただ、敵対したならば容赦は無いという事も彼が引き起こしてきたこれまでの様々な事件からも理解していた。

 

 だか、それも彼女の頭ではすでに妙な方向へと変化しており、それこそおかしな具合に曲がって捉える感じになっていた。

 

 艦娘に対して、彼は消してその破壊の力を振るわない。それは慈悲である、などと思っていた。いや、思うようになっていた。

 

……いや、慈悲ってあんたと言いたくなるが、もうおかしな思考は止まらなかった。

 

 大淀はかつて女衒鎮守府と呼ばれた舞鶴で作られた艦娘の一人だったが、そこで彼女に与えられた仕事は『M嬢』つまりマゾとして責められる役割だった。

 

 艦娘の能力は艤装に宿っているが、女衒鎮守府で娼婦をさせられる艦娘達はまず、艤装を解体させられ、艦娘としての力を奪われる。

 艤装を解体された艦娘はただの非力な女でしかない。

 

 大人しく従順で気の弱かった当時の彼女は、その性格からそういう素質があると当時のブラックな舞鶴提督から適当にそのように仕事を割り振られ、そして調教され、様々な目にあってきた。

 

 何に祈れば良いかわからぬうちから、救いを求め、望まぬ仕事をさせられ、汚されて生きて、死ぬことも許されず、死ぬことも恐ろしく、泣きながら叫びながら毎日毎日をただ生きていた。

 

 神という概念を知っても、なんら救われない。

 

 人に助けを求めても、願っても、彼らは彼女が泣き叫ぶ姿を楽しみ、そして彼女を汚して喜ぶだけなのだ。

 

 それが、彼女の過去であり彼女の記憶の闇だった。

 

 そんな彼女が、その闇を再び表に出すきっかけは、ゲシュペンストが助けてきた、艤装の無い艦娘達を見たことだった。

 

 大淀は、沖田少佐が助けてきた艤装を外されたその艦娘達を見て過去の自分を重ね合わせてしまったのだ。

 

 そしてずっと心の奥底に沈めたはずの過去の暗く深い闇の部分を思い出してしまった。

 

 ああ、あの子達はこれから不幸になる。

 そんな漠然とした予想が大淀の心にあった。

 

 だが、艤装を失った艦娘達にゲシュペンストは手を差し伸べた。

 療養の場所や高速修復剤まで与え、出来る限りまともな食事をと、厨房で食事を作り、寝床を与え、そこまでしていると言うのに、こんなものしか用意出来なくてすまないと謝る。

 

 彼は聖人では無かろうか、と思いかつての彼女の主人だった中倉をも思わせて、いつしか彼女はゲシュペンストにそれを重ねて見るようになった。

 

 そして、彼が様々な物を無から創り出す様を見て、それははるか先の存在へと昇華した。

 

 すなわち彼こそが『神』艦娘を救う者である、と。

 

 彼女の思考はどんどんズレて行くが彼女自身、それにまったくおかしいとは思わなかった。

 

 かつて救われず、闇の中で求めた『神』。今は亡き中倉平八郎が、その神と巡り合わせてくれたに違いない。

 

 大淀はこれまでの情報をズレた思考でそう分析して考える。

 

 中倉翁と会わせるのは良い。それもまた運命なのだろう。中倉平八郎が巡り合わせてくれた『神』ならば、その父である中倉利道もまたやはり会うべきなのだ。

 

 とはいえ信愛なる『神』の意思にそれがそうならば。

 

 そうして大淀は是非、この事件が終わったならば中倉翁と会って欲しいとゲシュペンストに言いに行こうとして、偶然にもゲシュペンストと龍田の会話を聞いてしまった。

 あの時は大淀は厨房の入り口の近くにいたが、話が話だったため、隠れるしか無かった。

 幸い、ゲシュペンストは龍田との話に集中していた為、大淀には気づいてはいなかったようだが。

 

「元の世界に帰って、死ぬ事が彼の望み」

 

 言って、大淀は愕然とした。

 あの、お人好しで世話好きで優しいあの方の望みが、とてつもなく恐ろしいもののように感じる。

 

 救いの神が、死ぬ。

 

 中倉平八郎の死を思い出し、大淀はその時の彼の死に様をフラッシュバックさせてしまった。

 

 大淀には死というものは何よりも恐ろしいものであり、トラウマだった。

 そのトラウマも未だに根強く残り、今でも悪夢としてそれは現れるぐらいなのだ。

 

 だが、彼女の頭脳はそれでも回転し続ける。なにか方法は無いのか。彼がこの世から去り、死ぬ事が無い方法は、と。

 

「……彼の世界に、帰らせねば良い。なら、彼は彼としてこの世界に居続ける。それが善い。それが最善。死なせない為に、この世界に縛れば良い。この世界に彼を縛るにはどうすれば良い?立場?役目?それとも……」

 

 大淀は思考を加速させる。トラウマも恐怖もその燃料として、様々な方法をいくつもいくつも思いついては消し、思いついては消し、それを繰り返し、そして思いつく。

 ゲシュペンストが死なない方法、そして死なせない方法を。

 

 それは、乙女心の裏側の闇。トラウマをも燃やしつくさんとする乙女の底力。恋心と言うにはもはやおどろおどろしく、そして純粋なる……呪いにも似た何か。

 

 それは狂信、とも言うべき愛。

 かつて愛した者とは全く形の異なる愛の形を彼女は心に宿してしまっていたのである。

 

 この大淀の計画は後に一度失敗に終わるのだが、しかし二度目に成功する事となる。一度目はこの無人島。だが、二度目はパラオで成就した。

 

 ある意味、大淀の暗躍が無ければゲシュペンストは後に提督になどなっては居なかったとも言える。

 

「……一人では、無理。なら何人も何人も付ければいい。みんなで捕まえて、日本でなくても良い。そう、ここみたいに、出来るだけ大勢で、全員で彼の重しになればいい」

 

 大淀は方法を思い付いた。後は行動するのみ。

 

 彼女は、かつて取り締まり処刑するはずだった元テロリストの寝床まで、まるで夜闇の影の如くに忍び寄った。彼が助けて欲しいと願った。だから助けた。ならばせめて彼の為、彼をこの世界に縛り付ける鎖の一つになれば良い。

 

 ゲシュペンスト捕獲同盟と呼ばれる秘密組織が産声をあげる。そしてそれは多くの艦娘達を巻き込む事になるのだが、やはりそれは後の話……というか本編へと繋がる話である。

 

 大淀のズレた、いや狂った執着心は何年も何年も変わらず、もう後々にまで影響していくのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、大淀のそんな物騒な計略なんぞ知らない玄一郎は浜辺で近藤達と深海側の艦隊のリーダーと話をしていた。

 

 彼女の日本海軍での呼称は『軽巡棲姫』だが、何となく川内の妹の神通に似ており、玄一郎は、

 

「えっと、深海側の神通さん?」

 

 と、聞いてみたが、

 

「いいえ違いますよ?」

 

 などという答えが返ってきた。まぁ、違うというなら違うんだろうと思い、

 

「じゃあ、なんてお呼びすれば?」

 

 と、言うとなにか困ったような顔をする。

 

「あの……、いえ、軽巡棲姫、で良いです」

 

 やはり、なにか訳ありのようである。深く詮索するのも失礼だろうととりあえず軽巡さん、と呼んでおく事に玄一郎はしたのだった。

 

 軽巡さんは今回の寄生生物壊滅作戦の第一段階にて、フィリピン泊地の島からフィリピンの本島へ移動しようとするだろう寄生生物の『成虫』の群れを掃討する作戦に必要な物資を輸送する『輸送ワ級』の艦隊の護衛する艦隊のリーダーである。

 

 その艦隊のメンバーはみんな人型であり『軽巡棲鬼』『駆逐棲姫』『駆逐棲鬼』『駆逐古鬼』『雷巡チ級elite』である。

 

「私達は速す…いえ、ワ級ですか?そちらですと。と共に作戦決行までこちらの島に逗留することとなります。よろしくお願いいたします」

 

「いま、速吸とか言わんかったか?君……」

 

「いえ?なんにも」

 

 軽巡さんは、近藤のツッコミに怪しいくらいの即答だった。

 とはいえワ級の正体がもしそうなら、驚愕の事実であろう。あの速吸ちゃんが沈むとああなる、というのは……って、あれ?

 

 見ればワ級達が丸い球のようなものから、よいしょっと、と抜けだし、お腹に見えた部分をぺりぺりっと剥がして抜け出して来た。

 

「なんとぉっ?!」

 

 そこには、ぼろ布のような服としっかりパンツを履いた女の子が四人立っていた。

 

「ああ、あれ大発なので」

 

「……まじか。あの妊婦さんみたいな部分って、お腹じゃなくてあの球と繋がってる部分なのか。よく見れば金属だ、これ」

 

「まぁ、私達の肌の色とおんなじですしねぇ」

 

 しかも、顔に被っている歯のついたものを上にずらしたら、普通に顔があった。

 

「まぁ、これもメットですし?」

 

「……あ、そうなんだ」

 

 輸送ワ級の正体は、大発付けた普通に女の子に見える深海棲艦だった、という。

 

「……まぁ、なんだ。夜の浜で過ごすのもなんだが、一応簡易テントを張っておいた。バーベキューの用意もしてあるが食べるかね?」

 

「いえ、そこまでは……」

 

 と軽巡さんは遠慮をしたが、しかし軽巡棲鬼がその横から軽巡さんにしがみつくようにして、

 

「食べる食べるぅ!那珂ちゃん食べるぅ!」

 

 と、姉が正体を隠そう隠そうとしているのに、その妹はもはや隠すつもりも無く、元気良くそう言ったのだった。

 

「……那珂っ!あなたねぇ……!」

 

「だぁってぇ、ここでは停戦中なんでしょ?そんなの面倒くさいもの。あなたもそう思うよねぇ?それにアイドルのオーラは隠せない!」

 

「……アイドル?」

 

「そう!艦隊のアイドルぅ、那珂ちゃんだよぉ…っ!」

 

「深海側でも、那珂ちゃんはアイドル目指してるんだなぁ」

 

 玄一郎は、ルソンで造田博士と共に捕らわれていた川内の妹の那珂を思い出してしみじみそう言う。捕らわれの身であっても次女の神通と三女の那珂は共に健気に耐えていたのだ。

 

 深海側ではあるが、この二人は仲が良さそうである。

 

「ところで那珂ちゃん、川内は?」

 

「ああ、お姉ちゃんは夜戦艦隊の方。泊地を監視してるよ?」

 

……深海側の川内も夜戦バカなのか?

 

「……まぁ、とりあえずバーベキュー、するか」

 

 玄一郎はルソンで天龍と共にさんざん暴れまくった夜戦バカを思い出しつつも、炭に火を起こした。




 様々なフラグが、様々なところで起こる。

 ゲシュペンスト提督へのフラグは、実はこの頃に出来上がっていたのですな。ただ、第一次ゲシュペンスト捕獲作戦は失敗しますが、しかし……。

 この事件後、叢雲と大淀は接近を果たしますがまぁ、それは別の話。

 大淀が狂信と狂愛から救われるのは、本編で、となります。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(22)

 斎藤さんと鳳翔さん到着。

 なんか大淀さんのキャラがおかしくなって行ってるきががが。

 


 

 斎藤と鳳翔の両名が海軍の飛行艇US-2・1088にてイットバヤットのやや北にある無人島に着いた時、時刻はまた0500時頃であった。

 

 コンテナや仮設テントが幾つか並ぶ浜を進み、海軍の軍服を着た男とやや長身の艦娘が敬礼して立っているのを斎藤と鳳翔は見つけ、その二人の元へと進んで行った。

 

 二人を出迎えたのは近藤大佐とその秘書艦である大和である。

 

 海軍と陸軍ではあるが、大佐と特務大尉、つまり実質的な中佐権限では階級的に斎藤の方が一つ下となる為、斎藤から近藤に挨拶をする。

 

「……陸軍特殊部隊『陸特・第三分隊』の斎藤だ。出迎え、ありがたい」

 

「遠路遙々、御苦労。私が今作戦の指揮を執る近藤勲大佐だ。よろしく頼む」

 

 二人は互いに敬礼する。

 

「横須賀大本営第一艦隊の鳳翔です。松平准将からの指令書をお持ちしました」

 

「お疲れ様です、鳳翔さん。指令書、確かに受け取りました。ただ、深海側との一時停戦により深海側のジャミングが解かれ通信により松平准将から指令を直接受けております」

 

「はい、こちらも機内でそのように連絡がありました。お気になさらず」

 

 鳳翔はクスッと笑った。

 

「はぁ、立派になられて。近藤君も今や大佐ですか。養成学校ではやんちゃだったのに、本当、軍人らしくなって」

 

「いや、鳳翔さんにそう言っていただけますと、はは、面映ゆいと言うのか、いや、少しはマシな大人に成れたかと胸を張れそうです」

 

 近藤は苦笑しつつもその顔に少し誇らしいものを浮かべる。

 海軍の提督養成学校時代、鳳翔は近藤達の指導教官だった。普段柔和で優しい彼女だが訓練ともなれば手を抜かない事で有名であり、学生時代の近藤達も随分と扱かれたものである。

 当時、ついた徒名は『鬼も逃げ出す仏の鳳翔』。

 とはいえ教え子達から慕われる教官だったのは言うまでも無い。

 

 海軍の事には疎い斎藤は、鳳翔が提督養成学校の教官をしていたなど解るはずもなく、おそらく最古の艦娘の一人なのでやはり何かと尊敬されているのだろう、などと思った。

 

「ところでよ、近藤大佐。長旅でちっと疲れてんだわ。立ち話もなんだ、拠点とやらで少し休ませてもらってもかまわんか?それに現地の状況の話も聞きたい。資料だけじゃ心許ないからな」

 

 と、ややだらけた調子で言った。だが、そういう男であるのは近藤も共通の知り合いである沖田の話で知っていた。

 

「ああ、確かに。では案内する。拠点と言っても我々の拠点ではなく、今回の協力者のゲシュペンスト氏の拠点です。この島は原則として艦娘も深海棲艦も人間も区別しないという彼の掟に則った非戦闘区域ですのでその辺、理解していただきたい」

 

「……『破壊神』のナワバリなのか?ここは」

 

 破壊神とはゲシュペンストの事である。

 

 斎藤は物凄く嫌そうな顔をした。

 

 それもそのはず『破壊神』は日本軍の軍人でその存在を知るものならば誰もが遭遇したくないと考えるような相手である。

 

 深海棲艦を三百隻以上、たった一人で全滅させ、その上、公式上で最強クラスと思われる超ド級の深海棲艦(ムサシの深海棲艦)と一騎打ちして引き分けられるような存在であり、一時は『宇宙からの侵略兵器』とも思われていたほどに正体不明かつおそれられていたのである。

 

 そんなもんと関わり合いになりたくねーぞ、と斎藤で無くともそう思うだろう。

 

 斎藤の脳裏に、深海大戦が始まる前のガキだった頃に見た怪獣映画に出て来た、怪獣だらけの島が思い浮かんだ。 

 

「ナワバリというか、彼の拠点だ。というかなんだその嫌そうな顔は。彼は気のいい奴だぞ。俺が保証する。拠点とは言っているが実際には彼が助けた艦娘達を療養させるために建てた『療養所』だ。……彼は何というか、困っている者や傷付いた者を放っておけんタチらしくてな」

 

「嘘だろ?『破壊神』が艦娘を助けてんのか?」

 

 これには斎藤も驚く。日本軍と敵対するような奴が艦娘達を助けるとはどういう事なんだ?と。

 

(これはアレか?某怪獣王が段々と破壊の権化から子供向けの正義の怪獣になって行ったのと同じ路線変更なのか?)

