艦これ×鋼鉄の咆哮~力の重さ、強さの意味~ (東部雲)
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旧版
プロローグ~戦いの終わり、目覚める意識~


ここまで長かったですが、ようやく更新再開です。お待たせしました。

今日は取り敢えずこの回ともうひとつ投稿します。それまで投稿していた話は一部を除いて一旦削除しましたのでご了承ください。


「超兵器機関内部で大規模な爆発を確認、超兵器機関が自壊を起こしているようです!」

 

 艦の内部に存在する薄暗いCICに若い女性士官の声が響き渡る。

 

 

「全速で離脱、爆発に巻き込まれるな!」

 

 報告を聞いた、こちらも若い青年将校が声を張り上げて叫んだ。

 

 

「衝撃波、来ます──────!!」

 

 続いてCICを、艦を強い衝撃が激しく揺らし、余韻の振動を残した後やがて収まり、CICには静寂が戻った。

 

 

「究極超兵器、爆散しました……」

 

 機器のモニターを確認した女性士官が告げる。

 

 

「忌まわしき太古の遺産が、また眠りについたか。2度と目覚めることのない、長い眠りにな……」

 

 ふぅ、と溜め息を一つついた青年将校は、緊張した体の力を抜くように自分の座るシートの背もたれに体重を預けた。

 

 

「ナギ少尉、被害状況の報告を」

 

「一番主砲は三番砲身を残して損壊。副砲やCIWSは81%を損失。

ゲイボルグミサイルハッチとエレクトロンレーザー発振器は全壊しており、我が艦の攻撃力はほぼゼロ。先程の衝撃波で機関が損傷、原子炉は無事ですが復旧は絶望的です……」

 

 ナギ少尉と呼ばれた女性は報告をする間も疲労の色が濃く、憔悴した様子だった。彼女の報告に彼────ライナルト・シュルツ大佐は険しい表情で唸った。

 

「控えめにいっても大破確実だな……戦闘には勝利したが、その為に払った犠牲は大きかった」

 

 思えば、ここまで来るのは短くも長く感じる旅路の末だった。

 

 シュルツは一年前までは近衛艦隊に所属する巡洋艦の艦長で、まさか世界各地を転戦して活躍する等思っても見なかった。

 

 一年前の国防軍による軍事クーデターが全ての始まりだった。それを逃れて日本の横須賀に寄港するも勾留されて、それから暫く経って砲声と警報が基地で響き渡った頃に、シュルツ達近衛艦隊が拘留された事に抗議しに出ていったきりだった筑波大尉と天城大佐により解放された。

 

 その後に押収したのが今シュルツ達が乗る巨艦、諏訪だった。

 

 艦種は船体は航空戦艦のそれだが、護衛艦の名が与えられた特異な艦。

 

 艦名は諏訪型重武装装甲航空護衛艦一番艦諏訪。

 

 シュルツ達近衛艦隊が勾留された横須賀で停泊しているところを奪取し、以降はシュルツ達の乗艦となった。

 

 基本的には航空戦艦であるため主砲は2基だけだが、替わりにミサイルを多数装備して当時は新型のレーダーシステムや、強力な対潜攻撃や水上艦への雷撃が限定的に可能な万能艦だ。

 

 更に搭載する艦載機はそれまでのレシプロ機より強力なもので、機種変更するまで殆ど損失しなかったほどの高性能機だった。

 

 同時に強力な演算機を装備しており、それと連動して機能する高度な減揺装置でこれだけの重武装でもトップヘビーにならないなど、当時で言えば全くの未知の存在と言えるほどに、護衛艦諏訪はそれまでの兵器の常識から外れた艦だった。

 

 人員の不足する近衛艦隊は戦力増強を急ぐ必要があり、諏訪のデータベースを調べた。

 

 その結果諏訪には同二番艦に多賀が存在し、更に随伴艦として建造予定だった改諏訪型と呼ばれる発展的の姉妹艦が設計図データとして保存されていた。

 

 ハワイで事態に備えていた近衛艦隊は実験艦の建造に着手した。それは何故か、諏訪の装備はアメリカ海軍ですら保有していないような、オーパーツと言っても良かったからだ。

 

 そのため、信頼性を得るために実験艦から建造して試験的に運用することが提案された。そしてハワイで防衛に失敗した我々が、アメリカ西海岸に移動した頃には兵装試験双胴巡洋艦三原が完成し、シュルツの乗艦諏訪の随伴艦として欧州に移動するまで共に行動した。

 

 その間軍艦の常識から大きく外れた巨大兵器『超兵器』と初めて戦闘を経験し、随伴艦三原と共にこれを撃破した。

 

 その後発動したゲイルヴィムル作戦の最中に、諏訪のデータベースに保存されていた改諏訪型の設計図データを元に建造された随伴艦の三隻が新たに加わり、第一遊撃戦隊を編成すると同時にこれまでの功績が考慮されてシュルツは大佐に昇格した。

 

 それからは地中海解放作戦、欧州解放作戦『メルセブルグ』を経て欧州戦線を戦い、太平洋に帰還を果たしてハワイ、日本を解放した。

 

 だが華々しい戦果だけではなかった。

 

 太平洋に帰還した後にアメリカ西海岸で超兵器空母に座乗していた天城大佐を、小笠原諸島沖では皮肉にも諏訪の姉妹艦多賀と戦い、その後海軍大学時代には教官で恩師だった筑波大尉を乗艦と共に沈めた。

 

 そして日本を解放後、祖国ウィルキアで緒戦を戦い、またも多くの同胞の血が流れた上でようやく首都シュヴァンブルグを奪還した。

 

 その矢先に最初にクーデターを起こし、侵略戦争を始めた首謀者フリードリヒ・ヴァイセンベルガーが超兵器潜水艦で逃亡した。

 

 それを追って最果ての地北極海で我々が見たものは、今までに戦い沈めてきた幾多の全ての超兵器の原型である究極超兵器『フィンブルヴィンテル』だった。

 

 フィンブルヴィンテルはヴァイセンベルガーの乗った超兵器潜水艦を文字通り消滅させたあと、大陸を目指して周囲の氷山を消滅させながら南下し始めた。

 

 究極超兵器はヴァイセンベルガーの制御を離れ、無差別に破壊を繰り返そうとしている、このままでは世界中があの超兵器潜水艦と同じ末路を辿りかねない。

 

 そんな結末を黙って待っているわけにはいかなかった。

 

 一年の間に敵味方で余りにも多くの犠牲を出した末、ようやく訪れようとする新たな時代を、世界が破滅させることで潰えさせることを。

 

 有史以来続いて来た人間の過ちの歴史も、そこで繰り広げられた苦しみや悲しみも、その中で育まれてきたささやかな幸福も、そのすべてを無に帰さない為に、過ちを償い、失ったものを取り戻す可能性を消してしまわないためにも。

 

 そしてシュルツ達第一遊撃戦隊は最後の決戦に臨んだ。

 

 だがその結果出た犠牲は、余りにも大きなものだった。

 

 

 軽諏訪型強襲駆逐艦影縫は付近の海域に展開する無人潜水艦を排除完了後、フィンブルヴィンテル攻撃に参加。防御重力場に幾らか負荷を与えるもその直後、諏訪に向かう雷球を直撃コースに割り込むことで被弾、轟沈した。

 

 兵装試験双胴巡洋艦三原は少しでもダメージを与えるため、直援の艦載機を伴って特殊弾頭『グングニル』誘導魚雷を中心に攻撃、この時の攻撃で防御重力場を臨界させたが弾薬庫に被弾して誘爆、轟沈した。

 

 改諏訪型装甲光学戦艦十勝はフィンブルヴィンテルに対し同航戦を仕掛け、中破相当の損傷を与えるも、十勝は大破相当の損傷を受け最後には敵超兵器のレールガンの砲弾が直撃して撃沈した。

 

 海域の外縁に展開していた改諏訪型装甲空母淡路と諏訪の航空隊は脱出用の重輸送ヘリを残して殆どが撃墜、大型のジェット機や攻撃ヘリで編成されているにも関わらず合計百数十名のパイロットが戦死した。

 

 そして諏訪もまた、大破相当の損傷を受けている。

 

 先程のフィンブルヴィンテルの爆発の衝撃波で機関は自力での復旧は絶望的で、生き残った淡路に曳航してもらわなければ移動もできない。

 

 

「それにこれだけの損傷、この後のウィルキアで修復するのもそうですが、残しておくのは難しいかもしれませんね」

 

 発言したのはシュルツと同じく若い青年士官で、名前はクラウス・ヴェルナー大尉。いつもなら明るい口調で周囲の空気を和ませることが多いが、今回はその口調は一段と暗く、その表情には無念の色が浮かんでいた。

 

 

「あぁ、これからのウィルキアは戦後処理に追われ、軍は再編するどころか規模を縮小するのは避けられないだろう。当然諏訪は修復されず、そのまま放置されるか、もしくは自沈処分することになるだろうな」

 

 無念なのはシュルツも同じだった。それにおそらく、世界は諏訪がウィルキアに存在し続けることを許さないだろう。

 

 諏訪は開戦当初から第一遊撃戦隊を率いてウィルキア解放までに数え切れない艦艇と、幾多の超兵器を相手に常に勝利し続けた。

 

 その戦果は一隻の軍艦として本来有り得ないものであり、同時に世界の主要国の中には、それが脅威的に映る国もあるかもしれない。そうなれば国外から有形無形の圧力がかかり、ウィルキアは国際的な立場を失いかねない。

 

 今までは無我夢中だったためあまり考えなかったが、ヴィルヘルスハーフェンでの戦闘が終了した頃にはその可能性は考えていた。

 

 

「艦長」

 

 ヴェルナーはシュルツを真っ直ぐ見据えて続けた。

 

 

「艦長がここで諏訪をどうしたいか、その決断は艦長次第です。艦長がどのような決断をしても、俺はそれに従います」

 

 ヴェルナーの言葉にCICにいる全員が注目して、その全員が既に覚悟が決まったような表情を浮かべていた。

 

 

「……総員退艦、これより諏訪を自沈する。全クルーは最低限の私物だけ持ち、淡路への移乗の準備を。ブラウン博士は自沈の為に準備をお願いします。……せめて、諏訪をこの海に沈めてやりましょう。姉妹艦が沈んでいった、この海に」

 

「……解りました」

 

 ブラウン博士───ドイツ共和国軍技術士官エルネスティーネ・ブラウン大尉は普段落ち着いた口調をしているが、今はそれとは別の落ち込んだ表情を浮かべて答えた。

 

 

「ナギ少尉、淡路に打電を。これより艦長以下乗組員全員は淡路への移乗準備に入る。貴艦は移乗の受け入れの用意を開始するようにと」

 

「了解」

 

 シュルツの指示にナギ少尉は一言だけ答えて淡路に電文を打ち始め、ブラウン大尉は自沈の為に艦にいる技術班を呼び出してCICから出た。

 

 ヴェルナー大尉もまた、自沈の為に作業する技術班以外の乗組員全員に向けて、艦内放送を流し始める。

 

 シュルツはそんな、諏訪が沈む最後の瞬間までそれぞれの役目を果たそうとしている彼らを黙って見守っていた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 シュルツの指示の元クルーが淡路への移乗と諏訪を自沈する準備をしている頃、視点は諏訪の艦長室に移る。

 

 部屋の中には二つの人影があった。

 

 ひとつは赤い紐で結ったポニーテールの茶髪に白を基調とした近衛士官服を着た女性で、服は所々破れ出血しており足元に血で出来た血溜まりを作っていた。

 

 ひとつは明らかに人間とは異なる半液体状の身体をした、異質な存在だった。

 

 

「何者ですか、あなたは」

 

 自らの鮮血で赤く染めた士官服を身に纏った女性が目の前の存在に問いかけた。

 

 

「我ハ此ノ時代ノ人間達ガ、究極超兵器、フィンブルヴィンテルト呼ブ存在、ソノ残滓ダ、我カラ生マレシ分身ヨ」

 

 目の前の存在から返ってきたのは生気など欠片も読み取れない、無機質な音声だった。

 

 

「私が分身ですか…………」

 

 帰ってきた言葉に呟きを漏らす。

 

 あながち間違っていないかも知れなかった。今まで自分は数え切れない程の艦艇と幾多の超兵器を、たった今その全ての超兵器のマザーシップと言うべき究極超兵器を撃沈したのだ。

 

 それにシュルツ達が知っているかは分からないが、本来自分は───護衛艦諏訪はその超兵器の機関から抽出された技術から建造されている。

 

 更にこの一年間で二度に渡り改装された時にも超兵器技術で産み出された新兵器を装備した。その自分が超兵器と言われても不思議ではなかった。

 

 そう自嘲気味に考えていると、フィンブルヴィンテルと名乗った亡霊が話しかけてきた。

 

 

『我ヲ沈メタトコロデ無駄ナコトダ、何レマタ世界デ大キナ争ソイガ起キル』

 

 ピクッ、と諏訪は微かに反応するが、亡霊は半液体状の身体を波紋で揺らめかせて続けた。

 

 

『人間トハ愚カナ生物ダ、自分ノ思想ヤ欲望ト目的ノタメナラ相手ヲ滅ボシ、支配シヨウトスル』

 

 諏訪は沈黙を続ける。

 

 目の前の亡霊が言っていることはある意味では正しく、的を射ている気がしたからだ。

 

 一年前のヴァイセンベルガーによる宣戦布告から超兵器による武力を背景に侵略戦争が始まった。

 

 ヴァイセンベルガーは戦争の動機について絶対的な唯一者によって統治される世界を構築すると言っていたが、ヴェルナー大尉の裏切りが発覚した際にシュルツが根っこで考えていることは皆同じだと言うように、人間は自分の目的のためなら手段を選ばないのかも知れなかった。

 

 だが諏訪は「でも、」と呟き、話した。

 

 

「それでも私は人間を、艦長達を信じます。

人は弱い、強い力を手にすればそれに溺れない保証はありません。ですが、人は弱いからこそ互いに寄り添い助け合うことができる強さを持っている。私は人間の持つその強さを信じます。

人は一人で持ちうる力は小さい、でも力を合わせることで困難に立ち向かうことができるはずだから」

 

 瞳に確かな決意の色を滲ませて諏訪は断言する。それが一年と言う短くも他の艦よりも明らかに濃い艦歴の中で、自分や自分の艦長と見つけた答えだったから。

 

 その諏訪の返事に不快の色を含んだ口調で亡霊が問いかけてきた。

 

 

『例エ何度デモ過チヲ繰リ返ストシテモカ? 過チカラ何モ学バズ、争ソイヲ繰リ返ストシテモカ?』

 

「確かに人は過ちを繰り返すかもしれません、過ちから、何かに気づくことができないかもしれません。

だけど一人ではなく側に誰かがいれば、あるいは大勢ならお互いに過ちに気付きただすことだってできるはずです。

だからこそ私は、人間の持つその可能性を信じます」

 

 目の前の亡霊に対して決意表明する。直後、亡霊の輪郭が揺らぎ始めた。

 

 

『ドウヤラ我ノ此ノ体ヲ保ツノモ限界ノヨウダ。

ダガ我ハ、超兵器ハ闘イヲ、戦争ヲ求メテ再ビ現レル』

 

 そして足元から身体の輪郭が消え始め、最後に言葉を発した。

 

 

『サラバダ、我カラ生マレシ分身。次ハ此処トハ違ウ戦場デ逢ウコトニナルダロウ。

此処トハ違ウ、別ノ世界デナ……』

 

 不吉な予言めいた言葉を最後に完全に消滅し、諏訪以下いなくなった艦長室は再び静寂に包まれた。

 

 

「できれば二度と会いたくないですね」

 

 諏訪はそう吐き捨てるように言うと、室内を出入りするドアに足を向けた。

 

 

「さて、行きますか」

 

 艦長室のドアから出て、ブリッジを目指して艦内の通路を歩き始めた。

 

 今からすべきことを、済ませるために。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 視点は諏訪のメインブリッジに移る。

 

 そこでは、今まで通常航海で慣れ親しんだ諏訪の航海艦橋を、シュルツが名残を惜しむように眺めていた。

 

 コンコン、と金属を叩く音が静寂を打ち破るように艦橋に響き渡った。

 

 

「ヴェルナーか」

 

 そこには海軍大学時代に後輩で、一年前の横須賀を脱出した直後から今まで副官を勤めてきた青年士官がブリッジの隔壁扉に立っていた。

 

 

「クルーは全員ヘリへの収容を完了しています。後は、俺と先輩だけです」

 

「そうか」

 

 ヴェルナーの報告に短く答え、視線をブリッジの艦長席に移す。

 

 今まであの座席に座って横須賀を脱出して、その後は数え切れない敵艦と、超兵器を相手に第一遊撃戦隊を率いて戦った。敵も味方も、多くの血が流れた。先の戦闘で勝利と引き換えに払った犠牲も、決して安いものではなかった。

 

 ふぅ、と息をひとつ吐いて口を開いた。

 

 

「そろそろ飛行甲板に向かうか」

 

「そうですね、艦長が諏訪と運命を共にするつもりじゃないかって、みんな心配していましたよ」

 

 冗談を言うような口調でヴェルナーが話した。

 

 こんなときだからこそ、なるべく明るく振る舞っているのだろう。あれだけの犠牲を出して、諏訪も自力航行できない以上自沈することになったのだから。

 

 だからシュルツもまた、表情を少し緩めてそれに答えた。

 

 

「なら、速く安心させてやらないとな」

 

 そう締め括り、最後に一度名残を惜しむように眺めてからブリッジの出入口から飛行甲板に向かおうとしたときだった。

 

 ガタッ、とヴェルナーが出てきた反対の隔壁扉にウィルキアの近衛士官服を着た女性が背を預けており、服の所々が破れ血塗れだった。

 

 

「き、君! 大丈夫か!?」

 

 シュルツは慌てて駆け寄ると、女性は大丈夫と言うように首を横に振る。そして、シュルツと視線を合わせて話した。

 

 

「艦長に、挨拶に来ました。これが最後になるでしょうから」

 

「挨拶? 君は一体……」

 

「先輩、妙ですよ」

 

「妙とは何だ」

 

「先の戦闘で生き残ったクルーは全員ヘリへの搭乗を完了して、俺と艦長以外にいないはずです。

それに、彼女この艦に乗っていたでしょうか?」

 

 言われてみれば、とシュルツは気付いた。

 

 今まで世界を転戦した中で彼女のような人間は見覚えがなく、不審に思うところではあった。

 

 

「今まで艦長達の前に姿を見せなかった分、不審に思っても無理はありません。

私もついさっきこの姿を得たばかりでしたから」

 

 シュルツ達の様子に女性は気を悪くした素振りを見せず、淡い微笑みを浮かべて、語った。

 

 

「私は、いわばこの艦に宿る意思のような存在。

どういう理屈かは私にも分かりませんが、先程この身体を得て、こうして艦長達に最後の別れの挨拶をしに来たんです」

 

 そして海軍式の敬礼をして、女性は続けた。

 

 

「一年と言う短い間でしたが、艦長の艦として戦えて光栄でした。

私はもうここから動けませんが、艦長達ならこれからのウィルキアを立派に守っていけると思信じています。

……この海に沈んだ皆と私の分まで、これからのウィルキアをお願いします」

 

「君は、一緒に来ないのか?」

 

「私はこの艦に宿る意思そのもの、自沈すればこの艦と共に海に消えるでしょう。

それに、妹達も待っていますから」

 

 その言葉を聞いて、シュルツは理解した。

 

 妹達、おそらくそれは、同じ諏訪型の二番艦多賀。そして改諏訪型として建造された第一遊撃戦隊の所属艦だろう。

 

 第一遊撃戦隊が編成される以前に建造された兵装試験双胴巡洋艦三原やゲイルヴィムル作戦の途上で建造された駆逐艦影縫、戦艦十勝は今まで共に闘い続けて、この海に沈んだ。

 

 その途上で多くの敵艦を、自身の姉妹艦である多賀を沈めた彼女がどんな感情を抱いているのかは想像もできなかった。

 

 そんな彼女にシュルツは懐からあるものを取り出し、それを手渡した。

 

 

「艦長、これは……?」

 

 それは小振りな石に穴を開け細い鎖を通した首飾りだった。石には何かしらルーン文字と思われる溝が彫ってあるが、彼女にそれは読み取れなかった。

 

「元は戦場で生き残る確率を少しでも上げる願掛けとして身に付けていたんだが」

 

 シュルツはそこでひとつ区切り、微笑みを浮かべて続けた。

 

 

「仮初めとは言え、これから平和になる世の中では俺には必要ないだろう。

だからこれは、今まで俺達と一緒に戦ってくれたことに対する感謝と、この海に沈んだ後も幸福であることを願う、せめてもの手向けだ」

 

 静かに、だが確かな想いを込めてシュルツは敬礼し、そして、

 

 

「今まで共に戦えてこちらも光栄だった。君が私の艦でなかったらここまでこれなかったかもしれない。

一年と言う短い間ご苦労だった、"諏訪"。後はもう、ゆっくり休んでほしい」

 

 シュルツの言葉に女性───諏訪は顔を俯かせて、肩を震わせた。そしてすぐに視線をシュルツに合わせた、その瞳には水滴を浮かべていた。

 

 

「はい、艦長。今までありがとうございました……!」

 

 諏訪は涙声を震わせてながら感謝の意を示し、敬礼で返した。

 

 

 

 シュルツ達は自力航行能力を失い、継戦能力を喪失した護衛艦諏訪を破棄、自沈処分にした。

 

 その後彼らは生き残った空母淡路に乗ってドック艦スキズブラズニルと共にウィルキアに帰還したあと、多数の犠牲者を出した北極海での決戦は後に『マキナ・インコグニタ』と呼ばれた。

 

 そして、世界を巻き込んだ今回の大戦、後に超兵器戦争と呼ばれる戦いの最中、祖国解放の為に各地を転戦し、北極海に沈んだ艦達をウィルキア、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア等で長く語り継がれることになる。

 

 

 

 ウィルキア王国海軍近衛第一艦隊所属、

 

 

 

 第一遊撃戦隊、またの名をシュルツ艦隊と呼ばれる当時の大戦で間違いなく世界最強と言われた、艦隊が存在したことを。

 

 

 

 



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第一遊撃戦隊(編成当初)設計・第1章開始時対応

続けて投稿です。今回は第一遊撃戦隊の設計についてです。以前投稿した再編したものです。


 

 諏訪型重武装装甲航空護衛艦一番艦諏訪

 

 概要

 

 1934年に日本やドイツで超兵器の建造が開始され、その存在に脅威を感じた日米独の海軍の一派が極秘裏に建造した、対超兵器用艦隊型決戦兵器『諏訪型』のネームシップ。

 世界各地の火山地帯で発掘した超兵器の残骸を分析、研究した結果により実現した電子装備、ミサイル、原子炉、油圧式カタパルト、重武装でも安定して航行可能な機構を注ぎ込んだ、当時の造船技術の世代を数世代以上跳躍した超兵器技術の結晶である。

 1939年に二番艦多賀と完成して横須賀で進水し、改諏訪型の建造に着手しようとした頃、極東の小国家ウィルキア王国でヴァイセンベルガーを中心とした大規模な軍事クーデターが発生した。

 その直後に脱出した近衛艦隊が横須賀に入港して拘留された後、君塚中将により手引きした反乱軍の砲撃で騒然とする基地内を筑波大尉と天城大佐により救出された当時少佐だったシュルツ達によって奪取された。

 以降は近衛艦隊の主力艦として約一年間で数多くの戦いを経験した。

 

 船体 日本航空戦艦Ⅱ   船体重量 18276t

 

 耐久力 2400   防御力 対46cm

 

 防御評価 53% 集中防御

 

 既に進水していた伊勢型航空戦艦の拡大・改良型の改伊勢型であり、護衛艦という名目で建造された。

 装甲は重厚な460mm鋼で、46cm砲弾を確実に弾く装甲が施されている。

 

 機関 

 

 動力 原子炉Ⅷ   出力 19万9680馬力

 

 機関 標準タービンε   回転効率 208

 

 配置 通常配置   速力 53.3kt

 

 動力は原子炉八型で、こちらはドイツ共和国の一派との協力で実現した。

 機関もドイツ共和国との協力で実現しており、既存の艦艇を凌駕する稼働率を発揮する。

 速力は既存の駆逐艦をも超える53.7ktで、直進して追い付ける艦は超兵器ヴィルベルヴィントを除いて当時存在しなかった。

 

 設備

 

 前艦橋 日本戦艦前艦橋Ⅳ

 

 後艦橋 日本戦艦後艦橋Ⅴ

 

 探照灯 2基   弾薬庫 大型弾薬庫

 

 指揮値 79   水上索敵 23

 

 水中索敵 4

 

 レーダーは新型射撃レーダーを装備して砲撃を精密化しており、第1斉射で全弾命中させることも不可能ではなくなっている。

 また、強力なソナーである音波探信儀βを装備することで対潜攻撃能力も非常に高くなっている。

 装備する大型弾薬庫は艦隊型思想によるもので、後に建造される改諏訪型の緊急時の補給を想定している。

 

 兵装

 

 兵装1 50.8cm45口径3連装砲2基即応弾450発

全900発

 

 兵装2 特殊弾頭ミサイルVLS4基即応弾4発

 全20発

 

 兵装3 アスロック対潜Ⅲ4基即応弾4発

全48発

 

 兵装5 152mm速射砲4基即応弾1800発

全3600発

 

 兵装6 対空ミサイル発射機Ⅲ6基即応弾240発

全480発

 

 兵装7 35mmCIWS10基即応弾25000発

全50000発

 

 この小説では他作品に埋もれない措置として特殊弾頭ミサイルを特殊弾頭『ゲイボルグ』ミサイル、アスロック対潜をアスロック『両用』としている。アスロックは対艦・対潜両方に対応でき、敵艦への雷撃も限定的に可能になっている。

 また、主砲等の砲兵器は新型火器管制装置の補正で通常より格段に命中精度は高くなっている。

 さらに、主砲や速射砲に用いる砲弾は特殊砲弾HEAT(成型炸薬)A P F S D S(翼安定分離装弾筒式徹甲弾)キャニスター(榴散弾)を採用しており、砲撃だけで対艦・対空に柔軟に対応できる。

 

 補助兵装

 

 補助1 電子光学方位盤Ⅰ

 

 補助2 発砲遅延装置γ

 

 補助3 自動迎撃システムⅡ

 

 補助4 イージスシステムⅢ

 

 補助5 ECCMシステムⅢ

 

 補助6 防御重力場Ⅴ

 

 補助7 急速前進Ⅱ

 

 砲撃時の補助として発砲遅延装置уを装備、新型射撃レーダーと連動して精密な射撃を可能にしている。

 武装のいくつかは自動化しており、敵機や魚雷が接近すると迎撃するシステムになっている。

 また、ゲイボルグを確実に使用するためにECCMを装備している。

 搭載したフェイズド・アレイ・レーダーや統合対潜システムにより、複数の目標を同時ロックオン可能にして一隻で多数の敵艦、敵機、敵潜水艦を攻撃できる。

 更に、防御重力場を展開することで敵の実弾兵器の軌道を反らし、威力を削ぐか無効化するなど極めて高い防御力を誇る。

 推進力に急速前進二型を装備して一時的に最大戦速から急加速することが可能である。

 

 枠外補助兵装

 

 音波探信儀β   新型射撃レーダー

 

 新型火器管制装置   自動装填装置γ

 

 航空機

 

 航空1 震電改 16機   航空2 橘花改 8機

 

 航空3 火龍 4機   航空4 彩雲 4機

 

 全44機

 

 元となった伊勢型に比べて搭載機数は1.5倍以上の32機となっており、航空機を運用する能力に優れている。

 また、搭載した油圧式カタパルトにより発艦時間が大幅に短縮された。

 甲板上の構造も先進的で、それまでの矩形の飛行甲板から着艦用のアングルド・デッキを斜めに配置、その上にアレスティングワイヤー5本とクラッシュ・ワイヤー・バリケードを設置している。

 

 性能

 

 攻撃力 B   対空 A   防御 B

 

 対応力 A   指揮索敵 C   機動力 A

 

 評価 A

 

 総合評価はA。指揮索敵は補助スロットの都合上Cとなっている。

 

 設計図

 

 

【挿絵表示】

 

 

 なお艦名は長野県の諏訪大社に因んでおり、二番艦多賀も滋賀県の多賀大社から名付けられている。

 

 

 兵装試験双胴巡洋艦三原

 

 概要

 

 横須賀を脱出する際にシュルツ達が奪取した護衛艦諏訪、その艦内のデータベース内に保存されていた改諏訪型の設計図データを元に、ハワイで解放軍付きの戦術補佐官として着任したエルネスティーネ・ブラウン大尉により設計され、浮きドック艦『スキズブラズニル』で建造された実験艦。

 当時の解放軍にとって、護衛艦諏訪の装備する兵装の数々が未知に過ぎたため、信頼性を確認するために試験的に運用する必要が出てきた。

 だが戦況は緊迫し猶予のない状況で時間をかける余裕がなかったため、ハワイを襲撃した強襲揚陸艦を参考に一度に多くの兵装を運用する目的で建造された。

 また、艦名は諏訪のデータベースに保存されていた改諏訪型から採っている。

 

 船体 双胴巡洋艦

 

 船体重量 10124t   耐久力 1500

 

 防御力 対25cm   防御評価 51% 集中防御

 

 双胴式であるため排水量が増加し、装甲も既存の巡洋艦より厚く施されている。

 

 機関

 

 動力 ガスタービンⅧ   出力 10万8000馬力

 

 回転効率 100   配置 通常配置

 

 速力 50.5knot

 

 動力と機関は諏訪に搭載された物とは違い、ガスタービンを搭載している。これは諏訪型護衛艦に搭載されていた原子炉を当時の技術で再現できなかったためで、速力は諏訪と比較しても劣っているが、随伴可能なレベルである。

 

 

 設備

 

 前艦橋 独国前艦橋Ⅱ

 

