レーヴユナイティア 記憶を無くした戦士達 (蹴急)
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夢の始まり 前編

楽しんで頂けたら幸いです。


眠り……

 

 

 

1日の終わりに人は眠る

 

仮面を外し、

 

鎧を脱ぎ捨て、

 

己が身一つで、

 

現実を後に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お尻に狐のような尻尾が生えた青髪のローブを着た青年が、この世界レーヴァリアの負の権化であるラーフ・ネクリアからでたヴールと戦闘を終えていた。

 

「くっ……大分消耗してしまったようだ。けれど早くメランコリウムに戻らなくては!」

 

ナハトは焦っていた、漏れでたヴールを浄化する事に成功したものの、本体のいるメランコリウムはまだ万全とはいえない。

結界を完全なものとしない限りこの夢の世界は穢れていく。

しかし、彼は突如として光り輝いた上空に目を奪われる。

 

「なっ、あれは召喚の儀式?まさか若仔だけで……ダメだ、力もない若仔だけでは安定していない」

 

光の正体にすぐに気付き慌てる。

召喚の儀式は夢守であっても数人で行う儀式だ、それを知識も力も経験も足りない若仔が集まって挑んでも不安定になるのは当たり前だ。現に光は揺らぎ安定とは程遠い結果になっている。揺らいでいた光は徐々にその揺れを大きくする。瞬間、大きな輝きを放つと光は散り散りとなりいくつもの流れ星となった。

 

「あの流れ星一つ一つに目覚めの人が……、近くに落ちた⁉︎ とりあえず、行かなくては!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、二人の男がいた。片方は地で寝ており、もう片方がそれを立った状態で見ていた。少しの間起きている男は辺りを見渡し自分の今の状況を整理、把握しようとする。しかし、手掛かりもないままに隣で寝ている少年が起きることを待っていると、寝ている少年の長い睫毛がピクッと動いた。

 

「ん、ここは?」

「どうやら目覚めたようじゃのう」

 

一見、女子とも見間違えられそうな容姿をした黒髪の少年は声を掛けられた方を見る。そこにいるのはジジィくさい喋り方とは違い若い少年の姿があった。

 

「さて、起きてすぐに申し訳ないんじゃが、お主の名前を教えてもらってもよいかのう?」

 

問いかけたのは彼と同じ黒髪だがその頭には二つのとんがった耳のような帽子を被っている。

 

「俺は……桐ヶ谷和人、たぶんキリトって呼ばれていた。それで、あんたの名前は?」

「ふむ、キリトか。わしは太公望・呂望だ、太公望でよい。それよりお主どうしてこんなとこで寝ておったのだ?……まぁ予想はある程度ついておるのだがのう」

 

そう言って太公望は自身の着ている紺の外套の埃を払う。

 

「なんでって…………ん⁉︎なるほどな、もしかしてあんたもなのか。何も思い出せない」

 

深く思い出そうとすると何故か霞がかかったかのようになる。

きっと、太公望も同じ状況なのだろう。

太公望はキリトの発言に若干だが落胆した。

今の状況での頼みの綱は自分の近くで寝ていたキリトだったのだから。

 

「やはりのう、お主が頼りではあったのだが無理そうじゃ。それにここは普通の森とは何か違うようだしのう」

「どこが違うんだ?」

「なんというか嫌な感じがするのだ。ここにいると無性に気が立ってくる」

 

胸のあたりを撫り、込み上げてくる暗い澱んだ気持ちを抑えようとする太公望。キリトもそれは感じ取ってはいるはずだが流されているのだろう。

 

「煮え切らない言い方だな。一体ここはどこなんだ?」

「今それを知る方法はなかろう」

「わかっているよ、ーーっと!」

 

会話を遮るように一匹の狼が現れ、キリトが背中に二本あった剣を一本手に取り、斬り捨てた。

すると、狼はその場から霧散し、消えた。 その現象を見て太公望が訝しむ。

 

「ん?消滅したじゃと?」

「えっ……それって普通じゃないのか?」

「ん?」

「え?」

 

意見の割れた二人は顔を見合わせた。先に口を開いたのは太公望だ。紡ぎ出る言葉には若干ながら問い詰めるようなもの言いが含まれている。

 

「そんなはずあるまい。生き物がその場で消滅するなどおかしいではないか!」

「あ、ああ……言われてみればそうだよな。なんで俺、普通なんて言ったんだろう?」

 

頭を掻いて目をそらすキリトに太公望は妙に引っかかった。

 

「お主……何か隠しているのではないか?」

「なっ⁉︎ そんな訳ないだろ!太公望の方こそ何か知っているんじゃないのか?」

 

徐々に苛々とした怒りの感情が募る二人の周りに黒い煙のようやものを纏った狼や蜂が集まっていた。

 

 

 

 

キリトと太公望が騒いでいる中、青い髪の青年が森を慌ただしく走っていた。

 

「いた!あれが目覚めの人か。だが何か様子が可笑しい?」

 

流れ星の着いた先を目指しやって来たナハト。しかし彼らの周りはヴールが寄り集まっていた。

 

「ヴールに囲まれている⁉︎ まさかヴールの気に侵されてしまったのか⁉︎」

 

見るからに二人の様子が可笑しく、周りのヴールが彼らを襲う気配がない。

 

「あ……ああああ!!」

「ぐっ……ぐぁぁあ!」

「怒り、憎悪、……何とかして二人を浄化しなくては」

 

ヴールに取り込まれた事によって人の暗い感情、怒りや嫉妬、憎悪、が強く出ている二人の浄化を試みるナハトに周囲のヴールが襲いかかる。ナハトはそれらをなんとか捌くもギリギリだ。それもそのはず、先程の戦闘で消耗している訳で、ナハトだけでは二人同時に浄化する事が出来そうにない。故にここは一人ずつ浄化する他ない。

 

「先ずはまだヴールにそこまで取り憑かれていないあの杖の持った少年からしよう」

 

デルタレイを唱えると、三本の光の矢が現れ太公望の周りにいるヴールを払う。周囲にヴールが消えたのを見て苦しんでいる太公望の近くまで急いで駆け寄る。

 

「悲嘆、憎悪……負の感情がかなり渦巻いている。急いで浄化しなくては!!」

 

ナハトが浄化をするとすぐに太公望は正気を取り戻した。ヴールに取り込まれていた時の記憶はない為に太公望は戸惑った。

 

「ん?わしは一体……」

「すまない、説明している暇がないんだ。手伝ってくれないか?」

「お主は……あれは!」

「おおおぉぉ!……お、れは、コロス!」

 

何が起きているのか理解できていない太公望。

しかし、ナハトに問いかける直前に理性を失っているキリトが目に入り驚愕した。

 

「あれはキリトか?まさかわしもあの様な状況になっておったのかのう?いささか信じたくはないが……キリトを抑えればよいのか?」

「理解が早くて助かる。お願い、できますか?」

「うむ、これでは落ち着いて話もできんからのう。わしが周りにいる奴らを先に払おう」

 

太公望が手に持った打神鞭に力を込めると周囲に風が吹き始める。

 

「行くぞ!疾ッ!」

 

風の刃をヴール目掛けて二つ放つ。

切られた狼型とグール型のヴールが跡形も無く消滅していく。

 

「ふむ、やはり消滅する様じゃな」

 

その現象を興味深く観察しながら、残ったヴールも残らず消滅させる。

すると、太公望に迫る影が一つ。

 

「なぬっ⁉︎」

 

剣を携えたキリトが太公望目掛けて、その剣を振り下ろす。何とか打神鞭で防ぎ、距離を取る。

 

「どうやら怒りに自我を持って行かれている様じゃのう。すまぬが少々痛い思いをしてもらうぞ⁉︎」

 

先程よりも大きな風の刃をキリトに向ける。

その威力に堪らずキリトは近くにあった木に打ち付けられぐったりとしてしまう。

その隙をついて太公望がナハトに向かって叫ぶ。

 

「今じゃ!」

「はい!浄化します」

 

キリトの浄化を始め、浄化を終えるとナハトは人の姿を保てずルフレス本来の姿へ変わった。

 

「うっ!」

「大丈夫か⁉︎」

 

咄嗟に駆け寄りナハトを手に収める。

 

「ありがとうございます」

「いや、よいのだ。それにしてもお主は一体何者なのだ?」

「私は……」

「うっ……俺は何を……」

 

ナハトの言葉を遮る様にキリトが目を覚ました。

 

「どうやら目覚めたようじゃのう」

「ん?何かデジャブを感じるような……」

「気の所為ではないかのう?」

 

飄々としてキリトの追求から逃げる太公望。

 

「そうかな……太公望、その手の中にいる生き物は?」

「ああ、こやつが正気を失っていたわし達を助けてくれたのだ」

 

キリトが太公望の腕にいる青い小さな生き物がいる事に気づく。小さな頭は三日月のような形をしている。

 

「そうなのか、ありがとう。えっと……」

「私はナハト。この世界レーヴァリアの夢守です」

「レー……ヴァリア?」

「夢守とな?」

 

首を傾げる二人にナハトがこの世界について説明を始めた。

 

 




読んで頂きありがとうございます。
感想や修正箇所など指摘があれば教えてください。


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夢の始まり 後編

「……助けて」

 

どこからか小さく助けを求める声が聞こえ、金髪の少年は目を覚ました。

 

「……はっ⁉︎ ……ここは⁉︎」

「大丈夫か?」

 

声をかけたのは赤い髪をした自分よりも少し年上くらいの少年だ。赤髪の少年の服はジーパンにTシャツと簡素だ。

それに反するかのように金髪の少年の服はズボンは黒で赤のインナーに白の外套とマントを羽織っていて豪華である。

 

「うん、大丈夫みたい。それよりここってどこなんだろう?」

「それなんだけど、言いにくいなぁ……」

「何か問題でもあるの?」

「俺もわからないんだ、気が付いたらここにいて」

 

申し訳なさそうにする赤い髪の少年。

 

「君もなんだ。……あれ?何も思い出せない⁉︎嘘……君は何か思い出せる?」

「えっ……思い出せない……いや、名前は覚えているみたいだ。衛宮、衛宮士郎だ」

「本当だ。僕はシンク・イズミ。シンクでいいよ。僕達って知り合いだったりしたのかな?」

 

士郎の顔を覗き込むように問いかけるシンク。けれど士郎は特に考える事もなく辺りを見渡した。

 

「どうだろう。それより辺りを調べないか?何かこの状況の手掛かりがあるかもしれないしさ」

「うん、そうだね。ここで悩んでても仕方ないか」

 

歩き出し辺りを見渡していく二人だったが、士郎が急に歩みを止めた。

振り向き、それに気が付いたシンクが声をかける。

 

「士郎?何かあったの?」

「声がきこえないか?」

「……声?」

 

耳を澄ませるシンクに微かだが悲鳴のようなものが聞こえてくる。

 

「……けて。……たすけて!」

 

「本当だ!」

「やばそうだぞ。聞こえてくるのは……あっちだ!」

「士郎⁉︎ 待ってよ!」

 

一人走り出す士郎を追いかけるようにシンクも走る。

声の元へたどり着くと翠色のした生き物が狼型のヴールに襲われていた。

 

「誰か……誰か……助けてください!」

「あれは……」

「何だかわからないけど助けないと!」

 

条件反射のように飛び出す士郎をシンクが止める。

 

「ストップ!」

「どうして止めるんだ!?」

「士郎は戦えるの?今、僕達は記憶を無くしていているのに戦い方とかわかるのかな?」

「それは……。でも見逃すなんて俺には出来ない!それに戦い方なら……身体が覚えているような気がする」

「それってどういう意味?僕達見た所武器なんて持っていないんだよ?」

 

シンクの言う通り、二人の持ち物に剣などといった武器は無い。士郎にいたっては服以外何も身につけておらず、シンクも手に赤い宝石の入った指輪をしているだけだ。

 

「いや、わからないけど……⁉︎」

「どうしたの?」

 

シンクの問いに答えず、士郎は手を前へと突き出し、唱えた。

 

「……トレース・オン!」

 

どこからとなく士郎の手に白黒の夫婦剣が現れた。

 

「どうやって……!?」

「わからない……身体の内から何か溢れてきて…………けどこれであの子を助けられる!」

「あっ!もう……どうにでもなっちゃえ!」

 

襲われている子を助ける為、士郎がヴールの群れに向かった。後ろから追いかけるシンク。

 

「はぁぁあ!」

 

どこかぎこちなさを残しながらヴールを斬る士郎。しかし、次々にとヴールが増えていく。

 

「うわ、なんか増えたよ!それにゾンビみたいなのもいる!」

 

狼型のヴールの攻撃を走って、跳んで、側転して躱し、襲われていた生き物を助け出すシンク。

 

「捕まえた!君、大丈夫⁉︎」

「あ、ありがとうです」

 

しかし、士郎一人で対処仕切れない数な為にシンクは狙われ続ける。

 

「あーもう、何でもいいから武器があれば!」

 

呟いた瞬間、シンクの右手に嵌められいた指輪が輝き、背丈ほどの棒に変わった。

 

「ええ!?指輪が棒に⁉︎……でもこれで僕も反撃出来る!」

 

左手に救った子を抱えつつ、右手に持った棒状の聖剣パラディオンで次々とヴールを倒していくシンク。

たまにアクロバティックな動きを入れる為、左手の辺りから悲鳴が聞こえるが気にする様子はない。

そして……

 

「これで!」

「フィニッシュ!!」

 

最後のゾンビ型ヴールを二人で倒すと、シンクの棒は指輪に戻り、士郎の剣は消えた。

 

「あ、あのあの……ありがとうでした……」

「怪我はない?ごめんね、腕の中狭かったでしょ?」

 

そういって腕の中から解放する。

 

「無事でよかった。俺は衛宮士郎、こっちがシンクだ。君の名前を教えてくれないか?」

「は、はい!え、えとボク、テルン。ルフレスのテルンです。あ、ルフレスというのは種族の名前で……」

 

おどおどとして慌てながらも自己紹介をするテルン。そこで何か思い出したかのように声を上げる。

 

「そうだ、ボク、皆さんを探していたです!」

「俺たちを?」

「はいです!皆さんは『夢見る目覚めの人』ですよね?」

 

さっきまでと違いどこか強い想いを感じるテルンの言葉。けれど、士郎とシンクは首を傾げるしかなかった。

 

「夢……見る」

「目覚め……の人?」

「え、あの、ち、違うんですか?」

 

二人の戸惑いを見て、テルンはいつもの調子に戻ってしまった。

 

「違うも何も……なぁ?」

「そうだよね」

「で、でもでもちゃんと人の姿をしてるですよ!」

 

テルンの反応にどう返せばいいかわからず、士郎は申し訳なさそうに応えた。

 

「俺たちここで起きてから、どうしてか名前以外何も思い出せないんだ」

「さっきも君を助けるとき何とかやってみて、どうにかなったけど。僕も士郎も多分本来の実力の半分も出せてないかな」

「う、うそ……」

 

テルンはその場でへたり込み小さな手で頭を抱えながら呟いた。

 

「覚えて……ない。そんな、儀式がちゃんと出来てなかった?もしかしてヴールのせい?」

 

もしくは若仔だけでやったから?力が足りなくて……流れ星になって街に召喚できなかったのもそのせい?