 

 そんな事を思わず考えてしまうあたり斎藤の思考はどこか昭和を思わせる感じである。

 

 斎藤はゲシュペンストの姿をまだ知らず、噂や起こした事件などから、何となく怪獣のような姿をしているんじゃないか?と思っていた。

 

 宇宙からの侵略兵器とか、怪光線を発射するとか、空を飛ぶとか、その辺でキン○ギドラとかそういう宇宙怪獣を頭の中でイメージしている。

 

「話せばまぁ、日本海軍の恥になるが彼は艦娘達をブラックな施設から助ける為に行動をしていたのだ。彼が壊滅させたのはどれも旧軍主導派や旧左派の残党共の息がかかった非道な実験施設ばかりだったのだからな」

 

 鳳翔がその話を聞き、ふむ?と少し首を傾げた。

 

 近藤の人を見る目は確かである。

 だが、気に入った人物に対して何というか、その評価に下駄を履かせるような所があり、どうも今回の場合はそうなのではないか?と鳳翔は思った。

 とはいえ、彼が気に入ったのは間違いはあるまい。

 

 これは実際に自分の目で確かめねばなるまい、と鳳翔は思いつつも、

 

「善い方なのですね、そのゲシュペンスト氏は」

 

 とにっこり笑ってそう近藤に返した。

 なにしろ近藤はそのゲシュペンストを気に入ったのかも知れないが、何にせよ海軍の基地を壊滅させるような人物なのである。今は協力者かも知れないがその協力する目的や意図が如何なる理由によるのかわからないのだ。

 

 だが、秘書艦の大和が嬉しそうに、

 

「はい、とても善い方ですよ。傷付いた艦娘達にご飯作ったり入渠施設を作ったり、メディカルチェックしたり。今回の事件でも寄生生物に取り付かれた深海の方々の為に、大型の入渠施設を作って惜しげもなく高速修復剤を投入して感染を治したりしてますし」

 

 と、畳みかけるようにゲシュペンストが善意の人である事を疑うような素振りも無くそう言う。

 

 大和という艦娘は箱入り娘で育った大和撫子的な性格をしている事が多く、人を疑うという事をあまりしない。基本的におっとりしており、根が大人しい事もあり、

 

(良い子なのだけど人を疑う事も教えなければいけないかしらね)

 

 と鳳翔は大和の事が心配になった。

 

 大和は帝国海軍の呉にて建造された戦艦であるが、その建造は極秘であり、鳳翔がその目隠し役として同じ港に停泊していたという。言わば大和は鳳翔に見守られながら建造されたと言っても過言では無い。

 

 だからなのか鳳翔は大和という艦娘に対して何となく過保護のようなまでに心配してしまうのである。

 

 善人で真っ直ぐ育ったのは見ていて嬉しいし、それは彼女の提督である近藤の人柄の影響を多分に受けたためなのだろうが、正直、いつか騙されないだろうかと心配になる鳳翔であった。

 

 まぁ、海千山千の『お艦』ならではの老婆心……いや、経験豊富な最初の艦娘達ならではの心配なのだろう。

 

 とは言え、近藤と大和の両名からのゲシュペンストの評価は高いようである。

 

「……高速修復剤ってのは高価なんだろ?金持ちなのか?」

 

 斎藤は斎藤で、なにか食いつくとこが鳳翔とは別の方向だった。今、斎藤の頭の中には成金怪獣という言葉がよぎり、斎藤は

 

(やっぱキン○ギドラはキンキラキンだからな。金持ってんのか?)

 

 などと思っていたりする。というかキングギ○ラが好きなのかこの男は。

 

「いや、レシピを覚えているらしく彼が作っているんだ。正直な話信じられんが、貯蔵庫にはかなりの数がある。必要なら躊躇わずに自由に持ち出して使えと彼は言っている」

 

「後で高額の請求書とか来ねぇだろな、それ」

 

 先ほど成金怪獣のイメージが斎藤の頭から離れず、斎藤の頭の中に、キングギ○ラが葉巻を咥えて請求書を持って金をせびっている様子が思い浮ぶ。

 

「彼がそういうことをするとは思えないが、来るなら来たで日本海軍が払うさ。それは我々が気にする事じゃない」

 

「ははっ、違いない」

 

 四人は話しながら丘の長い石段を上がって行く。石段を上りきると、そこは玄関の庭である。

 

 暇を持て余した艦娘達が花壇を作っていたり、磨かれた石の椅子に座ってゲシュペンストが作った将棋盤で将棋をしていたり、小さな畑で芋を育てたり、たらいで洗濯していたり、掃除をしていたりする。

 

 おそらく、彼女達も何もしないのでは暇過ぎるのだろう。ゲシュペンストも彼女達がやりたいようにすれば良いと大抵の事は好きにさせている。

 

 鳳翔はそんな伸び伸びとしている艦娘達を関心したように、斎藤は物珍しそうに見ながら、近藤に連れられて玄関の入口の暖簾をくぐった。

 

 玄関には土方と沖田、高雄(管)、龍田、那智が鳳翔を待っていた。

 

「あら、まあっ!」

 

 驚く鳳翔。高雄(管)が、龍田と那智に、

 

「ほらっ!あんたたち、鳳翔さんよ!挨拶なさい!」

 

 と、その背中を押してやる。するとばつが悪そうに龍田と那智が鳳翔に声をかけた。

 

「あはは~、鳳翔さん元気してたぁ?」

 

「うむ……まぁ、御無沙汰だな」

 

 テロリストとして政府から逃げ回っていた彼女達とすれば、やはり鳳翔と顔を合わせるのはやはり気まずかったのだろう、逃げて隠れていようとしていたのを、造田博士の元でやはり共に暮らした事のある高雄(管)に見つかり、とっ捕まってここまで引っ立てられたのである。

 

 そんな彼女達で鳳翔は、

 

「こぉのバカチンがぁ~っ!」

 

 と、どこかの某教師のような感じで言うと、

 

 ごっすん!ごっすん!

 

 とチョップをかました。

 

「イターッ!!」

 

「ぐわっ!!」

 

 龍田と那智がそのチョップの威力で思い切り仰け反る。

 

 近藤と土方、沖田、斎藤がそれを見てうわぁっ?!と身を竦めさせる。格闘技や武術経験者にはわかるその威力。

 打った瞬間に沈み込めるように体重とインパクトを加えて威力を浸透させる。空手の手刀や古武術の手刀とも違うそのチョップは、明らかにとあるプロレスラーのそれであった。

 

「ば、馬○チョップ?!」

 

 斎藤が思わずそう言ってしまう。アッポーである。いや、お艦のチョップなのでここは『ははチョップ』と言うべきだろうか。

 

 まぁ、それはさておき。

 

 チョップを放った後、鳳翔は仰け反った二人をキュッと両腕で抱きしめた。いや、締め技では無い。抱擁である。

 

「バカッ!どれだけ私が心配していたと思ってるんですか?本当に悪い子達!」

 

「鳳翔さん、痛い……」

 

「ひ、久々の鳳翔のチョップ……」

 

 那智が久々と言うからには、おそらく造田博士の家で鳳翔を怒らせたりするともれなくチョップが飛んできたのだろう。チョップに名前まで付いてるし。

 

「そのぐらいで済んで良かったじゃない」

 

 高雄(管)が笑って言い、やはり鳳翔に

 

「本当、久しぶりね。まぁブリーフィングの時に会えると思うけど、扶桑姉妹と金剛もいるわよ」

 

 と挨拶をした。

 

「あの子達も来ているの。でもこの子達がここにいるって事は、捕まえられたのかしら?その……刑は、どうなるの?」

 

 鳳翔は不安そうに抱き締めた二人を交互に見る。二人はテロリストとして認定されており、それも本来は見つけ次第、処分、つまり殺せというお触れが出されている。

 

「大丈夫よ。ここの『主』とフィリピン第二基地の提督が『淀君』と話をしてくれてね。この子達はもう罪を追求される事は無くなったのよ。あくまでもこの二人はフィリピン第二基地の艦娘である、って事になったわ」

 

 『淀君』と言えば、かつて鳳翔の店に中倉平八郎と共に来た事がある。当時は左派政権時代であり、日本を左派から奪還する為に海軍の菅原大将や多くの志を持った者達が『居酒屋・鳳翔』へ訪れ、情報のやりとりをすると共に、親交を深めて行ったのだが、その中に彼女も居た。

 だが、その時の大淀の印象はあまり良いものでは無かった。なんというか、暗い闇の底に自分の身を置いてそこに住み着いているような、そんな何か得体の知れないものに見えたのだ。

 

 中倉平八郎の死後、彼女はその父親である中倉翁を通じて軍視局という復讐機関を作り上げた。

 

 その事を知った鳳翔は、彼女が己の闇に飲み込まれたのだと確信した。

 

 大淀は海軍の監視をすると共に中倉平八郎の仇を討ち続けた。テロリストに認定された旧左派の残党を彼女は合法的に処分する権限を彼女は持った。

 

 そして、彼女のテロリスト狩りは苛烈を極めた。確かに大淀の調査や査察は誤認も無かったが、テロリストの家族や知人、そして関わったもの全てが粛清されたとも聞く。

 そんな大淀がいくらここの主、ゲシュペンストや第二基地の提督が嘆願したとしてもテロリスト認定された龍田や那智の処分をしないわけが無い。

 

 信じられないと呟き、鳳翔はその大淀とかつて日本奪還計画時に直接数度に渡って会っていた高雄(管)にその実どうなのかと聞いた。

 

「……大淀さんには特に含みも無いの?正直、有り得ない事だと私は思うのよ」

 

 と、小声で言う。

 

「彼女は単にゲシュペンストさんを敵に回したくないんだと思うわ。彼は『破壊神』なんてものじゃない、もっととんでもない存在よ。そんな存在が善意で助けようとする艦娘をもし処刑なんてしたら、日本は最大の敵を呼び込んでしまうかも知れないのよ。しかも、あの大淀も彼に助けられている。流石に彼女も恩を仇で返そうなんてしないわ」

 

 高雄(管)はそう語った。

  

 無論、それは高雄(管)の推測でしかない。

 

 実際のところは全く違う理由で大淀はゲシュペンストの言う事を聞いたのだが、真面目で常識人である高雄(管)にはそれは解らなかった、というよりも理解できるはずは無かった。

 

 大淀が何故ゲシュペンストの頼みを聞いたのか。

 

 その答えは単純明解で『ゲシュペンストがそう望んだから』である。

 大淀の頭の中でゲシュペンストはもはや神となっており、彼女はその神をもはや信仰する信徒となってしまっていたのである。

 

 曰わく『神が望まれた。ならば信徒としてそうせねばならない』で、ある。

 

 おそらく、ゲシュペンストと玄一郎にとってはものすごい迷惑な話では無かろうかと思うが、幸いな事に大淀は自身の信仰心を隠してゲシュペンスト(=玄一郎)と接している為、気づいては居ない。また大淀としても気付かれてはならない理由もある。

 なにしろ大淀はその『神』の一番の望みである元の世界への帰還を阻止する為の計画を企てているからである。

 それは最大の不敬であり、背信行為である。

 しかしそれでも大淀は『神』への愛からそれを止めることは出来ないのだ。

 

 そんな大淀の思考など、例えいかなる名探偵でも推理も推測も出来ないだろう。

 

 だが、大淀がテロリスト認定された二人の生存を容認した事で驚いている人物がもう一人いた。

 

 それは斎藤である。 

 

 斎藤は傷痍し陸特から憲兵隊に異動した同僚や部下達、それ以外からもやはり大淀に関する噂を散々聞いていた。故に、

 

(……多分、ロクでもねぇ事を考えてやがるんだろう。つーか関わり合いになりたくねぇ)

 

 と思った。ある意味大淀を理解しない中でその斎藤の考えが正しい答であると言える。

 

(……ま、と言っても)

 

 チラッと鳳翔の方を見る。

 

 あんなに仲間が助かる事で喜んでいるのだ、水を指すこともあるまい、と鼻で息を軽く吐き斎藤は考えるのを止めた。

 

「……本当、そんな方と知り合えてあなた達、良かったわねぇ。助けていただいたお礼を是非言いたいわ。ゲシュペンストさんは、今、どちらにおられるのでしょう?」

 

「彼は、フィリピン泊地に飛んで行ったわ。泊地のある島と本島の間を偵察と武装とオペレーション要員のテストをするとかなんとか」

 

 高雄(管)はそう答えた。

 

「はぁっ?!行くとは聞いていたが、もう行ったのか?!動きが早すぎるだろ?!」

 

 近藤はそんなに早くゲシュペンストが出撃するとは思わなかったらしい。

 

「えっと、二時間程で帰るそうだから、その間厨房で飲み物でも飲んで待ってて欲しい、との事ですわ。それに、オペレーションシステムであちらの様子も見れるそうなので、通信もできますわ?」

 

 高雄(管)は厨房はこちらです、と鳳翔に言うと、大きなドアも無い入り口へと向かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 さて一方。こちらはフィリピン泊地のある島とフィリピンの本島の境の海峡である。

