仮面ライダーアマゾンズ -ϘuinϘuennium- (エクシ)
しおりを挟む

M to N
Episode1「MArtyrs」


アマゾン。それは空白の時間を埋める者。トラロック事件から数か月が経ち、政府はアマゾンの存在を世間に公表した。アマゾンの存在に恐怖する人々が心の拠り所を求める中「アマゾンに食われることで神の元へ行ける」ことを信じる宗教団体 イースヘブンの前にアマゾンを食らうアマゾン 尾宿商が現れた。


9月の曇り空の中、教会に続々と人々が閉じた傘を手にして入っていく。

 

全員黒いローブを羽織って怪しげな雰囲気を醸し出している中、1人落ち着きのない男が左手を使わずに右手に持った傘をわざわざ置いてからドアノブを右手で回して入ろうした。

 

 

「詰まっているから早く行ってもらえる?」

 

「あー、どうもすいませんね。」

 

 

後ろで待っている女性に言われて入っていく男。横の傘立てに自分の傘を置いてから教会の奥まで歩いていった。

 

中は一面ステンドガラスで覆われており、西洋の立派な教会と言っても遜色ないような美しさなのだろう。しかし蜘蛛の巣があちこちにかかっていることからせっかくの作品が少し汚らしく見えてしまう。

 

男もキョロキョロと辺りを見回して「綺麗だなあ…これ作るの、いくらかかるんだろ。」なんて呟く。

 

20人前後の人数が全員教会の中に入ると最後に入ってきた人が扉の鍵を閉め、チェーンを何重にも巻き付けた。その後、扉の横にあるスイッチを押すとチェーンに電気が流れた。

 

 

「戸締り完了しました、教祖様。」

 

 

最後の人が前の檀に立っている教祖と呼ばれる男性に声をかけると、教祖も頷き両手をあげた。

 

 

「では皆さん、ご着席ください。」

 

 

教祖に従って人々は木で出来たベンチに腰を掛ける。ステンドガラスの値段を計算するのに頭がいっぱいだった漢も周りが腰を下ろしていることに気が付いて席に着く。

 

 

「皆さん、またよく集まってくれました。しかし悲しいお知らせがあります。反矢さんご一家が”奴ら”に襲われてしまい、神の元へ行かれました。」

 

 

教祖の言葉に一斉に涙する人々。男も周りに合わせて手で顔を覆う。

 

 

「反矢さんは今神に守られていらっしゃいます。皆さん、信じましょう。私たちも”奴ら”に食われることで神の元に行けるのです。恐ろしいでしょう、しかし痛みは一瞬です。私たちはその救いを待つしかないのです。」

 

 

教祖の言葉に嗚咽をあげて泣く者たちも現れた。

 

 

(どうにかして食われないようにしようって考えは思いつかないのかね、この人たちは。)

 

 

男は手で顔を隠しながら思うも一般の人々にとって”奴ら”は恐怖の対象であり抵抗する気すら起きないのだろうと察した。

 

祈りが始まり泣き止む人たちがいる中、突然協会の扉が吹き飛んだ。爆音に悲鳴を上げる人々たち。赤い光が3つほど煙の中から見える。

 

 

「皆さん、覚悟を決めるのです!」

 

 

教祖の言葉を聞く前に逃げようとする人々だったが”奴ら”から逃れる逃げ道は”奴ら”が経った今破壊し、瓦礫でふさがれてしまった。

 

 

「おいおい…冗談じゃないよ。」

 

 

辺りの人々と違って恐怖からではない震え、武者震いをする男が右手で自分の左手のくるぶしを握る。

 

煙が収まっていくと左腕の銀色の腕輪 アマゾンズレジスターが赤く光っている怪物が3体近づいてきた。

 

人々の中には勇気を振り絞って鉄パイプで襲い掛かる者もいたがそんな攻撃は効くことなく怪物に無残にも首筋を噛み切り殺されていく。

 

赤い血は黒いローブに染み込まれたことで目立つことないものの、その出血の量は尋常ではないのがわかる。襲われた人々は即死だろう。

 

怪物は抵抗する者を一通り襲い尽くすと今度は建物の端の方で震えていた人々にターゲットを変えた。端にいる眼鏡の男性に飛びかかる怪物は男性を襲いながら口から糸を出して拘束する。

 

 

「ひゃあぁぁ!!!た…すけて…。」

 

 

糸で口を縛った後に首筋に噛みついて肉を千切る。大量の血が噴き出しステンドガラスが真っ赤な血で覆われた。他の人々も自分がこうなるということを想像するだけで手足が動かなくなる。

 

怪物が眼鏡の男性”だった肉”を食い散らかし終えた後、動けなくなっている人々の方を向いた。

 

 

「教…祖…様ぁ…!」

 

 

辺りを見回しても教祖はいない。どこからか逃げたのだろうか?そう終わりだと目をつぶったその瞬間、怪物の頭部が何者かによって胴体から切り離された。

 

それはほんの一瞬の出来事。

 

人々も何が起こったのかわからなかった。見えたのは黒い影と青い一筋の光。あとの2体の怪物たちも威嚇しながら辺りを見回して警戒をする。

 

もう1体の怪物が警戒を止めて人々をまた襲おうと近づいた時、先ほどの黒い影がどこからともなく現れ怪物に襲い掛かった。

 

蜘蛛を模した怪物は黒い影に襲われ手足を捥がれる。そこから流れ出す黒い血を気に留めることなく黒い影は蜘蛛の怪物に噛みついていく。やがて蜘蛛の怪物はただの肉片となって黒い影に食いつくされた。

 

残った1体の怪物は本能で恐怖したからか教会から逃げ出そうとしたが、背を向けたその瞬間、胴体が真っ二つに切断され、断末魔を上げる事なく床に落ちた。まもなくしてその体は液状に変わる。

 

黒い影は液状になった怪物の姿を見つめている。自分の左手を握っていた男は黒い影を見ながら呟いた。

 

 

「アマゾン…!」

 

 

 

 

 

 

 

トラロック事件から6か月が経っても世間から野座間製薬へのバッシングは続いている。そんな野座間製薬の子会社 ノザマペストンサービスの”清掃班”として働いていた青山は空きオフィスの清掃を命じられていた。

 

 

「あー、青山さん。塩素系洗剤で拭いたところを酸性洗剤でまた拭こうとしないで下さいよ。特定有害生物関連以外で死なれるとこっちがかなり迷惑するんで。」

 

 

”政府の狗”に叱られるのはなぜかイラっとくる。一応政府側の警視庁特殊部隊員だった志藤や福田はそんな嫌味な感じはなかったが…。

 

 

「お前の言い方はいちいちムカつくな、札森。」

 

「アンタら野座間製薬が余計なことしてくれたおかげで政府(こっち)はホント迷惑してるんすよ。これぐらいパシられても仕方ないでしょ。」

 

「公務員とは思えない口ぶりだな。衛生省の人間ってのはこうも偉そうなやつばっかなのか?赤松もいちいち上から俺たちを見下してくる。」

 

「衛生省っていうか政府の奴なんてそんなもんですよ。赤松さんは自衛隊の幹部候補でしたけど誤射による事故でウチに飛ばされちゃいましたから卑屈にもなりますよー。」

 

 

札森は伸びきっていない髪をかき上げながら青山を見下ろして掃除の続きをさせた。

 

青山が清掃をしている場所は日本政府と野座間製薬の共同出資によって設立された 「特定有害生物対策センター」 通称「4C」のオフィスになる予定だ。

 

まだ予算が少なくこの規模の場所しか借りれないと札森は嘆いていたが、数人で構成される4Cにしては大きめのオフィスだと青山は思っている。

 

 

「ところで俺と札森、それと赤松、白木さん以外に誰が来るんだ?」

 

「あー、今んとこそれだけです。」

 

「は…?」

 

「あとはリストラにあった野座間製薬元社員の方を雇うって感じですかね、格安で。」

 

 

いちいち腹の立つ表情を見せてくる。こんな職場に留まって本当によかったのだろうか?とはいえ実際給料がいい。ギャンブル狂いだった自分を戒めるにはちょうどいい所なのかも知れないと青山は野座間製薬に残ることにしたのだ。

 

しかし野座間製薬も事業縮小でノザマペストンサービスとして雇われていた青山は居場所がなくなった。そこで4Cへの募集を見てすぐさま飛びついたのだ。

 

 

「あ、でもなんか女の子が4Cに入隊希望してましたよ。」

 

「女だと?確かに白木さんはうちにいるけど…。出来る奴なのか?」

 

「んーと…あったあった。」

 

 

札森がタブレットで4Cに志願していた女性の情報を出し青山に見せる。

 

 

「水澤…美月…!水澤本部長の娘さんじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

清掃が一通り終わったオフィスにはソファーが2つと小さなテーブルが置かれただけでガラリとしている。そんな中、美月はテーブルを挟んで小さい方のソファーに腰を掛けていた。

 

 

「水澤美月です。よろしくお願いします。」

 

「あ、いや本部長のお嬢さん…ですよね?」

 

 

大きい方のソファーに深く腰を下ろしダルそうにしている札森を突く青山は美月に水道水の入ったコップをテーブルに置く。

 

 

「これしか今なくて…すいません。」

 

「そんな、どうぞお気遣いなく。」

 

「いえいえ…。」

 

 

タブレットのタッチの仕方で札森がゲームを始めたことが目に見えてわかる。美月に聞こえないように「いい加減にしろ。」と怒ると札森は溜息をついてトイレに向かった。

 

 

「すいません、アイツ不愛想で…。」

 

「そんなこと…私の母のせいでこんなことになってしまったので仕方がないと思っています。」

 

「いや奴はそんなやつじゃ…。それより本気ですか?4Cの駆除部隊に入隊希望って。」

 

「はい、私も戦いたいんです、アマゾンと。」

 

 

札森の持っていた資料によると美月の母 水澤令華は先日自身の家を売却したそうで美月も寮のある高校に転校させられていた。

 

しかしそこを自主退学、その理由は「4Cに入隊するため」だそうで…。

 

 

「えーっと…そこまで楽しい職場でないことは…?」

 

「勿論わかってます。」

 

「高校…行かれたほうがいいですよ?自分も高校は中退しましたけどろくな人生じゃありませんでした。」

 

 

青山が苦笑いで説得を試みようとしても美月の顔が変わることはない。

 

 

「あの…本当に危ないんですよ。」

 

「戦う選択肢は…アリだと思う。」

 

「?」

 

「その答えが本当なのか…知りたいんです。」

 

 

彼女の目はまっすぐ青山の瞳を見つめていた。

 

 

「戦う選択肢って一体…」

 

 

青山が訪ねようとした時、札森が落ちそうなズボンを手で押さえながらもう片方の手でタブレットを掲げてトイレから飛び出した。

 

 

「出ました!出ましたよ、青山さん!」

 

「汚いからそんなことわざわざ報告しなくていいんだよ。」

 

「そっちもですけど今言ったのは特定有害生物の方です。」

 

 

 

 

 

 

 

青山が運転する輸送用バンは赤松が止めたと思われる黒いバイクの後ろに止められた。

 

アマゾンの目撃通報が入ったのは別荘地として有名なところに佇む古い家だ。既にこの中に赤松と白木が潜入しているようで、中から銃撃音が鳴り響いている。

 

 

「ったくあの人たちは勝手に行きますね、ほんと。一応司令塔は俺なんですけどね。」

 

「司令塔なら司令塔らしくしてくれ。」

 

「はーい、じゃあ青山さんは赤松さんたちと合流してください。俺と水澤は車の中で待ってますから。」

 

 

そういうと札森は車の中に入っていった。本当に何のためにいるのかわからない。

 

美月を連れてきたことも理解できなかったが既に戦闘が始まっているため、青山は赤松と白木の元へ向かう。

 

古家の扉を開けるとそこには黒い液体と青く光ったアマゾンズレジスターが放置されていた。

 

 

「覚醒前か…。」

 

 

奥へさらに進んでくとHK417と呼ばれる狙撃銃の銃撃音がより大きく聞こえる。札森の話だと覚醒前のアマゾンが3体ほどいるとのことだったから、残りは2体ということになる。

 

青山もM16型の自動小銃を構えてリビングに入るため片手をドアノブに置いた。とその瞬間を狙って青い光を発するアマゾンズレジスターが付いたアマゾンの腕が青山の首を掴んだ。

 

その手に向けて自動小銃を発砲する青山。

 

 

「ぐああ!く…死ねぇぇ!!」

 

 

発砲し続けても襲い掛かってきたアマゾンは怯むことなく近づいてくる。いま生きているアマゾンはトラロックに対する免疫があった”良個体”のアマゾン。ただでは死なないのだろう。

 

ノザマペストンサービスで駆除班でなかった青山は弾丸の消費ペースが未だに掴めず、すぐ弾を切らしてしまうのが悪い癖になっていた。

 

 

(やばい、弾丸が尽きる!)

 

 

案の定、弾切れを起こしすぐに自動小銃を捨て逃げようとした時、隣の部屋から白木が手にしていたH&K MP7を脇に挟みつつアマゾンに向けて射撃攻撃を繰り出す。

 

 

「大丈夫ですか!青山さん!」

 

「ごめん、白木さん。助かった!」

 

 

女性とは思えぬ勇敢さで青山を背にアマゾンに射撃を続ける。まもなくして心臓を捉え、アマゾンはその場に倒れた。

 

 

「よく覚醒前のアマゾンを探知できたな。」

 

「赤松さんが地道な捜査で見つけたみたいです。」

 

「さすが元エリートってとこだな。」

 

「あと1体を赤松さんが相手してます。ランクはBですからあまり油断できません!」

 

「すぐに行こう。」

 

 

青山と白木は中庭に出た。そこには女王アリアマゾンと応戦する赤松の姿があった。弾丸が尽きたようで赤松はサバイバルナイフを振り回してなんとか女王アリアマゾンの攻撃から身を守っている。

 

 

「赤松!」

 

「…!やっと来たか!さっさとアマゾン狩るぞ!」

 

「私の…私の仲間たちをよくも!」

 

 

女王アリアマゾンは怪物染みた声で、しかしどこか悲しそうに声をあげた。

 

覚醒前のアマゾンは正気を保っていることから言葉を発するというのは駆除班にいた”M”の資料から分かっていたが、こうも人間の言葉を発せられると駆除しにくいのが本音だ。

 

 

「でもそんなこと言ってられないよな…!」

 

弾を装填し自動小銃で女王アリアマゾンの首を狙う青山。しかし理性を保っている女王アリアマゾンは赤松の首を掴むとそれを盾にして狙撃されないようにした。

 

 

「動くな!こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「あ…赤松!」

 

「怯むな!撃て!俺のことは気にするな!アマゾンを殺すために…犠牲は厭わない!」

 

「そんな…赤松さん。私…。」

 

「撃てぇぇ!!」

 

 

赤松は叫ぶも2人は銃の引き金を引くことは出来ない。とその時、耳にしていたインカムから札森の声が入ってきた。

 

 

『青山さん!もう1匹がその近くに来てます!』

 

「んだと!?白木!もう1匹が近づいてるって!気を付けろ!」

 

「……!この臭い…まさか!」

 

 

女王アリアマゾンが赤松を盾にしながら辺りを見回す。それは恐怖に怯えているような様子だった。

 

 

「?」

 

 

女王アリアマゾンが左を向いたその瞬間。音を立てることなく黒い影が赤松のすぐ近くを通ると共に女王アリアマゾンの首が落ち、噴き出す黒い血が赤松の顔面を汚した。

 

 

「なんだ!?」

 

 

青山はすぐにその黒い影に向けて銃口を向ける。そこには未覚醒を示す発光をしたアマゾンズレジスターをつけたアマゾンが立っており、青山たちの方を振り向いた。

 

後ろには巨大な尾が付いており、その先には鋭い刃がついている。まさしくそれに名をつけるならば”サソリアマゾン”といえる。

 

 

「なんでお前…同じアマゾンを?」

 

「……。」

 

 

サソリアマゾンは女王アリアマゾンの頭部を拾い上げると触覚を引きちぎりムシャムシャと食い始める。やがて頭を全て平らげると今度は胴体の方に近づいていった。

 

頭部を食らうアマゾンのグロテスクな場面に目を背けたい青山たちもサソリアマゾンの動きに合わせて銃口の向きを変えていく。

 

サソリアマゾンが横たわった胴体を食らおうとした時、女王アリアマゾンの体は黒い液体に変化した。

 

 

「…くっそ。」

 

 

冷気を発しつつサソリアマゾンは20代前半とみられる青年の姿に変わっていく。青山は思わず彼に声をかけた。

 

 

「お前は…誰だ?」

 

「…(はかり)。」

 

 

商と名乗った青年はその場に口から女王アリアマゾンのもう一方の触角を吐き出した。




はじめまして!エクシと申します。
他の小説を読んでくださった方はお久しぶりです!

最近仮面ライダーアマゾンズにはまっていまして…書いてしまいました…!

書きたいのはSeason1から2にかけての空白の5年間です。溶原性細胞関連はもしかしたら出ないかもしれないです。というのもまだSeason2が続いていますから千翼やイユのことで下手に書くと矛盾する点が出てきちゃうかなと思ったからです。よって完結次第、溶原性細胞関連に手を付ける…かも?

さて今回の主役は「アマゾンを食らうアマゾン」です。
アマゾンは人のたんぱく質を欲する生き物ですが、なぜかアマゾンの血肉を欲してしまう尾宿商がサソリアマゾンとなってアマゾンを狩ります。
ちなみに尾宿は”びしゅく”。商とかいて”はかり”と読みます。
商ると書いて”はか-る”と読むこと、さっき知りました笑

4Cのメンバーはアマゾンズファンの方ならおわかりだと思います。

青山…Season2でアロマオゾンの営業所を見に行った部隊の隊長です。最期はご存知の通りです。この小説では元ノザマペストンサービスの清掃班にいたという設定でギャンブル狂いで、更生した後は清掃班をやることで何とか借金を返していたという三崎にちょっと似たやつです。

札森…エステ大好き札森ちゃんです。まだ髪の毛はそこまで伸びてないですね。衛生省の人間だったということで某仮面ライダーエグゼイドが絡んでくる!?と思う方もいらっしゃいますが、残念ながら関係ないです。実在する省庁を書くのは何かなあと思ったのでエグゼイドから拝借した次第です。

赤松…4Cきってのエリートということで元自衛隊の幹部候補生にしました。それがエリートなのかよくわかりませんがとりあえず強いということで!

白木…女性もいれたかったのでオリジナルキャラです。たぶん政府側ですかね。でも政府の人間にも野座間製薬側の人間にも優しいです。たぶん…。

そんな感じで書いていきますのでよかったら感想、お気に入りよろしくお願いします!質問も受け付けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2「Monstrous Behalf」

アマゾン。それは恐ろしき味方。覚醒前のアマゾンが潜んでいた古家でアマゾン狩りをしていた4Cの前に商が現れる。捕獲を試みようと4Cのメンバーは商を囲うもイースヘブンの信者たちに邪魔されてしまう。


商が千切った触覚と吐き出した触覚の2本は未だに少し動いている。商がそれを踏みつけるとまもなくして動かなくなった。

 

 

『青山さん、赤松さん、白木さん。どうなってるんすか?アマゾンの反応は消えましたけど。』

 

 

悪いが札森の通信に答えるほどの余裕はない。この商と名乗るアマゾン、かなりの凄腕だ。

 

 

「ゆっくり手を上にあげてその場にしゃがめ。余計なことはするなよ?」

 

 

さすがエリートの赤松。このような”異例”の状況にも冷静に対応している。とは言っても”異例”の状況のマニュアルはないわけではない。

 

ただ推定されていた”異例”の事態が起きるとはここにいる誰しも信じられなかったのだ。

 

 

「もし人間に敵対しないアマゾンがいたら捕獲したまえ。」

 

 

上の人間からそう言われていた。まさか本当にアマゾンを狩ってくれるアマゾンが現れるとは…。

 

 

「……。」

 

 

商が動こうとする様子は全くない。もし抵抗するのであれば抹殺対象としてすぐに手にしている自動小銃で商をハチの巣にしなくてはならないため、銃口をまっすぐ商に向けていた。

 

 

「抵抗するのであれば撃つぞ!」

 

 

赤松が自分の自動小銃の弾を変えて今にも撃とうとしている。その時、中庭の奥の森から白いローブを着た人々が出てきて商を守るように囲んだ。

 

 

「なんだ、こいつら…!」

 

「どいて下さい!その男はアマゾンです!」

 

 

白木はこんな状況にしては相変わらず丁寧な口調で人々を誘導しようとする。

 

しかし白いローブを着た人々は手を広げまるで商目掛けて撃ち込まれた弾丸は全て自分たちが受けきるとでも言いたげな力強い目つきで4Cのメンバーたちを睨みつけていた。

 

 

「こいつらも撃つか。札森、こいつらアマゾンだな?」

 

『? 何の話すか?』

 

「チッ。お前とりあえず車から出ろ!ちゃんと肉眼で見ないと状況把握できねえぞ。」

 

『えー、出たくないな。今行きますから状況説明してください。』

 

「ランクAと思われるアマゾンを20名ほどの群集が守ろうとしている。こいつら強い仲間を守ろうとしてるのかって聞いてんだ!」

 

『えーっと、その周りにいる奴らは人間です。アマゾンじゃありません。』

 

「なんだと…?」

 

 

既に世間でアマゾンが人間を喰うということは広まっている。そんなアマゾンを庇う人々とは一体…。

 

 

『白いローブって言ってましたよね。それたぶん宗教団体のイースヘブンって奴らです。あ、今着きましたー。』

 

 

中庭に繋がる建物の出口から札森と美月が外に出てくる。

 

「イースヘブン?」

 

「赤松!奴らが逃げるぞ!」

 

 

札森から話を聞こうとしている間にイースヘブンの信者たちが商を連れて森の奥へと入っていく。

 

 

「赤松、追うぞ!」

 

 

青山が森へ駆けていこうとした時、赤松がその場で倒れ込んだ。先ほど商が女王アリアマゾンを狩った際の斬撃が赤松にも当たっていたのだ。

 

 

「おい!赤松!」

 

「札森さん!車から救命バック!」

 

「なんだよ、結局車にいた方がよかったじゃないすか…。」

 

札森は走って車まで戻り、美月は赤松の首筋から流れる血を見て口を押える。

 

青山は自分の上着をサバイバルナイフで切ってつくった当て布を使って赤松の首の傷を抑えている間、白木が森の方を向くと既にそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

森の先にはマイクロバスが止まっている。人々のローブと同じ白いバスで運転手も真っ白のローブを羽織っている。

 

 

「あ、すいません。ちょっとトイレ~。」

 

 

集団の中の1人が森の中へ戻っていく。誰にも見られないところまで来ると男は右手でトランシーバーを取り出し口元へもっていった。

 

 

「こちら三崎。対象が4Cのメンバーと接触しましたよーう。」

 

『了解しました。引き続き潜入をお願いします。』

 

「あーそれと…4Cのメンバーと一緒にお嬢さん、いらっしゃいましたよ。」

 

『……引き続き任務をお願いします。』

 

 

通信が切れると三崎は再びバスの方へと駆けていく。バスの前の方の席に座る商が三崎をまっすぐと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

通信を切ったトランシーバーを畳の上に置く水澤令華。立ち上がって障子戸をあけるとそこには美しい日本庭園が広がっている。

 

「私が今大事なのは…悠。」

 

 

 

 

 

 

 

2人の男女が人通りの少ない路地を駆けていく。左肩の一部の服が破れておりそこからは覚醒前のアマゾンズレジスターが覗かせる。

 

曲がり角を曲がるとその先にはフードを被った壮年の男が立っていた。ニヤニヤした表情で傷だらけのアマゾンズドライバーを手にしている。

 

 

「た…助けてくれ!」

 

「私たち…まだ食べてない!」

 

「”まだ”…だろ?お前らが人を食っちまう前に…俺がやってやるぅぅ!!!」

 

 

狂気じみた笑顔を浮かべて壮年の男性はアマゾンズドライバーを腰につけ、左側にあるアクセラーグリップを捻る。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

 

「アマゾンッ!!」

 

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

アマゾンズドライバーから流れる音声と共に灼熱の赤いエネルギーが男性から噴き出し2人の男女を吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされた衝撃でアマゾン体に変化する2人は壮年の男性を見るとそこにいたのは自分の赤い体に刻まれた傷をなぞるアマゾンアルファだった。

 

 

「覚悟しろぉ…。」

 

「くっそぉ!」

 

 

男性が変化したモズアマゾンがアルファに襲い掛かろうとするとそれに反撃するように左手のアームカッターでモズアマゾンを斬りつける。

 

奇声を発しながら苦しむモズアマゾンの首を右手で持ち、アルファは左手のアームカッターで首を掻き切る。切り取った首を投げ飛ばし、胴体は右足で踏みつけていった。

 

 

「や…やだぁ…!!!」

 

 

女性が変化したモズアマゾンは仲間が無残に死んでいく様子を見て戦う意欲が湧くことなく逃げようと後ろを向いた。その方向からジャングレイダーに乗った青年が来るのが見えた。

 

 

「悠!」

 

 

モズアマゾンとアルファの間に入るようにジャングレイダーを止める悠はメットを取ってモズアマゾンを逃がす。

 

 

「仁さん…もうやめてください!」

 

「邪魔をするなあああ!!」

 

 

アルファが悠に襲い掛かり、その動きを見切って悠も手にしたアマゾンズドライバーを腰に着ける。

 

アルファのものに比べ傷は少ないが、それでも激戦を潜り抜けてきたものだというのがわかる。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「ウォォォ!アマゾンッッ!!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

アルファとは異なる音声と共に悠の体から緑色の熱気が放たれ、アマゾンオメガに肉体を変化させた。

 

 

「そっちこそ邪魔しないでください!僕たちはただ静かに生きていこうとしているだけだ!」

 

「だぁまぁれぇぇぇ!!!」

 

「仁さんだってもうボロボロじゃないですか!」

 

「ウゥゥ…ウオォォォ!!!」

 

 

アルファがトラロックの影響で精神に異常をきたしていることはオメガは一見してわかった。駆除班の仲間たちと決別した後、アマゾンの仲間たちと生活を共にしていく中でトラロックの影響で発狂死してしまうアマゾンもいたのだ。

 

 

(こんな状態の仁さんと戦わなきゃいけないなんて…。)

 

 

アルファの手と足から繰り出される攻撃に対し冷静にかわしていくオメガ。かつては闘志が燃え滾ると他のことが考えられなかったが、最近は理性的な戦闘を行うことが出来るようになった。

 

アルファの体力が落ちてきたところでオメガはアマゾンズドライバーの右側のバトラーグリップを引き抜きアマゾンウィップを生成した。

 

鞭型のアマゾンウィップでアルファに生まれた小さな隙をついてオメガは敵の右手を縛り上げる。

 

 

「貴様ぁぁ!!」

 

「く…!…ッ!」

 

 

オメガは先ほど逃げたモズアマゾンから血の匂いがしたことに気が付く。すぐに戦闘を終わらせるために自身のアマゾンズドライバーのアクセラーグリップを捻った。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)BREAK(ブレイク)-

 

 

アマゾンウィップを引き寄せ左手のアームカッターで斬ろうとするオメガの様子を見たアルファも左手でアクセラーグリップを捻り、必殺技で受けようとする。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)SLASH(スラッシュ)-

 

 

お互いのアームカッターがぶつかり合い、火花が飛び散った。その瞬間、アマゾンオメガが右足のアームカッターでアルファを斬りつける。

 

 

「うぐぅう!!」

 

 

アルファが膝をつくとバトラーグリップをアマゾンズドライバーに戻しオメガはジャングレイダーでモズアマゾンの元へ走っていった。

 

 

「水澤…悠ァアアアア!!」

 

 

アルファの雄たけびが遠くへ行ったところからでも聞こえる。今はこれでいい、殺すために戦うのではない。オメガは守りたいものを守るために戦うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ジャングレイダーが着いた先には青く光るアマゾンズレジスターが転がっていた。近くの黒い液体は肉体の大きさにしては少ない。

 

 

「やっぱ噂通り…。」

 

 

アマゾンの死体は死亡後まもなくして黒い液体へ変化する。その液体の量が少ないということは死体の状態のまま何者かが死体を回収、あるいは喰らったことになる。

 

 

「また新しい敵か…。」

 

 

オメガの姿から冷気を放って人間の姿に戻った悠は悲しそうな顔をして再びアマゾンたちのコロニーへ戻るためジャングレイダーに跨った。

 

 

 

 

 

 

 

青山が運転する輸送用バンは赤松を病院で下した後、政府の命令で警視庁へ向かっていた。美月と白木は赤松に付き添うために同じく病院で降りていたことから、車の中には青山と札森が無言で乗っている。

 

 

「なんで俺たちは警視庁なんかに行くんだ…?」

 

「俺の知り合いからそういう通信が入ったんです。」

 

「はぁ…。それよりイースヘブンってとこについて調べたか?」

 

「あーはい。2課とマル暴の知り合いからざっと聞いておきました。」

 

 

札森曰く…

 

イースヘブン――――アマゾンの存在が世間に公表される前から人を喰らう生物の噂によって作られた宗教団体である。アマゾンに喰われても神の元へ行くことが出来るという一種の諦めから生まれたといえるだろう。

 

数か月前までは”神山減命(かみやまげんめい)”と名乗る教祖が教団を率いていたが、集会中にアマゾンの襲撃にあったことで神山は行方不明。信者たちはその頃から服装の色を変えるなど外見からわかるように考え方も変わったようだ。

 

 

「考え方?」

 

「はい。喰われても大丈夫ってわけじゃなくて、喰われないように神に祈ろうって感じすね。」

 

「ずいぶんプラス思考になったもんだ。」

 

 

青山は警視庁付近の地下駐車場に輸送用バンを止めた。サイドブレーキを強く引くと共に札森はバンの扉を開けて警視庁に1人歩いていく。青山もそれに着いていく形で駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

札森を呼びだした警視庁の人間は青山の目から見たせいかいやらしく見える。一方の札森は水を得た魚のように生き生きしている。

 

 

(やっぱこいつも政府の人間だな。)

 

 

青山は出された茶を一気飲みしようとするも湯呑が熱いせいで叶わなかった。

 

 

「そんで何で俺らを呼んだんですか?」

 

「実は警視庁にある男が助けてほしいと言ってきた。だが俺たちだけでは特定有害生物についてよくわからないからな。特定有害生物対策センターたる4Cに依頼したってわけだ。」

 

「特定有害生物関連ですか。」

 

 

札森は溜息をつきながら資料に目を通す。一方の青山は前から気になっていたことを指摘することにした。

 

 

「その特定有害生物って噛まないのか?アマゾンでいいんだよ。」

 

「はいはい、了解しました。……!この男って。」

 

「誰だ?」

 

青山の質問に珍しく札森は素直に答えた。

 

「神山減命です。」

 

 

 

 

 

 

 

青山たちが帰った4Cのオフィスには本棚や武器の収納スペースなどが入っていた。ソファーも増えておりそこには手当てが済んだ赤松と茶を入れる白木がいた。

 

 

「水澤さんは?」

 

「ちょっとショックで貧血起こしちゃって…。病院にいます。」

 

 

ため息の付き方から赤松は美月を4Cに入れる気はないのだと察した青山は防弾チョッキを脱ぎながら白髪交じりの中年男性 神山をソファに座らせた。札森も髪の毛をいじりながら神山の向かい側のソファーに座り込む。

 

 

「えーっと神山さん。本名 小林隆さん。」

 

「神山で結構です。」

 

「あ、そすか。じゃあ神山さん。どうして警察に自分を守ってくれっつったんですか?ちょい前まであなたはイースヘブンの教祖として教団の中じゃいい感じのとこにいたんでしょ。」

 

 

札森の適当な事情聴取に呆れる青山。それをなだめるように白木は冷たい水を青山に渡した。

 

 

「確かに3か月前まで私は教祖として皆を導いてきました。しかし奴が現れたんです…!」

 

「やつ?」

 

「尾宿商ですよ、あのアマゾンを喰らうアマゾン…!」

 

 

札森が”びしゅくはかり”とタブレットに入力している。とりあえず情報はきちんと入力しているようだ。

 

 

「私は3か月前、集会が襲われた時…その…。」

 

「?」

 

「に…逃げてしまいまして…。」

 

「あー、イースヘブンの元々の考え方はアマゾンに喰われてなんぼって感じすからね。教祖が真っ先に逃げちゃしゃーないすね。」

 

「あんな場面になったらそりゃ逃げるでしょう!」

 

 

「宗教は金になる。」ギャンブルに頭がいっぱいだった時、誰かが言っていた気がする。

 

この男もその考えで教団を作ったのだろう。いずれにせよこの男に大層な考えや信念はない。

 

 

「後で戻ろうと思ったら尾宿が皆に持ち上げられていたんです。私が決めた黒いローブも脱ぎ捨てて白い服装に変わってて…。」

 

「考え方が変わった…ってことですよね。」

 

「アマゾンを喰う尾宿が仲間になったから強い姿勢を持てるようになったってことすかね。」

 

 

”びしゅくが入って考えシフト”と打ち込む札森のタブレットを奪い”尾宿”と打ち直す青山。嫌な顔をしながら札森がタブレットを奪い返す。

 

 

「教団のみんなは変わってしまった。真っ先に逃げた私を非難し…しまいには夜を狙って襲ってきたり…。」

 

 

自業自得…といって追い返すわけにもいかない。4Cの仕事は神山をイースヘブンから守ることなのか怪しい所であるが政府の考えに逆らうわけにはいかない。

 

赤松は保護するために基本的にオフィスにいるよう神山に伝える。そのオフィスの扉の向こうにはアタッシュケースを手にした加納省吾がハンカチで口を押えながら聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

神山が4Cに保護されてから数か月。

 

イースヘブンの拠点は今やマイクロバスになっていた。中には通信機やパソコンなど多くの機械が積まれ、宗教団体と言うよりは一つのアマゾン対策組織のようだ。

 

奥の方には玉座のような大きな椅子が置かれ、商はそこに座っている。三崎は何気なく商の横に行って話しかける。

 

 

「ハカちゃん。」

 

「おい、貴様!商様になんてことを!」

 

「…別にいい。」

 

 

三崎を叱った信者は商に会釈をすると自分の作業に戻った。

 

 

「ハカちゃん、たんぱく質だよ。」

 

三崎はアマゾンズインジェクターで商の腕に高濃度たんぱく質を注入する。

 

 

「すまんな。」

 

「いいのいいの。」

 

 

注入が終わると三崎は空のアマゾンズインジェクターを抗菌用の台に置いた。手を拭いて自分の席に戻ろうとするとマイクロバス内のブザーが鳴り響く。

 

 

「覚醒後のアマゾンの反応があります!」

 

 

運転手はすぐにその地点をナビに登録し、その場所へ急ぐ。商も横に置かれていたオリーブ色のブルゾンを羽織って外へ出る準備を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

現場に着くと既に何人かの人間がトンボアマゾンによって喰い散らかされていた。信者たちはバスから降りると扱いやすい小型拳銃でトンボアマゾンを牽制する。

 

既に理性を失っているトンボアマゾンは挑発に乗るように弾丸を放った信者たちを襲おうとする。とその時バスから商が下り、近づくトンボアマゾンに蹴りを入れた。

 

 

「ウオオオ!!」

 

 

商の体から熱気と共に爆風が放たれ、サソリアマゾンの姿に変化した。オレンジ色の釣り目はアマゾンズドライバーで変身するアマゾンたちと同じ位の大きさをしている。

 

頭部はアルファによく似た形をしているが辮髪のような三つ編みが付いている。黒いその肉体の臀部からは地面にまで到達しそうな長さの尾っぽがフワフワと動いていた。

 

 

「ガウウウ…。」

 

 

威嚇でトンボアマゾンを睨みつけるサソリアマゾン。先に動いたのは飛行能力のあるトンボアマゾンであった。サソリアマゾンに飛びかかるように襲い掛かる。

 

サソリアマゾンは尾を伸ばしトンボアマゾンの心臓部をめがけて貫こうとしたが、尾の軌道をトンボアマゾンから放たれた風の斬撃でずらし、肩を貫くにとどまった。

 

 

「グギャアアウウ!!!」

 

 

黒い血が噴き出しつつトンボアマゾンから尾を引き抜くサソリアマゾン。信者たちはバスの中で祈りをささげている。三崎もサブマシンガンを手にしているが周りの信者たちが一切動かないことから、自分もバスの中で待機していた。

 

とその時、ジャングレイダーの吹かす音がバスの外から聞こえた。三崎が窓の外を見るとそこにはアマゾンズドライバーを装着する悠が見える。

 

 

「悠お坊ちゃま…!?」

 

 

悠は三崎に気が付くことなくサソリアマゾンとトンボアマゾンの前でアクセラーグリップを回す。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「ハァ!アマゾンッ!!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

本能に身を任せるというよりは気合を入れるように掛け声を叫ぶ悠。体から緑の熱気が放出されオメガへと変身した。姿勢を低くしつつ右手をバトラーグリップに置き、飛び上がると共にバトラーグリップを引き抜くことでアマゾンサイズを作ってアクセラーグリップを捻る。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)BREAK(ブレイク)-

 

 

飛びかかった勢いによって鎌型のアマゾンサイズの切れ味はさらに増している。かつて駆除班の大滝が変身した同種類のアマゾンを駆除した際と同じようにトンボアマゾンの胴体は2つに分かれた。

 

 

「…ごめん、覚醒したらこうする約束だったから…。」

 

 

オメガがバトラーグリップをアマゾンズドライバーに戻して呟いた。その隙をついてサソリアマゾンは尾を伸ばしてオメガを襲う。

 

それを見切ってアームカッターで尾を斬りつけるも、固くなっている尾から血液が出ることはない。

 

 

「君がアマゾンを狩るアマゾンだね。なんとなくそうなってしまった原因は分かるよ。」

 

「…お前を喰う…!」

 

「悪いけどまだ死ぬわけにはいかないんだ。皆を守るために…君を狩る!」

 

 

オメガはサソリアマゾンに向かって駆けていく。尾による攻撃を繰り出すもそれを全てかわしていくオメガはあっという間に接近戦に持ち込み、アームカッターでサソリアマゾンを斬りつける。

 

 

「グアアア!」

 

 

サソリアマゾンは何とかして距離を取ろうと飛び上がってバスの近くまで近づこうとするもその隙を与えることなくオメガはフットカッターによる足技で傷を与えていく。

 

 

「グアア!」

 

 

大きなダメージを負ったサソリアマゾンは冷気を放って商の姿へ戻った。バスから出てきた信者によって囲われ、オメガは手が出せなくなってしまう。

 

均衡状態が続く中、バスとジャングレイダーが止まる横にノザマペストンサービスのバンが止まり運転手が下りてきた。

 

 

「福田…さん?」

 

 

オメガは突然現れたかつての仲間に驚きを隠せない。福田は黙って手にしたアタッシュケースからコアユニットがオメガと同じ釣り目、しかし中心の銀色の装飾が黒くなったアマゾンズドライバーを商に投げた。

 

 

「橘本部長の命令だ。それを使え。」

 

 

三崎もバスの中から福田の行動に驚きを隠せない。しかし今ここで出てしまえば潜入の意味はなくなってしまう。自分の気持ちをグッと堪え、三崎はバスの中で待機した。

 

一方の商はオレンジの瞳のような装飾のアマゾンズドライバーを腰に巻き、アクセラーグリップを捻った。

 

-COPPA(コッパ)-

 

「アァマァゾォンッ!」

 

オレンジ色の熱気が放たれ、周りの信者たちの中には吹き飛ぶ者もいる。やがて商はサソリアマゾン 改めアマゾンコッパへと変身を遂げた。




なんだか長くなってしまいましたが2話終わりです。
既にお気に入りに登録して下さった方、ありがとうございます。
面白くなるように頑張っていきます。

さて今回はサソリアマゾンがアマゾンコッパに変身する回でしたね。
コッパはQの元になったギリシャ文字だそうです。アルファとオメガは物事の最初と終わりを示すようですがコッパは…特に決めてないですw
シグマはなんでシグマにしたんでしょうね?とりあえずコッパは今後、本編でも使われないだろうと期待してます。被ったら…すいません。

最後に元駆除班の現状を書きたいと思います。何かここで書いた方がいいことがあれば感想等にお願いします。

志藤…不明
マモル…アマゾンたちと共にいる
高井…不明
三崎…令華の命令で宗教団体イースヘブンに潜入中。
福田…野座間製薬 国際営業戦略 本部長 橘の元で働いている。まだ4Cには入っていないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3「Matters Caused by tlaloc」

アマゾン。それは変わりゆくもの。福田から受け取ったアマゾンズドライバーでアマゾンコッパに変身を遂げた商。ただならぬ力でオメガを圧倒するも何者かの援護によってオメガは逃走に成功する。


加納が行進をするように”国際営業戦略本部長 橘雄吾”の卓上名札が置かれたデスクまで近づきそこにふてぶてしく座る男に先ほど福田から入った通信の内容について報告をした。

 

 

「橘本部長。福田から通信が入り、尾宿商にアマゾンズドライバーを渡すことに成功したようです。」

 

「ほう。まぁこれぐらいはやってもらわなくちゃね。それにしても本当に優秀だね、加納君。君が尾宿商の情報を4Cから持ってきてくれたおかげで国際営業戦略部は前もって動くことが出来るよ。」

 

「お言葉ですが本部長、会長に許可を取らずにシグマが使っていたドライバーの更なる複製版をアマゾンに渡してよかったのでしょうか。」

 

「会長は”物食わぬ生命体”を否定されていらっしゃる。尾宿商はアマゾンを喰うアマゾン。物は食うし、新たな食物連鎖に加わることが出来る。会長もお喜びになるだろう。まぁ私はわが社での発展と昇進は諦めているがね。」

 

「どういうことです?」

 

「アマゾンの製造が禁止されてしまったんだ。シグマタイプを強化していくために国際営業戦略部はアマゾンズレジスターの開発やアマゾンズドライバーの強化を今まで試みてきたんだよ。いくら質の高いスマートフォンのアクセサリーを作ろうとスマートフォンが市場に出回らなければ意味はない。」

 

 

そう言いながらポケットから自分のスマートフォンを取り出す橘。

 

 

「会長の許可が出ないのであれば私は私なりのやり方で上に登って見せるよ。それよりドライバーに装着者の身体情報をこちらに送信するための機能はつけてあるだろうな?」

 

「はい、抜かりなく。しかし何のために?」

 

 

無機質な口調ながら真に迫る勢いで尋ねる加納。だが橘はそれに答える気はないと言わんばかりに座っている椅子を窓の方へ回転させる。

 

 

「君は優秀ではあるが特殊研究開発本部だった人間は信用しないことにしているんだ。悪いがまだ君を疑わせてもらうよ。」

 

 

加納は黙りながら軽く会釈をすると本部長室を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

コッパの相貌はアマゾンズドライバーの有無で他はサソリアマゾンと変わりはない。

 

しかしその力は何倍にも跳ね上がっていることはオメガは理解していた。

 

 

「君もドライバーを…。」

「ウゥゥ…ガウウウ!!」

 

 

コッパはオメガに襲い掛かり腕から生えている棘でオメガの命を奪おうと急所を狙っていく。

 

アマゾンシグマ同様グローブやブーツを身につけていないものの元から四肢末端から生えている棘はオメガのアームカッターと同じぐらいの強度を誇るのだ。

 

冷静さを保っているオメガの一方で本能に任せた戦いが目立つコッパ。

 

ドライバーの性能の高さゆえかコッパが一歩リードした力でオメガを追い詰めていく。

 

 

「アウウウ!!!!」

 

 

コッパの右手による攻撃がオメガの胸部を貫く。

 

 

「ヴグッ!!」

 

 

