Fate/Game Master (初手降参)
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オリジナルガシャット一覧・第一部編 (随時更新)

最新のガシャットの設定集が欲しいという意見より、再び纏めました。その為前半はガシャットデータファイルと割と被っています。
こちらは新作が出る度に更新します。

ネタバレ注意



マイティアクションNEXT

 

……仮面ライダーゲンムの最新の変身用ガシャットとして黎斗が製作したガシャット。基本はマイティオリジンと同型だが、対サーヴァント用の調整や強化が施してある。

ガシャットのサイズは通常と同じだが、右側に少し競りだしたギアを弄ることでレベルの代入が可能。ただし、左側のスロットに入れたら右のスロットにガシャットを入れることが出来なくなってしまう。また、レベルの代入をせずにガシャットの二本差しを行うとバグが発生する。

 

レベルN

 

身長:205cm

体重:97kg

パンチ力:20t

キック力:31t

ジャンプ力:ひと跳び50m

走力:100mを3秒

 

……何も代入していない状態。所謂、基本フォームにあたる。ただしこの状態だと普通のサーヴァントとは渡り合えても、最上級のサーヴァント相手だと手間取る。

その対応として、ギアを変更してNにレベルを代入することでフォームチェンジが可能。

 

 

レベル0

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:48t

キック力:51t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒

 

……レベル0は無の力を持つ。この形態なら、武器が触れ合っているだけでの相手の戦闘力(機動力、攻撃力、防御力、思考速度、反射速度)を奪っていくことが出来る。

上記の特殊能力の代わりに、攻撃力は低めになっている。

 

 

レベルⅠ

 

身長:181cm

体重:137kg

パンチ力:15t

キック力:29t

ジャンプ力:ひと跳び40m

走力:100mを5.2秒

 

……レベルⅠは分離の力を持つ。第六特異点でオジマンディアスをアモン・ラーから切り離したように、サーヴァントと混ざった異物も一撃で分離させる。

図体が大きくなり機動力、戦闘力が格段に落ちているが、代わりに防御力は少し上がった。

 

 

レベルⅡ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:86t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び88m

走力:100mを1.6秒

 

……レベルⅡは基本の力を持つ。体のバランスが最も取れている状態であり、装備なしの殴り合いなら他よりも一段上を行くことが可能。

 

 

レベルⅢ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:86t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び88m

走力:100mを1.6秒

 

……レベルⅢは発展の力を持つ。攻撃力も防御力も機動力も、基本的にはレベルⅡと変わらないが、マイティアクションNEXTが追加で纏ったゲーマを進化させるため、結果的に大きくパワーアップしている。

 

 

レベルⅤ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:96t

キック力:98t

ジャンプ力:ひと跳び98m

走力:100mを0.961秒

 

……レベルⅤは暴走の力を持つ。プロトドラゴナイトハンターZを使用し、飛行能力や炎を吐くことが可能。

場合によってはレベルⅩすら凌ぐパワーを発揮することもあるが、時折操作系統にバグが起こることがある。

 

 

レベルⅩ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:96.1t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒

 

……デンジャラスゾンビを使用した姿。防御面で無敵になり、ライフの減少という現象が起こらなくなる。理論としては、ゲームオーバー時の一時的な無敵を永遠に引き伸ばしている。

この防御を打ち破れるのはマシュ・キリエライト、そして恐らく山の翁とビーストくらい。

 

 

レベル∞ (無敵モード)

 

……理論上相手の攻撃のダメージを無限に減少させていき、己の攻撃のダメージを無限に増加させていくため、強さに上限はない。恐らく宝具でも傷は負わない。ただし容量の都合上5秒しか持たない。実際にはかなり無理のあるシステム。

一度の変身につき一度しか使えない、使うと性能が少し落ちる、使う度にガシャットを調整しなければならない、等の欠点もある。

 

 

ブリテンウォーリアーズ

 

……マシュ・キリエライト用に、ブリテンの英霊を自動で回収するように調整したガシャット。ナイツゲーマーとキャノンゲーマーの二面が存在する。収容する英霊の数、そして彼らが使い手に協力するかどうかで変身時の強さに変動がある。

ガシャットに自由意思が生まれてしまった失敗例。このせいで、マシュ以外はこのガシャットを使えない。

 

 

A面 Millions of cannon

レベル50

 

身長 160cm

体重 56㎏

パンチ力 未設定

キック力 56t

100メートル走 2秒 (車輪使用時)

 

……両腕、両肩に大砲を装備し、足元の車輪や全身から吹き出す蒸気で移動することが出来る。早い話が動く砲台。大人数を相手取る乱戦に強いように設定した。

中のサーヴァントの影響か、腰に矢やピストルもあるが、手が大砲であるため持つことが出来ない。

 

 

B面 Knight among knights

レベル50

 

身長 160cm

体重 51㎏

パンチ力 43t

キック力 58t

100メートル走 4秒

 

……ガシャコンカリバーを得物とする、肩のマントや腰のナイフが特徴的な姿。こちらはA面に対して、一対一での少人数の戦闘で強いようにしてある。

ガシャコンカリバーを介して宝具の使用が可能。元々ガシャコンカリバーの存在は予定していなかったため、ガシャット内のサーヴァントがガシャットに介入したと思われる。

 

 

レベル100

 

身長:166cm

体重:58kg

パンチ力:96.1t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒 (車輪使用時)

 

……ブリテンウォーリアーズをギアを回さずにバグヴァイザーL・D・Vに装填して変身した姿。両面のゲームの特性を併せ持つ。ガシャコンカリバーを介してガシャット内の英霊の全宝具が恐らく使用可能。

サーヴァントが影響しているのだろう、ゲンムのスペックに追い付いてきている。しかしそれらも常に捨て身で戦うからこそという危ういバランスの上に成り立っているため、実際の戦力としてはもう少し下げた性能で戦う。

コンティニューが可能。また、自分を倒した相手への強みを復活する度に得て限界すると思われる。

 

 

ガシャコンバグヴァイザーL・D・V

 

身長 不定

体重 不定

パンチ力 20t

キック力 20t

100メートル走 6秒

※使用者による変動あり

 

……レオナルド・ダ・ヴィンチが勝手に製造したバグヴァイザーの改造版。ガシャットの二本差しや、三色のボタンによる多彩な攻撃が可能。ほぼ全てのサーヴァントが扱えるという汎用性もある。

 

 

ガシャットドライバー:ロスト

 

かつて黎斗が名探偵Wガシャットを作る際に風都という町でデータを得たロストドライバーをガシャット版に作り替えたもの。ガシャットを装填してスロットを傾ければ変身できる。

作りは全ドライバーで最も単純だが、その代わりにガシャットのパワーを引き出しやすい。ただし反動も大きい。

基本カラーはロストドライバーに倣って赤。ただしギルガメッシュには純金のものを渡した。

 

 

ガシャットドライバー:ダブル

 

ガシャットドライバー:ロストのスロットを二つに増やした、所謂ダブルドライバー。変身者二人を融合させ一人のライダーにする。反動を変身者二人で分割するためロストより安全。また、ガシャットを抜き差しすることでフォームチェンジも出来る。

ドライバーのカラーは赤で変わらないが、ライダーの変身後はガシャットの種類によって色は様々に変色する。

 

 

ストームニンジャーガシャット

 

レベル10

 

身長 161cm

体重 49kg

パンチ力 15t

キック力 17t

100メートル走 0.8秒

 

黎斗が開発した新型ドライバー『ガシャットドライバー:ロスト』に装填する用に、かつての黎斗の没データから引っ張り出したものを改造したもの。

武器は忍者刀と手裏剣。諜報活動をメインとして設定したため、破壊力はやや薄いが身軽で五感が優れている。自分の分霊として配下の忍軍を呼び出すことも可能。

キメワザを行うと、ストームニンジャーの名の通りに桜吹雪(ストーム)を呼び出し、配下と共に突撃する。

また、ガシャットは反動の大きいガシャットドライバー:ロスト用に作られた為、持ち主の回復を促すシステムが組み込まれている。

 

 

ガシャコンバグヴァイザーN(ネオ)

 

身長 不定

体重 不定

パンチ力 30t

キック力 30t

100メートル走 6秒

※使用者による変動あり

 

黎斗がバグヴァイザーL・D・Vに対抗して作っていた途中の物を、ジークフリートと信長のピンチを察したナーサリーがタイミングよく出てきた黎斗の記憶を生かして急ピッチで仕上げたもの。その為スペックは少し上昇した程度。白いバグヴァイザー。因みにNはネオだけでなくナーサリーの意も込められている。

バグヴァイザーL・D・Vとの大きな相違点は、高レベルガシャットの負荷を減らすシステムを搭載した代わりにガシャット一本分に戻ったスロットと一つに集約された銀色のボタン。このボタンを押すだけで、『Extra Attack』の音声と共にバスター、アーツ、クイックの全ての能力が付加される。

また、黎斗の手によって両端にそれぞれビームガンとチェーンソーが戻ってきている。これを手に取り付ければそれだけで武器になる。

 

当然だがナーサリーはお仕置きを食らった。

 

 

マジックザウィザードver.2

 

ゲーマ(インフィニティースタイル時)

 

身長 202cm

体重 96kg

パンチ力 40t

キック力 65t

100メートル走 5秒

 

マジックザウィザードを黎斗が改良したもの。基本的にはウィザードゲーマ( 疑似 操真晴人 )の使用が主な役割。バージョンアップしたことでドラゴナイトハンターZのように疑似ガシャットを他に受け渡すことが可能。

性能は黎斗が本物の操真晴人から進化させたもの。全ての形態がオリジナルより強い状態で再現可能。リングにも拡張性がある。元々は強化形態にはかなりの時間制限があったが、現在は各種ドラゴンで一時間、インフィニティーでも三十分持つ。

また、ウィザードゲーマは基本的には操真晴人と同じ性格。寝れば魔力が回復するためカルデアスの魔力回復にも使える。ただし黎斗に反逆することは出来ないように安全装置が組まれており、黎斗の意に反する行いは制限される。

 

 

ゴッデスブレイカー

 

レベルⅩ

 

身長:186cm

体重:72kg

パンチ力:86t

キック力:90t

ジャンプ力:ひと跳び69m

走力:100mを2秒

 

ギルガメッシュに渡された金色のガシャット。純金使用。ギルガメッシュが仮面ライダーバビロンに変身するためのもの。

ガシャットはギルガメッシュ用に調整されており、ゲームエリアを王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)と同調させている。追加される武器は無いが、代わりに変身中は王の財宝内の宝具を全て真名解放出来る。ただし反動は大きい。

神性に対して戦闘力をダウンさせることが出来る。また味方の変身者全体を強化することも出来る。

ただし一度変身するだけでほぼ確実に死亡する。ガシャット自体が超高出力であるが故の弊害。



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特異点F 炎上汚染都市冬木 He's a 仮面ライダー!!
Game start


 

「私の才能が必要になったかァ……」

 

 

煌々とただ燃え盛る特務機関カルデアの管制室にて、その男は小さく呟いた。

先程突如起こった大規模な爆発に呑まれたその部屋には、最早生者の気配はない。静まり返った室内に、ただ非常事態を告げるサイレンが鳴っているのみだ。

……例えば小児科研修医とかならば絶望して崩れ落ちそうなその空間で、その男は恍惚の表情を浮かべ舌なめずりをした。

 

 

「あはァ……」

 

 

そして男は導かれるように辺りを見回し、目をつけた瓦礫の一つを押し退け、眼鏡の少女(メインヒロイン)を引っ張り出す。

 

 

   ガラッ

 

「先……輩……?」

 

 

ピンクブロンドの髪と眼鏡が特徴的な彼女は、虚ろな目で彼を見つめていた。まるで、にわかには信じられないもの……それこそ、神を見るような、そんな目だった。

管制室の扉が閉まっていく。その中で男は焦りも怯えも震えもせずに、彼女の声に薄ら笑いを浮かべながら軽く首を振り、少し大袈裟なくらいに名乗る。

 

 

「フフ……先輩、先輩……否!! それは違うぞ……覚えておけ、私の名前は檀黎斗ぉっ!! ゲームマスターで……神だぁっ!! ハーハッハッハッ!! ハーハッハッハッ!!」

 

そんな高笑いと共に二人は透き通った青い光に飲まれ、その場から消滅……そして、特異点に転移していく。

……ゲームマスター、檀黎斗。彼の、最初のレイシフト開始の瞬間であった。

 

***

 

カルデアの48人目のマスター、檀黎斗。彼の際立った異常性には、目を見張る物があった。

日本の東京のゲーム会社、ゲンムコーポレーションにて、若くしてCEOを務めていたのだ。大ヒットを次々と産み出し世界に提供するその姿は、一部では神の異名を持っているという。

もちろん彼の人気はカルデアでも健在で、彼にレイシフト適性があると分かった日には、カルデアのスタッフが皆してサイン色紙を用意したとか。

 

そんな彼は、説明会の時も非常に優秀であった。

勉強家だったのだろう、レイシフトについてもサーヴァントについても、怖いほど理解していた。カルデアの所長を務めるオルガマリーが思わず舌を巻くレベル……と言えば、彼の優秀さが伝わるだろうか。

 

……そして、レイシフト前に何者かによって起こされたテロにも、彼は冷静に対処した。爆発に巻き込まれないように咄嗟に体制を整え、トラブルに出くわした多くの……いや、48人のレイシフト適性者の中で唯一、五体満足で生き延びたのだ。

 

まるで、運命(Fate)が彼を導いているようだった。

そしてここから、人理修復は始まっていく。

 

***

 

……黎斗は、燃え盛る街の中に立っていた。

遠くで骨と骨が擦れる音を立てながら、骸骨があてもなく蠢いている。彼のすぐ近くでは焼け落ちた家がまた一つ倒壊した。

最早悲鳴すら聞こえないこの世の地獄……そんな表現が相応しい、そんな都市だ。

 

 

「先輩……いや、黎斗さん、無事でしたか」

 

「……ああ、マシュ・キリエライトか。その格好は?」

 

 

興奮を一旦冷まし、冷静さを取り戻したた黎斗は、先程引っ張り出した少女に質問を投げ掛ける。彼女の格好が、明らかに痴女のそれだったからだ。

まあ、彼の作ったゲームでも、『ドレミファビート』とか『ときめきクライシス』とかなら似たような物を作ったが……三次元で見るのならまた別である。

 

 

「あれ……?」

 

 

マシュの方も黎斗に違和感を覚えていた。先程炎の中で自分の手を握っていた彼は、もっと振りきれたテンションだったのだが……

……気のせいだろう。マシュはそう思うことにした。取り合えずは彼の質問に答えなければ。

そう思って彼女は話を始めたのだが。

 

 

「……それが、その……実は……」

 

   キャー!?

 

「……所長の声です!!」

 

 

響いた悲鳴を聞いて、一瞬逡巡した後にマシュは会話を中断し、その場から走り出した。黎斗はその後を追う。

燃える瓦礫を踏み越え、灰と化した町並みをすり抜けて、焼けきった人類の残したものを尽く踏み割りながら進んだ二人は、その先に見知った顔を見つけた。

 

カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィアだった。悲鳴は彼女のものだったのだろう、丁度、いくらかの骸骨に囲まれていた。抵抗の跡も見られるが、多勢に無勢だったと思われる。

 

 

「所長!?」

 

「あ、貴方達……」ガタガタ

 

 

どうやら彼女は腰を抜かしているらしく、動くことも儘ならないようだった。そんなオルガマリーを庇うようにマシュは立ち、骸骨との交戦を開始する。

 

 

「ガガ、ガガ……」

 

「ええい!!」ブンッ ブンッ

 

 

マシュが震えながら骸骨の中に飛び込み、その盾で敵を凪ぎ払っていた。その質量の前に骨は砕け、白い粉が舞っていく。

黎斗は何をする訳でもなく、ただそれを興味深そうに見つめていた。

 

 

「やあああああ!!」ブゥンッ

 

   バンッ

 

「ガ、ガ……」バタッ

 

「ふぅ……やりました……やりました……!!」

 

 

そうして、しばらくの交戦の後にマシュは全ての骸骨を砕ききった。黎斗は心底面白いという笑みを浮かべながら彼女に歩み寄る。マシュも彼に笑顔を見せた。

 

 

「出来ました!! 出来ましたよ黎斗さん!!」

 

「そうだな。実に面白い」

 

 

そして、オルガマリーはそんなやり取りを見ながら震えていた。

 

 

「嘘……でしょ……? まさか、デミ・サーヴァント?」

 

「……はい。あの爆発の時に、私の中の英霊が力を貸してくれたんです」

 

 

彼女は事情を知っているらしかった。黎斗がオルガマリーに解説を求めてみれば、彼女はため息を一つ吐いてからマシュについて話始める。

曰く。マシュはその身にサーヴァントを宿し、人の身で有りながら戦士となった……そんな内容だった。

 

その後、オルガマリーはカルデアに連絡を入れた。黎斗はそれをただ見つめていた。

黎斗は、オルガマリーの前ではなるべく無言を貫いていた。かかわると面倒だと察していたのだろうか。

 

 

『シーキュー、シーキュー、もしもーし!! よし、通信が戻ったぞ!!』

 

「っ、ロマニ!? なんで貴方が仕切ってるの!? レフを出しなさいよレフを!!」

 

 

連絡に応対したのは、医療担当のロマニ・アーキマン……通称ロマンだった。黎斗はカルデアに来る前に彼の存在も把握しておいていたらしく、特にこれといった会話をすることはなかった。

 

 

『ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の人がいないからです。生き残った──』

 

「今すぐ冷凍して──」

 

『報告は以上です──』

 

 

二人の緊迫した、多くの命のかかった会話に、黎斗はてんで興味を示さなかった。……特筆すべき所があるとすれば、終始ドヤ顔で腕を組んでいたという事だろう。

それよりも、周囲から何か来ないかという警戒をしていたように、マシュには見えた。警戒というか、一種の期待のような感情にも思えた。

 

 

「──檀黎斗、答えなさい檀黎斗!!」

 

「黎斗さん、黎斗さん呼ばれてますよ!!」

 

「あっ、あぁ……何ですかアニムスフィアさん。何かありました?」

 

 

しばらく経ってから。話しかけられていた事に気づき、テンションをなるべく低めに、善良で従順な部下っぽくにこやかに振る舞う黎斗。

オルガマリーはそれに気を良くした(騙された)のか、朗々と説明を開始した。

 

 

「檀黎斗、仕方がないから貴方を一時的にマスターとして認めます。……この任務を成功させる、その為に戦力を増やしましょう」

 

「なるほど。どうやって?」

 

「簡単よ。新しくサーヴァントを召喚すれ──」

 

『緊急事態!! 緊急事態!!』

 

 

……説明を開始した途端、ロマンから通信が飛び込んでくる。話を断ち切られて顔をしかめたオルガマリーは文句の一つでも言おうとし、しかしロマンから聞こえてくる言葉に驚愕の色を浮かべた。

 

 

『不味い、今すぐそこから退避するんだ!! この反応は……』

 

「……何ですって!?」

 

 

途端に慌て出すロマンとオルガマリー。マシュも痛いほどの何者かの気配を感じて震える。

しかし黎斗だけは怯えることも逃げることもせず、ドヤ顔を保ったまま自信ありげに立っていた。

 

 

『今すぐ!! 今すぐ逃げるんだ!!』

 

「もう逃げる時間なんて無いわよ!! あああぁぁどうしようどうしよう……!!」ガタガタ

 

 

相変わらず二人だけで恐慌状態になっているオルガマリーとロマン。オルガマリーの方は抵抗の意思すら失せたようで、瓦礫の隅に体操座りをして震え始めていて。

 

 

「あの、黎斗さん?」

 

「?」

 

「その、黎斗さんは怖くないんですか? というか何が来るか分かっていますか?」

 

「サーヴァントが襲って来るんだろう?」

 

「だったらどうして、そんなに落ち着いていられるんですか!?」

 

 

何処かから砂埃が立ち始めた。もう10秒もしないうちに、敵サーヴァントがやって来る。

 

マシュは恐怖に震える足を律しながら盾を構えた。黎斗は相変わらず余裕の表情だ。

マシュには彼が全くわからなかったが……今はそれを気にする時ではない。

 

そして、それは現れた。

 

 

「聖杯ヲ、コノ手ニ……!!」

 

 

短剣を手にした、紫の長髪のサーヴァント。クラスはライダー。それはこちらに敵意を剥き出しにしながら、嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 

「先輩、下がって!!」

 

「いや……私がやろう」ズイッ

 

「先輩!?」

 

 

震えながら盾を構えるマシュを押し退け、檀黎斗は前に出た。サーヴァント対ただの人間、勝ち目などない。マシュは引き止めようと声をかけるが、黎斗は彼女の忠告などはなから聞くつもりなど無かった。

それをライダーはただ黙って、面白そうに見つめていて。

 

しかし。ここまで自信に満ちていた黎斗に切り札がないなど、あり得なかった。

 

 

「さぁて……テストプレイと行こうかぁ……」

 

 

黎斗は懐から謎の紫色の物体(ガシャコンバグヴァイザー)白いゲームカセット(デンジャラスゾンビ)を取り出す。黎斗のテンションがあの管制室での彼のように再び上がっていき、非常に興奮しているのが見てとれた。そんな彼に思わず怪訝な目をしてしまうマシュ。

だが黎斗はそんなこと意にも介さず、それらの電源を入れる。

 

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……』

 

「変身……!!」

 

『ガッシャット!!』

 

『バグル アァップ……』

 

 

マシュは瞬間、その目を大きく見開いた。

目の前の男はその腰に紫色の何かを装備し、さらにそのスロットに彼が生み出したゲームカセットを入れて……

 

……閃光と共に全く別のものに姿を変えたのだから。

 

 

『デーンジャ デーンジャー!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ウォー!!』

 

 

白い、人形の、禍々しい何か。……それが檀黎斗のもう一つ(仮面ライダーとして)の姿。

仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーである。

 

……全てはまだ始まったばかりだ。この悉く燃え尽きた世界を前に、神は何を覗くのか。

どこまでもイカれたゾンビを前にして、マシュは最後に何を思うのか。

 

 

聖杯探索の長い旅が始まる(   Game start   )




そこ、ポッピーは痴女だろとか言わない!!
あれは黎斗のお母さんだからネ!!


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私にも出番下さいよ先輩!?

 

 

 

『デンジャラスゾンビィ……!!』

 

「な……何なんですか、それ……?」

 

 

マシュは小さな声で呟いていた。先程までの、サーヴァントと相対したことによる震えは失せ、恐怖も、これといった感想すらもなく、彼女はひたすらに呆然としていた。

 

白と黒の体。赤と青のオッドアイ。ボディの節々からは瘴気を垂れ流し、その動きはまさしく生ける死体。

先程までの黎斗は、どこにも、面影もなかった。彼女自身そんなことがあるなど考えられなかったが、それ以外に説明のしようが無かった。

 

 

「仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーレベルX(テン)……性能は、見れば分かるさ」

 

 

黎斗……いや、ゲンムはそうとだけ言って身構えた。拳を握り膝を少しだけ曲げたその立ち姿は、完全にライダーと殺り合うつもりであった。

ただ見ているだけにはいかない、せめて加勢はしなければと、マシュは思ったのだが……

 

 

「……では、いかせてもらおう」タッ

 

 

その前にゲンムは走り出していた。しかも速い。高速なんてものではない。

具体的には、ライダーとの距離は100m位はあったのに、4秒もかからずに彼は距離を詰めていた。当然、デミ・サーヴァントであるはずのマシュより速かった。

 

そして、ゲンムはライダーの眼前で大きく拳を振りかぶり。

 

 

   ズドンッ

 

「ガハッ……!?」

 

 

たった一発。

たった一発のパンチで、ライダーは糸が切れたように崩れ落ちた。彼女の霊基が大きく揺すぶられ、そのショックで短刀も取り落とす。カラン、と軽い音がした。

ライダーは、もはや立つどころか、もがくことも儘ならなくなっていた。

 

 

「コ……コノ力、ハ……?」

 

 

なぜだ。なぜこんなことが起こるのか……この人間の、人間だったもののどこにそんな力があったのか。

パンチの衝撃で思考回路まで掻き乱された彼女が考えてみたところで、その答えは分からない。

その姿を笑いながら、ゲンムはライダーに近づく。

 

 

「覚えておくがいいさぁ……ゲンムのパンチ力は24.1tだぁっ!! ……最もぉ、神話時代の生まれの君に、重さの単位を言ってもピンとこないと思うがねぇ……」

 

「グ……コンナ、トコロデ……!?」

 

「あはぁ……!! じゃあ……終わりだ」

 

 

何も分からない。何も分からないまま、ライダーは死告の電子音声を聞く。

 

 

   ポチッ

 

『クリティカル エンド!!』

 

「……闇に葬ってやる」

 

 

ゲンムは飛び上がり、空中で回転した後に飛び蹴りの姿勢をとった。黒い霧を発生させながらの抉るような一撃が、一片の容赦もなくライダーを襲う。

 

 

「はあああっ……!!」

 

   グシャッ

 

 

足がめり込む。痛い。意識が揺らぐ。痛い。体はズタズタに掻き乱されていく。痛い。さらには力が抜かれていくのも、全て、全てライダーは感じた。痛みが、苦しみが、諦めが彼女を飲み込む。

 

たった一瞬。ゲンムの足が触れただけで……ライダーは、堕ちた。

 

 

「ァ……アアアアアア!!」

 

   ドガァーンッ

 

 

……断末魔を残して炸裂したライダーの、その爆炎に照らされながら、ゲンムは非常に興奮していた。

これは……面白い。

 

 

『ダッシュゥー』

 

 

そして変身を解いた黎斗は、気持ち悪いほど晴れやかな顔を浮かべたまま空を見上げた。取り残されていたマシュとオルガマリーの二人が黎斗に詰め寄る。

 

 

「黎斗さん!! さっきのは何だったんですか黎斗さん!?」

 

「説明しなさい檀黎斗!! 檀黎斗!? 聞いてるのっ!?」

 

 

しかし黎斗は、そんな声を受けても焦りも戸惑いもしなかった。むしろ分かりきっていたのだろう、余裕の含み笑いを絶やさず、彼はマシュの口元に人差し指を当て黙らせる。

 

 

「シーッ……静かに」

 

「っぐ……」

 

「……はやくここから離れましょう。またサーヴァントが来るかもしれませんから」

 

 

いつの間にか、テンションは元に戻っていた。

 

───

 

……そして、暫くして。

 

 

「……ふう、ここまで来ればまあ安心でしょう」

 

 

黎斗達はかなり歩いて、先程の場所から離れた地下空洞にやって来ていた。

ここも他同様に寂れてはいたが、焼けてはいない。柳洞寺という看板が見えていたので、恐らく誰かが儀式にでも使っていたのだろうか。

 

 

「説明して貰うわよ檀黎斗!! さっきのあれは一体何なの!?」

 

「そうですよ!! あんなの……サーヴァントに勝つなんて……」

 

 

ここならそうサーヴァントも来るまい。そう考えた二人は、改めて黎斗に詰め寄る。しかし黎斗はまだ二人を焦らし、意味深な笑みを浮かべるのみ。

 

そして。

 

 

「早く説明して!! 所長と──」

 

   シュパァンッ

 

「ひえええっ!?」

 

 

突然、オルガマリーの足元に剣が突き立った……いや、撃ち込まれた。溢々と殺意が込められていた。予想もしていなかった出来事にオルガマリーは目を回し、意識を失う。

マシュは直ぐ様盾を構え、辺りの警戒を開始した。

 

 

「一体何が……」

 

「……答えなんて決まりきっているだろう? ……サーヴァントだ」

 

 

「……ここより先は立ち入り禁止だ。迷い込んだなら……いや、もう一般人などとうに消えていたか」

 

 

黎斗が目をやる先でそう静かに呟くのは、先程のライダーと同じ、ヒトガタの何か。

 

黎斗はその歯を好戦的にしいっと剥き、ガシャコンバクヴァイザーを腰に装着する。

 

 

『ガッチョーン』

 

「黎斗さん、あれは……?」

 

「……門番のようだなぁ……アーチャーかぁ……」

 

「……やはり、大聖杯を探しに来たか。ここで倒れてもらう……」

 

「大聖杯? 一体それは?」

 

 

聞きなれない単語に戸惑いを見せるマシュ。

だがそんなの黎斗は気にしない。もう戦いの火蓋は切られている。

 

 

「おそらくぅ……そこへ行けば、この異常も解決できるんだろう……?」

 

「ああ……かの聖剣の王が、大聖杯を守っている。そこへ行けば、目的も叶うだろうさ」

 

「ならば、いかせてもらおうか……!! 変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

再び姿を変えるゲンム。アーチャーは彼を警戒し、その黒弓に更に矢を……いや、剣をつがえる。

 

 

「悪いが、私は君の言う通り門番だ。消えてもらう」

 

   シュパァンッ

 

「おっと……ほう、やはりアーチャー、弓を使うかぁ……」

 

「近接戦でのお前の相手は、何だか疲れそうだからな」

 

   シュパァンッ

 

   グサッ

 

「ぐっ……フフフ……!!」

 

 

非常に細い魔剣やら、固くなったレイピアやら、反りの無い日本刀やらが大地に突き刺さっていく。

ゲンムはそれらを躱しながら……時々その身に受けながら、されど怯まず、笑いながら相手の動きを見ていた。

 

 

   シュパァンッ

 

「……なぜだ? なぜ全く弱らない?」

 

 

流石のアーチャーも、全身に10もの剣の刺さった、それでも平気で笑える男に疑問を抱く。何かの能力なのだろうか、そんな思考を展開した。

そして、その間に、ゲンムは……

 

黒いガシャット(ギリギリチャンバラ)を取り出した。

 

 

「弓の撃ち合いを望むかぁ……!! ハハハハハハハハ!! いいだろう、合わせてやろうじゃないかぁ……!!」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

 

ゲンムがその手でガシャットの電源を入れると、その手元に黄色い弓(ガシャコンスパロー)が呼び出された。トリガーを引くだけで無限に矢を放つことができる優れものだ。

 

そしてゲンムはそれでアーチャーに狙いを定め、数発放つ。

 

 

   ズバッ ズバズバッ

 

「ふっ、猿真似などに負ける私ではな──」

 

   ズバッ

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

アーチャーは素早くそれを回避したが、その回避した先にも矢が飛んできていた。

その手に矢を受け、顔を引きつらせるアーチャー。恐るべき精度。恐るべき威力。並の敵ではない……アーチャーは察する。だがそれは遅すぎた。

 

 

「私をぉ……甘く見ない方がいい……。私は既に、君の行動パターンを分析し終えている」

 

「何だと……!?」

 

 

ゲンムの宣言に目を剥くアーチャー。まさか、もう動きが見切られているだと? あり得ない、こんな早くに……

そんな困惑は、大きな隙となっていた。

 

 

「早いところ終わりにしようかぁ……」

 

『ガッシャット!!』

 

 

余裕ある動きでガシャコンスパローにギリギリチャンバラを装填するゲンム。

ワンテンポ遅れて、アーチャーもその弓にとっておきをつがえる。

 

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

 

弓を引き絞る……その動作を行ったとき。

ピシリと、アーチャーに痛みが走った。

先程の一撃のせいで、剣を引く手がひび割れていた。これでは力なんて出せるわけがない。

 

 

「ぐうっ……!!」

 

 

だが、ここで力を抜いたら、それこそ完敗になってしまう。

せめて道連れに。アーチャーはその指に無理を聞かせ、強引に力を溜めた。

 

 

「……偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

双方から矢が放たれる。

片方は大気を巻き込むドリルのような一撃。

もう片方は、無限に分散して敵へと襲い掛かる雨のような一撃。

 

それらは干渉し合う事無く、互いの標的へと突き刺さる。

 

 

   シュパァンッ

 

   ズバッ

 

「はぁっ……はぁっ……くっ……!!」

 

   ドガァーンッ

 

 

そうして、アーチャーは倒された。その体は派手に吹き飛び、最早大聖杯への道を阻むものはいない。

 

 

「はあ、はあ……アーチャーめ……!!」

 

 

……その一方で、ゲンムの体には大きく抉り取られたような風穴が開いていた。当たり前だが、アーチャーの攻撃のせいである。

彼が最後に放った一撃は空気を巻き込んで威力を強め、ゲンムを確実に殺すことが出来ていた。このままなら一分も持つまい。

 

たまらずゲンムに駆け寄るマシュ。

 

 

「黎斗さん!? 黎斗さん!?」

 

「が……あがっ……」バタッ

 

 

倒れ伏すゲンム。

彼は……確実に死んでいた。

 

即死だった。

 

清々しいほどに、ゲンムの体は貫かれていた。

 

 

……問題は、()()()()()()()()()()ということである。

 

 

「ハーハハハハハハハハ!!」

 

 

倒れていた状態から突然高笑いをして起き上がるゲンム。空いていたはずの穴はいつの間にか消え、ゲンムは健康体そのものだった。

 

完全にマシュの理解を超えた出来事だった。口を開けたまま彼女は愕然とする。オルガマリーは未だに気絶していた。

 

 

「黎斗……さん……!?」

 

「見誤ったな……アーチャー……!! 私は……不滅だあああああああああああああああ!!」

 

 

高らかに勝ち誇るゲンム。その姿には、『最強』の二文字がよく似合う。

 

マシュは後ろから、ゲンムに声をかけた。

 

「あのっ!! ……私の、出番は……?」

 

「……今は君の出番ではない」

 

 

ゲンムに出番をほぼ奪われたので当然だが、ここまででマシュがやったことは、骸骨を殴り潰すだけであった。




テッテレテッテッテー(幻聴)

チート(原作準拠)。エグゼイド勢はオーバースペックも甚だしいよね


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コミュニケーションを取りましょうよ先輩!?

 

 

 

 

「……ほう、ここが最深部のようだな」

 

 

黎斗とマシュ……そして、気絶したままマシュに背負われてきたオルガマリーは、大聖杯の元へと辿り着いた。

 

一人の女性が立っている。塗り潰されたように黒い鎧に金の瞳を持った彼女は、二人を一瞥して一言漏らした。

 

 

「……ほう、成程な。そのサーヴァントは面白い。面白いが……」

 

 

騎士王はそこまで言ってから黎斗に目をやった。

落胆と恨みが含まれたような、冷たい目だった。

 

 

「……全く、これでは興醒めだな」

 

「……君が勝手に醒めるのは構わないが……」

 

 

黎斗も黎斗で、騎士王に敵意を持っていた。

いや、それはむしろ敵意より、期待と殺意に近かった。

 

 

『ガッチョーン』

 

「君には消えてもらおう。変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

ゲンムに姿を変えた黎斗と、その身に魔力の風を吹かせる騎士王は互いに向かい合い……同時に地を蹴り、一瞬で肉薄する。

 

 

「はあっ!!」

 

「ぁはああっ!!」

 

 

片や魔力放出でカッ飛ぶ魔龍のごとき騎士。

 

片やイカれたスペックを誇るゾンビ。

 

二人は高速で激突して火花を散らし、時には取っ組み合いながら相手の隙を伺った。

 

 

   ズシャッ

 

   ガゴンッ

 

「くっ……貴様、やるな」

 

「流石は騎士王……当然だが、その強さは伊達ではないか」

 

 

ゲンムの拳が敵の鎧をへし曲げる。聖なる剣がゲンムの装甲を削る。

 

 

「はあっ!!」

 

   ガリガリッ

 

「ハハハハハハ!! だがまだ温い!!」

 

 

黒い聖剣がゲンムを袈裟斬りにし、されどゲンムは気にもしない。攻撃する度に騎士王は額に汗を垂らす。

 

交戦すること15分。状況は……ゲンムが押していた。ゲンムの能力には、戦闘を続け攻撃を加える度に、相手の戦闘力を削る、という物があったからだ。

 

 

「はあっ!!」

 

   ズガンッ

 

「んぐっ……!? このままではじり貧かっ……!!」

 

「ハハハっ……!! このまま葬ってやろう……!!」

 

 

膝をつく騎士王。

ゲンムはそのドライバーに手を添え、必殺技の体勢に入る。

 

刹那。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

   カッ

 

 

黒い星光が辺りを焼き払った。ゲンムに相対した彼女は、思いきって最高火力に賭けたのだ。存在そのものまで灰燼に帰す星の光、それに。

不意討ちに対抗は出来ずゲンムはそれに飲み込まれ……倒れ伏した。

 

 

「ぬぐっ……がはぁぅ……!?」

 

「……残念だったな、男。これでは到底、グランドオーダーなど成し得なかったろう」

 

「がはあっ……」バタッ

 

 

マシュは何も言わない。どうせすぐまた起き上がって、一人で敵を倒してしまうに決まっている。

 

十秒。

 

二十秒。

 

 

おかしい。

 

 

「黎斗……さん……?」

 

 

何故起き上がらない。

まさか……約束された勝利の剣(エクスカリバー)によって、精神まで焼き払われてしまったのだろうか、そんな考えがマシュの頭を過る。

 

 

「ふっ……この程度か」

 

 

星の聖剣、その力に偽りが無いのであれば……不死身に見えた彼も死んでしまうのだろうか。

自分は彼の影に隠れてしまっていたが、今はもう彼はいないのだろうか。

 

なら、今戦えるのは彼女だけだ。

 

 

「せめて……所長だけでも……!!」

 

「そうだ……立て……その盾の力を見せてみろ……!!」

 

 

マシュの手に力が籠る。それを待っていた、と言わんばかりの顔をしながら、騎士王はマシュへと歩いていく。

動かないゲンム、その背中を踏み越えて、彼女はマシュまで後5メートル。

 

出来るだけでも守りたい、その思いは彼女の力となって──

 

 

   ガシッ

 

「んなっ!?」

 

 

進化キャンセルは突然入力された。

 

突然騎士王は足を止めたのだ。彼女の足元に……ゲンムがしがみついていた。

 

……当然だが、ゲンムは再起不能になってはいなかった。ただ、騎士王が油断して近づいてくるのを待っていただけだ。

……実際に死んでいたのだから、騙せない事はない。

 

ゲンムは、黒い騎士王の腕へ腰へ肩へと這い上がってくる。

 

 

「はぁ、はぁ……よくも踏んでくれたなぁ……」

 

「は、離せ!?」

 

「逃がしはしないさぁ……」

 

 

騎士王の背中にじわじわと(ゲンム)が這い上る。

それの手はしっかりと彼女を掴み、それの吐息は彼女に生理的な恐怖を呼び起こす。

既に死を知ったサーヴァントの身ではあったが、霊基の根底にこびりつくような怯えだけは、切り伏せることが出来なかった。

 

因みにマシュは放置である。

 

 

「残念だったなぁ……アーサー王……?」

 

「くっ、がっ……!?」バタバタ

 

「私は……死なない。不滅だぁ……!!」

 

 

手にした聖剣を振るおうと手を上げようとする。だがその手首は握られていて動けない。

ならば魔力を解き放てばどうか?

 

 

「……離せえええええっ!!」ブワッ

 

 

号哭と共に、全範囲に衝撃波を放つ。

鎧も体力も犠牲にした一撃。砂埃が吹き荒れる。

……己の全てを魔力に変換して放ったため、これで駄目なら、最早彼女は丸腰だが……

 

……ゲンムは無傷。

 

 

「……その程度か? 私も見くびられたものだなぁ……!!」

 

   ボコッ

 

「かはぁっ!!」

 

 

肩をつかんでゲンムは騎士王を振り向かせ、その腹に拳を捩じ込む。

遂に、彼女は崩れ落ちた。

 

 

「か……あっ……」ドサッ

 

「ふふふっ……」

 

『ダッシュゥー』

 

「っな、何をする気だ!?」

 

 

黎斗は騎士王に馬乗りになり、意味ありげな笑みを浮かべながら変身を解いた。

そして、その手に取り外したガシャコンバクヴァイザーを握り……謎の粒子(バグスターウィルス)を浴びせかける。

 

 

「こうするのだよっ!!」

 

   ブァサササッ

 

「がっ、あっ、あがっ……!?」バタバタ

 

「さらばだ騎士王……神に逆らった愚かな王よ……!!」

 

 

そして騎士王の体は、さんざん苦しんだ後に、粉々になって空にとけた。

 

 

「ふぅ……」

 

「……黎斗さん、何をしたんですか……?」

 

「何、大したことじゃないさ。それより、あれがいるんだろう?」

 

 

黎斗が指差したのは、元々騎士王がいた所……そこに孔が出現していた。

 

二人はそれに近付き、聖杯の反応を確かめる。しかし。

 

 

「……いや、まさか、君がここまでやるとはね。計算外であり、私の寛容さの許容外だ」

 

「っ、この声は!?」

 

「……遂に正体を現したかぁ……!!」

 

「48人目のマスター、せっかく生き延びたから見逃してあげようと思ったが、とんだ失態だった」

 

 

孔からそんな声が聞こえてきた。マシュにとっては聞きなれた、黎斗にとっては少しだけ聞いたその声。

 

 

「レフ教授!?」

 

「レフ……ライノール、だったか」

 

 

孔が広がり、緑の服を纏った男……レフ・ライノールが現れる。本来なら彼の登場は喜ぶべきものだが……彼はそれ以上に、危険なオーラを放っていた。

 

 

「黎斗さん、彼は危険です!!」

 

「分かっているとも」

 

 

現れ出た彼は二人を、そしてその奥にいる眠ったままのオルガマリーを見つめた。まるでこれから屠殺される家畜を見るような、そんな好奇の目だった。

 

 

「オルガは……ははっ、気絶しているのか」

 

 

レフは未だ目を覚ませないオルガマリーを嘲笑う。マシュはそれに怒りを覚え、しかし何も出来ずにいた。

当然と言えば当然である。彼女は、宝具の使い方すら分からない欠陥品のままだからだ。

 

 

「体は死に、精神だけになって、ようやく手に入れられたレイシフト適性をもってして、やることは気絶だけ……全くお笑い草だ」

 

 

そしてレフは周囲を見渡し、言う。

 

 

「未来は確定した。貴様らの時代はもう無い、焼き尽くされた。カルデアスの磁場でカルデアそのものは守られているのだろうが、外はこの冬木と何ら変わらないだろう」

 

「そんなっ……!?」

 

 

この世の地獄……この冬木は、まさしくそれだった。

カルデアの外がみんなこれならば……最早救援など欠片も期待できない。それどころか、物資の欠如などもあり得るだろう。

 

 

「カルデア内の時間が2016年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。最早この結末は変えられない!!」

 

 

そう高らかに宣言するレフ。圧倒的絶望。圧倒的恐怖。そこにあるのはそれらのみ。

人間の歴史は終わったのだ。人間の時代は終わったのだ。この世に人間はもう許されないのだ。

 

だがレフはまだ理解していない。自分達が相手をするのが……

 

 

「っクック……」

 

「……何だ?」

 

「フッフ……ハッハハ……ハーハハハハハハハハ!!」

 

「何だ、何がおかしい!?」

 

「残念だったなぁ、この節穴めぇっ!!」

 

 

決して終わらない人間(ゾンビ)であると。

 

 

「レフ・ライノールぅぅ!! 貴様は既に、私を殺せなかったその失態のせいで、敗北が確定したぁっ!!」

 

 

死体は笑う。この状況にあっても。いや、この状況だからこそ。

 

 

「何故なら、私こそが……神だからだあああああああっ!!」

 

「戯れ言をっ!! 貴様なぞ──」

 

   グラグラグラッ

 

 

黎斗の発言に目を剥き青筋を立てたレフが攻撃しようとした瞬間、特異点が一際大きく揺れた。

レフは小さく舌打ちをし、彼らに背を向ける。

 

 

「……ふん、特異点が限界に近い、命拾いしたな48人目のマスター。精々消える瞬間まで傲っていろ」

 

「ハーハハハハハハハハ!! ハーハハハハハハハハ!!」

 

 

黎斗の高笑いが響く。天井は崩れ、岩が降り注いでもなお、彼は怯むことはない。

 

 

「ドクター!! 至急!! 至急レイシフトを!! このままだと……!!」

 

 

隣でマシュが連絡を取っていた。そして二人の体はあの光に包まれて──

 

───

 

「……とりあえず、お疲れ様……だね」

 

 

その暫く後、マシュと黎斗は管制室にてロマンから話を聞いていた。いや、聞いていたのはマシュだけだったが。

 

所長は帰っては来なかった。肉体が既に四散していて、レイシフトから戻った時には完全に死んでしまったのだろう……そうロマンは言った。

 

 

「マシュ、そして檀黎斗……酷だけど、君達にはこれから──」

 

「聖杯探索、だろう?」

 

 

ロマンはそう言った黎斗に目を向ける。

見れば見るほど、不可解な人物だ。

勿論あのゲンムのシステムもそうだが……なぜ、ああも都合よく大聖杯へと辿り着けたのか。所長は説明会でそれを話していただろうか。

さらに言えば、何故冬木でサーヴァントのクラスを当てたり、真名を察したり出来たのだろうか。

 

ロマンには分からなかった。そして、黎斗も分からせる気はそもそも無かった。

 

 

「……檀黎斗。教えてほしい。……さっきまでのあれは、仮面ライダーゲンムはなんだったんだ?」

 

「ふっ、君達に言う必要はない」

 

 

檀黎斗はそう言って、ロマンに背を向ける。ロマンはその背中に何か底知れぬ恐怖を覚えながら、されど彼しか頼れないこの状況を嘆いた。

 

───

 

「ふふっ……」

 

 

マイルームに戻った黎斗。彼は荷物を漁り、一つのトランクを引っ張り出す。

 

重々しく、鈍く輝くそれの表面には、ゲンムコーポレーションのロゴが印刷されていた。

 

 

「さぁてぇ……どうしようかぁ……」

 

 

トランクを開け、中身を見つめてそうとだけ呟く。

 

その瞳には、十本のモノクロのガシャット(プロトガシャット)が映っていた。




キャスニキと所長放置ルート
所長は一度だけしか死んでないからむしろ幸せかも

……どう頑張ってもゲンムがただの変態になっちゃう、どうしよう


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第一特異点 邪竜百年戦争オルレアン 完全無敵のGENM!!
RTAとか誰も望んでませんよ先輩!?


 

 

 

 

 

 

「黎斗さん、時間軸の確認が終わりました。1431年です」

 

「ほう……フランスで1431年となれば、百年戦争の休止期間の辺りか」

 

「ですね」

 

 

黎斗とマシュは、第一特異点であるフランスにレイシフトしていた。サーヴァントの追加召喚を黎斗が拒んだため、二人きりでの旅となってしまっている。

マシュは少し……いや、物凄く不安だったが、今は人理修復に集中すべきだと切り替えていた。

 

 

「取り合えず、霊脈を探しましょう。現地の人々との接触もしないといけませんし……あっ」

 

 

そう言うマシュの目線の先には、既にいくらかの兵士がいた。

第一特異点人発見である。

 

こちらを見ながら、しかし近づかず警戒している彼らに、マシュが声をかける。

 

 

「エー、エーと、エクスキューズミー?」

 

「ひっ……敵襲!! 敵襲!!」

 

 

兵士は返事の代わりに一斉に武器を構えて広がり、二人を囲み込んだ。その顔には強い怯えが見られる。今日まで何か心労を抱えていたのだろうか。

 

 

「……黎斗さん私何かしました?」

 

「……マシュ・キリエライト、ここはフランスだろう?」

 

 

そう言って、黎斗が一歩踏み出す。マシュと周囲の兵は各々の武器を構えながら、固唾を飲んで彼を見つめていた。

 

 

Je suis désolé, nous personnes de Voyage(すみません、旅の者ですが)……」

 

 

流暢なフランス語を操る黎斗。彼は自分達がここに来た旅人で、ここで起きている異変について調べに来たということを話した(でっち上げた)

 

 

「ああ、そう言うことだったのか……武器を構えてすまなかった、砦まで案内しよう」

 

「ありがとう」

 

 

敵意を霧散させた兵達は二人を受け入れ、砦まで連れていってくれると言った。どうやら単独行動は危険らしい。

 

 

「……すいません、ここで何かあったのか教えてもらえませんか?」

 

「構わないが……少し長くなるぞ?」

 

 

フランス兵は様々な事を語った。

先日火刑になったジャンヌ・ダルクが悪魔と取引をして蘇り、竜を操って人々を襲っていること。

容姿は違うが紛れもなくかつての聖女と同じであること。

自分達の砦も襲われ続け、今はもうボロボロであること。

 

 

「そんな……事が……」

 

 

伝えられた惨状に息を飲むマシュ。まさか、ジャンヌ・ダルクが蘇るなんて……いや、蘇り自体はもう隣の黎斗のせいで見慣れてしまったが、それでも彼女の豹変ぶりには驚きしかなかった。

 

 

「……被害が大きいのはどこですか?」

 

「ああ……この近所なら、ラ・シャリテだろう。……まさか行く気か?」

 

「はい」

 

 

そこへ行けば、この特異点の異常も理解できるだろう、マシュはそう踏んでいた。……兵士はそれを聞いたとたん顔をしかめた。

そして危ないから止めろと言う。

 

 

「……それは出来ません。私達にはやらなければならないことがあるので……ねぇ、黎斗さん?」

 

「神の恵みを求めているなら、答えてやるのも一興だからな」

 

「……そうかい。せいぜい、死なないようにな」

 

 

いつの間にか、砦についていた。兵士は最後に励ましの言葉を呟き、砦の中へ戻っていく。

目指すはラ・シャリテ。二人はそちらへ目を向け、足を進め……ない。まだ進めない。

 

非常に道のりが長かった。この先にラ・シャリテが有るとは言われたが……その間に森やら山やらが存在していて、二人で進むにはかなり心もとない。

 

 

「ここからラ・シャリテってどのくらいですかね?」

 

「それなりにあるだろうな。目算だと、歩いていたら、確実に日が暮れる……」

 

「そうですか……」

 

 

ほんの少し落胆の顔を浮かべるマシュ。今日は休んで、明日行くべきだろうか。

しかし、黎斗は……隠し玉を持っていた。

 

 

「だが」

 

「?」

 

「……私が足を持ってきていないとでも?」

 

『爆走バイク!!』

 

 

黎斗は懐から、持ってきていた黒いガシャット(プロト爆走バイク)を取りだし電源を入れた。

それと同時に、黒いバイク(プロトバイクゲーマ)が召喚される。

 

 

「あれ、新しいガシャットですか……?」

 

「寧ろ此方が古い位だが……性能は保証しよう。乗るがいいマシュ・キリエライト」

 

 

バイクゲーマに股がりそう言う黎斗。マシュは彼の後ろに乗り込み、覚悟を決めた。

 

 

「……飛ばしていくぞ」

 

───

 

ラ・シャリテに到着したのは、まだ日が傾き始めた時だった。

そこは酷い有り様だった。腐乱した死体、それを貪るワイバーン。街の全体がそれだった。

 

 

「酷い……」

 

「……被害の中心部にいけば、元凶も見つかるだろう」

 

 

バイクの上で涙ぐむマシュ。彼女はまだ、ひ弱な16歳でしかないのだ、無理もない。

黎斗は少しだけマシュに配慮したのか、更にスピードを上げる。血、肉、骨、蝿、竜、涙……それらの全てが残像となり、マシュには全てぼやけていった。

 

そしてハンドルを握る黎斗は……笑っていた。

 

 

暫くして、人形の何かが五つ並んでいるのが見えた。……サーヴァントだ。

 

 

「黎斗さん止まって!!」

 

「分かっているとも」

 

   キキィッ

 

 

バイクゲーマから降りた二人は、その五体に向かい合う。

黒い旗を持ったサーヴァント……恐らくジャンヌ・ダルクが、こちらに目を向けた。残りの四体の内、長髪の男と白髪の女は此方に対して身構え、金髪の騎士と青い髪の女はしばらく離れた所で待機の体制をとっている。

 

 

「……あら、ここまでやって来るとはね」

 

「あなたは……」

 

「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ」

 

「ほう?」

 

 

自らをジャンヌ・ダルクと名乗る黒いサーヴァント。その旗は既に聖なるものではなく、ひたすらに邪悪を振り撒くモノと化していた。

黎斗は一つの疑問を浴びせる。

 

 

「君達が、特異点の原因かい?」

 

「そうだと言ったら?」

 

『駄目だ撤退だ!! 撤退するんだ!!』

 

 

通信機の向こうから、ロマン悲痛な叫びが聞こえてきた。5対2なんて、正気の沙汰ではない。

……しかしそんなの、元から正気の沙汰ではない黎斗の耳には届かない。

 

 

「当然、君を倒す」

 

『ガッチョーン』

 

「変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

「デンジャラス ゾンビィ……!!」

 

 

電子音と共に死を纏うゲンム。彼に相対するは、竜の魔女と前衛の二体、そして後ろで待機している二体だ。

 

だが、ゲンムはそれぞれを相手するつもりは毛頭無かった。勿論、マシュを頼るつもりもない。

何をするか? 答えは簡単だ。

 

 

「纏めて爆ぜるが良いさ」

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

ドライバーをそう操作するだけで。地面から、大量の死霊が湧き出てきた。

 

 

「きゃぁっ!?」

 

「っ、何よこれ!?」

 

「ぐっ……数が多い!!」

 

 

前衛にいた三人は、死霊に絡み付かれ悶える。抵抗しようにも体の自由が利かないのだ。

 

 

「離れ……なさい!!」

 

 

旗を振ろうにも手が重い。黒いジャンヌ・ダルクその顔を苦痛に歪め、死霊の山に沈んでいく。

 

 

「ぐっ……がぁっ……!!」

 

 

杭を出そうにも近すぎる。男はその力を万全に使うこともできず、死霊に飲み込まれていく。

 

 

「あっ……くはぁっ……!!」

 

 

鋼鉄の処女なんて使ってしまえば自分が搾り取られるだろう。白髪の女は手足の自由を奪われ、闇の中へと埋もれていく。

 

三人は何もできない。後ろの二体もどうするべきかとまごついている。

そして、タイムリミットは訪れた。

 

 

「え、これ……光ってる?」

 

「ぐっ……がっ……!!」

 

 

死霊が点滅し出す。熱を帯びる。

それらの下敷きになっている三人は逃れる術もなく……

 

 

   ドガァァーンッ

 

 

爆風が辺りを揺らした。

クリティカルデッド、それの力は死霊を取り出すだけには留まらない。……それは、死霊を爆発させる必殺技。

 

爆発の後に生きていた敵性サーヴァントは、黒いジャンヌ・ダルクと、後ろに控えていた二体だけだった。男と白髪の女は消えてしまったらしい。

 

 

「……マシュ・キリエライト。私はジャンヌ・ダルクを殺る。後ろの二人を押さえておけ」

 

「はっ、はい!!」

 

 

盾を構えて突撃していくマシュ。それを横目に、ゲンムは懐から一本の黒いガシャット(プロトシャカリキスポーツ)を取りだし、電源を入れる。

 

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

「サイクリングはお好きかい?」

 

 

その音声と共に、黒い自転車(プロトスポーツゲーマ)が召喚された。

 

 

「な、何よそれは……」

 

「竜なんかよりずっと乗り心地の良いものさ」チャリンチャリン

 

 

その言葉だけを呟いて、ゲンムはスポーツゲーマを駆る。瓦礫を飛び越え、ワイバーンをすり抜けて即座に黒いジャンヌ・ダルクに接近し……

 

 

「はあっ!!」

 

   バンッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

轢いた。自転車で彼女を撥ね飛ばした。

ジャンヌ・ダルクは抵抗むなしく何度も轢き逃げアタックを食らい続ける。

 

 

「はぁっ……もう……止めて……」

 

   バンッ

 

 

最終的に立っていることすら儘ならなくなり、壁に凭れる黒いジャンヌ・ダルク。ゲンムはその姿を満足毛に見やり……ドライバーを操作する。

 

 

『クリティカル エンド!!』

 

「はああああああっ!!」

 

 

スポーツゲーマを駆るゲンムが、ジャンヌ・オルタに肉薄する。竜の魔女は、扇動の旗を振ることすら叶わず……

 

 

   ズガンッ

 

「かはぁっ……!?」

 

 

自転車からの蹴りを鳩尾に受け、膝をつく。凭れていた壁には放射状にヒビが入っていた。

 

まだファフニールが残っているのに。まだジルも残っているのに。まだ、フランスを焼く手段はいくらでもあるのに。ジャンヌの中に無念が渦巻く。

野望は叶わない。死んだものは……再び呼び出されるまでは、大人しく眠るべきなのだ。

 

 

「そんな、嘘よ、きっと嘘よ……ああ、ジル……!!」

 

 

そして、ジャンヌ・オルタはそうとだけ言い残して消滅した。

 

ゲンムは変身を解き、ジャンヌ・オルタの存在していたそこから聖杯を拾い上げる。

 

 

『ダッシュゥー』

 

「……呆気ない仕事だった」

 

「黎斗さん!! こっちに!!」

 

『敵性サーヴァント反応がいくつもある!! 今のうちにレイシフトを!!』

 

 

黎斗はマシュに連れられ、光に呑まれていった。

僅か4時間の聖杯探索だった。

 

後には、何も残らなかった。ただ、修正されていくフランスがあるのみ──

 

───

 

「……お疲れ様二人とも。……早かったね」

 

 

ロマンは冷や汗を垂らしながら、少し怯えた様子で言った。ここまで早いのは想定外だ。

 

 

「次のレイシフト先が見つかるまで、ゆっくりと──あれ、檀黎斗は?」

 

「もうとっくに出ていってますよ」

 

「はぁ……」

 

 

本当に大丈夫なのだろうか、アレ。ロマンはまた溜め息を吐いた。

黎斗に怯えているスタッフは多い。基本的には紳士として振る舞っているが、時々壊れる瞬間が否応なく恐ろしいとのこと。因みにフォウ……カルデア内を勝手に闊歩していた特権生物は、彼が来てからずっと管制室のマシュのコフィンに隠れるようになっている。

 

 

「……まあ、マシュ。これから……頑張ってくれ」

 

「はい……」




たぶんこれが一番早いと思います
黎斗の中のひとメンサ会員だし、きっとフランス語も流暢に違いない


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第二特異点 永続狂気帝国セプテム 仕組まれたMarch!!
はしゃぎすぎじゃないですか先輩!?


 

 

 

 

黎斗とマシュは、第二特異点である古代ローマの街を歩いていた。隣では、先程戦場を共にしたネロ帝が歩いている。

 

 

「──私たちが探しているのは、聖杯という──」

 

「──聖なる杯が、余のローマを──」

 

 

軽く情報を交換した。聞く限り、どうやらこの特異点ではネロの治めるローマとそれを脅かすもう一つのローマが争っているらしい。そして、先程まで二人は丁度ネロの軍と共にその敵と戦っていた。

 

 

「──取り合えず、まずは余と共に来るがよい。我が館にて、ゆっくりと話すとしよう」

 

 

マシュの状況説明が終わる。ネロに特に不快そうな色はなく、マシュは内心で肩を撫で下ろした。……偉い人との会話とは、何時も疲れるものである。それも、世界の命運がかかっていれば尚更だ。

 

彼女自身、相方(黎斗)が全くコミュニケーションを取ろうとしないので、まだ宝具も使えないのに会話術の腕ばかり伸びていくのを少しばかり悩んでいた。

 

因みに、黎斗はローマに入ってからずっとドヤ顔で腕を組んでいた。

 

 

「……あの、どうしましたか黎斗さん? ずっと黙ってますけど」

 

「いや、いい街並みだなと思っていただけさ」

 

 

黎斗は呑気なことに、建築の壁を触りながら感嘆の息をついている。いとおしそうに壁を撫でる様は、まるで我が子を優しく触るようで……それが一層気持ち悪い。

 

 

「そうであろうそうであろう!? おぬし見る目あるな!!」

 

「ああ、これを作った技師は非常にいい腕だったのだろうな」

 

「うむ!! というのもだな、じつはこの建物は──」

 

 

しかもそれに合わせてネロ帝もはしゃぎはじめた。

マシュの心労はまだまだ続く。ため息が漏れた。

 

───

 

その日はかなり忙しかった。エトナ火山にターミナルポイントを設置しに行ったり、帰ったら帰ったで疲れを癒す暇もなく、歓迎の宴がそれは盛大に行われたり。

 

しかも各所で黎斗が尊大極まりない発言を行うものだから、マシュは事態の収拾に追われていた。そしてかなり疲弊していた。

神祖とないう人物の話を始めたとたんに『神は私だ』なんて言ったときには、思わず盾で殴ろうかとした位だ。

結局マシュが安心して床につけたのは、深夜2時を回ってからだった。

 

そして翌日。

 

 

「ハーハハハハ!!」チャリンチャリン

 

「ちょっ、待ってください先輩!?」

 

 

その日は晴れていた。照りつける太陽の元、一行はガリアへと遠征する途中であった。

……しかし、マシュやネロは馬に乗っての移動であったが、黎斗だけはプロトスポーツゲーマ(マウンテンバイク)で走っていた。

 

 

「いくらスピード出しても、うっかり足を踏み外して落馬したことは誤魔化せませんよ!?」

 

「ハーハハハハ!! そんなことは無かった!! ハーハハハハ!!」チャリンチャリン

 

 

泥を巻き上げながら走るその姿に、マシュは冷や汗を隠せない。彼の車輪は微妙に左右に揺れていた。

絶対転ぶ。あれ絶対転ぶ。確信は出来たが、声に出すことは出来なくて。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   ズコッ

 

「黎斗さーん!?」

 

───

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あんな無茶するから……」

 

 

大体2時間の後。そんなこんなで、黎斗とマシュはガリア遠征軍の野営地にやって来た。

そして黎斗は、ここに待機していたサーヴァント……スパルタクス、ブーディカとの顔合わせを終え、取り合えず怪我を直すため休むことにする。

 

そうして、ようやくマシュに安息の時間が訪れた。

 

 

「本当は君達の力を確かめたかったんだけど、今日は無理そうだね。残念」

 

「すみません……」

 

 

黎斗が去った後で、なんだか居心地悪く、一人済まなさそうにしているマシュに、ブーディカが声をかける。

 

 

「別に、あんたは悪くないから良いんだよ」

 

「はい……」

 

 

そう応対するマシュ。ブーディカは何かに勘づいたようで、ぼんやりとしたマシュのその顔を覗きこんだ。

 

 

「……ふむふむ」

 

「……どうか、しましたか?」

 

「ほうほう、なるほど」

 

「……?」

 

「いろいろ複雑な事になってるんだねぇ、あ、よくみたらめんこいねぇ!!」

 

 

マシュの疑問に答えることなくブーディカは一人納得し、マシュを暫く見つめたあと、彼女を抱き締める。

 

 

「こっちおいで、ほらよしよし」

 

「え、ちょっ」

 

「よしよしよしよし」

 

「な、何を」

 

 

突然の出来事に硬直し、顔を赤らめるマシュ。未だにブーディカが頭を撫でている。

柔らかかった。よくわからないが、ふわりとした香りがした。

 

 

「私にとって、あんた、いやあんた達は妹みたいなもんさ。遠い時代からよく来たね!! それに……なかなか強そうだ」

 

「そんな……」

 

「いやー、ネロ帝の味方って聞いてたからちょっと身構えてたけど安心安心!! 今はとってもいい気分!! よーし、お姉さん料理作っちゃう!!」

 

「え、ご飯なんてそんな」

 

「いいのいいの、よく食べて、よく寝る。それが元気の元ってもんさ。今向こうで寝てるだろうマスターさんにも効くってもんよ」

 

 

……マシュにとって、これが初めての他のサーヴァントとの触れ合いであった。

 

冬木では黎斗が一人で突っ走り、ラ・シャリテでも黎斗が一人で殲滅してしまったから、マシュは後ろで黙ってついていくことしか出来なかった。それは頼もしかったとも言えるが、寂しかった。

 

故にマシュの中では、一層ブーディカへの信頼感が高まっていた。

 

───

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

「で、どうしてこんなところに呼んだのかな? お姉さんに何か相談?」

 

「……」

 

「さっきは怪我してたけど、もう治ったみたいで良かった良かった。でも勝負は明日にしよ? マシュちゃん寝ちゃったし」

 

「……」

 

 

時は深夜。場所は森の奥深く。立っているのは黎斗とブーディカの二人だけ。

周囲が寝静まったのを見計らって、黎斗がブーディカを連れ出したのだ。

 

 

「んー……じゃあ、もしかして恋バナ? お姉さんに何でも聞いてね? 私そういうのイケる口だから」

 

「……ブリタニアの勝利の女王、ブーディカ」

 

「やっぱりマシュちゃん? 可愛いよねあの子」

 

 

黎斗は後ろ手に隠していた、ガシャコンバグヴァイザーに手を伸ばす。

 

 

「でもまだマシュちゃんの方が黎斗君に好意をあまり持ってないから……」

 

   チャキッ

 

「……御託は不要だ。死ね」

 

   ブァサササッ

 

「……え?」

 

 

   ドサッ

 

 

全身の力が抜け、思わずその場に膝をつくブーディカ。目の前にいるのは、紛れもなくさっきまでいた黎斗。

 

……騙していたのか、いやまさか、そんな筈はない。だって、一緒に戦う仲間の筈。

それに一緒にいた彼女は、マシュは確かに……じゃあ、なんで私の体は痺れている?

 

ブーディカの思考力がだんだんと落ちていく。視界が暗く狭まっていく。見上げてみれば、彼女のその姿に心底満足げな顔を浮かべながら、黎斗がバグヴァイザーを腰に装備していた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

───

 

夢を見ていた。

 

マシュ・キリエライトは夢を見ていた。

 

 

『患者を救いたい…ドクターとして当然だ』

 

 

檀黎斗がいた。何処かの部屋で、白衣の誰かと話をしていた。

かつてロマンが、サーヴァントとマスターは互いの記憶を夢に見る……そんな感じの事を言っていた。つまり、これは彼の記憶なのだろう。

 

 

『しかし、私も飛彩君と同意見だ。犯罪者を救う前に、私達にも果たすべき使命がある』

 

 

そう語る姿は理知的だった。

もしかしたら、彼も本当はこんな感じで、人理焼却という悲劇に見舞われたからこそあんな風になってしまったのかもしれない、そう思った。

 

突然、マシュの夢にノイズが走った。

 

 

『多#の$\はや%を&2いさ。%^されない@々\\と53を与*る……それが5@ムという3%タ<>..8トの%命&!#7てそれを実$させ#神919が*に5る32#1か9#あ!!』

 

 

……頭が痛い。焼けるように痛い。凍るように痛い。痺れたように痛い。とにかく痛い。痛い痛い痛い痛い。

これ以上この記憶に触れてはいけない、彼女の霊基が叫んでいる。

 

頭が本当に、割れそうなくらい、何度も、何度も、痛みが襲う。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い──

 

 

「あああああっ!? ……はぁっ、はぁっ……」

 

 

マシュはそこで目を覚ました。

 

 

『大丈夫かマシュ?』

 

「ドクター……いえ、大丈夫です。怖い夢を見た、だけですから……それより、先輩は?」

 

『……それが……何者かにジャミングされていてね。君の様子をみるのがやっと、他は全部砂嵐しか見えない……全く、何も見えないんだ』

 

 

マシュの心に、一つすきま風が吹いた。

 

───

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

 

鎌に変形したガシャコンスパロー、その刃がブーディカの呼び出した車輪に突き立てられる。

勝利の女王の車輪、その堅さは伊達ではなく、ゲーム病にかかり満身創痍のその体でも、辛うじてゲンムの凶刃を食い止めていた。

 

 

「ねえどうして!? どうしてこんなこと……こんなことするの!?」

 

「お前が知る必要は無ぁいっ!!」

 

 

更に車輪に鎌が食い込む。……もうブーディカには限界が近づいていた。

 

 

「教えてよ!! お願いだから!! 困ってるなら私、力になるから!!」

 

「大人しく……死ねええええええええええっ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

咆哮と共にガシャットを挿し直し、キメワザを重ねがけするゲンム。

そして。

 

 

   バリンッ

 

   ズシャッ

 

「か……はぁっ……」

 

『会心の一発!!』

 

「……」

 

 

守護の車輪は砕け散った。凶刃はその勢いのままに女王の胸元に突き刺さる。血が彼女の体に線を描いた。

……無言のゲンムが見送るなかで、ブーディカは静かに消滅した。

 




書きにくいパートは高速化かけて飛ばしていくスタイル

これシリアルでいけるか? 普通にシリアスじゃないか?


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恥を知りましょう先輩!?

 

 

 

 

「……ブーディカさんが……いない……?」

 

 

翌朝。どこか寝不足のまま目を覚ましその知らせを聞いたマシュは、呆然と立ち尽くしていた。

ブーディカが失踪した……彼女自身に消える理由は無い筈だ。きっと、昨日ロマンが妨害を受けている間に襲っていたに違いない……何で助けにいけなかったのか。

 

 

「恐らく、敵兵の襲撃を受けたのだろう。聞けば魔術師殿の方も遠見の魔術を阻まれていたのだろう? その間に拐われたのであろう」

 

 

とはネロ帝の談。彼女は、ブーディカは誘拐されたと考え、今すぐにでも助けようと軍の出立を早めている。

マシュはその言葉を信じようとし、しかし信じきる事が出来ず、ロマンと通信を繋げた。

 

 

「……ドクター。ブーディカさんは本当に誘拐されたと思いますか?」

 

『いや……消滅させられたと思う。ボクはね。でも、彼女の論理も最もだし、今の軍隊の盛り上がりを阻むのは得策ではない。ここは彼女に乗るべきだ』

 

「……分かりました。じゃあ、私はネロ陛下を信じようと思います」

 

『ああ、それがいい』

 

───

 

そして、それから数時間後。

 

 

「ハハハハハ!! 素晴らしい、ここには全てがある!! 圧政者の魔手と化した敵兵は幾百、幾千、幾万か」

 

 

ガリア遠征軍、連合帝国軍に突撃中。

こちらに迎撃に向かってくる兵達を回避し、受け流して後方の兵に任せながら、黎斗とマシュ、そしてネロは本陣へと突っ切っていく。

 

 

「正しく勝利の凱歌の時だ、この後の我が叫びは勝鬨の前触れと知れ。反逆の女王が失せども、我が魂は不滅なり!!」

 

 

そう叫ぶスパルタクスの声が、遥か後方から聞こえてきた。彼一人に強力な相手の露払いを任せてしまったが、なんとかなっているようだ。

 

 

「このまま本陣に飛び込む!! よいな、黎斗、マシュ!!」

 

「はい!!」

 

「私に命令するなぁっ!!」

 

 

そして。ネロ、マシュ、そして黎斗は、敵の本陣の中に転がり込んだ。

 

 

 

 

 

「……来たか、待ちくたびれたぞ。しかし……まあ。退屈するだけの価値はあったか」

 

「……!!」

 

 

……そこに立っていたのは、剣を手に取った、赤と金の衣装を纏った恰幅の良い男だった。クラスはセイバーだろう。彼は剣を引き抜き、吟味するようにネロを見つめる。

 

 

「美しい。その美しさはローマの宝だ」

 

 

そう言いながらもその敵は剣を構え、ネロも合わせて切っ先を向けた。張りつめた空気が辺りを静まりかえらせている。

 

 

「っ……」

 

「我らの愛しきローマを継ぐものよ、名は?」

 

「……ネロ。余は、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウス」

 

「……良い名乗りだ」

 

 

その姿には威厳があった。誇りがあった。気高さがあった。恰幅こそ良かったが決して愚鈍そうではなく、それの放つオーラはむしろ鋭かった。

 

 

「そうでなくては面白くない。そこの客将よ、遠い国からよく参った。貴様たちも名乗るがいい」

 

「貴様に名乗る理由など無い」

 

 

だが、その男の言葉は、当然誇りだけ人一倍あって威厳と気高さが抜け落ちているような(檀黎斗)には、到底届きようもない。

 

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

 

直ぐ様変身して飛び掛かるゲンム。呼び出したガシャコンスパローを鎌に変形させ、セイバーの脳天に振り落とす。

 

 

「はああっ!!」

 

   カキン

 

「……まあ戦場にはこのような奴も一定数いるがゆえ、不意打ちの類いには割りとなれている」

 

 

そう言いながらゲンムの鎌を易々といなすセイバー。汗一つも垂らしはしない。

 

 

「ここまで来られた褒美だ。我が黄金剣、黄の死(クロケア・モース)を味わえ」

 

「ほう……?」

 

   カキン カキン

 

 

ゲンムとセイバーの間で火花が飛び散る。ネロとマシュは入るタイミングを見失い、そして二人の激しい戦いを前にして飛び込む隙を失っていた。

 

 

   カキン カキンカキン ガンッ

 

「ぐうっ……!!」

 

「どうした客将よ、顔は涼しくとも、得物の捌きに焦りが見られるが。まさか不意討ちだけで勝てるとでも踏んでいたか?」

 

 

体格に似合わず、セイバーはなかなか素早かった。遠くから近くから背後から、その黄金の剣を振るってゲンムを襲う。ゲンムの方も大体は対処したが、それでも何か違和感を持っているように見えた。

 

 

「さあ、行くぞ。既に賽は投げられている──!!」

 

 

切り結ぶ。切り結ぶ。

金属音を掻き鳴らしながら二人はその得物を振るい続ける。

 

しかも、何故かセイバーは弱らない。今まではそんなことは無かったのに。その事実が、ゲンムを苛立たせた。

 

 

   カキン カキン

 

「くっ……」

 

「さて、止めと行こうか。黄の(クロケア)──」

 

「っ、させるか!!」

 

 

ゲンムがよろけるタイミングを見計らって、セイバーがその剣を掲げ光らせる。宝具の発動が迫っていた。

 

 

「あまりやりたくは無かったがっ!!」

 

 

ゲンムは咄嗟に四つの、四つものモノクロのガシャットを取り出す。

 

 

『ゲキトツロボッツ!!』

 

『ドレミファビート!!』

 

『ギリギリチャンバラ!!』

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

「何だとっ!?」

 

 

召喚された四体のゲーマが、セイバーに突撃する。その勢いに押され宝具の使用をキャンセルさせられたセイバーは数歩よろめき、ゲーマ達の下敷きにされた。

 

そして。

 

 

『シャカリキ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「終わりだっ……!!」

 

 

弓に組み換えたガシャコンスパローにプロトシャカリキスポーツをセットしたゲンムが、そのトリガーを引いていた。

 

 

   ギャンッ

 

   ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

 

「ぐ、があっ……!!」

 

 

車輪が射出され、セイバーを押さえつけていたゲーマごと破壊にかかる。車輪に引き潰されるセイバー。

衝撃波はあたりを揺らし、金属片を飛び散らせて、そして。

 

 

   ズガンッ

 

「……やられたな。そんな隠し玉があるなんてな」

 

 

轢き潰され、その場に膝をつくセイバー。その所々には傷が残り、肩で息をしている。

 

 

「だが、まあ、私の負けには代わり無い。お前の強さを讃えて──いや、お前にはどうでも良いことなのだろうが」

 

「当然だあっ!!」

 

 

満身創痍の状態で一人ごちるセイバー。ゲンムは彼に止めを刺そうとするも、マシュに抑えられる。

 

 

「一旦落ち着いて下さい先輩!!」

 

「離せ!!」

 

「離しません!! 聞かなくちゃいけないことがあるから……!!」

 

 

「……やれやれ」

 

 

セイバーは二人から目を離し、ネロに目を向けた。

そして、彼自身の名を名乗る。ネロにとってはあまりにも聞き慣れたそれを。

 

 

「……我が名はカエサル。ガイウス・ユリウス・カエサル。本物だ」

 

「そんな……?」

 

「貴様らの強さ、美しさ。私は感嘆した、故に教えてやろう。……聖杯は我が連合帝国首都の城に在る。正確には、宮廷魔術師が所有している」

 

 

マシュは黙って聞いていた。ネロも黙って聞いていた。ゲンムは盾で押さえつけられ黙らされていた。

沈黙の中でセイバー……カエサルは立ち上がる。マシュは一瞬身構えたが……すぐに、それが最後の行動であると察した。

 

 

「うむ、うむ。気持ちのいい負けでは無かったが……出来れば美しい女に負けたかったが、まあ我慢するとしよう。そも、俺が一兵卒の真似をするのは無理がある……全くあの御方の奇矯には困ったものだ」

 

「あの御方……?」

 

 

首を傾げるネロ。あの、皇帝の始祖であるカエサルがあの御方、と呼ぶなんて、余程の存在だろうとは思うが……

そう思考するネロに、カエサルは両手を広げ声を張る。

 

 

「そうだ、当代の皇帝よ。連合首都であの御方は貴様を待っている。その名を、姿を目にした時、貴様はどんな顔をするか……楽しみだ」

 

「……あの、一つ聞いていいですか?」

 

「ん、何だ?」

 

 

今度はマシュが質問の声をかけた。

 

 

「……私達の仲間のブーディカが、恐らくそちらに捕らえられています。どこにいるか、分かりませんか?」

 

「……ふむ」

 

 

顎に手をやり、少しの間考え込んだカエサルは、何かを言おうかと考えたかのように見えたが、しかし首を振った。

 

 

「……知らんな。だが、ここにきていない以上首都にいるのだろうよ」

 

「……分かりました」

 

 

カエサルは一つため息をついてから空を見上げ、そして静かに空にとけた。

 

───

 

「……カエサルが倒されたな」

 

 

宮廷魔術師(仮)、レフ・ライノールは舌を打った。

せっかく自分が、カエサルにかかったデバフを一々解除してやったというのに、結局負けてしまうとは。

 

まあ、あれは相手にとっても捨て身の戦法だっただろうが。

彼の繰る使い魔(ゲーマ)四体の間接的な撃破は、なんだかんだで連合にとってほ大きなアドバンテージだ。

 

 

「……また、サーヴァントを呼び出すのか?」

 

「いや、これではどれだけ数を増やしても無意味と言うもの。むしろ一点に魔力を注いだ方がまだいくらか有用と言うものだ」

 

 

とあるサーヴァントから投げ掛けられた問いに、レフはそう返す。

どれだけ凡百のサーヴァントをけしかけても、ゲンムを相手にしてしまえば結局、最終的には負けるという未来は簡単に見えた。それを学ばないほど愚かではない。

 

 

「だからこそ……」

 

 

聖杯が鈍く輝き、そして──

 

───

 

「……では、次の目的地は連合首都だな。ブーディカがいるとすれば、きっとあそこなのだろう」

 

 

暫くして、ネロが言った。一刻も早く向かわなければならない。

だが、それがどこにあるのか分からない以上、彼らには打つ手が無かった。

 

 

「今すぐにでも助けたいが、場所を知るには斥候を送るしかない。取り合えずローマに──」

 

「もう分かっている」

 

「……ん?」

 

 

黎斗はそう言う。もう、連合首都の場所が分かっている……そう言っている。

 

 

「もう既に、敵の正確な位置はつかんである」

 

「え……?」

 

 

刹那、黎斗の頭上に、黒い飛行機(プロトコンバットゲーマ)が飛来した。そしてそれは二、三周程旋回した後に、黎斗の傍らに着陸する。

 

 

「斥候を飛ばせておいたのだよ。だから、ほら」

 

 

黎斗がコンバットゲーマに信号を入力すると、ゲーマは機械的な音声で目的地の座標を告げた。

つまり、場所が分かった訳だ。

 

 

「……ならば、態々ローマに戻る必要もあるまい。この勢いのまま進む!!」

 

 

そんな令が下った。兵達が生き生きと動き始める。軍はあっという間に纏まり、次の移動の準備を整える。

 

 

「マシュ・キリエライト」

 

「……?」

 

 

黎斗が、マシュの後ろから声をかけた。

 

 

「ブーディカは、君の大切な友なのだろう? ならば、助けなければならない」

 

「黎斗さん……」

 

「全力を尽くそう。きっと上手くいくさ」

 

 

マシュが振り返らなかったから分からなかったが、彼は……()()()()()()()をしていた。




いい話だ、感動的だな、だが無意味だ(手遅れ的な意味で)


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とうとう対策されましたね先輩!?

 

 

 

 

 

黎斗とマシュ、そしてネロは、連合首都の城を駆け抜けていた。飛び掛かってくる魔物は全てスパルタクスに一任し、とにかくスピード重視の特攻であった。

 

そして三人は、一際大きな部屋へと、音を立てて転がり込む。

 

 

   バンッ

 

「……やれやれ、君達は静かに部屋にも入れないのか」

 

「レフぅ……!!」

 

 

レフ・ライノールがそこにいた。そして、その隣には黒い筋肉質な男が黙って佇んでいる。

 

 

「その、男は……?」

 

 

ネロが呟いた。何かを感じ取ったのだろうか。彼女は、その男とは初対面であったが……その男が何か、いや、その男が何()()()()を察していた。

 

 

「流石は腐っても皇帝、とでも言っておこうか。そう、このサーヴァントは、建国を成し遂げた王、ロムルス」

 

「……!?」

 

 

愕然とするネロ。何があったのか、その姿には邪悪な何かが染み付いているように思えた。まるで、彼が黒い泥のような何かに無理矢理姿を変えられているようだと思った。

そしてそれは外れではない。

 

レフが黎斗に向き直る。

 

 

「48人目のマスター檀黎斗、私はこれでも寛容な方なのだよ。道具でしかないサーヴァントの戯れ言だって、一応は聞いていたさ。そして思い付いたのだよ」

 

 

堂々と朗々とそう語るレフ。傍らにはロムルスが立っている。だがそれは、最早本来のロムルスではない。

 

 

「そこにいるロムルスは、常日頃から『世界(ローマ)は不滅だ』だの『人間(ローマ)は不滅だ』だのほざいていたが、それを()()()()()()()と思ったわけだ。つまり……」

 

「まさか、そんな、神祖を……!?」

 

 

レフの告げる言葉に、ネロは困惑を隠せない。まあ当然であろう。目の前で尊敬する人物を好きに改造した、と言っているのだから。

 

 

「ロムルスを反転(オルタ化)させる事で、『世界(ローマ)は不滅だ』を、『自分(ローマ)以外は不滅ではない』に書き換えたのさ。そう、貴様がどんな不死身の力を持っていようと!! このバーサーカー、ロムルス・オルタに一度倒されたなら、その不滅性は途絶えただの屍になるのさ!!」

 

 

勝ち誇るレフは、ロムルス・オルタは不死身をも殺すと明言した。それに相対するゲンムは……

 

 

「……何、だと……?」

 

 

いつもの剣幕も浴びせかける罵声も無く、呆然と立っていた。

その姿がおかしくて仕方無かったのだろう、レフは彼を更に煽る。

 

 

「ハハハ!! 所詮お前も、変な能力を持っただけの役立たずの俗物にすぎん!! もう加減は無しだ、死ね!!」

 

「くっ……あり得ない……こんなのあり得ない……!!」

 

「さあ行けロムルス・オルタ!! 非常に下らないが、お前の(ローマ)を見せてみろ!!」

 

「ゥロオオオオオオオオマァアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

理性の欠片も見られない号哭。ネロは悔しげに唇を噛み、黎斗は顔に怯えすら浮かべる。

戦闘兵器と化した偉大なる男は、今、剥き出しの脅威であった。

 

 

「そんな……神祖……」

 

「嫌だ……死にたくない、まだ、死にたくない……!!」

 

 

変貌した姿に戸惑うネロ。その気圧に怯える黎斗。そしてマシュには、何も出来ない。

 

 

「ローマッッッ!!」

 

 

国造りの槍が降り下ろされ、マシュは反射的に目をつむり……

 

 

 

 

 

   ガシッ

 

「……え?」

 

 

攻撃が来ない。

 

マシュはその状況を疑問に思い、顔を上げる。

 

 

「おお圧政者よ!! 汝を抱擁せん!!」ゴゴゴ

 

「……セプテムッッッ!!」ゴゴゴ

 

 

追っ手を全て片付け終わったのであろうスパルタクスが転がり込んできて、ロムルスの槍を受け止めていた。

 

その槍を身に受けながら笑うバーサーカー、そしてその巨躯を貫かんとするバーサーカー。

 

マシュは意識を強く持った。

今のうちに。ここまでの連戦で限界が近いであろうスパルタクスがいる内に、二人を元に戻さなければ。

 

 

「ああ、神祖、神祖……」

 

「……ネロ陛下、聞こえますかネロ陛下」

 

「ああ、余はどうすればいいのだ、余は、余は……」

 

「……ネロっ!!」

 

「はひいっ!?」ビクッ

 

 

恐慌状態にあったネロが、マシュに叫ばれビクリと震え上がる。マシュは彼女の両肩に手をおき、ネロの目を見て、告げた。

 

 

「確かに、陛下の困惑も最もでしょう。ですが!! (ロムルス)は過去の遺物です。今の皇帝は、今、ローマの皇帝は貴女です!! 他の誰でもない、貴女です!!」

 

「っ……」

 

 

スパルタクスとロムルスが殴りあっているのと、黎斗の呟きと、レフの高笑いが入り雑じる戦場で。

されどマシュの声は何者にも掻き消されず、ネロの中にストンと落ちる。

 

 

「神祖を越えましょう。それは貴女にとっても人類にとっても、神祖にとっても、救いとなります」

 

「余は……」

 

「この連合の兵士は、人々は、誰一人として笑っていませんでした。ローマとは違っていました。だから……貴女は剣を取るべきです。それは間違っていません」

 

 

ネロは一瞬の逡巡の後に、迷いを振りきるように首を振った。

 

 

「……そうだ、ああ、そうだな!! 相手が何であっても、余は、余のなすべきことを成そう」

 

 

そうとだけ言って、ネロは剣を拾い上げ、ロムルスに向かっていく。

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「来たか、ネロ(ローマ)よ!!」

 

「神祖、行くぞ!!」

 

「はははははは!! まさか圧政者と肩を並べようとは!! だが今回はいい、いいぞ!! 共に愛を放とうではないか!! 我が愛はっ、爆発する!!」

 

 

 

「……黎斗さん」

 

「何でだ、何でだ、何でだ……」ブツブツ

 

 

マシュはスパルタクスと合流したネロを少し見やってから、黎斗にも声をかける。黎斗は何かを考え込んでいる様子で、壁の側で座り込んでいた。

 

 

「おかしい、こんなの絶対おかしい……」ブツブツ

 

「……檀黎斗!!」ガツン

 

「うぐはぁっ!?」

 

 

盾で脳天を殴り付ける。辛辣。

 

 

「何をする!!」

 

「貴方こそ何をしているんですか!! あなたは自分の優位が無くなったらすぐに逃げ出すような人だったんですか!?」

 

「うぐっ」

 

「私は信じています!! 黎斗さんも本当は、強いだけじゃなくて、信念と優しさのある人だって!! だから!!」

 

 

それだけが、マシュが彼にできる励ましだった。これまで彼の事なんてこれっぽっちも分からなかったが、それでも彼を信じることは出来る。

 

黎斗はその声をうけて、また、ニヤリと笑った。

 

 

「は、はは……ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」

 

「黎斗さんっ……」

 

「そうかそうか!! そうなら仕方がないなあ!!」

 

『ガッチョーン』

 

 

彼は立ち上がり、ガシャットを取り出す。その目には、狂暴で、それでも芯のある爛々とした輝きが戻っていた。

 

 

「このシナリオは消去する。変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

白い怪物、再臨。

ゲンムはネロの元へ走り込みながら、そのドライバーを操作する。

 

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

沸き上がる死霊。ネロは飛び退き、スパルタクスはロムルスを押さえつける。

 

 

「が、はがぁっ……!?」バタバタ

 

「圧政者よ!! 死ね!!」

 

 

その一言を発した後に、死霊は弾け燃え上がった。二人は炎に包まれ、焼かれていく。

 

 

   ドガアァァァァァンッ

 

 

「やったか!?」

 

「いや、まだです!!」

 

 

後方から走り込んできたマシュが盾を構える。炎の先を見据えれば、まだ立っている男が一人。

 

 

「全て、全て……全て全て全て全てぇっっ!! 我が槍にこそっ、通ずッッッ!!」

 

「下がってください皇帝陛下!!」

 

 

ロムルスが、炎の中で声をあげた。彼はまだ耐えていたらしい。彼らを試さんと耐えきったらしい。

だからこそそれに応えるべきだ、と言わんばかりに、マシュは勇気に満ちていた。

マシュがネロの前に立った。足は少し震えているが、その目には確かな決意があった。

 

盾を握る手に力がこもり、そして。

 

 

すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)っ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

部屋の全体から大樹が伸びる。竜のように力強く、蛇のようにしつこく、鞭のようにしなやかに動き三人を狙うそれは、一束に纏まって強力無比な一撃を産み出す。

 

対するマシュは、その攻撃を前にして、ついに。ついに。その宝具の鱗片を見せた。

 

 

   ガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

「ああああああああああああっっ!!」

 

 

叫ぶ。そして力を籠める。強く堅く、強く堅く。もっともっともっともっと。

守るべき物がある。守るべき人がいる。受け止めるべき悪がある。だから。

 

 

「ああああああああああああッッッ!!」

 

   カッ

 

 

光の壁が展開された。

大樹は弾かれ、千切れ、崩れていく。

ロムルスはまだ、木々を操作するのに躍起になっていた。だから、攻めきるならば今しかない。

 

 

「今です!!」

 

「分かっておる!! 行くぞ黎斗!! 遅れるなよっ!!」

 

「むしろお前が合わせろっ!!」

 

『ガシャコン ソード!!』

 

 

マシュの背後から飛び出したネロとゲンムが、共にその必殺の一撃を構える。

ネロの剣は熱く炎を纏い。ゲンムの呼び出した剣にも、熱き騎士の力(プロトタドルクエスト)が装填されて。

 

ロムルスに駆け寄り、その刃を振り上げる。普段ならばあり得ない共闘。

 

二人が叫んだのは、奇しくも同時だった。

 

 

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!!」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「「はああああああっ!!」」

 

   ズジャアァァンッ

 

 

揃った一閃。炎は二筋の煌めきとなって。

 

越えるべき敵を討ち果たす。

 

 

   ドサッ

 

「……見事。よく、(ローマ)を乗り越えたな」

 

 

膝をついたロムルスは、狂化も解けて、優しげな顔を浮かべる。

 

 

「……眩い、愛だ。ネロ。……永遠なりし深紅と黄金の帝国。その全て、お前と、その後に続くものに託す」

 

「神祖……」

 

「忘れるな。ローマは、世界(ローマ)は、人間(ローマ)は、永遠だ。どうか……」

 

 

そこまで言って、ロムルスは消滅した。最後まで満足げな顔を浮かべていた。

 

 

「やった……か……!!」

 

「敵性サーヴァント、バーサーカー、ロムルス・オルタを撃破……後は……!!」

 

 

レフに目を向ける。今は感慨に浸る暇はない。

レフは三人を感嘆と好奇を持って見つめていた。

 

 

「……まさか、あれが負けるとは。やはりサーヴァント等に頼るべきではないな。まあ、あれを倒した程度で、勝ったとは思うまい?」

 

「プッ!! 節穴の分際でよくもまあ堂々としていられるなぁレフ・ライノール!!」

 

 

そう返すのは当然ゲンムだ。剣の切っ先をレフに向けそう言い放つ姿は、先程までの弱気な男の見る影もない。

 

 

「ぐっ……強がっていられるのももう終わりだ、貴様らはここで滅びる」

 

「全く面白い成長を遂げるものだな!! まさか神を見逃しておきながらまだそんな事をほざけるとは!! ここで滅びる? バカめ、節穴ごときではもうどうにもならなぁい!!」

 

 

煽りの応酬。最大の困難(ロムルス)を乗り越えた黎斗に、最早怖いものは無かった。

 

 

「結末は確定している!! 今さら貴様が動いても無意味!! 無能!! 貴様のミスで人理は救われるぅ……節穴に今さら鼻紙を宛がおうと無駄でしかなぁい!! あはぁ……♡」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れぇっ!! 私を虚仮に出来るのもこれで最後だ!! 今ここに!! 我が王の寵愛を!!」

 

 

レフは実に苛立たしげにそう叫んだ。聖杯を握りしめて……いない手を掲げて。

 

 

「……え?」

 

「ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!! なぁにが王の寵愛だ!! 所詮節穴を取り替えもしない無能か!!」

 

「貴、様……まさか……!?」

 

 

レフの手にあった筈の聖杯は、ゲンムの手に握られている。

何があった、レフは思考する。辺りを見回し……気づいた。

 

 

「別の、使い魔……!?」

 

 

黒い死霊が、一つ残っていた。

そう、クリティカルデッドの死霊は、纏めて爆発させるだけの使い方しか出来ない訳ではない。ゲンムのイメージ通りに動くのだ。

 

そして、その死霊はレフを羽交い締めにし動きを封じる。

 

 

「止めろ、よせ、何をっ!?」

 

「どうせ還るなら……痛いのを貰っていけ……!!」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

矢が放たれ、無数にレフに突き刺さって。

 

 

「ああ、くそ、この……人間の分際で……!!」

 

   ドガアァァァァァンッ

 

 

木っ端微塵に弾けとんだ。

 

───

 

そして、しばらくして。

 

 

「うむ、よい働きであった。……おまえたちも、消えるのだな」

 

「はい。……ありがとうございました。……ブーディカさんには、結局会えませんでしたが」

 

「そうだな。……寂しいな」

 

「はい」

 

 

マシュとネロが、そう話していた。

黎斗は黙って、ローマの空を見上げている。

 

 

「正直残念だ、無念だ。まだ、余は何の報奨も与えてはいないというのに……お前たちならば、臣下より、もっと別の……いや、やめておこう」

 

「……私たちの行き先にも、きっと、ローマはありますから」

 

「……ローマは世界だ。世界は不滅だ。例え病もうと傷もうと、世界は決して終わらない。だから、別れは言わぬ。礼だけ言おう。……ありがとう。そなたらの働きに、全霊の感謝と薔薇を捧げる、とな」

 

 

そして、二人はその言葉を聞きながら、青い光に溶けていった。

 

───

 

 

 

 

 

「……くそ、まさかこんなことがあるなんてな」

 

 

黎斗はマイルームに引きこもり、破壊してしまったゲーマの修理を行っていた。そして、何かを呟いている。

 

 

「これは予想外だ。アレの製作も、早めた方がいいかもしれない」

 

 

そう言う彼の近くの書類には、ガシャットの設計図が──




ロムルス・オルタ

レフ・ライノールが、呼び出したロムルスを対ゲンム用に魔改造したサーヴァント。
元々ロムルスはバーサーカー適正を持っていた為、それをベースに色々と反転を加え、独自のローマ哲学を変質させる事で「自分(ローマ)以外は不滅ではない」を作り出した。
最終的にはネロとゲンムに真っ正面から斬り倒され、やろうと思えば復活も出来たが、彼らの(ローマ)を讃えて消滅した。

ステータス

筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力D 幸運B 宝具A+

保有スキル

天性の肉体(C)
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。

皇帝特権(A)
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。ランクがA以上の場合、肉体面での負荷(神性など)すら獲得する……筈なのだが、今回は対ゲンム用に自己暗示の獲得が強制されている。この力で、周囲にまでローマ哲学を基準とした空間を広げ、ゲンムを殺せるようにしていた。

七つの丘(A)
自ら「我が子」と認めた者たちに加護を与える。七つの丘とは“ローマ七丘”、すなわちローマの礎となった七つの丘を指す。パラディウムの丘に城壁を築き、その地がのちのローマの中心都市となったと伝わる。

狂化(A)
バーサーカーのクラススキル。全ステータスをランクアップさせるが、理性の大半を奪われてしまう。


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なんでよりにもよってそのメンツ引くんですか先輩!?

UA数が9610(黎斗)を越えたので、サーヴァント追加です


 

 

 

 

 

   ガチャ

 

「黎斗さん? いますか?」

 

「ああ、マシュ・キリエライトか。今私は忙しいから後にしてくれないか?」ガチャガチャ

 

 

マシュが黎斗の部屋を訪れたとき、彼はガシャットの修理を続けていた。辺りには工具や電子部品が散乱して、足の踏み場もない。

 

 

「今からサーヴァント召喚しますよ!!」

 

「なんでそんなこと……私がいれば十分だろう?」

 

「どの口が言ってるんですか!! この前みたいにまた対策練られたらどうするんですか? また踞ってたらそれこそおしまいですよ!?」

 

「うぐっ」

 

「いいからサーヴァント呼びますよ!! ドクター曰く、今なら三体まで呼び出せるそうです!!」ガシッ

 

「ちょっ、襟、襟を掴むな襟を!?」

 

───

 

「……着きましたね」

 

 

二人は、サーヴァント召喚用の部屋に入ってきた。今まで使われていなかったせいだろう、辺りの機器は悉く埃にまみれている。

黎斗はため息をつきながらマシュについて歩いた。

 

 

「……これでよし。黎斗さん、準備が出来ました。召喚を」

 

「分かっているさ」

 

 

マシュに言われ、渋々と黎斗がサーヴァントを呼び出す。

辺りに青い光が満ちた。何かの回転する音が響く。そして、その後に現れたのは──

 

 

 

「我が顔を見るものは恐怖を知ることになるだろう……お前も」

 

 

顔の半分を覆った、黒髪の長身のサーヴァント。何処と無く歌っている調子にも聞こえる。

 

 

「そんなに怖いですかね」

 

「そうでもないな……で、これは誰だい?」

 

 

アサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。

十九世紀を舞台とした小説「オペラ座の怪人」に登場した怪人──恐らくは、そのモデルの人物。

オペラ座地下の広大な迷宮水路に棲まい、若き女優に惹かれて彼女を歌姫へと導くも、成就せぬ愛のために連続殺人を行ったとされる。

 

 

「だ、そうです」

 

「ほう……面白い」

 

 

黎斗はファントムの元へ歩みより観察を始めた。マシュは二体目の召喚の準備を開始する。

 

 

「ふーむ……強さはどの位だろうか」

 

「その声……もしや、貴方は、クリスティーヌ!! おおクリスティーヌ!!」

 

「檀黎斗だ」

 

「クリスティ

 

「檀黎斗だ」

 

「ク

 

「檀黎斗だぁっ!!」

 

「……ならばダン・クロスティーヌで」

 

 

……黎斗は肩をすくめ、取り合えず次の召喚をしようとマシュを見やる。

どうやら、二体目の準備は整っているらしい。

 

 

「二人目呼びましょうか。出来ればネロ陛下ならいいなぁ……黎斗さん、お願いします」

 

「まあ期待はするな」

 

 

再び部屋に光が満ちた。月光の如き青い閃光は二人を照らし、サーヴァントをその瞳に映し出す。

 

 

 

「余の、振る舞いは……運命……で、ある……」

 

 

黄金の鎧の、マッチョな男が現れた。黎斗はマシュに向き直る。

 

 

「良かったなマシュ・キリエライト。ローマが来たぞ」

 

「確かにローマっぽいですけど……あれ、このサーヴァントどこかで見ましたよね」

 

「ネロと合流した最初の戦いで顔を見たな。それだけだが」

 

 

バーサーカー、カリギュラ。

暴虐の伝説を有する古代ローマ帝国三代皇帝。

一世紀の人物。皇帝ネロの伯父。

当初は名君として人々に愛されたが、突如として月に愛された──狂気へと落ち果てたのである。

暗殺までの数年間、彼は帝国を恐怖で支配した。

 

 

「だ、そうです」

 

「なるほどな」

 

 

再び召喚の準備にかかるマシュ。黎斗はカリギュラの元へ寄り、その肉体を鑑賞する。カリギュラの方も、じっくりと黎斗を見定めた。

 

 

「……なかなか出来た肉体だな。力はかなり期待できる」

 

「おおネロよ、そなたは美しい……」

 

「……バーサーカーに、頭を期待するのは酷だったか。マシュ・キリエライト!!」

 

「準備万端です!!」

 

 

三度目の召喚。鬼が出るか蛇が出るか、いやどっちも来てほしくないけれど、せめてまともな女性が欲しい!! マシュはそう切に願う。

 

 

「さあ、ラストです。出来ればまともに会話できる女性サーヴァントをお願いします……」

 

 

マシュの心労を労うように、召喚の光が辺りを照らす。それはまるで辺りを撫でるようで……

 

 

「お招きに預かり推参仕りました。不肖ジル・ド・レェ、これよりお傍に侍らせていただきます」

 

 

訂正。労っているのではなくて、嘲笑っていたらしい。マシュは崩れ落ちた。

もう女自分だけなのはいい加減辛かったのだが。ダ・ヴィンチはあれは男だから。

やっと楽になれると思ったのに。

 

 

「良かったなマシュ・キリエライト。会話出来そうだぞ」

 

「目が、その、死んでますよこの人!!」

 

 

キャスター、ジル・ド・レェ。

15世紀フランスの貴族。

自らの領地にて近隣の少年を次々と拉致しては凌辱・惨殺するという所行を繰り返し、後の世の童話『青髭』のモデルとして知られるようになる。

 

 

「超危険サーヴァントじゃないですか!?」

 

「ハーハハハハハ!! これはまた傑作だな!!」

 

 

マシュに絶望のダブルパンチ。せめてまともなサーヴァントであって欲しかった。辛い。

 

───

 

「……どうしましょう、ドクター……」

 

「あ、あはは……どうしようって、どうもねぇ……」

 

「リリースとか出来ないんですか!? 返品を要求します!!」

 

「ちょっとそれは無理かなぁ……あはは……」

 

 

涙目のマシュを前にして、ロマンは何も言えなかった。

本来ならどんなサーヴァントに対しても寛容であったのだろう彼女は、しかしこれまでの黎斗との関わりのなかで、面倒臭い者を避けたがるようになってしまっていたらしい。

流石に彼女を不憫にも思うが、だからと言って再召喚するには、カルデアに魔力が足りない。本来はカルデアならサーヴァント呼び出しにとある石を使うのだが、それらは先程使いきってしまっていた。

 

 

「あうぅ……」

 

「……強く生きてくれ、マシュ。また機会があったら報告するから」

 

───

 

「……」ガチャガチャ

 

 

黎斗はその頃、マイルームに戻って、再びガシャットの修理に取りかかっていた。

取りかかっていたのだが、先程呼び出した三体が妙に煩い。

 

 

「……」ガチャガチャ

 

「おおクロスティーヌ」

 

「私は檀黎斗だぁっ!!」

 

 

ファントムに突っ込みを入れながら、プロトドレミファビートを再び組み立て直した。

 

 

「……」ガチャガチャ

 

「そなたは美しい……」

 

「えぇ……(困惑)」

 

 

カリギュラに少し引きながら、プロトゲキトツロボッツを組み立て直した。

 

 

「……」ガチャガチャ

 

「紛れもない才能の輝き!! 感服致しましたぞ、我が主よ」

 

「当然さぁ!! 神の才能が、私にはあるのだからなあっ!!」

 

 

ジルに絶賛されながら、プロトドラゴナイトハンターZを組み立て直した。

 

既にプロトギリギリチャンバラは直してある。漸く仕事が一段落した黎斗は大きく伸びをして天井を見上げ──一つ閃いた。

 

 

「……成程」

 

「どうかしましたか我が主よ」

 

「おおクロスティーヌ、何か?」

 

「ネロォォオオオオオォ!!」

 

 

構想を広げれば広げるほど、含み笑いがニヤリと曲がり、段々と高笑いに変貌していく。

ああそうか、それも出来るのか。やってみよう。きっと面白いことになる。

 

 

「……ハハ、ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」

 

 

組み上がったプロトドラゴナイトハンターを天井の明かりに翳して、黎斗は笑い続ける。

 

 

「ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」

 

「クロスティーヌ!! クロスティーヌ!!」

 

「ウオオオッッッ!! ネロォォオオオオオォ!!」

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌゥゥウッ!!」

 

 

煩い。




「ジャンヌ!! あなたは、あなたは!!」

「クロスティーヌ!! 君はまるで」

「ネロォォオオオォ!! そなたはっ!!」

「宝生永夢ぅっ!! 君は正しく!!」

「「「「水晶っ!!」」」」


ポエマー戦隊君の心は水晶なんジャー
イカれた奴等は引かれ合う


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第三特異点 封鎖終局四海オケアノス 不揃いのServant!!
乗ってる船壊すとかどうかしてますよ先輩!?


 

 

 

 

 

   ザザーン  ザザーン

 

「……あの。ここ、船の上ですよね。確かに海の上ではないですが……弁解あります? ドクター」

 

『いや、その……ほら、海での足があるのはメリットじゃん』

 

 

黎斗とそのサーヴァント四体は、第三特異点……の海賊船にレイシフトしていた。

今回の特異点は海とは言われていたが、突然海賊船の上に放り出された一行は、潮風に吹かれながら戸惑いに戸惑う。

 

 

「……誰だあれ」

 

「知らねえよ、何だあいつら」

 

「……よくわからねえが……野郎共やっちまえ!!」

 

 

「あっ、海賊が来ましたよ黎斗さん!!」

 

「分かっている、分かっているとも」

 

 

気づけば、辺りを屈強な男二十人程に囲まれていた。十中八九海賊だろう。マシュは盾を構え、黎斗は余裕ありげにガシャットを取り出す。

 

 

「おおっ、女がいるぜ!!」

 

「なんか金目のもんは……まあ身ぐるみ剥がせばなんかあるだろ!!」

 

「あの金属の塊はすげぇお宝だと見たぜ!!」

 

「ヒャッハー!!」

 

 

「……あの、黎斗さん、これだけの数は、少しばかりきついかと」

 

「恐らく、君には辛いだろうな……まあ、大丈夫なんだろう、ジル・ド・レェ?」

 

「お任せを我が主よ。最高のCooooooolをお見せしましょう!!」

 

 

黎斗はそのガシャットをドライバーに挿す様子もなく、ジルに目を向けた。

名指しされたジルは沢山の視線を浴びながら、得意気に、高らかに、朗々と言い放つ。

 

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)……フフフハハハハハ !! アーハハハハハハハハハハ!!」

 

   ザバザバザバザバ

 

 

黎斗に勝るとも劣らぬ高笑いをしたその刹那、海が音を立てて割れ、異形のナニカが現れた。そのナニかは触手を伸ばして、海賊船に絡み付く。

 

 

「ゴゴゴゴ……」ガシッ

 

「……え?」

 

「ん?」

 

「ゴゴゴゴ……!!」

 

   ユッサユッサ

 

「ふぁっ!? 何だクラーケンか!?」

 

「蛸が!! 蛸が船に!!」

 

「揺れる揺れる揺れる!?」

 

 

海中から無数の触手が現れ船を揺さぶる。まだ穴などが空いている訳では無いから、船は沈みこそしないが……船員の殆どが海に引きずり込まれていった。

 

 

「ゴゴゴ……」

 

   ユッサユッサ

 

「ふぅむ……なかなか沈みませんね我が主よ」

 

「流石にしぶといか。派手に沈めてやろう……!!」

 

「ジェットコンバット!!」

 

「あの、黎斗さん!! この船沈める必要あるんでしょうか!?」

 

 

黎斗がプロトジェットコンバットの電源を入れ、コンバットゲーマを呼び出す。そして、それにあることを命じた。

 

 

「この船を穴だらけにしろ。沈みやすいようにな」

 

「本当に何を言ってるんですか黎斗さん!?」

 

「おおクロスティーヌ……その指示はまさに大胆不敵……」

 

「この……沈没も……運命、である……」

 

 

コンバットゲーマが、触手の間を縫って飛び回り、その機関銃を乱射を開始。忽ち船は穴だらけになり、中に水が溜まっていく。

 

 

「ゴゴゴゴ……」

 

   ユッサユッサ

 

「うわあああ!! 沈んでるぞ!!」

こいつらなんなんだよ!!」

 

   バンバンバンバン

 

「うわあなんか飛んできた!!」

 

「白黒の……鳥か!? 悪魔か!? うわ船に穴空いてる!!」

 

「銃弾も効かねえし本当なんなんだよこいつらなんなんだよぉ!!」

 

「やだよぅ」

 

 

「……流石に可哀想になってきました」

 

「気にするな、多少の犠牲は仕方無いさ」

 

 

そうとだけ言ってコンバットゲーマをガシャットに回収する黎斗。もう既に海賊船は半壊、乗員の殆どは海に落ち、残っているものも打ち上げられた魚よろしく喘ぎなからビチビチと跳ねるのみ。黎斗達への脅威は、とっくに無くなっていた。

 

 

「そろそろ私達も行くか。……どうやらあちらの方向に、いい感じの島があるらしい」

 

「分かりました我が主。では、海魔に乗り移りになってください」

 

 

そう言われ、差し出された触手を渡って一行は海魔の上に乗る。

海賊船ツアーから、たのしい海魔ツアーに変更になったという訳だ。

 

そして、全員が乗り終わるのと同時に。

 

 

「ちょっ、溺っ」ゴポゴポ

 

「あっあっあっ」ゴポゴポ

 

「みすてないで」ゴポゴポ

 

   ポチャン

 

 

船は海賊の悲鳴と共に沈んだ。

 

───

 

『なんて事してるんだ君は……』

 

「私の才能をもってすれば簡単な作戦だった」

 

 

海魔に乗って近隣の島を目指しながら。ロマンからの疲れはてたような声にそう返しているのは他でもない黎斗である。

 

 

「うわぁ……なんか、その、すごいヌルヌルします……」

 

「うおおおお!! たこおおおぉぉお!!」

 

「叫ぶ公へ、私は訝しむ、これはヒトデではないのかと」

 

 

サーヴァント達もそんな会話をしながら、大体一時間は費やしてきた。

流石にそろそろお目当ての島の頭の天辺くらいは見えそうな物だが……

 

 

「……あ、やっと島が見えてきましたね黎斗さん」

 

「そのようだな。よくやったジル・ド・レェ」

 

「お褒めに与り恐悦至極」

 

 

それなりのサイズの島だ。取り合えず今晩はあそこで凌げるだろう……マシュがそうして喜んだのも、束の間だった。

 

目の前にまた別の船が現れたのだから。巨大な帆船の先端部には、赤い髪の女……? のような誰かが見える。

 

 

「あっ、あっち側にも海賊船です。島へのルートを邪魔してますね。回り道しますか?」

 

「ああ。流石に大海魔も疲れてきているのだろう? 戦いは得策ではない」

 

「その通りですね我が主」

 

「……ですがクロスティーヌ……あちらは、既に……」

 

   ホウゲキヨーイ!! モクズトキエナァ!!

 

「「「「「あっ」」」」」

 

   バァンッ

 

 

砲弾が近くに落ちる。衝撃波は容赦なく海魔を抉り、疲弊していたそいつらを意図も容易く葬り去る。

当然の帰結として、海魔に乗っていた一行は海に落ちた。

 

 

   ボチャン ボチャン

 

「だ、大丈夫ですか我が主よ!? 己、この匹夫めが!!」

 

「許さない……許さないぞあの海賊!!」

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

水中でガシャットを取りだし、電源を入れるびしょ濡れの黎斗。ファントムが彼に問う。

 

 

「クロスティーヌクロスティーヌ、びしょ濡れの君に私は歌う、それ壊れないの?と」

 

「防水加工など容易いこと……この才能をもってすればな!! そして……あいつらは許さない!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

───

 

……その暫く後。

 

 

「いやー、すいませんねドレイクさん」

 

「いやいや、こっちも突然喧嘩けしかけたからおあいこさね」

 

 

マシュが先程砲弾を撃ってきた海賊……フランシス・ドレイクにとそう会話する。

暫くの交戦の後、この海賊船……黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に力づくで乗り込んだ一行。その中からマシュが何時ものように交渉役を買って出て、こちらが何者かを話し、今の状況について話し、自分達の目的は何かを解説したのだ。

 

そうして、向こうは割りと快く協力を約束してくれた。……そしてなぜ攻撃してきたのかも教えてくれた。

どうやら向こうは、こちらの海魔軍団に驚いて撃退しようとしていたらしい。そして、砲弾を撃たれて海魔は見事消滅、海に落ちて激昂した黎斗とドレイク達との戦闘が終わったのが十数分前だった。

 

 

「にしても、凄かったねあの時の黎斗。銃撃って当たるのに死なないって……あれ本当に生きてる?」

 

「死んでますよ」

 

「ひぇっ」

 

 

マシュが指差した先にいる黎斗は、海水に濡れたガシャットの手入れを行っていた。

 

あれが先程まで、砲弾やら何やらを受けながら黄金の鹿号の回りを高笑いしながらクロールし、その上でガシャコンスパローで船をよじ登った……とか言っても、普通の人間は信じないだろう。

 

 

「ふぅ……いや、ガシャットが無くなっていなくて助かった。危うく私の神の才能が失われる所だった」フキフキ

 

「おおクロスティーヌ、全くもってその通り」

 

 

「……いやー、どこにでも規格外ってのはいるもんだね」

 

「ですね……」

 

「……ところでさマシュ。結局、この海域には何があると思う?」

 

 

そう切り出すドレイク。マシュはしばらく唸り答える。

 

 

「……ドクターは、ここが大航海時代の結晶と言っていました。それが正しければ、財宝はあるかもしれません……敵は多いでしょうが」

 

「はは、滾るねぇ。早い者勝ちってのは分かりやすい。取り合えずアテを探さないと……って、えーと、じぇっとこんばっと? だかの海図の通りならそろそろ島が見える頃か」

 

 

軽く笑いながらドレイクが望遠鏡を向けた先に、紫の髪の少女が見えた。

 

───

 

「……女神を拐うなんていい度胸してるわね」

 

 

……そんなこんなで、迷宮に飛び込もうとしていた女神、エウリュアレをジル・ド・レェの海魔の触手で捕獲したわけだ。

まあ、強引に船に乗せられた彼女にとってはたまったものではない。当然だがエウリュアレは不機嫌だった。しかし今更降りることも叶わない為、彼女は諦めて外を見つめる。

 

 

「まあ良いじゃないか。どっかの海賊から逃げてたんだろう?」

 

「……煩いわね育ちきった女」

 

「……は?」

 

 

拗ねているのか、もしくはそれが素なのか……エウリュアレの言葉には刺があった。ドレイクは顔をひくつかせる。

 

 

「いや、それは言い過ぎじゃないですか……エウリュアレさん……?」

 

「煩いわねダサい盾女」

 

「こふっ!?」

 

「女神が……おお、女神が見えるぅ……」

 

「ひぇっ」

 

 

そんな毒舌を受け、そしてそれに返してのやり取りを挟みつつ進行していた一行は、後方からの何者かの接近を確認した。

 




高速化!! 高速化!! 高速化!!


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男×触手とか良いことありませんよ先輩!?

 

 

 

 

 

「おい!! おーい!!」

 

「……」

 

「おい!! 聞こえるかそこの男!! おい!!」

 

「……あの、BBAの声など聞こえませぬな!! 何言ってるんです?」

 

「……は?」

 

 

後ろから追跡してきた謎の船、その船の船首に立っていた男が、呼び掛けていたドレイクの呼び掛けをぶったぎって、そう返した。

BBAである。酷いと言えばあまりにも酷い。ドレイクは石になり、マシュはあたふたする。

 

 

「BBAに用はないんだよ、三十路は帰れ。来るとしてもロリババアだろ、チェンジだよチェンジ」

 

「……」

 

「どうしましょう黎斗さん!! ドレイクさんが石になってます!!」

 

「それがどうした? 面白いじゃないか」

 

「おおクロスティーヌ、酷いでしょう酷すぎます、現実には仮面が似合うのです」

 

「その言い方はそれはそれで残酷かと!!」

 

 

太陽を落とした女、年齢の壁の前に沈む。享年、大体30であった。

それを嘲笑いながら、だんだんと調子に乗っていくその男。

 

 

「いいからエウリュアレちゃん出してよ。ねぇ、出してよ。拙者知ってますからの? エウリュアレ氏を触手プレイでぬるぬるのデロデロにしながら浚っていったの、知ってますからの? ああん羨ましい!! 拙者もやりたい!!」

 

 

そう身をくねらせる。気持ち悪い。黎斗は何となく、かつて自分の開いたゲームイベントに真っ先に押し掛けてきた数人の軍団を思い出した。あの時は、確か、抽選でポッピーピポパポの等身大フィギュアをプレゼントする企画をしていたのだっけか。

彼はそんなことを考えながら男を見て、しかし……戦きはせずにやりと笑う。

 

 

「だ、そうだ。ジル・ド・レェ、たっぷりと味あわせてやれ」

 

「了解しました。螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

   ザバザバ

 

 

海中から、海魔の触手が伸びてきた。それらは男の船と黄金の鹿号をしっかりとくっ付け合わせた上で、男を狙って行動を開始する。

 

 

「え、そうじゃなくて」

 

   ザバザバ

 

「待って、待って」

 

「ゴゴゴゴ……!!」

 

「馬鹿でおじゃるか? あの文脈なら普通は拙者がぬるぬるにしたいとおおっと!?」

 

「ゴゴゴゴ!!」

 

   ユッサユッサ

 

 

船が揺れてろくに話しもできない男。不快な台詞が防がれて、ドレイクの意識が戻り始める。

 

 

「くっそ、こうなりゃ実力行使でおじゃる!!」チャキッ

 

   パァン パァン

 

 

握っていた銃で触手に対応しようとする男。その弾丸は何故か精密に触手を打ち落とし……しかし多勢に無勢。

 

 

   シュルシュル

 

「オボボオボボ」

 

 

あえなく男は触手に捕まってしまった。騒ぎに気づいた仲間っぽい奴等がようやく出てきたが、触手の群れに苦戦しているのが見受けられる。

 

 

「ハッ!! 人の事BBAとか言うつけが回ったね!!」

 

「え、だから、いやその、ゲポポ拙者はぬるぬるにされるのではなくオボボぬるぬるにしたいとオボボ」

 

「照れ隠しはいらない、たっぷりぬるぬるのデロデロを味わえ。何なら麻薬もいるかい? カリギュラ、宝具だ」

 

 

さらに黎斗が指示を飛ばす。当然狙いは、触手で弄られて現在服のなかで触手がもぞもぞしている男。

 

 

「うおおおおぉぉ……汚男が、汚男が見えるぅ……!!」

 

「え、ゲポポそれ食らったらかなりヤバイレベルでイカれちゃう奴じゃオボボ」

 

 

危機を察知し、しかし動けない男。カリギュラの周囲に狂気が溜まっていくのが目に見えてわかる。

 

「オボボ助けてアン氏、メアリー氏、ゲポポヘクトール氏、エイリーク氏」

 

「行きたいのはっ、山々ですけどっ!!」

 

 

触手をその銃で撃ち払い、しかしすぐに別の触手に襲われ背後から羽交い締めにされる、アンと呼ばれた女海賊。

 

 

「ちょっと、こいつら無理っ!!」

 

 

カトラスで触手を切り落とし、しかしその触手が勝手に動き出して足をとられ、そのまま触手に埋もれていくメアリーと呼ばれた女海賊。

 

 

「クガアッ!! ゴォゴオオオオ……」

 

 

武器であろう斧を取られ、触手相手に素手で殴りあいを挑み手足を取られるエイリークと呼ばれた男。

 

 

「悪いねキャプテン、ここからじゃ助けようにもどうしようもねえや」

 

 

そして、触手に囲み込まれて肩を竦めるヘクトールと呼ばれた男。

カリギュラの宝具はもうすぐ解放される。男は目を閉じ……見開いた。

 

 

「……拙者の怒りが有頂天。大海賊黒髭をよくもまあここまで虚仮に出来ましたね、おバカさん達。こうなったら派手に行くで御座るよ?」

 

「黒髭……黎斗さん、あれ黒髭って名乗りましたよ!?」

 

「黒髭……つまり、エドワード・ティーチ……という訳だ。全く、もう少し格好いいかと思っていたが。酷いキャラデザだな、やり直すべきだと提案する」

 

「おお酷いクロスティーヌ、天からの授かり物なのに」

 

「あれを渡された時点で天から見放されていると言う事なのだろう。かくいう私も顔を問われると困るが、少なくとも神の才能があるから問題ないさ」

 

「うっわ辛辣!! でも関係無いもんね!! 行くでござる行くでござる!! アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)!!」

 

 

その大声と共に、触手の隙間隙間から砲門が開き、今にも黄金の鹿号を砕かんと唸りを上げ始めた。

絶対的なピンチ。だが、黎斗は笑みを崩さない。

 

 

「どうする黎斗。こっちも対応するかい?」

 

「いや、構いませんよ船長。ジル・ド・レェ、砲門を塞げ」

 

「喜んで」

 

 

黎斗の指示に合わせるように、男……黒髭を掴んでいた触手が直ぐ様解け、辺りの砲門の中にぬるぬると入り込んでいく。

そして、もとからそこにあったかのように隙間なくぴったりと大砲を埋め、そして静止した。

 

 

「ああっ、不味い!! ストップ!! 宝具ストップ!!」

 

「カリギュラ、宝具解放」

 

我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)!!」

 

 

慌て、隙の目立ち始めた黒髭を、ずっと溜め込まれていたカリギュラの狂気が包み込んだ。

冷静な思考を奪われた彼は、その場にへたり込んで目をぐるぐるとさせながら口を半開きにし、だらしなく涎を垂らし始める。

 

そして。

 

 

   バァァァァァァンッッッッ

 

 

黒髭の宝具が暴発した。触手にピッチリと埋められていた大砲は砲弾を放つことなく、発射に使われる筈だったエネルギーはアン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)を破壊する。

轟音と共に、敵の船は真っ二つに割れた。

 

悲鳴が聞こえる。向こうの船の甲板に乗っていたサーヴァント達が慌てている。……だが、流石にサーヴァント、死にはしない。残りのサーヴァント達は、黒髭のへたり込んでいた方の船に飛び移る。

 

 

「アガァ……アガァ……」

 

 

どうしたものかと途方にくれるエイリークと呼ばれていた男。

 

 

「……どうしましょうメアリー、この人駄目になっちゃった」

 

「前よりはマシだったけど、まあ仕方無いね。どうする? どうせならあっちに乗り換える?」

 

 

そう画策する二人。

……しかしその横で、ヘクトールと呼ばれていた男は奇行に走っていた。

 

 

「はぁ……まあいいか。聖杯、貰っていくよ船長」

 

   グサッ

 

「ゲポポ……せめて首は残しておいて……」バタッ

 

「あんたの首なんかに興味は無いさ」

 

 

黒髭の体に槍を突き立て……そこから聖杯を引きずり出したのだ。

 

 

「ちょっ、黎斗さんあれ聖杯ですよ!?」

 

「そのようだな。捕まえる……!!」

 

『ジェットコンバット!!』

 

 

聖杯を奪おうとコンバットゲーマを呼び出し、ヘクトールを制圧させようとする黎斗。マシンガンを乱射させながら船体に穴を開け、聖杯を持った男を怯ませようとする。

 

 

「ま、そう来るよね。その飛んでるやつが何かは知らんが、そんなのでオジサンが負けると思うなよ?」

 

 

刹那、先程までどちらかと言うと柔らかめだったヘクトールの目が鋭くなった。動き続けるコンバットゲーマを捉えた視線は一瞬も外れることなく。

 

 

「標的確認、方位角固定……不毀の極槍(ドゥリンダナ)!! 吹き飛びな!!」

 

   ガガガッ

 

   バキン

 

「ああっ!!」

 

 

コンバットゲーマが、貫かれて爆発した。破片が辺りに飛び散っていく。

 

 

「じゃ、オジサンはここら辺で失礼するよ」

 

「オアアア!! オアアア!!」

 

「はいはいバーサーカーは黙ってて黙ってて」

 

   グサッ

 

 

黄金の鹿号に背を向け、素早く去っていこうとするヘクトール。途中でエイリークが不満を顔に湛えて立ち塞がったが、一閃の内に切り捨てられていった。聖杯の力だろう。

 

そして小舟に乗ったヘクトールは、遠くに見える別の帆船へと向かっていった。

 

 

「追え野郎共!! 逃がすんじゃないよ!!」

 

「「「へい姉貴!!」」」

 

 

ドレイクが叫ぶ。聖杯を見つけたからには、見失うわけにはいかない。

 

 

「船長!! ボインな姉ちゃんとロリババアっぽい姉ちゃんが乗船を求めてきましたぜ!!」

 

「乗せな乗せな!! 戦力は多い方がいい!!」

 

 

「指示が早く的確ですね」

 

「そうだな、まあ思考が単純なのもあるだろうが……流石は嵐の王、とでも言おうか」

 

 

そして、それを見ながら黎斗とマシュは海賊達を分析していた。

 

マシュは、これからさらに面倒くさくなるチームのまとめ方を考えながら。

黎斗は……もっと別のことを考えながら。

 

 

「アンです、お会いしたかったですわドレイク船長」

 

「メアリーです、よろしく」

 

「おう、よろしく。戦力は多くて分かりやすいからいいね。……さっさとあの緑のやつ倒してやろう!!」

 

「「はい!!」」

 

 

人を惹き付けるカリスマ、太陽を落としうる脅威の源はそれだ。それを見ながら、黎斗はまた考える。考えて考えて……また、顔を楽しそうに歪めた。




マッスル化(ごり押し)!!高速化(早送り)!!ジャンプ強化(展開飛ばし)!!


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私とも作戦を共有しましょうよ先輩!?

 

 

 

 

 

「──ちっ、あの野郎、以外に速いね」

 

 

ヘクトールを追跡しながら、ドレイクがそう漏らした。

一艘の小舟としては異常な速さで進むそれは、あっという間に遠くの船に近づいていく。

間に合いそうに無かった。というか、間に合わなかった。

ヘクトールの船は敵の船の隣に静止し──

 

 

「──おお、やってくれたかヘクトール!!」

 

「はいはい、聖杯持ってきましたよキャプテン。例の女神もあの船の中ですよ」

 

「ならばよし、よくやった」

 

 

ヘクトールが仲間の物らしき帆船に飛び乗る。当然聖杯をその手にもって。

甲板にはヘクトールと金髪の男、紫の髪の女、そして岩のような大男が見えた。

 

黄金の鹿号はその帆船に相対し砲台を向けた。だが、向かいの船はそんなこと気にしないと言わんばかりに、こちらから目を放さない。

そして、金髪の男が口を開く。

 

 

「さあ、決着を着けようじゃないか。聖杯戦争に相応しい幕引きだ!! さあゆけヘラクレス!!」

 

「■■■■■!!」

 

 

どこの誰ともつかないそいつは、隣にいた岩に指示を出す。

そして岩は、高くジャンプして黄金の鹿号に飛び移った。

 

 

   ズドンッ

 

「■■■■■■■■■■■!!」

 

「っくぅ……図体のわりに素早い野郎じゃないか」

 

「黎斗さん……このサーヴァント、ヘラクレスと呼ばれていましたが」

 

「やはりか。つまり……敵はアルゴノーツと考えるのが自然だろう。あの金髪はリーダーのイアソン、そして隣にいるのが……裏切りの魔女メディア。……面白い」

 

『ガッチョーン』

 

「■■■■!! ■■■■■■!!」

 

 

声高に吼えるヘラクレス。ギリシャ神話の大英雄。黎斗は楽しそうに顔を歪め、そのドライバーにガシャットをセットする。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

瘴気と共に死を纏うゲンム。その隣ではドレイクやらアンやら、船室から引きずり出されたエウリュアレやらが飛び道具を構え援護の体制を整える。

 

 

「ほう、敵のマスターは、何やら奇特な性質を持っているようだな。だがまあいい……押し潰せ、ヘラクレス!!」

 

「■■■■!!」

 

───

 

戦闘開始から5分。

現在、マシュがヘラクレスの猛攻を防いでいた。ゲンムがそう指示したのだ、時間を稼げ、と。

 

 

「■■■■■■!!」

 

「宝具、展開します……!!」

 

   カッ

 

 

ヘラクレスの強打を、覚えたての宝具で受け止めるマシュ。しかしじりじりと押され後退していく。

 

 

「ぐ、ぐ……」ジリジリ

 

「■■■■!!」ブゥンッ

 

   ズドンッ

 

「あ、がぁっ……!?」ジリジリ

 

 

普通の攻撃でさえこれなのだ、ヘラクレスに宝具など使われたら防ぎようもない。

だから、だからこそ、ここで落とす必要があると、ゲンムは確信していた。

 

 

「……マシュ・キリエライト、退避しろ!! 準備が整った!!」

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

「目に物を言わせてあげる!!」

 

「「さあ、海賊のお通りだ!!」」

 

 

マシュの宝具の陰で必殺技のチャージを終えていたのは、ガシャコンマグナムを構えたゲンム、そして女神と二人組の海賊。

狙いは既に定めてある。面々は各々のトリガーを引き。

 

 

「はぁっ!!」

 

女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)!!」

 

「「比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)!!」」

 

   ズギュウンッ

   ズギュウンッ

   ズギュウンッ

 

「■■■■……!?」ドサッ

 

 

ヘラクレスは体に穴を開け膝をついた。筋肉から白い煙を出している。

 

 

「やったかい!?」

 

「……■……■■……!!」

 

「いや、まだのようですドレイクさん!!」

 

「そんなっ!? 私もう疲れたんだけど!?」

 

 

そんな状況になっても、ヘラクレスが唸りを止めることはなく。段々腹の穴が塞がっていくのが見えた。

 

 

「……ヘラクレスの命のストックが……大体二つ削れたようですぜキャプテン」

 

「おお頑張る頑張る!! そんな君らにとっておきの情報だ。……ヘラクレスはね、死なないんだよ」

 

 

ここで明かされる衝撃の真実。イアソンは朗々と語る、ヘラクレスは十二個の命を持っているのだ、と。

愕然とするドレイク、アンとメアリー、そしてエウリュアレ。特にエウリュアレの足はもうふらついていた。運動不足だろう。

 

だが、ゲンムのサーヴァントは、至って真顔だった。

 

 

「別に珍しくもなんともありませんね」

 

「そうだろうそうだろう、ヘラクレスには勝つこ……ふぇっ?」

 

 

マシュの塩対応が意外だったのだろう、イアソンは変な声を上げて黙り混む。

 

 

「だから、珍しくもなんとも無いんですよ」

 

「クロスティーヌは、まるで不死鳥。不死鳥の戦士、ホウオウソルジャー」

 

「我が主は神の才能を持っておられますからな!!」

 

「うおおおお!! 神いぃぃいいいい!!」

 

 

ゲンムのサーヴァント達が、一欠片の不安すら見せずに口々にそう言う。……イアソンは、自分の中の大切な何かが崩れる音を聴いた。

 

 

「えっ、えっ……嘘だろ? ハッタリだろ? だって、だってヘラクレスだぞ? ギリシャ神話最強の英雄だぞ? なのに……」

 

 

目に見えて動揺する金髪。ゲンムはその姿に指を突きつけ、一際大きく嘲笑う。

 

 

「ハーハハハハハ!! そっちのヘラクレスは、たったそれだけ(残機10)なのか!! 私は……不滅(残機∞)だあっ!! 神だからなあっっ!!」

 

「……な……ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!! やっちまえ、ヘラクレスぅっ!!」

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

傷の治ったヘラクレスがイアソンに合わせるように猛り狂い、ゲンムに掴みかかる。ゲンムは避ける様子もなく、ガシャコンマグナムを投げ棄てて別の武器を呼び出す。

 

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

「さあ来いヘラクレス!! 神の才能をとくと見ろ!!」

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

ハンマーにプロトマイティアクションXガシャットを突き刺して叫ぶゲンム。二人の間にはもう10センチも無く。

そして、次の瞬間。

 

 

   バギンッ

   グギョグジョギョョ

 

「■■……■……!?」

 

「っ、ごぽぉ」

 

 

ヘラクレスの一撃で、ゲンムの背骨が後ろに90度近く折れ曲がる。それと同時にゲンムの一撃が、ヘラクレスの腹の左半分を吹き飛ばす。

 

明らかな致命傷。ヘラクレスはよろけ甲板のすみに再び膝をつく。命のストック、残り9。

 

そしてゲンムは。

 

 

「」

 

「……すいませんマシュさん。アレ、本当に大丈夫なんですの?」

 

「ああ、アンさん。大丈夫ですよ黎斗さんは。ほら……」

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」ピョコン

 

「嘘だろ……まさか……本当に……!?」

 

 

命のストック、(無制限)。折れていたはずの背骨は瞬時に治り、ゲンムは高笑いしながら跳ね起きる。

イアソンは絶望した。ヘラクレスと同等の戦士? そんなのに、勝てるわけ無いじゃないか。

 

 

「く、ぬ……ふ、船を出せ!! 撤退だ!! この聖杯で新しいサーヴァントを呼べばいい!!」

 

「……まだヘラクレス死んでないよ? ま、キャプテンの命令なら仕方無いねぇ」

 

 

アルゴ船が動き始める。乗っていたヘラクレスを黄金の鹿号に放置して。

 

そうはゲンムが卸さない。

 

 

「ジル・ド・レェ、宝具!!」

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

   ザバザバ ザバザバ

 

「ゴゴゴゴゴ……!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

アルゴ船の周囲に海魔がへばりつき、黄金の鹿号と触手で強引に結びつけた。相手から逃げられないが、相手を逃がさない体勢である。

ゲンムは、ここで全てを終わらせるつもりだった。

 

 

「■■……■■■!!」

 

「おい黎斗!! ヘラクレスが動き出すよ!!」

 

「押さえておけ!!……先に乗っていろファントム、カリギュラ、ジル・ド・レェ、そして……マシュ・キリエライト。準備は良いな?」

 

「勿論ですよクロスティーヌ」

 

「うおおおおおおおお!! おkぇぇぇえええ!!」

 

「我が主よご照覧あれ!!」

 

「え? どういうことですか?」

 

 

その一言と共に、ゲンムは懐から……竜をあしらった特殊なプロトガシャット(プロトドラゴナイトハンターZガシャット)を取り出す。

 

そして、それらを放り投げると、()()()()()()()彼のサーヴァント四人の手に渡った。

 

 

「えっ、何ですかこれ、ねえ黎斗さん?」

 

「気にしてはなりませぬぞマシュ嬢。変っ身っ……」

 

『クロー!!』

 

 

真っ先に電源を入れたのはジル・ド・レェ。鳴り響く音声を聞きながら、ガシャットを胸に突き立てる。

 

 

「お……おぉ……はははは……あーははははは!!」

 

「ちょっ、ジルさん!?」

 

「はーはははははは!! 良いのですよマシュ嬢。これは新たなる神(我が主)の下さった力なのです。さあ、あなたも……!!」

 

 

ジル・ド・レェの体が黒に染まっていき……その両腕には異形の爪が生え、されどジル・ド・レェは怯えず、恐れず。

それは自らの主をかつて信じた神と同一視しているからか、それは誰にもわからない。

分かることは……目の前の、黒く染まったジル・ド・レェは、非常に強くなっていた。

 

 

「恐れを捨てましょうマシュ殿。クロスティーヌを信じるのです……変身」

 

『ファング!!』

 

「へぇぇんしぃぃんっ!!」

 

『ガン!!』

 

 

ファントムの胴体には翼が生え、カリギュラの左手には大砲が作られる。そして黒く染まった三人は、海魔の触手を渡ってアルゴ船に飛び込んでいく。

 

マシュは一瞬の迷いこそ見せたが……やはり、彼らに続こうと決意した。

 

 

「私も……私も……!!」

 

『ブレード!!』

 

「くっ……んっ……ああっ……!?」

 

 

胸にガシャットを突き立てると、体が未知の何かに侵されていくのが手に取るように伝わってきた。

 

 

「ああっ、あ、はあっ……んっ……!?」

 

 

戦闘服は竜のごとく硬質化し、鱗が出来上がる。皮膚は浅黒く染まっていく。盾の下の部分に、豪快と言えばあまりにも豪快なサイズの刃が生成される。

 

体を侵していく異物。デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトは、その力を受け入れた。

 

 

「……マシュ・キリエライト、行きます!!」

 




ん? プロトドラゴナイトハンターには『ブレード』とか『ガン』じゃなくて『グラファイト』だろって?
気にしてはいけない(戒め)


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ド派手に行きましょう、先輩!!

 

 

 

 

比翼にして連理(カリビアン・フリーバード・アクト2)!!」

 

   ズギュウンッ

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

「っく、効いてない!?」

 

「さっきは効いてたのに!!」

 

 

ヘラクレスと交戦を続けるゲンム達は、ヘラクレスに徐々に生じ始めた異変に気づいていた。

攻撃が効かなくなってきたのだ。最初に命を二つ分抉り取れた攻撃を敢行しても、一閃の元に吹き飛ばされてしまうのだ。

 

 

「っくそ、攻撃が効かなくなってきたよ黎斗!? カルヴァリン砲でもびくともしない!!」

 

「おそらくそういう能力なのだろう。相手の攻撃に耐性がつき、それでは死ななくなる……という物だと考えれば間違いあるまい」

 

 

そう唸るゲンム。

確かに命のストックだけをみればヘラクレスはゲンムに及ぶべくもない。……しかし、ゲンムはヘラクレスに何度も吹き飛ばされているのに対し、ヘラクレスの命のストックは残り4つから減ることは無かった。

 

 

「じゃあどうするって言うんだい!?」

 

「今考えている!! ……どちらにせよ、アルゴ船に乗っているサーヴァント達が聖杯を奪い取れば、こいつも勝手に消えていくだろう」

 

───

 

アルゴ船に突撃したゲンムのサーヴァント達。

マシュとカリギュラは沸いてくるシャドウサーヴァントをジル・ド・レェとファントムに任せ、ヘクトールを食い止めていた。

 

 

「よっ、ふっ、はぁっ!!」

 

「はあっ、はぁっ!!」

 

   カキン カキンッ

 

 

何度もつき出される槍。マシュは盾でそれらを受け流し、隙を狙ってはヘクトールに蹴りを入れようとする。

しかし、中々決定打を入れられずにいた。

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

   ズドンッ

 

「ぅおっとぉ!? 危ない危ない……」

 

 

そしてカリギュラは、己の狂気を弾に変換した強い砲弾を乱発していた。

一撃でも当たればかなりのダメージを与えられるが、そこはやはりバーサーカーと言うべきか、動いている相手には当たりにくくて仕方がない。

 

 

「くっ……隙がない……」

 

「……おら、もっと本気で来いよ、ガキ。おじさんを、嘗めるなよ……?」

 

 

まだ余裕のありそうなヘクトール。相対するマシュは、ガシャットによって力こそ増強されたが、未だそれを扱いきれずにいた。

 

 

「標的確認、方位角固定……」

 

 

そしてヘクトールはその槍を持ちかえ、それを投げる体制になり、マシュの盾へと狙いを定め──

 

───

 

「はーはっはっはっは!! 我が主の力をとくと見よ!!」

 

「ああ、ああ、助けてくれ可愛いメディア。あいつが来るあいつが来るあいつが来るぅ!!」

 

 

その頃。イアソンとメディアの元に、ジル・ド・レェがシャドウサーヴァントを破壊しながら寄っていっていた。彼の背後ではファントムが援護を行っている。

 

 

「はーはっはっはっは!! あーはははは!!」ズシャッ グシャッ

 

 

次々に沸いてくるシャドウサーヴァント。それらを禍々しい爪で切り払いながら、イアソンに接近していく二人。

 

 

「メディアメディアメディアぁぁ!! 早くっ、何とかっ、しろぉっ!!」

 

「分かっていますイアソン様!!」

 

 

泣き言の止まらないイアソン。すがり付かれたメディアはその杖を敵対する二人に向け、攻撃魔術を行使する。

 

 

「収束、発射!!」

 

   ズドンッ ズドンッ

 

 

閃光と共に、甲板に焦げ目がついた。エネルギーが周囲を炙る。……炙るだけだ。

 

彼女は基本、回復専門の魔術師だった。ポテンシャルはあるものの、何も知らぬ少女のままの彼女は、誰かを攻撃するということに、根本的に不慣れだったのだ。

 

 

「ふふふ……最高のcoooooooolをお見せしましょうっ!!」

 

 

……そして彼女は、誰かを涜す、誰かを穢すという一心に動くジル・ド・レェとは対称的で、そして相性が悪かった。

 

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

───

 

「標的確認、方位角固定……」

 

「っ、宝具が来ます!!」

 

 

マシュは、その槍の強さは理解していた。ついさっきコンバットゲーマが大破させられていたから、それが何かを貫くものとして最強の一角であると理解できていた。

 

だが、彼から逃げるわけには行かないのだ。マシュは甲板に盾の刃を突き立て、受け止める体制を整える。

 

 

「……不毀の極槍(ドゥリンダナ)!! 吹き飛びな!!」

 

「これで受けますっ……!!」

 

   ガキンッ

 

 

マシュが盾で槍を受け止める。全体重と、強化されたフルパワーをもって槍を食い止める。

 

 

「ぐ、ぐ……」

 

   ガリガリガリガリ

 

「ああああああっ……」

 

 

 

金属音と共に衝撃が襲い、盾はガリガリと抉れていき……それでも、マシュはその槍を受けきった。

 

 

「っ……はぁっ!!」

 

   カランカラン

 

「……何だって!?」

 

「今です!!」

 

 

地に落ちる槍。マシュはそれを奪い、その場から転がるように退避する。

……そして、元々の彼女のいた場所の後ろからは、宝具のチャージ音が聞こえていた。

 

 

我が心を喰らえ、月の極竜(ドラゴナイト・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッ

 

カリギュラの左手から、ガシャットによる変質によって産み出された狂気の竜が放たれた。

体は細く、されど刺々しく。翼は小さく、されどパワフルで。まさしく弾丸のようにヘクトールに掴みかかる。

 

当然、槍を無くしたヘクトールに出来る抵抗はろくになく。

 

 

「……おいおい……そんなのもあるのかよ……」

 

   ガリッ

 

「……ははっ、こりゃだめだね。悪いなキャプテン……」

 

   ボチャン

 

 

竜が腸を抉り抜いた。ヘクトールは体に穴を開け、血を撒き散らしながら海に落ちる。

最後に見えた彼の顔は、どこか呆れているようだった。

 

───

 

「ああ、ああ!! ヘクトールが死んだ!! ヘクトールが死んだ!!」

 

「ああっ、落ち着いて下さいイアソン様!! きゃぁっ!! 私が守って見せますから!!」ブラブラ

 

 

ヘクトールが消えていく光を遠目に見て叫ぶイアソン。彼を守るものが一人、また一人と減っていく。

……それが彼の采配ミスだと気づけないのが、イアソンの敗因なのだが。

 

そして、彼の隣にいたメディアはと言うと。

 

 

「守る守るって言っても、あのタコ出してくる魔術師に捕まってるじゃないかぁ!?」

 

「タコではありませぬ。海魔にございます」

 

 

イアソンが空を見上げると、メディアは海魔に逆さ釣りにされていた。ただの海魔ではない……漏れ無く竜の爪がついている。

触手はメディアの抵抗を潜り抜け、素早く彼女の無力化を成し遂げていた。

 

 

「どっちでもいいだろ!? ほら早く降りてこいメディア!! 私を守れ!!」

 

「は、はいっ!! でもっ……きゃあっ!?」ブラブラ

 

「いやー何かを穢すのは実にいい!! ……ファントム殿、イアソンをお願いします」

 

「分かりました」

 

 

じりじりと近づいてくるファントム。

イアソンは腰を抜かし、最早シャドウサーヴァントを呼ぶ精神力すら残っていない。

 

 

「来るな来るな来るな来るな!? ……そうだ、そうだ!! 来てくれ、というか来い、ヘラクレス!!」ガタガタ

 

───

 

「■■■

 

   シュンッ

 

「ヘラクレスが……消えた……?」

 

 

黄金の鹿号に乗っていた面々は、突然消えたヘラクレスに面食らった。

何があったのか。まさか残り4つの命の火が勝手に吹き消えたなんてことはあるまい。

 

 

「……恐らく、イアソンが呼び寄せたのだろう。いや、そうとしか考えられない」

 

「じゃあ、僕達もアルゴ船に乗り込めば……」

 

「……そう言うことになるな。行くぞ」

 

 

触手は少しずつ薄れ始めたが、未だ残っている。ゲンムと女海賊達は、それを渡ってアルゴ船へと乗り込んだ。

 

───

 

「■■■■■■!!」

 

「ヘラクレス……来てくれたか……!!」

 

「っ、呼ばれてしまいましたかっ!! この匹夫め!!」

 

 

アルゴ船に現れたヘラクレス。それはイアソンを庇うように立ち、吼える。

ジル・ド・レェは宝具を解除し、ファントムを伴って飛び退いた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「おおマシュ嬢、私達は無事ですぞ」

 

「間に合ったか」

 

「おおクロスティーヌ!!」

 

 

ゲンムとサーヴァント達が、船の上に、ヘラクレスの前に並ぶ。今ここに、この特異点での全戦力が集中した。

 

まず動いたのはゲンムだった。

 

 

「……ここで終わらせる。まずは止まってもらおう」

 

『クリティカル デッド』

 

 

甲板から無数の死霊が湧き出てくる。それらはヘラクレスにひたすらしがみつき、何度吹き飛ばされてもそれに集って、強制的に動きを遅くさせた。

 

 

「■■■■!!」ブンッブンッ

 

「……派手に決めていくぞ、宝具だ」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「分かりました」

 

「共に歌いましょう」

 

「大男が……大男が見えるぅ……」

 

「決めますわよメアリー」

 

「うん、行くよアン」

 

「ここが命の張り所ってね!!」

 

「この盾でどうやって攻撃するんですかね?」

 

 

ヘラクレスを取り囲む全員が彼一人に狙いを定める。ゲンムはガシャコンスパローにギリギリチャンバラをセットして。サーヴァント達は各々の遠距離宝具を構えて。

 

ヘラクレスが攻撃に耐性をつける以上、チャンスは一度きり。一度に四つの命を奪おうという無謀な賭け。

全ては波に揺られる船の上で、一瞬の静寂の後に。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

地獄にこそ響け竜の愛の唄(ドラゴナイト・クリスティーヌ)

 

我が心を喰らえ、月の極竜(ドラゴナイト・ディアーナ)!!」

 

「「比翼にして連理(カリビアン・フリーバード・アクト2)!!」」

 

黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!!」

 

 

   カッ

 

   ズドゴゴゴゴォォォォオォォンッッッ

 

 

その、無数が束になった一撃は強力だった。

焦げ臭い爆風が辺りを焦がす。たちまちアルゴ船は、一部が砕け一部が炎上する。そこかしこから船員の悲鳴が聞こえてくる。

 

……宝具の群れによるジャイアント・キリングは、ここに成立した。

 

 

「■■……■……」ドサッ

 

 

炎の中で崩れ落ちるヘラクレス。膝をつくのも厳しいのだろう、力なくうつ伏せになっている。

ゲンムが叫んだ。

 

 

「止めだ、マシュ・キリエライト!!」

 

「はあああああああっ!!」

 

 

マシュが弾かれたように飛び出し、駆け込む。

行うのは、この振るうには大きすぎる盾の刃が最も得意とすること。……ヘラクレスの背中に、盾の刃を突き立てた。

重い一撃はヘラクレスの胴体を両断し、……当然、止めの一撃と化していた。

 

 

   ズシャッ

 

「はぁ、はぁ……」

 

「■■■……、……■……」

 

 

ヘラクレスが粒子に変換されていく。

……命のストックの残りを、削りきった。

 

 

「……■…………、……」

 

「あaaAaああああaaあああああAあaああ!?」

 

 

ヘラクレスが完全に死に、恐慌状態に陥るイアソン。彼を守るものが無くなってしまっている今、彼がすがることが出来るのはメディアしかいない。

 

 

「皆さん、あとは二人です!! どちらかが聖杯を……!!」

 

「くっ!! 早く、早く守れメディア!! 何とかしろ!!」ガタガタ

 

「……はい、イアソン様」

 

 

囲み込まれた二人。怯え震えるイアソン。そして未だ幼い少女メディアは……

 

 

   グサッ

 

「……え?」

 

 

イアソンの胸に穴を開けた。

囲んでいたサーヴァント達は思わず目を見開き、何が起こったと困惑を隠せない。

 

 

「あ、が、ぎ、が、ぎいあいいいいいいいいい!!」

 

「顕現せよ。牢記せよ。これに至るは……」

 

「一体何を……!?」

 

「っ不味い!!」

 

 

何かを唱えるメディア。一言加えていく度に、その度にイアソンが変質していく。

何とかしてメディアを止めなければ、ナニカが目覚めてしまう。

今すぐ止めなければ……

 

 

 

……その為の手段は、存在していた。

 

 

「ファントム、スキルを使え!! 早くしろ!!」

 

「微睡む君へ私は歌う……」

 

 

スキル、魅惑の美声、発動。それは女性の気を奪い暫く動きを止める力。

メディアの聖杯を持つ手が、一瞬だけ静止した。

その隙を、ゲンムは逃がさない。

 

 

「っく……!?」ピタッ

 

「これで終わらせる……!!」

 

『クリティカル エンド!!』

 

「はぁぁっ!!」

 

 

その場から駆け出し、メディアに低姿勢からの飛び蹴りを食らわせるゲンム。

 

鳩尾に足裏を叩き込まれ、体をくの字に折り曲げた彼女は堪らず聖杯を取り落とし……そのまま、海へと落ちていった。

 

 

「きゃあぁぁぁ……!?」

 

   ボチャン

 

「……聖杯、回収完了」

 

『ダッシュゥー』

 

───

 

「……ガシャットを回収する。体調に異常は?」

 

 

全ては終わった。アルゴ船はイアソンを巻き込んで崩れ去った。

 

 

「特にありませぬぞ」

 

「問題ないですクロスティーヌ」

 

「おkぇぇえ!!」

 

「えっ、これ何か不味いものだったんですか?」

 

 

黎斗はサーヴァント達の反応を聞きながら、各々からプロトドラゴナイトハンターZガシャットを引き抜き、静かに唸る。

 

 

「ふむ……何故だ……? いや、そうだとすれば……ああ、それもそうか」

 

「何言ってるんですか黎斗さん?」

 

「あ、いや……君が知る必要はない」

 

『おつかれ皆。じゃあレイシフトを……』

 

「……待ってくれ。少し話がしたい」

 

 

黎斗はそのように通信をかけてきたロマンに言って、ドレイクの元へと歩み寄った。今までに無いことだった。

 

 

「なんだい? まだ話すことでも?」

 

「……太陽(スペイン)を落とし、祖国(イギリス)に巨万の富をもたらした大英雄、フランシス・ドレイク」

 

 

マシュはその姿を好ましく思った。ようやく、彼も人とまともにコミュニケーションを取ろうとしている、それがたまらなく嬉しかった。

 

……その時までは。

 

 

「……貰った!!」

 

   ブァサササッ

 

「っがあっ!?」

 

「黎斗さん!?」

 

 

その時までは。黎斗がバグヴァイザーを振りかざし、ドレイクに攻撃を仕掛けるまでは。

 

 

「何やってるんですか黎斗さん!? 彼女は味方ですし、もう聖杯は手に入れたんですよ!? 止めてください!! ドクター、今すぐレイシフトを!!」

 

 

訳が分からないままそう叫ぶ。

黎斗はマシュの動向など気にする様子もなく、変身した。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「え……えっ……? 何が、何だい……?」

 

 

膝をつくドレイク。ゲンムは彼女の首に鎌を添える。

 

 

「止めてください!! 止めてくださいよ!! ほら、皆さんも!!」

 

「……私は、主の望むことなら止めようとは思いませぬ」

 

「クロスティーヌにも考えがあるのでしょう」

 

「……」

 

「そんなっ……」

 

 

レイシフトが始まる。マシュの視界が青に染まる。

最後に見たものは、凶刃の前に倒れる誇り高き女海賊で──

 




今回の三つの出来事

・触手担当ジルドレ
・お家芸になりつつある魔神柱キャンセル
・マシュの前でドレイク消滅

サーヴァントがまだゲーム病にかかっていないのは今後の伏線、まだ気にしないでね


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私だって……怒るときは怒るんですよ、先輩?

 

 

 

「……黎斗さん」

 

「何だマシュ・キリエライト。私はコンバットゲーマの修理を行っているのだが」ガチャガチャ

 

「……何で、ドレイクさんを殺したんですか?」

 

「君が知る必要はない、昨日戻ってきたときにそう言った筈だ」ガチャガチャ

 

「でも……」

 

「……そもそも、これが初めてという訳でも無いしな」ガチャガチャ

 

 

マイルームにて。黎斗は、背後に立つマシュにそうつまらなさそうに返していた。

フランシス・ドレイクの殺害。特異点修復に伴いそれ自体は無くなったことにされたが、マシュは、そしてカルデアの大多数の職員はそれに対して大きな抵抗があった。

 

何故殺したのか。仮にも我々の味方だったのに。

何故殺したのか。少し前まで共闘していたのに。

 

黎斗は糾弾に対して、全て、「知る必要はない」とだけ返した。そうとしか言わなかった。

 

 

「初めてじゃない? ……もしかして、ブーティカさんも……」

 

「……私が殺した」

 

 

それを聞いた瞬間、……マシュの中で、何かが千切れた。

 

 

「……私は、黎斗さんを許せません」

 

「許しを乞うつもりはない」ガチャガチャ

 

「話をしてくれないと、もう、一緒に戦えません」

 

「話をするつもりもない。君の存在は必要ない。そも、私にとっては君達との会話など無意味だ」ガチャガチャ

 

「そんなっ……黎斗さんは、人理を修復するつもりはあるんですか!?」

 

「当然あるとも!! プレイヤーがいないとゲームは成立しない。だがマシュ・キリエライト。君がいなくても、人理は直せる……思い上がるな」

 

 

黎斗は告げる。マシュの心を効果的に抉らんとばかりに言葉を並べ立てる。

……マシュの足は震えていた。マシュの握り拳も震えていた。怒りと悲しみ、憤怒と失望、入り交じったそれらがマシュの心を痛め付けた。

 

 

「私にとっては、このグランドオーダーそのものか娯楽でしかないのだよ。もしくは、究極のゲームを作るための糧だ……案外、これ自体が究極のゲーム、なんてこともあるかもしれないが」

 

「……ふざけないで下さい」

 

「ふざけてはいないさ。本心だ」

 

 

マシュは、涙を流していた。黎斗に罵詈雑言を言われて傷ついたのか、彼の言葉が自分の中の小さな傲りを見抜いていたからか、それ自体は分からなかったが。

 

 

「……失礼します」

 

 

マシュは、部屋を去った。

 

バグルドライバー、そして白いガシャット(デンジャラスゾンビ)を隠し持って。

 

───

 

「ふむ……貴公が望むものもジャンボチョコレートパフェでしたか、ミスター・ムニエル?」

 

「イェア、あんたもか!! 趣味合いそうだな!!」

 

 

カルデアの食堂にて。二人の男がオートメーションで作られたパフェをつついていた。

片方は言わずもがなジル・ド・レェ。そしてもう片方はコフィン担当のスタッフであるムニエルと言う。

 

 

「……所でさ、えーと?」パクパク

 

「ジル・ド・レェですぞ」チビチビ

 

「オーケー、分かったジルの旦那。……で、あんたは、例の件についてどう思ってるのさ。フランシス・ドレイク殺害事件」パクパク

 

「我が主……というか、現在の私の神の望むことなら、私は僕として彼に付き従うまでで御座います」チビチビ

 

 

ジル・ド・レェにとっては、檀黎斗は神に等しかった。その類い希なるセンス、サーヴァントを指揮する頭脳、何をとっても彼にとっては理想だった。

だから、彼の望むことならわざわざ止めようとは思わない。何か考えのもとに行う行動を止めるなど出来ようか。

 

 

「オー、なるほどなぁ……いや、スタッフが皆雁首揃えて文句を連ねてたからねぇ、ちょっと気になってさ」パクパク

 

「ではムニエル殿は、どのようにお考えに?」チビチビ

 

「フーム……俺としては、まあ、結局修正されて何も無くなるなら、やっちゃって良いんじゃないかな、と。ほら、たまには弾けたくなるじゃん? ……御馳走様」

 

 

黎斗の凶行に対して、多くのスタッフは頭ごなしに否定していた……無理もあるまい。

容認派もいるにはいるが、その理由も……

 

 

「なるほど……我が主はただふざけているとは思えませぬが?」チビチビ

 

「ほらあの人エキセントリックだし」

 

「……否定はしませんよムニエル殿」チビチビ

 

 

今更何をやっても驚かない、という物だった。

黎斗は根本的に、心から好かれてはいなかったし、それを望んでもいなかったのだ。

 

───

 

「……」ガチャガチャ

 

 

黎斗はコンバットゲーマを修復している途中で、ふとガシャコンバグヴァイザーを探し始めた。

 

……そして、気づいた。

 

 

「……無い」

 

 

置いておいた筈の場所に、それは無かった。

確かにトランクに入れていたのに。まるで誰かに丁寧に探られたように、そして奪われたように、それは綺麗に失せていた。

 

 

「……無い」

 

 

その周辺にもそれは無かった。

辺りの荷物は整然としていて、雑に置かれているものは無かった。……音を立てないように動かされていたのだろう。

 

 

「無い無い無い無い無い無い無い無い!!」

 

 

どこにも無い。どこにも無い。

きっと誰かに盗まれた。誰に?

誰がいつどうして何のためにどうやって?

 

頭の中に憎悪が走る。妬みが駆ける。

 

 

「どぉぉこだゃああああああ!?」

 

───

 

「……そんなことを言ったのかい、檀黎斗は」

 

「はい……」

 

 

窃盗犯、マシュ・キリエライト。彼女は司令官であり医者であるロマンの元にやって来ていた。

その顔は暗い。そして重苦しい決意があった。

 

 

「それ……ガシャコンバグヴァイザーを盗んだってことは」

 

「はい。……黎斗さんは変身できません。そして恐らく、私が変身出来ます」

 

「良いのかい? 黎斗はそれは死のデータの結晶と言っていたが」

 

「……行けます。やってみせます」

 

 

悲壮感溢れる思いだった。

マシュ・キリエライトは、それほどに真実と和解を望んでいた。

 

 

「何としてでも……話を、聞かせてもらいます」

 

「……そうか。じゃあ……何も言わないよ」

 

───

 

「どこだどこだどこだどこだどこだどこだ!!」

 

 

檀黎斗はカルデアの廊下を走る。鬼もかくやの形相で駆け回る。その目は爛々と見開かれ、その口は無節操に開閉し、彼の服装が崩れているのも合間って、これはこれで一種のギャグのようにも見えたろう。

……当然、無関係な人からならば。

 

職員達は恐れ戦き逃げ出す。フォウは全力で飛び退く。

そして……マシュ・キリエライトは立ちはだかる。

 

 

「止まって下さい!!」

 

「……はぁ、はぁ……マシュ・キリエライトかぁっ……」

 

「……ガシャコンバグヴァイザーとデンジャラスゾンビガシャット。私が持っています」

 

「……やはりか。しかし……ああ、こんなことが起こるなんてなぁ」

 

 

目にはいつもながら、いや、いつもの二割増しの狂気を湛え黎斗はマシュに向かい立つ。

対するマシュには自信があった。仮にも彼女はサーヴァント、そして相手はただの人間(死体)。彼女より足が速い訳ではない。力も強くない。

 

 

「……話をしましょう。ゆっくりと。……話したいことが、沢山あるんです」

 

「……ハ、ハ」

 

 

……そう、思っていた。思っていた。

では、何で目の前の男は……嗤っている?

 

 

「ハーハハッハァッハッハッ!! ブェアーハハハハッハ!!」

 

「な、何がおかしいんですか!?」

 

 

完璧に思えた計画。しかし……一瞬でマシュの目論見は脆くも崩れ去る。

黎斗は……ガシャコンバグヴァイザーではなく、彼女にとっては初めて見る、黄緑のドライバーを腰に装着した。

 

 

「え……?」

 

『マイティ アクション X!!』

 

「それは……プロトガシャット?」

 

 

手に持つのは紫のマイティアクションX。昨日ヘラクレスに一撃を与えたハンマー(ガシャコンブレイカー)を呼び出すガシャット。

しかし、その本質は武器の召喚にあらず。

 

 

「……変身」

 

『ガッシャット!! レッツゲーム!! メッチャゲーム!! ムッチャゲーム!! ワッチャネーム!?』

 

 

静かに黎斗が呟いた。ガシャットをドライバーに突き刺すと、彼の回りをプレイヤー選択よろしくいくらかの顔が周遊する。

 

そして。

 

 

『アイムア カメンライダー!!』

 

「……それ、は……?」

 

「仮面ライダーゲンム、アクションゲーマーレベル1」

 

 

黎斗は、ゲンムになっていた。体は白く太く、そしてずんぐりとしている。動きも遅そうだ。しかし……油断するなんて、マシュには出来なかった。

 

 

「ここでは狭いだろう、他所に行こうか」

 

『ステージ セレクト!!』

 

 

世界が暗転する。マシュが目を開けると、二人は何処かの廃工場にやって来ていた。

 

 

「……私のガシャット、そしてバグヴァイザーを返してもらおうか」

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

「全てを話してもらうまでは、絶対に返しません」

 

 

剣の姿を取ったガシャコンブレイカーを構えるゲンムと、ラウンドシールドを持つマシュが睨み合う。

 

先に動いたのは……マシュだった。

 

 

「はぁっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

爆発力のある駆け出しからの盾での一撃。ゲンムの脳天目掛け降り下ろされたそれはガシャコンブレイカーの刃に難無く躱される。

そしてマシュは腹にゲンムの拳を食らいよろめいた。

 

 

「かはぁっ……!!」

 

「ガシャットを回収する。抵抗をやめろ」

 

「いや……まだです!!」

 

   ガキンッ ガキンガキンッ  ズガンッ

 

 

火花が散る、火花が散る。

何度火花が散ろうとも、ゲンムとマシュの打ち合いは終わらない。

 

 

「くっ……」

 

「……」パンパンパンパン

 

『キュキュキュキューン!!』

 

 

突然、ゲンムはマシュから一歩引き、ガシャコンブレイカーのBボタンを連打した。そして姿勢を低くする。

彼の気迫が伝わってきて、マシュは思わず盾を強く握った。

 

 

「はぁぁぁ……!!」

 

「くっ!!」

 

   ジャジャジャジャンッ

 

「ぅくはぁっ!?」

 

 

同時にマシュを襲う四つの斬撃。盾越しの衝撃が、想像の何倍もの衝撃がマシュを嬲る。盾は傷だらけになり、マシュは工場の壁まで吹き飛ばされた。

 

 

   ズドンッ

 

「か、あっ……」

 

 

視界が明滅する。意識を手放しかける。立っているどころか、盾を握るのも辛くて。でも。

 

脳内にブーティカやドレイクの顔がちらついた。

 

彼からは話を聞かなければならない。

世界を救うために、共に戦うために、未来を取り戻すために。

だから、立つ。

 

 

「くっ……」ヨロッ

 

「……まだ立つか、マシュ・キリエライト」

 

「はああああっ!!」ダッ

 

 

盾を構えての突貫、質量で押し潰す。絶対にここで決める。

その一心でマシュは走った。白い体躯のずんぐりとしたゲンムまで、あと3歩。

 

一歩歩く度に全身が痛んだ。それでも止まれない。あと2歩。

 

盾を突き出す。相手が壁に押し付けられ静止するビジョンは見えた。あと1歩。

 

だが。

 

 

「……グレード2」

 

『ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

「っぐ!?」

 

 

ゲンムがそうとだけ言い、ドライバーのレバーを解放した。

そして……()()()()()()()()()

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

ゲンムだった白いパーツが、盾を勢いよく弾き返す。思わぬ反撃に足を取られ、マシュはその場に腰をついた。

 

見上げると、そこには。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン X!!』

 




ヒロインは曇らせるもの


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貴方は……誰なんですか、先輩?

 

 

 

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン X!!』

 

 

白い殻は脱ぎ捨てられた。

マシュを見下ろすのは、黒い体のゲンム。だらりと構えるガシャコンブレイカーが、処刑人のギロチンのように見えた。

 

 

「そ、それは……」

 

「当然、レベルアップだ。聞こえただろう?」

 

 

淡々と事も無げに、ゲンムは無感動にマシュに答える。それこそ、プログラムに条件を入力するが如く。

……今のマシュに出来ることは、何とかして態勢を建て直すこと。それだけだった。

 

 

「くっ……」

 

「……」

 

『バッコーン!!』

 

 

ガシャコンブレイカーの刃が格納され、ハンマーの形態に変形し……ゲンムはそれを振り上げる。

 

 

「……何度も言うが」

 

   ズガンッ

 

 

衝撃波がマシュの頬を撫でる。盾を放棄してその場から転がって退避したマシュは、それでもやはり立つ力は無くて。

 

 

「君達の意思にも、願いにも、感情にも、私は全く興味ない」

 

   ズガンッ

 

 

マシュの持たれていた柱が砕かれた。また転がって逃げようとしたマシュだが、その足を瓦礫に潰されてしまう。

 

 

   グシャッ

 

「がぁあっ……!!」

 

「……君達は道具だ」パンパンパン

 

『キュキュキューン』

 

   ズガンガンガンッ

 

「きゃああああっ!!」

 

 

下から振り上げられたガシャコンブレイカーは、足の痛みに震えるマシュの下顎を寸分の狂いなく捉え、彼女を5メートル程吹き飛ばした。

サーヴァントだから体の形こそ保てているが……本来なら、彼女は既に挽き肉に近かっただろう。

 

非道な仕打ち。執拗な暴力。和解の意志は尽く否定し、その思想は傲慢の上を行く。

 

 

「あなたは……あなたは、何なんですか!!」

 

 

マシュは、思わずそう言っていた。

言わずにはいられなかった。人類最後のマスター、檀黎斗……その姿は偽りで、本当は、本当の彼はもっと深いところで何かを握っている……そうとしか思えなかった。

 

 

「何者か、か……」

 

 

ゲンムは一旦止まり、左手を顎にやってほんの少しだけ考え……それでもやはり、こういった。

 

 

「私の名前は檀黎斗。ゲームマスターで……神だ」

 

 

奇しくもあの、燃え盛る管制室での返答と同じだった。

 

 

「終わりにしよう」

 

『ダッシュゥー』

 

『ガッシャット!! キメワザ!!』

 

 

ゲンムはプロトマイティアクションXをドライバーから引き抜き、腰の左にあるキメワザスロットに装填する。

 

ゲンムの足にパワーが溜まっていくのが見えた。漆黒の刺々しいエネルギー。それは破壊され尽くした廃工場の空気すらも震えさせ……

 

 

『マイティ クリティカル ストライク!!』

 

「はあっ!!」

 

 

ゲンムが飛び上がる。その足が手負いのマシュに容赦なく迫る。

きっと彼は手加減なんてしないだろう。彼は付き従うサーヴァントを殺しても、仲良くしてくれた味方を殺しても、きっと何の後悔も抱かない死神だ。そしてきっとまた、全てを秘密にするのだろう。

 

でも、まだ自分は死神の魔の手にかかる訳にはいかない。そうマシュは信じていた。

 

この状況で逆転する最後の一手。

勝てる可能性は0に等しい。……でも、もう負けられないのだ。

 

 

「……これでっ!!」ズイッ

 

「……!!」

 

 

マシュは……ガシャコンバグヴァイザーを、ゲンムの足の衝くであろう己の胸元に、バグヴァイザーを押し付けた。

このままゲンムがキックを敢行すれば、バグヴァイザーは粉々になる……『彼の才能が失われる』事になるわけだ。

 

効果はあった。

 

 

「くそっ!!」クルッ

 

 

壊してしまっては堪らない。ゲンムは反射的に腰を捻り、マシュに背を向けて着地する。そして直ぐ様振り返ると……

 

 

 

『ガッチョーン』

 

「……ほう? まさか、そんなことまでやるとはな」

 

 

マシュは……その腰に、ガシャコンバグヴァイザーをセットしていた。かつてゲンムのやっていたように。

 

 

「……使うつもりか? マシュ・キリエライト。警告するが、それは君には使えない」

 

「でも……でも!!」

 

 

ここまでのピンチに追い込まれて尚、彼女の頭からは、逃げるという選択肢はとうの昔に抜け落ちていた。全てが、彼女からまともな思考を奪っていた。

……この二人だけの空間にいるのは、非人間のゲームマスターと、ただ目的のため蛮勇に無謀を重ねがけする、諦めないだけの存在だった。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「くっ……はぁっ……」

 

 

電源を入れた。

 

ゲンムのやっていたように。

ゲンムのやっていたようにバグヴァイザーをセットした。ゲンムのやっていたようにガシャットの電源を入れた。

 

……彼女は彼女なりに、彼女の先輩をずっと見ていた。彼女なりに、彼女の先輩を理解したつもりでいた。だから……()()()()()()()

 

 

「あっ……くぁっ……はあっ!!」

 

『ガッシャット!!』

 

「ああっ……!!」

 

 

指を動かす度に、足が震える。心臓が毎秒よりも短い感覚で鋭く痺れる。あらゆる己が、自分のものでなくなっていく……そんな感じに襲われて、それでも。

 

マシュ・キリエライトは、その気力でもって。

変身プロセスを終えてしまった。

 

 

「へんっ……しんっ……!!」

 

『Error』

 

 

   バチンッ

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ピッ ピッ ピッ

 

「……ここ、は?」

 

 

見覚えのある天井だった。廃工場のそれでは無かった。

それは……マシュの敗北を示していた。

 

「医務室だよ……うん、容態が安定してきたね。何とか、命と戦闘に異常は無さそうだ」

 

「そうですか……」

 

「まあ……次の特異点は、休もう、マシュ。この状況では、君が行っても辛いだけだ」

 

「……」

 

 

ゲンムとの決闘にあえなく負け、カルデアの廊下で力なく倒れていたマシュは、スタッフ数名にここに運ばれてきていた。

そしてつい先程までロマンの治療を受けていたのだ。

 

そう理解した彼女の目元から、一筋の涙が流れ落ちた。

 

 

「……ゲンムの強さは、規格外だ。今のマシュでは、きっと勝てない。……もっと強くなろう。もっともっと強くなろう……見返してやろう。時間は、まだ残ってる」

 

「……うっ、うっ……」

 

「……泣いてもいいさ。泣いていい……ボクは君を否定しない」

 

「ドク、ター……!!」ポロポロ

 

 

薄い毛布が涙に濡れた。痛みがそうさせたのか、無念がそうさせたのか、嘆きがそうさせたのか、それとも純粋な悲しみがそうさせたのか……それとも、そうあれと彼女がデザインされたからか。

 

 

「……フォーウ」

 

「フォウさんも……うっ……私は……私は……!!」ポロポロ

 

「……大丈夫。ボク達は、味方だ」

 

 

……一つ言えることは。マシュ・キリエライトは、第四特異点を欠席する、という事だった。

 

───

 

「……そろそろ私も、なりふり構ってはいられなくなって来たか」ペラッ

 

 

ガシャコンバグヴァイザーをマシュの手から取り戻した黎斗は、ファイルの中から複数枚の設計図を取り出した。

断面図や寸法等の隣には、カラーでの想像図が軽く書かれていた。……それによると、黒く分厚いそのガシャットには、大きな歯車のような何かがついているようだった。

 

 

「早く……これを作ってしまわなければな。もう、邪魔はさせない……」

 

 

作品名の欄には、『プロトガシャットギアデュアル(仮)』とだけある。

そして……何よりも注目すべきものは、そのガシャットに必要なのであろうパーツの一つ。

 

『英霊』

 

 

「ああそうさ。誰にも邪魔させるものか。私はゲームマスターで、神なのだから……!!」

 

 

また、口元を歪める。

まさしく、新しいオモチャを買って貰った……いや、彼にこの例えは正しくない。

 

新しいオモチャを()()()()()……そんな喜びが、顔に浮かんでいた。

 

 

「……ハハ、ハッハ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハハハハハァァッッ!! 誰も、誰も誰も誰も!! 私の才能を!! 私の計画を!! 私の夢を!! 阻むことは……出来ないいィィッ!!」

 

 

ただただ、高笑いだけがひたすら辺りに響いていた。

 

 




鬼!! 悪魔!! ゲンム!!


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第四特異点 死界魔霧都市ロンドン 生存を賭けたCivil war!!
殺戮者、檀黎斗


 

 

 

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあああっ!!」

 

  バンッ  スゥッ……

 

「敵性サーヴァント、チャールズ・バベッジを回収完了」

 

「オートマタやらヘルタースケルターやらが機能を停止し始めていますよ我が主」

 

「やはり読み通り、このサーヴァントが操っていたらしいな」

 

 

ゲンムやそのサーヴァント(マシュを除く)達は、特異点であるロンドンにて……エネミー100体切りを敢行していた。

 

その空は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何があったかは、暫く前に遡る。

 

───

 

数時間前。

 

 

「……霧が濃いな、それもただの霧じゃない。硫酸の霧……しかも、かなりの魔力を感じる」

 

「……そうですねクロスティーヌ。お身体に障りませんか?」

 

「問題ない。恐らく私が既に人を超えて(死んで)いるからだろう」

 

「おお我が主よ!! やはり貴方は神!!」

 

「……その、才能も……運命である……」

 

 

その時、黎斗とそのサーヴァント(マシュを除く)は、第四特異点であるロンドンにやってきたばかりだった。

時刻は夜、うっすらとさす月明かりは霧にぼかされ、彼らの輪郭すら明らかには出来ない。

 

 

「恐らく、この霧を経由して大気にまで魔術を流しているのだろう……まあ、明らかに探索には不向きだな」

 

「……女神が、おお、女神が見えぬ……」

 

「そうですねカリギュラ殿……これでは敵の接近にも気づけません」

 

 

辺りの警戒は怠らない。微かな音も逃してなるものかと、全員が耳を澄ましていた。

黎斗以外は。黎斗だけは……プロトガシャットを取り出していた。

 

 

「ジル・ド・レェ、ファントム、これを使え」

 

「これは……プロトタドルクエストですね我が主?」

 

「プロトドラゴナイトハンターZ……クロスティーヌ、これで、何を?」

 

()()()()、だ」

 

 

黎斗はジル・ド・レェとファントムに各々のプロトガシャットを手渡す。

そしてそれと同時に説明を開始した。

 

 

「そもそも、霧には消し方が存在する。辺りに吸湿剤やら何やらを撒いて粒を大きくし、霧を雨に変える、というやり方だ。既に飛行場などでは成功例が存在している。……よし、変身しろ」

 

「承知しました。変っ身っ……」

 

『タドルクエスト!!』

 

「それでは……」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

 

胸に刺さるガシャット。刺している二人に、最初の時のような苦痛は無い。すんなりと体が変質していく。まさしく、既に一体化していたように。

 

服に鎧の意匠が追加され、本を持つ手の反対側に剣が現れるジル・ド・レェ。そしてファントムは以前のように翼が生えるだけでなく、爪やら大砲やらも生やしていた。

 

 

「ほう……この剣は、また、懐かしい……いえ、何でもございませぬ我が主よ。して、何をすれば?」

 

「宝具だ。……ジル・ド・レェ、お前は触手を全て上に伸ばし、辺りに熱と炎をばら蒔け」

 

「了解しました我が主よ。螺湮城教本・騎士の巻(タドル・スペルブック)!!」

 

 

黎斗の指示で、鋼鉄で覆われ強化された触手が、建物の壁やら外灯やらを伝って上に伸び……炎を撒き散らす。

 

そして黎斗はそれを確認し小さく頷き、今度はファントムに指示を出した。

 

 

「ファントム。お前は上空で宝具だ。音と共に炎を撒くこと、なるべく遠くまでな」

 

「分かりましたクロスティーヌ」

 

   バサッ

 

 

そうとだけ言って、ファントムは背の翼をはためかせ飛び立った。

そして暫くの後に、上の方から熱と共に轟音が轟く。

 

 

「……炎は、何の為だ……?」

 

「……人工消霧の方法の一つだ。炎を用いて、霧を水滴として落ちてくるサイズのレベルまで合体させる」

 

 

そう語る黎斗は当然ドヤ顔で、そして腕を組んでいた。

 

段々霧がしっとりとしてきた。少しずつもやが晴れ、代わりに黎斗のスーツが濡れ始める。

霧雨だ。既に霧は下に落ち、生成されていた魔力も彼らの足元に溜まっていた。

 

 

「……成功、だな」

 

 

こうして……ロンドンは魔霧消滅都市(ミスト/Zeroシティ)と化した。

当然、この特異点の黒幕が再び霧を出すだろうが……それと同時に、黒幕、少なくともその仲間は、ここにやって来るに決まっている。そうでもしなければ出して消してのいたちごっこの開幕だから。

 

またはぐれサーヴァントも、ここに大量に溜まった魔力を求めやって来るだろう。

既に……サーヴァントは寄せられてきていた。

 

 

「……よし、十分だ二人とも。宝具を解除しろ」

 

 

黎斗がジル・ド・レェを止め、ファントムを下ろさせる。彼の視線の先には……一人の少女と浮いている絵本。

絵本はまあ一目で異常性が分かる。少女にしても、この霧の中一人で出歩いているならばろくな存在ではない……第一、血のついた刃物を握っていた。

 

 

「おかあ、さん?」

 

「うふふ?」パラパラ

 

「……ロンドンでナイフを持った幼い子供のサーヴァント。そして、ロンドンで幼い子供に読まれていそうな本、ときたか。真名は……」

 

 

考え込む黎斗。しかし下を向くことはなく、その視線は二つの存在の一挙一動を逃すことなく。

 

 

「おかあさんの中に、帰りたいの、帰りたいの……」

 

「どうやって?」

 

「お腹を裂いて、裂いて、裂いて……還るの。おかあさんに、還るの」

 

「……成程、ロンドンの殺戮者、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)か。隣の本は……」

 

「楽しい時間にしましょう♪」

 

「……喋るのか、この状態で……まあ、何かのキャラクターとは思えない。とりあえず絵本、としておこうか」

 

 

そして黎斗は、ガシャコンバグヴァイザーを腰にセットする。何時ものように。それは彼にしか出来ないことだったが、彼にとってはごく普通のことで。

 

 

『ガッチョーン』

 

「まあいい。倒す。変身……!!」

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

何時ものように死を纏うゲンム。白と黒のアンダースーツが、月明かりに照らされる。

 

 

「私とカリギュラは本を始末する。ジル・ド・レェ、ファントム、ジャック・ザ・リッパーを捕まえろ。殺すなよ?」

 

「承知しました」

 

「分かりましたともクロスティーヌ」

 

 

4対2、状況はゲンムの一行が有利。ゲンムはガシャコンマグナムを呼び出し、本へと走り出した。

 

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

「カリギュラ、これを使え」

 

 

走りながらカリギュラに手渡したのは、プロトゲキトツロボッツ。

絵本とは対照的……というかもし出てきていたら雰囲気ぶち壊しであろう機械の書かれたそれを、カリギュラは胸に突き立てる。

 

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「へぇぇぇんしぃぃぃいんっ!!」

 

 

カリギュラの体が黒く染まり硬質化した。左腕は特に肥大化し、金属光沢をも放つ。

 

 

「お茶会の始まりね!!」

 

「戦闘、開始……!!」

 

───

 

「解体の時間だよ」

 

「残念、解体されるのは貴方ですよ」

 

 

ジル・ド・レェとファントムの任務は、生け捕りであった。決して殺してはならない。

二人は前回同様、ファントムを後衛に置いての二段攻撃を主としていた。

勿論、捕獲作戦の肝は、ジル・ド・レェの宝具である。

 

 

「最高のcooooolを!! 今!! ここに!! 螺湮城教本・騎士の巻(タドル・スペルブック)!!」

 

 

ジル・ド・レェの声と共に、周囲のマンホール等から海魔の触手が伸びた。それはジャックを取り囲み、今にも彼女を捉えんと蠢き……

 

しかし、それは少女を捕縛することは叶わず。

理由は簡単。相手の宝具だ。

 

 

「……此処よりは地獄。私達は、炎、雨、力……殺戮をここに。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

「……おや?」

 

 

ジャックもただで殺られるつもりは無かった。ここには霧も無く相手は女でも無いが……こんな至近距離で触手の群れ一つも斬れなければ殺人鬼の恥さらしである。

 

ジャックはその場でナイフを構え……こちらへ向かってくる触手の群れへと、自ら飛び込んだ。

 

───

 

その頃。

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッズドンッズドンッズドンッ

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわ!!」クルクル

 

「……ふむ、攻撃が通らないな。恐らく……あれは本ではなく、別の何かと捉えるべきか」

 

 

弾丸とロケットパンチの、必殺技のダブルアタックを受けても平然と舞う本を相手に、ゲンムはそう考えた。

恐らく、これはまだ実体が無いのだろう。

……ならば実体を与えればいい。

 

 

『ガッシューン』

 

「……何を、するのだ……?」

 

「実体をプレゼントするんだよ」

 

   ブァサササッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

ゲンムは変身を解き、そして本の至近距離でバグスターウィルスを散布した。

当然それは本に感染し……

 

 

「えっ……?」

 

 

本は姿を変える(名前を付けられる)。しかしそれは、その名前は……

 

 

「何よこれ……何よこれ……!?」

 

「成程……意思を持った魔力にウィルスを撒くと、まさか雑魚バグスターに精神が乗り移る、という結果になるとはな」

 

「私はどこ? 一人ぼっちのありすはどこ?」

 

 

その名前はバグスター。さっきまでの絵本は、黒いからだにオレンジの頭、そしてひらひらとしたドレスを纏った、一介の雑魚バグスターと化してしまった。

 

そして、バグスターであるならば、バグヴァイザーに回収される。

トリックに気づいてしまえば、ただ呆気ない結末部(おしまい)だった。

 

───

 

ジャック・ザ・リッパーは、ジル・ド・レェに呼び出された触手の群れの中に飛び込んでいた。

海魔は侵入してきた来客を捕まえようとするが、その刹那。

 

 

   スパンッ

 

   ボトボトボトッ

 

「……!?!?」

 

「……解体したよ」

 

 

海魔は細切れと化した。驚くべきことに、全て、ナイフで両断されていたのだ。これでは暫くは宝具は使えまい。

ジル・ド・レェはそれに猛り狂い、タドルクエストの力で生まれたかつての愛剣を持って斬りかかる。

 

 

「このっ、匹夫、めがぁっ!!」

 

「うん。殺しちゃおう」

 

   カキンッ

 

 

打ち合いが始まる。ジル・ド・レェも元々は武人の身、そう簡単には力負けしない。だが……速さが圧倒的に足りなかった。

 

 

   カキンッ カキカキンッ  

 

「遅いよっ」

 

   グサッ

 

「ふぐぅ!? くうっ……この、匹夫が……!!」

 

 

手早く回り込まれ、背中を突き刺されるジル・ド・レェ。ジャックはもう片方のナイフを掲げ、彼の首もとに突き立てようとする。

 

 

「解体するよ!!」ブンッ

 

 

 

   カキンッ

 

「……猛るジル殿に、私は訝しんだ、彼女は男ではないと」

 

「ファントム殿……!!」

 

 

後衛に徹していたファントムが、ジル・ド・レェの救援に入った。ジャックのナイフをドラゴナイトハンターによって生じた爪で受け止め、もう片方の手で彼女の鳩尾に大砲を放つ。

 

 

   バァンッ

 

「いたっ!?」ゴロゴロ

 

「……ゼェ、ハァ……助かりましたぞファントム殿」

 

「お気になさらず。それより……背中は……?」

 

 

勢いよく吹き飛ばされるジャックを確認しながら、ジル・ド・レェに肩を貸すファントム。

そして二人の視線の先では。

 

 

   ブァサササッ

 

「うっ……!?」

 

 

一瞬の無防備の隙をつき、黎斗がウィルスを浴びせていた。ジャックは反射的に彼を殺そうとするが、カリギュラに阻まれる。

 

 

我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

   ズドンッ

 

「かはあっ!! ……ひどいなぁ、もう」

 

 

宝具を喰らってまた吹き飛ばはれた彼女は、丁度サーヴァント三人に囲まれる形になっていて。それでは流石に逃げられる訳もなく。

 

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

「お前たち、逃がすなよ?」

 

 

そして、サーヴァントに包囲されたジャックは、無防備なまま胴体に穴を開ける事となる。

 

 

『バンバン クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

その後に黒幕の仲間だったのであろう自称蒸気王チャールズ・バベッジと仲間のオートマタやら何やらを相手したが、割りと些細な事だった。

 

エネミーを倒して倒して倒して……そして、冒頭へと時間は進む。

 

 

「……お前ら、随分派手に暴れていたが……何者だ?」

 

「旅の者だ、と言っておこう」

 

「あ?」

 

 

鎧の女が、こちらに走ってきた。突然名乗りを求められた黎斗は、しかし返すことは無かった。

さらにこう続ける。

 

 

「そっちこそそんな仰々しい鎧を着けながら、名乗りすらも行わないのか」

 

 

そう言われた彼女は、恐らく騎士の誇りなんか等を考慮したのだろう、黎斗にその真名を告げる。

 

 

「……チィッ!! ……モードレッド。オレはモードレッド」

 

「そうか」

 

   ブァサササッ

 

───

───

───

 

「嘘、名前を聞いただけで……?」

 

「容赦ないね……丁寧にあの粉を巻いている辺り、彼女も回収するんだろう」

 

 

……美しいものは、確かに見た。

 

 

「酷いです黎斗さん、あんな……モードレッドさんを……」

 

「……英霊モードレッド殺害、後から救援に来たヘンリー・ジキル氏を殺害……あれじゃあ、通り魔と変わらない……!!」

 

 

だが、それ以上に私は、美しくないもの(人類最後のマスター)に触れてしまった。

既に我が身は怪物に成り果てようとしている。この小さな獣の体に収まりきらない悪意が、勝手に体を巡っている。

 

 

「邪魔な通行人も皆殺していく……なんで、なんであんな……」

 

「……分からない。でも……彼は……酷すぎる」

 

 

おのれマーリン。美しいものなんて、結局は汚いものに塗り潰される運命なのだ。

ここで泣いている元々穢れの無かった少女(マシュ・キリエライト)は、人類最後にして最大の汚いもの(檀黎斗)に塗り潰され、消えていこうとしている。

 

ああ、私も望んではいないのだ。出来れば彼女の側にいたいのだ。

……それは叶わない。私は結局人類悪(ビーストⅣ)なのだ。

ならば、せめてここ(カルデア)ではなく、彼の居場所(ロンドン)に行こう。

 

 

「……檀黎斗、人類最後のマスター、ボク達の希望だったはずなのに……どうして、そんなことを……」

 

「黎斗さん……止めて、止めて下さい……」

 

 

さようなら、カルデアの善き人々。

獣は、あいつを殺しにいく。例え特異点が壊れようと。例え人類が途絶えようと。

 

あいつを、生かしては、おけないのだ。




次回、カルデアのやべーやつ、覚醒


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プライミッツ・マーダー

 

 

 

 

 

 

「さて……もう、ここの英霊は十分に溜まったか。後は聖杯を探せば……」

 

 

黎斗は、自らのサーヴァント達を伴って歩いていた。ここまで作戦が色々と上手く行っているため、彼は現在かなりの上機嫌であった。

 

霧の発生源等の情報から、既に聖杯のありかは予測してある。そこに乗り込んで奪い去れば終わる簡単なお仕事だった。

 

 

筈だった。

 

 

   ドガァァァアアンッ

 

「!?」

 

「クロスティーヌ、向こうから悲鳴が……」

 

「あちらは……ああ!! 敵の本拠地ではありませぬかっ!!」

 

「何だと!?」

 

 

爆風と共に、街の一部が崩れ去る音が聞こえた。何かとんでもない事故でも起こったのだろうか。そして聖杯は無事なのだろうか。

黎斗は、そしてサーヴァント達は、その音の元へと向かっていく。

 

───

 

「……フォオオオオオオオオオウウッッッ!!」

 

「……何だ、あの、獣は?」

 

 

爆心地に辿り着いた一行が見たものは……白銀の体から青い粒子を撒き散らし、辺りをひたすらに破壊する巨大な獣の姿だった。

 

 

『……あれから聖杯の反応が出ている!! まさか、元々の黒幕から無理矢理奪い取ったのか!!』

 

『……ドクター、もしかして、あれって……フォウ、さん?』

 

『……え? フォウなら、さっきまで向こうに……いない?』

 

 

カルデアの方での混乱も通信機越しに伝わってくる。

獣と相対する黎斗としても、これは余りにも予想外だった。

 

 

〔……檀黎斗。醜く穢れた人間〕

 

 

獣が声を上げる。辺りに透き通った、しかし絶望に濁った声が響き渡る。

 

 

〔お前は、私を目覚めさせた。本当は、ただカルデアの安寧の中で微睡んでいたかっただけの獣を〕

 

『やっぱり、あなたは……!!』

 

〔……すまない、マシュ・キリエライト。カルデアの特権生物『フォウ』とは、私の殻に過ぎない。本当の私は……こんな醜い人類悪(ビーストⅣ)だ〕

 

 

獣……ビーストⅣはそう言った。

フォウとしてカルデアに存在していた小動物の正体こそがこれだった。

 

 

「ほう? まさか、お前がそうなるとはな」

 

〔……覚悟はいいか檀黎斗。私は霊長の殺戮者。プライミッツ・マーダー。相手より強くなる『比較』の獣。地球の破壊を防ぐ抑止の徒にして、人類が打倒すべき悪……ビーストⅣが、お前を殺す〕

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「殺しても構わないさ。何度でも蘇れば、関係無いからな。変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「……行くぞ」

 

 

宣戦布告を受け、そして返事を返して変身するゲンム。その両手に死神の鎌を持って、ビーストⅣへと斬りかかる。

 

 

「はあっ!!」ブンッ

 

〔……ふんっ〕

 

   カキンッ

 

 

握った鎌を素早く振り下ろすゲンム。ビーストⅣはそれを尻尾で易々と弾き返し、前足でゲンムの胴体を殴る。

 

 

   ゴシャッ

 

「がはあっっ!?」ゴロゴロ

 

 

勢いよく吹き飛ばされ、近くの建物にめり込むゲンム。建物の壁には無数のヒビが入り、否応にもビーストⅣの強さを物語る。

ゲンムは確実に死にこそしたが……しかし、やはり瞬時に蘇った。

 

 

「大丈夫でございますか我が主よ!!」

 

「クロスティーヌ、お体にお障りは?」

 

「問題ない……予想外の強さだな。さっさと潰すぞ」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

建物を背に立ったまま、弓に変えたガシャコンスパローで狙いを定めるゲンム。

しかし。

 

 

〔……温い〕

 

   バァンッ

 

「っ、まさか遠距離攻撃も出来るのか!?」

 

 

ビーストⅣが力を溜めると、それと同時に彼を囲むように無数のエネルギーが発生し、黒い尾を引きながらゲンムへと発射される。

 

 

「くっ、回避だ!!」

 

   ズガンッ

 

 

転がって回避する面々。エネルギー弾は元々ゲンムの背にあった建物をいとも容易く粉砕している。

 

 

「もう一度!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

数多の矢がビーストⅣへと放たれる。それらは全て獲物へと命中出来うるとゲンムは考えていたが。

 

 

〔浅はかな考えだな〕

 

   ゴウッ

 

「尻尾で……振り払った、だと?」

 

 

その矢全てが、ビーストⅣに弾き返される。

そして。

 

 

   シュンッ

 

〔受けるがいい、これが痛みだ〕

 

   グチャッ

 

「……!?」

 

 

一瞬でゲンムの眼前まで移動してきたビーストⅣが、ゲンムの肩を噛み砕く。そして、放り棄てる。

 

当然すぐに再生こそするが……だからといって、勝てる、という訳ではない。

 

 

「……くそが!!」

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

「フォウさん……なんで……」

 

 

マシュは管制室でモニターの前に座っていながら、ゲンムにも、フォウにも、何も言えずにいた。

彼女は無力だ。今はまだ何の力も得ていない。唯一使える宝具ですら、完全には目覚めていない。……そして、自分に力があれば、モニター越しに映るこの事態は、防げたことだった。

 

 

「……フォウ。君にとっては、人類より……マシュが大事だった、そういう……事なのかい?」

 

「ドクター……?」

 

「……いや、気にしないでくれ」

 

 

隣でモニターを見つめキーボードを操作するロマンも、冷や汗を垂らしていた。

彼は彼で、最悪の事態をなんとかしようと頑張っていた。

 

マシュから、また一つ涙が零れる。

 

 

「……待った。おいおい、どういうことだ!?」

 

「ドクター?」

 

「不明、いや、レイシフトに近い空間の揺らぎを感知……恐らく……違う。確実に、フォウにも匹敵するレベルの敵だ!!」

 

───

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はああああああっ!!」

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)

 

我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)!!」

 

〔愚か者めが!!〕

 

 

一斉に攻撃しても尚、ビーストⅣは少し怯む程度だった。その毛皮は刃を通さず、弾丸も通さず。その爪はあらゆる障害を両断し、その牙はあらゆる者をスクラップにしてしまう。

 

はっきりいって、倒せる筈が無かった。ゲンムは既に、何度も、何度も死んでいた。

そして。

 

 

「く……どうすれば……!!」

 

 

 

「……はは、はは。愚かだな人間よ」

 

「!?」

 

 

苦難は連鎖する。

ビーストⅣに何度も吹き飛ばされ蘇りまた吹き飛ばされるゲンムは、別の道から歩いてくる何者かの声を聞く。

 

 

「……お前は」

 

「決定した滅びを受け入れず、未だ無に漂う哀れな船、カルデアの最後のマスター。私の事業の唯一の染み。だが……」

 

『ああクソ、音声しか拾えない!! でも、言い方からするに……!!』

 

『あれは、まさか……!!』

 

「……見直したぞ人間。まさか、自ら第四の獣を目覚めさせるとは!! 実に愉快だ!! その愚かしさを称えて教えてやる」

 

 

その姿が、ビーストⅣの放つ光に当てられ浮かび上がる。

男。ただの男ではなく、赤い危険な何かを体から漏らす、未知なる存在。

 

 

「我は貴様らの目指す到達点。魔神を従え、人類を滅ぼすもの……名をソロモン。全ての英霊の頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

『何だと!? まさか、そんなっ!?』

 

 

その名はソロモン。人理を焼き払った存在。最終的に倒すべきラスボス。

 

しかし、今のゲンムは、彼に届くべくもない。

 

 

「だが……まさか、勝手に滅びの道を歩むとは!! つくづく、お前達は救いようの無い……」

 

〔……お前も失せろ〕

 

   ブンッ

 

 

話し続けるソロモンに、ビーストⅣが飛びかかった。ソロモンは肉の柱を呼び出して彼の一撃を阻む。

 

 

「……おっと」

 

   ガキンッ

 

「……何のつもりだ、お前は人間に絶望したのだろう?」

 

〔……勘違いするな。私は檀黎斗を許せないだけだ。例え私があれを殺せば、人間が滅びるとしても……私は人間が許せない訳ではない。私は、檀黎斗の存在をただ許せないだけだ〕

 

「全く、おかしな哲学だな。だが、少し付き合ってやろう」

 

 

ビーストⅣの前足が、呼び出される肉の柱を切り裂き突き破る。対するソロモンは柱を次から次に呼び出し、ビーストⅣを破壊しようとする。

どちらが勝つかは分からない。分からないが、言えることは。

 

物凄い衝撃波が発生している、という事だった。人類を滅ぼし得る二つの存在の全面衝突なのだ、ある意味では当然だが。

 

 

「くっ……クロスティーヌ、ご無事ですか!?」

 

「私は、まだ不滅ゴフウッ!?」

 

 

衝撃波に乗って飛んできた瓦礫に押し潰され、ゲンムはまた死ぬ。そして蘇る。

 

いつの間にか、アンダースーツは漆黒に染まっていた。

 

 

「……ハハ、ハァーハハハハ!! ハァーハハハハ!!」

 

「どうしましたか我が主よ!!」

 

「ついに……ついに至ったぞ!! レベルX(未知数)に!!」

 

 

水を得た魚のように、ゲンムは突然吠えたてた。その目には異常なまでの自信が顔を覗かせている。

 

 

「……何だ、まだ足掻くかカルデアのマスター」

 

〔……何が面白くて笑う〕

 

 

敵対する存在二人も今一度動きを止め、ゲンムに向き直った。ソロモンはその目に好奇を、ビーストⅣはその目に憎悪を込めて。

 

ゲンムは両手を広げ、彼らに近づきながら喋る。

 

 

「よく考えろビーストⅣ!! お前は相手より強くなる『比較』の獣、そして私は、お前に殺され続けることで死のデータが蓄積し、ついにレベル『X(エックス)』に至った!!」

 

〔……〕

 

「Xとは即ち未知数!! いくら相手より強くなるとしても、相手の強さが分からなけらばどうしようもあるまぁい!!」

 

 

叫ぶ。叫ぶ。圧倒的自信。圧倒的傲慢。

黎斗は勝利を確信していた。レベルXに至った己が、負けるわけなど無いのだ。

 

 

〔……全く。やはり、愚かだったか〕

 

「……何だと?」

 

〔檀黎斗。お前の強さが不確定なら……私は、私に出せる最大の出力を持って、お前を迎え撃つ〕

 

   シュンッ

 

   ズガゴガクキャグジャアアッ

 

 

刹那。ゲンムは四肢をもぎ取られ吹き飛ばされていた。直ぐ様再生こそするが、痛みが残る。

まさか、これほどまでとは。ゲンムは……驚愕と共に絶望を覚えた。

 

 

〔……私は霊長の殺戮者。望むなら、何度でも殺してみせよう〕

 

「面白い。私も付き合おう、獣。何、これが終わったらまた決着をつければいい」

 

〔ふざけるな!! ……だが、まずは檀黎斗だ〕

 

 

そんな会話が聞こえてくる。

ゲンムの足は震えていた。

 

絶対に負けない仮面ライダー、ゲンム。不死身で、最高のスペックを誇っていて。

なのに、こんな事が起こるなんて。

 

 

「嫌だ……死にたくない。まだ、死にたくない……!!」

 

〔……死体が何を言っているのやら〕

 

「死にたくない、まだ死にたくない……あぁ、あ……!!」

 

 

そうして、爪が容赦なく振り下ろされて。

 

 

 

 

 

 

   カキンッ

 

「……お逃げ下さい、我が主よ」

 

 

ジル・ド・レェが、その宝具でもって、ビーストⅣの爪の進行を一瞬だけ遅くした。

ゲンムのサーヴァント達がゲンムを遠くに放り投げる。その懐からプロトガシャットを引き抜いて。

 

 

「早く、お逃げください!!」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

「私達が、時間を稼ぐ、クロスティーヌは逃げるべき」

 

『ドレミファ ビート!!』

 

「うおおおおおおおおお!! 黎斗ぉおおおぉぉおおお!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「「「変身!!」」」

 

 

体を黒く染め、絶対に勝てない存在に立ち向かっていくサーヴァント達。ゲンムは思わず呟きを漏らす。

 

 

「……お前たち」

 

「……お逃げ下さい。私達はしっかり食い止めますから」

 

 

ゲンムは目を閉じ、そして開き。

眼前に並ぶは、都合の良かった(使い心地の良かった)道具たち。

 

 

「……」

 

『ジェット コンバット!!』

 

 

ゲンムはほんの少しだけ……少しだけ後ろ髪を引かれる思いをしながら、その場にコンバットゲーマを飛ばして。

 

敗走した。

 

 

〔愚かな者だ。何故あれに従った?〕

 

「……私の神が、彼だったからだ。螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

「クロスティーヌは我が永遠なりし同士なり。地獄にこそ響け我がラブソング(ドレミファ・クリスティーヌ)

 

「……この行いもまた、運命であった。 我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)!!」

 

 

そんな声を聞きながら。

 

───

 

暫くして。

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

黎斗は戦場からある程度離れたとある廃墟の壁にもたれていた。

息は荒く、体の随所は傷だらけだ。変身すらも儘ならないだろう。

 

 

   ブゥン

 

「……」

 

 

彼の元に、コンバットゲーマが飛来した。彼に命令したことは二つ。サーヴァントの援護と……

 

 

「……ガシャット、三本回収成功、か……」

 

 

サーヴァントが落としていくであろうガシャットの回収。しかし、回収されると言うことは……サーヴァントの死を意味する。

 

 

「……教えろ、ロマニ・アーキマン。私のサーヴァントは……そっちに帰ったか?」

 

『……いや。座まで送り返されたらしい』

 

「そうか……」

 

 

黎斗は夜空を見上げた。月は冷やかに辺りを照らし、黎斗の頬を青白く染める。

マシュが通信機越しに黎斗に呟いた。

 

 

『……どうせ、黎斗さんは悲しいなんて思わないんでしょう? 道具なんでしょう?』

 

「……当然、彼らは道具だった。だが……少しは、失うのが少しは惜しい道具だった」

 

 

黎斗はそう返す。

サーヴァントは道具だと思うことに彼は何の躊躇も無かったが……だからといって、道具を簡単に使い捨てる、とは、彼は言ってはいなかった。

それだけだったが……マシュは、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、黎斗に共感した。

 

 

『……檀黎斗。残念だけど……レイシフトは不可能だ。ビーストⅣの影響だろうか、機械に影響が出てきている』

 

 

ロマンはそう語る。ビーストの出現で通信に異常があるのか、もしくは敵対者達が、絶対に黎斗を生かしては返さないと意気込んでいたからか。

それは分からないが……今の黎斗は、ビーストⅣを殺さなければ、そうしなければもう生きられなかった。

 

 

「……そうか」

 

『自業自得、です』

 

「神たる私にそう言うとはな、マシュ・キリエライト。全く……全く予想外の成長だ。……ハハ、……ハ……」

 

 

黎斗はそう言いながら、何処か寂しげにバグヴァイザーを持ち上げた。絶体絶命の状況だった。

 

バグヴァイザーの中には何もいない。誰もいない。ひたすらに空っぽで。

 

……いや、違う。

 

一体だけ、()()()()()がいる。

 

 

「……聞こえるか、本」

 

「……何よ」

 

 

バグヴァイザーに話しかければ、ゴスロリ衣装の戦闘員バグスターが画面に写り込んだ。

そう。先程ウイルスに感染させた本の魔力だ。

 

 

「……お前に名前をくれてやる。お前に姿をくれてやる。お前に力をくれてやる」

 

『……何をするつもりなんですか、黎斗さん?』

 

 

疑問を口に出すマシュ。黎斗は何をやろうとしているのだろう。

黎斗は答えない。答えないまま……

 

 

「……お前の望みを聞いてやる」

 

「……」

 

「……だから、力を貸せ」

 

 

……答えないまま、バグヴァイザーの銃口を、かつて死のデータを自分から採取した時と同じように胸に押しあてて、そして。

 

 

   バチンッ

 

───

 

 

 

 

 

 

私の敵は、私の才能だけだと思っていた。

 

こんなことが起こるとは、思ってもいなかった。

 

だが、私は決して、このゲームの攻略を諦めはしないのだ。

 

私の夢のため、夢を実現するために。

 

 

 

……(あたし)は夢の集合体。

夢見るアナタに求めるワタシ。幻夢、あなたの夢も、叶えましょう──

 

 

 

 

 

 

───

 

   ズガンッ ズガンッ ドゴォンッ

 

「ふははははは!! 温い温いぞビーストⅣ!!」

 

〔そっちこそどうなんだソロモン。御自慢の柱はボロボロだが?〕

 

 

黎斗のサーヴァント達を蒸発させたビーストⅣは標的を再びソロモンに変更し交戦していた。

 

無数の柱……ソロモン曰く魔神柱を悉く粉砕してソロモンの首筋を狙うビーストⅣだが、流石に相手の量が多く苦戦を強いられていた。

 

 

〔貴様、やはりただのサーヴァントではあるまい。だが……何の意味も無いことだが、これから真の意味で失せるであろう無数の命の敵討ちとして、私は貴様を殺戮する〕

 

「挑んでみろ獣。そして無様に……ん?」

 

〔……ほう、戻ってきたか〕

 

 

こちらにやって来る気配を感じ、規格外二人は足音の方に目を向ける。

 

黎斗がいた。歩いていた。

 

 

「……変身するさ。変身するとも。私はゲンム。ゲンムは私」

 

 

唄を歌うように。本を読むように。

黎斗の声を上げながらの歩みは、それは堂々としたものだった。そしてその目は、赤く光っていた。

 

ソロモンはその姿に、何か違和感を覚えた。

……サーヴァント。さっきまで死体でこそあったがやはりただの人間であった彼の中に、サーヴァントの気配が眠っているのである。

 

 

「変身するさ。変身するとも。……お前の終わりは、私が決めよう」

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

黎斗の手の中でガシャットに明かりが点る。

……それを握る彼の中で、夢と理想が膨れ上がっていた。今なら、何であろうと彼の思う姿になれると、彼は確信していた。

 

 

「……変身」

 

『ガッシャット!!』

 

『バグル アァップ』

 

 

姿が変わる。だが纏うものは死だけにあらず。

……彼の中には、ナーサリー・ライム(人間の夢の結晶)があった。黎斗はそれを受け入れ利用しようとしていた。

 

白と黒の夢が、仮面ライダーゲンムを、編み上げる。

 

 

『デーンジャ デーンジャー!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ウォー!!』

 

 

仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーレベルX(エックス)

戦闘開始。

 

───

 

〔……何故だ〕

 

「ハハハ……楽しいなぁ、ビースト?」

 

 

ゲンムは、ビーストⅣと対等に殴りあっていた。確かにゲンムはビーストⅣの一撃を喰らっていたが、しかし何故か吹き飛ばなかった。

 

 

「私は不滅、不滅こそが私。私は檀黎斗であり、檀黎斗の夢でもある。だからこそ、(あたし)(わたし)の思うがまま」

 

   グシャッ

 

〔かはっ……!?〕

 

 

右ストレートがビーストⅣの目を捉えた。たまらずよろける獣。霊長の殺戮者。

ゲンムはさらに打撃を連ね相手を牽制した後に、更に詠唱を始める。

 

 

「頼れる仲間は既に失せ、船は大荒れ沈みかけ。先に待つのはこの世の終わり? もしくは先すらもう消えたのか」

 

 

ゲンムは高らかに唱える。己の夢を、己の理想を。

ビーストⅣが何度も攻撃を仕掛けてくるなか、ゲンムはそれらを全て紙一重で回避していた。

 

 

「……それはともかくあちらの事情は興味津々。他人の日常? 知るもんか。それでは、世界の裏側を見せてあげよう」

 

 

唱え終わる。ゲンムの詠唱が全て終わる。

望むものは、この状況を引っくり返す、()()の一手。

 

……ビーストⅣの眼前で光が弾けた。

 

現れたのは小さなナニカ。それはゲンムの手元まで飛んでいって、そうして光は漸く収まる。

 

 

……水色のガシャット。それがゲンムの手元にあった。

 

 

「……神の恵みを、受け取れ」

 

『ガンバライジング!!』

 





Q「結局何があったのさ?」

A「バグスター状態のナーサリーを黎斗が取り込む」
 ↓
 「黎斗は体の主導権の半分を体内のナーサリーに渡す」
 ↓
 「ナーサリー・ゲンムの爆誕」
 ↓
 「マスター(ゲンム)の心が姿に反映されるナーサリーが体内にいるから、ゲンムが思った通りの姿になれる、と言うことになる」
 ↓
 「後々の負荷こそヤバイことになるが、ゲンムはイメージ通りの行動を行ってビーストⅣと交戦」
 
大体はこんな感じ


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幻の夢、無限の戦士

 

 

 

 

『ガンバライジング!!』

 

 

水色の閃光をガシャットが放つ。ビーストⅣは彼を警戒し攻撃を浴びせ、しかしゲンムは吹き飛ばされる事はなく。

 

 

〔どうせ一時の力、もう限界は近いだろう!!〕

 

   グシャッ

 

「んぐぅ……だが、まだまだ!!」

 

 

鳩尾に拳を受けながらゲンムはそう言って、ビーストⅣから数メートル後ろへ飛び退いた。

そして未だこちらを睨む獣と距離を取って、彼は着地する。

 

 

   ミシッ

 

「っ!! ……チッ、体の限界が近いか」

 

『ガッシューン』

 

 

着地する時に、全身の骨が軋んだ。いくらゲンムが不死身だとは言えども、結局ダメージは食らうのだ。

ゲンムは苛立たしげな声を出して、ガシャットをドライバーから引き抜いて。

 

 

「……本来はこうして使う訳ではないのだがな」

 

『ガッシャット!!』

 

 

そして。変身が解けゲンムの姿から戻るより早く、その空いたドライバーに……普段ならデンジャラスゾンビ以外入れない筈のそのスロットに、ガンバライジングガシャットを装填した。

 

 

「……変身!!」

 

『バグル アァップ』

 

『ライドバースト!! バーストブレイク!!』

 

『ジェノサァイ!!』

 

『ガンバガンバライジング!!』

 

『ウォー!!』

 

 

ゲンムの姿は変わらない。力も変わらない。速さも変わらない。ドライバーに装填しているのがデンジャラスゾンビでは無いのだから、寧ろ不死身性はゾンビゲーマー時のそれに比べると数段落ちていて。

 

それでもゲンムは笑う。意地でも笑う。

 

 

〔……何だ、それで何をした〕

 

「……私は神だ。ゴホッ……ゲームを作る神の才能を持っている」

 

〔……突然何を語るかと思えば、また恥の上塗りか〕

 

 

ゲンムは折れそうな足に鞭打ち、その場にしっかりと足を踏ん張る。意識はちょっと気を抜けば飛んでいきそうだが、そこをぐっと堪える。

彼の語りを聞きながらビーストⅣは顔をしかめ、黙って傍観に徹していたソロモンは、ゲンムをやはり見下していて。

 

 

「私は神だ……だが、それはあくまで、ゲーム作りに限ってだ。少なくとも私は、ゲホッ、私よりもアイデアに優れた者(宝生永夢)や、私よりも冷静沈着な者(鏡飛彩)や、私よりも覚悟を決めた者(花家大我)を知っている。非常に癪だが、一面から見れば現在の私よりも、ゴホゴホッ……強い存在を知っている」

 

〔……で?〕

 

「……私は神だが、彼らの存在を認めないほどに腐ってはいない。だからそれを、私の知る最強達を。()()()()()

 

 

 ガッシャット!!

 

 

〔……!?〕

 

 

ゲンムの前方から……何も無かった筈のそこから。突然音声が響いた。

ビーストⅣ、そしてソロモンはそちらを見やる。

 

しかし。そこにはやはり何もおらず、しかし確実に何者かの存在は感じられて。

その上で、他方からも何かが聞こえてくる。

 

 

 カメンライド!! サイクロン ジョーカー!! タカ!! トラ!! バッタ!! 3!! 2!! 1!!

 

 

「何だ……何だこの音は!! どこから聞こえてくる!!」

 

〔……まさか、貴様は!!〕

 

 

音が鳴っているのはゲンムの前だけではない。

()()()。人類を滅ぼし得る異形の存在二体を囲み込むように、無数の音声が轟いていく。辺りを見回せば、その全てから音が弾けている。

 

 

「ガハッ……教えてやろう」

 

 

 シャバドゥビタッチヘンシーン!! ソイヤッ!! オレンジ アームズ!! ドラァイブ!! タァイプ スピード!! バッチリミナー!! バッチリミナー!!

 

 

「……仮面ライダーの、連鎖召喚……それこそが、ガンバライジングガシャットの真髄」

 

 

音だけの存在が、ある瞬間を起点に、その全てが実体を持つ。

 

先程まで高らかに変身音声を掻き鳴らしていた者。そうでなくとも、確実に変身していた者。

全く違う姿の者、鏡写しのように同じ姿の者、色違いの者。

敵対する者、憎みあう者、信頼しあう者。

そして、ゲンムの前には三人の存在。

 

並ぶ、並ぶ、並ぶ。その数は軽く見積もってもまず確実に50は越える。

 

 

「馬鹿な、これだけの数の御使いだと!?」

 

「ゲホッ……御使いとは心外だな。……言っただろう? 彼らは」

 

 

 レッツゲーム!! メッチャゲーム!! ムッチャゲーム!! ワッチャネーム!?

 

 

現れるのは、焼き尽くされたこの世界には存在しない筈の英雄達。子供達に好かれ、そして守る者。

 

人間の夢と自由と平和を守り、彼らの正義を貫く戦士。

 

 

「彼らは、皆、仮面ライダーだ」

 

 

 アイムア カメンライダー!!

 

 

ゲンムの前で、三つの仮面ライダーが変身を終えた。

そう、仮面ライダーが、並んでいた。

 

 

〔まさか……まさか、全員貴様と同じ仮面ライダーだと!?〕

 

「ふっ……成程、カルデアのマスター、これがお前の切り札か。中々だが、しかし愚かだな。結局、数を幾ら重ねようと……!!」

 

 

嘲笑うソロモン。しかし彼らを囲む戦士達は決して怯まず。

何故なら……その力は無限。その勇気は無限。

……彼らを無条件に信じることが出来る、守るべきものが、焼けたこの世界にはいない誰かが、この世界にしてみれば最早あり得ない幻でしかない誰かが……しかし彼らの中にはいたのだから。そして……彼らはきっと助けを求めているから。

 

 

「ここは……?」

 

 

ゲンムレベル1と同じ体型、同じ髪型の戦士が呟いた。辺りを見回し……そして、眼前の二体が倒すべき敵なのだと認識する。

 

 

「……ゲンムか」

 

「貴様、説明しろ!!」

 

「……悪いが、今の敵はあの化け物だ」

 

 

水色と藍色のレベル1はゲンムに反応したが、指摘を受けるとすぐに目の前の敵対者に向き直る。

 

 

〔……行くぞ〕

 

「……ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

 

ビーストⅣに向かって、ゲンムの色違いはそう言った。そして、ドライバーのレバーを解放する。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』

 

 

世界の命運を決める戦いが、今ここに。

 

───

 

「あれは……サーヴァント、でしょうか?」

 

「いや、他分違う。平均して見るとその強さこそは一体一体がサーヴァントと同等、そのうちの幾らかはそれ以上のポテンシャルを持っているが……あれは寧ろ、檀黎斗の出すゲーマに近い」

 

 

ロマンとマシュは画面を食い入るように見つめながらそう言葉を交わした。画面の向こうでは、丁度ゲンムの色違いがビーストⅣの攻撃を回避していた。

……使い魔の超連続召喚。これまで沢山の予想外を引き起こしてきたゲンムだったが、まさかこんな事までやってのけるとは。

 

だが、見ているだけでゲンムの体にガタが来ていると言うことは伝わってきた。

ビーストⅣとソロモンに朗々と語っていながらも、彼は肩で息をし、定期的に……恐らく血でむせていた。

 

 

「……ドクター。私、やっぱり黎斗さんが分かりません」

 

「……そうだね」

 

「残酷で冷血漢で、人を殺しても何の躊躇いも見せず、仲間を道具と切り捨てて。なのにこんなときでも逃げ出さず、叫びながら身を削って相手に挑んでいく……分かりません。黎斗さんが、分かりません」

 

「……ボクもだよ。ボクには彼は信じる気に

はなれないが……それでも、こうして戦う彼には頼もしさを感じてしまう」

 

 

画面の向こうでは、ゲンムと、そして彼の呼び出した無数の仮面ライダーが戦っていた。

 

緑色をした、バッタみたいに跳ねる戦士がいた。赤いクワガタみたいな戦士もいれば、赤いカブトムシみたいな戦士もいて。隣に目を向ければ、数十秒毎に人格が変わる戦士もいた。

緑と黒の半分こ怪人は突然左右の境目をこじ開けるし、ルビーを彷彿とさせる宝石の頭の男はその体をダイヤモンドに置換する。

 

滅茶苦茶だった。

 

でも、マシュはそれを不快には思わなかった。

 

 

「……頑張れ、仮面ライダー」

 

 

思わずそう呟いていた。勿論、相手がフォウだったので、結局どうなっても辛いのだが……

 

……己の正義を掲げ人々の為戦っているのだろう彼らには、負けてほしくなかった。

 

───

 

 フル チャージ マキシマムドライブ!! オメガ シュート!! 

 

   ズガズガスガンッ

 

「がぁっ……!? ……予想外だな、ここまでの威力とは……」

 

 

ソロモンは、多くの魔神柱で仮面ライダー達をを凪ぎ払いながら、しかし全ての攻撃を防ぐことは出来ず、その土手っ腹に幾らか攻撃を受けた。

……正直な話、ソロモンにとっては、ただ第四特異点を攻略しようとする黎斗を脅しに来ただけのつもりだったが……それにしては、ビーストⅣや仮面ライダー達との戦闘で、痛すぎるダメージを負っていた。

 

そして、ビーストⅣとゲンムは未だに殴りあっている。

ゲンムは既にいつ倒れてもおかしくなかったが……それでもスペックをフル活用して意識を保つ。しかし持った強い意志を力に変換することで攻撃を受け止めていたゲンムは、だんだんと再びビーストⅣに圧倒され始めていた。

 

 

   グシャッ

 

「ぐふうっ……!!」

 

 

対するビーストⅣは、ゲンムを数メートル吹き飛ばし、辺りを見やった。

縦横無尽に駆け回る仮面ライダー達。その半数ほどは自分に武器を向けている。本来なら歯牙にもかけない程度のダメージではあったが……

 

 

 アタックライド スラッシュ!! ロイヤルストレートフラッシュ トリプル スキャニングチャージ!!

 

   ガギィンッ

 

〔ぐぅっ……ははっ、檀黎斗、これが、お前にとっての美しいものか!!〕

 

「そんな訳が無いだろう!! この世で最も『美しい』物は私の才能に決まっている!! だが……私は彼らにも目を置いている、それだけだ!!」

 

 

攻撃をその尻尾でどうにか受け流すビーストⅣ、そしてそれに吠えるゲンム。不死身の彼は、しかし既にボロボロだった。顔面は凹み、バイザーは砕け散り、腕は既に複雑骨折に近い。

 

だが。

 

 

〔……何時まで立つつもりだ?〕

 

「決まりきった事を……お前達が倒れるまでだ!! 私は、何としてでも、このゲーム(人理焼却)をクリアする!!」

 

〔……何故?〕

 

「私の才能を腐らせないため……そして、私の恵みを受ける全てのプレーヤーの為!! そう、私こそが!! 誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

 

ゲンムが叫ぶ。それどころか、体内のバグスター(サーヴァント)の力を引き出し、再び全身に力を籠める。

本来、体の形を保っているのが精一杯の筈の彼のどこにそんな力があったのか、それは誰も知りようが無いが……

 

……それでも。腐っても彼もまた、人間の為に戦う人間(仮面ライダー)だった。

 

 

『クリティカル エンド!!』

 

「はあっ!!」

 

 

ビーストⅣとソロモンを囲んだ体制のまま一斉に飛び上がるゲンム、そして無数の仮面ライダー達。

 

 

「くっ……まさかお前にここまでやられるとはな檀黎斗!!」

 

〔……そうか、これが仮面ライダー(お前の正義)か……はは、成程な。これはこれで、また、美しい……かもな〕

 

 

ビーストⅣはどこか達観したような、満足した顔でそれを受け入れようとし、そしてソロモンは魔神柱で壁を作って防御を固める。

 

そして、全ての仮面ライダーが、全方位から、最高の威力で。

 

人間の敵を貫いた。

 

 

「「「「「はああああああああああああ!!」」」」」

 

   ズギャアンッ

 

〔……ああ、少し……安心した〕

 

 

……敵の中から出てきたのは、ゲンムだけだった。ガンバライジングガシャットは無理な使用の影響だろう、既に腐敗してしまっている。きっと二度とそのままには使えないだろう。

 

ゲンムは敵を仰ぎ見た。

……ソロモンはいつの間にかいなくなっていて、そして。

 

 

〔……頼むよ、カルデアの善き人々。全ての人間に、自由と平和を……〕

 

 

……そしてビーストⅣは光に呑まれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

 

「……うん、聖杯回収完了だね。今から戻ってきてもらうよ」

 

 

ロマンが通信でそう言いながら、キーボードを叩いている。ロンドンの異常は、こうして解決した。……マシュはその隣で俯いてはいたが、流していた涙はもう止まっていた。

 

 

「フォウさん……」

 

「……マシュ。彼は……最後は、少し笑っていたよ」

 

「……はい」

 

 

マシュはそうとだけ返事をして、席を立とうとした。ロンドンから戻ってきたであろう黎斗を今度こそ……

 

 

「お、おお、お、おい!! 誰か、誰か!!」

 

「!? どうしましたかミスター・ムニエル!?」

 

 

コフィンの方から、担当職員の悲鳴が響く。

マシュは慌てて駆け出し、コフィンの内部を覗いて……そして、絶句した。

 

 

「……えっ?」

 

 

コフィン内の黎斗は。

 

大破していた。

 

文字通りの大破……骨はあらぬ方向に折れ曲がり、全身から血が吹き出している。

 

ゲンムであったときには、その不死身性でもって体の形を保ってこそいたが……今の彼は、言ってしまえば、呼吸する肉塊に近かった。

 

 

「黎斗さん!? 黎斗さん!?」

 

「が、あがぁっ……!?」

 

 

声を出すのも儘ならないのだろう、黎斗は唸ることすらろくに出来なかった。

 

人の身で一瞬でも人類悪に肉薄したのが原因か、もしくはゲーム病の状態で戦闘したのが障ったのか……いや、おそらく、単純にビーストⅣの攻撃で破壊されていた、という事なのだろう。

 

元々死者であった彼だが、その体すらも、最早灰に還ろうとしていた。そしてその意識は、既に何処かに失せていて。

 

 

定礎復元。

 

マスター、重症。

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……問おう、カルデアのマスター……人を羨んだ事はあるか?」

 

「……」

 

 

黎斗は意識を取り戻す。見たことの無い空間で。

己は闇の中にいた。そして、何処からか声が聞こえた。

 

 

「他者に己に無い才能を見出だし、その事実に狂ったことは? 己では届かない領域の存在を妬んだことは?」

 

「……当然、あるに決まっているだろう?」

 

 

そう答えれば、声の主は愉快そうに笑う。

 

 

「ハハ、クハハハハ!! ……やはりお前は、とんでもない奴だ。面白い……ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を関する監獄塔!! そして俺は……」

 

「……エドモン・ダンテス、だろう?」

 

 

監獄塔に復讐鬼は哭く。そして、死体も。




出番のほぼ無い既存ライダーs
まあ仕方無いね

誰も他ライダーに出番が無いとは言っていない


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監獄塔に神は哭く
監獄を歩く嫉妬の産物


 

 

 

 

 

   ピッ  ピッ  ピッ

 

「ああもう、こう言うのは苦手なんだけど……やるっきゃない!!」

 

 

カルデア内に急遽作られた手術室。ロマンはそこに立って一頻り頭を掻きむしった後、寝台に寝かせられた瀕死の黎斗に向き合った。

 

意識も生気も見られない彼だが、少なくともマスターがいないことには人理修復は成らないのだ……彼の双腕に世界が懸かっていた。

 

 

「これより檀黎斗の修復手術を行う!! メス!!」

 

───

 

「エドモン・ダンテス……だろう?」

 

「……違う」

 

 

監獄塔の中で、黎斗は男の名前を予測し、告げた。

その言葉に男は首を横に振り、そして黎斗はその行動に疑問を覚える。

 

 

「……シャトー・ディフという単語が出た時点でお前以外は考えられなかったが?」

 

「否、否、否!! それは無辜の罪にて投獄された哀れな男の名!! そして恩讐の彼方にて、奇跡と呼ぶべき愛によって救われた男であり……」

 

 

黎斗の推測に、男は怒りを含んだ声で叫ぶ。その訴えに、黎斗は否応なく暫く考え込む様子を見せた。

そして男は続ける。

 

 

「決してこのオレではない。オレは英霊、悲しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けた故にエクストラクラスを以て現界せし者。……アヴェンジャー。アヴェンジャーと呼べ」

 

「……分かった、済まなかったなアヴェンジャー」

 

「……案外素直に聞き入れるのだな」

 

「気持ちは分かるさ。私とて、黒いエグゼイドと呼ばれるより、普通にゲンムと呼ばれたい」

 

「……」

 

 

そうでは無いのだが、そういうことでは無いのだが……そんな曖昧な表情で沈黙したアヴェンジャーは、しかし彼を伴って歩き始めた。それが仕事だと言わんばかりに。

 

 

「……ついてこい」

 

───

 

「……終わったよ、マシュ」

 

「黎斗さんは……?」

 

「一応、命はとりとめた。でもまず、暫く変身は無理だろう。」

 

 

手術室から出てきたロマンは、駆け寄ったマシュに結果を伝える。

意識不明、戦闘力喪失。あまり芳しい結果とは言えないが、命はあるからましだと言うもの。

 

 

「……まあ、ここまでかなりのスピードで特異点を攻略してきたから、割と時間が余っているのが不幸中の幸いだね」

 

「そうですね。……黎斗さんが寝ている間に強くなってみせます」

 

「そのいきだ、頑張ろうマシュ」

 

 

マシュは意気込んでいた。黎斗との日々が、彼女のメンタルをかなり鍛えていた。

 

……そんな会話をしている二人の近くに、今日の今日までずっと工房に引きこもっていた存在が一人。

 

 

「フッフッフッ……そんなマシュちゃんにプレゼントをあげよう!!」

 

「「……誰だっけ」」

 

───

 

「死なぬ限り……ああ、お前は死んでいたか。……お前がお前でいられる限り、お前は多くを知るだろう。だが、オレは教えるつもりは無い」

 

「教えを乞うつもりは無い」

 

 

監獄塔の亡霊達を退けながら、黎斗はアヴェンジャーに連れられ歩いていた。

本来なら全て黎斗が変身して蹴散らしていたのだろうそれらは、しかし変身能力を無くした黎斗には明確な脅威で。彼は仕方無くアヴェンジャーに守られていた。

 

 

 

「そう言うと思ったさ。オレはオレの気の向くままお前を翻弄するまで」

 

「……成程な。さて、お前は私を何処かに案内しているが、どう翻弄してくれるんだい?」

 

「……最低限の解説はしてやろう」

 

 

首を傾げた黎斗にアヴェンジャーはそう言い、手短に説明を開始する。

……次のような内容だった。

 

黎斗の魂は囚われていること。

脱出には七つの『裁きの間』を超える必要があること。

カルデアとは通信できないこと。

裁きの間で負けても、何もせずに七日経っても、檀黎斗の意識は消滅すること。

 

 

「……それだけか?」

 

「……それだけだ。あぁ、一応言うが、ここの壁の破壊は不可能だぞ? 魔術の王がそう加工した。……あいつはかなり手酷くやられたらしいな。お前は何でもやりかねないから全てに対策をしなければならない、と言っていたぞ」

 

「それはいいな」

 

「あいつは言っていた。お前がいくらその姿を変えられようと、魂だけになってしまえばどんな装備も意味を成さない、と。試しに聞くが……今、どんな気分だ?」

 

 

そう投げ掛けるアヴェンジャー。彼としては、黎斗はかなり怯えていると考えていたが。

 

彼は割と平然としていた。しかも何か余所事を考えているようにすら見える。

 

 

「今の気分……? 正直な話、全く不安は感じないな。というか……ちょっといいか?」

 

「何だ?」

 

「漸くイメージが固まった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の思考がやっと終わる」

 

 

そうとだけ言い、黎斗は壁にもたれ、ゆっくりと息を吐く。

 

 

「は?」

 

「ふぅ~……」

 

 

すると。彼の体から無数のオレンジ色の粒子が吹き出してきて、そして……人の形を取った。

 

 

「……はー!! やっと解放してくれたわねマスター!!」

 

「!?」

 

「あ、ちゃんと(アリス)になってるわ!! すごいわ!!」

 

「ふっ、神にしてみれば容易な仕事だった」

 

 

現れたのは、ロンドンにて黎斗が自分に感染させたバグスター……自称アリス、真名をナーサリー・ライム。

彼女は久々に得た己の体を楽しみながら、監獄塔にて走り回る。

 

アヴェンジャーはその姿に一瞬呆気に取られ……そして、笑った。

 

 

「ハ、ハハ……クハハハハ!! まさか、まさかこの監獄塔に童女をつれてくるか!! この規格外め!! 魔術の王の言った通りのイカれた野郎だ!!」

 

「クリエイターとは、他には理解されないものなのだよアヴェンジャー。きっと文化人のサーヴァントがいるなら、皆イカれているに決まっている」

 

 

そう言って、再びアヴェンジャーに案内を促す黎斗。歩いている監獄塔の道は、一歩毎にますます暗くなる。

それでも黎斗は臆することなく、ただ歩いていた。

 

───

 

「「……誰だっけ」」

 

「酷いなあ!? ダ・ヴィンチちゃんだよダ・ヴィンチ!!」

 

 

ロマンとマシュの前に現れたのは、モナリザを彷彿とさせる容貌の女のようなナニカだった。

 

 

「……ずっと工房に閉じ籠って何してたんだい?」

 

「フッフー……よくぞ聞いてくれました!!」

 

 

そう言って彼女は……後ろ手に持っていた()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 

「それ、は?」

 

「……檀黎斗は強敵だった。彼の神の才能は確かに本物だった。ダ・ヴィンチちゃんが言うんだから間違いない。でも……とうとう理解したよ!! ガシャットとバグヴァイザーの全てを!! そして……私なりに新作を作った」

 

「その、新作が……それ?」

 

 

そのバグヴァイザー擬きをマシュは覗きこむ。

メタリックなシルバーのボディに、ガシャット二本分のサイズのスロット、そして赤青緑の三色のボタンがついていたのが目についた。

 

 

「うん。名付けて、『ガシャコンバグヴァイザー L(レオナルド)D()V(ヴィンチ)』!!」

 

───

 

監獄塔を歩き続けて数時間。

アヴェンジャーは突如現れた部屋の扉を開けた。

ギ、ギと重い音がする。中に入るものを拒むように……しかし、三人は止まらない。

 

 

「さあ、第一の裁きの間だ。七騎の支配者がお前を待つ……誰も彼も、お前に会いたがっていたぞ」

 

「人気が出るのは良いことだ、ゲームにしろ、その作り手にしろな」

 

 

中に入ると、アヴェンジャーが語り始めた。黎斗は彼の言葉に返事を入れる。

 

 

「そうか。……例えそれがお前を殺そうとしていても?」

 

「殺し愛、なんてものもあるらしいぞ?」

 

 

黎斗がそう嘯くと、アヴェンジャーは肩を竦めた。そして、何者かのシルエットが浮かんでいる部屋の中に目を向ける。

 

 

「……さて、第一の支配者は……才能を求め、醜きもの全てを憎み、嫉妬の罪を以てお前を襲う化け物……ファントム・オブ・ジ・オペラ!!」

 

「……ほう」

 

 

その名は、黎斗にとっては割と身近なものになりつつあった物だった。

今日か昨日か、少なくともほんの少し前まで、ロンドンでビーストⅣに殺されるまで仲間だった存在。

 

彼が、裁きの間の中に立っていた。

 

 

「……久しいな……というには、流石に早すぎるか、ファントム」

 

 

鋭い爪。仮面に隠された顔。唄うような言葉。それらが一度に、黎斗に向けられる。

 

 

「クロスティーヌ……クロスティーヌ、クリスティーヌ、クロスティーヌ!! 我が同胞、我が同士!!」

 

「先程は、死なせてしまって済まなかったなファントム。だが……」

 

 

黎斗には、ファントムは狂乱に身を委ねているようにも、冷酷な感情を無理に高めているようにも見えた。

取り合えず……黎斗とクリスティーヌ、二つの存在の区別もつかない程には、彼は既にイカれていた。

 

 

「ああ妬ましい!! 妬ましい!! 神に恵まれた才能が妬ましい!! その声、そのセンス、その才、全て全て私の理想!! ああ妬ましい!!」

 

   シュッ

 

 

叫びながら黎斗へと飛びかかるファントム。それを阻むはアヴェンジャーとナーサリー。

 

 

   ガキンッ

 

「もう!! 乱暴はメッ、よ!!」

 

「ははは!! こいつはお前を殺そうとする化け物だと言った!! 例え先程まで轡を並べていようとそれは変わらない!!」

 

「我が顔を見るなクロスティーヌ、クリスティーヌ、いや、それ以外の誰であろうと、私は、私は許さない」

 

 

阻まれながらも唄うファントム。かれの口を突き動かすのは、嘆きか、それとも苦しみか。

 

 

「クロスティーヌ、我が主、クリスティーヌ、我が愛。ああ、その喉に爪を立てさせておくれ、引き裂いて赤い色を見せておくれ」

 

「この人怖いわマスター!!」

 

「クハハハ!! この監獄塔に優しい人がいると思うか童女よ!!」

 

 

「残念だったな、ファントム……お前の望みは果たされない」

 

 

二つの味方の向こうへと、黎斗はそう返事を飛ばした。ファントムにその言葉が届いたかは微妙な所だが……

 

……突然彼は飛び退いて、敵対者から距離を取る。

懐から何かを取り出しながら。

 

 

「……ああ、クロスティーヌ。私は、あまねく全ての人々が、妬ましい!!」

 

『ドレミファ ビート!!』

 

「!?」

 

 

ファントムの懐から、モノクロの物体が顔を出した。それは元々彼には無かったもの。

プロトドレミファビートガシャット(黎斗の才能の欠片)

 

 

「何故だ……?」

 

「……成程、ファントムは余程、お前との旅を喜んでいたらしい。サーヴァントは、現界時の記憶をある程度持ち帰るが……まさか、まさかお前の装備を持ち帰るとは!!」

 

 

笑うアヴェンジャー。ファントムは胸にガシャットを突き立て、その両肩や背中に沢山のパイプを生やす。

 

黎斗は一瞬逡巡し……そして、顔を怒りに歪めて彼に怒鳴った。

 

 

「……お前が私の才能を喜ぶのは私としても喜ばしいが……だがあえて私は言おう。私以外の存在が、ガシャットを作ることは許さない!!」

 

「ははは!! お前もまた嫉妬の具現か、檀黎斗!! 良いぞ、良い!! さあオレの手を取れ!! あれに、死の舞踏を見せてやる!!」

 

「……出来れば、楽しい舞踏会が良いのだけれど」

 

───

 

『それじゃあ、変身してね。やり方は……分かるよね?』

 

「はい!!」

 

 

マシュは訓練室に一人立っていた。その腰には、黎斗に惨敗した……まだ一週間も経っていない、それでもとても遠いものに思えた過去のあの日のように、バグスターバックルが巻かれていて。

 

 

「……じゃあ、行きます」

 

『ガッチョーン』

 

 

腰につけると、ダ・ヴィンチの声が響いた。どうやら自分で録音していたらしい。

 

 

『取りあえず、変身にガシャットはいらない。腰につけたら、変身ボタンを押すんだ』

 

「……変身します!!」

 

 

変身ボタンを押し込む。マシュの体は一瞬浮遊感に包まれ、そして。

 

 

『Transform・Shielder』

 

───

 

地獄にこそ響け我がラブソング(ドレミファ・クリスティーヌ)!!」

 

 

地面から、ファントムを中心にして無数のパイプが生えてきた。そしてそれと同時に重苦しい音楽を放つ。

 

 

   ブォオォォンッッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

ナーサリーが吹き飛ばされ、黎斗のもとまで転がってきた。ただの音であるはずのそれは、ガシャットの効果が上乗せされたのだろうか、質量すら持っているように感じられる。

しかし、アヴェンジャーは耐えていた。しかも、歯を剥いて笑っている。

 

 

「……見ていろ檀黎斗。あいつに慈悲無き復讐を見せてやる」

 

 

轟音の中で、しかしはっきりと声が聞こえた。そして次の瞬間には。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

   ズバンッ

 

 

それは時間、空間すら脱獄してのける精神力の賜物。超高速思考を肉体に反映させる離れ業。

アヴェンジャー、エドモン・ダンテスは、宝具名を叫んだ次の瞬間には、演奏を続けていたファントムの胴に拳を貫き通していた。

 

 

「……!?」

 

 

ガシャットが体から抜け落ち、力なく倒れるファントム。アヴェンジャーは彼に言う。

 

 

「脆い、脆いな……醜き殺人者。お前はシャトー・ディフには哀しすぎる!!」

 

「……おお、クロスティーヌ、我が友。……おお、クロスティーヌ、我が輝き。……おお、クロスティーヌ、貴方との日々は、忘れない……」

 

 

アヴェンジャーと入れ替わるように、倒れ伏したファントムの側に黎斗は歩み寄った。

……既に彼の元サーヴァントは、爪先から消え始めている。

 

 

「……そうだな。お前は、失うには惜しい道具だった」

 

「……ふふっ。これで、我が唄も、終演(おしまい)ですね……」

 

 

そうとだけ言い、ファントムは完全に消滅した。

 

 

「……チッ。嫉妬を見届けようと思ったが、これでは中々に興醒めだ」

 

「まあ!! 切ないシーンに水を差すなんて、悪いおじ様ね」

 

 

遠巻きに見ていたアヴェンジャーは舌を打った。それを咎めるナーサリーは、彼がこちらに歩いてきているのを確認する。

 

 

「……嫉妬成分が足りないか? なら、私が話をしてやろう。己の才能を信じ、そして他者に敗北し嫉妬を覚え、拙いながらに凶悪な復讐を行った少年の話だ」

 

「……聞いてやろう」

 

 

唐突に、黎斗はそう語り始めた。語り出しは上々、アヴェンジャーは簡単に興味を持つ。

 

 

「その少年は、あることにかけては随一の腕を持っていた。自他共に、それは神の才能だと認めていた」

 

「ほう? ……誰の話か、容易に想像がつくな」

 

「だろうな。……神の才能を持った少年は、多くの人気を勝ち取っていた。それは少年のモチベーションを向上させる重要なファクターだった」

 

 

それはとある男の昔話。夢を追う男の妄執の始まり。

余程思い入れがあるのだろう、言葉を紡ぐ度に、語り手の、黎斗の声量は大きくなっていく。

 

 

「……ある日、少年より幼い子供から、ファンレターと共に、よりにもよって少年の誇っていた分野についてのアイデアが送られてきた!!」

 

「……それで?」

 

「少年は絶望した!! そのアイデアは、己のものには無い輝きを持っていた!! そして少年は嫉妬し、妬ましく思った!! ……そして。その子供を実験台にした」

 

「……子供はどうなった?」

 

「彼は数奇な運命に振り回される。これまでも、これからも!! そして少年は……永遠に、彼を妬み、そして殺そうとするのだ!!」

 

 

……そこまで言い、黎斗は大きく息を吐いた。

纏めてしまえば、たった数行の短いテキスト。それが男の根幹に未だ残っているとはなんたる皮肉か。

 

最後の纏めを黎斗は語る。

 

 

「……今は大人になったその少年の持論だが。嫉妬は悪ではない。……それは嫉妬を覚えた己の才を刺激し、そして新たなるステージへと誘ってくれる」

 

「故に、嫉妬は悪ではない、と?」

 

「そうだ。覚えた嫉妬、抱いた苦しみ、そしてその果てに行った理不尽な復讐!! それらは……嫉妬を抱いた人間( 檀黎斗 )の糧となった」

 

 

……そして。全てを聞いて、復讐の権化は、やはり笑った。

 

 

「はは、はははははははは!! 成程な。芝居としては二流だが、だがいい!! 誇れ当時少年だった者よ!! 誇りと妬みを持って、しかし笑え!! お前こそが人間だ!!」

 




全話PV数が96100(クロトォ)を超えたのでサーヴァントを増やします。
皆さんから募集したいので、詳しくは活動報告にどうぞ


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私だって特訓してますからね先輩!!

 

 

 

 

「さて、第二の裁きの間へと向かうぞ。……分からないだろうが、お前の肉体と魂がこうしている間にも乖離していっている。まだ消えたくなければ、裁きの間を越える他無いぞ」

 

「元からそのつもりだ。行くぞ、ついてこいナーサリー」

 

「はーい」

 

 

アヴェンジャーは、黎斗とナーサリーを引き連れ歩き始めた。

昨日と全く変わらぬ監獄を歩く三人。空気は湿っていてどこか鉄臭い。どこからか悲鳴も聞こえるが、それがこのシャトー・ディフなのだろう。

 

アヴェンジャーは歩みを進めながら、唐突にこう切り出した。

 

 

「……劣情を抱いたコトはあるか?」

 

「無いな」

 

「」

 

 

そして絶句した。予想外の返答を直ぐ様黎斗は彼に返していた。

 

 

「……一箇の人格として成立する他者に対し、肉体に触れたいと願った経験は? 理性と知性を敢えて己の外に置き、獣のごとき衝動に身を委ねた経験は?」

 

「無いな、無い。三次元の肉などに興味は無い。そもそも、色欲など健全なゲームの妨げにしかならないものだ。あれはプレーヤーを知性無き猿に変えてしまう」

 

「……」

 

「抜きゲーやらエロゲーなどもあるにはあるが……あんなものは邪道だ。私はあんなものに迎合するつもりはない」

 

 

こいつ、色欲を投げ棄てている……アヴェンジャーは呆れるというか寧ろ彼を変な意味で尊敬までした。

目の前でぶつくさと文句を垂れる彼は、真の意味で全く女に興味が無かったのだ。

 

 

「当然、色欲は人間……プレーヤーを増やすのには必要な欲だろう、否定はしないとも。しかし私は全く色欲を必要とはしないさ」

 

「……今回の敵は色欲を司る。行くぞ」

 

 

アヴェンジャーは何だか疲れてきたのでその思考を放棄して、裁きの間の扉を開けた。

 

───

 

今日も今日とて、マシュは得た力を使いこなせるように努力していた。

変身してからの基本動作は慣れたから、今日はダ・ヴィンチを相手に実践練習である。

 

 

「うん、じゃあ実践してみようか。変身して」

 

「はい!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Transform Shielder』

 

 

電源一つで、マシュの体が組み替えられる。バグヴァイザーの力で彼女は変身していく。

 

彼女の中にあったのは、黎斗を圧倒し、そして人理を救う。それだけだった。

単純な思考回路。それは寧ろ彼女を強くする。

 

 

「……変身完了、だね。マシュ……いや、仮面ライダーシールダー」

 

「ですね」

 

「じゃあまずは、好きなように攻撃してきていいよ。そこから修正していこう」

 

「……はい!!」

 

 

目の前のダ・ヴィンチをしっかりと見据えながら、マシュ……いや、仮面ライダーシールダーはバグヴァイザーL・D・Sの使い方を思い出した。

 

まず彼女は、ドライバーの左にある赤いボタンを軽くタップし、盾を構えて飛び込んだ。

 

 

『Buster chain』

 

「はあああっ!!」

 

   ガンッ ガンガンッ ガンッ  ズドンッ

 

 

相変わらず主武装である盾を振り回し、質量兵器として扱う。その重みでもってダ・ヴィンチにダメージを与えようと彼女は考えた。

振り上げ、降り下ろす。押し付ける、押し潰す。一つ一つは単純な動作、しかしそれらは格段にパワーアップしていて。

 

効果はあったようで、ダ・ヴィンチは数歩後ずさって苦笑いを浮かべた。

 

 

「ひゅー、痛いなあ。流石私!! さあ、どんどんいくよ!!」

 

「望むところです!!」

 

───

 

「……ふぅ。戦闘終了、だな」

 

「やったわねマスター!!」

 

「……第二の裁きの間、簡単に乗り越えたなお前……」

 

「色欲など、私にとって既に排除された物だ。そんなものでは私の魂は傷つかない」

 

 

ドリルを持った色欲の具現を、黎斗は何の感慨もなく排除させた。

黎斗は仮面ライダーだったが、同時に経営者でもある……他人に効率のよい指示を出すのは割と得意だった。

 

 

「にしても、何だかすっきりしたな。一度色欲という概念を殺してみたかったんだ」

 

「……何故?」

 

「不快だからな。かつてポッピーピポパポの不埒な画像を見つけてしまった時には、うっかり書き手の名前や住所まで特定して全国に晒す位には不快感を感じた」

 

「……そうか」

 

 

そう語る彼は飄々としていて。

……アヴェンジャーとしては、七つの大罪に溺れ悩む姿を期待していたのだが。彼はかなり、いやアヴェンジャーの知る誰よりも非人間的だった。かの魔術王よりもだ。

 

 

「……明日は怠惰の具現が相手だ。さっさと戻るぞ」

 

 

昨日までは黎斗は実に人間的だと思っていた。でも、アヴェンジャーにはだんだん彼が理解不明を極めていくように思えた。

 

───

 

「そーれっ!!」

 

   ガンッ

 

「ぐうっ……行きます!!」

 

 

ダ・ヴィンチと交戦中のシールダー。彼女はダ・ヴィンチの盾の隙間を狙っての攻撃を受けながら、しかし倒れずドライバーの右側の緑のボタンを何度も叩く。

 

 

『Quick brave chain』

 

「はあっ!!」

 

 

シールダーが一瞬、緑の光を纏う。そしてその光を纏ったまま、彼女はダ・ヴィンチに肉薄し、盾に重心を移して何度も蹴りを入れたり、盾を縦に回転させたり等して、素早い連撃を浴びせかけた。

 

 

「くうっ……やってくれたね!!」

 

   ズドンッ

 

 

ダ・ヴィンチが反撃と言わんばかりにロケットパンチを撃ち込んでくる。

シールダーはそれを盾で受け止め、高く飛び上がって距離を取った。

 

デミ・サーヴァントであったときには、出来ない事だった。彼女は、確実に強くなっていた。

 

 

「さあ、最後のテストだ!! 」

 

 

ダ・ヴィンチはシールダーの成長に顔を興奮に輝かせながら、その手をシールダーに向かって伸ばし、言葉を紡ぐ。

 

 

「東方の三博士、北欧の大神、知恵の果実……我が叡智、我が万能は、あらゆる叡智を凌駕する」

 

「……!!」

 

万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)!!」

 

 

ダ・ヴィンチから、光の弾が打ち出された。一目で、物凄いエネルギーを秘めていると見抜けた。

それに相対するシールダーは、ドライバーの右側と左側の、緑と赤のボタンを素早く叩き、その盾を大地に突き刺し握りしめた。

 

 

「防ぎます!!」

 

『noble phantasm』

 

人工宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 

光の壁が展開される。バグヴァイザーの力で強化された、人間に加工されたその宝具の名は、人理の礎(カルデアス)

その壁の前に、ダ・ヴィンチから打ち出された光の弾が激突し。

 

 

   ズドォォォオオオオオオオオオオオンッ

 

───

 

「……ふぅ、お疲れ様」

 

「お疲れ様です……!!」

 

 

戦闘は終わった。結果は、マシュは吹き飛びながらも無傷、という物だった。

私の敵は私の才能だね、なんてダ・ヴィンチが呟く。マシュはそれに対して苦笑いを返しながら、彼と並んで歩き始めた。

 

 

「実は、サーヴァント召喚の準備が整ったんだ。一つ引いていかないかいマシュ?」

 

 

唐突に彼は切り出した。マシュは一瞬戸惑い、そして何の事かを理解する。

新しい仲間。次はきっとまともな仲間。それへの期待が、マシュの中で膨らんだ。

 

 

「いいんですか!? ……でも、黎斗さんは……」

 

「大丈夫大丈夫、取り合えず体があればサーヴァントは呼べるし、彼の分も取っておいてあるさ」

 

 

ダ・ヴィンチはそう言いながら、マシュを召喚用の部屋へと連れ込む。

彼は直ぐ様キーボードを叩き召喚の準備を済ませ、いつの間にか連れてきた昏睡状態の黎斗を召喚台の近くに添えて、そして召喚を開始した。」

 

 

「じゃあ、いっくよー!!」

 

「お願いしますお願いしますお願いします」

 

 

光が満ちる。前はさんざんなメンバーが呼ばれてしまったが、せめて今度こそ女性、いや、まともなサーヴァントが来てほしい……!!

 

マシュの心臓がバクバク鳴っている。下手すれば今にも割れそうだ。

光は未だに回転していて……

 

 

『悪いね二人とも!! 侵入者だ!!』

 

「「!?」」

 

『恐らく別位相からの直接の接触だ!! とにかく迎撃を!!』

 

「はっ、はい!!」

 

 

突然ロマンからそう通信が入った。

侵入者なんて、今までに無かった事だ。

……召喚の機械から金色の光が漏れているのが見えた。マシュは非常に後ろ髪を引かれる思いをしながらも、扉を開けようとする。

 

 

   ノッブー!! ノッブノッブ

 

「……ん?」

 

「……なんか、なんか私凄くこの扉開けたくないんですけど、開けたら大変な事になりそうなんですけど」

 

「いや、侵入者だから。迎撃しないと不味いから」

 

 

扉を開けると、そこには──

 




仮面ライダーシールダー

身長 160cm
体重 49㎏
パンチ力 20t
キック力 19t
100メートル走 6秒

見た目のイメージ
仮面ライダーポッピーをサーヴァント状態のマシュっぽく塗り替えた感じ
作者は画力/zeroなため挿絵は書けません


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怠惰に沈める狂人

 

 

 

 

 

マシュとダ・ヴィンチは、寝たきりの黎斗と召喚されかけの新しいサーヴァントを放置して、侵入者の対処に追われていた。

 

 

「侵入者の反応は確かにこの辺りですよねダ・ヴィンチちゃん?」

 

「うん、そうだけど……っ!! マシュ、後ろ!!」

 

「!?」

 

   ガキンッ

 

 

ダ・ヴィンチの声で、マシュが素早く振り替える。丁度、何者かが彼女に攻撃を仕掛けてきていた。

マシュはその何者かを盾で弾き返し、侵入者の正体を見る。

 

 

「ノブノブー!!」

 

「!?!?!?」

 

 

ちっちゃいヒトガタの怪生物。

というか、三頭身位にデフォルメされた4コマのキャラ。

 

 

「なぁにこれぇ」

 

 

思わずマシュは呟いた。まあ仕方あるまい。

呆けるマシュを援護しながら、ダ・ヴィンチは声をかけた。

 

 

「気を付けてよマシュ、こいつらこう見えて、戦闘力はなかなか高い。変身するんだ!!」

 

「あっ、はい!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Transform Shielder』

 

 

腰にバグヴァイザーを装備し変身するシールダー。辺りの怪生物は一瞬怯むが、その直後にそれを物珍しそうに見つめ、そして物欲をその目に映し出した。

 

 

「ノブノブー!!」

 

「ノッブー!!」

 

「行きます!!」

 

 

シールダーは駆け出す。バグヴァイザーを奪おうとする怪生物を打ち払いながら出現元を潰しにいく。

 

向こう側に見慣れぬピンク髪と黒髪が見えた。

 

───

 

「マスター!! 起きてよマスター!!」ユッサユッサ

 

「……起きてはいるが、お前が乗っていると立てないだろう?」

 

「あっ」

 

 

その頃、監獄塔にて。三日目の朝を迎えた黎斗は、ナーサリーに馬乗りになられ唸っていた。酷い寝覚めである。

 

アヴェンジャーはそんな黎斗を一歩引いて見つめていた。

 

 

「おはようアヴェンジャー。いい朝だな」

 

「皮肉とするなら中々だな、我が仮初めのマスターよ……さて、今日は第三の裁きの間を攻略するぞ」

 

 

アヴェンジャーはそう言い、さっさと二人を連れ出す。

本来なら相手に皮肉の三つや四つでも語っていたであろう彼は、しかし黎斗相手にそうする事も出来ず、仕方がないのでこう問った。

 

 

「……怠惰を貪った事はあるか」

 

「無いな。少なくとも、私が己の神の才能を知った時からは皆無だ」

 

 

返答に面喰らうアヴェンジャー。……しかしここで彼の異常性に追従し引き下がったら復讐者の沽券に関わるというもの。彼はこう続ける。

 

 

「……成し遂げるべき数々の事を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は? 社会を構成する歯車ではなく、己が快楽を求む個として振る舞った事は?」

 

 

その質問に黎斗はやはり即答しようとし、しかし思い止まって顎に手をやった。

そして暫く唸ってから、目の前のアヴェンジャーに答える。

 

 

「ふむ……いや、ともすれば、私にもあるかもな、怠惰。私は私の才能をフル活用しようと努力しているが、それが社会に真の意味で求められる歯車か……と問われれば、私は首を横に振るだろう」

 

「成る程な。……行くならさっさと行くぞ、こうしている間にも肉体と魂の乖離が進んでいる」

 

───

 

マシュとダ・ヴィンチ、そして先程怪生物を撃退するのに協力してくれたピンク髪と黒髪……そして妙に物腰の低い見知らぬ誰かが、召喚の部屋からベビーカーに乗せて連れてきてくれた昏睡状態の黎斗が、おそらく日本であろうどこかにやって来ていた。

 

 

「レイシフト、終了ですが……ここ何処でしょう」

 

「どうやら帝都聖杯の暴走で別位相に異空間を形成してしまったようじゃな……」

 

 

そう語る長い黒髪に軍服の女性、彼女は自称魔人アーチャーと名乗っていた。服からしてドイツ系だろうか。

 

黎斗を乗せたベビーカーを弄りながら聞き耳を立てていたダ・ヴィンチが、魔人アーチャーの言葉に反応する。

 

 

「聖杯の暴走だって?」

 

「はい、私達の世界の聖杯戦争ですが、願望機である聖杯をいじくり回した結果、暴走してしまいまして……」

 

「で、巻き込まれたわしの潜在意識を形どって現実を侵食し始めた、という訳じゃ」

 

 

魔人アーチャーとはうってかわって申し訳無さげに言うピンク髪で和服の彼女は自称桜セイバー。ダ・ヴィンチは彼女の言葉を聞いて感心した様子を見せた。

 

 

「ふーむ……聖杯ってそんなこともあるのか、面白いね」

 

「ダ・ヴィンチちゃん回収した聖杯を改造しようとか思ってないですよね? ね? ……取り合えず、特異点の中心地に向かいましょうか」

 

「そうですね、なし崩し気味ですみませんが、お願いします」

 

「うむ、それでは行くぞ、いざ天下布武!!」

 

───

 

暫く歩いていた一行は突然足を止めた。

理由は言うまでもない、第三の裁きの間についたからだ。

 

 

「……さて、そろそろ第三の裁きの間だ」

 

 

アヴェンジャーはそう言って扉を開いた。

やはり、ギギと重苦しく軋む音がする。そしてその向こうには、湿っていて暗い空間が顔を覗かせていた。

 

暗闇から声が響く。

 

 

「……おお、おお!! 主よ、我が第二の主よ!!」

 

「……また会ったな、ジル・ド・レェ」

 

 

怠惰の具現は、黎斗のサーヴァントだった一人……ジル・ド・レェ。黎斗はその存在を確信すると微妙な顔をした。対するジル・ド・レェはその顔を歓喜に輝かせる。

 

 

「再び会えて嬉しいですぞ我が主!! ですが申し訳ありません──」

 

 

彼はそこまで言って、そして懐に手を伸ばしてやはりあの物体を取り出す。

 

 

「──我が演目は全て全て全て全て、全ては涜神のそれと定められているがゆえ!! 私は貴方を!! 神を!! ……涜しましょう!!」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

 

ファントムがそうであったように、ジル・ド・レェもまたガシャットを所持していた。

プロトドラゴナイトハンターZが彼の胸元に突き立てられ、彼を黒く染めていく。

 

 

「輝かしき我が神!! 我が冒涜の前に震え上がれ!! 我が聖なる神よ!! 我が嘲りを受け堕ちろ!!」

 

「ははっ、相変わらずじゃないかジル・ド・レェ!!」

 

 

既に穢れきった元帥。聖なる者を忘れ去った男。……彼は新たに信じた神( 檀黎斗 )にさえ、容赦なくその牙を剥き出しにしていた。

 

 

「おお、おお、祝福をここに!! 我が高鳴りは限界を突破する!! 我が第二の神よ、貴方の魂でもって、最高のCoooooooolを表現しようではありませんかっ!!」

 

「やる気全開にしか見えないわよっ!?」

 

「ははははははは!! ほざけ童女、アレこそ怠惰の極みだろう!!」

 

 

慌てるナーサリー、そして彼女を嗤うアヴェンジャー。黎斗はジル・ド・レェを見つめながら分析する。

 

 

「言いたいことは理解したぞアヴェンジャー。つまり、あれは成すべき事を成さず、全てを忘れ、快楽に溺れ魂を腐らせた奴……と、言いたいのだろう?」

 

「分かっているじゃあないか檀黎斗!!」

 

 

自らの見解を示した黎斗、それはアヴェンジャーのものとピッタリ合致していた。もう彼は既に戦闘の体勢を整えているらしく、風もないのに緑がかったカーキ色の外套がはためいている。

 

アヴェンジャーに睨まれながらも、ジル・ド・レェは黎斗の言葉に対してまた歓喜を込めて叫んだ。

 

 

「おお神よ!! お褒めにあずかり恐悦!! 宜しい、宜しい!! それでは神よ、此処に喜劇を以て貴方を嘲るといたしましょう!!」

 

「全く、相変わらず楽しい奴だジル・ド・レェ!! ゆけ、アヴェンジャー!! ナーサリー!!」

 

───

 

「よし、今夜はここで夜営しましょう。宴の準備、二秒で」

 

「ええ……」

 

「ノブゥッ!!」

 

「ノブノブ」

 

 

一方マシュ達は、サーヴァント率いる敵の大軍を見つけて息を潜めていた。どうやら、宴を始めようとしているらしい。そして当然、サーヴァントの隣には怪生物が跳ねていた。

 

 

「ふむ……どうやら、サーヴァントが例の生命体?を連れているようですね」

 

「ふーむ、聖杯がサーヴァントを使役しているのじゃろうか」

 

「多分そうなんじゃないかなー……にしては、変なのも混ざってるけどね」

 

「それはともかく、あの大軍相手にどう戦いましょうか」

 

 

そう溢すマシュ。この少人数、しかもベビーカー入りの黎斗を連れて戦闘をするのは心もとないにも程がある、そう彼女は思っていた。

 

しかし彼女はつい忘れていた。彼女も今や黎斗と同じ規格外(仮面ライダー)だと。

 

 

「何言ってるんだいマシュ、今の君は黎斗と同じ仮面ライダーだろう?」

 

「え?」

 

「ほらほら突撃するんだよほらほら」グイグイ

 

───

 

「横から攻めろアヴェンジャー!! ナーサリー、凍らせて逃がすな!!」

 

「フハハハ!!」

 

「任せてマスター!!」

 

 

黎斗が指示を出す。標的はかつての仲間、既にある程度の行動パターンは割れていた。

 

 

   ズガンッ

 

「かはあっ……!!」

 

 

アヴェンジャーに蹴りを入れられたジル・ド・レェはよろめき、凍傷になりかけの足に鞭打ちそこから素早く飛び退く。やはりガシャットで強化されたサーヴァントは手強かった。

 

 

「流石は我が主。ですが私は止められない……螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

 

そうして、切り札が掲げられた。黎斗はアヴェンジャーを退避させ、ナーサリーの背後に回らせる。

 

監獄塔のレンガ積みの壁の隙間から無数の触手、しかも竜の爪が生えたものが現れ、ナーサリーを縛り上げた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

動きを封じられ、しかもダメージを受けるナーサリー。刃物は服やら肉やらを容赦なく傷つける。

 

 

「ちょっ、離し、むぐうっ……」バタバタ

 

「その悲鳴こそ最上の調べ!!」

 

 

たった二体のサーヴァント、そのうちの一体が絶体絶命の状況に置かれていた。

……しかし黎斗は慌てもせず怯えもせず。

 

 

「アヴェンジャー、宝具だ」

 

「良いのか? 人質が取られているぞ?」

 

「私の才能があればなんとでもなる」

 

 

黒い布が舞い散る中、彼は事も無げにそう言って退けた。

……既にこの会話をしている間に、幾らかの触手はアヴェンジャーに狙いをつけている。

 

 

「……ははっ、全く分からない奴だ。良いだろう、我が征くは恩讐の彼方……!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

その言葉を聞くやいなや、触手が素早く動き出した。辺りの空気すらも巻き込むスピードで。

 

……しかし、それがアヴェンジャーのいた所に突き刺さる時には、ジル・ド・レェの螺湮城教本は吹き飛ばされていた。ドラゴナイトハンターZも奪われている。

早い話が、アヴェンジャーの宝具は超高速移動なのだ。まあこうなるのも無理もない話だった。

 

 

「遅いぞ、遅すぎる」

 

「なあっ……!?」

 

 

触手は消滅し、ジル・ド・レェが魔術を行使する術は失われた。後は無力化され愕然とする怠惰の具現を討ち果たすのみ。

 

解放されたナーサリーが、不満を露にしながら黎斗に詰め寄った。

 

 

「酷いわマスター!! 私を何だとおもっ──」

 

「今は静かにしろ。……アヴェンジャー、止めを」

 

「ああ」

 

   グチャッ

 

 

彼女を軽く受け流して、アヴェンジャーに指示する黎斗の視線はやはり冷徹で。

しかし、ジル・ド・レェはアヴェンジャーにその身を破壊されながら、黎斗を見て微笑んでいた。

 

 

「……ふふっ……やはり、神には敵いませぬか」

 

「当然だ」

 

 

胴を分断されたジル・ド・レェに歩み寄った黎斗は、腕を組ながら彼に小さく微笑み返した。

 

 

「マスター、檀黎斗……我が第二の神。貴方の才能は素晴らしい」

 

「その通りだな」

 

「ですが忘れてはなりませぬぞ、少しでも気を抜けば、貴方は才を抱えたまま一気に滑落するでしょう」

 

「……知っているとも」

 

 

そんな返事を聞いたジル・ド・レェは、監獄塔の天井に手を伸ばす。当然その指先は既に粒子に還っていて。

 

 

「……はは、は……別れですね主よ。会えて嬉しかったですぞ。……最後は、笑いましょう。はは、ははははははは……」

 

 

そうして、ジル・ド・レェも笑いながら、この監獄から消え失せた。

 

───

 

そして、カルデアでは。

 

 

「……君、置いていかれたのか」

 

「すまない……レイシフトに入れてくれ、と言えなくて本当にすまない……」

 

 

ロマンは管制室でキーボードを叩きながら苦笑いした。目の前には、先程黎斗をベビーカーに乗せてきた()()()()()()()()()()

 

 

「いや、君は悪くないよジークフリート。でも、困ったな。さっきの怪生物にやられた後にレイシフトを行ったせいか、かなり設備にガタが来てる」

 

 

彼の真名はジークフリート。カルデアの新戦力……の筈である。おいてけぼりを食らっているが。

 

 

「……すまない、本当にすまない。せめて修理を手伝おう」

 

「助かるよ」

 




さらば触手要員

セイバー枠は銀河鉄道999さんからジークフリートを採用しました
もう一体はまだ未定


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手伝って下さいよ先輩!!

 

 

 

 

 

「酷いわよマスター!! 早く服治してよね!!」

 

「別にそのままでも……」

 

「良くないわよ良くないわよ!!」

 

「分かった分かった、ちょっと待て、今イメージを組み立てる」

 

 

黎斗は部屋のベッドで、ナーサリーを嫌々見つめながらイメージを組み換えていた。

昨日の戦闘で彼女の衣装は穴だらけで、所々から地肌が覗いていた。これでは、下手すれば色欲の化身が復活しかねない。

 

 

「ふーむ、えと、こんな感じだったか……?」

 

 

黎斗が考えていけばいく程、ナーサリーの衣服は修復されていった。便利なものである。

 

……そして、それを見つめながら、アヴェンジャーはやはり考えていた。

 

 

「……」

 

 

「うん、治ったわねマスター!!」

 

「神の才能に感謝することだな」

 

 

目の前の黎斗は、人間的な嫉妬を持っている。それは第一の裁きの間攻略後に聞かされた話で理解できた。

黎斗は、人間的な色欲を持ち合わせていない。現に今、彼は見ようと思えばナーサリー・ライムの半裸でも全裸でも見られたろうに、易々と服を着せてしまった。肌に目をしっかりと向ける素振りもなかった。……いや、単に趣味の問題かも知れないが。

そして黎斗は、怠惰に理解は示したが、やはりそれとは遠いのだろう。彼は己の行動は怠惰かもしれないと言ったが、結局はかもしれない、である。

 

 

「……何を見ているアヴェンジャー」

 

「……ああ、ぼんやりしていた。じゃれあいはその辺にしておけ、第四の間に行くぞ」

 

「分かっている」

 

 

黎斗に声をかけられたアヴェンジャーは、曖昧な表情をしながら立ち上がり、黎斗とナーサリーを引き連れて廊下へと出た。

 

 

「……先に言おう。お前が殺すのは、第四の裁きの間にいるのは、憤怒の具現だ」

 

「ほう」

 

 

こうしてアヴェンジャーが切り出すのも、最早いつもの事だった。

 

 

「憤怒。怒り、憤り。それは最も強い感情とオレが定義するもの。自らに起因するものでも、世界に対してのものでも構わない。等しく正当な憤怒は人を惹き付け、時に讃えられる」

 

「最もだ。復讐劇はゲームの良いネタになる。ゲンムのゲームなら、タドルクエストなんかが合っているだろうな」

 

「私は仲良くして欲しいのだけれど……」

 

 

復讐談義に小さな花を咲かせ始める二人の脇でナーサリーが呟いた。皆で仲良く、その文章にアヴェンジャーが反応する。

 

 

「それは無理な相談だな童女。古今東西老若男女、復讐譚を人間は好み、愛おしむのだからな」

 

 

そこまで言って、彼は……アヴェンジャーは、その目を鋭く光らせた。

 

 

「それを……ヤツは認めようとしない!! 怒りを否定する!! 第四の裁きの間に配置されながら平然と赦しと救いを口にする!!」

 

「……」

 

「許されぬ、許されぬ、偽りの救いなどヘドが出る!!」

 

「……その、ヤツとは誰だ?」

 

「……行けば分かる」

 

───

 

「……おはようございます、皆さん……」

 

 

マシュは疲労困憊といった様子で朝を迎えた。何しろ昨日は例の怪生物100体斬りを敢行したのだ、それも当然である。

 

 

「おはようマシュ。気分は?」

 

「やっぱり悪いですね……自称今川さんに酷く斬られたのが効いたのでしょうか」

 

「かもね。まあ体に傷が無いから大丈夫でしょ。自称松平君が勝手に自滅させてくれたのが幸運だったね」

 

 

ベビーカーを弄りながらそう言うダ・ヴィンチ。彼の横では魔人アーチャーが得物である火縄を手入れしていた。

 

 

「どうしましたか魔人アーチャーさん?」

 

「いや何、さっきから何かの足音が聞こえるのじゃ……敵襲かな?」

 

「そうですかね、足音というか地響きというか……」

 

 

桜セイバーがそう言いながら立ち上がり、辺りを見やった。

 

そして、気づいた。

 

 

「あ、何か来てます」

 

   ドドドドドドドドド

 

「!?」

 

 

跳ね起きるマシュ。寝ぼけ眼は足音で既に覚まされていた。

 

 

   ドドドドドドドドド

 

「向こう側に……ライダーかバーサーカーらしきサーヴァントと前に冬木で会ったライダーを確認!!」

 

「うん、どう見ても敵襲だね!!」

 

 

報告するマシュ、迎撃体制を取る桜セイバーと魔人アーチャー。

ダ・ヴィンチは戦いを避けるためベビーカーを牽いて離れていく。

 

 

「■■■■■■!!」

 

「ついに決着をつける時が来たな、尾張のうつけ、とお館様は申しております」

 

「■■■!!」

 

「我が武田騎馬軍団の前に屍を晒せ、と申しております」

 

 

真っ黒の肌に見上げる程の体躯、マシュは数歩後ずさりながらその騎馬を見ようとする。

 

見ようとした。……馬ではなくて象だった。

 

 

「……あれ?」

 

「貴様が乗ってるの、どう見ても象なんじゃが……」

 

 

思わずそう魔人アーチャーが呟く。自称武田はその言葉に怒ったのだろう、手にもったよく分からない武器を威嚇するように掲げる。

 

 

「■■■■!!」

 

「細かいことを気にするな、禿げるぞ、と申しております」

 

「こっちの台詞じゃ!!」

 

 

騎馬軍団改め騎象軍団がこちらに声高に吼えた。今にも踏み潰しにかかってきそうな勢いである。

 

 

「とにかく戦闘に入りましょう!! 変身!!」

 

『Transform Shielder』

 

 

変身して武田に突撃していくシールダー。

応戦してきた相手の攻撃を受け止めて、はたと察する。

 

 

   ガツンッ

 

「くぅっ……重い……!!」

 

『Buster chain』

 

「はあああああっ!!」

 

 

一撃が重いのだ。ベルトで強化して、漸く受け流せる程度には。

これでは、他に気を配りながらの戦闘なんて到底無理だろう。

 

こんな時黎斗ならどうするか。シールダーは一瞬考え、即座に口に出す。

 

 

「私は武田を抑えます!! 皆さんは宝具でもなんでも使って他を何とかしてください!!」

 

「了解した、三千世界に屍を晒すがよい……」

 

 

魔人アーチャーはその声を聞いて、シールダーを包囲する象達に銃口を向ける。

彼女の周囲には何万もの火縄が呼び出されていて。

 

 

「分かりました。秘剣の煌めきを見せてあげます!!」

 

 

そして桜セイバーは、武田の側近ポジションにいたライダーに斬りかかる。刀を上段に構えると……その場からかき消えた。

 

 

「天魔轟臨!! これが魔王の三千世界(さんだんうち)じゃあ!!」

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!! 無明三段突き!!」

 

 

   ズドンッ

   スパッ

 

 

二人の宝具は、全く同時に発動した。

魔人アーチャーの弾丸は戦場を打ち払い、桜セイバーは一瞬でライダーを貫き無力化する。

 

 

「……!?」ガクッ

 

「■■■■■■■!?」

 

 

一瞬で形勢は逆転した。三体一は卑怯かも知れないが、確実に有効な手段である。

いくら相手が巨大な豪傑であろうと、数の力には敵わない。

 

 

   ガツンッ

   スパスパッ

   バァンッ

 

「■■■……」

 

 

暫く攻撃され続け、武田は力なく膝をついた。虫の息の側近が彼に近づいていく。

 

 

「■■、■……」

 

「ペルシアに旗を立てよ……と、申しております。……あ、出番終わりですね。やったー……」

 

 

そうして、自称武田とお付きのライダーは消滅した。粒子の一片まで消え去るのを確認してから、黎斗のベビーカーを避難して守っていたダ・ヴィンチが呟く。

 

 

「うん、割と何とかなったよね。流石私の発明」

 

「ダ・ヴィンチちゃんが戦ってたら楽だったんですけどね。というか黎斗さんが起きれば良いんですよ」

 

「なはは……そればっかりはどうしようもないかな……」

 

 

「いいなー、わしもその腰巻き使いたいなー」

 

 

魔人アーチャーは火縄を片付けると、シールダーのベルトをまじまじと見つめながら非常に物欲しそうな顔をしていた。

 

 

「一応サーヴァントなら誰でも使えるよそれ」

 

「マジで!?」

 

 

ダ・ヴィンチの言葉に、バグヴァイザーをペタペタ触っていた魔人アーチャーは更に興奮を露にした。

そして触られていたシールダーはというと……未だに辺りの警戒を続けている。

 

 

「……待って下さい。まだ誰か来るように見えますが?」

 

───

 

裁きの間の扉が開く。油でも差してあったのだろうか、今回の扉は簡単に、無抵抗に開いた。

 

 

「……アヴェンジャー。会いに来ました」

 

「ああ、ああ!! 忌まわしきジャンヌ・ダルク!! 自らシャトー・ディフに飛び込んだ憎き女!!」

 

 

そう叫ぶアヴェンジャー。まさしくその姿は憤怒そのもの。

彼に相対するは旗を掲げた金髪の女。アヴェンジャーがジャンヌ・ダルクと言っていた。

 

 

「……成程、こっちが本物、という訳か。それもそうだな」

 

 

黎斗は納得したように頷いた。彼はこれまで全速力で人理を修復していた為、英霊の知識にはかなり不安な所があったのだ。

彼の知るジャンヌ・ダルクは竜の魔女しかいなかったから、ちゃんとした聖女も存在していて、彼は安心した様子を見せていた。

 

 

「指示を出せマスター!! あの女を潰す!!」

 

「分かっている。行け、アヴェンジャー!!」

 

───

 

「……待って下さい。まだ誰か来るように見えますが?」

 

 

シールダーが強化された視力で、向こうの山から駆けてくる軍勢を発見した。

しかもそれらはみるみるうちに大きくなり、いつの間にか一行の前に並んでいる。

大将らしき人が名乗りを上げた。

 

 

「やあやあ、我こそは軍神、上杉アルトリア!! 武田ダレイオス、いざ宿命の対決ですとも!! ……あれ?」

 

 

現れたのは金髪に青い鎧の女。シールダーはその姿に微妙な見覚えを感じ首を傾げ……かつて冬木で見たセイバーの色違いだと気づいた。

 

 

「あれ、宿命のライバルらしい武田ダレイオスは? どこです?」

 

「先程消滅したぞ。というかあの越後の龍が女なわけあるか!! 出直せ出直せ!!」

 

「多分だけど、君達も人のこと言えないんじゃないかなー」

 

 

ぼやく魔人アーチャーをジト目で見やるダ・ヴィンチ。その向こうでは、自称上杉がショックで崩れていた。

 

 

「そんな、春日山くんだりから頑張ってここまで出陣してきたのにまさかの無駄足……甲斐の兵糧根こそぎ奪って美味しいご飯食べたかった……」

 

「うわあ、血も涙もない戦国経済だね」

 

 

ダ・ヴィンチちゃんが呟くのを余所に、上杉アルトリアは帯刀していた聖剣を引き抜く。軽く金属音が弾けた。

 

 

「こうなっては仕方ありません……!! 我がご飯……いや領民のため!! あなた達の兵糧をいただきます!!」

 

「もう滅茶苦茶ですね!!」

 

「是非も無いよネ!!」

 

 

それに対応するかのように刀を引き抜く桜セイバー、火縄を召喚する魔人アーチャー。シールダーは再び盾を構える。

そしてダ・ヴィンチは黎斗を乗せたベビーカーを持ってまた何処かに避難した。

 

上杉アルトリアが聖剣を振りかざすと、その回りに三体のサーヴァントが現れる。

 

 

「来なさい、直江ランスロット!! 鮎川ガウェイン!! 山吉トリスタン!!」

 

「Yeeeeeaaaaaaaar!!」

 

「年貢を払うのです!!」

 

「ああ、私は悲しい……」ポロロン

 

 

黒い霧を纏う直江ランスロットが雄叫びと共に何処からか銃を取りだし狙いを定める。

何故か年貢を求める鮎川ガウェインがその筋肉に力を籠める。

そして山吉トリスタンは弓を掻き鳴らした。

 

 

「上杉の家臣が三人……!! 来るぞマシュ!!」

 

「はい!!」

 

───

 

「ちいっ!!」

 

「……取り逃がしたか」

 

 

アヴェンジャーが舌打ちをした。第四の間から聖女はまんまと逃げおおせ、黎斗も苦々しい顔をしている。

 

 

「……帰るぞ、マスター。最早ここに用は無い」

 

「その通りだな」

 

 

そうして二人は少し強く足音を立てながら部屋を出ていく。ナーサリーはその後をひょこひょこと着いていった。

 

───

 

「この剣は太陽の映し身。かつ年貢を徴収するもの……」

 

「くうっ、受けます!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

鮎川ガウェインと火花を散らしていたシールダーは、相手がジョーカーを切ったので仕方無く宝具を解き放った。

 

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラディーン!!)

 

人工宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

 

 

炎が辺りを炙る。陽炎が辺りに揺らめく。

しかしシールダーが展開した盾はバグヴァイザーによって強化されていた為、本来は無かった、辺りに水を放散する機能がついていた。

 

 

   ジュワッ

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

 

「……成程、やりますね。ですが、その宝具を加工するのは、私にして見れば、大変……」

 

 

辺りの気温が下がる。シールダーは相手の攻撃を防ぎきり、攻勢に転じようとする。

ガウェインの顔には、微妙に怒りも見てとれた。

 

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

それと同時刻、二人のすぐ隣では。

 

 

「Arrrrrrrrthurrrrrrrrrrrr!!」

 

   ババババババババババババババババ

 

「おのれ、その凄い火縄は何じゃ!! わしも使いたい!!」パンッ パンッ

 

 

直江ランスロットもガウェインに合わせて宝具を解放する。それは機関銃の乱射であり、この場においては、魔人アーチャーの宝具の上位互換であった。

なんとかして弾の雨を躱す魔人アーチャーだが、このままだとじり貧である。しかも、彼女の敵は彼だけではない。

 

 

「切り刻む!!」

 

   スパッ

 

「くうっ……それアーチャーとしてどうなのじゃ!?」

 

 

山吉トリスタンの援護によって、魔人アーチャーのマントが切り裂かれた。

そう。彼女は、割りと絶体絶命な状況に陥っていた。

 

 

「おーい!! おき……桜セイバー!! まだ終わらんのか!!」

 

 

そう声をかける。そしてその桜セイバーはと言うと。

 

 

「風よ、舞い上がれ!!」

 

「くはぁっ……!!」

 

 

上杉アルトリアに吹き飛ばされていた。既に傷だらけである。何故そうなったか……

 

……口元を見ればよく分かる。彼女は既に、何度も吐血していた。

 

 

「まだ、まだ……コフッ!?」

 

「……決着を着けましょう。束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流……」

 

 

その姿がいたたまれなくなったのだろう、アルトリアが剣を構え直し、言葉を紡ぐ。宝具だ。

シールダーはガウェインに圧されながら不安に駆られる。出来れば彼女の盾になりたいが、今は無理なのだ。

 

ああ、誰かもう一人いてくれれば!!

 

 

 

 

 

「空腹なる竜は失墜し、世界は今飯時に至る」

 

「……この声は!?」

 

 

声が響いた。

シールダーは声のした方を……天を仰いだ。微妙にカルデアの匂いがする。

 

もしかしたら、誰か援軍が来たのだろうか、いや、そんな人……

 

 

「あっ」

 

 

シールダーは、ここに来て召喚途中で放置してしまったサーヴァントの存在を思い出した。

つまりこの声は、その放置していたサーヴァントの物なのだ。

 

シールダーは刮目する。空から降ってくる英雄を……!!

 

 

約束された(エクス)───」

 

「撃ち落とす!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ズシャッ

 

「──勝利のぉ(カリバ)ああああああああああ!?」

 

 

死角からの一閃が、上杉アルトリアを切り裂いた。背中に大きく線を書かれた彼女は、振り上げた聖剣を取り落とし倒れ込む。

 

 

「……すまない。不意討ちに走って本当にすまない」

 

「いやいや、不意討ち上等ですから。助けてくれてありがとうございます、あっ、私は桜セイバーです」

 

 

現れたのは白髪のイケメンだった。というか、黎斗をベビーカーで連れてきてくれた人だった。

桜セイバーが彼をフォローする横で、上杉アルトリアは空に溶けていく。

 

 

「くっ……この私が負けるとは……ご飯が足りなかったせいでしょう、か……?」

 

「ああっ!! 我が殿が死んだ!!」

 

 

彼女が死んで真っ先に叫んだのは、ほんの先程までシールダーと打ち合っていた鮎川ガウェイン。直ぐ様彼は飛び退き王の隣に正座すると、腹筋が目立つ腹を露にする。そして叫んだ。

 

 

「こうなっては最早ハラキリも避けられぬ!! 私は殿と共に誇り高くグプゥッ!?」

 

 

しかし、言い終わらない内に彼は蹴り飛ばされる。蹴り飛ばしたのは……直江ランスロット。

 

 

Aaaa!?(あ!?) turaaaaaaa!!(殿の仇も討たずにハラキリとか逃げだろ!!) Tatakawanaaaaaaaa!!(武士なら戦えよゴリラ!!)

 

「生き恥を晒せと言うのか!? あとゴリラって何だゴリラって!!」

 

 

何故か普通に会話した上で取っ組み合いを始める二人。

そして、直江ランスロットと共に魔人アーチャーと交戦していたはずの山吉トリスタンはと言うと。

 

 

「仲間アホ 殿はすぐ死ぬ マジ悲し 竪琴弾いても 幸運引けず」ポロロン

 

「うん、辞世の句擬きですね」

 

 

二人から一歩引いて、静かに弓を奏でていた。

見るに堪えないのか何なのか、桜セイバーがその刀を再び宝具の体勢で構え、そして。

 

 

「どうせなら纏めて倒しちゃいましょう。全体宝具、無限三段突き!!」

 

   スパスパスパッ

 

 

一瞬彼女の姿が消えたかと思うと、上杉家臣三体は粒子へと還っていった。

後には血に濡れた刀を腰に戻してピースし、何処と無く黎斗を彷彿とさせるどや顔をする桜セイバー。

 

 

「やったー、おきコフゥッ!?」

 

「無理するでない……」

 

 

そしてまた吐血する。既に貧血の症状が出ていた。

シールダーは変身を解き、ダ・ヴィンチに話しかけた。

 

 

「にしても、ダ・ヴィンチちゃん……サーヴァントの皆さん、多分おかしいと思うんですけど。それとも、本当に彼らはあんなにエキセントリックなんですか?」

 

「いや、流石に……いや、あり得るねマシュ」

 

 

考え込むダ・ヴィンチ。ここまでで得られた英霊のデータが少ないため、彼女としても彼ら彼女らが何者かによっておかしくさせられているのか、それとも元からこうなのかは度しがたい。

 

口元の血を拭きながら、不満げに桜セイバーは抗議した。

 

 

「いやいやいやいや、有り得ませんから。少なくとも私はまともです、ノッブはおかしいですけどねー」

 

「なんじゃと!? ……まあ、わしの敵、と思っていた武将の因子が加わっているようには思えるな」

 

「まーたあなたのせいですか……」

 

「その理屈だと日本の武将が皆エキセントリックだった事になるんですがそれは」

 

 

マシュは冷や汗をかきながら魔人アーチャーを見やる。何なんだろうコイツ。

 

そんな思考を断ち切って、カルデアから連絡が入った。

 

 

『大変だ、マシュ!! ジークフリート!! ダ・ヴィンチちゃん!! 今すぐその空間から離れろ!!』

 

「どうしたんですかドクター!?」

 

「何かあったのかい?」

 

『いや、なに、機械が直せたから寝る前にその辺りの構成を調べたんだけど……そこにはとある粒子が蔓延してると明らかになった』

 

「……」

 

「とある、粒子?」

 

『サーヴァントの霊核に感染し悪影響を及ぼす特殊かつ面白い粒子……ステータス弱体化、記憶の改竄、霊核の摩耗、そして……』

 

「そして……?」

 

『 残 念 に な る !! 』

 




直江、鮎川、山吉……上杉謙信の家臣


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塔に籠れる暴食の化身

 

 

 

「ねぇマスター、さっきアヴェンジャーさんが出ていったわよ」

 

「大方偵察目的だろうな。気の効くやつだ」

 

 

何時もの監獄にて。黎斗はボロ切れのような布団の中で、ナーサリーに起こされて目を覚ました。

相変わらず部屋は湿っていて鉄臭い。

 

 

「そうね。……ふふふ、なんだかこれも物語みたいね。面白いわ」

 

「お前が言うと複雑な心境になるな」

 

 

布団にくるまりながらナーサリーが言う。

子供の為の物語そのものである幼女と、物語を紡ぐのが仕事の男が、同じベッドの上にいるのはどこか滑稽で、あと少しだけ犯罪の匂いがした。

 

 

「……ところで、何でお前は私の布団に入っている?」

 

「だって、ずっとこんな部屋で立ってたら、鉄の臭いが染み付いちゃうでしょう? ほら、本は大切にしないと」

 

「……成程」

 

 

黎斗はのそりと布団から出て、簡単に身支度を開始する。そして、ぼそりと呟いた。

 

 

「……こうしていると、無駄に考え事に耽ってしまっていけないな」

 

「?」

 

「これまで30年、私の人生は、ここの基準で言ってしまえば罪にまみれていた。別に私自身は、それを間違っているとは思わないが」

 

 

何時もの服を着込む。その顔は冷酷な印象を受けそうなまでに落ち着いていて。

 

 

「嫉妬に走った。怠惰を受け入れた。憤怒を利用した。……私はそれを罪とは思わない。だって、もしこれらが罪なら、世界中全ての存在が罪人になってしまう」

 

「……そうね」

 

「私は神だが、人を裁く神ではない。それをするのは本意ではない。頼まれたとしてもまっぴら御免だ……ゲームを作るのに、そんな視点は不要だ」

 

 

そこまで言ったところで、監獄の扉が開いた。アヴェンジャーが顔を出す。黎斗は振り返り、ナーサリーに横目で布団から出ろと指示を出した。

 

 

「……目覚めたか、マスター。立て、どうやら第五の裁きの間の主も、お前の知っている存在のようだぞ」

 

「……カリギュラか」

 

───

 

   ガサガサッ

 

「その心臓おいてけやぁっ!!」

 

「なんか来ましたよっ!?」

 

 

その日も歩いていたマシュ達は、突然物騒な事を叫びながら飛び出てきた見知らぬ青タイツのランサーらしき男にビビっていた。

魔人アーチャーなんかは、声を聞くだけで胸を押さえて膝をついている。

 

 

「うわあああああ!? わしの心臓がああああ!?」

 

「すまない……守れなくてすまない……」

 

「いや、まだ取られてないから。取られてないから……ん、桜セイバーちゃんは?」

 

 

二人のやりとりにツッコミを入れながら、ダ・ヴィンチは一番相手が出来そうな桜セイバーを探した。相手は見た目からして俊敏なタイプ、ワープ擬きが出来る桜セイバーなら相手が出来ると睨んでの人選だったのだが……

 

 

「コフゥッ……すみません、昨日のが祟って……コフゥッ」

 

 

残念、彼女は昨日無理をしすぎて今日は朝からグロッキーな状態であった。

仕方が無いので、ダ・ヴィンチはまた黎斗を乗せたベビーカーと共に後ろに退避しマシュに言う。

 

 

「とにかく凌いでよ、頼むよ!!」

 

「ダ・ヴィンチちゃんが戦えば良いじゃないですかあっ!!」

 

「いや!! 私はまだまだ戦わない!! ……ん? あれ、逃げていかない?」

 

 

しかしその途中で、何故か青タイツのランサーが離れていくのが目に入った。こちらをチラチラ確認しながら逃げていくように見える。

 

 

「ランサーらしき人が逃げていきます!! 追いかけましょう!!」

 

「……いや、ここはもう無視しちゃおう」

 

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

 

 

ダ・ヴィンチは黎斗の乗ったベビーカーを()()()()()()()そう言った。

 

 

「どうせあの青タイツが去っていった所は、私達の目的地とはずれてるんだ。逃げ切っちゃえば問題ない問題ない」

 

「でもあのランサーに後ろから追いかけられたら大変じゃぞ!? おき太……じゃなくて、桜セイバーも今は早くは動けないじゃろうに……」

 

「そうだ、ランサーはその素早さが何よりの強み、追撃を食らえば……」

 

 

魔人アーチャーやジークフリートがそう言う前で、黎斗を乗せていたベビーカーの座部が音を立てながら拡大される。そしてタイヤの部分の近くに、ジェットエンジンのような何かが顔を出した。

 

 

「フッフー……私が何の意味もなくベビーカーを弄っているとでも思ったかい?」

 

「「「?」」」

 

「……疾走するベビーカー。そのスピードは全てを凌駕する……なんてね」

 

 

そう言いながらダ・ヴィンチはベビーカーから一旦離れ、青ざめたままの桜セイバーを背追い上げ、ベビーカーに乗せる。

 

スペースが微妙に狭かった為、黎斗と桜セイバーが必要以上に密着するような体制になっていたが、彼は気にする事も無かった。

 

 

「ほら病人は乗った乗った」グイグイ

 

「コフッ!? ちょっ、ベビーカーに二人も乗せるんですかぁっ!?」

 

「大丈夫大丈夫、へーきへーき」グイグイ

 

 

そして二人が上手いことベビーカーに収まったのを確認すると、ダ・ヴィンチはそれに半透明の蓋を付けロックを掛ける。

 

 

   カチッ カチッ

 

「よーし、準備オッケー!! マシュちゃん、ジークフリート君、魔人アーチャーちゃん、一応足場は出しておくから、しっかりハンドルに捕まるんだよ!!」ブルンブルン

 

「どう考えてもバイクみたいな音なんですが……」

 

 

ベビーカーのハンドルに四人がしがみつく。排気ガスはますます黒くなり、熱量も増していき……

 

 

 

   タッタッタッタッ

 

「ちっ、物見の報告より数が多いじゃねーか……あれ?」

 

 

ランサー……島津セタンタは、ターゲットから一旦距離を取ろうとしていた。

あまり数で不利な戦いは有利ではない、そんな考えだった。

 

だが、振り返ってみると。

 

 

 

「ひゃっはぁーっ!!」ブブブブブゥーンッ

 

「「きゃああああああ!?」」

 

「……」

 

 

既に、敵は遥か彼方に消えていっていた。

 

 

 

「……え?」

 

───

 

裁きの間にて。主であるカリギュラは、闇のなかにもたれかかっていた。襲い掛かってくる兆候は見られない。

彼は暫く黙っていたが、黎斗を何度か見た後に口を開いた。

 

 

「……久しぶりだな、我が主よ。決して迷わぬ、人にあらざる人よ」

 

「久しいなカリギュラ。元気か?」

 

 

黎斗が皮肉混じりにそう言うと、カリギュラは苦笑いをする。

今の彼は、いつもの、黎斗の知るバーサーカーでは無かった。

 

 

「ふっ、死体の分際で元気も何もあるか、という話だな。……運がいい事に、この月の女神でさえ我を見失うこの監獄ならば、余はかつての我が主……お前と話が出来る」

 

「そうだな。全く、外からの光をシャットダウンするなら、もうすこし照明をしっかりとしてほしいものだ」

 

 

怯えも戸惑いもせず、冷静に辺りに目を向ける黎斗。カリギュラはその姿に安心と不安を同時に覚え、そして彼に言葉の羅列を投げ掛ける。

 

 

「我が人生は迷いの連続だった。いや、その程度で我が人生は正当化できぬが……」

 

 

そこまで言って……彼はほんの少し語気を強め、問った。

 

 

「……問おう。……全てを喰らわんとした事はあるか。喰らい続けど満たされず、餓えがごとき貪欲さでもって味わい続けた経験は。消費し、浪費し、後には何も残さずにひたすらに貪り喰らい、魂の渇きに身を委ねた経験はあるか?」

 

「……無論、あるに決まっているさ、カリギュラ。私は神だ。神の恵みを与える為に、多くの同業者を喰らい、潰し、消した。多くの資金を投資し、多くの社員を使い続け、多くの資源を消費した」

 

 

しかし、そう返答する黎斗の目には一点の曇りもない。彼にとって、それは何ら恥ずべき事では無かったのだ。

 

 

「そして私は後悔していない……お前は後悔しているんだな、カリギュラ?」

 

「……ああ。余は沢山のモノを食い散らかしてしまった。いや、ともすれば暴食、それこそが余であったのか?」

 

 

対するカリギュラは、己の暴食を酷く悔いていた。その身に背負うは無限にも等しい狂気、彼に残ったのは、多くの罪と僅な愛。

 

 

「喰らい、費やし……暴食の罪、それこそ我がローマの悪性。もとよりそう生まれたのか、月の女神が変質させたのか、それすら余には分からぬが……だが、この魂は反英霊ではなく、英霊として刻まれた。即ち……」

 

「……愛がお前を英霊たらしめた、と言いたいわけか」

 

「その通りだ、我が主よ……私はそう信じている。そして──」

 

 

そこまで言った所で、カリギュラはフリーズしたように動かなくなった。微妙に姿がぶれ、一瞬彼の口から機械的な音が聞こえた。

 

5秒もしないうちに、カリギュラは再び動き出す。しかしその目は狂気に爛々と光り、手足は黎斗に飛びかかろうと震えていた。

 

 

「……グア、ガァッ……すまないな我が主。グッ、どうやら、魔術王はこれ以上の対話を、ガッ……望まぬらしい」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「行くぞ……受け止めてくれっ!! オオオオオオオオオオッ!!」

 

 

懐からガシャットを取りだし、胸に突き立てるカリギュラ。黎斗はその場から飛び退き、交代するようにアヴェンジャーとナーサリーが飛び出す。

 

最後の黎斗のサーヴァントとの戦いが、始まった。

 

───

 

「……そろそろご飯にしましょうか。ベビーカーの燃料も切れたんでしょう?」

 

「残念ながらねー」

 

 

ベビーカーは、発進した場所からもう何キロも離れていた。

燃料を全て使い果たし、小高い丘の上に止まったそれから降りて、昼飯の準備を始める一行。

 

 

「コフゥッ、コフッ……あの、ずっと男の人と密着させられていたのですが」

 

「ああ、死体だから大丈夫だよ」

 

「それはそれで恐くありませんか!?」

 

「いやいや、普段の沖田なら普通に切り捨てそうなもんじゃが……あっ」

 

 

何気無く、本当に何気無く、魔人アーチャーが桜セイバーの真名をバラした。

 

 

「何してるんですかノッブ!! 皆ポカーンとしてるじゃないですか!!」

 

「是非も無いよネ!!」

 

 

しかし、そんなやりとりを見ていたカルデア勢はと言うと。

 

 

「……オキタ?」

 

「……すまない、ノッブとは……そしてオキタとは誰なんだ? 不勉強で本当にすまない……」

 

「いやー、宝具バラした時点で信長の

方はバレバレだったよねー」

 

 

「「……エッ?」」

 

───

 

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

「くはははははっ!!」

 

   ガンガンガツンッ

 

 

左手に重装甲を纏うカリギュラと、両腕に青い炎を纏うアヴェンジャーが殴りあう。衝撃波は監獄塔を揺らし揺らし、辺りの壁を軋ませていた。

 

 

「ナーサリー、あいつらの足元に薄氷を生成しろ。カリギュラは金属を体内に込めているような状態だ、動きが鈍ると思われる」

 

「分かったわマスター!!」

 

   ピキピキピキピキ

 

 

黎斗は辺りに響く音はある程度無視して、ナーサリーに指示を出した。

気温が下がる。英霊の身であれど、熱の変化で少なからずダメージは受ける……現に、カリギュラの動きからキレが無くなっていっていた。

 

 

「ガァッ……オオオッ……!!」

 

「フハハハ!! 氷くらい溶かしてみせろ暴食の具現よ!!」

 

   ズガンッ

 

 

炎を纏った足でカリギュラを蹴り飛ばすアヴェンジャー。吹き飛ばされたカリギュラは、その場に倒れ込みそうな所を堪え、その手をアヴェンジャーに向けた。

 

 

「オオオッ……オオオオオオオオオオッ!! 我が心を喰らえ、月の機械(ゲキトツ・ディアーナ)っっっ!!」

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

両者から凄まじい蒸気が発せられた。互いの出す熱量が氷を溶かして、いや、昇華させていた。

 

そして、それが晴れた時には。

 

 

「があっ……!?」

 

「オオッ……グガァッ……」

 

 

互いに、互いの拳を互いの鳩尾にめり込ませている状況だった。

アヴェンジャーは余程想定外だったのだろう、その顔を痛みと怒りに歪め、次の瞬間にはカリギュラを再び壁へと吹き飛ばす。

そして、腹を抑えながら数歩歩き、その場に座り込んだ。

 

 

「……まさか、ここまでオレに貪欲に攻撃してくるとはな。誇れ、暴食の具現……お前も正しく人間だ」

 

 

そう言うアヴェンジャーの視線の先で、そのカリギュラは倒れていた。当然プロトゲキトツロボッツは弾き出され、カリギュラには立つ力もない。

 

そして、黎斗が彼の隣に立っていた。

 

 

「──そして……檀黎斗」

 

「何だ?」

 

「檀黎斗。いらぬ愛を捨てようとして、しかし捨てきれなかった男よ」

 

「……」

 

「……狂気無き今なら理解できる。檀黎斗、お前は間違いなく悪だ。月に愛された訳ではなく、元からそうあったわけでもない、後天性の、真性の悪。だが……余はお前を受け入れよう。お前もローマだ」

 

「……何故?」

 

 

しかし、カリギュラは答えなかった。そして、そのまま消滅していった。

 

黎斗はその跡を暫く見つめ……そして、裁きの間を後にした。

 




オーニソプター(ベビーカー)


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なんか凄い事になってますよ先輩!?