 後艦橋 独国後艦橋Ⅱ

 

 探照灯 2基   指揮値 85

 

 水上索敵 30   水中索敵 21

 

 レーダー・ソナー類は諏訪の装備を発展させた物をスキズブラズニルで開発して配置、諏訪の随伴艦として配備された当初は諏訪の目と耳として活躍した。

 艦橋はアドミラル・ヒッパー級の同型の物を流用しており、これは同級の船体を2隻横に繋げたことで建造したからである。

 

 兵装

 

 兵装1 203mm連装AGS4基 即応弾2400発

全4800発

 

 兵装2 特殊弾頭誘導魚雷2基 即応弾2発

全10発

 

 兵装3 68cm3連装誘導魚雷4基 即応弾12発

全256発

 

 兵装4 アスロック対潜4基 即応弾4発

全48発

 

 兵装5 対空ミサイルVLSⅢ4基 即応弾32発

全128発

 

 兵装6 152mm速射砲6基 即応弾2400発

全4800発

 

 兵装7 35mmCIWS12基 即応弾30000発

全60000発

 

 特徴的な兵装として203mmAGS連装砲を搭載しており、搭載したヘリから送られるデータと連動して目標直前で誘導する仕組みになっている。

 また、特殊弾頭『ゲイボルグ』を改良した特殊弾頭魚雷『グングニル』を搭載しており、一隻で多数の敵艦2を同時に相手することが可能になっている。

 装備する特殊弾頭を含む誘導魚雷は、弾頭に強力なソナーを装備しており誘導性能は高い。

 因みにアスロックは諏訪型護衛艦とは異なり、両用ではなくなっている。

 

 補助兵装

 

 補助1 音波探信儀β

 

 補助2 電波探信儀β

 

 補助3 電子光学方位盤Ⅰ

 

 補助4 自動装填装置γ

 

 補助5 自動迎撃システムⅡ

 

 補助6 イージスシステムⅢ

 

 補助7 防御重力場Ⅴ

 

 補助8 急速前進Ⅱ

 

 敵艦のレーダーにジャミングをかけるECMシステムを搭載しており、同時に諏訪にも搭載された敵艦のジャミングに対抗するECCMシステムを搭載したことにより、本格的な電子戦仕様艦になっている。

 また、防御重力場を搭載したことで巡洋艦ながら、巡洋戦艦並みの防御性能を誇る。

 

 枠外補助兵装

 

 ECMシステム   ECCMシステム

 

 新型射撃指揮レーダー   新型火器管制装置

 

 航空機

 

 航空1 EH101 マーリン2機

 

 航空2 UH-60J ブラックホーク1機

 

 搭載された対潜哨戒ヘリマーリンで観測を行い、同時に対潜ミサイルや爆雷で武装している。

 救助ヘリブラックホークは乗組員の連絡用に搭載しているが、ロケット弾やミニガン等を装備可能。

 また、搭載したヘリは船尾のヘリポート内部からエレベーターで甲板上に上げられ、発艦する仕組みになっている。

 

 性能

 

 攻撃力 B   対空 A   防御 D

 

 対応力 A   指揮索敵 D   機動力 A

 

 評価 B

 

 防御重力場はあっても素の防御力は巡洋戦艦並みであるため、評価はB。

 他は指揮索敵以外は概ね高い評価なため、特に問題はないと思われる。

 

 設計図

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 軽諏訪型強襲駆逐艦影縫

 

 概要

 

 ゲイルヴィムル作戦の最中諏訪の随伴艦として編入された諏訪型護衛艦の発展型。

 兵装試験双胴巡洋艦三原と同様、諏訪のデータベースに保存されていた改諏訪型の設計図データを元に、スキズブラズニルの解放軍開発班が設計し建造した駆逐艦である。

 最大の特徴はステルス構造を重視した設計で敵艦の水上索敵レーダーに探知されにくく、それにより至近距離まで接近することも可能なことである。

 また、ジャミング等の電子装備を標準装備しているため、隠密行動を得意としている。

 さらに双胴巡洋艦三原と連携することにより通商破壊、敵泊地への夜襲等の作戦で本領を発揮する。

 

 船体  米国フリゲート艦Ⅰ

 

 船体重量 5281t   耐久力 600

 

 防御力 対15cm防御  防御評価 72%完全防御

 

 一応、駆逐艦に分類されるものの船体の大きさは軽巡洋艦より大型であるため、積載重量も上限もかなり高い。

 そのため、防御力も通常の駆逐艦より厚く施されている。

 

 機関

 

 動力 原子炉Ⅷ   出力 9万4080馬力

 

 機関 駆逐タービンε   回転効率 196

 

 配置 シフト配置   速力 61.5kt

 

 動力は諏訪型護衛艦と同様原子炉八型を搭載しており、改諏訪型としては初の搭載となっている。燃料の補給は数十年単位で必要がない。

 また、第一遊撃戦隊の中では最速を誇り.敵水雷戦隊と単独で渡り合うのに充分な性能を有している。

 

 設備

 

 前艦橋 米国駆逐前艦橋α

 

 探照灯 なし   指揮値 37

 

 水上索敵 24   水中索敵 23

 

 艦橋は一体型でヘリコプター格納庫としての機能を持たされており、対潜哨戒ヘリを2機と救助ヘリを1機搭載している。

 レーダーはレドーム状の構造をしており、これはステルス性を重視したことに由来する。

 艦橋後部にはステルス構造に再設計した152mm速射砲を横並びに配置。近接する小型艦、対空目標に対応する。

 

 兵装

 

 兵装1 155mm3連装AGS32基 即応弾2100発

全4200発

 

 兵装2 特殊弾頭誘導魚雷2基 即応弾2発

全10発

 

 兵装3 音響4連装誘導魚雷4基 即応弾16発

全256発

 

 兵装4 アスロック対潜VLSⅢ2基 即応弾2発

全48発

 

 兵装6 対空ミサイルVLSⅢ4基 即応弾32発

全128発

 

 兵装7 152mm速射砲2基 即応弾800発

全1600発

 

 兵装は三原と大した差異は無いが、68cm誘導魚雷がより高性能な音響誘導魚雷に変更されている。

 魚雷発射管は舷側装甲のハッチから射出するようになっており、艦橋後部に設置された2基の152mm速射砲も砲塔をステルス性を考慮して可変型が装備されている。

 

 補助兵装

 

 補助1 音波探信儀β

 

 補助2 電波探信儀β

 

 補助3 自動迎撃システムⅠ

 

 補助4 イージスシステムⅢ

 

 補助5 ECMシステムⅢ

 

 補助6 ECCMシステムⅢ

 

 補助7 電波妨害装置β

 

 補助8 防御重力場Ⅴ

 

 補助9 応急注排水装置β

 

 補助10 急速前進Ⅱ

 

 隠密性を確保するため強力な電波妨害装置を装備しており、兵装試験双胴巡洋艦三原に匹敵するほどの電子戦能力を有する。

 

 枠外補助兵装

 

 電子光学方位盤Ⅰ   自動装填装置γ

 

 新型射撃指揮レーダー   新型火器管制装置

 

 航空

 

 航空1 EH101 マーリン1機

 

 航空2 スーパーピューマ1機

 

 搭載したヘリはAGS砲弾誘導や対潜哨戒用のマーリンと、救助用のスーパーピューマを1機ずつ搭載している。

 

 性能

 

 攻撃力 B   対空 C   防御 E

 

 対応力 B   指揮索敵 D   機動力 A

 

 評価 B

 

 攻撃力、対応力、機動力と駆逐艦に最低限の項目は軒並み高い評価であるため特に問題は無い。

 防御が低くなるのは、駆逐艦として寧ろ自然なことになるため気にしない。

 

 設計図

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 改諏訪型重武装装甲戦艦十勝

 

 概要

 

 ゲイルヴィムル作戦の最中諏訪の随伴艦として編入した諏訪型護衛艦の発展型。

 双巡三原、駆逐艦影縫と同じく諏訪のデータベース内に保存されていた改諏訪型の設計図データを元に、スキズブラズニルの解放軍開発班が設計し建造した戦艦である。

 諏訪とは異なり砲撃戦を重視した設計がされており、50.8cm3連装砲を3基9門装備している。

 また、最低限の対潜攻撃力と充分な防空能力を有しており艦隊護衛にも対応できる。

 

 船体 米国戦艦Ⅵ

 

 船体重量 25240kt   耐久力 2400

 

 防御力 対51cm   防御評価 53% 集中防御

 

 ベースとなったアイオワ級と同型の解放軍戦艦をそのまま強化した設計となっている。

 

 機関

 

 動力 原子炉Ⅷ   出力 199680

 

 機関 標準タービンε   回転効率 208

 

 配置 シフト配置   速力 49.3kt

 

 内容は諏訪とほぼ同じだが砲門数と装甲を強化した分、速力が低下している。

 

 設備

 

 前艦橋 米国戦艦前艦橋Ⅵ

 

 後艦橋 米国戦艦後艦橋Ⅵ

 

 探照灯 3基   指揮値 90

 

 水上索敵 24   水中索敵 5

 

 諏訪型の標準装備の一つである電子光学方位盤Ⅰを装備しており、対空迎撃・機雷と魚雷の処理能力に優れている。

 が反面、対潜攻撃力は最低限で他の諏訪型に依存している。

 

 兵装

 

 兵装1 50.8cm砲45口径3連装砲3基 即応弾675発

全1350発

 

 兵装2 アスロック対潜Ⅲ3基 即応弾3発

全36発

 

 兵装3 チャフグレネード1基 即応弾16発

全32発

 

 兵装5 152mm速射砲10基 即応弾4000発

全8000発

 

 兵装6 RAM2基 即応弾144発全288発

 

 兵装7 35mmCIWS6基 即応弾15000発

全30000発

 

 特徴としてチャフグレネードを装備しており、この時期に敵艦に配備され始めていたミサイル等の誘導兵器に対応できるようにしている。

 また152mm速射砲を副砲として多数装備しており、強力な対艦対空火力を有している。

 

 補助

 

 補助1 電子光学方位盤Ⅰ

 

 補助2 自動装填装置γ

 

 補助3 発砲遅延装置γ

 

 補助4 イージスシステムⅢ

 

 補助5 自動迎撃システムⅡ

 

 補助6 防御重力場Ⅴ

 

 補助7 急速前進Ⅱ

 

 枠外補助兵装

 

 音波探信儀β   電波探信儀β

 

 新型射撃レーダー   新型火器管制装置

 

 基本的に装備する補助兵装は他の諏訪型と同様で、大した差異はない。

 

 航空

 

 航空1 SH-60J シーホーク 1機

 

 航空2 スーパーピューマ 1機

 

 甲板を貫通するエレベーターで搭載したヘリをヘリポートの飛行甲板に揚げて発艦させる。

 他の諏訪型と同様、対潜哨戒ヘリとスーパーピューマを搭載している。

 

 性能

 

 攻撃力 B   対空 A   防御 B

 

 対応力 A   指揮索敵 C   機動力 A

 

 評価 A

 

 迎撃能力の向上を意図した設計であるため、指揮索敵能力が他の諏訪型より向上している。

 

 設計図

 

 

【挿絵表示】

 

 

 以上の諏訪型の艦艇は本来艦隊型として計画されていたため、一纏めで諏訪型として扱われる筈だが解放軍ではそういった認識は薄かった。

 それは欧米諸国やウィルキア帝国軍にしても同じことで、一隻ずつが強力であるために遊撃艦という認識が強かった。

 

 




明日も書き貯めた回をひとつ投稿します。


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番外編 お正月の横須賀鎮守府

去年のリクエストで秋刀魚祭りを書いてましたが季節のうちには間に合わず、今年の秋刀魚祭りに合わせて投稿することにいたしました。

PLUXⅨ様、時期に間に合わず申し訳ありません。代わりにこの話を投稿します。大晦日の仕事帰りから書き上げた話ですが、ご希望に添えない内容で有ればごめんなさい。では、どうぞ。


 12月31日。

 

 その日の深夜、横須賀第7鎮守府の提督蕪木 翔中佐以下、所属する全艦娘は食堂であることを今か、今かと待ち続けていた。

 

 通常、鎮守府の食堂は提督か所属する艦娘で管理されており、奥の厨房では料理が得意分野である鳳翔を筆頭に何人か待機している。その中には諏訪や十勝もいた。

 

 室内の時計は午後の11時59分(ヒトヒトゴーキュウ)を指しており、それは今年の終わりが近付いていることを意味していた。

 

 

「カウント十秒前。……9、……8。……7、……6。……5、……4。……3、……2。……1」

 

 ゼロ。

 

 蕪木の秒読みが終わるのと、時計の秒針が時針と分針を動かして12時を指すのは同時だった。

 

 

「新年明けましておめでとう! 今年も宜しく頼むぞ!」

 

 新年の挨拶を蕪木から切り出し、全員思い思いに応えていく。諏訪もそれに応える。

 

 

「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いしますね!」

 

 前世では一年数ヶ月と言う短い時間ながら激動の一生を過ごした頃とは違い、艦娘になってから初めて誰かと共有する年越しを皆で祝った。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 年が越したのなら次にやることは決まっていた。

 

 そう、初詣である。

 

 今回は基地外から出るわけではなく内部に設置された、艦内神社ならぬ基地内神社だ。年が開けてから非番の軍人から暇な艦娘まで、神社として控えめな境内に大勢が集まる場所だ。

 

 

「む、来たか。早かったな、蕪木中佐」

 

「いえ、そちら程ではありませんよ。三笠大将」

 

 境内には三笠や第1鎮守府の主だった艦娘が集まっていた。今は駆逐艦が先に御詣りしているようで、軽巡以上の艦娘は順番待ちしていた。

 

 

「遅れましたが、新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」

 

「こちらこそだ、中佐」

 

 蕪木が挨拶してそれに応える三笠は表情こそ変えないままだが、心なしか普段閉じているような薄目が緩んだように感じられた。

 

 

「いやー寒い寒い! 境内って基地内に置くなら屋内でもいいのに」

 

「そう言うな、大人げない。艦内神社ではないのだから、我慢だ。あと鳥居は潜る前に会釈だ」

 

 弱音を吐く伊勢を嗜め、日向は続けざまに伊勢を注意していく。

 

 

「まあ良いじゃないですか、日向姉さん。ほら、あそこで甘酒って言うの売ってます。行きましょ? 伊勢姉さん、日向姉さん」

 

 諏訪は日向に倣い鳥居の前で会釈して潜り、自分にとって初めて見る屋台に姉二人を誘う。

 

 

「お姉様が行くなら私も」

 

「じゃあボクも!」

 

「私も諏訪さんがそうするなら」

 

「その前に手水(しゅすい)を済ませよう。ほら、彼処まで行くぞ」

 

 もはや日向は伊勢も含めた姉妹の引率者その者である。

 諏訪達は初詣と言う習慣は聞き慣れておらず、前世で日本と交流のあったウィルキア育ちとはいえ、記憶はほぼ全て戦いで埋められていた。だからこそこう言った日本の行事は全てが新鮮そのものだった。

 

 そんなこんなしてる間に横須賀第1鎮守府も全員が御詣りを済ませ、後から来た第7鎮守府は初めてと言うことで諏訪達に最初を譲った。

 

 

「参道は神様の通る道だから真ん中を避けてね。次にお賽銭箱、財布の小銭を投げ入れて、どれでもいいよ。そしたらゆっくりと御辞儀を2回。拍手を2回してお祈り。それからもう一回御辞儀して下がるよー」

 

 本殿での作法は伊勢も教えたいらしく、張り切って順当に教えていく。諏訪達もそれに倣った。

 

 

(今年は皆で笑顔に過ごせますように。例え自分達が戦争中でも、笑えるときには笑って過ごせますように)

 

 諏訪は内心でそう願い、祈った。諏訪にとってはいつかの演習を経験した時から、誰かの笑顔を損ないたくないと思うようになっている。

 それが艦娘として生まれ変わった、護衛艦諏訪としての戦う理由かも知れなかった。

 

 

「おーーい! 諏訪、十勝、三原、影縫!」

 

 離れたところから呼ぶ声が聞こえ振り向くと、鳥居の向こうから手を振る薩摩がいた。傍らには雷型の雷と朧いる。

 

 

「薩摩大先輩! 特務としての仕事は良いんですか!?」

 

「大丈夫、全部浅間に任せてきた!」

 

 どうやら仕事をサボって抜け出してきたようだ。とは言え雷と朧を連れているので文句は言い難いが、今頃浅間が統合司令部で地団駄を踏んでいるかもしれない。

 

 

「新年明けましておめでとう! 初詣済ませたら一度戻るけど、またそっちにお邪魔するわね!」

 

「こちらこそおめでとうございます。それとあまりサボらない方が」

 

「いいの、怒られるのは私だから!」

 

 何でもない風に言い切る。その様子を見ていた一人が近付いていった。

 

 

「薩摩、お前はまた浅間に仕事を押し付けてきたのか」

 

「げ、三笠」

 

 同じく御詣りした三笠だった。閉じたような薄目の瞼をひきつらせ、青筋を立てていた。

 

 

「流石にお灸を据えねばならんな」

 

「えーと、三笠? 何で軍刀に手を掛けてるの? それは深海棲艦相手か護身用に使うもので、平時に振り回していいものじゃ」

 

「江崎総長から使用していいと許可は取っている」

 

「提督、貴方もかぁ!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎ始めた最古参の艦娘二人。始まりの艦娘二人は常に雲上の存在とされているが、この様子は普段重鎮として活動する面しか知らない者には珍しい光景だった。

 

 

「あの二人はほっといてみんな、先に戻っていいぞ。当分終わらないし、俺は雷型の二人に付き添うから」

 

「なら私も付き合ってあげるわ」

 

 蕪木が勧めて、昨日から秘書艦を勤める叢雲が名乗り出た。

 

 

「そーだね、じゃあお言葉に甘えて! さ、行こう諏訪!」

 

「え、あ、はい伊勢姉さん。失礼します、司令」

 

 伊勢に背中を押された諏訪は蕪木にそう言って、境内を後にした。

 

 勿論敷地から退出する際は鳥居を潜るとき会釈して言った。新年の挨拶から御詣りまで色んな事を知った、一日の始まりだった。

 

 

 




新年の挨拶と初詣って、こんな感じで良いですよね? 僕には自信がないですが(^_^;)

あと、新しく小説を2本連載スタートしました。うち一つは今作と同じ艦これ原作になります。

では、次回に。


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番外編 諏訪型の艤装について

主「唐突ですが、番外編です!」

 

諏訪「いきなり過ぎますね」

 

三原「事前説明も何もなしに呼び出さないで欲しかったのですが」

 

主「ちょ、ちょっとお二人さん。少し辛辣すぎやしません?」

 

三原「そんなことより要件は何ですか?

ただでさえ投稿のペースが遅れがちなのにいきなり番外編に呼び出されるなんて、諏訪さんが同席すると聞いてなかったら呼ばれても来ませんでしたよ」ゴゴゴゴゴ

 

主「そんなことって、まあ今回はその投稿のペースが遅れているからと、ここで今までの話で読者の方から疑問の声が上がったからなんですよ」

 

諏訪「疑問の声ですか?」

 

主「はい、取り敢えず匿名で挙げていきますがまず最初は『特殊弾頭は長門や酒匂、プリンツ・オイゲンやサラトガ達クロスロード組には見せられないですね、、、その特殊弾頭で焼かれたから、、、』ですね」

 

三原「なるほど、今回はそういった疑問、というより本編で説明を忘れていた部分を補完しようというわけですか」ジト目

 

主「う、その通りです」

 

諏訪「ならさっさとはじめましょう、三原?」

 

三原「了解です諏訪さん、ではまず特殊弾頭ですね?」

 

主「はい。まず最初に、これは感想欄で返信しましたが核じゃないです。

確かにモデルはアメリカの巡航ミサイルを搭載するVLSなんですけど、中身は別物です。

諏訪さん、説明をお願いします」

 

諏訪「了解。では最初にゲイボルグ・グングニルが何なのかですが、ぶっちゃけて言えば中身がぎっしり詰まった気化爆弾です」

 

三原「補足しますと最初は主さんも核弾頭にしようかと考えたものの、敵艦隊と殴り合うのに環境を汚染する兵器を搭載するのはどうなのかと考えたのです。

そのため、比較的クリーンな燃料気化爆弾を弾頭とするミサイルという設定に行き着いたという訳です」

 

主「因みに威力はアメリカが保有する大規模破壊爆弾モアブより少し下程度という設定です」

 

諏訪「私が装備していて何ですけど本当は巡航ミサイルに搭載できないのでは?」

 

主「それは、まああれですよ。超兵器技術の副産物で小型化できたっていう」

 

三原「ご都合主義、というわけですね?」

 

主「返す言葉もないです」(;^_^A

 

諏訪「あと気化爆弾の爆発現象、最近調べて単純じゃないと分かったんじゃないですか? その辺りどうするんです?」

 

主「今後更新する戦闘回では爆発現象を細かく描写していきたいと思います」

 

三原「次にいきましょう」

 

諏訪「それなら次は私の艦載機について解説していきますね。まずは震電改について、艦これの数値では以下の通りです」

 

 

 艦戦 震電改

 

 対空 18

 

 

三原「通常の震電改より数値が上ですね」

 

主「57mm航空機関砲2門に30mmバルカン砲2門搭載してたらこうなるかと」

 

諏訪「搭載してる私が言うのも今更ですけど、艦載機程度なら粉砕しちゃうし駆逐艦級は穴だらけにされますね」

 

三原「速度性能も時速1000㌔近く出せるため、現時点では追い付ける機体はありません。

まさに『我ニ追イ付ク敵機ナシ』、ですね」

 

主「今回この機体も含め攻撃隊は損失しなかったと思いますが、エンジンがロケットなので燃料はバカ食いするから燃費が悪いのと、撃墜されたときのボーキサイトの消費が……」

 

諏訪「……切実ですね。次いきましょう」

 

 

 艦攻 橘花改

 

 雷装 17 対空 6 対潜 9 索敵 5

 

 

三原「震電改もそうでしたが、ネームド艦載機も真っ青の性能ですね」

 

主「原作でも序盤までなら敵艦を一撃で撃沈できるくらい強力ですからね。

それに電子機器も搭載してるので、ジャミングされない限りはレーダーで相手より早く捕捉して先手を取れます」

 

諏訪「それに速度性能は807㌔、付いてこれる機体は同じ艦載機には殆ど存在しないでしょう。

それに40mm航空機関砲を2門搭載してるので、制空権争いに参加できるから艦上戦闘攻撃機と言えますね」

 

主「次いきましょう」

 

 

 艦爆 火龍

 

 爆装 18 対潜 8 索敵 3

 

 

諏訪「最早驚くこともないですね」

 

三原「速度性能は812㌔と橘花改を上回りますが、機関砲を装備しないのであくまで爆撃と対潜掃討が主任務の機体です」

 

主「この機体も原作ではそれなりに強く、爆弾は橘花改の魚雷より強力な爆弾を使用するので、序盤戦は敵艦を沈める確率が比較的高かったですね」

 

三原「次にいきましょう」

 

 

 艦偵 彩雲

 

 雷装 11 対空 4 対潜 6 索敵 7

 

 

主「偵察機でありながら何故か魚雷を積んでるため雷装はこれくらい。

更に30mm航空機関砲を2門搭載してるというある種謎の艦載機に」

 

諏訪「装備する電探は諏訪型に準拠する為、その補正で対潜値と索敵値は高くなってるます。もしかしたらこの機体が一番チートかもしれませんね」

 

三原「転移後に実戦でそうした運用は今のところありませんが、今後その機会は出てくるかもしれませんね」

 

主「そうですね。次ですが、実はコメントのひとつに諏訪さんのアスロック両用にも疑問の声が上がりました」

 

諏訪「ならそちらもですね。まずアスロックについてですけど、これにはまず参考にした実際のシステムから解説した方がいいですね」

 

三原「それなら私から説明します。実際のアスロックと呼ばれる対潜魚雷は現代艦艇に普及している統合対潜システムで管制を受けており、本編でも影縫が敵潜水艦を攻撃する際対潜ヘリコプター『マーリン』を飛ばしています。

本来なら自艦の曳航式ソナーや艦首に搭載したソナーを使うんですが、曳航式ソナーは採用せず艦首ソナーとマーリンだけで敵潜水艦の位置を特定してからアスロックを発射します」

 

主「付け加えるとアスロック両用は諏訪さんから発信したソナーで捕捉してから敵艦に向けランチャーを発射、目標の近くにロケットブースターを切り離して着水したあと弾頭のソナーで誘導する方式になってます」

 

諏訪「色々無理がありそうだけどそれをどうにかできちゃうのも私のソナーの性能が高いからなんですよね」

 

主「そこもまたご都合主義ということで、次にいきますよ。

続いては諏訪型に標準装備する各種砲弾についてですね」

 

諏訪「多分ミリタリーに詳しい方はご存知かもしれませんが、現代の戦闘車両に装備する砲弾がモデルになります」

 

主「ぶっちゃけて言うと超兵器の防御重力場を飽和させるにはこれくらい強いのでないと難しいと思ったので、諏訪型が標準装備する形になりました。

ゲームだとほんとに固いんですよね、実際に本作仕様の護衛艦諏訪でハリマに挑んだら砲撃じゃ殆ど通らないし、艦載機全滅するし、終いには一撃で轟沈するし」

 

三原「艦隊型思想の影響で一隻当たりの性能も控えめだから仕方ないと言えばそれまでですが、少し悔しいですね」

 

諏訪「大丈夫よ、貴女にしか無い長所もあるわ。私よりも対潜能力高いし、今のところ私以外では一遊戦を預けられるのは貴女くらいよ?」

 

三原「……諏訪さんにそう言われてしまえば流石に、気分が高揚してきますね」

 

主「三原さんやめて!? その台詞違う艦娘のだから! 某演歌歌手の台詞だから!」

 

三原「そうですね、以後は気を付けます。それで、次は何ですか?」

 

主「はぁ……。次は諏訪さんの航空甲板についてです。こちらも説明不足でしたから」

 

諏訪「ならわたしからですね。実は航空甲板の装備は、史実の米空母を参考にしています。

そのひとつがアレスティング・ワイヤー・システムで、限られたスペースで艦載機が着艦するための制動装置です」

 

三原「補足しますと、制動装置は航空甲板上のアレスティング・ワイヤー5本とクラッシュ・ワイヤー・バリケードで構成されています」

 

主「これを搭載してる設定にした理由としては、単純に初歩的なジェット機を運用できそうだからですね。

米海軍も第二次大戦から1950年代まではジェット艦載機の着艦に使用してたらしいので」

 

諏訪「因みに改装するとアレスティング・ギア・システムになり、第3世代型以降のジェット艦載機を運用可能になりますが、今はスキズブラズニルがいないので関係ないですね」

 

主「それと諏訪さんの飛行甲板はジェット機の運用含め遠洋での活動に要求される強度を得るために、格納庫や弾薬庫を納めたバイタルパートの上に強度甲板、更にその上に特殊なセメントを塗ることでそれを実現しています。こういった技術は1960年代の米空母エンタープライズを参考にしています」

 

三原「それと原作での補助兵装について色々挙げていきたいので、以下の項目をご覧ください」

 

 

 攻撃システム

 

 ①電波探信儀+音波探信儀+イージスシステムによる捜索及び捕捉する攻撃システム。

 音波探信儀はイージスシステムと同期しているという設定で、これは前述した対潜戦闘システムを主が参考にした結果である。

 

 外見での特徴──背部の艦橋構造物にフェーズド・アレイ・レーダー、艤装靴の喫水線下や船体を模した艤装のバウソナー。

 

 

 ②自動装填装置+発射遅延装置+火器管制装置+射撃指揮レーダー+ECCMシステムによる砲兵装やCIWS、ミサイルに関連する攻撃システム。

 自動装填装置により高速化した装填速度は主砲が毎分18発発射可能。電探と連動した射撃指揮レーダーと火器管制装置は副砲やCIWSの迎撃精度を向上、ECCMシステムはミサイルのアンロックに対処でき運用を容易にしている。

 

 外見での特徴──艦橋構造物のパラボラアンテナ、回転式レーダーアンテナ

 

 

 ③暗視装置を主軸とした夜間戦闘システム。

 熱源視界を得ることで夜間でも制限を受けず活動が可能になっている。

 

 外見での特徴──例影縫の多目的電子ゴーグル、三原の眼鏡型ディスプレイ

 

 

 防御・ダメージコントロール

 

 ④防御重力場+自動消火装置+応急注排水装置

 原子炉はエネルギー源として許容量を突破しない限りは飽和するまで維持でき、ダメージコントロールは船体が断裂でもしない限り有効なほど。

 

 

 船体

 

 ⑤艦前部エンクローズドバウ+トンネルスラスター、艦後部フィンスタビライザー

 艦首部分の凌波性、耐久性を確保するために一体型とし、トンネルスラスターにより針路の微調整、操舵性の向上を図っている。

 また艦載機運用のため安定性に優れるフィンスタビライザーを装備しており、着艦作業を安全に行うことが可能である。

 

 外見での特徴──例諏訪の艤装靴の一体型艦首、踵部分の安定翼。

 

 

三原「若干補助兵装以外も混ざってますが、以上が補助兵装までの内容になります」

 

主「ありがとうございます。これで、大体説明するところは終わりです」

 

諏訪「長かったですね、リアルではこれ書き上げるのに3ヶ月くらいかかってますし」

 

主「グサッ! し、しょうがないでしょう。これを書きながらもうひとつの小説含めて何話か投稿してたわけで」

 

三原「でもそれだって投稿が滞ってたのでは? もう一周年経ったのに」

 

主「グサ、グサッ! わ、分かってます。これから何とかペースを」

 

諏訪「それ言うの何回目でしょうね」

 

主「クリティカルヒット! もう、分かんないです」ズーン

 

諏訪「……流石に、少しやり過ぎましたね」

 

三原「確かに、主さん。そろそろこの回は締めにしますよ、今のは悪かったですから」

 