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)はその上空を飛びつつ、ゲシュペンストと共に防衛網を構築すべくシミュレートしていた。

 

 寄生生物は人間を補食しエサにしている。だが、もうそろそろ、奴らが備蓄しているエサは無くなりつつある。

 寄生生物の弱点は高速修復剤とそして海水ではあり今まで海には近寄らなかったが、だがもうそろそろエサが乏しくなった事で飢え始めている頃である。

 おそらく、エサを求めて決死で海峡を渡ろうとしてくるはずである。

 

「やはり、連中、ここに斥候を出してやがるぜ」

 

 上空から『成虫』の姿が見える。数は7匹。

 

〔あの7匹の他にはレーダーに反応は無い〕

 

 この様子は無人島拠点の厨房の大型ディスプレイにも映像を送っており、大淀と沖田少佐がモニターをしている。

 

「聞こえるかい?大淀さん、沖田さん。通信の感度はどうだ?」

 

《感度良好ですよ、ゲシュペンストさん》

 

《聞こえてるわ》

 

「すまねぇなぁ。オペレーターの真似事させて」

 

《いいえ、管制は作戦において重要ですし対寄生生物戦闘のデータも必要ですから》

 

《まぁ、私は骨折って戦闘に加われないし、いいんだけどね。ま、気をつけてねゲシュペンスト》

 

〔了解。沖田少佐、大淀。ゲシュペンストでは呼称として我ながら長い名前だ。コールサインをゴーストワンに変更されたし〕

 

《了解。ではゴーストワン、武装テストを開始して下さい》

 

「ゴーストワン了解。では開始する」

 

 ゲシュペンストは一丁のライフルを出した。

 

 形式番号MMP-78。

 

 ドラム型マガジンが特徴的なライフルであり、弾薬の口径は120㎜と戦車砲と同じサイズ。威力と貫通性能に優れたマシンガンである。

 これは元々はゲシュペンストの装備ではなく、某公国の緑色をしたモノアイが特徴的な量産型人型機動兵器の武装である。

 某白い人型機動兵器のルナ・チタニウム合金の装甲には通用しなかった為、ある意味正当な評価をされない事が多い悲劇の汎用マシンガンであるが、故障の少ない構造と装弾数、そして単発・連射・バーストと弾の発射方式が変えられ、さらにスコープまで装備しており、長射程を生かしてスナイパー的にも使える優秀なライフルなのである。

 

「M-950の弾じゃ効かなかったが、120㎜対装甲貫通弾ならどうだ?」

 

 スコープを覗き、群れの後ろにいる一体の頭部に狙いを定める。

 

 単発でドン!と弾を発射した。

 

 弾着の際に、何か光る障壁が発生するのが見えたが、120㎜弾はそれを無理矢理に貫き通して着弾、グシャアッ、と寄生生物の頭が吹き飛んだ。

 

《一体、撃破!》

 

 大淀が一言、そう言ったがその声には驚きの色があった。

 

「……ふむ、この口径なら念動フィールドも貫けるか。続けて、地上に降りてガトリングシールドと近接武器のテストに移行」

 

 ゲシュペンストは急降下し、そして海峡を背に『寄生生物・成虫』の斥候隊の前に出た。

 

 左腕にはシールドに取り付けられた6銃身75mmガトリング砲、そして右手に五郎入道正宗。

 

「こっちは通用するかなっと!」

 

 ヴモォォォォォォォッ!!

 

 牛が鳴くような射撃音と共に凶悪な高速弾の雨が『寄生生物・成虫』達に襲いかかる。

 

 やはり念動フィールドは展開したものの、ごり押しとも言える弾幕は無理矢理にそれを貫き通し、前方に居た四体が細切れになって辺りに散らばった。

 

 だが、後ろまでは貫通せず、二体の『寄生生物・成虫』がほぼ無傷で残った。

 

「悪りぃな、お前らを巣に戻すわけにゃいかねぇ。海峡も渡らせてやらねぇ」

 

 ブーストを一気に噴かし、

 

「抜かば霊散る氷の刃っ!五郎入道正宗、横一文字斬りっ!!」

 

 音も立てず、五郎入道正宗を一閃。

 

 二体の頭部が、ぽーん!ぽーん!と飛ぶ。その数秒後で胴体から青い血が噴き出して、地に落ちた頭がようやく、

 

『ギェェェェェェェェェェェェ!!』

 

 と霊消える叫びを上げた。

 

「やっぱりコイツ等、卵を抱えてやがる。高速修復剤必須だな」

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)はバケツを取り出すと『成虫』の死体にそれを振りかけた。

 

 ジォォォォォォッ、と寄生生物の死体とその腹の卵が溶解していく煙が立ち上がる。

 

「なるほど、甲殻の中身には高速修復剤は効くのか」

 

〔うむ。やはりシミュレートとしては重火器と高速修復剤の併用が望ましい〕

 

「その辺、帰ったら検討しようぜ。とりあえず戦闘は終了だ。データはとれたか?」

 

《はい、武装のデータはサンプリングしましたが、その武装があるなら、研究施設に人海戦術を仕掛けでも充分に勝算が……》

 

 沖田少佐がそういうが、しかし玄一郎は

 

「無い」

 

 と短く言った。

 

《しかし、その火力なら……!》

 

「いいや、ここが何もない開けたところだから重火器で戦えるんだ。だが、研究施設の内部だと奴らは天井や壁を自在に高速で這い回り、三次元機動で襲いかかって来るんだ。一体だけでも厄介なのに群でそうやって押し寄せて来るとなると、マシンガンでも手に負えない。だからといって人海戦術しているときに、閉所でミサイルやらナパーム弾を使ってみろ、突入した部隊も無事じゃすまない」

 

《沖田少佐、彼の言うとおりです。彼が柳生提督達を救出に行った際の映像を見せてもらいましたが、あの数と動きでは対応仕切れません》

 

《……ではやはり単騎で突入するつもりなんですか?あなたは》

 

「一人なら誰も巻き込まずに最強の武装が使えるからな。一番成功確率が高いんだ。その辺は土方中佐に聞いてくれよ。小島基地の件で見てたらしいからな」

 

 と、突然近藤のダミ声が割り込んで来た。

 

《おいっ!ゲシュペンストよぉ、お前さん行く前に俺に言えって言ってたろ?!なに勝手に出撃してんだよ!?》

 

「あ、忘れてた」

 

《あ、忘れてた、じゃねぇ!ったくよぉ》

 

「仕方無かったんだ。連中が思ったより早く海峡付近に出たんでな。奴らが海水に弱いとは言っても群れで大量に押し寄せて来たら渡られかねない。斥候を出して来たって事は、おそらく奴らの狙いはフィリピン本島をエサ場にする事だ。一体でも渡られれば脅威だからな」

 

《そりゃあ、確かにそうだが》

 

「ま、トラップを仕掛けてから帰る。とにかく作戦前に奴らに動かれちゃ困る、だろ?》

 

《はぁっ、了解した。ブリーフィング前までには帰って来てくれよ。頼んだぜ?》

 

「了解だ。ま、どのみち陸軍の人らに装備も渡さにゃならんしな。なるたけ早く帰る」

 

 そう言うとゲシュペンストはヒートロッドに使われるワイヤーリールを創り出した。

 

「さて、楽しい楽しい防衛陣地構築を始めるかねぇ」

  

 玄一郎はそう言うと、やれやれ、とばかりに溜め息を吐いた。




 大淀さんがどんどん変になって行きますね……。M嬢でヤンデレ風で狂信者って(汗)

 そして鳳翔さんは逆に疑い深い感じに……。

 多分、高雄(管)さんぐらいでしょうか。普通の人って。いや、近藤さんもでしょうかねぇ。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(23)

 パンツ!パンツですよっ!

 土方少佐は変態ですが、主人公も変態です。

 比叡(バツイチ)さん登場。でもなんかおかしいぞ?

 


 帰還したゲシュペンストが浜辺にたどり着くと、そこには吹雪と如月と睦月、その他駆逐艦娘達が四つん這いでパンツを見せながらなにやら砂浜をガシガシ掘っていた。

 

 吹雪達は、間抜けな声で、

 

「あっさりーしっじみーはーまぐーりさん♪」 

 

 などと歌いながら貝取りクマデでザクザクやりながら貝を採ってはドラム缶に入れていた。

 

 無論、パンツ!パンツですよっ!とばかりに見えてしまっているパンツなど気にもしていない。

 

 イチゴ模様がしっかりと見えている。

 

 その向こうでも艦娘達が貝を入れたドラム缶を揚陸艦に運んでいる。おそらく夕飯の味噌汁か何かにするのだろうと玄一郎は推測した。

 

 如月がゲシュペンストを発見して、手を振ってきた。なにやら長い棒に網とクマデを合わせたような物を持っているが、それはジョレンと言う貝を大量に採集ための道具である。

 

「おお、如月。頑張ってるなぁ。しかしジョレンで採ってるのか。案外力強いんだな?」

 

 たったったっ、と如月が来て、

 

「あん、艦娘だからこれぐらいは。でもゲシュペンストさんは力が強い女の子は嫌いですかぁ?」

 

 と、少し顔を朱に染めて言う。幼い風貌なのに五年前に見たよりも、やたらとなにか色っぽい感じがするようになっている如月である。そういえば少し背が伸びている感じがして、昔の如月のデータと今の背格好を比べてみて、やはり成長しているのを玄一郎は確認した。

 

「ふむ?昔より背が高くなったか。なるほど。それに制服も変わったか。どうもワタヌシ島で助けたお前の姿を思い出してな。いや、元気な如月を見て安心したよ」

 

 玄一郎はうんうん、と頷きながら感心したように言った。艦娘も成長するのだなぁ、と言いつつ、向こうのフブキチに目を向けるが、相変わらず貝採りに集中していてパンツ丸見えを曝している。

 

「……アイツは成長しとらん気がするが。というかジャージとかは無いのか?」

 

「あはははは、まぁ、吹雪ちゃんも私も改になりましたから、その分、成長したって言えますでしょうか。ゲシュペンストさんも、少し装甲の形が変わりましたね?」

 

「ああ、多少、装甲形状を強化した。こちらの世界では実弾系の武装がほとんどだからな。その分、対応した結果だ」

 

「はぁ、そうなんですか?」

 

 如月は首を傾げる。まぁ、無理は無かろう。なにしろビーム兵器やレーザー兵器と言った光学系の武器などこの世界ではまだ実用化されてはいないのだ。解ろうはずもない。

 

「まぁ、俺の装甲は戦況に応じて替えれるからな。それに追加装甲もあるから、着替えているようなもんでな、成長とは違うんだ。まぁ、26にもなって成長も無いだろうけどなぁ」

 

 まぁ、こちらの世界に来た時が21歳だったのだ。五年経てば26歳。もっとも死んだ男が年を取るのかと言われれば微妙なところだが。

 

「ああ、ゲシュペンストさんは26歳なんですか。私はまだ造られて五年ですから、5歳ですねぇ……」

 

「……艦娘の年齢って、どうなってんだろなぁ。うーむ。つか、その辺を考えるとなぁ」

 

「扶桑さん達は20歳ぐらいですよ?んーと、世界で初めて現れた最初の戦艦だったから、それぐらい。吹雪ちゃんが6歳くらいかな?」

 

「ふむ、扶桑さん達は今、二十歳(はたち)か。なるほど……って、あれ?とするとワタヌシ島ん時はまだ15歳だったってのか」

 

 むむむむむむ、と玄一郎は頭を悩ませる。そうすると、自分は15歳の少女のおっぱいとかを見て喜んでいたのか?!とか、いや、でもあの大人びた姿は、とかいろいろと考えてしまったのだ。

 

「あ、近藤提督の秘書艦の大和さんはまだ2歳ですね、確か。あと土方少佐の秘書の加賀さんは4歳……かな?」

 

「……君達艦娘って存在の年齢がなんつーか解んなくなって来た。むぅ」

 

 と、そこへ土方少佐が来た。

 

「駆逐艦娘達のおぱんつがあんなに沢山……眼福眼福!健康な、おヒップに生える色とりどりの清らかなパンツは良いわよねぇ」

 

 うひひひひ、とニマニマ笑いつつゲシュペンストの方に来た。

 

「……あの、土方少佐。何を言っとるのだあんたは?」

 

「え?ゲシュペンストさんが見てる映像が厨房のモニターに流れて来たんで、ああ、同好の士だと思って来てみたのよ?いやぁ、ゲシュペンスト氏ぃ、あんたも艦娘ラヴィューンだったのねぇ!うひひひひ、クールな振りしてこの、この、このぉ!」

 

 何故か土方は気安くゲシュペンストのボディに軽く肘うちしてきた。

 

「む?ああ、そう言えば回線を切って居なかった。ふむ、しまったな。何をやっているのか、と見ていただけなんだが……」

 

 玄一郎は大淀に通信を入れてから、自分のカメラの映像の送信切った。むろん、音声もだ。

 

「まぁ、向こうは女性が大半……いや、近藤大佐がいるが、彼は常識人だから大丈夫か?とはいえ幼い艦娘達の恥ずかしい映像を流してしまった……」

 

 苦悩する玄一郎。意外だが玄一郎は年端も行かない女の子には全く興味が無い。というかロリコンの気は無いと言っても良いほどである。

 また、女性の好みもだいたい見た目が自分に近い年齢のプラスマイナス3~5、ぐらいの幅の年齢がタイプであり、ある意味、正常な感性なのである。

 

「しっかし、ええお宝映像を大きなモニターで見せていただいて、うっひひひ、ありがとうございます、ありがとうございます!たまらず来ちゃいましたよぉ!ああ、尊い!パンツ尊い!」

 

 土方少佐はどこからかカメラを取り出して潮干狩りをしている駆逐艦娘達のパンツを撮り出している。

 

「へ、変態かっ?!つかあんた女なのに何やってんだ?!」

 

「性別など関係無いねっ!あたしゃ艦娘大好き艦娘ラヴィューン、艦娘の幸せを祈りつつ、艦娘を愛でたい女提督なのさっ!!愛してるんだぁ、君達をぉぉぉっ!!激写っ!激写っ!激写ボーイっ!!」

 

 玄一郎はこの土方をどうして良いかわからず、如月を見たが、如月はなにか、わかってますよ、と言うような笑顔を玄一郎に向けて、

 