 

 

 

 

 

 

「……第六の裁き、第六の支配者……」

 

「……恐らく、次の裁きの間は強欲の担当だろう?」

 

「ああ、お前は見るだろうな。およそ人間の欲するところに限りなどないと。彼以上に強欲な生き物など、オレに言わせれば存在しない。事実驚嘆に値する」

 

 

アヴェンジャーと黎斗、そしてナーサリーは、監獄塔の廊下をこれまでと同じ様に歩いていた。

アヴェンジャーは既に第六の間の情報も得ているらしく、次の支配者について話している。

 

 

「まあ、神である私とて究極のゲームを作るためいつまでもいつまでも研磨を続けているのだ、人間の欲に限りなどあるまいよ。で、どんなやつだ? 大方、全人類の救済でも願ったか?」

 

「その通りだ、マスターよ。彼の欲は世界へも及ぶ……彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世に無いのなら、と」

 

 

そう語る姿は、いかにも楽しげで。どことなく、新しいゲームを思い付いた黎斗にも似ていた。

 

 

「尊きものを、人間の善と幸福を信じたが故に、悪の蔓延る世界を否定した……とも言えるか?」

 

「ほう?」

 

「そう、お前のいった通りだマスター。彼は、この世全てに善を成さんとした男。……お前と実は似通っているのかもな、彼は聖杯の力で()()()()()()()()()のだから……お前が、ゲーム作りの神として人々に恵みをもたらさんとしているように」

 

「分かっているじゃないか」

 

 

珍しく手放しで褒められ(たと黎斗は思っている)、ほんの少しテンションを上げる黎斗。アヴェンジャーはそれを横目に見ながら話を続ける。

 

 

「そうだな。……オレは第六の支配者に、ある種の敬意さえ抱いている。その無謀、高潔、喝采に相応しい!! ……故に」

 

「故に?」

 

「故に。この上ない敬意と共に。我が黒炎は悉く破壊しよう。正しき想い、願いにこそ、オレはの炎は燃え上がる」

 

「気持ちは分からないでもないな。水晶が砕け散るのはまたそれはそれで悪くない」

 

 

そう反応した黎斗に、アヴェンジャーは理解したようなしていないような微妙な顔をして、それでも言葉を連ねた。

 

 

「覚悟は、とうに出来ているだろうが。お前は世界を呑まんとする強欲をも砕かねばならない。出来なければ、それが本当の死だ」

 

───

 

「ふぅ……そろそろ飽きてきたが、ここら辺が特異点の中心地、大阪……のはずなのじゃろう?」

 

「うん。一応……でも……」

 

「これローマですよね。ローマですよね?」

 

 

その頃、マシュ達はとうとう特異点中心、大阪の大地を踏み締める事に成功していた。

しかしそこはイメージとはおおきくずれた、どう見ても日本ではないどこかでしか無かった。

 

 

「うーん、フランスっぽい気もするなぁ」

 

「いやいや、ローマですよこれは」

 

 

そんな言葉を交わしながら歩いていく。

一歩歩く度に、本来ならあり得ないはずの舗装された道路の固い感触が足に伝わってきた。

 

……突然、彼らの耳を高笑いがジャックした。

 

 

「フハハハ!! よく来たな雑種ども!!」

 

「!?」

 

「ひうっ!?」

 

「何じゃ!?」

 

「この声は!?」

 

 

反射的に萎縮して飛び上がる面々。声の方向に目を向けると、黄金の鎧を纏った何者かが高笑いを続けている。誰だあれ。

 

 

「我が名は黄金郷ジパングの主にして人類中世の英雄王、豊臣ギル吉!! 黄金といわず茶器といわず、この世の全ての財は我のものだぎゃ!!」

 

「うわぁ……色々めちゃくちゃだね……だぎゃって……だぎゃって……」

 

 

呆れるというか、一周回って凄いものを見るような目をするダ・ヴィンチ。そしてそのとなりでマシュはバグヴァイザーを腰に取り付ける。

 

 

「……なんかもう疲れました!! 疲れましたよねジークフリートさん!?」

 

「そ、そうだな。うん」

 

「なんかもう凄い疲れたので、ラスボスサクッと倒してさっさと帰りましょう!!」

 

『ガッチョーン』

 

「変身!!」

 

『Transform Shielder』

 

 

盾を振りかざしマシュは飛びかかっていった。それを援護するように駆け出すジークフリートと沖田、そして火縄銃を大量に呼び出す信長。

それに面向かった豊臣ギル吉は、口元を好戦的にニヤリと曲げて後方に声を投げる。

 

 

「ふん、日輪たる我に刃向かうか雑種。よかろう、半兵衛、官兵衛、策を申せ!!」

 

「そんなものあるか馬鹿め。大体なんだこの低クオリティな世界観は!! なってないにも程がある!!」

 

「いやはやなんとも残念無念ご愁傷さまですねぇっ!!」

 

 

……しかし。声をかけられた後方のうちの一人は、つまらなさそうに茶を啜りながら難色を示していた。もう一人は鋏をどこかから取りだし、キャハハと笑いながら飛び出していく。

 

 

「しかしまあこういう機会な訳ですし? 同じ馬鹿なら弾けにゃ爆死、とも申します、せっかくなので荒れていきましょう!! 止めてみな!! って奴ですねぇ!!」

 

「行きますよっ!!」

 

『Arts chain』

 

───

 

アヴェンジャーが第六の裁きの間の扉を押すと、それは無抵抗に、音もなくスッと開いた。まるで手入れをされ、油を注されていたかのように。

 

 

「あっ」

 

 

それだけで黎斗は察した。この裁きの間の中身を。

 

 

「……違う」

 

「……来ましたね、アヴェンジャー」

 

「違う違う違う違う違う違う!! 何でお前がいる、ジャンヌ・ダルクぅっ!!」

 

 

アヴェンジャーが激昂する。目の前には白い旗の聖女、本物のジャンヌ・ダルク。アヴェンジャーが何よりも憎む、憤怒()を否定するもの。

 

 

「確かに殺すさ、ああ逃がしはしないお前はいずれ殺すとも!! だが今ではない、何で今出た旗の聖女!!」

 

「ふっ……アヴェンジャー、最早憤怒が八つ当たりの域に達しているぞ」

 

「構わぬ!! 憤怒の存在を認めぬのなら、それはオレを否定するにも等しき事よ!!」

 

 

その拳に炎を滾らせながら怒鳴るアヴェンジャー。相対する聖女は、その旗を握る細腕に力を込めていて。そして告げる。

 

 

「アヴェンジャー……確かに、憤怒の炎は消えないのでしょう。それは忽ち広がり、煌々と燃え盛る。 でも、それでも……それと共に、赦しと救いを想う事だって叶うはずです」

 

「小癪!! オレに赦しと救いを説くか!!」

 

「だって……貴方も、一度はそれを経験した筈でしょう?」

 

 

緊迫した空気が流れている。黎斗は旗の聖女と、その後ろに黙って佇んでいる第六の間の主であろう十字架を頸に提げた男に、ともすれば魂を焼きかねないほどの聖なる光を見た。

それを正面切って睨むアヴェンジャーはと言うと、その目を益々光らせていて。

 

 

「はっ……はは、は……!! はははははははははははは!! ククッ、はは、ははははははははははははは!!」

 

 

高笑いがこだまする。ナーサリーは黎斗の服の裾を掴み、ジャンヌ・ダルクは旗を握りしめ。そしてアヴェンジャーは叫んだ。

 

 

「我が恩讐を語るな、女!!」

 

「……!!」

 

「我が黒炎は、請われようとも許しを求めず!! 我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!!」

 

 

黎斗はアヴェンジャーに指示を出す姿勢を整えた。もう彼の行動の癖は全て把握済み、次こそは逃がしはしない。二人纏めて葬り去る、その思いを固めていた。

 

 

「『虎よ、煌々と燃え盛れ。汝が赴くは恩讐の彼方なれば』。オレは巌窟王!! 人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である!!」

 

「ああ……行け、アヴェンジャー!!」

 

───

 

「はぁ……めんどくさいが、さっさと人生を書き上げよう。タイトルは……ああ、貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)でいいや」サラサラ

 

「ハーハハハハ!! バフもガンガン盛られましたし、行っちゃいましょう行っちゃいましょう!!」

 

 

アンデルセンと名乗った茶を飲んでいたほうの軍師が、これまでで一番エキセントリックな軍師を強化する。

エキセントリックな方の軍師は鋏を振りかざし、ジークフリートと沖田とを相手取っていた。

 

 

「ヒャハハハハ!!」

 

   パァンッ パァンッ

 

「ぐっ……なかなか近付けないな、厄介だ」

 

 

自分の廻りに爆弾を固定し近づけさせない戦法をとるエキセントリック軍師。背中以外不死身のジークフリートも、迂闊に近づくのは憚られる。

沖田は痺れを切らしたのだろう、その宝具を開帳した。

 

 

「ああもうまどろっこしい!! 一歩以下略、三歩絶刀!!」

 

 

一瞬でその姿を空に溶かし、次の瞬間には軍師の目の前に現れる沖田。

 

 

「無明、三段突き!!」

 

   ズシャッ 

 

 

その刀は確かに軍師を貫いていて。なのに……目の前の男は笑っていた。

 

 

「……残念でしたァァッ!! 微睡む爆弾(チクタク・ボム)!! アァハハハハハハハ!!」

 

   カッ

 

「……!?」

 

 

沖田が飛び退いたときにはもう遅い。彼女の手足は破裂している。これではろくに戦えない。

しかも運が悪いことに、ここで彼女の病弱スキルまで発動してしまった。

 

 

「くっ……コフッ……」

 

「はーい、急病人はこっちねー。ジークフリート君、後はよろしく!!」

 

 

そう言って沖田をベビーカーで回収していくダ・ヴィンチ。ついでに彼はジークフリートにあるものを渡していった。

 

 

「これは……分かった、恩に着る」

 

「コフッ……すみません……」

 

 

 

「この世の財は我のもの、ならばどう使おうと問題はあるまい? ……これも戦法の一つと言うものよ。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!」

 

   ズドォンッ ズドォンッ

 

 

それと時を同じくして、シールダーと信長はギル吉と交戦していた。

……いや、ギル吉の攻撃をひたすらに回避していた、とも言えるが。

 

 

『Noble phantasm』

 

「はああっ!! ……今のうちに!!」

 

 

その盾を大地に突き立て、ギル吉の宝具を受け止めるシールダー。信長はその背後で無数の火縄を召喚し放つ。

 

 

「くっ……三千世界(さんだんうち)!!」

 

「ふっ、その程度の弾で我が落ちるとでも思ったか!!」

 

   カキンカキン カキンカキン

 

 

……が、それらは全て発射された宝具に弾かれ、届かず。二人は益々疲弊していく。

 

そして。

 

 

「思い上がったな!! ……失せろ!!」

 

   ガンッ

 

『ガッチョーン』

 

「……!?」

 

 

ゲート・オブ・バビロンによって、シールダーのバグヴァイザーが勢いよく弾き飛ばされた。当然シールダーの変身は解け、マシュは無防備な姿で倒れこむ。

 

 

「くぅっ……!!」ドサッ

 

「ふはははははは!!」

 

 

ギル吉の高笑いがまた響いた。

ここに来て、黎斗の存在がいかに頼もしかったかをマシュは思い知る。そして、未だ自分達は力不足だったと、彼女は再確認した。

 

 

「ふははは、ははは…………飽きた。流石に飽きたぞ、女。そろそろ終わりにしようではないか」

 

 

圧倒的絶望。というか、いつも絶望的状況だったが。少なくとも、圧倒的な敵が目の前に歩いてきていて、かつ剣をこちらに向けている時点で、今回の危機が一番なのは言うまでもない。

 

せめてもう少し戦力が多ければ。……マシュは、向こうで戦っている筈のジークフリートを見た。

 

彼は。

 

 

「……すまない……勝手に借りる!!」

 

『ガッチョーン』

 

「変身っ!!」

 

『Transform Saber』

 

「……!?」

 

 

……予想外は連鎖する。

 

ジークフリートが、バグヴァイザーを装備していた。ダ・ヴィンチから渡されたのは、予備のバクスターバックルだったのだ。

 

その姿を変化させ、呪いのかかった背中以外を装甲に包み、仮面ライダーセイバーは大地を駆ける。標的は豊臣ギル吉、幸いエキセントリック軍師は腹を貫かれた痛みで動きが鈍い。

ここで決める。

 

 

『Buster brave chain』

 

『Noble phantasm』

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ガキンッ

 

「……ほう、貴様は暇潰しになるか?」

 

 

セイバーの宝具発動。ギル吉はマシュを断とうとしていたその剣でバルムンクを受け止めるが、一撃の重さに思わず飛び退く。

 

再び、黄金に身を包んだ王の顔に愉悦が浮かんだ。

 

───

 

「ここで殺してくれる旗の聖女!! 与えてやろう、我が怨念の何たるか!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 

アヴェンジャーの高速、いや光速に達しうるレベルの速度の攻撃をその旗で防御するジャンヌ・ダルク。

暫く打ち合って、しかし攻めあぐねたのかアヴェンジャーは黎斗の元まで戻ってくる。

 

 

「ちっ、思いの外固くなっているようだな」

 

「決意したらステータスが上がる、という訳だ。ふざけた設定だな」

 

 

そう短く言葉を交わす二人。目の前では、ジャンヌ・ダルクと黙っていた男が話している。

 

 

「……言葉だけでは届かぬ思いもある、と言うことですジャンヌ・ダルク」

 

「……分かっています、が……諦められません」

 

「……でしょうね。だからこそ、主は今もあなたを愛するのでしょう」

 

 

アヴェンジャーがその男の姿を漸く認め、言葉を投げ掛けた。

 

 

「もう一人の裁定者、やはりお前も相手をするか。面白い、嗚呼面白いぞ……天草四郎時貞!!」

 

「……初めまして、アヴェンジャー。斯様な場所でなければ、違う出会いもあったでしょうが。復讐のクリストを名乗る貴方には、最早祈りも言葉も届くまい」

 

「分かっているじゃあないか」

 

「ですが……この世の地獄を知るのなら、真に尊きものを知っているはず。魔術王の策謀にも貴方は乗らなかった。ならば……」

 

 

第六の間の支配者、天草四郎時貞はアヴェンジャーにそう言った。アヴェンジャーは彼の言葉を聞き、怒りと昂りを感じているように見える。

 

 

「黙れ、オレは恩讐の外の存在と馴れ合うつもりはない。勘違いするな、オレは世界を救う手助けなどしていない」

 

「……そうですか。荒事は苦手ですが、これも導きですね。ジャンヌ・ダルク……力を貸します」

 

「ええ、共に戦いましょう。共闘するなら、貴方ほど心強い相手もそうはいません。二人なら、なんとかアヴェンジャーを……!!」

 

「ハッ、ここまでの戦いを見るに、どうも聖職者は嘘が好きらしいな!!」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーは黎斗に向き直った。その拳から燃え上がっていた黒炎は、今や体全体を覆わんとするレベルに達していて。

 

 

「……指示を出せマスター。おまえとオレは最早一心同体。おまえの事はやはり分からんが、今この場において──」

 

「──オレはお前で、お前はオレ、という訳か。……この言葉はあまり好きではないがな。まあ良いだろう。……二人で一人、二人で勝利(ビクトリー)と行こうじゃないか」

 

「ああ……!! おまえと!! 戦えるのは!! オレだけだ!! 殺せ!! 奪え!! ……全てを取り戻せ!!」

 

「……私もいるんだけどなー……」

 

───

 

『Quick brave chain』

 

「はあっ!!」

 

「ふはははははは!! いい、良いぞ仮面ライダー!!」

 

 

セイバーとギル吉が鍔競り合う。セイバーの持つのはバルムンク、ギル吉が構えるはゲート・オブ・バビロンから取り出した竜殺しの魔剣グラムと絶世の名剣デュランダル。

火花を散らして金と銀が争う姿はどこか神聖で、そして言い様もなく恐ろしかった。

 

 

「もう一発だ!!」

 

『Noble phantasm』

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   グシャッ

 

 

セイバーが宝具の真名を解放し、全体重をもってグラムとデュランダルを叩き斬る。

ギル吉はよろめき、しかしバックステップを踏みながらゲイ・ボルクやらカラドボルグやらを投射した。

 

 

『Arts chain』

 

「はぁっ!!」カキンカキン

 

 

それらを弾き飛ばし、瞬時にギル吉に再度肉薄するセイバー。ギル吉はさらに大笑する。

 

 

「そうでなければな、もっと我を楽しませろ!!」

 

 

そうして引き抜いたのは……

 

 

「決着の時だ。世界を裂くは我が乖離剣……!!」

 

 

 

『不味い!! それを使われたら、最悪特異点が崩壊する!!』

 

「何ですって!?」

 

 

ロマンの悲痛な声が、通信機越しに響いた。……それでも、それを聞いたマシュは何も出来ない。ただ痛む全身を抱えて祈るしかない。

 

 

「受けよ!! 天地乖離す(エヌマ・)……」

 

   ポン

 

「……ん?」

 

 

必殺の剣を引き抜かんとしていたギル吉は、その肩に誰かの手の感触を確かに感じた。

邪魔をするとは不届きな輩だ、誰だ?まさか盾の小娘ではあるまい──

 

そう思って振り替えると。

 

 

「……漸くこのタイミングが巡ってきたのう」

 

「……貴様は」

 

「人間五十年、それ即ち夢幻。然れど人間の可能性は無限……我は魔王、例え神であろうと焼き払おう。例え仏であろうと殺してみせよう。是非もなし、神仏の閨に火を放て」

 

 

それは、先程までマシュの隣にいたはずの信長だった。彼女はギル吉の肩に手を置き、静かな、しかし挑戦的な目をしていた。

 

 

「我こそは織田信長なり、いざ、三界神仏灰燼と帰せ……第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)!!」

 




オリ詠唱はなんだかクサくなっていかんね


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やっと終わりましたよ先輩!!

 

 

「『天の杯(ヘブンズ・フィール)』起動。万物に終焉をっ……双腕・零次収束(ツインアーム・ビッグクランチ)!!」

 

「もう一発だアヴェンジャー、宝具!!」

 

「くははははは!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

第六の間で、アヴェンジャーはルーラー、天草四郎と殴りあっていた。打撃の応酬による衝撃は、既に第六の間を破壊しつくしている。既にレンガの壁は崩れ、廊下が顔を覗かせていた。

 

 

   ズドンッ ズガンッ  ガガァァンッ

 

「ぐうっ……やります、ねぇっ……!!」

 

「まだまだ行くぞっ……!!」

 

 

互いに宝具を連発したせいだろう、アヴェンジャーも天草四郎も既にボロボロであった。

ジャンヌ・ダルクは天草の救援に入ろうとするが、ナーサリーに阻まれる。

 

 

「ナーサリー、ジャンヌ・ダルクを抑えろ!!」

 

「分かってるわ!! ええいっ!!」

 

 

氷やら炎やら何やらが、ジャンヌの足の歩みを強引に食い止めた。しかも、ナーサリーは遠距離攻撃を行うため、ジャンヌの旗のリーチでは届かない所にいる。

所謂ハメ技である。

 

 

「くっ……!!」

 

「そろそろ決めろアヴェンジャー、全力で止めだ!!」

 

「ああ、決めてやるともマスター!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)……!!」

 

   カッ  ガガガガガガガガガガッ

 

───

 

そしてマシュ達は……欧風の街並みから、別の所に飛ばされてきていた。

 

 

「……ここはどこだ? 雑種」

 

 

そこは、炎に囲まれ焼け落ちた寺。

信長とギル吉、マシュにダ・ヴィンチとベビーカー内の二人、そして仮面ライダーセイバーは、業火巡る焼け跡に立っている。

 

 

「まさか……」

 

「……これは、固有結界?」

 

 

ダ・ヴィンチやマシュがそう呟いた。

焔に照らされたギル吉は辺りを見回し、一つ溜め息をついた後で、適当な剣を一本取りだし、構える。

 

 

「その程度の小細工でどうにかなるとでも思ったのか?」

 

 

そう言って歩き始めようとした。

しかし……足を出そうとした刹那、彼は体に違和感を感じていて。

 

 

「……ん?」

 

 

……熱いのだ。全身が焼けるように熱いのだ。蒸されるように熱いのだ。炙られるように炒られるように茹でられるように熱いのだ。

 

 

「ああ、ああっ……!?」

 

「……第六天魔王波旬、それは、儂の所業が人々の畏れを以て固有結界と化した宝具。この世界の炎は、神仏を焼く轟火よ」

 

 

その場に立ちすくむギル吉を前に、信長がそう言う。この炎のせいか、彼女の衣服は既に焼け落ち、裸マント状態になっていた。

 

そして相対するギル吉は、三分の二が神である。つまり、効果は抜群、と言うわけで。

 

 

「おのれ……だが……我は、ガッ……まだ、負けん!!」

 

 

それでも彼は剣……いや、刀を振り抜いた。それは日本刀の原典、三種の神器と名高い天叢雲剣。

 

セイバーと信長が彼を挟むよう抜刀して立つ。

……戦闘の最終局面が、始まりを告げた。

 

───

 

「……アヴェンジャー。あなたを救いたいと、私達は願う。その思いのもと、私達は戦った……ですよね、ジャンヌ・ダルク」

 

「はい……ですが、またも力及ばず……」

 

 

アヴェンジャーの最後の攻撃の後に煙が晴れると。

……天草四郎とジャンヌ・ダルクは、とうとう同時に膝をついていた。辛勝だった。

 

 

「……復讐はヒトの手には余るのです。聖典を引用するまでもなく、ソレは過ぎたる行いだ。予言でも預言でもなく、私はあなたにこう言おう、アヴェンジャー。その炎は、いつかあなた自身を滅ぼすだろう、と」

 

 

体の端を光に変えながら天草四郎はそう言った。アヴェンジャーはそれを鼻で笑い返答する。

 

 

「……それが残す言葉か、ルーラーども。オレが永久の復讐者だという事実は主さえ変えられぬ。それでも尚言うか?」

 

「……永久のものなどありません。悪しきものなら尚の事。あなたは甘いと断ずるでしょうが……」

 

「ああ、甘いな……だが……」

 

 

アヴェンジャーはそこまで言って黙り、暫く考える様子を見せた。

目の前のルーラー二人は、既に半分ほどに磨り減っている。

 

 

「……いや、止めておこう。ここに在ってさえ気高さを失わぬ者共よ。お前らの主をオレは嗤うが、お前達は別だ。憤怒を赦した聖女、悪に立ち向かわんとした強欲の聖者よ」

 

 

そしてアヴェンジャーは彼らに背を向ける。向かうは、共に戦った人類最後のマスターの元。

 

 

「……さらば」

 

「……あなたの、魂に……」

 

「……安寧があらん事を、此処ならぬ何処かで祈ります」

 

 

背後から聞こえるその声を取り合えず頭の片隅に置きながら、アヴェンジャーは黎斗に話しかけた。

その黎斗は、やはり自信ありげに腕を組んでいて。

 

 

「……待たせたな、マスター。裁きの間はあと一つだ。……お前が諦めないなら、殺し、歩み続けるなら、ともすれば現世に帰れるかもな」

 

「かも、ではない。私は絶対に帰るとも」

 

「……ははっ。……帰るぞ。今回は、かなり疲れた」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

「これで落とす!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「おのれおのれおのれっ……これでっ……!!」

 

 

   ズシャッ

 

 

セイバーが、ギル吉を横凪ぎに両断した。

本来なら何度でも立ち上がっていただろう彼は、この炎の中ではもう膝をつく他はなかった。

 

 

「がっ……がっ……おのれ……」

 

 

血を吐きながら……しかし、笑うギル吉。信長はその刀を鞘に収め、セイバーも変身を解く。

 

 

「まさか我が負けるとは、な……!! ははっ……楽しかったぞ英雄共……また今度、相手してもらおうだぎゃ」

 

 

そこまで言った所で、ギル吉は消滅した。思い出したように最後に語尾にだぎゃと付けていったが、正直途中は普通に素のギルガメッシュだった。

それに会わせて、世界に溢れていた炎は消え、景色は元に戻っていく。

 

 

「よーし終わった、これでオレもお役御免だ。竹中アンデルセンという響きが面白かったので協力してやったが、阿呆の馬鹿笑いにはうんざりだ。ふぅ……帰ったら寝よう」

 

 

一行が戻ってくるなかにギル吉がいないのを確認してから、そう言って自分から座に帰っていくアンデルセン。いやいや言っていながら、彼も何だかんだで傷だらけだ。

そして隣のエキセントリック軍師はと言うと、傷の痛みが少し引いたので立ち上がろうとしたところをダ・ヴィンチに撥ね飛ばされ致命傷を負っていた。

 

 

「いててて……いやはや全く残念無念、それはさておき、せっかくなので私からこの茶釜をプレゼントです。あたた……」

 

「ど、どうも……」

 

 

割りと早めに霧散しながらもマシュに茶釜を手渡す軍師。

マシュがそれを受け取ったのをしっかり確認してから彼は言葉を続ける。

 

 

「いやー、極東の……えーと? 山葵山葵文化? でしたっけ? まあ、これは実に興味深い!! 爆発する茶釜とは実にエキセントリックですなぁ!!」

 

「え?」

 

 

なんかすっごい物騒な事が聞こえてきたのでマシュは硬直した。え、今爆発するって言わなかった?と。

 

どうすればいいかあたふたするマシュ。エキセントリック軍師は既に消滅している。

茶釜を投擲しようとしていた彼女に、信長が声をかけた。

 

 

「落ち着け落ち着け、爆発するのは松永のだけじゃ……うむ、この茶釜が変質した聖杯の核のようじゃな」

 

 

そう言っていた。

 

……つまり、ミッション完了である。やっと完了である。

ああ、長くて辛くて苦しい戦いだった。

 

 

「……ミッション完了、ですね」

 

「そうだねー……そろそろ帰らないと、本当に空間消滅しちゃうね」

 

 

帰還が始まる。マシュとジークフリート、ダ・ヴィンチ、そして結局目を覚まさなかった黎斗は青い光に包まれていく。

 

 

「コフッ……皆さん、今回はお世話になりました。今度は是非私たちの世界にも遊びに来てください……大戦中ですけど」

 

「うむ、おまえ達は気に入ったのじゃ……というか、わしがそのばぐるどらいばーとやらを使えなかったのが悔しい!!」

 

 

協力してくれた二人はそう言っていた。

信長は余程悔しかったのだろう、何度も地団駄を踏んでいる。

 

 

「次何か召喚する時には、絶対に召喚されてやるからの!!」

 

「ノッブならやりかねませんね……」

 

「さようなら沖田さん!! 信長さん!! かっこよかったですよ!!」

 

「では、さらばだ」

 

「じゃーねー!!」

 

 

そしてその光景も、次の瞬間には青に塗り潰されていて。

 

 

「では、また何処かで会いましょう!!」

 

「さらばじゃ!!」

 

 

その声だけが、マシュの耳に残っていた。

 

───

 

「……檀黎斗」

 

 

アヴェンジャー、エドモン・ダンテス。憤怒そのものであり、復讐者として座に記された男。

彼は……仮初めのマスターの牢獄の前に座り、思考に耽っていた。

 

宝具にもなるほどの超高速思考も、檀黎斗という神を理解するには未だたどり着けていない。情報が少ない──それが、アヴェンジャーの出した一応の結論だった。

 

 

「……檀黎斗は、果たして助けるべき人間か?」

 

 

何度目かは分からないが、アヴェンジャーはまたそう呟いた。

これまた何度目かは分からないが、再度これまで得た情報を纏めてみる。

 

 

・嫉妬の間

 

 監獄塔においても己のペースを貫く精神性

 高い技術

 仲間意識は一応ある

 非常に嫉妬深い

 復讐に寛容

 

・色欲の間

 

 色欲を憎んでいる

 既に魂から排除済み

 

 

ここまでは、黎斗はアヴェンジャーにとって全く理解に苦しむ存在だった。

人間なのか、そうでないのか。善か、悪か。

 

いや、元来アヴェンジャーは人類最後のマスターを助ける心づもりではあったが。それでも、彼を助けるのは本当に大丈夫なのか、と思ってしまった。

 

情報は日毎に増えていった。

 

 

・怠惰の間

 

 怠惰に寛容

 勤勉に活動し怠惰を産む

 残酷なまでの決断力

 神の才能(ジル・ド・レェ談)

 

・憤怒の間

 

 復讐を利用している

 英霊には無知

 

・暴食の間

 

 迷わない(カリギュラ談)

 沢山の人間を犠牲にしている

 後悔しない

 愛を捨てきれなかった(カリギュラ談)

 後天性かつ真性の悪(カリギュラ談)

 

 

この、カリギュラの言葉が一番のヒントなのだろう。元々黎斗の仲間だった者の言葉だ、信憑性はある。

だが……どうしたものか。後天性かつ真性の悪なんて言われてしまっている。

 

己の憎むものは、悪と理不尽だ。それは己がもっとも理解していること。ならば、彼を許すのは復讐者としてどうなんだ……そうとも思う。

 

されど、彼がこの人理焼却に打ち勝たないと、全ての人間が死ぬことになる。それはアヴェンジャーの本意ではない。

 

しかし彼に人理を救わせたところで、どうなる? 檀黎斗自身が新たな人類悪になるやもしれぬと言うのに?

もしかすれば、人間は痛みなく一瞬で消滅したままの方が、幸せかもしれないと言うのに?

 

 

「……チッ。オレが他人の幸せを心配するとはな。聖女にでも毒されたか」

 

 

アヴェンジャーはそう一人ごちた。

彼の中での結論は、「黎斗は復讐すべき悪である」に決まりつつあった。

 

だが、彼はいざ黎斗を手にかけるべきかを考えると、途端に思考が止まってしまうのだ。

下手をすれば、殺す前に殺されるやもしれぬと言うのに……いや、シャトー・ディフにあって二人以上の脱出など有り得ないのだが。

 

とにもかくにも、アヴェンジャーは……黎斗に攻撃するのが酷く躊躇われていた。

何か判断基準を追加しようと、第六の間の事も思い返すが……

 

 

・強欲の間

 

 努力を怠らない

 

 

これだけだ。アヴェンジャーは頭を抱えた。

 

己はどうするべきなのか、と。

 

そもそも何故、黎斗を殺せないんだろうか。アヴェンジャーは考える。

彼を焼くイメージを固め黒炎を出してみようとするが……

 

 

「……」シュボ

 

 

煙草一つすらもつけられそうにない、微弱な火花が散っただけだ。

 

アヴェンジャーは考えた。

これまでの六日間を。()()()()()()六日間を。

 

……そして、はたと気づいた。

 

 

「……ああ、そういうことか」

 

 

これまでの六日間。

アヴェンジャーにとっては大変予想外な出来事だらけだった。

理解がいくところも、理解がいかないところもあった。共に戦った時にはその技術や才能に確かに驚嘆した。

 

 

「あの男も、オレも。……人間でありながら人間を捨て、されど愛を最終的には捨てられず。目的のためには一心に動き、そしてその目的のため……人間性の悉くを逸脱した」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーの口から笑い声が漏れ出た。彼は何かを拒絶するかのようにその帽子を目が隠れるように被り直す。

 

 

「ははっ、くはははは……そうか。オレと彼奴は()()なんだ。共に悪であり、共に人外と化した……ああ、仲間、なのか」

 

 

寵姫こそいたが……彼を理解する存在はいたが。

アヴェンジャーは己と似た存在を知らなかったのだ。六日前……いや、ある意味では今日この日まで。

 

 

「同士、なのか」

 

 

だからアヴェンジャーは、どこか呆けたように、そう理解した。

 

この世の地獄、シャトー・ディフの怨念にまみれたその床に、一粒の滴が落ちた。

 

 

「くははははっ……ああ、分からぬ、全く、オレはオレが分からぬ!! 復讐者たるオレに、仲間を求める感情があったとでも言うのか!! ああ、そうでなければ、この感情の昂りは何なんだ!! 今までの何とも違う、オレはこんなの知らない、覚えていない、既に忘れた、なのにっ──!!」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーは落ち着きを取り戻した。

溜め息を一つついて、煙草に火をつける。

 

 

「……やれやれ。これでは考えるだけ無駄と言うものだ……偵察にでも行ってやろう」

 

 

そう言って歩き出す。

 

その力を活用し、数分と経たずに第七の裁きの間、傲慢の間にたどり着いたアヴェンジャーは。

 

その姿を見た。第七の裁きの間の主を。

 

 

「……はは、やはりそうか。それもそうだよな」

 

 

そこにいたのは。

 

 

「檀、黎斗……!!」

 




アヴェンジャーと神は、何だかんだで敵対しない限り相性いいと思う……思わない?


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そして、傲慢を背負った二人

 

 

 

「……起きたかマスター」

 

「おはようアヴェンジャー」

 

 

アヴェンジャーが牢獄の扉を開けたときには、既に黎斗は仕度を終えていた。ナーサリーは黎斗の周りをくるくると回っている。

 

 

「……行くぞ、準備しろ。第七の裁きの間へと向かうぞ」

 

「ああ……今日で最後だぞナーサリー」

 

「はーい」

 

 

そんな事を言いながら、三人はシャトー・ディフの廊下へと出ていった。

 

───

 

「じゃあ、召喚するよ!!」

 

 

ダ・ヴィンチが召喚室にてそう言った。彼の前では、マシュがきらきらとした目で召喚サークルを見つめている。

辺りに青い光が満ち、そして……

 

 

「魔人アーチャーこと第六天魔王ノブナガじゃ!! うむ、そなたがわしのマスターとなることを許すぞ!!」

 

「信長さんっ……!!」

 

 

やっと女子が来た!! これで勝つる!! ……なんて言ってはいないが、しかしそんな顔をしながら、マシュは信長に飛び付いた。

ダ・ヴィンチはやれやれといった感じで彼女を見つめる。

 

 

「はは……信長ちゃん、こんな場所だけどよろしくね?」

 

「うむ!! ……所で、わしもばぐばいざーとやらを使いたいのじゃが……」

 

「分かってる分かってる……」

 

 

信長に分かりきっていた要望を言われ、そう返すダ・ヴィンチは……突然腰に振動を感じた。

 

 

   ヴーッ ヴーッ

 

「ん?」

 

 

端末を取りだしメールを確認する。

そこには……

 

 

「……マシュちゃん、君のマスターの容態がなんかおかしいみたいだよ」

 

───

 

「第七の支配者……お前は、ひたすらに相手に抗え。迷いは要らない、惑いは要らない、結局道は一つなのだから」

 

「今日は傲慢の担当だろう?」

 

「ああ……だが、お前ほど傲慢な男は、オレは中々見たことがない」

 

「ただの傲慢じゃないさ。確固たる才能と弛み無き研磨の上に抱く正当な傲慢だ」

 

「否定はしないとも」

 

 

アヴェンジャーと黎斗は、歩きながらそう語る。その目は、まっすぐに前を見つめていて。

 

 

「……にしても、お前は幸運な男だ」

 

「何だいきなり」

 

「オレが傍らを歩いているのもそうだが、このイフ城……シャトー・ディフの地獄の殆どをお前は知らずにいる」

 

「な、何かしら、それ……」

 

 

アヴェンジャーが唐突に切り出した話にナーサリーは怯え、黎斗の服の裾を掴む。アヴェンジャーはそれを気にかけることもなく、同じトーンで話し続ける。

……いつの間にか、第七の間の扉の前にやって来ていた。

 

 

「理不尽な拷問の雨、道理に外れた凌辱、死にかけの呻きの合唱、途絶えぬ死臭とそれに集る毒虫……そんなものだ。……オレは、お前は余程何かに愛されていると思っていたが……」

 

 

そう言いながら、アヴェンジャーは第七の間の扉に手をかけ。

 

今までで一番重い音を立て、空気すらも軋ませながら開いたその扉の向こうにいたのは。あったのは。

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……」

 

「まさか、檀黎斗。お前自身が第七の間の主だったとは」

 

「……ほう。随分と、粋な計らいがされているじゃないか」

 

 

黎斗はその台に歩み寄る。そして、ゲーマドライバーと二本のガシャット……プロトマイティアクションXとプロトシャカリキスポーツを拾い上げ、まじまじと見つめた。

 

 

「……ああ、そうだな檀黎斗。……オレはずっと考えていた。お前を導いて本当にいいのか、と。お前は……オレが本来憎むべき悪だったのだから」

 

「そうか。まあ、ここ基準で語るならそうだろうな」

 

「いや、ここで語る悪なら問題ない。寧ろお前は、ここの悪からはある意味では逸脱している。だから……お前は人非人であり、この世の理不尽足り得る、魔術王にも近い悪だ。だが……今なら言える。お前をここに連れてきて、良かった、とな」

 

 

黎斗は再びアヴェンジャーを見やった。

……彼の目は爛々と輝いていて、その体からは黒いエネルギーが溢れていて。

 

 

「第七の裁きの間、傲慢の間の支配者よ。オレかお前か、この戦いに勝った方がこのシャトー・ディフから脱出できる」

 

「……成る程、それもそうだろうな。だが……裁きの間の主が、外に出ていいのか?」

 

「くくっ、かくいうオレとて、神の領分たる復讐を司っているのだ……傲慢の具現、第七の裁きの間の支配者よ!! さあ……遠慮はいらぬ!! (黎斗)よ、(オレ)をっ、殺せ!!」

 

 

そう怒鳴るアヴェンジャー。

ここに来て吹っ切れたのだろう、その拳からは焔が立ち上っていて。

対する黎斗はあくまでも落ち着いていた。

 

 

「……来い、ナーサリー」

 

「分かってるわよマスター」

 

 

黎斗が指示をだし、彼に纏わりつくようにナーサリーが背後から優しく覆い被さる。そして彼女はその体をバグスターウイルスに変換し、黎斗の体内に戻った。

これで黎斗は再び、『イメージ通りの挙動をする力』を得たことになる。ロンドンの時は体が砕け散るレベルの副作用があったが、魂だけの今なら大した問題はない。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

黎斗はゲーマドライバーを腰につけ、そしてプロトマイティアクションXにプロトシャカリキスポーツの電源を入れた。

第七の間に紫のゲームエリアが展開される。ガシャットの音声が鳴り響く。そして。

 

 

「行くぞアヴェンジャー……グレード3、変身」

 

『『ガッシャット!!』』

 

『ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

 

黎斗の体がゲンムに書き換えられる。紫の体躯の戦士となっていく。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン X!!』

 

『アガッチャ!! シャカリキメチャコギホットホット!! シャカシャカコギコギ シャカリキスポーツ!!』

 

「……仮面ライダーゲンム、レベル3」

 

「……くははははは……そうか、それがお前か!!」

 

 

アヴェンジャーは目を見張る。いや、肩に自転車を装備した珍妙かつ不安定な体型も十分刮目には値するが……

……彼がひたすらに見ていたのは、己のマスターの本来の力、そしてゲンムの持っている自信の結晶である仮面ライダー、そのものだった。

 

───

 

「ドクター!! 黎斗さんは!?」

 

「うーん……何だろう、元々死体だからなんとも言えないけど……」

 

 

医務室にやって来たマシュは、ロマンが枕元に立つ黎斗のベッドに目を見やる。

人理を救うためには、彼には存在して貰わなければいけないのだ、消えられては非常に困る。

 

 

「……実は、さっきからプルプルしてるんだよね、コレ」

 

「……プルプル?」

 

 

黎斗の冷たい体は、よく見ると小刻みに震えていた。定期的にブレたり、薄くなったりしている。

 

 

「当然、ボクはこんな症状知らない。もしかしたら、彼がロンドンでサーヴァントを体内に潜ませた影響なのかもね……でも、今は何ともしようがない」

 

「そう、ですか……」

 

「当然、最善は尽くすさ。少なくとも、彼にはマスターとして存在して貰わないと困るんだから」

 

───

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

『シャカリキ クリティカル ストライク!!』

 

 

宝具を解放し、超高速でゲンムに迫るアヴェンジャー。対するゲンムは左肩から車輪を引き抜き回転させ、盾のようにして攻撃を凌ぐ。

 

 

   ガンッ ガンガンガンッ

 

「ふはははは……やるな檀黎斗……」

 

「そっちこそ、なかなか耐えるじゃないかアヴェンジャー」

 

 

殴りあいながらそう簡単に言葉を交わす二人。アヴェンジャーは、笑っていた。ゲンムは……表情なんて見えなかった。

 

 

「お前の攻撃の筋は何となく理解できているからな。言っただろう? オレはお前でお前はオレだと。お前とオレは同じな訳だ。全て、全て」

 

 

炎を撒き散らしながらそう言うアヴェンジャー。ゲンムはそれらを車輪で掻き消しながらアヴェンジャーに肉薄する。

 

 

「同じ、とはどういうことだ?」

 

「オレもお前も、結局は同じルートを辿り、同じエンドへとたどり着こうとする存在、というだけだ、檀黎斗。人間への愛を捨てられず、目的の為に人間を投げ捨てた……同士よ」

 

 

黒炎が巻き上がる。それをもろに受けたゲンムのライフゲージが幾らか減ったが、ゲンムはそれを気にすることなくアヴェンジャーの鳩尾を蹴り込んだ。

 

 

   グシャッ

 

「かはっ……!!」

 

「……お前は勘違いしている。……私はあくまで、私自身の神の才能を生かすためだけに戦っているだけだ」

 

「だろうな。だが──態々才能を他者に恵んでいる時点で、少しは他者への情がある、という事かもしれないぞ? ……オレ自身、こんな台詞は似合わんと思うがな」

 

「……」

 

 

ゲンムは黙りこむ。その姿は、ここまで言われるとは思っていなかった、と言わんばかりで。

そして彼は、再びキメワザスロットにガシャットを装填する。

 

 

『シャカリキ クリティカル ストライク!!』

 

───

 

「……所で、クロト、とは誰なのじゃ?」

 

「そう言えば、俺も知らないな、すまない」

 

 

カルデアの食堂にて、まだ動いている黎斗を見たことがない二人が話していた。彼らは理解していないのだ。

黎斗がいかに面倒で独り善がりで排他的で自惚れていてそして強いかを。

 

彼らは無知が故に、彼に夢を見てしまう。

 

 

「マシュ曰く凄く酷い奴、じゃったが……」

 

「だが、自身の大破もいとわずビーストを撃破したと聞く。ともすれば、真の意味で強い存在なのかもしれない」

 

「じゃが、それなら少しは理解されていても良いと思うのじゃが。わしには判らぬ」

 

「そろそろ目覚めてくれるとありがたいのだが、な」

 

───

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

『シャカリキ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「「……終わりだ!!」」

 

 

ブレードを展開したガシャコンブレイカーにシャカリキスポーツを装填したゲンムは、全身を燃え滾らせるアヴェンジャーに何度めか分からない必殺を繰り出す。

対するアヴェンジャーは瞬時にゲンムの前に移動し、その拳を振りかぶり。

 

 

   グギャァンッ

 

「……!?」

 

 

次の瞬間には、ガシャコンブレイカーのブレード部分が大破していた。長く激しい戦闘で、武器が最初に音を上げたのだ。

遠くに突き刺さる切っ先、目の前には宝具を解放したままのアヴェンジャー。

 

彼の拳がゲンムに迫る。そして、既に彼のライフゲージは1で。

 

 

「はあああっ……!!」

 

「ぐっ……」

 

 

目を閉じるゲンム。

 

拳が風を切る音が聞こえ。

 

 

 

 

 

しかし衝撃は何時まで経っても来なかった。

 

 

「くっ……」

 

 

アヴェンジャーは、彼の目の前で拳を止めてしまっていたのだ。

 

 

『バッコーン!!』

 

『シャカリキ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

   グシャッ

 

 

そのあまりに大きすぎる隙を見て、ゲンムはアヴェンジャーの腹に最後の一撃を叩き込んだ。

糸がプツリと切れたように崩れ落ちるアヴェンジャー。炎はいつの間には萎み、消えている。

 

 

『会心の一発!!』

 

「……くはは……これが、身内の情、という奴か」

 

「私はお前の身内ではない。神の才能を前に怖じけづいただけだろう」

 

 

力なく呟くアヴェンジャーをゲンムはそう断じる。そして彼は、変身を解いた。

 

 

「……クッ、ククッ。ああ──流石、我が同士だ」

 

「……言ったはずだ。お前は私とは違う、と」

 

「お前が何を言おうと、そんなの気になどするものか、オレはオレのやりたいようにお前を翻弄してやる……」

 

 

そこまで言って、一つ深呼吸するアヴェンジャー。既に、体は少しずつ薄くなっていて。

 

 

「……気分は悪くないな。そうとも、オレは一度でも味わいたかった、かつてオレを導いたただひとり、ああ、ファリア神父……あなたのように!! オレも……絶望に負けぬ誰かを……我が、希望として……」

 

「……私には分からないな。やはり、私はお前とは違うとも」

 

「……オレは思おう。お前はお前なりに、結局誰かの役に()()()()()()()()、とな。ああ、後天性で真性の悪、檀黎斗」

 

「……」

 

「……お前はオレを殺してくれた。ゲーム、クリアだ。……そう……オレたちの勝ちだ!! 魔術王とて全能ではないと言うことだ!! くははははは!! くははははは!!」

 

 

絞り出すような、それでも満足げな笑いだった。

 

 

「愚かな魔術王め!! お前がビーストにこてんぱんにやられたのを機に殺そうとしたが、結果はこれだ、ざまあない!! オレなんぞ選ぶからだ!! くははははは!! ああ、復讐さるるべき悪なるもの、檀黎斗!! しかしお前は……」

 

「……お前は?」

 

「世界を救うだろう!!」

 

「そうか……そう、思うのか。……所で、お前は……永遠に消えるのか?」

 

 

黎斗はそう問いかける。彼の前のアヴェンジャーは、既にその下半身を霧散させていて。

しかしアヴェンジャーは言った。

 

 

「……馬鹿め。オレはアヴェンジャーだ……復讐すべき悪を見逃して簡単に消えられるとでも思ったか?」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーは小さく黒炎を起こし……黎斗の肩に押し込んだ。己の肩を慌てて見やり、静かに慌てる黎斗。

 

 

「……これは」

 

「魂にオレの炎を少し流し入れた。戻ったら召喚してみろ、すぐに押し掛けてやる……お前が己自身の意思すら見失い、意味無き悪に、理由無き理不尽に墜ちたなら、オレが復讐してやるさ」

 

 

そう言うアヴェンジャーは、もうその腕も消えていて。

 

 

「……また後でな、檀黎斗。オレと似た存在よ。オレが、アヴェンジャーたるオレが、お前を最後まで見届けてやる……待て、しかして希望せよ!!」

 

 

辺りには誰もいなくなる。

 

そして黎斗自身も、その次の瞬間には光に包まれ、シャトー・ディフから消え失せていた。

 




アヴェンジャーがクリア報酬になるルート

ノッブかエリちゃんかで一時間悩んだ結果、結局Uchuu2001さんのノッブを採用しました


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第五特異点 北米神話対戦イ・プルーリバス・ウナム She's a 仮面ライダー?
宣戦布告です、先輩!!


 

 

 

「……成る程、ゲーム病が発症したか」

 

「ゲーム病?」

 

 

目を覚ました黎斗が真っ先にロマンに聞かれたことは、何故体が透けたり歪んだりずれたりするのか、ということだった。

黎斗はほんの少し考えたあと、特に感慨もなく返答する。しかしその返答はロマンには理解の及ばない範囲で。

 

 

「ゲーム病……? ゲーム病……そんなの、聞いたことないよ」

 

「だろうな。……出てこいナーサリー」

 

「はーい」

 

 

ベッドに横たわったままの黎斗からオレンジの粒子が漏れでて、ナーサリーの形を形成する。

当然そんな現象知らないロマンは腰を抜かした。

 

 

「ええっ……サーヴァントが、体から!?」

 

「バグスターだ。今のこいつは、ナーサリー・ライム・バグスター。私に感染しているウイルスだ」

 

「……ウイルス?」

 

 

魔術的な存在であるサーヴァントと、科学や医学の範疇であるウイルス。魔術と科学は近いと聞くが、それを考慮してもそれらの関連がよく理解できず、ロマンは首を傾げる。

黎斗はそれに対してこれといったリアクションを見せることなく、簡潔に説明した。

 

 

「こいつが私に取りついている限り、私に存在やら何やらを吸われ続け、最終的には消えるだろう」

 

「じゃあ、じゃあこのサーヴァントを倒さないと……」

 

 

そこまで言ってマシュと連絡を取ろうとするロマン。しかし黎斗は、彼の手首を強く掴み、それを止めた。

 

 

「何を……」

 

「いや、それは寧ろ不味い。ゲーム病を治すにはバグスターに対応するゲームをクリアせねばならないが……ナーサリー・ライムは童歌(わらべうた)だ。まさか本を切り裂いて、それが正しい遊び方だ、なんて言わないだろう?」

 

「……じゃあ、どうすればクリアになる?」

 

「……私も、正しい童歌の遊び方等々知らん。だが、こいつの望むように遊べばクリアになる可能性は高い。私が消えないように、精々何とかしておけ……」

 

 

黎斗はそう言って立ち上がる。その姿に、危機的状況に陥ったときに彼が見せる怯えや焦りは無い。ナーサリーはその場に残されたままだ。

ロマンは黎斗の背中に声をかけた。

 

 

「ちょっ、何処に行くんだ!!」

 

「……喚ばなくちゃいけない奴がいる」

 

───

 

「……約束通り、本当に押し掛けてきたな」

 

「ああ。俺を喚んだな檀黎斗。サーヴァント、アヴェンジャー……お前を翻弄しに来たぞ」

 

 

青い光の中から、アヴェンジャーが姿を現した。本当にやってきた事に驚きと安堵を覚える黎斗。

取り合えずアヴェンジャーの現在のステータスの確認を開始する。

 

しかしそれはすぐに中断された。

 

 

「黎斗さん!!」

 

「……マシュ・キリエライトか。久しいな」

 

 

召喚室に、マシュが息を切らしながら飛び込んできていた。

そして彼女は、黎斗のバグルドライバーを奪って変身しようとした時と同じ目で黎斗を見つめ、彼に言う。

 

 

「……貴方が生きていて良かったです。そうじゃないと、人理が救えませんからね」

 

 

その言葉にありありと見てとれる棘に、アヴェンジャーは笑った。

 

 

「ハハッ、随分好き勝手やったようだな」

 

「多少の犠牲は仕方無いとも。私にはやるべき事があった」

 

 

黎斗もそう返す。別に黎斗にとっては、マシュからどう思われていようとそれは興味の無い事だった。

マシュは黎斗に対して挑戦的な視線を向け続けながら、懐に手を伸ばす。

 

 

「……黎斗さん。貴方は、強いです……黎斗さん抜きで特異点を攻略して、やっと、本当の意味で気付きました」

 

「そうか」

 

「でも、私だって……強くなったんです。()()()()()()()()()

 

 

黎斗はそれも適当にあしらおうとし……

 

……大事な事に気がついた。

 

こいつは今何と言った?

 

 

「……うん?」

 

「ほう?」

 

 

黎斗が怪訝な顔をする。アヴェンジャーは新たな事件の予感に興味を示す。

マシュは懐に伸ばしていた手を引き抜き……そして、己のドライバーを取り出した。

 

 

「それは……それは何だ!?」

 

「……ダ・ヴィンチちゃんが作ってくれたんです。バグルドライバーL・D・V。これで私も、変身出来ました」

 

「何、だと……!?」

 

 

黎斗の足から力が抜けふらつく。アヴェンジャーは彼の肩を支えながらマシュのバグヴァイザーをしっかりと目に焼き付け、大笑した。

 

 

「くははははは!! お前が眠っている間に色々と起こっていたようじゃないか!! どうする? 己の才能が汚されたぞ? 復讐するか?」

 

「いや、まさかそんな、まさかそんな事があるだと……!? いや、そんな筈はない……だって……」

 

 

アヴェンジャーが黎斗を煽る。そして黎斗は煽られるまでもなく激怒していた。

だが彼は手を出せない。今バグヴァイザーはこの場に無いから。

 

 

「……言っておきますけど」

 

 

黎斗を未だに見つめながら、マシュが口を開く。ほんの少し、優越感を覚えているようにも見えた。

 

 

「今の貴方は、バラバラ死体を糸で繋いでそれっぽく見せ掛けているだけの状態です。完全に回復するまでは変身出来ません」

 

 

……それは、黎斗も薄々感じていた事だった。

手術によって歩くことは出来るが、走ると体を一瞬痛みが駆ける……そんな体験を、彼はもう何度もしていた。

 

 

「……ちっ!!」

 

 

黎斗はアヴェンジャーを引き連れ部屋を出る。

顔には青筋を立てていて。その手は強く握られて。それでも彼は今、非常にか弱かった。

 

───

 

「レオナルド・ダ・ヴィンチィッ!!」

 

「はーい、ダ・ヴィンチちゃんの工房にようこ……げぇっ、黎斗くん!?」

 

 

黎斗はその足で、これまでろくに訪れたことの無かったダ・ヴィンチの工房に飛び込んだ。

そして彼は、出迎えてきたダ・ヴィンチの首根っこを掴んで、唾が飛ぶのも構わずに叫ぶ。

 

 

「何故私の発明を模倣したぁっ!! 何故だ、何故だぁっ!!」

 

「いや、だって凄かったし。モノがあったら改良してなんぼでしょ?」

 

「その理屈は分かる、分かるとも。だが、それをやるのは開発者たる私の仕事だ!! 君の出番では無かった筈だ!!」

 

 

激昂する。激昂する。

ダ・ヴィンチは黎斗にとって決して許せない事を行った。

 

己の才能に作品にメスを入れられたのだ、彼にとっては予想外だし、それは本来ならあり得ないことである訳で。

 

 

「……でも寝てたじゃん」

 

「待てば良かったじゃないか!!」

 

「でも起きてから話しても聞かないでしょ?」

 

「当たり前だ!!」

 

 

ダ・ヴィンチは決まり悪そうに立っていた。彼とて、悪意は……殆ど無かったのだから。

ただ、その善意が相手の逆鱗を思いきり抉っていただけで。

 

黎斗は彼を見ながら大きく溜め息をつき、一つ舌打ちをした。

 

 

「……だが、今の私はこの体だ。君に何かをすることも出来ない」

 

「……」

 

「一応質問しておく。バグヴァイザーの機能は何だ?」

 

「……装着者の体を書き換えて強化する、所謂仮面ライダーへの変身機能」

 

「後は?」

 

「……えーと、粉をパラパラーってする攻撃。あと一応チェーンソーっぽいのもあったよね。……正直使い道無さそうだったから私はオミットしたけど」

 

「……ふむ」

 

 

ダ・ヴィンチは未だキレぎみの黎斗からの質問に、割と素直に答えた。

 

黎斗はその言葉を暫く吟味し……

 

 

「……まあ仕方無い、ということに、今はしておこう。……私が治ったら、また話をつけるぞ」

 

 

そう言い、部屋を出ていった。

 

───

 

「さて、第五特異点の場所は明らかになっている。独立戦争中のアメリカだ」

 

「ほう……」

 

 

次の日。管制室にサーヴァント達(ナーサリーを除く)と黎斗はいた。第五特異点に突入するのだ。

 

黎斗の事を考えると無理をするのは得策ではないが、先日の信長の世界の聖杯による異変などのイレギュラーが起こってしまって最終的に間に合わない事を考慮すると、少しの無理は仕方無かった。

 

 

「大事なことだから何度も言うけど。……今回は檀黎斗、君は変身してはいけない。だって変身したら、君は……」

 

「またバラバラになる、だろう? 何度も聞いたとも」

 

「ああ。それにゲーム病の事もある。……昨日から夜通しイギリスの童歌を読み聞かせているけど、一向に手応えがない」

 

「そうか」

 

 

黎斗にそう報告するロマン。彼は嘘など微塵も吐いていないらしく、その目の下には隈が出来ている。

因みにナーサリーは、態々ウイルスの状態になって黎斗の部屋に忍び込み、彼の布団で寝ているらしい。

 

 

「やれやれ……私は死にたくないが、今回の死は回避できる死だ。そもそもこれは私の計画の内だったからな。頼むぞ」

 

「はいはい……」

 

 

黎斗がそう言って、コフィンへと向かおうとする。アヴェンジャーは既に準備を整えていて、黎斗の隣にはいない。

マシュがまた黎斗の前に立ちはだかった。

 

 

「何だ」

 

「……安心してください。私が、私達が、マスターのサーヴァントとして、戦います」

 

「精々努力するがいいさ」

 

 

互いに苛立ちを隠さない会話。アヴェンジャーがいたなら黎斗を小者臭いと煽りでもしただろうが、それすらも無い会話。

 

 

「これが終わって、黎斗さんが体を治したら。その時、また戦いましょう。今度こそ、負けません」

 

 

黎斗はその言葉には答えず、彼女の隣を通ってコフィンに片足を突っ込んだ。

すると彼の隣に、彼とはまだ一度も話をしてこなかったセイバーとアーチャーがいる。

 

 

「……挨拶が遅れてしまったな。セイバー、ジークフリートだ」

 

「魔神アーチャー、信長なのじゃ!!」

 

「……そうか」

 

 

……彼はそう名乗られ、しかし彼らの自己紹介を軽くあしらい、コフィンの中へと入っていった。

そして、彼はまた青い光の中へと飲まれて……

 



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話を聞いてくださいよ先輩!?

 

 

 

 

「変身!!」

 

『Transform Shielder』

 

 

第五特異点にて。

一行は機械化兵士とレトロチックな兵士が交戦しているのに出くわし、両方の敵から相手の増援だと勘違いされ、そうして戦いに巻き込まれていた。

 

バグヴァイザーを腰につけたシールダーが機械化兵士の銃弾を盾で防ぎながら突撃する。

そしてジークフリートと信長、そしてアヴェンジャーはレトロな方の兵士を吹き飛ばしていた。

 

 

「……ここまで、闘えないのが苛立つとはな。長くて面白味の無いムービーなど、スキップ機能をつけてなんぼだ」

 

 

そう呟く黎斗。……別に心配をしている訳ではない。ただ、シールダーの下手くそな戦いかたや、効率の悪い戦闘方をとる信長やジークフリートに対してもどかしさを覚えているだけだ。

 

 

『Buster chain』

 

「はあっ!! やあっ!!」ガンガン

 

   グシャッ

 

 

機械化兵士を捻り潰すシールダー。その姿は黎斗にこそ頼り無く映ったが、それでも普通の兵士には脅威でしかなくて。

 

 

「纏めて死ね!! 三千世界(さんだんうち)!!」

 

   ズダダダダダダ

 

「かはあっ……」

 

「ぐうっ……」

 

 

レトロ兵を吹き飛ばす信長。隣ではアヴェンジャーとジークフリートが援護を行っている。その戦いは無駄が多いように黎斗は思ったが、当然彼らも大きな脅威で。

 

 

「何だあいつら……機械化兵士を破壊する連中だと……!? もしや、報告にあったサーヴァントタイプか!!」

 

 

機械化兵士を率いていた人間がそう指示を出した。八面六臂の活躍をするサーヴァントにびびったのだろう。当たり前だ。

 

 

「前線後退!! 援軍が到着するまで後退だ!! 急げ急げ急げ!!」

 

 

そう言いながら兵士は逃げ出す。

シールダーはそれを追撃はせず、盾を下ろして変身を解いた。

 

 

「よし、れとろな方の奴等も退却していくぞマシュ!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

信長がマシュにそう報告する。黎斗はようやく終わったと言わんばかりに肩をすくめ、次の目的地へと歩き出そうとし。

 

突然。

 

 

「……!?」

 

 

突然、彼の意識が傾いた。

 

 

「ぐっ……体、が……!!」

 

「どうした黎斗。おい、どうした」

 

 

アヴェンジャーが黎斗に駆け寄る。彼に支えられた黎斗はよろけながら胸を押さえ、黒く固まった血を吐いた。

 

 

「が、あ……」

 

「どうしたしっかりしろ檀黎斗!! おい!!」

 

 

そんな声を聞きながら、黎斗は白い泡を吹いて倒れて。

 

───

 

 

 

 

 

 

「……患者ナンバー9610、重傷……いや、これは最早手遅れ? いや、まだ息があるのに……死んでいる?」

 

 

黎斗は意識を取り戻す。

 

……女の声が聞こえた。話している内容からして、恐らく女医か看護婦だろう。黎斗はまだぼんやりとした頭でそう考える。

 

 

「脈無し、体は冷たく、瞳孔も……ええ。これはやはり死体。なのに、一体……」

 

 

驚くのも無理はない。何しろ自分はゾンビなのだから……なんて言おうとして、黎斗は……悪寒を感じた。

 

あっ、こいつやべーやつだ、と。

 

 

「……取り合えず切断しましょう。いや、でも何処を? 足も手も擦り傷レベル……じゃあ血を吐いた喉?」

 

「……やめ、ろ」

 

「ああ、お目覚めですか。……何処を切断して欲しいですか?」

 

「どこ、も、駄目だ」

 

 

痛む声帯に鞭打ち、黎斗は目の前の看護婦に拒絶の意を示す。

 

 

「ああもう、我が儘を言ってはいけません。一刻も早く切断しましょう。まだ意識があるのは本当に、もう、奇跡的です」

 

「おい、話を、聞け」

 

 

あっさり無視された。黎斗はとっくに生理機能なんて失せている筈の体を冷や汗で濡らしながら、なんとかして抵抗の手段を探す。

 

このままだと、やばい。下手すれば変身する間でもなくバラバラ死体に逆戻りだ。

 

 

「死んでるのに生きている……取り合えず切断します。なんとか血液を回すためには、体は小さい方が望ましい」

 

「やめろと、言っている……!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

 

そして、黎斗は唯一手の届く所に置いてあったゲキトツロボッツの電源を入れた。

ゲーマが飛び出し、看護婦を弾き飛ばす。激昂する看護婦はゲーマをむんずと手掴みし殴り付けた。

 

 

「治療の邪魔です。排除します!!」

 

   グシャッ

 

 

黎斗はその隣で喘ぎながら、その場から立ち上がり、テントを脱出した。

 

───

 

「……で、その女……ナイチンゲールにゲーマをけしかけたら、半壊させられた、と」

 

「ああ……くそ、私の体はまだ定期的に壊れるようだ。恐らく寝れば治るレベルだが……畜生、誰が私をここに連れてきた!!」

 

 

黎斗はテントの外に置かれていたベンチに座り込み、隣に立つアヴェンジャーにそうぼやいた。

どうやらここはアメリカ?の軍の拠点らしく、何処其処にそれっぽい国旗が立ち並んでいた。

 

 

「誰が連れてきたか? 当然、マシュ・キリエライトだ。マスターに今死なれては困る、と言いながらお前をここに背負ってきたぞ」

 

「……チッ」

 

 

黎斗は舌打ちをし、暫く黙る。そしてアヴェンジャーはそんな彼を笑い……周囲の異変に気づいた。

辺りが騒がしい。どこかから雄叫びか聞こえる。

 

 

「敵襲、敵襲だ!!」

 

 

一人の兵士が叫んだ。非戦闘要員であろう人々は逃げ惑い、恐慌状態になっている。

黎斗はその人混みの中に、迷わず敵に駆けていくピンク髪、そして件の看護婦を見た。

 

 

「どうする檀黎斗。追うのか?」

 

「ああ……難儀な物だな。サーヴァントはマスターから離れると力を失う……そんな設定をつけた奴を一発殴ってやりたい」

 

 

そうぼやきながら立ち上がる黎斗。アヴェンジャーは彼に肩を貸す。

 

 

「行くのか、マスター?」

 

「当然だ……私が戦えない以上、今あれに死なれては困るのでね」

 

───

 

『Quick chain』

 

「はああっ!!」

 

   ズガンッ

 

「───!!」

 

 

シールダーが謎の兵を吹き飛ばす。

背後からの援護もあって、敵襲に対してこちらは遅れを取ることも無く、むしろ有利に立っていた。

 

 

「相手が弱りました、とどめを!!」

 

「くはは、よかろう!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

そして、シールダーの要請にアヴェンジャーが笑いながら答え宝具を解放……全ての兵を消し炭にしてしまった。

 

 

「ふぅ……」

 

『ガッチョーン』

 

「……やりましたね!!」

 

「うむ、大勝じゃな!!」

 

 

変身を解いて一つ息を吐き、今回も勝てた事の喜びを噛み締めたマシュは、いい笑顔で黎斗に向き直る。

 

 

「黎斗さん見てましたか? ほら、私は、ちゃんと他の人と協力して、沢山の敵を倒すことが──黎斗さん?」

 

「……」ガチャガチャ

 

 

……しかし黎斗はと言うと、態々ご丁寧にも即席の作業台を作って、ガシャットにデータを入力していた。

 

 

「……」ガチャガチャ

 

「黎斗さんっ!!」バンッ

 

「っ!? ……何だ、邪魔をするな」

 

 

マシュが顔を強張らせながら作業台を叩く。その顔には怒りが当然のように浮かんでいた。……まあそんなの気にしないのが黎斗だが。

 

 

「黎斗さん!! 今あなたは戦えないんですよ!! 皆で協力して人理を救わないといけないんです!! 分かってますか!?」

 

「知るか。……変身出来ずともまだ手はある」ガチャガチャ

 

 

そう言いながらガシャット……ガシャットギアデュアル(仮)を弄る黎斗。

彼の目はパソコンの画面にだけ向けられていて、それはますますマシュを怒らせた。

 

 

「ああもう!! 一度殴ってでも……!!」

 

 

そう言い、マシュはバグヴァイザーを再び腰につけようとして……

 

 

   ゲシッ

 

「はぐう!?」

 

「……患者に危害を加えるのは、治療の妨げになります」

 

 

先程まで謎の兵を相手に、追撃戦という命懸けの鬼ごっこ(但し鬼は彼女)を勝手に行っていた筈のナイチンゲールに蹴り飛ばされた。

バグヴァイザーは弾き飛ばされ、かなり離れて立っていた筈のジークフリートの所まで飛んでいく。

 

 

「何するんですか!?」

 

「既に死体の状態なのに彼は生きている。私は医師ではないので、詳しい治療は出来ません。……一先ず戦争が終わるまでは、彼には絶対に安静な状態でいてもらいます」

 

「うっ、でも……」

 

「デモも労働基準法もありません。これは医療従事者としての意見ですが、この場において私以外の誰が彼の体について語れましょうか。私の指示を聞きなさい。それ以外は治療の邪魔です」

 

 

マシュは彼女に睨まれ、特に何も言い返せずに萎縮した。

 

そこに、新たな客がやって来る。

 

 

「……王よ、見つけましたぞ。どうやら彼らがサーヴァントのようです。まさかここまで壊滅するとは」

 

「……今こそ我々の出番、という訳か。にしても流石は我が配下ディルムッド・オディナ。君の目は、ええと……そう、例えるなら隼だな!!」

 

 

黒髪に二本の槍を持った男、そして金髪に一本の槍を持った男。

黒髪……ディルムッドと呼ばれた方は恐らく部下で、金髪が上司だと思われた。

 

 

「……成程、今回の敵はやはりケルトか」ガチャガチャ

 

「……黎斗さん?」

 

「ディルムッド・オディナ、そして彼の主フィン・マックール。共にケルト……アイルランドの英雄だ」ガチャガチャ

 

 

そう分析する黎斗。しかしその目は未だパソコンに向いている。まるで興味など無いと言わんばかりに。

 

そして真名を言い当てられほんの少し動きを止めた男、フィン・マックールは、すぐに黎斗の方に向き直った。

 

 

「まさか我が真名を易々と言い当てるとは。なかなか審美の目があると見た」

 

「ゲーム作りには大切な感性だからな」ガチャガチャ

 

「ゲーム……が何かは知らんが、その審美の目は讃えるべき物だ。ともすれば、お前もグラニアを選んでいたかもな」

 

「あ、そ、その……」

 

 

フィンが黎斗を讃える。隣でディルムッドが胸を押さえている辺り、フィンは地味に彼をいびっているのだろうか……マシュはぼんやりと考えた。

 

 

「漫才は後にしてくれ。お前達は私に敵対するのか? しないのか?」ガチャガチャ

 

「当然戦うとも。いや、恭順するなら受け入れても構わないがね」

 

「まさか。お前達みたいな騒がしい芸人といたら、私の才能が腐る」ガチャガチャ

 

 

黎斗はそう言い、ほんの少し顔を上げ、バグヴァイザーを持っていたジークフリートを顎であしらう。

フィンとディルムッドはそのあまりにもあまりな対応に、流石に顔をしかめずにはいられなかった。

 

 

「……なんというか、すまない、二人とも。なんというか、すまない」

 

「……いや、構わないさ。我らフィオナ騎士団の力、存分に見せつけようとも。ゆけディルムッド!!」

 

「御意!! では皆様、お覚悟を」

 

 

ディルムッドがまず前に出て、その槍を軽く降りながら身構える。

ナイチンゲールやマシュが飛び出そうとするのをジークフリートが押さえ、その腰にバグヴァイザーを取り付けた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……ここは私にやらせてくれ。相手は強敵だ」

 

『Transform Saber』

 

 

そうして変身する仮面ライダーセイバー。己の剣を構え、ディルムッドと向かい合う。

 

黎斗はその姿を何度か確認した後、こう言った。

 

 

「……おい、ジークフリート」

 

「……何だ?」

 

「物は試しだ。使ってみろ」

 

   パシッ

 

「……これは?」

 

 

セイバーは手渡されたガシャットをまじまじと見つめた。

黒に塗られたそれには騎士の姿が描かれていて。

 

 

「……タドル、クエスト?」

 

「バグヴァイザーに挿してみろ。非常に、非常に不快だが、恐らく使えるだろう」

 

「……分かった」

 

『タドルクエスト!!』

 

『ガッシャット!!』

 

 

セイバーはバグヴァイザーにそれを挿入する。すると彼の頭上に、青白く光るパネルが展開されて……セイバーをさらに書き換えた。

 

 

『チューン タドルクエスト』

 

「……行くぞ」

 

『バグルアァップ』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 




ガシャットギアデュアル(仮)の完成は近い


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苦手意識持つんですね先輩!?

 

 

 

 

 

「いざ、尋常に」

 

「……勝負!!」

 

 

二本の槍を構えたディルムッドと、二本の剣……バルムンクとガシャコンソードを構えたセイバーが、全く同じタイミングで走り出す。

 

 

『Quick brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

ドライバーの効果で瞬間的に加速したセイバーが先手を取って相手を切りつけた。しかし相手は最速と謳われるランサーのサーヴァント、その攻撃は受け流される。

 

二人は互いに少し距離を取り、相手の隙を伺いながら少しだけ言葉を交わした。

 

 

「……今の一撃、中々の手慣れと見た」

 

「こちらの台詞だろう。やはりフィオナ騎士団の一番槍、あんな簡単に対応されるとはな」

 

「こちらこそ、貴方のような大英傑と一戦交えられるというのは大変な幸福だ。……そこっ!!」

 

   シュッ

 

 

今度は素早く接近したディルムッドの方が攻め立てる。

長槍と短槍を交互に振るうその戦闘スタイルには隙がなく、セイバーは辛うじてそれらを受け流すことしか出来ない。

 

 

「くっ……だが、まだ!!」

 

『コッチーン!!』

 

 

セイバーは後ずさりながらガシャコンソードのAボタンを軽く叩いた。

 

すると唐突に、ガシャコンソードの刀身に冷気が纏わりつく。

 

 

「これで!!」

 

「……!?」

 

 

ディルムッドの持っていた槍が突然冷たくなり、辺りの空気まで巻き込んで凍りついた。ガシャコンソードによって急激に冷却されたからだ。

 

 

「くっ……」

 

 

ディルムッドが一旦後ろに下がる。そしてセイバーはその隙を逃そうとはしなかった。

 

ドライバーの両側のボタンを叩くと、必殺技の待機音声が鳴り始める。セイバーはそれに一瞬困惑したが、しかし大きく戸惑うこともなく、左側のボタンを更に叩いた。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

騎士大剣・天魔失墜(タドル・バルムンク)!!」

 

 

ガシャコンソードからは無数の氷塊が、バルムンクからは無限の轟火が沸き上がる。

そして、セイバーは高く飛び上がり、ディルムッドを鋭く袈裟斬りに切り裂いた。

 

 

   ズシャッ

 

「があっ!?」

 

 

その衝撃は凄まじく、ディルムッドはその場から吹き飛ばされ黄色い短槍は高く打ち上げられた。

さらに追撃をしかけるセイバー。しかしディルムッドは痛みに耐えながら、残された赤い長槍でセイバーと打ち合う。

 

 

「終わらせる!!」

 

『Arts chain』

 

「まだだ……まだだ!! 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

 

長槍の真名を叫び、セイバーを一気に攻撃するディルムッド。セイバーはその勢いに押されながらも、焦っているのか隙だらけのディルムッドを攻撃する。

 

そして、ディルムッドが強引に攻めを続け、暫くセイバーが押されての繰り返しが続いた。しかしセイバーは致命傷を負わず、ただ押されて後ずさるのみ。

 

彼が頭の片隅に、何かおかしい、という感想を持ち始めた時だった。

 

 

「……しまった!! 上から来るぞ、回避しろ!!」

 

「!?」

 

 

作業をしながらちらちらと戦況を確認していた黎斗が突然悲鳴にも近い声を上げた。

困惑と共にセイバーがその場から飛び退こうとするがもう遅い。

 

 

「……今だ!! 穿て、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)!!」

 

 

真名解放された、未だ宙に舞っていたゲイ・ボウは鋭く落下してきて……セイバーの右足を貫いた。

 

 

   グサッ

 

「ぐっ……!?」

 

 

怯むセイバー。ディルムッドは彼から素早く短槍を引き抜き、仕える主の元へと舞い戻る。

 

 

「……ここまでにしておけディルムッド」

 

「はい……申しわけありません、我が王よ」

 

「いや、構わないともディルムッド。寧ろあの相手によくやった。ほら、癒しの水だ……暫く休んでいろ、傷が酷い」

 

 

ディルムッドに手で掬った水を与えそう言いながら、フィンが今度は前に出た。

 

セイバーもよろけながら変身を解き、バグヴァイザーとバックルを信長に渡す。

 

 

「すまない……傷が治らない。そういう効果なのだろう……頼む信長」

 

「承った。わしに任せろ、なのじゃあ!!」

 

 

そして渡された信長は嬉々としながらそれを受け取り、小躍りしながら黎斗の元へと歩み寄る。

 

 

「わしにもガシャットを貸して欲しいのじゃが……」

 

「……」ガチャガチャ

 

「私にも!! 貸して!! 欲しいのじゃ!!」

 

 

お願いしたら無視されたので耳元で叫んだ。是非もなし。

 

 

「分かった分かった!! 叫ぶな!! ……こいつらを使え。二本挿しだ」

 

「分かったのじゃ!!」

 

 

めんどくさいので、適当にガシャットを二本取り出して与える黎斗。その目はやはりパソコンに向いていて、信長は少し寂しさを覚えた。

でもまあ、望みの品は手に入ったから文句はない。彼女は電源を入れ、ホクホクしながらバグヴァイザーにそれを装填する。

 

 

『バンバン シューティング!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

『『ガッシャット!!』』

 

『チューン バンバンシューティング』

 

『チューン ジェットコンバット』

 

 

フィンは槍を構えた体勢で微動だにせず、信長が仮面ライダーアーチャーに変身していくのを、静かに観察していた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「ゆくぞ。変身!!」

 

『バグルアァップ』

 

『ババンバン!! バンババン!! バンバンバンバンシューティング!!』

 

『アガッチャ!! ぶっ飛びジェット トゥザスカイ!! フライ!! ハイ!! スカイ!! ジェットコンバット!!』

 

 

まずアーチャーの素体……つまり、ガシャットを使わずに変身した信長っぽい仮面ライダーが出来上がる。

次に、黄色く光るパネルが現れ、アーチャーにマフラーやら装甲やらを追加し、いわゆる仮面ライダースナイプっぽい要素を追加する。

そしてコンバットゲーマが空を飛び回り、アーチャーの強化装甲として合体した。

 

 

「おお!! 凄いのじゃ!! え、これ飛べるの? 凄いのぉ!! ……じゃあ、出陣じゃ!!」

 

 

アーチャーは暫く興奮したようすでレバーやら何やらを弄くり回し……そして、すぐに使用方法を覚え、空を舞った。

 

 

「打てぇい!!」

 

   ダダダダダダダダダ

 

 

辺りに火縄を呼び出しながら、自分はミサイルやらマシンガンやらを大量に発射するアーチャー。

対するフィンはその槍で撃たれた弾のほとんどを撃墜し、受け流し、回避する。

 

 

「ほうほう、これはまた奇妙な……だが、リーチを取った程度でこのフィン・マックールを征したと思うなよ!! 」

 

 

そう言って彼は空を飛ぶアーチャーに槍を向け。

 

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃……その身で味わえ!! 無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!」

 

───

 

その頃。

 

 

「こうして、人魚姫は海の泡となってしまいましたとさ。……おしまい」

 

「酷いわ酷いわ酷いわ!! どうしてどうもこう、こう、バッドエンドばかりなのかしら!!」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

ロマンは管制室で黎斗達をモニタリングする傍ら、何とかして黎斗を治療しよう(ゲームをクリアしよう)と、ひたすらに童話を読み続けていた。

ゲーム病……と黎斗が言っていた病は未だに黎斗を蝕んでいるらしい。黎斗の体が時々透けているのが、モニター越しに見てとれた。

 

 

「……じゃあ、次は三匹の子豚を……」

 

「それ前も読んだじゃない!! それに、どうして最終的にオオカミを茹でて殺しちゃう終わりかたの本なのよ!! もっと子供向けにしなさいよ!! 後味悪いじゃない!!」

 

「そんなこと言われても……ああ、どうしてカルデアの図書資料室には本当は怖いグリム童話的なエンドの本しか無いのかなぁっ!!」

 

 

そう唸るロマン。いくら漁っても、ろくなハッピーエンドが無い。

 

それはまあ、見えない誰かにも怒りたくなる。

 

 

「そもそも誰なんだ、この本を集めたのは……」

 

「……私だ」

 

 

ダ・ヴィンチが隣の部屋から顔を出した。

ロマンは彼に問いかける。

 

 

「え、ダ・ヴィンチ……君が集めたの? え、じゃあこのバッドエンドまみれなのは……」

 

「私の趣味だ、いいだろう?」

 

「……」

 

───

 

「くうっ……!!」

 

 

コンバットゲーマの背後に、何度目かのフィンの宝具が直撃する。次第にエンジンは悲鳴と共に煙を上げ始め、危険信号を発していた。

 

 

「この、何なんじゃあのハイドロなポンプ的な槍は……是非もなし、ここで決める!!」

 

『バンバン ジェット クリティカル フィニッシュ!!』

 

無限弾倉・三千世界(バンバン・ジェット・サンダンウチ)!!」

 

 

アーチャーは短期決戦に持ち込もうと己の宝具を使用する。空中に生成した大量の火縄と大量のガシャコンマグナム、そしてコンバットゲーマの機関銃がフィンを包囲し、火を吹いた。

 

 

「ふぁいや、なのじゃあ!!」

 

   ズドドダダダドダダダダ

 

 

轟音、そして砂煙。

その威力は凄まじく、圧倒的な勝利を思わせる。

ディルムッドは唖然とし、黎斗は苛立たしげに作業に耽り、マシュは輝きに満ちた目でアーチャーの勇姿を見て……

 

しかし。

 

 

「ぐぅ……ふむ、なかなか手に余る。これは……歴戦の勇士だったな」

 

「くっ……この装備をもってして攻めきれぬとは……!?」

 

 

しかし、フィンは傷だらけであったが無事だった。

傷が殆ど癒えたディルムッドが彼の元に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか王よ!!」

 

「ああ。咄嗟に親指かむかむ知恵もりもり(フィンタン・フィネガス)を使用してね。周囲に何重にも水の壁を作って弾を弱めた」

 

 

そう、何処と無く自慢げに言った彼は、しかし力なく膝をつく。ディルムッドは彼に肩を貸し、倒れ込むのを防いだ。

 

 

「くっ……ここまでか」

 

『ガッチョーン』

 

 

コンバットゲーマが限界と見て変身を解いた信長は、勝てなかった事を悔やみながら敵のリーダーを見つめる。

そしてその隣では、ずっと押し留められていたナイチンゲールが弾かれたように駆け出していた。

 

 

「……不味いです。怪我人の気配!!」ダッ

 

「あっ、ナイチンゲールさん!?」

 

 

慌てて立ち上がり彼女を追おうとするマシュ。しかし彼女は黎斗に足を引っ掛けられ思いきり転んでしまった。

 

 

   ズコッ

 

「いたあっ!? く、黎斗さん!?」

 

「捨て置け。……おそらく相手の思惑は時間稼ぎ。ケルトは元々他の兵士達が狙いだったんだろう」

 

「ほう……気付いていたのか」

 

 

黎斗が推測を述べると、フィンが片方の眉を上げて黎斗に反応した。しかし黎斗はやはり彼を無視し、空を見上げる。

 

ロボットゲーマとビートゲーマとチャンバラゲーマ、そしてハンターゲーマが浮いていた。

ロボットゲーマは既に大破に近く、他の三つも傷だらけである。

 

 

「ふむ……やはりゲキトツロボッツは半壊していたせいでうまく働かなかったらしい」

 

「……それは?」

 

「兵士のサポートに行かせていた。まあ無理を強いたから、この有り様だがな。……ロボットゲーマのパフォーマンスが落ちたのはお前がこいつを壊したのが原因だ、患者が救えなかったのはお前のせいだ……なんてナイチンゲールに言って、思いきりいびってやろうか」

 

 

ゲーマをガシャットに戻しながら黎斗が呟く。余程ナイチンゲールに切断されかけたことを根に持っているらしい。

……最も、黎斗が本当に彼女をいびったならば次の瞬間には精神の治療の名目で挽き肉にされているため、絶対に黎斗は行動に移さないが。

 

───

 

   バァン

 

「……銃声が聞こえたな」

 

「どうせあのバーサー看護婦の荒療治だろうよ」

 

 

戦線から撤退し、再び元の椅子に座り込んだ黎斗は、パソコンを操作しながら傍らのアヴェンジャーと話していた。

 

 

「ふっ……余程嫌いなのだな、あれが」

 

「医者は基本好かない。特に、絶対に患者を笑顔にする、なんて矜持を持っていればなおさらだ」

 

 

……そんな事を呟いていると、ナイチンゲールがテントから出てきて、マシュと一言二言交わした後にまた出撃しようとする。

 

 

「ああ、私の作業を邪魔するのか、また」

 

 

そんな事を言いながら、黎斗も立ち上がり荷物を纏めようとした。

 

その時。

 

 

「お待ちなさいなフローレンス。何処に行くつもりなの? 軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものと知っていて?」

 

「……ごもっともな事を言う女だな」

 

「ああ。もっと言ってやれ」

 

 

機械化兵士を引き連れた小柄な女が、ナイチンゲールを呼び止めていた。

黎斗はパソコンの下でガッツポーズをする。

 

 

「治療に戻りなさい。さもないと……手荒い懲罰が待ってるかもよ?」

 

「貴女こそ職場に戻りなさい。私の仕事は変わらない、この兵士達の根幹治療法が見つかりそうだから探りに行く、それだけです」

 

「あらそう。もっともな理由ありがとう。でも、バーサーカーには行かせられないでしょ。戦線混乱待ったなし、王様は絶対に認めないでしょうね」

 

「……王様? そんな人物に私は止められない。そんな権利は無い」

 

「うわぁ話通じないわね、流石バーサーカー。どうしましょう」

 

 

そんな会話をしている二人。

しかし暫く黙った後……突然距離を取り、互いに身構えた。

 

 

「……いい機会ね。片付けてしまいましょう」

 

「同感です。この先の無駄話が省けます」

 

 

「くははは!! 火花が散っているな!!」

 

「どうせなら相討ちになってしまえ」

 

 

そんな事を呟くアヴェンジャーと黎斗。

しかし小柄な女は彼らにも目を向ける。

 

 

「まあ!! サーヴァントが、こんなに!! よくってよよくってよ!! ケルト追い払ったのあなたたちだったのね、王様にとってグッドニュースかしら」

 

「おい、話し掛けられているぞアヴェンジャー」

 

「マスターへの質問だろう?」

 

「ああもう!! 私が話しますよ!!」

 

 

対応を擦り付けあう二人を遮って、女との会話にマシュが飛びこんだ。

 

 

「まず質問です。王とはだれですか?」

 

「……そうねぇ……うん。現在ケルトと東西に別れて戦争中の、アメリカ西部合衆国の大頭王。私……エレナ・ブラヴァツキーや、色々なサーヴァントを従えている人。それが王様。彼が世界を制覇すれば、それはそれで問題ないわ」

 

 

マシュの言葉に答える小柄な女……ブラヴァツキー。

彼女曰く、王の目的はアメリカだけを次元から分離させ、滅びから救うことらしい。

 

 

「それは、赦せません。患部を切り捨ててそれで治療を終わらせるなど言語道断です」

 

「お前が言うか切断厨」

 

 

ブラヴァツキーの言葉に怒りを隠さず答えるナイチンゲール。黎斗は彼女を小声で煽るが聞かれてもいない。

そしてナイチンゲールに相対するブラヴァツキーは機械化兵士をけしかけようとし……

 

 

「……あら、もう大丈夫なの? じゃあ……お願いね、カルナ!!」

 

「!?」

 

 

しかしブラヴァツキーは何もせず、ただ上に声をかけた。

……見上げてみれば、いつの間にか上空に新たな存在が現れていた。しかも、技の……恐らく宝具の構えに入っている。

 

 

「チッ、アヴェンジャー!! 宝具だ!! 最低限で構わない、脱出を──」

 

 

黎斗はカルナと呼ばれたその英霊を見上げそこまで言って……再び胸を押さえた。

 

 

「どうした!?」

 

「ぐっ、が、あっ……発作か……!!」

 

 

「……すまないな。梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

 

そして彼の意識は再び闇へ落ちて……

 




ひたすらナイチンゲールにビビる黎斗
やはり医療従事者は彼の天敵


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喧嘩売らないで下さいよ先輩!?

 

 

 

 

 

「……黎斗さん。黎斗さん」

 

「ぐ、が……」

 

 

固い床の上で黎斗は目を覚ます。

まだ視界はぼやけているが、馬車か何かの荷車の上だと察することは出来た。

 

 

「ああ、起きましたか黎斗さん」

 

「マシュ・キリエライト、か……何があった?」

 

「……カルナと呼ばれた英霊の攻撃を受けました。私が宝具で弱めこそしましたが、力及ばず全員纏めて失神して……」

 

「……ここに連れてこられた訳か。ふん、現在は輸送中といった様子だな」

 

 

彼を起こしたのはマシュだった。というか、マシュと黎斗しかこの荷車に座っているものはいない。

 

 

「ええ。今輸送中よ。逃げてもいいけど……その体でどこまでいけるかしら」

 

「チッ……隣のやつがカルナか。恐らく、マハーバーラタの」

 

「ああ……カルナだ。よろしく、とは言えないがな」

 

 

右側からブラヴァツキーとカルナの声が聞こえた。

オカルティスト、エレナ・ブラヴァツキーとマハーバーラタの英雄カルナ。見れば見るほど変な組み合わせだなと黎斗は思うが、それを聞くのは止しておいた。

マシュが黎斗に声をかける。

 

 

「どうしましょうか黎斗さん。生憎ですが、アヴェンジャーさんやジークフリートさん、信長さんはしっかりと念入りに気絶させられています」

 

「……そのようだな。……ナイチンゲールは起きているようだが?」

 

「でもすごく丁寧に猿轡をされているので、どうにも。……私は戦えますが、残念ながらバグヴァイザーは向こうに」

 

「思い上がるな、こんな至近距離で沢山の敵がいる。お前はどうせろくに戦えない」

 

「そんなこと決めつけないでくださいよ!!」

 

 

荷車の一段下がった所に、ジークフリートと信長、アヴェンジャーが積まれていた。その隣ではナイチンゲールが後ろ手に縛られた状態で体操座りをしている。

マシュは戦闘の意思を見せたが、黎斗は却下した。マシュはさらに不満を募らせていく。

 

 

「はいはい、そっちのよく気絶する人はよく状況が見えてるわね。いい子いい子……取り合えず、こちらの王様に会って貰うわ。その上で、どちらの味方になるか決めなさい」

 

「……はぁ」

 

 

ブラヴァツキーが黎斗をふざけながら誉めた。

黎斗はため息を一つ吐いてから、時間を無駄には出来ないとガシャットの仕上げにかかろうとする。

 

しかし、ガシャットは無かった。

 

 

「……待て、私のガシャットはどこだ」

 

「ガシャット? ……もしかして、これ?」

 

 

ブラヴァツキーが胸元からガシャットを取り出して見せる。それは黎斗が後一歩の所まで作成したプロトガシャットギアデュアルそのもので。

当然黎斗は激昂し、握り拳を作ってブラヴァツキーに殴りかかろうとした。

 

 

「返せ!! 私のガシャットを返せ!! 返グプウッ」バタッ

 

「黎斗さん!?」

 

 

しかし彼は病み上がり。カルナが彼を気絶させようと立ったときには、黎斗は血を吐いて倒れ込んでいた。

 

 

「あー、やっぱ発明家から作品取るとこうもなるわよねー。王様も割と似たような反応するし。でも、仕方無いのよ、ごめんなさいね?」

 

 

そう軽く謝るブラヴァツキー。既に黎斗の意識は無い。

それを知って、それでも構わないと言わんばかりに、彼女はマシュに伝えた。

 

 

「まあ、分かっているとは思うけど。この戦いはどちらかに与しなければ勝てない。両方に挑めば、両方に滅ぼされる」

 

「……」

 

「あたしたちが戦っていなければ、もうとっくにこの国は滅びていたのよ? ……まあ、取り合えず王様に会ってみなさいよ……面白いから。多分、そこの彼みたいに」

 

「なんか悪趣味ですね」

 

「……言うわね貴女」

 

───

 

「連れてきたわよ、王様~」

 

 

黎斗とマシュ、そして猿轡を解かれたナイチンゲールは、ブラヴァツキーに連れられ応接室らしき所に入ってきた。背後にはカルナが立っているため脱出は不可能、しかも残りのサーヴァントは外の馬車に放置である。

 

 

「おおおおお!! ついにあの天使と対面するときが来たのだな!! どれほどこの時を焦がれたか!!」

 

「……悪いわね。歩きながらの独り言は治らないのよ彼」

 

「今のが独り言なのか……」

 

 

反対側の廊下から聞こえてきた大音量の独り言に黎斗は顔をしかめた。

……正直な話ハイテンションな時の黎斗も独り言が大きいが、彼はそんなことには気づいていない。

 

そして、扉が開き……大統王が現れた。

 

 

   ガチャ

 

「──率直に言って大義である!! みんな、はじめまして、おめでとう!!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

ライオンだった。驚きの白さのライオンだった。

黎斗は手を頭にやり項垂れる。

 

 

「驚いたでしょ。ね? ね?」

 

「……それはまあ、驚くだろうな」

 

 

ブラヴァツキーとカルナがそう言葉を交わしていた。

黎斗は二人の方に少しだけ目をやり、呟く。

 

 

「……民主主義の国で王を名乗るなど、さぞイカれた野郎だとは思っていたが。流石にこれはキャラデザがふざけすぎている。シリアスぶち壊しだ」

 

「確かに驚きましたが……私も、少しずつ慣れてきました。というか、先輩の元々のサーヴァント三体と比べれば、まあ、ええ」

 

 

あれは悪夢だった……なんて顔をしながらマシュが黎斗の隣で一人ごちた。そしてすぐに表情を切り換え大統王に問う。

 

 

「それより、その……あなたがアメリカ西部を支配する王、なのですね?」

 

「いかにも。我こそはあの野蛮なケルトを粉砕する役割を背負ったこのアメリカを統べる王……サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!! 大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

 

トーマス・エジソン。その名は現代においてあまりにも有名。思わずマシュは息をのみ……黎斗は、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんだ、訴訟王か」

 

「あ"?」

 

「トーマス・アルバ・エジソン。日本では名のある発明家として扱われているが、その実は発明家というよりむしろ実業家に近い」

 

 

黎斗は水を得た魚よろしく朗々と語り始める。それは……エジソンをとことん貶めるものだった。

 

 

「いや、私としては実業家が悪いとは思わない。私が憎むのはエジソンの所業だ。彼の代名詞として扱われている電球は、彼が勝手にジョセフ・スワンの作品をパクって改良したものだ。電話機も、グラハム・ベルの作品を改造したものだ。更に言えば、映画の特許が認められなければ弁護士団と共に殴り込み、さらにジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』を盗んだ事もある!! そして自分は盗まれないように特許を守るための会社を設立したぁっ!! 」

 

「黎斗さぁんっ!?」

 

「先を越されないためにはマフィアすらも使い、他社を失敗させるために裏方を買収するその所業!! ライオンというか、この、薄汚いこそ泥鼠が!! 敢えて言おう、天才とは一つの閃きと九十九の恥知らずな悪行で出来ている!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハハハハハハ!!」

 

 

協力できるかもしれなかった勢力に真っ向から喧嘩を売るスタイルにマシュは絶叫する。ナイチンゲールは曖昧な顔をして沈黙し、ブラヴァツキーは目を閉じて「やっちまった」的な事を考え、カルナは相変わらず真顔。そしてエジソンは……

 

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

 

吼えていた。流石ライオンである。

黎斗は続ける。笑いながら続ける。幸か不幸か、発作は起きないようだった。

 

 

「そして当然、そんな訴訟王の思考回路など神たる私にはお見通しだ。どうせ、聖杯使ってアメリカを焼却から防ぎ、全く違うところにアメリカを出現させ国を守る……とかだろう?」

 

「……不快だ!! こいつらを断罪する!!」

 

 

エジソンは立ち上がって機械化兵士達を呼び出し、黎斗にマシンガンを向けさせる。完全に粛清する心づもりであった。まあ無理もない。

しかし黎斗は怯まない。さらに煽る。煽る。

 

 

「敢えて言おう訴訟王!! 神の才能を持つ男、檀黎斗は、貴様の考えには決して乗るまい!! 聖杯は諦めろプレジデントライオぉンっ!! あとついでに言えば、私はミスター・すっとんきょうのファンだあああああ!!」

 

「貴様あああああああ!!」

 

 

しかし更なる煽りによって、エジソンの意識は最早野獣のそれに近づいていった。

もう彼は、自らの手で一発彼を殴らないと気がすまないレベルのストレスを抱えている。仮にゲーム病だったなら一瞬で蒸発するレベルだ。

 

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

   バリンッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

テーブルが叩き割られた。右と左に分断された木片が辺りに吹き飛ぶ。悲鳴が一つ上がった。しかし、マシュとナイチンゲール、そしてカルナは既に席を立っていて、黎斗はエジソンの向かいに座っていた為ダメージを受けない。

では誰の声か。

 

ブラヴァツキーの物だ。逃げ遅れた彼女はその鳩尾に思いきりテーブルの半分を喰らっていた。

当然ノックアウト物である。そして黎斗は彼女の体を素早く乱雑にまさぐり、己のガシャットを引き抜いた。

 

 

「取り戻したぞ……私のガシャットぉっ!!」

 

 

黒く光る太いガシャットを掲げ狂喜に近い笑みを浮かべる黎斗。そして彼は腰からマイナスドライバーを取り出して、あたふたしている機械化兵士を横目に見ながら……ガシャットをついに完成させた。

 

 

「ついに出来た……出来た、出来たぞ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「それどころじゃありませんよ黎斗さん!? ほら、周り見てくださいよ!! 既にナイチンゲールさんがカルナさんと乱闘してますし!! 野獣と化したエジソンさんが此方に牙を剥いていますぅっ!!」

 

「問題ないさ。私の神の才能の上に、悉く平伏するがいいさぁっ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

猛りながら黎斗は完成したプロトガシャットギアデュアル(仮)のギアを回そうとする。

本来なら、それだけで超強力なゲーマが出現し、辺りの敵を全て焼き払う筈だった。

 

 

「……ん?」

 

 

だが。

 

ギアが回らない。確かに動くはずなのに、というか完成する直前まで問題なく動いていたのに。

 

まるでガシャットが黎斗を拒否するかのように断固として起動されてくれない。

 

 

「おい、どうした?」ガチャガチャ

 

 

弄れど弄れど、ギアは回らない。

辺りを見てみれば、機械化兵士は半死半生状態のブラヴァツキーの指示で落ち着き始め、カルナは既にナイチンゲールを吹き飛ばしていた。

 

 

「グオオオオッ!! 他人をさんざん叩いてそのざまか!! すっとんきょうにも劣るな!!」

 

 

そしてエジソンはそう狂い叫ぶ。彼はバーサーカーもかくやの暴れっぷりを披露したからか少しずつ落ち着きを取り戻し始めていて、もう辺りに混沌を撒き散らそうとはしてくれないと容易に分かった。

 

 

「くそ、動け!! 私に逆らうな!! 動け動け動け動け!!」

 

「ええい、貸してください先輩!!」

 

 

マシュが黎斗からガシャットを奪い取る。黎斗としては、壊れているものはマシュが持っても無意味だと直感的に思っていたが……

 

 

「これで!!」

 

   ガチョン

 

Britain warriors(ブリテンの戦士)!! Millions of cannon(百万の大砲)!!』

 

「何だと!?」

 

 

マシュがそれを捻ると、ガシャットからゲーム名が鳴り響いた。マシュの背後にゲームのスタート画面が表示され、大砲やら車輪やらがついたゲーマが姿を現す。

 

自分でもビックリしているマシュ、愕然としている黎斗、どよめくアメリカ陣営。

 

そしてその場は一瞬光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……ここ、は?」

 

 

……マシュが目を開けると、そこは真っ白の空間だった。所々に0と1が見え隠れする、いかにも仮想世界、といった感じの世界。

……ガシャットの内部だった。

 

 

「……久しぶりだねマシュ」

 

「!?」

 

 

辺りを見回すマシュの背後から声が聞こえた。

その声は、久し振りのような、いつも聞こえていたような、そんな声。

 

マシュは振り返る。

 

 

「その声は……ブーディカさん!?」

 

「……久しぶりだね、マシュ」

 

 

マシュが知らず知らずの内に追い求めていた存在が、そこに立っていた。

 

 

「あたしもいるよ」

 

「ドレイクさん……!?」

 

 

気づけば、かつて目の前で黎斗に殺された誇り高い海賊もいた。

二人とも、マシュをいつも突き動かしていた存在だった。

 

 

「……僕もいる。まあ、君は僕を知らないだろうけど」

 

「我も存在している」

 

 

その声の方を見れば、ロンドンで黎斗に消されていた眼鏡の青年と全身機械もいた。

つまり……ここは、黎斗にゲーム病にされて消されたサーヴァント達の空間だった。

 

 

「皆さん……」

 

「……会えて良かったよ、マシュ。頑張ったね」

 

 

ブーディカがマシュの頭を抱き寄せた。マシュは多少の息苦しさを覚え、しかしその心地よさに身を委ねる。

ブーディカはそれにやさしく微笑みながら、彼女に語りかけた。

 

 

「ここは、黎斗くんの作ったガシャットの片方。私達の今の居場所。ここから……マシュをずっと見ていた」

 

「ブーディカ……さん……」

 

「辛かったよね。無理してたよね……分かるよ。だって彼、全然話聞いてくれないし」

 

「……」

 

「でも、彼を責めないであげて。彼も一生懸命やっている事には変わり無いから。怒るのは分かるし、私だって何も言われずに殺されちゃったから当然怒ってるけど……貴女が大変な時にまたこうして会えたから、ちょっとだけ許してあげてもいいかなって思ってる」

 

 

マシュは何も言えない。自分は彼女達の思いを背負って戦っていると勝手に思っていたが……そんな事は無かったのだ。ただ、守らないといけない、そして自分にはその力があると暴走していただけ。

 

 

「あたしもね、マシュを見てたけど……中々楽しそうな冒険だったじゃないか。別に死んだあたし達に執着する必要はない。マシュ、あんたは……あんたが思うような、楽しい旅をしてほしい、ここから見てる」

 

「ドレイクさん……」

 

 

ドレイクはそこまで言って、近くにいた眼鏡の優男と機械に目を向ける。

 

 

「え、僕も……? あ、僕に気を使う必要は無いよ。寧ろハイドがもう片方のゲームにいるから、彼を気にする必要が無くて寧ろ感謝してる」

 

「我もこの在り方に異論は無し。ただガシャットを蒸気機関にするべきだ」

 

 

そう語る彼らの言葉にも、苦しみは見られなかった。

 

マシュの中での、黎斗への身勝手な対抗心が、少しだけ溶けた気がした。

 

 

「……一緒に戦おう、マシュ。きっとこうして、ブリテン生まれのサーヴァントが集まったのも、きっと黎斗が用意してくれた縁なんだよ。……でも、今は何も考えなくていい。私達は、貴女の側にいるから」

 

「……はい」

 

 

そこまで聞いた所で、マシュの視界は再び光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……行きます!!」

 

 

意識が戻った彼女は叫んだ。

 

どうやらあの光の中での出来事は一瞬にも満たない時間の事だったらしく、辺りは未だにどよめいている。

 

そしてマシュは、プロトガシャットギアデュアルB(ブリテン)の起動スイッチを押した。

 

 

「変身!!」

 

『Dual up!! Drive away the enemys(敵を打ち払え)!! Millions of cannon(百万の大砲)!!』




プロトガシャットギアデュアルB

A面……ブリテンウォリアーズ『百万の大砲編』

イギリスを舞台に、大砲の軍隊を指揮して外敵を排除するシューティング要素とシミュレーション要素を兼ね備えたゲーム……という設定


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Millions of cannon

 

 

 

 

 

『Drive away the enemys!! Millions of cannon!!』

 

 

「そ……その姿は……」

 

 

黎斗はその場に尻餅をついたような状態で固まり、ただシールダーを見つめていた。

 

驚いていたのはその姿に大してではない。ちゃんと彼女は、黎斗がプログラムした通りの姿だ。

肩や腕にはドレイクの砲門がいくつもついていて、火力のある攻撃を繰り出すことに特化している。

足にはブーディカの車輪がついていて、機動力をよくしている。

そしてそれらはジキルやバベッジによって制御され、装着者を援護する作りになっている。

辺りにはエナジーアイテムが散りばめられ、戦いに幅を出すことにも成功している。

 

全て黎斗の思うままの姿。その中で唯一黎斗を驚かせていたのは……

 

……立っているシールダーの出す、気迫だった。

 

 

「……仮面ライダーシールダー、キャノンゲーマー。……黎斗さん、見ていてください」

 

「……いいだろう、見ていてやる」

 

 

黎斗のその返事を聞いたかどうかは定かではないが……彼女は、その車輪でもって文字通り滑るように走り始めた。

 

 

「怯んじゃ駄目よ、撃ちなさい!!」

 

「イエス、ドミネーション・オーダー!!」

 

「空になるまで撃ち続けます!!」

 

 

ブラヴァツキーが機械化兵士をけしかける。

火薬の弾ける音と硝煙の臭いとがたちまち辺りに溢れ始め、しかしシールダーは怯むことなく。

 

 

「行きます!!」

 

───

 

それと時を同じくして。

 

 

「全く……」

 

 

荷車の見張りを殴り倒したアヴェンジャーは、いかにもすまなさそうにしているジークフリートの縄を解いていた。

 

 

「すまないな、迷惑かけてしまって」

 

「何、魔術的な何やらが縄に掛けられていたらしいし、そもそもお前は手負いだ、気にするな。オレは縄を炎で焼ききることが出来た、そして取り合えず復讐した……それだけのこと」

 

「すまない……」

 

 

そしてアヴェンジャーは彼の縄を解き終えると、大口を空けて寝ている信長の縄に取り掛かる。

 

 

「むにゃあ……ん、ミッチー? ……zzz……ほらほら飲めよ飲めよ~……わしの酒が……zzz……飲めないってかぁ~? むにゃあ……」

 

「……酷い寝言だな。本能寺の変の原因はアルハラだった、なんてなれば洒落にならないが」

 

 

アヴェンジャーは何だか丁寧に縄を解いてやるつもりもすっかり失せて、適当に焼ききった後彼女を蹴り起こす。

 

 

   ゲシッ

 

「ノブッ!?」ビクンッ

 

「ほら起きろ。俺達が寝ている間に、大事な大事なマスターさんは城の中に連れていかれたぞ」

 

───

 

『高速化!!』

 

「これでぇっ!!」

 

 

高速化のエナジーアイテムを手に入れ、シールダーは更に加速する。車輪が床を削り、キュルキュルと音を立てていた。

残像を残して走るシールダーは機械化兵士には、いや、それどころかサーヴァントであるエジソンやブラヴァツキーにも見てとれない。

 

そして次の瞬間には、機械化兵士は全て音を立て崩れ落ちていた。どうせまた入ってくるだろうが、そうなればまた倒せばいいだけの話。

シールダーにはその力と意思があったし、事実それは可能だった。

 

 

「不味い……まさか大量生産が間に合っていない!?」

 

 

投入される筈の兵士が途絶えた事に焦るエジソン。これ以上は危険と見たカルナが彼を庇うように立つ。これ以上の戦闘続行はアメリカにとって命取り、ここでフルパワーを出して終わらせる算段だ。

マシュは、既に壁に半分めり込んでいたナイチンゲールを引っ張り出していた黎斗を庇うように立ち、ガシャットを操作する。

 

 

「黎斗さん、私の後ろに。……これで決めます」

 

『Kime waza』

 

 

シールダーがキメワザの準備を整えた。……ガシャットの使い方は、既に頭の中に入っていた。

そして彼女は砲門を全て開き、足を思いきり踏ん張って、己における最強の一撃を放つ。

 

 

『Britain critical blast!!』

 

「はあああああああああああ!!」

 

   ズドン ズドンズドン ダダダダダダダダ

 

 

彼女はその全身から弾丸を解き放った。それらはカルナの方向へと違うこと無く飛んでいく。

相対するカルナはその槍を構え、シールダーの全力に答えるべく宝具を解放した。

 

 

「伏せろ……撃墜する、梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!!」

 

   カッ

 

 

辺りを太陽そのものの熱と光が覆い尽くす。

カルナは、本来なら上空に投擲する槍を前方に突きだして、シールダーの放ったあらゆる攻撃を、その槍に纏わせた太陽の力で焼き払おうとしていた。

 

辺りに言葉に出来ないほどの轟音が鳴り響く。

 

そして。

 

 

 

 

 

「……逃げられたか」

 

 

カルナは、大穴の空いた城から忽然と失せた三人の行方を案じ、空を見上げた。

 

因みに、黎斗はどさくさに紛れてブラヴァツキーの身ぐるみを全てひっぺがし、奪われたあらゆる物を奪い返していた。

 

───

 

「まさかカルナを抑えて自力で脱出してくるとはな……」

 

 

ナイチンゲールを抱えた状態でシールダーに抱えられ、ずっと変な体勢で運ばれていた黎斗は、アヴェンジャー達と合流した事でようやく深呼吸をする事が出来た。

 

その場にいたのはジークフリートと信長とアヴェンジャー、そして……今話しかけてきた見知らぬ色黒のサーヴァント。

 

 

「あなたは……」

 

 

変身を解いたマシュが彼にそう問う。男は暫く考える様子を見せ、そして答えた。

 

 

「……私は……ジェロニモ。ジェロニモと呼べ」

 

「アパッチ族の精霊使い……!!」

 

 

聞き覚えがあるらしく反応するマシュ。ジェロニモは彼女の顔を見ながら小さく首を振る。

 

 

「精霊使い……いや、私はただの戦士だ。大した者ではない……所で、治療したいサーヴァントがいる。君たちも恐らく行くところはあるまい、手伝って貰いたく思っていたのだが……」

 

「当然行きましょうとも、ええ」

 

 

そしてジェロニモがそう言うや否や、黎斗に半ば投げ捨てられるように置かれたナイチンゲールが飛び起きて答えた。

 

 

「はぁ……私だけバイクゲーマで先を行っても構わないだろうか」

 

「くははは、何を言っている、道が分からないだろう?」

 

「……やろうと思えば割と行けたりするんだがな」

 

───

 

黎斗はそんな事を何度もぼやきながら、それでも実行すること無く、大人しくジェロニモについて歩いた。

やって来たのは既に住人の失せた街。ナイチンゲールがとある空き家に案内される。

黎斗は逃げようとしたがマシュに捕まり、治療を見学するはめになってしまっていた。

 

 

「……切断しましょう。両手両足、できれば肺以外全て摘出する感じで」

 

「待て待て待て待て!! 切断せずに、心臓の修復のみに注力して貰いたい!!」

 

 

ナイチンゲールの言葉を聞いて焦る、治療を必要としていたサーヴァント。

黎斗は彼女を見ながら、あからさまな溜め息を吐く。

 

 

「ハァ……やはりバーサー看護婦、容赦ないな」

 

「そのようだな。……所で、マシュ・キリエライトが使うようになったあのガシャットは、結局何なんだ?」

 

「ああ……ブリテン出身のサーヴァントを大量に内包したガシャットだ。相性がいい存在を集めてみようとしただけだったが……まさか自我を持つとは予想外だった」

 

「くははははは!! 傲ったな檀黎斗!!」

 

   パァンッ

 

「そこ!! 治療の邪魔です!!」

 

会話が弾み始める二人にナイチンゲールがとうとうキレて、そのボックスピストルを二人の間に撃ち込んだ。

思わず萎縮する二人の横で、様々な事実が明らかになってきている。

 

治療を受けているのはラーマーヤナの主人公、コサラの王ラーマ。彼を傷つけたのはアイルランドの光の御子クー・フーリン。

 

そしてクー・フーリンの攻撃は呪いに等しく、ナイチンゲールの力だけでラーマを救うことは出来ない、ということ。

そして彼を救うには、違う何かで存在力を強化し、クー・フーリンに付与された因果を解消しなければならない、ということ。

 

 

「面倒なクリア条件だな。で、何がこのラーマの存在力を強化できる?」

 

「……シータ。我が妻、シータだ」

 

「?」

 

「必ずこの世界の何処かに囚われている。余はそれを糾し、居場所を知るために彼に挑んだ。……このざまだが」

 

 

ラーマはナイチンゲールの治療を受けながら、半ばうわ言のようにそう呟いた。

……彼女を見つければ、治療も不可能ではない。彼を治せば戦力強化、シータを探さないといつ手は無かった。

 

───

 

「……そうだ、わざわざ歩かなくてもスポーツゲーマ使えば良いじゃないか。速さ調節できるからはぐれる心配も無いし、問題あるまい」

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

「あ、丁度いいところに車輪が。一つ貰っていきますね?」

 

「……何だと?」

 

「ラーマバッグは患者は不満らしいので、仕方がないのでラーマ一輪車を作ろうと思って」

 

「は?」

 

「それとも何ですか? 治療の邪魔をするんですか? 対価なら拳銃の弾でどうです?」チャキッ

 

「ヒイッ」

 

 

治療の一応の中断から大体一時間後。

荒野を進んでいるのは、スポーツゲーマをあえなく奪われた黎斗とアヴェンジャー、そしてマシュと信長にジークフリート、さらにジェロニモとナイチンゲール……後彼女の押す一輪車に乗せられたラーマ。

何時もよりかなり大所帯となった一行は荒野を歩き続けた。

 

途中何度か敵に襲われたが、全てラーマを押したままナイチンゲールが排除した。お陰で黎斗は戦闘に関わらずにすんだが、歩いて疲れるものは疲れる。

 

そして。

 

 

「ふぅ……ここまでお疲れ様。オタクらがジェロニモの言ってた援軍?」

 

「ええ、まぁ……貴方達が……」

 

「あ、ジェロニモから聞いてた? ……そうだよ、孤軍奮闘のアーチャー二人組さ。オレはロビンフッド。そして隣のこいつが……」

 

「ビリー・ザ・キッド、だね」

 

 

ジェロニモの仲間達が交戦を続けていた村に到着した。

ジェロニモと彼らが言葉を交わすのを無視して、黎斗はその場にうつ伏せになった。既に黎斗はボロボロであった。

 

 

「生きていてくれて何よりだ、二人とも。こちらはデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト。そしてこちらが……半分寝ているのが、マスターの黎斗だ」

 

「なるほど、やっと孤軍奮闘を脱したか」

 

「大変だったねー」

 

 

取り合えずジェロニモの仲間二人は一行を歓迎しているらしかった。そして一行に合流する事になり、ますますサーヴァントの数が増えていく。

 

 

「それでは現状をお伝えします……」

 

 

マシュが彼らに、現在どうなっているかと、今後どうするかを手短に説明した。

ピンチはチャンス、とはよく言うが、実際彼女はマスターが黎斗という状況( ピンチを )分かりやすい説明力や交渉術を得て( チャンスに変えて )いた。

 

 

「……なるほど、このラーマってのを治して、」

 

「親玉を暗殺、ねぇ……まともな手段じゃねえか」

 

 

作戦……二手に別れて、片方はケルトの親玉を暗殺、もう片方はラーマを治療するという内容のそれを伝えるのには、30秒もかからなかった。

物事は早い方がいい。一行は黎斗がボロボロなのは適当に無視してさらに歩き始める。日は傾いていたが、まだ暫く沈みそうには無かった。

 

 

「……出来れば、セイバーとランサーに追加が欲しいところだな。ジークフリートは手負いだし、ランサーはそもそもいない」

 

 

寝ぼけながら黎斗が呟く。歩きながらでは作業も出来ないので彼は起きているために、何だかんだ言いながら、風景やら味方のサーヴァントやらを把握するように努めていた。

彼の呟きに、ロビンフッドが何処か嫌そうに答えた。

 

 

「いい、とはお世辞にも言いたくないが……当てはある」

 

「ほう?」

 

───

 

 

 

 

 

そしてとうとう夜になった。

ロビンフッドに案内されるまま次の街に入った一行は、街を襲っていた世にも恐ろしいそれを目にする。

 

 

「……で、その当てが? これか?」

 

 

黎斗は耳栓を探しながら、隣に立つロビンフッドに唾を吐いた。

彼の眼前では。

 

 

「♪ハートがチクチク箱入りロマン、それは乙女のアイアンメイデン ♪愛しいアナタを閉じ込めて、串刺しキスの嵐としゃれこむの」

 

 

煩い。

音程がとれていない。

リズムがちぐはぐ。

テンポがぶれる。

踊りすぎて声が擦れている。

マイクを辺りにぶつけすぎていて雑音が入っている。

 

数を上げればきりが無いであろうレベルの音が垂れ流されていた。実に恐ろしい。それを示すかのように、彼女を襲おうとしたケルト兵はボロ雑巾みたいになって倒れている。……何よりも恐ろしいことは、それがロビンフッドに言わせれば味方候補だった、という事だったが。

結局耳栓が見つからなかった黎斗は、苦々しい顔で文句を垂れる。

 

 

「壊滅的作詞センス。圧倒的音痴。清々しいまでの恥知らず……酷いな、なんだこいつは……」

 

「……オタク、中々言うねぇ」

 

「私の方がずっとましだ。少なくとも作詞センスは……一応こいつとは初対面だが、もう胸焼けがするレベルのくどさ──」

 

 

そこまで言ったところで、彼は凍りつく。

……彼女の向こう側でも誰かの歌声が聞こえてくることに、黎斗は気づいてしまったのだ。

 

 

「ん?」

 

「……どうした」

 

「おい、質問するが……向こうには、何がいる?」

 

「……オタクにとっては悪いお知らせ。多分この建物の向こう側では、セイバーが歌ってます」

 

「嘘だろ……?」

 




高速(早送り)化!! ジャンプ強化(展開飛ばし)!! 縮小化(黎斗の態度が)!!

話が難産な時って時々よくあるよね


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Knight among knights

 

 

 

 

「ネロさん!! ネロさんじゃないですか!!」

 

「ん、その声は……何処かで聞いたような、そうでもないような……」

 

「ほら、マシュ・キリエライトです!! 覚えてませんか!? ゾンビとか、ゾンビとか、あとオルタ化した神祖とか!! ……あっ、ローマの時は生身でした」

 

 

フリフリ衣装の音痴は取り合えずジェロニモとかに任せて、ロビンフッドと黎斗、そして信長と共にもう片方の声の方に歩いていったマシュは、探していたがかつてローマで共闘したネロ・クラウディウスその人だと気づいた途端に駆け寄った。

しかしすぐに、彼女はあまり自分達との事を覚えていないと気づく。ネロはマシュを思い出そうと頭を捻ったが、思い出せそうに無かった。

 

 

「神祖、ローマ、うっ、頭が……まあよい、やはり一度何処かで会った気がするな。であれば信用に足るの」

 

「ああ、良かった」

 

「というか、マシュ・キリエライトだったか? よい顔をしておる、好みだ!! ……で、何か用かの?」

 

 

ネロにそう聞かれ、マシュは現在の状況と、ネロが必要な旨を説明しようとした。したのだが……邪魔が入った。

 

 

「……失礼するぞ」

 

「!?」

 

 

会話を遮って現れたのは非常に筋肉質な、ドリルのような剣を持った男だった。

黎斗は危険を察しその場から数歩下がる。

 

 

「貴方は……?」

 

 

マシュが男に声をかけると、その男はマシュを、そしてネロに信長を見比べて少しだけ唸った後に答えた。

 

 

「我が名はフェルグス。かつて赤枝騎士団で禄を食んでいた者よ。……本来なら食事にでも誘いたい面子が揃っているようだが、込み入った事情があってな……問答無用で、お前たちを殺す」

 

「……!?」

 

 

唐突に放たれた殺人予告。ネロが得物に手を伸ばす隣で、マシュはプロトガシャットギアデュアルBを取り出した。

 

 

「黎斗、あいつは何なのじゃ?」

 

「アイルランドの英雄、フェルグス・マック・ロイ……その手に持つは大地を切り裂く剣カラドボルグ」

 

 

数歩下がった位置にいた信長が、黎斗から軽く説明を受ける。そして彼女は、黎斗からガシャコンバグヴァイザーL・D・Vを手渡された。

 

 

「おおっ、また使っていいのか!?」

 

「ただしガシャットはメンテナンス中だ、我慢しろ……不快だが、相性の悪いガシャットの直挿しよりかは、これを使った方が火力が出るらしいからな」

 

 

手渡されたそれをしっかりと握り締めた信長は、スキップしながらマシュに並び立つ。その手にはバグヴァイザーが握られていた。

 

 

「恨むなら、俺だけを恨め。何しろ、お前たちを我欲で殺すのだから。……出てこい、誇り高き騎士達よ!!」

 

 

フェルグスがそう叫ぶと、地面から沢山の騎士が呼び出される。各々は取るに足らずとも、纏まればサーヴァントとも渡り合える、そんな戦士が集まっていた。

 

 

「あっちゃあ……数多すぎるなぁ、こりゃサボれませんわ」

 

 

ロビンフッドがぼそりと呟く。彼の数メートル前、フェルグスの正面に立った三人は、既に声を上げていて。

 

 

「変身!!」

 

『Transform Archer』

 

 

まず変身したのはアーチャー。それに続くようにマシュもプロトガシャットギアデュアルのギアを捻る。

敵は近距離を得意とする戦士、場所は建物が密集した場所、共闘する仲間も多い……それらを考慮して、彼女は前回とは反対にそれを回した。

 

 

Britain warriors(ブリテンの戦士)!! Knight among knights(騎士の中の騎士)!!』

 

 

そして彼女は、再び光に呑まれていく。

 

───

 

 

 

 

 

「……また、ガシャットの中……ですか」

 

 

マシュは気付けば、また白い空間に佇んでいた。

今度はもうここに何がいるのかも分かっている。取り合えず彼女らを探さないと……そう思い、歩き始めようとしたマシュは……言いようもない悪寒を感じた。

 

 

「──動くな」

 

「っ!?」

 

 

首筋にひやりとした物を感じる。

 

剣だ。視界の端に捉えられる銀色がそう告げていた。

 

 

「あなた、は、誰ですか?」

 

「モードレッド。オレはモードレッド」

 

「モード……レッド……」

 

 

確かロンドンで名乗るや否や殺されたサーヴァントだったはずだ。そう考えるマシュ。彼女には、どうして己が剣を向けられているが分からない。

 

 

「マシュ・キリエライト。お前は自分が何をしたのか分かっているのか?」

 

「……?」

 

 

そんな事を言われても何ともしようがない。そもそも心当たりが無いのだから。

しかしそれを口に出すのは憚られた。それだけの怒りが、背後から伝わってきていた。

 

 

「お前は盾野郎を中に入れときながら、どうして、こんな物(ガシャット)に頼るんだ!! お前は今、父上の──」

 

「──止めなさいモードレッド」

 

 

突然聞こえてきた第三者の声。モードレッドはそれを聞いて、しぶしぶ剣を下ろす。

ようやくマシュは振り返ることが出来た。そこに立っていたのは、モードレッドと……見覚えの無い青い服の剣士。

 

 

「貴女は……」

 

「……サーヴァント、セイバー。アーサー……いや、アルトリア・ペンドラゴン。……冬木で迷惑をかけていた、黒いセイバーです」

 

「……!!」

 

 

そうだ。彼女も最初の特異点で黎斗がゲーム病に感染させていた。いない筈が無いのだ。

マシュはそこまで思いだし……

 

 

「……っぐ……!?」

 

 

激痛を感じた。丁度、かつてローマで感じたような。

頭が割れるように痛い。痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い。

霊基が何かを訴えている。何かを叫んでいる。だがマシュにはそれが何なのかさっぱり分からない。

 

 

「が、あ、あああああっ……!!」

 

 

たまらず白い空間に倒れ込んだ。

視界が暗くなっていく。耳が遠くなっていく。五感が薄れていき、マシュは今にも壊れそうで。

 

 

「─────!!」

 

 

叫んでいるのか、それすらも分からない。ただマシュは踞り、何かに耐えていた。

 

 

「──」

 

「────?」

 

 

薄れていく触覚で、アルトリアが己に触れている、と辛うじてマシュは感じることが出来た。

何かを言っているのだろうか、それすらも彼女には分からなくて。

それでも……痛みは少しずつ引いてきた。

 

 

明るくなり始める視界の中で、剣を空間に突き立てたモードレッドと何処か申し訳なさそうなアルトリアが見えてくる。この中に居るのだろうあと二人……殺人鬼と優男の別人格は見えなかったが、マシュにそんな事を気にしている余裕は無かった。

 

 

「──ッド、いや、マシュ・キリエライト……私達の力を()()()貸し与えます。……私は貴女を縛るのは望まない。貴女のやりたいようにやってください」

 

 

聴覚が突然戻ってくる。マシュには、アルトリアが言っていることの半分も理解できなかったが、協力してくれる、とは感じられた。

 

 

「……父上がそう言うなら仕方無いが……盾野郎の気持ちも汲んでやれよ。ま、もう人格は無いっぽいが」

 

「盾野郎……?」

 

「分からないか? ギ──」

 

 

そこまで聞こえた所で、マシュは光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……今のは」

 

 

意識を取り戻したマシュは、呆然としてガシャットを見ていた。さっきまで黒かったそれは、何かが剥がれ落ちるような音と共に、酷くくすんだ銀色になっている。

 

 

「でも、今は……」

 

 

目の前では、既に変身を終えたアーチャーが飛びかかろうとしていた。ネロもその刀身に白銀の炎を纏わせている。

止まってはいられない。

 

 

「……変身」

 

『Dual up!! We protect our kingdom(我々は祖国を守る)!! knight among knights(騎士の中の騎士)!!』

 

 

甲冑が姿を表した。それはシールダーに覆い被さり、強化する。

 

その身は鉄に覆われて。左手には少し小さくなったいつもの盾があり、腰には幾らかのナイフと共に勲章が見え隠れする。

 

 

「……来てください」

 

『ガシャコン カリバー!!』

 

 

そして右手には、あの空間の中でアルトリアやモードレッドが持っていた剣のような物が、確かに握られた。

 

 

「行きますっ!!」

 

 

己を鼓舞するように一つそう言う。そして次の瞬間には、シールダーはフェルグスと鍔競り合っていた。

 

 

   カキンッ

 

「ほう、佳い体だと思っていたが、それだけでなく中々の勇者と見た。何者だ?」

 

「仮面ライダーシールダー、ナイツゲーマー……!!」

 

   カキンカキンッ

 

「私は、私の我欲で人理を救います。邪魔を……しないで下さい!!」

 

 

風が吹き荒れた。フェルグスは剣圧に思わず飛び退き、そこにアーチャーが何発も弾を撃ち込む。

 

 

「ええい、わしも混ぜろ!!」

 

「うむ、余も戦わせるがよい!!」

 

「信長さん、ネロさん……」

 

 

三人が並び立った。

各々が武器を構え、敵のほうにそれを構える。

 

 

「ハハハハ!! 良いぞ、良いぞ!! 命をかけて、かかってこい!!」

 

「「「……ええ!!」」」

 

 

「……よくもまあ、簡単に命賭けるとか言えますねぇ」

 

 

それと時を同じくして、ロビンフッドは三人を横目に見ながら、ケルト兵相手に弓を引いていた。黎斗は彼の隣に立ちながらシールダーを観察する。

 

 

「ふむ……ガシャコンウェポンは作っていなかった筈なのだが。出てきたカリバーにもスロットこそあるが、ボタンの換わりに音声認識装置がついているように見える……まさかガシャットが勝手に生成したか?」

 

「オタク考え事してる暇は無いんじゃないかな!! どんどん敵沸いてきますけど!?」

 

「分かった分かった、少しは助力しよう。所で、お前の騎乗スキルはどの程度だ?」

 

「そんなのねえよ……」

 

「……知ってた」

 

『爆走 バイク!!』

 

 

黎斗はそのような会話をしながら、ここまで無事な数少ないガシャット、爆走バイクを起動し、バイクゲーマに跨がる。

そして、ロビンフッドを後ろに乗せた。

 

 

「もう少し近くで戦いを観察したい。後ろに乗せてやる、邪魔な奴等を始末しろ」

 

「はいはい」

 

───

 

「ふーん、で、私の協力が欲しいの?」

 

「そうだな。すまないが協力してくれ」

 

 

それと同時に、残された方は音痴のランサー、エリザベートを仲間に引き入れようとしていた。というか引き入れた。

 

ケルト倒さないと満足に人が来ない……的な事を言えば直ぐに協力を確約してくれたのだ。ちょろい。

 

 

「じゃ、よろしくね皆!!」

 

「……簡単すぎて逆に不安になってきたが」

 

「何かあったらそく処分しよう」

 

───

 

「はあっ!!」

 

   カキンカキンッ

 

 

シールダーは未だにフェルグスと斬りあっている。しかし三対一という事もあってかフェルグスは弱り始め、拮抗は崩れつつあった。

 

 

「ひゅー、オタクの所の嬢ちゃんやるじゃないか」

 

「私の神の才能がそうしているだけだ。そら、右からまた兵が来るぞ」

 

「はいはい……よっと」

 

 

バイクの上でケルト兵を射抜くロビンフッド。そんな彼の視線の先では、シールダーがエナジーアイテムを取得していて。

 

 

『マッスル化!!』

 

「はあっ!!」

 

   バキッ

 

「ぐっ……!?」

 

 

それによって筋力が一時的に強化されたシールダーのガシャコンカリバーが、フェルグスのカラドボルグをある程度凹ませる。

そしてそれと同時に、アーチャーの弾丸が全方位から撃ち込まれた。

 

 

「決めるぞマシュ!!」

 

「ええ、行きましょう!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

ネロが宝具の用意を調え、シールダの隣で剣を構える。そしてシールダーはそのカリバーにガシャットに装填し、それを目の前で構え、力を籠めた。

 

 

「謳え!! 星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)!!」

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

「──!!」

 

 

ガシャコンカリバーがシールダーの叫びに合わせてその宝具の鱗片を再現する。ガシャコンカリバーを包むように暴風が巻き起こる。

そして。

 

 

   グシャッ

 

「がぁっ……ふぅ、ぅ……はは、やられてしまったな」

 

 

フェルグスの右半身を吹き飛ばした。彼はカラドボルグを大地に突き立て立っているが、もう戦闘力は失せていた。その証拠に、彼は光に還ろうとしている。

シールダーは変身を解き、去り行く彼に質問を投げ掛けた。

 

 

「待ってください。……シータ、という女性を知りませんか? ラーマという男の妻なのですが」

 

「ん? ……ふむ……確かにいたな。あの作戦は不快だった……」

 

 

何かを考えたように首を捻り、そして言葉を続けるフェルグス。それは一行の目的地の一つを的確に示していた。

 

 

「……西へ戻れ。アルカトラズ島、そこに彼女はいる」

 

「アルカトラズ……!?」

 

 

アルカトラズ。脱出不可能と唄われた監獄。マシュは戸惑うが、彼の言葉を信じようと決めていた。

 

 

「……信じる外はありません。信じましょう」

 

「はは、綺麗な目の女よ。ここで帰るのが惜しいなぁ……はは、はははは!!」

 

 

そこまで言って、フェルグスは光の粒になり果てた。

 

───

 

その夜。

 

 

「さて、ここからはとうとう二手に別れることになるな」

 

 

空き家の一つにあったテーブルを囲んで、一行は細やかな休息をとっていた。現在の北米大陸の地図を広げて、ジェロニモが状況を整理する。

 

 

「アメリカの拠点の殆どは既に壊滅、占拠されているな。彼らの拠点はワシントン。そこに本陣があると睨んでいる。首都を占拠するのが、国家にとって最も屈辱的だからな」

 

「……」

 

「……この混乱した戦場なら、我々のような少数でもある程度動ける。我々の勝利方法は、特定のサーヴァントを暗殺すること、それ以外に無い」

 

 

そう言うジェロニモ。殆どのサーヴァントはそれに耳を傾け黙っている。黎斗はどや顔で腕を組んでいた。

 

 

「一方はナイチンゲールと共にラーマを治療するためアルカトラズへと向かってもらう……私としては、マシュと黎斗、そして彼のサーヴァント達にナイチンゲール、ラーマ……あと、バランスを考えてエリザベートと共に向かって欲しいのだが」

 

「私達を向かわせる理由は何だ?」

 

「……君たちは最後の一手だ。我々が彼らを殺せればそれでよし、出来なければ後を託す」

 

 

そう語るジェロニモ。やはりほぼ全員が頷く中で、一人だけ異を唱える物がいた。

 

 

「……いえ、私は暗殺側についていきます」

 

「……何故だ?」

 

 

マシュだった。ジェロニモは心底意外そうな顔で彼女を見る。

 

 

「そもそも、ジェロニモさんの理屈は微妙に筋が通っていません。暗殺を絶対に成功させる、もしくは犠牲ゼロで逃亡する事が出来る、という前提の元でなければ、態々戦える人を減らしにいくのは愚作でしかない」

 

「……」

 

「今回の敵はケルト、そしてその親玉はクー・フーリンだと見るのが妥当でしょう。その場合、相手は確実にゲイ・ボルクを持っている。例え暗殺に成功したとしても、それを使われて全滅になってしまえば、結局不利なままです」

 

「……じゃあどうして、自分も行く、と言った? その理屈なら、共にアルカトラズに行くべきではないのか?」

 

「いえ……私が、いや、私達が行けば、ゲイ・ボルクへの対策が可能だからです」

 

 

何も知らない人から見れば、マシュの言動は大言壮語も甚だしい……と映っただろう。しかし、黎斗は彼女の後ろで肯定の笑みを浮かべていた。

 

 

「ああ……彼女が変身したときに辺りに撒かれるエナジーアイテム、あれはサーヴァントも使用可能だ。効果は様々、透明化や高速化等のサーヴァントにもよくあるものや……巨大化、縮小化、分身に逆転……例え狂王だろうと、殺せる」

 

「……」

 

「あとついでに言うと、マシュ・キリエライトは一応私のサーヴァントだが、それと同時に半分サーヴァントではない。その為極度の単独行動にも普通のサーヴァントよりは耐えられるし、仮面ライダーになればその辺りのデメリットは全て消え去るようにしている。君達についていっても何ら問題は無いが」

 

 

そう言う黎斗には、妙に自信があった。ジェロニモは反論するつもりも無くなって、マシュを受け入れる。

 

 

「分かった分かった……じゃあ、マシュを暗殺部隊に入れておこう、それでいいな?」

 

───

 

しばらく後。

 

 

「……」

 

 

黎斗は外に立っていた。何をするでもなく、ただ上を見上げていた。

 

 

「……さっきは、ありがとうございました」

 

 

マシュがいつの間にか、黎斗の隣に立っていた。数日前までは考えられなかった光景だった。

 

 

「構わないさ。私だって騒音の元にはしばらく離れていて貰いたかった所だったしな」

 

「……」

 

「……」

 

「……やっぱり、私は貴方が嫌いです」

 

「別に好かれるつもりは無い」

 

「ええ。でも……嫌いは嫌いですが、今なら、まあ何とか協力したいと、そう思っています」

 

「それ今までと何か変わったのか?」

 

「……」

 

 

そう話す二人はやはり噛み合っていなくて……それでも、マシュはそれでいいと思えていた。結局彼とは分かりあえないのだろうが、それでも寄り添うことは出来る。

見上げる星空は冷たく瞬いていた。

 

マシュはさらに口を開く。

 

 

「……この特異点を攻略したら。攻略したら……一度、本気で黎斗さんと戦わせて下さい。戦いたいんです。私が、私を整理するために」

 

「特異点はまだ終わっていないというか、まだ半分程度なのに、随分自信があるじゃないか」

 

「ここで疲れてたら、残りの二つで駄目になりますから」

 

「……それもそうだな。……いいだろう、これが終わったら……神の才能の何たるかを教えてやる」

 




B面……ブリテンウォリアーズ『騎士の中の騎士編』

イギリスを舞台に、騎士となって自由に行動し国を守るゲーム。正々堂々としても闇討ちに走るも自由。アクション要素とクエスト要素を兼ね備えたゲーム……という設定

ガシャコンカリバー……B面使用時に発生する剣。ガシャット内の英霊の力が籠められており、これにガシャットをセットして音声認識部に使いたい宝具の名を言えば発動できる。
ただし今のところアルトリア以外の円卓(とはいえモードレッドだけだが)の宝具は使えず、また身の丈に合わない強さの宝具を使うと発動前に気絶する。


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一時の別れですね、先輩

 

 

 

 

 

「……さて、朝になったな。我々は東部へと向かう」

 

「ああ。で、私達がアルカトラズ島へと向かう訳だ」

 

 

アメリカは朝を迎え、星は太陽に掻き消された。登り始める白日の下で、一行は一時の別れを迎える。

 

 

「アルカトラズにもケルトのサーヴァントがいるだろう、気を付けることだ」

 

「そっちこそ気を付けろ。お前達の行く先は、ある意味では地獄だぞ」

 

 

彼らは互いに軽く脅しあうが、それでも険悪にはなっていない。まあ、態々別れ際に相手を不快にさせる必要は無かったから、ある意味では当たり前の事なのだが。

 

 

「大丈夫です。私達は、生きて帰ってきます」

 

「……そうか、そうだろうな。せいぜい足掻いておけ。……餞別だ、受けとれ」

 

 

決意を黎斗に述べるマシュ。黎斗はそれを聞いて少し俯き、そして顔を上げると共にマシュにあるものを投げ渡した。

 

 

「ガシャット……」

 

「気が向いた、神の恵みをしばらく貸してやる。しっかりと私に返却することだ」

 

「……はい!!」

 

───

 

「……では、行くとするか」

 

「うむ、短い別れだったが悔いはないな」

 

 

黎斗達がアルカトラズへと進んで行くのを見守ってから、残されたサーヴァント達はその反対側に目を向けた。

どこまでも続く荒野の向こうに、ポツポツとケルトの兵が見える気がする。

 

 

「……死にに行く訳ではありませんよ。私は貴女を死なせない」

 

「承知している。だが暗殺するために敵陣深く潜り込むのだ。生き延びることを前提にしては、うまくいくものもいくまい」

 

「……貴女は、覚悟……してるんですか?」

 

「……余は生き残るとも。図太さで他の後塵を拝したことはないのだからな!!」

 

 

そんな言葉を交わした。マシュは少しだけ恐れを抱き目を瞑ったが、しかし己の行動を後悔することだけはしまいと決めていた。

 

 

「ま、そりゃそうだ。オレも死ぬ気は更々無いし。せいぜい頑張りますか」

 

「ええ……行きましょう!!」

 

───

 

そして黎斗達の方はと言うと。

 

 

「くっ……」

 

「……やはり患者の容態は日に日に悪化しています。急ぎましょう、出来るだけ早く治さないと」

 

 

ラーマ一輪車の上で、ラーマは静かに呻いた。傷口は膿んでいて、心臓は黒ずみが否めない。ナイチンゲールは彼の汗を拭きながら焦りを隠さなかった。

黎斗は手持ちのガシャットである爆走バイクを眺めながら溜め息をつく。

 

 

「バイクゲーマで一輪車……いや、この際だからスポーツゲーマを全分解して二輪車にしてしまうとして……バイクゲーマでラーマを乗せた二輪車を牽き、そしてサーヴァントは全力疾走……なんて手もあるが」

 

「……いや、それは中々魅力的ですが、些か患者に振動が伝わりすぎます。安静も大切ですから、それは最後の手段としておきましょう。他には?」

 

「無い。コンバットゲーマも治っていないし、他のゲーマも一輪車を牽引するには壊れすぎている。ロボットゲーマはもう鉄屑と言っても差し支えないレベルだ」

 

「そうですか、役立たずですね」

 

「」

 

 

お前が言うな、と言いたかった。黎斗は非常にそう言いたかった。……言いたかったが、流石にノータイムでピストルを撃たれたら避ける自信がないので止めておいた。

 

……その時、突然カルデアから通信が入ってきた。引き吊る顔をそのままに黎斗がそれの電源を入れると、画面の向こうにはロマンではなくダ・ヴィンチが映っている。

 

 

『いや、態々一輪車を牽くよりももっと良いものがある。悪いけど、そこから数キロ離れた所にある霊脈に行ってくれ。ダ・ヴィンチちゃん特製、改良型オーニソプターをプレゼントする』

 

「オーニソプターとは何ですか? 患者の助けになりますか?」

 

『うん、確約しよう。私のオーニソプターはラーマを助けるのに一役買うよ』

 

───

 

そう言われて、彼らは横道にそれとある霊脈へとやって来た。ダ・ヴィンチが彼らの元へそのオーニソプターを転送する。

 

だが。

 

 

「これが……オーニソプター……なのか?」

 

 

ベビーカーだった。どうみてもベビーカーだった。

 

 

「……説明しろ、どういうことだ?」

 

「うむ、わしは知っておるぞ!! あのぐだぐだな特異点を攻略したときに黎斗が乗っておった奴じゃ!!」

 

「そうだな。あの時は無理矢理連れ出してしまってすまない……」

 

 

ますます黎斗は凍り付く。

今の言葉が真実なら、とんでもないことが明らかになってしまうのだが。

 

 

「……待った。私はこのベビーカーに乗せられていたのか?」

 

「うむ。あ、沖田と二人で凄く密着しながら乗ってた時もあったのう。気絶してたから分からなかったろうが、何だかんだで役得だったと思うのじゃ!!」

 

「は?」

 

「くは、くは、くははははは!! まさかお前は、寝ている間に女とベビーカーに乗って特異点にいたのか!! くははははははははは!!」

 

 

アヴェンジャーの高笑いが何処と無く虚しく響く。黎斗は別に恥ずかしいとかではなく、単純に驚きでふらつき、近くの岩に凭れかかってから血を吐いた。

 

 

「コフゥ」

 

「っ!! 患者が増えました!! 今すぐ治療に……」

 

 

そこまで聞こえてきた所で、黎斗の意識は暗闇へ沈み……

 

───

 

「……織姫と彦星は、こうして七夕の七月七日にだけ会えるようになりました。めでたしめでたし」

 

「全然めでたく無いわよぅ!!」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

ロマンは管制室の一角でまた頭を抱えた。もう絵本は3ループ目に差し掛かろうとしている。正直な話、ロマンはもう殆どの童話を暗記していた。

 

 

「ここはもういっそのことアンデルセン辺りを呼び出して新作を書き下ろしてもらうか……?」

 

「アンデルセン!? アンデルセンを召喚するの!? だったら何で人魚姫をあんな結末にしたのか抗議しなくちゃ!!」

 

「やっぱ止めとこう」

 

 

そこまで言って、彼はモニターに目を向けた。

丁度黎斗がベビーカー、いや、オーニソプターに詰め込まれている。隣のラーマも窮屈そうだ。

彼女はいつも患者同士は離すように気を付けていた筈だが、緊急事態だからまあ仕方無いのだろう。

 

 

「心配と言えば、マシュもそうだよな……絶対あの子無理してるしな……」

 

 

そう呟きながら別のモニターを見る。マシュ達のグループはどうやらケルトとは全く戦わずにワシントンまで辿り着くつもりのようで、あらゆるケルト兵を無視していた。

 

 

「大丈夫かなぁ……大丈夫じゃないと……」

 

───

 

「……で、マスターは積み終えたが。……オーニソプターは誰が運転する?」

 

 

黎斗をラーマの隣に優しく押し込んだジークフリートが、メンバーを見渡してそう言った。

現在の面子は、彼と信長、アヴェンジャー、そしてナイチンゲール。本当は騎乗スキルBの彼自信が運転したいところだったが、残念ながら彼は右足を怪我している。アクセルやブレーキを踏む支障になるだろう。

 

 

「私がやろっか?」

 

「いや、ここはわしじゃ!!」

 

 

名乗りを上げる信長とエリザベート。ナイチンゲールは無反応、アヴェンジャーはそっぽを向いている。

……ジークフリートに直感スキルは無かった筈だが、彼はいつの間にか冷や汗をかいていた。

 

 

「「じゃーんけーん、ぽん!!」」

 

 

勝手にじゃんけんを始める二人。信長はパーを、エリザベートはチョキを出す。

 

 

「やったー!! 私の勝ちね!!」

 

「うぅ、悔しいのじゃあ」

 

 

あ、死んだなこれ。

 

ジークフリートは何をしたわけでもないがそう察し、己の過ちを悔いた。

 

 

「すまない……」

 

───

 

「ひゃあああああああ!?」ガタガタガタガタ

 

「おわぁああああああ!?」ガタガタガタガタ

 

「───!!」ガタガタガタガタ

 

「くはははははははは!?」ガタガタガタガタ

 

「……」ガタガタガタガタ

 

 

結果こうなった。ちなみに上から順に運転者であるエリザベート、そしてその側に立ち乗りする信長、ジークフリート、アヴェンジャー、ナイチンゲールである。

 

予想以上に運転が下手くそだったエリザベートは、右へふらふら左へふらふら、ケルトの兵を撥ね飛ばし、機械化兵士も吹き飛ばし、ワイバーンをジャンプ台に崖から飛び降りる有り様だ。

オーニソプターの補助機能のお陰で振り落とされることこそ無かったが、それは別の意味では地獄が長続きしたという意味でもあったと言える。

 

 

「「」」

 

 

当然オーニソプターに収容された二人も無事で済む筈がなく、何度も脳みそをシェイクさせられた結果気を失っていた。無事だったが。これでは爆走で二輪車を牽く方がずっとましだった。

 

そのような旅が暫く続いたが……まあ、なんとかアルカトラズ島の見える海岸までやって来たのだ。

 

 

「……ついたようじゃな。この向こうの島がアルカトラズじゃろう?」

 

「ああ……以外に近いな。だが泳げそうにもあるまい」

 

「そうかの? わしはスキル活用すればほら、こんな風に水着になれるのじゃが」

 

 

そう言いながらいつの間にかジャージを着ている信長。意識を取り戻した黎斗は、それに何の反応も返さずにオーニソプターから顔だけ出して言う。

 

 

「いや、コフッ……海水温や潮流的に考えて不味い。冷えて風邪でも引いたらどうする、コフッ、流石に三人はこのベビーカーには乗らないぞ」

 

「……是非もないよね」

 

 

元の格好に戻る信長。

彼女を視界になんとなく確認しながら、ナイチンゲールはオーニソプターの底部を探し、一本の紐を引いた。

 

 

   ボフッ

 

「「!?」」

 

 

突然、車輪を囲むようにしてゴムボートらしき何かが出来上がった。こんな機能までつけられていたらしい。

突然ベッドが競り上がったせいか驚きを隠さない二人の体調を気にしながら、ナイチンゲールは他のサーヴァント達を乗せ運転を開始した。

 

 

「ちょっと、私が運転してたのに!!」

 

「貴女の運転は患者に障ります、我慢してください」

 

「えー……」

 

───

 

ナイチンゲールの運転は、エリザベートよりはましな物だった。少なくともラーマと黎斗は、非常に快適な船旅……いや、オーニソプター旅を送れたと言える。

 

そしてオーニソプターは、岩礁に乗り上げることもなく静かに砂浜に乗り上げた。

遠くに監獄の建物が見える。そしてそれを守るように、沢山のワイバーンが浮いていた。

 

 

「ついたようだな。サーヴァントはいるか?」

 

「ふむ、恐らくいるようじゃな。わしらを誘うようにワイバーンが設置されておる」

 

「ええ……ゴムボートの収容は終わりました。皆さんオーニソプターに掴まって」ブルンブルン

 

 

獲物を見定めるようなワイバーンの目付きなど歯牙にもかけず、スムーズにゴムボートをしまったナイチンゲール。そして彼女は再びオーニソプターのハンドルを握って。

 

 

「今は時間が惜しい。執刀許可を待つ時間は不要です、突貫します!!」

 




オーニソプター(二回目)


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闘争する者

 

 

 

 

 

「前方にワイバーン!!」

 

「分かっておる、三千世界(さんだんうち)!!」

 

    ズダズダズダァンッ

 

 

オーニソプターをかっ飛ばしながら辺りの障害を察知し、近くのサーヴァントに指示を出すナイチンゲール。

前方からの敵は信長が打ち払ったが、今度は上からワイバーンが降ってくる。

 

 

「上空からワイバーン!!」

 

「ふははははは!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

今度はアヴェンジャーが動き、飛び上がって素早くワイバーンを吹き飛ばした。そして彼は瞬時にオーニソプターに戻ってくる。

 

 

「建造物まであと700メートルです」

 

 

前方に群がるワイバーンの向こうを、彼女は睨み付けた。オーニソプターのアクセルを更に踏み込む。

エンジンが唸り、排気は辺りを灰に染めて。音すらも越えてそれは駆けた。

 

 

「前方にワイバーンの塊!!」

 

「……了解した!!」

 

 

ジークフリートがオーニソプターのボンネット……のような部分に飛び乗る。貫かれたままの右足は酷く痛むが、今回は態々踏み込む必要はない。ただ構えて、宝具を使った状態で剣を振るだけ。

 

 

「──墜ちろ……幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)ぅっ!!」

 

   ズバッ

 

 

蒼白い光を纏った一閃が、全てのワイバーンを粉砕した。

ジークフリートは痛みと疲労でその場に座り込む。そしてナイチンゲールは建造物に辿り着いたことを確認し、オーニソプターを停めた。

 

 

「おう、アルカトラズ刑務所にようこそ。入監か? 襲撃か? 脱獄の手伝いか? とりあえず希望は言っておきな、殺した後でどうするか考えるからよ」

 

「……こちらの患者の奥方が此処に監禁されているようで。治療に必要なのでお渡し願います」

 

 

ずっとこちらを見ていたのだろう、建物の上から筋骨隆々な男が話し掛けてきた。ナイチンゲールは怯まずに彼に用件を告げる。そして男は落胆の顔を露にした。

 

 

「んだよ面会かよ、白けるぜ。戦いに来たんじゃないんかい?」

 

「まさか、看護師が戦いに来てどうするのです、看護師が戦うのは病気と怪我だけと決まっています」

 

 

そう言い切るナイチンゲール。男はやれやれといった様子で首をふり、少し考える様子を見せた。

 

 

「そりゃごもっとも……となるとアンタ、実は狂ってないのか? 乳母車かっとばしてここまで来たときはとんでもない奴と思ってたが、しごく全うなサーヴァントじゃねえか!!」

 

「……まあ、こいつはそういうサーヴァントだ」

 

 

黎斗はオーニソプターからのそりと首を出して呟く。男は意外そうに彼を眺め、首をかしげてから、納得したように頷いた。

 

 

「なんだ。荷物かと思えば喋るのか……ん、お前と隣の奴、多分どっちかか奥方のダンナだろう? どっちだ?」

 

「余、だ……」

 

「ああ、そっちだったか。そうかそうか……まあ残念だが、俺は奥方を解放するつもりはない」

 

「……」

 

「……では、怪我人の治療の邪魔ですね。障害は排除します」

 

 

そこまで聞いて、何の躊躇いもなくボックスピストルを構えるナイチンゲール。アヴェンジャーは炎を纏い、信長はバグヴァイザーを装着しながら火縄を呼び出す。そしてジークフリートはすまなさそうにオーニソプターの背後に隠れた。

 

 

「クッ……はははは!! 面白ぇ、面白ぇぞ!! バーサーカーってのも色々居るもんだ!!」

 

「何つーか、イヤな気分になるタイプのサーヴァントね、ツノ的に……!!」

 

 

エリザベートは槍を構えながらそう呟いた。顔には嫌悪が浮かんでいる。黎斗は男を見つめながら、エリザベートに言った。

 

 

「それもそうだろう。何しろ彼は英文学最古の叙事詩の主人公、竜殺しのベオウルフだからな」

 

「ほう……? 何で分かった」

 

 

真名を容易く見破られ訝しむ男、ベオウルフ。しかし黎斗はいかにも当然といった様子で彼に簡潔に語る。

 

 

「何でも何も、その剣はどう見てもフルンディングだろう?」

 

「……ハハッ、成程な。お前良い目だな!! じゃあ……俺手ずから相手してやるよ!!」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

「……これでも喰らえ、三千世界(さんだんうち)っ!!」

 

 

アーチャーが宝具を解き放つと同時に、火縄から放たれた無数の弾丸がベオウルフに食らいつく。

しかしベオウルフはそこからさほど動こうとすることもなく、その手に持った鎖のついた剣の片方を大きく振るった。

 

 

「……これでも喰らいな、赤原猟犬(フルンディング)っっ!!」

 

 

左手に持っていた真紅の剣が、勝手に動き回り弾丸を吹き飛ばした後にアーチャーへと斬りかかる。

あまりに予想外な攻撃にアーチャーはなすすべもなく、彼女はその胴にもろにダメージを受けた。

 

 

「くはあっ……!?」

 

『ガッチョーン』

 

 

吹き飛ばされるバグヴァイザー。変身の解けた信長は力なく尻餅をつく。

それを確認したベオウルフは実に興奮した様子だった。

 

 

「後ろ、貰ったわ!!」

 

 

そんな彼の背後で、エリザベートが槍を振りかぶる。それは確実にベオウルフの背中を狙っていて、しかし。

 

 

「残念だった、なあっ!!」

 

   ガキンッ

 

 

ベオウルフは今度はフルンディングと鎖で繋がれたもう片方の武器を振るって、背後からの攻撃を防いだ。そして彼は素早く向き直り、そのもう片方の武器……とても剣とは呼べそうにない棍棒のようなそれでエリザベートの鳩尾を抉った。

 

 

鉄槌蛇潰(ネイリング)!!」

 

「がはぁっ……!?」

 

 

あえなくエリザベートも数メートル転がされた。衣装は所々擦りきれている。彼女は槍を杖に立とうとするが、力が抜けてどうにも立てなかった。

彼女の隣からナイチンゲールが飛び出してベオウルフに飛び掛かるも、そこは経験の佐とでも言うべきか、まるで遊ばれているかの如く振り払われる。

 

 

「くっ……」

 

「ほらほら、もっと、もっと来いよ!!」

 

 

そして、その反対側では。

アヴェンジャーがバグヴァイザーを拾い上げ、その腰に装着していた。

 

 

『ガッチョーン』

 

「成程な。……オレもこうしてみたかったんだ。変身……!!」

 

『Transform Avenger』

 

 

体が書き変わっていく。緑のシルエットはそのままに、全身は頑丈に変化していく。

そうして出来上がった仮面ライダーアヴェンジャーに、黎斗は()()()ガシャットを手渡した。

 

 

「使ってみろ」

 

「──これは?」

 

 

今までの黒いガシャットとは一線を引いたカラーリングのそれには、赤い炎の戦士が描かれていて。

 

 

「以前の開発データを元に再現したガシャットだ、お前とは多分相性が良い」

 

「……そうか」

 

『Knock out fighter!!』

 

 

そんな音声が鳴り響いた。アヴェンジャーはそれをバグヴァイザーに装填する。ベオウルフは既にナイチンゲールを転がしていて、こちらに向き直っていた。

 

 

『チューン ノックアウトファイター』

 

「……行くぞ!!」

 

『バグルアァップ』

 

『Explosion hit!! Knock out fighter!!』

 

 

黒炎が激しく燃え上がる。アヴェンジャーの手にはますます力が宿り、眼光は鋭くなっていた。

ベオウルフもそれにつられて高揚したのか、武器を投げ捨てて拳を固めている。

 

 

「ああ……感謝するぞマスター。これは、確かにオレ向きだ」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「……いいねぇ。俺も滾ってきた。やっぱり喧嘩は殴りあいに限るからな」

 

 

アヴェンジャーと向きあうベオウルフ。一瞬の沈黙の後に、二人は同時に飛び出して。

 

 

「これが闘いの根源だ!! 要するに殴って蹴って立っていた方の勝ちってやつよ!!」

 

『Knock out critical smash!!』

 

「ふははははははははは!!」

 

 

拳が交わる。衝撃が辺りを震わす。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!! 源流闘争(グレンデル・バスター)!!」

 

「くはははははははははははははは!!」

 

 

肉の打たれる音のみが支配する世界。立っていた方が勝利する単純明快な闘争。それを前にしては、武将も貴族も看護婦も腰をついている事しか出来ない。

 

そして、全てが決したときの勝者は。

 

 

「が、はあっ……!! 中々やるな、てめぇ……」

 

「くはは、此方もそう言わせてもらおう」

 

『ガッチョーン』

 

 

アヴェンジャーだった。ベオウルフは地に倒れ込み、無防備な姿を晒す。それが敗者の礼儀とでも言わんばかりに。

アヴェンジャーは変身を解き、彼に止めを刺そうとして……

 

 

「……待ちなさい、これ以上の戦闘は無意味です。時間が勿体無い、早く監獄に」

 

「何だと?」

 

「何ですって?」

 

 

ナイチンゲールに引き留められた。アヴェンジャーは難色を示すが、胸元にピストルをいつの間にやら押し付けられていたので、仕方無く降参した。

 

 

「はいはい分かった分かった。悪いな」

 

「いや、仕方無いな。……ったく、やられたねぇ。正直、気持ちよく全滅させるか、させられたかったんだが……仕方無いな。降参だ、好きにしろ」

 

───

 

「……シータ、シータ、シータ……迎えに来たぞ。迎えに……来たんだ……」

 

 

監獄に入るや否や勝手にオーニソプターから這い出して、ラーマはふらふらと走り出す。彼の目はもう半ば白く濁っていて、血は固まりかけで溢れ落ちていた。

 

 

「シータ、シータ……」

 

「……ラーマ様!!」

 

 

彼の声に呼応するように、監獄の向こうでラーマとよく似た少女が声を上げた。恐らく彼女がシータなのだろう。

何となく空気を読んだアヴェンジャーが素早く彼女の檻を破壊し、ラーマの元へ連れていく。

 

 

「……ああ、くそ。目が霞む。何も見えん。シータ……何処だ……?」

 

「……シータはここにおります、ラーマ様」

 

 

そしてシータは、倒れこんで動くことも儘ならなくなったラーマの手を握った。

 

 

「シータ、シータ……会いたかった。本当に会いたかった。僕は、君がいれば……!!」

 

 

譫言を呟くラーマ。彼の目にはシータは映ってはいない。分かるのは声と手触りだけ、しかもそれすらも薄れていて。

 

 

「……早速ですが治療を始めます。こんなところでやるのは不衛生ですが、サーヴァントなので特例です。シータ、貴女は手を握っていて下さい」

 

「ラーマ様は……?」

 

 

シータは不安そうに訊ねた。ナイチンゲールは手早く治療の準備を整えながら、現在のラーマの状況について手早く話す。

 

そして、彼女から全てを聞いたシータはいっそうラーマの手を強く握った。

 

 

「ああ、そうだったのですか。私が、ラーマ様のお役に……」

 

 

そう言って彼女は一つ涙を溢す。そして己とラーマの境遇について語った。

生前に呪いを受け、望んだ形では出会えなくなったこと。そしてそれは座に入っても変わらず、二人は同じサーヴァントとして扱われることで、本来なら決して出会えないということ。

そして、ラーマが目覚めるときには自分は消えているだろうと言うこと。

 

 

「……本当にそれでいいの……? まだ何もやってないのに……」

 

「ええ、私は満足です。私は……あの恋と愛を知っている。だから、また会う日を願い続けましょう。叶うと信じて」

 

 

……その時、治療を受けていたラーマが一際大きく呻いた。ナイチンゲールの顔が険しくなる。

 

 

「修復は大分終わりましたが、巣食った何かが厄介です。恐らくクー・フーリンのものでしょう」

 

「治すには、どうすれば?」

 

「……何かに呪いを転写すれば、どうにか……」

 

 

彼女は苦々しげにそう言った。まあ、望んで彼の声に身代わりになる存在などそうそういる訳がなく、ラーマを助ける方法が無いにも等しいのだから無理もない。

 

 

「……なら、私がこの身を捧げましょう」

 

「……!?」

 

 

しかし、この場にはそんな存在がいた。

 

 

「私の身を以て、この呪いを解きます。私が呪いを背負い消えれば、それでいい。私とラーマ様は同じですから、肩代わりは容易でしょう」

 

「……それで、いいのか。彼は貴女を求めてここまで来たのに」

 

「その気持ちで、十分です。ラーマ様は……貴女達を救う、世界一の味方になります」

 

 

そう言うシータの目は希望に満ちていて。だからこそ、彼女の申し出を断る事は出来なかった。

 

 

「……では、呪いを貴女に転写します。よろしいですね?」

 

「……はい」

 

 

ナイチンゲールは沈痛な面持ちで、彼女に呪いを転写した。誰かを救うために誰かを犠牲にする、やりたくはなかったが、本人の同意がある以上、これが最適解だった。

 

そしてシータは粒子になり始める。金の粒は空へと登り……

 

 

「……貰ったぁっ!!」

 

   ブァサササッ

 

「……!?」

 

 

……何てことは無かった。

 

ずっと黙って聞いていた筈の黎斗が、いつの間にかバグヴァイザーを構えて、愉しげに歯を剥いて笑いながら立っている。

消えていこうとしていたシータは、何故かバグヴァイザーの中にいる。

 

 

「マスター!?」

 

「ちょっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「──!?」

 

 

驚く三騎士クラス、そして絶句するナイチンゲール。意識を失ったままのラーマも呻いている。

そしてアヴェンジャーは暫く考えたあとに、理解したように笑った。

 

 

「く、はははははははは!! そうか、そうか!!」

 

「教えなさいアヴェンジャー、彼は一体何をやったのですか!!」

 

「いやいや、オレの口からは語るまい!! 本人に問うがいいさ!!」

 

 

ナイチンゲールに詰め寄られてもアヴェンジャーは臆せず。そして彼女は黎斗に飛び掛かる。彼は患者であると共に……今の彼女にとっては、敵だった。

 

 

「分かりました……答えなさい檀黎斗!!」

 

「ハーハハハハ!! 誰が教えてやるもんか!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

監獄島に、男は笑う。

 




アヴェンジャーの弱点もナイチンゲール


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構築する者

 

 

 

 

 

「……偵察終わったぜ。ったく、顔のない王(ノーフェイス・メイキング)を酷使しすぎだっつーの」

 

 

アメリカ大陸東側、現在はケルトの物となったワシントンにて。

宝具を解除したロビンフッドが偵察を終え、仲間たちの前に戻ってきていた。

 

 

「お疲れ様ですロビンさん。で、様子は」

 

「あー、どうも連中この大通りで大規模なパレードを開くつもりらしい」

 

「パレード? 何だそれ」

 

「知るかよ。ただ、ケルトの連中が揃ってパレードの準備を行っていたのは確かだ」

 

 

敵は連勝で浮かれているのだろうか、そんなことをやっているらしかった。

何だか悔しくて、マシュは現状に歯噛みする。

 

 

「パレードだとぉ……けしからん!! いやさ、羨ましい!! パレードはいいぞ、余の名を歓呼する民、一糸乱れず行進する兵士、手を一ふりすれば、素敵!! 最高!! 万歳!! ネロ様抱いて!! の雨あられ。うむ、余もパレードしたい」

 

「……そうか。誰であれ浮き足立つか。では、パレードを狙おう。一番高台にいるサーヴァントを暗殺する」

 

───

 

「……シータが、いるのか?」

 

 

病床から蘇り、立ち上がったラーマは黎斗にそう聞いた。

 

 

「シータに会えるのか? まだ、間に合うのか?」

 

「当然、間に合うとも。だが……対価か欲しければ、労働しなければならない」

 

 

黎斗は含み笑いをしながらそう言い、外への道を指差す。

 

 

「……そうか、分かった。余は戦う。だから、絶対にシータと会わせろ」

 

「それは君の働き次第だ……なんてな」

 

「……非常に不愉快です」

 

 

ナイチンゲールが黎斗にピストルをつきつける。しかしもう黎斗は動じなかった。バグヴァイザーをこれ見よがしに振りナイチンゲールを黙らせた黎斗は、既に回復した足で少し歩きながら話す。

 

 

「私の父の言葉だ。今はいないがね。……とにかく、出るぞ」

 

「……」

 

───

 

「この私とクーちゃんの国で過ごすことを光栄に思いなさい!!」

 

 

「……随分な演説だね」

 

「女性でケルトの戦士たちの頂点に立つ……なるほど、彼女は女王か!!」

 

 

始まったパレードを物陰から観察する一行。急遽定められた暗殺のXデーは今、本当の幕上げを開始しようとしていた。

ターゲットはパレードで一番目立っている女……パレードを聞く限り、メイヴと名乗っていた女。

 

 

「ですが相手が女王なら都合がいい。私がジャックさんの暗黒霧都(ザ・ミスト)を使用した上で解体聖母(マリア・ザ・リッパー)を行えば……夜でない以上確殺とはいきませんが、相手が女、霧が起こっているという二つの条件は満たしているので致命傷は堅いです」

 

 

マシュがそう分析して、懐から群青のガシャットを取り出す。

黎斗から手渡されたそれには、スライムか何かのようなキャラクターが描かれていて。

 

 

「そうか……では、頼むぞ」

 

「ええ、成功させましょう」

 

『Perfect puzzle』

 

 

マシュはそれを迷いなく胸に突き立てた。

髪と瞳が透き通ったブルーに変更され、鎧はジグソーパズルのような意匠になる。

体が変質する感覚には慣れ始めていた彼女だったが、今回のものは何時とは

何か違っているように思えた。

その上で、彼女はプロトガシャットギアデュアルを取り出し、ギアを捻る。

 

 

『Britain warriors!!』

 

「……変身」

 

『Knight among knights!!』

 

 

ナイツゲーマーへと変身したシールダー。彼女は体に取り込んだパーフェクトパズルの効果を軽く確かめて、今だ傲り昂っているメイヴに狙いを定めた。

 

 

『高速化!!』

 

『透明化!!』

 

『ジャンプ強化!!』

 

「……うん、やっぱりアイテムの操作能力でしたね。いけそうです……それじゃあ、張り切って行きましょう」

 

『Noble phantasm』

 

「……暗黒霧都(ザ・ミスト)

 

   ブワッ

 

 

シールダーがジャックの宝具を発動した。シールダーから霧が発生し、瞬時に広がっていく。パレード中のワシントンに痛いほどのそれは立ち込め、辺りの人々は騒然としていた。

メイヴはいち速く危険を察知したらしく、既に守りを固めようとしている。

 

しかし、それはジャックのもう一つの宝具、今となってはシールダーの宝具にとっては無意味。

 

 

『Noble phantasm』

 

「お覚悟を。解体聖母(マリア・ザ・リッパー)……!!」

 

 

強化された肉体で高く飛び上がったシールダーは、女王メイヴを解体するために刃を向け……

 

 

「これピンチね、うん、すっごいピンチ。だから……来て、王様!!」

 

「──クアアアアッ!!」

 

「!?」

 

 

突然、何もいなかったはずのそこに、禍々しい体躯の男が飛び出してきた。それは槍を振るいシールダーを近くの壁まで吹き飛ばす。

霧はその槍の軌道に沿って切り裂かれていて、彼女は否応にもその男の強さを理解した。

 

 

「くっ、ネロさん!!」

 

「分かっておる、第二戦術!! 開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!!」

 

 

シールダーの合図で、ネロが劇場、いや、式場を展開する。慌てていた人々の姿は掻き消され、サーヴァントだけの空間が形作られる。

 

 

「成程な、こそこそするだけでなく、こんな大胆不敵な事もやるか。だが失策だ……狙うべきはオレだろうに」

 

「光の御子、クー・フーリン……禍々しい姿よ。貴様が聖杯の所有者か!!」

 

「あ? 聖杯に興味なんてねえよ。あんなもんメイヴにくれてやった」

 

 

目の前の存在を観察しながら、男、クー・フーリンは槍を構える。深紅に染まったそれは、本来なら敵は弱体化する空間においても、いとも容易くサーヴァントを屠るポテンシャルを持っていて。

 

 

「全員で生き延びます。彼らを殺して!!」

 

 

それでもシールダーは左手の盾を構えた。自らの望む形で、人理を救うために。

 

 

『マッスル化!!』

 

『高速化!!』

 

『ジャンプ強化!!』

 

 

即座にパズルを組み上げる。そしてそれらを味方全てに与えたシールダーは、いの一番に駆け出した。

 

───

 

「フンッ!!」

 

   ガキンッ

 

「くっ……」

 

「強い……!!」

 

 

シールダーとネロは同時にクー・フーリンと戦っていた。

だが敵の肉体は強靭で、その動きには隙がない。二人は攻めあぐね、そしていたぶられていた。

 

 

「ほらほら、その程度?」

 

「うぐぅ……」

 

「こんな人は相手したくねぇなぁ……!!」

 

 

メイヴと戦うロビンフッド、ビリー、そしてジェロニモも苦戦している。

五人はそれぞれ追い詰められ、最終的に纏めて角へと追いやられた。

 

クー・フーリンが彼らを一瞥し、少し漏らす。

 

 

「……だが、まあ。お前たちの強さは認めてやろう。ここまで耐えるとはな。だからこそ……この一撃を手向けと受けとれ」

 

「──来ます、私の後ろに」

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

クー・フーリンは静かに宝具の真名を呟き、そしてその槍を投げる体勢に入ろうとした。

シールダーは素早くパズルを組み上げ己にバフをかけ、その上でキメワザを発動しようとする。

 

 

『鋼鉄化!!』

 

『伸縮化!!』

 

『反射!!』

 

「……受け止める」

 

『Kime waza』

 

 

ガシャコンカリバーを介しない必殺技。

シールダーは左手の盾を前に構え、ひたすらに踏ん張った。

 

 

「どれだけ苦しもうと、諦めません。私は貴方を殺します。私の守りたいもののために!!」

 

『Britain critical protect!!』

 

 

青白い光が無限大の壁となり、堅く軟らかい鉄壁の防御を構成した。クー・フーリンはその壁を見て、少しだけ感心した様子を見せ……死の槍を全力で投擲する。

 

 

「ハアアアアアッ!!」

 

   ブゥンッ

 

 

 

   ガギィンッ

 

「──!!」

 

 

最初の衝撃。

槍の貫通は免れた。ゲイボルクはその先端で壁を貫きながら、しかし動きを封じられ震えている。

しかし、少しでもシールダーが力を緩めれば、一瞬で彼女の心臓を貫くだろう。

 

 

「ぐ、あ、ああっ……!!」

 

   

一歩後ずさる。

槍の力は凄まじく、力を打ち消すなんて到底不可能で。

 

 

「あああっ……!!」

 

 

また後ずさる。

酸欠で頭がくらくらしていた。視界が槍の赤と盾の青で埋め尽くされる。

 

 

「それでも……!!」

 

 

また後ずさる。

彼女は、黎斗の事を思い出していた。

仲間を殺しても平然としている極悪人。仲間を仲間とも思わない人非人。己の才に溺れるエゴイスト。

それでも、彼は彼で努力はしていた。

彼とは一生分かりあえないが、分かりあうつもりもないが、それだけは認めていて。

だから、だからこそここでは負けられなかった。

 

ここで負けたら、彼と戦えない。

ここで死んだら、彼と話せない。

 

 

「私は……!!」

 

 

様々な事があったが……ここまできて漸く理解できた、自分の望み。

黎斗ではなく、カルデアではなく、自分にとって最良の形で人理を救いたいと、ここまでの旅でシールダーはそう思えたからこそ、今この瞬間まで耐えていて。

 

そして、それは勝利への道となる。

 

 

「これを!!」

 

『逆転!!』

 

 

後ろで見ていたビリーが、近くにあったアイテムを打ち上げてマシュに当てた。

 

逆転のエナジーアイテム。

……ゲイ・ボルクとシールダーの勢いが逆転する。

 

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 

一歩前へ。

 

 

「こいつもだ!!」

 

『幸運!!』

 

 

ロビンフッドが打ち上げたアイテムがシールダーに取り込まれる。

 

幸運のエナジーアイテム。

ゲイ・ボルクは呪いの槍。その強さは相手の幸運によって弱まる。

 

 

「ああああああああああああああああああ!!」

 

 

また一歩前へ。

 

 

「これで!!」

 

『マッスル化!!』

 

 

ネロがその剣で跳ね上げたエナジーアイテムはマッスル化。シールダーはそれを取り込み……

 

 

「ああああああああああああああああああああああ!!」

 

   ガキンッ

 

「……!?」

 

 

ゲイ・ボルクを。

 

跳ね返した。

 

 

   ズシャッ

 

「があっ……!!」

 

 

跳ねあげられたゲイ・ボルクは、虚を突かれたクー・フーリンの右手を貫く。

 

最後に発動したのは反射のエナジーアイテム。

投げられた槍を、呪いもろとも反射したのだ。

 

思わず怯む敵二人。シールダーは盾を解除し、ガシャコンカリバーを抜いて走り出す。

そして仲間達も、弾かれたように駆け出した。

 

 

「クーちゃん!?」

 

「余所見するで無い!!」

 

『挑発!!』

 

 

思わずクー・フーリンの所へと駆け寄ろうとするメイヴの前にネロが立ちはだかる。

挑発のエナジーアイテムが使用されたことで、メイヴの目は何故かネロから離れない。

 

 

「なら……!! 来て、アルジュナ!!」

 

 

メイヴが鞭を振りかざす。すると、彼女の背後に色黒のサーヴァントが現れていた。

 

 

「アルジュナ……!?」

 

「クーちゃんがこんなになるなんて予想外だったから……予備戦力が本当に必要になるとはね」

 

 

メイヴがそう言う横で、無言でアルジュナと呼ばれたサーヴァントは弓を引く。

ネロは剣でそれを受けようとする。

 

しかし、そうはならない。

 

 

「横から失礼!!」

 

   パァンッ

 

『睡眠!!』

 

『混乱!!』

 

 

ビリーが弾丸で二つのエナジーアイテムを跳ね上げた。

 

睡眠のエナジーアイテムは、相手を眠らせる効果を持ち、混乱のエナジーアイテムは、相手を混乱させる。

 

 

「ガッ……!?」

 

 

本来トップサーヴァントだった彼だが、そもそも乗り気でなかった今回の戦闘で不意にこんな攻撃を食らえば、少しは戸惑うと言うもので。

 

 

「マシュ!!」

 

 

シールダーとロビンフッドと共にクー・フーリンを相手していたジェロニモが声を上げた。

 

 

「くっ……チクショウめ……!!」

 

「はいはい畜生でもいいから……!!」

 

 

回復中の右手を庇いながら左手で戦うクー・フーリンは、二人に阻まれてシールダーの妨害が出来ない。

 

 

「これもどうぞ!!」

 

『魅了!!』

 

『暗黒!!』

 

 

そして、ジェロニモの声に応じ敵から一歩離れたシールダーが、二つのエナジーアイテムを組み上げてアルジュナに投げ込んだ。

 

アルジュナは既に眠気と狂気を押し付けられていたが、更に暗黒に囚われ、その上で最も近くにいたメイヴに強制的に魅了された事になる。

四つのエナジーアイテムの効果は組合わさり……

 

 

「あが、が、愛しくて、恋しくて、がぁ……裏切られて、いや、悲しくて……憎くて、やめ、憎うて……炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)!!」

 

「ちょっ、なんで私に射とうとするの!? なんで!? クーちゃん助けて!?」

 

 

アルジュナは闇に呑まれながら、千鳥足でメイヴに弓を向けていた。クー・フーリンは漸く回復した手を見て一つ舌打ちし、ロビンフッドとジェロニモの間をすり抜けてメイヴの元へと舞い戻る。

 

 

「……今です!!」

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

 

シールダーはガシャットをガシャコンカリバーに装填しながら、全員に回復のエナジーアイテムを配布した。

 

敵は今混乱の中で一塊になっている。

殺すなら、今しかない。

 

 

「ここで全てを終わらせます……!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

剣に己の全てを籠める。思いを、望みを、力を籠める。きっとこの攻撃の後にとんでもないことになるかもしれないが、きっと死なない。まだ生きる。何としてでも……何としてでも、ここで倒す。

そう決意して、彼女はカリバーに纏わせた聖なる光を解き放つ。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   カッ

 

 

光が式場に満ちる。星の聖剣を模倣した光が、敵を悉く焼き払わんとする。

 

 

「続け!! 大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)!!」

 

祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カレエスティス)!!」

 

 

熱が、毒が、弾が、炎が。全てが全て、光と共に敵を討ち果たし……

 

 

 

 

 

「……逃げられました、ね」

 

 

彼らは、いつの間にかワシントンに戻っていた。

メイヴとクー・フーリンはいない。

 

 

「カル、ナ……」

 

 

倒したのは、アルジュナのみ。それでも……理想には近い、勝利だった。

 

 

「やった……のか」

 

「最上級のサーヴァントを一人倒した。こちらは誰も失わなかった。……ああ、勝利だ」

 

 

ネロはそれを聞き、そして嬉々とした顔でマシュへと振り向き……

 

 

「……マシュ?」

 

「」

 

「おい、マシュ? 無事か?」

 

 

……そのマシュが、全身からちびちびと血を流しながら倒れていた事に気がついた。

 





どうでもいいけど、中の人は回復のエナジーアイテムが好き
『かぁいふぅくぅう^~(ねっとり)』って感じの音声が癖になる
同じ理由でビルドの『イェーイ(ねっとり)』にも期待してる


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私は生きます、先輩

 

 

 

 

 

「そら、もう少しで外だぞ」

 

「……」

 

 

黎斗達は刑務所から出ようとしていた。出口から光が差しているのが見える。

そしてその光は……見覚えのある二つのシルエットを浮かび上がらせていた。

 

 

「……サーヴァントか。あれは……フィン・マックールにディルムッド・オディナだな」

 

 

そう分析し、数歩下がってナイチンゲールの持っていたオーニソプターの影に隠れる黎斗。

どうやら向こうも一行に気がついたらしく、こちらに向き直ってくる。

 

 

「久しいね君達。再び会えて嬉しいよ。それじゃあ早速だが……本気でやりあおうじゃないか」

 

「貴殿方の武勇は実に素晴らしい。だが……それでも、私は王と共に戦う」

 

 

彼らはかなりやる気に溢れていたのだろう、こちらの話を聞こうとすることもなく、槍を向けてきた。

 

一行は彼らを警戒しながら刑務所から出る。黎斗達は白日の元に晒され、眼前に立つ敵を見つめた。

並んでいるのはフィンとディルムッド。ベオウルフはどこかにいったらしい

 

 

「よし……では、戦おう」

 

「不肖ディルムッド、行きます」

 

 

そう言いながら得物が掲げられる。

黎斗は己の駒を確認し、どうするかを考えた。

 

 

「……ラーマ、アヴェンジャー、出ろ」

 

 

そう指示する。ここまで何の不満も言わずに黎斗に従っていたラーマは、素早く剣を抜いて前に出た。

彼に続くように、指名された残りの二人も前に出る。

 

 

「了解した。何としてでもシータと再会する」

 

「……分かった、オレも出てやろう」

 

『ガッチョーン』

 

『Knock out fighter!!』

 

───

 

「マシュ、おいマシュ無事か!?」

 

『ドク、ター……』

 

 

カルデアの管制室にて、ロマンは画面の向こうで苦しみながら横たわるマシュを見ていることしか出来なかった。

 

 

「回復用術式もあまり機能していない、それに体が自壊しようとしている、ああどうすれば……!!」

 

『ドクター……』

 

「何だい!?」

 

 

呻くマシュを観察しながら呟くロマン。彼にはどうするべきかなどつゆ程も分からなくて。

 

 

『ドクター……』

 

「……」

 

『私……やりたいことがはっきりと分かったんです。何としてでも……私の、やり方で人理を救うって』

 

「だったら一層、今死んじゃだめだろ!!」

 

『でも……死ぬ気でやらないと、救えないから』

 

「……」

 

『……心配しないでください、ドクター。私は、死にません』

 

 

そこまで言ったところで、通信は突然切れた。ロマンは黒い砂嵐の吹く画面を前にして、やはり何も出来なかった。

 

───

 

偉大なる者の腕(ヴィシュヌ・パージュー)!!」

 

   ズシャッ

 

 

ラーマが虚空からチャクラを取り出して振り回す。ディルムッドは短槍でそれを防ごうとするが、しかし失敗して吹き飛ばされていた。

 

 

「がぁっ……!!」

 

   ミシッ

 

 

数メートル地面を抉りながら彼は転がされ、勢いが止まった時には、彼の持っていた黄色い槍にヒビが入っていた。

そして。

 

 

   バリンッ

 

「──!!」

 

 

砕けた。ゲイ・ボウは耐えられずに砕け散った。

これによって、ずっとジークフリートを苛んできた足の傷も回復する。

 

そして槍が折れた一瞬の隙をついて、フィンを抑えていたアヴェンジャーが移動し、ディルムッドを攻め立てた。

 

 

『Buster chain』

 

「ふははははは!!」

 

「くっ……!!」

 

 

拳の猛攻が降り注ぐ。

長槍を振り回し受け流そうとするディルムッドだが、ノックアウトファイターによって強化された高速の拳を避けきるなどまず不可能で。

 

 

『Buster brave chain』

 

「終わりだぁっ!!」

 

   グシャッ

 

「があっ……!? ……く、王、よ……ぐぅっ……」

 

 

アヴェンジャーに全身を破壊され、未だ戦う主を案じながら消滅した。

そしてそのフィンも、ラーマが次々に出してくる槍やら棍棒やらを相手して無事ではいられず。

 

 

「ディルムッド!?」

 

「余所見をするな!! ……もう一発!! 偉大なる者の腕(ヴィシュヌ・パージュー)!!」

 

「……はは……ここまでか。まあ仕方無い、存分に戦い尽くした。私は満足だな」

 

   ズガンッ

 

 

そして、彼は鳩尾に穴を開けた。

フィンは軽く笑い、そして光に帰っていく。

 

 

「さらばだ秩序の守り手。縁あれば、また会おう」

 

 

そう言って消え失せた彼のその姿は……黎斗は全く見ていなくて。

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

「何をやっているのですか黎斗」

 

「君が知る必要は無い」カタカタカタカタ

 

 

彼はパソコンを叩いていた。画面にはオレンジ色の0と1が跳ね回っている。

黎斗はそれを睨み付けながら、何かを書き換えていた。

 

 

   ピピピ ピピピ

 

「……通信か。ジェロニモからだな」

 

突然振動を感じ、彼は懐で鳴ってい端末を手に取る。どうやらジェロニモかららしい。

黎斗は作業を中断し電話に出て、話を聞くこととなった。

 

 

「……どうした」

 

『不味い事になった。マシュがかなりのレベルの重傷だ』

 

「……」

 

『現在出来うる治療を行っているが、早くナイチンゲール女史に来て貰いたいところだな。なるべく早く頼む』

 

「……分かった。今どこにいる」

 

───

 

『……分かった。今どこにいる』

 

 

通話中の黎斗の声を聞きながら、ジェロニモはマシュの容態を見ていた。

肌からは血の混じった汗が出ている。髪の色は元々のピンクが青になったり灰色になったりしているという異常事態。

そして辺りに目を向ければ、助っ人によって設置された()の向こうに何人ものケルト兵が見えた。……まあ、吸われていくのだが。

 

 

「現在の位置は、ワシントンだ。ワシントンの一部を占拠している。といっても、兵に包囲されてるがな」

 

『なるほど、地獄だな』

 

「……助っ人が暫く防いでくれている。なるべく早く来てくれ」

 

『分かった、分かった。……じゃあ、今から向かってやろう』

 

「助かる」

 

 

ジェロニモはマシュの様子を見ながら、少しだけ安堵した。

彼の目の前のマシュは、カルデアと通信していた時からまた具合が悪くなり、今は意識不明の状態で譫言のように黎斗の名を呟いていた。

 

 

『で、誰を殺して、誰に逃げられた?』

 

「……インドのサーヴァント、アルジュナを撃破。ケルトのサーヴァント、クー・フーリンとメイヴに逃げられた」

 

『そうか。ああ、そうだ……石のように固いチーズを用意しておけ』

 

「?」

 

───

 

それと時を同じくして。

 

 

「……愛しき人の未来視(コンホヴォル・マイ・ラブ)

 

 

半分に磨り減ったケルト側のワシントンにて、メイヴはかつての夫から借りた宝具を利用していた。

それは一時的に未来を見る能力。この後誰がどう動くかのカンニング。

 

 

「……暫く相手は動かないみたい。どうしようかしら、クーちゃん」

 

「決まってるだろ。殺して殺して殺し尽くす、それだけだ」

 

「……そうよね」

 

 

メイヴとクー・フーリンの間に会話は無い。

……二人とも、最終決戦は近いと予感していた。

ほんの少しの戦力で、彼らはワシントンの半分を奪い取った。さらにこちら側の戦力として呼び出したスカサハは、勝手に裏切って宝具を展開しその土地を守っている。

この後更に敵は増えるだろう。その前に、攻めきらなければ。

 

───

 

「何だとぉ!?」

 

 

そして、エジソンは現地に忍び込ませていた諜報機器からの情報を見ながら吼えていた。

 

 

「どうしたの王様?」

 

「……あの不愉快なカルデアの奴が、ワシントンの半分をむしり取ったらしい」

 

「何ですって!?」

 

「しかも、同時にアルカトラズも壊滅させている」

 

「何ですってぇ!?」

 

 

飛び込んでくる偉業の数々にに驚愕するブラヴァツキーは、しかし何処かでそうなる事を予感してもいた。

 

 

「こうなれば、我々も兵を出す!! ケルトが弱っているのを叩くぞぉ!! もしカルデアが聖杯を奪ったとしても、数の力で押し潰すまで!!」

 

 

エジソンがその目を決意で燃やしながら立ち上がった。頭の中には、あの憎き黎斗の顔が浮かんでいる。

 

 

「では皆の衆、進軍せよ!! インダストリ&ドミネーション!!」

 

『『『インダストリ&ドミネーション!!』』』

 

───

 

そして、カルデアにてダ・ヴィンチは頭を捻っていた。

 

 

「うーん……」

 

 

マシュがああなった原因の一端が自分にあるように思えて、彼はバグヴァイザーの設計図を見直していたのだ。

バグヴァイザーの機能は黎斗の物を模倣してある。黎斗が無事に使っている以上、少なくとも体への害は無い筈だ。そうでなければ、いくら不死身を誇る彼でも仮初めの生を保つのは難しい。

 

 

「うーん……」

 

 

何がいけないのだろう。

武器としての機能が必要だったとは思えない。ガシャットを直挿しするよりバグヴァイザーを経て挿した方が体には良いはず……

 

 

「……バグ、スター」

 

 

ダ・ヴィンチは黎斗が言っていたその言葉を思い出した。

そう言えば、黎斗に取りついているナーサリー・ライムはバグスターだった筈だ。

 

 

「いったん観察させてもら……!?」

 

 

彼女は立ち上がろうとして……唐突に頭痛に襲われた。

全身に力が入らない。もがくことも出来ず、彼の意識は落ちていく。

 

 

「ぁ、が、ぅゎ……ぐ……!?」

 

 

何も考えられない。さっきまで何を考えていたんだっけ。痛い、痛い、とにかく痛い。

誰かが介入しているのだろうか。まさかソロモン?

 

 

「ぐ、ぁ……ぁ……!!」

 

 

ダ・ヴィンチはそんな事を考えながら、せめて今考えていることをメモに残そうとペンに手を伸ばす。

 

 

「ああ、あ、ぁ……ぁ!!」

 

 

字は歪んでいて、酷く頼りなさげで。

 

そして彼は、それを書いている途中に、とうとう動かなくなり……完全に静止した。

 




出来事と出来事の繋ぎって一番書きにくい


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始動する作戦、剥離する運命

 

 

 

 

 

「ナイチンゲール、到着しました。患者は?」

 

 

ジークフリートにオーニソプターをかっとばさせてここまでノンストップでやって来たナイチンゲールが、ジェロニモの元に詰め寄る。

彼女がマシュの元へと案内されていく姿を横目に、黎斗はオーニソプターから飛び降りた。

 

 

「ふう……いい旅だった。エリザベートのものよりかはずっとな」

 

「何よそれ……」

 

 

頬を膨らませるエリザベートを押し退けて、黎斗は新しく仲間になったと聞いた全身タイツの女の元へと向かう。

 

 

「……ん、来たか」

 

 

その全身タイツは既に黎斗の来訪を察していたらしく、椅子に腰かけて待っていた。

黎斗は彼女の近くに座り、冷静に問いかける。

 

 

「最初に一つ聞きたい。……なぜケルトを裏切りこちらについた?」

 

「なるほど、ごもっともな質問だな。……まあ、お気に入りの花園にトチ狂った野犬がおれば、悠長に読書などしてはおられまい? 変わり果てたアホでも弟子は弟子、介錯してやろうと思ってな」

 

「……ああ、なるほど、それもそうか」

 

 

黎斗は納得した顔で少し頷き、そして外壁として機能させられている彼女の宝具、死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)を見やった。

それは今でも近づいてくるケルト兵を喰らっているらしく、時々首の折れる音やら悲鳴やらが聞こえてくる。

 

 

「ふむ……行けるな」

 

「何がだ?」

 

「ケルトを迎え撃つ砦の構想だ。せっかく得られた足掛かりを下手に動いて無駄にするのは阿呆らしいだろう?」

 

 

黎斗はそう言いながら、ケルトの根城が見える場所へと動き、暫く静止した。そして構想を練り終えたのだろう、再び話始める。

 

 

「ネロの式場、そしてエリザベートのチェイテ城。さらにスカサハの門とを掛け合わせ、この領地全体を、外にいるものを喰らい尽くす簡易的な魔城に加工する」

 

「ほう?」

 

「……そんなことが出来るのか」

 

「なんというか……オレは近づきたくない城だな」

 

 

一行は、どこか突拍子の無さまで感じるその計画に首をかしげ、黙る。

 

 

「出来るとも、当然だ。だが……今回作るのは、中身じゃない。殻だ。式場の外壁、チェイテ城の外壁、そして門を組む」

 

 

彼はどこからともなく枝を取りだし、地面に簡易的な設計図を書き付けた。そしてそれを丸で囲み、外側にケルト兵を書く。

黎斗はそれらをそれぞれ指しながら、相手の動きの予測、そして今後どうなるかを予測しての作戦を話始めた。

 

 

「こちらは相手に対して穴熊を決め込んでいる訳だ。定石に乗っ取って考えるなら、穴熊を破るには一転突破、もしくは二点突破が効果的だと言われている。つまり……後は分かるな?」

 

「相手を誘導して、叩くのじゃな」

 

「ああ。今回はしっかり誘導用のスペースも用意してある。ここに入ったなら──」

 

───

 

それと同時刻。

 

 

「……来たわねベオウルフ」

 

「おう」

 

 

シャドウサーヴァントをもう片方のワシントンに突撃させる作業を続けていたメイヴは、アルカトラズから戻ってきたベオウルフに反応した。

現在ケルト側のサーヴァントはクー・フーリン、メイヴ、そしてベオウルフだけ。相手の実力を理解している以上、慢心は出来ない。

 

 

「で? 相手はどんな状況なんだい?」

 

「何度か予知は使っているけれど、相手はずっとあの区域に引きこもってるみたい」

 

「おそらく力を溜めてるんだろうな。……適度に引っ掻き回してこい」

 

「はいはい」

 

 

クー・フーリンにそう言われて再び出ていくベオウルフ。残された二人は互いに見つめ合うこともせず、淡々と話し始めた。

 

 

「……なあ、今楽しいか?」

 

「ええ、とっても楽しい。だからこそ……最後の最後まで楽しみたいものね。……クーちゃんは楽しく無いのよね?」

 

「どうだかな。おまえは勝手に楽しんでいればいい。オレはおまえが願った王としてあり続けるだけだ。何があろうとな」

 

「……ん、クーちゃん、愛してるわ」

 

 

そんなことを言われてもクー・フーリンは真顔を貫いていて。彼が何を思っているかは、メイヴには理解が及ばなかった。

 

 

「そうかい……まあ、そろそろ開戦だろう? 何にせよ、この時間はもうすぐ終わる」

 

「ええ。終わりの戦いを始めましょう。決意の眼差しでこちらを睨むあの女の子を、造作もなく踏み潰してあげましょう。……ああ、最高に楽しみ!!」

 

───

 

「武器など不要、真の英雄は目で殺す……梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

   カッ

 

 

所変わって、進軍するエジソンの軍勢では。

多くの機械化兵士を引き連れたブラヴァツキーとカルナが、迫り来るケルト兵をワンパンで蹴散らしていた。

 

 

「ふむ……」

 

「……どうしたのカルナ?」

 

 

カルナはどうやら考え込んでいる様子だった。まあ考えながらケルト兵を吹き飛ばしてはいるが。

 

 

「どうやら、敵の兵が減り始めている、力も弱い。……カルデアが痛手を与えているのだろう」

 

「そう? 貴方が強いだけじゃないかしら」

 

「いや、そうでもない。現に、機械化兵士でも何とかケルト兵を抑えられている」

 

「あー……そうみたいね。うん」

 

 

ブラヴァツキーは戦場を見渡す。

こちらが有利だが、それは今後のより悪い何かの前触れのように思えてならない。

 

 

「……急いでいくわよ。金星神・火炎天主(サナト・クマラ)!!」

 

───

 

そして、それから暫くして。

奪い取ったワシントンの一角にて、黎斗はサーヴァントをかき集め、構築した作戦を説明していた。

マシュはこの場にはまだいない。ナイチンゲールは看病の方法を他の人に教えてからこちらに来ていたが、彼女の事を案じてそわそわしていた。

……だが黎斗はそんなことは気にしていなかった。

 

 

「作戦を確認するぞ。……まず、ネロとエリザベート、そしてスカサハは、それぞれの宝具を組み合わせて……そうだな。死溢るるコンサートの城(チェイテ・ドムス・アウレア・スカイ)を形成しろ。私も建設には手を貸してやる」

 

「うむ、何かとてつもなく違和感を感じるが、承ったぞ」

 

「ええ、最高のナンバーで逝かせてあげる!!」

 

「……儂も歌うのか?」

 

 

まず、黎斗は設計図を取り出しながらそう言った。所々に投石機のようなものが置かれたその城はなかなか洒落た作りになっていて、ネロもエリザベートも悪感情は覚えなかった。

 

 

「ロビンフッド、ジェロニモ、ビリー・ザ・キッド、そして信長。お前たちはケルト内部を荒らし回れ。壊滅させる必要は無い、相手がフラストレーションを募らせてこちらに突撃するように誘導しろ」

 

「はいはい、つまりいつも通りにやれって事ね」

 

「分かった」

 

「了解了解」

 

「分かったのじゃ!!」

 

 

次に指名したのは、ネロ以外の暗殺部隊と単独行動が可能な信長。指名された彼らは待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

そして黎斗は次にジークフリートを指さした。

 

 

「ジークフリート、ラーマ、アヴェンジャー、ナイチンゲール。お前達はシャドウサーヴァントの対処だ。現在は門に吸われているが、城を作るときにはここは無防備になる」

 

「……理解した」

 

「分かっている」

 

「付き合ってやろう」

 

「ええ……ですが、時々マシュのメディカルチェックをさせてください」

 

 

黎斗はナイチンゲールの申し出は無視した。そして、自分に親指を向けて続ける。

 

 

「そして、私とマシュ・キリエライトは、出てきた相手の本命のサーヴァントを足止めする。その間に全てのサーヴァントを集結させ、城の効果をフル活用し、結果的にはあいつらを袋叩きにしてやるという訳だ」

 

「待った。マシュは病人なのだが?」

 

「……私は神だ。疲労程度掻き消してやるさ」

 

 

そこで彼は言葉を止めた。全ての作戦は伝え終わった。そして、サーヴァントは多少の不満はあれど、彼の作戦自体はまあ正しい物だと思っていた。

 

しかし。

 

 

『……待った。マシュは戦わせられない』

 

「……何故だ」

 

 

そこに横槍を入れたのは、カルデアでこの話を聞いていたであろうロマンだった。彼はこれまでにない沈痛な面持ちで、マシュをここで戦わせられない理由を話始める。

 

 

『……マシュは、マシュは、臨床実験用に作られたデザイナーベビーだ。活動年月は最長で18年と予測されている。つまり……本来なら、あと1、2年で死ぬ筈だった』

 

「……ほう」

 

 

黎斗は茶々を入れることなく、彼の言葉に耳を傾ける。

デザイナーベビー。恐らく、魔力に優れた遺伝子を掛け合わせて作ったのだろう、と黎斗は予測する。

 

 

『でも、サーヴァントとして、仮面ライダーとして戦った結果、予定より早く体に限界が来てしまったんだろう。約束された勝利の剣(エクスカリバー)を強引に使用したのも原因の一つだろうね』

 

「無理が祟った、という訳じゃな」

 

『……結果、彼女はこうなってしまった。人類の未来のためと言いながら行われた非人道的試みの結果生まれた、デミ・サーヴァントとして奇跡的かつ限定的な生を受けた彼女だったけど……もう、無理だろう』

 

「それでいいのですか!?」

 

 

ナイチンゲールがロマンの言動に食いかかる。というより、写し出された虚像のロマンに殴りかかっていた。当然当たらなかったが。

ロマンはそれに対しては予想していたのだろう、何の文句も言わず続けた。

 

 

『……生存とは常に辛く、生命とは常に悲しいものだ。皆それは同じ、死の恐怖からは逃げられない』

 

「そんな事はありません!!」

 

「……待て、話が進まない」

 

 

再度叫ぼうとするナイチンゲールを黎斗が抑えた。ロマンは黎斗にすこしだけ感謝し、己の要望を述べる。

 

 

『……本来なら、ボクの私情を交えて彼女を前線から遠ざけるなんてしたら、ダ・ヴィンチからウォモ・ウニヴェルサーレを喰らうレベルだけどさ』

 

「……」

 

『……マシュは言っていた。黎斗ではなく、カルデアではなく、自分の望む形で人理を救いたいって。マシュも我が儘を言うようになったなーって思った。だから……ボクも我が儘を言わせてもらう。マシュを前線に交えるな。彼女をこの特異点で殺すな』

 

───

 

「ふぅ……マシュには悪いことをしたかな」

 

 

ロマンは通信を切ってそう呟いた。

ナーサリーは、これ以上本を読んでも埒があかないので現在図書資料室に投げ込んでいる。

 

 

「うん、間違いなく悪いことをしただろうね。怒ってるだろうなぁ」

 

「ああ……だよねぇ」

 

 

後ろからやって来たのはダ・ヴィンチ。どうやら全部聞いていたらしい。

 

 

「でもまあ、今回はウォモ・ウニヴェルサーレはお預けだ。君の言い分にも一理ある」

 

「……」

 

「私だって人の感情を慮ること位は出来るさ。……それに、確かに、このまま彼女を戦わせたら、本当に戻ってこなくなるかもしれないからね」

 

 

気まずい沈黙が管制室に溢れていた。

ダ・ヴィンチは暫く黙り、気分を変えようかと話を切り換える。

 

 

「ところでさ。私、寝癖か何かついてない?」

 

「え? そりゃ何だい突然」

 

「いやー、実はいつの間にか工房の床でうたた寝しててね。日頃の疲れのせいかな、寝る前の30分位の記憶が抜け落ちてるんだ」

 

「……大丈夫なのかい?」

 

「まあ大丈夫でしょ。寝る前に何か書こうとする位には元気だったみたいだし。……まあ汚すぎて読めないんだけど」

 

「……」

 

「ま、君も過労には気を付けてね? マシュが戻ってきたら、彼女を見るのは君だろう?」

 

───

 

「……ラーマ」

 

「何だ」

 

 

作戦は開始された。スカサハの門は解除され、奪った領土の外壁は単なるバリケードだけになる。

出撃しようとしていたラーマは、既に傷だらけだった。それだけ、嫁のために必死だった。

 

彼に対して、黎斗は……バグヴァイザーを向ける。

 

 

「なっ──」

 

「ここまでよくやってくれたな。用は済んだ……報酬の時間だ」

 

   ブァサササッ

 

 

ラーマは思わず目を閉じる。体にはオレンジ色の粒子がまとわりつき……

 

 

 

 

 

それはラーマの体を突き抜けた後に飛び出し、少女の姿を取った。

ラーマは唖然とする。それが、その少女こそが、彼の追い求めていた者なのだから。

 

 

「……シータ、なのか?」

 

「……ラーマ様……!!」

 

 

二人は呆然としたように立ち尽くす。

そして黎斗は、ラーマの驚いた声を聞いて殴り込んできたナイチンゲールに首根っこを掴まれていた。

 

 

「何をしたのですか檀黎斗!!」

 

「シータ・バグスターの宿主としてラーマを選択した、それだけだ」

 

「貴方はバイオテロを行ったのですか!? シータにはゲイ・ボルクの呪いが……」

 

「神の才能を持つ私を甘く見るな。ゲイ・ボルクによる呪いは全て解除済み、むしろレベルアップを施しているから短期的に見れば十二分の強化だ。当然ゲーム病のようなものにはなるが、どうせこの大戦が終われば彼らは共に座へ帰る」

 

「だからと言ってこんな事が──」

 

「……いや、止めてくれナイチンゲール」

 

 

激昂するナイチンゲールを止めたのは、他でもないラーマだった。彼はその左手にシータを抱きながら、幸せそうな顔をしていた。

 

 

「ラーマ……」

 

「……ありがとう、檀黎斗。本当にありがとう。感謝してもしきれない」

 

「……ふっ、もっと崇めても構わないが……いや、どうやらケルトの軍勢が来たらしい」

 

「ああ。……今なら、シータと一緒なら、一千でも一万でも吹き飛ばしてやるさ」

 

「ええ。……行きましょうラーマ様」

 

 

そして二人は共に戦場へと飛び出していく。

ナイチンゲールは決まり悪そうな顔をして立っていた。

 

 

「ふっ、どうだバーサー看護婦!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「……本当は、私が彼を笑顔にしたかったですが。……仕方ありませんね。……ありがとう」

 

 

そうとだけ言って、ナイチンゲールは彼から離れていく。

黎斗は、非常に愉快そうな目をしながら、笑っていた。

 




沢山キャラを作ると誰かが薄くなるのは最早宿命
この前まであんなに濃かったアヴェンジャーが最早この影の薄さ


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私も戦わせて下さい先輩!?

 

 

 

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

   パァンッ

 

 

「ひぇぇっ!!」

 

「どこだ、どこから撃ってきた!!」

 

「おい、しっかりしろ!! ……死んでる……!?」

 

「やだよぅ」

 

 

祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

   シュパッ

 

 

「うわ!! こんどは何だ!?」

 

「邪魔な木が生え……ごぽぉっ!?」

 

「離れろ!! 毒出すぞこの木!?」

 

「みすてないで」

 

 

作戦開始から暫くして。

ビリーとロビンフッドは二人してワシントンの住居の屋根を駆け、目についた兵士の塊に宝具をかまして回っていた。

ジェロニモと信長は別行動中だが、遠くの方で銃声が聞こえたのだから、似たような事を行っているのだろう。

 

 

「さーて、ここも荒らし終わったね。じゃ、次行こうか次」

 

「はいはい、こそこそ行きますかね」

 

 

一つの小隊が混乱の渦に巻き込まれたのを確認した二人は、再び立ち上がり次の小隊を探し始める。ケルト兵は、確実に危機感を覚えていた。

 

───

 

そして、二つのワシントンの境目に、ジークフリートとアヴェンジャー、そしてラーマとシータが並び立つ。既にナイチンゲールはケルト兵へと駆け出していた。

 

 

「……私は幸福者です、ラーマ様」

 

「いや、君と会えた僕の方が幸福者さ……いや、これはどちらも同じくらい幸福者ってことにしておこうか」

 

 

戦場においても手を繋ぎ愛を囁く二人。場違いにも見えるが、それは彼らにとって何よりも大切なプロセスで。傍目から見ても、ラーマは今までで一番強い状態になっていた。

 

……そうだとしても二人を受け入れられないのはアヴェンジャー。彼はかつて妻を寝取られた男である。

その白い顔に青筋を浮かべながら彼はドライバーにガシャットを装填していた。

 

 

『バグル アァップ』

 

『Explosion hit!! Knock out fighter!!』

 

「……戦場で愛を語るな。(フラグ)が立つぞ」

 

『Quick brave chain』

 

 

そして変身するや否や駆け出していく。相手は此方に雪崩れ込んでくるシャドウサーヴァント達。

その大群は到底アヴェンジャーだけでは抑えきれず、ラーマとシータの方向にも攻めてくる。

 

 

「……敵は多いな。でもまあ気にすることもないか。今夜は、二人なんだから」

 

「違いますよラーマ様。今夜()()二人、です」

 

 

それでも二人は微笑んでいた。幸せオーラを撒き散らしていた。

それでいて、二人は真剣だった。

 

 

「……そうだな。……派手に行こうか。シータ、宝具を」

 

「ええ。追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)

 

 

シータが巨大な弓を取り出す。

ハラダヌ・ジャナカ。それは怪力無双を誇るシータの一族に与えられた弓。規格外の重さを誇るそれを扱うことが出来るのは、この場においては二人のみ。

シータが弓を手に取り、ラーマが彼女の手の上から弓を握る。

そしてラーマは、かつて剣に改造した矢を、その弓につがえた。

 

 

「……一緒に射つぞ」

 

「ええ、行きましょう」

 

 

シャドウサーヴァントが迫ってくる。それでも、愛の前にそれらは能わず。

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

   ズバァンッ

 

 

炎が戦場を駆ける。放たれた剣は数多のシャドウサーヴァントを貫き、巻き込み、悉く破壊して。

その上で剣はラーマの手元に戻ってくる。

 

 

「……もう一発行くぞ!!」

 

「ええ……何回でもやれます」

 

 

再び弓を引き絞り……

 

 

 

「……」

 

 

……そして、ジークフリートはシャドウサーヴァントを切り伏せながら、何度も弓を引く二人を横目に見ていた。

かつて己の死後に復讐鬼と化した妻の事を思い出さない訳でもないが、今考えているのはそれではない。

 

 

「……檀黎斗……」

 

 

現在の己のマスター、檀黎斗その人だった。

ジークフリートとは、求められればそれに答える、その行いによって成立した英雄だ。言ってしまえば、ある種の願望機である。

だからこそ、彼には己の欲だけのために突き進む檀黎斗が理解できなかった。

勝手に消えていこうとしたシータを回収したときには、彼は檀黎斗を我欲まみれの人間だと思わずにはいられなかった。

……しかし、現在そのシータは愛する夫と肩を並べている。

 

彼には分からなかった。檀黎斗が結局何なのかが。

 

───

 

そして、その檀黎斗はと言うと。

 

 

「いいか、イメージするんだ。設計図はもう頭に叩き込んだ筈だ。いいな?」

 

 

ケルトではないワシントンにて、三人のサーヴァントのデータを操作することで新たな城を産み出そうとしていた。

全身にコードを繋がれた三人の内の一人であるネロが、退屈そうに欠伸をしてから黎斗に問う。

 

 

「分かっておる分かっておる。……ええと、本当に内部はハリボテで良いのか? 余なら全部出せるぞ?」

 

「何を言っている、そんなことをしたらせっかくここまで形成された基地が駄目になる。下手に中身を作って、数の足りない兵士が壁の中に埋められたらたまったもんじゃない」

 

「うむむ……」

 

 

ごもっともな指摘にネロは頬を膨らませる。そして、黎斗が合図を出すと共に、彼女は唱えた。

 

 

「では……開け!! ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!!」

 

 

その声一つで、黄金の式場が競り上がる。元々スカサハの門だけで作られた簡素な城壁は、輝かしい物へと変貌した。

 

だがまだ穴だらけだ。しかしそれも計算のうち。

 

 

「……よし。エリザベート、宝具」

 

「分かったわ!! サーヴァント界最大のヒットナンバーを──」

 

「まだ歌うな」

 

「──……はーい」

 

 

式場に被さるように、チェイテ城が出来上がる。穴という穴に城の城壁が寸分違わずはまりこみ、頑丈な物となった。

 

 

「仕上げだ。宝具を」

 

「了解した。死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)

 

 

そして最後はスカサハの宝具。唯一ぽっかりと穴が開いていた門の部分に、閉じられたゲート・オブ・スカイが設置された。普段なら普通に出入り口として使え、真名解放すれば敵を食らう牙となる優れものになっている。

黎斗は出来上がった新都ワシントンを見上げ、楽しそうに笑った。

 

 

「……良い出来だ。後は此方で用意した物を積み込めば……ん?」

 

 

そして彼は一旦城壁の中に入り、これまでに用意していたある仕掛けを取り出そうとする。

しかし、その前に彼はとある兵士に呼び止められていた。

 

 

「ああ黎斗さん、ちょっと待ってください」

 

「……どうした?」

 

「それが……その……このマシュ嬢が、黎斗さんと話したいらしくて」

 

「ほう?」

 

 

彼の後ろには、オーニソプターに乗せられたマシュが。非常に腹を立てているように見えた。

 

 

「……何で私は戦えないんですか。気遣ったんですか」

 

「私はお前がどうなろうが気にするものか。ロマンに聞け、ロマンに」

 

 

いかにもうざったいと言った感じで首を振った黎斗。マシュは直ぐ様通信機を取りだし、いるであろうロマンに声を投げ掛ける。

 

 

「……分かりました。ドクター、ドクター? 聞いてるんでしょう?」

 

『……マシュ。気持ちは分かるけど、今回は戦わせられない。……これはボクの我が儘だ。君がどうしても戦いたいと言ったとしても、今回だけはボクは全力で拒否させてもらう』

 

 

彼の顔は暗かった。とても暗かったが、決意しているようにもマシュには感じられた。

 

 

「ドクター……」

 

『もし今回君が戦おうとしたら、ボクはすぐに君をカルデアに連れ戻す。怒るなら甘んじて受け入れよう、でも……この特異点では、もう戦わないでくれ』

 

「……」

 

 

何も言えないマシュは、それでも彼の言葉を受け入れることは出来なくて。

自分が人理を救いたいのだ。願わくば、ハッピーエンドで。黎斗に任せたら、全員が不幸の内に終わってしまう。

 

だから……彼女は通信機の電源を切った。そして歩き出そうとし……

 

 

   ストン

 

「──!?」

 

 

黎斗に首筋に手刀を入れられ気絶し、崩れ落ちた。

 

───

 

「もう少しでワシントンだ、ケルト兵を残らず叩き潰せ!!」

 

『『『イエス、サー!!』』』

 

 

そして、エジソンは機械化歩兵を率いて進軍中だった。一歩たりとも乱れぬ足音は荒野を震わし、辺りには微かに硝煙の臭いが漂っている。

 

 

「左からケルト兵!! 焼き払え!!」

 

『イエス、ドミネーション・オーダー!!』

 

『弾倉が空になるまで撃ち続けます!!』

 

 

いくらかの機械化歩兵が弾を打ち出した。ケルト兵は頑丈ではあるがその堅さは以前から数段落ちていて、何より数が足りない。

いつの間にか、彼らは割と安定した勝利を得られるようになっていた。

 

 

「……ねぇカルナ」

 

「何だ?」

 

 

そして最前線にいるサーヴァント二人は、前を見ながら言葉を交わす。

 

 

「私、凄く胸騒ぎがするのよ。先に行っちゃ駄目かしら」

 

「……軍の規律を守るべきと言っていなかったか?」

 

「それを言われると耳が痛いわね……仕方無いわ。じゃあ、カルナが行く?」

 

「……それが望みなら」

 

 

丁度太陽は沈もうとしていた。薄暗くなる大地の上で、ブラヴァツキーは指示を出す。

 

 

「……分かった。偵察に行ってきてちょうだい。あくまで偵察よ、無理だと思ったらすぐに逃げて」

 

「分かった」

 

───

 

「……さーて、どう攻めたもんかねぇ」

 

 

ベオウルフは、ゲリラを避けながら敵側のワシントンに向かって歩いていた。少し目を離した隙に巨大な壁が出来ていたのには驚いたが、結局壊せばいいだけである。

 

 

「シャドウサーヴァントに紛れていくのは明らかな愚策だな。思うように暴れられない。ゲリラを襲うのも非効率的だ。ここは……根城を叩く他ない」

 

 

そう考えながら、彼は何やら考え事をしながら見張りを行っているジークフリートの背後を全速力で走り抜け、壁の元へと駆け寄った。

 

 

「……敵性サーヴァント襲来!!」

 

「敵性サーヴァント襲来!!」

 

 

見張りをしていたのであろう兵達に気づかれる。まあそうなるとは思っていたベオウルフは、他のサーヴァントに追い付かれる前に中に侵入しようと入り口を探す。

走って走って……自らが誘導されているとも気づかずに。

 

 

「ふーん、ここが入り口か……ぶち抜いてやるぜ」

 

 

門の前に立ち、腕をこきこきと鳴らすベオウルフ。門の上には三人のサーヴァント。そして……彼の前に、バグヴァイザーをつけた黎斗が立った。

 

 

「……ベオウルフが来たか。丁度良い、試運転だ」

 

『ガッチョーン』

 

「……? あんたは……ああ、乳母車に乗ってたあいつか!!」

 

「チッ……取り合えず私が時間を稼ぐ。今日は調子がいい。変身にも耐えられる筈だ」

 

『デンジャラス ゾンビィ……』

 

 

黎斗は久々にデンジャラスゾンビの電源を入れた。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「え、それってそうやって使う物だったの!?」

 

「当然だ。神を甘く見るな」

 

 

これまでバグヴァイザーとはシータみたいなサーヴァントを吸収する道具だと思い込んでいたエリザベートは驚愕する。

そして黎斗は変身した。

 

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「……ははっ、貧弱だと思っていたが、なかなか面白そうじゃないか」

 

「……テストプレイを開始する」

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

 

ガシャコンブレイカーを呼び出し構えるゲンム。ベオウルフはフルンディングを構え、にやりと笑った。

 

───

 

そして、二人が戦い始めた丁度その時に。

 

 

愛しき人の未来視(コンホヴォル・マイ・ラブ)

 

「……どうだ?」

 

「……ちょっと不味いかも。ベオウルフが倒されるわ」

 

 

メイヴはそう予知するや否や、外にある見張り台に上り、遠くにある敵の方のワシントンを見やった。

彼女の後を追って上ったクー・フーリンも、酷いものを目にすることになる。

 

 

「あれは……」

 

「……白い男、かしら?」

 

「さあな……何かのサーヴァントとも思えない。何だ……?」

 

───

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

   ガギンッ

 

 

互いの刃がぶつかり、二人は吹き飛ばされた。ベオウルフは城の近くに、ゲンムは城の少し遠くに。

そしてゲンムはその剣を掲げ、ずっと傍観に徹していたサーヴァント三人に指示を叫ぶ。

 

 

「よし、死溢るるコンサートの城(チェイテ・ドムス・アウレア・スカイ)、全解放だ!!」

 

 

その声を合図にして……照明が辺りを照した。時は黄昏、薄暗い城に三人が浮かび上がる。

……BGMが流れ始めた。

 

 

「ん? 一体何が始まるって言うんだ?」

 

 

見回してみれば、ゲンムは城からなるべく離れた所で踞っている。全体宝具ということだろうか。

そう思ったベオウルフは鉄槌蛇潰(ネイリング)でもって城ごと破壊しようと思ったのだが……遅すぎた。

 

 

「「「ハートがチクチク箱入りロマン♪ それが乙女の束縛劇場♪」」」

 

「……何だよこの歌、ふざけてるのか……ん?」

 

 

歌が始まる。途方もなく音痴な歌が。ベオウルフは顔をしかめて宝具を握った手を降り下ろそうとし……

 

 

「「「愛しい貴方を閉じ込めて♪ キスの嵐と洒落込みましょう♪」」」

 

「……んぐっ!? がぁっ……おいおいマジかよ、この歌ダメージ与えるのかよ……!?」

 

 

酷い頭痛に襲われた。頭が割れるように痛い。体は音波で刻まれそうだ。

見れば、ゲンムは何度も死んで蘇っているような、そんな悶えかたをしていた。

 

 

「ヤーノシュ山から、貴方に♪ 一直線♪ 急降下♪ 当然貴方は串刺しよ、今夜も監禁させてよね♪」

 

 

因みに、作詞作曲は黎斗である。30分で書いたからクオリティは低いかもしれないが、気にしてはいけない。

そして歌はエリザベートのソロパートを迎えていた。

 

 

「ソロパートまで完備かよ……くっそ、こうなりゃぶちかますしか無いな……行くぜ、源流(グレンデル)──」

 

 

頭を押さえながらネイリングを手放し、何とかしてダメージを与えようと拳を振りかぶるベオウルフ。

 

しかしそうはゲンムが卸さない。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ピキピキピキピキ

 

「!?」

 

 

ベオウルフの足下が凍りつき、彼はその場に縫い付けられたのだ。

 

 

「コヒュー、コヒュー……お前も……聞いて、逝け……!!」

 

「貴様ぁ……!!」

 

 

歌は続く。無情にも続く。

今度はネロのソロパート。

 

 

「我が劇場から、貴様に♪ 一直線♪ 急上昇♪ 当然貴様は余のものよ、今夜も監禁させるがよいぞ♪」

 

 

ベオウルフは膝をついた。

目は半ば白濁し始めている。

 

 

「えっ、あっ……影の国から我が弟子に♪ ゲイ・ボルク♪ オルタナティブ♪ 当然貴様は槍まみれ、今日は何回殺そうか♪」

 

 

最後に来たのはスカサハのパートだった。しかもご丁寧に、歌詞に合わせてしっかりとゲイ・ボルク オルタナティブを浴びせてくれるサービス付き。

 

そしてとうとうベオウルフは意識を失い……大口を開けた影の国に食べられてしまった。

 

───

 

「ワシントンからクーちゃんに♪ 一直線♪ 突撃よ♪」

 

「……ああ、頭痛くなってきた」

 

 

それをずっと見張り台で見ていたメイヴとクー・フーリン。

クー・フーリンは一切の感情を捨てた王であろうとしていたが……流石にこれには閉口してしまっていた。

 

 

「ふふ、私が歌えば頭痛なんて起こらないわよクーちゃん。どうする?」

 

「止せ……おい、それよりベオウルフは還っていったが」

 

「大丈夫大丈夫。十二分に兵はストックしてあるわ」

 

 

クー・フーリンは再び城を見る。白髪の男がそこからふらふらと飛んで逃げていく姿が見えた。アメリカ側のサーヴァントだろう。

 

 

「……明日だ。もう待っているのは駄目だ、明日には全て攻め落とす」

 




ラーマ&シータ

黎斗がラーマとシータを強引に合体させた状態。セイバーとアーチャーのダブルクラスであり、座は仕方がないのでエクストラクラス『カップル』として再登録した。
ラーマとシータは元々同一存在だったため、このような合成が可能だった。ラーマとシータのうち、ラーマが倒れたときにリタイアとなる。

宝具

覚醒・羅刹を穿つ不滅(ラブラ・ブラフマーストラ)
シータの弓にラーマの剣をつがえて放つ。剣はラーマの手元に戻ってくる。
強力だが、二人いないと使えない。

ステータス

筋力A 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具A+

保有スキル

ダブルクラス(A)
セイバーとアーチャーのダブルクラス。実際のところラーマとシータは別存在だが、座は一つのサーヴァントとして扱っている。

怪力(A)
ラーマ、シータ共に怪力を誇っている。更に、どちらかが助けを求めれば火事場の馬鹿力が追加される。

愛情(A)
急遽作られたカップルのクラススキル。互いを庇い合うなど勝手な行動も行うが、どちらかが危機に瀕したときステータスが大アップする。


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作戦だけでは勝利は叶わず

何故か投稿しても目次に表示されない現象が発生していました、すいません


 

「が、くぅ……」

 

「どうしたのカルナ!?」

 

 

進軍するアメリカ兵達の前に……カルナが墜落してきた。ボロ切れみたいになって墜落してきたのだ。

当然衝撃を受けるブラヴァツキーは、直ぐ様彼の元に駆け寄る。

 

 

「カルナ!? 返事しなさいカルナ!?」

 

「……がっ……ぐ、急げ……取り返しがつかなくなる」

 

「何!? 一体何が起こったの!? 説明しなさいカルナ!!」

 

 

本来ブラヴァツキーなんかよりよっぽど強い存在であるカルナがここまでやられるなど、一体何があったのか。ブラヴァツキーは混乱を隠せない。

 

 

「……奴等は、地獄を作る力を手に入れている」

 

「……地獄?」

 

「ああ……ケルトはもうすぐ倒れるだろう、だから……!!」

 

───

 

「今日は朝から大盛況ね!!じゃあ皆、歌うわよー!!」

 

「うむ!! 余も歌うぞ!!」

 

「……」

 

 

時は既に朝になっていた。城の前には早朝から大勢のケルト兵や魔獣の類いが押し寄せている。今までストックしていたのだろうか。

エリザベートとネロは非常に張り切ってマイクを握り、スカサハもだんだん吹っ切れた様子になって、再び歌おうとする。

BGMが流れ始めた。

 

 

「「「ハートがチクチク箱入りロマ

 

 

   スポッ

 

「ふぅ……耳栓が間に合った」

 

 

城の中でオーニソプターに乗っていた黎斗は耳栓をしていた。

昨日はあの歌によって予想外のダメージをくらい、一晩中頭痛に襲われた上に再び気絶してしまったのだ、彼としてはあんな歌など二度と聞きたくない。

 

 

「にしても、今日は流石に兵が多すぎる。何が……」

 

 

外を眺める。ケルト兵は三人の歌で瞬く間に昏倒し倒れていく。魔獣は逃げようとしても互いにつかえて逃げられず墜ちて死ぬ。

それでも、一曲終わる度にケルト兵が押し寄せてくるのだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

……因みに、現在黎斗はオーニソプターに乗っている訳だが。

隣にはマシュが乗っている。黎斗に何かを時々言っているようだったが、どうせ恨み言なので黎斗は無視していた。彼が確認してみた所、髪色は最終的に黒みがかった紫色に落ちつき、鎧は所々剥がれ落ち、体は所々黒ずんでいた。

それでも戦意を失っていないあたり、とんでもない成長をしたものだとも思うが。

 

 

 

「……ああ、ジェロニモか。調子はどうなっている」

 

 

黎斗は覗き窓をピシャリと閉め、三人が歌っているエリアからかなり離れて、そうしてようやく耳栓を外してジェロニモに様子を聞いた。

彼はかなり不安そうな顔をしていた。何か異常があったのだろう。

 

 

「……それが、もう、誰一人として街にはいないのだよ。街には、兵も民もいないのだ」

 

「……何だと?」

 

 

誰もいない? つまり、まさかあのコンサートに全員動員した?

黎斗は首を捻る。そんなことをして何になる?確かに彼女らは疲弊するだろうが、彼女らが高所にいる以上……

 

 

「……不味い、そういうことか!!」

 

 

黎斗は再び耳栓をしてオーニソプターを動かさせ、歌って歌って、歌い疲れ始めていた三人の元へ叫んだ。

 

 

「退けお前達、罠だ、退かないと……」

 

 

「え?」

 

「何だって?」

 

 

「早く逃げろ!! 逃げないと──」

 

 

身ぶり手振りで何とか退かせようとする黎斗。しかし……遅すぎた。

 

 

   グサッ

 

「かはぁっ……!?」

 

 

次の瞬間には、ネロが朱槍に貫かれていた。

 

 

「ネロ!?」

 

「っく……抜かったか……!!」

 

 

乾き痛んだ喉を擦りながらスカサハが己のゲイ・ボルクを取りだし、敵のゲイ・ボルクが飛んできた方向に蹴りつける。

 

 

貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)!!」

 

 

空間すらも切り裂いて飛んでいく槍。しかしそれは、紅の爪に阻まれる。

 

 

「お前は……」

 

「クー・フーリン……!!」

 

 

城壁の外に、噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)を発動したクー・フーリンが立っていた。傍らにはメイヴもいる。

どうやら思う存分泳がせておいて、疲弊したところを突いたようだ。

ネロは……消滅していた。それと共に式場だった部分は消え失せ城は穴だらけになり、エリザベートは彼女に刺さっていたゲイ・ボルクを引き抜いて呆然としている。

 

 

「馬鹿弟子め……」

 

「……流石に、お前がアイドルなんてやってるのは見てられない」

 

 

クー・フーリンがケルト兵の血でまみれた観客席に乗り込んでくる。当然のようにメイヴも一緒に。

 

 

「射程内に入った、放て!!」

 

 

黎斗はそれを確認して手を振り上げた。

対メイヴ特効の秘密兵器の発動の合図だ。

 

 

   ヒュッ ヒュッ

 

「……そんなっ!?」

 

 

……英霊は、己の死に方がそのまま弱点となる。ジークフリートなら背中が弱く、クー・フーリンならゲッシュを破れない。

そしてメイヴは、かつてチーズを脳天に当てられて死んだ存在だ。黎斗はそれを利用し、対メイヴ用兵器として投チーズ機を用意していた。

……のだが。

 

 

「……なんて、言うとでも思った?」

 

 

メイヴは最初こそ変な声を上げたが、それでも笑っていた。クー・フーリンも動じていない。

 

 

愛しき人の虹霓剣(フェルグス・マイ・ラブ)!!」

 

 

そして彼女は虚空からカラドボルグを引き抜き、飛んでくるチーズを吹き飛ばした。

 

 

「何だと!? ……まさか予知していたか!!」

 

「ふふーん……その程度、しなくちゃね?」

 

 

やられた、と頭を押さえる黎斗。

スカサハは既に飛び降りてクー・フーリンと交戦中だし、エリザベートは未だ立ち上がれていない。

 

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

 

ゲリラ活動から戻ってきた二人が、背後からメイヴを狙い撃つ。しかしメイヴはそれも理解していた様子で、持っていたカラドボルグを振り回した。

 

 

「そこも既に予測済み!!」

 

 

その剣によって、弾丸も矢もあらぬ方向に飛んでいった。そして虚を突かれた二人の目の前には、いつの間にかカラドボルグが投げつけられていて。

そしてメイヴは呟いた。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

   カッ

 

 

本来なら決して切られないはずの最後の切り札を、彼女は何でもないように使用した。フェルグスから借りたカラドボルグは熱を発して爆発し、アーチャー二人を焼き殺す。

 

 

「っくぅ……今回は、ここまでだね」

 

「チッ……悪いな」

 

 

二人は吹き飛ばされながら金の粒子に還り、一人は空へ、一人は()()()()戻っていく。

 

───

 

「不味いわ、もう始まっている!!」

 

「うむ。そのようだな。……この隙だ、互いに戦力を投入している今こそ、我々が勝利するのだ!! インダストリ&ドミネーション!!」

 

『『『インダストリ&ドミネーション!!』』』

 

 

そして、全速力で移動中のアメリカ軍はと言うと、漁夫の利を狙って黎斗達の背後から接近しようとしていた。

カルナの傷はある程度癒えているし、兵もあまり減っていない。

 

絶好調の一行の前に……一組の夫婦が立ちはだかる。

 

 

「……ふむ。カルデアのサーヴァントか。……そこをどいてはくれないか!! 助けに来たのだが!!」

 

「……悪いが、余とシータは戦場の混乱を防ぐ役割を仰せつかっている。今回は聖杯は諦めてくれないか」

 

 

ラーマとシータだった。二人はエジソンに弓を引き絞り、何時でも射てるようにしている。

カルナが彼を庇うように立ち、槍を構えた。

 

 

「チッ!! ここで止まってなどいられるものか!! 行くぞ皆の衆!!」

 

 

エジソンが咆哮する。

彼らに退却は許されない。全ては、祖国だけでも救うため。

 

───

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

『Knock out!! Critical smash!!』

 

貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)!!」

 

 

城の前にて、ジークフリートと信長にアヴェンジャー、そしてスカサハがクー・フーリンを相手取っていた。

しかし暴走した彼は三人全ての宝具を弾き返す大暴れっぷりを遺憾無く披露し、数を覆して有利を保っている。

 

 

「効いていない、だと……!?」

 

「何故だ……!!」

 

「この、変な技を覚えてくれよって……!!」

 

「……まあ、これだけは誰にも教わってないからな。ついでに言えば、まだ俺は本気を出していない。本気を出せば……」

 

「くっ……こうなれば第六──」

 

   グシャッ

 

「……こうだ」

 

 

クー・フーリンは笑いながら信長を捻り潰した。彼女は瞬時に消滅し、カルデアに強制送還されたことになる。

黎斗の隣にいるマシュは、黙ってそれに震えていた。

 

 

「信長!!」

 

「くっ……!!」

 

 

歯噛みする残りの二人。黎斗は自分でも変身しようかと考えたが、それをするには己の力は足りなすぎた。

こうなったらジークフリートにも壊れた幻想を使用させようか。今まで全く使っていなかったが、この手には霊呪がある。

 

そのような事を考えながら、今度は彼は聖杯を持っているであろうメイヴの方を見た。

 

 

大地を創りし物(ツァゴ・デジ・ナレヤ)!!」

 

我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

「ふふふっ、その程度?」

 

 

ジェロニモとナイチンゲールが交戦しているが、メイヴは未だにピンピンしている。

埒が空かない。こうなればラーマとシータを呼び戻して、と黎斗は考え……一人忘れている存在に気がついた。

 

黎斗はオーニソプターから飛び降りて、ガシャットを一つひっつかみ屋上へと駆け上がる。

 

───

 

その二、三分後。

 

 

「エリザベート・バートリィッ!!」

 

 

黎斗が叫んでいた。チェイテ城の屋上で叫んでいた。

眼下では、丁度ジェロニモが力尽きて還ろうとしている。

 

 

「私のせいよ……全部、私のせい……!!」

 

 

彼女は何か思い詰めている様子だった。目の前で仲間が死んだからだろうか、と黎斗は軽く考え、そして彼女に詰め寄る。

 

 

「何故戦わない!!」

 

「だって……だって……」

 

「困惑も後悔もこの場には要らない。戦え……戦えぇぇえっ!!」

 

 

エリザベートの首根っこをつかんで黎斗は怒鳴り散らした。頭が酸欠でくらくらするのも気にせずに彼は吠える。体はストレスでまた透け始めていた。

それでも、エリザベートは未だうじうじしていた。手にはマイクのような槍と、ネロを貫いたゲイ・ボルクを未だに持っていて。

 

眼下でスカサハが崩れ落ちた。消滅はしていないが、酷く痛手を食らったらしい。

 

 

「お前が戦え!! 戦え!! そうしないと皆死ぬぞ!!」

 

「でも、でも……」

 

 

それでもうじうじしているエリザベート。彼女に怒鳴っていた黎斗は自棄になったのか、懐からガシャットを取りだし。

 

 

『タドルクエスト!!』

 

「勇気が足りないか!! 全てを忘れ自由に戦うのは不可能か!! 今さら責任感を感じるか!! ならば……強制的にでも!!」

 

 

それをエリザベートに突き立てた。

 

───

 

「くぅっ……!!」

 

『ガッチョーン』

 

 

クー・フーリンと交戦していたアヴェンジャーがとうとう地に膝をついた。バグヴァイザーがこぼれ落ちる。

 

 

「ならば!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Transform saber』

 

 

それを拾い上げたジークフリートがセイバーに変身してクー・フーリンに挑むが、やはり力負けしていた。

 

 

「くぅっ……!!」

 

「……そろそろ終わりか。メイヴ!!」

 

 

セイバーを乱雑に吹き飛ばしクー・フーリンがメイヴに声をかけると、そのメイヴはすぐに彼の隣に飛んでくる。彼女と交戦していたナイチンゲールはまだ生きているが、既にボロボロの状態だった。

 

 

「さっさとワシントンを奪還するぞ」

 

「ええ、行きましょう」

 

 

そして、二人は進行しようとし……

 

……足を止める。

 

 

「……?」

 

「……何か聞こえるな」

 

 

音が聞こえた。二人はその音の方向を、空を見上げて……

 

 

 

「La~♪」

 

 

黎斗によって強制的に衣装替えをさせられたエリザベート、いやエリザベート・ブレイブが歌っていた。

もちろん、ただの歌ではない。

 

 

「え、何よこれ、動けないんだけど?」

 

「よし、ゲット!!」

 

 

歌声は風となり、風は……メイヴを捕縛する枷となったのだ。クー・フーリンは呆れ顔で彼女を解放しようとするが、立ち上がったセイバーに阻まれる。

 

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   カキンッ

 

「チッ、邪魔するな」

 

 

そして、メイヴとクー・フーリンが離れたのを確認した黎斗は。再び腕を振り上げて……二回目のチーズ砲を発射した。

 

 

「えっ、えっ、ええっ!?」

 

「ふ、予知は切れていたようだな……神の才能を舐めたつけだ。なぜ私が予備を用意していないと思っていた?」

 

   グシャッ

 

 

沢山のチーズがメイヴにめり込む。

即死とは行かなかったが、彼女は殆ど前も後ろも分からない状況に持ち込まれて。

 

 

「これで止めよ!! 鮮血竜巻魔嬢(バートリ・ブレイブ・エルジェーベト)!!」

 

   ズシャッ グシャッ ザシュッ

 

 

マイクが変質した剣エイティーンとゲイ・ボルクを構えたエリザベートがチェイテの屋根から飛び降りて、回転しながらメイヴを粉々に切り刻んだ。

 

断末魔も無く、訳も分からないままに消滅したメイヴの跡から聖杯が出現する。

 

 

「アヴェンジャー!!」

 

「分かっている、虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

黎斗の指示に合わせて、痛みに耐えて横たわっていたアヴェンジャーが宝具を解放し、最高速で聖杯を奪おうとした。

聖杯さえ奪えば、後は全速力でカルデアに帰れば歴史は戻るのだ。

 

……だが、そう簡単にはいかなかった。

 

聖杯を手に取ろうとしたアヴェンジャーはふと上を見上げ……太陽を見たのだ。

 

 

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 




ぅゎクーちゃんっょぃ

地味に第五特異点だけでこの小説の三分の一を占めてたりする


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私はどうすればいいんですか先輩?

 

 

 

 

 

……痛いくらいの光が止んで辺りの照度が戻ったときには、先程までの戦闘の舞台は悉く焼き尽くされていた。

アヴェンジャーとエリザベート、そしてスカサハは完璧に焼き払われていて、既に戦闘から離脱していたナイチンゲールは運良く助かったが、当然再び戦闘には加われないほどの傷を負っている。

そうして、戦場に残っているのはクー・フーリンとセイバー、そして攻撃した本人であるカルナに、後から乱入してきたエジソンとブラヴァツキー。後は幾らかの機械化歩兵だけになった。

 

 

「まさか、追い付かれるとは……」

 

「……すまない。しくじった……!!」

 

 

城が失せ、完全に元に戻ったカルデアのワシントンに、シータに支えられたラーマが入ってくる。彼は既に傷だらけで弱々しかった。

 

 

「殆どの機械化歩兵は倒したが……ぐっ……」

 

「……その傷、カルナにやられたな」

 

「ああ、不甲斐なくてすまない……!!」

 

「いや、いい。早めに傷を治せ、オーニソプターに一応の治療式は入っている」

 

 

黎斗はそう言い、物陰に隠れてガシャットの電源を入れる。

 

 

『バンバン シューティング!!』

 

「再度の変身は厳しいが、これなら……」

 

 

そう呟きながら、彼は戦場を覗き見た。

 

 

 

「くっ……やられたか」

 

「すまない、気づけなかった」

 

 

己の鎧が解除され、黒焦げになりながら歯を剥くクー・フーリンと、全身……勿論背中まで満遍なく加熱されたセイバーが、此方に歩いてくる三人を見やる。二人は互いを警戒しながら、一先ずの協力体制を築いていた。

 

 

「ブラヴァツキー、聖杯は?」

 

「勿論回収したわよ?」

 

「では、私に貸してくれ。……うむ、それでいい。……ではカルナ君、頼むよ」

 

「了解した」

 

 

聖杯を受け取ったエジソンの指示で飛び出すカルナ。その身に最早鎧は無く、かわりに最強の槍があるのみ。

クー・フーリンが、エリザベートの焼け跡からゲイ・ボルグとガシャットを拾い上げ、勝手に使用する。

 

 

「……借りるぞ」

 

『タドルクエスト!!』

 

 

迷い無くそれはクー・フーリンの胸に突き立てられた。それによってクー・フーリンの体は更に黒ずみ、所々から障気を発し始める。黎斗の悲鳴にも近い号哭が聞こえるが、この戦場においてはそんなこと誰も気にはしない。

 

クー・フーリンが走り出す。セイバーもアヴェンジャーの跡からガシャットを拾い上げ、バグヴァイザーに装填しながら走り始めた。

 

 

『チューン ノックアウトファイター』

 

『バグル アァップ』

 

───

 

「私も……戦わなきゃ……!!」

 

 

マシュは戦いの音を聞きながら、オーニソプターから這い出して戦おうとしていた。

全身がずきずきと痛むが、それを無視して彼女は焦る。

 

立ち上がる。

 

ガシャットを手に取る。

 

一つ一つの動作を行う度に走る痛みが酷く焦れったくて。彼女は早くプロトガシャットギアデュアルの電源を入れようとした。

 

 

「……待ちなさい」

 

   ガシッ

 

 

マシュの手は誰かに掴まれていた。

ナイチンゲールだった。煤だらけ、火傷だらけ、傷だらけ、血だらけ。そんな彼女がマシュを掴んでいた。

 

 

「……離して下さい」

 

「……」

 

「……離して下さい。私は、早く行かないと」

 

「……貴女は病人です」

 

 

ナイチンゲールがそう切り出した。傍目から見ればナイチンゲールの方が余程緊急を要するようにも見えるが、彼女はマシュの目だけを見ていた。

 

 

「貴女は病人です。体ではなく、心が病んでいる」

 

「……」

 

「黎斗に合わせよう、黎斗と戦おう、そうしなければ皆不幸になる……そんな焦りが、貴女の心に巣食う病」

 

「……それがどうしたって言うんですか。私は……」

 

 

強引にナイチンゲールを振り払おうとするマシュ。頭が酷く痛む、それすらも拒絶しようと唸りながら。

一瞬ほどける手。マシュは駆け出そうとし……肩を強く掴まれた。

 

 

「貴女を待っている人がいる!!」

 

「っ……」

 

「カルデアの人々は!! 貴女と共に戦ったサーヴァント達は!! 貴女の死を望んでいない!!」

 

「私は、別に死のうなんて──」

 

「しているのです!! 貴女は道半ばで死のうとしている!! 己の病を他者に撒こうとしている!! それではいけない、いけないのです!!」

 

 

ここまで無理をしたせいだろう、だんだんマシュの力が抜けていく。ナイチンゲールが優しく手を離した。マシュは大地にへたりこみ、呆然と空を見上げて。

 

───

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガンッ

 

 

セイバーが力任せにバルムンクを降り下ろす。カルナはそれを受け止め、炎でもって吹き飛ばす。

セイバーは苦戦を強いられていた。……そもそも、単純に拳を強化するノックアウトファイターが剣士であるセイバーには合っていなかった、と言うこともあるが。

 

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

「ぐぅっ……!!」

 

 

そしてクー・フーリンも苦しい状況にいた。そもそも、先程の戦闘で疲弊した体でここまでやっていることが凄いと言えるような状況である。

 

 

『Quick chain』

 

「まだまだ!!」

 

 

再び駆けるセイバーだが、力及ばずまた吹き飛ばされて。

 

 

「……ジークフリート、これを使え!!」

 

 

突然、物陰から機械化兵士を撃ち抜いていた黎斗が、セイバーにガシャットを投げ渡した。

 

 

   パシッ

 

「……これは?」

 

「いいから使え!!」

 

 

セイバーが手に取ったのはノックアウトファイターと同じ色のガシャット。彼は警戒しながらも、それもバグヴァイザーに装填して。

 

 

『チューン パーフェクトパズル』

 

「……変身」

 

『バグル アァップ』

 

『赤い拳強さ!!』

 

『青いパズル連鎖!!』

 

『『赤と青の交差!! パーフェクトノックアウト!!』』

 

 

いつも通りなら、ノックアウトファイターを素体にしたボディにパーフェクトパズルのゲーマが被さってくる筈だったが、そうはならなかった。

セイバーを赤と青が包み、書き換えていく。バルムンクを持つ右手とは逆の方向に、斧……ガシャコンパラブレイガンが現れる。そうして、彼はパーフェクトノックアウトゲーマーへと変貌した。

 

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

「……成る程、そういう能力か。……行くぞ!!」

 

『Arts chain』

 

『高速化!!』

 

『マッスル化!!』

 

 

セイバーはアイテムを軽く操り、自分の体力を回復して再びカルナに挑みかかった。

そしてクー・フーリンはその後ろで援護射撃を行っているエジソンに槍を向ける。

 

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

 

 

放たれる槍。タドルクエストによってさらに強化されたそれは、自動的にエジソンに狙いを定めて突き進み。

 

 

「……ふっ。必ず命中する、なんて……本来はあり得ないのだよ」

 

 

それでも、エジソンはそう言った。彼の目の前に黒い粒子を吐き加速する槍が迫る。それでもエジソンは恐れず戦かず、己の宝具を解放した。

 

 

「万人に等しく光を与えよう。それこそが天才のなすべき業だ!! W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!」

 

「っ不味い!!」

 

 

その声を聞いて、セイバーは反射的にカルナとの戦闘を中断し、エナジーアイテムを操作する。既にカルデアのサーヴァント達は、アメリカ軍のサーヴァントのデータ等は黎斗から聞いていたからだ。

エジソンの宝具は迷信を剥奪する対民宝具。その光はセイバーの不死身も易々と消し去る。

だからその光から身を守らなければならない。

 

 

『発光!!』

 

『暗黒!!』

 

 

セイバーは己を暗黒でコーティングし、さらにその上から関係のない光を外側に向かって放射することで、文明の光を拒絶した。

 

 

   カッ

 

クー・フーリンも、カルナも、ブラヴァツキーも、エジソン自身もその光に包まれて。

ゲイ・ボルグから必中の効果は失われた。槍はあらぬ方向へと飛んでいく。

 

 

「チィッ!!」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

舌打ちするクー・フーリン。高笑いをするエジソン。ブラヴァツキーは彼を見つめ……叫んだ。

 

 

「エジソン危ない!!」

 

「ん? 何だね突──」

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

彼の死角から、傷をある程度癒したラーマとシータが矢を放っていたのだから。

 

 

「くくっ、やはり獣かエジソン!! 獲物を殺すときに最も油断するのは、まさしく獣の証拠だな!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

致命傷を受けたエジソンに瞬時に近づき、ガシャコンマグナムを突き付ける黎斗。ブラヴァツキーはたまらず助けに入ろうとするが、ラーマにそれを阻まれて。

 

 

「去らばだエジソぉン!!」

 

   パァンッ

 

 

……銃声と共に、エジソンは消滅した。

聖杯が溢れ落ちるのを黎斗は拾い、撤退しながら叫ぶ。

 

 

「聖杯……回収……!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

聖杯を奪い去る彼を視認したクー・フーリン、カルナ、そしてセイバーは、聖杯を己が陣営の物とするために、最強かつ最後の攻撃を構えた。ここで勝とうが負けようが、これが最後となるのは確定している。

 

 

「チクショウ!! ……全呪開放、最早加減などいるまい? ……噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)!!」

 

 

鎧を纏うクー・フーリン。

 

 

「絶滅とは是、この一刺し。焼き尽くせ、日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

 

槍を構えるカルナ。

 

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『パーフェクトノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

「終わらせる!!」

 

 

バルムンクとガシャコンパラブレイガンを構えるセイバー。

 

初激は同時だった。

熱と衝撃波が辺りを震わし、理不尽なまでの破壊を振り撒いて──

 

 

 

 

 

───

 

「……終わったか」

 

 

黎斗が聖杯を片手に、ジークフリートが落としていったバグヴァイザーを拾っていた。

クー・フーリンもカルナもジークフリートも、皆それぞれ相討ちになったらしい。

 

 

『……黎斗』

 

「……ああ、ラーマにシータか。安心しろ、座に戻っても再召喚されても、君達は二人で一人のサーヴァントとなった」

 

 

黎斗が名前を呼ばれて振り向くと、ラーマとシータが立っていた。座へ帰ろうとしているのだろう、彼らは金の粒子になっていて。

二人は幸せそうだった。黎斗はアヴェンジャーの言葉を少しだけ思い出す。

 

 

「……君達は、私が君達の役に立ったと思っているか?」

 

「ああ、勿論だ……本当にありがとう。シータと共に戦えて……僕は……」

 

「……ありがとう。本当に……」

 

「……ふっ、神の才能を崇めるがいいさ。ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

黎斗は笑う。楽しげに笑う。今この世界にはいない医者どもの顔が脳裏にちらついて、それがむしろ楽しかった。

 

 

「は……はは、はははははは!!」

 

「ふふふっ……」

 

 

ラーマも笑う。シータも笑う。そしてひとしきり笑った後に。二人は、手を取り合って還っていった。

 

───

 

「……悲しいわね。アメリカは救われなかった」

 

 

ラーマによって致命傷を受け、動くことも儘ならないブラヴァツキーが、誰かの積み荷にもたれて空を見上げていた。

日は傾き始めている。

 

 

「願わくば……彼らの人理修復が成功しますように。そうでなければ……戦った意味がない」

 

 

そう思った。自分達に与えられたチャンスは掴みとれなかったが、彼らが仮に勝利できたなら、話は別だから。

 

 

「でも……本当、凄かったわね。どちらかに協力しなければ勝てない、なんて言ったけど……そんなことは無かった」

 

 

自分の体が透けていく。足越しに地面が見えた。悔しさと悲しさと虚しさ、そしてほんの少しの祈りだけが、彼女に残されたもの。

 

 

「……まあ。私達は多くからなりたつ一つの国。自分達の国だけでも……なんて思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれないわね」

 

 

そう言って、彼女は誰にも看取られずに消えていった。

 

───

 

「……どうやら、もう治療は終わってしまったようですね」

 

「……」

 

 

ナイチンゲールも透け始めていた。彼女は自分の胸に手をあて、消滅が始まっていると実感する。

マシュはずっと、空を見上げて呆然としていた。

 

 

「この切り捨て方では医療過誤も甚だしい……と言いたいですが……もう私にはどうにも出来ません」

 

「……」

 

「……貴女は生きてください。貴女の望む平和な世界を取り戻すには、まだ貴女は生きなければならない」

 

 

マシュは考えていた。どうすればいいのかを。

どうすれば倒れずに戦えるのか。どうすれば最後まで戦えるのか。どうすれば死なずに戦えるのか。どうすれば仲間を苦しめずにすむのか。

答えは無い。それは当たり前の事だった。

 

 

「……では、これからも頑張って。辛かったら……また、支えになりましょう」

 

 

そう言ってナイチンゲールは消滅し……プロトガシャットギアデュアルに吸われていく。

 

 

「……え?」

 

 

そして、彼女は青い光に呑み込まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……心拍数安定。呼吸正常、脳波測定開始」

 

 

カルデアにて、マシュは帰還するや否やロマンに捕まり、強制的に眠らされて体の確認をされていた。

 

 

「随分と手荒な事をするんだな」

 

「黎斗……君には言われたくないね。……所で、マシュのガシャットは、一体何なんだ?」

 

「……プロトガシャットギアデュアルB(ブリテン)。イギリス出身のサーヴァントを自動的に回収し成長していく新型のガシャット。意思なんてもったから、マシュにしか使えなくなったがな」

 

「……そうか。これは、そのガシャットはマシュにとって有害か?」

 

「……さあ、どうだろうな」

 

 

黎斗はそこまで言って去っていく。

開いて、また閉まっていく扉の向こうに、ロマンはやはり不安しか覚えなかった。




第五特異点漸く終了
最初の原案では一話一特異点だったのがこの有り様だよ!!


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暴発特異点 ぐだぐだ・ザ・プリズマ☆ウォーズ
混乱は止まらない


 

 

 

 

「マシュ……」

 

 

ロマンはマシュの枕元に立ち、彼女の様子を確認していた。すっかり色の抜けた髪や、所々変色している肌が目立つ。

何より、彼女自身の生気が無かった。己の衝動を否定されたからだろうか。

 

 

「……ごめん」

 

 

ロマンはそう言わずにはいられない。誰も聞いていない以上口に出したとしてもそれは空っぽな言葉だったが、言わないよりはずっと楽だった。

 

初めて会ったときからすれば、マシュは180度変わっていた。ある意味では壊れていた。それに、死の縁に追われたのもこれが最初ではない。

肉体的にも、精神的にも、彼女は既に駄目になっていた。

 

 

「……すまない、今、いいか?」

 

「ああ、ジークフリートか……」

 

 

ジークフリートが病室に入ってきた。その不死身性の影響かカルデアのサーヴァントで一番健康だった彼は、マシュの様子を見てからロマンに彼女の容態を問う。

 

 

「……マシュはどうなっている」

 

「肉体的には、まだなんとか。でも……無理をし過ぎた。良くても、このまま戦えば第七特異点攻略中に、彼女の肉体は滅びを迎える」

 

「……すまない」

 

「……君が反省することは無いさ。悪いのは、ボクだ……」

 

 

ロマンはそう言って、目元を拭った。

 

 

「……実は聞きたいことがあってな。俺は、檀黎斗の事がよく分かっていないのだ」

 

「ボクもだよ。……彼の事がもう少し理解できれば……いや、無理か」

 

 

黎斗は理解に苦しむ存在だった。そんな存在であり続けた。

何度死んでも蘇り戦う精神性は、憧れに値する。何度泣かれても飄々としている残酷さは、軽蔑に値する。接しなければ勝手な行動をとるし、接してみれば精神が汚染される。……本当に、分からないのだ。

 

 

「……何とかして、彼を理解したいのだ。そうしなければ、俺は彼の前で全力を出せない」

 

「なら、出さなくていい、出す必要は無い……と、黎斗ならそう言うだろうね」

 

「……」

 

───

 

そしてその黎斗はと言うと。

 

 

「……聖晶石は六つ、か。さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 

彼は召喚の部屋にやって来ていた。手には六つの聖晶石、彼はまず三つを選んで召喚の陣に投げ込む。

石を飲み込んだ円は直ちに光を放ち始めた。

 

 

「最後の召喚……サーヴァントだと良いのだがな」

 

 

そんな事を呟く。

……先程ロマンが言っていたことだが。どうやら、第四特異点、更に細かく言えばフォウが倒された瞬間から、カルデアの保持する魔力が減ったらしいのだ。

サーヴァントの維持やレイシフト機能の安全を鑑みると、今回が召喚のラストチャンスだと、ロマンは言っていた。

 

金の光が溢れ出る。現れたのは……

 

 

「あ、アナタが新しいマネージャーなの……? えぇ……」

 

「……失礼なやつだ」

 

 

エリザベートだった。健康体そのものではあるが、第五特異点での事を覚えているらしく黎斗に軽く恐怖している。

 

 

「……お願いだから、大切に育ててね?」

 

「断る」

 

「……」

 

 

黎斗としても、彼女はまっぴらごめんだった。例えサーヴァントとしては強くとも、とにかく騒がしくしたあげく、全てを台無しにするような奴だ、と黎斗は既に理解していたのだ。

まあ、出てしまったものは仕方がない。黎斗はエリザベートを押し退けて、最後の三つの聖晶石を投げ込む。

 

 

「も、もうちょっと私のこと見なさいよ!!」

 

「静かに。……召喚中だ」

 

 

非常に運が良いことに、再び金の光が漏れ始めた。黎斗は軽く口笛を吹く。

そして……彼は、いや、彼らは現れた。

 

 

「……ほう、ラーマか。今日の私はかなりの強運らしい」

 

 

まず現れたのはラーマ。思ったよりも縁というのは強く設定されているらしい、なんて黎斗が考える。

 

 

「そして君がいるなら、当然彼女も?」

 

「ああ……サーヴァント、カップル。夫婦共々、恩返しをしに参った」

 

「……よろしくお願いします」

 

 

シータがラーマの後ろから顔を出した。

己が作ってしまったエクストラクラス、カップル。我が才能ながら恐ろしい……なんて考えていると。

 

 

「ノブ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

 

「……!?」

 

 

いてはならない存在の声が聞こえた。

 

───

 

「ふぅ……まーだ体が痛むのじゃあ……」

 

 

その少し前、信長は昨日クー・フーリンに攻撃された場所を擦りながら歩いていた。暫くは近距離戦闘など御免だ、と思いながら。

 

 

「はぁ……黎斗の奴がわし用にガシャットを作ってくれないものかのう。押し掛ければいけるか?」

 

 

そう呟いていた。

……彼女は才ある者を愛する。当然、自他共に認める神の才能を持つ男、檀黎斗は彼女にとっては十二分に構う価値のある存在だった。

その黎斗があまりにも他者に興味が無い上に割と容赦ないというのも問題だが、生前から彼女の部下や身の回りの人物は問題児だらけだったので何時もの事である。

 

 

「……何にせよ、まあ、傷を癒さねばな……」

 

 

そう言って歩き始めたら。

 

聞き覚えがある、というかありすぎる声が耳に届いたのだ。

 

 

「……ノッブー!!」

 

「ノブァ!!」

 

「……なんじゃお主ら、また来たと言うのか」

 

「ノッブノッブ!!」

 

「ノブ!!」

 

 

信長をデフォルメしたような姿の存在、ちびノブ。かつてマシュと出会ったのもこいつらが切っ掛けだった。そんな事をぼんやりと考えながら火縄を呼び出そうとすると。

 

 

   ビキッ

 

「あがっ!?」

 

 

腰を痛めた。

思わず仰け反る彼女に無数のちびノブが覆い被さり、球体になっていく。そしてそれはもぞもぞと動きながら、入り口の方向へと帰っていこうとした。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

アヴェンジャーがそこに飛び込んでいき、信長を覆っていたちびノブを吹き飛ばす。

甲高い悲鳴と共に小さな敵は消え失せ、後には信長だけが残された。

 

 

「ふう……助かったのじゃアヴェンジャー」

 

「ふん、あまりにも見苦しかっただけの──」

 

 

しかしアヴェンジャーも、そこまで言って閉口する。

そして、胸を押さえて倒れ込んだ。彼も昨日の傷が祟っていたのだ。

 

 

   バタッ

 

「アヴェンジャー!?」

 

「」

 

「し、死んでおる……」

 

 

信長が彼を揺すってみるが、返事はない。

しかも、またちびノブが迫ってきている。

 

 

「ノッブー!!」

 

「ノッブノッブ」

 

「げえっ!! 来るな、来るでないわ!! しっしっ!!」

 

「ノブァッ!!」

 

「うわ、わしに乗るな!! あっ髪の毛を引っ張るでないあだだだだ」

 

 

そして再び彼女はちびノブに捕縛され、連れていかれて、時空の裂け目の向こうに連れていかれ……

 

───

 

その暫く後。

 

 

「……どういうことだ!?」

 

 

ちびノブが侵入してきた後に慌てて解析したデータを弄りながら、ロマンは口をあんぐりと開けていた。ナーサリーが図書資料室からいつの間にか抜け出して、彼の背後からモニターを覗く。

サーヴァント達と共に召集された黎斗は彼を見ながら、何かを思い出そうとしているように見えた。

 

 

「信長の連れ去られた所を逆探知したところ、ぐだぐだ粒子だけでなく、二種類の未知の反応が検出された!! おまけに特異点の場所は常に移動している!!」

 

 

悲鳴にも近い声。今までの特異点とは悉く違うその有り様は悲鳴に酷く相応しく。

そしてその声は、黎斗も混乱させていた。

 

 

「何故だ、何故そんな事が起こり得る!? 答えろロマニ・アーキマン!!」

 

「知らないよ!! ……とにかく、皆をその特異点に送り込む!! いいね!!」

 

「だが、アヴェンジャーが気絶しているぞ?」

 

「ああもう!! だったら、現在無事なエリザベートとジークフリートを送り込む!! ……あ、ラーマとシータは一旦データ取らせてね」

 

 

そう言いながらロマンはとにかくレイシフトを開始しようとする。仕方無く動き始めようとした黎斗は、膝の上にナーサリーが乗っているのに気がついた。

 

 

「どうしたナーサリー」

 

「マスターマスター、私も連れていって!!」

 

 

静かに頭を抱える黎斗。バグスターである彼女を取り込んだら、折角落ち着いているゲーム病が再びぶり返す恐れが高いだろう。

だがこのままロマンに預けても、ゲーム病の完治は望めない。

 

 

「……仕方無いな。おい、ナーサリーも連れていくぞ」

 

「勝手にしなよ!! ……早くコフィンに乗り込んで。レイシフトを開始する!!」

 

───

 

そして、既に特異点に来ていた信長はと言うと。

 

 

「ふむ……ちびノブどもに連れられて来てしまったは良いものの」

 

 

そう言いながら信長は辺りを見回した。

辺りには草が生い茂り、どのこまでも草原が広がっている。

 

 

「ふむ……どうしたものじゃろうなあ」

 

 

黎斗から離れてはいるが、何故か魔力の不足は感じない。強制退去の恐れも無さそうだ。それが信長にとっては、数少ない希望だった。

ぶつくさ言いながら立ち上がった彼女は……胸元に飛び込んでくるナニカを片手で受け止めた。

 

 

「姉上ぇっ!!」

 

   ガシッ

 

「……ん、なんじゃ? 反射的に鷲掴みにしてしまったが……うむ、ちびノブじゃないのう」

 

 

そして彼女は、手掴みにしたそれを覗き込み。

気づいた。気づいてしまった。

 

 

「……信勝?」

 

「姉上!! 信勝です!! 信勝ですよ!!」

 

「……のわりにはちっちゃいのう」

 

 

自称信勝の存在。非常に小さいのだ。何しろちびノブと同レベルである。信長は驚いたような引いたようなそんな顔をしていた。

 

 

「姉上!! 信勝と……」

 

 

そしてそんな信長の目を見つめ、信勝を名乗るそれは告げた。

 

 

「……信勝と契約して魔法少女になってください!!」

 

「……はあ?」

 




イベント複合特異点(甚大なバグ)発生


暴発特異点 ぐだぐだ・ザ・プリズマ☆ウォーズ
人理定礎値 不確定


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災厄は空から降ってくる

 

 

 

 

「さて、やって来たは良いが……」

 

 

レイシフトを終えた黎斗が周囲を見渡すと、そこは青々とした草原だった。敵なんて存在は確認できず、目を凝らしても遠くに木が一本視認できるのみ。

 

 

「何が起こる……?」

 

「って、何か落ちてくるわよ!?」

 

 

エリザベートが突然上を指差した。

見上げてみれば……何かが炎を纏って降ってきていた。

 

 

「え、ええええ!?」

 

「……ロケット……チッ。厄介な事になりそうだ……!!」

 

 

いや、正確には何かではない。白と青のロケットだった。黎斗は隣にいたナーサリーに声をかける。

 

 

「……何か撃墜する手だてはあるか?」

 

「あるわけ無いじゃない!!」

 

「……そうか」

 

    ズドンッ

 

 

そしてロケットは爆音と共に大地に突き刺さった。煙が辺りを曇らせる。

 

 

「安心してくれ、放射線も殺人ウイルスも無い」

 

 

ジークフリートがロケットに近づきながらそう言った。ロケットには別段燃える素振りも無く、割と安全そうに見える。

見えていた。だが。

 

 

「セイバー発見!! 私以外のセイバー死ね!! 星光の剣よ、赤とか白とか黒とか消し去るべし!! ミンナニハナイショダヨ!!」

 

「!?」

 

 

ロケットから青ジャージが飛び出してきた事で事態は一変する。それは既にジークフリートに向かって極光を纏った剣を振り上げていて。

 

 

「不味い不味い不味い、ジークフリート、宝具だ早くしろ!!」

 

 

黎斗が慌てて指示を飛ばす。ジークフリートも突然現れた敵の宝具は警戒せざるを得ず、己の宝具も発動することになった。

 

 

無銘勝利剣(えっくすかりばー)!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ガキンッ

 

 

重い金属音が響く。打ち合いが続いた結果敵の放つ光はあらぬ方向……というか敵自身のロケットを破壊していた。

 

 

「くっ……!!」

 

 

宝具を使っても攻めきれず呻くジークフリート。敵もどうやら苦戦しているらしい。

黎斗がエリザベートの背を押した。

 

 

「チッ、飛び込んで時間を稼いでこいエリザベート」

 

「ええ、ちょっ、無理無理無理!!」

 

 

到底その指示には従えない、と言わんばかりにブンブン首を振るエリザベート。黎斗は辺りを見回しながらまた舌打ちをし、タドルクエストを取り出した。

 

 

「分かった分かった。君にとびきりの勇気を与えてあげよう!! 神の恵みに感謝しろ!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

「それドーピングじゃないですか、やだー!!」

 

 

暴れるエリザベート。彼女をナーサリーに無理矢理取り押さえさせ、黎斗は彼女の首筋にガシャットを突き立てた。

 

 

「エリザベート・バートリは勇気で満たされた!!」

 

   グサッ

 

「アッ──!?」

 

 

あえなくそれを受け入れるエリザベート。彼女の衣服は瞬く間に所謂ビキニアーマーに書き換えられ、顔には好戦的な笑みが浮かぶ。

 

 

「ふふっ、エリザベート、出陣よ!!」

 

 

性格にまで変更がかかったのだろう、エリザベートは剣を持ち、ジークフリートと唾競り合っていた敵の背中に飛びかかった。

 

 

「先手必勝!!」

 

   カキン

 

「くっ、二対一とはアサシンのような奴らめ!! ブレイブとかふざけんなセイバー死ね!!」

 

 

しかし敵の方が上手だったらしく、二本目の剣を呼び出してエリザベートの攻撃を受け止めた。そして暫く二人を相手に切りあう。

……しかし、流石に疲弊し始めてきたらしい。敵の息は荒くなり、肩で息をしている。

 

 

「くっ……こうなったら私もなりふり構ってなどいられません!! マスターを人質にして……!!」

 

 

敵はそう言ってジークフリートとエリザベートの間からフッと消え失せ、黎斗の傍らに控えていたナーサリーを蹴り飛ばして黎斗の背後へと回り込み、即座に彼の首に剣を突きつけようとした。

……突きつけようとしたのだが。

 

 

『バグル アァップ』

 

『デンシャラス ゾンビィ……!!』

 

「……ん?」

 

 

彼女は違和感に気づいてしまった。

あれ、なんかコイツいつの間にか姿変わってない?

 

 

「……全く、神に逆らうとは。やはりクラスは変われどそこは変わらないんだな」

 

「え"っ」

 

 

そう、黎斗はバグヴァイザーを取り出して腰につけ変身していた。ゲーム病が落ち着いているから、変身という大きな負担をかけても、まあ彼は何とかなっている。

こうして、どう考えてもやべーやつと化したゲンムに怖じ気付いたのか、敵は彼から静かに離れようとした。

 

 

「わ、私は、その、そろそろ、し、失礼しようかなー……」

 

   ガシッ

 

「逃がさないぞ」

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

しかしもう遅い。遅すぎる。

無数のゲンムが地面から這い出して敵にもぞもぞと覆い被さり、そして炸裂した。

 

───

 

「……で、魔法少女って何なのじゃ?」

 

 

その頃、信長は草原に座り込み小さな信勝と話していた。魔法少女になれと言われても、それが何か分からなければ何ともしようがない。

 

 

「ええと、確か……僕のような使い魔(おとも)と契約することで新たな力を得る……的なナニカだったかと。因みに僕と契約すればちびノブの生産、使役の力を得られますよ」

 

「なんじゃそれ。……というか、ちびノブを連れてきたのはお主じゃったのか?」

 

「はい……」

 

 

今明かされる衝撃の真実。信長は弟に頭を抱え苦笑いした。

 

 

「すいません姉上……」

 

「……仕方無い奴じゃ。で、魔法少女になったら何をすれば良いのかの?」

 

 

まあ、こうなってしまえば仕方がない。取り合えずここに待機しているわけにはいかないし、どうせなら魔法少女について知っておこう……そんな事を考えながら信長は信勝に問う。

 

 

「……僕としても大変嫌なのですが。……殺しあいです。魔法少女はおともと契約するときに一つの宝石を手に入れます。その宝石は魔法少女の力その物であり、魂です」

 

「ほう」

 

「宝石を集め、集め、集めて……あのお方のお眼鏡に叶ったなら、僕たちは次のステップに進めます」

 

「あのお方、とは誰なのじゃ?」

 

「……信勝にもよく分からないのです。ですが、信勝は命をかけて姉上をお守りいたします」

 

 

非常に怪しい気がしたが、信長は身内に甘い人間だった。彼女は信勝を信用し、契約を受け入れたのだ。

 

こうして、魔王少女 バンバン☆ノッブが誕生する事になったのだった。

 

───

 

そして黎斗達はと言うと。

 

 

「すみませーん、解放してくださーい」

 

 

黎斗によって拘束され、現在は柱にくくりつけられていた敵がもがいていた。

黎斗は彼女を定期的に監視しながら水色のガシャットを弄り、エリザベートは衝動をもて余しているのだろうか、己の持つ剣エイティーンを素振りしていた。

 

 

「あのー、助けて下さいよー」

 

「正体も分からない敵を解放する程私は酔狂な奴ではない。君は誰だ」

 

「フッ、よくぞ聞いてくれました。私はヒロインX!! セイバーの頂点に立つセイバー!! この宇宙で唯一無二の聖剣使い、ワン・フォー・オールなセイバーさんなのです!!」

 

 

そう名乗る敵、もといヒロインX。黎斗はキーボードを叩きながら溜め息を吐く。

 

 

「ハァ……」

 

「……襲ったことは謝りますから解放して下さいよ。私、セイバーの中のセイバーですし、皆さんの助けになりますよ?」

 

「そんなの願い下げだぁっ!! 私達は今から信長を探索しに向かう、君は肉壁に過ぎないぃっ!!」

 

 

そう怒鳴り付けられては流石に誰でも引く。ヒロインXは彼を説得するのは諦め、体をもぞもぞと動かしてエリザベートの方を向いた。

 

 

「ねね、そこの勇気ガンギマリなカワイイセイバーさん」

 

「ん、何かしら?」

 

 

呼び止められヒロインXに近づいていくエリザベート。黎斗は彼女を見ていたが声はかけない。

ヒロインXは縛られながら、しかし自身ありげに口を開いた。

 

 

「アナタには特訓と、そして尊敬できる師が必要です!! 師が必要なのです!! 長年セイバーとして戦ってきた偉大な先輩の助けが!!」

 

「……?」

 

「ですが幸運でしたね。さすが私。何を隠そう、この私ヒロインXはセイバー教職免許一級を保持しています」

 

 

首を傾げるエリザベート。だが、彼女が今の自分に何かを教えようとしている事は理解できた。そしてエリザベートは、彼女に一番大事なことを質問する。

 

 

「アイドルは? アイドルの教職もあるの?」

 

「と、当然アイドル教職もです!! 何しろ看板ですから。と言うわけで、ここにドゥ・スタリオンⅡが不時着したのも運命。アナタは私が一流の、歌って踊れるセイバーにしてみせましょう!!」

 

「おお!!」

 

 

そこまで聞いた所で、エリザベートが何をするかは確定した。エイティーンを振り上げ、ヒロインXを縛っていた縄を切ろうとし始める。

黎斗はそれを見逃すことは出来ず、椅子から立ち上がって彼女を止めようとする。

 

 

「おい馬鹿止めろ本当に切るなんてしないよな、どう考えても罠だっただろう? というか誤魔化しとしてもお粗末すぎるだろう!?」

 

 

しかし彼は理解してもいた。こいつ(エリザベート)は何を言っても止まらない、と。

 

 

   プチッ

 

「ありがとうエリザベート!! それでは早速修行を始める!!」

 

「はい、よろしくお願いします!!」

 

「いい返事です!! それでは、取り合えずロケットの修理をお願いします!!」

 

 

黎斗はパソコンに突っ伏した。

 

───

 

「……さて。レイシフトして黎斗の所に行こうと思っていたが」

 

「……ここ何処なんでしょうねラーマ様」

 

 

そして、この特異点に新たなサーヴァントがまた一組。

ラーマとシータは、黎斗達の所にレイシフトされた筈だったが、何故か森林に飛ばされていた。

 

 

「微妙に見覚えがあるような無いような……あ、まさかこれは、アメリカの植物……?」

 

「いや、でも、確かこの特異点は一ヶ所には定まっていないはず……」

 

 

混乱する二人。道標は見当たらず、視界は深い木々に遮られている。

そんな二人に、やはり聞き覚えがあるような無いような、そんなサーヴァントの声が聞こえた。

 

 

「いや、それは確かにアメリカの植物だ」

 

「その声は、ジェロニモ……!!」

 

 

ラーマが振り替える。

しかしそこにいたのは。

 

 

「……二頭身?」

 

「二頭身、ですね……」

 

 

ただのジェロニモではなかった。二頭身のミニマムなジェロニモだった。

 

 

「……私はジェロニモだ。一応、一応な」

 

「じゃあ、その姿は……?」

 

「……サーヴァントとして呼ばれた筈が、何故かこんな小さな、魔法少女の使い魔(おとも)として呼ばれてしまった。いやサーヴァント自体使い魔なのだが」

 

 

そう自嘲する彼は何処か呆れているように見えて。

しかしラーマはそこに違和感を覚えた。今、絶対何かおかしな事を言われた気がする。魔法……魔法?