主「……そうですね。じゃ、締めましょう」

 

三原「今回は艤装の設定について説明し切れなかった分を補完する形でしたが、何か疑問などあれば感想欄に書き込んでいただければ幸いです」

 

諏訪「小説の投稿は遅れることあるけど、必要な場合活動報告に書き込むと思うので前書き、あとがきで告知してたらのぞいてくださいね」

 

主「読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました! 次回もお楽しみに!」



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第1話 漂泊の艦隊 

予告通り、書き貯めた話を投稿します。以前投稿した話を再編したものです。細かいところは変更になってますので、設定集も改めて投稿することになります。


 

 

 波の音がする。

 

 穏やかな、それでいて懐かしくて、切なさを思い出すような音が。

 それと同時に薄いが、自分に感覚があることを知覚した。

 

 ゆっくりと瞼を押し上げる。

 

 意識は覚醒して間もないからか視界ははっきりせず、暫く一点を見つめていた。

 

 やがて視界が少しずつ明瞭になり、自分を見下ろす人物が目に入った。

 

 

「っ……!?」

 

 人物の顔を見た途端驚愕した。それもそのはずだった。その人物が見たことのある容貌をしていたからだ。

 

 

「ようやくお目覚めのようですね、諏訪さん(・・・・)

 

 見下ろす人物は女性だった。

 

 薄い茶色の髪を左右に分けた髪が陽光に照らされ、眼鏡を掛けた様子は知的な印象を受ける。

 

 名前を呼ばれた自分───諏訪は目の前の人物を知っていた。

 ぼんやりしていた視界がクリアになった時点で過去の記憶が呼び起こされた。

 

 自分の名前は、諏訪。

 

 諏訪型重武装装甲航空護衛艦一番艦諏訪。

 

 日本で既に就役していた伊勢型航空戦艦の発展型であり、護衛艦という名目で“ある物”に対抗する為に建造された極秘艦だった。

 

 目の前の彼女も記憶にある顔立ちをしていた。諏訪の知る限り、特徴の一致する人物は一人しかいないはずだった。

 

 

「……ブラウン大尉?」

 

 思わずその名を口に出した。それほどまでに、目の前の彼女は余りにも似すぎていた(・・・・・・・・・・)

 

 そんな諏訪の問いに女性は苦笑して、首を振った。

 

 

「もしそうだったとしたら、光栄だったのですが正確には違います」

 

 諏訪の問いを否定してから続けた。

 

 

「私の名前は三原。

あの戦争(・・・・)の初期に建造されて、貴女の随伴艦として行動した兵装試験双胴巡洋艦三原です」

 

 ブラウン大尉に顔が瓜二つの女性は三原と名乗った。未だに困惑する諏訪に次の言葉をかける。

 

 

「取り敢えず、起きれますか?」

 

 そう聞かれてから上体を起こすと、自分の体を見下ろすと再び驚愕した。

 

 白を基調としたウィルキア王国海軍近衛士官服、さらに胸は豊かな膨らみが双丘を作り、腰には水色のポーチが取り付けられている。

 

 更に足元を見れば水面があり、そこには女性の容姿をした自分の顔が写し出されていた。

 

 

「これは、艦長達が着ていた近衛士官服? ……それにこの体は女性の?」

 

 自分の着る服や容姿に理解が追い付かず、諏訪は困惑した。

 

 そんな諏訪に三原が声をかける。諏訪は三原の方に視線を向けると、やはりそこにいたのは自分の知るブラウン大尉と同じ、緑色の軍服の上から白衣を身に纏った女性だった。

 

 

「自分の姿を見て困惑するのも無理はないでしょう。

私も最初は驚きましたが、その後すぐに分かったことがありました」

 

 そう前置きした三原は眼鏡のズレを直す。

 

 

「説明するより見てもらった方が早いでしょう。少しお待ちを」

 

 三原は腰を上げて立ち上がり、胸に手を当てる素振りを見せる。

 諏訪もそれに倣うように立ち上がると足元でぱしゃっ、と水の弾ける音がした。

 

 次いで足元に視線を向けると、自分の両足に金属の部品で組み立てられた、靴のような物を履いていることに気づいた。

 

 更にそれを中心に自分の足元の水面(・・)で波紋が広がっており、周囲には見渡す限りの青い海原が広がっていた。

 

 次の瞬間、三原の体を白い光が包む。

 

 光が収まり、三原の姿を見たとき諏訪は再び困惑した。

 

 白衣を着ているのは先程と変わらないが、その上に纏った物体(・・・・・・・・・)が明らかに違った。

 

 彼女の腰回りに装着した固定具、その左右に連結した基部には灰色の角張った連装砲塔──A G S(Advanced Gun System)連装砲が各二基、全四基八門が背負い式に配置されていた。

 

 次に注目したのは両足に装着した大型の3連装魚雷発射管だ。当時の日本海軍が配備していた61cm魚雷より強力な68cmで、連装数も一基辺り3門だがより強力な誘導魚雷だ。

 それが両足に二基ずつ、計四基を重ねて装着している。

 

 彼女の特徴はそれだけではない。AGSが配置された基部には細長い単装発射管、特殊弾頭『グングニル』誘導魚雷が四基装備されていた。これは諏訪型護衛艦に装備されていた特殊弾頭『ゲイボルグ』を改良し、着弾点を中心に広範囲を吹き飛ばす特殊弾頭魚雷として駆逐艦、巡洋艦向けに改良した装備だった。

 

 

「突然私の姿が変わったのを見て、驚かれるのも無理はないでしょう。

とは言え私が自分の素性について知ることができたのは、私の艤装の中に居る妖精達(、、、、、、、、、、、、)によるものなんです」

 

 三原は言うと右側に装備した物体────艤装の艦首部分を叩いた。

 すると艦首部分両側のハッチが開き、その中から見た目数十㌢程の2頭身の小人がわらわら出てきた。

 

 

「彼女達は私の艤装から出てきて妖精と名乗りました。私達のような人間の女性と同じ姿をしながら艦としての記憶を持った存在、妖精達はそれを艦娘(、、)と呼んでいるようです」

 

 三原がそう説明した直後、艤装から出ていた妖精達はコクリと頷いた。

 

 

「では次に、諏訪さん。貴女の艤装を展開して見せてほしいと思います。よろしいですか?」

 

「良いけど、展開と言ってもどうやって?」

 

「イメージするんです。自分が艦船だった頃の自分を。そうすれば、貴女の魂から艤装を引き出すことができる。少なくとも、妖精達はそう言っていました」

 

 三原が説明を終えて諏訪は頷き、三原が展開した時のように自分の胸に手を当てる。

 

 イメージするのは自分が諏訪型重武装装甲護衛艦の一番艦として日本で建造されて、シュルツ艦長達ウィルキア近衛艦隊に接収されてから解放軍主力艦として、短くも長く感じた一年を戦った記憶。

 

 諏訪にとっては艦としての初陣であり、世界の海を駆け抜けた長い旅路の始まりとなった横須賀脱出。

 

 シュルツ艦長達の祖国ウィルキア王国がヴァイセンベルガーによってウィルキア帝国と名を変えて、世界に宣言を発した後参加した通商破壊部隊との戦いや、それに続くハワイ防衛戦と撤退。

 

 三原を僚艦に初の超兵器戦を経験した超兵器巡洋戦艦ヴルベルヴィントや、バミューダにおける解放軍本隊の離脱を援護した超兵器潜水艦ドレッドノートとの戦闘。

 

 そこまで記憶を引っ張りだした頃、諏訪の体を三原の時と同じ光が包んで眩しさに反射的に目を瞑る。

 

 閉じた瞼越しに光が収まったのを自覚して目を開けると、変化した自分の姿に目を見張った。

 

 腰には先程まで身に付けていた水色のポーチはなく、代わりに腰の固定具と連結した巨大な大口径砲──50.8cm3連装砲が水平と垂直で2基6門を右側に装備していた。左側にも同様で特徴的なアングルドデッキを備えた飛行甲板が装備されている。

 

 更に自分の片手には、ボウガンのようなものが握られていた。

 

「それが諏訪さんの艤装……。やはり人の姿に合わせた配置になるようですね。

 私や、他の二人と同じように(、、、、、、、、、、、)

 

「他の二人?」

 

「貴女の、妹達ですよ」

 

 三原はにこりと、母親のような微笑みを浮かべて告げた。そして諏訪もまた、三原の言葉で悟った。

 

 

(まさか、この近くにいる?

私の同型艦であるあの子か、私の発展型の子達が……!)

 

 諏訪の記憶する限り、自分の妹に当たる艦は4隻しかいないはずだった。

 そしてそのうちの2隻がここにいるかもしれない。

 

 

「少々お待ちを、今あの子達を呼びます」

 

 それだけ言って、三原は自分の手前に片手を翳して立体的なディスプレイを出した。

 何やらキーを打つように指を動かしている。そしてディスプレイを消した三原が水平線の向こうを見つめた。

 

 

「後少しすれば、あの子達が来ますよ」

 

 水平線の彼方を見つめたまま三原が言う。諏訪も三原の視線の先にある水平線を見つめた。

 

 すると水平線の向こうから光の屈折で滲み出るように黒い影が現れ、輪郭が徐々にはっきりした頃には2つの人影となった。

 

 人影の一人は金髪ロングの髪型をした女性───おそらく艦娘で、諏訪と同程度の口径と思われる大型の艦砲を3基装備した艤装を背負っている。

 左腕には艦尾部分にヘリポートを載せた艤装を着けていた。

 

 もう一人は隣の人影に比べれば小柄な体格の狐色の髪をした艦娘で、右腕に装備した灰色の無機質な艤装には三原の203mmAGSに似た3連装砲塔が2基、背負い式に並んでいた。

 

 水平線から並走しながらこちらに来た二人は、諏訪と三原の手前で停止して一人が前に進み出た。

 

 

「付近の海域数十キロに渡ってシーホークを索敵に出していますが、今のところは何も発見できませんわ」

 

「ご苦労様です、"十勝"。

諏訪さんがお目覚めになったので、"影縫"と共に挨拶を」

 

「分かりましたわ」

 

「はい!」

 

 三原の言葉に二人がそれぞれの返事をして、十勝と呼ばれた女性は金髪を靡かせて諏訪に向き直る。

 

 ただ、その顔には後悔と不安の表情が浮かんでいた。

 

 

「改諏訪型重武装装甲戦艦十勝です。またこうして嬉しいですわ、諏訪お姉さま。ただ……」

 

 十勝は一度そこで区切り、躊躇うように間を置いて再び口を開いた。

 

 

「諏訪お姉さまがここにいると言うことはつまり、わたくし達と同じように沈んだ、ですのね」

 

「……えぇ、そうね」

 

 思わず、言葉を濁らせた。それは、今十勝の想うところを察したからだ。

 そんな様子を見せる諏訪に、十勝は更に苦しい表情を見せて次の言葉を紡いだ。

 

 

「ごめんなさい、諏訪お姉さま……!

せめて戦いが終わるまでわたくしが沈まなければ、諏訪お姉さまが沈まずに済んだかもしれないのに、わたくしの力が足りないばかりに……!」

 

 十勝が口にしたのは悔しさと、自責の感情を含んだ言葉だった。

 

 十勝は最後の戦い───北極海における決戦で究極超兵器フィンブルビンテルに同航戦を挑んでまで打撃を与えようとして、最後には撃沈していた。

 

 十勝が口にしたのは、諏訪より先に沈んで姉である自分を守れなかったことに対する後悔だろう。

 

 だがそれを否定するように、諏訪は首を横に振った。

 

 

「それは違うわ。あの敵は、あまりにも強大だった。寧ろ十勝はよくがんばってくれた。

一隻でフィンブルビンテルの攻撃力を削いでくれたし、充分よくやったわ。それに、どのみち私が沈むのは決まっていたのよ。

ウィルキアは戦後を復興に予算を割かれて軍の再編の目処は当分立たないことは明白で、私は修理されずに解体か自沈処分にされるのは避けられないと思ったから」

 

「ですが……それでも、わたくしは!」

 

 諏訪の言葉はウィルキアの戦後を考えた正論だったが、それでも諏訪を最後まで守れなかったことが十勝は悔しさと無念から我慢できないのか、瞳から頬を伝う流しながら否定した。

 

 十勝は諏訪型の発展型である改諏訪型として建造されたが故に、人間の女性の姿で目覚めてから姉である諏訪に複雑な想いを抱いていた。

 

 諏訪にも、それは理解するところだった。諏訪型は、あの戦争でウィルキア解放軍の精鋭だった。

 

 ただ、あまりにも兵器として業が深い存在だった。

 

 

「十勝」

 

 諏訪は名前を呼んで無意識の内に海面を滑るように動いて十勝に近寄る。

 

 そして気づいたら、十勝を抱き寄せていた。

 

 

「え……っ?」

 

 諏訪の突然の行動に十勝は間の抜けた声を漏らずが、それに構わず次の言葉を紡ぐ。

 

 

「実はね、私はフィンブルビンテルが撃沈した後も、まだ沈んでなかったの。

でも機関をやられて、航行は不可能だったのよ。シュルツ艦長はウィルキアの今後を考えた末に、私を自沈処分にしたわ。

 

でもね、私はそれでもよかったの。

 

あの戦争で世界中の海を駆け巡った。

 

帝国の支配下だった日本を解放した。

 

シュルツ艦長の祖国を解放した。

 

最後には北極海でフィンブルビンテルと戦って、影縫と三原と十勝が沈んで私とここにはいない淡路の飛行隊も殆どのパイロットが戦死した」

 

 そこで区切って息をひとつ吐き、続ける。

 

 

「払った犠牲は余りにも大きかった。けれど、それでもシュルツ艦長達の守りたかった未来を守れた。

フィンブルビンテルを倒したあとの仮そめの平和かもしれない、でもその時点で私の、軍艦としての役目を既に終えたのよ」

 

「お姉、さま」

 

 諏訪は先程まで腕に抱いていた十勝から体を離し、更に言う。

 十勝に向けて言うべき、自分の本心を。

 

 

「だから、北極海で沈んだことにそれほど強い後悔はないの。寧ろちょうどよかったかもしれないわね。

またこうして、人間の女性の姿とは言え三原と妹である十勝達に会えたのだから。

だから、ありがとう。また私と会ってくれて」

 

「! ……お姉さまぁっ!」

 

 感極まった涙声と共に自分から諏訪に抱きついた十勝は、それから数分間泣き続けて諏訪はそれを受け止めた。

 

 その様子はどこか泣いた子供をあやす母親のようだと、三原はそう思いながら微笑んでいた。

 

 

 

「すみませんお姉さま、涙で服を濡らしてしまいましたわ」

 

「別にいいわよ、大して濡れなかったし」

 

 たっぷり数分間泣き続けてその間諏訪の腕の中で泣いていた為か、

 申し訳なさそうな表情を浮かべる十勝に何でもないように言うと諏訪は、

 その場の空気を読んでいたらしく沈黙を守っていた小柄な艦娘に話しかけた。

 

 

「今まで放置してごめんなさい。取り敢えず自己紹介をお願いできるかしら?」

 

「はい!」

 

 諏訪のお願いに影縫と思われる艦娘は元気のいい返事をした後、自己紹介を始めた。

 

 

「軽諏訪型強襲駆逐艦影縫だよ! また諏訪姉さんと一緒に艦隊を組めるなんてボクも嬉しいよ。これからもよろしくね!」

 

 ハキハキとした口調で元気に話すその様子は、活発で無邪気な性格と言う印象だった。

 

 

「こちらこそお願いね。この姿になって目覚めてから時間がそうたっていないから、少しの間頼りにさせてもらうわね」

 

「では二人の自己紹介も終わったところで次に進みたいと思います。諏訪さん」

 

 こほん、とひとつ咳払いして三原は話した。

 

 

「私も含めて、影縫と十勝のヘリを使って周辺海域を捜索しています。

今のところ現在地が太平洋のどこかである以外、何も分かっていません。

我々の動力源は原子炉で燃料の心配は殆どありませんが、何かあったときに補給なしで耐え続けるのは難しいでしょう。友軍と合流出来る地点まで移動した方がいいと思います。

諏訪さん」

 

 三原は間を少し置いて、決意の色を宿した瞳で諏訪を見据え言った。

 

 

「私達の、一遊戦の旗艦になってくれませんか?」

 

 三原の言葉に影縫と十勝が、不安と期待が混じった表情で視線を諏訪に送る。

 

 

「……本当に、私でいいの?」

 

「はい、諏訪さんにお願いしたいと思います。あの戦争で、間違いなく私達の旗艦は諏訪さんでしたから」

 

 三原の言葉を聞いて、諏訪は目を閉じる。

 

 第一遊撃戦隊、通称一遊戦やシュルツ艦隊とあの戦争で呼ばれたあの頃は確かに旗艦だった。

 だから三原達がそれを望むのは、当然と言えた。だがそれでも、諏訪に不安が無いわけではなかった。

 

 第一遊撃戦隊は北極海でフィンブルヴィンテルと決戦に臨み、影縫を始めとして三原と十勝が轟沈していた。

 

 更に淡路と自分に所属するパイロット達が、冷たい海にその命を散らしていった。

 

 先程は十勝にああ言ったものの、あの決戦で払った犠牲はあまりに大きすぎた。

 その事実が、旗艦だった諏訪に不安を与えていた。

 

(みんなは私が旗艦になるのを望んでる。

でもあれだけの犠牲を払って、この姿になっても同じことにならないとは限らない)

 

 自分が旗艦で本当にいいのか、またあの悲劇が起きてしまうのではないか、そんな懸念が諏訪を迷わせていた。

 

 だが諏訪はそれとは別にふたつの想いを抱いていた。

 

 それは、例え名目上でも護衛艦と言う、友軍を守る軍艦の名を与えられた事への誇り。

 

 それは、シュルツ艦長の乗艦として、近衛艦隊(ガーズフリート)所属艦としてウィルキア解放の為に世界の海を駆け巡った想い出。

 

 そのふたつが意味するところは、一遊戦旗艦としての誇りと意思。

 

(こんな私でも、一遊戦の旗艦として振る舞うことが許されるなら、私は……!)

 

 胸に秘めた決意の色を瞳に宿した諏訪は、この場にいる一遊戦の面々を見渡してから言った。

 

 

「分かりました。私は、一遊戦の旗艦を引き受けます」

 

 諏訪が宣言した直後、影縫を最初に喜びと安堵の表情でそれに答えてきた。

 

 

「やったぁ! これでシュルツ艦隊の再編だねっ、ボクも姉さんの随伴艦として精一杯頑張るよ!」

 

「わたくしは信じてましたの、諏訪お姉さまなら旗艦になってくださるって!」

 

「これで今後諏訪さんが旗艦に固定ですね。やはり、これでこそ一遊戦です」

 

「ではさっそく移動しましょう、まず私も偵察機を飛ばして、」

 

 諏訪が号令をかけ、自分のとるべき行動を言おうとしたときだった。

 

 

「! 捜索に出したシーホークより入電、『周辺海域ヲ航行スル船舶ヲ発見、ソノ付近デ戦闘アリ』ですわ!」

 

 立体的なディスプレイを見ながら報告する十勝の声が周囲の広大な海原に響き渡り、

 自分達の程近い海域で戦闘が発生したことを報せた。

 

 それはつまり、戦争が起きているということだった。

 

 




明日も次話を投稿します。投稿した時間から約二時間後には夏イベですが、少しの間様子を見たいと思います。夏イベに参加する提督の方もそうでない方も攻略にレベリング、資源収集頑張っていきましょう(^_^)/~~


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第2話 初陣

今日も続けて投稿です。

それと試しに夏イベE-1を乙でやってみましたが、ギミック解除は意外にすんなり行けました。ただ、その後のゲージ削りと破壊が本番かもしれませんが
(もはや経験則)


「十勝、貴女のシーホークで空撮映像をこっちに回せるかしら?」

 

「分かりましたわ!」

 

 三原は先程と同じように立体的なディスプレイを呼び出し、十勝もディスプレイを操作する。

 

 諏訪はふと気になり聞いてみたが、軍艦だった頃に使えたデータリンク等の装備も使用可能で、こちらもイメージすればいいようだ。

 

 艤装を展開した時とは異なり、思い起こすのは艦長達の戦闘時に指揮を執っていた薄暗いCICの内部。

 

 他の艦と共有する戦術情報を把握し報告する戦術情報区画。

 

 対艦対空対潜と分かれた管制区画。

 

 ADS(イージス・ディスプレイ・システム)の大型スクリーンや艦長用コンソールと司令官用コンソールが配置された指揮管制区画。

 

 艦載機への指示を管制する航空管制区画。

 

 そこまでイメージした所でディスプレイの呼び出し方が分かったので、三原達と同じように呼び出してみる。

 

 

「……何よ、これ?」

 

 諏訪が呼び出したディスプレイに映る映像を見て、いの一番に出た言葉がそれだった。

 

 まず目に映るのは客船に似た船舶で、純白の生地に赤く塗り潰した円とそこから放射状に伸びる光線が描かれた旭日旗───つまり日本海軍に所属する船舶だと分かった。

 

 更にその周囲で動き回る人影、一人一人が容姿と服装が異なるが艤装と思われるものを装備しているため、自分達と同じ艦娘であると推測できた。

 

 だが、その次の存在が問題だった。

 

 ひとつは鯨のようにも見えるが口と歯しか見えず、青白く目が光り不気味な印象を受ける。それは数える限り数十体はいた。

 

 更にそれを率いる個体はそれを3つ繋げたような外見をしており、各部から赤い光を纏っている。

 

 そしてそれらを指揮するような素振りを見せている個体は、異様に目立つ歯の生えた口を帽子のように被った魔女のような外見で、帽子の口からは黄色の光が怪しく揺らめいている。

 

 その上空を白い球体に悪魔の顔が浮かんだような不気味な物体が飛び回っており、恐らく爆弾を投弾しているのだろう、海面に着弾した側から爆発を起こしている。

 

 

「私達艦娘とは異なる存在のようですね。形態も人型に近いタイプもいますが、そうでないタイプもいるようです」

 

「えぇ、そうね……」

 

 三原の考察に諏訪は頷いた。たった今自分の考えていたこととまったく同じだったから。

 

 

「恐らく、あの船舶と艦娘達はあの異形の存在に追われています。

映像を見る限り上空を飛行する異形の物体は航空機と思われますが、艦娘に空母に相当するクラスがいません。

更に中破以上の損害を受けた艦娘が大半で後は小破しているため、損傷の無い艦娘は皆無です」

 

 そうなると相手が異形の物体にしろ、撤退しながら航空機に対処するのは困難だ。

 あの異形達がどこから来たにせよ、勢力圏から逃げる前に壊滅の危険すらある。

 

 

「十勝、戦闘が発生しているのはここからどれくらいの距離かわかる?」

 

「ここより東の海域、200kmの地点ですわ!」

 

「200km、私達の速力なら直ぐに着くわね」

 

「諏訪さん、では?」

 

 三原の問いに諏訪は頷く。

 

 

「三原、私達は数時間前まで近衛艦隊として戦っていたわ。そしてそれは現時点で変更していない。三原達も同じ考えだと解釈していいわね?」

 

「はい、私達一遊戦は現時点では未だ近衛艦隊の所属です」

 

「わたくしも同じですわ」

 

「ボクも!」

 

 諏訪の質問に淀みなく返事をする三人。

 

 恐らく諏訪の言いたいことは既に分かっているのだろう、次に出る言葉を待つように諏訪に注目していた。

 

 

「恐らくあの船舶と周囲の艦娘は日本に所属する艦隊で、攻撃を受け窮地に至っています。よって我々第一遊撃戦隊は同盟国である日本艦隊の救助に向かいます!」

 

 諏訪の決断に三原達は「了解!」と応え、三原は諏訪に指示を仰いだ。

 

 

「それで諏訪さん、作戦の内容は?」

 

 三原は期待と緊張が混じった表情で聞いてきた。

 

 恐らく彼女にとって諏訪が旗艦として指揮をとることによる期待と、この姿になって初めての実戦に対する緊張によるものだろう。

 

 諏訪は緊張を解すように明るい口調を意識しながら話した。

 

 

「大丈夫よ、私達にとってはこの姿になって以来初めての実戦だけど、実戦はこれが最初じゃないわ。

あの頃と同じようにやればいいと思う。だから、頑張りましょ?」

 

 諏訪のその言葉に三原は目を見開いた。

 

 もしかすると三原にとって、諏訪のその発言は意外だったのかもしれない。そして少し表情を緩めて答えた。

 

 

「了解」

 

 短い一言だけだが、それが三原の性格を表しているようにも感じ取れたので言及しないことにした。内容の説明に入る。

 

 

「作戦の内容はこうよ。まず私の艦載機で第一次攻撃隊を編成、日本艦隊と交戦する敵性勢力を攻撃。

それに合わせて三原と影縫で先行して交戦、可能なら殲滅して。

私と十勝はその後方から続く、内容としてはそこまで複雑じゃないわね。ここまで意見のある人は?」

 

 そこまで言って全員を見渡すと直ぐに返事があった。

 

 

「いいんじゃない? 少なくとも航空攻撃可能なのは姉さんだけだし、ボクと三原姉さんならグングニルなしでダメージは与えられる訳だし」

 

「ゲイボルグやグングニルは強力ですが、友軍まで巻き込みかねない以上使用には注意が必要ですからね」

 

「それにお姉様の護衛ならわたくしに断る選択肢はありません、是非やらせていただきますわ!」

 

 三者三様の返事は諏訪の聞く限り反対意見もないようだ。

 

 

「なら私の艦載機を発艦させてから移動を開始します。少し待ってて」

 

 三原達にそう告げて諏訪は飛行甲板に手を伸ばした。

 

 艦載機の発艦手順は何故かは分からないがハッキリと理解していた。

 

 左腰に接続された飛行甲板ユニットの艦尾部分から艦載機が入ったマガジンを取り出す。

 マガジンは機種毎に用意されていて、取り出したいと思えば望んだ機種のマガジンが艦尾部分右側面から排出される。飛行甲板ユニット自体がマガジンラックと同じのようだった。

 

 取り出した震電改のマガジンをクロスボウに取り付け、前方の海上に向けた。

 

 

「第一次攻撃隊、発艦!」

 

 号令と同時に引き金を引き、マガジンの矢は射出されると同時に衝撃波を周囲に拡散させる。

 

 射出された矢は緩い放物線を描いてから紅蓮の光を迸らせ、次の瞬間には濃緑の塗装がされた異色の機体、震電改が複数出現した。

 震電改は機体の尾部にターボジェットエンジン一基を搭載し、機関砲、バルカン砲を2門ずつ計4門機首に集中して装備したプッシャー式の機体だ。

 加えて主翼が通常のレシプロ式戦闘機より後部にあるエンテ型で、ジェット戦闘機としては先進的だったその性能は、前世で開戦当初の太平洋戦線や欧州でのゲイルヴィムル作戦で機種更新するまで制空戦闘を支えた優秀な機体だった。

 

 それからは震電改のマガジンを再装填して発艦させた後、違うマガジンを取り出して同様の手順で発艦させていく。

 

 震電改に続いて取り出したのは同じターボファンジェットエンジン搭載の攻撃機橘花改、爆撃機火龍、そしてレシプロ機の偵察機彩雲だ。

 

 橘花改と火龍は用途と大きさが少し違う以外は外見上の差異はなく、2基のターボジェットエンジンを後退翼に懸架した機体だ。単発の68cm酸素魚雷を超える強力な航空魚雷と、61cm主砲75口径一発に迫る威力の1500lb(ポンド)爆弾は不足しがちな諏訪型護衛艦の火力を充分以上に補っていた。

 

 最後に彩雲だが、レシプロ機としてはかなりの高速機体だ。加えて対水上、対空捜索レーダー。潜望鏡深度なら捕捉可能な対潜レーダーを搭載している。行動半径1500kmを索敵範囲として解放軍の貴重な目となり、敵艦隊や超兵器の先行偵察等で活躍した。

 

 それらも射出された直後に上空の震電改と合流、諏訪の意思に従って彩雲を先頭に、東の海域を目指して大気を切り裂いて翔んでいった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 諏訪が第一次攻撃隊を送り出した頃。

 

 その東の海域、ミッドウェー島より北西約二百kmの洋上で日本の艦隊───MI攻略作戦鎮守府連合撤退支援部隊は海と空から攻撃を受けながら必死に撤退を続けていた。

 

 

「比叡ッ! 敵機がそっちいったデース!」

 

「了解! このぉーー!」

 

 上空を飛び回る敵の艦載機を激しい回避運動をとりながら艦娘達が弾幕を展開する。

 

 彼女達の所属は日本国防海軍、それに属する鎮守府と呼ばれる場所だ。

 

 AL・MI攻略作戦のため日本の横須賀鎮守府を中心に、各地から戦力を抽出した攻略艦隊として作戦に参加していたが、早期に作戦が失敗し主力である空母の悉くが戦闘不能の損害を受けた。他の主力の艦娘も損害の薄い部隊を殿として撤退を開始していた。

 

 そして彼女達の敵対する勢力は人類によりこう呼ばれていた。

 

『深海凄艦』

 

 1980年代前半に最初の個体が出現して貨物船が撃沈される事件が発生するが、当時米国を含む主要国はテロリストの犯行だと判断した。

 

 だがそれから民間船舶の撃沈が相次いで起こり米国は艦隊を動かして調査するが、調査に出た艦隊からの交信が途絶えしばらくは船舶の撃沈は発生しなかった。

 

 その数年後1980年代後半に太平洋の国々を結ぶシーレーンに突如正体不明の勢力が出現、米国はハワイを拠点とする太平洋艦隊で攻撃するが通用せず壊滅的な被害を被った。

 

 それから間もなくしてハワイは制圧されて太平洋艦隊は残存部隊を西海岸へと撤退、米国はこの正体不明の勢力を何もない洋上に現れたことから深海凄艦と呼称した。

 

 深海凄艦は他の地域でも同様に各国の海軍力を奪い制海権を掌握、人類は陸地に追いやられた。

 