 

「テルン?」

 

士郎の呼び掛けで思考の渦から解放された。

 

「あ!はい……すみません。こ、ここは夢の世界でレーヴァリアと言います」

「夢の世界?さっきみたいなのがいるのにか?」

「え、えとそういう意味の方じゃなくて……ね、眠る方の夢……です」

 

夢の世界、それも寝ている方の夢と言われても、いまいちピンとこない二人はただ首を捻るだけ。

 

「あ、あの……とりあえず、もっと安全なところに行きませんか?この先に僕たちのルフレス族の街があるです。そこでもっとお話しするですから……」

「そう……だね。ここだとまたいつ襲われるかわからないし、お願いするね」

「はい、こっちです!」

「あ、テルン!もう少し落ち着いてもいいと思うんだけど……士郎?」

 

振り向くと士郎はその場で立ち尽くしていた。

 

「これが夢?俺たちに記憶がないのもここが夢の世界だからなのか?」

「それを今から聞くんでしょ?早くテルンを追いかけないとまたテルンが襲われるかもしれないよ」

「そうだな。街に行けば俺たちの他にも人がいるかもしれない」

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ナハト編とテルン編は基本同時進行で進んでいきます。


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金色と絶剣

タイトルはこれから出て来るキャラのイメージがメインになると思われます


 

森を移動しながらキリトと太公望はナハトからこの世界についての説明を受けていた。

 

「成る程のう。ヴールを追い払う為に儂らを召喚したが力の弱い若仔だけで儀式を行った為に不完全な形でここに来てしまったということか」

「そういうことです。すいません、本来ならば僕たち夢守だけで事態を納めなくてはならなかったのに……」

「そなただけの所為ではないのだろう?機に止むことはない」

「ですが!」

「太公望の言う通りだ。それにこの世界での異変は俺たちの本来の世界にも影響があるんだろ?それなら協力しない訳にもいかないさ」

 

二人の心遣いに再度深く感謝するナハト。

二人にしてはナハトに責任はないのだ、それなのに謝れればいささか気まづくある。

 

「それでどうするのだ?ナハトよ、召喚されたのはわし達だけではないのだろう?」

「はい、他の『夢見る目覚めの人』達も助けに行かないと……先程までのあなた達同様ヴールに取り囲まれる可能性が高いです」

「それなら急いで探さないといけないな。どれくらい、いるかわかるか?」

「正確な数までは……散らばった数だけを見ると二十は超えていたと思います。それにお二人のように重なっている可能性もあるので何とも……」

 

力になれず、すいませんとまた頭を下げるナハト。

 

「少なくとも三十近くはいるかもしれんのう。他にお主のようにわし達を助けに行けるようなものはおるのか?」

「どうでしょう。僕はこの世界でかなりの力の強い方ですが、その僕でお二人を助けるのはかなり大変でしたし……」

 

ふと、自分の継ぎの仔であるルフレスが頭に浮かぶがすぐに首を振って消した。

 

「もし、ルフレス族の住む街の近くに落ちれたならばヴールから逃れることも可能かもしれません、ですがここからだとかなり距離があるので……僕もあまりメランコリウムを長く留守にする訳には行きませんし」

「ふむ。まぁ儂らはナハトからは離れられんのだ。わし達はナハトについていくぞ」

「ああ、それにそのメランコリウムの近くにも落ちたかもしれないしな」

「わかりました。メランコリウムを目指しつつ、『夢見る目覚めの人』がいれば保護するということでいきます」

「うむ、それがよかろう」

 

 

 

三人がメランコリウムを目指し、森を抜け平原地帯にたどり着くとトレント型ヴールが暴れていた。

そこには黒い服を身に纏った金髪の少女と胸当ての下に紺を基調としたドレス服を着ている、紺色の髪の上に赤いバンダナを巻いた少女が応戦していた。余談だが二人とも両肩の肌が露わになっている。

 

「イヴ、大丈夫⁉︎もう少し頑張って!」

「でも数が多くて……このままじゃジリ貧よ。ユウキだけでも逃げて!!」

「そんなことできるわけないよ!」

 

イヴとユウキの周りはかなりヴールが集まっている。

 

「あれは、『夢見る目覚めの人』です!ですが周りに大量のヴールが」

「あのままだと、仮に正気を失わなかったとしても、ヴールにやられるぞ!」

「早く助けに行かなくては!……ぐぅ」

 

未だに消耗が酷いナハトは夢紬の姿に変わり、さらに消耗が激しくなり思わず顔を歪めた。

 

「お主、その姿はかなり辛いのではないか?」

「本来ならば、夢守である僕の為さなくてはいけないことだったんです。皆さんを不完全な形で呼んでしまった。それを助けに行くのは僕の責務です」

「ナハト……」

「仕方あるまい、お主は極力無理をしないよう浄化だけに専念するのだ。周りのヴールはわし達でなんとかしよう」

「わかりました。お願いします」

 

ヴール達の近くまで行くとナハトが力強く叫んだ。

 

「……ヴールめ、その人達に手を出すな!」

 

その声に反応したのか、何体かのヴールがナハトに襲いかかった。しかし、それは太公望の発生させた風の壁により防がれる。

 

「ナハト、もう少し下がっておれ!」

「太公望、俺が先陣を切る。援護は任せた!」

 

キリトは漆黒に染まった剣、エリュシデータでヴール達を斬っていく。

 

「そこにいる女子達よ、今そちらに行く!何とか持ち堪えるのだ!」

「もしかして味方?」

 

太公望の言葉にユウキが反応した。

 

「ユウキ、私は戦うわ。待つだけは性に合わないもの」

「勿論!僕もイヴと同じだよ!」

 

ユウキは再度手に持つマクアフィテルに力を込め、飛び出した。

 

「はぁぁあ!」

 

素早い連撃で確実にヴールの数を減らして行く。

ユウキに呼応するようにイヴもまたヴールを拳型に変えた髪で蹴散らしていく。

 

「む、あの金髪の少女のあれはどういう仕組みなのだ?」

「すごいな。見た目はただの髪の毛なのに拳になったり、ナイフみたいになってヴールを斬り裂いている……」

 

二人はイヴの戦いに僅かだが目を奪われた。

確かに彼女のような戦い方をする人物など記憶があったとしても自分が出会ったことがあるとは到底思えなかった。

ヴールの数が半分を切り、太公望達がユウキとイヴに近づくと彼らを囲むように新しいヴールが現れた。

 

「後ろにもヴールが⁉︎」

「どうやら今度はわしらが挟み撃ちにされたようじゃのう」

 

背中合わせになりお互いの背を預けるキリトと太公望にナハト。

 

「先に彼女達と合流しましょう」

「うむ、それが妥当な判断であろう。キリトよ任せて良いか?」

「任せてくれ」

 

キリトはエリュシデータを肩に置き、溜めを作った。すると、段々と剣は光を帯びていき、輝きが最高潮になった瞬間、地を蹴る。黄緑色の軌跡を残し、キリトはヴールの群れを突き、消滅させる。

 

「無事か⁉︎二人とも!」

「……私もユウキも無事」

「お兄さん凄いね、全部蹴散らしちゃったよ」

 

淡々と応えるイヴ。ユウキはキリトの強さに目を輝かせていた。

 

「二人とも一気に片付けるぞ!」

「はい」

「うん!」

 

それから数分でその場にいたヴールを全て片付けた。

 

「どうじゃ、ナハトよ?」

「この一帯の浄化はなんとか終わりました」

 

人の姿からルフレス本来の姿に戻ったナハト。戦闘を終えたキリトとユウキ、イヴが太公望とナハトの元へ合流すると、イヴが感謝の言葉を述べた。

 

「助けに来てくれてありがとう、あのままだったらやられてた」

「いえ、『夢見る目覚めの人』を助けるのは僕の責務ですから」

「夢見る……」

「目覚めの人?」

 

イヴとユウキがナハトの発言に首を傾けた。

 




読んで頂きありがとうございます。

あと二話くらいまではこのくらいの少ない文字数だと思います。


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天竜

 

士郎、シンク、テルンの三人はルフレスの街が見えてくるところまで来ていた。

 

「あれが、もしかしてテルンの街?」

「はい、ルフレス族の街です。ここからだと小さいですけど結構大きいですよ」

「へぇ、街にはテルンの仲間もいるんだよね。楽しみだなー」

「あ、えと、それは、いるにはいるんです、けど……」

 

最後の方がぼそぼそっとなり、聞き取りづらい。しかし、士郎が気にせずに別の質問を投げかけた

 

「なぁテルン」

「はははい!なんでしょう衛宮さん」

「士郎でいいぞ。まだこの世界が夢だって思えなくてさ、歩きながらでもいいから話してくれないか?この世界の現状とかをさ」

「は、はい分かったです。実は、レーヴァリアは今……」

「⁉︎テルン!危ない!」

 

話をするテルンに蜂型のヴールが襲いかかる。それに気づいた士郎はテルンを庇うように飛び出しヴールの攻撃を受けた。

 

「わ、わわぁぁあ⁉︎」

「士郎⁉︎」

「くっ……油断した」

 

右腕を撫り、怪我の具合を確認するが、痺れているような感覚があることに気づく。

 

「うっ……毒をくらったかもしれない」

「本当⁉︎ 早く治療しないと、でもかなりいるし、ここから逃げるのは難しいかな……」

「あ、あ、あ、ああ」

 

士郎がやられた事とヴールの多さに動揺するテルン。

 

「テルンは下がってて」

 

シンクがテルンに優しく促す。

 

「で、でも……」

 

戸惑い動くことができないテルンに士郎が、

 

「テルンは下がってろ!」

 

毒で足下がふらつきながらも声を張る。

 

「は、はい!すすすみません!」

 

下がるテルンだが周囲のヴールはテルンを狙うように動いた。

 

「テルンが狙われてる?」

「わわ!!」

 

ブォン。

 

突風が吹きテルンに襲いかかるヴールを消滅させた。

 

「風?一体何が?」

 

風の吹いた方を見ると長い青い髪の少女が立っていた。

 

「私も一緒に戦います!」

「女の子……?君は……?」

 

士郎が問いかけるも少女はヴールに向かいながら言った。

 

「話は後にして、まずはこの魔物を先に倒しましょう。……あっ、もしかして毒を受けてますか?先に治しますね」

 

こちらに走って向かってくる少女にシンクが、

 

「僕たち以外にも人が居たんだね。それに僕達よりだいぶ年下の女の子だなんて」

「傷口を見せてください」

 

少女は士郎の腕を見ると傷口に手をかざした。柔らかい光が傷口を覆うと士郎の顔色が戻っていく。

 

「治癒の魔法……?君はもしかして記憶があるのか?」

「え?もしかしてあなた達もなんですか?私、気が付いたらここに居て……」

 

士郎の発言に少女が驚く。このことで少女にも記憶がないことがわかり、話し込もうとする二人にシンクが割って入った。

 

「二人とも話は後にして!」

「あっ、すいません!」

「そうだな、君もあとは俺たちに任せて後ろに下がってて」

 

士郎の発言に一瞬だが少女は目を開く。

 

「え?私も戦いますよ?」

「君みたいな小さな子が戦うなんてダメだろう」

 

当然の事だろうといった顔の士郎に少女はふくれっ面を露わにする。

 

「そういうことですか……、いいです。勝手に戦います!」

「あっ⁉︎待つんだ!」

「天竜の翼撃!!」

 

少女は手に風を集めるとそれを解き放ちヴールを一掃した。

 

「なっ……⁉︎」

「……凄い」

 

二人は少女の力を見て絶句した。

 

「私も戦いますね!」

 

笑顔で告げる少女の言葉に士郎は引きつった顔で答えるしかなかった。

 

「わ、わかった。でも無茶はしないでくれよ」

「勿論です」

 

それから数分、少女の支援魔法などにもよりシンクと士郎は特に苦戦する事なくヴールを倒すことができた。

 

「助かったよ、凄いね、足が速くなったりするあれ!」

「いえ、私もここで初めて人に会えたんで張り切っちゃいました。えと、私はウェンディ・マーベルです」

「僕はシンク・イズミ。よろしくね。それでこっちが……」

「衛宮士郎だ、よろしくウェンディ」

 

戦闘が終わったのを確認し、茂みから顔を覗かせるテルン。

 

「え、えとえとテルンです。こ、こんにちは」

「こんにちは、テルン」

 

笑顔で迎えるウェンディに心を許したのかテルンはウェンディに抱きついた。

 

「わ、わわ」

「随分と懐かれたみたいだな」

「はい、でもこうやって抱きかかえるの、なんだが慣れてるような気がして……」

 

抱きかかえているテルンの頭を自然と撫でるウェンディ。

 

「もしかしたら、ウェンディにはそういった記憶があったのかも知れないね」

「はい。あっ、そういえばみなさんも記憶が無いんでしょうか?」

「そうだった。テルンにそれを聞こうと思ったら魔物が現れて」

 

シンクが思い出し、思わず声をあげるとテルンはたどたどしくありながらも口を開いた。

 

「あ、あれは魔物じゃないです。ヴールって言います」

 

 




読んで頂きありがとうございます。

次回は『死神代行と鉄竜』です。


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死神代行と鉄竜

三連休なので早目に投稿。


メランコリウムに向かっているナハト達は、この世界レーヴァリアのヴールについて説明を受けていた。

 

「元々ヴールには姿形といったものがありませんでした。しかし、彼らは最近になって力をつけたのかあのような生き物の形を得ました」

 

ナハトは表情に影を潜めながら話す。

 

「今までのヴールなら夢守でなくてもルフレス族なら誰でも浄化することが出来ました。しかし、力の付けたヴールでは若仔のルフレス族はおろか、夢守でさえ浄化が困難です」

「なるほどのう。しかしナハトよ。お主は問題なく浄化できていたように思うのだが?」

「それは僕が夢紬だからです」

「夢紬?」

 

聞き慣れない言葉に疑問を口にしたのはキリトだ。

 

「ルフレス族の言わば戦闘形態みたいなものです。僕は本でこの力のことを見つけ必死に習得しました。現状、僕の知る限り夢紬になれるのは僕だけです」

「もしかして、さっきナハトが人の姿になったのがそうなの?」

「はい、今までなら夢紬になるのにそれほど消耗しなかったのですが、先の戦闘以降消耗が激しくなっていて……どうしてでしょう」

 

太公望とキリトと出会う直前の戦闘……金髪の男との戦いから、かなり時間が経ったはずだがその疲れが未だに取れる様子がない。

 

「ねぇナハト?」

「……どうしました?」

 

ユウキがナハトに問いかける。

 

「その今向かってる、めらんこりうむ?だっけ。そこってどんな場所なの?」

「その昔、浄化しきれず封じるしかなかったヴールの塊ラーフ・ネクリア。メランコリウムはいわばその牢獄です」

 

ナハトは質問に淡々と答える。

 

「そこでは十分な力をつけたルフレスである夢守たちが結界を作り、外に出さないよう封じ続けているのです」

「あなたはルフレス族はヴールを浄化するために存在すると言ったわ」

 

次はイヴが疑問を投げかけた。

 

「ええ。レーヴァリア自体の自浄作用が形を為したものと僕たちはみなしています」

「だが、わし達『夢見る目覚めの人』を呼ぶような状況になるほど今、この世界は穢れておる」

「残念ながら、僕たちルフレスと同様、ヴールもまた絶えずあらゆる場所にその元となる想念が流れ込んでいる」

 

ナハトの言葉の先をキリトが続けた。

 

「レーヴァリアと俺たちの目覚めの世界がお互い影響しあっているから、だったか?で、今はヴールの力が強い訳だ」

「その昔、ヴールがヴールを呼び、溶け合い、澱のように淀み、凝り……やがてラーフ・ネクリアが生まれた。一度傾きに弾みがつくと正すのは容易ではありません。今では第二、第三のラーフが生まれる可能性さえあります」

「なるほどのう。それで最初のラーフも封じるしかなかったのだな」

 

ラーフの力が強いという事は目覚めの世界でそれ相応の事態が起きているという事だ。一行は平原を歩いて行く。ふと、思い出したように太公望が呟いた。

 

「そういえば、キリトは何故剣を二本さしておるのに片方しか使わんのだ?」

 

キリトの背中には柄も刀身も真っ黒の剣と鮮やかなスカイブルーの剣がある。しかし、キリトはさっきの戦闘でも黒の剣・エリュシデータのみでもう片方のダークリパルサーは抜いていない。

 

「ああ、これか。太公望も分かってはいると思うけど俺たち記憶が無くなって戦い方も曖昧だろ?」

「うむ」

「だからかどうかは分からないけど、 剣を二本持って戦う……二刀流か、それが出来ないんだ」

「わしも本来の実力が出せているようには感じんからそれと似たような感じかのう」

 

太公望は考え込むように腕を組み唸る。その会話を聞いていたイヴが今度は声をかけた。

 