すぐさまオメガは右足でコッパを弾くも胸部から手が抜けた衝撃で黒い血が噴き出す。

 

その様子を遠目で見つめていた福田だったが風穴の空いたオメガの体が目に入ると思わず目をそらした。その瞬間、どこからが銃声が鳴り響く。その弾丸はコッパの体に撃ち込まれ隙が生まれた。

 

 

「ハァハァ…ここまで…か。」

 

 

オメガは大きく飛躍しでジャングレイダーに跨る。冷気を放ちながら悠の姿に戻るとその場を去っていった。

 

その様子を近くの岩場から高井望が自動小銃を握りしめ見ていた。

 

 

『ありがと、ノンちゃん。』

 

「三崎さんは人使い荒えんだよ。」

 

『んなこと言ったってこっちは動けないんだからさ。悠お坊ちゃまのこと、助けたかったでしょ?』

 

「んなことねえよ。とりあえず戻るんで。」

 

『ありがと。』

 

 

三崎からの通信が切れると望は誰にもばれない様にその場から退却した。

 

 

 

 

 

 

 

悠は森の中の空き家にジャングレイダーを止めた。中からボロボロの服を着た男が出てくる。

 

 

「悠…!どうしたんだ、その怪我!?」

 

「コッパタイプにやられた…。」

 

「まじかよ。これ食え!」

 

 

差し出された肉にありつく悠。数秒でペロリと平らげてしまう。

 

 

「ありがとう、落ち着いてきたよ。」

 

「普通俺たちでもその怪我は致命傷だぞ。ったく。それより山寺は?」

 

「…ちゃんと狩ってきた。」

 

「…そうか、いつも済まない。」

 

「いいんだよ。みんなが仲間を殺す必要なんてない。駆除班でアマゾンを狩ってきた僕やマモルくんが覚醒後のアマゾンを狩るってみんなで決めたことじゃない。それよりマモルくんは?」

 

「今日も天城の行方を追ってる。」

 

 

天城と名乗っていたアマゾンは数週間前に野座間製薬の人間に拉致されていた。マモルはその後を追っていたが結局足取りは掴めずじまいであった。

 

 

「天城くんとチームを組んでたからね、マモルくん。」

 

「お前とマモルがいてくれて本当に安心できるよ。それよりコッパタイプになったやつはどんな奴だった?」

 

「あ、みんなにも聞こうと思ってたんだ。尾宿商っていうやつだ。」

 

「尾宿…?」

 

「近藤さん、知ってるの?」

 

「いや確か覚醒前にもかかわらず人を喰ってるやつの名前がそんなだったような…。」

 

「人を喰ってた…?」

 

「でもその噂を聞いたのは俺がオーナーの所に通ってた時だから去年の今頃…4月くらいだったかな。例の店が駆除班に目つけられてるって噂を聞いてそれ以来店には顔出してなかったし…。」

 

 

悠は自分たちのせいでカニアマゾンがオーナーとしてアマゾンを守っていた店がなくなってしまったことを思い出す。

 

 

「あ、すまない。嫌なことを思い出させて…。」

「こちらこそ…ごめん。やっぱりちょっと1人で休ませて。」

 

 

悠は1人空き家の1室に入って鍵を閉めた。中にあるシングルベッドは埃まみれになっているが、体を休めるには快適なほうだろう。悠は横になって商のことを考えていた。

 

 

(尾宿商は前まで人を喰ってた。でもある時を境にアマゾンを喰らうように変わった。その間にあったことと言えば…。)

 

 

「トラロック…!」

 

 

 

 

 

 

 

本部長室のデスクの上に置かれた電話が鳴り、1コール目で橘は受話器を取り上げた。

 

 

「私だ。………………そうか、引き続き頼むよ。」

 

 

近くにいる加納はただじっと受話器を置く橘を見ている。

 

 

「まだ根に持っているのかね、加納くん。信用しないとは言っても同じ野座間製薬の同士じゃないか!仲間だとは思っているよ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

「今のは国際営業戦略部の研究部門からだよ。アマゾンコッパ 尾宿商のデータはきちんと送られて来たそうだ。福田は水澤悠より自分のことを取ったということだね。4Cへの推薦文を政府に送っておこう。」

 

「…。」

 

「それと私の計画に関する書類も政府に送っておかなくてはね…。加納くん、近々私は野座間製薬を後にすることになるだろうから君も身の振り方を考えておきたまえ。」

 

「どういうことです?」

 

「事業縮小した民間企業でアマゾン駆除をするより半官半民の4Cで莫大な税金を使えた方が研究には最適だろう。おっと、会長にはこのことは内緒だ。”信じているよ”加納くん。」

 

「…はい。」

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ……わかったわ。ご苦労様、加納。」

 

令華は電話を切った。特殊研究開発部が解散してからずっと野座間製薬会長 天条隆顕の屋敷で個人的に研究を続けている。

 

元駆除班もその傘下にあり、今や彼らは令華の手足となっていた。加納からの連絡を切った令華はすぐさま望に電話をかける。

 

 

「私です。新しい任務を言います。」

 

『今忙しいんだよ。』

 

「この任務を完了させればあなたたちが独断で悠を見逃した件は目を瞑ります。」

 

 

既に商から悠を逃がしたことがばれている。望は仕方なく切ろうとした電話は再び耳に当てる。

 

 

「橘本部長がまた動きました。シグマが使っていたものを改良したドライバーを尾宿商に渡したんです。橘本部長は尾宿商の体を調べて何かを企んでいる可能性があります、回収してください。」

 

『尾宿商?イースヘブンには三崎さんが潜入してるだろ。三崎さんの方が取りやすいんじゃねえの?』

 

「三崎にはまだ潜入してもらわなくてはなりません。駆除班や特殊研究開発部(われわれ)が解散してしまった今となってはアマゾンを駆除する組織が1つでも多く必要なのです。」

 

『んでイースヘブンに目を付けたんだろ。』

 

「はい、イースヘブンにはあなた方と同じように支援をしています。しかし彼らは宗教団体。何を起こすか私たちには想像もつきません。」

 

 

三崎がいつか令華を”鉄の理系女子”と言っていた。頭が固い彼女に信心は理解できないのだろうか。望は防弾チョッキを脱ぎながらハンズフリーモードにした携帯を自室のテーブルに置く。

 

 

「それの見張りで三崎さんこれからも潜入しててもらわなくちゃいけないってわけか。」

 

『そう、だから彼が動くわけにはいかないんです。』

 

「…会長の口から直接橘に命令すればアマゾンズドライバーの回収が出来るんじゃねえのか?」

 

『訳あって出来ません。とにかくよろしくお願いします。』

 

 

令華からの電話が切れた。未だに信用できないのだろうか。まぁ信用してもらおうなどとは思っていないが。望も含め志藤、三崎は”すべてを終わらせる”ために動いている。それは悠やマモルも同じなのだろう。

 

 

(福田さんは…何してるのかな。)

 

 

望は窓に外に黒い雲があるのが見えた。もうすぐ大雨が降るだろう。外に干してある生乾きの洗濯物をしまうために窓を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

アマゾンズドライバーを商に渡したことで橘に対する忠誠心が認められ、数週間も経たないうちに福田は4Cに加入することとなった。オートロック式の扉に暗証番号を打ち込みながら網膜認証を行う福田。数秒の待機時間後に扉が開く。

 

 

「失礼する。」

 

 

扉を開けるとだらしのない体制の札森がまず目に入る。武器の手入れをする赤松、湯呑を洗う白木、ソファで寝ている青山。

 

 

「誰すか。てかなんでドア開けられたんすか。」

 

 

黙っている福田に代わって後から扉から入ってきた橘がそれに答える。

 

 

「彼は4Cの新たなメンバーだ。それと海外から私が推薦した男がメンバーとしてもう1人加入する。よろしく頼むよ、諸君。」

 

「えーっと…アンタも誰すか?」

 

「おっと申し遅れた。この度政府の方から特定有害生物対策センター局長を任命された橘だ。以後は君たちの上司…ということになる。よろしく頼むよ。」

 

「うっわ…まじか。」

 

 

札森の反応も無理はない。野座間製薬の事故のせいで現在のような惨劇が続いているのであれば普通4Cの中のトップは政府側の人間が立つのが妥当だ。

 

それが何故か野座間製薬側の人間が政府側である札森の上に立つことになる。

 

 

「何か文句でも?」

 

「……いえいえ、ありません!」

 

「意外と長いものに巻かれるんだな。」

 

 

目を覚ました青山がボソッとつぶやく。赤松は手を動かしながら会話に参加し始めた。

 

 

「わかりました、橘局長。ただその福田ってのは何者です?」

 

「おぉ、君が赤松竜二くんか。お答えしよう、彼は元々わが社の駆除班に在籍していた。」

 

「へぇ…あの駆除班ですか。トラロック作戦中は特に大したこともせず、終わった後アマゾンのコロニーを襲うどころかアマゾンたちを逃がしたことで有名な。」

 

 

相変わらずの札森節が炸裂する。しかし福田は何も答えようとしない。喧嘩を売っても買われなければ意味はない。気に入らない顔をして札森は席を立ちあがった。

 

 

「とにかくこれからはみんな仲間だ。仲良くやろう。」

 

「はは、仲良くねえ。」

 

「ところでこのオフィスを離れることになった。すぐに準備したまえ。」

 

「は?」

 

「私の一声で政府が予算を何倍にもしてくれたのだ。まずは4C専用のビルを用意してもらった。そこで隊を編成し大人数でのアマゾン駆除に取り掛かる。」

 

 

自慢気な顔をして橘は出ていった。

 

 

「まじかまじか!あんだけ言っても上げてくれなかった予算を政府が!?政府側の俺でも駄目だったのに!あの人何なんだ?すげええ!」

 

 

興奮する札森に対し福田が口を開く。

 

 

「今まで野座間製薬が極秘扱いにしていたアマゾンの情報を橘局長が政府に独断で提供したんだ。その情報と橘局長が考えている”Qプラン”とやらを政府に持ち込んだことで局長の座と予算を獲得したそうだ。」

 

「…へぇ喋れるんすね、福田さん。」

 

 

札森は福田の肩に手を置く。そしてすぐに部屋の片づけにかかった。対して中の事情には興味がなく、ただより良い職場で働けることが嬉しい様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

(フクさん…どうして悠がピンチになるようなことを…。)

 

 

三崎は表情に出さないもののかなり落ち込んでいた。居場所は違っても心は1つ、それがチーム。胸にかけた5円玉のペンダントがキラリと光る。

 

 

「おい、頼む。」

 

「あ、ごめんごめん。」

 

 

商に言われ高濃度たんぱく質をアマゾンズインジェクターで注入するため左腕の裾を捲ろうとする。

 

 

「やめろっ!」

 

「!…あ、ごめん。」

 

 

商は左腕からたんぱく質を注入されることを嫌がっていた。信者たちはアマゾンズレジスターを見られたくないのではないかと想像していたが、何か気に障ることをするのも馬鹿らしい。何も尋ねることなくいつも右腕に注入している。

 

 

「…なぁ。」

 

「ん?」

 

「お前は人を喰いたいと思ったことはあるか?」

 

「え、あ、いや俺はないよ。人間だしね。あ、でも喰われた事ならあるよ~、ハハハ。」

 

 

そう言って笑いながら動かない義手を見せびらかす。

 

 

「でも俺はアマゾンだけどアマゾンが喰いたい。」

 

「…まぁ確かに…。でも俺たちからしたらそれはすっげえありがたいことだよ。」

 

「…前はそんなんじゃなかった。」

 

「え、そうなの?ここの人たち、全然ハカちゃんのこと聞いたりしないからそういうの知らなかったわ。」

 

 

作り笑いでごまかす三崎。嘘だ、本当は知っている。商が昔は人を喰らうアマゾンだったことは令華がイースヘブンに支援をする見返りに商の体を調べた際に明らかになっていた。

 

 

「あの雨からだ。俺がおかしくなったのは。」

 

「トラロック…。俺もあの雨のせいじゃないけど…そこからいろいろ変わっちゃったな。」

 

「お前もか…。」

 

「あ、いや俺は大した変化とかじゃないけど、アハハ。」

 

 

思わず口が滑りそうになってしまった。駆除班にいたことは秘密だ。あくまでアマゾンに狩られるのが怖くて宗教にのめり込んだ男…それを貫き通さなくては…。

 

 

「人間の中で暮らすなら絶対に今の方がいい。でも同じ種類の生き物を殺す俺は…俺は生きていていいのか?喰いたくなってしまうこの気持ちは…欲望は…。」

 

「……。」

 

 

初めて思いつめるような表情をする商に三崎が口を開いて何かを言おうとした時、急に乗っていたマイクロバスが止まった。すぐに他の信者が商を呼びに来る。

 

 

「何々!?」

 

「目の前でアマゾンたちが戦っています!」

 

「反応ないってことは覚醒前の奴らか…!ハカちゃん!」

 

「今出る。」

 

 

お気に入りのブルゾンを手にマイクロバスを飛び出す商。それに続いてサブマシンガンを持った三崎も外へ出た。

 

マイクロバスはトンネルに差し掛かろうとしているところだったが、その前でアマゾンアルファが覚醒後のアマゾンに斬りかかっている。アマゾンの体からは粘り気のある黒い血が流れ出てひどい臭いを漂わせていた。

 

 

「あいつ…鷹山だ!ハカちゃん、あいつかなり強…い……。」

 

 

商を見るとその顔はおいしそうなご馳走を見つけた猛獣のような表情を浮かべていた。瞳孔は開き、口からは八重歯をのぞかせている。

 

 

(これ…本当にさっきまでのハカちゃんかよ…。)

 

 

三崎は思わずたじろいでしまう。商は手にしていたアマゾンズドライバーを腰に巻き、アクセラーグリップを捻った。

 

 

-COPPA(コッパ)-

 

「ウゥゥ…アハハハ!!アァマァゾォンッ!」

 

 

喜びに満ち溢れた掛け声と共にオレンジ色の熱風が商を中心に辺りに吹き荒れる。

 

 

「おいおい、ドライバー…?…ククク…いいぜぇ…お前も俺がぁ!殺してやるぅぅぅ!!」

 

 

アルファは変身途中のコッパに襲い掛かるもコッパは右手でアルファの攻撃を押さえる。

 

 

「ヴヴヴアアア!!」

 

 

コッパはアルファの体を弾き、アマゾンズドライバーのバトラーグリップを引き抜いてアマゾンブレイドを生成した。

 

逆手に持ち相手の頸動脈を狙う斬撃を繰り出すもそれを全て見切るアルファ。

 

 

「グウウウアア!!」

 

 

暴走するコッパに共鳴するようにアルファも雄たけびをあげながら右手のアームカッターでアマゾンブレイドを止め、左手でアクセラーグリップを捻る。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)STRIKE(ストライク)-

 

 

アルファの右足についたフットカッターがコッパの腹部にねじ込まれた。

 

 

「グギャアアアア!!!」

 

「ヘッ…。」

 

 

コッパは叫び声を上げながら真っ暗なトンネルの中に隠れる。アルファはトンネルの外側で自信ありげな声を出し、トンネルに背を向けた。

 

 

「……!!」

 

 

何かを察し再びトンネルの方を向くアルファ。しかし気が付いた時にはコッパの尾がアルファの腹部を貫通していた。




こんばんは、エクシです。
とりあえず最初位は…と頻繁に上げています。ただ今時系列等をきちんと整理しているので更新が遅れてしまうかもしれません。もうSeason2の8話、何回も見てるよ…w
セミの鳴き声や桜の花、登場人物の服装などから季節を予想していますが、もし時系列でおかしいところなどがあればご了承下さい。

さて今回は仮面ライダーアマゾンコッパについてお話したいと思います。
といっても自分の中では大したイメージはありません。
独自解釈が含まれますがアマゾンオメガやネオは特別な存在ということでアマゾン体とアマゾンズドライバーでの変身体が違うと思われます。
一方アマゾンアルファ、シグマはベルトなしでも同じでした。
人間ベースでアマゾン細胞を後天的に入れられるとドライバーつけても姿が変わらないのか…?
よくわかりませんが、とりあえずアマゾンコッパはサソリアマゾンと見た目大して変わりません。
だからサソリアマゾン・アマゾンコッパの見た目は悠のアマゾン体、アマゾンシグマのように怪人にもライダーにも見えるようなデザインを想像しています。
さらに適当に言ってしまうなら悠のアマゾン体を真っ黒にして、目をアマゾンオメガのような釣り目&オレンジに。そして辮髪っぽい(仮面ライダーライアのような頭ですね)のがついて尾っぽがつけばおっけーなんて思っています。
正直デザインにこだわりはありません。
どんなデザインがいいかなど感想お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4「Mutiny and Disaffection」

アマゾン。それは頼るもののない絶望。仁は致命傷を負いつつ逃亡するもそれを必要に追いかけようとする商。イースヘブンの信者たちはその姿を見て徐々に心が離れていく。


真っ暗のトンネルの中からコッパは腹部を左手で押さえながらフラフラと現れる。尾をアルファから引き抜き、その傷口から流れる血を見ると興奮して雄たけびをあげた。

 

 

「ギャアアア!!」

 

 

アルファは冷気を出しながら仁の姿に戻る。

 

 

「う……ぐう……。」

 

 

仁は膝をつき何とかその場から離れようと必死で体を動かそうとするも急所を突かれたため、なかなか動くことが出来ない。

 

 

「ハァハァ…喰う…アマゾンだぁ!!!」

 

 

コッパが仁目掛けて走っていくと、コッパの後ろからジャンサーチャーの光と共にジャングレイダーに乗った悠が現れる。

 

 

「!?」

 

 

悠はジャングレイダーでコッパを突貫しようとするもわずかに体をずらした事で横に弾き飛ばされた。

 

 

「仁さん!」

 

 

意識がもうろうとしている仁を片手で抱えてライディングシートの後ろに跨らせると悠はすぐにその場から去っていった。

 

コッパは悔しさからか再び雄たけびをあげ、去っていく仁たちを必要に追いかけようとする。

 

三崎は腹部から血を噴き出しながら走っていくコッパを羽交い締めにして動けないようにする。

 

 

「もうやめろ!ハカちゃん!自分の体を見ろよ!」

 

「だぁ…ま…れぇ…!!」

 

 

暴れるコッパの腹部からはますます血が流れていく。信者たちもコッパに恐る恐る駆け寄り抑える。

 

 

「ウガアアア!!」

 

 

3人がかりで押さえられるコッパはエネルギー切れで商の姿に戻る。それに油断した三崎に向かって商は喰らいつこうとした。

 

 

「うわあ!」

 

「……!!……俺は…何を…。」

 

 

ようやく理性を取り戻したが周りの信者たちはいつも通りの目ではなく恐れを抱いた目つきで商を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

橘は自分の部屋となる局長室のデスクを置かせると満足した顔でその椅子に座った。

 

 

「うん、悪くないね。」

 

 

横に立っている加納の端末に連絡が入るとすぐにパソコンを開き橘にその画面を見せた。

 

 

「橘局長、再び尾宿商が動きました。前回より左腕に集中させたデータを取る事に成功したようです。」

 

「確か研究部門の話では左腕以外に異常なとこは見られなかったらしいからね。結果は?」

 

「やはり左腕の傷から染み込んだトラロックの影響を受けているようです。体内にトラロックを長時間吸収したアマゾンに心身共に、あるいはいずれかの影響を受けている例もみられていますし。」

 

「トラロック…。コッパタイプの事について調べるのであればやはりトラロックについて詳しく知る必要があるな。加納くん、福田を呼んでくれるかな。」

 

「福田…ですか。」

 

「元駆除班の経歴が使える時が来たようだ。」

 

橘の真意を聞くことなく加納は会釈をすると福田を呼びに下のフロアへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらい走ったのだろうか、海岸線が見えてきた。悠の目に懐かしい女性の姿が映る。

 

 

「…!」

 

 

その女性の前でジャングレイダーを止める。その反動で横に倒れそうになる仁を支える女性。

 

 

「久しぶりです、七羽さん。」

 

「久しぶり。仁を助けてくれてありがとう。」

 

「ただ僕は…壊れた仁さんを放っておけなくて…。」

 

「…そうだね、私も…仁が仁じゃなくなっても、見捨てることなんてできない。」

 

 

どんなに愛していてくれていてもアマゾンになってから仁は”それ”だけはしなかった。

 

先日、仁じゃない仁にされたことを思い出しつつも七羽は応急処置された仁の腹部をタオルで押さえた。

 

 

「もうここで大丈夫。」

 

「…仁さんが治ったら…また戦うことになると思います。その時は僕も手加減はしません。」

 

 

ヘルメットのバイザーを下げる悠。

 

 

「…じゃあ仁がいない時においで。また鶏肉料理ご馳走してあげるから。」

 

「ありがとうございます。でも仁さんがいない時はアマゾンを狩っている時だから僕も行かなきゃ。」

 

「そりゃそうか。じゃあ…また。」

 

「また…。」

 

 

ジャングレイダーのアクセルを回し去っていく悠を七羽は見えなくなるまで眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

商はマイクロバスの大きな椅子で眠っていた。信者たちはいつも以上に起こさないように小声で話をしている。

 

 

「さっきのアマゾンって別のアマゾンと戦ってたんだよな?」

 

「あぁ、赤いアマゾンはヤバイ奴だけど確かにアマゾンしか狩らないって聞いたことがあるぜ。」

 

「なんでそんなアマゾンも喰おうとしたんだ、商様は。」

 

「腹が減ってしゃーなかったんじゃ?」

 

「支援団体から貰ったたんぱく質入りのアマゾンズインジェクターは注入してたんだろ?」

 

「人間で言うと点滴みたいなやつだって言ってたぞ。点滴打ってても腹は減るし…。それより三崎に見せたあの顔見たかよ…。本当に三崎を喰っちまうかと思ったぜ。」

 

「おい、やめろ。」

 

 

三崎が噂をする2人の声を聞いて間に入った。

 

 

「なんでお前そんな冷静でいられるんだよ。怖くねえのか?」

 

「アマゾンに腕喰われたんだから俺たちよりアマゾン怖いだろ、普通。」

 

「…ハカちゃんは俺たちのために戦ってくれてるんだ。たまにはそういう時だってあんだろ。さぁ俺たちは作業に戻ろうぜ!」

 

 

信者2人の肩を叩き、再びアマゾンの目撃情報を集め始める。まもなくしてマイクロバスは河原のスペースに停まった。

 

 

「なんだ?」

 

「支援団体の人がここで話したいってよ。」

 

 

三崎が窓の外を見ると望が1人で立っている。

 

 

(ノンちゃん…?どうしてここに?)

 

 

先ほど噂していた2人が望の対応をするためマイクロバスから降りていく。三崎もそれに付いて行った。

 

望は駆除班時代と変わらず太ももにサバイバルナイフを刺し、少しずれたヘルメットを被り直していた。三崎の存在に気が付くとあえてそちらの方を向こうとしない。

 

 

「今回はどのような御用で?」

 

「4Cから渡されたアマゾンズドライバーを回収させてもらいたいってことだ。」

 

「4C…?なんですかそれは。渡してきた方は野座間製薬の方でしたが…。」

 

「福田さんだろ。あとその上司の橘の2人は今4Cにいる。余計なことをされる前に回収しておきたいんだとよ。」

 

 

信者の2人は顔を合わせた後、先ほどよりもさらに小さな声でヒソヒソ話をする。ある程度話が終わると片方の信者が望の方を向いた。

 

 

「実は我々もあのベルトによって商様の力が強くなったことに恐れを感じ始めています。」

 

「恐れ?どういうことだよ。」

 

 

信者を見ながらも焦点を奥に合わせ三崎を睨む望。三崎はその目線に「おーこわいこわい」と口パクで伝える。

 

 

「アマゾンを喰いたくて仕方ないみたいで…その気持ち…っていうんですか?とりあえず俺たちにその牙が向くんじゃないかと思うと…。」

 

「…なるほどな。アイツもアマゾンだしな。」

 

 

トラロックの日、マモルもそうだった。あれだけ優しかった彼もアマゾンの性には逆らえずに仲間の体を食した。

 

望と同じく三崎もそれを思ったのか自分の義手を握りしめる。望がマイクロバスの中にいる商の元へ行こうとした時、自身の携帯端末にメールが入った。

 

 

「…!」

 

「どうされました?」

 

「…ちょっと予定が入った。また今度ドライバーを回収しに来るからよ。」

 

 

望は迷彩柄のバイクに跨りすぐに去っていく。

 

 

(ちぇ、俺には何にも言わないでやんの。)

 

 

三崎も拗ねながらマイクロバスに乗ろうとした時、バスの出口にアマゾンズドライバーを握りしめた商が立っていた。

 

 

「あ。」

 

「おい、そこの2人。」

 

「え…あ…はい。」

 

「どういうことだ?こいつを回収?」

 

「いや…その…。」

 

 

どもる2人に代わって三崎が商をなだめようとする。

 

 

「いやさ、なんかそのベルト、調子悪いかもしれないんだ。だからいったん回収ってことで…。」

 

「ふざけるな。」

 

「…。」

 

 

商は早歩きで2人の所まで行き胸倉をつかんだ。

 

 

「この力を手離す気はねえぞ。」

 

「や…やめて…!」

 

「俺はこの力でさらに強いアマゾンを狩ってやる。それで文句ないんだろうが!」

 

「は…離して…。」

 

 

商が手を離すと2人の信者はしりもちをついた。片方はそのまま後ろに下がると気を強くする。

 

 

「い…言う事聞かないとインジェクター渡さねえぞ!」

 

 

片方の強気な態度に感化されたのかもう1人の信者も商を煽る。

 

 

「そ…そうだ!お前だってアマゾンなんだ。人間の元で生きたいならいうことを聞け!」

 

「おい、よせって!」

 

 

三崎の声は届くことなく商はアマゾンズドライバーを腰に巻き付け、起動させる。

 

 

-COPPA(コッパ)-

 

「ウォオオ!!アァマァゾォンッ!」

 

 

オレンジ色のエネルギーを放出させ2人を弾き飛ばすコッパ。傷はもう既にふさがっている。

 

 

「やめろ、ハカちゃん!ここで暴れたら他のアマゾンと一緒になっちまう!」

 

「俺の力だ!俺の勝手に!」

 

「もう俺は仲間を失いたくないんだよ!」

 

「…!」

 

 

いつもふざけている三崎。他の者は自分がアマゾンであるからかどこかよそよそしさを醸し出していたが三崎はそんなことを匂わせもしなかった。

 

 

「三崎…。」

 

「ベルトがなくてもお前は強いよ…ハカちゃん。」

 

 

ベルトを取ろうとアクセラーグリップとバトラーグリップ部を持った瞬間、何かしてくると誤解した信者がアマゾンコッパに弾丸を放つ。

 

コッパには大したダメージはない。だがコッパは雄たけびをあげ、オメガに匹敵するほどの跳躍でその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

望は運転していたバイクを黒い輸送用バンの近くに止める。運転席には福田が座っており、窓ガラスをあけた。

 

 

「福田さん、久しぶり。」

 

「…あぁ。」

 

「商にドライバー渡したのは…4Cに入るためですか?」

 

「…あぁ。」

 

「後悔…してないんですか?悠がやられそうだったけど。」

 

「…あぁ。」

 

 

福田は口数が少ない。しかしその言葉の重みがあるからこそ駆除班ではサブリーダーとして信頼してきたのだ。

 

 

「なんでいきなり呼び出しを?」

 

「…俺は命令をうけた。お前にコイツをつけろってな。」

 

 

福田は小型発信器を取り出し望の目の前で壊して見せた。

 

 

「?」

 

「橘局長は水澤令華を捜している。トラロックのことについて知りたいらしい。」

 

「トラロック…。なんで今更?」

 

「さぁな。」

 

「じゃあなんで福田さんはそれを渡しにつけないんです?」

 

「…。」

 

 

5円玉のペンダントが福田の胸にあるのを見た望はその答えがわかっていた。福田は親の介護の費用を稼ぐために4Cへ行った。

 

他の駆除班のメンバーは水澤令華について行ったことから裏切り者だと自分のことを思っているのだろう。

 

「これ以上裏切ることは出来ない。」今回の任務で何を吹き込まれたのかわからないがそれよりもチームとしての絆を福田は取ったのだ。

 

 

「…気を付けろ。橘局長は何かを企んでる。」

 

 

そういうと窓ガラスを閉め輸送用バンを走らせ去っていく。

 

 

「福田さん…。」

 

 

そう呟き、望もバイクに跨り天条の屋敷へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

イースヘブンの信者たちが襲われた教会はもはや建物としての原型を留めていないほどに崩壊している。その中を歩く商は手に持つアマゾンズドライバーを長椅子において腰を掛けた。

 

ここに来る前……トラロックの雨を受けた時、商は人間を喰おうと裏路地で影を潜めていた。そこに同じ臭いをした”同種”が自分を止めようとしてきたことを思い出した。

 

 

「人間を喰うなんて駄目だ!この世界は人間によって成り立ってる。僕たちが生きていくには人間の協力が必要なんだよ!人間と僕たち、絶対に共存できるよ!」

 

 

見ず知らずのアマゾンに何を話しているんだと商は思っていた。結局アマゾンを喰らうようになってからは人間とまがいなりにも共存してきた。

 

ところが今は結局このざまだ。

 

 

「そら見たことか。」

 

 

あの時のアマゾンに言ってやりたい。それにしても……腹が減った…。

 

 

「やっぱここだったか、ハカちゃん。」

 

 

教会の入口のところに三崎が立っている。商はすぐ立ち上がりアマゾンズドライバーを構えた。

 

 

「あー!チョイ待ちチョイ待ち!俺以外誰もいないから!ほんとに!臭い効くはずでしょ!?」

 

 

確かに三崎以外の臭いはしない。それにアマゾンを差別しない彼だけは信用できた。

 

 

「なんでここが?」

 

「ハカちゃんの行きそうなところなんてここかなーなんてさ。」

 

「あれから何日も俺を捜してたってことか?そんなに俺をイースヘブンに戻したいんだな。」

 

「んなことしないよ。さっき令華様に許可とってさ、一緒に野座間の方に行かない?」

 

 

三崎は身に纏っていた白いローブを捨てて商の横に座った。

 

 

「どういうことだ?」

 

「実はわたくし、イースヘブンの信者は仮の姿……その正体は!野座間製薬の人間なのでーす!」

 

「…。」

 

「ハハ、ま、安月給でパシられてるだけだけどさ…。」

 

 

イースヘブンか野座間製薬かなどはどうでもよかった。ただ…この腹を満たしてくれさえすれば。

 

 

「野座間の方に行けば悪いようにはしないってさ。そもそも令華様はイースヘブンにハカちゃんがいるから支援してたんだ。野座間がまたアマゾンを所有してると世間体がよくない~ってことでこんな回りくどい方法で。」

 

「俺が野座間に行ったらそうなるじゃないか。」

 

「そこは俺とハカちゃんの友情パワーですよ。ま、イースヘブンから逃げちゃったから野座間で保護しましたってことでいいじゃん。」

 

 

三崎とは半年ほどの付き合いだが本当に調子のいいやつだ。でもそれがいい、一緒にいて…アマゾンだとか人間だとかを忘れることが出来る。

 

 

「お前と一緒にいたら…俺も暴走しないですむのかな。」

 

「ハカちゃんがそうだって信じるなら大丈夫なんじゃない?」

 

「…そんなもんかな…。」

 

 

微笑を浮かべる商だったがアマゾンの臭いが近づいてきたことに気がつきアマゾンズドライバーを腰に巻き付ける。

 

 

「鼻が利くね。」

 

 

声のした方向を見るとそこにはマモルと2人の男が立っていた。

 

 

「マモ…ちゃん?」

 

「……三崎くん……。」

 

「マモちゃん!マモちゃん!!やった…やっと会えた!」

 

 

笑顔でマモルに近づこうとする三崎の前に男たちが立ち塞がる。

 

 

「マモちゃん!俺、本当に全然気にしてないんだ!また一緒にチームを…」

 

「三崎くんはちょっと黙ってて!ねぇ君…コッパタイプだよね。」

 

「…それがどうした?」

 

「天城くんって…知ってる?」

 

「…?」

 

「マモちゃん、何の話してるんだよ?俺、マモちゃんと…」

 

「…2人とも!!……ここ任せていいかな?」

 

 

三崎の話を一切聞こうとしないマモルに対しどんな人にも積極的に話しかける三崎ですら声をかける事を止めてしまう。

 

 

「あぁ行け、マモル。」

 

「コッパタイプは我々が仕留める。」

 

 

マモルは三崎から逃げるようにその場を離れていく。

 

 

「マモちゃん、待ってよ!話を…!」

 

「おい、俺から離れるな!この2人、アマゾンだ!」

 

 

そう言いながら三崎を引き留める商はアマゾンズドライバーのアクセラーグリップを捻った。

 

 

-COPPA(コッパ)-

 

「ウォオオ!アマゾンッ!!」

 

 

相手のアマゾンも商がコッパに変身するのと同時にカニアマゾンとコウモリアマゾンに変わっていく。

 

 

「うっわ…ランクA…!大丈夫?ハカちゃん!」

 

 

三崎の声に応えることなく跳躍でカニアマゾンにしがみ付くコッパ。噛みつき攻撃でカニアマゾンから体液を放出させる。

 

しかしコウモリアマゾンによってコッパは背中を攻撃され、カニアマゾンから引きはがされてしまった。

 

コウモリアマゾンとカニアマゾンに覆いかぶされるように喰らいつかれるコッパ。

 

 

「ハカちゃん!くっそ、なんで…!」

 

 

いつものコッパよりも明らかに動きが鈍い。アマゾンがその状態のときは決まって”腹が減っている時”。

 

アマゾンを狩るためには狩ったアマゾンを喰らわなくてはならないという本末転倒な状態。今可能性があるとすれば三崎のポケットの中に入っていたたんぱく質入りアマゾンズインジェクターで栄養を補給するしかない。

 

そもそもはシグマタイプと呼ばれる”第四のアマゾン”がまた生成された時のために簡単にたんぱく質を与えることが出来るようにと国際営業戦略部が作ったものだそうだ。

 

しかしアマゾンを作ることを禁止され、結局無意味の産物として野座間製薬内で放置されていたものを水澤令華がアマゾンへの点滴代わりとして使うことにしたらしい。

 

いずれにせよこのアマゾンズインジェクターをコッパに打たなくてはならない、経口摂取から得られる養分には及ばないだろうが…。

 

 

「くっそ…隙がねえ…!」

 

 

三崎は必死に抵抗するコッパの姿を見て焦っていた。一方のコッパも遠ざかる意識の中で三崎の方を見ていた。

 

 

 

(もし…三崎を喰えれば…俺は体が動かせるのか…?)

 

 

コッパのオレンジ色の瞳には遠くにいる三崎が少し旨そうに映った。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、4Cにもアマゾン出現の連絡が入り出動しようとしていた。しかし商という戦力と令華からの出資を打ち切られたイースヘブンは4Cに自分たちの身の安全を守ってもらおうと入口を封鎖し抗議をしていた。

 

 

「私たちを守れー!」

 

「もう自分たちでは守れないんだ!税金払ってるだろうが!」

 

「このビルは安全なんだろう!入れろ!」

 

 

隊長になった青山の最初の仕事は毎朝起こるこの暴動を抑えることだった。青山隊には藤尾、中島、そして任務失敗により隊長の座を”新入り”に奪われた福田が所属し人々のビルへの侵入を押さえている。

 

 

「落ち着いて下さい!4Cは皆さんの安全を守りますから!」

 

「ふざけんな!話によれば神山もここにいるそうじゃないか!あのくそ教祖め!俺たちがアマゾンに襲われている間に逃げたんだぞ!」

 

「冒涜だ!神山をだせ!出さないならこの建物ごと…!」

 

 

信者の一人が手榴弾らしきものを取り出した。それを見た福田は思わず大声を上げる。

 

 

「伏せろ!!」

 

 

信者が手榴弾のピンを抜こうとしたその瞬間、どこからか銃声が鳴り響き信者は足を押さえながらその場に倒れた。

 

 

「ふいー、あぶねえ、あぶねえ。素人がんなもん持ってんじゃねえぞ。」

 

 

銃を撃った男は今風の髪型に全身黒で統一した服を着ている相貌。だがアサルトライフルを片手で扱うその姿はプロの戦闘を知っている、そんな雰囲気を匂わせる。

 

 

「おい、一般人を撃つことはまずい!」

 

「青山ァ、お前甘いんだよ。今こいつが手榴弾(オモチャ)ぶっぱなすことでどんだけの人間死ぬと思ってんだ。あ、爆発でじゃねえぞ。俺たちが余計な怪我をすりゃ”善良な”一般市民がアマゾンの餌になっちまう。」

 

「黒崎…お前…!」

 

 

橘の推薦によってアメリカの特殊部隊から派遣された”新入り” 黒崎は青山の肩を叩くとイースヘブンの信者たちにアサルトライフルを向けた。信者たちは悲鳴を上げてその場を立ち去ろうとする。

 

「聞け、イースヘブンの連中!局長からの伝言だ。」

 

黒崎はアサルトライフルを首にかけ、ポケットから伝言が書かれた紙を取り出す。

 

「『イースヘブンの皆さん、ご安心下さい。尾宿商のようにアマゾンを狩ってくれる者は時期に増えます。皆さんの生活を脅かすアマゾンはやがて自滅するでしょう。』だそうだ。聞いたらさっさとお家でネンネしてろ!」

 

そう言い再びライフルを構える黒崎を見て信者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

その様子を見ている青山は黒崎のライフルの先を下に向けさせる。

 

 

「それはよせ。あとどういうことだ?」

 

「さぁな。局長が言ってたことをそのまま言っただけだ。それよりさっさとアマゾン狩り行くからここ掃除しとけ。イースヘブンの連中、ごみ落としていきやがった。」

 

 

黒崎は橘からのメモを丸めるとイースヘブンの信者たちが落としていったゴミの中に投げて輸送用バンが停めてある駐車場へと向かった。




今回はちょっと地味な回だったかもしれませんが、読んでいただいてありがとうございます。

それより…アマゾンズS212話……!イユ……はぁ…。
目ん玉くりぬきシーンはいつ見ても
うわあ
ってなっちゃいます。
でも見ちゃうんだよなあ。

さて今回整理するのは何にしようか…。
自分の中では整理がついてても人から見たら全くわからん…ってことありますよね。
感想で是非そういうところを教えて頂きたいです。
ということで何か整理しておきたいことが出るまで、あるいは感想でリクエストがあるまで整理するコーナーはやめようかな?w

また次回もお願いするんだゾン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5「MEssiah's instinct」

アマゾン。それは変わることなき本能。イースヘブンの信者が襲われた教会でマモルの仲間のアマゾンに襲われる商と三崎。そこに助けに入ったのは元駆除班の志藤率いる新生駆除班だった。


コッパはコウモリアマゾンとカニアマゾンの噛みつき攻撃によって冷気を発しながら商の姿に戻った。

 

体のあちこちから出血している商に遠慮なく攻撃を続ける2体のアマゾンに弾丸を撃ち込んでいく三崎だが敵はそれを気にも留めない。

 

 

「くっそ!効いてるはずなのに!」

 

「我々はマモルにコッパタイプを必ず仕留めると約束した!人間にかまっている猶予はない!」

 

「コッパタイプって…一体…?」

 

 

やがてサブマシンガンの弾丸が切れ、後は武器がサバイバルナイフだけとなった。

 

 

(俺は物理は苦手だから…くそ!)

 

 

アマゾンズインジェクターを手にし何とか商の手に届くようにそれを投げるもカニアマゾンによって弾かれ中から液体が飛び出した。

 

 

「まじかよ…!」

 

 

その時、駆除班の輸送用バンが教会の前に急停止しそこから駆除班の制服にショットガンとスナイパーライフル、レガースとメリケンサックを装備した3人の男たちが飛び出してきてアマゾンたちに攻撃を加える。

 

 

「志藤さん!」

 

 

三崎が呼んだのはかつて駆除班のリーダーとしてアマゾンを狩ってきた男 志藤真。今はショットガンを手にカニアマゾンの心臓部を狙い撃ちしている。

 

 

「三崎!車ん中にある銃使え!」

 

「さっすが!」

 

 

三崎はすぐにバンの中からサブマシンガンを手に取りコウモリアマゾンに発砲する。血だらけの商から引き離すと、商が気絶しているのが見えた。

 

志藤と共に来た男の一人が腰につけていた手榴弾を取ってピンを抜く。

 

 

「伏せろ!」

 

 

三崎が伏せたと共に手榴弾はコウモリアマゾンの近くに落とされ爆発した。コウモリアマゾンは爆散し、カニアマゾンも志藤が放った銃弾が心臓を貫き倒れた。

 

 

「ふう、何とか間に合ったな。」

 

「助かったぜ、志藤さん。えーっとこの人たちは…?」

 

「まっ、新生駆除班ってとこだな。加藤と若槻だ。」

 

 

加藤は黒ぶちの眼鏡をかけたいかにも知的な雰囲気を出している。背の高さを始めスタイルの良さは似ても似つかないが福田の役割を果たしているのだろうか。

 

一方の若槻は三崎に似て陽気そうな雰囲気を漂わせてるがどこか幼さも感じる。手にしている武器がナイフやレガースであることから三崎、望そしてかつてのマモルの雰囲気を感じさせた。

 

 

「とにかくお前もこい。そいつも連れてくるんだ。本部長の命令だ。」

 

「令華様の…。りょーかい。」

 

 

加藤と若槻は気絶している商に肩を貸し、バンの中へ4人は入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

青山は出来たばかりの4Cのビルの排水溝に落ちた最後のゴミを拾ってゴミ袋に入れた。

 

ため息をつきながら腰を叩いているとビジネススーツを着た美月がビルの中から出てきた。

 

 

「あれ、えーっと…美月…さん?」

 

「あ、えっと…青山さん、あの時はご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

 

「とんでもない…。それで…なんでここに?」

 

 

アマゾン駆除がしたいと美月が4Cの前に現れた冬が明けて今は春。新入生、新入社員の時期であるのは確かではあるがなぜまた4Cに彼女が来たのか…?