 その直後同じように海から艤装を身につけた少女達が出現し、深海凄艦を攻撃し始めた。

 

 彼女達艦娘についてはこれ以上は割愛するが、今回行われた作戦はミッドウェー島、アリューシャン列島を同時に攻略する作戦だったが早期に攻略のための機動戦力が甚大な被害を被った。

 

 そして彼女達MI攻略作戦鎮守府連合艦隊はまだ損害の少ない部隊を集めて撤退支援部隊を編成、殿として交戦し勢力圏から逃れようとしていた。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 悲鳴と共に佐世保第2鎮守府の軽巡洋艦名取が敵機の至近弾で衣服を吹き飛ばされ、中破相当の損傷を受ける。

 

 

「名取さん!」

 

 損傷を受けた名取に同じ佐世保第2鎮守府の駆逐艦陽炎が弾幕を上空に向けて展開しながら駆け寄った。

 

 撤退を開始して当初はまだ損害は小さかったが既に大破して艦娘待機船『海洋丸』に帰還した艦娘が数隻出始めている、このままでは全滅の可能性もあった。

 

 

「でえええーい!」

 

 重巡洋艦摩耶も弾幕を展開するが、敵機は彼女達がそれまで交戦した経験のあったものより性能が数段上で思った以上に数が減らせなかった。

 

 

「対空電探に反応、新手の敵機、来ます! 東の方角10km、数は200以上です!」

 

 弾幕を展開していた駆逐艦白露が悲鳴染みた声で報告した。

 

 見れば東の方角から新手の敵機群が近付いており、もしかすると他の空母を中核とする艦隊が差し向けたのかも知れなかった。

 

 ただでさえ上空を数十機以上の敵機を相手にして損害が増え続けて、更に200以上の敵機が増援として飛来する。

 

 そんな絶望的な状況でそれでも抵抗を続けようと彼女達が覚悟を決めた時だった。

 

 

「! 対空電探に反応、西の方角からです! 数は40以上、接近中!」

 

 駆逐艦白露の続いての報告に撤退支援部隊旗艦金剛は舌打ちした。

 

 

「また新手のENEMYデスカ!?」

 

「分かりません! でも、西の方角は本隊が撤退した方です! もし敵機なら、本隊は……!」

 

 絶望的な状況下で冷静な対応が難しくなった金剛の剣幕に、白露は自分の予想する最悪の展開を言う。

 もし西の方角から来たのが敵機なら、本隊の進路に先回りした機動部隊が本隊を壊滅させ、こちらに攻撃隊を差し向けたことになる。正に最悪のシナリオだった。

 

 だが、実際には本隊の進路に深海凄艦の機動部隊が先回りした訳でも、本隊を壊滅させて送り込んだ攻撃隊でもなかった。

 

 西の方角から飛来する機体は日本軍機に一般的な緑色に塗装された胴体、更には主翼を持った航空機で深海凄艦の艦載機でないのは彼女達が視認した時には理解できた。

 

 だが形状が独特だった。

 

 小翼と思われる部位が機体前部に、機体後部に主翼が配置され軍艦としての記憶を持った彼女達にも見覚えのない代物だった。

 しかもそれは通常のレシプロ機とは思えない速度で接近、更には大気を揺らすような騒音を撒き散らしていた。

 

 しかもそれだけではなく、後から彼女達にも記憶にある形状の機体、橘花や火龍、彩雲と思われるものも続いて飛来してきた。だが、おかしい。

 最初と最後の機体はともかく、橘花と火龍は戦争末期に完成した機体で試験飛行しただけで実践配備されなかったはずだ。

 

 更にそれらが開発されて配備されたという話は聞いておらず、この状況であるのもあるが、どこの所属なのか判断出来なかった。

 

 この時の彼女達には知る由もないが、この正体不明の編隊は諏訪が発艦させた第一次攻撃隊である。

 

 レシプロ機なら平均30分かかる距離をジェットエンジンが生み出す強力な推進力でわずか10分前後で到達出来るぐらいには、200kmという距離は短いと言えた。

 

 そして諏訪の攻撃隊はそんな彼女達の困惑をよそに上空の敵機に機首を向けて加速し接近、編隊前面の機体───震電改が機首に取り付けられた30mmバルカン砲で発砲した。

 敵機は突然の展開に対応が遅れ被弾、文字通り粉砕される。粉砕された敵機の残骸とすれ違いながら急上昇する。

 

 他の敵機は突然現れた編隊を敵と認識したらしく、艦娘達の上空にいるのも含めて東より接近していた敵機群も攻撃のためのコースを取る。

 

 だが、そこからは一方的な展開だった。

 

 敵の戦闘機は速度をあげても急上昇するの機体に追い付けず、逆に急降下を許して位置エネルギーを利用した圧倒的な速度で上昇中の敵機とすれ違い、その下にいた爆弾と魚雷を抱えた機体で編隊された雷爆連合を強襲する。

 

 上空から不意を突かれた雷爆連合の機体はやはり、先程の敵機と同じように粉砕された。

 

 更にその下方海上に展開していた空母ヲ級flagshipを護衛する、軽巡洋艦ト級eliteを旗艦とする二個水雷戦隊に襲いかかる部隊があった。

 

 双発のジェットエンジンで生み出される大出力で護衛部隊の対空砲火を爆撃機火龍が掻い潜り爆弾を投弾、直撃を受けた軽巡洋艦ト級eliteは一撃で撃沈される。

 

 更にその周囲でヲ級を中心とした輪形陣を形成する駆逐艦イ級eliteも、水面すれすれまで高度を下げて接近する攻撃機橘花改が魚雷を投下。

 

 普通なら確認できるはずの航跡は航空酸素魚雷であるため見分けるのが難しく、未来位置を正確に予測した雷撃でイ級達は次々沈められていった。

 

 金剛を含めて撤退支援部隊の艦娘は誰もが呆然としてMIを拠点とする深海凄艦の追撃部隊と、正体不明の編隊の戦闘を眺めていた。

 

 いや、もはや戦闘とは言えない。そう思えるほどに一方的な蹂躙だった。

 自分達は元々MI攻略の為の水上打撃部隊や護衛部隊で、護衛対象の空母の艦娘達はそれまで確認されなかった白い球体の新型機から機動部隊を戦闘不能にするほどの損害を受けたのだ。

 

 だが目の前の正体不明の編隊はまるで蝿を叩き落とすように敵の新型機を瞬く間に撃墜し、更に護衛部隊に多数の損害を与えた。

 しかも敵の損害に対して、目立って損傷した機体は確認できず、敵の攻撃隊を全滅させた今では悠々と上空を旋回していた。

 

 先程の攻撃で護衛部隊は壊乱状態となり、それでも艦隊を統率した空母ヲ級は残存艦を連れて既に撤退していた。

 

 そんな誰もが信じられないような現実を前に茫然とする中、新たな知らせがもたらされた。

 

 

「水上電探に反応! 西の方角から2、その後方に2の4つの反応が接近しています!」

 

 駆逐艦白露の報告で呆然としていた艦娘達が我に帰り、次いで報告にあった西の方角を誰もが注視していた。

 

 あの正体不明の編隊が何であるにせよ、ここは何もない太平洋の洋上。

 艦載機であるなら母艦がいるはずで、その編隊が現れた方角に注目するのは当然と言えた。

 

 そして直ぐに彼女達は姿を現した。

 

 水平線の向こうからまず出て来たのは白衣を着た学者風の人影と、小柄な体格をした青を基調とした士官服と思われる服装の人影で、更にその後方から巨大な艤装を身に付けた人影が2つ、大きな水飛沫をあげながらこちらに向かってきていた。

 

 次に撤退支援部隊の全艦娘に聞こえるように全周波数で通信が入り、名乗りの言葉が聞こえてきた。

 

 

『こちらはウィルキア王国海軍近衛第一艦隊所属第一遊撃戦隊旗艦、諏訪型航空護衛艦諏訪。

貴女方日本艦隊の救援に参りました』

 

 

 

 ここに、異世界の最強を誇った艦隊とその旗艦、そしてこの世界の艦娘達が邂逅した。

 この時出会った二者の邂逅が何を意味するのか、この時はまだ誰も予想できない。

 

 

 ───諏訪型重武装装甲航空護衛艦諏訪以下第一遊撃戦隊。

 

 ───MI攻略作戦任務部隊、横須賀第7鎮守府・佐世保第2鎮守府連合撤退支援部隊、合流───!

 

 




細かいところとか直したいところを編集し直した感じでしたが、第3話目から変化の幅が大きくなると思います。どうなるかは今後の更新次第ですね。書き貯めたのは以上なので、遅くならないように頑張ります。


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第3話 邂逅

少し間隔が長くなってしまいましたが、2話分の編集が終わったので投稿します。

それはそうと、最近見たネットの記事に『最上発見』のタイトルがありました。
今まで海底に眠っていた彼女達が次第に見付かりつつある現在があるのも、有志を集め自前の資金で活動して来られた故ポール・アレン氏と、その遺志を継がれた同志の方達のお陰です。今後の新たな発見にも期待したいですね。

あと夏イベですが紆余曲折を経てE-1を甲作戦で突破しました。主要となる戦力の半分を投じ、資源も想定を超えて消費してしまったので次の海域攻略は断念しましたが、未だ突破できていなかった南方第3海域攻略に自信が持てました。それだけ戦艦仏棲姫が堅かったと言えますね、時雨の魚雷カットインでギリギリでしたから。

前書きだけで長々と書きたいこと書いてしまいましたが、ここからは本編です。ではどうぞ。


 

 

 諏訪達第一遊撃戦隊がMI攻略作戦鎮守府連合撤退支援部隊と接触した頃。

 

 その母船である艦娘待機船『海洋丸』では、二人の鎮守府の指揮官もまた、その通信を聞いていた。

 

 

「ウィルキア王国? それに近衛艦隊だと? どういうことだ」

 

 一遊戦の旗艦である諏訪から届いた通信の内容に、疑惑の言葉を発したのは純白の海軍士官服を着た佐世保第2鎮守府の提督、岩井 (さとる)大佐だった。

 

 

「解りません。少なくとも日本国防海軍にそんな部隊名は存在しないはずです」

 

 それに答えるのは同じく佐世保の所属で、インカムを装着した軽巡洋艦大淀だ。

 

 

「なら、何故本隊が撤退した方角からあの部隊が姿を現した?」

 

 撤退支援部隊は知る由もないが、諏訪達は彼らの丁度西の方角で本隊が通り過ぎた後突然出現した。

 

 そして諏訪が目覚めてからようやく撤退支援部隊を確認して、諏訪が攻撃隊を送り込んだだけのことだった。

 

 

「大淀、回線を開いてくれ。俺が話をしてみる」

 

 大淀に頼んだ人物は横須賀第7鎮守府の提督、蕪木翔少佐だ。

 

 提督に任命されて日が浅いものの着任してから活躍が著しいため、その能力を評価されて今回のMI攻略作戦に召集されていた。

 

 大淀は自分の上司に視線を向けると、岩井は頷いて応えた。

 

 

「了解しました、こちらをどうぞ」

 

 大淀からオンラインのインカムを受け取り、頭に装着して呼び掛けた。

 

 

「こちら艦娘待機船『海洋丸』。日本国防海軍横須賀第7鎮守府の蕪木だ。先程貴艦の名乗りを聞いたが、改めて官姓名を明らかにされたし」

 

『ウィルキア王国海軍近衛第1艦隊所属、第一遊撃戦隊旗艦、諏訪型重装航空護衛艦一番艦諏訪です』

 

「まずは、我々の艦隊の救援に駆け付けてくれたことに感謝したい。

ついては急遽貴艦と話をしたい。艦娘待機船への乗船を許可するので、応じてもらえないか?」

 

 蕪木の呼び掛けに応えて再び名乗る諏訪に、会談を要求する。

 

 

『……解りました。但し、こちらも艦娘を一人同伴させます。宜しいですか?』

 

「了解した。現場の艦娘の一人に案内させる。こちらからは以上、オーヴァ」

 

 蕪木は通信を終了して、次の通信先を大淀に頼んだ。

 

 

「次は現場にいる横須賀第7鎮守府の金剛に繋いでくれ」

 

 そう言うと大淀が通信先を設定して「どうぞ」と言い、蕪木は自分の部下の艦娘に呼び掛ける。

 

 

「金剛、聴こえるか?」

 

『聴こえてマスヨ、なんですかテートク?』

 

「護衛艦諏訪と名乗る艦娘を海洋丸に招待するから、ここまで連れてきてくれないか?」

 

『了解シタネ!』

 

「向こうは艦娘を一人同伴することを希望すると思う、そいつも一緒にな。以上だ」

 

 それを最後に金剛と通信を終えて、蕪木は自分の上官である岩井に向き直った。

 

 

「大佐、彼女達との交渉は俺に任せてもらえますか?」

 

「……内容は我が艦隊の護衛要請か?」

 

 岩井は疑問系で尋ねるが、半ば以上は確信を持っていた。

 

 

「はい。先のAL・MI攻略に失敗した本隊の撤退を支援するため、後方待機だった俺の艦隊6名と岩井大佐の12名が防衛に当たりました。

残念ながら敵艦隊の新型機に対抗しきれず、俺の艦隊は飛龍達二航戦と足柄、不知火が大破の損害を受けました」

 

「私の艦隊も似たようなものだ。12名の内、半数が傷物にされている。先の二百を超える増援と同じ規模で襲撃されたら、次は持たないだろうな」

 

「俺も同じ意見です。ですから、」

 

「我々を救援に駆け付けたあの部隊に、本土まで護衛を頼むと言うことだな?」

 

 蕪木の後の言葉を引き継いだ岩井に、頷く。

 

 とは言え本当なら、突然現れた国籍不明の部隊にいきなり護衛を頼むなど、岩井としては不安があった。

 

 

「しかし、大丈夫なのかね?我々を助けたとは言え、相手は聞いたことのないような国籍の部隊だ」

 

「充分承知してます。ですが、我々を攻撃するつもりなら深海凄艦と一緒にやれば良い筈です。

それにわざわざ通信で救援に来たと言う必要もない筈でしょうから」

 

 蕪木の意見に岩井はしばし考え始めた。

 このまま何も手を打たなければ部隊は全滅だ。だがここから敵の勢力圏を離脱するにせよ、取れる手段はほぼ無いに等しい。制空権の確保には空母機動部隊が必要だが、先に撤退した主力部隊は横須賀第3鎮守府の祥鳳が健在だが他の空母は軒並み大破している。彼女はそちらの防空を指揮しているため、こちらを支援することは困難だろう。

 撤退支援部隊も被害は深刻だった。防空を担った岩井の赤城と加賀一航戦、蕪木の飛龍と蒼龍二航戦は例外なく大破に追い込まれて戦力には数えられない。その他の水上戦力も打撃を受け、まともに戦闘が可能なのは岩井の摩耶を含めた6名、蕪木の金剛と比叡の合わせて8名のみ。とても戦闘が継続できる状態ではなく、自艦隊のみであれば全滅は必死だろう。

 

 一方で突如現れた国籍不明の艦娘、開幕で敵艦隊を強襲して撤退に追い込んだ艦載機の性能は、敵の新型機に対して一騎当千の活躍を見せた。艦載機であの性能、しかもまだ諏訪達の実力は未知数だ。蕪木の言う通り、敵対の意思があるなら同時に殲滅できたはず。少なくとも彼女達に敵意はないかもしれない。

 

 そして蕪木は金剛達を接触に向かわせた。第7鎮守府のドロップ艦として向かい入れる事が出来るかもと判断した行動だろう。どうみても曰く付きな艦娘ばかりだが、それを受け入れたのは蕪木にとって初めてではないだろう。

 現に蕪木の第7鎮守府には、既に曰く付きの艦娘が3名在籍している(・・・・・・・・・・・・・・・・)。それも提督候補生だった頃からの縁で、それが関係して蕪木はある高官からは有望株と評され、ある高官からは妬まれている。周囲を取り巻いてる環境は複雑だが、根本的な原因は彼を提督に誘った人物にもあるため、過去に何度も便宜が計らわれてきた。今回にしても同様だろう、悪いようにはなるまい。

 

 そこまで思考を纏め、やがて決断した。

 

 

「良いだろう、君の判断に任せる。彼女達を受け入れることでこれから大変になるだろうが、困ったときは私も力になろう。好きにやりたまえ」

 

「ありがとうごさいます……」

 

 感謝の言葉を述べて蕪木は敬礼した。

 

 だが彼の表情には、僅かに陰りがあるのをその場に居るものは誰も気付くことはなかった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 

 蕪木が自分の部下である艦娘、金剛型戦艦一番艦金剛に案内を頼んで通信を終えた頃、諏訪は会談の為に一遊戦の面々と相談していた。

 

 

「……というわけだから、一緒に来てくれるかしら」

 

 相談の内容は諏訪が会談に出向く際に同伴することだった。

 

 恐らく相手からは本土までの護衛を要請して来ることは、諏訪にも予想の範囲だった。

 だが相手が同盟国である日本の艦隊とは言え、国家間の政治的な判断が必要になるかもしれないため、艦娘一人の同伴を認めさせたのである。

 

 そしてその同伴する艦娘が、

 

 

「解りました、諏訪さんに従います。それに私も少し、気になることもありますからね」

 

 三原に決まった。それにその言葉には諏訪も同じ意見だった。

 

 気になることと言えばあの異形の存在だ。明らかに艦娘とは違う意匠の艤装、更には艦娘に敵対行動を取っていた。

 

 それを抜きにしても今自分達は余りにも状況が把握出来ていない、早急に情報を集める必要が有るだろう。

 

 

「Hey、You達! ちょっとイイデスカ?」

 

 声がした方へ振り向くと、巫女装束のような格好をした艦娘二人がこちらに近寄ってきていた。

 

 

「貴女方は?」

 

「自己紹介が遅れたネ! 日本国防海軍横須賀第7鎮守府に所属してる高速戦艦コンゴウクラスのネームシップ、金剛ネ!」

 

「同じく、横須賀第7鎮守府に所属する金剛型二番艦比叡です!」

 

 それぞれ順番に金剛、比叡と名乗った二人に諏訪達も自己紹介する。

 

 

「私は諏訪型重装航空護衛艦一番艦諏訪です」

 

「ボクは軽諏訪型強襲駆逐艦影縫だよ」

 

「兵装試験双胴巡洋艦三原です」

 

「わたくしは改諏訪型重装戦艦十勝ですわ」

 

 自己紹介の内容は金剛達にとっては聞いたことのない単語ばかりで、顔を見合わせるが今は気にしないことにした。

 

 

「提督からEscortするように言われてるネ! 取り敢えず、付いてきてくださいネー!」

 

「解りました。影縫、十勝。あなた達はここで待機して、三原は私と一緒に」

 

 

 

          ◇◇◇

 

 

 諏訪と三原は、金剛に案内された艦娘待機船『海洋丸』に乗船した。艤装はタラップを上がる時に収納した。

 

 原理はよくわかっていないが、三原曰く"魂から出し入れする"らしい。

 

 今諏訪と三原は艦娘待機船の通路を歩いていた。

 

 そこそこ良質な客船だったらしく、内装は中々豪華だ。

 だが、今歩いてる通路に面する部屋の扉からはか細い呻き声も聞こえ、僅かだが血の臭いも漂っている。

 

 

「着いたネ」

 

 金剛も船内の様子に眉を寄せており、暗い表情を浮かべながら諏訪達を案内した部屋に招き入れる。

 

 

「……来たか。ここまで案内御苦労だった、金剛」

 

 部屋の奥から労いの言葉をかけたのは純白の海軍服に同じ色の制帽を被った青年で、

その近くには堅物な印象の中年暗いの男性。こちらも同じ服装のようだ。

 

 

「我々からの会談の要求に応じてくれたことに感謝したい。

俺の名前は蕪木翔。日本国防海軍に所属する将校で、階級は少佐。横須賀第7鎮守府で提督をしている」

 

「階級は少佐なのに提督?」

 

 諏訪は告げられた内容に疑問を抱いた。

 

 普通なら艦隊司令ともなると大佐ぐらいが常で、少佐で艦隊司令などかつて自分が戦った大戦でも聞いたことがなかった。

 

 

「色々な事情があってな、俺ぐらいの階級でも適性検査を通過すれば提督にはなれるんだ」

 

 蕪木は肩を竦めながら言う。

 

 

「ゆっくり話したいがいつ追撃があるか分からないから、手短に言わせてもらう。

今日本は、いや世界は人類共通の敵による脅威に晒されている。

その敵を俺達はこう呼んでいる、深海より現れる謎の艦艇群、深海棲艦と」

 

「深海凄艦……」

 

 諏訪は自分が先程発艦させた攻撃隊で、撃退した勢力の名前を認識するように呟いた。

 

 

「諏訪。恐らくだが、ここは君の居た世界とは世界線が異なる世界だ。

少なくとも、我々が知る限りウィルキア王国は実在しない」

 

 諏訪は告げられた現実に目を大きく見開いた。

 

(ウィルキア王国が存在しない……!?)

 

 つまりそれは、ウィルキアへの帰還が果たせないということを意味していた。

 同時に、かつて諏訪を指揮していたシュルツ達に二度と会えないことも。

 

 

「そう、ですか……」

 

 それでも諏訪は気を取り直した。

 

 今は現状の打開が最優先だ。

 

 この世界が自分達がいた所とは別の世界線とは言え、それでも同盟国である

 日本艦隊の救援に駆け付けたのだ。なら、最後まで責任を持たなければならない。

 

 

「私から提案があります、アドミラル蕪木」

 

 そして話を切り出す。自分達の今後に関わる重大なことを。

 

 

「私達第一遊撃戦隊が、あなた方日本艦隊を本土まで護衛します。その代わり、我々は日本への帰属を希望します」

 

 




第4話も編集が終わってますので、明日投稿します。


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第4話 険路、遥かなり

昨夜に続いての投稿です。

内容的には大筋は変わらないですが、細かいところは殆ど手直ししてあります。以前と同じな様で大分違うです。


 

 諏訪が第一遊撃戦隊の日本への帰属を条件に、撤退支援部隊の本土まで護衛することを提案し、横須賀第7鎮守府の提督蕪木はその場に居た岩井の承諾を得て、了承した。

 

 そして現在、諏訪達第一遊撃戦隊は撤退支援部隊の艦娘待機船を囲うように輪形陣で西へ航行していた。

 

 

「十勝、シーホークで敵艦隊は捕捉できてる?」

 

『今のところは確認できませんわ、お姉様』

 

 無線で会話するのは輪形陣側面で展開する第一遊撃戦隊旗艦諏訪と、十勝だった。

 現在輪形陣は前後を影縫と三原、側面を諏訪と十勝が展開しており、諏訪は右側で十勝が左側に展開している。

 

 

「出来れば相手より先に捕捉したいところね、じゃないと作戦が成功しないから」

 

 先程交戦した深海凄艦は正規空母一隻と、それを護衛する二個水雷戦隊で編成されていたのは会談の交渉相手の蕪木から知らされていた。

 

 蕪木達日本艦隊はミッドウェー、彼らの言うMI島の攻略の際は本格的な機動部隊同士の空母決戦だったらしく、MI島と沖合いの機動部隊の攻撃で作戦は早期に失敗。

 

 作戦開始時に1000機近い敵機が確認されており、予想では700機前後が健在だと言う。

 

 他にも機動部隊の護衛や水上打撃部隊の存在も確認されているため、知能の高い個体も確認されている以上はこれらの戦力を投入して来る可能性は充分あり得た。

 

 それに対しこちらの戦力は第一遊撃戦隊の艦娘4名。日本艦隊は中・大破した艦娘が殆どでまともな対空火力を有していないため、諏訪達だけで敵が接近しないようにするしかない。

 

 そうした状況のなかで諏訪達が考えた作戦は至ってシンプルだった。

 

 近付かれる前に殲滅する。

 

 先ず水上打撃部隊を艦載機による索敵で捕捉し、影縫と三原が装備する特殊弾頭『グングニル』誘導魚雷で打撃を与える。そこからは砲雷撃戦でとどめをさす。

 

 機動部隊については艦娘待機船を優先的に狙って来ると予想されるため、諏訪は敵機動部隊の攻撃隊を捕捉すると同時に特殊弾頭『ゲイボルグ』ミサイルを発射。

 広範囲の爆発で敵機群に打撃を与え、撃ち漏らした敵機を十勝と迎撃。その後に第二次攻撃隊を発艦させる前に機動部隊を殲滅する。

 

 

『心配ないですわ。今はシーホークで広範囲を索敵してますし、お姉様の彩雲も発艦しています』

 

「そうね、っ! 来たわね……!」

 

 十勝に呟きを返した直後、偵察に出た彩雲から電文が送られてきた。

 

 その内容は、

 

────ワレ、テキキドウブタイヲハッケンセリ

 

 

 

          ◇◇◇

 

 諏訪が彩雲からの電文を受信した頃、影縫と三原もまた北から接近する敵水上打撃部隊をマーリンで捕捉していた。

 

 

『相手は戦艦を中核とした水上打撃部隊です! 一気に接近して打撃を与えます、影縫!?』

 

「オッケー、ボクに任せて!」

 

 前後に展開した二人が無線で交信してから、影縫が北に舵を切る。

 

 機関に配置する原子炉八型4基が全力で稼動させ第一戦速を経て61.5ktに達したとき、小柄な体を北から接近する深海凄艦の水上打撃部隊へと押し出していく。

 

 

「彼我の距離、約20km、マーリンとのデータリンク構築よし。諸元入力、グングニル発射用意」

 

 展開した立体型ディスプレイを確認してコンソールに指を走らせ、最大火力を適切な場所に投じる準備を進める。

 

 やがて敵艦隊との距離が5kmを切った時、効果範囲のあらゆる物体を壊滅させる暴力が解き放たれる。

 

 

「グングニル誘導魚雷、発射用意良し! 目標、敵水上打撃部隊! いっけえぇー!」

 

 凛とした気合いのこもった叫び声と共に、右腕の艤装側面のハッチが開く。続いて北欧の神槍の名を冠した魚雷が発射され、水上打撃部隊に向けて突き進む。

 

 水面下を走る魚雷と敵水上打撃部隊の距離が2kmを切ったとき、ようやく気付いた敵水上打撃部隊は回避行動を取るが、その頃には弾頭部分に取り付けられたソナーに捕捉されていた。

 

 弾頭のパッシブ・ソナーが敵艦の発する機関音を探知し、鋭角に舵を切りながら誘導される神槍は回避しようとする何隻かに直撃。

 

 直後、目が眩むような眩い閃光と凄まじい熱、衝撃波が膨張しながら発生し撒き散らされる。

 

 それに巻き込まれた戦艦以外の敵艦は装甲を貫通され、次いで襲ってくる爆風に吹き飛ばされた。

 水上打撃部隊の中核を成す戦艦ですらそれだけで大破相当の損傷を受ける。

 

 爆風が収まった頃には敵水上打撃部隊は壊乱状態に陥っていたが撤退するつもりはないらしく、影縫もまた残敵の掃討をするつもりでいた。

 

 

「君達も運が悪かったね。何せ君達が相手するのはかつて世界最強を誇った艦隊、それに所属する最速の駆逐艦なんだから」

 

 口元を歪めて獰猛な笑みを浮かべながら、海原の上で目の前の敵を見据えて呟いた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 影縫が敵水上打撃部隊と戦端を開いた頃、諏訪と十勝もまた飛来する敵機動部隊から発艦した攻撃隊を待ち構えていた。

 

 

「西の方角から現れた機動部隊が距離30kmの地点で攻撃隊が発艦、こちらに向かってきます。その数300以上!」

 

 現在、第一遊撃戦隊は輪形陣を解いて十勝が諏訪の護衛についていた。

 

 

「任せて。纏めて撃ち落としてみせるから」

 

 先程交戦した際に分かったことがある。

 

 どうやらこの世界の艦娘や深海凄艦は 電子装備を諏訪達と比較して旧式しか配備しておらず、更に艦載機はレシプロ機程度なようだ。

 諏訪の前級である伊勢型ならともかく、強力な艦砲と多数のミサイルで武装した諏訪にとって、ただの動く的に過ぎない。

 

 ディスプレイを正面に据えて、右肩の箱型発射機に納まったVLS8基のうち中央4基のハッチを開く。

 

 

「攻撃隊を距離5㎞で確認、正面の敵機群をα(アルファ)、左翼の敵機群をβ(ブラボー)と呼称します!