「キリトとユウキの戦い方少しだけど似ていた」

「そうか?」

「技を出すときどっちも剣の刀身が光っていたから」

「もしかしたらお主らは同じ世界から来たのかもしれんのう」

「俺とユウキが?」

 

太公望の発言にキリトとユウキがお互い顔を見合わせる。それに照れたユウキが漏らす。

 

「エヘヘ、なんだか照れるね」

「なんで照れるんだよ!」

「まぁ同じ世界から来たと言っても顔見知りかどうかはわからんがのう。ニョホホホホ」

 

 

 

しばらく雑談も交えながら、ナハトにこの世界についての事を聞き歩いていると宙を浮く神殿の様なものが見えてきた。

 

「……あれがメランコリウム?何処かで見たことがあるような気がするわ」

「イヴも?僕もなんだが見覚えがあるような気がするんだ」

「それはこの世界が皆さんの意識集合体……心象風景からできているからです」

「俺たちの記憶を基にこの世界が造られているってことか?」

「その考えで問題ありません」

 

メランコリウムを見上げる一向の視線に二つの流れ星が入った。

 

「あれは流れ星?」

「いえ、違います!あれは『夢見る目覚めの人』です!」

 

二つの星はそれぞれメランコリウムの中に一つ、こちらとメランコリウムを繋ぐ橋に一つずつ落下した。

 

「あっ!橋に落ちたよ!」

「マズイ!ヴールに囲まれるぞ!」

 

橋に落ちたのは人相の悪い男二人。片やオレンジ髪に真っ黒の死覇装、片や無造作に長い黒髪に顔のいたるところにピアスのようなものが嵌めてある。

 

「イッテェ!何だよここは」

「ギヒッ!何だが知らねぇがうようよ寄って集ってきやがる」

 

周りのヴールを睨みつけ戦闘モードに頭が切り替わっている。

 

「で、オッさん。俺は黒崎一護だ。あんたの名前は」

「ガジル・レッドフォックスだ。……あん?名前以外思い出せねぇ」

「そんなわけ、あれ?俺も思い出せねぇわ……」

 

橋の外から二人を見ていたナハト一向は呆れていた。

 

「何なのだあの二人は。囲まれおるというのに余裕ぶっこいて、自分の現状を把握しきれておらんのか」

「でもあの二人凄く強そうだよ!ヤンキーみたいだね」

「俺何だか、あの二人を助けるのすごく嫌なんですけど……」

「そうも言っておれん。早く助けに行かねばヴールに取り込まれかねんからのう」

「それにヴールの数も増えていっている」

 

それぞれ武器を取り出して橋を渡り、二人の近くまで駆け寄る。勿論、ナハトは夢紬の姿に変わっている。

 

「一護、俺の邪魔をするなよ!」

「ガジルこそ俺の間合いに入ってくるんじゃねぇぞ!」

 

一護は背中にあった大太刀、斬月を手に取り構え、ガジルは手を鉄の剣に変化させた。

 

「その剣、中々カッコいいじゃねぇか」

「ガジルこそ、その手の剣イカしてるぜ」

 

お互いを褒め称えあう二人、その二人を見かね太公望が叫んだ。

 

「お主ら!もっと緊張感をもたんか!!!敵が目の前にいるのだぞ!!!」

「うおっ⁉︎俺達以外にもいたのか」

「そうみてぇだな。一護、先に行くぜ!」

「おい、ガジル!俺もいっちょやりますか!」

 

太公望に促されやっとヴールと対峙する二人。気の抜けていた二人ではあるがその実力は眼を見張るものがあった。

 

「何だ、やれば出来るではないか」

「黒髪の方、戦い方が微妙にイヴと似てる気がするけど知り合いか?」

「記憶がないからわからないけど、多分違うと思うわ」

「どうしてだ?」

「だって、あの人鉄を吐いてるもの」

「そんな人が鉄を吐くって、あるわけ……がぁあ⁉︎」

「鉄竜の咆哮!!」

 

吐いてました。それはもう凄い勢いの鉄の息吹を吐いてました。

一護とガジルの奮闘のお陰か、気付けばかなり早く辺りのヴールを一掃できていた。

 

「ギヒッ。肩慣らしにもならねぇ」

「なんか、まだ剣に慣れねぇな」

 

二人して首をゴキゴキ鳴らし伸びをしていた。二人に夢紬の姿となっていたナハトが近づく

 

「二人とも無事ですか?」

「ああ、問題ねぇよ」

「俺もだ」

「よかった。私はナハト、この世界レーヴァリアの夢守です」

「俺は黒崎一護だ、それでこっちが……」

「ガジル・レッドフォックス」

「それで、どういう状況なんだ?」

 




読んで頂きありがとうございます。

次回もナハト編です。


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伝承の保菌者と嵐の守護者と剣道の妖精

それから、二人にこの世界の事を説明し、一向は一護とガジルを仲間に入れて、メランコリウムの中へと入った。

 

「ここがメランコリウム?何だか街みたいだな」

「うわぁー、おっきー!」

 

天井を見上げるキリトとユウキ。それにつられてガジルと一護も中を見渡している。

 

「デッケェな。ここにはえっと……ルフレスだったか?そいつらはいねぇのか?」

「ここは生き物の匂いがしねぇ」

「他の夢守達は奥で結界の維持に専念しているはずです」

 

ナハト曰く、夢守は眠る事により結界を張っているのだとか。

 

「それにしても、ここにまでヴールの気が……。メランコリウムの中とは思えない」

「うっ……」

「ユウキ、どうしたの?」

「ううん。ちょっと気分が、ね」

 

その場で辛そうにするユウキにイヴが寄り添う。ユウキの状態を見て、太公望が目を細める。

 

「ナハトよ、これはわしとキリトのいた森のような感じがするようじゃが」

「ああ、何か黒いものが身体に入ってくるような感じがする」

「ラーフの気が若干ですが、漏れているようです。浄化しなくては……うっ」

「おい!お前、その姿になって大丈夫なのかよ!?」

 

夢紬の姿に変わったナハトに一護が心配そうに声をかける。

 

「大丈夫です。それより……来ます!」

「なにっ!?」

 

奥に進むとナハトがヴールの気を感じ取った。前方には三つの人影。

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

金髪のエルフのような尖った耳をした少女と紫色の髪で男装のスーツを着た女性、そして銀髪でいかにもガラの悪そうな少年が立っていた。

 

「ナハトよ、あやつらはもしや……」

「『目覚めの人』……だが、ヴールの気を強く感じる。これは、ただ取り込まれたのではない……?」

「どういうこと?」

「わかりません。しかし、今まで以上に危険です」

 

ナハトが皆の前に立つ。しかし、それを一護が止めた。

 

「なら片っ端から倒せばいいんだろ?」

「ナハトは下がってな、俺達が戦ってくる」

「私もやるわ」

 

一護の言葉にガジルとイヴが続き、ナハトの前に出る。

 

「ですが、皆さんだけに任せるわけには」

 

キリトはエリュシデータを手にとると笑ってナハトに言った。

 

「いいんだよ、ナハトは浄化っていう大事な役割があるんだ。今は俺達に任せろ」

「キリトさん……」

 

今のナハトは浄化だけでも手一杯だ、それをここまで一緒に来ているキリトと太公望はよくわかっている。

 

「それにしても後衛がわしだけとはバランスが悪くないかのう?」

 

太公望以外の全員が接近戦タイプである。

それに比べ向こうは綺麗に隊列を組むように前衛、中衛、後衛に一人ずついる。

 

「何とかなるさ、まずは目の前の彼女から抑えるぞ」

 

キリトの声で一斉に紫の麗人の下へ走る。

ユウキと一護が左右から一太刀浴びせにかかる。

 

「おらぁ!」

「やぁぁ!」

 

彼女はその両方を半身になって交わし、一護に拳を、ユウキには蹴りを一発ずつ腹に打ち込んだ。吹き飛ばされた二人を背にガジルとイヴが続けて襲う。

 

「ハッ!」

「……ッ」

「………………」

 

麗人は黄金の拳を片手で受け止めるとイヴの長い髪を開いている左手で掴み回転するように振り向く。

 

「きゃっ⁉︎」

「なっ⁉︎」

 

振り回されたイヴは反対から仕掛けていたガジルとぶつかる。麗人がぶつかる直前に髪を掴んでいた両手を離していた為に二人は勢いのまま飛ばされる。更に、二人を尻目にキリトが背後から斬りかかった。

 

「はぁぁ!」

 

回避は出来ないタイミングでの攻撃に彼女は腕を前に交差して受け止めた。

ようやく、攻撃が当たった事に緩み、僅かに隙ができたキリトに大量のダイナマイトが降り注ぐ。

 

「……なっ!!」

 

当たる事を覚悟し身を硬ばらせ、衝撃に備えるキリトを見て、太公望が打神鞭から小さな竜巻を発生させてダイナマイトを遠ざける。

 

「無事か、キリトよ」

「助かったよ」

「スー・フィッラ・ヘイラグール・アウストル・ブロット・スバール・バーニ!」

 

ダイナマイトから逃れた、二人の耳に聞きなれない言葉が入る。

唱えているのは後衛に位置している金髪のエルフだ。

詠唱が終わると、紫の麗人が光に包まれ、キリトに斬られた腕の傷が治っていく。

 

「回復技持ちとかずるくねぇか」

 

怪我をした腕を治療する彼女を見て一護がぼやく。

 

「それに連携も無駄がない」

「ダイナマイトとか斬れないよ、斬っても爆発しそうだし」

 

続けてイヴ、ユウキが口々にしガジルは不敵に笑みを浮かべる。

 

「ギヒッ、手応えがありそうじゃねぇか」

「みなさん、大丈夫ですか」

 

後ろで見ていたナハトが心配そうに前に来た。

 

「大丈夫。だからもう少し待っててくれナハト」

 

無事であることをキリトが笑って伝える。

それを見て太公望がヒソヒソとキリト以外に喋りかける。

 

「見ろ、キリトがカッコつけたではないか」

「キリトって中二病っぽいとこあるよな」

「中二病ってなにー?」

「……危ない人の事」

「お前ら、緊張感ってのを持てよ!」

 

キリトから逃れるように太公望達は離れて各々の武器を構える。

 

「わしが風の刃で攻撃しよう。お主らはそのあとに続いてくれ」

 

太公望の言葉にそれぞれ頷きタイミングを見計らう。

 

「行くぞ、ーーー疾ッ!」

 

真っ直ぐに放たれた風の刃は今まで見た中でも大きく速い。

しかし、それは真っ向からやってきた矢のようなものに相殺される。

 

「なぬっ⁉︎」

 

太公望は矢の放たれた方を見る、そこには銀髪の少年が右腕に髑髏がついた弓のようなものをつけていた。少年の周囲には骨で型どられた円盾が浮いている。

銀髪の少年は矢を引き、連続して放つ。矢には赤黒い炎が纒われている。

 

「くっ、打風輪!!」

 

すかさず、太公望も自分の周囲に風の輪を作り攻撃に転じる。それに反応してキリト達も動き出す。紫の麗人はキリト達を見て地を蹴り迎え撃ちに行った。

 

「………ッ!」

「おらっ!鉄竜棍!」

「はぁ!」

 

ガジルが腕を鉄に変え、イヴは髪を纏め拳を作る。ほぼ同時に放たれた攻撃に紫の麗人は表情を全く変えずに対処する。

ガジルとイヴを相手にしている隙をつき一護とキリト、ユウキが銀髪の少年に向かう。

 

「セアー・スリータ・フィム・グローン・ヴィンド!」

 

金髪のエルフが再び唱えると、緑色に輝くブーメラン状の刃がキリト達に襲いかかる。

 

「くっ」

「チッ」

「……ッン」

 

三人とも己の剣で防ぐが止まった隙を突き、銀髪の少年が矢を放つ。一本だった矢は二本、三本と増えていき、キリト達の前に着く頃には数えるのが困難な程になっていた。

 

「疾ッ!」

 

太公望が風を巻き起こし、キリト達を矢から守る。太公望は更に風の刃を放ち、銀髪の少年を攻撃する。

 

「打風刃!」

 

銀髪の少年が風の刃を周囲に浮いている円盾で防ぎきったのを見て太公望は思案顔になった。

 

「むぅ、簡単には行かんのう」

「このままじゃ拉致がないぞ」

 

下がったキリトが言った。前にいた一護とユウキもこちらに寄って、ガジルとイヴも紫の麗人から距離を取ったのを見て太公望が問いかけた。

 

「この中で飛び道具みたいな技や魔法を持っておるのはいるかの?」

 

それに対して反応したのは先の戦闘の時に鉄の息吹を吐いたガジルと大剣一つで戦っていた一護だった。

一護が反応したことに一同が驚いた様子になるも強面な面のまま一護がぼやく。

 

「持ってちゃ悪りぃかよ。……まぁ使える技がそれだけだから期待はすんなよ」

「それでもよい。あの円盾を突破せぬと、どうにもならんからのう」

 

太公望のもとに全員を集めてこれからの作戦を伝える。

 

「向こうは回復持ちで耐久力もある。短期決戦で物量で攻めることになる。本来こういった真正面から攻めるのは得意ではないのだが…………仕方あるまい」

 

それぞれ持ち場に着くよう指示をする太公望。先頭はイヴ、少し後ろにキリト、ユウキそれからガジルと一護が立つ。勿論、最後尾は太公望だ。

前にいるイヴにキリトが声をかけた。

 

「無理はしないでくれよ、イヴ」

「そうだよ、あのお姉さんが一番ヤバそうだからね!」

「ありがとう……でも大丈夫。私もやられるだけは好きじゃないから」

 

見るからに気合いの入っているイヴ。その表情は僅かだが笑っているようにも見える。

 

「良いか?スリーカウントで行くぞ!」

 

三から数えていき、カウントがゼロになると同時に太公望が周囲に予め作っていた打風輪を放った。

 

「ゼロッ!ーー 疾ッ!」

 

紫の麗人は打風輪を問題なく躱す。ここは作戦での想定範囲内である。躱すタイミングと方向を読み、イヴが彼女の目の前に位置取った。

 

「はぁ!」

 

作戦でのイヴの役割は紫の麗人の足留め。作戦で太公望はイヴに「皆も分かっておるとは思うがあの紫のやつの戦闘能力はかなりやっかいじゃ。故に奴は最後に倒す事になる。しかし、奴は前衛におるので誰かが相手をしなくてはならん。イヴよ、お主には悪いが出来るだけあやつの足留めをしてもらいたい」と言った。

さっきまでの交戦でもイヴは感じていた、今の自分の力では彼女を倒すことが不可能なことはーーーそれでも……やりようはある。

 

「……ッ!」

 

イヴは一歩踏み込み、作った拳を猛烈な勢いで叩き込む。

 

「……黄金の連弾(ゴールドラッシュ)!!」

 

先程までとは威力も速さも上がり、今までは余裕のあった紫の麗人はイヴの対処に追われだした。

イヴのお陰で出来た隙を突き、キリト達は銀髪の少年の前まで駆け抜ける。

「小僧の相手はガジルと一護が適任であろう。奴の前に着いたらわしを入れた三人で奴の円盾を封じ込める。その隙にキリトとユウキはエルフのもとへ行くのだ」それが次の太公望の指示。

回復技を使うエルフを先に押さえ、回復手段を断つのが目的だ。

時間差で太公望の放った打風輪が銀髪の少年に襲いかかる。銀髪の少年はそれを円盾の一つを使い防ぎきる。

 

残る円盾は二つ。

一護とガジルが左右に分かれ銀髪の少年の横を陣取る。

ガジルは大量に息を吸い込み口を含ませると次の瞬間に鉄の息吹を勢いよく吐き出す。

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

ガジルにタイミングを合わせるように一護は大剣ーーー斬月を両手で持ち、切っ先を天に向ける。己の力を斬月に最大限込め、振り下ろす時に込めた力を斬撃に変え放つ。

 

「月牙……天衝ーーッ!」

 