「あの、パンツなら私のを……」

 

 と、スカートをまくり始めたので、仕方なく、

 

「ゲシュペンスト超甘チョップ」

 

 と、超軽いチョップをかました。

 

「イタッ!」

 

「あのな、如月ちゃん。お兄さんはね、女の子には慎み深くいて欲しいと思っているんだ。パンツは無闇やたらと見せるもんじゃないし、それはイケない事なんだよ」

 

 と、言って諭した。そして土方少佐の襟首を掴み、撮影しているカメラを奪い取る。

 

「ああっ!私のカメラっ!!」

 

「没収。とりあえず近藤大佐に説明して渡しておくからな?艦娘ラヴなのは良いが、変態はダメだ。気持ちは解らんでも無いが大切なものを汚しちゃなんにもならんだろうが」

 

「ううっ、同好の士の匂いがしたのに、騙したのねっ!?」

 

「いや、同好の士にすんな。つか、潮干狩りを見てただけで、パンツなんぞ見る気は無かったからな、俺は」

 

 土方にそう言いつつ、なんつう女提督だ、と溜め息を吐く。

 

 と、あぎょう丸から降りてこちらに向かって来る艦娘が見えて、それを確認し、玄一郎はギョッ?!となり一瞬、固まる。

 

 それはかつて玄一郎を恐怖のどん底に突き落とした艦娘だった。

 

「あれ、どったの?」

 

 と、土方が襟首掴まれてぶら下げられたままゲシュペンスト(=玄一郎)に言うが、玄一郎はすぐさま土方を砂浜に下ろしてカメラを返し、まるで二人をかばうようにして立った。

 

 向こうがゲシュペンスト(=玄一郎)を視認し、そして艤装を展開する。

 

〔玄一郎、補足された!砲門がこちらを向いている!!〕

 

「土方少佐っ!如月ちゃん!『ヤツ』は主砲を撃つ気だ!!」

 

 ゲルグクの楕円形シールドを作って左腕に持ち、その上でグラビティ・フィールドを張りつつプラズマソードを抜き放ちながら、海の方へと走るゲシュペンスト。

 

 その艦娘は砲門をゲシュペンストに向けて撃った。

 

 玄一郎とゲシュペンストは、艦砲射撃に対しての対策はもう五年前、『ムサシの深海棲艦』との戦いで編み出していた。

 

 瞬時にストライク・シールドを前方に展開させる。元はSRX、つまりサイコドライバー用の機体の装備で念動能力を持たない玄一郎とゲシュペンストには操作は出来ないが、盾にはできる。

 

 主砲四門、計8の砲弾を受け止めストライクシールドは破壊される。貫通弾、いや徹甲弾のいくつかは通ったが、徹甲弾ならば落とせる。

 

「切り落としっ!!」

 

 プラズマソードで目にも止まらぬ速さで徹甲弾を切り落とし、そして海面に落としつつ、ブーストを噴かして攻撃を仕掛けて来た艦娘に迫るゲシュペンスト。

 

 ニヤリ、とその艦娘は笑った。そして砲門を解除してまるで両腕を広げるようにしてそのまま、まるで死を受け入れるように海上に立ち止まった。

 

「こぉの、アホ娘っ!!」

 

 玄一郎はそう叫ぶと、プラズマソードを左腕のラックにしまって、どこから出したのか、ハリセンに持ち替える。

 

 その艦娘はハリセンを見て、なにっ?!と驚愕の表情を浮かべる。そう、伝説のナニワどつき漫才に置けるツッコミ非殺傷兵器。

 

「ナニワ名物っ!ハリセンチョーップ!!」

 

 スッパーン!!

 

「ひぇぇぇぇっ!!」

 

 ハリセン直撃にその艦娘の身体は大きく仰け反り、『定番』の叫び声を上げた。

 

「かーらーのぉっ、ゲシュペンスト返しっ!」

 

 仰け反ったその艦娘……いや、もう叫び声からわかってしまったとは思うが……の背中を支えて片手でひっくり返すように横回しし、そして。

 

 ガッチリ、と左腕で小脇に抱える。

 

「ゲシュペンスト辱めホールド!!」

 

 海上でしゃがみ込むようにして玄一郎はその艦娘のパンツをぺろーんと脱がし、そして。

 

「悪い娘にはお仕置きだっ!!悪い娘っ!悪い娘っ!!」

 

 ぱしーん!ぱしーん!とその剥き出しになったお尻を叩く。

 

「人様を巻き込むような攻撃、しちゃいかんだろう!悪い娘っ!悪い娘っ!!」

 

 ぱしーん!ぱしーん!ぱしーん!ぱしーん!

 

 無論、手加減はしているが、それでもその尻は赤くなっていく。

 

「ひぇぇっ?!ひぇぇっ?!」

 

 痛みに叫ぶが、しかしゲシュペンストのホールドははずれない。

 

「というか、俺を恨め、とは言ったが、生きろって、言ったよな、簡単に、死にたがるんじゃ、ねぇぞ!」

 

「んあっ!んひぃぃっ!んあぁぁっ!!あはぁん!!」

  

 ぱしーん!ぱしーん!ぱしーん!ぱしーん!

 

「んひぁん!ひゃあぁぁん!んんっ!んぁっ!もっとぉ!もっと叩いてぇ!悪い比叡をぉ、もっとぉ!」

 

「悪い事したらなんて言うんだ比叡っ?この悪い娘めっ!」

 

「あはぁん!あんっ、悪い事したら、あん!ごめん、ごめんなさい!ああん、あなたぁ、ごめんなさい!」

 

 ピタッ。玄一郎は比叡の尻を叩くのを止めた。

 

「あん、止めないでぇ、もっと打ってぇ……」

 

「いや、なんつうか、何ソレ?比叡、性格変わってないか?それに俺はお前の亭主じゃねぇぞ?」

 

 玄一郎は尻をフリフリしてせがむ比叡を見てどん引きした。叩き過ぎて変になったのか、と真剣に考えてしまい、悩み、そして、とりあえずなんか比叡の様子がおかしいので優しくしてみようとか思った。

 

 とりあえずどう優しくしたら良いのか解らなかったので、撫でりっ。と比叡のお尻を撫でる。←混乱している。

 

「あんっ!あっ……や、優しい……」

 

 撫でり撫でり。

 

「んっ、んんっ……」

 

 悶える比叡に、なにか違う、と思いやはり悩む玄一郎。

 

「……いや、なんか違うような」

 

 悩む玄一郎に救世主的な艦娘がその背後からすっ飛んで来た。

 

「こぉのエロボットぉぉぉっ!!」

 

 山城の渾身のドロップキックがゲシュペンスト(=玄一郎)の頭部を襲った!

 

「ぐわぁぁぁぁっ!!」

 

 吹き飛ばされるゲシュペンスト。

 

 そうして、比叡は解放され、そしてある意味玄一郎も解放された。

 

 吹き飛ばされながらも、玄一郎は安堵の溜め息を吐いた。ああ、助かった!と。

 

 

 

…………オワレっ!!




 比叡さん(バツイチ)。元人妻ですが、とある事情で精神を病んでおり、その事から玄一郎を自分の夫と思い込んでしまっています。
 
 まぁ、その辺は次回!

 次回、ひぇぇっ?!が鳴く空に。で、またあおう!(嘘)


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(24)


 ゲシュペンストと比叡過去が垣間見える今回。

 そしてグランド・金剛の登場(グランマでは無い)。

 マッドサイエンティスト(?)明石も登場。
 寄生生物駆逐作戦前なのにグダグダしています。


 比叡という艦娘は、かつて玄一郎を恐怖のどん底、とまでは行かないが恐れさせた艦娘である。

 

 攻撃力はゲシュペンストの創り出したストライクシールドをぶち破ったことからも解るとおり、それは通常の戦艦娘を遥かに凌駕していると言える。

 

 ストライクシールドは、SRX計画の機体の武装であり遠隔武器の一つで、ビットやファンネル的な武器であるが、シールドとしての防御力もかなりの性能をもっている。

 

 故に腕に念のための手持ちのシールドまで創っていたのである。

 

 玄一郎がそんな艦娘と関わったのは、ルソン近海。

 

 龍田と那智が『父』と敬愛する『造田博士』の救出に協力するために、二人との合流地点であったルソン近海の無人島へと向かう途中で、轟沈寸前で海を漂っていた比叡を助けた事からそれは始まった。

 

 合流地点の無人島にて、急いで拠点設営をし、重傷の比叡に高速修復剤を使い、手当てを施して療養させた玄一郎だが、意識を取り戻した比叡はいきなり主砲をゲシュペンスト(=玄一郎)に向けてぶちかましたのである。

 

 すんでのところで交わした玄一郎だったが、それによってせっかく作った拠点はぶち壊された。

 

 そして、比叡は戦いの損耗も癒えぬまま、そのままゲシュペンストの作った拠点から逃げて行ったのだが、しかし、その後も執拗に比叡によって何度も何度も襲撃を受ける事となったのである。

 

 例えば、龍田と那智の二人と合流した直後にいきなりドカン!と砲撃を食らわせて来たり。

 

 例えば、ルソン基地に隠密行動で潜入していたら、目の前に現れドカン!と近接砲撃を食らわせて来たり。

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)をどこまでも追って来て行く先々に現れてズドン、ドカン、ボカーン!と砲撃を食らわせてきたのだ。

 

 この比叡のおかげで散々な目に逢い、ゲシュペンスト(=玄一郎)は龍田と那智と合流したは良いが、一緒に行動する事が困難となり、造田博士の救出を途中で出会った天龍と川内に任せなければならなかったわけであるが、それはさておき。

 

『さぁ、戦え!!お前が私より弱ければお前が死ぬ。私の望みは果てるまで戦って我が身を終える事だ!!お前が私より強いと言うなら証明してみせろ!!』

 

 比叡はそう言ってゲシュペンストに何度も戦いを挑んだ。艦娘には有り得ないほどの威力を持った砲撃と機動能力を持った比叡は、ゲシュペンスト(=玄一郎)にとって強敵であった。

 

『戦え!お前も兵器なら、潰れるまで私と戦え!!もう私には何も残されていない!!私が私で無くなる前に、狂ってしまう前に止めてみろ!!』

 

 何度も何度も出て来て勝手に戦いを挑み、造田博士救出の邪魔をし、そして扶桑姉妹の危機に駆けつけようとした玄一郎を妨害してきた事でにブチ切れた玄一郎は、ついには比叡をワイヤーで縛って簀巻きにして、ルソン基地の倉庫に叩き込んで無力化し、その後全く遭遇する事も無かったわけだが。

 

 まさか再びここにきて自分の前に現れるとは思ってもいなかったのである。

 

 しかも、すりすりすりゴロゴロゴロゴロ、と猫のごとくゲシュペンストにまとわりついて離れてくれない。

 

「んにゅう、旦那様ぁ」

 

 誰だこれは。そして旦那様って誰だ?!

 

 これなら、ところかまわず砲撃してくる狂戦士な比叡の方がまだマシだ。

 

 ホールドアップしつつ、玄一郎は山城やそして扶桑と共にやってきた比叡の姉だという金剛に俺は悪くない、何もしていない、と海上でアピールしつつそう思った。その様は猫が苦手なのにやたらと猫に好かれてまとわりつかれる人的な感じである。

 

「すみません、あの、助けて……!」

 

 と助けを求める。

 

「Oh!比叡があんなに元気デース!それにあんなにキュートにじゃついてマースね~!」

 

 比叡の姉艦だと言う金剛が何故か涙ぐみながらも目を輝かせて言った。いや、そうじゃない、と玄一郎は思ったが、金剛からすればずっと精神を病んで自分から動く事もほとんど出来なかった妹艦を看てきたのである。元気に活動している妹艦を見て喜んで感動するのは仕方ないことだろう。

 

 とはいえ、うにゃー、とかゴロゴロ喉を慣らしながら他人にじゃれついている艦娘を異常とおもわんのかあんたは。

 

「はぁ、砲声を聞いた時には何事かとおもったけれど、仲良くなったのね。良かったわ」

 

 扶桑はおっとりとした感じでにこにこしながらそう言い、

 

「まるで御父様に懐いていた『あの比叡』を思い出すわね……」

 

 と、少し目を伏せた。

 扶桑の言う『あの比叡』とは彼女達が父と慕っていた『造田博士(ビアン・ゾルダーク)』の元で共に暮らしていた『比叡』の事である。彼女は深海棲艦との戦いで不幸にも轟沈して今はもういない。

 

「いえ、ねぇさま。いくらあの子だってあんなに猫みたいな行動はとらなかったと思いますけど……」

 

 と、山城がツッコむ。

 

「というか、比叡が離れてくんないんですけど、助けて……」

 

 玄一郎は涙目である。もっともパーソナルトルーパーであるゲシュペンストは涙など流せないのだが。

 

「ほーら、ひぇ~い?キティ、カムカムカムちっちっちっち」

 

 姉艦である金剛が外国人が猫を呼ぶようにして比叡を招く。比叡は「んにゃっ?」と金剛を見ると「金剛おねぇさま!」と目を輝かせてパッ、とゲシュペンストから離れて金剛の方に行くと、金剛を抱きしめ、

 

「おねぇさまぁ~」

 

 と、嬉しそうに姉艦に甘えた。

 

「Oh、比叡、アッハハハ元気になってヨカッタネーぃ!」

 

「ハイ!比叡、元気いっぱいです!」

 

 抱擁しあう姉妹の姿はそれはそれで微笑ましい光景ではあった。一件落着、とも思える光景ではあったがしかし比叡のあの異常行動の原因は何一つわかってはいないのである。

 

 とはいえ、玄一郎はようやく比叡から解放されて息を吐く。

 

「……はぁ、た、助かった、のか?」

 

 比叡の次の言葉で、全く助かっていないことを知った。金剛とのハグを終えた比叡がこちらを向き、

 

「おねぇさま、紹介しますね、こちらが私の提督!そして夫のゲシュペンストです!」

 

 などと紹介し始めたではないか。

 

「ぶっほぉーーっ?!」

 

 比叡の爆弾発言に玄一郎は噴いた。無論、事実無根である。ゲシュペンスト(=玄一郎)は日本海軍の提督になどなった事は無いし、比叡と結婚した覚えも全く無いのだ。

 

 とんでもない爆弾発言である。

 