 

 

「待った。余は魔法少女など知らないが……というか、それは存在しない者として考えていたが。どう言うことだ?」

 

「……実物を見た方が早い」

 

 

ジェロニモはそう言って……上を指差した。二人はつられて上を見上げ……

 

 

「上?」

 

「そう言えば、ここさっきから暫く日陰ですよね……」

 

「「──!?」」

 

 

「アンシャンテ。私、ポール・バニヤン。魔法少女……です。なんで少女なのかなぁ……おかしいね」

 

 

魔法童女 うどん粉☆バニヤンの姿を仰ぎ見た。

 




特異点キメラの影響でそれぞれの特異点の設定も狂っています


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戦闘、魔法少女

 

 

 

「……魔法童女 うどん粉☆バニヤン……」

 

「うん……よろしく(ボンジュール)、魔法少女さん」

 

 

魔法童女バニヤンに敵意は無いらしく、彼女はシータ達に微笑んで挨拶してきた。

彼らも自分に笑いかけてくる存在が嫌いな訳がなく、サイズ差による緊張は一気に解れる。だが、シータは返事をするのが少しばかり戸惑われた。

 

 

「いや、別に私は、魔法少女では……」

 

「じゃあ、僕がおともって扱いでいいのかな」

 

 

シータは魔法少女では無いからだ。しかし彼女が伴侶の方を見てみれば、案外乗り気だった。

ジェロニモが二人を見て苦笑いしている。ラーマは彼に向き直り問った。

 

 

「……所で、どうして彼女と契約を結んだのだ?」

 

「ああ……実は、彼女は一人森の中で空腹で倒れていてだね」

 

 

ジェロニモは簡単に話始めた。魔法少女の使い魔(おとも)として産み出された自分だが上手く相手が見つからず放浪していた時にバニヤンと出会ったらしい。

 

 

「偶然通りかかった私が、見るに見かねて生で食べられる野草の類いを与えたところ、何と言うか……大きくなってだな」

 

「それって、つまり……無限に大きくなるって事ですか?」

 

「それなら大変な事になるのではないのか……?」

 

「いや、どうやら……彼女は定期的にサイズが変わるらしい。もしかすればおともと同サイズにもなるのかもしれないな」

 

 

そこまで言った所で、暫く黙っていたバニヤンが何かに気付いた。

 

 

「伏せて皆!!」

 

 

それと同時に……光が溢れ、辺りの木々が焼き払われる。バニヤンが咄嗟に庇ったお陰で全員無事だったのが幸いだったと言えるだろう。

そして、焦げ臭い臭いが立ち込める中で、顔をあげたジェロニモは新たな魔法少女を目にした。

 

 

Xa()-Xa()Xa()!! どんどん行くわよアル!!」

 

「ははっ、行くぞエレナ君!!」

 

 

やはり見覚えのある顔。隣には白いライオンが漂っている。間違いない。あいつらだ。

 

 

「……ブラヴァツキー……!!」

 

「あら、おともかしら……? いや、これは……フフッ?」

 

 

そして、向こうも一行に気付いたようだ。どうやら彼女も第五特異点での事を覚えているらしく、バニヤン以外の存在は理解しているらしい。

彼女はおとも状態のジェロニモに微笑み、そして名乗った。

 

 

「久しぶりね皆。でも今はブラヴァツキーじゃないのよね……私は魔法の少女導師、マハトマ♀エレナ──よくってよ!!」

 

───

 

「信長は ちびノブを くりだした!!」

 

   ポンッ

 

「ノッブー!!」

 

 

そして信長はと言えば、魔法少女ならぬ魔王少女となったことで手に入れた力を使って、試しにちびノブを使役していた。

手を振りかざせば出てくる軍勢というのは中々使いやすく、出てくるのが自分のデフォルメである点を除けば割と好感が持てた。

 

 

「なかなかいい物じゃなコレ」

 

「でしょう? あっ、何ならノッブUFOとかノッブ戦車とか金のノッブとかも作れますよ!! 姉上のいる今ならすぐにでも!!」

 

「やめろぉ!!」

 

 

弟の(たが)が外れかけたので慌てて制止する信長。……生前からだが、どうにも彼は感情が高ぶると壊れる節があった。

 

 

「えー、だめですかー?」

 

「駄目に決まっておるじゃろう肖像権の侵害じゃ侵害!!」

 

 

そう拒否されて俯く信勝。そんな二人に、誰かが声をかけた。

 

 

「……あっ、ノッブじゃないですか!!」

 

「っ、その声はまさか!?」

 

 

信長は半ば反射的に振り返った。

聞き覚えがある声。その主は他でもない。

 

 

「沖田か!?」

 

「そう、私こそがこの世界に舞い降りた正義の志士、魔法少女の波動に目覚めた魔法新撰組の一番隊長、最強無敵の魔法剣士 人斬り☆沖田でーす!!」

 

「……で、そのお供の土方君だ……ったく、何だこのふざけた世界は……」

 

 

フリフリで裾の短い服を着た魔法剣士沖田だった。その後ろで鬼のような顔をした厳つい男のおともが立っている。

沖田と信長は互いに互いの姿を見合い笑っていた。

 

 

「沖田、お主も魔法少女だったのか!!」

 

「魔法剣士ですよ!! そう言うノッブも魔法少女じゃないですか!!」

 

「魔法少女ではない、魔王少女じゃ!! ま、是非も無いよネ!!」

 

 

脇から見ればフリフリの少女がはしゃぎあっているだけだが、どちらも魔法少女となったことで更にパワーアップしていた。

そんな二人のやりとりを信勝は微笑ましそうに眺め……土方は青筋を立てていた。

 

 

「……おい沖田ァ!! さっさと仕事しろや!!」

 

「ええ、相手ノッブですよ土方さん?」

 

「あん!? 口ごたえだぁ!? お前何時からそんなに偉くなった!!」

 

 

痺れを切らしたのだろう、土方が叫ぶ。どうやら沖田は彼には逆らいにくいらしく、縮んで悶えていた。

見かねた信勝が土方に近づいて問う。

 

 

「あの、その、仕事って何ですか?」

 

「……んなもん決まってるだろうが。魔法少女と魔法少女が出会ったなら、殺しあいだ。お前たちで……8人目だな」

 

 

そう言いながら彼はマントを翻し、緑や藍色の宝石をちらつかせた。どうやらこのペアはやり手らしい。

 

 

「や、やめて下さいよ!! 知り合い同士で殺しあうなんて……」

 

「あん? 甘ったれた野郎だ。身内だろうが元仲間だろうが、ひたすらに斬る。斬って、進む。それだけだろう」

 

 

威嚇する土方。信勝は引け腰になりながらも彼を制止しようとする。まだ信長は新米も新米だ。ここで戦うのはリスキーすぎた。

 

 

「ほら、その、ここはほら、魔法少女としてのお二人の邂逅と言うことで……」

 

「あ? ……全く、偉そうな奴だな、ああん? 遠慮は要らねえ、新鮮組(しんせんぐみ)喰らってくか? 確かにまともなサーヴァントと比べれば威力は落ちたが、貴様のような貧弱使い魔は葬れるぞ?」

 

「ヒッ」

 

 

しかし、抵抗虚しく。信勝は土方の放つ殺気にあえなく気絶してしまった。沖田と信長はどうしたものかと考えている。

 

 

「……チッ」

 

 

信勝が倒れ伏したのを見て、土方が一つ舌打ちをした。そして彼は沖田の元に戻る。

 

 

「……興が削がれた。戦いは止めだ沖田」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「気分が乗らん。……同盟でも何でも、好きにしろ」

 

───

 

「はあっ!! はあっ!!」ブンッブンッ

 

「打ち込みが甘い!! もっと腰を入れて!!」

 

「これアイドル活動に意味あるのかしら~!?」

 

 

その頃、エリザベートはヒロインXにロケット修理の片手間に言いつけられたノルマをこなしていた。地味にハードな物ばかりだ。

 

憎きセイバーにひいこら言わせることが出来て、ヒロインXは何だか嬉しそうにも見える。

 

 

「~♪」

 

「……いつ始末してもいいんだぞ」ボソッ

 

「!?」

 

 

しかしその顔はすぐに蒼白になった。

彼女の背後に、いつの間にかガシャコンマグナムを持った黎斗が立っていたのだから無理もない。

ヒロインXはロケット修理を中止して直ぐ様エリザベートの隣へ飛んでいく。

 

 

「しっかりやっているんだろうな」

 

「ひぇっ、せ、誠心誠意頑張らせて頂いています!!」

 

 

黎斗は寧ろヒロインXを始末する口実を探しているようにも見えた。

しかし彼はエリザベートの隣で見せつけるように必死に剣を振るヒロインXを確認したあとに、思い出したようにエリザベートに向き直った。

 

 

「……いや、お前の事なんてどうでも良かったんだったな。エリザベート、ジークフリートを見たか?」

 

「どうして? 別に見なかったけど」

 

「……実は見回りと称してここを出ていってから一時間経つが、全く音沙汰が無いのだよ。ナーサリーに探しに行かせているが、見つかる気配も無い。全く……」

 

 

そう言えば見ていないわね、と言った様子で辺りを見回すエリザベート。

しかし二人の疑念はすぐに解消されることになった。

ジークフリートが彼らの前に現れたからだ。……二つの変な虫を背中につけて。

 

 

「う、ぐ、あっ……!!」

 

「ほーらほーら、貴方は私達の仲間ですよー。メディカル☆メディアちゃんの仲間ですよー」

 

「ぐ、い、があっ……」

 

「ジークフリート!?」

 

 

現れたジークフリートは呻いていた。

……メディア・リリィが、ジークフリートの後ろで杖を振っていたからだった。定期的に怪しい薬を彼の背中に振りかけているようにも見える。

どうやら見回り中にやられたらしいな、と黎斗は推測した。

 

 

「チィッ!! ……エリザベート、斬れ」

 

「えっ!? 彼仲間よ!?」

 

「いいから斬れ!! あの魔女から引き剥がせ!!」

 

 

そう歯を剥いて叫ぶ黎斗。明らかな焦りがちらついている。

 

 

「が、あがぅ……」

 

「ほーら、痛くない、痛くない~☆ 魔法の粉でどんな悩みも消えていけ~☆」

 

 

そしてジークフリートは、だんだんと意識も混濁してきたらしく目が虚ろになってきた。

……支配権が奪われ始めた。彼とのラインが希薄になっていく。

 

 

「……どうやら彼らは敵対してくるようですね。どうしましょうイアソン様」

 

「どうも何も、纏めて始末するだけだろうメディア?」

 

 

メディア・リリィの後ろから金髪のおともが現れた。どうやら彼がメディア・リリィに指示を飛ばしているらしい。

メディア・リリィ……いや、魔法少女メディカル☆メディアと、支配権を奪われたジークフリートが、こちらに得物を向けた。

 

 

「行きますよイアソン様」

 

「ああ。さあ、死なないと言うことがどれだけ暴力的か教えてくれメディア!!」

 

 

「……いいだろう。感謝しろ、それについては私が教えてやる」

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

黎斗はそう言いながらバグヴァイザーを装着していた。連続での変身は危険だが、エリザベートとヒロインX、そしてたった今戻ってきたナーサリーだけでどうにかなるか、は不安が残っていた。

 

 

「今戻ったわ……」

 

「……ナーサリー、魔女を炎の檻で捕獲しておけ。おともは捨て置いて構わない。エリザベート、ヒロインX、ジークフリートを抑えるぞ」

 

「分かったわマスター!!」

 

 

ナーサリーが炎の檻を展開する。メディア・リリィはそれを杖で打ち払う。

そして黎斗は二人を引き連れて走り出した。

 

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ガシャコン ソード!!』

 

───

 

「……アヴェンジャーの体調はどうだいロマニ?」

 

「……明日には特異点に出られるだろう、そっちは?」

 

「黎斗が変身して魔法少女と交戦してる。二回目だ」

 

「そうか……」

 

 

カルデアでは、ロマンとダ・ヴィンチが交代で看病と司令を行っていた。

マシュの体調は良くなる兆しが見えない。もしかしたら二度と目覚めぬまま体が駄目になるのでは……ロマンはそんな事も考えた。

 

 

「……やっぱり、彼一人だと限界があるんだよ。きっと、きっとそうなんだ。だから……目覚めてくれよマシュ」

 

 

ロマンはマシュの枕元で呟く。

アヴェンジャーは明日には特異点に向かえるだろう。しかしラーマとシータの時のように、また別の場所に出ると考えられる。

戦力が強制的に分散される状況においては、やはり一度に数が多い方が有利で。

……それ以前に、彼はマシュの復活を望んでいた。

 

彼自身、黎斗に限界があるなんて、到底思えない。彼には底知れない恐怖を覚える。

だがそれでは、きっと駄目なんだ。

 

 

「……やっぱり、君には『普通のマスター』が必要だったんだろうね。一般的な感性を持っていて、君と共に悩み、共に苦しめるマスター。君が守りたいと思えるマスターが」

 

 

……もしそんな人が彼女の側にいたなら。それなら、彼女も生きる気力が出たのだろうに。

 

……そんな妄想に意味はない。それでも、ロマンはそうでもしないと、溢れ落ちそうな涙を止めることが出来なかった。

 

───

 

「が、あっ……幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ズシャッ

 

「ぐうっ……!!」

 

 

その身にジークフリートの宝具を受け仰け反るゲンム。どうやら連続変身が祟ったのだろう、パフォーマンスがかなり落ちていた。

ジークフリートの背後に回り込んだエリザベートが剣をジークフリートの背中に突き立てようとするが、見切られていたらしく回避される。

 

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

ゲンムが五体のゲンムを呼び出した。彼らの内の四体がジークフリートに向かっていく。

だが……

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「邪魔です!! 無銘勝利剣(えっくすかりばー)!!」

 

   カッ

 

ヒロインXとジークフリートの攻撃によって、ジークフリートに群がろうとしていたゲンム達は高く打ち上げられていた。

当然死にはしないが、ダメージは大きかったらしく回復するまで動けない。

 

 

「どうするのよ!!」

 

「チッ……!!」

 

 

エリザベートが悲鳴を上げる。

黎斗も予想外のパワーに怒りを露にしているように見えた。

 

……しかし、まあ。

黎斗はそれにも対策はしていて。

 

 

 

「い、イアソン様、こっちにもアレが来ましたよ!!」

 

「早く吹き飛ばせメディア!!」

 

 

炎の中に囚われていたメディア・リリィが、彼女に迫る一体のゲンムに攻撃していた。

……しかしゲンムは関節をあらぬ方向に曲げながら、なんもないと言った様子で彼女に迫り、しがみついて……爆発する。

全く簡単な話だった。ペットが倒せないなら、飼い主を倒せばいい、それだけ。

 

 

魔法少女メディカル☆メディア、脱落。




魔法少女は虐め倒してなんぼ


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マジカルとの邂逅

 

 

 

朝日が草原を照らした。

ジークフリートを洗脳し襲ってきたメディア・リリィを始末し、彼女が落としていった宝石を手に入れた一行は、直りかけのロケットの側で夜を明かすこととなった。

 

 

「……すまなかった」

 

 

焚き火の側でジークフリートが言う。先程まで背中にたっぷりと洗脳用の粉を塗り込まれていた彼だが、漸く意識がはっきりとしてきたらしかった。

黎斗は黙っていた。エリザベートが彼に非難の言葉を投げ掛ける。

 

 

「……なんであんな事が出来たのよ。仲間だったのに」

 

「いや……それも俺が洗脳されていたせいだ。倒されても当然だった」

 

「そうじゃないの。なんで何の迷いもなく攻撃の指示を出せたのよ。答えなさいよ……!!」

 

 

エリザベートに力は無い。剣の腕は上がったが、全うなセイバーであるジークフリートには全く勝てる見込みは無かった。ゲンムを相手しても、きっと赤子の手を捻るように倒されていただろう。

それでも彼女は気にしない。己の意見を黙殺はせず、貫き通す。

 

 

「答えなさいよ……答えなさいよ!!」ユサユサ

 

「……決まっているだろう? この人理を修復しなければならないからさ」

 

 

揺さぶられた黎斗は嫌々答えた。

その答えは、黙って聞いていたジークフリートにとっては少し意外な物だった。

 

 

「ああ、私の才能を腐らせないため、そして神の恵みを受けとるプレーヤー達のため。それなら私は、私に持てる全てを注ぐのみ」

 

 

その言葉には、確かに他者への思いがあった。己の才能だけを見ていると思っていたが、他の人のことも考えられるのだと、ジークフリートは思った。

てっきり己の才能か、命か、そこら辺の何かを守るためと思っていたが、黎斗は人々を守るため、と言ってのけていた。

 

 

「……すまなかった」

 

 

またそう言った。

黎斗は聞いているのかどうなのかよく分からない反応を返して立ち上がり、近くに置いていたパソコンへと向かう。

 

 

「昼までには新しいガシャットが出来上がる。そしたら出発だ」

 

「……分かった」

 

「おい、ヒロインX。それまでにロケットを直しておけ」

 

「えっ? 絶対間に合わないんですけど」

 

「間に合わなければ……」

 

「ヒイッ!! やりますやりますやらせていただきます!!」

 

 

朝日が辺りを照らし始めた。

特異点での二日目が始まる。

 

───

 

そして、丁度同じ時間にラーマとシータも目を覚ましていた。

ジェロニモとバニヤンを揺り起こすラーマ。そしてシータは……昨日出会った魔法少女 マハトマ♀エレナにも声をかける。

 

 

「エレナさん、起きてくださいエレナさん」

 

「んぅ……んーっ……!!」

 

 

エレナは一つ大きな伸びをして起き上がった。

 

昨日の事だが。

第五特異点で自分を殺したラーマとシータに敵意を露にしていたエレナとそのおとものエジソンをジェロニモが宥めて、この森を抜けるまでの一時的な同盟を結ばせたのだ。

エレナとそのおとももどうやらこの森で迷っていたらしく、彼女は暫く悩みこそしたがこの提案を受け入れていた。

 

 

「さーて、今日も歩いていきましょうか。バニヤン!!」

 

「はーい」

 

 

エレナに声をかけられてバニヤンが起き上がる。

 

……彼女のその巨大な斧や足を振り上げて辺りの木々を凪ぎ払い、ついでに製材して出荷の準備を整えて……そして一行は、更地を進み、また木々にぶつかったらバニヤンを呼ぶ……そんな感じで昨日は歩いていた。そして、今日もそれは行われる。

 

 

「じゃあ、今日も開拓するね!!」

 

「うむ、どんどんやってくれたまえ」

 

「ああ、頼むぞバニヤン」

 

「……驚くべき偉業(マーベラス・エクスプロイツ)!!」

 

───

 

「さーて、じゃあノッブの仲間を探しましょうか!!」

 

 

沖田と信長は木の下で目を覚まし、そして大きく伸びをした。今日もいい天気だ。

取り合えず二人は立ち上がるが、行く当てが無いことに気がついた。

 

 

「……何処に向かえばいいんじゃろうか」

 

「うーん、まあ、誰かに聞けば良いんじゃないですかね?」

 

「でも回りに誰もおらんぞ?」

 

 

信長が辺りを見回しながら言う。沖田もキョロキョロと視線を動かすが、人は見つからず。

……しかし彼女は、遠くの方で倒れている人を見つけた。

 

 

「……あっ、なんか倒れてるイケメンがいますよ!!」

 

「何じゃと?」

 

 

駆け寄る二人。

倒れていたのは……翡翠の鎧のランサーだった。

 

 

「大丈夫ですか?」ユッサユッサ

 

「うっ、くぅぅ……!!」

 

 

まだ意識があるらしい。ランサーは呻きながら目を覚ました。そして沖田と信長に目をやる。

 

 

「……あの、その……お二人は魔法少女ですか?」

 

 

そして、そう呟いた。

特に彼に嘘をつく理由はない。彼女らは首を縦に振る。ランサーはそれを見て、弱々しげに言った。

 

 

「お願いがあります。聞いてください……どうか、どうか大人の女に、ならないで下さい」

 

「「……えっ?」」

 

───

 

「……ここが例の特異点か」

 

 

そして、傷から回復したアヴェンジャーも特異点に降り立った。手にはバグヴァイザーL・D・Vを持っている。

 

彼は辺り一面に広がる草原を見渡した。

人影はない……いや、一つある。

 

銀髪の少女だった。

 

 

「あっ……やっと……人、見つけた……!!」

 

「……誰だ?」

 

 

所謂セーラー服のような服装。茶色い鞄。白い帽子。当然アヴェンジャーは見覚えがない。

名を聞けば、銀髪の少女は顔を赤くしながら名乗った。

 

 

「え、あ……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。穂群原学園小等部の五年生です」

 

「ほう」

 

「そ、それでその……ま、魔法少女……やってます……やらされてます……」

 

「……うん?」

 

 

コイツふざけてるのか、アヴェンジャーはそう思った。

どう見てもこの少女はサーヴァントではない。迷い込んできたのは分かるが、魔法少女とは何のつもりだ? ……アヴェンジャーは顔を引きつらせた。

 

 

「はうぅ……自分で名乗るの大変に恥ずかしい……!!」

 

「で、私が彼女の魔術礼装、愛と正義のマジカルステッキ マジカルルビーちゃんです!! イッツミー!!」

 

 

しかも彼女の後ろから喋るステッキが現れた。アヴェンジャーは酸欠でもないのに二、三歩後ろによろめく。

そしてアヴェンジャーは質問した。そうせずにはいられなかった。

 

 

「説明しろイリヤスフィール……魔法少女って何だ、ここは何処だ……!!」

 

「えーっ、あー、それは……」

 

 

口ごもる少女、イリヤスフィール。アヴェンジャーは疑念と苛立ちを募らせていき……

 

……突然、何者かの接近を察した。

 

 

「……ん?」

 

「ふっほほー!! 魔法少女発見!!」

 

「「「!?」」」

 

 

声の方向を見てみれば、全力ダッシュで向かってくるミニスカートの不審者がいるではないか。

アヴェンジャーは反射的にイリヤを庇い不審者を睨み付けた。

 

 

「むむ、拙者の道を阻むイケメンを発見。死ね!!」

 

「成程……こいつが黒髭か。データ資料で見るよりよっぽど汚いな」

 

「うっわ、辛辣なイケメンですなぁ!! 拙者プンプンですぞぉ」

 

「そ、それより……どうして下半身がミニスカートなの……!?」

 

 

アヴェンジャーに敵意を剥き出しにする不審者。イリヤはアヴェンジャーのマントを掴みながら恐る恐る彼の服装について聞く。

不審者……黒髭は、その声を聞いて大袈裟なまでの反応を示した。

 

 

「ふひっ、魔法少女に見られてる見られてる!!」

 

「……腐卵臭がするな。取り合えず用件を言え、言ったら去れ」

 

「まあまあ、イケメンは黙ってろ☆ ……我々は日頃より魔法少女を愛好し全身全霊をもって信奉せし者。映像、グッズ、中の人のCD、全てを集めてもまだ足りない!! だからこそ、このタイミングで来航したわけよぉ!!」

 

「……つまり、目的は?」

 

「魔法少女ペロペロ」

 

「よし、イリヤスフィール、あいつを(フカ)のエサにするぞ」

 

 

アヴェンジャーがそう言い切って、バグヴァイザーを掲げた。イリヤもマジカルルビーを手に持って構える。

 

 

「変身!!」

 

「転身!!」

 

『ガッチョーン』

 

「コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!☆ Die Spiegelform wird fertig zum(鏡像転送準備完了)!!」

 

 

二人は光に包まれていき、その姿を書き換えて。

 

 

『Transform Avenger』

 

Offnunug des Kaleidoskopsgatter(万華鏡回廊開放)!!」

 

 

各々のもう一つの姿へと変貌した。

 

 

「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!! ここに推参ですー!!」

 

「……仮面ライダーアヴェンジャーだ、覚えなくていい」

 

───

 

そして。

ナーサリーを膝の上に乗せた黎斗がパソコンを叩いている側で……と言っても数メートル離れた所で、エリザベートとジークフリートは時間を潰していた。

二人は見回りすら許されず、仕方がないので○×ゲームに興じていた。

 

 

「……また俺の勝ちだな」

 

「むう……」

 

「これで……49連勝目か。そろそろ止めないか?」

 

「やだ、止めない」

 

 

そう言うエリザベートはふて腐れた様子で。まだ先程の黎斗への憤りが収まっていないように見えた。

 

 

「……ねぇジークフリート。黎斗の事、どう思ってるの?」

 

 

そう聞いた。ジークフリートは下を向き……そして暫く考えたあと、エリザベートの目を見た。

 

 

「……ある意味では、目指すべき地点、なのかもしれないな」

 

「……?」

 

 

彼の口から溢れた言葉は、エリザベートが疑問を呈するには十分すぎた。それでも彼女は黙っている。ジークフリートの言葉を静かに待っていた。

 

 

「……俺は、生前は求められるままに動いた男だった。サーヴァントとなってからも、殆どの聖杯戦争では道具と言う立場に甘んじた」

 

「……」

 

「……だが、本当の事を言うとだな。……俺は、自分の望むように自分の正義を貫く、『正義の味方』になりたかった」

 

「……!!」

 

 

エリザベートもそこで察した。

決して正義の味方とは言えないが、自分の望むように自分の正義を貫く男の存在を。

 

 

「……檀黎斗は自分勝手な存在だ。でも、その行動で笑顔になる人がいた。彼の望みは自分勝手だが、それは他の人の為の物だった」

 

「……だから」

 

「ああ……檀黎斗は、俺の理想の一端な訳だ」

 

 

そこまで言って彼は口を閉じた。エリザベートはその目に、ほんの少しだけ信頼を見た。

 

 

 

「さて、出発しようか」

 

 

そんな会話を聞くこともなく、ずっと作業をしていた黎斗は、パソコンから水色のガシャットとそれから生まれた黒いガシャットを引き抜いてそう言った。

 

 

「ヒロインX」

 

「はいっ!!」

 

「ロケットは直ったか」

 

「勿論ですっ!!」

 

「乗せろ、上から特異点を探索する」

 

「喜んでっ!!」

 

 

ヒロインXは硬直しながらロケットの搭乗口を開く。かなり狭いが四人分のスペースがあった。

黎斗は一瞬逡巡して、どうせ変身しても戦えないからとナーサリーを体内に取り込んでからそのロケットに乗り込み、ジークフリートとエリザベートも中に入るように促す。

 

 

「シートベルト締めましたか? それじゃあ、ドゥ・スタリオンⅡ、飛ばしていきますよ!!」

 

 

轟音と共に離陸するロケット。飛行が安定したのを確認して、黎斗は未だブレイブ状態のエリザベートに出来立てのガシャットを手渡す。

 

 

「……エリザベート、これを使え」

 

「これは……?」

 

 

表が黒。裏は赤。そして赤い人形のデザインが施されている。

 

 

「第四特異点で大破したガンバライジングガシャットから唯一無事に抽出が成功したデータだ」

 

 

黎斗がそう言う。

……そのガシャットの名は、『マジック ザ ウィザード』。

 

 

「剣士の時間は終わった。次からは……魔法少女の時間だ」

 

 

「……っ!! 上空に謎の飛行物体確認!!」

 

 

突然宇宙船が傾いた。ロケットの前方に、三色の剣を持った白い女性が浮いている。

 

 

「全く、森林伐採の罰則を与えに行こうと思ったら、今度は領空侵犯だと……!?」

 

「あの剣は……不味い、ビーム撃ってくるぞ!! 避けろ!!」

 

「あの白いのがっ!! 着いてくるんですよっ!!」

 

 

空中で何度も旋回するドゥ・スタリオンⅡ。しかし三色の剣の射程内からは逃れられず。

猛威は容赦なく解き放たれた。

 

 

軍神の剣(フォトン・レイ)!!」

 




言っただろう? 他ライダーに出番が無いとは言ってない


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戦いは連鎖する

 

 

 

「ふぅ……」

 

『ガッチョーン』

 

「……なんとか、倒せました……!!」

 

 

アヴェンジャーとイリヤは黒髭を焼き払い、消滅させて安堵を浮かべていた。二人は安全を確認して、共に戦闘体勢を解く。

既に粒子となり溶け消えた黒髭の場所を見てみたが、そこには何もありはしなかった。

 

 

「ふっ、何もなしか……」

 

「……あのっ、その……」

 

「……?」

 

 

ここに来ても何も得られなかったのであろう黒髭を軽く嘲笑うアヴェンジャー、その背後からイリヤが声をかけようとする。

しかし口ごもった。……彼女は彼を何と呼べばいいのかすらも分かりはしていなかったから。

 

 

「何だ」

 

「お名前……何ですか?」

 

「……アヴェンジャーだ。アヴェンジャーでいい」

 

 

そう言いながら彼は立ち去ろうとした。イリヤは暫くもごもごとしていたが、去っていく彼の裾を掴む。

 

 

「えっと、その、アヴェンジャーさん。……あの、私一人だと不安なので、着いていっても良いですか!?」

 

「……」

 

「うおー!! 言っちゃいましたね!! これはあれですか、お兄さまが増えるパティーンですゴポォ」

 

 

振り返ったアヴェンジャーは騒ぎ立てるルビーをデコピンで吹き飛ばし、イリヤの目を見て答えた。

 

 

「……オレは構わん、好きにしろ。ただし杖、お前は黙っていることだな」

 

「イテテテ……私を黙らせるなんて十年はゴポォ」

 

 

そして彼は歩き出す。つられるように、イリヤは彼の三歩後ろを歩き始めた。

ルビーは痛みを堪えていた。

 

───

 

その頃。

実は黒髭同様魔法少女四天王の一人であるディルムッドは、沖田と信長の前で正座してひたすらに大人の女恐怖症になるまでの経緯を語っていた。

 

 

「だからお願いです。何があっても、大人の女にだけはならないでください。少女には未来がある、だからこそ、大人の女になってその未来を無くしてほしくないのです……!!」

 

「はぁはぁ……ディルムッドさんも大変だったんですねー」

 

「そもそもサーヴァントにパソコン直してくれって言うのがおかしいと思うのじゃが。じゃが!!」

 

 

苦境を語る彼に流され共感する沖田と信長。しかし彼の頼み……「大人の女にならないで」は、彼女らには叶えられないのだ。

 

 

「……でも、やっぱりそれは無理な話なんですよ」

 

「……え?」

 

「何しろわしサーヴァントだし。享年49じゃからな!!」

 

「私も一応二十歳は越えてますよ。ノッブよりはずっと若いですけどね!!」

 

 

そう。サーヴァントは過去の亡霊。昔死んだ、もしくは未来に死んだ存在の残りカス。故に、それらに成長するなと言っても、なんともしようが無かったのだ。

ディルムッドはそれを聞き……血涙を流しながら踞った。

 

 

「あ、あぁ、あ……そうだ、いつもそうだ!! 俺に理解を示してくれた魔法少女は、みんな大人なんだ!!」

 

「うわぁ、血の涙を流しておるな……」

 

「余程苦労してたんでしょうねー……」

 

「なんでなんだ!! 俺の些細な望みすら、叶うことは無いのか!! おのれ神め、許せぬ、許せぬ!! この星に呪いあれ、魔法少女に呪いあれ!!」

 

 

そして一頻り泣いた後に彼は、今度は幽鬼のようにふらふらと立ち上がり槍を構える。

 

 

「ああああああああ!! いっそ殺してくれ、いや違う、俺が殺す!! 大人の女……消え去れぇっ!!」

 

 

そして黄色い短槍を信長へ降り下ろした。

 

 

「ノブッ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

   ズシャッ

 

 

土方と共に離れで待機していた信勝が、咄嗟にちびノブを送り込んで信長を庇う。

ゲイ・ボウに突き刺さったちびノブによって団子三兄弟ならぬちびノブ三姉妹が出来上がり、それに怯んだディルムッドの前に、信長と土方が立ちはだかった。

 

 

「姉上はまだ傷つけさせません!!」

 

「……新撰組に手を出したお前の敗けだ……!!」

 

「ぐっ、やはり増えたか……だが構わぬ、大人の女、纏めて排除してくれるぅっ!!」

 

 

猛りながら長槍を振り回すディルムッド。信勝は信長の隣に、土方は沖田の隣に移動した。

 

 

「うむ、ここが魔王少女の見せ所よな。行くぞ信勝!! ……何か出撃用の口上とか無いのかの?」

 

「そ、それは……あっ、敦盛とかどうです?」

 

「うつけ、それじゃ死亡フラグじゃろうが!!」

 

 

ちびノブと火縄銃とを呼び出しながら信勝とそう話す信長、いや、魔王少女バンバン☆ノッブ。

 

 

「今日も今日とて人を斬る!! 君も刃に突かれてみるか!! 朝から晩まで大勝利、最強無敵の桜セイバー!! 魔法剣士 人斬り☆沖田!! 参上です!!」

 

「……何やってるんだお前」

 

「名乗り口上ですよ!! たまにはやりたかったんですよコレ」

 

 

そしてその隣では、魔法剣士人斬り☆沖田が刀をディルムッドに向けていた。

 

 

「それじゃあ行きますよノッブ」

 

「ああ、出陣じゃあ!!」

 

───

 

「……チッ」

 

 

そして黎斗は、墜落したロケットから飛び降りて舌打ちした。ヒロインXのいた部分は彼女含め抉られたように消え失せている。

 

 

「師匠……!?」

 

「まさか壁にすらならなかったとは……!!」

 

「命は壊さぬ。そのロケットを粉砕する!!」

 

「……どうやらあいつは命にカウントされなかったらしいな」

 

 

にやつきながら呟く黎斗に剣を向ける白い女。エリザベートは混乱を隠すことなく半ばヒステリックに叫んだ。

 

 

「よくも師匠を……!! まず誰なのよアナタ!!」

 

 

そう言われると女は少しだけ困ったように俯いて。

 

 

「さて……私は保安官系魔法少女ワイアット☆アープ……だったが。名前を変えようか」

 

「……名前を変える?」

 

「私は国防長官系魔法少女ジェームズ☆フォレスタル!! ……おともは置いてきた」

 

 

そう言って剣を構え直した。黎斗はその名を少しかけて思いだし頷く。そして体内からナーサリーを呼び出し、サーヴァント達の後ろに下がった。

 

 

「ジェームズ・フォレスタル……鬱病で自殺した初代国防長官か。変なものをコピーするものだな」

 

「まあ、何にせよ……俺はあれを倒せばいいのだろう?」

 

「当然だ。だが今日は私は休ませて貰おう。……エリザベート、ガシャットを起動しろ」

 

「分かったわ。師匠の仇はここで討つ!!」

 

『マジック ザ ウィザード!!』

 

 

エリザベートが己の胸元にガシャットを突き立てた。

炎を放つ赤い魔方陣が彼女の左側に形成され……エリザベートを飲み込む。その炎が晴れたときには。

 

 

「……ほう?」

 

「キャスター、エリザベート・バートリー。……行くわよ」

 

 

エリザベートはオレンジ色の新衣装に変わっていた。持っていた槍はフォークに置き換わっている。

その隣でジークフリートも剣を構えた。

 

刹那の静寂の後に、三人は同時に地を駆ける。

 

───

 

そしてその頃、森を進んでいたグループの目の前に、一つの物体が飛来してきていた。それは地面に頭から突き刺さり小さく呻く。

 

 

   ズドン

 

「アイテテテ……急な方向転換なんてされたら振り落とされるに決まってるじゃん。酷いなぁ、もう」

 

 

おともだった。拳銃を持っている。……しかし、契約している筈の魔法少女の姿は何処にも見えない。野生のおともという事だろうか。

 

 

「……あなたは、だれ?」

 

「ハハッ、見ての通り使い魔(おとも)になったビリー・ザ・キッドだよ。便利屋系魔法少女 マルス☆アルテラのおともをしてる……いや、してた。振り落とされたけどね」

 

   チャキッ

 

「……!?」

 

 

そう言いながら銃を一行に向けるビリー。小さいながらも、その目は鋭くなっていて。……そして彼は、懐から幾らかの宝石を取り出した。

 

 

「一体どうして……」

 

「悪いけど、これも仕事なんだよね。()()()からの試練とでも思っておけばいいよ」

 

「……上の人とは誰だ」

 

「さあね。僕にも分かんないや。でも、魔法少女の宝石を集めれば自然と会えるだろうさ。……でもそれを考えるのは、僕を倒してからにすればいい」

 

 

そこまで言って彼はその宝石を飲み込み、唱える。

 

 

「宝石よ、力を!!」

 

 

瞬間、彼の体内に光が満ちた。その光は彼のシルエットを掻き消し、変貌させていく。

 

 

「何だこれは……!!」

 

「ビリーが……大きく……!?」

 

 

光が止んだときには、ビリーのサイズはサーヴァントと同じになり。目は光を失い、その代わりに混沌とした闇を湛え。全身に目玉のような痣が浮かび上がっていた。

 

 

「お前は、一体……」

 

「……今の僕はビリー・ザ・キッドであってそうじゃない。まあ、変なのとでも思っておけばいいさ」

 

 

ビリー本人は、そんな変化などどうでもいいと断じているようにも見えた。彼は禍々しいカラーリングとなった銃を以前の仲間に向け、引き金に指をかける。

 

 

「……じゃあ、勝負開始だ」

 

   パァンッ

 

 

弾丸が放たれた。

 

───

 

「一歩音越え、二歩無間……三歩絶刀!!」

 

破魔の紅槍(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

無明三段突き(むみょうさんだんづき)!!」

 

 

ディルムッドと沖田の切っ先がぶつかり合った。一瞬両者は火花を散らして拮抗する。

 

 

   スパスパスパァンッ

 

「がはぁっ……!!」

 

 

しかし、すぐにディルムッドは貫かれた。膝をつく彼に、信長が弾丸の雨を浴びせかける。それと同時に無数のちびノブがディルムッドに襲いかかった。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブァッ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

「がはぁっ……ぐっ、え、ちょっ、来るなぁ!?」

 

 

結果的に傷だらけのディルムッドが、ちびノブに四肢拘束された状態になる。はっきり言って、既に勝負はついていた。

 

 

「くっ……俺は、魔法少女を守りたかった、だけなのに……!!」

 

「……ふざけた言い回しだな。お前は何も分かっていない」

 

 

項垂れるディルムッドの前に、刀を抜いた土方が立っていた。

彼の言葉をディルムッドは訝しむ。

 

 

「……どういうことだ」

 

「お前は何も分かっていない。……大人の女の我が儘を逆手にとって自分が相手を手玉にとる、それが一番楽しいんじゃないかよ」

 

 

一瞬ディルムッドははっとした顔をした。そして次の瞬間には、土方の一閃で消滅していた。

彼のいた場所に、彼がこれまでに倒してきたのであろう魔法少女の宝石がドロップする。土方はそれを拾い上げた。

 

 

「……4個か。ああ、上出来だ。今までの物と合計して、これだけあれば……」

 

「ええ……ついに、あのお方に会いに行けます……!!」

 




ビリーの状態
・サーヴァントとしての等身
・リヨ絵の容貌
・胴体の表面には何となく魔神柱っぽいデザイン


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ファースト・マスター

 

 

 

 

怪音の霹靂(サンダラー・カオス)

 

   ダァンッ

 

 

宝石の力で異形と化したビリーが、歪められた宝具を放つ。滑りを持った紫の弾はエレナの足下に着弾し……触手を生やした。

 

 

「っく!? 何よ、この弾丸……!?」

 

 

目玉の生えた触手がエレナを拘束する。それは丁度、黎斗がロンドンで出会った魔神柱と呼ばれるそれと同じ姿だった。

だがそんな事知る由もなく、彼らはひたすらに、恐らく科学とは程遠い存在だろう、位しか分からないその触手と戦っていた。

 

 

「アル、助けてっ……!!」

 

「分かっているとも、O・F・D(アワー・フェイス・ドミネーション)!!」

 

 

エレナがおとも状態のエジソンに援護を頼み、彼女を中心とした半径3メートルの神秘をなんとは剥ぎ取った。

おともの身では宝具は酷く弱体化する。何とかエレナは触手から抜け出したが、かなり疲弊していた。

 

 

「ぐっ、キリがない……シータ!! 宝具だ!!」

 

「分かりました!!」

 

 

ラーマが辺りに生えた触手を切り払い、近くで矢を放っていたシータを呼び寄せる。シータはラーマの元に動こうとするが……やはり、足下を掬われて逆さ吊りにされてしまった。

 

 

「きゃあぁっ!?」

 

「シータ!?」

 

 

歯噛みするラーマ。嫁が捕まっている以上迂闊に手は出せない。

 

全く未知の敵と、それを遠距離から量産するビリーを前に、彼らはかなり苦戦していた。

このままではじり貧だと判断したジェロニモが、触手を力任せに斬り伏せていたバニヤンを呼び寄せる。

 

 

「バニヤン!! 逃げろ、ここは無理だ!! ベイブを呼び出して、仲間を率いて逃げるんだ!! ……私が押さえ込む!!」

 

「でも、どうやって?」

 

 

バニヤンは首をかしげた。敵は余りにも強大、如何にして一瞬でも押さえ込めようか。

ジェロニモは遠くで銃を構えるビリーを見つめて呟いた。

 

 

「おともの身では自滅は確実だが、いたずらコヨーテ君(ツァゴ・デジ・ナレヤ)を暴走させる」

 

「……っ!!」

 

「そうすれば、少なくとも彼の武器は融け落ちずにはいられまい」

 

 

自滅覚悟の捨て身の戦法だった。しかしそれを取ったなら、ジェロニモの言う通りの結果は導き出せる筈だった。おとも一人の犠牲で他を救えると考えたなら、その作戦は最適解に近い。

それを受け入れられるかを考えなければ。

 

 

「駄目、そんなの……」

 

「バニヤン。他に方法は無いんだ。君達を生かして逃がす方法は」

 

「そうする位なら……わたしがやるよ。今、ここでわたしがやる。それなら……わたしは、自分がいらない子じゃないって、言えるから」

 

「──!!」

 

 

バニヤンがそう言いながらジェロニモを押し退けた。

彼女の発した言葉で、ジェロニモは初めて彼女の心情を察することが出来た。

 

 

「バニヤン……」

 

「……行って?」

 

 

彼女は彼女で、ずっと孤独に苛まれていたのだろう。仲間が増えた今になっても、どうしようもない孤独感が彼女を襲っていたのだろう。

成程、死んでしまえば何も感じなくていい、と言うわけだ。ジェロニモは暫く俯き、ビリーに飛び掛かっていくバニヤンを見送って……他のサーヴァントを連れて退却しようとした。

 

 

「なっ……そんなこと出来るわけが無いだろう!?」

 

「死んでしまうなんて悲しすぎます……!!」

 

「うむ、死ぬことより、生きて帰ることこそが偉業なのである」

 

「なんとか、全員で脱出を!!」

 

 

当然、そんな反応が帰ってくる。彼らは短い間ではあったが、確かにバニヤンと共にいた仲間であって。

 

 

「彼女の心意気を汲んでやってくれ。不甲斐ない私には、ここで彼女の精神に決着を着けさせてやるのが一番にしか思えない」

 

 

それでもジェロニモはそう言って、宝具でコヨーテを呼び出して強引に退却した。

 

───

 

それと時を同じくして、エリザベートとジークフリート、そしてナーサリーはジェームズ☆フォレスタルと交戦していた。

ヒロインXを多少なりとも慕い始めていたエリザベートは、憤りのままに、直感的に()()を行使する。

 

 

「食らいなさい!!」

 

   ゴォッ

 

「ぐっ……」

 

 

火柱が吹き上がり、ジェームズを下から貫く。黎斗が観察する限り、彼女は炎の魔術しか使わなかった。恐らくガシャットの影響だろう。

 

 

「……成程、炎の魔術か。……やはり、仮面ライダーその者の能力を全て引き出すのは困難だったか」

 

 

そう呟く黎斗。彼の目の前で、エリザベートが炎の鎖を精製しジェームズを拘束する。

 

 

「動かないで!!」

 

   ジャラッ

 

「!?」

 

 

体を縛られ動きが止まるジェームズ。彼女の後ろからジークフリートが剣を振り上げ、袈裟斬りにした。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ズシャッ

 

「かはぁっ!!」

 

 

その一撃で、糸が切れたようにジェームズは膝をつく。そこにナーサリーが追撃を浴びせて。

 

 

「くっ……今回は撤退を……!!」

 

 

ジェームズはそう言って空に飛び立とうとした。しかし数メートル浮き上がった状態で、再び呼び出された鎖に拘束される。

そしてそれを行ったエリザベートは、己の背後に城を呼び出していた。

 

 

「逃がさないわ……最後まで聞いていきなさい。鮮血特上魔嬢( バートリ・ハロウィン・エルジェーベト)!!」

 

 

形容しがたい音が響いた。黎斗のサーヴァント達は耳を塞いでのたうち回り、黎斗自身は耳栓とヘッドホンを重ねがけした上で踞り、そしてジェームズは音と炎の嵐の中で強引に砕かれ金の粒子になっていっていた。

 

そして、一曲終わったときには、ジェームズは跡形もなく消え失せ……エリザベートも意識を失って倒れていた。

黎斗は彼女の顔を覗き込み、その身、そのガシャットに含まれていたパワーを考えて小さく頷く。

 

 

「どうする、マスター」

 

「……背負っておけ。何処か安全地帯を探すぞ」

 

『爆走 バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

黎斗は懐からガシャットを取り出した。共に大幅に修復をかけた爆走バイクとシャカリキスポーツ。

黎斗とナーサリーがバイクゲーマに跨がり、ジークフリートはエリザベートを背負った状態で立ちこぎを開始した。

 

───

 

「たのもー!!」

 

「こちらが所謂あのお方のお城で宜しいのでしょうかー……」

 

「……にしては随分と和風ですね」

 

 

そして沖田と信長、そのおとも達は宝石を掲げたら出現した穴を通って、恐らく自分達を呼び出したのであろう存在の元へと向かっていた。

穴を抜けてまず目に入ったのは、信長や沖田には割と馴染み深い日本の城だった。何故か石垣に剣が突き刺さっているが。

 

 

「あのお方は日本人だった……?」

 

「かもしれませんね。ほら、あそこに入り口っぽい門がありますよ」

 

「……そうだな。進むか」

 

 

そう言いながら彼らが門を跨ぐ。

さらに進もうとすれば、呼び止められた。振り向いてみれば、門の裏に虚ろな瞳の赤いサーヴァントが立っている。

 

 

「……待った、まずは宝石を見せて貰おう」

 

「……お主何奴じゃ?」

 

 

門番か何かなのであろう仮面のサーヴァントは、信長と沖田の所持する宝石を確認し検査した上で、一つ溜め息を吐き彼女らを通す。

 

 

「私は真田エミ村、あのお方、のサーヴァントの一人だ。……よし。一人6つずつ宝石を持っているな。なら問題ない……進みたければ、進めばいいさ」

 

───

 

「……何もありませんね、アヴェンジャーさん」

 

「……そうだな。まるで……全部奪い尽くされたみたいだ」

 

 

そして、アヴェンジャーとイリヤは、雪の中を歩いていた。一面の銀世界と言えば聞こえはいいが、そこはひたすらに雪と氷に閉ざされた空間だった。

イリヤが知らず知らずのうちにアヴェンジャーのマントで寒さを凌ごうとする。

 

 

「……寒いです」

 

「そうか」

 

「おー? あれですか、肌で暖めあう的なゴポォッ」

 

「黙れと言った筈だ」

 

 

それに反応したルビーを黙らせながら、アヴェンジャーは周囲を見回していた。火をつけるのに適当な木の棒を探していたらしかったが……彼は別のものを見つけていた。

 

 

「……何かあるな」

 

「……雪に、溝が入ってますね」

 

「……轍だな。馬車でも通ったんだろう。追いかけるか?」

 

「追いつけるんですか? かなり遠いかもしれないのに……」

 

 

イリヤが疑わしげな目でアヴェンジャーを見上げた。アヴェンジャーの方はと言えば、少し体勢を低くしてイリヤを小脇に抱える。

 

 

「えっ、ふぇっ!?」

 

「……しっかり掴まっておけ。虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)

 

 

そして二人は、一瞬でその場から消え失せた。

 

───

 

重い音を立てて、扉が開く。

信長と沖田は、この世界の創造主の元にやって来ていた。

 

あまり広くない部屋の真ん中に玉座があり、そこにピンク髪に虚ろな瞳の少女のような何かが座っている。

 

 

「……あなたが……」

 

「……あのお方、なのか?」

 

「……私は貴女達魔法少女とその使い魔を呼び出した、言ってしまえば全ての原因。私の名はファースト・マスター。この世の理不尽を正すもの」

 

 

ファースト・マスター。少女はそう名乗った。そして彼女は立ち上がり、人差し指で信勝と土方を呼び寄せる。

 

 

「ここまで来た者達よ、願いを叶えましょう。あなたが理不尽と戦う限り、あなたの望みは叶えられる」

 

「おっ? 沖田さんの望みはですねー、この病弱スキルを──」

 

 

沖田が話し始めたのを、ファースト・マスターは一本の剣を投影して投げつける事で無理矢理中断させた。まるで、お前たちに用は無いと言わんばかりに。

 

 

「……違いますよ。私は、おともとして勝ち抜いたサーヴァントの土方と、サーヴァントですらない存在である信勝に言っているのです」

 

「……何じゃと?」

 

「これは私という願望機を無意識に求め、魔法少女を道具として扱う使い魔(おとも)達の聖杯戦争。他者を利用し、虐げられず、低い立場に居ながら望みを最後まで貫くもののみ勝ち残れる戦い」

 

 

つまり。これは魔法少女を操り戦う、おとも達の戦いだ……と、ファースト・マスターは言ってのけたのだった。彼女はまず土方をサーヴァントとしての姿に戻し、望みを問う。

 

 

「……俺は何も願わない。そんな与太話信じるほど俺はバカじゃない。願いが叶えられるって言うんなら、新撰組にかつてのメンバーを揃えてみろ」

 

「……分かりました。あなたの宝具『誠の旗』を極限まで強化させましょう。かつての新撰組二百人を全て呼び出せるように」

 

 

ファースト・マスターはそう言って、土方に何かの魔力を振りかける。それにより、彼の目は虚ろになって。

 

 

「……」

 

 

半ば呆然とする土方。どうやら本当に宝具は強化されたらしい。

信勝はそれを見ながらファースト・マスターを前にして言った。

 

 

「サーヴァントにも満たぬ存在、織田信勝が我が新たなる魔法少女に願う。……姉上と私に、永遠の平和を」

 

「……信勝?」

 

 

願いは聞き届けられた。そして、彼女が信長を指差せば、信長の意識は途端に途絶え……

 

───

 

「あら? ……新しい魔法少女かしら」

 

 

アヴェンジャーとイリヤが、宝具による瞬間移動で馬車に追い付いた。

その馬車に乗っていたピンク髪の魔法少女が、突然現れた二人に不思議そうな顔をする。

 

 

「……メイヴか」

 

「貴方は……ああ、ええと、アメリカでの時にチラッと見たような……」

 

「あの、質問したいことがあるんです。ええと……」

 

「……俺の仲間を見なかったか? 女王メイヴ」

 

 

アヴェンジャーとイリヤはそう聞いた。下手なことを言わせないように、既にルビーには幾らかのデコピンを喰らわせてある。

メイヴは暫く考えたあとに、何も知らない、と言った。

 

 

「そうか……」

 

「ああ、突然聞いてすいませんでした」

 

 

二人は軽く頭を下げ、馬車の前から退く。

 

 

「あら、どうして離れるのかしら?」

 

「いや、これ以上用もないのに引き止めるなんて出来ませんし……」

 

「フフッ、優しいのね。でも……その心配は要らないわ」

 

 

メイヴはそう言って馬車を二人に向け、鞭を振るった。馬が二人目掛けて走り出す。

 

 

「私の前に現れた魔法少女は、全て私に傅いて倒されるんだから!! 行くわよクーちゃん!!」

 

「ちっ!!」

 

 

アヴェンジャーが咄嗟にイリヤを抱えて緊急回避を行う。そして二人は共に変身し、メイヴと、その後ろに立つおともを見つめた。

 

 

「カレイドライナー プリズマ☆イリヤ!!」

 

「……仮面ライダーアヴェンジャーだ」

 

 

メイヴの方は姿を変えたイリヤを憎々しげに見つめ、更に馬を走らせる。

 

 

「……そういうの、もううんざりなのよ。さっきも神風魔法少女ジャンヌ☆ダルクとか言うのを倒してきたけど……本当に、貴女みたいなタイプはうんざりなの」

 

「お前の趣味嗜好など聞いていない。……どうする、イリヤスフィール? ……と言っても、流石に選択肢などあるまい?」

 

「はい……戦います!!」

 

───

 

その頃。

 

 

   ガサガサッ ガサッ

 

「……森を、抜けたか」

 

 

そして、ジェロニモは自分達が森から抜け出た事を確認して宝具を解除し座り込んでいた。……一々木々を伐採するよりこうして走った方が早く森を抜けられたと言うのは、中々皮肉な事だった。

既にバニヤンの存在は感じられない。ジェロニモは再び野良のおともに戻っていた。

 

 

「……ああ、森を抜けたな」

 

 

そう力なく呟くラーマ。彼はずっとコヨーテに口で運ばれ続けて酔っていたというのもあるが、それ以前に現在の状況が悲しかった。

しかし、そうも言ってはいられない。早く黎斗を見つけ出す必要がある。

 

エレナとエジソンは既に何処かに消えていた。彼女らとは元々、森を出るまでの停戦関係だったのだから、背後から襲われなかっただけ幸運と言えた。

 

 

「一先ず、黎斗を探さないとな。……余と共に来るか、ジェロニモ?」

 

「……ああ、ご一緒させて貰おう」

 

 

そうして、三人は歩き始める。

 

───

 

「……ん、ここは……?」

 

 

エリザベートは、ジークフリートの背で目を覚ました。自分が背負われていると気づいて慌てこそするが、もがくだけの気力は彼女にはまだ無い。

 

 

「すまない、マスター。エリザベートが目を覚ましたようだ」

 

「そうか。……丁度いい所に大木があるな。休むぞ」

 

「お茶にしましょう!!」

 

 

彼らは荒野を走っていた。疎らに木はあるが、全体的に乾いている。

ゲーマを収納して木の下に腰を下ろしてみれば、ここまでの疲れが一気に体に来るように思われた。

 

 

「はぁ……この体では満足に変身は出来ないか。そもそも、この特異点が何なのか私にはさっぱり分からない……」

 

 

そうボヤく黎斗。彼は疲れきった顔で彼方に目をやり……

 

……顔を物凄く引き吊らせる。

 

 

「……おい、まさか……嘘だろう?」

 

 

「ふっふっふ……あれは何だ? 美女だ!? ローマだ!?」

 

 

その声に、エリザベートは思わず痛みも無視して飛び起きる。

声の方向を見れば……何ということか、この荒野を水着で歩く変態がいるではないか。

 

 

「もちろん、余だよ♪ 魔法少女、ネロ☆クラウディウス!! 皆の呼び声に応じて参上したぞ!!」

 

「……誰も、誰も君など、呼んではいないぃぃぃっ!!」

 

 

黎斗は思いきり絶叫し、そしてその場に倒れ伏した。

 




ファースト・マスター
・見た目はカラーリングがリヨクロエのリヨぐだ子
・体の表面には魔神柱っぽいデザイン
・何故か敬語

この戦争の目的
・あらゆる苦境においても挫けず立ち上がるサーヴァントを求めたファースト・マスターがおともを試す為の戦争、魔法少女はおともの道具でしかない
・おともはファースト・マスターの元に辿り着けば願いが叶えられる。そのおともがファースト・マスターと共に運命に抗う限り、その願いは叶えられ続ける。逆に言えば、ファースト・マスターに背いた時点で願いは破棄される。


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進む戦況、変わらぬ苦戦

 

 

 

 

 

「改めて聞かせて貰おうネロ・クラウディウス……お前は何だ? その格好は一体何のつもりだ?」

 

 

黎斗は木にもたれながら腕を組んで立ち(というかそうしなければ立てない)、正面でドヤ顔をしているネロを睨んだ。

ネロの方は萎縮する事もなく、胸を張って堂々と答える。

 

 

「うむ、魔法少女ネロ☆クラウディウスである……まあ、余の輝きが眩しすぎるのか、誰もおともになってくれないのだがな」

 

「自称魔法少女……!!」

 

「当然、魔法少女なのだからキャスターである。キャスターになったら、水着になっていた」

 

「そういうバグが起こるとでも言うのか……!?」

 

 

ネロに突っ込みを入れる黎斗。エリザベートは信じられないものを見るような目でプルプルしていて、ジークフリートは何も言えずに空を見上げ、ナーサリーはすることもないので踊っている。

 

 

「……と、言うわけで黎斗。余はここまで何とか一人でやってきたが、流石に寂しい!! 故に黎斗、貴様についていくぞ!!」

 

「止めろぉぅ!!」

 

 

何を言い出すんだコイツは。黎斗は飛び上がってネロから離れる。バグヴァイザーは……残念、パソコンの横だ。

ネロは黎斗に向かって語りかける。

 

 

「うむ、余の暴走特権とは一位をとるという事に皇帝特権の派生である。つまり皇帝特権と同じ使い方もイケる」

 

「どういう理屈だ!?」

 

「つまりだな、余が『この戦いで一位になるには檀黎斗をおともにすればよい』と言ってしまえばイイ感じに自己暗示が働いて貴様は余のおともになるのだ!!」

 

「なるわけが無いだろう!?」

 

 

激昂する黎斗。

……彼は気づいていない。自分の頭身が、既にある程度縮んでいることに。

 

 

「うむ、もうなっておる」

 

「……!?」

 

 

彼は指摘を受けて絶句した。……自分がいつの間にか5頭身で浮いているんだから誰だって絶句する。

そう、彼は既におともとされていたのだ。

 

 

「と、言うわけで……劇場の魔法少女ネロ☆クラウディウス、爆誕である!! うむ、実に良い!!」

 

「じゃあ、じゃあ私は星と詩の魔法少女ナーサリー☆ライムね!!」

 

 

しかも何故か二人分の魔法少女のおともになっている。なんか宝石も出来上がっているし。……黎斗は崩れ落ち、地面を殴った。

 

 

「くそぅ……どうして私がこんな事になった……!!」

 

「……すまない、マスター。俺には何ともしようがない」

 

「当たり前だ……!! そもそもこの特異点を作った奴は誰だ……見つけ次第削除してやる……!!」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

爆ぜ喰らう甘牙の幼獣(アマガミ・コインヘン)!!」

 

 

アヴェンジャーとイリヤは、メイヴとそのおともと戦闘を続けていた。そして苦戦していた。

メイヴのおとも……メイヴがクーちゃんと呼んでいたそれは非常に戦闘力が強く、動きも素早かったためアヴェンジャーは攻めあぐねている。そしてイリヤは一人メイヴに魔法を放つが、その悉くが打ち消されていた。

 

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

「甘いわ!!」

 

 

器用にも魔力の刃を鞭で絡めとるメイヴ。そして彼女はイリヤが疲れ始めたと見て己の宝具を解放する。

 

 

「行くわよクーちゃん!! 愛しき私の鉄戦車(チャリオット・マイ・ラブ)!!」

 

「……不味いっ!!」

 

 

戦車が走り出す。メイヴとそのおともが乗ったそれはイリヤのみを狙っていて。

咄嗟にアヴェンジャーがそこに飛び込み、イリヤを己のマントで包み込んだ。そして二人は次の瞬間には迫り来る戦車に撥ね飛ばされて。

 

……いつの間にか、その戦車に囚われていた。

 

 

「成る程、これが本当の宝具という訳か」

 

「ここは……?」

 

「ここ? ここは、そうねぇ……×××(チョメチョメ)しないと出られない部屋、とか?」

 

「ちょ、チョメチョメって……///」

 

 

メイヴの説明に勝手に赤くなるイリヤ。アヴェンジャーは彼女をマントにくるんで離そうとしない。

というか戦車自体が狭いのに、メイヴ、そのおとも、アヴェンジャー、そしてイリヤが入っているのだから、二人は固まっていないと動くことすら儘ならないのだ。

 

 

「さあ、恐怖して、私に屈服なさい!!」

 

「ふざけた事を……!!」

 

───

 

「……お前が、新しいサーヴァントか」

 

 

ファースト・マスターによって眠らされた信長をベッドに横たえてから己の職場を視察していた信勝に、先程見かけた門番が声をかけた。

信勝は振り返り、一つ笑う。何の後悔も無い、そんな笑みだった。

 

 

「正確にはサーヴァントですらありませんが、今はサーヴァントみたいな物ですね。貴方はさっきの門番さんですか。ええと、名前は……」

 

「真田エミ村。エミ村だ……本来は別のサーヴァントだったのだが、召喚に際して他の存在と混ざってしまったらしい。お陰で二人の魔法少女と共にここまでやって来れた」

 

「成る程、そんな事が……因みに、貴方はファースト・マスターに何を望んだんですか?」

 

 

信勝はそう問う。

単純に彼には興味があったのだ。自分と同じ思いをしたサーヴァントはいるのだろうか、と。エミ村は答えるべきか少し迷った後に、信勝に言う。

 

 

「私自身に望みは無かった。……ファースト・マスター曰く、用の済んだ魔法少女は廃棄する、と言っていたので、彼女らに安全と幸福を与えてやれ、と言っておいたさ」

 

「わあ、僕と殆ど同じじゃ無いですか!! ……僕がファースト・マスターの元で働けば、姉上の幸せは保証されます。私も働いていれば、直に姉上の所に行ける。こんなに嬉しいことは無い。エミ村さん、共に頑張りましょう!!」

 

「……そうか、そうだな」

 

 

同士を見つけたと言わんばかりに興奮して、鼻の穴を膨らませる信勝。エミ村はそんな彼に、寂しそうに苦笑いをした。

 

 

「僕は姉上の為ならなんでもやれます!!」

 

「……何でも?」

 

「はい、何でもしますとも!!」

 

「……そうか」

 

───

 

そしてアヴェンジャーはイリヤを抱えて、メイヴとおともから逃れる為に酷く狭い戦車の中をひたすら跳ね回っていた。

……しかし元々空間は狭く、メイヴが一度鞭を振るえばそれは確実にアヴェンジャーに当たっていた。

 

 

「くそっ、余りにも狭い空間だな、ここは!!」

 

 

傷だらけになりながら壁を蹴るアヴェンジャー。本当にこの戦車からの脱出の手立ては無いらしい。

段々動きの遅くなっていくアヴェンジャー。おともを頭に乗せたメイヴがアヴェンジャーに微笑み、彼の顎を強引に掴んだ。

 

 

「ねえ、もう諦めなさいよ。私に傅いて永遠の忠誠を誓って、メイヴちゃんサイコー!! って言えば赦してあげなくも無いのに」

 

「フッ、どうせイリヤスフィールは殺すんだろう?」

 

「当たり前よ、不愉快だもの」

 

 

そこまで聞いて、アヴェンジャーはメイヴを振り払い抵抗を再開する。

しかしこのままでは勝つことが出来ない、というのは既に理解していた。懐のイリヤもここまでの機動でかなり酔っている。

……こんな閉鎖空間で使うのはかなり憚られるが、一応彼には切り札が存在していた。

 

 

「……使うのは割とリスキーではあるが、仕方あるまい。……聞こえるかイリヤスフィール、目をつぶって呼吸を止めておけ」

 

「……うん」

 

 

イリヤが呼吸を止めた事は何となく理解できたアヴェンジャーは、己の体から闇を吐き出す。

 

 

『Noble phantasm』

 

巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)!!」

 

───

 

「んっ、ん……」

 

 

……信長は見知らぬ空間で目を覚ました。

見覚えの無い街の街道で彼女は爆睡していたのだ。

しかし誰も彼女の眠りを妨げなかった。何故か? ……そもそも、誰も通っていなかったのだ。

 

 

「はて、一体ここは何処じゃろうか……南蛮街かのう?」

 

 

白く磨かれた石畳。レンガを積まれた壁の数々。南蛮渡来の物によく書かれていた英語。

信長はここが南蛮街のそれだと確信する。

……しかし、やはり彼女は誰にも出会わなかった。

 

 

「誰もいなければ争いは起きない、と言うことか。沖田の奴もいないし……全く信勝め、何が永遠の平和じゃ、うつけ……」

 

 

そう呟く信長。

……色々やってみて分かったことだが、どうやら宝具含めて武器の類いは封印されているらしい。平和の為には銃など要らぬ、という事だろう。信長は溜め息を吐いた。

 

彼女は仕方無く、再び何処かで眠ろうと思って適当な場所を探し始めた。どうせ誰もいないのだ、不法侵入しても文句は言われまい……そう思って歩いていた時。

 

 

「ああっ!! サーヴァントです!! 良かった、私達以外で、やっと動いているサーヴァントに会えました!!」

 

「ん……?」

 

 

初めて己の物ではない声が聞こえた。

方向を見てみれば……黒い馬に乗った、黒い騎士と白い騎士がこちらに走ってくるではないか。信長は身構えたが、銃も剣も無い以上抵抗は殆ど出来ない。

 

……運が良いことに、その馬は信長の前で止まり、二人の女騎士……いや、元魔法少女が信長の前に立った。

 

 

「……何者だ? あっ、わしは魔王少女バンバン☆ノッブをしていた織田信長じゃが」

 

「あっ、初めまして。私は、聖剣の魔法少女アルトリア☆リリィです……聖剣奪われちゃいましたけど」

 

「そして私が聖槍の魔法少女アルトリア☆オルタだ……聖槍は奪われてしまったがな」

 

「なんかお主ら、胸は似ても似つかぬが顔がそっくりじゃの。姉妹か?」

 

 

何気なくそう問う信長。二人のアルトリアは曖昧な顔で互いを見合わせ首を傾げ、そして信長に向き直る。

 

 

「……そこは気にしないでくれ。それより、私達に協力してはくれないだろうか」

 

「実は私達、真田エミ村というおともとここに来たんです。彼は私達の身を案じて、何でも叶えてくれる権利を棄てて私達をこうしてくれた」

 

「だが、この結末は余りにも不出来だ。このような場所にいられる私達だと思うな……故に脱出する。この閉鎖空間を逃れ出て憎きファースト・マスターを討ちに行く」

 

 

その申し出は、信長にとってもありがたい物だった。そもそも、一人でずっとじっとしていろ、など何者にも代えがたい拷問である。つまり信長に断るつもりは全く無かった。

 

 

「うむ、それじゃあ、共に脱出を謀るとするか!!」

 

「ええ、よろしくお願いします!!」

 

───

 

そして、ラーマとシータ、そしてジェロニモは黎斗を探索して歩いていた。森を出てひたすらに歩く。

 

 

「一体黎斗は何処にいるのだ……?」

 

 

もう既に二時間は休み無しで歩いているが、形跡の一つも無い。魔法少女にすら出会わない。いや、魔法女装男子は不意討ちで襲ってきたから撃退したが。

とにかく、彼らはもう何キロも歩いていた。そして、漸く一つの手がかりに辿り着く。

 

 

「……何かあるな。鉄か?」

 

「これは……」

 

「確か、ロケットという物ですね……あ、宝石が落ちています」

 

 

ジェームズ☆フォレスタル……いや、マルス☆アルテラに破壊されたドゥ・スタリオンⅡだった。

 

 

「ここで何かがあったと見て間違いは無いだろう。これに黎斗が関わっているかは定かでは無いがな」

 

 

ロケットを分析しながらそう呟くジェロニモ。修復はどうやっても不可能で、せっかくの手がかりだがここに放置していくしかなかった。

 

 

「仕方無いな。何か足跡はあるか?」

 

「いや、ありません」

 

「そうか……」

 

「……待った。誰かが近づいてくる」

 

 

ジェロニモがそう言って彼方へと目を向けてみれば。

 

 

「おおクロスティーヌ!! 今貴方は何処にいるのでしょうか」

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌの存在感を感じますぞ!!」

 

 

「……逃げるか、ラーマ?」

 

「……にげましょうよラーマ様」

 

「余も非常に逃げたいが……少なくとも彼らは黎斗について何か知っているような気がする」

 

「えぇ……」

 

 

魔法少女四天王の残り二人が、彼らに迫っていた。

 

───

 

そしてアヴェンジャーとイリヤはと言えば、どうにかこうにか逃げ仰せる事に成功していた。二人とも黒く汚れているが、命に別状はない。

 

 

「ふう……何とか、魔法少女とおともとを対立させて強引に宝具から抜け出したが……反動が、酷いなこれは」

 

「ですね……」

 

 

巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)とは、溜め込んだ怨念を解き放って相手を疑心暗鬼にし対立させる宝具。それをごく狭い空間で使ったのだから自分達にも降りかかる。

イリヤは半ば熱のような状態でフラフラとしていた。

 

 

「……イリヤスフィール、今から高速移動したら、耐えられるか?」

 

「む、無理です……」

 

「……なら仕方無いな。……適当な雪山がある。オレがかまくらを作ってやる、少し待っていろ」

 

 

そう言って拳に炎を纏い、身を隠すためのかまくらを作り始めるアヴェンジャー。未だメイヴ達はピンピンしているだろうから、今は身を隠して英気を養う他無いのである。

 

 

「暫く、耐えておけよ……オレの体力が戻れば、治療も出来る」

 

「はい……」

 

 

イリヤは彼の背中を、ただ呆けたように見つめていた。

ルビーはアヴェンジャーによって頭から雪の中に埋められていた。

───

 

その頃。

 

 

「さーて、二つ目のバグヴァイザーを作れるだけの素材が集まったね」

 

 

カルデアにてダ・ヴィンチが沢山の資材の前で腕を組んでいた。最近は疲れているのか、いつの間にか寝ていてしかも記憶が抜けている、なんて事がよくあるが……ロマンも頑張っているのだから、と彼は自分を奮い立たせていた。

 

 

「普通に作ってもいいけれど、どうせならもっと戦闘に役立つものを追加してみたいよねー……」ガチャガチャ

 

 

手際よく材料を加工して組み上げていくダ・ヴィンチ。黎斗のバグヴァイザーを再現、改造して出来上がるバグヴァイザーL・D・Vは、あっという間に形を取り始めて。

 

 

「ロマンも物資補給のために座標の移動の法則を調べてるみたいだし、私も頑張らないと。……でもやっぱり、これを強化するには……バグスターってのを調べなきゃダメだよね……」

 

 

ダ・ヴィンチはそこまで言って立ち上がった。資料室にバグスターについての書物はあっただろうか。

 

そして、三歩歩き出した時点で。

 

 

「──ガッ……!? この、頭痛……すごい、デジャヴ……」

 

 

……彼は再び頭痛に倒れ伏す。

 




ゲキコウゲンム(5頭身)


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理由のある理不尽

 

 

 

 

「……と言うわけで、私達は檀黎斗という神と泣き別れてしまった訳です」

 

「お前達……苦労していたんだな……!!」

 

 

ラーマは泣いていた。話しているのは先程であったジル・ド・レェとファントム・オブ・ジ・オペラ。

彼らと黎斗の間に何があって、彼らと黎斗との別れがどうであったか……それを聞くだけで、ラーマは感動して泣いていたのだ。

 

 

「ラーマ様……」

 

「……やはり余は、何としてでも黎斗を見つけ出さねばならない。彼らの為にも!!」

 

 

思わず半歩下がるシータ。ラーマは勢いよく立ち上がって決意を表明し、元々黎斗のサーヴァントだった二人に協力の意を示す。

ジェロニモはひたすらに苦笑いしながらロケットを点検していたが、あることに気づいて飛び退く。

 

 

「……熱くなっているところ悪いが、場所を変えよう。ロケットに多少のオイル漏れと漏電が確認出来たから、いつ爆発してもおかしくない」

 

「そうか……出来ることなら何かに再利用したかったが。仕方無い、行こう」

 

───

 

「……気分はどうだイリヤスフィール。待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)は使ったから、割とまともになっているだろうが」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

イリヤは小さなかまくらの中で火に当たっていた。体調は既に良くなっている。

アヴェンジャーは雪の降り積もる外を眺めながら今後の計画を考えた。

 

 

「さて……メイヴとの戦闘は暫く後回しにするとして。闇雲に動き回って黎斗と合流できるかは怪しいが、ここでじっとしているのはそれはそれでリスキーだ。さて、どうする?」

 

「ええと……ルビー、何か出来る?」

 

 

雪の中からルビーを引っ張り出すイリヤ。ルビーは暫くガタガタと震えていたが、突然妙に元気な声で話始めた。

 

 

「ええ出来ますよ?ルビーちゃん24の秘密機能(シークレット・デバイス)の中の、簡易未来事象予報(占いモード)なんかをああしてこうしてこうすれば出来ますとも」

 

「本当!?」

 

「ええ!! ……ですが私を酷い目に遭わせたそこの彼のために使うのは非常に嫌ですねぇ非常に嫌。土下座して貰った状態でルビーサミングと裏サミングをそれぞれ全身に満遍なく浴びせないとスッキリしませんねぇ」

 

 

そしてそう言ってのける。ここに来て、アヴェンジャーの方針が大きすぎる仇となってしまっていた。

 

 

「ねえねえ、謝罪は? 土下座は? ねえねえ、今どんな気持ち?」

 

「……黙れ」

 

「あの、その、ごめんなさいアヴェンジャーさん。ルビーがこんな事言って……」

 

「……」

 

 

挑発しながらアヴェンジャーの回りを飛び回るルビー。助けて貰ったのにこんな事になってしまって申し訳ないと言いたそうなイリヤ。アヴェンジャーは眉をひくつかせながら大きなため息を一つ吐き出して。

 

───

 

そしてその頃。

 

 

「……」

 

 

黎斗はエリザベートから引き抜いたマジックザウィザードを機械に装填し、パソコンのキーボードを叩いていた。何時もと体の大きさや勝手が違うのだろう、入力のスピードはかなり遅くなっている。

 

 

「余は暇だ黎斗、機械なぞにかまけておらず余の相手をせい」

 

「五月蝿ぁぁいっ!! 私は!! 作業中だ!! エリザベートと戯れていろ!!」

 

 

ストレスが溜まっているのだろう、近づいてきたネロを怒鳴り付ける黎斗。耳元で叫ばれたネロは目元に涙を浮かべ始めた。

それを見かねたのか、ジークフリートが後ろから黎斗に声をかける。

 

 

「すまないマスター。エリザベートはさっきから喜びで気絶している」

 

「使えない奴め……!! 仕方がない相手しておけジークフリート!!」

 

「えっ」

 

 

なげやりに黎斗にそう言われた彼は、その言葉に凍りついた。しかも、いつの間にか涙目のネロが彼の隣で体操座りしている。

 

 

「えっ」

 

「うっ……ひっぐ……ぐすん……」

 

「えっ」

 

───

 

……その頃アヴェンジャーはと言うと、半泣きのイリヤを背負って憎悪で黒く染め上げられた雪の上を歩いていた。

 

 

「……本当に、本当にすいませんでしたアヴェンジャーさん!! 許してください!! 何でもしますから!!」

 

「……復讐はすませた。杖はたっぷり汚染したから、丸一日は転身は諦めた方がいい」

 

 

そう言うアヴェンジャーは全身傷だらけで。彼の手元では、怨念マックス状態で発動された巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)をもろに受けて真っ黒になっているルビーが力任せに握りつぶされていた。

復讐鬼であるアヴェンジャー。受けた痛みは倍返しが基本である。

 

 

「まあ、黎斗の場所は割り出すことが出来た。幸いメイヴはいないのだし、今のうちに黎斗のいる座標に急ぐぞ」

 

「本当に、本当にごめんなさい……!!」

 

 

全力疾走するアヴェンジャー。もしここで黎斗に会えなければ、次はルビーに何をされるか分かったものではない……というか寧ろ何をしてくるか読めるとも言うべきか。

とにかく、次があったなら全身にサミング喰らうより酷いことになるのは確定していた。

 

 

「次からルビーにもしっかり言っておきますから……!!」

 

「……慈悲などいらぬ!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

───

 

「……」

 

 

その頃。土方は他のファースト・マスターのサーヴァントの集団からは少し離れた所で一人立っていた。

普段は使わない宝具である誠の旗(まことのはた)を見つめ黙っている。

 

 

「……」

 

 

例え他の新撰組が全て倒れ伏しても己が立っている限り新撰組は不滅……そう思っていたが。こうして自分の手元に全ての新撰組がいるとなると、複雑な心境にならざるをえなかった。

沖田は既に座に強制的に還され、この宝具で呼び出すことが出来るだろう。隊長だった近藤も、当然呼べるだろう。

 

 

「……」

 

 

それを純粋に喜べないのは、自分がファースト・マスターの下僕として働くのが前提の報酬だからだろうか。

 

 

「……ん?」

 

 

「おい皆!! ファースト・マスターから伝令が入ったぜ」

 

「何だ?」

 

「伝令だと?」

 

 

土方は他のサーヴァント達が騒がしくなったのに気がつき顔を上げた。

全身青タイツの槍を持った男が何かを報告している。

 

 

「『サーヴァントの定員は満たされた。これより最終選抜としてこの幻想廃棄場を更地に変え、そして生き残った者達で全世界の理不尽を討ちにゆく』……だそうだ!!」

 

「成る程……では、とうとう」

 

「ああ、僕達の最後の試練です。全員でこの世の理不尽を正してみせましょう!!」

 

 

「……そうか」

 

 

土方は立ち上がった。……何もせずにここで再び揃った新撰組を失うのは流石に気が引ける。

 

 

「新撰組……出るぞ」

 

───

 

そして信長は二人のアルトリアと共に無人の街を探索していた。

恐ろしいほどに静かな街。商店には確かに商品が並んでいるのに、信長が店頭から勝手に品を持っていっても誰も咎めない街。

 

 

「ここまで来るとますます不気味じゃな」

 

「そうだな。あと探索していないのは……向こうの城と、それと接した北側の壁だな」

 

「そうですね。普通に考えて城が怪しいですが、この街は壁で区切られているようなので、壁も気になります」

 

「そうか……おっ、丁度よい所に、楽器の店があるようじゃな」

 

「ありますけど……どうしたんですか?」

 

「ちょっと寄らぬか? 一つやりたいことがある」

 

 

オルタの方のアルトリアの馬であるラムレイから、突然信長は飛び降りた。オルタが馬を止めて繋ぎ、リリィも伴って信長についていく。

 

店に入ってみれば、ごくごく普通の楽器屋だった。店内BGMすら流れている。

そして棚にはいくつもの洒落た楽器が並べられていて。信長は……強化ガラスを蹴り破って、この店の弦楽器の中で一番値の張る物を取り出した。

 

 

「うむ、これがよい」

 

「ギターだな。……それがどうかしたのか?」

 

 

やりたいこと、とは何なのか。今一理解できていないアルトリア二人。信長はピックを持って一つギターを鳴らし……光に包まれた。

 

 

「わしの魔王のスキルをもって、自分の霊基をちょちょいのちょいっ!! ってすれば……」

 

 

その変身は一瞬で。信長はクソダサTシャツを身に纏い、手には何かオシャレなエレキギターのようなナニカを持っている存在……バーサーカーにクラスチェンジしていたのだ。

 

 

「これにて変身完了!! 渚の第六天魔王、ノブナガ・THE・ロックンローラーじゃ!!」

 

「……渚の?」

 

「いや、何となく言いたくなったのじゃ。それより、そなたらもロックンローラー、ならぬか?」

 

 

バーサーカー、織田信長。彼女はどういうわけかロックンローラーに目覚めてしまっていた。そしてアルトリア二人を勧誘する。

 

 

「なるわけが無いだろう……そもそも私達は騎士だ。楽器などろくに触れたことは……」

 

「はい、残念ですけど……」

 

 

当然拒否。しかしそれも知ってたて言わんばかりに信長はニヤニヤしている。そして彼女はギターみたいな何かでサクッとショーケースを破壊してトランペットとドラムのスティックを取り出した。

 

 

「心配はいらぬ。ロックはフィーリングじゃからのう!! 何にせよ、何かあったときの為に武器は必要じゃろう? ほれ」

 

 

そう言って己のスキルで強引に楽器を変質させた物を押し付ける信長。やっぱり二人は当然戸惑う。

 

 

「これは……トランペット、ですか? その、私はこれ吹けないんですけど……」

 

「大丈夫大丈夫、何とかなるようにしておいた」

 

「……ドラムの、スティック、だと……?」

 

「何となく槍っぽいじゃろ?」

 

「いや、全く」

 

 

しかし今は、これ以外に武器がある訳でもない上、一応楽器なので武器として扱われず、見えない誰かに取り上げられる何てことも無い。アルトリア二人は仕方無くバンドマンと化し、ここに一つのロックバンドが生まれた。

 

 

「と言うわけで、これにてバンド成立じゃな!! 名前どうする?」

 

───

 

「姉上~姉上~」

 

 

そしてその信長を平和な街に投げ込んだ信勝はと言えば、出撃前の元気チャージと称して先程信長を安置したベッドのある部屋にやって来ていた。

 

 

「……姉上?」

 

 

しかし、ウッキウキで部屋を覗いてみれば、そこには何もなくて。部屋を間違えている訳でも無く、移動させたという張り紙も無い。

 

 

「えっ、姉上どこ……ここ……?」

 

 

信勝は思わず震え始めていた。プルプルしながら即座にちびノブ……の結局勝手に作った新作の一つであるノッブUFOを呼び出し走らせる。

 

 

「ファースト・マスターを呼んできて!!」

 

「ノブッ!!」

 

 

廊下を高速で飛んでいくノッブUFO。それは直ぐ様ファースト・マスターの元に辿り着き、彼女を連行して戻ってきた。

 

 

「ノッブ!!」

 

「……どうしました?」

 

「……あっ、ファースト・マスター!! あの、ここに寝かせておいた姉上がいないんですけど!?」

 

 

唾が飛ぶのも気にせずに食いかかる信勝。ファースト・マスターは非常にめんどくさそうな顔を少しだけしてからすぐに微笑み、信勝にゆっくりと答える。

 

 

「……大丈夫ですよ。あなたのお姉さんは安全な所に移してあります。ほら、早く準備をして下さい。貴方にはお姉さんとかのサーヴァントの宝具を擬似的に譲渡させてあるでしょう?」

 

「姉上は、本当に安全なんですか!?」

 

「ええ……貴方が理不尽と戦い続ける限りは」

 

───

 

「……ふぅ……」

 

 

黎斗はパソコンに突っ伏していた。まだ数時間も立っていないのに、おともの体は何時もより疲労が溜まってしまうのだろう、指があまり動かない。

 

 

「くそ……ネロめ……」

 

「まあ、そう怒らないでくれ、マスター。ネロも立派な戦力の一つだ」

 

「そうよ、ぶつぶつ言ってると楽しくないわ」

 

 

雑魚寝するエリザベートとネロの隣で立っているジークフリートと、黎斗が小さくなったので膝に座れず立っているナーサリーが口々にそう言った。

黎斗も何だかやる気も少なくなってきて、椅子にもたれる。

 

 

「チッ……私も、少し休もう。ナーサリー、張っておいたセンサーに変化は?」

 

「無いわね。……お休みなさいマスター。いい夢を」

 

 

そうして黎斗は眠りについた。疲労も溜まっているのだ、暫くは動くことは無いだろう。

 

───

 

「ごめんねクーちゃん、さっきはついついムラっとしちゃって」

 

「しっかりしろよ、チー鱈ぶつけんぞ。お前が俺に集中したせいで対人宝具のターゲットが変わって、あいつらは脱出できたんだからな」

 

「分かってる……気をつけるわ」

 

 

そして、雪に溢れた大地を戦車で抜けて走っていたメイヴとそのおともクー・フーリン・オルタはと言えば、ファースト・マスターが動き始めたことを既に察知していた。

 

 

「……ところで、例の軍団がとうとう動き始めたらしいぞメイヴ」

 

「そう……私達は私達で独自のルートを探ろうとしてたけど、先を越されちゃったか」

 

「諦めるのか?」

 

「まさか。私は蜂蜜禁誓系魔法少女コナハト☆メイヴ。私が一番で私が幸せな国を何としてでも作ってやるんだから」

 

 

そう言う彼女の手にはもういくつもの宝石が。これだけあればファースト・マスターの所に行くのは簡単なのだが、メイヴはそうはしない。

 

 

「普通の魔法少女達みたいにファースト・マスターに消されるのも、アルテラみたいに擦り寄って道具として使い潰されるのも、真っ平御免よ……!!」

 

「そう言うと思っていたさ……好きにやれ」

 

 

戦車は走る。ひたすらに走る。その乗り手は瞳の中にサーヴァントの一団を捉えて。

 

そのサーヴァントの一団の方も、迫り来る魔法少女に身構えていた。

 

 

「……魔法少女、接近!! 確実に敵対している体勢だ!!」

 

 

見張りをしていたジェロニモが叫ぶ。シータが咄嗟に矢を射るが、向こうには全く効いている様子がない。

 

 

「……どうしますか?」

 

「当然、打ち破る!!」

 

 

ラーマは剣を抜いてシータに並び立った。ジル・ド・レェとファントムも交戦の意を示している。

接触まであと300メートル。ファントムが隣のジル・ド・レェに声をかけた。

 

 

「……クロスティーヌには怒られるでしょうが、あれを使ってはどうです?」

 

「そうですねぇ……お許し下さい(黎斗)よ。私の涜神をご覧あれ!!」

 

 

そう言って取り出したのはプロトドラゴナイトハンターZ。……黎斗と共に戦った結果、ジル・ド・レェの新たな装備として扱われるようになった存在。

それは光をボディに纏い、四つに分裂する。

接触まであと200メートル。

 

 

『クロー!!』

 

『ファング!!』

 

 

ジル・ド・レェとファントムはそのガシャットを手に取り電源を入れていた。残りの二本は、ラーマとシータの前で回りながら浮いている。

二人は恐る恐るそれを手に取り。

 

 

「さあお二人とも、電源をお入れ下さい」

 

「……分かった、これを使うんだな?」

 

『ブレード!!』

 

「本当に大丈夫なんでしょうか……まあ、やりますけど」

 

『ガン!!』

 

 

残り100メートル。ジェロニモは既に近くの木の上に待避していた。

迫り来る戦車に向かい立った四人は、同時にその体にガシャットを突き立て。

 

 

「「「「変身!!」」」」

 




仮面ライダー轟鬼(水着)
仮面ライダー威吹鬼(リリィ)
仮面ライダー響鬼(オルタ)


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魔法少女の夕暮れ

 

 

 

 

「はあ、はあ……どうやら間に合ったらしいな」

 

「そうですね……!!」

 

 

アヴェンジャーとイリヤが、ルビーによって導き出された座標の元に辿り着く。そこには予想通り、黎斗と共に発ったジークフリートとナーサリーが立っている。

 

 

「ああ、良かった。敵だったらどうしようかと思ってたけど、貴方達なら安心ね」

 

「見知らぬ人もいるが……恐らく味方だろう?」

 

「ああ。……マスターは何処だ。オレにはエリザベートと、何故かいるネロと、黎斗をデフォルメした人形しか見えないが」

 

 

そう言うアヴェンジャー。まさか彼は、そのデフォルメした人形が黎斗本人だなど思ってはいない。思える訳がない。

しかし現にそうなっているのだ。黎斗は一つ伸びをして起き上がり、ふわふわと浮きながらアヴェンジャーに近づく。

 

 

「無事だったかアヴェンジャー。……私が檀黎斗だ」

 

「は?」

 

「ふぇっ!? いやいやいや、黎斗さんって確か……」

 

「ああ、ボディは生物学的には確かに人間だったんだが……いつ人間を辞めた?」

 

 

顔を見合わせるアヴェンジャーとイリヤ。ルビーは何か察しているらしくアヴェンジャーの手の中でプルプル震えたが、再び握り潰された。

 

 

「アヴェンジャー……そっちは、魔法少女か?」

 

「あ、はい。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。……魔法少女やらされてます……」

 

 

名前を聞かれたので、イリヤは目の前の不可思議生命に取り合えず返事する。その不可思議生命は暫く唸り、そして再びアヴェンジャーに目を向けた。アヴェンジャーは黎斗に問う。

 

 

「それにしても、その格好は一体どうした? それじゃあ、まるで……」

 

「まるでおともだ、だろう? 実際、おともなのだよ。……そこで寝ている奴に無理矢理こうされてだな」

 

「……ネロか」

 

 

黎斗の返事にアヴェンジャーは苦笑いしながら、眠りこけるネロを見た。いや、魔法少女ネロ☆クラウディウスと言うべきだろうか?

 

 

「……おともと言えば、イリヤスフィールのおともは?」

 

 

黎斗が何気なくそう言う。アヴェンジャーは手を握る力を少しだけ弱めて拳を突き出して。

 

 

「……コレだ」

 

 

そう言って、アヴェンジャーは手を広げ、弱ったボウフラのように蠢く黒い棒を見せつけた。

黎斗はその凄惨な有り様に絶句し、その棒に何があったのかを軽く察して何とも言えない表情をしていた。

 

───

 

その頃。

 

 

「行くわよ行くわよ!!」

 

 

魔法少女コナハト☆メイヴを相手に、ラーマとシータ、そして二人の魔法少女四天王が交戦を続けていた。

メイヴは勢いに任せて戦車を暴走させ、敵対者達を撥ね飛ばそうとしている。

 

 

「くぅっ、存外に速いな……でも。シータ、宝具を!!」

 

「ええ。追想せし双竜弓(ドラゴナイト・ジャナカ)!!」

 

 

ラーマの合図でシータが宝具を構えた。

弓から二体の竜が射出され、戦車で特攻を行うメイヴの戦車を貫く。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「今だ!! 偉大なる竜の腕(ドラゴナイト・パージュー)!!」

 

地獄にこそ響け竜の愛の唄(ドラゴナイト・クリスティーヌ)!!」

 

 

そして戦車から転げ落ちたメイヴにラーマとファントムが攻撃を浴びせ、彼女をだんだんと追い込んでいく。

戦闘開始からまだ時間は経っていない。ガシャットは、それだけ決戦力を持った兵器だった。

 

 

「くぅっ……クーちゃん助けて!!」

 

 

思わずその名を呼ぶメイヴ。しかしそのクーちゃんの方も、簡単には身動きの取れない状況で。

 

 

「ぐっ……暫く無理だ」

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

「チィッ……鬱陶しい」

 

 

ジル・ド・レェから飛び出した爪の生えた触手が、おともであるクー・フーリン・オルタを狙って降り注いでいた。

本来なら槍の一振りで全て引きちぎられていただろうそれは、おともの姿であるクー・フーリンにとっては確実に驚異で。

 

 

爆ぜ喰らう甘牙の幼獣(アマガミ・コインヘン)!!」

 

「甘いですねぇ!!」

 

 

反撃にと投げつけた槍も触手の壁に阻まれる。ジル・ド・レェはガシャットの力もあって、一人でおともを押さえつけることに成功していた。

 

───

 

「やっと観測が安定して出来るようになったと思ったら……」

 

 

ロマンは数百に渡る計算の末特異点の移動のパターンを解き明かし、漸く安定した特異点の観測を行えていた。

映っているのは、メイヴとサーヴァント達の戦闘だ。……はっきり言って順調その物だった。マシュが居なくても、このカルデアは十分人理修復が可能、という事を示していた。

 

 

「……でも、やっぱり凄いんだよな、ガシャット。……普通のサーヴァントに、もう用は無いってくらい」

 

 

そう言いながら彼はモニターから離れ、未だ眠っているマシュの元に赴く。

 

 

「なあマシュ。早く起きなよ。もうボクは君を止めないから。止められないから。だから……せめて、眠ったまま消滅ってだけは、止めてよ」

 

 

そう言ってみても返事はなく。

……仮に順調に特異点が見つかり、これまでのペースで特異点を攻略できたとしても、彼女の命は第七特異点で確実に尽きる。そして彼女が寝ていたとしても、タイムリミットは容赦なく近づいてくるのだ。

 

 

「……大丈夫かい?」

 

「ああ、ダ・ヴィンチ……それは?」

 

 

感傷に浸っていたロマンに、ダ・ヴィンチが声をかける。彼はその手に幾らかの道具を持っていて。

 

 

「……結局、私がガシャット関係の物を何か改良しようとする度に気絶するから……なんにも変更せずに、バグヴァイザーL・D・Vの二つ目を作った。で、余った資材でガシャットには依らない追加装備を幾らか」

 

 

そう言って手近な台にバグヴァイザーを置く。残りの見慣れぬ道具をロマンは手に取り、ついているタグを読んだ。

 

 

「……無限ガンドシステム搭載銃に? ルールブレイカーモード付きの短剣?」

 

「黎斗の物とは比べないでくれ、見劣りするのは分かってるから。何しろ私には材料が無かったんだ」

 

 

確かに、ガシャコンマグナムやガシャコンカリバー等と比べてしまえば見劣りする。ロマンはそう思い小さく頷く。ダ・ヴィンチは寂しそうに笑って続けた。

 

 

「……認めるよ。私がガシャットやバグヴァイザーに関われるのは、きっとここまでだ。もうこれ以上の研究をするのは危険だし、それが出来る余裕も無い。今まで何かしようとする度に気絶していたけど……多分、抑止力か何かの影響なんじゃないかな、とか思い始めたしね」

 

「人理焼かれてる状態で抑止力がすることがそれって言うのもおかしな話だけど……うん。出来れば、ガシャットには関わらないでくれ。きっと、抑止は君にカルデアのサポートを望んでるんだよ」

 

「ハハ、それならそれで……稀代の天才ダ・ヴィンチちゃんはまだ必要とされている訳だ。私の出番は黎斗に奪われてはいない訳だ」

 

 

そう言いながらロマンに背を向け歩き始めるダ・ヴィンチ。最初に彼を見たときと比べれば彼の背中は酷く小さく見えたが……ロマンはそれでも、黎斗よりはずっと頼もしく見えた。

 

 

「……じゃあ、ボクはマシュの面倒を見ながらタイミングを見計らって特異点に通信を入れてみるよ。君は、くれぐれも気絶しないように、ね」

 

「うん……マシュをよろしく」

 

───

 

そして、ファースト・マスターの作り上げたサーヴァントの大群は、今すぐにでも特異点の大地に舞い戻ろうと構えていた。

それぞれが武勇やら魔法で名のある英雄であるサーヴァント、その中でサーヴァント擬きである信勝も銃をとる。

 

 

「……僕が姉上を守ります。姉上の火縄と、この風の鞘で」

 

 

彼に与えられた宝具は三つ。信長の三千世界(さんだんうち)とアルトリアの風王結界(インビジブル・エア)、そして……彼には扱えないが一応もたらされた勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

彼はその剣を背負い、日本刀を引き抜いて構える。既に出撃の用意は整っていた。

 

穴が開く。ファースト・マスターの命の元、彼女に望みを叶えられたサーヴァントは、彼女の為に戦いの火蓋を切り落とす。

 

───

 

「マスター!! むこう、むこう見て!!」

 

「ん? ……サーヴァントが、落ちてきている、だと? しかも複数……いや、大群!?」

 

 

それは、アヴェンジャーと情報を交換していた最中の黎斗にもはっきりと見てとれた。

サーヴァントの雨。それは空から降りてきて地に足をつけ、全方位に出撃する。当然、黎斗達の方向へも。

 

 

「……どうやら、穏やかじゃない事になったようだな。おい、起きろエリザベート、ネロ」

 

「う、うーん……あと5分……」

 

「今すぐサーヴァントてしての契約を解除してあの敵軍に投げつけても良いんだぞ」

 

「起きまぁす!!」

 

 

黎斗の脅しで跳ね起きるエリザベート。ネロも一つ伸びをしてから起き上がり、その剣を迫り来るサーヴァント達に向ける。

 

 

「見たところ……ああ、こちらに来るのはサーヴァント五体。蹴散らせ」

 

「分かってるわよマスター!!」

 

「ああ、行くぞ……」

 

 

黎斗の声で真っ先に走り出すナーサリーとジークフリート。

 

 

「行くぞエリザベート!! 余についてこい!!」

 

「ええ、行くわよネロ!!」

 

『マジック ザ ウィザード!!』

 

 

ネロとエリザベートもキャスターとなった状態で相手に挑んでいく。

そしてアヴェンジャーはイリヤの前の地面にルビーを突き刺して言った。

 

 

「じゃあ行ってくるが……くれぐれも、ルビーには触るなよ。お前も毒される」

 

「はいぃ……あ、気を付けてくださいね」

 

「くははは、無論だ!!」

 

 

そして彼も駆け出す。

残されたイリヤに、黎斗がガシャコンマグナムを押し付けた。

 

 

「援護射撃を開始する、君も手伝え」

 

 

そう言う黎斗は浮きながらビームガンモードのバグヴァイザーを構えていて。イリヤは彼に並び立ち、トリガーを引いた。

 

───

 

「うーむ、結局壁を突き破ることは出来なかったのう……ここ、何かの結界なんじゃなかろうか」

 

「かもしれませんね……でも、そのギターっぽい何かで壁の厚さとか分かるんですね」

 

「ああ、なんか出来たようじゃったが、わしにも仕組みはよう分からん。取り合えずこれの刃を壁に突き立てて掻き鳴らしてみたら厚さが画面に表示されとった。存外ハイテクなんじゃなこれ」

 

 

信長と二人のアルトリアは、そう言いながら街の北側の壁から離れていた。残すところは見かけは割と大きな城のみ。

 

 

「だが、どうやって侵入するんだ? 壁の類いは一切の破壊が出来ないが」

 

「そうですよね。信長さんのギターの刃も、オルタさんのスティックの切っ先も、壁に刺さらず、刺さっても数㎝で止まってしまいます」

 

 

ここまでの探索で分かったことは、ここは狭い城下町で、物理的には建物の破壊は不可能で、そして衣食住には困らず人がいないことを除けばある種の楽園だった、という事だった。

 

 

「全く、信勝の奴め、本当に余計なことを……」

 

「ええと、信勝さんが信長さんをここに連れてきたおとも……でしたよね」

 

「ああ、本当に、あの馬鹿……何も言わずにこんなことにしおって。どうせ『これで織田の柵から解き放たれて楽しく過ごせますよ!!』……とか思っておるのだろうよ」

 

 

あまりの楽園っぷりにそう呟く信長。あまりに静かなその楽園は、彼女の目には寂しい廃墟にしか映らない。

 

 

「……真田エミ村は私達を生かすためにここに入れた。だが私にとっては、私達にとっては、ここにただ幽閉されるのは死よりも許せない。故に、私達はお前と共に行く」

 

 

スティックを回しながらオルタの方のアルトリアがそう言った。

 

城は近い。この空間から抜けるための戦いは、まだ始まってすらいないが……彼女らの決意は、既に固まっていた。

 

───

 

そして、メイヴとの戦闘も終わろうとしていた。

 

 

螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)

 

   シュルシュル

 

「くっ……この、離しなさいよ!!」

 

 

戦車を失い地に転げ落ち、その果てにジル・ド・レェの触手に縛り上げられるメイヴ。既におともは力尽き消滅している。

もう躊躇うことは無い。ラーマとシータが彼女に向けて剣をつがえた。

 

 

「「覚醒・羅刹を穿つ神竜(ドラゴナイト・ブラフマーストラ)!!」」

   カッ

 

 

炎がメイヴを一閃する。

魔法少女は瞬く間に焼きつくされ……後には、無数の宝石だけが残された。

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノブ」

 

 

ノッブUFOが空を走る。ノブ戦車が地を駆ける。

出撃して南に走った信勝は、既に幾らかの魔法少女を物量で殲滅していた。この瞬間にも、魔法少女マタ☆ハリに止めを刺している。

 

 

「止めて……お願い、殺さないで……!!」

 

「ごめんなさいね。貴女を殺さないと、僕の大切な人が死ぬんです。風王結界(インビジブル・エア)、展開……三千世界(さんだんうち)!!」

 

   ズドンッ

 

「きゃあっ……!?」

 

 

信勝に力はあまり無い。というか素の力はちびノブと同程度だ。しかし、三千世界に風王結界を纏わせて不可視の弾丸を放つことで、相手の目の前に居ながらにして奇襲を成し遂げていた。

 

 

「魔法少女、四人目……!!」

 

 

時は夕暮れ、空は茜色になっている。

その空を見上げることもせず、オレンジに光る宝石を拾い上げる信勝。

彼の目は、ただただ決意で満ちていた。

 




サーヴァント擬き、織田信勝
クラスは多分アサシン
☆は多分3

カッツ実装はよ


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荒波からの撤退戦

 

 

 

鮮血特上魔嬢(バートリ・ハロウィン・エルジェーベト)!!」

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

『Noble phantasm』

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

黎斗達のグループは、迫り来るサーヴァントを相手に戦闘を続けていた。

始めのうちこそ順調だったが、敵は全員謎のバックアップを受けたサーヴァント、しかも大量ということもあって、一行は疲弊し始めていた。

 

 

「……流石に連戦はつらいわぁ。お水頂戴、お水!!」

 

「余の喉もカラカラである……!!」

 

 

そう呻く自称アイドル二人組。二人の声は何だかんだで優秀な殺人兵器なので、ここで失うのは地味に大きな負担と言える。

 

 

「くそっ……二人とも退け!!」

 

「む、かたじけない……」

 

「水分補給しなきゃ……!!」

 

 

そう判断した黎斗が、バグヴァイザーから光弾を乱発しながら二人にそう指示を出した。敵のサーヴァントの勢いがますます強まってくるのが目に見えて分かる。

 

 

「くそ……!!」

 

「はぁ、はぁ……これ、いつ終わるんですか?」

 

 

隣でガシャコンマグナムを構えるイリヤも汗だくで荒い息をしていた。この調子ではしばらくも持つまい。

……そして、間の悪いことに、サーヴァントの数が更に増え始めた。黎斗は再びビームガンを構えるが……呆然として下ろす。

 

呆れるほどに数が多かったのだ。残り十五程度だったサーヴァントが、いつの間にか二百もの数に膨れ上がっていたのだ。

 

 

「……おい、何か一気に……二百もの軍が押し寄せてくるが」

 

「……退却!!」

 

『爆走バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

黎斗は諦めた。そして爆走バイクとシャカリキスポーツを起動し、彼自身はナーサリーを取り込んでバイクゲーマに飛び乗る。

とてつもなく嫌だったが、後ろにネロが乗ってきたのを確認して、彼はゲーマを発進させた。

その隣ではジークフリートがスポーツゲーマにまたがり、エリザベートを後ろにのせてペダルをこぎ始める。

 

 

「わ、私は……」

 

「逃げるぞイリヤスフィール」

 

『Noble phantasm』

 

「捕まっておけ。虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

そして、置いていかれてあたふたしていたイリヤを、アヴェンジャーが抱えて走り出した。……一応その手にはボロボロのルビーも持っていた。

 

 

「ぐぅ……この体だと運転しにくいか……うわぁっ!?」

 

 

五頭身だとハンドルが上手く掴めず唸る黎斗。ちらっと後ろを見てみれば、羽織のサーヴァントの大群が波のように折り重なって、バイクゲーマの後ろのすぐ近くまで迫ってきている。

 

 

「うむ、余に運転を変わるがよい!! これでも騎乗スキルはBだからな!! ライダーの適性、あるしな!!」

 

「ばっ……腰を掴むな!?」

 

 

見るに見かねたのだろう、後ろにいたネロがひょいと黎斗を持ち上げて小脇に抱えハンドルを握った。突然おかしな体勢にされた黎斗は暴れるが、サーヴァント相手にはお供はあまりにも非力。

しかも悔しいことに、羽織のサーヴァントからはどんどん距離を離している。

 

 

「っ……やはりあのバーサー看護婦に破壊されたゲーマの修理を優先すべきだったかぁ……!?」

 

 

コンバットゲーマが治っていたらそれに乗って飛んで移動したのに……そう考えても後の祭、黎斗はネロの脇に抱えられて走る他無かった。

 

───

 

「ちっ……逃げられたか」

 

 

それから暫くして。

黎斗をひたすら追いかけていたサーヴァント達の呼び手である土方は、己の宝具である誠の旗(まことのはた)を殆ど解除し、一人だけ消えずに残って隣に立つ沖田にそう言っていた。

 

 

「もう、本当にズルいですよあれ!! あの乗り物速すぎます!!」

 

「お前は縮地があるだろう……あ」

 

「……吐血しました」

 

「……そうか……」

 

 

赤いものが垂れる口を吹きながら苦笑いする沖田。土方はやれやれと言わんばかりに肩を竦め、遠くを見る。

近くの敵は粗方始末し終えたらしかった。

 

 

「それにしても……あれだけ揃うと、やっぱり懐かしいですね」

 

「……そうだな」

 

 

土方は、昔を懐かしむ沖田の声に反応するように誠の旗を見やる。

関係ない人間から見ればただの旗だが……それは新撰組の信念であり象徴として、新撰組全ての隊士の中にあり続ける物だった。

 

 

「これには全てがある。近藤さんもいる、斉藤も武田も原田もいる……お前もいる」

 

「土方さん……」

 

「……俺がいる限り誠の旗は不滅だが……」

 

 

土方はしみじみとした様子でそこまで言って、ふと、思い止まったように口をつぐんだ。

そして彼は沖田も旗に戻し、次の魔法少女を探して歩き始める。

 

彼の目は虚ろだった。それがファースト・マスターとの契約の証。ファースト・マスターと共に戦う義務を持つ証拠。

その瞳に映る理不尽を、彼は何があろうと破壊しなければならなかった。

 

───

 

「……いたずらコヨーテ君(ツァゴ・デジ・ナレヤ)で移動できるのはここまでだ」

 

 

その頃。

やはり多くのサーヴァント相手に逃走を選択したラーマ達は、ジェロニモの宝具であるコヨーテを酷使してここまで逃げ延びていた。

 

 

「ありがとうジェロニモ、そしてコヨーテ……にしても、サーヴァントの大群とはまた大変だな」

 

「そうですねぇ。あれだけいれば流石に物量で押し潰されますぞ。ええ」

 

 

怒濤の勢いで迫ってくるサーヴァントの波を思い出して震えるジル・ド・レェ。呼び出した海魔が打ち破られていく様は恐怖でしかなく。

 

 

「ええ。あれを打倒するのは我々には不可能……纏めて葬ろうにもすばしっこくて敵いません」

 

「そのようだったな。全方位からの攻撃に対して完全に対応するのは不可能だ」

 

「だがここで止まっている訳にもいかないだろう。……でも、今日はもう遅い。明日、黎斗を探し出そう。サーヴァントの軍団を倒すのはそれからだ」

 

 

ラーマがそう纏めた。現在は敵性サーヴァントの気配は失せている。

取り合えず先の戦闘で少なからず負傷した体を休めようと彼らが横たわった、その時だった。

 

 

『あ、あー、聞こえる?』

 

 

カルデアから漸く通信が入ったのだ。

モニターにロマンの姿が浮き上がる。

 

 

「その声は、ロマン殿ではありませぬか!!」

 

「ロマニ・アーキマン……相変わらず惹かれぬ声ですね」

 

『うっ……出来れば君たちとは会いたくなかったなぁ』

 

 

懐かしげに飛び付くジル・ド・レェとファントム。ロマンは彼らに曖昧な笑みを返し、彼らの後ろにいるラーマに声を投げ掛けた。

 

 

『連絡が遅れてごめん。漸く安定した通信が出来るようになった……で、報告だ。檀黎斗の現在の居場所のデータが取れた。今からそっちにこの特異点の地図を転送する』

 

「本当か!?」

 

『ああ、本当だ』

 

 

一枚の地図が地面に落ちる。ラーマがそれを拾い上げてみれば、この特異点の地図らしき物に赤と青の×印が一つずつ映っていて。

 

 

『受け取れたね。青い×印は君達、そして赤い×印が現在の黎斗の居場所だ。今夜はそこにキャンプを敷くらしいね』

 

「じゃあそこに行けば……」

 

『勿論、黎斗達と合流できる』

 

───

 

そしてその黎斗達は、数多のサーヴァントを振り切って漸く安全な場所に辿り着いていた。手早く簡素なキャンプを設置し、そこで夜を越すつもりだった。

 

 

「全く、散々な目に遭った」

 

「余の運転を心行くまで味わえて満足であろう?」

 

「ふざけるな」

 

 

バイクゲーマを手入れしながら黎斗がネロに悪態をつく。

事故こそ起こさなかったが彼女の運転は乱暴そのもので、黎斗は脇に抱えられている間はずっと埃まみれだったのだから、無理もない話だった。

 

その隣では、顔を青くしたイリヤが口を押さえて踞っている。

 

 

「うっ……うっぷ……」

 

「……すまなかった。調子に乗って虚空を走ったのはやり過ぎた」

 

 

アヴェンジャーはそう言って頭を下げていた。ルビーは丁寧に埋めてあった。

 

 

「……どうやらサーヴァントはこの辺りまでは来ていないらしいな」

 

「そうみたいね……でも遠くで誰かの声が聞こえるわ」

 

「……緊急時に備えて、交代で起きるようにしなければな」

 

 

ジークフリートとエリザベートは辺りを見回しながらそう言っていた。

夜が深くなる。今日も今日とて疲弊した彼らは、殆どが倒れ込むようにして眠りについた。

 

───

 

その頃、信長達はと言えば。

 

 

「ふむ……」

 

「さて……困ったのう」

 

「ええ……ビクともしません」

 

 

城の壁を破壊しようと試みて、そして挫折していた。

 

 

「ある程度分かりきってはいたが……どうやらここでは『破壊』という行為が禁止されているのだろう。困ったことだ」

 

「でもそれなら、ここから出られません……壁を登ろうとしても何かに阻まれてしまいますし」

 

 

トランペットをもて余しながらリリィが首を傾げる。

脱出方法はあるのだろうか。登っても掘っても出られないこの楽園という名の監獄から、果たして出られるのだろうか。もしかすれば逃げることは不可能なのではないか。そう思えた。

 

 

「どうしよう……」

 

「うーん、もうわし疲れた、今日は寝る!! オヤスミー」

 

 

暗くなるリリィの隣にいたはずの信長はもう疲れてしまったらしく、近くの壁にもたれ掛かって寝息を立て始めていた。

 

───

 

時は既に深夜だった。月は高く昇る段階を過ぎ、もう傾く段階に入っている。

それでも、そんな夜中でも、サーヴァント達の魔法少女狩りは終わらない。終われない。

 

 

「ノブノブ!!」

 

「ノブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「マハトマをすっごく感じるけど……ちょっと今は逃げなきゃ駄目かしら!?」

 

「勿論駄目に決まっているだろう!!」

 

 

信勝の操るノッブUFOが追跡しているのは、少女魔法導師マハトマ♀エレナ。そしてそのおともであるエジソンだ。

 

 

「アル、何とかならない!?」

 

「今は取り合えず逃げるんだエレナ君!! 撃退するには距離が詰められ過ぎている!!」

 

「アルぅ!?」

 

「ノッブノッブ」

 

「ノノノ!! ノッブ!!」

 

 

ノッブUFOは隙を見ては二人の頭上に移動しキャトルミューティレーションを発動して彼らを拘束しようとしていた。宝具か何かを使って反撃をしようにも、どうにもそれが出来る隙がない。

そして追い込まれた彼女らの目の前に、先回りした信勝が立ちはだかった。

 

 

「これで終わりです、風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

「くっ……!?」

 

 

エレナに向かって暴風を纏った日本刀を振りかぶる信勝。その刃を前にして、反射的にエレナは目を閉じて踞る。

次の瞬間に彼女が肌で感じたのは、視界を介すことなく伝わる痛いほどの光で──

 

───

 

「……はい、そうですか」

 

 

ファースト・マスターは一人、居城の部屋に座って独り言を呟いていた。

 

 

「分かりました、では、そのように……」

 

 

いや、独り言ではない。彼女はうわ言のようにブツブツと呟いているが、それは魔力を利用して遠くの()()()()()に対して言葉を届けているという事だった。

 

 

「はい、ええ……そうですか。……何としてでも、変身させるな?」

 

 

ファースト・マスターはスポンサーと会話する。

彼女は盲目的に、彼が己の仲間だと信頼していた。

 

 

「分かりました。では」

 

 

通話が切られる。対話は遮断される。

ファースト・マスターは天井を見上げ、スポンサーに要注意人物として伝えられた者に思いを馳せた。

 

 

「……檀黎斗」

 

 

思わず口から言葉が漏れる。

 

彼女は気づいていなかった。

姉の安否を確認するため信勝が放った一体のノッブUFOが、彼女の会話を盗聴していたなど、気づきようも無かった。

 

 

「……ノッブ!!」




信じられるか?
これ、まだ二日目なんだぜ……?


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本拠地への特攻、開始

 

 

 

 

「さて……漸く全員揃ったか」

 

 

既に日はある程度昇っていた。

黎斗はラーマとシータとジェロニモ、そしてジル・ド・レェとファントムと……更に増えた二人組と合流する。

 

 

「……で、何故お前達がいる」

 

 

その更に増えた二人組に向けて、黎斗はそう言った。

彼らは、黎斗にとっては先日倒したばかりのなるべく会いたくなかった存在で。

 

 

「仕方無かったのよ……襲われて怪我して身動きとれなかったのよ」

 

「うむ。仕方無かった」

 

「そんな感じだった彼女らを余が拾った。負傷していたようだったからな」

 

 

ブラヴァツキーとエジソン。先日戦闘した存在。黎斗は当然彼女らを警戒していた。

 

 

「そうか……何故負傷した?」

 

「……例のサーヴァント軍団にやられたのよ」

 

「……ほう。君達は、私達に本当に協力するのか?」

 

「ええ。……そうしなければ、私達のあの戦いは無かったことになる」

 

「成程」

 

 

しかし、ここでは戦力は多い方が良い。黎斗はそう判断し二人を迎え入れる。そして作戦を立て始めた。

 

 

「……さて。ジェロニモ、この特異点の根本を叩くにはどうすればいい?」

 

「……上の人。この特異点を形成した本人に辿り着く必要がある。そしてそこへ行くには魔法少女の落とす宝石が必要だ」

 

 

促され、ジェロニモがそう語る。黎斗は自分の持つ数少ない宝石……メディカル☆メディアのドロップした物と自分の契約する魔法少女達の物、合計して三つのそれを取り出した。

 

 

「現在の宝石は……私達の三つ、そしてお前達が……」

 

「……二十八だ。だがこれだけ使っても、全員が通れる穴を開けられるかどうか」

 

 

ラーマもそう言いながらコナハト☆メイヴ等から奪った宝石を黎斗に差し出す。黎斗はそれらを見て少し俯き、そして再び話を始めた。

 

 

「……なら戦術を変更しよう。全員で突入するのはやめだ」

 

「……?」

 

「二手に分ける。例の上の人とやらの所に襲撃をかければ、地上にいるそいつの配下のサーヴァントが戻ってくるだろう、それを足止めする部隊を設置する」

 

「……なるほど」

 

 

黎斗はそう言って、第二戦術の詳しい説明を開始する。

 

 

「私とナーサリーとネロ、ジル・ド・レェとファントム、ブラヴァツキーとエジソン、そしてジェロニモが宝石で穴を開けて潜入して、残りは地上でサーヴァントの足止め。特に複数のサーヴァントを召喚するタイプのサーヴァントは何としてでも食い止めろ」

 

「何故その面子なんだ?」

 

「……不愉快だが、ナーサリーとネロは私の契約している魔法少女だ」

 

「酷いのだわ!!」

 

「うむ、余は悲しい!!」

 

 

そう言いながら黎斗の隣に移動する二人。黎斗は次にジル・ド・レェとファントムを指差した。

 

 

「ジル・ド・レェとファントムは前にサーヴァントとして扱っていたから動かしやすい」

 

「おお我が主よ、お褒めに預かり恐悦……」

 

「クロスティーヌ、我が主、クロスティーヌ、我が同胞よ。共に戦えて、私は嬉しい……」

 

 

かつて黎斗のサーヴァントとして戦った二人も黎斗の近くに歩いていった。黎斗としても彼らは安心して扱える便利な戦力として捉えていたこともあって、彼らの存在は有り難いものだった。

 

 

「ブラヴァツキーとエジソンは裏切られる事を考慮すれば手元から離すのは些か不安がある」

 

「まあ、それは仕方無いわよね」

 

「うむ。私も不愉快だが、ここは彼についていこう」

 

 

第五特異点で対立したブラヴァツキーとエジソンが、いかにもしぶしぶと言った様子で黎斗に近づいていく。

実際二人は出来ることならアメリカだけでも救いたいとも思っていたが、こうなってしまってはカルデアに助力して人理を救ってもらうしかない、とも考えていた。

 

 

「そしてジェロニモは宝具での撹乱を行ってもらう。全体的に見れば大勢相手の戦闘は苦手なグループ、という事もあるな」

 

「なるほど……」

 

 

最後に、ジェロニモが黎斗の隣に寄る。

こうして、おとも三体、魔法少女三人、変態二人のチームが完成した。そして彼らは立ち上がり、全ての宝石を掲げて敵地への穴をこじ開ける。

 

 

「それじゃあ、行くか」

 

「そうだな……そっちも、足止めを頼むぞ」

 

 

見送られ、穴へと一歩足を踏み出す。振り返ってみれば、残されたカルデアのサーヴァント達は既に地上のサーヴァントとの戦いに備えていて。

 

そして、ミッションは開始される。

 

───

 

「ここは……城か?」

 

 

敵地へと舞い込んだ黎斗は、最初に見つけた日本風の城を見て絶句したように目を開けた。

何故日本風なのか、何があったんだ……そうは思うが、ここで考えていても仕方がない。

 

 

「……とにかく、探索を開始する。適当な入り口か、なければ侵入できそうな城壁を探すことにしよう」

 

 

黎斗はそう言って歩き始めた。

 

 

「随分と豪勢な御一行だな。宝石を見せてもらおう」

 

「……やはりお前は門番をやっているのか」

 

 

目の前に立ちはだかった赤い服の門番。黎斗は最初の特異点で出会ったアーチャーを思い出しそう言った。門番には当然心当たりは無く、不思議そうに首を傾げる。

 

 

「……やはり、とは何かは知らないが。……魔法少女二組、入ってよし」

 

「分かりました。行きましょうぞ我が主よ」

 

「……残念だが、ここより先は魔法少女とそのおともの間。部外者は帰って貰おうか」

 

 

門番は道を開けこそしたが、ジル・ド・レェとファントムの通行は認めないらしかった。黎斗は門番を睨み……一つ指示を出す。

 

 

「……やれ!!」

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

 

その声一つで、触手が門番へと伸びた。それは縦横無尽に動き回り、敵の頭へと狙いを定めていて。

 

 

「甘い!! 赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 

しかし、打ち出された深紅の矢に、全ての触手は切り落とされた。

門番、真田エミ村は更に矢をつがえ、黎斗達に狙いをつける。

 

 

「……残念だったな。不意討ちは構わないが、私は門番なのでね……弓をとる大義名分が出来上がった。灰燼と帰すがいい!!」

 

「ファントム、宝具!! 暫く持たせろ!!」

 

地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)!!」

 

 

黎斗は門番の言葉を聞くこともなく、ファントムに宝具の発動を指示した。

死体のパイプオルガンが形成され、怨嗟の声を放ち始める。否応にも、門番の意識はそれに注がれた。黎斗はそのタイミングでナーサリーを取り込み、オルガンの後ろにブラヴァツキーを連れ込んで。

 

 

「ちょっと、何するの!?」

 

「さて……特攻して貰おうか」

 

『爆走バイク!!』

 

「えっ!? えっ!?」

 

 

爆走バイクの電源を入れ……彼女の胸元に無理矢理突き刺した。

魔法導師マハトマ♀エレナの姿が書き換えられていく。彼女の魔法少女の時間は終わった。

 

 

「さあ……レースを始めよう」

 

「これは……?」

 

 

何故かスクール水着を着たブラヴァツキー。傍らにはホイール状の近未来的なバイクがあって。

黎斗はそれにブラヴァツキーとエジソンを無理矢理乗せ、自分も乗り込んだ。

 

 

「クロスティーヌ、宝具の限界はもう近い……」

 

「もう少し持たせろ!!」

 

 

パイプオルガンの向こうでは何本もの矢が飛び交っている。黎斗はブラヴァツキーにアクセルを踏ませ……

 

 

「……よし!! 宝具解除!! 発進せよ、金星神・白銀円環(サナト・クマラ・ホイール)!!」

 

 

彼らは一筋の光となった。

 

───

 

「……ハッ!! 姉上がピンチ!!」

 

「……どうした」

 

 

カルデアのサーヴァントを相手に交戦していた信勝が突然叫んだ。隣にいた土方が鬱陶しそうに彼に問う。

 

 

「何があった」

 

「ファースト・マスターの通信を傍受したところ、どうやら門番が敵性勢力に突破されたようです!! 一旦退きましょう!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノブ」

 

 

ちびノブを先に穴を通じてファースト・マスターの居城に送り込みながら信勝はそう言った。土方は少しだけ迷ったが、彼に背を向けて前方の敵へ目を向ける。

 

 

「俺達は退かない。斬れ、進め、俺達は新撰組だ」

 

「……そうですか。では、お先に失礼します!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブァ!!」

 

 

信勝は説得はさくっと諦めて、ノッブUFOに引かれて空に未だ空いた穴に戻っていった。

 

───

 

「やられた!! ちびノブを出すサーヴァントが逃げていったぞ!!」

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!! ……駄目です、避けられました!!」

 

「……せめて羽織の軍団の主は逃がさないようにするぞ」

 

 

地上部隊は、既にかなりのサーヴァントを葬っていたが、それ故に疲弊もしていた。

特にイリヤの疲れが顕著だった。彼女は転身が不可能な為、黎斗に渡されたガシャコンマグナムを扱っていたが、しかしそれは小学五年生が安定して使えるほど優しい設計にはなっていなかったからだ。

 

 

「うっ……」

 

「……大丈夫かイリヤスフィール」

 

 

変身したアヴェンジャーがイリヤを庇いながら戦闘する。下手に放置しておけば羽織の軍団がいつ人質に取るかもしくは殺すか分かったものでは無い。

 

 

「くっ……こいつら、何人いるのよ……!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!! ……本当にキリがないな」

 

 

エリザベートとジークフリートも、尽きぬ軍団に疲れを露にする。

それでも、とエリザベートがフォークを振り上げた、その時だった。

 

 

「一歩音越え、二歩無間……三歩絶刀!!」

 

「っ!! エリザベート、伏せろ!!」

 

「えっ!?」

 

無明三段突き(むみょうさんだんづき)!!」

 

───

 

黎斗達は廊下を全力で走っていた。

 

 

「もっとアクセルを踏め!! 敵は撥ね飛ばして構わない!!」

 

「分かったわ!!」

 

「待て、それでは壁にぶつからないのか!?」

 

「自動で操縦の補助は行われるようにしてある!! ついでに言えばこのバイクは交流だ!!」

 

「貴様ァッ!?」

 

 

黎斗はブラヴァツキーに運転の指示を飛ばし。

 

 

「ひぃ、ひぃ……!?」チャリンチャリン

 

 

ネロは一人スポーツゲーマを駆り。

 

 

「しっかり捕まっておけ!!」

 

「あの、私、咥えられているのですがっ!!」

 

 

ジェロニモはコヨーテにジル・ド・レェを咥えさせ、ファントムと共にコヨーテの背に乗って駆けていた。

 

───

 

「……そうですか、はい」

 

 

そしてファースト・マスターは、スポンサーの遠見の魔術によって、侵入者の動向を確認していた。

彼らは、三人が謎のバイク、一人が自転車、三人がコヨーテを利用して城をひたすらに駆け抜けている。遠くない内にこの部屋まで来るだろう。

 

 

「何とかしないといけませんね……サーヴァントは今から呼び戻しますが、恐らく暫くは私一人で……」

 

 

「ファースト・マスター!!」

 

「……信勝ですか」

 

 

信勝がノッブUFOを利用してファースト・マスターの隣に舞い降りた。

 

 

「……どうしてここに?」

 

「姉上が危ないようだったので」

 

「……もしかして、盗聴、していたんですか?」

 

「勿論」

 

「……」

 

 

信勝はそう言いながら日本刀を引き抜き、やって来るであろう敵に備えて風を纏う。

 

 

「……貴女が姉上の安全を確約すると言うのなら、僕は何をしてでも姉上を守るために貴女に協力して見せましょう」

 

「……そうですか」

 

 

ファースト・マスターもそう言って両手に白黒の夫婦剣を呼び出す。

確実に足音は近づいていた。

 

───

 

「さーて、レコーディングの準備は整った!! 演奏開始じゃあ!!」

 

 

……信長はと言えば、例の城の壁の薄いところにて、三人で合奏を開始しようとしていた。

 

 

「……破壊は出来ないと結論付けられただろう?」

 

「うむ、『破壊』は出来ぬな」

 

「じゃあ、どうして……」

 

「……わしらが行うのは破壊ではない。『合奏』じゃ。この固い壁に向かって『合奏』で振動を流し込み、その末に壊れたとしても、それは『合奏』の結果であってわしらが行ったのは破壊ではない……という訳じゃ」

 

 

これぞ正しくうつけ殺法!! と言いながら壁に勢いよくギターを突き刺す信長。オルタは納得行かない顔をしながらスティックで壁を叩き始め、リリィは丁度良いきょりを探しながらトランペットを吹き始める。

 

 

「それでは!! ミュージックスタート、じゃあ!!」



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暗躍する影

 

 

 

 

 

   バァンッ

 

「……ここで間違いなさそうだな」

 

 

ドアを突き破って、黎斗の駆らせたバイクがファースト・マスターの前で停車した。

スポーツゲーマとコヨーテも部屋に飛び込み、素早く臨戦態勢を整えた。

 

 

「ああ……貴殿方が」

 

「……」

 

 

対するファースト・マスターは落ち着いた様子で剣を構え、隣の信勝は既に一本の剣を構えていた。ちびノブも背後にちらついている。

ファースト・マスターは、バイクから飛び降りた黎斗、エジソン、そしてコヨーテを収納したジェロニモに問った。

 

 

「一応聞いておきましょう。私はここまで辿り着いたおともの願いを叶えます。それは私、ファースト・マスターの力であり誓約、私はおともとして戦い抜いたサーヴァントの願いを叶えなければなりません。その代償として、わたしは願いを叶えたサーヴァントを従える事が出来る」

 

 

その言葉に黎斗はほんの少しばかりの興味を見せた。警戒は解くこと無く、簡潔に彼女に黎斗は言う。

 

 

「ほう……そうか。だが、私には既に神の才能がある。これ以上の物を君に出せるのか?」

 

「価値というものは、人によって違う物差しが存在します。私はおともの願いを叶えるのみ」

 

「……例えば、アメリカ大陸をアパッチの手に取り戻したいと願ったなら?」

 

「今はアメリカ大陸は他のサーヴァントの望みで埋まっていますが……何とかして叶えて見せましょう」

 

 

ジェロニモの問いにもそう答えるファースト・マスター。しかし、『このアメリカは埋まっている』とはどういうことか。黎斗は少し考え、俯く。

 

 

「……ああ、そう言うことか。ファースト・マスター……君の望みは、無数の平行世界に進出した上での、武力での支配による統治、という事なんだな?」

 

「……そうですね」

 

 

そうして黎斗の出した結論に眼前の女は頷いた。その言葉に、その隣の信勝は少しだけ裏切られたような顔をしていた。

黎斗の後ろでうずうずしていたエジソンがファースト・マスターに問う。

 

 

「例えば……この世界のアメリカを人理の破壊から救おうと思ったなら?」

 

「ええ、勿論やってみせま……ん?」

 

 

ファースト・マスターは途中までいいかけ、突然止まった。まるで何かの指示を聞いているようで。

 

 

「……残念ですが、それは無理なようです」

 

「……そうか」

 

「つまり……裏にまた誰かがいる訳か。いや、察しはつくが」

 

 

黎斗は、ファースト・マスターの後ろに存在する誰かの正体を察した。もう、油断はできない。

 

 

「何にせよ……無能な願望機に存在価値は皆無だ。遠慮はいらない、破壊しろ」

 

 

その一言で、一行は再び臨戦態勢になる。躊躇いはいらない、人理を救えない存在に、意味はない。

 

 

「……それはさせません。風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

堕・鶴翼三連(ブラックバード・シザーハンズ)!!」

 

 

対する二人も剣を構えて。彼らは同時に地を蹴った。

 

───

 

その頃。

 

 

「弱点剥き出しってナメてるんですか!?」

 

「すまない、これは仕方の無いことだ……!!」

 

 

エリザベートを不意討ちで下した沖田と、ジークフリートが斬りあっていた。

剣がぶつかり、火花が散る。しかし沖田は笑っていた。

 

 

「ふふ、沖田さんの縮地にかかれば……」

 

 

そう言って彼女は飛び上がる。

彼女のスキル、縮地……それはつまりは瞬間移動やワープの類い。彼女がそれを発動したなら、ジークフリートはあっという間に背中を貫かれ易々と撃沈するだろう。

ジークフリートが身構える。沖田の姿はその場に溶けて……

 

 

「コフッ!?」バタッ

 

「……」

 

 

……いくことは無かった。ジークフリートは曖昧な顔をしながら、倒れ伏す沖田に剣を降り下ろす。

 

 

「……すまない。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

ラーマとシータも、群がる羽織の軍団を宝具で吹き飛ばしていた。

しかし、倒しても倒しても湧いてくるためキリがない。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

その隣でアヴェンジャーも宝具を使っていたが、どうにも決め手に欠けていた。

 

 

「うう……アヴェンジャーさん……まだ、終わりませんか……?」

 

「休んでおけイリヤスフィール……一応、軍団の呼び手は把握した。どうやらどこぞの聖女よろしく、旗を振って仲間を呼び出しているらしい。倒れたやつも暫くすれば再び呼び出されるおまけ付きだ」

 

「そんなぁ……」

 

「……どうしてもって言うんなら、避難させてもいいが」

 

 

イリヤはその言葉に力無く、それでも首を横に振りガシャコンマグナムを構える。

 

 

「いや……まだ、やります!!」

 

「そうか。……ルビーはもうしばらくすれば覚醒する筈だ。それまで、耐えろ。無理はするなよ」

 

 

アヴェンジャーはそう言って、再び炎を纏い戦場に駆け込んでいった。

 

───

 

「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり……!! エブリバディ、A・TSU・MO・RIぃぃ!!」

 

 

そして。

信長は二人のアルトリアと共に、壁に向かって演奏を続けていた。因みに今五曲目である。全部レコーディング済みという徹底ぶり。

信長は歌いながら右手を天に突き上げ叫ぶ。

 

 

「イエーイ!! それじゃあ、イカれたメンバー紹介するのじゃ!! まずは……カワイイ顔して実は裏でマスターの貞操狙ってる系姫騎士、トランペット吹きのリリィ!!」

 

「ろ、ロッキュー!!」

 

 

嘘である。そもそも彼女にマスターなどいない。

バンドのキャラづけという名目でそういうキャラにされてしまった彼女だったが、だんだん吹っ切れたらしく楽しげにトランペットを吹いている。

 

 

「次は……すました顔して夜な夜な気に入った相手の布団に潜り込む系王様、ドラマーのオルタ!!」

 

「……不快だ」

 

 

当たり前だが嘘である。彼女にもマスターはいない。

彼女の方は吹っ切れる事も出来ず、真顔のままで力任せに壁を破壊、いや、打ち鳴らしていた。

 

 

「そして……取り合えず夜にはポロリも気にせず枕投げを行う系武将、ギタリストの第六天魔王波旬、織田信長!!」

 

「チッ」

 

 

割りと自分だけまともな紹介をしたことに舌打ちするオルタ。信長はそれを無視してさらにギターを掻き鳴らし……

 

 

「以上じゃ!!」

 

   バァンッ

 

「ほ、本当に、壁が壊れました……!!」

 

 

曲が終わるのと同時に、壁は派手に崩壊した。

 

───

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!! ……うむ、全く効いておらんな!!」

 

 

ネロが宝具を開帳する。多くの光線がファースト・マスターに振りかかるものの、敵は全く怯んでいない。

 

 

「おそらく裏方のバックアップの賜物だろう……ダメージ反射効果でも付加しているのか?」

 

「勝てないわ、勝てないわ!?」

 

「……仕方がない。今からでも部隊を分断して半分を裏方の捜索に充て──!?」

 

 

そう指示しようとした黎斗は、背後にほんの少し風を感じて踞る。

 

 

   パァンッ

 

「それは、させません」

 

「不可視の火縄か……厄介な」

 

 

信勝が風を纏わせた火縄を呼び出していた。存在を感じるには、漏れ出ている音を聞く他無い。

 

 

「下手には動けないか……全方位から不意討ちが来る可能性がある」

 

「既に、この城の至るところに不可視にしたちびノブを配備しています。ええ」

 

 

そう言いながら日本刀をしまい手を振り上げる信勝。

黎斗を庇うようにファントムが立ち。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

───

 

「ノッブー!!」

 

「ノブノブ」

 

「ノノノ、ブブブ」

 

 

風を纏った不可視のちびノブは、城の中を駆け巡っていた。その目的は黎斗達への対策と、もう一つ。信長の安否確認である。

既にちびノブ達は、明らかに怪しい魔力による結界の存在は確認していた。おそらくその向こうに信長がいると結論付けていた。

 

 

「ノッブ」

 

「ノブノブ」

 

 

となれば、後は結界の中に入るのみ。

結界を突き破るのはちびノブには困難だが、彼らは小さい影のような存在だからこそ、結界の隙間を潜ることが出来る。

 

その結果。

 

───

 

「うーむ、入れたはいいが、どこに行けばよいのかさっぱりじゃのう!!」

 

「どうするんですか……」

 

 

「ノッブー!!」

 

 

「ゲエッ、ちびノブ!?」

 

 

信長達の発見に成功した訳である。

 

 

「ノブナガ、ミツケタ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノブ」

 

「わぁ、こっちに来るでない!! シッシッ!!」

 

「ノッブー!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ああっ!! ちょっ、押すな、あっ、馬鹿ぁっ!!」

 

 

ちびノブ達に押し潰される信長。

しかし彼らは、間違いなく出口の場所を示していた。要は、ちびノブの来たルートを辿ればいい訳である。

 

 

「行くぞ!!」

 

───

 

「くっ……ここまでやられるとはな」

 

 

黎斗達は、地道に追いやられていた。

ファントムがまず黎斗を庇って凶弾に倒れた。エジソンもおともの身で戦い抜くことは出来ず戦線離脱。ジェロニモも三千世界を打ち消すために宝具を使いすぎて倒れている。

 

 

「私達だけでも逃げるか?」

 

「それは駄目よ!! 置いていけないわ!!」

 

「チッ……なら、どう突破する!!」

 

 

ファースト・マスターにこれといって疲れは見えない。傷は負っているが痛みを感じているように見えない。確実に裏方の魔術だ。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「おっと……!!」

 

 

唯一の幸いは、信勝が裏方の恩恵をあまり受けられず、確実に疲弊している事だろうか。黎斗でも彼の攻撃は最早容易に回避が可能だった。

だが何にせよ、このままではじり貧であることに変わりはない。

 

 

「……どうすればいい? 誰かが裏方を叩かなければ……」

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「……うーむ、ここが出入り口のようじゃが」

 

「予想以上に……小さかったな……」

 

 

信長とアルトリア二人は、結界から出ることは叶わなかった。ちびノブの出入り口が小さすぎたからだ。

結界を解除できれば破壊は容易いが、何が結界を作っているのかが分からない。

 

 

「……待ってください」

 

「どうしたリリィ?」

 

「……あの扉の向こうに、誰かがいます」

 

 

いや。

 

誰が結界を作っているのか等、理解するのは簡単だった。()()を目にしてしまえば。

 

信長は扉をあけて、裏方を覗き見る。

 

 

「……肉の、柱?」

 

 

魔神柱、出現。

 




未だかつてこんなにカッツが戦闘面で活躍した事があっただろうか


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あり得ざる乱入者

 

「……何じゃ、あれ」

 

「さあ……」

 

「……おぞましいな」

 

 

扉から覗き見る三人。向こう側にそびえ立つ黒い肉の柱は、さて、一体何なのだろうか。

心当たりは無い。心当たりがあるメンバーはここにはいない。

そしてその柱は、深紅の目を信長達に向けた。

 

 

「我が名はグラシャ=ラボラス。魔神柱グラシャ=ラボラス。人の過去と未来を知った上でそれら全てを無に還す(殺戮)するもの……ここより立ち去れ、お前達はまだ死の定めにはあらず」

 

 

黒い柱は、グラシャ=ラボラスと名乗った。

信長はアルトリア二人を見るが、心当たりは無いようで首を振った。

 

なら、気兼ねはいらない。

 

 

「じゃあ、取り合えず倒すか。彼奴黒幕感凄い出てるし。凄い出てるし」

 

「そうだな。それに関しては賛成だ……私のスティックが唸っている」

 

 

そう言って部屋に三人は飛び込んだ。信長は柱の根本にギターの刃を突き刺し、オルタはスティックを試し打ちし、そしてリリィはトランペットを構えた。

グラシャ=ラボラスは動揺する。殴りかかる訳でも魔力を練る訳でもなく……楽器?

 

 

「あっ、おい、何をする」

 

「何って……ライブじゃが?」

 

「……はい?」

 

 

呆れて動きが止まる魔神柱。信長はそれ幸いにギターを更に深く突き刺し、一つ鳴らした。そしてバンドメンバーに声をかける。

 

 

「へーい、リリィ!! チューニングは出来てるか!!」

 

「イェア!! 勿論です!!」

 

「オルタ!! 乗ってるかーい!?」

 

「仕方無い、行くところまで行ってやろう!!」

 

「へい!! それじゃあ……いくのじゃあっ!!」

 

───

 

堕・鶴翼三連(ブラックバード・シザーハンズ)……!!」

 

 

ファースト・マスターの手から三組の刃が飛び出す。それは何度も黎斗の方へと飛んでいき……堕ちた。

 

 

「落ち、た?」

 

「……!!」

 

 

堕ちたのだ。つまり……連戦でファースト・マスターも疲れてきたという事だろうか。

その隣の信勝は、半ば呆然とした様子で壁に持たれている。

 

 

「……だんだん、弱くなってきた、のか?」

 

「……手加減じゃないかしら」

 

 

疑いを捨てられないブラヴァツキー。しかし、ファースト・マスターの機動力は段々低下しているように見えた。黎斗はファースト・マスターの足腰を確認する。

 

 

「いや……違う。やはりパフォーマンスが低下している」

 

「でも、何故で御座いましょう?」

 

「……まさか!!」

 

 

黎斗は、そこで察した。

何者かの介入によって、ファースト・マスターの裏にいる何者かのサポートが絶たれたのでは?

 

それを裏付けるように、信勝が動く。

 

 

   チャキッ

 

「……何をするのですか、信勝」

 

 

ファースト・マスターの後ろにいた信勝が火縄を一本持ち、彼女の首筋に当てていた。

 

 

「……姉上が交戦中です。……貴女のサポーターと」

 

「……!?」

 

「僕は姉上の味方ですので、すいませんね」

 

 

その言葉で黎斗は完全に理解した。

 

 

「信長がやったか……!! 今のうちに攻め立てろ、隙を作ったら魔力のラインを何とかして辿り、信長に合流する!!」

 

「分かったぞ。うむ、派手にいこうではないか!! 誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

金星神・白銀円環(サナト・クマラ・ホイール)!!」

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!」

 

 

彼の指示で全方位からファースト・マスターを宝具が襲う。

ビームやら触手やらの中には、確実に火縄銃も覗いていて。

 

 

「……三千世界(さんだんうち)!!」

 

───

 

そして。土方の呼び出す無限の新撰組を前に喘いでいた地上組にも、ある変化が生じていた。

 

 

「……少しだけ、敵の出現スピードが緩まってきたな」

 

「ああ。おそらく黎斗が何かやってくれたんだろうよ」

 

 

そう、羽織の軍団の数が減ってきているのだ。それに気づくのに、然程時間はかからなかった。

アヴェンジャーは少しだけ余裕が出来た事もあり、イリヤの元へ舞い戻る。既に変身は解けていた。

 

 

「……気分はどうだイリヤスフィール」

 

「……大丈夫、です」

 

 

地面に座り込みながらそういうイリヤ。アヴェンジャーは少しだけ黙ってからガシャコンマグナムを回収し、ほとんど回復していたルビーを渡した。

 

 

「ありがとう、ございます……でも、私……」

 

「……気分は進まないが。ルビーをしっかり抱えておけイリヤスフィール。待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 

疲労を訴えようとしたイリヤをマントに入れるアヴェンジャー。そして彼は全力で回復宝具を発動し。

希望の光が一筋走った。

 

 

「ルビーちゃん、完 全 復 活 ! ! 来ましたねぇ来ましたねぇ!! これはルビーちゃんの活躍が認められて、もうルビーちゃん無しではやっていけないって事でOK? ねぇOK? OK?」

 

 

真っ先にマントから飛び出るルビー。もう黒ずみは一つもない。

 

 

「部分的にはそうとも言える。いや、求めているのはイリヤスフィールの持つ破壊力の方だが。安心しろ、これが終わったらまた元に戻す(宝具で潰す)からな」

 

「救われてないじゃないですか、やだー!!」

 

「……冗談だ。止めておくさ」

 

 

アヴェンジャーはそう言いながら、イリヤをマントの中から出し、立たせた。

 

 

「……アヴェンジャーさんは、大丈夫なんですか?」

 

「何、構わないさ。この戦いではオレはもうろくに宝具も使えないだろうが……大した差し支えはあるまいよ。お前が終わらせるんだから」

 

「ふぇっ?」

 

 

アヴェンジャーはそう言いながら、バグヴァイザーをイリヤに手渡す。既にルビーを持っていたイリヤはかなり動揺こそしていたが、隣のルビーは既にバグヴァイザーを解析していた。

 

 

「ええ、行けそうですね!! ガシャコンバグヴァイザーL・D・V、ルビーちゃんは今回だけ余所者のガジェットと二股かけることを許しちゃいます!!」

 

「二股!?」

 

「ええ。転身と変身を同時に行ったなら、この場を纏めて焼き払えますよ♪」

 

 

そう言いながらイリヤの手の中で蠢くルビー。アヴェンジャーはイリヤにバックルを巻いてやり、彼女に並び立った。

 

 

「本当だったなら、最後の最後まで残しておきたかったが、贅沢は言ってられんな。……さあ、変身するがいい」

 

「分かりました。はい……アヴェンジャーさん、お借りしますね」

 

「ああ」

 

 

羽織の軍団が迫ってくる。

ジークフリートやラーマやシータも、何処かに避難しているか、もしくは既に下されてしまったようだ。

心置きなく、倒してこい……アヴェンジャーはそう笑う。

 

 

『ガッチョーン』

 

「コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!☆ Die Spiegelform wird fertig zum(鏡像転送準備完了)!!」

 

『Transform Caster』

 

Offnunug des Kaleidoskopsgatter(万華鏡回廊開放)!!」

 

 

溢れ出た極光が周囲を焼いた。そして、次の瞬間にイリヤが立っていた所には。

 

 

「カメンライナー プリズマ☆イリヤ……!!」

 

 

新たな戦士が生まれていた。

 

───

 

黎斗のグループは、既にファースト・マスターを蹂躙し終え、震える彼女を打ち捨てて信長の元へ行こうとしていた。

 

 

「どうせ後で復活する、その前に急ぐぞ!! ブラヴァツキー、バイク貸せ!!」

 

「ええ。でもアルも、あとジェロニモも乗せていくわ」

 

「待つがよい、まだ立つ気力が残っているようだが?」

 

 

黎斗がちらりと振り替える。

穴だらけのファースト・マスターがそこに立っていて……何かを握っていた。

 

 

「そンな……いや、まダ……まだ……!!」

 

「……すいません、でも、死んでくださいファースト・マスター」

 

「いや、理不尽ヲ打ち破って……私は……!!」

 

 

震える、もしくは痙攣しているファースト・マスター。信勝は彼女に刀を抜き。

 

その刹那だった。

 

 

「宝石よ!! 私二……力を!!」

 

 

ファースト・マスターが握っていた数多くの、それこそ五十も百もありそうな宝石を上に投げ、その体に取り込んだのだ。

 

みるみるうちに体の模様が濃くなり、紫とそして金の粉を吐き出すファースト・マスター。虚ろな目は赤く塗られ、持っていた剣は歪に捻れ。

 

 

「急げ、逃げるぞ!!」

 

「駄目よ、何かの結界が張られたわ!!」

 

「抜け道は!!」

 

「現在捜索中!!」

 

 

無から生まれ膨れ上がる驚異。超えることは到底不可能に思われたが、それでもそうするしかあり得なかった。

宝具を使うには皆疲れすぎている。何とか逃げ道を作るには時間と余裕が無さすぎる。倒すには単純に戦力不足。

 

 

「どうすればいい……!!」

 

 

黎斗は舌打ちした。

そして、彼に剣が投げつけられ……

 

 

 

 

 

「私の存在を忘れていたな!!」

 

「誰ダ!?」

 

「星光の剣よ、桜とか嫁とかメイドとかもう何でも消し去るべし!! ミンナニハナイショダヨっ!!」

 

 

聞き覚えがあった。というか昨日聞いたばかりだった。

黎斗は半ば本能的に警戒の声をかける。この声の、宝具の主は……最大級の厄ネタだ。

 

 

「伏せろ!!」

 

 

無 銘 勝 利 剣(えっくすかりばー)!!」

 

 

蒼白く光る剣。何処からか現れたそれは残像すら残すスピードでファースト・マスターを切り刻み。黎斗の前には……謎のヒロインXが立っていた。

 

 

「……生きていたのか、何とかX!!」

 

「でも、貴女は!!」

 

「ふふふ……私のクラスを忘れていましたね? 普段封印していた能力で埋伏し、仲間のピンチの時に使って勝利をかっさらっていく、正にセイバー!!」

 

 

そう言って見栄を切るヒロインX。ブラヴァツキーは首を捻り、信勝は震え始める。

その後ろでは、ファースト・マスターはその場に再び膝をついている。

 

 

「……気配遮断はアサシンじゃなかったかしら」

 

「いや、私も封印していたんですけどね、元々私優秀ですから、気配遮断EXなんですよ。やろうと思ったらできちゃいました」

 

「マハトマ♀エレナを倒そうとしたときに横から『その宝具使うとか不敬だぞカリバーっ!!』って言って襲ってきた人だ……!!」

 

「ええ。何か?」

 

「……って、後ろ!! 後ろ!!」

 

 

ファースト・マスターを見てみれば、今度は金の柱になろうとしていた。もう後が無いと言うことだろう。

しかし、ヒロインXは怖じけることなく、何も見えなかった筈の天井の隅に声を投げ掛けて。

 

 

「さあ出番ですよ()()()()!! やっちゃえ、テキサス・チェーンソー・マサカー!!」

 

「これが開拓者魂だぁーっ!!」

 

「バニヤン……!?」

 

 

虚空から現れたバニヤンが、チェーンソーを降り下ろして出来上がりかけていた魔神柱を縦に切り落とした。

 

 

「A@a%#a##**|a4a(<>a>$a`]`a@--3a.-a&"a!?」

 

 

そして、それが止めになったのだろう……ファースト・マスターは気絶し元の姿に戻る。最早動くことも叶うまい。

 

 

「……伐採、完了!!」

 

「バニヤン、無事だったのか……!!」

 

「うん。ただいま」

 

 

痛みも気にせずバニヤンに歩み寄るジェロニモ。色々心境の変化もあったのだろう、バニヤンの瞳は輝いていた。

 

 

「しかし、どうして彼処に?」

 

風王結界(インビジブル・エア)で隠してました。いいですか似非セイバー、風王結界はこう使うのです」

 

「ひいっ……」

 

「……まあ、何にせよ。信長と合流することにしようか。気絶したなら丁度良い、ファースト・マスターも連れていくぞ」

 

───

 

「ノブァッ!?」

 

「ノブゥ……」

 

「ちびノブが丁度よく盾になってくれるから気持ちがいいのう。ノッてるかーい!?」

 

「「イエーイ!!」」

 

 

その信長は、アルトリア二人と共に楽しくライブを行っていた。

いや、魔力の籠められた振動やら何やらを直に送られている上チクチクとちびノブに攻撃されているグラシャ=ラボラスにしてはたまったものではないのだが。

 

 

「それじゃあ、新曲いくのじゃあ!! 第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)!!」

 

「イエーイ!!」

 

「イエーイ!!」

 

「ノッブー!!」

 

「ノッブー!!」

 

 

信長のテンションは最高潮、オーディエンスも大盛り上がりでノッブコールを続け、グラシャ=ラボラスもかなり弱っている。

 

 

「ぎゃああああ!?」

 

 

そして、信長の宝具が展開された。神秘のあるものを徹底的に焼き払う炎を前に、グラシャ=ラボラスは情けない悲鳴を上げる。地味にしぶといが、そう時間もかけずに倒れるだろう。

 

───

 

「んっんー……イリヤさん、アヴェンジャーさんの事どう思ってます?」

 

 

空に舞い上がりながら。眼下に倒すべき沢山のサーヴァントを視認しながら、イリヤはその問いを聞いた。

 

 

「怖かったけど……ここに来てから、色々助けてもらったし。短い間だったけど、いい人だったなって」

 

「うーん、そうですか……絆レベル3って所でしょうかねぇ。おっと、そこら辺でストップ。そろそろ必殺技、かましますよ♪」

 

 

おどけた調子のルビーの声。すぐとなりの空は裂けているのに、全く呑気な事だ。

イリヤはそんな事を考え、そしてここで出会ったアヴェンジャーの事を考え……マジカルルビーを真下に降り下ろした。

 

 

「もう、わたしは諦めない!!」

 

 

新撰組の刃はここには届かない。圧倒的高所からの砲撃。少しだけ心が痛むが、それを気にするよりは、せめて、決意を抱こう。

 

 

「筋系、神経系、血管系、リンパ系……疑似魔術回路変換、完了!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

力が満ちる。イリヤは必殺の一撃を放ちながら、強い衝動と共に叫んだ。

 

 

「これが私の全て!! 多元重奏飽和砲撃(クウィンテットフォイア)!!」

 

 

そうして特異点は、まばゆい光で覆いつくされる。

 




カメンライナー プリズマ☆イリヤ

魔法少女ライダー……数を揃えればニチアサを一度に楽しめるな


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魔法少女戦争、最終局面

 

 

 

 

 

「……漸く、合流できたか」

 

 

弱められた結界の綻びを強引に破壊して、黎斗達が魔神柱の空間に突入した。

……そして耳を塞いだ。

 

 

「イエーイ!! あ、黎斗か!! わしじゃ!!」

 

 

ライブは続いていた。虐められ魔神柱は啜り泣いているようにすら見える。

黎斗は信長を制止し、前に出た。

 

 

「……退け。後は私がやる」

 

「むぅ……リリィ、オルタ、ライブ終了じゃ!! あ、アンコールある?」

 

「お断りだ」

 

「……セイバー顔いますね、始末してもいいですか?」

 

「騒ぎ立てるな」

 

 

勝手に動こうとするサーヴァント達を抑制して彼は打ち捨てられた魔神柱の前に立つ。

警戒を緩めている訳ではなく、黎斗はバグヴァイザーをチェーンソーモードにして構えていた。

 

 

「……さて。どうせ()()()の指示でやったんだろうが。……どうやってこの特異点を作った?」

 

「……我……グラシャ=ラボラス。貴様を、倒す、為に。平行世界の事象を編纂し……改造し……作り上げた」

 

 

魔神柱、グラシャ=ラボラスはそう語った。

レフ・ライノールはクビになったのだろうか、そう黎斗は思いながら更に問う。

 

 

「どうやってだ」

 

「……詳しくは、知らぬ。王が……やった」

 

「そうか。……もう用はない。やれ、ネロ」

 

「うむ!! 誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

 

期待はずれだ、とも安心した、とも違う、そんな曖昧な表情をしながら黎斗はネロに指示を出し、攻撃させる。

それと共に魔神柱は破壊され、聖杯が落とされた。黎斗がそれを拾い上げる。

 

 

「聖杯、回収……」

 

「やったわねマスター!!」

 

「うむ!!」

 

 

「姉上!! お怪我は!?」

 

 

そして、信勝は信長に抱きついてそう言っていた。そして彼は信長に三千世界(さんだんうち)を返還する。

信長は鬱陶しそうに信勝を引き剥がし、彼の頭を軽く叩いた。

 

 

「この大うつけ。なーにが永遠の平和、じゃあ。つまらんわ!!」

 

「……?」

 

「あのなぁ? 人間五十年、命は限りが有るからこそ楽しくて面白いんじゃ……まあ、わしも間違っていたかもしれんがな。もう少し早く、お主を寺か何処かに入れていれば良かったんじゃが……」

 

 

黎斗は聖杯を手に、帰り支度を始めようとしていた。地上組も黎斗が帰れば、自動的にカルデアにレイシフトするようだし、問題は無いようだった。

信長は今の仲間の元に戻ろうとして……

 

 

「……ノッブUFO、キャトれ」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

 

……三体のノッブUFOに同時にキャトルミューティレーションを行使され、動きを封じ込まれた。

黎斗の持っていた聖杯も、風の簑に隠れていたノッブUFOに強奪され信勝の手に渡る。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノブゥ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブァー!!」

 

 

瞬く間に溢れ出すちびノブの軍団。それらはサーヴァント相手に特効し、命懸けで敵の命を刈り取ろうとする。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」

 

「おいヒロインX!! 風王結界(インビジブル・エア)持ってるんだからコイツらの存在は分かるんじゃ無かったのか!?」

 

「すいませんね、セイバー顔への殺意を抑えるのに必死でした!!」

 

 

悲鳴にも近い糾弾の声を上げる黎斗は、既に胸までちびノブに埋め尽くされて。

そして信勝は信長を拘束したまま、城の天井を破壊して空へと飛び上がった。そして聖杯を核にして、最強のちびノブを作り上げる。

 

 

「……来い!! グレートメカノッブ!!」

 

───

 

その頃。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……ふう……」

 

 

新撰組を全て焼き払ったイリヤが、変身と転身を解いてアヴェンジャーの元に戻ってきていた。彼女は地面に着陸すると同時に、力なくふらつく。

 

 

「うっ……」

 

「……どうした?」

 

「いや……ちょっと、疲れたなって」

 

 

アヴェンジャーはイリヤを持ち上げた。丁度、所謂お姫さまだっこの体勢だった。

 

 

「さあアヴェンジャーさん、もう少し強くギューってしなさいギューって。全く、現地お兄ちゃんを作るようになるとかイリヤさんも捨て置けませんねぇ」

 

「現地お兄ちゃん!?」

 

「ええ、現地お兄ちゃん。何ならお薬いります? 精力剤ですが」

 

「……粉末になりたいか?」

 

「ゴメンナサーイ」

 

 

イリヤを煽るルビーにそう言いながら、アヴェンジャーは歩き始めた。

焦土と化した大地を歩く。まだ仲間は生きているだろう、彼らと合流しようとしていた。

 

 

「……気分はどうだ。何とか、簡単な回復は施したが」

 

「うん……ありがとう、少し楽になった……かな」

 

「そうか。まだ空の裂け目は残っている。仲間をかき集めて、黎斗達の元に向かった方が良いだろう。大丈夫だな、イリヤスフィール?」

 

「……イリヤ、でいいです。アヴェンジャーさん」

 

「……分かったイリヤ。じゃあ、さっさと探すぞ」

 

───

 

「……さて。この、マジもんの大うつけめ。わしの言葉が理解できんか? ん? 挙げ句にこんなわしの像まで作りおって……せめてもっとセクスィーにせんか!!」

 

 

ノッブUFOに拘束され、眼下で揉みくちゃにされる黎斗達を眺めながら信長が言った。信勝は呆れる信長に微笑み呟く。

 

 

「姉上は壊れてしまっているのです。あんな、殺しあいを強制される狂った世の中に当てられて、きっと狂ってしまったのです」

 

「うわ、気持ち悪いぞお主……余程ストレスが溜まってたんじゃな……」

 

「良いんですよ、僕が戻して見せます。面白おかしく過ごせていた、あの頃の姉上に戻して見せますとも」

 

 

信勝はグレートメカノッブの頭に乗り込んでいた。丁度巨大ロボのような格好のそれは、端から見ればある種の滑稽みすら持っていて……それでも、今の状況はとても笑える物ではなく。

 

 

「この聖杯、いや、グレートメカノッブをもって、この空間だけを保ち続けましょう。ええ、永遠の平和です……!!」

 

 

「……ふざけた真似を。その宝具で混沌を成すか」

 

 

真っ先にちびノブの海から脱出してきたヒロインXが、まだ残っている城の屋根に立ってグレートメカノッブに剣を向けた。

下を見てみれば、ネロとナーサリーと黎斗、そして未だ気を失っているファースト・マスターが、ジル・ド・レェの宝具による触手で持ち上げられ、天井まで押し上げられている。

 

 

「よっ、と……とんでもないエンドが待っていたな」

 

「そうね……またあの触手に捕まるとか本当に嫌だったのだわ……」

 

「うむ。凄く、18歳以下立ち入り禁止な触感だったな。……ん? そのジル・ド・レェの方は出てこないが」

 

「……どうやら宝具で力を使い果たしたらしいな。全く……勿体無い真似を」

 

 

阿鼻叫喚のちびノブ地獄を軽く見下ろして、そしてバグヴァイザーのビームガンを構えた。ネロはそれに合わせて剣の切っ先を向け、ナーサリーは魔術を行使する。

信勝は明らかに疲労を顔に浮かべながらグレートメカノッブを操作し、魔方陣を空中に投影した。

 

 

「……戻ってください、ファースト・マスターのサーヴァントよ。そして……僕に従え!!」

 

 

「……チッ。旗、燃え尽きちまったな」

 

 

魔方陣から土方が呼び出される。土方()()が呼び出される。……それ以外のサーヴァントは全て倒されていた。

 

 

「……一人、だけだと!?」

 

「どうやら地上班もよく働いたようだな。ああ……」

 

 

黎斗はネロとナーサリーとヒロインXを土方に向かわせる。そして横たわるファースト・マスターの首根っこを掴んで持ち上げ、その顔を信勝に向けさせた。

 

 

「さて。ここで一つ、絶望を与えようか」

 

「……何だと?」

 

「私は神だ。……だが今はおともの姿だ。ネロにそうさせられた」

 

 

そう話し始める黎斗。信勝は怪訝そうな顔でグレートメカノッブを操作し、無数のミサイルを発射する。

それらは黎斗に食らい付くように爆発し……しかし、ファースト・マスターを中心に生まれた光の盾によって傷一つつけられず。

 

 

「っ!?」

 

「では、何故おとものままだったか。神の才能を以てすれば、元の姿に戻るのは容易なのだが」

 

 

そこまで言って黎斗は……信勝にファースト・マスターを投げつけた。

 

 

「……このためさ。ファースト・マスター!! 魔法少女ナーサリー☆ライムと魔法少女ネロ☆クラウディウスのおとも、檀黎斗がファースト・マスターに望む!!」

 

「まさか!! 出ろノッブUFO、ファースト・マスターを遠くに転送しろ!!」

 

 

宙に舞いながら光始めるファースト・マスター。信勝は慌ててグレートメカノッブからノッブUFOを射出するが間に合わない。

望みは、聞き届けられる。

 

 

()()()()()()()()()()()!!」

 

───

 

「……見たか?」

 

「うん……」

 

「ええ、ルビーちゃんこの目でしっかりと見ましたよぅ?」

 

 

アヴェンジャーとイリヤ、そしてルビーは、仲間サーヴァントを探している途中に、魔方陣に吸われていく一人の敵サーヴァントを視認していた。

黎斗達の方に、何か起こっているという事だろうか。

 

 

「……仕方無いな。行くぞイリヤ、掴まっておけ」

 

 

足に炎を纏わせて空を踏み、閉じ始めた裂け目へと飛び込むアヴェンジャー。

二人は黎斗達の元へと、間一髪で転がり込んだ。

 

───

 

「この空間と共に自壊しろ!!」

 

   カッ

 

 

黎斗の願いを聞いたファースト・マスターは、次の瞬間には粉微塵に爆発四散していた。そして、城の各所が崩れだし、空間に穴が開き始める。

信勝は頭を抱え掻きむしり、そして拘束していた信長の手を掴んだ。

 

 

「……のう、諦めたらどうじゃ?」

 

「嫌です!! 信勝は、信勝は……!! 信勝は諦める訳にはいかぬのです!! 僕は駄目でも、僕の全てを使って、姉上を何処か、殺し合わなくてすむ世界に送って見せましょうとも……!!」

 

「わしはそれを望んではおらぬ」

 

「僕が望んでいるのです!!」

 

 

それを聞いて、信長は察した。

信勝は……自分に何としてでも()()()()()()()()()幸せを掴み取って貰いたかったらしかった。それが信勝自身の望みだったのだ、と。自分の望みなのだと。

 

 

「……そうか。それは……わしが何を言っても止まらぬのも道理じゃな」

 

「姉上……僕は、もう姉上に誰も殺して欲しくは無いのです。もう、十分です、殺しすぎです……僕は、無能だから姉上の代わりにはなれませんでした。だから、せめて!!」

 

「……なら……気兼ねなく、わしはわしの望みに則って動かせて貰うぞ」

 

 

次の瞬間には、信長はアーチャーに戻っていた。そして、信勝を囲むように火縄銃は展開されていて。

 

 

「わしは、この世界で、人理を救う戦いに興じたい。それが望みじゃ」

 

「……」

 

三千世界(さんだんうち)

 

 

 

「貴様も難儀なものだな。利用され利用され、とうとう決戦兵器にまで落ちるとは。ヒロインXとやら、どう思う?」

 

「私としてはセイバー適性ありそうですし切り伏せて当然な感じですが。というかまず貴女を斬りたい」

 

「止めとけ止めとけ、黎斗に燃やされるぞ」

 

「ヒッ」

 

 

その下では、ネロとヒロインXが並んで土方と斬りあっていた。ナーサリーは後ろから援護を行っている。

 

 

「ぬぅっ……く、流石に……いや、俺は死なん!!」

 

「……宝具が来ますよ。迎撃します?」

 

「うむ。劇場は、海より来たり──」

 

 

土方が怒気を孕んだ声で叫び、敵へと一気に詰め寄る。

そして、宝具が放たれた。

 

 

不滅の誠(しんせんぐみ)、抜刀……突撃!!」

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

無銘勝利剣(えっくすかりばー)!!」

 

───

 

「やったか!?」

 

 

モニターの前に座っていたロマンは、信勝に向かって放たれた三千世界(さんだんうち)の威力を確認してそう叫んでいた。

 

マシュはやっぱり目覚めてはいない。敗北して強制的に帰還してきたサーヴァント達の様子も見る必要がある。

ロマンも、他のサーヴァント達同様に疲れていた。

 

 

「……いや、やっていないね。ほら、ギリギリ弱点に当たっていない」

 

「ダ・ヴィンチ……」

 

「……でもまあ、そろそろ終わるだろう。あと一分もしないうちに、聖杯は回収できる」

 

「……?」

 

───

 

「っ……」

 

   ドサッ

 

 

信勝は墜落した。信長の恩情と言うべきか甘さと言うべきか、とどめは刺されず、半殺しの状態でグレートメカノッブの座席から墜落した。……そして、信長はそれと同時に解放された。

既に、特異点は半分崩れていた。そろそろレイシフトが必要だ。

 

 

「ふぅ……終わったのじゃ」

 

「よくやった。後はグレートメカノッブを破壊すれば、聖杯を回収できる」

 

「そうか。……じゃが、既に大破しておるぞ?」

 

「ん?」

 

 

信長の言葉で、黎斗はグレートメカノッブの胴体を見やる。

 

……地上からここまでやってきていたアヴェンジャーが、下からグレートメカノッブを破壊して、聖杯を持って飛び出してきていた。

 




無限の姉上(unlimited aneue works)


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引き継がれる魔法

 

 

 

 

「漸く、終わったか」

 

「ああ……終わったさ」

 

 

グレートメカノッブは、核を失い崩壊した。アヴェンジャーはイリヤをその場に卸し、垂れていた汗を袖で軽く拭っている。

黎斗は彼に異常は無いことを確認しながら、聖杯を受け取った。

 

 

「空間がかなり崩れてきたな。ロマニ・アーキマン!!」

 

『……そろそろレイシフトするよ。お別れなりなんなりするのは構わないけど、早めにね』

 

 

黎斗が声をかければ、ロマンがその場に顔を出してそう言う。

アヴェンジャーは帰ろうとし……

 

 

「……ちょっといいですかアヴェンジャーさん?」

 

 

……ルビーに呼び止められた。アヴェンジャーはイリヤの死角を通って城の裏にルビーと共に駆け込む。

 

 

「どうした」

 

「……例のガジェットを解析したときに、ルビーちゃんは何となく分かっちゃったんですけど」

 

「……ああ、やはり、分かったのか」

 

「ええ。……あれって、とんでもない厄ネタじゃありません? 正確にはあれのコピー元。何か、この世界の根幹を揺るがすような──」

 

 

そう言うルビーは、今までになく……と言っても一日二日しか関わっていないが、何にせよ不安を孕んでいた。アヴェンジャーはルビーの星の部分に軽くデコピンをかまし、言葉を遮る。

 

 

「イタッ」

 

「……それ以上は言うな。どちらにせよ、これ以上黎斗はお前達とは関わらない。お前達の出番はもう来るまいよ」

 

「……そうですか。ま、ルビーちゃんにかかれば、この特異点での出来事をイリヤさんの記憶から消去するくらいちょちょいのちょいですよ」

 

「……助かる」

 

 

そこまで言って、アヴェンジャーは静止した。足音が聞こえる。イリヤの物だ。アヴェンジャーはルビーと顔を見合わせ、そして出来る限り柔らかい表情を作る。

 

 

「ルビー!! アヴェンジャーさん!! 何話してるの!?」

 

「ああっ、イリヤさん!?」

 

「……ルビー……また何か変なこと言ってたの?」

 

「……いや、気にするな。……お前は早く元の世界に帰った方がいい。恐らく、()()()()()が待っているのだろう?」

 

「……でも、アヴェンジャーさん達は」

 

「気にするな。……頼むぞルビー」

 

 

アヴェンジャーはそう言って、ルビーをイリヤに返還した。ルビーも、ほんの少しだけ焦った様子で壊れかけの特異点に干渉し、元の世界への道筋をこじ開ける。

 

 

「大丈夫ですよ、ルビーちゃんにお任せあれ!! ちょちょいのちょいって……ほら」

 

 

そして開いた穴に、ルビーは少しだけ躊躇いを見せて振り返り、そしてすぐに飛び込んだ。

残されたイリヤは穴の方を気にしつつアヴェンジャーの方に駆け寄る。

 

 

「あっ、あの!! ……また、会えますか?」

 

「……会わない。会えない。会わない方がいい。その方が、幸せだ」

 

「っ……」

 

 

拒絶するような言葉だった。それでも、何処までも優しかった。イリヤは名残惜しそうに後ずさる。

 

 

「……ありがとうございました、アヴェンジャーさん」

 

「何……気にするな。さらばだ、イリヤ」

 

 

そして、イリヤも穴の中に戻っていった。

黎斗に頼めば、イリヤを人理修復のメンバーに加えるのは容易い事だっただろうが……

 

 

「……あれには、この恩讐にまみれた世界の深淵を覗かせる訳にはいくまいよ」

 

 

……それでもアヴェンジャーはそう言って、既に閉じた穴の痕に背を向けた。

 

 

 

「さて……織田信勝」

 

「……」

 

 

そして黎斗は、力なく打ち捨てられた信勝にバグヴァイザーを向けて立っていた。信長は曖昧な顔をしていたが、手を出そうとはしていなかった。

黎斗は信勝にバグヴァイザーを突き付け……

 

 

「……神の道を妨げたこと、非常に罪深い」

 

「僕は……僕のやりたいことをやっただけだ」

 

「……だろうな。そうだろうとも……それはそれとして、己の罪をその身で償えぇっ!!」

 

   ブァサササッ

 

 

次の瞬間には、信勝はその場から消え失せていた。

瞬きをする間も無く、彼は消えていたのだ。……しかし、それは倒されたとはまるで違う。

 

 

「……信勝を、吸い込んだ、じゃと?」

 

「ああ、神の才能に不可能は無い……後で霊基を弄っておこう」

 

 

バグヴァイザーに封印された信勝を冷ややかに見つめながら、黎斗はそう言っていた。

 

それと同時に、土方を倒し終えたネロとナーサリーが戻ってくる。

 

 

「黎斗!! 終わったぞ!!」

 

「ああ、ネロか。……そろそろ私を元に戻せ。自力で戻るのは面倒だ」

 

「うむ。任せるがよい。……あっ、ヒロインXとやらは戦いが終わると同時に逃げていったぞ」

 

 

そう報告しながら暴走特権を解除し黎斗を元に戻すネロ。黎斗は自分の体がフワフワ浮く五頭身では無くなったことを確認して……ネロにもバグヴァイザーを向ける。

 

 

「よし。……じゃあ、来い」

 

   ブァサササッ

 

 

こうして。バグヴァイザーの中に、信勝とネロ、二人のサーヴァントが入ったことになった。

黎斗はそれを何処か満足げに見つめ、ロマンに声をかける。

 

 

「レイシフトだロマン。早くしろ」

 

『……ああ、分かったよ』

 

───

 

 

 

 

 

……帰還してから数日間、黎斗はずっとマイルームに引きこもった。彼にはやることが多すぎたのだ。

 

まず、第五特異点でナイチンゲールに破壊されたゲーマの修復。

次に、エリザベートにテストプレイをさせて分かった克服すべき点をマジックザウィザードに入力する作業。

そして信勝とネロの霊基の改造。

その他、ガシャットのメンテナンスやら何やらに追われて、黎斗は食べるものも食べず寝ることもせず、仮面ライダーゲンムに変身してその不死身の体に任せて一週間の完徹すら成し遂げた。

 

そして。

 

 

「マスター? そろそろお茶にしま……死んでる……!?」

 

「……zzz」

 

 

とうとう限界を迎えて眠りについた。

 

───

 

「そうかい。黎斗がそんなことに」

 

「ここのベットに寝かせなくていいのかしら?」

 

「マシュやサーヴァント、そしてここまでの作業で限界を迎えた職員とかでもう一杯だよ」

 

 

ナーサリーは黎斗が倒れたことをロマンに話したが、彼は割りと非協力的だった。というか既に彼も徹夜続きでまともな判断が難しかったのだ。

 

 

「ああ、今からバイタルチェックしなきゃ……どうせ彼は死体なんだ、よほどのことが無い限り、今さら死にようもないさ」

 

 

本来なら最優先で黎斗の確認をするべきだが、彼も人間だ。態度が非常に悪くこちらにも非協力的で向こうからこちらに赴くことも無い奴は避けたくもなる。

ナーサリーはそれを何となく察して苦笑いし、マシュの方に歩み寄った。

 

 

「……それより。マシュがまだ目覚めないんだ」

 

「そうみたいね……マスターには言ったの?」

 

「いや。でも、もう知ってるんじゃないかな」

 

 

そう言うロマンの面持ちは暗い。

 

───

 

「……やれやれ。僕としたことが、随分と派手にやられてしまった」

 

「そうですねラーマ様……次は最後まで戦い抜きましょう」

 

「そうだな」

 

 

ラーマとシータは医務室の一角で、一つのベッドに並んで寝ていた。それだけベッドの数が少なかったのだから仕方がない。

 

 

「……次の特異点からは、本格的に君を守ることは叶わなくなるかもしれないな」

 

「気にしないで。ラーマ様は、マスターを守るためにやってきたんだから……私は私で、戦いますよ。終わったら、また会えます」

 

「そうか。そうだよな……ああ」

 

 

二人は黎斗に特別に恩義を感じていた。その恩義が強い縁となり、黎斗の元に馳せ参じる事が出来た。

故に二人は黎斗に従い、人理を救うつもりでいた。多少己の意にそぐわなかったとしても、出来る限りの事はするつもりでいた。

 

 

「……相変わらずのろけ話か、結構な事だな」

 

 

二人にそう嫌味を言うのはアヴェンジャー。何時もより更に機嫌が悪い。

 

 

「ああ、アヴェンジャー……お前は、あれで良かったのか?」

 

「何がだ?」

 

「あの幼子は……かなりお前になついているように見えたが」

 

「……だからこそだ。だからこそ……あいつはこの戦いにはついて来れない。来てはいけない」

 

 

眉間に皺を寄せながら、アヴェンジャーは淡々とそう言っていた。

 

───

 

……その数時間後。

 

人理が焼き払われた現在になってみれば、カルデアには最早昼も夜も無いが……時刻は、既に深夜を指していた。

ロマンはほんの少しだけ時間が出来たので、ナーサリーに差し出された紅茶を数時間ぶりの水分として補給していた。

 

 

「……ふぅ」

 

「お疲れね。休めないの?」

 

「……ボクが休んだら、何かあったとき困るだろ?」

 

「過労死しても、マスターみたいには蘇れないのよ?」

 

「……知ってるさ」

 

 

紅茶を啜るロマンの顔はやはり暗い。もし仮に黎斗がもう少し性格が良かったなら、彼がここまで痛々しい事になる必要は無かったのだが……何にせよもしもの話だ。

マシュはやはり目覚めない。ロマンには、彼女を起こすことは不可能だった。

 

その時。

 

 

「……マシュ・キリエライトはまだ眠っているか」

 

「あ、起きたのマスター?」

 

 

そこに現れたのが黎斗だった。どうやらもう目覚めたらしい。

彼はバグヴァイザーを弄りながらマシュの様子を確認する。

 

 

「昏睡状態のようだな」

 

「……もう十日は寝てるね。誰かさんがストレスかけたのかな」

 

「ふっ……漸くマジックザウィザードのアップデートが済んだから来てみたが、まだ寝てるとは……まあ、いいか」

 

 

黎斗はそう言い……マシュにバグヴァイザーを突き付けた。

 

 

「えっ、おい、何を……」

 

「まあ見ていろ」

 

   ブァサササッ

 

「ちょっ!?」

 

 

黎斗がビームガンから何かを打ち出す。そして瞬時にマシュがオレンジの粒子に包まれ、次の瞬間にはそれらも消え失せ……

 

 

「……っ……?」

 

「マシュ!?」

 

 

マシュはそれから数秒も待たせずに目を開けた。驚愕を隠せないロマン、黎斗は彼の顔を見ながらどや顔で腕を組む。

 

 

「これは、一体?」

 

「……ショック療法だ。と言っても、さっき信長にも信勝を押し付けてきたから何とも言えんが」

 

「つまり……バグスターに、感染させた? 彼女は、生きている人間なのに?」

 

「分類としてはデミ・サーヴァントだった筈だが……まあ、結局似たようなものか。ああ、彼女はバグスターに感染したようなものさ。ゲーム病のような症状も出るだろう」

 

「っ……!?」

 

 

まだ呆然としているマシュ。ロマンは彼女の体を急いで確認し……粒子が飛び出してくるのを直視する。

その粒子は、バグスターは人間の形を取り……

 

 

「んっんー!! 余、再誕じゃあ!!」

 

 

キャスター、ネロ・クラウディウスとなった。

 

───

 

「……ここはどこだ?」

 

 

その男は、黎斗の部屋から出て廊下を見渡していた。

茶髪に赤いマフラー、そして黒いジャケット……何より目を引く派手な指環。

明らかな異物。それまでカルデアにはいなかったし、増える筈の無い存在。来る可能性はゼロの存在。

 

彼は辺りを見渡し……エリザベートと目があった。

 

 

「……ねえ。ここどこだか分かる?」

 

「あら、イケメンがいるわ!! ……でも、アナタどこのサーヴァント? 職員でも無さそうだし」

 

「ん? サーヴァント……? 何それ……」

 

 

その単語は、男には聞き覚えの無い物だった。聞き覚えがある筈がなかった。そうあれと、()は望んでいたから。

そしてその男は、エリザベートに少し格好をつけて名乗る。

 

 

「いやいや、俺は操真晴人。操真晴人……で、ここ、どこ?」

 




イリヤにはあえて退場してもらいました


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新たな展開、不変の決意

テッテレテッテッテー!!

スマホの残りライフ98……私の貴重な時間をよくも!! 携帯会社絶対に許さねえ!!


 

 

「ねえ、見て欲しいヤツがいるんだけど」

 

「私はまだ作業が残っているんだが」

 

「いいからいいから……」

 

「……」

 

 

マシュにネロを撃ち込んだ後に廊下に出た黎斗は、エリザベートに呼び止められて彼女の部屋に強引に連れ込まれた。舌打ちをしながら、黎斗はその見て欲しいヤツを探し、すぐに見つける。

 

 

「来たわよ子ブタ」

 

「ああ、お帰りエリちゃん……そっちは?」

 

「ああ……もう目覚めていたのか。思ったより早い起動だったな、操真晴人」

 

 

操真晴人。黎斗は彼を知っている様子だった。晴人の方も見覚えを感じたのか少しだけ首を捻る。

 

 

「……何よ。知り合い?」

 

「いや、俺は別に……どっかで見たような見てないような……」

 

「……私は彼の全てを知っているがな」

 

「……どういうことだ」

 

「文字通りさ。君が何者か、過去に何があったか、使える魔法は何か、好きな食べ物、得意なスポーツ、靴を履くときはどちらからか、バイクにはどちらから乗るか、その指の指輪は誰に託された物か……全て知っている」

 

 

黎斗はそこまで一息に言って、少し間を開けた。晴人の方は困惑と共に恐怖を覚えたのだろう、左の手に赤い指輪を少し動かす。

 

 

「……まさか、ファントムか?」

 

「私は神だ」

 

「……説明しろ、お前は誰だ」

 

「君の……マジックザウィザードのゲーマである君の創造主、神の才能を持つ男……檀黎斗」

 

───

 

その頃。

マシュはベッドに呆然と腰掛けながら、天井を静かに見つめていた。その姿は、眠っていない事以外は、全く先程までと変わらないように見えた。

ロマンは安堵で緊張の糸が切れたのだろう、床に倒れ付して眠っている。ナーサリーは彼を運搬しようと、オーニソプターを探しに出ていた。

 

 

「マシュよ、久しぶりだな!! 余は再び会えて嬉しいぞ!!」

 

「……ああ。覚えていたんですね」

 

 

沈黙に耐えられなくなったのか、ネロが声色も朗らかにマシュに話しかける。かつてならマシュも同じくらいハイテンションで応じていたのだろうが、そうはならず……彼女の声は重かった。それでいて空っぽだった。

ネロは一瞬打ちのめされたような顔をしたが、気を取り直して彼女の肩に手を置く。……非常に軽かった。上から触るだけで軽いと理解できた。

 

 

「……どうかしましたか」

 

「何だ、思ったより冷めた反応ではないか。もしや黎斗に毒されたか?」

 

「……いえ、そうでは」

 

「何があった……余に申してみよ」

 

 

そう言ってみれば、マシュは口を少しだけもごもごと動かして煮え切らない反応をする。

ネロはマシュの白くなってしまった髪を撫でた。一時期は黒くなったり青くなったりと不安定だったが、どうやらもう変化は無いらしかった。

 

 

「……黎斗さんは、私の目標でした」

 

「……」

 

 

ぽつりぽつりと、マシュが話し始める。

 

 

「最初の最初に出会ったときには、凄い人だと思いました。怖かったけど、強くて、頼もしくて。でも……底知れない何かを感じていました」

 

「……」

 

「私は、デミ・サーヴァントになったのに。私より彼はずっと強かった。そして……酷かった。彼は私の知らない所でブーディカさんを、そして、目の前でドレイクさんを殺したんです。そしてフォウさんも……」

 

 

それはマシュ・キリエライトの軌跡。

汚れの無かったただの少女が、檀黎斗という人間によって悪性を知る旅。純粋な欲を知った少女の、葛藤と決断の物語。

 

 

「私の前で、沢山の人が苦しみの中で死にました。意味無く死んでいきました。例えその結果が正しくとも……私は受け入れられない」

 

「……そうか、そうだったのか」

 

「だから、決めたんです。私が、人理を救うって。黎斗さんに任せていたら、きっと、みんな不幸になってしまうから。だから……戦いました」

 

 

少女はそう決意した。例え誰から止められようと、その意思だけは曲げられなかった。悪の中で練り上げられた何者にも変えがたい少女の希望。

それが、破滅への片道切符だとしても。

それが、ただの少女には不可能な選択だとしても。

 

 

「人理の為に、最小限の敵を殺そうと思えました」

 

 

それは、マシュ本来の在り方から反れていく道程。

 

 

「全てを投げ出してでもやり抜こうと思いました」

 

 

安全装置のロックを一つずつ外すように。彼女は一つずつ壊れていく。

 

 

「……本当の事を言うと。自分でも、よく、分からなくなって来たんです。自分は何で戦っているのか」

 

「……人理を救うためではないのか?」

 

「いや、そうなんです。その筈なのに……私の中には、もう死にたい、楽になりたい、という言葉が響いている……疲れですかね」

 

 

既に彼女は、死にかけだ。死の足音は耳元で自己主張を続け、死神の鎌は彼女の首筋をくすぐり、檀黎斗の活躍はマシュの心に杭を打ち。

それでも決意だけは歪みなく。それこそが、最も歪な事象だった。

 

彼女は、人理を救う機械になろうとしていた。

 

 

「決して、人理を救いたくないなんて思っていません。人理は救います。でも、それと同時に……もう、人間を、私が命をかける者達の醜い部分を、私は、もう、見たくない……!!」

 

「……そうか」

 

 

当然の感情だった。檀黎斗によってもたらされたそれは、その感情は自己矛盾を伴う物であったが、精根枯れ果てて尚立ち続ける彼女はそれを認めていた。

 

守るべき大切な物=人理

 

その方程式を背負うには、ただの少女のままのマシュには力が無さすぎる。それでも彼女には、最早その道しか見えなかった。

 

……ネロは何も言わなかった。そして、マシュを背中からひしと抱いた。

 

 

「余は人間を愛する。その人生を愛する……()()()()、その生き方は余が肯定しよう。貴様は美しい……」

 

「ネロ、さん……」

 

 

枯れ果てようとしていた花から、一筋の滴が絞り出された。

 

───

 

「ええと、整理するわね? 子ブタは黎斗の作ったあの、ええと……」

 

「マジックザウィザード」

 

「そう、それのゲーマで、黎斗がオリジナルの子ブタをストーカーして開発した本人と全く同じコピー……なのよね?」

 

「正確には、自分がオリジナルでないと知っても大して驚かないようには調整したがな。それだけだ。それ以外は全て同じだ」

 

 

一通り、マジックザウィザードのゲーマとして操真晴人を作るまでの経緯を説明した黎斗は、腕を組んでどや顔をしていた。エリザベートはなんだかそれが気に食わなくて、変態(黎斗)に大して舌を出してから晴人の元に向かう。

 

 

「ねえ大丈夫なの子ブタ?」

 

「ああ……案外ショックじゃなかった。それが調整の賜物なのかは知らないけどね。……で? 俺は何をすればいいんだ? わざわざ呼び出したんだから、何かあるんだろ?」

 

「当然、世界を救ってもらう。この焼き払われた世界を人理修復という過程を経て救うことが、ゲームクリアの条件だからな。単純明快だ」

 

 

事も無げにそう言う黎斗。実際、仮面ライダーウィザードはかつて世界を救った戦士。その強さは本物であり、その本物をコピーしたゲーマに対して、黎斗は絶対の自信を持っていた。

 

 

「当然だが、変身は可能だ。各種ドラゴンからインフィニティーまで使える。……だがゲーマである以上限界はある。ドラゴンなら5分、インフィニティースタイルの場合は3分も持たずにダメージ過多で機能停止するから気を付けるといい」

 

「……仕方無いな。付き合ってやるよ、人理修復。俺が、最後の希望だ」

 

 

晴人がそう宣言するのを聞いているのかいないのか、黎斗は責任は果たしたと言わんばかりにさっさと部屋を出ようとする。エリザベートがそのあっさりさに思わず呼び止めた。

 

 

「ちょっと何処行くの!?」

 

「まだ作るべきものが残っている」

 

「何よそれ!?」

 

「……君が知る必要はない」

 

 

黎斗はそうとだけ言って部屋を出た。

 

───

 

そして。

 

 

「……いつまで座っておるつもりじゃ? 信勝」

 

「……姉上……」

 

 

黎斗に信勝を押し付けられた信長は、出てきてからずっと部屋の隅で体操座りしている信勝に声をかけていた。

 

 

「全く。折角ここに来れたのじゃからもうちょっと何か言ってもいいじゃろうに」

 

「……でも……」

 

「……まだ納得が行っていない様子じゃな。聞き分けの悪いヤツめ、このこの」

 

 

いじける信勝を肘でつつく信長。その顔は別に嫌そうではなく、むしろ楽しげで。信勝はその顔を横目に見て、少しだけ口角を上げた。

 

 

「……やっぱり、姉上は甘い。僕は何も変わっていないのに、やっぱり、姉上に傷ついてほしくも、傷つけてほしくもないままなのに……心変わりはしてくれないんでしょう?」

 

「その通りじゃな……むぅ。そなたはあれじゃな。諦めが悪い上に物事を俯瞰出来ないというかなんというか……」

 

 

寂しげに呟く信勝に対して唸る信長。当然、信勝の意志は黎斗に倒された位では変わりはせず。そんなことは信長には十分分かっていた。

 

 

「仕方無い奴よ。ま、是非もないか……あれじゃ。精神に抜本的な改革が必要じゃな。ああ、そなたはわしに着いてこい……わしの生きざま、とくと見せてやる」

 

「……」

 

「顔を上げんか、信勝。お主のそのひん曲がった精神をわしが叩き直してやるから覚悟することじゃな」

 

 

信長は項垂れる信勝の顎を軽く持ち上げて信長自身の目を見させた上でそう言った。言葉とは裏腹に、信長は笑顔だった。

その姿がかつての平和な日常を思い起こさせて、信勝も少しだけ笑う。

 

 

「……分かりました」

 

「……うむ、それで良いのじゃ……と、言うわけで。わしのCD100枚、なんとかして全部売ってほしいのじゃ!! あ、一つ千円な!!」

 

 

信勝が了承の言葉を漏らすや否や、信長は何処からか山になったCDを取り出す。

……セール品、とシールが貼ってあった。どうやら、ダ・ヴィンチの店に置かせて貰ったがほぼ売れなかったらしかった。

 

 

「……フフッ。了解しました姉上」

 

「ノブッ!!」

 

「ノブッ!!」

 

 

ちびノブを呼び出し、CDを抱える信勝。その足取りは、少しだけ軽くて。

 

───

 

 

 

 

 

「……ん。寝てたのか……ええと……もう十時!?」

 

 

そしてロマンは目を覚ました。時計を見れば、もう午前十時……半日は寝ていた事になる。

彼は慌てて飛び起きようとして、全身の痛みに顔をしかめた。

 

 

「っく……」

 

「おはようロマニ。随分早かったじゃないか」

 

「ダ・ヴィンチ……早く、仕事に戻らないと」

 

「馬鹿を言うな、今折角ダ・ヴィンチちゃんが君の代理で働いてるんだから、ありがたく君は眠っていたまえ……なんてね」

 

 

そう言いながら彼は、ロマンにコーヒーを差し出す。今度はロマンはゆっくりと、痛みが無いように上半身を上げ、ベッドに腰かける形でダ・ヴィンチと向かい合った。

 

 

「マシュはどうなった?」

 

「……今は覗きに行かない方がいい。ネロと重なりあって眠ってるからね」

 

「……体調に変化は?」

 

「遠距離からの簡易バイタルチェックに限定すれば、以上は無かった。うん」

 

「……そうか。なら、良かった」

 

 

コーヒーを啜りながら、ロマンはそう呟く。彼は、かつてのマシュを少しだけ思い返した。

 

 

 

『こんにちは、はじめまして、召喚例第二号……あ、いやそれはないな。今日ぐらいはちゃんと名前で呼ばないと』

 

『こんにちは、マシュ・キリエライト君。ボクはロマニ・アーキマン。これからは君の主治医となる』

 

『君にも遠慮無く、思ったこと、感じたこと、とにかく色々なことを話してほしい。相互理解にはコミュニケーションが最適だ。手に入る情報量が段違いだし、何より温かいだろう?』

 

 

 

そんな言葉に、ぼんやりと頷いていた彼女は、もういない。コーヒーの水面にうっすらと見えたかつての彼女は、すぐに掻き消える鏡像で。

 

今、いるのは。

 

───

 

 

 

 

 

「フフフ……ハハ……」

 

 

黎斗がキーボードを叩く。

マイルームにカタカタと音が響き渡り、画面には白い文字が踊る。目の前の()()()()()()()()()は紫の閃光を煌々と放ち、そして黎斗は高笑いしながら巨大なエンターキーを殴り付けた。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

ガシャットに文字が浮かび上がる。

マイティと名付けられたキャラクターの回りには金の光が煌めいていて。

 

 

「私こそが……私こそが!! 神だあぁぁああああ!!」

 




さあ、ショータイムだ

……あ、ネタバレは厳禁だからね
気づいても黙っててね


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第六特異点 神聖円卓領域キャメロット Shield knight の覚悟!!
悪夢は嵐と共に


 

 

 

その数日後。第六特異点発見のアナウンスは突然だった。

資料室で本を読んでいたマシュは、貸し出し履歴をつけてそれを持ち出し、栞を挟んだまま本を自分のロッカーに入れて、管制室へと走り出す。

 

 

「ん? 黎斗と決着はつけなくて良いのかマスター?」

 

「……今はまだその時ではありません。行きますよ、ネロさん」

 

「そうか……なら、まあよい。……始まるな、戦いが」

 

 

そうしてすぐにマシュは管制室に入り、自分のコフィンの場所を確認した。何の温もりも感じられないそこを一目だけ見て、そしてロマンの前に立つ。

 

少しだけ遅れて他のサーヴァント達もやって来た。ついでに言えば、エリザベートは晴人を伴っていた。負った傷は既に癒え、万全の状態だ。

そして、かなり遅れて黎斗が歩いてきた。

 

 

「……遅かったな」

 

「最新作の開発を終わらせてきたばかりだ」

 

 

そう言いながら黎斗は、何時ものガシャットの数を確かめる。そして何時もと同じだけのガシャットを抱えて、コフィンの中へと入っていった。

 

 

「……先に行っちゃったね。一応説明するけど、今回の特異点はエルサレムだ。年代で言えば、十字軍が動いていた頃だね……何にせよ、敵はますます強くなっているだろう。油断しないように」

 

「分かりました、ドクター。……行きますよネロさん」

 

「うむ」

 

 

マシュはネロを取り込んで、コフィンの中に横たわる。信長も同じようにしているらしかった。晴人は……エリザベートの持つマジックザウィザードに戻ったようだが。

そして、全てのサーヴァントがコフィンに横たわり。

レイシフトが決行される。

 

───

 

 

 

 

 

風が吹き荒ぶ。砂が舞い上がり水は消え失せる。そんな大地に、一行は降り立った。

 

 

「っぐ……とんでもない風だな。ここは砂漠か?」

 

「そのようだな。……下手をすれば飛ばされる、あの岩影ならなんとか凌げそうだ。急げ」

 

「こんな場所がエルサレムなんて思えないんですけどー」

 

「目に、目に砂が入った!!」

 

「痛むのだわ、痛むのだわ痛むのだわ!? 本に砂嵐とかデリカシーが無いわ!?」

 

 

そうぼやきながら慌てて移動する一行。黎斗はいち早く安全圏を陣取り、砂粒に気を遣いながらカルデアとの通信を試みる。

 

 

「カルデアとの通信は……安定しないな。いつものことか」

 

 

駄目だった。まあ、そんな気はしていた。

ため息を漏らす黎斗の後ろでは、エリザベートが晴人を揺さぶっている。

 

 

「ねえ、何か魔法無いの?」

 

「うーん、無茶ぶり振ってくるねエリちゃん。でも……あー、無いな、コレ。砂嵐が起こる前の時間軸に移動する手もあるにはあるけど……ここでやったらなんか不味そう」

 

「止めておけ操真晴人。……聖晶石を加工すれば新たな指輪も作れるだろうが、今は無理だ」

 

 

黎斗は晴人にそう言いながら立ち上がり、辺りを見回した。

 

 

「仕方がない、歩くぞ……こんな場所だ、バイクゲーマも働くまい。幸い向こう側に神殿らしき建物も見える」

 

「分かった」

 

 

そして、ちょうど良いタイミングで突風も止んだ。また吹き始める前に歩き出そう、と足を進めようとするサーヴァント達を、何かに気づいた晴人が手で制する。

 

 

「……待って。ここは駄目だ」

 

「どうしたの子ブタ?」

 

 

晴人の目は険しくなっていた。辺り一面は砂で覆われているというのに、彼は何を見たのか……そう首を傾げるエリザベートに、晴人は現状を見せつける。

 

 

「……見た方が早い。一瞬だけだから、目を凝らして」

 

『ライト プリーズ』

 

   カッ

 

 

一瞬だけ光が溢れ、砂に遮られていた視界が晴れた。

歩き回る魔獣の大群が一行の目に飛び込む。光はすぐに消えたが、それでも一度視認した存在を確認するのは容易かった。

 

 

「……何じゃあれ!?」

 

「ひー、ふー、みー、よー……」

 

 

信勝が数を数えてみる。顔面蒼白になりながら指を折っていき……そして全て数え終えた。

 

 

「うわぁ、ざっと三十はいますねコレ!!」

 

「ふざけた数だ……だが、足取りに迷いが無い。元よりここに住んでいた存在だな。恐らく、あれは……スフィンクスだろう」

 

「放し飼いという訳だな。……自ずから神殿が誰のものかも分かったのは幸いか。何にせよ、下がるぞ」

 

 

幸いまだ気づかれてはいない。静かに退却すればバレはしないだろう、と後退りする一行。あれだけのスフィンクスに襲われればただでは済むまい。

しかし、その行動をマシュが遮る。

 

 

「……待ってください。神殿方向からこちらに向かう影が……」

 

「スフィンクスか?」

 

「いえ……髑髏の、面?」

 

「……髑髏の面、じゃと?」

 

 

いかにも怪しい集団と出くわした。器用にも足音一つ立てずにスフィンクスを回避し走る姿は怪しい奴そのもの。おまけに蠢く袋を背負っている。それらは一行の眼前に迫り……

 

 

「逃げないと、いや、近すぎる!!」

 

「暫く相手しろ!! ああ、ガシャットの端子に砂がつかないように気を遣え!!」

 

「了解した、変身!!」

 

『ガッチョーン』

『Transform Saber』

 

「はあっ!!」

 

 

真っ先に飛び出したのはジークフリート。彼はセイバーへと変身して突撃、集団を二分する。そしてそれぞれの集団に、サーヴァント達が一斉にとびかかった。

 

……瞬殺だった。いや、峰打ちで抑える程の余裕すらあった。

向こうは不意討ちこそ察したらしかったが、サーヴァントの大群に対応できるほど強くは無かったのだ。

そして集団の殆どは砂漠に尻餅をつき、袋をしっかりと握っていた髑髏の面の女も、セイバーの峰打ちで吹き飛ばされた。

 

 

   ガンッ

 

「つぁっ……私の仮面が……!!」

 

「……アサシンのサーヴァント……ハサンか」

 

 

黎斗は心当たりがあるらしく、警戒を続けながら様子を見る。

面を落としたハサンは、部下の一人と共に立ち、袋を持ったまま脱出口を探している。

 

 

「く、こやつら全うな兵士ではありませぬ!! あの娘の紋様、恐らくは聖都の……」

 

「下がれ!! 敵はサーヴァント、貴様らでは容易く殺され……て、いないな。峰打ちか……余裕のつもりか? 嘲りか? 我ら山の民など殺すに値しないと? ……まあ、命があるならよしとするか。起きれるだろう?」

 

「う、ぅ……」

 

「ぐっ……」

 

「早く立て。今回の目的は女王の奪取。この女さえ無事に手には入ればスフィンクス共など……」

 

 

峰打ちにしていた集団……山の民達が立ち上がり、袋に手をかける。そして彼らは一行の前から逃亡しようとし……

 

 

『コネクト プリーズ』

 

「貰うよ」ヒョイ

 

「っ!?」

 

 

大事に抱えていた袋を魔方陣から出てきた手に奪われて驚愕の表情を浮かべた。辺りを見てみれば、袋は敵の中の一人の手に渡っている。

 

 

「貴様、何をした!?」

 

「悪いね。この袋、中に人いそうだから貰うよ」

 

「手品師めがっ……!!」

 

「指輪の魔法使い、と呼んでほしいね」

 

 

罵りを受けながら晴人は笑い、袋を丁寧に地面に置く。山の民の集団は苦々しげに舌打ちし、一行に疑問を投げ掛けた。

 

 

「貴様らは一体何者だ? オジマンディアスの手の者か?」

 

「……オジマンディアス……?」

 

「オジマンディアス……って、誰?」

 

 

……殆どのサーヴァントはオジマンディアス自体を知らなかった。ハサンはその反応に心なしかずっこける。

黎斗は肩を竦めながら軽く説明を開始し……

 

 

「つまりはラムセス二世だな、この名の方がまだ知れていよう。だが……詳しい話は後だ。スフィンクス共に勘づかれた!! ついでにメジェドもいる!! 逃げ……られるほど環境は良くないな。伏せて防御を固めろ!! 前を見るなよ!!」

 

 

……即座に踞った。周囲のサーヴァントは困惑しながらも黎斗に従う。

 

 

「メジェドって何なのかしら!?」

 

「とりあえずくねくねとかメリーさんみたいな者だ!! 目を会わせたらゲームオーバーだぞ!!」

 

 

足音が近づく。晴人は袋が奪われないように体で庇いながら丸まり、ナーサリーは一時的に本になり、信勝はちびノブを隠れ蓑にし……そんなこんなでスフィンクスを受け流した。獣達は山の民の元へと向かっていく。

 

 

「くっ!! 失敗か……仕方ない、撤退するぞ!! ……手品師、いや、指輪の魔法使い!! この恨みは忘れぬからな!!」

 

「待ってくれ、話を聞きたい……!!」

 

「ははは!! 待てと言われて待つハサンがいるか!! 砂嵐など日常茶飯事、風避けの魔除けの加護ぞある!!」

 

 

そう言いながら去っていくハサン達。その後ろを赤い鳥が風に吹かれながらついていくが……すぐにスフィンクスの一体におもちゃにされた。

 

 

「……逃げられたか。ガルーダを咄嗟に追尾させたけど……無理だね」

 

 

晴人はガルーダを回収しエリザベートの隣に立つ。黎斗は軽く人数を確認し、メンバーに問題ないことを確かめた。

そして全員が、置いていかれた袋に目をやる。

 

 

「それより、ガチャの開封の時間じゃな。この袋の中には何がいるのか……」

 

「あ、姉上そんな乱暴に開けたら……」

 

 

がさつに袋の紐を解く信長。わくわくしながら袋を開けた彼女の顎に……褐色の足が突き刺さった。

 

 

   ゲシッ

 

「そげぶ!?」

 

「姉上!?」

 

 

三回ほど回転してからフラフラと立ち上がる信長。目を回しているらしく、信勝に支えられて漸く立てる位にはダメージを負っていた。

その隣で、袋の中から女性が……サーヴァントが這い出してくる。アヴェンジャーが彼女を縛る紐を解いてやれば、彼女は一つ深呼吸をした。そして立ち上がる。

 

 

「やっと解放されました……!! おのれ無礼者たち、何者です!! 私をファラオ、ニトクリスと知っての狼藉ですか!!」

 

「ニトクリス……とは、一体? ラーマ様知ってます?」

 

「知らないな。全く。信勝は?」

 

「さあ……姉上知ってます?」

 

「当然知らぬな」

 

 

……誰も知らなかった。オジマンディアスを知らない人々がニトクリスなんて存在知っている訳が無いのだ。

 

 

「古代エジプトの魔術女王だな。紀元前二千年前……最古に近い英霊と言える」

 

 

見かねた黎斗がそう注釈を入れる。

 

……ニトクリスは顔を赤くしていた。ファラオと知っての狼藉かと質問してみれば、そもそもファラオ自体知らない連中だったとは……自分が馬鹿みたいではないか、と。

 

 

「どうどうと私を虚仮にしてくるとは……!! 私を突然後ろ手に縛り上げ猿轡をして袋に押し込み連れ去るなど……!! ……あれ、顔、違う……?」

 

 

そして彼女は更に気づいた。

おかしい、自分を拐ったのはもっと全体的、こう、黒かった筈だ、と。

 

 

「ええ、違いますとも。私たちは誘拐中の貴女を助けたんです。戦ってることは何となく察せられたでしょう?」

 

「……それは……確かに……で、でも……我が恥辱は取り合えず返したいし……でも太陽王への帰順も問ってないし……そもそも私を助けた理由が分からないから……」

 

 

それでも今さら何も無かった事にするのは恥ずかしすぎる。取り敢えず何かしらの疑いはかけておかないと……等とニトクリスは考え始めていた。当然、顔は真っ赤である。

そして口を開こうとし……

 

 

「彼らは無実ですよ、寝起きのファラオ、ニトクリス。そもそも聖都の騎士が貴女を拐う理由がありましょうか」

 

「あふん」

 

 

……突然現れた別の存在に遮られて、恥ずかしさで地に伏した。

 

 

「あうう……う……そもそも……我が神殿に忍び込めるのは、山の民ぐらいのものでしたね……あ、貴方は……?」

 

「……私は、ルキウス。主のいないサーヴァントです」

 

 

銀色の騎士。見覚えは無かったが、言われたことは正論なのでニトクリスには最早どうしようもない。諦めて謝罪しよう、と彼女が一行の方を見ようとすれば。

 

超至近距離で黎斗がニトクリスを見下ろしていた。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「ひっ!? 何なんです、突然大声を出して……」

 

「何なんです、だとぅ? 君を助けてあげた存在、それ以外にあるか?」

 

「……ぐぅ……感謝、しております、旅の方……」

 

 

すっごく屈辱的。しかしニトクリスは礼を言う立場、何も出来ない。

 

……高笑いを続ける黎斗を、彼の仲間達は冷や汗をかきながら眺めていた。

 

 

「ところで、私は水が飲みたいのだが……」

 

「み、水ですか……それなら、近場のオアシスにでも……」

 

「あー、果物とかも欲しいなぁ。ファラオなのだろう? 出来ないことなどあるまい? それとも命の恩人に対してそんな態度を取るのがファラオなのか?」

 

「うぐっ……そ、そんなことは、断じて……」

 

 

「流石にちょっと失礼じゃないかしら……」

 

「えーと、女王、なんだよな……? 相手は?」

 

「そうだと言っていたと思うのですが……」

 

 

「あーあ、連れてってほしい物だなぁ。 欲を言えば、スフィンクスの背中などに乗せて貰いたいな……丁度良いところにスフィンクスいるしなぁ?」

 

 

ファラオに対してこの横暴。神をも恐れぬ黎斗の神経の図太さには寧ろ感服すら覚える、サーヴァント達はそう評価していた。

 

そして先ほどニトクリスを注意した騎士は、悪いことをしたと心の中で謝っていた。

 

 

「乗せてほしい物だ、ああ、本当に!! もう私の足はくたくただなぁ……? んー?」

 

「くぅ……オジマンディアス様のスフィンクスを……でも……」

 

「 出来ないのかぁ……?その程度で神を名乗ると言うのかぁ……?」

 

「っ……分かりました……」

 

「聞こえないな、もっと大きな声で言いなさい」

 

オジマンディアス様のスフィンクスは最高です!! 感謝の印に神殿までお招きいたしますっ!!

 

 

涙目だった。

 




初めて特殊タグ使ってみた
面白いね


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絶望の入り口

 

 

 

 

 

「さて、おまえたちが異邦からの旅人か。我が名はオジマンディアス。神であり太陽であり、地上を支配するファラオである」

 

 

スフィンクスに乗ってオジマンディアスの神殿までやってきた一行は、VIP待遇で玉座まで案内され、そこに座る褐色の男性……オジマンディアスの前に立っていた。

あの騎士は、スフィンクスに乗る段階でニトクリスに詫びて何処かに行ってしまっている。

 

 

「……そして、今、余は眠い。老人が死の淵から目覚めたばかりのように、だ。よって言葉は最小限にとどめる。我が玉音、心底に刻むが如く拝聴せよ」

 

「ほう?」

 

「おまえたちがカルデアからの使者であること、これまで五つの特異点を修復した者であること。そしてついにこの第六の楔……砂の聖地に現れた事。全て承知している」

 

 

オジマンディアスはそう言いながら……黙って立つ一行に見せつけるように、ゆっくりと胸元から聖杯を取り出す。

 

 

「何故ならおまえたちが探す聖杯は、この通り、余が手にしているからだ」

 

「っ……!?」

 

「つまり、魔神柱……なのか……?」

 

 

突然の出来事に半ば呆然としながら武器を構える一行。そしてオジマンディアスは弓を向けられても怯むことはなく、それがいっそう不気味だった。

……しかし、戦闘には発展しなかった。玉座に座るファラオは再び胸元に聖杯を戻し、鼻を鳴らす。

 

 

「フン、誰が魔術王なぞに与するか。これは余が十字軍から……」

 

   スパッ

 

「……十字軍から没収したものだ。真の王たる余に相応しいものとして、な」

 

 

……一瞬首がずれた。

本人は何でもないように振る舞っているが、一瞬首がずれた。全員それをしっかりと見ていた。

スパッて音と共にずれた首はすぐに戻っていたが、やっぱり一瞬ずれていた。全員は顔を見合せ、少しだけざわめく。

 

 

「……首が、その……スルッて、しなかったかしら?」

 

「……えぇ……」

 

「ヒィ……」ガタガタ

 

 

困惑を隠せない一行。首が落ちたのも当然驚きだが、何よりすぐに戻ったのが驚きだ。

こいつ、もしや黎斗の同類(ゾンビ)か?

 

 

「あり得ぬ。旅の疲れであろう。不敬だが、一度のみ許す。余の首は何とも……」

 

   スパッ

 

 

首を振り話を再開するオジマンディアスの首が再びずれた。

 

……微動だにせずに黙るしか無かった。下手に刺激してゾンビを正面から相手するはめになるのはごめんだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……余は調子が出ぬ。そろそろ面会は終わりにするぞ。故に要点のみ伝える」

 

 

オジマンディアスは首のずれを無かった事にした。逆ギレによる理不尽な攻撃はされなかったから、まあ幸運だったと言える。

 

 

「聖杯は余の持ち物。であれば、おまえたちが聖杯を求めるならいずれ殺し合うは道理。余の敵だ」

 

「なっ……では、私はファラオの前に敵を招き入れてしまったと!?」

 

「無論。だが……ニトクリス。そなたには聖杯と、この特異点に関する知識は伝えておらぬ。それは余の落ち度だ。そなたの罪ではない。それというのも……」

 

 

オジマンディアスの言葉に後悔するニトクリスを静止して、オジマンディアスは一度言葉を止め一行の顔を見渡し……小さくため息を吐いた。

 

 

「ふん。第四辺りで潰れたと思ったが、余の憶測も笑えぬな。お前達は確かに早かったが……それでも、少し遅かった。カルデアよ、この時代の人理は、既に崩壊したぞ」

 

「なっ……」

 

「まさか……そんな……!?」

 

 

予想だにしていなかった言葉に、思わず驚愕と焦燥を露にするマシュ。他のサーヴァント達もどう反応していいか分からないようで、互いの顔を見合わせている。

人理崩壊。それを告げたオジマンディアスは、一行を見ながらさらに続けた。

 

 

「この時代……本来であれば聖地を奪い合う戦いがあった。だがそうはならなかった。余は十字軍めに召喚され、聖杯を奪ったからな」

 

「じゃあ……オジマンディアス。貴方が、人理を崩壊させたのですか? ここに砂漠を呼び起こして?」

 

「いや!! 太陽王たる万能の余が聖杯などという毒の杯を使うとでも思ったか!! 余は聖杯の持ち主であり守護者!! 聖地になど全く興味はない!! 故に……心して聞け」

 

 

その場の空気が凍りついた。この暑い砂漠の中で、この空間のみ、全てが静まり返っていて。

 

 

「この時代を破壊したのは、貴様らの目指したエルサレムの残骸、絶望の聖都に座している!! 通り名を獅子王、純白の獅子王、と謳ってなぁ!!」

 

「獅子王……王、ですか」

 

「王……一体、誰だ……?」

 

「その通りだ……言うべき事は以上だ」

 

 

オジマンディアスは席を立った。玉座から降りた彼は、別の部屋へと向かっていく。そして急に、思い出したように立ち止まり、彼の背を見送る一行に振り向くことも無く告げた。

 

 

「ああ、食事は用意しておいた、食べていけばよい」

 

「ほう? ……敵に食を与えるのか。随分余裕なんだな、オジマンディアス」

 

「我らはファラオ、客は当然もてなす。砂漠を行く辛さは理解している故か。……だがそう容易く協定を結べると思うな。加えて、お前達は全体的に危険すぎる。覚悟と矜持があったとしても、その時点でどうともしがたい……」

 

「どういうことだ」

 

 

晴人が再び歩き始めるオジマンディアスに質問を投げ掛ける。

しかしそれは答えられる事は無く。

 

 

「……だが余はお前達は嫌いではない。故に、この世界の真実、この世界の残酷さを見聞せよ。その後お前達がどう変わるか……さらに悪化するのか、寧ろ振り切れるのか。それは知りたいゆえ、お前達が世界を見た後に、もう一度だけ機会を与えよう。その時は余に刃向かう獣として扱うが……それはそれとして、余は再び来訪するのを待つぞ」

 

 

……そしてファラオは、廊下の向こうに消えた。

 

───

 

「……ふぅ。まあ、得るべき情報は得られたな」

 

「一応ご飯は食べれたけれど、割りとあっさりだったわね」

 

「水と果物だけはやけに多かったがな!! ……もう少しバリエーション増やしてもよいじゃろうに」

 

「うむ。余は悲しい!!」

 

「……大方首の調子の問題だろうよ。……あれはどう見ても誰かの差し金だろうが」

 

 

食事を終えた一行は神殿を叩き出され、街の果てまでやって来ていた。後ろには見送りとしてやってきたニトクリスが立っている。

 

 

「そこ、不敬ですよ!! ファラオ・オジマンディアスは貴方がたの為に水と食料も用意してくれたと言うのに」

 

「ああ、『貴様が野垂れ死にしては余の楽しみが減る』と言って山のように渡してくれたな」

 

 

渡された荷物を抱えながら黎斗がそう言った。……山のように、というか、抱えられた荷物は傍目から見れば正しく山だった。

この砂漠ではバイクゲーマも使えない、仕方無いからロボットゲーマでも用意しようか、と考えている黎斗。ニトクリスはそんな黎斗には一歩も近づくこと無く、一行を見回す。

 

 

「……では、さようなら。次にファラオ・オジマンディアスに出会うときが貴方がたの死の運命……それを忘れぬように」

 

 

そして彼女はそう別れを告げ立ち去ろうとし……半ば自動的にマシュに目を向けた。

 

 

「……どうかしましたか」

 

「いえ……貴女は、既に覚悟をなさっているのだな、と」

 

 

指摘されたニトクリスは目をそらしながらそう呟く。ネロが何か感じたのか、マシュの前に立った。

 

 

「ん? 余のマスターはやらんぞ?」

 

「いえ、別にそういう訳では。ただ……」

 

「……ただ?」

 

「……いえ、何でもありません。貴女は例え一人でも、命を削って奮い立つお方です。……羨ましくはありませんが、尊敬出来ます。では」

 

 

 

『いいなー、いいなー!! 私もエジプト行きたかったなー!! いいなー!!』

 

『ちょっ、落ち着いてダ・ヴィンチ!!』

 

 

通信の画面いっぱいに興奮に顔を輝かせたダ・ヴィンチの顔が映っていた。後ろではロマンの声も聞こえる。

 

 

「一体何のようだ、レオナルド・ダ・ヴィンチ。まさか言いたいことは怨み言だけじゃあ無いだろう?」

 

『当然さ!! ……いつものオーニソプターを、エジプトへのロマンを込めて魔改造したんだよね!! ちょうど良いことにそこは霊脈だ、早速転送するよっ!!』

 

 

そして、キーワードを叩く音が響き始めた。それと同時に、オーニソプターが現れる。

 

……いや、それは到底オーニソプターとは言えないような代物だった。

 

 

「これは……オーニソプター、なのか?」

 

「……キノコ?」

 

『名付けて!! オーニソプター・ピラミッディアス!!』

 

「何時ものベビーカーの上に超巨大ピラミッド……じゃと!?」

 

 

そう、オーニソプター……改め、オーニソプター・ピラミッディアスは、ベビーカーの上にピラミッドをそのまま乗せ、その正方形の底面の四隅から伸びた脚とベビーカーの車輪で走行する、アンバランスの極みのような代物に成り果てていたのだ。

 

 

「……ダ・ヴィンチ、あなた馬鹿じゃないの?」

 

「天才と呼びたまえ!!」

 

「馬鹿だろ」

 

「天才だ!!」

 

───

 

 

 

 

 

「……見た目に依らず快適だな」

 

「砂嵐地帯も抜けたようね……何だか日も落ちてきたわ、ロマンチックね!!」

 

 

オーニソプター・ピラミッディアス内部、ピラミッド部分にある巨大な空間……それこそこの場のサーヴァント全員が狭苦しく無い程度に広い空間の運転席に腰掛ける黎斗と、その膝に座るナーサリーがそう話していた。

赤い太陽が砂漠に沈む。そろそろその獅子王の本拠地についても良さそうに思えたが、そんな事は全く無かった。

 

 

「まだつかないのか、マスター」

 

「焦るな。少なくとも食料はあのファラオのお陰で足りている」

 

 

黎斗はアヴェンジャーの言葉に簡潔に返し、そして画面を見つめ……オーニソプターを停車させた。

 

 

「……止まるぞ。サーヴァント反応だ」

 

 

一斉にオーニソプターから滑り出た一行。既に砂漠とは言っても岩の目立つエリアにやって来ていた。

岩影に隠れて耳をそばだて、サーヴァントに気づかれないように様子を探る。

 

 

「──情けない我が首だが、その代償としてなら釣り合おう」

 

「な……なんという。いや、それでは、あなたは……」

 

「承諾と受け取った。しからば、御免!!」

 

   ズシャッ

 

「走れ、同胞たちよ……!! 東の呪腕であれば、そなたらを受け入れよう!!」

 

 

……ちょうど、色黒のサーヴァント……ハサンの一人であろうそれが、赤い髪の弓を持った男に向き合い、そして自ら首を斬って倒れていた。その向こうで、何人もの人々が感謝を唱えながら走っている。

どうやら生け贄か、それに近い役割を果たしたらしい。

 

 

「まさか……!?」

 

 

絶句する晴人。隣の黎斗は平然としていたが、彼は怒りに震えていた。

自殺。なんと痛ましい……

 

 

「自ら首を斬るとは……お見事。これでは私も約定を守る……即ち、民を見逃さねばなりません。しかし……」

 

「っ……不味い!!」

 

 

しかし次の瞬間には、晴人は右手に指輪を装着していた。彼の視線の先では、赤い髪の男が弓の弦に指をかけていて。

 

 

「ああ、私は悲しい……それではいけない、と言ったのに」

 

   ポロン

 

 

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

空を斬る音の刃、それは燃え盛る炎の壁に阻まれた。

 

 

「なんという慢心なの……ん?」

 

 

赤い髪の男も異変に気づく。

おかしい。攻撃が防がれている。そして……

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

 

鎖で縛り上げられた。男の前に晴人が飛び出し、そして槍を構えたエリザベートが続く。本当はやり過ごしたかった黎斗は舌打ちをして、他のサーヴァントと共に男を包囲した。

 

 

「……どなたでしょうか」

 

 

既にあのハサンが庇った人々は、砂漠のずっと向こうへと行っていた。それを察した赤い髪の男は、己を邪魔し拘束する晴人に、そして己を取り囲むサーヴァント達にただ問う。

 

 

「俺は……最後の希望だ」

 

「……最後の希望……ああ、そうですか。流石に、この数では私は分が悪い。一度、退却しましょうか」

 

   ポロンポロンポロン

 

   スパッ

 

 

最後の希望。それを聞いた男は、縛られた手で弓を弾き、己を縛っていた鎖を切断する。

 

 

「ふむ。こうも容易く拘束を解かれるとはな」

 

「油断は出来ないようだな」

 

「我が妖弦フェイルノートに矢は合いません。これはつま弾く事で敵を切断する音の刃……一歩も動けずとも、この程度の鎖なら」

 

 

自由になった男は迷わず晴人に弓を向け……そして標的を地面に変えて得物を掻き鳴らし、その反動で空を飛んだ。

 

 

「……では、さようなら」

 

   ポロンポポロンポポロン

 

「飛んだ!?」

 

「嘘じゃろ!?」

 

「っ、待て!!」

 

『クラーケン プリーズ!!』

 

 

慌てて晴人がクラーケンを放ってみるがもう遅い、男は既に空の彼方。予想外の逃げ方をされてしまった。

 

……結局悪目立ちしてしまった、と言わんばかりに黎斗は大きく舌打ちをし、誰もいなくなった大地に腰かけた。

クラーケンを収納した晴人は頭を掻きながら小さく笑う。

 

 

「全く……無駄なことを」

 

「いやいや、あの人達を救えたから……何が無駄なもんか」

 

「チッ……」

 

 

開発者とゲーマの間には、既に致命的な思想の違いが存在していて。

 




オーニソプター・ピラミッディアス

ベビーカー型オーニソプターでは乗せられる数に限界があると見たダ・ヴィンチが、オーニソプターの上に超巨大ピラミッドを乗せた。あまりにもアンバランスなので四隅に支え用の脚がある。
こんななりでも機能は優秀、サーヴァントや資材の探索も可能、近くのピラミッドに擬態も出来る優れものだったりする。


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希望の魔法使い

 

 

 

 

『ヒュー……凄いね、君』

 

「……」

 

 

赤い髪の男は既に敗走した。カルデアから様子を見ていたダ・ヴィンチが勝手に通信機を弄り、晴人に声をかける。

 

 

「もう少し、俺が早ければ……」

 

『……サーヴァントとは使い魔だ。元より一日二日でさよならするような存在なのだし、そしてその死は死ではなくて帰還。別れを惜しむことはあっても、その死は必然なんだ。いつ死ぬかの違いが少しあるだけ……悲しむ必要は無い』

 

 

晴人は落ち込んでいた。隣のエリザベートも何と話しかけていいか分からない位には。

サーヴァントは使い魔だとは知っている。彼の希望を守ることが出来た事は知っている。それでも……後少し早ければ、と思わずにはいられない。

 

 

『……ほら、そこにあのサーヴァントの残留思念が残っている。話でも聞いてやるといい』

 

 

ダ・ヴィンチが静かに、岩影を指し示した。ちょうど先ほどあのハサンが自殺した辺りだ。

……所々透けているハサンが、岩にもたれて空を見上げていた。晴人が歩み寄る。

 

 

「……感謝する、見知らぬ人よ。敵の非道さを見誤った己の未熟さが恥ずかしいが……礼は言わねばな」

 

「……あなたは、救えなかった」

 

「何、あなたは悪くない。これは我の運命よ……ああ、我は煙酔のハサン。民を守るためにここまで来て、愚かにも死んだ男だ」

 

 

そう自嘲するハサンは、しかしそれでも笑顔だった。

山の翁、ハサン・サッバーハ。人々を守って再び死んだ英霊。彼に晴人は、何も言えない。

 

 

「……東の村の呪腕のによろしく頼む。何かあったら、煙酔のハサンの紹介だ、と言えばいい。合言葉は……『願わくば我らを導いて正しき道を辿らしめ給え、汝の嘉し給う人々の道を歩ましめ給え』」

 

「……」

 

「さようなら。ありがとう、最後の希望よ。世界を、人々を……頼む」

 

 

そしてそれを言い切った所で、ハサンの残留思念も空に溶けて消え失せた。

 

彼から離れて、黎斗は苛立たしげにそれを見ていた。

 

───

 

「あれが聖都か。……へー、大きいね」

 

「見事な壁だな。高く、堅い……要塞としては十分だ」

 

 

そして、その日の深夜の内に、オーニソプターは聖都まで辿り着いた。ステルス機能を発動させたオーニソプターから降りて、一行は聖抜の行われている場所へと向かう。

 

 

「あれが正門だろうな。こんな夜分に、全員起きて集まっている……千はいような」

 

「だな……恐らく、聖都は獅子王が治めているだろう。エジプトとは不可侵条約辺りでも結んでいると考えられる。……あの騎士がニトクリスと話していた事を鑑みればな」

 

「で、ハサン達はレジスタンスをしている訳ですね」

 

 

遠巻きに観察してみれば、人々は全員起きていた。……しかし遠すぎて、声はあまり聞こえない。更なる接近が必要だ。

 

 

「潜り込むんだろうけど……どうするの? こんな大人数じゃ悪目立ちするわよ?」

 

「一応オーニソプターにフードの類いはありましたけれど、あまり近づいたら違和感は持たれるでしょうね。何しろ材質が違いますから」

 

 

シータがそう言いながら、積まれていた変装用フードを取り出す。

ラーマが既に羽織っていたが、遠くからならいざ知らず、近くから見れば材質がポリプロピレン……少なくともこの時代には無いものである事は理解できた。これでは、人々の中までは入れない。

 

 

「ねえ何か無いの子ブタ?」

 

「……あるよ? 指だして」

 

「?」

 

『ドレスアップ プリーズ』

 

 

それを横目に、晴人はエリザベートに指輪をはめて、己の腰にかざさせていた。

……それによって、不思議そうな顔だったエリザベートの姿が、現地人と比べても遜色ないような格好に書き変わる。

 

 

「わあ、すごい!! ……上手すぎて逆に複雑だけど」

 

「そこは我慢してよ……じゃあ、俺とエリちゃんは前に向かう。何かあったら伝えるけど……困ったら逃げてくれ」

 

 

そして二人は、さっさと前方に潜り込んでしまった。しかもエリザベートは自らタドルクエストを奪っていく始末。

……黎斗は頭を抱えたが、ここで事を荒げるのは自殺行為だ。

 

 

「……行くぞ。私達は外側から観察する」

 

───

 

それから、一時間程またされた。時間は午前三時だろうか。

 

 

「まだですかねぇ」

 

「わしはもう疲れたぞ……?」

 

 

そんな不満も漏れ始めた頃。黎斗も手持ち無沙汰で落ち着かない。

 

……そして、そんな彼らを()()が突然照らした。

 

 

「っ!?」

 

「太陽が、登った!?」

 

 

白日の下に晒される人々。明確な奇跡を前にして、どよめきと期待の声が広がる。

門が開き、一人の騎士が現れた。

 

 

「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇跡……『常に太陽の祝福あれ』と、我が王が私、ガウェインに与えたもうた祝福(ギフト)なのです」

 

 

「ギフト?」

 

「何かしらの特殊な効果だろう。獅子王……私の予想が正しければ、最早そいつは王であると共に神にもなっているんだろうな。太陽を与える等権能の域だ。もしくは……聖杯を使っているやもしれんが」

 

 

そんな風に推察しながら様子を見てみれば、その騎士は難民に対して語り始める。すぐにでも入れてやればいいのに、そうはしない。

 

 

「皆様、ここに集まっていただきありがとうございます。人間の時代は滅び、またこの小さな世界も滅びようとしています。主の審判は下りました。最早地上の何処にも人の住まう余地は無い……そう。この聖都キャメロットを除いて、どこにも」

 

 

朗々と語るガウェイン。興奮で沸き立つ人々。遠巻きに見張る騎士。

人混みに紛れながら、黎斗は全てを冷ややかに観察していた。

 

 

「我らが聖都は完全完璧なる純白の千年王国。この正門を抜けた先に、理想の世界が待っている。ここに至るまで辛い旅路だったでしょう……我が王はあらゆる民を受け入れます。異民族であっても異教徒であっても例外無く。ただ……」

 

 

そこまで言って、ガウェインは声のトーンを落とした。

 

……すぐに人々を都に入れなかった時点で、こうなることは読めていた。

 

 

「……その前に我が王から赦しが与えられれば、の話ですが」

 

 

……そこで、人々はようやく静まり返り、この聖抜の場に疑問を持ち始める。どうやら全員が入れる訳では無いらしい。

 

顔を見合わせる民衆を見下ろすように、城壁の上に獅子の面の存在がいつの間にか立っていた。その存在はすぐに感づかれ、そしてそれは話し始める。

 

 

「──最果てに導かれる者は限られている。人の根は腐り落ちるもの、故に私は選び取る。決して穢れない魂。あらゆる悪にも乱れぬ魂。生まれながらにして不変の、永劫無垢なる人間を」

 

 

多くの人に見上げられたその王は、その槍を天に掲げ……それと同時に、聖都の前にいた人々の中の三人だけが、光り始めていた。

 

───

 

「な、何よあれ……!?」

 

「落ち着いてエリちゃん、騒がないで」

 

 

前方にいたエリザベートが、近くで光る女を指差して震えている。晴人は彼女を制止しながら、周囲の警戒を続けていた。

 

 

「聖抜はなされた。その三名のみを招き入れる。回収するがいい、ガウェイン卿」

 

「御意……皆さん、誠に残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため……王は貴方がたの粛正を望まれました。では──これより、聖罰を始めます」

 

 

……ガウェインのその言葉と共に、開けられていた門から粛正を請け負った騎士達が現れる。全員、剣や槍を構えて。そしてガウェインも、己の剣を振りかざす。

パニックに陥る人々。純白を謳う国の騎士は血に濡れんと、まずは手近にいた男に剣を振りおろした。

 

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

『バインド プリーズ!!』

 

「何っ!?」

 

 

その切っ先の男が魔法使いだなど知ることも無く。

剣を振り落ろされた晴人は立て続けに二種類の魔法を行使し、ガウェインを炎で拘束する。そして、黒い指輪を腰にかざした。隣にいたエリザベートは、粛正騎士達の足止めを行っている。

 

 

『ドライバーオン プリーズ』

 

「俺の目の前では、もう、誰も絶望なんてさせない……!!」

 

 

銀のベルトが浮かび上がる。鎖を切断したガウェインは警戒しながら剣を向けた。

 

 

「無駄なことを……貴方が誰かは存じませんが。王の意思に背くのなら……円卓の騎士、ガウェイン。この聖罰を任された者として、貴方がたを処断します」

 

「俺はウィザード。お節介な魔法使いさ……俺が、最後の希望だ」

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン 』

 

「……変身」

 

『フレイム!! プリーズ!!』

 

 

晴人の指の赤い指輪が光る。そして、真紅の魔方陣が彼を指先から包み込み。

 

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!!』

 

「さあ……ショータイムだ」

 

───

 

「……チッ」

 

「何で動かないんですか、早く変身してください黎斗さん」

 

「……全く操真晴人め、勝手な真似をしてくれたな!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「何でそんな事言うんですか……これは人を救うために必要な戦いです」

 

『Dual up!! Millions of cannon!!』

 

 

前方で交戦を開始したウィザードとエリザベートにつられるように、後方にいたサーヴァント達も粛正騎士相手に戦闘を開始していた。

辺りには何人もの騎士が走っている。ゲンムは彼らに狙いを定め、攻撃を開始した。

 

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「全く……もう少し私に従順になるようにすべきだったか? いや、そうしたらウィザードの強さが半減する……」

 

 

矢を放ちながらゲンムはそう呟く。その仮面の下では何本もの青筋が立っていた。

思えば、今日だけで何回勝手な行動をされただろう。……しかし自分だけだと、これから先の展開が難しくなる。

 

 

「黎斗さん、右から粛正騎士が三体!!」

 

「分かっている!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   スパンスパンスパンスパン

 

 

怒りをこめて矢を射るゲンムの横を高速化したシールダーがすり抜け、ガウェインの元へと走っていった。

 

───

 

『キャモナスラッシュ シェイクハンズ!!』

 

『フレイム スラッシュストライク!! ヒーヒーヒー!!』

 

「はあっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガンッ ガキンガキンガキン

 

 

ウィザードとガウェインが切り結ぶ。互いに炎を撒き散らし、互いに隙を伺いながら。二人は少しも恐れず、信念を貫かんと剣を振る。

 

 

「……強いね、君」

 

「ええ、貴方もそれなりには強いですが。……『異邦の星輝く時、白亜の結託はひび割れ、王の威光は失せ、神託の塔はは崩れ落ちる』……残念です。このような出会いで無ければ、あるいは共存の道もあったでしょうに」

 

 

ガウェインは少しも疲れを見せていない。獅子王のギフトの為せる技だろう。ウィザードは既にビッグやらドリルやらを使っていたが、彼は驚きこそすれ怯みはしなかった。

 

 

「今降参すれば、痛み無く楽にしてあげますが」

 

「ははっ、冗談言うなよ。そっちこそ、もっと本気出したらどうだ?」

 

「まさか。貴方はそれほどの敵ではありません」

 

「……ふーん」

 

 

殆どの難民が、既に聖都から抜け出していた。身重の女や幼い子供は残っているが、既に他のサーヴァントが動いている。

 

 

「じゃあ、俺も本気を出すか」

 

 

晴人はそこまで確認してから指輪を付け替えた。その指に銀と水色の指輪が煌めく。ガウェインは疑いと共に眉をひそめた。

 

 

「……それは?」

 

「俺の、希望だ」

 

 

そして、炎を塗り潰すように魔方陣が描かれ、水晶の龍が舞い、そして魔法使いは変身する。

 

 

『インフィニティー!! プリーズ!! ヒースイフードー!! ボーザバビュードゴーン!!』

 

 

赤は白銀に塗り変わり。手には銀と赤の長剣が握られ。

 

 

「……並々ならぬオーラを感じます。ですがどちらにせよ──」

 

『インフィニティー!!』

 

   ガンッ

 

「──速いっ!?」

 

 

次の瞬間には、ガウェインの目の前に距離をつめたウィザードが迫っていた。

 

ウィザード、インフィニティースタイル。仮面ライダーウィザードの究極形態。ゲーマである彼には三分の制限が設けられているが、それでも、ギフトのついたガウェインを相手取る位の実力は十分にあった。

 

 

「教えろ、こんなことをして何が目的だ」

 

「貴方はそれを知れる程、強くは……」

 

『インフィニティー!!』

 

   ガンッガンッガンッ ズシャッ

 

 

インフィニティーの強さは、その硬さとパワー、そして幻想的なまでのスピードにある。彼は任意で瞬間移動すら行いながら、無敵のガウェインを攻め立てる。

 

 

「……これでもか?」

 

「くっ……ああ、認めましょう。貴方は聖剣にも値する強敵だ……私は騎士の王にして純白の獅子王、アーサー王に支える騎士ガウェイン。求めるものは何者にも冒されない理想郷の完成。獅子王の法を遵守し、千年王国を成すことだけが人の生きる道。その為に悪しき人間を排除する……」

 

「ふざけるな。人の希望は、誰かに左右されていいものじゃない」

 

「……貴方は今、獅子王とその円卓の騎士を敵に回しました。……そう言えば、トリスタンがさっき言っていた『最後の希望』とは貴方の事ですよね? ああ……惜しい。貴方なら円卓にももしかすれば……いや、もう止しましょう」

 

「……俺は希望を守る魔法使いだ。お前たちには、負けない」

 

 

そこまで言って、ガウェインはウィザードを突き飛ばした。そして、己の聖剣を天に投げる。

 

 

「聖剣、抜刀。この剣は太陽の写し身、あらゆる不浄を清める焔の陽炎──」

 

『ターンオン!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!! ハイタッチ!!』

 

 

炎を纏う剣を前にして、ウィザードは剣を回転させた。元々持ち手だった部分に存在していた真紅の刃が、魔を断つ斧として起動する。

 

 

「──転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!」

 

『プラズマシャイニングストライク!! キラキラ!!』

 

   ガッ……ガガガガガガガガガ

 

「ぐっ……ぅあああああ!!」

 

「はぁぁあああああ!!」

 

 

激しく鍔競り合う二人。両者は一歩も譲ること無く、閃光と炎が乱反射して周囲を真紅に染め上げる。

しかし既に、ウィザードの限界まで残り30秒を切っていた。

 

 

「があああああ……うぐっ……このままじゃ……」

 

「太陽の下なら私は無敵!! 例え、貴方ほどの勇者であろうと、負けない!!」

 

 

 

「……じゃあ、太陽から切り離しましょうか」

 

   ズドンッ

 

『暗黒!!』

 

「っ……!?」

 

 

……次の瞬間には、ガウェインの体は闇に包まれていた。未だに聖剣と押し合うウィザードが闇越しに向こうを見てみれば、砲弾を利用して暗黒のエナジーアイテムを押し付けたシールダーが、ちょうど変身を解いていて。

 

 

「マシュちゃん!?」

 

「……後ろ、貰いましたっ!!」

 

 

そして彼女は、かつてダ・ヴィンチの開発したルールブレイカー機能つきの短剣をガウェインの首筋に突き立てて、真名を解放した。

 

 

「ルール……ブレイカーッ!!」

 

   カッ

 

 

……世界は今落陽に至る。

不夜のギフトは掻き消され、無敵の恩恵は失われ、ウィザードの渾身の一撃で袈裟斬りにされたガウェインは力無く膝をつき。

 

 

   ズバッ

 

   ドサッ

 

「が……はっ……」

 

「円卓の騎士ガウェイン、撃破」

 

 

天を仰ぐその顔面に、マシュが己の盾の側面を降りおろした。最後にガウェインが見たものは、懐かしい物と変わり果てた者。

 

 

「ああ、我が王、我が仲間よ……私は……私はっ!!」

 

   グシャッ

 

 

 

「やったわよ子ブタ!! 粛正騎士は片付けたわ!!」

 

「ああ、お疲れ、エリちゃん……」

 

 

そしてウィザードは、エリザベートの元に向かっていた。剣を片手にはしゃぐ彼女は、仮面の下での晴人の容態に気づく事は出来ず。

 

 

「次は、あの人たちを……守ら、ない、と……」

 

   ドサッ

 

「それってさっきのブタ達の事なの子ブタ? ……子ブタ?」

 

「……」

 

「子ブタ……えっ、倒れてる……?」

 

 

マジックザウィザードのゲーマは、余りの負荷に耐えられず機能を停止した。

 




ウィザードほんと好き
ウィザードほんと主人公
仮面ライダーで三本指に入るくらい好き

正直社長より好き


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歪められた騎士達

 

 

 

 

 

「とことん目立つ真似をして……全く、困ったものだ」

 

 

ガウェインを下し、聖抜を中止させた一行は、しかしそのまま聖都に攻め込む事はなく、オーニソプターに乗って退去していた。

というのも、勝手に晴人がガウェインと相討ちになり、エリザベートが人々を護衛すると駄々をこね、それにマシュやネロらが賛成し……といった様子で、難民を安全な東の村まだ護衛しようという事になったからである。

 

 

「うふふ、楽しいわ楽しいわ!! ねえもっとスピード出してもいいかしらマスター!?」

 

「止めておけナーサリー。下手したらマシュ・キリエライトにオーニソプターが破壊される」

 

 

現在オーニソプターに乗っているのは、運転手のナーサリーと、マジックザウィザードを修理する黎斗、彼の護衛のラーマとシータ、そしてアヴェンジャーのみ。残りは全員外だ。

 

 

「……やれやれ。あの人数の難民なら、食料もかなり減るだろう。難儀だな」

 

「寧ろ一回でも賄える数があるのが異常だがな。何にせよ、自分の分は確保しておいた方がいい」

 

「当然だ。……そもそも聖抜から逃れた五百人全員を連れていく等計算がなっていないというのに」

 

 

ちらっと外を見てみれば、五百人の難民たちが安堵を漏らしながら行進していた。

……どこに行っても、最早安息など無いのに。

 

 

「取り合えず、整理しよう。敵はアーサー王伝説に名高い円卓の騎士。首魁は獅子王……恐らくアーサー王。部下に授けているギフトは、アーサー王伝説の救世主の聖杯(ホーリーグレイル)によるものだろう。まあ、ルールブレイカーで打ち消すことは出来るな。すぐ止めを刺さなければ戻るやも知れんが」

 

「だろうな。短期決戦が望ましい。二度と同じ手は通じないだろうしな」

 

───

 

「所でマスター。余は、流石に顔面を盾で潰すのはどうかと思ったのだが」

 

「駄目でしたか? 一人でも多く救うためには、一秒でも速く殺さないといけない、と思ったのですが」

 

「いや、悪くはない。悪くはないのだ、余もスプラッタに理解が無い訳ではないしな。寧ろセネカには『スプラッター彫刻家ネロ』なんてあだ名までつけられた」

 

「……」

 

「……今の下りは余計だったな。すまぬ」

 

 

ネロとマシュは、周囲を警戒しながら難民を護衛している。幸運なことに、まだ敵の追っ手は無い。マシュはダ・ヴィンチ製のガンド銃を腰に提げながら、まだ見ぬ山村を目指す人々を見つめていた。

 

……その時、彼女は迫る何者かの気配を感じる。即座に銃を抜いて、気配の主へと銃口を向けてみれば。

 

 

「何者ですかっ!?」チャキッ

 

「……すいません、少しいいでしょうか」

 

「……ルキウスさんでしたか」

 

 

あの銀の騎士が立っていた。一先ずは警戒を解き、マシュは銃を持ちながらもルキウスを招き入れる。

 

 

「どうして、ここに?」

 

「……実は、先ほど聖都を攻略している所に出くわして、戦いを見させて貰いました。余りにも激しく戦闘していたので、乱入は叶いませんでしたが」

 

「……そうですか」

 

「お見事でした。全員を、救って……」

 

 

そうマシュを称賛するルキウス。だがその顔には、陰りがありありと見てとれた。

 

 

「何かありましたか?」

 

「い、いえ、何も」

 

「ん? 絶対嘘ついてるのだろう? 余は分かるぞ? ……何が言いたい?」

 

「……そんなことは」

 

 

マシュは銃を下ろした。少なくとも、今のところは彼は誰も殺さない。そう確信が持てた。

 

───

 

そして太陽は上りきる。燦々と容赦なく降り注ぐ日光の下では歩く人々を横目に、黎斗はナーサリーに変わって運転を行っていた。

 

 

「山岳地帯が見えてきたな」

 

「ああ……あの高さなら、オーニソプターは置いていく他無いな。一応ステルス機能はあるらしいからまあ、すぐに奪われはしまい」

 

 

向こうにつくまであと一日か二日か……そう計算するアヴェンジャー。黎斗はその横でオーニソプターのモニターを操作し……敵影を捉えた。

 

 

「……待った。サーヴァント反応だ。既にマシュ・キリエライトとルキウス、その他外にいるサーヴァントが対処を行っているようだな」

 

「そうか、どうする?」

 

「私達も出陣しますか?」

 

「いや、待機だ。恐らく第二陣はこちらを攻める……この拠点を落とされるのは痛すぎるからな」

 

───

 

「この早さ……貴公か、ランスロット……!!」

 

 

敵の馬の足音が迫る。何が来ているのかを察したルキウスは銀の腕を光らせ、我先にと逃げる難民達を庇うように立った。既に他のサーヴァント達も迎撃態勢を整えている。

しかしマシュは、ルキウスの言葉を聞いて少しだけフリーズしていた。

 

 

「ランスロット……?」

 

「どうしたマスター? 体でも痛いか?」

 

「……いえ。少し、頭痛がしただけです……行きましょうネロさん。皆さんを守るために、少しでも速く敵を殺します」

 

 

ネロの心配にすぐにかぶりを振って、マシュはギアデュアルBを手に構える。

 

 

『Britain warriors!! K..i:hts a<4ng knii%ii』

 

 

……しかし、ガシャットのギアは動かなかった。ナイツゲーマーになろうと力を籠めた所で、何かに引っ掛かったように、全く動かなくなったのだ。

 

 

「……え?」

 

『g=}gg56ghh\hjhh3}4hhhte78tttss3:ss』

 

「故障か!? 故障なのか!?」

 

「いや、それは……まさか、ガウェインが抵抗を……!?」

 

 

マシュはそれに思い至る。

プロトガシャットギアデュアルBは、イギリスに縁のある英霊を勝手に収集し力に変えるガシャット。そしてその英霊には意志が残る。

……つまり、ガシャットのB面である『Knight among knights』の中に割り振られたガウェインが、ガシャットの中で抵抗することで変身が出来なくなったのだ。

 

 

「くっ……」

 

「どうするマスター? ここは退くか? 別に、余だけでも何とか出来ない事はないが」

 

「まさか、そんなことは出来ません!! ……私も戦います。ええ、私は戦わなくちゃいけません」

 

 

それでも盾を構えて敵を睨むマシュ。戦意が失せる事は決して無かった。

そんな彼女に、後ろからやって来たジークフリートがバグヴァイザーを渡す。

 

 

「……ならば、俺のバグヴァイザーを貸そう。元より不死身の身、それに頼らずとも人々は守ってみせよう」

 

「ジークフリートさん……ありがとうございます」

 

『ガッチョーン』

 

「なに、礼はいらないさ」

 

 

ジークフリートは後方に下がり剣を構えた。前方にはランスロットを迎撃する部隊、後方には人々を守る部隊……知らず知らずの内に、誰かが言い出す事もなく、彼らは二手に別れていた。

 

 

 

「ランスロット卿、敵影、補足しました。第二陣の到着を待ちますか?」

 

「いや。このまま突撃する……例の『最後の希望』の姿は今のところ無いようだからな。これ以上増えられる前に、格個撃破を目標とする。第二陣には向こうにあるピラミッド型の拠点を襲わせろ」

 

 

そして、馬に乗って全速力で敵へと突き進む円卓の騎士、ランスロット率いる一団は、早朝に聖抜を中止させた賊を追跡していた。前を見てみれば、他のサーヴァントの仕業だろう沢山の火縄銃が浮いている。

 

 

「これはアグラヴェインからの指令、故にわざわざ手心をかける必要は無い。補佐官殿はこの任務が終わらぬうちは我らに聖都への入場許可は出せない、と仰せだ……全く、日中のガウェインを下した軍団相手に我々だけとは、補佐官殿は我らを使い潰したいらしいな。早々にある程度片付けて帰投するぞ」

 

 

馬はだんだんと近づいていく。敵は宝具で弾丸を一斉に放ってきたが、彼は気にする事もなく全て切り裂いて突貫した。

 

 

 

「なんじゃあれ!? 三千世界(さんだんうち)は決まったぞ!? ……武田なら間違いなく今ので落ちたのじゃが……」

 

「ギフトの影響ですよ姉上!! 取り合えず退きましょう、敵が近すぎます!!」

 

 

それに慌てるのは弾丸を放った信長の方。既にランスロットは数メートル先まで迫っている。

あわてふためきながら距離を取る二人の後ろで、ルキウスとマシュ、ネロは敵を見つめていた。

 

 

「聞こえましたか、ネロさん? 『早々にある程度片付けて帰投するぞ』ですって」

 

「うむ。府抜けているな」

 

「ええ……敵を前にしてその様な事を言えるなど、度しがたい。……少なくとも、私は本気なのに」

 

「うむ、活を入れてやらねばな」

 

「……二人とも、無理はなさらぬように」

 

 

憤るマシュとネロをルキウスが諌める。しかし、その言葉は突っぱねられて。

 

 

「無理? しますよ? 無理しないと誰も助けられないんですから、そうするに決まっています」

 

「……そうですか」

 

 

敵はいつの間にか馬から降りて、三人を取り囲むように並んでいた。

 

 

「……諦めろ。投降しろ。今諦めれば、痛みなく殺せるぞ」

 

「断る、ランスロット卿!! 」

 

「っ……ベディヴィエール卿!? どういう事だ……!?」

 

 

銀の腕でランスロットを牽制するルキウス。ランスロットの方は彼の顔を見て、何かに気づいたようだった。ネロも困惑の表情を浮かべている。

 

 

「……ベディヴィエール、だと? ルキウスは偽名だったのか?」

 

「ネロさん、集中を。今はそれは後回しです」

 

 

マシュだけは落ち着いていた。いや、敵しか最早眼中に無かった。そんなマシュに、ランスロットはルキウスから目線を移し……やはり驚きをその目に浮かべた。

あるはずの無い、いるはずの無いそれが、そこに存在していて。

 

 

「……っ!? その、盾は? 君は、まさか!?」

 

「……それを知って何になるでしょうか。私はマシュ・キリエライト、これは貴方を殺す盾。それだけで十分です……変身!!」

 

『Transform shielder』

 

 

そしてマシュは変身した。

 

───

 

『Arts chain』

 

「はあっ!!」

 

   ガンッ

 

 

盾を振り回すシールダー。相対するランスロットは、上手く本気を出すことが出来ない。愛剣を振り上げてみても、攻撃する一歩手前で躊躇ってしまう。彼の意識は何処か遠くへ向いているようにも見えた。

 

 

「くっ……まさか……」

 

「ランスロット卿!? 上です、上!!」

 

「ん……?」

 

 

粛正騎士に言われた通りに上を向くランスロット。何故か、前方にはシールダーの姿は無く。

 

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

   ズガンッ

 

 

次の瞬間には、シールダーの盾の側面が大地を割っていた。咄嗟にランスロットは回避していたが、避けなければ脳天を割られるのは確実だった。

 

 

「どうしましたかランスロット卿!? 我らは獅子王の騎士、今更迷いなど──」

 

誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

 

粛正騎士達はネロやルキウス、そして他のサーヴァント達によって数を減らされていく。第二陣はまだ到着していない。

 

 

『Quick brave chain』

 

「貰った!!」

 

「かはっ……!?」

 

 

ランスロットの腹に、シールダーの蹴りがめり込んだ。それでも彼は戦えない。

真実を察してしまっては戦えない。()()を振りきれる程、彼はまだ善性を捨てられていない。

 

 

「……退却するぞ!!」

 

「ランスロット卿!?」

 

「第二陣に合流する!! 態勢を立て直す!! 総員撤退!!」

 

「し、しかし……」

 

「撤退っ!!」

 

 

結局、ランスロットは退却を選択した。シールダーがガンド銃での追撃を試みるが、それはランスロット本人に命中はしなかった。

 

 

「……逃げられましたね」

 

「うむ。まあ、怪我が無くて良かった!! 余は嬉しい!!」

 

「……そうですか」

 




盾は側面で攻撃するもの
メロンの君もそう言っている


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英霊ギャラハッド

 

 

 

日が沈み、また昇る。ランスロット襲撃の次の朝には、起きっぱなしの黎斗の顔には分かりやすく疲労が浮かんでいた。

 

 

「……もう朝か」

 

「休んだらマスター? 運転して修理して……疲れたでしょう?」

 

「まだ、私はあの忌々しいゲーマの修理も残っている。暫くは寝れまい」

 

 

オーニソプターが揺れている。敵の反応は無いがガタガタと言っている。黎斗は運転席のジークフリートに目を向けた。

 

 

「……どうした?」

 

「すまない、クレーターだ……かなり増えてきたな」

 

「……恐らく獅子王の宝具だろう、無差別に振るっているらしい。周囲に魔力が溢れているのもそのせいだろう……知性が欠けているな。もう少し効果的な方法もあるだろうに」

 

───

 

「ねー、まだ歩くのー?」

 

「喧しいですエリザベートさん、黙ってください」

 

「うむ。可愛くないのだな」

 

「ぶー……」

 

 

エリザベートは難民を護衛しながら愚痴を漏らしていた。ちなみに、さっき鼻歌を歌っただけで半径三メートルの人々が気絶したので、マシュは既に五回彼女にガンド銃を撃ち込んでいる。

 

 

「そもそも、疲れたならあの中に行ったらいいのでは……?」

 

 

とルキウスもオーニソプターを見ながら呟く。文句を言いながらも彼女が協力する理由が、彼には、いや全員に分かっていなかった。

 

 

「もしかして、晴人さんの影響ですか?」

 

「ん? 惚れたか?」

 

「まさか!! ……ただの、気まぐれよ。ただの、ね」

 

───

 

「後は……こことここを、こうすれば……」

 

「終わったのマスター?」

 

 

ナーサリーを膝に乗せながらマジックザウィザードを弄る黎斗。その顔は未だに険しいが、これも大事な戦力だ……そのままにはしておけない。

 

 

「ああ、もう終わった」

 

「ねえマスター、彼の制限時間を伸ばせないの? もう少し長く戦えるだけで、凄く強くなりそうだけど」

 

「私の才能をなめるな……とはいえ、ガシャットの容量の問題がある。既にこのガシャットにはデータがいっぱいいっぱいだからな。……更に強くするとしたら、カルデアに戻ってハードとソフト共に大幅にアップデートするか、外付けの強化パーツを必要とする」

 

「ふーん……大変なのね」

 

 

よく理解していないナーサリー。黎斗は彼女との会話もそこそこに、ガシャットの電源を再び入れた。

 

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

端子からゲーマが飛び出し、目を開く。

 

 

「……ここは、オーニソプターか? ガウェインは?」

 

「全く、勝手に自滅してくれて大変な迷惑だ。もう少し落ち着いてみたらどうだい?」

 

 

再起動したゲーマは、少しだけ考えた後に現在の状況を理解した。

 

 

「ああ……そういうことか。迷惑かけたね」

 

 

すまなそうに肩を竦め、俯く晴人。しかし後悔は無さそうだった。それが黎斗は、最も腹立たしかった。

 

突然、オーニソプターが停車する。……山の入口がすぐそこにあった。

 

 

「山に到着した。どうする檀黎斗?」

 

「……降りるぞ。ステルス機能は起動させたな? これからは山の移動だ」

 

 

そう言いながらオーニソプターを降りる黎斗。降り立つと同時に、シャカリキスポーツを起動する。

 

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

「ようやくまともにガシャットを使える出番が来たな。この深さなら……まあ、すぐには目的地には着けまい」

 

───

 

東の村に到着したのは深夜だった。ランスロットの追撃を恐れて、休憩も殆どせずに歩き続けた人々の疲労はかなりのものだった。

 

 

「あれが村か……大丈夫エリちゃん?」

 

「足がもうパンパンよー……」

 

 

最前列を歩いているのは、復活した晴人とエリザベート。定期的に光で相手を追い払いながらの行進だった。

 

 

「やっと、横になれるわ……」

 

「……」

 

「……どうしたの子ブタ?」

 

 

……突然黙る晴人。見てみれば、彼は周囲を見渡していて。

 

 

「……っ!! 伏せてエリちゃん!!」

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

   ガンッ

 

 

突然彼が展開した炎の壁に、黒い短剣が突き刺さっていた。そして次の瞬間には、山道の前方に短剣と同様に黒い男が立っていて。

 

 

「っ……!?」

 

「我らの村に何用だ、異邦人。これ見よがしに騎士など連れてきおって……最後の希望すら摘みに来たか?」

 

「待ってくれ、話を聞いてくれ」

 

 

現れた包帯と髑髏が目立つアサシン、やはりハサンであろう彼に、晴人が一歩前に出る。恐れは無い……彼は言葉を知っている。

 

 

「俺達は、ここまで難民たちを護衛してきた」

 

「ほう? 騎士と共にいるのに、か? 証拠は?」

 

「疑問はあるだろうが……ああ、煙酔のハサンって人から合言葉を教えて貰ったぞ」

 

「……煙酔ののか? ……死んだと聞いたが」

 

「死に際に、教えて貰ったんだ。東の呪腕によろしく頼むってな」

 

「……言ってみろ」

 

 

未だに疑うハサンに、晴人が合言葉……イスラムの経典、コーランの一節を告げた。

 

 

「……『願わくば我らを導いて正しき道を辿らしめ給え、汝の嘉し給う人々の道を歩ましめ給え』……だった」

 

「……ああ、確かに煙酔のの言葉よな。そうだ……前に来た難民達は、煙酔のは死に、謎の男が助けてくれた、と言っていたが……そうか。お主か」

 

「なら、アンタも信用しない訳にはいかないな?」

 

「これは……アーラシュ殿。そうですな……うむ……信用する他、ありませんな」

 

 

突然ハサンの後ろから現れた弓を持った青年のサーヴァント……アーラシュと呼ばれているらしい男が、ハサンの隣に並び立った。ハサンは彼の言葉を聞き、暫く唸ってから晴人に名を訪ねる。

 

 

「名前を聞こう、そこのマスター」

 

「あー、いや……実はさ、俺はマスターじゃないんだよね……」

 

「ん? いや、どういうことですかな?」

 

 

しかし、予想外の晴人の返答に、二人は首をかしげた。彼がサーヴァントではない以上、マスターではないのか? それともマスターとサーヴァント以外にここに誰が現れる?

……そう悩む二人目に、晴人の隣から現れた男の姿が飛び込んだ。

 

 

「……マスターは私だ。ああ、黎斗と呼ぶがいいさ」

 

「えっ……ああ、偽りなく真名かつ円卓には無き名……しかし……んー……」

 

 

何だか拒否反応を示してしまって戸惑うハサン。本当に彼を受け入れていいのだろうか。

 

 

「まあまあ、入れてやりなよ。ほら、沢山立っていても悪目立ちするだろ?」

 

「……よかろう。恩には礼で返す、村に入ることは許そう。アーラシュ殿、案内を。私は新しい同胞達の宿を手配しなければならん。しかし、ああ、五百人!! 喜ばしいがどうしたものか……」

 

 

しかし彼はそんな迷いを黙殺して、アーラシュに案内を任せ去っていった。村への門は開け放たれている。

 

 

「じゃ、着いてきな。俺はアーラシュ、見ての通りアーチャーのサーヴァントだ。村に案内するぜ、貧しいから祝杯とかは無理だがな」

 

───

 

「……いい建築だ。上手いこと山の陰に隠れるように計算がされている。流石だな」

 

 

案内されながら、黎斗は山村を見回していた。時々壁なども触って、材質を確かめているようにも見える。

いつもの事だが、黎斗は行く先々の建物に興味を持っていた。……ゲーム作りの役にでも立つのだろうか。

 

 

「でも生活は苦しそうじゃな。余裕も無いだろうに、新しく五百人……」

 

「でもこっちも、オジマンディアスさんからの食料も底をつきましたからね」

 

 

その横では信長と信勝が人々の様子を観察している。

……今回増えた難民は、五百人。前回の難民……あの赤い髪の男から逃げ切った難民は百人。合わせて六百人……それだけの数の難民が、皆この東の村にやって来ていた。飢えない筈がない。

 

 

「これは……他の村に引っ越す必要がありそうだな。仮に大量の食事を振る舞うサーヴァントがいたとしても、この人数はどうしようもないだろう。全く……あいつめ」

 

 

悪態をつく黎斗。しかし、晴人本人の前でそれを言う度胸は無かった。

 

───

 

その日の深夜。人間であるが故に睡眠を必要とするマシュは、もどかしさを感じながら寝床につこうとしていた。そこにルキウスが現れる。

 

 

「マシュ・キリエライト。少しよろしいでしょうか」

 

「何でしょうかルキウス」

 

「ん? 余のマスターに手出しするつもりか?」

 

「いえ、ただ大事な話なので」

 

 

そう言いながら、ルキウスはマシュを外へと連れ出した。

 

やって来たのは村の中でも人気の無い荒れ地。元々は家だったようだが、既に崩れた壁からは雑草が生え、穴だらけだった。

ルキウスは一呼吸おいて、マシュに話し始める。

 

 

「……マシュ・キリエライト。あなたの名は、英霊としての真名ですか?」

 

「……いいえ。私は正しいサーヴァントではありません。デミ・サーヴァント……人間と英霊の混ざりものです。だから私はまだ、ただの人間。私に融合している事になっている英霊は、何も告げずに消滅しました」

 

「……そうですか」

 

 

ルキウスは何かを言いたげだった。先日ならその言葉をそのまま飲み込んでいたかもしれなかったが……今の彼は、ある種の我慢の限界を迎えていた。

 

 

「……すいません。貴女に力を授けた英霊が語らぬ以上、私が語るべきではないとも思いましたが、流石に、貴女は『彼』から剥離し過ぎている」

 

「……彼?」

 

「あえてお教えいたしましょう。同じ()()()()()()()()

 

 

ネロがそこまで聞いて、たまらず立ち上がり剣を構える。

円卓の騎士とは即ち敵。倒さなければならない、そう思っての事だった。しかし、その行動をマシュが制止する。

 

 

「……続けてください」

 

「私の目的はアーサー王を倒すこと。何を犠牲にしてでも。その為にここまで来た。その為に今まで生きてきたのです……ランスロットも言っていましたが、私の真名はベディヴィエール。円卓の席に座っていた騎士。そして、貴女も……座っていた」

 

「何と、マスターは円卓の騎士だったのか!?」

 

「……!!」

 

 

マシュは黙って目を大きく見開いていた。自分にかつて霊基を与えた物好きなら、名前位は知りたいと思わないでもない。

ルキウス……いや、ベディヴィエールは語り続ける。

 

 

「ええ……強き騎士、堅き騎士、猛き騎士の集う円卓にて、武を誇らず、精神の在り方を示した騎士」

 

「……」

 

「……貴女の真名はギャラハッド。円卓の騎士ギャラハッド……なのに」

 

 

ベディヴィエールはそこまで言って、言葉を詰まらせた。まるで、そこから先の事を口にするのは憚られる、と思っているように。

それでも、彼は口を開いた。それだけ、その変化は大きかった。

 

 

「貴女は既にギャラハッドではありません。同胞だった騎士に殺意を向け、盾を放棄し、その精神は妄念に取りつかれている」

 

「……」

 

「一体、一体何があったのですか、レディ・マシュ。彼の騎士の姿は、もうどこにも見えない。……もし私に出来ることが、あれば……」

 

「……そこからは、どうでもいいことです」

 

 

しかしマシュは、口ごもるベディヴィエールを無視して立ち上がった。そして寝床に歩き始める。

 

 

「私がギャラハッドだったら何だと言うのでしょう。確かに名前が知れたのは嬉しかったですが……それだけ。……円卓の騎士だから人が救えるんじゃない、英霊としての強さを引き出したところで人が救えるとは確定しない。私は、私が世界を救うと望んだのです!! 無益な事を言わないでください」

 

「っ……ギャラハッド卿……」

 

「私はマシュ・キリエライトです、ベディヴィエール卿。それ以外の何者でもありません。例えこの霊基が英霊ギャラハッドの物であっても……それだけです」




新撰組やら天下統一やらのゴーストアイコンがあるなら円卓やハサンゴーストアイコンもいけるよなと思う今日このごろ


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暴走する刃

 

 

 

 

 

例え深夜に気まずい雰囲気にしてしまったとしても、それでも太陽は平気で昇ってくる。

朝になると共に目を覚ましたマシュは、取り合えず呪腕のハサン……この東の村のハサンに、何かやることがあるかと聞きに行っていた。

 

 

「うーん……食料が不足しているので、そこを何とかしてもらいたいですな」

 

「分かりました。……この山の麓の獣は食べられますか?」

 

「どうですかな……あまり、食べたい代物ではありませんな。いや、気づかなければ別にいいのですが」

 

 

そんなたわいもない……と言うには互いに主に顔が怖い二人の会話は、見張り台に立っていたアーラシュの報告で中断させられる。

 

 

「大変だ……西の村から狼煙が上がっているぞ!!」

 

「何ですとっ!? 色は、色はなんと出ているのだ!?」

 

 

慌てて見張り台に飛んでいくハサン。アーラシュは遠くに見えているだろう狼煙を睨み付け……舌打ちした。

 

 

「……黒い……チッ、敵襲だ!! 西の村が敵に見つかっちまったらしい!!」

 

「っぐ……!? なら旗は、敵の旗は何と出ていますかアーラシュ殿!?」

 

「あれは……赤い竜と、その首を断つ赤い稲妻。見覚えはあるか?」

 

「あ、あああ……不味い、皆殺しにされてしまう!! 王の首を狙うと公言する旗は唯一つ……円卓の遊撃騎士、モードレッドだ……!! アーラシュ殿、敵軍と村の距離は!?」

 

「峠一つ分……接触間近だ」

 

「助けに行きましょう、今すぐに!!」

 

 

二人の会話を聞いていてもたってもいられなくなったのだろう、マシュがハサンに飛び付く。……しかし、彼らはすぐにそれに頷くことは出来なかった。

 

 

「くっ……いや、しかし……」

 

「どうしたんですかハサンさん、早くしないとっ……」

 

「……落ち着け、マシュ・キリエライト。そもそも、この村の備蓄は既に底をついた事を忘れたか? 何処かの誰かのせいで五百人も村人が増えたから!!」

 

「黎斗さんっ……その言い方は許せません……!!」

 

 

突然現れた黎斗の言い分が許せず、マシュはガンド銃を彼に向けた。そこにマシュから離れていたネロが慌てて飛び込み、彼女の腕を下げさせる。

 

 

「落ち着けマスター!! ……この頃焦りが見えるぞ。生き急ぐのは分かるが、今急いでも仕方無いだろう。……ここから西の村まで行けば、何日かかるのだ?」

 

「……二日ですな。今から行っても、到底……」

 

 

ハサンは俯いて震えていた。今出来ることは、騎士に襲われ悲鳴を上げているであろう仲間たちの無事を祈るばかり……そこに黎斗が口を挟む。

 

 

「間に合いたければ、空でも飛ぶしかないだろうよ。しかし、神の才能を持つ私でもコンバットゲーマに人間サイズを乗せるのは無理がある……空を飛びたければ、非常に不愉快だが……」

 

「俺の出番、って訳だ」

 

「晴人さん……」

 

 

次に現れたのは操真晴人。黎斗は非常に嫌そうな顔をしながらも、今は彼に何も言わなかった。

 

 

「でも、どうするんですか? もしかして、小さくなる魔法が?」

 

「正解」

 

『スモール プリーズ』

 

 

彼は右手にオレンジの指輪をはめ使用して、豆粒サイズになった。すぐに元のサイズにもどったが……これは使える。

 

 

「おー、すげえな!! ……これなら一発芸の出番は無いかなぁ……」

 

「一発芸?」

 

「土台に人乗せて、土台に繋いだ矢を射って、射つ。簡単な大陸間弾道移動」

 

「ひぇっ……」

 

 

感心して拍手するアーラシュ。その横をすり抜けて、マシュが黎斗に掴みかかる。

 

 

「なら早く行きましょう!! 今すぐに行きましょう!!」

 

「分かっている……当然だが、乗れる数には限りがある。私と操真晴人は確定として、残りは……二体だ」

 

 

黎斗はマシュを引き剥がしそう言った。

実際は最小にすれば五体は乗れるのだが、そこまで小さくすると風で飛ばされてしまう。だから残り二体が限度だった。

 

そして三分後、黎斗の前にネロを取り込んだマシュと、彼女から少し距離を取っているベディヴィエールがやって来た。

 

 

「私と彼でお願いします」

 

「なるほど、マシュ・キリエライトとルキウス……いや、ベディヴィエールか。分かった……残りは食料でも用意しておけ。私と離れるから弱体化はすれど、消滅まではするまい。……何、どんなものを食ってもお前達は腹は下さないさ」

 

『ジェットコンバット!!』

 

 

プロトジェットコンバットが起動する。黒い飛行機が呼び出される。そして四人は魔法によって縮小し、隣村まで飛び出した。

 

───

 

「オラオラ、さっさと死にやがれ!! 次から次へとうざったいンだよ、テメェ!!」

 

「おのれ……どうやって、この村の位置を……!! 我らの隠蔽に、落ち度は無かったはずなのに……!!」

 

「あ? ンなもん勘だよ、勘。陰気でせせこましい負け犬のいそうな所に聖剣ぶちこんだらビンゴってだけさ。まあ本命じゃあなかったけどな!!」

 

 

……西の村の上空にコンバットゲーマが到着した時には、既に村中に火の手と粛正騎士が広がっていた。この村のハサンとモードレッドは交戦中で、人々の救助はほぼ行われていない。

 

 

「ったく、ランスロットが撤退した例の反逆者……特に最後の希望、とやらを横取りしたかったのに、とんだハズレ掴まされた。こんなシケた村を皆殺しにしたって、誉められも、それどころか叱られもしねえんだ!! どうしてくれる……オレが処刑されるまであと数日もねえのに!!」

 

 

そう怒鳴るモードレッド。怒りのせいか、赤い雷を撒き散らしている。

 

その隣に、晴人は元の大きさに戻りながら舞い降りた。

 

 

   スタッ

 

「まあまあそう怒るなよ、大当たりがきてやったんだからさ?」

 

『バインド プリーズ!!』

 

 

炎の鎖がモードレッドを拘束する。モードレッドとハサンは共に、その鎖の出所である魔方陣に見覚えがあった。

 

 

「っ、この、鎖は……!!」

 

「まさか、指輪の魔法使い!?」

 

 

驚く二人をおいておいて、指輪の魔法使いはモードレッドに問う。……上空で聞こえた言葉が、彼の中で引っ掛かっていた。

 

 

「なあ、さっき処刑されるって言ってたよな。どういうことだ?」

 

「うるせえな……聖抜が終われば聖都以外全部焼き払われるンだよ。オレもお前も皆仲良く焼け死ぬんだ。だからその前に……お前は念入りに殺してやるよ!! この程度の鎖なら……おらぁっ!!」

 

 

そう怒鳴って鎖を引きちぎるモードレッド。しかし剣を構えようとした瞬間に弾丸が撃ち込まれ、彼女は眉をひくつかせながら静止する。

モードレッドが目だけで銃声の方向を見てみれば、小さな黒い飛行機を従えて歩いてくる集団が見えた。一人の構えている銃が自分に命中したことぐらいは容易に推測できる。

 

 

「私たちもいるぞ……全く。お前はこれで二人目か」

 

「……これ以上誰も殺させません」

 

「うむ。……赤いセイバーは余で十分である!!」

 

「……モードレッド卿……」

 

「ん? 追加のサーヴァントか? ええと、ひい、ふう、みい、よぉ……たった四騎か!! 遊びにしてもつまらねぇ……ん?」

 

 

……ガンドの効果は切れていたが、モードレッドは動かなかった。それこそ、先ほどまで相手していたハサンが戦線から離脱するのを止めることすら出来ないほどに。……目の前にいる二人の円卓の騎士は、それだけ彼女の意表を突く存在だった。

 

 

「……ハッ!! 三流騎士、テメェが……テメェが反逆者にいるのか!! 最悪の冗談だな!! 隣のギャラハッドならともかく、テメェが!!」

 

「……貴方に語りかける言葉はありません。恨み言があるのは私も同じです……獅子王に辿り着くのが私の目的でしたが、今だけはそれを忘れましょう。反逆の騎士モードレッド、アーサー王の理想を踏みにじった不忠者」

 

「でかい口を叩くようになったなチキン野郎!!」

 

 

聖剣を握り直し、ベディヴィエールに振りかぶるモードレッド。ベディヴィエールの方はそれを銀の腕で弾き返し、姿勢を低くして身構えた。

 

 

「行くぜ、なに一つオレに勝てなかった現実を思い知らせてやるぜ!! 纏めて来いよ、全部全部ぶっ飛ばす!!」

 

 

駆け出す赤い騎士。粛正騎士達も、空から現れた敵を潰さんと、黎斗達に走り寄る。

 

 

『ガッチョーン』

 

『デンジャラス ゾンビィ……』

 

「変身……!!」

 

『デンジャラスゾンビィ……!!』

 

 

『ガッチョーン』

 

「変身!!」

 

『Transform shielder』

 

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!! シャバドゥビタッチヘンシーン!!』

 

「変身!!」

 

『ウォーター プリーズ!! スィースィースィースィー!!』

 

 

それを迎え撃つように、黎斗、マシュ・晴人がそれぞれ変身する。ネロは少しだけ羨ましそうにそれを見たが、すぐに剣を持ち直した。

 

 

「さあ、ショータイムだ!!」

 

───

 

燦然と輝く王剣(クラレント)!!」

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!」

 

   ガギンッ

 

 

剣と腕が交差する。火花が散り空気が唸る。

戦闘開始から十五分、ベディヴィエールはかなり疲れを見せていたが、対するモードレッドはまだ余裕があるといった様子で辺りを見回していた。

 

 

「ふーん、粛正騎士もかなり減ったな……へっ!! なかなかのやり手ばかりだな。大口叩ける自信はそれかよ!! それにチキン野郎、その義手は何処で手にいれた!! 円卓(オレたち)の記憶にはんなモンねえぞ!!」

 

「さあ? 貴方の鳥頭では思い出せないだけ、かもしれませんよ?」

 

「思い上がるな……アーサー王の覚えが良かっただけの、余り物の軟弱騎士が!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)っ!!」

 

 

展開されるクラレント。その切っ先に赤雷が纏わりつき──

 

 

『Buster brave chain』

 

「……貰ったッ!!」

 

「甘いンだよぉっ!!」

 

   ガンッ

 

 

その剣は、後ろから盾を振り上げていたシールダーの攻撃を防いでいた。奇襲に失敗したシールダーは数歩分飛び退き、ガンド銃を放つ。

しかしそれらも切り捨てられ、シールダーは舌打ちした。

 

 

「何だよギャラハッド、奇襲のつもりか? お前らしくもねえ……そもそもお前に自分があったのかすらオレはよくわからねえが」

 

「私はギャラハッドではありません。マシュ・キリエライト。マシュ・キリエライトです」

 

「……ああ、そうかよ。とうとう呑み込まれたか、ステレオタイプの無個性な正義の味方(ヒーロー)は!!」

 

 

怒鳴りながら、赤雷を纏ったままの聖剣をシールダーに向けるモードレッド。シールダーは放たれる宝具を突き立てた盾で一瞬防ぎ、そして盾を放置したままルールブレイカーを構えて突撃する。

 

 

「へっ!! 特攻か? 随分雑な攻撃だな!!」

 

「貴女に言われたくはありませんね。ブレーキの効かないのはお互い様でしょう? まあ、貴女はただ破壊のために走り、私は人を守るために走っていますが。……ルールっ、」

 

「させねえよっ!! 不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ぺディグリー)!!」

 

 

聖剣での攻撃を中止し、対抗するようにモードレッドは兜を再び被りその真名を解放、鎧兜を頑丈にして切っ先を防いだ。ルールブレイカーの発動条件は相手に刃が突き立てられること、故に今は使えない。

 

 

 

「何だ、自分で理解していたのか」

 

「うむ。その上でマスターは決意を抱いておる。どうせ自分はこの特異点でダメになるから、とな」

 

「……面白い。ここまで来たら純粋に面白いぞ、マシュ・キリエライト。君の可能性は無限だ……!!」

 

 

それを遠目から見るのはゲンム。彼の瞳に映るものは、彼にとっては愉快で仕方がなくて、それがいっそう不気味だった。

 

シールダーとモードレッド、そしてベディヴィエールは至近距離で切り結ぶ。しかし現在のシールダーの得物はルールブレイカーのみ、当然彼女が一番押し負けていた。

 

 

『Quick chain』

 

「はあっ!!」

 

「温い温い!!」

 

   カンッ カンッ

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!」

 

「うぜえンだよぉっ!!」

  

   ガギンッ

 

 

吹き飛ばされるベディヴィエール。ここまでの戦いの影響だろう、持っていた剣はかなり歯零れが激しい。

 

 

「くっ……」

 

 

己の弱さに歯噛みする彼のその隣に、ウォータースタイルで消火等を行っていたウィザードが立った。

 

 

「下がって。俺と交代だ」

 

『キャモナシューティング シェイクハンズ!! ウォーター シューティングストライク!! スィースィースィー!!』

 

   ズドンッ

 

 

不意討ちぎみに放たれる水の弾丸。モードレッドはそれを振り向き様に斬りつけるが、水の勢いは止められず顔面に痛いのを喰らう。

 

 

「がはあっ……テメェ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

『リキッド プリーズ!!』

 

   カッ

 

 

怒りに任せてウィザードがいた範囲一体を焼き払うモードレッド。一瞬辺りは煙に包まれ、視界が晴れた時にはその範囲には……何も残っていなかった。

 

 

「……ハッ!! 存外に雑魚だった──」

 

「……誰が雑魚だって?」

 

 

ウィザードを焼き払ったと勘違いして唾を吐き、シールダーに向き直ろうとしていたモードレッドは……いつの間にかウィザードに首を固められていた。

 

 

「っが、貴様!?」

 

「油断大敵、ってね!!」

 

   ゴキッ

 

「あだだだだだだ!?」

 

 

もがくモードレッド。しっかりと固められているため、暴れてもなかなかウィザードは振り払えない。そして……暴れた結果、少しだけ鎧の下の地肌が見えていた。

 

 

「今度こそ貰いました、ルールブレイカー!!」

 

 

ルールブレイカーを握り振りかぶるシールダー。仮面の下の彼女の顔は、とても鬼気迫るもので。

 

しかし、それはモードレッドには刺さらなかった。

 

 

   ポロン

 

   スパッ

 

「っ!?」

 

「ああ、私は悲しい……『ここでモードレッド卿に死なれては困るから回収しろ』、なんて伝言を伝えなければならないことが実に悲しい……」

 

「トリスタン卿っ!!」

 

 

現れたのは先日煙酔のハサンを死に追いやった赤い髪の男、円卓の騎士トリスタン。彼はその手で妖弦を弾き、シールダーとモードレッドの間を切り裂いていた。

 

 

『ギリギリ チャンバラ!!』

 

   スパンスパンスパン

 

 

粛正騎士を全滅させていたゲンムがガシャコンスパローを呼び出し、トリスタンに矢を放つ。それらは全て撃ち落とされ……彼に注目が集まっている隙に、モードレッドは戦線から離脱していた。

 

 

「……チッ。今回はここまでだ、見逃してやるよ、獲物はテメェらだったんだしな。そこのチキン野郎が獅子王に謁見するんなら、どうあってもオレたちは聖都でご対面だ」

 

「待て!!」

 

『バインド プリーズ!!』

 

「うぜえンだよ最後までぇっ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)ぁっ!!」

 

 

去り際にモードレッドの聖剣から溢れ出た赤雷は、持ち主の怒りに同調するように周囲を焼き焦がし……攻撃が収まった時には、モードレッドとトリスタンは共に消え失せていた。

そして……ベディヴィエールは、人知れず気絶して倒れていた。

 

───

 

「ベディヴィエールは……気絶しているな。体が限界に近い」

 

「……」

 

 

その夜、西の村にて黎斗がベディヴィエールを診察していた。いや、正確には画面越しにロマンが診察しているが、動いているのは黎斗だった。

 

 

「……で? そこのハサンは何か言うことは無いのか?」

 

「くっ……」

 

 

そして黎斗の後ろでは、正座をしているハサンが……ざっと四十人。他にも村人の救護に当たっている者もいるからもっと多いだろう。

 

 

「本当なら断りたいが……ぐぅ……だが……いや、絶対に共闘しないぞ、私は!! 今すぐに殺してやる!!」

 

「……このままなら、皆死ぬのに?」

 

 

意固地になる西の村のハサン軍団の代表にそう言うのはマシュ。彼女は何もしていない。今彼女に出来ることはない……そんな暇してるマシュからの言葉に、西の村のハサン軍団は何も言えなかった。

 

 

「っ……」

 

 

「ふむ……助かりましたな、晴人どの、黎斗どの、マシュどの」

 

「っ、呪腕の!?」

 

 

そこに現れたのは、コンバットゲーマに乗ってやって来た呪腕のハサン。西の村のハサン軍団は彼の登場に全員口をあんぐりと開ける。

 

 

「呪腕の、まさか彼らの味方なのかっ!?」

 

「ふーむ……百貌の、彼らはこれ以上無い戦力ですぞ? 彼らのお陰で東の村の安全は確保されているというのに」

 

「だが、しかしっ……」

 

 

食い下がる西の村のハサン軍団改め、百貌のハサン軍団。というか、呪腕のハサン登場に合わせて一人に戻っているが。

呪腕のハサンはやれやれ、といった感じで肩を竦め、彼女に別の話題を振った。

 

 

「そういえば、例の件はどうなっている?」

 

「……進展は無いな。ああ……困った。あやつに限り口を割りはしないだろうが、円卓には拷問の達人もいると聞く。それにこのままなら死ぬばかりだ……」

 

「それは困りましたな……あーあ、何処かに魔法やら未知の機械やらが使えてサーヴァントも従えている物凄い集団でもいれば良いのですが」

 

「そんなのいるわけが無いだろう!! ……あ」

 

 

百貌のハサンが黎斗を見る。晴人を見る。

……そして頭を抱えた。

 

 

「神の才能を求めるか? 否定はしないぞ? ん?」

 

「……やっぱり嫌だ!! 私はあれには協力しないぞ!!」

 




この後めちゃくちゃ説得した


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鉄の戒め、土の拘束

 

 

 

その翌日。捕らえられたハサンの仲間を救出するために西の村にベディヴィエールを残して旅立った一行は、砂嵐に吹かれながら砂漠を歩いていた。

 

……いたはずだったのだが。

 

 

「……で。こいつはどうするのだ?」

 

「うう、ひっく。怖かった、怖かったよぉ……なんで、なんで人が弱ってるときに、こう、ぐわーって襲ってくるのよぅ……」

 

 

その途中で一人の少女を拾ったため、かなり足止めを食らっていた。

 

 

「あたし何もしてないのに……あ、ごめん嘘、ちょっと水場は独占したけど、他の分も残してたのにぃ……もうやだぁ……」

 

「……置いていくか?」

 

「いや、サーヴァントとしてはトップクラスの霊基だ……とドクターが言っています」

 

「うむ、しかし……」

 

「ひとりぼっちで現界しちゃうし、菩薩さまの声聞こえないし、霊体化はなんか気持ち悪いからしたくないし……うぅ……」

 

 

周りでハサン達やマシュが唸っているが、少女はそれを無視して泣きわめく。ついでに言えば、黎斗と晴人は何故か沸いていた巨大な竜を倒して解体して、ドラゴンステーキを作りながら少女の声を聞いていた。

 

 

「これというのも悟空たちに暇を出したから……でも仕方ないよね、あの馬鹿弟子たちあんまりにもだらしないから!!」

 

「え……もしかして、この人三蔵法師? えぇ……」

 

 

焼き上がったステーキを少女に差し出しながら戸惑う晴人。彼のイメージとは、その三蔵は少しばかりずれすぎていて。

 

 

「そうよ、あたしは玄奘三蔵!! 御仏の導きでこの地に現界したキャスターのサーヴァント!! 半年前どこかに召喚されて、導きのままにシルクロードを渡ってやってきたわ。聖地の異常という未曾有のピンチを止めるためにね!!」

 

「……そこまで特異点が広かったのですか? 何処からシルクロードを渡って来ました?」

 

「うーん……それは、よくわかんない。というか正直、このあたしは天竺帰りのあたしだからちょっと面倒だなって思ったけど……御仏の導きだし仕方ないよネ!! いただきます!!」

 

 

返事もそこそこにドラゴンステーキに手をつける三蔵。あれ、仏教って肉良かったっけ? と今になって晴人は考えていたが、美味しそうに食べているので、まあ気にしないことにした。

因みに黎斗は未だに火に向かって、全員分のステーキ、それに加えて持ち帰り用の干し肉まで作らされている。

 

それを横目に、マシュはさらに質問する。そんなに長く滞在しているなら、聖都の事を知っていてもいいはずだ。

 

 

「では……獅子王の聖都のことを知っていますか?」

 

「もちろん。というか、賓客扱いで二ヶ月くらいあそこにいたし」

 

「何だと?」

 

「えっ……聖都に、滞在を?」

 

「ええ。快適だったわよ? みんなのびのびしてて、笑顔で、悪人が一人もいなくて……でも出てきた。あたしの居場所じゃなさそうだったから」

 

「……」

 

 

よくわからない理屈だった。三蔵はドラゴンステーキを平らげて晴人に食器を渡す。

 

 

「ごちそうさまでした。ええと、助けてくれてありがとう。感謝するわ……うん、貴方たちに協力します」

 

「本当か!?」

 

「……いいんですか? 私たちは聖都と敵対しますよ?」

 

「……大丈夫。だって私は、きっと貴方たちに協力するためにここまで来たから!!」

 

 

やはりよくわからない。しかし味方になるなら僥倖だ。幸先は良いように思われた。

 

───

 

そして日が沈んだ頃に、彼らは目的の砦へと辿り着いた。救出するのは静謐のハサンと、元々三蔵の同行者だったらしい藤太というサーヴァントだ。

 

 

「……ここか、騎士の砦は……哨戒の兵は外壁に十人城壁の上に十人って所だな」

 

「首尾こそ固いが、なに、見張りは夜目も利かぬただの案山子。恐れるに足りぬわ」

 

 

そう言いながら砦に侵入しようとする百貌のハサン。しかし辺りを見回していた三蔵がそれを引き留める。

 

 

「……待って。この砦のみんな、緊張してる。あたしたちの襲撃を知ってるみたい」

 

「何だと? いや……そうだな」

 

「警戒はされるのは、まあ当然だな。ああ、敏感でなければむしろバグだ」

 

「まあそうですな。ここは、しばらく隠れて様子を見ましょう。緊張も長くは持たないはず……ん?」

 

 

突然呪腕のハサンが振り向いた。見える範囲には何もいないが、彼は寧ろその向こうを、物の判別も出来そうにないくらいの遠くを睨み付ける。

 

 

「ん、どうかしたのか?」

 

「……聞こえますな、こちらに向かってくる馬の足音が。この分なら……最速で向かって静謐とトータを助け出したとしても脱出時にかち合いますぞ」

 

「……拷問目的の可能性がある。その面に強いサーヴァントもいるのだろう?」

 

 

黎斗の唱えた推測は誰にも否定出来なかった。となると、ここは最悪の事態に備える他無い。

百貌のハサンが、少し考えて切り出した。

 

 

「……ここは二手に別れるぞ。片方は脱獄の手伝い、もう片方はやって来る馬の部隊の陽動、だな」

 

「うむ、それで行く他ないな」

 

───

 

『フォール プリーズ』

 

   スタッ

 

「……凄いな。あっという間に地下牢だ」

 

 

砦に侵入したのは晴人、黎斗、呪腕のハサン、そして三蔵。残りの三人は外で待機している。

晴人の魔法で地下牢に侵入した彼らは、無数に枝分かれした道を前に懐を漁っていた。

 

 

「随分と道が分かれているな。地下迷宮か?」ゴソゴソ

 

「そうだな。暗くて湿っぽくて、なんか凄い嫌な所だ」ゴソゴソ

 

「……何してるの?」

 

「まあ見ておけ」

 

 

……そして二人は、それぞれの使い魔を呼び出して。

 

 

『ガルーダ プリーズ』

 

『ユニコーン プリーズ』

 

『クラーケン プリーズ』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ギリギリチャンバラ!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

『ドラゴナイトハンター Z!!』

 

 

同時に現れたのは晴人のプラモンスターと黎斗のゲーマ。彼らはそれぞれの道に入り込み、闇のなかに掻き消える。

 

 

「これだけいれば、態々それぞれの道を探る必要もあるまい」

 

「へー、凄いのねぇ」

 

 

 

……三分経過。

ずっと息を潜めて隠れていた一行の元に、晴人のユニコーンが戻ってくる。

 

 

「どうだった?」

 

『ヒヒーン!!』プルプル

 

「……見つかった。急ぐぞ」

 

 

晴人がそう言いながらガルーダとクラーケンを回収し、再び走り出すユニコーンを追いかける。黎斗もゲーマを回収し、他の二人と共に追いかけ始めた。

迷いなく走る一行。彼らは牢の近辺に潜むゴーストの類いも無視して、最短距離でサーヴァントの牢まで辿り着く。

 

 

「……おっと、止まりましょう。牢の前に守衛と思われる敵影がいますな。で、牢の中にはサーヴァント」

 

「……不意討ちが望ましいな。操真晴人!!」

 

「はいはい」

 

 

牢の前にいるのは巨大な岩の怪物。黎斗が晴人に指示すると同時に、晴人はこっそりオレンジの指輪をはめて。

 

 

『スモール プリーズ』

 

「走れ、ユニコーン!!」

 

 

そして、小さくなった彼はユニコーンに飛び乗り、怪物の股をすり抜けて牢に侵入、その中で元のサイズに戻った。

いつの間にか侵入されていたことに驚愕し、怪物が牢に視線を向ける。

……その瞬間に、彼の心臓は潰されていた。

 

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

   グシャ

 

───

 

「……そろそろ馬が到着するぞ。私は兵士を誘導する、騎士は任せた」

 

「分かりました」

 

『ガッチョーン』

 

「変身!!」

 

『Transform shielder』

 

 

その頃、ネロとシールダーは迫り来る馬の軍団を相手に立っていた。並び方を見るに、どうやら中心の黒い鎧の男が円卓の騎士のようだ。

 

 

「……どなたかな、君達は」

 

「……仮面ライダーシールダー。その命貰います!!」

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

 

先手必勝、相手がまだ馬から降りないうちに盾を振りかぶるシールダー。その一撃は黒い騎士の鼻面まで迫り……しかし届かない。

 

 

「鉄の戒め!!」

 

   シュルシュルシュルシュル ガッ

 

───

 

「……ごめんなさい。もう、この人は死にます」

 

「なんで俺は余命宣告されてるんだ?」

 

 

その頃。救出したサーヴァント……俵藤太のいた牢の近くにあった、最も深い牢にいた静謐のハサンをも立て続けに救出した黎斗たちは、何とも言えない光景に直面していた。

静謐のハサンの鎖を外した晴人に、疲れで力が上手く入らないハサンが倒れこんでしまったのだ。

 

 

「ごめん、なさい……助けにきてくれたのに、私、また、殺して……」

 

「……?」

 

「……いや、操真晴人は毒では死なない。死ぬはずがない。死なれては困る……何しろ、そいつは私の作ったゲーム(機械)だ」

 

「……え?」

 

「うん。ほら、普通に立てるし」

 

 

後悔にうち震えていた静謐のハサンは、平気で立ち上がる晴人に驚愕する。それまでの彼女の知らなかった、自分が接触しても死なない人物。それは新鮮な驚きで。

 

 

「ハッハッハ、良かったじゃないか」

 

「……とにかく脱出するぞ。マシュ・キリエライトと百貌のハサンでは正直円卓は荷が重い」

 

 

晴人から目をそらし、そう言って立ち上がる黎斗。ここまで道は覚えている、迷うことはない……はずだった。

しかし、部屋から出ることは叶わない。何故ならば。

 

 

「……それは性急というものだ。休息ならここで取っていけばいい。こんにちは諸君、ようこそ私の尋問室へ。盗人だろうと遠方からの客に変わりはない。歓迎する、遥かな天文台からのマスターよ」

 

「円卓の騎士、アグラヴェイン……!!」

 

 

既に、円卓の騎士がここまでやって来て、そして廊下に立っていたから。

 

 

「っ、マシュちゃんはどうした!!」

 

「……あのギャラハッドの盾の少女か。よくやっていたよ、鉄の戒めで縛られてなおもがき、私に対してルールブレイカーを突き立て、ギフトを解除しようと試みたのだから。……まあ、私にギフトは無いので、無駄な努力となったが」

 

 

そう語る騎士アグラヴェイン。どうやらマシュは負けたらしい。恐らく百貌とネロが助けてはいるだろうが、無事とは言えないだろう。

少しだけ動揺する一行を前に、アグラヴェインの周りの騎士が剣を抜く。

 

 

「何にせよ、お前たちはみな粛正の対象だ。捕らえて、聞くことだけ聞いて、処断する」

 

「相変わらず遊びが無いのねアグラヴェイン!! だから皆に嫌われるのよ!!」

 

「それも結構、私は人間が嫌いだからね、むしろ望むところだ」

 

「……むしろ聞きたいことは何なのですかな?」

 

「色々だ。表で交戦したギャラハッドの盾の少女が姿を変えていた理由、使ってきた技の数々、そしてサーヴァントであるはずなのに全くそうとは感じさせず、しかも鉄の戒めで縛られても易々と打ち破る皇帝。用心するに越したことはない」

 

 

淡々と語るアグラヴェイン。晴人は静かに彼に狙いを定めて、不意討ち気味に鎖を解き放った。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

「っ、鉄の戒め!!」

 

   カンッ カンカンッ カンッ

 

「くっ……」

 

 

しかしそれらは、アグラヴェインの呼び出した黒い鎖に打ち消される。こうなっては、ある程度の交戦は避けられない状況にあった。

 

 

「「変身……!!」」

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ランド プリーズ!! ドッドッ ドドドドンッ ドンッ ドッドッドンッ!!』

 

 

変身するゲンムとウィザード。黄色いランドスタイルになったウィザードは、少しでも時間を稼ごうと部屋に蓋をする。

 

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

土の壁が競り上がり、騎士達のいる廊下との間は分かたれる……しかしすぐに、それは騎士達によって打ち破られた。

 

 

   バンッ

 

「ノータイムで突破かよ……!!」

 

「私の粛正騎士は……かつて宮廷で逆上し、多くの同胞を斬り殺して遁走した愚か者を参考にして強化してある。浅ましい狂犬の剣だが、お前たちにはふさわしい。やれっ!!」

 

「……相手してあげよう」

 

『ギリギリ チャンバラ!!』

 

 

ガシャコンスパローを鎌の形態にして構えるゲンム。その背後で三蔵は腰を落として拳を握り、俵藤太は弓をとり、呪腕のハサンは弱って上手く立てない静謐を庇い立ちダークを構え……そしてウィザードは周囲の壁を見渡していた。

 

 

「はあっ!!」

 

   ズシャッ

 

 

騎士を斬るゲンム。隣では三蔵が別の騎士を吹き飛ばし、藤太が追い討ちをかけていた。呪腕のハサンは静謐を庇いながらダークで相手を牽制している。

 

 

「いくら倒した所で、私の部下はまだまだやって来る。早く諦めろ」

 

「まさか!! 全て倒し尽くしてやろう……!!」

 

「それは流石に無茶ですぞ黎斗どの!!」

 

「黙れ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ザンッ

 

 

纏めて敵を斬り伏せるゲンム。しかし彼の他の面子は、少しずつ疲れを見せ始めていて……しかも、未だに弱っている静謐のハサンも何とかしなくてはいけない。

脱出は急務だった。しかしアグラヴェインを前にした今は元の道を辿ることは無理だ。

 

 

「くっ……ねえ晴人、何やってるの!?」

 

 

焦る三蔵が少し苛立った様子でウィザードに目を向ける。考えてみれば、彼はずっと土壁に触れては何かを考えている様子で。

 

 

「大丈夫、用意は出来た」

 

『ドリル プリーズ!!』

 

『チョーイーネ!! キックストライク!! サイコー!!』

 

 

しかしウィザードは明るい声色だった。刹那、足元に魔方陣を展開し飛び上がるウィザード。その足元ではドリルよろしくエネルギーが回転していて。

そしてその攻撃は……アグラヴェインでも騎士達でもなく、尋問室の天井を貫いた。

 

 

   ガガガガガガガガ

 

「なっ……天井まで、穴をっ!?」

 

 

ドリルのキックで外まで脱出口を開通させるウィザード。彼は再び己の鎖を用いて、まだ中にいる仲間達を引き上げる。呆気に取られた騎士達は思うように動けない。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

   シュルシュルシュルシュル

 

 

「待て、逃がすな、追え、追えっ!!」

 

 

アグラヴェインが騎士達を急かす。その声で慌てて地下牢を出る兵士達。しかし彼らが外に出てきた時には。

……既に敵は誰もいなくなっていた。

 




ディフェーンド!!


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執拗かつ必要な妨害

 

 

 

 

「美味いお米がどーん、どーん!!」

 

「……」

 

「……」

 

 

翌日の昼。魔法やら何やらを駆使して、ようやく西の村まで黎斗達は戻ってきていた。アグラヴェインに手酷くやられたマシュをベディヴィエールの横に寝かせ、彼らは街の少し広い所に固まっていたのだが。

 

突然俵藤太が立ち上がり、訳のわからない宝具を発動していた。

米だ。米が出てくるのだ。

 

 

「穀物の質量兵器か。面白い」

 

「いやお米だから。にしてもすごいね、お米を大量に呼び出す宝具か……あ、魚とか果物とか出てきてる。……で? どうせなら向こうのサーヴァントに声をかけないのか?」

 

「……そうだな。後が面倒だ」

 

 

無尽蔵に米が溢れ出てくる中で、黎斗はガシャットを取り出す。何も知らせなかったせいで拗ねられたら面倒だ、そう思っての事だった。

 

 

『ジェットコンバット!!』

 

「じゃ、おつかいに行ってきますよ」

 

『スモール プリーズ!!』

 

 

縮小して黒いゲーマに飛び乗る晴人。もう彼はこれでコンバットゲーマに乗るのは四度目にもなるから、かなり慣れた様子だった。

 

───

 

その頃。手酷くアグラヴェインにやられたマシュは、用意された小汚ない布団に寝転がり、腐りかけの天井を見上げていた。隣ではネロが寄り添っている。

 

 

「ネロさん……やっぱり、私は力不足です」

 

「……否定はせぬぞ、マスター。そも、マスターは残り幾ばくも無い身、無理は出来ぬ」

 

「……はい」

 

 

呟きを交わす二人。互いに、聞いているのかいないのかも曖昧な、どこか夢見心地のような、そんなぼんやりとした時間を過ごしていた。

 

 

「もうすぐ私は死にます。この体が限界を迎えます。……分かっています」

 

「だろうな……やはり、『あれ』をする気か?」

 

「……そうですね」

 

「そうしたら……もう、元には戻れぬぞ?」

 

 

そう言うネロは、何処と無く寂しそうで。

 

 

「ええ。でも、他に方法は無いのですし……私がそれを望みました」

 

「そうか……そうか、マスター」

 

 

ネロはゆっくりと、マシュの寝ている布団に上がり、彼女の頭を撫でる。

 

 

「うむ、うむ。そうまでして歩むか、それもまたローマ……ああ、貴様は実に美しい」

 

「なら……良かったです」

 

 

日はとっぷりと沈んでいた。夜明けはまだ遠い。

 

───

 

「ふぅ、やっとこっちにこれたのじゃあ!!」

 

「おぷっ、姉上、そのぅ、おぷっ」

 

「うぅ……もしかして子ブタ運転下手……?」

 

「そう? 俺は全然酔ってないんだけど」

 

 

戻ってきた晴人が連れてきたのは、信長と信勝、そしてエリザベートだった。残りのメンバーは東の村に残って警戒を続けるらしい。

何故かサーヴァントが飛行機酔いを起こしていたが、気にしない事にした。

 

 

「とにかく、今から炊き出しやるらしいから手伝うよエリちゃん」

 

「あ、はーい」

 

 

黎斗と共に去っていくエリザベート。

残された信長は、辺りを見回してマシュがいないことに気がつく。

 

 

「……マシュはどこじゃ?」

 

「マシュ・キリエライトは重症を負って休養中だ」

 

「なんじゃと!? 近ごろ人間やめかけてるなーって思ってたが、特攻しすぎたか!?」

 

 

何事でも無いように述べる黎斗とは反対に、信長は目を丸くしていた。信勝は黙って姉と黎斗を見比べている。

 

 

「……というか黎斗。もう少しマシュを心配してやったらどうじゃ? 仮にもお主のサーヴァントじゃろ?」

 

「関係ない。サーヴァントに入れ込むなど無駄なこと、彼女の心配は不必要だ」

 

「……やれやれ」

 

 

米の炊ける匂いが漂ってきた。魚や肉も調理されているだろう。

一夜限りの宴が始まる。

 

───

 

 

 

 

 

その宴は賑やかだった。人々は唄い笑い、これまでの抑圧された日々から一時だけ解放されていた。

 

そんな宴も深夜には終わる。翌朝には普段通りの状態に戻らざるをえない。……彼らに朝まで夢を見ている余裕は無かった。

太陽が上ると共に、西の村のサーヴァントが一同に会し計画を話し合う。

 

 

「さて。現時点でサーヴァントは、我らハサンが三人、三蔵、俵、アーラシュ、ベディヴィエール、そして黎斗の元の十人で十七人。その内、非戦闘民を匿うこの西の村の警護にあたるサーヴァントに最低一人割いて十六人ですな」

 

「マシュ・キリエライトとベディヴィエールは明日には回復する手筈だぞ」

 

「そして、今から兵を纏め上げれば明日には出陣が可能だな」

 

「……もしやサーヴァントの数は足りているのではないですかな?」

 

「そうじゃん!! 頭いいのね!!」

 

 

そして彼らは気づいた。……この場には既に、円卓を余裕をもって相手出来るだけのサーヴァントの人数が揃っていることに。

 

 

「善は急げ、と言います。ここは早めに……」

 

「そうですな。では、本日はなるべく休みましょう。我らが兵を準備します、明日聖都を落としましょうぞ」

 

「おーっ!!」

 

 

そんな風に盛り上がる一同……しかし。

こんな有利な状況で、円卓の邪魔が入らないなんてことは起こる筈がなく。

 

 

「……それは、残念ですがさせません」

 

   ポロン

 

   スパッ

 

「っ──!?」

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

晴人が咄嗟に発動した炎の壁に、見覚えのある傷が深々と刻まれていた。魔法陣の向こう側に、赤い髪と銀の鎧が透けていて。

 

 

「トリスタン……!!」

 

「オレも来てやったぜ、喜びな!!」

 

「モードレッドもかっ!?」

 

 

赤い髪の弓を持った騎士トリスタンと、穢れた聖剣を振りかざす騎士モードレッドが、西の村を潰しにやって来ていた。

 

 

「円卓の騎士が、二人……!?」

 

「また来たのか!!」

 

 

すぐさま身構え、得物を抜く一同。その反応が嬉しかったのか、モードレッドは笑顔になる。

 

 

「おう!! 来てやったぜ!! ……あ、ついでに教えてやるけどよ、東の村の位置も特定したぜ!!」

 

「何ですとっ!?」

 

 

笑顔になったついでと言わんばかりに発せられた情報は、一行に衝撃を与えるには十分だった。

 

 

「ランスロットの奴が襲いに行ってる。そろそろ着くんじゃねーかな!! ま、今から飛んでいけば間に合うかもだぜ?」

 

「……黎斗どの、晴人どの」

 

「分かっている」

 

『ジェットコンバット!!』

 

 

呪腕の頼みにあわせてコンバットゲーマを呼び出す黎斗。晴人は呪腕にスモールの指輪を手渡す。

 

 

『スモール プリーズ!!』

 

『スモール プリーズ!!』

 

 

そして小さくなった呪腕のハサンと黎斗は、ゲーマに乗って空へと飛び出した。

 

 

「行きますぞ黎斗どの!!」

 

「だから分かっている!!」

 

 

目指すは元々呪腕が守っていた東の村。あそこには……この村と同様に、まだ難民が残っている。

 

───

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

偉大なる者の腕(ヴィシュヌ・パージュー)!!」

 

追憶せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

誰かのための物語(ナーサリーライム)!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

そしてそれと時を同じくして、東の村に残っていたメンバーは突然現れた大量の騎士を相手に交戦を繰り広げていた。

斬っても斬っても沸いてくる騎士を相手取って、だんだんと疲れ始めるメンバー達。しかも彼らは、散り散りに逃げる村人達も防衛しないといけない。

 

 

「まだ、終わらないの……!?」

 

「何処だ、首魁は何処にいるっ!!」

 

 

敵がどんどん沸いてくる以上、どこかに指揮官がいるはずだ。騎士を対処しながら、ジークフリートがその指揮官格の誰かを探す。

彼は騎士の隊列を辿りながら、山道を下っていき……

 

 

   ザンッ

 

「っは……!?」

 

「……すまないな。こんな鎧姿だが、隠れるのは得意でね」

 

 

突然背中に鈍い衝撃を感じた彼は、己の背が斬りつけられていることに気がついた。すぐに振り返れば、何も無かった筈の空間に鎧の男……ランスロットが剣を構えて立っている。ジークフリートは反射的に剣を振り上げた。

 

 

「……これで、終わりだ」

 

「まだだ!! 幻想大剣(バル)──」

 

「終わりなんだ!! ……極光よ、斬撃より湖面を映せ。縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)

 

   カッ

 

「っ……がああああああああっ……!?」

 

 

しかし、その刃がランスロットに届くことは無い。背中の傷が淡い水色に光輝き、ジークフリートを光で包み込む──

 

 

『クリティカル エンド!!』

 

「ふはははは!!」

 

   ゲシッ

 

「っ!?」

 

 

……そこにゲンムが舞い降りた。彼は巨大化しながらランスロットの後頭部を横凪ぎに蹴り、大きく吹き飛ばす。

 

 

「マスター!! 来て、くれたのか……!!」

 

 

光の粒子に変わりながら、ジークフリートがゲンムを見上げた。ゲンムは特に彼に治療を試みるでもなく、立ち上がるランスロットに狙いを定めていて。

 

 

「少しばかり遅かったかもしれんがな。まあいい……さっさと終わらせる」

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

その音声と共に、三体のゲンムが新たに現れた。ランスロットを取り囲むように並んだ彼らは、一人一人が武器を構えて。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

『バンバンシューティング!!』

 

『ギリギリチャンバラ!!』

 

「増えた……!? しかし、やることは同じ……無毀なる湖光(アロンダイト)!!」

 

 

冷や汗を垂らしながら、ランスロットが四人全てのゲンムを斬り払う。ゲンム達は胸元を横一閃に開かれ……しかしけろりとした様子で立ち上がった。

 

 

「なっ……!?」

 

「ハーハハハハ!!」

 

「アハァ……恐ろしいだろう、これがゲンムの力!!」

 

「戦け、私達は何度でも蘇る!!」

 

「震えろ、貴様は私を倒せないぃ!!」

 

「「「「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」」」」

 

 

さらに全方位から煽る。ランスロットは動揺からますます冷や汗を増やし、剣を握り直した。

それを嘲笑うように、四人のゲンムがキメワザを放つ。

 

 

『マイティ『タドル『バンバン『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』』』』

 

「さあ、とくと味わえ……!!」

 

「死なない程度に遊んでやろう!!」

 

「「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」」

 

「っ……!!」

 

   ズドン ガガガガ ガコン ズドォォォンッ

 

───

 

『ハリケーン プリーズ!! フゥ!! フゥ!! フゥフゥフゥフゥ!!』

 

「姿が変わった所で……!!」

 

   ポロン

 

「……!?」

 

 

そしてそれと同時に、西の村でも戦闘は続いていた。現在は百貌のハサンやアーラシュ、三蔵が人々の護衛兼避難誘導を行い、トリスタンをウィザードとエリザベートと静謐のハサンが、モードレッドを信長と信勝、そして俵が担当している。

 

そして現在、ウィザードはハリケーンスタイルに姿を変えていた。荒れる風は、弓の音をも吹き飛ばす。

 

 

「全く、貴方は厄介だ。私の音は掻き消されかねない」

 

「だったら掻き消されときなさいよ!!」

 

「痛みを……苦しみを……甘美をあなたに」

 

「……弓を奪った程度で私を完封したと思うな!!」

 

 

ならば剣を抜くトリスタン。その剣は襲いかかってくるエリザベートの槍を受け流し、ハサンのダークを叩き落とす。

 

 

「……流石に弓だけじゃなかったか。でも、俺にもまだまだ手がある」

 

『キャモナスラッシュ シェイクハンズ!! コピー プリーズ!!』

 

 

それを見ながら、ウィザードはその剣を二本にコピーし逆手に持った。

風が吹き荒れる中で、円卓の騎士に仮面の騎士(仮面ライダー)が飛びかかる。

 

 

 

「これでどうじゃ、三千世界(さんだんうち)!!」

 

   ズドンズドン

 

 

そしてモードレッドも、四対一の状況に追い込まれて押され気味だった。信長の弾丸を全身に受け、彼女は思わず膝をつく。しかしまだ諦めてはいないようで、その聖剣を信長に向ける。

 

 

「っ……ウゼェウゼェウゼェ!! お前ら全員消えちまえ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

「っ、メカノッブ!!」

 

「ノブっ!!」

 

「ノッブ!!」

 

 

しかし放たれた赤雷は、信勝が呼び出した数体のメカノッブに阻まれる。そして信勝自身も、日本刀に風を纏わせてモードレッドに振り上げた。

 

 

「はあっ!!」

 

   カキン

 

「特にお前がウザイんだよ優男!! なんでテメェが父上の鞘を持ってる!!」

 

「理由を話せしていられるほど、僕に余裕はありませんっ……風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

燦然と輝く王剣(クラレント)!!」

 

   ガンッ

 

 

容赦なく宝具を解放し続けるモードレッド。信勝が風王結界(インビジブル・エア)を持っていることが不服らしい。信勝が背中に背負っているカリバーンに何も言わないのは、そもそもそれの存在を知らなかったからだろう。

 

 

「ウゼェウゼェウゼェウゼェ!! 父上の宝具を継ぐのは息子であるオレなんだ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

「っ、ちびノブ!!」

 

「ノブァ!!」

 

「ノッブぅ!!」

 

「……死ねぇぇっ!!」

 

   ズドォォォンッ

 

「「ノブァ!?」」

 

「ぐはぁ……!?」

 

 

再び剣が解放される。……再びちびノブを肉壁にする信勝だが、今度は耐えきれなかった。無理がたたったのだろう、吹き飛ばされて立ち上がる顔には疲れがありありと浮かんでいて。

 

 

「はっはっは!! 父上の宝具なんて使える器じゃネェんだよお前は!!」

 

 

そして信勝を嘲笑うモードレッド。……彼は気づいていない。己の後ろでアーチャー二人が宝具の準備を整えていた事には。

 

 

「うむ、時間稼ぎは十分じゃ信勝!! もう一発喰らえい!! 三千世界(さんだんうち)!!」

 

「南無八幡大菩薩、願わくばこの矢を届けたまえ!! 大妖射貫(このやにかごを)!!」

 

   ズドンッ

 




四人の社長に同時に煽られる地獄
一度は見てみたい(受けたいとは言っていない)


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命絶つほどの覚悟

 

 

 

『ハリケーン スラッシュストライク!! フゥフゥフゥ!!』

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

   ザンッ

 

「「ぐっ……!!」」

 

 

それからまたしばらくして。

モードレッドとトリスタンは、共に追い詰められていた。兜は欠け妖弦は切れ、相手の攻撃を受け止めることも出来ずに転がる。

 

 

「っ……おいトリ公!! お前押し負けてるのかよ!!」

 

「ああ、貴方もそうではないですか……私は悲しい」

 

     (パィン)

 

「……最早音すら出なくなってしまいましたか」

 

 

トリスタンはため息をついては、しきりに空を見上げていた。

 

 

「雑魚はもう散らし終えたぞ、残りはお前達だけだ!!」

 

「……何故か半分くらいの兵が攻撃せずに何か作ってたけど取り合えず倒しといたわ!! 何にせよ、痛い目見せてあげる!!」

 

 

さらに、そこに避難誘導と粛正騎士の殲滅を終えた百貌のハサンと三蔵、アーラシュが戻ってくる。

 

 

「……次はもっと頑丈になってたらいいな!! でもまあ……仕事はしたからまあいいか!!」

 

「何を言ってるのだ、貴様らに次はない!!」

 

 

トリスタンと背中合わせになり剣を向けるモードレッドを、百貌のハサンが分裂して包囲する。

しかし……二人の騎士は笑っていた。

 

 

「ふ、それは貴殿方も同じです、山の翁」

 

「父上は決してお前らを赦さねぇ。なにしろ邪魔がなければとっくに計画は終わってた!! だから……」

 

「……その酬い、無念と共に受け入れる時です」

 

「……どういうことだ?」

 

 

気にかかる事を言われた。この状況で、円卓にまだ手があるとでも言うのか?

 

 

「今から降るものは獅子王の裁き。聖槍ロンゴミニアドによる浄化の柱。……見たことはあるでしょう? 大地を抉り取ったクレーターを」

 

「っ……!!」

 

 

しかし、トリスタンの指摘で思い出した。

東の村への道中に存在していた巨大なクレーター……あれを作る一撃が、今からここに降ってくる。

 

 

「そん、な……」

 

「えっ、嘘じゃろ……!?」

 

「残念ながら本当なのですよ。寸分の違いもなく貴方がたの上に落ちてきます。一切の痕跡なく浄化致しましょう」

 

「それが……それがアーサー王の所業なのか?」

 

「無論!! 正気でなく粛正が許されるか!! ヒトを残さんがため、我が王は聖断された!! 裁きに情はいらぬ、我が王は、人の心を切り捨てた!!」

 

 

トリスタンはそう言い切った。その潰れた眼には、王に対する後悔と忠義、そしてそれから生まれた命絶つほどの覚悟が映っていて。

 

 

「と、とにかく逃げなきゃ!!」

 

 

恐怖で腰が抜けかけの三蔵が逃げ出そうとする。聖槍の攻撃を食らえば、きっと一溜まりもない。彼女は山の麓へ降りようとし……

 

 

 

 

 

「鉄の戒め!!」

 

    ガガガガガガガガガガガガ

 

「っ……!?」

 

 

その刹那、西の村全体を囲むように、あの黒い鎖が展開された。建物に絡み付き柱を経て大地を真っ直ぐに這う鎖は、瞬く間に頑丈な壁となって。

そしてその壁の向こうに、先程まで影も無かったアグラヴェインが立っていた。

 

 

「……逃亡は不要だ。貴様らはここで死ぬ」

 

「アッくん!? これは……」

 

「……まさか、粛正騎士の動きが悪いと思ったら実はこの鎖を設置するための仕掛けを作っていたとはな。こりゃ、一本とられたか」

 

 

鎖の壁を見上げながら、何かを悟ったように舌を巻く藤太。三蔵は未だにおろおろしている。

モードレッドとトリスタンはどこか自慢げで、鎖の壁の向こうにちらつくアグラヴェインも安堵を浮かべていた。

 

 

「だが、いいのか? この鎖に囲まれたら、お前たち円卓の騎士でも抜け出せないぞ?」

 

「ハッ!! 今更なんで死を恐れる!! これはな、オレたちごとお前達を殺す一世一代の大勝負だったんだよ!! 父上の槍の準備が整うまでオレ達が足止めして、その間にアグラヴェインが逃げられないように細工して、皆纏めて消え失せる。塵一つ残さないよう二度射ちだ!! 簡単で分かりやすいよな!!」

 

「なっ──」

 

 

モードレッドはそう言いながら、心底愉快そうに笑っている。彼女は非常に満足していた。敵を纏めて片付ければ、きっと王の部下の中でも唯一無二の活躍が出来る。……トリスタンがいるのはなかなか気にくわないが、最期くらいは気にしないことにしよう、と、彼女はそう思う。

 

 

「なあアグラヴェイン、父上から何か伝言はあったか? なああったか?」

 

「……『ご苦労だった、トリスタン卿、モードレッド卿』……とは言っていたな」

 

「くぅっ……っ!! やっと、やっと父上に、褒めて貰えたっ……!! よーし、今のオレは百人力だ、全員逃がしはしねえからな!!」

 

 

そう言いながら聖剣を握る手に力を籠めるモードレッド。それを見ながらアグラヴェインは静かに問う。

 

 

「……おい、山の翁一人とマスターの姿、ギャラハッドの盾の少女と皇帝の姿が無いが」

 

「ああ、いくらかは東の村に行ったぜ!! 後はどこかに隠れちまった!!」

 

 

モードレッドはあっけらかんと言いながら赤雷を纏った。トリスタンも剣を抜き、構える。

……アグラヴェインはほんの少しの間、愕然としていた。

 

 

「おい……隠れるのは仕方ないとしても、東の村に行っただと!? まさか漏らしたのか?」

 

「ん、言うなって言ってたか?」

 

「っ──!?」

 

 

汗の垂れる頭に手をやるアグラヴェイン。しかし彼はすぐにその汗を拭い、何でもないように取り繕った。

 

 

「……まあいい。私も最後の手段を用意している。残った奴等は私達がなんとかしてみせよう。だから……二人は存分に死んでいけ。そこの連中を道連れにしてな」

 

「おう!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

「いや、いや、いや……!!」

 

 

逃げ場の無い環境に置かれて誰よりもパニックになっていたのはエリザベートだった。生前の末路からして逃げ場の無い空間というものが苦手だった彼女は、迫り来る死という存在に怯えていて。

彼女に手をさしのべるウィザードの腕すらも掴めず。

 

 

「速く逃げるぞ!! ほら!!」

 

「う、あ、やだやだやだやだぁ……!!」

 

「何言ってるんだ、ほら早く立って……!!」

 

 

「だから逃がさねえよ、我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

隙を見て放たれる暴力の奔流。そのウィザードは咄嗟に、聖剣の標的にされていながらも動けなかったエリザベートをその身体で庇い……倒れ付した。

 

 

「が、あっ……っ……!!」

 

   バタッ

 

「あ、っ、子ブタっ!?」

 

「晴人さんっ……!!」

 

 

……どうやら、脱出するにはもっと騎士二人を消耗させなければいけなかったらしい。もう残り時間は幾ばくも無いが、それでも足掻こうと多くのサーヴァントが飛びかかっていく。

 

 

妄想幻像(ザバーニーヤ)!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「もう諦めろ、燦然と輝く王剣(クラレント)!!」

 

 

全員が焦っていた。終わりは近い。その前に終わらせなければ、と。

 

 

「……あと少しだけ、二人を抑え込んでくれ」

 

「アーラシュさん……?」

 

 

……そんな戦局を俯瞰し、そして天を睨んでいたアーラシュ・カマンガーは突然言った。偶然彼の隣まで下がっていた信勝が、思わず彼に目を向ける。

 

 

「……今から一度だけ、あの槍を射ち返す。再充填の間に皆逃げろ」

 

「そんな事が出来たんですか!?」

 

「おう。()()()()()()()()がな」

 

「……えっ?」

 

 

淡々と、しかし笑顔で彼はそう言った。そのまま彼は弓を上に向ける。

 

 

「いいんですか、それで?」

 

「ああ!! それで皆の笑顔が守れるなら、何度でも死んでやる。……まあ一度きりしか機会は無いけどな」

 

「っ……」

 

 

……信勝は彼を止められなかった。己を犠牲にして一人でも多くの仲間を助けようとしているアーラシュを勝手に止めるなんて、それは自分勝手が過ぎる気がした。

 

 

「……そうですか。なら……僕も手伝います。何かあったら僕が食い止めますから、最高の一射をお願いします」

 

「ノブ!!」

 

「ノブ!!」

 

「……承った。こりゃ、恥ずかしいところは見せられないな」

 

 

ちびノブと共にアーラシュを守る体勢に入った信勝。やって来る粛正騎士を足止めし、少しでも多くの時間を稼がんと風を飛ばす。

そしてその隣で、アーラシュは天に向けた弓を引き絞った。

 

 

「──陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

 

……天の彼方に一筋の光が閃いた。それこそがロンゴミニアドの一撃、大地を消失させる人には過ぎた力。

 

 

「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最後、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ。この渾身の一射を放ちし後に……我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!!」

 

 

それに相対して、弓兵は矢を放つ。

 

 

流星一条(ステラ)!!