ゲイボルグミサイルをそれぞれの目標群に一発ずつ照準、斉射(サルヴォー)!」

 

 その瞬間、4基のVLSから噴射炎を放出しながら4発の特殊弾頭ミサイルが発射される。

 北欧に伝わる必殺の魔槍の名を冠したミサイルが、白煙の尾を引いて数㎞離れた二つの敵機群目指して飛翔していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 深海凄艦の攻撃隊が艦娘待機船を目指して飛行している時に、諏訪の放ったミサイル群は攻撃隊のレーダーにも捕捉されていた。

 

 従来の艦載機より速い速度で接近する物体を最初、艦娘側の新型機と読んだ敵機群は密集陣形から散開して迎撃しようとするが、音速で飛来するミサイルはそれより先に陣形の中央へと到達する。

 

 その瞬間、ミサイルが起爆する。

 

 グングニルとほぼ同じ弾頭により引き起こされる爆発は、まず凄まじい威力の衝撃波が周囲の敵機を巻き込んで木っ端微塵にし、次いで襲いかかる爆風で吹き飛ばされる。

 

 その後に残った機体は母艦より発艦した300機余りの内、200機近い敵機が撃墜されて半分以下の100機程度まで減り、密集陣形を取っていた攻撃隊はゲイボルグの爆風でばらけていた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「ゲイボルグミサイルの起爆を確認! 敵の第一次攻撃隊は3分の2近くが撃墜を確認、残りの敵機が向かってきます!」

 

 十勝の報告を聞いて諏訪はある程度作戦通りに進行したことに安堵するが、気を緩めないように西の方角を睨む。

 

 

「ここまでは作戦通りね。十勝は主砲照準、弾種はキャニスターを装填して! 私はシースパローとスタンダードで迎撃するわ!」

 

「了解ですわ!主砲照準、キャニスター装填!」

 

 十勝が叫ぶと同時に、背負った艤装に配置する51cm45口径3連装砲3基9門が西の方角に砲身を向ける。

 

 その横で諏訪はゲイボルグのハッチを閉め、飛行甲板舷側の対空ミサイル8連装発射機6基を稼働させた。

 

 

「シーシパローを敵機群α、スタンダードを敵機群βに照準! 斉射(サルヴォー)!」

 

「全砲門、てーーーっ!!」

 

 その瞬間、諏訪の発射機6基から全46発分の白煙が尾を引いて飛翔する。

 

 十勝の主砲3基9門の第一斉射により砲門から炎が噴出して、発射の衝撃を緩和するため同時に、十勝は海面すれすれまで後ろに重心を傾けた。

 

 十勝の放った砲弾は彼方に見える半壊した第一攻撃隊へと向かっていった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 敵の第一次攻撃隊にとっての破滅の時は、ゲイボルグが攻撃隊を半壊させてすぐに訪れた。

 

 ゲイボルグと同じく音速で飛来するシースパローとスタンダードミサイルが生き残った攻撃隊のうち46機に着弾、木端微塵に吹き飛ばしていく。

 

 次いで十勝が放った12発の砲弾が敵機の直前で炸裂、撒き散らされた金属片は敵機の装甲を食い破ってズタズタにする。

 

 その頃には既に殆どが撃墜されて、僅かに残った敵機も諏訪と十勝の副砲やCIWSで撃墜された。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 第一次攻撃隊が僅かな時間で全滅したことに気付いた敵機動部隊が、第二次攻撃隊を発艦させようとしていたときだった。

 

 

「攻撃隊の発艦はさせないよ?」

 

 敵機動部隊より北東の方角から魚雷群が水面下を走り接近する。

 

 それに気付いた護衛艦数隻が割り込み、魚雷がそれを直撃した。

 その直後、凄まじい威力の衝撃波と爆風が生じると護衛の敵艦は炎上して沈んだ。

 

 魚雷を投射したのは影縫と三原だ。

 

 諏訪と十勝が第一次攻撃隊を殲滅した頃、既に敵水上打撃部隊を撃滅して機動部隊に向かっていた。

 

 機動部隊を護衛する水雷戦隊は影縫と三原に突撃するが、上空を旋回するマーリンが転送する座標データを元にAGSから誘導砲弾が発射される。

 その砲弾は直前で角度を変えて敵艦に吸い込まれるように着弾、装甲を容易く貫通して大破または撃沈した。

 

 そこからは一方的な展開になった。

 

 水雷戦隊は鋭角に舵を切りながらソナーで誘導される魚雷を振り切れずに被弾するばかりか、影縫と三原の速力に追い付けない。

 

 戦闘の主導権は影縫と三原が握ったまま水雷戦隊を撃滅して、残る機動部隊もその後に来た諏訪と十勝が合流して殲滅した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 その戦況を艦娘待機船の甲板上から監視する者がいた。

 

 

「凄い……」

 

 掠れた声で呟くのは横須賀第7鎮守府から参加していた陽炎型駆逐艦二番艦不知火だ。今は中破して腕に包帯を巻いている。

 

 

「確かに、これは想像以上ね……」

 

 相槌を打つのは同じ横須賀第7鎮守府所属の重巡足柄だ。

 撤退戦の途中で大破したため戦闘から離脱したが、志願して不知火と監視の任務に就いていた。

 

 この二人はいまだ不確定要素の多い諏訪達第一遊撃戦隊の戦闘を監視して、たった今異常ともとれる戦闘能力を見せ付けられた。

 

 

「最初不知火達の救援に発艦させたという艦載機もそうですが、一人一人の戦闘能力が驚異的です」

 

 不知火の言葉に足柄は「確かにね」と呟きを返した。

 

 先ずあり得ないのは、一人一人の速力が40ktを上回っていることだ。

 重装戦艦十勝と名乗った艦娘は47kt、駆逐艦影縫に至っては60kt以上と観測された。

 

 現在日本の艦娘で最速と言われる駆逐艦島風でさえようやく40ktに到達する程度に対して、第一遊撃戦隊は全員がそれを凌駕していた。

 

 他にもあげるとするなら、搭載する兵器が余りに強力なこと。

 影縫がこの海域で使用した魚雷は広範囲に爆発が及ぶ程の破壊力で、一発で一個艦隊に打撃を与えるほどだ。

 

 更に諏訪の放った兵器は、敵の攻撃隊の中央でいきなり大爆発を起こして甚大な被害を与えた。

 十勝の9門ある主砲から放たれた三式弾と同等かそれ以上の効果を持った砲弾もそうだ。

 

 桁違いな速力、驚異的な威力を持つ兵器の数々、どれをとっても常識はずれ。それが第一遊撃戦隊に対して抱いた印象だが、

 

 

「でもこれなら、無事に本国に帰還できるかもしれないわね」

 

 少なくともそれは確かだった。彼女ら第一遊撃戦隊は正に一騎当千、戦闘能力だけなら信用するには充分と言えた。

 

 

「そうですね。……?」

 

 足柄の言葉に不知火が相槌を打ったときに、後ろから駆け寄ってくる足音に気付いた。

 

 

「先に撤退していた本隊より入電! 本土近海に大規模な敵水上打撃部隊が侵入したとのことです!」

 

 血相を変えて報告する佐世保第2鎮守府の駆逐艦白露が、最悪の事態が起きたことを告げた。

 

 




世代の違いを見せ付ける意味では同じ結果になりました。

あと、再編集以前にもやっていた次回予告を復活させます。


        ~次回予告~

艦娘待機船に敵艦隊を寄せ付けず、一方的に殲滅した諏訪達。
その圧倒的なチカラを見て誰もが呆気に取られていた頃、日本近海では深海棲艦の別働隊が奇襲を掛けていた。それに対応するは日本最古参にして最強と、国内の有力な艦娘達だった。

第6話 南西諸島邀撃戦


感想、高評価お待ちしていますm(__)m


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第5話 南西諸島邀撃戦①

大変遅くなってしまいました。第5話の再構成が終わったので更新です。

それはそうと、世間では色々なニュースで持ちきりですね。海自の観艦式が開催したと思ったら台風19号で中止になったり(主に災害支援に専念するため)、遠い太平洋の海底で加賀と赤城が見付かったり(こっちはあまり認知度高くないかな?)。
天皇陛下の即位礼正殿の儀では、現地で雨が止んで日差しが虹を作り出したと言うんだから驚かされました。

因みに作者はといえば、最近ようやく嫁とケッコンしました!


【挿絵表示】


改二改装してからもそうですが、海域でのレベリングの最適解を見付けるまでが非常に困難でした。今ではそれも落ち着いて、叢雲旗艦の5-3で補給艦狩りして経験値荒稼ぎしてようやくです。

前書きが長くなってしまいましたが、本編です。では、どうぞ。


 

 

 佐世保第2鎮守府の駆逐艦白露が横須賀第7鎮守府の艦娘二人に本土近海で発生した事態を報せた後、諏訪も無線で横須賀第7鎮守府の蕪木少佐から知らされていた。

 

 

「……日本近海の、南西諸島周辺に大規模な水上打撃部隊が?」

 

 蕪木との会談の後に渡された右耳のインカムに手を添えつつ、蕪木からの報せの内容を繰り返した。

 

 

本土側(向こう)も混乱していて断片的にしか情報が掴めなかったが、間違いないようだ』

 

 蕪木からの報せに溜め息を吐きそうになるのはなんとか堪える。

 

 あの後、諏訪達第一遊撃戦隊は追撃の敵水上打撃部隊を壊滅させてから輪形陣に組み直して、日本まで撤退支援部隊を護衛する作戦を続行しようとしたときにこの事態だ。

 

 次から次に起こる緊急事態は欧州安定化作戦『ゲイルヴィムル』の延長として参加した、南進する帝国の水上打撃部隊迎撃以来だ。

 

 

「それで、他に情報は?」

 

『佐世保第1鎮守府の艦隊が敵の前衛と接触したようだ。こちらは情報が錯綜してて後の詳細は不明だが、本土防衛は心配しなくて良いかもしれないな』

 

 蕪木の言葉に、諏訪は訝しそうに眉を潜めた。

 

 

「どういうことでしょう?」

 

『国防海軍最精鋭の艦隊、並びに舞鶴、横須賀から強力な艦娘を中核とする艦隊が出撃した。こちらは明確に伝わってきた情報だから信用できるだろう』

 

「戦力に不安はないのですか?」

 

『無論、安心できる』

 

 蕪木は断言して見せた。無線から伝わってくるのが電子音声でも、彼の確信を感じさせる明確な声音だった。

 

 

『これまで発動した作戦でも、海軍を勝利に導いてきた艦娘達だ。別動隊の邀撃なら勝利は確定したようなものだろう。貴艦らは引き続き護衛を頼む』

 

「……分かりました。本土の艦娘を信じましょう。通信を終了します」

 

 蕪木との通話を終える。次は三原達に情報を共有するため、ディスプレイを展開して先程までの会話した内容を纏め始めた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 諏訪達が本土の事態を確認している頃、視点を変えて日本列島より南西の海域、大東諸島から東の海上。

 

 

「……ッ!!」

 

 海上を一人の少女が駆け抜けていた。黒を基調とした白露型のセーラー服だが、所々が焼け落ちていた。背部の艤装からは煙が出て擦れるような異音を漏らしている。

 

 彼女は白露型駆逐艦二番艦時雨。日本国防海軍の艦娘で佐世保第1鎮守府に所属している駆逐艦娘だ。

 

 後方からは異形の集団、深海棲艦の戦艦を中核とした水上打撃部隊、その前衛だった。砲撃を繰り返しながら追い立てている。

 

(長良達は無事に逃げ延びたかな)

 

 後ろの敵艦隊から砲撃を受けながらも、遁走する時雨は意識をここにはいない僚艦に向けていた。

 

 本来なら、あのような敵艦隊を想定して母港から時雨達の部隊が出港したわけではなかった。

 

 元々は、海上輸送路の哨戒だったのだ。

 

 日本は島嶼国家だ。国土の狭い日本列島で補えない資源を他国から輸入しなければ、国土に見合わない人口を抱える日本は干上がってしまう。

 事実、今から27年前に勃発した深海大戦1年目で孤立した日本は経済が崩壊寸前まで追い込まれたのだ。海上封鎖から半年後に現れた第一世代艦娘の救援がもう少し遅かったら、今のような爪痕を残しながらも戦災から立ち直った日本は無かっただろう。

 

 時雨とて艦娘として二度目の艦歴を得て長い。国防海軍の黎明期から在籍してるため、かれこれ20年以上になる。

 

 

「う……ッ!?」

 

 砲撃が足元すれすれに着水した。大量の水飛沫がカーテンを築き、衝撃で揺らぐ海面に視界が激しく揺れる。同時の飛散する砲弾の破片が体と艤装両方に損傷を増やし、片足が水面下に沈み始めた。

 

 

「浸水が……!? 注水をっ」

 

 浮力を維持しようと対処するが、追い討ちを掛けるように上空から敵機が機銃掃射してきた。

 

 それが致命傷となったのだろう、何発かは背部と脚の艤装に当たって損傷を増やした。そして力尽きたように足元が沈下していく。

 

(僕、沈むのかな)

 

 自分の命運も風前の灯となっても時雨は、その心中は穏やかだった。

 

 左足から沈んでいく体が半身を埋めた直後、降り注ぐ砲弾が着弾したのを最後に意識を刈り取られた。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 海上から立ち上る黒煙が縮んでいく。その発生源である時雨は浮力を完全に失い、沈み逝こうとしていた。

 

 だがそれを、遠方から高速で接近してきた存在がそのままにはしておかなかった。

 

 

「時雨ッ!」

 

 猛烈なスピードで跳んできた体を海面に着水させ、その瞬間に大量の水飛沫を巻き上げながら叫んだ。

 

 直後、海面下に沈んでいこうとする駆逐艦娘の姿をその目で捉えた。

 

 

「沈むなッ、時雨!!」

 

 海面に手を突っ込み、轟沈寸前だった少女の体を引っ張りあげる。

 

 

「そんな……!」

 

 時雨を抱え込んだのは巫女装束の女性だった。不格好な程に巨大な主砲を背負った彼女は、絶望した表情を浮かべた。

 

 時雨は足を半ばから失っていたのだ。内側の断面が露出していて、彼女の窮状を表すように、海面は絵の具を垂らしたように染まり出血も多量だ。

 

 

「堪えなさいよッ!」

 

 左脇に重傷の駆逐艦娘を抱え、鎮守府まで撤退するべく駆け出した。来たときのような高速移動は重傷の時雨には負担が大きすぎるため、機関一杯で曳航する。

 

 だが彼女は本来、低速の戦艦だった。駆逐艦娘を曳航しながらでは更に速力は落ちる。

 当然、敵も逃がすつもりはないらしく、逃げ道を塞ぐように砲撃で妨害してくる。

 

 

「だからなんだって言うのよッ!」

 

 向かう先に落ちた砲弾が巻き上げた水飛沫の柱すら構わず、自分から飛び込んでいく。

 

 

「此方佐世保第1所属の山城! 時雨を回収したわ、増援はまだなの!?」

 

 巫女装束の女性──超弩級戦艦扶桑型二番艦山城が所属する鎮守府に無線で呼び掛ける。

 

 

『此方、臨時秘書艦の綾波です。付近の海域に到着したと、出動した艦隊から連絡が入りました。もうしばらく凌いでください』

 

「信じるわよ、その情報!」

 

 無線を切り、今の状況に集中する。

 先の高速移動もそうだが、山城は特殊な艦娘だった。ある時期を境に、とある艦娘の指導で特定の技術を取得して己の武器とした。

 

 時雨を守るべく遁走していると、山城は新たな敵影を視界に捉えた。

 

 

「前方に敵影! 回り込まれたわね……!」

 

 針路上に立ちはだかったのは深海の駆逐艦、イロハ級のロ級駆逐艦が複数だった。今の山城は速力が低下した状態にあるため、先回りされたのだろう。

 

 

「邪魔だぁ……」

 

 時雨を抱え込んだ左腕とは逆の右腕に力を込め、拳を強く握り締めた。同時にロ級達が砲撃してくる。

 

 

「どけぇーー!!」

 

 烈帛の気合いを込めて叫び、腕を横に薙いだ。

 

 轟ッ!

 瞬間的に勢い良く薙いだ右腕から空気抵抗が袖を叩く音を鳴らし、前方から飛来した砲弾を直撃コースだったものだけ殴り飛ばした。

 

 殴り飛ばした砲弾のうち一発は複数いるロ級の一隻に跳ね返り、命中して撃沈した。跳ね返った際の速度が速く、与えたダメージは駆逐艦が耐えうる火力を超えていたからだ。

 

 

『此方は舞鶴第1鎮守府所属、第二水雷戦隊旗艦神通です。交戦中の艦娘は応答願います』

 

 敵駆逐艦の砲撃を凌いでいると無線で呼び掛けられた。恐らく増援だろう。

 

 

「此方、佐世保第1の山城! 負傷した駆逐艦娘1名を曳航中、悪いけど援護頼むわ!」

 

『要請に応じます。そのまま進んでください。貴女の鎮守府から迎えの部隊が来ています』

 

「了解、ここは任せるわ!」

 

 舞鶴第一鎮守府の二水戦旗艦で神通と言えば、日本国防海軍に所属する艦娘では最強の一人だ。彼女の率いる三個駆逐隊からなる指揮下の駆逐艦娘も精強で、長時間粘ることも可能なはずだ。

 

 

「山城!」

 

「姉様、それに皆も!」

 

 前方から3隻で編成された艦隊が近付いてきた。

 

 山城と同じ巨大な砲塔を背負った艦娘、扶桑が先頭に立っていた。

 西村艦隊だ。後ろから最上、満潮が随伴している。

 

 

「──っ、時雨!」

 

 山城に抱えられたまま動く気配のない時雨を見て満潮が駆け寄ってきた。

 

 

「山城、時雨は!」

 

「足をやられてる。重症よ。今すぐ入居させないと不味いわ」

 

 山城は後方を振り返る。

 視線の先では敵艦隊の前に躍り出た水雷戦隊が突撃を仕掛けているところだった。国内最精鋭の部隊だ、そう艦隊には遅れをとらないだろう。

 

 

「最上、満潮。貴女達は時雨を曳航して。先に鎮守府に向かいなさい。出来るわね?」

 

「……ええ」

 

 満潮は真剣な表情で頷いた。一刻を争う状況なのは時雨と同様に経験が豊富な満潮としても良く解っていた。最上もそれが解ったのか頷く。

 

 

「行きなさい! 時雨を頼んだわよッ」

 

「「 了解! 」」

 

 時雨を託された二人が最大戦速で駆け出していった。本来なら低速な山城が更に速力を落としながら一人で運ぶより、高速艦の二人が運んだ方が確実に違いなかった。

 

 

「姉様」

 

「分かっているわ……山城。ここで食い止めましょう」

 

 皆まで言わなくても扶桑には察することができた。

 

 

「目標はあくまで、時雨を曳航する最上と満潮の撤退支援っ。それまで二水戦を持ちうる砲火力で援護します!」

 

 扶桑型の二人が巨大な砲塔を前方の敵艦隊に向けて指向する。

 

 

「主砲、良く狙ってッ! てぇーーッ!」

 

 山城の号令と共に、扶桑型の35.6cm45口径連装4基8門、計8基16門の主砲から雷鳴のような砲声を轟かせた。

 

 

 ────西村艦隊第2小隊(最上・満潮)、大破した時雨を曳航しながら撤退開始。

 西村艦隊第1小隊(山城・扶桑)、第2小隊の撤退支援のため、敵水上打撃部隊第1前衛艦隊と交戦────




以前投稿した回とは全く異なる内容でしたね。

実際、諏訪達第一遊撃戦隊は来ないし、それに伴って当初予定していた設定とか展開は大幅に転向したので。山城さんが薩摩さんみたいな感じになったのは物語の都合上、こうなりました。

では、次回予告です!

         ~次回予告~

佐世保第1鎮守府の時雨が轟沈寸前まで追い詰められ、山城達西村艦隊第1小隊がが敵前衛艦隊と交戦した。
一方、大東諸島より北西の海域では一隻の軽空母を中核とする艦隊が、敵主力機動部隊を捕捉していた。


「艦載機の皆ー、お仕事お仕事!」

次回、第6話 南西諸島邀撃戦②


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第5話 南西諸島邀撃戦②

まず最初に当初の予定より更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!

最近は職場に赴く以外で限られた時間のイベント海域の攻略に手間取り、大晦日には兄が乱心してその対応に追われていました。
残念ながら番外編のクリスマスイブについては、今年の12月までお待ちください。代わりに節分かバレンタインデーの回を投稿いたしますので。以下は前回のあらすじです。

      ~前回のあらすじ~

殿で敵を引き付けていた時雨の回収に成功し、敵水上打撃部隊の前衛を足止めするため、山城と姉の扶桑は二水戦の援護に回った。


では本編です、どうぞ。


 

 

 山城ら西村艦隊が時雨の救援に動いていた頃、同時刻の大東諸島北西の海域。

 

 その海上に、一個の艦隊が複縦陣で航行していた。

 

 

「……見付けたんやな?」

 

「うん。鈴谷の水偵四号機が捕捉したよ。ここからだと九時の方向、大東諸島から西の地点だね」

 

「ようやった。今度はうちらの出番やな」

 

 隊列中央で航行する少女は捕捉した敵艦隊がいる水平線の彼方を睨み、サンバイザーのズレを直した。

 

 急な連絡で知らされた敵襲、就役したばかりの空母娘を連れてその邀撃に向かう羽目になった彼女の声音は、普段をよく知る人物でなくとも分かってしまう程度には不機嫌そうだった。

 

 

「これからウチの艦戦隊で敵機動部隊の航空戦力を漸減するで。大鳳。キミは待機しといてな」

 

「はい……」

 

 名前を呼ばれた艦娘、装甲空母大鳳は不安げな表情で頷いた。

 

 

「そんな緊張せえへんでも大丈夫や。ウチが敵機を掻き回して、出来た隙狙ってキミが攻撃隊を送り込めばいいんや。簡単やろ?」

 

 にかっ、と屈託のない笑みを浮かべた。

 

 

「龍驤さん……。そうですね、確かにその通りです」

 

 自分のやるべきことを改めて認識させられ、同時に自分の属する艦隊の旗艦から感じた頼もしさに緊張が和らいだ。

 

 軽空母龍驤。

 

 彼女がこの艦隊の旗艦だった。

 見た目には幼い少女とも見間違えそうな体格をしているが、龍驤はかなり熟達した空母娘であり、前身となった実艦も歴戦の航空母艦だった。

 

 狩衣のような赤を基調とする和洋折衷の服装、首元には紐を通した勾玉や片手で抱える巻物が陰陽師を連想させる。

 

 

「せや。よう見とき、空母の戦い方っちゅうのをな」

 

 大鳳にそう言うと、片手に携える巻物を広げた。

 

 広げた巻物が独りでに宙に浮かぶ。龍驤は左手の人差し指で中指以外を折り、指先に『勅令』の文字を浮かび上がらせる。

 

 袖からは何枚もの『戦闘鬼』、『偵察鬼』と書かれた艦載機を納めたヒトガタの紙を取り出す。

 

 

「艦載機の皆ー、お仕事お仕事!」

 

 ヒトガタを広げた巻物タイプの飛行甲板上に浮かべ、次々走らせる。甲板上で走るヒトガタは忽ち朱色に発光して、艦載機にその姿を変えた。

 

 

「三笠も面倒押し付けてくれるわー。こちとら改二改装されたばっかだし、こんなとんでもない新鋭機をテストしろなんてなぁ」

 

 恨みがましく愚痴を言いながら、上空を見上げた。

 

 発艦した艦載機は、それまでとは一線を画した異形の機体だった。

 

 本来、機首部分にあるはずのプロペラが見当たらない。代わりに四門の機銃口と小翼があった。

 主翼もやはり大きく違っていた。翼端が後方を向いた後退翼になっており、尾翼と一体化している。

 なかでも特に異質だったのは後部にプロペラが配置されていたことだ。

 

 局地戦用艦上戦闘機『震電改』

 

 それがこの異形な艦載機の正式名称だった。

 前大戦において末期に完成した試作機がベースの機体で、艦娘用の艦上戦闘機として現代に甦った、間違いなく現行の戦闘機で最速の機体だ。

 

 奇しくもこの震電改は護衛艦諏訪の搭載する機体とはエンジンと推進機、武装以外ほぼ同じで、亜音速には到達できないが当時の開発者の夢だった400knot(時速740.8㎞)で飛行できる。

 

 

「第1優先目標は敵機動部隊の航空部隊攪乱、第2優先目標は敵機の漸減や。頼むで」

 

 力強いエンジンの駆動音を轟かせて、震電改の編隊が上昇する。

 動力の『三菱ハ-43-42エンジン』が生み出す大出力で、可変ピッチ機構を持つ住友VDM定速式4翔プロペラが全力で回転する。

 

 あっという間に上空集合を終えた震電改の編隊は、艦上偵察機彩雲の先導で水平線の彼方を目指して飛翔していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 龍驤の攻撃隊発艦から数十分後。大東諸島より西の海上。

 

 

「ナンダ」

 

 本土侵攻群主力機動部隊を率いて航行していた鬼級、空母棲鬼が呻くように呟いた。

 

 

「何ガ起キテイル……!?」

 

 空母棲鬼の疑問は叫びとなって溢れる。その視線の先では、信じられない光景が広がっていた。

 

 前方上空では激しい空中戦が行われていた。空母棲鬼以下、装甲空母鬼とヲ級flagship二隻から発艦した総数400以上の新型艦戦が震電改と交戦している。

 

 だが、その戦況は異様なものだった。

 

 震電改は深海側と比べて小規模の編隊だ。それだけ見ればどちらが優勢か言うまでもなかったはずだが、その機体性能は投入して間もない深海の新型艦戦と比べても凌駕していた。

 深海棲艦戦よりも高高度に位置する震電改は一気呵成に急降下、頭上からの攻撃に対応の遅れた先頭の部隊が忽ち食われる。

 

 そこからは数の優劣を物ともしない震電改の一方的な戦闘だった。急降下した震電改は、遅れて反撃を開始した深海棲艦戦とドッグファイトに移った。だが速度性能は震電改に劣っているため追い付けず、逆に背後へ回られた機体から火の玉と化して墜ちていく。

 

 

「各艦ニ告ゲル! 敵ハコノ混乱ニ乗ジテ、第二次攻撃ヲ仕掛ケテクル可能性ガアル! 対空警戒ヲ厳トナセ!」

 

 空母棲鬼の号令を受け、深海の護衛艦群は慌ただしく陣形を変える。その動きは無駄のない迅速なもので、錬度の高さを感じさせた。

 

 その後、艦隊外周に位置するレーダーピケット艦から報告が上がってくる。

 

 

「更ナル敵ノ攻撃隊、後方カラダト!?」

 

 報告された内容は後方より接近する新たな編隊が出現したと言うものだった。空母棲鬼を中心に輪形陣を展開しているが、上空直掩に艦戦が10機前後を飛ばしているだけだ。

 

 

「艦娘ドモメェ……! アノ新鋭機ハソノ為ニ投ジテキタノカァ!」

 

 空母棲鬼は恨ましげに言うが、誤解である。

 

 龍驤は確かに震電改を空母棲鬼率いる主力機動部隊の攪乱、及び漸減の為に第一次攻撃隊として発艦させたが、今回のような大規模戦闘は予定されていなかった。

 本来は実地試験用の先行試作機がその震電改であり、最初から想定されているわけではない。

 

 

「各艦、防空戦闘ニ移レ!」

 

 空母棲鬼が再び号令を叫ぶと、艦隊を形成する多数の護衛艦群が上空に向けて弾幕を張る。

 

 その対空砲火を目掛けて、第二次攻撃隊の一団が進攻してくる。

 

 それは震電改のようなプッシャー(推進)式プロペラを持つ先尾翼の機体ではなく、従来のトラクター(牽引)式プロペラの機体だった。

 先頭を編隊の最高度で飛ぶ烈風が、その下に零戦六四型、後方を彗星と流星が続いている。

 

 

「弾幕ニ穴ヲ空ケロ! 直掩機ヲ向カワセル」

 

 指示通りに対空砲火の密度が薄くされる。それを待った直掩の艦戦が第二次攻撃隊に向かっていく。

 

 その直掩機が迎撃を開始しようとした瞬間、上空から機銃による攻撃を受けた。

 

 

「ナニィ!?」

 

 目の前で火だるまになって墜ちる直掩機。その横から急降下する影があった。震電改だ。一個小隊(三機)の異形な局地戦闘機が爆煙を引き裂き、後退翼の端から尾を牽いて飛んでいる。

 

 その後は震電改と第二次攻撃隊の烈風、深海の直掩機が空戦に入り、穴の空いた弾幕の間を第二次攻撃隊が突入していった。

 

 

 

          ◇◇◇

 

「上手く行ったみたいやな。第二次攻撃隊が敵艦隊に打撃を与えよった」

 

 頬に汗が伝い、滴らせる龍驤が唸るような低い声で言う。

 

 大鳳の放った第二次攻撃隊は、当然だが錬成途上の航空隊だ。少数の敵機と近接すれば忽ち崩される恐れもある。

 その為、龍驤は持っている技術を出し惜しみなく投じることにした。

 

 紅い狩衣の少女が舞っていた。その指先には金色の輝きを放つ『勅令』の文字が浮かび、胴体からも同色の光を纏っている。

 腕を振るうことで黄金の光の軌跡が描かれ、胴体からは光の粒子を振り撒く。

 

 

「綺麗……」

 

 戦闘中にも関わらず、今日が初陣だった大鳳は先輩空母娘の舞いに視線を釘付けにしていた。

 

 龍驤のこの動きにも意味はある。通常なら発艦した攻撃隊に対し、空母娘は細かい指示は出せない。だが、龍驤の行っている動きは別だった。

 

 龍驤と震電改を主力とする第一次攻撃隊は、今まさに一心同体の状態にあった。

 腕を振り軽やかにステップすれば、それに応えるように交戦中の震電改は動く。龍驤が有する独自の技術で実現した奥の手だった。

 

 

「このまま一気に行くで! 敵機を磨り減らせるとこまでやったるわ!」

 

 指先で揺らめく勅令の蒼い輝きが、体に纏う金色の光が強まる。舞の動きもより激しさを増していく。

 

 

「龍驤さん! 水偵三号機が新たな敵艦隊を捕捉したよ! 6時の方角、数6の水雷戦隊!」

 

「安心してええよ。頼もしい援軍が来る頃や」

 

 鈴谷の焦るような叫びを聞いても動じず、龍驤はそう返した。

 

 直後、敵水雷戦隊が向かってきている筈の方角にある水平線の彼方で水柱が屹立した。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 鈴谷の水偵三号機が新手の水雷戦隊を発見した頃より少し遡り、同海域付近の海上を一個の艦娘の艦隊が航行していた。

 

 

「味方に接近する敵艦隊を捉えました」

 

「貴女達は駆逐艦達と待機して。一個水雷戦隊程度なら、私一人でやるわ」

 

「分かりました。加賀さん、巻雲さんと秋雲さんも良いですね?」

 

 先頭を往く一人の艦娘とやり取りした胴着姿の女性が、後方から随伴する三人の艦娘に確認した。

 

 

「了解です、赤城さん」「了解、です!」「……了解」

 

 随伴しているのは赤城と呼ばれた艦娘に似た胴着姿の女性、正規空母加賀。駆逐艦巻雲、秋雲だった。

 

 そのうちの一人である秋雲は緊張に顔を強張らせ12.7cm連装砲D型を持つ手は震えていた。

 