「What?!テートク?!それに夫……ハズバンドダッテー?!」

 

 金剛の目が驚きでまん丸になる。扶桑の目のハイライトが消える。山城の目に怒りが宿る。

 

「ちょ、ちょまっ?!俺は」

 

 提督でも夫でも無い、と言いかけた瞬間、どこからともなく比叡の背後からパスッ!と言う音が聞こえ、そして比叡がぱったりと倒れ込む。その首筋を見れば射出式の麻酔弾、つまり注射器が刺さっていた。

 

「え?」

 

 倒れ込む比叡をすかさず玄一郎は支え、麻酔弾が飛んできた方向を見れば、あぎょう丸の甲板で旧式のスナイパーライフルを構えたピンク色の髪の艦娘がいた。

 

「危ない所でした。発言には気をつけて下さい。比叡は心を病んでいます」

 

 と、その明石は甲板から海に飛び降りてこちらに来ながら行った。

 

「Oh!アカーシ、しかしどうして艦娘用麻酔弾なんて使ったデースか?!」

 

「……金剛、彼が言おうとした言葉が、比叡の精神状態にとって危険を及ぼす可能性が大きかったからよ」

 

 明石は旧式ライフルをそのベルトで背中に背負い、そして腰のポーチからバーコードリーダーのような器具をだすと、それを比叡の腕に当てた。

 

「……後で説明しますが、今は比叡の状態を確認しなきゃいけないから待ってて下さい」

 

 ピッ、と音がしてバーコードリーダーの後ろについている液晶になにやら数字が表示される。

 

「……霊力値は上昇しているわね。以前計った時が90台だったのに、今は256、通常の戦艦娘の平均値まで戻っている。バイタルも正常、短時間でここまで通常の数値に戻るのは異常だけど……」

 

 明石はバーコードリーダーをまた腰のポーチに仕舞うと、ゲシュペンスト(=玄一郎)の方に目を向けて、次はマイクのような形の円筒形の機器を取り出して、それをゲシュペンストに向けた。

 

「これは無機物ようの霊波計測計ですが……霊力値999、カウンターの桁が足らないからこの数値なのね。広域放射圏がだいたい100メーター」

 

 明石は、なるほどなるほどと言って立ち上がり、そして言った。

 

「比叡は慢性の霊力不足に陥る症状を持っていました。また、過去のトラウマで精神も病んでいる。どちらも重度の状態で、本来なら戦闘なんて不可能なはずだった。なるほど、強い霊力の塊と接触して補給した事でまた動けるようになったという事ですね」

 

 明石はそう言うと、比叡を抱えてゲシュペンストから離した。

 

「……とりあえず、比叡はあぎょう丸の診療室で寝かせておきます。艦娘用麻酔弾の効果は三時間。充分、お話しする時間はあります。では、後ほどあちらの拠点にお伺いしますので」

 

 明石はそのまま、比叡を軽々と抱えてあぎょう丸のタラップまで走るようにして去って行った。

 

「な、なんか、有無を言わせぬ手際と話す暇のないマシンガントークだったな……」

 

 玄一郎は呆然とした。金剛は

 

「アカーシは昔から怪我人や病人の前だとああいう風になりますカラ仕方無いネ。とりあえずワタシも比叡が心配なので、あぎょう丸に一度戻るネ、リトルブラザー」

 

 と言って困ったような、微妙な笑みを浮かべて玄一郎にウィンクするとやはりあぎょう丸に駆け足で帰って行った。

 

「……なにか、いろいろと複雑そうな事情がおありのようですね、玄……ゲシュペンストさん」

 

「はぁ、因縁とか奇縁があちこちに出来てるようね、あんたは」

 

 正直、その通り過ぎて何にも言えない玄一郎であった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 拠点の厨房へ帰ってみれば、近藤が待っており、先行して飛行艇でやってきた斎藤特務大尉と軽空母・鳳翔手短に紹介した。

 

「……初めてお目に掛かる。日本陸軍の斎藤一夫特務大尉だ。短い間だが、よろしく頼む」

 

 斎藤はそういって自然体な感じで短く敬礼をした。

 

 次に、和服姿の鳳翔がにこやかに

 

「大本営・第一艦隊顧問の軽空母鳳翔と申します。よろしくお願いいたします」

 

 と、言い、そして懐から書簡を出すと玄一郎に渡して来た。

 

「こちらは大本営の松平准将からの手紙です。後ほど『お一人の時』にお読み下さいませ。……あなたが知りたい情報に関しての手掛かりとの事です」

 

 ゲシュペンスト(=玄一郎)はピクリと肩を動かした。

 

「……俺が知りたい情報?」

 

「との事ですが、私にはわかりません。手紙を託されただけですので……」

 

 鳳翔は困り顔でそう答えたが、この鳳翔という艦娘が内容を知っているのか知らないのかはあまり関係は無いように玄一郎には思えた。

 

 それに見てみないとわからないが、その書簡の中身が、元の世界へ戻るための手掛かりに関する情報である可能性は低いだろう。

 

「……一人の時に見よう。確かに受け取った」

 

 そう言うと玄一郎はゲシュペンストの背部のウェポンラックの中にその書簡を仕舞った。

 

「はい。確かにお渡ししました」

 

 にっこりと笑う鳳翔の顔は裏表など無いように思えたが、どうもその若々しい姿とその内面が推し量れないような雰囲気に、玄一郎はやや引っかかるも、しかし今回の事件が終わればもう会うことも無いだろうと思い、アイカメラを近藤の方へ向けた。

 

「近藤大佐、すまない。浜辺でトラブルがあった」

 

 一応、近藤大佐には話して置かねばなるまいと比叡に関して、伝える。無論、過去に何があったかも全て話した。

 

「……浜辺で何があったかは、そちらの鳳翔さん、いや、軽空母・鳳凰が索敵機を飛ばして報告してくれていたんだが、いや、すまない。土方んところの艦娘が迷惑をかけてしまってな。然るべき処分をせにゃならんか……」

 

「いや、処分は必要無い。というかしないでくれ。もう少ししたら、あぎょう丸にいる明石がここに来ると言ってた。比叡についての説明をするとの事だ」

 

「ふむ?という事は何かあの比叡の治療方法か何かに進展でもあったということかも知れない」

 

 近藤の話では、あぎょう丸の明石は土方の小島基地に所属している明石であり、昔は扶桑姉妹や金剛と共に『造田博士』の元にいた明石らしい。

 

「造田博士の研究や論文にも明るい明石だ。あの明石はいつも工廠のラボに引きこもっているが、アレが出てくる時は研究か何かが完成したか、進展があったときだからな」

 

「私をニートか引きこもりのように言わないで下さい。まぁ、確かに比叡の治療に関して進展があったのは確かですが」

 

 噂をすればなんとやら。あぎょう丸の、というか土方中佐のところの明石が厨房の出入り口に立っていた。

 

「……ふむ?ふむふむ。なんですか、この設備は。通信機器にしては面妖な。モニターにヘッドフォン?しかし、この薄いモニターはどのような方式なのか。かなりの技術力の産物と見ましたが、この設備を構築したのは、あなたですか?」

 

 ジロジロとゲシュペンストが構築したオペレーションシステムを見て土方中佐のところの明石ーーー以後明石(土)と表記するーーーは言った。

 

「あ、ああ、そうだが?」

 

「ふむ……どのようにしてこんな無人島にこれだけの物、近未来の技術を導入したのか気になりますが、まぁ、今回はそれを聞くために来たのではありません。クランケ、いえ比叡の事です。後にしましょう」

 

 明石は静かな口調だが、ダダダっとそう言うと、いきなり本題を切り出した。

 

「さて。比叡を助けるには霊力が必要なのですが、ようやく霊力の塊を発見したので、あなた、協力していただけますか?」

 

 本題が、それであった。

 

 状況の説明も理由も何の前振りも無い、ただの結論だけである。

 

「いや、説明とかは無いのか?」

 

「説明している時間はもうあまり無いでしょう。あぎょう丸の通信機に増援の輸送艦からの連絡がありましたので。あと二時間ほどでこちらに来ます。あなたは作戦会議に出席するのでしょう?なら、作業をしながら説明する方が何かと早いのです。早く来て下さい。あぎょう丸の甲板にもう、霊力機関の装置の準備が整ってますので」

 

 有無を言わせず、明石はぐいぐいとゲシュペンストの腕を取って引っ張る。

 

 かなりの力に引かれて、玄一郎は明石に連れられて行った。

 

「す、すまんが、ちょっと行ってくる!」

 

 引っ張られていくゲシュペンストに、近藤達はもう置いてきぼりの状況だった。

 

「はぁ、明石ったら久しぶりに顔を見たと思ったら挨拶も無しだもの。近藤大佐、ちょっと私もあぎょう丸にお邪魔いたしますわね?あの子は時折、傍迷惑な事を仕出かしてしまいますので、お目付役に……」

 

 鳳翔はそういうと、パタパタパタ、と雪駄を鳴らして明石の後を追った。

 

「あ~、というか作戦会議前の打ち合わせがしたかったんだがなぁ。はぁ、斎藤さん、俺達だけでやっとくかね?」

 

「ああ、しかしこっちで借りる装備とやらの説明はどうなるんだ?ゲシュペンスト氏から聞けるって近藤さん、あんた言ってたよな?」

 

「行ってしまったからなぁ」

 

「あ、近藤大佐、斎藤特務大尉、私もちょっと行って来ますね!危険な事でしたら止めねばなりません。彼が作戦の中核ですし、彼の存在を失うわけにいきませんので!」

 

 大淀までもが、あぎょう丸へ向かって走って行った。

 

「……よく見りゃ、ありゃあ軍視局の『淀君様』じゃねぇか。なんで普通の任艦娘みてぇな事やってんだ?」

 

「いや、その辺は俺にもわからねぇんだ。だが、どうもあのゲシュペンストを軍視局に取り込もうって腹なんじゃねぇかと思うんだが、それにしちゃあ様子がおかしいんだ」

 

「……『淀み鴉の大淀』が、あんなに生き生きとした目で動いてんの、初めて見たぜ」

 

「……恋かしら?」

 

「「うわっ?!沖田、お前いたのか?!」」

 

「いや、さっきからいたわよ」

 

 ムグムグムグ、と沖田は厨房の隅っこでバナナを食べていたという。

 

「あ、近藤さんも斎藤さんも、バナナ食べます?ゲシュペンストさんがバナナが悪くなる前にみんなで分けてくれ、と言ってましたので」

 

 あっけらかんと沖田にそう言われ、近藤と斎藤はバナナを受け取って、ムグムグムグと食うしか無かった。





 比叡の嫁宣言。金剛さんは策略家の設定なのにそんなポケポケしてていいのか?

 でも、比叡は可愛いよね。

 なお、史実の比叡は比叡はバルジの幅を広げて浮力を増す改善が施されたそうで、全幅が1メートルほど大きくなったそうであり、つまり……。

 書いている人的には乳ではなく、ちょっとお尻の方に肉を……いえ、ナンデモナイデス。

 まぁ、ある意味大和型のテストヘッドでもありましたし、こう、実験的な物を施されたという部分から、設定が暗くなって行きましたが、無論救われます、ええ。

 あと、沖田さんはクールなキャラだったのに、なんか性格がかわってねぇか?と思わなくもない。


 


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再開前のまとめ。

……長らくあいてしまったなぁ。

念のため、設定まとめ。


【造田博士】

 

 艦これ世界に初めて顕現したスパロボ世界の住人であり、その正体はビアン・ゾルダーク博士である。

 造田毘庵(ぞうだ・びあん)とは、日本に帰化した時に自らつけた名前である。

 

 艦娘達を数多くドロップした、ある意味日本にとっては英雄のような人物のはずが、様々な日本を取り巻く陰謀によって地位も名誉も奪われ、捕らわれの身となった不遇の天才科学者でもある。

 

 なお、ヴァルシオンの存在に気付いてはおらず、ルソンに護送される船の中でゲシュペンスト・タイプSと比叡の戦いを目撃した事でようやくそれに気づき、昔に気付いておれば、娘達をあんなに不幸な目にあわせることなど無かったのに!と悔やんだという。

 

 自分がドロップした艦娘達を本当の娘同然に考えており愛情も深い。

 

 

【高雄(元菅原艦隊旗艦)】

 

 『造田博士』がドロップした艦娘の一人であり、艦娘世界において最初に確認された『高雄』である。

 

 左派の独裁政権から日本を奪還するために尽力した菅原道夫大将の艦隊の旗艦にして秘書艦として働いた。

 

 なお、菅原道夫大将とは恋仲であったが、過去編ではややブラックな大本営の提督の一人の部下として組み込まれ、苦労していた模様。

 

 フィリピンの事件が終わってから、施行された『新艦娘法』により、海軍を引退し、菅原道夫と結婚(ガチな方)をする事となる。

 

 

 

【金剛(元菅原艦隊所属)】

 

 造田博士によってドロップされた金剛型一番艦である。造田博士のドロップした金剛型は金剛以外、全て轟沈しており、そういう意味では不幸であったと言えるだろう。

 

 菅原道夫大将の日本奪還計画においては、作戦参謀のような立ち位置にあり、また、最初の間宮と共に日本を取り戻す為の艦娘組織を互いに作り上げた。

 

 また、ある意味松平朋也や土方歳子にとっては師匠の一人であり、それぞれ、『トモ』、『トッシー』呼ばわり出来るぐらいに偉い艦娘でもある。

 

 また、後にパラオ所属となり、ゲシュペンスト(=玄一郎)が提督になる頃には、かつての知将振りを表に出さず、『紅茶楽隠居・金剛』と呼ばれるほどに昼行灯のふりをするようになる。

 

 これはゲシュペンスト(=玄一郎)を影で支えるためと、その成長を見守るため、そして扶桑姉妹の事を考えての事と推測されるが、単に普通に隠居したかっただけかも知れない。

 

 

 

【比叡】

 

 元離島基地所属→様々な激戦海域に転属→ルソン島基地→小島基地→パラオ泊地、と転属。

 

 艦娘大量生産期において、生産された比叡である。

 

 激戦海域を渡り歩かされ生き残った歴戦の比叡であり、その過去は悲惨な記憶に満ちている。

 