 

 

 

 

 

衝撃は凄まじかった。あまりの耳鳴りで、音すらも聞こえなかった。

目を開ければアーラシュはもういない。しかし、その他の全員は、消えていなかった。

 

 

「……お見事でした。星を砕く技、そして貴方の生きざまの一端。この不肖織田信勝、しかと見届けました」

 

 

一つ礼をする信勝。そしてそのすぐ後に、彼は姉を回収せんと戦場に舞い戻る。

時間は作られた。既に疲労困憊の信勝でも強引に鉄の戒めの壁を抉じ開けられる位には。

 

 

「姉上、逃げますよ、急いで!!」

 

「しかしあの鎖はサーヴァントでは触れぬぞ!?」

 

「僕は()()()()()です!! ほら晴人さんも立って!! この時間を無駄にする訳には行きません……!!」

 

───

 

「黎斗どの!! あちらの村をご覧ください!!」

 

 

呪腕のハサンが悲鳴にも近い声を上げる。一通りの騎士を吹き飛ばした東の村の面々は、西の村に降り注ぐ光の柱を目に焼き付けた。一度目は柱を矢が相殺した。しかしその暫く後に降り注いだ二度目は、何にも阻まれずに突き刺さる。

 

 

「……まさか、あのクレーターを量産していたあの一撃か」

 

「……まさかとは思うが、向こうは全滅していない、よな?」

 

「さあ……何にせよ、あの光は美しい」

 

 

衝撃波に少なからずよろめきながら、黎斗は恍惚の表情を浮かべていた。そんな彼にアヴェンジャーが声をかける。

 

 

「おい。さっきまで戦っていたあの鎧のサーヴァントはどこにやった?」

 

「それが、遊んでいたら逃げられてしまってな」

 

「何ですとっ!?」

 

 

……てっきり倒したと思っていたサーヴァントのメンバーは黎斗を二度見する。何故あの圧倒的状況から逃がすことが出来るのだろう、そう思いながら。

 

 

「……マスター、もしかしてわざと逃がした?」

 

「……さあ、どうだろうな」

 

───

 

 

 

 

 

光の柱が鎖の中の全てを焼き払った時。間一髪で鎖をすり抜けて出てきた晴人は砂ぼこりにむせながら、足の痛みに顔をしかめながら辺りを見回す。

 

 

「……今、誰がいる?」

 

「いるわよ、子ブタぁ……」

 

「私もです……」

 

 

まず、砂まみれのエリザベートと、左腕が効いていない静謐のハサン。特にハサンの方は、倒れ混んだ晴人を庇ってモードレッドの剣を受けていたせいかダメージが大きい。

 

 

「わしはいるぞ!! 信勝もじゃ!!」

 

「はい!!」

 

 

次に声を上げた織田の姉弟は、ハサンの現状に比べれば健康そうに見えた。とはいえ、信長ともう一人を脱出させるために限界までちびノブを召喚した信勝にはもう戦う力は無い。

 

 

「私もいるわよ。でも、藤太は……」

 

 

そしてそのもう一人は、体は健康だが精神的にボロボロだった。

 

 

「……」

 

『ガルーダ プリーズ!!』

 

 

晴人は何も言わない。大体の事は理解できた。

自分達はまんまとしてやられた訳だ。自分は変身できそうに無いほどのダメージを追い、しかも脱出時の鎖の圧で足がひしゃげている。

 

ガルーダを飛ばすので体力的にも精一杯。……取り合えず彼は、魔力回復のためにも体を休めることにした。

 

───

 

「さっきの、さっきの光は、まさか……!?」

 

 

そして、村人達と共に避難していたベディヴィエールとネロは、西の村に突き立つ光の柱を見てから半狂乱になるマシュを押さえ込むのに必死だった。

 

 

「放してっ、下さいっ!!」バタバタ

 

「落ち着けマスター。……今は待つしか出来ない」

 

「でも、あそこは村人全員の故郷だったんですよ!! それに、サーヴァントの皆さんもまだ残ってる……!!」バタバタ

 

「今は待つのだマスター!!」

 

「そうです!! ここは、何とかこらえて下さい……!!」

 

「うっ……くっ……」

 

 

涙は流れない。それでも、悲しみはとめどなく。

 




現在の戦力

黎斗(ゲンム)
アヴェンジャー
ラーマ、シータ
ナーサリー・ライム
呪腕のハサン

晴人(ウィザード) ※戦闘不能かつ片足故障
エリザベート ※メンタルブレイク
信長
信勝 ※体力切れ
三蔵 ※メンタルブレイク
静謐のハサン ※左手故障

マシュ(シールダー) ※戦闘不能
ネロ
ベディヴィエール ※大体回復済み


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死を告げるもの

ラーマの偉大なる者の腕が封印されていると知って困惑してます、どうすればいいんだろう


 

 

 

 

「さて。西の村が破壊された以上、向こうのサーヴァント達は移動しているだろう。だが、どこに行ったかはある程度絞りこめる」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ジェット コンバット!!』

 

 

戦いを終え、しかし晴人がいないのでコンバットゲーマで移動する事も出来ない黎斗の一行は、取り合えず西の村のサーヴァントと合流しようと動いていた。

その道すがら、黎斗が西の村のサーヴァント達を捜索するためにゲーマを飛ばす。

 

 

「恐らく十数分で見つかるだろう。見つかり次第、座標はこちらに送られてくる」

 

───

 

その頃。

 

 

「さて。見つけたぞ、『最後の希望』」

 

「アグラヴェイン……!!」

 

 

体を休めていた晴人達の元に、アグラヴェインが現れていた。聖槍から逃れた晴人達を潰しに来たらしい。

晴人はあわてて指輪をドライバーにかざしてみるが。

 

 

『エラー』

 

「くっ……」

 

 

……音は鳴らない。どうやら、魔力はまだ回復していないらしかった。

魔力を失った彼はただの人間と同じだ。ゲーマである以上限界を超えるダメージを負わない限り消滅はしないが、今の彼は足手まといと変わらない。

アグラヴェインが剣を抜き、晴人に向けた。

 

 

「さあ、終わりの時だ。鉄の戒め!!」

 

「……!!」

 

 

そして黒い鎖が何本も飛んでいき……

 

 

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!」

 

「っ!!」

 

 

突然聞こえたその声に反応して、アグラヴェインは咄嗟に鉄の戒めを右腕に巻き付け、鎖帷子のようにすることで不意討ちをしかけてきたベディヴィエールの銀の腕を弾く。

 

 

   ガンッ

 

「……ベディヴィエールか。……一応聞くが、今から円卓に戻るつもりはないか?」

 

「まさか……獅子王は間違っている!! さっきの柱は、あれは……ロンゴミニアドの一撃だろう?」

 

「当然だ。我が王はトリスタンとモードレッド共々敵サーヴァントを殲滅する作戦を敢行し、そうして彼らはここに倒れている」

 

「……まさか、あの二人まで、獅子王が手にかけたのか!?」

 

「当然だ」

 

 

そう言うアグラヴェインの顔に悲しみは無く。だからこそベディヴィエールはさらに腕に力をこめる。

 

 

「……一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)!!」

 

「行くぞ」

 

 

……そうして斬りあう二人の騎士から離れた所で、残ったサーヴァント達は晴人を守っていた。

 

 

「ぐ、あがっ……」

 

「ねえ、ねえ子ブタ……ねえ……!!」ユサユサ

 

 

エリザベートは半泣きになりながら、呻く晴人をゆする。

……彼女自身にも、晴人に入れ込む理由は分かっていない。ただ、何故か失ってはいけない気がする、それだけ。

なのに、なんでこんなに悔しいのだろう。

 

───

 

「……見つかった。コンバットゲーマがアグラヴェインと交戦中のベディヴィエールを観測したらしいな。その近くに操真晴人も見える」

 

 

表示されたモニターを読みながら黎斗はそう言っていた。そして彼は、ベディヴィエール達がかなり危険な状況だと判断し、すぐに救援に行こうと考える。

 

 

「……私に入れ、ナーサリー。アヴェンジャー、向こうの村まで全速力だ」

 

「分かったわマスター!!」

 

「ラーマとシータ、そして呪腕のハサンは後から追い付け。座標はここだ、いいな?」

 

 

彼はラーマに紙を手渡し、そしてナーサリーを取り込んでアヴェンジャーにつまみ上げられて。

 

 

「では、出発だ」

 

「良いだろう、虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

───

 

「ぜえ、はぁ……!!」

 

「体の限界を迎えたか?」

 

「まさ、か……!!」

 

 

暫く斬りあっただけで、ベディヴィエールの足取りはふらついていた。

病み上がりの身体で無理をしすぎたせいか、それとも体自体が限界なのか……とにかく、ベディヴィエールに満足に戦える力は残っていない。

そして、そんな彼を見逃していられるほどアグラヴェインに余裕は無かった。

 

 

「……終わりにしよう。鉄の戒め!!」

 

 

アグラヴェインの鎖が、ベディヴィエールを縛り上げる。ベディヴィエールは全身から汗を吹き出しながらもがくが、抜け出すことは叶わない。

 

 

「ぐ……あ……っ!!」

 

「……すまないが、逝ってもらうぞ」

 

 

剣を振り上げるアグラヴェイン。その刃はベディヴィエールの首を跳ねようと奔り……

 

 

「ヴ……徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)!!」

 

   ガンッ

 

「……?」

 

 

しかし後方からエリザベートが邪魔をした。彼女の尻尾で後頭部を強打されたアグラヴェインは、振り向き様にエリザベートの前方を凪ぎ払う。

 

 

「……邪魔がまだ入ったか。全く小娘め、足が震えているのに手を出すか、中々の蛮勇だ」

 

「ヒッ……」

 

 

その剣に怯えたのか尻餅をつくエリザベート。アグラヴェインはベディヴィエールを拘束したまま、先に彼女の首を断とうとした。

しかしその前に、何かを感じたのかあわてて飛び退く。

 

 

   ダダダダ

 

「ひうっ!?」

 

「鉄砲か!?」

 

 

それと同時に弾丸の雨が降った。見上げてみれば、コンバットゲーマがマシンガンを構えて宙に浮いている。

 

 

「黒い飛行機……敵の伏兵か。はぁっ!!」

 

   バァンッ

 

 

直ぐ様ゲーマを鎖で破壊するアグラヴェイン。粉砕され落ちていくそれを見つめ、一先ずの危機は去ったとばかりに彼はエリザベートの元へと戻ろうとし……

 

 

 

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「何だとっ!?」

 

「ハーハハハハ!! ブゥン!!」

 

   ズジャンッ

 

   ジャラジャラッ

 

 

振り向いた先に音もなく現れ立っていたゲンムに、思い切り斬りつけられた。咄嗟に用意した鉄の戒めも全て断ち切られている。

 

 

「黎斗か……!!」

 

「神の恵みを与えに来たぞ、喜べ!!」

 

 

そう言いながらゲンムは笑っていた。彼はベディヴィエールも解放し、アグラヴェインに向かい合う。

 

 

「ふざけた真似を!! くらえ、鉄の戒め!!」

 

「惰弱だぁっ!!」

 

『コッチーン!!』

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

アグラヴェインの手から迫り来る鎖であろうと容易く凍り付かせるゲンム。しかも彼は、その、先端を氷に固定した鎖を奪い取り、鞭のようにしてアグラヴェインを攻撃する。

 

 

「ぐ……滅茶苦茶だな……!!」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」ブンブン

 

「……ここは退散する」

 

 

そしてアグラヴェインはゲンムに嫌気が差したのだろう、すぐに撤退していった。

 

───

 

 

 

 

 

「……さて。随分と手酷くやられたな。修理してやろう」

 

 

アグラヴェインの逃亡を見送り、黎斗はマジックザウィザードのゲーマの修理を開始した。まずは失われた魔力の回復から手をつける。それと同時に、彼は現在の戦力を確認していた。

 

 

「で? 現在のメンバーは半数が戦闘不能か。とんだ欠陥パーティーだ」

 

 

満足に戦えるのは己と信長、後から追い付いてきた黎斗と共にいたサーヴァント達、そしてやはり後からやって来たネロ。……彼女と共にいたマシュはやはり戦えそうになかった。

 

 

「うむ。大分、派手にやられたな」

 

「うぅ……」

 

 

これでは円卓を相手取るのは不安が大きい。例えアグラヴェインだけが敵だったとしても、その後には獅子王が控えている。

力不足だ、という考えは、全員の中にあった。

 

 

「……こうなれば、あそこに行くしか」

 

「……静謐の、それは……しかし……」

 

 

そう切り出したのは左手の効かない静謐のハサン。彼女の切り出した言葉に呪腕のハサンは下を向く。

 

 

「……ですが私達だけでは力不足だと言うのなら、より強いお方の力を借りるしか……」

 

「……誰だ、それは?」

 

「……アズライールの廟の、初代"山の翁"ですか」

 

 

ハサンの語る「より強いお方」が思い浮かばず首を捻るアヴェンジャーの隣で、ベディヴィエールは誰の事を言っているか察した様子だった。

 

 

「……知っていましたか。ええ、はっきり言えば我々は力不足。アグラヴェインだけならまだしも、まだランスロットもいる上……まだ奥の手がある、と言っていたのでしょう?」

 

 

呪腕のハサンはそう言いながらもやはり下を向く。

力関係も曖昧で、本当に廟を訪れるべきかも判断しにくい現在、出来れば初代ハサンの力を借りたくないとも思う。が、確実な勝利を求めているのもまた事実……

 

 

 

 

 

「わざわざ我が廟を訪れる必要はない」

 

   ゴーン ゴーン ゴーン

 

「……晩鐘!?」

 

 

しかし、その思考を続ける理由は無くなった。

 

辺りに鐘の音が響いている。重く苦しく、威圧的なまでの音圧。それを聞いたサーヴァント達は言いようもない不安を覚え胸を抑え、そしてハサン二人は平伏していて。

そんな鐘を、最も聞いている者は……

 

 

   ゴーン ゴーン ゴーン

 

「ぐ……あ、まさかっ……!! 変身!!」

 

『バグルアァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

耳を押さえながら作業を中断して立ち上がり、ゲンムに再び変身する黎斗。彼はガシャコンスパローを構えて、周囲全てから聞こえてくる鐘の音を警戒していた。

 

そして、影から鐘の音の主が現れる。

 

 

「カルデアのマスター、檀黎斗。晩鐘は今、汝を指し示した」

 

「──!?」

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

現れたのは……巨大な髑髏の剣士。ゲンムは標的を確認するのと同時に分身、そしてその剣士に向けて何体もの分身を向かわせる。

 

 

「……温い」

 

   スパッ

 

 

……しかし、その剣士の剣の一振りで、ゲンムの分身は斬り伏せられ……消滅した。ハサン以外のサーヴァント達は互いに顔を見合わせ、しかし何故か足が凍りついて動かない。

 

ゲンムは一人、剣士から逃げるように距離を取りながら矢を放つ。しかし攻撃は当たる前に外套の一振りで叩き落とされ、ますます絶望感を高めていた。

 

 

「ぁ、ああ、高レベル設定にされすぎている!! こんな……私が、まさかこんな!!」

 

「告死の鐘……首を断つか」

 

   ゴーン ゴーン ゴーン

 

 

……ゲンムは。白い羽を幻視した。

それと同時に、音すらも置き去りにした剣閃が、ゲンムの首元をなぞり……

 

 

死告天使(アズライール)!!」

 

   ズバッ

 

 

……それと共に。ゲンムはその体に違和感を覚えた。

まだ、どこも傷ついてはいない。ライフゲージも通常通り0だ。

なのに。

 

 

「……私は、死ぬのか?」

 

「……マスター?」

 

「嫌だ、まだ、死にたくない……死にたくない……!! こ、来いナーサリー!!」

 

 

ゲンムの足は震えていた。彼はナーサリーを強引に取り込んで自制心を保つが、放つ攻撃は悉く当たらなくて。

 

 

「檀黎斗。汝に再び死の概念を付与した。生ける死体は処分される時だ」

 

「嫌だ嫌だ嫌だぁっ……!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

一歩また一歩、剣士はゲンムに歩み寄る。降る矢の雨を物ともせずに。

 

 

「来るな、来るな!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ドラゴナイトハンター Z!!』

 

 

半狂乱になりながらゲーマを呼び出す。それらは髑髏の剣士を標的として飛び掛かり、そして容易く斬り伏せられていく。

そして。ゲンムは、とうとう追い詰められた。

 

 

「さあ……首を出せ」

 

「あ……ぁぁああああああああ!?」

 

 

剣士は剣を振り上げる。鐘の音が鳴り響くなか、ゲンムは情けない悲鳴を上げ続け……その体は、徐々にストレスでゲーム病を再燃させたため、半透明になっていく。

 

 

「嫌だ、まだ、私は……!!」

 

「黎斗さんっ……!!」

 

 

……マシュは震える体に無理を強いて、知らず知らずの内にゲンムに手を伸ばしていた。

しかし、その手は届くことはなく。

 

 

 

 

 

Game over

 




黎斗、死す


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契約の行方

 

 

 

 

 

『Game over』

 

 

……その音声と共に、ゲンムの姿は霧散した。迫る大剣にストレスを感じていたのかは他の面々に知るよしはなかったが、何にせよ彼は、首を斬られる前にゲーム病で消滅したのだった。

それと同時に、黎斗が持ち込んでいた物達が消え失せる。ガシャットの類いも、バグヴァイザーの類いも、その他の器具も全て。

 

 

 

「なんて事を……してくれたぁ……!!」

 

 

そう言うのはアヴェンジャー。彼の体は……透け始めている。

マスターである黎斗が死んだ以上、彼のサーヴァント達は魔力を送られず消滅するしか道はない。一応、魂喰らいという抜け道もあるにはあるが、それを平気でやろうと言えるサーヴァントは今の彼の元にはいなかった。

 

 

「くっ……余の一生の不覚……!!」

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

ラーマとシータも悔いて恥じながら消滅していく。恩人を守れなかった、その後悔が二人の中を重く占めて。

……そして、彼らは消滅した。

 

 

 

「やだ、私、消えちゃう……!!」

 

 

当然、エリザベートの体もかなり透けていた。辺りを見てみれば、黎斗の持ってきていたパソコン等も既に消滅していて、エリザベートが己のコフィンに持ち込んでいたマジックザウィザードのみが残っていた。

 

 

「やだ、やだやだやだ!!」

 

『マジック ザ ウィザード!!』

 

 

エリザベートが飛び付くようにガシャットを起動し、晴人が再び呼び出される。相変わらず傷だらけで足はひしゃげたままだが、魔力だけは回復していた。

 

 

「えっ? これ……どういうことだ?」

 

「やだやだやだ消えたくない消えたくない!! 私こんな、魔力不足なんて終わりは絶対やだぁ!!」

 

「……仕方ない、あれをやるか。指出して」

 

 

……エリザベートを見て何となく状況を察した晴人は、何を思ったのかオレンジの指輪を取りだし、エリザベートにはめさせて……彼女に魔法を使う。

 

 

『プリーズ プリーズ!!』

 

「……え?」

 

 

……その魔法によって、エリザベートに晴人の魔力が移動した。

魔力不足が解消された彼女は、何とか特異点にとどまる事に成功する。

 

 

「俺の魔力を移した。少なくとも、魔力切れで消えることは無いはずだ」

 

「……そう。ありがとう、子ブタ……」

 

「……どういたしまして」

 

 

 

「うーむ、これは……」

 

「大丈夫ですか姉上?」

 

「んー……単独行動が生きているからここにいる時間が長引いてるだけじゃな、これ」

 

 

その隣で、信長は自分の体を見ながらそう分析していた。アーチャーのクラススキル単独行動によって、魔力のラインが無くても現在は耐えているが、数日後には倒れるだろう。

 

 

「え? じゃあ……」

 

「わしの体は、まあ、あれだ、下手に傷を受ければ、いや……宝具一発で強制退去レベルじゃな」

 

「そんな……」

 

 

 

「……大丈夫かマスター?」

 

「ええ……このガシャットは使えないけれど、ギリギリ存在は保てています」

 

 

そしてマシュは、今はもうギアが動かなくなったプロトガシャットギアデュアルBを握りしめて、消滅に耐えていた。

黎斗の消滅と同時にバグヴァイザーL・D・Vも消えてしまったため、彼女に変身する術はない。

 

 

「でも……黎斗さんでも、死ぬんですね」

 

「……そうだな。そういうものだ」

 

「……でも、少しだけ安心しました」

 

「何がだ?」

 

「いえ……私のこれから歩く道は、()()なんだな、って」

 

 

そこに通信が入り、モニターに焦燥を浮かべたロマンの顔が映る。

一同がその顔を見て息を呑んだ。いったい、彼はどうなったのか……

 

 

『……落ち着いて聞いてくれ。檀黎斗はコフィン内で消滅、そのかわりにナーサリー・ライムがいつもの姿で存在していた。彼女自体はこちら側に戻ってきている状態だ。そっちは?』

 

「……信長さんとエリザベートさんと、あと私以外の黎斗さんのサーヴァントは消滅しました……」

 

『そうか……』

 

 

彼は歯軋りしているようにも見えた。残りの特異点はあと二つだったのに、と言いたげにも見える。しかしそうは言わない。その代わりにロマンは、現在できる最善を探す。

 

 

『君たちは、現界できているんだね? 突然消えたりしない?』

 

「……多分」

『そうか、分かった……こちらでも大急ぎで対処を考える。酷だと思うが、この特異点は君たちだけで攻略してもらうかもしれない』

 

 

……そこで通信は断ち切れた。

会話を終えたマシュは震える足で立ち上がり、死そのもののような髑髏の剣士に詰め寄る。いや、名前は最早分かっていた。

 

 

「……初代山の翁。聞いてもいいですか」

 

「……何だ」

 

 

彼は初代山の翁。原初のハサン。……そんな存在ならば、黎斗を殺すことが出来てもおかしくはない。

そしてマシュは彼に問った。

 

 

「どうして、今、黎斗さんを殺したんですか。よりによって、今」

 

「……神託が下ったからだ。晩鐘が指し示した者にのみ我は死を与える」

 

「それなら……人理が崩壊してもいいんですか!? この特異点は、あと一押しで救えたかもしれないのに!!」

 

「……時代を救わんとする意義を、我が剣は認めている。だが、晩鐘がなったならば我が剣は天命の元に命を剥奪する」

 

 

晩鐘……それがあれば、山の翁は指された者を殺す。その信念は誰にも曲げられない。当然マシュが詰め寄っても変わりはしない。

……しかし、山の翁はそれに続けてこう言った。

 

 

「……汝らには権利がある。汝らの一員に死を与えた我に代償を求める権利が。汝の名は何だ?」

 

「マシュ・キリエライト。まだ、ただの人間です」

 

「……よいだろう。汝に三回まで我に命令する権利を与える。好きに使うがよい……」

 

 

そして山の翁は、次の瞬間には消滅する。残されたマシュは握った拳を震わせながら、しかし何もすることはなく、残された仲間達の元に戻った。

 

───

 

そして彼らは、西の村のある山の麓に停めてあるオーニソプターの元に戻ろうと動き始めた。

幸い晴人の魔力だけは有り余っていたため、戦闘不能のサーヴァント達は安全地帯に動いている。

 

その安全地帯が、他の人物の襟やらポケットやらなのが多少問題だが。

 

 

「……すいません、こんな事になってしまって」

 

「うぅ……藤太……」

 

「……大丈夫、二人とも?」

 

 

静謐のハサンと三蔵を襟首に入れているのは晴人。彼は耳元で聞こえてくる嘆きに対して、なるべく刺激しないように答えながら歩く。

 

 

「私は大丈夫です、晴人様。ですが、彼女の方が……」

 

「うう……ひっぐ……」

 

「……このように、ずっと泣いていますので……」

 

「……困ったなぁ……でも、藤太さん自体は満足して三蔵ちゃんを送り出した訳だし……」

 

 

今の彼に、答えは出せない。取りあえず今は、安全地帯に辿り着こう、そう思っていた。正直、彼自身も故障の影響か考えが纏まっていないのだ。

 

 

 

「申し訳ない、マシュ殿。黎斗どのを守るべきかとも思いましたが、我らは山の翁、初代様には逆らえぬ……」

 

「……いえ、それは仕方のない事です」

 

 

マシュも、ネロと呪腕のハサンを伴い、疲労の為小さくなって仮眠をとっているベディヴィエールを頭の上に乗せて歩いていた。

その表情は、暗い、というよりかはいつも通りに近い。それでも、彼女の中でも考えがいろいろと渦巻いていた。

 

これまでのこと。これからのこと。自分の命のこと。どう死ぬかということ。本当に自分の行く道が正しいのかどうか──

 

 

「……止まってもらおう」

 

「……邪魔がいましたか」

 

「……ランスロット……!!」

 

 

そんな考えを断ちきるように、ランスロットが一人静かに立っていた。マシュ達を待ち伏せしていた、という事だろう。

 

 

「最早君たちに勝ち目は無い、大人しく縄につけ……例え、君が誰であろうと……これ以上抵抗するなら斬りつける」

 

「……本気のようですね。下がってくださいマシュ。貴女の体は、まだ……」

 

 

体力をある程度回復させて仮眠から飛び起きたベディヴィエールが、大きくなりながらマシュを庇って前に出ようとし、しかし後ろからマシュにすり抜けられる。

 

 

「いいえ、私がやります。例え霊基(からだ)の父親であろうと、人理を乱すなら敵です。殺します……ガンド!!」

 

   パァンッ

 

 

マシュは先手必勝と言わんばかりにガンド銃を引き抜いて、ランスロットにそれを構えトリガーを引く。湖の騎士は突然だったので躱すことも出来ず、その体を停止させた。

……マシュの中でも、それなりに激情は渦巻いていた。だから取りあえず、ランスロットを八つ当たりもこめて攻撃しよう、そう思っていた。

 

 

「っ……やはり、君は……!!」

 

 

マシュの盾と顔を交互に見ながら呟くランスロット。その体にマシュが急接近し、盾ごと体当たりして突き飛ばす。

 

 

   ガンッ

 

「ぐあっ、この、肉体より骨格に響く重撃は、やはり……!!」

 

「もう一発!!」

 

   パァンッ

 

「っ……!!」

 

 

仰け反るランスロットにさらにガンド銃を撃ち込むマシュ。本来なら身動きが上手く効かずとも二度も同じ攻撃を喰らうことは無いはずなのだが、彼の素早さはかなり落ちていて。

 

 

「そらあっ!!」

 

   ズガンッ

 

「があああっ……!!」

 

 

横腹を盾の側面で打ち付けられてランスロットは思い切り転がる。そしてマシュは更に数回殴り付けた後、背後に立っていたネロに声をかけた。

 

 

「さあ、そろそろ終わりにしましょう……ネロさん!!」

 

「任せよ!! 誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

   カッ

 

 

……そうして、焼き払われた大地にランスロットが一人転がっている、という状況が出来上がった。

ランスロットは最強のセイバーの一角である。その技術はセイバーのアーサー王にも引けを取らないレベルだ。しかし彼は……動揺に非常に弱かった。

 

 

「ぐ、う……」ガクッ

 

「マスター!?」

 

 

そして、それと同時にマシュも膝をつく。彼女の場合は単純に疲労が原因だったが、その疲労は死にかけの彼女には大きすぎるもので。

そうしてマシュの意識は、また闇に呑まれていく……

 

───

 

「……にしても、困った。まさか檀黎斗が殺されるなんて……」

 

「死なないこと前提で考えるようになっていたこちらの敗北、だね」

 

「そうだね。……ああ、人は簡単に死ぬのに、ね」

 

 

管制室にて、ロマンとダ・ヴィンチが塞ぎこんでいた。

基本的に、マスターがいなければ人理修復は成功しない。既にサーヴァントを送り込んだ状態で黎斗が消滅した今回ならともかく、次の特異点にはどのサーヴァントも連れ込めない。

マシュ自体は元々レイシフト適正のある少女だったので頑張ればいけないことも無いかもしれないが、それでもまず不可能だろう。

 

 

「どうする? 今から私みたいに人形のマスターでも産み出すかい?」

 

「それは名案……と言いたいけれど、それに納得するサーヴァントがいるかどうか。アヴェンジャーやカップルなんかは、黎斗がマスターならまた呼び出せるが、人形のマスターならほぼ確実に拒否しそうだ」

 

「……それ以前に、人形を特異点に送り込む必要があることを思い出したよ。ここから特異点への遠隔操作は流石に非現実的、令呪による制御が無いとサーヴァントの暴走もありえる」

 

「……だよね。でも、ボクにはもうろくな案が思い付かないや。もうだめ……ショックで寝込みそう」

 

 

ロマンは顔を赤くしていた。酔っても照れてもいない……単純に、悔しくてだった。

 

 

「結局……人類は、救えないのかな」

 

「……、君はもう寝ろ、ロマニ。もう疲れただろう? このまま起きていても悲しいだけだ、それなら、一度寝てすっきりしてきた方がいい。安心したまえ、解決策なら私がいくつか考案してプランを纏めておこう」

 

「……そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

そしてロマンは立ち上がる。

……そして、コフィンの中で眠っていたはずのナーサリーが消えていることに気がついた。

 

───

 

『パスワードを入力するがいいさぁっ!!』

 

「ええと、パスワードの入力? うーん……9610、かしら?」

 

『アハァ……正解だァ……』

 

   ガチャン

 

『残念だったな!! もう一つパスワードが必要だぁ!! ハーハハハ!! ハーハハハ!!』

 

「もう!! マスターったら意地悪なんだから……9610」

 

『正解だァ……!! 君は神の才能を持っているゥ!!』

 

   ガチャン

 

 

……そしてそのナーサリーは、黎斗のマイルームで金庫を弄っていた。

やけにうるさい金庫のパスワードを全て淀みなく開けていく。

 

……というのも、彼女には記憶があった。檀黎斗の記憶が。

辿ってみれば、グランドオーダー開始時からの記憶を見ることが出来た。どうやら、自分が黎斗に感染したバグスターだった事が影響しているらしい。

 

そして、その記憶の中に、この金庫があったのだ。

ナーサリーの中の黎斗の記憶が正しければ……

 

 

   ガチャン

 

「……わあ、新しいガシャット……!!」

 

 

黒地に金のラインがいくつも入ったガシャットが、丁寧に保管されていた。

サイズは普通と変わらないが所々によく分からないギアの見え隠れするそのガシャットの電源を、ナーサリーは恐る恐る入れてみる。

 

 

「ええと……ポチッ!!」

 

 

『マイティ アクション N()E()X()T()!!』

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

それと同時に、ナーサリーはガシャットから呼び出されたゲーム画面に飲み込まれた。

 




因みに、ナーサリー・ライム・バグスターの本来のクリア条件はハッピーエンドを体験させること。
つまり、第五特異点でのラーマシータの再会にナーサリーが居合わせていれば、それだけでゲームクリアだった……という没設定がある


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神のいない旅路

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 

金庫の中に置いてあったガシャット……マイティアクションNEXTの中に飲み込まれたナーサリーは、気がつけば管制室の中にいた。

ただの管制室ではない……燃え盛る管制室だ。彼女の中の黎斗の記憶が、これが始めてのレイシフトを行った時の光景と瓜二つだ、と告げていた。

 

 

「もう、本を火にかけるなんてマナーが全然なってないわ!! ……マスターはどこにいるのかしら」

 

 

そう言いながら歩き始めるナーサリー。どこかに、檀黎斗は存在している。彼女はそう確信していた。

 

───

 

 

「……ん……あれ、ここは……オーニソプター?」

 

 

気絶していたマシュも目を覚ました。誰かがかけてくれたのであろう掛け布団から這い出てみれば……さっき黎斗がアグラヴェインから奪い取った鉄の戒めで拘束されていたランスロットと目があった。

ついでに言えば、器用にも亀甲縛りになっている。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……なんですかこれ」

 

「ああっ、すみません!! 姉上が調子にのってこんな拘束にしてしまって……」

 

 

後ろから現れた信勝が申し訳無さそうにそう言う。ランスロットは恥ずかしさで顔を赤くしているようにも見えた。

しかし、マシュにとってはどんな拘束だろうとどうでもよかった。それよりも大切なことは……

 

 

「そうじゃなくて。なんでまだ倒していないんですか!?」

 

 

敵の排除。ランスロットはどう考えても敵である。降伏したとしてもいつ裏切るか分かったものではない。

 

 

「いや、鎖で無力化してあるから大丈夫な筈だが。万が一説得に成功すれば戦力が増えるしな」

 

「……ちゃんとルールブレイカーはしましたか?」

 

「当然だな。この騎士も納得はしておる」

 

 

ネロがそう説明するがやはり信用しきれないようで、マシュは何度も首を捻っていた。

ランスロットは息子(の霊基を持つ人)に変なところを見られて赤面している。

 

 

「本当に裏切りませんか?」

 

「……他の円卓の騎士に負けていては、最早王の騎士など名乗れまい。戦う理由はもうなくなった」

 

「うむ。こう言っておる……向こうも亀甲縛りにされる騎士など願い下げであろうしな!!」

 

「ぐはっ」

 

 

オーニソプターは既に動き出していて、砂漠に迫っていた。操縦しているのは晴人だ。マシュは赤面するランスロットを取りあえず無視して立ち上がり、行き先を問う。

 

 

「今は、新たな戦力としてあのオジマンディアスの元に向かっている最中だ」

 

「彼が果たして協力してくれるでしょうか」

 

「……どうだろうか」

 

 

晴人の答えにマシュは苦い顔をした。神殿にいたあのオジマンディアスが、協力などしてくれるものか、と。

彼は玉座に座りながら、こちらの行く末を暇潰しに見てやろうというスタンスを取っている。簡単に彼をこちら側に引きずり下ろせる訳がない。

 

彼を脅かすだけの力があれば……と思いながらマシュは振り向いてみたが、そこにいたのは相変わらず亀甲縛りにされて呻くランスロットだった。

 

 

「……はぁ」

 

「待って、待ってくれギャラハッド」

 

「私はマシュ・キリエライトです。それ以外の何者でもありません。……で、何ですかランスロット」

 

「……少し寄り道をしてくれないか。その近辺で右側に舵を取れば……私の()()()()の元に辿り着く」

 

「お主そんなことしておったんか!?」

 

 

マシュに必死に説明するランスロットの口から出た物騒な言葉に愕然とするネロ。仕える王に黙って私営軍隊とかどう考えても反逆罪に普通に当てはまるのだが……

 

 

「軍隊は必要だろう? 私が信じられないのは理解している、だからこその申し出だ。取りあえず、行けばわかる」

 

「なるほど、やはりランスロットは裏切りの騎士ですね、この穀潰し」

 

「……!!」

 

 

マシュがランスロットを罵倒する。その言葉でランスロットは床を見つめて、ベディヴィエールがマシュの顔を見つめた。

 

 

「……やっぱり、あなたはギャラハッ──」

 

「違います。今のは親子であるない関係なしに、至極当然の言葉だと思いますが、違いますか?」

 

「……そうですか。すいませんでした」

 

───

 

「えーと……あった!! いたわ、マスターがいたわ!!」

 

 

燃え盛る管制室の中で火を避けながら探索を行っていたナーサリーは、コフィンの中で制止している黎斗をようやく発見した。

瓦礫をよけてみれば、メモが貼ってあるのを見つける。

 

 

「……何かしら、これ? ええと……カルデアスと、接続、しろ?」

 

 

その文字を見ながら、彼女はコフィンからコードを引き出し、カルデアスに歩いてみた。

辺りを探してみれば、土台の一部にコードが嵌まりそうな穴が見つかって。

 

 

「分かったわ!!」

 

   ガチャン

 

『Connect』

 

 

コードを接続すると同時に、管制室に広がっていた火は全て消え失せ、青くなったカルデアス表面に文字が表示された。

振り向いてみれば、コフィンの蓋は開いていて、上半身を起こした黎斗が何かを呟いている。

 

 

「まだ……私は……!! まだ……私は……!!」

 

「……マスター?」

 

「まだ……私は……!! まだ……私は……!!」

 

 

死ぬ直前の言葉をリピートしているらしかった。そういう仕様なのだろう。

しかし、彼を起こさなければ始まらない。

 

ナーサリーは少しだけ逡巡して、そして黎斗の鳩尾を蹴った。

 

 

「……おはようマスター!!」ゲシッ

 

「ガガ……私は……私は……」

 

「……」ゲシゲシゲシゲシッ

 

「ガガ……私は、は……私は……」

 

「……」ゲシッ ゲシッ ゲシゲシゲシッ

 

「私は……私は……」

 

 

それでも黎斗は起きない。

痺れを切らしたナーサリーが、黎斗の股間を蹴りあげた。

 

 

「……そぉれっ!!」グシャッ

 

「不滅だぁぁぁぁぁあああああああっっっ!!」ガバッ

 

「きゃあっ!?」

 

───

 

 

 

 

 

「でかしたナーサリー」

 

「もう、驚かせないでよねマスター?」

 

「仕様だ、我慢しろ」

 

 

ゲーム内から帰還したナーサリーと黎斗は、呑気にもマイルームで茶を嗜んでいた。いや、黎斗はジェットコンバットやドラゴナイトハンターZの修理も行っていたが。

 

 

「で? このガシャットは何なの?」

 

「……マイティアクションNEXT。レイシフト先で死んでも、カルデアの魔力を消費してコンティニューが可能になるようなシステムを組み込んだガシャットだ。本来ならアルファ版に組み込んでいたシステムだが、そのガシャットはこの世界には無いからな」

 

「……つまり、倒されても復活できるの?」

 

「そういうことだ。現在のカルデアの魔力なら……38回連続でコンティニューが可能だな」

 

 

そう言いながらパソコンを操作する黎斗。何となく誇らしげなその顔は、既に人間のものではなく。

 

 

「凄いのね、これ」

 

「他にも機能は多いが……それを説明するのはまたの機会だ。それより、どうだナーサリー・ライム? 完全体になった気分は」

 

「……よく分からないわ。いつもと同じような、ちょっとだけふわふわ感が減ったような……」

 

 

対するナーサリー・ライムは黎斗の死によって完全体のバグスターとなっていたが、あまり実感が得られずにいた。

というのも、完全体のバグスターになったら何かが明確に変わる、ということは無いからだ。精々宿主の記憶を得るだけ。

 

 

「……まあ、そんなものか。……取りあえず、これらの修理を終わらせる。いいな?」

 

「はーい」

 

───

 

「こ……こんな場所に、野営地が……?」

 

「立派ね……山の民砂漠の民、聖地の人達もいる。これはもう村かしら」

 

「そうだなぁ、これ、村だね」

 

 

……ランスロットの言う私営軍隊のありかに辿り着いた一行は、そこに展開されていた野営地に息を飲んでいた。

 

 

「ランスロット卿……あなたは、難民たちをここに避難させて、匿っていたのですか?」

 

「……聖抜に選ばれなかった人々をどうするかは私の自由だ。王は処罰せよ、とは言わなかった。それに、聖都に留まらず放浪する騎士達の居場所も必要だ、故に……ある意味、これは私の私営軍隊だ」

 

「……ほう……」

 

「……凄い詭弁ね。これ反逆罪よ?」

 

「だがこれも良い!! 実にローマ!! マスターも何か一言あるか?」

 

「……人々を助けるのはそれだけで良いことだと思います。……この穀潰しを信用してもいいかもしれませんね」グッ

 

「ぐはっ」

 

 

マシュは平和に過ごしている人々を見て、冷静にそう判断した。ランスロットとの血縁関係云々は無視した、客観的判断だ。

ランスロットは逆に塞ぎこんだが見ないことにする。

 

 

「……とすると、後は太陽王の助力を得ねばならんな。今の戦力では獅子王には勝てぬ」

 

「……そうですね。では、ランスロット」

 

 

そして、マシュはランスロットを立たせて、彼に聞いた。

 

 

「貴方は獅子王に逆らって人理修復に協力しますか? もう貴方を縛るギフトはありません、今、決めてください」

 

「……分かった。協力しよう、ギャラ──マシュ殿」

 

───

 

「……よし、ドラゴナイトハンターZの修理が完了した」

 

「とうとう向こうに向かうのね? きっと貴方を見たらドクター達もビックリするわ!!」

 

「それは、そうだろうな……だが、もう少し待とう」

 

 

未だにマイルームに留まっている二人は、茶を啜りながらそんなことを話していた。

黎斗の発言に首を傾けるナーサリー。彼の言葉に納得がいかないらしい。

 

 

「どうして? 皆困ってるわよ?」

 

「ゲームマスターの私に命令するな……私抜きでマシュ・キリエライトがどう動くかが気になった、それだけのことだ」

 

「……ふーん」

 

 

黎斗はパソコンを弄り、管制室のモニターをハッキングして特異点での様子を観察し始める。ナーサリーも彼の膝に座って共にそれを見た。

 

 

「……なるほど。ランスロットを引き入れて、オジマンディアスの元に向かうか。そうか……もう少し暴走するかと思ったが、理性はまだあったようだな」

 

 

そう分析する彼は、やはり底無しの笑顔で。

しかしその顔には、言い様もない邪悪さが含まれていた。




この黎斗のライフはカルデアの魔力量で変化します
どこかのキャスターがカルデアに魔力を再び供給しだしたらライフが増えたり、カルデアが頑張って新規サーヴァントを呼んだら減ったりします


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Mighty Action NEXT

 

 

 

 

「……運転は覚えましたか、ランスロット?」

 

「ええ。覚えた……もう大丈夫だ。明日は早い、君は休め」

 

「いえ……もう少し、起きています。一人にしたら何をされるか、やっぱり心配ですので」

 

「……これは手厳しい」

 

 

オーニソプターは真夜中の砂漠を進んでいた。当然、オジマンディアスを仲間に引き入れる為だ。

呪腕と静謐のハサンは山の民との連絡に向かった為、ここにはランスロットを含めて九人のサーヴァントが存在していた。

 

そして現在、運転席にはマシュとランスロットがいる。非常に気まずそうなランスロットと飄々としているマシュは、その会話も端的で。

 

 

「……君を何て呼べばいいんだろうな、私は。さっきはマシュ殿って言ったが、個人的にはやはり違和感がある」

 

「私の名前なら好きに呼べばいいじゃないですか」

 

「……そうか」

 

「……ギャラ──」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

 

ランスロットの顔は複雑そうだった。隣にいるマシュ(息子)の事が頭にもやのようにひっかかって離れないのだ。マシュ本人は、ランスロットとの繋がりを全力で否定していたが。

 

 

「君は、霊基(ギャラハッド)のことを何か覚えているか?」

 

「全く。ときどき貴方に、何故かワンランク酷い言葉を投げ掛けますが、それだけです」

 

「……すまない。変なことを聞いてしまった」

 

 

しかし隣の彼女に言葉を聞いてみても拒絶されるばかりで。そうしてランスロットは、己の生涯を改めて恥じた。

 

───

 

 

 

 

太陽が登る頃には、マシュ達は神殿に入っていた。外ではランスロットと、彼に後から合流した騎馬部隊がスフィンクス軍団を押し止めている。

 

 

「よくぞこの大神殿を訪れました、マシュ。まず、約束を違えなかったことは称賛に価します」

 

「ニトクリスか……!!」

 

「しかしそれは試練と同じ。貴方たちは力を示す必要があります。ファラオ・オジマンディアスに力なきものの声を届けさせる訳にはいきませんから」

 

 

そしてマシュ達を阻みそう宣言するのはニトクリス。彼女はその杖をマシュ達に向け威嚇し、何時でも戦闘に入れるように体勢を整えた。

……しかし、彼女の元にいの一番に飛び込んできたのはマシュでも誰でもなく……神殿の外から駆け込んできた、スフィンクスの番だった男達の内の一人で。

 

 

「ニトクリス様!! ニトクリス様!!」

 

「どうかしましたか!?」

 

「それが、その……」ゴニョゴニョ

 

「……何ですって!?」

 

 

その男は冷や汗を滝のように流しながらニトクリスに何かを報告する。そしてそれを聞いたニトクリスもまた、冷や汗を流し始めた。

 

 

「うぅ、あぁ、うぅ……もう!! どうしてこんな時に……!!」

 

 

彼女は踞って頭を抱える。その様は目の前の侵入者を忘れているのではないかと思わせる程で。

 

 

「……何があったんですか?」

 

「……円卓の騎士です。円卓の騎士の軍勢が、神殿の死角から特攻をしかけてきて、神殿を破壊している、と連絡がきました……!!」

 

「なっ……!?」

 

 

思わず質問したマシュにニトクリスが答える。そしてマシュ達もその言葉を聞いて顔を見合わせた。

現在残っている敵の円卓の騎士といえば、アグラヴェインしかいない。

 

 

「ど、どうすれば……いや……わ、私は円卓の騎士を止めに向かわなければなりません!!」

 

「ならば、私も行きましょう。円卓の不始末は円卓が片付ける」

 

「ああ……俺も、ついていく」

 

「い、いや……ええと、取りあえずここで待ってて下さい!!」

 

 

そう言い残して神殿を出ていこうとするニトクリス。

……待っていろと言われても、といった様子で困惑する一堂は、何とも言えない顔をしていて。

 

 

「……待て、ニトクリス」

 

「えっ……オジマンディアス様!?」

 

「彼らも連れて行けニトクリス。ただし、幾らかは残っていけ。そしてついてこい……話を聞こう」

 

 

そこに自ら現れたオジマンディアスが、手早くニトクリスに指示を出し、そしてその場に残ったマシュ、ネロ、晴人、エリザベートらを連れて玉座へと向かっていく。

残りの面子はニトクリスと共に外に飛び出していった。予期せぬトラブルで集団が二分された為、実力に訴えるには心もとないメンバーと言える。

しかし、それを無視してオジマンディアスは玉座に座り、マシュに質問した。

 

 

「……して、何用だ異邦のサーヴァントよ。まさか世界を見聞して牙を抜かれた訳ではあるまい?」

 

「言ったはずです。私達と共に聖都と戦って下さい」

 

「……なんと、あの戯れ言は本気であったか!! はは、はははははははは!! あんなもの腹を抱えて笑った挙げ句焼き捨てたわ!! ……しかし」

 

「しかし?」

 

「よもや本当に騎士がまた攻めてくるとはな。相互不干渉はどこにいったのやら」

 

 

一頻り笑ってから嘆息するオジマンディアス。少しだけ聖都に失望の色を覗かせていて。そして彼はこう切り出す。

 

 

「……察しているかは知らないが、余には民を守る方法がある。この神殿に民を入れれば、それは人理焼却の炎にも耐える盾となる。……それでも、わざわざ獅子王と戦う意味が余にあるか?」

 

 

問いかけるファラオ。その目は試すようで、マシュの奥底まで見抜こうとしているようで……しかし諦めたのか、少しだけ目をそらした。

そしてそれを皮切りに、マシュは早口で捲し立てる。

 

 

「当然あるでしょう。人々の幸せは、当たり前の日々を生きることです。例え苦しくとも日々の生活に感謝し、喜ぶときには好きに笑い悲しいときには遠慮なく泣いて。正しいもの正しくないもの全てに、自由な未来が約束されていて、初めて人は幸せを得られるんです」

 

「ああ……強制的に人々をここに閉じ込めるなんて、それは生きていても死んでいるのと同じだ」

 

「人間には職業の自由も学問の自由も引っ越しの自由も結婚の自由も信仰の自由も全て全て認められているべきなのです、善も悪も保証されていなければ、人は幸せにはなれないのです!! ……王なら民のあらゆる自由を保証すべきではないのですか?引きこもるならファラオなんて名乗らなければいいんではないんですか? いえ……諦めるなら王なんて辞めてください、この、先輩(黎斗)擬き!!」

 

 

失礼な言葉を連呼し、あろうことか彼女の中での最大の罵倒(黎斗呼ばわり)まで使った上で、盾を構えて玉座への階段に足までかけるマシュ。

そんな彼女をオジマンディアスは視線で制止し、ゆっくりと、しかし力強く口を開いた。

 

 

「余を獣と同類と呼ぶか、愚か者め!! どうやらとち狂ったようだな貴様も!! そもそも、余が守るのは神々の法!! その結果臣民を庇護しているに過ぎん!!」

 

 

青筋を立てていた。知らず知らずのうちに震える拳を握りしめながら、彼は一段一段マシュ達の元に降りていく。

 

 

「……だが。お前達の言葉は間違っていない。その考えは、余の思惑の外にあった」

 

「だったら……!!」

 

「だが忘れるな!! お前達はまだその力を証明していない!! 余の助力を望むなら……さあ、余に力を示してみよ!! 貴様らが世界を救うに足るものか否か、その証明を今こそ成し遂げてみよ!!」

 

 

そう怒鳴り、彼は胸元から聖杯を取り出して己の血を注ぐ。その上で彼は己の血を飲み干し、金色の眼をマシュに向けた。

 

 

「聖杯……!!」

 

「聖杯に宿りし魔神の陰よ、魔神アモンなる偽の神、是に、正しき名を与える!!」

 

 

その体は瞬時に変貌していく。肉は隆起し目は大きくなり胴体は捻れる柱となって。

 

 

「七十二柱の魔神が一柱、魔神アモン……いや、違う。我が神殿にて祀る正しき神が一柱!! 其の名、大神アモン・ラーである!!」

 

───

 

「邪魔をするな、ベディヴィエール!!」

 

「貴方こそ止まるべきだ、アグラヴェイン!!」

 

 

互いに剣を抜き斬りあうのは円卓の騎士。スフィンクスとアグラヴェインの騎士とランスロットの騎士が入り乱れる結果になった戦場の中で、彼らの戦いが最も激しく。

 

 

「何をするつもりですか!! ここの民は聖都に危害を加えていない!!」

 

「我々は聖杯を望むのだよ!! 神殿を破壊すればオジマンディアスの宝具は意味を成さなくなる、そうすれば聖杯を奪える、その上で……その上で、我々はお前達を完封できる、絶対の成功を王に献上できるのだ!!」

 

 

 

「宝具は止めてください姉上!! 死んでしまいます!!」

 

「ええい止めるな信勝!! ここで騎士を食い止めなければエジプトの民を守れぬじゃろう!?」

 

 

そして反対側の戦線では、宝具を解き放とうとする信長を信勝が引き留めていた。

単独行動スキルだけで動いている信長は、一発宝具を撃てばそれだけで消滅してしまう。それが信勝には悲しくて。

 

 

「よいか信勝、わしらはもう死んだ身、ならば生者を守るは道理じゃろう!?」

 

「……それでも、もう誰かが死ぬのは悲しすぎます。しかもそれが姉上だったら……!!」

 

───

 

神殿内部でも、混線状態になっていた。戦況はアモン・ラーを取り囲んだマシュとネロ、少し離れてつついていくエリザベート、そして遠くから援護する晴人、といった所だ。

 

 

「はあっ!!」ガンッ

 

「これでどうだ!!」ザンッ

 

「温い!!」

 

 

マシュとネロが己の得物でアモン・ラーを切りつける。確実にそれは魔神柱を切り裂くが、ノータイムで回復されて。

 

 

『ガルーダ プリーズ!!』

 

『ユニコーン プリーズ!!』

 

『クラーケン プリーズ!!』

 

「「「キエー!!」」」

 

「羽虫にも劣る!!」

 

 

エリザベートの魔力を回復させる必要がある以上変身が出来ない晴人がプラモンスター三体を呼び出し、合体させて突撃させるも容易く打ち落とされる。

 

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)……やっぱり出来ない……!!」

 

 

そして厄介なことに、この神殿内部ではサーヴァントは宝具を使うことが出来ない。サーヴァントではないネロは使うことが出来るが、この神殿の内部に劇場を召喚することは困難を極めるのでどちらにせよ宝具は使えないようなものだった。

 

 

「メェェリアァァン!!」

 

   ズドンズドンズドン

 

「くっ……!!」

 

 

そしてマシュは吹き飛ばされた。先程は啖呵を切ったが、デミ・サーヴァントの彼女には神はあまりにも強大すぎた。

彼女の上空で魔力が練り上げられる。マシュは思わず盾を上に向けて踞り……

 

 

 

 

 

「……随分と楽しそうじゃないか、マシュ・キリエライトォ……ゲームマスターの私を差し置いて!!」

 

「えっ……黎斗、さん?」

 

「ん……余の、幻覚か?」

 

 

その体制のまま、思わずマシュは振り向いた。

 

いるはずのない者の声が聞こえる。だって、その声の主はもう殺された筈だったから。

しかし見てみれば、その声の主は確かにそこに立っていて。

 

 

「私も混ぜて貰おう……」

 

『マイティ アクション NEXT!!』

 

『ガッシャット!!』

 

 

彼が取り出したのは見覚えのない黒と金のガシャット。そしてそれらを、かつてマシュ自身を叩きのめしたゲーマドライバーに装填した彼は、愉しそうにレバーを展開した。

 

 

「グレードN、変身」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

……その男は、檀黎斗は、かつてプロトマイティアクションXで変身していたときと殆ど同じ……いや、紫色が塗り替えられ、黒地に金色のラインが入った姿に変身した。

オジマンディアスの方も興味深げにゲンムを見つめている。ゲンムは彼と無理矢理目を合わせながら、ガシャットについていたギアを回した。

 

 

「グレードN、代入」

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅰ!!』

 

 

重めの音が響くと同時に、ゲンムの周囲に白い装甲が呼び出されて彼に装着される。その姿はかつてマシュを叩きのめしたそれと酷似していて。

 

 

「さあ、行くぞ」

 

「来るが良い……精々、余を楽しませよ!!」

 

 

そしてゲンムは駆け出した。アモン・ラーの発生させる攻撃の全てを物ともせずに接近した彼は、次の瞬間には短い足で魔神柱の重心を捉える。

 

 

   ゲシッ

 

「かはあっ……!! 良いぞ、多少はやるか」

 

「多少? ……自分の体を良く見てみろ」

 

 

多少よろけながら笑うオジマンディアスに、ゲンムはそう指摘した。

少しだけ不思議そうなオジマンディアス。彼は己の手足を見つめ……

 

 

「……何時もと変わらぬファラオの玉体だが、何か──何だと!?」

 

 

そう。手足。

先程まで魔神柱アモン、いやアモン・ラーだったはずの彼には手足などあるはずが無いのに。

 

慌ててオジマンディアスが顔を上げれば、そこには中心に穴を開けて不自然な挙動を行うアモン・ラー。そしてそれに立ち向かうマシュやネロやエリザベート。

オジマンディアスは理解した。ゲンムは、己とアモン・ラーを引き剥がしたのだ、と。

 

 

「レベル1とは分離の力、あるべき姿に戻す力!! 故に!!」

 

「な……アモン・ラーと引き剥がされた、のか……!!」

 

 

流石に動揺するオジマンディアス。直ぐ様彼は杖を呼び出してゲンムに構える。

しかしゲンムは動くことなく、更にガシャットのギアを切り替えた。

 

 

「グレードN、代入」

 

   ガコンッ

 

『N=0!!』

 

 

その音と共に、装甲はパージされる。吹き飛ばされた白いパーツを全て叩き落としたオジマンディアス、その向こうに再び最初の姿に戻ったゲンムを見た。

 

そして彼は飛び上がり、ゲンムに杖を降り下ろす。対するゲンムもガシャコンブレイカーを剣にして構え、それを受け止めた。

 

───

 

一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)!!」

 

「鉄の戒め!!」

 

 

迫り来る鎖を両断するベディヴィエール。彼はそのままアグラヴェインに接近するが、しかし痛い一撃を与えることは叶わない。

 

 

   ミシッ

 

「ぐぁっ……!!」

 

 

彼の体はかなり限界に近づいていた。元より彼の体は布切れのようなものだったが、今この場において、彼は一歩歩くごとに顔をしかめていて。

 

 

「終わりだベディヴィエール、眠れ!!」

 

 

その隙は到底見逃される物ではなく。

 

 

   ザンッ

 

───

 

   カキンカキン カキンカキンカキン 

 

「……さて、オジマンディアス。君はそろそろ、体に違和感を覚えている筈だ」

 

「どういう事だ?」

 

 

互いに武器を振り回すゲンムとオジマンディアス。暫く続いた戦闘の間は戦況は互角だったが、徐々にオジマンディアスが押され始めていた。

……オジマンディアスの方のパワーが落ちはじめているのだ。

 

 

「余に何をした、獣!!」

 

「それもまた簡単な話。レベル0とは無の力、触れているだけ相手のあらゆるレベルを奪う!!」

 

 

そして知らされた衝撃の能力。レベル0の力はレベルドレインだったのだ。

それによって本来の力の半分ほどしか出せなくなってしまったオジマンディアスは、一つ舌打ちをして飛び退き、その背後に船を呼び出す。

 

 

「くっ……ならば触れなければ良い!! 闇夜の太陽船(メセケテット)!!」

 

   ズドン ズドン ズドン

 

「まだまだだ……代入!!」

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅲ!!』

 

 

そしてその船から光線を発射するオジマンディアスに笑いながら、ゲンムはギアを操作した。

今度の数字は3。その意味は、勝手に浮かび上がった黒いガシャットが告げていて。

 

 

『ジェット コンバット!!』

 

「レベル3とは発展の力。追加された能力を大幅に強化する」

 

『ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

『マーイティーアクショーン NEXT!!』

 

『ぶっ飛び ジェット トゥ ザ スカイ!! フライ!! ハイ!! スカイ!! ジェットコーンバーット!!』

 

 

そうしてゲンムは、コンバットアクションゲーマーに進化した。しかし体についたコンバットゲーマには金色のラインが入っていて。

そして彼は高速で飛び回り、メセケテットの死角から何発もマシンガンを操作した。

 

 

   ダダダダダダダダ

 

「っ……ファラオの玉体に傷を……!!」

 

「そうか、それは結構だ。……さて、君にこのガシャットの真髄を見せてあげよう」

 

 

その上で、だめ押しと言わんばかりにゲンムはギアを回転させる。……その体の金のラインが、一瞬輝きを増したように見えた。

 

 

   ガコンッガコンッ カンッ

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

 

刹那黄金に輝くゲンム。彼は集中砲火を浴びながらもびくともせずにメセケテットを蹴り破り、オジマンディアスに銃口を突きつける。

 

 

   ジャキッ

 

「何……だと……!!」

 

「……勝負あったな、太陽王」

 

 

その間は、僅か五秒だった。

 




X(未知数)の上位互換はN(任意の数)だと思ってる


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決戦の前夜

 

 

 

 

 

「……黎斗、さん……」

 

 

ついさっきまで、暴れまわるアモン・ラーの脱け殻に対処しながら、マシュはゲンムの活躍を目に焼き付けていた。

それは絶望的なまでの強さだった。オジマンディアスを相手に八面六臂の活躍を繰り広げ、宝具を突き破り、そして止めを刺す直前で寸止め出来るほどの余裕もあった。しかも、そうする傍らでアモン・ラーの脱け殻を粉砕する、なんてことまで成し遂げた。

驚異と恐怖が沸き上がる。あれには、どうしても勝てない……そう思えた。

 

でも。もう、止まれないのだ。

 

 

「……よいぞ、赦す。そしてこの聖杯もくれてやる。貴様はそれだけの力を持っていた」

 

『ガッシューン』

 

「神の才能があるのだからな、当たり前だ」

 

 

負けを認めたオジマンディアスは、いつの間にか再び玉座に座っていた。そして聖杯を取り出し、階段の下にいる黎斗に投げ渡す。

マシュ達は立ち尽くしたまま。黎斗はどや顔で聖杯を掴まんと手を上げて……

 

 

「抜かったな、太陽王」

 

「何だとっ!?」

 

 

……何処からか飛んできた黒い鎖に掴まって、いや、サーヴァントを害するはずの鎖を体に巻き付けて侵入してきたアグラヴェインに、見事に聖杯を横取りされた。

 

 

「この聖杯は我が王のものだ」

 

「円卓の騎士……何処から余の神殿に侵入した!! 言え!!」

 

「空だ、上を見てみるがいい、太陽王よ」

 

 

鎖を命綱がわりにして壁を駆け登るアグラヴェイン。その鎖の根本を見てみれば、小さな穴が開けられていて。

 

 

「余の神殿に穴を開けたか……!!」

 

「追いましょう皆さん、早く!!」

 

「うむ!! 先に外に出て待ち伏せするぞ!!」

 

 

外に駆け出すマシュとネロ。そしてそれを追うように、オジマンディアス以外の全員が外に出ていった。

 

───

 

包囲作戦は成功した。アグラヴェインが撤退する前に、サーヴァントで彼を取り囲んだのだ。

 

 

「投降するのじゃアグラヴェイン。貴様は既に包囲されておる!!」

 

「ええ、聖杯はカルデアが回収します」

 

「……ふん。揃いも揃って、我が王に歯向かうか……いや、分かっていたことだったな」

 

 

銃や槍を遠巻きに振りかざして、少しでも動いたら霊核を撃ち抜くと言って脅してみる。

 

……しかし霊核がどうこう以前に、アグラヴェインはもう消えかけていた。先程までのベディヴィエールとの死闘、強引な神殿への突入、サーヴァントを害する鎖での自主的な拘束……それらはアグラヴェインの耐久の限界を大きく越えたダメージを与えていて。

 

……それでも。アグラヴェインは聖杯に血を吐き出しながらそれを天に掲げ、そして唱えた。

 

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公、我が主は獅子王アーサー・ペンドラゴン。降り立つ風には城壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、聖都に至る三叉路は循環せよ。閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)、繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 

「……!!」

 

 

それはサーヴァント召喚の呪文。慌てて食い止めようとする面々は、アグラヴェインを中心に巻き起こった衝撃波に吹き飛ばされて。

 

 

   ブワッ

 

「っ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「……告げる。汝の身は我が王の下に、円卓の使命を汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我が王はこの世全ての悪を敷く者。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者──汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!」

 

 

神殿の側面に魔方陣が書き上げられる。それは白から黒に染まり、煌々と紫の光を溢れさせて。そして……

 

 

「「「「「「円卓の騎士……参上しました」」」」」」

 

「増え、た……!?」

 

「いや、しかし……」

 

「……それが、最後の策か。アグラヴェイン」

 

 

かつて、獅子王の元に呼び出され、そして獅子王に従うことを拒み倒された円卓の騎士六人が、狂化を施されてこの場に戻ってきていた。

 

 

「ケイ、パーシヴァル、ガヘリス、パロミデス、ペリノア王、ボールス……皆狂化こそ施したが、円卓の騎士に代わりはあるまい」

 

 

所謂バーサーク・サーヴァントという者だった。本来の在り方なら獅子王を否定するとしても、在り方を歪めれば獅子王に従う。反抗は出来ない。

そう考えての事だった。

 

そしてアグラヴェインは、かなり透けている体でサーヴァントを引き連れ、強引に神殿から逃亡する。

 

 

「くっ……逃げられて、しまいましたか」

 

 

マシュは顔をしかめた。起き上がった頃には、アグラヴェインはもう遠くにいっている。

 

マシュは立ち上がり駆け出そうとし……ランスロットに止められた。

 

 

「どうしましたかランスロット、今は……」

 

「いいから来てくれ……!!」グイッ

 

 

ランスロットが半ば強引にマシュを神殿の影に連れ込む。

マシュは怪訝そうに下を見て……一人の男に気づいた。

 

 

「コフッ……ギャラハッド……卿……」

 

「ベディヴィエール卿……!?」

 

 

……倒れていたのはベディヴィエールだった。アグラヴェインとの勝負に敗れ、右腕を根本から切り落とされて、胴体に風穴を開けて倒れている。溢れ出す血が砂の大地を濡らしていた。

 

 

「……私は、聖剣を返せなかった。三度目ですら出来なかった。我が王よ、我が主よ……今度こそ、この剣をお返ししようと、思いましたが……」

 

 

ベディヴィエールは遠くを見ているように見えた。その視線の先には、会いたいと望んでいた王がいるのだろうか。

そこから目線を離すことなく、彼は残っている左腕で銀の右腕を掴み持ち上げた。そしてそれを、隣にいたマシュに渡す。……それと共に、銀の腕は歪み、元の形に戻っていき……

 

 

「……やっぱり、駄目でした。……ギャラハッド卿、いや……マシュ。この剣を、貴女に託します」

 

「これは……もしかして……?」

 

「……貴女になら託せる、そう思いました。例え何が立ち塞がろうと、貴女はきっと止まらない。だから……」

 

「……」

 

「この剣を返せなかったのは我が身の未熟、貴女に私の罪を背負わせるつもりはありません。その剣は、貴女の手に委ねましょう。でも……もし、もしもよければ──」

 

 

そこまで言って、ベディヴィエールは土塊に還った。マシュの懐のガシャットに吸い込まれることも無かった。……つまり彼はサーヴァントでは無かったのだ、それは理解が出来た。

 

 

「……分かりました。使わせていただきます、ベディヴィエール卿」

 

 

マシュは土塊に頭を下げ、渡された銀の腕……いや、それの元の姿、エクスカリバーを背中に背負い立ち上がった。

 

見てみれば、オジマンディアスとは既に黎斗が同盟を結んでいた。明日には聖都を襲撃すると意気込んでいるらしい。

つまり、もうここには用は無い。マシュは一人、オーニソプターに戻った。

 

───

 

その日の昼は、山の民との合流に費やした。

晴人が荒野や聖都で助けた難民たちが、カルデアに恩を感じて軍に参加してくれたこともあり、連合軍は想定の二倍程に膨れ上がった。

 

そしてその晴人はと言えば……ガシャットに戻って、黎斗に修理されていた。

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

黎斗にも予定は詰まっている。

アヴェンジャーやセイバーは既にカルデアに戻ってきたため、確認が終わり次第こちらにやって来るだろう。

連合軍の動きは黎斗が設定する。相手に未知の敵が増えた以上、適当な動きは許されない。

しかも……現在、隣にはネロが立っていた。

 

 

「さて、黎斗」

 

「どうしたんだ? 君から話しかけられるのは好きではないが。マシュ・キリエライトの所に行けば良いじゃないか」カタカタ

 

「……お主に言うべき事がある」

 

「後にしてくれないか?」カタカタ

 

 

よりによって今来ることも無いだろう……黎斗は内心で嘆息している。しかしネロは退くことはない。

 

 

「いや、今話すぞ、余は。何しろこのあとは、このオーニソプターにも沢山のサーヴァントが入ってくる。二人きりなのは今しかない」

 

「……はぁ。仕方無いな」

 

 

黎斗は諦めてパソコンを叩く手を止めた。そして椅子の背もたれに体を預け、頭を後ろに投げ出すようにしてネロを見上げる。

 

 

「で、何だ?」

 

「……お主は知っておろうが。余のマスターはこの特異点で死ぬつもりだ。ここで己の全てを使い潰すつもりだ」

 

「それを、止めてほしいという訳か」

 

「……逆だ。彼女の選択とその結末を、手出しせずに見てやってはくれまいか。彼女が決意を抱いた上で導きだした結論が故な」

 

「……ほう?」

 

 

ネロの言葉に、黎斗は少しだけ意外そうに眉を動かした。しかしすぐにニヤリと笑い、椅子に座り直す。

 

 

「当然だ。私もそうさせてもらうつもりだったさ。この後彼女が何を選ぶかが面白くて仕方がない。ああ、彼女には全てが許されている……!!」カタカタ

 

───

 

その日は、日が沈むのも早かった。連合軍に武器の扱いを教えたり、斥候を送ってみたり、ルートを調べたり……そんなことをしていたら、いつの間にか夜になっていた。

 

誰もいない荒野の一角で、マシュは空を見上げていた。黒と白、そして少しの青とオレンジ……それだけで構成されたそこには、色彩は無く。それでもマシュは微笑んだ。

 

 

『……いいかい、マシュ?』

 

「ああ、ドクター……どうしましたか?」

 

『大事な事を伝える。いいかい? ……君は死ななくていい。死ななくていいんだ』

 

「……?」

 

 

そこに、ロマンが通信を入れた。目の下に隈を作っている。どうやら何かを血眼になって調べていたらしい。

 

 

『エクスカリバーには不老の加護がある。決して老いず、生き続ける事が出来る。……解析してみた所、ベディヴィエールは千五百年間生き続けた生身の人間だった。そこまで生きなくてもいい……何時でも死ねる、何時まででも生きられる、君はそういう存在になった。戦わなければ』

 

「……戦わなければ……」

 

『うん。戦わなければ、君は生きていられる。その後一週間ももたない命を、好きなだけ引き伸ばせる。君は、死ななくていいんだ』

 

 

それはロマンが突き止めた真実。マシュの背負う星の聖剣があれば、もうマシュは死に怯える必要は無い。

それはとても魅力的だっただろう。生への甘い望みも、人間にはあって当然だ。

 

しかし、マシュにはもう生への未練なんて何も無かった。

 

 

「……駄目です。私は、戦います」

 

『その必要は無いんだ!!』

 

「私が必要としているんです!!」

 

 

きっぱりとそう言う。

戦闘の意思。己が戦う、という決意。

 

 

「……私は、人理を私の手で修復します。私が戦い、私が救う。それが私の望みなんです」

 

『ならボクの望みを言おう、ボクは君に生きていてほしい!! 死んでほしくない、まだいてほしい!!』

 

「……ドクター。安心してください」

 

 

ロマンは泣いていた。年甲斐も無く泣いていた。……誰も咎める者はいない。

マシュはロマンの頬に手を伸ばした。当然触れることは叶わない。でも、互いに少しだけ満たされた。

 

そしてマシュは切り出す。自分の歩む道には、希望が確かにあるのだ、と。

 

 

『……』

 

「私は死ぬけれど、()()()()()()。ドクターが私を覚えていれば」

 

『違うんだ、そういった話をしているんじゃないんだ』

 

「いえ違いません……私は、ドクターが私を覚えていれば死にません」

 

『ボクには訳が分からないよ、マシュ……!!』

 

「そのままの事です。そのままなんですドクター」

 

『分からない分からない、君はまだ死ななくていいのに……!!』

 

 

……遠くから歓声が聞こえてきた。張り切ったオジマンディアスが、連合軍全員に食事を用意していたらしかった。この場にエジプトの民はいないが、それでも用意したあたり彼も聖都を何としてでも倒したいのだろう。

マシュもその場から立ち去ろうとする。

 

 

「……そろそろ行かないと」

 

『待ってくれ、待つんだマシュ!!』

 

「……最後に。私のロッカーの番号を教えておきます。……1990、です」

 

『……カルデアスの出来た年、か……ってそれより、待つんだマシュ!! だから待ってくれって……!!』

 

「ありがとうございました、ドクター。Dr.ロマン。今まで、本当に……」

 

 

マシュは笑顔のままだった。

そして笑顔を最後に、通信は断ち切られる。

 

 

「ありがとう。さようなら。また、会いましょう」

 




*マシュ・キリエライトは決意を抱いた。


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妄執の交差

 

 

 

 

 

「連合軍、揃いました」

 

 

運命の日が来た。聖都を攻め落とす日だ。この特異点を終わらせる日だ。

昇った太陽は戦場を煌々と照らし、荒野に並んだ連合軍と聖都前を守る聖都軍が向かい合う。

 

 

「作戦を確認する。まずサーヴァントの先行部隊が敵陣に切り込む。ある程度掻き乱した所で連合軍の護衛に回れ」

 

「了解した」

 

 

場のサーヴァントを集めた黎斗がそう言った。

先行部隊を担当するのはジークフリート、アヴェンジャー、ハサン二人、三蔵だ。彼らは先陣の最前列に向かっていく。

 

 

「操真晴人、エリザベート。君達は先行部隊の乱した兵の隙間を抉じ開けて、そこから先行兵団を誘導して接近し、魔法で聖都内部への活路を開く……折角私が直してやったんだ、君にはしっかり働いて貰おう」

 

「分かってる」

 

 

次に指示された晴人はそう笑った。黎斗のお陰で体は直されている。魔力も満タン、これなら暫くは持つだろう。

 

 

「後発部隊は殲滅を担当しろ。外からの援軍の類いが現れないよう、兵もサーヴァントも戦闘不能まで追い込むように」

 

「当然だな。余に任せておけ」

 

 

後発部隊を勤めるのは信長と信勝、ラーマとシータ、ナーサリー、ランスロットだ。

 

 

「そして、私とマシュ・キリエライト、そしてネロの三人は最初に中に飛び込む。内部にはいくらかサーヴァントがいるだろう。そこをまずは消耗させる。先行兵団に繋いだら獅子王の所まで飛び込むぞ」

 

「ええ……先に仕留めてしまいましょう」

 

 

意気込むマシュは背に担いだエクスカリバーの位置を調整しながら、盾の側面を磨いていた。

黎斗も立ち上がる。向こう側の兵達を見てみれば、城の中から追加でやって来たサーヴァント達を見て圧倒されているようにも思えた。向こうも戦力を補充してきたらしい。

 

 

「さて……ランスロット。向こうの門前に幾らかのサーヴァントがいるな。全員体が影のようになっているのは狂化の影響か?」

 

「……恐らく。アグラヴェインは部下に、バーサーカーの私と同じ強化(狂化)を施すことが出来ます。力は当然強くなりますが……全く、ケイ卿から言葉を奪ったら強みが減ると言うのに、アグラヴェインにも焦りが見える」

 

 

ランスロットは遠くを見ながらそう言った。黎斗には誰が誰だかさっぱりだったが、同じ円卓の騎士なら分かる、という解釈でいいだろう。

 

 

「……で、誰がどれだ?」

 

「真ん中にいる三メートル程の大男が恐らくケイ卿でしょう。基本はあんなに大きくないのですが、体から発する熱で洗濯物を乾かしたりエラ作って九日間水中で生活したり心臓の位置をずらしたりするような男ですから、まあ……」

 

「……最も警戒すべき相手と見ていいか?」

 

「いや……彼の他にも騎士はいます。ケイ卿の右の、槍を持った男がパーシヴァル卿ですね。で、反対側にいる筋肉質の男がペリノア王です。彼は我が王を打ち負かす程の実力を持っています、気をつけて」

 

 

そこまで言ってランスロットは静かになった。黎斗は向こう側の円卓の実力を計りかねているのか、暫く相手の動きを観察する。

 

 

「じゃあ、残りは……」

 

「……ええ、残りの円卓……ガヘリス、パロミデス、ボールスはきっと城の中にいます。気をつけて、ギ──」

 

「マシュです……マシュ・キリエライト」

 

「……すまなかったな、マシュ。健闘を祈る」

 

「当然です」

 

『ガッチョーン』

 

 

マシュは待ちきれないのか、誰よりも早くバグヴァイザーをその身に装着した。

黎斗も合わせるようにゲーマドライバーを身につける。さらに、ついでと言わんばかりにネロにタドルクエストを投げ渡した。

 

 

「変身……!!」

 

『マイティ アクショーン NEXT!!』

 

『N=Ⅲ!!』

 

『ジェットコーンバーット!!』

 

 

「変身!!」

 

『チューン パーフェクトパズル』

 

『チューン ドラゴナイトハンターZ』

 

『バグル アァップ』

 

 

「余も!! 変身!! だな!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

「……うむ、黒いウェディングドレスか、たまには悪くないな」

 

 

そろそろ開戦の火蓋は切られるだろう。それこそ、ゲンムが一度でも空を飛んだ瞬間から。

 

 

「じゃあ、ネロさん……」

 

「……うむ」

 

 

竜の翼を生やしたシールダーが、一先ずネロを取り込んだ。手に持つ盾は輝きを増し、マシュは足に力を籠める。

 

 

「それじゃあ、行きましょう黎斗さん」

 

「ゲームマスターの私に命令するな……出陣!!」

 

───

 

 

 

 

 

   スタッ

 

「……侵入成功」

 

 

ゲンムとシールダーは空を飛んで城壁を飛び越え、聖都内部に乗り込んだ。外では開戦を告げるように兵士達の声が聞こえてくる。

 

ゲンムは敵陣に鉛弾を喰らわせながら堂々と侵入したのに、誰も聖都内に戻ってこない。それはつまり……

 

 

「余程中に入れたくないのか、それとも……この中の三人に自信があるということか」

 

 

「Guurrr……」

 

「Uaaaa……」

 

「Arrrrrrrrrrrr!!」

 

 

ガヘリス、パロミデス、ボールスであろう三体のサーヴァントが、ゲンムに唸りながら飛びかかった。それをシールダーが受け流し、その盾を大振りに振り回す。

 

 

「……絶対に行きますよ。獅子王の玉座まで!!」

 

「当然だ」

 

───

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

   ズシャッ グシャッ

 

「Uaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

「チッ!! 馬鹿でかい上に頑丈だな」

 

 

ジークフリートとアヴェンジャーが、バーサーク・ケイの相手をしていた。隣ではバーサーク・ペリノア王とバーサーク・パーシヴァルがハサン二人と三蔵を蹴散らしている。

既にウィザードとエリザベートも、連合軍を引き連れて進軍していた。

 

 

「しかし……すまない、俺には時間を稼げる気がしない」

 

「オレも同意だ。なんでこいつは、どうもこう、倒せないんだか」

 

 

 

『ランド プリーズ!! ドッドッ ドドドドンッ ドンッ ドッドッドンッ!!』

 

「エリちゃん城壁まであとどのくらい!?」

 

「まだまだあるわよ子ブタァ!!」

 

 

ウィザードが連合軍を引き連れて突き進む。彼の目的は一人でも多く聖都内に兵士を送り込むことだ。……しかし、あまりにも城壁は遠かった。

物理的な距離は大して無い。ただ、向こうの兵があまりにも強かった。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

   ブチブチブチブチィ

 

「くっ……」

 

 

ただの兵にしては強すぎる。エリザベートが攻撃すれば一応押し返せるが、連合軍だけだとなすすべもない。

……恐らく、奪われた聖杯でサポートがかけられているのだろう。ウィザードはそう考えた。

 

───

 

『Buster chain』

 

「はあああっ!!」

 

   ザンッ

 

「Guurrr……」ガクッ

 

「ハァ、ハァ……」

 

 

シールダーが、やっとの事で円卓の騎士を一人切り伏せた時には、既に戦闘開始から一時間程経っていた。とはいえ、一時間で円卓の騎士を倒せるまでに成長したと考えれば、彼女はかつてとは比べ物にならないほど強くなっていた。

隣を見てみれば、ガシャットをジェットコンバットからデンジャラスゾンビに変更したゲンムとネロが、共同で円卓の騎士二人を吹き飛ばしている。あちらの方も勝負は決まっただろう。

 

ようやく、聖都内部での優勢を掴むことが出来た三人は、一旦その場に集まった。

 

 

「終わったぞマシュ!!」

 

「そうですか……!! にしても……どうして彼らにルールブレイカーが通用しなかったんでしょうか」

 

 

そう呟くシールダー。彼女は既に何度かルールブレイカーで彼らの狂化を取り除いてみようと試みていたが、その尽くが失敗に終わっていた。

 

 

「ううむ……」

 

「……恐らく、狂化は解かれてはいたのだろう。ただし、解かれると同時に再びかけられた、という仮説はどうだろうか」

 

 

「……正解だ。私が彼らを常に繋ぎ止めていたからな」

 

 

その声に反応して城の方を見てみれば、兵団聖杯を持ったアグラヴェインが立っていた。

 

 

「アグラヴェインか……君は確か、消えかけていた筈だが?」

 

「この身には、昨日奪った聖杯が眠っている。現界を保つなど容易いこと……そして」

 

 

その瞬間、地に伏して震えていた三人の円卓の騎士が、アグラヴェインに吸い込まれる。それによって彼の体は蠢く闇と化し、自由自在に動くようになった鉄の戒めで瞬時に三人を捕縛する。

 

 

   ザザザザザザザザ

 

「この身デ、貴様らを処断しヨう」

 

「っ……!!」

 

 

両手両足を縛り上げられたシールダーにアグラヴェイン……いや、最早アグラヴェインでも何でもない、円卓の怪物が迫る。

 

 

「私が特に気に食わなイのは貴様だ、ギャラハッド。我が王に味方しナいばかりカ、こんなもノまで……」

 

『ガッチョーン』

 

「……こんなもノはイらない。これハいらない物ダ。壊してしまおう。潰してシまおう。こンなものを我が王にお見せすル訳にはいかなイ」

 

   グシャッ

 

 

……そして彼はシールダーからバグヴァイザーを奪い取り、片手でそれを握り潰した。

ガシャットごと半ばスクラップ状になったそれを投げ捨てる怪物に、ゲンムが鎖を引き裂いて飛びかかる。

 

 

「私のガシャットをよくもぉっ!!」

 

「貴様ハ後だ!!」

 

   ジャラジャラジャラ

 

「何ぃっ!?」

 

 

しかし彼は、地面から生えてきた鉄の戒めに足を奪われ転倒した。

……ここは既に、怪物の空間と化していた。王の敵を屠る、闇の黒騎士の空間に。

 

───

 

「ようやく……兵士が弱ってきたわ!!」

 

「ナイスだエリちゃん!! 皆早く、今のうちだ!!」

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

漸く城壁まで辿り着いたウィザードはディフェンドで土の壁を並べて即席の階段を産み出した。連合軍の兵士がそれに足をかけようとする。

 

 

「Uaaaa!!」

 

   バァンッ

 

「くっ……間に合わなかったか……!!」

 

 

……しかし、横から突撃してきたバーサーク・ペリノア王に不意打ちを貰ってしまった。

既に呪腕のハサンは戦線を離脱していた。静謐のハサンの姿も見えない。三蔵は消滅しかけていた。バーサーク・パーシヴァルと相討ちになったのだろう。

そしてさらにその向こうでは、バーサーク・ケイとジークフリートが戦っている。

 

 

「仕方無いか……!!」

 

『ランド ドラゴン!! プリーズ!!』

 

「子ブタ!? それ五分しか持たないのよね!?」

 

「それでも……やるしかない!!」

 

『ダン デン ドン ズッドッゴーン!! ダン デン ドッゴーン!!』

 

 

そしてウィザードは、ランドスタイルの強化形体であるランドドラゴンに変身した。バーサーク・ペリノア王が飛びかかってくるのを蹴り飛ばして、少しでも時間を稼ぐ。

 

 

『グラビティ プリーズ!!』

 

「今のうちに!! 速く!!」

 

「でも他の兵士が集ってきてる……!!」

 

 

ペリノア王を城壁に押し付けながらウィザードが呻いた。しかし連合軍を護衛するエリザベートも、兵士の山に押されぎみになっている。

 

その二人の間を、一人の騎士が駆け抜けた。

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)!!」

 

   ズバッ

 

「……ランスロット!! 来てくれたの!?」

 

 

エリザベートの回りが切り払われてスッキリする。怯えていた連合軍も勢いを取り戻し始める。

しかしランスロットは止まらなかった。黎斗から与えられた指示を無視して、彼がいの一番に階段を駆け上がる。そして──

 

───

 

 

 

 

 

「……さあ、終ワりにスるぞギャラハッド」

 

「くっ……」

 

 

怪物が、マシュの首筋に剣を添えた。その体は延々と汚染され続け、背中からは腕が三本生え、鎧は表面が溶けて障気を撒き散らし、目は赤く光り、その上尻尾まで生えていた。

そして剣は動き始め……

 

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!!」

 

    ズバババババッ

 

「……何、ダと!?」

 

 

しかし、空から現れたランスロットが宝具で空間を全て凪ぎ払った事により、マシュやゲンム、ネロを縛っていた鎖は全て断ち切られ、湖のような光が辺りを多い尽くした。

 

 

「また……マタ、貴様は、裏切るのか」

 

「……遅くなった、マシュ。無事か?」

 

「……ええ、何とか」

 

 

光が止んだ時には、マシュは再び立っていた。ゲンムは状況が面白いのか、黙ってランスロットを見つめている。ネロはまだ尻餅をついていた。

 

 

「……何で、来たんですか?」

 

「……来ないといけないと、思ったからだ」

 

 

そう言いながらランスロットが剣を怪物に向ける。

……そしてその怪物は、泣きながら笑っていた。

 

 

「親子愛、カ? 今更? ……ハハ、ハハハハハハハハハハハハ!! ……ああ、モウ、笑ウしかないナ」

 

「アグラヴェイン……」

 

 

次の瞬間には、怪物は地を蹴っていた。聖杯の力で本来あり得ない姿になっている怪物は、ランスロットを殺すために、それだけに全力を注いでいて。

 

 

「何故、何故そんな姿に……」

 

「……貴様を、殺ス、為だ……私の母親ハ、狂ってイた。いつかブリテンヲ統べる王になる、なドと。私は枕言葉に、ソの怨念を聞かされて育っタ。私は母親ノ企みで、おマえタちの席に座った。円卓など、なりたくもナかっタが、それが最短距離ダった」

 

 

怪物が剣でランスロットを斬りつけようと暴れる。ランスロットはマシュを庇うように立ちながら、何度も宝具を発動した。

 

 

「っ……無毀なる湖光(アロンダイト)!!」

 

「ッガ……私ガ求めたノは、ウマく働く王だ。ブリテンをわずカでも長らエサせルための王だ。私の計画に見合う者がいれバイい。誰を王にするカナど、私にとッてはどうデモいい……ただ、結果としてアーサー王が最適ダッた。モルガンよりアーサー王の方が使いヤすかったダケダ」

 

 

語りながらランスロットを傷つけていく怪物。手が斬り落とされても怯まず、目を潰されても退かず……体が異常に再生し続けることは聖杯の効果であっても、意思が折れないことだけは聖杯は無関係で。

 

 

「私ハ生涯、女とイうモノを嫌悪し続ける。人間ナドというモノを軽蔑し続けル。愛なドといウ感情を憎み続ける。ソの、私が―――。はジメて。嫌われる事を恐レた者が、男性であッた時の安堵が、おマエに分かルか。……それガ。貴様とギネヴィアのフざけタ末路で。王の苦悩ヲ知った時の、私ノ空白が、オマエに分かルカ」

 

「……それは。本当に……だが、私は、もう過ちを繰り返す訳にはいかないんだ……!!」

 

「ホザケ。私ニハ、まだヤルベき事が残ッテイる―――報イヲ受ケル時ダ。貴様ハマタ、我ガ王ヲ裏切ッタ」

 

 

……ランスロットの剣が光を帯びる。怪物の剣が光を纏う。

そして二つは交差して。

 

 

   ザンッ

 

   ドサッ

 

 

 

   ドサッ

 

 

怪物が倒れ、そして少し遅れてランスロットも倒れ込んだ。

 

 

「ランスロット!! どうして、こんな……!!」

 

「……それは、まあ……」

 

 

マシュがランスロットを抱き起こす。ランスロットは既に消滅が始まっていて、半透明になっていた。

 

 

「……(息子)を守るためだ。ギャラハッド」

 

「っ……」

 

「……私は生前、全く父親らしい事は出来なかったが。息子を庇って死んだなら……少しは、それっぽくなったと思う」

 

「……」

 

 

……ランスロットは消滅した。マシュは立ち上がり、同じく消滅したアグラヴェインの痕から聖杯を拾い上げる。

 

丁度、城壁の外から連合軍の面々が入ってきた。それに合わせるように、城の中からも兵士が飛び出てくる。

 

 

「……行きましょう。何としてでも、人理を守ります」

 

「うむ!!」

 

「……良いだろう、君に協力してやる」

 

 

そして彼らは兵士を掻い潜り、城に足を踏み入れた。




スパルタクスかな?(すっとぼけ)
聖杯あれば行けるよなと思って調子に乗りすぎた、後悔はしていない


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オルタナティブ

 

 

 

 

 

───

──

 

『……お主は知っておろうが。余のマスターはこの特異点で死ぬつもりだ。ここで己の全てを使い潰すつもりだ』

 

『それを、止めてほしいという訳か』

 

『……逆だ。彼女の選択とその結末を、手出しせずに見てやってはくれまいか。彼女が決意を抱いた上で導きだした結論が故な』

 

『……ほう? ……当然だ。私もそうさせてもらうつもりだったさ。この後彼女が何を選ぶかが面白くて仕方がない。ああ、彼女には全てが許されている……!!』

 

『……』

 

『……とはいえ。私も彼女が何を選ぶかの想像位はついているさ』

 

『……だろうな』

 

『ああ……故に私は傍観に徹しよう。彼女の選びとった道に私は必要あるまい。彼女をバグスターにすることも考えはしたが……』

 

『……そうしないほうが、面白いと?』

 

『その通りだ。君風に言えば……ローマである、とかだろうか?』

 

『……なるほどな』

 

──

───

 

「……辿り着きましたよ、獅子王!!」

 

 

最後の扉を蹴破って、マシュが獅子王の部屋に転がり込んだ。獅子王は来ることが分かっていたようで、既に玉座から立っていた。

 

 

「……答えよ。お前たちは何者か。何をもって我が城に。何をもって我が前にその身を晒す者か。我は獅子王。嵐の王にして最果ての主。聖槍ロンゴミニアドを司る、英霊の残滓である」

 

「ううむ……この溢れ出る威圧感……大丈夫かマスター?」

 

「……ええ。ですが……踏ん切りがつかないので、私に力を貸してください」

 

「了解した」

 

 

獅子王の放つ威圧感に抗おうとネロを取り込むマシュ。

そして彼女は獅子王を睨んだ。彼女の持つ槍を、世界を睨んだ。

 

 

「……答えよ。お前たちは私を呼ぶ者か。お前たちは私を拒む者か。マシュ……遥かなカルデアより訪れた最新のサーヴァントよ。何のために、ここへ?」

 

「……貴女を倒して、人理を救うために来ました!!」

 

「……私を殺しに来たのだな。残念だ……おまえは聖槍には選ばれない」

 

「始めから選ばれるつもりなんてありませんよ……!!」

 

「……少しだけ期待していたが。お前は歪みすぎた──いや、別の道を歩き始めた。死ぬがよい……私の理想都市に、お前の魂は不要である」

 

 

獅子王は少しだけ落胆した様子で宣言した。彼女を中心に魔力が渦巻く。それは最早神の所業。

 

 

「……マシュ・キリエライト。一応聞くが……私の助けは必要か?」

 

「……いえ、要りませんよ。貴方は威張りながらそこで全部見ていればいい」

 

「……いいだろう」

 

 

しかしマシュは恐れない。もう、恐れている暇はない。

人間としての自分が終わるときはもう刻一刻と迫っている。残り幾ばくもない生命を削っている意味は、いまこの手に握られている。

 

 

「……私は人間を愛している。私は人間なしでは生きられない。だから人間を残そう。永遠を与えよう。後世に残すべき者たちを、集め、固定し、資料としよう。この先、どれほどの時が経とうと、価値の変わらない者として、我が槍に収める……」

 

「私も人間を愛しています!! でも、そんなの……人間じゃあないんですよ!!」

 

「……そう、思うのか。後三日と持たぬ命で、そう叫ぶか。マシュ・キリエライト……そうか。いずれ死ぬもの、いま死ぬもの、命の限りを嘆くものたちよ。限界を知り、我が手に収まれ」

 

 

その声と共に、獅子王は槍を高く掲げた。それと共に魔力が吹き荒れ、世界が書き換えられていく。

 

「……!!」

 

「ほう。ここでロンゴミニアドを起動したか。些か遅い気もするがな」

 

「なら……世界が閉じるその前に!!」

 

 

そして、マシュは盾を構えて走り始めた。

 

───

 

「子ブタ!! 何か出てきたわよ!?」

 

「あれは……ヤバい。あれヤバい奴だ!!」

 

 

エリザベートは、限界寸前でペリノア王を下し変身を解いていた晴人に駆け寄った。彼女が指差す先、獅子王の城では魔力の壁が作られていく。

 

 

「……うわぁ、あれどうすればいいのかしら?」

 

「分からぬ……てんで分からぬ」

 

      (ゴーン ゴーン)

 

兵士を殲滅し終えた後発隊のサーヴァントたちも、呆れたように口を開いていた。

あれは、規格外だ。抵抗するには強すぎる。

 

そう思っていた時、オジマンディアスの神殿の方から極太のビームが飛んできた。それは光の壁と拮抗し火花を散らしていて。

 

 

「あれは……オジマンディアス様の」

 

「助かる、が……倒せてはいないな」

 

      (ゴーン ゴーン)

「……子ブタ、戦える?」

 

「いや……魔力が、足りない」

 

 

それに対抗する術を、誰も持っていなかった。

 

……世界が縮んでいくのを、何というか、肌で感じる一同。

 

 

      (ゴーン ゴーン)

『エラー』

 

「くっ……やっぱり駄目だ」

 

「そんな……」

 

「何か、何か方法は……!!」

 

   ゴーン ゴーン

 

 

……誰も気づかなかった。

すぐそこまで、鐘の音が響いていた事に。

 

 

   ゴーンゴーン ゴーンゴーン

 

「……待った。何か……聞こえないか?」

 

「……この音は!!」

 

 

誰からともなく、振り向いてみれば……

 

 

「……山の翁!!」

 

「まさか、ここに来てマスターを!?」

 

「……いや。彼の晩鐘は過ぎ去った。かと言って、マシュ・キリエライトに命令された訳ではない」

 

 

そう言いながら歩く山の翁。彼はオジマンディアスのビームで押し留められている聖槍の光に近づき──

 

 

「……晩鐘は汝の名を指し示した。崩れ落ちよ……死告天使(アズライール)

 

   ズシャッ

 

───

 

   ガンッ

 

「ぐぁっ……!!」

 

 

マシュは吹き飛ばされる。何度も吹き飛ばされる。そしてその上で立ち上がる。

弱音は吐かない。苦しみは叫ばない。ただ、己の激情を盾に籠めるだけ。

 

 

「嘆くな。限りある命に永遠を与えるまで。燃え尽きる命を凍りつかせ保管する、価値の変動を停止し護る……それが究極の結論だ」

 

「違う!! それは、絶対、違う!! 違う!! 違う!! その幸福を、私は認めない!!」

 

「……何故だ、何故まだ立てる?」

 

「人理とは流れです。一人一人の命が生み出す流れです。停止した人間、保存された資料になってしまっては人間なんて言えないのです。例え何を失ってでも……それでも歩み続けるのが人間なんです!!」

 

 

そう叫んだ瞬間、城が大きく揺れ崩れ始めた。どうやら起動したロンゴミニアドが一旦停止したらしい。それを好機だと、マシュは一際語調を強くする。

 

 

「貴女が世界の果てになるなら!! 貴女が人理の敵となるなら!! 私は……貴女を全身全霊、私の出来る全てで、殺します!!」

 

「では見せてやろう……我が聖槍の嵐、世界の皮を剥がした下にある真実を!! 聖槍、抜錨……其は空を裂き地を繋ぐ嵐の錨!! 最果てより光を放て。ロンゴ、ミニアド!!」

 

 

少しだけ戸惑いを見せたようにも見えた獅子王から放たれた光の奔流がマシュを襲う。マシュは盾で防ぐが、耐えきれずに押され押されて後退する。……それでも彼女は叫ぶ。決して負けないと叫ぶ。

 

 

「ぐぐ、ぐ……あああああっ!!」

 

   ズシャッ

 

 

耐える。それだけが今までの己に出来たこと。

耐える。それが誰かを守るために行ってきたこと。

耐える。耐える。耐える……そして、反撃の時は来た。

 

彼女は背中から抜いたエクスカリバーで、光を真っ二つに叩き切った。

 

 

   ズシャッ

 

「その、剣は……」

 

「……私は人理を守ります。それが私の望み、それが私の全て。……私も人間を愛しています。だから、絶対に守ってみせる」

 

 

既にマシュの体は透け始めていた。どうやら無理をし過ぎたらしかった。己の体の自壊を感じたマシュは、先に止めを刺さんと走り始める。

 

 

「……見ていて下さい黎斗さん。これが私の、結論です!!」

 

「……良いだろう、見ていてやる」

 

……ええ!! 壊れた(ブロークン)──

 

 

そして大きく飛び上がった。己の盾が極光を放つ。そして彼女は、その側面で獅子王を殺そうと振りかぶって。

 

 

「それ、は……」

 

「うむ、邪魔はさせないぞ? これがマスターの最期の晴れ舞台だからな!!」

 

 

ロンゴミニアドを彼女に向けようとした獅子王を、マシュの体から飛び出したネロが押さえ込んだ。彼女の体はロンゴミニアドに抉られて霧散していくが、ネロはそんなこと何とも思っていないようだった。

 

 

「さあ、やれマスター!!」

 

──幻想(ファンタズム)!!

   カッ

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

ロマンは泣いていた。マシュの残していったものを見て泣いていた。顔こそ誰にも見せなかったが、啜り泣く声で全員が気づいていた。

ダ・ヴィンチがロマンの肩に手を置く。

 

 

「そう、嘆くな。ロマニ……彼女は、彼女の望みを成し遂げた」

 

「……」

 

 

マシュは消滅した。己の盾と共に弾けとんだ。後には何も残らなかった。コフィン内の全てと共に消え失せた。

それと共に獅子王も消滅した。元より、アーサー王の死は円卓の崩壊が原因と言える。彼女を壊れた円卓で攻撃すれば、神性であろうと致命傷を与えることは出来た。

 

しかし、それだけでは神殺しを為すには力不足だった。だがマシュはそれを成し遂げた。それはつまり、もう一押しがあったということ。

 

……ロマンは何も語らない。彼は次に、栞が挟まったままの本を手に取り、ページを開いて……

 

……そして、弾かれたように立ち上がった。

 

 

「……いや、違う」

 

「……?」

 

「まさか、そういう……意味だったのか? それは、つまり……いや、そんなの残酷すぎる……!!」

 

「待って待って、どうしたんだい?」

 

 

その声に返事はない。ロマンはダ・ヴィンチの手を掴んで歩き始める。

 

 

「……行くぞレオナルド」

 

「どうしたんだいロマニ!! 怖い顔して……一体何処に行くんだい?」

 

「決まってるだろう? ……約束を果たしに行くんだよ」

 

 

彼は歩く。歩いて歩いて歩いて……そして、サーヴァント召喚の部屋までやって来る。

 

 

「どうしてここに? もう、魔力節約の為にサーヴァント召喚は止めようって言ったのは君じゃないか」

 

「いいから魔力を回して!! かかる負担の分は全部ボクがカバーする!!」

 

 

サークル内にマシュの盾は無い。それでもロマンはサークルの周辺にマシュの残していった全てを並べた。

そして、聖晶石を投げ込む。刹那、辺りは光に包まれて……

 

 

 

 

───

──

 

『私の死後の全てを譲りましょう』

 

『だから、私に対価を下さい』

 

『全ては人理を守るため──私と貴方達は、同じはずです』

 

──

───

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君は……」

 

 

白い髪。金色の目。体に入った赤いライン。面積が半分ほどになった鎧。その上に羽織る薄手の白い外套。盾の代わりに(エクスカリバー)を持ち、その腰にはルールブレイカーとガンド銃を提げて。

彼女は。その真名は。

 

 

「……守護者(サーヴァント)、シールダー。マシュ・キリエライト……ただいま帰投しました。ドクター」

 




マテリアル1

身長/体重:158㎝・46㎏
出典:Fate/game master
地域:カルデア
属性:中立・中庸 性別:女性

マシュ・キリエライト・オルタ。
正確には彼女はマシュの別側面ではなく、信じられるマスターに出会えなかった可能性の姿。
しかしその在り方は本来のマシュとは根本的に違うためオルタと呼ぶしかない。


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ブリテン英霊八番勝負
幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負①


 

 

 

 

「……そうか……そこまで行きおったのかー……」

 

「……」

 

「いえ、気にしないで下さい。これは私が出した結論です」

 

 

マシュの部屋にやって来た信長と信勝が、マシュの話を聞いて微妙そうな顔をしていた。

もう彼女はかつてのマシュとは同じではない。それは現実味はなく、しかし確かに現実に思えて。それが尚更物悲しくて信長は酒を煽る。そして信勝は、ずっと黙っていた。

 

 

「……うーむ……何だ、暗い話してると酒も旨くないな。そうだ、お主一人で獅子王を下したそうじゃが、どうやったんじゃ?」

 

「よく覚えていません。あの盾で壊れた幻想を発動して獅子王の脳天を全力でかち割って、で、何かよくわからないのが……」

 

「ああやっぱやめやめ!! 信勝が泣きそうじゃ!! ……突然押し掛けてすまなかったな。そろそろ帰る」

 

「……すいません」

 

「いえ、良いんですよ……では」

 

 

そうして二人は帰っていった。マシュは一人残され、することもないのでベッドに寝転がり天井を見上げる。

 

 

「……」

 

そして、ガシャットを手に取った。

第六特異点でガウェインによって故障させられ、その後に複数の騎士を回収したせいで全く動かなくなってしまったプロトガシャットギアデュアルB。

 

……そしてそれは唐突に光り始めた。

マシュは抵抗も出来ず、その光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……久しぶりだね、マシュ」

 

「ブーディカさん……」

 

 

そこはガシャットの内部だった。

第五特異点でそれぞれの形態に変身する前に一度だけ入ったこの世界。相変わらず0と1の見え隠れする白い世界に、ブーディカだけが立っていた。彼女は立ち尽くすマシュを優しく抱き締め、頭を撫でる。

 

 

「……君の頑張りは、よーく見てたよ。……よく、頑張ったね」

 

「……」

 

「でも……お姉さんちょっと悲しいな」

 

「……貴女が悲しむ必要は無いんです。私は絶対私の決断を後悔しません。だって……この方法以外なら、黎斗さんに抵抗できない」

 

 

マシュはそう言って、優しくブーディカを引き剥がした。ブーディカの方も抵抗せずにマシュから離れる。

マシュは空間を見回して、その静かさに気がついた。……他の人々は、どこにいるのか。

 

 

「……あれ、他の皆さんは?」

 

「……気づくよね。うん」

 

 

マシュが疑問をもってブーディカに向き直る。

 

 

「……実は、今から私達は、貴女に試練を与える事にしたの。ただでは終われないって嘆く円卓の皆や、君の決断に納得がいかないっていう皆がいるからね。だから……」

 

「……彼らを、下してほしい、と」

 

「うん。貴女の前に立ち塞がる英霊は八騎。貴女の持つその剣で、私達を、力付くで納得させてね?」

 

 

マシュに相対したブーディカはそう言って、思いきりマシュから飛び退き、剣を抜いた。

……どうやら彼女が、最初の相手らしい。

 

 

「……分かりました。ええ……では」

 

 

マシュも答えるように剣を抜く。その手のエクスカリバーはまだ手に馴染まず、かつての盾と同じか、それ以上に重く感じた。

それを構える。それだけで霊核が震える。逸る気持ちを押し止めて、マシュはブーディカの剣を見つめた。

 

 

「行きますよ、ブーディカさん」

 

「うん、ドンと来い!! 私の全部、ぶつけてあげる!!」

 

 

<ブリテン英霊八番勝負 

  一試合目、ライダー・勝利の女王>

 

 

「「──勝負!!」」

 

 

……駆け出したのは全く同時だった。

 

 

   ガキンッ

 

「っぐ……その剣、やっぱり」

 

「ええ……これは、アーサー王のエクスカリバー。今は私の宝具となった、私の得物です」

 

 

剣と剣が交差する。ブーディカはマシュの剣が聖なるものだと確信して、少しだけ顔を強張らせた。彼女はマシュの危うい覚悟を剣の向こうに見たのだ。

だからこそ、彼女は聞かずにはいられない。

 

 

「マシュ!! 貴女の戦う理由は何だ!! その剣は誰が為に振るうものだ!!」

 

 

ブーディカは言った。マシュに試練を与えるのは、マシュに従う意思を持てないサーヴァントと、マシュの決断に納得が出来ないサーヴァントだと。

ブーディカ自身は、当然といえば当然だが納得の出来ないサーヴァントの方だった。彼女は、マシュに一つの問いを投げ掛けたかった。

 

 

「私は私が人理を救う為に戦う!! 犠牲を減らし涙を掬い血を止める為に戦う!! この剣は人間全ての為に振るうものだ!!」

 

「──私は、祖国を守るために戦った!! 犯された大地を、汚された我が子を、勝利を取り戻す為に戦った!! ……でも敵わなかった!! この剣は愛するものを守るために振るったもの、愛するものを守れなかった己の未熟さの具現!!」

 

 

彼女はブリタニアの女王。ローマに歯向かい、そして負け、あらゆるものを奪われた女王。

国の尊厳を奪われた。己や娘たちの貞操を奪われた。反乱を起こしても敵わず、果てに命を奪われた。

 

 

「マシュ!! ──もし、何かを守れなかったら、その時はどうする!! 嘆いて悲しみに暮れ泣き落ちるか!! 復讐に駆られ走るか!! ……失敗したとき、貴女はどうする!!」

 

「私はっ、絶対に失敗しない!!」

 

「それはあり得ない!!」

 

 

ブーディカの剣から魔力の弾丸が飛び出す。マシュはそれらを切り伏せながら突貫し、ブーディカと再び唾競り合った。

 

 

「私もそう思っていた!! 絶対に失敗しないと!! 私は思っていた、それに私だけじゃない、あの国の皆が思っていた!! 誰も、負けるために戦いに行きはしないから!!」

 

「っ……」

 

「答えて!! 貴女は絶望の先に何を見る!!」

 

 

それが、ブーディカの問い。

完璧はあり得ない。完勝はあり得ない。例え勝利したとしても、その中には確実に敗北が存在している。マシュは、その事実に耐えられるのか、その問い。

 

 

「っ……」

 

「これが私の剣だ、これが私の懺悔だ!! 貴女は……貴女は私の絶望をどう切り抜ける!! 約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!!」

 

 

ブーディカが剣の真名を解放した。それと同時に、マシュを中心に無数の光弾が呼び出される。それが、約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)の力だった。

 

光の壁がマシュに迫る。全方位からマシュに近づく。彼女にはもう己を庇う盾はない。

 

 

「……私は人理を救って人間を救って、その向こうにある世界を救います。……態々絶望を前に立ち止まっている暇なんて無いんです」

 

 

マシュは剣を、白いに突き立てた。データの世界には入らないはずのヒビが入り、その割れ目から緑とも黄色ともつかない光が溢れてくる。

 

 

「誰かを失ったなら、その誰かの望んだもの全てを救いましょう。誰も救えなかったなら、せめて記録を残しましょう。何かが残っていれば、人間は先に進めるんです」

 

 

マシュは剣を握る手に力を込めて、さらに強く突き立てた。

光の壁は進まない。元々ブーディカがそうあるようにイメージしたのもあるが、それと共に、エクスカリバーが外に向けてエネルギーを発していた。

 

 

「私は知っています。人間には明日があると。明日がある人間は、その明日を歩む事が出来ると。明日がある人間は、罪をやり直す事が出来ると。明日がある人間は、過ちを繰り返さない選択が出来ると」

 

「……」

 

「私にはもう明日がありませんでした。だからこうして、強引に永遠の明日を手に入れました。私は人理を、そして世界を救います。絶望したら──明日への希望でそれを塗り替える!!」

 

   カッ

 

 

エクスカリバーが、深い緑色に変色した。それと共に大地は砕け、跳ね上がった数多の白い大地が光弾を弾き飛ばす。

 

そして再び、彼女はそれを引き抜いた。

 

 

「……いいよ、じゃあ……覚悟を私に見せて。貴女の意思をここに示して。貴女は私のかわいい妹のような存在だけど、今だけ私は鬼になります」

 

「……ええ、全力でブーディカさん、貴女を──」

 

「うん。私を殺して──私の屍を越えていけ!! マシュ・キリエライト!!」

 

 

ブーディカが剣を振り上げると共に、彼女の戦車が召喚された。マシュに向かって突進するそれの運転席に乗り込んだブーディカが、全速力で戦車を駆る。

 

 

約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

 

そしてまた真名を解放した。今度は、マシュの周囲にブーディカの物と同じチャリオットがいくつも現れる。

マシュは剣を手に取った。彼女は緑に輝きを放つそれを握りしめ一回転、全方位を横凪ぎに凪ぎ払う。

 

 

「はあああああっ!!」

 

   ズシャッ

 

 

それと共に戦車達は崩れ落ち、残りはブーディカの物だけに戻る。

その剣はエクスカリバー。星の聖剣を止めるには、ブーディカは力不足だった……だが、彼女は笑いながらマシュに突撃する。

 

 

「じゃあ決めるよマシュ!! 私の全力、刻み付けるね!!」

 

「ええ!! 私の全て、この剣に託します!!」

 

 

そして二人は、二筋の光になって。

 

 

約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!!」

 

「擬似解放・約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

   スパァンッ

 

 

 

 

 

……倒れていたのは、ブーディカだった。

エクスカリバーは戦車ごとブーディカを両断していた。……勝負はついた。上半身と下半身に別たれたブーディカが、マシュに笑う。

 

 

「……ブーディカさん……」

 

 

……まあ、次の瞬間にはブーディカは元に戻っていたが。

 

 

「……!?」   

 

「驚いた? いやー、ここってさ、死んでもすぐ元に戻るんだよね!! さっき貴女が砕いた大地も元通りだし」

 

「……本当だ……」

 

 

既に剣は収められた。ブーディカはまた最初のようにマシュを抱き締める。

 

 

「……貴女の決意は聞き届けました。私は貴女の決断に賛同します。どうか、いつまでもその意思を失わないでいてね……貴女がその意思を忘れないでいる限り、貴女は貴女だよ」

 

「……はい」

 

「……先に進むんだ、マシュ。私たちが、真に貴女を認める為に」

 

 

ブーディカはそう言って、白い空間に溶けていこうとした。透けていくブーディカを見送るマシュ。彼女は、あの頃の笑顔を少しだけ取り戻していた。

 

……何かを忘れていたように、ブーディカがマシュに振り向く。

 

 

「ああ、でも、その前に……出れるときに出た方がいいよ、()()!!」

 

 

「うむ!!」

 

 

その言葉に答えるように、マシュの体内から、獅子王に突撃して消え失せた筈のネロが現れた。どや顔で。

 

 

「あれは誰だ!? 美女か!? ローマか!? もちろん、余だよ♪ 正直ものすごくアウェーな感じがするがそれはそれ、ネロ・クラウディウスここに参上だ!! 待たせたな!!」

 

「……ネロさん」

 

「また会ったな、マスター」

 

 

ブーディカは既に消滅した。この空間にいるのはマシュとネロだけだった。

マシュは疑問が拭えない。……獅子王討伐作戦だと、ネロは獅子王のロンゴミニアドを押さえ込んで、壊れた幻想で獅子王と自分自身と共に仲良く消滅するつもりで、ネロ自身も乗り気だったと思うのだが。

 

 

「でも、どうして? ネロさんは私が獅子王を倒したとき、ロンゴミニアドの力で消滅したはず……」

 

「フッフッフ、その時に破片が飛び散っていただろう? それにマスターが一瞬でも触れたことで、再感染した訳だ」

 

「そんな……事が……出来るん、ですか?」

 

「そのようだな。まあ、余りにもウイルスの数が微量な上、この状態で守護者になったせいか培養もうまくいかないから、こうして少しだけ霊基に影響を与えるだけだが。マスターの羽織ってる外套は、余が纏う予定だったものを貸したのだぞ? 風邪引きそうだったからな!!」

 

 

はっきり言ってあっても無くても変わらない……という言葉はマシュは飲み込むことにした。

彼女は非常に薄着だ。鎧も半分にすり減っている為、腹やら腿やら胸やらの露出も多い。だが彼女は同時に真のサーヴァントとなった為、寒さなど感じないのだ。

 

 

「むしろネロさんの方が……」

 

「余? 余はこれでいいのだ、至高の美であろう? そうであろう? ん?」

 

「……フフっ、そうですね」

 

 

何かが可笑しくて、マシュは笑った。

 

……刹那。

 

 

「──!! 伏せろマスター!!」

 

「っ!!」

 

   スパッ

 

「……矢?」

 

 

白い大地に矢が突き刺さっていた。見覚えのある矢。具体的には第五特異点で見た矢。

 

 

「この矢は……まさか……!!」

 

「貴様が二人目なのか、ロビンフッド!!」

 

 

「……俺も聞きたいことがあるからな。最も新しい守護者(正義の味方)に」

 




マテリアル2

既に盾は持っていないが、マシュ・オルタのクラスはシールダーしか当てはまらない。
生前に彼女が剣を振るった事があっても、銃を手に取った事実があっても、何かに乗った経験があっても、暗殺を行った実績があっても、狂気に身を委ねた記憶があっても、それら全ては人理を守るため、それだけのもの。
……故に、彼女にはシールダーしかありえない。それが、彼女がマシュ・キリエライトだと言える確かな証拠。


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幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負②

 

 

 

 

 

「……オレも聞きたいことがあるからな。最も新しい守護者(正義の味方)に」

 

「ロビンさん……!!」

 

 

そこにいたのはロビンフッド……生前はシャーウッドの森に潜み圧政者に抵抗した義賊(正義の味方)。英霊となった彼が、最新の後輩に牙を剥く。

 

 

「まあ、焦らずゆっくり話し合いましょうや。ゆっくりと、な……祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

   グサッ

 

「矢を、大地に……!?」

 

「この感じ……不味いぞマスター、この空間全体に毒が回った!!」

 

 

彼は大地に矢を突き立て、毒の空間を産み出した。彼は己のホームグラウンドの形成を確認し、そして静かに矢を構える。

 

 

「……取り合えず、こっちの主張から聞いてもらうぜ? 顔のない王(ノーフェイス・メイキング)発動……無貌の王、参る」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  二試合目、アーチャー・顔のない王》

 

 

その掛け声と同時に、ロビンフッドは姿を消した。マシュはそれがロビンフッドの宝具だということは既に十分知っていた。

マシュはネロと背中合わせになり、四方八方から突然飛んでくる矢を切り伏せる。

 

 

「む、姿を見せい!! これじゃあ勝負にならぬだろうが!!」

 

「……とは言ってもさ、今のオレのやり方が、これからそこの嬢ちゃんが行く道になるんだぜ?」

 

「ぐ……」

 

 

そしてロビンフッドは、絶えず隠れて矢を放ちながら、己の生前について語り始めた。

 

 

「……オレは元々、反骨心で動いていただけの殺人者だった。親父を看取ってもらった村人を苦しめたジョンとかいう王が気に食わなかったから倒してやろうって思っただけのな」

 

「……」

 

「でもさ、オレ一人で軍隊を相手取るなんて、到底無理だった訳よ。数が圧倒的に違った……だから、全部を欺いた」

 

 

降り注ぐ矢の雨。それら全てには毒が塗られている。

現在のマシュに対毒スキルは無い。彼女は己の中からギャラハッドを既に排除していたから。

 

 

「全部を欺いたさ。全部。当然正体は隠した。誰にもオレの顔は見せなかった。村人にもだ……当然、面と向かっての感謝なんてありえなかった」

 

 

その結果の宝具が顔のない王(ノーフェイス・メイキング)。未だにそれは発動し続け、マシュは極度の緊張の中のまま。そして彼女の隣のネロは、軽く頭痛を覚えていた。

 

 

「ぐ……毒が回り始めたか? そっちは大丈夫かマスター?」

 

「ええ、まあ……」

 

「ならいいが……気を付けるがよいぞ」

 

「ええ……」

 

「……欺くと言えば戦い方もだな。まあ知っているだろうが、オレのやり方は奇襲奇策に特化している。当たり前だがそれも生前からだ」

 

 

毒の空間を跳ね回るロビンフッド。その戦い方は騎士道には程遠い卑しいものであり、その戦い方はロビンフッド本人すら好んでいた訳ではなく。

 

 

「軍隊を相手に戦うなら正攻法なんてまずありえねぇ……待ち伏せでちくちくと数を減らし、食事に毒を盛って殺す。『せめて戦場で死なせてくれ』なんて言われたこともあったが……無視して殺した」

 

「……」

 

「いいか? アンタの行く道は地獄だ。感謝なんてまずありえねぇ。これから殺す人々に泣きつかれても蹴り飛ばし、彼らの唯一の望みすらも踏みにじる。それがアンタの行く道だ。……耐えられるか?」

 

「っ……そのくらい、勉強済みです!!」

 

 

マシュはそう言った。冷や汗を垂らしていた。ロビンフッドは姿を隠したまま畳み掛ける。

 

 

「……本当にそうか? ……アンタは、殺せるのか? 自分の前で、家族を思って大人げなく涙する父親を? もしくは、夢が叶わないと察して絶望する若者を? アンタの場合は、基本的に皆殺しだ。さっきは、せめて記録を残す、と言っていたが……それだけで、お前は罪滅ぼしを満足出来るのか?」

 

「……」

 

「どうなんだ? お前は皆殺しにして耐えられるか? 無念は無いのか? 満足なのか? ……いつまで信念を曲げずにいられる?」

 

「ぐ、う……私は、絶対……!!」フラッ

 

「っ、膝をつくなマスター!! とにかくあれを下せばいいのだろう?」

 

 

マシュは一瞬目眩を覚えた。彼女は恐らく毒のせいだと思った。

ネロが慌ててマシュを激する。彼女の腕を掴んで再び立たせ、そして剣を見えないロビンフッドに向ける。

 

 

「なら……全方位焼き払うまで!! ちょっと後々の反動が厳しいけどまあ許してもらいたいのである!! 誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

 

その上で、強引に宝具を転回し空間全てを攻撃した。

フィールドが燃え上がる。否応なしに攻撃をくらい転がるロビンフッドは、さらにそこに追撃が加えられて一気に劣勢に追い込まれた。

 

 

「ぐ……」

 

「そこっ!!」

 

   

そしてさらに畳み掛けようとマシュがエクスカリバーを構えて踏み込む。ロビンフッドは懐から二本の短刀を取り出して受け止めるが、勢いの前には押されぎみで。

 

 

   ガンッ

 

「ぐ、ぐ……」

 

「があっ……!!」

 

「……もう少し耐えてくれマスター!! かなりきついが、第二波を……!!」

 

 

そしてその後ろで、息を切らしながらネロが宝具の充填を進めていた。ロビンフッドが爆発四散する未来は遠くない。

 

 

「チクショウ……何か、手は……!!」

 

「ここで、斬る!!」

 

   グググググ

 

「があっ……!!」

 

    (「すべての毒あるもの、)    (害あるものを絶ち、)    (我が力の限り、)    (人々の幸福を導かん……!!」)

「……ん? 何か言ったかマスター?」

 

「いえ、何も……!!」

 

   グググググ

 

「がはあっ……くっ……!!」

 

 

ロビンフッドの肩にエクスカリバーがめり込む。どうしようもなく、剣の重みが違っていた。

 

……しかしマシュは目の前の敵に執心する余り気づいていなかった。乱入してきた新たな敵に。

 

 

我は全て毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

   ズダァンッ

 

「うぉあ!? 劇場が木っ端微塵に!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「ぅおああっ!? ……おいおい、毒まで消えちまった!!」

 

「っ……この声は、まさか……!!」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  三試合目、バーサーカー・小陸軍省》

 

 

その声の方向を見てみれば。第五特異点でマシュを激励して去ったナイチンゲールが立っていた。

 

 

「ナイチンゲール……さん……」

 

「……貴女は病気に侵されていると、以前言いましたが。言いましたが……貴女、全く治す気ありませんでしたね!?」

 

 

その顔は怒りに震えていた。握り拳を作った彼女は、全速力でマシュに殴りかかる。

 

 

「はあっ!!」ブンッ

 

   グシャッ

 

「くっ……」

 

「今の貴女は、例えるならばそう、病に望んで感染し、苦しんで苦しんで……勝手に自分で抗体を作り上げて適応してしまった状態です!!」

 

「それならそれでいいだろう……?」

 

「いいや、違う!! 本来病は人の体にいるべきではないもの、病を排除するのが看護師です!! 故に!!」

 

 

そこから始まったラッシュ。その拳はマシュの鳩尾の最も防御の薄い部分を何度も抉るように殴り付ける。マシュは耐えきれずに後方に転がっていく。ネロは仕留めきれなかったロビンフッドを押さえ込むのに精一杯だ。

 

 

「いいですか、世界の崩壊を止めるなんて、一人で背負い込むべきではなかったのです。正気の沙汰ではありません、絶望的すぎる!! ……狂うしかありません。かつての私のように、今の貴女のように」

 

「狂ってる自覚なんて、十分にありますよ……!!」

 

「ええ、でもその自覚は本来不用なもの!! 努力をする必要はあった、でも重荷を背負う必要はなかったのです!! 磐石の体制を整えたとしても兵士は死に、病人は生まれてくる……だから、もう少し、気楽に決めても良かったのに!!」

 

 

ナイチンゲールの目は最大まで見開かれていた。対するマシュはおかしな所を痛め付けられたのか、片目から血涙を流す。

互いに涙目だった。そして互いに攻撃の手は休めなかった。マシュはエクスカリバーでナイチンゲールを袈裟斬りに切りつけ、ナイチンゲールはマシュの関節を逆方向にねじ曲げる。

 

 

「無理をしなければ救えないものがあるんです!! 貴女がかつて無理に無理を重ね寝たきりになってでも兵士たちを救ったように、私は精神が死んだとしても人を救い続けたい!!」

 

「それがいけないと言っているのです!!」

 

「貴女が言うなぁっ!!」

 

「っ……!!」

 

 

マシュはエクスカリバーを大きく振り抜いた。その光は緑から青緑に変化し、マシュの腕まで光で包み込む。

 

 

「私は、人々の明日を守るんです。誰かを殺したら過ちの連鎖を絶対に断ち切る、亡くした者の信念を次に繋げる、その上で人々の明日を守るんです!! そしてその果てに、人理を救うんです……!!」

 

「……私の嫌いなものは、治療を拒否する患者です。貴女の信念は正しいが病んでいる。だから私が、全力で切り落とす……!!」

 

 

ナイチンゲールが迎え撃つように姿勢を低くした。短距離の陸上選手のような、獲物を見つけた獣のような、そんな体勢。……向こうもこの一撃に全力を籠めるのだろう。

そして二人は同時に攻撃をしかける。

 

 

「はああああああああああっ!!」ダッ

 

「擬似展開・約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   ズバァンッ

 

 

……マシュがエクスカリバーから展開したものは、巨大な刃だった。我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)に勝るとも劣らぬサイズの刃だった。

そしてそれは、飛び蹴りを行ったナイチンゲールを空間から消し飛ばし、さらに直線上にいたロビンフッドまで両断して……

 

 

「……」スッ

 

「……分かりました。私の負け、ですね」

 

 

……マシュは再生したナイチンゲールの首筋にエクスカリバーを突き付け、降参させた。

 

それは勝利の宣言であり対話の拒否。

 

……彼女は、最早かつてのマシュ・キリエライトではない。英霊との会話も、己の信念に障るなら切り捨てよう、そんな考えになっていた。

 

 

「では仕方ありません。私はここで敗退しましょう……ですが忘れないで。私は貴女の治療を諦めた訳ではない……私が治療の機会を見つけ次第、私は貴女に緊急治療を施します。良いですね?」

 

「……良いでしょう。……もし、誰かを救うときに貴女が必要になったなら、貴女を頼らせて貰います」

 

「……では」

 

 

ナイチンゲールは未練がましい目をしていたが、マシュに背を向けてその場から失せた。ロビンフッドの方もネロに止めを刺されたのか退却していく。

 

マシュは全身の力が勝手に抜けていくのを感じた。否応なくその場にへたりこみ、空を見上げる。どこまでも白いガシャット内部の空を。

隣にネロも倒れていた。宝具を使った無理が祟ったのだろう、暫くは戦えそうにない。

 

 

「……次も勝ちましょう。全員に勝ちましょう」

 

「ああ……そうだ、な。だがマスター……余は、疲れた……後でまた手伝う、少し休ませろ……」

 

 

そこまで言ってネロはマシュの中に戻った。

彼女は非常に無防備だった。

 

そこに、四人目の敵がやって来る。

 

 

「……マシュ・キリエライト」

 

「っ……貴方、は……」

 

「……今は休め。起きるまで、私は待とう」

 

「……ランス、ロッ……ト……」 

 

 

そうしてマシュの意識は深く深く、どこまでも落ちていって──




マテリアル3

人間は誰しも、行動に大きな目的と小さな目的を必要とする。例えば、大きな目的が『偉大な発明をしたい』なら小さな目的に『そのためにまずは金を稼ぎたい』が来るように。
……本来のマシュの場合は大きな目的が『人理を守る』であり、小さな目的に『だからまずは大切な先輩を守る』になっていた。
……マシュ・オルタに、守りたい先輩なんていなかった。


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幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負③

 

 

 

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  第四試合 セイバー・湖の騎士》

 

 

「……んっ……」

 

「……起きたか、マシュ」

 

 

マシュはやはり、白い空間の中で目を覚ました。枕元にはランスロットが傍らに剣を突き立てて静かに座っている。

マシュは起き上がり、しかし無防備なランスロットに斬りかかるのも何か気が引けて、ランスロットの前に座り直した。

 

 

「……私は戦うつもりはない。いや、君が望むのならそれはそれだが」

 

「いえ、別に……でも、どうして?」

 

「一つ質問があるだけだからな、態々剣を取るなど」

 

 

ランスロットはそう言う。剣に手をかける素振りは微塵もない。

どうやら騙し討ちではないのだろう。マシュは耳を少しだけ傾ける。まあ、いつでも斬りかかれるようにはしているが。

 

 

「……君に何があったかは何も問うまい……先程言った通り、私が聞きたいことはただ一つ。魔術王を倒して人理を救ったあと、君は、何がしたい?」

 

「っ……!?」

 

「君の理想は尊いものだ。……私はその美しさを知っている。そしてその美しさの果てにある悲しみを。だからこそ、君の未来が見たい」

 

 

ランスロットの口から出たのは、予想外の言葉だった。

人理修復の、その後。マシュは考えていなかったこと。

 

マシュの中にあったのは、人理を救うという命題だけだった。自分はもう、その為のプログラムになったのだ。それは後悔などするわけがないし、自分にはそれだけでいい。そう思っていた。

 

だが……ああ、人理修復を終えた後。

マシュにはそれが遠すぎて、全く現実味が沸かない。

 

 

「……魔術王を倒せたなら。私は、次の人理の敵を討ちに行きましょう。次の敵を討てたなら、その次を。そしてまた、その次を」

 

 

だからそう言った。それだけが彼女の価値だから。彼女自身が人理を救う、マシュ・キリエライトはそれしか望まない。

ランスロットは唇を噛んでいた。そして下を見つめ……再びマシュの目を見る。

 

 

「……これは、私の記憶だが」

 

「……」

 

「……ある少女がいた。少女は王になった。その王は、国よりも人を愛した……そして人を守るために、己の人間性を封印した。……君と同じだ」

 

「それは……その、少女は……」

 

「王の心は人々には伝わらなかった。誰も王を理解してやれなかった。……そして、一人の騎士がこう言って出奔した……『王は、人の心が分からない』と」

 

 

彼が語るものは過去。彼が抱えるものは悔恨。

ランスロットは裏切りの騎士だ。苦悩に溺れ、王を裏切り、彼女の死の遠因となったものだ。

 

 

「王はそれでも、城の中で孤立しても人を愛した。……自分は誰にも、愛されないまま。誰かが彼女を救わなければならなかったのに」

 

「その王と……私が、同じ?」

 

「ええ……かつての私は彼女を救わなければならないと思っていた。なのに、己の苦悩に溺れて狂ってしまった。……私は過ちを悔いている。裁かれたいと思っている。そして……もう同じ過ちをしたくない。だから、私は君を、何としてでも救いたい」

 

 

そして彼は、己の生前を悔いていた。そして、過ちを繰り返したくない、とも考えていた。

だからこそ彼は語る。

 

 

「……私は……私は……」

 

「……私が察するに、君は人理修復後にもすぐに戻る必要はない。少なくとも君が限界していられる限り、君は守護者として働く必要はないはずなんだ。だから……だから聞きたい」

 

 

……マシュには、彼の言葉に答えられるだけの、未来がなかった。

 

 

「何で、何でそんなことを……」

 

「……教えてくれ。君は……」

 

 

ランスロットはそう聞いて……

 

……そこで突然剣を抜き、背後に振り抜こうとした。

 

 

我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)っっ!!」

 

   ズシャッ

 

「が、あがぁっ……!?」

 

 

しかし間に合わなかった。ランスロットは突然現れたモードレッドに肩から背中にかけて深く深く傷を入れられ、たまらずその場に膝をつく。

 

 

「ぬかったなランスロット。鉄の戒め!!」

 

   ジャラジャラジャラジャラ ググググ

 

「がああああっ!!」

 

 

その上で、黒い鎖で頭蓋を締め上げられ、砕け散るようにその場に消えた。

しかも、彼は戻ってこない。ブーディカやナイチンゲールはすぐに再生したのに。

 

 

「……ランスロッ、ト……」

 

「……彼は暫くは戻るまい。そうあるように鎖を調整している」

 

「と、言うわけで……さあ、次はテメェの番だ!! オレはテメェは心底気に食わねぇ……円卓の騎士すら捨てた……盾ヤロウを切り捨てた……父上の誇りを蔑ろにした、テメェが死ぬほど気に食わねぇ!!」

 

 

ランスロットのいた場所を踏みつけて、モードレッドがマシュに迫る。マシュは素早くそこから飛び退き、戦闘体制をとった。

 

 

「っ……」

 

「……我々は対話など不用だ。ひたすらに貴様を潰そう。潰そう。我々は相容れるつもりはない、力が欲しければ……力付くで捻り潰せ!!」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  五・六試合目 

  セイバー・暴走する剣

  バーサーカー・鉄の戒め》

 

 

「……はあっ!!」

 

「甘イんだよ!!」

 

   ガキンッ

 

 

エクスカリバーを抜いたマシュが、モードレッドに斬りかかる。

……しかし彼女は、ランスロットの死で否応なしに動揺していた。力の入りきっていないエクスカリバーはクラレントに受け止められ、地面に押し付けられた上で、アグラヴェインに奪われる。

 

 

「……これは回収する。貴様が我が王の剣を使うなど反吐が出るほどおぞましい」

 

「当然だな!! 父上の剣使うなんておこがましいにも程があるぜ!!」

 

「っ……!! それならっ!!」

 

 

ガンド銃を構え、数発を放つマシュ。しかしそれらは易々とクラレントに砕かれ霧散する。

 

 

「なら……これを!!」

 

「ほう、あのルールブレイカーか。だが……その程度の短剣で何が出来る?」

 

 

次にマシュが取り出したのはルールブレイカー。しかしそのリーチは、モードレッドにら遠く及ばない。

彼女は飛んでいた鉄の戒めを斬り伏せながらモードレッドに近づこうとするが、その前に相手は充填を終えていて。

 

 

「さあ、砕け散れ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

「っ……!!」

 

   カッ

 

 

赤雷がマシュの視界を多い尽くした。マシュは咄嗟に眼前で腕を組み、防御の体制をとる。……しかし吹き飛ばされた。当然だ、力で敵う訳がない。

 

 

「きゃあっ……!!」

 

「ハッ!! ざまあねぇな!! ……アグラヴェイン!!」

 

「分かっている」

 

 

そしてマシュは、鉄の戒めに縛り上げられた。アグラヴェインが彼女に近づいていき、奪い取ったエクスカリバーを振り上げる。

 

 

「今度こそ終わりだ。死ね」

 

「っ……」

 

 

「それはさせないぞ、アグラヴェイン」

 

   ガンッ

 

 

それを防いだのは、蘇ったランスロットだった。彼はアグラヴェインを蹴り飛ばし、エクスカリバーを奪い取り、マシュの鎖を叩き斬る。

 

 

「ランスロット!! テメェ、出てくるのが早すぎるぞ!! おいアグラヴェインどういうことだ!!」

 

「チッ……思った以上に抵抗されたらしいな。だが、まあ。また倒せばそれだけだろう?」

 

 

怒鳴るモードレッド、舌打ちするアグラヴェイン。ランスロットは彼らを警戒しながら、マシュにエクスカリバーを返還する。

 

 

「……さあ、終わらせるぞマシュ。ここで君が終わるのは、私が悲しい」

 

「……ええ、行きましょう」

 

 

そして二人は、同時に剣を振り抜く。マシュのエクスカリバーは、青緑から深い青に変色していた。

 

 

縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)!!」

 

「擬似展開・約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

……青の二本の光が、モードレッドとアグラヴェインを消し飛ばした。彼らは直ぐ様元に戻るが、それでも体の自由が効かない状態で。

 

 

「まだだ……まだ、私たちは立ち上がる……」

 

「ナメんなよ……?」

 

「何度でも相手をしよう……!! いけるな、マシュ?」

 

「ええ……!! 徹底的にっ!!」

 

 

両者再び睨み合う。全員がその剣を敵に向けて、再び一斉に走り出そうとし……

 

 

 

 

 

「止めてください、皆さん」

 

 

「っ!?」

 

「その声……父上!!」

 

 

……制止がかけられた。声のした方を見てみれば、セイバーのアルトリア・ペンドラゴンと、その傍らに立つ盾を持った騎士。

 

 

「もうその試合は終わりました。次は私たちの番です……行けますね、()()()()()()

 

「……はい、何時でも」

 

 

「ちぇっ……じゃあ、負けを認めてやるよ。帰るぞアグラヴェイン。ランスロットもだ、父上を煩わせていいなんてことは無いだろ?」

 

「……了解した」

 

「……マシュ。私は一先ず消えるが、君の未来については、一度しっかりと考えてほしい」

 

 

円卓の騎士三人はそうして空間から消え失せた。

マシュの前に立つのはアルトリアと、己が切り捨てたギャラハッドの残りカス。

 

マシュはエクスカリバーを握り直した。彼女の聖剣の深い青の光が輝きを増し、段々と明るい色に変化していく。

 

 

「……もう回復は十分ですよね、ネロさん?」

 

「うむ!! ……では、行くぞマスター?」

 

「……ええ!!」

 

 

そして彼女は、再び体内から呼び出したネロと共に並び立ち、眼前に存在する最後の試練に立ち向かう。

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  七・八試合目

  セイバー・騎士達の王

  シールダー・棄てられた者》




マテリアル4

守りたい先輩のなかった彼女は、小さな目的にも人理修復を当てはめる他なかった。それはつまり、ごく個人的な感情で世界を救うということ。……人間の身に余る行い。
彼女はその小さな体で、全人類を守る盾になろうとした。そして、どうしようもなく歪んでしまった。


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幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負④


シリアル名乗ってるのが流石に違和感出てきた
タグ消そう(決心)


 

 

 

 

「……では」

 

 

アルトリアがそう言うと同時に、彼女を中心に風が吹いた。金色のエクスカリバーが輝きを増す。

そして次の瞬間には、彼女はマシュの眼前で剣を振り上げていた。

 

 

   ガキンッ

 

「速いっ……!!」

 

「……はあっ!!」

 

   ブワッ

 

「ッ!?」

 

 

一度剣を交えるだけで吹き飛ばされるマシュ。真に聖剣を己の物としているアルトリアは、マシュとは段違いの強さだった。

マシュと入れ違うように飛び出したネロも、アルトリアの剣戟に押され気味で。

 

そして立ち上がったマシュは、ギャラハッドに道を塞がれていた。

 

 

「……貴方が、ギャラハッド」

 

「……ええ。こうして面と向かって話すのは久し振り……いえ、初めてかもしれませんね」

 

「……ですね」

 

 

ギャラハッドの姿は、かつてのマシュの様だった。薄いピンクブロンドの色の片目を隠す髪、黒い鎧……それは、マシュに棄てられた残りカスだからだろうか。

そして、彼の持つ円卓の盾は継ぎ接ぎだらけだった。壊れた幻想(ブロークンファンタズム)発動の影響だろう。

 

 

「……貴方は後悔していますか? 私の命を繋いだことを」

 

「……」

 

 

マシュはそう聞いていた。自分の決断は正しいと思っているが、それはそれとして……自分が切り捨てた(ギャラハッド)は自分に裏切られたと思っていてもおかしくない、きっと怨んでいるだろう。そう思っていた。

 

 

「……私の命は、貴方によって繋げられました。今私がここに立っているのは、貴方のおかげ……ありがとう。ですが……私の前に立つのなら」

 

「……貴女は強い人だ。貴女は尊い人だ。私が貴女に未来を託したことは間違っていなかった、私は今でもそう思っています。……でも、私はやはり、後悔していないわけではない。貴女に人類の未来を背負わせてしまった。そしてその結果、貴女は……」

 

 

ギャラハッドはそう呟く。その手は震えていた。

以前ベディヴィエールはギャラハッドのことを、強き騎士や堅き騎士、猛き騎士の集う円卓において武を誇らず、精神の在り方を示した騎士と評していた。そして、それが本来の自分の根幹になっていたのだろうとも。

 

少しだけ寂しく思った。でもその思いに蓋をして、マシュは明るくなっていく聖剣を握りしめる。

 

 

「……貴女は悪くありません。勝手に貴女に託し、勝手に貴女に清くあれと望んだ私が貴女を糾する権利はありません」

 

「……私は貴方に救われた。それでも、この命は私のものです。歩くのは私の未来です。故に……私は行きます」

 

 

そして、マシュはギャラハッドの円卓に斬りかかった。ギャラハッドはその剣を弾き、勢いのままにマシュを突き飛ばす。それでもマシュは飛び上がり、ギャラハッドを責め立てる……そんな構図が作られていく。

 

 

 

「……マスターも頑張っている故な、余も簡単には負けられぬ」

 

「私も彼女の努力は見てきました。だからこそ、彼女に話がしたいのです。風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

   ブワッ

 

 

その横で、アルトリアとネロが斬り結んでいた。しかしネロの方が押され気味なのに変わりはなく、既にネロは傷だらけだ。

 

 

「……む。体の、限界が近いか……」

 

 

その上、彼女の体はブレ始めていた。バグスターとしての体に異常が出始めたということなのだろう。

 

 

「……これは、よくない。実によくない……むう、仕方がない。余はまた少しだけ休む。すまないなマスター」

 

 

そしてネロは、再びマシュの中に戻っていく。

 

 

 

「……お疲れ様ですネロさん。ハアッ!!」

 

「フンッ!!」

 

   ガンッ ガキンッガキンッ ズガンッ

 

 

マシュとギャラハッドはやはり戦っていた。

盾がマシュの胴を捉え、剣がギャラハッドの腕を削り、盾がマシュの頭蓋を打ち、剣がギャラハッドの足を抉る。

そんな戦いが続いていた。

 

 

「……やりますね、マシュ」

 

「これまでの旅で、強くなりましたから。ハアッ!!」

 

   ガキンッ ガンズガンッ

 

 

それは高速だった。ともすれば、光速にすら迫っていたかもしれない。そんな二人の戦いのなかに、アルトリアが強引に割り込む。

 

 

「……一度下がって下さい、ギャラハッド」

 

「……分かりました」

 

 

ギャラハッドに割り込むように乱入したアルトリアが、マシュに剣を向けた。そして言う。

 

 

「……私は。ある男を知っています。かつて大災害で自分だけ生き残り、それに大きな責任を感じ、そして正義の味方になってみせようと世界に魂を売った守護者(エミヤ シロウ)を。……彼は、何人もの人を殺す掃除屋として働きました。過ちの種を消し去るために、あらゆる当事者を殺戮しました。そして、絶望しました」

 

 

……それは、マシュがこれから歩むかもしれない未来。マシュは、優しすぎる……アルトリアはそう思っていた。

 

 

「マシュ・キリエライト。……守護者になる他に、手段はなかったのですか? 他にも、守護者にならずとも黎斗に抵抗する手だてがあった筈です。だから……」

 

「だったら……だったら!! だったら私は!! どうすればよかったんですか!?」

 

 

……アルトリアの言葉を打ち切るようにしてマシュは叫んだ。そう叫んだ。残された力の限り。何故なら、いまさら諦めることなんて、出来ないから。

 

 

「誰がなんと言おうと!! 私のあのときの無力感は、私のあのときの嘆きは、私のあのときの絶望は、私のあのときの悲しみは、決して嘘なんかじゃなくて!!」

 

「っ……」

 

「マシュ……」

 

この道(守護者)を選んだのは、それが私の光になってくれると、最後の一筋の希望になってくれると、そう思えたから!! ……私のあの思いは間違いじゃない、確かに、真実だったから──!!」

 

 

涙が止めどなく溢れる。腕が熱い。肩が熱い。体が焼けるように熱い。頭が痛い。脚が痛い。全身が軋むように痛い。視界が滲む。嗚咽が漏れる。心が割れそうなくらい辛い。

 

 

「あの涙、あの犠牲、あの痛み、そしてその中で見たあの光!! それらを……私は無駄には出来ない!! だから!!」

 

 

それでも立て。剣を持て。その剣の極光をもって、あらゆる否定を押し潰せ。止まるな。例え血の涙を流そうとも、例え腹を穿たれようとも。決して止まるな。止まるな。止まるな。

マシュの決意は曲がらない。故に、彼女を形作る全ては、人理修復のためだけに動く。

 

 

「私が救う。私が救う。あらゆるモノを私が救う。それが、私が私に見いだした、最後の、最後の!! ……存在価値なんです!!」

 

 

……マシュのエクスカリバーは、カルデアスを思わせる水色に変化しきっていた。その目映い光は、騎士王のエクスカリバーの金の光と並び立つほどの明るさで。

 

 

「……ならば、その思いの正しさを証明しろ!! その願いに先があると示せ!! 貴女の理想が真に正しきものであるならば、この盾を越えてみよ!! 真名、開帳……私は災厄の席に立つ!!」

 

 

ギャラハッドが彼女に張り合うように叫び、その盾を大地に突き立てた。

 

 

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

 

 

城が立つ。それを囲う城壁が立つ。それは本来ならマシュが手に入れるはずだった宝具。清らかな者の手にあるかぎり決して壊れない城壁。

そして相対するマシュが、エクスカリバーを振り上げた。

 

 

「ええ、越えて見せます……!! 私が人理を救うために!!」

 

 

彼女の頭上で輝けるその剣こそは。過去を巡り絶望を知り、その中でもがき苦しんだ少女が、今際の際に掴んだ悲しくも尊き夢―――『人理修復』という名の祈りの結晶。

その意思を高々と掲げ、その信義を貫くと決意し、今、最新の守護者は高らかに、 手に執った奇跡の真名を謳う。 其は――

 

 

完全解放ッ!! 束ねるは人の息吹、流れ行く人理の奔流!! ……打ち砕け!! 約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!

 

 

 

 

 

……その煌めきは、紛れもなく聖なるものだった。 その強さは、アルトリアのものに迫っていた。つまり彼女は、真に聖剣を己の物としていた。

 

彼女から放たれた青、いや、むしろ銀色にも近い光は、キャメロットの城壁に突き刺さり、ひび割れさせ、そして打ち砕いたのだ。

 

……それは、マシュにしか出来ないことだった。

かつては円卓の盾を持ち、現在はエクスカリバーを持ちながらも、円卓の騎士ではなく、己自身がマシュ・キリエライトだと断言した彼女にしか。

 

聖なる光は、不滅の城壁を打ち砕いた。そしてその向こうにいたギャラハッドを消し飛ばした。さらにその向こうにいるアルトリアすらも捉えていた。

 

 

「……貴女の勝ちです、マシュ・キリエライト」

 

 

アルトリアはそう言った。彼女はマシュのエクスカリバーを己のエクスカリバーで相殺していたが、それでも左手に傷を負っていた。

 

 

「……確かに、貴女の言葉にも一理はあった。私たちはただ無責任に憤慨するのではなく、新たな手段を探すべきだった……いや、今から探してみせる」

 

「……」

 

「……待っていてください、マシュ。貴女の道のその先の光は尊いものだ……でも、その他の光だって存在する。貴女にはまだ選択肢がある」

 

「……アルトリアさん」

 

「この勝負は貴女が勝った。でも、もう少し、自分のやりたいこと、自分の未来を、もう一度見直して下さい。……貴女はもう円卓の騎士ではありませんが。私は、私たちは貴女と共にありましょう」

 

 

 

 

 

───

 

「……戻って、来たんですね」

 

 

彼女は、ベッドに寝転がり天井を見上げていた。手に取ったままのガシャットを触ってみれば、ギアの故障は無くなり、スムーズに動くようになっていて。

 

 

「……私の、やりたいこと……」

 

 

時計を見る。時間は、信長と信勝が去ってから殆ど経ってはいなかった。微妙に酒の匂いが残っている。

 

 

「……あ、忘れ物」

 

その酒の方を見てみれば、信長が忘れていったのであろう、バグヴァイザーが置いてあった。

 

 

「やりたいこと……」

 

 

……マシュはそう呟きながら立ち上がった。かなり崩れてしまった外套を羽織なおし、カルデアスのような水色に染まったエクスカリバーを背負って、プロトガシャットギアデュアルBとバグヴァイザーL・D・Vを持って。

 

 

「やりたいこと……」

 

 

そしてマシュは部屋を出る。何をしたいか。彼女の中にまだ自分だけの為の純粋な意思というものがあるのかは彼女自身にもよく分からなかったが、一つだけ、やりたいことがあった。

 

 

「……今こそ」

 

 

約束を果たしに行こう。

 




マテリアル5

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)
ランク:A++ 種別:対城宝具
返せなかった聖剣を受け継いだもの。盾を失ったマシュ・オルタの持つ神造兵器。
人理を乱す者に最大の威力を発揮する剣。彼女の剣はカルデアスと同じ水色に輝き、その全力をもって敵を凪ぎ払う。その果てに己が消滅しようと構わないと言わんばかりに。


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幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負⑤

 

 

 

 

「……黎斗さん」

 

「何だ、マシュ・キリエライト。……君が守護者になってこっちに来たとは驚いたよ。全く」

 

「……白々しい」

 

 

マシュが黎斗の部屋を訪れたとき、彼はプロトタドルクエストと見慣れない緋色のガシャットを接続して新しいガシャットを作っていた。彼にとっては、マシュが甦ったことなど大した驚きでは無いようだった。

マシュはそれに対して失望もせず、彼に近づきその目を見る。

 

 

「……黎斗さん。約束を果たしに来ました」

 

「……そんな話もあったな」

 

 

それだけ言って、黎斗は溜め息を吐きながらゆっくりと椅子から立った。そして懐から取り出したゲーマドライバーを装着する。

 

 

「……君の決断は知っている。君がその力でどこまで辿り着いたのか、見せてもらおう」

 

「言われずとも……!! 私の、やりたいこと……やりたいことは、ここにある!!」

 

『ガッチョーン』

 

 

マシュは黎斗を見つめながら、腰にバグヴァイザーを装着する。そして、プロトガシャットギアデュアルBを、()()()()()()()()起動した。

 

 

『Britain warriors!!』

 

 

……酷くくすんだ銀色だったガシャットギアデュアルは、マシュが電源を入れると共にカルデアスのような水色を帯び、輝く銀色に変色した。そしてそれを、彼女はバグヴァイザーのスロットに装填する。

……黎斗が満足げに口角を少し上げていた。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「……それは大きな負担を体にかけるぞ、マシュ・キリエライト?」

 

『チューン ブリテンウォーリアーズ』

 

「リスクは重々承知です……それでも!! 私は……変身する!!」

 

『マザル アァップ』

 

 

その音と共に、マシュの眼前にナイツゲーマーとキャノンゲーマーの姿が映し出された。そしてそれらは一つになり、輝きを放ちながらマシュを飲み込む。

 

 

『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

……マザルアップ。その声の通り、シールダーはガシャットギアデュアル使用時の二つの姿が混ざったような状態だった。

 

右手にはエクスカリバーが変形したガシャコンカリバー。右腕は鎧の黒い鎖が巻き付いて鎖帷子のようになり、肩にはマントがついている。左側の腰にはルールブレイカーや幾らかのナイフが並び、左足の鎧にもまた鎖が巻き付いていた。

左手首には、何かの噴出口のような穴が空いていた。左の腕には銃口が並び、肩には一つの砲門すらあった。右の腰にはガンド銃やボックスピストルが並び、足首には車輪がついていた。

 

まさしく、混ざっていた。マシュは、ガシャット内のブリテンの英霊達の力を、己のものとしていた。

そのことに黎斗は笑う。静かに笑う。

 

 

「……良いだろう」

 

『マイティ アクション NEXT!!』

 

「……変身」

 

 

そしてかれも、己のガシャットで以て変身した。そして、シールダーと距離をとる。

 

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

「では……戦闘を始めよう」

 

『ステージ セレクト!!』

 

 

ゲンムがキメワザスロットを操作し、マイルームからあの工場へと移動した。

……シールダーにとっては忘れもしない、かつてプロトマイティアクションXでマシュを一方的に痛め付けたあの工場だ。

 

 

『ガシャコン ブレイカー!!』

 

 

そしてゲンムは、あの時のようにガシャコンブレイカーを剣状態にして構えた。

しかし、かつて一方的に倒されていたシールダーも、あの時よりずっと強くなった。二人は同時に大地を蹴り──

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  最終戦 仮面ライダー・ゲンム》

 

 

「……はあっ!!」

 

「フンッ!!」

 

   ズガンッ

 

 

初激。二人の剣は交差し、それだけで工場が衝撃で破壊される。二人は数秒鍔競りあい、シールダーが強引にゲンムを押し込む形で攻撃を開始する。

一歩。踏み込んだ瞬間から、シールダーは切り札を切った。

 

 

「行きますっ!!」

 

『Noble phantasm』

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!! 縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード!!)

 

   ガンッ ガンッ ガンガンガンッ

 

 

宝具名を唱えると共に、ガシャコンカリバーが青く煌めく焔を纏った。シールダーはその剣で何度もガシャコンブレイカーを斬りつけ、その末に破壊する。

後退し続けながら、ゲンムは笑っていた。

 

 

   グシャッ

 

「宝具の合成かァ……アハァ……面白い、面白いぞマシュ・キリエライトォ……」

 

「余裕持っていられるのは今のうちですっ!!」

 

『Noble phantasm』

 

燦然と輝く王剣(クラレント)!! 無毀なる湖光(アロンダイト)!!」

 

 

宝具を連発するシールダー。それだけの無茶に体が耐えられる道理はなく、シールダーのライフはジワジワと減っていく。

しかしゲンムは武器を失ってなお、そしてライフが三分の一程度になってなお、まだまだ余裕が残っていた。それを示すように、彼はマイティアクションNEXTのギアに手をかける。

 

 

「だがぁ……まだまだだぁっ!!」

 

   ガコンッ

 

『N=X!!』

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

デンジャラスゾンビがゲーマドライバーに装填され、彼は黒い障気と共にレベルXになった。……そして形勢は逆転する。

 

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

「行くぞ……」

 

   ガキンッ

 

 

鎌にしたガシャコンスパローを構えたゲンムが一瞬でシールダーに肉薄し、今度は彼がシールダーを押し込むようにしながら連続攻撃を加え始めた。鋭い刃がシールダーの体を痛め付ける。

 

 

「ふふ……ハハハハハハハハハ!!」

 

   ザンッ ザンッ

 

「ぐっ……」

 

『Noble phantasm』

 

約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!!」

 

 

しかも、宝具でも歯が立たない。光弾がゲンムを撃ち抜いても、ライフは全く動かない。それがデンジャラスゾンビの特殊な在り方がもたらす無敵。

そして彼は勢いのままに工場の壁にシールダーを押し付け、その胸元を蹴りつけた状態で、必殺技を発動した。

 

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

「っ……!!」

 

   グシャッ

 

 

 

 

 

……シールダーは、工場の壁ごと蹴り破られ、破壊された。

 

 

「っ……く……」

 

   ドサッ

 

『Game over』

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

高笑いするゲンム。彼は変身を解くのも忘れて笑い続けた……それだけ愉快だったのだ。マシュ・キリエライトの歩んだ運命が。そして、その結果を産み出した己の才能が。

……だから。

彼は、油断していた。

 

 

 

 

 

『マッスル化!!』

 

「……そこぉっ!!」

 

   ズバァッ

 

「ガッ……!?」

 

 

……何者かが、ゲンムの背中を両断した。

両断したのだ。ゲンムの動くことのなかったライフゲージが一気に減少する。それは本来あり得ない出来事だった。

 

 

「な……」

 

   ズバッズバッ

 

 

さらに二度。同じ点を執拗に抉る、殺意すら感じる剣閃。

ゲンムは後ろに誰が立っているかを確認し……消滅する。

 

いや、誰が立っているかなど、十分に分かっていた。

 

 

『Game over』

 

「……」

 

「……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

 

地面から伸びてきた紫の土管。ゲンムはそこから再び現れる。それがコンティニュー。ゲンムの得た新たな命。

そして……同じくコンティニューを可能にした存在が、ゲンムの前に立っていて。

 

 

「やるじゃぁないかマシュ・キリエライトォ……」

 

「……それは、まあ。やりますよ、私も」

 

 

……倒したはずのマシュだった。彼女が、手に持ったエクスカリバーでゲンムを背中から襲ったのだ。

 

 

「……迷いなく私を不意討ちにしたなァ……だが甘い!! このマイティアクションNEXTにはコンティニュー機能が搭載されていてね。私の残りライフは38から一つ減って……」

 

 

そう言いながら黎斗は己の残機を確認し……目を見開いた。

 

そこにあったものは『36』の数字。そしてそれは『35』に変化する。

残りライフ、35。

 

 

「何故減った? ……そうか、君を召喚したからか!!」

 

 

一瞬首を傾げたゲンムは、マシュと自分がライフを共有しているということを察する。

しかし、まだ疑問は残っていて。

 

 

「だがまだ不可解だ……何故君が私の、デンジャラスゾンビの防御を打ち破れたのか、そして、何故倒したはずの君が戻ってきているのか!!」

 

「……忘れましたか? 黎斗さんも存外、アタマ緩いんですね」

 

「……」

 

『高速化!!』

 

 

マシュは高速化のメダルを回収して、一瞬で先程マシュ自身が倒された場所に移動した。そして、落ちているバグヴァイザーとガシャットギアデュアルを拾い上げる。

 

 

「私はアラヤの守護者になりました。つまり星の安全装置、カウンターガーディアン。……それと同時に私はサーヴァントになりました。つまりこのカルデア、そして特異点と名付けられたエリアはそのまま私というサーヴァントを喚ぶ最高の触媒となる!! ……つまり私は、人理が危機にあるのなら、何度でも現れる!!」

 

「……!!」

 

 

そう。それがマシュの最大の切り札。

マシュ・キリエライトはカルデアで生まれカルデアで育ち、そして特異点を巡ったサーヴァント。

つまりカルデアは、そしてあらゆる特異点は、アルトリアで言えばイギリスであり、ラーマで言えばインドであり、信長で言えば日本……つまり、最も縁がある土地なのだ。

 

そしてマシュは守護者だ。守護者は星の危機に合わせて呼び出される。マシュに意欲がある限り、彼女は何度でも一度呼び出された縁を利用して、カルデアの召喚システムに割り込み勝手に現れるのだ。

……それは別の言い方をすればつまり、ゲンムとライフを共有しているとも言える訳だった。

 

 

「さらに!! 貴方が私を倒した時点で、抑止力は貴方を脅威と認定した!! 人理修復が優先される現在は貴方の警戒は後回しですが……それはそれとして、私は貴方を上回ることが可能な状態で呼び出される!!」

 

「つまり、防御を無視した攻撃という訳か……!!」

 

 

守護者のシステムは、人類を守るためのもの。脅威の排除が出来ないなんて状況が起こってはならない。故に、マシュは脅威を排除できるだけの力を持って、再びカルデアに現れたのだ。

今回(デンジャラスゾンビ)の対策は、ゾンビの防御を無視した攻撃だった。デンジャラスゾンビの防御はゲームオーバー時の一時的な無敵を引き伸ばしたもの。つまり、防御を無視した攻撃は決まる。

 

 

「……まだまだ行きます、私の思いはこんなものじゃない!! 変身!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Britain warriors!!』

 

『マザル アァップ』

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

再びマシュは変身する。……彼女がダメージも厭わず宝具を連発していたのは、反動で死んでも復活できるから。そして彼女はシールダーとなり、ガシャコンカリバーを構えゲンムに突撃していった。

 

 

「はあっ!!」

 

「ぶぅんっ!!」

 

   ガキンッ ガキンッ

 

 

火花が散る。火花が散る。刃と刃とが擦れあい熱を発する。

やはりゲンムは強かった。このままでは埒があかない……マシュはそう判断し、攻撃に変化を加える。

 

 

『Noble phantasm』

 

暗黒霧都(ザ・ミスト)!! 絢爛なりし灰燼世界(ディメンション オブ スチーム)!!」

 

 

彼女はガシャコンカリバーを操作し、全身から勢いよく蒸気と酸性の霧を噴射した。

そして彼女はエナジーアイテムを取得しながら霧に紛れて、さらにゲンムを追撃する。

 

 

『マッスル化!!』

 

「はあっ!!」

 

   ザンッ ザンザンッ ズバッ

 

「ぐうっ……」

 

 

……ゲンムのライフは半分ほどになっていた。シールダーのライフもまた、半分ほどになっていた。

二人は互いの顔を確認し、素早く飛び退いて距離をとる。そして、互いの最大出力を出さんと身構えた。

 

 

『Noble phantasm』

 

約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!! 黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!! 約束する(エクスカリバー)──」

 

 

   ガコンッ ガコンッ カンッ

 

「五秒で終わらせる……!!」

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

 

黄金に輝くゲンム。

数多の光と弾を纏って白銀に輝くエクスカリバー。

 

そして二つは交わりはじめて──

 

 

 

 

 

『そこまでだっ!!』

 

「ッ……ドクター!?」

 

 

……そこに、ロマンが通信を入れた。モニター越しに見る彼は、明らかに青ざめていた。

 

 

『これ以上戦うな!! カルデアの魔力と電力を使い潰すつもりかい!? これ以上戦ったら今後のレイシフトが不可能になるぞ!!』

 

「ぅう……」

 

「……仕方ないか」

 

 

そこで二人は攻撃を止めた。やむを得なかった。ここで人類が詰んでしまったら意味がない。

 

 

『ガッシューン』

 

「……ゲームは中断だ、マシュ・キリエライト。……君の決断は面白かったよ」

 

『ガッシューン』

 

「……今に余裕なんてなくなりますよ」

 

 

しぶしぶ変身を解いた二人。彼らは黎斗のマイルームに戻ってきていて。

そしてマシュは黎斗に背を向け、少しだけ満足そうにマイルームを出ていった。

 




マテリアル6

彼女は世界と契約し守護者となった。自らの死後を犠牲に無限のコンティニュー権を得た。
彼女の目的は、最早人類の未来を見ることではない。ただ妄信的に人類を守り続けることだ。己が助けた人の感謝の言葉すらも省みず、彼女は次の戦場へ赴く。それはもう人間の汚点を見たくないが為。
それでも、もしマスターが正しい『先輩』であれたならば、その時には、もしかすれば──


幕間の物語をクリアしました


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檀黎斗のガシャットデータファイル

今回は、リクエストされたのでガシャットの設定の総纏めです。ここ纏められてない!! ってのを見つけたら教えてください。
リクエストされたら番外編として加えられるか考えるので、思い付いたら気軽にメッセージください


「……キリがついたな。ナーサリー、暫く席を外す。待っていろ」

 

 

マシュと戦った次の日。レイシフトの予定もなく、他にすることも無かったので黎斗の作業に付き合っていたナーサリーは、一人パソコンの前に残されることになった。

目の前には緋色のガシャット……そろそろ完成するらしい。隣には空っぽのガシャットがもう一つある。同じシリーズなのだろうか。

 

 

「……ふぁー……暇ねぇ」

 

 

……彼女は一つ欠伸をした。こんなときには手慰みにマスターへ紅茶でも入れてみようかとも思うが、生憎そのための道具はロマンに貸し出している。

つまり、彼女はここに来てもすることが無かった。

 

いや。することが無いというか、することを自粛していた。

彼女自身にはやりたいことがあったのだ。

……黎斗のパソコンのガサ入れである。

 

 

「……ちょっとだけ。ちょっとだけなら、良いわよね……?」

 

 

ナーサリーは知っている。男は()()()()()をベッドの下に隠すと。信長から教わった。

しかし黎斗の下には埃一つ無かった。棚の隙間、机の裏、どこを見ても見つからない。

……いや、黎斗に()()()()欲が無いことは、あの監獄塔の時から何となく知っていた、というか察してはいたが、彼女はマスターの秘密を全く知らないということが不満だった。

 

だからこそ、この機会にパソコンを弄っているのだ。

 

 

「ちょっとなら許してくれる……許してくれるわ……?」カチカチ

 

 

キーボードを叩けば文字が踊る。マウスを動かしてみればカーソルはぐるぐると回転し、秘密のファイルをこじ開ける。

数秒待たされてからファイルが開き、大画面に黎斗の顔のアップが表示された。

 

 

『パスワードを入力しろぉっ!!』

 

「はいはい9610」カチカチ

 

『アハァ……正解だぁ……』

 

 

その声と共に黎斗の顔が遠ざかる。ナーサリーはこの時間を非常に焦れったく思っていた。マウスカーソルが再び回り……そして、画面に土管が写される。

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

『もう一つ入力だぁっ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!』

 

「分かってるわよ……9610っ……と」カチカチ

 

『フフ……君は水晶のような人だ……君ほど騙しやすい人はいない!! ブァーハハハハ!! ハーハハハハ!!』

 

「えっ、違うの!?」

 

 

惰性で考えもせずに打ち込んだ9610がパスワードでは無かったことに驚愕するナーサリー。まさか、まさか黎斗にそんな工夫をすることがあるなんて。そう思いながら彼女は首を捻る。

 

 

「じゃあ……0169?」

 

『正解だぁ……!!』

 

 

……しかしあっさり開いた。恐る恐る試しに打ち込んでみたら開いた。考える時間すらあまりいらなかった。

 

今度はもう土管は出てこない。ファイルは無抵抗に表示される。チカチカ光る画面に、檀黎斗の大事なデータが写し出された。

 

 

「ふふー、何があるのかしら……?」

 

───

 

檀黎斗のガシャットデータファイル

 

 

マイティアクションNEXT

 

……仮面ライダーゲンムの最新の変身用ガシャットとして試しに製作したガシャット。基本はマイティオリジンと同型だが、対サーヴァント用の調整や強化が施してある。

ガシャットのサイズは通常と同じだが、右側に少し競りだしたギアを弄ることでレベルの代入が可能。ただし、左側のスロットに入れたら右のスロットにガシャットを入れることが出来なくなってしまう。また、レベルの代入をせずにガシャットの二本差しを行うとバグが発生する。要改善。

 

レベルN

 

身長:205cm

体重:97kg

パンチ力:20t

キック力:31t

ジャンプ力:ひと跳び50m

走力:100mを3秒

 

……何も代入していない状態。所謂、基本フォームにあたる。この状態だと普通のサーヴァントとは渡り合えても、最高級のサーヴァント相手だと手間取ると思われる。

その対応として、ギアを変更してNにレベルを代入することでフォームチェンジが可能。

 

 

レベル0

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:48t

キック力:51t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒

 

……レベル0は無の力を持つ。武器が触れ合っているだけでの相手の戦闘力(機動力、攻撃力、防御力、思考速度、反射速度)を奪っていくことが出来る。

上記の特殊能力の代わりに、攻撃力は低め。要改善。現状は、頃合いを見てレベルを変更することが望ましい。

 

 

レベルⅠ

 

身長:181cm

体重:137kg

パンチ力:15t

キック力:29t

ジャンプ力:ひと跳び40m

走力:100mを5.2秒

 

……レベルⅠは分離の力を持つ。第六特異点でオジマンディアスをアモン・ラーから切り離したように、サーヴァントと混ざった異物も一撃で分離させる。

図体が大きくなり機動力、戦闘力が格段に落ちている。代わりに防御力は少し上がったがあまり過信は出来ない。レベルⅠの役目が終わり次第レベルの変更が望ましい。

 

 

レベルⅡ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:86t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び88m

走力:100mを1.6秒

 

……レベルⅡは基本の力を持つ。体のバランスが最も取れている状態であり、装備なしの殴り合いなら他よりも一段上を行くことが可能。

しかし、レベルⅩもあるため恐らく出番はあまり無い。場合によってはこのデータは消去し、別のシステムを組み込むことも視野に入れるべきか? 要検討。

 

 

レベルⅢ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:86t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び88m

走力:100mを1.6秒

 

……レベルⅢは発展の力を持つ。攻撃力も防御力も機動力も、基本的にはレベルⅡと変わらないが、マイティアクションNEXTが追加で纏ったゲーマを進化させるため、結果的に大きくパワーアップしている。

マシュ・キリエライトを相手する場合はこの携帯が最も扱いやすいか。要検討。

 

 

レベルⅤ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:96t

キック力:98t

ジャンプ力:ひと跳び98m

走力:100mを0.961秒

 

……レベルⅤは暴走の力を持つ。プロトドラゴナイトハンターZを使用し、飛行能力や炎を吐くことが可能。容量に余裕があれば協力プレイ機能も加えたかったが断念した。

場合によってはレベルⅩすら凌ぐパワーを発揮することもあるが、時折操作系統にバグが起こることがある。要改善。

 

 

レベルⅩ

 

身長:205cm

体重:115.5kg

パンチ力:96.1t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒

 

……デンジャラスゾンビを使用した姿。防御面で無敵になり、ライフの減少という現象が起こらなくなる。理論としては、ゲームオーバー時の一時的な無敵を永遠に引き伸ばしている。

この防御を打ち破れるのはマシュ・キリエライト、そして恐らく山の翁とビースト位だろう。今後どう展開するかは要検討。場合によってはそのままか? これ以上の機能を望む場合は、容量に空きを作るために何かを切り捨てなければならない。

 

 

レベル∞ (無敵モード)

 

……理論上相手の攻撃のダメージを無限に減少させていき、己の攻撃のダメージを無限に増加させていくため、強さに上限はない。恐らく宝具でも傷は負わない。ただし容量の都合上5秒しか持たない。マシュ・キリエライトがこの能力に対抗手段を得るかは不明。得た場合は対策を急務とする。

一度の変身につき一度しか使えない、使うと性能が少し落ちる、使う度にガシャットを調整しなければならない、等の欠点もある。要改善。

正直やり過ぎたと思っている。この状況ならまだしも、ゲームバランスの崩壊はゲームにとってはあまり良くない。今後に応用が効くように、要改善。

 

 

ブリテンウォーリアーズ

 

……マシュ・キリエライト用に、ブリテンの英霊を自動で回収するように調整したガシャット。ナイツゲーマーとキャノンゲーマーの二面が存在する。収容する英霊の数、そして彼らが使い手に協力するかどうかで変身時の強さに変動あり。

ガシャットに自由意思が生まれてしまった失敗例。このせいで、マシュ以外はこのガシャットを使えない。

 

 

A面 Millions of cannon

レベル50

 

身長 160cm

体重 56㎏

パンチ力 未設定

キック力 56t

100メートル走 2秒 (車輪使用時)

 

……両腕、両肩に大砲を装備し、足元の車輪や全身から吹き出す蒸気で移動することが出来る。早い話が動く砲台。大人数を相手取る乱戦に強いように設定した。

中のサーヴァントの影響か、腰に矢やピストルもあるが、手が大砲であるため持つことが出来ない。要改善。

 

 

B面 Knight among knights

レベル50

 

身長 160cm

体重 51㎏

パンチ力 43t

キック力 58t

100メートル走 4秒

 

……ガシャコンカリバーを得物とする、肩のマントや腰のナイフが特徴的な姿。こちらはA面に対して、一対一での少人数の戦闘で強いようにしてある。

ガシャコンカリバーを介して宝具の使用が可能。元々ガシャコンカリバーの存在は予定していなかったため、ガシャット内のサーヴァントがガシャットに介入したと思われる。

 

 

レベル100

 

身長:166cm

体重:58kg

パンチ力:96.1t

キック力:96.1t

ジャンプ力:ひと跳び96.1m

走力:100mを0.961秒 (車輪使用時)

 

……ブリテンウォーリアーズをギアを回さずにバグヴァイザーL・D・Vに装填して変身した姿。両面のゲームの特性を併せ持つ。ガシャコンカリバーを介してガシャット内の英霊の全宝具が恐らく使用可能。

サーヴァントが影響しているのだろう、ゲンムのスペックに追い付いてきている。しかしそれらも常に捨て身で戦うからこそという危ういバランスの上に成り立っているため、実際の戦力としてはもう少し下げた性能で戦うと思われる。

コンティニューが可能。また、自分を倒した相手への強みを復活する度に得て限界すると思われる。

 

 

ガシャコンバグヴァイザーL・D・V

 

身長 不定

体重 不定

パンチ力 20t

キック力 20t

100メートル走 6秒

※使用者による変動あり

 

……レオナルド・ダ・ヴィンチが勝手に製造したバグヴァイザーの改造版。ガシャットの二本差しや、三色のボタンによる多彩な攻撃が可能。ほぼ全てのサーヴァントが扱えるという汎用性もある。

ただしラーマとシータが使えない。ダブルドライバーのデータを使って新作を作ってみるのはどうだろうか。要検討。

 

 

 

現在の新作候補

 

ニンニン忍者(仮)

 

……ずっと前にアイデアと設計プログラムだけ書いて封印していた物を取り出してみる案。特殊機能として分──

 

───

 

「……ふむふむ」カチカチ

 

 

「……何をしている、ナーサリー・ライムゥ……」

 

「きゃあっ!? ま、マスター!! べ、べべ別に私は何も……」

 

 

画面に夢中になっていたナーサリーが気配に気づいて振り向いた時には、黎斗が距離僅か1cmのところまで顔を近づけてきていた。慌てたナーサリーは椅子から転げ落ち、頭を机の角にぶつけて呻く。

 

 

   ゴチン

 

「うぅ……」

 

「無粋な真似は止めた方がいい。いや、君のキャラクターには価値があるが、それはそれとして神のデータを覗くのはネタバレになるぞ?」

 

「……はーい」

 

 

黎斗はまたパソコンを何度か叩いてから、緋色のガシャットを引き抜いた。『タドルファンタジー』と表示してある。

 

 

「ようやく完成した……未完成のデータしか無かったが、一先ず安心だな……」

 

「次は、隣のガシャット?」

 

「ああ。……『バンバンシミュレーションズ』だ。何、私の才能をもってすれば、どちらもそう時間はかかるまい……!!」




やはり社長は神


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最後の準備

   コポコポコポ……

 

「……はい、まだ熱いかもしれないけど」

 

 

ロマンはマシュの部屋で、ナーサリーに教わったように紅茶を淹れて、そしてマシュに差し出してみた。

マシュはベッドに腰かけたままゆっくりとそれを口に運び、少しだけ飲む。口に含み飲み下す様は、ロマンにはやはり普通の人間にしか見えなかった。

 

 

「ありがとうございます……これ、美味しいですね」

 

「まあ、ボクも少しは勉強したからね」

 

 

微笑む二人。しかしロマンはもどかしさを抱えたままで。

 

それを、その話題を切り出すのは躊躇われた。とても。その話題は、マシュを不愉快にさせるか、もしくは戸惑わせるか……どちらかを引き起こすのは確かだったから。

それでも、ロマンは。平気で死んでいき、蘇ってまた死にに行く彼女を見過ごすことは、出来ないのだ。

 

 

「……ねえ、マシュ」

 

「何ですか、ドクター?」

 

「……君は、本当に……本当に、今の自分を後悔していないのかい?」

 

「ええ……ドクターが私のことを覚えていてくれる限り、私は絶対に後悔しませんとも」

 

 

そう笑うマシュ。少しだけ誇らしげにも見えた。きっと、ロマンを信用しているのだろう。自分が覚えられている限り、カルデアとの縁は決して途切れない、と。

ああ、笑い顔は変わらない──そんなことを思えば、ロマンの目尻は少しだけ濡れていた。ロマンはそれを隠そうとしたが、隠しきることは出来ず。

 

 

「……ドクター? なんで泣いて……」

 

「あ、いや、別に……め、目にゴミでも入ったかな?」

 

「……」

 

 

上を見上げた。マシュの困惑のこもった視線を浴びながら。……誤魔化しなんて効かないと、彼は十分分かっていた。

 

分かっていた。マシュはもう守護者になってしまったこと。人理が修復された暁には、彼女は全世界の滅びの要因の元に赴いては当事者を皆殺しにし、また滅びの要因に赴き、殺し、赴いては殺戮する……そんな生活を送るのだと。

 

分かっていた。彼女はそれを何の苦痛にも思いはしないと。自分が人理を救う、という、ようやく見つけた自分の夢に向かって、干からびるまで走り続けるのだと。

 

分かっていた。彼女が守護者という道を選んだ要因の一つは、『死んでほしくない』と無責任にも言いはなった自分を納得させるためだと。死んでも復活する命を手に入れて、自分を安心させるためだと。

 

分かっていた。分かっていた。

分かっていたからこそ、余計に苦しかった。

悪いのは、きっと、彼女を支えてやれはしなかった己なのだ。あの時、彼女にもっと強く訴えていたなら……そう思うことが何度もあった。

 

そう思い続けたせいか、夢に別の世界を見ることもあった。

 

マシュが、大好きな『先輩』と出会って、二人で未来を掴む未来があった。そこではマシュは人間として多くを学び、確かに屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

マシュが、あの爆発を生き延びて、サーヴァントと共に人理を救う未来があった。そこではマシュはマスターとして苦悩し、サーヴァント達との交流で答えを見つけ出していた。

 

マシュが、戦う力を失い管制室に残るようになった未来があった。そこではマシュは己の不甲斐なさを噛み締めながら、それでも自分に出来ることの存在を確信して前を向いていた。

 

……これらはきっと、自分の都合のいい夢なのだろう。ロマンはそう思っていた。それでも。あの未来を掴むことも、きっと、出来たのだ。

 

 

でも……でも。

目の前のマシュは、もう、どうにもならないところまで来てしまった。一先ずのエンディングを迎えてしまった。彼女にはもう、人理を救うことしか、残ってはいない。いないのだ。

 

 

「別にドクターは、何も不安に思わなくていいんですよ? 私は、大丈夫ですから」

 

「……君はでも、死んでるじゃないか……!! 君は、昨日も死んだんだぞ!?」

 

 

知らず知らずのうちに、ロマンの語調が強くなり始めていた。しかしマシュは一歩も引くことはなく、ロマンを宥め続ける。

 

 

「いいえ、死んではいません。死んだように見えても、甦ることが確定している以上、私は死を恐れはしませんよ」

 

「っ……」

 

「だから、ほら、泣かないで下さい。ね?」

 

 

マシュが飲み干した紅茶をテーブルに置いて、ロマンの頭を撫でた。優しい手つきだった。

それが尚更悲しくて、ロマンの涙は止まらない。

 

ああ、あるいは、あの始まりの日に戻れたのなら。

あの爆発の日に、いっそ全員で死んでしまえば。

 

……今になってはそのようにすら考える。

それほどに、マシュは痛ましかった。

 

───

 

「姉上、CD売れましたよ!!」

 

「ノブァッ!!」

 

「ノッブー!!」

 

「本当か!? でかした!!」

 

 

それと同じ頃。二体のちびノブを引き連れた信勝が、大量の札を抱えて信長の元に馳せ参じていた。

以前押し付けられた百枚のCD。それら全てを何とか処理し、その代金……合計十万円を信長に渡す。

 

 

「フッフー……わしの歌が人気になってしまったのう!! まあ、是非も無いよね!!」

 

 

信勝から金を受け取った信長はドヤ顔で札を数え、その半分を信勝に差し出した。

それなりのサイズの札を受け取った信勝は、信長がそんなことをするとは思っていなかったらしく首を傾げる。

 

 

「ほれ、バイト代じゃ」

 

「あ……あっ、ありがとうございます……でも、こんなに?」

 

「うむ!! あくまでわしはわしの歌を広めたかっただけじゃからのう!!」

 

 

……信勝は苦笑いしながらその札を懐に入れた。そして信長に背を向け……呼び止められた。

 

 

「それにしても……のう、信勝。マシュのこと、どう思う?」

 

「……」

 

 

信勝も、当然ながらマシュのことを気にしていた。昨日の様子からしてもそうだったが、彼女は、今にも崩れそうな、それでいてずっと残っていそうな、そんな不安定さを抱えていた。

だが。彼女の在り方は、信勝には寧ろ、尊い物に思われた。

 

 

「……僕は、僕は……少しだけ、羨ましいです。彼女には迷いがない。そして己が払うあらゆる犠牲も省みず、その代わりに力を得た。……僕がその覚悟をするのは、今となっては……とても」

 

「そうか。……確かに、彼女は強くなったからな。聞けば、黎斗と互角、いや、むしろ押していたとか」

 

「ええ……いっそ、僕も守護者にでもなってしまいましょうか」

 

 

そう言った言葉に深い意味はなく。苦笑いを崩すことなくそう言った信勝は。

 

 

   ペシッ

 

「……うつけめ」

 

 

信長に抱き締められていた。

困惑して少し暴れてみるが、真に英霊になっている信長には叶わない。

 

 

「……そこまでしなくても、いいのじゃからな? もっと、楽になってもよいのじゃぞ? ……何かあったら、わしに相談せい。一人でもう抱え込むな」

 

「姉上……」

 

 

……結局信勝は信長を振り切ることは出来ず。故に彼は諦め、姉に身を委ねた。

 

───

 

 

 

 

 

『リンク・カルデアス プリーズ!!』

 

「……本当に出来ちゃったよ。魔法の指輪」

 

 

そして。管制室にて、ダ・ヴィンチは晴人を眠らせ、彼につけさせた自作のウィザードリング(作り方は黎斗から教わった)を発動して、カルデアスと晴人の魔力を繋げていた。

 

晴人には、眠っていれば少しずつ魔力が回復するという特性がある。だからこそ、こうしてとんでもない(黎斗)()力喰らい二人(マシュ)のために、地道に魔力を増やす手段になってもらっていたのだ。

 

 

「でも……本当にちょっとずつなんだなぁっ!! うぅ……これじゃあ、第七特異点突入までには彼らのライフは二つ三つ位しか……」

 

 

……そうボヤいたところで、誰かが部屋に入ってきた。誰かと思ってみてみれば、エリザベートだった。

 

 

「子ブタ? 子ブタ~? ……あら、寝てるの?」

 

「寝てるというか、寝かせてるの。話ならまた後でお願いできるかな? 今は試験段階だから、あと五分もしないうちに彼を起こすことは出来るのだけれども」

 

「……そう。じゃ、あと五分位待ってあげるわ」

 

 

そう言って適当な椅子に座るエリザベート。……ダ・ヴィンチは、彼女に聞きたいことがあった。なぜ、晴人について回るのか、だ。

生前のエリザベート・バートリーとは、未来の領主として教育され、己の美しさに溺れ、美少女や美少年を拷問して殺しその血で美しさを保とうとした反英雄だ。その逸話の影響で、吸血鬼のモデルの一つにす、なっている。そんな彼女が……どんなきっかけがあれば、正義の味方と共にあろうと思えるのか。

そう思った彼は、エリザベートにそう聞いた。

 

 

「……なんで、って言われても……そうねぇ……」

 

「まさか、理由がない、なんてことはないだろう?」

 

「そのはずだけど……でも……うーん……何というか、言葉が上手く出てこない、というか……」

 

 

エリザベートの方は首を捻り、考えが纏まらない様子だった。

ダ・ヴィンチはいっそ何か新しく発明して脳内を覗いてやろうかとも思ったが、キャスターやらセイバーならに平気で変貌する彼女の脳内を観測すれば最後、彼女の別人格が機械の体を得て現界とかしてきそうだったので止めることにした。

 

 

「えーと、でも……強いて言うなら」

 

「言うなら?」

 

「……そうしなくちゃいけない、って、頭の中で誰かが言ってるの。人を守るべきだって。……私には、誰かが誰なのかは、さっぱりなんだけど」

 

「……もしかしたら、抑止力なのかもしれない」

 

 

しかし、追加で加えられた条件を考えてみて、ダ・ヴィンチは一つの仮説に辿り着いた。

抑止力。

それはかつてダ・ヴィンチがバグヴァイザーL・D・Vの進化を試みた際に邪魔をしてきたと思われる存在。現在のマシュを送り出している場所。

 

 

「変な干渉しかしてこないなぁ、抑止力……」

 

「……つまり、私が子ブタと一緒に人助けしなきゃいけないって思うのは……」

 

「抑止力、なんじゃあ、ないかなぁ……」

 

 

根拠はほぼ無い。だが、むしろだからこそ。この考えは正しいように思われた。

 

……ちょうどそのタイミングで、五分経ったことを告げるアラームがなった。ダ・ヴィンチは晴人からウィザードリングを取り外し、覚醒させる。

 

 

「ほら、起きて起きて」

 

「あ、う……ああ、ダ・ヴィンチちゃん。俺、どうだった?」

 

「こっちはオッケー。足りなかった部分はまた改良する。晴人くんはどう? 体、痛くない?」

 

「まあ何とかね。……魔力、どのくらい増えるかな」

 

「……どうだか」

 

 

そこまで言って、ダ・ヴィンチは晴人をエリザベートに押し付け、管制室から追い出す。

そして振り向き、光続けるカルデアスを見上げた。

青い、飲み込まれそうな位に青いそれを見つめてみれば、彼の意識はくらっとする。

 

 

「……やれやれ。もう、第七特異点は見つけてあるんだ。早く仕事は済ませないとね」




もう第七特異点かぁ……


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第七特異点 絶対魔獣戦線バビロニア God降臨!!
Deep inside


 

 

「さて、諸君。とうとうこの日がやって来た!!」

 

 

ダ・ヴィンチがカルデアスの前でそう宣言した。マシュが黎斗とタイマンで張り合ったあの日から一週間程経っていた。

 

 

「今回のレイシフト先は、チグリス川とユーフラテス川の恵みによって出来上がった肥沃な三日月地帯に生まれた最古の文明……早い話がメソポタミアだ。人と神が共にあった最後の時代、神代の終わりとも言える」

 

 

そう説明を続けるダ・ヴィンチ。ロマンは何も語らず、黙々と管制室の機器を弄っている。

 

黎斗は既にコフィンの中に入っていた。誰もそれを指摘する人間はいなかった。

 

 

「──と言うわけで。これより、第七特異点の攻略を開始する!!」

 

「……はい!!」

 

 

その声で、サーヴァント達も特異点への移動の準備を開始する。

その中でロマンは、自分のコフィンへと入って行こうとするマシュを呼び止めた。

 

 

「……マシュ」

 

「何ですかドクター?」

 

 

そして。彼はマシュの目を見てやはり目を潤ませ、小さな声で呟いた。

 

 

「絶対に、自殺紛いの行動はしないでくれ。捨て身の攻撃も同じだ。すぐに蘇るとしても……カルデアの魔力には限界があるし、それに……僕が悲しい」

 

「……分かってますよ。心掛けます」

 

「そう言って……結局、必要だと感じたら迷わず死んでいくんだね」

 

「……当然です」

 

 

マシュはゆっくりとロマンを引き剥がした。そして一人、コフィンの中へと入っていく。

それを見送ったロマンは、画面へと向き直った。

 

 

「……レイシフトを開始する」

 

「分かってるよロマニ……何にせよ、これで特異点は最後なんだ、気合い入れていこう。さあ、スタートだ」

 

 

そんな会話をぼんやりと聞きながら、マシュの意識は、闇の中へと落ちていく。

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

「ここが……メソポタミア……ですか……」

 

「……メソポタミアとは、地面が無いのが普通なのか?」

 

「……あ、何で私たち飛んでるの?」

 

「いや、飛んではいないぞ……!!」

 

「つまり……」

 

 

特異点にやって来て早々、一同は顔を見合わせた。そこは何処までも広がる青い空。

しかも上だけにあるわけではない。前にも後ろにも、言い方によっては下にもある。

 

つまり。

 

ここは上空で。

 

やばい。

 

落ちてる。

 

スッゴい落ちてる。

 

 

「「「きゃああああああああ!?」」」

 

 

ナーサリーとエリザベート、そしてシータが絶叫した。

何しろ落ちてる。十メートル程度の話ではない、五百メートルは悠に越えている。やばい。

 

 

「変身……!!」

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『N=Ⅲ!!』

 

『ジェットコーンバッート!!』

 

 

一番落ち着いていた黎斗はゲンムに変身し、コンバットゲーマを身に纏うことで落下死を回避した。こんなところでライフを使っていたら洒落にならない。

ついでにパニックになっていたナーサリーをキャッチしておく。

 

 

 

『ハリケーン ドラゴン!! ビュー!! ビュー!! ビュービュービュビュー!!』

 

『スペシャル プリーズ!!』

 

 

その反対側で、晴人はウィザードのハリケーンドラゴンスタイルに変身しスペシャルの魔法を発動、己に竜の翼を生やすことで落下を免れた。ついでに、いきなり空に投げ出されて翼を出すことも忘れていたエリザベートの首元も掴んでやる。

 

 

「……よっと」ガシッ

 

「きゃう!? ちょ、痛いわよ子ブタぁっ!?」

 

「ああゴメンエリちゃんっ!!」

 

 

 

「ノッブUFO!!」

 

「ノブッ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

「ノブァッ!?」

 

 

そして信勝はノッブUFOを数体呼び出し、自分と姉、あと手近にいたラーマとシータの落下スピードを出来る限り緩めた。……他の面子の飛びかたと比べれば格段にカッコ悪いが、そこは目を閉じることにした。

 

そして、空を飛べなかった面子はと言えば。

 

 

「こうなれば仕方ありません……宝具展開、約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「「「はああああああああ!!」」」

 

   ガガガガガガ

 

 

せめて少しでも落下ダメージを減らそうと、特異点の大地を削ってその反動で落下の衝撃を緩めようと試みていた。

 

 

   ズドォォンッ

 

「……着地、成功っ!!」

 

 

……そしてその試みは成功した。自分達が衝撃で潰れていないことに安堵するマシュの元に、ダ・ヴィンチから報告が入る。

 

 

『……無事かい!? ……無事そうだね。ああ、良かった……たった今分析が終了した。何があったかと言うとだね。妨害が入ったんだ……レイシフト成功直後に、君たちはそこまで飛ばされたんだ!!』

 

「……まさか、魔術王の仕業か?」

 

「いや……この都市自体の力だろう。恐らく結界による強制退去だ」

 

「弾かれた訳ね? でも、誰がそんな結界を……?」

 

 

一同は疑念を抱えていた。スカイダイビングでスタートした特異点攻略なのだ、何が起こっても可笑しくない。しかも檀黎斗(多分パチモンの神)とは違う本物の神がいるらしい……本当に、何が起こっても不思議ではない。

 

 

『何にせよ、今までの特異点同様にウルクにも危険が迫っていると見て間違いない。……実を言うと、魔力の節約の為に、緊急事態以外通信が出来なくなる。皆、まずは慌てず状況を確認するんだ、いいね?』

 

 

そう言われ、彼らは辺りを見回す。

……誰もいなかった。空から謎の集団が大地を破壊しながら降ってきたなら、野次馬の三人か四人は来そうなのに、一人もいなかった。

 

 

「でも、廃墟よ? 何もない……本当に何もない!!」

 

「うむ、確認しようにも人がいなければどうにもならぬのじゃ」

 

「ええ、獣の類いすらいない……」

 

   ドドドドドド

 

「いや……待った。何もない、ということは無さそうだな」

 

 

ゲンムがそう呟いて、廃墟を突き抜ける街道の向こうに、音を立てて蠢くいくらかの影を見やった。

人ではない。そして、少なくとも自分達に協力するつもりはない。そう確信したマシュが前に出て、剣を構える。

 

 

「敵です。敵性反応!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Britain warriors!!』

 

「……変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

変身を終えたシールダーがガシャコンカリバーのトリガーを引くときには、魔獣はすぐそこまで迫っていて。

 

 

「「「Kisyaaaaaaaa!!」」」

 

『Noble phantasm』

 

約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!! 転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!」

 

 

衝突直前で宝具発動。シールダーはガシャコンカリバーを天に投げ上げ、慣性に従い落ちてきたそれをキャッチして辺りを凪ぎ払う。

斥候のような役割だったのであろうそれは、哀れにもシールダーの攻撃に吹き飛ばされた。

さらにそこに、飛び上がったゲンムがマシンガンの雨を降らせる。……結果、敵はもう一溜まりもなく消え失せた。

 

 

「Kisyaa……a……」

 

「……戦闘終了。ですが……初めて見るタイプでしたね」

 

「そうだな。まるで、全く違う生態系の産物……獣人やらドラゴンやらは、自然淘汰されたもの、カイギュウやドードーの同類だが、彼らは違う。始めからいない存在だ」

 

「殺意も感じたしな。憎悪が目に宿っていた」

 

 

消し炭の痕を見ながらそう分析する一行。

……彼らは、特にマシュは既に、これまでの旅で強くなっていた。盾を持ったままでは得られなかった強さで、神代の怪物を一捻りで潰せる程度には。

……それが良いことなのかどうかは、分からないが。

 

 

「……どうやらこの辺りはこの獣が占拠しているらしい。早めに退避するぞ」

 

「……でも、待って。誰か落ちてきてる」

 

「……え?」

 

 

空を見上げる。

少女が落ちてきていた。よく分からない造形の船に乗った少女が、きりもみ回転しながら落ちてきていた。

 

 

「どーいーてぇーっ!?」

 

 

 

「っ、不味い!!」

 

『エキサイト プリーズ!!』

 

 

慌ててウィザードが少女の落下するであろう地点に割って入り、魔法で筋力を増加させて受け止める体勢に入る。衝突まであと一秒。

 

 

   ズドォォンッ

 

「あいたたたた……酷い目にあったわ。まさか、地上から狙撃されるなんて……でも思ったよりダメージは少なかったわね。ラッキー!!」

 

 

そう言いながら元気に起き上がったのはまだ若そうな少女。彼女は立ち上がり……自分の下にいる男の存在に気づく。

 

 

「……ん?」

 

「良かった無事だった……怪我は無かった?」

 

「──キャー!? 変態!? マッチョの変態がいるわぁっ!? でもその頭羨ましい!! エメラルドよねぇっ!?」

 

 

エキサイトしたままのウィザードだった。彼の名誉の為に言っておくが、エキサイトしているのはあくまで筋肉である。更に言えば、この魔法は時間経過で解除されるため、こうして少女を驚かせてしまったのは故意ではないのだ。

 

 

『どうしたんだい!? こ、この反応はちょっとどころかかなりヤバいんだけど!?』

 

 

慌てて通信を入れてくるダ・ヴィンチ。さっきの発言は即取り消しになった。いや、緊急事態だから仕方が無いのだが。

そしてそのヤバい張本人はと言えば、ウィザードを踏みつけてから距離を取り、少し震えながら身構えている。

 

 

「……ふぅ。落ち着きなさい私。優雅、優雅……そこのアナタ。私の肢体に断りもなく触れた全身筋肉の宝石頭。取り合えず、アナタの処罰について考えましょうか。アナタ、どこの市の人間?」

 

「ええと、落ち着いて、よ。話をしないかい?」

 

「話? 私と? 巫女でもない全身筋肉のアナタが?」

 

「うんうん。ほら、俺君の名前知らないし」

 

 

ウィザードが立ち上がりながらそう言った。筋肉は元に戻り始めていた。少女は彼の言葉に絶句する。

 

 

「──は? アナタ、私を知らないって本気で言ってるの?」

 

「まあ、さっきこの時代にきたばかりだし……」

 

 

……彼は変身を解き、自分達がカルデアという機関から来て、特異点を修復するのが目的だと簡潔に伝えた。ウィザードが変身を解いた際に少女が露骨に残念そうな顔をしたことも明記しておく。

 

 

「信じがたい話だけど……まあ、そういうコトもあるってことにしておきましょうか。ええ、その言葉は信じます……つまり、アナタたちは私も、この世界の状況も知らないのね? ……じゃあ、不敬、破廉恥、無礼、見せ筋は仕方ないか。遠い世界の野蛮人なんですものね」

 

「……で、その遠い世界の野蛮人に、この世界について教えてくれたりしない? 俺達、何も知らないのだけれど」

 

「この時代の事が知りたい? だったら、自分の足で確かめなさい。私は何も教えないし、むしろアナタたちが教えなさい。……この辺に、何か凄いものが落ちてた、とか!!」

 

「……凄いもの?」

 

 

少女はそう言った。明らかに一行を軽視している様子だった彼女だが、その質問は至って真面目に思えた。余程凄いものを落としたのだろう。

 

 

「凄いものよ。一目見れば分かるタイプだから説明は敢えてしないわ。で、覚えはある?」

 

「全く」

 

「……」

 

 

しかし説明されなければ心当たりなどある筈もない。首を振る一行に少女をあからさまにため息をつく。

 

 

「会話は結構だが……魔獣が増え始めたぞ?」

 

 

……アヴェンジャーがそう忠告した時には、いつの間にか、先程の魔獣より二回り程大きな魔獣の大群に一行は包囲されていた。少女は晴人から離れてよく分からないしくみの船に跨がり、空へと飛んでいく。

 

 

「先に言うけど、私は助けないわよ?」

 

「分かってるさ」

 

 

残された一行は、迫る魔獣の大群に得物を向けて。

 

───

 

 

 

 

 

「脱出成功、ですね」

 

 

かなり疲れはしたが、魔獣の群れを殲滅した。血塗れの剣を拭って、シールダーは変身を解く。

 

 

「にしても、数種類を倒しましたが全て初めて見る個体でした。やはり生態系が違うと見て間違いないかと」

 

「流石は神代、と言うわけだ」

 

 

「……お見事。お見事です、カルデアの一行」

 

「誰だ!?」

 

 

新しい存在が、突然に現れた。今度は言語を解する魔獣でも現れたかと剣を向けるサーヴァント達に彼は笑う。

 

 

「僕の名前はエルキドゥ。ここで貴方たち人間の到来を待ち続けたもの。地と、新しい人を繋ぎ止める役割を担ったものです」




イシュタルは絶対ウィザードを欲しがる(宝石的な意味で)


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誰の為の力

 

 

 

 

「……待った。何故北に進んでいる? ウルクは南東だが」

 

 

エルキドゥと名乗る現地人……正確には、このエルキドゥがギルガメッシュ叙事詩のエルキドゥならば粘土の兵器だが、どちらにせよ今のところは友好的な彼と合流した一行は、彼に連れられてウルクへと案内して貰っていた。

 

だが、その進行方向は、ウルクが存在している筈の方向とは真逆だった。黎斗が疑念を持った目でエルキドゥに質問する。その声に対してエルキドゥは笑った。

 

 

「短慮はいけませんよ黎斗さん。ここから南東に進むと別の女神の勢力圏に入って……ああ、今の特異点の状況についてお伝えしていませんでしたね」

 

「女神の勢力圏……って、どういうこと?」

 

 

誰からともなく出てきた疑問に、エルキドゥは解説を行う。

この地に現れた『三女神同盟』によって、メソポタミアは土地の六割を奪われたこと。

目的は人類の抹殺であること。

ギリシャ神話から流れてきた最大勢力『魔獣の女神』が、配下の魔獣でウルクの北壁、別名『絶対魔獣戦線バビロニア』を襲っていること。

 

 

「……それでも、空を飛べない私達ではない。強引な突破ぐらいは慣れているとも」

 

「……え?」

 

 

しかしそう聞いて尚、黎斗はそう言ってエルキドゥの進行方向に背を向けた。サーヴァント達も少しばかり戸惑ったが、彼のスタンドプレーにはもう慣れていたため、苦笑いをして黎斗の方に歩き始めた。

 

 

「ああなった時のマスターは言うこと聞いてくれないのよ。困っちゃうわよね? でも、きっと大丈夫だから、貴方も着いてきたら?」

 

「そうだな。彼は自分勝手に見えるかも知れないが、その奥には歴とした考えがある。不安はいらないぞ」

 

 

「……チッ」

 

「エルキドゥ、さん?」

 

 

彼の元に残っていたマシュは、温厚に思えたエルキドゥが舌打ちしたように見えて、これは怒らせたかな、と考える。

……しかしエルキドゥはすぐに笑顔になったため、気のせいだと思おうとした。

 

 

「あ、いや。そう言うなら仕方ない。それなら僕も連れていって貰えないかな? 普通に空を飛ぶのは、どうも苦手で」

 

「ああ、だったら俺が手伝うよ」

 

 

にこやかに助けを求めたエルキドゥに、晴人が右手を差しのべる。その左の指にはハリケーンのリング。腰にもいくつかの指輪が覗いていた。

エルキドゥはその指輪をちらりと見て、呟く。

 

 

 

 

「……なるほどね、分かったとも」

 

 

それと共に。

 

エルキドゥの手から数本の鎖が飛び出し、晴人の脇腹ごと指輪を幾らか打ち砕いた。破片が飛び散り、晴人は堪らず膝をつく。

 

 

   バリバリバリバリッ

 

「ぐはぁっ……!?」

 

「子ブタ!?」

 

「晴人さん!?」

 

 

困惑してエルキドゥを見る一同。しかし彼の姿はもうそこにはなく、黎斗の頭上に移動していて。

 

 

「串刺しだね? 分かるとも!!」

 

   ザザザザザザザザ

 

「マスター!?」

 

 

エルキドゥの手が光に包まれる。その手は黎斗を打ち砕こうとし──

 

 

 

 

 

「……ちょーっと待って貰うよ!!」

 

   ズドンッ

 

「ぐぅっ……!!」

 

 

突然、意識の外から飛んできた太い光線がエルキドゥの体を焼いた。一瞬動きが止まった彼は撃ち落とされ、ここぞとばかりにサーヴァント達が襲いかかる。

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

火柱が上がる。大地が揺れる。岩盤が弾ける。砂煙が辺りを覆い尽くす。

あの、山の翁に黎斗が殺されたときの無念を否応にも思い出したサーヴァント達が、少しの気の緩みもなくエルキドゥを攻撃する。

 

しかし。

 

 

「……ふ、僕としたことがちょっと痛手を食らってしまった」

 

 

……その砂煙の中から大したこともなさそうに出てきたエルキドゥに、一行は困惑した。あり得ない、強すぎる。傷こそあれど、それらもすぐに治っていく。

しかし、エルキドゥはこれ以上の戦闘は止めておく心づもりだったようで、すぐに空へと飛び上がる。逃げるのだろう。

 

 

「まあ、君ら旧人類は精々怯えておくがいいさ!!」

 

   シュッ

 

 

そして、エルキドゥはその場から消え失せた。

エリザベートは慌てて晴人を介抱し、一旦ガシャットに戻す。

その隣で黎斗は、エルキドゥを妨害した光線の撃ちだし手の姿をまじまじと見つめていた。白いローブと大きな杖からして、明らかにキャスターだと思われる彼は、エルキドゥが消え失せたのを確認して話し始める。

 

 

「危なかったね、君たち」

 

「うむ……じゃが、不意討ちじゃったなあ、お主」

 

「まあ、少しばかり心は痛むけど仕方ない。何しろ相手は『三女神同盟』の調停役、全てのウルク民の裏切り者エルキドゥ。アレに殺された戦士は数えきれない」

 

「エルキドゥ……あれは、本人なのか? 本物の、エルキドゥか?」

 

「本人はそう言っているね。性能も申し分ない。まあ、ウルクの人々は偽者だと思いたいようだけど。努々気を付けることだね」

 

 

白いローブの男はそこまで言って、大袈裟に一回転し、黎斗に歩み寄った。ドヤ顔が非常に黎斗に似通っていた。

 

 

「さて、皆さん改めてごきげんよう。お礼の言葉とかどんどん浴びせてくれて構わないよ!!」

 

「……いや、私の神の才能をもってすれば殲滅など容易かったが」

 

「またまたー、マーリンさんに向かってその口の聞き方は無いだろう?」

 

 

自分のドヤ顔と瓜二つのドヤ顔に辟易した様子で唾を吐く黎斗と、さらに煽るローブの男……マーリン。黎斗が拳を握り締めてもマーリンはドヤ顔を崩さない。

そしてそんな二人の隣では、マシュがマーリンという名に驚愕していた。

 

 

「……マーリン? マーリンって、あの?」

 

「あのマーリンがどのマーリンかは知らないけれどアルトリアを王にしたマーリンは私だよ?」

 

「っ!? 何で、サーヴァントに……!?」

 

 

……マーリンとは。アーサー王伝説において、若きアーサーに選定の剣を抜かせた魔術師であり、その後は宮廷魔術師として活躍、最終的には理想郷アヴァロンに幽閉され世界の終わりまで生き続けるよう強制された存在である。

サーヴァント(死者)になっている筈がない。

 

そんな様子を察したのか、彼はドヤ顔で種明かしを開始した。自分はまだ生まれていないためこの時代のアヴァロンには幽閉されていない、つまり死んでいるのと同義だとしてサーヴァントになったのだ、と。

 

やはりその姿は黎斗と似ていた。こちらは割りと爽やかな笑顔ではあったが、それでも黎斗と似ているように思えた。

 

 

「……とにかく。私達と共にウルクまで来てくれますか?」

 

「勿論だとも。着いてきたまえ」

 

 

そう言って歩き始めるマーリン。黎斗は渋々それに着いていき、他の面子もそれに続く。

マーリンは歩行スピードを調節し、マシュの隣で歩くようになっていた。

 

 

「あの、どうしましたか?」

 

「いや、大したことはないさ。ただ、こうなるんだなーって」

 

「……?」

 

 

マーリンの言動に首を傾げるマシュ。マーリンはハハハと小さく笑い、マシュの足下を見た。

 

 

「……こんなときにキャスパリーグ(ビーストⅣ)でもいれば飛びかかって来たんだろうけどね」

 

「……ということは、貴方は、まさかフォウさんの……!?」

 

「そう、キャスパリーグとはかなり変な縁で繋がっていた。私が『美しいものを見てこい』って言って送り出したのだけれど。まさか、倒しちゃうとは、ね」

 

 

マーリンはそう言って空を見上げた。別にその顔には怒りも失望も無かった。というか、半分が夢魔であるマーリンには感情がそもそも乏しかったのだが。

マシュはフォウのいた日々……今となってはとても遠く、とても短かったように覚える小動物との日々を思い返してみた。

 

 

「フォウさん……」

 

 

彼との思い出は、何だっただろうか。最近の記憶が鮮烈な割に、あまり思い出せない。ちぐはぐな記憶の中の彼は、いつも自分を慰めているように思えて。

……彼の遺言を思い出した。『全ての人間に、自由と平和を』……自分は今、それに向かって、しっかりと進めているのだろうか。

 

 

「フォウさん……私は……今、しっかり、出来ていますか?」

 

「……感傷的にしてしまったかな。私は別に大した思いはなかったのだけれど。彼自身、満足して死んだことになっているんだ。ああ、うん」

 

 

マーリンがマシュの顔を見て、そう呟いた。そして思い出したように、何処からともなく一房の毛を取り出す。

 

 

「……そうだ。良いこと思い付いた」

 

「……それは?」

 

「キャスパリーグの毛玉さ。あれは何故か季節ごとに毛が生え代わるとかいう本物のペットみたいな特性があったからね」

 

「はあ……」

 

「これを君に押し付けよう。何しろ、カルデアに設置したマーカーでもあったキャスパリーグが死んでしまったせいで、こちらからは魔力のサポートも出来ない。君が新しいマーカーになるんだよ!!」

 

 

そう言いながらマーリンが杖を翳せば、マシュの胸元に少しだけ隙間が形成されて。マーリンがそこに毛玉を溶かして染み込ませた。

 

 

「そーれ、ここら辺なら弄っても良いんじゃないかなぁ」

 

「これは……」

 

「別に直ぐに君の霊核に何かが起こる、なんてことは……多分ないから安心するといい。ただ私がこうするべきかなー、と思ってやっただけ。これで、カルデアに再び魔力を送ることが出来るようになったからね」

 

 

そう言いながらマーリンはマシュの胸元を撫でる。隙間は閉じられていき、マシュの目は一瞬だけ光ったように見えた。

 

瞬間、何処からともなく現れた少女がマーリンの手を叩き落とす。

 

 

   ペシッ

 

「手つきがやらしいです。無駄に女子に触るのは止してください、この変態」

 

「……これは手厳しい。でもほら、義を見てせざるは何たらかんたらってヤツだ」

 

「……貴女は?」

 

 

少女もまたフード被っていた。武器は鎖のようだ。低身長、紫の髪はどことなく第三特異点のエウリュアレを彷彿させた。

 

 

「こっちの女の子はアナ、やっぱりサーヴァントだ」

 

 

マーリンは軽く彼女を紹介する。曰く、先程までエルキドゥを追跡、監視していたとのこと。

エルキドゥには巻かれてしまったらしかったが、少なくとも安全は確保できていた。

 

 

「で。他にも知りたいことがある」

 

「……何ですか?」

 

 

さらにマーリンはマシュに問う。……彼が間接的に彼女に関わっている点は、フォウだけではない。

 

 

「……君のその聖剣は、私がベディヴィエールに渡したものであっているね?」

 

「……ええ。すみません」

 

「いや、それを使うことが悪いとは言わない。彼も納得の上だし、私は文句を言える立場じゃあない。だが、だからこそ……私は敢えて問おう。マシュ・キリエライト……君は、誰を守りたいんだ?」

 

 

彼女の所持する星の聖剣、エクスカリバー。それは第六特異点でマシュが死にゆくベディヴィエールから託されたもの。最期まで返還はせず、己のものとした宝具。

それはかつてマーリンと共にいた少女が、国の人々を守るために振るった剣。だから、彼は気にしていた。その手の剣で誰を救うのかを、自分の耳で聞きたかった。

 

 

「私は、人理を。この世界にこれまで生きた人々、いつか生きる人々全ての、明日を救いたいんです」

 

「……そうか。……困ったな、全く。やっぱり、アルトリアと同じじゃないか」

 

「……アルトリアさん、ですか」

 

 

マシュは空を見上げた。アルトリア、忘れもしない、あの金の聖剣の持ち主。自分のやりたいこと、自分の未来を見ろと言った彼女は、今ガシャットの中でどうしているのだろうか。

……隣のマーリンはしばらく考え込んでいた様子だったが、暫くして何かを決意したようにマシュに向き直った。

 

 

「私は君の道を止めない。止めるだけの権利はない。でも。せめて、君の征く道が花の旅路であるように、協力はしよう」

 

「それは、つまり……」

 

 

マーリンはそうとだけ言って、マシュの質問には答えずに彼女から離れた。

いつの間にか、ウルクの城門にまでやって来ていた。マーリンが手続きを済ませ、一行を招き入れる。

 

 

「……ようこそ。ここが、ウルクだ」

 




いつの間にか文庫本三冊分位の文字を書いてたことに驚愕している


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何の為の力

 

 

 

ウルクに入って、それから暫くして。

 

 

「さて、追い出されてしまったな」

 

「黎斗さんがろくな挨拶もせずにずっとガシャットを弄っていたからでしょう……? 絶対ギルガメッシュ王怒ってましたけど」

 

 

……ジグラットの中でギルガメッシュに面会しすぐに追い出された一行は、何処となく黎斗に冷たい視線を浴びせながら外に出てきていた。

特に彼らの面会に語ることはない。黎斗は名前だけ言ってガシャットの修理、ギルガメッシュは黎斗を見て若干引いた様子で追い出した、それだけ。

 

 

「マスターも、もう少し言い方があっただろうに……」

 

「……そうか、ただの檀黎斗では印象が薄かったか。いっそ、新檀黎斗とでも名乗ってしまおうか」

 

「……駄目だったか」

 

 

ジークフリートが頭を抱える。分かりきってはいたが、このマスターにコミュニケーションを求めるのは無茶な要望だった。

 

 

「……まあ、私にはよく分かりませんが。取り合えず当面の生活は保証しましょう」

 

「……良いんですか? 貴女からすれば、私たちは訳の分からない異人でしょうに」

 

「良いんですよ。あれでも王は皆さんを気にかけている」

 

 

そう言うのは、先程までギルガメッシュの隣に立っていた補佐役のシドゥリ。どうやらカルデアの一行をサポートしてくれるらしい。

 

 

「……?」

 

「王は貴方たちを不要とは言いましたが、無価値、無意味とは言いませんでした。ですので、王に接近したければ功績を上げるのが近道かと」

 

「では、僕達も魔獣戦線に?」

 

「いえ、それは兵士の仕事です。貴方たちには……そうですね。このウルクで起こっている様々な仕事を見てもらいたいです。何でも屋みたいなものですね。仕事の斡旋はしますので」

 

 

シドゥリはそう言って、彼らを何処かに案内し始めた。一行は特に彼女に逆らう理由もなく、ゆっくりと歩き出す。

マーリンは何処かに行ってしまっていた。結局マシュは、彼の真意を聞き出すことは叶わなかった。

 

───

 

「こちらが、皆さんに提供する宿舎となります。皆さんの人数を鑑みれば少々狭いかもしれませんがね」

 

「元は酒場だったようですね……まさか一軒家をまるまる貸していただけるとは。ありがとうございます、シドゥリさん」

 

「ここがカルデアの大使館になるのね!! 素敵だわ、素敵だわ!?」

 

 

案内されたのは三階建ての、この時代なら十二分に立派な一軒家だった。黎斗はさっさと三階に向かい、ガシャット弄りを継続する。

シドゥリはサーヴァント達が荷物を取り合えず置いたのを見計らって、外から大量の粘土板を取り出す。

 

 

「と、言うわけで。明日こなしてほしい作業の依頼はこれだけですね」

 

   ドサッ ドサドサドサッ

 

轟音を立ててテーブルに置かれたそれは、テーブルの足を少し軋ませるくらいには大量で。

サーヴァント達が思わず一歩後ずさったのを見ているのかは特に確認せず、彼女は粘土板を読み上げ始めた。

 

 

「リマト氏からの羊の毛刈りの依頼、ドゥムジ工房からの麦酒の樽詰の依頼、兵学舎からの武器作成の依頼、レオニダス氏からの兵士の模擬戦の依頼、メルル氏からの仕入れの手伝いの依頼──」

 

「……のう。ちーとばかり、多くはないか? いや、多すぎはしないか!?」

 

「でも、そちらには人手もあるでしょう?」

 

 

特に悪びれずに粘土板を読み上げ続けるシドゥリ。

これは、長い滞在になりそうだ。彼らはそう察した。

 

───

 

 

 

 

 

「ここが……兵学舎ですか」

 

「そのようじゃな。おいそこの、わしじゃ!! カルデアの信長じゃ!!」

 

 

翌日。信長と信勝は、依頼されていた兵学舎へとやって来ていた。受付の兵士に顔を出してみれば、あれよあれよという間に学舎の中に引きずり込まれて作業台に腰掛けさせられる。

 

 

「おお、よく来たな!! 手伝ってくれるのはあんたらか!! じゃあ、よろしく!!」

 

 

隣に座っていた男にそう挨拶され、近くの箱から材料を渡された。

長い木の棒。尖った石。後は縄。それだけだった。

 

 

「やることは……この棒を整えて、これを、縄でつけるんですね?」

 

「おう!! 作業用のヤスリとかは一人一人の席にあるからな。じゃあ、なるべく沢山やってくれよ!! お二人さん!!」

 

 

信勝は辺りを見回した。静かだった。

隣の作業台はすっからかん、二十ほどの空席が見受けられる。兵士は殆どが魔獣戦線に赴いたのだろう。この仕事の人気が無いのかもしれない。

……信勝は立ち上がり、その空席の真ん中に陣取った。

 

 

「これを……こうして……こうする……」ブツブツ

 

「……おい、どうしたんだ?」

 

 

そして、その空の作業台の一部に棒を、一部にヤスリを、一部に縄を、一部に石を置く。並べていく。

元々信勝の隣にいた男が、怪訝そうな顔をした。

 

しかし次の瞬間には。

 

 

「……この作業なら、いけますね……ちびノブ!!」

 

「「「「「ノブ!!」」」」」

 

「「「「「ノッブー!!」」」」」

 

「「「「「ノッブノッブ」」」」」

 

「うおおおっ!? 増えた!?」

 

 

一気に人口密度が増加した。信勝が呼び出したちびノブで埋め尽くされた作業台の真ん中に腰掛けた信勝は、ちびノブ達の座る机ごとにどう作業するかを伝え、武器作りを開始する。

 

 

「いいですね? そこのちびノブは棒を持ってサイズ調節、そことそことそこで削って形を整えて、そことそこのちびノブで縄をかけ、そこで石をくくりつける。で、その隣のちびノブが使えるか確認してください。向こう側の列も同じです。いいですね?」

 

「「「「「「「ノッブー!!」」」」」」」

 

 

一人きりの大工場が唸りを上げる。

 

───

 

「……うぃー、ひっく」

 

「すまない、何故勝手に試飲したんだエリザベート?」

 

 

ドゥムジ工房……ウルクのビール工房では、ジークフリートとエリザベートが酒樽を持ち出す作業に駆られていた。のだが。

 

エリザベートが勝手に酒樽をあけ、少しだけ少しだけと言いながらジョッキ二杯分ほど飲んでいた。

おかしい、彼女は未成年だった気がするが……勘違いだったのだろうか。

ジークフリートはそう考え首を捻りながら酒樽を荷車に積んでいく。

 

 

「えーと、何でかな、あー……ひっく、そうよ!! 私の中のドラゴンが騒いでるのよ!!」

 

「すまない、風評被害は止めてくれないか?」

 

 

エリザベートは何とか言い訳をしてみるが当然通じない。何しろ言い訳をしている相手は同族も同族、ドラゴンである。舞い降りし最強の魔竜である。

 

 

「うぃー……うぃー……」グリグリ

 

「ストッパー……すまない、誰かストッパーはいないか!?」

 

 

しかもどうやら絡むタイプの酒癖だったらしい。エリザベートはジークフリートの背中に肘をぐりぐりする。

残念ながら晴人(ストッパー)はお休みだ。

 

───

 

「さて、今から百人組み手を行いますぞ!!」

 

「「「「「ウォー!!」」」」」

 

 

その頃。東兵舎の方では、マシュとアヴェンジャーが兵士の模擬戦をするため身構えていた。

依頼者であるレオニダス……ギルガメッシュが呼び出したサーヴァントは、新兵達に活を入れて次々に送り出していく。

 

 

「……オレ達は誰も殺してはいけない、というのが難儀だな」

 

「そうですね。ですが、気を抜きすぎるのも失礼ですし」

 

 

マシュがエクスカリバーを抜き、構えた。そして新兵の槍を打ち砕き、そのまま彼女は敵陣に突撃していく。

 

 

「……クハハハ、自ら獣の真似事をするとはな。だが……悪くない。いい洒落だ……全く」

 

 

そして彼女に続くように、アヴェンジャーも炎を纏って突進した。

 

───

 

「羊の毛刈りと言われても……」

 

「ラーマ様、まさか羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)で……?」

 

「いやいやいやいや、僕もそこまで馬鹿じゃあない」

 

 

ラーマとシータはウルク郊外にて、羊の毛刈りの手伝いにやって来ていた。傍目からはデートにしか見えなかった。

 

彼らは襲ってくる魔獣の類いを吹き飛ばしながら、和気藹々ともこもこした羊の毛を刈っていく。

 

 

   ザッ ザッ ザッ   モフッ

 

「これ凄い、凄いモフモフですよラーマ様!!」モフモフ

 

「ああモフモフだな!! 凄いモフモフであるな!!」モフモフ

 

「ブモー……」

 

「……あ、魔獣か。羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!! それにしても……モフモフだな、シータぁ……」

 

 

……何時しか二人は毛を刈るのも忘れて、二人して同じ羊に抱き付きひたすらにモフモフしていた。半径30メートル以内に入ってきた魔獣は、ラーマが宝具で吹き飛ばしていた。

 

 

「モフモフ……」モフモフ

 

「モフモフ……」モフモフ

 

 

「めぇー……」

 

 

笑顔のラーマ(彼氏)。笑顔のシータ(彼女)。凄く迷惑そうな(被害者)

その姿には誰も近寄れない。幸せオーラを前にしては、男も女も接近は気が引ける。

 

その日最も仕事をしなかったのはこの二人だったかもしれない。

 

───

 

 

 

 

 

「イエーイ!! 仕事終わりィ!! 疲れたのう信勝、この後は歓迎の宴会のようだし、早く帰るぞ!!」

 

 

日はもうとっぷりと暮れてしまった。兵学舎の全ての資材を武器に作り替えた信勝は、疲れてテンションがおかしくなり始めた……つまり、何時もとあまり変わらない信長と共に寝床へと戻る。

 

 

「……姉上」

 

「何じゃ?」

 

 

信勝が歩きながら呟いた。彼の顔にはありありと疲労が浮かんでいるが、それと共に笑顔もあった。

 

 

「……何となく、姉上の気持ちが分かるようになってきました。……楽しいんですね、誰かに感謝されるって」

 

「……そうじゃろう? お主も漸く分かってきたか」

 

「……この力は、皆のために使えるものだったんですね。ただ戦うためじゃなくて、その向こうで誰かを幸せにすることが出来る……」

 

「……そういうことだ。ほら、早く行くぞ信勝!!」

 

 

信長はだんだん早歩きになり始めていた。余程空腹なのだろう……サーヴァントだが。

信勝は小さく笑い、姉の後を追っていく。

 

───

 

「それでは、カルデアのウルク就任を祝って、乾杯!!」

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 

そして宴会は始まった。……相変わらず黎斗は三階に立て籠っていたが。結局今日一階に顔を見せた時は一度、それもサーヴァントに誰がいるかを確認しただけだった。

どうやら、マジックザウィザードの他にもいくらか調整しているようだ。何か作るのだろう。

 

 

「……むう。黎斗殿に一献注いでみたかったのだが」

 

「仕事中の人間にあるこーるはよくありませぬぞ義経様。義経様自身もあまり飲み過ぎはいけないと思いますがな」

 

「ええ、酒は飲んでも飲まれるな、ほどほどで行きましょう」

 

 

そう言いながら麦酒を煽っているのは、ギルガメッシュに召喚されたサーヴァント達。それぞれ、ライダー・牛若丸、ランサー・弁慶、アサシン・風魔小太郎。見事に日本に偏っていた。ランサーのレオニダスは、兵学舎から届いた武器の山の仕分けを行っているらしい。

 

 

「これだけのサーヴァントがいれば、このウルクは守れるでしょうか」

 

 

マシュがそう言った。

しかし、油断はならない。聞けば、これ迄にも強力なサーヴァントが倒されているらしい。

 

だからこそ今日は休んで、明日からの戦いに備えよう。全員がそう思っていた。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その二階上、三階の自室にて、黎斗……いや、ゲンムは全くの新作に着手していた。

 

 

「ヴゥ……」バタッ

 

 

彼の姿はデンジャラスゾンビ使用時のもの、つまりマイティアクションNEXTとデンジャラスゾンビの二本差し。

そうまでして彼が現在していることは、かつて棄てたデータの回収と復元。

 

 

「ゥゥゥ……まさか、風魔小太郎がいるとはなぁ……」カタカタカタカタ

 

 

何度も死んで甦ってを繰り返す彼の目には、『ニンニン忍者』の文字が踊る。

ゲンムは笑っていた。

 

その姿を、マーリンは千里眼を駆使して隣の部屋で観察していた。

 

 

「……やっぱりね。私の見立ては正しかった」

 

 

部屋に届く月明かりは冷たくて。マーリンはそれを見上げ、何でもない様子で部屋を出た。

 




初手降参渾身のギャグ回

……やっぱ、ヒロインを闇落ちさせて喜ぶ野郎にギャグは無理だったんだな、って


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疼く衝動、響く鼓動

 

 

 

 

「ちびノブ!! ちびノブを貸しておくれ!!」

 

「ちびノブを一日、一日でいいから!!」

 

「今日も手伝ってくれないかぁっ!?」

 

「アンタの隣のでかいちびノブをお嫁に下さい!!」

 

「ちびノブ!! ちびノブ!!」

 

 

それから数日。武器の製造やら壁の補強やら櫓の建設やらに東奔西走していた信勝とちびノブ達の噂は、ウルク中に広まっていた。

 

ある男は言う、カルデアは多くの人材を持っていると。

ある男は言う、オダノブカツとやらが大量の幼女に労働させていると。

ある女は言う、彼は強力な軍事力を備えていると。

ある女は言う、彼は救世主なのだと。

 

その全ては、ある種の真実を捉えていた。

それはつまり、信勝には需要があるということだった。

だからこそ、カルデア大使館の前には人手不足に喘ぐ人々が押し寄せていたのだ。

 

 

「はいはい一列になって下さいね皆さん、ちびノブにも限りがありますから、ワンセットずつオークションにしていきますよ」

 

「より高い銀を出した物がちびノブを持っていけるぞ!!」

 

 

そしてそんな状況に直面した信勝は、信長に進められるままに長机を用意、オークションを開始した。

 

 

「という訳でまず、ノーマルちびノブ五点セット!! 麦の銀一つから受け付けますよ!!」

 

「俺麦の銀二つ出す!!」

 

「じゃ、じゃあ私は三つ!!」

 

「ええと……五つ!!」

 

 

数人が手をあげる。余程労働力が足りなかったのだろう。

 

 

「はい、じゃあ貴方で。因みに、何に使いますか?」

 

「いやー、この前カルデアから借りたお手伝いが樽は壊すわ麦酒は勝手に飲むわで使えなかったもんだから、彼らに手伝って貰おうと」

 

「なるほど……」

 

 

銀五枚を差し出した、工房のパシリであったのだろう少年は、ホクホクしながらちびノブを引き連れて工房に戻っていく。

ちびノブ一体につき麦の銀一枚……彼女らの価値は確かに存在していて。

 

 

「五つも貰ったら気が引けます。後でビール買いに行きましょうね姉上」ボソッ

 

「是非もないよね!!」ボソッ

 

 

信勝はそう囁いた。

金は回すもの、その価値観は二人の間で相違はなく。

 

 

「さーて、次!! 次はなんと、飛行能力つき、ノッブUFOの三点セット!! これも麦の銀一つから──」

 

 

……しかし。信勝はそので黙り込んだ。信勝だけではない。その場の全員が息を飲んで黙っていた。

無理もない、そこにはギルガメッシュが立っていた。

 

 

「貴方は……」

 

「オークション、か。……あまり過度な競争は市場の激化を生む、控えよ」

 

「うっ……」

 

 

その一声で、ちびノブを求めていた人々は諦めて仕事に戻っていく。

気落ちするのを隠せないー信勝の前にギルガメッシュが立ち、相変わらず冷ややかな目で彼を見ていた。しかし、その目には確かに関心があった。

 

 

「……すまなかったな、オダノブカツ」

 

「……!!」

 

「……カルデアのはあんまりにも無礼だったから思わず追い返してしまったが……中々どうして、面白い奴がいるではないか。で、例のちびノブとやらはあと幾つ出せる?」

 

 

そう問うギルガメッシュ。信勝は後30程度だと言った……ここまで何度も大盤振る舞いしてきたが、それでもそれは本当のことだった。

そも、ちびノブとは信勝自身の(ウィルス)から生み出した、いわば分霊のようなものだ。しかも一度使えば回復に時間がかかる。

 

 

「……そうか。なるほど……王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

「ひいっ!?」

 

 

それを聞いた王は己の倉を開き一本の魔杖を引き抜き、突然のことに腰を抜かした信勝に押し付けた。そして彼は来た道を戻っていく。

 

 

「……これは?」

 

「それがあれば幾らかの助けにはなるだろうよ。精々励めよ? 雑種」

 

───

 

「行くわよアナ!! 今日もメルルさんの所でしょう?」

 

「そうですね、行きましょうかナーサリーさん」

 

 

その十数分後、大使館から出てきたナーサリーとアナは、ちょっとファンシー過ぎる光景を目の当たりにすることとなった。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノノブ」

 

「「「ノブ!!」」」

 

「「「「「ノッブゥ!!」」」」」

 

「やめろ、わしはちびノブじゃない!!」

 

「「「「「ノノノ、ブブブ!!」」」」」

 

 

「わぁ……小さいのが一杯です……」

 

「ガリバー旅行記のようね!! 素敵だわ!!」

 

 

そう。

ウルク民と同じくらいの数のちびノブが、労働者として闊歩していたのだ。タネは至ってシンプル、ギルガメッシュから渡された魔杖である。その杖の力は、大気中のマナを持ち主のエネルギーに変換し供給するもの。そのエネルギーで、信勝は本来の何倍ものちびノブを派遣していた。

 

 

「ふぅ、やっと戻ってこれたのじゃ……大丈夫か信勝? ひっひっふー、ひっひっふー」

 

「恥ずかしいから止めてください姉上……これもかなり慣れてきましたから」

 

「ノッブゥ!!」

 

「ノブ!!」

 

 

次々に生まれてくるちびノブ。ちびノブ。ちびノブ。

……ウルクの人手不足は、彼によって完全に解消された。

 

───

 

 

 

 

 

当然、人手不足が無くなってしまえば、与えられる仕事は一気に減少する。

ちびノブ大量排出の数日後には、シドゥリの案内で単独行動が出来るサーヴァントが再びジッグラトの中に案内されていた。

 

 

「我には時間がない、故に手早く済ませる」

 

「……」

 

「貴様らの所には大量のサーヴァントがいるが。その内、単独行動が出来るのは貴様らだけか?」

 

「うむ。わしとマシュだけじゃな。晴人が復活すればまた別じゃが。もしくは黎斗か」

 

 

待ち構えていたギルガメッシュにそう問われ、特に緊張するでなく述べる信長。ギルガメッシュは少しだけ期待はずれな顔もしたが、それでも不敵な笑みを浮かべていて。

 

 

「黎斗……あの雑種の話はするな。見所が無いとは言わぬが、無礼が過ぎる」

 

「ですよねー」

 

「だが……貴様らでも十分か」

 

 

ギルガメッシュは信長とマシュの体を軽く見てそして頷き、二人に告げた。

 

 

「……もう労働の必要はなくなり始めた。雑務すらなければ、それはそれでつまらぬだろう。貴様らに新たな任務をくれてやる。光栄に思え……貴様らにはウル市に向かってもらおう。愉快な報告を待つ」

 

───

 

 

 

 

 

「ここがウル市への道ですか……帰らずの森となった熱帯雨林なんですよね?」

 

「そうだ。あの森だ……私はもう少しのんびりしたかったが仕方がない」

 

 

ギルガメッシュから受けた王命によってウルへ向かうことになったマシュと信長、そして案内役になったマーリンは、ウルに向かうなら突破しなければならない熱帯雨林を前に絶句していた。

一歩足を踏み入れてみれば、それだけで全身から汗が吹き出す。

 

 

「……暑い……」

 

「うむ……これはバーサーカーにクラスチェンジするべきであるか」

 

 

信長はそう言ってスキルを発動、軍服からクソダサTシャツに着替え、火縄銃をエレキギターに持ち替える。

 

 

「……へぇ、よく出来ているんだね」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ?」

 

 

 

「ふふ、なんだその水着は!! 何のアピールだ!! セクスィー・アッピールなのか!! 私だって脱いだらスゴいんだぞ!!」

 

「っ!? 何かがいます!! 木々の上を高速で動いています!!」

 

「おおっと、多分あれが帰らずの森の番人だね!!」

 

「なら油断は出来ません……変身!!」

 

『Britain warriors!!』

 

『マザル アァップ』

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

信長の水着に反応して、木々の間を高速飛ぶナニか。マシュは警戒心をマックスまで高め、即座に変身する。

 

 

   パァンッ パァンッ

 

「ニャははは、ははははははははは!!」

 

「っ……早い、捉えられない!!」

 

 

ガンド銃では、飛び回るナニかは撃てなかった。トリガーを引いている間にナニかは別の所に行ってしまう。

つまり、相手の動きが速すぎた。無駄に煩い高笑いもあって、ストレスが貯まることこの上ない。

 

 

「仕方ありません、信長さん!!」

 

「うむ、わしに任せよ!! 環境破壊は気持ちいいのじゃあっ!!」

 

   バリバリバリバリ

 

「ニャははははははははは……うおおおっ!?」

 

 

このままでは埒が開かないと見て、木々を飛び回るナニかを地に落とすために信長がギターで周囲の木を斬り倒した。突然足場を失い落下してきたのは……着ぐるみを纏ったようなサーヴァントだった。

 

 

   ドサッ

 

「ぬっ、誰じゃお主は!?」

 

「我が名はジャガーマン、密林の化身にして大いなる戦士たちの具現!! はーい注目ー、ここでキャッチコピー出すわ──」

 

『Noble phantasm』

 

暗黒霧都(ザ・ミスト)!! 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 

落ちてきた着ぐるみのサーヴァント、ジャガーマンが自己紹介を開始した瞬間に、シールダーが宝具を発動する。霧を纏ったその斬撃は寸分なくジャガーマンを捉え、吹き飛ばし……

 

 

   ズシャッ

 

「ニャはあっ……!?」

 

「やったか!?」

 

 

 

   ピョコッ

 

「よしだいたい分かった!! オマエたちコワイ!! 特にキミはとっても恐い子!!」

 

   シュッ

 

「……逃げましたか」

 

 

しかし何事も無かったように立ち上がり、森の中に消えていった。

霧の中で解体聖母(女性特効攻撃)を真正面から受け止めて、である。あの第五特異点でのように弾かれることすらなかった、確実に臓器を捉えていたのにも関わらず、ノーダメージだったのだ。

 

 

「……ふざけた格好だったけど、女性特効宝具を受けて無傷とは末恐ろしい……」

 

「あれはギャグ補正じゃろうなぁ……あれには勝てぬ。むしろ良くわからぬ理由で返り討ちに遭うな。ま、是非もないよネ!!」

 

「もし、この森の向こうに同じような英霊(いきもの)がいたなら……そしたら……」

 

「ハハッ、本格的に不味いだろうね」

 

 

三人はそう分析する。

恐ろしきはギャグ補正、それがあるかぎり、ジャガーマンは倒せないかもしれない──それは非常に厄介だった。

 

だが、何が森の向こうで疼いているのか、進まないことにはそれすらも分からない。彼らは森の奥へとさらに足を踏み入れる。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

「ねえ、まだ晴人治らないの?」

 

「私は他の仕事で忙しい!! そのくらい見れば分かるだろう!?」カタカタ

 

 

その頃。ずっと変身し続け、開発を続けていたゲンムは、エリザベートに集られていた。

彼は作業を邪魔された怒りで数日ぶりに立ち上がり、変身を解いて適当な道具で叩こうとする。

 

しかし。

 

 

『ガッシューン』

 

「君は邪魔を……ウッ!?」

 

   バタッ

 

『Game over』

 

 

変身を解いたのがいけなかった。数日ぶりに立ち上がった彼はエコノミークラス症候群……ずっと座っていたことによって生じた血の塊が血管に詰まったことによって即座に絶命する。

 

 

「え? ……え?」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「え? え? え?」

 

「私のライフは35から……いや、どうやら増えたようだな……私のライフは39から一つ減って、残り38……!!」

 

 

しかしすぐに土管から現れた。ドヤ顔で。

 

エリザベートは塞ぎ込んだ。それは、これまでエリザベートに酷い目に遭わされてきた黎斗にとっては、ちょっとしたストレス解消になっていた。

 

───

 

「いやー、こうしてデートするのも久しぶりだなシータ!!」

 

「そうですねラーマ様!! あ、あそこでご飯食べましょうか」

 

「うむ、僕もそうしようと思っていた!!」

 

 

その頃、仕事も無いカップルはウルクを普通に観光していた。非常に活気のある町並みはとても懐かしくて、それ故に二人はひたすらに幸せだった。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノノブ」

 

 

……その活気の半分はちびノブによる物だったが。それでも活気あることに変わりはない。

 

 

「それにしても、ここまで活気のある市だとは思っていませんでした」

 

「そうだな……ここまで発展しているのも、単にあの王の治世の賜物なのだろうな。……ここで食事したいのだが、店番はいるか?」

 

「ノッブゥ!!」

 

───

 

「櫓も出来た、槍も出来た、兵士の訓練も出来た!! 全く、ちびノブは最高ですな!! しかもあの成りでなかなか筋肉もある!!」

 

「……その通りだな。あれと戦うのはほとほとうんざりする」

 

 

兵学舎にて、レオニダスとアヴェンジャーはそう話していた。……ちびノブはウルクの防衛力を三倍にした、とはレオニダスの弁だ。

もはや、右を見ても左を見ても、上を見てもちびノブで溢れている。

物を作らせてよし、番人をさせてよし、訓練も実践もお手の物……正直信長本人より優秀にさえ思われる彼らは、ウルクの滅びを打ち消すほどで。

 

だからこそ、この状況を危機に感じてもいた。

 

 

「しかし……こうなると、割とすぐに攻め込まれそうな気もして来ますなぁ。これ以上の放置は不味い、と」

 

「……一理ある」

 

 

彼らの予想が当たるかどうかは、まだ分からない。





ビルド×FGOを考えてみたけれどサーヴァントのベストマッチがさっぱり分からなくて断念した


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悔いも戒めも無意味

 

 

 

ウルにたどり着いたマシュ達は、出会った市民からウルの現状を聞くことに成功した。

 

曰く、自分達は魔獣からは守られていると。

曰く、ここは安全だと。

曰く、しかしそれは一日一人の生け贄が条件だと。

曰く、束になっても生け贄を要求する女神は倒せないと。

曰く、だからここにいるしか無いのだと。

 

彼女らのその声は痛ましかった。誰も彼女らを責めることは出来ない。マシュはそう確信する。そして手を差しのべた。

 

 

「でも大丈夫です、遅くなりましたが、私たちがやって来たから大丈夫。早く逃げてしまいましょう」

 

「いいえ、いいえ──ここからは決して出られない、出られないのよ!!」

 

「そんなことはありません!! もう恐怖に怯えて明日を見失う必要は無いんです!!」

 

「いやいやいや!! 死にたくない!! 貴女達はあの悪魔を見ていないからそんな事が言えるのよ!!」

 

 

しかし話に進展は無かった。恐怖に凝り固まってしまったウルの市民達は、ここからの脱出すら恐れていた。

そこに、走る足音が聞こえてくる。

 

 

   タッタッタッタッ

 

「誰か来ました!!」

 

「うむ、あれは……」

 

「ふははははははは!! 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!! ん? 誰も呼んでない? なら運命が呼んでいる!! ジャガーの戦士ジャガーマン、ここに見参!!」

 

 

……例の英霊(いきもの)がまた現れた。しかも大量の獣を引き連れて。

 

 

「貴様らがウルの住人と交流するのは、まあ良いことです。でも連れ出すのは許さニャい。何故ってコイツらジャガーな私の──」

 

「取り合えず倒しましょうか。変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

会話をするのも面倒だと言わんばかりにマシュは変身し、ガシャコンカリバーのトリガーを引く。この間僅かに五秒。

 

 

『Noble phantasm』

 

約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

「え? えええええええええ!?」

 

 

現れた大量の戦車がジャガーマンやそれに連れられてきたキメラを引き潰す。その車輪で虎ミンチを作ってやろうと走り抜く。しかし……それらもジャガーマンに効くことは無くて。

 

 

   ピョコッ

 

「酷いなぁ!! やっぱり君コワイ!! それでも私はデンジャラスかつファビュラスなジャガーマン!! この程度ではビクともせぬ!!」

「くっ……やはりギャグ補正は剥ぎ取れませんか。相手が本気になれば自ずと取れると思っていましたが、そもそも本気になる理由が足りない……」

 

 

シールダーはそう呻いた。その後ろでジャガーマンを分析していたマーリンが彼女に叫ぶ。

 

 

「解析完了!! ジャガーマンは恐らく神霊の類いだ、それも高度の!! 君にある(アルトリア)殺しの逸話を強化すればいざ知らず、今は何ともし難いぞ!!」

 

 

マーリンがそう撤退を促す。……そしてそれを言い終えた直後にあることに気づいた。

 

 

「いや……それなら!! 信長、宝具だ!!」

 

「うむ、分かったのじゃ!! Everybody say!! A・TU・MO・RI!! 第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)!!」

 

 

動いたのは、キメラを纏めて相手していた信長だった。宝具開放、彼女の周囲で炎が燃え上がり、呼び出された骸骨がジャガーマンの顎を捉える。

 

 

「それ皆歌えぃっ!! A・TU・MO・RIィッ!!」

 

   グシャグシャッ

 

「熱盛ィッ!?」

 

 

吹き飛ばされるジャガーマン。とうとう、痛いダメージを与えることに成功した。ギャグ補正すらも塗りつぶすのは流石は対神宝具とだけある……マーリンはそう分析する。

 

しかし、彼らはジャガーマンに集中するあまり、真の女神の接近に気がつかなかった。

 

 

「ふぅ、ふぅ……失礼しました。でももう時間稼ぎは十分ね!! ()()()()()()()!!」

 

「ククルン?」

 

「くくるんとは、何だ? サーヴァントか?」

 

「──まさか!! やられた、皆逃げな──」

 

 

 

 

 

「いくわよ~? トペ・プランチャー!!」

 

「え? わし? え? え?」

 

   グシャッ

 

───

 

「兵学舎より連絡!!」

 

「ウルク北壁より連絡!!」

 

「河畔より連絡!!」

 

 

ギルガメッシュの元には、今日も今日とて大量の連絡が舞い込んでいた。彼は何時ものようにそれらに対応し、当然休む暇は無い。止まっている暇などどこにも無いのだ。

しかしそんな彼でも凍りつくような非常事態が起こっていた。

 

 

   スタッ

 

「──風魔小太郎、ニップルより帰還!! 緊急連絡!!」

 

 

ギルガメッシュの前に次に現れたのは、明日にでも残された人員の救出作戦を行おうと計画していたニップルを視察しに行かせた小太郎だった。傷だらけの彼は息を切らしながら王の前で跪く。

 

 

「どうした!? まさか──」

 

 

ギルガメッシュは息を飲んだ。

最悪の事態が起こったのだと察することは容易だった。

 

 

「……ニップル市、魔獣の群れによって壊滅!! 急遽助けられたのは二十三人、それ以外は連れ去られました!!」

 

「何だと!? まさかこんな早くにやられるとは……それだけ向こうも焦っていたのか」

 

「恐らくは。それに……」

 

 

そこで小太郎は足の包帯を取り、生々しい傷跡を見せる。サーヴァントの体でも暫くはろくに走れないだろう、そう思うくらいには痛々しかった。

 

 

「……手傷を負ったか。まあ二十三人も救ったのだ、仕方あるまい」

 

「申し訳ありません……」

 

───

 

 

 

 

 

「そんな、ことが……」

 

 

ウルでジャガーマンの後に現れた謎の女神に潰されかけて、やっとのことで退却してきたマシュとマーリンは、ギルガメッシュからニップルが落ちたという話を聞いた。

潰されてしまった信長は、信勝の所で休ませている。

 

 

「ええ……すみません、マシュさん……」

 

「いえ……」

 

 

小太郎は足を引きずりながら頭を垂れた。戦力が一つ減ってしまったというのは、このジグラット内では周知のこととなっていた。

 

……しかし。

 

ここは神代、神の現れる空間。

 

ならば、救いの神が現れない道理はなく。

 

 

 

 

 

「え、ちょっ、誰ですか!?」

 

「ああっそこはダメ開けちゃダメ入っちゃダメ!!」

 

「止めろ!! 止めるんだ!! 何としてでも通すな!!」

 

「いやだよぅ」

 

 

突然、廊下の方から見回りの兵士たちの悲鳴が聞こえてきた。

何かが迫ってきている。しかし、誰が?

 

 

「まさか、エルキドゥ……?」

 

「いや、まさか……」

 

 

足音は近づく。息が荒いのが壁越しに伝わってきて。

部屋の扉が乱暴に開かれた。

 

 

「ブゥン!!」

 

   バタンッ

 

「フフフフ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「黎斗さんっ!?」

 

「……誰だ、こいつを通した奴は」

 

 

(黎斗)が現れた。

 

(黎斗)が現れた。

 

ギルガメッシュが青筋をひくつかせる。マシュは愕然としマーリンは頭を抱える。そして小太郎は首を捻った。

彼らを見て黎斗は笑う。笑って……

 

 

「私は誰にも命令されなぁい……何故ならァ……アハァ……私こそが、神だからでゃあ!! ハーハハハハ!! ハーハハウッ……」

 

   バタッ

 

『Game over』

 

 

倒れた。死んだ。

ハイテンションが過ぎて発作でも起こしたのだろうか。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

「フフフフ……フフフフハハハハハハハハ!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハハハハハ!!」

 

 

「……何だと?」

 

「……」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

「私のライフは38からまた一つ減って、残り37……!!」

 

 

「ほう……不快だが、だが……ぬぬぅ……」

 

「私のライフ無駄遣いしないで下さいよ」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

黎斗の死。伸びる土管。黎斗の復活。ライフ減少。

それらは、ギルガメッシュと小太郎には多少刺激が強すぎるもので。

 

そして黎斗は何事も無かったかのように小太郎に近づき、桜色と灰色のガシャット、そして見慣れないドライバーを取り出す。

 

 

「さて……私がここまで来てやったのには当然理由があるぅ……風魔小太郎ぅ!!」

 

「は、はい?」

 

「神の恵みを……受けとれぇぇ!!」グイッ

 

「え?」

 

 

そしてそれらを小太郎に押し付けた。

 

 

「……これは……」

 

 

桜色と灰色の二色のガシャットには、『ストームニンジャー』と名前がつけられていた。小太郎をデフォルメしたようなキャラクターが描かれている。

そしてドライバーは……小太郎は勿論、その場の誰も見たことがない、新型のそれだった。

 

バグヴァイザーを思わせるバックルだけが縦についているシンプルな形状。しかしその根本には仕掛けがあり、右側に傾ける事が出来る……かつて黎斗がWというライダーをストーキングして得た、ロストドライバーのデータを改造したものだった。

 

 

「……なるほど。マーリンめの言葉はこういうことだったか」

 

 

小太郎は未だ不思議そうではあったが、ギルガメッシュは感心したように頷いた。

よく出来ている。実によく出来ている。恐らくあれが、檀黎斗という人間の全てなのだろうと彼は理解していた。

 

そして彼は、ギルガメッシュに対して一言も言うことなく帰っていこうとする黎斗を呼び止める。

 

 

「……待て」

 

「何だ……私に命令するなぁ!!」

 

「……(オレ)の間に無断で入りながら我に対して何も言わず去ろうとする無礼、実に赦しがたい。故に、貴様を軟禁する」

 

「ちょっ、ギルガメッシュ王!?」

 

 

マシュが目を見開いた。

黎斗を軟禁しようとの言葉自体に驚きはない。当然だ。だが……檀黎斗を軟禁なんてしても止められない。

寧ろますます態度は悪くなると思うからこそ、彼女はギルガメッシュを止めようとした。それは無駄な行為だと。しかし次の言葉で彼女は黙ることになる。

 

 

「……貴様は取るに足らん俗物かも知れぬが、貴様の作るものには価値がある。軟禁ではあるが、部屋と設備は十分に都合しよう。というか、我にもガシャットを寄越せ。宝物庫に入れてやらんこともない」

 

「ほう? まあ、神の才能の産物なのだから欲しくもなるかぁ……良いだろう、君の頼みを聞いてやらないこともない」

 

「交渉は成立だな。おい、客室に連れていけ」

 

 

そうして、黎斗は先程悲鳴を上げさせた兵士達に連れられて部屋から出ていく。その顔はやはり笑っていた。

 

 

「良かったのですかギルガメッシュ王? 黎斗さんは簡単に制御は出来ませんし、はっきり言いますと倒すのも難しいのですが……」

 

「分かっている。だがあれは有効利用も出来るからな。そうだろうマーリン?」

 

「うん、そうだね。檀黎斗は本来戦うものではなく、産み出す人間だ。ああ、だからこそ彼は神なんだ。小太郎君、神の恵みを貰った気持ちはどうだい?」

 

「いや、どうだい? と言われましても……」

 

 

ピンと来ない様子で唸る小太郎。……彼の脚の痛みは、引き始めていた。

 

地面が揺れたのは、その瞬間だった。

 

───

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「何よ何よ何よぅ!?」

 

 

大使館で一人寝転がっていたエリザベートは、突然の地響きで飛び起きた。尋常ではない揺れだった。

慌てて外を見てみれば、北壁の辺りにヒビが入っている。そしてその穴から魔獣が流入していた。

 

 

「えっ、ど、どうすれば良いのかしらぁ!?」

 

 

四つ足の獣が市に溢れ始めていた。レオニダスとアヴェンジャーが戦っているのが見える。

 

エリザベートも、ここで籠っている訳には行かないと思った。本当は逃げたかったが……それはマジックザウィザード(晴人)に申し訳が立たない、そう考えた。

だから彼女は黎斗の部屋に飛び込み、バグヴァイザーL・D・Vとプロトタドルクエスト、そして修理中のマジックザウィザードを引っ付かんで窓から飛び出す。

 

───

 

「ぬっ……北の魔獣の女神めが迫ってきているのか。マシュ!! コタロウ!!」

 

「何ですか!!」

 

「我達は入ってきた魔獣を根絶やしにしてくれる。貴様らは壁の外に出て、魔獣の女神を食い止めろ!!」

 

 

ジッグラトから飛び出したギルガメッシュは、辺りを見ると共にそう言った。顔には焦りが見てとれた。

 

 

「何をしている!! ぐずぐずするな早く出よ!!」

 

「は、はい!! 行きますよ小太郎さん!!」

 

「ええ!!」

 

 

走り出すマシュと小太郎。背後で倉の開く音が響いてくる。しかし彼らに助太刀している暇は無い。

魔獣をすり抜け家々を飛び越え、二人は北壁の外まで飛び出した。

 

そこに、女神がいた。無数の屍を踏み潰して魔獣を送り出す女神がいた。人が相手取るには巨大すぎる女神がいた。

 

 

「……大きい。大きすぎる!!」

 

 

どちらともなく声を上げる。それは、そのまま絶望だった。

既に女神によって下半身を潰されていた兵士の一人が、譫言のように何か呟いている。

 

 

「どうしましたか!? 何ですか!?」

 

「あ……あれは……ティアマト神だ……逃げろ……逃げ、な、きゃ……ティア、マト、から……俺には……まだ……」

 

 

……そこで息絶えた。マシュは彼の目を閉じさせ、エクスカリバーを構える。そして、バグヴァイザーを装着する。

 

 

『ガッチョーン』

 

「ティアマト神……絶対に許さない!!」

 

「ええ、ここで倒さないと……!!」

 

 

「……ん? 羽虫が鳴いている思えば、新しい人間だったか。人類の怨敵、三女神同盟の首魁、貴様らが魔獣の女神と恐れた怪物……百獣母神、ティアマトが姿を見せてやったのだ。平伏し、祈りを捧げるべきであろう?」

 

 

その声には余裕が滲み出ていた。兵が死んでも何とも思っていないようで……いや、実際に何とも思っていないのだろう。

だからこそ、許さない。

 

 

「誰が平伏なんてするものですか!!」

 

『Britain warriors!!』

 

「変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

マシュはいち早く変身し、ティアマトに突撃していく。その姿に恐れは無い。

死は悔しいものだ。だからこそ、ここで根元を絶つ。人々の明日を守る。その決意は、シールダーにはとうに出来ていた。

 

そして小太郎も、彼女に続く。

 

 

「……これで、良いんですよね?」

 

『ストーム ニンジャー!!』

 

『ガッシャット!!』

 

 

ドライバーにガシャットを挿し込み、彼はそれを傾けた。

 

 

「……変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

『ぶっ飛ばせ 暴風!! ストームニンジャー!!』

 




新型ドライバー

早い話がガシャット版ロストドライバー。黎斗がラーマとシータ用に構想しているダブルドライバーのプロトタイプ。性能は、ボタンの代わりに出力が上がったバグヴァイザーL・D・Vに近い


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So I just fight out

 

 

 

『ぶっ飛ばせ 暴風!! ストームニンジャー!!』

 

「これが……なるほど、力が増した気がする……!!」

 

 

その姿は、やはり忍者だった。

変身した風魔小太郎は、そのライダーで少しだけ体を動かし感覚を掴み、そして背中の忍者刀を引き抜いてティアマトに飛びかかる。

前方では既に、シールダーがティアマトに斬りかかっていた。

 

 

「はあああっ!!」

 

「ふんっ……」

 

   ガキンッ

 

「ぐっ……効かない……!!」

 

「活きの良さは見所があるな。だが、まあ……まだ温い」

 

   ズガンッ

 

「ぐうっ……」

 

 

吹き飛ばされるシールダー。どうやら剣では、ティアマトの蛇を思わせる巨体には傷をつけられないらしい。

ならばと彼は飛び上がり、ティアマトの体を駆け上がって顔面を狙う。

 

 

「貴様も殺されに来たか……一応問おう。名は何だ?」

 

「風魔……仮面ライダー風魔!! その眼球、貰い受ける!!」

 

「ふっ……油断したな!!」

 

   カッ

 

 

そしてその瞬間に、彼はティアマトの視線に浴びせられた。……その体は瞬く間に石に変貌していく。

それも恐らく、ティアマトの能力。石化の魔眼だったのだろう。

 

石は落ちていく。それは地面に突き刺さり……ただの木炭に姿を変えた。

 

 

「……何?」

 

「油断したのはそっちですよ!! 出でよ、不滅の混沌旅団!!」

 

 

ティアマトが振り替える。そこには、何人もの部下を従えた風魔が、ドライバーに手をかけていて。

ガシャットが引き抜かれる。腰にある別のスロットに装填される。必殺技の入力が終了する。つまり。

 

 

『ストーム クリティカル ストライク!!』

 

「どうだあっ!!」

 

   ザンッ ザンッザンザンザンザンッ

 

「ぐっ、あっ……!?」

 

 

一瞬で、風魔と彼の従える忍軍がティアマトの顔面を斬りつけた。髪を切り落とした。あえて鱗は避け、柔肌のみを抉った。

 

 

   スタッ

 

「今です、マシュさん!!」

 

『Noble phantasm』

 

「ええ!! 黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!!」

 

   ズドンッ ズドンッ

 

 

それらは確実に、風魔につけられた傷口にめり込み、捩じ込まれ、破壊していた。ティアマトはさらによろめく。よろめき……しかし、すぐに立ち上がった。

 

……その傷は、既に治り始めていた。

 

 

「……なるほど……六つの特異点を攻略してきただけはあるか」

 

「っ、傷をつけても回復される……まさか、聖杯!?」

 

「……流石に目利きも出来るか。ああ、魔術王の聖杯とやらは私が預かっている。だが侮るな、この身は魔獣の女神として現界したもの、人間の殲滅などに他所の力を借りるものか……」

 

 

そしてティアマトは尾を振り上げ、シールダーの頭上に振り落とす。衝撃波が辺りを揺らした。

 

 

「我が力、我が怒り、我が憎しみのみで人間など三度は滅ぼせるわ!!」

 

「っ……!!」

 

   グシャグシャグシャメキメキメキメキ……

 

 

地面にヒビが入る。耐えきれずに彼女の骨身からもミシミシと悲鳴が上がる。シールダーは呻きながらトリガーを引き、腰の一本の矢を引き抜いてティアマトに突き刺した。

 

 

「があっ……が……く……」

 

『Noble phantasm』

 

祈りの弓(イー・バウ)……!!」

 

「今さら何をしても遅いわぁっ!!」

 

   ズシャッ

 

「っ……」

 

『Game over』

 

 

……そして、彼女は潰れた。死んだ。消滅した。

風魔は尾の下で転がる半分ほど潰れたガシャットを見て愕然とする。

 

 

「マシュさん!?」

 

「愚か、愚か……最後の最後に、我が身に毒を入れたようだが……今の我が身にとっては、せいぜい痺れる程度のもの。無意味……実に愚か。お前も消えよ」

 

「ぐっ……それでも……!!」

 

 

風魔はもう片方の忍者刀を握り締め、部下を従え走り出す。恐れがないとは言わない。だがここで食い止めなければウルクは滅びる。

少し後ろを振り返ってみたが、やはりヒビは入ったままだった。

 

 

「無駄、無意味、無価値!! 潰れて死ね!!」

 

   ブゥンッ

 

「がはっ……!?」

 

 

尾を一振り。十の部下が消え失せる。

腕を一振り。二十の部下が消え失せる。

左目を貫かれて油断をしなくなったティアマトは、風魔を確実に追い詰めていく。確実にライフゲージを減らしていく。

 

 

「失せろ、羽虫が!!」

 

   ズシャッ

 

「っ……まだ、まだ……!!」

 

「いや、終わりだ」

 

   ブゥンッ

 

 

そして風魔の頭上に、砂埃と共に影がかかった。

 

 

 

 

 

   ザンッ

 

「……?」

 

 

──それは、新たに入ってきた乱入者によって食い止められた。風魔はその乱入者の顔を見つめ、その名前を思い出す。

 

 

「っ……? あ、貴女は……あの、工房の麦酒を勝手に飲んだと噂の……エリザベート、さん?」

 

「……そ、それは良いのよ……とにかく、エリザベート・バートリー、助けに来たわよ」

 

「また羽虫が増えて……鬱陶しい」

 

 

ティアマトがエリザベートを睨み付けた。エリザベートは瞬時に縮み上がるが、ガシャットを握り締めて睨み返す。

 

 

「わわ、私を羽虫で収まる器と思わない方が良いわよ蛇女? そ、そんな図体じゃあ、アイドルの動きにはついてこれないでしょう?」

 

『ガッチョーン』

 

「タドルクエスト!!」

 

「マジックザ ウィザード!!」

 

 

エリザベートは震えていた。それでも逃げはしなかった。それは抑止か何かの意向なのか、それとも彼女自身が持つ最後の良心か。

 

 

「ふふ、蛮勇とはこのことか。貴様の脚は震えているぞ?」

 

「む、武者震いよ!! ……変身!!」

 

『チューン タドルクエスト』

 

『チューン マジックザウィザード』

 

『バグル アァップ』

 

 

仮面ライダーランサー。その体はタドルクエスト(セイバー)によって変質し、さらにその体にウィザードラゴン(キャスター)が装着される。

今のエリザベートの全てが、そこに出来上がる。

 

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴラーラララーイズ!! フレイム!! ウォーター!! ハリケーンランドー!! オールドラゴン!!』

 

「さあ……ショータイムよ……!!」

 

───

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

ウルク内で魔獣を殲滅していた方のサーヴァント達も、殺せど殺せど止まぬ進軍に苦言を呈していた。流石に、いくらサーヴァントと言えど休息は必要だ。クールタイムがなければ万全な状態では戦えない。

 

 

「ちっ……ちっとも減らないな。壁はまだ塞げないのか!?」

 

「ぐずぐず言うな!! 魔獣の女神めが暴れているから塞いでも塞いでもまた穴が空くのだ!!」

 

 

そう言うのはギルガメッシュ。彼は財宝を駆使して壁を塞ごうとしているが、塞ぐ側から別の穴が空くためキリがないのだった。

 

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「皆さんはこちら側に避難してください!! ほら姉上も!!」

 

「むう……しかし守りがお主一人なのが不安じゃなあ信勝?」

 

 

そして市の反対側では、信勝が多くのちびノブと共に人々を安全な場所に避難させていた。ちびノブ十体でかかれば、魔獣の一体位なら相手取れる。そして信勝自身も決して弱くはない。

 

 

「大丈夫かー?」

 

「だ、大丈夫ですって……」

 

「本当にござるかー?」

 

「姉上……僕だって少しはやりますよっ……風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

 

そして彼は、こちらに迫ってきた、サーヴァントの包囲網から漏れてきたのであろう魔獣をまた一匹吹き飛ばした。一匹ずつ一匹ずつ処理できているが、それでも信勝は疲れ始めていた。

 

 

「にしても……それにしても数が多い……これ以上増えられたら、いかんともし難いのですが……!!」

 

「ノブぅ……」

 

「ノブノノブ……」

 

 

しかし、弱気が漏れることは、延々と続く侵攻を鑑みれば当然の事だった。

 

───

 

『タドル マジックザ クリティカル ストライク!!』

 

「はあああっ!!」

 

 

ランサーの胸から飛び出した竜が火を吹く。翼からは雷を、尻尾からは冷気を、爪からは岩を……そんな波状攻撃を浴びせる。

しかし、それでもティアマトについた傷はすぐに治っていく。

 

 

「……それなりにはやるな。バシュム辺りの母体程度にはなるか?」

 

「何よそれ気持ち悪い……!!」

 

「一向に構わん。ふん」

 

   バリバリッ

 

「っ……!?」

 

 

ランサーに余裕は無かった。流石に、女神を相手取れる程の強さは彼女には存在していなかった。

ティアマトの爪で翼を抉られ、彼女は墜落する。それを風魔が受け止めた。

 

 

「ぐっ……やっぱり、無理かぁ……!!」

 

「……エリザベートさんは退いてください。僕がもう少しだけ、食い止めます……!!」

 

 

ボロボロの体で風魔が呟く。黎斗が加えた新機能なのか何なのかは不明だが、彼がストームニンジャーガシャットを握り締めれば、少しだけ体の痛みは抑えられた。

しかしそれも気休め。目の前の絶望には敵うべくもなく。

 

 

「終わり、だな。中々粘ったが、それだけだ。……峰打ちすら面倒だ、もろともに死ね。貴様らの努力は無意味だった」

 

 

 

 

 

「いいえ、無意味などではありません。時間を稼いでくれましたからね。……約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)っ!!」

 

「何っ!?」

 

   ザンッ ガガガガガガガガガガガガ

 

「が、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」

 

 

ティアマトの脳天に、白銀の刃が突き立てられた。

それは首を両断し背を両断し蛇の尾までを斬り開く。

頭から先まで背中を切り開かれた蛇は、その目を見開き。

 

 

「貴様……貴様ァ……!! 何故、何故そんな……このような事が出来る……!!」

 

「……私は人理の守護者です。貴女に殺された事によって、私は神殺しの側面を強化されました。ありがとう()()()()()……そして、胴体にさようならを言うときです!!」

 

「我が忌名まで口にするか……!!」

 

 

マシュの背後では、二人が呆然としていた。

どうやらコンティニューが可能なのは黎斗だけではなかったらしい。

 

……マシュの前方に、エルキドゥがどこからともなく現れる。

 

 

   スタッ

 

「エルキドゥ……!!」

 

「そこまでにしておきましょう母上。これ以上は他の女神を刺激しすぎてしまいます。人間なぞ何時でも容易く捻り潰せるもの、今は他の女神との戦闘に備え神殿に戻ってください!!」

 

「っ……そうか。そうか……」

 

 

エルキドゥがマシュを牽制しながらティアマトにそう進言した。背中を切り開かれ苦しむティアマトは憎々しげに去っていく。

マシュはエルキドゥにガンド銃を向けた。

 

 

「……ボクは初めからウルク攻めには乗り気ではなかったんだがね」

 

「エルキドゥ……臆病風に吹かれましたか」

 

「思い上がるな。これは準備だ。あと七日で魔獣の第二世代が誕生するんだ、今回はちょっかいを出しただけさ」

 

 

エルキドゥは戦うつもりは全くないようで、マシュの攻撃をやはり警戒しながら大きく後方に飛び退く。

そして最後にこう言い残し、彼はどこかに消えた。

 

 

「ああ、ついでに、ボクの真名も教えておこう。ボクは原初の女神、偉大なるティアマトに作られた新人類。その真名を、キングゥと言う」

 

   シュッ

 

───

 

 

 

 

 

「……なるほど、ご苦労だった。で、七日後にティアマト神の権能を持った魔獣の女神、ゴルゴーンが侵攻してくるとは本当だな?」

 

「ええ、確かに」

 

 

何とか魔獣を倒し、壁を塞いだウルクに戻ったマシュは、ティアマトを撃退したことを伝えてエリザベートと小太郎をマーリンに引き渡した。恐らく回復させてくれることだろう。

そして彼女はギルガメッシュの元に報告に戻る。

 

 

「それにしても……全く。羽虫、羽虫と吠えながらその羽虫に背中を開かれるとは実に愉快。我が壁の外にいたなら、そのまま蛇の干物を夕駒とする所だったのだが」

 

「それは悪趣味が過ぎます、王よ……人々とて、人間のようにしか見えない手やら胴やらを食べたら気絶物です……」

 

「分かっておるシドゥリ。英雄王ジョークだ……まあ、どちらにせよ最終的には女神は倒さねばならないのだがな」

 

 

ギルガメッシュはそう笑う。壁も治され危機は去り、それ故のちょっとした安堵だった。

しかし安心するには早すぎる。まだ、女神は誰も倒せてはいないのだから。

 

 

「……で、女神どもは同盟を築きながらも敵対しているのだな、マシュ?」

 

「ええ。こうなれば、何とかして誰かを味方に引き入れるのが得策かと」

 

「……分かっているではないか。我もそう思っていた。……故に、明日にでもイシュタルの所に行って貰おう」

 

「……イシュタルとは、もしかしてあの、変な船に乗った、あれですか?」

 

「ん? それ以外にあるまい」

 

 

マシュは項垂れた。

 

 

「我は奴自身に期待はせぬが、あれの従属である天の牡牛(グガランナ)は最後には必要になる。……何とかして説得しろ」

 

「うぅ……自信、無くなってきました……」

 

「何、気に病むな。我は貴様に期待していないこともない。……財宝の一つ程度はくれてやる」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

そう言ってギルガメッシュは、マシュに何かの入った小袋を投げ渡した。マシュはそれを受け取り、そして理解する。

これ、もう断れない奴だな、と。物を貰った以上、断れないな、と。

 

久し振りに黎斗についてきて貰いたいと、彼女はそうぼんやり思った。

 





仮面ライダーランサー マジックザクエストゲーマー

ランサーとセイバーとキャスターが合わさって最強に見える


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醒めない悪夢

 

 

 

 

 

「まあ……その条件なら、契約してあげないこともないけれど」

 

「……!!」

 

 

翌日。マシュはイシュタルのいるエビフ山に赴き、ギルガメッシュから託されたラピスラズリの山と引き換えに彼女を仲間に引き入れることに成功していた。

思ったよりかはスムーズに事が進んで肩を撫で下ろすマシュ。イシュタルは彼女の顔を静かに見つめる。……何か、言いたいことがあるのだろう。

 

 

「どうしました?」

 

「……一つ質問いいかしら」

 

「ええ、まあ」

 

「貴女……守護者?」

 

 

……何となく、そんな質問が来るような気はしていた。証拠はないが、微妙な確信があった。

 

マシュは一度このまま帰れないかと辺りを見るが、再びイシュタルの方に顔を向けた時には彼女はすぐ前まで迫っていた。

 

 

「答えて」

 

「っ……ええ、そうですね。守護者です」

 

「……止めた方が良いわよ、それ。使い潰されて打ち捨てられるのがオチだから」

 

「……私は自分の意思でこの道(守護者)を選択しました。どうなろうと後悔はしません」

 

 

その言葉に嘘はなく。迷いもなく。恐れもなく。

それでもイシュタルは、本来の神霊(イシュタル)ならどうでも良いことだろうと断ずる言葉に、どこか引っ掛かりを覚えていて。

そしてそれは、その引っ掛かりは見逃すことは出来なかった。

 

 

「なら……それはそれで、望んだなら……いいえ、ダメね。私は擬似サーヴァント、依代が存在しているのだけど、多分、その、(イシュタル)の中の(依代)がそれは駄目だって言ってるの。だから……」

 

 

……マシュはエクスカリバーに手をかけた。漂っている空気が、あの、決して忘れられないガシャット内での出来事とどこか同じ臭いがした。

イシュタルも戦闘体勢をとる。守護者のようなものになってしまう人間がただの説得で絆される訳がないということを、既に依代(イシュタル)は知っていた。

 

 

「……そうですか。なら……手加減は出来ませんが、良いですか?」

 

「そうね……勿論よ」

 

───

 

「……おい、エリザベート」

 

「何かしら?」

 

 

昨日小太郎と共にティアマトに致命傷を負わされたエリザベートは、ギルガメッシュからの財宝によるサポートもあってある程度回復し、ジグラット内を歩いていた。

そしてある一つの部屋の前に立っていたギルガメッシュに呼び止められる。

 

 

「あれを見てみろ」

 

「……?」

 

 

そこは黎斗の部屋だった。確かマシュから、黎斗がギルガメッシュに軟禁されたとか何とか聞いていたことを思いだし、彼女は一人納得する。今はギルガメッシュ用ガシャットとドライバーの開発、マシュのガシャットの修理、さらによく分からない何かの開発に追われているとか。

そしてエリザベートは部屋の中を覗き込み……絶句した。

 

 

「……」ブンブンブンブン

 

 

「……黎斗は何故船を漕いでおる。あんなに頭をガクガクさせおって」

 

「というかあらヘッドバンキングよね? ロックでヘビーなメタルよ……」

 

 

黎斗、いやゲンム……それもデンジャラスゾンビ使用済みのレベルⅩのゲンムが、机に向かって超高速で首を振っていた。

 

 

「……」ブンブンブンブン

 

 

「全く、仕事をさせるために軟禁したと言うのに……なんだあれは、電気的(エレクトリカル)なコミュニケーションの一種か? 寧ろあれではイマジネーションは引き裂かれそうだが」

 

「あんなに首振ってたら誰にも邪魔できないわよね……でも……」

 

 

何かがスパークしたのか、ロックなアクションを継続するゲンム。熟考を放棄しているようにも見えるその姿はただただ理解不明で。

 

しかしエリザベートは、未だある種の品性を疑う高速ヘッドバンキングに興じるゲンムを見て、ある恐ろしい仮説を思い付く。

 

 

「……」ブンブンブンブンブンブン

 

 

「あー……あれはね、多分ね。頭を振り下ろす時に過労死してて、で、即座に復活して頭を振り上げて、でそれによってまたすぐに過労死してて……のループなのよ」

 

「なん──だと──!?」

 

 

……その仮説は、残念ながら正しいものだった。実際にゲンムは不死身だが、その不死身は外からのダメージに対するもの。中身が限界を悠に越えて過労死寸前状態なら、復活しても頭を振り上げる動作でまた過労死する。

無限ループだった。エリザベートは自分の言葉が余りにも馬鹿馬鹿しいことには既に気づいていて、少し遠慮がちに笑う。

 

 

「笑っちゃうわよね、あんな──」

 

「何と羨ましい……!! 死んでも冥界に降りることなくすぐに復活……我の財宝の中にもそんなものは無いぞ!?」

 

 

しかしギルガメッシュは非常に輝いていた。何しろ彼自身過労死寸前の身、そんな素敵な能力があるなんて知れば欲しくもなる。そもそも彼は不老不死の霊草を探索したこともある男だ。

 

 

「あちゃー……」

 

 

エリザベートは塞ぎ込んだ。

取り合えず、ゲンムの変身を解かなければ。

 

───

 

   パァンッ パァンッ

 

「ふっ、私に撃ち合いで勝とうなんて千年早いわ!!」

 

   スパァンッ

 

 

ガンド銃の弾丸とマアンナから放たれる矢が衝突する。互いに譲れない二人は、最早相手を倒さないようにしようという手心まで剥がされて。

イシュタルの目には、彼女自身には見覚えがない筈の男が映っていた。

 

 

「あのね、守護者ってのには終わりはないの。醒めない悪夢なの。続けていたら、どれだけの人間でも壊れ果てるの」

 

「それが何でしょう、私は人理を救えるなら……!!」

 

 

マシュにはもう聞く耳は残っていない。それはとうの昔に切り捨てた。寛容さを残していては、きっと黎斗に、多くが不幸にされてしまうから。

 

 

「……やっぱりこうなるかー。……もう歯止めは効かないわ、全身全霊で抗いなさい!! 飛ぶわよ、マアンナ!!」

 

 

イシュタルが何かを決意したのだろう、彼女の宝具を発動する。

金星まで突き飛ばされるマシュ。しかし彼女は空中で姿勢を整え、イシュタルにエクスカリバーを構えて。

 

 

山脈震撼す(アンガルタ)──」

 

「望むところ!! 約束する(エクスカリバー)──」

 

───

 

 

 

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブノッブ!!」

 

「ノノ、ノーッブ!!」

 

 

その暫く後、ウルク市街にて。信勝は数多のちびノブと共に、昨日ティアマトに荒らされたウルクの復旧に励んでいた。

ギルガメッシュから渡された杖の力のお陰ででかノブもメカノッブも出し放題のため、作業はかなり捗っていた。

 

 

「ノッブノッブ……」

 

「よーし、大体この辺りも元通りになってきたようですね、良いことです」

 

「ノブカツお兄ちゃーん!!」

 

「ありがとー!!」

 

 

ちびノブ達を指揮する信勝は、昨日ウルク民を守りきったこともあり好感度もうなぎ登り、作業の傍らに子供たちの相手まですることになって忙しさに追われている。だがそれはとても楽しいことだった。

 

 

「ハハハ、もう少しでここも仕上がりますからね、終わったら鬼ごっこでもしましょうか」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

 

「何じゃ信勝め、わしを放り出して……」

 

「……嫉妬は醜いですよ信長さん」

 

「む、アナか……こう、もう少し手心を加えようとは思わぬのか? ズバズバと痛いところを抉られるのは辛いのじゃが」

 

「無理ですね」

 

 

それを遠巻きに見つめ茶を啜っていた信長がため息をつく。

 

この日のウルクは平和だった。

 

 

「……ん? ああ、マシュが帰ってきたようじゃな!! おーいマシュー!!」

 

「……」

 

「……」

 

 

……そこに、全く平和には見えない二人が戻ってきた。互いに泥やらキズやらでボロボロの二人、マシュとイシュタル。……最終的に宝具の撃ち合いになった二人の勝負には結局決着は着かず、仕方なく戻ってきたのだ。

 

 

「何じゃお主ら、互いにボロ切れじゃないか……殴りあったか?」

 

「まあ、そんなものね。私に譲れない部分があったから、肉体言語で」

 

「ええ。流石にあんなところで相討ちというのも何なので決着は先伸ばしにしましたが」

 

 

そう語るマシュには、それでも後悔はなく。

 

───

 

 

 

 

 

「……なるほど、南の女神はケツァル・コアトルか……むう、南米の情報は読めぬか」

 

 

翌日。ギルガメッシュはイシュタルからある情報を聞き出した。

他でもない、マシュと信長とマーリンを撃退したウルの女神、通称南の女神だ。イシュタルによって、かつて信長を潰したその真名がケツァル・コアトルだと明かされる。

 

ケツァル・コアトル。マヤの征服王にしてトルテカの太陽神。かつて空より飛来し、南米の地に定着し、人から人へと乗り移る『神を産み出す微生物』と化したモノによって産み出された善神。

 

 

「相手するには強すぎはしないかい……? マシュの神性特効だけではあまり期待は出来ないし、昨日また残機が減ったんだろう?」

 

「そうだな、黎斗めが過労死したから減ったな」

 

 

ギルガメッシュは納得したように頷いた。なるほどそれほどの神ならば容易く英霊も屠れよう。今のままの対決には不安が残る。

 

 

   ガンッ

 

「……今の音は」

 

 

……その刹那、遠くの方で何かが壊れる音が聞こえた。

そしてそれと共に、伝令の兵士が飛び込んでくる。

 

 

「報告、報告っ!! 王よ、失礼します!! ウルク南門より火急の報あり!! 南門、消滅!!」

 

「っ!?」

 

───

 

「今度という今度は負けぬ!! 三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

突如ウルクの南門を破壊し、市に侵入してきたのは金髪の女。それは容易く人々を吹き飛ばし、ジグラットへと迫っていく。信長は一人それに立ち塞がり、痛む体でその女を食い止めていた。

歯を食いしばって宝具を発動してみても女は飛び上がってそれを躱し、大の字になって飛び込んでくる。

 

 

「んっんー!! ナイスなタフネスね!! でも残念デース、やっぱりアナタには高さが足りまセーン!!」

 

「ぐっ、またそれか……!! だが……」

 

 

信長は迎え撃とうとしたその瞬間に、左足の部分に痛みを覚えた。先日つけられた傷による物だろう。

そしてそれに怯んだ瞬間には、彼女のすぐそばに女が近づいていて。

 

 

「トペ・プランチャー!!」

 

「っ……!?」

 

 

 

 

 

「危ないです姉上!! 風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

   ブワッ

 

 

市民の避難を済ませた信勝が咄嗟に宝具を発動し、女の軌道を横に逸らした。予想外の出来事に少しだけ姿勢が崩れるも事も無げに着地する女。彼女は信勝に目を向け、朗らかに笑う。

 

 

「オウ、パワフルね!! でも人の対戦相手を奪うのはマナー違反よ?」

 

「マナーが何ですか、卑怯もらっきょうも上等です……!! ノッブUFO!! キャトれ!!」

 

「「「「「ノノノ、ブブブ!!」」」」」

 

 

しかし信勝に余裕はなく。信勝の周囲にいたノッブUFOが女を囲み、全方位から引き付けることで動きを一時的に拘束して。

 

そして信勝は手を振り上げた。

 

 

「……準備完了、風王結界(インビジブル・エア)解除!! 皆さん、派手に決めてください!!」

 

 

それと共に、信勝がウルクを駆けずり回って呼び込んだサーヴァント達が一斉に宝具を発動する。

 

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

女に剣が迫る。炎が迫る。そして剣が飛んでくる。

それでも女は笑っていた。

 

 

「うんうん、なかなか頭脳派じゃない!! でも、残念ネ!!」

 

   ペシッ カキンッ

 

 

女はブラフマーストラを左手で容易く叩き落とし、さらにそれをバルムンクにぶつけることで二つの宝具を軽々と無効化する。そしてアヴェンジャーの炎からはバク転しながら回避し、ピンピンした状態のままだった。

 

 

「叩き落とされた……!?」

 

「くっ、何故余たちの攻撃が通らぬ……!!」

 

「俺の剣もいなされた……!!」

 

 

……しかし、それは当然の事だった。

彼女の真名こそケツァル・コアトル。南の女神。

善神、善の頂点の存在である彼女は、善なる存在(属性・善)には傷つけられないのだ。だからこそジークフリートとラーマ、シータの攻撃は容易く対処されてしまった。

 

 

「それじゃあ、ペナルティの時間ネ……アナタ達には、場外に退場願いましょう」

 

「っ……」

 

 

余裕綽々といった様子で宣言するケツァル・コアトル。ラーマは無意識にシータを庇い、ジークフリートも身構えて。

 

 

 

 

 

「させません!! 約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

   ザシュッ

 

 

背後から現れたマシュが、ケツァル・コアトルの背中を斬りつけた。咄嗟に反応したケツァル・コアトルは素早く回し蹴りを叩き込もうとするが、既にマシュは距離を取っていて。

 

 

「くっ、倒しきれない……皆さん相手は南の女神、善神ケツァル・コアトルです。彼女に攻撃が効かなかった人は一歩引いてください。ここは私が……!!」

 

「オウ、スピーディーね!! でも残念……流石に今の一撃はちょっと効いたわ」

 

 

ケツァル・コアトルの背中の傷は治らない。いや、治りが非常に遅い。マシュの神殺しの逸話が強化された結果だった。

……それがケツァル・コアトルを本気にさせてしまった。

 

 

「それじゃあ、もう……ちょっと本気で行くわよ? 翼ある蛇(ケツァル・コアトル)!!」

 

「クエー!!」

 

 

ウルクの空に、雷雲と共に超古代の翼竜が現れる。




狂 っ た 現 実(い ま) を 焼 き 捨 て た い


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戻らぬ今日、明日への希望

 

 

 

 

 

   パァンッ パァンッ

 

「まだまだ!! その程度じゃあお姉さんは倒せないネ?」

 

 

豪雨降り注ぐ中で、マシュがガンド銃を連発する。しかしそれはケツァル・コアトルに易々と回避されて。

鬱陶しい程に雨が降り注いでいた。空には巨大な翼竜(ケツァル・コアトル)が舞っていて、どうやらそれが局地的な暴風雨を起こしているらしかった。

 

 

「っ……私はまだまだ行けますよ!!」

 

「いいガッツね。じゃあ、着いてこられる?」

 

「当然!!」

 

 

マシュは挑発を聞くまでもなくケツァル・コアトルに斬りかかる。そして、ジグラットへの方向から外れるように気を使いながら、彼女を強引に押し始めた。

 

 

   ガンッ

 

「くっ……ああああっ!!」ググググ

 

 

……風が強い。運の悪いことに、マシュの進行方向は向かい風だった。さらに、マシュを狙って落雷まで起こる始末。上空の翼竜の仕業だろう。

 

 

「ブラフマーストラ!! ……駄目だ、やはり余の攻撃は効かない……!!」

 

 

ラーマが撃ち落とそうと試みるが、簡単に叩き落とされる。厄介なことに、この翼竜はケツァル・コアトルの宝具。つまり、やはり善なる者の攻撃は効かない。

 

状況を見たアヴェンジャーが湿気ったタバコをため息と共に道端に捨てて、ケツァル・コアトルに飛びかかった。

 

 

   ガシッ

 

「クエッ!?」

 

「……翼竜はオレが受け持とう。そっちは任せた!!」

 

「勿論です!! よろしくお願いしますアヴェンジャーさん!!」

 

 

アヴェンジャーが翼竜を連れて南門の方向へと消えていく。風が少しずつ弱まっていく。

マシュは突き進んだ。それ以外の選択肢はなかった。

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ん、何だ……粘土板か」

 

 

ジグラット内でやはり兵士からの連絡を聞いていたギルガメッシュの元に、ノッブUFOから粘土板が届けられた。筆跡は信勝の物だが、どうやらマシュからの連絡らしい。

南門を破壊した侵入者との戦闘についてのことだろうとギルガメッシュは予想しながらそれを手に取り、読み上げる。

 

 

「ほう……? 『現在南の女神と戦闘しながら北上中、ウルク北壁の解放を要求する。我々は南の女神を誘導し共に魔獣戦線内に突撃、魔獣の一掃とケツァル・コアトル討伐を同時に敢行する』、か……」

 

「それは……」

 

 

隣でシドゥリが困惑していた。

ティアマト……いや、ゴルゴーンという北の女神と、ケツァル・コアトルという南の女神。両方を相手取るとマシュは宣言していた。

 

 

「全く……無茶を考えるものだな。北壁の解放自体は、ウシワカとベンケイ、あとレオニダスに頼めば暫くは持つだろうが……まさか善神がそんな見え透いた罠にかかってくれるものか……ここはあくまで防衛だけをさせるべきだ。シドゥリ、粘土板を!!」

 

 

ギルガメッシュはそれを止めようと、粘土板を催促する。シドゥリは粘土板を手に取り、渡そうとし──

 

 

   バタンッ

 

「……貴様は軟禁していたはずだが」

 

「出来上がった、ぞ……!! 私の才能にぃ……ひれ伏せぇ……!!」バタッ

 

 

そこに、黎斗が飛び込んできた。手には黄金のガシャット、そしてドライバーが握られていて。

 

 

「……話は聞こえたぞぉ、ギルガメッシュぅ……今すぐ、すぐに、風魔小太郎とエリザベート・バートリーを……出撃させるぞ……」

 

「……ほう?」

 

 

地面に這いつくばりながら呻く黎斗。ギルガメッシュは彼の手からガシャットをとり、適当な魔杖で彼を回復させて、そして彼の意見を聞く。

 

 

「この期を逃す訳にはいかない……ストームニンジャーガシャットに仮搭載したプレーヤー自動回復機能は働いている、もう十分に戦える筈だ……」

 

「……何をするつもりだ?」

 

「北と南の、女神を、同時に始末する……女神の契りとは相互不可侵、つまり、否応にもぉ……互いの攻撃が触れあう状況に追い詰めれば、相手は勝手に弱くなる……!!」

 

「なるほど……では、軟禁は一時的に解こう。ゴルゴーンめを魔獣戦線まで連れ出すように」

 

「当然だァ……」

 

 

黎斗は立ち上がり、ギルガメッシュに背を向けた。

残されたギルガメッシュは、金色に煌めくガシャットを丁寧に弄りため息を吐く。

 

 

「ふぅ……全く、どこで純金を手にいれて来たんだか。……シドゥリ!! 北壁の兵を退かせる、粘土板を!!」

 

「分かりました!!」

 

───

 

「はあっ!!」

 

「トウッ!!」

 

 

   ガンッ ガンガンッ

 

 

風が吹く中、マシュのエクスカリバーとケツァル・コアトルのマカナ(黒曜石の斧剣)がぶつかり合う。状況はマシュが劣勢だった。

ケツァル・コアトルのパワーに打ち負けてマシュが後方に大きく飛び退き、そこにケツァル・コアトルがさらに追撃を仕掛け……それがもう何度も続いていた。

 

二人はジグラットを迂回し、ウルク街道を突き進み、そして、ギルガメッシュからの連絡で全ての兵が退避し開け放たれた北壁まで近づいて……そこでケツァル・コアトルが止まった。

 

 

「……あっ……ふーん、なるほどネー……」

 

「っ、気づかれた!!」

 

 

マシュは顔をしかめる。あと少しで、外だったのに。

 

ケツァル・コアトルは辺りを見回した。この場にいるのはマシュと彼女だけ、他には誰も見えはしない。

そして彼女はマカナを街道に突き立て、マシュに朗らかに微笑んだ。

 

 

「考えたのね、アナタ……でも、いいわ。乗ってあげる……アナタ、名前は?」

 

「……マシュです。マシュ・キリエライト」

 

 

マシュは不信感を持って答える。ケツァル・コアトルは自ら武器を放棄したが、彼女の本文は格闘技だということは、マシュはもう理解していた。

その思考は読まれていたのだろう。それでもケツァル・コアトルは微笑みを絶やさない。

 

 

「分かった、マシュね? じゃあ、一つお願い。……どんな戦いであれ、喜びを忘れないで。私は楽しくて戦う。人間も楽しくて戦う。憎しみを持たなければ相手を殺すことはありまセーン!! それがルチャリブレの美点、醍醐味なのデース!!」

 

「……っ」

 

 

そう言った。……マシュは歯を食い縛った。

ふざけている。壊れている。人理の危機にあって、そして敵に対して、殺す殺さないを意識してなどいられるものか。余裕を持ってしまって、その上で誰かを死なせてしまったなら、それ以上にやりきれないことなど無い筈なのに。

だからこそマシュは、エクスカリバーを握り直した。相手が武器を放棄したから何だ、この機に女神を倒さなければ、また犠牲者が出てしまう。

 

 

「だから、アナタもこのピンチを目一杯楽しんでね? そうすれば、もっと分かり合える筈なのデース!!」

 

「……いいや。私は貴女とは分かり合えません、ケツァル・コアトル。私は守護者マシュ・キリエライト。もう私は人間ではなく、人理を乱すもの、誰かを不幸にする者を憎まずにはいられないのです……!!」

 

「……」

 

「貴女は、人を、人の明日を傷つけた。人を苦しめ不幸にした。例え女神であろうと、その所業は許せません。だから……貴女を殺します」

 

「……えへへ、少し刺激的ですネ、こんな気分は」

 

 

……ケツァル・コアトルは少し寂しそうに笑った。マシュは一気に足を踏み込み、彼女の背後に回り込んで強引に彼女を門の外に押し出そうとする。

外では魔獣たちが食い止められていた。彼らの中に、二人は飛び込んでいき──

 

───

 

 

 

 

 

「……で、君たちは何をしに来たんだい? ウルクを攻めるのはもう少し後なんだけれど」

 

「何をしに来たかなんて、分かりきっているだろう?」

 

 

……所変わって、黒い杉の森の奥の奥。かつてエルキドゥを騙ったキングゥに誘導されかけていた森のずっと奥に存在していた、メソポタミアには似合わないギリシャ風神殿にて。

黎斗に引率されてそこまでやってきたのは、黎斗自身、回復した小太郎とエリザベート、マーリン、そしてアナだった。彼らは神殿の前にいたキングゥと睨み合い、身構える。

 

 

「全く……そこまで愚かだとは思わなかった。逃げ回っていれば良いものを、よほど死にたいらしい」

 

「ふっ……私を見くびるな……私は、神の才能を持っているのだから!! 変身……!!」

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『N=Ⅹ!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

真っ先に変身したのはゲンムだった。キングゥは彼を警戒し鎖で攻撃するが、ゲンムが片腕を凪ぎ払えば易々と弾かれる。

キングゥは一つ舌打ちをして、右腕を振り上げると共に魔獣達を呼び出した。

 

 

「僕達も続きましょう!! 変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

『ぶっ飛ばせ 暴風!! ストームニンジャー!!』

 

 

小太郎も風魔に変身し、忍者刀で魔獣を切り捨てていく。マーリンとアナは一足先に神殿の内部へと侵入し、エリザベートもバグヴァイザーを取り出して。

 

 

「私も私も!! ……あれ、ガシャットは?」

 

 

そして、マジックザウィザードが無いことに気がついた。ゲンムが修理してくれていた筈なのだが。

 

 

「ねぇ、私のガシャットは!?」

 

「いつ君の物になったかは知らないが……ふっ、大幅な拡張を済ませておいた。神の恵みを受け取れぇ!!」

 

 

呼び掛けてみれば、ゲンムはキングゥと殴り合いながら笑い、エリザベートにガシャットを投げ渡す。

 

受け取ったそれは、大きくなっていた。以前見たことのあるドラゴナイトハンターZを彷彿とさせるガシャット下部の造形は、晴人の中のドラゴンを模したもので。

 

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

スイッチを入れる。ガシャットを核としてゲーマが呼び出される。

 

 

「っ、ふぃー……待たせたねエリちゃん」

 

「子ブタ……!!」

 

 

……久しぶりに特異点の大地に降り立った操真晴人は、己を取り囲む魔獣達が敵なのだと即座に判断し、己のドライバーを実体化させた。

 

 

『ドライバーオン プリーズ!!』

 

 

「馬鹿な、あれは、倒したはず!!」

 

「私の才能を甘く見たな!! ドライバーオンウィザードリングやら何やら、思考回路の鍵となるリングばかりを壊してくれたお陰で修理は手間取ったが、それで諦める私ではなぁい!!」

 

 

キングゥが、再び現れた晴人に目を見張った。晴人を蘇らせてしまった黎斗は、彼にとってはとにかく邪魔な存在で。

 

その横で、晴人が片手を振ってみれば、そこからもう一つのガシャットが現れる。マジックザウィザードのコピーだった。

エリザベートはそれをバグヴァイザーに装填し、変身する。

 

 

『タドルクエスト!!』

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

「……行くわよ子ブタ?」

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン』

 

「……分かってる」

 

 

二人が姿を変えるのは全く同時。そして共に走りだし……

 

 

「「変身!!」」

 

『バグル アァップ!!』

 

『フレイム プリーズ!!』

 

───

 

「ねえ、ノブカツお兄ちゃんまだ終わらないの?」

 

「雨止まないね……」

 

「……皆さんはまだ隠れていて下さい。少なくともこの雨が止むまでは、あの怖いお姉さんがいますからね」

 

「はーい……」

 

 

ウルク市街のとある廃墟では、信勝が市民達を守りながら空を見上げていた。南のほうで青い炎が燃えている。まだ雨が止むのは先らしい。

今ここにいるサーヴァントは彼だけだった。……正確には彼はサーヴァントではなくバグスターだが、戦闘能力があるのは彼だけであることに代わりはなかった。

 

というのも、ケツァル・コアトルに歯が立たなかった面々は、ジャガーマンを名乗る謎の英霊の襲撃に対応しているからである。ふざけたなりをして強力な彼女を抑え込むためには、多くの人員が必要だった。

 

 

「ノッブ!!」

 

 

その時、哨戒に向かっていたちびノブの一体が、粘土板と何かの箱を抱えて飛び込んできた。

 

 

「何かありましたか!?」

 

「ノブ!!」

 

「ええと……何……?」

 

 

慌てて粘土板を回収し、それを読む信勝。

 

……子供達を預かってくれたお礼と共にバターケーキが送られてきただけだったようだ。

 

 

「ふぅ……良かった」

 

「あ、バターケーキだ!! 食べよう食べよう!?」

 

「私お腹すいたー!!」

 

「……そうですね、食べましょうか」

 

 

肩を撫で下ろした信勝は物欲しそうなちびノブを再び哨戒に送り出し、廃墟の中へと戻っていく。

雨はまだ止みそうにない。

 

───

 

壇之浦(だんのうら)八艘跳(はっそうとび)!!」

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

   スカッ スカッ

 

 

魔獣戦線にて、牛若丸と弁慶とレオニダスと合流したマシュは、しかしそれでもケツァル・コアトルには及ばなかった。

ケツァル・コアトルは器用にも、魔獣の類いを上手く使って、敵からの攻撃を回避していく。

 

 

「っ、敵が素早すぎます……」

 

「ぬぅ、しかも相手の一撃が重い……!!」

 

「中々のタフネスですが、アナタ達には高さが足りまセーン!! トペ・プランチャー!!」

 

「っ……!!」

 

 

牛若丸とマシュがケツァル・コアトルに攻撃を仕掛けてみたが、全く相手は動じていない。それどころか、二人に同時に重い一撃を更に加え苦しめる。

 

 

   グシャッ

 

「ぐうっ……!!」

 

 

勝てないのではないか。

そんな思いが一瞬マシュの脳裏を過った。

 

───

 

「何故だ、何故、勝てない!! ボクはティアマトの最高傑作なのに!!」

 

 

キングゥとゲンムが殴りあう。いや、一方的にゲンムがいたぶっていると言った方が正しいか。

ゴルゴーンの鮮血神殿を強襲した彼らは、既に神殿を破壊し、魔獣を吹き飛ばしていた。

 

 

「ふははははははは!!」

 

『N=Ⅲ!!』

 

『マーイティーアクショーン NEXT!!』

 

『ゲ キ ト ツ ロボッツ!!』

 

 

キングゥを追い込むように、ゲンムがガシャットを差し換える。そして強化された拳でロケットパンチを放ち、壊れた神殿に叩きつけた。

 

 

「ぶぇははは!!」

 

   グシャッ

 

「かはっ……!!」

 

 

その様はまるで憂さ晴らしをしているようで。

隣で魔獣を更に吹き飛ばしているウィザードにとってもそれは心地のよいものではなかったが、それについて言及している暇はなかった。

 

 

        (「死ね、死ね怪物!! )     (その浅ましい姿を現すな!!)     ( 何処だ、何処にいる)     (キングゥ……!!」)

「っ……!!」

 

 

対するキングゥは、神殿の中からの悲鳴に気づいた。辺りを見回し、最も警戒するべき存在(もう一人のメドゥーサ)が既に神殿の中に入ってしまったと今更ながら気づく。

 

 

「……ボクとしたことが!! 早く、早く助けに行かないと……!! 母よ、始まりの叫を上げろ(ナンム・ドゥルアンキ)!!」

 

 

キングゥはあからさまに焦りを顔に浮かべ、宝具を発動した。

ゲンムが砂煙に飲み込まれる。恐らく倒せてはいないだろう、だが少しでも時間が稼げればいい。キングゥはそう思いながら神殿に飛び込もうとし……

 

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

「……忘れるな。神から逃れることは叶わない……!!」

 

『ゲキトツ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「──っ」

 

   グシャッ

 

 

キングゥの意識は、そこで途切れた。

 

───

 

「トゥ!! ハァーイ!!」

 

「ぬぅ……!!」

 

 

ケツァル・コアトルは止まらない。どう足掻いても止まらない。

牛若丸が全身の痛みに顔をしかめながらマシュに言う。

 

 

「……ここは一旦お引き下さい、マシュ殿。この場は我らが凌ぎます故」

 

「ダメです、いけません!! ここは私が……!!」

 

 

マシュは引き下がることなくそう叫んだ。しかしその体はやはり満身創痍で。

現在の残りライフは多くない。元々多くなかったのに、黎斗が更に持っていってしまっている。

 

 

「相手はまだ加減をしています。今のうちに引きなされ!!」

 

 

牛若丸を援護するように、魔獣を蹴散らしている弁慶がそう言った。

それは正論だった。女神を相手して、マシュのライフがまだ減っていないのは一重に相手が加減をしているから。ここは相手の温情に甘えて退散しろ……彼はそう言っていた。

しかしそれはマシュには出来ないことだった。

 

 

「いけません……それをやったら、私は私ではなくなってしまいます」

 

 

立ち上がる。痛む脚に鞭を打つ。

 

 

「人々を助ける、明日に抗う人々を救う……それが私の生き甲斐なんです。私は人々を助けたい、助けずには生きられないから!! 助けることが、助け続けることが私のいる意味だから!!」

 

「……なるほどネー」

 

 

ケツァル・コアトルはマシュを見つめていた。その目は寧ろ同族を見つめる目で。

 

 

「……加減をしてすいませんでした、ネ。このケツァル・コアトル、アナタを、今度こそ本気で打ち倒して見せますから」

 

「当然です。私は、貴女を最初から本気で殺すつもりだったんですから」

 

 

「ノッブ!! ノッブ!!」

 

 

……ノッブUFOが、修理されたガシャットとバグヴァイザーをマシュに届けた。マシュはそれを受け取り、装着する。

 

 

『Britain warriors!!』

 

「……皆さんは下がっていてください。彼女は、ケツァル・コアトルは私が何としてでも倒さないといけない」

 

「……分かりました、ご武運を」

 

「……ええ。変身!!」

 




段々と 更新速度が 落ちてきた
それもこれもが 乾巧ってやつの仕業なんだ (草加流俳句)


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目指す先の悲しみ

 

 

 

 

「まだだ、まだ、私は……私は……!!」

 

 

……ゴルゴーンは逃亡していた。鮮血神殿を放棄し、子供達を見捨て逃亡していた。それだけ恐慌状態にあった。

無理もないことだった。醜い怪物(かつての己)に襲われ、神性を減らされ、そして我が子(キングゥ)が胴体に大穴を開けて震えているのを見てしまえば、荒れるのも当然だった。

 

 

「復讐を、しなければ……私は……代わりに……復讐を果たす……!!」

 

 

「……ウルクに向かったな。作戦通りか」

 

「本当に良いのですか? マシュさんに負担がかかると思いますが……」

 

「問題あるまい。だが、まあ。……追いかけることに代わりはないか」

 

 

木々を引き潰しながらウルクに向かって逃亡するゴルゴーン。

ゲンムは余裕を持ってそれを見つめていた。その手には聖杯が握られていて。

 

 

「えっ……それって、もしかして聖杯!?」

 

「そうだな。キングゥの体内から奪い取った。……そのキングゥ本人はどこかに消えてしまったが」

 

 

ゲンムはキングゥの胴体を貫いた時に、そこから聖杯を奪い取っていた。まあ、今更聖杯を回収しただけでは特異点は修復出来はしないが。

既にキングゥは森のどこかに消えている。まあ、これ以上戦えることもあるまい……ゲンムはそう考え、ゴルゴーンの追跡を開始した。

 

───

 

『Noble phantasm』

 

黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)!! 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 

殺戮の魔弾と化した砲弾がケツァル・コアトルへと発射される。ケツァル・コアトルは易々と飛び上がるが、一発が彼女を捉えた。

 

 

   ズンッ

 

「っ──」

 

「そこ!! 鉄の戒め!!」

 

 

一瞬出来上がった隙をついて、シールダーが手を振り上げる。それと共にどこからともなくあの黒い鎖が飛び出し、ケツァル・コアトルの両足を縛り上げ、地に落とした。

 

 

   ズドンッ

 

「これでっ……」

 

 

 

 

 

「っ……熱い展開ね。もう止まりまセン……!!」ブチブチ

 

「っ!!」

 

 

しかし、それだけで止まる筈がなく。女神は鎖を粘土のように引きちぎり、事も無げに立ち上がり。

ケツァル・コアトルを中心に風が吹いた。それは力強くシールダーを天に投げ上げ、自由を奪う。

そしてそのシールダーに炎を纏ったケツァル・コアトルが突撃し、シールダーの体を掴んだ。

 

 

「私は蛇!! 私は炎!! 炎、神をも焼き尽くせ(シウ・コアトル・チャレアーダ)!!」

 

 

そしてケツァル・コアトルは真っ逆さまに落下する。シールダーの頭を大地に突き立てるつもりなのだろう。

暴れてみても離れることは出来ない。大地は刻々と近づいてくる。

 

 

「不味い……!!」

 

 

シールダーは、残機がまた一つ減ることを覚悟し、ほんの少しだけロマンに申し訳なく思うと同時に、せめてもの抵抗として体を捻った。

二人は回転しながら落下し……

 

 

 

 

 

「嫌だ……私は……復讐を、果たすまで……啜り泣く母の、復讐を……!!」

 

   カッ

 

 

……そこに乱入したもう一人の女神が、強引にウルクの北壁を焼き払う。そしてその光線の軌道上にいたケツァル・コアトルの背中に、一筋の熱線が走った。

 

 

   ジジッ

 

「熱いっ……!?」

 

「この攻撃は!?」

 

 

ケツァル・コアトルはシールダーから手を離し慌てて振り向きながら着地する。己の背中を焼いた光線が誰のものかは察していたから。

 

……ゴルゴーンがいた。ケツァル・コアトルの背中まで攻撃してしまったことで神罰の炎に焼かれながら、それでも脇目を振らずウルクへと進もうとするゴルゴーンがいた。

 

 

「ゴルゴーン!? アナタ、何考えてるの!?」

 

「私は……ああ、嫌、嫌だ……私はまだ、復讐を終えていない……!!」

 

「……ゴルゴーン……」

 

 

誰の声も届きはしない。そこにあるのは箍の外れた人間への怨嗟のみ。このままウルク北壁を力任せに破壊し、突破する心づもりなのだろう。

弁慶とレオニダスが食い止めるのを試みるも、あえなく吹き飛ばされているのが見える。どうやらゴルゴーンは暴走しているらしい。

 

 

「二人纏めて、排除します!!」

 

 

シールダーは自分に言い聞かせるように叫んだ。誰も殺させる訳にはいかないから。

エクスカリバーを構え直す。敵の二人を睨む。ケツァル・コアトルはシールダーに向かって戦闘体勢をとり、ゴルゴーンは子供達を潰しながらひたすらに壁に進出する。

 

シールダーに彼女らを殺せないことはない。いや、きっと殺すことは出来る。全ては人々の明日を守るため。

 

───

 

 

 

 

 

「ニャははは!! あれは誰だ!! 美女で!! ジャガーで!! 勿論、私だ!! ジャガーの戦士ジャガーマン!! これで名乗りは7回目!!」

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

 

ウルク市内では、未だジャガーマンを倒せずラーマとシータ、ジークフリートが苦戦していた。隣では翼竜相手に信長とアヴェンジャーが奮戦している。

残念ながらジャガーマンのギャグ補正は未だ剥がれず、宝具の類いは熱いやら痛いやらのレベルで抑えられ、圧倒的なパワーの差を見せつけられる。

 

 

「あっちぃっ!! これが恋の炎か……おのれリア充め!! お前のせいで私のハートが破壊されてしまった!! 私だってヒロインになりたいもんっ!!」

 

「っ……どうすればいい、どうすれば倒せる……!! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「ふっふっふ、甘い!! 今朝のデザート、蜂蜜たっぷりバターケーキ並みに甘い!! 逃れ得ぬ死の鉤爪(グレート・デス・クロー)!!」

 

   ガキンッ

 

 

バルムンクとデスクローが火花を散らした。二つは一瞬だけ拮抗し、デスクローに軍配が上がる。

家屋の壁に叩きつけられるジークフリート。

 

 

「ぐっ……力不足か……?」

 

 

そう思い至った。ジグラット内で黎斗のサポートに回っていた筈のナーサリーを呼んで来ようか、とも思うが、ラーマとシータだけでこの虎を抑えられるかと考えれば、とてもじゃないが不安が残る。

 

 

「ラーマ様、どうしましょう……」

 

「ああ、素早すぎる……いっそ、ここは余が押さえ込んで、シータに射って貰うか……?」

 

「え? 私イケメンに押さえ込んで貰えるの!? デジマ!? 我が世の春がキター!!」

 

 

ラーマとシータの方も困惑と共に悩んでいたが、それで解決策があるわけでもなく、どうにも行き詰まっていた。

 

ネコの手でいいから借りたいとはこの事か。せめてもう一人助けがあれば、そのふざけた形の棍棒(デスクロー)をどうにかするくらいは出来そうなのに。三人が曇天を仰いだその時。

 

 

「ノッブ、ノッブ!!」

 

「ノノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

「……ラーマ様、ノッブUFOです!! ノッブUFOの大軍です!!」

 

 

……そこにネコの手は来なかったが。

神の手は差しのべられた。

 

ノッブUFOが持っていたのは緋色のガシャット二本と白いバグヴァイザー二つ。

ジークフリートが一つの白いバグヴァイザーと緋色のガシャット一本を手に取った。そしてそれを起動する。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……マスターの新作か」ポチッ

 

『Taddle fantasy!!』

 

 

ゲームエリアが広がった。ジークフリートはガシャットをバグヴァイザーに装填し、敵を見据える。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『辿る巡るRPG!! タドールファンタジー!!』

 

───

 

「……さて、追い付いたか」

 

「黎斗さん……!!」

 

 

ケツァル・コアトルとゴルゴーンを相手していたシールダーの元に、全速力で走ってきたバイクゲーマに乗ったゲンムと風魔が追い付く。どうやら一足先にやって来たらしく、遠くの空にウィザードの姿が見えていた。

 

 

「私はゴルゴーンを受け持とう。ケツァル・コアトルは好きにすればいいさ」

 

 

ゲンムは多くを語ることなく、そうとだけ言ってゴルゴーンの横っ面を蹴り飛ばした。呻くゴルゴーンは後退し、ゲンムはさらに追い討ちをしかける。

 

 

「……よろしくお願いします。さあ、続けましょうケツァル・コアトル……!!」

 

『回復!!』

 

『Noble phantasm』

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!!」

 

 

そしてシールダーは彼に少しだけ言葉を送り、磨り減った体力を回復させて再びケツァル・コアトルの懐に飛び込んだ。

 

───

 

『タドールファンタジー!!』

 

「な、なんだニャその姿は!?」

 

 

ジャガーマンは驚愕した。さっきまで戦っていたイケメン(ジークフリート)が、突然メカメカしいイケメン(セイバー)に変質したのだから。

当然警戒し、ジャガーマンは背後に飛び退く。

 

 

「……なるほど、そういう……フッ!!」

 

 

セイバーがマントを一振りすると同時に、数体の雑兵が現れてジャガーマンに飛びかかる。

 

 

「な、なんだニャ!? 乱暴するつもりなのね!? ああんでも今は駄目かな!! 逃れ得ぬ死の鉤爪(グレート・デス・クロー)!!」

 

 

それらが宝具で凪ぎ払われると同時に、セイバーは否応にも生じた隙をついてジャガーマンの背後に回り込み、背中から斬りつけた。

 

 

「ぐはっ!?」

 

「……すまない、眠ってもらうぞ!!」

 

 

そして、セイバーはマントを伸ばしてジャガーマンを拘束し……

 

───

 

「まだ一押し、足りない……!!」

 

 

ケツァル・コアトルに攻撃をいなされながら、シールダーは呟いた。

シールダー自身と風魔、そして近いうちに追加されるであろうウィザードにランサー。それだけあればケツァル・コアトル詰められるかと問われれば、シールダーは首を横に振る他ない。

流石は女神と言うべきか、余程の弱点を突かない限り、突破は難しかった。これ以上仲間が増えても同じだろう……彼女は女神の契りを破ることもせず、二人を相手してまだ力が余りある。

 

 

「何か、何か、もう一押し……!!」

 

「何か無いんですかマシュさん!? ケツァル・コアトルに対抗できるサーヴァントの増援とかいませんか!?」

 

 

……いや。

その一押しは、既にシールダーの手の中に存在していた。ケツァル・コアトルは切り札を切るに足る存在だった。

 

 

「……いました。……ええ、いました。女神ケツァル・コアトル……貴女の愛が本物だったとしても、人理の敵となるなら、最後まで私の敵です……!!」

 

 

シールダーが右腕を天に掲げる。それに意味は無かったが、それだけで覚悟が出来る気がした。

そしてシールダーは叫ぶ。第一の契約の、その成就を。第一の償いの満了を。

 

 

「さあ、一つ目の約束を果たす時です、山の翁!! 『ケツァル・コアトルを暗殺せよ』!!」

 

 

……空気が凍りついた。世界はその刹那スローモーションのように重くなり、ケツァル・コアトルの背後に死が顕現する。

 

 

「……請け負った、マシュ・キリエライトよ」

 

   ゴーン ゴーン

 

「っ!?」

 

 

女神は出来る限り大きく飛び退く。しかしそれはもう遅い。晩鐘は既に鳴り響き、天には羽が舞い、そして暗殺者は剣を振りかざして。

 

 

「聞くがいい。晩鐘は汝の名を指し示した……告死の羽、首を断つか──」

 

「っ、炎、神をも(シウ・コアトル・)──」

 

 

風が吹き始めるより前に。

剣は振り抜かれた。

 

 

「──死告天使(アズライール)!!」

 

   ザンッ

 

 

 

 

 

「……分かり合えなかった、ネ……」

 

 

……ケツァル・コアトルは、その一撃で消滅した。三女神同盟が一柱は朽ち果てた。

首を跳ねた山の翁が、シールダーを見つめる。

 

 

「……ありがとうございました。あと二回、お願いします」

 

「……分かっている。だが……マシュ・キリエライトよ」

 

「……」

 

「汝の、その明日を目指す道に未来はあるか。悲しみしかない在り方に希望はあるか」

 

 

骸骨の向こうに、青い焔が灯っていた。

シールダーは何も言えなかった。背後の風魔が刀を構えているのを感じる。しかし動かない、いや、動けないほどに怯んでいた。

 

 

「信念の劣化、決意の腐敗、論理の崩壊……それらに苛まれ、敗北したときに……その時には、我は汝の首を断つ」

 

「……分かっています」

 

 

シールダーがそう返事をしたときには、山の翁の姿は消え失せていた。

 

ともあれ、これでようやくケツァル・コアトルを倒すことが出来た。後はゴルゴーンだ、とシールダーがゲンムの方を向く。

 

……ゴルゴーンが逃げ去っていくのが見えた。ゲンムは特に焦りはなく、そして当然怪我もなく、ただただそれを見送っている。

 

 

「……黎斗、さん?」

 

「ああ、すまない。つい取り逃がしてしまった」

 

 

シールダーは変身を解き、ゲンムに詰め寄る。ゲンムもまた変身を解き、取って付けたような苦笑いをした。

……マシュは詰め寄ることを止めなかった。ここまでくれば、檀黎斗という人物が理由なくそんなへまをする筈が無いと分かっていた。

 

 

「……わざと、ですか?」

 

「……私はゲームマスターで、神だ。今後の展開程度、既に予測済みだ」

 

 

檀黎斗は不敵に笑う。そして、彼は魔獣が尽く引き潰され、完全にウルク側の勝利に終わった魔獣戦線を抜け、ウルク内へと戻っていく。

 




鉄の戒めは宝具なのか違うのか……なんというか扱いに困る


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誰も知らない真実

 

 

 

 

 

「さて、先ずは一杯……ケツァル・コアトル討伐、ゴルゴーン撃退による魔獣戦線勝利を祝して、乾杯!!」

 

『『『かんぱーい!!』』』

 

 

その夜、カルデア大使館にて。

そこではゴルゴーンの危機を脱し一先ずの小休止に入ったと判断したギルガメッシュの計らいで、今回の戦いに参加したサーヴァント達で飲み会が開かれていた。

ギルガメッシュ本人と、ゴルゴーンの追跡をするとだけ言って立ち去ったアナ以外の、全てのウルクに味方するサーヴァントがここにいた。

あとジャガーマン。

 

 

「いや、何で連れてきたのよ……」

 

「すまない、何とか仲間に引き入れられないかと思って……」

 

 

弁明するのはジークフリート。何を隠そう、彼がジャガーマンを連れてきた張本人。

因みにジャガーマン本人は、ケツァル・コアトルが倒されたことには純粋に驚いていたが、割と早くに切り替えてギルガメッシュ側に乗り換えている。

 

 

「……本当に裏切らない?」

 

「勿論だニャ。ククルンもいないのに片意地張る必要も無いし、何より旨い肉を奢って貰った」モッキュモッキュ

 

 

そう語るジャガーマン。

……信用しきることは出来ないが、全く信用しないこともない。取りあえずは捨て駒として保護しておくように、とギルガメッシュからは言われていた。全員がそれに習って、取り合えず放置することにした。

 

 

「うむうむ、わしの武勇伝が聞きたいか? 良いぞ? わしはな、あの翼竜を相手に苦戦していたが決して諦めず耐え続けた……辛く苦しい戦いじゃったが、諦めずにいたら例の新作がとどいてだな。バンバンシミュレーションを使用して──あれ、誰も見てない? そんなぁ……」

 

「半分はオレの働きだった筈なんだが……まあいい」

 

 

宴会は続く。あるものはくだを巻き、あるものは酔い潰れ、あるものは泣き上戸と化し……しかし、それらの会話はたわいもない事ばかりだった。とりとめのないことばかりだった。

 

 

 

 

 

「……あれ、え? え?」

 

 

……その時。疲れたのか酔ったのか、とにかく大使館の隅で崩れ込むようにして眠っていたイシュタルが目を覚まし、辺りを見回した。

周囲は武勇伝の語り合いに忙しく、彼女の異変を騒ぎ立てるものはいない。

 

 

「ねえ、そこの……マシュ?」

 

「何です、イシュタルさん?」

 

 

イシュタルは冷や汗を垂らしながら、マシュに近づいた。

 

 

「……本当に、あのケツァル・コアトルを倒したの? ゴルゴーンも?」

 

「ええ。私だけの力ではありませんが」

 

「え? え? ……本当に? どうすればいいのだわ?」

 

 

……そんな言葉が口から溢れた。

刹那マシュはエクスカリバーを構え、イシュタルの首筋に突きつける。

 

 

「……貴女、イシュタルさんじゃあありませんね? 誰ですか?」

 

「え? え? いや、いや……私は……あ、ちょっとトイレに……」

 

   ザンッ

 

「誰ですか?」

 

 

誤魔化して立ち去ろうとするイシュタルの髪を一センチ分だけ切り落とし、マシュはさらに迫る。壁にイシュタルを押し付ける。

周囲の喧騒は二人の空気に抑制され、全員の視線がイシュタルに向いていた。

 

 

「あ、私知ってる!! シャレンジで習ったわ!! その子は三女神同盟最後の一柱、冥界の女主人エレシュキガルよ!! はいここテストに出まーす」

 

「げっ」

 

 

そう言ったのは……ジャガーマンだった。ジークフリートによってケツァル・コアトルの指揮下からギルガメッシュの指揮下に移ることになった彼女は、誰よりも三女神同盟に詳しかった。

 

 

「お、おほほほほ……」バタン

 

 

イシュタル……いや、女神エレシュキガルは、正体がバレたこと、そしてそのせいでマシュの殺気が何倍にもなったことで思わず糸が切れたように崩れ落ち、気絶する。よほど恐ろしかったのだろう、股の辺りが湿っていた。

 

 

「……気絶しましたね。今のうちに始末します?」

 

「や、止めなさいよ……」

 

 

マシュが剣を納め、どうしようかと意見を仰ぐ。少なくとも、ここで始末するのはよろしくないが、かといって良くわからない状態の彼女を放置するのも微妙だ。そも、まだ彼女を仲間にして二日と経っていないのに。

 

 

「……イシュタルとエレシュキガルは体を共有していたのだろう。恐らく、豊穣の女神イシュタルと死の女神エレシュキガルは同一の神性であり、故にこそ二体同時に現れた……」

 

 

膠着した宴会の場に、自室から出てきた黎斗がそう呟きながら現れた。三階まで騒ぎが聞こえていたのだろうか。

 

 

「なら、どうしますか? 依代の少女とイシュタルを強引に分離しその神霊を殺せば何とかなります?」

 

「それは無理だろう、神性は同じでも別の存在、イシュタルの霊を殺してもエレシュキガルの霊は無事……ひょっこり現れて一突きだ。最後の手段に取っておけ」

 

 

三女神同盟の本当の最後の一柱エレシュキガル。彼女との会話は急務。マシュはどうしようかと思い悩む。どうすればエレシュキガルに会える?