二人の大威力の攻撃に銀髪の少年は残りの円盾二つを左右に置いて受け止める。威力が強いからか防御に手一杯になっているように見える。

銀髪の少年の傍を抜け、キリトとユウキが金髪のエルフのもとへ辿り着く。

 

「良しッ!」

 

キリトが安堵した声音で口にする。ここまでは順調に進んだが、ここから先は細かく決まっていない。出来るだけ早くキリトとユウキがエルフを倒し、イヴと合流すること。長引けば長引くほどイヴの負担がそのまま大きくなる。故にキリトとユウキはこのファーストアタックで決める必要がある。僅かに出だしの速かった黒の剣士がエルフにエリュシデータを振り下ろす。

 

「ぜぇぁぁあ!」

「…………ッン!」

 

金髪のエルフは腰に帯刀していた刀を抜き、一撃を防いだ。

防がれた事に驚くがここで止まってはイヴの救援に向かうのが遅くなることを忌避した。降りたエリュシデータを全力で下から振り上げる。

剣と刀がぶつかり、眩い火花を散らして互いに弾かれ合う。

 

「ユウキ!」

「うん!」

 

キリトは弾いた反動に身を委ね、後ろから来ているユウキと入れ替わるように下がる。

 

交差する時、

 

「「スイッチ!!」」

 

二人の声が重なった。

 

紺色の髪を揺らしながら手に持ったマクアフィテルを水色に輝かせる。

 

「やぁぁあ!」

 

四連撃のそれは正方形の軌跡を作るソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。カラダの記憶とでもいうのか体の赴くままに放った剣技でエルフの意識を刈り取った。

 

動かなくなったことを確認するとすぐに振り向き他の状況を見る。

すでに銀髪の少年はガジルの鉄の腕を腹に受け気絶したのが確認できた。

 

けれど、奥のイヴの交戦は続いている。

急いでキリト達が下がり救援に行こうとする。しかし、先に太公望が交戦している二人に割り込んだ。

 

「……は?」

 

思わずおかしな声がでる。術者である太公望が接近戦を挑みに行ったのだそれも仕方ない、だが太公望の表情を見る限り真剣だ。何か考えがあるのだろうと全員が思った。

 

「わしが相手をしてやろう!」

 

太公望は左手を前に突き刺し宣言すると紫の麗人も無表情のまま構える。

 

「…………………………」

「…………………………」

 

そして二人がいざ拳を交え合うかと思われた瞬間、太公望の左腕が自身から離れ、紫の麗人の額に直撃した。

 

「「……へ?」」

 

その場の全員の声が重なった。

ロケットパンチよろしく放たれた太公望の左手により紫の麗人は意表を突かれたこともあるのか、その場で倒れ意識を失った。

 




読んで頂きありがとうございます。

次回は『聖杯と閃光と変態の女達』


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聖杯と閃光と変態の女達

士郎達はルフレス族の街に向かう道中で少しの休憩を挟んでいた。

 

「ウェンディ、僕にもテルンを抱かせて」

「シンクさん。はい、いいですよ」

 

ウェンディの腕の中で気持ち良さそうにするテルンをシンクに手渡す。シンクはテルンの頭を優しく撫でると何かを思い出すように話した。

 

「ありがとう。あぁ、こうテルンを撫でてると懐かしい気持ちになるよ」

 

撫でられるテルンも気持ち良いのか、シンクに完全に身を委ねている。シンクの言葉に士郎が反応した。

 

「シンクはもしかしたら動物とかを良く撫でていたのかもしれないな」

「そうなのかな?うん、そうかもしれないね」

 

士郎達は雑談をしながらも、テルンに連れられようやく街の近くに来ていた。道中、度々現れるヴールを倒しながら向かっているとウェンディが近くに女の子が倒れているのを見つけた。

 

「みなさん! あそこに誰か倒れています!」

「どこ? 僕にはよく見えないんだけど」

「あっちです。木に持たれるように倒れてます」

「すぐに行こう。 もしかしたら『夢見る目覚めの人』かもしれない」

 

ウェンディの指差した方へと士郎が先頭になって走る。

駆けつけ士郎とシンクでもはっきりと見える距離になり少女の姿に思わず目を見開く。

白に近い銀色長い髪が上の方で二つピンクの羽のようなもので結ばれている。ピンクが基調の服をしており、肩は露出されている。右手には先端に星の形をしたものが付いているステッキが握られており、魔法少女のような姿である。

 

「おい!大丈夫か!しっりしろ!」

 

士郎は両手で少女の両肩を持ち軽く揺らす。

それで気がついたのか少女は目をピクリとさせた。

 

「……ん……んんっ…………」

「どうだった士郎、気がついた?」

「ああ、大丈夫みたいだ」

 

追い付いたシンクから声がかかる。それと同時に少女は目を開け、小さな声で呟いた。

 

「こ、ここは?」

「ここは、レーヴァリア……それより君、名前はわかるか?」

 

士郎は手を差し伸べ少女を引っ張り上げる。少しふらっとするがしっかりと地に足をつけると彼女は頭を下げて名乗った。

 

「ありがとうございます!私はイリヤ!イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」

「イリヤか。俺は衛宮士郎、それで後ろにいるのが……」

「僕はシンク・イズミ。よろしく!」

「ウェンディ・マーベルです。イリヤ、よろしくね」

「え、えとルフレス族のテルンです」

「よ、よろしくお願いしま……す?えっと……私、今何も覚えてなくて」

 

苦笑いを作り応えるイリヤに士郎は優しく微笑み、状況を説明した。

 

「ああ、それについてだけど俺たちも名前以外の記憶がないんだ」

「ええー⁉︎ そこの二人も⁉︎」

「うん」

「私もです」

「詳しい事は……テルンお願いできるかな?」

「は、はいです」

 

士郎達にもしたこの世界のことについて説明するテルン。イリヤは半信半疑に聞きながらも納得した。

 

「夢の世界レーヴァリアか〜。何にも覚えてないけどその、私にもできることがあるなら手伝いたい!」

 

その言葉にウェンディとシンクは笑顔で勿論。と返すが士郎はウェンディのときもそうだったように渋い顔をして言った。

 

「ダメだ!君みたいな女の子が戦うなんて!」

「でも、ウェンディは戦ってるんでしょ?」

 

シンクの横にいるウェンディを見てイリヤが主張する。

士郎の発言にシンクはまたか、と思いつつも士郎の優しさを感じていた。

 

「そうだけど、それは……」

「それなら大丈夫!私も少しは戦えるんだから」

 

少しの間二人は目を合わせお互いの主張を誇示する。そして、先に折れたのは士郎だ。どうやら、彼は年下の女の子に弱いのかもしれない。

 

「……わかった。けど無茶はしないでくれ」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「お、お兄ちゃん⁉︎」

 

イリヤのお兄ちゃん発言に驚く士郎だがイリヤ本人は気にした様子もなくウェンディの手を取り歩き出した。

 

「さっ、早くテルンの街にいっちゃおー!」

 

ウェンディは戸惑いながらもイリヤの手を握り歩き、テルンもそれについて行く。

固まっている士郎にシンクが声をかけた。

 

「だってさ。頑張らないとね"お兄ちゃん"」

「…………勘弁してくれよ」

 

トボトボと士郎も彼女達の後を追った。

 

 

 

街の近くに着くとその大きさを見て、シンクが感想を漏らす。

 

「うわー、本当にデカイねテルンの街!」

「向こうにも建物があるんだな。あれも街の一部なのか?」

 

ドームの形をした建物を見て士郎が聞くとテルンは肯定した。

 

「あ、はい、あれは闘技場です。ぼ、ぼく達は使わないんですけど」

「さっきテルンが教えてくれた私たちの記憶にあるものだっけ?あれがそうなんだ」

「あ、あれだけじゃないです。この街全部です」

 

テルンの言葉を聞き、イリヤは町全体をボーっと見渡した。みんなが街の様子に見惚れているなか、ウェンディが何かを聴き取り、緊迫した声をあげる。

 

「みなさん、向こうから何か聞こえてきます!」

「どこからだウェンディ?」

「少し待って下さい……」

 

ウェンディの声で一気に緊迫した雰囲気を出す士郎の言葉。目を閉じ耳を研ぎ澄ますウェンディを周囲がじっと見守る。

キィンキィンといった金属が何かにぶつかるような音が耳を打つ、直ぐにウェンディは目を開くと音のした方を指差した。

 

「向こうからです!戦闘音のようなものが聞こえてきます」

「この街って安全だったんじゃないの⁉︎」

「そ、そんな、ここにまで……」

 

 

戦闘と聞いて驚くイリヤと怯えるテルン。

士郎は既にウェンディの差した方へと駆け出していた。

 

「向こうか!急ごう!」

「うん、テルンはどうする?」

「ぼ、ぼくは………その、えっと……」

「行くよ、テルン!」

「わ、わわ⁉︎」

 

怯え悩むテルンをイリヤが無理矢理捕まえ先に行った士郎とウェンディの後を追った。

音のした先ではテルンと同じような姿をしたルフレス族が逃げ惑っていた。

そんな中で二人の女性が襲い来るヴールからルフレス族を守っているのが見える。

 

「私が奴らの注意を引き付ける!アスナはその子達の誘導を頼む!」

「そんな⁉︎ ダクネスだけなんて無茶よ!」

「私なら大丈夫だ。それよりルフレス族を守るのを優先してほしい」

「で、でも……」

 

長い金髪を後ろで一本に束ねている聖騎士が現れている中で一番大きなヴールの相手をしていた。もう一人の栗色の髪に白を基調とした赤いラインの入った服を着ている女の子が逃げるルフレスを守るように取り巻きのヴールと戦っている。

そんな中一体のヴールが逃げ遅れているルフレスに襲いかかった。アスナは急いで駆けつけるも間に合いそうにない。

 

「逃げてー!」

 

狼型のヴールの牙がルフレスにあたる直前、黒い一本の矢が狼を射抜き消滅させた。

 

「えっ⁉︎」

「大丈夫か⁉︎」

 

弓を携えた士郎がアスナとダクネスの無事を確認する。

アスナが現れた士郎達に驚きの声をあげた。

 

「あ、あなた達は⁉︎」

「話は後でね。それよりも先にあいつらをやっつけちゃうよ!」

 

棒状にした聖剣パラディオンを手に持ちシンクがアスナの横に立つ。

 

「あ、ありがとう……」

 

ランベントライトを持つ手にギュッと力を込めシンクと共にヴールを迎え撃つ。

 

「トレース・オン!!」

「斬撃(シュナイデン)!!」

「エンチャント・バーニア!」

「ヤァァァ!」

「ハァァア!」

 

士郎が弓を消して夫婦剣で切り掛かり、イリヤは魔法の薄い刃を放つ。ウィンディの支援魔法によりアスナとシンクは閃光の如き速さで蹂躙する。

そんな中イリヤが一人でこの集団の頭と思われるヴールと対峙しているダクネスに目がいった。

 

「ぐっ……!」

 

ダクネスはゴーレム型のヴールの一撃をその身で受け止めていた。

咄嗟にイリヤは駆け寄り声をかける。

 

「大丈夫⁉︎」

「ああ問題ない。……寧ろもっと強めにきてほしいくらいだ」

「…………えっ?」

 

何やら不穏な言葉を聞いたような気がしたイリヤは思わず聞き直した。

 

「こっちは私に任せて取り巻きを片付けてほしい。こいつの攻撃は私一人で大丈夫だ」

「あ、うん。わかったけど……」

 

奥歯に何か詰まったような違和感を感じながらもイリヤはダクネスから離れ、取り巻きのヴールに向き直る。

 

「イリヤ、彼女は無事か?」

「うん、大丈夫みたい。あの親玉みたいなのは引き受けるから他のを片付けてほしい、だって」

「一人で大丈夫なのか?」

「僕達じゃ、あの親玉の攻撃は受け切れないし、ここは彼女を信じて早く片付けよう」

「……それしかないか」

 

 

蜂型のヴールをイリヤとウェンディの魔法で蹴散らし、狼型と蛙型のヴールを士郎、アスナ、シンクが消滅させる。

数分であたりのヴールを倒すと急いでダクネスの元へと向かう。ダクネスを見ると一人でトレント型を中心に、植物型のヴールの集団を相手にしている姿が見える。

耐えるダクネスが呟く声を、近くにいたイリヤだけが聞き取っていた。

 

「向こうは片付けて助けにきた……よ?」

「……私はこのままこのヴール達に痛めつけられ周りの植物型のヴールの蔓で捉えられ、あ、あんなことやこんなことを!!くっっ!私の体は好きにできても心までは好きにさせんぞ!」

「あの人なんか、かなりやばいこと口走ってるんですけどーーーー!!!?」

 

ダクネスの発言にイリヤはただ驚愕した。

少し遅れて着いた、アスナ達が声をかける。

 

「ダクネス、大丈夫⁉︎」

「絶対大丈夫じゃないよッ⁉︎」

 

猛攻を受け折れず耐えているダクネスを見て、シンクが呟く。

 

「凄いね、あの大きなヴールの攻撃を受けて平気なんて」

「寧ろ、少し嬉しそうなんですけどッ⁉︎」

「どれだけ頑丈なんだ彼女?」

 

士郎の言葉を聞いてダクネスが反応した。

 

「ふっ。私は堅さしか取り柄のない女だ。……なんせ攻撃はどれも当たらないのだからな」

「この人ダメすぎるーーッ!!!」

 

先程から騒いでいるイリヤに、ウェンディがおどおどとしながら落ち着くよう言う。

 

「イ、イリヤ……お、落ち着いて。どうしたの、大丈夫?」

「あの人が何も大丈夫じゃないよッ⁉︎」

「どうしたんだイリヤ⁉︎」

「お、お兄ちゃん……え、え⁉︎ これってわたしがおかしいの⁉︎ 」

 

ダクネスの変態性に唯一気づいてしまったイリヤ。彼女の中ではダクネス=変態という構図が確立したことだろう。他のみんなが気づいていないからかダクネスの変態性に言及もしづらい。

頭がパニックな状態のイリヤに士郎は真剣な表情で言った。

 

「全員で行けばあのヴールも倒せるはずだ。このまま彼女一人に無理をさせるわけにもいかないしな」

「う、うん。 そうだよね!」

 

ダクネスの変態発言については今は置いておく。そう決めたイリヤはカレイドステッキに魔力を込め始めた。

 

「わたしが親玉のヴールを攻撃するからその間の時間を稼いで!」

「わかった。シンク、ウェンディ!イリヤが魔法を放つ時間を稼いでくれ!」

「任せて!」

「わかりました!」

 

ウェンディは今もなお前線で頭のヴールの攻撃を受けているダクネスに防御の支援魔法をかける。耐久力が上がったダクネスに背後からヴールが襲いかかる。それにシンクが気付いた。

 

「させないよ!」

 

聖剣パラディオンで打ち払い遅れて士郎が斬り捨てるとヴールは霧散した。

その先ではトレントの攻撃を受けるダクネスの援護にアスナが後ろからトレントに飛びかかっていた。

 

「ハァァァッ!!」

 

光速で放たれた一撃にトレントの重い体が揺れ動く。

その一撃でアスナに意識がいったのかトレントが振り向こうと体を捻る。しかし、突如その動きを止めると再びダクネスに向き直った。

 

「私から目を離さないで貰いたいな」

 

ダクネスの持つスキル《デコイ》。敵となるモンスターの注意を引きつける能力をここで発動させた。これを使えばモンスター全てを自分に集めることができるが彼女の性癖を考えると最初から使えば良かったはず。だが何故今使ったのかそれは……。

 

「……くっ。最初からこれを使えていれば全てのモンスターから攻撃され虐めてもらえたというのに!!」

 

使えることを思い出したのがついさっきだからだ。

ダクネスの背後で魔力を溜めていたイリヤが準備を終え、叫ぶ。

 

「準備オーケーだよ!みんな離れて!」

 

 

声に反応して、トレントの近くにいたアスナが離れる。シンクや士郎も距離を取ろうと走るが動こうとしない人物に目がいく。それはダクネスで彼女の性癖から勿論動くはずがなかった。