 

 

「4月からここで働かせてもらってるんです。駆除班じゃないんですけど…。」

 

 

話を聞けば駆除班の戦闘を見たショックで倒れてしまったことからすぐに自分がアマゾンを駆除することは出来ないと気が付いたらしい。

 

そこで4Cの駆除以外の業務をすることで少しでもアマゾンに関わる仕事を…と考え今に至るようだ。

 

 

「なんでそこまでしてアマゾンにこだわるんです?」

 

「彼に私がなにをしてあげられるのかわからなくて。でも何かしてあげたいんです。」

 

 

彼女が言っているのは水澤悠のことだろう。いじめられていた上に母親から相手にされなかった彼女にとって悠は唯一の居場所だったのだ。目の前からいなくなった今も美月は悠を追い求めている…。

 

美月は深々と頭を下げて駅の方へ歩いていった。その背中は弱弱しくまだ自立できない雛のような印象を青山に抱かせた。

 

 

 

 

 

 

 

気絶した商は畳の部屋に置かれたベッドの上に横にされ、様々な装置に繋がれた状態になっていた。その横で令華と研究者が作業を行っている。

 

志藤と三崎、そして後から合流した望は令華に呼ばれその部屋に通される。

 

 

「まさか尾宿商がイースヘブンを飛び出すとは思いもしませんでしたが、かえって好都合です。」

 

「どういうことです?」

 

「アマゾンは人間に無理やり指示をされて動いてもいつかは飼いきれなくなくなる。それを嫌というほど味わったでしょう。」

 

 

令華の言っていることはマモルのことなのか、悠のことなのか、それとも両方なのか3人ともわからない。

 

 

「だからイースヘブンという管理しにくい組織にいることも黙認していました。偶然イースヘブンの潜入をしていたあなたに見張りを任せて。」

 

 

三崎は頭をポリポリ掻きつつ「どうも。」と一言告げた。

 

 

「しかしそのイースヘブンを抜けてここに来てくれたことで彼の唯一の居場所はここになりました。彼が嫌がらなければ私たちで彼を管理できます。それに彼の身体情報も今明らかになりました。4Cにも伝わっているでしょうが。」

 

「橘はコイツの情報を使ってまた何かするつもりなんですか?」

 

 

志藤の質問に令華は「恐らく。」とだけ答えた。

 

 

「しかし先ほど情報流出のプログラムを消しました。これ以上は4C(あちら)に彼の情報が行くことはないでしょう。」

 

「ハカちゃんの体…どうなってたんすか?その左手の傷…見たことなかったし…。」

 

「その傷…鷹山仁の顔の傷に似てねえか?」

 

 

望の言葉にハッとする三崎。そうだ、あの爛れた傷、トラロックによって精神に異常を来した仁の傷にそっくりだ。つまり商はトラロックのせいでアマゾンを喰らう体になったのか。

 

 

「鷹山仁同様尾宿商はアマゾンが負った傷口などからトラロックの成分が侵入し影響を受けて何らかの異常が発生したコッパタイプであることは確実です。コッパタイプは個体によって異常が異なります。実験体で多かったのは発狂死するものや身体構造が変化する個体ですが、尾宿商は私の予想通り鷹山仁と同様、闘争本能の上昇と精神異常です。」

 

「精神異常?人間のたんぱく質でなくアマゾンのたんぱく質を求める体質変化じゃないのか?」

 

 

志藤は初めて商のことを聞いた時、”人間のたんぱく質を求める”というアマゾン本来の性質が変わって”アマゾンのたんぱく質を求める”ものになったと考えていた。それならば真の意味で人間の仲間になれると。

 

 

「違います。錯覚という一種の精神異常に過ぎません。彼は”アマゾンを喰いたい”と錯覚しているんです。彼の体は本当は今でも人を口にしたいと求めています。」

 

 

アマゾンの体は人間のたんぱく質に比べ養分が少ない。商はアマゾンを喰らっても大して栄養を取る事は出来ないのだ。

 

 

「じゃあアンタはそれを予想してたからたんぱく質入りのアマゾンズインジェクターの定期接種をイースヘブンに推奨してたってわけか。」

 

 

「そうです。人のたんぱく質を求めるというアマゾン細胞の本能を簡単に変えることなど出来ないと思ってましたから。恐らく橘本部…いえ局長も気がついたでしょう。4Cの研究機関に潜入している私の部下にもこれまで以上に情報を流すよう伝えておきます。」

 

 

4Cがどうなど関係ない。今まで一緒にアマゾンを狩ってきた商は本当は人間を喰いたがっている。彼もその事に気が付いてはいない。

 

マモルもあの時喰いたくないという理性に負けて自分の腕を喰ってしまった。いずれ商の本当の本能が目覚めてしまったら自分は食われてしまうのか…。

 

三崎は眠り続けている商を見てから部屋を黙って出ていった。

 

 

「三崎…。」

 

 

志藤も三崎の後を追いかけていく。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「マコさん…。はい、大丈夫っす。それよりマコさん今まで何してたんすか?」

 

「関東以外のアマゾンを狩ってたんだ。野座間製薬の事故が起きてからすぐに政府は秘密義にアマゾンが国外逃亡しないよう国民1人1人出国時に万全の身体検査をしていただろ。だからアマゾンが海外に逃げることはなかったが国内は別だったからな。新生駆除班を率いて今まで全国回ってたんだ。」

 

「そりゃお疲れさまだ。もう終わったんです?」

 

「また行くよ。今回は中間報告をしに戻ってきただけだ。こっちは任せたぞ。」

 

「…おっす。」

 

 

志藤の首にも5円玉のペンダントがつけられている。それを見た三崎は少し安心したように笑顔をみせた。

 

 

 

 

 

 

 

令華の予想通り、4Cの研究部門も商はアマゾンを喰らいたいという錯覚をする精神異常を持ったコッパタイプのアマゾンであることに気がついていた。

 

加納はすぐに橘にその旨を報告する。

 

 

「どうやらトラロックによって錯覚作用を脳に及ぼす成分が分泌されているようです。」

 

「素晴らしい成果だ、加納くん。それで研究部門はその技術は応用できそうだと?」

 

「その成分を人工的につくることは野座間の開発部の情報からトラロックの成分を分析すれば可能だそうです。しかし作りだせたとしてもそれを十二分に活用するには鷹山仁が開発したドライバーのような力をコントロールするものが必要になるはずとのことです。」

 

「問題ない。予算はいくらでもだそう。期間はどれぐらいかかりそうかね?」

 

「予想では4~5か月…と。」

 

「いいだろう。しかし必ず完成したまえ。」

 

「伝えておきます。」

 

 

加納はいつも通り軽く会釈をすると局長室を去っていった。そしてすぐにスマートフォンを取り出しシークレットフォルダに入った令華の連絡先に電話をかける。

 

 

「加納です。やはり橘局長も動きました。何を考えているのかはわかりませんが、4~5か月は目立った動きをすることはなさそうです。………………はい、失礼します。」

 

 

 

 

 

 

 

ジリジリと暑い日が続く。夏に入りしばらく経って気温は35℃を超えている。毎年テレビで聞く”例年以上の暑さ”というやつだろう。

 

ボロボロの山小屋ではあるが一応電気も通っているから悠はテレビから情報を得ることが出来た。こんな生活が出来ているのも近藤と仲の良かった剛のおかげだ。

 

剛は覚醒後のアマゾンに襲われていることを偶然近藤が助けたことがきっかけで仲良くなった人間だ。人間にしては珍しくアマゾンの中にも人間を喰わないものもいることを信じてくれた人でもある。

 

悠がテレビを消したタイミングでマモルたちが帰ってきた。

 

 

「マモルくん!」

 

「…!水澤くん…いたんだ。」

 

「マモルくん、また天城くんの情報を集めに行ってたの?」

 

「そうだよ、彼はチームの仲間だったからね。」

 

「もういなくなって何か月も経ってるんだ。もう…。」

 

 

悠の悲しそうな顔にマモルはむしろ腹をたてているようだった。

 

 

「やっぱり諦めてたんだね。そんな水澤くんに協力してもらおうだなんて思ってないから安心してよ。どうせ守ってはくれても戦ってはくれないんだからね。」

 

 

悠は何も言い返すことが出来ない。マモルは部屋の奥へ行こうとする。すると戸棚を修理しに来ていた剛とすれ違った。マモルは目を合わせることなく奥の部屋へ向かう。

 

 

「へへ、ご機嫌斜めみてえだな。」

 

「…すいません。」

 

「悠が謝ることじゃねえよ。」

 

「僕たちみたいなアマゾンに隠れ家まで貸して下さっているのに…。」

 

「これはぁ恩返しだからなぁ。まぁ助けてくれた近藤さんは…。」

 

 

悠は覚醒してしまった近藤をこの手で殺したことを思い出し俯く。

 

 

「おっと、すまねえ。戸棚は直しといたからあとは勝手にやんな。んじゃーな。」

 

 

昔ならではの父親の雰囲気を出しながら優しさも持ち合わせている剛はまさにアマゾンたちの父親のような存在になっていた。

 

悠はそんな後ろ姿に頭を下げて外に出た。仁の恩師である星埜始と日を改めて研究の段取りを決めると昨晩約束をしたのだ。

 

仁の無事と七羽の妊娠に関して聞きたいことはあったが、今はアマゾン細胞に関することを少しでも知っておくことが優先事項だ。悠はヘルメットを被りジャングレイダーを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

福田は隣に変装した神山の実家からの帰り道を走っていた。保護対象にも関わらず注文の多い神山。今日は「久しぶりに母に会いたい、自分の身を案じているに違いない。」と言い、福田と共に東北にある家に向かったのだ。

 

結局神山の母親は神山が宗教を立ち上げてうまい汁を吸っている間に亡くなっていたことがわかり、家もなくなっていた。親孝行したいときには親はなしと言うが果たして神山は親孝行がしたかったのだろうか。

 

母のために自分を犠牲にしてきた福田は神山の人生を否定したい気持ちでいっぱいであったが保護対象を殴っては元も子もない。黙って車を走らせるしかなかった。

 

関東に入ったところで福田の元に通信が入る。

 

 

『福田、聞こえるか?』

 

「福田聞こえます、青山隊長ですか?」

 

『あぁ。ちょうど俺たちも××県付近にいる。お前の走ってるところあたりだろ?』

 

「そうですけど…一体どうして?」

 

『野座間の駆除班がアマゾンの隠れ家を見つけたらしくてな。俺たちも現場に向かってるが人員が足りん。すぐ来れるか?』

 

「行けますが…保護対象者はどうしましょう?」

 

『連れてきて構わん。俺が許可する。中島とバロンで守ってれば大丈夫だろう。』

 

 

バロンは最近4Cに来た軍用犬だ。ギスギスした4Cの中で唯一癒される存在と言っても過言ではない。

 

 

「了解しました。」

 

 

福田が通信を切っても神山はしょげたままで何も言わなかった。いつもだったら「アマゾンのところなんかに連れてくな!」なんて騒ぐのだろうが、母親の死がショックだったのか、自由になれる時間が終わってしまうのが悲しいのか、とにかく何も反応はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまで悠がいた隠れ家は今や駆除班とアマゾンたちが戦う戦場となっていた。三崎は片手でサブマシンガンを撃ちまくりアリアマゾンたちを狩っている。望はランクCやDと呼ばれるアマゾンを得意の肉弾戦で確実にダメージを負わせていく。

 

 

「くっそ、結構多いな!」

 

「アマゾンの隠れ家らしいからな…!」

 

 

まだしゃべる余裕のある2人も奥の部屋からマモルが出てくると少しの隙が生まれる。

 

 

「マモちゃん…!」

 

「マモル!」

 

「よくも僕たちの家を…!」

 

 

マモル、そして彼の横にいる島田とカオリは熱を放出しアマゾン体へと変わった。島田の変わったハチアマゾンとカオリの変わったアリアマゾンはそれぞれ三崎と望に襲い掛かる。

 

モグラアマゾンは隙あらば2人のどちらかを襲うため硬化クローを研ぎ澄ます。

 

望がアリアマゾンの攻撃に足を引っかけ転んだのを見てモグラアマゾンが動いた瞬間、窓ガラスを割ってコッパが侵入しモグラアマゾンを襲った。

 

 

「君は…コッパタイプ!」

 

「お前…教会であったやつか!ここで喰ってやる!」

 

 

アマゾンズドライバーのバトラーグリップを引き抜きアマゾンブレイドを生成し、逆手に持ったそれでモグラアマゾンに斬りかかる。

 

しかしクローでアマゾンブレイドによる攻撃を弾き、左手のクローでコッパの腹部に反撃する。

 

 

「ぐっ…!」

 

「ハカちゃん!マモちゃんのこと殺さないでくれよ!」

 

 

戦闘モードに入ったアマゾンコッパに三崎の声は届いていない。興奮するコッパはアクセラーグリップを捻った。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)BREAK(ブレイク)-

 

 

飛びかかってその勢いでモグラアマゾンに向けて斬りかかろうとするコッパ。斬りかかる直前、別の部屋から入ってきたクモアマゾンがその斬撃を受ける。

 

 

「山田くん!!」

 

「マモ…ル…みんな…逃げ…ろ!」

 

 

クモアマゾンは最期の言葉を残してバイオレントブレイクによって上半身と下半身が分裂した。

 

モグラアマゾンとハチアマゾン、アリアマゾンは悔しそうに裏口から外に出ようとするも玄関から入ってきた青山隊から銃撃を受ける。

 

 

「…!4Cか!」

 

 

三崎と望も青山隊に気が付いた。その青山はちょうど今到着した福田から車に置いてきた神山を警護するために中島を車に行かせるように伝えていた。

 

マモルたちが銃撃の嵐から逃れるとしょぼくれた神山が乗った車が目に映る。

 

 

「あれだ!」

 

 

島田はすぐにその車の運転席に乗り込む。神山は驚いて逃げようとするが手だけをアマゾン化させたマモルに後部座席から脅されじっとせざるを得なくなった。

 

同じく後部座席に腰を下ろしたカオリは剛のことを案じる。

 

 

「あの家から剛さんのこと、バレたりしないかな?」

 

「持ち主は分からないようになってるって言ってたよ。剛さんだって自分の家に帰ったしね。まぁそんなことはどうでもいい。コイツは4Cのやつと一緒にいたからな。貴重な情報源になってもらう。」

 

 

ガタガタと震える神山の首筋にクローを当てるマモルはその場で尋問を始める。

 

 

「4Cによってカラスのアマゾンが狩られたという事実はあるか?」

 

「カ…カラス…?あ…お…俺は4Cじゃなくて…。」

 

「なら死ぬか?」

 

「ひゃ…!で…でも…4Cの誰かが言ってた…気がする…カラスアマゾンを…捕獲している…って…。」

 

 

 

 

 

 

 

悠はジャングレイダーで啓践大学の校門を通って隠れ家に帰ろうとしていた。付属の病院に始の計らいで極秘に入院している七羽の見舞いにも行くことが出来た。そのせいで遅くなってしまったのだ。

 

 

(みんな心配してるかな。)

 

 

カーブを曲がり、後は山の方まで上がっていくだけ。ジャングレイダーのアクセルをさらに回した瞬間、今走っているところの数百メートル先に男が飛び出してきた。

 

すぐに減速しジャングレイダーを止める悠。道に飛び出してきた男は顔なじみのアマゾンだった。

 

 

「天城くん…!生きてたんだね!良かった!心配してたんだ!マモルくんなんて特に…」

 

「水澤くん…ごめん…俺…お腹が空いてるんだ…。」

 

「え?」

 

 

天城はバックル部のネオコンドラーコアがオレンジ色のネオアマゾンズドライバーを腰に巻き、左手に持ったアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填して右手でその部分を上に傾ける。

 

左手でアマゾンズインジェクターの中のロウ成分を注入すると天城の目がオレンジに光った。

 

 

-RHO(ロ・ウ)-

 

「…アマゾン…」

 

 

天城からアマゾンズドライバー使用時以上の熱とともに何度も爆発するように熱風が吹き荒れる。思わず悠も顔を抑えた。

 

その風がおさまり前を向くとそこにはカラスアマゾンに不完全な強化装甲が施されたアマゾンロウが立っていた。




こんにちは、エクシです。

商の正体、それはトラロックによって「アマゾンを喰いたい」と錯覚するようになってしまった実験体でした。
アマゾンをいくら喰らっても大した回復は出来ないので結局アマゾンズインジェクターによってたんぱく質を摂取するしかないんです。

そして後半に出てきたロウ成分と仮面ライダーアマゾンロウ。
ロウ成分は4Cが商の体を調べて発見した成分です。
これが「アマゾンを喰いたい」と思わせているんですね。

仮面ライダーアマゾンロウはカラスアマゾンに変身する天城クロトがネオアマゾンズドライバーを用いて変身した姿です。
見た目としてはカラスアマゾンにアマゾンネオやアマゾンニューオメガの装甲が付いた感じですね。
ただアマゾンニューオメガ以上に装甲が不完全なので顔にはバイザー等はなく、胸部も中の機械が全部丸出しになってます。
右手の武器生成の機能などはあります。
ところでなんでニューオメガのは不完全なんだろ…最終話で分かるのかな?

感想、評価、お気に入り待っているんだゾン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6「Mental Fatigue」

アマゾン。それは終わらない苦悩。悠の前に現れたのは4Cによってコッパタイプとなった天城だった。ネオアマゾンズドライバーで天城が変身したアマゾンロウによってアマゾンオメガは追い込まれていく。


黒崎はあくびをしながら局長室のあるフロアへエレベーターで上がっていた。こんな時間に職場へ呼び出されるのは不快だったが局長命令とあらば仕方がない。

 

局長室の扉をぶっきらぼうに開けて入るとそこには大きな液晶が置かれ、その画面には悠にアマゾンロウが襲い掛かっている映像が映されていた。

 

 

「んだこりゃ。」

 

「夜中に呼び出してすまないね、黒崎くん。」

 

「今日は当番のはずじゃないはずだが?」

 

「わかってるよ。だがこれを君に見てもらいたいんだ。私が君をアメリカから呼んだ理由だからね。」

 

 

手と足を広げ咆哮するアマゾン。これが自分を呼んだ理由ということだろうか。

 

 

「コイツはなんなんだ?」

 

「天城クロト。私がまだ野座間製薬で本部長を務めていた時にわざわざ話の場を設けてほしいと野座間に直談判に来た愚かなアマゾンさ。」

 

 

天城は野座間の役員全員に「人間を喰う気はないアマゾンもいる。自分たちを殺さずに人道的な扱いをしてくれると約束してくれれば監視下に降りる。人間を喰おうとするアマゾンを狩ることも厭わない。」と説得した。

 

しかし役員の面々はアマゾンの言ったことなど信用するはずがない。会長の天条の命令で何もせずに帰したものの、天城の提案に乗る気など野座間側はなかった。

 

 

「しかし私は会長にも秘密で天城を捕らえた。新しくアマゾンを作ることが禁止された今、既存のアマゾンは我々にとって貴重な戦力になりえると考えたからだ。」

 

 

今のところ自分が必要な要因などない。黒崎は近くにあった椅子に座りまたあくびをした。

 

 

「このアマゾンがいつか使い物になった時、君のような優秀な”人間”がアマゾンの手綱を引っ張ってほしいと思ってね。」

 

 

なるほど、ようは強い人間がアマゾンを見張ってほしかったというわけか。

 

 

「んで結局使い物になったから出したってわけか?」

 

「そうだ。共食いのアマゾン、コッパの体を調べた結果、トラロックによってアマゾンを喰いたいという錯覚をもたらす成分を作りだすことに成功した。その成分は錯覚だけでなくアマゾンの戦闘能力も底上げする素晴らしいものだったのだよ。」

 

 

また興味のない話に戻ってきている。頭が痛くなった黒崎は胸ポケットから頭痛薬を何錠か口に投げ入れた。

 

 

「聞いているかね、黒崎くん?」

 

「はいはい…。」

 

「フン…コッパタイプとはトラロック後に現れた言わば奇種。当時は原因や行動原理が分からなかったことからQuestionのQをギリシャ文字化したϘ(コッパ)からつけられた名だ。またϘは数字の90を示すとも言われている。」

 

 

本当に興味がない。自分はこのために睡眠を邪魔されたのかと思うと腸が煮えくり返ってくる。黒崎はスマートフォンを取り出しいじり始めた。

 

 

「だがアマゾンを喰うアマゾンを人の手で意図的に作り出せるようにしたのはこの私だ!まさに水澤くんのトラロックが Ϙ (90)ならば私の研究は Ρ (100)!」

 

 

橘は高笑いを上げている。ようはアマゾンロウを黒崎隊で管理しろということが言いたいのだろう。黒崎はスマートフォンをいじりながら局長室を後にした。

 

 

「へぇ。Ρ(ロウ)は数字の100を表す…ねえ。」

 

 

エレベーターの中でロウの意味を調べた黒崎はスマートフォンをポケットにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

ロウは暴走しながら足のフットカッターによる斬りかかりを仕掛けるも悠は冷静にそれらを回避していく。

 

 

「天城くん!…くそ!」

 

 

ロウの左腕につけられたアマゾンズレジスターの表示は青を示している。つまりまだ覚醒はしていない…。

 

間合いをとった悠はリュックサックに入ったアマゾンズドライバーを取り出し腰に取り付けてアクセラーグリップを捻った。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「…アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

オメガに変身した悠は先ほどと同じくロウの手足による攻撃を見切って避ける。

 

ロウはアームカッター、フットカッターをそれぞれ大きくさせ殺傷力を高めて襲い掛かってきた。

 

 

「く…落ち着いて!天城くん!僕だ!悠だよ!」

 

「わかってる…わかってるけど…ウアアアアアア!!!!」

 

 

ロウは自分の理性を抑えきれずにオメガに襲い掛かっているようだ。覚醒していないにも関わらず暴走する理由をオメガは理解できるはずもない。

 

ロウのフットカッターによる攻撃を避け続けるオメガ。ロウは左手でインジェクタースロットに装填されたアマゾンズインジェクターを操作した。

 

 

-NEEDLE(ニ・ー・ド・ル)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

右手のシェルスライサーグローブからアマゾンネオニードルが生成され、足技を避けたオメガの胸部に射撃攻撃を与える。

 

 

「ウアア!」

 

 

続けて怯んだオメガに左手のアームカッターで下から上に斬りかかった。

 

胸から血が噴き出しオメガはその場に膝をつく。

 

 

(や…やばい…!)

 

 

とどめの一撃を食らわせようと近づくロウ。アームカッターが届く距離まで近づいた時、突然ロウが苦しみ始めた。

 

 

「?」

 

 

動物的な鳴き声を上げその場にのたうち回るロウを背にオメガはジャングレイダーに乗ってその場を去っていく。

 

走りながら冷気を放ってオメガは悠の姿に戻った。シャツは右の下腹部から左の肩にかけて破れ、そこから血が染み出ている。

 

貫通していれば話は別だがこの傷程度であれば一口二口、たんぱく質を摂取出来れば回復するだろう。傷口もふさがってきたことが悠自身にもわかる。

 

剛の隠れ家の近くまで来るとそこに4Cの情報部と監察部がおり、ジャングレイダーを近くに止めて悠は誰にもばれないよう家の近くまで歩いた。

 

 

(まさか4Cにみんな駆除されたんじゃ…。)

 

 

天城のことを真っ先に伝えたかったのに…。悠がもっと家に近づこうとした時、後ろから悠を呼ぶ声がした。振り向くとそこには剛が立っている。

 

 

「剛さん!あれ、一体どういうことなんです?」

 

「あぁ、なんかアマゾンを駆除する奴らがあそこを襲ってな。何人かやられちまった。」

 

「そんな…。」

 

「だがマモルたちは生きてんぞ。何人かが近くの車を奪って逃げたのを遠目で見てたからよ!」

 

「じゃあ他の隠れ家に…!」

 

 

悠はすぐジャングレイダーを停めた場所に戻ろうとする。

 

 

「おいおい、今何時だと思ってんだ!それにその傷。ウチで休んでからじゃダメなんか?」

 

「すいません、でも天城くんがいたんです。それをマモルくんに言わなくちゃ。お世話になりました。」

 

 

悠は剛の方を向いて深々とお辞儀をする。そして傷口を抑えながらマモルたちが向かったと思われる別の隠れ家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

4Cの研究棟にストレッチャーに雁字搦めにされた天城が運ばれた。泡を吹き続けてはいるものの意識はないものと思われる。

 

その様子を見た加納は思わずハンカチで口を抑えながら研究者たちに命令を下す。

 

 

「すぐに治療を開始してください。ロウ成分の過剰摂取による症状でしょうからすぐ手を施さなければ命は保証できません。」

 

 

治療室を出てハンカチをポケットに戻す加納。辺りに誰もいないことを確認するとスマートフォンを取り出し電話をかける。

 

 

「加納です、夜分遅くに失礼します。橘局長の命で作ったネオアマゾンズドライバーですが、ロウ成分の摂取が上手くいかず実用段階には至っていないのが正直なところです。………………はい、しかしデータは局長ご自身で管理されているため私でも中々盗み出すことは難しいかと。…………………えぇ、システム部に送信されたものでしたら先ほど送りましたので確認をお願いします。…………はい、失礼します。」

 

 

 

 

 

 

 

悠がマモルたちがいる隠れ家に着いたのは数日経ってからのことだった。いくつかある隠れ家を回るとどうしてもそれぐらいの日数がかかる。

 

むしろ数日でマモルたちを見つけられたのは運がよかった方だろう。

 

 

「よかった、無事で。」

 

「無事…なのかな?」

 

 

カオリが悲しそうにしているのを見ると前の隠れ家での戦いで相当の仲間たちが目の前で無残に散っていったのだと予想できた。

 

 

「…ごめん、助けられなくて。」

 

「悠が悪いんじゃないよ。でも…人間を食べない私たちを殺すような人をなんで私たちは殺しちゃいけないんだろうね。」

 

 

悠は答えられなかった。「確かにそうだね」と言ってしまいそうにもなる。なんで自分たちは殺されてもいいのに人は殺してはいけないのか…。

 

 

「マモルくんと島田さんはどこに?」

 

「それが…。」

 

「?」

 

「4Cに行ったわ。あの人が言ったの、天城くんが4Cにいたって。」

 

 

隣の部屋を見ると拘束具を付けられた神山がモゾモゾと動いているのがわかる。

 

 

「なんでこんなことを!」

 

「貴重な情報源だからこうしとけってマモルが。」

 

 

カオリの答えなど聞かずに拘束具や口につけられた手ぬぐいを取る悠。自由になった瞬間、神山は外に飛び出していこうとする。

 

 

「言っておくけどここらへんには私たちの仲間がウロウロしてる。その意味、わかってるわよね?」

 

 

カオリの一言に立ち止まり、再び部屋に戻っていく神山はここから出る方がむしろ危険だと察したのだろう。

 

 

「とにかく今天城くんと会っちゃだめなんだ。僕もすぐ4Cへ行く。」

 

「どういうこと?」

 

「…帰ったら話すよ。」

 

 

テーブルに置かれた手作りのハンバーガーを1つ手に取って頬張ると悠はすぐに隠れ家を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

治療が終わった天城は拘束具を付けられ4Cのビル内にある隔離部屋に閉じ込められた。一切身動きが取れない状態で食事も排泄も全てその場でさせられる。

 

意識を取り戻した天城はそのストレスとアマゾンを喰いたい衝動に駆られ続けているのだ。

 

12時の鐘がなった。やっとたんぱく質の摂取が出来る。研究員たちが天城の右腕に1本目のアマゾンズインジェクターで栄養を撃ち込む。2本目は待ちに待ったロウ成分が含まれたものだ。

 

ロウ成分が入るととても気持ちよくなる、というのもアマゾンを喰ったような感覚を味わえるから。

 

しかし数時間もすればロウ成分を撃ち込まれる前以上にアマゾンを喰いたくなる。

まさに麻薬のようなもの、それがロウ成分だ。

 

今日の分の注射は終わってしまった。研究者たちが隔離部屋から出ていくのを見ると辛くなる。

 

 

(俺は…人間とアマゾンの共存を…でも…アマゾンを…喰いたい…!)

 

 

そんな天城の気配を4Cのエントランスから清掃員の服装をして潜入したマモルと島田は感知していた。特に島田は仲間のアマゾンを感知しやすいタイプなのだ。

 

 

「マモル。」

 

「うん、上だね。」

 

 

帽子を深くかぶりながら清掃道具を積んだカートを引いてエレベーターに乗る2人はとりあえず最上階のフロアのボタンを押した。

 

清掃道具の中にはブルーシートを被せた下にカオリが用意した食料が大量に積まれている。これだけの量があれば戦闘が長引いたとしても持ちこたえられるだろう。

 

 

天城の気配が近くなった。島田はすぐに次の階のボタンを押す。恐らく次の階に天城が捕らえられているのだろう。

 

 

(なんだこの感じは…?……近すぎる気が…。)

 

 

島田は天城の気配に違和感を感じざるを得なかった。同じフロアとはいえ囚われているのならばこんなに気配を近くに感じるはずはないのだ。

 

エレベーターのドアが開いた瞬間その理由は分かった。エレベータの目の前に立っていた天城は昔見た爽やかな笑顔ではなくやっと好物にありつくことが出来る…ストレスから自由になれると悦を感じた顔をしていた。

 

 

-RHO(ロ・ウ)-

 

「ハァハァ…ヘヘヘ……アマゾン…」

 

 

衝撃波がエレベーター内に充満し警告音が鳴り響く。マモルたちはロウから放たれる熱気で外に出ることが出来ない。島田の機転でドアを閉め、さらに上のフロアのボタンを押す。

 

ロウはエレベーターの入口の横の扉をあけ階段に出た。真ん中が吹き抜けになっており、そこから跳躍して停止するフロアに到着した。

 

エレベーターの扉の前に行くとちょうどそのフロアでエレベーターが止まる。ロウは扉が開いた瞬間、右手に生成したアマゾンネオブレイドで一突きにする。最早アマゾンロウに理性などなかった。

 

扉がゆっくりと開く。刃が入る隙間が出来た瞬間、ロウは右手をエレベーターの中に勢いよく突っ込んだ。

 

……感触はない。扉が全て開き目に入ったのはモグラアマゾンの硬化クローで突き破られたエレベーターの底の大きな穴。

 

 

「チィ!」

 

 

後ろを振り向こうとした瞬間、モグラアマゾンのクローがロウの腹部を後ろから貫いた。

 

 

「ガフッ!」

 

「天城くん…、覚醒してしまったんだね…。」

 

 

モグラアマゾンがロウの腕を見ると表示は青、未覚醒の証だった。

 

 

「え?そんな…!」

 

 

隙が生まれたモグラアマゾンを後ろに蹴り飛ばすロウ。すぐにインジェクタースロットに入っていたアマゾンズインジェクターをその場に捨て、ストックのアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填し注入する。

 

すると傷口はみるみるうちに塞がっていき、苦しそうだったロウは再びファイティングポーズを取る余裕を見せた。

 

 

「そんな…天城くん!僕だよ、マモルだよ!」

 

「わかって…いる……喰いたい…アマゾンをぉぉぉ!!!」

 

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンズインジェクターを操作することで右腕からフック状のクローが生成された。ワイヤーを射出してモグラアマゾンに引っ掛けると一気に近くまで引き寄せ、近づいたところをフットカッターで斬りつける。

 

 

「ヴヴヴア!!」

 

 

モグラアマゾンの両肩を切り裂き、そこから黒い血が川のように流れ出る。

 

 

「ヴヴヴアアアア!い゛た゛い゛!ウグアアア!!!」

 

 

痛々しい悲鳴を上げのたうち回るモグラアマゾン。そこへ階段を駆け上がってちょうどマモルたちを追いかけてエントランスに来ていた悠を連れて島田が戻ってきた。

 

 

「マモル!悠連れてきたぞ!」

 

「ヴヴウウウ…水…澤…く゛ん゛…!」

 

 

悠は島田に持ってきた食料をすぐにマモルに上げるよう伝えた。島田の正体はハチアマゾン。正直戦闘能力が高いわけではない。それよりもすぐにマモルを回復させて戦闘に加わってもらう方が効率的なのだ。

 

悠の腰にはコンドラーコアが赤く輝くアマゾンズドライバーが装着されている。かつての仲間を狩らなくてはならない心苦しさを抑えながら悠は叫んだ。

 

 

「僕は…天城くんを狩る!」

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「…アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

オメガが放つ爆風に耐えながら島田はカートに入れていたハンバーガーを人間体に戻ったマモルに渡した。

 

オメガはバトラーグリップを引き抜き彼の得意武器 アマゾンサイズを作る。襲い掛かってきたロウをアマゾンサイズで切り裂こうとするもアームカッターによって弾かれてしまう。

 

 

「グラアアア!!」

 

 

野獣のようなうめき声をあげるロウに対し冷静に相手の行動を分析しようとするアマゾンオメガ。前までならばオメガも本能的に戦っていたが、戦闘に慣れたせいか最近は冷静な行動分析が出来るようになっていた。

 

しかし今はそれが返って邪魔になっているのかもしれない。ロウはトリッキーな攻撃をしてくるためまるで予想が付かないのだ。

 

 

「島田さん。」

 

「どうした、悠!」

 

「…いったん引きます。」

 

「……そうだな。」

 

 

4Cの戦闘員たちの足音も聞こえてきた。島田はハチアマゾンに変わってマモルを連れて窓から飛び出した。ガラスの割れる音に反応するロウの隙をついてオメガも階段の吹き抜けから1階まで落下した。

 

オメガの姿から悠に戻り、階段の横の扉を開けて調査部のフロアを駆け抜けていく。急いでビルから出ようとした悠は差し掛かった曲がり角でちょうど調査部からたくさんの書類を持った女性とぶつかってしまった。

 

 

「あ、すいません…!」

 

「悠…?」

 

「…!…美月…!」

 

 

それは義理の妹、トラロックの日以来会っていなかった美月だった。まさか4Cで再会するとは予想もしていなかったが、驚いている余裕はない。上層階からアマゾンロウが飛び降りてきた音がする。

 

 

「ごめん、美月。僕急いでるから!」

 

「待って、悠ァ!」

 

 

(また私を置いていくの?どこに行くの?)

 

 

あの時言いたかった言葉が今も出てこない。自分には彼を引き留めるための力もない。少しでもアマゾンの近くにいようとしただけでは彼自身のことを知ることは出来ないし、ましてや彼が自分を見てくれるわけでもない。

 

美月はただ自動ドアの向こうに小さくなっていく悠を見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ジャングレイダーで郊外の方へ走っていく悠。隠れ家の方向へ向かってしまえば仲間たちがまた襲われてしまうかもしれない。悠はマモルや島田の無事を祈ってしばらく隠れ家には行かないことにした。

 

それに…調べなくてはならないことがある。ポケットに入ったメモ帳の切れ端に書かれた住所に行こうとカーブを左折すると目の前に金のメッシュが入ったボロボロの服を着た男 鷹山仁が道路をふさぐようにして立っていた。

 

 

「よう、また会ったなあ。」

 

「仁さん…今あなたに構ってる時間はない!」

 

「どういうことだ?」

 

「…。」

 

「もったいぶんなよ。俺とお前の仲じゃねえか。」

 

 

「どんな仲だ」と悠は思った。助け助けられ殺されかけ殺しかけ…。だがアマゾンに関する知識ならば令華に負けずとも劣らない彼ならば何かを知っているかもしれない。

 

それにこの男は隠し事が苦手なタイプなのだ。

 

 

「僕の仲間のアマゾンが…僕たちアマゾンを襲うようになったんです。」

 

「覚醒しておかしくなったのか?」

 

「いえ、未覚醒です。」

 

「てなるとコッパタイプになったか。俺もそうだったしな。」

 

 

仁は左の頬を抑えながら言った。

 

 

「天城くんは確かにトラロックの日、戦闘はしていたみたいです。でも後で見てもトラロックの影響は受けてなんていなかった!」

 

「じゃあ単純におかしくなっちまっただけじゃねえかぁ?話はもういいだろ、こないだの続きを始めようぜ。」

 

 

仁は傷だらけのアマゾンズドライバーを腰に巻き、アクセラーグリップを捻った。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「…アマゾン!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

アルファに変身したのを見て悠も同様に腰についているアマゾンズドライバーのアクセラーグリップを捻る。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「…アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

赤と緑のアマゾンが対峙する。アルファは腕を大きく開いて、オメガは腰を低くしていつでも飛びかかれる姿勢を取った。

 

戦闘が始まろうとした瞬間、オメガとアルファの双方に弾丸が撃ち込まれる。

 

 

「…ッ!…なんだぁ?」

 

 

道路の横にあるコンテナの上を見ると4Cの戦闘員がスナイパーライフルを構えているのが見えた。その男が右手を上げるとあちこちから隊員たちが現れ2体のアマゾンを囲う。

 

その中に赤松がサブマシンガンを持って立っていた。

 

 

「鷹山仁に水澤悠だな。」

 

「そうだが…俺は4Cの皆さんに危害を加えたつもりはねえぜ?」

 

「そちらがそうでもこちらはアマゾンを全て狩るつもりだ。」

 

「へぇ、気が合うな、俺もだ。だが今ここでくたばるわけにはいかねえな。」

 

「僕だって…今ここで死ぬわけにはいかない!」

 

 

オメガとアルファは攻撃姿勢を取りながらゆっくりと背中を合わせる。

 

 

「ここはとりあえず休戦ってとこだな。お前とこうやって戦うのはシグマ戦以来か?」

 

「ここを切り抜けるまでですからね。」

 

「わーってるよ。また嫌そうな顔すんなや。」

 

「わかんねえけど…ですよね?」

 

 

赤松のハンドサインで隊員たちが一斉に発砲する。2体のアマゾンはその瞬間お互いの背中を守りつつ戦闘を始めた。




こんばんは、エクシです。
話はアマゾンコッパからアマゾンロウにシフトしてきちゃいましたね。
一応コッパは野座間の駆除班で仲良くやってますからいいでしょう。またマモちゃんのようにならないといいですが…。

コッパが90を示し、ロウが100を示す…後付け設定ですw
使われなさそうなギリシャ文字ないかな
☞あ、コッパって使われなくなったギリシャ文字なんか、これにしちゃえ~
☞うーん、コッパタイプの2体目は何にしようかな…。ん?コッパって90の意味もあるのか。じゃあ100は?
☞ロウに決定
いい加減で申し訳ない…。
仲間が敵になっちゃうのがすごくシグマっぽいですが意識はとりあえずあるということでシグマよりも下手したらえげつないかもしれないですね。ロウ成分はまじで麻薬みたいなもんです。依存症になっちゃいます。
ただシグマと同じく仲間が手をかけてやる…という終わりにするつもりはないです。

今回は悠と美月の再会も入れてみました。本編S2の2話で久しぶりに会った悠と美月ですが5年ぶりに会ったにしては淡白な2人だな…と思ったので5年間の間にも何度か会ってたということにしました。
まぁ半年くらいあってなくても「久しぶり~」ってなりますよね?

ところで今本編でいうとどれくらいの時期の出来事なのかわかりますか?
本編のS2の8話 イユの父さんの大学から出てきた仁が悠とあって、次のシーンの千翼が生まれるまでの間です。
上手く書けているのか不安なので書かせてもらいました。

感想、お気に入り、評価お待ちしているんだゾン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7「Momentous Glitch」

アマゾン。それは足りない何か。アマゾンロウから逃げてきた悠とその悠を狙って現れた仁。その2人を狙うのは4Cの赤松隊であった。


放たれた弾丸を見切ってシェルカットグローブで弾くオメガとアルファ。

 

続いて赤松隊の隊員たちがサバイバルナイフでオメガに襲いかかる。アームカッターを大きくさせてサバイバルナイフを弾き、腹部にパンチを叩き込んだ。

 

一方のアルファも銃弾を浴びせられながら手刀で隊員たちの後頭部を攻撃する。どんどん倒れていく隊員の多さに動じることなく赤松は圧裂弾を装填し、アルファの方に銃口を向けた。

 

 

「…!仁さん!」

 

「…!」

 

 

オメガの声で圧裂弾の存在に気が付いたアルファはコンテナに飛び乗る。

 

 

「な…!」

 

「わりいな、コイツは没収だ。」

 

 

アルファは赤松の顔面に裏拳を叩き込み、圧裂弾を撃つ銃を足で踏んで壊した。溜息をつくと共に下からジャングレイダーが走り去っていく音が聞こえる。

 

オメガは冷気を放ちながら悠の姿に戻りこの場を去っていった。

 

 

「へ、俺を囮に使うとは…少しは成長してるじゃねえか。」

 

「鷹山ァ…!」

 

「お前が4Cの隊長か。ご心配なく。俺はアマゾンを狩るだけだ、一匹残らずな。」

 

 

アルファはそういうと隣のビルへと飛び移っていきその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

カオリは家の外から物音がしたことに気が付き恐る恐るドアを開けた。そこには傷だらけのマモルに肩を貸すハチアマゾンが立っている。

 

 

「マモル!大丈夫!?」

 

 

ハチアマゾンは冷気を放ちつつ島田の姿に戻る。

 

 

「4Cにやられたの?」

 

「いや…実は…」

 

「島田くん!」

 

 

島田は天城のことをカオリにも伝えた方がいいと言ったが、マモルは傷だらけになった今でもそれをカオリに言わないよう島田に念を押していた。

 

 

「…4Cの奴らが多かったんだ。」

 

「そうなんだ…。仲間の中でも戦うのをやめた人もいるし…仲間が欲しいね。」

 

「うん…。」

 

 

それでも仲間が変わってしまったことは伝えなくてはならないと思う島田。しかし今はマモルの治療が最優先だ。島田はカオリに傷薬と冷蔵庫に入っているハンバーガーを持ってくるよう頼んだ。

 

カオリが部屋の奥へ行くのを見ると島田はマモルの耳元で天城のことを話す。

 

 

「天城…一体どうしたというんだ。覚醒していたわけじゃないだろ?」

 

「うん…もしかしたら4Cに何かされたのかも…ね。」

 

 

マモルの目は出会った時に比べて随分鋭くなったように思える。それは戦いの中に身を置く決意をした彼成りの覚悟の現れだったのかもしれないが島田にとってはどこか寂しくも感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

夜まで研究に勤しんでいた始はやっと自分のマンションにたどり着いた。自転車を駐輪場に置き、鍵を探しながら歩いているとこの間大学で出会った青年が入口に立っていた。

 

 

「水澤くん!どうしたんだ、こんなところで。」

 

「先生、すいません。この時間ならご自宅にいらっしゃるかと思って。」

 

「いやそれは全然いいんだが。それよりその血…アマゾンか?怪我は?」

 

「大丈夫です。ほとんど返り血です。」

 

「そうか、とりあえず家に入りなさい。」

 

「いえ、娘さんもいらっしゃると思いますしここで失礼します。先生にお会いしにきたのはこれを調べてほしいんです。」

 

 

そういってアマゾンロウが捨てたアマゾンズインジェクターをポケットから取り出し初めに渡す悠。

 

 

「これは?中に少し液体が残ってるようだがこれを?」

 

「はい、僕の温厚だった仲間がアマゾンを喰らうコッパタイプになってしまったんです。恐らくその薬品がそうさせたんだと思います。」

 

「コッパタイプ…前まで鷹山くんもそうなっていたらしいね。彼の細胞も採取してあるから、それも含め見てみよう。」

 

「ありがとうございます。僕、こんな感じでいつ死ぬかわからないからすぐに先生に渡さないとって。」

 

「そんなことを言うなよ。君とはきちんとアマゾン細胞の研究をするって決めたじゃないか。」

 

「そうでしたね。すいません。じゃあ…失礼します。」

 

「あ、そうだ。鷹山くんの子供…生まれるのは12月になりそうだ。」

 

「…じゃあ僕はその間、仁さんを見張っています。」

 

 

悠は赤いメットを被り、ジャングレイダーで去っていった。夜は真夏の暑さを感じさせず心地が良い。もしこんな状況じゃなかったらもっと気持ちがよいツーリングが出来るのにと新たな命の誕生のことを聞き思う。悠はジャングレイダーのアクセルを回して山の方へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

冬に入ると早朝の任務にはカイロが必須となる。きちんと腰と腹部にカイロをつけた三崎はサブマシンガンを手にボタンフックエントリーの態勢でアマゾンたちの隠れ家のドアに背中をつけていた。

 

 

「じゃあ行くぞ。」

 

-COPPA(コッパ)-

 

「ハァァ!アマゾンッ!」

 

 

熱気による衝撃派によって隠れ家のドアを吹き飛ばす。コッパの合図と共に三崎と望が部屋の中へ入っていく。サブマシンガンとサバイバルナイフを構えた2人に襲い掛かるアマゾンたち。

 

 

「ノンちゃん!」

 

「わかってる!オラァ!」

 

 

望の蹴りがクモアマゾンの腹部に叩き込まれる。レガースから放たれる電撃がクモアマゾンの体を麻痺させる。

 

三崎はサブマシンガンによる連射攻撃をモズアマゾンに放ち、体の部位を吹き飛ばしていく。

 

コッパは2人の攻撃に怯んだアマゾンたちの頸動脈に両手を使ってアームカッターで切り裂く。奇声に近い叫び声をあげて2体のアマゾンは倒れた。

 

 

「ハカちゃん、終わったよ。」

 

「あぁ。」

 

 

コッパは倒れたアマゾンに飛びついて喰らい始める。その姿を見ないように三崎と望は家の外に出た。

 

 

「何度見てもありゃ慣れないなぁ…。」

 

「そんなことよりおかしくねえか?」

 