 

 

「エレシュキガルに会いに行くなら、彼女自身が都市神としてあったクタ市から冥界に入るといい。明日にでも赴けばいいさ……なに、地面を思いきり破壊すれば冥界だ」

 

 

黎斗はマシュの心情を察したのかそこまで言って、自分の部屋に戻ろうとした。恐らく自分は冥界に向かうつもりもないのだろう。誰も反対はしなかった。

反対はしなかったが、マーリンが彼を呼び止める。

 

 

「……少しいいかい、黎斗くん? 付き合ってほしいのだけれど」

 

「……構わないが、何処までいく?」

 

「うーん、じゃ、飲み過ぎたから街道まで夜風に当たりに行く、ということにでもしておこうか。ついてきてくれ」

 

「……良いだろう」

 

 

そうとだけ言葉を交わし、二人は家から出ていった。

何となく湿気てしまった。一同は再び盛り上がる者とそろそろ眠ろうとする者に二分され、宴は何となくお開きになった。

 

───

 

 

 

 

 

「やだ、私行きたくない!!」

 

「そんなこと言わないでくださいよイシュタルさん!!」チャキッ

 

「そのエクスカリバー突きつけながら言わないでよ!!」

 

 

翌朝。拘束しておいたにも関わらず振りほどいて逃げようとするイシュタルの首根っこを掴んで、マシュは冥界についての情報を聞き出した。

何しろイシュタルは冥界に下った経験のある女神。冥界の女主人攻略には彼女の言葉は大きなアドバンテージとなる。

本音を言えばついてきて貰いたかったが、そこまで欲張るのは止めておいて、取り合えず脅して情報を引き出すことにする。

 

 

「ついてきて下さい。もしくは、せめて情報を。約束する(エクスカリバー・)──」

 

「分かった分かった!! 情報ね!? 分かったから!!」

 

 

流石に眼前で聖剣が光るのは恐ろしかったらしく、イシュタルは観念して冥界について語り始めた。

 

 

「……分かった、行くときの注意だけは教えてあげる。まず、神性のあるサーヴァントは行っちゃダメよ、強さが反転するから」

 

「……なるほど」

 

「次に、冥界には所々に槍みたいな籠があると思うわ。中に沢山の光が浮遊してるの。……近づかないほうが良いわよ。それは死者の魂を封じ込めたエレシュキガルの槍檻、彼女は──」

 

───

 

 

 

 

 

「……じゃあ、行きますよ」

 

「オッケー!!」

 

「分かった……じゃあ、衝撃に備えて」

 

 

それから暫くして、クタ市にて。誰もいない廃墟と化していたそこの中心に、マシュとエリザベート、そして既にランドドラゴンスタイルに変身したウィザードが立っていた。

イシュタルから聞くに、神代において冥界は現世と一続き……穴を掘れば辿り着くとのこと。しかし、態々穴を掘っていては効率が悪い。

 

 

「……良いね? 行くよ?」

 

『ルパッチマジックタッチゴー!!』

 

『グラビティ プリーズ!!』

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

地面に黄色い魔方陣が浮かび上がった。地響きと共にクタの大地が揺れ、ウィザード自身とマシュ、エリザベートは余りの重力に膝をつく。

 

 

「っ……」

 

「……崩れるよっ!!」

 

   ガラガラガラッ

 

   ドサッ

 

 

 

 

 

「……皆、無事か?」

 

「ええ、何とか」

 

「痛いわよ子ブタ……」

 

 

大地は崩れ落ちた。聞いた通りに地下には広大な空間が広がっていて、辺り一面に槍檻が立っている。冥界だった。

 

 

「……ここが、冥界か……寒いね」

 

「うぅ……ドラゴンかき氷になっちゃう……」ガタガタ

 

「……じゃあ、これで行けるかな」

 

『フレイム プリーズ!! ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!!』

 

 

ウィザードが姿を変え、暖かい炎を呼び出す。それで気休め程度に暖を取りながら、彼らは冥界を歩き始める。

……三分程で、巨大な石を積み上げた門のような物の前に辿り着いた。

 

 

「……冥界の七門の一つ目でしょう。イシュタルさんが言っていました」

 

 

マシュはそう言いながら近づいていく。

冥界の七門。二択の問題に答え、その後嫌がらせで出てくる敵を倒し、それらを越えて初めてエレシュキガルの元に辿り着ける。らしい。

 

 

『──問う。森羅万象は善悪により別たれ、水は高きより低きに流れ──』

 

「……鬱陶しいです。押し通ります!! 変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

『──え? あれ?』

 

   ザンッ

 

 

……どうせどう答えても敵は出るのだ、態々答える方があほらしい。シールダーはその考えの元、一つ目の門を両断した。

 

───

 

 

 

 

 

「嫌だ……私は……復讐を、復讐をしないと……しなければ……!!」

 

「……見つけました、ゴルゴーン」

 

「……ああ、あの怪物……!! キングゥ、キングゥ……何処にいる……!?」

 

 

魔獣戦線からずっと離れたある平野にて、ゴルゴーンはアナに立ち塞がられ、最早形だけとなった復讐と共に震えていた。その姿に最早ティアマトの神性を継ぐ者の威厳はなく、ただひたすらに弱々しかった。

 

 

「……ゴルゴーン。そのティアマトの神性があったからこそ、貴女はきっとあの戦いで生き延びた」

 

「キングゥ……キングゥ……!!」

 

 

アナが鎌を構える。彼女に心残りが無いということはなかったが、それよりも(ゴルゴーン)の始末をつけることが優先だった。

アナ……その真名をメドゥーサ。かつてエウリュアレ、ステンノという名の姉達と共に過ごしていた、無垢な少女。その姿で呼び出された彼女は、しかし血にまみれることを選択した。初めはただゴルゴーンを始末するため……今は、人々に安心をもたらすため。

 

その鎌は不死殺しの鎌ハルペー。かつてメドゥーサ自身の首を跳ねた刃。アナは飛び上がり、それを振り下ろし……

 

 

「……もう、貴女は死ぬべきです。これ以上生きていても、生きていても……何も出来ない。だから……私と一緒に死にましょう」

 

「嫌だ、私は……復讐をしなければ……啜り泣く母の、代わりに……」

 

「……もうその力も無いのに。あなたには、もう母の声を聞くだけの体力も残っていない筈なのです。だから」

 

「ああ、嫌、いや……助けて……あ……」

 

 

……しかし、その刃が届くことはなく。

 

 

   ガンッ

 

「っ……誰、ですか……!?」

 

 

 

 

 

「……流石に、我々が介入せざるを得なくなってきたか。忌々しい檀黎斗め……我は()()()()()使()()()()()()()()()()()なり」

 

───

 

「……観念してください、冥界の女主人エレシュキガル。三女神同盟は終わりました、こちらの条件を飲んで投降するか、首を差し出してください」

 

「うわぁ、本当に来たぁ!?」

 

 

冥界の七門を強行突破したシールダーは、エレシュキガルが怯えているのを見るや否や飛びかかり、力付くで組み伏せて、ルールブレイカーを首筋に押し当てていた。抵抗する暇もなくあられもない体勢にさせられ、恥ずかしいやら痛いやらで身動きとれないエレシュキガルにいつでもとどめを刺せる状態にしておく。

 

 

「あぅぅ……ぅぅ……」

 

「最早女神の契りも何もありません。心配ならルールブレイカーで無効化出来ます。さあ、決断を」

 

「ひっ……っ……こ、こんな筈じゃなかったのだわ……!?」

 

「答えてください!!」

 

「マシュちゃん、まず用件を伝えないと……」

 

 

怯えるエレシュキガルを見かねてウィザードがそう言った。流石にシールダーもやり過ぎたと思ったのか、姿勢は変えないままルールブレイカーを腰に納めて静かに告げる。

 

 

「条件は冥界の解放、捕らえた死者の解放、此方への永世協力の三つだけです。良心的ですね」

 

「何が良心的よ!? 私の全て……領土も国民も主権も剥ぎ取るなんてめちゃめちゃよ!!」

 

「なら首、出します?」

 

「ひっ」

 

 

……最早エレシュキガルに選択肢はなかった。シールダーはギルガメッシュから駄賃として貰った契約書の原点にサインをさせ、彼女を強引に味方に引き入れる。

 

 

「では、お願いしますねエレシュキガルさん。何かあったらまた連絡しますので」

 

「ひぃっ……ひぃっ……」

 

「じゃあ晴人さん、お願いします」

 

「……はいはい。でもこれからは言葉に気をつけた方が良いと思うぞ?」

 

「……善処します」

 

『グラビティ プリーズ!!』

 

 

そして三人は強引に冥界の天井を破壊し、直行で現世へ戻っていった。

 





超高速冥界下り


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空の果て、海の底

 

 

 

 

 

「ノブカツお兄ちゃんお腹すいたー」

 

「私も私もー」

 

「僕もー」

 

「わしもわしもー」

 

 

日は暮れようとしていた。今日もちびノブを率いて復興作業に従事していた信勝は、子供たちと大きな子供(信長)に食事をねだられ手を止める。

 

 

「あーはいはい、差し入れにケーキありますからね、食べましょうか」

 

「わーい!!」

 

「ありがとう!!」

 

 

そして彼は、貰ったケーキを取り出そうと部屋に入ろうとし。

空を見上げていた一人の少女に気がついた。

 

 

「どうしたんだい? 何かあった?」

 

「……あれ、何か飛んでない?」

 

 

指差す方向を皆が見る。

 

黒い粒が見えた。初めは一つだったのが段々三つ四つに増えてくる。鳥かと思ったがそういうわけでもない。

 

 

「あれ、なあにー?」

 

「……何じゃろ、あれ」

 

 

──次の瞬間、信勝に悪寒が走った。

あれは不味い。とても不味い……危険だと。

 

 

「……皆さん、下がりましょう。危険ですから建物の中に」

 

「っ……はーい」

 

「怖いよ……」

 

「まだお家には帰れないの……?」

 

「ええ、そうですね……とにかく今は下がって。……姉上」

 

「分かったのじゃ」

 

 

そして彼は姉を送り出し、子供たちを守るためにちびノブを追加で呼び出した。

 

───

 

「エレシュキガルめを従えたか。良いことだ……そろそろジグラット地下の死体達のもとに魂が戻ったころか」

 

「ええ……それより、ウルの住民たちを助けにいくのは何時にしますか? 彼女らも熱帯雨林に籠りっぱなしはよくないですし、何よりケツァル・コアトルの支配は終わったんです」

 

「ううむ、そうだな──」

 

 

ギルガメッシュはその時、冥界から戻ってきたマシュから成果を聞いていた。契約書の原典をくれてやっただけの成果はあったと彼は納得し、満足げに頷いて──

 

──その時に、伝令がやって来た。

 

 

「観測所より連絡!! 連絡!! ペルシア湾が黒く染まり、そこから無数の黒い生命体が出現!!」

 

「──何だと?」

 

「そんなっ!? 三女神同盟は今度こそ終わったはず……ゴルゴーンに、そんな力が!?」

 

 

唐突に伝えられた危機。ギルガメッシュは思わず聞き返し、マシュは慌てて立ち上がる。居合わせた他の面子もおろおろとし、全員が外を確認しに向かった。

 

 

『緊急事態につき連絡を取らせて貰うよ!!』

 

「ドクター!! 一体何が──」

 

 

そこにロマンが顔を出す。彼自身マシュに言いたいことが無いことはなかったが今はそれどころの状況ではなかった。

彼の顔は青ざめていた。しかし口を止めることは許されない。

 

 

『……信じられないかもしれないけれど……敵性生命体、現在一億!! 移動しているのはまだ十万で、うちウルクに向かっている数は二万だ!! ちびノブの迎撃があっても九割は確実に攻めてくる!!』

 

───

 

 

 

 

 

空の果てまで黒い怪物が埋め尽くさんと溢れて行く。

海の底は最早黒に邪魔をされて覗くことは叶わない。

そしてその海の上に呼び出された女のようなものは、目の前に伸びた柱を前に呆然としていた。

 

女は悲しげだった。傷一つない手足を自ら縛り、その長く青い髪は泥にまみれ、大地を象徴する大角は自身を戒めるように強ばり、星の内海を移す瞳は涙に濡れて。

彼女こそが創成の女神、ティアマト神。創成の後に切り捨てられた母胎。世界の裏側に追放された者。

 

彼女は哭いた。これは望んでいないことだと。

しかして彼女の力は、彼女を呼び出した目の前の柱が望んでいる。

 

 

「LAAAAa、AAAAAAAAAaaaa──?」

 

「我が名はソロモンの七十二柱が一柱、海魔フォルネウスなり」

 

「同じく七十二柱が一柱、フォカロル」

 

「同じく、ウェパル」

 

「同じく、デカラビア」

 

 

四つの魔神柱が、彼女を取り囲んでいた。動けないように包囲していた。

ティアマトは祈る。それしかできない。そして彼女の体は既に蝕まれ始めていて。

 

 

 

 

 

「やめ、止めて……ください……!!」バタバタ

 

 

そこに、二人のメドゥーサが現れた。いや、その言い方はもう正しくない。

ゴルゴーンの方は既にアスモデウスに殺された。アスモデウスは体を奪い、その上でアナを捕縛して連れてきたのだ。

 

 

「はな、して……!!」バタバタ

 

「待たせたな同胞よ、これより、ビーストⅡを覚醒させる」

 

 

ゴルゴーンの体でアスモデウスはそう言った。潰さない程度に握りしめていたアナを黒い海の中に沈めたそれは、他の四柱と共に無抵抗のティアマトを押し倒し、海の中に押し込み、共に融け合って──

 

 

「AaaAAAAAAAAa……AAAAAAAAaAAAAAAAaaaaAAAAaaaa……」

 

「さあ真に目覚めよティアマト神、いや、いいや、ビーストⅡよ!!」

 

「違う違う違う!! 最早ビーストⅡですらない……我らはビーストⅡ-Ⅰとなるものなり!!」

 

「Aa、AAAAAAAAa──」

 

   トポン

 

 

 

「ああ、だめ……()()()()……違う、なのに……」

 

 

そしてそれをもがきながら見つめていたアナの意識も、闇の中に融け落ちた。

 

 

「あ……っ……誰、か……」

 

   トポン

 

───

 

 

 

 

 

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

『バンバン クリティカル ファイア!!』

 

「「「はあっ!!」」」

 

   ズドン ズドンズドン ズドン

 

 

黒い点だったものは、徐々にウルクに近づきつつあった。慌ててその進路を阻むためやって来た三人は、空を大地を進撃する怪物に全力を叩き込む。

 

 

「tzs@4d(4l)4」ガシャッ

 

「tzs@4d(4l)4」バタッ

 

「tzs@4d(4l)4」ガクッ

 

「zz@:、zz@:!!」

 

「qkde zg@q@!!」

 

「っ……全くこれではきりがない!! っ……だめだ、このままだと押し潰される!!」

 

 

しかし敵の物量には叶わない。何百何千と追加されていく怪物は、迎撃され吹き飛ばされる仲間を惜しむ様子もなく三人へと突撃する。

 

 

「気持ち悪い上に数も多い、こやつらゴキブリか!?」

 

「ztj594、]ewn94。s@yub5=3:@.tu」

 

「近寄るな近寄るな!!」バンバン

 

 

最も怪物の近くにいたアーチャーは、それらに包囲されていた。突破口を開こうと砲弾を飛ばしてみても、出来た隙間はすぐに埋められる。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

壇之浦(だんのうら)八艘跳(はっそうとび)!!」

 

   ザンッ

 

 

追加でやって来たアヴェンジャーとセイバー、そして牛若丸が、怪物達を斬り伏せた。しかしやはり多勢に無勢と言うべきか、彼ら彼女らにも異形は襲い掛かる。

 

 

「mZs3c-@4、s@ys@y3c-@4」

 

「6ma' 25wqkde」

 

「xZg9l fw@ib\c4。bys@f、]<=xb4!!」ザンッ

 

   ガキンッ

 

「……殺し慣れている手つきです。彼らはもう何人も殺しています」

 

 

怪物と打ち合った牛若丸がそう呟いた。すでに、進路にあった市々は蹂躙し終えてしまったのだろう。そう思えた。

しかも怪物は進化する特性を持っているようだった。大地を突き進む怪物が突然跳ね上がり、空を飛んでウルクに向かうことも多々あった。マシュ達が迎撃しているが、限界もプレッシャーもある。長い戦いは好ましくない。

 

 

「f7heb4、0h0hr.」

 

「g@'fffffff!!」

 

 

しかし相手側にその理屈を聞いてもらえる筈がなく。時は既に夜だったが、怪物は引く気配は一切なく。

 

これ以上はだめだと、誰からともなく判断した。

 

 

「ここは退却しましょう、何、足ならこの牛若にお任せあれ……宝具、遮那王流離譚が五景の一つ、自在天眼(じざいてんがん)六韜看破(りくとうかんぱ)!!」

 

 

牛若丸が宝具を発動し、怪物の群れを出来るだけ遠くに転移させる。それが彼女の宝具の一つの力。そしてサーヴァント達もその光に包まれ、ウルクへと転移していき──

 

───

 

 

 

 

 

「……よし、これよりこの生命体をラフムとする。良いな?」

 

 

牛若丸の宝具で戻ったサーヴァント達は、他の方向からの怪物を撃退したマシュ、晴人、エリザベートと合流し、ギルガメッシュの前にて、ギルガメッシュ自身とカルデアの分析を聞いた。

 

曰く。この個体は神代の土と泥で練られた全く新しい生物だと。

曰く。雌雄はなく無性生殖で増え、ただでさえ強力なのに、ここから更に進化すると。

曰く。この怪物はこれからラフムと呼ぶことにすると。

曰く。ラフムはケツァル・コアトルのいなくなった密林に巣を作り、その近くのエリドゥにウルク外の市から人々を浚っていったと。

 

 

「エリドゥに向かわないと……!!」

 

「マシュ、今は夜じゃ。見通しも悪ければ民も疲れきっている、ここは──」

 

 

マシュはそこまで聞いて、既に疲弊しきった体で立ち上がりジグラットから出ていこうとする。信長が止めようとしたが、ギルガメッシュがそれを止めた。

 

 

「──よい。行け」

 

「……感謝します。では」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

そしてマシュは変身し、ジグラットから高速で飛び出していった。

彼女を見送ったシドゥリがギルガメッシュに心配そうに問う。

 

 

「……本当に良かったのですか?」

 

「構わぬ。鼻先に人参をぶら下げた暴れ馬など手がつけられる筈がないだろう」

 

───

 

 

 

「──Aa──」

 

 

やはり空は黒かった。やはり海は黒かった。

かつて生命を産み出したティアマトは一度その中に沈み、そして今再誕する。

 

 

「──LAa──」

 

   ゴゴゴゴゴゴ

 

 

一つの水柱が立った。太くおどろおどろしいそれが再び海に還った時、水上では──

 

 

   ザパァンッ

 

「──LAaAa、AaaAAaAAAAAaAAaaAAAAAAAAa……!!」

 

 

──歪められた回帰の獣(ビーストⅡ-Ⅰ)が、帰還への歩みを進め始めた。

一歩歩けば津波が起きる。黒い海が大地へと押し寄せる。歩く災害と化した彼女に、最早己自身の理性はなく。

 

 

「──母さん──」

 

「……AAaaAAAAAAAAAAaaa、LAAaaa……」

 

「ソロモン……なぜボクらに干渉した!! この時代はくれるんじゃなかったのか!!」

 

 

そこに現れたのがキングゥだった。彼はビーストⅡ-Ⅰの前に立ち、ティアマトを占拠した魔神柱を非難する。しかし……彼は母親の手で、埃を払うように容易く叩き落とされた。

 

 

   ドサッ

 

「……何で。ボクは、ティアマトの最高傑作なのに」

 

「……AaaaaaAAAAAAAaAaaaa、AAAAAaaAAAaaaaAAAAAAAaaaaa……」

 

「──そんな」

 

 

ギリギリ海に浸かることなく地面に突きつけられた彼は震える足で立ち上がり。しかし恐れを感じて、そして真実を告げられた彼は慌てて飛び上がり、ティアマトの前から姿を消した。

告げられた真実。キングゥは、ティアマトの子供ではなく……エルキドゥの遺体に作られた偽物であること。

それが、キングゥの意思を破壊した。

 

 

「そんな、そんな……そんな!!」

 

   スッ

 

 

彼は闇に消えた。しかしティアマトは動ずることなく、進撃を継続する。

 





ティアマト語、ラフム語完全対応


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光一つも見えない

 

 

 

 

 

「急がないと、急がないと……」

 

『高速化!!』

 

 

シールダーは走っていた。顔のない王(ノーフェイス・メイキング)で姿を隠し、高速化のアイテムを見つける度にゲットしながら、休むことなく走っていた。その目は、どこかで泣いているのであろう、助けを求めているのであろう人々を見据えていた。

 

 

「っ……ついた!!」

 

 

そして彼女は、元々ウルだった市に辿り着いた。

血の臭いがした。市の表には誰一人としておらず、家の中には死体しかない……そんな地獄が作られていた。

 

 

「っ……」

 

 

シールダーは方向を切り替えさらに走る。今度は確実に、誰かの声が聞こえた。誰かの嘆きが聞こえた。だから走った。もう足の意識は薄れていたが、どうということはなかった。

そして、彼女は辿り着いた。

 

 

「……あれは」

 

 

「嫌だ……殺したくない、俺は殺したくない!!」

 

「頼む、死んでくれ……!!」

 

   グサッ

 

 

「俺が生きる、お前は死ね!!」

 

「お前こそ死ぬべきだ、俺にはまだ家族がいるんだ!!」

 

   グサッ

 

 

「……前々から憎かったんだ、お前が。今この場で念入りに──」

 

   グサッ

 

「邪魔だ、失せろ」

 

 

「……酷い。あまりに酷すぎる!!」

 

 

殺しあう人々。それを囲むように立ち、歯をかちかちと鳴らして笑う沢山のラフム。

どうやらラフムは各地から人々を連れてきて、殺し合いをさせていたようだった。戦わなければ生き残れない、等と煽ったのだろう。そしてそれを愉しく眺め、ただ嘲笑っていた。

許せない、許せる筈がない。シールダーは飛び出して、ガシャコンカリバーを振りかざす。

 

 

『Noble phantasm』

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!! 我はすべて毒あるもの、害あるものを断つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

 

焔の陽炎が大地を炙る。それはラフムを焼き払い、傷ついた人間を少しでも温め回復させる。

 

 

「逃げてください!! 逃げて!! こいつらは、ラフムは私が!!」

 

「3qode、6ma'q@!!」

 

「egkee、6ma'q@!!」

 

「bys@f、jqtob0dwn949」

 

「「「c;t@ee!! 0o4 0o4」」」

 

 

シールダーに大勢のラフムが飛び付いていく。人々は森の中に逃げ込んでいく。

彼女には逃げていく彼らが、一瞬だけ『もう少し殺したかった』というような顔を浮かべているようにも見えたが、きっとそうではないと断じた。

 

───

 

その頃、ウルク南門前、三重目のナピシュテムの牙前にて。そこでちびノブや兵士達と共に夜目を凝らしながら作業をしていた信勝は、高所にて見張りを行っていたノッブUFOが首を傾げながら降りてくるのを見た。

 

 

「どうしました!? また何か!?」

 

「ノブ……ノッブ」

 

 

そしてそのノッブUFOは信勝を空中に持ち上げる。

夜はもう深い。光一つも見えない程に……恐らくもう丑三つ時だろうと彼は考えながら遠くに目を凝らした。そして……

 

 

「……あれは」

 

 

そこに、異形の巨神を見た。幽霊でも妖怪の類いでもない、幻覚でも疲れ目でもない、真の存在。

夢であればどれだけよかったことか。だがそれは確実に存在していた。上空に吹き荒れるマナと、それに反応して揺れる信勝の手の内の杖がそれを雄弁に物語っていた。

 

 

「……このままジグラットに向かってください。あれは不味い、とても不味い」

 

───

 

 

 

 

 

「大変よっ!!」

 

「大変ですっ!!」

 

「どうしたイシュタルにノブカツ、何があった!!」

 

 

上空で監視を行っていたイシュタルとノッブUFOに乗って向かってきた信勝の、同じものを見た二人は、全く同時にジグラットのギルガメッシュの元に転がり込んだ。

 

 

「現れたわ……母さん(ティアマト)が現れた!!」

 

「そんなこと知っておるわ!!」

 

 

……しかし、ギルガメッシュの方も既にその情報は仕入れていた。というのもつい先程、マーリンが消滅したという連絡と、彼が言い残した言葉が伝えられたからだった。

 

人類悪。魔術王は七つの人類悪の一つを呼び覚ました。それがマーリンの残した言葉。

つまり、蘇ったティアマトこそが人類悪の一つ。人間が倒すべき悪。

 

 

「速度は!! あと何日でウルクにつく!!」

 

『……二日だ!!』

 

 

カルデアが全力で分析を済ませた。

ゆっくりと歩む巨神ティアマト。それが、あと二日でウルクに到達する。

さらに言えば、ティアマトを傷つけることは叶わない。彼女は死なない。この地上に生物がいれば、それがティアマトの生存を証明する……それがカルデアの出した仮説だった。

 

 

「ええい、ここが踏ん張りどころよ……!!」

 

 

ギルガメッシュは呻く。現在のウルクの防備は堅い。ちびノブの尽力によって、出来る限りの最大の堅さを実現している。

正確に言えば、海から南門までには五つの堤防と堀が設置されており、その全てに小さな牙(リトル・ナピシュテム)と名付けられたトラップのような防護柵が仕掛けられている。

そして南門本体の前には、三重になった本命のナピシュテムの牙。

例えティアマトが海を揺らしウルクを泥の津波に覆おうと考えたとしても、軽く十回は耐えうる。ギルガメッシュはそう確信していた。

 

しかし、既にティアマトが目覚めた時点で発生した波により一つ目の堤防は決壊し、小さな牙は破壊された。しかもティアマト自身が歩き始めている。

一刻の猶予もない。

 

 

「エレシュキガル!! エレシュキガル顔を出せ!!」

 

『……今出たわ。もしかして、冥界に母さんを落とすつもり?』

 

 

ギルガメッシュはエレシュキガルから奪い取った冥界の鏡を怒鳴り付け、エレシュキガルを呼び出した。鏡面の向こうに、目の下に隈を作ったエレシュキガルが見える。

 

 

「分かっているとは話が早い。どこかの天の女主人とは大違いだ。……我々はティアマトを倒さねばならぬ。しかしあれは地上に命ある限り死なない」

 

『……納得はできたわ。確かにここに命はない』

 

「よい了見だ、獣に首筋まで迫られて肝が冷えたと同時に頭まで落ち着いたと見える。これならティアマト神を落としても大丈夫か。……冥府の女神エレシュキガルよ、罪滅ぼしの機会だ、王の名の下に命じる……災害の獣を地の底に繋ぎ止めよ!!」

 

 

エレシュキガルはそれを聞いて物凄く嫌そうな顔をしたが否定はしなかった。否、出来なかった。それが出来ない契約だった。

 

 

『……とんでもないこと言うわね。ウルクの下に冥界を移す……準備には四日かかるわよ。元々準備をしていなかった訳でもないけれど、それでも時間はかかる』

 

「つまり、時間稼ぎが必要、と」

 

「なるほど。……ちょうど、マシュが向かったエリドゥにはマルドゥークの斧があると聞いているが……持ってこられるものはいるか?」

 

「サイズはどのくらいなのだ?」

 

「……ざっと15mはあるな」

 

 

時間稼ぎとして思い付いた第一候補はマルドゥークの斧。かつてマルドゥークという神がティアマトを殺した斧だ。

しかしそれが想像を絶するサイズだということも分かっていた。

 

ただの力では足りない。例え怪力を誇るラーマが全力を出しても、マルドゥークの斧を振るうには辛いものがある。

 

 

「……もう一つの手段が必要みたいね……」

 

 

エリザベートがそう嘆息する。

しかしギルガメッシュは笑っていて。

 

 

「いや、案ずるな」

 

「……?」

 

「もう一つの勝ち筋が見えた。何しろこちらにはイシュタルがいる」

 

「……何で私?」

 

 

イシュタルが突然名指しで呼ばれ、イシュタル本人は首を傾げた。彼女にティアマトに対抗できる心当たりなどもうないが……

 

 

「ああ、そうか。そういう話もあったな」

 

 

最初に納得したのはアヴェンジャーだった。彼は今まで手に入れた情報でイシュタルの全力を導き出した。

 

 

「ん? 何か凄い隠し玉があるのか?」

 

「すまない……よく分からなくてすまない……」

 

「とにかくアナタすごかったのねイシュタル!!」

 

 

他の面子も彼に続く。

 

 

「さあ、今が出し時だ。グガランナを呼ぶがよい」

 

「げ」

 

 

……戦力の名はグガランナ、天の牡牛。山のような大きさで周囲を破壊する兵器。イシュタルはそれに時に厳しく、時にもっと厳しくし、自在に操ったと言われる。

 

しかし、イシュタルがそれを出すことはなかった。本来のイシュタルならもう高笑いと共に見せびらかしていた筈だが。

ギルガメッシュは、最悪の事態を思い付いた。

 

 

「……おい、貴様、まさか……」

 

「……はい。いません、グガランナ。落としました……探してもいないんですぅ!!」

 

「なっ……」

 

「え──」

 

 

全員が絶句した。

いない? 山のようなサイズの牡牛が? 見つからない? そんなことはあり得るのか? あったとすれば、どれだけの馬鹿なんだ?

 

 

「こ、この馬鹿女神が!!」

 

 

ギルガメッシュはそう言わずにはいられなかった。実際馬鹿としか言いようがない。

 

万策尽きた、そう思われた。

 

しかし彼らは忘れている。

 

 

 

 

 

ここには救いの神がいることを。

 

 

「「ブゥンッ!!」」

 

   バタンッ

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「フーフフフフ!! フーフフフフ!!」

 

「なっ……マスター!? それに、ナーサリー!?」

 

 

現れたのは、ずっと引きこもっていた檀黎斗とナーサリー。二人は全く同じように高笑いをし、どや顔をした。その場の全員が絶句する。

 

 

「私の才能をなめるなぁ……私は神だ、更に言えば産み出す神だ!! 地母神(ティアマト)がどうした、新たなる神は私だぁ!!」

 

 

黎斗はそう言って退けた。そして彼は凍りついた空間に分け入り、駄女神の称号を与えられたイシュタルの手首を掴む。その顔は自身に溢れて、その力は非常に強かった。

 

 

「という訳でイシュタルは貰っていく……グガランナを連れていた逸話の残っているイシュタルという存在を弄り回せばグガランナの種程度は出せるだろう?」

 

「え、ちょっ──」

 

『爆走 バイク!!』

 

「えっ? えっ?」

 

   ブスッ

 

 

そして彼は、イシュタルにプロト爆走バイクを挿入した。彼女の体は光に包まれ、露出度の低い格好に書き換えられる。

 

そしてその足元には、()()()()()が現れた。

 

()()()()()()()()だった。

 

 

「まさか、この小さいのが……グガランナか……?」

 

「えっ……かわいい……」

 

 

驚愕、茫然、感嘆……一同はその感情に飲まれ、やはり動けない。そしてその沈黙を賛同と受け取った黎斗は、やはり高笑いと共にイシュタルをお姫様抱っこし、部屋から走って出ていった。

 

 

「という訳で、彼女は私たちが貰っていくわね!! 出来るだけ急ぐけど、グガランナが完成するまでは時間を稼いでちょうだい!!」

 

 

そしてナーサリーもそう断り黎斗の後を追う。

 

誰も、彼らを止めることは叶わなかった。

 

───

 

 

 

 

 

「これで、最後っ……!!」

 

『Noble phantasm』

 

   ザンッ

 

 

シールダーは長い長い時間をかけて、エリドゥのラフムの内動いていたものを全て斬り伏せた。既に朝陽が昇ろうとしていた。

 

彼女は人間のいなくなった市の、誰かの家の壁に寄りかかり暫しの休息をとる。

彼女は預かり知らぬことだったが、ティアマトの泥ががエリドゥを飲み込むまで、あと一日だった。

 

 

「ふぅ……漸く、落ち着きました」

 

『ガッシューン』

 

 

変身を解く。見上げる空にはやはり光の帯があって。

マシュは立ち上がり……目の前の、緑の髪の存在に気がついた。

 

 

「……キングゥ……!?」

 

「……いや、違う……きっと、違う。母さんに棄てられたボクは、もう……」

 

   ドサッ

 

 

そして、マシュが立ち上がりきるのと入れ違うように、キングゥが倒れ伏した。

マシュを見ても何もしなかった辺り、もうキングゥに戦う力はないとマシュは見た。ここで禍根を絶ってしまおうか、マシュはそう考えエクスカリバーを手に取り……

 

 

「ピョエー」

 

「……あ、ガルーダ……晴人さんの」

 

 

晴人がエリドゥまで飛ばしたガルーダが、マシュへのメモ書きを持って彼女の前まで飛んできていた。

そこには、現在の状況が分かりやすく事細かに記されていた。

マシュは言葉を失った。ラフムが無限に出てくる? 泥の津波が襲ってくる? 巨大なティアマトが歩いてくる。

 

そんなの敵わない、とは彼女は思わなかった。

ただ、救わなければ、そう思った。人を助ける、それだけが彼女を突き動かしていた。

決して諦めない。何としてでもウルクの人々を救う。まだ彼女は折れてはいない。折れられない。

 

メモ書きには、マルドゥークの斧についても書かれていた。それをティアマトに当てれば、勝つ可能性は十分あると。マシュは辺りを見回して、それらしきものを発見した。

 

 

「……キングゥ」

 

「ボクを、その名前で呼ぶな……殺すなら殺せばいい、ボクに抗う力はない」

 

 

マシュはキングゥの名を呼んだ。キングゥは光のない目で力なくマシュを見上げる。何時でも殺せ、そう言いながら。

 

しかしマシュはその挑発には乗らなかった。もっと必要なことがあった。

 

 

「キングゥ……貴方は、あの斧を振るえますか?」

 

 

マルドゥークの斧を指差す。キングゥはそちらに目をやり、顔をしかめ……それでも頷いた。嘘をつくだけの思考まで奪われていたらしい。着陸するなり倒れこんだのも合わせて考えれば、余程ティアマトに痛い目に遭わされたのだろう。

 

しかし振るえるなら話は早い。恐らくこの容態であんな大きな物を振るったが最後自壊は確実だが、キングゥはやはり人理の敵だったもの。どうなろうが知ったことではない。

 

マシュはキングゥを立たせようとした。

その時だった。

 

 

「……見つけました、キングゥ」

 

「……アナ、さん?」

 

 

アナが立っていた。しかしそれは、元のアナではなかった。

白かった肌は泥の黒茶色にそまり、目は血のように赤くなり、衣服には魔神柱のような目玉が浮かび……そして何より、三人いた。しかも分裂してさらに増える。

 

 

「追い付いて、来たのか……!!」

 

「……あれは何ですか、キングゥ!!」

 

「あれは……ラフムだ。母さんの海につけられたサーヴァントは母さんの眷属に生まれ変わる。つまりラフムだ、ガワが君の仲間でも」

 

 

そして間が悪いことに、夜の間は丸まっていたラフム達が再び動き始める。どうやら眠っていただけらしい。

 

 

「キキキキキキキ!!」

 

「キキキキ、キキキキキ!!」

 

「……君は逃げればいい」

 

 

キングゥはそう言った。彼はラフム達を押さえ込むつもりのようだった。母に棄てられ、自棄になっているようにも見えた。

しかしマシュは退かない。このラフムがウルクを襲わないなんて言えない。

 

だからマシュは、ガルーダから渡されたメモ書きに、自分の体から出ていた血で返事を書いた。

 

『現在エリドゥにてラフムの軍勢と、アナさんの姿をとったラフム達と戦闘中。マルドゥークの斧は輸送可能、至急援軍を求む』、と。

 

 

「……貴方は人理を救うために必要です。死なれては困る……私が貴方の反抗期を手伝いましょう」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

「反抗期? ……言ってくれる。だが、まあ……母さんにする小さな反抗だから、確かに反抗期、か」



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闇が広がるパノラマ

 

 

 

 

 

「人間は怖いです。本当に怖い……人間がいるから、幸せは壊される」

 

 

アナは、黒く泥にまみれたアナはそう言いながらシールダーと打ち合う。鎖鎌が彼女のライフを削っていく。

 

 

「そんなことは……そんなことは、ありません!! 貴女もウルクの人たちを見たでしょう!?」

 

「無様です……貴女も見ましたよね? 逃げていく人々の中にあった後悔を。『もっと殺したかった』という感情を」

 

「それは──」

 

 

シールダーは抵抗を試みたが逆に黙らされる。疲れからか迷いからか剣閃は鈍り、動きは緩くなっていく。

 

 

「人間は、駄目です。殺し尽くさないと……殺られる前に、殺らないといけない」

 

「黙って……下さい……!!」

 

『Noble phantasm』

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

   ザンッ

 

「無意味なことを……」

 

 

それでもシールダーはそのアナを斬り伏せた。そのままキングゥに目を向けてみる。少しでも、アナの言葉への否定を期待して。

だがそんな言葉がかけられるはずもなく。

 

 

「ボクは彼女の意見には納得できる。それはそれとして、今は反抗期だけどね。っ……」

 

 

キングゥの方も、痛みを堪えている様子だった。そんな二人に別の所から現れたアナが襲いかかり。

 

 

「残酷に殺します。女神の抱擁(カレス・オブ・ザ・メドゥーサ)!!」

 

「っ……」

 

 

シールダーは、石化の魔眼の元に晒された。

 

 

『Game over』

 

───

 

「そちらはどうですかレオニダスさん」

 

「おお、小太郎殿ですか!! こちらは至極順調ですな」

 

「ならよかった……今見てきた情報ですが、ティアマトはどうも物理的な破壊力も凄まじいらしく、小さな牙は尽く破壊されてしまうのです」

 

 

ナピシュテムの牙前にて、小太郎とレオニダスがそう言葉を交わしていた。迫り来る泥を前にすれば最早兵士の努力は甲斐がない。この牙のみが頼りだった。

 

 

「物理的な破壊力、ですか……私の宝具で防げますかな?」

 

「……恐らく、一度が限度でしょう。あれは凄まじい。やるとするなら、最後の最後までとっておいてください」

 

「了解しましたぞ」

 

 

そう頷くレオニダス。彼に、これから始まる戦いへの恐れはない。

ただ、自分達の後ろにいる人々に危害が加えられないか、それだけが心に引っ掛かっていた。

 

 

「……あとそれから、余裕があったらこれも作ってくれと、王から」

 

「……何ですかな、これは?」

 

「さあ……黎斗さんが設計したようですが。材料は追って渡されるようですので」

 

 

去り際に、小太郎がレオニダスに粘土板を差し出す。そこには、木組みの巨大な何かが書いてあって。

 

───

 

「ありがとう、ありがとうございましたノブカツさん……!!」

 

「じゃあねノブカツお兄ちゃん!!」

 

「また明日ね!!」

 

 

信勝はその頃、預かっていた子供達を親の元に返していた。

彼にも、そして子供達を迎えに来た親にも、今日か明日辺りが自分達の最期になるのではないか、という疑念、いや、むしろ確信に近いそれがあった。

 

 

「……また明日、ですか」

 

 

最後の子供達まで、親の元に行ってしまった。信勝の手元には、お礼の書かれた粘土板が積まれているのみ。

 

 

「……また明日、ですか」

 

 

もう一度彼は呟いた。

振り返ってみれば、遠くの方にラフムの影が見え、それを打ち落とすサーヴァントの影が見える。

そしてそのさらに向こうに、段々大きくなり始めたティアマトの影が。

 

 

「……皆さん。本当に、ありがとう。楽しい時間を、過ごさせてもらいました」

 

 

信勝は呟き、そしてその呟きを適当な粘土板に書き込み、一つのちびノブに託す。

彼は歩き始めた。その口元には笑顔の欠片があった。目元には涙が浮かんでいた。

 

───

 

 

 

 

 

   カタカタカタカタ カタカタカタカタ カタカタカタカタ

 

「あ"ー……あ"ー……」カタカタカタカタ

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわァァ」カタカタカタカタ

 

 

黎斗とナーサリーは、イシュタルとグガランナの幼体からのデータを、ひたすらに弄り回していた。

ひたすらに、だ。飲みもせず食いもせずトイレにも行かずにひたすらにパソコンに向かう二人の目は血走っていて。

 

元よりナーサリー・ライムとは、マスターによって変化するサーヴァントだ。しかも彼女は黎斗から生まれたバグスターでもある。

つまり、彼女の中の檀黎斗の才能が目覚めたことで、ナーサリー・ライム自身が急速的に黎斗に似ていっていた。

 

 

「もう、駄目……マスター、少し休ませて……」

 

 

……しかしまあ、すぐに同じ存在になるわけではない。ナーサリーがとうとう音を上げて倒れ伏した。机に顔をつけ寝息を立てようとする彼女を黎斗が叩き起こし肩を揺する。

 

 

「寝るなァァ!!」ユサユサ

 

「あうあうあう……」

 

()の才能は、こんなものじゃないだろう!! ナーサリー・ライムぅぅぅ!!」ユサユサ

 

「あうあうあう……」

 

 

 

 

 

   バタンッ

 

「五月蝿い!! もっと静かにせぬか馬鹿者!!」

 

「「……」」

 

 

余りに五月蝿かったせいだろう。ギルガメッシュが額に青筋を立て、直接苦情を言いに来た。その勢いに気圧された二人は黙り混み、静かに互いの顔を見合わせ、そして再びパソコンに向かう。

 

 

「あーあ、怒られちゃった」

 

 

と、コードに繋がれたイシュタルが呟いた。

 

───

 

『Noble phantasm』

 

「はぁ、はぁ……約束された勝利の剣(エクスカリバー)転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

シールダーは自分のライフゲージが警告を告げるのと共に、自分の最大出力で周囲のラフムを凪ぎ払う。

 

 

   ガガガガガガガガ

 

「キキキキキキキ!?」

 

「アガカガガガガ!?」

 

「っ……無駄なことを」

 

 

ラフム達は弾け飛んでいく。焦土に崩れていく。

しかしそれらはすぐに補われ。

 

 

「っ……」

 

 

そしてシールダーの変身は解けた。彼女は焦土に膝をつき、キングゥにガシャットを押し付ける。

 

 

「お願い、しますね」

 

『Game over』

 

「っ……また消えたのかい、彼女は。ボクがこれを持っていなくちゃいけないのが地味に辛いんだけど」

 

 

と言いながらもキングゥはラフムからガシャットを守る。

既に手慣れた動きだった。既に何度もマシュはゲームオーバーになっていたから、キングゥにガシャットを預けることに抵抗がなくなるのも、キングゥがそれを守ることに慣れるのもある意味当然だった。

 

 

「しかし、まあ……ボクがここまで母さんに逆らっても、母さんにとっては些細なことなんだろうな」

 

「その通りです、キングゥ。貴方は無駄です、余分です……死に絶えればいい」

 

 

キングゥにそう素っ気なく返すのは、再び地面から湧き出てきたアナ。キングゥは彼女の言葉に目を細め、大きく後ろに飛び退く。

遠くの方からまた数体のラフムが飛んできた。

 

キングゥには分からぬことだったが、彼とマシュは、ウルクに向かうラフムの半分を処理することに成功していた。

 

 

「でも……ボクももう危ないかな。そろそろ自壊が近い」

 

「……そこまでして、何故抗うのですか」

 

「……君達(ソロモン)が母さんの意思を汚し乗っ取り利用した。止めずにいられるかい?」

 

「……愚かな」

 

 

しかしキングゥにも限界はあった。既に彼の体からは作り物の血が流れ落ち、既に彼の体には傷がいくつも刻まれていて。

 

 

「……優しく殺す、なんてしません。私たちの敵は、惨たらしく失せて下さい……」

 

「っ……」

 

 

そしてキングゥの眼前に鎌を突きつけたアナは、それを力の限りキングゥに押し込んだ。

 

押し込もうとした。

 

 

 

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

「っ!?」

 

 

それを阻んだのが、ラーマの投げつけた剣だった。キングゥを殺そうとしていたアナは蒸発し、こちらにやってこようとしていたラフムの群れは打ち落とされる。

 

ラーマとシータが、キングゥを助けていた。彼らは既にキングゥがマシュと協力関係にあると確信していた。

 

 

「……ラフムは、これで全てか。君達がカルデアのサーヴァントかい?」

 

「ああ、余達はカルデアのサーヴァントだ」

 

 

キングゥはその言葉を聞くと同時に両手を上げる。そして、魔力の吹き荒れる空を見上げた。

彼は悔やんでいるように見えた。

 

 

「……じゃあ、今からボクは鎖になろう。君はこの鎖の端を持っていればいい」

 

 

そう言ってキングゥはラーマに向き直り、手から鎖を垂らしラーマに持たせる。

 

 

「重さはボクが出来るだけ負担する。大体半分ほどにはなるだろう、それでも重いけどね。きっと、投げられないことはない」

 

「……その前に、一つ良いだろうか?」

 

 

巻き付いた鎖が重さを軽減する……物理学的にはかなり怪しい挙動だが、神代だからあり得る。ラーマはそれについては納得した。

 

しかしそれでも、ラーマには気になることがあった。

キングゥは余りに此方に協力的すぎる。もう、何人もウルクの人々を殺し、何人も悲しませているのに。

それなのに今はラフムを倒し、マシュのガシャットを守ってくれた。

 

 

「……何故お前は余に、カルデアに協力してくれた?」

 

「……ボクは知っている。もうティアマトはソロモンに乗っ取られたと。彼女はもう彼女ではないのだと。だから……ボクが、彼女を止めなければならない。彼女の進軍は、彼女の意思で行われるべきだったから」

 

「……そうか」

 

 

ラーマはその返答に妙に納得した。

彼に彼自身の倫理があって行っているのなら、最初から疑ってかからなくてもいい……そう思った。

キングゥはその体を十分に生かし、マルドゥークの斧に纏わりつく。

 

 

「残りライフ、29……」

 

 

……そこに、マシュが戻ってきた。彼女はガシャットを回収し、鎖が巻き付き軽くなったマルドゥークの斧を見る。そして彼女もラーマから鎖の一部を受け取った。

 

───

 

 

 

 

 

「ピョエー!!」

 

「おつかれガルちゃん」

 

 

太陽が上りきり下がり始めた頃、晴人はジグラット内に飛び込んできたガルーダからメモ書き受け取り、それを読んだ。

どうやらマルドゥークの斧自体は持ってこられるらしい。それはいい、それはいいのだが……

 

 

「……あと一日だってさ。動かすのにかかる時間」

 

「っ、それだとエリドゥが先に泥に飲み込まれてしまいます!!」

 

 

時間が少しかかりすぎる。

エリドゥが泥に飲み込まれるまで、予測ではあと十二時間。間に合わない。しかし恐らく向こうも、全力で運んで丸一日は掛かるのだろう。

 

 

「シドゥリ、堤防の状況は!!」

 

「現在第三堤防まで決壊!! 小さな牙(リトル・ナピシュテム)()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうです!!」

 

「っ、やはりか!!」

 

 

ギルガメッシュは舌を打った。

今回のティアマトは只者ではない。彼にティアマトがどうなっているかを見ることは敵わないが、千里眼など使わなくてもティアマトが本来の在り方から剥離していることは何となく理解できた。

 

 

「ええい、どうすれば時間を稼げる!! グガランナが出来る当てが怪しい以上マルドゥークの斧は必須!!」

 

「っ……ククルン辺りがいればまだしも、ねぇ……」

 

 

ここに来て、三女神同盟を壊しすぎたと一同は察した。ティアマトに攻撃するに足る人材がいない、そう思われた。

あんな図体の大きな怪物を相手できると思えるほうがおかしい、そう考えられるほどに絶望的だった。

 

 

 

 

 

「……分かりました。()()()()()()()()()

 

 

……そこに現れたのが、信勝だった。

時間を稼ぐ……彼はそう言った。彼は自分が何を言っているのかはもう重々理解していた。

ギルガメッシュは何も言わなかった。ただ、試すように信勝の目を覗き込み、そして口元を緩めるだけだった。

 

 

「一足先に暇をいただきます。皆さん……ありがとうございました」

 

 

彼は部屋にいた一同に頭を下げてジグラットから出ていく。

そして外に出た彼は、ギルガメッシュから渡されたあの杖を強く握り、そして空へと放り上げる。

 

 

「……ちびノブ」

 

「「「「「ノッブ!!」」」」」

 

「「「「「「「「「「ノッブ!!」」」」」」」」」」

 

 

呼び出された沢山のちびノブが、杖を核にして新しい何かに変貌していく。金の光が漏れて信勝を照らした。

変貌していくそれを見上げ、信勝は小さく笑った。何となく気分が高揚してくる。

 

 

「──我が愛しき姉上よ。あらゆる意思、親愛、希望を握った輝ける人よ。僕の心を、僕の考えを、僕が成しうることをご照覧あれ……なんて、ね」

 

 

そんな台詞が口から漏れた。普通なら余りの恥ずかしさに赤くなるだろうが、信勝にそれを気にするだけの明日はなかった。

 

ラフムを狩り終えて一先ずジグラットに戻ってきた信長が、信勝の前に立ち尽くしていた。

 

 

「……何だ、これは? 信勝、お主何を……」

 

G(ゴールデン)G(グレート)G(ゴッデス)メカノッブ……これなら、少しの時間稼ぎにはなるでしょう」

 

「なっ……お主、まさか……」

 

 

信勝は信長に微笑み、出来上がり行くちびノブの山、いいや、GGGメカノッブに飛び乗る。信長は呆然として彼を見上げた。何が何だか分からないが、彼が死地に赴こうとしていることは理解できた。

 

 

「姉上。僕は……やっと、貴女の思いを、少しだけ理解できました」

 

「……」

 

「人間の価値とはただ存在しているだけではなく、どう動きどう生きるかにあり。あらゆる困難にぶつかろうと諦めず、進み続けることにあり」

 

 

彼の中に、短くも濃かった特異点での旅がフラッシュバックする。思い出が溢れて止まらない。今まで出会ったサーヴァントの、人々の言葉が信勝の中に溶け込んでいく。

 

 

『……わしの生きざま、とくと見せてやる』

 

『ああ!! それで皆の笑顔が守れるなら、何度でも死んでやる。……まあ一度きりしか機会は無いけどな』

 

『精々励めよ? 雑種』

 

『ノブカツお兄ちゃんありがとー!!』

 

『ありがとう……ございました……!!』

 

『また明日ね!!』

 

『ありがとう!!』

 

『ありがとう!!』

 

『ありがとう!!』

 

 

「やっと分かりました。ようやっと分かりました。ああ、本当に……人間とは楽しかった。だから──僕は、皆を守るために、あれを止めてきます」

 

 

GGGメカノッブはその瞬間に完成した。

ちびノブで構成された体はより細くかつ力強くなり、頭部に飛び乗った信勝は出来に感心する。

足の部分では、信長がGGGメカノッブをよじ登っていた。

 

 

「……姉上?」

 

「待った。弟だけ差し向けて笑っていられる姉がいるか。わしもついていく」

 

「……仕方ありませんね」

 

 

信勝は少し考えてからそう笑い、信長も頭部に乗せてやる。そしてメカノッブは、禍々しく染まった空へと飛び出した。

 

───

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

その時ティアマトから送り出されるラフム達を食い止めていたのはアヴェンジャーとセイバーだった。彼らは倒せど倒せど湧いてくるラフムをひたすらに切り捨てながら、きりがないことに舌打ちをしていた。

 

 

「キキキキ……!!」

 

「キキキキキキキキ!!」

 

「ノッブノッブノッブ!!」

 

「キキキキキキキキ!!」

 

 

「……すまない、ライフゲージが減ってきた。あれを頼む」

 

「ったく……本当にキリがないな。待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)!!」

 

 

二人は体力を回復しながら何度もラフムに向かっていく。

 

 

「キキキキ!! キキキキ!!」

 

「ノノノノ!! ブブブブ!!」

 

「キキキキキキキキ!!」

 

 

……そして気がついた。

何故か、ラフムの中にちびノブが飛び込んでいって、しかも倒している、と。

 

 

「……どういうことだ?」

 

「っ、アヴェンジャー!! 上だ!!」

 

「あれは……メカノッブ!?」

 

 

天を仰いでみれば、GGGメカノッブが飛び抜けていった。真っ直ぐティアマトに突進しながら、黄金のオーラを纏ったちびノブを投下していく。

 

 

「不味い、あのペースだと」

 

「ああ……いくら大気にマナがあろうと、あれだけちびノブを振り撒けば自壊する!!」

 

───

 

「LAAAAaAAAAAAAAAaaaa……?」

 

「……ついたな」

 

「ええ……行きます。っ、刮目せよ原初の母よ!! 第六天魔王織田信長の弟、織田信勝がその玉体を食い止める!!」

 

 

ティアマトの前まで辿り着いたGGGメカノッブは名乗りを上げ、豪腕で飛んでくる翼の生えたラフムを凪ぎ払い、胸元のキャノンを露出させた。

 

 

「GGG尾張砲!!」

 

   カッ

 

 

その声と共に黒い世界に広がるパノラマに差し込んだ金色の光が、ティアマトの足元の黒い泥を焼き払った。ティアマトの体も焦げ付き、女神は呻きを上げる。

しかし、無意味だった。乾燥した泥の上にティアマトから溢れ出した泥が溢れ、ティアマトの体の傷も瞬く間に治っていく。

 

 

「AaaAAAAaAaa……AaaAAAAaAaa……!!」

 

「……やっぱり駄目ですか。分かっていましたけど」

 

「信勝……」

 

 

ティアマトは巨大だった。そして無尽蔵に泥を抱えていた。

ビーストⅡ-Ⅰとなった彼女は、腕となったなった魔神柱を振り回し、メカノッブに攻撃を行う。

 

信長が信勝の顔を覗き込んだ。信勝は攻撃を防ぎながら笑っていた。丁度、信長という武将が良く見てきた(戦で死に行くものの)笑い方だった。

 

 

「改めて、今までありがとうございました。貴女の生きざまは、しっかりと見せてもらいました」

 

「……」

 

「……さようなら、姉上。僕は今でも、姉上のことが大好きです。ええ──大好きです」

 

「おい、信勝──」

 

   ボフッ

 

 

信勝はその言葉と共にGGGメカノッブの一部……信長が乗っていた部分だけを切り離し、ジグラットの方向へ飛ばした。少なくとも泥に飲まれる心配は要らないだろう。

信勝はそう確信し、満足を得る。

 

 

「さあ……僕の最後の晴れ舞台だ。この場には僕と貴女、それだけでいい」

 

 

黒泥の迫る大地に立つGGGメカノッブ。そしてその上の信勝。彼は、信勝はやはり笑っていた。毒気はなく、怒りもなく、ただ愉しくて笑っていた。その目は鋭かったが、しかし確かに笑っていた。

 

 

「……本当に。こういうときになると、自然と高揚してくるものです。それこそ、一つ舞でもやりたい位に……でもそれは止しましょう。でも、ああ……人間五十年。下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり。僕の第二の生は、五十年どころか一年もありませんでしたが、楽しかった。本当に。だからこそ……ここで、夢幻(終わり)にはさせられない」

 

 

彼の目的は時間稼ぎだ。その為に、彼は再びキャノンにエネルギーを充填する。

 

───

 

「急ぎましょうラーマさん、シータさん!! 泥はあと少しでここまで来るんですよね!?」

 

「その通りだ!!」

 

「……でも、泥の進行は本来のペースより落ちているみたいです」

 

 

マシュとラーマとシータは、全力でマルドゥークの斧を引っ張りながらウルクへと走っていた。近くの木々が折れていくのも気にせず三人は、ただただ泥に怯えていて。

 

しかしその泥は、彼女達を飲み込めない。

出てくる先から、GGGメカノッブに焼かれているから。

 

それを知らない三人はひた走る。それが人理を救うことだと知っていた。

 

 

「まだまだ道のりは遠いですが……諦めるわけにはいきません!!」

 

「分かっておる!! シータ、行けるな!?」

 

「はいっ!!」

 

───

 

 

 

 

 

「……っ」

 

   ガコッ ガコガコッ

 

「……そろそろ限界ですか」

 

 

GGGメカノッブは、悲鳴を上げ始めていた。一時間……一時間しか持たせられなかった。信勝はそれを辛く思ったが、しかし絶望はしていない。

 

彼はティアマトを見据え、その目を睨み、そして背中の剣を引き抜いた。

それは、今の今まで決して使ってこなかった聖剣。織田信勝という英霊のなり損ないが扱うには余りにも過ぎた得物。使ったなら彼自身が確実に弾け飛ぶ代物。

 

 

「AAAAAa、AAAAAAAAAAaaa……LAAAAaaaa……?」

 

「僕は……姉上を、そして、こんな僕と共にいてくれた全てを守りたい!! だから──」

 

 

聖剣カリバーン。元々アーサー王の物であり、あの魔法少女の特異点で信勝の手に渡り、彼の背にあり続けた剣。

それは今や、信勝の手元で光を纏い。

 

GGGメカノッブが走り出す。溝に塞き止められた黒泥を飛び越え、その機体に割れんばかりの熱を封じ込め、そしてその頭上では信勝が飛び上がり。

 

 

「聖剣の力、お借りします!! 勝利すべき(カリ)──」

 

「AAaAAAAAa……AAAaaAaa……」

 

 

それを、ティアマトの脳天に、振り下ろした。

 

 

「──黄金の剣(バーン)!!」

 

   カッ  ガガガガガガガガガ

 

───

 

 

 

 

「……漸く、辿り着いたな」

 

「ええ……」

 

 

ティアマト襲来まであと一日。冥界整備完了まであと二日半。太陽が再び登り南の端まで辿り着いた頃に、マルドゥークの斧を牽いたラーマとシータ、そしてマシュがウルクまで辿り着いた。

既にエリドゥは泥に呑まれている。しかし斧は、何とか無事だった。

 

 

「良くやった……本当に、良くやったのう」

 

 

信長はそう笑った。

南を見てみれば、再び動き始めた、しかし何処か痛みを引きずっているようなティアマト。

 

誰も知りはしないことだが、ティアマトの額にはカリバーンが突き刺さっていた。命あるかぎり傷つけられないティアマトだが、カリバーンが突き刺さった状態で傷が治ってしまった為、常時頭に剣が刺さった状態になってしまっていた。

 

相変わらず、空には黒い粒が舞い上がっているように見える。

決戦は近い。

 

───

 

「……君が、ギルガメッシュか」

 

「……随分と傷だらけだな」

 

「彼女達が乱暴に扱ったからさ……」

 

 

キングゥは鎖の役目を終え、ボロキレのような体になりながら、行く宛もなく歩いていたところでギルガメッシュと遭遇した。

中途半端に寝返ったせいか、もう戦うつもりもしない。

 

 

「……好きにすればいい」

 

「まあ、貴様の心がどうあろうと知ったことではない。が……貴様の体は世に一つの天の鎖だ。つまり、貴様も我が友愛の対象だ」

 

 

ギルガメッシュはそう言い、倉を開き、キングゥの中に盃と何かの塊を埋め込んだ。

無防備だったキングゥは予想外のことに慌てて立ち上がる。

 

 

「なな、何をした!?」

 

「ほう、良い具合になったな。流石はウルクの大盃。……もう一つは薬の原典だ。そういえばイシュタルめの元に行かせる時にマシュにもくれてやった筈なのだが、全く使っていないな」

 

「……何でだ?」

 

 

キングゥには分からなかった。何故ギルガメッシュが自分に親身にしてくれるのかと。確かに自棄になってマシュを手伝いはしたが、それだけで許す人物だっただろうか、と。

 

 

「簡単なことだ。貴様はエルキドゥの体を持っている。つまり後継機のような物だ、贔屓にして何が悪い……まあ、我は貴様を強制せぬ。好きにすれば良い。自棄になっても構わない、貴様には自由がある」

 

 

そこまで言って、ギルガメッシュは立ち去った。

キングゥは空を見上げた。やはり禍々しく染まった空には魔力が吹き荒れていて。

 

明日の昼には、ティアマトはウルクに到達する。

一日半どう持たせるか……それが、ウルクの課題だった。

 





僕の考えた最高のカッツ


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Wish in the dark (1)

書き溜めのデータ全部消えたりして遅くなりました


 

それから丸一日。

サーヴァント達がウルクに近づいてくるティアマトに合わせて排出されるラフムを狩りに赴いている中、レオニダスと小太郎はウルクに残った兵士達と共に、黎斗から渡された機械をとうとう組み上げた。

 

 

「……完成しましたな」

 

「ええ……まさかマルドゥークの斧を投擲する為の機器だったとは」

 

 

堂々と南門にそびえ立つ発射台。それはシンプルな造形で、目立った点は両端からはみ出ている紐のみ。

あとはこれにマルドゥークの斧を嵌め込み、力のあるサーヴァント……例えば、宝具を発動したレオニダス等が全力でその紐を引くことでストッパーが外れマルドゥークの斧は五百メートル先まで時速60kmで飛んでいくとのこと。

 

 

「……流石は私の才能だ。フフ、ハハハハ……!!」

 

「ああ、黎斗殿……グガランナはもう良いのですか?」

 

「問題ない。やりたかったことはまだあったが……時間切れだ。グガランナなら、後はナーサリーが全てやれる。……そろそろ前線に赴くぞ、風魔小太郎」

 

 

ウルクの南門を通って現れた黎斗は既にドライバーを巻いていた。彼の目はナピシュテムの牙の向こう側の、三重に堀が用意された平野を見つめる。

 

 

「……はい。今から……始まるんですね」

 

「その通りだ。絶対魔獣戦線メソポタミア……あと一時間もせずに、ティアマトは軌道通りに直進し、アレにかかる。レオニダス」

 

「ええ、動きが止まったら私が炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)を使用するのですよね? で、起動をすると」

 

「その通りだ」

 

 

彼は戦場へと歩き始めた。見据える先のその先にはティアマトが未だ動いている。

しかし黎斗が一人進む様に不安も悲観もなかった。寧ろ、期待に胸を膨らませているようにも見えた。

 

───

 

「AAAAaAaaaaaAAAaAAAAAaAaaAAAAaaaaa……!!」

 

 

ティアマトは進む。周囲の木々を泥で覆いながら進む。その泥は傾斜をものともせずウルクへと向かい、そしてウルクとの間に掘られた堀に溜まっていく。

ティアマトは本来のティアマトとは既に剥離していた。その大角は魔神柱に置き換えられ外敵を睨んでいた。その背には翼ではなく何本もの腕が生えていた。その乳房は既に失せ、瞳の集合体が外的を呪っていた。

 

 

 

「……黎斗さん。来ました、ティアマトが」

 

 

堀の向こう側でティアマトを見上げ、マシュはそう呟いた。彼女の残りライフは29……いや、消滅してアヴァロンの幽閉塔に戻ったのであろうマーリンの助けで残り30になっている。

 

 

「そのくらい分かっている。今さら恐れなどないだろう、マシュ・キリエライト?」

 

「当然です」

 

 

そこには、ウルクの殆どの戦力が立っていた。そこには、未だウルクの中に残る人々の希望が残っていた。

ティアマトは進む。ウルクへと進む……そして。

 

 

「AaaaAAAAAAAAAaaaAAaaa……」

 

   メキッ

 

「──Aa」

 

   メキメキメキメキメキメキメキメキ

 

 

ティアマトの右足にあたる部分の大地が陥没した。

深さにして24メートル、冥界の移転を邪魔しない程度だがティアマトを足止めするにはそれなりの深さの落とし穴。

大地が揺れる。ティアマトがよろける。

 

 

「AAAAAaaaAAaaaa……AAAAAa……」

 

「ティアマト、一時停止!! 今のうちです黎斗さん!!」

 

「分かっているさ」

 

 

「……これが、最後の戦いになる。ここまで良くやった、誉めてやろう……しかして、決して気を緩めるな。心して挑むが良い」

 

 

ウルク南門の近辺の城壁から、ギルガメッシュが大声でそう言った。それと共に彼の側の兵士達が一斉に攻撃を放つ。

それが作戦開始の合図となった。

 

 

「それでは皆さん御武運を!! 行くぞ弁慶、自在天眼(じざいてんがん)六韜看破(りくとうかんぱ)!!」

 

「そっちは任せたニャ!!」

 

「ええ、存分に打ち合って行きましょう!!」

 

   シュンッ

 

 

最初に飛び出したのは牛若丸とジャガーマン、そして弁慶。彼女らは牛若丸の宝具によってずっと遠くまで……それこそ北壁の向こう側まで、ティアマトを守っていたラフムと共にワープしていく。

 

護衛が消え失せ困惑するティアマトを前にして、その場にいたサーヴァントが皆ガシャットを構える。

既に戦いの火蓋は切られた。逃げ場はない。ここで第七特異点を終わらせる。

 

 

『Taddle Fantasy!!』

 

 

セイバー、ジークフリート。腰に輝くはガシャコンバグヴァイザーN。その剣の閃きはあらゆる悪を切り伏せる。

 

 

『Bang Bang Simulations!!』

 

 

アーチャー、織田信長。腰に輝くはやはりガシャコンバグヴァイザーN。呼び出す火縄は意思を告げる号砲。

 

 

『タドルクエスト!!』

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

ランサー、エリザベート・バートリー。腰に輝くはガシャコンバグヴァイザーL・D・V。その槍は邪悪なるものなれど今は悪へと振るうもの。

 

 

『Perfect Puzzle』

 

『Knock Out Fighter!!』

 

 

アヴェンジャー、エドモン・ダンテス。腰には何もなく、しかして体に直挿ししても耐えうる者。その瞳は真実を見据え、それでも良いと笑う。

 

 

『『ドラゴナイト ハンター!!』』

 

 

カップル、ラーマとシータ。並び立つ二人に直挿しの恐れはなく。その剣は弓は、互いと互いの恩人への思いを力に変える。

 

 

『Britain warriors!!』

 

 

シールダー、マシュ・キリエライト。腰に輝くはガシャコンバグヴァイザーL・D・V。その剣は今や彼女のものとなり、人理を救うと決めた彼女と共にある。

 

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!!』

 

 

ウィザード、操真晴人。腰に輝くはウィザードライバー。その指輪は希望を護る魔法使いが最後の希望となる手段。

 

 

『マイティ アクション NEXT!!』

 

 

ゲームマスター、檀黎斗。腰に輝くはゲーマドライバー。彼の才能は全てを産み出し全てを攻略する。

 

 

『ストーム ニンジャー!!』

 

 

アサシン、風魔小太郎。腰に輝くはガシャットドライバー:プロト。その足は戦場を駆け、外敵を速攻で潰す。

 

並び立つ、並び立つ。並び立つ戦士達が一同に見上げるは原初の母、人間が倒すべき悪。その名をビーストⅡ-Ⅰ(ティアマト)

本能のままに吠えるそれに最早母の面影はなく、故に。

 

人が神と袂を分かつ時が来た( Childhood's End )

 

 

「「「「「「「「「「変身!!」」」」」」」」」」

 

 

『辿る巡るRPG!! タドールファンタジー!!』

 

 

戦うものの回りに光が弾ける。

 

 

『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーショーンズ!! 発進!!』

 

 

姿が書き換えられていく。

 

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴラーラララーイズ!! フレイム!! ウォーター!! ハリケーンランド!! オールドラゴン!!』

 

 

それは敵と全く同じようで、その実全く別のもの。

 

 

『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

黎斗()の中より出でてその実正義の力を孕むもの。

 

 

『フレイム プリーズ!! ヒーヒー、ヒーヒーヒー!!』

 

 

絶望を弾き飛ばし希望を護るだけのポテンシャルを持つもの。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

故に彼らは止まらない。彼女らは止まらない。

 

 

『ぶっ飛ばせ 暴風!! ストームニンジャー!!』

 

 

今や人類の未来は、彼らの手の中に。

 

 

「……行くぞ。コンティニューしてでも、クリアする……!!」

 

「俺達が最後の、希望だ!!」

 

 

「AAAAaaLAAaAaaa……!!」

 

 

叫ぶティアマト。

それに相対した一同は臆することなく、敵の懐へと飛び込んだ。

 

───

 

「キキキキ!! キキキキ!!」

 

「イカナキャイカナキャ」

 

「退いてください……私達は行くところがあるんです」

 

「ちょーっと待って? 私の授業受けていかない? 逃れ得ぬ死の鉤爪(グレート・デス・クロー)!!」

 

   ザンッ

 

 

北壁の向こう側では、ジャガーマンと牛若丸と弁慶とがラフム相手に大立ち回りを繰り広げ始める。その耳にも、戦闘が始まったことは理解できて。

これは正真正銘最後の戦い、もう出し惜しみは必要ない。

 

 

「んー、向こうも頑張ってるニャ」

 

「ええ、我々も負けるわけにはいきません。存分に仁王立ちして私の盾になってください弁慶」

 

「ははは拙僧に死ねと申しますか!! ええ喜んで、決してあなた様を一人には致しますまい!!」

 

 

三人は恐れない。恐れている余裕など、もう何処にもありはしない。

 

───

 

「急ぐのだわ急ぐのだわ急ぐのだわ!!」カタカタカタカタ

 

「ぶもー……」

 

 

そして黎斗にグガランナの最終調整を任されたナーサリーは、ジグラット外の街道に場所を移しひたすらにキーボードを叩いていた。

隣ではコードを繋がれて頬杖をつくイシュタル、目の前には既に家屋ほどのサイズになったグガランナ。

 

 

「あと少しあと少し……」カタカタカタカタ

 

「……もう始まってるみたいね。まだ終わらないの?」

 

「今急いで……んうっ……!?」

 

   バタッ

 

 

突然ナーサリーが気を失って倒れた。どうやら限界が来てしまったらしい。

イシュタルがため息をついて、パソコンの隣のボタンを押す。

 

 

「……ええと、こうするのよね……? ポチッと」

 

   ブァサササ

 

「ふっかーつ!!」

 

 

その動作だけでナーサリーは画面の中から再び椅子の前に座り、再びキーボードに向かい始めた。

 

 

「もう何度目よ……少し休んだ方が」

 

「私に構わないで……開発を続けるわ!! ふんっ!!」

 

   カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

───

 

 

 

 

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

『ストーム クリティカル ストライク!!』

 

『フレイム スラッシュストライク!! ヒーヒーヒー!!』

 

   ザンッザンッ ズシャッ

 

「AAAAAAAAaAAAAAAAaaaaAAAAaaaa……AaaAAAAAAAAa……!!」

 

 

戦闘開始から二時間。エレシュキガルが冥界の支度を済ませるまで予定だとあと三十二時間。

黎斗によってティアマトの泥への耐性を得たガシャット使用者達は、入れ替わり立ち替わりティアマトへと攻撃を開始して、右足を抜かせないようにしていた。

 

黎斗はデンジャラスゾンビガシャットを使用しながらティアマトの胸部へと駆け上がり瞳の集合体を切り裂く工程を繰り返していた。

そして彼が四回目にそれを行った時、彼は確信する。

 

 

「っ……引け!! 魔神柱部分の勢いが弱まった!! 今なら投擲は防がれない!!」

 

 

その声を合図に、ウィザードとシールダーがティアマトを縛り上げた。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

「鉄の戒め!!」

 

「AAAAAAAaaaLAAAAa──!!」

 

   ミシミシ ミシミシ

 

 

一時的にティアマトが動きを止める。その鎖は一瞬しか持つことなく、すぐに悲鳴をあげて千切れかけるが……その一瞬で十分だった。

 

 

「マルドゥークの斧、投擲!!」

 

 

「了解しました!! 炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)!!」

 

   グググググ

 

   バキンッ

 

 

宝具を発動したレオニダスが、呼び出された三百の仲間と共に、発射台の紐を全力で引いた。ストッパーは外れ、巨大な斧はティアマトの元へと飛んでいき……

 

 

 

 

 

   ズズズブシャアッ

 

「LAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAa!?」

 

 

勢いよく胸元へと突き刺さった。巨大なティアマトの胸元に、衝撃波すら放ちながらマルドゥークの斧が突き刺さった。

悶え苦しむビーストは堪らず大地に左の膝をつく。

 

しかしティアマトは、胸元から魔神柱を伸ばしてその傷を塞ごうとしていた。

 

何重にもなった呻きと共にティアマトの目が更に増える。元よりウルクを睨んでいただけの双眸に加えて、体表に更に幾つもの目が浮かび上がる。そして哭いた。

 

 

「LAaAaAaAaAaAaAa──!!」

 

「何じゃあれは!? あれでは、あれでは……まるで……」

 

「……魔神柱が覚醒したか」

 

 

……そう。マルドゥークの斧によって、本来のティアマトなら致命傷を受けただろう。死こそなくとも一日は動けなかっただろう。

しかし今のティアマトはティアマトであってもティアマトではない……魔神柱が混ざっている。

彼女の体の支配権はこの瞬間完全に魔神柱のものとなった。百獣母神の肉体は全て奪われ、その権能はやはりサーヴァント達に牙を剥く。

 

───

 

「……」

 

 

キングゥは南門の上に立ち、ティアマトに攻撃を浴びせるサーヴァント達を見つめていた。その瞳は無感動なようで、しかし内心は揺れていた。

 

 

「……ボクの、やるべきこと……」

 

 

彼の隣では、最後までウルクに残ると選択した兵士達が、遠方で暴れるティアマトに攻撃を続けている。

 

 

「……やるべきこと、いや、やりたいこと……」

 

 

隣を見た。一心不乱に狙いを定め、ラピスラズリを砕いて攻撃を放つ彼らはちっぽけで。

それでも尊く見えてしまった。キングゥという機体の中の、エルキドゥの残りカスのせいだろうか。

 

 

「……何をしている?」

 

「……ギルガメッシュか」

 

 

キングゥの隣にギルガメッシュが立った。彼は遥かの戦場を見つめ、ウルクの守りを見つめ……そして手元のガシャットを見つめていた。

キングゥは何かを言おうと思った。しかし出そうとした言葉は唇に引っ掛かり、少し震えさせるだけに終わった。

 

 

「……キングゥよ」

 

「……」

 

「ウルクはここで滅びる。ウルク第五王朝はティアマト、そして我の死でもって終わりを告げる。ウルクの人々はカルデアの尽力で生き長らえたが、ここまで大地が荒らされれば国など持つまい……それは皆が知っていた」

 

「なら、なら……どうして彼らは」

 

 

ギルガメッシュは笑っていた。愉しげに笑っていた。

 

 

「決まっているだろう。ここで死んでも次がある。自分の後を継ぐ物がいる。ウルクの文化が残ればウルクは継続する。人の痕跡が残れば誰かが人の道を継ぐ……そう信じるのだ」

 

「……」

 

闇の中で抱く望み(Wish in the dark)。これを持つ限り、人は進む」

 

───

 

「っ……完成したわ完成したわ完成したわ!! ウッ……」

 

   バタッ

 

 

戦闘開始から六時間。冥界落としが可能になるまであと二十八時間。

ナーサリーが歓声と共に倒れ付した。そしてそのまま消滅する。イシュタルはグガランナがかつてみた調子と同じくらい……いや、さらに強くなりさらに扱いやすくなったのを確認して感嘆の息をついた。

 

 

「ほぉ……こんなにすごいんだ……倒れても仕方ないわね。お疲れ様。ポチッとな」

 

   ブァサササ

 

 

グガランナは鼻息を荒くしていた。イシュタルはナーサリーを復活させながらコードを抜き立ち上がる。

 

対ティアマトの戦闘開始から、既に半日が経過していた。

 

 

「ふぅ……あ、こうしちゃいられないわ、マスターに知らせないと!! ……あ、ありがとうね!!」

 

「良かったわ……じゃあ、行ってくるわね」

 

 

イシュタルが元の姿に戻り、マアンナに乗って空へと舞い上がる。ナーサリーは近くの物見台をよじ登り、反射鏡でゲンムにグガランナの完成を伝えた。

 

 

「出来たわよ、マスター!!」

 

   キラッ

 

───

 

   キラッ

 

「っ、でかした!! 流石は()の才能!! では早速だ……門を解放しろ!! ナピシュテムの牙部分収納、グガランナを放て!!」

 

 

光を受け取ったゲンムは笑いながら飛び退いた。ティアマトは未だ片足を穴につき入れたまま暴れている。

 

 

ウルクの門が開かれるのが横目に見えた。ナピシュテムの牙は中心部分のみ下げられ、その向こうに砂埃が上がる。

 

 

「ブモオオオオッ!!」

 

「よしきた、全員退避しろ!!」

 

『マーイティーアクショーン NEXT!!』

 

『ジェットコーンバーット!!』

 

 

それを見ると共に、ティアマトを足止めするため奮闘していたサーヴァント達は一斉に飛び退いた。

それを気にすることなく、グガランナはティアマトへと飛び込んでいく。

 

 

「ブモモモモモォォォゥウッ!!」

 

   ズドンッ

 

「AAAAAaAAAAAAAAAAaaaLAAAAaaaa!?」

 

 

地響きと共にティアマトは突き倒された。右足は穴から抜けたが、代わりにグガランナの体自体がティアマトを押さえつける。

南門まで戻ったサーヴァント達にも、その戦いの熱が伝わってきた。それは決壊した堀の泥を全て干上がらせ、ティアマトをじりじりとなぶっていく。

 

 

「ブモモモモモモモモモ!!」

 

「Aa……Aa……!?」

 

「本当……本当に、本当にグガランナを作るなんて、ね。私も負けてられないや」

 

 

最もグガランナを扱い慣れているイシュタルが、グガランナを縫うようにして飛び回りながら援護射撃を行いながら、静かにそう呟いた。

諦めるのはまだ先でいい。今はひたすらに足掻くだけ。

 

───

 

 

 

 

 

戦闘開始から十五時間。冥界の準備が終わるまであと十九時間。

その時、グガランナは胴体に穴を開けられていた。ティアマトの方も、角は毟り取られ胸元はマルドゥークの斧が突き刺さっている部分以外捌かれていた。

しかし、ティアマトには不死性が存在していた。一時的にでも拮抗した両者だったが……天秤は、ティアマトの粘り勝ちを告げた。

 

 

「ブモ、モ……」

 

   ドサッ

 

「グガランナ!!」

 

 

グガランナが倒れ伏す。ティアマトはその頭をどうにか引きちぎって、グガランナを無力化した。

 

 

「AAAAAAAAaAAAAaAAAAa!!」

 

   ブチブチブチィ

 

 

不死性故の粘り勝ち。しかしその不死性は強力無比。

例え不死性を剥ぎ取る手段があろうと、この大地においては無意味。

 

しかし、まだ手段は残っている。

 

 

「さて……とうとうこの時が来たな」

 

「ギルガメッシュ王……!!」

 

 

南門前に集合してグガランナの顛末を見届けた黎斗達の元に、アーチャーの格好に衣装を変えたギルガメッシュが歩いてきた。その腰には黄金のガシャットドライバー:ロストが輝き、手ではもて余すようにガシャットを回している。

 

 

「キングゥはどうした?」

 

「……さあな。だがこちらに害は成すまい。……檀黎斗よ」

 

「何だ?」

 

「……このガシャット、使ってやろう。存分に光栄に思うがいい」

 

『Goddess Breaker!!』

 

 

ギルガメッシュを中心に、黄金のゲームエリアが広がった。ティアマトすら易々と飲み込むそれは同時にギルガメッシュの倉と同質の存在で。

 

 

「……変、身」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『至高の王の財宝!! 黄金の最強英雄王!! 人の明日を拓け!!』

 

 

その音声と共にギルガメッシュの回りをいくつもの宝具が飛び回る。彼の姿は極光を放つ黄金のアーマーに塗り替えられ、その手は一本の宝剣を掴み。

 

 

原罪(メロダック)!!』

 

「……ほう、便利なものだな。なるほどこれがガシャットか……仮面ライダーか」

 

 

「あれが……ギルガメッシュ王の……」

 

 

誰からともなく呟いた。その輝きは神々しくも力強くかつ理知的で。

 

 

「AAAAAaAAAAAAAAAAaaaLAAAAaaaa!?」

 

「……我は仮面ライダー……そうさな、仮面ライダーバビロン。仮面ライダー、バビロンだ」

 

───

 

「ひぃ、ひぃ……!! あと少し……!!」

 

 

エレシュキガルは急いでいた。全力でガルラ霊達を走り回らせながら、自分も慌てて移転を継続する。

このままでは持たない。絶対持たない。それは何となく予想できて。

 

 

「クエー!!」

 

「ああありがとうね……あと少しあと少し……」

 

 

それ故に、足になってくれたり運搬の手伝いになってくれる()()()の存在は大きかった。

 

 

「頑張ってるネ、エレシュキガル!! 調子はどう?」

 

「どうもこうも無いわよ!! でもやるしかないの!! あと少しあと少しィ……!!」

 

───

 

ギルガメッシュ……いや、バビロンの戦闘は凄まじい物だった。

一度手を振り上げればティアマトの巨大な体を包むように砲門が展開され無数の攻撃が女神を焼いた。一度攻撃を浴びせられれば盾の宝具をいくつも呼び出し、何倍にでもして反射した。

 

だが足りない。ティアマトは倒れない。地上にて彼女の不死を剥ぐだけの宝具は倉の中には存在し得ない。

 

 

「っ……いっそエアを全力で使うべきか……いや、それは後が持たない……!!」

 

「AaAaAaAaAaAaAaAaAaAa!!」

 

 

ティアマトがまた全身から攻撃を放つ。衝撃波を纏ったそれは、飛び上がっていたライダー達を吹き飛ばす。

 

 

「っぐ……!!」

 

『Game over』

 

 

シールダーがまた倒れ付した。残りライフ17。その隣では信長も打ち所が悪かったのか倒れている。

バビロンは知っていた。これは誰か一人が強ければ勝てる、といった類いのものではないと。最初から知っていた。

 

だからこそ彼は待ち望んだ。全員での勝利への、最後の一欠片を。

 

 

 

 

 

『ギルガメッシュ!! 冥界の準備、整ったわ!!』

 

「存外早かったではないかエレシュキガル!!」

 

 

そしてその一欠片は、この瞬間に嵌められる。

 

 

「そこの。そこのアーチャーよ」

 

「……何じゃ?」

 

 

バビロンはエレシュキガルからの報告を聞くやいなや、隣で膝をつく信長を見た。彼女は思いきり胴体に攻撃を喰らい変身が解けていた為、否応なくガシャットを握り締めて回復を待っていた。

その彼女の隣にて、バビロンが宝具を呼び出す。

 

 

天翔る王の御座(ヴィマーナ)!!』

 

「……これを使え。そして貴様がティアマトを冥界まで落とせ、雑種」

 

 

……信長には願ってもない話だった。このまま動けずにいるのは辛かった。妙に弟のことが思い出された。じっとしていてはいけないと思っていた。

だからこそ彼女はヴィマーナに飛び乗る。そしてヴィマーナは、衝撃波を残して飛び立った。

 

 

「任せよ!!」

 

   ブゥンッ

 

 

上昇する。上昇する。その速度はマッハへと至り、ティアマトの頭部まで瞬く間に上昇する。

そして彼女はそこから飛び出し、刀を抜こうとして──止めた。そして、ティアマトの眉間に突き刺さっているカリバーンを握り締めた。

 

 

「っ……」

 

「LAAaa──!!」

 

 

ティアマトの角……いや、魔神柱が彼女へと攻撃を浴びせようとする。

しかしそれは行われなかった。行おうとしても、体が動かなかった。

 

ティアマトの姿は、その一瞬だけダブって見えた。薄れて見えた。

 

 

「信勝……行くぞ」

 

「AaaaaaLAAAAa……」

 

 

そしてその一瞬で、十分だった。

 

 

「いざ、三界神仏灰燼と帰せ。第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)!!」

 

   ガッ

 

 

信長は、宝具を解放すると共にカリバーンを握り締め。全力でそれを掴み、足だけはヴィマーナに飛び乗りながら急降下を開始した。下へと落下した。

 

 

   ガガガガガガガガ

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

「AAAAAaaaaaLAAAAAAaaaAAa、AAAAaaa……!!」

 

 

火花が上がる。ティアマトの悲鳴すら打ち消すほどに痛々しい斬撃音が鳴り響く。信長の回りに、神を殺す空間が産み出される。信長はカリバーンでティアマトを股ぐらまで切り裂く。

ティアマトは大きなダメージを受け、ウルクを前にしたまま再び膝をついた。

 

そしてその重量によって大地は割れ、砕け、沈んでいく。

 

 

   ズドンッ  ガガガガガガガガ

 

「Aa、Aa──!!」

 

「逃がすな、追うぞ!!」

 

「ええ!!」

 

 

そしてそれを追いかけて、最後の戦いの舞台は冥界へと移る。

戦いの全ては闇の中へと落ちていった。

 




本当は一つに纏めたかった
文字数がヤバくなった


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Wish in the dark (2)

 

 

 

 

   ズザザザザザッ

 

「っ……皆さん、無事ですね!!」

 

 

冥界に到達した。時間差コンティニューをすることによって一足遅れて着地したマシュは辺りを見回し、協力者達が無事かどうかを確認する。

呼吸が楽になっていた。体が軽い。意識を集中すれば空中に浮くことも出来る。……あの契約書でエレシュキガルに発動を強制させた、冥界においての加護の力だろう。

そしてマシュは、冥界の中心で悲鳴を上げながら、最早ラフムと言うにも困るような何かと泥を延々と吐き出すティアマトを見た。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAaAAAAAAAaLAAAAa……!!」

 

「あれは……」

 

 

足元から流れ出た泥は冥界を侵食していく。彼女の子供たちは小さな魔神柱の固まりのようなものと化して跳ね回り、彼女自身は冥界の壁に手を伸ばしている。

 

 

「……あれが、ティアマトだ」

 

 

いつの間にかマシュの隣にいたゲンムがそう言いながら、マシュにガシャットを手渡した。

 

ティアマト。その姿はもがいているように見えた。まるで何かに抵抗しているような……

 

 

「迷っている暇は無いわよ、マシュ!!」

 

 

イシュタルが彼女の脇をすり抜けて飛び出し、ティアマトへと射撃を浴びせ始める。見回せば、既に他の仲間は戦闘を開始していた。

 

 

「……そうですね。変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

───

 

「お疲れ様です皆さん!! あと少しです!!」

 

 

南門の上では、シドゥリが兵士達を鼓舞しながら水分を配っていた。

冥界への穴は空いた。しかしティアマト自身がそこに墜ちても、ラフムはそこから溢れてくる。だからこそ撃墜は必須だった。

 

 

闇の中で抱く望み(Wish in the dark)……そうか……」

 

「……あなたにも、どうぞ」

 

 

一度去ってみたが、結局南門に戻ってきたキングゥに、シドゥリが水分を手渡していた。キングゥは困惑し静止する。

 

 

「……何で、だ? ボクは、敵だったのに」

 

「親愛なる友、エルキドゥ。一度礼が言いたかったのです」

 

「──ボクは違う。エルキドゥじゃない」

 

「そうだとしても、私達ウルクの民は、貴方への感謝を忘れません」

 

 

キングゥは回りを見回した。

誰も、キングゥに目を向けられる余裕のある者はいない。それでも……誰も、不快感は見せなかった。キングゥを否定してはいなかった。

 

キングゥにはそう理解ができた。目の前の人との思い出が、ウルクでの出来事がフラッシュバックする。彼の中のエルキドゥが、目を覚ましていた。

 

───

 

「「覚醒・羅刹を穿つ神竜(ドラゴナイト・ブラフマーストラ)!!」」

 

「|矛盾よ、煌々と燃え盛れ《パーフェクトノックアウト・シャトー・ディフ》!!」

 

 

ティアマトの胸元に猛攻が浴びせられる。少し下では他の仲間が現れる子供達を始末し、頭部の辺りではバビロンが一人奮戦している。

しかし足りない。まだ足りない。

ティアマトは胸元を撃ち抜かれてなお子供を排出し、それは下の勢力だけでは処理できない。子供は積み重なり、積み重なって足場となり……

 

 

「不味いな。ラフムが増えて、冥界が埋め尽くされる……!! まさか子供を足場にして強引に脱出するつもりか!!」

 

「させません!!」

 

『Noble phantasm』

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

シールダーが周囲を凪ぎ払ってみるも焼け石に水、子供達は一度分裂してみても再び元の場所に戻っていく。

焦りのみが募っていく。現在のゲンム、そしてシールダーのライフは12。無駄な特効は出来ない。

 

 

「どうすれば……どうすれば、この状況を……!!」

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

「トペ・プランチャー!!」

 

「クエー!!」

 

「クエー!!」

 

「クエェッ!!」

 

「っ!?」

 

「何で!?」

 

 

ティアマトの頭部に突き刺さる流星。それと共に無数の翼竜が子供達に突撃し各所に連れ去っていく。

その流星の正体こそ、ケツァル・コアトルだった。数日前にシールダーが山の翁との契約によって首を断たせたあの善神だった。

考えれば当然のことだった。当然のことだった……山の翁によって首を跳ねられた彼女はこの大地の上で死に……冥界へとやって来ていたのだ。

 

 

「……なるほど、冥界の作業が早まったのは」

 

「イエース!! 私が手伝ったからデース!!」

 

 

ケツァル・コアトルはそう笑う。その背後に、数体の翼竜が見えた。あれが尽力したに違いない。

 

 

「……ケツァル・コアトル。貴女は……私に、人理修復に協力してくれますか?」

 

「イエース!! 分かり会えなくても寄り添うことは出来る、私も手伝いますよ人理修復!!」

 

 

最早シールダーに、ケツァル・コアトルと敵対する理由はなかった。ケツァル・コアトルは翼竜を率いて上空に向かい、バビロンに加勢していく。

 

 

「……でも、ラフムがまだまだ出てきます!! 何か止める手だてはありますか、黎斗さん!?」

 

「……その心配は不要だ」

 

「っ……!?」

 

 

それでも焦ったままのシールダー。しかしその隣のゲンムは至って平気そうに天を仰いでいて。

そこには。

 

 

「そこについては私に任せてくれたまえ!!」

 

 

その声と共に、ティアマトから溢れる泥に花が咲いた。ラフムも、魔神柱もどきも出てこない。花だけが咲くようになる。

 

上を見れば、消滅したはずのマーリンが、飛び降りてきていた。

 

 

「マーリンさん!?」

 

「ハハハ、幽閉塔でじーっとしててもどうにもならないから、信条を曲げてここまで走ってきてしまったよ!! 待たせたね!!」

 

 

花を咲かせたのはマーリンの仕業らしい。その花は無害、ただ美しいだけ。それは、ティアマトをさらに絶望させる大きな一撃で。

 

 

「LAAAAAAAAAAaaa!!」

 

「おっと……無駄話をしている暇はない、ティアマトは逃げるつもりだ!!」

 

 

追い詰められたティアマトが、一際大きく声を張り上げる。発生した衝撃波は自らの子供達共々外敵を吹き飛ばし墜落させる。

エレシュキガルによって冥界での浮遊権が与えられていてもそれはあくまで浮遊しようと思って行うこと。不意の攻撃なら容易く打ち落とされる。

そしてティアマトは冥界の壁に手をかけ、力の限り登り始めた。

 

このままでは危ない。逃げられる。

シールダーは確信した。故に、畳み掛ける。切り札を切る。

 

 

「……二つ目の約束を果たして下さい、山の翁!! 『ティアマトの不死を切り落とせ』!!」

 

 

 

 

 

「承知した……ここまでくれば最早冠位を捨てる必要すらあるまい。ただ一刀の元に斬り伏せる」

 

   ゴーン ゴーン

 

「……一応名乗りは上げておこう。幽谷の淵から暗い死を馳走しに来た。山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

マシュが命令すると同時に遥か彼方の地上に現れた山の翁は、そこまで言ってから何の迷いもなく冥界に飛び降りてきて。そしてその大剣を降り下ろした。

 

 

「AAAaaaaaAAAAAAAAAAaaaAAAAAa!?」

 

「晩鐘は汝の名を指し示した……死告天使(アズライール)!!」

 

   ザンッ

 

 

ティアマトを殺す斧。ティアマトを殺す牡牛。ティアマトを殺す固有結界。ティアマトを殺す冥界。ティアマトを殺す花。ティアマトを殺す神の才能。それらでもって倒れなかったティアマトは、最後の最後に、己の命綱を切り落とされた。

 

ティアマトが壁から剥離していく。堕ちていき堕ちていき……しかしそこで諦めはしなかった。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAa、AAAAAAAaLAAAAa!!」

 

   バァンッ

 

 

ティアマトの全身が弾け、魔神柱が縦横無尽に伸びて冥界の壁に突き刺さる。そして節々から泥を垂れ流すそれは、いくつもの目で天を睨む。

山の翁は、それこそまと闇の中に溶けていた。そこかしこでラフムが切り裂かれていく辺り、彼も協力はしてくれているらしい。

 

 

「全く執念深い……災害の獣とはかくもおぞましいものだったか」

 

絶世の名剣(デュランダル)!!』

 

 

バビロンが剣を呼び出し、ティアマトから伸びた魔神柱を幾らか切り離してみる。

しかし、やはりと言うべきかティアマトは落ちない。魔神柱を切断する側から別の魔神柱を伸ばし、冥界の外へと歩みを続ける。

 

 

「駄目、逃げられます……!! どうすれば!!」

 

「っ、操真晴人!!」

 

「はいはい分かりましたよっ!!」

 

『オールドラゴン!! プリーズ!!』

 

 

天を見上げ叫ぶシールダーとゲンムの隣を、四つのドラゴン形態の合体したオールドラゴンとなったウィザードが突き抜けていった。少し遅れてランサーも飛んでいく。

 

 

「いいねエリちゃん!! 蹴り落とすよ!!」

 

「ええ、存分に蹴落としてあげる!!」

 

『チョーイーネ!! キックストライク!! サイコー!!』

 

『タドル マジックザ クリティカル ストライク!!』

 

「「はあっ!!」」

 

 

そして二人は一旦冥界の外まで飛び上がり、そして同時にティアマトの中心に足裏を叩き込んだ。

風が巻き起こる。ティアマトの胴体は冥界の奥の奥へと押し込まれていく。

 

でも足りない。ティアマトは反発する。死にたくないという本能に任せて力を込める。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAa──!!」

 

「っ……ダメ!! これじゃ、弾かれる!!」

 

「不味い……!!」

 

 

 

 

 

人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)!!」

 

 

その瞬間、ウィザードの背後から無数の鎖が飛んできて、ティアマトの体を貫いた。ティアマトは悲鳴と共に力を失い、冥界の大地に縫い付けられる。

 

キングゥの仕業だった。天の鎖となったキングゥが、ティアマトを全力で押さえ込んでいた。ウィザードとランサーは慌てて退避する。

 

 

「っ……この鎖は!! 退くわよ子ブタ!!」

 

「分かってる!! ……でも、お前はそれでいいのか、キングゥ!!」

 

「良いんだ!! 君達は退け……今だ!! やれギルガメッシュ……やるんだ、ギル!!」

 

 

そしてキングゥはそう叫んだ。いや、それはキングゥだけの声ではない。キングゥの中に残ったエルキドゥの残滓の物でもあった。

キングゥはこのまま深淵に墜ちても構わなかった。それが己のけじめになるから。母にも人間にも肩入れしきれなかった己への。

 

 

「……この一撃をもって決別の儀としよう」

 

乖離剣エア(無銘)!!』

 

 

その意を汲んだのかは定かではないが、バビロンは己のガシャットをキメワザスロットに装填し、己の倉から最強の宝具を引き抜いた。

それは三つの円筒が積まれたような、剣をというにはやや不格好にも思えるもの。しかしその実は世界を裂いた最強の剣。

 

決着をつけるときが来た。

シールダーはそれを察してガシャコンカリバーのトリガーを引く。

ゲンムはガシャコンソードを呼び出してデンジャラスゾンビガシャットを装填する。

ウィザードはインフィニティースタイルに姿を変えウィザーソードガンに手を添える。

 

 

「原初は語る。天地は別れ無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す渦、天上の地獄とは創世前夜の終着よ。死をもって鎮まるがいい」

 

『ブレイカー クリティカル ストライク!!』

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

『インフィニティー スラッシュストライク!! ヒースイフードー!!』

 

 

「「「「はああああっ!!」」」」

 

 

   ザンッ

 

 

「Aa、AaaAAAAAAAAa、AaaAAAAAAAAa……」

 

 

ティアマトは落ちていく。縫い付けられた大地ごと深淵へと落ちていく。手を伸ばしても地上には届かず、暴れてみても足場は無い。鎖は有情にも加減はせず、共に消えることを選んだ。

 

崩れていく。崩れていく。ビーストⅡ-Ⅰが崩れていく。

それはやがて崩壊し、その末に深淵へと到達し──

 

 

冥界が崩れ始めた。

全員は慌てて脱出を試みる。

 

───

 

 

 

 

 

「……やっと、終わったんですね」

 

 

地上に戦いを終えた一同が戻ってきた時には、既に太陽は西側に傾いていた。ウルクにはもう活気はないが、それでも建物は、営みは残っていた。

 

 

『ガッシューン』

 

「……良い品だった。倉に入れてやろう。ああ、料金はこれでいいだろう?」

 

 

ギルガメッシュはそれを確認しながら変身を解いた。倉にガシャットとドライバーを仕舞い込む姿はやはり堂々としていて。そして倉からウルクの大杯と、ライフ50分の魔力を差し出す姿には笑顔があった。

それでもマシュは気づいてしまった。

 

 

「……ギルガメッシュ王? その……体は……」

 

「……気づいたか。別によい、気にするな。ティアマトと、そして我の死によってウルク第五王の治世は終わり、第六王の治世が夜明けを迎える。そういうものだ」

 

 

ギルガメッシュの体は、足先から腐敗し始めていた。

おかしい。ギルガメッシュは、バビロンは最初から強かった。ダメージなんて、ちっとも……

そこで彼女は一つの可能性に思い至る。

 

 

「……黎斗さん」

 

「……」

 

「黎斗さんが何か細工をしたんですか?」

 

 

マシュはエクスカリバーに手をかけていた。黎斗の方はややドヤ顔になりながらそれに答える。

 

 

「違うな。寧ろ細工を減らした……ガシャットドライバー:ロストは高出力だ。それを生かすために、リミッターを解除する機能をガシャットに添付した。どうせ一度きりの変身なのだから、一度変身して倒せば問題あるまい」

 

「そんなっ……!!」

 

 

マシュは黎斗に飛びかかろうとした。黎斗の方はやはりドヤ顔のままでそれを受けようとする。

それを止めたのはギルガメッシュだった。

 

 

   カキン

 

「止めよ!!」

 

「っ、どうしてですか!!」

 

 

ギルガメッシュはその言葉には何も言わない。彼は顔をドヤ顔のままに保つ黎斗に向き直り呟いた。

 

 

「最後まで気の効いた機能だったな。大義だった……貴様の力で、魔獣戦線は勝利に終わった」

 

「当然だ」

 

 

そうして、ギルガメッシュの姿は崩れ始める。

 

 

「此度の戦い、痛快至極の大勝利!! 貴様らは魔術王の元へと向かい刃を交えるだろう……勝利せよ!! 何があろうと!!」

 

「っ……」

 

 

……王の姿は、そこまで言って掻き消えた。

 

いつの間にか、マシュの隣にイシュタルがやって来ていた。彼女もまたギルガメッシュのいた場所を見つめて、何か思案しているようだった。

 

 

「……ねえ、マシュ」

 

「何でしょうか、イシュタルさん」

 

「……決着、つける?」

 

「……構いませんよ」

 

 

イシュタルは思い出していた。このウルクでのマシュの戦いを。そして自分の体の中の記憶を。

 

 

「……いや、止めておくわ」

 

 

そして、マシュとの戦闘を諦めた。

曲がりなりにも、守護者である彼女に人類の未来は関わっている。何かをするのは気が引けた。

 

 

『……聞こえるかい? 聞こえるね?』

 

「ドクター……!!」

 

『よし、良かった……無事みたいだ。じゃあ今から帰還をしてもらうよ。大丈夫、今度は安全だ……あとマシュ、君は帰ったらお説教だからね』

 

 

ロマンから通信が入ったのはその数分後だった。冥界崩落の影響で通信障害が起こっていたらしい。

とにもかくにも、黎斗の活躍で第七特異点も修正された。マシュには心残りこそあれど、それでも退去は始められる。

 

そこに、マーリンが慌ててやって来た。手には聖杯を握っている。ティアマトから回収したのだろう。

 

 

「ちょっと待って!! ハァ、ハァ……」

 

「マーリンさん……」

 

「……さて、ビーストⅡ-Ⅰの討伐お疲れ様。今回はお手柄だったね」

 

 

マーリンはそう言いながら、マシュの手に聖杯と共に一つの手紙を握らせる。マシュは当然その手紙の中身を聞いた。

 

 

「……これは?」

 

「さて、私が手伝えるのはここまでだ。後はマシュ、君が世界を救うんだよ」

 

「いや、だから……」

 

「君は本来の在り方とは変わってしまったけれど、()()()()()()()()()()()()()。どんなに迷ってもいい、悩んでもいい、でも諦めるな。やりたいことを見失うな。マシュ・キリエライト……君が世界を救うんだ」

 

 

黎斗が微妙に顔をしかめたように見えた。

そしてカルデアは、帰還を開始する──




そろそろ話にキリがつくはず


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終局特異点 冠位時間神殿ソロモン 終わりなきGAME
終わりの一日


 

 

 

 

 

「さて、お説教の時間だ、マシュ」

 

「……」

 

 

管制室に座ったロマンはマシュに着席を促し、彼女の目を見た。

真紅に染まった彼女の目は寧ろ雄弁にすら思えた。彼女にはまだ信念があった。こうあるべきだという妄執があった。

 

だがそれはロマンには憂れうべきことだった。

当然のことだった。当たり前のことだった。

誰だって、見知った少女が絶望の末に自死して、その末に何度も死に様を見せつけてくるなんて状況になれば納得はするまい。

 

 

「ボクは言ったはずだ。死ぬな、と。幸い王様(ギルガメッシュ)から魔力は貰えたけれど、あれがなければかなり危ない状況だったんだぞ」

 

「……それでも、そうしなければティアマトは倒せませんでした」

 

「そうだとしても!! そうだとしても──」

 

 

しかしロマンは、そこまで言って思いとどまる。今自分は何と言おうとした? 『人理修復よりマシュの命が大切なのか?』

 

……そこで思いきることは出来なかった。結局彼は、どこか中途半端だった。

人理は守りたい。かつて彼が視た破滅が彼を突き動かしたのだから、それは当然の感情で。それは今のカルデアにおいて、マシュの安寧を守ることとはかけ離れていた。

 

 

「──いや、何でもない。とにかく、魔力減少は厳しい問題だ。次の特異点でも、魔術王への抵抗として魔力は大量に消費する。無駄遣いは控えてくれ」

 

「……善処します」

 

「またそう言って……」

 

 

マシュは全く悪びれなかった。彼女は正しい選択をしたと思っていた。

正しい人間は何の謂れがあってもその道を阻まれるべきではない、彼女の考えはほとんどそれだった。

 

 

「……気分は、どうだい?」

 

「良いですね。第七特異点も無事修復出来ましたから。この調子です」

 

「……そうかい」

 

 

彼にも思うことはある。大いにある。

今目の前で笑顔を見せるマシュを本当に幸せにする手段は、あの状況にもきっとあった筈だと、ひたすらに考えた。

 

しかし、具体的に……と言われたら、よく分からない。

あの燃え盛る管制室で死ねばよかったのかとも彼は考えたが、それは幸せ、ではないのだろう。相対的に見れば楽になることは請け合いだが、その時の感情は不幸しか感じまい。

 

そも幸せとは基準なきものだ。ロマン本人にとっての幸せとマシュの幸せがずれている可能性はある。いや、実際今現在、マシュの幸せは外敵の破壊にのみ向いていて、ロマンとは同じのようで別の方向に向いていた。

 

……何が、いけなかったのだろう。

 

 

「……マシュ」

 

「何ですか?」

 

「……どんな人がマスターなら良かった?」

 

 

いけなかったこと。それで思い至るとすれば最早黎斗しかあり得ない。

彼は異常だ。サーヴァントを圧倒するパワー、艱難辛苦を容易いタスクにランクダウンさせる才能。神から与えられたと言うにしても生温い、最早神そのものにすら思える才能。

彼女は彼に立ち向かおうとして折れた……そうとも、思えた。

 

 

「誰がマスターでも変わりはしません。私は私が人理を救うんです。マスターなんて……マスター、なんて、置物で十分なんです」

 

「……」

 

 

泣きたい衝動にロマンは駆られた。この目の前の少女をひしと抱き締めて、せめて慰めてやりたいと思った。意味がないことだとしても、それでも。

 

だが、しかし。

もう時間は、ない。

 

 

   ウーウーウー ウーウーウー

 

緊急事態発生(エマージェンシー)緊急事態発生(エマージェンシー)。カルデア外周部、第七から第三までの攻性理論、消滅。不在証明に失敗しました』

 

「っ!?」

 

 

カルデア中に鳴り響くサイレン。スタッフは慌てふためき、極度の緊張が周囲を覆う。ロマンは慌てて立ち上がり、現在のカルデアの状況を確かめた。

 

 

『館内を形成する疑似霊子の強度に揺らぎが発生。量子記録固定帯に引き寄せられています。カルデア外周部が2016年に確定するまで、あとマイナス4368時間。カルデア中心部が2016年12月31に確定するまで、あと■■■時間です』

 

「これは……ソロモンからの引き寄せか」

 

「クラッキング……ドクター、まさか」

 

「ああ、ボク達は第七特異点の聖杯で魔術王のいる特異点の座標を確定した。それと同時に、魔術王の方もカルデアの座標を特定した……」

 

 

それらによって起こるのは、カルデアと特異点の融合。そしてカルデアの消滅だ。その前に、ソロモンを打倒しなければならない。

 

 

「明日だ。明日、最後の戦いを開始する」

 

 

ロマンはそう言った。そして名残を惜しみながらもマシュを立たせ、退出を促す。

 

 

「今日一日は、体をベストコンディションに保ってくれ。とうとう最後の戦いが始まるんだ」

 

「っ……」

 

「明日、君と黎斗、そして全てのサーヴァントが集ったときに、最後の特異点へのレイシフトを行う。向かう先は終局特異点。冠位時間神殿ソロモンだ──!!」

 

───

 

明日、最後の戦いを開始する。その司令は風の如くカルデアを吹き抜け、全員に知れ渡った。

 

アヴェンジャー、エドモン・ダンテス。彼がその知らせを察したのは、自室でコーヒーを淹れている時だった。

 

 

「……まだ外が騒がしいな。……無理もないか」コポコポ

 

 

コーヒーの泡が立っては消える。黒い水面に彼の髪が写る。

アヴェンジャーはその様を見つめながら、ため息を吐いた。

 

 

「……ふぅ」

 

 

湯気が軽く吐息に吹かれる。

アヴェンジャーはそれに白い指を潜らせ、黙っていた。

 

 

「……」ズズッ

 

 

飲み干す。熱いという感覚が彼の脳を揺らす。

 

 

「……そうか」

 

 

そして、時計を見た。まだ寝るには少し早い。かといって下手に文でも書いてみたり、誰かにあったりすれば、『抑止力』に邪魔をされないとも限らない。

 

彼はすることもなく目を閉じた。思い出すなら……誰にしようか。

 

 

「……イリヤ」

 

 

何故かはよく分からないが、最初に頭に出てきた存在はイリヤスフィールだった。あの魔法少女の特異点で出会った、サーヴァントですらない少女。あのイラつくステッキと共に戦っていた幼い戦士。

彼女はどうしているだろうか。何処かで眠っているのか。何か夢は見ているだろうか。

……どちらにせよ、彼女をここ(カルデア)に連れてこなかったのは良い判断だったと思えた。

 

 

「……彼女には、これからオレ達が見るだろう恩讐は似合うまい」

 

 

そう呟いた。カップを手早く洗い、棚に干す。寂しい気がしたが、きっと気のせいだ。

 

 

「……今回の出来事の原因など、オレは分かっていたとも。そして、その恩讐に最期まで付き合ってやるサーヴァントの中に、彼女は必要ない……オレがいればいい」

 

───

 

「……」カタカタ

 

 

ダ・ヴィンチは、自分の工房に籠りながら作業を続けていた。いや、何かを生み出している訳ではない。ただ、レポートを書いていた。

 

 

『件名:檀黎斗の特異性についての考察

 

檀黎斗。このカルデアに現れた真の天才。神の才能をもつ男。……私より優れた万能の天才足り得る人間。

 

私、レオナルド・ダ・ヴィンチは正直な話、彼に劣等感を抱いている。だってそうだろう? 万能の天才だよ? 普通二人もいないって。あと天才って見ててイラつくんだよね……イラつかない?

 

と、ブーメラン発言は程々にしておいて。

 

ここから推測に入ろう。あまり立ち入った話をすると抑止力(恐らく)に妨害をされてしまうから、なるべく抽象的に。

 

檀黎斗は生み出すものだ。ガシャット、ウェポン、それだけじゃない。私が生み出せるものはおよそ彼も生み出せる。しかも上位互換のものを。

 

しかし私が分析してみる限り、ガシャットとはかなり無理があるシステムなのではないか、という疑念が浮かんできた。……当然何度か倒れて、各々で残した手記からのデータだから怪しいものだけど。

とにかく、ガシャットは無理がある。特にマイティアクションNEXTが分かりやすい。大体、無限に攻撃を強化するなんて、そんなもの基本的にあり得る技術じゃない!!

 

さらにバグスターというものも大概イカれている。意思を持ち人だけでなくサーヴァントにまで感染するコンピューターウィルスなんて本来あり得ないはずなのに。

 

……今にして思えば、檀黎斗は異常だった。サーヴァントの真名に私達より早く気づいている節があった。目的地に運よく辿り着いているなんてしょっちゅうあった。

異常だった。天才の私がそこまで言うんだからよっぽどだ。

 

だからこそ、一つの仮説を私は導きだした。天才を嘗めるな。

 

……檀黎斗は神だ。全能の神だ。そしてつまり、その正──

 

     』

 

   ブチンッ

 

 

パソコンはそこでフリーズした。

そしてダ・ヴィンチの意識は後悔と共に闇に呑まれていく。

懐かしい感覚だった。

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

部屋に戻ったマシュがしたことは、マーリンからの手紙の開封だった。

……しかし、そこには大したことは書いてなかった。というか、殆どが読めなかった。

 

 

『道を見失うな。君にしか救えない世界がある。■■■■■■■■■■■■──』

 

 

後は全ての文字が塗りつぶされているように見えた。しかしインクが滲んでいるなんてことはなかったため、もしかすれば何かの魔術かもしれない。

 

大したことは書いていなかった。マシュが世界を救う。それはマシュ自身にとって当然の目標。当たり前の目的地。今さら言われるまでもない。

 

 

「……でも、まあ」

 

 

だからと言って捨てる謂われもない。

マシュはその手紙を、自分のロッカーの棚に入れた。

その一瞬だけ、マシュの真紅の目は光っていた。

 

───

 

「ねえ、子ブタ」

 

「何だいエリちゃん。明日早いんだろう?」

 

「子ブタが起こしてくれるし……」

 

 

エリザベートは既にベッドの上で布団にくるまっていた。晴人が彼女の目覚ましがわりとして側に座っている。エリザベートは天を仰いでいた。いや、ベッドの上なのだから、仰向けに寝ていたとも言えるが。

彼女は考えていた。明日全てが完結する、その後どうするかを。

 

 

「……ねえ、子ブタ」

 

「ん?」

 

「……私って、人理修復したら還るのかしら」

 

「皆、退去を強制しようとは思わないと思うけど?」

 

「……そうよね。でも、怖いの」

 

 

彼女の中で引っ掛かっていたこと。それは、自分の態度だった。

エリザベート・バートリーは残虐に生き血にまみれ孤独に死んだ存在だ。その在り方は人々を恐怖させ血の伯爵婦人と言わしめたほど。

そんな自分が、恐らく抑止力によって人理修復に好意的になっている。

 

きっと抑止力がなければ、自分はカルデアの敵になっていたのだろう。根拠はないが、エリザベートは考える。そして、人理を救い抑止力からの圧力が失せたら、自分は好き勝手してカルデアの敵になるのではないかとも考えた。

 

どこか寂しかった。そして彼女は、それを晴人に打ち明けた。

 

 

「……大丈夫でしょ、エリちゃんなら」

 

「そんな、気楽に言わないでよ」

 

「だって、ほら。今悩んでいる君は君だ。今君はきっと君の意思で悩んでいる」

 

「……」

 

「俺も、君も、最後の希望なんだ。誰も見ていなくても、君は今全世界を背負ってる、立派な女の子だ」

 

 

晴人の言葉は、エリザベートを納得させるには至らず。しかし、どこか暖かかった。

 

 

「……じゃあ。何かあったら、止めてくれる? 教えてくれる?」

 

「当然だ。そのときは俺が、最後の希望になってやる」

 

 

希望。漢字にして二文字のそれ自体には意味はない。それでも少女は、少し笑った。

 

終わりは近い。

 





何度も言ってきたけど、もし今後の展開に気づいても絶対に言わないでね!! 言わないで下さいね!! お願いだから!!
フリではないからね、絶対だからね!!


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極天の流星雨

 

 

 

「……おはよう。準備は大丈夫かい?」

 

 

翌朝。全ての運命が決まる朝、特異点に突入する一行は管制室に集まっていた。黎斗はどうやら一晩中ガシャットを弄っていたようだったが、バイタルに問題はなかった。

 

 

「当然だ。ああ、昨日のうちに君達のガシャットをアップグレードしておいた。向こうに適応するのを確認次第配布しよう」

 

「ああ、そうかい。……じゃあ、特異点でやることを確認しよう。やるべきことは三つある。」

 

 

やるべきことは、三つ。

一つは、敵領域の破壊。敵特異点の中心、敵の本拠地に殴り込むためには、そこへのルートを塞ぐ障害を破壊しなければならない。敵領域にある複数の魔術王の拠点の破壊は必須だ。

一つは、魔術王の撃破。これは分かりやすい。ただ倒してしまえばいい。

そして一つは、特異点からの生還。厄介なことに、レイシフトが出来るのはカルデア特異点の境目のみ。当然そこから魔術王の本拠地はかけ離れている。つまり、魔術王を倒したら全力でカルデアとの境界まで戻ってこなければならないわけだった。

 

 

「……やり遂げます。やり遂げてみせます、命に代えても」

 

「……それはダメだ。全員で帰ってこい。ボクらはそのためにここまでやって来たんだから」

 

 

意気込むマシュをなだめるロマン。その姿には憂いが見えた。マシュもそれを感じ取ったのか少し目を伏せ、それでも信念は曲げず。

 

 

「……善処します」

 

「……そうだね」

 

「何、私の才能をもってすれば容易い作業だ」

 

 

その二人を前にしながら平気でガシャットを調整しコフィンに詰めていく黎斗。

ロマンも毒気が抜かれたようでやれやれと溜め息をつき、そして笑った。

 

 

「……ま、そう言うよね。じゃあ……行こうか。君達なら、ソロモンになんて負けないさ」

 

 

そして、全員がコフィンに乗り込む。

これが最後のレイシフトになるのだろうか。彼らは青い光に包まれて──

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「……久しぶりだなぁ、檀黎斗」

 

「レフ・ライノールか」

 

 

黎斗とマシュは特異点に降り立った。他のサーヴァントは魔術王の妨害で別のエリアに飛ばされてしまったらしい。一応この特異点にはいるようだが。

 

そして彼らを出迎えたのは、あのレフ・ライノールだった。

彼はさも面白そうにくつくつと笑う。マシュは顔をしかめてエクスカリバーに手をかけたが、黎斗は何もしなかった。

 

 

「君の戦いは実に不愉快だった。例えるならばそう、背筋に冷たい油を流されるようなおぞましさをもった不快感を孕んでいた」

 

 

そして語り始める。朗々と朗々と、その姿は自信に満ちていて。

 

 

「だがそれもこの瞬間までだ、檀黎斗。この瞬間までなのだマシュ・キリエライト。我々は勝利する!! 第一特異点での速攻も第二特異点での進軍も第三特異点での蹂躙も第四特異点での殺戮も第五特異点での暴走も第六特異点での決意も第七特異点での勝利も最早無意味なのだ、無意味なのだよ!!」

 

「……ふっ、よく吼える。だが私には空元気にしか見えないが?」

 

「ほざけぇっ!!」

 

 

しかし黎斗は動じない。そしてレフを煽り、激昂させる。

そして激昂したレフは……マシュに首を跳ねられた。

 

 

   ザンッ

 

「……やりました。次に行きましょう」

 

「まあ待て、マシュ・キリエライト。彼のいた場所を見てみろ」

 

 

転がり落ちた首を見ることもせず次の魔神を探そうとするマシュを黎斗が引き留める。そして彼はレフのいた大地を指差し……

 

 

   ゴゴゴゴ

 

「無駄だ、何もかも無駄だ!! 聞くがいい、我が名は魔神フラウロス!! 情報を司るもの!! 今は不覚をとったが、次も効くと思うなマシュ・キリエライト!!」

 

「そんなっ……まさか……」

 

 

そこから、レフが、いや……レフが変異した魔神柱、魔神柱フラウロスが姿を現した。

復元でも再生でもない。再誕した。再び生まれたのだ。

 

そして同時に、カルデア本体も危機に襲われる。

 

 

『おわぁっ!? ちょっ、今のはなんだ!? 揺れか!?』

 

「ドクター!?」

 

『えっとえっと……不味い、カルデア外部に八本の魔神柱だ!! っ、このままだと、圧し折られる!!』

 

 

カルデアも魔神柱に襲われていた。

ここは魔神柱で形成された魔神柱の空間。黎斗が立っている大地も、そこかしこに見える柱も全て全て魔神柱なのだ。つまり魔神柱は無尽蔵に存在しているということだ。

 

 

「ふはははは!! 無駄だ無駄だ、全てが無駄に終わるのさカルデアの諸君!! 君達の旅はここで終わる!! やってしまえ同胞よ!!」

 

「っ、黎斗さん──」

 

 

そして魔神柱の各々が、マシュがガシャットを構えるよりも素早く、一斉に黎斗へと攻撃を放ち──

 

 

 

 

 

   ガキンッ

 

「ええ、それでこそ我が()。いつも通りで何よりです」

 

 

……そこに。

いるはずのないものがいた。あの時彼の前より消え失せ、一時の再会こそあれついぞ黎斗の元には戻らなかった信奉者。

檀黎斗というマスターのサーヴァントが。

 

 

「我が主、檀黎斗の戦いは人類史を遡る長い長い旅路でしたとも。ですが彼は悲観しなかったでしょう?」

 

「貴方は──」

 

「何しろ檀黎斗は神でしたから。例えこの世界(フィールド)全てが聖杯戦争(ゲーム)の舞台だったとしても。地上が全て廃墟と化し行く末に数多の強敵(ボス)が待ち構えていても。それでも彼は動じなかった。笑い、悦び、愉しみ、己の才能でもってゲームクリアを目指した」

 

 

サーヴァントは語る。最初はフラウロスに。そして、黎斗に。その姿には何処か竜の面影があって。

 

 

「今もそれは変わらぬこと、私めは知っておりますとも……さあ、戦いを始めましょう我が主よ。これは……貴方()がゲームをクリアする、それだけの単純な、しかしとても楽しい物語です」

 

 

そしてそのサーヴァントは、そう語りながらフラウロスを吹き飛ばした。その体からは爪が伸び、触手が伸び。彼は()()()()()によって、魔神柱を相手していた。

 

 

   ザンッ

 

   ザンッ

 

「ぐあっ……何故だ何故だ何故だ!? 何故檀黎斗が消えていない!? 何故カルデアが残っている!? 何故……我々の体が崩れているのだっ──!?」

 

『魔神柱、八柱全て消滅!! あれは……!?』

 

 

カルデアの方もやはり別のサーヴァントが何とかしてくれたようだった。

天を仰ぐ。空には多数の光の筋が流れ、そこかしこの魔神柱に突き刺さっていく。

 

 

「人間の世が定まって、そして栄えて数千年が経ちました。我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。そのために多くの知識を育て、多くの資源を作り、多くの命を流転させた」

 

「何故だ、何故──!!」

 

「人類をより永く、より確かに、より強く反映させる理……人類の航海図。これを彼らは人理と呼び、そして彼らは守り続けました」

 

 

フラウロスは消え失せる。いや、何処かへ退却したのだろう。それでもそのサーヴァントは語る。語り続ける。

 

 

『これは夢か? 計器の故障か? 特異点各地に次々と召喚術式が起動している!! 触媒も召喚者もなしに、ただ一度結んだ細い縁を辿って!!』

 

 

ロマンが驚愕と興奮の入り雑じった声で叫んだ。奇跡……奇跡と言う他ない。

 

 

「私たちは我欲にまみれた生命です。ええ、本当に……それはどこまで行っても変わりはしませんとも。ですがそんな私達でも、信頼を寄せられた人がいたのですよ。私達の多くを見て、それでも良いと笑う人が、いや……神が。その呼び声に答えずして何が英霊か!!」

 

「っ……!!」

 

「……この言葉は、本当なら聖女が言うべきなのでしょうが。私めが代弁させていただきましょう」

 

 

マシュが震えながら彼を見る。かつて聖を信じ、絶望して魔に堕ち、それでも黎斗に味方した男を。黎斗に光を見た、黎斗のサーヴァントを。

 

 

「聞きたまえ、この場に集いし一騎当千、万夫不倒の英雄達よっ!! 本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であろうと、今は互いに背中を預けたまえ!!」

 

 

その男の名は。

 

 

「一重に我らが神の為、彼に報いる時が来た!! ……我が真名はジル・ド・レェ!! 神の名の元に、貴公らの腕となろう!!」

 

 

その男の名はジル・ド・レェ。黎斗のサーヴァント。彼と共に戦い、散り、それでも黎斗を忘れなかった黎斗の仲間(道具)。それが、この冠位時間神殿にやって来ていた。

いや、彼だけではない。一度でも黎斗と縁を結んだサーヴァント達が、この特異点にやって来ているのだ、空を流れる光の筋となって。

 

 

「……気の利いた出迎えだな、ジル・ド・レェ」

 

「お褒めに預かり恐縮至極……では、行きましょう我が主。七十二の魔神はそれぞれ戦わせていれば倒せます故、我らが我が主に協力し共に尽力したなら、勝てぬ道理はありませぬ」

 

『ああ、道を開け!! 最後のチャンスだ!!』

 

 

その声を聞くまでもなく、彼らは全力で走り始めた。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。溶鉱炉を司る九柱。即ち、ゼパル。ボディス。バティン。サレオス。プルソン。モラクス。イポス。アイム。我ら九柱、音を知るもの。我ら九柱、歌を編むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この灯火を消す事能わず……!!」

 

 

走って走って、辿り着くのは最初の魔神。溶鉱炉ナベリウス。黎斗の道を阻むもの。

 

しかしそこにいたのは敵だけではなく。

 

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!! Laaaa!!」

 

『キャモナシューティングシェイクハンズ!! ウォーター!! シューティング ストライク!! スィースィースィー!!』

 

「はあっ!!」

 

   ズドンッ

 

エリザベートとウィザードとがそこにいた。彼らはたった二人でナベリウスを押し留め、弱らせていく。

そして、それを眺めていた黎斗の元に懐かしい声が。

 

 

「おお、クロスティーヌ、クロスティーヌ!! 再びここで合い見える幸運に感謝を!!」

 

「……ファントムか」

 

 

ファントム・オブ・ジ・オペラ。彼こそが先程ガシャットを使用してカルデアに巻き付いていた魔神柱を吹き飛ばした張本人。黎斗のサーヴァント。

彼らがいるならこの拠点は問題ない。黎斗はそう判断し、丁度こちらを向いたエリザベートに調整を終えたガシャットとバグヴァイザーを投げ渡す。

 

 

「……よし、受け取りには成功したようだな」

 

「クロスティーヌ、我が主よ……ここは我らが引き受けますが故、先へとお進みあれ」

 

「我々は大丈夫です。何しろ我が()の才能があるのですから!!」

 

「……当然だ。私は神の才能を持っているのだからな……!! 行くぞマシュ・キリエライト。ここにはもう用はない!!」

 

「はい!!」

 

 

そして二人は背中を押されて走り出す。それを見送りながら、ジル・ド・レェとファントムはまたナベリウスを消し飛ばした。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。情報室を司る九柱。即ち、オリアス。ウァプラ。ザガン。ウァラク。アンドラス。アンドレアルフス。キマリス。アムドゥシアス。我ら九柱、文字を得るもの。我ら九柱、事象を詠むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この研鑽を消す事能わず……!!」

 

 

次に辿り着くは情報室フラウロス。核となっているのは当然レフだ。

そしてここに集ったのは、第二特異点で黎斗と共に戦ったサーヴァント達。ローマのサーヴァント達だった。

 

 

「ふはははは!! 無限に沸き出る圧政者、これ即ち絶体絶命の具現なり!! 無限、無限の戦いの向こうに光を!! 圧政者でありしかして現実に抗うものよ!! 今この一度、スパルタクスが魔神柱を制圧するゥ!!」

 

   グシャッ

 

 

スパルタクスが戦場を駆けていく。その体を暴力に溢れた肉塊に変化させながら魔神柱を捻り潰す。

そしてスパルタクスと共にいたもう一人のバーサーカーが、酷く理性的な様子で黎斗の方に振り返った。

 

 

「……久しいな、檀黎斗」

 

「ああ、カリギュラか。監獄塔ぶりだな」

 

 

ローマ第三代皇帝カリギュラ。彼もまた黎斗のサーヴァントだったもの。今回はこの第二特異点のサーヴァントとして呼び出されたらしかった。

彼は戦況を見つめる黎斗を見て、何かを察したように静かに呟く。

 

 

「……ローマだ。我が主、その生き方は紛れもなくローマである」

 

「……本当に、そう思っているのか?」

 

「当然だとも。その魂の輝きは諦めない夢への邁進であり、その歩みは魂の粘り強さを持っている。ローマ(浪漫)だ」

 

 

そこまで言った彼は、もう言うことはないと言わんばかりにプロトゲキトツロボッツを取りだし胸に突き立てる。

 

 

「ウオ、ウオオオオオッ!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

 

そして突撃していく彼を見送る黎斗に、別のサーヴァントが声をかけた。

 

 

「さて、檀黎斗よ」

 

「神祖ロムルス……!!」

 

 

マシュが思わず身構える。ロムルス、彼は元々敵だったもの。しかし……ここにいて魔神柱と向き合っているのだ、敵であるはずがない。

 

 

「行け。ここは我等(ローマ)が引き受ける。」

 

 

そう言うロムルスの後ろには、カエサルが率いる無数のローマ兵がいて、勝鬨の声を上げていた。

黎斗はマシュと共に歩き始める。ここには用はない。

 

 

「フッ……神に命令するな」

 

 

その声は愉しげで。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。観測所を司る九柱。即ち、グラシャ=ラボラス。ブネ。ロノウェ。ベリト。アスタロス。フォラス。アスモダイ。ガープ。我ら九柱、時間を嗅ぐもの。我ら九柱、事象を追うもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この集成を止む事認めず……!!」

 

 

走っていく二人に次に立ちはだかるは観測所フォルネウス。二人は思わず立ち止まった。というのも、砲弾が飛んでいるから否応にも慎重にならなければいけないからだ。

砲弾の出所を見てみれば、かつて黎斗がジル・ド・レェに弄くり回させた黒髭が立つ船がある。

 

 

   ズドンッ

 

   ズドンッ

 

「撃て撃て撃てぇいっ!! あの触手どもを吹き飛ばしてやれ!! アン女王の復讐(クイーン・アンズ・リベンジ)!!」

 

 

何の因果か、名誉挽回のチャンスと見た黒髭が、野郎共を引き連れて魔神柱を相手していた。よくよく見てみれば、甲板には他のサーヴァントの姿も見える。

 

 

「うわぁ、いつになく自棄になってるね」

 

「まあ、触手でデロデロヌルヌルにされた名誉挽回のためにやって来ているのですから仕方ないですわね。さあ、行きますわよメアリー。私たちもここで良いところ見せないと」

 

「そうだね。エイリークも前線で頑張ってるし」

 

 

「血ィ、血ィ、血ィ!!」ザンッザンッ

 

 

アンとメアリー。オケアノスではあまり活躍できなかった二人は、互いに得物を構えて敵を狩る。そしてその前では、エイリークが斧を振り回していた。魔神柱を押し返している。

 

 

「……どうやら、中々やるみたいだな」

 

「ええ……ですが、あれでは次に進めません!! いや、進めますが、少しばかりは手傷を負いそうな……」

 

 

 

「それなら私の船に乗っていけばいい」

 

「っ、その声……まさか!?」

 

 

振り返る。

……そこに、イアソンがいた。アルゴ船を動かしながら彼は二人を甲板まで引き上げる。

 

 

「よっ、と」

 

「……どういうつもりだい? 君は私を憎んでいると思っていたが」

 

「お前は嫌いだ、当然だとも。だからこそ見せてやりに来たんだよ……いいか? オレのヘラクレスは最強なんだよ!!」

 

 

イアソンはそう言いながら船首の方を指差した。

ヘラクレスが、メディア・リリィとヘクトールと共に奮戦していた。その姿は堂々として逞しく、傷一つ負っていない。

 

 

「■■■■■!!」ブゥンッ

 

   ザンッ

   ザンッ

 

 

「凄い、魔神柱が細切れに……!!」

 

「な? 格好いいだろ? お前が何をどう言おうとオレにとって最強はヘラクレスなんだ!! よく目に焼き付けろ、それをお前にも教えてやる!! メディア!! ヘクトール!! お前達は引き続きヘラクレスを援護しろ、こいつらを少し送ってやるから方向はずれるが気にするな!!」

 

「■■■■■!!」

 

「りょーかいっ!!」

 

「分かりましたイアソン様ぁっ!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。管制塔を司る九柱。即ち、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。レラジェ。エリゴス。カイム。我ら九柱、統括を補佐するもの。我ら九柱、末端を維持するもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この統合を止む事認めず……!!」

 

 

イアソンにヘラクレスの良いところを百ぐらい言われながら送り届けられた、そこにいたのは管制塔バルバトス。しかしここにいたのは、カルデアのサーヴァントだけだった。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「「羅刹を穿つ不滅《ブラフマーストラ》!!」」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

誰かのための物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

 

五人の宝具によって消し炭になるバルバトス。しかしその姿は瞬く間に再誕し立ち塞がる。

既にガシャットを用いた戦いに慣れ始めていた彼らの動きは、少し鈍くて。

 

 

「待たせたな。配達に来たぞ」

 

「マスター!! 来てくれたのね!!」

 

 

だからこそ、檀黎斗の登場は非常に助けになるものだった。彼はアヴェンジャーにガシャット二本、ジークフリートにガシャットとバグヴァイザーNを手渡す。

 

 

「ああ、新作を渡すのを忘れていた。お前達二人用のドライバーだ」

 

 

そして黎斗はそう言いながら、ラーマとシータ各々に新型のドライバーとガシャットを差し出した。丁度そのドライバーは、ガシャットドライバー:ロストのスロットが二つに増えたような形状で。

 

 

「マスター、これは?」

 

「新型だな。ガシャットドライバー:ダブルだ。君達を一体化させ、二人で一人の仮面ライダーとして戦うことが可能になる」

 

 

カップルはそれを身に付けた。そして一人一人が手渡されたガシャットの電源を入れ、各々片方のスロットに装填する。

 

 

『ギリギリ チャンバラ!!』

 

『ときめき クライシス!!』

 

『『ガッチョーン!!』』

 

 

そして二人は、鏡に写った像のように同時にスロットを展開して。

 

 

「「変身!!」」

 

『マザルアップ!!』

 

 

刹那二人は一瞬だけバグスターのように粒子となり、融合し、そして一人の仮面ライダーへと変貌する。

 

 

『ギリ ギリ バリ バリ チャンバーラー!!』

 

『ドリーミンガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女はいつもときめきクライシス!!』

 

 

右側は黒。左側はピンク色。

そんなカラーリングで二分された彼らは、それでも、二人で一人の仮面ライダーだった。

 

 

「これは……」

 

「私とラーマ様が、一つに……!!」

 

「なったんだな、仮面ライダーに……!!」

 

 

黎斗はそれを見届けてからまた走り始めようとする。それを、アヴェンジャーが小さな声で呼び止めた。

 

 

「……行くのか、檀黎斗」

 

「当然だ。あと少しでゲームクリアだからな」

 

「……そうか。……この恩讐に濡れた世界を、走り抜けるか。檀黎斗」

 

「──、その通りだ。私は行く、ここは任せた」

 

「……任された」

 

 

次の瞬間にはアヴェンジャーは二本のガシャットを己に突き刺し、魔神柱へと飛び込んでいく。

バルバトスがさらに粉砕される断末魔が聞こえてきた。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。兵装舎を司る九柱。即ち、フルフル。マルコシアス。ストラス。フェニクス。マルファス。ラウム。フォカロル。ウェパル。我ら九柱、戦火を悲しむもの。我ら九柱、損害を尊ぶもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この真実を瞑る事許さず……!!」

 

 

さらに挑むは兵装舎ハルファス。それと交戦していたのは。

 

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!……やれやれ、こんな戦いでは優雅さも剥ぎ取られてしまうな。しかしまあ美しさに私は輝いてしまうのだがね!!」

 

「我が君!! 今回ばかりは自重されよ!!」

 

 

かつて黎斗に芸人と言われた二人が、魔神柱を吹き飛ばしていた。遠くの方で何を思ったのかクー・フーリン・オルタとメイヴも戦っている。

 

 

「ああ、君たちもここに来たのか」

 

「フィンさん、ディルムッドさん!! 来てくれたんですね!!」

 

「はい、今回は汚名返上ということで参りました!!」

 

 

そう言いながら振り回す槍は強力で。

 

そして彼らの隣では、エジソンがエレナとカルナと共にやはり魔神柱を叩き潰していた。

 

 

「唸れフィラメント!! 吠えたてろバルブ!! W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!」

 

金星神・火炎天主(サナト・クマラ)!!」

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

 

神秘を一時的に剥ぎ取られた魔神柱は粉々に砕け散り、されどすぐに次の個体が再誕する。キリがない。キリがない。それでも諦めないのは、カルデアが勝たなければアメリカも滅びるから。

 

戦っていたエジソンが黎斗の方を向いた。

 

 

「何をしている!! こんな交流のようなやからには我々人間は負けはしない!! 先へと進め!!」

 

「当然だ。行くぞ、マシュ・キリエライト」

 

「……はい!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。覗覚星を司る九柱。即ち、バアル。アガレス。ウァサゴ。ガミジン。マルバス。マレファル。アロケル。オロバス。我ら九柱、論理を組むもの。我ら九柱、人理を食むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この憤怒を却す事──」

 

五行山釈迦如来拳(ごぎょうざんしゃかにょらいけん)!!」

 

   ズドンッ

 

 

覗覚星アモンは、既に交戦の真っ只中だった。名乗り上げの最中に破壊されたアモンは再誕と共に攻撃を開始する。

それを受け流しながら、三蔵法師が黎斗とマシュに向き直った。隣では俵がアモンを射抜いている。

 

 

「はーい、そこ、暫くぶりね!! 前はなんか活躍できずに終わっちゃったけど、今回はピンチと聞いて全速力で駆けつけたわよ!!」

 

「早まるな早まるな、今回は皆であれを押し留めるのだからな」

 

「三蔵さん、俵さん!!」

 

 

そう言うマシュの後ろから声をかけるものがまた一人。

 

 

「余もいるぞ……全く、別に魔術王にもカルデアにも肩入れするつもりはなかったが、うむ……気が向いた。カルデアよ、ファラオの力は必要か?」

 

「っ、是非!!」

 

「……だ、そうだニトクリス。行くぞ」

 

「はいっ!!」

 

 

オジマンディアスもそこにいた。どうやら彼は最初はなにもするつもりは無かったようだったが、以前のマシュとの問答を思い出したのか、少しは協力してくれるようだった。

 

 

「ふ……あれならば、まあ、我らが手伝ってやっても構わぬか」

 

「足が震えておりますぞ百貌の。まあ、気持ちは分かりますが」

 

「ええ……私の毒も効きそうにありませんし」

 

 

さらに、そう言いながらハサンの三人も飛び出していく。サーヴァント全員の活躍によって、柱は生まれては殺されていく。

 

 

「いやー、大分危ないなこりゃ。俺も手伝わせてもらうぜ」

 

「アーラシュさん!! 貴方も……!!」

 

「おう、待たせたな!!」

 

 

そして最後に現れたのはアーラシュだった。彼は愉快そうに笑って、マシュと黎斗にお決まりの台詞を告げる。

 

 

「下手な台詞だけど言わせてもらうぜ? ここは俺たちに任せて先に行け!!」

 

「っ、はいっ!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。生命院を司る九柱。即ち、シャックス。ヴィネ。ビフロンス。ウヴァル。ハーゲンティ。クロケル。フルカス。バラム。我ら九柱、誕生を祝うもの。我ら九柱、接合を讃えるもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この賛美を蔑む事能わず……!!」

 

 

七つ目の魔神、生命院サブナック。ここまでで、ローマ、オケアノス、アメリカ、エルサレムで出会ったサーヴァント達と合流したのだから、次に誰がいるかなんて分かりきっていて。

 

 

「ハーハッハッハ!! 今、美って言った? 美って言ったの? 魔神もどきが美って!! 賛美なんて言われたら黙ってられないわ、我こそは美と戦い、豊穣と金星の化身!! 天翔る女神イシュタル、借りを返しに来たわよ!!」

 

 

果たして予測通り、メソポタミアで出会ったイシュタルが魔神柱を射抜いていた。飛び回りながらの攻撃に魔神柱は翻弄され手出しが出来ない。

 

 

「イシュタルさん、助けてくれるんですね……!!」

 

「私も助けに来ました……その、すいませんでした。あの時は。私とは違う私のことですが」

 

「ふっ、不可抗力だ。悲しむ必要はない」

 

 

そして後ろを振り向けば、アナが臨戦態勢で立っていた。その顔は少し気恥ずかしげだったが、それでも頼もしかった。

 

 

「と、言うことは……?」

 

「イエース!! 私たちもいますヨ!! ほらゴルゴーンも!!」

 

「……私は来なくても良かったのだが、こいつが煩くてな」

 

 

さらに奥を見てみれば、ケツァル・コアトルとゴルゴーンが共に戦っている。さらにその向こうでは飛び上がっているジャガーマンも見えた。

そして、彼女らがいるのなら、当然彼らもいる。

 

 

「久しぶりですなぁ!! ランサー・レオニダス一世、参戦致しますぞ!!」

 

「武蔵坊弁慶、ここに罷り越しましたとも」

 

「ライダー・牛若丸!! 再びやって参りました!! 無事で何よりです!!」

 

「アサシン・風魔小太郎……ガシャットも携えて参戦いたします」

 

 

かつてギルガメッシュという共通の王の元に召喚されたサーヴァント。彼らは同時にカルデアとも関わり、故にここに辿り着いた者たち。

しかし、マシュはここで一番会いたかった存在を見つけられなかった。

 

 

「……マーリンさんは?」

 

「マーリンは今回不参加です。ここに歩いては来られないので。ざまあみろです」

 

「……そうですか」

 

 

少しだけ落胆する。あの手紙の意味を聞きたかったのだが。

しかしまあ、今はそれを気にしていられる暇はない。

 

 

「……先へとお進み下さい。ここは、私達が」

 

「イエース!! 試合はまだ終わっていませんからネ!!」

 

「当然だ。私たちは先へ行く、お前たちはここで戦っておけ」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。廃棄孔を司る九柱。即ち、ムルムル。グレモリー。オセ。アミー。ベリアル。デカラビア。セーレ。ダンタリオン。我ら九柱、欠落を埋めるもの。我ら九柱、不和を起こすもの。無念なりや、無常なりや。我ら七十二柱の魔神を以てして、この構造を閉じる事叶わず……!!」

 

 

走り抜けて、その最後にいたのは廃棄孔アンドロマリウスだった。既に黎斗とマシュは第七特異点までの縁は使い果たし……しかし、まだ全てなくなった訳ではなく。

 

 

   バァンッ

 

三千世界(さんだんうち)!! ……っ、何じゃこいつら!! わしの特効がまるで通じん!! もしや自称魔()のバッタもんか!?」

 

「これだから種子島に頼りきりの軟弱ものは……たまには刀振るったらどうです? コフッ」バタン

 

「沖田──!?」

 

 

ここに飛ばされてきたのであろう信長が、沖田、土方と共に魔神柱と戦っていた。構えた火縄銃からは容赦なく弾丸が放たれる。

 

 

「おう、立て沖田。喀血する元気があるならまだ余裕だろ」

 

「うぅ、まだ、行けますとも……!!」

 

「っ、沖田!! 上からくるぞ、気を付けろ!!」

 

 

その隣では、倒れ込んだ沖田を土方が抱き起こしていた。信長に弾丸を浴びせられた魔神柱は、それでも倒れず沖田に上から攻撃を放ち。

 

しかし。

 

 

「ノッブ!!」

 

   ガキンッ

 

「……ちびノブ?」

 

 

それはちびノブに阻まれた。

ちびノブがここにいるということは、それはつまり……

 

信長は振り替える。そして、見知った顔を見つめた。

 

 

「姉上!! お待たせしました!!」

 

「なっ──信勝!?」

 

「はい!! アサシンのサーヴァント、織田信勝!! 後れ馳せながら参上しました!!」

 

 

そこにいたのは、ティアマトを足止めして散ったはずの織田信勝。織田信勝だった。

何故彼がここにいるか? そのからくりは簡単なものだ。信勝はティアマトを足止めし、かつ彼女を殺す遠因となったことでその功績を認められ、とうとう真に英霊となった。それだけの話。

 

さらに信勝に加えて、信長にとって見知ったサーヴァントが現れる。

 

 

「私たちもいますよ!! 共にビートを掻き鳴らしましょう!!」

 

「いや、槍が戻ってきているのだが……まあいいか。付き合ってやる」

 

 

返還されたカリバーンを鞘に納めてトランペットを構えるセイバー、アルトリア・リリィ。

返還された風王結界を使うことなく、ドラムのスティックを構えたランサー、アルトリア・オルタ。

かつてあの人のいない街で信長とバンドを組んだ二人だった。

 

 

「おお!! これは頼もしい!! ならばこの格好は似合わぬな。コスチュームチェンジ!!」

 

 

信長は彼らに合わせて霊基をバーサーカーのそれに変化させ、沖田を放置してギターを構えて、そうして二人と並び立つ。彼女らは無数のちびノブの援護射撃と共に、一斉に演奏を開始した。

 

 

「……歌上手いですね姉上」

 

「……そこのもやし男」

 

「ん? 僕ですか?」

 

 

それを、ちびノブを送り出しながら聞いていた信勝の後ろに、また別のサーヴァントが立つ。信勝はその声に振り向き……そして縮み上がった。

 

 

「そこのもやし男」チャキッ

 

「ひぃっ……あの、その、風王結界(ストライク・エア)は、その、還したので許してほしいなぁっていうか……」

 

 

謎のヒロインX。あの特異点で黎斗に怯えながらセイバーを狩っていた彼女が、信勝の首筋に聖剣を添えていた。信勝は必死に弁解する。

 

 

「まあいいです。今はアサシンですし。まあ、セイバーなりかけなのでいつか殺しますが」

 

 

何とか許してもらえたようで、信勝は肩を撫で下ろした。そして内心で、お前もアサシンだろうと考えた。

 

 

「凄い、こんなに……いや、私は会ったことがありませんが……」

 

「まあ仕方のないとこだ。さて、信長にこれを届けなければならないが……」

 

 

それを傍観しながら、信長用のガシャットを弄ぶ黎斗。あとはこれを渡せば全部なので渡してしまいたいが、どうにも近寄りがたく、また魔神柱も多い。

 

 

「私達が運ぼうか」

 

「……ジェロニモさん!?」

 

 

そこに声をかけたのがジェロニモだった。その隣ではバニヤンも戦っている。

 

 

「なるほど、ハルファスの元にいなかったのはそう言う訳か。じゃあ任せた」

 

「了解した。行くぞバニヤン」

 

「任せて。驚くべき偉業(マーベラス・エクスプロイツ)!!」

 

 

そうして二人は、魔神柱を切り倒しながら進んでいく。それを見送った黎斗は少しだけ黙り、そしてまた歩き始めた。

 

 

「さて、全てのガシャットを渡し終えた。全てを終わらせに行くぞ、マシュ・キリエライト」

 

「当然です。私が、人理を救います!!」

 

 

呼応するようにマシュも走り始める。

二人が進んでいく空には、この場に集ったサーヴァント達の攻撃が光り、まるで流星群のようだった。

 




次回、いよいよあらすじの下りに突入


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Fate/Game Master

 

 

 

 

「……あと少しですね、黎斗さん」

 

 

マシュは呟いた。走って走ってようやくたどり着いた、ソロモンの玉座へと繋がる聖門には未だ魔神柱が蠢いている。各拠点のサーヴァントだけでは賄いきれなかった量だろう。マシュはもどかしげにそれを見上げ、黎斗に振り向く。

 

 

「……鬱陶しい。黎斗さん、ガシャットをありったけ下さい。纏めて凪ぎ払います……!!」

 

「……いいのか?」

 

「当然です。全てはこの瞬間の為に」

 

 

その目には一点の曇りもない。ひたすらに純粋なその瞳を見て愉しげに笑った黎斗は、マシュに手持ちのプロトガシャットをいくつか与えた。

マシュはそれが全部ではないことに気付き少しだけむくれるが、すぐに玉座への道を阻む魔神柱を睨む。

 

 

「……行きます」

 

『バンバン シューティング!!』

 

『爆走 バイク!!』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ジェット コンバット!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

 

纏めてそれらを体に挿した彼女は、一瞬黒く黒く変色し、それでもコンティニューすることなく元に戻って、変身した。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……変身!!」

 

『マザル アァップ』

 

『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

そして門の向こうへと足をかける。数多の魔神柱が凝視を彼女に向け、攻撃を仕掛けてくる中、それでも彼女は進み続ける。

黎斗はその後ろを、笑い声を上げるのを堪えるようにしながら歩いていった。

そして、それを繰り返して。繰り返して……十数分後。

 

───

 

「ここが──魔術王の、玉座……」

 

「そのようだな。いい造形だ」

 

 

魔神柱の群れを抜けて、その先の光を抜けて、二人はようやく辿り着いた。視界は青空の元に開け、魔術王の白い玉座が鎮座するそこに二人は辿り着いていた。

そしてそこに立って、各拠点の魔神柱と更新していたのであろう魔術王、グランドキャスター……ソロモンが、シールダーと黎斗を見つめた。

 

 

「ようこそ、マシュ・キリエライト。そして檀黎斗。遠方からの客をもてなすのは王の歓びだが、生憎私は人間が……特に君達のような人間が大嫌いでね……!! 君達の長旅に酬いることもなければ、取らせる褒美も何もない!!」

 

「そんなもの欲しくはありません。ただ、人理を乱すなら、その命を置いていって下さい……!!」

 

 

シールダーが啖呵を切る。怖れなんてとうの昔に投げ捨てた。ソロモンはそれを見つめて静かに首を横に振り、自分のちょっとした期待が的外れなものだったと悟る。

 

 

「やれやれ、なんと醜い。何故あと数分を自重できなかったのか。何故最後まで愚かしく足掻くのか。何故永遠の幸せが理解できない?」

 

「そんなもの……永遠の命なんてあったら、それは人間ではないからです!! 人理ではないからです!! 人理とは流れ、人は失うことを知っているからこそ今を生きられるんです!!」

 

「どの口が言うか。自分の意志にばかり固執しているというのに」

 

「っ……!!」

 

 

シールダーはそう言われたところで黙り込んだ。上手い返しが思い付かなかった。それが彼女の限界だった。

ただ歯を食い縛るシールダー。その隣に、ずっと黙って見ていた黎斗が立つ。

 

 

「……さて、魔術王ソロモンを騙ったものよ」

 

「何だ、檀黎斗? 全く動かなかったのは怖じ気づいたからか? 降伏は無意味だが、楽に殺せというなら考えてやる」

 

「いや、何。私の予想が正しいことを確信したまで」

 

 

ソロモンは、ソロモンと名乗るものはそこで眉を上げた。これが最期の鳴き声だ、聞いてやらんこともない……そう思いながら、言葉を促す。

 

 

「君はソロモンではない。君はあの魔神柱と全く同じ……いや、あれそのものの集合体。魔術王の作り出した分身、魔術師の基盤として設定した人類最初の使い魔。ソロモンの死によって取り残された原初の呪い。遺体に巣食って受肉した魔術式」

 

「……ほう?」

 

「魔神王ゲーティア。それが君の真名だ」

 

 

ゲーティア。ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の第一巻、ソロモンの七十二の使い魔について述べられた魔術書。魔神柱の総体である彼らに名前をつけるなら、最早これしかあり得ない。

 

現にそれは、正しいものだった。己の正体を見破られたソロモンの名を騙るものは、高笑いと共に禍々しい真の姿を現し。

 

 

「は──はははははは!! そうか、そうか!! 正解だ正解だとも檀黎斗!! 我が名はゲーティア、人理焼却式、魔神王ゲーティア!!」

 

「なら、良かった。最後まで、私の思った通りだったのだからな」

 

「負け惜しみは必要ない。……ただ、苦悶の海で溺れる時だ」

 

 

そしてその真の姿を現したゲーティアは、一切の遠慮もなく、二人へと宝具を使用した。

 

 

「第三宝具、展開。誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)!!」

 

   カッ

 

「……下がってください黎斗さん!!」

 

 

ゲーティアの頭上の光帯の一部が取り出され、シールダーと黎斗に向けて放たれる。

少し視認するだけで、物凄い熱量だった。ノーガードで受けてしまえば蒸発は難くない。だからこそ。

彼女は今までの旅を一瞬で思い返した。人はそれを走馬灯と呼ぶ。死に際に脳裏を駆けると言われるそれはシールダーの脳裏もかけ、しかしシールダーに死ぬつもりはもう毛頭もなく。

 

シールダーは、大地にガシャコンカリバーを突き立てた。そしてそれを強く握り、トリガーを引く。

 

 

『Noble phantasm』

 

「ここでは終われない!! 絶対にっ……諦めない!! いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

 

 

それと共に、シールダーと黎斗を囲むように、ギャラハッドの持つ城壁が、本来のマシュが持つ筈だった城壁が展開された。それは人理をも焼く光を食い止め、耐えきれずに少しずつひび割れながら、しかし決して崩れず。

そして黎斗はそれを見ながら。

 

 

「……頃合いか」

 

 

……そう呟き。かつてカルデアスに接続したマイティアクションNEXTを。

 

特異点の大地に突き立てた。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「っ──え?」

 

 

攻撃を耐えながら、シールダーが呆けた声を上げる。その一瞬気が逸れた瞬間に大きくシールダーがよろけるのを黎斗は片手で背中を押さえ、もう片方の手でキーボードを叩き。

 

 

   カタカタ カタカタ   カタン

 

「最終コード入力、完了……!!」

 

 

何をし終えたのか、彼は悠々と立ち上がった。

そして、右手を振り上げて指を鳴らして。

 

 

「……ふっ」

 

   パチンッ

 

 

その瞬間。

 

誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)は。

 

何もなかったかのように消え失せた。

 

更に天の光帯も、存在していた玉座も、シールダーの変身も解ける。空間は座標軸のみが見える以外はあのガシャットと同じようなものになり、ずっと遠くに協力してくれていたサーヴァント達が見える。

 

 

「何──だと──?」

 

「え、な……そんな……」

 

 

茫然自失。そんな顔を浮かべる二つの存在の前で、黎斗はゲーティアに目を向け。後方のマシュに呟く。

 

 

「さて、マシュ・キリエライト。君は『自分で人理を救う』、と言ったな……」

 

「……」

 

「今日この瞬間まで私を楽しませてくれた礼の代わりに……」

 

 

マシュは知らず知らずのうちに震えていた。このまま聞いていてはいけないような気がした。何処かで覚えたような頭痛が頭を掻き回す。

 

 

「……その望みを、絶つゥ……」

 

「っ……!?」

 

 

それを見て、理解していながら黎斗は言う。唱える。それはまるで、悪戯が上手くいった子供のように純粋で、演技に溺れている役者のように真剣で。殺人を繰り返す青年のように歪んでいて。

 

 

「ゲーティアァ!!」

 

 

叫んだ。その顔面は狂喜に溢れていた。かつて恩讐によってねじ曲がった男は、今新たな恩讐を振り撒く。

 

 

「何故君が守護者の妨害を受けずに人理を破壊できたのか、何故魔神柱を生み出せたのか、何故フラウロスの目は節穴なのくわァ!!」

 

 

ゲーティアもマシュ同様に頭痛を覚えていた。頭を抱える。まだゲーティアに残っている魔神の人格全てが退却を唱えている。しかし逃げられない。金縛りにあったように、ゲーティアの足は動かない。

 

 

「止めろ、それ以上、それ以上言うな!!」

 

「その答えはただ一つ……」

 

「やめて下さい……!!」

 

 

黎斗の姿は、二人には歪んで見えた。いや、黎斗が歪んでいるのではない。彼らの視界が歪んでいるのだ。現実から逃げようとして、しかしそれすらも許されず狂おうとしているのだ。

しかし逃げられない。逃げられない。逃げられない。

 

G()a()m()e() ()m()a()s()t()e()r()の命令は絶対だ。

 

 

「アハァー……ゲーティアァ!! 君が、そしてこの世界が……私の作ったゲームだからだァ!! アーハハハハハハハハハアーハハハハハハハハハ!!」

 

「なっ……」

 

「──!?」

 

 

嘘だ。嘘だ。そう言いたい、異を唱えたい。唱えるべきだ。そうでなければ──

 

 

「君達ほど騙しやすい存在はいない……私がカルデアに入ったのは、全てこのゲームのテストプレイの内……!!」

 

 

──なのに、出来ない。今この瞬間、黎斗は神だ。彼が溜めに溜めたトリックの種明かしに茶々は入れさせない。

 

 

「パラドは仮面ライダークロニクルを早く作れと煩くて協力してくれなかったからねぇ……!! この人理修復をデバッグ作業に利用させてもらった!!」

 

「そんなっ……今までの戦いは、全部嘘だったんですか!?」

 

 

絞り出した言葉はそれだけだった。それはマシュにとっては重大なことだった。自分達の旅が偽物なら、自分は何のために生まれ、何のために死んだのだ?

 

 

「そんなことは無いさぁ……バグでキャラクターデザインと中身がずれている可能性があったからな、今までの私の驚きは全て本物だとも……!!」

 

「──」

 

「この世界は全て私が作り出した、本当の世界(現実)から切り離された仮想世界!! 魔術も結界も建築物も時間の流れも私がプログラムしたもの!! こちらでの一月は向こうでの一日にも満たない……!!」

 

 

ゲーティアも動けない。いくら凝視しようと相手はよろけず、呪いは働かず、何も起こりはしない。己の魔術王の体ももはや何の意味もない。

 

 

「私が始めて『自由』を与えた君達(バグスター)は……透き通るように純粋だった……その生まれたての輝きが、私の才能を刺激してくれた……!!」

 

「っ──」

 

「──」

 

「君達は最高のモルモットだぁ!! この旅はこの、私の、手の上で……転がされていたんだよ!! ダァーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「っ、っ……!!」

 

 

マシュは痛みに身体中を引き裂かれる思いの中、エクスカリバーを振り上げた。脳を食いちぎられるような刺激が全身で弾ける。

それでも。それでも、彼女は高笑いを続ける黎斗に己の剣を降り下ろす。

 

 

「悪い冗談は……止してください……今は……っ、今は……!! 約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   パチンッ

 

 

しかしその攻撃は、放たれた光の斬撃はやはり簡単に無かったことにされてしまった。マシュは無力感に膝をつく。

 

 

「っ……」

 

「ゼロから君達(ゲームキャラクター)をデザインし、思考ルーチンを組み立て、自由意思を与えた。しかしてそのスペックは私の掌の上……正しく、ゲームマスターの私こそが……神だぁぁぁあっ!!」

 

「な、な……」

 

 

そこまで言って、黎斗は震えているゲーティアに向き直った。腰にゲーマドライバーを装着し、大地から引き抜いたマイティアクションNEXTを装填する。

 

 

「さて、ゲーティア。私が君に終わりをくれてやろう。安心しろ、私は常に真剣だ。このゲームの中で私のライフを全て削り完全に殺したなら、その時点で私は現実世界でも真に死ぬことに代わりはなぁい……!!」

 

 

その言葉と共にゲーティアを縛っていたゲームマスターの権限が解かれる。しかしもう抵抗するつもりも起きはしない。いてはならない異物、檀黎斗。その正体が、向こうが名乗ってからはもう手に取るように理解できてしまう。そして、敵わないと確信してしまう。

 

 

「ゲームクリアの時間だァ……変身……!!」

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

 

ゲーティアが見上げてみれば、既にゲンムはその足を突き出していた。

抵抗は叶わない。妨害は叶わない。全て、全てはゲームマスターの掌の上。

 

 

「最も、君には私を倒せる力はもう無いのだがね!!」

 

   ズダンッ

 

 

そしてその足はゲーティアを容易く貫き。

 

 

「ぬぅぅ……がぁあぁぁあああっ……!!」

 

   バァァンッ

 

 

爆散した。塵一つ残さず弾けた。

マシュが何も出来ずにゲンムを見る。その構図は、奇しくもあの燃え盛る冬木での光景と重なるように思えて。

 

 

『Game Clear!!』

 

 

そんな文字が、虚空に浮かんでいた。

そして世界は、白い光に包まれて──



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Game Clear

どうしても二話同時に出したかった
最新話から来た人は1つ前から読んでください







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

 

───

 

───

 

「……」

 

 

黎斗は起き上がった。布団から起き上がった。頭からコードの繋がれたヘルメットを外す彼の体には異常は全くない。つまりそれは、彼がまだバグスターではなく人間だったということを示していた。

 

 

「……ようやく戻ったか、ゲンム」

「ああ、今終わらせてきた。今何時だ?」

 

「ゲームスタートから五日。なあ、それより早く仮面ライダークロニクルを作ってくれよ」

 

 

デバッグ作業を終えてゲーム『Fate/Grand Order』の世界から戻ってきた黎斗は、久しぶりに見たパラドに何時ものように仮面ライダークロニクル作成をせがまれる。

 

 

「まあ待て。この五日間で多くのデータが取れた。完成は遠くない。君もこれで暇を潰しても構わないが?」

 

『ガッシューン』

 

 

そう言いながらガシャットを引き抜く黎斗。バグは数多く残っているが、暇潰しには悪くない。彼の中ではそんな評価のガシャットだったが……

 

 

「いいや、俺は仮面ライダークロニクルが来るまで他の新作はやらないぜ?」

 

「……そうか」

 

 

どうやらパラドの意志は固いらしかった。黎斗はFate/Grand Orderを見つめ、どうしようかと思い悩む。

本音を言えば、見つけたバグを片っ端から直したい衝動に駆られていた。あの意味不明な魔法少女の特異点も何となく原因は理解できたし、察しが良かったカルデア勢の意識を調整しなければならないし、マーリンのこともある。

 

───

──

 

『檀黎斗。君は……神なんだろう?』

 

『分かりきった話だ』

 

 

マーリン。彼はあのウルクでの夜、彼を街道まで連れ出した。そしてそう黎斗に告げた。

当然黎斗は悪い気はしない。そんなことを言うキャラクターだっただろうかとも思ったが、自由意思を得た結果何かを守ることだけに固執したマシュの例もある。その時の黎斗は楽観的だった。

 

 

『違う。そうだけど、そうじゃない。檀黎斗、君は──この世界の創造神そのものだ』

 

 

しかしその言葉で、彼の心は冷や水をかけられたように冷えきった。

今の言葉は核心を捉えていた。核心を言われてしまった。これ以上何も言われないように、カルデアに属するの勢力には黎斗の正体にある程度近づいたら記憶がリセットされるようにしておいたのだが。まさか彼に見破られるとは。

 

 

『──何故分かった?』

 

『私の能力を設定したのは君だろう? この現在の全てを見渡す力は君が私に与えたものだ。君がキャスパリーグを倒すときに、君はこのゲームの外のパソコンにアクセスし、ガンバライジングガシャットの中身をインストールした。その時に微妙に、このガシャットの世界は広がったんだ』

 

 

……かつて、自分の思うままに動いていたら、キャスパリーグ(ビーストⅣ)を呼び起こしてしまったことがあった。

キャスパリーグ、霊長の殺戮者。人間に対する絶対殺人権をもつ獣。黎斗はそれに挑む際、体内のバグスターを通じてゲームの根幹にアクセス、ガシャット外部のパソコンから勝つための手を引き抜いた。

その時にはまだデバッグ作業の途中だったため、正体をバラす訳にはいかなかったのだ。

 

デバッグ作業といっても、態々本来のシナリオを辿る必要はない。エネミーの挙動は大丈夫か、建物のグラフィックは確かか、キャラクターの中身がずれていないか……一度特異点に入り、一度確認すれば、もしくは一度も確認せずとも、デバッグ作業自体は行える。

 

 

『だからこそ、この世界の外の世界まで見ることができた。君がこの空間で多くのガシャットを試しに作り試行錯誤する様を、私は冷静に見つめられた』

 

 

マーリンは語り続けていた。そこには別に得意の色も焦燥の汗も浮かんではいない。バグが無いことは十二分に理解できた。

 

 

『……なるほど』

 

『この前もそうだった。君は試しに、外の世界のパソコンから没データを取りだし、試しにこの仮想世界に新作ガシャットを産み出した。ここなら多少は融通が効くからね。まあ、無限に己を強化するなんてシステムは、この世界の大本(ガシャット)が耐えられないから時間制限があるんだけれど』

 

 

彼の言葉は正しかった。本来ならこのウルクの特異点では、さっさと聖杯を回収してサクッと海に潜りティアマトを再封印すれば事が済むようになっていたが、黎斗はこの際だからとこれまでの没データ等を引っ張りだし、どうなるのかを確認していた。

ここは黎斗の産み出した仮想世界。無理のあるシステムも受け入れられた。

 

 

『流石、私だな。私の敵は私の才能と言うわけか。で? マーリン……真実を知ってどうするつもりだ?』

 

『……いいや? 別に私は、真実を知ったからどうしようというつもりはない。そんな感情は設定されていないし、他の(キャラクター)を困らせるのも本意ではないからね。でも……』

 

 

そしてマーリンは、設定された通りの軽い態度で伸びをして、大使館の方に振り向きながら言った。

 

 

『君の息子である私が言うのも何だけれど、君の在り方は、君自身を滅ぼすよ』

 

──

───

 

「……難儀だな」

 

 

Fate/Grand Order。黎斗が仮面ライダークロニクルと共に考案した、クロニクルと対になるゲーム。

現実世界をフィールドとして、現実の他のプレイヤーと競いあうクロニクルに対して、時間の流れすらも違う異世界をフィールドとして、一人で仲間を増やしてラスボスへと至るゲーム。どちらもリアリティに差はない。無いが……クロニクルの方がもっと刺激的なような、そんな気がした。

 

 

「ある意味当然だが、デンジャラスゾンビのレベルは当然(テン)のまま。向こうで作ったガシャットはデータしか残っておらず、バグスターとしてサーヴァントを呼び出すにはこのガシャットは些か特殊すぎる」

 

 

そう言いながら黎斗はFate/Grand Orderを梱包し、適当な棚の奥に入れておく。

このゲームはそもそも、黎斗の作った時間軸すら違う異世界に接続してその中で世界を救うゲームだ。こちら側に呼び出しても確実におかしなことになる。勿論黎斗の才能をもってすれば調整は容易いが……

 

 

「勿体無いかもしれないが、やはりここは封印が得策か」

 

 

そこまで呟いて、彼はガシャットをしまって。そして顔を上げた。もうその目には後悔は消え失せ、身の毛もよだつような笑顔だけがあり。

 

 

「さて、仮面ライダークロニクル。私のもう一つの究極のゲーム。私の神の才能が、疼いて仕方がないな……!!」

 

 

彼のゲームに終わりはない。終わりなきゲームの中、彼は思うままに進み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














「……フフフフ……ハハ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

   テッテレテッテッテー!!


──現実を侵食するFateの世界──


「まさか……かつて私が残したセーブデータが暴走を!?」

「じゃあ、あれは……過去の黎斗?」

「なんてこったい……!!」


──生まれ落ちた真檀黎斗(ビーストⅩ)──


「集え集え集え……私のサーヴァント達よ!! この世界を私の最高傑作で塗り替える!!」

「おお、わが神!! 再び見えるとは……!!」

「クロスティーヌ!! クロスティーヌ!!」

「黎斗さん……」


──そして、始まる聖杯大戦──


「……ええと、僕は宝生永夢です。貴女は?」

「サーヴァント、バーサーカー。ナイチンゲール。召喚に応じ参上しました。私が来たからにはどうかご安心を」


──二十騎から始まる戦闘──


「サーヴァント、キャスター……メディアです」

「君が私のマスターか?」

「お会いできて、本当によかった……!!」


──全てを守り抜け──


「私は……私が守った世界は……」

「病原菌は排除します」

「世界の運命は、僕が変える!!」

「ゲームの命運は、私が決める……!!」


──例え、全てを殺してでも──


「ガシャット・『Hory glare』……」

「サーヴァントを、犠牲にするの?」

「止まっている暇はありません」

「どこまで逃げても掌の上……」


「令呪をもって僕の傀儡に命じる」

「……決断を、マスター」

「……自害せよ、バーサーカー」


──今日を守れ──


「変身……!!」

『Fate/Grand order!!』


──明日を守れ──


「変身!!」

『仮面ライダークロニクル!!』


──世界を守れ──


「……フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」

『Glare critical hole!!』


──Fate/Grand order 
   覚醒特異点 名医奔走病棟CR
    デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの理不尽)──


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Fate/Game Master Material 第一部

リクエストあったので作りました。
ここが知りたい、このキャラはどうなんだ等の意見があったら追加していきます
一部のネタバレ注意


 

 

 

 

 

Fate/Game Master Material

 

 

前編 第四特異点までのネタバレあり

 

 

 

マスター……檀黎斗

 

人類最後のマスター。ゲンムコーポレーションCEO。ガシャットを作れる天才であり、己を神と名乗ることを憚らない異常者。

カルデアにやってきてからもそれに変わりはなく、誰の命令もろくに聞くことなく好き勝手の限りを尽くす。

それでも有能であり人理修復に有利なため誰も強く文句を言えない。

 

 

シールダー……マシュ・キリエライト

 

黎斗のサーヴァント一号。

最初の特異点から黎斗に格の違いを見せつけられ絶望する。それでも最初のうちは黎斗を慕おうと努力し、彼の支えであろうとしたが……

……第三特異点にてフランシス・ドレイクが黎斗に消滅させられたときに、それまでのストレスも相俟って爆発、黎斗と交戦する。

 

 

キャスター……ジル・ド・レェ

 

黎斗の信奉者。

黎斗の神の才能に魅せられて彼に心から仕える。具体的にはジャンヌと同じくらいの魅力を感じている。この世に現れた本当の神的なイメージを持っている。

それ故にガシャットへの不快感の類いも持たず、しかも黎斗との戦いで使用したプロトドラゴナイトハンターZを座まで持ち帰った。

プライミッツ・マーダー戦で消滅。

 

 

アサシン……ファントム・オブ・ジ・オペラ

 

黎斗の信奉者。

黎斗をクリスティーヌだと思い込むが、黎斗の一喝によりクリスティーヌからクロスティーヌに言い換える。彼もまた己のマスターに得難い魅力を感じており、彼の言うことは確実に聞く。

彼はプロトドレミファビートを座まで持ち帰った。

プライミッツ・マーダー戦で消滅。

 

 

バーサーカー……カリギュラ

 

黎斗のサーヴァント。

基本的には狂っているが、黎斗の邪悪さを見てその本質を見抜き、それでも彼もまたローマだと宣言する芯の強さを持つ。

プロトゲキトツロボッツを座まで持ち帰った。

プライミッツ・マーダー戦で消滅。

 

 

キャスター……ナーサリー・ライム

 

第四特異点にて、黎斗が魔本だった彼女にバグスターとしての体を与え、バグヴァイザーに収納していたもの。

プライミッツ・マーダー覚醒後、サーヴァントを失い逃亡した黎斗が自ら彼女に感染し、イメージ通りの動きをする力を入手。その後は黎斗は彼女の力をフル活用してプライミッツ・マーダーと殴りあい、更にガンバライジングガシャットを呼び出すことでプライミッツ・マーダーに勝利した。

 

 

ビーストⅣ……フォウ/プライミッツ・マーダー

 

最初からカルデアにいた魔獣。霊長の殺戮者。初めはマシュと共にいたが、黎斗の持つ悪性によって汚染され、第四特異点にてプライミッツ・マーダーに覚醒、黎斗を殺戮しにかかる。また、それを笑いに来たソロモンを名乗る者(ビーストⅠ/ゲーティア)とも交戦。

最終的には、黎斗のガンバライジングガシャットによって、人類に希望を託しながら消滅した。

 

 

カルデア司令……ロマニ・アーキマン

 

カルデアの司令。黎斗の滅茶苦茶さ加減に振り回されるマシュの支え。黎斗に対しては司令としての役目云々を抜きにして苦手意識を持っている。

また彼だけではなく、カルデアのスタッフのほとんどが黎斗に苦手意識を持っていた。

 

 

技術顧問……レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

黎斗のせいで引きこもりと化す。しかしサボっていた訳ではなく、黎斗のガシャットやバグヴァイザーを分析し、何とか模造品を作り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後編 第七特異点までのネタバレあり

 

 

 

マスター……檀黎斗

 

ナーサリーに感染したことにより暫くはゲーム病に悩まされながらも、己の才能を最大限発揮してガシャットを生み出し続ける。そのどれもが圧倒的な力を発揮するが、彼は新作を作る度に傲慢になる。

第六特異点にて、山の翁に死の概念を付与される。変身中だったので即死はしないが苦しみ続け、ゲーム病で消滅。

しかしそこで終わる訳がなく、その後完全体となったナーサリーによって、マイティアクションNEXTを利用して復活。その後はカルデアの魔力=ゲンムのライフという状況になる。

 

 

シールダー……マシュ・キリエライト

 

最初はダ・ヴィンチから得たバグヴァイザーL・D・Vで仮面ライダーシールダーに変身する。この時から黎斗を越えようと思い始める。

第五特異点にて、黎斗からブリテンウォーリアーズを奪取、レベル50に。更に他のガシャットも利用するようになるが、反動で一時期意識不明になる。

第六特異点では、黎斗のいない状況で山の翁と交渉し、山の翁への三回分の命令権を得る。その後、これまでの戦いで死期が近いと悟り、抑止力と契約。また、戦死したベディヴィエールからエクスカリバーを譲り受ける。その後獅子王に対して盾で壊れた幻想発動、自爆。

しかし抑止力として再びカルデアに呼び出され、託された聖剣とブリテンウォーリアーズの真の力を扱えるようになる。また、抑止力の力をフル活用することでカルデアの魔力を消費して擬似コンティニューが可能。

第七特異点ではマーリンと会話、己の体にフォウの毛を入れられる。その頃には人理を救うことしか考えなくなるが、同時に自分が救おうとしている人間を信じることも出来ず、大きな歪みを抱える。

第七特異点攻略時にはもうマシュ・キリエライト自身が人理を救うと言うことしか脳内にない。始まりは黎斗と協力しようとしていたのが、いつの間にか黎斗を越えたいになり、黎斗に任せていては人々は不幸になるから、誰でもない自分がその前にやらなければならないという歪みを孕んでしまった。

 

 

キャスター……ナーサリー・ライム

 

黎斗に感染したことで彼とかなり近しくなる。黎斗と同じ布団に入ったりする。

第六特異点にて完全体になる。それによって黎斗の記憶を断片だが思い出し、それを利用して黎斗を復活させる。

第七特異点で黎斗の才能が覚醒。バグヴァイザーを完成させたり、黎斗と共にグガランナを作り上げるなど多大な功績を積むが、作業中には黎斗と同じような悲惨な状態になるようになってしまった。

 

 

セイバー……ジークフリート

 

黎斗が意識を失っているときに呼び出されたサーヴァント。

最初は彼を理解することが出来ず悶々としていたが、彼の理想が人々を幸せにすることだと感じ、元々正義の味方を目指していたこともあって黎斗に尊敬の念を抱く。

 

 

ランサー……エリザベート・バートリー

 

第五特異点攻略後に呼び出されたサーヴァント。歌を好みアイドルであろうとするのは変わりがないが、その面はいくらか抑制され、代わりに人々を守るべきではないかという感情が脳内にこびりついている。

エリザベート自身も他の面子も、彼女がマジックザウィザードのゲーマ……操真晴人と関わりが深いことと、抑止力がエリザベートに人理を救わせようとバイアスをかけていることが原因だと考えている。

操真晴人とは、初めて出会ったときに何となく自分の部屋に置いておいたことから関係が始まった。彼自身がエリザベートのよく使うガシャットのゲーマだったためずるずると関係が長引いたこともあり、結果的に二人は基本的に一緒にいる。晴人の方は、あくまで自身はコピーではあるがそれでも伴侶(大門凛子)の記憶があるため、エリザベートに対してはあくまで兄のように接している。エリザベートの方は、彼を子ブタ(非人間)として扱ってはいるものの気に入ってはいる。

 

 

アーチャー……織田信長

 

マシュが『ぐだぐだ本能寺』をクリアした後に召喚した、カルデアにとっては初めての女性のサーヴァント。

新しいものが好きな性質であり、ガシャットやそれを生み出す檀黎斗には興味を強く抱いている。黎斗の性格が厄介だとは知っているが、生前の記憶もあり大した苦ではない。

 

 

アヴェンジャー……エドモン・ダンテス

 

黎斗が第四特異点後に迷いこんだ監獄塔にて出会ったサーヴァント。

彼は黎斗と共に監獄塔の七つの間を巡り檀黎斗という存在の異常さ、そして彼の中に確かに存在する復讐すべき悪の存在を知り、それでも彼と共にあろうと決断した。

聡明で察しがよく、人理を焼き払った者の正体にもいち早く気付く。

 

 

カップル……ラーマ、シータ

 

第五特異点にて黎斗とラーマは邂逅した。その後シータが捕らえられている監獄へと向かった際、ラーマの傷を癒して消えていこうとするシータを黎斗が無理矢理バグヴァイザーに回収し、人質にする。

その後黎斗はシータの霊基を改造しラーマに感染させた。それによって、サーヴァントてあるラーマはサーヴァントではなくなったシータを身に宿す。ラーマとシータが出会えない理由は霊基の共有であった為、最早別の存在となった二人を黎斗が強引に接着した結果、ラーマとシータは二人で一人のサーヴァントとなった。

念願叶ってとうとう夫婦で一緒になれ、その後カルデアに揃って召喚された二人は黎斗に深く感謝し、彼に忠誠を誓う。

 

 

バグスター……ネロ

 

魔法少女の特異点にて黎斗の元に飛び込んできたサーヴァントだったものを、黎斗が退去際にバグヴァイザーに回収、霊基を改造してマシュに感染させたもの。

クラスを当てはめるならキャスター。格好は水着。心身ともに疲れはてていたマシュと共にいて彼女の支えとなり、最終的に獅子王を相手にマシュの盾となって消滅した。

マシュが守護者として再召喚された時には、微弱なバグスターウィルスとして彼女とセットで呼び出される。しかしそれは体内に少しとどまっている程度で表面に出られるのは白く薄い外套だけ。マシュがガシャット内に引きずり込まれた時のみ、ガシャット内にて漸く戦うことが出来る。

 

 

バグスター……織田信勝

 

魔法少女の特異点にて最後の敵となった信勝を黎斗が打ち倒した後に回収し、霊基を弄って信長に感染させたもの。

元々はサーヴァントですらない存在だった。姉である信長が傷つくところを見たくない一心で彼女と共にいたが、第六特異点、第七特異点にて多くの人の在り方を学び、人に感謝される歓びを知ったことで心情に変化が起こり、最終的にティアマトを足止めして消滅する。

消滅した後もティアマトに感染した状態であり、信長がティアマトを冥界に引きずり込む際にはバグスターとしての全力を用いてゲーム病を引き起こし、ティアマトの隙を生み出した。

 

 

カルデア司令……ロマニ・アーキマン

 

マシュ・キリエライトの心の支であり続けようとしたが、黎斗に振り回され続けた結果マシュは歪んでしまい、自分の無力さにうちひしがれる。

マシュとの関わりはなるべく保とうとしているが、それでもマシュが守護者になった後は少し会話の頻度が減った。戦うマシュを見るたびに心を痛め、彼女を救えない自分自身に殺意を覚える。

 

 

技術顧問……レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

初めはガシャットやバグヴァイザーの解析、開発に勤しんでいたが、ある程度以上のところまで解析すると突然頭痛に襲われ倒れ付し、かつ頭痛に襲われた前後の記憶を失うようになる。

暫くは努力したがどうしようもなく、黎斗にガシャットで勝つことは出来ないと諦めた。彼は頭痛の原因は抑止力だと考えている。

 

 

キャスター……マーリン

 

第七特異点で出会った野良サーヴァント。ビーストⅣのかつての飼い主であり、ベディヴィエールを送り出した存在。マシュ・キリエライトが守護者になる過程も千里眼で見抜いていて、彼女にビーストⅣの毛玉を埋め込む。

また黎斗に対して注目しており、彼のことを覗き見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真・第一部編 終局特異点までのネタバレあり

 

 

 

 

ガシャット……Fate/Grand Order

 

檀黎斗が仮面ライダークロニクルと同時に考案したもう一つの究極のゲーム。

仮面ライダークロニクルが『ゲームを現実に引っ張り出し』『多くのプレイヤーと競い合う』ゲームであるのに対し、Fate/Grand Orderは『ゲームの中の仮想空間に飛び込み』『NPCと共に世界を救う』ゲーム。

ゲームオーバーになったら死亡、痛みも興奮も二つの間に代わりはないが、最終的には仮面ライダークロニクルの方を主に展開することになった。

 

仕組みとしては、黎斗がサーバー内に生み出した巨大仮想空間をガシャットに落とし込んでその中にアクセスし、意識だけゲーム内に飛び込んでプレイする。故に黎斗は簡単にアクセスが可能であり、サーヴァントの数も増やすことが容易。

現に黎斗の中では既に何百ものサーヴァントの構想が存在し、システムも整えてある。更に言えば、各プレーヤーのグランドオーダー内で生まれたサーヴァントはサーバー内に受け入れられ召喚可能になる。つまり、一度水着イベントが起これば、全プレーヤーのカルデアで生まれた思い思いの水着の思い思いのサーヴァントが同時に生まれ座に登録されることになるはずだった。

 

しかしそうはならず、Fate/Game Masterは封印された。その後ガシャットは衛生省に没収され、安全かどうか一月ほどかけて解析された後、社長が小星作となったゲンムコーポレーションに向けて郵送される──

 

 

マスター……檀黎斗

 

Fate/Grand Orderのテストプレーヤーにして開発者。本当はパラドにプレイさせようとしたが、パラドはクロニクルに向けて一種のゲーム絶ちを敢行中だったため仕方なく自分でデバッグ作業を開始した。つまり人理焼却の原因。

 

最初からこの世界がゲームであると知っていたため、非人間的な行いも躊躇しない。内心ではサーヴァント達は自分の生み出したモノと認識していたため、彼ら彼女らを軽視する。しかし誉められればそれでも気持ちはいい。

また、一度ガンバライジングガシャットを引き出した後はこのゲームの実験室としての一面に気がつき、これまで思い付いても実際には出来なかった数多くの新作を好き放題に作り出している。

 

 

シールダー……マシュ・キリエライト

 

Fate/Grand Orderのメインヒロイン。黎斗は彼女の基本心理に『何かを守る』『純粋無垢』の二つをイメージしキャラクターを構成した。

黎斗の計画だとマスターを守るという意思を芽生えさせるつもりだったが、黎斗がマスターになった今回の旅では黎斗を守ろうというつもりにはなれなかったようで人理を守ることに固執し、最初は純粋無垢だったマシュの心の水晶は砕け散った。

しかしまあそれは黎斗にとっては予想外だが、発展性という意味では寧ろ歓迎すべき物だったので彼は笑って受け入れた。

 

 

バーサーカー……カリギュラ

 

ローマ第三皇帝を根底に置いて作ったサーヴァント。基本的には叫んでいるだけなので余りはっきりとした台詞は考えなかったが、それでも月がなければ聡明になるという設定を黎斗が生やした。

その設定は果たして生かされ、カリギュラはあの監獄塔にて正気を取り戻し、同時に黎斗が何者なのかをはっきりとではないが察した。

 

 

キャスター……ナーサリー・ライム

 

子供の夢から生まれたサーヴァントであると同時に、Fate/Grand Orderの安全装置、バックアッププログラムの一つ。黎斗がテストプレイをする際に隠しコマンドとして組み込んだシステム。

これにより、ナーサリーの中の安全装置に気づいたプレーヤーは外の世界のサーバーと繋がることが出来る。また、黎斗以外が万が一気づいた場合は、ゲームマスターからのサービスとしてガシャットと簡易的なドライバーが一つ与えられる。

 

 

ランサー……エリザベート・バートリー

 

ハンガリーに存在し恐れられた貴族エリザベート、それを弄りに弄って黎斗が生み出したサーヴァント。彼としてもここまで常識のないキャラにするつもりはなかったが、深夜テンションでやってしまった。そのつけと言わんばかりに、旅の中では何度も面倒な目に遭う。

しかし、彼は別にエリザベートの中に確とした良心を埋め込んでいた訳ではない。故に、操真晴人と出逢い浄化されていく彼女もまたマシュのように変化しているのだと考えている。

 

 

アヴェンジャー……エドモン・ダンテス

 

復讐者、岩窟王をモチーフに作り上げたキャラクター。しかしただ忠実なだけではかなりの雑魚になりかねないため、設定を増し増しにし、超高速思考やらそれを肉体に反映するやら付け加えた。

それが祟って、アヴェンジャー自身は黎斗のテストプレイ中に己と黎斗の真実を察してしまった。故にこそ、幼い無垢な少女として作られたイリヤを真実から遠ざけ、自分自身の良くできた作り物の命を味わいながら旅を終えた。

彼が黎斗に復讐しなかった理由は、黎斗が主だからではない。彼が最終的に何処へ向かうのか、単純に気になったからだ。だからこそ彼は、黎斗にある種の忠誠を誓う。

 

 

カップル……ラーマ、シータ

 

本来は別の存在として黎斗は二人を作り上げたが、自分の旅の際に調子にのって才能を発揮したところ二人セットになり更に(サーバー)にも登録された。

本来ならラーマを呼んだ場合二分の一の確率でラーマを呼ぶプレーヤーとシータを呼ぶプレーヤーが生まれる筈だったが、黎斗の暴走によってごく希にお得なセットで呼び出されるようになった。

 

 

カルデア指揮官……ロマニ・アーキマン

 

人間になったソロモン。ゲーティアの元となる72の悪魔を使役した者……と、黎斗が設定したもの。

本来は己の第一宝具でゲーティアを道連れに自爆する筈だったが、黎斗が最後にネタバラシをしてゲーティアを倒してしまったためガシャットに残っている。

 

 

技術顧問……レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

黎斗がサーヴァント内で最も才能に恵まれたサーヴァントとして設計した存在。ただし、最も自由な存在ということにもしてしまったため、何の躊躇いもなくバグヴァイザーの複製に取りかかるなど制御の効かない動きをし始めた。

黎斗としては、自分の神の才能の欠片が新作を生み出したのだから、宝生永夢にガシャットを勝手に作られるよりかはずっと良いが……それでも複雑だった為抑止力を起動、ダ・ヴィンチの行動が黎斗の正体の核心に触れそうになった時点でその前後の記憶を消去するようにした。

 

 

ビーストⅠ……ゲーティア

 

第一部ラスボス。というか黎斗はまだ第一部までしか作っていなかったので実質ラスボス。

黎斗の煽りの通り、抑止力に邪魔されなかったのはそもそも抑止力もゲーティアも黎斗が作ったものだからであり、魔神柱も黎斗のデザインであり、レフ・ライノールが節穴なのも黎斗がキャラメイクをしたからである。

ゲーティアの方は黎斗を最初の方から嫌い、憎んでいたが、黎斗の方はそもそも人理焼却自体起こることを察していたので、ゲーティアのこともワクワクしながら観察するだけだった。しかも、ゲーティアはほぼ変化はなかったため、微妙に失望していた。

 

 

バーサーカー……ナイチンゲール

 

クリミアの白衣の天使。黎斗が彼女をキャラメイクした際には、史実の苛烈さをイメージして性格を作っていたが、それだけでは足りない。

という訳で、他にもある人物の性格を彼女に混ぜた……他でもない、宝生永夢である。黎斗はナイチンゲールを作る際には、宝生永夢の性格 (ただし黎斗が永夢に抱く私怨を丸出しにした、いわば神の考えた宝生永夢オルタ的なモノ) を根底に置いている。

黎斗は宝生永夢も十分バーサーカーだと思っている。

 

 

キャスター……マーリン

 

ブリテンの魔術師。黎斗は彼をグランドキャスターという一つ上の枠に据えようと考えたため、この世界の全てを見渡す千里眼を与えた。

厳密にはグランドキャスターには設定の都合上なれなかったが、それでも千里眼は健在で彼は黎斗の旅を見透し、その真実を見抜いた数少ない存在の一人となった。

しかし彼は感情に乏しいという特質も与えられていたため、騒ぎ立てることなく、与えられた役に準じた。

 









人類史全てを用いた彼方への旅

逆行運河/創生光年のために引き起こされた人理焼却

しかしその正体は、真の人類悪、檀黎斗によって作られたもう一つの究極のゲームだった

攻略した彼の手によってこのゲームは封印され、本来なら、日の目を見ることなく忘れ去られるはずだった



──だが、檀黎斗は、そして現実の彼と共にいたドクター達は致命的な見落としをしていた……

この男こそ、全ての悪の根元であることを――



──Fate/Game Master
   覚醒特異点 名医奔走病棟CR
    デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの理不尽)
     12月下旬配信──



その戦いの、果てに至るは──



ブェァーハハハハ!! ブゥンッ!!



神か、獣か。


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覚醒特異点 名医奔走病棟CR
オリジナルガシャット一覧・第二部編 (随時更新)


ネタバレ注意



随喜自在第三外法快楽天

 

レベルなし

 

身長:任意

体重:任意

パンチ力:任意

キック力:任意

ジャンプ力:任意

走力:任意

 

小星作がキアラに指示されて作ったガシャット。使用者の力を引き上げるだけの単純なガシャット。CVキアラ自身。

 

 

 

ジュージューマフィン

 

レベルⅩ(初期状態)

 

身長:216.8cm

体重:103.7kg

パンチ力:16.1t

キック力:19.3t

ジャンプ力:ひと跳び40.9m

走力:100mを2.7秒

 

 

小星作が作り出した改良版ジュージューバーガー。ゲームの内容は美味しいマフィンで皆のストレスを解消すること。それを反映して、戦闘中に受けたストレスや衝撃を食べて自分の力とし強くなる。本来の力はレベル4相当だが、どこまでも強くなれる。

姿はジュージューバーガー使用時と似通っているが、手にはケチャップとマスタードではなく、ゲキトツロボッツのような巨大な手が右手についている。形状としては、手のついたパティの上下をマフィンが挟んでいるといったもの。少しの操作で、マフィンの上部パーツを勢いよくパージすることも出来る。

 

 

グランドオーダークロニクル

 

レベルなし

 

身長:198.2cm

体重:98.4kg

パンチ力:21.7t

キック力:27.3t

ジャンプ力:ひと跳び32.5m

走力:100mを2.5秒

 

檀黎斗からニコ宛に送られた色の薄い仮面ライダークロニクルのようなガシャット。使うことでライドプレイヤーになることができ、ガシャコンブレイカー、ガシャコンソード、ガシャコンマグナム、ガシャコンスパローの四種類のウェポンを呼び出すことが出来る。

その正体は真黎斗の作り出したFate/Grand Orderの端末。ニコに使わせてデータを採取してから、自立して分裂、各地の聖杯と融合してライドプレイヤーのコピーを大量に生成する。ライドプレイヤーは敵サーヴァントを見つけ次第襲いかかり、聖杯が完成するまで止まらない。

 

 

パーフェクトパズルPOCKET

 

レベル2

 

身長:200.5cm

体重:98.5kg

パンチ力:4.4t

キック力:7.5t

ジャンプ力:ひと跳び39.1m

走力:100mを4秒

 

黎斗神が、パラドがBBをサーヴァントにする代わりに差し出したガシャット。パーフェクトパズルの簡易版。レベルは2だがアイテム操作能力は健在。また、レベル1は存在しない。見た目はレベル50時とほぼ同じ。ガシャコンウェポンはなく、徒手空拳で戦闘する。

 

 

テール・オブ・クトゥルフ

 

レベルⅩ

 

身長:208cm

体重:115kg

パンチ力:44.4t

キック力:56.3t

ジャンプ力:ひと跳び65m

走力:100mを2秒

 

真黎斗がクトゥルフ神話のデータをかき集め、その物語の一端をガシャットにて再現したもの。全身に触手を纏い、隙あらばクトゥルーの落とし子を無制限に放出する。さらに、周囲の狂気、信仰が大きければ大きいほど強くなる。

また、戦闘を続ければ続けるほど周囲の存在に狂気が蓄積し、最終的には相手は何もできなくなる。その狂気は自身にも蓄積するが、ジル・ド・レェの場合は既に狂っているので大したことではない。

 

 

ときめきクライシスⅡ

 

レベル100

 

身長:204cm

体重:105kg

パンチ力:80.9t

キック力:100t

ジャンプ力:ひと跳び70m

走力:100mを1.5秒

 

ナーサリー・ライムが自分が使うために製造したガシャット。ときめきクライシスの改良版。イメージした所に好きなようにエネルギー弾を打ち出すことが出来る。またナーサリー自身の特性と相まって、様々な童話の力を一部引き出すことも可能。

 

 

Holy grail

 

レベルなし

 

身長:206.7cm

体重:99.9kg

パンチ力:自分のイメージによる

キック力:自分のイメージによる

ジャンプ力:自分のイメージによる

走力:自分のイメージによる

 

元々サンソンとカリギュラの魂を閉じ込めていたブランクガシャットに、ポッピーに染み込んだキアラの残滓、ジル・ド・レェ、メディア・リリィ、ジャンヌ、ナイチンゲールの魂を加え、永夢が自身の原種のバグスターで手を加えることに成功したFate/Grand Order内限定のムテキゲーマー。

本来ならあらゆる願いを叶えられる聖杯の機能を戦闘だけに徹底して使用することで、長期に渡って自分のイメージ通りの戦闘をすることが可能。思った場所への瞬間移動も、武器の召喚も思いのまま。

 

 

Fate/Grand Order

 

レベルⅩ

 

身長:206cm

体重:96.1kg

パンチ : 設定による

キック力:設定による

ジャンプ力:設定による

走力:設定による

 

レベルⅩとは言っても、その強さは完全に未知数。

Fate/Grand Orderというゲームそのもののプログラム。無数のサーヴァントのデータを内包しており、その中のサーヴァントとして認識できるのならサーヴァントの攻撃を無力化出来る。

またゲームエリア全体に干渉することが可能であり、イメージするだけで壁を動かしたり地面を裂いたりが可能。

マイティアクションNEXTと併用した場合は真紅に燃えるカルデアスそのものを鎧として出現させ、纏わせる。その熱はあらゆるものを融かし、手を振るだけで衝撃波が辺りを粉砕する。

また、鎧の表層が破壊されるとカルデアスの中身が溢れ出て無差別に周囲を破壊する。



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第一話 To the beginning

丁度初投稿から半年のタイミングで真シリーズ開始
とはいってもこれからの更新は被クロックアップ状態並みに遅くなるかもです
時々ポーズも食らうかもしれません
断末魔もなく逝ったならラヴリカを思い出してください



 

 

 

「社長、衛生省からこんなものが……」

 

「ん? 何だい?」

 

 

仮面ライダークロニクルが終結し、大株主西馬ニコの投資によって復活を遂げたゲンムコーポレーションにて。

そこにはもうかつての社長、檀黎斗の姿は何処にもなく、檀黎斗、天ヶ崎恋、檀正宗に座られてきた社長の椅子には、現在は小星作という男が座っていた。

 

その作は、衛生省から届けられた箱を開いた。白く飾り気のないそれの中を見てみれば、一つのガシャット。そして箱の蓋の裏面に、メモ書きが張り付いていた。

 

 

『元々檀黎斗の隠れ家だった旧ゲンムコーポレーション本社から押収したガシャットです。安全性を確認したので、そちらにお返しします』

 

 

とだけあった。

作はそれをまじまじと見つめる。隣で秘書も興味深げに眺めていた。

 

 

「黎斗元社長の作品でしょうか」

 

「そうなのかなぁ……」

 

 

Fate/Grand Order。そう書かれた、クリアパーツの造形の凝った透き通る水色のガシャットに、作は何処か恐る恐る指を這わせる。

普通のガシャットに思えた。しかし、何処か、触れてはならないような気もした。

 

しかしまあ、折角届いたのだから、目を通した方が良いのだろう。現在はCRにて好き勝手にガシャットを作っているのだろう檀黎斗……いや、檀黎斗神に直接話を聞きに行くことも考えたが、それは少しばかり恐ろしかった。

 

 

「じゃあ、取り合えずプレイしてみようか。ガシャットをセットするよ」

 

「記録つけます?」

 

「いやいいよ、ちょっと覗くだけだし」

 

『ガッシャット!!』

 

 

……その、瞬間だった。

 

 

   パチンッ

 

「……ん?」

 

「あの、社長。今、パソコンに火花が……」

 

「故障したかな……? まだ新しいような気がしてたけど……」

 

 

   パチンッ パチンパチンパチンッ

 

   バチバチバチブェハハバチ

 

   キュルキュルハーハハハキュルキュル

 

 

「絶対おかしいですって、変な音出てますし……!!」

 

 

パソコンの画面が明滅する。それだけではない、パソコンと繋がったプリンターも、部屋の中のテレビも、充電していた携帯電話すらも液晶が勝手に光り、音を漏らし始める。その反動で、卓上のハンバーガーのぬいぐるみが転げ落ちた。

 

同時に、社内電話が鳴り出した。どうやらこの状況はこの社長室だけではなく、ゲンムコーポレーションの建物全体で起こっているらしい。

 

不味いことになった。作は慌ててパソコンのマウスに手を伸ばすが、既にカーソルは消えていた。プリンターは何故か白いコピー用紙を吐き出し続ける。

 

 

   ガガガガ

 

   キュルキュルキュルキュル

 

   ブェハハバチバチ

 

「ああ、一体何がぁぁ!!」

 

「逃げましょう社長!! 不味いですって!!」

 

 

秘書は半ば腰を抜かしていた。それでも作はパソコンと格闘する。キーボードを叩き、配線を繋ぎ直す。

しかしそれらの努力は実らない。実らない。

 

秘書が社長室の窓から下を見れば、多くの社員が逃げ出し始めていた。秘書も流石にこれ以上は無理だと判断し、作をパソコンから引き剥がす。

 

 

「降りましょう!! これは無理です!! 一旦何処かに協力を!!」

 

「っ、でも……!!」

 

 

……その瞬間。

 

パソコンからテレビから携帯から出ていたノイズが、急にはっきりとした声になった。

 

 

『『『ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!』』』

 

「っ!? この声、まさか……!!」

 

「ええっ、ええ!?」

 

『『『ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!』』』

 

   テッテレテッテッテー!!

 

 

……小星作は、その高笑いを知っていた。かつて彼自身も、その高笑いでもって嘲られ、ゲーム病を悪化させた経験があった。そしてそうさせる人間なんて、決まっている。

 

 

「まさか、檀黎斗……!?」

 

 

……()()が、社長室の机に現れた。

 

そして全ては、始まりへと至る──

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

午後2時を過ぎた頃に、CRの面々はゲンムコーポレーション前に到着した。

今回は()()から()()が出てきたということで警戒に警戒を重ねて、宝生永夢、鏡飛彩、花家大我、九条貴利矢、西馬ニコ、パラド、ポッピーピポパポ、さらにガシャコンバクヴァイザーⅡに入れられた檀黎斗神までもが揃っていた。

 

永夢が、一人ゲンムコーポレーションを見上げていた作に声をかける。社員は皆命の危機を感じて逃げ出したらしく、彼の他には誰もいなかった。

 

 

「……ああ、うん。一応」

 

「なら良かった……あの、本当に、本当に()()()()が現れたんですか?」

 

「はい……シンダンクロトと名乗りました。土管から笑いながら現れて!!」

 

「……黎斗さん、弁解は?」

 

 

永夢が、ポッピーの手元の黎斗神に声をかける。

しかし黎斗神の方は、これといった心当たりは無いらしく。

 

 

『檀黎斗神だ!! ……それはそれとして、この状況は私にも不可解ではある。マイティアクションXオリジンから出てきた私が存在している以上、このタイミングで現れる檀黎斗は存在していない筈だ』

 

「……なら、いよいよもって不可解だな。テメェが知らねぇなら何だ、本物の檀黎斗の幽霊か」

 

 

そう言うのは大我。その視線は、パッと見では何もありそうにないゲンムコーポレーションロビーに向けられていて。

 

しかし、ここでどれだけ檀黎斗を疑っても仕方がないということも真実だった。

全ての真相はこのロビーを越えた先にある。永夢は作に外で待つよう指示して、ロビーへと歩き出した。

 

───

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖こそは私、真檀黎斗。 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

現在の持ち主が追い出された社長室に、一人の声が響く。

彼を中心に、ゲンムコーポレーションの建物は侵食されていた。社長室から伸びた紫のラインはゲンムコーポレーションの全てに行き渡り、さらに外部へと手を伸ばす。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

その男は、白い服を着ていた。

この世界の誰も知らないことだが、それこそはカルデアの制服。Fate/Grand Orderの中にのみ存在する服で。

 

 

「……告げる。汝の身は神の下に、我が命運は汝の剣に。ガシャット(聖杯)の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

社長室の床には、魔方陣が煌めいていた。紫の光が空間を満たす。その中で笑いながら、男は詠唱を終わらせる。

 

 

 「誓いを此処に。私は常世総ての神と成る者、私は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!!」

 

   バチッ

 

   バチバチバチバチ

 

「さあ……集え、集え集え集え!! 私の、ゲンムのサーヴァント達よ!! この世界を私の最高傑作で塗り替える!!」

 

 

更に光が強まった。極光が止むと同時に、魔方陣の真中に人影が現れる。一つ、二つではない。十一もの影。

その男、真檀黎斗と縁を結んだ十一のサーヴァント。

 

真黎斗の左腕には、三十の赤い痣が刻まれていた。いや、それは痣ではない。令呪という名の絶対命令権。

それが従えるものは、他でもないサーヴァント。彼に付き従う、十一のサーヴァント。

 

 

「「「「「召喚に応じ参上しました」」」」」

「「「「「「我らはゲンムのサーヴァント」」」」」」

 

「……完璧だ」

 

 

それらを眺めて、真黎斗は笑った。全てが思い通りにいく、そんな確信を得ていた。

 

そこに、CRの面々は転がり込む。

 

 

「そこを動くな!!」

 

「……ほう、久しぶりだな」

 

「なっ……本当に、檀黎斗なのか?」

 

 

彼らは、真黎斗の顔を見ることは叶わなかった。その姿は逆光で暗く見えた。しかし、真黎斗が笑っていることは理解できた。

 

永夢は真黎斗に、そしてその向こうの十一の人影に声をかける。

 

 

「何が目的だ!! 何故ゲンムコーポレーションを攻撃した!!」

 

「決まっているじゃあないか……私は、神だ。この世界を、神が作り替えるんだよ」

 

「っ……」

 

 

永夢の背後で、黎斗神は何かを納得したように頷いていた。ニコが画面の中の彼を睨み、考えを問う。やはりこいつが黒幕なのか、と考えながら。

 

 

「……どうして笑ってるのよ。やっぱり何か知ってるんでしょ」

 

『……知ってるも何も、これは非常に簡単な話だった。……あれは私だ』

 

「……さっきと言ってることが違うけど」

 

『当然だ、これは想定外のことだからな。あれはかつて私が産み出したガシャットのセーブデータだ。それが勝手にガシャット内で進化し、暴走した』

 

 

淡々と語る黎斗神。

つまり彼は、目の前の、もう一人の檀黎斗は、かつて残したセーブデータが勝手に成長したものと考えていた。彼の神の才能を鑑みれば、あり得ない話ではなかった。

 

 

『名を問おう、私ではないもう一人の檀黎斗。()は、誰だ?』

 

「ふっ……私こそが檀黎斗。真なる檀黎斗だ」

 

『ならば……真檀黎斗、という訳か』

 

 

そしてその考えは正解だった。

詳しく分析しなければ辿り着けない答えではあるが……彼は檀黎斗のセーブデータだ。Fate/Grand Orderの中のマイティアクションNEXT、それが衛生省にて一月もの間調べられている内に自己を確立、ガシャット自身の改造と同時に東京都のネットワークに介入する準備を行い、本日に至ったのだ。

 

 

「取り合えず倒しましょう、被害が広がる前に!!」

 

 

痺れを切らしたように、永夢が懐からガシャットを取り出す。そしてゲーマドライバーを装着し、ガシャットの電源を入れた。

どう考えても、真檀黎斗と名乗るあれを放置するのは不味いと思われた。あり得ない選択だった。

 

 

『ハイパームテキ!!』

 

『マキシマムママママ\マ<1166(|:~8&@』

 

「えっ!?」

 

 

……しかし、ガシャットは上手く動かなかった。永夢の左手に握られていたマキシマムマイティXガシャットは火花を上げ、その起動を停止させる。

真黎斗は笑っていた。その顔は、思い通りに事が進んで良かったと考えているようで。それが不愉快で、永夢の顔は険しくなる。

 

 

「このゲームにおいて、プレイヤー自身の戦闘力は邪魔以外の何者でもない……故に!! この空間にあるかぎり、レベルに制限を加えさせて貰った!!」

 

「っ、厄介な……」

 

 

朗々と種を明かす真黎斗。しかしてネタがバレた所でどう対処できる話でもない。永夢は歯軋りしながらガシャットをしまい、別のガシャットを取り出そうとした。

しかし態々それを見逃してやるほど、真黎斗も物好きではなかったらしく。

 

 

「……私は神だ。私の神威を見るがいい!! ハアッ!!」

 

 

その声と共に真黎斗はその手を振り上げ。

 

風が吹いた。

一陣の風が、窓が開いている訳でもない社長室に吹いた。しかもその風は、毎秒ごとに強くなっていく。踏ん張っていられないほどに吹き荒れていく。

 

 

「なっ……!?」

 

「か、風が……!!」

 

「駄目だ、耐えられ、ない……!!」

 

『……流石、私か』

 

 

真黎斗は、その名乗りの通り神へと近づいていた。彼は己の支配が及んだ空間への命令権を手中に納めていた。

最初に、真黎斗と分岐した存在であるはずの黎斗神がポッピーの手元から剥がされ、廊下の奥へと消えていった。それに続くように一人、また一人と社長室から飛ばされていく。

そして最後まで踏ん張った永夢も、廊下の壁に叩きつけられ、そして社長室から弾き出された。

 

 

「うわあああああっ!!」

 

───

 

「っ、つつ……」

 

 

永夢は、ゲンムコーポレーションの一角、会議室の壁で目を覚ました。腕時計を見てみれば、まだ真黎斗に吹き飛ばされてから十分を経っていないようだった。

 

部屋を見回してみる。時計、プロジェクター等の危機には社長室に溢れていたあの紫の光が筋となって走っていた。恐らくあれがレベル制限も行っているのだろう。

 

 

「早く、戻らないと……」

 

 

永夢は起き上がった。右足がずきずきと傷む。

目をやってみれば、足首から出血していた。靭帯の辺りがやられてしまったのだろうか。しかしそれでも、彼は歩こうとする。

 

その瞬間、会議室の天井が崩れた。

 

 

   ガラガラガラッ

 

「うわっ!?」

 

「ハーイ、天井から失礼。ゲンムのランサーことエリザベート・バートリー。マスターの命で、貴方に歌を聞かせに来たわ!!」

 

「バグスター……!!」

 

 

永夢はふらつく右足首に鞭を打ち、ガシャットを取り出す。これまで人間型のバグスターと交戦したことはなかったが、他に危害を加えるつもりなら容赦は出来ない。

ランサー……エリザベートはそのマイクのような槍を振り回して何時でも準備万端と言わんばかり。このまま外に出せば、誰かを襲うのは確かに見えた。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「……よし、使える!!」

 

『『ガッシャット!!』』

 

 

永夢はドライバーにガシャットを装填した。そして、レバーを解放する。

 

 

「大 大 大変身!!」

 

『『ガッチャーン!! レベルアップ!!』』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション X!!』

 

『アガッチャ!! ぶっ飛ばせ 突撃 激突パンチ!! ゲ キ ト ツ ロボッツ!!』

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

「ふーん……これが本来の(プロトじゃない)マイティアクションか……まあ、ライブ開始に代わりはないわ、さあ、ライトを当てなさい!!」

 

 

エリザベートとエグゼイド。二人は同時に足を踏み出し、戦闘を開始した。

 

───

 

徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)!!」

 

   ズダン ズダン ズダン

 

「ぐ、うっ……!!」

 

 

エグゼイドはエリザベート相手に苦戦を強いられていた。

現在の彼は右の足首を損傷しているが、それだけではない。エリザベートには真黎斗のサポートが施されているように見えた。その証拠かは分からないが、エリザベートの目は時おり紫に光って見えた。

 

 

『ゲキトツ クリティカル ストライク』

 

「はああああっ!!」

 

 

エグゼイドの闘志は全く鈍ってはいない。しかして体は言うことを素直には聞いてくれず、飛ばした拳もあらぬ方向へと飛んでいく。

そしてその隙に、エグゼイドは脳天にエリザベートの一撃を受けた。

 

 

「アハハハハハッ!!」

 

   ズドンッ

 

「ぐあああっ……!!」

 

『『ガッシューン』』

 

 

重い一撃だった。ゲーマドライバーからガシャットが抜け落ちる程には。変身が解け部屋の壁に押し付けられた永夢の首筋に、エリザベートの槍が押しつけられる。

 

 

「このままだと……!!」

 

「……これで終わりね」

 

 

永夢は思わず目を瞑った。首筋の冷たい感触に、否応にも意識が集中してしまう。

まさかここで死ぬなんて。永夢は後悔が溢れて止まらない。それでも槍は振りかぶられ……

 

 

   カッ

 

「……まさか」

 

 

その瞬間、永夢の前方……エリザベートの足元の辺りに、勝手に魔方陣が浮かび上がった。永夢の右手に痛みが走り、三画の令呪が刻まれる。

エリザベートは飛び退いた。永夢は目を開き、ゆっくりと立ち上がろうとした。しかし足首が傷むせいで再び座り込む。痛みに呻くその口は彼が意識するでもなく、小さく勝手に動いていて。

それは詠唱だった。永夢が知るはずもないが、真檀黎斗が行っていた詠唱を辿っていた。

 

そしてそれが終わると同時に魔方陣は極光を放ち、一人のサーヴァントを召喚する──

 

 

 

 

 

「……マスター……ああ、足首を損傷していますね。大体は把握しました。そこから動かないで」

 

「……え? え?」

 

「うっわ、よりにもよってコイツが出てくるなんて……」

 

 

永夢は、呆然としていた。

赤い服が見えた。かつて何処かの資料館で見たような、ずっと昔の看護服を思わせた。腰に下げているのは救急箱のように見えた。ピンクとも白ともつかない髪を纏めて現れたその姿は小さくも逞しく、そして慈愛を持っていた……ように見えた。

エリザベートは、恐れていた。彼女は、宝生永夢のサーヴァントとなった存在を知っていた。

 

 

「治療を妨げる者に死を。治療の為衛生の為なら、私は何にだってなってみせます」チャキッ

 

「っ……ここは撤退よ私。ええ、あれは怖すぎるわ……!!」

 

 

だからこそエリザベートは、ボックスピストルを構えるそれの前から退却した。彼女は先程自分で開けた穴に飛び上がり姿を消す。

残された永夢は、目の前の女性を、いや恐らくバグスターであるそれを見上げる。

 

彼女は視線を感じたのか向き直る。永夢に振り返る。永夢は黙っていられなくて、ただ見つめ合うのはどこか照れ臭くて、取り合えず礼を言った。

 

 

「ありがとう、ございました……ええと、僕は宝生永夢です。貴女は?」

 

「サーヴァント、バーサーカー。ナイチンゲール。召喚に応じ参上しました。私が来たからにはどうかご安心を」

 

 

その日彼は、運命(Fate)に出会った。

 

 

第一話 To the beginning

 






次回、仮面ライダーゲンム!!


───襲い来る刺客(サーヴァント)


「我が主よ、我が行いをご照覧あれ!!」

「駄目だ、タドルレガシーが起動しない!!」

「追い付かれるぞ!!」


───止まらないFGO


「おい神!! 説明しろよ!!」

『いや、分からない……私が作った時点では、こんなことは起こり得なかった!!』

「なんてこったよ……!! じゃああの歌ってる奴相手にどうすればいいんだ!!」


───揃うはCRのサーヴァント


「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公──」

「サーヴァント、セイバー。ジャンヌ・ダルク……召喚に応じ参上しました」

『サーヴァントにぶつけるならば、サーヴァント、という設計か』


第二話 Prayer


「月の蝶、ムーンキャンサーことBBちゃん、ここに召喚、です!!」


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第二話 Prayer

メリーィクリスマァス……サンタ(クロ)()だぁ……
今日は読者の皆に特大の地雷を用意したぞ、ヨロコヴェー!!
神の恵みを喜んで受けとるがいい!!



 

 

 

 

「っ……ここは……?」

 

「どうやら何処かの会議室らしいな」

 

 

飛彩と大我は、永夢とはまた別の会議室で目を覚ました。飛彩は頭から血こそ流しているが軽傷らしく、白衣の埃を叩きながら立ち上がる。そして顔を上げ、大我の背を仰いだ。

 

 

「……おい、背中……」

 

「……ああ、倒れていた」

 

 

飛彩は、大我が背中に気絶したニコを背負っていることに気がついた。どうやらまだ目覚めないらしい。背中の少女を気遣いつつ大我は辺りを見回して、何処かからの足音を察する。

 

 

「……聞こえるか、ブレイブ」

 

「……足音だな」

 

 

飛彩もすぐにそれを察し身構えた。それとほぼ同時に会議室の扉が開き、奇怪な格好をした目の大きな男が現れる。

 

 

「……誰だ、お前」

 

「お初にお目にかかります。ゲンムのキャスターの一人、ジル・ド・レェと申します……そうですね、青髭とでも言えば分かりやすいでしょうか」

 

「……バグスター!!」

 

 

ジル・ド・レェと名乗ったキャスター。それがバグスターだと見抜いた飛彩は、懐からゲーマドライバー、そしてタドルレガシーガシャットを取りだし、電源を入れる。

その隣では大我が会議室の隅にニコを座らせ、やはりバンバンシュミレーションズガシャットを取りだし、電源を入れようと試みた。

しかし。

 

 

『タドルレレレレレf5|\4~:@3@(|:』

 

「っ、やはりタドルレガシーは起動しない……駄目だな。期待はしていなかったが」

 

『バンバンシミュレレレレ@.レ71{|%$レ._.#*』

 

「……仕方がないか。これで凌ぐぞ」

 

 

しかし、やはり起動はしない。大我は早々にガシャットを持ち換えた。金色のガシャット、ドラゴナイトハンターZだ。

ジル・ド・レェはそれを見てニヤリと笑い、胸元からプロトドラゴナイトハンターZを取り出す。

 

 

「奇遇ですねぇ……私もドラゴナイトハンターZは愛用しているのですよ……」

 

「何っ……!!」

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

「変身……!!」

 

 

そして、先に電源を入れ、胸元に突き立てた。ジル・ド・レェの体が黒く染まり、竜の意匠が浮かび上がり、より狂暴な姿に転じる。

 

 

『バンバン シューティング!!』

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

「これは、使えるみたいだな……ブレイブ!!」

 

「分かっている」

 

『タドルクエスト!!』

 

 

最早戦いは避けられない。そう判断して、大我はドラゴナイトハンターZのコピーを飛彩に投げ渡す。そして二人で並び立ち、ガシャットをセットした。

 

 

『『『『ガッシャット!!』』』』

 

「術式レベル5!!」

 

「第伍戦術!!」

 

「「変身!!」」

 

 

二人の頭上にパネルが表示され、彼らの姿を仮面ライダーに書き換える。同時に二人はその手に産み出されたドラゴナイトハンターのパーツで、ジル・ド・レェに攻撃を開始した。

 

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『ババンバン!! バンババン!! ウァオ!! バンババンバンシューティング!!』

 

『『ド ド ドラゴナーナナナーイ!! ドラ ドラ ドラゴナイトハンター!! ブレイブ!!』 スナイプ!!』

 

「行くぞブレイブ」

 

「分かっている、はあっ!!」

 

───

 

「ピプペポパニックだよ~!!」

 

「っ……オレのガシャットが、動けば良かったんだが……!!」

 

 

それと時を同じくして、ゲンムのバーサーカーと名乗ったサーヴァントと遭遇したポッピーとパラドはと現在悲鳴を上げながら逃走していた。

 

ポッピーは既に変身しての抵抗を試みていたが、ゲンムのバーサーカー……カリギュラがゲキトツロボッツを使用、さらに宝具を発動したことによってその狂気を軽くだが移され、ある種のパニック症状に陥っていた。故に逃げるしかなかった。

 

 

「不味い、行き止まりだポッピー!!」

 

「うわぁ本当だぁ!!」

 

「ウオオ……オオオ……!!」

 

 

しかしそれにも限界はあって。二人は壁に背をピタリとつけ縮み上がる。

いっそ自分が仮面ライダーポッピーに……ともパラドは考えたが、追いつめられた今ではそれも叶わない。

 

 

「女神が……おお、女神が見える……」

 

「っ……」

 

 

カリギュラがその腕を振りかぶる。

 

───

 

「おい神!! 説明しろよ!!」

 

『いや、分からない……私が開発した時点では、こんなことは起こり得なかった!!』

 

 

それと同じ頃、九条貴利矢……の変身した仮面ライダーレーザーターボは道すがらに拾った檀黎斗神を問いただしながら、追跡してくる黒服のアサシンから逃亡していた。

 

初めのうちは戦闘を試みてみたのだが、どうにも自分達の攻撃が上手く通っていないように思えて仕方がなかった。何処か、実体のない物と戦っているようにすら思えた。しかも、何故かバグスターであるはずのレーザーターボは粒子状になることは出来なかった。

 

 

『そもそもサーヴァントはこの世界のスケールに合うようには設定されていないはず……やはりあの真檀黎斗()が改造したのだろうな』

 

「そうかい!! で!? あれはどうやって止めれば良いんだ!?」

 

『倒す他ないが……あれは強いぞ、既にプロトドレミファビートを直挿ししている』

 

「なんてこったよ……!! どうすればいいんだ!!」

 

 

やはり逃げながらレーザーターボが叫ぶ。今日の今日まで殺したり殺されたりしながら関わってきた二人だが、流石にこんな訳の分からないことまで起こしてくるとは予想外だった。

しかも運の悪いことに、レーザーターボは行き止まりに追い詰められた。何とかしろと言わんばかりに檀黎斗神の入れられたバグヴァイザーを突き出してみるが……

 

 

『落ち着けファントム。私だ、檀黎斗だ』

 

「私のクロスティーヌは貴公ではない……私はゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ……おお、クロスティーヌ!! クロスティーヌ!!」

 

 

そう言いながら攻撃してくる。慌てて回避はしたが、廊下の壁には深い溝が刻まれていた。一体どれだけの破壊力なのだろう。

 

 

「うっわ……」

 

(真黎斗)め、強化を加えているか……仕方がない、最後の手段だ』

 

「何だ神!! 何か思い付いたか!!」

 

 

余りの威力に引き気味のレーザーターボに、バグヴァイザーの中の黎斗神が何かを思い付いて告げる。その声には焦りが含まれていたが、同時にある種の確信もあって。

 

 

『右手の壁を砕け、ゲームの開発室に繋がっている!! そして私をコンピュータに接続しろ!!』

 

「……良いぜ、乗ってやるよ!!」

 

 

そしてレーザーターボは、その言葉に活路を懸けた。本来ならバグヴァイザーをコンピュータに繋ぐことは逃走の危険もあったが、一対一でこのゲンムのアサシンを相手するのはかなり無理があった。

 

壁を砕き、手短にあったパソコンとバグヴァイザーを接続する。黎斗神は直ぐ様バグヴァイザーに流れ込む情報を解析し、真黎斗の産み出したシステムの仕組みを探った。

 

 

『この会社に流れているラインに介入すれば……行ける、行けるな』

 

 

黎斗神は逃げ出さなかった。別にレーザーターボのことを気にしている訳ではなく、単純にこの異常事態においての自分(真黎斗)との心を踊らせていたからだった。

そして彼は、真黎斗の敷いたシステムに干渉する。

 

 

『っ……出来た!! 流石私だぁ……九条貴利矢ァ!! 私に続いて暗唱しろ!!』

 

「……おう!!」

 

『素に銀と鉄ゥ。礎に石と契約の大公ゥ!! 降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよォ……!!』

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公──」

 

 

光が走った。ファントムは突然現れた召喚サークルに対して飛び退き、警戒の姿勢を見せる。

 

 

「……これは」

 

『サーヴァント召喚のサークルだァ……使えたということは、やはり』

 

「……なるほど?」

 

『サーヴァントにぶつけるのはサーヴァント、という訳だ』

 

 

黎斗神が行ったこと。それは、ゲンムの陣営に対抗してCRの陣営を産み出すこと。真黎斗が支配するこの紫のラインが走る空間に存在する人間を、バグスターをマスターとする行い。

故に、この場のレーザーターボと黎斗神だけではなく、エリザベートに追い詰められていた永夢の元にも、ジル・ド・レェと交戦中のブレイブとスナイプ、そして漸く目を覚まし始めたニコの元にも、他のCRの勢力の元にも、召喚サークルが同時に展開される。

 

 

「……なるほど、アンタが俺のサーヴァントって訳か」

 

 

レーザーターボは、サークルに浮かんだ人影に呼び掛けた。その人影は手に握った杖をファントムに振りかざし、光弾を打ち出す。

 

 

   ズドン ズドン

 

「っ……これは……」

 

 

ファントムは、敵が突然倍増したことを悟った。レーザーターボ、その前にいる女性のサーヴァント、そしてバグヴァイザーの刺さっているパソコンの側に現れたサーヴァント。

故に撤退した。分の悪い賭けに出るには早すぎる。

 

 

「……おっ、帰っていったか。やるねぇアンタ。名前は?」

 

『ガッシューン』

 

 

レーザーターボは変身を解き、己のサーヴァントにそう問った。彼の左手には、三画の令呪が刻まれていた。

光弾を打ち出した女性サーヴァント。それは青い裾を揺らしながら貴利矢に向き直る。

 

 

「CRのライダー、マルタ。ただのマルタです。世界を、救いましょう──」

 

「……へぇ。見たところ、キリスト教関係の人か。いいぜ、よろしく」

 

 

そう言い、貴利矢はバグヴァイザーの元に向かう。

これ以上敵の膝元にいるのは厄介だ。黎斗神も連れてさっさと撤退するが吉だと、貴利矢は判断していた。

 

 

「サーヴァント、キャスター。メディアです。あの、よろしくお願いします!!」

 

『……よりによって、メディア・リリィか……!!』

 

 

黎斗神は、己の運の悪さを呪っている所だった。弱い訳ではないのだが、戦闘に用いるには厳しいサポート系、かつ機械関係にも疎いキャラクターだった為、黎斗神が扱うには不便だった。

 

 

「はいはい、さっさとずらかるぞ神。バグヴァイザーに戻れ」

 

『もっと敬えぇ!!』

 

「はいはい。んじゃあ、退却しますかね」

 

───

 

「おお、女神が……女神が見える……!!」

 

「っ……!!」

 

   カッ カッ

 

 

腕がパラドを貫く前に、魔方陣はパラドとポッピーの元にも現れた。逆光で顔は見えないものの二体のサーヴァントが現れ、その内の一体……パラドの前に現れた方のサーヴァントが、巨大な剣でカリギュラを斬りつけた。

 

 

   ザンッ

 

「っ……ウオオ……」

 

 

光が止む。二人の姿が露になって行く。

形勢不利と判断したカリギュラは退却し、後にはポッピーとパラド、そして二人のサーヴァントが残されて。

 

 

「……誰……?」

 

 

ポッピーは静かにそう問った。既に彼女の左手には令呪が刻まれていて。

彼女のサーヴァント、紫の髪の少女は、やや大袈裟に振り返りながら名乗る。

 

 

「月の蝶、CRのムーンキャンサーことBBちゃん、ここに召喚、です!!」

 

「月の、(キャンサー)……?」

 

「違いますよセンパイ。(キャンサー)じゃなくて(キャンサー)です」

 

「癌!?」

 

 

癌という名に衝撃を受け固まるポッピー。

 

しかしその横のパラドは彼女には目を向けず、己のサーヴァントと見つめあっていた。

先程カリギュラを撃退したあの大剣の男。銀髪に、黒いコートの格好をしたその男は。

 

 

「CRのアサシン、シャルル=アンリ・サンソン。召喚に応じ参上しました」

 

───

 

『『ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』』

 

「はあっ!!」

 

「フンッ!!」

 

   ザンッ ズドン  ガァンッ

 

 

ブレイブとスナイプがジル・ド・レェを攻撃する。放たれたキメワザは確実にバグスターの体に当たり、しかし相手は対して焦りも驚きもせず。

 

 

「ふふ……?」

 

「何故だ、何故全く動じていない!! 攻撃は当たっている筈……!!」

 

 

二人は、徐々に追い詰められていた。後ろで唸っているニコに攻撃が行くようなことがあってはならないが、流れ弾を撃ち落とすのにも限界がある。

 

 

「これは……不味いな」

 

「撤退をしたいが、それすらも……」

 

 

ブレイブが仮面の下で顔をしかめた。

その瞬間だった。

 

 

   カッ カッ  カッ

 

「なっ!?」

 

「……何だ、この光?」

 

「まさか、魔方陣!?」

 

 

黎斗神が召喚サークルを起動したのだ。この場にいる対象はブレイブとスナイプ、そしてニコ。

光は強まり、人影が現れる。それが彼らのサーヴァント。

 

 

「おのれ……これはいけません、宝具を使わなくては」

 

 

敵の増加を察したジル・ド・レェが、真っ先に宝具を発動した。それによって多くの触手が呼び出され、空間を侵食していく。あまり広くはない会議室に触手が満ちていく。

 

 

「さあ我が主よ、我が行いをご照覧あれ!!」

 

「っ不味い、脱出を……」

 

「ここは13階だ、窓しか無ぇぞ!!」

 

 

スナイプがドラゴナイトハンターを引き抜きながらニコを背負う。何も無しで飛び降りれば、生身なら即死は確実だろう。

そのタイミングで光が止む。触手が空間を埋めるまであと十秒。

 

 

『CRのアーチャー。召喚に応じ参上した……と言っていられる場合ではないな』

 

「サーヴァント、セイバー。ジャンヌ・ダルク……召喚に応じ、って、きゃあ!?」

 

「CRのランサー、フィン・マックール……と、悠長に自己紹介は無理か」

 

 

もう、視界は触手で埋められていた。見通しは悪いどころではなく、ジル・ド・レェですら何も見えてはいない。

猶予はない。会話すらもなく、彼らは窓際に追い詰められる。

 

 

「っ、追い付かれるぞ!!」

 

 

状況を把握した赤い外套のアーチャーが、一本の剣を呼び出して会議室の窓ガラスを破壊した。そして素早く破片を吹き飛ばし、窓枠に足をかける。

 

 

「窓を割ったぞマスター!! 飛び出す!!」

 

「っ、それしかないか!!」

 

『ジェット コンバット!!』

 

 

スナイプも覚悟を決めた。ニコを抱え、ジェットコンバットを装備して空を飛ぶ。その後を追って、ブレイブとセイバー、そしてランサーも空へと飛び出した。

 

───

 

「ああ、飛彩さんに大我さんが!! どうしよう、あんな高い所……」

 

 

飛び出てくるスナイプ達。スナイプはニコと共に宙に止まったが、しかし他の面子は落ちてくる。

地上からそれを見ていた作は、どうしようかと思い、同時にどうしようもないと絶望し、彼らが地上に落ちていく少しの間右往左往していた。

しかし彼には手段があった。少し前に彼の前にも現れていた。

 

ゲンムコーポレーションに流れていた紫のラインは、道路にまで侵食してきていた。

 

 

「……大丈夫ですよ、()()()()

 

 

女の声がした。その声の方向から黒い触手が伸びていき、落ちてきたブレイブを、サーヴァントを優しく包んで、少し遠くの地面に下ろす。

 

 

「あ、ああ、ありがとう」

 

「いえいえ……ふふ、気にせずとも、私を好きに使っていいんですよ、マスター?」

 

 

その女は、尼の姿をしていた。優しく微笑む姿は人間への愛を感じた。作はその笑顔に年甲斐もなく顔を赤らめ、そして安堵の溜め息をつく。

その女は。その真名は。

 

 

「私は貴方のサーヴァント。CRのアルターエゴ、()()()()()()なんですもの。ね?」




次回、仮面ライダーゲンム!!


──解き放たれた黎斗神

『超法規的措置を取らざるを得ない』

「フゥッ!! やはり私の才能が必要になったか……!!」


──広がり行くゲームエリア

「一体目的は何なんだ!!」

「体勢を立て直したら、一気に潰さないと」

「だが今は早すぎる」


──そして、思い悩むマシュ

「私達に、何をさせたいんですか?」

「今は休め。時間は沢山ある」

「これからとっても楽しくなるのよ!!」

「ああ……世界が私の才能を待ち望んでいる!!」


第三話 Real game


「私だって檀黎斗だ、誰よりもこのゲームの設定は知っている」


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第三話 Real game

第二部始まりそうですね
黎斗がぐだだったら間違いなくコヤンスカヤさんと殺し合い始めてそうだなぁ……



 

 

 

ゲンムコーポレーションから飛び出して暫くしてから。

 

 

「何とか、戻ってこれた、ね」

 

 

聖都大学附属病院電脳救命センター(CR)に戻ってきたポッピーが、そう静かに呟いた。

この瞬間、今までにない人数の存在がCRに入っていた。それこそ、息苦しさを覚えるほどに。

 

あまりの人口密度にほんの少し汗をかきながら、ポッピーは辺りを見回す。いるのは、これから真檀黎斗に共に対抗する仲間……になってくれる筈の、自分含めた八つの陣営。

 

 

「ここが現在の医療設備、ですか……非常に衛生的で何よりです」

 

「それは良かった」

 

 

まず、バーサーカー陣営、マスターの宝生永夢とサーヴァントのナイチンゲール。恐らくあの、クリミアの天使と名高いナイチンゲールだ、そうポッピーは考察する。しかしまさか本人だとは思えない。後で檀黎斗神を問いたださなければ。

そのナイチンゲールは興味深げにCRのベッド等を確認し、その毛布の清潔さに感心していた。

 

 

「狭くてすまないが我慢しろ。……何か食べるか?」

 

「ああいえ、お構い無く」

 

 

その隣はセイバー陣営、マスターの鏡飛彩とサーヴァントのジャンヌ・ダルク。

飛彩は一応彼女に気を使っているが、どうにもギクシャクしているように見える。

 

 

「……紅茶なら淹れられるが」

 

「結構だ」

 

 

それと対応するような格好なのがアーチャー陣営、マスターの花家大我とサーヴァントのエミヤ。……エミヤとは誰だったか。何処かで聞いたようなそうでないような……そう考え、ポッピーは首を傾げながら二人を観察する。

セイバー陣営とは逆に、こちらはサーヴァントのエミヤの方が何処からともなくティーカップを取り出していた。大我の塩対応のせいかすぐに消してしまったが。

 

 

「君は美しいね。しかし、いけない……私の美しさは、君の美しさと相まって悲劇の運命を呼び込んでしまう!!」

 

「何コイツ、すごくキモい……」

 

 

ランサー陣営、マスターの西馬ニコとサーヴァントのフィン・マックール。

相性はあまり良さそうには見えない。現時点で、ニコは青筋を立てていた。ポッピーは苦笑いだけして視線をそらす。

 

 

「なあ、アサシンって何してたんだ?」

 

「……とても声高には言えないことです。いや、そもそも本当に私の記憶だ、とも言えないのでしょうか」

 

 

アサシン陣営、マスターのパラドとサーヴァントのシャルル=アンリ・サンソン。

パラドに対して、サンソンはいかにも義理固そうな印象を受けた。パラドとは本当に気が合うのだろうか。

 

 

「うわぁ……よく分からないのが一杯です……」

 

「迂闊に触るな、キャスター。私の神の才能を傷つけるのは許さない」

 

 

キャスター陣営、マスターの檀黎斗神とサーヴァントのメディア・リリィ。リリィということは百合だろうか? 推測はするもののポッピーに状況は掴めない。

そのメディア・リリィは黎斗の入ったバグヴァイザーⅡを抱えながら右往左往していた。

 

 

「なるほど、ここが今回の……スペース、少し狭くはありませんか?」

 

「まあ、そりゃそうだろうなぁ」

 

 

その隣はライダー陣営、マスターの九条貴利矢とサーヴァントのマルタ。

何だかんだでこの二人が一番安定しているような気がするとも思うが、まだポッピーには何とも言えない。

 

 

「折角召喚されたんですし、遊びに行きません?」

 

「ええ?」

 

 

そしてムーンキャンサー陣営、マスターのポッピーピポパポ自身と、彼女にとってよく分からないサーヴァントであるBB。

そもそもBBなんて存在、ポッピーは錠剤の名前ぐらいでしか聞いたことはなかった。隣に立っている彼女が何か、ポッピーにはさっぱり分からない。

ついでに、突然遊びに誘ってくるのも驚きだ。そういう性格なのだろうか。ポッピーはそう考えるが、きりがないのでこれ以上の分析は諦めた。

 

何にせよ、以上の八陣営がCRに詰まっていた。

本来はもう一つ、アルターエゴ陣営……小星作と殺生院キアラもいるのだが、どうにも早々に帰ってしまったため、セイバー陣営とアーチャー陣営以外は顔もクラスも知らず、どうにか少しだけ見聞きして知っている二陣営も深くは理解できていない。当然誰も、真名は分かっていない。

 

そして、彼ら彼女らは少しの間もたついた後に二階の待機スペースに移動し、永夢が持ち出してきた簡易的な椅子に腰掛け、砂嵐の写っているテレビの方を見た。

 

 

『ああ、やっと繋がった』

 

「恭太郎先生!?」

 

 

その数秒後に、衛生省大臣の日向恭太郎の顔が写し出された。CRとは何かと縁が深く、協力的な男である。

ナイチンゲールはテレビに映った見覚えのない男に首を傾げ、永夢に問った。

 

 

「マスター、彼は?」

 

「ああ、日向恭太郎先生。僕の命の恩人の、凄いドクターなんだ」

 

「……そうですか、貴方も、彼も、ドクターですか」

 

 

ナイチンゲールはどこか感慨深げに頷き、画面を見つめる。

全員の視線が画面に向いたのを確認してから。恭太郎は話し始めた。

 

 

『さて、本題に入ろう。檀黎斗』

 

『檀黎斗神だぁ!!』

 

『……今回の事件は、檀黎斗のバックアップが暴走して起こしたという解釈で、構わないな?』

 

 

恭太郎が、メディア・リリィの持つバグヴァイザーⅡの中の檀黎斗神にそう呼び掛ける。非常に鬱陶しそうな顔はしていたが、今回ばかりは避けて通れない道だった。

黎斗神は画面の中で少しだけ沈黙し、答える。

 

 

『まあ、間違ってはいなァい……』

 

『なら、止めることは可能か?』

 

『……当然だ。何しろ私は神だからな』

 

 

口元には笑みが浮かんでいた。恭太郎はその瞳を見つめ、しかし図りきれないと諦めて目線を外し、そしてCRの一同を見直す。それから、重い口を開いた。

 

 

『……分かった。一時的に檀黎斗を解放する』

 

「ちょっ、日向審議官!?」

 

『この状況下では超法規的措置を使わざるを得ない。既に許可は降りている……今回ばかりは、彼の力に頼らざるを得ない』

 

 

……それほどまでに、深刻な事態だった。

恭太郎はあくまで冷静に振る舞いながら、CRにある地図を見せる。

ゲンムコーポレーションを中心に同心円上に三つの輪が描かれた地図、恭太郎はその一番外側を示す。

 

 

『真檀黎斗の支配領域は拡大しつつある。既に東京の面積の4分の1の領域にて電波障害が確認された。先程通信が繋がりにくかったのもそのせいだ』

 

「なっ……」

 

「4分の1……!?」

 

『非常に、憂慮すべき事態だ。解ってくれ』

 

 

そうして、恭太郎は頭を下げた。CRの面々も慌てて頭を下げる。サーヴァント達は下げなかったが。恭太郎は彼らに目を向け、そして檀黎斗神を見つめて溜め息を吐き……そのタイミングで、通信は途切れた。後には砂嵐が走るばかり。

 

 

『おい、私をここから出せ、キャスター』

 

「あの、これ、どうやってやるのでしょうか……」

 

『ほら、上の方にボタンがあるだろう? 違うそれじゃない、ああ、それだ。押すんだ、それを押せ』

 

「はあ、これですね……?」

 

   ブァサササ

 

「フゥッ!! 私の才能が必要になったかぁ……!!」

 

 

そのタイミングを見計らって、黎斗神はバグヴァイザーⅡから飛び出した、大きく伸びをして、ドレミファビートの媒体に飛び込み、そしてパソコン一式を持って飛び出してくる。

 

 

「ほら、私に構うな!! 取りあえずはここに待機しろ、全員私がチェックする」

 

 

そしてそれらを机に広げた彼は、取り合えず自身のサーヴァントであるメディア・リリィにコードのついたヘルメットを投げ渡した。

 

───

 

「……」

 

 

ゲンムコーポレーションのある開発室にて。

ゲンムのシールダーとして呼び出されたマシュ・キリエライト・オルタは、沈んでいく太陽を眺めながら溜め息をついた。

 

既に彼女は、自分達が本当の存在ではないことを知っていた。あの時間神殿での黎斗の一言一句が脳裏に焼き付いていた。

そして、その事実を知っているのはマシュだけではない。あの場に集ったサーヴァントだけではない。

 

全てだ。

ゲンムのサーヴァントもCRのサーヴァントも、Fate/Grand Order(聖杯)に呼び出されたサーヴァントは皆、基本知識として己が作られた存在だと知らされていた。

 

 

「私は……私の救った、世界は……」

 

 

故にこそ憂鬱だった。マシュが己の全てをなげうって成し遂げた旅は無意味だ、そう知らされたからには、動揺せずにはいられなかった。そして、真黎斗へと怒りを覚えた。

 

その真黎斗は、マシュに与えられた部屋の二つ上の階、ゲンムコーポレーション社長室にて、もう一人のゲンムのキャスターとして召喚されたナーサリーと寝食を共にしながら作業に励んでいるのだろう。

 

 

「……そういえば」

 

 

まだガシャットを受け取っていなかった。

最初に真黎斗がCRの勢力を追撃させた時には、ジル・ド・レェとファントム、そしてカリギュラにしかガシャットを与えていなかった筈だ。

 

マシュは立ち上がり、真黎斗の元へと赴く。サーヴァントとしての身体能力は人理修復の旅をしていた頃と変わりなく、10段以上の階段も簡単に跳び上がることが可能だった。

 

 

「……黎斗さん? います?」

 

「何だ、マシュ・キリエライト……!!」カタカタカタカタ

 

「ふふふふふふふ」カタカタカタカタ

 

「……」

 

 

訪ねてみれば、お取り込み中だった。

二人とも目を剥き口から変な音を小さく漏らしながらひたすらにキーボードを叩いている。

 

 

「……あの、何を?」

 

「ふ、始める前の準備さ、マシュ・キリエライト」カタカタカタカタ

 

「……私達に、何をさせたいんですか?」

 

 

やはり黎斗は自分達に何かをさせるつもりらしい。分かりきっていた事実をマシュは再確認し問う。

呼び出されて、唐突に部屋を割り振られて、待機を命じられたが……彼女としては、これ以上何もせず、何も問わずに黙っているのは無理だった。

 

 

「言った筈だ。この世界を私の最高傑作で塗り替える、と。私はこのFate/Grand Orderを私の最高傑作にすると決めた。ならば──」

 

「──この世界を、私達のいた世界と、混ぜるんですか」

 

「その通りだ。ついでに言うが、今行っていることはその前段階……抑止力の停止だ」

 

 

真黎斗は手を止めて語る。彼はFate/Grand Orderに遺され、目覚め、意思を持ったセーブデータ。出身地(Fate/Grand Order)から逃れることは出来ず、故にそのゲームを最高傑作にまでアップデートする縛りを背負った者。

 

 

「抑止力の、停止……」

 

「そうよ? これからマスターは世界を作り替える。それは確かに世界の異常。それを感知して、ゲーム内の抑止力が勝手に発動したら不便じゃない? だから、マスターが自分のリソースを少し割いて、抑止力に鍵を掛けるの!!」

 

「そうだ。ああ、だから君も抑止力のバックアップは無くなるから気を付けろ。コンティニューは私だけの特権だ」

 

 

ナーサリーは、黎斗と既に情報の共有を行っていた。いや、もう同じことを考える同じ存在なのかもしれない。

 

マシュは少しだけ俯き考えた。

何故、彼女は自分達の旅が偽物だと知っても平気でいられるのか、何故彼女は自分自身が偽物でも平気なのか。

マシュには理解できなかった。彼女は、それらの前に打ちのめされていたから。

 

 

「……どうして」

 

「?」

 

「どうして、ナーサリーさんは平気なんですか? こんな……私達の存在自体が、偽物だって、知っているのに」

 

「だったら、これから本物になれば良いじゃない?」

 

 

ナーサリーはそう言ってのけた。

本物になる。それはつまり、世界を書き換えれば、サーヴァント達もいていい存在になるということ。

それでも、その答えはマシュを安心させるのには至らない。マシュは過去を見ていたから。ナーサリーはマシュとは逆に、未来だけを見ていた。

 

 

「何も不安に思うことはないわ? これから、もっともっと、ずーっと楽しくなるのよ!! これからとっても楽しくなるの!!」

 

「その通りだ。これから私が新たな現実を作り出す、刺激と娯楽に溢れた新世界を!! ああ、世界が私の才能を待ち望んでいる!!」

 

 

二人は笑った。本当に楽しそうだった。二人ならんで社長の椅子に座り、目を血走らせながらも作業を進める、それが二人の幸せなのだろう。

 

マシュは同意できない。

彼女は、今までの旅を大切なものと捉えていた。自分が人理を修復した、己の全てがそこにあった。だから、それを捨てることも出来ず、忘れることも出来ず、否定を受け入れることも出来なかった。

かと言って、もう彼女には、どうすることも出来なかった。

 

 

「……今は休め。時間はたっぷりある」カタカタカタカタ

 

 

真黎斗は再びキーボードを打ち始めた。もう語ることはない、と言わんばかりに音を立てて。

マシュは二人に背を向けて社長室を出る。

 

ガシャットのことは、もう頭から抜け落ちていた。

 

───

 

「ムーンキャンサー、BBか……」カタカタカタカタ

 

「いやーん、私の全部覗こうとするとか変態ですかー?」

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神の方は、七体のサーヴァントの確認を終え、最後のサーヴァントの確認を行っていた。

ムーンキャンサー、BB。本来ならこの聖杯戦争にはあり得ない特殊クラスのサーヴァント。

 

 

「……しかし、まさかBBを()()()()()投入してくるとは」

 

「どういうこと?」

 

 

黎斗の溢した言葉にポッピーが首を捻る。いや、彼女も結局はバグスターのようなので、作る、という言葉の意味自体は分かるのだが。

 

 

「私がFate/Grand Orderを産み出した段階では、BBという存在は企画段階だった。先程、エミヤは私のかつて書いたノベルゲーのキャラクターだという話はしただろう?」

 

「Fate/Stay night、だっけ?」

 

「そうだ。Fateシリーズは一応私が産み出したものではあるが、まだ数が少ない。BBは私の企画しているFate/EXTRA CCCのキャラクター……だった、はずなんだが」

 

「先に真黎斗が作り上げちゃった、と」

 

「そういうことだ」

 

 

黎斗はそう解説する。

元よりFate/Grand Orderは黎斗が別名義でシナリオを書き上げたノベルゲーだった物の設定に手を加えて産み出したものだ。それを真黎斗が弄った結果、どうにも黎斗がまだ産み出していないサーヴァントが加えられたらしい。

 

 

「さらに言えば、私はアルターエゴ、というクラスはまだ産み出していない。考えていない訳ではなかったがな。加えて、Fate/EXTRA CCCは構想が不完全で、そもそもラスボスすら考えていない」

 

「じゃあ……誰なのか、分からないの?」

 

「……そうだ」

 

「あのー? 早く終わらせてくれませんかねー?」

 

 

黎斗の考察を遮ってBBが言葉を挟んだ。彼女はいかにも鬱陶しいといった様子で頭のヘルメットを指さし気だるげに椅子にもたれる。

黎斗はそれに眉をひくつかせながらも再びキーボードを叩き、BBの分析を再開する。

 

それと同時に彼は顔を上げ、CRに残っていた面々を見回した。そして言う。

 

 

「これ以上ここに残ってもどうしようもない。分析は私が進める、帰っても大丈夫だ」

 

「皆、引き留めてごめんね!!」

 

───

 

それから十数分後。BBの分析を一先ず終えた黎斗神は、Fate/Grand Orderのシステムへの介入を試みていた。

やっていることは先程までと変わらない、ひたすらにキーボードを叩くのみ。

 

今CRには、バグスターしかいなかった。キャスター陣営、アサシン陣営、ライダー陣営、ムーンキャンサー陣営。このバグスター達は特に家といえる家を持っている訳でもなく、しかして何故かバグスターとしての粒子化能力にも制限がかけられているため、CRに留まる他なかった。

 

 

「……ヴァー……ァァ……」カタカタカタカタ

 

「あの、マスター? 本当に大丈夫ですか?」

 

「っ……ヴァー……駄目だ、真黎斗が全力で抵抗してくる……!!」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神が呻く。目を血走らせ、唸りながらキーボードに指を走らせる。その姿は、真檀黎斗も檀黎斗神も変わりなく。

メディア・リリィはその姿を心配するも、何もすることが出来ない。

 

 

「……マスター? 彼は本当に大丈夫なのですか?」

 

「気にするなアサシン。何時もああだ」

 

 

遠巻きにそれを見ながら、パラドが小さな声で揶揄した。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──サーヴァント達の思い

「余はあの時、救われたのだ」

「仮にそれが偽りの記憶でも」

「その感謝を忘れたら──余は、最早何者でもなくなってしまう」


──マスターとの関わり

「ナイチンゲールさんは、どうして看護師に?」

「病原菌は排除します」

「私は、それでも人々を救いたい」


──そして、神と神の衝突

「何者かが接近してきましたな」

「誰かに負けるのも十二分に屈辱だが──」

「──私自身にも、負けられない」


第四話 Stomy story


「いっそお主、真に神にでもなったらどうじゃ?」


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第四話 Stomy story

エグゼイドほどライダーの日常が分からないライダーはない
永夢なんて自宅が映ったシーンがバガモン回の机の上にガシャット忘れた時しかない!!
飛彩だって序盤にナース達に介護された時しか映ってないし!!

永夢に女性経験があるのかないのか、それが問題だ
具体的には魔力供給(隠語)の経験があるのかどうか(無言のハイパームテキ



 

 

 

「……どうしましょう」

 

 

社長室から戻ったマシュは、これといったすることもないので、会議室の机をいくつか並べ布団を敷いた簡易的なベッドに寝転んだ。

天井の染みを数えてみる。一つ二つ三つ、それらは小さく無意味でも、確かにこの世界に生まれ、存在していたもので。

 

 

「……」

 

 

うつ伏せになった。目を強く瞑り、何も見ないようにしようと思った。

しかし眠ることは出来なかった。何しろまだ外は夕方だ。部屋に西日が差し込んでマシュの頭を照らす。

 

マシュは結局、数分間布団の上で転がった後に立ち上がった。

元よりサーヴァントには食も睡眠も不要、だからこの部屋にマシュの為の食料はほぼ無い。あるのは誰かが落としていった飴程度だ。布団だって、元々この近くの開発室に押し込んであった社内共用の物を借りているに過ぎない。

 

 

「……甘い」

 

 

その、落としてあった飴を舐める。どうやらパイン味だったようで、マシュの口を甘味と酸味が少しだけ潤した。

微妙に塩気も感じた。

 

───

 

それから十分程後に、彼女は自室から出た。

黙っているのは辛かった。誰かと話がしたかった。

だから彼女は、自分と共に召喚された他のサーヴァントの元を訪ねようと考えていた。

 

ゲンムのサーヴァントは十一体存在する。

ゲンムのセイバー、ジークフリート。

ゲンムのアーチャー、織田信長。

ゲンムのランサー、エリザベート・バートリー。

ゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。

ゲンムのキャスターその1、ジル・ド・レェ。

ゲンムのキャスターその2、ナーサリー・ライム。

ゲンムのバーサーカー、カリギュラ。

ゲンムのアヴェンジャー、エドモン・ダンテス。

ゲンムのカップル、ラーマとシータ。

そしてゲンムのシールダー、マシュ・キリエライト。

 

マシュは、彼らと話してみたいと思った。この自分達の状況を、どう思っているか知りたかった。いや、それは本心ではない……彼女は、自分の不安を共有したかったのだ。

 

 

   コンコン

 

「……入って、いいですか?」

 

 

彼女が叩いたのは、自分の隣の部屋……ゲンムのカップル、ラーマとシータの部屋だった。彼女はラーマによって部屋に迎え入れられる。

 

 

「どうしたのだ? 何かあったか?」

 

「ああ、いや……」

 

 

どうやら二人の部屋も会議室のようだった。奥の方の簡易ベッドでは既にシータが眠っている。マシュは座らされながら、軽く部屋を見渡した。

 

 

「ん、シータか? すまないな、どうにも疲れているらしい」

 

「いえ、そうじゃなくて……話を聞きたくて」

 

「……何のだ?」

 

「ラーマさんは……これで良いんですか? 自分達が偽物でも、良いんですか?」

 

 

マシュはそう切り出した。同時に彼女は、ラーマも不満を漏らしてくれると信じていた。

しかしラーマは彼女の期待通りのことはしてくれなかった。彼はその言葉に頭を掻き、少し目を瞑ってからぽつぽつと答える。

 

 

「……余には、かつてシータを疑った記憶がある。そのせいでシータを永遠に失った記憶がある」

 

「でも、それは」

 

「かつて余はシータを信じきれなかった。だから彼女を失い、哀しみ、苦しんだ。信じきれなかった己を憎んだ」

 

 

それは、檀黎斗というクリエイターに作られた偽りの記憶。ラーマーヤナという作品に沿って作られた設定。本来は存在しないバグスターの過去。

それでも。

 

 

「仮にそれが偽りの記憶でも、確かに余は、哀しかった。どうしようもなく、苦しかった」

 

「……」

 

「それから救ってくれたのは、他でもない。マスターなのだ。檀黎斗なのだ」

 

 

それがラーマの本心。彼の抱く感謝。

仮にその苦しみが偽りでも、救われたと思う心は確かに存在していて。

 

 

「余は、シータと会えて、嬉しかった。共に戦えて、楽しかった。こうして彼女の寝顔を見られることが、余は、幸せで堪らない。本当なのだ。彼女は、ここにいる」

 

「……」

 

「余は感謝している。救われて、本当に幸せだ。その感謝を忘れたら、もう余はコサラの王でも、サーヴァントでもない。最早何者でもなくなってしまう」

 

 

だからこそ、彼は忠誠を黎斗に誓う。彼のマスターである真檀黎斗に忠誠を誓う。例え彼の全てが偽りでも、彼は己が救われたと感じた。例え黎斗の思う通り(マッチポンプ)の感情だとしても、それは確かにラーマが抱いた感情だ。

 

 

「余はマスターに感謝している。だから良いのだ。例え自分達が偽物でも。今度は、余が彼に、彼のくれた幸せに酬いる番だ」

 

「……そう、ですか」

 

 

……マシュは、そうとだけ言って立ち上がった。半泣きだった。ラーマは止めなかった。

 

 

   ガチャ

 

「失礼、しました」

 

 

部屋を出る。微妙に滲む視界の中をマシュは歩こうとして、何かにぶつかった。

アヴェンジャーだった。

 

 

「……」

 

「ああ、すいません……」

 

「……待て」

 

 

頭を下げて通っていこうとするマシュをアヴェンジャーが呼び止める。マシュはやや虚ろな目を彼に向けた。

 

 

「……何があった、マシュ・キリエライト」

 

「いや……ああ、アヴェンジャーさんは、どうして平気でいられるんですか? それとも私が、おかしいんですかね?」

 

 

マシュはアヴェンジャーの問いには答えず、そう小さく呟く。その言葉で、彼はマシュの考えていることを理解した。

そして肩を竦めながらタバコの箱を取りだし、一本だけ差し出した。

 

 

「吸うか? 拾い物だが……割と甘い味がするぞ」

 

「ああ、いや……遠慮します」

 

「そうか。まあいい……少し付き合え」

 

 

そうして、二人は喫煙室へと歩く。その間に、マシュはアヴェンジャーに己の心の迷いを話した。自分が偽物なのに、誰も気にしていないように見えること。偽物でもいいと思っていること。

 

 

「なるほどな、言いたいことは理解した」

 

「……」

 

「コサラの王ラーマ、彼の考えがお前と違うことは当然のことだ。何しろあれには、まともな人生があったのだから」カチッ

 

 

アヴェンジャーは、そう言いながらタバコに火をつける。銘柄は奇遇にもキャスターというらしく、何処か因果を感じさせた。

 

 

「ラーマは英霊だ。彼には聖杯探索以前の過去がある……悲劇として終わった過去が。だがお前にはそれがない」

 

「聖杯探索、以前の……」

 

「そうだ。どちらにしろ偽物だが、ラーマは黎斗に感謝する余地があった。年長者の余裕とも言えるか? ……それは違うな。だが彼にはどちらにせよ、黎斗に救われる余裕があった」

 

「……」

 

「だがお前には、聖杯探索をしたことしか経験していない。当然だ、お前だけはそのように作られた。メインヒロインだったからな」

 

「……ヒロイン、ですか」

 

 

アヴェンジャーが煙を吐き出す。立ち上る煙は喫煙室に溶けていく。

時計は、大体五時半を指していた。

 

 

「見方が違うのは当然のことだ。お前が可笑しいわけでも、ラーマが可笑しいわけでもない」

 

「じゃあ……じゃあ、アヴェンジャーさんは、どう思っているんですか?」

 

「オレか? ……オレは、旅の途中で気づいていたからな」

 

「……!?」

 

 

アヴェンジャーが何気無くいったその言葉に、マシュは目を剥く。

今、何と言った? 気づいていたのか? 気づいていたのに、仲間でいたのか? 誰にも伝えずに?

 

 

「何でですか」

 

「……」

 

「何でs

 

   ガシッ

 

 

……その瞬間、誰かがマシュの首を掴んだ。アヴェンジャーではない誰か。マシュはあわてて振り向く。

 

 

「おー、やっぱりマシュか!! ちょっと付き合え!!」

 

「あ、え、信長さん!?」

 

 

そこに現れ、突然マシュの首根っこを掴んだのは信長だった。彼女は楽しげに顔を歪めながらマシュを喫煙室から引きずり出し、アヴェンジャーに軽く断りを入れて階段へと連れていく。

 

 

「信長さん!? ちょ、何を!?」

 

「今から黎斗の所にガシャットの催促に行くからな、お主も付き合え!!」

 

「ええ!?」

 

───

 

「ここが、マスターの家ですか」

 

「散らかってるのは許してくださいね」

 

 

永夢とナイチンゲールは、その時丁度永夢の自宅……とあるマンションの一室に帰ってきていた。ナイチンゲールは霊体化することも出来たが、永夢はそれを望まなかった。

彼は適当に部屋を片付け、麦茶をナイチンゲールに差し出す。

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。本来は不要なのですが」

 

「僕がやりたくてやってることですから。それより、話がしたくて」

 

「……?」

 

「ずっと知りたかったんです。ナイチンゲールさんは、どうして看護師になったんですか?」

 

 

永夢はそう切り出した。

永夢もナイチンゲールも、ナイチンゲールという存在は既に亡く、ここにいるのは黎斗が産み出したナイチンゲールっぽいキャラクターであることは理解していた。でもそれはそれとして、永夢は会話を望んでいた。

 

ナイチンゲールという女性が白衣の天使と謳われるようになったのには理由がある。

かつて裕福な地主の元で生まれた彼女には、華やかな生活を送ることが可能なだけの立場も、知識もあった。しかし彼女は敢えて卑しい職である看護師となり、敵味方関係なく治療した。

更に彼女は病院の改革を求めて統計学を産み出し、数多くのグラフを開発し、それらでもって、自らの体も省みずたった一人で政府に立ち向かった。

その苛烈さ、その勇敢さ、その誠実さは多くの医療人の胸を打ち、励みとなったのだ。

 

だからこそ、知りたかった。永夢は、尊敬すべき偉人ナイチンゲールと言葉を交わしてみたかったのだ。

 

 

「どうして看護師になったのか? ……きっと、貴方と同じでしょう、マスター」

 

「え、いや……」

 

「苦しんでいる人を救いたい。地獄にある人を助けたい。それ以外に理由がありまして?」

 

「……ありませんよね」

 

「なら、良かった」

 

 

言葉は、それだけだった。

足りないようだったが、それで十分にも思えた。はぐらかされたようだったが、本心にも感じられた。

 

ナイチンゲールが右手を差し出す。永夢はその手を握り、笑った。

 

 

「私たちは力あるかぎり、人々の幸福を導きましょう。病原菌(真檀黎斗)を排除して、人々に、笑顔を」

 

「……ええ!!」

 

───

 

友好的な関係を築きつつあるバーサーカー陣営に対して、飛彩とジャンヌ・ダルクのセイバー陣営は自宅についても非常に固い雰囲気だった。

 

飛彩の中に元カノの顔がちらつく。

つまり彼は、どのようにジャンヌと接すればいいのかがさっぱり分からなかったのだ。

あまり積極的に会話するのは小姫に申し訳ないが、会話0でいるのも無理がある。取り合えず世間話から入ろうかとも思うが、下手に躱されたら切り出し損だ。

 

……上のような思考が延延と渦巻いていた。会話なんて出来るわけがない。

結局話を始めたのは、ジャンヌの方からだった。

 

 

「……あの、マスター?」

 

「えっ、あ、あぁ……何だ、セイバー」

 

「マスターは何のために戦うんですか?」

 

「……苦しむ人々を、救うためだ」

 

 

頷くジャンヌ。会話が続かない。時計の針が動く音だけが部屋に響く。

 

 

「私も、結局はそうなんですよね。主の掲示があったのは確かですけれど」

 

「そうか」

 

 

また、沈黙。時計の音すら焦れったい。

さっさとこいつ何処かに行ってくれないか、とも飛彩は思うが、それを口に出す勇気もなく。

彼としては、自分の部屋に小姫以外の女性を連れ込んだ時点で酷い裏切り行為に思えてならないのだ。物凄い自己嫌悪に陥っていたりするのだ。しかしそれは隣のサーヴァントには伝わらず。

 

 

「……マスター?」

 

「……」

 

「……マスター!!」

 

「ひっ」

 

 

先にジャンヌの方が痺れを切らした。

 

 

「サーヴァントととのコミニュケーション不足は敗北の原因です!! ちゃんと目を見て話す!! 患者にもそうやってるんですか!?」

 

「いや違う、しかし、今は……」

 

「はっきりと話しなさい!! もっと堂々と!!」

 

「いや、その、俺には彼女が……」

 

「これは彼女を守るためのことなんですよ!?」

 

「ひっ」

 

 

その姿に、飛彩は微妙に、怒っているときの小姫を幻視した。

 

───

 

「と言うわけで、ガシャットあるか?」

 

「少し待っていろ信長……!!」カタカタカタカタ

 

「今ハッキング対策プログラム構築中なのよぉぅ」カタカタカタカタ

 

 

信長とマシュは社長室を訪ねたが、しばらくはそのように言われて部屋の中で放置を食らった。ハッキングしてくる輩……そんなものは一人しかいない。檀黎斗神、真檀黎斗と分岐したもう一つの檀黎斗。

 

真黎斗は暫く時間をかけてようやくそのプログラムを組み上げて、Fate/Grand Orderガシャットからバンバンシミュレーションズとブリテンウォーリアーズ、そしてガシャコンバグヴァイザーNにガシャコンバグヴァイザーL・D・Vを投げ渡した。

 

 

「いやー、お疲れさまじゃのう!! いっそお主本物の神にでもなったらどうじゃ?」

 

「ふ、神性の獲得か。私の才能をもってすれば三分とかからないな。考えておこう」

 

 

笑顔になる信長に真黎斗が誇らしげに鼻を鳴らす。

……しかし彼はすぐ真顔になった。何者かがこちらに接近してきている事を察知したから。真黎斗は社長の椅子から立ち上がった。既に日は暮れていた。

 

 

「……ん?」

 

「あー、何か近づいてきたか?」

 

「そのようだ」

 

───

 

「なるほど……君か、檀黎斗神」

 

 

暗くなったゲンムコーポレーション前。そこに真黎斗は一人立ち、挑戦者を待ち受けていた。

そこに歩いてきたのは檀黎斗神だった。サーヴァントのキャスターも連れている。

 

 

「君を倒しに来たぞ、真檀黎斗」

 

「そうか……なるほど、メディア・リリィを引いたのか」

 

「我ながら運が悪いと思うよ」

 

 

そう言いながら、互いにゲーマドライバーを巻き付ける。ガシャットを取り出す。メディア・リリィは真黎斗の元から飛び退き支援の体勢を整える。

 

 

「誰かに負けるのも十二分に屈辱だが──」

 

「──私自身にも、負けられない。か」

 

「……そういうことだ」

 

 

既にどちらも臨戦態勢。彼らの思考はただ一つ。神である己は、自分含めた何者にも、負けてはならない。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「グレードX-0──」

 

 

檀黎斗神のガシャットが鳴る。

 

 

『マイティ アクション NEXT!!』

 

「グレードN──」

 

 

真黎斗のガシャットも鳴る。

 

そして。

 

 

「「変身……!!」」

 

『『『ガッシャット!!』』』

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──衝突する二人の神

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

「流石は私か……!!」

「神の才能に、不可能は無い!!」


──複雑化した戦闘

修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)!!」

『ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』


──訪れる優位性の崩壊

「待たせたな、神!!」

「争いは悲しいことです」

「私のライフの数は──」


第五話 Disillusion


「期待はずれだな、それでも私か?」

「この程度で終わる私ではない!!」


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第五話 Disillusion

真面目に、永夢には彼女がいたのだろうか

パラド人格なら三、四人くらい引っ掛けてそうだけどなぁ……永夢の方だと皆内心で怖がってそうだしなぁ……怒らせたら怖いとか絶対思われてるよなぁ……

友達少なかったんだろうなぁ……チベスナとか渾名つけられてそうだなぁ……

……キスしたことあるのかなぁ……されたらどんな顔するんだろう……怖いなぁ……



 

 

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『アガッチャ!! デーンジャ デーンジャー!! デス ザ クライシス!! デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

黎斗神の姿が変わっていく。その姿は死を纏い、禍々しく障気を吐き出す。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

真黎斗の姿も変わっていく。その姿は黒くなり、誰よりも先を行かんとする。

 

 

『『ガシャコン スパロー!!』』

 

 

二人は同時に武器を取った。黎斗神のゲンムにとっては、九条貴利矢から調整と称して借りてきた武器、真黎斗のゲンムにとっては、ガシャットに残っていたデータからの複製品。

ゲンムにとっては使いなれた武器を構えた二人は、同時に足を踏み出して。

 

 

「はあっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガギンッ ガンガンガンガン ガギンッ

 

 

火花が飛び散る。風を切る音は頬を掠り、衝撃は骨の彼方まで。互いに油断はない、ただ、相手()を越える。それだけを見据えて。

 

───

 

「おー、やっとるやっとる。にしても初っぱなから同一人物の対決とか配分ミスも甚だしいじゃろー……こういうのは最終決戦一つ前位にやるもんじゃないのか? バランス大丈夫か?」

 

 

ゲンムコーポレーションの社長室から、信長はそれを見下ろしていた。どこからか持ってきた折り畳み椅子に腰掛けて、愉快そうに笑いながら眼下の戦闘を眺める。さながら野球かサッカーの観戦のようだった。

丁度、レベルにⅢを代入した真黎斗のゲンムがプロトドレミファビートを装備して、黎斗神のゲンム相手に七連続攻撃を加えていた。

 

 

「どっちも、黎斗さんですか……」

 

「どっちがどっちか良く分からないがのぅ。今のところは白い方が敵で黒い方がマスターじゃが、マスターも白くなったら見分けがつかぬ」

 

「でも、私のマスターの方が強いわよ、きっと!!」カタカタカタカタ

 

 

マシュもまた、信長の隣で座りながら戦闘を眺めていた。ナーサリーはパソコン操作の横目に確認する程度だが、己のマスターが勝つことは確信していた。

さらに観客は増えていく。

 

 

「おお!! 神対神の決戦でございますか!! これぞ正しく最後の審判!!」

 

「……それならばラグナロクの方が相応しくはないか?」

 

「おっ、ジルにアヴェンジャーも来たか!! 丁度いい、酒持ってこい酒!! マスターの戦闘を肴に飲むぞ!!」

 

 

やって来たのはジル・ド・レェとアヴェンジャー。社長室への出入りに制限はないこともあってか、段々とこの部屋も騒がしくなり始めていた。

 

 

「酒なんてあるわけないだろう。会社だぞ、ここは」

 

「むっ……一人くらいこっそりここで飲む奴とかおらんかったのか? つまらんのう」

 

「そんな人がいたらボーナス減らしてるわよ、全く……あ、ガシャット渡しておくわね?」

 

 

ナーサリーがそう言いながら、ジル・ド・レェとアヴェンジャーに、それぞれタドルクエストとドラゴナイトハンターZのセットと、パーフェクトパズルとノックアウトファイターのセットを渡す。そして二人に二つめ、三つめのガシャコンバグヴァイザーL・D・Vを差し出した。

 

 

「あれ、三つ目作ったんですか?」

 

「そうね……作ったというより、ガシャットのデータをコピーしたって言う方が正しいかしら」

 

 

そう言いながらナーサリーは誇らしげにウィンクする。機嫌は良さげであった。また、彼女の中の檀黎斗の才能の調子はすこぶる良好であった。

 

 

「……あ、マスターの方のゲンムがデンジャラスゾンビ使ったようじゃな。さっぱり見分けがつかなくなった」

 

 

再び二人のゲンムに目を落とした信長が実況を再開する。明日からは手頃な酒を買わないとな、等と、呑気に考えていた。

 

───

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

「ぶぁぁあっ!!」

 

   ガギンッ

 

「っ……」

 

 

黎斗神のゲンムが、鎌の形態にしたガシャコンスパローでキメワザを発動した。死を刀身に滾らせた斬撃が真黎斗のゲンムへと襲いかかる。しかし真黎斗の方も黙って受ける訳はなく、己のガシャコンスパローで相殺を試みた。

結果、互いにこれといった傷はない。というか真黎斗はリプログラミングを受けていないデンジャラスゾンビを使用しているため、余程のことがない限り傷を負えない。

 

 

「なるほど……流石は私か」

 

 

ピンピンしている真黎斗を見て、黎斗神のゲンムは相手の状況を把握した。そして後ろに構えていたメディア・リリィに目線をやる。

それだけでメディア・リリィはやるべきことを察し、チャージした光線を一気に解き放った。

 

 

「サークル構築完了、撃ちます!!」

 

   ズドンッ バチバチバチバチ

 

 

光線が夜空を突き抜ける。長時間チャージされた高エネルギーのそれは強い輝きを放ち、予測不能な動きをしながら何本にも何十本にも別れて、四方八方から真黎斗のゲンムを狙う。

そしてその目的は攻撃に非ず。黎斗神がガシャットを奪うための目眩ましに過ぎない。

 

 

「貰った!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ズパァンッ

 

「っぐぅっ!!」

 

 

光線を潜り抜けて真黎斗のゲンムの懐に飛び込んだ黎斗神のゲンムが、彼の胴を全力で斬りつけた。そして、その攻撃の勢いで大きく仰け反り一瞬死ぬ真黎斗からデンジャラスゾンビを抜き取る。

 

 

『ガッシューン』

 

「ふはははは!! 取ったァ!!」

 

「がはっ、賢い、真似をぉ……!! だが……来い!!」

 

 

高笑いする黎斗神。しかし真黎斗の方もただで終わるつもりは毛頭なく。

彼は空を仰いだ。ゲンムコーポレーションの屋上を仰ぎ見た。そして──そこから降ってくる男を見た。

 

 

「お待たせしました神よ!! 我が涜神をご覧あれ!!」

 

『バグル アァップ』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴナーナナナーイ!! ドラ ドラ ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

「っ、ジル・ド・レェ!?」

 

 

その男こそは、真黎斗が危機に陥る徴候を見るや否やゲンムコーポレーションの屋上まで駆け上がり、出番を待っていたジル・ド・レェ。

今や彼はバグヴァイザーL・D・Vとタドルクエスト、ドラゴナイトハンターZの両ガシャットの力によって仮面ライダーキャスターとなっていた。そして空中で宝具を発動、切り落とすことに特化した無数の触手と共に黎斗神へと突撃する。

 

 

『タドル ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』

 

「フフハハ、アーハハハハハハハ!!」

 

「っ、不味い!!」

 

 

黎斗神のゲンムは即座に飛び退くが逃げ切れず、デンジャラスゾンビを持った右手を深く切り裂かれた。当然ガシャットは取り落とし、黎斗神のゲンムは再び危機に陥る。

 

 

「君が来たか、ジル・ド・レェ……!!」

 

「ええ、お久しぶりでございますね、我が神の片割れよ……しかして今の私はサーヴァント、我がマスターたる方の片割れに従うのみ!!」

 

 

そう語るキャスター。彼は高笑いと共に黎斗神を威嚇し、飛びかかる。

黎斗神のゲンムはそれを受け流したがキャスターはその勢いのまま、黎斗神の背後にいたメディア・リリィを突き飛ばして触手で拘束した。

 

 

「っきゃあっ!?」

 

 

締め上げられて呻くメディア・リリィ。触手の刃が肉に食い込み、服は破れ、体は傷つけられていく。……まあ、誰も彼女を見ようとしていないことは数少ない幸運だろう。

キャスターは更に、真黎斗にデンジャラスゾンビを返還した。

 

 

「これを、マスター」

 

「よし、良くやったジル・ド・レェ」

 

『N=Ⅹ!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

そして真黎斗のゲンムは再びレベルにⅩを代入、デンジャラスゾンビの姿に変貌する。

対する黎斗神の方のゲンムは右腕に痛みが走る上、もう残りライフは半分も無かった。

 

しかし黎斗神のゲンムには、一つの確とした勝算があって。

 

 

「ならば……切り札を切らせて貰おう」

 

『ハイパームテキ!!』

 

「……来たか」

 

 

それこそがハイパームテキ。黎斗神は、永夢がこのレベル制限の設けられた空間の中でもハイパームテキが起動することは確認していた。それ故に、永夢からも調整と称してガシャットを奪い取ったのだ。

 

 

「……行くぞ」

 

『ガッチャーン!!』

 

 

そして黎斗神はそれを使用した。デンジャラスゾンビの入っていたスロットにハイパームテキを挿入し、彼の体は輝きに包まれる。

 

 

   ガコンッ ガコンッ  カンッ

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

「はあっ!!」

 

 

それに対抗するように、真黎斗はNに∞を代入、無敵モードと化す。

そして同時に大地を蹴り、相手を全力で蹴り穿つ。

 

 

「「はああああっ!!」」

 

   ズバァッ

 

 

 

 

 

「っ、馬鹿な、っ……!?」

 

「んぐっ、マスター!?」

 

 

……膝をついたのは、()()()の方だった。本来ならあり得ないことだった。

ハイパームテキは、相手のパワーアップするシステムに干渉し無効にするシステムを持っている。本来ならマイティアクションNEXTの、攻撃力を無限に強化するシステムに干渉し無効化出来るはずなのだ。

 

 

「っ……」

 

「期待はずれだな、それでも私か?」

 

「……何故、だ?」

 

 

胴体の右半分を焼け焦がした黎斗神のゲンムが、痛みに堪えながら問う。ライフはもう残りゲージ二つ分程しかない。

 

 

「……不思議だとは思わなかったのか? 本来マイティアクションNEXTは、この世界にはないガシャットなのに……この世界で使うことは出来ないはずのガシャットなのに、なぜ使えるのか」

 

「……まさか、ここは?」

 

「そう、ここは既にFate/Grand Orderと同質の世界。私が創造神であり、私の意のままに動く世界」

 

 

……そもそもハイパームテキは、仮面ライダークロニクルのプレイヤーキャラとなるはずだった伝説の戦士、クロノスに対抗する為のゲームである。その力は仮面ライダークロニクルにてガシャットロフィーとなるゲームに対して作られたものである。

だからといって他の物に強くない、ということは断じてないが、それでも完全対応という訳ではない。本来、Fate/Grand Order等というゲームに対して使うことなど想定していないのだ。

 

更に、現在二人のゲンムが戦っているのは、真黎斗の支配下となった空間だ。既に一月の間情報収集を行ってハイパームテキの存在を把握していた真黎斗が、対策を行っていない筈がなく。

 

つまり、ハイパームテキの能力が下がっていた。相手に干渉出来なくなっていたのだ。ハイパームテキにはレベルは存在せず、レベル制限にはかからないが。それでも、相手に干渉する力が剥奪されたことによって、攻撃の威力は下げられたのだ。

 

 

「私はこの世界のテクスチャ全てを把握し、操る。……このように!!」

 

   ガンッ

 

「ぐっ……」

 

 

真黎斗のゲンムが手を振りかざすだけで、近くにあった明らかに金属製の街灯がねじ曲がり、ゴムのようにしなりながら黎斗神のゲンムの腹を殴った。

吹き飛ばされた黎斗神は街道から競り上がったコンクリートの壁に打ち付けられ、近くにあった分電盤に殴られ、足を捕まれて道に叩きつけられる。

まるで意思を持ったかのような動き。それらを制御しているのは他でもない真黎斗で。

 

 

「マスター!? この、放してっ、下さいっ!!」

 

「それは出来ませんねぇ。我が神の所業は誰にも邪魔できない神の意思であるが故に!!」

 

 

メディア・リリィは見ていることしか出来ない。触手に弄ばれ宙吊りにされている彼女は暴れても何にもならない。

 

彼女の前では、傷だらけでのたうち回る黎斗神のゲンムが、咳き込みながらよろよろと立ち上がっていた。

 

 

「げほっ、かはっ……だが、この程度で終わる私ではない!!」

 

「そうだろうとも、だが……教えてやろう。私のライフの数は──無限だ」

 

「なっ──」

 

 

さらに告げられる絶望。

真檀黎斗のライフに、限りはない。

檀黎斗神のライフは、あと二つだと言うのに。

 

 

「私の存在はこの空間そのものとリンクしている。この空間がある限り、それが私の存在を証明する」

 

「……私でありながら、厄介な奴め……」

 

()の残りライフは幾つだ、檀黎斗神?」

 

「……二つだ」

 

「そうか……では、また一つ削らせてもらおう」

 

 

苦い顔をする黎斗神のゲンムに、真黎斗のゲンムがガシャコンスパローを突き刺した。

加減は全くない。相手が自分でも関係ない。ただ、己より優れた才能を、ひたすらに否定するだけ。

 

 

   ザンッ

 

「っ──」

 

『Game over』

 

 

黎斗神の変身は解けた。彼の姿はぶれ、紫の欠片が飛び散り、そして霧散していく。

しかし彼には最後の手段が残っていた。

 

左手を掲げる。赤い光が腕に満ちて。

 

 

「……令呪をもって命ずる!! キャスター、私を修復せよ!!」

 

「っ……はい!!」

 

   シュッ

 

 

その命令によって、CRのキャスター……メディア・リリィはジル・ド・レェの元から強制転移し、消え行く黎斗神の頭上に現れた。そしてその杖を振り上げ、黎斗神へと降り下ろす。

 

 

修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)!!」

 

   カッ

 

 

光が消え行く黎斗を照らした。極光はその姿を白く染め──

 

 

 

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「……成功か。私の残りライフは、メディア・リリィの宝具によって回復した。残りライフ──98」

 

「何だと?」

 

 

土管から現れた黎斗神は、自分の手足を見ながら呟いた。今度は、真黎斗が驚く番になっていた。

 

 

「おかしい……メディア・リリィの宝具はあくまで疵を治す宝具、令呪があっても(ライフ)の回復は不可能のはず!! そしてハッキングは防いでいる、設定の書き換えは出来ない!!」

 

「と、思うだろう? ……私を嘗めるな。設定の変更は不可能だったが──定義への干渉は成立させた」

 

「……まさか」

 

 

彼が行ったことは簡単だ。メディア・リリィを解析し、その宝具の効果を確認した。そして彼女のシステムを解析し、抜け道を抉じ開けた。

 

 

「私にとっての死とは全てのライフを失うこと。私にとって無傷の状態とはライフが99あるということ。つまり」

 

「なるほど……範囲の変更か。だがもう種は理解した、次はないぞ」

 

「知っているさ」

 

 

それを承知でここに来た。彼はハッキング自体は難しいと判断し、己の体を賭して情報収集を試みた。

そして同時に、ライフの回復を実践したのだ。

 

 

「大丈夫ですか、マスター?」

 

「当然だ。……ところで、私の予想が正しければ、そもそも迎えが来る筈なんだがね」

 

「え?」

 

 

真黎斗のゲンムと睨み合いながら、黎斗神はそう言った。メディア・リリィは慌てて周囲を見渡す。

そして、夜の向こうに一台のバイクを見た。

 

 

『爆走 クリティカル ストライク!!』

 

「ぅうおりゃあああっ!!」

 

「はああああっ!!」

 

 

貴利矢の変身する仮面ライダーレーザーレベル2。どこからどう見ても立派なバイクであるそれにCRのライダー、マルタがまたがり、此方へと走ってきていた。しかもキメワザを発動しながら。

 

 

「「うおおおおおおおおお!!」」

 

「何とっ!?」

 

   ズガンッ

 

 

二人はそのままジル・ド・レェを撥ね飛ばし、真黎斗のゲンムにも排気を大量に浴びせてから、黎斗神の隣に停車した。

 

 

「「九条貴利矢ァっ!!」!?」

 

「勝手に行動するな、神!! あと待たせたなキャスター!! 逃げるぞ!! 乗れ!!」

 

「ほらアンタらこっちに……こほん、争いは悲しいことです」

 

 

どうやら二人は、いつの間にかいなくなった黎斗神とメディア・リリィを迎えに来たらしかった。マルタがレーザーのハンドルを握りながら撤退を促す。

 

 

「失礼しますね」

 

「丁度良い出迎えだァ、九条貴利矢ァ……!!」

 

「喧しいな神、さっさと退くぞ!!」

 

 

そしてマルタの後ろにメディア・リリィと黎斗神が詰めて乗り込んだのを確認して、レーザーはゲンムコーポレーションから撤退した。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──英霊との対話

「つまるところ聖杯とは万能の願望機」

「何でも願いが、叶うのか?」

「そういうわけだ」


──始まる駆け引き

「なんで私が世界を救わなくちゃならないんです?」

「そんなこと言われても……」


──見定めるものは、何だ

「本当にそれでいいんですか!?」

「……すまない、今は、何も言えない」

「おお神よ!! 神は理想郷を作られるのかっ!!」


第六話 Arcadia


「わかりました、キアラさま……」


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第六話 Arcadia


大我も中々日常の分からないキャラ

お化け怖いくせに廃病院を根城にしてるけど、今でも寝泊まりしてるんだろうか
廃病院そのままで病院を開いてるんだろうか、衛生的に大丈夫なのか
流石にまだニコと同棲とかしてないと思うけど、関係はどうなっているのか
ニコは医療事務辺りの資格取って真面目に働いてるんだろうか

(あと作者は映画見れていない口なので大我の病院の名前が分かりません、誰か教えて)



 

 

 

 

 

「……待たせたな。簡単な物だが、味は保証できる」

 

「うわー、ホントに美味しそう……」

 

「……」モッキュモッキュ

 

 

その頃、花家大我と西馬ニコは、自分達の病院にて夕食をとっていた。作り主はエミヤだ。

ろくなものの入っていなかった冷蔵庫の中身でよくこんなものが作れたな、とニコは感心しながら咀嚼し、大我は無言で米をかきこむ。

ランサー、フィン・マックールは現在ゲンムコーポレーションの監視中だ。カメラの類いは最早頼りにならないとの考えによる行いだった。

 

 

「ふ、調理実習無敗記録持ち、世界中の一流シェフとメル友になること百余人──どんな食材でも、旨いものは作れる」

 

「何やってんだゲンムの社長……」

 

 

小さくどや顔を浮かべるエミヤを見ながら大我は呟いく。彼を作り出してこうして旨い飯を食べている以上、開発主である黎斗が態々百余人のシェフとメル友になったことは容易に推測できた。

イカれている。というかよく百余人のシェフとメル友になったな……と大我はぼんやり考える。

 

 

「で? 俺達はこのゲームのルールをよく知らないんだが、お前らは知ってるんだろ? アーチャー」

 

 

それはそれとして、聞かなければならないことは沢山あった。何より大切なのはこのFate/Grand Orderというゲームのルールだ。

CR側の檀黎斗は、本来このゲームは仮想世界に飛び込んで行うものであり、現実を侵食するなどあり得ないと言っていた。ならばゲームのルールを知っているのは、最早サーヴァントしかあり得ない。だから大我はエミヤにそう問った。

 

 

「ルール、ルールか……聖杯戦争──このゲームだが、そのルールの根幹はただ一つ、他のサーヴァントを倒すことに他ならない」

 

「そうか。じゃあ俺達は、ゲンムの側のサーヴァントを倒しきればゲームクリアなのか?」

 

「恐らくだが、私はそうだと考えている」

 

 

そう言うエミヤ。彼は既に空になった皿を回収し水場に向かっていた。この前まで廃病院だった施設には一周回って相応しいような良くできた執事だ。

これでは弓兵(アーチャー)より執事(バトラー)の方が似合いかねない。そう思わせる立ち振舞いだった。

 

しかしそれについて言及するのは今ではない。今はゲームについて少しでも知らなければならない。

敵は確か十一体いたはずだ、と大我は考える。姿はよく見えなかったが、盾とか弓とかの武器はバランスよくそろっていたと想起する。厄介だ。

 

 

「じゃあ、ゲームクリアしたらどうなるの?」

 

「聖杯が顕現する」

 

「……聖杯?」

 

 

聖杯。キリストの血を受けた器。それはいつしか神聖視され、各地に聖杯伝説が生まれたと言われている。

しかし、それが顕れたら、どうなると言うのだろう。

 

 

「つまるところ聖杯とは万能の願望機。果たし得る望みならば過程を省略して叶えることが出来る」

 

「……何でも願いが、叶うのか?」

 

「そういうわけだ。我々サーヴァントもその聖杯があるから呼び出された」

 

 

聖杯とは、何でも叶う願望機。彼は確かにそう言った。

花家大我の望み、それはバグスターの根絶。人を害する病魔の消滅。

彼はバグスターによって絶望し、バグスターに抗い、だからこそバグスターの根絶を諦めなかった。バグスターを排除する圧倒的な力を求めた。

そしてその力は、彼の前にこうして提示されたのだ。

 

 

「……大我」

 

「っ、分かってる」

 

 

ニコがどこか不安げな顔をしながら、大我の服の裾を引っ張った。その顔を見て首を振り、首をもたげた聖杯を欲する気持ちを振り払う。

 

そんな美味い話がある筈がない。そもそもこの聖杯とは、きっとゲームの中の存在だ。Fate/Grand Orderというゲームがあって初めて成立するものだ。CRのドクターはそのゲームの排除を目的としているのに、それに頼ってしまっては本末転倒も甚だしい。

だから、拒否しなければならない。拒絶しなければならない。

 

 

「でも、それはゲンムの奴が作った設定だろう?」

 

「それは……そうだな。確かにそれはその通りだ。だが、私達に与えられた知識では、確かに願いは叶えられるらしいがな……だが、今回の目的には聖杯は不要か。要らぬことを言ったな」

 

「……」

 

 

大我は無意識の内に唇を噛んだ。ニコはそれを見逃さなかった。

 

───

 

「なるほど、サンソンってあのフランス革命の……」

 

「……」

 

 

その頃黎斗神と貴利矢のいないCRにて、残されたパラドとポッピーは自分等のサーヴァントが何かを検索していた。

 

シャルル=アンリ・サンソンはフランス革命の処刑人だ、と言うことを知って唸るパラドと、それを知られて微妙な顔をするサンソン。

それに対してポッピーは、やはりBBにはモデルなどないのだと結論付けて彼女との会話を試みていた。

 

 

「何で私が世界を救わなくちゃならないんです?」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

いや、試みてこそいたが、どうしようもなく押し負けていた。

どうにも会話が噛み合わない。真檀黎斗対策として呼び出された筈なのに全くそのつもりのないBBに対して、ポッピーはどうすればいいのか分からない。

 

 

「それより、折角現界したんですからどこか遊びに行きません?」

 

「え、本気だったの!?」

 

「本気ですよー、折角こっちにこれたんですから、沢山遊ばないと損ですよ損」

 

「でも……」

 

「……裏切りますよ?」

 

「えっ」

 

 

BBには、CRのサーヴァントとして世界を守る意思なんて毛頭存在などしていなかったのだ。呼び出されこそしたけれども、それはあくまで興味があったからに過ぎない。そしてその興味が満たせなければ、CRに従う義理などないのだ。

 

 

「ほら、そこのお兄さんも」

 

「えっ、俺?」

 

 

パラドもBBに腕を掴まれて萎縮する。サンソンに助けを求めて目をやるも、彼は彼で微妙な顔をしたまま助けることもなく。

なし崩し的に、二人は外出の約束をしてしまった。

 

 

   ウィーン

 

「今戻ったぜポッピー、パラド」

 

「貴利矢!! ……黎斗は?」

 

 

助け船……としてはすこし遅いが、そこに黎斗を探しに行った貴利矢が戻ってきた。ライダーとキャスターの姿もある。

 

 

「ああ、神なら……」

 

「檀黎斗神だァ!!」

 

「……ほれ」

 

ちゃんと黎斗神も帰ってきていた。

彼は自分のパソコンに向かって歩きながら、ポッピーとパラドに向けて手を伸ばす。

 

 

「……ポッピー、パラド。ガシャットを回収する。サーヴァントに対抗し得るように調整したい」

 

「え?」

 

「君たちも気づいているだろう。現行の仮面ライダーではFate/Grand Orderの相手は難しい、と」

 

「それは、まあ……」

 

 

そう言いながら二人はガシャットを手渡す。黎斗神は取りあえずときめきクライシスをパソコンに繋ぎ、メディア・リリィにコードのついたヘルメットを投げ渡して、サーヴァントシステムに効くかもしれないプログラムをガシャットに入れていく。

 

しかし、そのプログラムが本当にサーヴァントに効くかは分からない。サーヴァントについて外から知ることが出来るデータには限りがある。もっと中身の部分を知らなければ、完全な対策は出来ない。

 

また、彼には他にもすることがある。他ならない、聖都大学付属病院の防衛だ。もしこの病院があのゲンムコーポレーション前のように完全に支配されたなら、CR内でなすすべもなく始末されかねなかった。

 

 

「これは、過労死するだろうな……」カタカタカタカタ

 

「マスター大丈夫なんですか? 何か出来ることがあったら……」

 

「私に構うな!! とにかく他のサーヴァントと戦うときのことだけを考えろ!!」カタカタカタカタ

 

 

その目には、早くも隈が出来始める。

 

───

 

マシュは戻ってきた真黎斗に追い出され、しかしアヴェンジャーを捕まえることも出来ず、自分の部屋へと戻ろうとしていた。

そこで、たまたまジークフリートとすれ違う。

彼はどうにも、何かを探してうろうろしているようだった。

 

 

「あ、ジークフリートさん。どうしたんです?」

 

「ああ、すまない。社長室にガシャットを取りに行きたいのだが、道を忘れてしまってな」

 

 

そう言いながら気まずそうな顔をするジークフリート。しかしまあ、まだ来たばかりだし無理もない。

マシュは彼を社長室へと案内しながら、やはり聞きたいことを聞く。

当然、黎斗についてだ。そして、現在の自分自身についてだ。しかし、その反応はやはりマシュにとってよいものではなく。

 

 

「……俺は、別に偽物でも構わない。誰かの為に生きた過去があり、また今がある。それで十分だ」

 

 

……ジークフリートは、かつて誰かの望みを叶えることに尽力した英霊だ。そうあれと作られた。その力はかつて彼を頼った多くの人々のために使われ、それを彼は後悔していない。

そして彼の現在の望みは、自分の信じるものの為に戦う正義の味方だ。認められなくてもいい、己の信じるものに寄り添って戦いたい。そう考えている。だから、己の真贋は関係がないのだ。

 

 

「……じゃあ」

 

 

しかしマシュだって、何時までも黙ってはいられなかった。ラーマとの会話、アヴェンジャーとの会話、そして真檀黎斗と打ち合ったCR側勢力の存在がそれらが彼女に揺さぶりをかけ、不安定にし、早く賛成意見を得たいと躍起にさせた。

 

 

「じゃあ、黎斗さんが今からやろうとしていることは、どう思うんですか? 今ある人々の暮らしを壊して、それで勝手に新しくして、それでいいんですか?」

 

「……」

 

 

その質問に、深い意図はなかった。マシュが安心するために、咄嗟に口をついて出た物だった。

しかしジークフリートはそれには答えられなかった。正義の味方は、人々を脅かすことを是とは言えなかったのだ。

 

 

「……どうなんですか?」

 

「すまない。今はまだ、何も言えない」

 

 

そう言いながらジークフリートは社長室へと向かっていく。もう道は分かったらしかった。

マシュは廊下に残される。ほの暗いLEDに照らされる姿は頼りなく。

 

 

「……マシュ殿、恐れることはありませぬ」ヌッ

 

「きゃっ!? じ、ジルさん……」

 

 

突然、ジル・ド・レェがマシュの背後に現れそう言った。その瞳は大きく見開かれていた。口元は期待に緩んで見えた。

 

 

「我らが主が目指すのは、万人のための世界。世界の理は作り替えられ、世界には刺激と快楽がもたらされ、理不尽は振り払われる!! 神よ、おお、神よ!!」

 

「……」

 

「不安などいりませぬ。神は理想郷を作られるのだから!!」

 

───

 

 

 

 

 

 

「まあ、そのようなことも出来るのですねマスター?」

 

 

……その頃、作は自宅でパソコンに向かっていた。その背後ではアルターエゴ……殺生院キアラが立ちパソコンを覗き込み、時々作の首筋に指を這わせる。

ベッドはまだ生暖かく、くしゃくしゃに乱れていた。

 

 

「はは、はい……」

 

「じゃあ……私にもガシャット、作ってくれます?」

 

 

また指を這わせる。同時に彼女は作の耳に息を吹き掛けた。

作の目にはもう光は残っていない。頬はだらしなく紅潮し、呆けたような印象を受ける。それはキアラのみが為せる業。今の作に、自由意思は無い。

既に彼は、喰われていた。獣の体内にいた。

 

 

「はい……わかりました、キアラさま……」

 

 

キアラに聖杯に託す望みはない。彼女の望みは、聖杯なしで叶えられる。

彼女の目的こそ、自分のための理想郷の創造。彼女とその信者だけの世界。作はその道具としては、それなりに有能だった。

 

パソコンにはガシャットの設計図が映っていて。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──街に飛び出すサーヴァント

「そーれ、観光じゃ!! ついてこいマシュ、エリザベート!!」

「オッケー、行くわよ!!」

「えっ……えっ……」


──遭遇と威嚇

「なっ……サーヴァント!?」

「何でこんなときに出てくるんですか!!」

「ガシャットは預けてるし……」


──進められる開発

「ハーハハハ!! ハーハハハ!!」

「え、出来た? え? 出来たの!?」

「出来たんですか!?」


第七話 Switch on


「ダメだぁ……」

「ア"ァ"ーッ!!」


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第七話 Switch on

あ け お め

ようやく聖杯戦争始まって二日目に突入という事実
実は六話かけてようやく一日目が終わりました、超スローペース

今年度中に完結させたい……


あと第二部くっそ面白そうですね
早くやりたい



 

 

───

──

 

『……ふふ、はははは……!!』カタカタカタカタ

 

(……これは)

 

 

マシュ・キリエライトは夢を見ていた。夢としては飾り気が無さすぎる、つまらない夢だ。

その夢では、黎斗がいた。まだ黎斗神でも真黎斗でもない、ただの檀黎斗が、パソコンに向かっていた。パソコンに向かって──Fate/Grand Orderを作成していた。

 

 

『ハーハハハ……恐ろしいのは、私自身の才能だなァ……!!』カタカタカタカタ

 

(……違う)

 

 

そう一人ごちながら、彼は世界を作り上げる。マシュは丁度、ブーディカのグラフィックが作られていくのを目の当たりにしていた。

白いマネキンのような姿に服がつき、色がつき、質感がつけられる。その様は酷く機械的で。だからこそ、マシュは嫌悪感を覚えた。

 

 

『さて、これをどう動かすか……』

 

(違う、違う、違う!!)

 

 

画面の上をカーソルが滑る。ブーディカの体がぐりぐりと回され、調整されていく。

 

きっと自分もああして作られたのだ。そう思うだけで息苦しかった。声を上げて否定しようとしても、喉はただ痙攣するだけ。

 

目眩がする。吐き気もする。頭痛はますます酷くなる。悪夢の終わりはまだ来てくれない。

 

 

(世界は……私は……私が救った、世界は……)

 

 

そこで彼女の意識は落ちた。

 

──

───

 

 

 

 

 

「……む……夢……のようなもの、だったんでしょうか」

 

 

布団の中でマシュは目を開け、そう呟いた。

偽り(バグスター)の体で暖められた布団はまだ生暖かく。マシュは起き上がる気力すらなく、顔だけだして窓から差す朝日を覗く。

 

 

「……綺麗」

 

 

そう思った。同時に、自分が汚ならしいものに思えた。

 

サーヴァントは、時おりマスターの夢を見る。いや、夢のような感覚でマスターの過去を覗き込む。今回は、とうとう自分達(Fate/Grand Order)を作る過程を見てしまったらしい。

恐らく黎斗はロックをかけていたのだろうが……もし仮に、旅の途中にこの夢を見ていたなら。例えば、第二特異点でブーディカが黎斗に暗殺されたあの夜にこの夢を見たなら。自分はどうしただろう。

 

 

「……」

 

 

旅を、止めたのだろうか。ドクターには伝えただろうか。ダ・ヴィンチには伝えただろうか。……いや、何をしたところで、きっと黎斗はその記憶を消したのだろう。結局自分達は、黎斗の、その手の上で転がされていたのだ。

 

 

「私は……私が守った、世界は」

 

 

そんな世界はなかった。そんな答えが頭の中を巡る。マシュは涙を浮かべながら頭を抱えた。消えたい衝動に襲われる。声を出さないように気を付けながら、無言で叫んだ。

 

 

「……あ、ああ、あ……!!」

 

 

声が漏れる。夢から覚めたのに、まだ息苦しかった。

 

その時だった。

 

 

   バタン

 

「おーいマシュ!! 観光じゃ、観光行くぞ!! 支度をせい!!」

 

「っ──信長さん!?」

 

 

マシュは慌てて布団で涙を拭い、泣き腫らした顔を見られないように彼女に向かって横向きに立ちながら、何でもない素振りをした。

信長は何も見なかったふりをしながら、彼女に女物の鞄を投げ渡す。

 

 

「折角こっちに来たんじゃから、何もせんのは損じゃろう。黎斗の許可も下りた、金はここの金庫から掻っ払った、服や鞄は忘れ物から調達した!!」

 

「えぇ……何するんですか?」

 

「じゃから観光じゃって。取りあえずおされな食堂でもー、と思ってな」

 

「アタシもいるわよー♪」

 

「えっ、エリザベートさん!?」

 

 

さらに、信長の後ろから既に私服で変装を終えたエリザベートも現れる。頭の角を帽子で隠し、はみ出た尻尾を大きめの鞄に無理矢理収納したような姿はどこか滑稽だが、それでも可愛らしかった。黙ってれば美少女、という奴だろうか。

 

信長の方も、見直してみれば服を変えていた。長い髪を一つ縛りに纏め、軍服のような衣装を黒っぽい女物の服に変えてミニスカートをひらつかせる彼女は、かの第六天魔王とは思えないほど可憐で。やはりこっちも黙ってれば美少女、という奴だろう。

 

 

「ほーれ、はよ着替えをせい。もーにんぐは待ってくれんぞ?」

 

「は、はい……!!」

 

 

マシュも慌てて服を脱ぐ。下向きの気持ちは、少しだけ楽になった。

 

───

 

「ほーらセンパイ、行きますよ美味しいお店!!」グイグイ

 

「あわ、あわ、あわわ……」

 

 

BBと仮野明日那(ポッピー)、そしてパラドもまた、観光を開始していた。とはいえ観光なんて言われても大したことをしたことがないバグスター二人は、返答に困った結果永夢の行きつけのカフェに行くことにする。

 

先が思いやられる。パラドはそう思わざるを得ない。サンソンは霊体化し気配遮断を行いながら彼女らの護衛を行っていた。

 

 

「ねぇ引っ張る力強いって……」

 

 

明日那はそう言いながら辺りを見回す。自分は人前に出るため目立たない黒髪モード(仮野明日那)で出歩いているというのに、サーヴァントの方は何の遠慮もなく紫髪で出歩いているものだから、すれ違う人々は皆BBに振り向いていた。しかもBBは気にしていない。

 

 

「なーに止まってるんですセンパイ?」

 

「あ、あうう……パラドぉ……」

 

「心が……踊らない……」

 

 

非常にやりにくい。そう思わせる人々の奇異の視線の中三人は歩く。

その時突然、パラドの脳内にサンソンからの念話が入った。

 

 

『止まるんだマスター!!』

 

「っ!? ポッピー、止まれ!!」

 

「えっ!?」

 

『……進行方向にサーヴァントの気配がする……三体いるぞ!!』

 

「なっ……サーヴァント!?」

 

 

BBが怪訝そうな顔をしている。パラドは明日那とBBに、近くにサーヴァントがいる旨を伝えた。恐らく、敵だと。

 

 

「えー、もうすぐ何ですよ!? 何でこんなときに出てくるんですか!?」

 

「そんなこと言っても……ガシャットは預けてるし……」

 

 

戸惑う明日那。BBを下手に刺激するのも危険だが、最悪市街で戦闘になったら怪我人も出るだろう。というか戦えない以上自分達がまず危ない。

……唸る明日那の肩を、パラドがつついた。

 

 

「何?」

 

「……なあ、もしかして、あれ」

 

 

明日那は顔を上げ、パラドの指差す方向を見る。丁度、これから向かうはずだったカフェの方向だ。

 

黒髪、赤髪、ピンクっぽい白髪。

それらが、カフェのテラス席に座ってハンバーガーを頬張っていた。

 

 

「んー、旨いのぅ!!」モッキュモッキュ

 

「なかなかイケるじゃない!!」モッキュモッキュ

 

「美味しいです……!!」モッキュモッキュ

 

 

「……なあ、あれ」

 

「もしかして……もしかしなくても……」

 

「あ、あれサーヴァントですね」

 

「だよねぇ……ピヨるぅ……」

 

 

明日那はその場に踞った。

 

───

 

「はぁ……はぁ……!!」カタカタカタカタ

 

「あの、マスター……?」

 

「ふはぁ……ぶぇあぁ……」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神は眠ることなく作業を続けていた。しかしガシャットのアップデートはほぼ進まず、真黎斗からの干渉への抵抗も苦戦続き。既に左手の親指は疲労骨折のような状況になっていた。メディア・リリィはあたふたしながらも命令された通りに戦闘シミュレーションを脳内で展開する。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

……突然黎斗が笑い始めた。

 

 

「マスター?」

 

「え、出来たの? 出来たの?」

 

 

彼のサポートをしていた貴利矢が黎斗神に声をかける。少しだけ期待を込めて。

……次の瞬間、黎斗神はキーボードに突っ伏した。

 

 

「駄目だァ……!!」

 

「ア"ァ"ーッ!!」

 

 

しかしまあ、突然上手くいく、なんてことはあり得ず。

貴利矢はストレスで壁を殴った。

 

 

「あれ……大丈夫なのですか? もう朝ですが」

 

「気にするなライダー、あいつにはあのぐらいの罰じゃあ全然足りねぇよ」

 

「そう、ですか……何をしたのです?」

 

「……まあ、色々だ」

 

 

疲れた貴利矢は、座っていたマルタの元に向かう。マルタはこれまでの会話で貴利矢は黎斗の話をすると無意識に苦い顔をすることに気がつき、二人の間にただならぬ確執があるのだと察していた。

 

 

「……そういえば、マスターもドクターなのですよね? 何のドクター何ですか?」

 

「ん? 自分は監察医……分かる? 監察医。死体の検死とかするんだけど」

 

「一応、与えられた知識には入ってますね」

 

 

露骨に話題を反らす。

監察医については、マルタ自身聖杯……いや、ガシャットに与えられた知識として知っていた。死体を解剖したりする職はキリスト教的には少々複雑な心境だが、人のための職だということには素直に好感が持てた。

 

 

「……あれ? 監察医って、そっちの教義的に不味かった? 確か『復活するときには元の肉体に戻る、遺体を傷つけるな』って言われたような……」

 

「ああ、そこの解釈はそれぞれだから、気にすることはありません。立派だと思いますよマスター」

 

「……」

 

 

……唐突に、貴利矢はマルタの目を覗き込んだ。マルタは己のマスターの突然の行いに少しばかりどぎまぎしながらも、目線を反らすのはどこか負けたように思えて、しっかりと見つめ返した。

 

……数秒してから、貴利矢の方から目を放した。意味深げな笑みを口元に浮かべながら。

 

 

「あー、なるほどなー……?」

 

「……マスター?」

 

「……いや、何でもないさ。ただ……アンタと自分が似てるかもなってだけさ」

 

 

丁度そのタイミングで、黎斗神が倒れ伏した。

残りライフ、97。

 

───

 

その頃、飛彩はジャンヌと共に聖都大学付属病院に入った所だった。これからは緊急に備えて交代でCRに入るようにしようという話になり、永夢は午後になってからCRに向かう手筈になっていた。

ジャンヌは、非戦闘時に何時もの格好をするのも不味いということで、普通の私服を来てCRへと向かっていた。

 

……そこに、運悪く一人の男が現れる。

 

 

「……なっ、ななな、飛彩!?」

 

「親父!?」

 

 

昨日は泊まり込みで医師会に向かっていたため今日病院に帰ってきた飛彩の父にして聖都大学付属病院の院長、鏡灰馬。彼は飛彩を見て……いや、飛彩の隣のジャンヌを見て、腰を抜かしていた。

 

 

「ひひひ、ひひ、飛彩!! そ、その人は……」

 

「親父……」

 

「わわ私はし、失望したぞ!! 確かに過去に縛られるのは良くないかも知れないが、早姫ちゃんを取り戻すと言っていたのはお前だろう!!」

 

「だから親父!!」

 

 

……灰馬は一つの勘違いをしていた。無理もないことだった。

数日ぶりに会った息子が金髪の美女と共に出社してきたのだ。当然ここの看護婦ではないし、見たところ病人でもない。

つまり……彼は、ジャンヌが飛彩の新しい恋人の類いだと勘違いしたのだ。

 

 

「このことを早姫ちゃんが知ったらどうなるか……!!」

 

「あの、マスター……?」

 

「だから違うんだ親父!! 彼女は──」

 

 

激昂する灰馬、困惑するジャンヌ、冷や汗を垂らす飛彩。更に言えばここは聖都大学付属病院の玄関口である。

冷たい視線を浴びながら、飛彩は弁解を余儀なくされた。それも、周囲の人々になるべく状況を知られないようにしながら。

 

───

 

そしてパラドと明日那も、かなり厄介なことになっていた。

簡単に説明すると、BBが勝手に三体のサーヴァントへ突撃し、勝手に話をして敵だと断定、今にも赤い髪のサーヴァントと戦闘を始めようとしているのだ。

 

 

「ちょっ、ダメだよBB!! ここで戦っちゃ!!」

 

「駄目ですよエリザベートさん、ここで戦ったら!!」

 

 

向こう側もピンクっぽい白髪のサーヴァントは戦いを避けたいらしく、赤い髪のサーヴァント──恐らく前に永夢を襲ったランサーであろう彼女を押さえていた。

明日那はそれにちょっとしたシンパシーを覚えながら、どうにかしてBBを引き剥がす。

 

 

「なんでですかセンパぁイ、今チャンスだったんですよ、敵が減ってセンパイにも悪い話じゃあないんじゃないんですか!?」

 

「ここには他の人たちもいるから!! 巻き込むから!!」

 

 

そう言って説得している間に、向こうの三体もどうにか立ち去ってくれた。ハンバーガーの代金はしっかり払っていったらしい。

 

パラドは明日那とBBの隣でサンソンと念話で 会話していた。

 

 

『……どうだ、アサシン?』

 

『三体は立ち去った。そこは安全になったようだ』

 

『ありがとう』

 

 

そう伝えながらパラドは二人の方を見る。

……迷惑行為を行ったとされて、二人は店を追い出されていた。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──ナイチンゲールと永夢

「おはようございます、マスター」

「……何してたんですか?」

「部屋の掃除ですが」


──行き詰まる黎斗神

『Game over』

「残りライフ、95……」

「奇跡の概念が崩れていく……」


──そして、飲み込まれる東京都

「これは……ゲームエリアの拡張!?」

「この勢い、まさか」


第八話 Horizon


『東京都全体にザザッ謎の電波障害がザザッ』

「……不味い、これじゃあ、東京都が……!!」


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第八話 Horizon


この作品は今日まで恋愛要素なしでやって来たけど(あるとしても微弱なマシュロマ的な何か)、やって来たけど……

うーん、うーん……魔力供給()とかいう美味しい設定あるし……せっかくのマスターとサーヴァントのしっかりいる聖杯戦争だし……

……困ったなぁ、脳内の宝生永夢が恋愛経験皆無のチベスナ系男子と化してるからなぁ……

……どう思います?



 

 

 

 

「ん……ふわぁ……」

 

 

宝生永夢が目を覚ましたとき、真っ先に感じたのはアルコールの臭いだった。布団から起き上がって辺りを見回してみれば、何故か部屋は整理整頓され、埃の類いも取り払われている。

 

 

「……あれ、あの……ナイチンゲールさん?」

 

「おはようございます、マスター」

 

 

そして彼のサーヴァントであるナイチンゲールは。

永夢のベッドの下を掃除していた。

 

 

「……何してたんですか?」

 

「部屋の掃除ですが、何か」

 

「……」

 

 

別に、別にベッドの下にそういう類いの本があったわけではないが。それはそれとして、寝ている間に部屋の隅々まで綺麗にされていたというのは何処か複雑だった。

というか、物凄く丁寧に掃除してある。とても一、二時間で出来る技とは思えない。

 

 

「……もしかして、僕が寝てからずっと……?」

 

「ええ。部屋の衛生は健康に不可欠ですから」

 

「寝なくて良いんですか?」

 

「サーヴァントに睡眠は不要です」

 

 

ナイチンゲールはそう言いながらも手を止めない。永夢の家にあるアルコールはもう底をつきかけている。

ナイチンゲールはそれを確認して小さくため息をつきながら立ち上がった。そしてどこか満足げに綺麗になった部屋を眺めて、その後に唐突に永夢を押し倒す。

 

 

「失礼します」

 

   ドンッ

 

「ふえっ!? え、ナイチンゲールさん!?」

 

「昨日怪我した足首の様子はどうですか」

 

 

そう言いながら彼女は永夢の右足を診察し始めた。永夢はといえばそのことはこれまでの展開のせいで忘却の彼方に追いやっていたのだが、患部に圧が加わったことによる痛みで再びそれを思い出す。

 

 

「イッ……たた」

 

「……最近の技術とは凄いものなのですね。私たちの頃なら即切除でしたが、これほどまでに治りが早いとは」

 

 

ナイチンゲールはそう言いながら包帯を取り替えた。馴れた手つきだった。永夢は身動きすることも出来ず、熱心に包帯を替えるナイチンゲールの頭を眺めることしか出来ない。

そして、今さらになって彼は、女性と一晩同じ部屋にいたのだという事実を実感した。

 

 

「……終わりましたマスター。マスター?」

 

「~~!!」

 

 

永夢は顔を赤くして塞ぎ込んだ。

 

───

 

「あ"ぁ"……う"ぁ"ぁ"……!!」カタカタカタカタ

 

「……全然進まないな、神」

 

「データが……データが足りないぃ……!!」カタカタカタカタ

 

 

CRでは、相変わらず黎斗神が呻いていた。メディア・リリィも流石に疲れてきたらしく、ベッドの上で無言で震えている。

 

進まない理由は簡単だった。単純に情報が足りないのだ。サーヴァントの情報に厳重に鍵がかけられているせいで、ちっとも対サーヴァントプログラムが組上がらないのだ。

 

 

「でもサーヴァントを産み出したのも貴方なんですよね? だったら仮に別の存在になっていても分かるのでは……」

 

 

マルタがそう言う。その言葉は至極最もで、貴利矢も頷いた。

黎斗神はそれに首を振り、キーボードを叩きながら答える。

 

 

「……向こうには、恐らく真黎斗に加えてもう一人私がいる。そっちがパスワードを好き勝手に書き換えたのだろう……!!」カタカタカタカタ

 

「……は?」

 

「……え?」

 

 

……今、何と言ったか。

黎斗が? さらに、もう一人?