 

「いい。私に構わず撃て!」

「だと思ったよッ⁉︎ あーもうっ!お兄ちゃん!!」

「離れるんだ!」

「あぁ……やめろ!私は、ここで、後ろから、デカイ、魔力の、塊を、打たれてーー」

「いいから離れるんだ!ここにいたら巻き添えになるぞ」

 

ダクネスをズルズルと士郎が引きづり射線から離れていく。

 

「ナイス、お兄ちゃん!……行くよ!」

 

透き通るような白銀の少女の周囲に光が満ち、渦を巻きながら光は掲げているステッキに収束している。

その集まった光達、魔力の塊を桃色の衣装を纏う魔法少女は精一杯に力を込めて放った。

 

「全力の……弾丸(フォイア)!!」

 

一直線に打ち出された魔力の弾丸はトレントにぶつかると轟音を響かせ破裂した。

煙が上がるもすぐに晴れ、その場にトレントの姿はどこにもなく、消滅したことを全員が確認した。

 

 

 

 

「あいつで終わったよね?」

 

イリヤの問いにアスナがレイピアを納刀しながら答えた。

 

「ええ、あのデカイやつで最後のはずだわ」

「おわったー!疲れたーこれ以上動けなーい」

 

緊張が解け、その場で倒れこむイリヤの周りに皆んなが集まりだす。

この戦闘で盾としての役割を果たし、着ている防具が所々汚れているダクネスが士郎達に感謝の言葉を述べた。

 

「君達のおかげで助かった。私とアスナだけでは正直、対処しきれなかった」

「気にしないでくれ。俺達は当たり前のとこをしただけだ」

「ありがとう。ここにきて急かもしれないが君達も《夢見る目覚めの人》なのだろうか?」

「も、ってことは君達二人も?」

 

ダクネスの言葉を拾ったのはシンクであった。

 

「ああ、この街のルフレス族から聞いたんだがこの世界に本来、人はいないらしい。いるのは《夢見る目覚めの人》だけなんだ。……そうだ、話す前に名乗らないとな。私はダクネス、それでこっちがアスナだ」

「結城明日奈です。よろしくお願いします」

「僕はシンク・イズミ。よろしくね」

「私はウェンディ・マーベルです」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤでいいよ!」

「衛宮士郎だ。それでこっちの隠れてるルフレス族がテルンだ」

「テ、テルンです。あ、あの街を助けてくれてありがとうです」

 

この場にいる全員の自己紹介を終えるのを確認すると話題を戻した。

 

「ダクネス達はここで何が起こっているのか知っているのか?」

「いや、私もさっきここにアスナと着いて話を聞こうとしていたら騒ぎに巻き込まれた」

「そうか。なぁテルン、そろそろこの世界について教えもらえないか?」

「は、はい、お話ししますです。あの、この世界がレーヴァリアっていう、夢の世界だってことは話したですよね 要するにここは、皆さんが見ている夢なんです。全部の『目覚めの世界』の人々が見ている夢、それがレーヴァリア!です!」

「……レーヴァリア……『目覚めの世界』」

 

まだこの世界について話を聞かされていなかったアスナが小さく頷きながら呟いた。

話を深く聞こうとイリヤが促す。

 

「なんで夢の世界のここにあんな……えっとヴールだっけ?そんなのがいるの?」

 

小さな体で身振り手振りしながらも何とか言葉を紡ぐ。

 

「・・・・・・ヴールは夢見る人のもってる痛みとか悲しい気持ちとかから生まれるって教わったです。ヴールが増えるとレーヴァリアの具合も悪くなって、夢を見てる人にも悪い影響が出るっていうです。レーヴァリアと全部の『目覚めの世界』はお互いにつながってるです。だからボクたちルフレスはヴールを食べてキレイにして、この世界と『目覚めの世界』を元気にしてる、です!」

「その割にはみんな逃げ回ってたように思うんだけど……」

 

さっき起きた戦闘の始めにアスナがルフレス族を逃していたことを思い出す。

逃すことを優先にしていた為にダクネスが一人でヴールの相手をしていたのだが本人にとっては本望だったのかもしれない。

 

「む、昔はヴールに形なんてなかったんです。最近になって、ああいう怖い形になってうろつくようになって・・・・・・ 前は夢守たちが、そういう形のあるヴールを退治してたです」

「夢守?」

 

新しく出た単語に士郎が反応すると上手い言葉が出ずにテルンが慌てる。

 

「あ、あの、ええと、・・・・・・ルフレス族で、生まれてからちゃんとたくさん勉強して、強くなった、その・・・・・・」

「俺たちで言う大人みたいなものか?」

「は、はい!人の大人と同じです!だけど、突然いなくなってしまって・・・・・・ 残っているのはボクみたいな若仔だけで、街の近くにまでヴールがでるようになって、それで、儀式で『夢見る人』をここで起こして、助けてもらおうってことになったです」

「なるほど、それで『夢見る目覚めの人』何だね」

 

合点がいき納得するシンク。他も大方理解は出来たのか頷くが一人容量越えで困惑していた。

 

「えっと、寝ている夢の中で起きていて、それで……、あーッ!頭がパンクしそう!」

 

純白の髪を結ぶ桃色の羽を揺らす。それを見てテルンが補足していく。

 

「あの、イリヤさん一人の夢じゃなくて、たくさんの世界のたくさんの人たちの見ている夢が集まってできてるです。ええと、例えばほら、あの向こうの建物、闘技場って言うらしいですけど、ボクたちが作ったんじゃないです。この街だってそう。ボクたち、ただ見つけて住み着いているだけです。沢山の人が夢見ている『集合意識の記念品』だって、ある夢守が言ってたです。よく分からないけど」

「うーん、今もまだよくわかってないんだけど要するにテルンは困っててそれで私達に助けて欲しくて呼んだってこと?」

「はいです」

「それにしては少し可笑しくないか?」

 

話に割って入る士郎にウェンディが反応した。

 

「どういうことですか?」

「俺たちに助けて欲しいって事だったよな?それならなんで俺たちは『目覚めの世界』の記憶がないんだ?」

 

最もな疑問をあげ、全員がその問題点に気づいた。

 

「確かに……記憶はあった方が絶対にいいはずだし、戦い方まで少し朧気だもんね」

「だろう?テルンはどうしてか知ってるのか?」

 

答えを求める彼らにテルンは俯き首を振った。

 

「それが・・・・・・分からないんです。『眠りの壁』をくぐる時、ヴールが何かしたのかも・・・・・・ 本当は、皆さんはこの街で目覚めるはずだったです。でもでも、どこで何人目覚めたのかも分からなくて、それで誰かが探しに行かなきゃって話になって、それで・・・・・・」

「……テルンはすごいな」

「え?」

 

テルンが声のした方を振り向く。そこには優しく見つめてくる士郎の姿。

言葉の意味を理解出来ず呆けているテルンにもう一度、次ははっきりと口にする。

 

「テルンはすごいよ」

「そ、そんなぼ、僕はすごくなんて……ない……………です……」

「すごいよ。だって外は危険だってわかってるのに俺たちを探そうとしてくれたんだから」

「うん、僕達がこうして無事にここに来れたのはテルンのお陰だよ」

 

笑顔で告げるシンクにテルンは顔を真っ赤にして小さな手を大げさに振る。

 

「それは、ぼ、僕達が強い心を持っている『目覚めの人』に助けてもらおうと勝手に呼んじゃったからで……ごめんなさいです……」

 

赤かった顔を次第に暗くし頭を下げる。下を向くテルンに暖かい手がそっと頭を撫でた。

 

「いいよ、テルンはよく頑張ったね。それに友達が困ってるんだから放ってなんて置けないよ」

「と、もだち?」

 

テルンが顔を上げ触れる手の先を見つめるとそこには青い髪をサイドで結んでいるウェンディの姿があった。

 

「うん、私達もう友達だよね?」

「そうだよ、テルン。友達だと思ってるのは私達だけなのかな?」

 

イリヤも便乗して笑顔でテルンに問いかける。テルンは嬉しそうにしながらも照れた様子で答えた。

 

「ぼ、ぼくたち、と、友達です」

 




読んで頂きありがとうございます。

ではまた次回。


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大切な仲間

遅くなってすいません。


 

「カァーーカッカッカッカッァ!!ワシ、大・勝・利!!」

 

高らかな笑いと共に勝者であることを宣言する太公望に周りは唖然とした目で見ていた。

 

「太公望!お前一体何したんだ!?」

「ニョホホホホ。 あれはわしのマル秘道具の一つじゃよ」

 

メランコリウムでの戦闘を終え、ナハトがヴールに取り憑かれていた三人を浄化する傍で驚いた様子のキリトからの追求をいつもの飄々とした様子で対応する。

 

「……マル秘道具?」

「もしかして、他にもあるの!?」

 

 

太公望の言葉に反応したのはイヴだ、横にいるユウキは面白いオモチャを見つけた子供のような目で太公望を見つめている。

 

「うむ、記憶が無くて知らなかったのだが、わしの左腕は義手のようでな、こうすると……」

 

と、言って左手の小指を弄ると勢いよく水が飛び出た。しかしその先にはオレンジ色の髪をした仏頂面がいたのだが……

 

 

「こうなるのだ。……どうだ、凄いだろう?」

「ああ、スゲェな……じゃねぇよ!?なんで俺に当ててんだよ!?」

「すまぬ、どうも威力の調整が上手くいかなくてのぉ」

 

再度義手である左手を弄りながら謝り、一護はどこから取り出したのかわからないハンカチで濡れた顔を拭う。

 

「……ったく、まぁ今回は許してグハァ!」

「あっ…………」

「一護ッ!?」

 

再び太公望の左腕が飛び出した、紫の麗人を気絶させたロケットパンチだ。義手が勝手飛んでいった事に太公望は呆然とし、キリトが慌てて一護に駆け寄り宥めているところで、倒れていた三人の浄化が終わったナハトが声をかけた。

 

「皆さん、こちらの『目覚めの人』の浄化が終わりました」

「ナハトお疲れ様!」

 

力を使い疲労し小さくなったナハトにユウキが労う。と言っても抱きかかえ頭を撫でているだけだが。浄化の終えた三人が皆、頭を抑えながら起き上がった。

 

「うっ……」

「こ、こは……」

「あ、頭が痛ぇ」

「気づいたようじゃな」

 

三人が起きた事を確認した太公望が声をかける。

 

「起きていきなりで申し訳ないんじゃが、お主らの名前を聞かせてもらえんかのう?」

「一体何が起きたのか思い出せませんが……わたしはバゼット・フラガ・マクレミッツと言います」

 

始めに名乗ったのは先の戦闘で一番苦戦した紫の麗人だ。バゼットは特に戦闘で怪我をした訳でもなかったので他の二人より回復が早いようだ。それから銀髪の少年と金髪のエルフ少女が続く。

 

「俺は獄寺隼人だ」

「わたしは桐ヶ谷直葉」

「ん?桐ヶ谷とな?」

 

直葉の名前に太公望が反応し、キリトをチラリと伺う。

 

「もしやキリトと関係あるのではないか?」

「確かに……でも流石に記憶が無いからわからないな、それに髪の色とか違うとこが多すぎる」

「んー、まぁそうだのぅ」

 

二人は髪の色から耳や目の色など見るからに容姿が違いすぎる。それでも太公望は納得いっていない、だがこれ以上詮索しても意味もない為に下がる。

 

「二人ともどこか痛かったり怪我をしてねぇか?」

 

一応、ナハトが浄化の際に簡単に治癒もしているが一護が確認を取る。獄寺と直葉は怪我の有無を探す為に自分の体を診て応える。

 

「頭がまだ少し痛ぇがそれ以外なら問題ねぇ」

「私もちょっと頭痛がするぐらいで他は何ともないよ」

「頭痛か……」

「おそらく、ラーフの影響でしょう」

 

頭痛と言われどうしたものかと悩む一護。

それを見て、ユウキの腕に抱かれているナハトが声を出した。ルフレス族の姿であるナハトが喋った事に、獄寺とリーファが驚いた様子で叫ぶ。

 

「しゃ、喋ったー!?」

「UMAか!?世紀の大発見だ!」

「え、えっと……」

 

急にテンションの上がる二人にナハトは頬を引きつらせるが太公望と一護が二人を宥め落ち着かせる。そこからバゼットと獄寺、リーファにナハトがこの世界について説明をし、各々が自己紹介をした。

 

「それでナハトさっきのラーフの影響っていうのはどういう意味だ?」

 

少し脱線したのをキリトが戻し、ナハトも思い出したように応える。

 

「ここメランコリウムではラーフを封印していることは先ほども言いましたよね」

 

その言葉に全員が頷き、ナハトの言葉を待つ。

 

「バゼットさん達が落ちたのは恐らくラーフの結界の中だったのではないかと思います。そのせいでラーフの影響を強く受け、普段より強くヴールに取り憑かれたのだと思います」

「なるほどのぅ」

「ラーフの封印に直接落ちなかっただけマシだったのか」

「ええ、ラーフ本体と衝突していれば気を失うどころか取り込まれラーフの一部になっていたかもしれません」

 

ナハトは結界と衝突した事により綻びが出来、ヴールを呼んだのだろうと続ける。ヴールの気が強かったのもラーフの気が漏れ出たせいだ。

 

「……私達は運が良かったということでしょうか?」

「そういうことだな」

 

バゼットのつぶやきにキリトが楽観的に返す。

 

「結界は修復され、ヴールの気も一掃されたのでしばらく大丈夫でしょう」

「しばらくってことは、またすぐに崩壊するってぇことか?」

 

今まで沈黙を貫いていたガジルが口を開いた。

 

「ええ、ラーフの力が増していて結界も不安定になる一方です。これではここから長く離れるのがより困難になりました」

「他のルフレス族の街に行くことが出来ないってぇことか」

『………………』

 

一護の言葉で場に沈黙が訪れる、しかしそれを獄寺が破った。

 

「厄介な事になっているみてぇだな」

「ああ、厄介な事だけど何とかしないと俺たちの世界も危ない状況になる、それに帰ることも出来ないらしいぜ」

 

苦笑いを浮かべるキリトに直葉が返す。

 

「で、でもこれだけ『目覚めの人』?がいれば何とかなるんじゃない?」

「うん!僕たちならラーフだって倒せるよ!」

 

直葉の言葉にユウキが乗る。しかし、ナハトの顔には陰りがみえる。

 

「ラーフを滅ぼす事はルフレス族の悲願です。ですが、実際私達はラーフを封印することすら覚束ない」

「それは……そうかもだけど…………」

 

場の空気を良くしようとした直葉だが、ナハトの言葉に気を落とす。それを見てナハトは慌ててフォローを入れた。

 

「今、他のルフレス族の街に行くことは出来ませんがこの一帯を浄化したお陰でメランコリウムは落ち着いています。眠ってはいますが他の夢守もいるので当分は大丈夫です。ここでしばらく休んでください」

「本当か?」

 

休息を取れると聞いてキリトが確認を取る。

 

「ええ、私がいなくてもここならヴールに取り憑かれて正気を失うことはありません」

「なら、早速休ませてもらおうかのぅ」

 

太公望が自堕落モードに入ろうとし、他もさっきまでずっと気を張っていたからか疲れを取るため腰を下ろす。すると、ナハトが太公望達から離れようとした。それを視界の端で捉えていたイヴが呼びかける。

 

「ナハト、どこに行くの?」

「……私は少し調べ物をしようと」

「調べ物、ですか?」

 

みんなが気を緩める中、一人気を張り続けていたバゼットが問う。

 

「ラーフを倒す、レーヴァリアから消滅させる方法についてです」

「そんなことが出来るのか!?」

 

今度は一護が食いつく。大きな声でメランコリウムに響いた為、他も自然とナハトに視線が向く。

 

「私が以前、夢紬になる方法について知った遺跡にその様な伝承があったはずです」

「ですが、現に今は封印されています。失敗したのでは?」

「そうかもしれません。……封印のことかもしれない、それでも今は少しでも情報が欲しい」

「それでも今すぐに行かなくても!戦ったばっかだし、ナハトも私たちと少しは休も?」

 