「え?」

 

「少なすぎだろ。アマゾンたちの隠れ家で一斉駆除って話だったのに2体しかいねえってどういうことだよ。」

 

「あ、確かに…。」

 

 

望がすぐにトランシーバーで令華にこの違和感を伝えた。通信をしている間に口にアマゾンの黒い血がべっとりとついた商が家から出てきた。三崎はすぐにハンカチを出して商に渡す。

 

 

「あーあーあー、これで拭きなさいよ。」

 

「…さんきゅ。」

 

「おい、お前ら。」

 

「あ、なんかわかった?」

 

「あぁ。この場所に行って話を聞けって。」

 

「話って…だれに?」

 

 

望は黙ったまま輸送用バンに乗り込む。三崎もやれやれと呟きながら運転席に乗り、商は渡されたハンカチで体についた返り血を拭きながら望が座る荷台に入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

指定された場所にいたのは三崎と望がよく知る人物 福田だった。今シーズン最も寒い日と天気予報で言っていたが、福田はいつもと変わらぬ装備で無表情で武器の手入れをしていた。

 

 

「福田さんがウチらを呼んだんですか?」

 

「…そうだ。アマゾンが全然いなかっただろ。」

 

「そうそう。隠れ家なのにおかしいねって話しててさ。」

 

「4Cが先に駆除していたんだ。家から離れていた奴らをお前たちは駆除したというわけだ。」

 

「なるほどね。お残りを頂いたってわけだ。」

 

「その話をしにきたんじゃない。橘局長からお前たちに伝言を預かってきた。」

 

「伝言…?」

 

 

福田はポケットに入っている封筒を望に渡した。

 

 

「簡単に言えば4Cと野座間共同でアマゾンたちの最大の隠れ家を叩こうというわけだ。先ほどお前たちが駆除を行った家で別の隠れ家の情報が手に入った。場所は関東北部の地方都市の山林地区の中にある廃別荘だ。」

 

「なんで4Cが共同なんて?」

 

「お前たちには…尾宿がいるだろう。」

 

 

バンの中で必要にハンカチで血を拭き続けている商を見ながら言う。

 

 

「こちらにはアマゾンロウがいる。2体のアマゾンの戦力と我々、そしてお前たちの力で一気にやろうってわけだ。」

 

「なるほどね。これを令華様に言えってわけね。」

 

「お前たちとパイプがつながっている俺に橘局長は言ってきたというわけだ。…頼んだぞ。」

 

 

福田の顔はどこか疲れているようであった。アマゾンを駆除するという点に関しては昔と何ら変わりはないのにその頃と比べて何か違う気がする。

 

 

「おっけ。まぁハカちゃんにもそれでいいか聞いてくるよ。」

 

「三崎。」

 

「ん?」

 

「…奴はマモルじゃない。代わりにはならないぞ。」

 

「…!」

 

「……わかっているならいい。」

 

 

今の自分の顔も福田のような顔になっているに違いない。三崎はそう思いながら商の元へ行くのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

後日三崎と望、商は4Cに呼ばれた。入口で福田が出迎え、厳重なセキュリティを通って橘のいる局長室に足を踏み入れた。

 

 

「久しぶりだね、元駆除班の皆さん。是非実戦経験豊富な皆さんには”私の”4Cに入ってほしかったから非常に残念だったよ。」

 

 

皮肉交じりの再会に三崎は思わず苦笑いを浮かべる。仲間だった前原をあんな姿にしたこの男の元で誰が働きたいと思うだろうか。

 

 

「そして初めまして、尾宿商くん。」

 

「アンタがこのベルトを俺に渡した張本人ってことか。俺の体を調べて何しやがった?」

 

「君のそのアマゾンを喰らいたいという”感情を量産”したんだよ。」

 

「感情を…?」

 

「それがこれだ。」

 

 

局長室の扉が開くとそこにはストレッチャーに縛られた天城が運ばれてくる。その顔は無機質で感情が失われていることが一目でわかった。

 

 

「…!こいつは…!」

 

「ハカちゃん、知ってるの?」

 

「…いや。」

 

 

嘘をついた。三崎は信用できる男だったから今まで嘘をついたことはない。だが今は単に昔の自分を知られたくなくて嘘をついたのだ。この男はトラロックの日、人を喰っていた商を止めに入った”人間とアマゾンを繋ごうとしたアマゾン”だった。

 

そんな男が今や人間たちについてアマゾンを無慈悲に狩る機械になったというのだろうか。今はアマゾンを喰らうような生き物には見えない。いやむしろ生き物に何か必要なものが欠けてしまったかのような存在…。

 

局長室を出ると三崎たちは青山隊の待機室に通された。中には青山と隊員の藤尾、中島が座っており、わざとらしく丁寧な挨拶をする。

 

 

「私が4Cの青山隊隊長 青山です。よろしくお願いします、元駆除班の皆さん。」

 

「へっ、くっさいことしてんじゃないよ、青山ちゃん。」

 

「へへ、皆さんお久しぶりです。俺が野座間にいた頃と変わんないっすね。」

 

「まさか清掃班だったお前が4Cで隊長やるとはな。」

 

「三崎さんと同じような理由ですよ。」

 

「金は大事だなあ…。」

 

 

野座間製薬の元清掃班であった青山は駆除班の面々とは顔なじみであった。福田も久しぶりの雰囲気に表情にはあまり出さないもののどこか嬉しそうであった。

 

 

「今回はウチの班、そして白木隊と野座間の皆さんで別荘地へ駆除にし行きます。天城は黒崎隊の管轄ですが今日は非番なので俺たちがみます。」

 

「4Cの戦力は?」

 

「最近完成した圧裂弾という武器がありますが、衝撃波が凄まじいことや別荘の構造上崩壊の恐れもあるので容易には発射出来ないのが推測されます。後は野座間側とそこまで変わらないかと…。」

 

「じゃあ天城ってアマゾンは?ハカちゃんとそんな変わらないかね?」

 

「尾宿商に関してはこちらもそこまで情報がないので何とも言えませんが、黒崎から1つ言伝があります。」

 

「言伝?」

 

「『天城には決して見方は近づくな』だそうです。」

 

「…!」

 

 

ストレッチャーに縛り付けられ大人しくしている彼が本当に戦いに参加出来るのか不安であったがまた別の不安が三崎と望を襲った。

 

一方の商は青山隊の隊員たちに天城のことを聞いていた。

 

 

「なぁ、奴はロウ成分ってやつでアマゾンを喰いたくなってるんだよな。」

 

「そうだよ。お前の中で分泌された成分を人工的につくったもんらしい。」

 

「そんな成分ごときであんな腑抜けだったやつをアマゾン狩りのモンスターに出来るもんかね…。」

 

 

カラスアマゾンになった時の戦闘力は確かに目を見張るものがあったのは覚えているが結局甘いことしか言っていなかった印象が大きい。そんなやつが容易に殺戮衝動に目覚めるものなのだろうか。

 

そんなことを思いながら準備を始めた周りを見て、商も身支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

十数人分の食器を洗い終えたカオリは次に洗濯をするために別荘地の庭に出た。各地の隠れ家が4Cと野座間の駆除班に襲われ、行き場をなくした者たちは皆この別荘にいるのだ。

 

 

「カオリちゃん、洗濯は俺がやるよ。」

 

 

声をかけてくれたのは剛だ。アマゾンを助けた人間ということで足がつくのは時間の問題だと思ったのか一緒についてきてくれた。そしてもう1人の人間がここには住んでいる。

 

 

「でも結構な量ありますよ…?体壊しちゃいますって。」

 

「おいおい、俺はぁ昔大工だったんだぜ?体力なら自信があんだ。それより神山になんか持ってってやってくれねえか?ブーブーまた文句言ってんだ。」

 

 

伸びきって脂ぎった髪にニキビだらけのその顔にはイースヘブンの教祖として贅沢の限りを尽くしてきた男の面影はない。

 

 

「わかりました、じゃあお願いしますね。」

 

 

人間を喰らうことなどアマゾンならば簡単だ。しかしカオリたちにはそれは出来ない。マモルはかつての仲間を喰らいそうになってしまったから、島田は単に趣味が合わないから、そしてカオリはかつて人間を愛してしまったから人間を喰えなくなってしまった。

 

逃がせばアジトの場所も4Cにバレてしまうだろうし結局神山をここまで連れてきてしまった。しかし無理やり連れてきたころに比べて随分安定したというか…とにかく馴染んでいた。

 

わがままでいい奴でないが、神山がいることは最早当たり前のようになっていた。ペットのような感覚なのだろうか。カオリにもよくわからなかった。

 

 

「はー、気持ちいいなあ。」

 

 

体と洗濯物のしわを伸ばしながら作業をするカオリ。今日は12月にしては珍しくちょうど良い気候だ。しかし島田の一言でその余裕はなくなる。

 

 

「人間たちがここに近づいてる!すぐに準備をしろ!」

 

「…!じゃあ水澤くんに連絡も…。」

 

「アイツに…か。マモルは嫌がるだろうな。」

 

「…でも守ってはくれるし。」

 

「…そうだな。だがまずは逃げる事を優先するんだ。」

 

 

カオリはすぐに洗濯かごを置いて自室へ駆けていった。ついにここも見つかってしまった。また逃亡の日々が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『こちら白木隊です。アマゾンたちがこちらの動きに気が付いたようです。』

 

「まじか…了解。先におっぱじめててくれ。」

 

 

青山隊のバンに先に別荘付近で待機していた白木隊の隊員から連絡が入った。

 

 

「あらら、どっからバレたんかな。」

 

「簡単だ。俺や天城がこのバンに乗っているからだろ。」

 

「どういうこと?」

 

「アマゾン同士はお互いの存在が分かる。コッパタイプの2人は匂いがちがうんじゃねえか?」

 

 

望の指摘通り。三崎も「あぁ~」という声を漏らした。

 

 

「そんな遠い所から感知できるやつがいたなんてなぁ。まぁもう白木隊が戦闘に入ってます。すぐに援護行きますよ。」

 

 

青山と野座間駆除班らの会話を聞いた福田はアクセルを強く踏んで現場へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

銃声の音を聞いて部屋で休んでいたマモルは目を覚ましすぐに飛び起きる。部屋を出ると白木隊の隊員たちがマモルに向けてショットガンを放つ。熱を発しながらモグラアマゾンに変わるマモル。

 

 

「ウォォオオ!!」

 

 

傷が治ったことでかえって強化された肩アーマーがモグラアマゾンの戦闘力の高さを思わせる。硬化クローで襲い掛かる隊員たちを次々と攻撃していく。

 

入口の方では青山隊の輸送用バンが到着し、後ろから三崎、望、青山、商が出ていく。そして福田が運転席の横にあるボタンを押すと天城は自身の拘束が取れて自力で荷台から降りた。

 

 

「……ンンアアアア!!!!」

 

「!?」

 

 

拘束が取れたことがトリガーとなっているようだ。天城は血走った眼をギラギラと輝かせて手にしているネオアマゾンズドライバーを装着した。それをみた商もアマゾンズドライバーを腰に巻く。

 

天城はオレンジ色の液体が入ったアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーのインジェクタースロットに装填しギミックを動かしてすぐにアマゾンズインジェクターでロウ成分を注入する。

 

 

-RHO(ロ・ウ)-

 

-COPPA(コッパ)-

 

「アアアアア!アマゾンッ!」

 

「ウォォオ!アマゾンッ!」

 

 

爆風が辺りを包み込み、周りは砂埃で前が見えなくなる。それが晴れると2人はコッパ、ロウへと変身していた。

 

 

「さて行くぜ、ハカちゃん。」

 

「待て。」

 

 

コッパは後ろにいる4Cと駆除班のメンバーたちを止めた。アマゾンコッパの視線の先は砂埃が晴れてたところにバイクに跨った人間のシルエットがあった。

 

 

「…!」

 

 

それはジャングレイダーでここに駆け付けた悠だった。ヘルメットを取るとどこか大人びた表情が見え成長が感じられる。

 

 

「悠…お坊ちゃん…?」

 

「悠…。」

 

「…お久しぶりです。でも…みんなを殺させはしない!」

 

 

カバンからアマゾンズドライバーを取り出し装着し、アクセラーグリップを捻った。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「…アマゾン。」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

冷静な掛け声はどこか鷹山仁を思わせる。立ち姿も理性的なオメガに対し、ロウは奇声を発しながら立ち向かっていった。




更新遅れました、エクシです。いろいろ忙しかったのとS2の最終回を見て…ショックでなかなか書けなかった。。。

いやーよかったです。しっかり終わらせてほしかったという方の気持ちもS3はよという気持ちもわかるので複雑ですが、とにかくよかったと思います。

ネタバレ?になりますがこの話のMtoN編は13話で一応切り上げるつもりです。
その後は未定ですが、今のところまだ続けるつもりではあります。
今更ですが「Quinquennium」は5年間という意味があるそうです(知らなかった)。
空白の5年間を埋めるのはMtoN。そして14話以降はまた別の5年間を…なんて考えてます。
その事を考えるとなかなか今の部分に手が付かなくて…。

しかしなんとか完成させようと思っています。これから遅めの更新になるかもしれませんが、感想、お気に入り、推薦等でモチベーションを上げられれば更新頻度高く出来るかと思います。是非お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8「Meaningless Hunting」

アマゾン。それは生きる意味を見出すための戦い。アマゾンたちの隠れ家を襲撃した4Cと野座間製薬駆除班。それぞれの組織が所有するアマゾンコッパとアマゾンロウの前に立ち塞がったのはアマゾンオメガ 悠だった。


-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ロウは右手に生成されたアマゾンネオブレイドで襲い掛かるがそれを全て見切るオメガ。コッパはオメガが避けたところを狙ってフットカッターで蹴りをいれようとするもオメガは自身のアームカッターでキックを抑える。

 

 

(俺の蹴りを左手だけで…!)

 

 

軸足となっている左足を狙った攻撃を繰り出し、それを避けるために後ろへ下がるコッパ。ロウは距離を取ることはせず猛攻を仕掛けるも感情的な攻撃はオメガには通用しない。

 

 

「ウガアアア!!」

 

「天城くん…。」

 

 

ロウの暴走する姿はかつてトラロックによってコッパタイプとなったアルファの荒々しい戦いを思い出させる。

 

これがあの優しかった天城なのだろうか…。

 

 

「天城くん!思い出して!僕だよ、水澤悠だ!」

 

 

前に会った時は悠のことを覚えてはいたが、結局欲望を抑えることはできずオメガに襲い掛かっていた。今はもう悠にすら気づかずにただ目の前の獲物を捕らえるためだけに動いている猛獣となっていた。

 

ロウにアームカッターによる斬撃攻撃で怯ませるとコッパが再び襲い掛かる。

 

そんな攻防を遠目から三崎、望、福田が見ている。あの悠が今は敵になっているのだと改めて感じるのだ。

 

しかしアマゾンの自由のために戦う悠を攻撃するコッパとロウ、特に意思を持たずに戦うロウの姿は何だか嫌なふうに感じる。

 

 

「福田さん!援護射撃です!」

 

 

青山の声に我を取り戻した福田はショットガンライフルを手にスコープからオメガの姿を見る。

 

 

(俺は…4Cの人間だ!)

 

 

「フクさん!」

 

 

ショットガンライフルの引き金を引こうとした時、三崎の声がしてその指を止める福田。

 

 

「ホントに撃つの?相手は悠坊ちゃんだよ!?」

 

「…。」

 

「三崎さん…やめとけ。」

 

「でも…。」

 

「…アイツは強いな。自分の信じるもののために戦うことが出来る。だが俺は…。」

 

 

再びスコープを覗きこみ、オメガに焦点が定まった瞬間引き金を引いた。オメガの肩に命中しバランスが崩れたところにコッパが噛みつき攻撃を繰り出す。

 

ロウが足と手を地面につけて飛びかかろうとした時、建物内から飛び出してきたモグラアマゾンがロウの体を抑え込む。

 

 

「天城くん!しっかりして!僕だよ、マモルだよ!」

 

「マモル!」

 

「マモちゃん!」

 

 

三崎や望の声に一瞬反応するマモルだが、その方向を見ることなく硬化クローで抑え込んでいるロウにひたすら声をかけている。

 

 

「天城くん!天城くん!!」

 

「ヴウウ…アァァァ!!」

 

「あま…ぎ…くん…。」

 

 

天城が理性を取り戻す様子は…ない。

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちなら人間とも仲良くなれると思うんだ。」

 

 

天城はいつもそう言っていた。三崎の腕を喰ってしまったマモルにとって最初はその言葉を聞くと辛い気持ちに駆られる。悠は素直にそれに賛同していたが、マモルも含めた他のアマゾンたちは聞き流すばかり。

 

そんなある日、天城は1人で野座間製薬に直談判へ行った。アマゾンの仲間たちは下らないと言っていたが、襲い来る人間たちを迎え撃つチームの仲間だった天城をマモルは放っておくことなど出来ない。

 

結局1年以上マモルは天城を追いかけてきた。もしかしたらあの海岸で駆除班の仲間たちと決別を交わした自分とは違う結末に行きつくかもしれない天城にどこか期待していたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

コッパがオメガの攻撃を喰らいつつ何とか防御しているとき、また新たな4Cのバンが到着し、数人の小隊が下りてきた。最後に降りてきた赤松の掛け声で全員が一斉にオメガに向けて発砲する。

 

 

「ウグッ!!」

 

「尾宿!別荘に入ってアマゾン狩れ!コイツだけをやるのが目的じゃねえだろ!」

 

 

赤松の指示に頷いたコッパは銃弾に撃たれ続けるオメガを横目に建物内に入っていく。

 

 

「ま…待て!」

 

「お前水澤悠だな。全員撃ちまくれ!」

 

 

だが指示に従うことなくスコープでアマゾンオメガを見続けている隊員が1人。

 

 

「…水澤。訓練生志願した割には度胸がないな。」

 

「…すいません。」

 

「明日から青山のとこへ行け。優秀な部隊たる俺の隊には必要ない。」

 

 

赤松の一言にショックを受ける美月。隣にいる青山も思わず驚きの表情を見せる。オメガを助けることを望む彼女にとってはただ見ているだけでも辛いのだろうと青山は思った。

 

一方のロウはモグラアマゾンの拘束を振り切って自由になると近くにいた駆除班のところへ飛びかかる。

 

 

「な…!」

 

「ヴァアア!!」

 

 

アマゾンネオブレイドで望に襲い掛かるロウ。すぐにモグラアマゾンはロウに飛びかかり抑えつける。

 

 

「マモル…!」

 

「違う!僕はただ天城くんを助けたい…だけだ!!」

 

 

赤松隊は一斉にモグラアマゾンとロウに発砲し、徐々に建物の方に追いやっていく。建物内からはコッパがアマゾンたちを狩っていき、阿鼻叫喚の地獄絵図となっている。

 

 

「ヴアアア!くそお!」

 

 

モグラアマゾンは建物内に入りコッパを止めるためにロウとの戦闘を放棄した。しかしそんなことはお構いなしと言わんばかりにロウはモグラアマゾンにしがみ付き噛みつく。

 

モグラアマゾンは振りほどこうと抵抗しつつ建物内に入った。それを見た赤松はすぐにトランシーバーで建物内にいる白木に通信をする。

 

 

「白木、すぐに建物から出ろ。」

 

『しかし…隊員たちが重傷で!』

 

「今アマゾンたちを狩る絶好の状況なんだ。圧裂弾を使う。」

 

『そんな…!』

 

「局長の命令だ。」

 

『…了解。』

 

 

建物内でロウはインジェクタースロットを操作する。

 

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)SLASH(ス・ラ・ッ・シュ)-

 

 

左手のアームカッターにエネルギーが溜まっていくのが目に見える。その腕でモグラアマゾンに斬りかかろうとする。その間にボロボロのカニアマゾンが立ち塞がり、モグラアマゾンを守った。

 

 

「立山くんっ!!」

 

「マモル…みんなを…守ってくれ!」

 

 

カニアマゾンはアマゾンパニッシュによって下腹部から出血しやがて液状となった。

 

 

「ヴウ…アアアア!!」

 

 

モグラアマゾンはすぐに建物内に残っている仲間たちを集め、裏口から逃げようとする。ロウはそれを一蹴するため近づこうとするも自身の左腕が解け始めていることに気が付く。

 

 

「!?!? アアアヴウウ…!」

 

 

その姿を見たアマゾンコッパは何が起きているのかわからなかった。しかしそれこそネオアマゾンズドライバーの代償。エネルギーが強い分その反動がある。アマゾンたちから見ればそんな死に方など望まないだろう。しかし今のコッパにとってはそんなことはどうでもよかった。

 

今自分は”何でもいいから”喰いたい。

 

アマゾンを喰らえば人々は喜ぶ。自身は望まれず生まれてきた実験体だが、アマゾンを喰らえば人間たちに迎えられるのだ。

 

しかしトラロックの影響が薄まってきた今、人間を喰いたいという願望が抑えきれない。教会でマモルの仲間たちと戦った時、遠目に見た三崎がとても旨そうに見えてしまったことは忘れられない。

 

辺りには液状のアマゾンの死体と戦闘で死んだ白木隊の隊員たちの死体が転がっている。

 

旨そうだ…。

 

 

「ハカちゃん!逃げろぉおお!」

 

 

外から聞こえる声にハッとするアマゾンコッパ。その瞬間窓が割れ、光を点滅させながら圧裂弾が目の前で炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

赤松が放った圧裂弾の威力は別荘全体を破壊することなどたやすかった。とてつもない衝撃波に外で戦闘を行っていたアマゾンオメガ、駆除班、4Cの面々も周りの物にしがみ付いて何とか吹き飛ばされないようにしていた。

 

爆風が落ち着いた跡には瓦礫とアマゾンの死体の液体。そしてバラバラになった人間の四肢。

 

 

「なんだ…こりゃ。」

 

 

撃った赤松本人も威力のすさまじさを驚かずにはいられない。実戦で初めて使われたこの恐るべき弾丸は奥の手といえるものになるだろうとその場にいる誰しもが思う。こんなものを何度も使っていては人間(こちら)がもたない。

 

砂埃が舞う中で悠はすぐにジャングレイダーでその場を去っていく。後ろから弾丸を放つもそれを軽々しく避けていく悠。その後姿を美月は黙って見つめていた。しかし美月以外は瓦礫を踏みつける音のする方に一斉に銃口を向ける。

 

 

「誰だ?」

 

 

砂埃の中にネオコンドラーコアのオレンジ色が輝いて見える。

 

 

「天城か?」

 

 

ネオアマゾンズドライバーの装着者は黒い体をしていたが、カラスアマゾンのシルエットではない。出てきたのは装甲をつけたコッパがネオアマゾンズドライバーを装着している姿であった。

 

 

「お前…あの圧裂弾からどうやって…!」

 

「ハカちゃん!良かった…無事だったんだね!」

 

 

望や三崎の声などコッパには聞こえていない。

 

 

 

 

 

 

 

圧裂弾が破裂する前にアマゾンロウからネオアマゾンズドライバーを奪い取り、すぐに自分の腰に装着した。全身が解け始めていたアマゾンロウは抵抗できずにその場に倒れる。

 

 

-RHO(ロ・ー)-

 

「アマゾンッッ!!」

 

 

商の肉体から熱が発せられると共に圧裂弾の爆発が始まる。変身途中でインジェクタースロットを操作する商。

 

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)SLASH(ス・ラ・ッ・シュ)-

 

 

腕に力が溜まった時、ただひたすらに地面を掘った。圧裂弾の衝撃を感じつつ痛む体に鞭を撃ってただひたすらに喜びを感じながら。

 

 

「俺は…アマゾンを喰いたい!ロウ成分を摂取した俺は…人間を欲していない!」

 

 

 

 

 

 

アマゾンズインジェクターを取り外しコッパから商の姿に戻る。

 

 

「ハカちゃん!」

 

「…三崎。俺はもう駆除班には戻らねえ。」

 

「え?」

 

「赤松…とか言ったよな。」

 

 

商は赤松の方に近づく。アマゾンに臆さず近づく赤松。

 

 

「なんだ?」

 

「俺を4Cに入れろ。そしてこのドライバーを使わせろ。」

 

「な…ハカちゃん!何言ってんだよ!」

 

「俺のドライバーは圧裂弾で使い物にならないしな。それにこのロウ成分…最高だ。」

 

 

商の顔は満面の、しかし狂気的な笑顔をしていた。確かに三崎はどこか商をマモルのように共に戦うことが出来るアマゾンであると誤解していたのかもしれない。

 

マモルはチームとハンバーガーのために戦っていた。

 

商は違う。彼は居場所を守るためだけに戦っているのだ。食人衝動を抑えられるなら彼はどこにだって行く。半年以上共に戦ってきた仲間のことを何も…何もわかってはいなかった。

 

そんな日の午後、人とアマゾンとの間に生まれた赤子は産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

雪が積もり足場が悪い山道をマモルたちは歩いていた。別荘での戦いからまた多くの仲間を失い、今いるのは島田、カオリ、高橋、そして剛と神山だ。

 

神山に関しては別荘においておけば圧裂弾で死んだだろうとマモルは言ったが、カオリはそれを許さなかった。なぜここまでされても人間を恨まないのだろう。いやそれは自分にも言えることだ。なぜ人間が今でも喰えないのか。

 

山道を上がったところに動物園が見えた。しかしとうの昔に閉園しているようで食料となるものはなさそうだ。

 

 

「次行こうか。」

 

「ハァハァ…。」

 

「高橋…くん?」

 

「ダメ…だ…人だ…人の匂いが…する!!」

 

 

高橋の左腕を見るとアマゾンズレジスターが赤を示している。ついに高橋まで覚醒してしまった。

 

 

「ウアアア!!」

 

 

高橋の真の姿である蝶アマゾンの成虫態へと変化する。すぐにマモルたちもアマゾンに変化し蝶アマゾンを止めようとするが、蝶アマゾンは剛たちに襲い掛かる。

 

 

「いけないよ、高橋くん!だめだ!く…剛さん!逃げて!」

 

「マモル!やるしかない!やるしかないんだ!」

 

「ウワアアア!!」

 

 

モグラアマゾンは蝶アマゾンの心臓を一突きにした。まもなくして蝶アマゾンの体は解けていく。

 

 

「どうして…どうしてアマゾンがアマゾンを殺さなきゃいけないんだ!天城だってそうだ。アマゾンを殺したくないのに殺させられるなんて…こんなの!」

 

 

ハチアマゾンから島田の姿に戻り涙をこぼす。体全体に黒い血がへばり付いたモグラアマゾンもマモルの姿に戻りながら冷静に答える。

 

 

「アマゾンがアマゾンを殺していいなら…人間が人間を殺してもいいのかな。」

 

「マモル…?」

 

「…何でもない。」

 

「おうい!こっちに来てくれ!」

 

 

逃げていった剛の呼びかけに答えマモルたちは馬小屋に近づく。そこには子供を抱きかかえて眠る女性の姿があった。

 

 

「こんなところで寝てるんだ。この女の人。」

 

「お…おいマモル!わかるか?」

 

「うん…この2人…アマゾンの匂いがする…!」

 

 

アマゾンたちの声に目覚めた女性はすぐに飛び起き赤子を抱いてその場を去ろうとする。

 

 

「待ってくれ!…アマゾン…なのか?」

 

「…!あなたたち…アマゾン?」

 

「俺は人間だ!とりあえず安心してくれ。」

 

 

剛が間に入りその場を落ち着かせる。話を聞けばその女性はアマゾンとの子を授かったのだという。

 

 

「アマゾンに生殖能力はないはず。一体どういうことだ?」

 

「仁は元々アマゾンじゃなかったから。」

 

「仁って…あの鷹山仁!?」

 

 

マモルは思い出した。何度か見たことがある。駆除班にいた頃、鷹山仁のパートナーだった女性 泉七羽。

 

 

「こいつ、私たちの仲間を狩ってくやつの…!」

 

 

カオリは熱を発しアリアマゾンへと変化する。七羽はまたすぐに馬小屋から出ようとするが剛が七羽の前に出た。

 

 

「よすんだ、カオリちゃん!彼女に罪はねえだろう。それにこんな赤子を襲うなど言語道断!」

 

「…すいません。」

 

 

アリアマゾンからカオリの姿に戻る。剛は七羽に赤子を抱かせてくれと頼んだ。

 

 

「俺の息子はよ、アイツの嫁さんと一緒に事故で死んじまって…。孫ももうすぐ生まれるって時だったのによ。あぁ…こんな感じなんだな、子供って。アマゾンも人間も関係ねえよ。」

 

 

赤子を抱きく剛の涙は赤子の頬に落ちた。

 

 

「おっといけねえ。」

 

 

剛が指で赤子に落ちた涙をぬぐった時、赤子はその指に噛みついた。

 

 

「いて!」

 

「すいません、大丈夫ですか?」

 

「いいんだいいんだ、もうしっかりした歯が生えてるんだな。」

 

「はい、私もこの前やられちゃって。」

 

 

そんな2人のやり取りは祖父と母になったばかりの人間たちのように島田の目には映った。仲間を増やしたい…その願いが叶うかもしれない。

 

そんなことを思いながら島田とカオリは食料を確保するついでに粉ミルクも手に入れようと話し笑った。笑うのはいつぶりだっただろうか。

 

皆が笑っている姿を見てからマモルは外に出て声を抑えながら涙を流す。中からは赤子の名前を聞くカオリの声が聞こえた。

 

 

「名前は…なんていうんですか?」

 

「千の翼で…千翼(ちひろ)です。」




こんにちは、エクシです。

アマゾンロウの最期…正直地味すぎたかも知れませんw
ただズルズル引きずるキャラだとは思ってなかったのでネオアマゾンズドライバーをコントロールできなかったものとして立派にやってくれました。

本編S2でマモルが実験で死んでいった仲間もいたと言っていたシーンがあったと思います。自分の中でその実験で死んだというキャラは天城ということにしてます。

人間を喰いたくない者が実験され、アマゾンを喰らうアマゾンになる。
アマゾンをアマゾンが喰らうのが別にいいなら人間が人間を喰らうようになったっていい。それがマモルの考え方になっていきます。

それこそ溶原性細胞を使った新種のアマゾンに繋がっていくのですが…。

さて次回からはまた別の展開があるかな~なんて…。
また読んでいただけたら幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9「MIstakes」

アマゾン。それは過ちの連鎖。季節はまた過ぎていきトラロックから2年目たった夏、七羽と千翼そしてアマゾンたちの共同生活は続いていた。剛ら人間とアマゾンが共存するコロニーの中でいよいよ悪魔の細胞が蠢き出す。


ジリジリと暑い日照りが続く中、七羽は島田と共に穴が開いてしまった屋根の修繕をしていた。

 

 

「はい2人とも!冷たい飲み物どうぞ!」

 

 

カオリがアウトドア用のコップにいれた水を梯子の下に置いた。

 

 

「あ、ありがとう!」

 

「ごめんね、千翼の遊び相手してもらってるのにこんなことまで…。」

 

「逆ですよ。私たち修理とかそういうの出来ないから七羽さんにお願いしちゃったんです。」

 

 

そういうとカオリはまた海岸でスイカ割りをしている千翼たちの元へ走っていく。別荘での大規模駆除が起きた後、仲間たちはバラバラになってしまった。しかしアマゾン同士の共鳴によって徐々に仲間が集まっていき、今は10数名のコロニーを形成している。

 

 

「そういえば前にいたふれあい動物パーク、あそこに鷹山仁が現れたらしいですよ。」

 

「…!そう…なんだ。」

 

「悠もいたらしいからあとから言ってみたんですが、まぁ当然誰もいなくて。」

 

「あの子、まだ生きてるんだ。」

 

 

微笑を浮かべて梯子を下りる七羽。もう修繕は終わったようだ。

 

 

「前にいた場所に鷹山が現れるってことでここもいずれ危ないかもしれない。だから別の隠れ家になるかもしれないところを見てきます。」

 

 

島田も梯子から降りると土間に置いてあったポーチを手に神山の名を呼ぶ。

 

 

「神山さんも行くの?」

 

「ちょっとまぁ…なんていうか…。」

 

「俺も行くぜ、七羽ちゃん!」

 

 

神山に続いて剛も家から出てきた。江戸っ子を思わせるねじり鉢巻きは顔のあちこちにしわのある剛の顔にとてもよく似合う。一方の神山は前に比べて随分アマゾンたちと話すようになったものの、七羽と話すときはどこか恥ずかしそうだ。

 

 

「いってきます…。」

 

「いってらっしゃい。」

 

 

七羽に送られて島田と神山、剛は隠れ家を後にした。海岸を歩いてから人の目に着かぬように田舎町を通っていく。町を抜けて山道に入ると先ほどよりもずいぶん涼しくなった。直射日光も当たらなくなったので神山は麦わら帽子を外した。

 

 

「あー涼しい…。まだ夏は続くからこういうところに隠れ家を用意しておくってのもありだなぁ。」

 

「神山ァ…おめえなんか…。」

 

「?」

 

「いい感じになったな。」

 

「ハァ?何言ってんすか。」

 

 

恥ずかしそうにまた麦わら帽子を深くかぶる神山。大規模駆除から必死に逃げている間に神山は性格が変わったような気がする。

 

 

「ただ…アマゾンも必死に生きようとしてるって思っただけすよ。人間も一生懸命生きようとしてて…そんな奴らを騙すようなことして飯食ってたんだなって実感しちゃって。」

 

「それがわかっただけでも十分いいことじゃねえか。アマゾンに喰われてなくてよかったな、神山くんよ!」

 

 

ボンと神山の背中を叩く剛。

 

 

「それともう神山はよしてください。本名の小林でいいですよ。」

 

「神山の方がなんか面白いじゃないか。自分でつけたんだろ?だっさいな!」

 

 

島田も神山をからかって笑い飛ばす。思わず神山も照れ隠しに島田へ体当たりしようとすると、木の幹に足を引っかけて転んでしまった。

 

 

「おぉい!大丈夫か?」

 

「いって…くじいたかな?」

 

「しょうもないことでケガすんのは相変わらずだな。」

 

「ん…あ!ちょっと島田さん!あれ!」

 

 

ちょうど転んだ角度の視線の先に川が流れ、そのほとりに小屋が立っている。

 

 

「でかしたぞ、神山ぁ!」

 

「小林でいいです!」

 

 

神山に肩を貸す剛と島田、なんとかその小屋までたどり着いた。剛が足を看てみると捻挫している様子だ。

 

 

「湿布持ってくりゃよかったなあ。」

 

「じゃあ自分戻って湿布とか持ってきますよ。」

 

「夜にならんようにな。このあたりよくわかんねえからよ。」

 

 

このあたりにアマゾンが出るなどは聞いたことがないが一応ショットガンライフルを一丁置いて島田は七羽たちのいる隠れ家へ戻る事にした。4時間もあれば往復できるだろう。

 

かつては足手まといとして嫌がっていた神山の存在も今は足手まといであることに変わりはないものの嫌な感じはなかった。

 

いやむしろ人間の彼が自分たちを毛嫌いせず接してくれるようになったことは心地の良いことでもあったのだ。

 

そのような良好な関係を最も喜んでいたのは人間とアマゾンの共存を夢見ていた剛だ。生きてさえいて正常な状態であれば天城はもちろんだったが…。

 

 

「剛さん、ちょっと飲み物貰っていいすか?」

 

「…。」

 

「剛さん?」

 

 

足をさすりながら立ち上がってゆっくりと剛のいる方へ向かう神山。ゆっくりと振り返った剛の首から顔にかけて黒い血管が浮き出たかのような模様が浮き出ている。

 

 

「ひゃあ!つ…剛さん!?」

 

「か…みやま…。」

 

 

腰を抜かす神山の前で剛は熱風を放ちながら異形の姿へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

青山は溜息をついてから隊員たちが待機する部屋へ入った。一面が打ちっぱなしのコンクリートで寂しい感じは否めない。入ってまずすぐに白木が立ち上がり一礼をしてくる。

 

別荘での一件で白木隊はほぼ全滅し、その責任を取る形で白木は隊長から降ろされて青山隊に配属となった。政府側の人間とはいえ優しく協調性もある白木が隊に入ったことは青山にとってはよいことだった。

 

青山隊にいた藤尾は隊長となり中島と共に隊を編成したという。これで青山隊は福田、白木、そして別荘戦で得た4Cの新たな戦力 商の4人となった。

 

商はといえばことあるごとにロウ成分の入ったアマゾンズインジェクターを体に打ちこんでいる。最近は接種のし過ぎを白木に叱られていた。

 

半年ほど野座間の駆除班で戦っていたようだったが、そちらに未練は特にないと言っている。人間を喰らっていた時は喰う立場でありながらその人間に追われる駆除対象(ターゲット)でもあった。

 

トラロックによってそれが変わり、アマゾンを喰らうようになると今まで命を狙ってきた者たちが今度は自分を必要とするようになる。駆除班での活動はそれを特に感じることが出来たという。

 

しかし分け合って駆除班ではなくロウ成分を持つ4Cの方へ自ら望んできた。青山には理由が分からなかったが、本人が納得していればいいと思っている。

 

 

「そう言えば青山、水澤美月はどうなってる?」

 

「あー、福田さん知り合いなんでしたっけ?ウチに預けられてはいましたけど本人の希望でまた訓練生に戻りました。なんかまだ自分はアマゾンとは戦えない、やらなくちゃいけない訓練がある…とかで。」

 

「…そうか。」

 

 

福田は4Cに入ってから饒舌になった…気がする。野座間の駆除班にいた時には声など聴いたこともなかった。

 

あの頃から随分状況は変わったなあなんて考えていると別室のサイレンが鳴り響いているのが聞こえた。しばらくして男たちが武装して地下駐車場に走っていく足音が聞こえる。

 

 

「どこの隊だろ?」

 

「今日の当番は黒崎隊ですね。」

 

 

さすが白木。

 

黒崎隊は名前の通り黒咲が隊長を務める実力派の小隊だ。橘自らの推薦で黒咲は4Cに来たということもあり政府から派遣された札森は黒崎の下に着くことになったことに納得がいっていないようだった。

 

同じ隊の本田と鴻も初めは同じような感じだったが、訓練で黒崎の実力を見てからは他の隊長に対してと同様、敬意を示すような態度に変わったらしい。

 

すぐに足音はなくなる。輸送用バンに皆乗り込んで現場にいったのだろう。待機班である青山隊はそれぞれの暇つぶしをしていた。

 

 

 

 

 

 

4Cの輸送用バンを進めるギリギリのところで駐車して黒崎隊は銃器を手に山の中を進む。今回のアマゾン出現の警報はアマゾンズレジスターから発せられた反応ではなくこの山を歩いていた登山客が呟いたSNSがきっかけだった。

 

7年前野座間製薬で事故が起き4000匹の実験体が放たれた際、すぐに野座間製薬は極秘に日本政府に対してそのことを報告した。

 

それによって日本から出国する際は極秘でアマゾンか否かを確認するシステムが空港や港でなされるようになったため、国外に実験体がいることはほぼ100%ありえない。

 

とはいえ念には念をということで4Cの情報部は世界中のSNSを常に監視し、アマゾンらしき目撃証言があればどんな遠い場所にも駆けつけることにしているというわけだ。

 

その監視体制が今日初めて役立つ…かもしれない。登山客曰く遠くにあった小屋から悲鳴のような声と獰猛な生物の唸り声が聞こえた”かもしれない”とのことだった。

 

黒崎は性格柄そのような曖昧な情報で駆り出されることにとても不快感をあらわにしていた。しかし問題の小屋に着いた時に不快感は消えた。

 

血の匂いがする、それもかなり強い。小屋の中からは何かを喰うようなクチャクチャという音が聞こえる。

 

クマなら一発で殺せるが経験からこの感じは山に住む動物ではないと黒崎は察していた。バンに残った札森以外のメンバー2人は小屋の扉の左右につき、ボタンフックエントリーによる突入準備を整える。

 

黒崎のアサルトライフルによる射撃で扉が壊れると同時に黒崎は左手で合図をし、本田と鴻がサブマシンガンを構えながら小屋へ入った。

 

部屋の中はまさに血の海。捥げた四肢と臓器が辺りに散らばっている。人の体だった肉の筋肉の筋を丁寧にすすっている老人の姿。

 

 

「こ…これは!」

 

「札森ィ!」

 

『んー、おかしいっすね。腕輪の反応はないですー。』

 

 

ということはアマゾンズレジスターがついていない、あるいは自力で外したアマゾンなのだろうか。いずれにせよ満面の笑みで振り向きながら熱を発し始めた老人は間違いなく駆除対象(ターゲット)である。

 

 

 

 

 

 

 

半分寝かかっていた青山の所に増援要請がかかってからすぐに青山隊も出動し、数十分で現場に到着した。隊員で死人は出ていないらしいが苦戦しているようだ。

 

いつも偉そうな黒崎が増援を頼むのは相当なのだろう。笑顔を見せている商を除いて青山隊の隊員たちは緊張感に苛まれている。

 

銃撃音がする方向へ向かうと小屋の近くでヒヒアマゾンと黒崎隊が戦闘を行っていた。電撃が走る弾丸を撃ち込んでも大して効いている様子はない。通常の実験体ならばかなりの効力があるはずだ。

 

「くっそ!なんだコイツ!」

 

「隊長!弾がもうありません!」

 

「くそがァ!」

 

黒崎が悔しがっているのは先ほども言ったように気分がいい。しかし今はそんな状況ではない。福田のスナイパーライフルから放たれた弾丸がヒヒアマゾンの足に命中する。

 

「…!やっと来やがったか!おせえぞ、青山ァ!」

 

「うるさい!こっちだって急いできたんだ!それよりアマゾン1体ごときで何苦戦してんだ!」

 

「そんな言うならやってみやがれ!」

 

「だそうだ、商!」

 

「…あぁ!」

 

 

商の腰には既にネオアマゾンズドライバーがつけられている。オレンジ色の液体が入ったアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填し操作する。

 

 

「ウウウ…アマゾンッ!!」

 

-NEW(ニュ・ー)COPPA(コ・ッ・パ)-

 

 

とてつもないオレンジ色の爆炎と同時にバリアのような半球体を出すエフェクトがかかり、商はアマゾンニューコッパへと変身した。

 

ロウ同様、コッパの姿に不完全な装甲が胸につけられただけだが、ネオアマゾンズドライバーによって適量のロウ成分が摂取され続けているため、戦闘力はもちろん食人ならぬ食アマゾン衝動も高まっている。

 

 

「ウゥウウアアア!」

 

 

待ちに待ったごちそうだと言いたげにヒヒアマゾンに飛びかかるニューコッパ。噛みつき攻撃は弾丸と異なり傷口からは黒い血は噴き出している様子から効果を示しているようだ。

 

 

「物理攻撃が一番ってか。」

 

「そっちが得意な奴はあいにくここにはいない…。商!頼むぞ!」

 

「ウウウ!!わかっている!!!」

 

 

興奮しつつもまだ理性は保てている。4Cに商が入ってから間もない時はアマゾンの存在に興奮してしまいまるで周りの声は聞こえていなかった。

 

ニューコッパは左手のアームカッターの刃を大きくさせヒヒアマゾンの頸動脈を一撃で切り裂く。尋常ではない量の血が噴き出しそれを顔に浴びるようにニューコッパは近づいていく。

 

 

「オラ、解ける前に喰うんだろ?早くしろよ。」

 

 

黒崎が吐き捨てるように言うとため息をついて撤収準備を始めようとした。ニューコッパは商の姿に戻ると言われるがままにヒヒアマゾンの死体を貪る。

 

肉を口にいれた瞬間、とてつもない違和感を感じる。

 

自分はアマゾンが喰いたい。でも今口にした肉はわずかに人間の味がする。自分は人間を喰いたくない。アマゾンが喰いたい。今アマゾンを食べている、アマゾンの味がする。自分はアマゾン。アマゾンがアマゾンを喰らう…………?