 

「大丈夫ですか、秋雲?」

 

「──問題ない。アタシは、覚悟した上で決めたんだ」

 

 心配した巻雲から声を掛けられ、主砲の取手を握る手の握力を強め、震えを押さえ付けながら答えた。

 

 不意に、秋雲の手に巻雲が自らの手を重ねる。

 

 

「巻雲……?」

 

「心配しないでいいですよ、秋雲」

 

 鈴がなるような声音で、安心させるように囁いた。

 

 

あの時と同じにはなりません(・・・・・・・・・・・・・)。繰り返さないために貴女はもう一度立ち上がった、だから大丈夫です」

 

「……そうだねぇ。確かにその通りだった。その為にアタシは、佐世保から出撃したんだ」

 

 内心の不安を振り払うように、一度は表情を緩め、再度引き締め直した。

 

 

「アタシは報いなきゃならない。今まで守ってくれていたあの人のためにも……!」

 

 こことは違う場所に思いを馳せながら意気込んだ。それまで自分が平和に過ごしてきた、佐世保での長い日常生活を思い起こした。




投稿が遅れたにしては内容は今回、薄かったかもしれません。四千文字しか打ち込まなかったですし。

あと、次回からはサブタイが変わって時間を少し遡ります。以下は次回予告です。


        ~次回予告~

ある日を境に、少女は惨劇で多くの仲間を喪った。それから長い年月を保護者の人間と共に過ごしてきた。
そんな仮初めの平和な日常は、ある女性が訪れたことを切っ掛けに終わりを告げる。


「行きましょう、秋雲さん。あの時と同じように、護衛をお願いしますね」

平和な佐世保の街から少女が抜錨する。


第7話 本土襲撃前夜


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第6話 本土襲撃前夜 前編

まず最初に御詫びを。

散々更新が滞った挙げ句に、予告詐欺となったこと、誠に申し訳ありません。m(__)m

今回は作者として恐らく最初となるシリアス回で、書いててメンタルが削れると言う素人丸出しの醜態を晒しています。
しかも当初の予想を外れ思ったより長くなってしまい、遺憾ながら前編と後編に分ける形となりました。ご迷惑お掛けしてしまい、大変申し訳ありません。重ねて御詫びを申し上げますm(__)m

以下はあらすじとなります。


前回のあらすじ

AL・MI二正面作戦に呼応して本土を狙う深海の大規模な水上打撃部隊、その主力の一つである機動部隊に対し、横須賀第1鎮守府の艦隊が邀撃に当たった。
旗艦である軽空母龍驤の卓越して攻撃隊運用、それによる敵機の混乱に乗じた装甲空母大鳳の攻撃隊が突入し、打撃を与えることに成功する。

その直後、龍驤ら横須賀第1鎮守府の艦隊に水雷戦隊が接近するも、軍刀持ちの艦娘薩摩がこれを押さえる。
それに随伴した艦隊には、駆逐艦秋雲の姿があった。


「海軍に戻って来てください、梨絵さん」

 

 こちらの目を真っ直ぐ見据えて、凛とした声音で黒髪長髪の女性は懇願した。そんな彼女の真摯な姿勢を梨絵と呼ばれた少女は、堪らず目を逸らしながら答える。

 

 

「……嫌よ。もう、鎮守府に行くつもりはないわ」

 

「どうしてもですか」

 

「何度頼んできても同じよ、帰って」

 

 食い下がろうとする女性の言葉を断ち切るように拒絶した。それでも女性は諦めきれないのか、怯まずに続けた。

 

 

「まだ時間が必要な方もいますが、既に艦娘として復帰した方もいます。貴女にも戻ってきてほしいのです」

 

「復帰できた艦娘がいるからって、アタシがそうするなんてどうして言えるのよ」

 

「貴女には約束があるはずです。あの人に託されたものが」

 

「やめて。その話は聞きたくない」

 

 怒気の籠った声で突き放した。梨絵の頑なに拒絶する姿勢が変わらないのを見て、黒髪の女性は部屋を見渡した。

 

 

「それにしても、まさか貴女がこのような絵を描いてるのは意外でした」

 

「文句あるの?」

 

「いいえ? それが今、貴女のやりたいことであるならそれを否定する気はありません。個性的な本を書いているようですし」

 

「本は本でも同人誌だけどね」

 

 自嘲気味に言った。自分が書いてるのは一般向けではないし

(尤もこの類いの創作物を好む人間は国内に一定数存在するが)、その中にはかなり過激な表現のジャンルもある。

 

 部屋を見渡してみて、それを把握した女性もこれには微苦笑だった。それでも軽蔑する素振りを見せようとしないのは、彼女の器の大きさゆえだろう。

 

 同じ部屋に対面する女性──赤城は艦娘だ。かつて自分と同じ場所で生活した、大切だった仲間の一人だ。

 

 自分も本来は艦娘だ。今はこんな非公式の本を描いては編集して非公式のイベントで販売したりもしているが、かつては自分も艦娘。厳密には現在もだが、陽炎型駆逐艦の末っ子だった。

 

 

「田中少佐から聞いていますよ。仮退役後は、学校に通って友達が出来て、彼らと一緒にこれらの本を販売してるとか」

 

 赤城の言葉に梨絵は舌打ちした。

 彼女の言う田中少佐とは、自分の身元保証人、つまりは義父の事だった。

 

 元は海軍の所属で、自分と同じ鎮守府に所属した整備兵でしかなかった。だが、当時の彼はある特性を隠していた。ある時期を境に、それを持つ彼は自身を陸軍に売り込み、西方普通科連隊を率いる陸軍少将からバックアップを取り付けた。

 

 今から10年前だった。鎮守府に入ることもなく、国防海軍の中枢である統合司令部で保護下に置かれたまま無為な時間を過ごしていた自分の前に現れたのは。

 

 その時に彼が言ったのは「養女として迎え入れたい」だった。戸籍があれば学校に通わせてやれるし、艦娘関連法で仮退役期間満了後は艤装を解体して人間になれるからと。

 

 その申し出を自分は受け入れた。かつての惨劇で受けたトラウマは艤装の展開すら不能とし、艦娘として活動できない時にそう言ってくれたのは彼だけだったからだ。

 名前も田中 梨絵(たなかりえ)として戸籍を登録して、中学校から学生として過ごし高校にも通った。赤城の言う通りに学生時代に気の合う友人も出来て、共に同人サークルを立ち上げたりもした。今描いてる原稿も彼らと手掛けてる作品だった。

 

 

「ちゃんと守ってるんですね、約束。常磐さんから託された大事な──」

 

「それがどうしたって言うのよ……ッ!!」

 

 赤城の言葉を遮るように叫んだ。親の仇を見るように睨み付ける。

 

 

「確かにアタシは、形はどうあれ絵を描いてるわ。それがあの人との約束を果たし続けることなのも自覚してる」

 

 そこまで言ってから何かを堪えるようにギリ、と歯軋りして続けた。

 

 

「でもそれが何なのよ!」

 

 本当は目の前の女性に、八つ当たりのように怒鳴るのは間違っている。それを理性の上では分かっているのに、感情は捌け口を求めるように、次から次へと言葉を繋いでいく。

 

 

「アタシはあの時、何もできなかった! 怖くて体は震えてて、後ろに庇われているだけで……!! 常磐さんは敵の大群に正面から突き進んで、気付いたら姿が見えなくなった……ッ。もうあんなのは御免よ!」

 

 自分が今住んでるこの街、佐世保市には鎮守府がある。かつての惨劇の場である佐世保第1鎮守府に程近い此処で暮らしているのは、義父である田中少佐──憲史の職場である西方歩兵連隊隷下の第一海兵団がこの付近に拠点を構えているからだ。

 

 そうして人間の娘として生活してからも、惨劇の記憶は悪夢となって自分を苦しめてきた。

 

 鎮守府の屋内で虐げられる自分と同じ第2世代の艦娘。

 それを見掛けて後ろに庇い、艤装の砲門を相手に向けて威嚇してまでその相手と対峙する第1世代艦娘。

 

 後に兵器派と呼ばれる当時の提督や警衛との対立を憂いた第1世代の装甲巡洋艦八雲は、証拠を集めて舞鶴第1鎮守府に逃げ延び、そこでの事態を報せた。

 

 その同時期に、第六駆逐隊を連れて哨戒任務中の衣笠が敵の艦隊と遭遇した為、彼女達を守るために殿となって食い止めようと戦い、轟沈した。後に第一次本土沖海戦と呼ばれる戦いの始まりだった。

 

 旗艦を引き継いだ響が報告して、鎮守府の全力を挙げての迎撃戦が開始されて、多くの第1世代が、戦艦扶桑までが轟沈した。

 

 目の前の大艦隊に向け、第2世代の艦娘を一人でも生かすべく立ち向かい、そのまま帰ってこなかった常磐もだ。

 

 その直後に戦闘は終わって、八雲の通報を受けて乗り込んできた憲兵隊や普通科の部隊によって、兵器派は佐世保から一掃された。だが、そうなるまでに払った犠牲は大きすぎた。

 

 

「あの頃から、今までずっと夢に出てきた! 鎮守府で着任していきなり乱暴されたことも、その時から最後まで常磐さんに守られてきたこともッ! 暁が泣き付いてきて、衣笠さんが沈んだって言って……! それから戦闘に参加することになって、目の前で戦っていた第1世代の皆が沈んでいった! 最後まで傍に残っていた常磐さんまで飛び出して、そのまま帰ってこなかった!」

 

 激情のままに溜め込んだそれを吐き出し続けるうちに、頬を温かいものが伝うのを自覚した。我慢も限界と言うのか、それまで塞き止めていたものが決壊したかのように止めどなく溢れてくる。

 

 

「一年よ。あと一年でアタシは正式に海軍を除隊できる。艤装との接続を完全に解除して、艦娘を退役して人間の女の子になれる」

 

「……確かに、今の貴女にとっては一年待てばそれで良いのでしょう。本当にそうであるなら、私からこれ以上無理に頼めません。ですが一つだけ」

 

 それまで黙って聴いていた赤城はそう前置きして、続けた。

 

 

「海軍を除隊すれば、艦娘でなくなれば自分は関係なくなると、本当にそう思っているのですか?」

 

「っ──!」

 

 予想外の指摘に、梨絵は思わず動揺した。

 

 

「海軍を、艦娘を辞めても、自分が陽炎型の最終艦秋雲だった事実は変わりません。貴女は、それに目を背けてでも過ごしていけますか? もう悪夢に苛まれることはない、苦しまなくて済むと本当に信じているんですか」

 

「っ…………」

 

 赤城の言葉に対して、咄嗟に反論することができなかった。

 

 赤城の指摘したことに心当たりがない訳ではない、十年と言う長い年月の間で何度もその考えは浮かんだ。だがそのたびに頭を振り、思考の隅に追いやって考えないようにしてきた。

 

 分かっていたはずだ。それが現実からの逃避でしかなく、目を逸らしているだけなのだと。

 

 

「……そんなの分からないわよ」

 

 今から言うのも、現実から目を逸らしただけに過ぎないだろう。それでも、言葉にするのは止められない。

 

 

「悪夢から解放されるかどうかなんて、艦娘をやめてみるまで分からないわよ! だからアタシの意思は変わらない、だからもう帰って!!」

 

「……今日はもう失礼しましょう。ただ、最後に一つだけ。決して早まらないでくださいね」

 

 最後に気になる言葉を言い捨ててから、赤城は部屋を出ていった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

「……はぁ。困りましたね」

 

 溜め息をひとつ吐いてから呟く。周りは既に日没後のため暗くなっており、街灯や住宅などから零れる灯りが光源となっていた。

 

 梨絵の様子から今日中の説得は諦めざるを得なかった、その事で困ったような表情を浮かべた。

 

 

「赤城さん」

 

 そんな赤城に話し掛けた人影があった。

 

 

「ごめんなさいね、加賀さん。今まで待たせてしまって」

 

「別に構いません。かつての戦友に関わる事案です、少し待つ程度は苦ではありません」

 

 人影は赤城の旧来の戦友、正規空母加賀だった。

 

 

「どうでした。梨絵さんの様子は」

 

「……以前よりも前を向けてるとは思います。ただ、気持ちの整理がまだなんでしょう。それも時間が解決するのかもしれませんが、もう一押し足りないですね」

 

 先程出てきたばかりの建物に視線を向ける。

 

 そこは全体的に長方形の形状をした二階建てのアパートだ。それなりに年季が重なっているようで、風雨で水が滴った跡や黒かびが壁を覆っていた。

 

 梨絵と話した部屋に一組の男女が慌てて入っていくのが見えた。遠目からでも心配そうな表情を窺える辺り、純粋に彼女を慕っているように思えた。

 

 

「彼女のように潜在力の艦娘は、一人でも多く必要です」

 

「分かってますよ。でも、戦うかは彼女が決めること。自分の意思で動かなくては意味がないわ」

 

 戻りましょう、と相方を促して歩き出す。加賀も溜め息を吐くと、後ろから続いた。

 

 

 

         ◇◇◇

 

「……」

 

 赤城が退室した部屋のなかで、梨絵は泣き腫らした表情のままただ項垂れていた。

 

 右手には一枚の写真が握られていた。中央に一人の若い青年、それを囲うように様々な服装の艦娘が並び立っていた。

 端には瀟洒な洋服を着た当時の自分も写っていた。その後ろから抱き付き、左手でVの字を見せる少女の姿も。

 

 

「綺麗な写真だね!」

 

「わぁっ!?」

 

 いきなり背後から抱き付きながら話し掛けられ、梨絵は悲鳴をあげた。

 そんな自分の反応にも構わず、抱き付いてきた張本人は続けて話した。

 

 

「梨絵っち、今までそんな写真見せることもなかったけど、何処で撮ったの? 鎮守府だったり?」

 

「……正解だよ。佳奈(かな)

 

 抱き付いてきた女性──幸田 佳奈の問いに肯定した。

 

 この写真は、佐世保第1鎮守府で現役だった頃に、第2世代の艦娘や当時はまだ海軍の艤装整備技師だった憲史、第1世代の装甲巡洋艦の艦娘と一緒に撮った写真だ。

 

 

「この写真に写ってるこの人、梨絵と仲良さそうだね。名前なんて言うの?」

 

 佳奈は指差しながら訊いてきた。

 

 

「……常磐だよ。第1世代の、装甲巡洋艦の艦娘、常磐さん」

 

 その何気ない口調のためだろう、赤城との対話で憔悴した梨絵はぽつり、ぽつりと話し始めた。

 

 自分が佐世保第1鎮守府で建造されてから、彼女がずっと傍に居てくれたこと。

 一緒に居るだけで周りを明るくできる、快活で一人称が“ボク”なボーイッシュな艦娘だったこと。

 自分の前身である陽炎型駆逐艦秋雲の艦歴から絵を描くことに関心があった自分に配慮し、当時の提督達兵器派には内緒でスケッチブックを妖精に作って貰い、それで絵を描くようになったこと。

 同じ第1世代で装甲巡洋艦の艦娘──八雲と共謀して佐世保第1鎮守府の兵器派の実態について証拠を集め、彼女を見送ったこと。

 その後、勃発した第一次本土沖海戦でも最後まで自分を守ってくれていたことを。

 

 

「……そっか。梨絵にとって、ママみたいな人だったんだね。私も会ってみたかったなぁ」

 

「ママ、母親か。確かに、そうだったのかもね。アタシにとって、常磐さんはそうだったんだ」

 

 実の母親のように慕った常磐が、どんな気持ちで自分を守ってくれていたか、今では確かめることもできない。それでも、佳奈が言ったような親子に似た絆があったのだと、自信を持って言える。

 

 

「……梨絵はさ、どうしたいの?」

 

「どうって」

 

「今の状態のまま海軍も艦娘も辞めちゃうか、そこから引き返して復帰するのか」

 

「……分からないよ」

 

 今日まで海軍からの除隊を、艦娘を退役することだけ考えてきた。それだけが望みだと思っていた。今日、赤城が訪れるまでは。

 

 

「分からないんだよ、アタシにはまだ……。赤城さんにああは言ったけど、本当はどうなのか確証はないのよ。海に出て戦うのが怖くなったから仮退役を希望して民間で過ごすようになったし、そのお陰で佳奈と亮に会えた」

 

 最初は不安だった。義務教育過程を修了するため中学校に入学して、佳奈と亮──小林 亮(こばやしりょう)とは同じクラスメートとして出会った。自分以外は人間の学生で、得体が知れないと一時は孤立しかけた。

 

 そこで助けとなったのがこの二人だった。人間でもない自分を恐れるどころか、寧ろ興味津々と言った調子で近付いてくるとこう言ってきた。

 

───梨絵で良かったよね? 私は佳奈! 苗字は幸田って言うんだ。こっちは幼馴染みで、小林 亮って言うんだ。

 

───改めて、小林 亮です。艦娘ってどんなのか気になってましたが、想像とは違うみたいですね。同世代の女の子と変わらないようなので、安心しました。

 

 佳奈は怖いもの知らずだったのか。亮は佳奈に引っ張られる形で近付いてきたが、第一印象から私を警戒しなくなっていた。

 

 

「佳奈達のお陰なんだよ。私が絵を趣味に出来たのも、卒業後はこうして三人でバイトしながら同じサークルで活動できるのも。海軍を辞めたがっていても、その広報に協力しようと思えたのも、二人が居てくれたから」

 

 本当は拒絶しようと思っていた筈だ。でも、その頃には仮退役から8年以上の歳月が過ぎていた。その為か、自分自身も心に余裕が出来ていたのかもしれない。その時には即座には拒めなかった。

 

 心に迷いがあった。

 

 赤城の指摘に動揺したのも同じ理由だった。

 

 艦娘である自分に未練があったからだ。

 

 

「僕と佳奈は後押しをしただけですよ」

 

 今まで発言していなかった亮が言った。視線を向けると、乱雑にテーブルに置かれた原稿や道具を片付けているところだった。

 

 

「そうそう。私も亮も、友達の背中押してあげただけ。それに、私は梨絵と会って後悔したことなんて無いしね?」

 

 胸の奥が熱くなるような感覚がした。何かが込み上げて、押さえきれないような何かが溢れそうな気さえしてくる。

 

 

「今日はこれまでにしましょう」

 

「えっ、でも」

 

「でもじゃありません。そんな酷い顔してるのに、無理させるなんて出来ませんよ。今日はこれで終わりです。家まで車で送りますよ」

 

 

 

 

         ◇◇◇

 

 一夜明けて翌朝、梨絵は自宅にある自室のベッドの上で上体を起こしたままぼうっ、とした表情で動かずにいた。

 起きたのは今から三十分くらい前だったと思う。それからはずっとこの姿勢だが、もう三十分はこうするのが普段の習慣だった。

 

 結局、昨夜は亮の言う通りそのまま解散になった。資金を供出し合って購入した亮が運転する車で佳奈と乗り込み、自宅に送り届けられた。それからは泣き疲れたのか、睡魔が一気に襲ってきたのでベッドで横になるとあっという間に意識を手放した。

 

 

「──ん……。誰だろ?」

 

 しばらくそうしていると、自宅のチャイムが鳴らされた。軽快な電子音で意識が玄関に向く。

 

 

「はーい」

 

 気の抜けたような返事をしながら、部屋を出て玄関に向かう。在宅用のスリッパのまま、玄関のドアを開けた。

 

 

「お待たせー。どなた、で……」

 

 言葉は最後まで続かず、詰まらせてしまう。同時に、訪問してきた人物を見て一気に意識が覚醒した。

 

 

「朝早くからお邪魔してすみません、起きたばかりのようですね」

 

「……なんでウチに」

 

 訪問者は四人の少女だった。共通して同じ洋服を着ていて、それはかつて自分が着ていたものと同様だ。そして目の前の少女達を、梨絵は知っていた。

 

 

「話をしに来たんです。秋雲さん、いえ。梨絵さんと直接、本音で語り合うために」

 

 かつて同じ所属の第十駆逐隊だった駆逐艦娘、夕雲型駆逐艦の一番艦である夕雲が宣言した。




今回は文字通り、前夜の話が中心となりました。次回は本土襲撃の当日になると思います。

以下は次回予告です。


~次回予告~

訪ねてきた赤城との対話で、決意したはずの自身の心が揺らいだ梨絵。その翌朝訪ねてきた夕雲達との対話を経て、彼女は答えへと向かっていく。
そこへ突如、深海棲艦の本土接近を報せる警報が市内に鳴り響く──!

「この佐世保の海で、二度も悲劇は繰り返させない」

決意を新たに、少女は艦娘として再び海に出る。

第8話 本土襲撃前夜 後編



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第6話 本土襲撃前夜 後編

外伝作品の編集が当初より進みません(挨拶)

作中に登場する組織に自衛隊を母体とする国防軍がありますけど、自衛隊の伝統なんてなかなか知ることのできる資料がなくて手間取りました。なので既に所持している自衛隊を題材にした創作物を参考にして、ネタを選んで描写していきたいと思います。

~前回までのあらすじ~

古ぼけたアパートで同人サークルを親友の二人と共に営む少女田中 梨絵(たなかりえ)はかつての戦友、赤城と対面した。
過去の記憶を刺激され激昂、抑えきれない感情に涙を流した彼女は親友の二人に艦娘だった頃の出来事について話し、心配した二人に自宅へと送られその日を終える。
翌朝、起きてから間もない時間帯に思いもよらぬ訪問者、赤城と同じくかつての戦友だった夕雲型の四人と再会した。


 麦茶の入ったコップが5個置かれたトレーを片手に、空いたもう片方の手でリビングのドアを開けた。

 

 

「お茶、入れてきたよ」

 

「すみません、梨絵さん。朝早く押し掛けたのに、気を使わせてしまって」

 

 リビングに設置した食事などに使うテーブル、梨絵から見て手前の椅子に座る長い緑髪の少女──夕雲が申し訳なさそうに眉を下げながら言った。

 

 

「別に。仮にもお客さんだからね。もてなすくらいはしないと」

 

「ふぅん? 確りしてるじゃんか」

 

 素っ気なく答えると、ウェーブのかかった黒い長髪の少女──長波は感心したように言ってくる。それから無言でトレー上の麦茶を全てテーブルに置くと、夕雲達とは反対側の椅子に座った。

 

 

「……それで、話したいことって?」

 

「玄関先でも言いましたが、私達は梨絵さんを説得するのが目的で来たわけではありません。ただ、会って話がしたかった」

 

「赤城さんから聞き及んでいます。昨夜の、梨絵の様子について」

 

 夕雲から後を引き継いで、メガネを掛けた少女が切り出した。それを聞いて、梨絵はばつの悪い表情を浮かべる。

 

 あれは梨絵にとっても、感情的になりすぎたとは思っていたのだ。

 最初はまだ帰って貰おうとしただけだった。だが赤城と話すうち、過去の記憶を刺激されて思わず激昂してしまった。

 

 

「赤城さんは言っていました。梨絵は、あの頃(・・・)以上に前を向けるようになってくれましたと」

 

「……」

 

 眼鏡を掛けた少女──巻雲の言葉に対して梨絵は答えず、その隣にいる艦娘へと視線を移した。

 

 

「その娘は? アタシが現役の頃は居なかったわよね」

 

「初めまして! 夕雲型駆逐艦、風雲です」

 

 姿勢を正して敬礼までして自己紹介してきた。それを見て何故か可笑しくなった。長波など民間人として久し振りに会ったのに、あの頃と変わらず粗雑な話し方だったからだ。

 

 

「その制服見れば解るわよ。それより、久しぶり。軍艦だった頃に第十駆逐隊を組んだ以来だよね。艦娘として顕現してからはどれくらい?」

 

「10年目です! 西方を打通して欧州へ艦隊が派遣された時期に着任しました」

 

 なるほど、と梨絵は納得する。それなら自分が義父に引き取られたのと入れ替わりだろう。夕雲達は現在、横須賀第3鎮守府に所属しているのを知っていた。赤城、加賀も同じく。風雲はそのなかでは比較的浅いのだろう。それでも軍属で10年目を迎えれば、充分ベテランと言えるが。

 

 

「天龍経由で話は聞いてるわ。優しい提督に恵まれたらしいわね」

 

「! はいっ。女性の方で出身も変わったヒトですけど、良くして頂いてます」

 

「帰化したスペイン人が母親のハーフらしくて、優しい方ですよ。……ちょっとお酒を飲み過ぎで呑まれちゃうのが、タマに傷ですけど」

 

 困ったヒトですよ、と本当に困っているような表情で夕雲は言った。だがそこに迷惑しているような感じはしなかった。話題に上がった女性提督の話に巻雲、長波も口元を綻ばせた。

 

 

「……そっか。四人とも、良い提督に恵まれたんだ。それなら、安心して任せておけるかな」

 

 話を聞く限りだが、無茶苦茶な指揮をするわけでもなければ、待遇も良いのだろう。嘘を言っているようにも見えないし、梨絵はそれが分かったことで安堵した。

 

 

「……それだけでは、夕雲は納得できないんです」

 

「夕雲……?」

 

 突然、夕雲が声を挙げた。椅子から立ち上がりテーブルに勢いよく両手の平を叩き付ける。

 

 

「私はっ! 夕雲は梨絵さんに、秋雲さんに戻ってきてほしいんです……!」

 

「……」

 

 正直、意外だった。梨絵の知る限り、夕雲は包容力のある駆逐艦の少女だ。自分より下の妹達や他の艦娘、あるいは他人を優先するなど、気遣いのできる性格だ。そんな彼女が本心をぶつけてくるのは予想していなかった。

 

 

「話し合いをしに来ただけじゃなかったの? それに、なんだか意外だったよ。夕雲がそんな事を言い出すなんて。これも夕雲達の提督のお蔭かしら?」

 

「……九条提督は立派な方です。私達が佐世保を離れて横須賀に転属した頃、誰よりも先に率先して受け入れてくださいました。何より、これは九条提督の教えに従っただけです」

 

「司令官様は、自分がどうしたいか、その意思を大事にしてと仰ったんです。夕雲お姉さまは、そのお陰で救われたんです」

 

 巻雲がそう補足する。それを聞くと同時に、意地悪な質問だったかなと反省した。

 

 

「……夕雲が自分の性格を曲げてまで頼んだのに悪いけどさ、アタシは戻らないよ」

 

「どうして……ッ」

 

「アタシはさ、今の生活が楽しいんだよ。それに、今日までアタシを支えてくれた親友も居るし。わざわざ人生棒に振ってまで傍に居てくれた二人に報いないで戻れるわけないよ」

 

 これは筋が通った言い訳だ、と梨絵は自嘲した。こんなもの、ただ二人をダシにして逃げているだけだ。

 

 

「でも、あの惨劇を生き延びた艦娘の多くは、戦線に復帰したんです!」

 

「内面はどうなの?」

 

 実際、同じ生き残った艦娘でも本当の意味で前を向いた艦娘は全員というわけではなかった。

 

 同じ駆逐艦娘の暁は人間の横暴に対抗しようと、国防大学の提督養成課程を修了し、何ヵ所かの鎮守府や幌筵泊地で研修を受けた後、最前線の幌筵泊地に着任した。

 その頃には、艦隊運用で人間らしい感情を見せることが希になっていたらしい。その事は天龍から届いた手紙で知っていた。

 

 青葉は精神的な要因で未だに艤装が展開できず、現在は横須賀第2鎮守府に引き取られ、横須賀海軍基地の広報課少尉相当艦と言う扱いを受けていた。

 普段は明るく振る舞っているが、彼女もまた過去を引き摺っているのだ。勿論、自分もだが。

 

 

「それは……」

 

「あれだけ大勢の艦娘が一度に喪われたんだ、簡単に乗り越えられる方がおかしいんだよ。特に第1世代のあの思想は、アタシ達第2世代にとってキツ過ぎる」

 

 建造で顕現した艦娘の第2世代には制約が存在する。

 それは、人間に対して危害を加えることが出来ないことだ。それが例え自衛するためでも、建造で顕現した以上はその制限を受ける。

 

 ここで建造された第2世代と根本的に違ってくるのが、世界に同時多発的に出現した第1世代とドロップ現象で顕現した第2世代の艦娘達だ。

 彼女達は人間の命令が理不尽で不当なものであるなら逆らえるし、時には艤装を用いて逆に制圧できる。

 

 これは後に解明されたことだが、ドロップ現象は人間が関わったものではないため、建造のように枷を付けるような制約が伴わないらしい。その為、彼女らを危険視する者も少なくない。

 

 

「第1世代は、常磐さん達は勝手すぎるよ……。自分達は人間の横暴に対抗できるからって、自分達の後ろに庇って。後進のアタシ達を自分達より先に沈ませないためと言って、勇んで敵の大軍に挑んだ。あれは、ある種の狂気に感じたよ」

 

「それだって常磐さん達が守りたいと想ったからで」

 

「『守りたい』っていう想いは一方通行だよ。アタシ達がどう想うか、考えていた訳じゃなかった」

 

 確証がないわけではない。だが、彼女達第1世代は何か、本能的に突き動かされていたようにも感じたのだ。

 

 常磐達の意思を否定する意図があるわけでもない。本能的な部分はあったにせよ、あれが彼女達の出した結論だったのだ。今言ったことも梨絵が感じたことを表現したものだが、それでさえ復隊を拒む言い訳程度のものだった。

 

 

「梨絵の言いたいことは分かる。長波もあの渦中に居たんだからな。けどさ、どうしても戻れないのか? 夕雲達が梨絵の為に第十駆逐隊の四隻目を空けたままにしていても」

 

「? 第十駆逐隊は長波と風雲が居るんだから、人数は充分じゃないの?」

 

 梨絵は疑問を口にすると、長波は「違う」と言って首を横に振った。

 

 

「私は風雲が着任した時期に入れ替わりで舞鶴第1の二十七駆に編入した。だから、第十駆逐隊は3人で回してる状態だ。梨絵が戻ってくるのを待ってるんだよ」

 

「!」

 

 長波の言った事実を聞いて、梨絵は息を呑んだ。

 