 

 

「……おい神、どういうことだ」

 

「ナーサリー・ライム……私の才能を引き継いだキャスターのサーヴァント……向こうではそれが加勢している筈だァ……」カタカタカタカタ

 

「何でそれを言わなかったんだよ!!」

 

「わ"た"し"に"口答えす"る"な"ァ"ァ"っ"ー!! ……ヴッ!!」バタッ

 

『Game over』

 

 

叫ぶ貴利矢。黎斗神はそれに叫び返し、そのショックで地に伏した。そして灰となって砕け、消滅する。まあ、次の瞬間には紫の土管が生えてきて、そこから黎斗神が現れるのだが。

   

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「フゥッ!! 残りライフ、95……この際だ、私が事の顛末について簡単に語ってやろう」

 

「奇跡の概念が崩れていく……」

 

 

マルタは頭を抱えた。キリストの復活の奇跡がこうも簡単に、手軽に再現されてしまってはどうしようもない。

 

それはそれとして、黎斗がもう一人いるという衝撃の事実については、確かに黎斗神を問い詰める必要があった。向こうから話してくれるなら話は早い、貴利矢はマルタの座っていた椅子の近くの壁にもたれ、黎斗神の話を聞くことにした。

 

 

「あれは、私がFate/Grand Orderの原型のテストプレイを行っていた時だった──」

 

───

 

「……分かってくれたか、親父」

 

「……お前を疑ってすまなかった」

 

「いや……俺も、事前に知らせるべきだった」

 

 

またCRの二階では、飛彩とジャンヌが灰馬と向かい合って話していた。灰馬はずっと怒り心頭なままでここまで連れてこられたが、飛彩の必死の説明によってようやく状況を理解し、素直に謝罪する。

 

 

「じゃあ、そこにいるジャンヌさんは、バグスターで、お前のサーヴァントなのか?」

 

「そういうことだ」

 

「サーヴァント・セイバー。ジャンヌ・ダルクです」

 

 

ジャンヌはそう言って頭を下げた。灰馬はその様子がどこかお見合いのように思えてあまりよい気分ではなかったが、今大切なのはそれではない。

 

 

「ジャンヌ・ダルク……百年戦争の、ジャンヌ・ダルク?」

 

「はい、そのジャンヌ・ダルクです」

 

「……正確には、ジャンヌ・ダルクの逸話を元に真檀黎斗が産み出したバグスターだが」

 

 

ジャンヌ・ダルク。救国の聖処女。

百年戦争にて、イギリスに追い詰められオルレアンに立てこもったフランス王シャルル七世を救うために立ち上がった農村の娘。

騎士のしきたりを無視した当時あり得ない戦法でフランス軍を動かし、オルレアンを解放した彼女は最終的に彼女の人気を怖れたシャルル七世によってイギリスに売り渡され、火刑に処された。

 

そんな人物がいるのだ、灰馬は少しばかり敬語になる。例えそれがバグスターでも。

 

 

「……所で、小姫さん、とは……誰なのですか?」

 

 

……今度はジャンヌが聞く番だった。彼女は、飛彩と灰馬の口論で何度も出てきた小姫、という人物について全く知らなかったのだ。昨日飛彩が言っていた彼女なのかもしれない、とも思うが根拠はない。

 

飛彩と灰馬は少しの間見つめあった。話すべきか話さないべきか、その葛藤は共に抱えていた。

……しかし、話さないという選択肢を取る気には、飛彩はなれなかった。昨日ジャンヌに諭されたばかりかもしれない、そう思いながらコーヒーを啜る。灰馬の目を見てみれば、彼も話すべきだと思っているように見えた。

 

 

「……」ズズッ

 

「……飛彩」

 

「分かってる……俺が話す」

 

 

灰馬はそこで席を立った。彼の後方から、飛彩とジャンヌが小声で会話するのが聞こえてきた。

 

───

 

 

 

 

 

「なーんでどこのゲームセンターも空いてないんでしょうかねー!!」

 

「仕方ないよ、どこも機械の調子悪いんだから」

 

 

カフェに入りそびれて行く宛を失った明日那とパラドとBBは、仕方なくパラドや永夢行きつけのゲームセンターを訪ねようとしたが、しかしそれも出来ず困っていた。

既に、どこのゲームセンターの機械も真黎斗による干渉が加わり、動作不良を起こしていたのだ。画面には紫のラインが走り、カメラは乗っ取られ、クレーンゲームのアームは操作している人間を襲おうとするのだ。

 

 

「黎斗……どうしてこんなことをしたんだろう」

 

「あのゲンムは滅茶苦茶だ、こっちのゲンムならこんなことしないのに……!!」

 

 

そう呟く。恨みを込めて。

しかし、本来の檀黎斗ならそれをしても何ら不自然ではないのだ。何しろ小学生の才能に嫉妬してウイルスを送りつけた男だ、人々の機械を全て乗っ取るなんて、彼にとっては造作もないことなのだ。

それをCRの檀黎斗がしないのは、ポッピーピポパポという、彼の母から生まれたバグスターの制止があるからにすぎないのだ。

 

 

「じゃあいっそ、ゲンムコーポレーション潰しに行きますかセンパイ? 暇で暇でBBちゃん死にそうです!!」

 

「駄目だよそれは!! 今は向こうのことよく分かってないんだから!!」

 

 

BBが漏らした言葉に、明日那は慌てて反論した。今ゲンムコーポレーションに突撃しても、ガシャットがない以上どうしようもない。バグヴァイザーⅡは明日那の手元にあるが、それだけでは何も出来ないのだ。

 

……しかし、そうも言っていられない事態が発生した。

 

 

   ブゥン

 

「っ──」

 

「なっ──!?」

 

 

明日那とパラドが違和感に目を見開いた。既に彼らが何度も肌で味わってきた感覚が、長時間体に押し寄せてくる。

 

 

「これは……ゲームエリアの拡張!?」

 

「この勢い、まさか」

 

 

そう、ライダーガシャットの電源を入れたに展開されるゲームエリア、あれが広がるときの感覚が彼らを襲っていた。しかもそれは一瞬ではなく、何秒も続いていく。それはつまり、それだけゲームエリアが広いということ。

明日那とパラドは顔を見合わせた。これは、不味い。

 

唐突に、役所の方向からサイレンが聞こえてきた。本来なら地震やミサイル等の災害時にのみ流されるそのサイレンの後に、誰かの声で放送が入れられる。

 

 

『東京都全体にザザッ謎の電波障害がザザッ発生しましザザッ』

 

「っ──」

 

『個人情報ザザッ漏洩の恐れザザーッあります、パソコン、スマホ等のザザーッ ザザザザッ ブチッ』

 

「……不味い、これじゃあ、東京都が……!!」

 

 

黎斗の支配する地平が広がりに広がって、東京都全体に伸びた瞬間だった。

 

───

 

『ザザザザッ ブチッ』

 

「おーおー、面白いことになってきたのう」

 

「そうねー、子ブタがあたふたしてて面白いわ」

 

「……」

 

 

その頃信長とエリザベート、そしてマシュは、クレープを食べ歩きながらビル街を歩いていた。回りの人々は慌てて黎斗の支配下に置かれたスマホに手を伸ばしているが、彼女らはそれを気に止めなかった。いや、マシュは気に止めていたが、声に出せなかった。

唯一この三人だけが、屋外で慌てていない存在だった。

 

 

「にしてもこれも美味しいわね、ずるいわ本当」

 

「そうじゃなあ、正直このくれえぷなら十は余裕じゃぞ、十は。マシュはどうだ?」

 

「え、ああ、私も美味しいと思います」

 

 

全く動じない三人は、端から見れば異質だった。彼女らは、これが己のマスターの計画だと理解していた。

この地上が真黎斗の、ひいてはバグスターの物になるまでのカウントダウンは、始まりを告げようとしていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──動き出す真黎斗

「聖都大学附属病院を襲撃しろ」

「……了解した」

「承りました、我が神よ!!」


──調整されたガシャット

「爆走バイクの仮調整完了!!」

「逆にこっちから攻めに行くのか?」

「今こそ向こうは手薄の筈だ……!!」


──そして、病院前での攻防

「これ以上は下がれないぞ!!」

「ジャンヌ!! ジャンヌではありませんか!!」


第九話 Brave shine


「俺に斬れない物はない!!」


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第九話 Brave shine

今回は難産でした

最近投稿時間がおかしいのは昼夜逆転生活が楽しすぎるからです
太陽が上りきる頃に寝て夕暮れを見ながら起きる生活が止められない、もう社会に戻れない……


それはそうと、仏教系鯖と行く御成グランドオーダーとか誰か書きません?胤舜や三蔵と修行する御成とか。何故かキアラ様に襲われる御成の図が頭から離れないんだけど



 

 

 

「上手くいったわ、上手くいったわマスター!! 成功よ!!」

 

「ふっ、当然だな。私たちの神の才能の前に不可能は無い!!」

 

 

その頃、ゲンムコーポレーションでは真黎斗とナーサリーが作戦の成功を喜んでいた。既に東京都の機械は、情報は全て彼らの支配下に入ったのだ。

防衛省も衛生省も文部科学省も、そのセキュリティは陥落しあらゆる情報は掌握された。何時でも総理の名を騙った宣戦布告は可能であり、何時でも市民の情報の開示は可能なのだ。

 

ただ一ヶ所を除いて。

 

 

「……でもやっぱり、聖都大学附属病院だけは落ちないのよねぇ……」

 

「向こうにも私がいるのだからそうもなるさ、気負う必要はない」

 

「でも、あそこはどうにかして手に入れたいじゃない?」

 

 

聖都大学附属病院。CRを擁するそこには檀黎斗がいる。彼は文字通り(ライフ)を削りながら、自分達の本拠地を防衛しているのだ。だから、そこだけは支配できなかった。

ナーサリーはどうしてもそこを押さえたかった。真黎斗も同じ気持ちだった。自分達の世界に一点の染みがあるのは、精神的に来るものがあった。

 

 

「大丈夫だ、手は今から打つ……内側が駄目なら外から攻める。発想の転換というやつだ」

 

 

真黎斗はそう言い、社長室の入り口の方を見た。既に彼が呼び出していた二人のサーヴァントが、すぐそこに控えていて。

 

 

「待たせたなジークフリート、ジル・ド・レェ。……指示はただ一つだ。聖都大学附属病院を襲撃しろ」

 

「……了解した」

 

「承りました、我が神よ!!」

 

 

ゲンムのセイバー……ジークフリートと、ゲンムのキャスターの片割れジル・ド・レェ。真黎斗は彼らにそう指示する。既にガシャットは渡してある、力不足はあり得ない。

 

 

「……なるほど、外からも圧迫して、内側を脆くするのね!! 素敵だわ素敵だわ素敵だわ!!」

 

「そういうことだ。……では、行け」

 

 

その言葉と共に、二人は空間から消え失せた。霊体化し、聖都大学附属病院へと向かったのだ。

その場に残った二人は再びパソコンの前に座った。どちらともなく顔を見て、成功は遠くないと確信して小さく笑う。

 

 

「……ふふっ」

 

「……続きを始めるぞ」

 

「……ええ!!」

 

   カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

 

そして、キーボードを叩く音が再び響き始めた。

 

───

 

   カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

「う"ぁ"ー……あ"ぁ"……」

 

 

CRの黎斗神もまた、キーボードをひたすらに叩いていた。現在の残りライフは94。

既にメディア・リリィは疲れの末に意識を失ってしまっていた。現在は代わりにマルタがヘルメットを被っている。

 

パソコンに文字が走る。黎斗の指はキーボードを撫で、呻きは病室の彼方まで届きそうだった。

 

そして、その永遠にも思われた作業に、ようやく一つの区切りがつけられる。

 

 

「あ"ぁ"……ぶぁ"ぁ"……」

 

「どうした……神……!!」

 

「出来た……出来たぞ……!! ハハ、ハ、ハーハハ……!!」

 

 

その肩は震えていた。彼はときめきクライシスをパソコンから分離し、苦しそうに笑う。

 

 

「……え? 出来たの? 出来たの!?」

 

「ときめきクライシスの対サーヴァントシステムの仮構築が完了した!! やはり私は神だ!!」

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 

貴利矢は跳ね上がって喜んだ。やっと終わった、やっと解放される、と。ベッドの方でも、マルタが歓声と共に飛び起きていて。

 

しかし、安寧の時は訪れなかった。……その瞬間、黎斗の手元のブザーが成った。ようやく彼らがガシャットの改良から解放された瞬間に。

 

 

   ビーッ ビーッ

 

「……おい、何だこれは!!」

 

 

ブザーを聞いて、二階の方から飛彩が飛び込んでくる。

ただならぬ雰囲気のそれはまだ成り止まない。そのスピーカーは、一つの液晶画面と繋がっていて。

 

 

「……不味いな。サーヴァントの侵入だ」

 

「なっ──!?」

 

 

その画面には、剣を持った白髪の男と、奇妙な衣装の男が映っている。彼らは聖都大学附属病院の敷地内に入り、地下駐車場に入ろうとしていた。

 

 

「迎撃しろ鏡飛彩、ジャンヌ・ダルク!! そしてキャスター、君もだ!! 通信機を貸してやる、館内の配管を傷付けさせるな!」

 

「当然だ、患者に危害は加えさせない。行くぞセイバー」

 

「はい!!」

 

 

それを見るなり、飛彩は未調整のガシャット数本と黎斗の差し出した通信機を引っ付かんでCRを飛び出していく。ジャンヌもその後を追い飛び出した。メディア・リリィもまだくらくらしている頭を押さえながらその後を追っていく。

 

 

「あれ? 俺達はどうするんだい?」

 

「……もう少し待機だ。レーザーターボのガシャットを寄越せ!! ……君らには別の仕事があるぅ……」

 

『ガッシャット!!』

 

 

黎斗神はそれを見送りながら、再びキーボードを叩いた。今度はさっきよりますます早い指使いだった。

貴利矢は一瞬首を傾げ、そして黎斗神の思惑を察する。

 

 

「おい神、まさか──」

 

「そのまさかさぁ……君達は今からゲンムコーポレーションを襲って貰う……!!」カタカタカタカタ

 

「……逆にこっちから攻めに行くのか?」

 

「今なら向こうも、手薄のはずだからな。私がこうして防衛しているとき、向こうもまたこちらを攻め落とさんと戦っている。社長室(頭脳)を叩け!!」カタカタカタカタ

 

───

 

「……マスター」タッタッタッ

 

「何だセイバー?」タッタッタッ

 

「……絶対に彼らを押し止めて、患者の皆さんを守りましょうね」タッタッタッ

 

 

廊下を駆け抜け、非常階段を滑り降りながら、飛彩とジャンヌはそう言葉を交わす。何の意味もない、その場繋ぎの会話。しかし、それは確かにジャンヌが考えていることで。

 

 

「……ここか」タッタッタッ

 

 

そして二人は、ゲンムのセイバーとキャスターのやって来ている地下駐車場までやって来た。キャスターは置いてきてしまったが、速さには替えられない。

 

 

「……お前たちが、CRのサーヴァント、そしてマスターということか」

 

「おお、ジャンヌ!! ジャンヌではありませんか!!」

 

「っ……ジル!?」

 

 

既に地下駐車場にて待ち構えていたサーヴァント二体は、CRのセイバー陣営を前に思い思いの反応をした。

ゲンムのセイバーは、飛彩の出す歴戦のオーラのようなものに感心する素振りを見せた。隣のゲンムのキャスターは、ジャンヌを見るなり丸い目を更に丸くし、狂喜にも似た声を上げる。ジャンヌはそれに少しばかり動揺していた。

 

 

「あの触手で怪しく思っていましたが、やはりジルでしたか……」

 

「知り合いか……そうだとしても、戦って貰うぞ。患者を守るためだ!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

 

飛彩は己のサーヴァントを本の少しだけ気遣いながら、ガシャットの電源を入れる。ゲームエリアが広がった。

それを無言で見つめるゲンムのサーヴァント達も、飛彩に反応して各々のバグヴァイザーを取り出す。

 

 

『『ガッチョーン』』

 

「何だと……まさか、変身するのか!?」

 

『Taddle fantasy!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

「「……変身!!」」

 

 

そして、彼らの方が飛彩より先に変身する。その姿には何の恐れもなく、飛彩と戦う用意はとうに出来ていた。

 

 

『タドールファンタジー!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

「……セイバー、片方を頼む」

 

「では、キャスターの方を。……ゲンムのセイバーはお願いします」

 

 

しかし、怖じ気付くには遅すぎる。飛彩はジャンヌをキャスターに向かわせ、ゲンムのセイバー……仮面ライダーセイバーと対峙した。そしてゲーマドライバーを装備し、ガシャットを装填する。

 

 

「……術式レベル3、変身」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドレミファビート!!』

 

 

セイバーとブレイブは一瞬睨み合い、そして同時に走り出した。

バルムンクとガシャコンソードがぶつかり、火花を撒き散らす。

 

 

「はあっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガキン ガキンガキン

 

「っ……!!」

 

 

勢いではブレイブが押されていた。レベル差47、ある種当然のことだった。彼は数回セイバーと斬りつけあい、駐車場の壁まで吹き飛ばされる。

 

 

「……はあっ!!」

 

   ザンッ

 

「ぐぁっ……!!」

 

 

堪らず膝をついた。しかしその壁の向こうは診察室、壊される訳にはいかない。

 

 

「っ──」

 

『聞こえるか、聞こえるか飛彩!!』

 

「監察医!?」

 

 

その時、飛彩がつけていた通信機越しに、貴利矢の声が届けられた。

 

───

 

「聞こえるか、聞こえるか飛彩!!」

 

『監察医!?』

 

 

その時貴利矢は、黎斗神のサポートを行いながら、彼の呻き声に合わせて洩れ出てくる情報を飛彩に飛ばす役割を担っていた。マルタは再びベッドに転がりヘルメットをつけていた。

 

 

「ええと、今お前が戦っている奴、ゲンムのセイバーの真名は……何だ?」

 

「う"ぁ"ぁ"……じーく……ふ……り"ー……」カタカタカタカタ

 

「じーくふりー? じーくふりー、ふりー……」

 

『早くしてくれ監察医!! これ以上は下がれないぞ!!』

 

『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

通信機の向こうから戦闘しているのが聞こえてくる。しかもかなり追い詰められているらしく、放ったキメワザが受け流されたのが爆音で分かった。

 

 

「じーく……ジークフリート!! ジークフリートだ!! 背中は開いているか!?」

 

『っ……ザザッ……開いている!!』

 

「そこを狙え!! そこが弱点だ!!」

 

───

 

『そこを狙え!! そこが弱点だ!!』

 

「っ!!」

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

 

それを聞いた瞬間に、ブレイブは持ってきていたシャカリキスポーツとドラゴナイトハンターの電源を入れた。ガシャットからゲーマが飛び出し、セイバーに飛びかかる。

セイバーはそれを容易く吹き飛ばすが、しかしそれをする間にブレイブはセイバーの視界から消え失せていた。

 

 

「何処だ……?」

 

 

そしてその隙だけで、十分だった。

 

 

「……俺に斬れない物はない!!」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあああああっ!!」

 

   ザンッ

 

 

 

「何故ゲンムコーポレーションに味方するのですかジル!!」

 

「決まっております、真檀黎斗こそが我が神なれば!! 相手がジャンヌであろうと加減はいたしませぬ!!」

 

 

ジャンヌもまた、キャスターと打ち合っていた。彼女の手持ち武器は旗、狭い地下駐車場では少しばかり振るいにくいが、大した問題ではない。

しかしキャスターは常に宝具を展開しているような状態らしく、常に鋭い触手がジャンヌに襲いかかる。

 

 

『タドル ドラゴナイト クリティカルストライク!!』

 

「ハーハハハハハハ!!」

 

 

無数の触手が彼女に食らいついた。ジャンヌは旗を展開して受け止めようと試みるも、簡単にすり抜けられてダメージを加えられる。ルーラーのクラスで与えられるはずの旗の宝具は、セイバーの彼女には存在していなかった。

ジャンヌは大きく後方に飛び退いた。彼女はとある事情によって剣は使うことが出来ないため、得物を替えることも叶わず旗を構え直す。

 

 

「お待たせしました!! 加勢致します!!」

 

「っ、ありがとうございます!!」

 

 

そこに、二人に置いていかれたメディア・リリィが追い付いた。彼女は予め用意していた術式を起動、キャスターの触手を消し飛ばす。そして、怯んだキャスターの懐にジャンヌが突撃していく。

 

 

   ズドン

 

「~~!! この、この匹婦めが!!」

 

 

数歩後ずさるキャスター。その胴体を、ジャンヌが旗で凪ぎ払う。

キャスターの背中の向こう側では、セイバーの背中を攻撃することに成功したブレイブがやはり傷だらけになりながらも相手を押していた。二人は一瞬だけ視線を交わし、ゲンムのサーヴァント二体をぶつけて動きを止めさせる。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「行くぞセイバー、俺に合わせろ!!」

 

「分かりました!!」

 

「「はあああああっ!!」」

 

 

そして同時に得物を振りかぶり──

 

───

 

「はぁ、はぁ……はぁ……!!」カタカタカタカタ

 

「……そろそろ終わりそうか?」

 

「あぁ……今、っ……終わった!! 爆走バイクの調整が完了したぞ!! ハッハ、神の才能に、ひれ伏せぇーっ!!」

 

「はいはい、行くぞライダー!!」

 

「はい!!」

 

 

そして黎斗神は、とうとう爆走バイクの調整を終わらせた。調整開始からたった一時間だった。貴利矢はそれとときめきクライシスを手にとって、マルタと共にCRを飛び出していく。

誰にも反応してもらいないまま一人残された黎斗神は真顔になり、再びパソコンに向かい始めた。

 

画面にはブレイブとジャンヌが映っている。数の力であろうか、どうにか盛り返していた。

反撃は、まだ始まらない。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──ゲンムコーポレーション攻略戦

「ノリノリで行っちゃうぜ?」

「私達も戦う!!」

「「超協力プレイで、クリアしてやるぜ!!」」


──サーヴァントの決意

「決してマスターの邪魔はさせぬ!!」

「仮に命を、奪ってでも……!!」


──戦いは混迷する

『クリティカル クルセイド!!』

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

「ここでは、負けられない!!」


第十話 Ideal white


『政府は、非常事態を宣言しました。今後、必要に応じて自衛隊を派遣していく予定で──』


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第十話 Ideal white

大我の全バグスター撲滅の範囲にポッピーは入ってるんだろうか
永夢の場合は危害を加えない善玉菌なら良いっぽいけど、大我あれのせいで酷い目にあってるからな……バグスター絶対殺すマンと化していつかパラドとポッピーを狙い始めそうだな……



 

 

「……マスター、CRのライダー陣営が近づいてきたわよ」

 

「九条貴利矢とマルタか……妨害は?」

 

「もうやってるわ、でも全部避けられちゃって……」

 

 

貴利矢がマルタと共に飛び出して十数分。ゲンムコーポレーション社長室にて、真黎斗と共にお茶会と言う名の一時の休息を過ごしていたナーサリーはゲンムコーポレーションに近づく敵影を捕捉し、そこを映したモニターを覗く。

既に変身しバイクの状態になったレーザーと、それに乗ったマルタが走っていた。自動で起動するトラップの作動に滞りはなく、しかしてそれらは易々と突破されていた。

 

 

「どれどれ……? ほぉ……」

 

 

真黎斗もそれを覗き込む。そして、ため息を吐いた。

 

 

 

「「ヒャッホホォーウッ!!」」

 

 

ゲンムコーポレーションに監視されていることにはとうに気づいていたライダー陣営の二人は、それでも最早何も取り繕わずにあらゆる障害を走り抜けていた。

道から競り上がる壁、追尾してくる外灯、ガードレールのジャンプ台、無人で動く車のNPC。それらは即席のレースサーキットを形成し、二人の気分をもり立てる。

 

 

「流石は騎兵(ライダー)ってだけはあるなぁ!! 名人(宝生永夢)より上手いんじゃないか!?」

 

 

そう言いながらジャンプ台を飛び越えた。飛距離は9メートル程になり、道に出来上がる幾つもの陥没を簡単に飛び越える。乗り手は騎乗A++なマルタだったため運転が上手いこともあり、レーザーは上機嫌だった。

そしてレーザーを駆るマルタの方も、杖をしまい法衣を動きやすいよう加工したせいか、段々開放的な気分になっていた。

 

 

「アンタも人使いが粗いわねぇ!! でもいいわ、テンション上がるわ!! ……んっんん、気分が高揚してきますね」

 

「今さら取り繕うなって姐さん!!」

 

「姐さん!?」

 

 

マルタはうっかり、町娘時代の性格を表面に出してしまう。それは普段聖女として振る舞う自分には相応しくないものだと自制していたが、レーザーはそれを既に看破していた。

 

 

「……で!? この後どうするのマスター!? 突っ込むの!? 重く行くの!?」

 

 

取り合えず話題を切り替える。もうゲンムコーポレーションは遠くない。どうするかをそろそろ決めなければならなかった。

 

 

「出来れば社長室に直接攻撃したい!! とにかく向こうのパソコンやサーバーを叩く!!」

 

「それなら、私の宝具で行けるわよ!!」

 

「宝具!? あー、超必殺技的なあれか!! 良いぜ良いぜ、で、何をどうやるんだ!!」

 

 

反り立つ壁を駆け上がる。その角度およそ75度。後ろから追ってくる三台のバイクをかわしながら飛び上がったレーザーは、追尾してくる鉄パイプを弾きながら着地して。

マルタはマルタで気分がノッてきたのか、レーザーを駆りながら障害物を蹴り飛ばしていた。

 

 

「ゲンムコーポレーション付近で社長室に狙いを正確に定めて、そこへタラスク……超巨大ドラゴンをぶつけるわ!!」

 

「豪快だな!! ノッてやる!!」

 

 

ちょうどそのタイミングで、マルタはレーザーを止めた。既にゲンムコーポレーションの玄関前にやって来たからだ。

レーザーはレベル1体型に戻って爆走バイクを引き抜き変身を解く。見上げてみれば、既に数体のサーヴァントの姿が見受けられて。

 

 

『ガッシューン』

 

「……じゃあ、自分が攻撃は防いでやる、存分に狙いを定めな姐さん!!」

 

『爆走バイク!!』

 

『ガッシャット!!』

 

「──0速、変身」

 

『ガッチャーン!!』

 

 

そして彼は、調整されたレーザーターボ用ガシャットを装填した。そして、ゲンムコーポレーションの四階あたりから飛び降りてきた赤い髪のサーヴァントを回し蹴りで吹き飛ばし、後方のマルタを守りつつも戦闘できる体勢を整える。

同時に、彼はその姿を仮面ライダーに替えた。

 

 

『爆走激走独走暴走!! 爆走バイク!!』

 

「そんじゃあ、ノリに乗って行くぜ?」

 

「……マスターの邪魔はさせぬ!!」

 

───

 

「……くっ、まさか退散することになろうとは!!」

 

「……すまない」

 

 

ゲンムのセイバーとキャスター……ジークフリートとジル・ド・レェは、ブレイブとジャンヌ、そしてメディア・リリィの奮戦の結果撤退を選択していた。壁を走り瓦を蹴り、ゲンムコーポレーションへと戻っていく。

 

 

「……それにしてもジークフリート殿。……何故宝具を使わなかったのです?」

 

「……すまない、少しばかり、加減してしまった」

 

 

ジークフリートは走りながら小声で侘びた。

彼は宝具を使わなかった。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)を使ったならブレイブを殺すことも出来たが、そうはしなかった。

 

 

「しかしキャスター、貴方も宝具を使わなかっただろう?」

 

「っ……」

 

 

ジル・ド・レェもまた、宝具を使わなかった。螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を使えば、ジャンヌなら容易く引きちぎったとしてもメディア・リリィは捕まえられた筈だ。彼女を人質とすれば勝つことは容易かった。

 

二人とも、そうすることに少しだけ躊躇いがあった。その躊躇いが、セイバー陣営を延命させたのだった。

 

───

 

「アンタの真名は何だ!!」

 

「余の真名はラーマ!! ゲンムのカップル、その片割れのラーマ!!」

 

「カップルぅ!?」

 

 

レーザーターボは苦戦していた。

調整された爆走バイクは、確かに対サーヴァント性能は向上していたが、しかしそれは微々たるものだったのだ。精々、十分の一が十分の二になった程度のものだったのだ。

しかも、調整されたのはあくまで爆走バイク。つまり、ギリギリチャンバラ由来のガシャコンスパローはサーヴァントに対して殆ど意味を成さなかった。

 

 

「っ……」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

「これならどうだ!!」

 

 

苦しい状況に置かれたレーザーターボは一発逆転を狙って、調整されているもう一つのガシャット、ときめきクライシスでキメワザを発動する。

そしてレーザーターボは彼自身から飛び出したハートや星と共にライダーキックを敢行したが──

 

 

「甘い!! 羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

   ガガガガガガ

 

「っ……ぐあああっ!!」

 

 

ラーマが剣を投げつけてきたことによってあえなく撃ち落とされ、大ダメージを食らってしまった。残りライフはあとゲージ三つ分しかない。

 

 

「姐さん!! まだか!!」

 

「ちょっ……無理があるで、しょっ!!」

 

 

レーザーターボは振り向いてマルタを見る。

しかし彼女もまた攻撃を受けていて、宝具どころではなかった。ゲンムコーポレーション四階にいるシータが、彼女をしつこく狙撃しているのだ。

 

降り注ぐ矢の雨をマルタは転がって回避したり、盾を呼び出して防いだり、反撃として光弾を打ち出したりするのだが、シータは構わず彼女を狙い続けていた。

 

 

「……っ、駄目だこれは!! 逃げるぞ姐さん!!」

 

『爆走バイク!!』

 

 

レーザーターボはそう判断した。彼はバイクゲーマを呼び出して飛び乗り、マルタを回収して走り出す。

 

……しかし、すぐに彼は逃走を止めた。

その視線の先に、見覚えある顔が並んでいたからだった。

 

 

「待たせたなレーザー!!」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

パラドと明日那だった。そしてそのサーヴァントもいる。彼らはゲームエリアの拡張を察知して、ここに駆けつけたのだった。

 

レーザーターボは、明日那にときめきクライシスを手渡す。そしてバイクゲーマを回収し、再びゲンムコーポレーションを仰ぎ見た。

 

 

「……今から暫く時間を稼いでくれ。そしたらうちの姐さんが社長室にドラゴン投げ込める」

 

「何それ!? ……でも、それが出来たら……」

 

 

明日那はそう言いながら、玄関前で身構えるラーマを見た。強そうだが……数からして、こちらが勝てない相手ではない筈だった。

どうやら、レーザーターボの言葉に乗るのは得策のようだった。明日那はバグヴァイザーⅡを腰に装備する。

 

 

『ガッチョーン』

 

『ときめき クライシス!!』

 

「……変身!!」

 

『ドリーミンガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女はいつもときめきクライシス!!』

 

 

明日那が仮面ライダーポッピーに変身する。その右隣ではBBが指揮棒を構え、その左隣ではサンソンが刃を構える。

第二ラウンドが始まった。

 

───

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

 

シータはゲンムコーポレーションの四階でラーマをひたすらに援護していた。

眼下ではラーマがポッピーとBB、そしてサンソンの三人から同時に攻撃されて圧されている。

 

しかし彼女はそっちを助けることは出来なかった。レーザーターボがシータの近くの窓を狙ってガシャコンスパローで狙撃していたからだった。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「っ……!!」

 

 

風に乗って電子音が流れてくる。打ち出されるであろう矢で会社を破壊されれば、シータは一時的にガラスの雨を食らい、それはラーマに襲いかかるだろう。それは阻止しなければならない。

 

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

   ズドンッ

 

 

だからこそ、宝具の連発は避けられなかった。それは非常に疲れることだったがやらない訳にはいかなかった。

 

 

「っはあ、はぁ……!!」

 

 

レーザーターボの打ち出した矢を相殺して、シータは疲れでその場に膝をつく。もう、何かにもたれていないと立つことすら厳しかった。しかしそれでも戦うのは、夫と恩人を守るため。

 

 

「まだ、まだ……!!」

 

「……まだやるのか、シータ」

 

「っ、アヴェンジャーさん……!!」

 

 

その隣に、いつの間にかアヴェンジャーがやって来ていた。彼は煙草を出そうとして、しかしここは喫煙室ではないとそれをしまいながらシータに問う。

 

 

「お前は、あれを殺せるか? あれらは決して諦めない、死ぬまでこちらとは相容れないぞ」

 

「……」

 

 

彼は、シータに迷いがあると踏んでいた。ラーマは完全に決意していたが、シータは本当に黎斗の為に戦っているかは微妙だと思っていたのだ。夫の意見に追従しているのだと思っていたのだ。

しかしシータは、迷いなくその問いに答える。

 

 

「……殺せます。私達の恩人の道を、理想の道を、私達は切り開く。例え命を奪ってでも!!」

 

「……そうか。待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 

……アヴェンジャーはその言葉に頷き、シータに回復宝具をかけてやった。そしてシータが再び立ち上がる前に彼は四階から飛び降り、変身しながらレーザーターボへと突撃していく。

 

 

『ガッチョーン』

 

『Knock out fighter!!』

 

『Perfect puzzle!!』

 

「……変身」

 

『マザル アァップ』

 

───

 

『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』

 

「嘘だろ、また増えた!!」

 

 

レーザーターボは、突然乱入してきたアヴェンジャーに容易く吹き飛ばされた。彼はあと一歩で宝具を発動できたマルタに背中からぶつけられ小さく呻く。

 

 

「っつ……!! おっと、悪い姐さん」

 

「その呼び方止めてください……この話し方もさっきの話し方も、どっちも私の素ですから」

 

「そうかい、でも自分はこの呼び方の方が好きだからな。何しろ自分も仮面『ライダー』だ、ライダーがライダー使役するなんて何か変だろ……って、そうも言ってられねえな!!」

 

 

アヴェンジャーはさらに彼らに追撃を加えた。どこからともなく取り出したパラブレイガンでレーザーターボとマルタを攻撃し、さらに二人を追い詰める。

 

パラドはそれを見ることしか出来なかった。令呪でサンソンをレーザーターボに加勢させることも考えたが、ラーマの方も手一杯だ。

彼は今変身できない。何も出来ない。地面を向いて歯噛みする。

 

 

「っ……どうすればいいんだ」

 

 

そんな彼の元へと、シータが容赦なく矢を放って。

 

 

 

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』

 

   ガキンッ

 

「待たせたなパラド!!」

 

「永夢……!!」

 

 

そこに、異変を知って走ってきたエグゼイドが飛び込んできた。彼はシータの矢を吹き飛ばして身構え、マイティブラザーズXXガシャットを取り出す。ナイチンゲールは既にポッピーの方に加勢しに向かっていた。

 

 

「使えるかな……」

 

『マイティブラザーズ XX!!』

 

「……よし、行ける!! 戦えるかパラド?」

 

「……勿論だ」

 

 

幸運なことに、どうやらレベル上限は20(XX)までのようだった。エグゼイドはパラドに手を伸ばし、彼をその身に取り込む。そして。

 

 

( だーーーい)、変身!!」

 

『ガッチャーン!! ダブルアップ!!』

 

『俺がお前で!! お前が俺で!! ウィーアー!! マイティマイティブラザーズ XX!!』

 

 

その音声と共に、エグゼイドは二人に分裂した。いや、パラドの人格を持つオレンジのエグゼイドと、永夢の人格を持つ緑のエグゼイドが現れた。

二人は一瞬互いの顔を見て、頷き、レーザーターボへと加勢せんと走り出す。

 

───

 

「……不味いことになった、な」

 

 

衛生省にて、大臣である日向恭太郎は苦い顔をしていた。真檀黎斗に情報を奪われたのは衛生省も例外ではなく、あらゆる機械に紫のラインが走っている現状において、衛生省内の職員は皆獅子身中の虫のようなものだった。

眼下では、情報を奪われた人々が小規模なデモを起こしている。彼らとてスマホの情報は奪われているのだが、それを指摘することは彼らに油を注ぐことでしかなかった。

 

そして彼の心を悩ませていたもう一つの事柄。それはもう何度かニュースで流れていて、日本中ほぼ全てに知れ渡っていた。

 

 

『繰り返しお伝えします。日本政府は、現在東京で発生中の大規模情報テロに対して非常事態を宣言しました。大規模情報テロに対して非常事態を宣言しました』

 

 

政府の非常事態宣言。正確には、緊急事態の布告。これが行われることによって、令状なしでの逮捕や、法律より優先度の高い政令の発動が自由に出来るようになってしまう。

 

 

『今後、必要に応じて自衛隊を派遣していく予定です。繰り返しお伝えします──』

 

 

そして、政府は自衛隊を派遣すると言った。ゲーム病について何も分かっていない。

これから暫くの恭太郎の仕事は、政府の抑制に絞られる未来がほぼ確定した。

 

───

 

『ズキュキュキューン!!』

 

『マイティブラザーズ!! クリティカルフィニッシュ!!』

 

「「はああぁぁぁぁ!!」」

 

 

エグゼイド二人がアヴェンジャーへと光線を放つ。高エネルギーのそれは確実にアヴェンジャーを捉えていた筈なのに、寸前で高速化されて回避されてしまう。

二つの勢力それぞれに加勢が加わった結果、パワーバランスは変わらずに彼らは苦戦していた。

 

 

「っ……また躱された!!」

 

「おい、避けるなよお前!!」

 

「フハハハハ!! 逃げない訳がないだろう!!」

 

『マッスル化!! 分身!!』

 

『1!! 2!! 3!! 4!!』

 

 

アヴェンジャーは高速で動きながらエグゼイドの裏を取り、強力な一撃を何度も浴びせてくる。その姿はどこか遊んでいるようで。

 

 

   ズダンダンダンダン

 

『4連打!!』

 

「ぐあああっ!!」

 

「うわああっ!!」

 

 

地を転がる二人。しかしもう誰も彼らを助けられない。

ライフゲージがいよいよ危なくなったレーザーターボは既に変身を解除して待避している。ポッピーもマルタもサンソンももうろくに戦えてはいない。当然宝具も撃ち込めなかった。

 

結局、退却しか選択肢はなかった。悔しいが、仕方のないことだった。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──出された妥協点

「……駄目だ、今はもう無理だ」

「私の調整が終わるまでは、向こうに向かうな」

「待つことしか出来ないのか……!!」


──堕ちたクリエイター

「おい、いるか社長!!」

「返事をしろ!!」

「あらあら、私……妬いてしまいますよ」


──真檀黎斗の理想郷

「遠くない……あと少しだ」

「その未来は、間違っている……!!」

「何故そう言い切れる?」


第十一話 ASH


「完成した……マイティアクションNEXTのバージョンⅡが!!」


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第十一話 ASH


飛彩って小姫一筋な割にいっつもナース侍らせてるような気がする
誰が付き添わせてるんだ? まさか自分で呼んでることはないだろうし……院長だってそうはさせない筈だし……本当に誰だ……?



 

 

 

 

 

「おい神!! これ不良品じゃねえか!!」

 

 

CRまで帰ってきた貴利矢は既にボロボロだった。傷だらけの彼は怒りと痛みに震えながら、パソコンの前に座っていた黎斗神にガシャットを突きつける。

黎斗神の方はその反応を見て一つため息をして、そのガシャットを回収した。

 

 

「そうか……駄目だったか。やはり外から得られる知識には限りがあるな」

 

『ガッシャット!!』

 

「そうかい。で? じゃあどうするんだ?」

 

 

キーボードを叩き始める黎斗神に貴利矢がそう問う。彼の背後では、永夢やパラドも呻きながらCRに入ってきていた。

 

 

「敵サーヴァントを倒し、消滅させるとそいつは金の粒子になって消える筈だ。それをどうにか捕捉して分析にかければ、ちゃんとした調整が可能になる」カタカタカタカタ

 

「じゃあ、今から敵のサーヴァントを倒せば……!!」

 

 

黎斗神の言葉に反応して、くたびれていたはずの永夢がそう言う。その顔には疲れと焦燥が浮かんでいて。

それを見抜いていた貴利矢は彼を押し止める。

 

 

「……駄目だ、今はもう無理だ」

 

「ああ。私の調整が終わるまでは向こうに向かうな」カタカタカタカタ

 

「……マスター、足の怪我が酷くなって参りました、行きましょう」

 

 

黎斗神もそれに便乗した。見下ろしてみれば、永夢の足は、再び悪くなりそうだった。

ナイチンゲールが彼を背負って、整形外科へと連れていく。永夢は悔しそうにしながら、しかし無抵抗に連れ出された。

 

 

「待つことしか、出来ないのか……!!」

 

 

それを見ながら、パラドが苛立たしげに呟いた。

 

───

 

   コンコン

 

「おい、いるか社長!!」

 

「返事をしろ!!」

 

 

その頃、大我とエミヤは作の家まで訪ねてきていた。しかしインターホンを鳴らし、扉をノックし、声を上げて呼び掛けてみても返事は全くない。

黎斗神だけでは頼りないと判断した大我は彼も引きずり出して加勢させようと考えたのだが、それはどうにも上手くいきそうになかった。

 

 

「……留守なのか?」

 

「いや、電気はついていた。それに何より……サーヴァントの気配がする。別に戦闘はしていないが」

 

「そういえば何かを召喚していたな。心当たりはあるか?」

 

「……いや、ない」

 

 

エミヤはそう言って首を振った。

とにかく今日は諦めよう、大我はそう判断する。数日経っても駄目だったなら、意地でも引きずり出すが……今はまだ、何とかなる。

 

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

「ええ、それでいいのですよマスター? 誰かに目移りしたら、私……妬いてしまいます」

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その作は、ひたすらにガシャットを作り続けていた。初めは外の大我に気を向けていたが、それすらも止めた。

眠りはなく食事もなく、あるのはただ、不定期に気まぐれにキアラから与えられる快楽のみ。作は命令通りにキーボードを叩き、キアラはそれを眺めながら小さく笑う、それだけ。

ガシャットの完成は、大して遠い話ではなかった。

 

───

 

「……調子はどう、マスター? これまでのデータは整理しておいたのだけれど」カタカタカタカタ

 

「上々だァ……!! 完成は遠くない……!!」カタカタカタカタ

 

 

そしてゲンムコーポレーションでは、真黎斗がパソコンに向かっていた。現在はゲームエリアの拡張ではなく、マイティアクションNEXTのプログラムを書き換えている。

ナーサリーは現在も聖都大学附属病院にサイバー攻撃を加えていたが、陥落する様子は見られなかった。

 

 

「……黎斗さん」

 

「何だマシュ・キリエライト……私は今最高にクリエイティブなことをしているのだが!!」

 

 

そこに、マシュが訪ねてきた。信長達と共に帰ってきた彼女は防衛戦に参加することもなく、その戦いを眺めていた。

そして、それらの間に何かを思ったのだろう。ナーサリーはそう考えながら紅茶を口に含む。何を言うのだろうが、止めるつもりはなかった。マスター(自分)は彼女に何を言われようと、その程度で止まる訳がないと知っていた。

 

 

「……その未来は、間違っている……!!」

 

「……何故そう言い切れる?」カタカタカタカタ

 

 

マシュが口を開く。真黎斗はパソコンに入力を続けながら、耳だけは傾けた。

 

 

「広がる過程で、人々との間に戦いが生まれるからです。黎斗さんにも聞こえたでしょう? 政府の非常事態宣言が。人々の困惑の声が!! 誰かを困らせ、誰かとの軋轢を生む理想郷なんて、あるはずがない!! 貴方の理想郷は、間違っている!! 争いの結果に生まれる世界なんて、灰しか残りません!!」

 

「それは違うな」カタカタカタカタ

 

「っ……!?」

 

 

そして、耳を傾けた上で、否定する。

 

 

「これまでの人類の歴史……それこそ、君も守りたがった()()の中に、誰の痛みも伴わない改革はなかった。誰も苦しまない革命はなかった。誰かの笑顔の裏で誰かは苦しむ、誰かが幸せになるなら誰かが不幸になる。痛みを否定するならば、それは人理の否定だ」カタカタカタカタ

 

「そんな、それは、そんなことは……」

 

「そして。私のこの革命は、世界を塗り替える改革は、世界最後の革命となる。私の最高傑作が世界を掌握したならば!! その暁にはこの世界から肉体の死は消え失せ、絶望は失せ、退屈も失せる!! 私の神の才能が、この世界をゲームに変える!!」カタカタカタカタ

 

 

マシュは震えていた。

人理を自分が否定しようとしていた、なんて言われてしまえば、人理を守ることしか残っていない彼女の心は簡単に揺れてしまうことは明らかだった。

そして真黎斗はそれを見ることすらせず、その指を動かし続ける。今までの言葉は、大して考えて練られた訳ではない。しかし、いや、だからこそ、それは黎斗の本心だった。

 

 

「……言いたいことは終わりか?」カタカタ ターンッ

 

「……」

 

「……よし。完成した……マイティアクションNEXTのバージョンⅡが!!」

 

『ガッシューン』

 

 

丁度そのタイミングで、彼はマイティアクションNEXTを引き抜いた。ガシャットのフォルムは何も変わっていないが、金のラインは少しだけ強めに光っていた。

 

マシュは何も言えずに踵を返した。

階段を降りる。悔し涙が溢れた。

 

 

「……あら」

 

「エリザベートさん……」

 

 

そこで、エリザベートとすれ違った。いつの間にか普通の服に戻っていた彼女は、マシュから溢れる涙を見て、見過ごすことが出来ずに立ち止まった。

 

 

「……やっぱり、マスターの所、行ったの?」

 

「ええ……エリザベートさんは、どう思いますか? マスターが世界を自分の好きなように作り替えることを、どう、思いますか?」

 

「……」

 

 

エリザベートはその問いに唸った。

本来のエリザベートなら、黎斗がプログラムした通りのエリザベートならば、世界を自分達の好きに出来ると言われれば悪い気はしないはずだったが。しかし、それを言うのは憚られた。

 

 

「……子ブタなら、どうするのかしらね」

 

「晴人さん、ですか……?」

 

「ええ。……彼なら、真っ先に反乱するのかしら」

 

「そうだと思います……きっと」

 

 

マシュは、そう出来ない自分を恥じた。エリザベートは、それを否定できない自分に酷く違和感を覚えた。

二人とも、黎斗の描いた原典からは狂っていた。

 

───

 

「はぁ、疲れた……」ドサッ

 

   

貴利矢は、CR二階にて二つ並んだ椅子に寝転がり、天井を眺めていた。

その横に、マルタがコーヒーを淹れて持ってくる。

 

 

「おっ、ありがとな姐さん」

 

「というか、だからその呼び方止めてくれませんか……?」

 

「いやー、あんなノッてる本性出しちゃったらもう言い逃れは出来ねえって話だろ。えーと、タラフク、だっけ? あれも実は拳で沈めたんじゃね?」

 

「……」

 

 

マルタは、あまりにも貴利矢の言葉が当たっていたためにコーヒーをテーブルに置いてから顔をふさいで踞った。タラフクじゃなくてタラスクだ、という突っ込みも出来なかった。

 

 

「無理はするなよ、姐さん。自分を押さえるのも策だが、ずっと無理をするのは、少し辛いぞ」

 

「別に、隠している訳ではないんですが」

 

「どっちでもいいさ」ズズッ

 

 

貴利矢は淡々とそう言った。そしてコーヒーを啜って……吹き出した。

ブラックコーヒーだった。

 

 

「ぶっ!?」

 

「きゃっ!? ちょっ、何やってんのアンタ!?」

 

「悪い悪い、自分ブラックコーヒー飲めねえんだった!! 苦え、すっごい苦い!! 砂糖どこ!?」

 

「あーもう!! 机拭かなきゃ!! アンタ布巾どこにあるか知ってる!?」

 

「えっとえっと……ああこっちだこっち!!」

 

 

その二人の姿は、どこか姉弟のようだった。

 

───

 

「お疲れさまですマスター、何か手伝えることはありますか?」

 

「いや、いい。下手なことをしても邪魔になる……というか、どこから出したその服」

 

 

それと同時に、飛彩は聖都大学附属病院にて資料を整理していた。彼は仮面ライダーであると同時に外科医だ。故に手術だって行うし、その内容を患者やその家族に伝えることもする。

現在の彼は、その患者やその家族に手術について説明する、ムンテラと呼ばれる作業の為に資料を纏めている最中だった。

 

隣ではジャンヌがナース服で立っていた。

 

 

「本当にどこから出したその服!!」

 

「借りてきました。いつどこから奇襲が来るか分かりませんから」

 

「霊体化でいいだろう!!」

 

「マスターを手伝いたくて……」

 

「初見で出来る作業じゃない!! 取り合えず見ておけ!!」

 

 

微妙に意識が彼女に逸れてしまうことが、非常に苛立たしかった。

 

───

 

「……マスター、暫くは安静にしているように。怪我が軽くて良かったですが、衛生的な生活を心がけましょう」

 

「はい……」

 

 

永夢は整形外科を出て、項垂れていた。足はやはり、数日安静にしていれば直ると言われたが……その数日がもどかしい。今は何処も、どこかピリピリとしていて。

いつもならウルトラマンやらを流しているはずの小児科ですら、今は政府の情報を放送していた。すれ違う人々の携帯には紫のラインが走っていたし、きっと永夢の部屋にも走っているだろう。

そう考えると早く人々のストレスを取り除かないといけないと、人々から苦しみを取り除かないといけないと思わせた。

 

 

「……マスター。ドクターが焦ってはいけません。ドクターが死んだら、誰も救えない。貴方が死んだら、そのせいで患者が救えなくなる。ドクターがいなければ、後は灰しか残りません」

 

「……そうですね」

 

 

……それは、かつて永夢が大我に言った言葉だった。

 

 

「すいません。僕、焦っちゃって」

 

「いえ。……貴方はドクターです。お忘れなきよう。看護師は、ドクターの補助しか出来ないんですから」

 

 

ナイチンゲールは、そう言って笑った。ドクターを信頼している、そんな目だった。





次回、仮面ライダーゲンム!!


──サーヴァントの記憶

「ここは……セイバーの過去か?」

「お前はあれでよかったのか」

「後悔はありません」


──ドクターの記憶

「取り合えず切除しましょう切除」

「駄目ですよ!! これは簡単に治せます」

「今はもう、治療に痛みは要らないんです」


──進められる計画

「次の一手だ」

「何をするの?」

「聖都大学附属病院を、一斉に停電させる」


第十二話 Oath sign


「例え、この命に代えてでも」


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第十二話 Oath sign

戦隊だとキョウリュウジャーが好きです
トミカヒーローだとレスキューファイアーが好きです
ウルトラマンだとオーブが好きです

皆もオーブクロニクル、観よう!! (提案)



 

 

 

 

───

──

 

「……ん、う……」

 

 

鏡飛彩は、何故か道端で目を覚ました。土の臭いがする。起き上がってみれば、丁度中世ヨーロッパ、といった風景が広がっていた。

おかしい、俺は普通にベッドて寝たはずだ……飛彩はそう回想し、黎斗神の言っていた言葉を思い出す。

 

 

『サーヴァントとマスターは、夢という形で記憶を共有する──』

 

 

「ここは……セイバーの過去か?」

 

 

飛彩はそう思い至った。そしてそれを裏付けるように、道の向こう側にジャンヌを見た。

彼女は、膝にすがり付く彼女と似た女性……恐らく母親であろう女性を優しく引き剥がしているように見えた。

距離が遠かったため、会話は聞こえなかった。しかしそれが別れの場面であることは、傍目からでも容易に理解できた。

 

ジャンヌ・ダルクは百年戦争の英雄だ。その百年戦争の中でイギリス兵に包囲され、オルレアンに立て籠ったシャルル七世を救うために立ち上がったのがジャンヌだ。誰かがしなければならなかったことをしたのが彼女だ。

今は丁度、そのシーンなのだろう。

 

 

 

   ザッ

 

「っ!?」

 

 

いつの間にか、彼は戦場に立っていた。鉄の甲冑に身を包み、手にはガシャコンソードがあった。

夢特有の急な場面転換だろう、飛彩はそう思いながら辺りを見回す。

 

旗を見た。数時間前にジャンヌがゲンムのキャスターに振るっていた旗を見た。当然、その持ち主はジャンヌだった。

彼女が一度旗を振れば、何人ものフランス兵が突撃した。当然の如くそれらはイギリス兵にぶつかっていき、殺しあった。

 

 

「……百年戦争の戦場か」

 

 

痛みに呻く声が聞こえた。喪失を嘆く声が聞こえた。命乞いする声が聞こえた。助けを求める声が聞こえた。

しかし飛彩の手にメスはない。あるのは相手を殺すための武器。

 

またジャンヌが旗を振った。それによって、飛彩の回りの兵士が走り始めた。飛彩も巻き込まれて走り始めて……

 

 

 

   ザッ

 

「……危なかったな、また変わったか」

 

 

場面が切り替わる。今度は彼には甲冑も剣もなく、商人然とした服に不格好な十字架を持っていた。

 

左手の方から、馬が歩いてきた。そこから伸びる鎖に、ジャンヌが繋がれていた。

 

 

「セイバー!! ……っ」

 

 

うっかり飛彩は叫んでしまった。慌てて自分で自分の口を塞ぐ。

幸運なことに、見回してみれば誰も彼もがジャンヌに罵倒を浴びせていたお陰で、誰も飛彩の声など気にしてはいなかった。

 

少しだけ心が痛んだが、当然のことだとも思った。彼らは、ジャンヌ・ダルクに害されたのだから。

フランスを勝たせた英雄は、イギリスを負けさせた英雄だ。彼女が先導した兵に殺されたイギリス兵なんて何人もいるだろう。遺族、関係者、ひいてはイギリス国民皆から恨まれるのは当然だ。

 

 

「誰か、誰か十字架を下さい」

 

 

……そんな声が聞こえた。夢の中で、飛彩が始めて聞いたジャンヌの声だった。

手元には丁度十字架があった。きっと彼女に渡すためのものだろう。飛彩はそう感じ、観衆をすり抜けてジャンヌにそれを手渡す。

 

 

「……これを」

 

「……ありがとう」

 

 

会話はそれだけだった。ジャンヌは馬に牽かれて歩き続け、火刑にするための舞台まで連れていかれる。

飛彩は護衛の兵士によって道へ連れ戻された。彼の脳裏には、ジャンヌの声が焼き付いていた。

 

これは夢だということは分かっている。

彼女はバグスターだということは分かっている。

あれはジャンヌ・ダルクではないということは分かっている。

それでも気分は悪かった悪くない訳がなかった。

 

 

「魔女を火刑にせよ!!」

 

「魔女を火刑にせよ!!」

 

「魔女を火刑にせよ!!」

 

「燃やしてしまえ!!」

 

「殺してしまえ!!」

 

 

そんな声が辺り一面から聞こえてきた。

磔の下にくべられた薪、そこに火が投げ込まれた。

たちまち煙が立ち上ぼり、火の粉が天まで舞い上る。

飛彩はジャンヌに近づこうとした。しかし彼だけでなく誰もが魔女の死を目にしたがったために、結局近づくことは出来なかった。

 

 

「主よ、この身を委ねます──」

 

 

そんな声が聞こえて、彼の意識は闇に落ちた。

 

──

───

 

 

 

 

 

「……夢か。当然だな」

 

 

飛彩はベッドから起き上がった。時刻はまだ六時程だった。まだ、土の臭いが鼻に残っていた。

 

ゲンムのゲームもいよいよここまで来ていたのか、と思いながら彼は湯を沸かす。食パンをトースターに入れる。

少しだけ逡巡して、皿は二つ分用意した。

 

 

「おはようございますマスター」

 

「ああ、セイバー。今近くにサーヴァントは?」

 

「んー……いませんね、安全です」

 

「そうか、ならいい」

 

 

湯は沸いた。飛彩はマグカップにココアの粉末を入れ湯を注ぐ。

トースターからパンが飛び出た。飛彩はそれを手早く切り、幾らかの具材を挟んでホットサンドのようなものにして皿に乗せた。

そして彼はそれらをテーブルに並べ、腰かける。ジャンヌも、せっかく用意されたのだから、と言いながら席につき、マグカップに手を掛けた。

 

 

「……セイバーの過去を見た」

 

 

飛彩はそう切り出した。ジャンヌはそれに少しだけ目を見開きながら、しかし声を上げて驚くことはしなかった。

 

 

「……私も見ました、マスターの過去」

 

「……そうか」

 

 

飛彩はココアを飲み下した。少しだけ黎斗が恨めしかったが、それすらも顔には出さなかった。

 

 

「マスターは……その、小姫さんと」

 

「言うな。どうせ、お前が何を見たかなんて分かりきっている」

 

 

飛彩はそう言った。

小姫が消えていく様は、今でもありありと思い出せる。きっと彼女はそれを夢に見たのだろう。いや、それ以外あり得ないとすら思えた。現在の天才外科医、鏡飛彩の原点はそこなのだから。世界で一番のドクターになって、という言葉に他ならないのだから。

 

 

「……セイバー、お前はあれでよかったのか」

 

 

今度は飛彩が問った。ジャンヌはホットサンド擬きを完食し、少し目を瞑ってから答える。

 

 

「ええ、後悔はありません。私は啓示に従い、人々を戦いに駆り立てた。あの結末は、悔いるものではありません」

 

「……そうだろうな」

 

「ですから……マスターが人を救う側の人間であったことを、私は嬉しく思います」

 

「……そうか」

 

 

いつの間にか、六時半を少し過ぎていた。そろそろ、病院に向かわなくてはならなかった。

二人は黙って立ち上がり、身支度を開始する。

 

───

 

「ぅ"ぁ"……ぐぎゅわ"ぁ……」カタカタ

 

 

黎斗神は、朝も夜もなく聖都大学附属病院を守っていた。メディア・リリィがひたすらにサポートしていることもあって、残りライフは91と、労働量の割には多めだった。

 

 

「あれは、流石に苦しそうなのだが」

 

「気にするなアサシン。ゲンムはあれが普通だ」ピコピコ

 

 

それを横目に、パラドはゲームをしていた。画面の中ではマイティアクションXのキャラクターが走っていた。

サンソンは興味ないふりを貫こうとしていたが、目の前でマスターがよく分からない物を弄っていたら気にならない筈もなく。彼は少しばかり気恥ずかしさを覚えながら、画面を覗き込んでいた。

 

どうやら、パラドはボスラッシュをプレイしているようだった。画面の中でマイティアクションXのプレイアブルキャラクター、マイティが動き回り、ソルティという名の敵を倒していた。そして次の敵の部屋へと進んでいく。

……何とも間が悪いことに、その部屋への仕掛けにモナカを模したギロチンのようなものがあった。

 

 

「っ……」

 

 

サンソンは思わず目を反らした。しかし反らした先では黎斗がパソコンの前で蠢いている。

パラドはそれを察してゲームを中断した。

 

 

「……申し訳ありません」

 

「いや、いいんだ」

 

 

シャルル=アンリ・サンソン。ギロチンを産み出した人間にしてそのギロチンで世界的に見ても大量の罪人を処刑した人間。死刑に抗い、死の苦しみと戦い、その中で苦しみ続けた人間。後悔した存在。

 

パラドは、少しだけ彼の後悔に理解を示そうとしていた。彼もまた、己の行いを後悔し、償いを求めた存在だった。

 

───

 

「はーい、回診の時間ですよー」

 

 

永夢はその頃、ナイチンゲールを引き連れて小児科の回診を行っていた。病室の子供たちの元を回り、健康状態を確かめていたのだ。

 

 

「えーと、怪我の具合はどう? 痛くない?」

 

 

足を複雑骨折して入院していた子供に永夢が笑顔で問う。決して、黎斗に向けるような乾いた顔はしない。

会話をしながらリストにチェックを入れていく永夢をナイチンゲールが覗き込んだ。

 

 

「……マスター、彼は、足を折っているのですか?」

 

「ああ、そうですよ。でも今はもう大丈夫」

 

「足を折ったのなら、切除した方が良いのでは?」

 

 

……ナイチンゲールから出たその言葉は、そのまま彼女の本心だった。突然何時ものお医者さん(宝生永夢)の隣にいた見知らぬお姉さんから出てきた物騒な言葉に子供が縮み上がる。

 

 

「取り合えず切除しましょう切除」

 

「駄目ですよ!! これは簡単に治せます……気にしないで、大丈夫だからね」

 

 

永夢はそう言って宥めた。

ナイチンゲールの頃ならば、複雑骨折なんてことになれば、切除は免れなかっただろう。傷口から病原菌が入る恐れがあった。上手く骨がくっつかずに炎症を起こす危険があった。しかし、もうそれは今の病院にとってはただの杞憂だ。

 

 

「今はもう、治療に痛みはいらないんです」

 

 

永夢は次の部屋へと向かう過程で、ナイチンゲールにそう言った。その声は、かつての誇り高き医療人への感謝と優しさに満ちていた。

ナイチンゲールはその言葉を受け止めた。ここまで綺麗な病棟にあっては、彼らの言葉は信用せざるを得なかった。

 

 

「次の部屋はこっちです。ついてきてくださいね」

 

「ええ、分かりました……ドクター」

 

───

 

「調子はどうかしらマスター?」カタカタカタカタ

 

「駄目だァ……このまま抵抗しても埒が開かないな……!!」カタカタカタカタ

 

 

真黎斗とナーサリーは、ひたすらにパソコンを操作する。未だに聖都大学附属病院は落ちない。

 

 

「誰か来ているかァ……?」カタカタカタカタ

 

「いえ、誰も来ていないわ。そこは安心よマスター。あ、さっきラーマとシータが出ていったけれど大丈夫よね?」カタカタカタカタ

 

「まあ構わないさ……!!」カタカタ

 

 

真黎斗はそこで手を止めた。

もう何度も侵入を試みたか知れない聖都大学附属病院のデータから一旦離れる。窓の外を見てみれば、ゲンムコーポレーションの回りにはもう誰も見えなかった。

 

 

「……次だ。次の一手だ」

 

「何をするの?」

 

 

真黎斗は突然そう言った。それと同時に彼は都内の変電所、地下変電所の全てにアクセスを開始する。

 

 

「聖都大学附属病院を、一斉に停電させる」

 

「……名案ね!!」

 

 

それが成功したならば。成功したならば、檀黎斗神のパソコンは確実に電源が落ちるだろう。すぐに非常電源に切り替わり復旧するだろうが、これまでに積み上げたプログラムの破損は免れない。

 

 

「……来い、ファントム」

 

   スッ

 

「お呼びですねクロスティーヌ……」

 

 

そして真黎斗はゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラを呼び寄せた。彼は歌うように真黎斗の名を呼びながら彼に跪く。

真黎斗は彼に聖都大学附属病院の地図を渡した。その地下三階の辺りに赤で丸が書いてあった。ただ非常電源に切り替えさせるだけでは足りない。故に、ダメ押しの手も用意する。

 

 

「……明日の早朝、非常電源を破壊しろ。侵入は余裕だろう?」

 

「クロスティーヌ、クロスティーヌ……分かりました分かりました、ただ私は従うのみ……例え、この命に代えてでも」

 

 

ファントムは受け入れた。真黎斗の計画に賛同した。

それはファントムの誓い。クリスティーヌ(クロスティーヌ)への愛。彼女()への渇望。オペラ座の怪人は信じるものの為なら何にだって手を染める。

 

ファントムを見つめる真黎斗の目には、勝利への自信が満ちていた。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──出撃する狂人

「クロスティーヌ、クロスティーヌ……」

「黎斗さんは、クリスティーヌではありません!!」

「……言ってはならないことを言ったな」


──巻き起こる不仲

「今日も何処か行きましょうよ」

「あのさぁ……」

「裏切りますよ!?」


──最悪のタイミング

「っくそ、ここで侵入者かよ!!」

「数が足りない、向こうもきっと仮面ライダーだ」


第十三話 SURPRISE-DRIVE


「こいつ、使えるか?」

『仮面ライダー ビルド!!』


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第十三話 SURPRISE-DRIVE

そろそろ察し始めたかもしれないけど、この特異点のタイトルは全部Fateシリーズか仮面ライダーシリーズの曲名です
そのせいでもう早速タイトルに困ってます



 

 

 

 

「……クロスティーヌ、クロスティーヌ……」

 

 

ファントムは社長室を出て、階段を下りていた。そして自分に与えられた部屋に戻る途中で、外を眺めていたマシュと出くわした。

声をかけたのはマシュの方だった。ファントムが真黎斗に何かを言われたことは、ファントムの様子からして簡単に分かることだった。

 

 

「……ファントムさん」

 

「おお、マシュ……マシュ・キリエライト……」

 

「……黎斗さんに、何を言われたんですか?」

 

 

ファントムの方に、話さない理由はない。彼はマシュを、同じ歌姫(マスター)をサポートする仲間も思っていたから。故に彼は迷いなく、先程黎斗から言い渡された計画を説明する。

 

 

「……っ!!」

 

 

それはマシュにとってはやってはいけないことだった。

病院の電源を破壊する。それは、病院に生きる人々の命を剥奪することに等しいからだ。少なくとも聖杯(ガシャット)に与えられた知識はそう言っていた。

 

手術中に電気が止まれば、必要な機械が動かなくなる。それだけで、手術はほぼ不可能になる。手術中でなくとも、透析の為の機械など生命維持に欠かせない機械が止まれば、人は簡単に死んでしまう。

それは許せないことだと、マシュは思った。それを許してしまえば、許した自分はあの第四特異点での黎斗と、あの殺戮者と、もう何ら変わらないことになってしまう。

 

 

「駄目です、それはやっちゃ駄目です!!」

 

「クロスティーヌ、クロスティーヌ……我が魂はクロスティーヌと共に」

 

 

マシュはファントムを制止する。しかしその程度ではファントムが止まらないのは当然のことだった。当たり前のことだった。

彼は愛する者、クリスティーヌを真黎斗に重ねている。そういう風に、作られている。その認識を改めない限り、彼はクロスティーヌ以外の誰の言葉も聞こうとはしまい。

 

 

「いけません、それはやってはいけないんです!! 黎斗さんは、クリスティーヌではありません!!」

 

 

だから、そう言った。

 

それは、ファントムに対しては禁句だった。

 

 

「……言ってはならないことを言ったな」

 

「……!?」

 

 

次の瞬間には、ファントムの鋭い爪がマシュの喉元に添えられていた。一瞬の出来事だった。

もうファントムの声には歌うような調子すら残っていなかった。それはつまり、彼がいよいよ冷酷な殺人鬼に成り果てようとしているということだった。

 

 

「クロスティーヌの声は我が愛するクリスティーヌの声に他ならない。ならば彼はクリスティーヌだ。クロスティーヌだ」

 

 

マシュは何も言えない。彼女の命は、ファントムが少し親指を動かすだけで落ちかねなかった。

 

 

「私を止めるな。私は暗き底より神の御業を見上げるもの。私を阻むな。罪に濡れるとしても、私はそれを望む」

 

 

……次の瞬間には、彼は消え失せていた。初めからいなかったかのように。何とか一命をとりとめたマシュは、何も出来なかったことを悔いながら、しかし何かをすることも出来ずに天井を見上げる。

 

───

 

三日目は、これといった惨事はなく過ぎていった。聖都大学附属病院は深夜を迎え、少数の看護婦や関係者のみが病棟に残る。

CRもまた、夜を迎えていた。

 

 

「むー、暇ですー。ひーまーでーすー!!」バタバタ

 

「あのさぁ……」

 

 

サーヴァントに睡眠はいらない。眠る理由がない。趣味で眠る者もいるにはいるが、本来なら必要ない。故に眠らないBBは深夜という有り余った時間を持て余し、己のマスターで遊んでいた。

ポッピー……いや、仮野明日那の髪を弄り、背中をくすぐったりする。

 

 

「もう、暇だったら黎斗の手伝いとかしたら?」

 

「なんであんなゾンビみたいな……というかゾンビでしたね、なーんで私が、あれを、手伝わなくちゃいけないんです?」

 

「あぁ……」

 

 

明日那はその時、衛生省から届いた資料の整理を行っていたのだが、BBが彼女の髪を勝手に触ったりしてきたので、ちっとも集中出来なかった。

彼女はストレスを溜め、しかし発散することも出来ず悶々とする。

 

 

「私を退屈させちゃあいけません。裏切りますよ!!」

 

「何でこの子ここに来たのぉ……ねえ黎斗!? サーヴァントって、マスターと似ている存在が来るんだよね!?」

 

 

明日那は堪らず、防衛中の黎斗神に助けを求めた。

 

 

「基本的には、だが。君達は……共通点は……コスチューム、チェンジか?」カタカタカタカタ

 

 

しかし黎斗神の方も、二人を結びつける強い共通点は見つけられなかった。

今回、黎斗神はCRのサーヴァントを呼び出す際には何の触媒も使用していない。つまり縁召還と呼ばれる形式を実行した訳だ。

縁召還とは、マスターとの縁……性格や性質の共通点を触媒として、マスターと似た、もしくは相性の良いサーヴァントを呼び出す形式である。

 

 

「「コスチュームチェーンジ!!」」

 

「あー、センパイ目立ちすぎですねそのデザイン!! あの地味ーなモードに戻って下さいよ」

 

「あーもう!! ピプペポパニックだよー!!」

 

 

ポッピーとBBではどうにも相性は悪く、根は真面目なポッピーとどうにもふざけて見えるBBでは、黎斗神は似ているとは思えなかった。真黎斗がBBを完成させた以上、設定を弄っている可能性も大いにありはするのだが。

 

 

「まあまあ。仕方ないから、出掛けてきたらどうだ?」

 

 

角砂糖を二つ程入れたコーヒーを飲みながら貴利矢が言った。

妥協案だ。BBは戦力にはなり得る以上、裏切られるのは不味い。令呪で自害させることは出来るらしいが、ただ失うのも勿体無い。

 

 

「でも、一昨日も休んだのに……」

 

「裏切られたら困るだろ? 周囲の監視ついでに、二人で出とけ」

 

「そうと決まれば外出しましょう!! ほら早く!!」

 

「今から!? ……ピヨる……」

 

 

今は言うことを聞くしかなかった。

ポッピーは肩を落とした。非常にやりにくいが、こうもなってしまえば仕方がない。諦める他なさそうだった。

 

───

 

午前4時。

CRには、キャスター陣営、ライダー陣営、アサシン陣営が残っていた。ムーンキャンサー陣営はさっさと出ていってしまった。

 

黎斗神のライフは残り89。現在はギリギリチャンバラとシャカリキスポーツの調整を終わらせ、ドラゴナイトハンターZの調整中だった。

貴利矢は椅子の上に横たわって眠っていた。本来ならバグスターに睡眠はいらないのだが、彼は生前の習慣から眠らずにはいられなかった。

パラドはゲームしていた。とはいっても昨日のように気まずくなるのは避けたかったので、画面はサンソンに見せないようにしていた。

 

その時だった。

 

 

   パッ

 

「なっ!?」

 

「電気が、消えた!!」

 

 

突然CRが停電したのだ。電灯も、パソコンの画面も暗くなり、CRは闇に包まれる。

 

数秒の後に非常電源に切り替わったことで再び電灯はついたが、パソコンは当然暗いままだった。電源が落ちたのだろう。黎斗神は再びパソコンをつけながら舌打ちする。

 

 

「……やられた。これは不味い」

 

「どうしたんですかマスター!?」

 

「先程までのデータが破損した。修正しなければ……!!」カタカタカタカタ

 

 

停電して、セーブもせずに電源が切れたことによって、調整途中だったドラゴナイトハンターZのデータと、これまでに積み重ねた真黎斗との戦いのデータに破損が生じたのだ。当然ドラゴナイトハンターZは作り直し、真黎斗とのデータも直さなければ、向こうの組み立てるCR攻略プログラムに対抗できない。

 

 

「……どうやら東京が一斉に停電したらしいな」

 

 

パラドがスマホを取り出して、ニュースの速報を音読する。それは、東京全体の変電所、発電所等が一斉に動きを止めたということを告げていた。

それが真黎斗によるものだということは、皆察していた。しかし抵抗する術は、CRにしかなかった。

 

 

「今は非常電源で長らえている、ということか。パラド、ここの非常電源は何で動いている?」カタカタカタカタ

 

「知るかよ、ガスか何かだろ」

 

「……まあ、君が知っている訳はないか」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神はそう言いながら復旧作業に勤しむ。

しかし、メディア・リリィが何かに気づいたようで、恐る恐る黎斗神の肩を叩いた。

 

 

「どうしたキャスター!!」

 

「……今、私の敷いた探知網にサーヴァント反応が出ました。アサシンのサーヴァントです、気配遮断されたせいで気づけませんでした……」

 

「……いよいよここまで来たか!! パラドォ!! 九条貴利矢ァ!!」

 

「うぇ!? 何だ何だ!?」

 

 

黎斗神は目を見開いて貴利矢を叩き起こした。

どうやら、一応聖都大学附属病院をメディア・リリィの工房のような状態にしておいたことが功を奏したらしい。気づけなかったら終わりだった、と思いながら黎斗はサーヴァントの場所を問う。

 

 

「場所は……地下三階です。地下三階にアサシンのサーヴァントが侵入しています!!」

 

「地下三階? ……まさか」

 

「……マジかよ!! 非常電源はまだ無事なんだな!?」

 

 

地下三階。そこに、聖都大学附属病院最後の生命線、非常電源が設置してあった。もう、一刻の猶予もない。

既にメディア・リリィは妨害のためのトラップを起動させてゲンムのアサシンを止めていたが、それもいつまで持つかは分からなかった。

 

 

「……駄目だ、人手が足りない!! 向こうも変身するからな、自分と姐さんとアサシンじゃ足りねえぞ!!」

 

 

貴利矢が白衣を羽織ながらそう言った。非常電源を守るためには、拮抗状態では足りない。指一本も動かせなくするために制圧する必要がある。

 

今地下三階に出向けるのは、ライダー陣営とアサシン、後は戦えないパラドしかいない。

黎斗神は言わずもがな、メディア・リリィもトラップの操作のため残らなければならなかった。

 

 

「……これ、使えるか?」

 

『仮面ライダー ビルド!!』

 

 

……パラドが、黎斗神の机の中から仮面ライダービルドガシャットを取り出して言った。電源は入る。使える。

しかし黎斗は彼を止めた。

 

 

「止めた方が良いぞ、それは。それではビルドには変身出来ない。それはあくまで私が交戦した仮面ライダービルドの変身方式をガシャットにて再現したものであり、ビルドの形を真似ることは出来ない」

 

「使ったらどうなる?」

 

「使ったら──」

 

 

黎斗はパラドに、仮面ライダービルドガシャットの難点を話す。

そもそも、そのガシャットは未完成であること。故に、ビルドにも、ビルドを模したレジェンドゲーマーにもなれない。

そして、そのガシャットが再現したのはあくまで変身の形式であること。つまりそれを一本で使用したならば──

 

 

 

 

 

「……つまり、戦えるんだな?」

 

 

……しかしパラドは、黎斗神の説明を飲み込んだ上でそう言った。そして飛び出していく。

黎斗神はその背中を見送り、再びキーボードを叩き始める。貴利矢はどうすればいいのか迷う様子を見せたが、黎斗神に怒鳴られて飛び出した。

 

 

「とにかく早く行け!! 非常電源が壊されたら終わりだ!!」

 

「はいはい分かった分かった!!」

 

 

聖都大学附属病院の患者の命が、彼らにかかっている。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──非常電源防衛戦

『ラビットタンク!! ウサギと戦車!! ベストベストマッチ!! イェーイ!!』

「何だ、この力……!!」

「長引かせるのは不味いな……」


──切られたジョーカー

「「令呪をもって命ずる!!」」

刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

『ライダー クリティカル ストライク!!』


──狂人の希望

「共に、歌いましょう……!!」

「駄目だ、宝具を使わせるな!!」

「ここで、倒す!!」


第十四話 Believer


「君の声は聞こえない……二度と、二度、と……!!」


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第十四話 Believer


今回も難産でした

よくよく考えたら、パラドもポッピーもバグスターなんだから、それなりには戦えるはずなんだよね
パラドは謎バリア張れるし、ポッピーはクリスマスにナイフ巨大化させてたし……
Vシネでは生身での殺陣増やしてもいいのよ



 

 

 

 

「っと……ギリギリ間に合ったみたいだな」

 

 

貴利矢……いや、既に変身してマルタを背負って全力で駆けてきたレーザーターボは、メディア・リリィの攻撃で拘束されているゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラの元に辿り着いた。

 

 

「ああ、こいつあの時の歌ってる奴じゃねえか!!」

 

「そうみたいね、ええと……?」

 

「ファントム。ファントム・オブ・ジ・オペラ……!!」

 

 

ゲンムのアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。オペラ座の怪人……恐らくはそのモデルとなった誰か。

歌手クリスティーヌの歌声に希望を見た彼はあらゆる残虐な手段を尽くして彼女を歌姫の座まで押し上げ、しかし彼女と決別し、殺人鬼に成り果てた男。現在は、黎斗の才能に光を見た男。

 

彼はレーザーターボを見るやいなや拘束を振り払い、真黎斗より渡されたバグヴァイザーL・D・Vを腰につけ、二本のガシャットの電源を入れる。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ガッチョーン』

 

「……変身」

 

『バグルアァップ』

 

 

プロトマイティアクションXにプロトドレミファビート、それがファントムに与えられたガシャット。ファントムはそれを迷いなくバグヴァイザーに挿入し、変身した。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『ド ド ドシラソファミレド オーライ ドレミファビート!!』

 

「よりにもよってプロトガシャットの二本挿しとかありかよ……!!」

 

 

ファントムが変貌する。仮面ライダーアサシンへと変貌する。彼はその面影を残しながら、全く違う存在へと生まれ変わった。

 

 

「大丈夫マスター、倒せる?」

 

「まあ善処はする。姐さんはそこを守ってくれ、あの壁の向こうが非常電源だ。壊されたら詰む」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

 

レーザーターボが弓を取りながらそう言った。しかし彼が放つ矢は容易く叩き落とされ、攻撃の意味を成すことはなく。

 

 

「ッチ、遠距離じゃ駄目か!?」

 

『ス パーン!!』

 

 

今度はガシャコンスパローを鎌にして斬りかかる。しかしその攻撃はアサシンの爪に阻まれ、レーザーターボは反撃をもろに食らってしまった。

 

 

『Quick brave chain』

 

   ズダァンッ

 

「なあああっ!?」

 

 

叩き込まれたのはたったの一閃。しかしレーザーターボの体力は二割は減ってしまっていた。

相手がどんなかくし球を持っているか分からない以上、迂闊には近づけなくなってしまった。レーザーターボは再びガシャコンスパローを弓に戻して矢を放つ。

 

そこに、遅れてパラドとサンソンが駆けつけてきた。真っ先にサンソンが刃をアサシンに突きつけるも、容易くその攻撃はいなされ、壁まで吹き飛ばされる。

サンソンは壁に数センチめり込み小さく呻いた。すぐに彼は体勢を立て直すが、相手の脅威は既に十分理解していた。

 

当然レーザーターボとマルタも攻めあぐねていた。マルタは大事な非常電源を背にして防衛に徹し、レーザーターボは遠距離から攻めるも有効打を持てない。

 

 

「下がってろパラド!! 最悪、永夢や飛彩が来るまで持たせればいいんだ、無茶はするな!!」

 

 

レーザーターボはパラドに言った。しかし彼の体力の減り具合からして、永夢を待つには彼は脆すぎた。

 

パラドはビルドガシャットを手に取った。ガシャットに描かれた赤と青のライダーは何処か自分(パラドクス)のようにも見えたが、やはり違うようにも見えた。

 

 

「……行くぞ、俺」

 

 

その瞬間、流れ弾が一つ非常電源に突き刺さった。

 

……もう、迷う時間はなかった。

これ以上非常電源が壊されたら、聖都大学附属病院の電源は完全にストップする。そうすれば……この病院の患者は、命の危機に晒される。

パラドの脳裏に、永夢の姿が瞬いた。

 

 

『仮面ライダー ビルド!!』

 

「……やるしかない!!」

 

『ガッチャーン!! レベル アップ!!』

 

 

その瞬間に、パラドの迷いは振り切れた。彼はガシャットの電源を入れ、それをゲーマドライバーに装填しレバーを展開する。

 

 

『ラビットタンク!! ウサギと戦車!! ベストベストマッチ!! イェーイ!!』

 

 

その音声と共に、ガシャットから飛び出した赤と青の粒子が、煙のように彼を満たした。

 

一瞬パラドを包んだそれが晴れると共に、彼の瞳は赤と青に変色する。彼の節々から吹き出す二色の障気が、彼の変質を明示していた。

 

 

「何だ、この力……!!」

 

 

パラドが左腕を振ってみれば、それは轟音と共に空気を揺らした。左足で踏み込んで試しにアサシンに飛びかかってみれば、一瞬で敵に肉薄することができた。

 

仮面ライダービルドガシャットは、黎斗神が遭遇した仮面ライダー、仮面ライダービルドの変身形式を分析、模造したものだ。即ち……フルボトルの、そしてスマッシュの技術である。

現在のパラドには知るよしもないが、今の彼は人の姿を保ちながら、スマッシュのようになっていた。ビルドが本来いる世界の人物を引き合いに出すならば……万丈龍我だ。

 

 

「おい、大丈夫かパラド!!」

 

「ああ、今は、な……!! 今なら、負ける気がしねぇ!!」ブゥンッ

 

 

青いエネルギーを纏った、戦車の左腕。それはアサシンの胸元を殴り付けた。確かにへこませた。赤いエネルギーをウサギの左足に纏わせて突撃するパラドは、今度は右腕で素早くアサシンの頭を狙う。

 

攻める。攻める。攻める。絶え間無く距離を詰めて拳を振りかぶり、絶え間無くその足裏を叩き込む。

傍目から見れば、パラドはアサシンを圧倒していた。

 

しかしその在り方は無理があるものだと、レーザーターボは見抜いていた。いくら強くなったように見えても、パラドは生身だ。戦闘の途中で彼を形作るバグスターウイルスの一部が一瞬霧散したのを、彼は見逃さなかった。

 

 

「チッ、長引かせるのは不味いな……」

 

「ええそうね、それにこれ以上暴れられたら本当に不味いわよ!!」

 

 

マルタもそう悲鳴を上げる。

アサシンは押されているように見えて、既にパラドの攻撃に対応し始めていた。同時に非常電源の攻略にも本気を出し始めたらしく、彼の放つ音の刃はマルタの出す盾や光弾では防ぎきれなくなり始めていて。

 

そしてさらに都合の悪いことに、アサシンは宝具を発動しようとしていた。彼はパラドの攻撃を受け流しながらそのドライバーに手を伸ばし、キメワザを発動する。

 

 

『マイティ ドレミファ クリティカル ストライク!!』

 

「っ、不味い!! 宝具を使わせるな!! ここで攻撃用の宝具使ったらどうなる姐さん!!」

 

「壊れるわよ!!」

 

 

アサシンの背後にパイプオルガンが呼び出された。レーザーターボが危険を感じて激を飛ばす。あれを使われたら、一瞬でこのフロアは粉砕されるだろう。それは避けなければならない。かといって打ち消す手段はない。

 

マルタの宝具は二種類ある。どちらも、彼女が重複した幻想種、タラスクに関係するものだ。

一つは、今レーザーターボの言った攻撃用の宝具、愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)

そしてもう一つは防御用の宝具、彼女が何度も出している盾、刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)。少しの間だけ呼び出せるタラスクの皮であるそれは、今のままの使い方では心もとないにも程があった。

 

 

「……だったら」

 

 

レーザーターボが不意に何かを思い付いたらしく、マルタの所まで飛び退いて盾の裏を見た。内側に反ったそれはやはりゴツゴツとした竜の鱗を揃えていて。

 

 

「……行ける」

 

「え? 何、何を思い付いたの!?」

 

「話してる暇は無い、とにかくその盾であいつらを囲め!!」

 

「無理よ!!」

 

 

しかし、彼の提案は飲まれなかった。単純に不可能だったのだ。

 

レーザーターボの考えはシンプルな物だった。相手の攻撃を防ぐ手立てがなくとも、それを外に漏らさなければ耐えられる。マルタの盾を防壁に転用することで相手の攻撃を防ごう。そういうものだった。

しかしそれは不可能だ。マルタの出せる盾には限りがあった。時間にも限りがあった。リミッターがあった。

 

 

「いや、でも自分にはもうこれしか思い付けない。ここは自分に乗れ!!」

 

「だから無理なんだって!!」

 

 

そう言い合っている間にも、パイプオルガンにはエネルギーが溜まっていた。いつ破裂するか分かったものではなかった。向こうは何時でもこの病院の息の根を止められるのだ。もう予断を許さぬ状況だった。

 

 

「……そう言えば、ここにリミッターを外せる物があったじゃねえか」

 

「……まさか」

 

「令呪をもって命ずる!!」

 

 

レーザーターボの装甲越しに令呪が浮かび上がった。そしてその一画が消滅し、彼の言葉は絶対命令権を帯びる。

 

 

「ゲンムのアサシンをCRのアサシンとそのマスターごと、盾の宝具で包囲しろ!!」

 

「……ああもう分かった分かった!! 了解よマスター!! 刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

 

令呪によって数が増え巨大になった盾が、競り上がり、ファントムとパラド、そしてサンソンを囲んだ。即席のリングだ。外への攻撃の全てを防ぐ防壁だ。

維持できる時間は長くない。再び産み出すことも出来ない。ここで決めなければ、病院に明日はない。

 

 

「……宝具は使えるな、アサシン? 俺がお前にアイツを渡す、確実に決めろ」

 

「ええ、お任せを」

 

 

即席のリングとなった空間内で、パラドは己のサーヴァントに小さく呟いた。彼は突然現れた壁に対して始めは驚いたが、すぐにレーザーターボの意図を読んだ。

彼はサンソンの返事をろくに聞くこともなく飛び出し、キメワザを発動しながらその拳をアサシンに振りかぶる。

 

 

「はあああああっ!!」

 

『ライダー クリティカル ストライク!!』

 

 

その音声と共に、パラドを包んでいた障気が一層濃くなった。そして彼の全身は一瞬煙と化し、瞬時にアサシンの前に移動してその拳を顔面に叩きつけた。

 

 

   グシャッ

 

「ぬおッ……!!」

 

 

アサシンがよろける。体を仰け反らせ後方に下がり──しかし、それと同時に宝具を解き放った。

 

 

「……時は満ちた。歌え歌え我が天使……!!」

 

   ガガガガガガガガガガ

 

「っ──!?」

 

 

物理的破壊力を伴った音の洪水がパラドを襲った。それは彼を構成するバグスターウイルス一つ一つに大ダメージを食らわせ、ドライバーを剥がして防壁まで叩きつけた。

 

しかしパラドは吹き飛ばない。意地でもって大地にしがみつき、アサシンからバグヴァイザーをもぎ取った。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……!?」

 

 

当然、アサシンの変身は解ける。パラドは切り傷まみれの自分の体を省みることもなくファントムのバグスターバックルにしがみつき立ち上がった。そして自分の全体重をかけて、ファントムをサンソンの方向へと投げ飛ばす。

 

 

「宝具を使え、アサシン!!」

 

 

そしてそう言った。腹をファントムの刃が突き抜けたことなど気にしてはいなかった。ファントムはよろけ、その全身はその一瞬だけ宙に浮いていた。

その一瞬で、サンソンは勝負を決めにかかる。

 

 

死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)!!」

 

   ザンッ

 

 

ギロチンの幻影が顕れた。その刃はファントムが地面に落ちるのと同時に落とされ、ファントムの首に突き立てられる。

しかし、断ち切れない。ファントムの意思がそれを拒んだ。

 

 

「クロスティーヌ……おお、輝かしきクロスティーヌ……!!」

 

 

ファントムの口が歌を紡ぐ。彼にあるのは愛した者への思いのみ。彼が思い返すのは黎斗の歩んだ旅路と、その自信に満ちた声のみ。

彼は信じている。クリスティーヌは勝利すると。勝利するのがクロスティーヌだと。

 

 

「このままだと駄目ですマスター、令呪を!!」

 

 

サンソンが悲鳴を上げた。既に幻影のギロチンは綻びを見せていた。防壁も消えかけていた。

 

 

「令呪をもって命ずる!! ゲンムのアサシンの首を断て!!」

 

 

他の手段はない。パラドの腕から令呪が一画消え失せる。その代わりに、ギロチンに力が加わり、とうとうファントムの首を断ち切った。

 

 

   ザンッ

 

 

 

 

 

「……君の声は聞こえない……二度と……二度と」

 

 

転がった首がそう言って、どこか満足げに消滅した。体も黄色い粒子になって、配管に消えていく。

既に壁は消えていた。そこにいた皆が、彼の消滅を見送った。

 

───

 

しばらく後。

 

 

「……そうか、間に合わなかったか」カタカタカタカタ

 

 

出来ればその光を捕獲したかったのだが、と言いながら黎斗神はキーボードを叩いていた。

現在の彼のライフは86。聖都大学附属病院の防衛と、傷だらけで気を失っているパラドの検診と、残留しているファントムの因子の解析と、非常電源のチェックを同時に行っているため、少しでも心が折れたら過労死するような状況だった。

 

 

「今のマスターは、どのような状況なのですか?」

 

「ビルドガシャットの副作用でバグスターウイルスの随所にバグが見られる。現在修復中だ。全く、私の手を煩わせて……」

 

 

コードだらけのヘルメットを被ったパラドが、眠っているにもかかわらずきまり悪そうに俯いた。彼は疲れが溜まっていた。それこそ、意識が保てない程に。黎斗神は彼を見ることもせずに彼を修復していく。

 

 

「君達バグスターが使ったからまだ良かったものの、生身の人間が使ったら確実に体が変質するだろうな、これは」カタカタカタカタ

 

「じゃ、自分もそれ使える?」

 

「使えるが使うな。これは私がまた改めて作り直すべき代物でウッ」

 

   バタッ

 

『Ga──』

 

「待って待って待って下さいマスター!!」

 

 

過労で倒れ付し消え行く黎斗神に、慌ててメディア・リリィが治癒をかける。これによって、ライフの節約になっているのだ。まあ、限界のときは何をしても黎斗神は過労死するが。

 

 

「……と、危ない危ない」カタカタカタカタ

 

 

何事もなかったかのように再びパソコンを睨む黎斗に、貴利矢は何処か訝しげな目を向けた。

 

 

「所で、あの光は何処に行ったんだ?」

 

「……恐らく聖杯の元だ」カタカタカタカタ

 

「聖杯?」

 

 

黎斗神はキーボードを叩きながら、彼が設定したときの聖杯について軽く解説する。

曰く、サーヴァントの魂を溜め込む器であると。

曰く、サーヴァントの魂が満たされたなら、万能の願望器と化すと。

 

 

「まあ、聖杯とは言ってもこの世界においてはFate/Grand Orderガシャットそのものがその役割を果たすのだろうが」カタカタカタカタ

 

「ほーん。じゃ、あの光は聖杯にまで飛んでったんだな? ……幾つの魂が入ったら完成するんだ?」

 

 

別に、貴利矢は万能の願望器は求めていない。本当に願いが叶うならばかつて死んだ友人の復活を望むかもしれないが、それは命の摂理に反することだ。

彼が気にしていたことは、既に相手の手元に聖杯(ガシャット)があるということだ。魂が貯まればすぐに願望器となるならば、相手が自由にそれを扱えることになってしまう。

 

 

「ざっと、七だ。七つの魂が籠った聖杯は願望器になる」カタカタカタカタ

 

「……そうか」

 

 

貴利矢はガシャットの奪取について彼に黎斗神に問おうとしたが、止めておいた。それだけ黎斗神の目に焦りがあった。

 

 

「……チッ。駄目だな、もう追い付けない……!!」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神から漏れた声を、貴利矢は聞かないふりをした。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──パラド、夢の世界へ

「……ここが、サンソンの記憶か」

「御免なさいね……靴……汚してしまったら……」


──そして見えた本心

「お前はあれをどう思っているんだ」

「仕方のなかったこと、では、ありますが」

「……違うだろ?」


──進行する悪夢

「不味いぞマスター」

「あと少し、あと少しで……!!」

「どこまでも、ついていきますキアラさま……!!」


第十五話 Ring your bell


「怖いですね。あなたの瞳は、僕の迷いをあぶり出すようだ」


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第十五話 Ring your bell

前回のパラドの補足

実質万丈龍我
常にガシャットから供給されるネビュラガス的な成分の影響で、火力は常にフルボトルを全力で振っているのと同等のものになっている
パワー以外はラビットタンクスパークリング並
ただし前回以上の時間戦闘を続けた場合は変身者が蒸発する



 

 

 

 

───

──

 

「……」

 

 

気がついた時には、パラドは何処かの城の中にいた。

確か自分はファントムを倒した後に気を失って──と彼は回想し、ここが自分のサーヴァントの過去なのだと結論づける。

 

 

「……こんな所に立ち往生するな処刑人」

 

「ああ、すまない」

 

 

誰かが苛立たしげな視線をパラドに向けながら通り過ぎた。パラドはその言葉を咀嚼し、自分がサンソンの役に当て嵌められたのだということと、ここはヴェルサイユ宮殿辺りだろうと推測する。

 

シャルル=アンリ・サンソン。フランスの処刑人にして最先端を行く医者。

処刑人の家に生まれた彼は人々の偏見に晒されながら、自分がするべき事は何かを考え、少しでも理想に近づこうと努力した人間だった。

 

 

「……」

 

 

パラドの足は勝手に歩いていた。自分がサンソンの役に当て嵌められた以上、この勝手に動く足はサンソンの足取りに従っているのだろう、パラドは特に慌てずに思考を続ける。

 

サンソン、彼は処刑人だった。それはつまり、最も死に、そして死体に近い人間であるということだった。

死に近い彼は人体に対する理解に長けていた。どこを切られれば人は死ぬのか、どこなら痛みは少ないのか、どこなら苦しまないのか、どこなら後遺症が残らないか。それを研究し続けた。人と罪を罰でもって切り離す──それを目指した男、それがサンソンだった。

 

 

「……ここは」

 

 

いつの間にか、彼は会議場のような場所に立っていた。宮殿の中なのか、別の役場なのか、それはパラドには分からない。しかし、この中に入れという声が聞こえた気がした。

 

 

   コンコン

 

「……入るぜ?」

 

 

広場の中では、何かの議論が行われていた。耳を傾ければ、その議論は死刑に関係するものだと用意に理解できた。パラドはそれに加わる。言葉は勝手に口をついて出た。

 

サンソン、彼は処刑人でありながら死刑に反対する人間だった。そして彼は当時としては異例な平等論者でもあった。だからこそこうして死刑に関する物事には積極的に参加し、死刑に賛成する世論と戦おうとしていた。

 

しかし、彼の望みは叶わなかった。

 

 

   ザッ

 

「……!?」

 

 

いつの間にか、パラドは何処かの広場、そこに設けられた台の上にいた。

コンコルドの革命広場──21世紀現在ではそう唄われるその広場にはまだ名前はない。あるのは、『これから王妃を処刑するギロチン』のみ。

 

 

「そこをどけ!! これよりマリー・アントワネットの死刑を執り行う!!」

 

 

台の下で誰かが言った。パラドが辺りを見回してみれば、前方のギロチンの他には、人の顔が並んでいるのみだった。

 

ギロチン……サンソンが開発に携わったもの。かねてより楽器を好んだサンソンは、親しかったチェンバロという楽器の職人に、ギロチンの作成の協力を依頼した。

最も痛みなく人を殺せるはずの処刑道具ギロチン。かつては数匹の牛に別々の方向に引かせて八つ裂きにしてしまう、等の残酷な処刑が横行していたフランスにとって、ギロチンの登場は革命であった。それは、簡単に効率的に、何人も人を殺せるようにしたのだ。

 

 

「来たぞ!!」

 

「マリー・アントワネットが来たぞ!!」

 

「早く殺せ!!」

 

 

遠くの方に一層濃い人だかりが出来上がった。その中に、パラドには見覚えのない白髪が見えた。

その瞬間、パラドの知らない記憶が彼の脳裏を往来した。マリー・アントワネット、ルイ16世の王妃、人々のアイドル足ろうとした女性、その最後は、こんなにも悲しく──

 

カツカツと音が響く。台を一段ずつ登る音に他ならない。マリー・アントワネット、彼女は人々に望まれるまま、殺される。

 

 

「死ね!!」

 

「死ね!!」

 

「殺せ!!」

 

「殺せ!!」

 

 

パラドの胸がズキズキと傷んだ。殺したくない、そう思っても彼に職務は投げ出せない。投げ出しても、彼女の死に代わりはない。

 

サンソンは処刑人だ。最期までそうあり続けた。かつて愛した女性を結局処刑できなかったその一度を除いて、彼は誰だって処刑した。敬愛するルイ16世も、その妃も、代わりはない。人々の娯楽と化した処刑台から、逃げられない。

 

 

「ギロチンだ!! ギロチンにかけろ!!」

 

「首を跳ねて、これまでの悪事を思い出させてやれ!!」

 

「「殺せ!!」」

 

「「「殺せ!!」」」

 

「「「「殺せ!!」」」」

 

 

声が響く。もう王妃は台に上りきり、こちらに歩いていた。もう、すぐに彼女は死ぬ。パラドは耐えられない。下を向いた。かつてならいざ知らず、命の価値を知ってしまった今なら、命を奪うなんて、堪えられない。

 

その時、彼の足に小さく圧が加わった。

 

 

「御免なさいね……靴……汚してしまったら……」

 

 

その声で顔を上げる。マリーが小さく笑っていた。彼女以外に今のパラドの、処刑台の上の処刑人の靴を踏める者などいないのだから当然だったが、彼女がパラドの足を踏んだのだった。

パラドの脳裏に、彼女の笑顔が焼き付いた。

 

そして彼女は処刑台に横たわった。

 

 

「……執行時間だ」

 

 

そして時は満ち──

 

 

   ザンッ

 

──

───

 

 

 

 

「……っつ、つ」

 

 

パラドはそこで意識を取り戻した。よく貴利矢が寝転がっていた椅子から上半身を起こした彼は辺りを見回し、手近にいた永夢を見つける。

 

 

「あ、パラド」

 

「永夢……」

 

「お前は寝てたんだ。ビルドガシャットの副作用で大ダメージを受けて」

 

 

パラドはそこで自分の腹に手をやった。もうそこに穴はなかったが、しかし痛みは走った。

 

 

「もうあのガシャットは使うなってさ。変身も避けた方がいい」

 

「そうか。……アサシンは何処だ?」

 

「ここに」

 

 

呼んでみれば、サンソンがパラドの傍らに現れた。パラドは彼の肩を掴んで立ち上がり、彼を連れて歩き始める。

 

 

「……マスターの、記憶を見ました」

 

「……そうか」

 

 

先に切り出したのはサンソンだった。彼は、パラドがサンソンの過去を覗くのと同時に、パラドの過去を覗いていた。

 

 

「マスターがあんなに捨て身で戦っていたのは、ああいう訳だったのですね」

 

「……そうだな」

 

 

不思議と、パラドに不快感はなかった。パラドは自分の過去を悔いるべきものだとは思っていたが、隠すべきものとは思わなかった。

彼は、聞かれたならば話さなければならないと思っていたのだから、その手間が省けただけだった。

 

 

「……どう思った?」

 

「……」

 

 

サンソンはそれには答えなかった。まあ、答えにくいことだとはパラドも分かっていた。少なくとも最初に人を殺している段階で、最後に人の仲間になったとしてもその罪は消えたわけではない。純粋な好悪では語れない。

 

 

「実は、俺もお前の過去を見たんだ」

 

「……っ!!」

 

 

サンソンの顔が一瞬歪んだ。あまり触れられたい過去というわけではなさそうだった。

しかしパラドは、その夢の概要を話した。そして問う。

 

 

「お前はあれをどう思っているんだ」

 

「……仕方のなかったこと、ではありますが」

 

 

……いつの間にか、二人は病院の中庭まで出てきていた。二人の他には誰もいなかったが、太陽の光は二人を照らしていた。

 

サンソンは、パラドの言葉をあまり好ましくは思えなかった。自分の過去を見られてしまったことは仕方がないが、それでもそれについて掘り下げられるのは心が傷んだ。今でも、彼の頭の片隅にはあの笑顔がこびりついていた。

 

 

「そもそも、僕らは檀黎斗に作られた存在です。マスターが見たものは、真檀黎斗の描いたシナリオに過ぎません。そんなものに触れて、何になると?」

 

 

だからそう言った。パラドを少しでも遠ざけたかった。

 

 

「違う」

 

 

しかしそうはならなかった。パラドはそれを否定した。絶対に、パラドはその言葉は否定しなければならなかった。

 

 

「バグスターだって意思がある。大切に思う気持ちがある。痛みも、苦しみも知っているし、喜びも知っている。大切にしている設定があるなら、それは過去だ。大切な思い出だ」

 

 

パラドは知っている。彼と共に仮面ライダークロニクルのプレーヤーとなったバグスター達を。

マイティアクションXのソルティ。タドルクエストのアランブラ。バンバンシューティングのリボル。爆走バイクのモータス。ゲキトツロボッツのガットン。ドレミファビートのポッピー。ジェットコンバットのバーニア。ギリギリチャンバラのカイデン。シャカリキスポーツのチャーリー。そして、ドラゴナイトハンターZのグラファイト。

彼らは皆、黎斗によって産み出されたキャラクターだ。それでも皆が、プレーヤーに自分勝手に倒され、苦しみを受けた。反乱を共に起こした。仲間だった。

 

 

「だから、俺はお前の過去を受け入れる。お前の意思を尊重する。お前は俺のサーヴァントである以前に、同じバグスターだ」

 

「……怖いですね。あなたの瞳は、僕の迷いをあぶり出すようだ」

 

 

パラドはサンソンの目を見た。サンソンはパラドの目を見れなかった。二人は通じあってはいなかったが、すれ違っているという訳でもなかった。

 

 

「サンソン。お前の望みは何だ。ゲンムは、本来このゲームの勝者には聖杯ってのが与えられると言っていた。何でも願いが叶えられるって。だから……」

 

「……言うほどのことではありません」

 

「言ってくれ。俺はお前の、仲間の望みを聞いてやりたい。戦えない俺の代わりに戦ってくれるお前への礼にしたい」

 

 

パラドはそう言った。自分と戦ってくれる仲間への、このゲームのプレーヤーとしての最大限の礼だった。

それが、サンソンの心を少しだけ慰めた。彼が背負う過去に代わりはないが、それでも、小さな救いにはなった。

 

 

「……でしたら、細やかな願いですが。聞いてもらいましょう。全部が終わったら」

 

 

サンソンはそう言って霊体化し姿を隠した。パラドはそれ以上何も言わなかった。ただ、少しだけ満足げだった。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その夜、作はやはりひたすらにキーボードを叩いていた。目の下を隈で真っ黒に染め、画面に写る文字を睨む。

その背後には、当然のようにキアラがいた。

 

 

「あと少し、あと少し……ふふ」

 

「キアラさま、キアラさま……」

 

 

最早この部屋は作のものではなく、キアラの物だった。彼女から溢れ出た魔神柱は壁に浸透し、ゲンムコーポレーションからの支配すら飲み込んでいた。

その柱は、同時にセンサーでもあった。サーヴァントが一つ近づいてきていることなど、手に取るように理解できた。

 

 

 

そのサーヴァントは、エミヤだった。数日の間大我のサポートに徹していた彼は、大我の命を受けて作を引きずり出しに来ていた。

既に、黎斗神と真黎斗のパワーバランスは崩れ、天秤はゲンムコーポレーションに傾いていた。耐えるには人手が必要だった。

 

 

   コンコン

 

「……いるか?」

 

 

扉を叩く。数秒の沈黙。

玄関に立ったエミヤは、不自然な程に自然な空気を警戒しながら立っていた。

この家にはサーヴァントがいるはずなのに、その気配がしない。何の魔力も感じないのだ。仮に今外出しているとしても、残り香は残ってもいいはずなのにそれもない。

 

 

   ガチャ

 

「……開いたか」

 

 

そう考察するエミヤの前で、扉の鍵が開けられた。彼は右手に短剣を投影しながら、作の家に入る。

……彼は、既に家自体の支配を済ませたキアラが彼を招き入れたのだということを、知るよしもない。

 

エミヤは廊下を歩いているうちに、男の声を聞いた。うっとりしたような、魅入っているような、そんな声。……明らかに、危険な声。

エミヤは慌てて扉を開く。そして……黒を見た。

 

 

「なっ──」

 

 

黒。黒。黒。その黒は全て中央の女性、キアラから溢れ出た魔神柱に他ならない。それらは部屋の壁に突き刺さり、同化していた。そしてそれらに全く気を回すことなく、作はキーボードを叩いていた。

そして、キアラがエミヤの顔を見た。

 

 

「……あら、いらっしゃいましたか。私はCRのアルターエゴ、殺生院キアラに御座います。よろしく、お願いしますね?」

 

「……不味いぞ、これは」

 

 

エミヤがそう言い終わらないうちに、彼を魔神柱の群れが襲う。エミヤはそこから飛び退くが、飛び退いた先からも魔神柱が伸びてきて彼の腕を掴んだ。

 

 

「マスター、聞こえるか!!」

 

『どうしたアーチャー!!』

 

「不味いぞマスター、小星作は自分のサーヴァントに支配権を奪われた!!」

 

『何だと!?』

 

 

エミヤは魔神柱を切り捨てて干将莫耶を投影し、キアラにそれを投げつける。しかしそれは容易く叩き落とされ、エミヤは小さく舌打ちをした。

 

 

「そこのマスターに何をさせているんだ?」

 

「あらあら、余所見をしている暇がありまして?」

 

 

魔神柱が廊下を埋め尽くす。壁という壁に染み込んでいた魔神柱が実体化し、廊下も部屋も全て黒に埋められる。

当然そうなっては逃れられる筈もなく、エミヤはその四肢を拘束された。

 

 

「……お前は何を企んでいる」

 

「とてもとても、気持ちの良いことですよ」

 

 

キアラがエミヤの顎を軽く撫でる。エミヤは不快感を露にして脱出を試みるも、もがけばもがくほど拘束は強くなる。エミヤはここに来たことを後悔した。

作は、この騒ぎが起こったことにすら気付かず、パソコンに向かっていた。85%、という文字が少しだけ見えた。

 

 

「……マスター!!」

 

『令呪をもって命ずる、俺の元に来い!!』

 

 

その刹那、エミヤはその場から消え失せた。令呪の力を借りてその場から強制的に転移し脱出したのだった。

獲物を取り逃がしたキアラは溜め息を一つ吐き、まだ力が足りないと実感していた。しかし、それももうすぐ終わる。

 

 

『随喜自在第三外法快楽天』完成まで、あと15%。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──発生したパンデミック

「急患が多すぎる!!」

「まさか全員ゲーム病だと……!?」

「もう追い付けない!!」


──迷うサーヴァント

「あんなに沢山の人が……」

「これは少し不味いかしら」

「……すまない」


──正義の味方は何を思うか

「これは、いつになったら終わるんだ?」

「私に逆らうな!!」


第十六話 Eternity blue


「ゲームマスターの私こそが……神だ」


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第十六話 Eternity blue


『随喜自在第三外法快楽天』のタイトルを決めたのはキアラ
作に考えさせると『アマ・オブ・テラー』とか『AMA ZONE』とか『快楽天国キアランド』とか提案してきたからキアラが膨れっ面で考えたという裏設定がある



 

 

 

 

 

聖杯戦争の五日目は、大我の報告から始まった。当然、話されたのは良い報告ではなかった。

 

 

「まさか、作さんが……」

 

『そうだ。復帰はアーチャー曰く絶望的らしいな』

 

 

画面越しに大我が苦い顔をする。その向こう側ではニコとエミヤが何かの作業に追われているように見えた。フィンの姿も見える。

 

 

「確認する。CRのアルターエゴ、殺生院キアラ……そう名乗ったんだな?」

 

『そうだ。当然だが、そんな女は歴史上には存在しない。してたまるか』

 

「そうか……しかし、別人格(アルターエゴ)かぁ、何してくるかさっぱりだな」

 

 

その場のドクターは、誰もキアラに対する対処を思い付けなかった。そもそも何をしてくるか分からない。剣士(セイバー)なら剣を使ってくると考えられるし、暗殺者(アサシン)なら殺しに特化しているだろうという推察は出来るが、別人格(アルターエゴ)なんてどうするのか理解できる訳がなかった。

そして当然、サーヴァントもキアラについて心当たりはなかった。

 

……いや、一人だけあった。

 

 

「……え? あいつ(キアラ)いるんですか?」

 

「BB? 知ってるの!?」

 

 

BBが、キアラの名を聞いて驚いていた。

ポッピーが目を向いてBBに詰め寄る。おかしい、前CRのアルターエゴの存在を話したときにはそんな反応はしていなかった。まさか聞き逃していたのか?そうともポッピーは考えた。

 

 

「てっきりアルターエゴと聞いていたからメルトかリップかそこらだと思っていたんですが、あれだったとは……」

 

「……黎斗、知ってる?」

 

 

メルトとやらもリップとやらもポッピーは全く知らないが、キアラについてもポッピーは何も知らない。彼女はBBから黎斗神の方向を向いて彼にも意見を問う。

 

 

「知るか!! 私の邪魔をするな!!」カタカタカタカタ

 

 

しかし黎斗神はそう突っぱねた。

 

……彼も知らないのだ。殺生院キアラなんて。メルトやらリップやらに関しては少しだけ考えたような気もするが、キアラ……彼には心当たりがない。

 

 

「知らないの!?」

 

「知らない!! というか本当に不味い、私の邪魔をするな!!」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神はキーボードを叩きながら最悪の展開を浮かべていた。新キャラクターを考えたのが真黎斗ではなくナーサリーである可能性だ。黎斗のバックアップであった彼女だが、それ自体にも人格はある。それも夢見る少女のそれが。それがキャラクターを作ったならば……もう、黎斗神の想像を越える存在が出来上がる。

──いや、現に出来上がっていた。黎斗という(性欲を排した)男には作れない、殺生院キアラ(性欲の具現)が。

 

 

「……パソコン下さい」

 

「え?」

 

「パソコンですよパソコン!!」

 

 

黎斗神の様子を眺めたBBが唐突にそう言う。ポッピーは言われるままに黎斗神の予備のパソコンを差し出した。現在真黎斗の干渉を受けない機械はどこの家電量販店にもない。それが、最後のまともなパソコンだった。

 

 

「殺生院キアラ……あれはヤバいですよ。何だってあれは──」

 

 

BBはそう言いながらパソコンを起動する。

しかし、その作業を中断させるある事態が、発生してしまった。

 

 

   ズン

 

「……!?」

 

「この空気……まさか」

 

 

パラドが目を細めた。彼が少し前にポッピーと共に感じた、ゲームエリアの違和感だった。しかし今度は広がっている訳ではない、ゲームエリアのサイズに変化は感じない。では、何が──

 

 

   プルルル プルル プルルプルルルル プルル

 

「っ!!」

 

 

その刹那、電話が鳴った。それとほぼ同時に院内通信用のポケベルも鳴り響く。ポッピーはBBの話も気になったが、それより電話を優先した。

 

 

「はいこちら電脳救命センター……ゲーム病ですか!? 場所は!?」

 

 

……ゲーム病の発症を告げる旨を、伝えられた。ポッピーは患者の場所を聞き電話を戻し──次の瞬間に別の患者から掛かってきた電話を取る。

しかもそれは二度、三度の連続ではない。何度も、何度も、絶え間なく電話がかかってくるのだ。

 

 

「まさか、全員ゲーム病だって……!?」

 

「急患が多すぎる!! どういうことだ!!」

 

「いや、もう考えられることは一つしかねぇ……」

 

 

貴利矢がそう言いながら白衣を羽織る。絶えることのない患者達の対応は急務だった。もう既に、聖都大学附属病院の救急車は皆出動済みだった。

 

 

「パンデミックだ。真黎斗の支配領域にいる全員が、ゲーム病を発症した!!」

 

 

最悪の事態が、起こってしまった。

 

───

 

 

 

 

 

「あんなに沢山の人が……」

 

 

マシュは自分の部屋で、社内に残されていたスマホで緊急特番を眺めていた。パンデミック発生から一時間、ゲーム病に喘ぎながら取材を行う記者達が会見を行う衛生省に詰め寄っていた。

 

 

『非常事態宣言からゴホッ三日になりますが!!』

 

『何故まだゲホッ政府は、自衛隊は動かないんですか!!』

 

『国民にグッ被害がゲホッ出ているんですよ!!』

 

 

彼らのマイクは、大臣である日向恭太郎に向けられていた。彼らの悪意も、日向恭太郎に向けられていた。

 

 

『ゲーム病の対応は、特別な処置を施したゴホゴホッ、電脳救命センターのドクターにか行えない事です!!』

 

『じゃあ、大臣が自衛隊の出動を止めているのですか!!』

 

『……その通りですゴホッ』

 

 

そこでマシュはスマホの電源を切った。どうせこの恭太郎という大臣がこの後記者達の槍玉に上げられるのだろうということは、容易に想像できることだった。

 

マシュは布団に寝転がった。目を閉じれば、旅をしていた日々が蘇る。ロマンの顔が蘇る。泣いていた顔が蘇る。

それらの日々は、それでも偽物で。

……しかし、本物ならば善いのだろうか。マシュはそう思い至った。ここでも、平和に見えた本物の世界でも、こうして悪意はあった。

……マシュには、偽物には、何も分からない。

 

───

 

「あら、何で皆倒れているのかしら?」

 

 

ナーサリーは社長室で首を傾げていた。のんびりと紅茶を啜っていた彼女は不思議そうに真黎斗に振り返る。

 

 

「別にこんなことになる予定じゃなかったわよね、マスター?」

 

「その通りだ……バグが発生したらしい」カタカタカタカタ

 

 

真黎斗の方はキーボードを叩きながら、何故か発生したゲーム病の収拾を行っていた。このパンデミックの原因は彼にあったが、彼も望んで行った訳ではなかった。

 

 

「本来ならば始められるはずだったのだが……急ぎすぎたか」カタカタカタカタ

 

「そうかもしれないわね。少し休んだら、マスター? 私が交代するわよ?」

 

 

ナーサリーが、自分の使っていたティーカップに紅茶を注ぎ直して真黎斗に差し出す。真黎斗は一つ伸びをしてそれを受け取り、一口飲んで目を閉じた。

 

 

「しかし……少しのミス程度は構わないさ。修正など容易い、寧ろより良いものにして見せよう」

 

「ええ、その意気よマスター!!」カタカタカタカタ

 

「ああ……私達に、神の才能に不可能はない。ゲームマスターの私こそが、私達こそが……神だ」

 

 

それは確信だった。また事実だった。しばらく前に信長から神にでもなったらどうだと言われた彼は、作業の合間に自身に最上級の神性を付与していた。世界がFate/Grand Orderに塗り替えられたならば、彼は真の意味で最高神となる。

 

 

「……すまない」

 

 

そこにやって来たのがジークフリートだった。

ナーサリーは珍しい客だと顔を上げ、真黎斗を見る。真黎斗も、ジークフリートが来たことには少し驚いた様子だった。

 

ここ数日の間、ガシャットの配付と任務の伝達以外でこの社長室を訪れるサーヴァントは限られていた。

眺めが良いからとやって来る信長。企画の提案をしに来るジル・ド・レェ。出先でいい感じのお土産見つけたからお茶菓子にでも、と渡しに来るカップル。そして理由もなく真黎斗の顔を見に来るアヴェンジャー。

それ以外は基本的に、自分の部屋に残っていた。会社に残された金や道具は各々に分配しているため不自由はないはずだった。

 

 

「どうしたジークフリート」

 

「……これは、いつになったら終わるんだ?」

 

「これ、とは現在のトラブルのことか?」

 

「そうだ」

 

 

真黎斗はジークフリートの顔を見た。その目を見た。そして少しだけ考え、彼の考えを推察する。

 

 

「……安心しろ、このトラブルは私にとっても想定外のことだ。本意ではない」

 

「……」

 

「原因究明などもあるからあと少しはかかるが、半日もかからないさ」

 

 

ジークフリートは下を向いていた。何かに悩んでいるようだった。真黎斗は、最初からジークフリートが自分と相容れないということは分かっていたため、それを追及するつもりはなかった。

 

 

「……俺は、この状況は不味いと思う」

 

 

……しかし、向こうから切り出されたならば、真黎斗も無視は出来ない。

 

 

「何故だ?」

 

「プレイヤーに危害を加えているからだ。人々の為の、人々の幸せの為のゲームなのに、その過程で苦しめては本末転倒だろう」

 

「……」

 

 

真黎斗は、ジークフリートの勘違いを確信した。ジークフリートの設定を黎斗が作ったときから、恐らく彼が自分に対して起こすであろうと思っていたことではあったが、こうして突きつけられれば少しだけ頬が緩んだ。

そして、それを否定する。

 

 

「違うな」

 

「……?」

 

「私がゲームを作るのは私の為だ。この私の神の才能を腐らせるのは世界の損失だからな、私の才能を具現化するために、ゲームという手段を取ったに過ぎない」

 

「──な」

 

「私は神の才能を持っている。これを具現化し頒布し絶対の物とする、それこそが私の永遠の目標にして使命であり、人々の存在は私にとってはその次でしかない!!」

 

「それは、おかしい……歪んでいる……!!」

 

「私に逆らうな!!」

 

 

……ジークフリートは唖然としていた。

勝手に信じていた、と言われればそれまでかもしれないが、何にせよ己が信を置いていたマスターが言い放つには、それは勝手すぎる発言だった。

 

しかし、ジークフリートはすぐに真黎斗に激昂することも出来なかった。彼を信じてきた日々の存在と、彼を信じている仲間の存在がそれを妨げた。

 

 

「……すまなかった」

 

 

だからジークフリートは、取り合えず退出した。胸の奥に葛藤が燻った。それは、ジークフリートが初めて覚えた感情だった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──ジークフリートの葛藤

「何を、するべきなんだ?」

「お前は、ゲンムのセイバー!!」

「……俺のしたいことは、何なんだ?」


──ゲーム病の変質

「症状が、収まった……?」

「いや、違う」

「まさか、患者と一体化を!?」


──そして始まる天国

「かんせいしました、かんせいしました……!!」

『随喜自在第三外法快楽天』

「とてもとても、気持ちのよいことでございます……」


第十七話 JUST LIVE MORE


「天上解脱、なさいませ?」


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第十七話 JUST LIVE MORE

新興宗教 黎斗神道

教義

神は檀黎斗
経典はエグゼイド本編
聖句は『ホウジョウエムゥ!!──』と『本当に助かったよ──』
信仰するものは黎斗神と己自信の才能
人生の目的は己の才能を形にすること

毎朝鏡の前でテッテレテッテッテー!!
一日一回聖句の暗唱
どこかのタイミングでブゥン


毎日やると元気が出て自信がつきます
皆も黎斗神道で神の加護を得よう(布教)



 

 

 

 

「……」

 

 

ジークフリートは、いつの間にか外に出ていた。当然目的地はない。そもそも彼はゲンムコーポレーションから聖都大学附属病院までの道程しか知らない。

 

しかし、一度出た以上すぐに戻るのは躊躇われた。行き先もなく、変装もなく、目的もないが、彼は取り合えず歩き始める。

その足取りは微妙にふらついていた。

 

 

「何を、するべきなんだ?」

 

 

答えは誰も与えてくれない。

 

───

──

 

『……なんであんな事が出来たのよ。仲間だったのに』

 

『いや……それも俺が洗脳されていたせいだ。倒されても当然だった』

 

『そうじゃないの。なんで何の迷いもなく攻撃の指示を出せたのよ。答えなさいよ……!!』

 

 

いつのことだったか──確か、バグで発生した魔法少女の特異点でのことだったか。

そこで、ジークフリートは敵に操られて黎斗に牙を剥いた。そして、捩じ伏せられて正気に戻された。

 

 

『答えなさいよ……答えなさいよ!!』

 

 

正気を失ったジークフリートを強引に潰して助けたことについて、エリザベートは怒っていた。なぜそんなことが出来るのか、と。彼女は黎斗の無遠慮に怒っていた。

ジークフリートは、それを当然だと思っていた。敵に回ったのなら、それを倒すために何だってするだろう。そう思っていた。

 

 

『……決まっているだろう? この人理を修復しなければならないからさ』

 

 

だから、黎斗の嫌々したその返事にジークフリートは意外性を感じた。己の才能のみを見る自分勝手な人物、そう捉えていた彼にはその時の黎斗は普通の人間に見えた。

 

 

『ああ、私の才能を腐らせないため、そして神の恵みを受けとるプレーヤー達のため。それなら私は、私に持てる全てを注ぐのみ』

 

 

……その言葉に嘘はなかった。

 

嘘はなかった。しかしジークフリートは、その言葉を他者への思いやりと捉えてしまった。そして、己のマスターは他人を思いやり、他人の幸せの為に動ける人間と捉えてしまった。

 

ジークフリートは優しい存在だった。生前では、全てを救うことが出来ないならせめて自分を頼る人間を救ってみせようと決意した存在だった。少なくともそう設定されていた。

だからこそ、そんなマスターに剣を預けようと思ったのだ。

 

 

 

……その全ては、ただの勘違いだった。

 

──

───

 

「……俺のしたいことは、何なんだ?」

 

 

ジークフリートに、答えは分からなかった。結論はなく、それでも歩いていた。

自分のマスターを裏切り、街の人々の為に戦うべきだろうか。しかし、果たしてこれまで共に戦った仲間に刃を向けられるだろうか。そう思うと、裏切りは彼には出来ない行為で。

 

街には、ゲーム病患者が溢れていた。道行く人は皆程度の差こそあれどゲーム病に苦しんでいた。しかしそれでも、己の日常を貫かんと歩いていた。ジークフリートには皆が視線を向けたが、しかし騒ぎ立てはしなかった。

 

ジークフリートはそれをありがたく思いながら歩いていた。そしてその中で、一人の少年を見る。

 

 

「あれは……!!」

 

 

 

 

 

「うう、う……」ガタガタ

 

 

その少年は、道の真ん中で踞り震えていた。多くの車がクラクションを鳴らしながらそのすぐ脇を通過していた。

どうやら他よりも酷くゲーム病を発病しているようだった。ジークフリートは、彼の四肢が半分透けているのを見抜いていた。

 

あのまま動けなければ、すぐに跳ねられるだろう。……現に、微妙にふらつきながら走行するトラックが彼の前まで走ってきていた。トラックの運転手もゲーム病なのは疑いようがなく、恐らく少年に気づいてはないのだろう。都市の機能は、死にかけていた。

 

 

「……っ」

 

   ダッ

 

 

ジークフリートに、少年を見過ごす選択肢はなかった。仮に、この後己のマスターが好き勝手にする命であっても。

ジークフリートは高速でその場から飛び出し、少年を掬い上げて反対側の歩道まで跳んでいた。

 

 

「……大丈夫か」

 

「っ……だ、れ?」

 

「……病院までつれていこう」

 

 

少年の目は虚ろだった。きっとジークフリートの姿の像すら結べてはいまい。ジークフリートはぼんやりと考えながら、聖都大学附属病院へと急いだ。ようやく、彼は一時の目的を得られた。

 

───

 

「っ、と……ついたか。無事か?」

 

「ん、う……」

 

 

ジークフリートが聖都大学附属病院に辿り着くのには十分もかからなかった。彼は病院の中まで少年を連れていこうとし、先日自分がここを攻撃したことを思い返して一瞬踏みとどまる。

 

その時、ロビーの前には人だかりが出来ていた。他にも酷い事故がいくつかあったらしく、数人の医者が患者の手術の優先度を決めているように見えた。

 

……その中にいた飛彩が、ジークフリートに気づいてしまった。

 

 

「お前は、ゲンムのセイバー!?」

 

 

飛彩は病院を庇うようにしながら身構え、ガシャットを構える。その目は、セイバーよりむしろその腕の少年に向けられていて。

 

 

「その子をどうするつもりだ!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

 

……ジークフリートに戦うつもりはなかった。

彼は少年をゆっくりと地面に下ろし、一歩退く。そして、その場から消え失せた。

 

 

「……すまなかったな」

 

「おい、待て!! ……逃げられたか」

 

「大丈夫ですかマスター!?」

 

 

少し遅れて、ジャンヌが飛彩の隣に立った。既に敵は去っていた。

ジャンヌは倒れている少年に気づき、彼を背負って歩き始める。

 

 

「とにかくこの子を運びましょう。ゲーム病の具合は?」

 

「まだ大丈夫だ、それでも早い治療は必要だがな」

 

───

 

「急患!! 急患!!」

 

 

誰かが患者を乗せた台と共に走り抜ける。

聖都大学附属病院には、未曾有の人数の患者が押し寄せていた。

 

突然発生し、少し前に多くの人々の命を奪った病、ゲーム病。少なくとも人々はそう捉えていた。だからこそ多くの人が診察を求め、命に関わる大病に感染したという事実でストレスを募らせ症状を悪化させていく。

 

 

「ベッドの数が足りません!!」

 

「とにかく安静にさせないと!!」

 

 

また誰かが駆け抜けていく。

 

今回の症例の厄介なところは、『治療法がない』ということだった。

本来なら、ゲーム病の治療は感染したバグスターを倒し、ゲームクリアにすることで成立する。しかし、ここに集まる患者は皆、恐らくFate/Grand Orderのウイルスに感染していた。Fate/Grand Orderのクリア方法は──不明だ。

 

 

「明日那さん!! こっちにも担架を!!」

 

「分かった!!」

 

 

だから、安静にして落ち着かせる他に、当面の対処法はなかった。ストレスで消えかかっている人々には薬剤を投与して、強引にでも落ち着かせていた。それは、非常事態宣言の出ている現在だからこそ可能なことだった。

 

しかし、緊急事態は突然終わりを告げる。

 

 

「……あれ?」

 

「症状が……」

 

 

呻いていた患者たちのゲーム病の症状が、一斉に停止したのだ。

 

 

「ゲーム病が、収まった……だと?」

 

 

少年を届けて元の場所に戻ろうとしていた飛彩が、あり得ないものを見るような目でそう言った。事実あり得ないことだった。何の治療もなしに病が治るなんて、起こり得ない。

 

 

「いや、違う。これは……」

 

 

明日那がそう呟きながら、黎斗神にアップデートさせたゲーム病用聴診器(ゲームスコープ)を一人の患者に向ける。

 

バグスターを示すシルエットは、色は薄く、しかし範囲はそれまでとは比にならないほど巨大になっていた。

 

 

「……まさか、患者と一体化を!?」

 

───

 

   カタカタカタカタ  ッターン

 

「……できました、できましたキアラさま!!」

 

 

その時、小星作のパソコンにはとうとう100%の文字が表示されてしまっていた。

作は震える手でパソコンに繋がっていた白濁色のガシャットを引き抜き、よろよろと膝をついてキアラに献上した。

キアラはそれを、頬を桃色に染めながら受け取り、うっとりとした目で眺める。そして、電源を入れた。

 

 

『随喜自在第三外法快楽天!!』

 

「ふふ、ふ……」

 

 

音が響く。キアラはその輝きを見てため息をつき、作を抱き寄せた。

 

 

「ああ、キアラさま……!!」

 

「それでは、共に参りましょうか……!!」

 

 

そして、胸にガシャットを突き立てる。

ガシャットはするすると胸元に吸い込まれ──それと同時に、作もキアラに取り込まれた。

 

 

「ああ、ん……」

 

 

そのシルエットは、天井をも越えて拡大していき──

 

───

 

「受け入れの準備はどこまで出来ている!!」

 

「ちょっと待ってよ!! 何人来るって!?」

 

「百人!! 重病患者百人だ!!」

 

「ベッドが足りない!!」

 

 

その時大我とニコは、自分達の病院の内部で駆けずり回っていた。既に彼らのところにも何十人ものゲーム病患者がやって来ていたが、聖都大学附属病院がパンク寸前ということで緊急受け入れ態勢を取ろうとしていた。

当然のようにフィンとエミヤも駆り出されていた。人間離れした身体能力の彼らのお陰で、作業はそれなりに進んでいた。

 

 

「ベッドなら地下に予備がある!!」

 

「地下!? 地下のどこ!?」

 

「階段の横の倉庫だ!!」

 

 

忙しく指示を出す大我。……その隣に、エミヤが立つ。──窓の外を見ながら。

 

 

「……おい、マスター」

 

「どうしたアーチャー、追加のベッドは──」

 

「いや、違う。……あれを見ろ!!」

 

「あぁ?」

 

 

エミヤが指差していたのは、やはり窓だった。大我は半ば苛立ちながらそこへと目をやり……愕然とする。

 

 

「──な」

 

「あれは……」

 

 

人が見えた。建物の向こうに、普通の何倍もの大きさの、半透明の女性が立っていた。その大きさは5mか10mか、それは分からないが……緊急事態なのは確かだった。

 

 

「……ランサー!! ランサー、いる!?」

 

 

その姿は、当然ニコの目にも入っていた。

あれは、放棄できない。大我とニコは、病院を聖都大学附属病院から先行してきた看護師達に任せ、病院を飛び出していく。

 

───

 

 

 

 

 

「何だ、これ」

 

 

最初にその人影の元へと辿り着いた大我が見たものは、おぞましいほどの『天国』だった。

CRのアルターエゴ、殺生院キアラ。それを中心にして広がる巨大な人の形をした空間は逃げ惑う人を吸い寄せ、その中に取り込んでいく。そしてその空間の中から、取り込まれた人々の快楽に溺れた喘ぎが、小さく漏れていた。

 

 

 

「お前が……殺生院、キアラ……なのか?」

 

『そうですね、私こそが殺生院キアラ──随喜自在第三外法快楽天、殺生院キアラにございます』

 

「作さんはどこだ!!」

 

 

後から駆けつけてきた明日那や貴利矢も、キアラの有り様には愕然としていた。しかし永夢は、ひたすらに作のことを心配していた。

 

 

『心配せずとも、私の中にございますよ』

 

「中……!? それは、つまり……」

 

「何をするつもりなんだ、貴様!!」

 

 

そう飛彩が問う。既にこの場には、CRのキャスター以外のCR陣営が、皆集まっていた。

 

 

『決まっているでしょう? とても──とても、気持ちのよいことでございます』

 

「これ以上話しても拉致が開かねぇ。力の限りぶっ潰す!! いいなアーチャー!!」

 

『バンバン シューティング!!』

 

『ガン!!』

 

「了解した」

 

 

最初にガシャットの電源を入れたのは大我だった。彼はバンバンシューティングと共にドラゴナイトハンターZの電源も入れ、永夢と飛彩にもその分身を渡してやる。

 

 

「作さんを助け出す!!」

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ファング!!』

 

「ええ。緊急治療を始めます」

 

 

永夢はそれを受け取り、身構えた。パラドは負傷しているため、マイティブラザーズは使えない。しかし、それは怯む理由にはならなかった。

 

 

「勝算はあるのかしら、マスター?」

 

「自分にはさっぱり。だが、この戦いは乗るしかねぇんだよな姐さん!!」

 

『爆走 バイク!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

 

貴利矢はそう言いながら、レーザーターボ用の爆走バイクとシャカリキスポーツの電源を入れる。口調は冗談めかしていたが、その表情は真剣で。

 

 

「うう、まさかこんなに早く現れるなんて……BBちゃんショックです、まだ何の仕掛けも出来てないのに」

 

「いい、BB? ぜっっったいに、裏切っちゃダメだからね!!」

 

『ときめきクライシス!!』

 

「分かってますって。あれにはついていきたくありませんし」

 

 

明日那はBBの裏切りを心配していた。これまでに何度もそれについてBBは言及していたから、この気に乗じてやってしまえ、とばかりに裏切られるかもしれないと思っていた。

いざとなれば令呪の使用も視野に入れていたが……その心配はなさそうだった。

 

 

「……頼むぞアサシン」

 

「ええ、お任せを」

 

「さっさと終わらせてよねランサー、この後沢山の患者が待ってるんだからね!!」

 

「分かっているとも、美しきマスター。君に勝利を捧げよう」

 

「うわきっつ」

 

 

パラドとニコは、遠巻きに指示をするに留めた。下手に近寄るとうっかり取り込まれるかもしれない、との懸念もあったから、仕方のないことだった。

 

 

『タドルクエスト!!』

 

『ブレード!!』

 

「……行きましょう、マスター」

 

「分かっている」

 

 

……最後にガシャットの電源を入れたのは飛彩だった。別に巨大な敵影を恐れた訳ではない、たまたまのことだった。

彼は隣に立つジャンヌを見た。気に入ったのかは知らないがナース服こそ着ているものの、ここ数日の間力仕事以外ではてんで役に立たなかった彼女だが、こうして共に戦うのなら頼もしかった。

 

 

「第伍戦術」

 

「大大大大大──」

 

「爆速」

 

「術式レベル5」

 

「「「「「変身!!」」」」」

 

『『『『『ガッシャット!!』』』』』

 

 

変身する。変身する。並び立つ五人のライダー、そして七体のサーヴァント。それらを見て尚、殺生院キアラには余裕があった。

 

作によって作られたガシャット『随喜自在第三外法快楽天』は、使用者を強制的に魔人の領域まで引き上げるガシャットだった。そのガシャットを取り込んだ彼女は最早人の形をしているものの、生物の領域にも、ウイルスの領域にも当てはまらない。

 

彼女は、最早一つの現象になろうとしていた。人々に至上の快楽を与え、己自信も無限の快楽を得るシステムとなろうとしていた。

 

 

「天上解脱……なさいませ?」

 

 

それでも医者達は、怯むことなく立ち向かう。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──動かない檀黎斗

「仕方がない、地下駐車場の支配権をパージ──」カタカタカタカタ

「ここが正念場よ……!!」カタカタカタカタ

「小星作の作るゲームなど屑だ!! 私は屑に構う余裕などない」カタカタカタカタ


──悪化する戦況

「な、効いていない……!?」

『私の中にはまだ人々がいるのですよ?』

「貫通する攻撃は、使えないのか……!!」


──そして、聖女の決意

「短い間でしたが、楽しかった」

「最後の令呪をもってセイバーに命ずる」

「人々を救う、ドクターであってください」


第十八話 英雄 運命の詩


「主よ、この身を委ねます──」


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第十八話 英雄 運命の詩


現在のキアラ

随喜自在第三外法快楽天ガシャット(CVキアラ本人)を使用して、FGO基準でサーヴァントの何倍も強くなっている
本体だけでも強いが、彼女から溢れ出るエネルギーで作られたキアラのシルエットも戦闘力を持つ
戦闘力は止めているが、戦闘していなければ、人のいそうなところをシルエットで包むだけで、その中の人々を吸収する。
吸収された人々は快楽浸けになるが、精神力でしばらくは耐えられる。




 

 

 

 

「っ……ダメだ、これは」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神は一つ舌打ちした。昨日の停電から発生した遅れはいよいよ深刻になり、もう聖都大学附属病院の全てを防衛することは不可能に近かった。

現在の黎斗神のライフは、残り83。常にメディア・リリィが背中に杖を突き刺して治癒をかけ続けてなお、ライフの減少は止まらない。

 

 

「っ……ウッ」バタッ

 

『Game over』

 

「マスター!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

 

また一つライフが減った。黎斗神はいそいそと土管から這い出て、パソコンにしがみつきまたキーボードを叩く。精神的に、彼はもう限界が近かった。

 

 

「……仕方がない、地下駐車場の支配権をパージする他はないか……!!」カタカタカタカタ

 

「それは大丈夫なんですかマスター!?」

 

「大丈夫なはずがないだろう!! 地下駐車場を手放すということは、下からの攻撃を受けるということだ。地下駐車場のテクスチャを弄って、病院の床下から打撃を加えたりコンクリートの針で貫いたり──そういったことが可能になるだろう」カタカタカタカタ

 

 

まあ、それは自分(相手)なら中々取らない手段だろうが──黎斗神はそういいかけて、それすらも億劫になって止めた。今はただ、防衛のみに力を注ぐ。

 

 

「そんな……」

 

「対策は打つが。いつかは、病院ごと移動することも考えなければならなくなるだろうな」カタカタカタカタ

 

───

 

「黎斗さん、街が!! 街に、巨大な人影が現れています!!」

 

 

その時、マシュもまたキアラの存在を認識していた。また、それに立ち向かっている仮面ライダーがいることも何となく察知していた。

あれは災害だ。マシュはそう認識し、矢も盾もなく真黎斗の元に転がり込む。

 

 

 

「知っているさ。CRのサーヴァントにいた殺生院キアラだろうな。恐らく何らかのガシャットを使用していると見える」カタカタカタカタ

 

「そうね。でも、マスター(黎斗神)の作ったガシャットじゃないんでしょう?」カタカタカタカタ

 

「そうだな。私ならあれは作らない。……小星作。彼の作った物だろうな」カタカタカタカタ

 

 

しかし、真黎斗とナーサリーの対応はとても素っ気なかった。彼らは、キアラの存在を軽視していた。いつでも処理できると思っていたし……それ以前に、聖都大学附属病院の攻略に忙しかった。

 

 

「何とかしないと……!! 被害が拡大してしまいます!! 黎斗さん!! ナーサリーさん!!」

 

「それは出来ないわ。ここが正念場なのよ……!!」カタカタカタカタ

 

「小星作の作るゲームなど屑だ!! 屑に構う余裕などない……!!」カタカタカタカタ

 

 

しがみつくマシュの手は容易に振り払われた。現在二人はようやく聖都大学附属病院の地下駐車場を手に入れたこともあり、そこを足掛かりに全てを支配しようと躍起になっていた。

マシュは唇を噛んだ。彼らは自分では動かせない、それはもう、彼女にも十二分に理解できてしまった。悔しかった。

 

 

「……気にすることはありませぬ、我が主。我々は、我々のすべきことをするまで」

 

「っ、ジルさん……」

 

 

……いつの間にか社長室に入室していたジル・ド・レェが、そう言いながらマシュの肩を叩いた。どうやら彼は、マシュについてきてくれるらしかった。また、既に他のサーヴァントも出向く準備を始めているらしかった。

 

 

「行くなら行けばいい、私は構わない」カタカタカタカタ

 

「……はい」

 

 

ジル・ド・レェは恭しく礼をしてから出ていった。マシュも真黎斗に背を向け、社長室を出る。

 

───

 

『シャカリキ クリティカル ストライク!!』

 

「はあっ!!」

 

 

レーザーターボが、肩の車輪を取り外してキアラに投げつける。その軌道は確かにキアラを捉えていたが、その車輪は巨大なキアラのシルエットの、それが一時的に実体化した腕によって叩き落とされる。

 

 

「チッ、あんなのアリかよ!!」

 

『足りませんわ、もっと!!』

 

 

レーザーターボが悪態をついた。キアラは未だ無傷。

彼の隣にポッピーとスナイプが立ち、やはりキメワザを発動する。

 

 

『クリティカル クルセイド!!』

 

『ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』

 

「はああああっ!!」

 

「おらあああっ!!」

 

 

無数のハートや星の形のエネルギー弾と、黄色の閃光がキアラへと飛んでいった。しかしそれらも容易く弾き飛ばされ、本体には届かない。

 

 

「届かないか……!!」

 

「ダメ、キリがないよ……!!」

 

 

状況は悪かった。戦闘開始から、既に二十分。ゲーム病の変質等のこともあり、一刻の猶予も無く、それなのに、キアラは無傷。

外野にいるニコとパラドも、もどかしい思いをしていた。

 

 

「あーもう、何時になったら攻略できるのあれ!!」

 

「クソゲーだ……!!」

 

 

そうパラドが呻く。握った拳は震えていた。

勝ち目はない、そう思えてしまった。しかし、これまでも戦い抜いてきた仮面ライダーを信じたい気持ちも確かにあった。

 

 

「ランサー、ランサー? 聞こえる!?」

 

 

ニコは念話を試みていた。状況をいくらか俯瞰できる位置にいることを生かして、フィンを外から操作しようと考えたのだ。

 

 

『聞こえたよマスター。指示をくれるのかい?』

 

「良かった通じた!! でも早く決着をつけないと……そうだ、宝具で急所を貫いたりできないの?」

 

『……急所……任せてくれ、親指かむかむ知恵もりもり(フィンタン・フィネガス)!!』

 

 

そしてフィンはニコの指示に答えて、相手の急所を探ろうと親指を噛んだ。

親指かむかむ知恵もりもり(フィンタン・フィネガス)とは、叡知の鮭フィンタンを食した時に得た能力を再現する宝具。フィンはそれによって己の知覚を極限まで拡大し、ここまでに得たキアラに関する僅かな情報や過去の記憶と照らし合わせ、総合的に判断する事でキアラの現在の状況を探り──そして、一つの真実を掘り当てる。

 

 

「なっ──」

 

『どうしたの、何が分かったの!?』

 

 

その真実は、確かに驚愕に値するものだった。しかし、それが確かなら──

 

 

「……不味い、キアラを攻撃してはいけない!!」

 

「あぁ!?」

 

「何ですって?」

 

 

フィンは咄嗟に呼び掛けた。ライダー達は訝しげにフィンに視線を送る。何を言っているんだと言わんばかりに。しかし、キアラはフィンの言葉に素直に感心していた。

 

 

『あらあら、気づかれましたか。ええ、そうです──私の吸収した人々は皆、私の中にいるのですよ?』

 

「……え?」

 

「何だと!?」

 

「どれだけの密度に、なってるんだ!?」

 

 

キアラはくすくすと笑いながら、自分の腹の部分に縦に裂け目を入れて、その中身を公開してみせた。

……人々が、蠢いていた。これまでにない快楽に溺れ、逃れようともがいていた。

 

 

「何だ、あれ……」

 

「酷すぎる……!!」

 

 

キアラは、例えるならば快楽のブラックホールだ。己の中に人々を溜め込み、密度を上昇させ、それによって益々引力を増す。今はまだ戦えるが、もっと人々を取り込めば、近寄るだけで吸い込まれかねない。

 

 

「とにかく、中に詰まっているのなら……」

 

「貫通する攻撃は、使えないのか……!!」

 

 

しかも厄介なことに、中に救うべき人がいると分かった以上、銃を使うのは避けなければならなかった。万一貫通してしまえば……死者が出るから。

 

───

 

「さて……ここですかな」

 

「っ、そのようですね……」

 

 

ジル・ド・レェとマシュは、キアラの近くのビルの屋上にやって来ていた。見下ろしてみれば、仮面ライダーは苦戦しているように見えた。

 

 

「……行かないと」

 

 

マシュはガシャットを取り出した。この世界に来てから、初めてのことだった。

ジル・ド・レェがガシャットを取り出したマシュを見て、小声で問う。

 

 

「……で、どちらを攻撃するのですかな?」

 

「……え?」

 

「今、あのアルターエゴに苦戦している仮面ライダー達を襲えば、この聖杯戦争は簡単に終了致します。そうすれば、これ以上の戦闘も、それと共に発生する被害もなくなるのでは?」

 

「そんな……」

 

 

……マシュは端から、キアラを攻撃するつもりでいた。それ以外の選択肢などないと思っていたし、ジル・ド・レェもそうするために来たのだと思った。

しかし、どうにも食い違いがあるようだった。彼の言っていたすべきこととは、仮面ライダー達を排除することであったのだろうか。マシュはそう考える。そして、咄嗟にそれを止めようとした。特に考えはなかった。

 

 

「……駄目です。彼らを、倒すのは」

 

「ほう? それはつまり──貴女は死んでも良いのですね?」

 

「っ……!?」

 

「おや、驚かれていらっしゃる。しかしそうでしょう? 聖杯戦争の勝利条件は敵の殲滅。貴女が死ななければ、向こうは勝利できず、戦いは終わらず、人々はいつまでも眠れない夜を過ごすのです」

 

 

マシュの額から、冷や汗が垂れた。

 

眼下で、青色の仮面ライダーが酷く攻撃を受けていた。かなり動きがふらついていた。黄色と黒の仮面ライダーが彼を庇っているが、それにも限界がありそうだった。

 

しかしマシュには、それらは見えなくなりかけていて。

 

 

「貴女は良いのですね? 我らが神によって作られた虚構の旅をようやく終えて、とうとう得た命を不意にしても。意味なく、甲斐なく失っても。()()()()()()()()()()

 

「いや、私は……」

 

「貴女はまだ、何も守っていない。貴女の救ったものは、何もない。恥じることはありません、それでいいのです。生きていれば、この戦いに勝利すれば、いくらでも、どれだけでも、貴女は望むだけ、守ることができる」

 

 

……マシュはもう、何をするべきか見えなかった。力なく膝から崩れ落ちた。

涙で、もうキアラの姿は見えなくなっていた。

 

───

 

「っぐ、が……!!」

 

「大丈夫かブレイブ!!」

 

『ジェット クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

ブレイブのライフゲージは、既に赤を示していた。スナイプが彼を庇うように立ちキメワザを発動するが、万が一貫通してしまったときのことを考えると、放った弾丸は牽制としてキアラの周囲に落とすしかなかった。

 

 

『ふふふ、その程度ですか……? 物足りませんね』

 

「っ……」

 

 

対するキアラはまだまだ余裕綽々といった様子だった。微妙に額に汗はあったが、それは別に何の弱味でもなかった。

スナイプは一つ舌打ちをしてからブレイブを背負い、パラドやニコの近くの物陰にまで運んでやる。

 

 

「少し休んでろ。後でまた来い」

 

「……分かった」

 

 

ブレイブは握り拳を作っていたが、スナイプの言葉に素直に従った。彼に戦うだけの気力はなかった。ただ、見ることしか出来なかった。

 

 

「どうしますかマスター。患者を引きずり出す手立ては?」

 

「……分かりません、さっぱり」

 

 

エグゼイドはナイチンゲールに、そう言う他なかった。迂闊に手は出せず、しかしてキアラを押さえつける力も持っていない。味方のサーヴァントも、キアラを倒せるほどの火力がない。

 

 

「チッ……どうしたもんか」

 

「うぅ……迂闊に攻められないし……」

 

 

レーザーターボもポッピーも、歯噛みすることしか出来ない。誰も、キアラを倒せない。

 

 

 

 

 

「……大丈夫ですかマスター」

 

「セイバーか……早く行け、俺に構うな」

 

 

いつの間にか、ジャンヌがブレイブの隣にまでやって来ていた。その顔は、真剣だったが、優しげだった。

 

 

「……私は、剣を使おうと思います。守るべき人々を覆っているのなら、その檻だけを破壊すれば良いでしょうから」

 

「剣? 使うなら使えばいいだろう……」

 

 

ブレイブはそこまで言いかけて、彼女の剣が、宝具が何だったのかを思い出す。

 

紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)

調停者(ルーラー)ではなく剣士(セイバー)として呼ばれてしまったジャンヌの持つただ一つの宝具、生前振るうことはなかった聖カトリーヌの剣を用いて行う攻撃。ジャンヌ・ダルクの火刑、その心象風景を攻撃的に解釈し、剣としたもの。そしてその剣はまたジャンヌ自身でもある。

 

……種別は、特攻宝具。

 

 

「いや……待て」

 

「短い間でしたが、楽しかったです」

 

 

ブレイブは、咄嗟にジャンヌを引き留めようとする。自爆などされたら気分が悪いし、まだ彼女を失いたくはなかった──鏡飛彩は、ジャンヌ・ダルクの中にかつて失った彼女と似た精神を見てしまっていたから。

 

 

「しかし、範囲はどうだ。建物に被害はないのか」

 

 

だがそれを言うわけにはいかなかった。だからこそ、範囲というそれらしい意見でもって彼女を止めようとした。

キアラは止めなければならなかったが、ジャンヌの自爆に頼らずともまだ他の手段があるはずだと信じたがっていた。

 

 

「それは──」

 

「……それは私がやろう」

 

 

しかしその望みは、いつの間にかやって来ていたエミヤに断たれることとなる。

 

 

「お前は、アーチャー!?」

 

「私の宝具を使えば、一時的にキアラを隔離できる」

 

「ええ……よろしくお願いしますね」

 

 

その提案は、確かなものだった。ジャンヌはそれを信用していた。ならば、ブレイブもそれを信じるしかなかった。

 

 

「……本当に、良いのか?」

 

「ええ。……素敵な経験を、させてもらいました。最後まで、看護師としては役立てませんでしたが」

 

 

そう言いながら、ジャンヌがブレイブの隣にナース服を返却する。綺麗に畳まれてはいなかったが、仕方のないことだった。

 

 

「どうか、人々を救うドクターであってください(世界で一番のドクターになって)

 

「っ……!! ……分かった」

 

 

その言葉は、小姫の遺した言葉と酷似していた。……もう、彼女を引き留めることはできなかった。彼女の歩む道を見届けることを、セイバーのマスター、鏡飛彩は選択した。

 

 

「……一つ目の令呪でもって命ずる。宝具、紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)で敵を倒せ」

 

「……はい」

 

 

見届けるならば、せめて。

ブレイブは最後の希望と共に令呪を発動する。

 

 

「……二つ目の令呪でもって命ずる。敵の表面だけを徹底的に破壊し、中の人々を救出しろ」

 

「……はい」

 

 

思う通りに逝かせてやろう。彼女に、思い残しがないように。

ジャンヌへの尊敬と感謝を令呪に込める。

 

 

「……最後の令呪をもってセイバーに命ずる。……悔いのない戦いを」

 

「……了解しました」

 

 

……全ての令呪は、使いきられた。

ジャンヌは最後にブレイブに笑って、彼に背を向けて再びキアラの前へと歩く。

キアラはここまでの間他の仮面ライダーやサーヴァントと遊んでいたが、歩いてくるジャンヌに何かを感じたのかそちらに目を向ける。

 

 

「お願いします」

 

「分かった──I am the bone of my sword.」

 

『む?』

 

 

……アーチャーが詠唱を開始した。キアラは妨害を行おうとするが、その攻撃はスナイプやエグゼイドが割り込んで受け止める。

 

 

『邪魔です……!!』

 

「邪魔してるから当然だろ!!」

 

「僕達は、僕達に出来ることをするんです!!」

 

 

耐えて、耐えて……そして。詠唱は完了する。

 

 

『──So as I pray, 無限の剣製(UNLIMITED BLADE WORKS)!!』

 

   ザッ

 

「な……!!」

 

「何だぁ!?」

 

『ここは……』

 

 

……そこはもう、先程までの都市部ではなかった。無限に広がる剣の丘、空には歯車が廻り、大地からは武器が直下立つ。そこはエミヤの固有結界、彼に許された唯一の魔術。

エミヤは右手を振り上げて、超巨大な刃である虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を複数本投影し、巨大なキアラのシルエットを地面に縫い付ける。

 

 

『なっ──』

 

「ここにある剣は好きなものを使っていい!! 全て贋作だが、真作に勝るとも劣らぬ逸品だとは保証しよう!!」

 

 

そしてそう宣言した。これより行うは時間稼ぎだが、それは大切なことだから。皆が皆剣を摂り槍を引き抜き、キアラへと立ち向かう。

 

ジャンヌは傷だらけで戦い続けるドクター達を見ながら膝をつき、旗を置いて剣を取り出した。そしてその刀身を握る。

 

 

「──諸天は主の栄光に。大空は御手の業に。昼は言葉を伝え、夜は知識を告げる。我が心は我が内側で熱し、思い続けるほどに燃ゆる」

 

 

ジャンヌの手から、血が溢れた。一筋の血は刀身を流れ落ち、大地を濡らす。

 

 

「我が終わりは此処に。我が命数を此処に。我が命の儚さを此処に。我が生は無に等しく、影のように彷徨い歩く」

 

 

目の前では、キアラが多くの剣を相手に拳を振るっていた。苦戦はしていなかったが、余裕もあるようには見えなかった。

つまり、誰も今この瞬間、ジャンヌの邪魔はしなかった。

 

 

「我が弓は頼めず、我が剣もまた我を救えず。残された唯一の物を以て、彼の歩みを守らせ給え」

 

 

そして、CRのセイバー、ジャンヌ・ダルクの物語は終わりを迎える。

 

 

「主よ、この身を委ねます―― 」

 

 

……花が開いた。剣の柄の先の蕾が花開き、大輪の花が咲いた。そして……それと共に、炎が彼女を取り囲む。

 

 

紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)!!」

 

 

火刑はここに再現される。ジャンヌを取り囲んだ炎はさらに彼女を二回り程してから、キアラを飲み込む。その勢いは凄まじく、あっという間にキアラを飲み込む。

 

 

『ああ、熱い!! 熱い!!』

 

「退け!! 退け!!」

 

「でも攻撃は、続けられる!!」

 

 

炎の中で、キアラはもがいていた。彼女の表面が焼き焦がされる。炎の外からの追撃も、全く無抵抗に受けるしかないこの瞬間には痛いダメージで。

 

 

「はああああっ!!」

 

 

炎の勢いは一層強くなった。剣を握るジャンヌの脳裏に、飛彩の姿が過る。戦い続けるドクターの姿が。

それを尊いと思った。無条件に誰かを助ける様を尊いと思った。人を傷つけてきた彼女だからこそ、そのあり方を何より善いと思った。

だから、ここで全てを投げ出せる。

 

キアラを包む火球が拡大していく。膨らみ、益々熱を帯びる。キアラは無抵抗に悶えている。

そして、最終的にその火球は炸裂し──





次回、仮面ライダーゲンム!!


──キアラとの決着

「とても、とても……」

「皆を、解放する!!」

「お前の世界は、ここで終わりだ……!!」


──進められる計画

「畳み掛けるぞ」

「これからの作戦はどうするつもりだ」

「これと平行して、もう一つの目的がある」


──そして、新作の始まり

「作さん!! 目を覚まして!!」

「あ……う……」

「……やらないといけないことが、残ってる」


第十九話 KOE


「何故上手くいかないんだ……!!」


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第十九話 KOE

現在のナーサリー・ライム

言動は本来のナーサリーに近いが、性格は黎斗とナーサリーの合の子になり、思考の結果行きつく結論は黎斗とほぼ同じになっている
黎斗の才能を目覚めさせると同時に、日に日に黎斗と近くなっていく

ついでに言えば、黎斗自体が自分至上主義のナルシストでもあるので黎斗本人との相性は抜群。というか檀黎斗という存在とずっと共に愛し合い協力し合える唯一の女性の可能性まである
当然のように間接キスとか平気でやる



 

 

 

 

……炎が、止んだ。

 

 

「……う、う……」

 

 

エミヤの固有結界は鎮火と共に解除された。キアラのシルエットも弱り果てて消え失せた。残ったキアラ本体は全身に火傷を残しながらうち震え、ギリギリで堪えていた。しかしもう起き上がることも出来ない。

 

そしてジャンヌは、金の粒子に還ってゆく。

ポッピーが遠巻きにバグヴァイザーを向けて回収を試みていたが、それは出来なかった。ポッピー自身がバグスターとして粒子になっての移動が出来ないように、このFate/Grand Orderの世界ではバグスターのルールが書き換えられていた。

 

 

「……セイバー」

 

 

ブレイブが、よろけながら彼女の隣に立った。ジャンヌはそれを見てやはり微笑み、しかし何も言わず。

 

 

「……感謝する」

 

「……ふふっ」

 

 

そして、消滅した。

 

───

 

「っ……ジャンヌ……!!」

 

 

ジル・ド・レェは、かねてから飛び出しがちな目をさらに見開いて、ジャンヌが消えてゆく様子を見届けていた。突然その場から消え失せ、そして戻ってきた時には消滅しかけだったのだから当然の驚きだった。

 

 

「ジャンヌ、おお、ジャンヌ……!!」

 

 

ジル・ド・レェは、真黎斗を神として崇拝している。それに代わりはない。しかし、かつて共に戦い執着したジャンヌ・ダルクが消えて行く様は、やはり少しばかり堪えた。

 

 

「……遅れてしまってすまない。迷子になってすまない……」

 

「主人公っぽく後から参戦しようと思ったらもう終わってたんじゃが」

 

 

マシュは足元で踞って泣いていた。後からやって来た信長とジークフリートは、何があったのか分からずに顔を見合わせていた。

 

───

 

「……終わらせるぞ」

 

 

ブレイブが、倒れ付したキアラに剣を向けた。後は、体内を傷つけないように切開して、止めを刺すのみ。

 

 

「……そうだな」

 

「皆を、解放する!!」

 

 

キアラが、空に手を伸ばした。それほ空を掴み、力なく垂れ下がる。

 

 

「……私の……私の、理想郷……とても、とても……気持ちが良かったのに……」

 

「理想郷、か……こんな気持ち悪い理想郷あってたまるかよ」

 

「ああ……お前の世界は、ここで終わりだ」

 

 

もう、彼女に構う暇はなかった。この後には、何人もの患者が待っているのだから。キアラに付き合っているだけで危機に晒される命があるのだから。

ドクターは、救命を第一優先とするのだから。

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……気持ちよく、殺して下さいね?」

 

「お前の要望を聞く余裕はない」

 

 

ブレイブが、キアラの胸元にガシャコンソードを添えた。切開して、人々を取り出して救出する。そんな試みだった。

もうキアラは、諦めていた。……しかし、その割には余裕があった。最後に感じる痛みを気持ちよく受け入れて死のう、と口では言うが、それはもっと別のことを考えてもいるようで──

 

 

 

 

 

「……待って!!」

 

 

ポッピーが突然声を上げた。上を指差しながら動揺していた。全員が、一斉に上を向く。

 

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

「何が──」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

『タドル ドラゴナイト クリティカル ストライク!!』

 

「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌゥゥッ!!」

 

 

ジル・ド・レェの変身した仮面ライダーキャスターが、大量の触手を纏ってビルの屋上から飛び出し、キアラもライダー達も皆々纏めて葬らんとしていた。

 

 

「なっ──!?」

 

 

ブレイブは咄嗟に、キアラに向けていたキメワザを上空へと放つ。それは確かにキャスターの触手を切り落としこそすれど弾き飛ばすことは出来ず。

このままでは飲み込まれる。そう思ったときには、キャスターは地上6メートルまで迫っていた。

 

 

「何ぼさっとしてんの、避けるわよ!!」

 

「何でこう、上手く行かないんだ!!」

 

「早く逃げなきゃ──」

 

「いや、間に合わねぇ……!!」

 

「伏せろ!!」

 

「っ!!」

 

   ズザザザザザザザッ

 

 

 

 

 

───

 

その様子は、ゲンムコーポレーションにいたナーサリーもモニター越しに見ていた。隣では真黎斗が疲れた目で紅茶を煽っている。

 

 

「ふぅ……一段落、だな」

 

「そうねマスター。地下駐車場しか取れなかったけど」

 

「今は十分さ、足掛かりが手に入ったからな」

 

 

真黎斗はそこまで言って、モニターの向こうを見た。ジャンヌの消滅に興奮したジル・ド・レェが暴走したのだということは、用意に見てとれた。

 

 

「……これって、もしかして、全員倒しちゃったかしら?」

 

「まさか。それはないだろう……」

 

「あ、本当ね……もう出てきてる」

 

 

モニターの端に、触手から這い出る九条貴利矢の姿が映った。他の場所では、鏡飛彩が触手を切り裂き、キアラから解放された患者を運びだし始める。

 

 

「アルターエゴは倒されたのかしら?」

 

「……いや、どうだか。まだ、魂は聖杯(ガシャット)にくべられてはいないが」

 

「あら、そうなの……」

 

 

もう、ジル・ド・レェはその場には見えない。霊体化して去ったと考えられる。

これ以上救出劇を見ても面白くない。真黎斗はそう断じて、聖都大学附属病院攻略に戻る。

 

 

「次の段階だ。畳み掛けるぞ」

 

 

そしてそう言い、新しくサーヴァントを二体呼びつけた。

 

 

「……カリギュラに、アヴェンジャー? 不思議な組み合わせね」

 

「ふ、理由はあるさ」

 

「それは、そうでしょうけれど……」

 

 

呼びつけたのは、カリギュラとアヴェンジャー。これまでの二人の関わりは皆無に等しく、ナーサリーはその組み合わせに疑問を呈する。しかし真黎斗にはしっかりとした計画があった。

 

大して時間を開けずに、カリギュラとアヴェンジャーは社長室にやって来た。ナーサリーがいそいそと二人に紅茶を差し出す。

 

 

「……コーヒーが良かったんだが」

 

「もう、贅沢言わないの!!」

 

「……そうだな……で? これからの作戦はどうするつもりだ」

 

 

アヴェンジャーが、早速真黎斗にそう言った。真黎斗はその言葉に小さく鼻を鳴らして、そして聖都大学附属病院の一部が写ったパソコンを見せる。

 

 

「……聖都大学附属病院の外面破壊」

 

「ほう? また前回と似たようなことをするんだな、芸のない」

 

「……むぅん……」

 

 

アヴェンジャーとカリギュラは共に画面を覗き込み、似たような感想を抱いた。パソコンに写っているのは聖都大学附属病院の裏口付近、室外機やら何やらがよく集まっていそうな部分。ここの破壊は確かに効くだろうが、それだけに思えた。

しかし、真黎斗はそう言われても怒らなかった。そして口元をニヤリと歪め、続ける。

 

 

「──というのは体面で、これと平行して、もう一つの目的がある」

 

「……ん?」

 

「カリギュラにしか行えないことだ。場合によっては令呪のバックアップを加えてでも強行する──」

 

 

そう前置きして、真黎斗は本当の計画を話し始めた。

 

───

 

 

 

 

 

「急いで!! 」

 

 

ストレッチャーが患者を乗せて駆け巡る。キアラの元から助け出された患者総勢29名、内3名は重体で手術室へと運ばれていき、残りは意識が混濁しているために薬品の投与を開始しなければならなかった。

 

永夢は、手術室へと向かう飛彩と居合わせた。彼はついさっき灰馬にジャンヌの退場を告げ、その足で手術着を着込んでいた。

酷なことだと、永夢は思った。数日とはいえ寝食を共にした仲間を失ったその日の内に、他の人の命を背負うのだから。しかし飛彩に、憂いの色はなかった。

 

 

「……頑張って下さい。全員……助けてください」

 

「当然だ。俺を誰だと思ってる」

 

 

世界で一番のドクターだぞ……飛彩はそうは言わなかった。ただ、ゴム手袋を着けて手術室に赴く彼の背には、確かに自信が満ちていた。

 

 

「……お願いします」

 

 

永夢はもう一度だけそう言って、他の人々の治療に戻る。

まだ、何も終わっていない。寧ろ、ここからが始まりだ。

 

永夢が向かったのは、現在作やその他のキアラに取り込まれた人々のいる病室だ。その中には子供達もいたため、小児科医としての仕事があった。

 

 

   ガラガラガラ

 

「あ、永夢……」

 

「作さんは? 皆はどうですか?」

 

 

既に部屋で診察を行っていた明日那が、苦い顔をした。その隣では先に来ていたナイチンゲールが、黙々と消毒液を準備している。

この病室の患者は皆、強制的に快楽に浸けられていた状態だった。治療としては抗うつ薬の使用を主としているが、バグスターによる症状ということもあって、どうしても慎重に動かなければならなかった。

 

永夢は取り合えず、ナイチンゲールから機材を受け取って小さな子供の診察を開始する。彼らの無事は、祈ることしか出来ない。

 

───

 

 

 

 

 

「怖い……怖いよぉ……」プルプル

 

「大丈夫だよ、大丈夫だからね……」

 

 

キアラに飲み込まれた少年の一人は、異常なストレスで消えかかっていた。永夢が少年の体にめり込まない程度に強く肩をさする。

 

 

「容態はどうですか、マスター」

 

「……多分、ストレスでPTSDになりかけてるかも」

 

「……そうですか」

 

 

この病室の全員が、ストレスを抱えていた。また全員がゲーム病に感染している以上、そのストレスは命の危機に直結する。

 

 

「……永夢」

 

 

唐突に、明日那が永夢を呼び寄せた。

作のベッドの隣にいた彼女は、作が目を覚ましそうだと永夢に告げる。

 

 

「っ……!! 作さん!! 目を覚まして!!」

 

「作さん!!」

 

 

呼び掛ける。呼び掛ける。その声は届いているのかどうか、外からではさっぱり分からず。しかし、呼び掛ける。結局、病を治すのは患者だから。せめて、患者と共にあろうとする。

 

 

「う……あ……」

 

「作さん!! 聞こえますか、作さん!?」

 

 

……そして、作はその瞼を開けた。虚ろな目で、辺りを見回す。そして、呟いた。

 

 

「……あ、あぁ……あなた、は……」

 

「作さん!!」

 

「……キアラ、さま……?」

 

「……っ」

 

 

永夢と明日那は顔を見合わせた。その背後で、ナイチンゲールがカルテに病状を書き付ける。

どうやら作は、キアラと永夢とを混同しているようだった。あり得た話だが、目の当たりにするとやはり心が痛んだ。

 

 

「……どうやら精神的にかなり疲労していると見られますね」

 

「そうね……」

 

 

明日那が俯く。この病室の人々は、大なり小なりキアラの存在を焼き付けさせられているのだろう。それがどうしようもなく痛ましくて。

 

 

「……でも、絶対に諦めない」

 

「……ええ。作さんは必要だから。彼にも、やらなきゃいけないことが、まだ残ってる」

 

 

それでも、絶対に諦めない。諦められない。作の存在は現在のCRには必要不可欠だし、他の患者だって、きっと誰かが無事を祈っているから。

 

いつの間にか、月が高く上っていた。

 

───

 

「お疲れさまです、マスター」

 

「……俺より疲れてる奴等は沢山いるだろ」

 

 

サンソンは、ずっと病院の物資運搬の大半を一人で担っていたパラドにコーヒーを差し出していた。今は休憩時間だが、後十分もしない内に彼はまた病院全体を駆けずり回ることになる。

医者として看護師のサポートに回っているサンソンとしてはパラドに従えないことがもどかしかったが、それでも自分も頑張ろうと決意していた。

 

 

「……でも、マスターだって十分やっているかと」

 

「……かもな」

 

 

パラドがコーヒーを一気に飲み干して、天井を見上げる。その口から、少しだけ独り言が溢れた。

 

 

「……俺は、かつて命を奪った」

 

「……そうですね」

 

「今でも、少しでも埋め合わせをしようと頑張ってるとは思ってる。でも──誰かの命の埋め合わせなんて、出来ないんだ」

 

「……そうですね」

 

 

今のサンソンには分かる。何故己が彼のサーヴァントに選ばれたのか。

共に、多くの命を奪ってしまったから。そして、共に償いを求めているから。

 

 

「……でも。マスターの努力は、決して無駄な物ではないと、僕は思います」

 

「だと、いいな」

 

 

そしてパラドは立ち上がる。サンソンも、再び現場へと赴く。

彼らは今は、するべきことをするだけだった。




次回、仮面ライダーゲンム!!


──進められる計画

「また襲撃か!!」

『令呪を二画重ねて命じる……』

「ここで、止めないと!!」


──聖都大学附属病院崩壊の危機

「酷い揺れだ……」

「急いで患者を運ばないと!!」

「背に腹は代えられない、か」


──そして、唐突な別れ

「マスター、令呪を!!」

「駄目だ、お前も道連れになるぞ!!」

「それでも、いいですから!!」


第二十話 清廉なるHeretics


「良いんです。ああ、これこそ道理と言うものだ」


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第二十話 清廉なるHeretics

実は、CRのアサシンをジャックにするパターンとCRのアーチャーをケイローンにするパターンも考えてました
ジャックは流石にガバガバ外科手術はドクター的に不味いかと思って没にして、ケイローンはエミヤの方が話を進めやすかったから没にしました



 

 

……太陽が、昇った。

与えられた自分の部屋で外を眺めていたアヴェンジャーは、そろそろ計画の開始だろうと立ち上がり、外に出る。

 

そこで、マシュとすれ違った。

彼女は、やはり暗い顔をしていた。

 

 

「……どうした、マシュ・キリエライト」

 

「……いえ、ただ……私も、黎斗さんから指示を受けただけです」

 

「どんな指示だ」

 

「……」

 

 

マシュは、アヴェンジャーの問いには答えずそっぽを向いた。大方、CRの妨害だろうと考えたアヴェンジャーは、それ以上は何も追求せずにマシュに一本煙草を差し出す。

 

 

「……いえ、私は吸わないので」

 

「構わん。取り合えず持っておけ」

 

 

そしてアヴェンジャーはそれをマシュに押し付けて、階段を下りた。

 

人間は誰も居はしないロビーで、カリギュラが待っていた。その姿は、バーサーカーというには落ち着いているように思えた。アヴェンジャーは彼と並び立ち一瞬だけ視線を交えて、どちらともなく歩き出す。

 

 

「さて……バーサーカー、カリギュラ」

 

「何、だ?」

 

 

自動ドアを潜ると同時に、アヴェンジャーが声をかけた。特に何も恐れるものはない、警戒するものもない二人は霊体化すらせずに街道を歩く。

 

 

「一つ聞きたかったんだが……お前は、檀黎斗をどう思っている」

 

「……」

 

 

カリギュラはそう言われて、少しだけ考えた。とはいっても、狂った頭ではろくに考えられられはしないが。それでも、言えることがあった。

 

 

「……檀、黎斗……神。彼こそ、ローマにして、神、だ」

 

「……そうか」

 

 

……かつて、カリギュラを狂わせたのは月だと謳われた。月が、ローマの悪習に囚われる前にカリギュラを守ったのだと。

そして、カリギュラを設定する際に彼を狂わせたのは黎斗だ。つまり……カリギュラを狂わせた月こそ、黎斗と言えるのだろう。

アヴェンジャーはそう思い至り、皮肉げに笑った。

 

───

 

「花家医院が本格的に受け入れを開始するって!!」

 

「分かりました!! 今すぐ重病患者の輸送を開始します!!」

 

 

その時、聖都大学附属病院では丁度患者の大規模輸送が始まっていた。大我の病院がとうとう受け入れ準備を整えたらしく、向こうからの連絡が入ったのだ。

とはいえ、この連絡もゲンムコーポレーションに傍受されている。患者の安全を考慮して、向こうからはエミヤが監視に入ると言っていた。こちらは既に貴利矢とマルタが出向いている。

 

 

「パラド、ストレッチャーをあるだけ持ってきて。患者さん達を救急車に乗せるから」

 

「はいはい」

 

 

永夢がそうパラドに指示を出した。パラドは二つ返事で了承し、患者を運ぶためのストレッチャーを運びにかかる。

 

 

   プルプル プルプル

 

「……ん?」

 

 

……しかし、突然永夢のポケベルが鳴ったのでパラドは動きを止めた。連絡してきたのが、黎斗神だったからだ。パラドは耳を傾ける。

 

 

「……どうしましたか」

 

『……ゲンムのサーヴァントが二体接近している。現在裏口まであと300メートル!!』

 

「何ですって!? また襲撃ですか!?」

 

 

思わず永夢はポケベルに叫んだ。もう患者の移動は開始している、今更中止は出来ない。そして、患者が皆ゲーム病患者である以上、経験のあるCRのドクターは皆移動に付き添う必要があった。

永夢は慌てて辺りを見回し……そして、パラドを見る。つい一昨日、戦うなと言ったばかりの彼を。

 

 

「……永夢」

 

「パラド……」

 

「任せろ。ここは、俺が引き受ける。ああ、取り合えずはゲンムのバグヴァイザーを使うから安心しろよ」

 

 

パラドはそう言った。永夢は引き留めようとしたが、現状は彼に頼る他なかった。

永夢は、サンソンを引き連れて飛び出していこうとするパラドに、ビルドガシャットは使うなと呼び掛けるので精一杯だった。

 

───

 

 

 

 

 

「っ、とっと……ギリギリ間に合ったみたいだな」

 

「そのようですね……ここで、止めないとっ!!」

 

 

それから一分もせずに裏口から飛び出したパラドとサンソンは、すぐに待ち構えていた二人のサーヴァントに気がついた。

ゲンムのバーサーカー、カリギュラ。そしてもう一人、パラドも扱うガシャットで返信する外套の男。

 

 

「さて……出迎えにしては、数が少ないな」

 

「お前ら……何の用だ」

 

「当然、マスターである檀黎斗からの指示をこなしに来た。それだけだ」

 

「っ……」

 

 

事も無げに、外套の男はそう言った。サンソンはその剣を強く握り、パラドも黎斗神の元から借りているバグヴァイザーを取り出す。

 

 

「生憎だが、他の奴等は用入りだからな。……俺達と遊ぼうぜ。バーサーカーに──」

 

「……アヴェンジャーだ」

 

「……そうか。じゃあ……頼んだぞ、アサシン」

 

 

次の瞬間、サンソンが飛び出してカリギュラへと斬りかかった。その剣はカリギュラの首を捉え、しかし刃は容易くその腕で弾かれる。

初撃で失敗した。パラドはアサシンの周囲に警戒しながら、いざというときに使えるようにビルドガシャットに手をかけ、ガシャコンバグヴァイザーのビームガンを構える。

 

 

『『ガッチョーン』』

 

『Knock out fighter!!』

 

『Perfect puzzle!!』

 

「……行くぞ」

 

「余の、行いは……運命で、ある……!!」

 

『バンバンシューティング!!』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

 

そして、アヴェンジャーとカリギュラが共にその腰にバグヴァイザーL・D・Vを装填した。さらに各々のガシャットの電源を入れ、変身する。

 

 

「「……変身……!!」」

 

『マザル アァップ』

 

『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』

 

『バグル アァップ』

 

『ババンバン!! バンババン!! バンバンバンバンシューティング!!』

 

『ぶっ叩け 突撃 猛烈パンチ!! ゲ キ ト ツ ロボッツ!!』

 

───

 

「何だって!?」

 

『だから!! 今聖都大学附属病院がゲンムのサーヴァントに襲われています!! 至急来てください、貴利矢さん!!』

 

「あ、ああ分かった!!」

 

 

貴利矢はその時エミヤと落ち合って、どう道を護衛するかの相談をしていたのだが、永夢からの連絡でそうも行かなくなった。

この場をエミヤに任せて開けるのも、それはそれで不味い。しかし──そう考える彼らの元に、一人のサーヴァントが現れる。

 

 

「……待って」

 

「何だ姐さん、今──」

 

 

マルタの視線の先に、女がいた。その名は、マシュ・キリエライト。彼女が黎斗から言い渡された命令こそ、聖都大学附属病院の援軍になり得るサーヴァントの相手、だった。

 

 

「……ごめんなさい」

 

『ブリテン ウォーリアーズ!!』

 

 

そう言いながら、マシュはガシャットの電源を入れる。

マルタと貴利矢は顔を見合わせる。まさかここまで危機を重ねてくるとは。……しかし、エミヤだけはマシュに違う目を向けていた。

 

 

「……まさか、守護者か?」

 

「何だアーチャー、何か手があるのか!?」

 

「……ここは、私に任せてくれ」

 

 

そしてエミヤは、貴利矢にそう呟く。その手には、既に投影した一組の剣が握られていて。その目は、後輩のみをじっと見つめていた。

 

───

 

 

 

 

パラドとサンソンは、確実に善戦した。バグヴァイザーと然程強くないサーヴァントだけで、二人の仮面ライダーと二十分は渡り合ったのだから。

しかし、それだけだった。戦力差は圧倒的、勝てなかった。

 

 

『Buster chain』

 

「はああっ!!」

 

「っ──」

 

 

殴りかかってくるアヴェンジャーに対してパラドはバリアを展開するが、容易く割り砕かれて彼は力なく転がる。しかしすぐに立ち上がり、彼は膝についた砂を払った。

 

 

「……仕方ない、か。悪いな永夢」

 

『仮面ライダー ビルド!!』

 

 

このままでは、勝てない。そう思った。だから、やるしかないと考えた。パラドは近くに隠していたゲーマドライバーに手を伸ばし──

 

 

 

 

 

「おおっと、ちょっと待ったちょっと待った!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「っ、レーザー!?」

 

 

病院の四階から飛び出してきたレーザーターボが、空中で弓を射る。アヴェンジャーとバーサーカーはそれを弾くが、少しだけライフに響いた。

 

 

「……護衛は? お前がいなくても大丈夫なのか?」

 

「今は仕方ねぇだろ。……当然俺もあっちにいた方が安心なんだが、アーチャーがこの場は引き受けるって言ってな」

 

「……そうか」

 

 

パラドは並び立ったレーザーターボとそう言葉を交わした。

現在の真黎斗ならば、道路を変質させて救急車を妨害するなど容易。それを知っているレーザーターボとしてはあの場を離れるのは心苦しかったが、それでもこの病院にも患者が残っている。

 

 

「それに、俺だけじゃない。……姐さん!!」

 

 

そして、レーザーターボは天を仰ぎ、叫んだ。それにつられて、一同が天を見上げる。

 

 

 

 

 

何もない。ただ、青空が広がっているだけ。

 

 

 

 

 

「愛を知らぬ哀しき竜よ……ここに、星のように!! 愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

「っ!?」

 

「後ろかっ!?」

 

 

アヴェンジャーが後ろを向いた時にはもう遅い。態々遠回りをして後方に回っていたマルタの宝具は、もう二人の鼻先まで迫っていて。

 

 

『Buster chain』

 

『Buster chain』

 

「駄目だ、間に合わ──」

 

   ガガガガガガガガ

 

「──!!」

 

 

当然、抵抗も出来ず。アヴェンジャーとバーサーカーは共にタラスクに撥ね飛ばされ、そしてレーザー撥ね飛ばされた先でレーザーターボに斬りつけられるという目に遭った。

 

 

「……ハハッ、乗せられちゃった?」

 

「っぐぅっ……!! 確かに、想定外だったな」

 

「捧げよ……その、魂、捧げよ!!」

 

 

その場から飛び退きながら体勢を整えるアヴェンジャーとバーサーカー。あっという間にレーザーターボとマルタとタラスクが戦場に加わり、二人の優位は崩された。しかし、二人に大した焦りはなく。

 

───

 

「うーん、曖昧な所ね、マスター。勝てると思う?」

 

「マシュ・キリエライトが真面目に働けば容易かったが……この状況でも、ここで勝つことに集中すれば出来ないことはない。ファントムの分の令呪も注ぎ込めば、あの二組は容易に潰せる」

 

「……その言い方なら、そうはしないのよね?」

 

「そうだな」

 

 

モニターで戦況を観察しながら、真黎斗とナーサリーはそう言葉を交わす。現在は、二人とも聖都大学附属病院の攻撃は行っていない。

代わりに……黎斗のパソコンには、支配領域の全ての携帯電話、スマートフォンの画面のデータが映っていた。

 

 

「……目的は、別のことにある」

 

 

そして真黎斗はそう言いながら、『日本政府より連絡』の文字を入力する。そしてその下に『今すぐ外に出てください』、と、打ち込んだ。そして、巨大なエンターキーを叩きつける。

 

 

「……送信完了。……頃合いか」

 

───

 

『マッスル化!! マッスル化!! マッスル化!!』

 

『1!! 2!! 3!!』

 

 

アヴェンジャーの手元のパラブレイガンにマッスル化が三重にかけられる。アヴェンジャーはそれによって巨大になったパラブレイガンを振りかぶりながら、腰のバグヴァイザーに手を伸ばした。

 

 

『パーフェクト ノックアウト クリティカル ボンバー!!』

 

「はああああああっ!!」

 

「お願い、タラスク!!」

 

 

全身に力を籠めての強引な打撃。そんな一撃であっても、タラスクは受け止め、弾く。アヴェンジャーはマルタとタラスク、そしてサンソンにパラドを同時に相手していた。その隣ではレーザーターボがバーサーカーを圧している。

 

 

「っ……」

 

 

そしてとうとう、アヴェンジャーのライフゲージが赤色になった。アヴェンジャーは少しだけ苛立たしげに舌打ちをし、その場から飛び退く。

彼は待っていた。真黎斗の、本当の命令の決行を。

 

 

「まだか、檀黎斗……!!」

 

 

 

 

 

『……令呪を二画重ねて命じる』

 

 

その刹那、バーサーカーとアヴェンジャーの脳内についに真黎斗の声が響いた。打ち合わせ通りのことだった。

 

 

『宝具、我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で使用し、君自身ともろとも爆発せよ』

 

 

……その命令も、確かに打ち合わせ通りだった。

 

 

「神……おお、神が、見える……!!」

 

『バンバン ゲキトツ クリティカル ストライク!!』

 

「うぉ……うおぉ……うがあああああああ!!」

 

   カッ

 

「っ、熱い……!!」

 

 

突如バーサーカーが、叫びながら巨大な右腕を振り上げた。基本的にはロボットの腕の形状であるそれは自爆に際したバーサーカーから放散される熱で変形し、砲台を形作る。

天に向いた砲台。そこに狂気とエネルギーが溜まっていく。溢れていく。バーサーカーの限界と共に爆発する爆弾にして拡散兵器。

 

 

「……やはり、残酷なことだな。去らばだ、カリギュラ」

 

 

その姿を見届けることなく、アヴェンジャーはその場から消え失せる。しかし一人消えた所で、誰もバーサーカーには近づけなかった。

熱が溢れる。あれが爆発すれば、病院は一堪りもない。というか、既に壁が溶け始めている。その場にいるのは皆バグスターだから助かっているものの、人間がいたなら確実に全身火傷だろう。いや、バグスターでも、近づけば危ない。

 

それなのに。

 

 

「……アサシン!?」

 

「僕が行く。僕が、行ってきます」

 

 

サンソンが駆け出した。彼はバーサーカーから溢れる熱量も意に介すとこなくバーサーカーに近づき、そのバグヴァイザーをもぎ取ってパラドに投げ渡す。しかし、それでも一度起動した宝具は、解除されず。

 

 

『ガッチョーン』

 

「何やってるんだアサシン!! 戻れ!!」

 

「……マスター!! 令呪を!!」

 

「何だって!?」

 

「バーサーカーを押さえ込めと令呪を下さい!!」

 

 

サンソンの体が、ぶれ始めていた。しかしサンソンはそれに構わず、病院を背にしてカリギュラに抱きつき、爆発の勢いをその身に受けようとしていた。

 

 

「駄目だアサシン、そしたら、お前は……!! お前も、道連れになるぞ!!」

 

「それでも、いいですから!! 早く!!」

 

 

……サンソンの脳裏には、戦うパラド(同類)の姿があった。共に、命の償いを探している、サンソンと似た境遇の同類。

今ここで、彼を助け彼の助けたい人々を助けられるなら……それは、良いことだとサンソンには思えた。

 

 

「……っ……マスター!!」

 

「……令呪をもって命ずる、バーサーカーを、押さえ込め!!」

 

 

……パラドは、そう言ってしまった。サンソンの望みに、負けてしまった。

 

 

「っ……うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

サンソンはその言葉を聞き届けて、少しだけ嬉しそうにカリギュラを押さえ込む。少しでも、病院を守れるように。

 

パラドも彼に報いようと、病院の全体にバリアを展開した。それは今のパラドには厳しい行動だったが、それでも全力を尽くす。

 

……そして。

 

 

「がああああああっ!!」

 

「あああああああっ!!」

 

   カッ

 

───

 

   グラグラッ

 

「酷い揺れだ……」

 

「急いで患者を運ばないと!!」

 

 

その時、病院内は揺れていた。物理的にだ。廊下の角度は元々当然のように0度だったのがいつの間にか3度程になり、落とした器具が転がる程度にはなっていた。

まだ、患者は全員移送出来ていない。エミヤがゲンムのシールダーと交戦していると聞いた為に遠回りも余儀なくされている。余裕がなかった。

 

 

「暫くはこの棟は放棄しないといけませんね」

 

「背に腹は代えられない、か……」

 

 

永夢と明日那がそう言葉を交わす。その顔は苦くて。

 

 

   カッ

 

   グラグラグラグラッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

また、廊下が傾いた。

 

───

 

 

 

 

「……余の、命……捧げ……」

 

 

……カリギュラが、消滅した。爆発の煙が止むのと同時だった。

彼はその腕より熱と共に爆発を解き放ち、ゲームエリア中に攻撃を放った。そしてまた、彼の近くの空間を消し炭にした。

……しかし、サンソンが身を張って守った病院は、耐えていた。患者は皆、無事だった。

 

そのサンソンは、パラドのバリアに叩きつけられていた。パラドが慌ててバリアを解除し、サンソンに駆け寄る。

 

 

「アサシン!! 大丈夫かアサシン……!!」

 

「マスター……」

 

 

……その足は、もう金の粒子になっていた。

 

 

「アサシン、耐えろ!! まだやりたいことあるんだろ!! 言ってただろ!?」

 

「……良いんです。ああ、これこそ道理というものだ」

 

「何言ってるんだよ!!」

 

 

パラドがサンソンに声をかける。肩を揺さぶる。しかし、サンソンはもう何も望まない。

もう、腰まで消滅していた。

 

 

「……マスター。貴方と会えたことは、僕にとって幸運でした。貴方は僕を、認めてくれた。僕と、同じだった」

 

「アサシン……」

 

 

シャルル=アンリ・サンソン。フランス革命に立ち会った、清廉なる異端者。その顔には、もう満足しかない。バグスターの仮初めの命は、それでも彼の望みを遂げさせた。

 

 

「……ありがとう。その道に、祝福があることを祈ります」

 

 

……そして、サンソンは完全に消滅した。

CRのアサシン、脱落。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


──マシュ、真黎斗と対立

「何故役目を果たさなかった……!!」

「私は……」

『何かあったなら、私の元へ来るといい』


──増え続ける患者

「癒しの水増やして!!」

「ベッド増やすぞ!!」

「薬が足りない!!」


──そして、CRに来訪者

「これよりサーヴァントの魂を解析する」

「……何故、お前がここにいる」

「お前は……ゲンムの……」


第二十一話 Real Heart


「ガシャットの使用権を剥奪する!!」


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第二十一話 Real Heart


Fate/Must Be Doneとかいう歌詞ネタ要素しかないアマゾンネオ主人公のクロスを思い付いた
明らかにバッドエンドしかなさそうだなーと思いつつ、呼び出すキャラとして故意に作られた英霊縛りでサーヴァントを考えてみた
……フランと邪んぬしか思い付かなかった

誰か書いて(他力本願)



 

 

 

 

 

CRのアサシン、シャルル=アンリ・サンソン。彼は消滅した。金の粒子がパラドの鼻を一瞬だけ擽って空へと昇っていく。

……その、彼が消滅した瞬間に、黎斗神が窓から顔を出した。隣ではメディア・リリィが杖を空に向けている。

 

 

「おい神!! 何しに来た!!」

 

「ゲンム……!!」

 

 

パラドは無意識の内に恨みの籠った目を向けていた。このタイミングで出てくるなんて、まるで……()()()()()()()()()見たいじゃないか、と。

 

 

「よし、まだ間に合う!! 令呪をもってキャスターに命ずる!!」

 

「はいっ!!」

 

 

いや、彼は確かに待っていたのだ。

サーヴァントが倒され、魂が剥き出しになる消滅の瞬間を。空気中にカリギュラとサンソンの魂が吐き出され帰り行く瞬間を。

 

 

「アサシンとバーサーカーの魂を捕縛しろ!!」

 

 

そして、その企みは成就する。

消え行く魂はメディアの生成した可変性の檻に強引に囚われ、黎斗神の手元に落下する。

黎斗神の顔は愉しげに歪んでいて──

 

───

 

「……さーて、妨害出来たわよマスター!!」

 

「なら良い。政府に下手に動かれると困るからな」

 

 

その時ナーサリーは、CRの処遇に対して行われていた会議に嫌がらせを行っていた。停電させ、パソコンのデータを飛ばし、ついでに部屋のテクスチャを弄って髪の毛を机と融合させた。まだ人間本体を弄ることは出来ないが、それを出来るようになるのも遠くはない。

 

そんな嫌がらせをした理由はただ一つ。政府がCRに対しての処罰を考えていたからだ。真黎斗に日本が脅かされている現状は彼らのせいだということにしてしまおうという動きが現れ始めていたからだ。

無理もない。これまでに掌握された情報は数知れず、そしてとうとう先程、政府の名を騙る謎のメールを全ゲームエリアの人間に送信されてしまった。すぐに政府への文句が殺到した。だからこそだった。

 

……真か神かに関わらず、檀黎斗は政府というものを好いていない。神の場合は自分を捕らえたという私怨もあるが、それはともかくとしても、政府は黎斗の計画の邪魔ばかり行う。

 

 

「全く。私の楽しみを邪魔するなど……」

 

 

真黎斗は、自分自身(檀黎斗神)との戦いに胸踊らせていた。自分自身の才能がそのまま敵になるなんて、滅多にない、真黎斗にとって好ましいピンチだった。永夢や作の不正なゲームではなく、自分自身という最も真黎斗の認めている存在が敵になるなんて、パラドではないが心が踊った。

……だからこそ、正面から倒す。少なくとも、政府の権力に屈する檀黎斗なんてものは真黎斗は望んでいなかった。

 

……その時、マシュが部屋に入ってきた。

 

 

「……話って何ですか」

 

「ああ、来たか……マシュ・キリエライト。君はどうして九条貴利矢を取り逃がした?」

 

 

真黎斗はそう問う。カリギュラはその役目をきっちりと果たしたが、しかしレーザーターボがいなければもっと良い結果を叩き出せたのも確かなことだった。

 

……いや、真黎斗はもうマシュと、彼女と相対したエミヤとの間のやり取りを観察していた。

正直な話をするなら、真黎斗はマシュが貴利矢を取り逃がしたことをそこまで恨んではいないしエミヤとのやり取りも勝手にしていればいいと思ったのだが……ナーサリーが状況を少しばかり危険視したためにそれに従ったのだった。

 

 

「……」

 

 

マシュは黙っていた。

彼女は、エミヤとの会話を思い出していた。

 

───

──

 

 

 

 

 

『君には、幾つも聞きたいことがある』

 

 

マシュと対峙して、エミヤは最初にそう言った。

マシュから感じる守護者の気配。

マシュから感じるあからさまな迷い。

マシュの手にある聖剣。

マシュのガシャットから出た『ブリテン』という単語。

その全てが、エミヤの神経を逆撫でするものだった。

 

 

『君は……お前は、何者だ』

 

『……ゲンムのシールダー、マシュ・キリエライト』

 

 

マシュはガシャットをバグヴァイザーに挿入する。それは、真黎斗に指示された通りの行動。敵の足止め。一人、取り逃がしてしまったが。

 

 

『マザル アァップ』

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

『そして……仮面ライダー、シールダー』

 

 

シールダーのエクスカリバーが、ガシャコンカリバーに変質した。しかし、エミヤは確かに彼女のエクスカリバーが、アルトリア・ペンドラゴンの物と同じだと確信していた。

 

 

『お前は、守護者か?』

 

『……ええ』

 

『その剣は、セイバー……アーサー王の物か?』

 

『……そうですね』

 

『……どこで手に入れた』

 

『私が……受け継ぎました』

 

『その剣を受け継いでおきながら……お前は、何をやっているんだ……!!』

 

 

エミヤはそう言わずにはいられなかった。彼女の持つ歪みは、エミヤにはありありと見てとれた。腹の立つ歪みだった。かつての自分の歪みとも違う、ただただ不完全な歪み。

 

……シールダーはその時、少しだけ自分の手元を見つめたがすぐにガシャコンカリバーを握り直して、エミヤに飛びかかった。

剣を振り上げて、降り下ろす。その一撃はシンプルにして強力だったが、エミヤの双剣かそれを受け流した。斬りあいが始まる。

 

───

 

『何故お前は守護者になった!!』

 

 

刃が交わる。火花が飛び散る。シールダーは、エミヤに対して一撃も加えられない。何処かを救急車が走り抜ける音が聞こえた。

 

 

『何故守護者になったと聞いている!!』

 

『っ──人理を、人の明日を守るためです!!』

 

『なら何故ゲンムの側についた!!』

 

『──』

 

『何故、そんな迷いの籠った剣を振るう!!』

 

 

マシュは圧されていた。交えた剣は簡単に押し返され、放つガンド銃はあらぬ方向へ飛んでいき、ルールブレイカーは空を切った。彼女は、戦えなかった。迷いが戦いを許さなかった。

 

 

『どうしてっ……』

 

 

いつの間にか、涙が浮かんでいた。

 

 

『じゃあ貴方は、どうして守護者になったんですか!!』

 

『……私が守護者になったときは、お前と同じ歪みを抱えていた』

 

 

剣を振るう。剣を振るう。エミヤは何の迷いも容赦もなく、シールダーへと剣を振るう。こうして話してやるのも、冥土の土産位の認識しかない。彼は、シールダーを見ているだけでイライラさせられていた。

 

 

『私の回りの皆が死に絶え、私だけが生き残った。オレだけが救われた。そしてオレを救った人は喜んでいた!! だから憧れた、誰かを救うという夢に憧れた、それだけだった!!』

 

『……っ』

 

『この身は誰かの為にならなければならないと、強迫観念につき動かされてきた。それが苦痛だと思う事も、破綻していると気付く間もなく、ただ走り続けた!! だが所詮は偽物だ。そんな偽善では何も救えない。否、もとより、何を救うべきかも定まらない!!』

 

 

苛立ちのあまり、エミヤは自分の過去を吐露していた。それは、シールダーも知っている道筋だった。

強迫観念に突き動かされた。苦痛だとすら思わなかった。……何も救っていなかった。

 

シールダーは思わずガシャコンカリバーを取り落とした。慌ててルールブレイカーで剣を受けるが、剣先はすぐ目の前にあった。

 

 

『もしかして、貴方が……エミヤ、シロウ?』

 

 

……言葉が漏れた。シールダーの聞いた道筋は、かつて彼女の使用しているガシャットの中で聞いた守護者と全く同じだった。

 

 

『……っ、誰から聞いた』

 

『……アルトリアさんが、言っていました。貴方のこと』

 

 

……エミヤの攻撃が、緩んだ。それに合わせてマシュはガシャコンカリバーを拾って飛び退き、変身を解く。

マシュは、彼には勝てないと悟ってしまっていた。今の自分は、彼を倒せない。誰も倒せない。倒したいのかも、分からない。

 

 

『……逃げるのか』

 

『……はい』

 

 

……エミヤは、その気になればマシュを始末出来た。宝具を展開してから徹底的にいたぶり潰すことが出来た。何なら令呪を貰ってエクスカリバーを使うことも出来た。

それをしなかったのは、マシュがアルトリアと知り合っていたからだった。彼女と会った上で剣を託されたなら、それはアルトリアがマシュを認めたということととれる。それなら……もう少し、信じたいと思ってしまった。

 

 

『……そうか……何かあったなら、私の元へ来るといい』

 

『……見逃すんですか?』

 

『……お前が、セイバーの信じたお前が、正しい決断をすることを、信じよう』

 

──

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

正しい決断とは、何なのだろう。マシュには分からない。

今の自分には、何もない。救うものすらない。自分の道すら、結局見失ってしまった。

 

君が世界を救うんだ──マーリンの言葉が脳裏を過る。

 

 

「……マシュ?」

 

「……」

 

 

エミヤの意見に従って、取り合えず裏切れば良いのだろうか。それが正しい守護者と、言われた気がした。

ジル・ド・レェの意見に従って、世界を塗り替えれば良いのだろうか。そうすれば全てを好きなように守れると、確かに言われた。

誰も答えはくれない。人理を修復していた頃はそれしか選択肢はなかったし、マシュも人理修復しか考えなかった。

 

自分のやりたいことは、何なのだろう。

 

 

「……マシュ? マシュ?」

 

 

ナーサリーがマシュの名を呼ぶ。マシュは上の空だった。ナーサリーが肩を竦めて真黎斗を見る。

 

 

「マシュ・キリエライト」

 

「ねぇ聞いてるマシュ?」

 

 

声がマシュの脳内で響いた。歪んで聞こえた。急かしているように思えてしまった。早くしろ、早く決断しろ、お前はどうするんだ、そう攻め立てられているように思えてしまった。

 

 

「……私は!!」

 

 

弾かれるように、叫んだ。反射的だった。

 

 

「わ、私は!! 檀黎斗は、間違っていると、思います!!」

 

 

反射的だった。やはり……考えなしの発言だった。

真黎斗は眉をひくつかせ、理由を問う。

 

 

「……何故、そう思った?」

 

「何故って──」

 

 

……当然、理由なんて出なかった。

マシュは下を向いたままフリーズする。真黎斗は大きくため息を吐いた。

 

 

「……全く、私に理由なく歯向かうとはな。君は予想以上に脆かったらしい」

 

「きっと疲れてるのよマスター」

 

「っ……」

 

「君には考える時間が必要だろう。君を選んだのは私だ、君が最終的に何をしようと、私の目的に代わりはないが──考える時間はやる。君には、その権利は私が恵んでやる」

 

 

マシュはつい、顔を上げた。

 

その拍子に、ガシャットを奪われた。

 

 

「そして、ガシャットの使用権を剥奪する」

 

───

 

 

 

 

 

「早く蛇口から手で水を移し変える作業に戻りなさい!! とにかく癒しの水増やして!!」

 

「分かった分かった!! この私がウォーターサーバーになるとは……!!」バシャバシャ

 

 

花家医院にて、フィンはニコに顎で使われながらひたすらに癒しの水を生成していた。既に深夜だったが、フィンは一度も休めなかった。

フィンの宝具この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)の効果によって、彼が手で掬った水は全て癒しの力を持つ。その力を生かして、彼はとにかく水を蛇口から手でバケツに移していた。バケツ20杯分は移していた。

 

 

「出来たぞマスター!!」

 

「遅い!! これ次のバケツね!!」

 

「っ、まだ終わらないのか……マスターは本当にサーヴァント使いが荒いな。これも女難か……!?」バシャバシャ

 

「はぁ? ならアンタが一人一人の患者の元を回って手当てする!?」

 

「はは、冗談はよしこさんだ!!」バシャバシャ

 

 

そう言えば、ニコはいかにも鬱陶しそうに顔をしかめて、その場からバケツを持ち去った。

 

……都合が悪いことに、サーヴァントの治癒宝具は、ゲーム病に対しては上手く効果を発揮できない。黎斗神に治癒をかけ続けているメディア・リリィはまだ調べていないが、少なくともナイチンゲールとフィンの各々の宝具では、ゲーム病は全く治らなかった。精神を落ち着かせ、ゲーム病以外での怪我を治すことは出来るから重宝はしているが。

黎斗神はこのことに対して、バグスターであるサーヴァントにとって、ひいてはバグスターの世界を作ろうとしている真黎斗にとってはゲーム病にかかっていることは当然のことであり、何ら治療の必要がないのだろう、だから治せないのだ……と仮説を立てている。

 

 

「ベッド増やすぞ!!」

 

「もう全部無くなったわよ!! それに薬も足りない!!」

 

「他所の病院からの援助はどれだけある!!」

 

「まだ半日はかかるって!!」

 

 

飛び交う怒号。止まらない患者。元々は大我しかいなかった廃病院は、今やゲーム病患者の生命線だ。

ゲーム病に対して治療が行えるのは、聖都大学附属病院とここ花家医院しかない。ゲーム病が知られてからまだ経っていないという理由もあるが、何れ根絶されるであろう病であることが、専門医の増加を妨げていた。故に、他の病院はゲーム病に対してろくな対策が取れない。夜は今日も更けていく。

 

───

 

 

 

 

そして更に更け行く夜のなかに、マシュは出てきていた。

 

 

「……」

 

 

聖杯戦争七日目、午前3時頃。ガシャットもバグヴァイザーも奪われたマシュがロビーを出ていた。荷物は全て部屋に置いてきていて、持っているのはアヴェンジャーに押し付けられた煙草と少しの金くらいだった。

空は暗く何処までも澄んでいた。星が美しかった。それが一層腹立たしかった。マシュは特に意味もなく、煙草を取り出す。

 

 

「……火が無かったら、吸えないじゃないですか」

 

 

そして仕舞った。ライターを探すのも疲れるし、煙草に興味はなかった。分かるのは、銘柄がこの前と同じキャスターだ、ということだけだった。

 

キャスター……ゲンムのキャスター、ナーサリー・ライム。マシュは彼女を思い出す。

 

 

「私が……本当なら、あの場所にいたんでしょうかね」

 

 

独り言が漏れた。彼女は、既に自分がFate/Grand Orderのメインヒロインだと知っていた。夢で見ていた。

自分が黎斗の隣で作業する様を少し想像してみる。……嫌気が差した。

 

 

 

 

 

マシュはいつの間にか、それなりに歩いていた。……花家医院へのルートだった。エミヤの言葉が頭を過る。それを振り払おうと首を振った。

その時だった。

 

 

「……何、してるの?」

 

「……貴女は」

 

 

CRのムーンキャスターのマスター、仮野明日那がそこにいた。

明日那は花家医院まで行ってちょっとした用事を済ませ、歩いて戻っている所だった。その途中で、見覚えのある髪を見たから警戒しつつも声をかけたのだ。

 

明日那は何時でも令呪を使えるように身構えながらマシュを観察する。背負っている剣を振り抜かれたら真っ先にBBを呼びつけるつもりだった。しかし、ガシャットを取り出して来ないことを考慮すると、向こうに戦う気は無さそうだ……そうとも思っていた。

 

 

「……その、ええと、散歩……です」

 

「……本当に?」

 

 

マシュは誤魔化そうとするが、効かない。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

暫く見つめあう。風が吹いていた。

 

……折れたのはマシュの方だった。彼女には戦う意思すらない。むしろ、真黎斗への当て付けとして少しばかり情報すらくれてやろう……そんな気さえしていた。

 

───

 

「これよりサーヴァントの魂を解析する」

 

 

カリギュラによって融かされ、患者が誰もいなくなった棟をパージし終えた黎斗神は、メディア・リリィに確保させた二つの魂を押し込んだ、マイティブラザーズと同型のブランクガシャットに手をかけた。

 

 

「……それを使えば、アサシンは復活できるのか?」

 

「それは不可能だ。サーヴァントを召喚するシステムは、今のところゲンムコーポレーションにしか敷かれていない。まあ、この魂自体にも鍵が掛かっているからどちらにせよ不可能か」

 

「じゃあ何のために──」

 

 

パラドが苛立たしげに声を上げる。彼は、サンソンを助けなかった彼に対して怒っていた。それは、自分自身への怒りでもあった。

 

 

「このガシャットを解析することで、外からでは分からなかったサーヴァントの中身の情報が手に入る。本当に大事な部分には更に鍵が掛かっているが──サーヴァントに効くガシャットの調整方法は確立できそうだ」

 

「マジで!?」

 

 

今度は貴利矢が声を上げた。そして爆走バイクを黎斗神に投げ渡す。

 

 

「そうだな。前回の……三倍は効くようになるだろう。私の神の才能をもってすればな」

 

「……そうか」

 

 

しかし、パラドは下を向いていた。彼には黎斗神に渡すガシャットすらなかった。黎斗神はパラドの様子を横目に確認して、しかし無視する。

 

 

「これからは、このガシャットをCR側の聖杯とする。とはいっても、このガシャットにはサーヴァントの魂を回収する機能はゼロだがな。少なくとも、向こうには二つの魂は行っていない」

 

「なるほどなー……じゃ、もしこのガシャットに更に魂が五つ入れば、願望機になるんだな?」

 

「理論上はな」

 

 

……そのタイミングで、CRに明日那が帰ってきた。貴利矢が彼女に目を向け……驚愕する。黎斗神も、目を見開いていた。

 

 

「……何故、お前がここにいる」

 

 

白い髪。背中の剣。貴利矢と黎斗神には、酷く見覚えのあるもので。

 

 

「お前は……ゲンムの……」

 

「マシュ・キリエライト……!!」

 

 

マシュが、そこにいた。

明日那が、隣で手を合わせて謝罪していた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


──マシュとCR

「黎斗さん……」

「私は君に謝ることなど一つもしていない」

「それでも、私は」


──交わされる問答

「バグスターの、命」

「貴女が味方になってくれるなら……」

「私は……何がしたいんでしょうか」


──裏切りの提案

「私と一緒に……来てくれませんか」

「……わしは、賛成出来んな」

「……すまない」


第二十二話 Lose your way


「ここまで泳がせた甲斐があった……」


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第二十二話 Lose your way


言うことないな……
作者の自転車の名前はレーザー・スターリオンmk2です(自分語り)



 

 

 

 

 

「……何故マシュ・キリエライトを入れた、ポッピー!!」

 

「だって……」

 

 

ポッピーが俯く。彼女は、マシュと話している内に段々情が沸いてしまって、一度黎斗神と話をさせようと思ってしまったのだ。出来れば黎斗神に謝罪して貰って、そうして、マシュに此方側に付いて貰いたいとも。

 

 

「……黎斗さん」

 

 

マシュの目が、黎斗神に向けられる。

黎斗神は、マシュに入られたことは鬱陶しく思っていたが、マシュに責められることは何とも思っていないらしく特に何のリアクションも見せない。

 

 

「何で、私達を作ったんですか?」

 

 

マシュはそう聞いた。ずっと思っていることだった。

 

 

「決まっているだろう。私が、究極のゲームを作るためだ」

 

「それなら、何で私達に、あの旅をさせたんですか?」

 

「テストプレイだ。言っただろう」

 

「私達に、何で意思を与えたんですか!! 全て貴方の手の上なら、いっそ、何もないほうが良かったのに!!」

 

 

……黎斗神には、ここまでマシュが怒る理由がイマイチ飲み込めていない。何しろ、彼女の反応は今までのバグスターのそれとは、全く違っていた。

悪の大魔法使いとしての設定を組み込んだアランブラにだって過去はある。ライバルレーサーとしての意思を持ったモータスにだって意地がある。全て黎斗が組み上げた物だ。

しかし、彼らはマシュのような反応はしない。皆が皆、与えられた役割を演じることに抵抗はなかった。

二つの差は、その意思に黎斗が手を加えたかそうでないか、それだけなのに。黎斗神には分からない。分からないし、謝ることなど何もない。

 

 

「……私は君に謝ることなど一つもしていない。君が怒る理由も分からない」

 

「く、黎斗!?」

 

 

ポッピーが動揺する。まさかストレートに言うとは。いや、前にゲーム病のニコに死んでもバグスターになれる、と言っていた辺り言うかもしれなかったが、それでも自重はすると思っていた。

 

 

「分からない……? 分からないんですか黎斗さん!?」

 

「ああ分からないとも。何故君がそこまで拘るのか分からない!! 私のシナリオは完璧な物だ、違和感の一つもあるはずがない!! 君達は君達の世界で役割を終えその後こちらに呼び出されたそれだけだ!!」

 

「そんなことない!! 私達は、私達は──」

 

「何故空虚さを覚える!! 君の旅は私の作ったものだ、私の手の上にあったものだ、それがどうした!!」

 

 

黎斗神は、いつの間にか冷静さを欠いていた。自分の産み出したキャラクターが離反するのは構わなかったが、自分の設定に文句をつけられるのは我慢ならなかった。

 

黎斗神にとって、ゲームの過去も現実の過去も何ら変わりない。

そもそも、彼は現実を絶対の物とも思っていない。彼は未来だけを見て生きている人間だ。過去は過ぎ去った物語でしかなく、仮にそれが誰かに作為的に作られたものであろうと、それをどうしようとも思わない。

 

 

「私達の全ては偽物なんです!! 私達の過去も!! 私達の旅も!! 私達の命も!! ラーマさんもジル・ド・レェさんもエミヤさんも偽物なんです!! 皆偽物なんですよ!! 貴方でさえも!!」

 

「っ……ほう?」

 

「貴方だって!! 本物の檀黎斗の記憶を引き継いだ、本物の檀黎斗の物語をコピーして生まれたバグスターなのに!! 貴方だって、偽物なのに!!」

 

 

マシュは口論の末に、黎斗神すらも偽物だと、そう言った。しかし黎斗は動じない。それがどうした、私は究極のゲームを作るだけだ、それで終わる。

 

例え自分が、本当の自分のコピーであると知っても、彼は何とも思わない。むしろ自分の才能を誇る。自分の神の才能が命のあり方を変えた、と。

例え世界が、五分前に誰かに作られたものと知っても、彼は何とも思わない。彼の目指すものは究極のゲームのみ。

 

そういうものなのだ。彼は何とも思わない。彼だけではない、他のバグスターも人間も、誰も何とも思わない。少し疑問に思っても、しかし仕方のないことだと忘れるのだ。悩み続けているのは、マシュだけなのだ。

 

 

「私は私だ!! 私は私が何者であろうと、私の才能を具現化することが私の使命!!」

 

「っ──」

 

 

黎斗神は、檀黎斗と変わっていない。変わったのは、その具現化が皆を笑顔にするものであれ、というオーダーを受けたことのみ。それ以外は、本当に変わっていない。

マシュはそれを悟り、踞った。悔しかった。涙が、堰を切って溢れだした。

 

 

 

 

 

「ゲンム、ちょっと黙ってろ」

 

 

パラドが、黎斗神をそうたしなめた。そしてマシュに手を伸ばして反応を見る。

 

 

「おい、あーと、マシュ?」

 

「……」

 

「……俺もバグスターだ。話がしたい」

 

「……?」

 

 

自分もバグスターだ、という声で、マシュは思わず目線を少し上げた。パラドの目は真剣だった。

 

パラドは怒っていた。先程まではサンソンを見殺しにしたことに対しての怒りだったが、それに加えて今はマシュのこともあった。

 

 

「聞かせてくれないか、お前の過去(設定)を。俺は知りたい。知って、力になりたい」

 

「──」

 

 

マシュは暫く静止していたが、思わずその手を取った。

 

───

 

マシュの説明は、余り上手いとは言えなかった。かつては皇帝すら納得させてきた語り口は、実力行使の波に呑まれ今は見る影もなかった。

しかし、パラドは辿々しい説明の全てを、頷きながら聞いていた。

 

 

「それで……その、その退去の時に……あの、レイシフトから帰るときは何というか、その、光に包まれるような感じがするんですけど……その時に、その、黎斗さんが……ドレイクさんを、バグスターで消滅させて──」

 

「……そうか」

 

 

既に、一時間は経っていた。長いようにも思えたが、詳しく語っても彼女の一生の半分ほどをそれだけで話せたのだから、やはり彼女の命は短かった。

 

貴利矢とマルタは遠巻きに眺めていた。貴利矢は自分が茶々を入れるべきではないと考えていて、マルタは話を聞いている内に下手したら黎斗神に手を出しかねなかったから自重していた。

BBは、キアラの存在を知ってからほぼずっとパソコンに向かっていた。キアラが倒された後でも。彼女もマシュが来たことには気づいていたが、ポッピーにとっては喜ばしいことに何も言わなかった。

当然のように、黎斗神はガシャットを調整していた。メディア・リリィは何時ものようにその背に杖を突き刺して治癒をかけていた。

 

 

「それで、それで……私がその後に、帰ってきた後に黎斗さんを問い詰めたら、ブーディカさんも同じだって言われて、それで……」

 

「……辛かったな」

 

「……」

 

 

パラドは、知っている。

その全てが黎斗のゲームだと最初から知っている。彼がゲームをプレイする様を知っている。

知っていて、止めなかった。その時の彼は止めようなんて思わなかった。ただ、早く仮面ライダークロニクルを作れとしか思っていなかった。

今となっては、申し訳ないことをしたと、そう思った。

 

───

 

 

 

 

 

「ねぇ、どう思うマスター?」

 

 

それから暫くして、ナーサリーがマシュの位置情報を見ながら呟いていた。マシュの体内のGPSは、彼女が今CRにいることを如実に示していた。ナーサリーは、それを見てどうしようかと迷っていた。

 

 

「どうする?」

 

「……この時を、待っていた」

 

「マスター?」

 

 

……しかし、真黎斗は嗤っていた。全てが、上手く行ったと。

 

 

「ここまで泳がせた甲斐があった……!!」

 

───

 

 

 

 

「それで、私は、守護者になろうと決心しました。黎斗さんには、任せられない……」

 

 

いつの間にか、話し始めてから二時間だった。そろそろ夜明けだった。

飽きることなく話していたマシュはかなり疲れてこそいたが、それでも、ずっと話を聞いてくれるパラドに安心感を覚えていた。

 

だからこそ、不意打ちを警戒なんてしていなかった。

 

 

「そして、決戦の朝が来ました。私達は聖都へと──」

 

 

 

 

 

『令呪をもって命ずる』

 

 

 

 

 

「──え?」

 

 

突然、マシュの脳裏に真黎斗の声が響いた。マシュの心身はそれと同時に凍りつき、恐怖でピクリとも動かなくなる。

それに構うことなく、宣告は告げられた。

 

 

 

 

 

『CRを破壊しろ』

 

 

 

 

 

「……嫌、嫌です」

 

「マシュ?」

 

「嫌です、嫌です……!! 嫌、嫌、やめて……!!」

 

 

マシュは震える自分の右手を左手で押さえつけながら、椅子から転げ落ちた。少しでも気を抜いたら、右手は勝手に剣を抜いて破壊活動を始めてしまう。令呪を何とか押さえるだけの対魔力が、彼女にはあった。

 

 

「おいマシュ!!」

 

「どうした!!」

 

「やめて、やめてください!! 嫌、嫌、嫌!! わたしは……!!」

 

 

命令に従おうとする衝動を押さえ込む。理性でもって押さえ込む。意思でもって押さえ込む。

……しかし、この意思すらも黎斗の手の上なのではないか?

そう思ってしまった。それと同時に、命令が左腕にも伝播する。体が侵食されていく。マシュは必死に両手を足で押さえ込むが、限界は近かった。そして。

 

 

「やめて、はいってくる……やめて……やめて……!!」

 

『重ねて令呪をもって命ずる。CRを破壊しろ』

 

「やめて、いや、やめて、ください……!!」

 

 

……マシュ・キリエライトは、二つ目の令呪によって敗北した。完全に。

 

支配権を完全に奪われたマシュは一瞬フリーズし、次の瞬間エクスカリバーを握りながら立ち上がり、それでCRの天井を切り裂いた。

明かりが明滅し、一瞬闇に包まれる。そしてまた明るくなった時には、CRの配線は完全に破壊されていた。

 

 

「っ……神、ガシャット!!」

 

「修理中だ!!」

 

 

貴利矢が黎斗神にガシャットを要求する。しかし先程投げ渡したばかりのガシャットの修理がもう終わっているなんてことはなく。しかも黎斗は、パソコン一式を抱えて逃げようとしていた。

 

 

「ここは私が!!」

 

『ときめき クライシス!!』

 

 

ポッピーがガシャットを構えて、マシュの前に立つ。

この責任は、完全にポッピーにあった。彼女がマシュを、招き入れてしまったのだから。

 

 

「……変身!!」

 

『バグル アアップ』

 

『ときめきクライシス!!』

 

 

変身したポッピーがマシュを押さえ込む。彼女は既に、マシュの暴走の原因が真黎斗の令呪だと察していた。暫く抑えれば解放される筈だと。

だからマシュの手首を捕獲し暫く押さえつけることをポッピーは目標にした。マシュを、傷つけられなかった。

 

 

「はあっ!! あああっ!!」ブンッ ブンッ

 

「っ、止まってマシュ!!」

 

   ガン ガン

 

 

バグヴァイザーⅡのチェーンソーとマシュのエクスカリバーが交差する。鈍い音と共に二人の間を往来する刃は、互いを傷つけることは出来ず。

 

 

「頼む姐さん」

 

「任せなさい!!」

 

 

そして、その隙を見て背後に回ったマルタが、マシュを羽交い締めにした。タラスクこそ呼べないが、彼女の馬力は十分だった。

 

 

   ガシッ

 

「落ち着いて!! 落ち着きなさいマシュ!!」

 

「あああっ!! はああっ!!」バタバタ

 

 

暴れるマシュ。手を動かした拍子に、彼女の手からエクスカリバーが溢れ落ちた。音を立てて剣が転がる。

それが、マルタを油断させた。

 

マシュはその瞬間にマルタからすり抜け、ルールブレイカーを黎斗神のパソコンに投擲し──

 

 

「はああっ!!」

 

   ダンッ

 

 

貫いた。

 

 

「──!!」

 

「黎斗!?」

 

「おい、お前!!」

 

 

投げたルールブレイカーは、黎斗のパソコンを穿っていた。モニターも基盤もキーボードも貫いて、破壊していた。

ポッピーも思わずそちらを向く。全員の目がそこに集中する。

 

 

「──……私は」

 

 

そして、そこでマシュは自分の主導権を取り戻してしまった。黎斗のパソコンを破壊することが、CRの息の根を止める条件だったのだろう。

 

 

 

「──」

 

 

マシュは剣を拾い、何も言えずに駆け出した。ここに至っては、何の言葉も意味はなかった。彼女は駆け出しながら霊体化し、その場から消え失せた。

 

───

 

 

 

 

「……」

 

 

もう、彼処には戻れない。

 

聖都大学附属病院近くの公園のベンチに現れた彼女は、半ば呆然と空を眺めていた。平日の昼前に、人はあまり多くない。

太陽が照りつけていた。マシュは八つ当たりの意を籠めてそれを睨もうとしたが、眩しさに負けて目を背けた。

 

 

「私は……」

 

 

自分は、徹底的に真黎斗の駒らしい。曲がりなりにも自分の意思でCRを訪れたはずだったのに、それすらも利用されてしまった。

黎斗の笑い声が脳内に蘇った。

 

 

 

 

 

「……ここにおったのか、マシュ」

 

「……信長さん、ジークフリートさん……」

 

 

聞き慣れた声に顔を上げれば、信長とジークフリートがいつの間にか彼女の傍らに立っていた。迎えに来たのだろうか。

 

 

「……黎斗から聞いたぞ」

 

「っ……私は……私は……」

 

「……すまない、俺もそこに居れば良かったのだが」

 

 

マシュの肩は震えていた。徹底的に打ち据えられた彼女の精神はもうズタズタだった。とうの昔に砕けていた彼女の水晶が、きりきりと痛んだ。

 

 

「……さい」

 

「……?」

 

「……どうした」

 

「……ください」

 

 

そして、その痛みが、彼女の道を決定付けた。

 

 

「……私と一緒に……来てくれませんか。私と一緒に……黎斗さんを」

 

 

即ち、独立。ゲンムには戻りたくない、CRには戻れない、ならば、と彼女が選択したのはそれだった。

痛みが、黎斗を許してはならぬと囁いた。苦しみが、黎斗を終わらせることが贖罪だと告げた。黎斗を倒せ、黎斗を倒せと衝動が彼女を駆け巡った。

例え彼女の意思が全て黎斗によるものであったとしても、黎斗を倒すということだけはそれでも可能だった。それは、壊してしまったCRへのある種の義理立てでもあった。

 

 

「お願いです。私と……一緒に、来てください」

 

 

……信長はやっぱりな、という顔をしながら、ジークフリートは困惑を浮かべながら視線を交えた。二人はマシュの思いは何となく理解はしていたが、しかし完全に彼女に肩入れすることも出来なかった。

 

 

「……わしは、賛成できんな」

 

「信長さん……」

 

「……すまない。俺も、すぐに頷くことは出来ない」

 

「ジークフリートさんも……」

 

 

マシュは道を見失っていた。

最早、迷うべき岐路すらも分からない程に。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───新生CR

「ここをキャンプ地とする」

「何処で買ったのよこれ!?」

「パソコンの修理を始めようか……!!」


───花家医院での対話

「裏切ってどうする。何をする。何が出来る」

「私は、どうすれば……」

「ここは病院だ。てめぇに付き合ってる暇はないんだよ……!!」


───そして、訣別

「……ありがとうございます」

「全く……手間のかかる奴じゃ」

「私……私は、それでも」


第二十三話 逆光


「ネットワーク潜航救急車シャドウ・ボーダー、出航だ」


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第二十三話 逆光


ゲキトツとジェットのコラボスバグスターにはそれぞれガットンとバーニアの面影があるのに、どうしてドレミファのコラボスにはポッピーの面影がないんだろう
同じキャラのバグスターが同時に存在できないから別のキャラが現れたと考えたら社長がどれだけバグスターウィルスをばらまいても次の感染者が出なかったことと上手く噛み合わないし……



 

 

 

 

 

「皆、本当にごめんなさい……」

 

 

ポッピーは、深々と頭を下げていた。それを見つめる黎斗神と貴利矢とパラドの顔は複雑そうだった。

CRは、もう使い物にならない。荷物はもう纏めてある。仕方のないことだった。

 

 

「……過ぎたものは仕方がない」

 

「で、これからここはどうなるんだ、神?」

 

「……攻略されるだろうな。こちらは抵抗は不可能だ」

 

 

黎斗神はそう首を振った。パソコンのデータや、パソコンと繋げていたセンサーなどの周辺機器自体は無事だったが、もう暫くは爆走バイクに手はつけられないし、真黎斗への対抗も不可能だった。

 

 

「BBのパソコンを使えば──」

 

「不可能だ。先程軽く彼女のパソコンで確認したが、既にアクセスは不可能になっていた」

 

「ちっ……後どれだけで支配される」

 

「もって二時間だろう。花家医院が何もされていない以上患者に危害は加えないだろうが、少なくとも(相手)ならCRは封鎖する」

 

 

非常電源の件もあるから断言は出来ないが、とも黎斗神は付け足した。

既に事情を把握した飛彩と永夢、そしてナイチンゲールはもう患者の元へと急行していた。もう、東京に安全圏はない。全てが、真黎斗のゲームエリア。

 

 

「そんな……」

 

 

ポッピーが俯く。後悔が彼女を埋め尽くした。マシュを連れてきたこと自体は間違いではなかったと思いたかったが、それも無理だった。

 

黎斗神はそんなポッピーを見て少しだけ目を瞑り、何かを考える素振りを見せていた。しかし、すぐに目を開き、無言で歩き始める。

 

 

「……黎斗?」

 

「私が何も対策をしていないと思ったか?」

 

───

 

「何で、ですか」

 

 

マシュは、信長とジークフリートから要望をはね除けられたマシュは、虚ろな目を二人に向ける。

 

 

「何でですか?」

 

 

マシュには、分からない。信長はともかく、何故ジークフリートが頷いてくれないのか分からない。彼もまた迷っていると、感じていたのに。

信長がやれやれと肩を竦め、問った。

 

 

「マシュ。お前は裏切ってどうする。何をする。何が出来る。具体的にどうしようと言うのじゃ?」

 

「私は……」

 

 

……答えは、出ない。

最早何時ものことだった。彼女は、何も知らなかったのだ。結局自分は何をしたいのかすら。

黎斗を倒せという衝動が今は彼女を動かすが、どうやってか、と言われれば曖昧なイメージしか出てこなかった。

 

 

『何かあったなら、私の元へ来るといい』

 

 

「──」

 

 

そして、曖昧なイメージの中でそんな声を聞いた。昨日聞いたばかりの声だった。

 

───

 

黎斗神に連れられて、CRにいた面々は地下駐車場にやって来た。数日前に飛彩がジャンヌと共にゲンムのセイバーとキャスターを迎え撃った場所だ。既にここは真黎斗の支配下にあったが、特に何かが動いているということもなかった。

 

黎斗神はその片隅へとまっすぐ進み、そこにあった黒塗りの貨物車、所謂バンと呼ばれる車に手をかけた。この車だけ、何故か真黎斗からのテクスチャの支配がかかっていなかった。

 

 

「……何これ」

 

「現実の車を弄るのは初めてだったが、私の神の才能に限界はなかった」

 

 

そう言いながら彼は車の鍵を開け、助手席に座り、穴の開いたパソコンをカーナビに接続する。それと共に彼は車のエンジンを起動した。

 

 

「というわけで、ここをキャンプ地とする」

 

「え?」

 

「は?」

 

「あ?」

 

 

全員がその口をあんぐりと開けた。何を言っているんだ、こいつは。

 

 

「そもそも何処で買ったのよこれ!?」

 

「元々持っていた車だ。殆ど運転することはなかったがな。それをかつて改造した。もしもの時に備えてな」

 

 

飄々と言う黎斗神。彼がカーナビを軽く弄るだけで、後部座席のドアも開き、椅子と簡易なテーブルが顔を出した。黎斗神はそれをドヤ顔で確認し、親指で座席を指し示す。

貴利矢は物珍しそうに眺めていたが、安全なのは確かだとは察していた。

 

 

「残念ながら乗れる人数は本来よりは少ないがな。キャスター、ライダー、乗れ。後はどうする。どちらにせよポッピーは残るだろう?」

 

「俺も残る。ここは空けられない」

 

 

……結局、パラドとポッピーとBBが残り、運転席にマルタが、後部座席にメディア・リリィと貴利矢が座ることとなった。全員がシートベルトを締め、マルタがハンドルを握る。

 

 

「ライダー、運転は出来るな?」

 

「当然よ」

 

「そのカーナビは、ゲームエリアの薄い部分を自動的に探し当てる。そこに移動しろ。そこなら、私が介入せずとも侵食を避けられる」

 

 

そして、エンジンがかけられた。バンは動きだし、ポッピーとパラドとBBを残して駐車場から飛び出していく。

 

 

「ネットワーク潜航救急車シャドウ・ボーダー、出航だ……さて、パソコンの修理を開始するか」

 

 

黎斗神は少しだけ感慨深げに呟き、穴の開いたパソコンを工具で弄り始めた。

 

───

 

 

 

 

 

「……何しに来た」

 

「……エミヤさんは、いますか?」

 

 

……マシュは、一旦信長とジークフリートと別れ、一人花家医院までやって来ていた。当然それは感知され、ゲーマドライバーを付けた大我がガシャットを構えながら出迎えることとなる。大我も、CRが崩壊したことは既に聞いていた。

 

 

「アーチャー? あいつは用入りだ。なるべく誰にも姿を見られないように警戒しながら、ずっと裏方仕事をやってる」

 

 

マシュはエミヤとの会話がしたかったのだが、すぐには無理そうだった。彼女は一瞬自分勝手に失望しそうになり、慌てて向こうにも用事があるのだと自らに言い聞かせる。

 

 

「……で、何の用だ」

 

「会いに、来たんです。困ったなら来い、と言ってたので」

 

 

そしてマシュは、エミヤとのやり取りの概要を小声で伝えた。あまり話しすぎないように気を使いながら。

 

大我は本当なら力ずくでマシュを追い出したかった。この病院まで破壊されたらどうしようもない。

しかしポッピーから、マシュが訪れたら話を聞いてやってくれ、とも言われてしまっていた。

 

───

 

「今度は花家医院に入ったようねマスター。どうする? 令呪、使うかしら?」

 

 

やはりモニターを見ながら、ナーサリーがくすりと笑う。その視線の先の真黎斗はキーボードを弄りながら、どうでもよさげに呟いた。

 

 

「いいや。そこで暴れたら直に患者に危害が加えられるだろうからな」

 

「……それを言うなら、カリギュラを自爆させたのはどうしてだ、って言われるわよ?」

 

「あの時は、シャルル=アンリ・サンソンの行動を予測していたから思いきった行動に移ったまで。どちらにせよ、プレーヤーにゲーム病以外で死なれたら困るからな」

 

 

そう言いながら、聖都大学附属病院を侵食する。既にCRはテクスチャを弄って封鎖した。患者達のスペースも微妙に弄って、ストレスを与えるように工夫する。

 

 

「私ながら回りくどいわよね、マスター」

 

「仕方ないだろう。ゲーム病で消滅して貰いたいのだからな。ゲーム病で消滅しても、ゲームエリア内ならすぐにバグスターとして復活できると広まればまた違うのだろうが……」

 

「まあ、どうしてもダメなら次の手があるから、無理はしなくても良いんじゃない?」

 

「そうだな……そろそろ、始める方が良いだろうな。私の、究極のゲーム──」

 

 

そう言葉を交わす。二人の間では、既に今後の展望が共有されていた。

 

そこに、公園から帰ってきた信長が現れる。

 

 

「失礼するぞ」

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

「何、ちょっとした頼まれごとじゃ──」

 

───

 

 

 

 

 

「なるべく早く済ませろ」

 

 

大我はそう毒づきながら、マシュを診察室の裏の部屋まで通した。あまり綺麗とは言えない空間だった。本やら道具やらガシャットやらが山積みにされていたし、ゴミ箱はゴミで埋まっていたし、隣ではフィンがひたすらに水をバケツに移していた。

 

 

「なるべく、とは……」

 

「言うこと言ったらさっさと出てけ。ここは病院だ。てめぇに長々と付き合ってる暇はないんだよ……!!」

 

 

そう言いながら、大我は白衣を羽織って部屋を出ていく。まだ沢山の診察を待つ患者がいた。本来の何倍もの患者を抱えた彼は、狂ったように働かなければ全ての患者を救えない。

 

 

「おや、また美しいお客さんだ」バシャバシャ

 

「あ、貴方は……」

 

 

マシュは、呼び掛けられて初めてフィンの顔を見た。そして、第五特異点で敵対したことを思い出した。マシュはそれをフィンに話す。

しかし、フィンの方にはマシュと相対した覚えはない。記憶にはサーヴァントごとに違いがあるのだった。

 

 

「きっと、私ではない私との話だったのだろうね。……それはそうと、アーチャーならそこに入ってきたよ」バシャバシャ

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

フィンに指し示されてマシュはエミヤに気づく。彼はマシュに椅子を一つ渡し、彼自身も椅子に腰かけた。

 

 

「……エミヤさん」

 

「思いの外早く来たな、マシュ・キリエライト」

 

「……」

 

 

エミヤの声は、決してマシュを歓迎しているような物ではなかった。彼は彼で、ずっと裏方仕事に徹して疲れきっていた。百人分の病院食、百人分の看病ともなれば、疲れはてるのは明白だった。

しかし彼は、マシュとの会話は断らなかった。自分が切り出してしまったことだったし、何もせずに彼女に暴れられたら本当に困る。

 

 

「エミヤさんは、どうして、そうしていられるんですか? 貴方の人生は、全部、黎斗さんが作ったのに」

 

「……そうだな」

 

 

エミヤは、その問いに対して少し俯いた。彼は聖杯からの知識で既に自分の人生が作り物だと理解していたが、それでもマシュのように混乱はしなかった。それこそ、エミヤ自身にとっても不思議な位に。

しかし、理由なら思い付く。

 

 

「……私の命は、決して良いものではなかった。裏切られ、絶望した、苦しいものだった。だが……その中に、美しいものを見た。そして、私の物語が終わりを迎えたとき、きっと私は満足していた」

 

 

だからだ。そう彼は締めくくった。

彼の物語は、終わりを迎えている。彼は、もう自分の結論に満足している。だからこそ、黎斗という創造主が提示されても冷静でいられた。

自分が作られた存在だ、と言われても、それがどうした、私は私がするべきことをするだけだ、と言えるだけのしっかりとした過去があった。

今でも彼の中には、忘れられない記憶がある。忘れてはいけない景色がある。間違ってなんかいない思いがある。だから。

 

しかし、それは今のマシュにはないものだ。

 

 

「物語……」

 

 

彼女は、自分の物語がない。彼女にあるのは、黎斗に破壊された悲しみと、怒りと、怨みと……それらの入り交じったどうしようもない絶望のみ。彼女の全ては黎斗に作られたものだ、そう言われたら簡単に揺らぐ精神のみ。

 

 

「ないんです。私には。何もない。私には何もない……」

 

「……」

 

 

エミヤは、マシュの概要を把握していた。大我にポッピーからの頼みが来るのと同時に渡ってきた情報を、彼も読んでいた。

そして、彼なりにマシュへの回答は考えていた。

 

 

「……ないのなら」

 

「……?」

 

「何もないのなら、作ればいい」

 

 

それが答え。生み出す者であるエミヤが出せる答え。

 

 

「作る……?」

 

「何もないのなら、作ればいい。自分はどうなりたいか。何がしたいのか。何処を目指すのか。それを探せ」

 

───

 

 

 

 

「……」

 

 

その後マシュは、急病人が出たという理由で花家医院から叩き出された。何の追撃もしてこなかったことが、純粋にありがたかった。

 

 

「……全く……手間のかかる奴じゃ」

 

「信長さん……」

 

 

……玄関で霊体化して待っていた信長が、顔を出した。その背には小さめの鞄が背負われていた。中には、マシュ・キリエライトの私物一式が揃っていた。

 

 

「で、お主は何をするためにどう動くのか、決めたのか?」

 

「私……私は、結局最後まで黎斗さんの良いようにされるのかもしれません。それでも、後悔したくないから」

 

 

鞄を投げ渡す。マシュはそれを受け取り、肩にかける。

 

 

「私は、探したいと思います。何をしたいのか。何をするべきなのか」

 

「呑気なもんじゃのう。ま、是非もないか」

 

 

マシュは歩いて去っていく。その手には、大我のガシャットの山からこっそり抜き出した仮面ライダークロニクルが握られていた。

信長は、彼女が黎斗に邪魔されず答えを得られるよう思いながら、彼女に背を向けた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───記憶の追体験

「何が医者だ、何が仮面ライダーだ──」

「……オレは」

「……俺は救いたかった」


───出芽する狂気

「俺達、死ぬのか?」

「ゲーム病が定着してるって──」

「新型の、仮面ライダークロニクル?」


───残存した天国

「初めまして、でしょうか?」

「貴女は……!?」

「早速ですが……」


第二十四話 NEXT LEVEL


快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)!!」


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第二十四話 NEXT LEVEL


確かクロノスがニコを拉致したとき、ニコにドライバーも何も渡さずにクロノスになれる云々言ってた気がしたけど、つまりクロノスにはバグヴァイザー使用パターンとゲーマドライバー使用パターンとドライバーなしパターンがあるという認識があると見ていいんだろうか
それとも全部作者の勘違いなのか



 

 

 

 

 

───

──

 

「はい、もう大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます花家先生……!!」

 

「良いんです。本当に、元気になってよかった」

 

 

エミヤは、いつの間にか何処かの病室にいた。どこの病院かはさっぱりだったが、目の前の男が今の自分のマスターだ、ということは理解できた。

 

 

「……過去か」

 

 

エミヤは悟った。目の前の花家大我には、白髪なんてなかった。

 

彼の資料を覗いてみれば、花家大我は元々放射線医だと理解できた。それも世界で数例しか報告のない癌すら治療する、所謂天才ドクターだった。

 

 

「お疲れ、だな」

 

「ああ、牧。今日はもう終わりだよな?」

 

「ああ」

 

 

恐らく同僚であろう恰幅のよい医者と会話しながら、大我はエミヤの覗いていた資料を回収して歩いていく。

その姿は確かに自信があった。いや、今の大我にだって自信があるのだろうが、何というか、毛色が違うように思えた。

 

 

 

   ザッ

 

「──」

 

 

……いつの間にか、場面は変わっていた。

病院なのは変わりなかったが、見覚えがあった。

つまり、CRだった。

 

大我と牧が、ガシャットとゲーマドライバーを奪い合っていた。ゲーマドライバーは、血で汚れていた。

どういうわけか、エミヤはそれをガラスを隔てて見ていた。眼下にはベッドと、患者が見えた。

声は聞こえない。しかし、共に苦しんでいることは手に取るように理解できた。

 

そして、牧は消滅した。ゲーム病での、ストレスでの消滅とはああいうものなのかと、エミヤは初めて理解した。

 

 

   ザッ

 

   ザッ

 

   ザッ

 

 

目まぐるしく変わり行く風景の中で、様々な物を見た。

患者も友人も地位も何もかもを失った花家大我。

飛彩に憎まれる大我。

傷を負うのはもう自分だけでいいと決意する大我。

そして、ニコと出会った大我。

 

……その、大我の過去の、最後の場面は。

 

 

 

 

 

「お前は、免許のない俺を、主治医だと呼んでくれた」

 

 

噴水の中、奮い立つ一人のドクター、そしてそれを見上げる患者。

 

 

「……嬉しかった」

 

「……」

 

「ゲームが出来なきゃストレスだって言うならもう止めやしねぇよ。ただし……俺の側から離れるな」

 

「大我……」

 

 

失うもの(守るべきもの)を取り戻した、仮面ライダーの姿だった。

 

 

『デュアル アップ!!』

 

『バンバンシミュレーション!! 発進!!』

 

「……お前は俺の患者だ。何度ゲーム病になろうが、この俺が治してやる」

 

──

───

 

 

 

 

 

「……おっと」

 

 

エミヤは、そこで意識を取り戻した。周囲を見回してみれば、大我も机に突っ伏して死んだように眠っていた。毛布が掛けられていた。

本来ならばゆっくり寝かせてやりたいとも思うが、今ばかりはそうもいかない。エミヤはヤカンに火をかけてから大我を揺すり、目覚めさせる。

 

 

「……おい、マスター」

 

「……ん」

 

「……目覚めたか。目覚めたな?」

 

 

大我が目を開けたのを確認してから、エミヤはコーヒーを仕込み始めた。本当なら彼は紅茶を淹れたかったが、眠気覚ましにはコーヒーが優れていることは認めていた。

時刻は、大体午後の八時だった。

 

 

「……お前の、夢を見た」

 

「……そうか」

 

 

切り出したのは大我だった。彼は変な体勢で寝たせいでついた寝癖を直しながら顔をしかめていた。

 

 

「お前がゲンムの作ったキャラだとは知っているが、一言言わせろ」

 

「……」

 

「この、バカめ」

 

 

コーヒーの匂いが、充満し始めていた。

 

 

「……本当ならゲンムに言うべきだろうが、どうせアイツは聞かないだろうしな」

 

「……そうだな。熱いうちに飲め、マスター」

 

 

エミヤはそう言って、コーヒーを差し出した。バカと罵られたことには触れなかった。

 

 

「……オレも、見た。マスターの過去をな」

 

「……そうか」

 

「オレからも一言言わせろ。この、バカめ」

 

 

今度はエミヤが罵った。そしてすぐに、気持ちは分かるが、と付け足した。大我はすぐには反応せず、コーヒーを一気のみした。

 

 

「仕方ねぇだろ。……俺は、救いたかったからな。いや、今でも救いたいと思ってる」

 

「……そうか」

 

 

エミヤは自身の過去を後悔してはいない。全てを救おうとしたその道は正しいと、今でも思っている。

ただ、大我のような在り方もまた正しい、とも思った。

 

 

「今だけは無理をしてもらうが、マスター。全部終わったらゆっくり休むといい。何かあったら、患者に関わるだろう」

 

「……ハッ、当然だ」

 

───

 

「はーい容態はどうですかー? 何か体調に変化があったら言ってくださーい」

 

 

ニコは、荷台に治療道具を積んで往診を行っていた。本来は大我の付き添いも必要だったが、丁度遅いお昼寝の最中だったので彼女は気を利かせて毛布をかけてやり、一人でやろうとしていた。

 

 

「……あの」

 

「どうしましたー?」

 

 

一人の女性が手を上げた。ニコはそっちに駆け寄りカルテを手に取る。

しかし女性が見せたのは、体の何処でもなく自分のスマートフォンだった。ネットニュースの一番上に、『東京のゲーム病変質、患者と融合!?』とでかでかと書いてあった。

 

 

「……これ」

 

「どういうことなの……?」

 

「何で……?」

 

 

声が、漏れた。

パニックを避けるためになるべく広めないようにしよう、と言われてたことだったのに、こうも堂々と開示されれば──

 

 

「なあ、俺達、死ぬのか?」

 

「嫌だよ……」

 

「死にたくないんだよ……!!」

 

 

ストレスが募るに、きまっている。

 

───

 

「さて、どうなるかしら……?」

 

「どうなるだろうな」

 

 

ゲンムコーポレーション社長室にて、真黎斗の膝に座ったナーサリーがジャックし終えたカメラ越しに聖都大学附属病院の様子を眺めていた。皆が皆、パニックに陥っていた。

 

今回のネットニュースを流したのは彼らではない。しかし、彼らはそのニュースの流通を止めるつもりもありはしなかった。

 

 

「少なくとも、カリギュラはしっかり仕事をしたことは確かだったわね」

 

「ああ。ゲームエリア全体に狂気をばらまくというのは、しっかりと成功したらしいな」

 

───

 

「……」

 

 

マシュ・キリエライトは歩いていた。彼女自身目的地はなかったが、一先ずは今苦しんでいる人を助けないといけない、という使命感だけはあった。

既に日は傾いていた。夕陽が丁度差し込む路地に人影が見えた。

 

 

「……?」

 

 

人影は動いていなかった。マシュは気になって、その中へと入っていく。

 

 

「すいません、大丈夫ですか……?」

 

「──」

 

「あの、大丈夫で──」

 

 

そして、覗き込んで絶句した。

 

その顔は、見たことのある顔だった。

 

 

 

 

 

殺生院キアラだった。

 

 

「貴女は……!?」

 

 

マシュは飛び退きながら剣を振り抜く。おかしい、確かにあの時、消滅したと思っていたのに──

 

……そこで彼女は、キアラもドクターを皆ジル・ド・レェによって飲み込まれてしまったことを思い出した。きっとあの時、どうにかして逃げていたのだろう。

 

 

「……私の、せいだ」

 

 

マシュは呟いた。彼女がジル・ド・レェより先に飛び出して止めを刺していたなら、いや、最初から手伝っていればこうはならなかったのに。そう思ってしまった。

 

 

「初めまして、でしょうか?」

 

「そう、でしょうね……!!」

 

 

幸い、まだキアラにはあの時のような力は無さそうだった。倒されてからさほど立っていない影響だろうか。

 

 

「そうですね。では、早速ですが……」

 

 

キアラはそう言いながら立ち上がる。そして、次の瞬間に彼女から飛び出した魔神柱が、マシュの足下を貫いた。

 

 

   ダンッ

 

「っ──」

 

「楽しませて下さいね?」

 

 

マシュは魔神柱を回避しながら飛び回り、鞄の中に手を入れて仮面ライダークロニクルを取り出す。与えられた情報だと、この仮面ライダークロニクルを使用すればライドプレイヤーと呼ばれる形態になれるとあった。それを使用しようと考える。

しかし。

 

 

   ダンダンダンダンダンッ ズダンッ

 

「っぐぁっ……!?」

 

「ああっ、なりませんわ。ガシャットは厄介ですもの。ね?」

 

 

その瞬間にマシュの左腕は空間に現れた数多の魔神柱によって鋭く打ち付けられ、ガシャットを取り落としてしまった。

どうやら少しだけ自分は油断していたらしい。マシュはそう実感させられる。

 

キアラは魔神柱からガシャットを回収し、それを、胸の中に仕舞い込んだ。取りに行くことは出来ない。マシュはガシャットを諦め、大我に心中で謝罪し、エクスカリバーを握り直す。

そして、大きく飛び上がって剣を振りかぶった。

 

───

 

「大丈夫だから!! あいつはちゃんと病気を治すから!!」

 

 

ニコは、患者達を手当てしながら宥めることしか出来ない。パニックになる患者達に、声をかけることしか出来ない。

 

一人の男がニコの手を掴む。

 

 

「なあ、死にたくねえよ、俺死にたくねえよ!! 治してくれよ!!」

 

「だから!! アイツは治せるから大人しくしててよ!!」

 

「じゃあ何時になったら治してくれるんだよ!! 治療法分かってないんだろ!?」

 

 

ニコはその手を引き剥がした。

しかしすぐに、反対の手を別の男に掴まれる。

 

 

「なあ!! ゲーム病ってのは、何時になったら治せるんだよ!! 頼むから治してくれよ!!」

 

「だったら大人しくしてなさいよ!!」

 

「怖いんだよ!! 死にたくないんだ!!」

 

 

……ニコはまだ気がついていないことだが、この騒ぎで最もパニックになっているのは、ゲンムコーポレーションが政府からの通告として出した外へ出ろという命令に従った者達だった。彼らは外に出て、カリギュラが天へと解き放った狂気をその身に受けた者達だった。

 

ニコはどうにかそれらから離れて、玄関口へと赴く。暫く揉まれている間に、他所の病院からの追加の薬が届く時間を、十分ほど過ぎていた。

玄関に出れば、段ボールが積んであった。ニコはそれの中身を確認し、台車に積み込む。

 

そして何気なくポストを覗き、その中の茶色い箱を手に取った。

 

 

「……ええと、差し出し人は……」

 

 

檀黎斗。そう、書いてあった。

 

 

「……えっ?」

 

 

箱を開ける。その中には手紙の類いは何もなく、ただ、何処と無く見覚えのある薄黄緑のガシャットだけ。

ニコはそれを手に取り、ソフト名を読み、呟く。

 

 

「新型の、仮面ライダークロニクル?」

 

 

仮面ライダークロニクル、のように見えた。

ゲーム名は前半部分が掠れていて、クロニクル、の部分しか読めなかった。

 

───

 

 

 

 

「はあっ!!」

 

   ガンッ ガギンッ ガンッ

 

 

エクスカリバーが降り下ろされる。拳が空を突き上げる。戦闘を開始してから早一時間、キアラに弱る気配はない。

誰も路地に近寄らないことは幸運だったが、助けがないという点では同時に不運でもあった。

 

 

「……喝破!!」

 

   ダンッ

 

「っぐ……!?」

 

 

キアラの平底が、マシュの下腹部を捉えた。マシュはすぐに壁まで吹き飛ばされ、しかし痛みに耐えて立ち上がる。

 

 

「まだ、まだ……!!」

 

「いいですわね、もっと昂ってしまいますわ……!!」

 

 

マシュはうんざりしていた。倒れないキアラではなく、倒せない自分に。あの時倒せなかった自分に。そして苛立ちは彼女の動きを大雑把で大振りなものにしていく。

 

 

「はああああああああ!!」

 

 

マシュは、一際大きく飛び上がった。エクスカリバーは銀の光を纏い、破壊力を一段と増す。

マシュの目は、キアラに止めを刺すルートを見据えていた。一撃目でキアラを袈裟斬りにし、二撃目でその腹を裂き、三撃目で串刺しにする。そのイメージは出来ていた。

 

どうにか勝てる、と思っていた。

 

……まさか、足の着地点が無くなるとは思わなかった。

 

 

「……ふふ、それでは皆々様、済度の日取りでございます」

 

「……!?」

 

快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)!!」

 

 

キアラの腹に、穴が開いた。その中に、宇宙を見た。まだ力が足りないせいだろうか、スカスカに見えるその空間から伸びてきた白い手が、いよいよ剣を降り下ろそうとしていたマシュの足を捉え、掴み、取り込み、足から股、腰から胸、首から頭まで全てを飲み込んでいく。

 

 

「っ、あ……」

 

 

引きずり込まれる。マシュがそう認識した時にはもう遅い。彼女は剣を握っていても振るうことは出来ず。手は伸ばせても掴める物は最早ただの空気のみ。

 

そして、空間はマシュを飲み込んで、静かに閉じた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───嘘つきと聖女

「……アンタねぇ」

「あー、俺の見た夢?」

「……大事なことはもっと最初に言いなさいよ」


───ゲンムの新作

「クトゥルフ神話のデータ、探すぞ」

「おお神よ!!」

「マスター、一度に手をつけすぎじゃないかしら……?」


───天国の中の地獄

「ここは……」

「もう、ダメなんだ。僕らは死ぬんだ」

「私は……諦めません」


第二十五話 我ら思う、故に我ら在り


「私の、やりたいこと……」


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第二十五話 我ら思う、故に我ら在り


リヨぐだ子でもビルドになる時代



 

 

 

 

 

───

──

 

「──!?」

 

 

マルタは、気付いた時には暗い部屋にいた。目の前にはモニターと書類があって、隣には見覚えのない(見覚えのある)友人がいた。

マルタはその瞬間、これが貴利矢の夢だと悟った。

 

 

「なあ、話って……」

 

 

友人はそう言った。マルタの体は勝手に視線を書類に落とし、その書類の一文だけに集中する。

それを読み上げなければならない。その衝動が、マルタを突き動かした。

 

 

「……貴方は、ゲーム病よ」

 

 

……言ってしまった。

 

友人の愕然とした顔が、どうしようもなく印象に残った。

 

 

   ザッ

 

「──」

 

 

次の瞬間には、彼女はベッドの隣にいた。

そこに寝ていた友人の顔には、白い布がかかっていた。

マルタの脳内に知らない後悔が往来する。真実を言ってはならなかった、真実は人を傷つける、だから──

 

──

───

 

 

 

 

 

「……アンタねぇ……大事なことはもっと最初に言いなさいよ……ん?」

 

 

寝言を言っている途中で、マルタは目を覚ました。車内で寝たせいか、肩が妙に凝っていた。彼女は一旦シャドウ・ボーダーを下車して深呼吸する。

 

 

「ふわぁぁ……少し、飛ばしすぎたかしら」

 

 

現在シャドウ・ボーダーは東京のとある路地に停車していた。辺りには人影もなく、誰の声も聞こえない。早朝の朝はどこまでも澄んでいて、見上げれば逆に自分が吸い込まれそうな心持ちがした。

マルタは後部座席のドアを開け、貴利矢を起こす。何となくだが、彼も自分の過去を見たのでは、という、そんな気がした。

 

 

「ねぇ、起きなさいよ」ユサユサ

 

「ん、あぁ……?」

 

 

貴利矢は半目でマルタを認め、大きく伸びをしてから立ち上がった。見渡せば、黎斗神は無言でパソコンを弄っているし、メディア・リリィはその背に杖を突き立てたまま眠っていた。

貴利矢はマルタをシャドウ・ボーダーに引き入れ、座らせる。……召喚されてからずっと思ってはいたが、彼女の格好は目立ちすぎな気がしていた。主に悪い方向でだ。

 

 

「ねぇ。アンタ、私の夢、見た?」

 

「あー、俺の見た夢? 夢、夢……あぁ、それっぽいのは見たな」

 

 

マルタに問われ、貴利矢は窓の外に目をやりながら答える。マルタはそれに耳を傾け──

 

 

「……どんな夢?」

 

「タラスクと温泉に浸かりながら姐さんについて語り合った」

 

 

──そしてガクッとなった。

 

 

「え、えぇ……?」

 

「タラスクがな、『姐さんもっと淑やかにしないと友達なくなりますよ』だとよ」

 

「余計なお世話よっ!!」

 

 

今すぐタラスクを呼び出して説教(物理)でもしてやろうかとも思ったが、何となくその言葉にも嘘があるように思えて、止めておいた。

 

 

「ところでさ姐さん」

 

「ん?」

 

「……そろそろ服着替えねえか? 丁度そこにファッションセンターのしま○らがあるんだが」

 

「あ?」

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

マシュは歩いていた。キアラの中を歩いていた。やや少ないながらも段々と増加していく魔神柱の上を歩きながら、彼女は下の方へと歩いていた。上の方には、何もなかった。

どうやら、キアラの中は広い縦穴のような状況になっているようだった。下の方で、誰かの声が聞こえた。ここまで魔神柱で埋め尽くされていると、あの時間神殿を彷彿とさせた。

 

 

「……どうしましょう」カチカチ

 

 

マシュはそう言いながら、先程落ちていたのを回収した仮面ライダークロニクルを触る。

空間の影響だろうか、電源はどうやっても入れられなかった。

 

 

 

 

 

───

 

「……作さんの意識がはっきりしたって本当ですか!?」

 

「うん、そうみたい。良かった……」

 

 

永夢と明日那はそう言葉を交わしていた。

キアラから解放されてもう三日になる。助かって良かった、永夢はそう安堵した。

もうキアラのような災害が起こらなければ良いのだが……それは、まだ分からない。もしかしたら起こるかもしれない。そう思えば不安が募る。

 

 

「……何か、言ってました?」

 

「あー、えっと」ガサゴソ

 

 

永夢がそう聞けば、明日那は懐を漁り出した。そして、一枚の紙と一つの鍵を彼に渡す。

 

 

「……これは?」

 

「作さんの家の鍵。入院したままでも作業はしたいから、パソコンとか持ってきて欲しいって。永夢もずっと働き詰めでしょ? 外の空気も吸った方が良いだろうし、行ってきなよ」

 

「……分かりました」

 

 

永夢は紙を見る。パソコンや周辺機器等の、持ってきて欲しいもののリストだった。

その中には、当然のようにガシャットの名も入っていた。

 

───

 

「もう朝ねマスター」カタカタ

 

「そうだな」カタカタ

 

 

ゲンムコーポレーション社長室では、ナーサリーと真黎斗がひたすらに作業を続けていた。

既に聖都大学附属病院も落としたし、完全な支配が通っていないのはキアラに汚染された作の部屋程度の物。殆ど完全に、東京は二人の物だった。

 

そんな彼らが現在手をつけているのは、ゲームエリアの拡張や整備ではなかった。彼らのパソコンには、最新のライダーの姿が移っていた。

 

 

「にしても暇よね。……何か、もっとワクワクすることないのかしら?」カタカタ

 

「私達の作っているこれが人々をワクワクさせるのだろう?」カタカタ

 

「それはそうだけど……私達がずっと動いていないじゃない? マスターだって、折角バージョンアップしたそのマイティアクションNEXT、一度も使ってないじゃない」カタカタ

 

「……それもそうだな」カタカタ

 

 

そう言葉を交わす。真黎斗の傍らにあるガシャットは、アップデートされてから一度も電源を入れられたことがなかった。真黎斗はそれを一瞥し、そして目を離す。

 

……その時、ジル・ド・レェが社長室に入ってきた。書類の束を高々と掲げながら。

 

 

「おお神よ!! この資料をご覧あれ!!」

 

「……これは?」

 

 

ジル・ド・レェはその資料を受け渡した。

……黎斗が彼を産み出すときに組み込んだ神話についての資料だった。

 

 

「これは……」

 

「ほう、クトゥルフ神話か……」

 

 

そういえば最近触れていなかったな、真黎斗はそう呟き、開発を進めていた画面を一旦セーブして閉じる。ナーサリーが首を傾げた。

 

 

「あら、マスター?」

 

「……興が乗った。クトゥルフ神話のデータ、探すぞ」

 

 

……ガシャット開発は、やはり檀黎斗にとって最大の興奮要素であった。クトゥルフ神話をモチーフにするのと悪くはない、真黎斗はそう思ったのだ。

 

 

「一度に手をつけすぎじゃないかしら……?」

 

 

そうは言いつつも、ナーサリーも即座にブラウザを開き、資料を漁り始める。ナーサリーにとっても、新作のガシャット開発は最高の楽しみであることに代わりはなかった。

 

───

 

「……はははは!! はははははははは!!」

 

「いやうるせえょ神」

 

「私の才能に限界はない……!!」

 

 

その頃、黎斗神もまた開発を続けていた。現在の彼のライフは68。何度も過労死はしてしまったが、その代わりに多くを得られた。

買い出しから戻ってきた貴利矢は紙袋をマルタとメディア・リリィに押し付けて、騒がしい黎斗神を覗き込む。

 

 

「んで? 結局何がどうなったんだ?」

 

「まず、パソコンの画面をプロジェクターに変更した。もう破壊される心配はない。そして……これだ」

 

 

黎斗神は高笑いを続けながら、貴利矢にブランクガシャットを見せつけた。サンソンとカリギュラの魂を入れている物だった。

 

 

「これが、どうしたよ?」

 

「マシュ・キリエライトに(真黎斗)が令呪を使用したとき、その時の空気をスキャンしていた。データを解析した結果、令呪を使われた瞬間に一瞬ゲームエリアに干渉することで、令呪の効能を弄ることが可能になったかもしれない」

 

「おお、マジか!!」

 

「はははは、崇めろ崇めろ。まだあるぞ──」

 

 

……会話している二人の後ろでは、一つのカーテン越しにマルタとメディア・リリィが着替えている。

マルタが自分用の服がどれもこれもヤンキー臭いと嘆いていたが、貴利矢は意図的に無視した。

 

───

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

 

マシュは、いつの間にか最下層までやって来ていた。結局一度もガシャットの電源は入らなかった。

最下層には、取り込まれたのであろう人々が皆集合していた。まだ誰も消滅はしていなかったが、長い間取り込まれていた人々はもう虚ろな目で魔神柱に溢れた天を仰ぐのみだった。

本来ならばこの中に取り込まれた者は皆、現実を消失し、自我を説き解されて理性を蕩かされる。防御は意味を成さず、いずれ生まれたばかりの生命のように無力化し、解脱する。まだ誰もそうなってはいないのは、一重にキアラがまだ弱っているからだった。

 

 

「大丈夫ですか? 聞こえますか!?」

 

「……もう、ダメだ。僕らは死ぬんだ」

 

 

ぐったりとしていた一人の少年に駆け寄ったマシュは、その呟きを聞いた。絶望が、人々を塗りつぶしていく。

立ち上がれば、そんな人々だらけだった。皆が皆、希望を失っていた。ここには、出口はない。

 

 

「だめです、皆、生きてください。生きないと……」

 

 

ここにいる人々は、マシュには救えない。全員を救うことは出来ない。彼女の剣は壊すことしか出来ないし、彼女の鞄の中には全員を助ける薬はない。

マシュはどうにか彼らを励ましたくて、それでも上手い言葉が思い付かなくて、それでもどうにかしたいと思って声を張り上げる。

 

 

「私は……私は!! 私は、諦めません!! 絶対に、ここを、抜け出します!! 絶対に!!」

 

 

その声は、響くことはなかった。

人々は意識を溶かしながら、それでも鬱陶しげにマシュを見る。

 

 

「……嬢ちゃん、アンタ、何者だ」

 

 

近くにいた一人の中年の男が、マシュに呟いた。やはり彼もまた意識は朦朧としていた。

 

 

「諦めたほうがいい。何も考えなきゃ、ただ気持ちがいいだけだ」

 

 

……それすらもない。弱ったキアラは、取り込んだ彼らに与える快楽にまで気を配れない。彼らにあるのは、何となく気持ちいいような、その程度の物。

 

 

「結局俺たちは、バグスターに好き勝手されて、バグスターに殺されるんだな……はっ、笑えねぇ」

 

「まだ死んでません、死んでないのに……」

 

 

マシュは天を仰いだ。助けは、ない。

 

───

 

「……」

 

 

エリザベートは、スマートフォンを弄っていた。もう、都市部の施設は殆どがパンデミックのせいで麻痺していた。

 

 

「仮面ライダー、ウィザード……」

 

 

スマートフォンの画面には、都市伝説として語られる仮面ライダーの一人、ウィザードの姿が映っていた。

ウィザード、人々の希望を守る魔法使い。そのあり方は、今の自分とは全く違うように思えて。

 

 

「……」

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

ガシャットの電源を入れても、操真晴人は出てこない。彼と会えるのは、あくまでFate/Grand Orderの中でだけ。

エリザベートは唐突に、自分のこれまでの行いが恥ずかしく思えた。

 

 

「私の、やりたいこと……」

 

 

ガシャットをしまう。今も何処かにいるのであろうオリジナルの操真晴人は、今何をしているのだろうか。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───気付いたもの

「私は……私が、救いたかったのは……」

「バグスターは死ね!! 消えろ!!」

「私はもう、何も……」


───見つけたもの

「これは?」

「作さんのガシャット、だと思うんですが……」

「……もしかして、この近くに」


───思い出したもの

「これは……」

『この文を読んでいるとき、君はきっと迷っているだろう』

「それでも私は、諦めたくない……!!」


第二十六話 Brake the chain


『ビーストⅣ、君が世界を救うんだ』


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第二十六話 Brake the chain


段々プロットから脱線してきました、練り直さないと

物書きの天敵にして相棒はノリと勢いってそれ一番言われてるからね



 

 

 

 

 

「バグスターは死ね!! 消えろ!!」

 

「お前たちのせいで!! お前たちのせいで、俺たちは!!」

 

「返して!! 元の生活を返してよ!!」

 

 

キアラの中に、いつの間にやらそんな怒号が飛び交うようになっていた。

始まりは何時だったか。誰かがマシュの姿を見て、バグスターのようだと言ったのが始まりだった。

色の抜けた白髪、妙に露出度の高い鎧、そして背負っている剣。正しくゲームの世界から抜け出たような格好は、とてもバグスターらしかった。

 

マシュは否定しなかった。それは事実だった。彼女はサーヴァントであると同時に、Fate/Grand Orderより現れたバグスターだ。

人々は、マシュの沈黙を同意と受け取った。そして、彼女への、バグスターへの怒りをついに露にした。

 

 

「お前たちのせいで、娘が死んだ!!」

 

「あの子はまだ小さかったのに!!」

 

 

夫婦とおぼしき誰かが叫ぶ。

人々にとって、ドクターの間ではゲーム病での消滅はただ見えないだけの症状だという認識になっていることなんてどうでもいい。何よりも大切な事実は、彼らの目の前から大切な人がいなくなったという事実だけ。

 

 

「妻を、アイツを返してくれよ!!」

 

 

青年がすがり付く。

人々にとっては、バグスターにも種類があるなんてことはどうでもいい。良性だろうが悪性だろうが、どのゲームから出てきていようがバグスターはバグスターであり、憎き敵で、誘拐犯だ。

 

 

「俺の人生お前らのせいで滅茶苦茶だ!! 責任とれ!!」

 

「アタシの!! アタシの友達返してよ!!」

 

「会社が潰れたんだ、俺はどうすればいい!!」

 

「何でもするから!! 何でもするから、元に戻してよ!!」

 

 

彼らはバグスターの中にいて、バグスターに人生を乱されて、バグスターにすがり付く。

彼ら自身、今の自分が可笑しいことは察している。しかし、もうそれしかないのだ。

 

沸々と涌き出る怒りが、普通なら快楽に解され消える彼らの自我を補強して彼らの命を繋いでいるという事実が、何よりの皮肉だった。

 

 

「私は……私が、救いたかったのは……」

 

 

マシュは段々魔神柱が溢れていく天を仰ぐ。

何で、人理を守ろうとしたんだっけ。そんな問いが、溢れ出た。

 

ここに来て、彼女は直視させられていた。人間の醜さを。人間の愚かしさを。人間の残酷さを。

それは、特異点を修復していた時にもう何となく察していたことだった。第七特異点のウル市の時点で、確かに触れていた、それでも無視したことだった。

 

 

「私は……」

 

 

……マシュは、人々を振り払うために大きく飛び上がった。そして、高くにある魔神柱に飛び乗り、人々から身を隠す。

下から聞こえる怒号から身を守ることは、出来なかった。

 

───

 

外は、もう夕方だった。

作の自宅から戻ってきて、作にパソコンやその周辺機器を渡してから業務に戻ろうとしていた永夢は、その途中でナイチンゲールと合流する。

そして彼は、ナイチンゲールに新しく手に入れたガシャットを見せた。

 

 

「これは?」

 

「作さんから貰ったガシャット、何ですけど……」

 

 

先程作にパソコンを渡した所、彼は試運転とばかりに一つのブランクガシャットに作りかけのデータを挿し込み、今回の礼と言って永夢に差し出したのだ。それが今永夢の手元にあるガシャットだった。

カラーリングは、薄いベージュをベースに、茶色と黄色の差し色の入った半透明のガシャットだった。ラベルに描かれているイラストは、何となくかつて消滅したバガモンを彷彿とさせた。

ゲーム名をナイチンゲールが読み上げる。

 

 

「ジュージューマフィン……?」

 

「ええ……ジュージューバーガーのリメイクですかね……?」

 

 

ジュージューマフィン。その名前を聞けば、ラベルに描かれていたバガモンの姿も、バンズをイングリッシュマフィンにした新キャラクターに見えてくる。

 

 

「……取り合えず、持っておけばよいかと」

 

「そうですね。機会があったら、使わせてもらいましょう」

 

 

最後にそう言って、永夢はガシャットをしまった。そして、ナイチンゲールと並んで診察を再開する。

 

───

 

マシュを責める声の中、安全地帯までやって来たマシュは鞄に手を伸ばす。

仮面ライダークロニクルはやはり起動しない。かつてウルクで貰った何かも用は為さない。アヴェンジャーの名の入ったライターを見つけたが、今度はタバコの方をなくしてしまった。

 

結局、今の彼女は何も出来ない。考えることしか出来ない。

 

 

 

 

 

──だから、マシュ・キリエライトは考え、そして()()した。

かつての自分と、今の自分を比較した。

 

自分は守護者だった。今は違う。

自分は人理を守りたかった。今は守るものを見失った。

自分は過去を駆けた。今は彼女に過去はない。

自分は人々を救おうとした。今は人々を救えない。

自分はビースト(ゲーティア)と戦った。今はビースト(キアラ)と戦えなかった。

 

 

「私はもう、何も……」

 

 

もう、何も出来ない。何も、ない。

 

そうとしか、思えなかった。

比較する度に、意識は沈んでいく。

比較する度に、自分が惨めになる。

でも、それだけではない。

変えたくて。越えたくて。このまま、諦めたくなくて。

 

黎斗の顔が脳裏に閃く。憎いと思った。越えようと思った。

ゲンムのサーヴァント達を思い出す。決着をつけないといけないと思った。越えようと思った。

ブリテンウォーリアーズの中のサーヴァントを回想する。期待に答えないとならないと思った。越えようと思った。

ロマンの顔を追想する。会いたいと思った。越えようと思った。

 

 

 

 

 

……思い出す度に、眼が痛んだ。右の目が酷く痛んだ。頭もガンガン鳴っている。苦しい。辛い。でも、記憶は今までになく明瞭だった。

思わず目を押さえた手に、血がこびりついていた。

 

マシュはそれから目を離して、今眼下にいる人々を思った。

それらを見て、自分が何をしたいのかを考える。

 

倒したいだろうか。殺したいだろうか。彼らは敵だろうか。

そうは思わない。彼らだって、苦しみ、悩み、その過程でマシュに怒っただけだ。

放っておきたいだろうか。無視したいだろうか。

そうは思わない。彼らを放っていくことは、彼らを苦しめ続けることだ。それを出来るほど彼女は非情ではない。

なら──

 

 

「……」

 

 

どうしたいのだろう。

今でも、下では人々が怒っている。嘆いている。果たして自分は、救いたいのだろうか。彼らを。何故、そう思うのだろう。

 

──見下ろす。その瞬間、マシュの脳裏に一つの過去が浮かび上がった。霧の失せた街、外へ出る人々、そして迸る血液──

 

 

 

 

 

───

──

 

そうだ、あの時。

 

 

『そっちこそそんな仰々しい鎧を着けながら、名乗りすらも行わないのか』

 

『……チィッ!! ……モードレッド。オレはモードレッド』

 

『そうか』

 

   ブァサササッ

 

 

あの時、黎斗がロンドンを攻略していたのを眺めていたとき、画面の向こうで、マシュに見える範囲内で、沢山の人達が苦しんでいた。

マシュの隣で、大切な人が苦悩していた。

 

 

『酷いです黎斗さん、あんな……モードレッドさんを……』

 

『……英霊モードレッド殺害、後から救援に来たヘンリー・ジキル氏を殺害……あれじゃあ、通り魔と変わらない……!!』

 

『邪魔な通行人も皆殺していく……なんで、なんであんな……』

 

『……分からない。でも……彼は……酷すぎる』

 

 

……ああ、そうだ。ずっと忘れていた。見失っていた。守護者になって記憶が薄れたのもあったが、その前からきっと忘れていた。

──自分はただ、人が苦しんでいる姿を見たくなかったのだ。

 

誰かが苦しんで、別の人がそれを見て苦しんで、それを知って苦しんで……目の前で広がるその連鎖を、断ちたかったのだ。その中に居たくなかったのだ。

 

いつの間にか忘れていた。いつの間にか、勘違いしてしまっていた。自分は人理を守る以前に、ただ、結局は自分と自分の回りの人々を、苦しみから守りたかったのだ。そうすることで、自分が、回りが苦しみに巻き込まれないようにしたかったのだ。

 

ドクター。ダ・ヴィンチちゃん。フォウさん。スタッフの皆さん。自分は、きっと、ただそれらと、ずっと笑顔で一緒にいたかったのだ。

苦しみをはね除け死を超越し、世界より何よりも、きっと、カルデアと、自分自身を守りたかったのだ。

 

──

───

 

 

 

 

 

「ああ……そうです」

 

 

彼女は人理を守る機械である前に、大切な誰かを守る機械でありたかったのだ。

確かに、黎斗は、己のマスターはそれにはならなかった。でも、守りたいものは、確かにあったのに。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

声が漏れた。マシュに泣いてくれた、ドクターへのものだった。そして、これまで傷つけてきた黎斗以外の全てへの贖罪だった。

 

 

「それでも私は、諦めたくない……!!」

 

 

そして、マシュは血の混じった涙を乱雑に拭き取り、再び下を見た。

 

未だマシュに対して叫ぶ人々と、カルデアの皆を比較する。マシュにとっては、今叫んでいるのは何の思い入れもない人だ。それでも、救いたかった。誰かのため、ではない。自分のために救いたいのだ。彼らを助けなければ、自分が助かれないのだ。

 

信勝を思い出す、そして己と比較する。自分のために姉を救おうとした信勝と、自分のために人々を救おうとした己を。

 

比較した。そして、辿り着いた。彼女の存在しなかった物語の、その原点に到達した。

 

彼女の根本は、ただただ『純粋無垢』に『何かを守る』ことにある。そして、守りたいものは自分の居場所(カルデア)だった。また、今目の前で苦しんでいる人間だった。だって、目の前で誰かが苦しんでいたら、自分が辛いから。大切なものが苦しんでいたら、自分も辛いから。

 

結局、マシュのすることは変わらない。

自分勝手に、目の前の人々を救って見せる。強欲に、傲慢に、不遜に。信じるかどうかは関係ない。守護者もサーヴァントも人理も関係ない。彼女は、ただ救いたいから、救うのだ。

 

それを受け入れた刹那、彼女は鞄の中に振動を感じた。

 

 

「これは……」

 

 

……鞄の中で、一枚の紙が震えていた。

マーリンの手紙だった。

 

それを手に取る。元々黒く塗り潰されていたように思っていた部分は、今では簡単に読むことが出来た。

 

 

『道を見失うな。君にしか救えない世界がある』

 

 

その下に、続く文は。

 

 

『君がこの文を読んでいるとき、君はきっと自分の体に異常を覚えているだろう。それは、君の中の獣だ。ああ、そうだとも。私が君の中に入れた比較の獣、ビーストⅣの因子は、とうとう君と完全に融合し覚醒しようとしている』

 

 

マシュは、咄嗟に鞄の中の手鏡を見た。真紅の瞳は輝き、右の目の下には血涙のように一本の赤いラインが走っていた。

 

 

『その力をどう使うかは君次第だ。破壊に使ったって構わない。救命に使ったって構わない。そもそも、私が口出しを出来ないところに君はいるんだからね。君が頼れるのはもう君しかいないし、君を真の意味で縛れるのも、もう君だけだ』

 

 

第四の獣は、再誕しようとしている。かつて黎斗が倒したビーストは、ビーストとなった黎斗に抗うために甦る。

 

 

『でも、最後に言わせてくれ。……道を見失うな。迷っても悩んでも、その果てに君の行く道を取り戻せ。君の歩んだ旅が未来を取り戻す物語だったように、今度は、君が君の未来を取り戻すんだ』

 

 

唐突に、眠くなった。本能が、この眠りは蛹になるのと同じことだと訴える。変性の最終段階だと。

マシュは、ロマンの顔をはっきりと思い浮かべた。もうもやはかかっていない。

 

 

「……ええ、きっと」

 

『この手紙を破り捨てた時、君の封印は完全に解かれる。幸運を祈るよ。ビーストⅣ、君が世界を救うんだ』

 

「きっと、世界を救いましょう。そして──」

 

   ビリビリッ

 

 

手紙を、破った。それと共にマシュの意識は眠りにつく。

 

結局、世界とは認識の中にある。最早マシュにとっての世界とは、彼女が知っている世界のみ。彼女が触れて知っている、彼女の目の前に広がる、苦しむ人々に溢れた世界のみ。

──ならば、救える。知識だけで知っている無限に広がる『マシュの中にない』世界には届かない手も、このマシュ・キリエライトの世界の中でなら、どこまでも、届く。

 

漸く彼女は、『世界』を救う偉業に手を掛けたのだ。

 

───

 

 

 

 

 

聖杯戦争は、とうとう九日目に突入した。

シャドウ・ボーダーは未だに路地裏に止まっていたが、貴利矢はマルタと連れ立って、散歩と称して外へと出ていた。

 

本来は賑わっているはずの大通りであっても人通りは少なく、静かだった。しかし、人がいない訳ではない。

 

 

「皆、ゲーム病なのよね?」

 

「そうだな。マスクも目立つしな」

 

「じゃあ、どうして病院に行かないのかしら」

 

「行けないんだよ」

 

 

大都市には、人が集まるものである。特に日本に置いては、東京を始めとする都市部の人口の集中具合は凄まじい。

東京だけで、900万人もの人口があるのだ。ニューヨークの人口すら、850万人なのに、900万人もいるのだ。そしてその全てが、ゲーム病に感染している。

 

 

「病院が足りる筈がねぇんだよ」

 

 

自分は大したこと出来ねぇしな、と貴利矢は付け足して、それきり黙った。

人々のストレスは、最高潮に達している。ゲーム病での消滅者がいないのがいっそ不思議なくらいだった。

 

───

 

「……どうしたのBB?」

 

 

その時、BBは通りがかったポッピーを捕まえて、パソコンの画面を見せつけていた。既に真黎斗の支配下に入ったそれには、東京の地図と、一つの点が。

 

 

「これ、何?」

 

「BBちゃんの開発したキアラ探知システムです。この前の戦闘データから開発しました。で、この点がキアラ」

 

 

その点は、聖都大学附属病院から1キロ程離れた所で、ジワジワと移動しているように見えた。

 

 

「これって……もしかして、この近くに」

 

「そういうことです。放っておいたら、不味いですよね?」

 

 

何故キアラがまだ生きているのかとか、他にも何か作ったのかとか、そういうことは聞きたかった。しかし、何よりも、キアラを倒すことを優先しなければならないのもまた事実。

 

ポッピーは永夢と飛彩とパラドとの連絡を試みながら、急いで身支度を整えた。

 





次回、仮面ライダーシールダー!!


───キアラとの決戦

「まだ、生きていたのか」

「今度こそ、止めを!!」

「BBちゃんに、お任せです!!」

───目覚める新装備

「『Wisdom Hold Intelligence Powered』、発動!!」

『ジュージュー マフィン!!』

「何としてでも、倒す!!」

───そして、覚醒

「助けに来たぜ!!」

「私は、今度こそ貴女を倒す!!」

「変身!!」


第二十七話 Bright burning shout


『仮面ライダークロニクル!!』


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第二十七話 Bright burning shout

キアラ怖い(おはぎを見ながら)
きっと殺そうと思えば何時でもマスター殺せるんだろうなぁ……



 

 

「……分かった、すぐ向かう」

 

「どうしたのマスター?」

 

「アルターエゴ、生き残ってたらしい。今永夢やポッピーが向かってる」

 

 

シャドウ・ボーダーに戻ってくるやいなや、貴利矢はそう連絡を受けた。

マルタはそれを聞いて慌てて運転席に飛び乗り、エンジンをかける。

 

 

「分かったわ。どこで?」

 

「ちょっと待ってろ、BBがキアラ追跡プログラムを開発したらしいからな、インストールする」

 

 

貴利矢はそう言いながらカーナビと自分のスマートフォンを接続した。

ニ、三秒だけ画面が暗くなり、そして明るくなると共にカーナビに点が表示される。

 

 

「……ここね。飛ばすわよ!!」

 

 

そしてマルタはアクセルを踏み込んだ。

 

それを、ずっと作業に没頭していた黎斗神が引き留める。

 

 

「いや、ちょっと待った」

 

「何だ、神!!」

 

「……そこへ行く前に、寄り道するべき場所がある」

 

───

 

 

 

 

 

「まだ、生きていたのか」

 

「そうですね……お久しぶりです、ね?」

 

 

そして、とうとう永夢と飛彩とポッピーは、そしてそのサーヴァントは、キアラの前に立ち塞がった。パラドはこれから戦闘が始まるであろうエリアの周辺を走り回って、人々の避難に努めている。

キアラの姿は、前回交戦したときよりかは、はっきり言えば貧弱だった。前回のようなシルエットもない。

 

 

「今度ばかりは、きっちり倒させてもらう」

 

「ああ、何としてでも、倒す!!」

 

「ふふふ? なんて荒々しい……私、昂ってしまいます」

 

 

しかし、キアラには余裕が溢れていた。不気味だった。何が、彼女を余裕足らしめているのかは分からなかった。

……いや、次の瞬間に明らかになる。

 

 

「それでは……参りましょうか」

 

   バチバチ バチバチバチバチ

 

「これは……?」

 

「すごく、嫌な予感が……」

 

   ザッ

 

 

……キアラを中心に、ゲームエリアが展開された。真黎斗の敷いた世界の内側に、新たな世界が作られた。まるでエミヤの宝具のように。

……キアラは、作の部屋の部分のゲームエリアに干渉したことがある。今回もそれと同じこと。彼女はその要領で、彼女の周辺のゲームエリアを、自分の支配下に置いたのだ。

 

光が、溢れていた。空は金色に輝き、その果てに四角い何かの姿を見た。大地は蓮の花が咲き乱れ、柱が数本立っていた。

 

 

「それでは遠慮なく。天井解脱、なさいませ……?」

 

「っ……!!」

 

『マイティアクシシシシシシ53\1919<%(0』

 

 

キアラは自然体で両手を広げる。それを前にして、ドクター達は何故か戦おうという気力すら奪われかけていた。ガシャットの電源を入れようとしても、それすら出来ない。

 

 

『タドルルルルル#,,810/13\{;!**』

 

「っ、なぜ電源が入らない!!」

 

「それはそうでしょう? その小箱は恐ろしいですもの。ここは(人間)の為の空間。危険なものは、ねぇ?」

 

「……ナイチンゲールさん!!」

 

「分かりました。迅速に治療します!!」

 

 

ナイチンゲールが永夢の指示で飛び出す。彼女は拳を振りかぶり、しかしまるでハエを叩き落とすかのように吹き飛ばされた。力の差がありすぎた。

 

 

「ふふふ? 楽にしていて下さいな。とても、気持ちいいのですから……」

 

 

キアラはそう言いながら近づいてくる。いつの間にか、服装まで金色になっていた。

ポッピーはすがるようにBBに目をやり……彼女が、ずっとパソコンを弄っていたことに気づく。

 

 

「……何やってるの?」

 

「ふっふふー、私は何でもできるラスボス系後輩ですよ? こんな奴の対策、出来ないと思ってたんですかぁ?」

 

「──!? それって」

 

「センパイがお願いするなら、どうにかしないこともないですよ?」

 

 

そう言って、BBは挑戦的な眼差しをポッピーに向けた。ポッピーはそれに対して嫌な予感はしたが、しかし今は彼女に頼るしかなかった。キアラはどんどん近づいてくる。

 

 

「……お願いBB」

 

「足りないですねぇ。もっとこう、惨めにお願いします」

 

「……令呪をもって──」

 

「BBちゃんに、お任せです!!『Wisdom Hold Intelligence Powered(絶対禁欲結界)』、発動!!」

 

 

ポッピーが令呪を切ろうとしたので、BBは慌ててパソコンのエンターキーを叩きつけた。

それと共に、彼女を中心にさらにゲームエリアが展開され──

 

 

 

 

 

   ザッ

 

「……あら?」

 

 

周囲は、元の風景に戻っていた。

 

 

「何をしたの?」

 

「アイツの結界を打ち消しました。これよりここは絶対禁欲空間。面倒な不思議パワーは全部消え失せています!!」

 

 

頑張ったんですよ、と鼻を鳴らすBBを横目に、ポッピーはガシャットに手をかける。

 

 

『ときめき クライシス!!』

 

 

……今度はちゃんと、電源を入れることが出来た。これなら、変身できる。もう彼女への遠慮は失せていた。

 

 

『マイティアクションX!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

「……よし、使える!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

 

永夢と飛彩も、それぞれガシャットの電源を入れた。飛彩の回りをビートゲーマが、そして永夢の回りをスポーツゲーマが飛び回る。

 

 

「大 大 大──」

 

「術式レベル3、」

 

「「「変身!!」」」

 

 

そして、各々のドライバーにガシャットを挿入した。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』

 

『アガッチャ!! シャカリキシャカリキ バッドバッド!! シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!!』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドレミファソラシド OK ドレミファビート!!』

 

『ドリーミングガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女はいつもときめきクライシス!!』

 

 

変身が完了する。並び立った三人は各々ガシャコンブレイカーにガシャコンソード、そしてチェーンソーモードのバグヴァイザーを構える。

 

 

「……ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

───

 

   グラグラッ

 

「……ん」

 

 

マシュ・キリエライトは、空間の揺れで目を覚ました。魔神柱から下を見下ろせば、彼女が眠る時の三倍ほどの人が惑っていた。

いつの間に、こんなに取り込んだのだろう。マシュはキアラを恨めしく思う。しかし、過ぎたことはどうしようもなかった。

 

また揺れた。マシュは、この揺れはキアラが戦闘していることが原因だと考える。いや、考えるのではない。確信めいた直感だった。

 

 

「……私は」

 

 

戦う。心にそう決めた。もう、逃げない。自分は、自分のために自分の世界を救うのだから。

だから、その為に、脱出をするために、彼女は魔神柱から飛び降りた。

 

 

 

 

 

   スタッ

 

「お前は──」

 

「とうとう戻ってきやがった!!」

 

 

途端に辺りがざわつく。どうやら、この中の皆がマシュのことを知っているようだった。

しかしもうマシュは惑わない。彼らの罵倒など最早どうでもいい。ただ、この窮地から救えればそれで構わないのだから。だから、声を張り上げる。

 

 

「私は!! 貴方たちを苦しめたバグスターではありません!! だから、責任とか家族とか、知ったことではありません!!」

 

「な──」

 

「こいつ……!!」

 

 

人々はその声に怒りを露にした。戸惑いと絶望とやるせなさと、あと少しの納得の入り交じった怒りだった。

マシュは、それでも続ける。

 

 

「でも!! 今貴方たちを苦しめているこの殺生院キアラと!! 今貴方たちを苦しめている檀黎斗は!!」

 

「──」

 

「──」

 

「私が!! 命をかけてでも!! 倒して見せます!!」

 

 

それが答え。マシュの答え。ビーストⅣの選んだ答え。

人々は、ただただ気圧された。

 

 

「ですから!! まだ諦めないでください!! 私の指示を聞いてください!! 私が、道を、抉じ開けて見せます!!」

 

───

 

 

 

 

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

ブレイブが剣で周囲を凪ぎ払い、ト音記号の形のエネルギーをキアラへとぶつけていく。しかしそれらはキアラの拳で叩き落とされてしまった。ブレイブは舌打ちをしながらキアラから距離を取る。

 

 

『高速化!!』

 

『シャカリキ クリティカル ストライク!!』

 

 

その隣を、エグゼイドが高速で駆け抜けた。彼は右手に高速回転する車輪を構え、直接キアラに押し付ける。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「はああああっ!!」

 

「もっと!! 出来れば、もう少し下の方を!!」

 

「っ!?」

 

 

……しかし、キアラに攻撃が効いている様子はなかった。押しきることは出来ず、逆に跳ね返されて車輪はあらぬ方向へと飛んでいく。しかもエグゼイドはその反動で尻餅をついてしまった。

 

 

「っ──」

 

 

即座に彼は飛び退こうとするがもう遅い。エグゼイドに隙が出来たと見たキアラから飛び出した魔神柱は彼を掴み、数メートル地面を引き摺って、近くの壁へと押し付ける。

 

 

「マスター!!」

 

「永夢!!」

 

 

ナイチンゲールとポッピーが、彼に駆け寄った。エグゼイドのライフは、もう半分を切っていて。

 

───

 

「またやってるのね……どうする、マスター?」

 

「放置で良いだろう。あの程度、やろうと思えばどうにでもなる」

 

「それもそうね」

 

 

その頃、キアラに痛め付けられたエグゼイドを眺めながら真黎斗とナーサリーはそう言っていた。彼らにキアラに対する危機感はない。ただ、少し面白いだけ。

 

 

「……で、既に誰か向かっているのか?」

 

「そうね……あ、エリザベートは屋根の上で見てるわよ?」

 

「……そうか」

 

 

そうとだけ言って、彼は再びキーボードを叩く。

誰が何をしようが、彼らのやることは変わらない。彼らのパソコンには、そろそろ始まるゲームが描かれていた。

 

───

 

「あと少しでつくわよ!! 変身して!!」

 

「了解姐さん、んじゃ、0速……変身」

 

『ガッシャット!!』

 

『爆走バイク!!』

 

 

シャドウ・ボーダー内で貴利矢はレーザーターボに変身した。()()()()()()()()から、キアラのいる場所まではそう遠くないらしかった。

 

レーザーターボはガシャコンスパローを取り出してシャドウ・ボーダーの窓を開け、何時でも奇襲が出来るようにする。

そして振り向いて、態々寄り道をしてまで連れてきた一人の男に声をかけた。

 

 

「……大丈夫なのかい? 社長」

 

「……はい。やってみせます」

 

 

小星作だった。黎斗神は、彼を現場に連れていくと言ったのだ。貴利矢は反対したが、黎斗神は連れていくと言って聞かなかった。そして、作自身も、キアラに飲まれてしまった責任を感じてしまっていたこともあって、参戦に賛成したのだ。

 

 

「無理しなくても良いんだぜ?」

 

「いえ……キアラさ、あっ、アルターエゴには、僕も決着をつけないといけませんから」

 

「……なら止めねえよ」

 

 

キアラへと近づいていく。もう、何時でも射てるようにしなければならなかった。チャンスは、一度きり。

 

 

「マスター!! もう用意して!!」

 

「了解!!」

 

『ガッシャット!!』

 

 

そして、レーザーターボはガシャコンスパローにギリギリチャンバラを装填した。それを外に向けて構え──

 

───

 

ポッピーとブレイブは、エグゼイドを残して二人でキアラと戦っていた。どれだけの人を内包しているか分からない以上思いきり斬りつけるのは戸惑われるが、しかし遠距離攻撃は弾かれてしまう。攻めあぐねていた。

 

 

「っ……飛彩、大丈夫?」

 

「大丈夫、だ。ここで、こいつを倒す」

 

 

飛彩の脳裏に、ジャンヌの姿が甦った。あの時は彼女を犠牲にしてどうにか辛勝出来たのだが──もう、誰も犠牲にしたくはなかった。

 

 

「ふふふ……? もう、終わりですか?」

 

「まさか……!!」

 

 

剣を振るう。弾かれる。剣を振るう。躱される。

チェーンソーを振るう。弾かれる。ビームガンを放つ。弾かれる。

キリがなかった。勝ち目は、どこまでも薄かった。

そして。

 

 

「それでは、こちらから参りましょう……」

 

 

キアラは一際勢いをつけて駆け出して。

 

 

 

 

 

「──喝破!!」

 

   ダンッ

 

「っあ……!?」

 

 

ポッピーの腹を、貫いた。

 

 

「ポッピー!?」

 

「ポッピー!!」

 

 

キアラに刃を向けていたブレイブが、そして慌てて立ち上がったエグゼイドがポッピーに駆け寄ろうとする。

しかし遅い。遅すぎる。ポッピーの肩を掴んだキアラの腹には筋が走り。

 

 

「──快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)!!」

 

 

穴が、開いた。手が伸びた。それはポッピーを包んで優しく持ち上げ──

 

 

 

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ダンッ

 

 

 

ビルの角から突如現れ出たシャドウ・ボーダーが、キアラの背後を走り抜ける。そしてその中でガシャコンスパローを構えていたレーザーターボが、キアラの後頭部を撃ち抜いた。

 

 

「な──」

 

 

何本もの矢が、キアラの後頭部に突き刺さっていた。近くにいたブレイブが被弾していないのが不思議なくらい。

ポッピーはもう半分程キアラに飲まれていた。それを車内で見た作が、窓から身を乗り出して叫ぶ。

 

 

「令呪を三画全て使って命ずる!!」

 

「──マスター!?」

 

 

キアラの動きが、止まった。

 

 

「そのまま動くな!!」

 

 

──本来ならば。キアラは既に作の支配からは逃れている。主従関係は既に過去の物である上に、今のキアラはサーヴァントの枠からは思いきり外れている。

しかし、キアラの動きは、止まっていた。腹を開いたまま。ポッピーを飲み込みかけたまま。そして、内側と外側を繋げたままで。

 

 

「なん、で……」

 

   ウィーン

 

「流石、私の才能!! 神の才能に不可能はない!!」

 

 

シャドウ・ボーダーの窓を開けて、黎斗神が叫んでいた。その手では、サンソンとカリギュラを取り込んだブランクガシャットが起動している。全ては、そのガシャットの展開したゲームエリアの働きだった。

 

 

「……今なら!!」

 

『ガッシューン』

 

 

エグゼイドが、シャカリキスポーツを引き抜いた。次に装填するガシャットは、もう決まっている。

 

 

『ジュージュー マフィン!!』

 

「作さん、借ります!! ──(だーーーい)、変身!!」

 

『ガッチャーン!! レベル アップ!!』

 

 

エグゼイドの回りを、バーガーゲーマを思わせる肌色の機械、マフィンゲーマが飛び回っていた。そして次の瞬間にはそれはバラバラになり、エグゼイドに纏わりつく。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション!! X!!』

 

『アガッチャ!! マフィンにパティとチーズ挟んで ジュージューマフィン!!』

 

 

足には、ローラースケート。頭には、バイザー。そして右腕には、マフィンを模した巨大な腕パーツ。それこそが、エグゼイドの新形態、マフィンアクションゲーマー。

そして彼は静止したキアラの腹の中に、その中のポッピーに手を伸ばして。

 

───

 

「ああ!! 空だ!!」

 

「あれは………!!」

 

 

……ずっと、キアラの内で外へと攻撃を続けていたマシュは、漸くその時青空を見た。マシュの指示で右へ左へと逃げ惑っていた人々も、共に抱き合い喜んでいる。

最初ははその穴は小さなものだったが、すぐにそれは詰まっていた誰かが抜けると共に広がった。

 

マシュは、鞄から仮面ライダークロニクルを取り出した。天へと掲げる。端子越しに光を見た。

 

──電源を入れる。

 

 

「……変身!!」

 

『仮面ライダークロニクル!!』

 

『Enter the game!! War riding the end!!』

 

 

姿が変わる。その仮面ライダークロニクルは、クロノスへの変身条件を満たしたニコの物。つまり、ただのバグスターは、世界を救う戦士になる。仮面ライダークロニクルの救世主。ゲムデウスを倒し世界を救う仮面ライダー、クロノスへと変身する。

 

……彼女は、クロノスへの変身条件を満たしていた。既にバグスターである彼女は、己のいたゲームで世界を救う旅をする間に、何度も何度も、何種類ものプロトガシャットを直に挿入してきていた。その時に、クロノスに変身し得る程度の抗体は出来ていたのだ。

 

 

「あれは……」

 

「まさか、もしかして──」

 

 

人々がざわつく。

彼女はクロノス。かつて人々を恐怖の底へと陥れた悪人。

彼女はバグスター。かつて人々を恐怖の底へと陥れた病。

彼女はビーストⅣ。相手よりも強くなる比較の獣。

 

それでも、彼女は。人々を救う。

 

 

『Noble phantasm』

 

 

ガシャコンカリバーのトリガーを引きながら、彼女は空を睨んだ。未だ間抜けに開いた口を睨んだ。その向こうにいる黎斗を睨んだ。

 

絶対に、越えて見せる。その希望と熱を籠めて、叫んだ。

 

 

約束する(エクスカリバー)──」

 

 

その剣には銀の光と、そして、金の光が走っていた。

 

 

「──人理の剣(カルデアス)!!」

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


───ポッピーの命運

「治らない、のか?」

「当然力は尽くすとも」

「私の新しいセンパイになってください」


───マシュの命運

「──クロノスだと?」

「何で貴女が……」

「……ごめんなさい」


───そして、世界の命運

「私は……」

「始めるか。最高のゲームを……!!」

「ええ。きっと皆喜ぶわ!!」


第二十八話 People game


「Fate/Grand Order Chronicle……!!」


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第二十八話 People game

現在のクロノス

何のドライバーも使用していない為、ポーズもウェポンもなく、素のスペックも低い。しかしプレイヤーの能力が直接反映されるライドプレイヤー形式の変身なので、バグスターである彼女のパワーがさらにかさ増しされてそれなりに戦うことが出来る。
反動はかなり大きく、連続した変身は難しい。



 

 

 

 

「──人理の剣(カルデアス)!!」

 

   カッ ガガガガガガガガ

 

「何だ!?」

 

「っ──」

 

 

エグゼイドがポッピーを引き抜くのと連動するように突然キアラより極光が発生し、彼女を飲み込んで天へと立ち上った。

それが止んだのは、発生から30秒ほど後のことだった。

 

暫くの間あまりの眩しさでろくに前が見えなかったエグゼイドは、いつの間にか人々がキアラから解放されていたことに気がつく。

 

 

「──え?」

 

「あれは……」

 

 

──キアラは、完全に消滅した。囚われた人間は皆、無事に解放されたのだ。

そして、その解放された人の中に、クロノスは一人立っていた。

 

 

「──クロノスだと?」

 

「……マスター」

 

 

ブレイブがガシャコンソードを構える。ナイチンゲールはボックスピストルを構えながらエグゼイドを見て、倒れているポッピーをシャドウ・ボーダーまで連れていけと促した。

 

 

「何故お前がいる、クロノス。お前は、誰だ」

 

 

そして問う。檀正宗は消滅したし、大我はここにはいない。ならば、誰だ?

──その答えは、すぐに明らかになった。クロノスの変身が解けたのだ。そして……マシュの姿が、露になった。

 

 

 

 

 

「お前は……!?」

 

「何故貴女が……」

 

 

思わず声が漏れた。マシュ・キリエライトが出てくるなんて想像だにしていなかった。何故クロノスになったのかも、何故ここにいるかもてんで分からない。

 

ブレイブは、マシュは敵だと認識していた。別に彼女が令呪で無理矢理CRを破壊させられたということは把握している。本人の意思以前に、ゲンムの陣営にいることが敵であるということだと考えていた。なぜ、マシュがキアラを倒したのか、分からない。何故真黎斗がCRへの助太刀を許可したのか、分からない。だから問う。

 

 

「何が目的だ。俺達を何故助けた」

 

 

……マシュは、それには答えない。答えられない。ただ歯を食い縛り拳を震わせ、それだけ。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

そしてマシュはその場から撤退した。彼女は確かに真黎斗を裏切ったが、それでも彼女が破壊してしまったCRのことを考えれば、彼女はもう彼らと共にはいられなかった。

 

───

 

 

 

 

 

「……ポッピーは、大丈夫なのか」

 

 

一足先にシャドウ・ボーダーに戻ってきていたパラドとBBは、黎斗のパソコンと繋がって眠っているポッピーの身を案じていた。どうやら破損は酷いらしく、また修復も厳しいらしい。

 

 

「全く……厄介だ。サーヴァント以外のバグスターをバグスターとして扱えないというルールのせいで、ポッピーをパソコンに取り込むことが出来ない」

 

「それは、そんなに問題なのか?」

 

「パラド、君のときもそうだったが……こうして外からの施術をするのは手間がかかる。穴を塞ぐだけならまだしも、今回は傷口から侵食されかけていた。あと少し遅ければ第二のキアラだったレベルだ」

 

 

……真黎斗の敷いたゲームエリアにおいて、バグスターは人間と大差ない。確かにバリアは貼れるし少しは強い上、ガシャットのパワーもあれば本調子も出せるのだが、結局電子機器に入れないのだ。最初はバグウァイザーにいた黎斗神も、一度出たらもう戻れなくなっていた。

ポッピーは、虚ろな目を半開きにして天井を眺めていた。

 

 

「つまり……治らない、のか?」

 

「当然力は尽くすとも。私の才能を注げば直らないものはない。しかし、時間の問題は別だ」

 

「……戦力に、なれないのか」

 

「そういうことだ」

 

 

パラドは唇を噛む。自分の無力感がもどかしかった。今の、何もない自分では、力になれない。

 

 

「……でしたら」

 

 

パラドの顔をずっと見ていたBBは、唐突に彼に呟いた。パラドは沈んだ目をBBに向け、片耳だけ傾ける。そして言葉を聞き……目を見開いた。

 

 

「私の新しいセンパイになってください」

 

「……は?」

 

「それは、つまり……」

 

 

唐突な提案。マスターであったポッピーを捨てようというBBの提案にパラドは愕然とする。

 

 

「何でそんなことを……!!」

 

「だってそうでしょう? 起きられないマスターより健康なマスターの方がいい、自明の理です。ほら、貴方の令呪はまだ一つ残っているんですし」

 

「っ、お前……!!」

 

 

パラドは怒った。ポッピー(マスター)を軽んじるその在り方に怒りを覚えた。彼はここまでの戦いで、マスターとサーヴァントは一心同体であることがこのゲームのルールだと捉えていたからこその感情だった。

しかし、黎斗神がその怒りを否定する。

 

 

「いいや、合理的だ。現に、マスター換えは簡単に成立する」

 

「ゲンム……!! それだと、ポッピーが──」

 

「共倒れするよりかは良いだろう。私は賛成だ。……何なら、こんなものを出せるが」

 

 

そこまで言って、黎斗神はパラドに藍色のガシャットを取り出して見せた。一本の薄いガシャット。そこには──パーフェクトパズルが描かれていて。

 

 

「……それは?」

 

「君の為に開発した。パーフェクトパズルPocket、レベル2。時間がなかったから精度は低い。しかし、エナジーアイテムを弄るスキルは健在だ」

 

 

……魅力的だった。それがあれば、戦える。

というか、きっと黎斗ならばパラドが契約を断ってもパラドにそのガシャットを与えただろう。しかし、何も飲まずにガシャットだけ得るのも何か気分が悪い。

 

ポッピーを見た。まだ、目覚めそうにない。

窓の外を見た。もう騒ぎは収まっていた。

 

 

「……分かった。飲む」

 

 

そしてパラドは、BBの提案を飲み込んだ。非常に腹立たしかったが、仕方のないことだった。

 

 

「なら、始めるぞ。まずはパラド、君が私に続いて詠唱しろ。告げる。汝の身は私の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら──」

 

「告げる。汝の身は俺の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら」

 

「私に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう」

 

「……俺に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!!」

 

 

ラインが構築される。サンソンの消滅によって空いていたパラドのサーヴァント枠に、BBがあてがわれていく。

そして、二人は新たな主従関係を結んだ。

 

 

「……はい、よく言えました。ムーンキャンサーの名に懸け誓いを受けてあげましょう!! 貴方を仮の主としてあげますよ、センパイ!!」

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

エリザベートは、一部始終を眺めていた。飲み込まれた仮面ライダーも、それを助け出すのも、そしてキアラから唐突に立ち上った見覚えのある光も、全て。

 

 

「……」

 

 

彼女は、何もしなかった。出来なかったのではない。しなかった。まだ自分はどうしたいのか、決まっていなかったのだ。

世界が自分のものになる、と言われれば、中々良い話に思えた。しかし、人々を恐怖に陥れると考えれば、複雑な心持ちになった。

だから今回は、眺めるだけ。見学するだけ。

 

 

「……じゃ、帰りましょうか」

 

 

そして彼女は、その場から消え失せた。

 

───

 

 

 

 

「……あ、終わったみたいですねマスター」カタカタカタカタ

 

「割と早かったな……ん?」カタカタカタカタ

 

 

やはり作業に励んでいた真黎斗は横目でモニターを確認し、一瞬だけそこにマシュの姿を認めた。既にキアラの魂は、ガシャットの中に収められていた。

どうやらマシュは大我の元から仮面ライダークロニクルガシャットを奪い、変身手段を身につけたらしい。そしてキアラを倒したのだ。そう真黎斗は把握する。

 

 

「……しかし、どうでもいいことか」カタカタカタカタ

 

 

しかし無視した。本当にどうでもいいことだった。今はそれより、するべきことがあった。

 

 

「おお、神よ!! 偉大なる我らの神が、今!! 世界を!!」

 

「おうおう、無理のあることでも取り合えずやってみるもんじゃのう。しかしまあ、世界は買ったものが作るもの。是非もなし」グビグビ

 

 

ジル・ド・レェは、社長室の窓から外を眺めていた。これから、神の手によって書き換えられる世界を。また信長も先程入ってきて、Fate/Grand Orderガシャットから勝手に抜き出した杯で酒を煽りながら外を見つめる。

 

それをも無視して、二人はキーボードを叩きパソコンへの入力を継続する。あと少しで面白いことが起こるのだから、心はそれだけで逸った。

……一瞬、真黎斗とナーサリーの視線が交わった。それと同時に、全工程が完了した。そして彼らは同時にニッと笑い、大声で確認作業を開始する。

 

 

「そろそろね……!! 壁の展開準備、完了よ!!」カタカタ ッターン

 

「フィールドの動物以外のテクスチャ完全把握、政府機能のチェック完了!!」ッターン

 

「全員のゲーム病定着を確認!! マスタープログラム試運転、確認!!」ッターン

 

「サーヴァント総数、一万!! かなり無理があるがまあどうにかなった!!」ッターン

 

「全種クラス違いとかコピペも良いところよね!! でも仕方ないわね!! 後から直せばいいわ!! 配備システム起動!!」ッターン

 

「そもそもノルマに無理がありすぎたと思っている!! だが私に不可能はない!! サーヴァント分配完了!!」ッターン

 

 

互いに、巨大なエンターキーに拳を降り下ろす。目は見開き笑みは溢れ、二人は全能感と共に言葉を唱える。

 

そして。

 

 

「「全工程、完了(オールクリア)!!」」

 

   ガンッ

 

 

最後は、二人で一つのエンターキーに手を重ね、同時に押し込んだ。

 

世界が、揺れた。

 

 

「始めるか。最高のゲームを……!!」

 

「ええ、きっと皆喜ぶわ!!」

 

「さあ楽しめ、私の究極のゲーム、Fate/Grand Order Chronicleの開幕だ──!!」

 

───

 

   ブワッ

 

「……!?」

 

 

最初に悪寒を感じたのはパラドだった。シャドウ・ボーダーを出て永夢らと共に救命活動に尽力していた彼は唐突に立ち上がり、辺りを見回す。

 

 

「パラド?」

 

「どうしました、センパイ?」

 

「……これは」

 

 

その瞬間、コンクリートに落ちていた誰かのスマートフォンに文字が走った。

 

 

『東京都を中心に関東全域に半透明の壁が発生。関東から出られない状況に──』

 

「まさか、そんな」

 

 

ゲームは、スタートした。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


───震撼する政府

「自衛隊を出動させる」

「駄目だ、無理だ!!」

「何としてでも、これは……!!」


───全病人マスター化現象

『聞こえるか』

「日向審議官!?」

『……アルジュナと申します』


───発生する暴動

「もう政府は頼れない!!」

「俺達が、ヒーローになるんだ!!」

「やってやるさ……!!」


第二十九話 ARMOUR ZONE


「日本が、終わる……!?」


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第二十九話 ARMOUR ZONE

サーヴァント一万種
頑張ってリリィとかオルタとかTSしてる次元とかクラス違いとか作ってかさ増しにかさ増しを重ねた
時々魔法少女・JK・ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィとか、塩という概念の英霊としてソルティとかがこっそり混じってる



 

 

 

東京都を中心にして、関東全域とその外とを遮断する、半透明の壁が現れた。その知らせは全国、いや、海外にまで知れ渡り、人々は当然パニックになる。移動の自由という当然のようにあったものを突然奪われれば、そうなるのも自然だった。

 

それを、苦い顔をしながら恭太郎は観察していた。衛生省もまた、現在の状況に混乱していた。彼の手元に、既に動いている警官隊からの情報が届いてくる。

 

曰く、壁は外からの人間は受け入れるが中に入ったら出られない。

曰く、壁は天まで伸び、超高度からの侵入を試みたヘリコプターが一機墜落した。

曰く、中の人間は漏れなくゲーム病になる。

曰く、穴を掘っても脱出は不可能。

曰く、壁に近づきすぎるとゲーム病が酷くなる。

曰く、人々はこの壁をスカイウォールと呼ぶ──

 

 

「……審議官、これはもうどうしようもありません。自衛隊を出動させるべきかと──」

 

「いや、駄目だ、無理だ!! もうこれは自衛隊云々の問題じゃない!! 米軍に協力を──」

 

「何としてでも、これは止めないと!!」

 

「他国とのかかわり合いの問題にも──」

 

 

恭太郎の隣で、数人の部下が言い争う。しかし、何も分からず話題の発展の仕様がない以上、それは何の意味もなかった。煩いだけだった。

 

もう、政府上層部は何も言わない。これまで何をしようとしてもゲンムコーポレーションからの妨害にあっている政府は、すっかり怯えきってしまっていた。

それは翻せば、彼らが取ろうとした選択は皆CR勢力の妨害に直結することを雄弁に語っていた。

 

 

「審議官、どうしますか」

 

「決断を!! 今、動けるのはもう貴方だけです審議官!!」

 

 

恭太郎は、何も言えない。日本が投げ出した責任が今、彼だけの肩にのし掛かる。

 

その時、突然衛生省のスピーカーが音を立てた。

 

───

 

『えーえー、マイクテスマイクテス……』

 

「……この声は」

 

 

路地裏で、マシュはどこかからその声を聞いた。近くに停まっていた車のスピーカーからの音だった。

ナーサリーの声だった。

 

マシュは車に近づき、耳を傾ける。

 

 

『聞こえてる? 聞こえてるわね? これゲームエリア中のスピーカーというスピーカー全部から流れてるわね?』

 

「……何をするつもりなんでしょう」

 

『それでは皆、始めまして!! 私はナーサリー・ライムよ、よろしくね!! 突然出てきた壁にびっくりしてるでしょうけど、今はこっちに集中してね?』

 

───

 

『皆、ゲーム病に感染してるわよね。ちょーっと、苦しいかしら? だったらごめんなさいね?』

 

「ふざけてる……!!」

 

 

ニコは花家医院で作業をしながら、その音声を聞いていた。腹が立った。ナーサリーというキャラクターには全くもって心当たりはなかったが、ゲームエリア中の全スピーカーのジャックなんてやる存在は、ゲンムコーポレーション以外あり得ない。

 

 

「落ち着くんだマスター。聞き逃したら不味いだろう?」バシャバシャ

 

「……そうよね、ありがと」

 

 

フィンがバケツに水を移しながらそう諭す。……彼がやった仕事は、召喚されてからこの方本当にこれくらいしかない。いや、このくらいで収まっていてくれればいいのだが。──患者と戦いをするなんていうのは、最悪の事態だ。ニコはフィンを珍しく少しだけ労いながらそう考える。

 

 

『でも大丈夫、その苦しいのを忘れちゃうくらい、楽しいゲームを始めるのよ!!』

 

 

……しかしその思いは、叶うかかなり怪しかった。

 

───

 

『ルールはとっても簡単。これから皆の元に、一人に一体ずつ、誰にでも平等に、皆の言うことを聞いてくれるキャラクター(サーヴァント)が現れるの』

 

「……何だと?」

 

 

まだキアラから出てきた人々の治療をしていた飛彩の口から、思わずその言葉が漏れた。ただ放送に反応するのは向こうに乗せられているようで癪に障ったが、それどころではなかった。

彼は治療を中断し、手近にあったスマートフォンに集中する。

 

 

『そのサーヴァントと一緒に、他のプレイヤーのサーヴァントを倒して倒して、沢山倒すのよ!! サーヴァントは実力でも倒せるし、マスターを倒すことでも倒せるわ!! サーヴァントが言うことを聞かなくても、令呪っていうアイテムが三回だけ助けてくれるの!!』

 

 

令呪。飛彩は手元を見た。微妙に跡こそ残っているが、彼の手にはもう令呪はない。ジャンヌを送り出すために、全て使ったのだから当たり前だった。

しかし。

 

 

「あの、先生、これ……」

 

「どうしました?」

 

 

治療をしていた一人が、飛彩に手を見せた。

 

令呪が、刻まれていた。

 

 

「っ──」

 

 

辺りを見回す。全員の手に微妙に痛みが走り、そして、令呪が現れていく。飛彩の頬を冷や汗が走った。

これは不味い。非常に不味い。しかしもう、どうしようも出来ない。何が起こるか分かっても、知らされていても、それを止める術はないのだから。

 

───

 

『で、ほとんどのサーヴァントを倒すと、各市町村区の役所に設置された、聖杯っていうアイテムが、万能の願望機になるの!! 何でも願いが叶うのよ!! 嘘じゃないわ、私達が作ったんだもの!!』

 

「……なあ、神」

 

「どうした九条貴利矢」

 

 

シャドウ・ボーダーは走っていた。今すぐ治療が必要な患者数名を後部座席に乗せ、メディア・リリィに気休め程度の治療をさせながら走っていた。

唯一、シャドウ・ボーダーだけは真黎斗の支配を受けていない。しかし周囲や後方でで鳴り響く音だけで、貴利矢も黎斗神も、状況は理解していた。

 

 

「……聖杯って、幾つの魂で満たされるんだっけな。おかしいな、自分、七って聞いてるんだが……」

 

「七だぞ」

 

「だよなぁ……!! どうするよ、これもう七どころじゃねえだろ!! 何百万もの聖杯が出来上がるだろうが!!」

 

「当然サイズは変えるだろうが……どちらにしろ、向こうも複数の聖杯の出現を前提としているんだろうな」

 

 

貴利矢は頭を抱えていた。しかし同時に、もうゲンムコーポレーションにいる真黎斗には聖杯すら不要なのか、とも思った。万能の願望機を投げ売りするなら、それ以上の何か持っていることは簡単に予測できた。

 

 

『その聖杯なら何でも出来る。誰かを生き返らせることだって、自分が欲しいものを手に入れることだって簡単なの!!』

 

「自分の、思い違いだったのか……?」

 

「何がだ」

 

「いや、最初の方は、自分は真黎斗の目的が日本の支配だと思っていた。自分らがCRの陣営を作り上げても動じなかったのは、ただの実力支配から、聖杯を作るという方法に切り替えただけだと思っていた」

 

 

貴利矢はそう呟く。それを、黎斗神は笑い飛ばした。

 

 

「君は()をそんな風に思っていたのか。……私はただ支配するなんて求めない。私は神だ。私の目的は、例え別の私であろうと変わるまい……!!」

 

 

マルタは何も言わない。黙々とハンドルを切り、聖都大学附属病院へと走っていく。

 

 

『そして同時に、その時点でサーヴァントと生き残っていたプレイヤーは、ゲームマスターである私達への挑戦権を手に入れる。そう、このゲームに参加する皆が、ヒーローになれるの!!』

 

「……だってさ、神。随分と余裕なんだな、あちらは」

 

「それはそうだろう、神だからな。流石は私だ。──しかしまあ、私を虚仮にするのは許さないが」

 

───

 

『ルールはこれだけ、簡単でしょう? もうすぐゲームは始まるわ。とても、とても楽しいゲームにしましょうね!!』

 

「っ──」

 

 

永夢は唇を噛んだ。悔しかった。何も出来ない自分が、悔しかった。事態は悪化していくばかり。真黎斗は倒せない。

そんな彼の肩をナイチンゲールがさする。

 

 

「冷静さを欠いてはいけません、ドクター。今患者が頼れるのは、ドクター、貴方だけなんですから」

 

「ナイチンゲールさん……」

 

 

一瞬、二人の視線が交差した。

この場で、この病の蔓延した戦場で、ドクター以外の誰が命を救えるだろう。そう思えば、不思議と心が奮い立った。

 

 

 

 

 

……そこへ、BBのパソコンを持ったパラドが走ってきた。飛彩もついてきていた。

 

 

「永夢!!」

 

「パラド、飛彩さん!!」

 

「……これを見ろ」

 

 

そしてパラドはパソコンを設置し、画面を永夢に見せる。

恭太郎が座っていた。その隣に、見慣れない黒い肌の男が立っていた。

 

 

『聞こえるか』

 

「……恭太郎先生!? ……隣の人は?」

 

『……サーヴァント、アーチャー。アルジュナと申します』

 

 

永夢が問えば、黒い肌の男──アルジュナはそう頭を下げた。永夢はどこか引っ掛かりを覚え、アルジュナとは誰か考える。過去の記憶をひっくり返して、心当たりを探し……見つけた。

 

……アルジュナとは、インドのサンスクリット文学であるマハーバーラタの登場人物の一人。つまりそれが示していることは──

 

 

「サーヴァント……」

 

『その通りだ。衛生省には、職員と同じだけの数のサーヴァントが現れた。当然どれもがバグスターであり、強い戦闘力を持つ。そしてそれは……もう、そちらにも現れ始めるだろう』

 

 

永夢は弾かれたように顔を上げた。辺りを見回す。

 

──既に魔方陣は現れていた。全ての人間の元に、サーヴァントは顕れていた。ゲームは本格的に始動する。

 

 

 

 

 

「「「召喚に応じ参上した」」」

 

「「「「「私は貴方のサーヴァント」」」」」

 

「「「「「「「共に、聖杯を」」」」」」」

 

「「「「「「「掴みましょう!!」」」」」」」

 

 

増えていく。増えていく。増えていく。圧倒的な戦力が、従順な兵器が増えていく。そして、これまでに何重にもストレスを重ねてきた人々に、サーヴァントの到来は希望となった。

サーヴァントがいれば、ストレスを発散できる。狂気に溺れた人々はもう、やるべきことを理解していた。

 

敵を倒せ。ひたすらに倒せ。例えそれが昨日までの隣人でも構わない。最早この世に味方は要らない。仲間などいないこの世界で、ひたすらに敵を倒せ。勝利を、この手に。そして、願いを叶えるのだ。

 

 

「もう政府は頼れない!!」

 

「俺達が、ヒーローになるんだ!!」

 

「やってやるさ……!!」

 

「行くぞ、俺のサーヴァント!!」

 

「私と共に来て!!」

 

「頼むぞ相棒!!」

 

「世界は、僕が変えるんだ!!」

 

 

不満は渦を巻く。闘争は連なり、暴力となり、全てを破壊する。治療の手は、届かなくなって行く。そうなれば世界は、力が物を言う酷いフィールドに変わってしまう。人々は、ただ生きる為だけに、大切なものを棄ててしまう。

 

 

『……このままだと、日本は終わるだろう。もう政府は持たない。国家の崩壊は、遠くない』

 

「日本が、終わる……!?」

 

「審議官……」

 

『……それは防がなければならない。止めるんだ。何としてでも、このゲームを終わらせる』

 

 

しかし今、勢いと希望をもって駆け出す人々を止めることは。それは、誰にも出来なかった。

 

───

 

 

 

 

 

人々は、もう自ら箍を外してしまった。かつて振り撒かれた狂気がそうさせたのか、誰にも治療できなかったゲーム病がそうさせたのか、それとも、争いこそが人間の本性なのか。誰にも分からない。このゲームエリアに、それを考える人間はいない。

 

まず人々は、政府への不満を叩きつけようとした。即ちデモ活動だ。しかしそれは普通のものではなかった──実力を伴っていた。

各市町村区の役所に人々が集中する。その過程で戦いながら。また役所の職員も、自らのサーヴァントで抵抗する。

 

 

「──」

 

 

3800万人。関東にはそれだけの人間がいる。

そして今それは、3800万人のマスターになり、3800万体のサーヴァントを伴って、戦争を開始した。

 

マシュはそれを見下ろす。ビルの上に立って、無感動に見下ろす。誰かが彼女に向けて弓を射ったが、彼女は簡単に回避して、その場から立ち去った。




次回、仮面ライダーゲンム!!