 また、ルソン島基地にて非道な実験の被験体にされた事から精神に異常を来しており、完全に自分が狂ってしまう前に死を選ぼうとしたが、その経歴から戦場でその身を終えたいとその海域ボスに単身挑み、大破させられたものの、見逃され、気を失っていたところをゲシュペンストに助けられた。

 

 海域ボスからターゲットをゲシュペンストにかえて戦いを挑むようになった理由は定かでは無いが、歴戦の艦娘の本能的なものではないかと思われる。

 

 後に小島基地に所属した金剛と出会うも、その頃にはもう普通の状態も保てなくなっていたらしい。

 

 

 

【鳳翔】

 

 造田博士がドロップした鳳翔である。造田家の艦娘達全員にとって頭の上がらない存在であり、ビアン・ゾルダークもこの鳳翔には頭が上がらない。

 

 横須賀にあった造田博士行きつけの小料理屋にて働きながら、造田家の家計を支えた『お艦』である。

 

 なお、今も居酒屋を営んでいるのは、山元元帥の威光によるが、それが山元元帥の引退後も出来ているのは、鳳翔自身が築き上げたコネクション『鳳翔グループ』の政治的な立ち位置と『間宮・伊良湖連合」との連携による。

 

 

 

【明石(小島基地所属)】

 

 造田博士がドロップした明石。造田博士の研究において助手的な立ち位置にあり、ある程度、造田博士の発明の原理を理解しているが、造田博士が海軍によって不当に連行され捕らわれの身となってからは、その知識をひたすら隠してただの工作艦・明石として身をひそめていた。

 

 小島基地に所属後、造田家の一員であった金剛のため、比叡を助けるために造田博士がかつて研究していた霊力増幅装置を作成した。

 

 後に土方と共にパラオ基地に転属したが、パラオの自動車修理工場を経営していた現地の青年と結婚し退職した。製作したものの用途とそのデザインセンスに定評があるが、たまにデザインをこじらせて奇妙なものを作ってしまうこともある。

 

 

 

【柳生提督】

 

 フィリピン第二基地提督。好青年っぽい男だが、ある意味したたかである。龍田と那智をテロリスト指定されていると知りながらもドロップ艦として自分の基地で登録した。人情味のある提督であり、後に小島基地の提督として転任する。なお、別に柳生新陰流とか会得はしていない模様。

 

 

 

【明石(第二基地所属)】

 

 工作艦としての能力は高いが、常識的で出来れば工作艦の本分から逸脱した仕事はしたくないと思っている。

 

 龍田と那智に脅されて『アンチパラサイトワクチン』を作り出したが、それはどれだけ龍田と那智が頼み込んでも首を縦に振らなかったためであり、ある意味頑固な一面も持っているようである。

 

 後に、柳生提督と共に小島基地へと転属し、柳生提督の妻となった。(なお、現在のパラオの明石とは別人である)

 

 

 

【大和(舞鶴鎮守府所属・舞鶴第一艦隊・旗艦)】

 

 近藤大佐の舞鶴鎮守府において実施された大型建造実験によって建造された大和である。

 

 当時、大和型の建造例は無かったのだが、近藤大佐はこの実験で陸奥と大和建造した。

 

 舞鶴鎮守府においてこの大和は数少ない常識人として近藤大佐に重宝され、後に近藤大佐の第三夫人にして筆頭秘書艦となる。

 

 

【陸奥(舞鶴鎮守府所属)】

 

 近藤大佐の大型建造実験において最初に出てきた戦艦。後にゲシュペンストが提督となった際に本人の希望でパラオへと転属する事となる。何故希望したのかと言えば、舞鶴の他の艦娘達の提督への愛情に気圧されてあまり居心地が良くなかったせい、らしい。

 

 

 

【愛宕(舞鶴鎮守府所属)】

 

 女衒鎮守府と呼ばれた時代の舞鶴にて建造された、エロい愛宕であり、全艦娘中最大のバストサイズと言われた愛宕である。後に近藤大佐の第一夫人となる。

 

 

 

【高雄(舞鶴鎮守府所属)】

 

 女衒鎮守府時代の舞鶴にて建造された、エロい高雄であり、高雄中で最大のバストサイズを誇るが、愛宕よりはやや小さい。なお、高雄中一番お尻も大きい。後に近藤大佐の第二夫人となるが、特に高雄と愛宕の間で第一第二のこだわりは無く、仲良く近藤大佐の妻をしている。

  




まぁ、コロコロ設定変わりますけど、キニスンナ?

と。


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(25)

帰って来ちゃったよ。

いや、ウィルスで大変な時なのでバイオテロな話は自粛せんといかんかなーとも思ってましたが、考えを改めました。




明石(土)に引っ張られるようにして連れてこられたあぎょう丸の甲板、そのデッキの一角にはこじんまりとしてはいるが特徴的な機材の塊がでーんと鎮座坐(ましま)していた。

 

 もう皆さんそれがなんなのかおわかりの事だろうし、玄一郎にもゲシュペンストにも言われずともこれが何なのかとっくにわかっていた。

 

 そう、T-Linkシステムだ。

 

 こちらの世界では『造田式霊力増幅装置』などと呼ばれているが、それはまんまゲシュペンストのいた世界におけるT-Linkシステムと同じものである。

 

 もっともこの『造田式霊力増幅装置』はゲシュペンストのいた世界のT-Linkシステムよりもかなり旧式な部品によって製造されており、所々真空管や手作りで製作したであろう基盤と回路が剥き出しになっているが、それすらも製作者の美意識を感じさせるほどに、理路整然としてかつ整理された規則正しい配列で組み込まれている。

 このT-Linkシステムに比べれば縞傘の研究室ものは美意識の欠片もないガキが、ただ機能すればいいとばかりに出鱈目にパーツを並べ配線を無理矢理つなげて組み上げたものでしかない。

 

 それほどまでにこれは完成されている。

 

〔……最新鋭のパーツで組まれていたなら、おそらくはかなりの出力が得られるだろう〕

 

(それなら協力するかぁ?)

 

〔いや、正直T-Linkシステムに関しては関わりたくない。治療が目的でなければ関わるのを拒否したいところだ〕

 

 このT-Linkシステムに関わった女性にゲシュペンストのパイロットであったカーウァイ・ラウは酷い目にあわされた過去をもっており、もうT-Linkシステム関連はこりごりだった。彼が拒否していないのは比叡の命を救うためである。

 

「とりあえず、あなたはこの霊波受信板……そこの金色の衝立のようなものです、その前に立つなり座るなりして貰えればそれで良いので」

 

 明石(土)はそう言い、

 

「私は比叡を連れてきますので、そこから動かないで下さいね。もうシステムは霊波を溜める為に作動してますので」

 

 と、さっさとあぎょう丸のハッチに向かい、艦内に入って行った。

 

「……あ~、説明は?」

 

 と明石(土)に言おうとしたが、ガチャンとハッチはしまって声は届いていない。いや、聞く気も答える気も無いようだ。

 

「……行っちまったよ。つか、この前に居れば良いって言われてもなぁ」

 

 その金色の衝立は細い金属の板を幾つも繋げたものであ、本当に金属の衝立にしか見えない。

 

 ゲシュペンストの分析によれば

 

〔チタンベースの精神感応素材で出来ている。T-Linkシステムや某公国のニュータイプ専用サイコミュにも似たようなものが使われているが、かなり初期段階の実験に使われていたものに酷似している〕

 

 らしい。

 

 そんな説明をされても玄一郎の世界にはそんな技術など無かったため、

 

(まぁ、訳わからん)

 

 と、ゲシュペンストだけに聞こえるようにそう答えた。非常に正直である。

 

 明石に引っ張られて連れられたゲシュペンストを追いかけてきた大淀は玄一郎(=ゲシュペンスト)がプレゼントしたPCパッドのカメラを使ってさっきからT-Linkシステムの映像を撮っているが、彼女はもうそのPCパッドを使いこなし始めている。

 基本的な操作を少し教えただけでコレである。物覚えが良いというのか、才能に秀でているというべきなのか。

 

「しかし、全く説明も何もなかったですね……というかこれほどのコンピューターの塊みたいな装置を使って何をするつもりなのでしょうか?」

 

 そう言いつつパシャッ、パシャッ、と映像を撮り続けている。

 

(……しかし、そうやって前のめりで写真撮ってるとおパンツ見えてるぞ?)

 

 玄一郎は大淀の捲れたスカートから見えているパンツをじーっと見ながら

 

「わからん。俺はこの手の機械には詳しくない。だが霊力を比叡に補充させようとしているのは間違いないだろう」

 

(ふむ……大淀さんは清純派の白、レース付きか)

 

 ああ、麗しの白。なんと目にまぶしいことか。しかも大淀の尻はその一見細く見えるその体型からは予想し辛いがむちっとしており柔らかそうなその肉眼がたまらんエロい感じでもう、たまらーん!たまらーん!なのである。

 

 清純系メガネ文系美女のむっちり尻。それはかつて得られなかった少年時代の、もしかしたらあり得たかも知れない青くも甘酸っぱい青春を玄一郎に思わせた。

 

……好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰だろうなぁ。駆け抜けていくメモリアルなんぞ俺の青春には無かった。セーラー服の清純系メガネ文系美女なんぞおらんかったもんなぁ。

 

 が、玄一郎のその覗きタイムはすぐに終わった。

 

「大淀さん、そんなに前のめりになってはスカートめくれてますよ!」

 

 鳳翔が大淀に注意したからである。

 

「ええっ?!」

 

 大淀は慌てて姿勢を正してスカートの後ろを押さえた。そしてゲシュペンストの方を少し上目遣いで見て、

 

「あの……見えてました?」

 

 と顔を赤らめつつ言う。

 

 恥じらいの顔赤らめ上目遣い。美女がやったらそれはもう戦略兵器クラスの武器だといえよう。

 

「………俺が言うとなんか角が立つような気がしたので目を反らしてました、スミマセン」

 

 嘘であるが、ゲシュペンストのアイカメラは視線など動かさずとも広角で見えるのだ。故に頭部など動かしては居ない。つまり向いて無いので誤魔化せる……ハズ、と玄一郎は高をくくりつつ弁明する。

 

(それよりナニこの可愛い人。ぬぅ、俺に扶桑姉妹がおらんかったらヤバかった!つーか文学少女の顔赤らめうるうるヤベェ!)

 

 いや、付き合うどころか告白も何もしとらんのに何を考えているのだコイツ、と思われるかも知れないがそんだけ黒田玄一郎は扶桑姉妹が強烈に好きなわけであり、扶桑姉妹を助けるためなら日本海軍を敵に回しても良いという決断の元、潰しに潰した基地や鎮守府は一つや二つではすまない。

 

 だが、今の大淀のその仕草はそれぐらいヤバかったのである。

 

 大淀はPCパッドで口を隠すようにすると、なにかぷち、ぷち、と聞こえないくらいの小声で「すみません、みっともない所をお見せしました……」などと謝りつつ下を向いてしまった。

 

「いや、その……俺もごめん、しかし良い尻……いや、うん、ごめん」

 

 玄一郎も後ろめたさで声のボリュームは下がり気味だ。

 

 その二人を見る鳳翔の目は笑っているのに無表情な感じで目は鋭く何かを頭で分析しているかのようだったが、しかし二人ともそれには全く気づきはしていない。いや、むしろ奇妙なものを見たという感じですらもあった。

 

(……あの軍視局の淀み鴉が、蓮すら咲かない澱んだ沼の主がどういう事かしら。まるで男を知らない『おぼこ』のように振る舞っているなんて。あざとく、わざと見せていたのかと思ていた、いや、そうなのだけれど……。一体何が起こっているというの?この未確認敵性物体、いえ、ゲシュペンストが彼女を変えたとでも言うのかしら?)

 

 などと酷い事を考えていたが、鳳翔がそのように考えるほどに大淀の今まで行って来た事は酷すぎたのである。

 

 それは大淀の女衒鎮守府時代の事ではない。彼女が軍視局のトップとして君臨してからの事である。

 

 大淀は私怨のためだけに軍視局を作り上げ私怨を晴らすために多くの人間、艦娘を制裁してきた。その数はもはや百や二百を越えるだろう。

 

 だが、誰もそれを止める者は居なかった。

 

 大淀の恐ろしいところは、誰も文句の言えぬ正当な法の元で復讐対象を裁き、そこまでは良いのだが、その対象と関わった者達をもデストロイしていた点にある。

 

 彼女の復讐対象はその全てが日本という国家において犯罪を行っていた者達である。

 大淀はたとえ権力者であろうとも逃れられぬねつ造などではない膨大なその犯罪証拠を調べ上げてつきつけ、そして自らの手で必ず始末してきた。

 

 彼女のそれは法により執行される。

 

 それは無論、民主主義国家としての憲法・法律に基づく判決によるものであるが、過去にテロによる日本簒奪が左派政権によって行われ『独裁政権』の台頭を許してしまった反省からテロやそれに類する犯罪に対して問答無用で『死刑を行使』出来るようになっていた。

 要するにテロに関わった者達は問答無用でその場で始末されるというわけである。

 

 あまりに酷すぎると思われるかも知れないが、しかしかつての『独裁政権』が日本や国民に行ってきた圧制はそれほどまでに酷すぎ、日本を滅亡寸前まで追い込んだ事を考えれば過剰ともいえる刑罰が制定されても仕方は無いといえるだろうし、またかつての独裁政権に関与していた者の死刑に反対する国民はほとんどおらず、むしろ新聞やラジオで報道されるたびに喝采されている。

 

 その法によって大淀は長倉平八郎の殺害に関与した者の親類縁者友人家族、老若男女関係無く、根絶やしに『死刑を行使』、つまり殺害してきたわけである。

 

 殺しに殺したり数百人。人間・艦娘関係無く大淀は死刑を言い渡し、そして自らの手で始末してきたのだ。

  

 復讐鬼、澱み鴉、血に飢えた悪魔、血の池地獄の毒蓮、様々な名で今もなお恐れられた女、それが軍視局局長・大淀の正体だった。

 

 鳳翔が知る大淀は間違いなくそういう存在だったはずである。

 

 その目は暗く濁り、人の目、いや正常な艦娘の目をしていなかった。怨念を抱いて海に沈んだ深海棲艦よりも深く闇に堕ちた黒を宿していた。

 怨念をその身にまとい、その様はもはや艦娘とは言えない黒いオーラすら放ち、これはいつか狂った果てに日本に仇なす存在になるのではないか、と鳳翔と護国同盟のメンバー達は大淀の動向も監視していたが……。

 

(このゲシュペンストの前で乙女の目をしてうるうるモジモジしているこの女はなんなのだ?というか本当にこの女、軍視局の大淀ではなく影武者なんじゃない?)