 

 

「ウアアアアアアア!!!!!!」

 

 

訳が分からなかった。そうだ、自分はアマゾンがアマゾンを喰っていいのか疑問に思っていた。しかし人と生活を共にすることでアマゾンを喰らえば人間に必要とされるからその疑問を自分の心の奥深くに隠していたのだ。

 

今口にした人間の味もするアマゾンの体はそれを商に思い出させた。発狂を続ける商を落ち着かせようと青山隊の隊員たちが近づくが興奮を抑えられない商の体から熱が放出され始める。

 

 

「伏せろ!!」

 

 

黒崎の声と共に商はサソリアマゾンへと姿を変え、毒が仕込まれた尾を見境なく振り回す。ヒヒアマゾンに突き刺さる直前に死体は解けることなく硬化する。

 

 

「!?」

 

 

サソリアマゾンの暴走に気を取られている白木以外はそれに気が付かない。しばらく尾によって木々がなぎ倒されていったが、まもなくして辺りは静かになる。

 

サソリアマゾンはいなくなった様子を遠目から見た島田は涙を流しながら隠れ家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

サソリアマゾンから商の姿に戻るとすぐに道の端に吐瀉物を出した。もはやアマゾンを喰いたいのか人間を喰いたいのかわからない。体と心の受け付けているものがめちゃくちゃで、何なのかわけがわからない。

 

 

「お前、アマゾンを喰えなくなってきたのか?」

 

 

振り向くとそこにはフードをした男が立っている。辺りをキョロキョロしているが焦点が定まっている様子はない。

 

 

「ハァハァ…鷹山…仁!」

 

「やっぱこの匂いはお前だったか。前に嗅いだことがあると思ったよ。それにアマゾンの血の匂いもしたからな、お前がそのアマゾンを狩ったんだろ?」

 

「そうだ!俺はアマゾンを喰らう!」

 

「おいおい、でも胃酸の匂いがプンプンだ。アマゾンが食えなくなってんだよ、お前。」

 

「どういう…ことだよ!」

 

 

仁はフードをとってアマゾンズドライバーを腰につけた。

 

 

「お前トラロックによる症状は既に治ってんだよ、俺と同じくな。」

 

 

商にとってのトラロックの影響は食人衝動が食アマゾン衝動に変わった事。それが治ったということは商が欲するのは人の肉ということだ。

 

 

「で…でも俺はロウ成分を打ち続けている!あれさえあればどんなアマゾンだって人じゃなくアマゾンを喰らうようになる!」

 

「そんな便利なもんがあったらとっくに野座間の本部長様が利用してるだろうよ。トラロックを大量に浴びた者にしかロウ成分は効かねえ。そういったとこだろ、ロウ成分ってのは。」

 

 

確かに天城とはトラロックの雨を浴びながら戦闘を行っていた。たまたま自分は傷口からトラロックが侵入し症状が出たようだが、天城も症状には出なかったもののトラロックを浴びていたのは事実。

 

つまりロウ成分によってアマゾンを喰らう衝動に駆られるためにはトラロックを浴びてそれが体に残留していなくてはならないのだ。

 

 

「でももうトラロックからは3年。おかげさまで俺もこの通りトラロックの影響なんて治っちまった。まぁこの目は別件だけどな。」

 

 

目と目の間の傷をなぞった仁はその手でアクセラーグリップを捻った。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「アマゾン…!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

自分の体に起こっていることを知り震えが止まらない商。容赦することなくアルファが戦闘態勢を取った。




お久しぶりです、エクシです。
ちょっと忙しくて更新が遅れてしまいました!しかしモチベーションは皆様の感想のおかげで高いままですのでご安心ください!

そしてさらに謝らねばならないことが…。
この小説で赤松と仁が会ってるのですが、本編を見直していたら赤松も仁のことを都市伝説扱いしてましたね…。

多めに見て頂けると幸いですw

まだちょっと忙しいので行進遅れてしまいますが読み続けて頂けると幸いです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10「Maximum Judgement」

アマゾン。それは決断の時。新種のアマゾンを喰ったことで自分は何を喰いたいのかわからなくなった商の前に仁が現れる。成すすべなくアルファにやられるニューコッパを救ったのは…?


アルファのアームカッターの一閃を受けニューコッパは変身を強制解除させられた。とても視力に障害がある男だとは思えない動きをしてくる。

 

スペック的にはネオアマゾンズドライバーを使う商が一歩リードしているはずだが、その差を全く感じさせないどころかまるでアルファの方がネオアマゾンズドライバーを使っているようだ。

 

 

「さぁ終わりだ。死んでもらうぞ。」

 

 

匂いを追って横たわる商を跨ぐようにアルファが立つ。アームカッターによるとどめを刺そうとした時、どこからか弾丸がアルファに飛んできて商から引き離した。

 

 

「グア!」

 

 

発砲したのは三崎だった。その隣には望もいる。

 

 

「ハカちゃん!」

 

 

声の方へすぐ行く商。それを追いかけようとするアルファだったが、視力低下のせいで方向がいまいち定まらない。

 

 

(ち、アマゾンと人の血の匂いで奴の居場所がいまいちわからねえ。)

 

 

アルファが辺りの匂いを嗅いでいるうちに3人はその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

三崎は相変わらずの調子で久しぶりに会ったとは思えないほど親しく接してくる。

 

別荘での戦いの際、商はロウ成分を初めて摂取したことでアマゾンを喰らいたいという気持ちが湧いてきたことに夢中だった。その時、三崎や望が何を思っていたのかなど考えもしなかった。

 

 

「三崎…。」

 

「ん?」

 

「俺は…お前らを捨てたんだぞ。」

 

「それが?」

 

「え?」

 

 

三崎は義手をプラプラさせながら獣道から山道へと飛び出る。

 

 

「俺にとってはイースヘブンにいたハカちゃんも駆除班にいたハカちゃんも4Cにいるハカちゃんもみんな同じハカちゃんだよ。」

 

「ウチらはお前がアマゾンを狩ってくれるいい奴だって信じてる。どこにいたってそれは変わらねえだろ。」

 

 

自分はなぜこんな仲間たちを捨てたのだろうか。アマゾンを喰らいたいと思うことがそんなに重要なことだったのだろうか?

 

このまままた駆除班に戻ってしまおうか。そう思った時、山道を輸送用バンが走行してきた。停車すると中から青山と福田が下りてくる。

 

 

「…フクさん。」

 

「…三崎、望。商は返してもらう。」

 

「あぁ…。わかってるよ。」

 

 

今商が戦えているのは4Cの助力があってのことだ。自分の意思だけで駆除班に戻るわけにはいかない。同じような理由で4Cにいる福田にとってはその気持ちが痛いほどわかる。

 

商はゆっくりと三崎たちの元を離れ、青山に連れられ輸送用バンに乗り込んだ。福田は運転席に座り1度うなずくとギアをバックにいれて引き返していった。

 

 

「よかったのか?連れ戻さなくて。」

 

 

横を見ると木にもたれ掛かった志藤が腕組をして立っていた。

 

 

「マコさん、アマゾンのこと教えてくれて…ありがと。」

 

「ウチらのレーダーには映らなかったよ。」

 

「俺も偶然帰り道にアマゾンを見つけただけだ。まさか(アイツ)まで来るとは思ってなかったけどな。」

 

「……俺たちも帰りますか!」

 

 

手をパンと鳴らすもやはり左腕には違和感があるようだ。

 

 

「…お前らアイツがマモルの代わりだと思ってないだろうな?」

 

「…フクさんにもおんなじようなこと前言われたよ。」

 

「正直…思ってた。でもウチらのとこから4Cに行っちまって…チームのためにアマゾン狩ってたマモルとは違うんだなって思ったよ。」

 

「ならなんで俺の連絡にすぐ駆けつけた?アマゾンにやられる様子はないって言ったよな。」

 

 

珍しく真剣な顔を見せる三崎は志藤の方を振り向いた。

 

 

「マモちゃんがどうとかだけじゃないんだよ!仲間だったんだ!ハカちゃんは…!」

 

「そう、ウチらの仲間だった…。だから助けに来たんだ!」

 

「…なるほどな。でも俺から1つアドバンスをさせてもらうが…お前らこの仕事から少し離れろ。」

 

「え…?」

 

「なんで?」

 

 

志藤が運転してきた車に乗ろうとした2人は思わず手を止めてしまう。

 

 

「お前たち…いや俺たちは…アマゾンに関わるとどうしてもマモルの跡を追っちまう。」

 

「…。」

 

「俺も全国でアマゾン狩りをしてて人間を喰ったことがない奴を仲間にしたほうがいいんじゃないかだとかゴチャゴチャ仲間たちに言っちまってた。でも仲間たちからしたら狩りの対象を仲間にするなんてありえねえんだよ。マモルがいたことは”異常”だった…!」

 

「そんな言い方ないでしょ!」

 

「わかってるはずだ!駆除班に身を置いちまったばかりに…マモルも背負わなくていい分の辛いことも抱えちまったって。」

 

「それは…。」

 

 

何も言えない。

 

そうだ、マモルの影を追ってここまでアマゾンに関わってきた。マモルで”失敗”をしてしまったから今度こそは…。

 

そう思っている自分たちもいた。

 

 

「水澤令華には俺が言ってある。もちろん何か仕事を依頼することはあるかもしれないが…しばらくは堅気の仕事をやれ。」

 

「…。」

 

「お前たちは少しアマゾンから離れた方がいい。」

 

 

志藤は車に乗ってエンジンをかける。キーを捻ってもなかなかかからないエンジン。それはまるで3人の心の引っ掛かりを表しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

輸送用バンの中には黒崎隊の面々も乗っていた。バンが進んでからしばらくして黒崎が商に近づくと早業で腕に手錠をする。

 

 

「なんだこれは!」

 

「なんだじゃねえんだよ。てめえが尻尾ブンブン振り回したせいで白木がどうなったと思ってやがる。」

 

「え…?」

 

 

白木はサソリアマゾンの尾による攻撃でかすり傷を負った。しかしサソリアマゾンの尾には毒が仕込まれている。今白木は4Cに運ばれ生死の境をさまよっているのだ。

 

 

「そんな…。」

 

「おめえ…アマゾンを喰いてえってのは嘘か?」

 

「そんなことはない!俺はアマゾンを…!」

 

「じゃあなんであのアマゾン喰えなかった!?あ!?」

 

 

あのアマゾン…ヒヒアマゾンのことだろう。なぜあのアマゾンから人間の味もしたのかは未だにわからないが、とにかくあのアマゾンを喰うとわけがわからなくなる。

 

自分はアマゾンを喰っているのか、人を喰っているのか、アマゾンを喰いたいのか、人を喰いたいのか…?

 

 

「わからない…でももう…アマゾンは…喰いたくない…。」

 

「ついに正体を現しやがったな。聞いたな、お前らぁ、コイツはアマゾンを喰いたくないそうだ。これは局長にチクっとかなきゃなあ。」

 

 

もう言い返す気力もわかない。自分は何を喰いたいのかわからないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

島田の口から衝撃の真実が告げられる。静かに波の音だけがするここでは島田の声がよく通る。

 

 

「そんな…剛さんがアマゾン…?」

 

「違うと思う。彼がアマゾンだったら俺たちは気がついていた。」

 

「じゃあ人間がアマゾンになったっていうの!?それに…神山くんだって…。」

 

 

その場に泣き伏せるカオリにアマゾンの仲間たちが寄り添う。その中に七羽と千翼の姿はない。

 

 

「あれ、七羽さんたちは?」

 

「2人なら別の隠れ家を探しにいったよ。」

 

「マモル…。」

 

「みんな…確かに剛さんや神山の死は辛いよ。でも人間がアマゾンになったってことは仲間を増やすことが出来るかもしれないってことだよ。」

 

「おい、マモル!今そんなことを…!」

 

「黙ってよ、島田くん。」

 

 

ものすごい剣幕で島田を睨むマモル。かつての優しかったマモルの面影はもうない。

 

別荘戦以来マモルは変わった。今まで天城という仲間を救うために戦ってきた彼にとって戦う目的がなくなってしまったからだ。

 

しかしアマゾンたちにとって戦う理由など”生きるため”で十分。

 

生きるためには仲間が必要なのだ。人間は優れた武器も持っているが何よりその数の多さ、数の暴力がアマゾンらを不利にしている。

 

マモルはそう考え始めてから仲間を増やすことに夢中になっている。アマゾンに生殖能力はないがどうにかして増やそうとここ半年は動いているようだった。

 

七羽と出会ってから新たなアマゾンの誕生に希望を持ち、医者として人間の中で生きているアマゾンに協力を仰ぎ彼女らの細胞を調べているとも言っていた。

 

 

「たぶん剛さんがアマゾンになったのはあの2人の影響だ。」

 

「なんだって?」

 

「あの2人の細胞が人間の体の中に入ると…アマゾンになる。これだよ、僕が求めていたものは!」

 

 

マモルのこの表情を見ると島田はいつも思う。昔の優しかった彼はもう戻ってこないのだろうかと。

 

島田が溜息をついた瞬間、銃撃音が鳴り響き仲間の何人かは倒れ込む。4Cの赤松隊の襲撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

いい匂いがする。海辺の隠れ家にいた多くのアマゾンの匂いに似たものも混ざっているが、その中にあるのは人間の匂い。

 

無条件に自分を愛してくれる母親からこんなにいい匂いがする…。シャンプーの匂いだとかそういう類ではない。ただ旨そうなのだ。

 

それは特に腕からする。これをかぶりついてしまえば…。

 

そう思ってしまえばもう止めるものは何もない。自分の母親の腕にかぶりつき、引きちぎろうとした時、母の体から無数の触手が飛び出し千翼を弾き飛ばした。

 

その衝撃に思わず千翼は青色のアマゾン体へと姿を変える。6つの腕を使って構ってほしい子供のように七羽を引っ張ろうとする。しかし七羽から繰り出される触手攻撃によって掴んだ腕は引きちぎられていく。

 

 

「グギャアアア!」

 

 

七羽の姿は溶原性細胞を持った新種アマゾンと同じく黒い血管のような模様を浮かび上がらせながら徐々にクラゲアマゾンへと姿を変わっていく。

 

腕を切り取られたアマゾン体は千翼の姿に戻る。そこへ赤松隊を中心とした4Cの部隊が到着しクラゲアマゾンに発砲をする。

 

そんな攻撃が効くわけもなく隊員たちの体が触手によって切断されていく。泣き叫ぶ千翼、それを必死に抑える4Cの隊員たち…。

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な部屋に閉じ込められてどれくらいの日が経っただろうか。結局時が経ったとしても自分が何を喰いたいのかという結論に答えは出ないわけだからさほどその疑問は重要ではないかもしれない。

 

橘によって危険なアマゾンと認定された商は貴重なサンプルとして4Cの中で飼われている。いつも通りボーッとしていると珍しく扉が開く音が部屋に鳴り響いた。

 

入ってきたのは腰にネオアマゾンズドライバーを装着している少年だ。

 

 

「お前は…?」

 

 

商の言葉に答えることなく黄色のアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填する少年。

 

 

-NEO(ネ・オ)-

 

「アマゾンッ!!」

 

 

赤いエネルギーを放出しながら千翼は黄色いバイザーを顔につけ、生命体とは思えぬ装甲を身に纏ったアマゾンネオに変身を遂げる。

 

いつもは研究員がぞろぞろと入ってくる近くの扉が少し開き、そこからネオアマゾンズドライバーとアマゾンズインジェクターが投げ入れられた。

 

いまいち状況が理解できない。と思った商に襲い掛かるネオ。なるほどそういうことか。

 

すぐにネオアマゾンズドライバーを腰に巻く商。千翼と同じようにアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填しようとするも手が震えて中々入らない。

 

 

「…!」

 

 

何とか入るとインジェクタースロットを上に傾けた。

 

 

-NEW(ニュ・ー)COPPA(コ・ッ・パ)-

 

「アマゾン!」

 

 

商からもオレンジの爆炎があがりニューコッパへと変身する。久しぶりのアマゾン体の変化に身震いしてしまう。

 

自分は何を喰うために戦うのか。そんなことを考える暇を与えることなくネオはパンチによる攻撃を繰り出してくる。

 

 

「ヴヴヴアアア!」

 

 

ニューコッパの目にはアマゾンに対する憎しみのまま体を暴れさせるネオの姿が映る。

 

 

(コイツ…憎しみに囚われている。何が喰いたいとか…今は考えていない?)

 

 

負の感情で動くネオだったがニューコッパにとっては彼の戦う動機が新鮮であった。

 

食べ物の為だけに戦わない、それが羨ましいのだ。生き物は食べ物を得るためにあるいは食べ物にならないために戦うのが普通だ。アマゾンも例外ではない。

 

しかしネオはアマゾンに対する憎しみを拳に込めて戦っている。自分も食べる食べない以外の戦う動機があってもいいのではないか。

 

ニューコッパは気が付けばあちこちに傷を負わされている。ここで死ぬのだろうか。

 

 

(…いや俺は死なない。俺は自分の気持ちの為に戦う!)

 

 

自分の気持ち…それは…。

 

真っ先に三崎の顔が思い浮かぶ。望、令華、福田、青山……。アマゾンニューコッパの頭に浮かぶのはそれも人間の顔だ。

 

 

(俺は…人間のために戦いたい!喰う喰わないじゃない、人間に必要とされるのが嬉しかったんだ!!)

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオブレイドを生成させ串刺しを狙うネオの攻撃を避けると壁に風穴があけられた。

 

その穴を蹴破るとニューコッパはそこから部屋を脱出した。廊下のあちこちから橘の声が響き渡るのが聞こえ、隊員たちがニューコッパを止めようとするもそれを掻い潜っていく。

 

気持ちがいい。そうか、何が喰いたいかじゃない、何がしたいかを考えて生きればよかったのだ。

 

駆けていくアマゾンニューコッパを止めるものは誰もいない。しかし出口の付近に着いた時、目の前に圧裂弾を構える福田がニューコッパの行く手を遮った。

 

 

「どいてくれ!俺は自分のしたいことのために戦う!」

 

「自分のしたいこと?なんだ、それは。」

 

「俺は人間を守る!人間を守るためにアマゾンを狩るんだ!」

 

「…!」

 

 

かつて三崎や望に言った「マモルとは違う」という言葉。それは福田自身にも言い聞かせていたことだった。商はマモルや悠とは違う…と。

 

直接関わる機会は4Cで青山隊として組んだことぐらいであったが、思い返せば商にアマゾンズドライバーを渡し、戦いの道に駆り立てた張本人は福田だ。

 

もしニューコッパが暴走すれば…人を喰らえば自分の責任にもなる。4Cの人間としてはニューコッパを逃がすわけにはいかない。

 

だが…。

 

 

「…お前は本当に人間を守るのか?」

 

「あぁ、それが俺のやりたいことなんだ!」

 

 

彼の固い決心を感じる福田は横を過ぎ去るニューコッパを引き留める。

 

 

「邪魔するってのなら…!」

 

「まぁ待て。」

 

 

福田は手にしていたアタッシュケースを開けた。また自分はアマゾンを逃がしてしまう。福田は自己嫌悪に陥るも後悔はしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

青山が警報の鳴り響く4C施設内を走り回っているとアタッシュケースをしまう福田の姿が見えた。

 

 

「あ、福田さん!こっちに商来ませんでした?」

 

「…いや。」

 

「そうですか…。あ、それより大変です!局長がアマゾンに喰われた少女にアマゾン細胞を植え付けるとか言ってて…!」

 

「シグマタイプ…だと!?」

 

「ったく…商のことといいシグマタイプといい…もう…!」

 

 

やり場のない怒りを壁にぶつけると青山と福田はシグマタイプの実験室へと向かった。

 

その際にチラリと監視カメラの方を向く福田。

 

 

(ダミーは動いているな。)

 

 

福田は監視カメラの映像がきちんとハッキングされたものになり、商の姿が映っていないことを確認した。




こんばんは、エクシです。

今回はいよいよ商が自分の戦う理由を見つけた回でした。

アマゾンズは喰う喰われるの話でそれはそれで面白いですが、たまにはそれ以外の戦うための話といいますか…?

今回の場合は商が一番充実していた純粋に「人間に必要とされるために戦う」ことを選んだ感じですかね。

まぁただ人に必要とされたいから戦うというのはどうなのかとは思いますが…。

そしていよいよ次回からは好き放題…といいますか?
とりあえず8話の時系列は全部終わらせたのでシーズン2の1話に繋がるようにする以外は好きにやらせて頂きたいと思いますww

M to Nの章も残り3話。
感想、お気にいり待っているんだゾン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11「Make Known with clarity」

アマゾン。それは公言された秘密。千翼が変身したネオとの戦いで自分の戦う意味を見出した商は4Cを飛び出す。ニューコッパの食人衝動と戦闘力を危険視する4Cは千翼、イユそしてもう1体のアマゾンを使って商の駆除に取り掛かる。


地下駐車場にはジャンサーチャーが黄色のジャングレイダーが置かれている。商はエンジンをかけるとジャングレイダーから生物的な音がした。

 

警備員の追跡などアマゾンの足として開発されたジャングレイダーのスピードにはもろともしない。久しぶりに外に出た商は昼間だというのに肌寒くなったことに驚いた。

 

 

(もう冬…?いや秋の終わりか。)

 

 

並木道に植えられた銀杏の葉が美しい色をしているのだ。そんな雅な景色を福田から渡されたワイヤレスイヤホンから聞こえる罵声が汚していくような気がする。

 

 

『商が逃げたダァ?ふざけんな!俺が駆除してやるよ!』

 

 

黒崎隊が追いかけてくるのだろう。あそこの隊は優秀ではあるものの血の気が多い奴が多い。商も人のことは言えないが…。

 

とにかく今捕まるわけにはいかない。自分が人間を喰うアマゾンを狩るのだ。商はアクセルを回してとにかく4Cから離れられる道を選んで走った。

 

人通りが少ない路地に入った曲がり角でそこから加速しようとした時、交差点からバイクが差し掛かりジャングレイダーの走行を止めた。

 

 

「くそ!4Cか!?」

 

 

ライダーはヘルメットを外す。その者の顔を見て商は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

美しく桜が咲く季節になってから人々の中である噂が流れ始めた。

 

”人が怪物になる”

 

ある者は恐れ、ある者は面白がり、ある者は大切な人が突然いなくなったことに悲しみを覚える。

 

溶原性細胞。今はまだ極秘事項であるが、4Cの駆除隊員たちは皆その細胞に人間が毒されたことで生まれた新種のアマゾンを狩り続けている。

 

今日も黒崎は札森と隊員たちを連れてアマゾンたちにサブマシンガンを乱射している。

 

その表情はイライラした気持ちをどこかにぶつけたがっている様子だ。

 

 

「黒崎くん、商はまだ見つからないのかね?」

 

 

何度も言われた橘の言葉。なぜこんなにもたかが1匹のアマゾンが見つからないのか。

 

アマゾンズレジスターが反応しないということはまだ覚醒していないということだろうが商は昨年の秋の時点で食人衝動に目覚めようとしていた。

 

どこかで絶命したということだろうか…?

 

狩りが終わったバンの中で頭痛薬を数錠口にいれた黒崎の元へ聞くだけでノイローゼになりそうな声が通信で聞こえる。

 

 

『橘だ、黒崎くん。アマゾン狩りご苦労。』

 

「どーも。やっぱ新種でしたよー。」

 

『腕輪の反応がなかったからね。いやぁ、めんどうな奴が生まれたものだ。もちろん溶原性細胞についても手を付けねばならないが…商のことも後回しには出来ないよ。』

 

 

やはりまたその話か。車内で銃を暴発させてやろうかと考えていると、いつもとは違う内容の話を橘はしてきた。

 

 

『とりあえずすぐ4Cに帰ってきたまえ。黒崎隊に人員を補給する。』

 

「? 誰だ?」

 

『千翼。君も知っているだろう?』

 

「ふざけんな。あんなやべえ奴と一緒に狩りなんてできるか。」

 

 

黒崎は1度千翼を研究棟で見たことがあった。しかしその時はまだネオアマゾンズレジスターをつけていなかったこともあり、黒崎にとって千翼は暴走する他のアマゾンと何ら変わらなかった。

 

 

「イユもほかの隊に?」

 

『あぁ。青山隊だ。福田さんもいますし。』

 

「よくわかんねえ理由だな。だったらウチの隊はイユを貰う。」

 

『勝手なことをいうのはやめたまえ。』

 

「イユじゃねえなら俺は下ろさせてもらう。」

 

 

返答しようとすると通信が切れた。舌打ちをして橘はワイヤレスイヤホンを外すと同じタイミングで加納が局長室へ入ってきた。

 

 

「橘局長。衛生省長官からの通信が入っています。」

 

「ちぃ…、また催促か!私が千翼と商を戦わせたことがキッカケで商が4Cから逃走したなどとという説教はもうこりごりだ!すぐに商を見つけさせろ!」

 

「はい。それと1つ私から提案を申し上げてもよろしいでしょうか?」

 

 

無表情を浮かべる加納が何を考えているのか未だにわからない橘であった。

 

 

 

 

 

 

 

青山隊は今日は待機との命令が出ていた。隊長の青山と副隊長の福田以外は今日は休みということで花見に行っているらしい。

 

 

「いいですよねえ。俺も行きたかったっすよ。」

 

「そういうな。誰かがいなきゃな。」

 

「福田さんも行けばよかったのに。」

 

「お前1人で留守番させるわけにはいかない。」

 

 

そこに加納が入ってきた。福田は読んでいた本に栞を挟んでかけていた椅子から立ち上がる。

 

 

「休憩中申し訳ありません。」

 

「いや休憩じゃなくて待機ね。」

 

 

青山の突っ込みに何も反応を示さない。本当にこの時間は給料が出るのか不安になってきた。

 

 

「福田さんにご相談があります。」

 

「相談?」

 

「黒崎隊に入る気はありませんか?」

 

「どういうことだ?」

 

「これから2体のアマゾンが黒崎隊、青山隊に配属されます。」

 

「イユと千翼か?」

 

「はい。イユが黒崎隊、千翼が青山隊です。千翼は極めて戦闘力も高く戦い方がフレキシブルですから実力派の黒崎隊にと思いましたが黒崎隊長の意向もあって青山隊へ…ということです。」

 

 

そういうと加納は手にしたノートパソコンを開いて青山と福田に見せた。それぞれの隊移動は福田が青山隊から黒崎隊に配属になる理由がズラズラと書かれている。

 

 

「…つまり1度シグマタイプと戦闘をした俺を万が一の場合を考えて黒崎隊に呼びたいというわけか。」

 

「はい、札森は戦闘においてはど素人ですし戦力は増強させたいところです。もしイユが暴走することがあれば機能停止するまで食い止める必要がありますから。」

 

「機能停止?」

 

 

福田の疑問には答えようとしないところは相変わらず気に食わない。

 

 

「でも福田さんが抜けられるとなあ。青山隊(俺たちんとこ)には千翼が来るとはいえ。」

 

「青山隊にはもう1名補充します。訓練生ではありますが何度も同じ訓練を自ら志願し行っているような優秀な人材ですので比較的使い物にはなるかと。」

 

「よかったぁ。」

 

「青山、世話になったな。」

 

「こちらこそですよ。」

 

 

2人は握手すると福田は加納に黒崎隊の部屋へと連れられた。

 

 

「皆さん、本日から福田さんがこちらの黒崎隊に入ることになりました。よろしくお願いします。」

 

 

それだけ言うとすぐに出ていく加納。

 

 

「これから黒崎隊で世話になる福田だ。よろしく。」

 

「久しぶりだなぁ、福田ァ。」

 

「黒崎…。」

 

「どうやらこの死体アマゾンの世話の仕方を教えてくれるそうじゃねえか。よろしく頼んだぞー。お前はアマゾンが大好きらしいからなぁ。」

 

「…素直じゃないな。」

 

「あ?」

 

「お前はイユが死んだ現場にいたそうだな。もう少し早ければと…」

 

「黙ってろ。お前は俺の部下だぞ、コラ。」

 

「…。」

 

 

福田はすぐ近くにあった小さなテーブルに読みかけの本を置いた。壁側にはキャミソールを着たイユが壁の方を向いて立っている。その近くまで行くと福田は小声でイユに挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に1人残された青山はいよいよ部屋を離れるわけにはいかなくなった。福田がいればコンビニにフラフラっと行けたのだが…。

 

 

「はー、暇だなー。」

 

「そうも言ってられませんよ。」

 

 

急に声がしたので飛び起きるとそこには隊服を着用した女性が立っていた。

 

 

「…水澤…美月さん?」

 

「お久しぶりです。水澤でいいですから…。」

 

「でも…」

 

「本日付で青山隊に配属になりました訓練生の水澤です。よろしくお願いします。」

 

 

以前会った時とはまた目つきが違う気がする。確か最後に見たのは別荘での戦いの時…。

 

アマゾンたちの戦いを目の当たりにして新たな決意を胸に訓練を重ねてきたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

東京都渋谷区。

 

人通りの多い街中でとうとう溶原性細胞の感染者が覚醒してしまった。

 

アマゾンズレジスターをつけていないことから当然発信器による探知は出来ない。

 

だが情報部から得た情報で出現を確認した青山隊と赤松隊はすぐに出動した。ちなみに千翼はコンディションが悪い…とかで未だに青山隊には挨拶すら来ていない。

 

 

「赤松、よろしく頼むよ。」

 

「あぁ…せいぜい足を引っ張るな。」

 

「てめえ!」

 

「まぁまぁそこら辺にしましょうよ。」

 

 

止めに入ったのは赤松隊に復帰となった白木だ。商の毒に侵されていたが何とか復帰できるまでになったらしい。しかし未だに決まった時間になると錠剤を服用していた。

 

しばらくすると福田が運転するバンは渋谷の裏路地に停車した。

 

 

「この付近だ。」

 

 

後ろから赤松、白木、青山、美月、そして他の隊員たちが下りていく。情報があったのは古いビルの5Fだ。現在はクラブが営まれているようだが、昼間ということもあり営業している様子はない。

 

”何が何でも民間人には気が付かれないように”

 

橘からの命令はいつにもまして厳しい言い方であった。これだけ人がいる地区で派手なことをすればまずいことぐらいは分かっている。

 

いくら世間にバレつつあるアマゾンの存在も政府はまだ公の場では認めているわけではない。

 

商を逃がした橘としてはこれ以上日本政府に尻を叩かれるようなことは避けたいのだ。

 

装備を整えた青山隊と赤松隊の面々は静かにビルに入っていく。エレベーターでもしアマゾンと鉢合わせになった時は面倒だと野座間にいた時のマンションでの戦いで学んでいた青山は階段を使うことにした。

 

しかし妙だ。このビルには空きテナントなどない。他のフロアには敗者や美容室、ホビーショップもあるのになぜこんなにも静かなのだろうか。

 

 

「当たり前だ。アマゾンがいるんだからな。」

 

 

赤松が青山の通信に答えてくれたのは珍しい。

 

こちらも珍しく返してやろうかと思ったその瞬間。突然窓ガラスを蹴破ってエプロンを付けたヘビアマゾンが青山に襲い掛かった。

 

 

「ぐあ!!こちら青山!対象発見!場所は4Fの廊下だ!」

 

 

近くにいた美月はヘビアマゾンの背中にH&K MP7型の短機関銃による射撃で注意をそらせる。

 

 

「ナイス!美月さん!」

 

「水澤でいいです!」

 

 

ヘビアマゾンに生まれた隙をついてレガースによる蹴り技でヘビアマゾンに物理攻撃を食らわせる。

 

溶原性細胞によって生まれたアマゾンには電撃やトラロックなどの成分があまり通用しない。そのため射撃や物理攻撃で体を破壊していくしかないのだ。

 

 

「ちぃ!赤松!何してんだ!早く来い!」

 

『うるせえ!6Fで戦闘中だ!』

 

 

なんと、他のフロアにもアマゾンがいるのか。

 

 

『むしろ早く片付けてこっち来い!集団覚醒だ!』

 

 

溶原性細胞の影響をこのビル全体が受けているのだろう。後に知り得た情報だがこのビルのオーナーが推しているある会社のウォーターサーバーを全フロアに設置していたらしい。

 

 

「くそお!」

 

ヘビアマゾンに集中している間に後ろからウニアマゾンに襲われる青山。ここまでかと思われた時、階段の方向から声が聞こえた。

 

 

「アマゾン…!」

 

 

オレンジ色の炎をあげながら突然現れた男。それは4Cが必死で追っている商で間違いない。

 

 

「商!?」

 

「久しぶりだな、青山。」

 

 

アマゾンニューコッパはウニアマゾンにアームカッターとフットカッターによる切断技を食らわせあっという間に倒してしまった。

 

 

「お前どこにいってた!」

 

「そんな話をしている場合じゃないだろ、すぐ来るぞ!」

 

 

今度は美月が相手をしているヘビアマゾンの方へ向かうアマゾンニューコッパ。別のフロアからヒョウアマゾン、カマキリアマゾンとどんどん新種のアマゾンたちが下りてくる。

 

 

「やべえ!千翼を呼ぶしかねえか…!」

 

「その必要はない。仲間がもう1人来てる。」

 

 

 

 

 

 

 

赤松のいる6Fでも同じようにアマゾンが群れを成し赤松たちに攻撃を仕掛けていた。

 

 

「白木!大丈夫か!」

 

「はい!でもこれはなかなか厳しい…かと!」

 

「ちぃ…こんな街中じゃ圧裂弾は使えねえ。」

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「アマゾン…!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

突然鳴り響くアマゾンズドライバーの音。その方向を見ると既にオメガの姿となった悠がアマゾンたちを蹴散らしていた。

 

 

「あれは…水澤悠!何でここに?」

 

「わからないですけど…とにかくこのアマゾンたちを駆除してくれるみたいです。」

 

「とりあえずはまずこのアマゾンたちをどうにかするのが先決か!」

 

 

赤松はメリケンサックを手にはめアマゾンたちに打撃を繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人…とはいっても訓練生であることと女性であることから美月はどうしてもアマゾンに対して致命傷を与えられない。そればかりか集団で襲われると最早手も足も出なくなってしまう。

 

 

「水澤!」

 

「任せろ。」

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオクローで美月に襲い掛かるハゲタカアマゾンを引き離した。そのハゲタカアマゾンは体に引っ掛かったアマゾンネオクローを外すと窓ガラスを割って外へと逃げる。

 

 

「まずい!」

 

 

外に出すのは絶対に不味い。青山が窓から顔を出したことには既にハゲタカアマゾンを見た女子高生が悲鳴を上げ、サラリーマンが恐怖に怯えながらも”勇敢に”スマートフォンを向けていた。

 

 

「やっちまった!」

 

「どけ!」

 

 

窓から飛び降りるニューコッパ。すぐにハゲタカアマゾンの首を捕まえてアームカッターによって頸動脈から切断した。溢れる黒い血を録画したサラリーマンは急いで逃げ去っていく。

 

 

「お…おい!待て!」

 

 

青山の指示に従うはずもない。上からオメガが飛び降り、2体のアマゾンがそれぞれ商と悠の姿に戻る。

 

 

「あれって…水澤悠…?」

 

 

2人はジャングレイダーに乗ってあっという間に去っていった。上を見ると同じように赤松が窓から顔を出している。どうやら狩りは終わったようだ。今回はそれで済む話ではなさそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜に衛生省はアマゾンの存在を公表した。その日からしばらく昼のワイドショーではアマゾンの話題で持ち切りとなる。

 

しかしどこにも”人間に感染するアマゾン細胞”の話は聞かず、あくまで某製薬会社の研究機関から逃げ出したアマゾンが人を喰らうことまでしか報道されていない。

 

 

「この度は大変申し訳ございません。…………はい、承知しております。………えぇ、しかし商の行方はわかりました!……………………いえそんな言い訳などでは………はい、千翼にあったアマゾンズインジェクターの調整が完了しています。中身はロウ成分ではありませんが高濃度たんぱく質を入れるだけで彼は素晴らしい戦闘力を発揮します。………………もちろんです、では失礼します。」

 

 

テレビを見ながら衛生省長官の電話を切る橘。使えない部下を持つとこうも上の人間が損をすると橘は憤りを隠せずにいた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫なわけがないだろう!」

 

「…失礼しました。」

 

「いや私の方が悪かった、加納くん。君のような優秀な部下に当たるとは。にしても衛生省も勝手なものだ。私が”あのこと”を公にすれば政府からの目を4Cから衛生省へと変えることが出来るのを忘れたのだろうかね。」

 

「……。」

 

 

疑問文ではない言葉に加納はあまり答えない。その無駄のなさは橘は気に入っていた。この数年、ずっと自分の下で働いている加納。改めて令華からはいい部下を取ることが出来たと橘は噛みしめた。




こんにちは、エクシです。
まず補足的なものをさせて頂きます。
あれから七羽さんはクラゲアマゾンとしてさまよっているところをマモルくんたちに保護されます。
そんで溶原性細胞をアロマオゾンにぶち込んで…って感じですね。
七羽さんとマモルくんたちのつながりは書きたかったところです!

それと今回はM to Nの最終章への導入でした。
季節はまた周りトラロックから3年目の春です。夏が来ればちょうど4年…ということですね。
もうすぐ5年。
とはいえ1年くらいの描写はかかないかなー?

もうそこまで時間が過ぎることはないかと思われます。わかりませんが…。
とにかくこの章が終わるまであと2話!是非読んでいただけると嬉しいんだゾン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode12「Moon Light」

アマゾン。それは最期の光。アマゾンの存在が公のものとなり4Cは今まで以上に大規模な駆除に取り掛かる。実験体が減っていく一方で溶原性細胞による新種のアマゾンは増えていくが…。


子供は両親に手を引かれショッピングモールを歩いている。玩具屋が彼の目に留まり両親の手を離し店へ駆けていく。

 

 

「パパ!ママ!こっち!!」

 

 

店の前で止まって子供が振り返ると2人は笑顔で手を振ってかけてくる。しかし2人とも首筋からは黒い血管のような模様が浮かび上がっており、子供は泣きだしてしまった。彼の両親の体から蒸気が放出されていく…。

 

とその時、銃声が鳴り響き2人はその場に倒れた。彼らの後ろから黒崎隊の隊員が射撃を繰り出したのだ。

 

倒れた2人はサイアマゾンとクワガタアマゾンへ変化し、隊員たちに襲い掛かる。

 

 

「チィ、やっぱ死なねえか。イーユー、やれ。」

 

「ターゲット確認」

 

 

黒崎の横にいる黒い服を着た少女 イユは無表情でありながらハーフのようなきれいな顔だちをしている。掛け声と共に左腕につけられたネオアマゾンズレジスターのスイッチを作動させた。

 

 

「アマゾン」

 

 

イユから熱が放たれて体をカラスアマゾンへと変化させる。パルクールのような俊敏な動きでサイアマゾンとクワガタアマゾンに飛びかかり、足技で傷を負わせる。

 

 

「やっぱ戦い方がなってねえなあ。」

 

「戦闘に関しては俺からっきしなんでわかんないすよ。まぁでもあの天城の細胞を植え付けたらしいですからそれなりに個体としてはいいやつなんじゃないすか?知らないですけど。」

 

 

札森のうんちくなど聞く耳を持たない黒崎は援護射撃を繰り出す。カラスアマゾンの未熟な戦い方でも隊員たちの援護で数分もしないうちに2体のアマゾンは動かなくなった。

 

玩具屋の前で泣き叫ぶ子供の前でカラスアマゾンはイユの姿に戻った。両親が突然いなくなった少年をしばらく見つめる。

 

 

「イーユー、行くぞ。」

 

「了解」

 

 

黒崎に呼ばれイユは隊員たちと共に輸送用バンへと戻っていく。そんな去っていく黒崎隊の写真を遠目で見ていた民間人がスマートフォンで写真を撮った。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで問題になっているよ、黒崎くん。せめて子供に声をかけるだとかあったんじゃないかね?」

 

「俺の仕事はアマゾン狩りだ。違いますか-?」

 

「…まぁいいだろう。イユの調子はどうかね?」

 

「まずまずってとこすかね。それより福田ですよ、なんすかアイツ。修復できるくらいまでならイユをこき使えると思ったのに福田がいちいち突っかかって来やがる。」

 

「かつての仲間もシグマタイプになっていたからかね。まぁ気にしなくていい。」

 

「りょーかぁーい。」

 

 

やる気のない声を上げて局長室を出ていった。黒崎とすれ違う形で加納が部屋に入る。

 

 

「失礼します。橘局長、なんとかメディアに対しては対策が出来そうです。」

 

「ごくろう、加納くん。彼女のこともあるし衛生省も情報規制に協力はしてくれるだろう。」

 

 

加納は報告を終えると部屋を出る。しばらく歩いたところでスマートフォンを取り出し電話を始めた。

 

 

「加納です。……はい、イユはシグマタイプのアマゾンとして黒崎隊でやっています。………えぇ、衛生省から依頼された方は隠し通すようです。…………はい、何かあればまた…。」

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちようとしているときでも4Cの建物から電気が消えることはない。赤松隊の部屋から赤松、白木をはじめとする隊員たちが警報を聞いて飛び出していく。

 

溶原性細胞の覚醒が頻繁に起きるようになってから待機している部隊がいなくなってしまうほど忙しくなった。

 

通報は郊外地域の小さな山の山林内からだ。足の指がなくなった死体が発見されたとのことだ。

 

 

「白木、周辺に突然いなくなった一般人がいないか調べておけ。」

 

「それは先ほど見ておきました。近くの住宅街にここしばらく家を空けている家があるとウォーターサーバーの水を運ぶ宅配業者が証言しています。」

 

「そこの家の奴がアマゾンになったか…?」

 

 

輸送用バンが山道の入口に到着すると2台のジャングレイダーが置かれていることに赤松隊の隊員たちは気が付いた。

 

 

「いるのか、商たちが。見つけ次第駆除しろ。奴もアマゾンだ。」

 

「隊長・・・ほんとに商を?」

 

「何をためらう?…あぁ、お前は青山隊と一緒に仕事をする機会も多かったからな。商とは一緒にやるときもあったんだな。だがお前が死にかけた原因はなんだ?」

 

 

今でも思い出す。商が変化したサソリアマゾンの暴走に巻き込まれた時だ。毒が体内に入って燃えるような感覚。

 

幾日も生死をさまよい、もうだめかと思われた時、自分は研究棟へ連れていかれた…。

 

 

「おい大丈夫か、白木!」

 

「え、あ、はい。大丈夫です。」

 

「とにかくわかったな。この山の中は民間人立ち入り禁止にしてある。この中にいる奴はほぼ間違いなくアマゾンだ。そいつらを全員狩る!場合によっては圧裂弾も用いる。以上だ。」

 

 

赤松の指示によって隊員全員が小山を囲むようにして駆除に取り掛かる。日が落ちたためヘッドライトをつけて隊員たちは銃を構え山の中を歩いていく。

 

白木は武井という隊員と共に中へ入っていった。

 

 

「白木さん!」

 

「えぇ、4時の方向からお願い。」

 

 

武井はそっと移動を始める。2人の視線の先ではヒョウアマゾンが人間の皮膚を剥がして喰らっていた。

 

武井がヒョウアマゾンにつられていると足元に落ちていた石に気が付かず転んでしまう。その音に気が付いたヒョウアマゾン。すぐさま白木は短機関銃を撃ちまくるも素早い攻撃でなかなか当たらない。

 

 

「くそ!」

 

 

ヒョウアマゾンが飛びかかってきた時、別の方向から何者かがヒョウアマゾンに飛びひざ蹴りを食らわせた。

 

 

 

 

 

 

 

悠は山に人間たちが入ってきたことを探知した。すぐに新種のアマゾンを狩って商と共に脱出する。恐らくそう長い時間はかからないだろうと推測していた。

 

 

「水澤くん、こんなところで何してるの?」

 

「…!マモルくん…?よかった!無事だったんだね。」

 

「一応…ね。」

 

「ここで何してるの?そうだ、今ここに新種のアマゾンがいるんだ!何か知らない?」

 

 

マモルは何も答えようとしない。マモルが何か隠しごとをしたときはポケットに手を突っ込み何かを握る癖がある。

 

 

「まさか…何か知ってるの?溶原性細胞のこと!」

 

「へぇ、そう呼ばれてるんだね。」

 

「…もしかしてマモルくんたちが…?」

 

「…。」

 

「なんでそんなことを!すぐにやめるんだ!」

 

「仲間…ほしくないの?」

 

「え?」

 

「やっと仲間を作るための準備が整ったんだ。邪魔はさせないよ。あぁ、あとそれと水澤くんにも1つ忠告しておくよ。今この山に僕を追ってアイツが来てる。」

 

「アイツ…?」

 

 

そういうとマモルは夜の闇の中に姿を消していった。月明かりと匂いだけではマモルを探せそうにない。とにかくまずは新種のアマゾンを探すことに専念しようと悠は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

白木は見上げると腰にネオアマゾンズドライバーを巻いた商が立っていた。

 

 

「商…?」

 

「…!?お前…白木だったのか?」

 

「えぇ。」

 

「お前…なんでお前から匂いが…」

 

「前!」

 

 

白木の声にヒョウアマゾンが再び襲ってきたことに気が付いた商は左手でガードする。ヒョウアマゾンは左手にかぶりつき、そこから黒い血が流れ出る。

 

 

「フン…!」

「!?」

 

 

商は左手を痛がることなく右手手を使ってアマゾンズインジェクターを装填し変身の準備を整えた。

 

 

-NEW(ニュ・ー)COPPA(コ・ッ・パ)-

 

「アマゾン!」

 

 

風圧によってヒョウアマゾンを吹き飛ばし、ニューコッパに変身すると走ってヒョウアマゾンへ体当たりを食らわせる。

 

 

「ウォオオ!」

 

-NEEDLE(ニ・ー・ド・ル)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

右手からアマゾンネオニードルを生成して弾丸を射出しヒョウアマゾンの心臓を撃ち抜いた。どの動物とも異なる悲鳴をあげてヒョウアマゾンは倒れその場に固まった。

 

 

「さて、今度はお前について聞く番だ。どういうことなんだよ。」

 

「それは…。」

 

「俺と同じ…ってことかな?」

 

 

突然男の声がし、その方向を向くと木を手探りで触りながらこちらへ近づいてくる仁がいた。

 

 

「鷹山…仁!」

 

「どーも。えっと…俺いまいち勘みたいのは働くタイプじゃないんだが…。ここにいるのは俺も含めて”3匹”ってことでいいのかな?」

 

 

白木は銃を構えるのをやめて俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

白木の意識がなくなりまもなく心肺も停止するだろうと判断されてからまもなくして衛生省から4Cへ指示がなされた。それは”白木千佳”にアマゾン細胞を移植し何としても生かすこと”であった。

 

 

「しかしよろしいのですか?政府からはアマゾンを作るのは1体…という指示でしたが?」

 

『極秘にやるのだ。何が何でも千佳を殺すな!野座間から受け取ったBの細胞がまだあるのだろう!?』

 

「…えぇ。かしこまりました、白木大臣。」

 

 

橘が電話を切ると加納にすぐ白木を研究棟へ運ぶよう指示を出す。今まで第4のアマゾンたるシグマタイプの製作にしか着手したことはなかったがまさか第2のアマゾン 人間ベースを作る機会を得ることが出来るとは。

 

 

(いい実験データがとれそうだ。それに衛生省にも強く出られるようになる。)

 

 

橘はほくそ笑みながら窓から外を覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ…俺のせいでアマゾンに。」

 

「…アマゾン細胞を取り入れてから一気に毒が無効化されたわ。」

 

「なるほどなぁ…お前がBか。尾宿商。」

 

「何の話だ?」

 

「野座間の連中は扱いやすい実験体の細胞の中で最も出来がいい奴を改良するためにサンプルを多くとっていた。その実験体がBだ。かくいう俺も改良を重ねたBの細胞を体に移植した。水澤悠もおそらくはそうだ。」

 

「それがなんだってんだ?」

 

 

仁は白木を見ようとするも場所が分からず匂いで場所を把握しようとする。

 

 

「その女はBの毒の効果をBの細胞を埋め込むことで克服した…ってわけだ。…まぁどちらも駆除の対象に変わりはないけどな。」

 

 

手にした傷だらけのアマゾンズドライバーを腰に巻く仁。アクセラーグリップを捻って静かに、しかしどこか力強く呟く。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「…アマゾン!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

ホワイトアイのアルファへ変身し、白木に襲い掛かる。しかしそれを止めるニューコッパ。その腕をアルファはしっかりと握りしめる。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

「俺は人間を襲わないアマゾンは狩らないんだよ…!」

 

「どこかで聞いたようなことだな。オラァ!」

 

 

握ったままニューコッパにアームカッターで斬りかかるアルファ。その攻撃を見切って避けるも掴まれている腕のせいでバランスを崩す。

 

 

(なんて強い力だ…!)