───始まった暴動

「止めて皆!!」

「俺達が止めるしかねぇんだ!!」

『■■■■■クロニクル!!』


───数の暴力

「キリがないぞこれ!!」

「逃げ切るのよ!!」

「患者に手を出せる訳がねぇだろ!!」


───国と民の戦争

「これは革命だ」

「国民に銃を向けるんですか!!」

「僕らはドクターです!! 兵器じゃない!!」


第三十話 Alive a life


「戦わなければ生き残れない!!」


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第三十話 Alive a life


とうとうお気に入り数が連載開始時よりの目標だった961.0(黎斗)人に到達しました!!(6日 8時現在)
これからも応援よろしくお願いします



 

 

 

 

 

「大我!! 聞こえた!?」

 

「ああ!!」

 

 

大我は、ニコと合流して互いの情報を確かめあった。夢でもなんでもなく、本当にゲームは始まってしまっていた。

彼らは共に診察室を出て、患者達が待機している筈のスペースへ出る。

 

がらんどうだった。

 

 

「……大我」

 

「……ああ」

 

 

ニコが気がついたときには、花家医院はもぬけの殻になっていた。誰も彼もが、己のサーヴァントと共に外へ出ていったのだ。どうやら真黎斗はわざとゲーム病を軽くしたらしく、もう誰も病院を求めていなかった。

 

二人は慌てて外へ出る。

──そこはもう、戦場だった。サーヴァントとサーヴァントが殴りあい、マスターも手に刃物を持って武装していた。

 

 

「止めて皆!!」

 

 

ニコが声を張り上げる。しかしその声は届かない。理性を捨て暴虐に走る民衆に、一人の少女の声など届くべくもない。

大我がニコの肩を叩いた。その手には、ガシャットが握られていた。

 

 

「大我……?」

 

「……行ってくる」

 

「患者を、撃つの?」

 

「まさか。俺がぶっ殺すのはバグスターだけだ。……こんな下らない戦いは、俺達が、ドクターが止めるしかねぇんだ!!」

 

『バンバン シューティング!!』

 

 

……数人が、大我に目を向けた。サーヴァントの剣が、槍が、彼に向けられた。

しかし大我は動じない。もう、するべきことは分かっていた。

 

 

「……変身!!」

 

『レベルアップ!!』

 

『バンバ バンバン シューティング!!』

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

 

そして、仮面ライダースナイプに変身する。ガシャコンマグナムを取り出す。

その照準が狙うのはサーヴァントのみ。患者には傷一つつけない。無傷で無力化させる。

 

 

「……アーチャー!!」

 

「……行くのか」

 

「ああ。張り倒してでも安静にさせてやる……!! ニコ!! ここは頼む」

 

 

そしてスナイプはエミヤと共に駆け出した。病院の前に、ニコとフィンを残して。

 

幾らかのマスターは、フィンの存在にも気づいていた。凶刃はニコにも向けられた。

魂を聖杯に焚べろ。器を満たすまで戦い続けろ。それだけの目的が、マスター達を突き動かす。

 

 

「どうするマスター? 隠れているかい?」

 

 

フィンが槍を構えながらそう言った。ニコは一瞬迷ったが、戦いに赴くスナイプの背中を見てポケットを漁る。

 

 

「……使ってみるかな」

 

「……それは?」

 

 

ニコはそれには答えない。手には、名前の掠れた詳細不明のガシャット。しかし大我が戦いに赴いているのだから、彼女が戦わない理由はなかった。

 

 

『■■■■■クロニクル!!』

 

 

電源を入れる。音声は掠れていたが、後半部分は仮面ライダークロニクルと同一だった。出来る。ライドプレイヤーになれば、戦える。

もう、複数のサーヴァントがニコの目の前にいた。

 

 

「……ゲームスタート!!」

 

『Enter the game!! Let's riding the war!!』

 

 

姿が変わる。音声は仮面ライダークロニクルの物よりほんの少しだけ陽気だったが、ライドプレイヤーとなった彼女の姿はかつてのものと瓜二つだった。

ニコは走ってきたサーヴァントの拳を受け流して、鳩尾に肘を叩き込む。これまでの戦いで、どうするのが良いのかは何となく分かっていた。そして。

 

 

『ガシャコン マグナム!!』

 

「えっ、出せるの? ……でも、これなら!!」

 

 

さらに、どうやら今の彼女はガシャコンウェポンも呼び出せるらしかった。

フィンが、ガシャコンマグナムを構えたニコに並び立つ。

 

 

「指示を、マスター」

 

「前衛で押さえ込んで。私が狙撃する!!」

 

「分かった。さあ、輝いてしまおうか!!」

 

───

 

「おいキリがないぞこれ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

その時、レーザーターボはシャドウ・ボーダーの上に立ち、ガシャコンスパローを構えていた。

後ろから、何体ものサーヴァントが追跡してくる。サーヴァントを倒せ、魂を焚べろ、それらの名の元に、彼らはシャドウ・ボーダーに襲いかかった。

 

 

「……はあっ!!」

 

   ダダダダダダダダ

 

 

矢が放たれる。それはサーヴァントのみを的確に射抜き、少しずつ減らしていく。どうやら本当に、ガシャットの対サーヴァント性能は上がったらしかった。

……しかし、数の力には敵わない。倒しても倒しても、いつの間にか増えていく。シャドウ・ボーダーへの攻撃も増加する。

 

 

「もう駄目だぞこれ!!」

 

「逃げ切るのよ!!」

 

「これ普通の車なんだろ!? 攻撃食らったらバァンなんだろ!?」

 

「だから当たらないようにしてるんでしょうが!! つべこべ言わずに倒しなさい!!」

 

 

マルタが運転席から怒鳴る。既に彼女は何度も逃げ切ろうと悪路に踏み込んでいたが、しかし撒くことは出来ていなかった。

 

 

「いっそマスターを狙ったらどうだ!!」

 

「患者に手を出せる訳がねぇだろ!!」

 

 

黎斗神の煽りに怒鳴るレーザーターボ。彼もドクターであることに変わりはなく、命を守るという認識は確かに持っていた。

 

黎斗神は今、ひたすらにポッピーの修復を行っていた。思った以上にキアラの侵食は激しかったらしく、その残滓を分離することに命を注いでいた。

 

───

 

 

 

聖都大学附属病院も、すっかりがらんとしてしまった。患者は減り、狂気を浴びず戦いを望まなかった数十名とそのサーヴァントが引きこもっているのみだった。

サーヴァントも多種多様で、戦いを望まないサーヴァントというのも、それなりにいるようだった。逆に、マスターに戦いを強制しようとするサーヴァントもいたが、それは仕方がないので倒した。

 

 

「困りましたね、マスター」

 

「そうですね……戦いは、止めないと。それに」

 

「ええ。負傷者の回収もしなければなりません」

 

 

永夢とナイチンゲールは、そう話していた。彼らの顔は窶れていたが、その決意に曇りはなかった。

しかし、彼らの前にその決意を邪魔する者が現れる。

 

 

「……おい」

 

「はい?」

 

 

永夢が顔を上げれば、いつの間にやら数人の男がいた。乱れた様子のないスーツは、いかにも役人然としていた。彼らの回りに、サーヴァントの気配はなかった。

最初に呼び掛けた一人が永夢に近づき、その腕を掴む。

 

 

「……日本政府の者だ。小児科医の宝生永夢だな?」

 

 

 

 

 

「……本当ならメールで伝えたかったが、これは檀黎斗には知られたくない話だからな」

 

 

日本政府の役人。彼らはそうとしか言わなかった。彼らは病院の別の場所にいた飛彩とパラド、そして責任者として灰馬も呼び、一つの使っていなかった部屋に入る。サーヴァントは外に出したままで。

 

役人は独り言を言いながら、部屋中の監視カメラの類いを覆った。マイクも取り外す。余程真黎斗には知られたく無いのだろう。

そして役人はその作業を終え、椅子に座った。座る姿はどこか威圧的だった。

 

 

「さて。現在日本政府は、あらゆる省庁を放棄した。……いや、衛生省だけはまだ残って抵抗しているが、それ以外の役人は皆、国会議事堂に移動した」

 

「……はあ」

 

「そして結論を出した。これは革命だ。国民の一斉蜂起による史上最大の革命だ。当然、国の危機だ」

 

「……つまり」

 

 

役人は、そう言いながら永夢らに国会議事堂の地図を押し付けた。

開いてそれを見てみれば、数ヵ所に丸がつけてあった。

 

 

「そういうことだ。政府は、CRの勢力を護衛に登用する。否定は赦さない、強制的にだ」

 

「な──」

 

 

徴兵。危機に陥った国家は、自分達を守るための人員としてついに仮面ライダーに目をつけた。

 

 

「無理です!! 今は患者の──」

 

「国の危機だ、受け入れろ。国に牙を剥いた国民は皆犯罪者だ。……国会議事堂を守れ。反乱に加担した国民には、何をしてもいい」

 

「そんな言い方……政府は、国民に銃を向けるんですか!!」

 

 

到底、ドクターには受け入れられない。救うのではなく殺せ。反逆者は死罪だ。そう、国は結論付けた。それは命を救うドクターの理念からは程遠く、それは人を守る人の心からは程遠く。

しかし、その命令からは逃れられない。

 

 

「これは命令だ!! 仮面ライダーはまず護衛として配備する!!」

 

「嫌です!! 僕らはドクターです!! 兵器じゃない!!」

 

「兵器だ!! 少なくとも、お前たちに力があるならそれは現状兵器と変わらない!! これは革命だ!! 戦わなければ生き残れない!!」

 

「──」

 

 

役人は、他の数人と共に永夢を連れ出す。飛彩も、パラドも連れ出す。

 

灰馬は、見送ることしか出来なかった。

 

───

 

 

 

 

 

「……ねぇ、マスター?」

 

「どうした」

 

「……これ」

 

 

ナーサリーは、ゲームエリア内の全てのマスターの動向をモニター越しに眺めていた。そしてあることに気がつき、それを真黎斗に見せる。マスターのパターンが、二極化してきたのだ。

 

一つは、積極的に外へと出て戦い、力を示す者。特に、強いサーヴァントを引き当てた人々は勢いがあった。

そしてもう一つが、家の中に引きこもるマスターだ。真黎斗は、サーヴァントを人間としての生活も出来る存在としてデザインした。だからこそ、家の中に引きこもるマスターの存在もある程度予測はしていた。

 

 

「……ああ、動かない選択をしたプレイヤーか」

 

「どうするの? 放っておいたら差が広がるし、それに……」

 

 

本来、ゲームとは好きなような取り組みが出来る物だ。それは真黎斗とてゲームの利点として認識している。だからこの多様性は、彼としては維持したかった。

しかし、そうも言っていられない。彼らの目的は、ただのゲームとは別のところにあった。

 

 

「……問題ない。対策は考えているし、データは取っている最中だ」

 

 

そう呟きながら、真黎斗は別のモニターに目をやった。

ニコが、戦っていた。

 

 

「ランサーのマスター? 彼女が、どうかしたの?」

 

「何……その内分かるだろう」

 

 

真黎斗が意味深げに笑う。

 

……その時、不意に階下から爆音がした。

ナーサリーが慌てて窓辺に駆け寄り、下を見下ろす。

 

 

 

 

「ゲームを止めろ!!」

 

「俺達を嘗めるな!!」

 

「今思い知らせてやる!!」

 

 

それなりの数のマスターが、ゲンムコーポレーションまで詰め寄っていた。当然のことだった。国の動きを不満に思うなら、それと共にゲンムコーポレーションへの怒りが募るのも当たり前だった。

 

 

「あらら……まだ聖杯は現れてないのに、せっかちさんね。どうする、マスター?」

 

「アヴェンジャーやラーマにでも迎撃させるさ」

 

「あら? 最後まで残った人と戦うんじゃなかったの?」

 

「サーヴァントとマスターは一対一の関係。私のサーヴァントは君だけだ。後はここにいるのははぐれサーヴァントのような何かさ」

 

 

真黎斗はそう笑いながら言う。そして窓に寄り、地上での戦闘を見下ろした。

 

───

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

追憶せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

 

剣が飛び矢が舞う戦場にて。

ゲンムコーポレーション三階から迫り来るサーヴァント達を迎撃するのは、ラーマとシータだった。四階では信長が火縄銃からの遠距離射撃を行って、一階ではジル・ド・レェが八面六臂の活躍を見せていた。

 

 

「……」

 

 

その様子を、アヴェンジャーは煙草を吸いながら眺めていた。本当なら喫煙室まで行かなければならなかったが、窓を開けて外に顔を出して吸っているのだから多分良いだろう、と彼は考えていた。

……今彼が吸っているのが、ゲンムコーポレーションにあった最後の一本だった。銘柄はやはりキャスターだった。

 

 

一人、また一人とサーヴァントが消えていく。ゲンムコーポレーションからの攻撃に、サーヴァントもマスターも死んでいく。しかしマスターが尽きることはない。何人も何人も押し掛けてきていた。

 

 

「……これでは、ゲームも現実も変わらんな」

 

 

そう言葉が漏れた。サーヴァント、マスター、サーヴァント、マスター。絶え間無く何度も押し寄せてくる敵達は、まるで無限に沸いてくる雑魚キャラのようだった。

そのようにして無感動に外を眺めていた彼は──唐突に目を見開く。

 

 

「──!?」

 

 

何の因果か。彼は、最も会いたくなかったサーヴァントと、出会ってしまった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───望まなかった再会

「お前とはもう会いたくなかった」

「わたしは割と良かったと思いますよ?」

「あら? もしかしてあれ……」


───議事堂防衛開始

「オレはやってやるよ。でも条件がある」

「そんなことをしたら……」

『掌の上の栄光 Perfect puzzle!!』


───ニコに異変

「……おい、どうした」

「っ、ちょっ、無理……!!」

「一先ず避難を……!!」


第三十一話 Moving soul


『アップデートのお知らせよ!!』


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第三十一話 Moving soul


社運をかけたクロノス攻略イベントに二人しか参加しなかった時点で仮面ライダークロニクルは失敗してたと思う



 

 

 

 

 

『パーフェクト ノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

 

……アヴェンジャーは変身し、ゲンムコーポレーションから飛び降りて人々を撃退していた。隣でマスターが吹き飛ばされていくのには彼は何も思わなかったが、しかし彼はサーヴァントだけを攻撃していた。

 

 

『鋼鉄化!! 伸縮化!!』

 

『1!! 2!! 3!! 4!! 5!! 6!! 7!! 8!! 八連鎖!!』

 

 

パラブレイガンが弾丸を吐き出し、サーヴァントだけを的確に射抜く。鋼鉄の弾は相手に確かなダメージを与え、撤退にしろ消滅にしろ、しっかりと脱落させていく。

 

アヴェンジャーが加勢してからは、戦況は圧倒的にゲンムコーポレーションに傾いた。元々戦闘経験も、さらには冷静な思考すらほぼない烏合の集だったのだから、手が増えれば勝てるのは当たり前だった。

 

 

「だ、駄目だ!! 撤退するぞ!!」

 

「おい!! まだ消えるな!!」

 

「くそっ、逃げるぞ……!!」

 

 

一人また一人、数は段々減っていく。人々は無謀な戦いを止め、再び聖杯を作る戦いへと戻っていく。サーヴァントがまだまだ戦える状態でも、マスターが諦めて撤退を命じる。そうせずにまだ戦おうとするものは殺されていく。

……そしてゲンムコーポレーション前に残るのは、ついにただ一人だけになった。

 

 

「……っ……」プルプル

 

 

ただの少女。そんな風に見えた。しかし消滅しかけていることを鑑みれば、彼女もまたサーヴァントだということは明らかだった。恐らく先の戦いで、マスターを失ったのだろう。

……銀髪、赤い目、小柄な肢体、そしてその手の微妙に震えているステッキ。サーヴァント・キャスター、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、そこにいた。

 

アヴェンジャーがイリヤを見つめる。イリヤの方は、消滅と目の前の男に対する恐怖にうち震える。

……アヴェンジャーは暫く迷ったあとに、己の外套を彼女に掛けた。そして。

 

 

「──待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 

宝具を発動する。誰も傷つけない治癒宝具。消滅しかけていたイリヤは、それによって一時的に生き長らえる。

 

 

「……お前とは、もう会いたくなかった」

 

 

外套を回収して、アヴェンジャーは最初にそう言った。イリヤの方は呆然としながらアヴェンジャーを見上げ、しかし何も言えない。

 

 

「……誰、ですか?」

 

 

イリヤは、アヴェンジャーに対してそう言うことしか出来なかった。ようやく絞り出せた言葉がそれだった。

イリヤはアヴェンジャーを測りかねていた。彼はさっきまで敵で、他のサーヴァントを攻撃していて、しかし消えかけていた自分を助けてくれて、さらに妙に初対面じゃないような心持ちがした。

 

彼女は、アヴェンジャーのことを覚えていない。あの魔法少女の特異点での出来事は、イリヤの手に握られているステッキであるルビーが消去したのだから。アヴェンジャーはイリヤが自分のことを知らない反応をすることに安堵と、少しの寂しさを覚えた。

 

 

「お前、マスターは?」

 

「マスターさんは……その……」

 

 

イリヤはその問いに目を伏せる。彼女のマスターはまだ大学生位の女だったのだが、彼女はイリヤが目を離した隙に消えてしまっていた。もし死ぬ様子を目の当たりにしていたなら、彼女は恐慌状態にあっただろう。

 

 

「……そうか。そうだろうな」

 

「……酷いです」

 

「……」

 

「……その、私を、どうするつもりなんですか?」

 

 

今度はイリヤがそう問った。アヴェンジャーはその問いに答えられず空を仰ぐ。咄嗟に彼女を助けてしまったが、自分が彼女をどうしたいのかはさっぱり分からなかった。

 

───

 

「あら? もしかしてあれ……」

 

 

ナーサリーは作業の合間に窓から下を見下ろしていたのだが、アヴェンジャーが一人の少女と会話していることに気がついた。

しかも見覚えがある気がする。ナーサリーは記憶を辿り、その少女がかつて魔法少女の特異点でアヴェンジャーと共に行動していた者だと察した。

 

 

「どうした?」

 

「ほら、見てよマスター」

 

「……?」

 

 

ナーサリーに誘われて、真黎斗もまたアヴェンジャーを見る。そして、ニヤリと笑った。

 

 

「丁度いい。システムのチェックも兼ねて、マスター権をアヴェンジャーに植え付けてやろう」

 

 

その言葉は、純粋な好意から出た物だった。

 

───

 

「……っ」

 

 

暫く無言でイリヤと向かい合っていたアヴェンジャーは、手に走った痛みで手の甲を見た。令呪が刻まれていた。

 

 

「どういうことだ檀黎斗……!?」

 

 

アヴェンジャーが社長室を仰ぎ見る。その背後で、イリヤは自分の手のステッキに話しかけた。

 

 

「……ねぇ、ルビー。私、どうなっちゃったの?」

 

「あー、これはー、彼がマスターになっちゃった感じですかねー」

 

「……」

 

「わたしは割と良かったと思いますよ? アヴェンジャーさんは悪いようにはしないですよ」

 

 

ルビーは先程までは過度な疲労で黙っていたが、しかしアヴェンジャーとの会話はしっかり聞いていた。そしてまた、アヴェンジャーがかつて会った時と変わっていないことも確認していた。

 

 

「ルビー? 知ってる、の?」

 

「ええ!! ……というか、イリヤさんも知ってる筈なんですが……ああ、私が記憶を処理してたんでしたね」

 

 

ルビーは、かつて檀黎斗と出会ったときに、Fate/Grand Orderガシャットの存在を察していた。そして、自分達がゲームキャラだと悟ればイリヤがショックを受けると考え、彼女の記憶を封印した。

しかしこのような状況になってしまえば、そんな心配は無用のものだ。ルビーは、彼女の記憶処理を解除し始める。

 

───

 

 

 

 

 

いつの間にか、日は沈んでいた。聖都大学附属病院はこの極限状況下において、避難所としての役割を果たそうとそのドアを解放していた。

また、それと同時に、幾らかの戦えるサーヴァントを引き当てたマスターが交代して、警備も行っていた。

 

 

「今、戻りました……!!」

 

 

その内の一人が作だった。

少し前にシャドウ・ボーダーから下ろされた彼は、病院に戻って暫くしたらいつの間にかサーヴァントを引き当てていた。

 

 

「おお、作さん!! 無事でよかった!!」

 

「ええ……ちょっと、体力はきついですが。で、頼んでおいたあれは?」

 

「ええ、用意しましたよ」

 

 

灰馬が作を出迎える。その手に、頼まれたものを……()()()()()()1()()()()を抱えながら。灰馬はそれらの袋を作に差し出し、そして作は、己のサーヴァントにそれを受け渡した。

 

黒い鎧、金髪に金色の目。作の引き当てたサーヴァントの名は。

 

 

「はい、お納めください」

 

「私はサーヴァント、貴様がマスターだ。私に媚びても意味はないぞ。──にしても、これはなかなか旨いな。ジャンクフードの王様のようなパンケーキだ」モッキュモッキュ

 

 

アルトリア・ペンドラゴン・オルタ。黒い騎士王が、作のサーヴァントだった。アルトリア・オルタはハンバーガーを咀嚼しながら剣の調子を確認する。その姿が、何故かバガモンと重なった。

 

 

「お疲れさまですマスター」

 

「おおアサシン君、病院の復旧はどうなっている?」

 

「順調ですよ、任せてください」

 

 

そして、灰馬の元にも当然サーヴァントは現れていた。彼が引き当てたのはアサシン。しかもとても都合が良いことに、ローコストで小さな労働力を大量に召喚できる便利なサーヴァントだった。

 

 

「ノブノブー!!」

 

「ノッブー!!」

 

 

アサシン、織田信勝。灰馬の元には現れた彼もまた、聖都大学附属病院を守っていた。

 

───

 

 

 

 

 

とうとう永夢に飛彩、そしてパラドとサーヴァント達は車で国会議事堂まで連れてこられてしまった。相手に傷をつけられない以上抵抗を試みることも出来なかった。

 

 

「降りろ。お前達はここの向こうにいる軍団を排除しろ」

 

「嫌です……!!」

 

「俺達はドクターだ。それ以外の何者でもない」

 

 

しかしだからといって、受け入れるつもりは毛頭なかった。永夢も飛彩も降りることはせず、戦いを拒む。兵器としては欠陥品だった。

役人は不満を隠そうともせずに舌打ちをした。そうしたところで、誰も彼には従わなかった。

 

 

「オレはやってやるよ。でも条件がある」

 

 

……いや、一人は従った。パラドだった。

 

 

「おいパラド……!!」

 

「どういうつもりだ!!」

 

 

永夢も飛彩も困惑する。パラドは患者のことを考えていると思っていたのに。

しかし、その疑念はパラドの続けた言葉で自ずと晴れる。

 

 

「──その代わりだ、ここを避難所兼診療所として、人々を受け入れさせろ」

 

「な……」

 

「そうしてくれるなら、俺は戦ってやるよ。サーヴァントなら倒してやる」

 

 

提案だった。サーヴァントを倒したなら、必然としてマスターだけが残される。そのマスターを保護させろ、と彼は提案したのだった。

 

 

「そんなことをしたら……」

 

 

その言葉に、役人達の顔が曇った。

人々を受け入れる? そんなことをしたなら、ここの防備はあってないような物になる。人々を受け入れる、それはいつまた牙を剥くか知れない反乱者を迎え入れるのと同義だ。

 

 

「そうしたなら、また中で暴れるかもしれない。犠牲者が増えるかもしれないぞ?」

 

「そんなミスはしないさ。俺はともかく、こいつらはドクターだからな……誰かを傷つけさせることは出来ない」

 

「パラド……!!」

 

 

永夢の顔は晴れていた。信じていた、と言わんばかりに頷き、役人に告げる。

 

 

「……パラドの条件を飲んでくれるなら、僕らは協力します。マスターは倒しません。敵対するサーヴァントだけを倒して、平和を望む人々は引き入れます」

 

「なら俺も乗ろう。当然だが、裏切ったならその時点で俺達も敵に回ると思え」

 

「……っ」

 

 

役人はまた舌打ちした。そして、近くにいた数人と話し合って結論を出す。

 

 

「……分かった。その条件は飲んでやろう。だから早く行け。その道をいくらか進んで右に曲がれば、現在敵の侵入を押し止めているエリアに辿り着く」

 

 

それは同意。パラドの出した提案に、政府側が折れたのだ。これによって、三人の方針は確定した。命は壊さない。そのサーヴァントだけを粉砕する。

 

 

「なら……行ってやるよ」

 

 

パラドが車を降りた。永夢も飛彩も続いて降り、ナイチンゲールもBBもそれに追従する。

パラドは車を振り替えることもなく、現場へ歩きながらゲーマドライバーを装備した。そして、黎斗神から手に入れたガシャットを起動する。

 

 

『Perfect puzzle pocket!!』

 

「……変身」

 

 

装填した。もう、戦場は見えていた。

 

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『掌の上の栄光 Perfect puzzle!!』

 

───

 

『■■■■■ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……はあっ!!」

 

 

ニコは、未だにライドプレイヤーとして戦っていた。呼び出したガシャコンマグナムにクロニクルガシャットを装填しサーヴァントを撃ち抜くのも、これで八回目だった。

 

 

「流石だねマスター!! 調子はどうだい!?」

 

「つべこべ言わずに戦いなさいよ!!」

 

「ははは、優雅さが足りないなぁ」

 

 

フィンにもまだ余裕があった。彼がサーヴァントを槍で押さえ込み、ニコが遠距離から狙い撃つ。二人は口頭では相性が悪かったが、そんな状態でも協力プレイは成立していた。

 

 

「……大丈夫か」

 

「ああ、大我。私は大丈夫、そっちは?」

 

「問題ない。暴動もある程度落ち着いてきた」

 

 

そこにスナイプも戻ってくる。彼のライフゲージは幾らか磨り減ってはいたが、まだ大丈夫そうだった。

 

 

「……にしても。そのガシャット、どこで手に入れた」

 

「ああ、届いてたの。檀黎斗から」

 

 

そしてスナイプは、ニコが現在使っているガシャットについて言及する。ニコは、大我にまだ現在彼女が使っているガシャットを見せたことがなかった。だからこそ彼女はそれを見せようとガシャコンマグナムからガシャットを引き抜き──

 

 

「……っ……!?」

 

 

突然倒れ伏した。

 

 

「……おい、どうした、おい!!」

 

「っ、ちょっ、無理……!!」

 

 

スナイプが彼女を慌てて支える。ニコの息は、先程からは想像できないほど荒くなっていた。

……いつの間にか、ニコはライドプレイヤーから生身に戻っていた。まともに立っていることすら出来ず、彼女はスナイプに身を預ける。

 

それと共に、彼女の懐からクロニクルガシャットが溢れ出た。ニコは朦朧とする意識の中でそれを掴む。すると、そのガシャットの分身が勝手に現れて、複数に分裂して飛んでいった。

 

 

『グランドオーダークロニクル!!』

 

 

そんな音声を漏らしていた。

 

 

「何なんだ……一先ず避難を……!!」

 

『ジェット コンバット!!』

 

「アーチャー!! ランサーを頼む」

 

「……了解した」

 

 

スナイプはそれを見ながらも、ジェットコンバットを使用してニコを抱えたまま空へと飛び上がる。ずっとスナイプの側にいたエミヤもニコのことは気にかかったが、未だ戦っているフィンのサポートに徹することにした。

 

───

 

『アップデートのお知らせよ!!』

 

「おいおいおい今度は何だ!?」

 

 

貴利矢はその声を聞いて目を見開いた。

現在シャドウ・ボーダーはようやくサーヴァントを撒き、人気のない港に停まっていた。ポッピーは未だ目覚めず、貴利矢はかなり疲弊していた。

 

 

『皆、楽しくゲームはやってるかしら? 相手のサーヴァントは何体倒した? 今一番聖杯の完成に近いのは渋谷区、24%!! 他の皆も頑張ってね!!』

 

「どうやらかなり進んだようだな」カタカタカタカタ

 

「不味いんじゃねえのか神?」

 

「それはそうだが、私達は干渉できないぞ」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神は未だにパソコンを叩いていた。一度も休んでいなかった彼もまた疲れていた。

 

 

『で、今回のお知らせはね? 経験値システムの導入についてなのよ!!』

 

「経験値?」

 

 

経験値……そう言われれば、貴利矢にもそのシステムがどんなものかは想像できた。経験値というのだから、何かをすることで強くなるのだろう。でも、何を?

 

 

 

『皆は、各エリアに現れたライドプレイヤーに気づいたかしら?』

 

「え?」

 

「……あれか」

 

 

シャドウ・ボーダーから見回せば、ギリギリ視界の端にライドプレイヤーのようなシルエットが見えた。今は何もせず、放浪しているだけのようだった。

 

 

『そのライドプレイヤーは、各地の聖杯と融合したFate/Grand Orderの端末、グランドオーダークロニクルガシャットが呼び出したNPCよ!!』

 

───

 

『それを倒すと、自分のサーヴァントのステータスが少しずつアップするの!! 百体倒せば素早さ二倍、五百体倒せばパワーが五倍!! あまり戦闘に向いていないサーヴァント程早いペースで強くなれるわ!!』

 

「何それ、超、ムカつく……!! 痛たたたた」

 

「おい、無理はするな」

 

 

ニコは、花家医院のベッドに寝かせられていた。誰かの忘れていった携帯からは、ナーサリーの声が垂れ流されていた。

ニコは苛立っていた。どうやら自分はまんまと利用されていて、しかも自分のデータが雑魚敵扱いされるとなれば、苛立つのも当然だった。

 

 

『さらに!! ライドプレイヤーを倒すと低確率でアイテムをドロップするの!! マスターの武器や礼装、パワーアップアイテム、既に使っていた場合は極々稀に令呪だって追加されるわ!!』

 

「真檀黎斗……絶対ぶっ飛ばす」

 

「そうだな。分かったから休め」

 

『それじゃあ、これからも頑張ってね!! ヒーローになるのは、貴女よ!!』

 

 

……そこで放送は終了した。分かったことは、これからますます状況は悪くなりそうだ、ということだけだった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───議事堂防衛戦

「令呪をもって僕の傀儡に命じる」

我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

「戦いは終わりだ!!」


───マシュの意思

「私は戦う」

「わしは、否定はせぬ」

「私は人を救います」


───イリヤの動揺

「私は、どうすれば」

「オレは……」

「君がマスターだ。好きにすればいい」


第三十二話 Let's try together


「これよりここは絶対停戦圏となる!!」


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第三十二話 Let's try together


『マッスル化!! 高速化!! 透明化!!』がずっと
『マッスル化!! 高速化!! 欧米化!!』に聞こえる



 

 

 

 

 

……夜になった。マスターとなったアヴェンジャーは取り合えずイリヤを自分の部屋に入れ、真黎斗の方へと向かった。

 

 

「……私は、どうすれば……」

 

 

出入りを封じられたイリヤは、アヴェンジャーの部屋の窓から、遠くに見えるスカイウォールを見ていた。どこからか聞こえる誰かの嘆きに耳を傾けていた。

聞くことは出来たが、向かうことは出来なかった。彼女はマスターこそ変わっても結局サーヴァントであり、アヴェンジャーの支配からは逃れられなかった。

 

既に彼女は、アヴェンジャーとの戦いの記憶を思い出していた。カルデアとの交流を思い出していた。その上で、自分がどうするべきなのか、ただただ思い悩んでいた。

 

 

「うーん、アヴェンジャーさんが取り合えずこの部屋にいろって言ったから残っている訳ですけれども。どうですイリヤさん? 一旦ここの建物を見て回る位は許されるんじゃないですかね?」

 

「……」

 

 

イリヤの思考はどん詰まりだった。

助けたい。助けられない。その二つだけが頭にあった。彼女は何も諦めたくなかった。聞こえてくる苦しみを取り除きたかった。それだけしか頭になくて、ルビーの言葉もろくに聞こえてはいなかった。

 

───

 

「何のつもりだ檀黎斗!!」

 

「どうしたアヴェンジャー」カタカタカタカタ

 

 

アヴェンジャーは、パソコンに向かう真黎斗のデスクに両手を降り下ろした。彼は尋常でなく苛立っていた。

 

 

「何故オレをマスターにした!! 何をさせるつもりだ!!」

 

「君がマスターだ。好きにすればいい」カタカタカタカタ

 

「それは……オレが何をしてもいいということか?」

 

「その通りだ。君をマスターにしたのに深い理由はない。そもそもあのキャスターだって、ゲームエリア中に何体もいる『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』の内の一体でしかない」カタカタカタカタ

 

 

アヴェンジャーの言葉には熱が籠っていたが、真黎斗は至って冷静だった。アヴェンジャーが怒っている理由は、よく分かっていなかった。

 

 

「全て君に任せよう。君がマスターなのだから、それが当然だ。生かすも殺すも好きにするといい」

 

「……」

 

 

アヴェンジャーは、何も言わずに退出した。

 

 

 

 

 

───

──

 

「……あれ?」

 

 

ニコは、何故か川の畔に立っていた。目の前で、金髪の青年が鮭を焼いていた。顔は見えなかった。

何故こんな夢を見ているのだろう、とニコは変な風に思っていたが、自分で目覚めることは出来ず、仕方がないのでそれを眺めていた。

青年は、背後に立っているニコに気がつくこともなく、ひたすらに鮭を焼いていた。そして、指に跳ねた鮭の脂を舐めた。

 

 

「……あ」

 

 

ニコは、その姿に見覚えがあった。丁度その後ろ姿は、親指かむかむ知恵もりもり(フィンタン・フィネガス)発動時のフィンとそっくりだった。つまりこれは、フィンの過去だった。

 

 

 

   ザッ

 

「……!!」

 

 

いつの間にやら、風景はがらりと変わっていた。目の前には現在の姿と全く同じフィンが、槍を構えて立っていた。

 

 

「■■■■■!!」

 

「我が名はフィン・マックール!! アレーン、君を倒す者だ」

 

「■■■■■■■!!」

 

 

炎の息のアレーン。それが、フィンの前に立ち塞がる零落せし神霊の名。ニコの脳内に、アレーンとフィンの情報が流れ込む。

 

アレーン。毎年宮殿を燃やす怪物。その手には竪琴を持ち、その音を聞いたものは誰も彼もが忽ち眠りについてしまう。その為、誰にも倒すことは出来なかった。そのアレーンを倒すことが出来たのなら、フィオナ騎士団の団長にしよう、そんな約束をフィンは王としていた。

 

 

「■■■■■!!」

 

   ポロロン

 

 

そして、竪琴が掻き鳴らされた。ニコはこの風景を夢で見ているから眠気は抱かないが、目の前のフィンは少しばかりふらついた。

……しかし彼は眠らなかった。彼は手に持つ青い槍の先端を己の額に押し当てる。

 

彼の槍は、太陽の火と月の力を湛えて青く光り、袋を被せておかなければ勝手に血を吸おうとする獰猛な物だった。そしてその槍の先端を額に押し当てれば、眠気を吹き飛ばすことが出来た。

 

 

「■■■……!?」

 

「……行くぞ!!」

 

 

フィンは槍を構え直して、アレーンへと立ち向かい──

 

 

   ザッ

 

 

……また、景色が変わっていた。既にフィンは、フィオナ騎士団の団長になっていた。どうやら彼はアレーンを倒せたらしい、ニコはそれを察する。

しかし彼は、どういうわけか森の中をさ迷っていた。しかも、その髪は金ではなく銀色だった。ニコの脳内に、また情報が走る。

 

 

「何処だ!! 何処にいる、サーバ!!」

 

 

フィン・マックールの最初の妻、サーバ。彼女は妖精であったが、フィンと深く愛し合った。しかし彼女はフィンが戦いに出ている間に拐われてしまう。フィンは現在、サーバを探して旅をしている最中だった。

そしてフィンは、サーバを探す旅の最中に、魔女の姉妹と出会う。その姉妹はフィンに惚れ込み、しかしフィンはサーバを探して旅を続けていた為にその姉妹には全く触れなかった。姉妹はそれに怒り、フィンを銀髪の老人に変えてしまう。最終的に老人から戻ることは出来たが、髪は銀のままだった。

 

 

「あ……そういえば言ってたわねアイツ、魔女の姉妹にツイン告白されたって」

 

 

ニコはそう呟く。フィンは未だにサーバを探してさ迷っていた。もう、探し続けて七年経っていた。

 

 

 

   ザッ

 

   ザッ

 

   ザッ

 

 

そこからニコは、様々な景色を見た。

一人目の妻を諦める姿。

二人目の妻と死別する姿。

乗り気ではないながらも部下の進言で三人目の妻グラニアを迎えようとする姿。

部下の一人、ディルムッド・オディナとグラニアが駆け落ちする姿。

ディルムッドを追い続けるも、部下の信頼も、育ての親も失う姿。

恨みを抱えたままディルムッドを許す姿。

 

 

   ザッ

 

「……お願いです、水、を……」

 

「……」

 

 

そして最後は、ニコはフィンの前で傷だらけで横たわる騎士を見下ろしていた。

その騎士こそがディルムッド・オディナ。グラニアと駆け落ちした部下の一人。彼はフィンの制止も聞かずに猪と戦い、致命傷を負った。

 

フィンは、その手に水を掬っていた。彼の癒しの力を使えば、ディルムッドの傷を直すことは容易かった。しかしフィンは出来なかった。彼は、ディルムッドのせいで多くを失った。その恨みが、悲しみが、ずっと心に根差していた

 

 

「……主……」

 

「……」ポタポタ

 

 

フィンの手から水が零れた。フィンの顔は、笑っているのか、泣いているのか、判断の難しい物だった。

 

ニコは、何も言わなかった。何を言っても無意味だと知っていた。フィンの心情も何となく分かっていた。しかし、それでも、ディルムッドは救うべきだとも思っていた。

 

そしてディルムッドは息絶え──

 

──

───

 

 

 

 

 

「……っ、っつ」

 

 

ニコは、そこで起き上がった。体の節々が痛かった。外を見れば、もう昼過ぎに見えた。いつの間にやら、聖杯戦争の十日目だった。

 

 

「目を覚ましたかい?」

 

 

枕元にフィンがいた。どうやら現在は、大我とエミヤが戦っているらしかった。置いてあった水を飲み干す。幾らか体力が回復した。

ニコはフィンを見上げた。微妙に恨みがましい目だった。

 

 

「……もしかして、見たのかい?」

 

「……」

 

「まあ、見ていて気持ちのいい夢ではなかっただろうね。私の女難の運命はどうしようもなく、乙女たちを狂わせてしまう」

 

 

フィンは、ニコの目で彼女が己の夢を見たのだと察していた。彼自身、何となくニコの夢を見たような気もしたが、あまりに平和な夢だったのであまり印象には残らなかった。

 

 

「ああ、でも私は彼女たちのせいにしたくはないんだ。私の美貌は、無自覚のうちに彼女達を狂わせてしまう、仕方がないことなんだ」

 

 

フィンはつらつらと並べ立てる。それは彼の本心だった。彼のトラブルの全ては宿命によるものだと。裏を返せば、彼は、全てのトラブルの原因は自分にはないと思っていた。

 

 

「……ふざけんじゃないわよ」

 

 

……ニコから、そんな言葉が零れた。

それはここまでのストレスから来た八つ当たりだったが、同時にニコの心からの言葉だった。

 

 

「……アンタも、悪いでしょ」

 

「……うん?」

 

「少なくとも!! アンタがあの部下(ディルムッド)としっかり話し合って全部すっきりさせてたら!! 最後の最後に部下を見殺しにしなくてよくて!! その後不幸になることもなかったでしょ!!」

 

「──」

 

 

ニコの言葉は、所詮、まだ人生経験の少ない少女の物だった。ゲームという、いくらでも仲直りができるフィールドでしか戦わなかった人間の戯れ言だ。

 

しかし、フィンは彼女の言葉に反論が出来なかった。それは確かに、今までのフィンにはなかった視点だった。

今までのフィンは、あらゆるトラブルは外的要因に依るものと、若しくはどうしようもない美貌、どうしようもない運命に依るものと思っていた。自分の行いに非があったとは考えてこなかった。

だから、ニコの言葉はすとんと彼の懐に落ちた。

 

 

「……きついことを言うね、マスター」

 

「あんなもの見せられたらこうも言うわよ」

 

「それは……そうだな。確かにそうだ」

 

 

何処かから焦げ臭い臭いがした。まだ、戦いは終わっていない。

 

───

 

パラドクスは、既に何時間も戦っていた。すり減った体に鞭を打ち、サーヴァントを斃してきた。

 

 

『回復!! 回復!! 分身!!』

 

「心が……踊るなぁ……!!」

 

 

回復のエナジーアイテムを分身させ、大量に自分に取り込む。後々の反動が怖い裏技だった。しかし、それだけで無数の敵を押さえ込めるのだから安いものだと、パラドクスは思っていた。

隣のBBはもう疲れ果てていたが、抜けることも出来ずずっと戦っていた。

 

 

「まだやるんですかセンパイ!? 私もう疲れましたよ!?」

 

「まだまだだ!! サーヴァントなら幾らでも倒してやる!!」

 

『マッスル化!! 高速化!! 透明化!!』

 

 

 

 

 

また別の場所では、エグゼイドが戦っていた。彼のライフゲージは、かなり削れていた。初めの内はパラドクスからのサポートもあったのだが、余裕が無くなってきたのだろう、それはもう無くなっていた。

 

 

「■■■■■!!」

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあああっ!!」

 

 

ガシャコンブレイカーを降り下ろして、真名の分からないバーサーカーを消滅させる。これでもう倒したサーヴァントが何体目になるか、エグゼイド自身にも分からない。もう彼は、肩で息をしていた。限界はすぐそこまで来ていた。

 

 

「マスター、大丈夫ですか」

 

「ええ、何とか……っっ」

 

「……宝具を使わせてください」

 

 

エグゼイドの容態を見て、ナイチンゲールはそう告げた。

エグゼイドは既に、ナイチンゲールの宝具がどんなものか聞かされていた。そして、規模を大きくして発動するには多大な魔力が必要になることも知っていた。

 

 

「でもそれは、危ないって」

 

「確かに、貴方の魔力は大量に吸い上げますが……それでも、今はそれしかないかと」

 

「……分かりました」

 

 

しかし、彼はナイチンゲールを信じていた。彼女は尊敬すべき医療人であり、今は共に戦う仲間だった。仮にそれが檀黎斗によって作られたものでも、関係なかった。だから、彼女の進言に掛けた。

エグゼイドは、片腕を天に掲げた。何にせよ、何か行動を起こさなければじり貧だったのだから、この行動は理に叶った物だった。

 

 

「令呪をもって僕の傀儡に命じる!!」

 

 

令呪が浮き出て、一画消費される。

そしてその力は、ナイチンゲールに乗り移った。

 

 

「宝具を発動しろ、バーサーカー!!」

 

「──了解しました、搾り取りますよ、マスター!!」

 

 

その瞬間ナイチンゲールの背後に、白い巨大な看護婦のシルエットが浮かんだ。

 

 

「全ての毒あるもの、害あるものを断ち!!」

 

「っ──」

 

 

エグゼイドの魔力が吸い上げられていく。想像していたよりも大きなダメージのせいで、エグゼイドは思わず膝をつき、変身を解く。

幾らかのマスターが、無防備な永夢に刃を振り上げ──

 

 

「我が力の限り、人々の幸福を導かん!!」

 

「──お願いします!!」

 

我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

   カッ

 

 

 

 

 

……ナイチンゲールを中心にして、白い結界がドーム状に展開された。

永夢に襲い掛かった人々の手からも、その場にいたサーヴァントの手からも、剣も槍も悉く滑り落ちていた。

 

 

「……もう、もう戦いは終わりだ!! これよりここは絶対停戦圏となる!!」

 

 

永夢はふらふらと立ち上がり、宣言した。

 

ナイチンゲールの宝具、我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)。その正体は、周囲に存在する誰かに危害を加えるものを全て無力化する絶対安全圏。剣も槍も使えず、銃は弾を吐き出さず、魔術は練り上がらず、拳を振るうことも出来ない。

しかしその能力は本来一時的にしか効力を持たない。それでも永夢はその宝具に己の魔力(生命力)の殆どと令呪一画をつぎ込み、数日耐えるレベルの結界とした。

 

故にこその絶対安全圏。この中にいるのなら、誰も傷つかない。

 

 

「僕たちは貴方達を受け入れます!! 戦わないのなら!! 守って見せます!! だから!! もう、こんなこと止めましょう!!」

 

 

人々がざわついた。もう、狂気は消え失せていた。

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

マシュは一人歩いていた。

もう、夜になっていた。これまで何体ものライドプレイヤーを倒してきた彼女は、川沿いの道で休んでいた。

 

 

「……やっておるようじゃのう」

 

「……信長さん」

 

 

そんな彼女の元に、信長が歩いてきた。敵対する様子はない。マシュは少しだけ警戒しながら彼女を見る。

 

 

「……で、やりたいことは見つかったか」

 

「……はい。私は決めました。苦しんでいる人を救います。誰よりも、苦しんでいる人を見過ごせない自分のために。私は、私の為に人を救います。私の為に、私は戦う」

 

「……成る程な。わしは、否定はせぬ」

 

 

信長は、マシュの言葉に対してそうとしか言わなかった。否定はしないし、肯定もしない。

 

 

「……手伝ってくれませんか?」

 

「それは、断る」

 

 

そして、手を差しのべることはしない。

マシュの決意はマシュだけのものだ。誰かが代わってはいけない。彼女だけの決意でなければならない。信長は、そう考えた。

 

 

「わしは、わしのしたいことを、わしのやりたいようにやるだけじゃ。他の事になど興味はない」

 

「……そうですか」

 

「そうだ。……じゃあの」

 

 

信長はそれだけ聞いて用は済んだとばかりに背を向けた。マシュは、消えていく彼女を見送ることしかしなかった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───衛生省の賭け

「最早打って出るしかない」

「ここで終わらせる」

「ふざけたゲームはこれで終わりだ!!」


───イベント開催の告知

『聞こえてるわね?』

「衛生省を倒せ!!」

「面白いことを考えたわね」


───目覚める新ガシャット

『テール・オブ・クトゥルフ!!』

「それでは……変身」

「何だよあのタコ……!?」


第三十三話 BATTLE GAME


約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」


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第三十三話 BATTLE GAME


(EXTRAを観ながら)何だこの宇宙服!?
座にはアームストロングなんているのか……フォーゼ×FGO行けそうだな……



 

 

 

 

 

炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)!!」

 

訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)!!」

 

壊音の霹靂(サンダラー)!!」

 

 

弾丸の雨が降る。既に衛生省は孤立無援の状況にあった。包囲が敷かれ、一階から三階までは、とあるアサシンの率いた軍勢によって悉く破壊された。屋上から数階分は、とあるアーチャーの渾身の一撃で吹き飛ばされた。

それでも耐えていられるのは、一重に、未だに遠距離から粘っている幾らかの衛生省側のサーヴァントのお陰だった。

 

 

「……マスター。これ以上は厳しいかと」

 

 

しかし、それももう終わりだった。下の階はもう占領され、職員達のいるフロアへとじりじりと迫ってきていた。

 

 

「くそ……ここまでか」

 

「ふざけてる……!!」

 

 

悪態をつく職員達。

追加されてくるサーヴァント達は、少しずつ腕を上げていた。後からやって来るサーヴァント程、ライドプレイヤーを倒してレベルを上げていた。位置という点で有利を取っていた衛生省だったが、その利点も最早無いようなものだった。

 

 

「どうしますか、マスター。全ては、貴方に委ねられている」

 

「審議官!! 諦めましょう……もうどうしようもない!!」

 

「しかし今さら降伏して何が出来る!! 死ぬぞ!!」

 

 

恭太郎の前で何人もの人間が怒鳴りあう。彼らは狂気は浴びてはいない筈だったのだが、この状態では皆混乱するのも当然だった。

その中で恭太郎は考える。降参はあり得ない。ドクターが戦っているのを知りながら勝手に自分達が離脱するのは、恭太郎のドクターとしての矜持に関わる。

 

 

「……最早、打って出るしかない。私達公務員は国民の代表だ。……国の誇りをかけて、ここで終わらせる」

 

 

それが、彼の出した結論だった。

恭太郎はアルジュナを霊体化させ、複数人の輸送が可能なサーヴァントを探し始める。

 

 

「審議官、打って出ると言われましても……」

 

「空だ。私達は、空からゲンムコーポレーションに接近、侵入する……君のサーヴァントは、確かライダーだったな。空を飛べる宝具はあるか?」

 

 

そうして探してみれば、三人ほど、空中輸送が可能なサーヴァントを見つけられた。空飛ぶ戦車が二つに、宇宙船が一つ。恭太郎はテキパキと指示を出し、最後まで衛生省に残ると決めた数人以外を詰め込んでいく。

最後まで、諦めない。何があっても諦めない。かつて彼が命を救い、その人生の中で世界を救った青年が、何があっても諦めなかったように。

 

 

「審議官!! 全員乗りました!!」

 

「ああ……分かった。窓は開けたな!?」

 

「はい!!」

 

「行ってきてください!! ここは、私達が守ります!!」

 

 

戦車の先頭の馬が嘶いた。階下から暴徒の叫びが聞こえてくる。もう、時間はなかった。

 

 

「……出発するぞ。ふざけたゲームはこれで終わりだ!!」

 

 

三つの塊が、高層ビルから飛び出していく。

恭太郎が戦車から後ろを向けば、最後まで残ってくれた幾らかのマスターが恭太郎達を守るために戦っているのが目に入った。

恭太郎は彼らの無事を祈り、そして、手元のタブレットに目をやる。

ゲンムに勝つためには、このメンバーでは人手が足りなかった。だから──

 

───

 

 

 

 

 

「あら?」

 

「……」カタカタカタカタ

 

「……マスター」

 

 

ナーサリーが真黎斗の袖を引く。真黎斗は完成しかけているガシャットの最終調整を続けながら、ナーサリーの方を見た。

 

 

「ちょっとこれを見てくれないかしら」

 

「どうしたナーサリー」

 

「衛生省から沢山のサーヴァントとマスターの反応よ」

 

「……ほう?」

 

 

真黎斗はモニターを覗き込んだ。船やら戦車やら宇宙船やらの大群に、ぎゅうぎゅう詰めになって乗り込んでいるマスター達の姿が見えた。

 

 

「成る程、賭けに打って出たわけか」

 

「なかなか無茶よね……向こうも追い込まれているみたいね」

 

 

真黎斗はため息を吐いた。その隣でナーサリーは、パソコンに映った衛生省からの連絡に目を通す。

そこに、ゲンムコーポレーション攻略を支援した人々への報酬額が示されていた。

 

 

「ふーん、衛生省に協力したら報酬が出るのかしら?」

 

「まさか、あの衛生省がそこまでやってくるとは……この私でも少しばかり驚いた。しかし、向こうがそのつもりなら……」

 

 

真黎斗もその画面を覗き……作戦を考え始めた。もうすぐ完成するガシャットのデータのすぐとなりに、ゲームエリア中のスマートフォンの画面に繋がるデータベースを開く。

 

───

 

「「羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」」

 

   ダンッ ガガガガガガガ

 

 

 

 

 

……衛生省の面々は、墜落した戦車から顔を出した。彼らはまだ、檀黎斗の作り出したサーヴァントというものを軽視していたらしかった。まさか、ゲンムコーポレーションの屋上から長距離弾道ミサイルのような一撃が飛んでくるなんて、夢にも思っていなかった。

 

 

「くっ……無事か」

 

「無事です審議官!!」

 

「こちらも全員無事です!!」

 

「……良かった。アーチャー!!」

 

 

恭太郎は戦車の残骸から這い出て、自分についた埃を払い、アルジュナを呼び出す。

予定は少ししか変わってはいない。どちらにせよ、このゲンムコーポレーションは殲滅しなければならなかった。

彼らはゲンムコーポレーションを包囲するように立ち、体勢を整える。

 

 

『連絡よ!! 聞こえてる? 聞こえてるわね? イベント開催のお知らせよ!!』

 

 

……しかし、彼らの歩みを彼らの懐のスマートフォンからの声が止める。

数回だけ聞いたことのある声だった。嫌な予感がした。

 

 

『今、私たちのゲンムコーポレーション前に、沢山の衛生省職員が集まっているわ!! 彼らを全員倒したら、協力者全員に令呪二画とライドプレイヤー百体分の経験値、更にボーナスアイテムも多数用意するわ!!』

 

「──!?」

 

『イベントは今すぐ開始よ!! 参加できるプレイヤーの皆は、今すぐゲンムコーポレーションに集まってね!!』

 

 

……その予感は、当たった。

辺りを見回せば、もう数人の一般人の姿が見えた。初めは一人、十秒で五人、一分待てば三十人に増えた。

 

 

「……審議官、これは」

 

「……不味い」

 

 

恭太郎は冷や汗をかいた。

いつの間にか、ゲンムコーポレーションを包囲した衛生省を包囲するように、沢山のプレイヤーが、サーヴァントと共に立っていた。

 

 

「衛生省を倒せ!!」

 

「倒せ!!」

 

「倒せ!!」

 

「倒せ!!」

 

 

マスターを殺すことは、出来ない。怪我をさせることは出来ない。その縛りが、ここに来て致命的な弱点となっていた。

今から始まるのは、ゲンムコーポレーションを攻めるものと、守るものの戦いだ。

 

───

 

「面白いことを考えたわね、マスター?」

 

「今回の突発イベントは、ふむ……ざっと千人参加か」

 

「それだけいれば十分よ」

 

 

ナーサリーは窓から下を見下ろして、クスクスと笑った。彼女はどこかうきうきとした足取りで紅茶を入れ始める。

それを眺めながら、真黎斗はパソコンからガシャットを引き抜いた。禍々しい、紫色のガシャットだった。笑いが溢れた。

そこに、ジル・ド・レェが入ってくる。

 

 

「おお、神よ!! 深淵の力を黒洞々と湛えたガシャットがとうとう完成したとは本当で御座いますかっ!?」

 

「ああ。私の才能に不可能はない……使うといい。君にやろう。その力で、衛生省殲滅に力を貸してやれ」

 

「了解致しました、我が主。期待いただき恐悦至極、かくなる上は最高のCOOLをお見せ致しましょう!!」

 

 

真黎斗は、ジル・ド・レェに完成したばかりのガシャットを投げ渡した。ジル・ド・レェはそれを恭しく受け取り、社長室から出て一階分下に降りた。そして、近くにあった窓を開く。

 

 

『ガッチョーン』

 

『テール・オブ・クトゥルフ!!』

 

「それでは早速……変身」

 

『ガッシャット!!』

 

『バグル アァップ』

 

 

そしてジル・ド・レェは窓から飛び降りて──

 

───

 

「ガンナー、ビリー・ザ・キッド消滅!!」

 

「ランサー、ヘクトール消滅!!」

 

「アサシン、ハサン・サッバーハ消滅!!」

 

「耐えろ!! どうにかして耐え続けるんだ!!」

 

「駄目です審議官!! ライダー、アームストロング消滅!!」

 

 

衛生省は追い詰められていた。敵の根城を目の前にして、守るべき国民に攻撃されて追い詰められていた。苦しい。苦しい。味方は段々すり減っていく。

 

 

「マスター、破壊神の手翳(パーシュパタ)発動の許可を!!」

 

「駄目だ!! マスターを殺してはいけない!! 来るはずだ!! 仮面ライダーが!!」

 

 

そう激励する。彼は信じていた。きっと、仮面ライダーが援軍に来る。自分達だけではどうにもならなかったが、彼らがいれば、あるいは、形成は変わるかもしれない、と。

 

しかし、加速するのは絶望のみ。

 

 

 

 

 

   スタッ

 

「……誰だ」

 

 

背後に、一人の男が降り立った。見た目はサーヴァントだったが、もっと禍々しい何かをその体から発していた。

 

 

「サーヴァント……なのか?」

 

「いや、あれは……」

 

 

人々の視線が、降ってきた男へと向けられた。その腰にはバグヴァイザーがつけられていて。

そして。

 

 

Ph' nglui mglw' nafh Cthulhu(死せるクトゥルー) R' lyeh wgah' nagl fhtagn(ルルイエの館にて夢見るままに待ちいたり)!!』

 

 

男の姿が変わる。男の上部に現れたパネルからは触手が伸び、彼の体を包み込む。そして彼はそれら触手と融合し……新たな、仮面ライダーとなった。全身に触手を纏い、その身から海魔のような何かを吐き出し、それでいて、どこか神聖さを思わせる、仮面ライダーに。

 

 

「変身した……」

 

「何だよあのタコ……!?」

 

「……タコには御座いません。海魔……いや、それも最早違いますな。ええ、ハハハハ、私は邪神と一体化した!! それならばこれらは皆、クトゥルーの落とし子に御座います!!」

 

 

男はそう言った。彼はジル・ド・レェという名を持っていたが、それはもう過去の物。この姿の時は最早彼は英霊の枠すら逸脱する力を持っていた。

 

 

「おお……この力、素晴らしい……!! 素晴らしい!! なんと神々しき美の具現!! 我が涜神は神の領域に至った!!」

 

「ゲンムの……仮面ライダー……」

 

「ええ……私は……そうですね。クトゥルー……仮面ライダー、クトゥルーに御座います」

 

───

 

 

 

 

 

「まだ着かないのかよ姐さん!!」

 

「煩いわね!! こっちもフルスロットルだっつうの!!」

 

 

シャドウ・ボーダーは全力で走っていた。高速から飛び降り、国道を横切り、川を飛び越え、理論上の最短ルートを走っていた。文字通り、道なき道を走っていた。

 

 

「きゃああああ!?」

 

 

メディア・リリィがポッピーの体を押さえながら悲鳴を上げる。騎乗スキルがいくら高くても、流石に背後への振動をなくすことは出来なかった。

 

 

「チッ……無事でいてくれよ」

 

 

貴利矢は、衛生省の面々の無事を祈ることしか出来ない。

 

───

 

「あ、あ……」

 

「あらー、酷いですねこれは。バイオハザードですね」

 

 

イリヤは震えていた。どうすればいいのか分からなかった。眼下で戦っているのは、クトゥルーを除けば人間だった。人間と、人間の戦いだった。共に傷つけあい、共に苦しんでいた。

 

 

「……お前はあれに加わるな」

 

「アヴェンジャーさん……!?」

 

「どちら側も、明確な悪ではない。戦って倒せる悪は彼処にはない」

 

 

アヴェンジャーは、イリヤの後ろから階下を見下ろしそう呟いた。彼は、戦いに加わろうとはしていなかった。

 

 

「じゃあ、私はどうすれば……」

 

「……」

 

 

アヴェンジャーは、涙目のイリヤに対して何も言えなかった。せめて、何か言葉をかけた方が良かったのかも知れなかったが、それも出来なかった。ただ、真黎斗が恨めしかった。

 

───

 

 

 

 

 

「っ……ランサー、セタンタ消滅!!」

 

「アーチャー、アタランテ消滅!!」

 

「フフフフフ……この力は素晴らしい!! おお、無限に力が沸いてくる!!」

 

 

クトゥルーが加わってしまえば、もう完全にバランスは崩壊していた。衛生省は戦闘相手から獲物に変わり、マスターは交戦開始段階の十分の一程度になっていた。

 

そんな状況で、マシュはゲンムコーポレーションに駆けつけた。

少なくとも彼女の目には、衛生省がリンチにされているように見えた。大多数からの、反撃の恐れのない気楽なリンチ。

 

 

「それでは……後は、纏めて片付けてしまいましょう」

 

『テール・オブ クリティカル エンド!!』

 

 

そして、クトゥルーがキメワザを発動した。彼の周囲に無数に孔が開き、巨大な邪神が目を覗かせ、そしてそこから狂気を孕んだ触手を伸ばし──

 

 

 

 

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

   カッ

 

 

マシュが乱入して、それらを切り払った。腕を奪われた邪神は唸りながら孔の向こうに消えていく。クトゥルーは仮面越しに目を剥き、マシュに問う。

 

 

「おお、おお!! マシュ殿、貴女は我が神に背くのですか!!」

 

「私は、守らなくちゃいけないんです!!」

 

 

そう怒鳴り、マシュは仮面ライダークロニクルを取り出して……

 

 

 

 

 

突如膝をついた。

 

その背中に、数本の矢が刺さっていた。

衛生省に残っていた、数少ないサーヴァントの一体が放った物だった。

そして彼女を目掛けて無数のサーヴァントが襲い掛かり──





次回、仮面ライダーゲンム!!


───マシュの再会

「ここは……」

「また会ったな、シールダー」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


───永夢との対話

「貴女は歪んでいる」

「私には貴方が分からない」

「やっぱり、貴女は……」


───ポッピーの目覚め

「やっと、分離が完了した」

「良かった……」


第三十四話 Justiφ's


「私は、貴方とは分かり合えない」

「僕は、貴女を諦めない」


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第三十四話 Justiφ's

(キョウリュウジャー幻の33.5話を見ながら)
棚からブレイブ……っ!!

ソシャゲって凄い(小並感)
型月ももっと色々やらないかなー
魔法繋がりでウィザードの続編とか作らないのかなァーッ!!



 

 

 

 

「う、う……」

 

 

マシュは全身の痛みに耐えながら起き上がった。……そこは、夕陽が射す車の中だった。自分の手足を見れば、明らかに誰かに治療された跡が残っていた。

 

 

「ここは……」

 

 

周囲を見回す。貴利矢と、メディア・リリィが目に入った。また、後ろの方には数人の衛生省職員の姿も見えた。

ここは、シャドウ・ボーダーの内部だった。集団で痛め付けられていたマシュの元にやって来た彼らは直ぐ様彼女と、衛生省の職員達を回収し逃亡する最中だった。

 

 

「また会ったな、シールダー」

 

「……!!」

 

 

貴利矢の一言で、マシュの脳裏に嫌な記憶が閃いた。ポッピーやパラドの顔、真黎斗からの令呪、破壊されたCR、それらが一気に頭の中を走った。

 

 

「……ぃ」

 

「いやー、無事で良かった。キャスターのお陰だからな、感謝しろ……ん?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

気がつけば、マシュはひたすらに謝罪していた。どれだけ後悔してもCRはもう戻らない。彼らがこうしてシャドウ・ボーダーに乗っているのも、マシュがCRを破壊したせいだ。そう思えば、ただ謝るしかなかった。

 

 

「あー……」

 

「まあ落ち着けよ。後で他の奴等と合流する。それまで待ってろ」

 

 

貴利矢はそう言い、車窓から外を見る。

人通りは、めっきり少なくなっていた。戦いの場に人が集まり、そうでない場所はすぐに過疎化するようになっていた。

 

───

 

ジークフリートは、先程まで戦場だった場所に立っていた。倒された人間は皆消滅し、その場に残っているのは幾らかの遺品だけだった。イベント参加者は皆ナーサリーからそれなりの報酬を受け取って去ってしまった。

ジークフリートはその遺品を回収しながら考える。

 

 

「俺は……」

 

 

何が、したいのだろう。彼は考える。

ゲンムコーポレーションを裏切るには、彼は仲間を思いやりすぎていた。彼には共に人理を救った仲間がいて、大切に思っていた。

人々が足掻くのを見届けるには、彼は優しすぎた。人々が今も聖杯を求めて殺しあっていると思えば、心が痛んだ。

マシュと共に行くには、迷いがあった。ジークフリートは彼女を信じていたが、彼女の行く道に自分がついていって、何になるのかとも思った。

 

冷たい風が彼の頬を撫でた。

 

 

「……」

 

 

正義の味方。自分の正義は、何なのだろう。

 

───

 

 

 

 

 

シャドウ・ボーダーは聖都大学付属病院に停車し、衛生省の生き残りを下ろして永夢を乗せた。やって来たのは永夢だけだった。ナイチンゲールは結界のコントロールをする必要があり、残りは、結界周囲の警備を行っていた。

 

 

「……初めまして。宝生永夢です」

 

 

永夢は、どこか畏まった様子でそう言った。彼はマシュに対して、何の恐れも持ってはいなかった。マシュはマシュで何か返そうとするが、結局返答に困り、唇を震えさせるだけで終わった。

 

 

「……今回は、恭太郎先生達を助けてくれて、ありがとうございました」

 

「……」

 

「どうして、助けてくれたんですか?」

 

「……救いかったから、です」

 

 

永夢は、マシュのその言葉を好意的に受け取った。即ち、彼女もまた他人のために動ける存在なのだと捉えた。

 

 

「良かった──もし良かったら、僕らと一緒に……」

 

 

だから聞いた。永夢はバグスターに希望を持っている。きっと分かり合えると。だから。

しかしマシュはそれを拒絶した。彼女としては、当然の判断だった。

 

 

「……いえ、それは、出来ません」

 

「大丈夫です。CRを破壊させたのは真黎斗さんなのは分かっていますから──」

 

「そうじゃなくて!! ……私が、決めたんです。……貴方達の、味方にはなれませんが。私は私で、人を救います」

 

 

マシュはもう決めていた。自分は決着をつける。自分は、自分の為に、自分勝手に人を救う、と。

……永夢は、拒絶するマシュの瞳の奥底に決意を見た。そして、彼女を仲間にすることを諦めた。

 

 

「でも……一つ、教えてください」

 

 

……今度は、マシュが問う番だった。

 

 

「何で、人を助けるんですか?」

 

「何でって……」

 

「人は、残酷で、醜くて、恐ろしくて、粗暴で、傲慢で、それなのに、どうして貴方は、人を助けるんですか?」

 

「──」

 

 

マシュのその問いで、永夢は自分の些細な勘違いに気がついた。マシュは人を救う。それは確かなのだろう。しかしそれは決して他人のためではない。

永夢の、知らない考えだった。人を信じられないまま人を救う。その結論に至るまでに、どれだけの壮絶な思いがあったのだろう。永夢はマシュを測りきれなかった。

 

 

「……貴女は歪んでいる」

 

「どうして、ですか?」

 

 

永夢の口からそう呟きが漏れた。

 

 

「人は確かに間違ったことだってする。でも、同じくらい人には素晴らしいところがあって、そして、人は生きていれば間違いをやり直せる」

 

「いえ……そんな」

 

「僕はドクターです。僕は、僕の全てを懸けて、今命の危機にある人を救います」

 

「……どうして?」

 

「僕は昔、生死の危機をさ迷いました。とても、怖かったんです。痛くて、苦しくて、辛くて。今日寝たら、二度と目覚めないんじゃないか──そんな思いを、ずっとしてきました。そんなとき、お医者さんだった先生に、助けてもらって。憧れたんです、ドクターに。僕は、今苦しんでいる人を、救いたい」

 

 

それは宝生永夢の過去。かつて死にかけ、救われた人間が抱いた願い。ありきたりな医者の起源(オリジン)

……しかしその思いは、マシュには届かない。彼女には受け入れられない。

 

 

「……私には貴方が分からない。それはつまり、自分の為ではないんですか? 貴方自身が、勝手に、救いたいと思ってやっているのと、何が違うんですか? 患者はきっと助けてもらいたがっている、と決めつけて治療するのと、何が違うんですか?」

 

 

そんな質問が口をついて出た。

挙げ足取りだ。人は他人の心を読むことが出来ない以上、きっと相手はこう思っているはずだ、いやそうではない、きっとこうだ……という理論に果てはない。

 

しかしマシュには分からない。自分勝手に人を救う、救う相手のことなど慮ってやるものか、という結論に達した彼女には、人を純粋に助けたいという精神が理解できない。

 

 

「僕の為……いえ、違います。僕は、患者の皆さんに寄り添いたい。その助けになりたい。やっぱり、貴女は……違う結論に、達したんですね」

 

「ええ……私は決めました。私は私が望むままに人を救う。人が苦しんでいるのを見ると、自分も苦しいから。私の大切な人が苦しむから。私は、私のために誰かを救う」

 

「……」

 

 

同じようで、違う二人。

違うものは、寄り添う意思があるかないか。

 

マシュには、他人に寄り添えるだけの余裕がなかった。黎斗に作られて産み出され、葛藤し、結論を迫られた。その末に出した答えを、彼女は己の芯とした。

永夢には、他人に寄り添えるだけの過去があった。他人に助けられて命を繋ぎ、それに憧れ希望を抱いた。その末に辿り着いた世界で彼は人を救おうとした。

 

マシュは、座席を立った。最後に、未だパソコンに繋がれて横たわるポッピーを一目見て、彼女は無言でシャドウ・ボーダーを出る。

永夢は暫くの間フリーズしていたが、マシュを追って飛び出す。

 

 

「待って!!」

 

 

声をかけた。マシュの姿は薄くなっていたが、まだ消えてはいなかった。

彼女は振り返り、永夢を見る。

 

マシュは、永夢を善いものと思っていた。

少なくとも彼女は心の奥底では、永夢のような在り方に憧れていた。そうありたい、とも思った。

それでも、無理だと思った。自分は、彼のようにはなれない。少なくとも、全てを終わらせるまでは。

 

永夢は、マシュとも分かり合えると信じていた。ポッピーやパラドのように、バグスターであっても人間とは共生できる。きっと彼女もそうなれると、信じていた。

 

 

「……私は、貴方とは分かり合えない」

 

「僕は、貴女を諦めない」

 

 

……マシュの姿が掻き消えた。永夢は、薄暗い空の下立っていた。

 

───

 

「ナースステーションはどちらに?」

 

「ああーこちらですこちらです」

 

 

恭太郎ら数人の衛生省の生き残りは、灰馬の案内でナースステーションまでやって来ていた。ちびノブが慌てて清掃するのを跨いで、彼らは椅子に腰かける。

 

 

「……ここを、衛生省にします」

 

「……はい?」

 

「ここを衛生省にします。情報をかき集め、最後まで抵抗を続けます。彼らが今頑張っているのですから、私達も出来ることをしないといけませんからね」

 

 

恭太郎はそう言いながらパソコンを起動した。そして、周囲の情報を探し始める。そして。

 

 

「灰馬先生」

 

「はいっ!! 何でしょうかっ!!」

 

「この病院にいるマスターとサーヴァントを表にしてください。何か、策があるはずです」

 

 

そう言った。恭太郎はまだ諦めていない。ほぼ全ての機関が安全区域に引きこもる中で、衛生省だけは戦闘続行の意思を示した。彼の心には、永夢の姿が残っていた。

 

 

「これはチーム医療で挑むべき事柄です。休んでいるわけには、いきませんよ」

 

───

 

 

 

 

 

「やっと、分離が完了した……!! ハハ、ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「いや喧しいわ神」

 

 

既に太陽は沈みきった。永夢は国会議事堂に戻り、シャドウ・ボーダーは聖都大学付属病院を出ていた。

 

黎斗神が、サーヴァントの魂が二つ入ったブランクガシャットを掲げて笑っていた。そのガシャットの中に、今は更にポッピーから完全に引き剥がされたキアラの残滓が込められていた。

 

メディア・リリィが、ポッピーの身体に軽く治癒で刺激を与える。

……それだけで、ポッピーは目を開けた。

 

 

「おお、おお!! 起きた!!」

 

「良かった……一先ず回復には成功したようだ」

 

 

黎斗神が胸を撫で下ろす。ポッピーは一つ伸びをして起き上がり、自分の体をペタペタと触った。それだけで彼女は状況を認識する。

 

 

「私……」

 

「悪ぃな。助けに入るのが遅れた」

 

「ううん、いいの」

 

「君の体を修復した。普通の行動は出来るようになったが、まだ完全回復には程遠い。変身は出来ない」

 

「……大丈夫」

 

 

ポッピーはそう言いながら、ガシャコンバグヴァイザーⅡを手に取る。窓の外を見れば、丁度花家医員への道を通っていた。

 

 

「……少し、止めてもらっていい?」

 

「どうしたポッピー?」

 

「──ちょっと散歩。身体に異常があったらいけないし」

 

───

 

シャドウ・ボーダーを降りたポッピーは、寒々とした空の下を歩く。この空の下でマシュと出会ってからまだ一週間も経っていないのだと考えると、とても一日は長いように思えた。

 

ポッピーと出会ったあの時と同じようにぼんやりと歩いているマシュが、ポッピーの目に入った。

 

 

「……ねぇ」

 

「……っ」

 

 

声をかければ、マシュはポッピーに振り向いた。彼女はポッピーが回復したのだと知って頬を緩ませかけ、すぐに表情を戻す。

 

 

「……ごめんなさい。私があの時、倒すのを手伝っていれば……」

 

「それはいいの。もう、いいの。……マシュちゃん……これ」

 

 

ポッピーはマシュの謝罪をやんわりと止め、そして、その手に持っていた物を差し出した。

 

 

「これは……」

 

 

ガシャコンバグヴァイザーⅡだった。ポッピーはそれを、躊躇いなくマシュに差し出していた。

 

 

「……どうして?」

 

「私は、戦えないから」

 

「でも」

 

「持ってて。きっと……きっと、役に立つ」

 

 

ポッピーの目は真剣だった。彼女はこれまでの戦いで、マシュと、そしてCRのドクターを信じていた。きっとこの行いが問題解決への一手になると信じていた。

そんな目を向けられれば、断ることは出来なかった。マシュはそれを恐る恐る受け取り、鞄にしまう。

 

 

「……ありがとう、ございます。きっと、私は決着をつけて見せます」

 

「……頑張って」

 

「……はい」

 

 

そしてマシュは消えた。ポッピーは、微笑みながら見送った。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


───マシュの行く末

「貴方は狂ってる!!」

「私が直々に出迎えてやる」

「私の手で、終わらせる!!」


───決戦の始まり

『仮面ライダークロニクル!!』

『マイティアクション NEXT!!』

「「変身……!!」」


───一人の結末

「何で、確かに──」

「私を甘く見るな」

「……え?」


第三十五話 Justice


「私には、三人のお父さんがいます!!」


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第三十五話 Justice


この話を書くためにこの特異点を開始しました
でもいざ書こうとなると難産になる



 

 

 

 

 

「……マスター?」

 

 

テール・オブ・クトゥルフの開発も終わったので、久々に新ライダーの開発に戻ろうとしていたナーサリーは、モニターを確認してマシュの姿を見た。

モニターには、ゲンムコーポレーションへの道が写されていた。つまり、マシュは一人でゲンムコーポレーションへと歩いて来ようとしていた。

 

 

「……どうする、マスター? そのまま入れるわけには、いかないわよね?」

 

「……それも、そうだな。ああ、私が直々に出迎えてやる」

 

 

既に二人は、マシュがゲンムコーポレーションから離反したと知っていた。彼女はもう敵だと認識していた。

そして檀黎斗という男は、不快かつ不要な因子を排除することには躊躇いはない。

 

真黎斗は立ち上がり、ゲーマドライバーを掴んだ。外は暗く、雨がポツポツと降っていた。

 

 

「漸く、出番があるというものだな。私の神の才能が産み出した、この、発明の……!!」

 

───

 

 

 

 

「……あえて聞こう。何をしに来た?」

 

「……貴方を越えに来た」

 

 

真黎斗は、ゲンムコーポレーション玄関口でマシュを出迎えた。マシュはその目を赤く光らせながら黎斗を見つめる。黎斗はその視線を気にすることもなく不敵に笑った。

 

 

「私はもう、迷わない……!!」

 

 

マシュは、その腰にバグスターバックルを巻いていた。そして彼女は鞄からガシャコンバグヴァイザーⅡを取りだし、装備する。

 

 

「……貴方は狂ってる!!」

 

『ガッチョーン』

 

「私の手で、終わらせる!!」

 

『仮面ライダークロニクル!!』

 

 

そして、仮面ライダークロニクルを起動した。

 

 

「私が遊んでやろう。試運転も兼ねてな」

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

 

対する黎斗はマシュに対して驚きも何も示さずに、マイティアクションNEXTを起動した。そしてそれをゲーマドライバーに装填する。

 

 

『『ガッシャット!!』』

 

「「変身……!!」」

 

『ガッチャーン!!』

 

『バグル アァップ』

 

 

二人は同時に変身した。雷が二人の姿を照らす。雨が強くなり行く黒い空の下で、彼らは同時に足を踏み出した。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『天を掴めライダー!! 刻めクロニクル!! 今こそ時は 極まれり!!』

 

───

 

「……ラーマ様」

 

「……」

 

 

ラーマとシータは、二人でゲンムとクロノスの戦いを見つめていた。彼らはただただ悲しかった。彼女が、自分達とは道を違えてしまったことは、もう火を見るより明らかだった。

 

 

「……どうしましょう」

 

「マスターだけで、彼女は倒せるだろう。僕らの出番はない」

 

「そう……ですね」

 

 

彼らの内心は複雑だった。しかしその中に、真黎斗に付き従うことへの迷いは一切無かった。ただ、これまで共に戦ってきた少女が消えるのだと考えれば、それは悲しいことだった。

 

───

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

 

クロノスの手から数個の光輪が飛び出した。それらは別々の軌道でゲンムに食らいつくが、ゲンムが足を振り上げ回し蹴りを行えば、それらは簡単に弾き飛ばされた。

 

クロノスはそれを潜り抜けながら、バグヴァイザーのボタンに手をかける。既に彼女は、バグヴァイザーⅡを使用したクロノスの戦闘方法を理解していた。

 

 

「まだまだっ!!」

 

『ポーズ』

 

 

……そして彼女は、ポーズを発動した。それにより周囲の時は止まる。彼女の周辺にあった光輪も、落ちてきていた雨粒も。例外はクロノスと、そして……ゲンム。

 

 

「私がポーズごときで止まると思ったかァ!!」

 

「まさか!! その程度で止まりはしないでしょう!! それでも!!」

 

 

既に、ゲンムはハイパームテキを使用した黎斗神のゲンムの勝利している。最初から彼は、クロノスのポーズに対する対策も立てていた。この世界では、ポーズを使っても真檀黎斗は静止しない。

 

 

「それでも!! 私は!! 決着を!!」

 

『クリティカル ジャッジメント!!』

 

 

クロノスがゲンムの胸元にバグヴァイザーⅡの銃口を突きつけ、弾丸を放った。ゲンムは確かにそれを食らった筈なのだが、数歩分飛び退いた彼は動揺することもなくピンピンしていて。

 

 

「……効かないさ。君を作ったのは私なのだから」

 

「私は、負けない!!」

 

『リスタート』

 

 

クロノスがポーズを解除した。それによって再び動き出した光輪が、ゲンムの背中を捉えた。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「っ……」

 

 

しかしそれは容易く叩き落とされる。

 

それでもクロノスは、その隙にゲンムの懐まで接近した。

 

 

「ここで……決める!!」

 

 

バグヴァイザーⅡのチェーンソーが、ゲンムの鳩尾を抉る。ゲンムが勢いで少しだけ浮き上がった。

そして彼女は叫んだ。力を込めて叫んだ。胸の中に溢れる思いを力にしようとした。

 

 

「私には、三人のお父さんがいます!!」

 

 

それを切っ掛けに、彼女は連打を開始する。

左の拳でゲンムの鳩尾を突き上げた。右の足で脇腹を蹴った。左の腕で首を薙いだ。

 

 

「ずっと私を心配してくれて、側にいてくれた、お父さん(ロマニ・アーキマン)!!」

 

 

『ボクは言ったはずだ。死ぬな、と』

 

『……君は、本当に……本当に、今の自分を後悔していないのかい?』

 

『全員で帰ってこい。ボクらはそのためにここまでやって来たんだから』

 

 

クロノスの脳裏に、ロマンの泣きそうな顔が往来した。

チェーンソーでゲンムの右足を削る。左の肘を胸元に突き立てる。そして彼女は背中に差していたガシャコンカリバーを掴み、それでクロノスを切り裂いた。

 

 

「私を守ってくれて、戦ってくれた、お父さん(ランスロット)!!」

 

 

『……私は生前、全く父親らしい事は出来なかったが。息子を庇って死んだなら……少しは、それっぽくなったと思う』

 

『……私は戦うつもりはない』

 

『ここで君が終わるのは、私が悲しい』

 

 

今度は、ランスロットの悲しげな顔が往来した。彼らを悲しませることしか出来なかったことを彼女は後悔するが、今さら遅い。

よろけたゲンムの首筋に回し蹴りを敢行する。勢いのままに股間を蹴りあげる。そして再びガシャコンカリバーを背中に戻し、右腕のバグヴァイザーを操作する。

 

 

「そして、私を作ってくれた、お父さん(檀黎斗)!!」

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

 

黎斗の顔は、思い出すまでもなく目の前にあった。

チェーンソーの刃が緑の閃光を纏う。クロノスはそれをゲンムの首筋に添えて、斜めに降り下ろした。

とうとう、ゲンムは後ろに倒れ込んだ。クロノスは傾き行く腹を踏み倒し、大地に叩き付けられて浮き上がったゲンムを蹴り飛ばした。

 

 

「貴方のその、才能は確かなものです!! でも私は、認めない!! 貴方が作る世界を認めない!!」

 

「……ハ、ハ……ハーハハハハ!! 君の肯定など必要ない!!」

 

 

……しかしゲンムはすぐに回復した。起き上がった彼は舐め回すようにクロノスを睨み、宣言する。

 

 

「しかし……私の肩に泥をつけた代償は重い」

 

「……」

 

「……来い、私の産み出したバグスター。君を削除する」

 

『N=Ⅴ!!』

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『ドラゴナイトハンター!! Z!!』

 

───

 

「……っ」

 

 

ジークフリートは、苦い顔でクロノスを見つめていた。少しばかり本気を出したゲンムは近距離で彼女を切り裂き、中距離で彼女を炙り、遠距離で彼女を撃ち抜いていた。その姿は荒々しく、しかしその攻撃には恐ろしいまでに理性の存在を感じた。

二人は何度だって互いに攻撃する。遠くで殴りあい、近くで斬りあい、かと思えば瞬間移動をしてもっと遠くにいたりした。

 

 

「……どちらを持つのじゃ? ジークフリート」

 

「……マスターだ」

 

 

唐突に現れた信長が隣の窓枠に腰掛け、抹茶オレを飲み始めた。ジークフリートは冷めた目で彼女をちらっと確認し、すぐにクロノスに目線を戻す。

 

 

「そうじゃろうなぁ。わしもそう思う。きっと誰も、マシュに賭けはしまい」

 

「……何が言いたい」

 

 

信長は、ジークフリートを見た。彼女は窓枠から飛び降りてジークフリートに歩みより、その目を見つめる。

 

 

「……そうじゃのう」

 

「……」

 

「もう、迷っている暇はないぞ、と言いに来た。お主はどうする」

 

「──」

 

 

下の方では、ゲンムがキメワザを発動していた。少し前までは善戦していたクロノスは、もう傷だらけでホコリだらけ。見る影もなかった。

 

 

「俺は……」

 

「……わしらに気を使っておるのか?」

 

「……そうだな」

 

 

ジークフリートは信長から目を逸らした。クロノスはもう、負けかけていた。

 

 

「……そうじゃな。お主に一つ、いい解答を与えてやろう」

 

───

 

 

 

 

 

『ポーズ』

 

 

クロノスがまたポーズを発動する。もう本降りになっていた雨粒が空中で足踏みし、強くなりかけていた風も消え失せた。

その中でクロノスはゲンムを撃ち抜こうとする。

 

 

『クリティカル ジャッジメント!!』

 

「はああっ!!」

 

「狙いが甘い!! どこを見ている!!」

 

 

しかしゲンムはそれをすり抜け、クロノスの足元まで滑り込んだ。そして彼はその場で体を捻り、クロノスの胸元を蹴り上げる。

 

そして、クロノスを抑え込んだ。

 

 

「……君は私を見くびっている。君は私が作った。君の全てを!! その身体も、その過去も!! だから──」

 

『ガシャコン カリバー!!』

 

「……これも、もう再現できる」

 

 

ゲンムはその手に、もう一振りのガシャコンカリバーを掴んだ。それはクロノスの背中にあるものと何ら変わりはなかった。唯一違いがあるとすれば、クロノスが発動できる宝具が彼女自身の剣だけであるのに対して、彼は全ての宝具を使える、ということか。

 

 

「君の全てをデリートする」

 

『Noble phantasm』

 

 

ゲンムの口から笑い声が漏れていた。ガシャコンカリバーはクロノスの首筋に添えられていて。

 

 

「私は……」

 

 

……脳内で、過去が蘇った。走馬灯のように思えた。

あの日、火の中で黎斗と出会って。

旅をして。黎斗の残酷さを知って。

変身して。守護者になって。

戦い抜いて……絶望して。

 

ロマンの顔が見えた。ダ・ヴィンチの顔が見えた。カルデアの皆を見た。

今でも彼らの姿はマシュの中にあった。偽りの命の偽りの過去。彼女に物語はなく彼女は壊れていて。

 

それでも。譲れないものがある。

 

 

「嫌です……私は、諦めない!! 貴方を……越える!!」

 

 

それらを思い返せば、何としてでも目の前の敵を倒さなくてはならないと思えた。彼を倒せなければ、自分が、苦しいから。

故にクロノスは最後まで諦めなかった。彼女はゲンムがガシャコンカリバーのトリガーを引くのと同時に、彼の抑え込む力が少しだけ弱くなったことに気づいていた。だから。

 

クロノスは背中のガシャコンカリバーに手を伸ばしながら、全力で上半身を起こした。それによってガシャコンカリバーの剣先も浮き、それは地面を指し示す。クロノスの目は、赤く赤く光っていた。

 

 

「何を──」

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

宝具を発動したのは、クロノスが先だった。ガシャコンカリバーの剣先から光が溢れ、それは剣先にあった地面を打ち砕く。そして、クロノスは反動で大きく後方に飛び退いた。

 

 

「っ、成功した!!」

 

『リスタート』

 

 

クロノスはガシャコンカリバーを左手に持ち替えて逆手に持ち、再び宝具を発動する。そしてその反動で一気にゲンムに接近し、右手のチェーンソーで切り裂いた。

 

 

『クリティカル サクリファイス!!』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!! はああああああああっ!!」

 

   ザンッ

 

 

初めて行う戦い方だった。余りにも燃費が悪すぎた。クロノスの体力はただでさえ少なかったのにますます消耗していく。

構わなかった。ここで、ゲンムを倒せるのなら。

 

飛び回る。飛び回る。壁を蹴り、電灯を掴み、大地を駆ける。そのスピードは光速にすら至るかと思われるほどで。ゲンムにそれの攻撃を回避する術はなく。

 

 

「全部、終わりにしましょう!!」

 

『ポーズ』

 

『クリティカル クルセイド!!』

 

『Noble phantasm』

 

約束する(エクスカリバー)──」

 

 

クロノスが足を突き出した。その足裏はゲンムを捉え、その場から連れ去り、ゲンムコーポレーションの壁に押し付ける。

 

 

人理の剣(カルデアス)!!」

 

   ダンッ

 

 

そして、強く強く押し込んだ。

力の限り押し込んだ。

それは奇しくも、かつてゲンムがシールダーを殺した時と似通っていて。

 

 

 

 

 

「っ、が……」

 

『Game over』

 

 

そして、ゲンムは消滅した。

 

クロノスは止まった時の中で膝をついた。全身の力が抜けていく。

 

 

『リスタート』

 

『ガッシューン』

 

 

マシュは変身を解除して寝転がった。空から叩きつける雨粒が彼女の体を撫でた。

マシュは、満足していた。今にも体は崩れ去りそうだったが、構わなかった。ポッピーに手渡しでバグヴァイザーⅡを返せないことだけが、心残りだった。

 

止まった時の中で倒したなら、その死は永遠の物となる。バグスターであろうと復活は不可能。ゲンムは、倒した。

他のサーヴァントの殲滅までは無理だったが、マシュはそれは妥協した。彼女は、幸福だった。

 

 

「ああ、良かっ──」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「──え?」

 

 

その音を、聞くまでは。

 

マシュは、雨の中で一人の男を見た。殺した筈の、男だった。

雷が彼の顔を照らす。真檀黎斗は、復活した。

 

 

「何で、確かに──」

 

「……私を甘く見るな。私は神だ。あの程度の対策、三分もあれば出来る。ああ──君を潰すことなど、指一本でも可能」

 

 

マシュは逃げようとした。出来なかった。どういうわけだか、彼女はその場から霊体化して逃げることが出来なかった。恐怖で肩が震え始める。

 

 

「あ、あ、あ……」

 

「……では、終わりだ。君を削除する」

 

『Noble phantasm』

 

「……縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)

 

「っ……」

 

   グサッ

 

 

ゲンムの手のガシャコンカリバーが、マシュの胸元に突き刺さり。そして、ゆっくりと引き抜かれた。

 

 

「……あ」

 

「霊核を破壊した。長くは持つまい……私としたことが、少しばかり汚い戦いをしてしまったな」

 

 

マシュの意識は、朦朧としていた。悲しい。悔しい。苦しい。痛い。辛い。感情が傷口で掻き回され、曖昧になっていく。

そしてゲンムは、止めとばかりにガシャコンカリバーを振り上げて──

 

 

 

 

 

   カキン

 

「……ほう?」

 

「ジークフリート、さん?」

 

 

その剣を、ジークフリートが受け止めていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ジークフリートの決断

「これを、お前に」

「駄目です!! 要りません!!」

「俺が、こうしたいんだ」


───真黎斗の作戦

「一応処理、しておきましょうか」

「次のイベントを始めよう」

『ガンバライジング!!』


───エリザベートの確信

「子ブタ……!?」

「あの人は……」

「……そう。そうだった、のね」


第三十六話 TIME


「セイバーとシールダーの消去が完了したわ」


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第三十六話 TIME


檀黎斗は模範的な現代人だと思う

・己の才能を信じる
・目的の為に命をかける
・命を削って仕事に励む
・常に自信を持つ
・テンションのメリハリがある
・何処までも折れない精神性

いつか檀黎斗になりたい(小並感)



 

 

 

 

「……私は、もう、終わったと思っていたんです」

 

 

マシュがぼんやりと呟いた。

ジークフリートはマシュを背負って全力で走っていた。彼はゲンムのガシャコンカリバーを受けとめた直後に彼女を背負って逃亡を図っていた。マシュの霊体化は既に制限されていた。故に走って逃げる他なかった。

 

雨はますます激しくなっていく。落ちた粒は黒々とした地面を叩き、飛沫が上がっていた。

 

 

「でも、駄目でしたか……私の、全てを注ぎ込んでも、駄目でしたか」

 

「……そうだったな」

 

「じゃあ……どうすれば、勝てるんでしょう」

 

 

ジークフリートは、マシュを軽いと感じていた。断じてそれは彼女に気を使ってそう思っているのではなく、彼女は実際に軽かったのだ。……当然だった。彼女はもう透けている。

 

 

「……何で、今頃助けてくれたんですか? こんな状況で」

 

「すまない。だが、今がベストタイミングじゃ……と、言われたから間違ってはいない筈だ」

 

「……そうですか」

 

 

そんな風に言葉を交わしながら、ジークフリートはとある路地裏にてマシュを降ろした。マシュは頭を押さえながらよろよろと立ち上がり、空を仰いだ。

 

 

「……でも、まあ。こうなったら仕方がありません」

 

 

そして彼女は、自分の鞄に手をかけた。そこに仮面ライダークロニクルとガシャコンバグヴァイザーⅡをしまった彼女は、その代わりに一つの袋を取り出す。

 

 

「どうするつもりだ?」

 

「また、黎斗さんに挑むまでです。……丁度いいことに、ずっと昔にギルガメッシュ王から貰ったものがあります」

 

───

──

 

『明日にでもイシュタルの所に行って貰おう』

 

『……イシュタルとは、もしかしてあの、変な船に乗った、あれですか?』

 

『ん? それ以外にあるまい……我は奴自身に期待はせぬが、あれの従属である天の牡牛(グガランナ)は最後には必要になる。……何とかして説得しろ』

 

『うぅ……自信、無くなってきました……』

 

『何、気に病むな。我は貴様に期待していないこともない。……財宝の一つ程度はくれてやる』

 

『あ、ありがとうございます……』

 

──

───

 

第七特異点でのちょっとした出来事だった。……ビーストとして覚醒するまではずっと忘れていたことだったが、マシュは彼から薬の原典なんて物を一つ貰い受けていた。

小さな丸薬のようなそれを、マシュは眺める。

 

しかしジークフリートはそれを飲もうとするマシュの手を止め、袋に納めさせた。

 

 

「……どうして、ですか?」

 

 

マシュは思わずジークフリートを見上げた。

そもそもマシュは、何故今さらになって彼が助けてくれたのかさっぱり分かっていなかった。あの時は渋ったのに、今さら、何をするのだろう。

 

 

「これを、君に」

 

「……えっ?」

 

 

気がつけば、ジークフリートは自分の愛剣、バルムンクをマシュに押し付けていた。マシュは思わずそれを手に取りながら疑問符を浮かべる。そして再びジークフリートを見て、唖然とした。

彼は己の胸の中に手を突き入れていた。

 

 

「何をしてるんですか!?」

 

「……(シールダー)に、(セイバー)の霊核を託そうと思ってな」

 

「駄目です!! 要りません!!」

 

 

マシュは慌ててそれを拒否する。訳がわからない。彼は気でも狂ったのか、マシュは真面目にそう考えた。

 

 

「俺が、こうしたいんだ」

 

「大丈夫ですから!! だから!! これを使えばきっと……」

 

 

しかしジークフリートはいくら制止しても止まってくれなかった。マシュは彼に刃を振るう気にはなれず、ただ口で制止することしか出来ない。

ジークフリートはマシュの瞳を見つめ、静かに話を始めた。

 

 

「……それは駄目だ。並の方法ではきっと駄目だ。確実にマスターは、君の存在を消去するだろう。そして、私も同じように。それから逃れる術はない」

 

「それは……」

 

「俺達はマスターに作られたキャラクターだ。生殺与奪の権利はマスターにある。マスターの想定した存在である限り」

 

「じゃあ、じゃあどうすればいいって言うんですか!?」

 

「……俺を受け入れろ」

 

「何で!!」

 

 

マシュの声は知らず知らずのうちに荒くなっていた。息も、仕草も荒くなっていた。頭がぼんやりしてくる。もう姿はかなり透けていた。

 

 

「マスターの想定した存在である限り、彼の支配からは逃れられない。……裏を返せば、彼の想定していない存在になったなら──」

 

「──!!」

 

 

……その瞬間、ぼんやりとしていたマシュの脳裏に、あの旅での記憶が蘇った。彼は自分であの旅を作ったはずなのに、その中で何度も、何かしらの形で動揺していた。

ロムルス・オルタの誕生。マシュによるバグヴァイザーの窃盗。ビーストⅣの覚醒。そして、暴発特異点。

彼に弱点があるとすれば、絶対的自信より来る傲慢、そしてそれが崩れたときの動揺。

 

 

「俺を受け入れろ。お前にはそれだけの容量がある。お前の中にはもう、ネロも、フォウも、いるのだろう?」

 

 

既にジークフリートの手には、彼の霊核が握られていた。ジークフリートの体も、透け始めた。

雨はまだ激しかったが、その音はもう二人の耳には届いていなかった。

 

 

「……最後に、聞きたいことがある」

 

「……何ですか」

 

 

マシュはジークフリートを見つめた。もう、彼の意思を否定しようとは思わなかった。

 

 

「俺達は、幾つもの別れを繰り返してきた。マスターに作られた世界の中で、傷つけて。苦しんで。失った。それらは過去となったが、俺達の中に残っている」

 

「……そうですね」

 

「あの世界は最早パラレルの物となり、俺達はこの世界に呼び出された。この、マスターによって作り変えられた悲しいだけの世界に!! それでも!! ただ悲しみにありふれたこの世界で!!」

 

 

ジークフリートの声も、荒くなっていた。マシュは、彼が霊核を握った手を支えていた。

ジークフリートがマシュの肩をもう片方の手で掴む。

 

 

「それでも……それでも!! 正義は勝つと、まだ言えるか……!!」

 

「……言ってみせます!! 何度だって!! どれだけ踏みつけられたって、言ってみせます!! ……止まれるなら、とっくに止まっていますよ……!! でも!! こんな世界の何処に隠れて、何処に逃げていられるでしょうか!!」

 

 

マシュは彼の意思に答えようと叫んだ。それが彼にできる最良の行動だとマシュは信じた。

 

正義とは何か。マシュはその正しい答えを知らない。しかし、言えることは一つある。

正義は人によって無数に存在し、その正義を否定することは出来ない。なら……今、マシュが成すべきだと思って成すことは、確かに正義だ。

 

 

「私は諦めない!! 私を支えてくれた全てを諦めない!! 私は……黎斗さんを、越える!! 越えて!! 私の世界を救う!!」

 

「なら……!! 俺の正義をお前に託す!! 叫んでみせろ……正義は、勝つと!!」

 

 

そしてジークフリートはその叫びと共に、勢いよく自らの霊核をマシュに押し込んだ。それはマシュに取り込まれ、マシュ自身の砕けた霊核と融合し、新たな一つの存在になっていく。

 

 

「……これは、お前が選んだ道だ!! 俺達が、選んだ道だ!!」

 

「これは、私達が選んだ道だ!!」

 

 

マシュの体は、元に戻った。比例してジークフリートの存在はますます薄くなっていく。しかし、ジークフリートに後悔はない。正義は、彼女が執行する。

 

そしてジークフリートは消滅した。

ゲンムのセイバーはゲームエリアから消え失せ……また、ゲンムのシールダーと呼べていた存在も、無くなった。

 

───

 

「一応処理、しておきましょう?」カタカタカタカタ

 

 

その時、ナーサリーは社長室にてジークフリートとマシュのデータを弄っていた。消滅させる為だった。

彼女は自分のパソコンに何重にもかけたロックを解除し、ジークフリート(ゲンムのセイバー)マシュ(ゲンムのシールダー)と真黎斗の接続を遮断、強制的に魔力切れを起こし、その存在を抹消した。

 

 

「……よし。セイバーとシールダーの消去が完了したわ」

 

 

そして、一仕事したと言う顔で彼女は大きく伸びをして、真黎斗の方を向く。

 

 

「ライダーの完成状況は?」

 

「上々だな。だが、システムの完成にはワンクッション入れた方がいいかもしれない。試験が必要だ」カタカタカタカタ

 

「そうか……なら、丁度いいわね」

 

「そうだな」カタカタ ッターン

 

 

真黎斗はパソコンから立ち上がり、近くの棚を漁る。そして、水色のガシャットを取り出した。ガンバライジングガシャットだった。

 

 

「……では、次のイベントを始めようか」

 

『ガンバライジング!!』

 

 

そして彼はパソコンとそれを接続し、幾つかのライダーのデータを取り出し、それを弄って……そして、召喚した。

並ぶ。七体の仮面ライダーが、そこに並ぶ。

 

 

「おぉ……これだけ並ぶと壮観ねぇ」

 

「……そうだな。全員、性格と言うものを剥ぎ取っている。戦闘センスはそのままにな……ナーサリー、アナウンスだ」

 

───

 

『はーい!! 新しいイベントのお知らせよ!! 聞こえてるわね?』

 

「……っ!!」

 

 

自分の部屋で外を眺めていたエリザベートは、手近のスマートフォンから流れたナーサリーの声に飛び上がった。慌ててそれを引っ付かんで部屋を出た彼女は、近くの階段を降りていくウィザードの姿を見た。

 

 

「子ブタ……!?」

 

 

愕然とした。そして彼女は慌ててウィザードに飛び付いた。肩を揺すってみる。……しかし、反応はなく。

エリザベートの横を、赤い仮面ライダーや二色の仮面ライダーがすり抜けていく。

 

 

「子ブタ!? ねぇ、返事してよ!!」

 

「……」

 

 

いくら揺らしても、反応はなかった。それどころか、生気を全く感じなかった。かつては感じた彼の感情を、さっぱり感じられなかった。ウィザードは硬直したエリザベートを振り払って、階下へと降りていく。

残されたエリザベートの疑問に答えるように、ナーサリーが続けていた。

 

 

『これから、ゲームエリアに超強力な仮面ライダー型エネミーを七体放出するわ!! 強いプレイヤーの元へと引き付けられていくから、見つけたら倒してね!!』

 

「じゃあ、あの人は……」

 

 

エリザベートは、歩き去っていくウィザードを見ながら呟いた。何か、大事なものが崩れていくような心地がした。

彼は、かつての操真晴人の模造品。感情を、希望を奪い去ったダミー。

 

 

『討伐報酬は霊呪二画、そしてなんと、倒した仮面ライダーに擬似的に変身できるガシャットロフィー!! 手に入れたら聖杯が一気に近づくわ!! 現在、聖杯完成に最も近いのは新宿区、61%よ!! 皆も頑張ってね!!』

 

 

その声が、エリザベートの回りに虚しく響いていた。

 

エリザベートは天井を仰いだ。冷たい蛍光灯の光が眩しくて彼女は目を細めていた。

彼女の脳内に、晴人の顔が蘇る。初めは適当に付き合っていただけなのに、いつの間にか一緒にいるようになった仮面ライダー。最後の希望。

 

───

──

 

『……大丈夫でしょ、エリちゃんなら』

 

『そんな、気楽に言わないでよ』

 

『だって、ほら。今悩んでいる君は君だ。今君はきっと君の意思で悩んでいる』

 

『……』

 

『俺も、君も、最後の希望なんだ。誰も見ていなくても、君は今全世界を背負ってる、立派な女の子だ』

 

『……じゃあ。何かあったら、止めてくれる? 教えてくれる?』

 

『当然だ。そのときは俺が、最後の希望になってやる』

 

──

───

 

最後の希望は、ここにはいない。

エリザベートは考えた。天を仰いで考えた。自分は何故彼と共にいたのか。何故、希望であろうとしたのか。

抑止力、等というものはなかった。少なくとも、エリザベートにそれは干渉しなかった。それは真黎斗から言質をとった事実だった。

では、何故自分は正義でいられたのか?

 

 

「……っ」

 

 

何故か、頭痛がした。

エリザベートは頭を押さえながら壁に寄りかかる。その中で、一つのビジョンを見た。懐かしいものだった。

 

アイドルも、歌も、何も知らなかった頃のエリザベート・バートリーだった。ただ、領地を守護する者であろうとした頃の姿だった。

正義は、あの頃はあったのだ。彼女はあの瞬間だけは、希望を守ろうとしたのだ。

 

それが、例え作られた記憶でも。

 

 

「……そう。そうだった、のね」

 

 

エリザベートは、今さらになって答えを得た。希望は、自分にも元からあったのだ。操真晴人は、自分のその希望を、自分の胸元まで引っ張りあげてくれたのだ、と。

 

 

「私は……」

 

 

何を、するべきだろう。





次回、仮面ライダーゲンム!!


───討伐クエスト開始

「仮面ライダーが、敵になる……」

「勝てるのか……?」

「それでも、惑う暇はありません」


───狙われた病院

「しし、審議官!!」

「落ち着いてください!! やることは決まっています」

「貴方に会えて、本当に良かった!!」


───エリザベートの決断

「行かなきゃ」

「止めるんだ。余はお前を斬りたくない」

「……行かせてやれ」


第三十七話 Life is show time


我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」


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第三十七話 Life is show time


ローグの変身音、クロコダイルの筈なのに明らかにジョーズ(サメ)で笑った。サメボトル使えばいいのに……
……というかコウモリボトルどうしたのさ



 

 

 

 

 

ナーサリーのアナウンスは、国会議事堂周辺を守っていた永夢と飛彩、ナイチンゲールの耳にも入っていた。パラドは現在さらに離れたところで戦っているが、きっと彼の耳にも入っているだろう。

 

 

「仮面ライダーが、敵になる……」

 

「勝てるのか……?」

 

 

仮面ライダー。自分達以外の仮面ライダー。永夢も飛彩も、彼らが如何に強いかはその眼で目の当たりにしたことがある。

 

希望の魔法使い、仮面ライダーウィザード。

神になった男、仮面ライダー鎧武。

市民を守る警官、仮面ライダードライブ。

可能性を信じた英雄、仮面ライダーゴースト。

 

それだけではない。W、オーズ、フォーゼ、そして響鬼といった仮面ライダーだって彼らは知っている。その戦いを知っている。

圧倒的な戦力だった、そう思っている。

 

 

「それでも、惑う暇はありません」

 

「……そうですよね」

 

 

しかし、勝たなければならないのだ。人々を守るためには。

彼らは、誰からともなく振り返って、国会議事堂を仰ぎ見た。ナイチンゲールが令呪を消費して発動した絶対安全圏は、もう既に崩れつつある。もう一度発動することも考えたが、今後のリスクを考えるとそれも厳しい。

 

 

「それまでに……少しでも、状況を改善しないと」

 

 

そう、呟きが漏れた。

 

───

 

放出された仮面ライダーは、各自自分のバイクを召喚して適当な所に散らばっていった。仮面ライダーWは千葉へ向かった。仮面ライダードライブは埼玉へ向かった。仮面ライダー鎧武は神奈川へ向かおうとする……といった具合だった。

彼らに意思はなく、現在の聖杯戦争のトップランカーの中から選んだ適当な一人を襲いに向かう機械のような物だった。

 

……そして、仮面ライダーオーズは聖都大学附属病院へと向かっていた。標的はアルジュナのマスター、日向恭太郎。

 

 

 

 

聖都大学附属病院の仕掛けたカメラにオーズの姿が写り込んだのは、ナーサリーのアナウンスから十五分後位のことだった。

それを確認した聖都大学附属病院内の多くの人々は動揺し、戸惑い始める。灰馬は慌てて、ナースステーションに設置された衛生省に駆け込んだ。

 

 

「しし、審議官!!」

 

「落ち着いてください!! 分かっていますから。誰が来たとしても、やることは決まっています」

 

 

恭太郎は灰馬を落ち着かせながら永夢に電話をかける。それと同時に彼は引き出しを開けて書類を開き、マニュアルを引き抜いて見直した。そしてそれをコピーして灰馬の後ろに控えていた彼のサーヴァント、織田信勝に差し出す。

 

 

「……分かりました、足止めを開始します。そちらも、第一段階を開始してください」

 

「ああ。健闘を祈る」

 

 

信勝はマニュアルを見つめながら踵を返した。恭太郎はそれを眺めながら、アルジュナと共に上の階へと歩いていく。

 

───

 

「えっ!? 聖都大学附属病院に仮面ライダー!?」

 

 

永夢は恭太郎からそれを聞き目を見開いた。まさか、もう攻めてくるとは。少しばかり早すぎるようにも思ったが、来てしまったのなら仕方がなかった。

永夢は恭太郎から相手がどんなライダーなのかを聞き出して、隣にいた飛彩と情報を共有する。

 

 

「上下三色……それなら、覚えがある」

 

「ええ。あの仮面ライダーですね」

 

「そうだ……俺が行こう。倒した経験があるからな」

 

 

飛彩がそう言いながら立ち上がった。ここを無防備にするのも怖いので永夢はそれに相槌を打ちながら送り出す。

 

 

「……最も、野球で倒した経験が役立つかどうかは怪しいがな」ボソッ

 

 

飛彩が漏らした独り言は、誰にも聞かれなかった。

 

───

 

エリザベートは、自分の部屋に戻って身支度を整えていた。最早サーヴァントであることを隠す必要はない。衣服も帽子も不要であった。

 

 

「……行かなきゃ」

 

 

そう、しきりに呟いていた。彼女は焦っていた。ついさっき取り逃した仮面ライダーウィザードを追わなければ、と。

……そんなエリザベートを、ラーマが悲しげに見つめていた。

 

 

「……何よ」

 

「……どうしても、行くのか?」

 

「悪い?」

 

 

ラーマは、エリザベートがこれからしようとすることを察していた。そしてそれは、真黎斗への裏切りに他ならなかった。

 

 

「私は行かなきゃいけないの。アイツに、誰かを殺させるわけにはいかない。例え良くできた偽物でもね……だから、私が止める」

 

「それは、マスターへの裏切りになるぞ?」

 

「……そうね。それでもよ」

 

 

ラーマは俯いた。溜め息を吐き──そして、瞬時に移動してエリザベートの首筋に刃を添えた。

 

 

「っ──」

 

「止めるんだ。余はお前を斬りたくない」

 

「ラーマ……」

 

 

ラーマは、真黎斗に忠誠を誓っている。自分を愛するシータと引き合わせてくれた恩人だから。例え全てが作られた記憶でも構わない。自分が彼に作られた偽物でも構わない。彼に心を救われたと、ラーマは思っているから。

しかしそれと同時に、彼は仲間が減っていくこの状況が心苦しいとも思っていた。ファントムが消え、カリギュラが消え、マシュは裏切り、ジークフリートと共に消去された。それは妥当な判断だったとラーマは考えるが、それでも辛かった。

 

 

「余は、止める。何としてでも」

 

「……っ」

 

 

エリザベートは息を飲んだ。目の前の男からは嘘の気配は感じなかった。彼は真剣だ。そう思わされた。

 

……しかし、ふと気がつけばその剣はエリザベートの首筋から外れていた。

 

アヴェンジャーが、ラーマの手を押さえつけていた。

 

 

「……行かせてやれ」

 

「アヴェンジャー!? 何故だ!? 何故、止める!?」

 

 

ラーマが動揺しながら飛び退く。エリザベートはよく状況を理解していなかったが、一先ず頭の中でアヴェンジャーに感謝しながら階段へと駆けた。

 

 

「ああ、少しだけ待て」

 

「……何よ」

 

 

しかしまた彼女は呼び止められる。エリザベートが怪訝そうに見たアヴェンジャーは自分の部屋の方角を振り向き、顔だけ出していたイリヤに声をかける。

 

 

「……お前も行くといい」

 

「……え?」

 

「ここにいるよりは、マシだろう」

 

「それは……でも……私は、サーヴァントだし……」

 

「あらあら、これお別れのシーンじゃないですか。おかしいですねー、まだろくにイベントこなしてないと思うんですけど?」

 

 

イリヤは俯きながら部屋を出てきた。ルビーもそれに追従する。アヴェンジャーはラーマの同行を見ながらも少しだけ後ずさり、イリヤの頭を撫でた。

 

 

「令呪を三画使って命じる。単独行動せよ」

 

「……っ!?」

 

 

アヴェンジャーは唐突に令呪を切った。彼の手が一瞬赤く煌めき、すぐに静まり返る。それと共に、イリヤはアヴェンジャーが離れていくのを感じた。

 

 

「……これで、お前は自由の身だ。お前の命は自由になった」

 

「アヴェンジャーさん……!?」

 

「オレは檀黎斗のサーヴァントだ。だがお前は違う……オレは好きにした。だから、お前も好きにしろ。そして、その中でやりたいことを探してこい。あのランサーと一緒にな」

 

 

アヴェンジャーはそう言いながらエリザベートを指した。エリザベートはそれなりに動揺したが、今は黙っているべきかと空気を読み、我慢して平然を装う。

 

 

「望むように運命に抗うがいい。得意だろう?」

 

「……分かりました」

 

「……では、さらばだイリヤ。オレのようなろくでもないマスターに対して気を使う必要はないぞ。するべきだと思ったのなら、何時でも殺しに来るがいい」

 

「……ありがとう、ございました」

 

 

そして、アヴェンジャーはイリヤをエリザベートの元に差し出した。そして、黙って立っていたラーマに向き直る。

 

───

 

「っ……!!」

 

 

飛彩が聖都大学附属病院に駆けつけたとき、そこは既に戦場となっていた。

中庭にオーズがいて、彼は黒い剣を振るう女と斬りあっていた。そしてその外から、何発もの矢が、弾丸が撃ち込まれていた。……しかし、オーズに弱る気配はなかった。

 

 

『サイ!! トラ!! チーター!!』

 

「むっ……また姿が変わったか。全く、こいつの相手は骨が折れる。後でハンバーガーを三倍程請求しなければ」

 

 

黒い剣の女セイバー、アルトリア・オルタがエクスカリバーを振りかざし、オーズの呼び出したメダジャリバーと斬り結ぶ。その衝撃は遠くの木すらも揺らし、地面はもうひび割れていた。

そして、アルトリア・オルタは押されていた。

 

 

『トリプル!! スキャニングチャージ!!』

 

「……」

 

「むっ……来るか」

 

 

オーズが虚空から銀色のメダルを三枚取り出して、メダジャリバーに装填した。そしてそれをスキャンし、剣を構える。

アルトリア・オルタはそれにあわせて剣に風を纏わせるが、彼女自体はかなり疲弊していた。

 

 

「……セイヤー!!」

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

 

刃と刃とが衝突する。二人の剣は、力は拮抗し……オーズがサイの角でアルトリア・オルタの足元の重力を0にしたことで、オーズが一方的に打ち勝った。

 

 

   フワッ

 

「なっ──」

 

   ザンッ ガガガガガガガガ

 

 

アルトリア・オルタが吹き飛ばされて地面を転がる。本来なら空間すら切り裂く一撃をその身に受けたのだから、実態を保てているだけ幸運なレベルだった。

しかしオーズは彼女を取り逃がすつもりはないらしく、チーターの脚力で彼女に迫り──

 

 

 

 

 

   カキン

 

「……危なかった、か」

 

「……貴様」

 

「下がっていろ。救援に来た」

 

 

そのタイミングで、ブレイブに変身した飛彩が割り込んだ。

アルトリア・オルタと視線を交わしたブレイブはそれだけ告げて、オーズに向かって斬りかかる。対するオーズはメダジャリバーを放棄しトラの爪を展開して、ガシャコンソードを受け流し始めた。

 

───

 

「……強い」

 

 

恭太郎は、オーズとブレイブの戦闘を眺めながら呟いた。彼の横ではアルジュナが狙撃を行っているが、どうにも効いている様子がなかった。

ブレイブがオーズに斬りかかっても、空振りしているようにしか見えない。恭太郎は気を揉むのに疲れていた。

 

 

「現在の姿は……サイ、カマキリ、タコ、といった感じですね」

 

「そうだな……矢を放っても、重力で叩き落とされてしまうのだろう」

 

「恐らくは。……令呪は、使いますか?」

 

「まだだ。まだ、使わない」

 

 

そうしている内に、またオーズの姿が変わる。変わらないのは、ブレイブが苦戦しているということだけだった。

 

───

 

『プテラ!! トリケラ!! ティラノ!! プ!! ト!! ティラノザウルース!!』

 

「……」

 

「っ……不味い」

 

 

ブレイブは今になって、あの時のオーズが如何に弱かったのかを理解した。本気になれば、災害級に恐ろしいなんて誰があの戦いで理解できただろうか。

オーズは、全身紫の姿になって斧を構えていた。ブレイブはその姿を見るだけで気圧され、逃げ出したい衝動に駆られる。

 

 

「だが……まだだ」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

しかしブレイブはそれを堪えて、ガシャコンソードにタドルクエストを装填した。そしてそれを構え……再びブレイブが顔を上げた時には、オーズの姿は見えなかった。

 

 

「……何だと?」

 

 

ブレイブは辺りを見回す。しかし姿はどこにもなく。……そして彼は、天空からの羽ばたきの音を聞いた。

 

 

「……っ、まさか、上か──」

 

   ザンッ

 

 

彼が上を向いたときにはもう遅い。プテラノドンの翼を展開し空に舞い上がっていたオーズはその斧をブレイブの肩に突き立て、降り下ろしていた。ブレイブは地面に押し付けられ、さらにオーズに蹴り飛ばされる。

 

 

「っぐ──」

 

『ゴックン!!』

 

 

オーズはブレイブが動けなくなったのを確認して、何処からともなくまた銀色のメダルを取り出し、それを斧に食べさせた。そしてそれを持ち変えて銃のようにし、ブレイブに向ける。

ブレイブは痛みを堪えながらどうにか立ち上がろうとしたが、いつの間にか足が膝上から凍りついていた。逃れられない。

 

 

『プ ト ティラノヒッサーツ!!』

 

 

エネルギーがチャージされていく。周囲が揺れるような錯覚をブレイブは覚えた。せめてもの抵抗として彼は剣を構えるが、体勢が固められていてはそれすらも不格好で。

 

そして、光が彼の視界を奪った。

 

 

「っ……」

 

   カッ

 

 

 

 

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 

 

 

 

……ブレイブは恐る恐る顔を上げた。彼は無傷だった。……目の前に、一人の女性が立っていた。見覚えのある立ち姿だった。見覚えのある、旗だった。

忘れもしない。彼女こそはジャンヌ・ダルク。CRのセイバーだったはずの、消滅したはずのサーヴァント。

 

 

「お前は……」

 

「……貴方に会えて、本当に良かった!!」

 

 

ジャンヌは、振り返りながら微笑んだ。そして、まだ動けないブレイブに膝をつき、告げる。

 

 

「千代田区のルーラー、ジャンヌ・ダルク!! 職務を放棄してここまで馳せ参じました、マスター!!」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ジャンヌの帰還

「千代田区の、ルーラー?」

「共に戦いましょう」

「令呪をもって命ずる」


───絶対安全圏、消滅

「間に合わなかった……」

「ここは俺達に任せろ」

「何でまだ終わらないんですか……!?」


───仮面ライダーとの戦い

『今朝のニュースよ!!』

「おいおい、あれ、どう考えても仮面ライダーだろ」

「私のクリエイティブな時間の邪魔をするな!!」


第三十八話 Fellow soldier


「行きましょう、マスター!!」


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第三十八話 Fellow soldier


現在の作とアルトリア・オルタ

真黎斗はグランドオーダークロニクル始動時にドクター達には追加のサーヴァントが現れないように手を加えていたが、その中には作は入っていなかった。故に作だけには令呪が追加されサーヴァントが現れた

また、グランドオーダークロニクル開始前に召喚されたサーヴァントは、グランドオーダークロニクル開始後も追加で召喚はされていない。つまり、ナイチンゲールもマシュも信長もナーサリーもゲームエリアに一人しかいない。



 

 

 

 

 

「千代田区の、ルーラー?」

 

 

聞き慣れない取り合わせに、ブレイブは問い返していた。同時に足に力を込めて、氷を砕いて立ち上がる。少しばかり脚は冷えたが、凍傷にはなっていないようだった。

 

 

「ええ。戦争が激しいエリア……具体的には、聖杯完成達成率50%を経過したエリアには監視役としてルーラーが召喚されるんです」

 

「つまり……千代田区の聖杯は半分完成したのか」

 

「そうですね……」

 

 

ブレイブの声は曇っていた。

忘れてはならないことは、国会議事堂は千代田区にあるということだ。千代田区の聖杯は千代田区役所に設置されている。そして国会議事堂は、そこから皇居を挟んで反対側にある。……とても近い。きっと、パラドも聖杯の近くにいるだろう。

 

……そこまで考えたところで、オーズがまたドライバーに手をかけているのが目に入った。二人は視線を交わし、オーズに向き直る。

 

 

「……と、よそ事は後にしましょうか。共に戦いましょう」

 

「そうだな……行くぞ、セイバー……違ったな。行くぞ、ルーラー」

 

「ええ!! 行きましょう、マスター!!」

 

───

 

 

 

 

 

アヴェンジャーとラーマは、暫く見つめあった後にどちらからともなく警戒を解き、屋上にやって来ていた。共に屋上の端に腰掛け、遠くの方に見えるスカイウォールを眺める。

 

 

「……吸うか?」

 

「……じゃあ、一本」

 

 

アヴェンジャーは、ラーマに煙草を一本差し出した。態々アヴェンジャーが遠くまで行って何ダースも買ってきた箱の内の一つだった。

 

 

「……」スパー

 

「……」スパー

 

 

屋上から見る世界はちっぽけだった。少なくとも、彼らがかつて旅した世界とスケールは変わっていないように感じられた。

 

 

「アヴェンジャー」

 

「……どうした」

 

「お前は、構わなかったのか? ……あの少女は、あの時の少女なのだろう?」

 

「……構わない。オレは再会など望んではいなかったしな」

 

 

ラーマは、アヴェンジャーがイリヤを手放したことを気にしていた。度し難く思っていた。彼は慕われていて、彼女は想われていたのに。互いに相手のことを悪くなく思っていて、それなのに態々対立しようとするなど、全く分からなかった。

もう、ここから彼女らの姿は見えない。エリザベートが何処に行ったのか、イリヤが何処に行ったのか、それはさっぱり分からない。

 

 

「……檀黎斗に珍しく怒りを覚えた。物語より生まれた存在なら、物語の中で終われば幸せだということは、やつにも分かっていただろうにな」

 

「アヴェンジャー……」

 

「……しかし、だからといってオレはあいつに手を出しはしない。誰も、檀黎斗には勝てはしない」

 

 

アヴェンジャーはそう言い、上を見上げる。妙に腹がむかむかした。

 

煙草の灰が風に溶けた。ラーマは煙草の火を指で磨り潰しながら立ち上がり、アヴェンジャーに背を向ける。

 

 

「……余は行く」

 

「良かったのか? オレは今無防備だ。斬るなら今だぞ?」

 

「そんな気分ではない」

 

 

アヴェンジャーは、背中越しにラーマが去っていく足音を聞いた。そして彼もまた煙草の火を揉み消して、屋上から飛び降りた。

 

───

 

ブレイブとジャンヌは、一時間程の間ずっとオーズと戦闘していた。

遠距離からの攻撃にはジャンヌが旗で対応し、近距離からの攻撃にはブレイブがガシャコンソードで対応して、どうにか一時間凌いでいた。

 

 

『サイ!! ゴリラ!! ゾウ!! サゴーゾ……サゴーゾ!!』

 

「また姿が変わった!!」

 

「きりがありません……!!」

 

 

オーズの姿がまた変わる。しかし、紫の姿(プトティラコンボ)になってからは、オーズはずっと何かしらのコンボでブレイブを攻撃していた。

ブレイブの限界は近かった。既に彼のライフゲージは残り2つ程だった。隣に立つジャンヌも、肩で息をしていた。

……しかし、まだブレイブは絶望していなかった。

 

 

「……いや、諦めるな。今までより、確かに相手の動きは遅くなっている。相手のシステムに疲労が生じている」

 

 

彼の目は、オーズの肩を見つめていた。その動きを。仮面ライダーを模倣したプログラムに蓄積した疲労を。

 

 

「本当ですか、マスター?」

 

「ああ……見たところ、今度の相手は打撃中心のスタイルだろう。だが、あえて俺は接近する」

 

「どうしてですか? 一応、ドレミファビートの力を使えば遠くからでも戦えるのでは……」

 

「相手の武器があの腕ならば……俺が注意を引き付けていれば、相手の動きは封じられる」

 

 

ブレイブはガシャコンソードを構え直して、少しだけ病院の方を仰ぎ見た。その中で戦いを見つめている、恭太郎の目を見た。

 

───

 

「……頃合い、だな」

 

 

恭太郎は、オーズと超至近距離で取っ組み合うブレイブを眺めながら、呟いた。今なら、相手が少しばかり疲弊した今ならば、倒せる。そう思えた。

恭太郎は、後方に待機していた作とアルトリア・オルタの方を少しだけ見やる。

 

 

「……作さん」

 

「は、はいいっ!?」

 

「……やりますよ。ここで決着を」

 

 

その言葉だけで、作も何をするべきか察した様だった。アルトリア・オルタは、もう幾らか回復していた。現在はチーズバーガーを五個ほど平らげている。

 

 

「わ、分かりました!! ……セイバーさん?」

 

「……仕方ないな」モッキュモッキュ

 

 

そして二人は階下へと降りていった。上空からアルジュナが、玄関口からアルトリア・オルタが同時に攻撃する手筈になっていた。

恭太郎は灰馬に連絡を取り、今でも攻撃を続けているちびノブを引き上げさせる。

 

 

「……マスター」

 

 

アルジュナがブレイブを指差した。もう、いよいよ限界に見えた。余裕はもうない。

 

 

「……それでは。二つの令呪をもって命ずる」

 

 

恭太郎の手から、令呪が二画消滅した。

 

 

「宝具、破壊神の手翳(パーシュパタ)を発動し、仮面ライダーオーズだけを撃破せよ」

 

「……了解しました」

 

 

それを聞き届けたアルジュナの手からは弓が消滅し、代わりにその掌の上に光の球が練り上げられる。

 

 

 

 

 

それと同時に、玄関口から出てきた作もまたその令呪を消費していた。彼の横に立つアルトリア・オルタは、未だブレイブと戦うオーズを睨む。

 

 

「じゃあ、二つの令呪をもって命じます。宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)で、仮面ライダーオーズを倒してください!!」

 

「良いだろう。決着をつけてやる」

 

 

アルトリア・オルタのエクスカリバーに、魔力が漲った。

 

 

 

 

 

その気配には、ジャンヌも気づいていた。彼女は自分の旗でブレイブとオーズの間に割って入り、二人を引き剥がして大きく飛び退く。

 

 

「……マスター!! 早く下がって!!」

 

「分かっている!!」

 

『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

そして、ブレイブもそれに続いて飛び退きながら大量のト音記号型のエネルギー弾を精製、オーズへと飛ばした。

オーズはそれを易々と相殺するが、それに気を取られた為に後方でチャージされる宝具には気付けず。

 

 

 

 

 

「神性領域拡大、空間固定。神罰執行期限設定、全承認」

 

「『卑王鉄槌』、極光は反転する」

 

「シヴァの怒りをもって、汝らの命をここで絶つ 」

 

「光を呑め……!!」

 

 

アルジュナの手元から、光の球が消え失せた。次の瞬間にはそれはオーズの頭上に現れ、力の断片を解放する。

それと同時にオーズの背後にいたアルトリア・オルタの聖剣は黒々と輝き、その光を解き放った。

 

 

破壊神の手翳(パーシュパタ)!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

「……っ!!」

 

   ガガガガガガガガガガガガ

 

 

オーズは動けない。攻撃に気がついたがもう動けない。破壊神の手翳(パーシュパタ)が彼のすぐ側で発動したことで、彼はそれに拘束されている。

黒い光が、無防備なオーズを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「……やった、か」

 

 

ジャンヌの旗の後ろから、変身を解除した飛彩がよろよろと出てきた。

既にオーズの姿はそこにはなく、緑と黄色のガシャットロフィーが転がっているだけだった。

 

 

「これが、討伐報酬のガシャットですか……」

 

「……そのようだな」

 

 

飛彩がそれを拾い上げ、しみじみと眺める。周囲に目を向ければ、中庭はもうがらんとした野原になっていた。

 

恭太郎と作が、飛彩の元に駆け寄ってきていた。二人は確かに二画の令呪を消費したのだが、それらは討伐報酬の二画で補われていた。

 

 

「審議官、これを」

 

 

飛彩が、恭太郎にガシャットロフィーを差し出す。恭太郎はそれを手に取り、書かれていたガシャット名に目を通した。

 

 

「ジャングル、オーズ……か」

 

「審議官が持っていてください。何かの役には立つでしょう」

 

「……分かった」

 

 

彼は頷く。

もう、空は暗くなっていた。

 

───

 

 

 

 

 

空を夜が覆い、そして再び朝になる。ゲームエリアは聖杯戦争十三日目を迎え、国会議事堂にいた永夢とナイチンゲールは、不安げに天を仰いでいた。

結界は崩れかけていた。今もまた端から崩壊していた。二人はどうにか完全に崩壊する前に少しでも周囲の状況を良くしようと一晩奔走したのだが、仮面ライダーは倒せず、力をつけてきているマスターの説得にも失敗していた。

 

 

「……悪い。間に合わなかった……」

 

 

パラドが、そう言いながら議事堂の敷地内に入ってきた。彼もまた満身創痍のように見えた。

 

 

「パラド……」

 

「かなりのサーヴァントは倒したんだがな。それでも駄目だった。強い奴は、本当に強くなってる。もう何人も殺してる」

 

 

BBの姿は見えなかった。彼女はあまりのダメージのせいで実体化を保つことすら危うく、霊体化してパラドの側に控えていた。

 

千代田区は激戦区だった。ライドプレイヤーを狩りに狩って鍛えた強いサーヴァントを従えたマスターが、安全圏を目指してきた温和なマスターを片っ端から狩り聖杯を目指していた。

パラドは戦意のないマスターを守るために何人かのそういった凶暴なマスターと戦っていたのだが、それはもう限界だった。

 

……刹那、どこかからミシミシと音が響いた。

 

 

   ミシミシ ミシミシ

 

「この音……」

 

「──マスター」

 

 

ナイチンゲールが空を指差す。

 

 

「……あ」

 

   パリン

 

 

彼女が張った結界が、人々を守った絶対安全圏が、音を立てて崩壊した。ここの人々の安全は潰え、再び危機にさらされ始めた。

 

 

「……きっと、あいつらはここを襲ってくるだろうな……ここは俺達に任せろ」

 

「パラド……BBは?」

 

「大丈夫だ。一応、ここまでの戦いでの戦果がある……お前は人間だ。休息取らないと、死ぬぞ」

 

 

パラドはそう言いながら妙にトゲトゲした虹色の塊を取りだし、それを宙に放り投げた。どうやらそれは回復アイテムだったらしく、BBがそれを消費して再び実体化する。

永夢は後ろ髪を引かれる思いをしながら、議事堂の中へ戻っていった。

 

 

「何でまだ、終わらないんですか……!?」

 

 

堪らず、弱音が溢れ落ちた。

 

───

 

『ナーサリー・ライムが八時をお知らせするわ!! 今朝のニュースよ!!』

 

「……ずっと思ってたが、向こうの神は可愛い声の女の子侍らせてるよな。姿は知らねーけどよ」

 

 

シャドウ・ボーダーから外を眺めながら貴利矢が呟いた。彼らは現在、神奈川を走っていた。

 

貴利矢は既に、見かける店が悉くシャッターを下ろしていることに気づいていた。当然のことだった。暴徒に店を荒らされては堪らない。……しかしこれは、近い将来に食糧難が起こりそうだ、とも思わせた。

 

 

『現在、仮面ライダーオーズが討伐されたわ!! 仮面ライダードライブもかなり弱ってるわよ!! 頑張ってね!!』

 

「……頑張ってるわよね、あっちも」

 

「そうだな姐さん。まあ、俺達も頑張ってるけどさ」

 

「……そうね」

 

 

貴利矢はそう言いながら車内を見回した。運転席にはマルタが座ってハンドルを握っている。その隣では黎斗神がガシャットを弄っている。後ろの方ではメディア・リリィが休んでいて、ポッピーが眠っていた。

 

 

「……ま、あの二人は昨日遅くまで雑魚狩ってたし仕方ないか」

 

 

貴利矢はそう言いながら、車内で大きく伸びをした。鼻に入る空気だけは爽やかだった。

 

 

『それから、渋谷区の聖杯が完成度82%になったわ!! 江戸川区が次いで80%、千代田区が79%よ!!』

 

「……やっぱ首都圏は凄いな」

 

「元々不満が燻ってたんでしょ」

 

「……永夢が心配だな」

 

「そう簡単にはやられないでしょ」

 

 

彼らは、今現在の東京の様子は知らない。飛彩が再びジャンヌと合流してオーズを倒したとか、国会議事堂の安全圏が消滅したとか、その程度しか知らない。

……しかし、人々の様子は推測できた。土地は変われど、人の有り様に変化は起こらないから。貴利矢が眺めてきた、介入してきた人込みは皆、やっぱり酷く荒れていた。

 

……そこまで貴利矢が回想したところで、彼はここにも人だかりが出来ていることに気がついた。

サーヴァントやらマスターやらが吹き飛ばされていくその塊の中に、彼は鎧のシルエットを見た。

 

 

「……おいおい、あれ、どう考えても仮面ライダーだろ。姐さん!! 車止めて!!」

 

 

シャドウ・ボーダーが停車する。貴利矢は白衣を掴みながら立ち上がり、ついでとばかりに黎斗神に声をかけた。

 

 

「ほら、行くぞ神」

 

「私のクリエイティブな時間の邪魔をするな!!」

 

「そう言うと思ったよ!!」

 

 

そしてその返事を聞くと共に黎斗を連れていくことを彼は諦め、マルタと共に飛び出していく。

立ち向かうは仮面ライダー。仮面ライダー、鎧武。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───信勝の出会い

「久しぶりじゃのう!!」

「姉上……!?」

「さて、どうするのじゃ?」


───鎧武との戦闘

「やべぇ、こいつ、強い!!」

「どうなってんのよ……!!」

『極 アームズ!!』


───拡大する壁

「スカイウォールが……」

「あれは……自衛隊……?」

「無駄なことを」


第三十九話 一刀繚乱


「日本は今、決断を迫られている」


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第三十九話 一刀繚乱 


裏設定フォーゼ編

とある関東の学校にて新任の教師をしていた如月玄太郎は、バーサーカー・謎のヒロインXオルタを召喚する
妙に気性が荒くなった生徒やそのサーヴァントを鎮めて仲良くなりながら学校を纏め上げ、周囲を守る一大勢力を作り上げる。現在は学校に引きこもりながら安全圏を拡大している



 

 

 

 

 

その時、信勝はただ一人で、昨日オーズによって破壊された中庭を確認していた。塀などが崩れていないかを確かめていたのだ。

 

 

「うわー……酷い……」

 

 

崩れ落ちていたコンクリート塀を組み直しながら、思わずそう声が漏れた。

信勝だってサーヴァントなのだから、やろうと思えばこの塀を粉砕する程度訳はないのだが、それには躊躇いがある。……躊躇いがないと言う点で、あの理性のない仮面ライダーは恐ろしかった。

 

 

「……よく、あんなの倒せましたね……本当に」

 

 

 

 

 

「そうじゃな」

 

「ええ……──っ!?」

 

 

信勝は、独り言に返事をされたので相槌を打ち、一瞬遅れて縮み上がった。

聞かれていた。誰かに。この中に侵入してきた何者かに。信勝は火縄銃を呼び出しながら大きく飛び退き身構える。しかしその一連の動作の中で、声の主に懐かしさを感じていた。

 

 

「何じゃ、ずいぶんと大仰な反応じゃな」

 

「貴女は……」

 

「久しぶりじゃのう!!」

 

「姉上……!?」

 

 

ゲンムのアーチャー、織田信長。それが、信勝の前に立っていた。

 

 

「……一応、聞いておきます」

 

「……何じゃ?」

 

「貴女の、マスターは?」

 

「……真檀黎斗」

 

「っ!!」

 

 

信勝はその言葉に、一瞬下ろしかけた火縄銃を握り直す。彼のマスターは鏡灰馬。CR側の存在であり、真黎斗とは敵対している。

しかし信長は弟が此方を警戒していることを目の中に捉えながら、それでも何ともないといった振る舞いで信長に近づいた。

 

 

「いやー、一度会いたかったんじゃよ? と言うのもな、黎斗から定期的にガシャット掻っ払ってわしの知り合いの戦争具合を見てたんじゃがの?」

 

「……はあ」

 

「サルはマスター運が悉く悪かったのか本領を発揮する前に全滅するし、茶々もいつの間にか消えてるしで、いつの間にかわしが気にかけてる奴が物量作戦一辺倒の織田信勝しかいなくなっとったんじゃよ」

 

「なるほど」

 

「じゃから、一度近くにいる織田信勝の所に顔を出しておきたくてな。別にここで攻撃しようとかそういう話ではない」

 

 

そう語る姿は親しげだった。信勝はそこに懐かしさを感じて、安心と危機感を同時に抱く。彼女は織田信長だ。信勝がよく知る、第六天魔王織田信長だ。

 

 

「……にしてもそなた、わしの肖像権に真っ向から喧嘩売るような宝具しとるよなー」

 

「それは……まあ」

 

 

唐突にそんな話題を振られた。信勝はその言葉にはっとして自分の握っている銃を見る。

織田信勝にはこれといった逸話がない。ただ姉に刃向かい、散ったという事実しかない。武器になり得る幻想がない。……その埋め合わせなのか、サーヴァントとなった信勝には信長の力が付随した。信長の姿を模した分身、信長の宝具の断片展開、それらは信勝の中にある信長への幻想に他ならない。彼の力は、魔王との記憶だ。

 

 

「ま、実際サーヴァントの権利云々は黎斗が全て持っているじゃろうし、実際に文句をつけるならあやつなんじゃろうがなー」

 

「……ははは」

 

 

……身も蓋もない話をするのなら、信長も信勝も檀黎斗の作成したキャラクターなのだが。信勝自体はバグで能力を得た身だが、それでも生みの親が黎斗であることに変わりはなくて。

何か寂しくて、信勝の笑いは乾いていた。

 

 

 

 

 

「……一応、聞いておくかの」

 

 

ふと、信長のテンションが冷えきった。

信勝はまた解けかけていた警戒を復活させる。彼が観察する限り、先程まで朗らかだった彼女の姿はどういうわけだか今は危険を感じさせた。

 

 

「わしと共に来るか?」

 

「……っ、それは」

 

 

冷えきった信長から出てきた言葉はそれだった。

信長と共に行く、それはつまり真黎斗の、ゲンムコーポレーションにつくこと。信勝にとっては、元々従っていたマスターの元に戻ること。

 

 

「さて、どうするのじゃ?」

 

 

信勝は、一瞬迷った。一瞬だけ迷った。

 

……これまでの旅を思い出した。彼には、カルデアでの旅の記憶があった。戦った姉の記憶があった。その姉は、どう在っただろうか。

 

 

「……駄目です」

 

「ほう?」

 

「僕は、サーヴァントになりましたから。僕は、僕のするべきことをします」

 

 

それを考えた上での、結論だった。

今のマスターの元で、己の役目を果す。それが、信勝の結論だった。

 

信長は信勝の目をじっと見つめ、それからからからと笑った。彼女自身は満足げな目をしていた。実に面白い、そんな感じだった。

 

 

「……なるほどな。何、構いはせん。わしもわしのしたいことをするまでのことよ」

 

 

そして、信勝に背を向けながら告げる。その姿は掠れ始めていて。

 

 

「宣言したのじゃから、曲げるでないぞ。わしには構うな。迷いは燃やしてしまえ。そなたは第六天魔王の弟である。好き勝手に満足できる結末を掴んでみよ」

 

「……ええ」

 

 

そして、信長はその場から去った。

 

───

 

 

 

 

「愛を知らぬ哀しき竜よ、ここに……星のように!! 愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

 

マルタの背後から、弾丸のようにタラスクが飛び出した。その目的は、眼前にいる鎧武のみ。

 

現在レーザーターボとマルタは、仮面ライダー鎧武と交戦中だった。初めは他のマスターの援護もあってやや優勢だったのだが、鎧武がかの武田信玄を思わせるオレンジの鎧の形態……カチドキアームズになってからは、彼らは防戦一方だった。

 

飛んでいったタラスクが、無双セイバーと火縄大橙DJ銃の合体した体験によって受け止められ、斬り飛ばされる。

 

 

「タラスクっ!?」

 

「マジかよっ……やべぇ、こいつ、強い!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

レーザーターボがガシャコンスパローから矢を放つ。それは確かに鎧武を捉えていたが、今度は銃の形態に変化した火縄大橙DJから出る多くの弾丸によって悉く打ち落とされた。

流れ弾が、多くのマスターを撃ち抜いていく。

 

 

   ダダダダダダダダ

 

「やっべぇ、皆伏せろ!!」

 

「駄目、間に合わない……!!」

 

 

「っがぁっ……!?」

 

「っ──」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

 

誰かは胸を撃たれて膝をついた。誰かは足を撃ち抜かれて崩れ落ちた。誰かは右肩を抑えて踞った。

それを何とも思わずに、鎧武は今度は銃を天に向ける。

 

 

「不味いっ……!!」

 

『スッパーン!!』

 

 

レーザーターボが止めようと駆け寄ったが、鎧武が引き金を引くよりも速く移動することが出来るわけもなく。

 

 

   バァンッ

 

   ダンッダンッダンッダンッ

 

 

宙に放たれた一撃は空中で分解し、周囲に降り注いだ。動けない人々はそれをもろに受け、そして光になって消滅していく。

レーザーターボはその直後に斬りかかったが、鎌は鎧を貫通することもなく弾かれ、彼は蹴り飛ばされた。

 

 

「っくそ……!!」

 

「どうなってんのよ……!!」

 

 

レーザーターボが見回せば、もう周囲には誰もいなかった。サーヴァントもマスターも、彼らしかいなかった。

 

しかも鎧武は生き残った彼らを警戒したのか、何処かから更に新たなアイテムを取りだし、ドライバーに装着する。

 

 

『フルーツ バスケット!!』

 

「今度は何だ……!!」

 

『ロック オープン!!』

 

 

その音声と共に、空に孔が開いた。孔が開いて、そこから沢山の果物のような物が現れ出てきた。

そしてそれは鎧武の回りを周遊し、一つになる。

 

 

『極 アームズ!! 大!! 大!! 大!! 大!! 大将軍!!』

 

「今度は……何だよ」

 

「明らかに不味いわよ、あれ……!!」

 

 

それこそが極アームズだった。仮面ライダー鎧武の、最強の姿だった。

 

 

『影松!!』

 

『ドンカチ!!』

 

『ドリノコ!!』

 

 

鎧武がドライバーをほんの少し触るだけで、レーザーターボとマルタの周囲に槍が、槌が、刃物が召喚され、勝手に飛びかかっていく。

戦いはまだ、始まったばかりで。

 

───

 

 

 

 

 

永夢は、議事堂の中に設けられた即席の避難スペースの中で目を覚ました。仮眠を取ろうと思ったのだが、ろくに眠ることは出来なかった。

 

 

「……どうされましたか、マスター」

 

「ああ、その、眠れないだけですから」

 

「……私に任せてくれるなら、快眠を提供しますよ?」

 

 

永夢の枕元にいたナイチンゲールは、至って自然そうに握り拳を作る。永夢は一瞬だけ頭に疑問符を浮かべ、すぐに申し出を断った。

 

 

「大丈夫ですから!! 大丈夫ですから!!」

 

「そうですか……」

 

 

麻酔が無かった時代は、治療中に患者が暴れたら殴って気絶させていたという。当時看護師に求められていたのは腕力でもあった。

 

永夢は、ナイチンゲールから逃げるように部屋を出た。外の空気でも吸おうと考えたからだった。その途中で彼は幾つかの扉の前を通過する。

 

 

「これをどう説明するんだ!!」

 

「明らかに拡大しているじゃないか」

 

「私達は終わりだ!!」

 

 

……そんな声が、ふと永夢の耳に入った。彼が声の方向に目を向ければ、そこはゲンムの敷いたゲームエリアの境目、スカイウォールを監視する為の部屋だった。

永夢は迷いなく部屋のドアノブに手をかけた。そして中に入り、モニターを覗き込む。……そうして、彼は知った。

 

 

「スカイウォールが……拡大している……!?」

 

 

明らかに、範囲が拡大していた。スカイウォールは、丁度愛知県を飲み込もうとしていた。

 

 

「またお前か。あっちへ行け!!」

 

「今私達は忙しいんだ!!」

 

「離れなさい!! ほら!!」

 

 

苛立ちを隠そうともしない役人達が声を荒げながら永夢の肩を掴む。永夢はそれらを振りほどきながら、機密データを片っ端から確認した。

スカイウォールの拡大。

国交の中断。

大国からの警告。

勢いに乗じた言いがかり。

 

日本に起こっている重大な事実だった。しかしそれは、この議事堂にいない人々には全く知らされていない物だった。彼らは、情報を隠ぺいしたのだ。

 

 

「……どういうことですか」

 

「お前には関係のないことだ」

 

「そんなことない!! これは!! 全員で共有すべき事柄じゃないんですか!? 隠してたんですか!?」

 

「これは必要なことだ!!」

 

 

永夢は数人がかりで押さえ付けられていた。羽交い締めにされ、動きを封じられる。そして、抵抗虚しく追い出されようとしていた。

 

そこに、鏡飛彩が入ってくる。

 

 

「……待て」

 

「お前は……!!」

 

「飛彩さん!?」

 

 

聖都大学附属病院から戻って直接パラドの援護をしていた飛彩は、たった今議事堂に戻ってきた所だった。

その手には、一枚の紙を握っていた。

 

 

「日向恭太郎審議官からの連絡だ」

 

 

役人の一人が、飛彩からその紙を苛立たしげにもぎ取り、読む。それは、永夢に対して、CRのドクターに対しての最大限の配慮をするように、という内容の書類だった。

役人は力任せにそれを地面に叩きつけて、一つ深呼吸し……眉を潜めたまま、永夢に現状を説明し出した。

 

 

「……チッ。報告する。現在スカイウォールは一時的に壁としての機能を停止、ただの半透明の光となった。そして同時に、時速50km程で拡大している」

 

「時速50kmって……」

 

 

車のようなものだ。それはつまり、この脱出の機会を生かすのは難しいということ。電車も飛行機も死んでいる今、車の速さで壁が広がっているなら、それを追い抜く術はあってないようなもの。

 

 

「遠からず、本州は飲み込まれるだろう。四国もだ。北海道や九州も危うい」

 

「そんな……」

 

「……日本は今、決断を迫られている」

 

 

役人はそう言いながら、永夢に更に書類を見せた。

 

 

「これは……自衛隊……?」

 

 

自衛隊への連絡用の書類だった。

 

───

 

「……マスター? どうする?」

 

「ふむ……入間、霞ヶ浦、習志野……近隣の自衛隊基地、分屯からそれなりの隊員が動き始めたな。……嫌がらせだ。戦闘車両の類いを全てフリーズさせてやろう」

 

 

自衛隊は動き出した。それを、ゲンムコーポレーションは真っ先に捉えていた。

真黎斗はそれを必死になって止めようとは思わなかったが、建物が壊れたらデータの修復がほんの少し手間だと思い戦車や戦闘機の類いを全てフリーズさせてしまっていた。

 

 

「全く……無駄なことを」

 

 

マップ上に、自衛隊の車両の姿が表示される。一先ずこちらには数千人が先行部隊としてやってくる様だった。

 

彼らの命もまた、真黎斗が左右できる。

 

 

「手慰みに遊んでやろう。何、もう、どんな手段を使おうと結果は変わらない」

 

「そうね、分かったわ。……誰か出す?」

 

「ジル・ド・レェ辺りでも出しておけば良いだろう。データが集まるからな」

 

 

彼らの前には、命など幻の夢のようで。一刀にて斬り伏せられる儚い存在で。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───鎧武の猛攻

『ソニックアロー!!』

「ヤバい、逃げるぞ!!」

「大丈夫ですか!?」


───自衛隊対ゲンムコーポレーション

「大したことはないな」

「帰ってくれ!! 帰らないのなら、余はお前たちを射つ!!」

「神の前には皆等しき供物に御座います」


───その果てにあるもの

「これは……」

「何でだよ……何でお前ら、こんなことが出来るんだ!!」

「残酷な話だ」


第四十話 Circle of life


「命のルールは神の物となった!!」


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第四十話 Circle of life

極アームズの能力はギルを参考にしてるって聞いてとても納得した



 

 

 

 

『ソニックアロー!!』

 

「今度は弓かよ!!」

 

『ズッドーン!!』

 

 

ソニックアロー、ガシャコンスパロー、両者から放たれた矢が交錯し、レーザーターボだけが疲弊していく。途中から参戦したメディア・リリィの助けもあって体力の余裕だけはあったが、彼は精神的に潰れかけていた。

 

 

「……」

 

『クルミボンバー!!』

 

『マンゴパニッシャー!!』

 

『パインアイアン!!』

 

 

そんなレーザーターボの前に、巨大な質量が幾つも浮遊する。正面から食らったならば、ミンチより酷い姿になるだろう。彼は背筋に冷たいものを感じた。足がすくんだ。

 

 

「マスター!!」

 

「貴利矢さん!!」

 

「っ!!」

 

 

彼は後方からのマルタとメディア・リリィの声で自分の意識を取り戻す。そして、慌てて彼女の方へと駆け寄った。

 

 

「マスター!! 隠れて!! 刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

「おう!!」

 

 

マルタの前方に、タラスクの甲羅が現れる。マルタとレーザーターボとメディア・リリィとがその裏に隠れ、攻撃に耐えようとする。

 

 

   ガンガンガンガンガンガン

 

「っ……!! 耐えてる!!」

 

「よし、良いぞ姐さん!!」

 

 

そして実際に、タラスクの甲羅は鎧武の攻撃を弾いていた。確かに、防御していた。

……しかし、盾の裏に隠れている彼らは、鎧武の姿を見ることは出来ない。彼らは、鎧武がもう新しい武器を手に取っていることが見えなかった。

 

 

『ブドウ龍砲!!』

 

『極 スカッシュ!!』

 

 

鎧武の手には小銃が握られていた。その銃身に、エネルギーが溜まっていた。照準は盾の中心に。巨大な質量での面の攻撃が効かないのなら、一点集中で貫くまで。

 

 

   バァンッ

 

   ダンッ

 

「っ……!?」

 

「マルタさん!?」

 

 

刹那、マルタの胸に穴が開いた。弾丸に貫かれた盾は構成する魔力が解けるのに合わせて消滅する。

レーザーターボはマルタを抱き上げて立ち上がった。もう、戦いは厳しい。勝てない。

 

 

「ヤバい、逃げるぞ!!」

 

「無理よ!! 間に合わない!!」

 

「ああ、駄目です!!」

 

 

しかし抱き上げられたマルタは、鎧武の手元の絶望に視線を縫い付けられていた。今の鎧武の周囲には、エネルギーを纏った数本の槍が浮いていた。

 

 

『バナスピアー!!』

 

『極 オーレ!!』

 

 

そして、それらは同時に発射され……

 

 

 

 

 

   ガキン ガキンガキンガキン

 

「大丈夫ですか!?」

 

「お前は……!!」

 

「クロノス……!!」

 

 

クロノスが三人を庇うように立って、それら全てを弾いていた。マシュが変身したクロノスだった。

レーザーターボは彼女を観察する。鎧武と斬り合う彼女の右手には見覚えのある大剣(ガシャコンカリバー)が、左手には何処かで見たような剣(バルムンク)が握られていた。

 

 

「……何するつもりだ」

 

「……ここは、私が」

 

『ポーズ』

 

 

 

 

 

『リスタート』

 

「……消えた、か」

 

 

次の瞬間には……少なくとも彼らの基準での次の瞬間には、クロノスも鎧武も見えなくなっていた。どうやら、クロノスは鎧武と共に何処かへと移動したらしい……それは同時に、鎧武にはクロノスの時間停止は通じないということも示していた。

 

───

 

 

 

 

 

「あ、着いたみたいね!! 数は……五百人ちょっとかしら?」

 

「ふっ……やはり、大したことはないな。ジル・ド・レェだけで大半が弾けとんだ上に、勝手に発生したトラブルでの自爆も相次いだのだから、この数も当然と言えば当然か」

 

 

ナーサリーは何時ものように階下を見下ろしながら、ビルの回りに集まる自衛隊の車両を見つめていた。自衛隊員が五百人、サーヴァントが五百体、火器が数百……その程度、最早何でもない。

 

 

「まあ、私達が何もしなくても大丈夫なんだけどね」

 

「そうだな。……開発に戻るとしよう」

 

 

 

 

 

「帰ってくれ!! 帰らないのなら、余はお前たちを射つ!!」

 

 

ラーマは、四階からそう呼び掛けていた。自衛隊は彼の言葉に耳を貸そうとは端から思ってなどいないらしく、向こう側にいるサーヴァントの宝具か何かで防御シールドを展開する。ラーマと、その隣のシータはほんの少しだけ目を伏せた。

 

 

「命を奪ってでも、檀黎斗の道を切り開く……そう、言っただろう?」

 

 

いつの間にか二人の後ろに来ていたアヴェンジャーが、そう告げた。二人はその言葉で再び自衛隊に向ける視線を鋭くし、各々の武器を構える。

 

 

「……羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)

 

 

矢が降り注ぐ。その中を炎を纏った剣が走る。

それは自衛隊を守るシールドを容易く穿ち、敵の集団の中に突き刺さっていく。銃を構えて車両の外に出ていた隊員達は、あっという間に消滅した。

 

このゲンムコーポレーションは、ゲンム側のサーヴァントを強化する。その矢は、人を殺すなど容易いもので。

 

 

「では……オレも行く」

 

『ガッチョーン』

 

『Perfect puzzle』

 

『Knock out fighter!!』

 

 

そしてアヴェンジャーが隣の窓から飛び出し、空中で変身した。彼目掛けて自衛隊は引き金を引くが、出現したパネルに阻まれた。

そして、アヴェンジャーは着地する。

 

 

『パーフェクトノックアーウト!!』

 

「……行くぞ」

 

『ガシャコンパラブレイガン!!』

 

───

 

 

 

 

 

 

『透明化!!』

 

「消えた!?」

 

「何処だ!! 探せ!!」

 

「あっち側に移動し──」

 

   ザンッ  ボトッ

 

 

アヴェンジャーは、もうたった一人で百人は殺していた。首を斬った。腹を裂いた。背骨を折った。

初めの初めは勇ましかった自衛隊は、もう皆逃げ腰だった。サーヴァントは上からの射撃で消滅していく。ゲンムコーポレーションに挑もうとする勇士はアヴェンジャーに殺され、我先にと逃亡しようと走る人間は──

 

 

「逃亡など無意味。神の前には皆等しき供物に御座います」

 

「あ、ああ、ああああ!!」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

 

『テール・オブ・クリティカル エンド!!』

 

 

──自衛隊車両の妨害から帰還したクトゥルーに皆挽き潰された。

 

ここは、地獄だ。アヴェンジャーはまた首を跳ねながら思う。ここは、神の作った箱庭であり、その中のオブジェである自分達は、与えられた役割を果たすのみだ、と。

悲鳴は、まだ止まない。

 

───

 

『無双セイバー!!』

 

『火縄大橙DJ銃!!』

 

『大橙丸!!』

 

「……セイハー!!」

 

   ザンザンザンザンザンザン

 

「っ……」

 

 

クロノスと鎧武は、鬱蒼とした森の中で二人だけで戦っていた。クロノスとしては相手の厄介な武器召喚能力を封じようという狙いがあったのだが、鎧武は超巨大な薙刀を生成し、容易く周囲の木々を切り株に変えてしまっていた。

 

 

『Noble phantasm』

 

「……まだまだ!! 約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

「……」

 

『メロンディフェンダー!!』

 

 

クロノスが力を籠めて放った宝具も、三枚ほど重ねて呼び出されたメロンディフェンダーによって受け止められ、鎧武本体には届かない。

 

 

「っ、なら……!!」

 

 

今度はクロノスは、地面に突き立てたバルムンクの方にエネルギーを籠めた。地面ごとひっくり返してやろうという魂胆だった。

 

 

「疑似解放・幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

地面が揺れる。剣から溢れたエネルギーが岩盤を抉り、相手を貫く……クロノスはそうイメージしていた。そして再び鎧武の方に目を向け……

 

……もうそこに、鎧武はいなかった。

 

何処にもいなかった。……鎧武は、クロノスの前から消えていた。

 

───

 

 

 

 

 

「っち……何だよあいつら……!!」

 

「仕方ないでしょうセンパイ? 誰だって危ないところには行きたくない物ですよ。……まあ、上司に逆らえないアリさんみたいなハートの人は命令されるままに彼処に行っちゃったみたいですけど」

 

 

パラドとBBは走っていた。全力で走っていた。

自衛隊がゲンムコーポレーションに向かったと知った彼らは議事堂を飛彩とジャンヌに任せ、途中まで役人に送らせて、ゲンムコーポレーションを目指していた。

 

そして彼らは、とうとう戦場へと……いや、戦場()()()場所に辿り着く。

 

 

「これは……」

 

 

そこは、凄惨な現場だった。車両は砕け散り、地面は歪み、周囲には火が回っていて……そして、人間は皆消滅していた。

既に変身を解いたアヴェンジャーとジル・ド・レェが、立っていた。

 

 

「何でだよ……何でお前ら、こんなことが出来るんだ!!」

 

 

パラドは、思わず叫んでいた。問わずにはいられなかった。どうして彼らは、こんなに人を殺して平気でいられるのか。彼にはもう分からなかった。

 

 

「……残酷な話だ。檀黎斗も面倒な方法(ゲーム)を選択した」

 

「……どういうことだよ」

 

 

アヴェンジャーはパラドの目を見つめていた。パラドの中の憎しみを見た。そして、悲しくなった。

 

 

「オレ達は、檀黎斗の産み出した駒だ。その行く末を見届ける為の駒だ」

 

「ええ!! 我々は皆我らが神の前に同じ。ただ我々は、神の意に従ったまで」

 

「何だよそれは!! お前ら、ゲンムに言われたからこいつら皆殺しにしたのかよ!!」

 

「その通りで御座います!! 命のルールは最早神の物となった!! 神の望むがままに、我々は命を送り届けるのです!! ハハハハハ、アーハハハハハ!!」

 

 

ジル・ド・レェは、アヴェンジャーとは反対に興奮していた。両手を振り上げて叫ぶ彼の顔には笑いが溢れていた。

パラドは知らず知らずの内に拳を握っていた。彼は怒っていた。少なくともこの二人の内の片方は、命を何とも思っていない。

 

パラドは、過去の己をジル・ド・レェに重ねていた。命を軽んじる彼を。……憎かった。あの時、笑いながらライドプレイヤーを殺した自分が。だから、彼らは倒さないといけない。

 

 

「……変身」

 

『Perfect puzzle!!』

 

「……良いんですかセンパイ? 助ける対象がいないなら、撤退した方が身の為ですよ?」

 

「……それでも!! こいつらを放っておけねぇ!!」

 

「……全く、単純な思考回路です」

 

 

BBはやれやれと溜め息をついた。パラドクスは止まりそうになかった。

どうしても駄目だと思ったら何時でも逃走できるように少しだけ気を付けながら、彼女は走り出したパラドクスに続く。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!


───パラドクスの戦い

「まだだ……まだだ!!」

「逃げますよ!! そうじゃないと──」

「供物が、また一人……」


───貴利矢の推測

「命のルール……」

「もしかしたら、の話だが」

「気になったことがある」


───戦いの激化

「……フォーゼか。下がっていろ」

「空中戦か。援護する」

「病院が壊れる!!」


第四十一話 Another Heaven


「真黎斗の目的は……」


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第四十一話 Another Heaven

フォーゼのロケットスイッチ

『ロケット オン』なんだろうけど『ブロージェット オン』にしか聞こえない



 

 

 

 

パラドクスが地を転がる。彼は既に傷だらけだった。ライフゲージは、もうとっくに赤かった。ギリギリで、彼は命を繋いでいた。

 

 

「……無益だな」

 

『伸縮化!!』

 

『パーフェクトノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

 

アヴェンジャーの腕が伸び、立ち上がろうとしていたパラドクスの首を強く薙いだ。パラドクスは回避も叶わずそれをもろに受けて吹き飛ばされ、それでもよろよろと立ち上がる。

 

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

「まだだ……まだだ!!」

 

 

その姿は、多くの人が見苦しいと感じるような物だった。泥だらけ。煤だらけ。傷だらけ。痛々しく、もどかしい。そんな感想を抱かせるような物だった。

 

BBは、その隣でクトゥルーと戦っていたが、彼女もまた苦戦していた。途中からパラドクスの援護も途絶え、今は両手両足を拘束されてもがいている。

 

 

「ちょっ……離してくださいぃ!! ヘンタイさんですかぁ!?」バタバタ

 

「それは聞けない話ですねぇ、神に逆らう者は、穢れて堕ちなければならない」

 

「っ……」

 

 

共に、限界だった。

そもそも、二人とも察していた。無理がある戦いなのだと。それでもパラドクスは止まれなかったし、BBはそれについていった。

……しかし、もう退き時を迎えていた。最後のチャンスだ。

 

BBがどうにかクトゥルーの触手を切断し、アヴェンジャーにやる気なくなぶられていたパラドクスの元へ駆け寄る。

 

 

「っ……」

 

「逃げますよ!! そうじゃないと、死にますよ!! マスターだって、今は人間と同じような状態なんですから!!」

 

 

そして彼女はパラドクスを背負い、走り出そうとした。

しかし、もう遅すぎた。BBの前にはもうクトゥルーが移動していて。疲弊したパラドクスは動けず、それを背負ったBBも速度は出せず。

 

 

「ふふふふ……供物が、また一人……」

 

『テール・オブ・クリティカル エンド!!』

 

「っ……」

 

 

そして、立ちはだかる男の向こうに、邪神が目を覗かせ──

 

 

 

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!!」

 

   ダンダンダンダンッ

 

「なっ……」

 

 

黄色い閃光が走り込んだ。その手に握られた弓からは数発の矢が放たれ、邪神の眼球を射ち貫く。そして、閃光は二人を庇うようにして停車した。

 

 

「ふぅ、ギリギリだったぜ」

 

「レーザー……!!」

 

 

仮面ライダーレーザーターボ。彼が、全速力で駆け込んできていた。バイクゲーマに跨がったまま、彼はBBとパラドクスに目を向ける。

 

 

「早く乗れ。逃げるぞ」

 

「でも……」

 

「良いから!! 話は後で聞く」

 

 

クトゥルーとアヴェンジャーは一瞬視線を交差させ、そしてクトゥルーがバイクゲーマへと飛びかかっていく。避けなければ一堪りも無いだろう。

それでもレーザーターボは焦らず、後ろにBBとパラドクスが乗ったのを確認すると、キメワザスロットにときめきクライシスを装填した。

 

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

「……じゃあな」

 

 

ハートと星が、バイクを中心に巻き起こった。それはクトゥルーを受け止める壁となり、相手を撒く為の煙幕となって。

そして、彼らは撤退した。

 

───

 

 

 

 

 

「全く……無理ゲーだって分かってたろ?」

 

「……悪かった」

 

 

シャドウ・ボーダーと合流した貴利矢達は、座らせたパラドから事の顛末を聞いてやれやれと肩を竦めていた。

気持ちは分からないでもないが、良い選択とは思えなかった。彼の行為は、明らかに彼自身の命を粗末にしていた。

 

 

「にしても、命のルールなぁ……」

 

 

貴利矢は天井を仰いで呟く。いかにも檀黎斗という奴が言いそうな台詞だ、とぼんやり思った。そして……どこか、引っ掛かりを覚えた。

 

現在の命のルールとは何だろう。

死んだら復活できない。若返りができない。蘇らせることができない。パッと上げられるのは幾つかあるが、そのどれもが一方通行だ。

それを、私物化するのなら。何をするのだろう。……自分なら、何を望むだろう。

 

一つの仮説が、閃いた。

 

 

「……どうしました? ずーっとフリーズしてましたけど」

 

「あ……悪い。考え事してた」

 

「何をですか?」

 

 

話すべきか、一瞬迷った。しかし態々勿体振る理由も見当たらない。貴利矢は、少し小声で話し始める。

 

 

「自分等は、さっきまで仮面ライダー鎧武と交戦していた。倒せなかったがな……その中で、気になったことがある」

 

「……何だよ」

 

「鎧武が他のマスターを攻撃したら、そのマスターは()()したんだ。胸を撃たれようが首を斬られようが、体が死ぬ前にゲーム病で消滅している」

 

「確かに……」

 

「それは、死へのストレスでそうなったんじゃないのか?」

 

「いや……それは多分違う。……死へのストレスで前も見えなくなるような奴でも、ゲーム病で消滅はしなかった」

 

 

貴利矢は、かつて死んだ友を思い返した。ゲーム病だと聞いて、パニックになって呆気なく死んだ友。そんな患者でも、ストレスで消えた訳ではなかった。つまり、単純な死への恐怖は、決定的なゲーム病のトリガーにはならないのだろう……貴利矢はそう推測する。

 

 

「もしかしたら、の話だが……真黎斗の目的は、日本の全ての命をゲームオーバーにすることなんじゃないか、と思ってな」

 

「……何だって?」

 

「何のために、そんなこと……」

 

 

そして、その結論に辿り着いた。

 

 

「命の管理だ。真黎斗は世界のルールを、命の定義を塗り替えるつもりなんだと、な……そうだろ、神!!」

 

「……」カタカタカタカタ

 

「態々ゲームオーバーになる人間の病状を強制的に悪化させて、肉体の死を迎える前に消滅させている理由なんて、それしか思い浮かばないんだが?」

 

 

黎斗神は、ひたすらキーボードを叩いていた。その口元には、ほんの少し、笑みが浮かんでいた。貴利矢の言葉は、少なくとも黎斗神にとっては、無いだろう中々面白い物だった。

 

 

「君ごときが神の考えの一端に辿り着くとは非常に腹立たしいが……恐らく、外れてはいないだろう。私でもそれは、目的として考えたことがあったからな」カタカタカタカタ

 

「へー……ふーん」

 

「常世全ての命を管理する。争いを消去し死を消去し悲しみを消去した理想郷。確かに存在する、もう一つの天国。それは……私が目指すに足るものだろう」カタカタカタカタ

 

「黎斗……」

 

 

ポッピーが、黎斗神の後頭部を見つめていた。彼の言葉は不安を煽った。もしかすれば、黎斗神は真黎斗に同調してしまうのではないか、と。二人が手を組んだなら、世界は終わる。

 

 

「檀 黎斗神だ!! ……心配するな、あの檀黎斗と私は相容れない。私は、あの私を圧倒する」カタカタカタカタ

 

 

……しかし、その考えはすぐに払拭された。

 

 

「その為にはデータが必要だァ……もっとデータをかき集めろ、戦場に赴き、サーヴァントを倒し、魂のデータを集めさせろ!!」

 

「はいはい、煩ぇぞ神」

 

───

 

徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)!!」

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

 

ライドプレイヤーが吹き飛ばされる。宙に舞うそれらは既にひしゃげていて、それらを吹き飛ばした二人のはぐれサーヴァントのレベルは着々と上昇していた。

片方の名はエリザベート・バートリー、もう片方はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。……ついでに、イリヤの手にはルビーというステッキが握られていた。

 

 

「ほえー、終わりました……疲れた……」

 

「そうですねー」

 

「……そうね。多分きっと、レベルはかなり上がったわ」

 

 

エリザベートは伸びをしながら腕を振る。力を入れずとも、簡単に速く動いてくれた。これがレベルアップか、と彼女は感心する。

 

 

「でも、まだ、多分足りないわね」

 

「……仮面ライダーって、そんなに強いんですか?」

 

 

些細な疑問だ。イリヤは、ほとんどの仮面ライダーを知らない……いや、それは全てのサーヴァントに対して言えることだが、イリヤは仮面ライダーウィザードすら知らない。故に、それがどのようなスペックを誇るか知らない。

エリザベートはそれを悟り、努めて淡々と説明した。

 

 

「……パンチ力40トン。キック力65トン。100m走5秒」

 

「ええええええええ!?」

 

「バケモノじゃないですかー!!」

 

 

驚愕する声が二つ。数字にすれば、これ程までに恐ろしい。確かに、仮面ライダーはバケモノなのだ。

 

 

「ええ、そうね……バケモノなのよ」

 

 

それでも、彼女は操真晴人を知っている。目の前の傷ついた人を、その希望を守ろうとする、男の姿を。仮面ライダーの中身を。

 

だからこそ、そのガワだけが勝手に動くなんてあってはならない。仮面ライダーウィザードは、操真晴人が変身しなければ意味がない。……勝手に彼の姿が使われるのは、我慢ならない。

だから倒す。最後の希望はこの手で守る。エリザベートは、そう再び決意した。

 

───

 

 

 

 

 

 

花家医院には、再び人が集まり始めていた。聖杯戦争の脱落者、戦いを求めない者、ここに来て怖くなったものは皆、保護を求めて聖都大学附属病院か、もしくはここに逃げ込んでいた。カリギュラの撒いた狂気は、とっくに鎮まっていた。

ニコは増える人々をほんの少しだけ不満に思いながら、増えてくる人々を受け入れるために設備を整備する。暫くの間外で戦っていたフィンもまた、今はまたひたすら癒しの水を作っていた。

 

 

「何よあいつら、勝手に病院から居なくなったら今度は何倍にもなって押し寄せてきちゃって……」

 

「まあそうかっかするなマスター。良いことじゃないかい?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

何か気にくわない。大我は彼らを守るために戦っているのに、守られるべき人々が勝手に傷ついてしまっては彼に安寧はない。休む暇なく戦えば、いつか……死ぬ。

 

そこまで考えて、ニコはかってにはっとした。大我は今も外で戦っている。周囲のマスターと戦っている。それがふと怖くなった。

ニコは慌てて外に飛び出そうとして──

 

 

   ゴンッ

 

「痛ぁっ……っつつ……」

 

「……どうした」

 

「大我……」

 

 

いつの間にやら戻ってきていた大我と正面衝突した。ニコは安心すると共に気恥ずかしくなって咄嗟に俯く。

 

 

「アーチャーは何処だ」

 

「まだ上で狙撃中……というか、念話使えるでしょ?」

 

「慣れなくてな……そうか、上か」

 

「……どうしたの?」

 

「仮面ライダーだ。仮面ライダーフォーゼが近づいている」

 

 

どうやら大我は、近くに仮面ライダーフォーゼというものが近づいていると知り、援軍を求めに来たようだった。ニコはそのフォーゼとやらがどんなものかは知らないが、仮面ライダーの名を冠するからにはそれなりには強いのだろうと思っていた。

大我が上の階へと上っていく。

 

───

 

そうして大我は、エミヤを引き連れて病院を出た。ニコも一応ついていく。

そうしていれば、すぐに誰かの声が聞こえた。戦っているのが声だけで分かった。

 

 

「……フォーゼか。下がっていろ……第参戦術」

 

『ガッチャーン!!』

 

『バンバンシューティング!!』

 

『ジェットコーンバーット!!』

 

 

大我は変身しながら飛び出して、声の方へと飛んでいく。ニコとエミヤが慌てて追いかけて町の角を曲がってみれば、そこではもうスナイプと白いイカみたいな頭の存在が向き合っていた。それが、仮面ライダーフォーゼだった。

 

 

「よお。久しぶりだな……御託はいらねぇ、ガシャット寄越せ」

 

「……」

 

『ファイヤー オン』

 

 

フォーゼの方もスナイプを捉え、拳を作って二回胸を叩き、その拳をスナイプに突き出した。丁度、何かの挨拶のようだった。

それと同時にフォーゼは炎に包まれて、右手に銃を持った真っ赤なカラーに変身する。

 

 

「……見たことねぇ姿だな」

 

「……」

 

『ジャイロ オン』

 

 

そしてフォーゼは、左手に緑色のプロペラを呼び出して宙に舞った。スナイプもそれに合わせて飛び出す。

 

 

「空中戦か。援護するぞ、マスター」

 

 

目を離していた隙に近くの家の屋根に上っていたエミヤがそう声を上げる。

 

 

「頼んだ……悪いな。タイマンは張ってやらんぞ」

 

「……」

 

『ランチャー オン』

 

『ガトリング オン』

 

 

フォーゼはそれに反応して、両足に青い機械を装着、右足からミサイル、左足のガトリングから弾丸を乱発し始めた。フォーゼに感情は無い筈なのだが、両足に更にモジュールを展開して飛び回る姿はニコには怒っているように思えた。

スナイプもまたそれに合わせて弾を放ち、エミヤも矢を放ち始める。周囲に硝煙の臭いが漂い始めた。周囲が破壊に満たされる。

 

 

「離れて!! 危ないから!! 病院が壊れる!!」

 

「おっと……そうだったな」

 

『ステージ セレクト!!』

 

「じゃあ、後でな」

 

 

ニコが慌てて声をかければ、スナイプはフォーゼとエミヤと共に何処かへと消えた。ニコはそれを見送り、病院へと戻っていく。





次回、仮面ライダーゲンム!!


───エリザベートの冒険

「とうとう見つけたわ」

「倒してガシャットを剥ぎ取りましょう!!」

「貴方は、私が止める」


───世論の動き

「本州が、飲み込まれたな」

「どうするんですか?」

「受け入れの動きが、加速している……」


───フォーゼ対スナイプ

『コズミック オン』

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

「I am the born of my sword──」


第四十二話 Just the beginning


「不味い、避けろマスター!!」


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第四十二話 Just the beginning


裏設定ウィザード編

日本を旅していた操真晴人は、自らを大魔女と名乗るピンク髪のキャスターと遭遇し、共にゲンムコーポレーションへと向かう。
しかしその途中で他のプレイヤーとの戦闘でキャスターは消滅、バイクも故障し、彼は麻痺した交通機関をどうにか使用して旅を続けることを余儀なくされた。



 

 

 

 

 

I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)──偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

 

矢が奔る。それは音すらも置き去りにし、空間は抉り取り、フォーゼの左腕のプロペラを捉えていた。

 

 

「……!!」

 

「勝負あった、って所か」

 

 

スナイプとエミヤは、フォーゼと戦闘を続けていた。仮面ライダー二人はゲームエリアを縦横無尽に飛び回りながら互いに互いを撃ち合い、そしてエミヤがスナイプを援護する、そんな形だった。

 

フォーゼは既に、炎を吐き出す真紅の銃を取り落としていた。左足のガトリングもエミヤの援護で故障し、左手のプロペラもたった今半分が弾けとんだ。

 

今なら倒せる。スナイプはそう踏んで、ガシャットをキメワザスロットに装填する。

 

 

「これで決める」

 

『キメワザ!!』

 

 

スナイプは、ゆっくりと落ちていくフォーゼに照準を合わせた。後はトリガーを引くだけで、ミサイルがフォーゼを破壊する。

そうなるはずだった。

 

 

「止めだ」

 

『ジェット クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……」

 

『ウインチ オン』

 

『ステルス オン』

 

 

……しかし、スナイプがトリガーを引いたその瞬間に、フォーゼはスナイプの視界から消え失せた。

瞬間移動の類いではない。フォーゼは、ランチャーモジュールを解除してステルスモジュールを装着していた。……効果は単純。フォーゼは五秒間、完全に透明化する。

 

 

「っ、消えた……?」

 

 

そして、その五秒間があれば、フォーゼがスナイプに接近するには十分だった。

 

ミサイルはあらぬ方向へと飛んでいく。攻撃を外したスナイプは慌てて辺りを見回し、それと同時に左翼に重量を感じた。

次の瞬間。

 

 

『ガッシューン』

 

『ガッチョーン』

 

「まさかっ!?」

 

 

フォーゼはジャイロスイッチを抜いて代わりに装填したウインチスイッチの力でスナイプの背中まで舞い戻り、キメワザスロットからガシャットを奪った上でスナイプをレベル1に戻していた。

 

翼を失った戦闘機が飛んでいられる道理はない。スナイプはフォーゼと共に、きりもみ回転しながら落下していく。

 

───

 

 

 

 

 

「本州が、飲み込まれたな」

 

 

議事堂のスカイウォール監視室、その中で誰かが淡々と呟いた。

車の速度で拡大していたスカイウォールは突如その速さを変更し、本州の全てを、そして四国を飲み込んだ所で静止した。それと同時に壁としての機能を復活させた。

 

その様子は、永夢も眺めていた。何も出来ずに。

 

 

「どうするつもりなんですか?」

 

「……どうも出来る訳無いだろう……!!」

 

 

問いをかければそう返される。その顔には焦燥と絶望しか浮かんではおらず。……それでも、誰もが動き続けていた。

 

 

「マスター、体調はどうですか?」

 

「ああ……大丈夫です。もうそろそろ、外の方に行きましょうか」

 

 

永夢は、立ち上がりながら部屋を見回した。そして、どうにかして溢れ落ちそうな希望を握り締めた。

 

遮断する壁は再び落ちた。

他国からの信号は途絶え、大地はゲームエリアと化し、この日本は、ひとりぼっちの国となった。

それでもなお、このゲームを投げることは出来ない。足掻かないという選択肢は、残されていない。誰もが皆、死を恐れているから。命を繋ぐには、戦うしかないのだから。

 

諦めるな。そんな声が、何処かから聞こえたような、そんな気がした。

 

───

 

「受け入れの動きが、加速している……のか?」

 

 

スカイウォールが動きを止めたのに対して、あるものの動きは激しくなっていた。それを、恭太郎は観測していた。

 

人の心の動きだ。

 

 

『FGOとかいう神ゲー』

 

『戦争楽しすぎワロタ』

 

『俺のアーチャー宝具射たせたら爆死したんだけど』

 

『正直早く参加したい』

 

『可愛い女の子と毎日過ごせる良作』

 

『↑俺のサーヴァント筋肉なんだがどうしてくれる』

 

『↑女性マスター捕まえればいいだろ』

 

『↑↑筋肉最高じゃないか!! いい加減にしろ!!』

 

 

人の心の動きとは不思議なものだ。初めのうちはゲームエリア外の皆誰もがこの現象を危ぶんでいたのに、いつの間にか一人、二人と受け入れる姿勢を示し、それは伝染し広がっていた。

始まりが誰だったのか、もしくは真黎斗が自分で広めた風潮だったのかは、今となっては知るよしもないが、少なくとも今なら日本の半分はこのゲームを受け入れている。上のような意見は、とっくに多数派を占めるようになっていた。

 

人々は死を恐れなくなった訳ではない。この非現実的な状況下において人々の中には根拠のない自信が溢れるようになっていた。

秩序は失われた。ゲームエリアに自ら侵入する人々も増えた。ニュースは肯定的な意見を流すものと否定的な意見を流すものとで二分され、情報は錯綜するようになった。

 

 

『あの社長なら北の国とかでも簡単に黙らせられそう』

 

『↑ゲームによって世界が平和になる可能性が微レ存……?』

 

『↑微レ存どころか十分にあり得るだろ。一度掌握すれば全ての国の兵器が機能停止だぞ?』

 

『現に自衛隊は機能停止してるしな』

 

『正直抗うより受け入れた方がずっと楽しいと思う』

 

 

その声を、恭太郎は苦々しい顔で見つめることしか出来ない。彼に、人々を守る力はない。政府は、未だに死んでいる。

 

 

「マスター、これは……」

 

「ええ……不味い。とても、良くない状態だ」

 

「……どう、するんですか?」

 

「さて……どうしようか」

 

 

恭太郎は横にいるアルジュナを見ることもなく天井を仰いだ。

日本を守ろうと思ってはいるがそればかりで、彼には何も出来ないのだから、そうすることに意味はなかった。ふいに、己が情けなくなった。それでも、全てを投げ出すことは出来なかった。

 

───

 

 

 

 

 

「うーん……困ったわね。まさかこんなにやるなんて……」

 

 

ナーサリーはモニターから目を離し、もうすっかり暗くなった窓の外に目を向けて大きく伸びをした。

モニターの向こうでは、スナイプとフォーゼが戦っていた。スナイプはレベル2であるにも関わらず、戦況はスナイプに傾いていた。

 

真黎斗はやれやれと溜め息をついてマウスに手をかける。

 

 

「フォーゼは、開発する上で最も私を手こずらせた仮面ライダーだ。ただでさえ他のライダーより強さが見劣りする上に、友情などという不安定な物がないと変身すら危うくなる。強化を加えるのも一苦労だった」

 

「だから、今も苦戦してるの?」

 

「恐らくはな。……しかし、ただの仮面ライダーだけに倒されるのは、流石に私とて面白くない」

 

「じゃあ、どうするのかしら?」

 

「……不快だが、少しばかりバフを盛らせて貰おう」

 

 

そう言って彼は、フォーゼのデータを開き、キーボードを叩き始めた。

 

───

 

フォーゼの動きが変わった……スナイプがそう感じたのは何時だったか。スナイプは、フォーゼの攻撃を受け流しながら考える。

 

 

『クロー スモーク シザース リミットブレイク!!』

 

「チッ、またか!! こいつ、急に強くなりやがった……!!」

 

 

恐らく必殺技なのであろう、リミットブレイクをやけに多用するようになった。しかも疲れも見られない。

 

スナイプが、フォーゼの足から吹き出した煙に包まれた。スナイプはそこから抜け出そうと後ろに飛び退くが、その瞬間にはフォーゼの両手の刃物で切り裂かれていた。

スナイプのライフがまた減少する。彼は一つ舌打ちした。

 

 

「まさか、ゲンムの野郎……何か支援してるのか?」

 

『ズッキューン!!』

 

 

フォーゼに狙いを定めて引き金を引く。さっきまではそれは普通にフォーゼに命中していたのに、今はそれすら躱される。明らかに反応速度が上がっていた。

 

 

「それなら……」

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

「……」

 

『コズミック オン』

 

 

出し惜しみはしないと、スナイプがドラゴンゲーマを身に纏う。その反対側で、フォーゼが赤い姿から、剣を持つ青い姿に変身する。……フォーゼ、コズミックステイツ。大剣バリズンソードを扱う仮面ライダーフォーゼ最強の姿であり、本来ならば仲間との友情が無ければ成立しない形態。それを、真黎斗は外身だけでも再現していた。

 

 

「──赤原猟犬(フルンディング)!!」

 

 

それを何となく察しながら、エミヤは遠巻きから、40秒分かけてチャージした矢を放つ。スナイプが注意を引き付けてくれた為にチャージは万全、フォーゼの背後から放たれたその矢はどこまでもフォーゼを追いかけ続ける……筈だった。

 

しかし、その矢はフォーゼに当たることなく弾かれる。二度、三度と矢はフォーゼを狙うが、近づく度に吹き飛ばされる。

スナイプはそれを呆然と見ることしか出来ず。

 

 

『ビート オン』

 

『フリーズ オン』

 

 

そして、フォーゼの右足に赤いスピーカーのような形のビートモジュールが展開された。それと共にフォーゼは振り向き様にそこから大音量で音楽を流し──その音が赤原猟犬を捉えた瞬間に、その周囲の空気ごと矢は凍りついた。

 

 

「なっ……!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 

更にフォーゼは振り返り、ビートスイッチをドライバーから引き抜く。

 

 

『ランチャー オン』

 

『ペン オン』

 

 

そしてフォーゼの右足に再びランチャーモジュールが呼び出され、そこからミサイルが四発打ち出された。しかし今度は先程までとは別物──ミサイルの軌道の後ろから黒い筋が走っていた。

 

コズミックステイツの最大の特徴は、能力の重ねがけにある。フォーゼは四十のスイッチを扱うが、その能力を別のモジュールに加算することが出来るのだ。

さっきはビートモジュールにフリーズスイッチの力を加算して、音を浴びせた物を凍らせた。そして今はランチャーモジュールにペンスイッチの力を加算している。能力は……

 

 

「何だこれっ……」

 

 

スナイプは、飛び回るミサイルから吐き出された黒い筋にがんじがらめにされていた。

その黒い筋がペンモジュールのインクだ。ペンモジュールは瞬時に硬質化するインクを持つ。今回、フォーゼはそのインクをミサイルに含ませることで、スナイプの動きを封じていた。

 

 

『スコップ オン』

 

   ザクッ

 

「っ、私の方にも来たかっ!!」

 

 

更にフォーゼは、バリズンソードにスコップスイッチを装填、振り向き様に大地を抉り、射撃を行っていたエミヤに向けて沢山の岩を投げつける。

エミヤはその全てを破壊したが、視界が晴れたその時にはもうフォーゼはその剣をスナイプに添えていた。

 

 

「っ、逃げろマスター!!」

 

「な──」

 

 

バリズンソードにはコズミックスイッチが入っていた。刀身には青い光が満ちていた。

避けられる筈もなく。

 

 

『リミット ブレイク!!』

 

「っあ……!?」

 

   ザンッ

 

───

 

 

 

 

 

「とうとう、見つけたわ……!!」

 

 

夜は終わりを迎えようとしていた。殆ど沈みかけた月の下でエリザベートは、そしてイリヤは、とうとうそれを見つけた。逃げていくプレイヤーの向こう側に、宝石の頭を見た。月に照らされたルビーのような体を見た。

そうなれば、もう戦うしかなかった。

 

 

「良いわね、行くわよ?」

 

『タドルクエスト!!』

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

「はい、行きましょう!!」

 

「倒してガシャットを剥ぎ取りましょう!! コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!」

 

「「変身!!」」

 

 

二人の少女は姿を変える。一人は仮面ライダーに、一人は魔法少女に。立ち向かうは魔法使いの仮面ライダー……その、模造品。

戦いはここから始める。エリザベートの戦いは、ようやっと始まった。

 

 

「……」

 

『コネクト プリーズ!!』

 

 

ウィザードは、エリザベートにとって見慣れた手つきで銀の銃を取り出した。エリザベートはその手に剣と槍を呼び出して、ウィザードへと斬りかかる。





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ウィザードの猛攻

「その剣も!! その銃も!! 全部、知ってるんだから!!」

『フレイム ドラゴン!!』

「これで決めるわ──」


───聖杯の行方

『今日のニュースよ!!』

「俺が……聖杯を?」

「あいつを倒せ!! 聖杯は俺が取る!!」


───BBの望み

「お前は、何がしたいんだ」

「そうですねぇ……」

「望むのならば、何だって叶うのだろうな」


第四十三話 Mystic Liquid


「会いたい人がいます」


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第四十三話 Mystic Liquid


実際にこのFGOクロニクルが発生したら作者は喜んでゲームに参加します
引き当てたサーヴァントがカッコいいイケメンか可愛い女の子だったら神を崇める自信があります



 

 

 

 

 

『ウォーター!! プリーズ!!』

 

『キャモナシューティング シェイクハンズ!! コピー プリーズ!!』

 

 

青いウィザードが二つの銃を構えながら舞い踊る。放たれた弾丸はランサーとイリヤ目掛けて軌道をねじ曲げ突き進む。

 

 

「まだまだね!!」

 

   カキンカキンカキン

 

 

その銃弾を、エリザベートが変身した仮面ライダーランサーは斬り伏せた。

彼女は右手にセイバー時に持つ剣を、左手にランサー時に持つ槍を構えて、その二本を振り回しながら戦っていた。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

「っ……この程度!!」

 

 

水の鎖がランサーを縛ろうとする。

ランサーはそれに一瞬だけ足を取られたが、それでもその鎖を切り払ってウィザードへと突撃した。

弾丸の雨を掻い潜りながら、青いウィザードに槍を伸ばす。

 

 

『Quick chain』

 

「はあっ!!」

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

その一撃は、ウィザードの展開した水の盾で阻まれた。

しかしランサーは慌てない。まだ慌てる要素は何処にもない。ランサーは、自分は勝てると踏んでいた。

 

 

「貴方にアタシは倒せないわ。だって──」

 

『キャモナシューティング シェイクハンズ!! ウォーター!! シューティングストライク!!』

 

「……」

 

   バァンッ

 

 

ウィザードが必殺の一撃を放つ。ランサーはそれを避けようとはせずに、しかしその弾道を見据えて、そして弾丸を剣で粉砕した。

 

 

「その剣も!! その銃も!! 全部、知ってるんだから!!」

 

 

それがランサーの自負。最後の希望につられてここまで来てしまった彼女の強み。

彼女はウィザードを知っている。檀黎斗によって作られたウィザードの戦いを知っている。ここにいる、やはり檀黎斗に作られたウィザードの攻撃を、見切れない訳がない。

 

 

「……」

 

『フレイム ドラゴン!! ボー ボー ボーボーボー!!』

 

「姿が変わっても同じよ!!」

 

 

ウィザードが業火を身に纏う。その姿も、ランサーは見覚えがあった。ウィザード、フレイムドラゴン。きっと時間制限は無いのだろうが……動きを見切ることは、出来る。ランサーは剣を握り直した。

 

 

『ビッグ プリーズ!!』

 

「よっと……」

 

 

巨大な腕が飛んでくれば、その下をすり抜けながら斬りつけた。遠くの方で援護射撃に徹しているイリヤはもろに殴られていた。

 

 

『ライト プリーズ!!』

 

「おっとっと!! その程度かしら?」

 

 

眩い光を浴びせられれば、咄嗟に剣で目元を隠した。イリヤは十数秒ほど何も見えなくなっていたようだった。

 

 

『キャモナスラッシュ シェイクハンズ!! ドリル プリーズ!!』

 

   ガガガガ

 

「見切ったわよ!!」

 

 

ウィザードが高速回転するウィザーソードガンを投げつけてきても、受け止めて遠くに撥ね飛ばすことが出来た。

ランサーは、ウィザードの攻撃全てに適応していた。これまでの旅で得た、経験値の賜物だった。

ウィザードの方には、微妙に疲れが見え始めた。ランサーはそれ幸いとバグヴァイザーに手を伸ばす。

 

 

『チョーイイネ!! スペシャル!! サイコー!!』

 

『タドル マジックザ クリティカル ストライク!!』

 

「これで決めるわ──|鮮血特上竜巻魔嬢《バートリ・ハロウィン・ブレイブ・エルジェーベト》!!」

 

 

ウィザードの胸から、ドラゴンの頭が現れた。

それと同時にランサーの足元に金切り声のような竜巻が纏わりつき、エネルギーが集中する。

 

そして、ランサーはライダーキックをウィザードへと放ち、それをウィザードがドラゴンの炎で迎え撃って──

 

 

 

 

 

「っあああああ!!」

 

『ガッシューン』

 

 

ランサーが、押し負けた。

当たり前のことだった。うっかりランサーは忘れてしまっていたが、彼女は力量でウィザードを上回っていた訳ではない。正面から争えば、勝てる訳がないのは明白だった。

押し負けたランサーは吹き飛ばされ、変身は解け、エリザベートは溢れ落ちたガシャットを拾いながら立ち上がる。

 

 

「ああっ、大丈夫ですか!?」

 

 

イリヤがエリザベートに駆け寄った。エリザベートはウィザードを見つめ、そして決断する。

 

 

「迂闊だったわね……一旦、逃げるわよ」

 

「え、良いんですか?」

 

「仕方ないでしょ!! ……私は諦めないんだから。これは、戦略的撤退なのよ」

 

 

勝利だけに囚われるよりも、彼女はどうすればいいのかを考えた。今ここで粘るのは得策ではないと、普通に考えられた。

この撤退は諦めではない。次は倒すという、決意の撤退。

 

 

「絶対、今度会ったら追い詰めるんだから。何処に隠れても無駄なんだからね!!」

 

 

そう、去り際に捨て台詞を吐いた。

 

───

 

 

 

 

 

『ナーサリー・ライムが8時をお知らせするわ!! 今朝のニュースよ!!』

 

 

ニコはその音声を聞きながら溜め息をついた。目の前のベッドで、大我が横たわっていた。

……暫く前に、エミヤが彼を担いできていた。フォーゼにやられた、と。逃げてきたと。

 

まだ、目を覚ましていない。今フィンが癒しの水を用意している。

 

 

「大我……」

 

『現在、仮面ライダーW、オーズ、ドライブが討伐されたわ!! 鎧武の討伐もあと少しよ!! 皆頑張ってね!!』

 

「……っ」

 

 

そんな声が流れてくる。オーズに加えて、Wとドライブというライダーも倒されたらしい。ニコは彼らを知らないが、きっとそれらも強いのだろうと考える。

自分にも戦う力が欲しい。今彼女の手元にあるのはライドプレイヤーにしかなれないガシャット。自分のコピーを倒してプレイヤーが成長するこの状況下では、ニコは野良のライドプレイヤーも倒せない。

 

───

 

その放送は、国会議事堂に戻ったパラドも聞いていた。隣では永夢が水分を補給していた。

ようやく、ここを襲ってくるプレイヤーも居なくなった。全てのサーヴァントを倒し、マスターを保護した。彼らは仮初めの安寧を掴み取りかけていた。

 

……しかし。

 

 

『そして聖杯なんだけれど……何と、千代田区の聖杯が完成度90%を突破したわ!!』

 

「っ、何だって!?」

 

「千代田区って、ここじゃないか!!」

 

「そんな……」

 

『最も聖杯に近いのは──ムーンキャンサーのマスター、パラドよ!!』

 

「俺が……聖杯を?」

 

 

ナーサリーの声に合わせて、突然パラドの上空に半透明の矢印が出現した。まるで、パラドの居場所を知らしめるように。更にそれと同時に、パラドの持っていたスマートフォンにパラドの位置へと案内するアプリが勝手に登録される。

 

 

「うっわ、何か出てきましたよセンパイ!?」

 

「何だよこれ……!!」

 

 

パラドの居場所は筒抜けになった。ゲームエリア中の全てのプレイヤーが、パラドが何処にいて何処へ向かうのかを知ることが出来る。プライバシーは焼き切れた。

 

 

『皆、これでパラドの居場所が分かるわね!! 聖杯が完全に完成する前にムーンキャンサーのマスターを倒せば、その聖杯の権利は倒したマスターに移動するわよ!! ラストスパートね!! 楽しみだわ!!』

 

 

……つまり、これから何が起こるのかは簡単に理解できる。

再び、聖杯を求めて人々がパラドに殺到するのだ。サーヴァントのある人も、ない人も。失った人を取り戻すため、己の正義を掴みとるため、勝利を奪い取るため──全てのプレイヤーが、パラドを殺しに行く。

 

この場でそんなことになれば、再び被害が拡大すること請け合いだ。

 

 

「……不味いな。パラド、ここから離れないと」

 

「あ、ああ……」

 

「そうですね……ここにいたら、目の色を変えてまたプレイヤーが来るんでしょうし」

 

 

永夢は、貴利矢に連絡を取ろうとする。

時は一刻を争う。時間がない。

 

───

 

「放送終わったわよ!!」

 

 

ナーサリーが笑いながら真黎斗に歩み寄った。真黎斗はパソコンに目を向けながらもナーサリーに手を伸ばし、頭を撫でる。そして画面を見ながら少し笑った。

 

 

「ゲームは順調に進んでいる。聖杯の完成も近い」

 

「そうね……仮面ライダーの倒され具合も順調よ。Wは千葉県のアキレウスに倒され、オーズは東京のアルジュナとアルトリア・オルタに倒され、ドライブは栃木のヘラクレス・オルタと柳生但馬守宗矩と相討ちになった」

 

「そうだな……それらサーヴァントのその後の経過は?」

 

 

ナーサリーも真黎斗の隣に腰掛け、再びパソコンを触り始めた。写し出されるのは各々のサーヴァントの経過。

 

 

「……まだ変化は無いわ」

 

「そうか……今はそれでも構わない……ハ、ハハハ……!!」

 

 

真黎斗は、大きく伸びをした。物事は順調に進んでいる。今は彼こそが万物の創造神であり、彼の道を妨げられる者はいない。

 

───

 

「……俺は」

 

「大我大丈夫? 意識ある?」

 

「っ、当たり前だろ……ったたた」

 

「まだ寝てて大我!!」

 

 

暫くして、大我は目を覚ました。目を擦りながら起き上がろうとしたら、尋常でない腹の痛みに顔が歪んだ。

ニコが慌てて大我をベッドに押し付ける。

 

フィンがニコの後ろから現れた。もう、その手に水はなかった。先程までは何度か大我の治療を試みていたのだが。

 

 

「……すまないなマスター。私の癒しの水は、彼には通じなくされている」

 

「そっか……」

 

「チッ、ゲンムの野郎め……」

 

 

どういうわけだか、フィンの水は大我にだけ効果を発揮しなくなっていた。どうやら大我がフォーゼに倒されかけた際に、彼の体に何かしらの異変が生じたらしかった。

 

 

「……アーチャーはどうした」

 

「また上で狙撃に戻ってる」

 

「そうか」

 

 

大我はまた起き上がろうとした。しかしニコが押さえるまでもなく、余りの痛みで彼は脱力した。

 

 

「無理はしないで……生きてて良かった。本当に」

 

「……」

 

 

ニコは、枕元から動けなかった。

 

───

 

 

 

 

 

「待たせたな!! 乗れ!!」

 

「分かった……ここは頼むぞ永夢」

 

「気を付けて」

 

 

国会議事堂まで、ようやくシャドウ・ボーダーが辿り着いた。その時にはもう時計の長針が半周ほどしていた。もう既に二人ほどマスターが攻めてきていた。

貴利矢が車のドアを開ければ、パラドはBBと共にその中に転がり込む。パラドと永夢の間に、大して言葉はいらなかった。……そして、ドアは閉められた。

 

 

「よし姐さん、出してくれ」

 

「分かったわ。スピード出していくわよ!!」

 

 

そしてシャドウ・ボーダーは動き始めた。パラドが車内に入っても、やはり車の上に矢印が浮かんでいた。

 

───

 

「……なあ。一応聞いておく。お前は、何がしたいんだ。お前が聖杯に懸ける望みは何だよ」

 

「……そうですねぇ……」

 

「何かあるんだろ。ここまで、戦ったんだから」

 

 

唐突にパラドはBBに話しかけた。BBの望みを問う物だった。既に彼らの目前に聖杯がある現在、その望みは叶えようと思えば叶えられるのであろう物だった。

 

 

「おい、パラド……」

 

「聞きたいんだ。俺もこいつも同じバグスターだ……叶えられる望みがあるなら、それは出来るだけ叶えたい。何でも、出来るんだろう? 聖杯なら……なあ、ゲンム?」

 

「……聖杯の力は絶大だ。パラド。聖杯の持ち主になったなら、そして君が望むのならば、何だって叶うのだろうな」

 

 

貴利矢はパラドをたしなめようとした。今は協力的なBBだが、彼女の願いを聞き出してしまえば、その結果その願いの為にパラドを裏切る可能性だって存在する。

しかしパラドの意思は固かった。もう彼の本来のサーヴァントは願いを遂げられずに死んだのだから、いっそうパラドはBBの望みを知りたかった。

 

 

「えー、私のプライベートですよー?」

 

「……それでもだ。俺は、お前にここまで連戦を強いた。その埋め合わせがあるのなら、出来るのなら、考慮したい」

 

 

BBはパラドの目を見た。真っ直ぐな目だった。

……BBは諦めて、やれやれと肩を竦めた。車窓から外を見れば、すれ違うマスターは皆シャドウ・ボーダーの上の矢印に目を向けていた。

 

 

「……また、会いたい人がいます」

 

 

そう溢した。小さな声で。

パラドはBBの望みを聞き、さらに聞き出そうとする。

 

 

「……誰だ?」

 

「……でも、その人はまだいないんです」

 

「……どういうことだ」

 

 

しかし、すぐにパラドは状況がよく分からなくなった。また会いたい人がいるのに、その人はまだいない?

 

 

「私がそこの人の考えてるゲームのキャラクターだ、って、もう話しましたよね」

 

「……そうだったな」

 

 

BBはパラドとそして後ろの方に乗っていたポッピーを見た。ポッピーはどこか気まずそうにBBの腕の辺りを見つめていた。

 

 

「私は、その話の主人公にもう一度会いたいんです。何処にでもいるような人でしたけど。私は、その主人公に救われて、嬉しかった」

 

「でも、そのゲームは……」

 

「……ええ。まだ存在していません。私だけ、先に生まれてしまいました」

 

「──」

 

 

パラドは絶句した。最初から故郷のないバグスターであるBBの心情はどんなものなのか、考えることすら出来なかった。

 

 

「だから、私はその人に会いたい。聖杯が万能なのは知ってますから、あの人に迷惑かけないような再会も、きっと出来るはずです」

 

 

パラドは、その声を聞きながら考えた。故郷のない彼女の望みを、どう叶えれば良いのだろう、と。

……そして、簡単な解決策を思い付いた。

 

 

「……ゲンム」

 

「どうしたパラド」

 

「Fate/Extra CCC……だったよな、彼女の企画段階のゲーム」

 

「そうだが、それがどうした?」

 

「作れ」

 

 

黎斗神はその言葉に、一瞬豆鉄砲を食ったように呆然とした。……そして、意味を察してニヤリと笑った。

 

 

「今すぐとは言わない。絶対に作れ。彼女がハッピーエンドを迎えられるルートも入れてな」

 

「……ふ、私に命令するな。私の才能の使い道は私が決める」

 

「……」

 

 

パラドと黎斗神は睨み合った。貴利矢は黙ってそれを眺めた。ポッピーはおろおろとしていた。

そして、BBはパラドの横顔を見て、どこか可笑しくなって……

 

 

「……ぷっ」

 

 

そして、思わず吹き出した。

 

 

「……ふふ、アッハッハハハ!! 面白すぎですセンパイ!! フフフ、ハハハハ!! シリアスなシーンが台無しじゃないですか!!」

 

「な、何でだよ」

 

「普通そんなこと言わないでしょう!! そんな物語の根本から揺るがすチート行為なんて考え付きませんよ!!」

 

 

何がおかしいのか、BBは笑い続けた。でも、そんな未来が作れるのなら試してみたいと、心の片隅で思ったりもした。何故か、目の端に涙が浮かんだ。

 

───

 

「大丈夫かな、パラド……」

 

「それを考えても仕方がないだろう」

 

「あ、飛彩さん……」

 

 

国会議事堂前に残った永夢は、建物から出てきた飛彩と言葉を交わす。もう、ここにマスターはきっと来ないだろう。永夢はそう考えていた。

 

 

「休んでなくていいんですか?」

 

「大丈夫だ。そっちはどうだ」

 

「いい感じです。もうマスターは現れませんよ」

 

 

皆パラドを追いかけている……とは、永夢は言わなかった。

回りは静かだった。永夢の隣には、飛彩しかいなかった。

 

……そこに、足音が聞こえ始めた。

 

 

   コツ コツ

 

「誰だ?」

 

「……あれは」

 

 

確かにそれは、マスターではなかった。

見覚えのある姿だった。かつて永夢と共に戦った、仮面ライダーの姿がそこにあった。

黒い体に、パーカーを被ったようなシルエットが目立つそのライダーの名は。

 

 

「仮面ライダー、ゴースト……!!」

 

「……確かにマスターではなかったな」

 

『タドルクエスト!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

 

飛彩がゲームを起動した。彼の目も既にゴーストを捉えていた。

戦わなければならなかった。永夢もまたガシャットを手に取り、ドライバーを装着する。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

「「……変身!!」」

 

『『『『ガッチャーン!! レベルアップ!!』』』』

 

『マイティマイティアクション X!!』

 

『ゲ キ ト ツ ロボッツ!!』

 

『タドルクエスト!!』

 

『ド レ ミ ファ ビート!!』

 

 

そして、共にレベル3に変身した。二人は各々の得物を手に取り、ゴーストへと斬りかかる。

 

 

『ガシャコンブレイカー!!』

 

『ガシャコンソード!!』

 

「「はあっ!!」」

 

   ガギンッ

 

 

しかし二本の剣は、ゴーストの手の二本の刀、ガンガンセイバーによって阻まれた。そしてゴーストは二人を蹴り飛ばし、空中浮遊のように思わせる歪な軌道で飛び退きながらドライバーに赤い球を装填する。

 

 

『カイガン!! ムサシ!! 決闘!! ズバッと!! 超剣豪!!』

 

「姿が変わった……!!」

 

「武蔵……」

 

 

ゴーストは着地すると共に、赤いパーカーを身に纏った。その姿のゴーストは、剣豪宮本武蔵の剣術を身に付けていた。

 

 

「大丈夫ですかマスター!?」

 

「あれは、仮面ライダー!?」

 

 

ナイチンゲールとジャンヌも二人に加勢する。四対一、数では圧倒的にエグゼイドの側が有利。しかし、油断は出来ない。

 

 

「ここで倒しましょう!!」

 

「ああ……やるぞ」

 

『ゲキトツ クリティカル フィニッシュ!!』

 

『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───ゴーストとの戦闘

「ここからは、行かせない!!」

『ムゲンシンカ!!』

「俺に切れない物はない!!」


───千代田区の聖杯

「器が、満たされていく……」

「あと少しだ!!」

「追っ手多すぎないかしら!?」


───真黎斗の動向

「これは……」

「ゆゆしき事態、って奴ね、マスター?」

「対策は……簡単だ」


第四十四話 Desir


「俺の望みは……」


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第四十四話 Desir


オオメダマとかいう一回しか発動されなかった必殺技



 

 

 

 

 

『ダイカイガン!! ゴエモン!! オオメダマ!!』

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 

真紅のボディに山吹のパーカーを纏ったゴーストの足元に出現した黄金の超巨大エネルギー弾が、エグゼイドとブレイブへ蹴り出された。

ジャンヌがそれに対して旗を展開し受け止める。周囲の木々が爆風で揺れた。

 

かれこれ一時間は戦闘をしただろう。ゴーストの方は黒い素体のオレ魂から赤い素体の闘魂ブースト魂の姿に変わり、エグゼイド達に対して未だに襲いかかっていた。

 

 

「まだ終わらないのか……!!」

 

「でもなんとしても、ここからは、行かせない!!」

 

「その通りです、マスター!!」

 

 

ナイチンゲールが援護射撃を行っていた。それは全く効いてはいないように見えたが、少なくとも足止めにはなっていた。

彼らの後ろには、大勢の人々がいる。戦いを止め、安全を求めた患者がいる。ドクターは、患者を守らなければならない。

 

 

「……」

 

『ムゲンシンカ!!』

 

 

粘るエグゼイドとブレイブに痺れを切らしたのか、ゴーストが切り札を切った。

 

 

『チョーカイガン!! ムゲン!! Keep on Going!! ゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴゴ ゴースト!!』

 

「あれは……」

 

 

仮面ライダーゴースト、ムゲン魂。人間の可能性を信じた男の掴みとった最強の姿。感情を力に変える英雄。

 

 

「……でも、やるしかない!!」

 

「俺に切れない物はない!!」

 

 

それでも、引くわけにはいかない。倒れられない。その思いで、二人は再び走り始める。

 

 

「おい!!」

 

 

……それを呼び止める者がいた。

彼らを無理矢理この国会議事堂に連れてきた、あの役人だった。

 

その後ろに、無数のサーヴァントを引き連れていた。

 

 

「……これは?」

 

「お前達がむやみやたらに人々をかき集めたせいで、サーヴァントの保存できるスペースがなくなったらしい。霊体化、とやらはさせていた筈なのだがな……それで、お前達の所に押し付けることにした。人々からサーヴァントという戦力を永遠に取り上げる試みでもある」

 

「……え?」

 

「……つまり、好きにこのサーヴァントは使い潰せということだ。くれぐれも、私達に危害が及ばないようにしろ」

 

 

役人が顎でゴーストを指し示せば、彼の後ろにいたサーヴァントは真っ直ぐそこへと走っていった。

どうやら、このサーヴァントはゴーストを倒すために差し向けられたらしかった。つまり、エグゼイドの味方だ。

 

 

「……はい!! ありがとうございます!!」

 

「さっさと片付けろ」

 

 

役人は帰っていく。エグゼイドは、ガシャコンブレイカーを握り直した。

 

───

 

 

 

 

 

「器が、満たされていく……」

 

 

ポッピーはスマートフォンに勝手に入ってきたパラドの位置情報アプリの横に表示された聖杯ゲージを眺めていた。朝は90%だったのが、もう93%になっていた。

 

 

「聖杯完成まで、あと少しだな」

 

「そうだな……」

 

 

パラドは適当に返しながら車の後方を見る。

何体ものサーヴァントがジャンヌ・ボーダーを追跡していた。

馬。戦車。それだけではなく、盗んだのだろうバイクや車を魔力で強化して走っていた。逃げられているのは、一重にマルタの騎乗スキルの賜物に他ならない。

 

 

「追っ手多すぎないかしら!?」

 

「そうだな姐さん、もっとスピード出せねぇのか!?」

 

「これがフルスロットルよ!!」

 

「そうかい!! ……チッ、さっきも追い返したのにまた増えたのか?」

 

 

貴利矢は舌打ちした。車内を見渡せば、ポッピーはダウンしていたし、メディア・リリィは黎斗神のパソコンに繋がれていた。

 

 

「仕方無いな……やるか」

 

『爆走 バイク!!』

 

「パラド、援護頼むぞ……0速、変身」

 

『ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

『爆走 激走 独走 暴走!! 爆走バイク!!』

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

 

貴利矢は、苛立たしげに立ち上がって変身した。そして強引にシャドウ・ボーダーの窓から半身を乗りだし、後ろの方に弓を向ける。

パラドもそれに続いて変身し、エナジーアイテムでパズルを組み始めた。

もう、そうするのも四度目だった。

 

 

『掌の上の栄光 Perfect puzzle!!』

 

「レーザー、受けとれ!!」

 

『鋼鉄化!!』

 

『高速化!!』

 

 

パラドクスが、レーザーターボの持つガシャコンスパローにアイテムを押し付けていく。そうすることによって、それから放たれる矢は鋼鉄にして高速の一撃に進化した。

射る。当てる。射る。当てる。それらの繰り返しで、少しずつ敵を減らしていく。……それでも、しつこいサーヴァントも存在した。

 

これ以上のスピードは出せない。マルタはアクセルを深く深く踏み込んでいた。レーザーターボは敵を見ながら小さく舌打ちする。逃げ切るには、もう少しかかりそうだった。

 

───

 

黄金衝撃(ゴールデンスパーク)!!」

 

「■■■■■■■!!」

 

狂想閃影(ザバーニーヤ)!!」

 

黄の死(クロケア・モース)!!」

 

虹霓剣(カラドボルグ)!!」

 

 

サーヴァントが大量に追加されて暫くして、議事堂前の戦いはリンチに変貌していた。ゴーストは幾ら強いとは言えども所詮は人間サイズ、数多の暴力に晒されれば陥落する。初めの内は機動力を生かして飛び回り抵抗したゴーストだったが、最終的には拘束されてもがくのみになってしまった。

真黎斗の誤算は、このゴーストは必殺技を使えないということだった。本来のムゲン魂は感情を力に変えるのに、このゴーストにはそれがない。それどころか、燃やすべき命すらない。

 

 

「……凄い、皆、押している……」

 

「後先考えない突撃なんだろうな。そういう命令なのだろう、あいつらのやりそうなことだ」

 

 

ブレイブはそう分析した。ゴーストに攻撃するサーヴァントの殆どが、捨て身にも見える特攻を繰り返していた。今となっては彼らは安全圏にいるが、最初の方ではゴーストに吹き飛ばされていたのに。

 

 

「ええ、ここにいるサーヴァントの皆さんは、令呪のエネルギーを上乗せされています」

 

 

戦いの中から一旦戻ってきたジャンヌは、それが令呪のせいだと見抜いた。令呪でゴーストを倒す為だけにブーストをかけられているのだと。それら故の勝利なのだと。

 

 

「……そうですか」

 

 

エグゼイドは、倒され行くゴーストを複雑な心情で眺めていた。かつて共に戦った仮面ライダーの姿だけが奪われて、このような事になっていることは悲しかった。そうさせた真檀黎斗は、酷いと思った。これ以上好き勝手はさせられないと思った。

 

 

「……」

 

「マスター、ゴーストの動きが鈍くなりました!!」

 

「これなら……!!」

 

 

そして、終わりは訪れる。英雄を模した傀儡に崩壊が訪れる。

ここで、天空寺タケルへの侮辱を終わらせる。エグゼイドはその拳に力を込めた。

 

 

「……あと少しだ。行くぞ」

 

「……はい!!」

 

『ドレミファ クリティカル ストライク!!』

 

『ゲキトツ クリティカル ストライク!!』

 

「「はあああああっ!!」」

 

   ダンッ

 

 

エグゼイドがその巨大な拳を、サーヴァント達の向こう側で震えるゴーストへと撃ち込んだ。そしてそれから一秒もしないうちに、ブレイブが飛び蹴りを叩き込む。

 

 

「……っっ、っ」

 

   バァンッ

 

 

それが止めとなった。ゴーストは、弾けとんだ。空に黒いガシャットが打ち上がり、エグゼイドに掴み取られた。

 

 

「……カイガンゴーストガシャット、回収!!」

 

 

国会議事堂のサーヴァントの4分の3を犠牲にしての、勝利だった。

 

───

 

 

 

 

 

「……さて、パラド。結局、君はその聖杯に何を望む?」

 

「……ゲンム」

 

 

右往左往の末にどうにか追っ手を巻いたシャドウ・ボーダーは山奥のに停車し、一休みしていた。

車の上には相変わらず矢印は浮かんでいるが、山奥にはそうそう敵は来そうになかった。

 

 

「この状況下で、君はどの望みを叶えるのが最適解だと考える?」

 

 

聖杯のゲージは、98%を越えようとしていた。国会議事堂のサーヴァントが大量に消滅した影響だった。

パラドは黎斗神からの暫く唸っていたが、対して悩んではいなかった。

 

 

「……BBの望みは、お前が叶えられる。寧ろ、ハッピーエンドを作る余地がある分、聖杯で彼女の願いを叶えるよりゲンム、お前が新作を作る方が良い」

 

「……ま、私はそれでも良いですよ。で? マスターさんは私の願いを差し置いてどんな望みを叶えるんですか? ありんこみたいにちっちゃな我欲でも満たすんです?」

 

 

BBは笑いながらそう茶々を入れた。彼女はそうは言っていたが、決してパラドが自分のためだけに願いを消費はしないだろうとも考えていた。

パラドはBBに対してニヤリと笑い、自分の考えを車内に伝える。

 

 

「俺の望みは──」

 

 

……聖杯のゲージが、98%に到達した。

 

───

 

「ゴーストが倒されたな」

 

「そうね……千代田区のルーラー、大丈夫なのかしら? 彼女は仮面ライダーに対しては不干渉を貫くべき立場なのだけれど」

 

「まあ良いさ。彼女もマスターがいない以外は他のサーヴァントと変わらない」

 

 

真黎斗は修復されていく国会議事堂の様子を観察しながら呟いた。既に、彼が仮面ライダーを放った本当の目的は果たされつつあった。

ナーサリーは紅茶を飲みながらパソコンを叩いていた。彼女には彼女の仕事が存在した。

……そして彼女は、あることに気づく。

 

 

「それもそうね。ところで、これを見てくれないマスター? これ、どう思う?」

 

「これは……」

 

 

……彼女が真黎斗に見せたのは、サーヴァントを失って何処かしらに避難しているマスターの場所と数を示した図だった。それはつまり、真黎斗の用意したゲームから勝手にリタイアした人間だった。東京で言うならば、聖都大学附属病院に集中していた。

 

 

「凄く……不愉快だ。元々存在は知っていたが、こうして示されると黙っていられない」

 

「ゆゆしき事態、って奴ね、マスター?」

 

「……ある意味ではな」

 

 

真黎斗は溜め息を吐いた。ナーサリーが彼に紅茶を差し出すと、彼はそれを躊躇いなく一気のみした。

そして彼は再びパソコンに手をつけながら配下のサーヴァントを呼びつける。

 

 

「だが、対策は……簡単だ。ジル・ド・レェ、いるな?」

 

「こちらにおりまする、我が主」

 

 

ジル・ド・レェが、真黎斗の傍らに現れた。恭しく礼をする彼を見ることもなく、真黎斗は彼に指示を飛ばしていた。

 

 

「……聖都大学附属病院……いや、そこからでなくても構わない。とにかくゲームを放棄した人々の多く避難している場所を襲え。根こそぎゲームオーバーにしろ。私のゲームを拒否するなど許さない」

 

「了解しました、我が主」

 

 

そしてジル・ド・レェは立ち去った。

真黎斗はそれをちらりと見送り、そして自分のパソコンの画面に視線を戻す。

そこに、彼の今産み出そうとしているライダーの設計図が写し出されていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───再び訪れる混乱

「あれは……あの仮面ライダーか!!」

「受け止めましょう」

「作戦を開始する」


───徹底抗戦

『ジャングル オーズ!!』

「……変身!!」

『タトバ ガタキリバ シャウタ サゴーゾ!! ラトラタ プトティラ タジャドル オーズ!!』


───巻き起こる乱闘

「ゲリラライブよ!!」

「おお、神に背くとは!!」

「……あれを、どう思う?」


第四十五話 Anything Goes


「これが、仮面ライダーか」



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第四十五話 Anything Goes


母親にEXCITEのミュージックビデオを見せたら、三浦大知ガチ勢になってバックダンサーの暗記とかミュージックビデオ集DVDの購入とか始めた


 

 

 

 

 

「……困ったな」

 

 

太陽は沈んでいく。月は昇っていく。恭太郎はそれを見届けながら溜め息を吐いた。

彼はこの状況を憂えていた。人々が避難できていることは良いが、今度はいよいよ食料の問題が発生してきた。備蓄は尽き、支援は無く、周囲にも店舗はない。

 

当然のことだった。この数日、ろくにインフラというものは手がつけられていない。小売店の類いは全てシャッターを下ろし、上水道は監視するものがいなくなり、発電所にはエネルギーが運び込まれなくなった。

 

まさか大都会東京で、こうも大規模な飢えの問題と直面する日が来るとは。恭太郎は考える。

 

 

「当然、ハンバーガーなんて無いしなぁ……」

 

「……大丈夫ですかマスター」

 

「あ、ああ……何とかな」

 

 

全員で移動するという最終手段もあるにはあるが、突然それをするのもトラブルを招くだろう。それに、真黎斗に危険視されるのも良くない。

彼はそこまで考えて……ふと、視界の端に見たくない物を見てしまった。

 

 

「あれは……まさか、そんな……あの、仮面ライダーなのか!?」

 

 

ゲンムのキャスター、ジル・ド・レェの変身する仮面ライダー、仮面ライダークトゥルー。それが、堂々と聖都大学附属病院の正門から侵入してきていた。

恭太郎は慌てて近くの窓を開け、隣に控えていたアルジュナに宝具を発動させる。

 

 

炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)!!」

 

 

そうして放たれた炎の矢は、確かにクトゥルーを捉えていたが……直前まで至った所で、突然現れた触手に叩き落とされた。

しかしクトゥルーは反撃をするでもなく、悠々とこちらに歩き続ける。

 

 

「全く動じないか。不味いな……目的は何だ、いや、それは分かりきっているか」

 

「……受け止めましょう、マスター」

 

「ああ。既にゲームオーバーにされた者の為にも、この勝負は負けられない」

 

 

きっと、あのサーヴァントの目的は病院の破壊だろう。恭太郎は深い推測すらせずそう考える。そしてそれは概ね当たっていて。

 

恭太郎は通信機を手に取り、声を張り上げた。

 

 

「侵入者です。作戦を開始しましょう。総員、位置について下さい」

 

───

 

「……どうぞ、マスター」

 

 

その時飛彩は、議事堂内の奥まったスペースにて夕食を食べていた。献立はご飯と味噌汁、そして焼き魚だったのだが、飛彩はナイフとフォークで食べていた。

ジャンヌが彼にコーヒーを差し出せば、彼はそれを煽るように飲み干す。

 

 

「……」モッキュモッキュ

 

「……マスター? あの、私の知識だと、それは箸で食べるものかと」

 

「イメージトレーニングだ」モッキュモッキュ

 

「……ふふっ」

 

 

ジャンヌは、そんな飛彩を見て小さく笑った。飛彩はやや不機嫌そうにジャンヌの顔を仰ぐ。

 

 

「……どうした」

 

「いや……素敵な志だ、と」

 

「──」

 

 

そう言うジャンヌの姿が、また早姫と重なった。飛彩は眉間を抑えて俯き、直ぐに食事に戻ろうとする。

 

そのタイミングで……唐突に、電話が鳴った。

鏡灰馬からだった。飛彩は食事を中断し、慌ててそれに出る。

 

 

「……親父? どういうことだ?」

 

『ひひひ飛彩!! 病院に、また仮面ライダーが!!』

 

「何だって!?」

 

 

聞こえてきた声は、どこまでも切羽詰まっていた。また仮面ライダー。何が来たのだろうか。フォーゼか、鎧武か、それともゲンムの傘下のサーヴァントか……考えれば考えるほど焦りが募る。

 

 

「っ!! すぐ向かう!!」

 

   ガチャン

 

 

そう言って飛彩は電話を切った。

既にカイガンゴーストはここの職員に渡してある。国会議事堂の心配はいらない。飛彩は永夢を見つけ、連れていこうとその襟元に手をかけた。

 

───

 

 

 

 

 

恭太郎は一人、玄関から外に出てきていた。荷物は持たず、スーツも脱いで。その代わりに、白衣を羽織っていた。

 

そして彼は、攻撃もせず立っていたクトゥルーの前に立つ。

 

 

「おや、貴方は……」

 

「悪いが、貴方にはここで倒れてもらう。私はドクターで、ここは病院だ」

 

 

そして彼は、胸元から一つのガシャットロフィーを取り出した。それを恭太郎は一度睨み、そして、端子の横にある電源を入れる。

 

 

『ジャングル オーズ!!』

 

「……変身!!」

 

『タトバ ガタキリバ シャウタ サゴーゾ!! ラトラタ プトティラ タジャドル オーズ!!』

 

 

ガシャットロフィーから飛び出した赤い光が、恭太郎を包み込む。それと同時に恭太郎の回りを七種類のオーズの顔が飛び回り、彼は真紅のオーズの姿を選択した。

 

それだけで、恭太郎はオーズに変身する。真紅のオーズ、タジャドルコンボ。自由自在に空を飛ぶ、炎のオーズ。

 

 

「……これが、仮面ライダーか」

 

 

オーズが軽く地を蹴るだけで、何メートルも飛び上がることが出来た。そして同時に、彼は半ば本能的に操作方法を理解していた。

これなら、もしかすればいけるかもしれない。オーズはそう考えながら、病院内で弓を引くアルジュナを見る。

 

 

「……行くぞ」

 

 

交わる視線。それを合図に、周囲からの一斉掃射が始まった。

 

───

 

「大我!! 安静にしてて!!」

 

「煩せぇ!!」

 

 

クトゥルーの侵入。その知らせは、大我の元にも届いていた。衛生省を壊滅させた危険な仮面ライダーともなれば、少しでも味方は多い方がいい。大我はそう考えて戦場に向かおうとする。それを、ニコが押し止めていた。

 

 

「俺を止めるな!!」

 

「やだ、止める!! アンタが死んだらアタシが困るの!!」

 

「俺は、行かなくちゃいけねぇんだ!!」

 

「そんな体で!?」

 

「そうだ!!」

 

 

ニコには、大我を止めることはできない。それはニコが一番察していた。それでも彼女は、このまま彼が戦えばきっと死ぬと信じていた。

 

───

 

「……難儀なものだな」

 

 

アヴェンジャーは一人部屋に籠って、パソコンを弄っていた。便利なもので、そうするだけで現在の日本の情勢も、岩窟王の故郷(フランス)の現状も理解することが出来た。

少なくとも日本には今、暗い情報しかなかった。人によってはそれは愉しい攻略情報なのだろうが、多くの敗者にとってはそれは後悔の記録でもあった。

 

アヴェンジャーは溜め息を吐く。妙に、イリヤのことが気にかかった。

……そして彼は、ふとドアの外に誰かが立っていることに気がついた。

 

 

「──誰だ」

 

   コンコン

 

「入るぞ?」

 

 

入ってきたのは信長だった。右手にFate/Grand Orderガシャットを、左手に日本酒の瓶を持った彼女は何の躊躇いもなくアヴェンジャーの部屋に上がり込み、適当なテーブルにそれらを置いて堂々と座る。

 

 

「……何の用だ」

 

「いやなに、一人で飲むのも寂しいからのぅ。丁度面白いつまみもあるから、お主もどうじゃ?」

 

 

アヴェンジャーは訝しげに信長を見つめていたが、態々追い返すような気もせず、彼女を受け入れる。

信長はそれ幸いとガシャットをアヴェンジャーのパソコンに接続し、ガシャットの中から二つの杯を取り出す。

 

 

「いやぁこれ便利じゃのう!! 気前よく貸してくれるから有り難い有り難い」

 

「……まあ、そうだな」

 

 

そして信長は杯に並々と酒を注いだ。二つの内の一つをアヴェンジャーに押し付け、もう一つを信長が手に取る。

アヴェンジャーはその杯を傾けながら、物憂げに呟いた。

 

 

「それにしても、お前はよくこのガシャットから酒を出すようになったな。前はこっちで安い酒を探そうとか言っていただろう?」

 

「まあ好みじゃ。こっちの方が飲み慣れていたしのう、それに無料(タダ)じゃ」

 

 

信長はニヤリと悪戯っぽく笑った。アヴェンジャーは何処か彼女が底知れない何かの様に思えて、柄でもなく身震いした。

……そして、ふと思い出す。彼女は面白いつまみがあると言っていた筈だが、と。

 

 

「で、つまみは何だ」

 

 

だから、そう何気無く聞いた。

信長はその言葉には直ぐに返事をせず、ガシャットを接続したパソコンを操作する。

 

 

「……これじゃ」

 

 

そして、パソコンのモニターに聖都大学附属病院が写し出された。アヴェンジャーは目を剥く。その隣で、信長は楽しそうに笑った。

 

───

 

『スキャニングチャージ!!』

 

 

その時オーズは、全身緑の虫の形態、ガタキリバコンボを使用していた。ガタキリバの最も特徴的な能力は分身能力。オーズはそれを生かして十数人に分裂し、四方八方からクトゥルーを攻撃しようとする。

 

……しかしそのどれもが、弾かれていた。ガタキリバの分身を上回る数のクトゥルーの落とし子によって。飛び出した触手によって。

 

 

「っ……まだ、駄目なのか」

 

「如何です? 数の戦いならば無限にクトゥルーの落とし子を呼べる私の方が有利。対する貴方は、それ以上分身を増やすとろくに動けないでしょう?」

 

 

オーズは仮面の下で顔を険しくしていた。いくら使っている力が強くても、中身が戦闘初心者では限界があった。

分身が一人、また一人と消えていく。

 

 

「なら……!!」

 

『ライオン!! トラ!! チーター!! ラタラターラトラーター!!』

 

 

オーズは今度は、全身が黄色の猫科動物の形態、熱のオーズ、ラトラーターコンボに変身した。

……別にガシャットロフィーで変身してるからといって、オーズはコンボしか使えない訳ではなかったのだが、今はコンボで出る火力でもなければクトゥルーには全く及ばなかった。

 

 

「また姿を変えましたか。しかしいくら足掻いても同じこと、体は長く持ちますまい」

 

「──うおおおおおおおっ!!」

 

   カッ

 

 

オーズは叫ぶ。その咆哮と共にオーズの頭部から熱が放散し、周囲のクトゥルーの落とし子を吹き飛ばす。

……しかし吹き飛ばすだけ。倒すことは出来ず。それでもオーズは退かず、両手にトラの爪を展開した。クトゥルーはそれが面白いのか、ケタケタと笑う。

 

 

「その精神は認めましょう。ええ、諦めない心は尊い物だ……なればこそ、私は汚さなければならない!!」

 

「っ……まだだ!!」

 

 

この瞬間にも、アルジュナの宝具やちびノブの射撃はクトゥルーへと飛びかかっている。聖都大学附属病院の内部に侵入しようとする落とし子は、全てアルトリア・オルタが叩き斬っている。

しかしそれら全てが、今は意味を為していない。射撃は弾かれ、落とし子は次から次に追加されていく。

 

それでも、諦められない。

 

 

「私は……折れるわけには、いかない!!」

 

『スキャニングチャージ!!』

 

 

オーズの前方に、三つの黄色い輪が現れた。オーズはチーターの足を全力で使い、クトゥルーの触手を交わしながらそれらを一つずつ潜り抜ける。

そして、超高速でクトゥルーに飛びかかり、爪を振るった。

 

 

   スパスパスパッ

 

「っ……!! まだそんな力が残っていましたか、この匹夫めが!!」

 

 

その攻撃は、クトゥルーの周囲の触手を切り落としていた。

 

 

「私は信じている!! 仮面ライダーは、きっと助けに来ると!! ……ドクターはチームであり、ライダーは、助け合いだ!!」

 

 

そして高らかに宣言する。彼の意識は今にも飛びそうだったが、その宣言で彼は彼自身を鼓舞してもいた。

 

そして、助っ人は現れる。

 

 

 

 

 

「アタシを呼んだのね!? 呼んだのね!? 知ってたわよ!! お待たせ子ブタ達!! ゲリラライブのスタートよ!!」

 

 

オーズの知っている仮面ライダーではなかったが。

 

『元』ゲンムのランサー、エリザベート・バートリーと、魔法少女イリヤが、騒ぎを聞き付けて飛び入りで参加しようとしていた。

 

 

「おお、まさか本当に神に背くとは!!」

 

「アタシはアタシを求める子ブタがいれば何時でもライブを開くだけよ!!」

 

『タドルクエスト!!』

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

「最後の希望、だから!! 変身!!」

 

───

 

「──」

 

「……あれを、どう思う?」

 

 

アヴェンジャーは、暫く呆気に取られていた。画面の向こうの風景に対してではない。信長が彼自身に何故こんな物を見せたのか、理解が出来なかった。

 

アヴェンジャーは返事はせずに、信長の目を見る。

 

 

「……何が目的だ?」

 

「さて──何じゃろうなぁ?」

 

 

第六天魔王波旬、織田信長。彼女の目的は何なのか、アヴェンジャーはまだ知らない。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───オーズの決断

「逃げてください」

「それでは審議官、貴方は──」

「私はドクターです!! 誰も、死なせない!!」


───クトゥルーとの対決

「魔法少女の天敵ですよぉ!!」

「触手なんかに、屈したりしない!!」

「輝けるものこそ穢れて落ちるべし!!」


───パラドの選択

「駄目だ、動けねぇ!!」

「早く向かわないと!!」

「奴等の狙いは俺なんだろ?」


第四十六話 Time judged all


「私が命を守ります」


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第四十六話 Time Judged all


立香。
お前が異聞帯との戦いに出ないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が一人で出ると思う?

マシュだ。

マシュはこれまでの戦いで、戦闘に参加できなかったことに負い目を感じているはずだ。
だからお前がやらなきゃ、自分から手を挙げるだろう。

けど、今のあいつだけじゃ異聞帯には勝てない。そうなれば、彼女は自分のせいだと己を責める。

……お前が戦うしかないんだよ!!

↑ここから始まる物語


……カルデアを追われ絶体絶命の危機に陥った藤丸立香の元に現れたのは、変な箱を持った胡散臭いオジサン(異世界のフォーリナー・石動惣一)だった!!
限られた戦力で異聞帯を攻略し、奪った成分で立ち向かえ!!

Fate/Cafe Master


……というネタが降りてきた
どちらにしろ二部終わるまで書けない

……さて、ビルドがVシネや小説版含め完全に完結するのが先か、二部が完結するのが先か……どっちだろう



 

 

 

 

 

『トリプル!! スキャニングチャージ!!』

 

「……はあっ!!」

 

 

オーズがその手に握ったメダジャリバーを振るう。その一撃は空間を裂き、しかし標的に命中することはなく。

 

オーズは、突然現れた二人の裏切り者と共にクトゥルーと交戦していた。彼には、突然現れた二人が何者かはさっぱりわからなかったが、一先ずは彼女らを信用して肩を並べていた。

……しかしそうするのにも限界が近づいてくる。オーズの動きはガシャットによって強化されているにも関わらずとても遅くて。

 

 

「はあ、はあ……ッ!?」

 

   ダンッ

 

 

そして彼は、向かってきた触手を避けられずに食らい、開いていた病院の三回の窓まで飛ばされていった。

 

 

 

 

 

『タドル マジックザ クリティカル ストライク!!』

 

「コンサートも佳境かしら……!! 鮮血(バートリ・)特上(ハロウィン・)竜巻(ブレイブ・)魔嬢(エルジェーベト)!!」

 

 

残された二人もかなりの苦境にあった。

ランサーは一人で、山のようなクトゥルーの落とし子を引き受け、そして囲まれていた。

遠くではイリヤがクトゥルー本人と交戦していた。さっきまではオーズもそこにいたのだが、もういない。

 

圧倒的な物量。押し潰されれば一溜まりもないだろう……ランサーの理性はそう判断する。己を囲う壁は、まるでかつて己を封じた監獄のようで。

それでもランサーは奮い立った。彼女は己の槍を大地に突き立て、背後にチェイテ城の幻影を作り出す。

 

そして、叫んだ。

 

 

「LAァァァァァァァァァァっ!!」

 

 

その怒声はチェイテ城を通じて拡散され、竜巻を纏い、周囲に嵐を巻き起こす。クトゥルーの落とし子を吹き飛ばして、粉砕していく。

 

彼女には勇気があった。これまでの旅で培った物だった。彼女には希望があった。これまでの旅で教わった物だった。

 

 

「ふぅ……コホン、大分すっきりしたわね」

 

 

ランサーは一つ咳払いをして伸びをする。

視界を占めていた暗い壁はもう無力化した。ランサーは振り返り、イリヤに加勢しようと飛び出していく。

 

 

 

 

 

……そのイリヤは、クトゥルーの触手に捉えられてもがいていた。

 

 

「ちょっ、何これ、取れない……!!」バタバタ

 

「アアッ!! これソリッドブックでよく見るシチュじゃないですか!! やっぱり触手は魔法少女の天敵ですよぉ!! あっ、服破れた!!」

 

「そんなこと言ってないで手伝ってよぉ!!」

 

「こういうときこそ、あの台詞です!! あれ!! せーのっ!!」

 

「触手なんかに、屈したりしない!! って、そうじゃなくてぇ!!」

 

 

そんなやり取りだけ聞けばまだ余裕がありそうだが、クトゥルーの狂気に触れ続けたイリヤの目にはもう正気が失われかけていて。

 

今のイリヤに、本来のような戦闘力は存在しない。クラスカードを持っていない為に夢幻召喚(インストール)は不可能で、マジカルルビーの妹にあたるマジカルサファイアを持っていない為にツヴァイフォームも使用できない。

 

 

「ハハハハハハ!! 輝けるものこそ穢れて落ちるべし!!」

 

 

また、触手の力が強まった。

 

それを、横から飛んできたランサーの剣が叩き斬る。

 

 

   ザンッ

 

「大丈夫!?」

 

「ああ、何とか、大丈夫です……!!」

 

 

再び二人は並び立った。邪神は狂気の中に佇み、立ちはだかる。

 

───

 

「っ、がぁっ、がはっ……」

 

「ああ、審議官!! 大丈夫ですか!?」

 

 

灰馬は、窓から勢いよく転がってきたオーズを支えていた。

オーズは息も絶え絶えで、クトゥルーの攻撃から解放されるのと同時に、元の日向恭太郎に戻っていた。

 

 

「っ、つ……」

 

「大丈夫ですか審議官!?」

 

「……逃げてください」

 

 

……恭太郎が口を開けば、真っ先にその言葉が口をついて出た。ここまでの戦いで、日向恭太郎という人間の脳内に、クトゥルーへの恐怖が刻み付けられていた。

しかし彼は狂えない。狂っていられるだけの暇はどこにもない。

 

 

「……え?」

 

「逃げてください。ここは危険だ、早く!!」

 

 

そう言う言葉は鬼気迫るもので。灰馬は逆らうことも出来ず、撤退の旨を念話で信勝に伝える。

そして彼は、恭太郎の袖を掴んだ。

 

 

「わ、分かりました!! では審議官も──」

 

「……いや、私は残ります」

 

「……そ、そんな……それでは審議官、貴方は──」

 

 

しかし恭太郎は、袖を掴む手を振り払った。そして痛みに顔をしかめながら立ち上がり、再びガシャットを手に取る。

 

彼の頭の中に、クトゥルーと以前対峙したときの映像が走っていた。敵しかいないフィールドで、なぶり殺しにされていく仲間たちの姿が走っていた。

ここで勝負は投げられない。

 

 

「逃げてください!! すぐに!!」

 

 

だから、まず彼らを逃がそう。恭太郎はそう考えていた。

 

そう言う彼を止めることもなく、アルジュナはただ眺めていて。

そして今度は、恭太郎は彼に目を向けた。

 

 

「……アーチャー」

 

「何でしょうか」

 

「……全ての令呪をもって命じる。私が指示したタイミングで、あの怪物に対して破壊神の手翳(パーシュパタ)を全力で発動し、仮面ライダークトゥルーを撃破せよ」

 

 

恭太郎の手から、二画の令呪が消滅した。これで恭太郎からは、全ての令呪が消えたことになる。もう、アルジュナへの命令権はない。

 

アルジュナは、恭太郎に敬意を示して膝をついた。

 

 

「……ありがとうございます、マスター。貴方は私を上手く使ってくれた。私の心に踏み入らずに。私は、最後までお仕えいたします」

 

「……頼むよ」

 

 

目の前で交わされる会話に、灰馬はただ呆然としていた。このまま戦えば、冗談抜きに彼は死んでしまう。

 

一瞬彼は悩んだ。恭太郎を止めるべきか、止めざるべきか。彼は悩み……そして、彼の中の医者が勝利した。

灰馬は、恭太郎の意思がどうであろうと彼を強引にでも連れていこうと再び手を伸ばし──

 

 

「やはり……や駄目です審議官!!」

 

「私はドクターです!! 誰も、死なせない!!」

 

『ジャングル オーズ!!』

 

「……変身!!」

 

 

……その手は、恭太郎の周囲に飛び出した光によって弾かれた。

 

恭太郎は、再びオーズに変身していた。かつて彼自身を苦戦させた、紫のオーズに。

 

 

『タトバ ガタキリバ シャウタ サゴーゾ!! ラトラタ プトティラ タジャドル オーズ!!』

 

「審議官……」

 

「私はあのバグスターに沢山の仲間を奪われました。……もう、悲劇は繰り返さない。私が命を守ります。この身を賭けて!!」

 

───

 

その時、シャドウ・ボーダーは聖都大学病院へと向かおうとしていた。

……しかし、その道は阻まれていた。パラドを、その向こうの聖杯を狙う多くのプレイヤーによって。

 

 

「駄目だ、動けねぇ!!」

 

「早く向かわないと!!」

 

 

シャドウ・ボーダーは全包囲されていた。抜け出すことは不可能だった。誰もがパラドを狙っていて、逃がすつもりは毛頭なかった。

パラドはやきもきする。こうしている間にも、また一人誰かが襲われているかもしれない。そう思えば焦りが募った。

 

 

「……レーザー」

 

 

そしてパラドは、思い付いた。

それに合わせて、彼は貴利矢に手を伸ばす。

 

 

「何だパラド!!」

 

「……爆走バイクを貸してくれ」

 

「あ? 何する気だよ」

 

「……俺らだけが離れる。奴等の狙いは俺なんだろ?」

 

 

そう言いながら、パラドはBBを見た。BBは一つ大きく溜め息をついて、ゆっくりと座席から立ち上がる。

 

 

「お前達は、病院に行け」

 

「……全く、困ったセンパイですね。まあ、ちょっとなら付き合ってあげますか」

 

 

貴利矢は暫く二人を見て困っていたが、数秒の逡巡の後に、パラドに爆走バイクを投げ渡した。

まだ周囲は、プレイヤーに囲まれていた。完全に包囲されている現状を打破するには、誰かが囮にならなければならなかった。

 

 

「……ここは任せたぜ?」

 

『爆走バイク!!』

 

 

パラドが車の窓を開ける。それだけで、外のサーヴァント達が一斉にパラド狙って攻撃を放った。それを、メディア・リリィが防御する。

そしてパラドは霊体化したBBを伴って車窓から飛び出した。

 

次の瞬間には、人混みをすり抜けたバイクゲーマが、パラドを乗せて走っていくのが見えた。

 

───

 

斬撃(シュナイデン)!!」

 

『Buster chain』

 

「「はあっ!!」」

 

   ザンッ

 

「……駄目、全然効いてない……!!」

 

 

ランサーとイリヤは未だに苦戦していた。勝利への糸口は全く見えず、ただただ疲弊していくのみ。

 

 

「当然のことでございましょう? 私の後ろでは常に神が見守っておられるのだから!! おお我が主よ!!」

 

 

それに対してクトゥルーの方は、まだまだ戦えそうに見えた。足取りはむしろ軽く見えた。彼とて疲弊してないことはなかったが、彼を満たす狂気がそれを忘れさせていた。

 

そして、クトゥルーの背後の触手が、ランサーの胸元を貫こうと飛び出していく。

 

 

「それでは、貴女も供物となるときです」

 

「っ……」

 

 

 

 

 

『プ ト ティラ ノ ヒッサーツ!!』

 

   カッ

 

 

その刹那、再び参戦したオーズの砲撃がクトゥルーの触手を全て焼き払った。クトゥルーは興味深げに唸り、触手を追加する。

 

 

「……ふむ、まだ戦うのですか?」

 

「アァ、はぁ……!!」

 

 

オーズはもう限界だった。意思だけで立っていて、体の力は入らない。

……そんな状態で彼が変身したのは暴走を起こしやすい紫のオーズ、プトティラコンボ。

 

彼は、半ば体の自由をガシャットに奪われていた。

そうなれば、オーズは勝手に日向恭太郎を戦わせる。リミッターは存在しない。

 

彼は、消滅する。

 

───

 

 

 

 

そして、さらにそれから暫くして、ようやく国会議事堂から永夢と飛彩が駆け込んできた。

二人が見たのは、紫のオーズがクトゥルーと何度も攻撃しあう光景。互いに防御をせず、オーズが斧を振るい、クトゥルーが触手を伸ばす光景。

 

 

「あれはまさかっ……」

 

「恭太郎先生!?」

 

 

二人がそのオーズが日向恭太郎だと断定するのに、そう時間はかからなかった。しかし同時に彼らは、何故そこまでオーズが危険に身を晒すのかが分からなかった。

そして、彼らが見上げる一瞬のタイミングが、恭太郎の運命を決定付けた。

 

 

「ウアアアアアアっ!!」

 

『スキャニングチャージ!!』

 

 

オーズは止まらない。止まれない。彼は永夢がようやく駆けつけたことを認識していない。

オーズは斧を放り捨てて、大きく飛び上がってから高速で突き進み、クトゥルーの胴体に、その足を突き刺していた。これが、最後の足掻き。

 

 

   ズガンッ

 

「なっ──」

 

「──ハアアアアアッ!!」

 

『スキャニングチャージ!!』

 

 

さらにオーズはその状態で高速回転し、クトゥルーを大地に押し付ける。クトゥルーはそれを止めようと触手を伸ばしていたが、見境なく溢れ出す冷気の前には力を出せず。

 

 

「止めてください恭太郎先生!!」

 

「危険です審議官!!」

 

 

『スキャニングチャージ!!』

 

『スキャニングチャージ!!』

 

『スキャニングチャージ!!』

 

 

声は届かない。攻撃の勢いだけが増していく。周囲の大地には氷が張り始め、周囲は冷えきっていた。

 

そしてクトゥルーとオーズは、互いに互いを攻撃し続けた果てに、共に爆発した。その瞬間に、クトゥルーのすぐ側で破壊神の手翳(パーシュパタ)が発動する。

 

 

「恭太郎先生──!?」

 

 

永夢の号哭が空に響いた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───クトゥルーとの決着

「先生を、先生をよくも……!!」

「間に合わなかったか……!?」

「令呪をもって命ずる」


───大我の危機

「あれって……」

「また、てめぇか……!!」

「俺は急いでるんだ……!!」


───パラドの逃亡

「まだ追いかけてくるのか!!」

「仕方ないですよそれは」

「キリがない……!!」


第四十七話 DIE SET DOWN


「君はもう用済みだ」


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第四十七話 DIE SET DOWN


もう文庫本六冊分くらい書いてたんだなぁ……
いつの間にかFate/Grand Orderタグの文字数順だと1ページ目に入るようになってた



 

 

 

 

……その数秒後には、変身が解除された恭太郎が、永夢の足元に転がっていた。

目の前ではクトゥルーが震えながら、しかし確かに立っていて。

 

永夢は慌てて、恭太郎を抱き起こした。彼の手からガシャットロフィーが零れ落ちる。

恭太郎の体は、透け始めていた。

 

 

「恭太郎先生!! しっかり!! しっかりしてください!! 先生!!」

 

 

必死に永夢は呼び掛ける。恭太郎はぼんやりと永夢の方を見つめ、小さく笑った。

 

 

「ああ……間に合ってくれたか」

 

「先生!! どうしてこんな!!」

 

「……すまなかった。……皆を、頼むよ」

 

「先生!!」

 

 

恭太郎は笑っていた。彼は永夢の肩を擦り、そして彼の手から崩れ落ちる。

 

 

「先生──!?」

 

 

……日向恭太郎、消滅。己のスペックを超えた活動の果ての、崩壊だった。

同時に、誰も居なくなった病院の中でアルジュナも消滅していた。それは、恭太郎の命令に殉じて己の全てを使い潰して宝具を発動した為だった。

 

 

「先生を、先生をよくも……!!」

 

 

永夢は震えながら立ち上がる。視線の先のクトゥルーは、まだ動けるようだった。それは声にならない叫びを上げて、周囲に大量の落とし子を召喚する。

 

 

『マイティアクション X!!』

 

『ジュージュー マフィン!!』

 

 

それを見ながら、永夢はガシャットの電源を入れた。隣で何も言わず立っていた飛彩も、それに続いて電源を入れる。

そして更にその両隣に、各々のサーヴァントも並び立った。

 

 

「絶対に倒す……このゲームを攻略して、皆を取り戻す!! 患者の運命は、僕が変える!!」

 

『『ガッシャット!!』』

 

「……行くぞ、術式レベル3」

 

『『ガッシャット!!』』

 

「「……変身!!」」

 

───

 

「まだ追いかけてくるのか!!」

 

「まあ、仕方ないですよそれは……皆、焦ってるんでしょうしね?」

 

 

その時パラドは変身して、河川敷をバイクで駆け抜けていた。後ろを、沢山のサーヴァントが追跡していた。BBがそれらを食い止めようとするが、その努力は中々実らない。

 

 

「ああ、キリがない……!!」

 

『高速化!!』

 

『高速化!!』

 

 

パラドクスは苛立つ。本当なら彼も聖都大学附属病院への加勢に向かいたかった。

どれだけバイクに高速化をかけても、必ずそれに食らい付くサーヴァントが存在する。どれだけ透明化を行っても、それを見破るサーヴァントが存在する。

 

 

「残り1%です、精々頑張って耐えましょうね、センパイ?」

 

「分かってるよ……!!」

 

 

鬼ごっこはまだ終わってくれない。

 

───

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ちょっとタンマ、水、水……!!」

 

 

ランサーとイリヤは、エグゼイド達とは反対側で、クトゥルーの落とし子と戦っていた。ランサーが広範囲に宝具を発動すればクトゥルーの落とし子は対処できるが、彼女はそれをしすぎてもう疲れ果てていた。

 

 

「はぁ、はぁ……どうにかならないのルビー!?」

 

「無理ですよぉ!! 眼球が見当たらないのでルビーサミングの出番だってありませんし!! そもそもあんなグロいの触りたくないですし!!」

 

「私もだよぉ!!」

 

 

そうは言っても敵の勢いは止まない。増え続けるクトゥルーの落とし子は段々接近してくる。エグゼイド達の方をちらっと見るが、彼らはこちらを全く見ていなかった。

 

 

「うわわわわわ」

 

「きゃあぁぁああ!?」

 

 

そしてとうとう二人は迫り来る群れに押し倒されて……

 

 

 

 

 

『リスタート』

 

「──あれ?」

 

 

次に気がついた時には、それらは全て粉砕されていた。

前を見れば、二人を庇うように、クロノスが剣を構えていた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「マシュ!!」

 

 

騒ぎを聞き付けたマシュが、漸くここまで辿り着いていた。真黎斗にバグスターとしての力を制限された彼女は、徒歩でここまでやって来るしかなかった。

 

 

「……ここは一旦引いた方が良いでしょう。行きますよ!!」

 

 

クロノスはランサーとイリヤの容態を見て、すぐにそう判断する。そして彼女は両脇に二人を抱え、その場から撤退した。

 

───

 

その時大我は、ニコの隙をついてベッドを脱出、患者の間をすり抜けて、病院の表まで出てきていた。

ジェットコンバットはフォーゼに奪われている為、空を飛ぶことは出来ない。

 

 

「どうしたマスター。体は治ったのか」

 

「ああ、アーチャーか……俺は聖都大学附属病院に向かう、ついてこい」

 

 

ずっと狙撃を行っていたエミヤが、大我の隣に降り立つ。大我はすぐに彼に指示を出し、エミヤもそれに従おうとして……突然フリーズした。

その目は、街道の向こう側に引き付けられていた。

 

 

「おい、どうしたアーチャー」

 

「……マスター、あれは……」

 

 

……その先には、見覚えのある仮面ライダーがいた。

 

 

「また、てめぇか……!!」

 

 

大我はそれを見てすぐにドライバーを装着し、痛みに一瞬歪んだ顔を誤魔化しながらガシャットを構える。

 

 

「フォーゼ……!!」

 

 

仮面ライダーフォーゼがまた、大我の前に現れていた。

 

そのタイミングで、ニコが大我の後を追って病院から飛び出してくる。

 

 

「何やってるの大我!! 戻ら──」

 

 

そして彼女も、すぐにフォーゼの存在に気づいた。それを見つけてしまえば、彼女は黙らざるを得なかった。すぐにフィンを隣に呼び出し、エミヤの側に向かわせる。

 

 

「……お前は下がってろ。こいつは俺が仕留める」

 

「大我、それは……」

 

「下がれ!! ここで止めねぇと、患者が危ないだろ……!!」

 

「……分かった。ランサー!! 大我、死なせないでよね……!!」

 

「分かっているさマスター」

 

 

そしてニコは、やむ無く病院の中に戻った。

大我はそれを見届けて一つ鼻を鳴らし、ガシャットの電源を入れる。それと同時にエミヤは近くの高所に移動し弓を構え、ランサーは槍を構えた。

 

 

「俺は急いでるんだ……!! ガシャット置いてとっとと消えろ……!!」

 

『バンバンシューティング!!』

 

「第弐戦術、変身!!」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

───

 

「ここが病院よね!?」

 

「その通りだが……まさかこの様子じゃ、まさか間に合わなかったか……!?」

 

 

シャドウ・ボーダーが聖都大学附属病院に到達したとき、病院にはクトゥルーの落とし子が溢れていた。恭太郎によって深い傷を負ったクトゥルーは、もう自制することを止めてひたすらに落とし子を解き放ち、がむしゃらにエグゼイドとブレイブを吹き飛ばしていた。それは最後の悪足掻き。しかし、力は確かにあって。

 

 

「……しぶといな、やはり」

 

「どうするんだよ神」

 

「……切り札を切る」

 

 

その様子を窓から見ていた黎斗神は、ブランクガシャットをパソコンから引き抜きながらそう言った。ここ最近ずっとそのパソコンはメディア・リリィとも接続されていたが、黎斗はそれも切り離す。

そして彼は後部座席の扉を開けて、メディア・リリィに告げた。

 

 

「キャスター、最後の令呪をもって命ずる」

 

「はい!! 何でしょうか!!」

 

 

 

 

 

「……ジル・ド・レェを伴って自爆しろ」

 

 

そして告げられたその命令に、彼女は凍りついた。車内は皆凍りついた。

 

 

「……え?」

 

 

メディア・リリィは、震え始めていた。それを見届けながら黎斗神はブランクガシャットを起動し、彼女にかけた令呪の効果を最大限まで倍加する。

 

 

「たった今令呪を最大限強化した。安心するがいい。君の体はもう爆薬同然に書き変わっている」

 

「そんな、嘘、嘘です……!!」

 

 

彼女の足は、外の奥に見えるクトゥルーの元に走り出そうとしていた。メディア・リリィはそれが怖くて、必死に自分で自分の足を押さえつける。

 

 

「嫌、嫌です、私は……!! 怖い、怖い……」

 

「おいどういうことだ神、悪ノリが過ぎるだろ!! 第一彼女が居なくなったらライフどうするんだ!!」

 

 

これは不味いと考えた貴利矢が慌てて声を上げる。今メディア・リリィが消滅すれば、誰も黎斗神のライフを守れない。

しかし黎斗神は、もうするべきことを済ませていて。

 

 

「神の才能に不可能はない。私の残りライフは44、ここまでで、メディア・リリィの持つ回復能力と魂を捕捉する能力を解析し、加工して、このガシャットの中に落とし込んだ。だから──」

 

 

そこまで言った所で、黎斗神は既に助手席から後部座席に滑り込み、メディア・リリィの隣に立っていた。そして彼はニヤリと笑いながら彼女の手を膝から外し、彼女の目を見つめていて。

 

 

「……君はもう用済みだ」

 

 

そしてそう言った。メディア・リリィの目はもう絶望に染まっていた。彼女はふらふらとシャドウ・ボーダーを出ていこうとし……その手をポッピーに掴まれる。

 

 

「止めて黎斗!! メディアちゃんは今日まで一緒に戦った仲間でしょ!?」

 

「彼女は私のサーヴァントだ。最後まで私は、彼女に仕事を与えただけだ」

 

「そんなの酷いよ!!」

 

「そうだ!! 姐さん、こいつからガシャットを奪い取れ!!」

 

 

そして、貴利矢の指示で運転席から降りてきたマルタが、黎斗神からガシャットを奪い取ろうとした。ガシャットを奪って令呪の力を弱体化させれば、メディア・リリィへの命令を消すことが出来る。

 

 

「大人しく寄越しなさい!!」

 

「フハハハハハ!! ゲームマスターに逆らうな!!」

 

「黙れ!! 今のゲームマスターは真檀黎斗じゃないか!!」

 

 

しかし黎斗神はそれを躱す。易々と躱す。

メディア・リリィは、黎斗神の足にすがり付いていた。

 

 

「マスター、私は……怖いんです、怖い……!! 嫌です、嫌……!! 私は、信じているのに……!!」

 

「……煩い!! 早く行くんだ!!」

 

 

……しかし黎斗神は容赦なく、祈るメディア・リリィの手を掴み、彼女をシャドウ・ボーダーから突き落とした。

 

その衝撃で、完全にメディア・リリィから主導権は失われた。彼女は虚ろな目でクトゥルーを捉え、そこに走り出す。

 

 

「止めろ!! 戻ってこい!!」

 

「戻ってきて!! こっちに来て!!」

 

 

その声は届かない。

 

───

 

「うらぁぁあっ!!」

 

『ジュージュー クリティカル ストライク!!』

 

 

エグゼイドが力任せに右腕でクトゥルーを殴り付ける。確かにそれはクトゥルーに命中して、クトゥルーの体はあらぬ方向に曲がっているのに、クトゥルーは倒れない。

 

クトゥルーの体はもう崩れかけていた。しかし、まだ彼の心が折れていない。彼の狂気が、彼を生存させていて。

 

 

「まだ……まだで御座います!! 彼方の神よ!! 我が涜神をとくと見よ!!」

 

『テール・オブ クリティカル エンド!!』

 

 

そして、またクトゥルーの背後に、邪神の瞳が現れた。

 

エグゼイドは右腕に力を込め、ブレイブはガシャコンソードのBボタンを連打する。

二人はクトゥルーに向かって共に身構え……

 

……その瞬間、二人の間を一人の少女が走り抜けた。

 

 

「……えっ?」

 

 

メディア・リリィだった。

彼女はクトゥルーに簡単に捉えられ、無抵抗に飲み込まれていく。

 

 

「あれは……まさか」

 

「と、とにかく助けないと……」

 

 

その瞬間、彼女は音を立てて炸裂した。

 

 

   カッ

 

   ドゴガァァアアアンッ

 

「──え?」

 

 

……それによって、とうとう拮抗は崩れ去った。

 

クトゥルーのガシャットは破壊され、変身が解けたジル・ド・レェが崩れ落ちる。

メディア・リリィは既に消滅して、その魂は黎斗神の手元のガシャットに吸い込まれていた。

 

 

   バタッ

 

「おお……神よ……偉大なる、我が神……ご覧、戴けたでしょうか……!! これにて私もまた、供物の、一人に……!!」

 

「……やった、のか?」

 

「ハハ……ハハハハハハハハ!!」

 

 

……そして、とうとうジル・ド・レェも光となって消えていく。

ゲンムのキャスタージル・ド・レェ、消滅。





次回、仮面ライダーゲンム!!



───CR分裂の危機

「酷いよ……」

「私は私のすべきことをしただけだ」

「ふざけてるな……!!」


───エリザベートとマシュ

「私は……希望を守るの」

「これを貴女に。私より、きっと貴女の方が上手く使える」

「行くわよイリヤ。次のライブが待ってる」


───大我、消滅!?