 

 もはや別人である。

 

(まるで、あのロボットに恋でもしているような……)

 

 と、考えてハタッ!と鳳翔は愕然とする。

 

(ええええええええ~っ?!いや、あの毒沼の吸血鴉が?!腐れメガネの毒淀がぁ?!うそっ?!そんな?!……)

 

 鳳翔は顔を青ざめさせ、だらだらだら冷や汗を滝のように流し始めた。しかし酷い言い様だなあんた。

 

(いや、でもそんな、長倉平八郎一筋な未亡人気取ってた奴が今更?!でもなんか隠そうとしてもどんよりヨドヨドと漏れ出てた澱みオーラが消えてるしっ!つか染み付いた怨念がみんな綺麗サッパリしてるしっ!というか破壊の権化なロボット相手に何やってんのあの女っ?!狂ったの?とうとう狂った頭がおかしくなったの?!)

 

 鳳翔は叫び声を上げてこの場から逃げ出したかった。誰かこの状況なんとかして!!と助けを呼びに行きたかった。

 

 だが、無情にもここに誰かが来るまで時間はかかるのである。何故ならこの25話はここで終わり、次の26話が始まるまで何日か待たねばならないだろうからである。

 

 哀れなり鳳翔。恨むなら物語を放置していた書いてる人に言うのだな。奴は聞かないけどな。

 

 

⬅TobeContinued(?)

 

 

 

 




 果たして鳳翔さんが酷いのか、大淀さんが仕出かしまくった事が酷いのか。鳳翔さんは大淀の暗黒面ばかり見てきてますから、大淀さんに対しての印象がそうなっているんですが、さてはて。

 怨念を吸収する、とかズフィルードクリスタルならやりかねん気がちょっとしてきた。

 大淀さんのお尻は多分むっちり。スレンダーだけどお尻は大きいっぽい気がします。

 というか正規ヒロインェ……。

 


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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(26)

 鳳翔さん、とっとと逃げてた。やはりオカンはちが(ry

 ゲシュペンスト、霊力バッテリーにされる。

 土方、大淀に目をつけられる。

 金剛さんもリフレッシュ。

 データしか出ないアニメ主人公(笑)とデータしか出ないメインヒロイン。

 


 

 明石(土)と比叡の姉艦である金剛がストレッチャー(医療の現場で使用される患者を搬送する為の移送ベッド)に乗せた比叡を運んで来た。

 

 明石(土)が戻って来るまで、時間にして約20分。

 しかし戻って来た時には鳳翔の姿はあぎょう丸の甲板にはおらず、霊波受信板の前のゲシュペンストと大淀、そして鳳翔の代わり……なのか、土方歳子中佐が居た。

 

「あれ?ホーショーはぁ?」

 

 金剛が首を傾げて土方にそう聞いた。鳳翔が来ていると明石(土)から聞いて話がしたかったというが、その鳳翔は体調不良でゲシュペンストの拠点へと戻って休んでいる。

 

「Oh、熱中症デスかネー?」

 

「まぁ、南国だからね、はははははは……」

 

 土方がタハハーと笑うが、その額にも冷や汗がタラーリ。

 

(そりゃあ、あの『大淀』があんなキラキラ澄んだ目で乙女な感じになってたら鳳翔さんでなくてもああなるわ)

 

 と思うも大淀本人のいる場所でそんな事は言えない。たとえ小声であってもこの大淀はとんでもなく地獄耳であり、声が届かないところでも相手の唇の動きだけで会話を理解するような艦娘なのだ。

 

 とはいえ、はて、と土方は金剛を見て違和感を感じた。この金剛は連日のように比叡に霊力の供給しており、かなり体力を消耗している。

 そのため顔色も身体の調子もそんなに良くなかったはずなのだが、今、かなり顔の血色も良いように見えるし動きもきびきびしている。

 

「あれ?金剛、なんか顔色良くなってない?」

 

「Oh、ワカリますカー?今日はとても身体が軽いネー。やはり比叡の治療が出来るって聞いたからデスかネー、とても嬉しいヨー」

 

 満面の笑みでそういう金剛。

 

 金剛は比叡への霊力供給を始めてから自身の霊力不足によってかなり弱っていた。それもまともに戦闘すらも出来ないほどに。

 だが彼女は明るい性格とは裏腹に意地っぱりかつ誰よりも優しいが故に人に心配をかける事を嫌う。いつも誰かの心配をしているというのに。

 故に彼女は弱っていてもベッドで休むということをしない。

 規則正しく生活し、朝に起きて日中はお気に入りのいつものテーブルに座りさながらお淑やかな英国の老淑女のように紅茶を飲みつつ、比叡と共に過ごしている。

 

「今まで散々戦ってきたのダカラ、ここでは楽隠居させてもらいマース!」

 

 と笑いながら嘯く。

 

 そんな金剛の姿を土方は見てきたが、その顔色を誤魔化すためのメイクの朱をいつも悲しく思っていた。

 

 土方は『艦娘祭祀派』の中でも霊能力に秀でた提督であり、どれだけ外見を取り繕っても金剛のその弱った霊力が見えるのだ。誤魔化す事は出来ないというのに。

 

 だが、今日の金剛のその姿はどうだろうか。昔に出会った頃の『元気過ぎる金剛』のようではないか。

 

「……金剛の霊力が、戻ってる?!」

 

 朝に見た金剛の霊力の色は、弱々しい赤銅のような色だったのに、今の金剛の霊力の色は最盛期の黄金色になっていた。というかここまで霊力がほとばしっているのは出会った頃でもなかった。というか今気づいたが金剛はメイクをしていない。

 

「明石、これどういう事?!」

 

 驚き、土方は機材の操作パネルを弄っている明石(土)に叫ぶように尋ねたが、しかし明石(土)は何かの数値が書かれた紙を挟んだファイルを無言でポイっと土方に投げて来た。

 

「今、微妙な所調整してんだから声かけないで。それ見といて!それが答え、以上!」

 

 明石(土)の投げたファイルはゲシュペンストの霊力値などが書かれたカルテだった。明石(土)の分析が殴り書きであちこちに散乱したように書かれているが、まぁ、土方もそれは読み慣れている。

 

 それをまとめればこうなる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【アンノウン一号(正式名称・ゲシュペンストtypeS)】

 

 艦種   : 該当する艦種無し。ロボット?

 

 霊力値  : 9999(測定器のカウンター桁足らず)

 

 霊力放射圏: 100m(有効圏内:約50m)←霊場クラス

 

 霊力属性 : 陽極(男?) ←不明

 

 提督適性値: 有り・76(Lv.70クラス)

 

 和荒魂平衡: 和:90 荒:29 (善)

 

  

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 土方は目をむいた。

 

 (なんだこの数値は?!)

 

 そりゃあそうなるだろう。土方が驚いている理由を一般的な艦娘のカルテを幾つか出して説明すると、

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【吹雪(フブキチ)】

 

 艦種   : 特型(I)駆逐艦一番艦(吹雪型)

 

 霊力値  : 156

 

 霊力放射圏: 5m(有効圏内:約1m)

 

 霊力属性 : 陰極・水

 

 和荒魂平衡: 和:40 荒:0 (善)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【扶桑】

 

 艦種   : 扶桑型戦艦一番艦

 

 霊力値  : 389

 

 霊力放射圏: 20m(有効圏内:約8m)

 

 霊力属性 : 陰極・氷

 

 和荒魂平衡: 和:72 荒:36 (善)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 普通の艦娘である場合、霊力値の平均は

 

 駆逐艦  :125~150程度

 

 軽巡洋艦 :150~200程度

 

 重巡洋艦 :150~250程度

 

 空母(軽空母含む):200~360程度

 

 戦艦   :300~400程度

 

 

 なお、一般的な人間の霊力値の平均は、5~10程度であり、これより霊力値が高い人間は提督の素質があるとされている。

 

 例として近藤勲大佐のカルテを出してみると、

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【近藤勲】階級・大佐

 

 所属   : 大日本帝国海軍・舞鶴鎮守府(司令)

 

 霊力値  : 29

 

 霊力放射圏: 1m(有効圏内:約0.4m)

 

 霊力属性 : 陽極・人

 

 提督適性値: 有り・42(Lv.40クラス)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 となる。

 

 艦娘と比べればさすがに霊力などの数値はかなり低く見えるかもしれかいが、近藤大佐の霊力値は常人の二倍である。また霊力放射圏も実際には常人離れしている程に高い。

 

 何故、土方のカルテではなく近藤大佐のカルテを出したかと言えば、彼が現在の日本海軍の提督の中で最も艦娘に好かれている人物であるということと、土方の場合、霊力値や霊力放射圏が近藤よりも常人離れしており、こんがらがってしまうためだ。

 

 さて、近藤大佐がやたらと艦娘に好かれる理由は無論彼の性格が好ましいからということが大きいのだが、やたらと艦娘達に抱きつかれたりするのは、陽極の霊力を強く持つからであり、そしてその放射圏は約0.4m、つまり40センチという狭い範囲だからである。

 

 艦娘達は相性の良い提督の霊力を補給したくなるという習性があり、それはもはや本能のようなものと言っても良いだろう。

 

 艦娘が提督の霊力を得た場合、わかりやすい現象としては『キラ付け』状態というものがみられる。

 

 この『キラ付け』は提督との接触以外でも『間宮・伊良湖券』や戦闘でのMVP獲得などでも起こるが、名前の通りに艦娘が絶好調だったり、非常に嬉しいことがあった際に、その霊力の出力が増したために光り輝いている現象である。

 

 その状態の艦娘は戦力が増しており、またその霊力値は通常時より30%から最大で100%増しまで上昇するという。

 

 この事から一部の研究者は冗談めかして提督の事を『テイトクニウム』とか『霊力ブースター』とか、艦娘に力を出させるための物質や補助装置のように呼ぶ者もいる。

 

 さて、この辺でもうわかった方は多いと思われるが、ゲシュペンストのカルテにある数字や記載事項にはおかしな点がかなり見られる。

 

 霊力値が四桁の測定器でカンストしているのもそうだが、霊力放射圏の範囲がとんでもなく大きい。

 

 明石(土)の書いたと思われる『←霊場クラス』は、霊験あらたかな山や寺社などの霊力放射圏がだいたい50~120m程であることからそれにたとえているわけだが、意思を持った存在でそんなバケモノじみた霊力と霊力放射圏を持った存在は今まで確認されたことなど無い。

 

 また、そんな存在が非常に高いレベルの『提督適性値』を持っているというのもとんでも無い話なのである。

 

 先ほども記したが、艦娘達は相性の良い提督との接触によって霊力をブーストする事があるわけだが、では、ゲシュペンストのような霊力の塊が艦娘達に与える影響はどのようなものになるのか。

 

 答えは、比叡と金剛の霊力の大回復である。いや、大淀もそうであるし、ゲシュペンストの作った拠点で保護された多くの艦娘達もまた彼の霊力によってかなりの霊力回復をしたのであろう。

 

 要するに、回復している艦娘達は、ゲシュペンストとよほど相性が好意をもっている……のだろう。

 

「……破壊神が、艦娘の救世主?!はは、ははははは、なんてことなの」

 

 土方は思わずそう呟いてしまった。そう、非常に拙い事に、地獄耳の大淀の近くで、よりにもよってゲシュペンストの事を『救世主』などと言ってしまったのである。

 

 狂信者の喜ぶ事を言ったせいで、土方はとんでもない事に巻き込まれる事となるわけであるが、まぁ、しかたないね?

 

「ところで、俺はいつまでこうしていればいいんだ?」

 

「比叡の手術に必要な霊力源として、手術が終わるまでその霊力受信板のところにいてください。というか動かないように」

 

「ええ……」

 

 ゲシュペンストを巡る様々な思惑。しかしそんな事もしらず、本人は呑気だったとさ。

 

 とっぴんぱらりのぷう。

 

 

 

 




 なお、霊力云々は完全に創作ですので目くじらタテナイデネ?

 ゲシュペンストの霊力はほとんどズフィルードクリスタルのせい。

 おっぱい成分……そろそろ欲しいなぁ。

 なお、なんか足りないんで書き足したりいろいろする予定でふ。



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【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ(27)

 大淀による『ゲシュペンスト鹵獲計画』、いや『ゲシュペンストご主人様計画』。

 それを阻止するチームが発足する。

 というか暗躍する人達ばかりだよねぇ。


 

 鳳翔はゲシュペンストの拠点に戻って来たが、しかしふらりと倒れてしまい、それを見つけた高雄によって艦娘達が普段寝泊まりしている広いベッドルームに運ばれ、寝かされていた。

 

 フィリピン第二基地の柳生提督の部下である明石(柳)によれば『過度の精神的な疲労』だという。

 この島に到着した時には疲労など見えなかった鳳翔に何があったのかと高雄(管)は心配したが、話を聞いてなんというか、呆れていた。

 

「大淀が浄化されてて気持ち悪い件について」

 

「なんて酷い理由でぶっ倒れてんですか」

 

 とは言っても菅原提督が海軍を去った後、高雄(管)は当時の大本営の腐った上層部から左遷されて他の鎮守府に移動させられたため、直接大淀と会うことも無くなってしまい、噂話程度にしかその後の大淀の変化を知らなかった。

 

 おそらく『護国同盟』の幹部である鳳翔は長倉平八郎を喪った後の大淀といろいろあったのだろうと推測するが、この島で再会した時には『昔の大淀』とあんまり変わらない感じだったのでむしろ高雄(管)は噂で聞いた『変貌した大淀』の話はおそらくスネに傷持つ連中が流したネガティヴキャンペーンのような物だったのだと思い安心していたし、何よりこの拠点の大浴場で一緒になった時もやはり大淀はほとんど変わっていなかったようにみえた。

 

 つまり、高雄(管)は過去の大淀と浄化(?)された後の大淀しか見たことはなく長倉平八郎の死後の強い怨みによって変貌した『大澱』状態の彼女を知らない。

 

 とはいえこの鳳翔が何も理由も無くこのように精神的疲労を起こすはずもない。

 この鳳翔とは造田家で一緒に暮らした姉妹のような間柄なのだ。

 よほど気持ち悪く感じる何かが大淀に感じたのだろう、そう高雄(管)は思い、ふとこの拠点であった大淀に対する違和感を思い出した。

 