 

 

視力の低下に伴い戦い方を今までと変えてきたのだろう。握力の異常さに驚きを隠せないニューコッパであったがすぐにアマゾンズインジェクターを操作して対応する。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオブレイドで足に斬りかかる。避けられずに攻撃を喰らい耐えようとするがアルファもバランスを崩しお互いに山を転がっていく。

 

アマゾン同士の戦闘が遠ざかったため、白木の元に武井が寄ってきた。

 

 

「白木さん!大丈夫ですか!?」

 

「えぇ…大丈夫。」

 

「それより何話してたんです?片方は商でしたよね?」

 

「いえ…何でもないわ。行きましょう。」

 

 

2人の戦いはアームカッターとアマゾンネオブレイドによる斬撃の勝負となっていた。避けることが出来るニューコッパの方が分があるかと思われたがそのタフさでアルファも倒れることはない。

 

攻防の中、月明かりが差し込んでくると白木はもう8時を過ぎていることに気が付いた。

 

 

「…!薬を!」

 

「え?薬?」

 

 

白木が武井の方を向く。……うまそうだ。いや違う。今は薬を飲まなくてはいけない。……だめだ…。

 

 

「うわあああああ!!!!」

 

 

戦う2人は人間の血の匂いを嗅ぎ取り戦いを止める。

 

 

「まさか!」

 

 

ニューコッパが白木たちのいるところへ飛び上がるとそこでは武井を喰おうとする白木の姿があった。

 

 

「よせ!」

 

 

アルファがいるところまで白木を蹴り飛ばすニューコッパ。

 

 

「薬を忘れたか。腕輪をつけてりゃいいものを。」

 

「うぅ…うあああ!」

 

「俺が腕輪なしでいられるのは”強い意志”だ!アマゾンになった者の苦悩、それを全て受け入れたからこそ俺は暴走しない。お前にはその覚悟がなかったようだな。」

 

「ウアアアア!!」

 

「これからもアマゾンとして生きるには苦しいだろう。ここで俺が…殺してやる!」

 

 

暴れる白木の頭を掴むアルファ。

 

 

「よせ!」

 

 

ニューコッパの制止など聞くこともなく白木の首を掻き切った。残った体はボトリという音を立て倒れる。

 

 

「あぁ…あぁ…!」

 

「俺はアマゾンを1匹残らず狩る。どんな奴でもな。お前らみたいに勝手な線引きはしねえ。」

 

「…お前だって勝手な線引きをしているだろ…!」

 

「あ?」

 

「アマゾンと人間って…勝手に線引きしてるじゃねえか!白木は…心は人間だったはずだ!」

 

「人間が人間を喰おうと思うか?その時点で人間じゃねえんだよ。」

 

 

既に声のする方向は把握している。素早い動きでアルファはニューコッパの元まで飛びかかり噛みつき攻撃をする。

 

 

「グアアア!」

 

「お前もここで…殺してやる!」

 

「俺は…人間を守る!!」

 

「おぉれぇもだあああ!!」

 

 

しっかりとニューコッパの首を掴んでいる。このままアームカッターで切り裂いてしまえば絶命するだろう。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)SLASH(スラッシュ)-

 

 

アルファが腕を構えた時、ニューコッパは覚悟を決めたようにアマゾンズインジェクターを操作した。

 

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)SLASH(ス・ラ・ッ・シュ)-

 

 

左手のアームカッターでアルファのバイオレントスラッシュにカウンターでアマゾンスラッシュを腹部に放つ。

 

 

「アグアア!……クク…ハハハ!お前…左手に力が入らねえんだな。」

 

「…!」

 

「少しは効くが…この程度じゃないはずだ、本来はな。」

 

 

ロウのアマゾンズインジェクターを使って変身したあの別荘での戦い。

 

そこから体の調子は悪かった。頭が痛かったり手に感覚がなくなったり…。

 

必殺技を使うとそれは特にその影響が多くなった。今のアマゾンスラッシュで意識が遠のきつつある。

 

 

「俺のとは違う音声がするドライバー…新しいタイプか?相当な副作用があるみたいだな。」

 

「ん?もうお前が何を言ってるのかもわかんねえよ。だから俺が一方的に言ってやる!お前みたいなやつがいると人間を喰わないアマゾンも消されちまう!」

 

「水澤悠か…。」

 

「殺させるわけにはいかねえ!溶原性細胞をばらまいてるやつを捕まえるためにもな!」

 

「それは俺が蹴りをつける。お前はもう眠れ。」

 

「行くぞぉぉ!!」

 

「…話を聞けよ。最期なんだからよ。」

 

 

ニューコッパの目も徐々に見えなくなってきた。しかしわずかにわかる赤いものに向かって攻撃を繰り出していく。自分が生きる意味、それは人間に必要とされるため。悲しい結論というものもいるかもしれない。それでも初めて満足できる生き方がそれだったのだ。

 

 

(悠、後は頼む!人間を…アマゾンを守ってくれ!)

 

 

ニューコッパは意識が遠のくまで戦い続ける。その間、満月の光が2人の戦いを照らし続けた。




こんにちは、エクシです。
商の最期、それは自分が守りたいものを守るために戦う最期でした。
戦う理由を迷い続け、誰が自分の味方なのか迷い続けた人生でしたが最後に悠という同じ考えを持つ仲間と巡り合い散っていきました。


それとなんでアマゾンライダーたちは顔が似ているの…?ということをかいてみました。
簡単に言えばベースが商だったから…というわけです。
目は釣り目だったり細部は異なりますが商があの見た目のオリジナルでその細胞を仁が肉体に取り入れたり、令華が自身の細胞と掛け合わせて悠を作ったりした…というわけです。アマゾンシグマもおんなじ感じですね。

次はM to Nの最終回となります。
後日談感が出る回ではありますがNeoにつなげられるよう書きたいと思っているのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Last Episode「Missing MeN」

アマゾン。それは消えゆく者たち。商は人間を守ることが自分の生まれた理由と信じ息絶えた。彼のドライバーを拾う仁、その様子から商の死を把握する悠、そしてNEO(新章)に繋がる全ての者たちの5年間が今ここに記される。


辺りはアマゾンと血の匂いで溢れかえっておりそれぞれを特定することは難しい。しかしアマゾンたちが徐々に駆除されていっていることは何となく悠にはわかっていた。

 

 

「…仁さん。」

 

 

匂いを嗅ぎながら山を下りようとする仁が悠の方を向いた。

 

 

「やっぱお前だったか。」

 

 

彼の左手には傷だらけのアマゾンズドライバー、右手にはオレンジ色のネオコンドラーコアのネオアマゾンズドライバーが握られている。

 

 

「仁さん…まさか…!」

 

「あぁ、あの商とかいうアマゾンを狩った。」

 

「…よくも…!」

 

「仲間だった…みたいだな。前はそんな様子はなかったが?」

 

 

確かにそうだった。それどころか実験体のアマゾンを喰っていた商とは敵だったくらいだ。しかしあの日、商が4Cから逃げてきた日、悠は商の気持ちを痛いほど理解し仲間になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

悠はイユの死体が4Cへ運ばれることを不審に思い尾行をしていた。ただの少女の死体を4Cが回収する必要などないはずだ。

 

考えられるとすれば溶原性細胞によって生まれた新種のアマゾンの被害者の死因が世間に公表されることを防ぐため…だろうか。

 

裏路地を通ってジャングレイダーを走らせているとき、交差点をもう1台のジャングレイダーがこちらへ向かって走ってきた。

 

 

(アイツは…!)

 

 

「くそ!4Cか!?」

 

 

ジャングレイダーで走ってきた商は悠を4Cと思ったようだ。悠はヘルメットを取って自らの顔を見せた。

 

 

「お前…実験体の仲間の…。」

 

「ここで君は倒させてもらう。僕は仲間たちを守りたいからね。」

 

「そんなこと言ってる場合じゃねえぞ。4Cが追ってくる!」

 

「どういうこと?」

 

 

裏路地の空き部屋に入って商は悠に一連の出来事を伝える。自分はアマゾンと人間どちらを喰いたいのか。そうではなく自分は人間を守るために戦っていた時が一番生きている心地がしていたこと。同種(アマゾン)を喰った時の罪悪感。

 

 

「俺は…勝手だけどアマゾンを喰いたくはねえし、人間も喰いたくない。でも人間を喰うアマゾンは…狩りたい。」

 

 

そう語る商の目はまっすぐだった。

 

駆除班では人間と共にいることを捨て、マモルたちとは人間側に立つ者を狩ることが出来ず実験体のアマゾンたちとの共存も捨てた。

 

そんな悠と同じ考えを持つ者が現れた。

 

もちろん仲間を喰らってきた罪はある。だが自分も人を喰いたくなくても覚醒してしまったアマゾンを狩ったことがある。

 

泣きながら覚醒してしまった仲間を…この手で…。

 

 

「やろう、僕と一緒に。人間も…アマゾンも生きられる場所を作ろう。」

 

 

悠は商に手を出す。人なのかアマゾンなのか。それを常に問いかけ続けてきた2人が固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオ!!アマゾン!!」

 

「アァァマァァゾォォンッ!!」

 

 

2人の体から緑と赤のエネルギーが放出されアームカッターをぶつけ合う。アマゾンオメガは仲間を失った悲しさと悔しさを、アマゾンアルファは自分の罪とすべてを終わらせるために戦う覚悟をその刃に変えて…。

 

 

 

 

 

 

 

商と白木の死はその場にいた武井によって4Cに報告された。衛生省からの説明に関しては「白木千佳が覚醒した為。」との対応で大臣を黙らせた橘は満足し、引き続き溶原性細胞の出どころを調査するよう隊長たちに指示を促していた。

 

青山隊はそんな橘の命令で一家全員がアマゾンになったと思われる戸建てに入っていた。青山の後ろには美月も短機関銃を構えてしゃがんでいる。

 

 

「隊長。」

 

「分かってる。まずは千翼、お前が行くんだ。」

 

「…わかってる。」

 

「いいか、いつも通りやるんだぞ?」

 

「分かってる…!」

 

-NEO(ネ・オ)-

 

 

アマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填した千翼は階段の陰から飛び出し人を貪るアマゾンに向かって走っていく。

 

 

「お…おい!」

 

「アマゾンッ!!」

 

 

赤いエネルギーが狭いリビングから放出され、ネオがアマゾンたちをアームカッターで切り裂いていく。

 

 

「あーもう!だめじゃん!」

 

 

青山は仕方なく援護射撃を美月と共にアマゾンネオを避けて放つ。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオブレイドを振るってアマゾンたちの腕をグロテスクに引き裂くネオ。アマゾンたちからは液体が放出され体は凝固した。

 

ネオは固くなった後のアマゾンの死体を繰り返しアマゾンネオブレイドで斬りつけようとする。

 

 

「おい千翼!落ち着け!」

 

「…!あぁ…。」

 

「はぁ…。とりあえず駆除は終わりだな。ったく、溶原性細胞はどっから入ってんだ。」

 

 

そう言いながら近くに置かれていたウォーターサーバーから水を飲もうとする青山。

 

 

「隊長!清掃班が来るまではここの物は極力触らない様言われてますよね!」

 

「はー、すいませんすいません。」

 

 

青山は手に取った紙コップをそのままゴミ箱に捨てる。ネオはアマゾンネオブレイドにこべり付いたアマゾンの血を見ていた。

 

 

(違う…俺じゃない…母さんを喰ったのは…俺じゃ…。)

 

 

 

 

 

 

 

マモルたちは川が流れる山の中を歩いていた。どうやら先日埋めた腕から流れている溶原性細胞はうまくウォーターサーバーの水として配給されているようだ。

 

同種の匂いと共に足音がし、アマゾンたちは足を止める。

 

 

「水澤くん?」

 

「マモルくん、やっと見つけたよ。溶原性細胞を持ってるんだね。」

 

「…僕たちはオリジナルって呼んでる。」

 

「オリジナル…?」

 

「僕たちはいろいろ実験してみたんだよ。天城くんを実験台にした人間たちで今度は僕たちが!」

 

 

憎しみに染まった眼…。あの頃の、駆除班にいた頃のマモルはもういないのだろう。

 

 

「させないよ、人間をアマゾンになんて!」

 

「へぇ、じゃあ僕たちを狩る?」

 

「それは…。」

 

「出来ないよね、水澤くんは優しいもん。でも優しいだけじゃ生き残れない。分かってるでしょ?」

 

 

どこかで言われたような言葉…。

 

 

「マモルくん…七羽さん知ってるの?」

 

「…!」

 

「マモルくん?」

 

「行こう、みんな。」

 

 

マモルの指示で島田とカオリ、そしてアマゾンたちはその場を去っていく。

 

 

「待って!」

 

「島田くん!」

 

 

ハチアマゾンに変化した島田が悠の足元目掛けて針を放つ。それを避けて起き上がり前を見るとそこにはもう誰もいなかった。

 

 

(1人で戦う…こんな感じなんだな。)

 

 

悠の頭に浮かぶのは手探りでけもの道を歩く仁の姿。自分もその道を歩くことになるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

イユがストレッチャーで4Cの研究棟まで運ばれて来た。腹部から黒い血が溢れ、口元は吐血によって真っ黒になっている。

 

その様子を見る札森は加納のスマートフォンに連絡を入れた。

 

 

「札森っす。橘局長にアマゾンを貸せって言えと黒崎隊長からです~。……すぐみたいっすよ。隊長はまだ現場にいますし。」

 

 

間もなくして青山隊から千翼が札森の元へ送られた。すぐに輸送用バンに乗せられる千翼。

 

 

「えっと…。」

 

「はい、今から新種がしこたまいる映画館に突入っす。ゾンビ映画みてえにうじゃうじゃなんでよろしくです~。さっきまでいたシグマタイプのアマゾンはやられちゃったんで気を付けて。以上っす~。」

 

「え、あ、あの。」

 

「質問?」

 

「いや…。」

 

「じゃあ終わり。」

 

 

青山たちと違って随分あっさりしている。まずは自己紹介だとか…そういうのをするんじゃないのか。

 

札森と呼ばれていたこの男はもう既に千翼に興味はなくタブレットでゲームをしているくらいだ。

 

30分も経たないうちに現場の映画館に着いた。中は血の匂いでいっぱいになっている。どの死体も首がなくなっており、それ以外に傷はない。思わず無傷の手に目が言ってしまうのは千翼の”悪い癖”だ。

 

 

「なんだ…この数。」

 

『同個体が喰い散らかせる数じゃないすね。おんなじよーなやつがたまたま覚醒したってとこかな?』

 

 

札森は中に入ろうとはせずバンの中から通信で指示を出すらしい。副隊長が戦闘を行わないのは千翼から見ても珍しいと思った。

 

 

「千翼ォ!伏せろ!」

 

 

どこからか声が聞こえ反射的に伏せた千翼、そこへバラアマゾンが飛んできて近くの鉄柱を腕の剣で切った。

 

 

「…!」

 

 

すぐにネオアマゾンズドライバーをバックから取り出し装着する。

 

 

-NEO(ネ・オ)-

 

「アマゾンッ!」

 

 

バラアマゾンの剣劇が繰り出されながら赤い炎を上げてネオに変身した。

 

 

「ハァア!!」

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ネオの得意武器 アマゾンネオブレイドを生成しバラアマゾンの攻撃に耐えきる。

 

 

「どけ!撃つぞ!」

 

 

声の主はこの隊の隊長 黒崎だったようだ。だがこの状況で間合いを取れるわけなどない。この指示に従えるシグマタイプのアマゾンとはどれだけ戦闘力の高いアマゾンなのだろうか。

 

そんなことを考えている間に隊員たちの射撃が一斉に放たれる。その何発かがネオに直撃し倒れた。

 

 

「うぅ…!」

 

「おら!邪魔だっつっただろうが!」

 

「くっそ…。」

 

 

バラアマゾンは隊員たちがいる方向まで突っ込んでいき容赦なく彼らを斬首していく。

 

 

「くそがぁ…!早く行け千翼!」

 

「俺は道具じゃない!」

 

「余計なこと言ってんじゃねえぞ、アマゾン!」

 

「…!」

 

「おい!」

 

「俺を…アマゾンと一緒にするなぁぁ!」

 

 

ネオの咆哮に何かを察した黒崎はその場に伏せる。すぐにネオの体から無数の棘が飛び出し、バラアマゾンを映画のスクリーンに向けて串刺しにした。

 

 

「おいおい危ねえじゃねえか。」

 

「俺は…アマゾンなんかじゃない!人を喰うことなんかしない!うわああああ!!」

 

 

冷気を放ちながらネオから千翼の姿に戻りつつ映画館の外に飛び出していく。

 

 

「おい待て、どこ行く。」

 

 

黒崎の制止など聞く耳を持たずジャングレイダーに跨る千翼。

 

 

「おい。まさか逃げるんじゃねえだろうな?」

 

「こんなところ、もういたくない!俺をアマゾンと一緒にする4Cなんかに!」

 

 

千翼はそう吐き捨てると去っていった。

 

 

「チィ…こちら黒崎。千翼を追え。逃げやがった。」

 

 

黒崎は溜息をつき肩をもみながらバンに乗り込んだ。また面倒なことになりそうだ。黒崎は次の休日、スイーツ食べ放題に行くことを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

千翼が4Cへ戻ってきた。どうやら黒崎が千翼を不当な扱いをしたことが原因で逃げ出したようだが、結局戻ってきた後も黒崎隊に所属することになったらしい。

 

その理由は今ここにいるイユが黒崎隊にいるからだそうだ。黒崎隊に2体のアマゾンが配属になるのはいまいち納得のいかないし、なぜイユがいるから黒崎隊に入るのか意味がよくわからなかったが、とにかく黒崎隊からイユを借りることが出来たのは心強かった。

 

橘から溶原性細胞の感染者の共通点がウォーターサーバーであることがわかったと報告が入った。そのウォーターサーバーを取り扱うAroma Ozoneという会社の営業所に行くことが今回の青山隊の任務だ。それにしてももう片方の”やばい方”に行かされなくて正直よかったと青山は考えていた。

 

何人もの患者が失踪している病院なんて絶対にアマゾンの住処となっているからだ。Aroma Ozoneの営業所も人の出入りが少ない所とのことだが…。

 

青山隊のバンが営業所の近くで止まった。つい最近訓練生を終えた美月に続いてイユ、隊員たちが外へ出る。

 

 

「それじゃあ行くぞ、アマゾンがいることもあるからな、気を付けていくぞ!」

 

 

アマゾンが出現したらまず青山が発砲、その後隊員たちは援護射撃を繰り出す。その隙にイユが足技でとどめ。完璧だ。銃を構えながら近づいていったその時。

 

本当にそれは一瞬だった。

 

中から回転しながら飛びだしてきたウニアマゾンは針を自分の体を突き刺し体当たりしてきた。

 

痛みなど感じないまま意識が遠のいていく。ただちょうど死角に隠れていた美月が目を見開いて青山を見ている。

 

 

「援護…を!」

 

 

青山の言葉にならない最期の言葉に頷く美月。

 

 

「こちら青山隊!増援を願います!」

 

 

美月の言葉を聞いて青山は息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

千翼がオリジナル。

 

まさかこんな近くにいるとは赤松を含め誰も考えていなかった。おまけにあのイユが裏切ることになるとは。

 

突入口を黒崎隊の隊員たちと確認し、圧裂弾を嫌味たらしく渡してくる札森”局長代理”も合流して準備は整った。各人配置につき突入口を1つずつ埋めていく。

 

赤松は正面から圧裂弾を持った木村と共に結婚式場へ潜入した。入口からすぐ行ったところで辺りをキョロキョロと見回す千翼の姿が見える。

 

 

(何を捜している?)

 

 

千翼が所定の位置に着いた。木村が圧裂弾を構えランチャー出放とうとしたその瞬間。

 

 

「ウアアアア!!」

 

「何!?」

 

 

近くに待機していた本田から熱気が放たれる。アマゾンだ。

 

ヘビアマゾンに変化した本田は知能があるのか、圧裂弾を構える木村を真っ先に襲う。そしてヘビアマゾンに圧裂弾を向けようとする木村。

 

 

「撃つな!木村ァ!」

 

 

圧裂弾の威力が分からないのか、こいつは。優秀であるはずの部下は死の危機に超面した瞬間、パニックを起こしたようだ。今、自分の肉体に圧裂弾が撃ち込まれた。何も…考えられない。何が…起きているのかもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

橘はスマートフォンを局長室のテーブルに置いた。新たなシグマプロジェクトは始まった。数年後には新種のアマゾンですら圧倒的な戦力の前に消え去ることになるだろう。

 

シグマプロジェクトの資料に目を通しているとノックもせず黒崎が局長室に入ってきた。自動車いすをドアの方へ向ける橘。

 

 

「オリジナルの件、ご苦労だった。後は溶原性細胞の感染者を始末するだけだ。」

 

「その1人に俺もなったってわけですよね。」

 

「…まぁオリジナルとの戦闘で溶原性細胞が君の体内に入っていれば…だがね。」

 

「十中八九入ってますよ。そこで…提案というか、お願いがあります。」

 

「君が改まって…珍しい。…フッ、まさか千翼とイユを見て改心したとでもいうんじゃないだろうね。」

 

 

黒崎は答えようとしない。まさか図星とは。

 

 

「聞こう。」

 

「俺を…」

 

 

黒崎の言葉に目を見開く橘。

 

 

「…勘が鋭いな、黒崎くん。いいだろう、私が責任を持って君の願いを叶えよう。しかしもし覚醒した場合は…。」

 

「わかってます。」

 

「よろしい。」

 

 

黒崎は局長室を出てから橘はソファに置かれた千翼のネオアマゾンズドライバーを見つめる。

 

 

「千翼…君は…。」

 

 

黄色のネオコンドラーコアが局長室に差し入る日の光に反射して輝いていた。




こんばんは、エクシです。
MtoN完結です!
今回は青山、赤松の最期も書いたのでNeo以降も書いてしまいましたが、一応今回の章の登場人物の最期ということで書かせてもらいました。

補完するならば千翼のネオアマゾンズドライバーは悠によって回収されたということにしています。

え?美月との最後のシーンでネオアマゾンズドライバーは1本しか持ってなかった?

……ジャングレイダーに置いてきたんだよ…!!

なんやかんやで美月は「千翼狩ったよ~」という証拠に悠から受け取ってそれが橘にいったということで!

次章で使いたいんだよ~、千翼のネオアマゾンズドライバー!許してください!

ちなみに次章は「after Z」です。
オリジナル主人公になると思います。オリジナルアマゾンライダーもバンバン出しますがおれつええにならないよう頑張ります

またもしシーズン3を公式でやるとすれば間違いなく矛盾した話になりますのでご了承下さい!

ではこれからもよろしくお願いするんだゾン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

after Z
Episode1「Zipped freshmeN」


アマゾン。それは最後の始まり。あれから5年……新種アマゾン感染事件は溶原性細胞に対するワクチンを開発した野座間製薬と4Cによって秘密義に組織されたシグマ隊の駆除によって終息を迎えつつあった。そんな中、アマゾン狩りを続けていた悠たちの前にかつて自身が使っていたアマゾンズドライバーを装着した少年が現れ…。


子供たちが中庭で遊んでいるのを(こう)は施設の中から黙って見ていた。飲み終わったコーヒー牛乳の紙パックをゴミ箱に投げるも入らない。

 

 

「ちっ。」

 

「あ、学校で買ったもんは持ち込み禁止だぞ。」

 

「んだよ、園長にはチクんじゃねえぞ。」

 

「わかってるよ。でもこの前も怒られてなかったか?」

 

「俺は緋彩(ひいろ)とはちげえんだよ。」

 

 

煌は下に落ちている紙パックを拾って勢いよくゴミ箱に投げ捨てた。制服のシャツを出し、茶色の髪を立てるようにしたワックスの使い方。典型的ないきっている中学生の相貌だ。

 

一方の緋彩と呼ばれた少年は整った髪に学ランのボタンを上まで閉めているような優等生といったところだろう。学生カバンも丁寧に使っているようで煌のものとは比較にならないくらいピカピカだ。

 

 

「エリート学生さんはさっさと部屋で勉強でもしてろ。」

 

「そうさせてもらうよ。お前もアイツらに混ざりたいならそう言えよ。」

 

「はぁ!?なんで俺がガキなんかと…!」

 

「お前は何やかんやで面倒見がいいって園長言ってたぜ。」

 

 

そう言って部屋を出ていこうとする緋彩。扉を開けるとそこには幼稚園から帰ってきた施設の子供が目をこすりながら立っていた。

 

 

「お、おかえり。みんな外で遊んでるぞ?」

 

「うん…でも僕…。」

 

「どうした?泣いてんのか?」

 

「そうじゃなくて…目が…かゆいんだ。」

 

 

そう言って子供はこすっていた目を緋彩に見せた。その目は真っ赤になっておりそこから黒い血管のような模様が浮き出ている。

 

 

「これ…テレビでやってた…やつ!おい煌!」

 

「それどころじゃねえ!外が!」

 

 

外の何人かの子供たちは体から熱を放ち異形の者へと変化していく。そんな様子に泣き叫ぶ別の子供たちを喰らう。

 

 

「ひぃ!」

 

 

緋彩も逃げようとするが外にいた子供が変化したアマゾンに噛みつかれ血がスプリンクラーのように飛び散る。

 

 

「緋彩ぉ!うわああ!!」

 

 

先ほどまでの平穏な日常は崩れていく。これがテレビで報道されていた溶原性細胞とかいうやつによって人間がアマゾンになってしまう現象なのだろう。

 

溶原性細胞を持った親から生まれた子供が母体を通して感染する事例も少なくないと言っていた。ワクチンを打っていたにもかかわらず発症してしまうとは…。

 

死ぬ直前にこんなことを考える余裕があるとは思っていなかった。血が止まらない、意識が遠のいていく。

 

 

「やめろぉ!来るな!くそ!緋彩!緋彩ぉ!」

 

 

煌の声が聞こえる。「俺を呼んでも無駄だ。逃げろ、煌。」そう言いたいがもう声を出す力すら出ない…。

 

目をつぶったその時、施設の窓ガラスが割れる音で緋彩は再び目を開けた。霞んでよく見えないが外からまたアマゾンが入ってきたようだ。

 

 

(あぁ、煌もやられる。)

 

 

しかしそのアマゾンは子供が変化したアマゾンの心臓を一突きにし絶命させた。外からは大量のアマゾンが施設内へ入ってくる。2人を助けたオッドアイのアマゾンは襲い掛かるアマゾンを狩るため再び外へ飛び出していく。

 

緋彩のもとへ煌が駆け寄ってきた。

 

 

「もう大丈夫!もう大丈夫だ!」

 

 

(よかった…でももう俺は…終わりだ。)

 

 

緋彩は静かに目を閉じる。煌の自分を呼ぶ声が意識が遠のくまで聞こえ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

隊服を身に纏った男たちが武器を構えながら倉庫に近づいていく。加藤は輸送用バンの中から指示を出し、それぞれ出口になりえる場所に人を配置し終える。

 

 

『福田隊長、準備完了です。』

 

「よし、準備はいいな。突入!」

 

 

福田の指示でそれぞれ内部へ入っていく。中には溶原性細胞の感染者たちがウロウロしており、突入してきた男たちを見るとエネルギーを放出させながらアマゾンへと変化していく。

 

 

「ったく、ワクチンちゃんと打っておいてもらわないとね!」

 

『どの企業もワクチンを打つ余裕があるわけじゃないですからね。』

 

「まぁそうだけどさ、こうなっちゃ意味がないわけじゃない?そう思うでしょ、カトちゃん。」

 

「三崎!無駄口叩いてんじゃない!」

 

「はー、マコさんに似てきたな、こりゃ。すいませーん!」

 

 

サブマシンガンでアマゾンたちの急所を狙う三崎。その横からネオアマゾンズドライバーを装着した悠がタイミングを見計らっている。

 

 

「悠お坊ちゃん!」

 

「久しぶりに聞きましたよ、それ。」

 

 

アマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填した。内部の液体がネオアマゾンズドライバーを通して悠に注入されていく。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「アマゾン…!」

 

 

緑色の熱を発しつつ、球体のエネルギーフィールドを構築。それがはじけるようなエフェクトがかかり、悠はニューオメガへと変身した。5年前とは違ってニューラングアーマーをはじめとする装甲はネオ同様完全なものになっている。

 

 

「あっち!」

 

「悠が変身する時は離れてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」

 

「くぅー!また美月お嬢様に怒られちゃった!」

 

「狩りに集中しろ!」

 

 

福田の叱咤に「やべやべ」という表情を見せる三崎はサブマシンガンの引き金から指を離す。

 

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオクローを装備しニューオメガは先端部分をアマゾンたちの方向へと勢いよく飛ばした。アマゾンたちの腹部を貫通させ3体同時にとどめを刺す。

 

 

「悠!残りの1体は私が!」

 

「頼んだ!」

 

 

福田隊の紅一点 美月が弱った1体に短機関銃で脳天を打ち抜く。傷口から黒い血を噴き出して最後の1体も倒れた。

 

 

「よーし、これで5体全部完了かな。」

 

『待ってください、ここで駆除できたのは4体です!』

 

「ということは1体は外に出たということか!?どこから?」

 

「上…ですね。」

 

 

全員が上を見上げるとそこに穴があけられている。ここから残りの1体は逃げたのだろう。

 

 

「すぐ追いましょう!」

 

 

駆除班の一同は外へ出てニューオメガ以外は加藤が運転する輸送用バンに乗り込んだ。ニューオメガは自身のジャングレイダーに跨ってアマゾンの勘というやつを働かせた。

 

 

「…こっちだ!」

 

 

倉庫は海岸沿いにある。ジャングレイダーも朝早い寂れた港を走っていく。上を見るとクワガタアマゾンが作業員の服を着用しながら空を飛んでいるのが見える。

 

 

「この距離じゃ攻撃が届かない…。」

 

 

どのようにクワガタアマゾンに攻撃を当てるか。アマゾンネオニードルでは対象に届くまでに殺傷能力が軽減してしまうだろう。

 

ジャングレイダーを止め見上げていると近くにヘリコプターが飛んでいるのが見える。扉の部分には”4C”のロゴがでかでかと貼られているのが札森のセンスらしい。

 

扉が開きそこから1体の銀色のアマゾンが飛び降りてきた。

 

 

「あれは…!」

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)STRIKE(ス・ト・ラ・イ・ク)-

 

 

銀色のアマゾンはフットカッターによって回し蹴りのようにクワガタアマゾンを切り裂いて真っ二つにした。

 

クワガタアマゾンの死体は海にボトボトという音ともに落ちる。銀色のアマゾンはニューオメガの近くに着地し、紫色のバイザーを手で拭った。

 

 

「アマゾン…ニューシグマ。」

 

 

かつて駆除班によって狩られたアマゾンシグマにアマゾンネオの装甲とバイザーが装着された相貌をしているアマゾンニューシグマ。向かい合う2体のアマゾンの元にそれぞれ2台のバンが近くに止まる。

 

 

「悠、行くぞ。」

 

「…はい。」

 

 

福田に呼ばれアマゾンズインジェクターを取り外すと冷気を放ちながら悠の姿に戻る。自分が乗ってきたジャングレイダーで輸送用バンに続いてその場を去っていく。

 

一方の4Cのロゴがついたバンからは札森が出てきた。

 

 

「帰るよー、グズグズすんな。」

 

 

指示に従いニューシグマはバンに乗り込んだ。立ったままのニューシグマのネオアマゾンズドライバーに装填されているアマゾンズインジェクターを札森は雑に抜き取る。

 

 

「変身解除と。」

 

 

ニューシグマは人間の姿に戻り、無表情で座る隊員たちの中の空いたスペースに座る。札森は自身の言うことを聞くこのシグマ隊を見て鼻で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

バンの中で福田はタブレットにメールが1件受信されていたことに気が付いた。

 

 

「…!九州に行っていた二宮隊が戻ってくるようだ。」

 

「お、じゃあ久しぶりにノンちゃんに会えるね。カトちゃんもワカちゃんとしばらくやってたんだったよね?」

 

「別に私は若槻に会いたいとかはありませんが…。」

 

 

運転しながら眼鏡をあげつつ後ろの席の三崎に言う加藤。

 

 

「それと俺たちに面識はないが二宮隊には1体アマゾンもいるらしい。」

 

「え?」

 

 

悠は驚きを隠せない。無理もないだろう、実験体は5年前に全滅し、千翼はもういない。シグマタイプも4C以外では作られていないはずだし、残る可能性は溶原性細胞によって生まれたアマゾンということになる。

 

 

「溶原性細胞の感染者で…理性があるアマゾン…ってことですか?」

 

「詳しくは俺もわからないが…。とにかくその旨を水澤本部長から把握しておくようにとのことだ。」

 

 

悠は美月と顔を見合わせた。今悠と美月はかつて住んでいた豪邸に住んでいる。というのも野座間製薬が溶原性細胞に対するワクチンを開発したことで再び上場企業となって事業拡大が可能となったのだ。

 

令華は”特定有害生物対策部”のトップとして本部長に返り咲いたため、家も取り戻すことが出来たのだろう。その本人は相変わらず家に戻ってくる事はないが。

 

一方野座間製薬がまた大きい組織に戻ったことで4Cの価値は下がった。駆除に関しては野座間製薬の方が優れているし自由に小回りできる金もある。

 

半官半民の4Cでは機動性に欠けると世間からの評価を受け今やテナントを1つ借りて札森が局長として駆除を続けてる…のが表向きの4C。

 

実際は野座間製薬が4Cから手を引いたことで完全に政府機関の1つとなり、莫大な予算を投与してニューシグマをはじめとするシグマタイプのアマゾンを率いて駆除に当たっているらしい。

 

5年前、オリジナルである千翼を狩ってからすぐに福田と美月は4Cを辞めたことから詳しいことを彼らも把握していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

二宮隊との集合場所に着いたものの二宮隊の車はどこにも止まっていない。

 

 

「あれー、早すぎましたかね。」

 

「確かに集合時間にはまだ早かったですね。」

 

 

美月の時計は午後1時42分を示している。

 

 

「あらら、新しい時計!これはどうしたんですぅ~?」

 

「いや、これは…!」

 

「僕が買ったんです。美月欲しがってたから。」

 

 

何の恥じらいもなく三崎にいう悠。そんな悠の腕を美月は無言で叩く。

 

 

「おうおうおう~禁断の兄妹愛ですなああ!」

 

「そんなんじゃないです!」

 

「…!あれは!」

 

 

悠は空き地の向こう側に少年が立っていることに気が付いた。

 

 

「誰だ?」

 

「あれは…あぁ。二宮隊の1人ですね、名前は…。」

 

 

加藤を含めた福田隊の隊員たちはその少年が取り出したアマゾンズドライバーに目が留まり黙ってしまう。

 

 

「あれって…!」

 

 

少年はアマゾンズドライバーを腰に巻き付け、アクセラーグリップを捻った。

 

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「ウォオオオ!アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

釣り目のような赤いコンドラーコアが光り、緑色の熱と共に少年の体がアマゾンへと変化していく。悠がドライバーを使わずに変身した際のアマゾン態に非常に似ているが、体には赤い傷のような模様が施されている。

 

 

「君は…。」

 

「アマゾン…殺すぅうう!!」

 

 

アマゾンアナザーオメガと呼べるそのアマゾンはアームカッターを大きくさせながら右手を横に構える。

 

 

「来るぞ!」

 

 

隊員たちはバンの中に戻り武器の準備を整える。まさか二宮隊のアマゾンがここで覚醒するとはだれが考えられただろうか。

 

悠もネオアマゾンズドライバーを腰に巻きアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填する。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「アマゾン…!」

 

 

熱気を放ちつつニューオメガに変身するとアマゾンズインジェクターを操作し武器を生成する。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

2人は武器を構えながら睨み合う。そして同時に動き出し刃を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

社長室の扉からノックの音が聞こえた。

 

 

「どうぞ。」

 

 

中に入ってきたのは黒髪の爽やかな見た目の少年。

 

 

「お呼びでしょうか?」

 

「あぁ、緋彩。またアマゾン狩りを頼んでもいいかな?」

 

「もちろんです。どこですか?」

 

「Z地点のハイフン7.5だ。2体のアマゾンが戦っている。」

 

「かしこまりました。」

 

 

一礼して部屋を出ていく緋彩。目黒は賀閣製薬代表取締役のネームプレートをハンカチで拭きつつジャングレイダーで去っていく緋彩を窓から見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

アナザーオメガは本能のまま攻撃を繰り出すもニューオメガによって全てかわされアマゾンネオブレイドによる一閃をうけ後ろへ吹き飛ぶ。隊員たちもニューオメガの優勢さをみて援護射撃を撃たない。

 

 

「大したことなさそうだね。まぁ俺たちがやったらひとたまりもないんだろうけど…さ。」

 

「油断するな、三崎。いつ攻撃の矛先がこちらに向いてくるかもわからんぞ。」

 

「りょーかい。」

 

 

アナザーオメガは福田たちのことなど見えていない様子だった。溶原性細胞の感染者であれば真っ先に人間を狙いに行くはずにも関わらずあくまでニューオメガだけに固執するのはよくわからなかった。

 

アームカッターとアマゾンネオブレイドが再びぶつかり、ニューオメガはアナザーオメガに己の疑問を投げかける。

 

 

「君、本当に新種のアマゾン!?どうして人間を狙わないの?もしかして…実験体の生き残りとか!?」

 

「一緒にすんな、お前らとな!」

 

 

左腕を見るとアマゾンズレジスターどころかネオアマゾンズレジスターすらつけられていない。鷹山仁と同じくアマゾンズレジスターによる投薬なしで理性を保っているのだ。

 

 

「君はいったい…!」

 

「話すことなど何もない!」

 

 

右手のアームカッターでニューオメガに攻撃をしようと手を振りかざした瞬間、ニューオメガとアナザーオメガの双方にアマゾンネオニードルによる射撃が命中した。

 

 

「ぐぅ!」

 

「うぁ!」

 

「なんだ!?」

 

 

隊員たちも攻撃の方向を見る。そこには赤い体にネオアマゾンズドライバーで変身した者に形成される装甲を纏ったアマゾンが立っていた。緑色のバイザーといい体のいろといいアルファをイメージさせる。

 

 

「仁…さん?」

 

「お前…!」

 

 

アマゾンニューアルファというべきそのアマゾンは2人に襲い掛かる。三つ巴の戦いに隊員たちは援護射撃を撃つか迷っていた。ニューオメガを助けるために銃を撃てば片方が隊員たちに襲い掛かってくるかもしれない。ニューオメガの助けを見込めずそのような状況に陥るのは合理的ではない。

 

 

「悠!」

 

 

しかしそんなことを考えず美月は短機関銃でアナザーオメガとニューアルファへ攻撃を与える。

 