 考えもしなかった。夕雲達が、10年間第十駆逐隊の四隻目を空白にしてまで待っていたなんて。

 

 確かに、艦だった頃の自分は第十駆逐隊の一員で、思い返してみれば艦娘として顕現してからそれを再現したことはなかった。

 

 

「なぁ、これでもダメなのか? 私は風雲と入れ替わることでお膳立てしたし、夕雲達だって誠意を以て梨絵に願い出た。それでも足りないのかよ」

 

「……アタシは」

 

 それでも断る、と言おうとした時だった。突然、携帯端末の着信音が鳴った。

 

 

「……私ですね。ちょっと待っていてください。──横須賀第3鎮守府の巻雲です。──はい。…………何ですって!?」

 

 スカートのポケットから携帯端末を取り出して何処かと通話し始めた巻雲が、仰天したような声をあげた。

 

 

「どうしたんですか、巻雲さん?」

 

「……夕雲姉様、どうやらここに居る場合ではなくなったようです」

 

 通話を終えてから緊張した表情で巻雲は返答した。

 

 

「どういうことですか」

 

「本土より南西を哨戒していた艦隊が、深海の大規模な艦隊と遭遇しました。その後の詳細は解りませんが、緊急を要するようです」

 

 その言葉で、室内に一気に緊張が広がった。風雲と長波は顔を見合わせ、風雲が切り出す。

 

 

「今すぐ戻りましょう! 私達にも、出動の指令があるかもしれない」

 

「解っています。梨絵さん、聞いての通りです。夕雲達はこれで失礼します」

 

 率先して席を立った夕雲を先頭に、巻雲、風雲、長波の順に慌ただしく退室していった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

 夕雲達が自宅から出ていった頃から1時間後、佐世保の街中で梨絵は自転車を走らせていた。

 

 あれから軍から政府、自治体まで情報が伝わったか、佐世保市は避難を促す警報が市内のスピーカーから響き渡る。路上では警官が交通整理を、陸軍の迷彩模様の戦闘服を着た兵士がメガホンで叫んでいる。

 それらを尻目に、避難する人々の雑踏を避けながら駆け抜ける。

 

 夕雲達が出ていった直後、梨絵は親友のそれぞれの実家に連絡して安否を確認した。

 小林家に確認を取ったところ、亮はバイトも非番だったので暇をしていた。連絡した時点では避難警報が発令された後だったので、身支度しているところだった。

 

 だが、佳奈が問題だった。幸田家に確認したら、今頃は市内の海水浴場でバイトしてると言うのだ。それを聞いて居ても立ってもいられず外出着に着替えて自宅から飛び出し、ここまで自転車を転がしていた。

 

 

「……あれは!」

 

 目的地の海水浴場まであと少しと言うところで、梨絵はそれに気付いた。目の前、正面の空に黒煙が立ち上っている。それはちょうど、海水浴場のある方角だった。

 

 

「──ッ! 佳奈!」

 

 力一杯ペダルを漕いで走る。やがて出入り口が見えてくると、そこは避難しようとする利用客で一杯になっていた。

 

 近くの歩道で自転車を乗り捨て、利用客の群れを掻き分けて出入り口に向かっていき、そこで避難誘導する入り口のスタッフの男性に声を掛けた。

 

 

「すみません! ここに若い女性が、佳奈がバイトしてると聞いてるんですけど知りませんか!」

 

「佳奈?! それなら知ってます。ですが、今は」

 

 言い澱んだスタッフの視線の先には海水浴場の内側だった。弾かれるようにして今いる場所から飛び出す。スタッフの制止しようとする叫びを背に受けながら走った。

 

 佳奈はすぐに見付かった。だが、直後に『ある存在』に気付いて手近な仮設小屋の陰に隠れた。所謂、海の家と称される一時休憩所だった。

 

 

(早く佳奈の所に駆け寄らないといけないのに、まさかアレがここに居るなんて……)

 

 海水浴場の波打ち際にソイツは居た。忘れもしない。15年前の第一次本土沖海戦でも、多数が大群に混じり押し寄せていたからだ。

 

 膨大な物量を誇る深海棲艦のなかでも特に多い駆逐艦級、それを両腕に腕甲のようにして装備したような姿のヒューマノイド型。

 

 イロハ級と呼ばれる深海棲艦、重巡リ級だった。

 

 

(どうする!? あれがちょうど中間にいるから、見付からずに辿り着くのは無理だ)

 

 海の家の陰に隠れる直前に見た限りでは、佳奈は波打ち際に乗り上げた漁船の物陰で女の子と息を潜めているようだった。その中間付近にリ級が闊歩していた。

 

 梨絵は思案する。今飛び出せばリ級に気付かれる可能性は高い。海水浴場は視界を遮るものは何もなく、波打ち際まで行こうとすれば自身の存在を隠蔽する事はできない。

 

 それでも方法がないわけではない。自分は艦娘だ、艤装を魂より引き出せばそれで戦える。だがそれは、梨絵がそれまでの平和な生活を捨てることにもなる。何より、あの惨劇の後は艤装を展開することが出来なかった。戦いの場から距離を置くことも、仮退役を受けた理由の一つだったのだ。

 

 

(どうすれば良いのよ……!)

 

 昨日の夕方には赤城に、つい先程までは第十駆逐隊といった何人もの艦娘達を拒絶してきた。感情のままに喚いて、見苦しい言い訳をしてまで逃げようとした。そんな自分が今さら手のひら返して、艦娘として戦う資格などあるのか。今でも艤装を展開できるかは怪しいのに。

 

 その迷いから梨絵が葛藤して動けないでいる時だった。自分が隠れている仮設小屋の向こうから大きな衝撃音が響いてくる。反射的に音のした方を見ると、リ級が乗り上げた漁船を破壊しているところだった。

 

 

「────!!」

 

 それを見てから、梨絵がそれを選択するのにもはや躊躇はなかった。体を眩い純白の光が包む。一瞬後には年頃の少女としての姿から、瀟洒な洋服を着てその上から艤装を身に纏った駆逐艦秋雲としての姿に変わる。

 

 海の家の陰から飛び出し右手の12.7cmD型連装砲を握り締め頭上に向けると、砲弾を薬室に装填せず発砲した。

 

 空砲の砲声にリ級が気付いた。漁船を破壊するのを止め、こちらに視線を向けてくる。

 

 

「──お前の相手はアタシだよ。深海棲艦にとっては目障りな存在、艦娘ならここに居る。だから、こっちに来い!!」

 

 砲口から硝煙を吐き出す主砲を下ろし、存在を自己主張するようにしてリ級を挑発した。

 

 とにかくリ級を佳奈から話す必要がある。漁船より離れた場所を適当に見付け、艤装を着けたまま走り出した。

 漁船からは呼び止めようとする叫び声が聞こえたが無視する。衝動的とは言え、艦娘として行動する選択をした。今さら佳奈を見捨ててまでやめるなど出来ない。

 

 

「沖まで誘導できれば────ッ!?」

 

 十年以上ぶりに身に纏った艤装の重みに耐えながら走っていると、浅瀬付近にいるソレに気付いた。黒い体躯、機械のようで偉業の怪物にも見える大柄な物体が二つ浮かんでいた。イロハ級の駆逐艦、駆逐ロ級だった。

 

 

「邪魔よ!」

 

 主砲を構え、砂上で砲撃する。だがここで問題が起きた。衝撃を足元の砂は受け止められず、足を滑らせて体勢が崩れる。

 

 

(しまっ──!)

 

 その隙を深海棲艦達が見逃すはずはなかった。追ってきていた重巡リ級が、浅瀬にいる駆逐ロ級が発砲して梨絵のいる砂上から砂を巻き上げる。

 砂のカーテンから小柄な少女が衝撃で投げ出された。砂上に叩き付けられたことで肺の空気を強制的に吐き出され、全身を酷い激痛に襲われて苦悶する。それでも無理矢理体を動かしてその場から離れようとするが、倒れる梨絵の頭上を影が覆った。

 

 同じ砂上に立つリ級が目の前に立っていた。一思いに息の根を止めるつもりらしく、右腕の艤装の開口部から覗く主砲がこちらを指向していた。

 

 

(アタシ、死ぬの……?)

 

 目前まで迫った死の恐怖に体を強張らせた。十年以上も海上での戦いから遠ざかってきた自分が忘れていた感覚、冷や水を浴びせられ背中から全身が硬直していくような感覚に襲われる。

 

 

(……ごめんなさい、義父さん)

 

 最後に孝行の一つも出来ていないことを悔やんで、訪れる死を覚悟しながら瞑目した。

 

 直後、何かがリ級に衝突する音が響いた。黒いリボンで留めた栗毛に近い茶髪のポニーテールが突風で激しく揺れた。

 

 何が起きたのか分からず、瞼を片方だけ押し上げて確かめる。

 

 目の前にいたのは、先程まで脅威として存在していた上陸したリ級ではなかった。近未来的なデザイン、全体の印象からロボットかと思いそうになるがそうではなかった。胴体より上、そこに見える顔は梨絵がよく知る人物のものだったからだ。

 

 

「こちらスサノオ、C P。 要救助者を2名確認した。付近の部隊から護衛に誰か寄越してくれ。20代の女性が一名、女の子が一名だ。──こちらスサノオ、了解した。現場に留まって後詰めを待つ。オーバー」

 

 何処かと通信でやり取りして、頷くと視線を梨絵に向けた。

 

 

「義父、さん……?」

 

 乱入してきたのは梨絵の身元保証人で義父の田中恵介(たなかけいすけ)だった。現在彼は国防陸軍の西方普通科連隊に所属、第一海兵団中隊長として活動している。

 

 視線を巡らせると、仮設小屋の一つに背中を押し付けた状態のリ級がいた。状況から考えて、恵介が突き飛ばすなりして背中から激突したのだろう。

 

 

「どうしてここに、と思うだろうが話は後だ。動けるな? リ級は俺が何とかする、お前は今から沖に向かえ」

 

「え? でも……」

 

 躊躇うように浅瀬のロ級駆逐艦二隻を見る。

 先程受けた砲撃は直撃ではなかったので艤装も大して損傷していないが、十年以上も実戦を経験していない自分ではロ級二隻相手でも時間が掛かってしまう。すぐに沖に向かうのは困難だった。

 

 

「ソコに居るロ級なら心配するな。頼もしい味方が来ている」

 

 恵介が言った直後、上空からプロペラの回転する音が鳴り響く。見上げると、2機のレシプロ機が急降下するところだった。機種は外見が目視で確認できてからすぐに分かった。全体的に流線形のデザインが特徴的な高性能機、彗星一二型甲だ。

 

 機首は直下のロ級を指向していた。爆弾倉を開き、機内に格納した爆弾が投下される。練度の高さ故か、逸れることなくロ級を捉えて爆発。破片を撒き散らしながら炎上し始めた。

 

 

「梨絵さん!!」

 

 名前を叫ぶ声がした。振り向くと、一時間前まで話していた夕雲達が砂浜を走ってくるところだった。

 

 

「夕雲型のみんな、どうして……」

 

「佐世保海軍基地に戻ったら沿岸まで水雷戦隊の侵入を許したと連絡があって、急いで追ってきたんです。先の爆撃は赤城さんが」

 

 巻雲が説明しつつ腕を掴んで、立ち上がるのを手伝ってくれた。

 

 

「陸軍の田中少佐ですね? 娘さんはこちらで預かります」

 

 夕雲がそう言い渡した。それに対して恵介は大袈裟に「ふんっ」と鼻を鳴らしながら応える。

 

 

「ああ。この場に居る民間人は任せろ。幸田の嬢ちゃんも女の子を懸命に守ってたみたいだからな、男を見せる場面だ」

 

 陸軍と海軍、互いの立場の違いを意識しての発言なのは夕雲にも、梨絵達にも察せられた。

 

 全身を覆う鋼鉄のスーツからより強く駆動音が唸りを上げる。右肩から右腕にスライドして砲身を展開させた。

 同時にリ級が仮設小屋の壁に預けた背中を離して立つ。瞳に敵意の色を宿し、腕の艤装を向けた。

 

 

「行け!」

 

 恵介が叫ぶと弾かれるように砂上の艦娘達は駆け出した。牽制のために砲身を指向させ、防盾付きの左腕を前方に掲げながら前進する。

 

 リ級が発砲した。8inch連装砲の2発の砲弾が恵介を襲うが、タイミングを合わせて左腕を振るい弾く。砲弾は恵介の左前方に向かって弾き飛ばされ、砂の地面を吹き飛ばした。

 

 

「行くぜ、妖精さん!」

 

 その声に応じるように、恵介の肩に緑の斑模様の迷彩戦闘服を着た二頭身の小人──妖精が現れた。

 

 

「俺の攻撃は──」

 

 前置きするように呟き、右足を後ろに引いて身構えた。

 

 

「深海の防御を貫くッ!!」

 

 右腕の砲身から砲弾が発射され、砲声が海水浴場に響き渡った。

 

 

 

         ◇◇◇

 

 恵介が陸での迎撃を開始した頃、佐世保沖の海上。

 

 

「……こちら横須賀第3の赤城です。佐世保第1鎮守府艦隊指令部、応答願います」

 

 右耳に弓懸(ゆがけ)を嵌めた右手を添え、佐世保海軍基地第1鎮守府と交信するのは赤城だ。傍らには無二の相棒、加賀も控えていた。

 

 

『臨時秘書艦、綾波です。状況を知らせてください』

 

「佐世保沖に侵入していた深海棲艦をほぼ一掃しました。残りは上陸したリ級が1体、陸軍の佐官と交戦中です」

 

 周囲の海面には巨体の駆逐ロ級が3体、横倒しになった状態で浮いていた。それも現在進行形で沈みつつあり、沈没は時間の問題だろう。

 

 その他にもリ級やヘ級を撃破していた。これも赤城、加賀によって攻撃を加えたのだが、自分達だけでこれを撃破したわけではなかった。

 

 

「割り込んで失礼。綾波、時雨はどうかしら? 既に収容したんでしょう」

 

 無線の通話に割り込んできたのは、長めの茶髪を左のサイドテールにした大正時代を連想させる純白の和服姿の女性だ。

 

 

『その声は薩摩師範ですね? 時雨ちゃんなら山城さんが回収して撤退を始めています。途中で扶桑さん達と合流し、最上さん、満潮ちゃんが曳航を引き継ぐ手筈になっています』

 

「──そう。それなら、連れ帰ってくれると信じましょう」

 

 大正スタイルの女性はそれを聞いて秘かに安堵する。

 

 彼女こそが赤城、加賀と共同で敵の水雷戦隊を撃破した艦娘だった。

 

 戦艦薩摩。

 海軍にその名を知らぬ者は居ないと言っても過言でない程に著名な艦娘であり、最古にして最高峰と言える存在だった。

 時雨を回収した山城は彼女が教えた弟子の一人であり、実力なら薩摩を除いて海軍最強の艦娘だ。最上達に引き継ぐまで必ず守り抜くだろう。

 

 

「赤城さん、薩摩さん。夕雲さん達が来たようです」

 

 加賀が指差した先には、つい先程まで田中 梨絵だった少女、駆逐艦秋雲を連れた夕雲型の面々が駆け寄ってきていた。

 

 

「赤城さん。梨絵さんをお連れしました」

 

「秋雲で良いよ」

 

 夕雲が報告した直後、訂正を入れるように本人が言った。

 

 

「……良いのですね?」

 

 心配するように赤城が確認した。それに対し少女は首を振りながら答える。

 

 

「佳奈を助けるには、あの状況ではアタシが艦娘に戻るしかなかった。戻った以上、逃げてはいられないから」

 

 本当は、艤装を展開できるか自信がなかった。自分が仮退役を申請した理由の一つとして、あの惨劇が終息した当時に艤装を展開できなかったからだ。

 その頃に担当したカウンセラーの話では、戦闘で受けた外的心傷(トラウマ)によって艤装を格納する領域にダメージがあり、展開できない可能性があると言う。

 元来、艦娘は軍艦だった記憶、乗艦していた英霊の情念の集積体が受肉した存在と言われている。それ故に人間よりも精神に依存する傾向があるのではと、一部の学者は仮説を提唱している程だ。

 

 それでも、田中 梨絵としての身分に逃げた自分は、艦娘の秋雲としての自分に戻る選択をした。

 

 

「分かりました。……加賀さん?」

 

「承知しています。十年以上ぶりに現場を経験する秋雲さんは練度に不安があります。ここから先は秋雲さんの防護に全力を尽くしましょう」

 

 赤城だけでなく加賀も分かっていた。田中 梨絵として平穏に暮らしていた秋雲を焚き付け、艦娘としての戦いの場に引き摺り戻した要因の一つは自分達にある。であるなら、少なくともこの状況下で秋雲の安全確保を最優先に行動する義務がある筈だ。

 

 夕雲達も同様だった。明朝に自宅を訪れ、話していくうちに秋雲の心を揺さぶった。その責任から逃れる気は最初からなかった。

 

 

「……ありがとう。赤城さん、加賀さん」

 

「呼び捨てで構いませんよ。昔みたいに呼んでくれれば」

 

 「それで良いわよね、加賀さん?」と言う問いに加賀はただ頷くことで答えた。

 

 

「話は纏まったわね? それじゃあ行きましょうか。侵攻中の敵水上打撃部隊と交戦してる部隊を援護しなきゃいけないし」

 

「薩摩さん。アタシはちょっと抜けさせてもらいます」

 

 長波が唐突に言い出した。それを聞いて秋雲は仰天する。

 

 

「ここで抜けるの!? まさか単艦じゃないよね」

 

「それについては大丈夫、風雲を連れていくから。秋雲を護衛するなら、潜水艦に横槍入れられないよう警戒しないといけないから、風雲と二人で網を張らないとな」

 

「……許可するわ。但し、敵潜を発見したら連絡して」

 

 薩摩の許諾を得て長波が、風雲に声を掛けて集団から離れていった。その背中を秋雲は不安げに見詰める。

 

 

「心配しなくても平気よ。あの娘達は既に十年以上も現役として活躍してる。群狼戦術が相手でもない限りは滅多なことは起きないわ」

 

 「行きましょう」と残った面々を促し、艦隊は動き始める。

 秋雲は気持ちを切り替えた。今は二人を信じるしかない。こうして艦娘としての自分を取り戻した以上、やるべき事に専念する。

 

 

「この佐世保の海で、2度も悲劇は繰り返させない」

 

 決意を言葉にし、艤装の機関を強く唸らせて少女は駆けていった。




実は今回、一万文字近い文字数だったりします。思ったより長くなってしまったorz

次回からはようやく本格的な戦闘に入ります。ドラマ書いてるよりそっちを描写する方が得意なんですよね(実は怪獣同士のバトルも得意だけど)

~次回予告~

目の前に迫った脅威を前に何も出来ず、親友に決断を強いたことを後悔した佳奈。それを境にして彼女は自らも非日常へと踏み込んでいく。

一方で本土より南西では、佐世保の最強戦力もまた親友を守れなかったことで苦しみながら拳を振るい戦っていた。

第7話 十傑第1位


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第7話 十傑第1位①

な、何とか丸々一年経つまでに更新できました……!
こんな亀更新で何時になったら超兵器出せるだろう? まぁ、近いうち出しますけど。今回から分割という形で更新です。

    ~前回までのあらすじ~

赤城達一航戦、夕雲達第十駆逐隊との再会で心を揺さぶられた梨絵。
夕雲達との会談の最中、深海棲艦来襲の報が飛び込んで来る。
夕雲達と別れた後、親友の佳奈がバイトをしている海水浴場へと向かい、そこで重巡洋艦リ級に遭遇する。
佳奈達を危機的状況から救うべく、15年越しの艤装の展開を果たすが、練度が衰えた事もあって窮地に陥る。
そんな梨絵を救ったのは、陸軍少佐の義父と一航戦だった。彼にその場を任せ、梨絵は駆逐艦秋雲の艦娘として戦う事を決意する。


「梨絵……」

 

 海水浴場の砂浜から水平線を見詰めながら、不安げな表情の佳奈が親友の名を呟いた。

 

 

「大丈夫だ。梨絵はきっと、無事に戻ってくる。その後の進退は、何とも言えないけどな」

 

「……おじさん」

 

 機械仕掛けのスーツに身を包んだ男性、恵介が話し掛けた。

 五分程前まで深海のリ級と交戦していた筈だが目立った外傷は見られず、煤を被っただけで何ともない様子だった。

 

 

「私のせいだ。早く避難していれば逃げ遅れることもなかったのに、梨絵に決断を強いる羽目になった……。私が梨絵を……!」

 

「そこまでだ幸田の嬢ちゃん。それ以上の発言は梨絵の覚悟を否定するだけだ」

 

「っ! でも」

 

 自責の言葉を皆まで言わせまいと親友の義父に嗜められるが、それでも佳奈には割り切ることなど出来なかった。

 

 そんな感情を察したのか、恵介は息を一つ吐いた。

 

 

「これが愛娘の選択だ。十年間も世間に紛れて暮らし、過去の憂いに悩んだ末のな。義理とは言え、俺は梨絵の親父として過ごしてきた。個人的には尊重してやりたい」

 

「でも、最後に艦娘として戦ったのだって十年以上前でしょ!? そんな長い間経験してないなら、十分に戦えるわけないよ……っ」

 

「確かにその通りではあるがな、それでも何とかなるだろうさ」

 

 どうして、と佳奈が訊くと装甲を軋ませて恵介は続けた。

 

 

「梨絵の周りには、俺もよく知る艦娘が護衛しているだろうからな。今回は彼女達が焚き付けたようなものだ、その責任がある以上梨絵を最優先にするだろうさ。

 

……それに、俺は梨絵にはまだ艤装を展開できないと思っていた。今こそこんな物着てるが、元は海軍の艤装整備士だ。だからある程度分かるんだが、まだ先だと思っていた。

 

その予想を外れて、梨絵は艤装を展開してリ級に立ち向かった。それが何よりの証明だ」

 

「……っ!」

 

 事実だろう、と佳奈にも察せられた。同時に親友との日常が終わりを告げ、互いの場所が遠いものになる事も理解した。その悔しさに歯噛みする。

 

 海水浴場では一組の夫婦と娘が無事を喜んでいた。その娘こそが、佳奈が砂浜に乗り上げた漁船を盾に守ろうとした相手だった。

 誰もが我先に逃げるなか、両親とはぐれて砂上で転んだ彼女を助けようとしたのだが、その為に逃げ遅れてしまったのだ。

 

 結果、自分は梨絵を追い詰め、艦娘に戻る覚悟を決めさせてしまった。

 

 

「……ああそうだ、嬢ちゃん。所で、だがな」

 

「何よ」

 

 今思い出したかのように前置きする恵介に先を促す。

 

 

例の件(・・・)だがな、上に承認されたぞ」

 

「! それって、まさか」

 

「タイミング的にも良い頃合いだ。梨絵を追い詰めた事は反省するべきだが、それで自分を責めるよりは、これからも支え続けてやれ。なるべく近い場所でな」

 

 例の件とは、恵介の所属する陸軍の数人の将官及び佐官、海軍の横須賀第3鎮守府と佐世保第1鎮守府に所属する提督や十傑等が進めていた計画についてだった。

 それはたった一名の艦娘の為だけに用意されてきたような内容であり、潜在力のある艦娘の復帰という名目だが、内容が内容だけにそれだけでは本来無理があるが、国防軍の高官や実績豊富な艦娘等の有力者が連名で推進した為に最近ようやく審査を通過したのだ。

 

 それはつまり、非公式にではあるが、佳奈や亮が今までとは異なる身分を取得する事を意味していた。

 

 

「……分かったよ、おじさん。私は、私に出来ることをする。それが梨絵の為になるって信じる」

 

 これから自分が取る行動を贖罪の為とするつもりはない。そんな事を梨絵に言ったところで、彼女の望むところではないはずだからだ。

 

 ただ、今まで通りに接するだけだ。海軍に艦娘として復帰する梨絵を追い掛けて、身近な場所で支え続ける。かつて絶望の影を纏った雰囲気だった彼女が放っておけず、自分から近付いて行った頃と変わらない。

 

 

「まぁまずは、追加で書類を上に提出しなきゃならん。後日、一緒に基地に行くことになるが、それも戦闘が終わって戦後処理が落ち着いてからだな。上司が艦娘に理解のある肯定派で助かったよ」

 

 艦娘を取り巻く環境は日本を含め、世界各国には大きく分けて四つの異なる思想が存在する。

 

 一つは恵介が言った“肯定派”。艦娘は国防に必要不可欠であることを理解し、人間の将兵と同様に扱うことでその存在を肯定している。これは擁護派と無関心派の中間に位置していた。

 

 その対局に“否定派”。これは艦娘など不要、維持費の無駄などとして存在理由を認めず、自分達で深海棲艦に対抗せよ、もしくは深海棲艦と和睦せよという思想。これは深海大戦以前に存在した左派勢力が中心となっていた。

 

 肯定派より更に艦娘を重視する勢力として“擁護派”が存在する。

 妖精の加護を受け深海棲艦に対抗する艦娘は人類の最後の希望であるとし、擁護派に属する提督は多くが艦娘を家族とするなどやや極端な思想となっている。

 こちらは艦娘と邂逅した黎明期に活動した政治家や軍人、艦娘に命を救われて擁護派に入った一般人等が属していた。

 

 その対極と言えるのが“兵器派”だった。

 彼らは出世の道具や欲望の捌け口とし、或いはただ兵器と思い込んだ者を指す。

 かつて兵器派は国内で幅を利かせていたが、現在では擁護派、肯定派、否定派と比較してその勢力は大きく縮小している。

 一部の政治家や財界の人間、国防軍の軍人や否定派同様にそう思い込む一般人等が該当する。

 

 今回は恵介が所属する陸軍の肯定派、海軍の擁護派が意見の一致で協力した形だ。

 直属の上司や更に上の将官は恵介が陸軍に身売りした当時を知る人物でもあり、その関係で海軍の何人かと繋がりを今も保ってきたのが功を奏した。

 同時に双方には大きな借りを作ってしまったが、それは仕方ないと割り切るしかないだろう。

 

 

「そうだね、おじさん」

 

 率先して海水浴場に待機する部隊の方へ動き始めた恵介を追って、佳奈もそれに続いた。

 

 後悔するのは後回しだ。自分が梨絵と呼んできた親友の為に動く、新たな決意を胸に砂浜を歩いていった。

 

 

 

         ◇◇◇

 

 何処だ。

 

 敵は何処だ。

 

 大切な親友から足を奪った仇は何処だ。

 

 それだけを考えながら、海上を一人の艦娘が疾駆していた。

 

 周囲は敵で溢れていた。遠距離から重巡洋艦以上を巨大な主砲で仕留めても、軽巡洋艦以下水雷戦隊が近接してくる。

 近距離まで近付いたロ級を振るった拳で文字通り粉砕し、ヘ級を振り上げた足で蹴り飛ばす。

 

 

「出てきなさいよ……」

 

 ゆらり、と体を揺らして正面の敵艦隊を睨む。その威圧感に怯んだかのように、リ級以上の人型の個体は海上で後ずさる仕草をした。

 

 

「時雨の足を奪ったヤツ、出てきなさいよぉおォォ!!」

 

 山城が吼えた直後、立っていた海面が爆発したように弾けた。山城もまた爆発的な加速で跳躍、リ級に拳を叩き付けた。

 

 衝撃が海面に巨大な波紋を描く。それは戦艦の主砲で砲撃した瞬間に生じる現象にも酷似しており、まさに肉弾による砲撃だった。

 

 衝撃波が止んだ海面にはリ級の姿はない。今の一撃で原型すら留めず消し飛んだようだった。

 

 それを見て焦ったか、ル級が砲撃した。雷鳴のような砲声が轟き。砲弾は山城へと向かう。

 

 

「温いわ」

 

 対して山城は避けようともせず、代わりに腕を一閃させた。

 

 次の瞬間、ル級は常識を疑うような光景を目にした。

 

 目の前の艦娘に向かった砲弾は直撃コース、信管に接触すればあの巨大な艤装を大破させることも出来るはずだった。

 その砲弾が、片手で掴んで止められていたのだ。信管には触れず、側面中央を掴むことで起爆しないようにしていた。言うだけなら簡単だが、並の艦娘には不可能だ。勿論、深海棲艦にだって出来る芸当ではない。その常識があるからこそル級は混乱に陥った。あり得ない、まさに常識はずれな存在が目の前にいた。

 

 

「ただの接触方式ならこんなものよ。近接信管なら別だけれど、私には通用しないわ」

 

 ル級が呆然とする間に、山城は懐近くまで間合いを詰めていた。先程のリ級と同様、拳を叩き付ける。

 

 リ級とは違って戦艦であるためか、それだけで撃沈には至らず放物線を描いて離れた海面に着水した。

 

 それでも殴り飛ばされた衝撃から、ル級はすぐには立ち直れないようだった。山城はその隙を見逃さず、主砲2基から砲撃して止めを刺した。

 

 

「山城!!」

 

「! 薩摩師範」

 

 叫ぶように名を呼ぶ声のした方に振り向くと、恩師である薩摩が駆け寄ってくるところだった。

 

 

「何をやってるの貴女は!?」

 

「何って、敵艦隊との交戦です」

 

「それは見れば解るわよ! 私が言いたいのは──」

 

 途中で薩摩は言葉を区切り、振り向き様に飛来した砲弾を切り裂き、手甲のように装備した主砲を砲弾が飛んできた方角に撃ち返した。

 

 

「何故他の艦娘を置いてまで、一隻だけで先行しているか、それを訊いてるのよ」

 

 怒気を孕んだ口調と表情で問う。それに気圧されるように山城も表情を引きつらせそうになるが、何とか取り繕いながら答える。

 

 

「それは、少しでも敵の戦力を削り取るため」

 

「本気で言ってるのかしら? 扶桑一人を置いて、戦艦棲姫を追い掛けていったと聞いているわよ」

 

 他ならぬ扶桑から聞いた話だった。神通率いる第二水雷戦隊と共に姉妹で邀撃していた時、姿を見せた戦艦棲姫が挑発してきた。

 