直葉がナハトに休憩するよう促す。だがナハトは首を縦には振らない。

 

「そういうわけには行きません。これは僕が果たさなければいけない務めですから」

 

辛そうな表情ながらもナハトの目には務めを果たそうという意思が感じられる。

一人で行こうとするナハト、しかしそれをキリトが呼び止める。

 

「待ってくれテルン。俺も付いて行ってもいいか?」

「キリトさん……いえこれは僕の使命、果たさなければならない義務ですので、貴方たちはここで休んでーー」

「使命とか義務とか、ナハトお前そればっかだな。くだらねぇ……」

 

ナハトの言葉を遮って一護が声を荒げる。くだらないと言われた事に腹が立ったのかナハトの顔には怒りが灯った。

 

「くだらなくなどない!」

「いーや、くだらねぇな。務めとかご大層な事ばっか言って……そろそろ構えるのはやめやがれ」

「!? ……それはどういう?」

「ナハト、一護は自分も力を貸す、と言っておるのだ」

 

太公望に心内を指摘され、一護は照れ臭そう頬をかく。それを見たユウキが弄る。

 

「一護照れてるぅ〜」

「うっせぇ!……まぁ、そういうこった」

「ナハト、付いて行ってもいいか?というより付いていくからな!」

「一護さん、キリトさん……」

「僕も行くー!」

「私も付いていく」

 

ユウキとイヴが笑顔を浮かべ、ナハトに宣言する。

 

「助けてもらったもん私も手伝いたい!」

「放っておけねぇしな」

「この世界が私達の世界にも繋がっているというのならば私も無視出来ません」

 

リーファ、獄寺、バゼットが続いていく。

 

「みんな行くようじゃのう……ガジル?」

「ギヒッ、俺も行くに決まってるだろ!」

 

太公望がガジルに促すがガジルはそれに不敵に笑って返す。全員が付いていく意思を見せた事でナハトは瞳を潤して頭を下げる。

 

「みなさん……申し訳ない」

「だから!そういうのがいらねぇって言ってんだよ!」

「そうだぜナハト、俺たち仲間だろ?」

「仲間……ですか。何故でしょう、仲間と言われると心が温かくなるように感じる」

 

胸に手を当てて、重い責任などで暗くなっていた心に光が射し込んだような気持ちになっていくのを感じていた。

キリトがナハトを見つめ言った。

 

「仲間なんだから謝るんじゃなくて、もっといい言葉があるだろ?」

 

「ええ……みなさん、ありがとう」

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

8月と9月が思っていた以上に予定が入り書く余裕が無いので、しばらく休載して10月から再開したいと思います。

一応次回予告としまして、

「エクスプロージョン!!」


では、また次回。


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虚無の担い手

落ち着いたので更新再開したいと思います。


 

 

ルフレス族の住む街を襲ったヴールを退けた士郎達は、夢の世界だというこのレーヴァリアの情報収集と此処まで戦闘続きだった体を休める事を兼ねて、少しの間滞在していた。

 

「っと、こんなもんか」

「何してるの、お兄ちゃん?」

 

街の端で日曜大工をしている士郎にイリヤが話しかけた。作業をする士郎の邪魔にならないよう少し間を空け正面に屈むようにしている。

 

「イリヤか、ここにバリケードを作ってるんだ」

「そんなことできるの!?」

 

記憶が曖昧な状態で作り上げる士郎の手際を見ながらも驚くイリヤ。士郎は頬をかき、照れている事を隠すようにぶっきらぼうに答える。

 

「たぶんだけど、元の世界でもこんなことしてたんだと思う」

「へぇ〜」

 

街の所々に簡易だが、しっかりとしたバリケードを作製していく士郎にヒョコヒョコと付いていくイリヤ。そんな仲睦まじい光景の二人をアスナとシンクが微笑ましく見ていた。

 

「あんな風にしていると、あの二人ってまるで兄妹みたいよね」

「そうだね、見ているだけでこっちもほっこりしてくるよ」

 

今まで戦闘続きで気を張っていたのが解けたように、アスナとシンクは微笑んでいた。

二人を見ていてふとアスナはシンクの横顔を見る。見た限り自分より年下のように感じる顔立ちのシンク。けれど先の戦闘では自分と一緒にヴールを倒し、その動きは並大抵ではなかった事を覚えている。

 

「そういえば、シンクくんって運動とか得意なんだっけ?」

「記憶がないからはっきりとはわからないけど得意だよ、ほら!」

「凄い、バック宙なんてできるんだ!?」

 

楽しそうに会話をしている二人を、街で情報収集をして帰って来たダクネスとウェンディ、テルンが見ていた。

 

「シンクさんとアスナさんって雰囲気が少し似てて、お似合いですよね」

「確かに、ああいった和やかな感じもいいものだな」

「みなさん仲が良くてよかったです」

 

和気あいあいと話している三人に士郎が気付き声をかけた。

 

「戻って来たのか、どうだった?」

「ああ、聞いた限りだとやはりこの付近にヴールが増えたのは最近みたいだ」

 

ダクネスが街で集めた情報を整理しながらかたる。

 

「ヴールはただ倒すだけでは消えず、ルフレス族が浄化してやっと消滅するらしい」

「俺たちだけでヴールを倒しても意味がないってことか……」

「何か考えてたの?」

 

ダクネスから得た情報から困ったような顔をした士郎に、イリヤが顔を覗かせる。

 

「ん、ああ。この先どうしようかと思ってな。とりあえず、ここに留まっていても状況は変わらないから街を出ようと思ってたんだけど」

「私達が抜けたらまたヴールに襲われる可能性があるわよね」

「ここから離れるならその前に近くのヴールは倒しておいた方がいいだろうしね」

 

アスナとシンクが会話に混じり、街の噴水を囲う石に腰掛ける。

 

「俺もそれを考えていたんだ、でもそれじゃ意味がないってなるとな……」

 

手詰まりか。と士郎が口にする直前に力ある声が遮った。

 

「あ、あのッ!」

 

テルンが小さな身体から精一杯の声をあげた事に抱えていたウェンディが驚き、思わずビクッとする。

 

「て、テルン?どうしたの?」

「そ、そのぼくが行くです。……ま、街の近くなんですよね?遠くに行かないんですよね?」

「あ、ああ。街の近くにいるヴールを倒すだけだ。それより、いいのか?」

「は、はいです」

「ありがとうテルン、助かるよ」

 

士郎は優しくテルンの頭を撫でると、テルンは嬉しそうにして頬を赤らめた。

 

 

 

 

ルフレス族の街近郊で士郎たちは順調にヴールの浄化を行なっていた。朧気だった戦い方も少しづつだが、思い出してきていた。

 

「輝力解放!!」

 

シンクの手の甲に赤い紋章が出現する。力を手に集束させると気合の声を上げた。

 

「やぁぁぁあ!」

 

近くにいた狼型ヴールの群れに炎の砲撃を放つ。真紅の炎は一瞬でヴールを包み、焼きって消滅させた。

 

「テルン、倒したよ!」

「は、はい!」

 

ヴールを消滅させると後方で待機しているテルンに声をかけた。浄化しようと身を潜めていたテルンが動き出す。しかし、それを待っていたかのようにゾンビ型のヴールが魔法を放った。それにいち早く気付いたイリヤがテルンの前にピンク色をした星型の魔法壁を作る。

 

「危ない!」

「わっわっわ!」

「うっ……ちょっとキツイかも」

「テルン、こっちだ!」

 

イリヤの即興で作った盾のおかげでテルンに魔法が当たる事が無かった。しかし、速さを重視した為に耐久性の低い盾は既に軋み始めている。その間にダクネスがテルンに駆け寄り、保護をする。

 

「あ、ありがとうです」

「不味い、ヴールが増えて来たぞ!」

 

士郎の言葉通り、周囲のヴールの数が増えている。種類も狼型やゾンビ型以外にも街を襲ったトレント型やポルターガイスト型も見られる。

 

「これじゃキリがないわ!」

 

前線で戦っていたアスナが思わず下がる。

全員が状況を把握するために辺りを見ていると、この中でも特段視力の良いウェンディがヴールの中にいる桃色の髪の少女に気付いた。

 

「待ってください! 向こうに人がいます!」

「本当か! ウェンディ!?」

「はい、向こうに……」

「ま、不味いです。あの人ヴ、ヴールの気に侵されています!」

「何だって!?」

 

士郎が目を開いてテルンとヴールに囲まれている女の子を見る。

 

「もうーー!! うるさい、うるさい、うるさーい!!」

 

桃髪の少女は学生服のような衣服の上にマントを羽織っており、懐から杖を取り出した。

 

「何もしてないのにうるさいって言われたんだけど………」

 

イリヤが桃髪の少女を指差し、嘆く。それに対してダクネスが緩んだ表情で呟く。

 

「可愛い女の子から理不尽な罵倒というのも……ぅん、ありだな」

「あ、うん。ダクネスって多分なんでもありなんだよね」

 

ダクネスの呟きに反応するのはイリヤである。未だに、ダクネスの変態性に気付いているのはイリヤのみというこのパーティ。それは幸か不幸か。

桃髪の少女の状態を見て、初めてヴールの気に侵された『夢見る目覚めの人』を見たシンク。

 

「あれがヴールに取り込まれた状態なんだ」

「そう、です。ヴールに取り込まれたらその人の憎悪や、怒りを増幅させたり、欲望の幻覚を見せるって教わったです」

 

テルンが言うと、この事態をどう収めるべきか士郎が問う。

 

「テルン!どうしたらいい?」

「ぼ、ぼくが浄化すればあの人も戻るです」

「わかった。女の子を攻撃なんてしたくなかったけど、今は仕方ない」

「士郎どうするつもり?」

「彼女の動きを止める、テルンが浄化出来るようにするんだ」

 

士郎は小声で呟き、夫婦剣を作り出す。桃髪の少女は目を閉じ、言葉を紡ぐ。

 

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤンクルサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……」

「あの人、魔法を放とうとしてる!」

「みんな離れろ!」

 

士郎の声に反射的に全員がその場から逃げ出す。桃髪の少女は天にかざしていた杖を振り下ろす。

 

「べオーズス・ユル・フヴェル・カノ・オシュラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・イル・ベオルク」

 

彼女の詠唱が終わった直後、先ほどまで士郎達のいた地面が、轟音とともに爆発した。驚愕の威力を目にした彼らは自分達に直撃しなかった事に安堵した。

 

「なんて、バカ威力なの!?」

「あんなのまともに受けたら木っ端微塵だよ」

 

イリヤが桃髪少女の魔法に悪態つき、シンクは乾いた笑いを漏らす。狼狽える彼らだが、無慈悲にも桃髪少女は再び、同じ魔法を唱え始める。

 

「クソッ!みんな彼女を止めるぞ!」

「あれだけの魔法、そう何度も撃たせるわけにはいかないわ」

 

士郎にアスナが目を合わせて答える。その後ろで、ダクネスはいい笑顔で願望を声にした。

 

「わ、私は少し直接受けてみたい気もするんだがな」

「ダクネスは黙ってて!!」

 

イリヤが素早くダクネスの発言を止める。その内にも桃色少女を守るようにヴールが集まり、増えていく。

 

「ヴールがあの子を守ってる?」

「どういうことなんでしょうか?」

 

その現象を見てアスナとウェンディが首を傾げる。それにダクネスの腕から離れたテルンが応える。

 

「ヴ、ヴール同士は攻撃しないです。多分、それと同じ感じだと思う、です」

「ヴールに取り込まれているから、それでヴールが仲間だと思ってるってことかしら?」

「はいです」

 

ヴールは感情と衝動の権化であるが互いを傷つけることがない。しかし、それで仲間と思っているかといえばどうであろうか。

少女を取り囲んでいるヴールが動き出し、士郎達に襲い来る。それを見て士郎が弓矢を出現させる。

 

「みんな、行くぞ!」

 

一閃。士郎の指から弾かれた矢が並んでいたゾンビ型のヴールの頭を三体同時に撃ち抜く。頭部を失ったヴールはその場で動きを止め霧散した。しかし、自我のないヴールは次々と押し寄せる。

 

「ここは私が抑える!」

 

ダクネスが前へと出る。ヴールの注意を一点に引き受け、他のみんなが前へと来る時間を稼ぐ。

 

「ウェンディちゃん、お願い!!」

 

アスナの声が木霊する。それにウェンディは素早く反応して支援魔法をアスナとシンクに掛ける。

 

「はい!エンチャント、バーニアッ!アームズッ!アーマー!」

 

支援魔法により、筋力、敏捷、耐久が上がったアスナがトレント型のヴールに突進する。その速度は閃光の如しスピード、近くにいたシンクは途中まで目で追っていたがアスナの姿を所々見失っていた。

 

「やぁぁあ!!」

 

アスナの放った《リニアー》によりトレントは消滅する。アスナはそれから止まる事なく、トレント型、狼型、ゾンビ型のヴールを倒していく。

 

「凄いよ、アスナ。 全くわからなかったや ……。僕だって……よし、シンク・イズミ行きます!」

 

棒状の聖剣パラディオンを慣れた手つきで操り的確にヴールを倒していくシンク。狼型ヴールの頭上を越え、ゾンビ型ヴールの首をいとも簡単に弾く。軽やかに動くシンクはまるでアスレチックで遊んでいる体操の選手のようだ。

 

「っとと、ハッ!」

 

突然ヴールの前で動きを止めると、聖剣パラディオンを頭上に投げた。武器を放り投げ、無防備となったシンクに狼型のヴールが迫り来る。しかし、シンクは慌てる事なく両手を前に突き出す。途端、背中に大きな紋章のようなものが現れ、シンクの体に力が満ちていく。

 

「豪熱炎神掌!!」

 

シンクの両手から物凄い熱量を持ったエネルギー砲が放たれた。赤い光は目の前の狼型ヴールを一瞬で飲み込み、後方にいたゾンビ型、ポルターガイスト型のヴールをも一瞬で消滅させる。シンクの放った紋章砲により桃髪の『目覚めの人』を守るように固まっていたヴールが一掃された。そして、頭上に投げた聖剣パラディオンが落ちてきて綺麗にキャッチする。アスナとシンクの働きで桃髪少女までの道が開いた。

 

「行くぞ、イリヤ!」

「うん、お兄ちゃん!」

 

後方から弓矢で援護していた士郎がイリヤを引き連れ、その道を駆け抜ける。

携えていた弓矢を消滅させ、代わりに白と黒の夫婦剣を顕現させる。飛び出て来るヴールを切り払い、進んでいく。

 

「うおぉぉぉ!」

 

右から飛び出てきた狼型ヴールを夫婦剣で薙ぎ払い、続けて襲ってきた蜂型、トレント型のヴールも士郎一人で対峙する。走る速度を緩めず進む士郎だが、止めどなく襲いくるヴールに両手の夫婦剣が破壊される。

 

「お兄ちゃんッ……!?」

 

夫婦剣が破壊された事に後ろに追随していたイリヤが目を見開く。しかし、士郎は慌てる様子もなく夫婦剣を再構築する。

 

「……大丈夫だ、イリヤ。心配しなくてもお前をちゃんとあの子のとこまで送ってやる」

 

士郎の進撃は止まらない。何度と現れるヴールを切り、何度剣が破壊されても、彼は何度も剣を握る。突進してくる狼型は横腹を斬り裂き、蜂型は一刀する。離れて魔法を放とうとしているポルターガイストやゾンビは夫婦剣を投げつけ消滅させる。そして遂に、桃髪の少女までの距離が目前となり、イリヤが士郎の前に出た。

 

「ありがとう!お兄ちゃん!!」

「行けっ!イリヤ!」

 

士郎の声を背に受けて、イリヤが飛び出す。

既にカレイドステッキに魔法はスタンバイ済み。放つ魔法は弾丸系。『目覚めの人』である彼女に大きな怪我を与える訳にはいかない。一応、ウェンディという回復のできる人がいるので多少の怪我は大目に見てもらうしかない。

 