 

「…お前…邪魔をするなら消えてもらう!」

 

 

アナザーオメガは美月に向かって襲い掛かろうとしたが、それをニューアルファは止め、アームカッターで腹部を切り裂いた。

 

 

「ぐあ!」

 

 

人間がいくら攻撃してきても絶対に人間は傷つけない。そんな覚悟をニューアルファから感じるニューオメガ。

 

 

「仁さん…?仁さんなんですよね?」

 

 

ニューアルファは黙ったままニューオメガに襲い掛かる。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

2体のアマゾンのアマゾンネオブレイドがぶつかり合った。この感じ…。違う、これは仁ではない。

 

長年に渡って戦い続けてきたアルファはこんな甘い攻撃の仕方はしてこない。そもそも彼は武器を滅多なことがない限り使わないのだ。

 

 

「君は…誰だ!」

 

「アマゾンに話すことなどない。消えろ。」

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)STRIKE(ス・ト・ラ・イ・ク)-

 

 

左手を使ってインジェクタースロットを操作しネオアマゾンズドライバーを装着するアマゾンライダーのキック技 アマゾンストライクを発動させようとするニューアルファ。

 

左足を軸足として右足のフットカッターでニューオメガに斬りかかろうとした時、福田隊とはまた別の部隊がニューアルファに向けて発砲した。

 

ニューアルファはバランスを崩し倒れる。ニューオメガは後ろに下がって銃を撃った部隊の方を見た。そこから1人全速力で走ってくる女性。望だ。

 

 

「おらぁ!お前何やってんだ!」

 

 

自分の方に来るかと思わず手で顔を覆っていたニューオメガ…の方ではなく起き上がろうとするアナザーオメガの方に蹴りを入れる望。

 

 

「いてえ!」

 

「煌!先に行くんじゃねぇ!勝手なことすんなよ。」

 

「す…すいません。副隊長!」

 

「ふ…副隊長?」

 

 

ニューオメガの驚く声を聞いて望は声をかける。一方のニューアルファは姿勢を立て直すと今度はアナザーオメガに襲い掛かろうとするも、二宮隊と福田隊がニューオメガとアナザーオメガを囲むような陣形を取った。

 

 

「…ここまでか。」

 

 

ニューアルファは冷気を放ちながら緋彩に戻った。

 

 

「待てよ!緋彩!」

 

 

アナザーオメガも少年の姿に戻り声をかけるも、緑色のジャンサーチャーをしたジャングレイダーに乗ってあっという間に去っていった。

 

それを追いかけようとする少年だったが三崎がその首根っこを掴む。

 

 

「おいこら!なーんで坊ちゃんに襲い掛かったりしてきたんだよ!」

 

「うるせえ!俺はアマゾンを1匹残らず狩るんだよ!。」

 

 

どこかで聴いたことがある台詞。この煌という少年にしても先ほどのアマゾンにしても仁の影を悠に見せてくる。千翼を狩った日から数度戦ったが、最近はパッタリと姿を見せなくなってしまった。

 

 

「お前いい加減にしろ!悠は駆除班の仲間だ!手出したらウチが許さねえからな!」

 

望の一声で静かになる少年。

 

 

「それと、このメンバーで行きてえとこがあんだけど。」

 

 

運転手の加藤はその場所を聞くことなくナビの目的地を検索履歴に残っている霊園に設定した。

 

 

 

 

 

 

 

緋彩は賀閣製薬の本社ビルに着くと社長室へと直行した。34階にエレベーターが到着し扉が開くと金と黒で荘厳な雰囲気を醸し出している廊下が一直線にある。

 

その先の扉を開けば秘書室があり、そこをさらに抜ければようやく社長室…というわけだ。

 

社長室の扉をノックすると目黒の声がした。扉を開けると険しい皮をした目黒が社長室の椅子に腰をかけている。

 

 

「言いたいことはわかるね。」

 

「はい、申し訳ありません。」

 

「分かっていればいいんだ。今回は溶原性や寄生型ではなく野座間のアマゾンだったしまぁいいとしよう。それにしてもまさか賀閣製薬(われわれ)野座間製薬(あいつら)の二の舞になるとはね。」

 

「…。」

 

「君に言っても仕方がないことか。」

 

「…失礼します。」

 

 

出口に向かおうとする緋彩を引き留める目黒。

 

 

「分かってるよ、緋彩くん。彼に関しては安心したまえ。」

 

「…はい。」

 

 

緋彩は社長室の重い扉を開け出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

三崎は”志藤家”の墓石に水をかけ、その間に望は火をつけた線香を香炉皿に置いた。2人が手を合わせそれに続いて駆除班の面々が手を合わせていく。

 

最後に煌も手を合わせるが知らない人の墓に参るというのはどうも釈然としないようだ。

 

 

「あの…誰の墓なんすか?」

 

 

バンに戻る道の途中で二宮に尋ねる煌。

 

 

「高井くんが前に入っていた隊長のだ。」

 

「アマゾンに喰われちゃったんすか?」

 

「いいや、アマゾンになっちゃったんだよ。」

 

 

後ろにいた三崎が珍しく真顔で答える。

 

 

「それって…溶原性細胞とかいう?」

 

「うん、溶原性細胞のオリジナルのアマゾンと戦った時の傷が原因でね。」

 

「それで…。」

 

「狩ったよ、僕が。」

 

 

三崎の隣で歩く悠が自分の手を見つめながら言う。煌は腕組みをしながら悠の目の前で立ち止まった。

 

 

「やっぱアマゾンってろくな奴がいねえな。アマゾンになっちまったとはいえ仲間だったんだろ!どこかに閉じ込めておくだとかもっとあっただろーが!」

 

 

望が煌を殴ろうとすると、福田が望の前に入って煌の頬を思いっきり殴った。

 

 

「いって…。何すんだ!」

 

「…志藤さんはこうなることを望んでいた。」

 

「はぁ!?」

 

 

殴られた勢いで地面に転がっていた煌に若槻が手を差し伸べて立ち上がらせた。

 

 

(なんなんだよ、こいつら。)

 

 

煌はノザマペストンサービスに着くまで納得がいってない様子。

 

一方の望はようやく志藤に会えたことへの安心感と最期の瞬間傍にいることが出来なかったことへの後悔の気持ちの両方を感じながら帰りの車内はずっと黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

街の中に流れる川のほとりに洒落たカフェテリアがある。そのテラスでは男女をはじめとする数組の客が景色とコーヒーを楽しんでいた。

 

テラスの中にあるカウンター席に座るサラリーマン風の男の元に彼が頼んだアイスコーヒーが運ばれて来た。

 

彼は絶品だと評判のアイスコーヒーがいかほどの味か仕事ついでに確かめようと思ったのだ。一口飲んでみるとその熱さに思わず声が出てしまう。

 

 

「あっち!おいおい、アイスって頼んだだろ!」

 

「え…確かにアイスコーヒーをお持ち致しましたが…?」

 

「はぁ?これ触ってみろよ!すごく…あつ…い…?」

 

 

右手から熱が発せられている。コーヒーが熱いのではない。今自分の手が熱気と共に別の生き物のような相貌に変わってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ノザマペストンサービスのアジトに置かれたパソコンから機械音が流れる。長くここから離れていた望にとっては懐かしい音だ。

 

 

「はい、駆除班。」

 

『アマゾンの通報です。場所はN地区M川のほとり。カフェテリアにて客がアマゾン化した模様です。』

 

「溶原性か?」

 

『それはまだ確認できていません。』

 

「了解。だそうだ。」

 

 

加藤が通信を切ると全員で行けば機動力に問題があるということで福田が全員に指令を出した。

 

悠と煌は当然出撃。狙撃担当の福田と美月、物理攻撃担当の望と若槻が現場に行く。一方の二宮と加藤、そして片腕というハンディを持つ三崎はアジトで待機することとなった。

 

 

「二宮、情報を逐一報告してくれ。溶原性か寄生型かで戦い方が変わってくるからな。」

 

「了解。よろしくお願いしますよ。」

 

 

福田隊の運転手だった加藤が待機となればバンを運転できるのは隊長である福田だけとなる。ジャングレイダーに乗る悠以外は申し訳ない顔をしながらバンの後ろから乗り込み、福田は運転担当に戻ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

組織というのは巨大な力となり得るが、巨大であるがゆえに身動きがとりにくくなったり、情報の共有が遅れてしまうことがある。しかし今の4Cは約10年前に使っていたオフィスで十分間に合う機関となりかえって身動きがとりやすくなった。

 

…と札森は納得していた。4Cという機関でまともな昇進が可能な役職といえば局長だろう。5年前は臨時の局長代理になった時もあったが、結局前局長である橘が戻ったことでただの副隊長になり下がってしまった。

 

今や札森は局長となった。こんな小さなオフィスの一機関の局長に。

 

 

「ハーア…。ま、今の方が楽でいいけどね。」

 

 

5年前、座り心地が良さそうに見えた椅子は対していいものではなかったが、とりあえずは今の状況に納得している。部下は両手の手で数えるくらいの数ではあるがアマゾンの駆除率は格段に上がっている。

 

 

「そろそろついたー?」

 

『あと3分で到着予定。』

 

「りょうかーい。野座間が来る前にお願いしますよーっと。」

 

 

この無機質な返事には聞き飽きたが絶対服従をするシグマタイプのアマゾンにはかなり満足している。これまで見た中で命令に従わなかったシグマタイプのアマゾンはいなかった。あの男でさえ今は自分の言うことを素直にきく。

 

 

「あ、イユは逆らってたか。」

 

 

1人の暗いオフィスの中、札森は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

笑顔にあふれていたカフェテリアはキノコアマゾンによって血生臭い惨劇の現場と化した。血が抜かれた人々の死体があちこちに転がっている。

 

最初に現場に到着したバンには”4C”のステッカーが貼ってある。中からサングラスをかけた屈強な男たちが6名ほど降りてきた。

 

 

「ヴウウ…?」

 

 

キノコアマゾンはその者たちの臭いが自分と同じアマゾンであることに気が付いたようだ。不思議そうな素振りを見せる。

 

 

「ターゲット確認」

 

「対象を抹消します」

 

 

隊員たちがそれぞれ呟きはじめ、左腕の袖を捲り上げた。それぞれの腕につけられているのはネオアマゾンズレジスター。

 

かつてイユが使っていたものとほぼ同様のものだ。技術の発達によって今やアマゾンズドライバーで変身したアマゾンとほぼ同じスペックを装着者にもたらすことが出来る。

 

 

「「「「「アマゾン」」」」」

 

 

5人の隊員がネオアマゾンズレジスターのクチバシ状のスイッチを押し込むと一斉にアマゾン化が始まる。

 

全員アマゾンシグマとうり二つの姿をしたシグマアマゾンはアマゾンズドライバーは当然腰には巻かれていない。ネオアマゾンズレジスターのランプは赤を示している。

 

そして最後の1人がネオアマゾンズドライバーを腰に巻きながら前に出てきた。男の右耳にはめられたワイヤレスタイプのイヤホンから札森の声がする。

 

 

『じゃあお願いしますよ~。黒崎隊長~。』

 

 

黒崎はサングラスを取りアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーに装填し、内部の液体を注入する。

 

 

-NEW(ニュ・ー)SIGMA(シ・グ・マ)-

 

「アマゾン」

 

 

紫色の炎をあげながら黒崎の体が変化していく。紫色のバイザーにニューラングアーマーを身につけたアマゾンニューシグマに変身を遂げた。

 

 

「狩り、開始」

 

 

ニューシグマの声に反応してシグマアマゾンたちがキノコアマゾンを囲むような陣形を取る。

 

キノコアマゾンがあたふたと周りを見回している間にシグマアマゾンたちは引っかき攻撃や噛みつき攻撃を繰り出す。キノコアマゾンの体からは血が噴き出し、シグマアマゾンたちの目にこべり着く。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューシグマの右腕にアマゾンネオブレイドが召喚される。さらにインジェクタースロットを操作して必殺技が発動。

 

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)BREAK(ブ・レ・イ・ク)-

 

 

腰を低くして構えたニューシグマは驚異の跳躍力でキノコアマゾンに斬りかかる。胴体が半分に割れその死体の中から同じく半分に割れた人間の死体が出てきた。

 

 

「…ターゲット沈黙。寄生型アマゾンだったと思われる」

 

『あー面倒だなあ…。ま、うまいことやっとくんで。じゃあ帰ってきてくださ~い。』

 

 

札森の指示を聞いてアマゾンズインジェクターを取りニューシグマから黒崎の姿に戻った。周りのシグマアマゾンたちも冷気を放ちつつ人間の姿になり、アマゾンとサラリーマンの男の死体を踏みつけながらその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

アジトで待機していた加藤のインカムに福田から通信が入った。

 

 

『二宮、いるか?』

 

「二宮隊長は今席を離れてます。」

 

『加藤か。まぁいい、たった今現場に到着した。既に駆除は終わっている。やり方から見て4Cだろうな。』

 

「シグマ隊ですか…。それで対象は?」

 

『寄生型アマゾンだった。コアごとやられている。』

 

「相変わらず手段を選びませんね…。了解しました。水澤本部長に報告しておきます。」

 

 

加藤は福田からの通信を切るとすぐに”水澤令華”と書かれたボタンをクリックした。

 

 

『はい、水澤です。』

 

「こちら福田隊 加藤です。たった今、福田隊長から連絡がありました。着いた頃には4Cによって寄生型アマゾンが駆除されていたようです。」

 

『寄生型…ということは人間ごとですか。』

 

「はい、とりあえずこちらに帰還するそうです。」

 

『わかりました。ご苦労様。』

 

 

令華は野座間製薬役員フロアの廊下を歩きながら通話を切った。手には寄生型アマゾンの資料が握られている。

 

寄生型アマゾン。溶原性細胞によって現れたアマゾンが野座間製薬が開発したワクチンによって覚醒を防がれた辺りから現れ始めたアマゾンだ。

 

その名の通り、生き物に寄生することで生きるアマゾン。最大の特徴は寄生される対象が生きたままであることだ。養分を吸い取りつつ宿主を蝕み続ける子のアマゾンは何としても駆除しなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

旧4Cビルのほとんどは衛生省関連の別機関によって管理されている。しかし研究棟のみシグマタイプのアマゾンの管理のために今も4Cが所有しているため、札森もそこへ向かった。

 

研究棟の中は寂れた外観とは相対して多くの研究者たちによって賑わっている。存在が世の中に明らかになってアマゾンに関する研究をする者も増えたことが影響しているだろう。

 

担当の研究者が札森を迎え入れシグマタイプのアマゾンを管理する部屋に案内した。

 

 

「じゃあまだ作れそうすか?」

 

「はい、毎日全国の拘置所から遺体が運ばれてきますのでそれにアマゾン細胞を移植し続けています。大半は拒絶反応が酷くて肉体が使い物になりませんが…。」

 

「それでも十分すよ。んでネオアマゾンズドライバーを使えそうなやつは?」

 

「駄目ですね。とても作れる気がしませんよ。なぜ黒崎が使えるのかすらわかっていませんから。」

 

 

やはり無理かと札森は落胆する。ネオアマゾンズドライバーを今まできちんと使えたのは千翼と悠だけだ。天城や商は結局副作用によって苦しんでいた。

 

千翼のデータは4Cに残されていたが悠の情報は少ないため、ネオアマゾンズドライバーを使えるものの特徴は未だにわかっていない。

 

数年前、アマゾンとの戦いで黒崎が死にその遺言によって黒崎はシグマタイプのアマゾンとして利用されることとなった。

 

一方悠によって回収されたネオアマゾンズドライバーは4Cによって引き取られ、それを改造することで黒崎の体質に合わせたものになった。

 

そうは言ってもシグマタイプのアマゾンが皆ネオアマゾンズドライバーを使えるわけではない。むしろ使用可能なものなど珍しいのだ。

 

黒崎は何の拒絶反応を起こすことなくそのネオアマゾンズドライバーを使ってニューシグマへと変身し駆除を続けている。

 

札森はオフィスに帰り机の中にしまってある血だらけの封筒を取り出した。封筒のあて名の部分には”遺書”と書かれている。黒崎が駆除に行く際にいつも胸ポケットに入っていたものだ。

 

――これを読んでいるということは俺が死んだということだろう。俺の死後、もしオリジナルから直接入った溶原性細胞が覚醒することなく俺が死んだとしたら俺の死体をシグマタイプのアマゾンにしてもらいたい。そして4Cの戦力として俺を使え。それがイユや千翼を利用し続けてきた俺の責任だ。――

 

札森は鼻で笑いながら再び便箋を封筒へ入れて机へしまった。

 

 

「自分をアマゾンにしてほしいとか…。どうかしてるな。」

 

 

札森は窓から曇り空を眺めていた。

 




こんばんは、エクシです。
新しい章になるということでモチベーションが高まっております笑

アマゾン増えましたねー。謎なアマゾン増やしすぎたかもw
とりあえず整理しておきますね。

アマゾンニューオメガ…水澤悠。所属組織は野座間製薬。
アマゾンアルファ…鷹山仁。行方不明。
アマゾンアナザーオメガ…謎の少年。所属組織は野座間製薬。
アマゾンニューアルファ…変身者不明。所属組織は賀閣製薬。
アマゾンニューシグマ…黒崎武。所属組織は4C。

アマゾンニューシグマの正体、それはシグマタイプのアマゾンとなった黒崎です。最終回で銃を置いた黒崎ですが自分の責任、義務…あらゆるものを背負って新種アマゾンを駆除し続けていた黒崎は死んだ後も戦っていました。

ところで突然現れた”賀閣製薬”とは…?ってなりますよね。
少し捕捉させてもらいますと賀閣製薬は野座間製薬に続いて業界シェアNo.2を誇る企業でした。トラロック事件以降は野座間が事業縮小したのでNo.1になりましたが、再び野座間が溶原性ワクチンの開発によって息を吹き返したのでNo.2にランクダウン…というわけですね。社長は目黒社長です。

また志藤は戦いのさなか、覚醒してしまい悠によって駆除されています。クラゲアマゾンに風穴を開けられ、最後の戦いでも傷ついていた分覚醒が早かったのかもしれませんね。

大事な主要キャラではありましたが、5年間という長い期間を際立たさせるためにもこういうことにしておきました。

ちょっとモチベが下がっていて更新が遅れがちですが頑張りたいのでコメやお気に入り、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2「Opponent」

アマゾン。それは敵対者たち。ついに寄生型アマゾンを宿主ごと駆除することに決めた野座間製薬。その意見に納得しかねる駆除班の面々に対し悠と煌が選んだ道とは…。


死にかけている緋彩の腕に注射器が刺さる。中学生になっても注射が嫌いだった緋彩で打たれるとなれば泣きだしてしまうような女々しさだったので今は意識を失っていることが幸いしたかもしれない。

 

それにしてもここはどこなのだろう。どこかの学校…いや大学に連れてこられたようだ。多くの試験管やフラスコが置かれているがここしばらく触れられた跡はない。

 

妙に冷静でいられるのはなぜだろうか。自分をここまで連れてきたのはアマゾンであるのに。施設の子供たちが変貌し同じ子供を喰らっていたあのアマゾンと…。

 

思い出しただけで震えが止まらなくなってくる。注射器を置いた男が煌の傍に寄ってくる。

 

 

「大丈夫…大丈夫だ。」

 

 

 

 

 

 

 

煌が目を覚ましたのはノザマペストンサービスのアジトだった。ビールの缶があちこちに転がっておりそれを避けながらトイレに入る。

 

あの日の夢を見るのは久しぶりだ。緋彩も同じような夢を見ることはあるのだろうか。

 

そんなことを考えながら煌は便座に座った。

 

 

 

 

 

 

 

会議室から令華は真っ先に出てきた。寄生型アマゾンをどのように駆除するか。その議論がここ数か月の議題であった。

 

寄生型アマゾンは宿主が生きている状態で肉体を支配していく。生きている人間ごと殺してしまうのが一番手っ取り早い駆除方法であるが、駆除班の者たちがそんな命令に従うはずもない。

 

初めはその命令を押し通そうとしていたものの、最近は悠や美月の強情っぷりに圧倒され口を出すのをやめていた。

 

しかし宿主を傷つけないようにしようとするため、寄生型アマゾンの駆除率は4Cに比べ抜群に悪い。「口を出しても無駄」などと言っている場合ではないのだ。

 

4Cよりも優れていることが世間に証明されなくては再び事業縮小も避けられまい。令華はスマートフォンのアドレス帳からノザマペストンサービスをタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

『私です。皆さんにお話があります。』

 

 

加藤は指示通りハンズフリーにして二宮隊、福田隊の隊員たち全員に令華の声を聞こえるようにした。

 

 

『この度役員会議で寄生型アマゾンの駆除方法が決定しました。”宿主ごと駆除”とのことです。国の方にも許可を取ってあります。』

 

「そんな…待ってよ、母さん!」

 

『これは決まったことです。しないというのであれば新たな駆除班を再編することも視野に入れる…とのことです。』

 

「そんな…。」

 

『現場にいる皆さんがご存知の通り、寄生型アマゾンを宿主から引きはがすことは大変難しいです。強引に引きはがそうとすれば宿主の皮膚、臓器に影響が及び十中八九それが原因で宿主は死にます。』

 

「それをどうにか出来るようにって私たちは言っているの!」

 

 

美月は思わず立ち上がって顔の見えぬ母に向かって言う。

 

 

『どうにか出来ていればやっているわ。それが出来ないからこうして命令しているのでしょう。』

 

「…1つ聞きたいことがある。」

 

 

福田が話すと皆が福田の方を向いた。

 

 

「アンタは寄生型アマゾンに寄生されたら…自分ごと駆除されることについてどう思う?」

 

『……自分の体で人を喰うのを見なくてはならないのであれば駆除を望みます。』

 

「…そうか。」

 

 

令華からの電話が切れた。そこにいる誰もが結論を導き出せない様子だ。

 

 

「うっ。」

 

 

座っていた三崎が横に倒れ込んだ。どうやら熱があるようだ。昨日はしゃぎ過ぎたせいだろうか。電話の内容についてみんなで話すことはせず布団を出して三崎を寝かせた。

 

三崎が眠ってからしばらく経たないうちにアマゾン目撃の通報が入る。場所はK地区、工場が多い地点だ。辺りにガソリンなどが積まれている恐れがあったため、圧裂弾を持たずに前回の出撃メンバーで現場に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

賀閣製薬の4階は研究室エリアとなっている。緋彩はそこで体内のアマゾン細胞の観察と調節を行っていた。

 

ベッドに横たわり数本のチューブが緋彩の体に繋がれている。しばらくして研究員の1人が寝ている緋彩を起こした。

 

 

「調整中すまないね。社長がお呼びだ。」

 

「ん…、わかりました。要件は?」

 

「アマゾンだ。」

 

「…行きます。」

 

 

緋彩が起き上がるとその拍子に体からチューブが抜け落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

目撃情報があったところに駆除班が到着した。今回バンで待機してアジトと現場の橋渡しとなるのは福田だ。志藤の班にいた頃は毎回その役割だったことを思い出しながら運転席で本を開いた。

 

それ以外のメンバーは円形の陣を作りながら工場帯に入っていく。若槻と望はサバイバルナイフを構え、美月は短機関銃の弾を装填しながら移動する。

 

悠と煌はそれぞれ自身のベルトを装着した時、石鹸工場の窓ガラスが割れると共に中からゾウアマゾンが飛び出してきた。

 

音と共にその方向を向いた一同は飛び散る破片を避けつつゾウアマゾンに向けて攻撃を放つ。

 

 

「このタイプ…溶原性のアマゾンです!」

 

「あぁ、ってことは容赦する必要はねえ!」

 

 

と言っても元は人間なのだが…。アマゾンとなり人間を喰らうようになってしまった存在を今から救うことは出来ない。悠はアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーに装填し、煌もアクセラーグリップを捻った。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「アマゾン…!」

「ウォオオオ!アマゾンッ!」

 

-EVOLU(エヴォリュ)EVO(エヴォ)EVOLUTION(エヴォリューション)!!-

 

 

2人の体から緑色のエネルギーが吹き荒れる。悠の方は球体エネルギーを周りに作り出し装甲を構築した。

 

アナザーオメガとニューオメガの姿になる頃にはゾウアマゾン以外のアマゾンも現れる。駆除班のメンバーは円形の陣をより小さくした。

 

 

「…!近づくんじゃねえよ、アマゾンが!」

 

「君だってそうでしょ。それにこの数のアマゾン…、気を付けなきゃやられるよ。」

 

「先輩ぶんじゃねえ。行くぞぉ!」

 

 

アナザーオメガはアマゾンズドライバーのバトラーグリップを引き抜きアマゾンサイズを生成し敵の方へ駆けていく。

 

 

「おい!煌!先走んな!」

 

「若槻さん、さっさとやらないと俺が全部狩っちまいますよ。」

 

「それは困る…今月は金が必要だかんな。行くぞ!」

 

「待ってください!連携しなくちゃ…。」

 

 

美月の制止を振り払ってアナザーオメガと若槻はアマゾンたちに襲い掛かっていった。それに続いてニューオメガらも2人を援護する形で参戦する。

 

アナザーオメガがアマゾンサイズを振り下ろしながらアマゾンたちを切り裂いていく。望は怯んだアマゾンたちの腹部にチェーンソーのような刃がついたレガースで蹴りをいれ内臓を切って大量の黒い血液を噴き出させる。

 

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューオメガはアマゾンネオクローを右手に作り、遠くにいるアマゾンたちを近くに引き寄せた。その間に美月はアマゾンたちの体に弾丸を撃ち込む。比較的接近してきたところでサバイバルナイフでアマゾンたちの頸動脈を切っていく若槻。

 

倒れていくアマゾンは続々と硬直していき残りは片手で数えられるほどの数になってきた。その旨を望は福田に連絡を入れるも返事が返って来ない。アジトと連絡を取っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

うなされながら三崎は布団にくるまっている。二宮は何かの用事で外に出てしまい、加藤がパソコンの前で待機している。そもそも加藤は戦闘に向いているタイプではなかったのでこちらの仕事の方が本人としてもよかった。

 

志藤、若槻と共に約5年前まで全国を回ってアマゾン駆除をしていた時も車の中で待機し状況をまとめる役目を果たしていた。

 

志藤…。

 

優秀な男だった。リーダーシップに溢れ決断力も人望もあった。自分が持っていないものをすべて持っているような男、それが志藤だった。

 

しかし彼に憧れたことはない。自分は自分だと考えていたし、ああいう立場の人間はああいう立場なりに大変なことがあるのだろう。それでなければアマゾンなどに関わったばかりに死ぬことなく、旭日章を背負って今でも働いていたはずだ。

 

ただ自分は楽な所にいて楽に生活できればいい。仕事では楽をして休みの日は気楽にゲームをして…そんな普通の生活が出来ればいい。

 

今日も帰ったら新作のゲームを進めなくては…、腕がなる。

 

そんなことを考えている間、加藤は三崎の体から蒸気が発されていることに気がつかなかった。

 

 

「え?」

 

「かと…う…!にげ…ろ!」

 

 

三崎の体は溶原性細胞の覚醒によってヤゴアマゾンへと変化していく。

 

ただ楽にこのアマゾンが蔓延る世の中で生きていたかった、ただ何も知らずに生きていくのではなく、アマゾンと戦う者たちの傍にいて守られながら生きていきたかった。

 

しかし今加藤を守るものは誰もいない。武器を手に取ることなくインカムのスイッチを入れて福田に助けを求めようとした加藤の心臓をヤゴアマゾンはかぎ爪で突き刺していた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい!加藤!くそ…!」

 

 

加藤の断末魔が聞こえ福田はアジトで何かが起きたことが分かった。現場からも連絡が入っている。

 

 

「こちら福田!どうした!?」

 

『高井だ。こっちはもうすぐ終わる。通信してたみたいだけどアジトで何か?』

 

「加藤の身に何かあったのかもしれん、悠と望は車に戻れ。アジトに戻る!」

 

 

望はすぐにニューオメガにその旨を伝えるとニューオメガはネオアマゾンズドライバーを取り外し悠の姿から戻って車へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

悠たちはボロボロの内装なったアジトを見て愕然とした。崩れているあちこちの棚、壊された机、心臓を引きずり出された後のある加藤の死体、そして部屋の奥でかぎ爪に突き刺さった臓物にしゃぶりつくアマゾン。

 

アマゾンの下半身には今朝まで三崎が履いていたジャージが身につけられている。

 

 

「お前…。」

 

「三崎さん…。」

 

「嘘…だろ…?」

 

 

3人の驚きは最もだろう。しかし何度も仲間を失ってきた彼らに取って哀しい慣れ…とでもいうべきものなのだろうか。望はサバイバルナイフを、福田もスナイパーライフルを構えて悠は再びネオアマゾンズドライバーを装着した。

 

 

「僕が…僕がやります。」

 

「悠…。」

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「アマゾンッッ!!」

 

 

ここまで力んだ掛け声は久しぶりだ。ニューオメガはアームカッターをヤゴアマゾンの元へ飛びかかりながら振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

ジャングレイダーが先ほどまで戦闘が行われていた工場に辿りついた。緋彩はメットをハンドル部分にかけて周りを見回す。

 

向こう側に野座間製薬の清掃班が文字通り清掃を行っているのが見えた。彼らにばれない等にアマゾンの死体と思われる固形物を見るためにしゃがんだ。

 

溶原性細胞によって生まれたアマゾンは死ぬと実験体のアマゾンと異なり固形物へと変化する。チェーンソーなどでないと破壊できないほどの強度のものとなるはずだが緋彩の足元にあった死体の一部にはスライム状の物質がこべり着いている。

 

 

「やはり寄生型…。」

 

 

緋彩はスマートフォンを取り出し目黒の電話に連絡をする。溶原性細胞と寄生型アマゾン細胞。その2つが合わさった時にどうなるのか、研究室長が喜びそうなネタだと緋彩は思った。

 

 

 

 

 

 

 

ノザマペストンサービスの事務所とされていたアジトは今回の一件で使えなくなってしまい、悠たちは野座間製薬会長である天条隆顕の屋敷に身を置いていた。

 

和室の部屋ながら洋風な家具を置くセンスは天条らしさを感じさせる。まもなくして令華が駆除班らが待機していた部屋へ入ってきた。

 

 

「久しぶりね、悠。」

 

「…。」

 

「…美月も。」

 

 

ついでのように扱われるのは慣れている。何から言うべきか迷う美月を遮って福田が令華の前に立った。

 

 

「本部長…溶原性細胞でいつかアマゾンになってしまうかもしれないことは俺たちも十分承知している。」

 

「えぇ、そんなあなたたちを戦わせることを許可しました。」

 

「それについてどうこう言うつもりはない。ただこんな悲劇をもう繰り返させないためにも全国に駆除班を作って一刻も早くこの事件を解決する努力をお願いしたい。」

 

「わかっています。出来るのならもうしていますから。」

 

 

そういうと令華は部屋の外へ出ていった。そう、自分たちはアマゾンになってしまうかもしれないことを覚悟の上で狩りを続けている。しかしこの事件が解決する目安は未だに立っていない。そればかりか寄生型アマゾンなどというまた新たなタイプも生まれている。

 

仲間を失いながらこのような鼬ごっこを繰り返していいものなのだろうか。

 

 

「三崎さん…僕に最後…最後だけ意識を取り戻して言ったんです。」

 

 

悠が喋りはじめその場にいた皆が悠の方を向く。悠の手には三崎がいつも首にかけていた五円玉が握られている。

 

 

「『俺を狩ってくれ…ありがとう』って。アマゾンになって僕が斬りかかった時に。自分が死ぬ時に…殺してくれてありがとうだなんて…。」

 

「…アイツはこれ以上人を殺める前に止めてくれたことを…言ったんだろう。」

 

 

溶原性細胞が体の中で潜んでいる福田と望はその気持ちが分かる。もし自分がアマゾンになって仲間を喰らってしまうとしたら…考えただけでもゾッとする。

 

2人は自分の目線で加藤の心臓を喰らう様子を思い浮かべ身震いした。

 

 

「溶原性細胞に感染して覚醒すればもうどうしようもないことを三崎さんは知ってるのに…あんなことを言えるなんてとても僕には考えられません。でも…もし寄生型アマゾンの宿主なら…意識があるのに自分の体が大切な人を殺めてしまう。それで自分も殺されてしまう。こんな悲劇ありますか!?」

 

「悠…。」

 

 

「僕はそんなこと認めない!宿主ごと殺すなんて絶対にしない!今回の件で決めました。絶対に罪のない人間を殺すことなんてしない!」

 

「…。」

 

 

そういうと悠はその場を飛び出していった。美月はすぐに悠を追って同じく外へ行く。

 

福田は近くにあった椅子に腰をかけた。

 

 

「…俺は逆だ。」

 

「え?」

 

「俺はアマゾンに覚醒したら自分を止めてほしい。どうしようもないのであれば俺は宿主ごと駆除する。こういう仕事をしているからこんな決断が出来るのかもしれないがな。」

 

「ウチも…ウチもそう思う。加藤のような被害者を生むことはもうしたくない。」

 

「福田さん…望さん…。」

 

 

若槻は加藤の死に涙を流しているだけだった。しかし決意をした2人を見て涙をぬぐう。その隣に座っていた煌はなぜこれほど早く決断が出来るのか不思議で仕方なかった。いやむしろ仲間が死んだばかりでなぜそんなことを考えられるのか。

 

 

(緋彩なら…どうするんだろう。)

 

 

煌は椅子から立ち上がり障子を開けた。目の前には美しい日本庭園が広がっている。悲劇が起こった後の午後とは思えぬ快晴であった。

 

 

 

 

 

 

 

外に飛び出した悠の肩を叩く美月。

 

 

「大丈夫?」

 

「うん…ごめん、なんか感情的になっちゃって。」

 

「久しぶりに見たよ。悠がああやって言ってるとこ。離れてる間に…なんていうか…人が死んじゃうことに慣れちゃったのかと思ってた。」

 

「…慣れることなんてないよ。」

 

「そうだね。」

 

 

部屋に戻ろうとした時、2人を引き留めたのは二宮であった。

 

 

「二宮…隊長?」

 

「水澤…とどっちも水澤か。美月くん、悠くん。君たちに会わせたい人がいるんだ。」

 

「会わせたい人?」

 

「誰ですか?」

 

「とりあえず…きてくれるかい?」

 

 

二宮についていくと黒塗りのクラウンが少し離れた道に停められていた。スーツを着用した運転手が白手袋をつけたまま本を読んでいる。

 

助手席に二宮が乗り、悠と美月は後部座席に座った。

 

 

「本社まで頼む。それと社長に連絡を。」

 

「もう既にしてあります。」

 

 

淡々と答える運転手からはどこか加納の雰囲気を漂わせている。

 

 

「本社って?」

 

「賀閣製薬の本社だよ。そこの社長が君たちのような人を欲しがっている。」

 

「どういうことです?」

 

「寄生型アマゾンの宿主とアマゾンを引きはがすことが出来るのだよ。賀閣製薬ならね。」

 

 

 

 

 

 

 

社長室の椅子にはいかにも社長と言わんばかりの口ひげを生やした男が座っていた。その隣には二宮が立っている。

 

 

「私が賀閣製薬社長の目黒です。わざわざ来てもらって悪いね。」

 

「いえ…。それよりどうして僕たちを?」

 

「アマゾン狩りを私たちも始めようと思いましてね。人を集めているんですよ。」

 

 

賀閣製薬 野座間製薬のライバル会社であり5年前に野座間製薬が事業縮小したことで業界No.1の座を手に入れた。

 

しかし溶原性細胞ワクチンの開発に成功した野座間製薬が再び飛躍したことで順位は2位をキープした状態となっている。そこでアマゾン狩りをすることで再び1位に返り咲こうとしているようだ。

 

 

「でも4Cも野座間もやっているアマゾン狩りをして意味ありますか?」

 

 

美月の指摘をよくぞ聞いてくれたという顔で目黒は資料を2人に見せた。

 

 

「これがわが社の開発した分離ロウ成分です。ロウ成分を改良したものでして…」

 

「それは私から説明させてもらおうか。」

 

 

社長室に自動車いすに乗ってきた男が入ってきた。

 

 

「あなたは確か…。」

 

「水澤くんの実験体…久しぶりだね。ここで会うことになるとは。」

 

「どうして局長が?」

 

「ここにいる時点で局長ではないのは分かるだろう。」

 

「彼はわが社の研究室長をやってもらっているんだよ。」

 

 

かつて4Cの局長を務めていた現賀閣製薬研究室長 橘が車いすを操作して悠たちに見せていた資料を手に取った。

 

 

「ロウ成分は覚えているかね?6年前ほど前に問題になったアレだよ。」

 

 

勿論覚えている。最後の最後に戦う意味を見出したアマゾン 尾宿商をはじめとするコッパタイプから抽出されたものだ。

 

アマゾンは本来人間のたんぱく質を欲する本能がある。しかしロウ成分を摂取したアマゾンは本能に従うことなく同種であるアマゾンを喰いたいという”錯覚”を起こしてしまうのだ。

 

 

「それを細胞レベルに働きかけることで寄生型アマゾンに寄生された人間をアマゾンから引きはがすことが出来るのだ。」

 

 

細胞が錯覚させる…ということだろうか。とにかく人のたんぱく質に取りついているアマゾンが錯覚することで人から離れるということらしい。

 

ロウ成分を長くに渡って研究していた橘の執着の結晶とでもいうべきだろうか。

 

 

「とにかくその分離ロウ成分を使えば寄生型アマゾンを宿主を殺すことなく駆除できる…と。」

 

「その通り。そこで私はあなた方のようにアマゾンを狩り続けてきた者を勧誘しているのです。ここにいる二宮も数年前に野座間から密かに賀閣製薬(こちら)へ。」

 

 

なるほど、ノザマペストンサービスに通報が入る度に賀閣製薬側もアマゾンの動きを察知できたのは二宮が裏切っていたからか。

 

 

「悠くん、美月くん。どうかな、賀閣製薬…いや我々に力を貸してはもらえないか?」

 

 

やはりそれを提案してきたか。二宮がにこやかな表情で2人に近づいてくる。美月は思わず後ろに下がりそれを守るように前に出る悠。

 

 

「まだ納得言ってないみたいだね。では研究室にきてもらえるかな、面白いものを見せてあげよう。」

 

 

橘は車いすを社長室の出口に向かわせた。それに続いて悠と美月も部屋を出ていった。残った目黒は社長室の真ん中に置かれたテーブルに資料を置いて二宮に指示を出す。

 

 

「二宮くん、緋彩に彼らが来たことを。」

 

「もう伝えてあります。それと緋彩から工場で覚醒した溶原性のアマゾンたちの体には寄生型アマゾンが取りついていたとの報告です。」

 

「うむ、溶原性細胞が寄生型アマゾン同士の共鳴に刺激され覚醒した…という仮説はやはり正しそうだな。」

 

二宮はニヤリとして一礼すると社長室を後にした。。

 

 

 

 

 

 

 

橘に続いて長い廊下を歩く悠たち。その先に煌と同じぐらいの少年が立っている。

 

 

「緋彩、なぜここに?」

 

「社長が言っていました。かつてあの人と幾度となく戦ったアマゾンが来たと。」

 

「フッ、相変わらず何を考えているのか分からない男だ。まぁいいだろう、紹介しよう。彼が人間の細胞を持つアマゾン 水澤悠くんだ。」

 

 

橘は車いすを広い廊下の端へ寄せた。美月も雰囲気を察してすり足で端へ寄る。緋彩はネオアマゾンズドライバーをアタッシュケースから取り出して装着した。

 

 

「それは…!」

 

「あなたも持っているんでしょ。力を見せてくださいよ。」

 

 

悠も斜めがけのバックからネオアマゾンズドライバーを取り出して装着、そして2人ともアマゾンズインジェクターを装填した。

 

 

-NEW(ニュ・ー)ALPHA(ア・ル・ファ)-

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「…アマゾン!」

 

「アマゾン…!」

 

 

2人から赤と緑のエネルギーが放出される。ニューアルファとニューオメガ、2体のアマゾンが駆けていきパンチを繰り出す。

 

攻撃をかわしその隙をつこうとするもお互いに相手の動きを読もうとするあまり中々急所に命中しない。

 

 

「なら…!」

 

-NEEDLE(ニ・ー・ド・ル)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューアルファの右腕にアマゾンネオニードルが出現しそれをニューオメガに向けて放った。弾丸がニューオメガの左肩を貫く。

 

 

「グッ…!」

 

 

かつてのニューオメガならばこれほどの傷はすぐに治ったが、最近なかなか治りが遅い。

 

と言い訳をしている場合ではない。ニューオメガは動かしにくい左手でアマゾンズインジェクターを操作する。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューオメガはアマゾンネオブレイドを生成しニューアルファの攻撃を弾きながら接近戦へと持ち込む。

 

強化された胸部ではなくなるべく関節部分を狙って斬撃を繰り出す。一方のニューアルファも左腕のアームカッターでアマゾンネオブレイドを抑えつつフットカッターで腹部ごと切り裂こうとした。

 

しかし軸足にしていた左足に急に力が入らなくなる。

 

 

「!?」

 

 

崩れるニューアルファ。それと共に橘が2人の戦いを止めた。

 

 

「見事だ、悠くん。まさか緋彩を本当に倒してしまうとは。」

 

「いや、僕は…」

 

「そんな君に見せたいものがある。来たまえ。」

 

 

ニューオメガとニューアルファは冷気を放ち元の姿へと戻る。悠と美月は橘の後を追うように奥へと向かった。緋彩は自身の左足をさすりながら立ち上がり自室に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

「あのアマゾン…緋彩って言いましたよね。何者なんですか?]