 曰く、駆逐艦を大破させたのは自分だと。足を奪った張本人だと言ってきたのだ。

 

 それを聞いた瞬間、山城は作戦目的など頭から抜けたかのように、扶桑との戦列から飛び出していったのだ。

 

 ここまでが薩摩が扶桑から聞き出した状況説明であり、そこからは戦艦棲姫が構築した包囲網に山城は誘い出され、多数のイロハ級の深海棲艦をけしかけられて現在に至る。

 

 

「敵の煽りに乗せられて飛び出して、罠に引っ掛かるなんて、十傑第1位にあるまじき失態よ」

 

 「気持ちは分かるけどね」と言ってから続ける。

 

 

「貴女の本来の任務は、扶桑や第二水雷戦隊と共に敵の水上打撃部隊を邀撃。大破した時雨を曳航する最上と満潮の撤退を援護すること。がむしゃらに突っ走って、味方を危険にさらすことではないわ」

 

「……っ」

 

 その時、叱責する薩摩と山城の上空にレシプロ機の編隊が飛来した。同時に、無線による通信が届く。

 

 

『敵部隊はウチらが牽制しとくで! 話を済ませるなら早う頼むわ!』

 

『第二水雷戦隊、突撃します! 各駆逐隊で連携しつつ、各個で撃破してください!』

 

 周辺に展開する横須賀から来た龍驤、舞鶴の神通の頼もしい声を聞いた。空と海から艦載機の編隊と水雷戦隊が敵艦隊に向かっていく。

 

 

「……気持ちは痛いほど分かるわ。私も、同じ第1世代の仲間を大勢失った。力を保持して生き残ったのは私を含んでも、かつての4分の1以下しかいない。だから、貴女にとって時雨がどれ程大切だったかも分かるつもりよ」

 

 「けれどね」と言って続けた。

 

 

「怒りや憎しみに身を委ねては、深いところまで沈みかねない(・・・・・・・・・・・・・)。マナ操作について教えるようになって、私は貴女にそう言ったわ」

 

「それくらいの事は、私だって本当は分かっているんです……!」

 

 溜め込んだ感情を吐き出すように言った。

 

 

「今の私は十傑の第1位、立場のある艦娘です。振る舞いには気を付けるべきなのは分かっています。ですが……理屈じゃないんです!」

 

 親友を護ると誓った筈だった。師である薩摩から教えられ、体得した力ならそれが出来る筈だった。

 

 それが叶わなかった。また護れなかった。13年前に起きた佐世保の惨劇でも第1世代の殆どが、第2世代にも少なくない犠牲が出た。

 

 衣笠が最初の犠牲だった。

 それが青葉のトラウマに起因する戦闘能力喪失に繋がり、暁が変心する最初の切っ掛けでもあった。

 

 赤城と加賀の一航戦や秋雲ら第十駆逐隊と特別仲の良かった第1世代の装甲巡洋艦『常磐』がM I A(戦闘中行方不明)になった。

 当時の佐世保に所属した第1世代艦娘のなかでも特に優秀だった彼女は、艦娘の原初である第1世代として後発の第2世代を護るべく僚艦の第1世代と共に奮戦し、母港に帰還することはなかった。

 

 姉である扶桑もまた、妹や他の第2世代を護らんと隊列から飛び出した。

 扶桑型であるが故の軽装甲で敵の攻撃を受け止め続け、何隻も戦艦や巡洋艦を道連れに轟沈した。目の前に居たのに、自分や他の艦娘を守るので精一杯で援護すら儘ならなかった。

 

 

「分かってるわ。当時の詳報は私も目を通したし、あの後の海戦に私も参加したもの。だから分かるわ」

 

 薩摩もまた、大切な存在を喪った。自分より性能が高い艦で、自分より優秀な艦娘だった妹を。国防海軍最強の艦娘と呼ばれるようになったのも、その時期を境にしてだった。

 

 

「これを渡しておくわ」

 

 虚空に手を伸ばし、一つの装備を魂の領域から取り出す。

 

 

「これは……」

 

「試製98式腕部装甲、銘は『扶桑』よ。第一次本土沖海戦があった海域からサルベージした艤装の残骸を再生し、同地点で回収した彼女のマナを入れて器としたものよ」

 

 薩摩の生業の一つだった。

 沈んだ艦娘のマナをサルベージして艤装の再生品に入れて保管する。沈んだ艦娘のマナが新たな深海棲艦となるのを防ぐためだ。

 

 試製98式腕部装甲『扶桑』もその一つだった。

 第一次本土沖海戦が一旦の終息をした直後、大陸沿岸から大挙して日本に押し寄せた深海棲艦との大規模な防衛戦『第二次本土沖海戦』があった。

 決して少なくない犠牲を払って終結した直後、薩摩は沈んだ艦娘のマナを艤装の残骸と共に回収するようになった。これはその最初期に回収して作成したものの一つだ。

 

 

「これが、沈んだ姉様の……」

 

 山城は手に取った艤装をじっ、と見つめた。

 素材は大破した艤装の鋼材なのに、触れた表面は微かに温度を伴っている。同時に、懐かしい気持ちが伝わってきた。

 

 

「今まで私は、貴女にそれを渡せなかった。艦体艤装(・・・・)の展開は出来るようになっても、艦娘になってからのトラウマを克服できなかったから。マナ操作による攻撃術は弾道ミサイルの迎撃に最適化するのが精一杯だった」

 

 だが、それも既に心配ないだろう。

 兵器派から解放され、本土沖海戦後に時雨達西村艦隊のメンバーと白露型を派遣してから、山城は薩摩道場に入門して10年。今なら、特殊艤装の恩恵で最大出力を制御しきれるはずだ。

 

 

「先ずは、私がそのやり方を改めて教えるわ。今から言うことをよく聞いて」

 

 薩摩はその手順を説明し始めた。

 

 

         ◇◇◇

 

 同じ頃、本土に向けて進撃する深海棲艦の大群は大東諸島より南東の沖合いを航行していた。

 現時点で人類が深海棲艦の最強格と位置付ける戦艦棲姫を旗艦とする、総数20隻以上の水上打撃部隊。タ級、ル級等の戦艦群。副戦力としてヲ級と言った正規空母、艦載機補充用に軽空母ヌ級を擁しており、その外周を重巡洋艦リ級以下多数のイロハ級の深海棲艦が輪形陣を展開していた。

 

 その重厚な輪形陣の中心で、筋骨隆々の巨人のような艤装に跨がる戦艦棲姫は周囲を見下ろし、余裕の表情を浮かべる。

 本来なら空母棲姫を支援するための艦隊であり、予想より早く空母棲姫の艦隊が崩されたのでその援護に向かっているところだった。

 

 

「姫様……」

 

「ン? ドウシタノ」

 

 騎乗する艤装の傍らに近寄ってきた改フラグシップのヲ級が話し掛けてきて、戦艦棲姫は何事かと見下ろした。

 

 

「索敵網デ敵ヲ捕捉シマシタ」

 

「ドコ?」

 

「前方、2時ノ方角デス」

 

 ヲ級が指し示した方角に視線を向け、騎乗する艤装の上からじっ、と凝視した。その視線の先、水平線の手前に敵影を三つ視認すると、腕を振り号令を下した。

 

 

「攻撃開始ヨ、マズハ攻撃隊ヲ発艦サセナサイ」

 

 命令に従い、麾下の空母群より異形の艦載機が次々に発艦していく。

 ヲ級は怪物の頭部を思わせる帽子型の艤装の口腔から、ヌ級は頭部の口腔から吐き出されるように発進した攻撃隊は上空で集合、それが済んだ集団から北に針路を取り飛び去っていった。

 

 




今回の話は③まで続きそうです。諏訪達第一遊撃戦隊サイドが進まないので、同時進行で章を新設した方が良いかもですね。


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序章
プロローグ~戦いの終わり、目覚める意識~


 大変長い時間が経ってしまい、更新が滞ってしまいましたが、色々思うところがあってリニューアルすることにしました。
 それまで投稿していた回は汚点として敢えて残すこととして、プロローグは内容を修正しながらも新たな工夫をしてあります。


「超兵器機関内部で大規模な爆発を確認、超兵器機関が自壊を起こしているようです!」

 

 艦の深部に存在する薄暗いCIC内で、若い女性士官の声が響き渡る。

 

 

「全速で離脱、爆発に巻き込まれるな!」

 

 報告を聞いた、こちらも若い青年将校が声を張り上げて叫んだ。

 

 

「衝撃波、来ます──────!!」

 

 続いてCICを、艦を強い衝撃が激しく揺らし、余韻の振動を残した後やがて収まり、CICには静寂が戻った。

 

 

「究極超兵器、爆散しました……」

 

 機器のモニターを確認した女性士官が告げる。

 

 

「忌まわしき太古の遺産が、また眠りについたか。2度と目覚めることのない、長い眠りにな……」

 

 ふぅ、と溜め息を一つ吐いた青年将校は、体から緊張を抜くように、自分の座るシートの背もたれに体重を預けた。

 

 

「ナギ少尉、被害状況の報告を」

 

「一番主砲は三番砲身を残して損壊。SAMやCIWSは81%を損失。

ゲイボルグミサイルVLSとαレーザーは全壊しており、我が艦の攻撃力はほぼゼロ。先程の衝撃波で機関が損傷、原子炉は無事ですが復旧は絶望的です……」

 

 ナギ少尉と呼ばれた女性は報告をする間も疲労の色が濃く、憔悴した様子だった。彼女の報告に彼────ライナルト・シュルツ大佐は険しい表情で唸った。

 

「控えめにいっても大破確実だな……。戦闘には勝利したが、その為に払った犠牲は大きかった」

 

 思えば、ここまで来るのは短くも長く感じる旅路の末だった。

 

 シュルツは一年前までは近衛艦隊に所属する巡洋艦の艦長で、まさか世界各地を転戦して活躍する等思っても見なかった。

 

 一年と数ヶ月前の国防軍による軍事クーデターが全ての始まりだった。

 

 それを逃れて寄航した日本の横須賀で勾留されて、すぐに来襲した国防軍艦隊に追われるような形でシュルツ達近衛艦隊は太平洋へと脱出した。

 

 その際に接収したのが今シュルツ達が乗る巨艦、諏訪だった。

 船体は恐らく戦艦のそれだが、護衛艦の名が与えられた特異な艦。艦名は、諏訪型重武装装甲航空護衛艦一番艦諏訪。

 シュルツ達近衛艦隊が勾留された横須賀で停泊しているところを奪取し、以降はシュルツ達の乗艦となった。

 

 基本的には航空戦艦であると思われるのだが、基数と門数が少数ながら例を見ない程に大口径の主砲、あらゆる標的を攻撃可能なミサイルを多数装備している。

 それに留まらず、当時としては数世代先の技術とも言える先進的なレーダーシステムや、精密な対潜攻撃を可能とする強力なソナー等の電子装備が充実もしていた。

 更に搭載する艦載機はそれまでのレシプロ機より強力なもので、機種変更するまで殆ど損失しなかったほどの高性能機だった。

 同時に強力な演算機を装備しており、それと連動して機能する高度な減揺装置でこれだけの重武装でもトップヘビーにならないなど、当時で言えば全くの未知の存在と言えるほどに、護衛艦諏訪はそれまでの兵器の常識から外れた艦だった。

 

 人員の不足する近衛艦隊は戦力増強を急ぐ必要があり、諏訪のデータベースを調べた。

 

 その結果、諏訪には同二番艦に多賀が存在し、更に随伴艦として建造予定だった改諏訪型と呼ばれる新型艦が設計図データとして保存されていた。

 

 ハワイで事態に備えていた近衛艦隊は実験艦の建造に着手した。

 それは何故かと言えば、諏訪の装備はアメリカ海軍ですら保有していないような、オーパーツと呼ぶべき代物だったからだ。

 

 そのため、信頼性を得るために実験艦から建造して試験的に運用することが提案された。

 そしてハワイで防衛に失敗した我々が、アメリカ西海岸に移動した頃には兵装試験双胴巡洋艦三原が完成し、シュルツの乗艦諏訪の随伴艦として欧州に移動するまで共に行動した。

 

 その間、軍艦の常識から大きく外れた巨大兵器『超兵器』と初めて戦闘を経験し、随伴艦三原と共にこれを撃破した。

 

 その後に発動したゲイルヴィムル作戦の最中、諏訪のデータベースに保存されていた改諏訪型の設計図データを元に建造された随伴艦の三隻が新たに加わり、改諏訪型と同様の改装を施した三原も加えて第一遊撃戦隊を編成すると同時に、これまでの功績が考慮されてシュルツは大佐に昇格した。

 

 それからは地中海解放作戦、欧州解放作戦『メルセブルグ』を経て欧州戦線を戦い、太平洋に帰還を果たしてハワイ、日本を解放した。

 

 だが、華々しい戦果だけではなかった。

 

 太平洋に帰還した後、アメリカ西海岸で超兵器空母に座乗していた天城大佐を、小笠原諸島沖では皮肉にも諏訪の姉妹艦多賀と戦い、その後に海軍大学時代には教官で恩師だった筑波大尉を乗艦と共に沈めた。

 

 そして日本を解放後、祖国ウィルキアで緒戦を戦い、またも多くの同胞の血が流れた上でようやく首都シュヴァンブルグを奪還した。

 

 その矢先、最初にクーデターを起こし侵略戦争を始めた首謀者、フリードリヒ・ヴァイセンベルガーが超兵器潜水艦で逃亡した。

 

 それを追って最果ての地、北極海で我々が見たものは、今までに戦い沈めてきた幾多の全ての超兵器の原型である究極超兵器『フィンブルヴィンテル』だった。

 

 フィンブルヴィンテルはヴァイセンベルガーの乗った超兵器潜水艦を文字通り消滅させたあと、大陸を目指して周囲の氷山を消滅させながら南下し始めた。

 

 究極超兵器はヴァイセンベルガーの制御を離れ、無差別に破壊を繰り返そうとしている、このままでは世界中があの超兵器潜水艦と同じ末路を辿りかねない。

 

 そんな結末を黙って待っているわけにはいかなかった。

 

 一年以上の戦禍の間に敵味方で余りにも多くの犠牲を出した末、ようやく訪れようとする新たな時代を、世界が破滅させることで潰えさせることを。

 

 有史以来続いて来た人間の過ちの歴史も、そこで繰り広げられた苦しみや悲しみも、その中で育まれてきたささやかな幸福も、そのすべてを無に帰さない為に、過ちを償い、失ったものを取り戻す可能性を消してしまわないためにも。

 

 そして、シュルツ達第一遊撃戦隊は最後の決戦に臨んだ。

 

 だがその結果出た犠牲は、余りにも大きなものだった。

 

 

 軽諏訪型強襲駆逐艦影縫は付近の海域に展開する無人潜水艦を排除完了後、フィンブルヴィンテル攻撃に参加。

 防御重力場に幾らか負荷を与えるもその直後、諏訪に向かう雷球を直撃コースに割り込むことで被弾、轟沈した。

 

 兵装試験双胴巡洋艦三原は少しでもダメージを与えるため、直援の艦載機を伴って特殊弾頭『グングニル』誘導魚雷を中心に攻撃。

 この時の攻撃で防御重力場を臨界させたが弾薬庫に被弾して誘爆、轟沈した。

 

 改諏訪型装甲光学戦艦十勝はフィンブルヴィンテルに対し同航戦を仕掛けた。

 中破相当の損傷を与えるも、十勝は大破相当の損傷を受け最後には敵超兵器のレールガンの砲弾が直撃して撃沈した。

 

 海域の外縁に展開していた改諏訪型装甲空母淡路と諏訪の航空隊は、脱出用の重輸送ヘリを残して殆どが撃墜。

 大型のジェット機や攻撃ヘリで編成されているにも関わらず合計100名以上のパイロットが戦死した。

 

 そして諏訪もまた、大破相当の損傷を受けている。

 

 先程のフィンブルヴィンテルの爆発の衝撃波で機関は自力での復旧は絶望的で、生き残った淡路に曳航してもらわなければ移動もできない。

 

 

「それにこれだけの損傷、この後のウィルキアで修復するのもそうですが、残しておくのは難しいかもしれませんね」

 

 発言したのはシュルツと同じく若い青年士官で、名前はクラウス・ヴェルナー大尉。

 いつもなら明るい口調で周囲の空気を和ませることが多いが、今回はその口調は一段と暗く、その表情には無念の色が浮かんでいた。

 

 

「あぁ、これからのウィルキアは戦後処理に追われ、軍は再編するどころか規模を縮小するのは避けられないだろう。当然諏訪は修復されず、そのまま放置されるか、もしくは自沈処分することになるだろうな」

 

 無念なのはシュルツも同じだった。それにおそらく、世界は諏訪がウィルキアに存在し続けることを許さないだろう。

 

 諏訪は開戦当初から第一遊撃戦隊を率いてウィルキア解放までに数え切れない艦艇と、幾多の超兵器を相手に常に勝利し続けた。

 

 その戦果は一隻の軍艦として本来有り得ないものであり、同時に世界の主要国の中には、それが脅威的に映る国もあるかもしれない。

 そうなれば国外から有形無形の圧力がかかり、ウィルキアは国際的な立場を失いかねない。

 

 今までは無我夢中だったためあまり考えなかったが、ヴィルヘルスハーフェンでの戦闘が終了した頃にはその可能性を考えていた。

 

 

「艦長」

 

 ヴェルナーはシュルツを真っ直ぐ見据えて続けた。

 

 

「艦長がここで諏訪をどうしたいか、その決断は艦長次第です。艦長がどのような決断をしても、俺はそれに従います」

 

 ヴェルナーの言葉にCICにいる全員が注目して、その全員が既に覚悟が決まったような表情を浮かべていた。

 

 

「……総員退艦、これより諏訪を自沈する。全クルーは最低限の私物だけ持ち、淡路への移乗の準備を。ブラウン博士は自沈の為に準備をお願いします。……せめて、諏訪をこの海に沈めてやりましょう。姉妹艦が沈んでいった、この海に」

 

「……解りました」

 

 ブラウン博士───ドイツ共和国軍技術士官エルネスティーネ・ブラウン大尉は普段落ち着いた口調をしているが、今はそれとは別の落ち込んだ表情を浮かべて答えた。

 

 

「ナギ少尉、淡路に打電を。これより艦長以下乗組員全員は淡路への移乗準備に入る。貴艦は移乗の受け入れの用意を開始するようにと」

 

「了解」

 

 シュルツの指示にナギ少尉は一言だけ答えて淡路に電文を打ち始め、ブラウン大尉は自沈の為に艦にいる技術班を呼び出してCICから出た。

 

 ヴェルナー大尉もまた、自沈の為に作業する技術班以外の乗組員全員に向けて、艦内放送を流し始める。

 

 シュルツはそんな、諏訪が沈む最後の瞬間までそれぞれの役目を果たそうとしている彼らを黙って見守っていた。

 

 

 

        ◇◇◇

 

 シュルツの指示の元クルーが淡路への移乗と諏訪を自沈する準備をしている頃、視点は諏訪の艦長室に移る。

 

 部屋の中には二つの人影があった。

 

 ひとつは赤い紐で結ったポニーテールの茶髪に白を基調とした近衛士官服を着た女性で、服は所々破れ出血しており、足元に血で出来た血溜まりを作っていた。

 

 ひとつは明らかに人間とは異なる半液体状の身体をした、異質な存在だった。

 

 

何者ですか、あなたは

 

 自らの鮮血で赤く染めた士官服を身に纏った女性が、目の前の存在に問いかけた。

 

 

我ハ此ノ時代ノ人間達ガ、究極超兵器、フィンブルヴィンテルト呼ブ存在、ソノ残滓ダ、我カラ生マレシ分身ヨ

 

 目の前の存在から返ってきたのは生気など欠片も読み取れない、無機質な音声だった。

 

 

私が分身ですか…………

 

 帰ってきた言葉に呟きを漏らす。

 

 あながち間違っていないかも知れなかった。

 今まで自分は数え切れない程の艦艇と幾多の超兵器を、たった今その全ての超兵器のマザーシップと言うべき究極超兵器を撃沈したのだ。

 

 それにシュルツ達が知っているかは分からないが、本来自分は───護衛艦諏訪はその超兵器の機関から抽出された技術から建造されている。

 

 更にこの一年間で二度に渡り改装された時にも超兵器技術で産み出された新兵器を装備した。その自分が超兵器と言われても不思議ではなかった。

 

 そう自嘲気味に考えていると、フィンブルヴィンテルと名乗った亡霊が話しかけてきた。

 

 

我ヲ沈メタトコロデ無駄ナコトダ。何レマタ世界デ新タナ争イガ起キル

 

 ピクッ、と諏訪は微かに反応するが、亡霊は半液体状の身体を波紋で揺らめかせて続けた。

 

 

人間トハ愚カナ生物ダ、自分ノ思想ヤ目的ト欲望ノ為ナラ相手ヲ利用シ、支配シヨウトスル

 

 諏訪は沈黙を続ける。

 

 目の前の亡霊が言っていることはある意味では正しく、的を射ている気がしたからだ。

 

 一年前のヴァイセンベルガーによる宣戦布告から、超兵器による武力を背景に侵略戦争が始まった。

 

 ヴァイセンベルガーは戦争の動機について、絶対的な唯一者によって統治される世界を構築すると言っていた。

 だが、ヴェルナー大尉の裏切りが発覚した際にシュルツの「根っこで考えていることは皆同じ」だと言ったように、人間は自分の目的のためなら手段を選ばないのかも知れなかった。

 

 だが諏訪は「でも、」と呟き、話した。

 

 

それでも私は人間を、艦長達を信じます。人は弱い。大きい力を手にすれば、それに溺れない保証はない。ですが、だからこそ互いに寄り添い合って、助け合うことができる強さを持っている。私は、そんな人間の強さを信じます。人は一人では弱くても力を合わせることで、困難に立ち向かうことができるはずだから

 

 瞳に確かな決意の色を滲ませて諏訪は断言する。

 それが一年と言う短くも他の艦よりも明らかに濃い艦歴の中で、自分や自分の艦長と見つけた答えだったから。

 

 その諏訪の返事に、不快の色を含んだ口調で亡霊が問いかけてきた。

 

 

例エ何度デモ過チヲ繰リ返ストシテモカ? 過チカラ何モ学バズ、争イ続ケルトシテモ?

 

確かに人は、過ちを繰り返すかもしれません。過ちから、何かに気付くことが出来ないかもしれません。だけど、一人ではなく側に誰かが居るなら。或いは大勢なら過ちに気付き、正すことが出来る筈です。だからこそ私は、人間の持つその可能性を信じます

 

 目の前の亡霊に対して決意表明する。直後、亡霊の輪郭が揺らぎ始めた。

 

 

ドウヤラ、我ノ此ノ躰ヲ保ツノモ限界ノヨウダ。ダガ我ハ、超兵器ハ戦イヲ、戦争ヲ求メテ再ビ現レル

 

 そして足元から身体の輪郭が消え始め、最後に言葉を発した。

 

 

サラバダ、我カラ生マレシ分身。次ハ、此処トハ違ウ戦場デ逢ウ事二ナルダロウ。此処トハ違ウ、別ノ世界デナ……

 

 不吉な予言めいた言葉を最後に完全に消滅し、諏訪以下いなくなった艦長室は再び静寂に包まれた。

 

 

出来れば二度と会いたくないものですね

 

 諏訪はそう吐き捨てるように言うと、室内を出入りするドアに足を向けた。

 

 

さて、行きますか

 

 艦長室のドアから出て、ブリッジを目指して艦内の通路を歩き始めた。

 

 今からすべきことを、済ませるために。

 

 

 

        ◇◇◇

 

 視点は諏訪のメインブリッジに移る。

 

 そこでは、今まで通常航海で慣れ親しんだ諏訪の航海艦橋を、シュルツが名残を惜しむように眺めていた。

 

 コンコン、と金属を叩く音が静寂を打ち破るように艦橋に響き渡った。

 

 

「ヴェルナーか」

 

 そこには海軍大学時代に後輩で、一年前の横須賀を脱出した直後から今まで副官を勤めてきた青年士官がブリッジの隔壁扉に立っていた。

 

 

「クルーは全員ヘリへの収容を完了しています。後は、俺と先輩だけです」

 

「そうか」

 

 ヴェルナーの報告に短く答え、視線をブリッジの艦長席に移す。

 

 今まであの座席に座って横須賀を脱出して、その後は数え切れない敵艦と、超兵器を相手に第一遊撃戦隊を率いて戦った。

 敵も味方も、多くの血が流れた。先の戦闘で勝利と引き換えに払った犠牲も、決して安いものではなかった。

 

 ふぅ、と息をひとつ吐いて口を開いた。

 

 

「そろそろ飛行甲板に向かうか」

 

「そうですね、艦長が諏訪と運命を共にするつもりじゃないかって、みんな心配していましたよ」

 

 冗談を言うような口調でヴェルナーが話した。

 

 こんなときだからこそ、なるべく明るく振る舞っているのだろう。

 あれだけの犠牲を出して、諏訪も自力航行できない以上自沈することになったのだから。

 

 だからシュルツもまた、表情を少し緩めてそれに答えた。

 

 

「なら、速く安心させてやらないとな」

 

 そう締め括り、最後に一度名残を惜しむように眺めてからブリッジの出入口から飛行甲板に向かおうとしたときだった。

 

 ガタッ、とヴェルナーが出てきた反対の隔壁扉にウィルキアの近衛士官服を着た女性が背を預けており、服の所々が破れ血塗れだった。

 

 

「き、君! 大丈夫か!?」

 

 シュルツは慌てて駆け寄ると、女性は大丈夫と言うように首を横に振る。そして、シュルツと視線を合わせて話した。

 

 

「艦長に、挨拶に来ました。これが最後になるでしょうから」

 

「挨拶? 君は一体……」

 

「先輩、妙ですよ」

 

「妙とは何だ」

 

「先の戦闘で生き残ったクルーは全員ヘリへの搭乗を完了して、俺と艦長以外にいないはずです。

それに、彼女この艦に乗っていたでしょうか?」

 

 言われてみれば、とシュルツは気付いた。

 

 今まで世界を転戦した中で彼女のような人間は見覚えがなく、不審に思うところではあった。

 

 

「今まで艦長達の前に姿を見せなかった分、不審に思っても無理はありません。

私もついさっきこの姿を得たばかりでしたから」

 

 シュルツ達の様子に女性は気を悪くした素振りを見せず、淡い微笑みを浮かべて、語った。

 

 

「私は、いわばこの艦に宿る意思のような存在。

どういう理屈かは私にも分かりませんが、先程この身体を得て、こうして艦長達に最後の別れの挨拶をしに来たんです」

 

 そして海軍式の敬礼をして、女性は続けた。

 

 

「一年と言う短い間でしたが、艦長の艦として戦えて光栄でした。私はもうここから動けませんが、艦長達ならこれからのウィルキアを立派に守っていけると思信じています。……この海に沈んだ皆と私の分まで、これからのウィルキアをお願いします」

 

「君は、一緒に来ないのか?」

 

「私はこの艦に宿る意思そのもの、自沈すればこの艦と共に海に消えるでしょう。

それに、妹達も待っていますから」

 

 その言葉を聞いて、シュルツは理解した。

 

 妹達、おそらくそれは、同じ諏訪型の二番艦多賀。そして改諏訪型として建造された第一遊撃戦隊の所属艦だろう。

 

 第一遊撃戦隊が編成される以前に建造された兵装試験双胴巡洋艦三原やゲイルヴィムル作戦の途上で建造された駆逐艦影縫、戦艦十勝は今まで共に闘い続けて、この海に沈んだ。

 

 その途上で多くの敵艦を、自身の姉妹艦である多賀を沈めた彼女がどんな感情を抱いているのかは想像もできなかった。

 

 そんな彼女にシュルツは懐からあるものを取り出し、それを手渡した。

 

 

「艦長、これは……?」

 

 それは小振りな石に穴を開け細い鎖を通した首飾りだった。石には何かしらルーン文字と思われる溝が彫ってある。

 

「元は戦場で生き残る確率を少しでも上げる願掛けとして身に付けていたんだが」

 

 シュルツはそこでひとつ区切り、微笑みを浮かべて続けた。

 

 

「仮初めとは言え、これから平和になる世の中では俺には必要ないだろう。だからこれは、今まで俺達と一緒に戦ってくれたことに対する感謝と、この海に沈んだ後も幸福であることを願う、せめてもの手向けだ」

 

 静かに、だが確かな想いを込めてシュルツは敬礼し、そして、

 

 

「今まで共に戦えてこちらも光栄だった。君が私の艦でなかったらここまでこれなかったかもしれない。一年と言う短い間ご苦労だった、"諏訪"。後はもう、ゆっくり休んでほしい」

 

 シュルツの言葉に女性───諏訪は顔を俯かせて、肩を震わせた。そしてすぐに視線をシュルツに合わせた、その瞳には水滴を浮かべていた。

 

 

「はい、艦長。今までありがとうございました……!」

 

 諏訪は涙声を震わせてながら感謝の意を示し、敬礼で返した。

 

 

 

 シュルツ達は航行能力と継戦能力を喪失した護衛艦諏訪を放棄、自沈処分にした。

 

 その後、彼らは生き残った空母淡路に乗ってドック艦スキズブラズニルと共にウィルキアに帰還したあと、多数の犠牲者を出した北極海での決戦は後に『マキナ・インコグニタ』と呼ばれた。

 

 そして、世界を巻き込んだ今回の大戦、後に超兵器戦争と呼ばれる戦いの最中、祖国解放の為に各地を転戦し、北極海に沈んだ艦達をウィルキア、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア等で長く語り継がれることになる。

 

 

 

 ウィルキア王国海軍近衛第一艦隊所属。

 

 第一遊撃戦隊、またの名をシュルツ艦隊と呼ばれる、当時の大戦で間違いなく世界最強と言われた、一個の艦隊が存在したことを。

 

 

 

 



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