「行くよ!沢山の……弾丸(フォイア)!」

 

無数の魔力の弾が発射される。一つ一つの威力は低いが、数で稼ぐ。桃髪少女に一つ、また一つと命中していく。

 

「うぅ……」

 

桃髪少女から苦しむような呻き声が漏れ出る。それを聴き取ったイリヤは意識を奪う為、数ある小さな弾丸の中に一発他よりも威力の高い魔法弾を紛れ込ませる。

 

「これで終わって!」

 

魔法弾は彼女の体にあたり爆ぜる。当たった衝撃で発生した煙が消えると、桃髪少女はその場で倒れ込んだ。イリヤが倒れたのを確認して安堵する。

 

「やった……?」

「まだだよ!!」

 

集中を切らそうとしたイリヤにシンクが叫ぶ。見ると、残党のヴールがまだ少し残っている。

 

「あぅ、終わったと思ったのに〜」

「イリヤはあの子の側で戦ってくれ」

 

無防備に倒れ込んでいる彼女を守るように士郎が促す。それを了承し、みんなの方を見るとダクネスがテルンを抱えてこちらに向かって走ってきている。どうして?、と思うも直ぐに理由がわかった。イリヤの倒した少女に憑いているヴールの浄化をする為だろう。

イリヤとダクネスがテルンをヴールから守るようにその場にいる間に、アスナとシンク、士郎、ウェンディが残ったヴールを消滅させる為に動く。戦う中でよく見るとアスナは何故かポルターガイスト型のヴールに近づこうとしていなかった。テルンの浄化が終わる頃にはこの場にいたヴールは消え、一帯のヴールの気をテルンが浄化を始める。戦闘の終えた士郎達は桃髪少女の元に集まり、ウェンディが彼女に治癒魔法で傷を塞ぐ。

 

「どう、ウェンディ?」

「傷は全部治したよ、イリヤ。後は起きてくるかどうかなんだけど……」

 

怪我をさせたことに後ろめたい気持ちがあったイリヤは、ウェンディが治したお陰で安堵した。二人が桃髪少女の顔を伺っていると、少女の目がピクリと動き、口が開いた。

 

「あっ、起きたみたい」

「うっ……あたし、ここで……」

「大丈夫ですか?」

 

桃髪少女は身体を起こし辺りを見渡すと、目の前にいたイリヤとウェンディの二人を見た。

 

「えーっと、あなた達は??」

「私はイリヤ、こっちがウェンディだよ。あなたの名前を教えて貰ってもいい?」

「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールよ。それよりここってどこかしら?なんだか記憶が曖昧でよく覚えてないんだけど……」

 

キョロキョロと辺りを見渡し、現状を把握しようとするルイズ。イリヤがこの世界レーヴァリアについて話す。

 

「ここは夢の世界レーヴァリアって言って。私達は『夢見る目覚めの人』だよ」

「え?」

 

意味のわからない説明を受け、ルイズの顔が困惑している。何言ってるんだコイツ、といった目でイリヤを見つめるルイズに、ウェンディが苦笑いをする。

 

「イリヤ、それじゃわからないよ」

 

イリヤの足りない部分、殆どをウェンディが説明し直す。この世界についてや自分達に記憶のないこと、それらを聞いてルイズは納得した様子になる。

 

「そうなんだ。私だけじゃなくて、みんなも記憶が無いんだ」

「うん。それで今から街に戻るけどルイズはどうするの?」

「どうするって……」

 

イリヤの問いはそのまま街に残るのか自分達と一緒にこの世界をどうにかするということだ。

 

「勿論ついて行くわよ。私の居る世界も危ないんでしょ?そんなの見過ごせる訳ないわ。それにどうしてかわからないけど、こういう時、私は前に出ないと行けない気がするから」

 

ルイズはピンッと背筋を伸ばし応える。その姿は貴族のような威厳がある。

 

「よかったー。これからよろしく。ルイズ」

「こちらこそよろしく。イリヤ、ウェンディ」

「よろしくね」

 

三人が仲良く手を繋ぎ街に戻る。後ろで微笑ましく見ていた士郎達にイリヤが気づき、呼びかける。

 

「何してるの、お兄ちゃん!早く行かないと置いていくよー!」

「お、お兄ちゃん…………ってイリヤとあの人って兄妹なの!?」

「うんうん、私がそう呼んでるだけだよ」

 

記憶が無く、そんなことが分かるはずもないことをルイズは失念しているがそれも仕方あるまい。イリヤがルイズもどうかと誘い出す。

 

「ルイズも呼んでみたら?」

「わ、私が!?」

「うん!」

「え、えっと……」

「どうした?ルイズ」

 

士郎の近くに立ち、ルイズはモゾモゾとし始めた。ルイズを、士郎はキョトンとした様子で見ている。ルイズの後ろにいるイリヤはニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべている。ルイズは士郎の顔を見てると、視線を合わせ震えるような声をだす。

 

「そ、そのえっと……お、おにぃちゃん。……ってやっぱり無理よーー!」

 

恥ずかしくなり、その場から逃げ出すルイズにイリヤとウェンディが笑って追いかける。

 

「ええ〜よかったよ、ルイズ」

「うん、私もよかったと思うよ?」

「うるさい、うるさい、うるさーい!いい、こんなこと二度としないわよっ!!」

 

晴れ渡る草原にルイズの叫びが広がる。取り残された士郎に残ったメンバーが肩を叩いて通り過ぎていく。

 

「幼女や少女にお兄ちゃんと呼ばれるとは、士郎は中々の変態だな」

「士郎君、そういうのはほどほどにしておいた方がいいと思うわよ」

「これからも大変になりそうだね。士郎お兄ちゃん♪」

 

ダクネスは何故か同類を見つけたような笑みを浮かべた。アスナは若干引き気味にシンクは確実に面白がって肩を叩く。そして、最後に追い討ちをかけるようにテルンがモジモジと照れながら士郎の前に来ると、言った。

 

「え、えと、お兄ちゃん?……あぅ」

 

恥ずかしかったのかテルンは言い終えると直ぐに飛び立ち、ウェンディのもとに向かった。立ち尽くしている士郎は前以上に肩を落とした。

 

「なんでさ……」

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

二ヶ月ぶりなんで少し書き方が可笑しいかも。

ではまた次回。


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撃槍と宝具人間と孤高の浮雲

 

「綺麗〜。緑はいっぱいで空気も美味しいし。それにあそこ、川があるよ!」

「うん。風も気持ちいいし、全身で自然を堪能できるって感じだね!」

 

メランコリウムを後にして、夢紬の伝承があるとされる遺跡を目指しているナハト達は現在、レーヴァリアでも珍しく豊かな土地に来ていた。レーヴァリアで初めてこうした環境に来て、直葉とユウキははしゃいでいた。

後ろからそれをキリトが欠伸をしながら眺めている。

 

「ふぁ……レーヴァリアにもこんな場所があったんだな。ちょっと昼寝でもしたいな」

「確かにのう。こう心地良いとダラけたくなる。どこもかしこもヴールの気に満たされると思っておったからのう」

「確かにこの辺りは正常ですが、ある意味今のレーヴァリアでは特殊とも言えます。ルフレス族の街が近いからです」

 

ナハトは歩いている方向とは別の方角を見ながら話す。その表情はどこか辛そうだ。

 

「成る程。メランコリウムはルフレス族の夢守が沢山いますが、あそこには今ラーフがいますから」

 

バゼットが言うと、一護がナハトの顔を見て聞いた。

 

「ルフレス族の街に行かなくていいのか、ナハト?今その街には力の弱い若仔しかいねぇんだろ?」

「あれ〜?もしかして一護、若仔を心配してるの?」

「ユウキ。一護は優しいから」

「顔は凄く怖いのにね」

「うるせぇ」

 

ユウキが振り返って一護をからかうと、それにイヴと直葉が援護射撃をする。そのやりとりを見て、ナハトは表情を和らげた。

 

「いいんです。今、僕たちはかつてない試練に晒されています。全ての夢守を集めても足りない今、若仔たちには一刻も早く自立してもらわなければなりません。その為には、ここでぼくの姿を見せて安心させるような事はしたくない」

「自分で考えるようにして欲しいってことか……」

 

ナハトの言葉を聞いてポツリと呟いた獄寺が、更に続ける。

 

「でもよぉ……、俺たちをここに呼んだのはその若仔たちなんだろ?それって自分たちで考えたことってことにならねぇのか?」

「そうかもしれません、結果としてあなた方を巻き込んでしまいましたが……」

「ナハト……」

 

キリトは再び辛そうな表情をするナハトに、どんな言葉をかけようか迷った。隣にいた太公望がキリトの肩に触れる。

 

「彼奴にも大事なモノがあるのだろう。大切な人を危険に晒したくないという気持ちは分からなくもないからのう」

「……そうだな」

 

街を寂しそうな顔で見つめるナハトをキリト達は優しく見守った。

 

 

✳︎

 

 

 

心地いいそよ風が吹く、草原で一人の少女が目を覚ました。名前は立花響、茶色の髪の上にヘッドホンをつけており、服装はどこか機械ちっくだ。

 

「ふぁぁ、よく寝たなー……って、ここどこっ!?んー、それに記憶も曖昧だし」

 

辺りを見渡すが一面草原で何もない。響は立ち上がると、とりあえず人がいないかと歩き始めた。

 

「きっとなんとかなるよ!そうと決まれば行動だ」

 

考えても仕方ない、記憶もその内思い出すだろう。と、楽観しながら平野を歩く響。

そんな彼女の前に、光り輝く何かが現れた。

 

「およっ?何だろう……あっ、人だ!やった、おーい!」

 

光の近くにいた人に手を振りながら寄る。しかし、向こうは気づいていないのかこちらに振り向く様子がない。しかし、二人いる片方が響に気づいた。

 

「気づいてくれたんだ!あの、ここってどこかわかりますか?」

「…………俺にさわるな!!」

 

赤い髪の少年が銅色の腕輪を飛ばし、響の足元をえぐった。

 

「うわっ!?」

 

攻撃された事でその場から動く響。しかし次は赤髪の少年の隣にいた黒髪の少年がトンファーを持ち、響に襲い掛かる。

 

「咬み殺すッ!!」

「何でッ!?」

 

トンファーの一撃を間一髪で躱すも、二人の攻撃は止まない。赤髪の少年は空へと飛び、腕輪を飛ばしてくる。

 

「空からッ!?そんなのズルイよ!!」

 

響は走り回り、腕輪の攻撃をやり過ごす。放たれた腕輪は地面にめり込んでおりその破壊力を見せしめる。それを見て血の気の引く響。しかし、逃げた先にはトンファーを持った少年が待ち構えている。

 

「どうして攻撃してくるのー!?」

 

響は二人の猛攻を躱しながら、逃げ回っていた。

 

 

✳︎

 

 

ナハト一行が遺跡に向け歩いていると、道の先に人がいるのが見えた。茶髪の少女を先頭に黒髪の少年が地で、赤髪の少年が空から追いかけている。それを見て金髪エルフの直葉が指差す。

 

「ねぇ、あそこに人がいるよ!」

「私達と同じ『目覚めの人』でしょうか?」

 

紫の髪に紳士服を着た麗人、バゼットが言うとナハトが肯定した。

 

「はい、あれは『夢見る目覚めの人』です! 後ろの二人はヴールに取り込まれています!!」

 

三人の様子を見て、太公望が打神鞭を抜く。

 

「早く助けには入らんと追われておるあの娘も時間の問題じゃ!」

「待って、ヴールが出てきてる!!」

 

イヴの言葉通り、向こうの三人との間に大量のヴールが現れた。今までの狼型ではなくどこか赤黒い色をしている。他にも石で出来たゴーレムや奇異な色をしたモンスターがいた。

 

「なんだよあれ?」

「気持ち悪い……」

 

奇異な色のモンスターにキリトとユウキが顔をしかめる。蛍光の強い色のモンスターは二足歩行も入れば四足歩行、飛行しているものも見られ全てに一部液晶ディスプレイのような部位がある。

 

「なんつーか、特撮に出てきそうな怪獣の形だな」

「確かに……」

「うん、そんな感じだよね」

「気味が悪りぃ」

 

一護の感想にキリトと直葉、獄寺が納得した様子をみせる。

奇異な色のモンスターの正体は立花響の目覚めの世界の『ノイズ』と言われる特殊生命体である。ノイズは位相をずらす存在で人を炭素に変えるが、このレーヴァリアにおいてはその能力はなく、単純にノイズの持つ攻撃方法しかない。

 

「こんな形のヴールは見たことがない。まさか、ラーフの力が増したのか?」

「どういう意味じゃ、ナハト?」

 

初めて見るヴールに戸惑いが隠せないナハト。新種のヴールに、強化されたような狼型のヴール。ヴール側の力が増している為に起きた現象だとナハトは行き着いた。

 

「いえ…………、 私も初めて見るヴールですので何をしてくるか分かりません。 皆さん気を付けてください!」

「ギヒッ、どんな奴が出て来ようが関係無ぇ」

「ああ、全部倒しゃあ良いだけだ」

 

ガジルが不敵に笑い、一護は斬月を背から抜き取る。斬月に巻かれた包帯がヒュルヒュルと解け、刀身が姿を現わす。次いで、キリト、直葉、ユウキも剣を抜き構える。

夢紬の姿に変わったナハトがこの場の全員に聞こえるよう言った。

 

「皆さん、先ずは『目覚めの人』を助けましょう。追いかけられている彼女もいつ取り込まれるかわからない」

「解りました。一気に突破しましょう」

 

グイッと手袋を引き返事をするバゼットの言葉に獄寺が弓を引き放った。

 

「果てろッ!!」

 

真っ直ぐに飛び出した矢は紫のオーラを纏っている。

 

獄寺の『目覚めの世界』に存在する死ぬ気の炎と言われるものだ。全部で大空、嵐、雨、晴れ、雷、雲、霧と七つの属性がある死ぬ気の炎、獄寺が主に使うのは嵐属性の炎である。しかし、嵐の炎の色は赤黒いものであり、現在矢が纏っている紫の色は雲属性の炎だ。

 

死ぬ気の炎には属性にそれぞれ特徴的な性質がある。雷なら硬化、嵐なら分解、雨なら鎮静とそれぞれの属性に見合った性質があり、そして雲の属性にある性質は増殖だ。

 

一本だった矢はみるみるうちに二本、四本、八本と、その数を倍に倍に増やしていく。気付けば一万本近くにまで増えた矢は目の前のヴールに降り注ぐ。

 

矢に触れたヴールは次々に分解されていく。理由は簡単、矢には雲属性の炎に包まれるように嵐の炎も混じっていたからだ。

現れたヴールの大半を倒したが、それでも向こうにいる『目覚めの人』までは届かない。

見事な殲滅を見せた獄寺を見て、近接戦闘組は唖然とした。

 

「なぁ、もう俺たち必要無くないか?」

「僕たちの出番無いよね、これ」

 

遠い目をしながら溢したのはキリトとユウキだ。イヴは見たところいつもと表情が変わっていない。一護とガジルも自分には飛び道具があるからかキリト達ほどにはなっていない。しかし、彼らは全員揃ってある一人をジーっと見つめた。

 

「なんじゃ、お主ら?そんな、優秀な後衛がいると楽だなーって言いたそうな顔をしおって」

「「「……別に」」」

「……よいのじゃ、どうせわしなど役に立たん道化なんじゃ」

 

いじけて三角座りを始める太公望をみんなが同情の眼差しで見つめる。そんな太公望を敢えて無視してバゼットがヴールの先のあるものに気付いた。

 

「あの人、どうやらこちらに気がついたようですね」

 

全員が響の方を見ると、彼女は全力で手を振り何かを訴えている。

 

「あっ人だ! おーいッ!!」

 

元気よく手を振る姿にキリト達は響が無事である事を理解した。しかし、響の周囲にはノイズ型のヴールが多く、獄寺が範囲攻撃を行おうにもヴールと響の距離が近すぎる。

 

「呑気に手なんて振りやがって、自分の状況がわかってんのか?」

「どうだろうな。とりあえず早い事周りのヴールを倒すぞ」

 