 

 

橘が扉の指紋認証をしている間に悠が尋ねる。

 

 

「まさかまたシグマタイプを…!」

 

「それは違うよ、水澤美月くん。確かに私は5年前、溶原性細胞によって発生した新種アマゾン完全駆除を目的として新たなシグマプロジェクト シグマ隊の組織化を国に提言した。しかし私が在任中には結局それは実現されなくてね。」

 

「じゃあ一体…?理性は保ってるし。」

 

 

指紋の次は網膜のようだ。とても厳重な警備の施設を入っていくようで何が管理されているのかとても興味があるが、今は緋彩の正体の方が気になる。

 

 

「緋彩は…君たちもよく知る男にアマゾンにされたのだよ。」

 

「よく知る…男?」

 

「鷹山仁、彼だ。」

 

 

 

 

 

 

 

仁は左目にしていた眼帯を水で洗っている。眼帯とはいっても医療用の物ではなく手ぬぐいを千切って作ったものだ。

 

 

「ふぅ…結構汚くなってたな。」

 

 

仁の右目は千翼を手にかけてしばらくした頃に治り始めた。逆にアマゾンでありながらここまで再生しなかったのは珍しいことだったが、元が人だったからだろうか。

 

または溶原性細胞のオリジナルに関することのかたを付けられたから自分を見守ってくれている七羽からの選別だろうか。

 

右目が正常に見えるようになって数年前よりは見た目も清潔感がある。服も変えるようになったし、自分で飯の調達も出来るようになり栄養のバランスも抜群であるため肌にも艶が戻った。

 

何よりアマゾンとの戦闘が極端に少なくなったことが仁にとって健康でいられる要因だろう。溶原性細胞のワクチンが世に出回ってから随分溶原性細胞の覚醒はなくなった。

 

ワクチンを接種すれば覚醒することはほぼありえないというのだ、そのようなものを作れるならば初めから作っていてほしいものだ。

 

 

(まぁあのじいさんなら5年前は敢えて出さなかったってこともあるな。)

 

 

綺麗になった眼帯を左目につけて強く固結びにした。ワクチンを接種していない溶原性細胞の感染者を再び見つけるために荷物をもって歩いていこうとした時、近くから子供たちの悲鳴が聞こえた。

 

それは養護施設…なのだろうか。イースヘブン園と書かれた看板が掛けられている。なぜ中から悲鳴が上がっているのかは見るまでもない。中からアマゾンと人の血の臭いがプンプンする。

 

仁はアマゾンズドライバーを腰に巻いてアクセラーグリップを捻った。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「…アマゾン!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

右目が緑、左目が白のままのアルファに変身した仁は正門を飛び越えて溶原性細胞の感染者たちをアームカッターで斬っていく。

 

そもそもの人間の体が未成熟であったことが”幸いして”それぞれの個体はそこまで強くはない。駆除班のランクで示すならEかDといったところだろう。

 

 

「やめろぉ!来るな!くそ!千翼!千翼ぉ!」

 

 

園内からした声にアルファは思わず振り向いた。

 

 

「千翼!?」

 

 

意識することなく聞こえた声の方へ飛び込んでいくアルファ。子供たちを襲うアマゾンの心臓を一突きにすると気絶しかけている子供にもう1人の子供が声をかけているのが聞こえた。

 

 

「もう大丈夫!もう大丈夫だ!」

 

 

まだ人間の子供がいたのか、だが気絶しかけている方はもう助からない。腕の皮膚が剥がされてしまっており、アドレナリンが出ているためそこまでの痛みを感じていないようだがいずれにせよすぐ病院に運んだとしてもこんな田舎では到着する前に絶命するであろう。

 

アルファはその少年を諦め再び残ったアマゾンを狩るために外へ飛び出していこうとした。

 

 

「千翼!千翼!」

 

 

まただ、その倒れた少年をその名前で呼んでいる。

 

 

-VIOLENT(バイオレント)SLASH(スラッシュ)-

 

 

アクセラーグリップを捻ることで強化されたアームカッターで相手を切り裂くバイオレントスラッシュが起動する。

 

アルファはアマゾンたちの方向へ飛びかかりアームカッターで全員の首を切り裂いていった。

 

 

「千翼!千翼!」

 

 

アルファはアマゾンズドライバーを外して仁の姿に戻ると倒れた少年の元へ駆け寄っていく。

 

 

「千翼…というのか?」

 

「違えよ、緋彩だよ。」

 

 

千翼…緋彩…。なんだ、聞き間違いか。それに自ら手をかけた息子の名前になぜここまで…。

 

 

「…こいつはもう助からない。」

 

「ハァ!?ふざけんな!目の前でコイツに死なれたら…胸糞わりいんだよ!コイツは…俺の友達なんだ!同じ施設の友達なんだよ!」

 

 

今手の中にいる少年は死にかけている。緋彩、息子の名前の響きとよく似たこの少年…。

 

仁はいつの間にか始の研究室へ緋彩を連れていっていた。星埜始、自分のせいでハゲタカアマゾンへと変貌し家族を失った男。彼の研究室の写真を見るとオリジナルを駆除したことは正しかったと自身を正当化出来る。

 

研究室のソファに緋彩を寝かすと傍に置いてあったナイフで自身の皮膚片を切り取った。

 

そして注射器を取り出して自分の静脈から血液を抜き始めたとき、扉が開いて緋彩の傍にいた別の少年が入ってきた。

 

 

「なんでついてきた。来るなといったろ。」

 

「ふざけんな、緋彩が殺されちまうかもしれねえだろ。俺がお前を見張ってんだよ。」

 

「偉そうだな…。お前、名前は?」

 

「…煌。」

 

「そうか。じゃあ煌、お前に1つ頼みたいことがある。今から緋彩は人間として死ぬ。」

 

「はぁ!?」

 

「アマゾンになるんだ。こんなこと本当はしたくはないし、俺のポリシーに反するが…この子を助けるためだ。」

 

「おい待てよ。そんなことせず病院に!」

 

「もう無駄だ。医学で助けられる状況じゃない。臓器もめちゃくちゃになってるだろう。」

 

「そんな…。」

 

 

仁もこんなことをしたくない。また自らの手でアマゾンをつくってしまうなど。

 

しかし名前の聞き間違い、緋彩の意識を失う前の力強い意識、視力を取り戻したことで見えてきたもの…。

 

あらゆる事柄が仁に”ありえない行動”をさせた。

 

注射の針を変え、自身の血を緋彩の体の中へ入れていく。順応するまでにどんな拒絶反応が起きるかもわからない。しかし仁の生きてほしいと願うその心が緋彩にアマゾンとして生きる道を作りだした。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ緋彩は仁さんの…。」

 

「あぁ、鷹山仁のアマゾン細胞を取り込んだ人間。それが緋彩の正体だ。」

 

 

仁と同じく第2のアマゾン。それが緋彩。アマゾンを駆除するためならば人としての心を失ってもいいというスタンスだった仁がするとは思えない行動だ。

 

千翼を手にかけたことは仁にとって何かをもたらしたのだろうか。悠は仁が今どこで何をしているのか、そもそも彼は無事なのかを案じた。

 

 

「さて、見せたいもの…というのがこれだ。」

 

 

金庫の扉のようなハンドル付きの分厚いドアをあけると比較的広い廊下へと繋がっていた。その窓の外には研究室が広がっている。

 

研究室というよりは実験場…とでも言えるだろう。いくつかの人体が横たわり、中で働いている研究員たちは全員防護服のようなものを着用している。

 

 

「これは…。」

 

「アマゾンに関する研究施設だ。野座間の物を越しているだろうね。」

 

 

橘は自慢げに車いすを廊下の隅に寄せた。美月は遠くに見覚えのある体が横たわっていることに気が付いた。

 

 

「悠!あれ…!」

 

 

美月の指さす方向には驚くべきものが横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

悠らが賀閣製薬に行ってからしばらく経ったある日、令華から福田の元にメールが送られて来た。

 

 

「…!これは…。」

 

「なんかあったんすか?」

 

 

望が福田のタブレットを覗きこんだ。

 

 

「これって…まじかよ。」

 

「え、何々?」

 

 

若槻と煌も駆け寄ってくる。そのメールには4C解散の内容がかかれていた。

 

詳しくはこうだ。野座間製薬は寄生型アマゾンを宿主ごと駆除することに賛成するようになったため、4Cと考えが一致。表向きは既に解散している4Cであるためこれ以上そこに裏の予算を投入するわけにはいかない。

 

そこで4Cを民営化し野座間製薬に売りつけてしまおうということになったようだ。

 

 

「じゃあ…まさか…。」

 

 

メールの追伸にはこう書かれていた。

 

 

「本日午後、元4C局長 札森一郎氏とシグマ隊が駆除班と合流予定。」

 

 

減ったアマゾンの補充は駆除班の面々とはやたら因縁深いシグマタイプのアマゾン…ということになってしまった。




こんばんは、エクシです。
三崎…ごめんよ…。
駆除班の面々はとても好きなのですが彼らはマモルとの戦いでやるべきことをやり終わった感があるなと思ったのでこういう結末にさせてもらいました。
また悠たちは辛いことを体験しすぎてこれくらいしないと、、というのもあります。

そして緋彩の正体が明らかになりました。
正体は仁が自身の細胞をいれた人間の少年…。
これもとても迷いましたが結局こうさせて頂きました。

アマゾンを増やすことは彼に取って不本意なことです。しかし名前の似ている少年が死にかけている中、助ける手段がそれしかない。

人間を助けたく、元は優しかった仁は緋彩を助けることにしました。
しかしアマゾンはいつかは人間を喰いたくなってしまうかもしれません(第2のアマゾンでも自身の精神力が未熟であれば人のたんぱく質を欲してしまうというのは自分の見解です。)。

だから仁は緋彩を近くに置いておくことにするのですが……なぜ今はいないのでしょうか。
そして悠たちが研究室で見たものとは…。

モチベーションの維持が難しいですがなんとか頑張りたいと思います。
感想、お気に入りよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3「Parasite」

アマゾン。それは宿主に取りつく者。緋彩は仁の細胞を入れられた元人間の少年であったことを知る悠と美月。そして野座間製薬に4Cが合流してからしばらくした時、彼らの前に悠と緋彩のコンビが姿を現す。


浜辺では人々が散歩をしている。観光地とするにはあまりに地味なビーチであるものの地元の人々からは愛されている場所だ。

 

今の時間は休み期間中の高校生たちが海水浴を楽しんでいる。

 

 

「おーい!そっち投げんぞ!」

 

 

男子高校生の1人がビーチボールを女子高生に投げる。そのボールを取ろうとするも女子高生は落としてしまい、浜辺の方へ拾いに行った。

 

 

「ごめーん!投げるね!」

 

 

彼がいた場所を振り向くもそこには誰もいない。

 

 

「あれ?」

 

 

そんな彼女の後ろには失神しながら左胸から蒸気を発する男子高校生が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

望は周りを見回して誰も見ていないことを確認し雑居ビルの中へ入った。エレベーターに乗って3Fのボタンを押す。

 

3Fに到着すると寂れたビルには似合わぬしっかりとした作りのドアにつけられた指紋認証に指を置いた。

 

電子音が鳴ってから扉を開けるとコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぐ福田の姿があった。

 

 

「福田さん、おはようございます。」

 

「あぁ、おはよう。今日は俺たち非番だろ。どうした?」

 

「いえ、別に。」

 

 

福田には望の意図は分かっていた。一人でいるのが怖いのだ。もしどこかで、駆除班の誰もいないところで溶原性細胞が覚醒してしまえば駆除する者が周りにいないことになる。

 

溶原性ワクチンがあるとはいえ体内に溶原性細胞が入りこんでからしばらくしてから摂取したものだ。溶原性ワクチンの特徴として溶原性細胞が入り込んですぐに接種すればするほど効果がみられる。溶原性細胞が入り込む前に摂取しておけば予防にもなるらしい。

 

とにかく望や福田は一人でいることをとにかく避けていた。もはや生活の癖にもなっているのかもしれない。望はグローブを装着しスパーリングを始めた。

 

しばらくして奥の部屋からサイレンが鳴り響くのが聞こえる。すぐに扉が開いておくから札森が出てきた。

 

 

「あーまたいるんすか、暇ですねえ。ここ元々4Cが持ってたオフィスなんですからね、きれいにお願いしますよ。」

 

「それよりアマゾンか?俺たちも手伝う。」

 

「あーどうですかね。暇なら来てもいいですけど…シグマ隊(おれたち)だけで十分でしょうがね。」

 

 

札森の嫌味を耳に入れることなく福田と望は準備を整えた。ビルの地下に停められたバンに乗り込むシグマ隊の誰もが運転席に着こうとしない。

 

 

「?」

 

「暇なら運転お願いします~。」

 

 

福田は黙って運転席についた。助手席には望が座る。

 

 

「いいんすか、アイツ今は別に上司でも何でもないんだろ。」

 

「だがアマゾンを狩る仲間だ。アイツの好きにさせてやれ。」

 

 

福田の器の大きさには頭が上がらない。そんな寛大さに札森は気がついていないようだが…。

 

 

 

 

 

 

 

賀閣製薬の社長室の電話が鳴り響く。目黒はそれを取ると定期連絡を受けるかのように淡々と返事をする。

 

 

「うん、うんわかった。それでは悠くんと緋彩に言ってもらいましょう。」

 

 

電話を切ると社長室で立っている2人にアイコンタクトを出した。2人は会釈をすると部屋を出ていく。

 

 

「今回はどっちですかね。」

 

「溶原性の覚醒はもうほとんどないよ。たぶん今回も寄生型。」

 

「ですよね…。美月さんに分離弾用意してもらいます。」

 

 

分離ロウ成分入りの弾丸、それが分離弾だ。撃たれた標的から分離ロウ成分によって寄生型アマゾンが剥がれる。宿主となった人間は骨折等の怪我はするものの分離弾によって死ぬことはないらしい。

 

緋彩はスマートフォンで美月に電話を入れた後、悠と共に自身のジャングレイダーに乗って現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

先に海岸へ付いたのは野座間製薬の駆除班の輸送用バンだ。中からサングラスをかけた4人の男たち、その後には札森と黒崎が出てくる。

 

 

「さーてシグマ隊出動。」

 

 

札森の掛け声と共に4人は左腕の袖を捲り上げ、ネオアマゾンズドライバーのスイッチを押した。

 

 

「「「「アマゾン」」」」

 

 

4人は体から溢れる熱を振り払いシグマアマゾンへと変化し、海岸を駆けていく。辺りにはアマゾンの姿はない。

 

シグマアマゾンたちは普通のアマゾンに比べて仲間を探知する能力が劣っている。イユ同様直接視覚で確認するかかなり対象まで接近しないとアマゾンかどうかを判断できない。

 

しかし今回は探すのにそこまで時間はかからなかった。海岸沿いに植えられた防砂林の中にアマゾンらしき姿が視覚で確認できる。

 

 

「高い所にいるな。黒崎~。」

 

 

札森の横に無表情の黒崎がネオアマゾンズドライバーを腰に巻きながら現れた。

 

 

「黒崎…。」

 

 

何とも言えぬ表情を浮かべる福田を見ることなくアマゾンズインジェクターをインジェクタースロットに装填する。

 

 

-NEW(ニュ・ー)SIGMA(シ・グ・マ)-

 

「アマゾン」

 

 

紫色のエネルギーを放出しながら黒崎の体がじわじわとニューシグマの姿へと変わる。体全体がアマゾンの姿へ変わると紫色のバイザーとニューラングアーマーを構築していった。

 

 

「行け。」

 

「了解。」

 

 

札森の命令に従い木の下まで行くとアマゾンズインジェクターを操作し武器を生成する。

 

 

-CLAW(ク・ロ・ー)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

ニューシグマはアマゾンネオクローで木の上にいるアマゾンを引きずりおろし、落下してきたところをアームカッターで切り裂いた。

 

 

「グゥウ!!」

 

 

落ちてきたアマゾンは体のあちこちに丸いものをつけたカビアマゾンであった。

 

 

「ガルゥウガルウ…!」

 

「ターゲット確認」

 

 

ニューシグマの声に反応してシグマアマゾンたちがカビアマゾンに襲い掛かってきた。ネオアマゾンズレジスターによってアマゾン細胞を覚醒されたアマゾンは今やアマゾンズドライバーで変身したアマゾンとほぼ同じ出力で戦闘を行うことが出来る。

 

一方のカビアマゾンはただの寄生型アマゾン。溶原性細胞による新種アマゾンとさほど変わらぬ戦闘力であるため戦いは駆除班側の有利な状況が続く。

 

シグマアマゾンたちによる噛みつき攻撃や切り裂き攻撃でカビアマゾンの体の一部が吹き飛ぶ。吹き飛んだ部分をニューシグマは避けながら遠距離攻撃を繰り出していく。

 

 

「ギュアアアア!!!」

 

 

奇声は発しながらも逃げるカビアマゾン。福田たちも援護射撃をすることなく見守る。

 

シグマアマゾンの中の1体がカビアマゾンに飛びかかろうとしたその瞬間、シグマアマゾンの体が止まってしまう。

 

 

「!?」

 

「どうした!」

 

「体が動きません」

 

 

札森は眼鏡をあげ福田に指示を出す。

 

 

「タブレットとカメラ!早く!」

 

「もうやってる!」

 

 

福田はカメラをニューシグマたちの方へ向け、タブレットで操作をしていた。タブレットにはカビアマゾンのいる場所一帯にアマゾン細胞の反応がある。

 

 

「すぐに全員マスクをしろ!このアマゾン、自分の細胞をまいている!」

 

 

カビアマゾンが傷つけば傷つくほど胞子のように細胞が辺りに放出される仕組みのようだ。この胞子を多く吸ってしまうと体に麻痺が生じ、やがて身体機能が停止してしまうという分析結果である。

 

やがて他の3体のシグマアマゾンも身体機能が停止し動けなくなってしまった。

 

 

「うわマジかよ…。4Cじゃなくなったからもうシグマタイプ裏で作れなくなっちまったのに!」

 

 

コイツは未だにそんなことを心配しているのか。

 

福田はそう思いながらガスマスクを装着した。

 

恐らく今までシグマタイプのアマゾンを消耗品のようにしてアマゾン狩りを行っていたのだろう。10年以上の戦いをしている福田に限らず望にもシグマアマゾンたちの動きを見てわかった。

 

ただ一人だけ…。黒崎、ニューシグマだけはカビアマゾンの肉片を意識するように始めから避けていた。彼のアマゾンとしての感覚がそうさせているのだろう。

 

しかし驚くべきところはそこではない。自身の体を守ることを命令されていないにも関わらず肉片を避けているという事実。

 

それこそ他のシグマタイプにはない、いや5年前に自ら考え千翼について行き、シグマタイプとして”廃棄”されたイユと同じように意思を持っている証拠なのだ。

 

 

「アイツ…。」

 

 

札森も気が付いたようだ。彼の右手が震え始めた。札森は震えはじめた手の人差し指を左手で抑える。

 

 

「く…こいつも…意思を!」

 

「札森!どうした、しっかりしろ!」

 

「寄生型なんてどうでもいい!福田、高井ィ!すぐに黒崎を処分しろ!すぐにだ!」

 

「何…言ってんだお前?」

 

 

この状況で何を言っているのか、福田も訳が分からなかった。カビアマゾンに今対抗できるのはニューシグマである黒崎のみとなっている。

 

意思を持っていることで自分たちに何か不利益が被られるのであれば札森の言わんとすることはわかるが全くそうではない。

 

 

「落ち着け、札森。今は俺たちを危険にさらす寄生型を倒すのが任務だ。黒崎は味方だぞ!」

 

「嫌だ…俺は…嫌なんだ!」

 

 

札森は手の震えを抑えるのに必死で福田の声などまるで耳に入っていない。

 

ニューシグマはカビアマゾンの肉片や血液に触れてはいないものの徐々にカビを吸い込み動きが鈍くなってきている。

 

 

「望、お前は離れていろ。」

 

 

福田はスナイパーライフルに弾を装填し、カビアマゾンの頭部にスコープのライトを当てる。

 

 

「ここだ!」

 

 

福田が引き金を引いた瞬間、突如ジャングレイダーがウイリーしつつ現れ、ボディでその弾を弾いた。

 

 

「何!?」

 

「この人は殺させません。」

 

 

ジャングレイダーを止めヘルメットを取ったのは悠であった。

 

 

「悠…!お前今までどこに…。」

 

「福田さん、煌は?」

 

「非番だ!」

 

「ならここは僕に任せてください。緋彩!」

 

 

悠の呼びかけに応じるようにもう1台のジャングレイダーに乗って現場に到着していた緋彩は何もする事無く現場を去っていった。悠の腰には既にネオアマゾンズドライバーが巻かれており、そこにアマゾンズインジェクターを装填する。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「アマゾン…!」

 

 

爆風と共に体がニューオメガへと変わり変身を完了する。

 

 

「悠、あのアマゾンは自身の肉体からアマゾン細胞を放っている。その細胞を吸い過ぎると体が麻痺してしまうぞ。」

 

 

ニューオメガは行動を停止しているシグマアマゾンたちの方を見た。呼吸が止まって体に酸素を取り入れることが不可能になったせいか変化が解けて人間の姿へと変わりその場に倒れ込む。

 

シグマタイプなりの死に方…といえるだろうか。

 

 

-NEEDLE(ニ・ー・ド・ル)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンズインジェクターを操作してアマゾンネオニードルを生成した。その先をカビアマゾンに飛ばし体を拘束する。

 

これならば遠距離からカビアマゾンの動きを拘束できるため、アマゾン細胞を体内に取り込む恐れはない。しかしそれと同時に攻撃を繰り出すこともしないニューオメガ。

 

 

「悠!その武器で弾を放て!その距離からでも攻撃できるはずだ!」

 

 

確かにアマゾンネオニードルは射撃機能も搭載している。しかしそんなことをすれば宿主まで殺してしまう恐れがある。それを説明しようとした時、ちょうど美月が現場に到着した。

 

 

「悠!撃つよ!」

 

「頼む!」

 

 

圧裂弾を撃つ際に使用するものによく似たランチャーを構えカビアマゾンに弾を放つ美月。

 

カビアマゾンに命中すると甲高い奇声を発しながらのたうち回り始めた。

 

 

「ギィイイイイイイイ!!!!」

 

 

カビアマゾンが木にぶつかったり岩にぶつかったり、時には地面に頭を叩きつけることで徐々に宿主の姿が見えてきた。

 

 

「よし!」

 

 

ニューオメガは一度アマゾンネオニードルの拘束を解き、すぐに宿主の体にその先を巻き付け直して引っ張った。意識を失ってはいるもののカビアマゾンから引っ張り出された宿主は呼吸をしている。

 

一方のカビアマゾンをはじめとする寄生型アマゾンは宿主を失うと安定を求めて近くの新たな宿主になりえる者に寄生しようと飛びかる習性を持つ。

 

カビアマゾンは分離弾を命中させるためにギリギリまで接近していた美月に向かって飛びかかる。

 

 

「美月ィ!」

 

 

ニューオメガはすぐにアマゾンネオニードルをカビアマゾンに巻き付けようとするが、右手に力が入らない。それもそのはず、右手の変身が解けて人間の腕へと戻っているのだ。当然アマゾンネオニードルもない。

 

(そんな…!)

 

 

危機に瀕した美月を救ったのは接近戦で上半身がほぼ機能していないニューシグマによるカビアマゾンへの体当たりだった。

 

カビアマゾンは木に衝突しその場でピクピクと痙攣し始める。まもなくしてその体は液状化して死亡が確認された。

 

 

「ターゲット…沈黙。」

 

 

福田はマスクを付けた状態でトランシーバーで野座間製薬に連絡を取った。札森はそのトランシーバーを奪い叫ぶ。

 

 

「システムYBR-19を起動!ターゲットはBとUからX!すぐに実行しろ!」

 

 

このコード…どこかで聞いたことがある。

 

 

「…!シグマタイプの廃棄プログラム…!お前一体何を!?」

 

「俺はもう…殺したくない!俺の手で…殺したくない!」

 

 

福田にはようやくわかった。

 

札森は”アマゾンを殺すこと”が怖いのだ。5年前、初めてイユを自分の手で葬った。

 

戦闘を避けていた彼に取ってそれは初めての殺戮。対象はアマゾン…しかし元は人間だった少女だ。

 

札森は自身でも気が付かぬ間にイユと共に任務をこなす事で心のどこかにイユを道具以外として見ていたのかもしれない。

 

それを彼女がアマゾンとして死んだあと、この5年間でジワジワと実感する。アマゾンが現れシグマアマゾンたちが対象を狩る姿を見るたびにイユはこのようにして死んでいったのかと。

 

意思を持ったシグマタイプのアマゾン。それをまた自分の手で殺さねならない。それはもう二度としたくない札森にとってのトラウマであった。

 

5年間で進化したネオアマゾンズレジスターにつけられた廃棄プログラムは何時間も必要としない。電気ショックを受けたかのように痙攣する5体のシグマタイプのアマゾンたちは全身から黒い血を噴き出しながら溶けていった。

 

札森の安心した笑顔は他人から見れば狂気じみたものになっている。彼が握りしめていたトランシーバーを福田が取り返した。

 

 

「こちら福田。…札森を専門の病院へ頼む。彼はもうアマゾンとは戦えない。」

 

 

 

 

 

 

 

煌はショーウインドーに飾られたストライプの服に目を奪われていた。非番となった煌たちは東京観光に貴重な時間を割いている。路地へ入ると人通りが少なくなるだけあってますますマニアックな服が揃った店が立ち並んでいる。

 

 

「若槻さん、こっち結構いいぜ!」

 

煌が後ろを振り向くと黒服の男たちにガスを吸わされて倒れる若槻の姿があった。

 

 

「なんだお前ら!」

 

「俺とお前で2人になるためだよ。」

 

 

煌が再び前を向くとそこにはジャングレイダーを止めた緋彩が立っていた。

 

 

「緋彩…!じゃああいつらは…。」

 

「賀閣が雇った奴らだ。悪いようにはしない。」

 

「緋彩、俺ずっとおまえを探してたんだ!お前と一緒に戦うために…。鷹山仁にお前と同じようにアマゾンにしてもらったんだ!俺たちの仲間を殺したアマゾン…俺も憎いんだ!」

 

「…本当にそうなのか?」

 

「はぁ?当たり前だろ。俺たちをあんな目にあわせやがったんだ。アマゾンは憎い…」

 

「そうじゃない。仁さんがお前をアマゾンにするわけがないって言いたいんだ。」

 

 

確かにそうだ。仁は緋彩がアマゾンなってから彼にはずっと付きっきりではあったものの、煌に対しては距離を置こうとしていた。煌が1度別の施設に預けられたのもそのためだ。

 

 

「確かに鷹山は俺のこと嫌ってたけどよ。あの後またアマゾンに襲われた時、アイツは助けに来てくれたんだ。俺も怪我しちまったけどアマゾン細胞入れてもらって何とか生き延びて…」

 

「本当か?」

 

「はぁ?」

 

「良く思い出せ。本当にお前は”生き延びた”のか?」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

「え?じゃあ悠やお前は賀閣の情報を全部ウチらに横流ししてたってわけか?」

 

望は輸送用バンの中で美月から事の経緯を聞いていた。悠と望は二宮に連れられて賀閣製薬へ”引き抜き”された…というのは表の話。

 

実は分離弾の存在を耳にしてから賀閣製薬の持っている情報をそっと野座間製薬に渡していたのだ。規模や予算を考えても賀閣製薬の技術を野座間製薬が活用する方がアマゾン駆除には効果的なのだ。

 

ただ賀閣製薬はその技術を野座間製薬に対抗するための武器にしている。そのためそんな貴重な情報を野座間製薬に渡すことなどするわけがないのだ。

 

そこで悠と美月はいわゆる二重スパイのようなことをしていたというわけだ。今朝、令華の方から野座間製分離弾の生成に成功したとの報告が入り再び野座間製薬に戻った…というわけらしい。

 

 

「まどろっこしいことしやがって!」

 

「すいません…。そうだ、賀閣の研究室の話…母から聞きました?」

 

「…いや聞いていないが?」

 

 

福田も運転席から美月の質問に答える。

 

 

「私と悠…とんでもないものを見ちゃったんです。悠はその処理に向かったと思います。」

 

 

2人は美月から聞く話の内容に驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「どういう…ことだよ。」

 

煌は緋彩を睨みつける。…睨みつけることで気分を紛らわせていたのかもしれない。思い出してしまった。自分がなぜアマゾンになったのか。いや違う、アマゾンになったのではない。

 

自分は”初めからアマゾンだった”のだ。…と。

 

 

「嘘…だ…。俺は…施設にいて…それで…!」

 

「寄生型アマゾンは宿主の脳を完全に乗っ取ることが出来れば宿主の記憶も共有できることは今までの事例でも明らかになっている。俺はお前と再会した時、お前はシグマタイプのアマゾンになったと思っていたよ。だって…お前はもう仁さんに殺されているんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

悠は研究員たちを気絶させながら力づくで賀閣製薬の研究室に辿りついた。

 

 

(いた…。)

 

 

数か月前に見た者はまだそこに横たわっていた。忘れもしない、何度も戦った彼の顔を。

 

ガラスの中に仮死状態か睡眠状態になった鷹山仁の体は両目の光を失っていた頃に比べて皮肉にも若々しさを取り戻していた。




とってもお久しぶりです…。

エクシです。

活動報告にも書きましたが次回が最終回となります…。

ほんとはZまで行きたかったのですがモチベーションと時間のなさによるものです…。
ご了承下さい。

とはいえ骨組みにしていたやりたかったことは全部するつもりです。
消化不良に思われてしまうかと思いますが、今の自分にとってはスッキリしたものになると思います。

またやる気が出ればアマゾンズの小説を書くことはあると思います。
とりあえず最終回…これを頑張りたいのですが、また明日から忙しくなりますw

最終回、是非お楽しみに(長く)待っていただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Last Episode「ϘuinϘuennium」

アマゾン。それは失われた5年間。煌の正体 それは人間の死体を取り込んだ寄生型アマゾンであった。自分の正体に気が付いた煌は暴走する。そして仮死状態となった仁を完全に消すために動いた悠は…。


この施設に来てから随分と経ったが未だに煌は慣れていなかった。緋彩や仁を探す毎日のせいで学校には行っていないし、当然友達も出来ていなかった。

 

煌は今日も朝早く合羽を羽織って施設の柵を乗り越える。また今日も緋彩がアマゾンになったあの研究室へ行くためだ。

 

 

(今度こそ俺も鷹山にアマゾンにしてもらうんだ。)

 

 

そしてアマゾンになってしまった、アマゾンに喰われ死んでいった前の施設の仲間たちの敵を取る。

 

大学は施錠されておらず簡単に入ることが出来た。研究棟に侵入し、南京錠で封じられた星埜始の研究室へはペンチを使って忍び込む。

 

 

「だれだ?」

 

 

まさか本当に誰か中にいるとは…。

 

 

「…!」

 

「…お前は。」

 

 

奥から出てきたのはずっと探していた男 鷹山仁。前の施設で助けられた時に比べて息が上がっている。

 

 

「いた…鷹山!」

 

「お前…なんでこんなところにいる。」

 

「俺をアマゾンにしてくれよ!」

 

「前も言っただろ。俺はもうアマゾンを増やしたくねえんだ。」

 

「じゃあなんで緋彩は…!」

 

 

そこまで言って煌は思い出す。緋彩は死にかけていて、仁の細胞を移植してもらったおかげでアマゾンとして生き続けることが出来ているのだ。

 

 

「分かったら帰れ。な?」

 

「嫌だ…俺はアマゾンたちに復讐する!頼む、俺を連れていってくれ!」

 

 

煌は仁の元へ駆けていき、服の袖を掴んだ。予想外の行動に思わず後ろへのけ反る仁。

 

 

「よせ!今の俺に…近づくな!……ウグゥ…!」

 

 

仁の様子がおかしい。息が上がりながら膝をつくとやがてその場でのたうち回り始める。

 

 

「お…おい、鷹山!」

 

「に…げろ…!」

 

 

仁の体からアマゾンズドライバーを使うことなく蒸気が放出される。辺り一面が白い熱気に包まれ煌は周りを見回す。

 

 

「逃げるって…どこに!……!」

 

 

煌が目線を下にやると腹部を赤いアマゾンの腕が貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

悠は仁が眠っているカプセルの近くに置かれていたパソコンを調べる。そこには仁の5年間の身体情報や彼に何が起きたのかが事細かに記載されていた。どうやら数年前に賀閣製薬はイースヘブンの残党などから情報収集し、仁の居場所を特定したようであった。仁本人からはほぼ情報は得られておらず、ほとんどの情報は緋彩から聞いたことのようであるが…。

 

仁は溶原性細胞のオリジナル 千翼を狩ってからしばらくした辺りで右目の視力が回復したらしい。賀閣製薬からの協力要請にも応じず緋彩を連れてただ1人でアマゾンを狩り続けていた。

 

戦いを続けていく中で仁の体に異常が見られ始めたという。徐々に理性を保てなくなっている感覚。仁はもはや手段は選べないと考え、緋彩を賀閣製薬に預けた。

 

やがて彼の師である星埜始が教鞭を取っていた大学構内にて仁は覚醒。理性を保てないアマゾンとして賀閣製薬に取り押さえられた。

 

 

 

 

 

 

 

煌は自分の出生を思い出し膝をついて絶望している。それを見つめながら緋彩は話を続けていた。

 

 

「仁さんを抑えたのは俺だ。仁さんが持っていたネオアマゾンズドライバー。それを俺が橘の命令で持ち出していたから、それを使って止めたんだ。」

 

「あぁ…あああ!!」

 

「人間とアマゾンの細胞の両方を持っているとアマゾンの細胞は変化していく。溶原性細胞もその1つだって仁さんは言ってた。そして仁さんもそのアマゾンの1人。仁さんの細胞は寄生型アマゾンを生み出す細胞に変わっていたんだ。」

 

「それで…俺を殺した時…!」

 

「俺を殺した時じゃない。”煌”を殺した時、”お前”が煌の死体に寄生したんだ!仁さんの体からな!」

 

 

そうだ…今まで自分の記憶だと思っていたのは煌という人間の体にあったもの。自分は…アマゾン。

 

 

「嫌だ…俺は嫌だ!煌だよ、緋彩!俺は煌だ!」

 

-NEW(ニュ・ー)ALPHA(ア・ル・ファ)-

 

 

緋彩はアマゾンズレジスターをネオアマゾンズドライバーに装填していた。すぐに煌もアマゾンズドライバーを腰に巻いてアクセラーグリップを捻る。

 

-OMEGA(オメガ)-

 

「…アマゾン!」

 

「アマゾンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

悠は仁に関するレポートを隅から隅まで読んだ。仁が確保された時に手に付着していた血は少年のものという記載はあったものの、煌を特定する資料にはなっていなかった。

 

10年以上相手にしていればわかる。恐らく野座間製薬の会長 天条隆顕の命令で寄生型アマゾンに寄生された煌の死体は野座間製薬が回収していたためデータが残っていないのだろう。あくまで人間の体を”貴重なサンプル”として手元に置きそうな会長の考えによって。

 

次のページには寄生型アマゾン細胞の情報が断片的に記載されている。人間に寄生型アマゾン細胞を入れれば寄生型アマゾンはやがて人間の体を乗っ取ってしまう。溶原性細胞を体に持った人間に寄生型アマゾン細胞を移植した際はアマゾンへの覚醒が早まったというデータもある。

 

そして人間の死体に寄生型アマゾン細胞を移植した場合。それは人間の記憶等を引き継いだアマゾンの誕生の可能性。まさしく煌のケースそのものであった。

 

すべてを読み終わったうえで悠の考えは変わらない。仁の体は寄生型アマゾン細胞のオリジナルであった。彼は今殺さなくてはならない。

 

 

「仁さん…あなたは十分罪滅ぼしをした。これ以上生きていたらさらに罪を重ねることになってしまいます。…許してください。」

 

悠がネオアマゾンズドライバーを腰に巻いたアマゾンズインジェクターを装填し液体を注入する。

 

 

「アマゾン…!」

 

 

しかし体に変化が起きない。

 

 

「あれ…どうして…。」

 

 

次の瞬間、カプセルに入った仁の目が開きとてつもない突風が熱気と共に吹き荒れる。

 

 

「ぐあ!」

 

 

悠は後ろに飛ばされ、研究室内の機器に体を強打した。カプセルがあった方を見るとそこには全裸でアマゾンズドライバーを腰に巻く仁の姿があった。

 

 

「旨そうな…匂いがするなぁ…。」

 

「仁さん…僕です!悠です!わかりますか!?」

 

「今から喰う奴の名前なんて知るか。じっとしてりゃすぐ終わらせてやるよ。」

 

 

そういうと仁はアクセラーグリップを捻る。

 

 

-ALPHA(アルファ)-

 

「アァマァゾォォン!!!」

 

-BLOOD(ブラッド) &(アンド) WILD(ワイルド)!!W()W()W()WILD(ワイルド)!!-

 

 

仁の肉体は前に見たアルファの姿よりもよりおぞましい姿に変わっていく。それはアルファというよりもアルファアマゾンというべき姿であった。ネオのオリジナル態にも近いその姿を見た悠はもう人間としての仁は死んでいることを確信する。

 

 

「煌と同じようにもう人間としての仁さんは死んでるんですね。今のあなたはただのアマゾン。それなら…狩りもしやすい!」

 

 

もう一度アマゾンズインジェクターを操作し液体を注入する悠。今度はネオアマゾンズドライバーから音声が鳴る。

 

 

-NEW(ニュ・ー)OMEGA(オ・メ・ガ)-

 

「ウォオオ!!アマゾンッ!!」

 

 

自分の戦闘意欲に答えてなのだろうか。久しぶりに感情をむき出しにした変身で悠の体はようやく変化し始めた。ニューオメガはアルファアマゾンに飛びかかる。しかしアルファアマゾンの全身の棘に刺され右手から血が噴き出す。

 

 

「ぐ…!」

 

「ん?なんだお前アマゾンか?なんでそんな旨そうな匂いがお前から…?…ま、いいか。」

 

 

アルファアマゾンの体当たりはニューオメガを怯ませる。しかしそのタイミングでアマゾンズインジェクターを操作し武器を生成する。

 

 

-BLADE(ブ・レ・イ・ド)LOADING(ロ・ー・ディ・ン・グ)-

 

 

アマゾンネオブレイドで接近しているアルファアマゾンに斬撃を食らわせる。奇声を発しながら後ろへ下がるアルファアマゾンに続いてフットカッターで攻撃をするニューオメガ。

 

かつて理性的な戦い方で悠を追い込んだ仁も理性が失われればただの獣。最近パワーが落ち始めたニューオメガでもアルファアマゾンを仕留めることにそこまで苦労はしさそうだ。

 

 

「グァアァ!俺はァ…人間を喰いてえんだアァァ!!」

 

「ハァハァ…仁さんの体で…そんなことを…言うな!」

 

「おい!これは何だね!」

 

 

崩壊する研究室に現れたのは目黒と二宮だ。アルファアマゾンがカプセルから出ていることに驚きを隠せない目黒。

 

 

「悠くん…君は!」

 

「ラッキィイ!」

 

 

アルファアマゾンはすぐに2人の所に飛びつく。

 

 

「危ない!」

 

 

悠が警告した頃には時すでに遅し。二人は首筋からアルファアマゾンに噛みつかれ喰われていた。

 

 

「くそおおお!!!」

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)PUNISH(パ・ニ・ッ・シュ)-

 

 

ニューオメガのアマゾンパニッシュが繰り出されると、それを左手で抑えるアルファアマゾン。出力が弱くなっているためか人間を喰らったことでアルファアマゾンのパワーが強くなったせいか…。普通のアマゾンであれば一撃で死ぬ攻撃を押さえこむアルファアマゾン。

 

 

「ウオオオ!!!」

 

-AMAZON(ア・マ・ゾ・ン)BREAK(ブ・レ・イ・ク)-

 

 

もう1度アマゾンズインジェクターを操作し、今度はアマゾンネオブレイドでアルファアマゾンに斬りかかる。2度の必殺技使用にネオアマゾンズドライバーから火花が散り始め、壊れた。だがそんなことに構うことなく両手の凶器をアルファアマゾンに押し続けるニューオメガ。

 

 

「ウアアア!!仁さん!!」

 

 

その呼び声に一瞬アルファアマゾンの力が緩む。その隙をついてニューオメガの攻撃はアルファアマゾンを切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

釣り目のような赤いコンドラーコアのアマゾンズドライバーを投げ捨てるニューアルファ。煌の首を掴んで持ち上げている。

 

 

「緋彩…俺は…煌…だ。」

 

「煌は死んだ。お前は…アマゾンだ。」

 

「緋彩ォ…!」

 

「安心しろ。全てが終わったら…俺もそっちへ行く。それが仁さんのやり方だ。」

 

 

 

 

 

 

 

「仁さんはなんで俺を助けてくれたの?」

 

 

研究室でネオアマゾンズドライバーの調整をしている仁に緋彩は尋ねた。

 

 

「ん?…それは何というか人違い…だな。」

 

「人違い?」

 

「ハハ。ほんとはさ、生きて欲しかった奴がいたんだ。そいつとお前の名前が似てた。そんだけよ。」

 

「そんだけって…。じゃあ仁さんの気まぐれのせいで俺死んでたかもってことじゃない。」

 

「わりぃわりぃ。でもさ、そいつを失ってから分かったんだよ。そいつが生きる道もどこかあったんじゃないかって。その可能性を模索することなく俺は…。」

 

 

仁は言葉を詰まらせて窓の方を向いていた。たぶん泣いているんだろう。この人はアマゾンとの戦いでは強いがこういうことには…弱い。

 

 

「俺も戦うよ、仁さん。俺だってもうアマゾンなんだろ。」

 

「そうだな…もし俺が戦えなくなったら。その時はお前がすべてのアマゾンを狩ってくれ。俺の代わりに。」

 

 

 

 

 

 

 

ニューアルファの手には黒い液体がべったりとついている。手を払いその液体は地面に散った。ネオアマゾンズドライバーを外し緋彩の姿に戻るとその目には涙があふれていた。

 

 

 

 

 

 

大病院の一番上は野座間製薬によってフロアごと貸し切りになっている。関係者以外は一切の立ち入りを禁止されており野座間製薬から用いられたセキュリティが敷かれている。そこの1室に令華はノックをしていた。

 

 

「入りたまえ。」

 

「失礼します。」

 

 

中にはあらゆるチューブに繋がれた天条がベッドに横たわっていた。無理やりにでも存命しようという意思は最早狂気に近い。

 

 

「どうなったかね。」

 

「はい。賀閣の元にあった鷹山仁は悠によって処分されましたが、こちら側のサンプルであった煌も賀閣のアマゾンにやられました。それと会長はご興味がないかと思いますが、賀閣製薬の社長 目黒氏は死亡。今回のアマゾン研究を秘密に行っていたことが世間に公表されたため、賀閣製薬へのバッシングは免れないかと。」

 

「どうでもいいな。2人のサンプルが死んだ。それが重要だ。」

 

「お言葉ですが会長。以前アマゾンは人間の手に負えるものではなかったと結論付けられたのではないですか?どうしてまた興味をお持ちに…。」

 

「水澤悠の存在だよ。」

 

「悠の…?」

 

 

令華はしばらく考え合点がいった顔をした。

 

 

「なるほど。悠の体が人間に近づいていることですね。」

 

「アマゾン細胞を取り込んだ人間 鷹山仁。その息子 千翼。それぞれが別のアマゾン細胞へと体が変化していった。そして人間の細胞にアマゾン細胞を加えてできた水澤悠。それも例外ではない。」

 

「しかし悠はいずれの2人とも違う変化を遂げています。アマゾン細胞が人間に近い細胞へと。」

 

「水澤悠こそ人間がアマゾンを越した存在へと昇華した証!私は今までアマゾンを至高の存在だと考えていたがそんなことはなかった!まだ人間は…面白い!」

 

 

天条は呼吸器を自分で外し高笑いを上げる。ベッドの近くに置かれた椅子に座る令華も満足そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

検査室から出てきた悠を見つけた美月は手を振って場所を示す。それを見た悠は美月の元へと駆けていった。

 

 

「ごめん、お待たせ。」

 

「どうだった?」

 

「うん、今のところ寄生型アマゾン細胞は見られないって。」

 

「よかった…。」

 

「そうは言っても僕はアマゾンだからあんまり関係ないけどね。」

 

「でも何かあったら心配だから。」

 

「ありがとう。」

 

 

美月の頭を撫でた悠は感謝の言葉を告げる。しかし本心では嘘を言ってしまったことを謝りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

「寄生型アマゾン細胞が…残ってる?」

 

 

医師と研究者によると悠の体には寄生型アマゾン細胞が残っているとのことだった。それが自分の体にどう影響するのかはわからない。何せ悠はあまりに特異体質すぎるためサンプルがないからだ。

 

だがこれからやることを変えるつもりはない。どこかへ旅立っていった緋彩とも約束したのだ。全てのアマゾンを狩ると。

 

そして終わらせる、この悲劇を。

 

悠は赤いコンドラーコアのアマゾンズドライバーを自分のリュックサックに入れて病院を出た。目の前には笑顔の美月が悠に手を差し伸べている。




大変お待たせしましたがこれが最終回となります。

いやー…疲れたw

結構強引な終わり方になってしまったのは大変心苦しかったです…。許してください。


結局悠は人間に近い存在になりつつあったからアマゾンとしての力が弱まっていた…ということでした。

しかし仁との戦いで入り込んでしまった寄生型アマゾン細胞は悠の体の中にあります。

人間に入った時と同じように悠も乗っ取られるのでしょうか。人間ともアマゾンとも言えない存在になってきている悠は寄生型アマゾン細胞とどう向き合っていくのかは読んでくださる方の考えにお任せしたいと思います。

最終回、大変お待たせしてしまいましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
また会う日まで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。