 というか、確かにあの大淀のゲシュペンストを見る目はなんというか恋というにはこう、気持ち悪い何かを高雄(管)も感じていた。

 いや、長倉平八郎が生きていた頃になんというか鳳翔の店で菅原提督と集まっていた時にもそういう目をしていたような気がする。

 座に興が乗り、飲み過ぎた長倉平八郎が菅原提督の前でいつも演説じみた事を言っていた時、大淀はそれをうっとりとした目で見つめていた事を思い出し、

 

「そうか。あの目は……」

 

 となにかうんざりしたように天井を見た。

 

 そう、長倉平八郎は酔っ払うたびにいつも同じことを言っていた。そう、大抵最後はいつも同じだ。

 

『全て救うぞ菅原さん!みんな隔たりなく、正しく等しく、人間も艦娘も一切合切、誰も彼もが一緒にいて笑える世の中を作るんじゃ!!』

 

 酒が入っていたとはいえ、それは彼の大きな志だ。

 

 独裁政権下にあったあの頃の日本。全てが灰色の中にあって、あの二人が語らいあい戦略を練り、そして一つ一つ塗り替えていった。

 

 大淀は、長倉の言ったその言葉を実現しようとはたらいていた。その死後もおそらくはそうだったのだろう。

 

 ある日、ひょんなことで大淀が自分から言っていた。それがどんな時でどのようなタイミングだったかは高雄(管)は覚えていない。

 確か、宴席がお開きになり、帰る前にトイレに二人で連れ立って行った時だったと思う。艦娘は酒に強いとはいえ、高雄(管)も大淀も結構な量を飲んでいたので、いささか酔っていた。

 

 だが、その時の大淀の目と言葉が高雄(管)にはなんというか、狂信者のように見えて気味が悪かったのは覚えていた。

 

 とはいえ、酔った女の戯言と思うことにしていたのだ。だがその時の大淀の目に何か違和感をずっと感じていた。大淀の視線にその時の狂信的な何かに似たものを、高雄(管)は確かに再び見てしまっていた。

 

 そう、それはゲシュペンストが龍田と那智の助命嘆願をしているときに、たった一瞬だが確かに見た。

 

 もしも鳳翔の言うとおり、大淀が長倉平八郎の復讐に狂っていたとすれば、長倉平八郎暗殺の実行犯であるフィリピン第一基地の提督を殺した龍田、そしておそらくはその現場にいたはずの那智の助命嘆願を聞き入れるだろうか。

 

 確かに、ゲシュペンストという存在はこの世界における最強にして理不尽な戦闘力と破壊力をもち、大淀が許さなかったとしても無理矢理に龍田を那智を救えるだろう。

 

 それに、あの大淀がゲシュペンストからこの世界では並ぶものが無いほどのコンピューターだとはいえ、そんなものをワイロに渡されたとして、それを受け入れるような奴だったろうか。

 

 高雄(管)は何故か背筋にゾッと寒気を感じた。顔から血の気が引いていく。

 

「……鳳翔さん、やばいかもしれないわ」

 

 高雄(管)がかつて大淀から聞かされた言葉は、

 

『我が主にならば世界を捧げてもいい。主の理想の為なら……。私は全ての能力を使って、我が主の敵全てを滅ぼします』

 

 だった。

 

 大淀は、交渉事でも何でも譲歩するときも全て彼女の主人である長倉平八郎の言葉があって初めて手心を加えていた。長倉平八郎から以外、何者の贈り物も突っ返す。全ての中心は長倉平八郎。忠犬の如く主である長倉平八郎が全てで、彼女の制御は長倉平八郎以外に出来ない。

 

 だが、長倉平八郎は死んだ。

 

 ではあのゲシュペンストを見る目はなんだ?あの狂信的な忠犬は、何故ゲシュペンストの頼みを聞き入れ、そして彼からのプレゼントを受け取ったのか。

 

「私は始め、ゲシュペンストを日本の戦力として引き込むつもりだと思っていた。それはそれで危険だと思っていたけれど、でも大淀の目的、いえアイツの意思はそうじゃない。けしてそうじゃないわ!」

 

 そう、高雄(管)は気づいてしまった。

 

「大淀は、ゲシュペンストを新たな自分の主として仕える気だわ!そして彼を日本の指導者に据えるつもりなのよ!!」

 

 アイツは主を乗り換えるつもりだ!!

 

 鳳翔は絶句した。いや、大淀が気持ち悪いと思ってたけど、マジかよおい。

 

 だが鳳翔は高雄(管)のその直感と様々な海軍内部での陰謀と戦ってきた経験から来るその分析を否定出来なかった。

 

 この高雄(管)が出した答えはどれだけ突飛な事でも奇妙で有り得ないと思うような事でも、最後には正しかったのだから。

 

「……あの破壊神のようなロボット、いえ、性格はとても平凡な青年のように思えたけど、アレが大淀の手に落ちた場合何が起こり得るか、どんな問題があるかをまず考えて、どうすれば大淀の手が届かない所へ逃がすように手を打ちましょう。幸い、これから来る増援の大本営第一・第二艦隊の面子は『護国同盟』のメンバーよ。何をするにしても彼女達は頼りになるわ」

 

 鳳翔は額の手拭いを右手で取って、ベッドから起き上がった。

 

 高雄(管)は力強く頷いた。

 

 こうして高雄(管)と鳳翔による大淀への妨害組織がこの拠点内に出来たわけであるが、これによって大淀の『第一次ゲシュペンスト鹵獲計画』は失敗する事となる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 さて、高雄(管)と鳳翔の様子を遠く離れた日本、その大本営・元帥私室にて笑いながら見ていた者がいた。

 

『予定どおり』

 

 ニヤリと笑いながら、槍の石突きで二人の襲撃者を打ち据えて、そしてまた構える。

 

 襲撃者は二人。

 

 一人は折れた刀を持ち、もう一人はもはやクナイの一本も無くなり、それぞれが片膝を突いて叢雲を睨んでいた。

 

「てめぇその槍はなんなんだ!!お前の槍じゃねぇな!!」

 

 天龍が血を吐きながら吠えるように言った。

 

 天龍の持つ刀を折ったのは、叢雲の持つ見慣れない槍だ。それは叢雲が持っているアンテナ状のものでは無く、まるで大型のサバイバルナイフを無理矢理槍の柄に差し込んだような武骨なものだった。

 

「あら、わかる?小島基地近海で拾ったデカいナイフに柄を付けてみたのだけれど、まぁかなり使えるわねぇ」

 

 涼しい顔で叢雲はしれっと答える。つまりは叢雲が今使っている槍の正体は、かつてゲシュペンストが小島基地近海でマヨイの群れと戦った際に使い捨てした『コールドナイフ』に槍の長柄を付けたものだった。

 

「クソ、アイツの武器かよっ!」

 

「うぁー、チートじゃん!」

 

 天龍も川内もルソンで造田博士を救出した際にゲシュペンストに会っているし会話も交わしている。それにゲシュペンストがその時使っていたスラッシュリッパーやマゴロクブレードの威力も見ていた。

 

 とはいえ、この天龍も川内も接近戦においては艦娘の中で五本の指に入るほどの実力者である。

 

 というよりも本来この二人は叢雲以上に強い。

 

 ただの武器の性能が良いぐらいで本来、叢雲が敵う相手ではない。だがまるで叢雲は息も切らせずに余裕すら見せて二人を圧倒している。

 

 まぁ、そのからくりは未来視で自分が勝てる勝てる未来を探り当ててその未来での自分の動きを寸分違わず再現した故に勝てたのである。

 

 とはいっても叢雲が勝つためには事前に多くの条件を満たさねばならず、この勝利を得るために叢雲は物凄い労力を割き、またかなりの努力を強いられたわけなのだが。

 

 なにしろ必要条件の一つであるゲシュペンストのコールドナイフの槍は確かに強い武器であり、天龍の刀をぶち折れるほどの力を秘めている。

 だが、三メートルのロボットが使う大型ナイフを槍にしているのである。その大きく重い槍を叢雲が自在に使うには、かなりの鍛錬を要したわけである。

 また、未来視で見たとおりの動きもそんな代物を使って行わねばならなかったわけであり、そりゃあもう大変なんてもんで済まされないほどの努力だったりするのだ。

 

 なんせこの槍の重さといったら、今も突きつけている槍をもつ腕がプルプル震えていることからもわかるだろう。

 

 その様子を好奇と見たか、川内が気づかれぬほど自然に懐から煙玉をだそうとした。

 が、それも叢雲の知っている展開である。

 

「川内、煙玉はここではNGだから」

 

 叢雲は腰に引っ掛けてあるリモコンのボタンを素早くポチッと押した。

 

 すると川内と天龍の頭上からドバシャーーーッ!!と消火用のスプリンクラーの水が大量に降り注ぐ。

 

「ウゲっ!?」

 

「うわっ?!」

 

 まぁ、これで戦闘は終わりである。叢雲は重い槍をドスっと床に突き刺すと、腕を組んで二人に言った。

 

「まったく、頭冷やしなさいな。というか何を勘違いしてんだか。確かに龍田と那智を助けたかったら来いって言ったけど、私が大切な家族に何かするわけないでしょうに」

 

 はぁーっ、と叢雲は溜め息を吐いて言う。

 

「ああん!?この手紙を見て勘違いしねぇ奴がいるかよ!!」

 

 天龍は上着のポケットから手紙を出して床にたたきつけた。それは床に溜まったスプリンクラーの水でグチャグチャに濡れ、もう文字すら読めなくなっただろうが、天龍の怒りから、よほど挑発的でとんでもない事が書かれていたのだろう。

 

 だが、その紙面が水を吸ったことで、何かじわーっと大きな赤い文字が浮かんだ。

 

『嘘だよーん』

 

 未来視が使える叢雲故に出来る仕掛けだった。天龍が水で濡れた床に手紙を叩きつける事を見透かしてのいたずら……にしては手が込んだ嫌がらせ……だった。

 

 それを見た天龍は「てめぇって奴はぁぁぁっ!!」と拳を振りかぶって叢雲に詰め寄ろうとしたが、叢雲は素早く槍を床から抜き天龍の鼻先に突きつけ、制止した。

 

「くっ、てめぇ……!」

 

 天龍はギリッと歯を軋ませ、鋭い野獣の目つきで叢雲をにらんだ。

 

 フフ怖(笑)などと余所では言われる天龍型一番艦天龍だが、この天龍のそれは血塗られた本物の野獣である。叢雲はその片目の眼孔の恐ろしさに耐えた。

 

 飄々と受け流すかのように、余裕綽々の態度を貫かねばならない。この場の空気の流れの全てを自分が支配しておらねば後々の未来に禍根を残すようになってしまうからだ。

 

 天龍と川内に侮られるわけにはいかない。侮られれば彼女達はそれによる気の緩みから、戦闘の際に大きな失敗をしてしまう事になる。それは彼女達の死のみならず世界が滅びる未来へと繋がってしまうのだ。

 

 叢雲はニヤリと笑った。不敵な笑みを。

 

「まぁ、聞きなさいな。確かに煽るような事を書いたのは悪かったわ。でも龍田達を助けるのにあなた達の力が必要なの。協力して」

 

 叢雲は槍を引っ込めてまた床に突き刺した。

 

「今、フィリピンでは大規模な作戦が進行中なんだけど、それに龍田と那智が巻き込まれてるのよ」

 

「……話を聞かせてもらおうか。つか、またろくでもない情報でもつかんだのか?」

 

 天龍の目が龍田の名を聞いて若干やわらいだ。

 

 よし、食いついたと叢雲は内心安堵するも表情は変えず、

 

「そんなところね。で、未確認適性物体の通称『アンノウン一号』もフィリピン辺りで活動してんだけど、どうもその『アンノウン一号』を大淀が鹵獲したがってるって話なのよね。あなた達、あのロボットと仲良し……なのよね?」

 

「仲良くねぇよ。借りはあるけどよ。つかアイツが龍田達の側にいるなら安全なんじゃねぇか?」

 

 天龍は怪訝そうにフウムと唸った。

 

「問題は『澱鴉』の艦隊もそこにいるってことよ。アイツは龍田達を見れば問答無用に攻撃を仕掛けてくるはずよ……」

 

 『澱鴉』の名を聞いて天龍と川内から殺気が沸き立つ。この二人も軍視局の大淀には何度もこっぴどい目にあわされて来たのだ。

 

「……そういう事か。大淀の要請には海軍の艦隊は拒否出来ねぇ。いくらゲス野郎でも守り切れねぇ。奴は艦娘に攻撃出来るような奴じゃねぇしなぁ」

 

「確かにねぇ。つーかゲス公があの腐れマン○メガネをぶち殺してくれれば全部解決なんだけど、アイツには無理だろなぁ……」

 

 叢雲は二人の様子に、『あっ、これ進○ゼミで見た奴だ!』みたいな顔をした。いや、進○ゼミなんぞこの世界には無いが。

 

「で、高速飛行挺をチャーターしてるから、私と一緒に台湾とフィリピンのちょうど中間に位置する無人島まで行って欲しいのよ。二人を助けるためにあちらに鳳翔さんに行ってもらってるのよ。鳳翔さんならうまく時間を稼いでくれるはず」

 

 叢雲は元帥の高級そうな黒檀のデスクの裏からバケツを2つ取り出してニッコリ笑って、

 

「大淀の手から家族を守るのよ!私達造田家の手で!」

 

 と、叢雲は窓の外に向けてビシッ!と指をさしていう。

 

 天龍と川内は顔を見合わせると、なんか胡散臭い物を見たと、うんざりした表情を浮かべた。

 




 叢雲が自ら動く時、それはろくでもない事が起こる時である……と、いうわけでもなく。

 本来ならば大淀がやらかす『ゲシュペンスト鹵獲計画』は成功するはずだったわけですが、それでは多くの艦娘の未来はろくでもない事になってしまうわけで。

 とはいえ艦娘の救済計画としては悪くないプランでもあるので最良解の未来のために叢雲が計画自体を簒奪することにした、という。

 まぁ、救済される艦娘の中に大淀も入るのでお前によーしみんなによーし、なのですけどね。

 というか、主人公もメインヒロインも出て来ないというσ(^_^;
 

 


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