一護とキリトが飛び出しヴールに斬りかかる。それにユウキ、直葉、イヴが追随する。

動きの遅いノイズ型のヴールをキリトとユウキ、直葉が手早く倒し、狼型のヴールを一護とイヴが引き受ける。

 

響との距離が近くなってきたところでナハトが呼びかけた。

 

「『目覚めの人』よ、聞いてください」

「目覚め? 確かに起きてるけど……って、それよりあなた達は!?」

「説明は後でします。今は力を貸して下さい!」

「味方……って事でいいのかな? はい!私に出来ることがあるなら!」

 

後ろの二人から逃げていた響がくるりと向き直す。ヴールに取り込まれている二人の近くにも狼型やノイズ型のヴールがいる。

響は拳をグッと握ると頭に流れる歌を口ずさみ飛び出した。

 

「絶対に、離さない、この繋いだ手は!」

 

正拳突き、一突きで飛び込んで来た狼型のヴールを霧散させると次は蹴りで、また拳でとヴールを倒していく。

 

「こんなにほら、あったかいんだ、人の作る温もりはッ!」

「歌?」

「何だかこっちまで力が湧いてくるよ!」

 

響が唱う声にキリト、ユウキが反応する。響の唱によって『夢見る目覚めの人』の動きが格段に良くなっているのがわかる。

順調にヴールを倒していく中、ナハトが大きく揺れたヴールの気を察知した。

 

「なんだあれは!?クリスタル……?あそこから次々と現れているのか?」

「どうしたのじゃ、ナハト?」

「太公望さん、あそこにあるクリスタルからヴールが現れているようです」

 

ナハトの視線の先に大きな紅い結晶があった。少し観察していると結晶の側から新しくヴールが現れているのがわかった。

 

「あれを先に破壊せんとならんのう」

「あっ!?ヴールに取り込まれてる二人が近くで守ってるよ!」

 

ユウキの指摘通り、黒髪と赤髪の少年が結晶の前に並ぶ位置を取っている。そこから動く様子が無く、如何にも紅い結晶を守っているという風に見える。

 

「ギヒッ。面倒クセェ纏めて壊せばいいだろ!」

「ガジルさん!?あの二人は壊したらダメだよ!」

 

不敵な笑顔で物騒な事を言うガジルをリーファが注意する。そうこうしている内に結晶からヴールが増えていく。

 

「御託は後です、急いで倒しましょう。獄寺さん、ここからあのクリスタルを狙えますか?」

「わからねぇが……やるか!」

 

バゼットに促され獄寺は弓を弾いた。放たれた矢は先程と同様に無数に分裂し、紅いクリスタルの周囲を埋め尽くさんばかりに降り注ぐ。しかし、嵐のような大量の矢はクリスタルに当たる数メートル手前で爆ぜた。

 

「なっ……!?」

 

獄寺の驚愕を他所に矢が爆ぜた為に出来た煙が晴れる。そこにはウニのような針の生えた球体がいくつもあった。たくさんある球体の隙間から紅い結晶を守るように立っている、黒髪の少年の姿が見えた。彼の手には蓋の開いた匣があり、指にはめてある指輪から紫色の炎が灯っている。

 

「あれって……」

「獄寺さんの使う匣によく似てますね」

 

イヴの言葉をバゼットが続ける。

みんなが黒髪の少年に視線を向けていると上空から何かが発射する音が響いた。

 

「上だッ!」

 

逸早く気付いたガジルが声をあげ、腕を鉄剣に変えて飛び出す。音の発生元は赤髪の少年による上空からの攻撃。腕につけている二つの大きな腕輪を放ったのだ。

 

「ぐっ……」

 

なんとか放たれた腕輪の一つを弾くも、残ったもう一つが後ろに下がっていたナハトに向かっていた。

 

「ナハトッ!」

 

ナハトより前に出ていた者たちが振り返り、ナハトの名を叫ぶ。しかし、咄嗟の事で他の夢守よりも戦闘に慣れてはいるが、戦いが得意ではないルフレス族であるナハトは腕輪を諸に受けてしまった。

 

「がはッ………!」

「ナハトさん!」

 

直撃を受けたナハトは吹き飛ばされ、受け身も取れず地に打ち付けられた。直葉が急いで駆け寄り、回復魔法を唱えながらナハトの様子を見る。攻撃を受ける直前で咄嗟に身を下げたのか、命を失うほどではない。しかし、早急に対処しなければ危険な状態である。

 

「うぐっ……」

「!?」

 

直葉が詠唱している途中、ナハトは夢紬の姿を維持出来なくなったのかルフレス族本来の姿に戻った。直葉がナハトの治癒を行なっている間も紅い結晶から次々とヴールが現れ、ナハトを狙うように向かってきていた。

 

「ナハトを守るのじゃ!獄寺とバゼットはこの場で防衛、ガジルはクリスタルの破壊を頼む。キリト、一護、ユウキ、イヴは『目覚めの人』を抑えよ!」

 

窮地の事態に太公望の指揮が飛ぶ。太公望の指示に全員が頷き、了承の返事を力強くする。

 

「果てろッ!」

 

ナハトに向かってくるヴールを遠距離から獄寺が矢で、

 

「疾ッ!!」

 

太公望は風の刃で対処する。

 

「ハァッ!」

 

二人が撃ち漏らしたヴールを、バゼットが相手をする事でなんとかその場をやり過ごし、ナハトの回復とクリスタルの破壊、ヴールに取り込まれている『夢見る目覚めの人』を倒す為の時間を稼ぐ。

襲い来るヴールを最低限の動きで突破していくキリト達。そんな彼らを地中から現れたマンションサイズの昆虫を模したノイズ型ヴールが阻む。

 

「キリトッ!」

「ああ!」

 

ユウキの呼びかけにキリトは短く返答する。二人は並走するように位置取ると、剣を肩に乗せ溜めを作った。二人の闇のような黒い剣の刀身が段々と赤みを帯びていく。赤い光芒が最大まで輝く瞬間、二人は力強く地を蹴った。

 

「ハァァァア!」

「おぉぉおお!」

 

ジェットエンジンの様な轟音と気合を迸らせて突いた剣技は巨体なノイズ型ヴールを貫いた。交差する黒と紺の一撃にヴールは体を膨張させると直ぐに爆散した。

前方には黒髪と赤髪の少年、二人が紅い結晶に至る道を塞いでいる。イヴと一護がキリトとユウキの傍を駆け抜けた。

 

「私が黒い方を抑えるから、一護はあっちの赤い髪の方をお願い」

「了解! 恨みはねぇが一気に片ぁ付けさせてもらうぜ!」

 

二人がそれぞれと対峙に至るまでの距離はもうそう遠くはない。赤い髪の少年が空中に浮きあがり背中に下げていた三槍を構えた。

 

「空から綽々と狙うってことかよ!」

 

一護が上空にいる赤髪の少年を見上げていると、彼は三槍から斬撃を放った。

イヴと一護は、余裕を持って身体を横にずらし躱す。しかし、二人の丁度間に撃たれた為に二人は完全に分断された。

 

「テメェの相手は俺だ!」

 

一護の視線は赤髪の少年を離さない。それに気づいたのか、赤髪の少年も一護を目で捉え続ける。上からのアドバンテージを活かし少年は三槍を振るう。

一直線に向かって来る斬撃に一護は慌てる事なくしかめ面でその場で地を蹴った。

一護の世界で死神の使う歩法『瞬歩』である。

 

「!?」

 

斬撃により発生した砂埃が晴れた先にいるはずの一護の姿がない事に、赤髪の少年は目を見開いた。何処に逃げたのか左右に地を見るが一護の影すらない。必死に探していると背後からあり得ない声がした。

 

「どこを見てやがる? 空中がお前だけの特権だと思ってんじゃねぇぞ!」

 

力強く斬月を振り下ろすと赤髪の少年は三槍で受け止めにいく。しかし、態勢も悪く空中という踏ん張りの効かない為に地に落とされた。

 

「くっ……」

「これで終わりだ!月牙……天衝ッ!」

 

駄目押しとばかりに月牙天衝を放つ。加減はしているのか少々、小ぶりの斬撃だ。赤髪の少年は動くことも出来ず間に受ける。

粉塵が晴れるとそこには気を失った少年が横たわっていた。

 

 

✳︎

 

赤髪の少年の攻撃で分断されたイヴを、黒髪の少年が襲う。両手に持っているのは、日光に照らされ光を強く反射している銀色のトンファーだ。先程の球心体は直したのか見える範囲にはない。

 

「……群れるなら、咬み殺す!」

 

羽織っている学ランが一瞬、フワリと浮いたと思うとグンッと大きく一歩を踏み出してイヴとの間合いを詰めていた。咄嗟の事に、判断が遅れたイヴは得意な、髪のトランスで対処する。

 

「くっ……!」

 

拳の形に変えた髪で、トンファーの一撃を受け止める。続けてきた二撃目も捌くが、黒髪の少年は捌かれた反動を使って回転し、トンファーの後頭をイヴのお腹にヒットさせた。

 

「ぁがッ!?」

 

軽く吹き飛ばされながらも地に足を付けて後ずさる。お腹に一撃をもらったがそれほど致命傷というわけではない。お腹を軽くさすり、痛みを堪えていると、 少年が匣に火を注入した。

 

「なに……!?」

 

イヴと黒髪の少年を中心にドーム状の部屋が出来た。見たところ空間に穴の様なものは見当たらず脱出する事は難しく思える。少年の奥には紅い結晶が漂ってはいるが新しいヴールがこの空間に現れる様なことは無さそうである。

現状を理解する事に勤めようとするも、相手はそれを待つことなどしない。イヴは黒髪の少年を倒す事だけに集中した。

 

✳︎

 

「イヴ!」

 

大きな針のある球心体に呑み込まれたイヴを助けようとユウキが声を荒げて、球心体に攻撃を仕掛ける。

 

「ユウキ、無茶するな!」

「でも! イヴが!」

 

キリトが焦るユウキを留めるがそれでもユウキは攻撃を続ける。単発の『ソードスキル』を何度も放つが球心体はビクともしない。段々と剣技にキレがなくなると後ろから声がした。

 

「ユウキ、離れろ!こっから一撃くれてやる!」

「俺もだ!」

 

一護が斬月を上段に構えながらユウキに叫ぶ。その隣ではガジルが大きく息を吸い込んでいる。

 

「月牙ッ……天衝!」

「鉄竜の咆哮ッ!」

 

三日月型の斬撃と鉄の息吹が球心体とぶつかる。ドゴォォン、と大きな音を立てると、僅かだが球心体が揺れた。煙が晴れると球心体の針が所々欠けている。しかし、球体自体には穴などなく、それを見た一護が歯噛みした。

 

「チッ、これでもダメか」

「早くしないと、イヴがやられちゃうよ!」

 

刻々と閉じ込められている時間が経つ事にユウキの焦りが酷くなる。ガジルと一護がもう一度技を撃とうとすると、背後から歌が響いてきた。

 

「きっときっと叶うはずさ、不可能なんてないはずさ」

 

橙の影が二人の後ろから高く跳んだ。立花 響はそこから槍の様に真っ直ぐ球心体の上部に向かう。拳を作り、大きく振りかぶると『シンフォギア』が彼女をアシストする。

 

「戦う事を恐れず、でっかい気持ち……さぁ」

 

『シンフォギア』のアシストにより通常の何倍もの威力を持った拳を響は突き出した。

 

「ぶっ込めこのエナジーをォォオ!」

 

力強い言霊をあげて球心体を殴るとさっきよりも大きく球心体が揺れ動いた。響の拳により球心体の上部は大きな穴が空き、響はそこから中へと潜入した。

 

「なんて馬鹿力だ!?」

「あいつ、中に入っていったぞ!」

 

キリトが彼女の腕力に驚いている中、一護が球心体の中に響が入っていくのを見た。

それにつられてユウキが中に入ろうと促す。

 

「僕たちも早く行こうよ!」

「ああ……いや、待てユウキ!周りにヴールが集まっていやがる。先にこいつらを片付けてねぇとおちおち助けにも行けねぇぞ」

 

気付けば大量のヴールに囲まれていた。四方八方を塞がれており、抜け出すのも困難だ。キリトが球心体を見て呟きながらヴールに向かっていた。

 

「……イヴ、無事でいてくれよ」

 

 

✳︎

 

「ハァハァ……」

 

イヴは息も絶え絶えに黒髪の少年と戦い続けていた。ほんの数分しか対峙していないにも関わらず、イヴの体は所々にトンファーや足で殴られたと思わしき痣がある。それに対して黒髪の少年は、正気を失っていながらも涼しい顔でいる。

 

「これで終わりかい。もっと噛みごたえがあると思っていたんだけどね」

 

コツ……コツ……と、緩やかとした歩みでイヴの下まで向かってくる。呼吸も整わない中でイヴは一矢報いるために拳を作る。そして、二人が大きく一歩を踏もうする直前、球心体の天蓋から大きな破壊音が響いた。

 

「をォォぉぉお!」

 

上から現れたのは立花 響だ。二人のちょうど真ん中に着地し、片膝をついた状態で二人を交互に見る。

 

「…………」

「貴方は……」

 

突如、天井から現れた響を見てイヴは目を丸くした。いきなりの事で頭が追いついていないのかそのまま立ち尽くしていると、目の前の黒髪の少年の口元が緩んだ。

 

「へぇ、君……強いの?」

 

言い終わると同時に重いプレッシャーを感じたイヴと響はビクッと身体が震えるのを必死に抑える。イヴは前にいる響に向かって叫んだ。

 

「貴方はここから逃げて!ここにいたら貴方もやられる」

 

響は声に反応して一瞬振り返るも、すぐに向き直し答えた。

 

「大丈夫。二人でやればきっとなんとかなるよ!」

 

口からの出まかせだと直ぐにわかった。それでも彼女の言葉にイヴは出来ると、なんとかなると感じた。

 

「私はイヴ。貴方の名前は?」

「立花 響。響って呼んでイヴちゃん」

「響、ちゃん付けはいらない。私もイヴでいい」

「うん。行くよ、イヴ!」

 

響が地を蹴り、一直線に黒髪の少年に向かう。握った拳をめいいっぱいに振り、攻撃する。少年は半身になり、最小限の動きで響の拳を避けると、目の前に響が来たとこで無防備な背中に蹴りを入れる。

 

「やぁぁ!」

 

間髪入れずに次はイヴが纏めた拳を放つ。黒髪の少年はそれをトンファーで受け止めるとそれとは逆の手で髪を掴む。

強く引き、イヴの身体は宙で弧を描き放り投げられた。

 

「ガハッ……」

 

背中を強く打たれ思わず声が漏れる。それでもすぐに立ち上がり再び、黒髪の少年に挑む。

 

「ハァァァァア!」

 

『ゴールドラッシュ』、髪を束ねた拳による金色の連続パンチ。これには流石に防御に回らざる得なくなった少年。しかし、倒すにはまだ足りない。

 

ガコンッ。

 

目の前のイヴに集中していた少年の耳に後方から機械音が届いた。反射的に目線をわずかにズラし確認するとそこには響が腕のギアを引き絞っているのが見えた。瞬時に危険だと判断する。けれど、その場から逃れようとするが遅かった。

 

「逃がさない」

 

目の前の少女と目が合うと自分の状況を察した。両手、両足が金色の髪に括られ身動きが取れなくなっている。イヴが一瞬の隙を見逃さず拳に纏めていた髪を変化させていたのだ。

 

「くっ……」

 

絡まった髪を解こうと試みるも簡単に解けない。そんな無防備な少年に向かって響が走り出した。腕部のギアが回転し始める。

 

「最速で、最短で、まっすぐに!……一直線にィィィイ!」

 

響の叫びが球心体に響き渡る。響の拳が当たる直前、イヴが少年を捉えていた髪を解放する。ギアにより強化された拳は少年を吹き飛ばし、紅いクリスタルをも破壊した。

 




読んでいただきありがとうございます。
キャラがブレている……。

ではまた次回。


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