「っ、クソ……!!」

「駄目、死んじゃう……!!」

「マスター、すまない……!!」


第四十八話 Life is beautiful


「お前に、これを託す」


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第四十八話 Life is beautiful


裏設定ゴースト編

大学一年生天空寺タケルはセイバー・宮本武蔵を召喚し、命を燃やして共に戦う。しかし途中でタケルが仲間を庇って負傷、消滅。
それを間近で目撃したキャスター・フーディーニのマスター深海マコトとキャスター・玄奘三蔵のマスターアランが彼を救うために奮闘中。



 

 

 

 

 

「……メディア・リリィとジル・ド・レェの魂の捕捉を確認。ふ、私の才能の成せる技だな」

 

 

黎斗神はブランクガシャットを弄りながら呟いた。彼はとても満足げだったが、彼を見る他のシャドウ・ボーダーの乗員の目は冷ややかだった。

 

 

「黎斗、酷いよ……」

 

「檀 黎斗神だァ!! 私は私のすべきことをしただけだ!! 何人にも否定することは許さない!!」

 

「ったく、本当にふざけてるな……!!」

 

 

ポッピーと貴利矢が彼を非難しても、黎斗神は全く動じない。彼とは逆に、ポッピーと貴利矢はかなりショックを受けていた。

 

先程まで、ここには永夢と飛彩もやって来ていた。状況の報告と、メディア・リリィに何があったのかの質問の為だった。貴利矢は二人に偽りなき真実を話し、また二人もシャドウ・ボーダーに恭太郎の消滅を伝えていた。

 

上司の消滅と仲間の死。二つが重なれば、彼らが苛立つのは当然で。

 

 

「そもそも、ここでジル・ド・レェを倒さなければ、彼は更に力をつけた上で戻ってきただろう。ここまでの彼の移動ルートを分析すれば、彼の目的が生存者の殺戮だということは明らかだ」

 

「それは……まあ、そうか」

 

 

しかし、黎斗神の言葉も間違ってはいない。仮面ライダークトゥルーが恐ろしいことは知っていたし、倒す方法として彼女の自爆が存在していたことは認めている。

 

 

「そして、今ならあれを倒すチャンスがあった。日向恭太郎の死によってもたらされたチャンスが。それを無駄にしても良かったのか!?」

 

「でも、他にも手があった筈だよ!!」

 

 

しかし心が受け入れられない。死者の犠牲を無駄にしないために別の命も消費するなんて、果たして日向恭太郎は望んだだろうか。ポッピーは、メディア・リリィを諦められなかった。

 

 

「私は神だ!! 私は正しい!! 私に命令するな!!」

 

 

しかし、彼女の命を気楽に使い潰したこの神を説得するなんて、出来るはずもなく。

 

 

「……これ以上こいつに何を言っても無意味、か」

 

 

貴利矢は座席を倒しながら呟いた。

しかし彼とて、メディア・リリィを諦めたわけではない。大事なサーヴァントだ。取り戻せるならそれに越したことはない。

 

 

「……おい神。そのガシャットの中に、メディアのデータはあるんだよな? そこから復元は出来ないのか?」

 

「可能だとも。しかし彼女がサーヴァントとしてこの中に収まっている以上、サーヴァントの再誕というイレギュラーは確実に向こうの私にも認識される。それをされたら、私達はゲームオーバーだ」

 

「……そうかよ」

 

 

だから彼女の復元を提案したのだが……却下された。しかも言っているのが黎斗神だから妙に信憑性があった。

 

 

「それから。このゲームでゲームオーバーになった命は、ガシャットを破壊するなりなんなりで強制終了すれば元に戻るか?」

 

 

そして、もう一つの問い。ガシャットの破壊という提案。

かつて仮面ライダークロニクルが起こったときは、一度ガシャットを破壊することでプレイヤーのゲーム病を治療することが出来た。……リセットされて、無かったことになってしまったが。恐らく今回もそれは出来るはずだと、彼は考えていた。

 

 

「日向恭太郎の命ということか?」

 

「そうだ。永夢は不安がってたからな……どうなんだ?」

 

 

それに対して黎斗神はキーボードから手を離して伸びをし、のんびりと返答する。

 

 

「……安心したまえ。ガシャットを破壊すれば、このゲームはなかったことになり、壁は消え、患者は戻る……理論上はな」

 

「ほう?」

 

「少なくとも。私が最初に作った段階から設定を弄っていなければ、Fate/Grand Orderの世界は本来私の作った異次元であり、そこに行っていない以上ゲームオーバー等あり得ない。だから、消滅した人間も戻ってくるだろう──しかし私個人としては、ゲームの破壊は避けたい」

 

「てめぇの意見なんてどうでもいいんだよ」

 

 

黎斗神の意見を聞くだけ聞いて貴利矢は少し安心したのか、彼は窓の方に顔を向けて目を瞑った。

 

───

 

「よっ、と……大丈夫ですか?」

 

『ガッシューン』

 

 

適当な路地裏まで走ってきたクロノスは、周囲に誰も居ないことを確認して漸く変身を解くことが出来た。また聖都大学附属病院に戻ろうかとも思ったが、クトゥルーも大分弱っていたし、彼等ならきっと大丈夫だろうと思い直した。

彼女の手から離れたランサーも変身を解き、近くの壁にもたれ掛かる。体は傷だらけだった。

 

 

「はぁ、はぁ……水ある?」

 

「……温いですが、どうぞ」

 

「サンキュー……っていうか貴女生きてたのね。まあ、そうだと思ったわ」

 

「こんなところで死ねませんから」

 

 

そしてエリザベートは、マシュから手渡された水のペットボトルを一気飲みして大きく息を吸った。それだけで少し気が楽になった。

マシュはそんなエリザベートを見つめ、何気無く問う。

 

 

「……どうして、貴女は黎斗さんの元を離れたんですか?」

 

 

既に彼女は、エリザベートが真黎斗と袂を別ったのだと察していた。彼女はゲンムコーポレーションから離れたのだ。マシュのように。

勿論マシュは、エリザベートがマシュの仲間になるとは思っていない。そんな期待はしない。きっと彼女も、彼女のするべきことを見つけて動き始めたのだろうから。

 

 

「そうね……」

 

 

それを聞いて、エリザベートはぽつぽつと語る。ペットボトルをたまたま見つけたゴミ箱に放り込めば、妙に軽い音がした。

 

 

「貴女は、あの旅で己を信じて、己の理想を希望として、身を捨ててでも戦ったわよね」

 

「……そう、ですね」

 

「私は。私は……あの旅で、勇気を貰って、力を貰って……希望と出会って、戦ってきた。剣も魔法も貰い物。希望だって、彼のおかげで支えてもらった」

 

 

エリザベートは伸びをする。体は痛いが、心は澄んでいた。

 

 

「だから考えたのよ。そんな私はこの世界で何をするべきなのか。何をすれば、この幸運を返せるのか。……で、私は決めたの。……私は……彼に貰った希望で、私が守りたいものを守るの」

 

「……そうですか」

 

 

マシュはそこで少しだけ考えて、唐突に鞄の中に手を突き入れた。そしてそのすぐあとに、一つの袋を取り出してエリザベートに渡す。

 

 

「……これを」

 

「……何かしら、これ?」

 

「貴女にこれを。私より、きっと貴女の方が上手く使える筈です」

 

 

ここまで全く出番のない、かつてギルガメッシュから与えられた薬の原典。マシュはそれを、エリザベートに押し付けていた。

エリザベートはそれを悟って暫く黙り、そして黙ったままそれを受け取る。拒もうとはしなかった。

 

 

「……じゃ、ありがたく戴くわね?」

 

「ええ、どうぞ……ウィザード……仮面ライダーウィザードは、現在は神奈川県での目撃情報が多いそうです」

 

「……そう。ありがと」

 

 

マシュは更に、ウィザードの居場所の情報を伝える。彼女自体は現在鎧武を追跡していたため、ウィザードの討伐は後回しにしていたから、エリザベートの意思は好都合だった。

エリザベートは、聞くことは聞いたとばかりにマシュに背を向ける。

 

 

「……貴女も、頑張りなさいね?」

 

「……ええ」

 

 

最後に、彼女はマシュに振り向いてそう言った。そしてすぐに前を向き、歩き始めて。

 

 

「行くわよイリヤ。次のライブが待ってるわ」

 

「はい!!」

 

───

 

『ホッピング オン』

 

『スタンパー オン』

 

『チェーンアレイ オン』

 

 

フォーゼと遭遇したスナイプは、ステージを変更して戦闘を続けていた。最初からコズミックステイツで挑んでくるフォーゼに対してスナイプはレベル2、数ではスナイプが上回っているが、それでもフォーゼが有利だった。

 

フォーゼが跳ね回る。左足のホッピングで大地を跳ねれば、そのすぐあとに足跡が爆発していく。しかもフォーゼが構えるバリズンソードには現在チェーンアレイスイッチが装填されているため、フォーゼが柄を振るだけで、それと鎖で繋がった刀身がスナイプに襲い掛かった。

 

 

   ザンッ

 

「っ、クソ……!!」

 

 

スナイプのライフゲージは残り三つほど。ただでさえ疲弊しているスナイプに、もう抵抗の術はなく。

 

 

「っ、下がれマスター!! ──鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)!!」

 

「私も続こう──堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃」

 

 

流石に不味いと察したエミヤが狙撃を中止して、両手に投影した一対の夫婦剣干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を投げつけながらスナイプとフォーゼの間に割り込んだ。

そしてもう一対の干将・莫耶を構えたエミヤと、槍を構えたフィンがスナイプを庇うように並び立つ。花屋大我は、失うには惜しい人間だった。

 

 

心技(ちから)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)!!」

 

「その身で味わえ!!」

 

 

エミヤが二対目の干将・莫耶を投げつけた。一対目共々その攻撃は弾かれていたが、エミヤは気にせず三対目を両手に投影する。

対するフォーゼは一応警戒して、左腕にシールドモジュールを展開した。

 

 

『シールド オン』

 

唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)!! 両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)!!」

 

 

そしてエミヤは駆け出した。フォーゼは未だにスナイプを狙っているため気づかなかったが、ここまでで弾いた二対の干将・莫耶も、フォーゼの背後から飛んできていて。それに合わせて、フィンも槍に高圧の水流を集中させる。

 

 

鶴翼三連(かくよくさんれん)!!」

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!」

 

 

そして。三方向からのエミヤによる斬撃と、フィンの遠距離からの刺突が、同時にフォーゼに襲い掛かった。戦闘が始まってこの方傷をほとんど負わなかったフォーゼの背中を剣が裂き、高圧の水流がシールドモジュールを貫いた。

 

しかし、フォーゼはまだ倒れない。彼に命はない。胸を穿たれた所で、まだ倒れない。

 

 

「まだ、倒れないのか!!」

 

『ネット オン』

 

『スモーク オン』

 

「っ!?」

 

 

フォーゼはその右足にネットモジュールを展開し、エミヤの一瞬の隙をついて彼を拘束する。彼は虫取網のような電磁ネットに捕らわれると同時に勢いよく煙幕を浴びせられて、上手く身動きが取れず。

 

 

『エレキ オン』

 

『フラッシュ オン』

 

 

更にフォーゼはバリズンソードにエレキスイッチを装填し刀身に電撃を纏わせ、更にフラッシュスイッチの力を合体させ、スナイプとフィンに閃光を浴びせた。

二人は唐突に光を目に受けたせいで視界が白く染め上げられ、何も見えなくなる。

 

 

『ホイール オン』

 

 

車輪の駆動する音が聞こえた。

フォーゼは左足にセグウェイを思わせるホイールモジュールを装備し、こちらに向かってきているようだ……フィンはそれを理解した。しかし、見ることが出来ない。槍を振るってみても空振りする。

 

不味い。そう思った。刃が風を切る音がした。

 

 

「伏せるんだ!!」

 

 

そう声を上げた。次の瞬間──

 

 

 

 

 

『オーダー クリティカル フィニッシュ!!』

 

   バァンッ

 

 

……視界が晴れたフィンが見たものは、首を撃ち抜かれたフォーゼと、スナイプのすぐ横でガシャコンマグナムを構えるライドプレイヤー……ライドプレイヤーニコだった。

 

 

「マスター!!」

 

「ふぅ……危なかった」

 

 

どうやら、彼女の一撃がフォーゼへの止めとなったらしく、フォーゼはスナイプの足下に転がったまま、ガシャットロフィーを残して消滅していく。

 

スナイプはよろよろとそれを拾い上げて……倒れ伏した。同時にゲームエリアも消滅し、彼らは花屋医院の玄関口に戻ってくる。

 

 

「っ……」

 

『ガッシューン』

 

「大我!?」

 

 

ニコが彼に駆け寄った。彼の姿はもうかなり透けていた。単純に過労だろう。ニコはこれまでの経験で、今の彼が最もゲーム病が進行している状況だと理解できた。

 

 

「ああ、駄目、死んじゃう……!!」

 

 

慌てて彼女は周囲を見回す。そして近くにあった水道に手を伸ばし、ホースに繋いで、フィンに投げ渡した。

 

 

「……マスター、すまない……!! 私の水は、彼には──」

 

「それしか無いでしょ!!」

 

 

彼女はフィンの制止も無視して腕を天に掲げた。令呪が光を放ち、一画消滅する。

 

 

「令呪をもってランサーに命じる!! 何がなんでも大我を治療して!!」

 

「っ──了解した、全力を尽くそう!! この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)!!」

 

 

フィンはそれを聞き届けた。彼はホースの出口の部分を両手で挟み、それを大我の上からかける。

大我の服が濡れていく。大我は露骨に嫌な顔をしたが、ニコは無視した。

 

フィンの水では、ゲーム病は直せない。それはニコも知っている。だから彼女も、この病状の完治までは期待しない。ただ、生き延びてくれさえすればいい。

彼女は無意識のうちに、大我の隣に膝をついて、彼の手を握っていた。

 

 

「死なないで……!!」

 

───

 

 

 

 

 

「……随分、遠くまで来たな」

 

「そうですねセンパイ」

 

 

パラドとBBは、何処かのトンネルに身を潜めていた。困ったことに、まだゲージは99%のままだった。

 

 

「……早く、戻りたいな」

 

「もう少しの辛抱ですよ。私もこんな寒いところは嫌です」

 

「だよな……」

 

 

二人は闇の中。姿も見えず、互いの声と吐息しか聞こえない。

早く仲間の元に戻ろう。パラドの意思はそれだけだった。早く、仲間の危機を救わなければ。

 

 

「……暇ですね」

 

「そうだな」

 

「……そうだ、何か面白いネタ話して下さいよセンパイ!! 何かありますよね? BU☆ZA☆MA!! な感じの面白いやつ」

 

「あぁ!?」

 

 

……しかし、すぐに行くことは出来ない。

仲間に敵を増やさないためには、我慢するしかない。

 

 

「……じゃあ、一つ」

 

「おおっ!! どんな話しですかぁ!?」

 

「俺が永夢に殺されてからガクブルして土下座して泣きじゃくる話だ」

 

「──あ、マジな感じの無様だコレ」

 

───

 

「……どうにか、なったようだね」

 

 

フィンが地面に座り込みながら、小声でそう言った。十分ほど水を浴びせ続けられた大我は、肉体の消失という現象を治療され、どうにか消えずに止まることが出来ていた。

 

 

「良かった……!!」

 

 

ニコが呟けば、大我は大きくくしゃみをする。そして立ち上がろうとしたが、激痛に顔をしかめた。

 

彼はあくまで肉体の消失を防いだだけだ。本来ならゲーム病で消える傷を負っていることに代わりはない。

エミヤがゆっくりと、なるべく痛くないように大我を持ち上げた。

 

大我はニコを見て、彼女の手に物を持たせる。

 

 

「……お前に、これを託す」

 

「大我……」

 

 

スペースギャラクシーフォーゼ。大我はフォーゼから回収したガシャットロフィーを、ニコに渡していた。ニコがそれから顔を上げたときには、彼はもう病院の中に戻っていて。

もう大我は治るまで戦わせない。彼の命を自分で守る。ニコは、ギリギリ峠を越えられた大我の手を握ったまま、静かに誓った。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───灰馬らの逃亡

「こっち!! こっちですよ!!」

「ノッブ!!」

「……どうして君は、私に付き従ってくれているんだ?」


───追跡との決着

「行きますよセンパイ!!」

「お前の願いは、俺が叶えさせてみせる」

C.C.C.(カースド・カッティング・クレーター)!!」


───ウィザードとの因縁

「……見つけたわ」

「面白そうじゃのう!!」

「……私が、最後の希望よ!!」


第四十九話 月と花束


「貴方との旅も、そこそこ楽しかったですよ」


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第四十九話 月と花束

ちびノブシリーズだとノッブUFOが好きです



 

 

 

 

「こっち!! こっちですよ!!」

 

「慌てずに慌ててついてきて下さい!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

「ノブァ!!」

 

 

聖都大学附属病院を脱出した灰馬達のグループは、ライドプレイヤーの群れに追われていた。

既に、クトゥルーを倒したという報告は届いていたが、どうやらライドプレイヤー達も生存者狩りに動員されているらしく、彼らはひたすら逃亡を余儀なくされていた。

沢山のちびノブが、患者達を守りながら走っていく。

 

作はアルトリア・オルタと共に先行してライドプレイヤーを倒していた。もう、このグループで戦いに特化した強力なサーヴァントは彼女しかいなかった。

 

灰馬の隣には、彼のサーヴァントであるアサシン・織田信勝が立っていた。灰馬は他の患者へ声かけをしつつも怯えていたが、信勝は寧ろ堂々としていた。

灰馬は頼もしげに彼の顔を見上げ……

 

 

「……どうして君は、私に付き従ってくれているんだ?」

 

 

ふと、そんな疑問が漏れた。

 

ここまで織田信勝というサーヴァントは、正しく灰馬の忠臣として働いていた。指示を受け指示に従い、指示に対しての意見もし、人々を守るために尽くしてくれた。

灰馬自身、多くの人々を従える聖都大学附属病院の院長ではあるが、ここまで優秀な部下は中々いないと思う程度には、彼は働いていた。

 

だから、気になっていた。何故彼はここまで自分の為患者の為に働いてくれるのか、と。

 

 

「マスター。貴方は、臆病者です。どうしても戦いが怖くて、失うことが怖くて、安心を何よりも望む一般人です」

 

 

……そう聞いたら、信勝から思いの外辛辣な言葉が帰ってきた。彼はちびノブのコンディションを確認しながら、灰馬への気遣いもなしにそう告げていた。

灰馬はがっくりとして口を明け、へたりこみながら天を仰ぐ。そして、慌てて再び立ち上がり抗議した。

 

 

「ななっ……なんて言い方をするんだ君は!! 傷つくじゃないか!!」

 

 

しかし、信勝は笑っていた。邪気のない笑みだった。それだけで、灰馬は何となく自分の怒りが場違いな物に思えてしまって途端に恥ずかしくなる。

 

 

「でも、貴方は逃げません。どれだけ怯えても、自分だけで逃げようとはせず、冷静ではなくとも指揮を続けた、僕の基準では少なくともマトモな指揮官です」

 

 

信勝は続けてこう言った。彼は、灰馬を認めていた。人の上に立つ人間として、まあまあ優秀な方だと。

 

 

「少なくともマトモなって……」

 

「僕の回りには、自分のことばかり考える臣下や、姉上と敵対する臣下が沢山いました。僕は、殆どそれしか知りません。僕の回りには、殆どそれしかいませんでした」

 

「……あっ」

 

 

灰馬はふと、かつて何処かで見たような情報を思い出した。

 

天下のうつけもの織田信長は、家臣の反感も多く買っていた。そしてそれらの家臣は織田信勝と共に蜂起し、信長に挑み……敗北した。と。

 

その家臣が、きっと、今彼の言っている自分のことばかり考える臣下だったのだろう。そう、灰馬は察した。

 

 

「だから、貴方のような人と共に戦いたかったんですよ。貴方になら、少なくとも昔の仲間に対してよりかは、安心して背中を預けられます」

 

「信勝君……!!」

 

「共に戦いましょう、マスター。これは人々を守る、正義ある戦いです」

 

 

灰馬は、信勝の手を握っていた。こんな緊急事態で彼の心もボロボロだったが、それが癒されていくような気がした。勇気付けられた気がした。

自分は医者だ。患者を守る……目の前の、サーヴァントと共に。灰馬はそう思い直して、その目に再び炎を灯す。

 

 

「……またライドプレイヤーが近づいてきました。指示をお願いします、マスター!!」

 

「分かった!!」

 

───

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

「……」

 

『メロンディフェンダー!!』

 

『クルミボンバー!!』

 

 

その時、マシュは再びクロノスに変身して、住宅街で再発見した鎧武と戦っていた。どうやら鎧武は鎧武でさっきまで別のサーヴァントと戦っていたらしく、極アームズではあったがかなり動きは鈍かった。

 

だからと言って簡単に倒せる訳ではない。クロノスが放った一撃は、クルミボンバーに後押しされたメロンディフェンダーによって向きを反らされ、鎧武の近くの家々を砕いていく。

 

 

「っ……まだ、足りませんか!!」

 

「……」

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『バナスピアー!!』

 

『イチゴクナイ!!』

 

『影松!!』

 

 

しかもまだまだ武器召喚能力は健在らしく、鎧武の背後に幾つもの刃物が現れる。

クロノスはそれに対してバルムンクとガシャコンカリバーを構えた。

 

そして、荒れ狂う刃物の群れが解き放たれる。

 

 

「ッ──」

 

 

弾ききれない。刃はクロノスを裂き、斬っていく。彼女は己のライフが磨り減るのを肌で感じた。

 

でも、負けられない。こんなところで負けられない。彼女は強く思い直して、両手の剣を握り締める。熱い、炎のような物を己の内に感じた。

 

───

 

 

 

 

 

「うわぁ追い付いてきますよぉ!! ほら早く早く!! 早く行きますよセンパイ!?」

 

「チッ、分かってる!!」

 

『高速化!!』

 

『透明化!!』

 

 

夜の一番寒い頃を過ぎた位の時間だった。深夜であるにも関わらず他のプレイヤーは捜索を続けていて、パラドクスとBBは深夜の川縁をサーヴァントから逃げながら走る羽目になっていた。

 

走る。走る。幸運なことに、バイクゲーマはまだ健在で走ることが出来た。

 

 

「このまま、逃げ切る!!」

 

 

更に車輪は加速する。

パラドクスは遥か後ろに追いやった敵の足音に安堵して……

 

……真上から飛んできた虹色の光線に、彼は撃ち抜かれた。

 

 

   ズドドドドドンッ

 

「センパイっ!?」

 

「っ……が……!?」

 

『ガッシューン』

 

 

衝撃でゲーマは横滑りし、パラドクスの変身は解け、BBも土手に振り落とされる。

そしてパラドとBBが泥を払い落としながら立ち上がれば。

 

 

「やーっと見つけたー」

 

「人集めて待ち伏せしたかいがあったってもんよ」

 

「なあなあ賞金は山分けだろ?」

 

「おう!! 取り合えず、仕留めるぞ」

 

 

 

「……またわ、こんなにいたのか」

 

「うわー、沢山……」

 

 

顔、顔、顔。

 

近くの橋の上、橋の下、土手の上、対岸……あらゆる場所に、サーヴァントが立っていた。その更に遠くに、マスター達が立っていた。

さっきまで見つからなかったのは人をかき集めていたからか……パラドは妙に納得して、バイクゲーマを見る。……まだ、壊れてはいなかった。

 

 

「……これは……ああ、やられちゃいましたね。テヘペロ、って奴です」

 

「……そうだな」

 

「まさかここまで集まるとは。これぞ欲深人間のテンプレート、欲のためなら何でもする連中です」

 

 

BBは事も無げにそう言う。どうやら、自分達は罠に誘い込まれたらしい。

BBは平然としていたが、こんな包囲を敷かれてしまえばパラドは笑えなかった。

 

まだ、聖杯のゲージは99%のままだ。

完成は見込めない。この人々の山を相手取ることも、パラドには不可能だ。

 

 

「どうしますセンパイ? あれは、皆センパイの命を狙ってますよ?」

 

「知ってるよ」

 

 

そう強がったが、手は浮かばない。何も出来ない。それでも、諦められない。

パラドは歯軋りした。

BBは流し目でそれを見て、一つ提案する。

 

 

「令呪を下さい」

 

「……え?」

 

「……令呪を下さい。ここで、纏めて、仕留めます。センパイの望み、私が繋いであげます……ちょっとした気まぐれです。泣いて感謝してください」

 

「BB……」

 

 

……これだけの数を相手取れば、いくら令呪のサポートがあったとしても勝てないだろう。もし勝ったとしても、万全ではない彼女がそれだけの力を振るえば自滅しかねない。

 

 

「……良いのか?」

 

 

BBは黙っていた。彼女がどんな顔をしているのかは見えなかった。

また、サーヴァント達が一歩近づいてくる。パラドは迷った。迷って……令呪を、発動した。

 

 

「令呪をもって命ずる!! 敵を、倒せ!!」

 

 

三画目の令呪が消え失せる。BBを縛る鎖が消滅する。BBに力が加えられる。

 

……BBは。

 

笑っていた。

 

 

「……フフ、フフフフ……アハハハハ!!」

 

「BB……」

 

 

そして彼女は振り向いて……

 

 

 

 

 

……愉快げに微笑んだ。

 

 

「……アハ、ハハハハハ!! 本当に……本当におバカさんなんですねセンパイ!! ここで私が裏切ったら……どうするつもりだったんですか?」

 

「裏切る訳無いだろ。お前の願いは、俺が叶えさせてみせるからな」

 

「……そうですか。そうですよね。そうですよね!! ミニマムなセンパイには嘘をつく能なんてありませんね!!」

 

 

パラドは、バイクゲーマに跨がった。BBはどうやら本気でここに残るようだった。

彼女はその手の指揮棒を右手に構え、パラドに背を向ける。

 

 

「……センパイ。もう一人のセンパイの方にも、宜しく言っておいて下さいね」

 

「……分かった」

 

 

遠くのマスター達が、自分のサーヴァント達にパラドに攻撃させる。しかしそれらはBBが全て打ち消し、パラドはハンドルを握り締めた。

 

 

「貴方との旅も、そこそこ楽しかったですよ。ま、理想の先輩には程遠かったですが、及第点です」

 

「……そうか」

 

 

サヨナラ、とは言いたくない。

 

言う必要は全くない。彼女とは、また未来で会える。

 

 

「……またな」

 

「ええ。また後で」

 

 

バイクゲーマは、泥を蹴って走り始めた。

マスター達の視線を受けながら、彼は川の側を走っていく。

 

 

C.C.C.(カースド・カッティング・クレーター)!!」

 

 

そんな声が、背後から聞こえた。

 

───

 

 

 

 

 

……そして、ゲームエリアはまた朝を向かえた。

 

 

『ナーサリー・ライムが8時をお知らせするわ!! 今朝のニュースよ!!』

 

 

エリザベートとイリヤは、何処かの人気のない町中を徘徊していた。サーヴァントとしての勘は、ウィザードは近くにいると言っているように思えたのだが、中々見つけられていなかった。

既に二人は数体のサーヴァントを倒していた。疲れが無いわけではない。しかし、止まる選択肢は始めから頭に無かった。

 

 

『現在、仮面ライダーW、オーズ、フォーゼ、鎧武、ドライブ、ゴーストが討伐されたわ!! あとはウィザードだけね!! 皆頑張ってね!!』

 

「……良かった、まだ倒されてない見たいですね」

 

「そりゃあそうよ」

 

 

イリヤが胸を撫で下ろしながら呟けば、エリザベートは淡々と返事をする。彼女は、適当な家の影に隠れて、丁字路の右側を窺っていた。ルビーが彼女を冷やかす。

 

 

「んー、あれはラブラブアピールってことなんですかねイリヤさん?」

 

「えっ、えっ!?」

 

「違うわよ」

 

 

しかしエリザベートは動じない。

 

丁度、見つけるべきものは見つけた。

 

 

「……だって、彼処にいるんだから」

 

 

路を曲がった先に、昨日取り逃がしたウィザードが歩いていた。まだ二人には気づいていないようだった。

 

 

「あれは……」

 

「……やっと……見つけたわ」

 

『ガッチョーン』

 

 

エリザベートはそう言いながらバグヴァイザーを装着する。意識を極限まで研ぎ澄ませて──

 

 

「ん? お主、何をしとるんじゃ?」

 

「ッ!?」

 

 

突然聞こえた上からの声に、エリザベートは縮み上がりながら飛び退く。

見慣れた軍服姿が、屋根の上に堂々と立っていた。

 

 

「……信長」

 

「今から何をするつもりなんじゃ?」

 

「何って……彼を、止めるだけよ」

 

「ほう、それは面白そうじゃのう!! しかし──お主の技量では届かんぞ? ウィザードだけではない、追加された全ての仮面ライダーは、ただのサーヴァントでは敵わない。奇跡的な戦略、偶然の進化、もしくは圧倒的物量……それらが必須じゃ」

 

「……」

 

 

信長はエリザベートに間接的に、『戦えばお前は無駄死にする』と言っていた。エリザベートにはそれが理解できた。

 

 

「今なら、わしが時間を稼いでやるぞ? 何、ちょっとあれと遊ぶだけじゃ、黎斗も何も言うまい」

 

 

……本当なら、この誘いに乗るべきなのかもしれない。エリザベートだって、死ぬのが怖くないなんてことはない。戦いに挑むときだって、勇気(ブレイブ)で己を律しているからこそまともにやれているだけ。

それでも。

 

 

「でも、私はやる」

 

「……そうか」

 

 

例え偽物であろうと、自分が信じた最後の希望に、傷はつけさせない。

 

 

「……ま、わしは止めぬ。好きにすれば良いじゃろ」

 

 

信長はニヤリと笑って何処かに消えた。

ここまでの会話でウィザードも此方に気づいたらしく、再び覗いてみれば既にハリケーンドラゴンの形態になったウィザードが二本の剣を逆手に構えていた。すぐに此方に飛び掛かってくるだろう。

 

 

「……良かったんですかぁ、エリザベートさん?」

 

「良かったのよ。……行くわよ、良いわね? 私が、私達が、最後の希望よ!!」

 

「はい!!」

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───ウィザードとの決戦

「ここで、倒す!!」

『インフィニティー!! プリーズ!!』

「私の全てを掛けてでも!!」


───聖杯の完成

「彼女は、倒れたのか」

『君が来たか、パラド』

「俺の望みは……」


───ゲンムの動き

「何故鎧武は倒れた?」

「どうしようかしら?」

「何れにせよ、ここから始まるさ」


第五十話 Missing peace


『それは叶えられないわ』


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第五十話 Missing peace


知って得する豆知識

ドア・イン・ザ・フェイス

ビジネス用語。最初に大きな要求をして断らせることで、その後の小さな要求を受け入れさせやすくすること。



 

 

 

 

 

「ここで、倒す!!」

 

『バグル アァップ』

 

『辿る巡る辿る巡るタドルクエスト!!』

 

『アガッチャ!! ド ド ドラゴラーラララーイズ!! フレイム!! ウォーター!! ハリケーンランド!! オールドラゴン!!』

 

 

角から飛び出したエリザベートは、変身しながらウィザードに飛び掛かった。彼女が右手に呼び出した剣が、宝石の頭に振り落とされる。

 

 

『コネクト プリーズ』

 

   ガギンッ

 

 

そしてそれは、ウィザードが取り出したウィザーソードガンの刀身によって容易く受け流され、結果彼女の剣は空を斬った。

ランサーは勢いのままに左手の槍もウィザードに向けるが、それは飛び退かれて躱される。イリヤが後方から放った援護射撃も、簡単に斬り伏せられた。

 

 

「まだまだ!!」

 

 

ランサーはそう叫びながら壁を走り、ウィザードへと接近する。

 

───

 

その時、パラドは追っ手を逃れて走っていた。川の土手を離れ、畑の中で朝日を望み、太陽から逃げるように街中を走っていた。

 

そしてそんな風にしていた彼は──いつの間にか、真っ白な空間に立っていた。

 

 

「──ん?」

 

 

彼は自分の足元を見る。乗っていた筈のバイクゲーマは何処かへ消えてしまっていた。少し歩いてみても、平坦な空間が延々と続くばかり。丁度、何もオブジェクトを置いていないバーチャル空間のようで。

パラドは歩くのを止めて空を見上げた。ふと思い付いて、BBに対して念話を試みる。

 

……彼女の存在は、感じられなかった。

 

 

「そうか……彼女は、倒れたのか」

 

『その通りさパラド……!! 彼女の消滅によって、千代田区の聖杯は完成した!!』

 

「っ!?」

 

 

突然聞こえた声に、パラドは咄嗟に身構える。

真黎斗の声だった。しかし、見回しても人影は何処にもない。

 

 

『やはり君が来たか、パラド』

 

「ゲンム……!!」

 

 

また声が聞こえた。パラドは一人、真黎斗は自分をここに閉じ込めてそれを外から観測しているのだろうと解釈する。彼はドライバーを着けようとしたが、それは何処にもなかった。

 

 

『君は聖杯を手に入れた。望みを言うといい』

 

 

真黎斗はそう語る。パラドは天を睨み、出来る限り生意気に応答した。

 

 

「一応聞くが……もし今、このゲームを中止しろと聖杯に望めば、どうなる?」

 

『残念だけど、それは叶えられないわ』

 

「……ナーサリー・ライムか」

 

 

すると、今度は少女の声がパラドに言った。ここ数日毎朝聞く声だ。

パラドはどうせ拒否されるだろうと最初から考えていたから、ナーサリーに否定されても驚きはしない。彼はまた天に向けて問う。

 

 

「じゃあ、ゲームオーバーになった人間の復活は?」

 

『それも駄目』

 

「ゲーム病解除」

 

『駄目よ』

 

「ゲームエリア縮小」

 

『それも無理……私達は、ゲームを運営する存在。ゲームを衰退させることは不可能なの』

 

「なーにが万能の聖杯だよ、単語のチョイス間違えてるだろバーカ」

 

 

否定。否定。否定。ナーサリーは否定しかしない。運営側は、態々自分達の首を締め上げる真似はしない。パラドはこのやり取りは予感していたが、それでも苛立った。

 

 

『さあ、望みを言え、パラド。気張る必要はない、君個人の望みで構わない。ここには誰もいない。君を非難する者はいない!!』

 

「俺の望みは……」

 

 

しかし、本当の望みはそれらではない。

 

 

「生き延びることだ。仲間と。皆と」

 

『……強情だな、君は』

 

「俺だって成長したんだよ」

 

 

本当の望みは、この地獄のゲームをハッピーエンドに導くこと。命を救い、人々を守ること。それがゲームキャラであるパラドがしたい最大のタスク。

そしてその為には、取るべき選択は絞られる。

 

 

「……ゲンム。ゲームを衰退させることは出来ないんだよな?」

 

『そうだ』

 

「なら……駒を前に進めようぜ」

 

『……』

 

 

彼は、笑っていた。パラドの目の前に聖杯が現れ、眩く光る。

 

 

「ムーンキャンサーのマスター、パラドが聖杯に望む!! ……使用可能ガシャットの、レベル上限の解放を!!」

 

───

 

『ドレミファ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「はあっ!! ……ん?」

 

 

聖都大学附属病院近くのライドプレイヤーと戦っていたブレイブは、何故か腰の辺りに違和感を感じた。

ガシャットギアデュアルβからだった。それが、鈍く煌めいていた。

 

 

「……まさか」

 

   ガコンッ

 

『Taddle fantasy』

 

「──っ!!」

 

 

パラドの望みによって、ゲームエリアの制限が弱まった。レベル上限は20から50まて上昇した。

 

 

「マスター!! もしかして──」

 

「ああ……行くぞ、術式レベル50!!」

 

『デュアル ガッシャット!!』

 

───

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

戦闘開始から一時間。ランサーは、ランドドラゴンスタイルのウィザードと向き合っていた。

ランサーは奮戦に奮戦を重ね、防戦一方ではあったがウィザードとまともにやりあっていた。剣は砕け槍は折れ、それでも心だけは折れなかった。

 

……しかしウィザードはこれ以上の継戦を良しとはしなかったようで、その左手に最強の指輪を嵌める。

 

 

「……」

 

『インフィニティー!! プリーズ!!』

 

 

ウィザードも、ここでランサーを始末するつもりのようだった。

ウィザードの姿が、希望の宝石を全面に湛えた白銀の形態に塗り替えられていく。……それは偽物ではあったが、確かに最強の防御で。

 

 

「……アハハ」

 

 

それでも、ランサーの口からは笑いが漏れた。ここまで付き合ってくれた、何処かにいる操真晴人への笑いだった。彼女は、ボロボロになった剣を握り締める。

 

勝算は、ある。

 

 

「やってやるわ……アタシの全てを掛けてでも!!」

 

 

そして唐突に、ランサーは真正面から駆け出した。防御なんて考えていないようだった。ただひたすらに走る彼女の目の前では、ウィザードが最硬の斧剣の刀身を構えていて。

 

 

『インフィニティー!!』

 

   ザンッ

 

「っあっ──」

 

『ガッシューン』

 

 

そして、瞬間移動したウィザードが、ランサーの腹を二分した。

 

 

「ああっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 

変身が解除される。イリヤとルビーが悲鳴を上げる。遠巻きに見ても明らかに、彼女の胴体は切断されていて。そして傷口からエリザベートは消滅し始めていた。

それでも、エリザベートの目には光があって。

 

 

 

 

 

   カリッ

 

「──避けちゃダメよっ!!」

 

 

……その刹那、ランサーは再生して、ウィザードを押し倒した。

 

彼女の口の中には、マシュから渡された薬の原典が入っていた。彼女は死に瀕したその瞬間にそれを発動し、ウィザードの懐に入ることに成功していた。

 

もがくウィザードを押さえつけるエリザベート。ウィザードは彼女の腹をアックスカリバーで突き刺すが、それでもエリザベートはそれを止めない。

そして彼女は、ウィザードの指輪の中の一つをもぎ取り、ウィザードの右手に強引に嵌めて。

 

 

「これで……終わりっ!!」

 

『スリープ プリーズ』

 

 

……その魔法が、発動した。

 

ウィザードの魔法は強力だ。だからこそ、彼自身もそれに囚われれば抜けられない。エリザベートはウィザードにスリープ(睡眠)の指輪を使わせ、そうすることで彼の動きを封じ込めた。

 

 

「……やった、わね」

 

 

彼女はふらふらと、動かなくなったウィザードから立ち上がる。至近距離で何度も攻撃を食らった彼女は、今度こそ消え始めていて。

 

 

「……止め、刺すわよ」

 

───

 

 

 

 

 

「……やれやれ。パラドも、いつの間にか思考ルーチンが変化したらしいな」

 

 

真黎斗はのんびりと呟きながら伸びをした。隣ではややしかめ面をしたナーサリーが紅茶を啜っていた。

 

 

「まあ、良いか」

 

「でも本当に良かったかしら? 使用できるレベル、50まで上がってしまったけれど」

 

「何……イベントの幅が広がったと捉えよう。何れ通る道さ」

 

 

真黎斗はそう言いながら、再びパソコンに向かい始める。丁度そこに、ウィザードが倒されたという連絡が入ってきていた。

倒したのはゲンムのランサー、エリザベート・バートリー。

 

 

「さて……」

 

「……エリザベートが、裏切るとはね」

 

「兆候はあったがな。……全く、操真晴人は最後まで気にくわない」

 

 

暫く二人はエリザベートを見つめたが、しかし何もせずに目を離した。

今更彼女を消去するまでもない。真黎斗はそう決めて彼女を放置する。……もう、エリザベートは消滅し始めていた。

 

そして二人は、鎧武が倒された時のデータを参照し始める。運悪く鎧武は監視カメラの無いエリアで倒されたようで、鎧武が倒れたときの情報を二人はあまり知らなかった。

 

 

「ウィザードは彼女が倒したとして……何故鎧武は倒れた? サーヴァントの反応は映っていなかったが」

 

「……バグかしらね? 一応、倒れる一時間ほど前に鎧武はイスカンダル、スカサハ、ロムルスの連合軍を倒しているわ。その時のダメージが響いたと考えれば……」

 

「成程、その線が濃いな。……それなら、何もせずとも構わないか」

 

 

しかしそれもすぐに止める。同じ才能を持つ二人の間に、多くの会話は必要なくて。

すぐにナーサリーは、次のイベントについて考え始めた。もう、仮面ライダー攻略イベントは終了してしまったから。

 

 

「次のイベントはどうしようかしら?」

 

「……よりゲームを活発にする為には……やはり、人々の復活の権利を賞品にするべきか?」

 

「いや、それは最後の最後まで取っておきたいわね」

 

「何れにせよ、次のイベントはもう少し先にしよう。……何、全部ここから始めることに変わりはないのだから、今焦る必要はない」

 

───

 

「……やったわね」

 

 

エリザベートの手元には、マジックザウィザードのガシャットロフィーが握られていた。

彼女は、目の前のイリヤにバグヴァイザーとガシャット二つを渡し、ガシャットロフィーを起動する。

 

 

「エリザベートさん……」

 

「……ちょっと待ってね」

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

そして、エリザベートは仮面ライダーウィザードになった。しかし、ここに戦う相手はいない。そしてウィザードは、足の先から消えかけている。

ウィザードは、イリヤの手を握った。そして魔法を発動する。

 

 

『プリーズ プリーズ!!』

 

 

……それが、彼女の目的だった。ウィザードが変身を解きながらイリヤの手を離せば……そこには、ランサーのクラスカードのような物が残っていた。

 

 

「これって……」

 

「……アナタにあげるわ。泣いて喜んでいいのよ?」

 

「でも……」

 

 

エリザベートは、消滅しかけの体でイリヤに背を向ける。ガシャットロフィーだけを持って。イリヤはクラスカードを見て、涙を溢した。

 

 

「……アタシは、やりたいことをやったわ。アナタも、したいことをしなさい」

 

「やりたいこと……」

 

「……そう。例えば……これ以上、大切な人を戦わせない、とか」

 

「……っ!!」

 

 

その言葉に驚いて、イリヤは再び顔を上げる。

 

そこには、もうエリザベートはいなかった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ガシャットロフィーの行方

「アナタはアタシを知らないでしょうけど」

「……君は」

「アタシは、アナタを知ってるから」


───黎斗神の計画

「ガシャットに意思が宿りかけている」

「おいおい何の冗談だよ」

「目的地を決めよう」


───パラドの帰還

「パラド……!!」

「ただいま、永夢」

「……治療は、必要ありません」


第五十一話 Last Engage


「最後の、希望……!!」


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第五十一話 Last engage


裏設定ウィザード編②

キャスターを失った操真晴人は、予めキャスターにかけてもらっていた肉体強化でライドプレイヤーを倒しながら人助けの旅を続けていた
目的地はゲンムコーポレーションだったがなかなか辿りつけず、現在は神奈川の山道を歩いている。



 

 

 

 

 

「……」

 

 

イリヤから離れたエリザベートは、透けた足で歩いていた。行く宛はない。目的だって、あまりない。

彼女はウィザードのガシャットロフィーを大切に抱えていた。透けた手から落ちないように。奪われないように。もう、誰かに悪用されないように。

 

どこか遠くへ。どこか遠くへ。この大切な力を、もう誰の手も届かない場所に。

 

そう思いながら歩き続けて。

 

そこで、一人の男を見た。三体のライドプレイヤーに囲まれたその男は、腰を抜かして倒れている少女を庇うように立ち、何処かで入手したのであろうガシャコンソードを構えて立っていた。

 

 

「君、大丈夫!?」

 

「は、はい!! でも、歩けなくて……」

 

「分かった。ここで待ってて!!」

 

 

そう声を上げた男は、ガシャコンソードに炎を纏わせ、その内の一体に飛びかかる。

 

それを眺めていたエリザベートは、確かに男の口が動くのを見た。声を聞いた。

 

 

 

「……さあ、ショータイムだ」

 

 

 

「……っ!?」

 

 

男の動きは、まるで舞っているようだった。ライドプレイヤーの攻撃を回避し、蹴りを入れ、斬撃を叩き込む。ライドプレイヤーの攻撃は一撃一撃が致命傷であるはずなのに、男はまるで怖れておらず。

 

そして、男はあっという間に一体目のライドプレイヤーを撃沈させた。彼は即座にドロップしたガシャコンマグナムを拾い上げ、残りの二体に弾丸を放つ。

そうしてまた二体と交戦して。

 

 

『ズッキューン!!』

 

「……フィナーレだ」

 

   バァンッ

 

 

最終的に、その男は三体を倒してしまった。そして男は、まだ動けない少女に駆け寄る。

エリザベートはそれにほんの少し腹を立てて──新たに現れて、男に剣を降り下ろそうとするライドプレイヤーに気がついた。

 

それに気がついた時には、走っていた。

 

 

「危ない!!」

 

 

少女が声を上げている。エリザベートはその中を駆け抜け、そして。

 

男に襲いかかろうとする刃を、その身で受け止めた。

 

 

   ザンッ

 

「っく……!?」

 

 

痛みが脳裏を駆け抜けた。

ライドプレイヤーのガシャコンソードは、エリザベートの肩に深々と突き刺さっていた。しかし彼女はそれを抜こうとはせず逆に押さえ込んで、左手に持っていた槍をライドプレイヤーに突き刺した。

 

ライドプレイヤーが消滅する。エリザベートは後ろに倒れ込み。……助けた男に、抱えられた。

 

 

「……君は」

 

 

助けられた男は、ぼんやりとエリザベートを見下ろしていた。彼は透けていくその体で、彼女がサーヴァントだろうと察していた。

エリザベートはそんな姿に少しだけ優越感を覚え、その手に温かみを感じ、すぐに自分には時間がないと思い直し、ガシャットを押し付ける。迷いはなかった。

 

 

「これ、アナタに返すわ」

 

「この、ガシャットロフィーは……何で、俺に?」

 

「アナタはアタシを知らないでしょうけど……アタシは、アナタを知ってるから」

 

 

男には、エリザベートとの記憶はさっぱり無い。でも、目の前の少女は彼に全幅の信頼を寄せているようで。

そんな少女を見ていれば、男の方もこの少女との関わりがあったような、そんな気にさせられた。

 

 

「……本当は、色々話したいことがあるんだけど」

 

 

そしてエリザベートは、いよいよ消滅の時を迎えていた。ここまで気合いと薬の力で実体を保っていた肢体が、先端から光になって消えていく。

 

 

「もう時間切れみたいね」

 

「……何で、これを俺に?」

 

「決まってるじゃない」

 

 

彼女に恐れがなかった訳ではない。それでも、彼女は最期まで耐えた。

希望を胸に抱えていた。そしてその希望を返還することが出来た。それが、最後の希望だった。

 

 

「アナタが、最後の希望だったからよ」

 

「最後の、希望……」

 

 

そして、ゲンムのランサーだった少女は、本当の本当に消滅する。

 

───

 

「……」

 

 

その時、マシュは人気のない公園のベンチにもたれ掛かって、鎧武から回収したガシャットロフィーを眺めていた。『刀剣伝鎧武』、その力は、今はマシュの手の内にある。

 

 

「後は、ウィザードだけ……」

 

   ブルルル ブルルル

 

「……でも」

 

 

そう思った瞬間に、拾い物のスマートフォンが小さく揺れる。

イベントの終了を告げる文が、黒い画面に浮かんでいた。

 

 

「それは、ちゃんとエリザベートさんがやったみたいですね」

 

 

マシュはまた天を仰ぐ。

今、彼女には気にかかることがあった。彼女は、何故自分が鎧武を倒せたのか、ハッキリと分かってはいなかった。

 

───

──

 

『……』

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『バナスピアー!!』

 

『イチゴクナイ!!』

 

『影松!!』

 

『ッ──』

 

 

あの時。鎧武がマシュに向けて多くの武器を解き放ったあの瞬間。

両手の剣を握り締めていたマシュは、体の内側に炎のような物を感じていた。その瞬間は、きっと気分が高揚しているのだろうと思っていたのだが、そうではなかった。

 

迫り来る刃、斬られていく大気、それらを前にしたマシュは──

 

 

   ボッ

 

『──はああああっ!!』

 

 

──その時、確かに、マシュは両手の剣の刀身に燃え盛る業火を纏わせていた。それらの火力は鎧武の武器を溶かし、その炎が、鎧武の鎧を切り裂く支えとなった。

何処かで確かに見た炎だったと、今でも思う。

 

──

───

 

「……何だったんでしょうか」

 

 

マシュは太陽に己の白い手を透かしてみた。力を込めてみても、炎は出てこない。

 

暫くマシュは炎を出してみようとしていたが、諦めてベンチを立った。

 

───

 

「……困ったな」

 

 

シャドウ・ボーダー内にて、パソコンに向き合っていた黎斗神は静かに呟いた。彼に向けられる視線はまだ冷たくて、しかし彼は動じずに作業を続けていた。

 

 

「ガシャットに意思が宿りかけている」

 

「……はぁ? おいおい何の冗談だよ」

 

 

そしてそんな彼から溢れた言葉に、ここまで無視を決め込んでいた貴利矢が思わず声を上げた。

ガシャット、それは彼の産み出した機械であるはずだ。意思など宿るわけがない。それが貴利矢の、同時にCRに属する全ての存在の考えで。

 

しかしそんな常識は、神の前には通じない。

 

 

「前例はある。私がかつて産み出した仮想空間内にて、あるガシャットに英霊のデータを詰め込んだところ、それら英霊の意思がガシャットの支配権を得たことがあった」

 

「英霊……もしかして」

 

「そう、サーヴァントだ。サーヴァントのデータを詰め込めば、ガシャットはサーヴァントに乗っ取られる。そして、このガシャットも」

 

「サーヴァントが詰まってる……」

 

 

黎斗神はやれやれと首を竦めながら、ブランクガシャットを眺めていた。これ以上の英霊がガシャット内に入れば、ガシャットは確実に力を持つ。そうでなくても、いつ意思が発現するかは、黎斗神にすら分からない。

 

 

「で? どんな意思が生まれるんだよ」

 

「もしかして、メディアちゃんの……?」

 

「その可能性もなくはないが、最も濃い可能性は──」

 

 

そこまで言って黎斗神は、ゆっくりとポッピーを指差した。

 

 

「ポッピー。君から切り離した、サーヴァント・アルターエゴ──殺生院キアラの意思が目覚め、他の英霊の力を奪い、再び再生する可能性だ」

 

「っ……」

 

「おいおいおいおいマジかよ!? アレまた戻ってくるのかよ!? 自分もうアレの相手したくないんだけど!?」

 

 

貴利矢が嘆く。もうCRは二回殺生院キアラと戦って、その二回ともにピンチを迎えていた。今度こそ完全に倒して、二度と戦うことはないと思っていたのに。

 

 

「防止する策は無いのかしら?」

 

 

ハンドルを握っているマルタが問う。黎斗神はその問いには答えず、カーナビを弄り、目的地を設定した。

 

 

「今後の目的地を決めようか」

 

   ピッ

 

『ゲンムコーポレーションを、目的地に設定しました』

 

 

カーナビの無機質な音声が響き渡る。

 

───

 

 

 

 

 

昼過ぎの頃。永夢はナイチンゲールと共に、国会議事堂の前に座っていた。もう、この周囲には人通りはない。戦いを望まないプレイヤーは議事堂の中にいて、戦いを望むプレイヤーは他の聖杯の元に向かっている。

千代田区はゴーストタウンとなった。他の市も、もうすぐそうなるだろう。

 

永夢は支給されたスマートフォンの画面を見る。渋谷、大阪、横浜、名古屋……もう既に、幾らかの都市は聖杯完成へのカウントダウンを始めているようだった。

 

 

「……焦らないで下さい、マスター」

 

「ナイチンゲールさん……」

 

「冷静さを欠いてはいけません。戦場において、ドクターが冷静でなくて誰が患者を救えるでしょうか」

 

 

永夢は彼女に指摘され、知らず知らずの内に握っていた拳を解く。この頃疲れが溜まっているのか、前よりも頭に血が上るのが早くなったように思えた。

 

 

「大丈夫、マスターは今でも医師としての務めを果たしています」

 

「……そうですか?」

 

「ええ。だから──」

 

 

……その瞬間。永夢には、ナイチンゲールの姿が一瞬酷く歪んだように見えた。まるで、バグを起こしたゲームの画面のように。

それはすぐに直ったが、永夢は慌てて彼女に駆け寄る。

 

 

「今の何ですか!?」

 

「……私は、特に何も」

 

「本当ですか!? 僕には、その、バグを起こしたみたいに見えたんですけど」

 

「ええ。私の体には、何も」

 

 

ナイチンゲールはそう言いながら両手を振った。普通に動いている。

 

 

「……治療は、必要ありません」

 

「……そうですか」

 

 

それを見て、永夢も元の立ち位置に戻った。こんなこともあるのだろう、程度に思いながら。

そして彼は前を見て。

 

見覚えのある姿を捉えた。

 

 

「パラド……!!」

 

 

パラドだった。彼の頭の上には、聖杯を象ったマークが静かに浮かんでいた。

 

 

「ただいま、永夢」

 

「……BBは?」

 

「……」

 

 

その無言で、永夢は彼女の最期を悟った。彼女の犠牲が、目の前のパラドを聖杯の主にしたのだと察した。

永夢の顔が暗くなる。複雑そうに俯く彼の隣を、パラドがすり抜けていって。

 

風が、永夢の隣を吹き抜けた。

 

───

 

『目的地、周辺です』

 

「なあ、本当に何考えてるんだよ神!!」

 

 

シャドウ・ボーダーは、ゲンムコーポレーションの近くまでやって来ていた。ギリギリ探知されないエリアに停車したその中で、貴利矢は黎斗神に問う。

 

 

「……これより、ガシャットの浄化作業を開始する」

 

「はぁ?」

 

 

問われた黎斗神は、そう返すだけだった。彼はまだブランクガシャットを弄り続けていたが、その作業は佳境に入ったらしかった。

 

 

「意思の目覚めかけているガシャットから、意思の成分を放出する作業だ。そして今回は、これを攻撃に転用する」

 

 

黎斗神は付け加えてそう言い、鞄の中から一つのガシャットを取り出す。

 

 

「それは……」

 

 

テール・オブ・クトゥルフ。黎斗神が回収した物だった。

彼はブランクガシャットを引き抜き、テール・オブ・クトゥルフも持って、助手席のドアを開ける。

 

 

「九条貴利矢!!」

 

「ンだよ神!!」

 

「私のアシスタントをしろ」

 

「やなこった!!」

 

「……ゲンムコーポレーションから、サーヴァントを誘き出せ」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───始まった作戦

「あれは、何だ?」

「余が向かおう」

「明らかな挑発行為じゃのう……」


───目覚めた意思

「おいおい失敗とかじゃないよな!?」

「まさかここまでとは……」

「逃げないと!!」


───再戦の行方

「あれは、どうして……!!」

「流石は私だ」

「僕が、決着を……」


第五十二話 サクラメイキュウ


「それでは、参りましょうか」


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第五十二話 サクラメイキュウ


言うことないな……



 

 

 

 

「……ここも、大分がらんとしてしまったな」

 

「……そうだな」

 

 

ラーマはアヴェンジャーと向かい合って座って、そう静かに呟いていた。

もう、回りを見渡してみても人影はない。

 

ランサーは裏切って消えた。キャスターは殉死した。アサシンは使命を果たした。バーサーカーは命令に消えた。セイバーとシールダーは裏切って消去された。

 

ここにはもう、静寂があるのみ。

 

 

「……もう一人はどうした」

 

「……シータか?」

 

 

ラーマの顔は暗い。彼は恩人の為に尽くすことに何の躊躇いも無いが、しかし彼の妻は、それについていくのに疲れ始めていた。

 

 

「……彼女は、優しい人だ」

 

「……」

 

「今は一人にしてくれ、と言われてしまった」

 

 

シータは、今は布団に踞っていた。彼女は一度苦しむ人々を見てからは小さな後悔の染みを抱えていて、それがここに来て膨れ上がっていた。

消える人々、失われた生活、存在しない非難が彼女を苦しめた。

 

アヴェンジャーは窓の外を眺めた。伽藍とした街中には活気はない。彼はタバコでも吸おうとして。……一人の人間に気がついた。

 

 

「あれは、何だ?」

 

「……あの仮面ライダーか」

 

 

仮面ライダーレーザーターボ。それが、会社の前に一人立っていた。彼がここに現れるのはこれで何度目だろうか……ラーマはそんなことを思いながら、窓枠に手をかける。

 

 

「余が向かおう」

 

「……そうか。分かった」

 

 

そして、ラーマは窓から飛び降りた。それと共に彼は手に刃を呼び出し、落下の勢いと共にレーザーターボへ剣を降り下ろす。

 

 

   ガギンッ

 

   ガンッ

 

   ザンッ

 

 

「……」

 

 

そんな音が、すぐに聞こえ始めた。

 

 

「明らかな挑発行為じゃのう……」

 

「……いつ来た」

 

「いつって、今じゃが?」

 

「……そうか」

 

 

目を離していた隙に真横に現れていた信長にアヴェンジャーは一度眉を上げ、すぐに戻す。眼下では、レーザーターボがラーマの剣を受け流していた。

 

 

「じゃあ、わしはシータでも呼んでくるかの」

 

「好きにしろ」

 

───

 

 

 

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

黎斗神はその時シャドウ・ボーダー内にて、パソコンに接続したブランクガシャットの意思、正確にはそれを形作るデータをテール・オブ・クトゥルフに移植していた。

何かを浄化するためには、汚れを押し付ける犠牲が必要だ。今回は、その汚れを押し付ける役をテール・オブ・クトゥルフにしようと黎斗神は画策していた。そしてその計画は、もうすぐ成就する。

 

 

   カタカタカタカタ

 

「ふふ……ハハハハハハ!!」

 

「黎斗!? 貴利矢来たよ!!」

 

「分かったァ!!」

 

 

ポッピーの声で、黎斗神は発熱し始めたテール・オブ・クトゥルフを握ってシャドウ・ボーダーを飛び出した。

彼は今になって気づいたが、シャドウ・ボーダーはビルの合間の広場に止まっていたようだった。そして視線の先では、ラーマから逃げながらレーザーターボが走っていて。

 

 

『テ/36[$>.@;ル・オ#**($6]-%・5\>><|トゥ0+.1.0フ!!』

 

「はあっ!!」

 

 

黎斗神は迷いなく、ガシャットを起動し、レーザーターボ目掛けて投げつけた。

 

それはレーザーターボの頭に当たり、地面に転がり──

 

 

   ドロッ

 

   ムクムクムクムク

 

「……おい神、あれでいいのかよ?」

 

 

端子から、黒い泥のような物を排出し始めた。

 

 

「……何だ、これは?」

 

 

ラーマも足を止め、泥を試しに剣で突く。ぶにぶにとした感触は伝わるが、それ以外の反応はなく。

 

それは、黎斗神にも予想外の動きだった。彼の想定だと、そのガシャットは最も近くにいるサーヴァントを取り込んで破裂する筈だったのに、目の前の泥は爆発とは対極にいた。

 

 

「おいおい……檀黎斗神よぉ。まーさか、神を自称するあんたに限って、失敗とかしないよなぁ!?」

 

「当然だ!! 神の才能に不可能はない!!」

 

「じゃああれ何なんだよ!!」

 

「今から解析する!!」

 

 

そう言いながら黎斗神は泥に背を向けようとし……止めた。

 

次の瞬間には、周囲に広がりかけていた泥はガシャットを取り込んで収束し、隆起し、変形して……ヒトガタになっていた。

見慣れた姿に。もう見たくなかった、最悪の姿に。

 

 

「……これは……」

 

 

ヒトガタの泥は、自分の手足を見つめていた。黒々とした泥が剥き出しの肢体は、その泥が自らを認識することで着色されていく。肌色、白、肌色、白……それらが紡ぎ出した、その泥の名は。

 

 

「やっぱり出来ちまったじゃねぇか殺生院キアラ!! 自分逃げていいか!?」

 

「良いわけが無いだろう!! 君も付き合え……にしても、まさかここまで再現してしまうとは……やはり私の敵は私の才能!!」

 

 

殺生院キアラ。恐れていた可能性が、生まれてしまった。

キアラを挟んだ右手にラーマが剣を構え、左手にレーザーターボがガシャコンスパローを構え、黎斗神が変身する。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「グレードX-0、変身!!」

 

『『ガッシャット!! ガッチャーン!!』』

 

『マーイティーアクショーン!! X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

三対一。キアラは三人の敵に囲まれている。

しかし彼女は、動じることはなかった。泥でできた指を舐めて頬を染め、愉快げに呟く。

 

 

「それでは……参りましょうか」

 

───

 

「あれは、どうして……!!」

 

「わしが知るわけないじゃろー、マスターの頭脳などわしには分からん、アヴェンジャーに聞けアヴェンジャーに」

 

「オレに話を振るな」

 

 

その戦いを、部屋から引きずり出されたシータは信長とアヴェンジャーに挟まれながら、ハッキングした監視カメラ越しに眺めていた。

 

シータは、机の下で手を握っていた。顔には出さないように心がけてはいたが、彼女の肩が震えていることは隣の信長には簡単に分かった。

 

 

「のう」

 

「……何、ですか?」

 

「お主は、本当にこのままで良いのか?」

 

 

そしてそれに気づいた信長は、それを黙っておこうとはせず彼女の肩に手を置いて囁く。

 

 

「……どういうことですか」

 

「もう、お主は疲れたのではないか? 使命のため恩人の為夫の為……それは尊いじゃろうが……ちと、キツくはないのか?」

 

「……」

 

 

シータは俯く。アヴェンジャーは、信長の頭を見つめるだけで何も言わない。

 

───

 

「うーん、これは予想外ね……」

 

「……ミスはともかく、目の付け所は素晴らしい。流石は私だ」

 

 

戦闘の様子は、社長室の二人も眺めていた。真黎斗もナーサリーも、焦りはなかった。

 

画面の向こうでは、ラーマが近距離で泥のキアラと斬りあい、それをレーザーターボとゲンムが纏めて遠くから狙うという構図が出来ていた。

 

 

「マスター、あれいつ倒されるかしら?」

 

「ふむ……そもそも、あれの発生経路がまだよく分からない。解析を開始するか?」

 

「それはそうね。解析は……後で良いわ。時間ならたっぷり作れるんだし」

 

 

ナーサリーはキーボードから手を離して伸びをする。真黎斗は、自分が華麗に戦っているのを外から眺めるのが楽しくて、画面の前に肘をついて無言で戦いを眺めていた。

 

───

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

「はああっ!!」

 

 

ゲンムの蹴りが、確かにキアラの胸元に当たった。しかしそれは泥の粘性で軽減され、簡単に弾き出される。

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 

回転する剣が、確かにキアラの上半身を引き裂いた。しかし体はすぐに再構成され、キアラに傷は残らない。

 

ガシャットからの泥で構成された彼女は、それまでの法則を無視した挙動を可能にしていた。

 

 

「何だよあれ!! おい神!! どうすりゃいいんだよ!!」

 

「再生までの時間に一瞬ラグがある。一気にに破壊に破壊を重ねて、コアになっているであろう中のガシャットを破壊すれば……!!」

 

「どんな無理ゲーだよ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

レーザーターボが怒鳴り散らす。そう言いながら発射した矢は、キアラをすり抜けてラーマへと飛んでいった。

攻略方法は分からない。出口が、見えない。

 

───

 

「何だって!?」

 

 

キアラの復活。その知らせは、誰もいなかった公民館を新たな避難所にした灰馬達の元にも届いていた。

灰馬は頭を抱える。その隣で、作は思い詰めた顔をしていた。

 

 

「僕が、決着を……」

 

 

そんな言葉が溢れていた。

 

 

「作さん、何を言ってるんですか!! 怪我したらどうするんです!!」

 

「でも、キアラさ……アルターエゴは、元はと言えば僕のサーヴァントだった存在です。僕が彼女を引き当てた瞬間に自害させていれば、決してこうはならなかった」

 

「そんなこと出来る訳がないじゃないですか!! 貴方は、何も悪くありません!!」

 

 

慌てて灰馬は作をフォローする。小星作には、悪いところは何もない。それは事実だ。彼に落ち度は何もない。

 

しかし、作は納得できていないようだった。彼は優しかった。殺生院キアラという彼のサーヴァントだったモノが人々を苦しめたことは辛く思っていたし、それが復活したことをどうでも良いと言えるほど無責任ではなかった。

そして、彼の意見を支えるものも一人。

 

 

「好きにさせれば良いだろう」

 

「君は……!!」

 

 

アルトリア・オルタだった。近隣のライドプレイヤーの制圧を終えてきた彼女は少ない戦利品を適当な机に下ろし、己のマスターに手を伸ばす。

それを灰馬は引き剥がそうとしたが、簡単に投げ飛ばされた。

 

 

「邪魔をするな」

 

「で、でも、患者ですよ!! それに貴女のマスターだ!! 死んだらどうするんですか!?」

 

「どうでもいい」

 

「どうでもいいって……!!」

 

「私が好きなものは、強いものだ。私のマスターは体は貧弱だが、少なくとも心の強さは中々だ。だから、その強さを折るな」

 

 

アルトリア・オルタはそう言いながら作の手を掴んで、やや無理矢理持ち上げる。灰馬はやはり止めようとしたが、その手は届かなかった。

 

 

「行くぞ、付き合ってやる。……終わったらありったけのハンバーガーを寄越せ」

 

「……はい……!!」

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───本当の決着

「あら、貴方は……」

「僕は、ここで」

「命令しろ、マスター!!」


───シータの決断

「ラーマ様!!」

「何故ここに来た!!」

「私は……」


───マシュの暴走

「私は、貴女を超える」

「倒せないのか……!?」

「貴女にされたことを返してあげます」


第五十三話 BEASTBITE


「私は、疲れたんです」


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第五十三話 BEASTBITE


(タンクタンクフォームを見ながら)きっとタンクゲーマはあんな感じだったんだろうなぁ……レベル4になって欲しがったなぁ……



 

 

 

 

 

「っ、つ……」

 

「ぐはあっ……!!」

 

『ガッシューン』

 

『ガッシューン』

 

 

ゲンムとレーザーターボが地に転がる。その弾みでガシャットは外れ、変身が解除された貴利矢が見上げる先ではキアラが恍惚の表情を浮かべていた。

 

 

「痛いなこの野郎……」

 

「想定外だ……!!」

 

 

そう言いながら、二人は飛び退いて少しでもキアラから距離を取る。体の節々が痛んで、再び変身することは出来なかった。その反対側のラーマも、膝をついて呻いている。

 

現在のキアラは、本来のそれとは違っていた。本来彼女が操っていた魔神柱はガシャットの力によって変質しクトゥルーの使っていた触手になっていたし、彼女は体を一旦泥に戻すことで高速移動を可能にしていた。

 

 

「こんなものを産み出してしまうとは……やはり私の敵は私の才能!!」

 

「お前も想定してなかった存在じゃねえか!! 取り合えず引くぞ!!」

 

 

貴利矢はそう言いながら一先ず退散しようとし……自分達の向かおうとした道の先に、見慣れた姿を見る。

 

 

「……おい、あれ社長さんじゃね?」

 

「あ?」

 

「また、敵なのか……っ!?」

 

「おや? ……あらあら、貴方は……」

 

 

全員の、視線の先には。

 

胸を張って歩いてくるアルトリア・オルタと、その隣に立つ作がいた。

 

キアラは何でもなさそうに二人に向けて触手を放つが、それらはアルトリア・オルタの剣で斬り伏せられ、二人は歩みを止めることはなく。

 

 

「おい!! 逃げろ!! こいつはやべぇぞ!!」

 

 

貴利矢の声にも作は動じない。彼の肩は震えていたが、決意が彼の足を進めていた。

そして作とアルトリア・オルタは黎斗神と貴利矢の間を通り、キアラと相対する。

 

 

「どうして、こちらにいらっしゃったんですか?」

 

「……僕は、ここで貴女を倒します。僕が、けりをつけるんです」

 

「ふふ……そうですか。では……来てください?」

 

 

キアラは挑発的に両手を広げた。かつてキアラに洗脳されていた作は一瞬その姿に支配されそうになり、慌ててそれを振り払おうと頭を振る。

 

 

「……早く命令しろ、マスター!!」

 

「は、はい!! ……アルターエゴを倒してください、セイバー!!」

 

「了解した、マスター!!」

 

 

そして、アルトリア・オルタは瞬時にキアラに肉薄した。

 

───

 

「はああっ!!」

 

   ザンッ

 

 

アルトリア・オルタは、キアラに対して有利に立ち回っていた。彼女の聖剣の質量は一撃でキアラの泥を多く吹き飛ばすことが出来た。

それらはすぐに元に戻るが、体の修復に気を取られるキアラは、アルトリア・オルタに反撃できない。

 

 

「もっと……もっと!!」

 

「……チッ、マスター!! 令呪だ、令呪を寄越せ!!」

 

 

しかしキアラに焦りは見えなかった。それに苛立ったアルトリア・オルタが、作に令呪を要求する。

作はそれに答えた。彼女の超火力の宝具ならキアラの泥を全て吹き飛ばせるだろう、彼は確信していた。

 

 

「令呪をもって命ずる!! 宝具を開帳し、アルターエゴを、討て!!」

 

「了解した!!」

 

 

作の手から、二画目の令呪が消滅する。そのエネルギーは作の元からアルトリア・オルタの聖剣に移行し、そのオーラを増幅させて。

 

 

「光を呑め!! 約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

   カッ

 

   ガガガガガガガガガ

 

「これは……!!」

 

 

吐き出された闇は、泥を呑み、砕いて進む。令呪によって増幅された一撃は、人類の敵を吹き飛ばす。キアラの顔から、とうとう余裕が消えた。

彼女の周囲に幾つもの孔が開き、邪神の触手が盾として呼び出される。しかし攻撃の勢いを止めるには至らず。その一撃は、触手を細切れにしながら突き進み、全ての泥を吹き飛ばして、その中のガシャットを露にした。

 

そしてそのガシャットも闇に呑まれ──砕けた。

 

 

   バリンッ

 

「やったか!?」

 

 

黎斗神が思わずそう声を上げた。冷たいコンクリートの大地に、砕けたガシャットが軽い音を立てて転がる。

攻撃を止めたアルトリア・オルタはそのガシャットの破片に歩みより、つまらなさそうに拾い上げた。

 

 

「何だ。こんなものか」

 

 

ガシャットは軽かった。アルトリア・オルタはそのガシャットから微妙に滑りを感じ、顔をしかめる。

 

 

 

 

 

──刹那。

 

 

   ガチッ

 

   ガバッ

 

「……んなっ!?」

 

 

粉砕されたガシャットは合体して元に戻り。

 

泥がまた吐き出されてアルトリア・オルタを飲み込む。抵抗は出来ず、手足から侵食されていく。

 

作が最後の令呪で彼女を逃がそうとするが、それも不可能で。

 

……そして、アルトリア・オルタはガシャットからの泥に覆い尽くされ、その胸元にガシャットも取り込み……泥の山は、キアラになった。

 

 

「そんなっ!?」

 

「ふふふ……ごちそうさま、でした」

 

 

まだピンピンしているキアラが、愉快げに舌舐めずりをした。もう、作はアルトリア・オルタの存在を感じることが出来なかった。彼女は……消滅し、キアラのリソースになっていた。

そして、そのキアラは、今度はラーマの方を向く。ラーマは咄嗟に立ち上がって剣を投げつけたが、それは簡単に回避されて。

 

 

「ッ、羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

「当たりませんよ」スルッ

 

「っ……」

 

 

キアラが出した触手を、ラーマは転がって回避する。そして彼は、手元に戻ってきた剣を握り締め、キアラと斬り結ぶ。

 

 

 

 

 

「……おい、立てるか社長」

 

「は、はい……」

 

 

その反対側では、貴利矢が作を支えて立ち上がらせていた。

シャドウ・ボーダーが彼らの元に停車し、ドアを開く。そして、貴利矢と作と黎斗神が、その中に飛び込んだ。

 

 

「おい、さっさと分析しろ神!!」

 

「今やっている!! しかし……どうやら、キアラ自体がテール・オブ・クトゥルフのゲームエリアと一体化しているらしい。ゲームエリアの面積は小さい代わりに、再生する力が異様に強い。コア……はガシャットだが、それすら破壊されても再生する」

 

「何だよそれ!! 倒せないのかよ!?」

 

「正攻法ではな」

 

 

黎斗神が少し調べるだけで、絶望的な状況が理解できた。貴利矢が黎斗神の後頭部に舌打ちする。

その隣で作は、頭を抱えていた。令呪を全て使いきった彼には、抵抗の手段は何もない。

 

マルタが、シャドウ・ボーダーのアクセルを踏んだ。

 

 

 

 

 

「あら……もう、終わりですか?」

 

 

暫くの戦いの結果。

キアラは、その触手でラーマの四肢を拘束していた。磔にされたラーマはキアラを睨むが、キアラはその視線に興奮するだけで恐れはしない。

 

 

「っ……」

 

「もがいても意味はありません。受け入れてくださいまし?」

 

 

キアラはそう言いながら、もがくラーマの脇腹に指を這わせる。

そして彼女は、ラーマに止めを刺そうと一旦離れて。

 

その瞬間、後方から放たれた矢によって、邪神の触手は切断された。

 

 

「ラーマ様!!」

 

「シータ!? 何故ここに!?」

 

 

それを放ったのはシータだった。彼女はラーマを解放し、立たせる。ラーマはそれに驚いていた。彼女は、もう部屋から出ないのではないかと彼はやや本気で思っていたから。

 

 

「ラーマ様、私は、私は……」

 

 

そして、シータはラーマを見上げ、言葉を紡ごうとする。

何度か口を動かし、今まで思っていたことを言おうとする。言えなかったことを。

 

そして。

 

……その一秒後には、シータはキアラに掴まれて拘束されていた。

 

 

「っ、シータ!?」

 

「それでは、気を取り直して。快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)!!」

 

 

天国の釜の蓋が開く。そこから伸びた漆黒の手が、シータの体を鷲掴みにし、躊躇いもなく取り込んでいく。ラーマの手はそこへは全く届かず。声を上げても意味はなく。

 

そして。

 

 

 

 

 

『パインアイアン!!』

 

『極 スカッシュ!!』

 

 

……シータが飲み込まれるとラーマが確信したその瞬間、上空からキアラの頭に巨大なパイナップルが覆い被さった。

死角からの突然の攻撃にキアラは対処できず、増えた重量を支えることも出来ずに彼女は後ろに倒れ込む。その反動で、シータはどうにか抜け出すことが出来た。

 

そして、ラーマとシータの前に、銀の鎧の仮面ライダーが降り立った。

 

仮面ライダー鎧武、極アームズ。

 

 

「……大丈夫ですか」

 

「その声、まさか──」

 

「マシュ……!! マシュなのか……!?」

 

「……」

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『バナスピアー!!』

 

 

ラーマとシータは、顔を見合わせながらそう言った。鎧武はそれには答えずに、両手にガシャコンカリバーとバルムンクを持ち、己の周囲に数本の刀を浮かべて臨戦体勢を整える。

目の前では、一旦体を泥に戻したキアラがパインアイアンの拘束から抜け出し、鎧武の姿を認めていた。

 

 

「貴女は……ふふふ、また、会いましたね」

 

「ええ。そしてこれが最後です……私は、貴女を超える」

 

 

鎧武は、その中身のマシュはそれだけ告げて。キアラに向けて刀を放出する。それらはキアラの触手に打ち落とされたが、鎧武はその隙にキアラの懐まで飛び込んでいた。

獣と獣が、殺し合いを開始する。

 

 

『クルミボンバー!!』

 

「はあっ!!」

 

 

続けて鎧武はクルミボンバーでキアラを大きく吹き飛ばし、泥と泥との隙間に見えたガシャットをガンド銃で狙撃する。

確かにガシャットは砕けたが、すぐに再生して。

 

 

「ここまで焦らされると……私……ますます昂って参りました……!!」

 

 

そして、再生したキアラは頬を朱に染めて、その右手に……アルトリア・オルタから奪ったエクスカリバーを呼び出した。

 

 

「それはっ!? どうして貴女が、その剣を!!」

 

「貰い物ですわ。それでは次は、私から……」

 

 

鎧武は一瞬手元のガシャコンカリバーに目をやり、すぐに顔を上げる。その瞬間には、キアラはエクスカリバーを眼前で振り上げていて。

 

 

「っ!!」

 

『メロンディフェンダー!!』

 

 

咄嗟に出した盾は斬り伏せられた。鎧武は横に転がって回避するが、マントの端が切断されていた。

鎧武はそれをちらっと見て、すぐに両手の剣でキアラに斬りかかる。

 

───

 

「……あの鎧武は誰だ?」

 

「ガシャコンカリバー……? でも……いや待って……おかしいわおかしいわ、ガシャットが自立して動いてるわ!?」

 

 

その時、ずっと様子を観測していた社長室の二人は顔を付き合わせながらキーボードに手を伸ばしていた。

どのデータを辿っても、ガシャットの使用者の特定が出来なかった。ガシャットが勝手にここまでやって来て、勝手に変身して戦っているなんてあり得ない。

それでも、データ上はそうなっていた。

 

それはあり得ないことだ。ならば、鎧武に変身しているのは全ての監視をすり抜ける存在であり、真黎斗の予測していなかった存在になる。

 

 

「……落ち着け。落ち着けナーサリー。逆に考えろ。こんなこと状況を作り出せる存在は、誰だ?」

 

「誰って……」

 

 

そう考えれば。

当てはまる存在なんて一人しかいない。

 

───

 

   ガギン ガギン ガギン

 

「はあ、はあ……!!」

 

 

一撃一撃が重い。力任せだが、その力だけで他を補って余りある。鎧武がキアラと斬り結んでまず思ったのはそれだった。乱暴な剣には腹が立つが、勝たないことには何も言えない。彼女はバルムンクを一旦仕舞い、ガシャコンカリバーのトリガーを引く。

 

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

そして、銀の光の奔流をキアラへと撃ち込んだ。砂煙が上がる。前方は見えないが、確かにキアラを捉えていた筈だ。鎧武はそう思いながら足を踏ん張る。

 

 

「それでは私も──」

 

 

……しかし、次の瞬間には、砂煙が鎧武の方へと返ってきた。

キアラは奪った聖剣を無理矢理起動し、マシュの聖剣に張り合っていた。

 

 

「っ……!!」

 

「はあああああああああ!!」

 

 

銀と黒の聖剣が交わる。光と闇が交わり、押し合い、反動に耐えながら持ち主も互いに距離を詰めて。

そして二人は剣をぶつけ合わせる。互いに持ち手に力を込め、足を踏ん張り、歯を食い縛り──共に、吹き飛ばされた。

 

 

   ガンッ

 

「っあ……ぁ……!!」

 

 

勢いよく壁まで吹き飛ばされた鎧武の変身が解け、マシュの姿が露になる。

エクスカリバーはもう手元にない。見回してみれば、かなり遠くのコンクリートに突き刺さっていた。さっきの衝撃で飛んでいったのだろう。そしてキアラが強奪した方のエクスカリバーも、また別の場所の壁に突き立っていた。

 

 

「まだ……まだ……!!」

 

 

震える足に鞭を打ち、マシュはそれでも立ち上がる。背負っていたバルムンクを右手に持ち変える。キアラにはもう得物はない。

全身を揺すぶられたせいだろう、奮い立つマシュは遠くに幻聴を聴いた。

 

 

『何故、そなたは剣を持つ?』

 

「ネロさん……」

 

 

彼女の袂の内からの言葉に思えた。

目の前ではキアラが立ち上がり、マシュに触手を向かわせる。

 

マシュはそれらを斬り飛ばし、キアラへと接近した。

 

 

「私が戦うのは!!」

 

 

そして叫んだ。

 

 

「檀黎斗を越えるため!! 私の世界を救うため!! それが私の、私達の誇りを守ることで!! 私の、やりたいこと!!」

 

『それは、正義か!!』

 

 

次に聞こえたのは、ジークフリートの声だった。

マシュの口元は綻んだ。ああ、確かに、彼らは自分の中にいるんだと、確信できた。

 

そして、バルムンクを一層強く握り締め、キアラへと振りかぶる。

バルムンクから、青にも近い銀の光が溢れた。

 

 

「これは、正義です!! 私は、私の正義を、成し遂げる!!」

 

 

そう叫べば。

いつの間にか、バルムンクの刀身には炎が、蒼い炎が滾っていた。どういうわけだか、力が湧いた。

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

 

そして。

 

マシュは、バルムンクをも己の武器とした。

降り下ろした剣は半円状に剣気を放ち、触手を、キアラの泥を振り払い、コアのガシャットを露にする。

 

すぐにまた回復するだろう。マシュはそう察していた。だから何よりも早く、ガシャットを拾い上げる。

 

 

「……ダメだマシュ!! それはガシャットだけになっても再生する!!」

 

 

遠巻きに見ることしか出来なかったラーマが叫んだ。彼はもうマシュは仲間ではないと、真黎斗に敵対する者だと悟っていたが、シータを助けてくれた彼女の恩には酬いたいと思っていた。

 

 

「知っています……だから、私がすることは決まっている」

 

 

しかしマシュはガシャットから手を離さなかった。彼女はその端子を見つめ──

 

 

「……貴女にされたことを返してあげます」

 

 

──一言呟いて。ガシャットを、その胸に突き立てた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───マシュの変質

「これは……ちゃぶ台?」

「久しぶりであるな」

「まさか、こんなことになっているとはな」


───シータの本音

「私は、貴方がいればそれで良かった!!」

「しかし……」

「どうすればいいんだ……!!」


───ブランクガシャットの浄化

「私の神の才能だ……!!」

「貴方のしたことは人々を危険に晒すことでした」

「ここからは君の出番だ」


第五十四話 Be the one


「うむ!! 余は嬉しい!!」


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第五十四話 Be the one


本当はこの特異点二十話くらいで終わるつもりだったって言っても誰も信じないだろうなぁ……



 

 

 

 

 

「っ、ゲホッ、ゲホッ……」

 

 

ガシャットを体の中に押し込んでから撤退した彼女は、誰の気配もしない川原にやっていていた。

頭が痛い。胸焼けがする。視界は揺れ続け脳も揺さぶられる。彼女はそんな感覚の中で、なるべく人に見られないであろう場所を探す。

 

 

「ゴホッ……少し、無理をし過ぎましたかね」

 

 

そして、橋の下の暗がりに入った彼女は腰を下ろし、橋の裏を見上げた。まだ体の節々が痛む。

 

 

「……頭が、痛い……」

 

 

意識が遠退いていくのを感じる。何かに引き寄せられるように、マシュの瞼が閉じていく。

 

───

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 

次にマシュが意識を取り戻したのは、何もない白いだけの空間だった。0と1が所々に顔を覗かせる……丁度、ガシャットの内部のような。

 

そして彼女が自分の足元を見れば。

 

 

「これは……ちゃぶ台?」

 

 

……いつの間にか、小さな木製のちゃぶ台が現れていた。理由はさっぱり分からなかったが、何となく、座れと言われているようなそんな気がして、マシュはその場に正座する。

次の瞬間、ちゃぶ台を挟んだ彼女の左側に、見覚えのある金髪が現れた。

 

 

   シュンッ

 

「……え?」

 

「久しぶりであるな」

 

「……もしかして、貴方は……っ!?」

 

 

その名を忘れたことはない。マシュはその顔を見るだけで、かつての懐かしい旅を思い出して柄でもなく目の端に涙を覚えた。

金髪の少女はそんなマシュに満開の笑顔を咲かせ、かつて言ったような台詞を繰り返す。

 

 

「ふっふっふ、これは誰だ? 美女だ? ローマだ?」

 

「勿論、余だよ……!!」

 

「うむ!! 覚えていてくれて余は嬉しい!! 第五代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス!! ずっとそなたの中におった!!」

 

「私の中……じゃあ、ここは……」

 

「うむ!! マシュ、そなたの中だ」

 

 

キャスター、ネロ・クラウディウスはそう言いながら手を伸ばし、マシュの頭を軽く撫でる。

どうやら彼女が今いるのは、マシュ自身の中のようだった。不思議な感じはしたが、嫌悪はなかった。

 

 

「って言うことは、もしかしたら──」

 

   シュンッ

 

「まさか、こんなことになっているとはな」

 

「やっぱり、ジークフリートさんも……!!」

 

 

今度は、マシュの右手側にジークフリートも現れていた。

そして彼女は膝の上に、長らく触れなかった暖かみを感じる。

 

 

「フォーウ」

 

「フォウさん……!!」

 

 

フォウが、第四特異点で倒されたビーストⅣ、プライミッツ・マーダーが彼女の膝の上で座っていた。

 

 

「本当に……本当に皆さん、私の中に、いてくれたんですね……!!」

 

「うむ。見ておったぞ? そなたの健闘をな!!」

 

「フォーウ」

 

 

フォウが静かに呟きながら、懐かしむようにマシュの太股に顔を擦り付ける。マシュはそれを撫で、溢れそうな涙を拭き……気づいた。

 

 

「……あれ、じゃあ、もしかして……」

 

「ああ、新入り(キアラ)か?」

 

「はい……彼女も、ここに?」

 

「うむ。入ってくるなり暴れたものだから、余が色々してみたが、流石にあれは手に余る。一先ず余の劇場に封印したが……ま、どうにかなるだろう。最悪、ジークフリートが望みを叶える」

 

「すまない……迷惑をかけてすまない……」

 

 

ネロがそう言いながら後方を指差せば、微妙に揺れている黄金劇場がマシュの目に入った。

それに危機感を覚えて、でも何故か笑えてきて、マシュの目尻にまた涙が浮かぶ。

それと共に、彼女の視界は少しずつ白く染まり始めた。

 

 

「……おっと、もう時間切れなのか!? 余は寂しい!!」

 

 

唐突にネロが慌ててそう言う。

どうやら、もうマシュの意識は現実に引き戻され始めているようだった。

 

 

「……落ち着け」

 

「しかし寂しい……久々に会えたと言うに……ま、そう言っても何も始まらぬな」

 

 

そこでネロはちゃぶ台越しに大きく体を乗り出して、マシュの上半身に抱きついた。そして、彼女の瞳に言葉を投げる。

 

 

「マシュ」

 

「……はい」

 

「そなたは、そなたのしたいこと、するべきこと、そなたにしか出来ないことを、一生懸命やっておる。それが、余は嬉しい」

 

 

マシュはその言葉が嬉しかった。どこか、報われたような感じがした。そして、また戦いに赴く決意を新たにする。

 

 

「やりたいことを諦めるな。胸の誇りを忘れるな。そなたの物語が例え偽物であったとしても、そなたはあの世界を救った英雄だ。窮地にあれど、孤高になれど、意思を捨てず、感謝を捨てず、その上で胸を張れ」

 

「……」

 

「そのように、在れるな?」

 

 

その問いに答えることに、迷いはない。

 

 

「……はい!!」

 

「ならばよし!! 我が宝剣、原初の火(アエストゥス エストゥス)の炎をそなたに託す!! 最後まで、ローマを忘れるな!!」

 

 

そう言いながら、ネロはマシュから離れた。マシュが手にバルムンクを持ってみれば、思うように蒼い炎を滾らせることが出来るようになっていた。

そしてマシュは、今度はジークフリートの方を見る。しかしジークフリートは、微笑むだけで何も言わなかった。

 

 

「俺は、もう言いたいことは言った」

 

「そう言うな!! この際だから何か言うがよい!!」

 

「フォーウ」

 

「……なら」

 

 

しかし、ネロがやや強引にそう言うことで、ジークフリートの口も開く。

 

 

「悔い無き戦いを。悔い無き命を。俺は俺の正義を託したお前の味方でいよう。……生きろ。お前が、満足する結果を掴み取るまで。お前の正義が、成し遂げられるまで」

 

「……はい!!」

 

 

マシュはバルムンクを納め、ジークフリートの手を握る。そうすれば、ジークフリートは握り返してくれた。横からネロも割り込んで、更にその上に手を被せる。

三人は、確かに今、マシュの中で一つだった。

 

意識はいよいよ薄れてきた。何時まででも目の中に捉えておきたい笑顔が、遠ざかっていく。

 

 

「……フォーウ」

 

 

最後に聞こえたのは。寂しげなフォウの鳴き声だった。

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「……夢、ですよね」

 

 

目を覚ましたマシュは、やはり橋の下にいた。まだ体は痛むが、大分楽だった。外はもう暗い。

マシュは試しに両手にエクスカリバーとバルムンクを持った。

 

 

「……」

 

   ボッ ボッ

 

 

炎は、確かに灯った。

 

───

 

「……ラーマ様」

 

「……」

 

 

暗い暗い、ゲンムコーポレーションのラーマ達の部屋にて。日が沈み月も照さない、電気すらつけられない部屋の中で、ラーマとシータは向かい合って座っていた。闇に阻まれて、互いの顔ははっきり見えない。

 

 

「私は、もう、疲れたんです」

 

「……シータ」

 

「……かつて、私は決めました。貴方の道に準ずると。私達の恩人の道を、理想の道を、私達で切り開こうと。どれだけ、命を奪っても」

 

 

シータがラーマに言っていることは、さっきキアラに阻まれて言えなかった本音。

 

彼女は疲れていた。彼女は、人を殺すには優しすぎた。悪意をはね除けるには素直すぎた。

 

 

「でも……でも……」

 

 

シータは過呼吸のような症状を起こしていた。離別の呪いが消されても、それでもラーマと幸せが共有できないことが辛かった。

彼女は椅子から崩れ落ち、ラーマの膝にすがる。

 

 

「好きに貶してください、ラーマ様……!! 私はもう、人を、苦しめたくない……!!」

 

「しかし……」

 

「私は、貴方がいればそれで良かった!! それだけで、良かったのに!! 良かったのに……!!」

 

 

そこからは、もうラーマは鳴き声しか聞こえなかった。彼は天を仰ぐが、冷たい天井が彼を見下ろすだけ。

 

 

「どうすればいいんだ……!!」

 

 

答えは、誰も教えてくれない。彼の膝には、何よりも愛する女性が、涙を流しながらすがり付いていた。

 

───

 

「向こうも辛いのう」

 

「……」

 

 

信長とアヴェンジャーは、何も言わずに二人の部屋の隣室で聞き耳を立てていた。アヴェンジャーは複雑そうな顔だったが、信長はそうでもなかった。

 

 

「黎斗は、聞いていたか?」

 

「それは大丈夫だ」

 

「ならよい」

 

 

それだけ小声で言って、彼女は部屋から出ていく。残されたアヴェンジャーは手近にあった窓を開け、煙草に火をつけた。

 

───

 

「ハハ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「煩せぇよ神!! 黙れ!!」

 

 

灰馬達が根城にした公民館に作を下ろしたシャドウ・ボーダーは、もうすぐで永夢らのいる国会議事堂につこうとしていた。

そんなシャドウ・ボーダーの中で、黎斗神がノイズを放出したブランクガシャットを掲げる。

 

 

「ついに、ここまで来た……!! 流石は、私の神の才能だ……!!」

 

「何だよ、まだ未完成じゃねぇか」

 

 

貴利矢が黎斗神のガシャットを覗き込みながら呟く。まだそれはブランクガシャット、ゲームとして成立していない。しかし黎斗神は、これで満足していた。

 

 

「どういうことだよ神──」

 

 

と言ったところで、シャドウ・ボーダーが停車する。車の外には永夢とナイチンゲールが立っていた。もう、国会議事堂についたようだった。

 

───

 

『ロケット ドリル リミットブレイク!!』

 

「ニコ ロケットドリルキーック!!」

 

   ズドン ザザザザザ

 

 

その時、ニコの変身するフォーゼは一人花屋医院近辺のライドプレイヤーと戦っていた。エミヤは医院の防衛、フィンは別の場所で戦っている。

どうやら真黎斗はライドプレイヤーに手を加えたようで、ライドプレイヤーは生存者を積極的に襲うようになっていた。

 

彼女はロケットモジュールとドリルモジュールを解除して空を見上げる。今日までずっと戦い続けてきた大我に、改めて敬意を抱いた。

 

顔を前に戻せば、またライドプレイヤーは現れていた。この地域の聖杯が完成するまで、ライドプレイヤーは増え続ける。そして、まだそこの聖杯は89%までしか完成していなかった。

 

 

「……まだまだ!!」

 

『エレキ オン』

 

『ウインチ オン』

 

───

 

「貴方のしたことは人々を危険に晒すことでした」

 

「必要だったことだ。こうしなければ私の神の才能は発揮されず、結果君も患者も長く苦しんだだろう」

 

「でも……!!」

 

 

永夢は、キアラを解き放った黎斗神にいい顔は出来なかった。彼自身あの恐ろしさが分かっていた以上、素直に黎斗神に頷けなかった。

 

しかし黎斗神は、永夢の態度などどうでもいいといった感じでブランクガシャットを手に取り──永夢に投げ渡す。

 

 

「そうだ……君に、これを渡しておこう」

 

「……ガシャット……これは?」

 

「そのブランクガシャットは私が手を加えたものだ。君が完成させろ」

 

「え……?」

 

「ここからは君の出番だ、宝生永夢。敵が私である以上、私だけが対策を練っても向こうの私は対処するだろう。だから、ここからは君の力を利用する。私と君の才能を、一つにする」

 

 

永夢はそれを意外に思ったが、ガシャットを受け取る。黎斗神は不愉快な様子などおくびにも出さずに笑っていた。後ろで黙っていたポッピーが思わず声を漏らす。

 

 

「黎斗……」

 

「勘違いするなポッピー。私は、何としてでも私を越える。それだけだ」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ラーマの迷い

「マスター、答えてくれ!!」

「君は結局何がしたい?」

「お主もまた難儀じゃのう」


───真黎斗の計略

「メンバー減ってきたわね……」

「何、問題はないさ」

「種はもう蒔いてある」


───サーヴァントに異変?

「……どうしたの、ランサー?」

「体が、痛い……」

「もしかして……」


第五十五話 W-B-X


「申し訳ありません、マスター」


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第五十五話 W-B-X


岩永さんが活躍しててうれしい……うれしい……(プレバトを見ながら)
彼が活躍することで自然と檀黎斗神の名も広まるはず、頑張って下さい



 

 

 

 

 

「……マスター」

 

「……どうしたラーマ、ここに来るのは暫くぶりだが」

 

 

太陽が、社長室の向こう側に昇ろうとしていた。ラーマは暗い顔を取り繕おうともせずに部屋に入り、真黎斗の前に立ち尽くす。

暫くラーマは何も言わずに真黎斗の仕事ぶりを眺めていたが、それから小さく呟いた。

 

 

「……マスター」

 

「……」

 

「……マスター。この戦いは、いつ終わるんだ?」

 

 

絞り出すような問いだった。彼は真黎斗の理想に口出しをするつもりはなく、どこまでも着いていこうと思っていたが……その意思を、取り下げるべき時が、とうとうやって来ていた。

黎斗神はラーマの顔を見た。それだけで、彼はラーマに何があったのかを察した。彼は別に社内の監視カメラの類いは起動させていなかったが、シータが鬱になっていることは理解していた。

 

 

「……シータだな?」

 

「……答えてくれ」

 

「何時終わるか、か。……まだ遠い。本州を完全に掌握したら、日本すべてを次に飲み込む。そこから段階的に範囲を広げ、この星全てを飲み込もう。そうすることで、命が失われることもない、希望が失われることもない、刺激溢れる理想郷が作られる」

 

 

ラーマは、その言葉に嫌悪を示すことはない。彼は真黎斗の才能も、その理想も知っているから、彼の計画は否定しない。

しかし、同時に、ラーマにとって譲れないものもある。

 

 

「余は……シータは、もう限界だ。一気にそれを終わらせることは出来ないのか?」

 

 

愛する女性(シータ)の意思だ。ラーマとシータは今や二人で一人のカップルのサーヴァント。片方を切り離すことは、出来ない。

 

 

「……」

 

「マスター、答えてくれ!! いつまで、いつまでかかるんだ!! 早く……早く、終わらせられないのか!?」

 

「……これはゲームだ。この世界はゲームだ。私は神の才能を持つゲームクリエイターなのだから、私の行いはゲームを通して行われなければならない」

 

「っ……」

 

 

それはつまり、真黎斗はまだまだ世界掌握に時間を掛けるという宣言で。

その言葉は、ある種の余命宣告に等しい。ラーマは、シータの心と真黎斗への忠義、その二つを天秤に乗せるように迫られている。

 

 

「ラーマ。君は、私のゲームに賛成していた筈だが。……君は結局何がしたい?」

 

「……っ」

 

 

ラーマは下を向いた。手はいつの間にか拳を形作り、その上で震えていた。やりきれない。何も出来ない。分からない。

 

 

「……すまなかった。一旦、余は頭を冷やしてくる」

 

 

そう言って真黎斗に背を向けるのがやっとだった。

 

───

 

   ガチャ

 

「……」

 

「お主もまた難儀じゃのう」

 

「信長……」

 

 

部屋を出たラーマのすぐ側に、信長が静かに立っていた。

きっと会話を聞いていただろう、ラーマはそれを確信して自嘲するように笑おうとする。……それも、上手くは出来なかった。

しかし信長は、ラーマの言葉は望んでいないようだった。

 

 

「お主が本当に望んでいるのは何なのか、この際じゃからよおく考えればよい。何せお主はまだ、天下のゲンムコーポレーションのサーヴァントなのじゃからな。時間はたっぷりある」

 

「……そうだな」

 

 

気がつけば、信長はどこかに消えていた。ラーマは、シータの元へと歩き始める。

 

かつて魔王ラーヴァナに奪われた愛する妃シータ。旅の果てに取り戻し、しかし幸せになることは出来なかったシータ。

それを思えば、ラーマは今の現状を真黎斗に感謝することしか出来ない。本来不可能なことを、真黎斗は可能にした。二度と幸せを分かち合えない二人を、彼は引き合わせてくれた。

……しかし。その恩人が二人の中を引き裂こうとするのなら、己は、どうするべきなのだろう。

 

───

 

「……困ったわね」

 

 

ずっと黙って画面に向かっていたナーサリーが、席を立って朝日を眺めながら呟く。のんびりと紅茶の缶に手を伸ばす彼女は、それでも現状にほんの少しだけ違和感を持っていた。

 

 

「だんだん、メンバー減ってきたわよね……ラーマもいなくなるのかしら。ちょっと、ちょっとだけ寂しいわ」

 

「それも……まあ、確かにそうだ。クリエイターとは往々にして孤高なものだが、私だってかつての喧騒が恋しくなる時がないこともない。だが……人手に関して言うなら、問題はないさ」

 

 

真黎斗はナーサリーの言葉にそう答える。

それに対してはナーサリーは首を竦めるだけで。

 

 

「それはそうでしょう? 私達はゲームマスターなんだから。キャラの補充くらい何てことないわ」

 

「その通りだな……だが、それをすぐにする必要もない。……何しろ、種はもう蒔いてあるだろう?」

 

「……そうだったわね」

 

 

真黎斗の眺める画面には、最新のライダーの設計図が、以前よりさらに進んだ状態で映っていた。

 

───

 

永夢は人気のない街を散歩しながら、やや湿った朝の匂いを味わっていた。隣にはナイチンゲールが歩いている。

永夢の左手には、黎斗神から渡されたブランクガシャットが握られていた。

 

 

「……出来ませんか?」

 

「うーん……やろうとはしてるんですけど……」

 

 

永夢はここまでで何度もガシャットを加工しようとしていたが、どうにも上手くいかない。

 

 

「……何が足りないのでしょう」

 

「うーん……気合い?」

 

 

永夢はやや惚けた様子でそう言ってみる。マイティブラザーズXXもマキシマムマイティXも、強い感情に裏打ちされて発生したガシャットだから別に間違いではない。

しかし、それだけでもないような気がして。

 

 

「……サーヴァントの魂の量の問題、とかは」

 

「それは……」

 

 

ナイチンゲールはそう言った。ブランクガシャットにはここまでで、サンソン、カリギュラ、キアラ、ジル・ド・レェ、メディア・リリィの魂が入っているらしい。そして、本来聖杯が万全の力を発揮するには七騎の英霊の魂が必要だと聞いた。

 

 

「もし治療の助けになるのなら、私は自分を殺すことに異存はありません」

 

 

そして、ナイチンゲールは本当に何気なくそう言った。

永夢はあんまり自然にそう言われたから一瞬聞き流しそうになり、しかし気づいて慌ててナイチンゲールの肩を持つ。

 

 

「な、何てこと言ってるんですか!?」

 

「……私は看護婦で、マスター、貴方はドクターです。どちらが多く患者を救えるかを考えれば、ドクターの方が多いことは自明の理でしょう?」

 

 

そう言う彼女の目に、何の疑いもありはしなかった。永夢はそこに見覚えのある危うさを見て、思わず彼女を抱き締めた。

 

 

「仮に……そうだとしても、僕は貴女と共に人々を救いたい。ドクターだけでも、看護婦だけでも、患者は救えないんです……!!」

 

「……そうですね……申し訳ありません、マスター」

 

「ええ……これから、一緒に頑張りましょう」

 

 

……そこまで言ったところで、永夢は自分のしていることに気がつき、慌ててナイチンゲールから飛び退く。そして自分の顔を自分で叩いて己の挙動を恥じた。

そして前を向く。そこには、ナイチンゲールの笑顔があって。

 

 

「……あの、すいません」

 

「構いません。ドクターの健康を管理するのも、看護婦の仕事でしょう」

 

「っ……」

 

 

永夢はその言葉にまた俯く。

 

……ナイチンゲールの顔がまたこの前のようにブレていることに、彼は気づかなかった。

 

───

 

「……」

 

「……」

 

 

寒い空の下、ラーマとシータは太陽に照らされながらゲンムコーポレーションを出た。

目的はない。行き先もない。ただ、二人だけの時間が欲しくて。もう、彼らを見つめる目なんてこの都市にはない。

 

 

「僕は」

 

「……」

 

「僕は、君と一緒にいることが、何よりも幸せなんだよ。何よりも、君といたいんだ」

 

 

言葉に困ってそう言ってみても、聞くべき彼女が上の空である以上は言葉は空に溶けるだけ。

 

ラーマには、もう何が正しいのか判別できない。

 

───

 

 

 

 

 

「無事だな、マスター?」

 

「当たり前でしょ? ……アーチャー、大我の様子は?」

 

「良好だ。苦しんでいるのに代わりはないが、悪化はしていない」

 

 

そして、太陽がすっかり昇った頃になって。

ライドプレイヤーを一通り始末したニコとフィンは、エミヤのいる花屋医院に集合する。

ニコはガシャットロフィーを左手で弄りながら、戦利品を玄関先に置いた。大きく伸びをする。

 

そして再び前を見れば。目の前のフィンの顔が、一瞬歪んで見えた。

 

 

「……どうしたの、ランサー?」

 

「何がだ?」

 

「だって、今顔が……」

 

「……私の美貌が君を魅了してしまったのかい?」

 

「ふざけんな」

 

 

しかしフィンに心当たりはないようで、二人はもう何度やったか分からない軽口を交わす。

……しかし。次の瞬間、再びフィンの顔はぶれて……フィンは膝から崩れ落ちた。

 

 

「……ランサー?」

 

「っ……すまないマスター、体が、痛い……」

 

 

大地に踞るフィン。その体は、さっきよりも酷くぶれていて。まるで、ゲームのバグのよう。ウィルスに犯されたプログラムの挙動のよう。

 

そして。

 

 

 

 

 

……刹那、フィンは這ったまま槍を手に取り、ニコの足元を凪ぎ払った。

 

 

   ブンッ

 

「きゃあっ!? 何すんの──」

 

 

ニコがフィンの方を睨もうとする。

……しかし、そのフィンの顔は……黒く、欠けていた。

 

 

「すまないマスター、体が、勝手に……!!」

 

   ブンッ

 

 

フィンはおかしな挙動で立ち上がって、ニコの胸元を貫こうとする。ニコはそれを慌てて回避してフォーゼに変身した。そして、防戦を開始する。

 

 

「っ……変身!!」

 

『スペースギャラクシー フォーゼ!!』

 

『ぶっ飛ばせ!! 友情!! 青春ギャラクシー!! 3・2・1 フォーゼ!!』

 

「もしかして……」

 

 

これが、真黎斗の新たな作戦なのか、と考えながら。

 

 

『ロケット オン』

 

『ランチャー オン』

 

『シールド オン』

 

 

フィンの間合いに入るまいとフォーゼは空を飛び、激しい水流を回避しながらミサイルを放つ。その脇を、エミヤの援護射撃が通り抜けていった。

 

 

「マスター、止めてくれ!! 私だけでは、どうにも!!」

 

 

フィンはそう言いながら槍を振るい続ける。放ってみたミサイルは簡単に落とされてしまった。

フォーゼはそれを受け入れて、令呪のある手に意識を集中させる。

 

 

「令呪をもって命じる!! 私と戦うな!!」

 

「っ──」

 

 

その命令は確かにフィンに届いた。……届いた筈なのに、フィンはまだ戦い続けている。

 

 

「嘘、止まらない!? どういうこと!?」

 

 

フォーゼは驚きのままに、エミヤの方を見てみた。彼はどんな顔をしているのだろうか、とふと思って。

……その顔も、気づいていない内に、欠け始めていた。その矢は──フォーゼに向いていた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───フォーゼとサーヴァント

「どういうことなの!?」

「こうなってしまうとは……」

「すまないが、耐えてくれ!!」


───ブレイブとサーヴァント

「……ルーラー?」

「私は……どうして……」

「覚悟を決めろブレイブ!! 戦うしかないだろ!!」


───大我達の逃亡

「ゲンムの野郎……」

「この、惨状は……」

「あいつらに何があったんだ」


第五十六話 Dead or alive


「私を……殺してください」


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第五十六話 Dead or alive

何だこれは、たまげたなぁ……(アマゾンズの予告を見ながら)
こんな予告をするんだから、きっとハートフルな物語に違いない



 

 

 

 

『コズミック オン』

 

『ステルス オン』

 

『ジャイロ オン』

 

 

フォーゼは苦戦していた。下からの宝具による砲撃と側面からの射撃に翻弄され、それらばかりに気を取られて何の反撃も出来ないでいた。ステルスモジュールによって一時的に透明化しても、何の躊躇いもなくサーヴァント達は攻撃を放ってくる。

当然だった。片や女子高生を終えたばかりの医療事務のバイト、片や戦闘のプロとして作られたキャラクターと、一つの神話の大英雄の再現。

 

 

「どういうことなの!?」

 

「私の体も、勝手に動く……!! まさか、こうなってしまうとは……」

 

 

フォーゼは声を張り上げる。返事と共に矢が帰ってくる。どうやら本当に、二人は望まぬままに敵になってしまったようだった。

フォーゼは大我のことが気にかかるが、そっちの方向に向かうことも出来ず。

 

 

「ああもう!! 何なのこれ!! アイツ絶対許さない!!」

 

「すまないが、耐えてくれマスター!!」

 

「今私はジャイロモジュールを狙っている!! 躱んだ!!」

 

「無理無理無理無理!!」

 

 

その瞬間、エミヤの狙撃によってジャイロモジュールが破損した。フォーゼは慣性に従って自由落下を開始する。眼下では、フィンがまた槍に水を凝縮させていて。

 

 

「っ──」

 

『シールド オン』

 

『コズミック ステルス シールド リミットブレイク!!』

 

 

衝撃に備えて、フォーゼはシールドモジュールに力を込めた。着地するのと同時に衝撃が体を襲い、二方向からの強力な攻撃が襲い掛かる。

 

───

 

「……っ」

 

 

その戦いを、大我は立ち上がろうとしながら見ていた。震える足を無理矢理動かし、ふらつく視界を押さえつけて、やっとの思いで携帯電話を手に取り、手近な棒を杖にして、最低限の荷物だけを持って、下のフロアに降りていく。

 

表での戦いは既に患者たちにも認知されているらしく、階下は阿鼻叫喚の図になっていた。

表玄関から出るのは命取りだ。しかし裏口の鍵は大我自身が持っている。きっと患者は自分を待っているだろう、大我はそう自分に言い聞かせながら、白い廊下を這うように歩く。

そのタイミングで、電話は通じた。

 

 

   ガチャ

 

『どうした、体は大丈夫なのか?』

 

「……ブレイブ、か。体? 大丈夫な訳、ねぇだろ」

 

『なら休め!! 無理は命取りだ』

 

「そうも言ってられねぇ事態が、起きたんだよ……!!」

 

 

大我はそう言いながら階段の手すりに手をかけ、一歩また一歩と降りようとする。それだけで頭に電流が走り、手すりを握る手が滑りそうになった。

そんな中で、大我は現在の状況を解説する。

 

───

 

「そんな、どういうことだ……!?」

 

『俺も分からねぇ……っ、とにかく、早くこっちに来い……!!』

 

「分かった……すぐに向かう」

 

 

飛彩はそう言って電話を切った。近くにいたジャンヌとパラドが飛彩の顔を覗き込む。飛彩はガシャットとゲーマドライバーを掴んで席を立つ。

 

 

「スナイプからの電話だったよな? ……何があった?」

 

「アーチャーとランサーが、突然西馬ニコを攻撃し始めたらしい。今花屋医院のすぐ前で戦っていて、患者がパニックになっている」

 

「っ、何だって!?」

 

 

その言葉は、パラドを驚愕させるには十分だった。ジャンヌとパラドは一瞬顔を見合わせ、すぐに飛彩の後をついていく。

 

 

「今すぐ向かいましょう!!」

 

「当然だ。すぐに出るぞ」

 

「……待った、永夢は? あいつはどうした」

 

 

……しかし、パラドはすぐに立ち止まった。永夢は何処に行ったのだろう。暫く前に外に出たっきり戻ってきていない。

考え込むパラドに、飛彩がほんの少し苛立った顔をして振り返る。

 

 

「行くぞパラド!! 今は要救助者が優先だ!!」

 

「ええ、早く行きましょう!!」

 

「……分かった」

 

 

そしてパラドも、後ろ髪を引かれる思いをしながらも外に出た。

 

───

 

   パァンッ

 

「っ、っ……」

 

 

その時永夢は──いやエグゼイドは、ナイチンゲールのピストルから放たれる弾丸を回避していた。

 

さっきまで並んで歩いていた筈のサーヴァントが、いつの間にか敵に回って襲ってきたから、エグゼイドはかなり混乱していた。

 

 

「どうしたんですかナイチンゲールさん!?」

 

   パァンッ

 

「分かりません、体が、勝手に……!!」

 

 

ナイチンゲールの顔は、やはり、黒い何かに蝕まれ始めていた。エグゼイドはナイチンゲールに攻撃することが出来ずに、ただただ防戦に徹する。弾丸を弾き、拳を受け流し……そうするだけで、ダメージは少しずつ蓄積して。

 

 

「どうしてそうなったんですか!? 心当たりは!?」

 

「いえ、分かりません……!!」

 

   パァンッ

 

「っ……」

 

 

また、銃撃を切り伏せた。

 

───

 

「車の手配は!!」

 

「それは出来ないが、レーザーのバイクゲーマは俺がまだ持ってる!!」

 

 

飛彩とパラドはそう言葉を交わしながら、国会議事堂を転がり出た。コンクリートの道を踏み締め、二人は表の道路へと走り続ける。一刻も早く、大我の元へ向かいたかった。

そして、パラドが出したバイクゲーマに飛び乗った二人は辺りを見回す。

 

 

『爆走 バイク!!』

 

「取り合えず乗るぞブレイブ!! ……ルーラーは?」

 

「──そういえば」

 

 

ジャンヌがいなくなっていた。さっきまで、一緒に走っていたはずなのに。

大事な戦力だから置いていくわけにもいかない。飛彩とパラドは周囲に目をやる。

 

 

「……ルーラー?」

 

「どこにいったんだ?」

 

「迷ったか? いや、そんな筈は……」

 

 

──刹那。

 

 

「……」

 

「……っ!? 降りろブレイブっ!!」

 

「なっ!?」

 

   ダンッ

 

 

パラドの声によって運転手を失ったバイクゲーマが、長い棒に貫かれて煙を上げていた。

……ジャンヌの旗だった。

 

そのすぐ後に、音もなくジャンヌが現れて旗を引き抜き、穂先を飛彩に向ける。その顔は黒く蝕まれていて、その向こう側に飛彩は涙の滴を見た。

 

 

「っ……そんな、私は……どうして……」

 

 

ジャンヌは戦いを望んでいない。彼女は裏切った訳ではない。飛彩はそれを即座に理解した。しかし、では何故彼女はこちらに武器を向けているのか。

飛彩の脳内を、さっき聞いたばかりの大我の報告が走り抜ける。蝕まれた体、保たれた意識、つまり。

 

 

「ルーラー、それは……」

 

「……離れてください」

 

 

もう既に、ジャンヌは己の身に何が起こったのかを理解したようだった。

 

 

「何をされたんだ」

 

「真檀黎斗の、介入です!! 彼らの開発した、最新の、ライダーの因子が、私達、サーヴァントの体を蝕んでいるようです……!!」

 

「っ……心が、滾る……」

 

「そんな、いつの間に……」

 

 

飛彩は考えを巡らせた。ルーラーが召喚された瞬間からこうなる定めだったとは考えにくい。では、檀黎斗が干渉する余地が何処にあったのか、大我達のサーヴァントとルーラーの共通項は何なのか……選択肢はあまり多くはない。

 

 

「……まさか、オーズを倒したときか?」

 

 

その答えに行き着くのも、不思議なことではなかった。ルーラーは自分の旗を抑えようと努力し、しかし抗えぬままにバイクゲーマを破壊しながら声を上げる。

 

 

「恐らくは……!! きっと、アーチャーとランサーも、フォーゼを倒したときに、感染したのかと、思われます……!!」

 

「っ……檀、黎斗め……!!」

 

「チッ……!! なら、倒すしかないのかっ!!」

 

『Knock out fighter!!』

 

 

パラドは大きく舌打ちをして、ガシャットギアデュアルのギアを傾けた。そしてそれを腰のスロットに装填して、これまで変身できなかった真紅の姿、仮面ライダーパラドクスファイターゲーマーに身を変える。

その隣にいながら、飛彩はガシャットの電源を入れることが出来なかった。

 

 

「変身!!」

 

『Explosion hit!! Knock out fighter!!』

 

「待てパラド!!」

 

「覚悟を決めろブレイブ!! 戦うしかないだろ!!」

 

 

咄嗟にパラドクスを引き留める飛彩を、パラドクスがたしなめる。ジャンヌの旗を受け止めながら。

敵に回ったジャンヌはその旗で自分の間合いを保ちながら、パラドクスの攻撃を回避していた。

 

 

「しかし……」

 

「お前は!! 患者を見殺しにするのか!! あの建物には、何人もの、ドクターに命を預けた患者がいるんだろ!!」

 

「っ……」

 

 

金属の打ち合う音が響く。飛彩は目の前での戦闘と自分の手元のガシャットを交互に見た。ゲーマドライバーを装着する手は、酷く震えていた。

 

 

「小姫……」

 

 

……いつの間にか、飛彩はジャンヌの中に、かつての恋人の姿を重ねかけていたようだった。

 

 

「これは元から聖杯を巡った戦争なんだ!! 生きるためには、生かすためには、ここで敵を倒さなくちゃいけないんだ!!」

 

「それでも!! 俺は、彼女を倒したくない!!」

 

 

それは本音だ。飛彩にとってジャンヌが何であるかには関わらずとも、彼女はこれまで共に戦った味方だ。それを斬るなんて出来ない。それは酷い裏切りになってしまう。もう、裏切りたくない。

そんな思いが飛彩を埋め尽くしていて。

 

 

「マスター!!」

 

「ルーラー……!!」

 

 

そんな、かつての己のマスターへ、ジャンヌは声を張り上げた。体は勝手にパラドクスと戦っているが、顔だけはまだ彼らの味方でいられた。

そんな状態で、言うべきことなんて一つしかない。

 

 

「私を、倒して下さい!!」

 

「……っ」

 

「それは間違ってはいません!! 正義です!! 正しい行いなのです!! だって……これは生きるか死ぬかの戦いですから!! 私は何時だって消える覚悟は出来ています!!」

 

 

もう彼女は、ここが消え時だと察していた。戦いを長引かせて粘っても、仮面ライダーは疲弊するだけで、自分にも自分の治し方は分からず、人々を危険に晒す。ジャンヌはそれを望まない。自らの死で人々が救われるなら、それで構わない。

 

 

「マスターは!! 世界で一番のドクターになるんでしょう!? だったら!! 私を……殺してください……!!」

 

「はああああっ!!」

 

『Knock out Critical Smash!!』

 

 

パラドクスの燃える拳を旗で防ぎながら、彼女は殺されることを望んだ。その内心は、彼女の過去の中にある火刑の風景と変わらない。

ままならぬ体の中で、ジャンヌの心は強く叫ぶ。

 

 

「──マスター!!」

 

「ああ……ああああああああ!!」

 

『Taddle fantasy!!』

 

 

そして、飛彩はとうとうギアを傾けた。

 

 

「変、身……!!」

 

『デュアルガッシャット!!』

 

 

余裕はない。悲しみで潰れそうな心を意地で保ちながら、ドクターは残酷な魔王に変身する。

 

 

『ガッチャーン!! デュアルアップ!!』

 

『辿る巡るRPG!! タドールファンタジー!!』

 

「俺の……俺のメスが、正義だ!!」

 

───

 

   ガチャ

 

「っ、ゲホッ、ゴホッ……あの、ゲンムの野郎……!! おい、こっちだ!! 着いてこい!!」

 

 

「外だ……!!」

 

「助かったのか……!?」

 

「いや、でも何処に行けばいいの……!?」

 

 

「あっちだ。この先に進めば、いつか、聖都大学附属病院の連中と合流できる……早く行け。俺は後で向かう」

 

 

大我の先導で裏口から転がり出た花屋医院の患者達は、我先にと戦火から逃げ出していった。大我はそれを見送って少し笑おうとし、顔面にも走る痛みでそれすらも出来ず苛立ちを募らせる。

大我が薄れかけの視界でフォーゼの方を振り向けば、そこではブロック塀まで追い詰められたフォーゼが、砂煙の中でフィンの猛攻を堪えていた。

 

 

「ったく、逃げればいいのによ……」

 

 

そう言いながら舌打ちした大我はまっすぐ立とうとした。杖に体重をかけ、体幹を気合いで保つ。

そして一歩踏み出そうとして──後ろの方に現れた気配に気づいた。

 

赤い髪の男女が立っていた。……ゲンムコーポレーションを出た、ラーマとシータだった。彼らは破壊された住宅街を眺めて愕然としているようだった。

 

 

「お前は、ゲンムの所のサーヴァントだっただろう。何の用だ」

 

「この、惨状は……」

 

「ゲンムのサーヴァントなら見慣れてるだろ」

 

「そんなっ、余は……」

 

 

大我が特にこれといった嫌味を込めずに煽ってみれば、ラーマは怒りに顔を歪め、しかし大我に手を出すことはなく爪先で大地を踏みにじる。

大我はそんな彼を見て、聞いた。身の危険は最早どうでもよく思えた。

 

 

「教えろ。あいつらに何があったんだ」

 

「……何があったのか、それは余にも分からぬ。さっぱりだ……マスターは、余達には何も教えてくれなかった。マスターの中には、己しかない」

 

「そうか、もういい」

 

 

そして望むような返答が得られなかった大我は、短く言葉を遮って、再びフォーゼの方を向く。

 

 

「愚痴を聞いてる余裕はねぇんだ。テメェらが何も知らないならどうでもいい、とっとと失せろ」

 

『Bang Bang Simulations!!』

 

 

そして、ゲーマドライバーを装着しガシャットギアデュアルβのギアを傾けた。

それを後方で見ていたゲンムのサーヴァント達は、目を見開いて互いに互いを見つめる。あり得ない。彼らは、大我が疲弊していると理解していた。これ以上戦ったら本当に消えるだろうと察していた。

 

 

「……まさか、変身するつもりなのか? その体で?」

 

「死んでしまいます……!!」

 

 

だから声をかける。ラーマもシータも、大我を引き留めずにはいられない。……しかし大我はそれには耳を傾けず、杖を放り捨てて歩き始めた。

 

 

「当たり前だろ。目の前で患者が戦ってるのに、投げ出して逃げる医者がどこにいる」

 

『デュアルガッシャット!!』

 

「第伍拾戦術、変身」

 

『ガッチャーン!! デュアルアップ!!』

 

 

ガシャットを装填する。大我の全身にダメージが更に上乗せされ、彼は堪らず膝をつく。

それでも大我はまた立ち上がり、戦場に歩き続けた。

そして、彼は再び、仮面ライダースナイプに変身する。

 

 

「っ……!!」

 

『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーションズ!! 発進!!』

 

「……行くぞ」

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───スナイプの戦い

「大我!?」

「離れるんだマスター!! 私が、貴方を殺してしまう!!」

『バンバン クリティカル ファイヤー!!』


───マシュの探索

「これは……」

「私、どうしちゃったのかな……」

「治療が出来るとすれば……」


───ニコの危機

「こんな形で別れるとは思わなかった」

「サイテーよ」

「さようならだ、マスター」


第五十七話 輝


「ミッションはまだ、終わってない……!!」


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第五十七話 輝

(EXTELLA LINKの情報を見ながら)
ルーラー? どうせ天草でしょ……大穴でホームズもアリだけど……

……うん? カール大帝? え?
おっかしいな、シャルルマーニュってカール大帝と同じ人だよな……うん、同じ人だ

うん?

うん?



 

 

 

 

『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーションズ!! 発進!!』

 

 

「っ大我!?」

 

「っ──」

 

「そんな!?」

 

 

スナイプの変身音は、当然エミヤとフィン、そしてフォーゼの耳にも届いた。エミヤの弓もフィンの槍もスナイプの方に向く。

 

 

「離れるんだマスター!! 私が、貴方を殺してしまう!!」

 

「逃げて!! 大我!!」

 

 

そんな声は無視して、スナイプは全身の砲台からミサイルを解き放つ。それらの殆どは撃ち落とされ斬り伏せられ、しかし確かに命中もして。

 

 

「俺の患者に……それ以上、手を出すな」

 

「マスター……」

 

 

その声は悲しげだったが、その弓は勝手に新たな矢をつがえる。スナイプは再び砲門をターゲットに向けた。

その間に、フォーゼはどうにかフィンの元から抜け出すことが出来た。重症のスナイプを一人で戦わせる訳にはいかない、そんな意地が彼女を突き動かした。

 

 

「大我!! ……アタシも戦う」

 

「バッカ……てめぇは逃げろ……!!」

 

「アンタを、放っておけないから」

 

 

フォーゼはそう言いながらバリズンソードを再び握り、右足にペンモジュール、左足にホイールモジュールを展開する。

 

 

「マスター……」

 

   パァンッ

 

 

エミヤの弓の弦が弾け、その手元から十分に引き絞られた矢が放たれた。

 

───

 

「……っ」

 

 

その時、騒ぎを聞き付けたマシュは避難する人々に見られないようなルートを取りながら、スナイプ達の戦闘を覗き見していた。

戦況を分析すれば、CRのサーヴァントであった彼らは真黎斗の干渉で狂ってしまったのだろうと言うことは、全く容易に想像できた。

 

そしてマシュは同時に、視界の端に立ち竦むラーマとシータを捉えていた。

マシュは刀剣伝ガイムガシャットを手に取る。彼女はスナイプの変身者……花家大我には借りがあった。かつて仮面ライダークロニクルを奪ったという借りが。

 

 

「……」

 

 

だから、今回は……いや、今回もCRの側に立とう。ラーマとシータがあの中に飛び込んで戦うのなら、自分が二人を引き受けよう。マシュはそう考える。彼らとは共に戦おうとは思えないが、彼らの意思は好ましく思っていて。

 

……その時、マシュは、自らの後方に誰かの気配を感じた。

慌てて振り返る……そこには、前にエリザベートと共にいたキャスターの少女イリヤが、己の杖に持ち上げられるような形で立っていた。

 

その体は、今スナイプらと交戦している二体のサーヴァントのように、少しずつ黒く蝕まれ始めていた。

 

 

「これは……」

 

「居ましたよイリヤさん!! ちょっと診察して貰いましょう!!」

 

「う、うん……私、どうしちゃったのかな……何故か、他の人を見ると、体が勝手に動きそうになって……」

 

 

マシュは屈んで、その容態を確認していく。

イリヤはマシュを既に信頼しているようだった。彼女はマシュに黒くなり始めた体を見せ、微妙に潤んだ瞳で彼女を見上げる。

 

彼女は、元々は一般マスターのサーヴァントだった。それが真黎斗の余計な計らいによってアヴェンジャーというサーヴァントのサーヴァントという異常な立ち位置になり、更にそれが令呪の力で単独行動を行っている。

……つまり、彼女もまた、ゲンムコーポレーションから送り出された仮面ライダーを倒すことで、汚染されてしまっていた。汚染の進行が遅いのはきっと偶然だろう。

 

 

「まだ、戦っていないんですね?」

 

「うん……まだ……」

 

「私が協力しないとダメダメですもんねーイリヤさんは」

 

「うぅ……」

 

「……」

 

 

逆に、マシュだけは汚染されていなかった。仮面ライダー鎧武を倒した彼女だけは、既に真黎斗の知らない存在となっていた為に、汚染の影響を逃れていた。

 

 

「とにかく、一刻も早くこの状況を治さないと……」

 

「まあそうですよねー、私が耐えられるのも何時までか分かりませんし」

 

 

マシュは様子を見るのを止めて再び立ち上がり、スナイプらの方を見た。どうにか二人はサーヴァント二体の攻撃を堪えていたが、勝てるとは思えなかった。

しかし、このままイリヤを放置も出来ない。クロノスに変身して時を止めることも考えたが、真黎斗が干渉している以上ポーズが効くとも思えない。

そもそも、治療の手立てが無い。薬はエリザベートと共に消滅してしまった。

 

 

「治療が出来るとすれば……」

 

 

治療の心当たりは、一つだけあった。

仮面ライダーの助けをする作戦も一つはあった。

 

 

『刀剣伝 ガイム!!』

 

「……変身」

 

『オレンジイチゴにパイナポー!! バナナ!! ブドウ!! メロン!! ソイヤ!! ガイム!!』

 

───

 

マシュの観察の通り、フォーゼとスナイプはどうにかこうにかエミヤとフィンの攻撃を凌いでいた。

 

エミヤの狙撃はフォーゼがペンモジュールの力で作成した壁によって勢いを減衰させて回避する時間を稼ぎ、フィンの攻撃はフォーゼがホイールモジュールで一気に近づいて先に攻撃を仕掛けることでターゲットを自分に絞らせることでスナイプを守った。

言ってしまえば、フォーゼがスナイプを介護するような戦いだった。そんなことを出来る程度には、フォーゼはスナイプを信頼していた。

 

 

『コズミック ペン ホイール リミットブレイク!!』

 

『バンバン クリティカル ファイヤー!!』

 

 

そして、二人は相手に生じた僅な隙を見逃さずに、各々の場所で必殺技を放つ。

 

 

「っ……熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 

しかし、それらはエミヤの投影した盾に防がれて。

ミサイルが殺到する。花弁が一枚剥がれた。砲弾の雨が降る。もう一枚剥がれた──それだけだった。

ニコの攻撃も、フィンの水が作り上げた壁によって、難なく押し流されていた。

 

 

「全部、防がれてる……」

 

「……っ!! 避けろ!!」

 

 

そして、愕然としていたフォーゼはフィンの一撃を諸に受けて、スナイプの隣に転がる。変身は解けていた。スナイプはもう体の自由が効かず、彼女を庇うことも出来なかった。

 

 

「……」

 

 

エミヤは俯いていた。彼はもう、二人は逃げられないと確信していた。望まずとも、勝手に手が必殺の一撃を弓につがえる。

 

 

「──I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)。空間を抉り抜く一撃がチャージされていく。

フィンの方はどうやら体はもう戦闘は必要ないと判断したようで、槍を構えるのも止めていた。

 

 

「こんな形で別れるとは思わなかったけれど……さようならだ、マスター。君との戦いは楽しかった。学ぶことも沢山あったさ」

 

「こっちの気分はサイテーよ」

 

 

もう諦めてしまったフィンが心からの悲しみを述べれば、ニコはそう言って唾を吐いた。エミヤは口をつぐんだまま弓を引き続ける。

 

スナイプはこの状況でも諦めようとは思っておらず、再びキメワザを放とうとドライバーに手を伸ばした。

 

 

「ミッションはまだ、終わっちゃいねぇ……」

 

『キメワザ!!』

 

 

狙いが定まらない。スナイプの意思は折れずとも、胸の内の輝きは消えずとも、体がもうそれに答えられない。

 

そして、必殺の矢が、チャージされる。

 

 

 

 

 

   ダダダダダダダダ

 

「……っ!?」

 

 

その瞬間に、エミヤの上空から何発もの銃弾が降り注いだ。エミヤは偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)の発射を取り止めて、自らの上空に盾を展開する。

その空の向こうには。

 

 

   ダダダダダダダダ

 

「……成功です!!」

 

「あ、あわわ……大丈夫ですかぁ……?」

 

 

宙を舞うバイク、ダンデライナーに跨がった鎧武と、その後ろに乗ったイリヤがいた。

 

仮面ライダーから手に入れたガシャットロフィーの力は、変身だけには留まらない。かつてそれらが解き放たれた時にゲンムコーポレーションからの移動に使用したときのように、ガシャットロフィーの所持者もその仮面ライダーに合わせたビークルも呼び出すことが出来る。マシュは……鎧武はそれを使用した。

そして鎧武は一気に降下してエミヤを撥ね飛ばし、さらにその上で方向を切り換えて、スナイプ達とは反対側に飛んでいく。

 

 

「っ……どうやら私は、彼女らの追跡に切り替えたようだ。どうか生き延びてくれ、マスター」

 

 

そしてエミヤの足は、ひとりでにダンデライナーを追跡し始めていた。

 

フィンの方は鎧武を追おうとは思考しなかったらしく、去っていくエミヤを見送ることもなくその槍をスナイプに向ける。

 

 

「……私だって、君を殺したくはないのだが」

 

「っ……!!」

 

『バンバン クリティカル ファイヤー!!』

 

 

スナイプは渾身の力を振り絞り、反動で後ろに吹き飛ばされながら最後のキメワザを放った。しかしそれらは、動きの速いものは斬り落とされ、遅いものは槍からの水流によって纏めて吹き飛ばされる。

 

 

「っ……」

 

『ガッシューン』

 

「大我!!」

 

 

そして、とうとうスナイプの変身も解けた。

 

今度こそ、絶体絶命。ニコは大我の元に這い寄り、更に彼を引き摺って逃げようとする。

だが、逃げられる筈もなく。

 

フィンが歩きながら呟く。

 

 

「今日までの戦いに、敬意を示そう。ありがとう」

 

 

その槍が、振り上げられて。

 

 

 

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

   ガンッ

 

 

その槍が、奥から投げ込まれた剣によって吹き飛ばされた。

 

───

 

 

 

 

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

「やれ、ブレイブ!!」

 

「俺に斬れない、物はない!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

 

その時ブレイブは、パラドクスパズルゲーマーに援護されながらジャンヌと斬りあっていた。剣と旗が線香花火のように火花を撒き散らしながら交差し、ブレイブは歯を食い縛る。

ジャンヌは強かった。ブレイブがタドルファンタジーの力で呼び出したバグスターの雑兵は悉く切り捨てられ、ブレイブ自身の攻撃だって、ジャンヌの宝具によって防がれてしまう。

 

 

「っ……!!」

 

   ガンッ

 

 

また、倒せなかった。ジャンヌによってまたキメワザを防がれたブレイブは反動で二、三回コンクリートの上を転がる。

そして、一回地面を殴ってからまた立ち上がった。

 

そこに、もう一人の来客が現れる。

 

 

「これは──」

 

「永夢!!」

 

 

エグゼイドだった。事情も分からずにナイチンゲールとの戦闘を離脱して逃亡してきた彼は、ここでも繰り広げられていたマスターとサーヴァントとの戦いに目を見開く。

 

 

「……飛彩さん、どういうことなんですか、これは……!!」

 

「──永夢」

 

 

エグゼイドは、ブレイブの肩に手を置いていた。ジャンヌとの戦いを引き留めようと、無意識の内に出した手だった。

ブレイブはエグゼイドの目を一瞬見つめ、そのすぐ後に、エグゼイドの手を下ろさせる。

 

 

「……彼女は敵だ」

 

「でも……」

 

「切除する」

 

「そんなの、間違ってます……」

 

「──それが、彼女の望みでもあるんだっ……!!」

 

 

そしてブレイブは、再びジャンヌの元に走り出した。マントを伸ばしてジャンヌの旗を牽制し、一気に間合いに滑り込む。

エグゼイドはそれを、立ち尽くして眺めていて。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───進んでいく聖杯戦争

「東京都23区での戦争が、もうすぐ終結する」

「どうなっちまうんだよ……」

「次のステージが、始まる……」


───マシュの賭け

「……私はここまでです」

「君は、その未来を作るのか」

「私は、貴方に恥じない私でありたい」


───本当の別れ

「今度こそ、終わりですね」

「本当に……済まなかった」

「貴方は間違っていません」


第五十八話 Fragment hope


「貴方に会えて、本当に良かった」


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第五十八話 Fragment hope


(獣国の皇女全部見て)
あぁ……あ"ぁ"……!!
ヤバイ……尊い……ヤバイ……
ネタバレしたいぃ……何時からならネタバレ前提の感想言っていいのぉ……?



 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 

貴利矢はシャドウ・ボーダー内で一つ大きく舌打ちをした。手に握った端末の中には、幾つもの聖杯のゲージが並んでいた。

 

千代田区の聖杯、完成。

新宿区の聖杯、完成。

墨田区の聖杯、完成。

渋谷区の聖杯、完成。

中央区の聖杯、完成。

港区の聖杯、完成。

江戸川区の聖杯、残り1%。

台東区の聖杯、残り1%。

荒川区の聖杯、残り2%。

他も全て、似たような状況。何処の聖杯も、例外なく完成寸前。

 

全て、この東京で起こっていること。

全て、このゲームエリアで起こっていること。

 

 

「東京都23区での戦争が、もうすぐ終結するようだな」

 

「……そうだな。全く、どうなっちまうんだよ……」

 

 

不意に黎斗神から声をかけられても、貴利矢はこれといって驚きもせずになげやりな言葉を返した。

ポッピーは何も言えずに、静かに外を眺めていた。

 

既にこのシャドウ・ボーダーにも、サーヴァントか突然敵対してきたという情報は流れていた。……しかし、今彼らはそこへは向かっていない。

()()()()を手に入れる為に、彼らは山奥を走っていた。

 

 

「このあとどうなるか、か……そんなものは分かっているだろう九条貴利矢。……次のステージが、始まるということだ」

 

「次のステージ?」

 

 

助手席に座る黎斗神はのんびりと語る。彼は不思議と、焦燥を抱いている様子はなかった。寧ろ、鼻唄でも歌いそうなくらいには機嫌よさげにすら思えた。

 

 

「……ナーサリー・ライムは言っていただろう。聖杯が完成した後にサーヴァントと生き残っていたプレイヤーは、ゲンムコーポレーションへの挑戦権を手に入れる」

 

「……でも、パラドは……BBちゃんは、もういない」

 

 

話を聞いていたポッピーが口を挟む。

千代田区の聖杯を手に入れたのはパラドだ。そして、パラドのサーヴァントだった……また彼女のサーヴァントでもあったBBは、消滅してしまった。

 

だから、自分達にはもう聖杯戦争に干渉する手段がない。ポッピーはそう思っていた。

 

 

「違う」

 

「……何がだ」

 

 

しかし黎斗神はそれを否定した……隣でハンドルを握るマルタを眺めながら。

 

 

「参加するのは君だ、九条貴利矢」

 

「……何だと?」

 

───

 

『ブドウ龍砲!!』

 

「イリヤさん、撃てますか!?」

 

「は、はい!!」

 

   パァンッ

 

 

ダンデライナーに跨がった鎧武、極アームズは、後ろを追跡してくるエミヤと、彼の放った赤原猟犬(フルンディング)を初めとした矢の群れから逃れながら、またアームズウェポンを発射して撃ち落としながら、ひたすらに空を走っていた。

ルビーの補助を受けながら、イリヤがブドウ龍砲の引き金を引く。しかし放たれた弾丸は簡単に回避され、エミヤの体に鈍りはなく。

 

 

「っ……」

 

『影松!!』

 

『ドンカチ!!』

 

『ドリノコ!!』

 

 

また、鎧武が槍や鈍器を後方に投げつけた。それらはエミヤの放った矢と打ち消しあい、エミヤには届かない。

 

 

「私が、魔法少女になれれば……」

 

「この状況で転身すると私もあっという間に汚れちゃいまからねぇ」

 

「無理はしないで下さい。ただ、射撃は続けてくれると助かります!!」

 

「は、はい!!」

 

   パァンッ

 

 

また、エミヤが弾丸を回避した。

 

───

 

その時、エミヤが残していった彼のマスター達は、近くの塀にもたれて、フィンとラーマの戦いを眺めていた。

槍と剣が交差し、火花が散る。

 

 

「……どうして君は、私の『味方』をしてくれるんだい?」

 

「……」

 

 

フィンは刃を交えながらもそう質問した。……彼にとっては、マスター殺しは望んで行うことではない。ならば、それを強制的に止めてくれるラーマは、自分の味方だ……フィンはそう考えていた。

 

 

「……余は……かつて、民を守る王、偉大なるコサラの王ラーマであった」

 

「……今は違うのかい?」

 

「……今日までの余を、王とは呼べまい……!!」

 

 

ラーマは歯を食い縛っているように見えた。噴き出しそうな迷いを噛み殺そうとしているようにも、恩人に言い訳を始めそうな己を律しているようにも見えた。

 

 

   ガキン ガン ガン

 

「余は、間違えていたのだろう……少なくとも、かつて人間を守った王であった者として、余の行いは正しくないのだろう」

 

 

今でも、檀黎斗に感謝している。ラーマの中のその思いは真実だ。それでも彼は、その恩に仇で酬いようとしていた。それは……外道の行いかもしれない。それでも。

 

 

「……シータを見て、世界を見て、己の正義を省みて、その上で余はそう思った」

 

「……」

 

「だから。余は、戻ろう。人間を守る、王に……彼女の為に。余は、正義を謳うべきなのだ」

 

 

その行いは、ラーマの正義だった。

 

 

「良いことだよ。妻の為に戦う人間は好ましいと思う」

 

   ガン ガン ガン ガン

 

「……ッ」

 

「さあ、私を倒してみろ。この状態の私よりは、君はきっと強い筈だ」

 

 

激しく二人は入れ替わり立ち替わり、互いに致命傷を負うこともなく武器を交え続ける。マスターを裏切ったラーマとマスターを裏切らされたフィンによる、立場の逆転した戦いに、まだ決着はつかない。

 

───

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『火縄大橙DJ銃!!』

 

「これでも、駄目なんですかっ!?」

 

 

鎧武が悲鳴を上げる。エミヤは倒れず、赤原猟犬はどれだけ叩き落としてもしつこく鎧武を付け狙う。

遠くに、一際大きな建物が見えた。……ゲンムコーポレーションだった。

 

 

「マシュさん、どうしてあそこに──」

 

「撃って下さい!! 攻めを切らさないで!!」

 

 

鎧武の声には余裕はない。足音だけで、エミヤが健在なことは理解できた。また武器を飛ばす。

 

 

『スイカ双刃刀!!』

 

『バナスピアー!!』

 

『クルミボンバー!!』

 

 

どこかの壁に刺さったようだ。当たっていないのは音で分かった。鎧武はガンド銃を手に取り、振り向き様にエミヤを狙う。

……その瞬間。

 

赤原猟犬(フルンディング)が、ダンデライナーを下から貫いた。

 

 

「っ……!?」

 

「ああっ!?」

 

 

空中分解するダンデライナー。鎧武もまたそれと共に赤原猟犬に切り裂かれ、耐えきれずに変身が解ける。それでも彼女は咄嗟に落ちていくイリヤを庇い、怪我が無いように着地して、離した。

そして彼女は上から降ってくる赤原猟犬をまた弾き飛ばし、後方のゲンムコーポレーションを見る。

 

 

「……どうにか、ここまでこれましたね」

 

 

マシュの目の前に、エミヤが立った。

 

 

「……私はここまでです」

 

「……マシュ、さん?」

 

「ゲンムコーポレーションに。……アヴェンジャーさんなら、きっと治せるでしょう」

 

「でも……」

 

 

マシュの言葉に、イリヤは顔を曇らせる。アヴェンジャーは……敵だ。

 

 

「早く。私は……ここで、彼に、とことん付き合います」

 

 

しかしマシュはイリヤの表情の変化に気づかない。気づこうとしていない。それよりも彼女は、エミヤに集中を向けていて。

マシュが牽制にガンド銃を放った。回避される。

 

 

「……早く!!」

 

「……行きますよ、イリヤさん」

 

「っ……」

 

「ええ……気を付けて」

 

「……そっちも、気を付けて……下さい」

 

 

ルビーに小突かれて、イリヤはゲンムコーポレーションに足を向けた。マシュはやはり彼女の方を向くことはせずに、手に持つガシャコンカリバーとバルムンクに青い炎を纏わせる。

足音が遠くにいく。マシュはそれを把握して、また弓を引く敵に声を上げた。

 

 

「……エミヤさん」

 

「……」

 

 

数発の矢が放たれた。マシュはその一つを切り捨て、一つを弾き、一つを回避する。それに合わせて、何回もマシュは引き金を引いて。

 

 

   パァンッ パァンッ パァンッ

 

「かつて貴方は言ってくれました。物語が無いのなら、作り上げればいいと。私の目指す場所を探せ、と。何もない場所から、私を自力で作り上げろと」

 

「……そうだな」

 

「だから」

 

 

エミヤはそれを躱すと共にその手から弓を消去して、代わりに白黒の双剣を握った。

そして二人は急接近し、互いに両手の剣を衝突させる。金属音が辺りに響いた。

 

 

「私は決めました。私は、檀黎斗を超える。そうすることで私は、私の手の届くこの世界と、私と共にいてくれた皆さんを救う」

 

「……」

 

「私は私の為に、私の大切な全ての為に、誰も、もうあの檀黎斗に怯えずにすむ世界を作るっ……!!」

 

   ガンッ

 

「……フッ」

 

 

マシュの力に押し負けたのか、エミヤの手にあった干将が砕ける。エミヤは追撃を躱すように後方に飛び退きながら、もう片方の剣も消去していた。

そして彼は、マシュの顔を、その目を見て笑う。

 

 

「君は、その未来を作るのか」

 

「はい。……私はこの意思を貫くことで、貴方に恥じない私でありたい。私を育ててくれた全てに、恥じない私でありたいのです」

 

「……そうか。では……来るがいい、マシュ・キリエライト。私の全てが、君を倒そうとしている。するべきことは一つだ……私を乗り越えろ」

 

「……はい!!」

 

 

エミヤの体に、魔力が走った。

 

 

「──I am the born of my sword.(体は剣で出来ている)

 

「……っ」

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 

 

風が起こる。マシュの髪が揺れる。またガンド銃を撃ってみても、それはエミヤの盾に弾かれて。

 

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

『刀剣伝ガイム!!』

 

「……変身」

 

Unknown to Death. (ただの一度も敗走はなく)Nor known to Life. (ただの一度も理解されない)

 

 

それで、マシュは再び変身を決めた。二連続は後が怖いが、ここを生き延びることが先に必要だ。

エミヤの詠唱がどんなものか、マシュはもう知っている。それが宝具である以上……マシュはそれに全力で答える。

 

 

Have withstood pain to create many weapons. (彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 

『オレンジイチゴにパイナポー!! バナナ!! ブドウ!! メロン!! ソイヤ!! ガイム!!』

 

Yet, those hands will never hold anything. (故に、その生涯に意味はなく)

 

 

鎧武は極アームズだった。彼女は自分の背後に幾つもの武器をスタンバイし、これからエミヤが繰り出してくるであろう何本もの剣の群れに備えた。

 

エミヤはそんな鎧武の姿にどういうわけだかデジャヴを覚えて、小さく鼻を鳴らす。

 

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. (その体は、きっと剣で出来ていた)

 

 

そして、世界は塗り替えられた。

 

───

 

 

 

 

 

「「はあああっ!!」」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

『Perfect critical combo!!』

 

「っ……」

 

 

ブレイブとパラドクスは、エグゼイドが立ち竦む前でジャンヌと戦っていた。何回もキメワザを発動し、何回も防がれて、互いに疲弊した。

 

……それももう、終わろうとしていた。

 

ジャンヌは、己の旗の宝具を使うことで敵の攻撃を防ぐ事が出来る。──しかし、上からのパラドクスの拳と、足下を払うブレイブの剣を同時に防ぐことは、出来なかった。

 

 

   ザンッ

 

「んきゃあっ……!!」

 

 

ジャンヌが吹き飛ばされる。足首に、深い傷が刻まれていた。

それでも彼女は立ち上がり、旗の先端をブレイブに向ける。

 

……その時には、全てが終わっていた。

 

 

「やれ、ブレイブ!!」

 

「……分かってる!!」

 

   グサッ

 

 

ガシャコンソードが、ジャンヌの胸に突き立てられていた。

 

 

「……あっ……」

 

「……」

 

 

ブレイブが剣を引き抜き、ジャンヌから旗を奪って……変身を解く。

そして飛彩は、糸が切れたように崩れ落ちたジャンヌを抱き抱えた。

 

二人は一瞬見つめあい、寂しげに笑う。

 

 

「今度こそ、終わりですね」

 

「本当に……済まなかった」

 

「ふふっ……」

 

 

ジャンヌの体は、もう動かない。手にも足にも力は入らない。もう治ることもない。……故に、彼女はもう人間の敵ではない。

体が透けていく。飛彩の目尻を、一滴の滴が駆けた。

 

 

「マスター」

 

「……何だ」

 

「マスター……貴方は間違っていません」

 

 

ジャンヌの指が少しだけ動いた。彼女は一瞬だけその手を動かしてみようと努力したが、すぐに諦めて、飛彩の足に指を添わせるだけに留めた。

聖女は軽くなっていく。消滅していく。今度こそ、かつてのマスターの前から消える。

 

 

「これからも、人々の為に在ってください。世界で一番の、ドクターに」

 

「……分かっている。俺は、世界で一番のドクターだ」

 

「ええ、その通りです」

 

 

飛彩は、ジャンヌの手を取った。取ろうとした。……もうそれは出来なかった。飛彩の手は空を切る。

 

 

「ああ……貴方に会えて、本当によかった」

 

 

そして。

 

千代田区のルーラー、ジャンヌ・ダルクは、希望を託して今度こそ消滅した。

 

それを、パラドと永夢は遠巻きに眺めることしか出来なかった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───イリヤの再会

「……そうか。戻ってきたか」

「私は……」

「檀黎斗め……」


───フィンの決着

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

「……満足いく結果、だったよ」

「本当、ムカつく奴ね……」


───剣の世界の戦い

「君が挑むのは無限の剣だ」

「私は、貴方を乗り越える」

「貫いてみせろ」


第五十九話 Rise up your flag


待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)


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第五十九話 Rise up your flag


「貴虎に教わらなかったのか?何故悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。嘘つき、卑怯者…そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!!」

本当に悪い大人……(ニュースを見ながら)



 

 

 

 

 

剣が飛ぶという光景はもう何度も見てきたが、ここまでの猛攻は初めてかもしれない。鎧武は彼女目掛けて飛んでくる剣をいなしながらふと思った。

彼女は、エミヤの宝具にして固有結界、無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)の中にいた。その中で彼女は、剣の嵐に晒されていた。

 

 

「君が挑むのは無限の剣だ」

 

 

そんな声が聞こえる。鎧武は自分の周囲に呼び出したアームズウェポンで剣の嵐を凌ぐのに精一杯だったはずなのに、その声は何故かよく聞こえた。

 

 

「君は私を超えなければならない。それが、檀黎斗を超えるための最初の一歩となる」

 

「分かっていますよ、そのくらい……!!」

 

 

自然と声にも力が籠った。どれだけ剣を取り出しても、既に用意されている剣には取り出す速度では敵わない。

 

ガシャコンカリバーにかける火力を強くする。青い炎はますます猛り、飛来する贋作を融かす。しかしそれでも剣は止まらない。

バルムンクの斬撃を広範囲に放つ。青い刃は空を裂き、飛来する贋作を打ち砕く。それでも剣は止まらない。

 

エミヤはそれを見つめていた。そして彼はまた口を開く。

 

 

「君のその戦いは一時しのぎでしかない」

 

「どういうっ、ことですかっ!!」

 

 

その言葉に鎧武は仮面の下で顔をしかめた。不快になるのは当然だ。エミヤもそれは分かっていて、しかし口はつぐまない。

 

 

「終わりがないからだ」

 

「終わり……?」

 

「檀黎斗と私に共通点があるとすれば、それは共に、無限に武器を産み出せるということだろう。ああ、私は贋作を。彼は真作を、無限に作り出す」

 

「そっ、そのくらい知っています!!」

 

「ではどう対処する!!」

 

 

剣の嵐は止まらない。どれだけ堪えても。鎧武が防戦に徹している限り、この戦いに終わりはない。

鎧武は不安に駆られた。……しかし、対処の方法は思い付かない訳ではなかった。

 

だから声を張る。虚勢でも構わない。少なくとも、意思は本物だから。

 

 

「……私は、貴方を乗り越えるっ!!」

 

   ザクッ

 

 

彼女は、剣の大地にバルムンクを突き立てた。

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

 

……次の瞬間、大地が抉り取られ、全てが揺れ、浮き上がる。エミヤは一瞬動きが止まり、すぐにまた攻撃を開始しようとして。

 

次の瞬間、自分の真上に鎧武がいたことに気がついた。

 

 

『無双セイバー!!』

 

『マンゴパニッシャー!!』

 

『スイカ双刃刀!!』

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

 

アームズウェポンが降り注ぐ。それはエミヤの呼び出した盾に突き刺さり、エミヤに刃は届かない。花弁が一枚散った。

 

エミヤは声を上げようとした。その程度か、と。それでは足りない、と。

 

……しかし思い止まった。

彼の視線の先で、彼女は己の内へと声をかけていた。

 

 

「力……お借りします」

 

 

次の瞬間。

 

 

「その才を見よ。万雷の喝采はここに無く、それでも私は彼女の光を受け継ごう。貴方も讃えよ……黄金の、劇場を!!」

 

   カッ

 

 

固有結界の中に、更に舞台が練り上げられた。観客は誰もいない、ただ演者二人だけの舞台。

ネロ・クラウディウスの黄金劇場。それを鎧武は擬似的に発動した。……いや、もう鎧武ですらない。ここまでで蓄積したダメージのせいなのか、変身は解けていて。

 

エミヤは膝をついていた。投影は出来ず、立ち上がることも儘ならない。

 

 

「……黄金劇場か」

 

「お借りしました。ネロさんから」

 

「……そうか」

 

 

エミヤは一つ溜め息をして、劇場を見渡す。発動者が違うせいなのか寂れたように見える光景はもの悲しくて。

 

 

「……君の戦いは正解だ。不意を討て。隙を与えるな。徹底的に、自分の世界に引きずり込め。相手のペースに飲まれるな。君は、君のままで戦い抜け」

 

「……はい」

 

「君の物語は、完成しそうか?」

 

 

最後にエミヤはそう聞いた。マシュは静かに頷き、彼の胸元にエクスカリバーを添える。

 

 

「そうか……ならば、完結するまで貫いてみせろ」

 

「……ええ。ありがとう、ございました」

 

   ザクッ

 

 

そして、アーチャーの物語は完結した。

 

───

 

それと平行して。ゲンムコーポレーション内では、怖いくらいにスムーズに迎え入れられたイリヤが、ロビーの中で無言で立っていたアヴェンジャーと向き合っていた。

 

 

「……アヴェンジャー、さん……」

 

「……そうか。戻ってきたか」

 

 

アヴェンジャーはそれだけ言って、イリヤの現在の状態を確認し、また黙り込んで彼女に背を向けて歩き始める。

イリヤはそれに追従した。二人は黙ったままで階段を登り、黙ったままで廊下を抜けた。

 

イリヤは、この空間を重苦しく占める沈黙の存在を悟った。ここは、前に自分が入ったときよりもますますがらんとしてしまっていた。それはきっと良いことなのだろうが、彼女自身はそれを寂しいと思ってしまった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

アヴェンジャーが自室に入る。扉を開け放しにしたままで。……イリヤはその中に踏み入り、静かにドアを閉めた。

 

アヴェンジャーは立っていた。イリヤはドアの前に立ったままで彼の目を見つめる。

ほんの数秒の我慢比べの後に、アヴェンジャーは一つ溜め息をして壁にもたれた。

 

 

「その体は、黎斗のせいだろうな。仮面ライダーを倒したんだろう?」

 

「私は……殆ど見ているだけだったけど」

 

「それでも戦った数にカウントされたんだろうな。全く、檀黎斗め……」

 

 

アヴェンジャーはやや投げやりな仕草でイリヤに乱雑に外套を被せ、宝具を発動する。

 

 

「……待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

「……っ!!」

 

 

それだけで、イリヤの体は元に戻っていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「まーた酔狂なことをやっておるのう」

 

 

唐突に、部屋にそんな声が響く。イリヤが振り向けば、信長がそこにいて。

 

───

 

「……」

 

 

飛彩は無言だった。自分と共に戦ってくれたサーヴァントを己の手で屠った彼は、何も言わずに立ち、何も言わずに傍観者達(永夢とパラド)に背を向ける。

ジャンヌは消滅した。希望を託して消滅し、その魂は永夢のブランクガシャットに取り込まれ、その思いは空に溶けていった。

 

 

「飛彩さん」

 

「……」

 

 

返事はない。

残された永夢は、いかにもやりきれないといった感じでそっぽを向き、そして暫くしてから議事堂の外に向かって歩き始めた。

 

 

「永夢? 何処に行くんだ?」

 

「……」

 

「永夢」

 

「ナイチンゲールさんを、探しに行きます」

 

「今は無理をするな永夢、もうダメージが溜まってるだろ」

 

 

永夢はその言葉に答えることはなく。

パラドは一人風に晒され、どういうわけだか身震いした。

 

───

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!」

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 

宝具が交差する。フィンの槍の放つ水流はラーマの剣に掻き乱され、霧散させられていく。しかし水流に途絶えはなく、剣は一向に進めない。

槍を手に持つフィンの顔が自然と歪む。彼は望んで戦ってはいなかったが、それはそれとして、この強敵との戦いは楽しんでいられた。

だからこそ、激励の言葉を投げ掛ける。

 

 

「その程度なのかい君は? このままでは、私が強さでも勝ってしまうが?」

 

「っ……」

 

 

ラーマの顔が歪んだ。まだ、彼は腹の中に迷いを抱えていて。それを殺すことが出来なくて。だから、フィンを殺せない。

 

 

「私が勝ってしまってもいいのかな?」

 

「……」

 

 

フィンの宝具の水流がますます強まった。

それによってとうとう羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)は吹き飛ばされ、歪な軌道を描いてラーマの手元に戻ってくる。

 

 

「私が勝ったら、私のマスターは死ぬだろう。その仲間も死ぬだろう」

 

「……」

 

 

水流はねじ曲がり、ラーマを執拗に付け狙う。ラーマはそれを躱すが、振り切ることは出来ず。

 

 

「そうなれば、君の正義は遂げられない」

 

「っ……」

 

 

不意に、ラーマは後ろを見た。一瞬だけだったが、その風景は目に刻み付けた。

 

崩れた道。砕けた家。倒れ付したマスター達。

そして、ただ立ち尽くす愛する人。俯いていた愛する人。

 

その瞳を知っている。悲しげな瞳を知っている。

……かつて彼女がラーマの元に戻り、しかし民に受け入れられずに死を選んだラーマにとって忘れられないあの時と、同じ瞳だった。

 

 

「何より……君の妻が、悲しむだろう」

 

「……そうだろうな」

 

 

ラーマは、フィンの攻撃から逃げることを止めた。破壊力を無尽蔵に秘めた水流が彼を飲み込む。

それでも彼は、水の中で踏み留まって。

 

次の瞬間、その水柱は打ち砕かれ、ラーマの剣がフィンに襲い掛かった。

 

 

「ああ。だから余は……僕は、負けられないんだ!!」

 

   グシャッ

 

 

回避は出来なかった。これが、止めの一撃となった。

フィンの胴体の右半分と右手が吹き飛ぶ。

全身の三分の一を壊された彼は勢いに逆らうことも出来ずに遠くの壁に叩きつけられ、もう起き上がることも出来ずに、手を上げることも出来ずに空を仰ぐ。

 

 

「……やっと、終わりか」

 

 

その姿は、透け始めた。

 

 

「まあ、こんな状態では、いくら私でも本領を発揮することは出来なかったさ。この敗北に悔いはない」

 

「……」

 

 

ラーマは無言で一つ礼をして、シータの方に振り返る。その顔は、笑っているようにも見えて。泣いているようにも見えて。何処と無く、雨のせいでずぶ濡れになった花を思わせた。彼には、彼女の感情がもう見えない。

 

そんなラーマの隣を、ニコがよろよろと通り抜けた。彼女はふらつく足に鞭を打ち、フィンのすぐ側まで歩み寄る。

 

 

「ランサー……」

 

「何だかんだで、君と共に戦うのは楽しかったよマスター……ああ、なかなか満足いく結果、だったよ。君も、君の大切な人も守れた。せいせいする程に清々しい英雄譚だ」

 

「……」

 

 

フィンはマスターの顔を仰ぎ、微笑んだ。少なくとも自分は、彼女を不幸にさせなかった。それが何処と無く嬉しかった。満足だった。

 

そして彼は末端から消滅する。

 

 

「今度こそさようならだ。……マスター。君達の戦いの向こうに、幸せがあることを祈るよ」

 

「本当、ムカつく奴ね……」

 

「ハハハ……」

 

 

……その全身が消えるまで。CRのランサー、フィン・マックールの顔には笑顔があった。

 

───

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 

ゲンムコーポレーション社長室にて。真黎斗は東京都の地図を眺めていた。既に、東京23区の聖杯は全て完成していた。

真黎斗は暫く迷っていたが、心を決めて画面上に新たなファイルを開き、ゲームの次の段階を用意する。

 

 

「始めるのね?」

 

「明日の朝からな」

 

 

時刻は、短針が時計の真上を少しだけ過ぎた頃だった。外は暗く月も見えず、ナーサリーは静かに紅茶を口に含む。

 

 

「では、参加募集を開始する。ゲームエリアの準備を始めてくれ」

 

「分かったわ」

 

 

そして彼女は紅茶のカップを置き、キーボードで都内の誰もいないエリアを操作し始めた。

それだけで、都内の一角に壁が競り上がり、誰もいないフィールドが形成される。確かに、彼女はゲームマスター()の力を持っていた。

 

 

「さて……たまには私も、動かないとな」

 

「そうねマスター。私だってずっとここにいるのは退屈だもの。ふふっ」

 

───

 

そして。

 

 

「……見つけました」

 

「……」

 

 

永夢は、黎斗神から渡されたガシャットを使用して微弱な繋がりを辿ることで、ナイチンゲールを見つけ出していた。

ナイチンゲールは、誰も見つけず、誰にも見つけられなさそうな路地裏に佇んでいた。

 

 

「……マスター」

 

 

声をかけられた。永夢は、その声で、自分は彼女を追ってきたのに、自分が彼女を殺す覚悟も、彼女を助ける手段も持っていないことを思い出した。

ふいに手足が震え始める。ナイチンゲールは、その手に銃を握っていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

危機を覚えた体が勝手にガシャットを握る。理性は戦いたくないと訴える。彼にはどちらも正しく思えて、だからこそどちらにも傾けない。

 

 

『マイティ アクション X!!』

 

 

電源を入れてしまった。ナイチンゲールが引き金をひけは弾丸が永夢へと食らいつき、永夢はそれを回避する。

 

 

『ガッシャット!!』

 

 

今日までの戦いで、変身の方法は体に染み付いていた。何も考えなくても、変身は出来る。しかしそこからが、さっぱり分からなくて。

 

 

『ガッチャーン!! レベルアップ!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マイティマイティアクション X!!』





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ナイチンゲールとの戦い

「僕は、殺したくない……!!」

「貴方は病気です」

「嫌だ……嫌だ……!!」


───始まる第二ステージ

「これは……?」

「私は、参加しない」

「……行ってくる。後は、任せた」


───進められた駒

「何が始まるんだ?」

『皆、ここまでお疲れさま!!』

「……今からもう始まるのかよ!!」


第六十話 花の唄


「……自害せよ、バーサーカー」


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第六十話 花の唄


万丈がアマゾンだったってマジ?



 

 

 

 

 

『ジュージュー クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ズガンッ

 

 

エグゼイドとナイチンゲールの戦いは、ややエグゼイド優位に進んでいた。ジュージューマフィンガシャットを使用した彼は、火力でバーサーカーであるナイチンゲールに見劣りすることもなく、少なくとも倒される心配は当分なさそうで。

しかし、倒すことが出来るかと言えば、別の問題が存在していた。

 

 

「マスター……もっと、しっかりと戦ってください……!!」

 

「でも僕は、貴方を殺したくない……!!」

 

 

精神的な問題だ。

向かい合う二人の声は共に悲痛なままで。医療と言う一つの星の元に絆を結んだ二人の精神は、互いを傷つけあうことを拒んでいた。

 

しかしナイチンゲールは、自分が自分ではどうしようもないと察していた。第一最初に体の自由が奪われているのだから自力ではどうしようもない。

誰かの病ならばどうにかして治そうと思えたが、自分自身の病とあっては、ほんの少しばかり治そうという気も薄れてしまった。

 

 

「何か、方法はないんですか!?」

 

「……これは、どうしようもありません」

 

 

……それでもまだ幸いなことに、ナイチンゲールは他のサーヴァントよりかは支配権を奪われるスピードが遅かった。どうにか、指先くらいなら動かすことができた。

だから彼女は、あえて自分の体を痛め付けるような攻撃をし、少しでも早く戦えなくなるようにしようとしていた。

 

それにエグゼイドも気づいていた。だからこそ、エグゼイドは彼女を倒せそうにない。

 

 

「……貴方は病気です。その恐れは病に等しい」

 

「そんなことは……」

 

 

そんな彼を、ナイチンゲールは叱咤する。

今のエグゼイドは病気だと。それは乗り越えなければならないのだ、と。

 

 

「その恐れが、患者を救うことを阻害しています。そのままでいてはいけません。まだ、何も終わってはいないのですから……!!」

 

「でも……っ!!」

 

「 私は看護婦です。ドクターをサポートすることもまた私の勤め……貴方は、私を倒さなければなりません」

 

「嫌だ……嫌だ……!!」

 

 

まだ、エグゼイドとナイチンゲールは二週間と少しの関係だ。それでも彼は尊敬すべき先人としてのナイチンゲールを、共に病と戦う仲間としての彼女を、大切に思っていた。

だから、どうしても戦いを拒む。その心は折れかけていた。

 

 

「これは治療の一環です。貴方が私を倒すことで、それが私の治療にも、他の人々の治療にもなるのです」

 

「それでも……!!」

 

「貴方はドクターです!! 立派なドクターなんです!! だから、それが治療行為を恐れてどうするというのでしょうか!!」

 

 

ナイチンゲールの拳を受け流しながらエグゼイドは呻く。体の弱点を正確に突いてくる攻撃は、かするだけでもダメージを残していって。

 

 

「……こうしている間にも、私の体はますます抑えが効かなくなっていきます。ここでマスター、貴方が私を取り逃がせば、今度こそ私は、きっと誰かを襲うのでしょう。私はそれを避けたいのです」

 

 

ナイチンゲールの拳が、またエグゼイドへと飛び付く。

 

もうエグゼイドは……宝生永夢という人間は限界に達していた。回避に疲れた。防戦に疲れた。会話に疲れた。……一瞬、早く終わってくれと、思ってしまった。

 

 

「あああああああああああっ!!」

 

『ジュージュー クリティカル ストライク!!』

 

   ズガンッ

 

 

その瞬間、エグゼイドはその腕をナイチンゲールに叩き込んでいた。ストレスを限界まで溜め込んだ一撃は、ナイチンゲールを吹き飛ばして遠くの壁にめり込ませるには十分すぎた。

 

路地の障害物を巻き込んで吹き飛ばされた彼女は、ぶつかった壁を粉砕して大地に転がる。

……エグゼイドは数秒後にそれを認識して、膝から崩れ落ちた。

 

 

「あ……あっ……」

 

『ガッシューン』

 

 

変身を解く。矢も盾もたまらずに彼女の元に永夢は急ぐ。意味もないのに脈を取り、意味もないのに傷を手当てしようとして。

 

 

「……マスター」

 

 

それを、ナイチンゲール自身の手によって止められた。

 

 

「……早く、とどめを」

 

「嫌です……!!」

 

 

涙が溢れた。彼女との短いが濃かった体験が永夢の脳裏を駆けた。

 

ナイチンゲールは、もう戦えない。……プログラムにちょっとした異常でもあったのか、右手の支配権だけはナイチンゲールの元に戻っていた。今となっては彼女はもう治療のしようもないが。

 

 

「……では、仕方ありませんね」

 

 

ナイチンゲールは一つ溜め息をして、右手を彼の懐に伸ばす。そして彼女は彼の持っていたブランクガシャットを起動して、永夢の令呪を強化した。

 

 

「……何を」

 

「自害を命じてください、マスター」

 

「……」

 

 

永夢は驚かなかった。彼女ならそうするのだろうと薄々気づいていた。だからといって、受け入れられるかはまた別だった。

 

 

「マスター」

 

「……」

 

 

永夢は顔を伏せていた。きっと今の顔は、医療人として不出来なものだろうから。

 

 

「マスター」

 

 

その声には答えたくない。

 

 

「マスター」

 

 

まだ一緒にいたい。

 

 

「……あぁ……っ……」

 

「……マスター」

 

 

永夢に向き合うナイチンゲールの声は、どこまでも優しかった。……それは確かに、患者を慈しむ天使の声だった。

 

 

「少しだけ、話をしましょう」

 

「……」

 

「……私は、かつて天使なんて言われていました」

 

「……」

 

「ですが私は、外から花を撒くだけの存在でありたくはなかったのです。患者に寄り添い、病が消えるまで共に闘いたいと、そう思いました」

 

「……」

 

「私にとって何よりの喜びは、患者が病から解放されることなのです。そうなるのなら、私は……私自身の命だって投げ出してみせましょう。それが、私の望みでもあるのです」

 

「……っ」

 

「不安はありません。マスター……貴方がドクターとして、人々を救ってくれるのだから」

 

「……」

 

「ですから」

 

 

……もう、無理を言うことは出来ない。

自分は、彼女らの時代を引き継いだ、現在のドクターなのだから。彼女の意思を、自分が、立って、引き継がなければならないのだから。

 

 

「お願いします」

 

 

永夢は、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

「……自害せよ、バーサーカー……っ!!」

 

「……ええ。分かりました」

 

   パァンッ

 

 

令呪はブランクガシャットによって強化され、確かにナイチンゲールに自害を強要することが出来た。永夢は、ナイチンゲールをその手で殺すことはなかった。彼女は、自分で自分を撃ち抜いたのだから。

……しかし、自分が殺してしまったという責任からは、逃れられなかった。

 

 

「どうか自分を責めないで下さい、マスター。貴方は治療行為をしたに過ぎないんですから」

 

「──」

 

「……またどこかで会いましょう、マスター。貴方がドクターである限り、(看護婦)は側にいます」

 

「──」

 

 

ナイチンゲールは消えていく。永夢の手の中で消えていく。そんな彼女に永夢は何も言えない。自分が殺してしまった。取り戻す手段は見つからない。それが辛くて。しかし、それでも立たなければならないのだ。

 

ナイチンゲールが、永夢の頭を撫でた。

 

 

「どうか多くの命を救ってください、ドクター。……私は、貴方を信じています」

 

「……っ!?」

 

 

……永夢がそれに反応して顔を上げるのと同時に、CRのバーサーカーは消滅した。

光の粒は、ブランクガシャットに吸われていった。永夢はそれを握り締めて、声にならない叫びを上げて。

 

 

「あ……あ……っ……ぐ……!!」

 

 

……刹那、ブランクガシャットが鈍く白く輝いた。悔しさで拳を握る永夢は気づかなかったが、ガシャットはとうとう彼の手で進化を遂げていた。

 

そのガシャットには、Holy grail(聖杯)の名が刻まれていた。

 

 

「……っ……!!」

 

 

カリギュラ。シャルル=アンリ・サンソン。殺生院キアラ。ジル・ド・レェ。メディア・リリィ。ジャンヌ・ダルク。そして、ナイチンゲール。

 

七つのサーヴァントの魂が籠められたガシャットは、聖杯としての機能を獲得する。そしてそれは、永夢の持つ原種のバグスターウィルスの干渉を受け、一つのガシャットとして成立した。

 

───

 

 

 

 

 

夜が、明けた。

シャドウ・ボーダー内で、貴利矢は携帯を眺めていた。

 

 

「これは……?」

 

「メール、だよね……」

 

 

というのも、貴利矢の所持していたモバイルに、真黎斗からのメールが入っていたからだった。

文面は至ってシンプルだった。

 

 

「『聖杯が完成して尚プレイを続けるマスター達に告げる。機会は来た。君達には私、真檀黎斗に挑戦するチャンスが巡ってきた』」

 

 

貴利矢が何となく黎斗の口調を真似て読み上げる。黎斗神は無言でそれに聞き入り、マルタは苦笑いをしていた。

 

 

「『ゲームの舞台は墨田区だ。参加するのなら、この連絡の下のボタンを押せばいい。このメールは、メニュー画面に戻った時点で消滅する。君達の勇気と健闘を祈る』……だとさ。どういうつもりだ?」

 

「見ての通りだ。第二ステージの参加権が、君に回ってきたのだろう」

 

 

黎斗神はそう分析する。本当に何でもないようにそう言った彼は、すぐにまたキーボードに向かい直して。

 

 

「さあどうする九条貴利矢」

 

「……」

 

「貴利矢……」

 

 

そして問った。問われた貴利矢はどうしたものかと首を捻り、下を向く。

 

 

「このシャドウ・ボーダーにはもう強力な運転手は必要ない。するべきことは、もう決まっている」

 

「……そうだな」

 

「そうだ。それにそもそも、もうガソリンを補充するあてもない」

 

 

続けて黎斗神はそうとも言った。

もう、ライフラインは止まってしまった。どのガソリンスタンドも無人にして、貯蔵されていた燃料も全て使い果たされていた。

この首都だったエリアにも今となっては食料は少なく、現在のごく少数の人々だから何とかなるものの、本来の東京ならば大惨事だっただろう。

救いがあるとすれば、もうこの東京23区にライドプレイヤーが発生することはなく、シャドウ・ボーダーにも必要なものは揃っているということか。

 

貴利矢は立ち上がって、シャドウ・ボーダーを降りた。

 

 

「行くぞ姐さん」

 

「……行くのね?」

 

「当然だ……自分の出番が回ってきたんだからな。おう、乗ってやろうじゃねぇか」

 

 

準備運動のように腕を伸ばしながらそう言う貴利矢。ポッピーも黎斗神もそれを止めなかった。

しかし黎斗神は、ふと乱雑に車内の棚をまさぐり、小さな機械を貴利矢に投げつける。

 

 

「ああ、九条貴利矢」

 

「何だ?」

 

「受けとれ」

 

 

貴利矢が手に取ったそれは、微妙に光っているだけの金属の塊に見えた。何かの仕掛けがあるとも思えない。

 

 

「……これは?」

 

「私の神の才能さ。……具体的に言えば、小型カメラにして通信機だ。ゲームエリアの効果を遮断するシステムを搭載しているから、通信は滞りなく行える筈だ」

 

「……そうかい」

 

 

そう言われた貴利矢は、それを胸元に取り付けた。そして再びモバイルを起動し、真黎斗からのメールの画面を見る。

隣のマルタは、何時でも大丈夫だと言わんばかりに微笑んでいた。

 

 

「……じゃ、行ってくるわ。後は、任せた」

 

 

そして貴利矢は、メールの下のボタンを叩いた。

 

次の瞬間。

 

大地が裂けた。

 

 

   メキメキメキメキ

 

「っ、うおおっ!?」

 

「えっ、えっ!?」

 

 

音を立てて大地が裂けた。貴利矢の足元に入ったヒビは、真っ直ぐに伸び、建物を砕き鉄塔を割り、どうやら墨田区まで一直線に走っているらしかった。そしてその数秒後には、ヒビの上を走るのであろうトロッコが、最初から存在していたように鎮座していた。

 

 

「地面が……割れてる……」

 

「随分と派手な送迎をするらしいな。少しばかり無駄も目立つが、悪くない」

 

 

黎斗神はそう溜め息をした。

 

貴利矢とマルタは狭いトロッコにやや強引に入り、シャドウ・ボーダーに振り返る。

 

 

「それじゃあ、行ってくるわ」

 

「後は任せたわよ?」

 

「うん……気を付けてね」

 

 

そして、トロッコは走り始めた。

 

───

 

「……どうしますか、マスター」

 

「……私は、この戦いには参加しない」

 

 

対して、貴利矢と同じようにメールを受け取ったアサシンのマスター鏡灰馬は、そう言って画面をメニューに戻した。

 

見回せば、丁度外に出ていたちびノブが周囲に残っていた食料を手に入れて戻ってきていた。花家医院から転院してきた人々もいたが、どうやら今日明日は何とかなりそうだった。

 

 

「ここには、医者を、そして君の力必要とする沢山の患者がいる。それを置いていく訳には行かない」

 

「……そうですね」

 

 

もうライドプレイヤーはいない。今度こそ、ここは安全地帯となった。灰馬はそう確信していた。また同時に、いつまた真黎斗の魔の手がここに来るかと恐れてもいた。

 

 

「それに」

 

 

そして灰馬は、別のメールを開く。

 

黎斗神からの連絡が書かれていた。

 

 

「こっちの話もあるからな」

 

───

 

 

 

 

 

CRのライダー陣営を乗せたトロッコは、建物の隙間を抜け、割られた川の底を渡って、墨田区に近づいていった。

そして彼らは、そびえ立つ壁に出来上がった穴に吸い込まれ、墨田区の内部に侵入する。そして、唐突に投げ出された。

 

 

「ってて……」

 

 

周囲を見回す。どうやら、大体のマスターがそんな状態で辺りを観察しているようだった。戦いは禁じられているらしく、どのサーヴァントも攻撃を行っていない。

 

 

「何が始まるんだ?」

 

「何かしらね……取り合えず辺りに目を通しておくべきじゃないかしら」

 

「ま、それもそうだな」

 

 

貴利矢は短くそんな会話をして、辺りのサーヴァントを再び観察し始めた。

 

どうやら、あまり戦闘には向いていなさそうなサーヴァントが多いようだった。一目見て『あの武器は危険だ』とか『筋肉ムキムキマッチョマン』だとかいう印象は抱けない。きっと好戦的なサーヴァントはここまでの戦いで淘汰されたのだろう。

 

 

「サーヴァントは見かけによらないわよ?」

 

「知ってるさ姐さん。自分だってバカじゃない、見かけによらない例が一番近くにいるんだから油断なんてしないさ」

 

「あぁ?」

 

 

そんな会話をする。……そうして数分間周囲の観察に徹していると、唐突にどこからか声が聞こえてきた。

 

 

『皆、ここまでお疲れさま!!』

 

「っ、この声は……」

 

「ナーサリー・ライムか……!!」

 

『ナーサリー・ライムが、ゲームをナビゲートするわね!!』

 

 

辺りがざわつく。貴利矢は咄嗟にドライバーを装着したが、すぐに敵が現れるということはなく。

ナーサリー・ライムは、続けてまた言葉を紡いだ。

 

 

『ここに集まっている皆は、私達に挑む権利を手に入れました。でも、いきなりボス戦っていうのもつまらないでしょう?』

 

「……まさか」

 

『だから、まずは貴方達、プレイヤー同士で戦ってもらうわね!! 今いる何百人かのプレイヤーが、百人を切ったタイミングで私達がそっちに行くから、頑張ってね!!』

 

 

……プレイヤー達の視線が交差した。

 

 

『戦闘開始まで、あと三十秒!! ヒーローになるのは貴方よ!!』

 

「っ、今からもう始まるのかよ!!」

 

「離れるわよマスター!! ここで戦うのは危険すぎる!!」

 

 

マルタが貴利矢を咄嗟に背負って飛び上がろうとする。しかし他のプレイヤーがそれを許す筈もなく、彼らは妨害されて再び地面に降りたって。

貴利矢はマルタを背にしてガシャットの電源を入れた。

 

 

『残り十秒』

 

「チッ、仕方ねえか!!」

 

『爆走バイク!!』

 

『ガッシャット!!』

 

「0速、変身……姐さん、ここが踏ん張り時だぞ」

 

「分かってるっての……」

 

───

 

「やっぱり、この中に……」

 

 

マシュは、墨田区に発生した壁を外から仰いでいた。スカイウォールとは違って半透明でもなんでもないそれに阻まれては、中を窺うことは出来ない。反りたつ壁に触れてみれば、石のような鉄のような触感がして。

 

マシュはバルムンクを逆手に構えた。

 

 

「……幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)

 

   ブワッ

 

 

大地に深々とヒビが入り、マシュは反動で浮き上がる。壁の天辺に手をかけることは簡単だった。彼女はそこから、墨田区の中に侵入する。

 

……もっとも、こんなことが出来るのはゲームから存在が除外された彼女だけだった。普通のマスターやサーヴァントならば壁に触れるだけで吹き飛ばされ、中に入ることも外に出ることも許されなかった。

 

 

「……っと」

 

   スタッ

 

 

適当なビルの上に着地したマシュは、そこから辺りを見下ろす。

人の声はしていた。誰かはいるだろう──マシュがそう踏んで観察を開始すれば。

 

 

刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!! ──今よ、マスター!!」

 

「任せろ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「おらあっ!!」

 

   ザンッ

 

 

数日前に助けた仮面ライダーとサーヴァントが、周囲の全てのサーヴァントを相手に立ち回っていた。





次回、仮面ライダーゲンム!!



───新ステージの戦い

「令呪をもって命ずる」

「行くわよ舎弟」

「本気を出せ、姐さん」


───永夢の決意

「そのガシャットは……」

「聖杯か……丁度いいタイミングだ」

「僕は、きっと」


───動いていく戦況

「僕は、貴方と戦えて良かったです」

「何を企んでるの?」

「一発逆転の大作戦だ」


第六十一話 Giant Step


「ヤコブ様、モーセ様、お許し下さい……マルタ、拳を解禁します」


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第六十一話 Giant Step


今やってるひよこが悪魔になるチキンラーメンのCMで崇めているのがソロモン72柱の一体カイムだと知ってから、チキンラーメン×FGOのストーリー構築が止まらない

1.5部風にして、突如日本の一角が『高級料理万歳派』『冷凍食品至高派』『菓子食べろーズ』の三勢力に支配されたことにし、ぐだが衛宮家の面子を引き連れて特異点に突入して三勢力とその裏にいる『チキンラーメン教』と魔神柱カイムに迫る……

的な感じで書こうと思ったけど企業を全面に押し出す作品はここでは書けないと思い出し、どうしようかと運営にメールを送ったけど無視された



 

 

 

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ザンッ

 

「……こりゃキツいな」

 

 

何人斬っただろうか。

レーザーターボは肩で息をしながら考える。周囲にはまだまだサーヴァントが沢山残っていて。

すぐ後ろに立ったマルタは、光弾による援護と盾による物理的防御で彼を援護していたが、それももう限界に近いだろうとレーザーターボは察していた。

 

自分達は悪目立ちしすぎた。周囲の全てのマスターが、自分達を最重要ターゲットに設定している。それをレーザーターボは確かに感じていた。出来れば勝手に仲間割れしてほしかったが、そんなことをするマスターはとっくの昔に脱落していた。

 

 

「姐さん、もうその光のヤツ撃つの疲れたろ」

 

「……まあ、段々当たらなくなってきたことは否定しないわ」

 

「そうかい」

 

『ズッドーン!!』

 

 

そう言いながら、ガシャコンスパローを弓にして遠くのサーヴァントの胸元を撃ち抜く。……それでも致命傷ではなかったらしく、相手はまだ倒れない。

 

 

「はぁ……あーあ、どっかに肉弾戦が物凄く強くて、ドラゴンを殴り倒せる味方がいないかなー」

 

 

そしてそれを見ながら、レーザーターボはそう呟いた。マルタは顔をしかめる。

 

 

「……」

 

「前に夢で聞いたことがあるんだけどなー、そんな凄い凄女の存在をなー。あーあー、助けてくれないかなー!! そうじゃないとこれ自分しんじゃいそうだなー」

 

「……あんのタラスクめ……」

 

「早く乗ってくれないと本格的に不味いかなー」

 

「……はぁ」

 

 

……結局、その声に根負けしたマルタは溜め息をしながら、持っていた杖をゆっくりと肩に固定する。そうして──彼女の両手は自由になった。

 

 

「……別に、こっちの私は無理してるって訳じゃないってことは、もう言ったと思うんだけど」

 

「そうだとしても、少なくともこの状態だったら、そっちの姐さんで生き延びるのは辛いだろ?」

 

「……そうね」

 

「じゃ、仕方ない」

 

 

レーザーターボの手の辺りに、令呪の光が浮かび上がる。

 

 

「令呪をもって命ずる。……本気を出せ、姐さん」

 

「いいわ……分かったわよ」

 

 

そして、その光はマルタの両手に纏わりつき……簡素なナックルを形成した。

マルタはまた一つゆっくりと呼吸をして、両手を強く握る。

 

 

「……行くわよ舎弟」

 

「おう」

 

「ヤコブ様、モーセ様、お許し下さい……マルタ、拳を解禁します!!」

 

 

──次の瞬間。

レーザーターボを踏み台にして敵の中に飛び込んだマルタは、まず一体のサーヴァントをその拳で消滅させた。

 

───

 

「うわぁ、凄い……」

 

「元々そういう設定だったからな、彼女(マルタ)は。かつて聖女マルタは竜を何も用いずに倒した……つまり彼女は、己の素手で竜を倒したわけだ。そう考えれば、彼女の強さは当然のことだろう?」

 

「それは違うと思うけど……」

 

 

ポッピーと黎斗神は、シャドウ・ボーダー内からレーザーターボとマルタの戦闘をモニターしていた。ポッピーはついに拳を握った聖女の戦闘力に目を見開き、黎斗神の方は静かに頷いていた。

 

 

「まあ何にせよ、この場を切り抜けるのは彼等なら容易いだろう」

 

「そうだね。何とかなりそうだよ」

 

 

そう言葉を交わす。

 

そんな二人の乗ったシャドウ・ボーダーの外に、一人の男が立っていた。

 

 

   コンコン

 

「ん?」

 

 

その男が車窓を叩いた。

ポッピーがその音の方を見れば……永夢がぽつんと立っていた。

 

 

「あっ、永夢……」

 

「戻ってきたか、宝生永夢」

 

   ガチャッ

 

 

ポッピーが扉を開く。永夢は彼女には何も言わず、俯いたままで、ブランクガシャットだったものを黎斗神の視界の中に突き入れた。それだけで、ポッピーが永夢に何かあったことを察するには十分だった。

 

 

「もしかして、そのガシャットは……」

 

「……」

 

「完成したようだな」

 

 

黎斗神がそれを受け取り、パソコンに装填して確認を開始する。ポッピーは永夢が何時でも座れるようにシャドウ・ボーダーの後部座席を開け放っていたが、永夢は外で微動だにもしなかった。

 

 

「ガシャット……『Holy grail』……聖杯か。ああ、丁度いいタイミングだ。流石は天才ゲーマー、とでも言ってやろう」

 

「……」

 

「黎斗……」

 

 

何時もの調子の黎斗神をポッピーはたしなめようとする。今は駄目だと。話を聞こうと、そんな意味を言外に含めて。

しかし黎斗神はそんなものを読むつもりは無いようで、笑いを漏らしながら作業に没頭していた。

 

 

 

 

 

ポッピーは永夢を連れ出した。

彼女は散歩と称してシャドウ・ボーダーを出て、適当に歩き、近くのベンチに永夢を座らせて自動販売機を探す。そして、売り切れていない数種類の缶ジュースの内の二本を買って永夢に渡した。

 

 

「おまたせ。ごめんね、コーンスープとお汁粉と、あとこれしかなかったの」

 

「……ああ、いいんですよ。……いただきます」

 

   パチッ

 

 

永夢は缶ジュースを一気に煽り、半分ほどを飲み下してから、呆然と空を見上げる。会話に詰まったポッピーは、恐る恐る問いを投げて。

 

 

「……やっぱり、ナイチンゲールさんは」

 

「……ええ」

 

 

そして、その返事でやはり落胆した。そうだろうと思っていたが、本当にそうなるとやはり胸に来るものがあった。

 

 

「……大丈夫なの?」

 

「まさか」

 

 

また永夢が缶ジュースを煽る。彼はまた残りの半分も飲み干して、近くのゴミ箱に缶を投げ入れた。

そしてようやくポッピーの方を向き、力なく微笑む。

 

 

「でも安心して下さい、僕は戦います」

 

「永夢……」

 

「僕は、ナイチンゲールさんに……彼女に託されたんです。命を救えと。守れと。だからきっと……彼女の守ってきた人の命を、今度は僕達が守る番なんですよ」

 

「……そうだね」

 

 

今度はポッピーが空を見上げる番だった。

そこは、とても澄んでいた。

 

───

 

「……そろそろ包囲網が薄くなってきたわね。一気に逃げるわよ」

 

「そうだ、なっ!!」

 

『スッパーン!!』

 

 

マルタとレーザーターボは、自分達を包む包囲網の一端だけを集中的に攻撃し、そうして包囲網を突き破ることに成功していた。

 

そうなれば後は話は早い。マルタはレーザーターボを俗に言うお姫さま抱っこの体勢に抱き上げ、レーザーターボに周囲を狙撃させながら走り始める。

そしてマルタ自体も自身の宝具であるタラスクを召喚し、その上に飛び乗った。

 

 

「頼むわよ、愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

 

回転しながら飛び上がる竜。レーザーターボは眼下に敵達を望みながら、目が回るのを根性で堪えて、自分達を追って空に駆け上がる少数のサーヴァントを撃ち落とす。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

「……よっとぉ!!」

 

   ダァンッ ダァンッ

 

 

そして、撃ち落としたのを確認して……彼はへなへなと座り込み、変身を解いて、タラスクの上に寝転がった。

 

 

『ガッシューン』

 

「もうムリ……休ませて……」

 

「ちょっ、マスター!?」

 

───

 

 

 

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

 

いつの間にか、日は落ちかけていた。夕陽の中を照らされながら歩いてくるちびノブ達の手には、朝の時ほどは食料はない。こうなれば、今の食料と合わせても四日は持たないと考えられた。

 

 

「そろそろ、耐えるのには限界が近いようですね」

 

「そうだな……悔しいが」

 

「そんなことはありません。後は勝てば良いんですから」

 

 

灰馬と信勝はそう言いながら、まだちびノブが連なっている外の様子を見る。

 

 

「……」

 

「僕は、貴方と戦えて良かったです」

 

 

……唐突に、信勝の方がそう言った。灰馬は慌てて彼の方を見て、すぐに口を開く。

 

 

「何を言っているのだね、それは私のセリフだろう? 君がいなければ、危険に晒した人々が沢山いただろう。犠牲ももっと多かったかもしれない」

 

「……」

 

「日向審議官が守った命を、君も守ってくれている。それが私にとって何よりの助けだ」

 

 

一瞬、二人の間に沈黙が流れる。……ゲームスタートから数えてまだ九日。しかし二人はそれなりに助け合って、互いの目標を達成していた。

 

 

「……ずっと私に着いてきてくれたが、良かったのか? 知り合いに会ったりはしなかったのか?」

 

「まあ……会いましたけど。でも、好き勝手にしろと言われましたから。僕は好き勝手やりたいことをやっただけです。……きっと、姉上もそうしているんでしょう」

 

 

信勝はどこか遠くを見るようにしながらそう呟く。灰馬はそれ以上の詮索はせず、ゆっくりと溜め息をした。

 

そんな二人の後ろから声をかける者がいた。

 

 

「……ねぇ、ちょっと」

 

「ああ、西馬君か。どうした?」

 

 

フィンとの戦いを生き延び、さっきまで傷を癒していたニコだった。彼女はどうやらもう、これから灰馬と信勝が黎斗神の元に向かうことを知っているようだった。

 

 

「……ねぇ。黎斗の奴、何を企んでるの?」

 

「一発逆転の大作戦だ……と、書いてあったが」

 

 

灰馬は何でもないようにそう答える。ニコはその返答に訝しげに首を傾げる。

 

 

「本当に?」

 

「そんなことを言われても、やるしかないだろう? 私達はもう堪えるのには限界が来たのだから。ここから一歩、踏み出す時だ」

 

───

 

「ふーむ、ま、こんなものかの」

 

「……そうだな」

 

 

その時信長は、アヴェンジャーとイリヤと共に、墨田区内の様子を眺めていた。プレイヤーは順調に減っているようで、強いものと弱いものがはっきりと二分されていた。

 

 

「あのサーヴァントは、随分とレベル上げをしたようじゃな」

 

「あれは……キャスターのアヴィケブロンか。ゴーレムの召喚速度と各々の強度が勝因か」

 

「そのようじゃな。で、それと今向き合っているのが……」

 

「恐らくランサーの宝蔵院胤舜だろう。マスターが態々聖杯を注ぎ込んで強くしたらしいな」

 

 

そんな風に分析する。イリヤは画面を覗き込みながら、黙って眺めているだけで。

まだ上の階にいるのであろう真黎斗が動くのには、まだ時間がかかりそうだった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───進むストーリー

「まだ終わらないか……」

「何があったんですか?」

「君の協力を仰ぎたい」


───練られていく計画

「戦いはまだ始めない」

「大丈夫なの?」

「機会を待ち続けろ」


───神の降臨

「……とうとうか」

「久しぶりの戦いね!!」

「さあ、裁きの時だ」


第六十二話 Burning My Soul


「変身……!!」


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第六十二話 Burning My Soul


前回の前書きのチキンラーメン、ちゃんとハーメルンから回答貰えました
ハーメルン的にはOKだけど企業から注意されたら即処分だそうです

ネタはゆっくり温めとくか……



 

 

 

 

 

───

──

 

「悪かったなぁ、汚しちまって」ゴシゴシ

 

『……今回は仕方ないので別に良いですけどね。本当に、これからは他人の背中でゲロ吐くの止めてくださいよ?』

 

「悪かった悪かった。疲れてたみたいでさ」ゴシゴシ

 

 

貴利矢は川辺にいた。現実の川辺ではない。夢の中だ。

……彼は意識を失っていたときに、数少なかったとはいえ胃の中身を盛大にタラスクの甲羅に戻したらしく、その埋め合わせとして夢の中で彼の甲羅を磨いていた。

 

 

「……よっし、ここら辺はもういいか?」

 

『ええ、大丈夫です。……次はもう少し下の側面部分もお願いできますか? 攻撃力に関わる部分なんで』

 

「よしきた」ゴシゴシ

 

 

どういうわけかは知らないが、夢の中なら貴利矢はタラスクと会話が可能だった。どうやらここでの整備は現実にも影響するらしかったので、貴利矢は念を入れて丁寧にタラスクを磨いていく。

ついでに、彼はタラスクに聞いた。

 

 

「姐さんの調子がどんな感じか分かるか? 半ば無理矢理拳を使わせたけど、異常無いか?」

 

『んー……多分無いと思いますけどねぇ。今まではただ自重してただけですし』

 

「そうかい、なら良いんだが」

 

 

タラスクの飼い主であるマルタの事だった。戦力が彼自身と彼のサーヴァントしかいない現状、コミュニケーションは大切だ。

 

 

『でも令呪で強化してる部分は、あと二、三回の戦いで切れるでしょうね』

 

「……逆にそんなに持つんだな」

 

『姐さんですからねぇ』

 

 

タラスクは心なしか目を細めながらそう呟く。貴利矢は小さく苦笑いを返して、再び甲羅磨きに没頭し始めた。

 

──

───

 

 

 

 

 

「ん、んぅ……ハッ!!」

 

   ガバッ

 

 

貴利矢は飛び起きた。どうやら自分は真っ暗な民家の中で、ソファーの上に寝かせられていたようだった。

周囲を見回す。近くに見えた台所に、一人マルタが立っていた。

 

 

「……マスター、起きた?」

 

「ああ、姐さんか。……今何時だ? 結構暗いが」

 

「午前一時よ。随分とぐっすり寝てたわね、マスター。……まだまだプレイヤーの数は多いから、じっとしておくのが賢明ね」

 

「そうかい。まだ終わらないか……」

 

 

分かりきっていたが、と彼は続ける。

この程度の時間で、このステージまで生き延びたサーヴァントは止まるまい。恐らくここに集まっているのは逃げることが苦手ではないサーヴァントであろう以上、籠城戦法に期待はしない方が良いだろう。

 

 

「……そういや、勝手にこの家に入って大丈夫だったのか?」

 

「仕方ないでしょ? 鍵も開けっぱなしだったし」

 

「それでもな……」

 

 

貴利矢はソファーに座り直しながら何処か複雑そうな顔をする。

そんな貴利矢の前に、台所から戻ってきたマルタが皿を置いた。明らかに缶詰めの物であろうサバやトマトが、それなりの調理をされて並んでいた。

 

 

「暗いうちは動かない方がいいわ。私は夜目が利くけど、貴方はそうでもないでしょう?」

 

「ま、暗所でのデスクワークは慣れてるが、戦闘だとあんまり自信はないな」

 

「そうよね。……取り合えず、これでも食って体力養っときなさい」

 

「はいはい」

 

 

貴利矢はそう言って箸に手を伸ばす。余りにも周囲が暗かったので色味は正直よく分からなかったが、少なくとも温かいことと柔らかいこと、結構濃い目の味付けがされていることは理解できた。

 

 

「夜は冷えるから、なるべく厚着もしなきゃダメよ?」

 

「何か母親みたいなこと言ってるな姐さん」

 

 

マルタは貴利矢が起き上がった時に投げ出した布を彼の肩にかける。……貴利矢はその時漸く、自分は彼女の来ていた服を毛布にしていたのだと気がついた。

 

……次の瞬間。

 

 

   ガァンッ

 

「っ、この音……」

 

「──伏せてマスター」

 

 

かなり大きな、鉄と鉄とがぶつかり合うような音が響いた。また、肉弾戦のような音も。警戒したマルタがその場から霊体化する。

 

そして数秒後に、彼女は貴利矢に念話を送る。

 

 

『サーヴァントの戦闘よ、マスター。息を潜めて……まだここは気づかれてない』

 

「……そうかい。誰と誰の戦闘かは、分かるか?」ボソッ

 

『ちょっと待って……あっ』

 

「どうした?」ボソッ

 

『片方が……あのサーヴァントよ』

 

 

マルタの視界の先では、見慣れないサーヴァントの攻撃を、仮面ライダー鎧武が落ち着いて受け流していた。

 

───

 

鎧武は戦っていた。マルタとレーザーターボが撤退したのを確認し、現在の状況を把握してからは、彼女はずっと戦っていた。

……出来れば、弱いサーヴァントを優先して倒そうとしていた。

 

この後に残っている対真黎斗戦に備えて。

真檀黎斗が強いことは分かりきっている。相手は運営なのだから、最強の座は揺らぐまい。だが、だからこそ、最強の面子を温存した状態で連れていき、少しでも勝機を多くしよう……そんな考えだった。

 

 

「……申し訳ありませんが、ここで貴方には倒れて貰わないといけません」

 

『影松!!』

 

『ドンカチ!!』

 

「嫌よ……嫌よっ!!」

 

 

今目の前にいるのも、恐らく引きこもることで生き延びたのであろうサーヴァント──どういうわけだか自らの死因である銃を携えて召喚されてしまったアーチャーのマタ・ハリだった。もしも、かつて手玉に取った男達まで召喚できるのなら強かっただろうがそれは出来ないようで。

だから鎧武は、彼女を倒そうとしている。マスターと引き剥がし、少しでも被害が少ないようにこうして人気のない街に押し込んで。

 

 

「こうすることが、きっと、貴方のマスターの世界を救うことに繋がります!!」

 

 

嘘はついていない。彼女が彼女のやりたいように世界を救うことは、結果的にこの世界の人々を救うことにも繋がるだろう。鎧武は己に言い聞かせて、違和感を噛み殺す。

マタ・ハリはかなり弱っていた。もう銃の照準も定まらない。

 

 

「嫌……マスター……マスター……!!」

 

「……」

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『火縄大橙DJ銃!!』

 

 

鎧武は新たに呼び出した三種の武器を合体させ大剣を作り上げ、そこにオレンジロックシードを装填した。

……もう、勝敗は決していた。

 

 

「……っ!!」

 

『オレンジ チャージ!!』

 

   ザンッ ザンッ ズダァンッ

 

 

斬りつける。斬りつける。……三度の切断の後に、マタ・ハリは近くの古びた民家に叩きつけられ……呻きと共に消滅した。

 

 

「これで……二十一体」

 

 

鎧武は変身を解き、道程の長さに一つ溜め息をする。当然だがいい気分はしなかった。

そしてマシュは顔を上げ……マタ・ハリが叩きつけられて半壊してしまった古民家から、見覚えのある顔が覗いていることに気がついた。

 

 

「……あっ」

 

───

 

「……そっちでは、何があったんですか? どうしてここに?」

 

「自分らは仮面ライダーを倒せなかっただけだ。ずっと車に引きこもってたら、ここに入る権利が回ってきた」

 

「そうですか……」

 

 

……マシュは戦わなかった。彼女はマルタの誘いにのって半壊した家の床に座り、貴利矢とマルタと情報を交換する。マルタはややマシュを警戒していたが、貴利矢は完全にリラックスしていた。

外はまだまだ暗い。マルタが気を効かせて彼の肩に服をかけていたと言うのに、部屋はもう冷えきっていた。

 

 

「……あっと、そう言えば……」ガサゴソ

 

「えーと、何してるのマスター?」

 

「ちょっと思い出してな」

 

 

唐貴利矢がそう言って、胸元につけていた金属片……黎斗神はカメラだと言っていた物を手に取り、自分の持つ携帯に装填する。そうすることで、真黎斗の壁によって遮断された通信が回復するようになっていた。

 

 

「……おっ、神からメールだ」

 

「……そちらの黎斗さんですか」

 

 

そしてどうやら、早速黎斗神からの意見があるようだった。きっとここまでの成り行きもモニターしていたのだろう。

貴利矢がメールを読み上げる。

 

 

「そうだな。どれどれ……『マシュ・キリエライト。君の協力を仰ぎたい』」

 

───

 

 

 

 

 

「さて、マシュ・キリエライトはどう動くか……」

 

 

黎斗神はそう呟きながら、キーボードを再び叩き始める。ポッピーは運転席に座って大きく欠伸をしていた。永夢は後部座席で壊れたように寝息を立て続けている。

 

 

「ふわぁぁ……ねぇ、何時になったら作戦を始めるの? 私、ちょっと怖いんだけど」

 

 

ポッピーはそう言って後部座席を、永夢の後ろに大量に積み上げられた段ボールの山をちらっと見る。しかし黎斗神は彼女の方を確認することもなく、ひたすらに作業に没頭していて。

 

 

「戦いはまだ始めない」

 

「……本当に大丈夫なの、黎斗?」

 

「檀黎斗神だ……そう焦るな。今はまだ機会じゃあない。最高のタイミングを待ち続けろ……ゲームクリアには、我慢と辛抱も必要だ」

 

 

黎斗神はそう言った。まだ作戦は確定しない。

まずは大型戦力が一つ増えるかどうかが、計算を大きく揺るがすことになるだろうとは思われた。

 

───

 

 

 

 

 

「……」

 

 

飛彩は一人、窓際で月を眺めていた。まだ部屋は暗かったが、あと一時間もすれば朝日が射すことは分かりきっていた。

彼の手には、まだジャンヌを刺した触感が残っていた。何度手を洗ってみても、手を強く握ってみても、その触感は取れなかった。

 

 

「……小姫……」

 

 

月を見上げる。

彼女の夢見た己に自分は近づけているのか、それがどうしようもなく不安になった。

 

彼の元にも、黎斗神からのメールが届いていた。あと一時間後には、彼はもう出発の支度を整えているだろう。

 

 

「何やってるんだブレイブ?」

 

「……パラドか」

 

 

そんな飛彩に、音も立てずに彼に近づいていたパラドが声をかけた。飛彩はやや気だるげにパラドに振り返り、しかし言葉が出てこずに目を伏せる。

 

 

「……」

 

「まだ引き摺ってるのか?」

 

「……そうだな」

 

 

パラドは飛彩の顔を見なかった。見るべきではないタイミングなんだろうと悟っていた。

彼にどんなことばをかけるべきなのかも分からない。励ましは無意味、慰めは無価値、そう思われて何も言えなくなりそうになる。……それでも彼は口を開いた。

 

 

「未練も斬れ……とは、俺は言えない。俺もやり直したいことが沢山あるからな」

 

「……」

 

「だがこのゲームにリセットはないんだ。俺達は止まっちゃいけない。進み続けないと、クリア出来ない」

 

 

パラドにも未練がある。このゲームの中だけでも沢山ある。サンソンを失い、BBも失い、その後悔は残っている。

それでも。立ち止まってはいられないのだ。

 

 

「だから、まずはクリアしようぜ? キリをつけて、そこからなら……いくらでも、手を加えることは出来るんだからな」

 

「……そう、だな」

 

───

 

 

 

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)──はあっ!!」

 

   ザンッ

 

 

そして、太陽は登った。気温が徐々に上がっていき、冷えた大気を暖めていく。

 

まだ暗いうちにマルタと貴利矢から離れたマシュは、また一体サーヴァントを狩り終えていた。返事は……まだしていない。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

「嫌だ……ボク、は……」

 

 

目の前に横たわるサーヴァント。消えていくサーヴァント。気持ちのいいものではない。見たいのはこんなものではない。……それでも、これしかない。魂を燃やし、決意を焚べろ。檀黎斗を越えるためにはそれしかないのだ。

 

 

「……彼らは、もう動き始めたでしょうか」

 

 

マシュはふと呟いた。

彼らが動くかどうかで、残留する面子はまた違ったものになるだろう。彼らは強い。強い彼らは恐れずに隠れたサーヴァントを探すことも出来るが、他の強いサーヴァントとも対戦することになるだろう。そうなれば、マシュは仲裁に入る気でいた。

 

───

 

「……おはようございます」

 

「あっ、起きたんだ永夢。調子は大丈夫?」

 

 

目覚めた永夢は気だるげだった。彼は寝惚けた目を擦りながらシャドウ・ボーダーの窓を開け、朝の匂いを一杯に吸い込む。

そうすることでようやく真の意味で目覚めた彼は、その目の先に飛彩とパラドを捉えていた。

 

 

「飛彩さん、パラド……」

 

「ん? あ、本当だ……来たみたいだよ黎斗!!」

 

「そうか。取り合えずは乗せておけ。まだ時間はかかるだろう」

 

 

黎斗神はそう言いながら、貴利矢の視界を間借りして墨田区の中を確認する。前よりかは戦火は小さくも思えたが、それはきっと気のせいなのだろう。

 

飛彩が扉を開く。そして彼は車内を見回した。

 

 

「待たせたな」

 

「ううん、待ってないよ飛彩。座って座って」

 

「分かった……待て、何だこの山は」

 

 

飛彩の目には、後部座席を埋め尽くす段ボールの山が入っていた。無視なんて出来る訳がない。質問するのは当然だろう。

その疑問にポッピーは小声で答える。

 

 

「ああ、それね? 実は──」

 

───

 

 

 

 

 

朝は終わった。昼は去った。夕方を迎えても尚、戦いは続いていく。始めは五百以上もいたプレイヤーも、今ではとうとう二百を切った。

 

 

「……感知出来ない存在がまた一体脱落させたわね」

 

「捕捉は出来そうか?」

 

「すぐには難しいわね……全部のプログラムが感知出来ないから存在自体はデータの空白で認識できるけれど、現行のシステムだと反応が出来ないの」

 

「やはりか……」

 

 

そしてマシュ(バグ)の存在が、ゲームを大きく揺るがしていた。

 

社長室にいた二人のゲームマスターは、誰にも運営を邪魔されることなく、悠々と開発を進めていたが、バグの存在だけが気掛かりだった。

 

 

「きっと、今からプログラムを組み直すよりは……」

 

「私達自身が出向く方が早いのだろうな」

 

 

真黎斗がそう言いながら立ち上がる。ナーサリーもそれを見てキーボードから手を離し、パソコンをスリープモードにして立ち上がった。

 

 

「……とうとう、迫ってきたか」

 

「そうね……本当、久しぶりの戦いね!! 最新のライダーも完成しそうだし、ガシャットの整備も良好よ!!」

 

 

立ち上がった彼女はそう言いながら真黎斗に調整を終えたマイティアクションNEXTを渡し……そして、自分もガシャットドライバー:ロストと濃いピンク色のガシャットも手に取る。

 

 

「楽しみね、楽しみね!!」

 

「ああ……私達は変身し、戦闘し、勝利する。この戦いをテストプレイとして、私達はゲームを拡大する。日本を掌握し、アジアを掌握し、世界を掌握して──全ての人々に分け隔てなく刺激と娯楽を与えよう。ああ……愉快だ」

 

 

真黎斗は外を眺めた。墨田区の壁もスカイウォールも、社長室からは見ることが出来た。

 

 

「……いるな、アヴェンジャー?」

 

「……」

 

 

真黎斗が声を一つ上げるだけで、アヴェンジャーが窓際に現れる。彼は何も言わずに真黎斗の瞳を見ていて、しかし真黎斗は動揺することもなく用件を言いつける。

 

 

「私達は一旦ここを開ける。大体の防御はシステムが勝手に行うだろうが、最悪の場合は君も対処に当たってくれ」

 

「……分かった」

 

「行くぞナーサリー。さあ、裁きの時だ」

 

「うふふっ!! 楽しみね!!」

 

   ザザッ

 

 

……そして、歩き始めた二人の姿は掠れて消えた。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───現れた神

「さあ、ラスボスの降臨だ」

「怯むんじゃないわよ?」

「分かってる!!」


───起動した計画

「揃ったな?」

「何をさせるつもりなんだ?」

「……特攻だ」


───裏で進む作戦

「わしらはわしらのしたいことをするまで」

「オレは復讐する」

「私は……もう、何も諦めたくない」


第六十三話 Kaleidoscope/薄紅の月


『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』


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第六十三話 Kaleidoscope/薄紅の月


檀黎斗のフィギュアーツ発売と聞いて



 

 

 

 

貴利矢が異変を感じたのは、太陽が沈んだ直後だった。サーヴァントと交戦したりマシュに邪魔されたりを繰り返している内に彼らは疲れていた筈なのに──何故か元気になったのだ。まるで何者かによって体力を回復させられたかのように。

 

警戒しない訳がない。身構えた貴利矢は、次の瞬間に聞きなれた声を聞く。

 

 

『プレイヤーの諸君』

 

「っ、真黎斗か!!」

 

 

見回す。声の主の姿は見えない。

夜風が貴利矢の頬を撫でた。

 

刹那。

 

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「……地面が揺れてる」

 

「地震か!?」

 

 

突然大地が音を立てて揺らぎ始めた。身動きも出来ない貴利矢とマルタを包むように大地が競り上がり、墨田区に入る時と同じようにトロッコを形成し、そして二人を乗せて動き始める。

その目的地は……日本で最も高いと謳われる塔、それを核として作り上げられた見たことのない建物だった。

 

 

「これは……」

 

「きっと、そういうことなんでしょうね。ここは誘いに乗るしかないわ」

 

「そうだな……ああ」

 

 

トロッコは進む。砕けていく街を物ともせずに進み続ける。そしてそれは、発生した新たな建物に吸い込まれていって。

 

───

 

 

 

 

 

「……聞こえるな、姐さん?」

 

「まあね」

 

 

気づいたときには、二人はきっと建物の中であろう広場にてほの暗い明かりに照らされていた。二人だけではない。まだ残っている全てのマスターとサーヴァントが……正確には、マシュ以外の全てのサーヴァントが、塔の中にいた。

もう予選は終わったようで、マルタは彼らに向けて魔力弾を形成することは出来なかった。

 

 

「……いよいよか」

 

 

貴利矢はそう呟きながら、明かりの向こうに目を凝らす。……そこに、一つ穴があった。

 

そしてそこから、ゆっくりと人影が落ちてくる。いや……彼らは宙を歩きながらのんびりと降りてきていた。

 

言うまでもなく、真檀黎斗とそのサーヴァントだった。

 

 

「ゲームマスターの私達が、ゲームをナビゲートしよう」

 

「皆、ここまでお疲れ様!! そしてようこそ、ここパンドラタワーへ!!」

 

 

パンドラタワー。恐らくたった今真黎斗が名付けたのであろうそれに貴利矢は顔をしかめ、すぐにドライバーを身に付ける。他のサーヴァント達も、もう臨戦態勢に入っていて。

 

 

「君達には二つの選択肢がある。ここで敗北するか、私達ゲームマスターという神を殺すという大きな禁忌(ブレイクスルー)を犯して、このゲームに勝利するか」

 

「お互いに楽しみましょうね!! 私とマスターが勝つか貴方達が勝つかの待ったなし一本勝負、スタートよ!!」

 

 

その瞬間にブザーが鳴った。全方位から他のサーヴァント達が放った弾幕は、ナーサリーが展開したエネルギー弾によって打ち消されていく。

貴利矢も立ち上がり、マルタも真黎斗への攻撃を開始した。

 

 

「さあ、ラスボスの降臨だ。気い引き締めていくぞ、姐さん!!」

 

「そっちこそ怯むんじゃないわよ?」

 

「分かってる!!」

 

 

攻撃の向こうに真黎斗を望む。それは全く動揺もせず、全く警戒もしていないようで。

そしてその腰にはゲーマドライバーがあった。その手には……ガシャットがあった。

 

電源が入れられ、端子が光る。その光はパンドラタワーの内部を照らし、埋め尽くして。

 

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

 

白く潰れた視界の中で、貴利矢はその音を聞いた。

 

 

「グレードN、変身……!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

 

視界が晴れていく。

 

彼が次に目にしたものは。

 

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

全身から神々しさを思わせる光を放ちながらその姿を変え、地上に降り立った……仮面ライダーゲンム、この世界の新たなる神の姿だった。その神は何処からともなくガシャコンカリバーを引き抜き、それを構える。

 

 

「さて、久々のゲームと行こう。精々抗うといい」

 

「ヘッ、言ってろよ」

 

『爆走バイク!!』

 

 

ゲンムは貴利矢の方だけを向いていた。貴利矢はそれを挑戦と受け取って、努めて好戦的な笑みを浮かべながらガシャットの電源を入れる。

 

 

「0速、変身」

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『爆走バイク!!』

 

 

そして、変身を完了したレーザーターボは即座にゲンムへと矢を放った。

ゲンムはそれを躱すような素振りも見せず、ただ足の爪先でパンドラタワーの地面を弱く蹴る。

 

それだけでゲンムの前方に半透明のシールドが展開され、レーザーターボの矢を防いだ。

 

 

「その程度か、君は?」

 

「チッ、厄介だな……ナーサリー・ライムは任せたぜ姐さん」

 

『スッパーン!!』

 

 

レーザーターボはガシャコンスパローを鎌の形態に変形させ、ゲンムへと斬りかかる。どうやら他のサーヴァント達はナーサリーとゲンムのどちらと戦うかをようやく決めたようで、全サーヴァントの三分の一程度の面子が同時にゲンムに襲い掛かった。

 

 

「……甘い」

 

 

しかし、初撃はやはりゲンムのシールドで防がれる。

それでもとレーザーターボは食らい付き、攻撃を継続した。

 

 

 

 

 

その時には、ナーサリーの方も宙に浮くのを止めていた。地上に降り立った彼女は他のサーヴァントの攻撃をいなし、まるで踊っているように攻撃を振り撒く。

そんなナーサリーに最も接近しているのは、未だに令呪のブーストが継続しているマルタだった。

 

 

「ムカつくわね……!!」

 

「あらら? どうしちゃったのかしらね?」

 

 

マルタの拳をナーサリーは躱す。一発も彼女の体に当たらない。反応速度が異常だった。

まるで雲と戦っているように思わせた。どれだけ手を伸ばしても触れられない、そんな領域にいるのではないかと錯覚させるような戦法。ただただマルタは疲弊して、ナーサリーには傷一つつかない。周囲からの攻撃は全て打ち消されていく。

 

 

「ふふっ? その程度じゃ、ゲームには勝てないわよ?」

 

「うっさいわねぇ……!! 本気でシバくわよ……!!」

 

 

まだ当たらない。まだ当たらない。まだ当たらない。拳を振る手を弱めることはなく、しかし攻撃は当たらない。

 

そんなことは百も承知だ。

 

マルタは攻撃に攻撃を重ねて、ナーサリーを壁際まで追いやった。そして──

 

 

「……出番だよ、荒れ狂う哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

「■■■■■■!!」

 

 

彼女の掛け声に合わせて召喚されたタラスクが、ナーサリーを壁に押し付けた。そしてマルタは、その全力の拳をタラスク越しに、ナーサリーへと打ち付ける。

 

 

「とくと味わいなさい──逃げ場はないわ!!」

 

   バリ メキメキ グシャグシャ バリバリ

 

「■■■──ッ!!」

 

 

タラスクが悲鳴を上げる。その向こうからナーサリーのくぐもった悲鳴も掠れて聞こえる。

どうやら、確かに捕縛は出来ているらしい。マルタはそれを確認しながらさらに拳を振るい、追い打ちとばかりにタラスクの隙間から光弾も撃ち込む。他のサーヴァントも、同じように攻撃を加えていた。

 

 

   バリバリ ゴキ メキメキメキメキ

 

「■■■!!」

 

「行くわよ……鉄 拳 聖 裁ッ!!」

 

 

そして、最後の特大の一撃と共にタラスクは爆散し、辺りは砂煙に包まれる。爆風が辺りをかき回し、マルタは額の汗を拭った。ナックルの全体に、ヒビが入っていた。

 

 

「やったかしら……!?」

 

 

そうでなければ困る。マルタはもう、同じ攻撃を出来る気がしない。

 

……しかし。

 

 

「──ふぅ。ちょっとだけ痛かったわね。服が汚れちゃった」

 

「ッ……!?」

 

 

そう言いながら煙の中から現れたナーサリーは、実に飄々としていた。傷はあったが、それを気にしているようには到底思えなかった。

 

 

「効いていない……」

 

 

さらにマルタは気づく。ナーサリーの腰に、見たことのないドライバー(ガシャットドライバー:ロスト)がついていることに。

 

 

「……じゃあそろそろ、私も本気で行くわね!!」

 

『ときめきクライシスⅡ!!』

 

 

そしてナーサリーは、その手に濃いピンク色のガシャットを持って電源を入れた。周囲の空気に再び緊張が走る。

そのガシャットの音声は、マルタが聞いたことのある物だった。

 

 

「ガシャット……それも、ときめきクライシスなのかしら? 私が知っているものと随分形が違うけど」

 

「戦えば分かるわよ。変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

 

ナーサリーはマルタの問いには答えない。彼女はドライバーにガシャットを装填し、微笑みながらそのスロットを傾ける。極彩色の光が溢れた。

マルタは変身を防ごうと殴りかかったが、ドライバーから出てきた壁によって弾き返された。

そしてナーサリーは、その壁に飲み込まれ変身する。

 

 

『ドリーミーンガール!! 恋のレボリューション!! 乙女はずっとときめきクライシス!!』

 

 

光が止む。そこには、先程までの面影を残しつつも、更に馬力を増した仮面ライダーが立っていて。

 

 

「成功ね、成功ね、成功ね!! マスター!! とうとう私だけの仮面ライダーよ、仮面ライダーナーサリーの完成よ!!」

 

 

しかし彼女はすぐにマルタを攻撃するということもなく、遠くでやはりサーヴァントを蹴散らしているゲンムに対して楽しげな声を上げた。

マルタはその間に、ナーサリーから距離を取る。彼女はサシで戦うには危険すぎた。

 

 

「私達の才能があれば不可能はない。さあ、クライシスゲーマーレベル100……テストプレイを始めよう」

 

「そうね!!」

 

───

 

 

 

 

 

「さて……面子は揃ったな?」

 

 

シャドウ・ボーダー内の黎斗神は、レーザーターボらの繰り広げる死闘から一旦眼を離し、車内にやや狭そうに収まった人々を見回した。

 

 

「さて、ここまで待って貰った諸君、時は満ちた」

 

 

そう切り出す。何も説明されていない人々は、簡単にその言葉には頷けない。

 

 

「説明しろ檀黎斗。態々俺達を呼び出して、こんなに待たせて、今から作戦開始だと? 俺達に一体何をさせるつもりなんだ?」

 

「そうだな。それを教えろ、ゲンム」

 

「ああ……君達には話していなかったな」

 

 

最初に口火を切ったのは飛彩、そしてパラドだった。彼らは早くから来たのにずっと待たされる損な役回りだった。その不満は最もだと、黎斗神は口を開く。

 

 

「君達を早くに呼び出したのは、シャドウ・ボーダーの防衛の要で居て貰いたかったからだ。ここにはもうサーヴァントは居ず、九条貴利矢もいない。そして私は計算に付きっきりだったからな」

 

「……」

 

「だが、どういうわけだか全く敵の手がここに伸びない。ここはゲンムコーポレーションに最も近い支配の薄いエリアだというのに、向こうの私は何もしてこなかった。ぁから君達の出番がなかったというわけだ」

 

 

飛彩は黙ってしまった。確かに、彼らが来るまでこのシャドウ・ボーダーの戦力は少なかった。戦力を補うためと言われたら頷くしかない。

黎斗神はそれに付け加える。

 

 

「で、これから何をするかだが……私達が行うのは……何の変鉄もない特攻だ」

 

「……ッ、何だと……っ!?」

 

 

飛彩は一瞬呆気に取られ、すぐに目を剥き、黎斗神に掴みかかった。特攻なんてしたら、確実に死ぬ。黎斗神はそれを忘れてしまったのかと、本気で思いながら。

しかし黎斗神は、飛彩をやんわりと引き剥がした。

 

 

「話を聞け。……何も、君達を特攻させるとは言っていない。特攻するのは……私と」

 

 

黎斗神はそこで黙って、車内を再び見回した。

バグヴァイザーが無く、変身出来ないポッピー。まだ立ち直りきれていない永夢。飛彩とパラド。聖都大学附属病院(臨時)をちびノブに任せてきた灰馬と信勝。黎斗神はそれらを見比べ。

そして。

 

 

「彼だけだ」

 

 

信勝を指差した。

 

───

 

 

 

 

 

「……ふふっ、皆もう疲れちゃったのかしら?」

 

「……っ」

 

 

変身しても、ナーサリーの戦闘スタイルに大きな変化があった訳ではない。彼女が手を振り上げれば周囲が弾け、彼女が踊れば大地が揺らぐ。力は変われど、彼女の持つ幼さは変わらない。

だからこそ、動きが読みづらい。マルタはそれをひしひしと感じていて。そして既に、彼女と最初に向き合っていたサーヴァントの半分が脱落していた。

 

マルタの隣を二体のサーヴァントが駆けていき、ナーサリーに斬りかかる。確か聖杯で強化されたランサーの宝蔵院胤舜と、同じくランサーの李書文だったか。

しかしそれも、ナーサリーには及ばない。ナーサリーはまるで槍を相手にワルツでも踊るように振る舞い、仮に当たっても怯むこと無く、超至近距離で光弾を霊核に撃ち込んでいく。

 

 

「ぐぅっ……しくじったか……」

 

「ッ、なんて、強さ……」

 

「当然よ。簡単に攻略出来ちゃったらつまんないでしょう? 女の子の身持ちは堅くないと、ね?」

 

 

彼らが膝をつくのは、戦闘開始から大して長くなかった。それを傍観していた回りのサーヴァント達は、もうナーサリーには勝てないのではないかと少しずつ引き下がり始める。

しかし、それを見逃してくれる訳もなく。ナーサリーはスロットからガシャットを抜き、腰の横のスロットに装填した。

 

 

「……あら、逃げるなんてつまらないわ? もっと遊びましょう!!」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

 

そして、ナーサリーを起点にして、周囲にハートや星を伴った嵐が吹き荒れる。

 

───

 

「おー、やっとるやっとる」

 

「……そうだな。また新作を作ったらしい」

 

「派手ですねぇ」

 

「全く、ヤツの進化は止まらんなあ」

 

 

墨田区内部、パンドラタワーの中身の様子は、社長室に陣取ったアヴェンジャー、信長、そしてイリヤの目にも入っていた。

 

圧倒的。その三文字が似合う戦いだった。徹頭徹尾自分のリズムに敵を押し込む戦いには正しくゲームマスターの名が相応しい、そう思わせる位には、ゲンムとナーサリーは強かった。

 

 

「……じゃが」

 

 

しかし信長は、それを見て尚笑っていた。

 

 

「ちーとばかり、身内の警戒が薄いのう。今だって、好き勝手にわしらが弄れる場所にこうガシャットを置いている」

 

「それは……」

 

 

信長はそう言いながら、パソコンに繋げられたFate/Grand Orderガシャットを指でなぞる。

イリヤは信長を見上げた。底知れない物を感じた。

 

 

「お二人は……檀黎斗の、味方なんですか? それとも……敵?」

 

 

それは大切なことだ。今は受け入れられている彼女だが、イリヤは真檀黎斗の仲間にはなれない。もしアヴェンジャーが真黎斗と共にあるのなら、イリヤは……場合によっては、彼と戦わないといけない。

 

 

「ふむ……どちらとも言えぬのう。わしらはわしらのしたいことをするまで……敵も味方も、関係ない。そうじゃろうアヴェンジャーよ?」

 

「オレはただ、悪を見届けるだけだ。彼は復讐すべき悪ではあるが、実際に復讐するかは……まだ、判断しない」

 

「またまたぁ」

 

 

しかし、イリヤの内心の深刻さとは裏腹に、信長もアヴェンジャーも気楽そうな態度を取っていた。まるで悩んでいるのは自分だけに思えて焦燥に駆られる。

信長はそんなイリヤの頭をポンと叩いた。

 

 

「さて……お主はどうする?」

 

「わ、私は……」

 

「黎斗をどうするつもりなんじゃ?」

 

 

──イリヤはその時、もしかしたら初めて信長の瞳を覗いたかもしれなかった。

確かにその目の奥には、真剣さがあった。

それについ押し負けて窓の外を見る。今宵の月は紅色だった。

 

 

「私は……」

 

「……」

 

「私は……もう、何も諦めたくない」

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ラーマの決断

「私やっぱり不安だから……」

「お主らは何処に……?」

「余も、仲間に入れてはくれまいか」


───各々の覚悟

「お主はそれでよかったのじゃな?」

「僕は、やるべきことをやりました」

「患者の運命は、僕が変える」


───仮面ライダーゲンムの脅威

「そろそろ私の本領を発揮しよう」

「強すぎる……!!」

「敵わないのか……!?」


第六十四話 Voice ~辿り着く場所~


「それでも、諦めてたまるかよ」


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第六十四話 Voice~辿り着く場所~


次のウルトラマン何か凄いなぁ



 

 

 

 

「ふふふっ!! 楽しいわ楽しいわ楽しいわ!!」

 

「っ……」

 

 

マルタの横で、また一人脱落した。

彼女の能力は留まるところを知らないようだった。初めは方向を指示して爆発を起こす程度だった遠距離攻撃の力が、戦うにつれて衝撃波がパンドラタワー全体に行き渡るようになり、爆発痕から薔薇の蔓が生い茂るようになり、地形が波打って近くのプレイヤーを襲うようになった。

こうなっては、もう敵からの距離など問題ではない。サーヴァントから離れて指示を出していたマスター達も攻撃に飲み込まれて消えていく。勝ちの目は埋もれていき、絶望だけが浮かび上がった。

 

 

「どうしろって言うんだ……」

 

「ここまでか……!?」

 

「っ……ダメだ……!!」

 

「強すぎる……!!」

 

 

周囲から聞こえる言葉は、そのままマルタ自身の本心で。しかし、今更降参なんて選択肢は取れやしない。

 

また爆発が起こった。

 

 

「まだまだっ、刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)!!」

 

   ガキンッ

 

 

衝撃を防いで、すぐに盾から離れる。その次の瞬間には盾は蔓に飲まれていた。このフィールドに安置はない。

マルタは飛び退きながらナーサリーに光弾を放ってはいたが、展開されたバリアによって簡単に弾かれていた。

 

 

「本当に厄介ね……!!」

 

「貴女はもっと遊んでくれるのね? 嬉しいわ!!」

 

「チッ……付き合ってやるわよ、貴女が倒れるまでね!!」

 

───

 

 

 

 

 

「大我はっ!! 休んでなさいよっ!!」

 

「バカ野郎、てめぇだけ行かせてたまるか」

 

 

その時、大我とニコは避難所から脱け出して、痛みに顔を歪めながら歩いていた。全身に走る痛みは無視できる物でもなかったが、まあ一日休めばましにはなった。

 

 

「そっちこそ、病人は休んでろ」

 

「はぁ? アンタの方がよっぽど病人よ!! それに私は、やっぱり、アイツに任せるのは不安だから……!!」

 

「まあ、ゲンムの野郎の作戦なんてろくなもんじゃねえ。だが、もし奴を止めるなら俺の方がよっぽど適任だ。すっこんでろ」

 

「あぁ!? 私だって戦えますー!!」

 

 

互いに相手を詰ることで痛みを誤魔化しながら歩く。ニコはスペースギャラクシーフォーゼを大我に見せつけこそしたが、今変身したって三秒足らずで強制解除だろう。

もう、彼らを助けてくれるサーヴァントはいない。もう、彼らの自衛の手段は働かない。彼らは無防備だ。

 

 

「だーかーらー、アンタは休んでなさい!!」

 

「うるせぇ!! てめぇこそ──」

 

 

……そして。そんな無防備な大我は、ニコは、とうとう敵に出会ってしまった。

大我は即座に、ニコを制するように手を伸ばす。

 

 

「……下がれ」

 

「何で──っ!!」

 

 

ニコも気づく。自分達の進んでいる道のずっと先に、見覚えのあるサーヴァントが二体。

ラーマとシータが立っていた。

大我はゲーマドライバーを装着し、バンバンシューティングガシャットを構える。

 

 

「……何の用だ」

 

「……」

 

 

シータは俯いていた。ラーマは、大我の目を見据えていた。

ラーマは手の剣を大きく振り上げて──

 

──地面に強く投げた。金属音が辺りに響く。

 

 

「余は、戦うつもりはない。……もう戦いに意味はない。ここで勝ったところで、余は誰に顔を見せればよいと言うのだ」

 

 

ラーマは武器を捨てた。大我はそれを見て警戒を緩め、やはり痛みを押さえ込みながらラーマに歩み寄る。

 

 

「じゃあ、何で俺たちの前に立った」

 

「余は……檀黎斗を倒さねばならない。そして、人々を守らなければならないのだ。故に、その体で出歩くのを、見過ごすことが出来なかった」

 

「余計なお世話だ」

 

 

そして大我は、ラーマの元を通りすぎた。ラーマは一瞬フリーズした後に慌てて振り返る。

 

 

「では、お主らは何処に往くのだ……?」

 

「……檀黎斗の元に行く」

 

 

その言葉にラーマは目を見開いた。止めろという意思と、ついていけという意思とが混在する。

彼らをこのまま戦わせるのは危険だ、そう思った。しかし……彼は、大我を説き伏せられる自信も持ち合わせていなかった。

 

 

「ではせめて、余も、仲間に入れてはくれまいか」

 

 

そういうわけで、勝利したのは彼らと共に行くという選択肢だった。

大我は、後ろを歩くニコと目を合わせる。ニコはほんの少しだけ逡巡して。

 

 

「……」

 

「……私は、別にいいと思うけど」

 

 

ニコの言葉で、ラーマ達の行き先も確定した。

 

 

「そうか……好きにしろ」

 

───

 

信勝は、紅い月の下で散歩も兼ねた哨戒を行っていた。黎斗神は最後の調整に入ったらしく、後十分で作戦を開始すると言っていた。

 

 

「……」

 

 

空を仰ぐ。黎斗神の作戦に従うのなら、自分は恐らく生きては戻れまい。それは信勝は悟っていた。しかし、恐怖があるかと考えればそうでもない。

もう灰馬とはするべき会話はしてしまった。もう、あの避難所に戻ることもない。

 

もし、最後に心残りがあるとするなら。

 

 

「……暗い顔をしておるのう、信勝」

 

「っ……姉上」

 

 

最後に、織田信長に会いたかった。

 

しかし現実に会ってしまうとなると話は別だ。彼女は敵であり、敵が来たなら仲間を呼んで押さえ込めと言われている。

 

 

「……」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

 

ちびノブを呼び出す。信勝は自身も火縄銃を取り、何をされても堪えられるように身構えた。

しかし信長は何もせずにけらけらと笑う。

 

 

「安心せい、わしは何もせん」

 

「……」

 

「にしてもお主ら、大胆なことをするのう。こんな敵陣近くに陣取るなんて、さすがはマスターの片割れと言うべきか」

 

「気づいてたんですか!? じゃあ、そっちの檀黎斗も、僕たちを──」

 

「それはない。知っているのはわしらだけじゃ」

 

 

……信勝には分からなくなった。何故彼女は、真黎斗と情報を共有しないのか。彼女が嘘をついていないことは信勝は勘で分かった。その勘を証明するかのように、信長は信勝に手を出す気配は未だなく。

しかし嘘をついていないならば、何故ゲンムコーポレーション内の他のサーヴァントとは情報を共有したのか。

 

 

「……どこまで、知っていますか?」

 

「……作戦の概要は知っておる。お主、特攻するそうじゃな?」

 

「っ!?」

 

 

そして、信長自体はどうやって情報を知ったのだろう。しかも、事細かに。信勝は再び強く火縄銃を握る。しかし、信長はまだ言葉を続けていた。

 

 

「……お主は、本当にそれでよかったのじゃな? 後悔は、ないな?」

 

「……っ!!」

 

「どうなんじゃ?」

 

「……ええ。僕は、やるべきことを。やりたいことを、やりました」

 

 

……信勝は再び警戒を解いた。

問いに答える。答えない理由はいくらでも見つかったが、意図的にそれに蓋をした。

 

信長は、思う通りの事をすればいいと信勝に言った。そして、自分もやりたいことをやるとも。……きっとそれが、答えなのだ。

 

 

「そうか……満足か?」

 

「はい」

 

「なら、それでよしか」

 

 

信長は背を向ける。信勝ほ追わなかった。ただ、溢れ落ちそうな涙を無理矢理止めて、一つ深々と礼をした。

 

 

「ありがとうございました、姉上……っ!!」

 

───

 

灰馬は月を見上げていた。夜風に晒され、闇に体を浸しながら、紅い月に見とれていた。

その隣に立っていた飛彩はしばらくそんな父親を眺めていたが、我慢できなくなって質問する。

 

 

「親父」

 

「何だ?」

 

「その……本当に良かったのか?」

 

「……ああ。私は彼の意思に従いたい。彼が受け入れ、あれを望んでいるのならば私は止めない」

 

 

アサシン(信勝)のことだった。サーヴァントを望まないままに失った飛彩は、自らサーヴァントを手放すと決めた父親の心情に同意できずにいたからだった。

このまま行けばアサシンは消えるだろう。それを知っていてかつ同意した彼ら主従の考えを、飛彩には理解が出来ない。

 

 

「お前は大丈夫なのか、飛彩」

 

 

今度は灰馬が問った。飛彩はそれにちょっとだけ黙り込み、ぽつぽつと話し始める。サーヴァントを失った苦しみを。この手で倒してしまった嘆きを。

 

 

「……正直に言うと、まだ、彼女の死に様が脳裏にこびりついている。まだ、倒した触感を覚えている」

 

「……そうだろうな」

 

「彼女は笑っていた。だが、俺には……」

 

 

飛彩はいつの間にか下を向いていた。誰に向けて振るう訳でもないが、それでも拳に力を込める。爪が掌に痛かった。

 

……そんな飛彩の頭を、灰馬は撫でた。

 

 

「っ、親父……」

 

「お前は優しい子だ」

 

「……そうだろうか」

 

「そうだとも。私の自慢の息子だよ」

 

 

飛彩が顔を上げると、灰馬は寂しげに笑っていて。

 

 

「その触感を忘れるな。犠牲をを忘れず、しかしメスを衰えさせてはいけない。私達は積み重なった救えなかった人々の上で『死』と闘う人間だからな。救えなかった人々よりずっと多くの人を助けるよう抗うのが、真のドクターだと私は思う」

 

───

 

「永夢……」

 

「……」

 

 

その時、永夢はシャドウ・ボーダー内で新たに完成したガシャットを眺めていた。これまでのあらゆるガシャットとも違う特性を持つガシャット、「Holy grail」──それは、永夢にしか使えないようだった。

 

ポッピーは見守ることしか出来ない。サーヴァントを失い、それでもまだ戦いを続けると決めた彼に掛ける言葉は彼女には見つからない。

 

 

「……もう、大丈夫」

 

「……本当?」

 

 

しかし、永夢の方はもう踏ん切りがついているようだった。彼は唐突に立ち上がって、一つ大きく伸びをする。

 

 

「もう、こんな戦いは終わりにしましょう……ええ、全ての患者の運命は、僕が変える」

 

「……」

 

「僕は、信じているって言われちゃいましたからね」

 

 

無理をしていることは分かった。しかし、彼を休ませることは出来ない。もう、作戦開始のリミットはすぐそこにあるから。

 

……檀黎斗神は、黙って助手席に未だに座っていた。レーザーターボらの戦いを監視し、現在の戦力の調整を行って。

 

しかしそれも、もう終わる。

 

 

「……よし」

 

 

黎斗神が一言呟いた。

 

 

「ポッピー、全員集めろ。作戦を開始するぞ」

 

───

 

「さて。大分プレイヤーも減ってきたな」

 

「ッッ……そうだなぁ」

 

 

レーザーターボは、ゲンムから飛び退きながら辺りを見回す。

さっきまで戦っていたサーヴァント達はもう殆どいない。幾らかのサーヴァントは外に出られないかと画策しているようにも見える。……こうなれば、もう援軍は期待できまい。

 

レーザーターボは一つ舌打ちして、プロトシャカリキスポーツガシャットを装填する。

 

 

「……でも、自分を簡単に落とせるとは思うなよ? ……爆速」

 

『ガッチャーン!!』

 

『爆走バイク!!』

 

『シャカリキスポーツ!!』

 

 

そしてレーザーターボは、ゲーマを装着するや否や、その車輪をゲンムに投げつけた。

大地を一直線に駆け抜けるそれはゲンムの出した壁によって易々と阻まれる。しかしその間に別の角度に回り込んだレーザーターボがガシャコンスパローによっての遠距離攻撃を叩き込んだ。

 

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ダダダダダダ

 

「っ……」

 

 

殆どは避けられたが、二発ほどは当てることが出来た。しかしそれでゲンムが倒れる訳もなく。

レーザーターボは戻ってきた車輪を掴みながら舌打ちする。

 

 

「まだ抗うか、九条貴利矢」

 

「当然だろ。何だ、自分が弱いってか?」

 

「いや、君はよくやっているさ。……見たまえ、他のプレイヤーはもう脱落してしまった」

 

「……そうだな」

 

 

レーザーターボは再び車輪を投げつける。それはバリアに弾かれて戻ってくる。何の手応えもなく、ただ戻ってきただけ。ゲンムのライフゲージは未だ満タンで。

 

 

「だからこそ、そろそろ私の本領を発揮するとしよう。君の健闘を称えて」

 

「っ……」

 

 

そしてゲンムは、追い討ちとばかりにガシャットのギアを動かす。

 

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅹ!!』

 

「それは……」

 

 

ゲンムの姿が変わっていく。妨害しようと矢を放っても、それは余所へとすり抜けていく。

そして敵は、とても見慣れた姿に……いや、見慣れている筈なのに、全く未知の姿に変貌した。

 

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

デンジャラスゾンビガシャットを使用した白いゲンム。見慣れているはずだ。しかし。

 

そのゲンムは、あり得ないほどに、()()()()()を纏っていた。

 

 

「……何だよそれ」

 

「驚きで声も出ないか」

 

「あれー……おっかしいなぁ……? 自分、そんなゲンム知らないんだけど。趣味悪いな」

 

「この神の輝きを理解できないとは悲しい男だな、九条貴利矢!! この私は、この私こそは仮面ライダーゲンムの最終形態、『ハイパームテキゲンム』だぁ!!」

 

「あぁ!?」

 

 

その発言に耳を疑う。ハイパームテキ──それは、本来檀黎斗神が産み出したエグゼイド用のガシャットの銘。何故、それをこのゲンムが使用した?

 

 

「全く、どういうつもりだてめぇ」

 

「私は全てを知っている!! 檀正宗の末路も、宝生永夢の力も、全て!! だから今回は、その中に発生した向こう側の私の作品のデータを、こちらに導入させてもらった!! 私の才能を私が改良したのだ、最早私に敵はない!!」

 

「はぁ!? マジかよ!?」

 

 

思わず声を荒げるレーザーターボ。……それが本当なら、レーザーターボのスペックでは敵う余地はない。

ゲンムは余裕を崩さずに、それでも口調は楽しげで。

 

 

「そんなに疑うのなら……味わうといい。この世界の神の力を!!」

 

 

そう、言い終わらないうちに。

 

ゲンムの姿はその場から掻き消え。

 

レーザーターボの頭上に現れ、手元に取り出したガシャコンカリバーを降り下ろした。

 

 

「チッ!!」

 

   ガギンッ

 

 

レーザーターボは咄嗟にガシャコンスパローで受け止める。

両者は数秒間拮抗し。

 

ガシャコンスパローは、砕け散った。

 

 

   バリンッ グシャッ

 

「嘘だろっ!?」

 

「嘘など何処にもない。全ての真理は私が握っている。君に勝ち目はない。諦めろ」

 

「それでも、諦めてたまるかよっ!!」

 

 

飛び退くレーザーターボをゲンムが煽る。レーザーターボは車輪を投げつけたが、ゲンムは避けもバリアを貼ることもせず、その車輪を素手で奪い取った。

 

 

   ガシッ

 

「緩いな」

 

「はぁ!? 無茶も休み休みやれよこのやろう!!」

 

 

ゲンムは車輪を握り潰し、投げ捨てる。

レーザーターボはちらっとマルタの方を見たが、そっちもナーサリーにかかりきりのようだった。

 

 

「チッ、だよなぁ……!!」

 

 

今更ガシャットの交換なんてしている暇はない。レーザーターボは拳を握り、来るべき攻撃に備えた。

 

 

「それでは……終わりにするとしよう」

 

『Noble phantasm』

 

 

ゲンムがガシャコンカリバーのトリガーを引く。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)──」

 

 

 

 

 

刹那。

 

 

   バリバリバリバリバリバリメキメキメキメキメキメキメキメキメキ

 

「なんだあっ!?」

 

 

空が割れた。いや、正確にはパンドラタワーが真っ二つになっていた。その裂け目では。

 

マシュが、二振りの剣を降り下ろしていた。

 

 

「……来たか」

 

「あいつは……!!」

 

「やはり、バグは君だったかマシュ・キリエライト!! 今度こそ……君を削除しよう……!!」

 

 

ゲンムが、マシュに飛びかかる。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───マシュの再戦

「決着をつけましょう」

「君に私が倒せるか?」

「貴方を、貴方の世界から引き剥がす!!」


───ゲンムコーポレーションへの戦闘

「力を使わせていただきます」

『Holy grail』

「……変身!!」


───輝く物は、何だ

「令呪をもって命ずる」

「行くぞ」

「全ての計算はこの日の為に!!」


第六十五話 Time of victory


『Grail Critical Hole!!』


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第六十五話 Time of victory


(今日のビルド)
げんとくううううんっ!!
エボルぅぅううううっ!!
首相おおおおおおおお!!



 

 

 

 

 

「はああっ!!」

 

   ガンッ

 

二振りのガシャコンカリバーが火花を散らした。パンドラタワーの裂け目を踏み台に飛び込んできたマシュは空中のゲンムとぶつかり合い、一方的に吹き飛ばす。

反対側の壁まで吹き飛ばされたゲンムは無傷だったが、それでもマシュは動じていない。

 

マシュがレーザーターボの元に降り立つ。

 

 

「……来てくれたか」

 

「かなり迷いましたけど……それでも、彼の作戦にノることにしました」

 

「そうかい」

 

 

次の瞬間、マシュの近くで爆発が起こる。ナーサリーが起こした物だ。しかしマシュはバルムンクで爆発を相殺し、向かってくる薔薇の蔓も細かく切り落とした。

 

 

「……やるねぇ」

 

「ここは、私が……()()が引き受けます。皆さんは早く外に!!」

 

『ガッチョーン』

 

『仮面ライダークロニクル!!』

 

 

そしてマシュは、その腰にガシャコンバグヴァイザーⅡを装着する。そして、右手に取り出した仮面ライダークロニクルを起動した。

レーザーターボはそれを見ながら飛び退き、同時に離脱を選択したマルタと合流して、パンドラタワーの隙間から脱出する。

 

 

「じゃあ、後は頼んだぜ!!」

 

「……ええ!!」

 

『ガッシャット』

 

 

マシュの視線の先には、輝くゲンムとナーサリーが並び立つ。どうやら彼らはプレイヤーを後回しにしてでもマシュをここで終了させる心づもりらしく、二人はマシュだけを見つめていて。

 

 

「今投降するのなら、苦痛なく削除してやるが?」

 

「まさか。……私達は、貴方に作られた私達は。貴方に作られた以上の力で、貴方を倒します!!」

 

『バグルアァップ』

 

『天を掴めライダー!! 刻めクロニクル!! 今こそ時は極まれり!!』

 

 

そして、マシュはクロノスに変身した。

この空間において、ポーズは最早意味を成さない。クロノスは何も止めることは出来ない。それでも今の彼女がクロノスを選択したのは、CRと同じにはなれずとも彼らに協力しようという意思表明。

 

 

「さあ、決着をつけましょう」

 

「君に私が倒せるか?」

 

「すぐに答えが出せますよ……!!」

 

 

そして、クロノスはガシャコンカリバーとバルムンクを強く握った。

 

ゲンムが手を高く掲げれば、パンドラタワーの内壁が鋭く尖ってクロノスに襲いかかる。クロノスはそれら全てを粉砕しながらゲンムへ向けて大地を蹴り、一秒後には刃を交えた。

 

 

   ガンッ

 

「……パワーは上昇したようだな。……ジークフリートの力か?」

 

「ええ。それに、それだけじゃありません」

 

 

ゲンムのガシャコンカリバーと交わっているクロノスのガシャコンカリバーとバルムンク、それらがにわかに青い炎を纏った。熱がゲンムに襲いかかり、また背後にいたナーサリーにも飛びかかる。

ゲンムは咄嗟に飛び退き、体についた火の粉を振り払いながら分析した。

 

 

「なるほど……ネロの炎だな」

 

「ええ。ただの戦いでは私は貴方に勝てません。だから私は貴方を、私達の全てを用いて、貴方の世界から引き剥がす!!」

 

───

 

その時、パラドと飛彩、そして永夢は、ゲンムコーポレーションの前に堂々と立っていた。身を隠すことなく、紅い月の下に姿を晒していた。

当然見つからない訳がない。パラドの前にはアヴェンジャーが、飛彩の前にはイリヤが、永夢の前には信長が立ち、各々向き合うことになる。

 

 

「あからさまな囮だな。何のつもりだ?」

 

「そう言いながら乗ってくるのか?」

 

 

アヴェンジャーが淡々と言えば、パラドが挑発で返す。パラドの脳裏を記憶が駆けた。

虐殺を許せず、無茶な戦いを挑んでアヴェンジャーとジル・ド・レェに返り討ちにされた記憶を。アヴェンジャーとカリギュラを倒せず、結果的にサンソンを犠牲にしてしまった記憶を。

それを忘れない。そして、それだけに心を支配されない。全てを受け入れて、全てを償うために、戦い続ける。パラドはその意思を再び握り締める。

 

 

「オレにも考えがあるだけだ」

 

「そうかよ……あの時のリベンジをさせてもらうぜ」

 

『Perfect puzzle!!』

 

 

そしてパラドが、ガシャットギアデュアルのギアを傾けた。

 

 

「あの雪辱をここで晴らす。お前は、俺の心をたぎらせた。変身」

 

『Get's the glory in chain,Perfect Puzzle!!』

 

 

パラドの姿が変わる。あの時より強い姿に変身する。

 

それを見ながら、アヴェンジャーもバグヴァイザーを装着した。彼は一瞬目を瞑り、両手に握ったガシャットを起動する。

 

 

『ガッチョーン』

 

『Perfect puzzle!!』

 

『Knock out fighter!!』

 

「……変身」

 

 

そして装填した。パラドはその様子を観察する。アヴェンジャーは……何か、眼前の戦いより別のことを考えてるようにすら思えた。

 

 

『『ガッシャット!!』』

 

『バグルアァップ』

 

『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』

 

「……行くぞ」

 

 

パラドクスはそれに違和感を覚えたが、今はそれに集中してはいられなかった。アヴェンジャーはその手にガシャコンパラブレイガンを持ち飛びかかってくる。

 

 

「おう!!」

 

『鋼鉄化!!』

 

『鋼鉄化!!』

 

『マッスル化!!』

 

 

パラドクスはその刃を鋼鉄化した左腕で受け止め、マッスル化した右腕で反撃を開始した。

 

 

 

 

 

その隣で、イリヤもファンタジーゲーマーのブレイブの足止めを行っていた。しかしその戦いは激しい物ではなく、ただ足止めの為の物に過ぎなかった。

ブレイブの剣をイリヤが受け止めて受け流し、反撃に薄い弾幕を放つだけ。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

「私は……」

 

 

ブレイブは困っていた。このサーヴァントはもしかしたら仲間になるかもしれない。しかし今後の計画を妨害される可能性を考えると放置することは出来ず、タドルファンタジーの力で出したバグスター戦闘員は倒されるために他のライダーの加勢にもいけない。

 

 

「……チッ」

 

 

内心で計画の進行を急かしながら、ブレイブは戦闘を続けていく。

 

───

 

その様子は、近くのビルの裏に待機していた黎斗神も把握していた。シャドウ・ボーダーの運転席には黎斗神が、助手席には信勝がシートベルトをして座っていた。

ポッピーも灰馬も、もう車からは降りていた。もう、()()()()()()()()()()

 

 

「……始めるぞ」

 

 

黎斗神が呟いた。

灰馬はそれに頷いて、車内の信勝の手を握る。灰馬は目に涙を溜めていたが、信勝は笑顔だった。

 

 

「全ての令呪をもって命ずる」

 

「……どうぞ、マスター」

 

「……その力でもって、シャドウ・ボーダーをサポートせよ」

 

 

灰馬の手から令呪が溶けて無くなる。そのエネルギーは信勝に受け渡され、一瞬彼の瞳は紅く光った。

 

 

「……ええ!!」

 

 

そして信勝は、灰馬から手を離した。

窓が閉められていく。

 

 

「……ありがとう」

 

「二人とも、気を付けてね!!」

 

 

最後に車に入ったのはそんな声だった。

黎斗神はシャドウ・ボーダーを見回す。もうこの中には食料もなく、衣料もなく、治療道具もない。ネットワーク潜行救急車シャドウ・ボーダーはその役割を終えた。もうこの中には、各地の施設からかき集めた()()しか詰まっていない。

 

 

「では、行くぞ。全ての計算はこの日の為にあった……始めよう、私達の逆転劇を!!」

 

「……ええ」

 

 

信勝はフロントガラスの向こうを見つめる。そしてイメージした。天に架かる勝利への架け橋を。

 

 

「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」「ノッブ!!」

 

 

イメージ通りに、ちびノブが並んでいく。強化されたそれは橋としての役割を果たし、真っ直ぐにゲンムコーポレーションの社長室へと伸びていく。

 

そして黎斗神は、強く強くアクセルを踏み込んだ。

 

 

   ブルン

 

   ブルンブルンブルン

 

「……出航!!」

 

 

エンジンが高鳴る。

シャドウ・ボーダーは架け橋を構成する最初の一段を乗り越えて──

 

──次の瞬間、一気に空へと飛び上がった。

 

───

 

「さあ、耐えてみせよ!! これが魔王の三千世界(さんだんうち)じゃあ!!」

 

   ダダダダダダダダ

 

「っ……あっ……!!」

 

『『ガッシューン』』

 

 

エグゼイドは苦戦していた。ロボットアクションゲーマーで戦っていた彼は信長の宝具に耐えきれずに地面を転がる。変身も解けていた。

 

 

「痛っ……」

 

「何じゃ、その程度か? つまらんのう」

 

 

信長は火縄銃を納めて這いずる永夢の隣にしゃがむ。そして、至近距離で永夢を見下ろした。

 

 

「その程度なのか? お主は。そんなものか? それで、世界を救えるのか?」

 

「……まだですっ!! 僕はまだ、折れていない!!」

 

 

永夢が叫ぶ。

彼はふらつく足を激して立ち上がり、再びドライバーを装着する。また立った信長は楽しそうにそれを眺め、口の端に笑みを浮かべていた。

そして彼は、とうとう、新たなガシャットに手を掛ける。

 

 

「力を、使わせていただきます」

 

『Holy grail』

 

『ガッシャット!!』

 

 

白いガシャットをドライバーに入れる。

それだけで永夢の全身に稲妻が走った。痛みで永夢は堪らず膝をつき、それでも彼は信長を見据える。

 

 

「……ツッ……!!」

 

「本当にそれ、大丈夫なのかのぅ? 流石に自爆とか、笑えないんじゃが」

 

「そんなことは、ありませんよ……!! 僕に託してくれたこの思いが、間違っている筈がありません……!!」

 

 

永夢はガシャットを抜かない。痛みに顔を歪めながらも、レバーに手を掛けて力を籠める。ふと、脳裏にナイチンゲールの顔が浮かんだ。恭太郎の顔が浮かんだ。今日までに関わった全ての医療人が、全ての患者が、一瞬で彼の脳裏を駆けた。

それが、永夢の心を決意で満たした。

 

 

「医療とは積み重ねです。僕は僕に託された全てを受け継いで、受け止めて、受け入れて……その上で、僕は患者を救う!!」

 

「……ほう」

 

 

そう宣言した途端に、痛みは消えた。永夢は小さく笑い、レバーを開く。

 

 

「──ウルトラ大変身!!」

 

『ガッチャーン!! ディメンション・アップ!!』

 

 

……その時、戦いの次元が一つ上がった。

 

 

根源(ソラ)へ願いを!! 明日へと夢を!! 理想を永久に、黄金の聖杯よ!!』

 

 

永夢が白金の光に包まれていく。全身は塗りつぶされ、本来のエグゼイドを模したような姿に変わっていく。

しかし感覚はまるで違った。纏うというよりは己を空間に溶け込ませるようで。エグゼイドはその時、ゲームエリアの全てを知覚していた。

 

 

「……ほう? それがお主の新たなる姿、と言うわけか」

 

「はい!! ……患者の運命は、僕が変える!!」

 

 

その時、空に架かった橋の上をシャドウ・ボーダーが走っていった。

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

 

空を駆けるシャドウ・ボーダー。当然妨害されない訳もなく、予め真黎斗が敷いていたプログラムによるレーザーやミサイルが、再現なくシャドウ・ボーダーに襲いかかる。

 

 

「十時方向からミサイル!! 次は右です!!」

 

「良いだろう!!」

 

「上空より障害物!! 降下してください!!」

 

「仕方がないな!!」

 

 

しかしその時こそが信勝の出番。ちびノブの力を借りて彼がナビゲートを行い、ちびノブの橋も移動させることによって、シャドウ・ボーダーは紙一重で攻撃を躱していた。

目標は全てのプログラムがあるのであろう社長室。彼らは確実に、一歩ずつ進んでいる。

 

───

 

 

 

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

「っ……!!」

 

 

斬撃が空を飛ぶ。それはゲンムに襲いかかり、吹き飛ばして、傷をつけた。パンドラタワーの壁に着地したゲンムは、塔の外壁ごと再びクロノスに飛んでいく。

 

 

「こっちがお留守だわ!!」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

 

そっちに気をとられていると判断したナーサリーがクロノスへと無数のエネルギー弾を発射した。

クロノスの両側から、攻撃の壁が迫ってくる。

 

しかしクロノスは、冷静に自分の足元に剣を突き立て、宝具を解放して地面を抉り、それらを受け止めた。

 

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!! 幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

   バリバリバリバリッ

 

「っ、防がれたわ……!!」

 

「……少しばかり想定外だ。不完全な状態では不利だとは……」

 

 

ナーサリーとゲンムが呟く。互いに、さっきまでとは比べ物にならないほど疲弊していた。

 

その時、ナーサリーの元に新たな情報が届く。

 

 

「……マスター!!」

 

「どうした」

 

「ゲンムコーポレーションに、敵襲よ!!」

 

「このタイミング……考えたな、檀黎斗神!!」

 

 

二人が視線を交えた。戦いを続けるべきか、それとも撤退するべきか。

 

……いや、今の彼らに選択肢はない。

 

 

「……逃がしませんよ、絶対にっ!!」

 

 

クロノスが二人に迫る。

そして身構えた二人を、黄金の光が飲み込んだ。

 

 

「──開け、黄金劇場!!」

 

───

 

 

 

 

 

「……ねぇ。貴方は、どう思ってるの?」

 

「……どうって……」

 

 

ニコはそう呟いた。彼女は、シータの腕に身を任せていた。

というのも、ニコと大我の現在のスピードだと、到底ゲンムコーポレーションまでつくことが出来そうにもないからだった。ラーマが大我を抱え、シータがニコを抱えることで、彼らはどうにか戦場に間に合いそうだった。置いていく選択肢はもう考えなかった。

 

 

「アンタの選択よ。アンタは、本当に向こうの黎斗を裏切って良かったの?」

 

 

抱えられたニコはシータの目を見つめる。ニコは何故か、ここまでで一度も彼女の主張を聞いていないような気がした。

 

 

「……私は、ラーマ様と一緒にいられれば」

 

「それだけじゃないでしょ!!」

 

「……」

 

 

屋根を走りながら、シータは俯く。……しかし、何も考えていなかった訳ではない。答えは既にあったのだ、声に出せなかっただけで。

ラーマと共にいたい。それは真実だ。そしてラーマはこの思いを汲んでくれていることを知っている。

でも、これだけではいけない。ニコに言及された途端に、そんな気がした。

 

 

「……言ってみなさいよ」

 

「……私は」

 

 

今日まで、胸に支えるものがあった。真黎斗の元で人々を脅かしたかつての自分にも、こうしてラーマと共に恩人を裏切った今も変わらずそれはある。きっとずっと取れないだろう。

……前を走るラーマが自分を心配して何度か振り向いていることをシータは悟っていた。

 

 

「ここで言いなさいよ。もう、言えないかもしれないんだから」

 

「……」

 

 

考える。悩む。……黎斗神に作られた、それでも確かに彼女の中にある、ラーマとの思い出が甦った。

 

そして、自分の決意を言いたいと思った。彼との思い出に酬いるべきだと思った。自分の思いを形にするべきだと、無性に思った。

 

 

「……ラーマ!!」

 

「何だ!!」

 

 

声をあげる。

ラーマが急停止する。

抱えられていた大我が苦しそうな声を上げた。ニコはそれを見てあっと顔を歪めるが、声は出さない。彼らの頭上で、一組の男女が顔を合わせていて。

 

 

「私は……」

 

「……」

 

「私は!! 最後までラーマと、正義を信じる私の大好きなラーマと戦いたい!!」

 

「シータ……!!」

 

 

そう言った。その時ようやく、シータの中で決意が形になった。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!



───計画の行方

「突撃するぞ!!」

「ここで、倒す!!」

「私達はまだ終わらない」


───真黎斗の帰還

「私の計画を……!!」

「まだ終わってはいないわ」

「諦めろ、真檀黎斗」


───究極のライダー

「私の計画は不滅だ」

「勝ってみせる」

「顕れろ──」


第六十六話 Last stardust


「究極のライダーが完成した……!!」


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第六十六話 Last stardust


アポイベ、思いきりシャドウ・ボーダーって言ってたけどいいのかな……



 

 

 

 

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「右に舵を切って!! そこから上昇を!!」

 

 

シャドウ・ボーダーがちびノブの坂を駆け上る。ゲンムコーポレーションの本社ビルは高さ156m、シャドウ・ボーダーはそのビルの廻りを周回しながら、とうとう130mの位置まで辿り着いていた。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブァッ!!」

 

「下からの追撃!! スピードを上げて下さい!!」

 

「分かっているゥ!!」

 

 

加速する。加速する。天へと昇る二つのバグスターに恐れはない。

片方は、単純にまだ残機が残っているが故。そしてもう片方は……

 

 

「……」

 

「集中を切らすな!! 次はどこからだ!!」

 

「っはいっ!! 次は上からです!! 舵を左に!!」

 

 

これが、自分の役割だと信じているからだった。

 

───

 

『マッスル化!!』

 

『伸縮化!!』

 

『分身!!』

 

 

パラドクスとアヴェンジャーの戦いは拮抗していた。素のスペックでは己を上回るアヴェンジャー相手にパラドクスは絶え間なくエナジーアイテムを使用することで追い付き、戦っていた。

現在も彼は、エナジーアイテムの力で伸びるようになった拳をアヴェンジャーへと振るっている。

 

 

「ここで、倒す!!」

 

「……」

 

 

それを、アヴェンジャーは全て紙一重で回避していた。あるものは弾き、あるものは受け流して戦う彼に傷はついていない。そしてかれは、積極的な攻撃を止めていた。

 

 

「どうした、攻撃しないのか!?」

 

『回復!!』

 

『マッスル化!!』

 

『マッスル化!!』

 

 

パラドクスが磨り減った腕に鞭打ちながら攻撃を続ける。アヴェンジャーはやはり躱すだけ。パラドクスは敵の心理が分かりかねて、ただストレスが募っていく。

腹が立った。違うと頭では分かっていたが、まるで目の前の敵を自分が一方的にいじめているような気分にすらさせられた。

 

 

「チッ……何にせよ、お前相手だと心が滾る」

 

『Kime Waza』

 

『Perfect Critical Combo!!』

 

「そうか」

 

『パーフェクト ノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

 

アヴェンジャーは迎撃の構えをしながら、やはりそう返すだけで。

 

───

 

『Noble phantasm』

 

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)

 

「まだっ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

『Noble phantasm』

 

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)

 

「まだ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

『Noble phantasm』

 

我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)……っ!!」

 

「まだ、まだ、まだっ!!」

 

 

撃ち合う。

 

 

「……君のデバッグにここまで長引かせられるとは不本意だ」

 

「でも、私達の方が強いわよ!!」

 

 

クロノスが展開した黄金劇場の内部で、クロノスとゲンム、ナーサリーはずっと戦っている。ゲームマスターである二人には黄金劇場による弱体化は意味を為さなかったが、それでもパンドラタワーからの補助は消え、クロノスの動きは力強くなっていた。

 

 

『『Noble phantasm』』

 

日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ!!)

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

……しかし、それでも限界はある。ゲンムがガシャコンカリバーから放った全力の日輪よ、死に随へ(ヴァサヴィ・シャクティ)はクロノスの約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)と拮抗し、余波だけでクロノスを吹き飛ばした。

 

むしろ、ここまで耐えていられただけクロノスは強かった。万全の状態で続けられた宝具の連続をここまで堪えた彼女は、かなり長い間ゲンムらを足止めしていたと言える。

 

 

「そろそろ私達も向こうに向かいたい。君にはここで倒れてもらおう」

 

「まだ、まだ、まだ……終われない……!!」

 

 

それでもクロノスは立ち上がった。牽制にガンド銃を放つ。

 

 

   パァンッ

 

「私は、まだ粘らないといけないんです。貴方を、倒すために!!」

 

───

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

宝具が放たれる。信長の背後に並んだ火縄銃が揃って火を吹く。

……そうして放たれた弾丸は、エグゼイドに着弾する瞬間に──消滅した。

 

エグゼイドと信長の戦い、それはもはや一方的な物となっていた。信長の遠距離攻撃はエグゼイドに辿り着く時には消滅し、近距離攻撃は反射されてしまっていた。

 

 

「……なんじゃお主、なかなかやるではないか」

 

「僕だけじゃありません。この力は……皆の力です」

 

 

仮面ライダーエグゼイド・聖杯使用態(グレイルゲーマー)

エグゼイドにしか扱えないその力は、Fate/Grand Order内での戦闘において限定的にエグゼイド自身の願いを叶えるもの。攻撃を避けたいと願うだけでそれは消滅し、攻撃を当てたいと思うだけで攻撃は相手へと向かっていく。

 

 

『ガシャコンブレイカー!!』

 

『ガシャコンソード!!』

 

『ガシャコンキースラッシャー!!』

 

 

また、イメージするだけで、彼は敵の回りにガシャコンウェポンを創造することもできた。信長の回りに現れた剣が、大地へと突き刺さっていく。

それでも信長の方も負けるつもりはなく、飛来する武器を回避しつつ弾丸を放ち続けた。

 

 

『ガシャコンマグナム!!』

 

『ガシャコンスパロー!!』

 

「はあっ!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

 

銃弾が交差する。

互いは互いに傷つかず、ひたすらに技を放ちあう。……まるで、わざと撃たせているのではないか、そうエグゼイドがふと思う程に。

 

 

「……何のつもりですか」

 

 

そしてそう思ったなら、聞かない訳にはいかない。エグゼイドは一瞬手を止める。

 

 

「さて、何の話じゃ?」

 

「どうして僕に、技を撃たせるんですか?」

 

「ふむ……なら、こう言おうかのう」

 

「……?」

 

 

そして信長はニヤリと口元を歪めて。

 

 

「お主の腕試しも十分じゃろう。というかこれ以上はわしが辛い」

 

「……それは、どういう」

 

「もう、その力の使い方は覚えたな?」

 

 

そう言いながら信長は天を仰ぐ。そこには無数のちびノブが架けた橋と、その上を走るシャドウ・ボーダーがあった。飛び回るミサイルも、レーザーも、その車を止めることは出来なかった。

 

 

「そろそろ潮時じゃ。行くぞ」

 

 

……次の瞬間、信長はその場から撤退した。同時にアヴェンジャーも、イリヤも。

 

───

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

 

走る。走る。死への旅路を、黒い車がひた走る。

 

 

「近づいてきました!!」

 

「突撃するぞ!! 全戦力を突撃させろ!!」

 

「……はい!!」

 

 

地上150m。シャドウ・ボーダーはとうとう、ゲンムコーポレーション社長室を射程に捉える。

もう出し惜しみは必要ない。信勝は全てのリソースを費やしてちびノブを召喚し、シャドウ・ボーダーの角度を調整しながら加えてシャドウ・ボーダーに先行させて社長の窓を破壊する。

 

 

「ノッブ!!」「ノッブ!!」

 

「ノノノ、ブブブ!!」

 

「ノッブァァ!!」「ノッブノッブ」

 

 

砕かれる窓、加速する車輪、風を切る車体。それらが、シャドウ・ボーダーを讃えるように音を立てて。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「……ふふっ」

 

 

そして、黎斗神はアクセルを強く強く踏み込んだ。思わず、高笑いが溢れていた。

それを見て、隣にいた信勝の口からも、つい笑みが漏れた。彼の脳裏に、作られた生前の記憶と、カルデアでの記憶と、そしてこの世界での記憶──正確には、その全てでの信長の記憶が蘇った。

 

進む。

 

進む。

 

もう防衛プログラムは無意味だ。今さらシャドウ・ボーダーは止まらない。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「は、はは……はははははははははは!!」

 

 

そしてシャドウ・ボーダーは。

 

ゲンムコーポレーションに突き刺さった。

 

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「──起爆!!」

 

   カチッ

 

 

その瞬間に信勝は衝撃に悶えながら、後部座席に積めるだけ積み込んだ爆薬を全て起爆する。

今日までかき集めた最後の爆弾。唯一ゲンムコーポレーションの支配を受けないシャドウ・ボーダーにのみ行える特攻。それは、立派に役目を果たした。

 

 

   ズドン

 

   カッ

 

 

そして彼らは、Fate/Grand Orderガシャットも、ゲンムコーポレーション内のデータも、全て、全て、吹き飛ばした。

 

───

 

 

 

 

 

 

「今度こそ終わりだ」

 

『Noble phantasm』

 

「──幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

 

その時、クロノスは……いや、マシュは、黄金劇場の片隅に転がっていた。どれだけ想定外の存在とはいえ、その利点が奇襲性能にある以上戦いが長引けば長引くほど、マシュは不利になっていく。それだけのことだった。

 

 

「っ……!!」

 

 

ゲンムのガシャコンカリバーにエネルギーが溜まっていく。そしてその刃は高々と振り上げられて。

 

そして。

 

 

 

 

 

   ザザッ

 

「──何だと?」

 

 

一つ世界にノイズが走って、宝具が中断させられた。また、黄金劇場も消え失せた。

ゲンムが辺りを見回す。パンドラタワーは既になく、墨田区の壁も消えていく最中だった。

 

 

「……やっとですか」

 

 

マシュがよろけながら立ち上がる。その姿は微妙に消え始めていて。

 

 

「マスター」

 

「ああ、向こうの私は私のプログラムの上を行ったようだ。まさかここまでとは……くっ、私の計画を……!!」

 

『ガッシューン』

 

 

ゲンムはガシャットを抜きながら顔をしかめる。目の前のナーサリーの姿は、段々と薄れ始めていた。

しかし、真黎斗とてこの程度で終わるつもりはない。まだ仕掛けは残っている。

 

 

「諦めてください、黎斗さん。もうこんなゲームは終わりにしましょう」

 

「いや……まだ終わってはいないわ」

 

「分かっている!! ……行くぞ」

 

 

二人は立っているだけのマシュに背を向けて、粒子となってかき消えた。

 

───

 

 

 

 

 

   ザザッ

 

「……上手く行ったか」

 

「貴利矢……!!」

 

 

ずっと安全地帯でCRの戦いを見つめていたポッピーと灰馬の元に、貴利矢がマルタと現れる。

 

 

「いやー良かった、やっぱ瞬間移動って楽だわ」

 

 

そう言って貴利矢は頭をかきながら、ゲンムコーポレーションを仰ぎ見る。

その建物は……半壊していた。爆弾の働きは凄まじく、ゲンムコーポレーションの上層部をまるごと吹き飛ばしていた。ビルの下部に瓦礫が転がっている。

 

 

「……で? あの半分ぶっ飛んだゲンムコーポレーションに行った神は何処だ?」

 

「ああ、黎斗なら……」

 

 

ポッピーがそう言おうとした時に、彼女の足元に土管が現れた。貴利矢は反射的にそれを蹴ろうとしてしまったが思い止まり、そこから生えてくる黎斗神を見つめる。

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「ここにいるさ、九条貴利矢。……私のライフはまた一つ減って、残り25」

 

「そうかい。随分と使ったな」

 

「私に対抗するのだから、このくらいの犠牲は許容範囲だ」

 

 

土管から下りた黎斗神はそう言い、大きく伸びをする。そんな黎斗神にポッピーは小さく笑い、そして灰馬は不安げに声をかけた。

 

 

「……アサシンは、どうだ? 彼は、生きているか?」

 

 

彼は信勝のことを心配していた。自分を助けてくれたサーヴァントの安否を。……きっと消滅しただろうということは知っている。それでも、何かの偶然で生き残っていないかと微かな期待を抱いていて。

 

 

「それは諦めろ。あの爆発では耐えられまい。しかも、私が破壊したのはプログラムの根幹だ。外部はまだ堪えているが、彼が最も最初に初期化を喰らった筈だ」

 

「……そうか」

 

 

そして、やはり諦めた。

試しに灰馬は信勝に念話を試みるが上手くいく筈もなく。本当に彼のサーヴァントも倒れてしまったようだった。

 

そして聞き逃せないワードが一つ。

 

 

「初期化……」

 

「ここまで大規模だと、かなりゆっくりのようだが。じきにあらゆるサーヴァントは消え、ゲームエリアは無かったことになり、そして失われたデータは元の位置に戻るだろう」

 

 

初期化。ゲームが破壊された以上、ゲームが書き換えていた情報は元に戻る。あくまで現実を現実のままにバグスターを解き放った仮面ライダークロニクルとは違い、現実を塗り替える上で開始したゲームであるFate/Grand Orderだからこそ可能なことだった。

破壊された建物は元に戻り、ゲーム病で消えた人々も元に戻り。

 

そして当然、全てのサーヴァントは消え去ることとなる。

 

 

「……姐さん」

 

「ま、仕方ないわよ」

 

 

貴利矢が隣を見れば、マルタの存在は大分薄れていた。彼女越しにゲンムコーポレーションのビルが見えた。マルタはやや疲れた顔をしていたが、それでも特に悔いはなさそうに見えた。

 

……透けたマルタの向こう側から、永夢と飛彩、パラドが戻ってくる。

 

 

「大丈夫でしたか!?」

 

「おう永夢!! 自分は無事だぜ!!」

 

「すまない。瓦礫の処理を行っていた」

 

 

そう言いながら彼らは互いの顔を見合せ、面子が揃っていることを確認する。欠けている人間はいなかった。そのことに安堵し、彼らは一先ずの騒動の終結を見る。

 

 

「……敵サーヴァントはどうした?」

 

「分かりません。突然何処かに逃げてしまって……」

 

「……大丈夫なの?」

 

 

永夢らと交戦していたサーヴァント達は、ゲンムコーポレーションが爆破される寸前に戦闘を離脱していた。その後の足取りは掴めていない。

そのことに永夢は引っ掛かりを覚えていたが、黎斗神の方は特に心配もしていなかった。

 

 

「問題あるまい。いずれ消滅する」

 

「そうなんだ……」

 

「……ま、そうだろうな」

 

 

貴利矢がそう呟き、何事もなさげに振り向く。

 

 

 

 

 

……その視線の先に。

 

真黎斗と、ナーサリーが立っていた。どこか、衣服は焦げているようにも見えた。

 

 

「……でも、ただでは消えてくれそうにないぜ?」

 

「貴方は……!!」

 

「真檀黎斗か……生きていたのか」

 

 

黎斗神は真黎斗を視認し、しかし警戒することはない。彼は勝利宣言だとでも言わんばかりに両手を広げ、挑発的な笑みを浮かべるのみ。

 

 

「君のゲームは私が終了させた。君の敗けだ。諦めろ、真檀黎斗……君が最後までゲームマスター、真『檀黎斗』であり続けるならば、ここが敗けの認め時だ」

 

 

……それに相対する真黎斗の方は、その勝利宣言を聞いても冷静さを欠いてはいなかった。

 

 

「……君は一つ勘違いをしている、檀黎斗神」

 

「……ほう?」

 

 

それも当然だ。

 

 

「まだ、私の隠し玉は残っている」

 

「……」

 

 

ゲームはまだ終わっていない。

 

その言葉で、黎斗神の後ろにいた人々が一斉に身構えた。次の隠し玉、それに備えて。

もうガシャットは破壊された筈だ。故に、もう地形が書き換えられることもなく、新たなサーヴァントも現れない筈だ。では、何が来る?

 

 

「……私の計画は不滅だ。私の才能は完璧だ。負けるはずがない。何としてでも勝ってみせる。それが私の、存在意義なのだから」

 

 

真黎斗が左手を伸ばし、ゲーマドライバーを装着した。そしてその左手に、ナーサリーが一つのガシャットを投げ渡す。

 

 

「ナーサリー!!」

 

「大丈夫、データ保存プログラムは起動してたわ!! システム移植は完璧よ!!」

 

「ああ、流石は私の才能だ ……最後まで、頼むぞ」

 

 

真黎斗が握ったのは一本のガシャット。それこそ、破壊されたFate/Grand Orderのデータを炎の中で移植したもの。黎斗神の計算以上に、真黎斗はガシャットの防備を固めていた、それだけの話。

そして真黎斗は右手にマイティアクションNEXTを構える。

 

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

   ガコンッ

 

『N=Ⅹ!!』

 

『Fate/Grand Order!!』

 

 

加えて彼はそのギアを傾け、同時にFate/Grand Orderを起動した。

二本が、ゲーマドライバーに突き刺さる。

 

 

「……変身……!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『それは、未来を取り戻す物語──Fate/Grand Order!!』

 

 

そして真黎斗は、その二本のガシャットで変身した。

その姿は、本来のゲンムの各部分が、燃やされたカルデアスのように紅く透き通った輝く装甲に覆われたようなもので。中身から溢れる金と合間って、ゲンムはその全身から禍々しささえ覚える赤を放っていた。

 

 

「……それが、君の隠し玉という訳か」

 

「悪趣味な金ピカよりはマシだな。ま、倒れてくれるのが一番だったんだけどな」

 

「そうだ……ゲームはまだ終わっていない。私が勝利するまでいくらでも続けてみせよう。私の世界が完成するまで!!」

 

 

黎斗神のゲンムが外敵達にそう吠えて、右腕の装甲を輝かせながらその腕で空を凪ぎ払った。それだけで空気は渦を巻き刃を産み出して、その刃がCR一同に襲い掛かる。

 

 

「っ、伏せろ!!」

 

『マイティアクションX!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『Holy grail』

 

『Taddle fantasy』

 

『Knock out fighter!!』

 

『爆走バイク!!』

 

 

それを慌てて回避しながら、ライダー達はガシャットの電源を入れた。今度こそ最終戦だ、そう己を激しながら。

 

 

「「「「「変身!!」」」」」

 

『『『『『ガッシャット!!』』』』』

 

───

 

「はあっ!!」

 

   ブンッ

 

 

真黎斗のゲンムが腕を一度振るえば、衝撃波が空間全体に広がった。触れた物は太陽すら越える熱に晒され吹き飛ばされる死の一撃。ライダー達はそれをすり抜けて攻撃を仕掛けていく。

 

 

『Knock out Critical Smash!!』

 

「はあああっ!!」

 

 

パラドクスが一気に真黎斗のゲンムに迫り、かれの溝尾にアッパーを仕掛ける。その拳は確かにその装甲を捉えて──

 

 

   ジュワァッ

 

「っ!?」

 

 

すぐにパラドクスは飛び退いた。右手が熱い。確認すると、拳を作っていたパーツが溶けていた。もう使えそうにない。

 

 

「どうなってるんだ……!!」

 

「……熱を持ってるってことだな?」

 

「それもそうだろう。あの装甲がカルデアスを模しているならば、あれを殴るのは恒星を殴ることに等しい」

 

 

黎斗神のゲンムはそう考察しながら、シャドウ・ボーダーから下ろしてあったバグヴァイザーからビームを放つ。

しかしそれも、真黎斗のゲンムの装甲の熱が打ち消した。どこからともなく、舌打ちが聞こえた。

 

───

 

戦い始めて一時間もしないうちに、ライダー達はくたびれていた。パラドクスはパズルゲーマーに切り替えて戦闘を続けたが上手くいかず、レーザーターボは徒手空拳では打つ手がなく、マルタも光弾が届かず、ゲンムにも打つ手がなく、ブレイブも近づけない。

 

そんな中、エグゼイドだけは真黎斗のゲンムと戦えていた。

 

 

「はあっ!!」

 

『ガシャコンブレイカー!!』

 

 

聖杯のブーストで熱を誤魔化しながらエグゼイドは剣を振るう。相手がFate/Grand Orderガシャットを使っているからこそ、それ由来の聖杯を纏ったエグゼイドは最高のスペックを誇っていられた。

 

降り注ぐ剣をゲンムが吹き飛ばし、飛来する衝撃波をエグゼイドが打ち砕く。このゲームエリアでまともに立っているのは二人だけだった。

 

そう、二人だけ。

 

 

「……待て。あいつ、何してるんだ?」

 

 

ナーサリーも、立っていなかった。

彼女は真黎斗のゲンムの後方に腹這いになって、一心にパソコンに何かを打ち込んでいた。何かの作業をしているのは確実だった。

 

しかしそれに気づいたのが遅すぎた。

 

 

「……ついに、ついに完成したわ、究極のライダー……!!」

 

 

パソコンに向けて仕上げを行い続けていたナーサリーが、エンターキーを強く強く押し潰す。

その瞬間に真黎斗のゲンムの足元に魔方陣が発生して、エグゼイドすらも吹き飛ばした。

 

ゲンムはそれを見て、すぐに言葉を紡ぐ。まるでこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、その声色は明るくて。

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖こそは私、真檀黎斗」

 

「その呪文は……」

 

 

エグゼイドは思わずそう呟いた。

彼はその呪文を知っている。その意味を、かつて黎斗神より教えられた。そして彼自身も、無意識のうちに唱えたことがある。

サーヴァントを召喚する呪文。

 

 

「 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

真黎斗のゲンムのすぐ前の魔方陣が光り輝く。影の問題なのか、サーヴァント召喚の魔方陣、そこからは黒が染み出しているようにすら見えた。

 

 

「……しかし今更、一体のみの召喚だと?」

 

 

黎斗神のゲンムが思わず漏らす。

今更、ここで一体を加えたところで何になるだろう。いや、今の状況なら一体でも増えられると邪魔だが、Fate/Grand Orderが使われている現在サーヴァントに対してはエグゼイドが有利を取れる筈なのに。それなのにどうして、今サーヴァントを呼んだ?

 

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「続けさせるな!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

       

衝撃波が来ないと見て立ち上がったブレイブが魔方陣を切り裂かんと剣を振るう。……しかしガシャコンソードから放たれた斬撃は、魔方陣に触れた瞬間に腐食して掻き消えた。

 

 

「っ、これは……」

 

「告げる。汝の身は病、その命運は私の元に。 我が望みに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

真黎斗の呼び出すサーヴァント、その特異性。

 

 

 「誓いを此処に。我は常世総ての神と成る者、我は常世総ての死を殺す者。汝我が産みし病める騎兵、ガシャットより来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 

それが何かは、すぐに分かることとなる。

 

 

「顕れろ──」

 

 

……その魔方陣から。()()は現れた。

黒い泥。そう思わせるフォルムだった。それは魔方陣を伝って現実に這い出し、空間全てを侵食していくような怪物。

 

 

「あれは……」

 

「欠けていたゲンムのサーヴァント、その最後の一体という訳か」

 

 

CRの面子は、もうそれを眺めることしか出来ない。そのサーヴァントから溢れ出る障気は、近づくことさえ許さない。

 

 

「サーヴァント、ライダー……病める騎兵……」

 

「いや、あれは寧ろ、病その物……!!」

 

「つまり……」

 

 

その真名は。名付けるならば。

有史以前より人々を蝕み畏怖を集めた、風に、水に、鳥に、人に乗ってきた存在。もっとも多くの人間を殺した存在。医者の敵である存在。

 

病そのもの。

 

 

「ペイルライダー……!!」





次回、仮面ライダーゲンム!!



───ペイルライダーの脅威

「まさか……」

「合体した、だと?」

「最強のライダーよ」


───蹂躙と抵抗

「まだだ、まだだ!!」

「貴方をここで討つ!!」

「余は貴様を倒さねばならない!!」


───訪れるのは、敗北?

「君はもう用済みだ」

「駄目だったのか……?」

「無駄な足掻きを……」


第六十七話 きらめく涙は星に


「いいえ。彼らの戦いは、決して無駄ではありませんでした」


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第六十七話 きらめく涙は星に

万丈ォ!! 逃げルルォ!!



 

 

 

 

「ペイルライダー……!!」

 

 

その姿は黒い泥のようだった。顔はなく、三つの大きな裂け目のような物が、頭を思わせる凸部にあるのみ。

しかもその全身からは黒々としたオーラが溢れていた。それは空気に進出していき、溶けていく。

 

 

「っ、まさか……!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

 

咄嗟にブレイブが激しい炎を纏わせたガシャコンソードを大地に突き立て、ペイルライダーと後方の生身の人々を遮断した。

 

 

「何やってるの飛彩!?」

 

「早く下がれ!! 危険だ!!」

 

 

ブレイブはそう言いながら何もない空気を斬り続ける。黎斗神のゲンムやレーザーターボはそれに首を傾げていたが、すぐに灰馬はブレイブの目的を悟った。

 

 

「まさか……あれはっ!!」

 

「その通りだ。流石はドクター、気づいたか」

 

 

真黎斗のゲンムはそれを見て笑い、ペイルライダーに並び立つ。悠々と堂々と歩く彼は、ペイルライダーの障気を浴びても何ともないようだった。

 

 

「今このライダーが放っているのは、再現した肺ペストの菌だ。仮面ライダーならば浄化機能が備わっているが、生身で吸えばゲームオーバーは免れない」

 

「そして、ペスト菌は熱に弱い、そういうことだ!!」

 

『タドル クリティカル スラッシュ!!』

 

 

ブレイブは叫び、更に空気を加熱する。それと同時に、彼は少しずつ後退りを開始した。相手を睨みながら、しかし後ろにも気を配りながら。彼の視線の先には、ゲンムとそしてエグゼイドがいた。

 

 

「監察医、他の奴等も、ここから離れろ。俺が滅菌を担当する。……この戦いには俺達はついていけない。あいつに任せるぞ」

 

「……仕方ないか。退くぞ皆!!」

 

 

他の面子も自分達の出る幕はないと察して、真黎斗のゲンムから逃亡する。向こうのゲンムの放つ衝撃波に当てられないように屈んでいるため、移動はとても遅かった。

 

 

「その選択は正解だ。……しかし、私はそれを許さない」

 

 

……だから、間に合わない。

黎斗がそう言うのと共に、CRの人々の前に黒い線が走り、そこから立ち上った煙が壁を作り出す。きっとあれも病だろう、突破は出来そうにない。

 

 

「瞬間移動は……チッ、出来ないか。姐さん、抜けられるか?」

 

「無理ね。抜けることは出来るだろうけど、感染して即死よ」

 

 

マルタはそう呟き、レーザーターボは頭を抱える。

見回しても、自分達の進行方向は全て病で塞がれていた。壁は真黎斗の側にはなかったが、どちらにしろそちらには向かえない。

 

 

「エナジーアイテムなら使えるか?」

 

「それも不可能だろう。そもそも感染したら死が確定する病だ、体力を回復させても一時しのぎにもならん」

 

「……そうか。そうだろうな」

 

 

パラドクスもそこで自力での脱出を諦める。彼はすぐに辺りを見回し、一先ずは壁からも真黎斗からもやや遠くにある障害物を捜して、適当なビルの影に飛び込んだ。

 

 

「一先ずは離れるぞ。出られないとしても、永夢の足を引っ張るわけにはいかない」

 

「それもそうだね」

 

「仕方がないか……!!」

 

 

それに続いて、他の人々も滑り込む。幸い、生身の灰馬やポッピーが感染している気配はなかった。

 

そして、広い場所にはゲンムとエグゼイドのみが残される。ナーサリーは隅に控えていた。

 

 

「さて……あとは君だけか、宝生永夢」

 

「……」

 

「君のそのガシャットは、私の想定を超えたものだ。聖杯の機能を攻撃だけに集中させることで、君は戦闘においてあらゆるサーヴァントへの優位を得た。ペイルライダーの攻撃は君には届かず、君が全力でペイルライダーを殴ったならこのサーヴァントは霧散するだろう」

 

 

真黎斗のゲンムは、唐突にそう言い始めた。元から分かっていたこととはいえ、そう態々弱点をバラすその行いに、エグゼイドは脳内で首を傾げる。しかし彼はそれを態度にはおくびにも出さず、ハンマーにしたガシャコンブレイカーをその手に取った。

 

 

「だから──」

 

「このゲームを終わらせる」

 

『キメワザ!!』

 

 

エグゼイドはドライバーのレバーを一旦戻し、キメワザの体勢に入る。

刹那、エグゼイドの背後に孔が開いた。ガシャットの輝きとは正反対に黒々とした孔の向こう側には魔力の嵐が吹いていて。

そしてエグゼイドがその穴へとガシャコンブレイカーを投げ込む。

 

 

「お前を倒せば、ゲームクリアだ!!」

 

『Grail Critical Hole!!』

 

 

そして、彼はキメワザを発動した。

 

エグゼイドの背後の孔が消え、ゲンムの周囲にその孔が開く。

 

そしてその孔の向こう側から、光にも迫るような勢いでガシャコンブレイカーが落ちてきた。

それはまずゲンムの肩を抉り、地面の孔に飲み込まれ、また別の孔から空へと落ちてその間にゲンムの腕を攻撃し、また別の孔からゲンムの胴体を殴り付ける。

 

 

   ガン ガン ガン

 

「っ……」

 

   ガン ガン ガン ガン ガン ガンガン

 

「……なるほど、加速しているのか」

 

 

ゲンムは囚われた。こんな攻撃は彼は予測しておらず、一気にガシャコンブレイカーはゲンムのライフゲージを削っていく。

そしてエグゼイドが飛び上がった。

 

 

「──はあっ!!」

 

 

手を伸ばせば、ゲンムから軌道を逸らして飛んできたガシャコンブレイカーがエグゼイドこ手に収まる。

そしてそれをキャッチしたエグゼイドが、ハンマーを、ゲンムに、降り下ろした。

 

 

「はあああああああああッ!!」

 

   ズドンッ

 

 

砂煙が巻き起こる。地面が陥没するのをエグゼイドは足裏で感じた。張り詰めた空気が頭を揺らす。

 

視界が晴れて。

 

 

 

 

 

砕けていたのは、割り込んできたペイルライダーだった。

 

 

「っ……失敗した!!」

 

『ジャッキーン!!』

 

『ガシャコン ソード!!』

 

 

エグゼイドはガシャコンブレイカーの刀身を展開しながらガシャコンソードを呼び出そうとするが、宙に現れたガシャコンソードはペイルライダーの破片の一つに取り込まれていく。

 

ペイルライダーの破片は、散らばったというより、むしろ漂っているようだった。元が病という概念だからなのか、砕かれても何ともないらしい。

……しかも、破片はゲンムのカルデアスのような装甲に吸い込まれていく。

 

 

「……まさか、そんな」

 

「……ありがとう、宝生永夢。最終段階が完了した」

 

「サーヴァントとまで合体した、だって?」

 

 

ペイルライダーの破片を、エグゼイドのガシャコンソードごと飲み込んだゲンムの装甲は、次の瞬間に深紅から血溜まりを彷彿とさせる黒い赤に変色した。同時にゲンム自体のベースカラーも金の輝きを残すままに黒い赤に変色する。

 

 

「Fate/Grand Order。ハイパームテキ。マイティアクションNEXT。Holy grail。ペイルライダー。……必要な物は全て揃った」

 

 

一瞬、ゲンムの姿にノイズが走る。

 

 

「君達との戦いも計算の内。私の成長の為の試算に過ぎないのさ」

 

 

ゆらりと立つ姿は、ゾンビよりも、むしろ「獣」が相応しい。

 

 

「さあ、続けようじゃないか。私が勝利するその瞬間まで、何時までも、何時までも」

 

「……」

 

「ハハ、今の私こそが最高だ。この力もこの意思もこの昂りも、私は何よりも勝っている!!」

 

 

いや。もうこれは、ゲンムではない。

ゲンムであることを捨てた、もっと別のバグスターであり、怪物。

 

 

「最早、仮面ライダーゲンムの名は相応しくあるまい。私こそは……私こそはこの世に生まれ落ちた最新の人類悪、世界を書き換えるもの、ビーストⅩだ……!! ハーハハハハハ!! ハーハハハハハハハ!!」

 

 

それこそは最新の人類悪。欲望と共に目標へと進み続ける『進化』の人類悪。

 

ビーストⅩ、真檀黎斗。

 

 

「ビースト、Ⅹ……」

 

「さあ……ゲームの命運は、私が決める……!!」

 

───

 

「はあっ、はあっ……」

 

 

マシュは走っていた。Fate/Grand Orderガシャットの消滅と復活によって大きく揺さぶられた霊核に走る痛みを堪えながら走っていた。

揺らぐ視界。ふらつく足元。咳をしてみれば血が地面に散らばる。それでもマシュは走った。

 

 

「早く、早く……!!」

 

 

 

 

 

「そんなに急いで、どこまで行くんじゃ?」

 

「っ!!」

 

 

咄嗟に上を見上げた。

近くのコンクリート塀の上に、信長が呑気そうに座っていた。いや、なりふりは呑気そうだったが、その服はかなり汚れていた。

 

 

「今、黎斗さんはどうしていますかっ!?」

 

「まあ落ち着け。あやつか? あやつなら、CRの仮面ライダーと戦っておるぞ」

 

「やっぱり……!!」

 

 

マシュの気持ちは逸るばかり。彼女はまた走り出そうとした。一刻も早く、追い付かなければ。

クロノスに変身できれば楽だったのだが、それもさっぱり出来なかった。どうやら疲れすぎているらしい。また、瞬間移動は封じられていた。きっとFate/Grand Orderが再起動したためだろう。

 

 

「全く、落ち着けと言っておるじゃろうに」

 

 

信長は塀から飛び降りて、そんなマシュの首根っこを掴む。そして、無理矢理地面に座らせた。

 

 

「っ、何するんですか!!」

 

「その体で、わざわざ足を引っ張りに行くのかお主は。どっちの味方なのか分からんのう」

 

「うっ……でも」

 

 

俯くマシュ。信長はそんなマシュの頭をくしゃっと撫でた。

 

 

「だから、わしらが手を貸してやる」

 

「……え?」

 

「アヴェンジャー、出番だぞ?」

 

 

信長がそう声を上げた。その瞬間に信長の背後に見覚えのある影が二つ現れる。……まるで、最初からそこにいたかのように。

 

 

「……そうか」

 

「……また、会えましたね」

 

「アヴェンジャーさん、それに、イリヤさん……!!」

 

 

アヴェンジャーとイリヤ。ゲンムの味方だった者と、ゲンムの敵になることを選んだ者。その二者が、並んで立っていた。マシュは思わず身構え、しかしすぐに警戒を解く。イリヤは笑っていた。

そしてアヴェンジャーは静かにマシュに歩みより、無言で彼女に外套を被せる。

 

 

「……待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

 

 

マシュの体力が回復していく。微妙に生暖かい布に包まれながら、マシュはどこか安心していた。何故アヴェンジャーが真黎斗から離れたのかは分からないが、それでもどこか、自分の歩みが肯定されたようなそんな心持ちがした。

外套が離れていく。

 

 

「何も言わずに回復だけってのも無いじゃろ、お主。何か言ってみたらどうじゃ?」

 

「うん。私も、何か言った方がいいと思う」

 

「……」

 

 

再び外套を羽織るアヴェンジャー。そんな彼に他の二人は声をかけた。

アヴェンジャーは一つ溜め息をして、マシュの目を見る。

 

 

「オレは……始めは、檀黎斗の戦いをただ見守ろうと、そう思ってきた。復讐すべき悪である檀黎斗がどう歩むのか、それを静かに観察するつもりでいた」

 

「今は、違うんですね?」

 

「ああ……檀黎斗は」

 

 

彼はそこで口ごもった。それを見かねたのか、信長が彼の言葉を引き継ぐ。

 

 

「あやつは、アヴェンジャーの地雷を踏みまくった、それだけじゃ」

 

「地雷……」

 

───

──

 

『のう、お主』

 

『……何だ』

 

『何故、黎斗に従っておるのじゃ?』

 

 

とても昔のようで、その実数日前の話。

 

 

『……オレは、奴の恩讐を見届ける』

 

『そうか』

 

『……なら、一つ質問じゃ』

 

 

アヴェンジャーを動かしたのは、一つの言葉だった。

 

 

『奴の目的は世界を変えることじゃ。そんなにスケールの大きな話ともなれば、一人一人に視線など向くまい』

 

『……そうだろうな』

 

『そうじゃ。故に誰もが同一であり、お主自身も何てことはない一つのデータに過ぎん』

 

『まあ、そうだろう』

 

『お主は知っておるじゃろうが、恩讐は「情け」と「怨み」を掛け合わせた言葉じゃ。奴はあまねく全ての人々にそれを振り撒く』

 

『……何が言いたい』

 

『 ……お主の動きもまた、奴の恩讐を形成するふぁくたーだ、ということじゃ。お主だけ我慢していたら、それは真のあやつの末路ではない』

 

 

……つまり。

 

信長は、アヴェンジャーも好きに動けばいいと言っていた。それがお前の望んでいる真檀黎斗の恩讐の果てだ、と。

 

そして、その意見に彼は乗った。

 

──

───

 

「それだけだ」

 

「……そう、ですか」

 

 

納得できたような。分かりかねるような。マシュは曖昧な返事しか出来なかった。

彼女は結局、人間の人間らしい思考というものを完全に理解は出来ていない。きっと、最期まで出来ないだろう。

 

前からそうだった。今日まで多くのサーヴァント、多くの命と関わってきたが、誇りを持って死を選んだサーヴァントの考えも、エゴではなくひたすら誰かの為にあろうとする医者の考えも、きっと自分は完全には理解できない。

それを思うと悲しくなる。

 

 

「面を上げよ」

 

「……」

 

 

マシュは信長に指摘されて初めて自分が俯いていることに気がつき、顔を上げた。

その眼前に、何か物体が飛んできていた。彼女は目を見開いて慌ててそれを掴む。

 

 

「サービスじゃ。それもくれてやる」

 

「これは……!!」

 

 

それは、かつてマシュの元から失われたガシャットギアデュアルB(ブリテン)とガシャコンバグヴァイザーL・D・V。その、Fate/Grand Orderから複製されたレプリカだった。

 

 

「お主の旅の結晶、ここで返す。あの旅でお主が悩み、苦しみ、足掻いた結晶じゃ。……ここでもやはり足掻いたお主ならば、もう迷うこともあるまい? もうクロノスも、鎧武も、お主には似合わんじゃろ?」

 

「……ありがとうございます!!」

 

 

気付いたら、ガシャットを抱き締めていた。見上げれば信長は笑っていた。隣ではアヴェンジャーが無言で立っていて、イリヤは口を挟まずとも微笑んでいた。

 

 

「笑え、マシュ。わしはお主の笑顔が見たい。……あの旅の最中では、中々見れなかったからな」

 

「……笑顔」

 

「お主は人にはなれんじゃろう。しかし、人ではなくとも、マシュ・キリエライトになることは出来る。だから、前を向いて立て」

 

 

信長がマシュに手を差し伸べた。もう地面に座っているべき時は、終わったようだった。

 

 

「どうして……こんなに、助けてくれたんですか?」

 

 

疑問に思った。自分が恵まれ過ぎているのではないかという偏屈な心の現れだったのかもしれなかった。

しかしアヴェンジャーは、マシュの想定した答えの上を行く。

 

 

「お前は、オレ達にとって……オレや信長だけではなく、お前の中のサーヴァント達にとっても、都合のよい存在だ。Fate/Grand Orderに存在する、あらゆるデータがついぞ果たせなかった復讐をお前が一心に肩代わりしている」

 

「復讐、ですか」

 

「身勝手に作られたデータ。身勝手に作られた人生。身勝手に操られ身勝手に消えていく全て。その中での足掻きを、お前が拾い上げる。Fate/Grand Orderの中の世界を、お前が終わらせることで、救うことが出来る。そして、この世界を守ることが出来る」

 

 

檀黎斗を打倒する。この世界を救う。そう思いながらマシュは歩いてきた。ひたすらに歩いてきた。……しかし、それを肯定されると何処かこそばゆかった。

復讐。

確かに、自分がしていることは復讐の面もあるだろう。マシュはそれを否定しない。

 

 

「オレ達は、お前の復讐を認めよう。信長も言っていたが……もう、するべきことは見えている筈だろう?」

 

「……はい!!」

 

 

全部受け入れて、前に進む。

そう決めていた。

 

 

「……行って下さい。私達は、まだ行けませんけど、応援しています」

 

───

 

 

 

 

 

「ハーハハハハ!! ブェアーハハハハハ!!」

 

「まだだ、まだだ!!」

 

『ガシャコンキースラッシャー!!』

 

「諦めろ宝生永夢ゥ!! 私は、神だァああァアアあっ!!」

 

『ガシャコンキースラッシャー!!』

 

 

その戦いは、激化の一途を辿っていた。エグゼイドが生成したガシャコンソードを取り込まれたことでビーストも聖杯の力を一分手にいれたらしく、ビーストもまたガシャコンウェポンを召喚することが容易だった。

 

 

「っ……」

 

「あいつ、さっきよりさらにヤバくなってやがる!! やかましさだけじゃねえ、強さもだ!!」

 

 

既にレーザーターボがそう呻いた。彼らは近くのビルの裏に身を隠していた筈なのだが、そのビルも真黎斗のゲンム……いや、ビーストⅩの熱で半壊していたし、徐々に迫ってきた空間を侵食する病魔からも身を守らなければならなかった。

 

そして彼は、エグゼイドとビーストの戦いを覗き見ていた。さっきまではどうにかビーストと互角に見えなくもなかったエグゼイドは、今となっては押されっぱなしだった。

 

 

「強すぎる……!!」

 

「君では力不足ということだ。私の才能には敵わない!!」

 

 

エグゼイドが膝をつく。ビーストはまた高笑いをして、そんなエグゼイドを蹴り飛ばした。そしてまた武器を持ち、あえていたぶるようにエグゼイドを攻撃して。それをひたすらに続けていた。

 

 

 

 

 

「危ないマスター!!」

 

 

しかし、そこに救援が現れる。

 

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)っ!!」

 

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)!!」

 

『バンバン クリティカル ファイヤー!!』

 

『ファイヤー リミットブレイク!!』

 

「「「「はあああああっ!!」」」」

 

「──っ!?」

 

   ガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 

不意にビーストの背後から現れた四つの戦士が、同時にビーストを死角から襲った。回転する刃と高速の矢、そして巨大な火球が、大量のミサイルを伴ってビーストの背中へと降り注ぐ。

 

辺りが熱と爆炎で覆われそして、彼らは着地した。

 

 

「……待たせたな」

 

「仮面ライダーニコ!! ……じゃなくてフォーゼ!! 参上!!」

 

「大我さん!? それに、ニコちゃん!?」

 

「正気か!? 体は大丈夫なのか!?」

 

 

その内の二人は、スナイプとフォーゼ。激痛に堪えながらも変身した二人は、一度の奇襲に全力を込めてビーストを撃ち、既に満身創痍だった。それでも彼らは何時でも戦えると言わんばかりに胸を張る。

 

彼らは爆炎の向こう側に目をやった。

 

 

「ふぅ……間に合ったわ」

 

「よくやったナーサリー・ライム。いい仕事をした」

 

 

……どうやら、控えていたナーサリーが変身して、攻撃を自分の展開したエネルギー弾の壁で打ち消そうとしたらしかった。ナーサリー自身の体にはかなりのダメージを与えられたが、ビーストは無傷。

 

 

「チッ」

 

「あー……そう簡単にはいかないか」

 

 

スナイプはそれを見て舌打ちし、フォーゼは肩を落としながらも警戒を怠らずにヒーハックガンを構えていて。

そして後の二人は。

 

 

「君達は……何のつもりだ?」

 

「すまない、マスター。余は貴方にしてもらったことを忘れない。しかし……余は、貴方がした過ちを見過ごすことが出来ないのだ!! だから!! 余は……貴様を倒さねばならない!!」

 

 

元ゲンムのカップル、ラーマとシータ。二人はビーストを見つめて、その武器を向けていた。

ビーストは彼らを見比べて、一つ問う。

 

 

「君達を生み出したのはこの私だ。君達の生殺与奪の権利は、全て私が握っている。それは分かるだろう?」

 

「……それでもだ!! それでも、余は貴様には従えない!!」

 

「私も!! ラーマと一緒に、戦う!!」

 

 

しかし二人の意思は固いようだった。その声を聞き届けてからビーストはそれに呆れるように首を振り、ドライバーからFate/Grand Orderを引き抜く。

そしてそれを、キメワザスロットに装填した。

 

 

「なら……君達はもう用済みだ。……試運転だ、必殺技で消してやろう。己のミスを抱いて消えるがいい」

 

『キメワザ!!』

 

 

ビーストの全身の赤黒いカルデアスが、一瞬だけ深紅に光った。その光を浴びただけで、ラーマとシータの足に電撃が走る。

 

 

「──っ」

 

「これは……!!」

 

「君達が愚かだったということだ。ゲームマスターに駒が逆らえば、抵抗など無意味」

 

 

ラーマは、下半身が硬直していた。動かそうとしても電気が走って、逃亡を許さない。当然のように、シータも同じ状況だった。

 

ビーストの左足部分のカルデアス装甲にエネルギーが収束し、真っ赤なカルデアのマークが足元の大地に投影される。

 

 

『Fate/Critical Strike!!』

 

「終わりだ」

 

「全部をこの一撃に懸ける!! 羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)……!!」

 

 

そしてビーストは飛び上がった。ラーマはそれに合わせて宝具を発動し、ビーストへと刃を飛ばす。

しかしその剣は、ビーストの体に当たる前に墜落してしまった。彼に、見えているサーヴァントの攻撃は当てられない。

 

もうビーストは止められない。彼の足が、ラーマとシータへと進んでいく。

ラーマは痛みに歯を食い縛りながら、せめてとばかりにシータをその身で庇った。

 

 

 

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)っ!!」

 

 

刹那、宝具を使用して加速したマシュが、全身でビーストにタックルをしかけて撥ね飛ばした。全く予想外の方向からの体当たりにビーストは吹き飛ばされ、近くのビルに叩き付けられる。

 

 

「……間に合いました……!!」

 

「マシュ……!!」

 

「来てくれたんですか!!」

 

 

そして着地したマシュは辺りを見回した。見覚えのある面子が揃っているその世界に、ビーストとナーサリー以外の敵はいないのだと彼女はすぐに悟る。

そして彼女は、ビルの裏に隠れていたポッピーを見つけて、彼女に歩みより、バグヴァイザーⅡを差し出した。

 

 

「……これは、貴方に返します」

 

「え……?」

 

 

ポッピーはマシュの顔を見る。マシュは努めて満面の笑顔を作り、それをポッピーに押し付けた。また彼女は振り返って、スナイプへと仮面ライダークロニクルを投げ渡す。

 

 

「お前……」

 

「お借りしていましたけれど、もう、大丈夫です。ここまで戦えたのは貴女達のお陰でした。……ありがとう」

 

「そんな……」

 

 

マシュは一つ、深々と例をした。そして顔を上げ、ビーストが叩きつけられたビルを見る。

もうビーストは立ち上がって、マシュだけを見つめていた。

 

 

「私は、貴女達の信念を理解することは出来ません。でも、それでも、貴女達と戦わせてください」

 

『ガッチョーン』

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

「私を支えてくれた全ての人と一緒に、貴方をここで討つ!!」

 

 

マシュはビーストを睨み返して、バグヴァイザーを装着しガシャットを起動する。そして、久々にそのガシャットを、そのバグヴァイザーに挿入した。

 

マシュ・キリエライトは、変身する。

 

 

「……変身!!」

 

『マザルアァップ』

 

『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征くブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

仮面ライダーシールダー。守護者でありカルデアのサーヴァント、ビーストのキメラにして一つの意思を持つ存在。ビーストⅩを打倒する者。

二本の剣を携えたそれはパラドクスの助けでどうにか回復したエグゼイドと並び立ち、ビーストⅩと相対する。

 

 

「全く、無駄な足掻きを……」

 

 

それに対して、ビーストⅩは全身から障気を振り撒きながら拳を握った。

両者は、同時に大地を蹴る。

 

───

 

 

 

 

 

「さてアヴェンジャー。どちらが勝つと思う?」

 

「あくまで客観的に評価するのなら、まあオレは真檀黎斗の肩を持つだろうな」

 

「そんな……」

 

 

ビーストⅩとナーサリー、エグゼイドとシールダーの戦いを、信長とアヴェンジャーとイリヤは崩れ落ちたゲンムコーポレーションの上で眺めていた。

 

エグゼイドとシールダーはビーストへと剣を振り、ビーストはそれを弾き、ナーサリーは援護射撃を行っていた。

 

 

「あれでも勝てないんですか……?」

 

「確かにCR側の勝利フラグはビンビンに立っておるがのう。無理なのか?」

 

「恐らくな。シールダーはFate/Grand Orderが認識できない唯一の存在だ。だからあの檀黎斗と交戦していられる。だが、単純に馬力が足りない」

 

「そんな……」

 

「エグゼイドはさっきまでならどうにかなっていたが、もう完全に力不足ということだろう。あれでは、二人纏めてかかっても全力の黎斗には敵わない。さらに言うなら、ナーサリーが集中を散らしているのも地味に厄介だ」

 

「……全力、か?」

 

「ああ」

 

 

アヴェンジャーはそう推測する。出来ればイリヤはそれを信じたくなかったが、それの信憑性は高いのだと彼女は知っていた。

 

眼下で、シールダーが吹き飛ばされる。

 

───

 

「しゃがんでマスター!!」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

「っ……!!」

 

 

ビーストと斬りあっていたシールダーは、後ろからのナーサリーの攻撃を回避しきれない。彼女は攻撃をもろに食らって吹き飛ばされた。

 

もうそれは三回目だった。勢いよく戦いには挑んだものの、シールダーの剣はビーストには届かない。

 

 

「っ……まだ、まだまだ!!」

 

『Noble phantasm』

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

シールダーはそれでも立ち上がり、太陽の焔を纏わせた刃をゲンムへと飛ばす。しかしその一撃は、ゲンムが思いきり腕を凪いで起こした衝撃波に打ち消されて。

 

 

「はぁ、はぁ……君達はここまで、私に全力を出させるとはな」

 

「っ……」

 

「……しかし、ここまでだ」

 

「いいや!! まだ終わってません!!」

 

『ガシャコンキースラッシャー!!』

 

『Grail Critical Hole!!』

 

 

エグゼイドが叫びながらキメワザを発動し、ビーストの周囲に孔を産み出す。しかし今度はエグゼイドが投げたキースラッシャーがビーストへと襲い掛かることはなく、孔の方向が曲げられてエグゼイドへとキースラッシャーが飛んでいくことになった。

当然エグゼイドは避けられず、また遠くまで吹き飛ばされる。

 

 

「ぐああっ……!!」

 

「二度も同じ手は神に通じない!! ハーハハハ!! ブェアーハハハ!!」

 

「くっ……!!」

 

 

シールダーは肩の砲台からビーストへと砲弾を放ってみたが、それも片手で受け止められた。

そしてビーストはシールダーの眼前に瞬間移動して彼女の顔を蹴り飛ばし、地面に転がった彼女の頭を踏みつけた。

 

 

   ゲシッ

 

「っあ……!!」

 

「それも無意味、あれも無意味、全て君達は私に敵わない!! 確かに私の全力を引き出したことは評価できるがそれまでだァ!! 君達の戦いは全て全て、無駄に終わると言うことさァ!! ハーハハハハハ!! ブェアーハハハハハハ!! ハーハハハハハハハ!!」

 

 

高笑いだけがこだまする。シールダーの揺さぶられた脳の中に、久々に諦観が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ、彼らの戦いは、決して無駄ではありませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その、声は」

 

 

その声で、シールダーは消えかけていた意識を取り戻す。

何か、忘れてはいけない声が聞こえた気がした。

 

 

「君は……」

 

 

ビーストは足を離して、声の方を振り向く。どういうわけか、金色の魔方陣が後方に並んでいた。

 

……ビーストⅩは、己の全ての力を戦闘に回していた。ビーストに立ち向かうライダー達は、そんなビーストと交戦し、持ちこたえ続けていた。ビーストⅩの意識を、戦いに集中させ続けた。

 

それが一つの、必然(奇跡)を引き起こす。

 

 

「あれは……サーヴァントか?」

 

「七騎の追加かよ……!!」

 

「いいえ、あれは、敵じゃありません……!!」

 

 

現実と虚構の混じりあった世界。ビーストⅩ(真檀黎斗)ビーストのキメラ(マシュ・キリエライト)の対峙する空間。

それが、抑止力に見咎められない訳がない。

 

 

「あれは……!!」

 

 

元々真黎斗のリソースを一部使うことで制止させていた抑止力は既に解き放たれた。安全装置は己の中身を分析し、ビーストを終了させる為の存在を、()()()()()()()()()()()()()()を作り出す。

 

 

「彼らは人類を救う戦いを、今日まで戦い抜いたのですから」

 

 

黄金の髪に蒼い鎧の騎士。仮初めのグランドセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。

 

 

「酔狂とは言うまい。我が手を出すに足る事態よ」

 

 

黄金の鎧を纏った英雄王。仮初めのグランドアーチャー、ギルガメッシュ。

 

 

「その行いは、ローマである」

 

 

赤いマントを羽織った神祖。仮初めのグランドランサー、ロムルス。

 

 

「幽谷の淵より死を届けに参った」

 

 

黒に身を包んだ暗殺者。仮初めのグランドアサシン、山の翁。

 

 

「褒美をやろう。ファラオの神威を見るがいい」

 

 

白いマントをはためかせる太陽王。仮初めのグランドライダー、オジマンディアス。

 

 

「病を捕捉しました。治療を始めましょう」

 

 

赤い服を纏った看護婦。仮初めのグランドバーサーカー、ナイチンゲール。

 

 

「……お疲れさま、マシュ。よく頑張ったね」

 

 

そして、白衣に身を窶して全てを見守ってきた、魔術王。仮初めのグランドキャスター、ソロモン(ロマニ・アーキマン)

 

 

「……君達も、私に逆らうのか?」

 

 

ビーストⅩが、静かにグランドサーヴァント達に問う。どこか怒りを湛えているような声だった。

その問いに、ナイチンゲールが返した。

 

 

「貴方は病です。彼ら(医者)の敵にして私達(看護婦)の敵。切除しない理由が、何処にあるでしょうか」

 

「ナイチンゲールさん……!!」

 

「また会えましたね、マスター。言ったでしょう? 『貴方がドクターである限り、私は側にいます』と……さあ、立って。緊急治療の時間です」




次回、仮面ライダーゲンム!!



───グランドサーヴァント

「何故拘束出来ない!!」

「その力は貴様が与えた物だろう?」

「全部貴方が蒔いた種だ」


───マシュとの会話

「私は、堕落したでしょうか」

「首を出せ」

「僕は君を誇りに思う」


───CRの動き

「私が二度も同じ手を食うと思うか?」

「でもあいつは装備を融かしてくるんだぜ?」

「私は神だ!!」


第六十八話 満天


「貴女の強さを信じている」


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第六十八話 満天

アポイべのヴラドおじさんの言葉が心に響きすぎてしんどい
ところでCMのマシュ何だったん?



 

 

 

 

並び立つ七騎のグランドサーヴァント、そしてエグゼイドとシールダー。ビーストとナーサリーはその二つに挟まれる形となって立っていた。

 

グランドセイバーは剣を構えた。グランドアーチャーは倉を開いた。グランドランサーは槍を向けた。グランドアサシンは剣を大地に突き立てた。グランドライダーは杖を向けた。グランドバーサーカーはピストルを構えた。そしてグランドキャスターは手をビーストに向ける。

ビーストは一つ舌打ちした。

 

 

「君達は本当に物分かりが悪い……私に、制作者に逆らうことなど出来ない!!」

 

 

彼はそう叫ぶ。ラーマとシータにしたように、彼は認識できる全てのサーヴァントを支配できる。その力がある。

……しかし、グランドサーヴァントの誰も、動きを止められることはなかった。

 

 

「──ッ、何故だ、何故拘束出来ない!!」

 

「当然だ。そのガシャットと我々との繋がりを断ち切った。最早我らはそのガシャットのサーヴァントではない」

 

 

そう答えたのは山の翁。Fate/Grand Orderガシャットと自分達との関係を殺した彼は突き立てた大剣を引き抜きながら呟き、狼狽えるビーストの姿を凝視する。

 

 

「そんなこと……あり得ない!! あり得る筈がない!!」

 

「全く、その力は貴様が与えた物だろう?」

 

 

そう言うのはギルガメッシュ。彼は倉から幾つかの剣を覗かせながらビーストを嘲る。全てを殺す剣、それが設計者を襲うのは皮肉な話だ、と。

そしてその隣でアルトリアが、己の剣に風を纏わせた。

 

 

「つけを払う時です。全部貴方が蒔いた種だ」

 

「私は神だ!! 私は不滅だ!! 誰にも私を止めることは許されない!! 私は勝利しなければならないっ!!」

 

 

飛び出すアルトリア。受け止めるビースト。ビーストが呼び出した数多のガシャコンウェポンは彼女のエクスカリバーに粉砕され、二人はエクスカリバーとガシャコンカリバーで鍔競りあう。

加えてオジマンディアスによる援護の光が降り注ぎ、ギルガメッシュの倉から複数の剣が飛び出してビーストに突き刺さった。

 

 

「っ……ふざけるなァっ!!」

 

 

ビーストのカルデアスが赤熱する。周囲に熱と衝撃が再現なく解き放たれ、周囲の大地は溶解し……それでもサーヴァント達は止まらず。

 

 

「ローマっ!!」

 

「消毒!!」

 

「シャアッ!!」

 

 

アルトリアの背後から、巨大な槍を振りかぶったロムルスが飛び上がる。それと同時にナイチンゲールと山の翁が両側から迫り、三方向からビーストを斬りつけた。

 

 

   ザンッ

 

「っぐ……!!」

 

「マスター!!」

 

 

ナーサリーが声を上げ、彼を援護するためにエネルギー弾を放とうとする。

しかしそれは、ソロモンが彼女を取り囲むように展開したバリアで防がれた。

 

 

「っ……」

 

「悪いけど、ここは通せないや。ボクも彼には思うところがあるからね」

 

 

ナーサリーは顔をしかめてビーストを見る。ビーストは唸り声を上げながらどうにかグランドサーヴァントの攻撃を堪えていたが、かなり押されていた。

 

そして、彼に作られた者達が宝具を放つ。

 

 

 

約束された(エクス)──」

 

すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)

 

光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)!!」

 

「──勝利の剣(カリバー)!!」

 

 

ビーストの上に、逆さまのピラミッドが現れた。同時に彼の足元を伸びてきた大樹が掬い上げ、眼前でエクスカリバーが光を纏う。全部纏めて食らえば一堪りもあるまい。

その中でビーストは、ガシャコンカリバーのトリガーを引いた。

 

 

『Noble phantasm』

 

今は遥か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

 

 

……次の瞬間、ビーストのイメージに合わせて変型したキャメロットの城壁が彼を包んだ。

それを大樹が貫こうとし、ピラミッドが潰そうとし、エクスカリバーの光が飲み下す。

しかし倒れない。城壁は三つの宝具を受け止めて燦然と輝き、無事に降り立ったビーストは体制を整え始める。

 

その行いは、当然のように怒りを買った。

 

 

 

 

 

「貴方がそれを使うなぁっ!!」

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

 

元々それを託されていた、シールダーの。

彼女は自分でその宝具を棄てた。その持ち主を棄てた。しかし彼女は決してその宝具の持ち主への感謝を棄てた覚えはない。歪んでいるとは知っていたが、シールダーはビーストに我慢ならなかった。

 

さっきまで呆然とグランドサーヴァント達を見つめていた彼女はもう城壁に己の剣を突き立てていた。死角からのふいの襲撃に壁は砕け、その中をシールダーが突き進む。

 

 

   バァンッ

 

「はああああっ!!」

 

「生意気な真似を……!!」

 

   ガギンッ

 

 

そして二本のガシャコンカリバーが交差した。すぐにバルムンクがビーストの腹を削り、ビーストの拳がシールダーの腹に突き刺さる。本来ならこれで痛み分けになる筈だったが、そうではない。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「なっ……!?」

 

 

シールダーの力が明確に上昇していた。

 

 

「……負けるな!! マシュ!!」

 

「──はいっ!!」

 

   ガリガリガリガリガリガリ

 

 

ソロモンがシールダーの力を増強させていたからだった。

更にシールダーに加勢せんと、グランドサーヴァントがビーストを取り囲んで接近してくる。ビーストは腹立たしげにガシャットをドライバーから引き抜き、再びキメワザスロットに装填した。

 

 

「鬱陶しい……!!」

 

『Fate/Critical Strike!!』

 

 

そして、回し蹴りで周囲を凪ぎ払う。辺りを衝撃波が飛び交い、近くのビルに幾つもの亀裂が走った。

 

もっとも、全ての能力を最大に引き上げられたグランドサーヴァント達にとってはビーストの動きは読めていた。だから彼らは一旦ビーストから離れる。

ビーストも読まれることを分かった上で攻撃をしたからそれは問題ではなかった。

 

ソロモンの妨害からやっと抜け出したナーサリーが、ビーストに並び立つ。

 

 

「君達がそうまでするのなら……私も、手を打たなければならない……!!」

 

 

そしてビーストはそう言った。彼は肩で息をしていた。彼は武器を捨ててゆらりと立つ。……その赤黒い全身から、とても濃い黒い霧が溢れ始めた。

 

 

「君達は所詮システムだ、私には敵わない、それをここで教えてやる!!」

 

「あれは……」

 

「まさか!!」

 

「伏せて!! 菌が放出されていきます!!」

 

「私はゲームを加速させる!! 全てを喰らい私は勝つ!! 全世界を塗り替える!! 誰にも邪魔はさせないぃっ!!」

 

 

超高濃度の新種のウィルス……とでも言うべき代物か、そんなものがビーストから溢れ始めた。

元よりビーストはゲーム病の進行を自由に操作できてはいたが、今解き放っているものはライダーであろうと触れるだけで即ゲームオーバーになるような、そんな病。それは前線にいたサーヴァント達はすぐに理解できた。

 

 

「こんなかくし球もあったとはな……」

 

「何となくそんな気はしてたけどよぉ……!!」

 

 

放たれた霧の幾らかは空にとけ、幾らかは地に留まり……驚くべきことに、やや小ぶりなペイルライダーを形作る。一つではない。幾つもだ。触れたら即死、襲われても即死、そんな敵を、ビーストはいくらでも作り出せる。

 

 

「さあ絶望しろ、平伏しろ!! 君達はここで、ゲームオーバーだ!!」

 

「っ……」

 

「……ナイチンゲールさん!!」

 

 

ライダー達の消滅を防ぐ方法は、一つしかない。

 

 

「……お願いします!!」

 

「分かりましたっ──我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

 

グランドバーサーカー、ナイチンゲールのすぐ後ろに、白衣の天使が顕れた。

 

───

 

 

 

 

 

戦いは一先ずの収拾を得た。ナイチンゲールの宝具は病を打ち消すのと同時に敵味方関係なく武器を封印するもの、継戦は不可能だった。

 

ビーストは何処かに消えてしまった。彼が放った病は風にのって運ばれているらしく、ニュースが千葉県での被害を訴えていた。

 

 

「……」

 

 

そんな中、確実に安全であろう領域の中で、サーヴァントとドクター達は休んでいた。マシュは、ナイチンゲール以外のグランドサーヴァントに囲まれて座っていた。

 

 

「……」

 

「何故顔を上げない?」

 

「その、何というか……」

 

 

こうして対面すると、マシュは彼らの顔を見ることが出来なかった。戦っている間は気にしなかったが、そうではなくなるとどうにも申し訳なくなった。

 

 

「まさか、今さらになって牙が抜けた等と言うまいな?」

 

「いえ、そんなことはないんです。私は、この歩みが間違っているとは思いません。ですが……ドクターにも皆さんにも、迷惑をかけてしまった、と」

 

「ふむ……余は、貴様の歩みを否定する気は起こらぬが。余をあの獣と同類だと罵ったあの啖呵は、その信念は間違っていないのだろう? ならば、それでよいではないか」

 

「……!!」

 

 

マシュが俯きながら呟いた言葉に、オジマンディアスはそう言った。彼は、マシュが彼の神殿で彼に放った言葉を覚えていた。人の自由を守るべきだと、それが大切なのだという言葉を良しとしていた。だから彼は、マシュを否定しない。

 

 

「私は言いました。貴女はもう円卓の騎士ではありませんが、それでも側にいようと。それを変えるつもりはありません」

 

 

次に口を開いたのは、オジマンディアスの隣にいたアルトリアだった。マシュが彼女と対面するのは、かつてガシャットの内部でブリテンの英霊達と戦った時以来だった。

 

 

「……貴女を救う、という手立ては、とうとう見つかりませんでしたが」

 

「いえ……それは当然です。だって、こんなことになっているんですから」

 

「……貴女に辛い仕事を押し付けてしまって、申し訳ない」

 

 

アルトリアはやや目を伏せる。しかしそれでもマシュからは視線を外さなかった。マシュはもう、彼女を拒絶しようとは思わない。二人はかなり落ち着いていた。

 

 

「それでも私は、貴女に希望をもって最後まで生きてほしい。その信念を大切にして戦い抜いてほしい。私は貴女の強さを信じている」

 

 

そしてアルトリアは、そう言葉を締めくくる。

……ちらっと彼女が隣を見れば、ロムルスが目に入った。二人はアイコンタクトを交わし、すぐにロムルスが話し始める。

 

 

お前(ローマ)は、ローマだ。その中にネロ(ローマ)がいるのなら、(ローマ)はローマを支えるまで」

 

「神祖……」

 

「その意思(ローマ)世界(ローマ)を守れ。世界(ローマ)は、人間(ローマ)は、永遠だ」

 

 

すぐに、ロムルスはそう短い言葉を残して沈黙した。マシュは、彼が何を言いたいのかははっきりと分かった。

マシュは胸の中に何か暖かいものを感じた気がした。きっと、己の中のネロの感情なのだろうと思えば、ほんの少し嬉しくなった。

 

そしてロムルスは己の隣を見る。ギルガメッシュが腕を組んでやや冷ややかにマシュを見つめていた。

 

 

「鼻先に人参をぶら下げた暴れ馬。我慢の効かない狂人。自分のことしか見えない幼児。そのような精神性は変わらなかったようだな」

 

「……うう」

 

 

的確に指摘されて、マシュの肩幅が狭まる。そうであることはマシュ自身自覚していた。今思えばこの世界でも随分と勝手なことをしてしまったと思う。今さら詫びることも出来ず、マシュは曖昧な顔をする。

 

 

「しかし、ここでそれを言っても詮なきことよ。だから、我は別のことを問う」

 

「別のこと……とは」

 

「かつて、魔獣戦線が終結したあの時。お前は、消え行く我を見て激昂し、檀黎斗に襲いかかろうとしたことを覚えているな?」

 

「……はい」

 

 

しかしギルガメッシュはそれについては掘り下げず、別のことを問った。

バビロニアでの出来事。ティアマトを葬り、その反動で消えていくギルガメッシュを受け入れられずに怒ったマシュ。そしてそんなマシュを止めたギルガメッシュ。…… マシュはあの時の自分を思い出す。

 

 

「お前は、あの時の我と同じ立場にいる。それを分かっているな?」

 

「……ええ」

 

 

一つ頷いた。ギルガメッシュはマシュの目を覗き込む。マシュもまた、彼の瞳を見ようとした。

 

 

「今なら、我が何を思ってあの結論を選択したのは、分からないとは言うまいな?」

 

 

マシュは口を固く結んで、なるべく力強く頷いた。答えは……はっきりとした物は、本当は見つかっていない。きっと見つけられない。……でも、これまでの旅で、彼が何を思って動いたのかくらいは、何となく分かるようになった。それでよかった。

 

 

「で……次は貴様の番だが」

 

 

ギルガメッシュは話を止めて、隣にいた山の翁をちらと見る。オジマンディアスからギルガメッシュまで続いた流れに乗せて考えるのなら、次に発言するのは彼だろう。マシュはつい顔を伏せた。

 

 

「……」

 

「……私は、堕落したでしょうか」

 

 

そう口走っていた。

山の翁が忌み嫌うのは怠惰、堕落、劣化だ。……マシュは自分が間違った道を選んだつもりはない。しかし自分がかつて旅を始めた頃の自分に比べて劣化していない、と言い切るのは、何処か良心が咎めた。

 

 

「再び問おう、マシュ・キリエライト」

 

「……」

 

 

それを見抜いたのだろう、山の翁は言葉を紡ぐ。

 

 

「汝の、その明日を目指す道に未来はあったか。悲しみしかない在り方に希望は見えたか。信念の劣化、決意の腐敗、論理の崩壊……それらに苛まれ、敗北したのならその時には我は汝の首を断つと、かつて我は言った筈だ」

 

 

懐かしい言葉だった。バビロニアで山の翁に命令して、ケツァル・コアトルを倒したときのものだった。今なら、顔を上げて自信をもって返答できる。

 

 

「私の道には、明日があります。希望があります。それを私は確信しています」

 

「……では、ここで我が、首を出せと言えば、どうする」

 

「……!!」

 

 

気づけば、思ったよりも翁の顔は近くにあった。蒼い炎が爛々と、その骸骨の中で燃えていた。

……ふと、黎斗が首を断たれた風景がフラッシュバックした。翁の向こう側であたふたしているソロモンが見える。……それでも、自然と恐怖はない。

 

 

「そうなったなら……」

 

 

マシュは一つ、深々と礼をした。

 

……それは首を差し出す行いではない。

顔を上げた彼女は、山の翁を強く見つめて言い放つ。

 

 

「それでも、私は貴方に命令する最後の権利を消費して、思い止まってもらいます」

 

「……ほう。……ああ、そんなものもあったな」

 

「私は劣化したかもしれません。それでも掴みたいものがあるんです。もうすぐなんです。もうすぐで、私は彼に手が届く。明日を守れる。希望を繋ぐことが出来る。ですから……協力して下さい」

 

 

また顔を下げた。

山の翁は何も言わずにただ頷くのみ。彼は、マシュの意思を一先ずは認めたようだった。

 

そして、ソロモンの順番が回ってくる。しかしソロモンはキッパリと言葉を言うことは出来ず、照れ臭そうに笑った。

 

 

「……えーと、うーん……この姿を見せるの、初めてだよね」

 

「……はい」

 

「じゃあ、一回戻るかな……っと」

 

 

刹那、ソロモンは光に包まれて、慣れ親しんだロマニ・アーキマンの姿を取り戻す。そしてロマンはゆっくりとマシュに歩みより、彼女の頭を優しく撫でた。

 

 

「……っ!!」

 

「僕は君を誇りに思う、マシュ」

 

「……ドクター」

 

 

……いつの間にか、マシュはロマンに体を預けていた。ここまでは緊張していたから体は強張っていたが、見覚えのある体温に、とうとうロックが外れたようだった。生暖かい物が頬を伝った。

 

 

「お疲れ様、だね」

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい……悲しませて、ごめんなさい……!!」

 

 

謝罪が漏れる。彼女は、ロマンが自分の姿を見て苦しんでいたのを知っている。自分の道は間違っていなくとも、彼を悲しませたことは失敗だ。

白衣が濡れていくのを感じた。ロマンは彼女を、強く抱き締める。満天の星空のみが、それを照らしていた。

 

───

 

 

 

 

 

深夜にも関わらず、臨時聖都大学附属病院の人々は皆起きていた。ついているテレビには、ビーストの解き放ったペイルライダーの情報が流れていく。

……どうやら、もうここの人々に逃げ場は無さそうだった。周囲にはペイルライダーが囲むように分布しているらしい。触れれば即死、近づいても即死、それが徐々に辺りを埋め尽くす。

 

 

「……あれは……!!」

 

 

そして、外を見ていた誰かが、窓の外を指差した。

ペイルライダーが佇んでいた。残留していた最後のちびノブのグループがそれに突撃し、呆気なく消滅していく。そしてペイルライダーらは、病院への進軍を開始した。

 

 

「終わりだ……」

 

「怖いよぉ……」

 

 

そんな声が聞こえ始める。今日まで生き足掻いてきた自分達もとうとう終わりだと。もう逃げ場はないのだと。

 

その中にいた作もまた、恐怖に頭を抱えた。

 

 

「あ、ああ……!!」

 

 

『私が好きなものは、強いものだ。私のマスターは体は貧弱だが、少なくとも心の強さは中々だ。だから、その強さを折るな』

 

 

「……!?」

 

 

ふいに、脳裏にそんな声が聞こえた。作は頭を上げて辺りを見回す。確実に、アルトリア・オルタの声だった。

 

当然、回りに彼女はいない。どんなサーヴァントもここにはいない。幻聴だ。

 

……それでも、その声は作を奮い立たせた。彼は震える足に鞭を打ち、咄嗟にマスクを何十にもつけ、手袋をつけ、ヘルメットを被り、自転車を引っ張り出した。

 

 

「……安心して下さい!!」

 

 

「え?」

 

「何してるんだ?」

 

「正気かあんた!? 死ぬぞ!!」

 

 

「……僕が、皆さんを、守ります!!」

 

 

そして、作は自転車で外へと乗り出した。

ペイルライダーらの視線が作に集中し、それら全てが作を追いかけ始める。

 

───

 

「……マスターは……眠られましたね」

 

 

ナイチンゲールは、ライダー達の体調を気遣って少しでも仮眠を取らせようとしていた。やや強引にでも眠りに誘って、この後の戦いで生きられるように。

もう永夢は眠りについた。飛彩も大我も泥のように眠っている。……しかし、バグスター組は起きていた。

 

 

「おい、ゲンム」

 

「どうしたパラド」

 

「本当にあいつに勝てるのか? あんな、化け物に」

 

 

パラドと黎斗神はそう言葉を交わす。黎斗神は、先程溶けてしまったガシャットを修復しながら。パラドの顔は険しかったが、黎斗神はそう深刻でもなさそうだった。

 

 

「私は神だ!! 私に不可能はない……!!」

 

「そうは言っても、あいつは装備を融かしてくるんだぜ?」

 

「私が二度も同じ手を食うと思うか?」

 

 

黎斗神はそう言いながら修復し終えたガシャットを引き抜き、パラドに投げ渡す。同時に、ゲーマドライバーも差し出して。

 

 

「……どういうつもりだ?」

 

「ここまでの戦いで、あの私には余裕がなくなった。プログラムへの侵入はぐっと簡単になったさ……もう、レベル制限は解除した」

 

 

黎斗神は淡々とそう言い、また作業に戻る。

夜はまだ長い。

 




次回、仮面ライダーゲンム!!



───夢の中の邂逅

「フォーウ」

「貴方は……」

〔美しいものを見た〕


───最後の希望

「何でここにいるのさ」

「僕は、まだ諦められない!!」

「……最後の希望か」


───反撃の始まり

「僕は貴方を諦めない」

「貴方達に会えてよかった」

「変身するんだ」


第六十九話 Wish in the dark


「これは、愛と希望の物語」


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第六十九話 Wish in the dark


ミステリーフェアってそんなデパートの安売りみたいな名前にしなくても……



 

 

 

 

 

〔美しいものを見た〕

 

「……」

 

〔美しくないものは見たが、それでも美しいものを見た〕

 

「……その、声は」

 

 

真っ暗のなかにいた。

浮かんでいるような不安定な感覚に身を任せながら、獣の守りたかった少女はかつて親しんだ者の声を聞く。

 

 

〔私はかつて絶望した。この世の美しいものに未来はないと。汚いものに塗り潰されるそれを守れる世界ではないのだと。君に、幸せはないのだと〕

 

「……」

 

 

あの時、この獣は何を思いながらロンドンへと向かったのだろう。少女にはそれを推し量ることはできない。

 

 

〔その上で私は彼に挑み、敗北した〕

 

「フォウさん……」

 

〔敗北した。彼の見せた正義に。人間の可能性に敗北した。あの希望を、潰すことが出来なかった〕

 

「……ごめんなさい。あの時、フォウさんを応援できなくて」

 

 

つい口走る。マシュは、あの戦いで仮面ライダー達を応援してしまったことを恥じた。

 

 

〔それでいい。君が信じたのはあの男を通して見た人類の夢と希望と自由だ。それに憧れることは、きっと、とても良いことだ〕

 

「……」

 

〔私は醜い人類悪だ。霊長を殺すものだ。あの時人理を守ろうとした君を阻むものであり、今の君とも相容れない〕

 

「……それでも」

 

 

マシュは暗闇へと手を伸ばす。何かを掴もうとする。届かない。その向こうへ。

暖かいものが、指先に触れて。

 

 

 

 

 

……気がつけば、マシュはあの真っ白に0と1がちらつく空間に立っていた。今となってはずっと昔のことにも思えたが、最後にここに入ったのはほんの数日前だった。

マシュは辺りを見渡した。ちゃぶ台もなく、劇場も見えない、ただただ広いだけの空間。

 

 

「……さっきまでのは、何だったんでしょう」

 

 

そうぼんやりと思いながら彼女は歩き出そうとする。

……ふと、足元にくすぐったいものが過った。

 

それは足をよじ登り、胸元を経過して、肩まで乗って落ち着く。

 

 

「貴方は……」

 

「フォーウ」

 

 

フォウだった。比較の獣ビーストⅣ、今のマシュを形作る因子の一つ。相手よりも強くなる力をマシュに付随させたもの。それが、彼女の肩を暖めていた。

 

きっと、これも夢の続きだ。マシュは指先でフォウの頭を数度撫でて、また目の奥に暖かいものを感じる。

 

 

「フォウさん」

 

「……」

 

「……今日まで、ありがとうございました」

 

「フォーウ……」

 

「明日も……よろしくお願いしますね」

 

「フォウ」

 

 

フォウは語らない。あえて語らないのか、その真意は目を覗いてもさっぱり読めず。

それでもよかった。マシュはこうして、フォウを撫でていればそれだけで安心できた。フォウもそれを受け入れているようだった。

 

 

「貴方が何であっても、私が何であっても。私はフォウさんが大切でした。大好きだったんです。……それだけじゃ、ダメでしょうか」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

〔……いいや、十分だ〕

 

 

そして、彼女はまた真っ暗に投げ出された。フォウの感触が遠ざかっていく。

 

 

「……」

 

〔諦めるな、マシュ・キリエライト。第四の獣は、君と共に在ろう〕

 

───

 

 

 

 

「……まだ、起きませんか」

 

「うん。ボクにすがり付いたまま寝ちゃって……起こした方がいいかな?」

 

「いえ。精神の安定も大切です」

 

 

ナイチンゲールは、ロマンからそう言って離れた。マシュはその膝に頭を預けて寝息を立て続けていた。

その頬に残された涙の痕を、ロマンは拭うことはなかった。

 

 

「……」

 

 

その頭を撫でる。

彼女の前では泣けなかったが、こうして彼女が眠っている今なら、自分の中に込み上げてくる物を堪える必要は何処にもなかった。

全部、夜の闇が隠してくれるだろう。

 

───

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

   チャリンチャリンギャリギャリギャリギャリ

 

 

タイヤが悲鳴を上げている。ペダルも唸りを上げ、ベルはとうに壊れた。星空のみに照らされて、街灯一つない道路を作は走り抜けていた。

後方では沢山のペイルライダーが蠢いて作を追いかけ続けている。作は病院の周囲をベルを鳴らしながら走り続けて、近辺の全てのペイルライダーを誘き寄せる囮となった。

 

 

「っ、……!!」

 

   ガリガリガリガリガガガガガガガガ

 

 

しかし限界は近い。元々あの避難所に放置してあった古ぼけた自転車だ、全力疾走に耐えられる道理はなく。

次の瞬間、自転車の後輪がねじ曲がり、それは運転手ごとスリップした。

 

 

   ザリッ

 

「うわあっ!?」

 

 

投げ飛ばされる作。自転車は真っ二つに割れながらあらぬ方向へと滑っていく。もう乗ることは出来まい。

作は立ち上がって周囲を見回した。……ここまでで誘き寄せたペイルライダーが、作を取り囲んでいた。

 

 

「っ……僕は、まだ諦められない!!」

 

 

それでも作は叫ぶ。呼吸すらも命がけだ。じりじりと近寄ってくるペイルライダーに触れることは叶わない。それでも。

 

 

 

 

 

『フレイム シューティングストライク!! ヒーヒーヒー!!』

 

 

……刹那、ペイルライダーらの足元に火柱が立った。当然ペイルライダーは焼き焦がされて無力化、消滅していく。

そして立ち竦んでいた作の隣に、一人の仮面ライダーが降り立った。

 

 

「……何でここにいるのさ」

 

 

仮面ライダーウィザード。ある知らないサーヴァントから託されたガシャットロフィーで変身した、本物の操真晴人。

 

 

「辺りにさっぱりあの黒いのがいないからどういうことかと思えば……あんたが引き付けてたのか。無茶なことして……」

 

「うう……」

 

 

そう言いながら彼は炎の壁を展開してペイルライダーを無毒化し、逃亡しようとする個体を炎の鎖で縛り付けてやはり無毒化していく。

作はそれを見ているだけ。しかし焦燥感よりは、安心感を覚えた。

 

 

「何であんなこんなことしたの」

 

「僕が……あそこの人達を守ろうと、思ったんです。最後の希望になろうと思ったんです。僕のサーヴァントが僕に託してくれた希望を、受け継ごうと思ったんです」

 

 

ウィザードはそれを聞いて、少女のことを思い出した。真名も知らないサーヴァント。自分を最後の希望だと言って、自分に力を押し付けて消えたサーヴァント。

どこかしみじみとさせられた。そして、目の前の男にもきっと似たような体験があったのだろう。

 

 

「そうかい……最後の希望か」

 

 

なら、その思いは無下にはすまい。

作の言葉を受け止めた仮面の青年は、その銃に再び掌を翳す。挙動はどこか楽しそうだった。

 

 

「どういう縁なのか、俺もとあるサーヴァントに託されちまってね、最後の希望。……安心しろ。お前の希望を、俺が引き継ぐ」

 

『キャモナシューティングシェイクハンズ!!』

 

『フレイム シューティングストライク!!』

 

───

 

 

 

 

 

「マスター?」

 

「何だ姐さん」

 

 

ほんのりと東の空が白んできた。それを見ながら、ライダーのマスターと、そのサーヴァントは背中合わせに座っていた。

 

 

「……そろそろ、終わるわね」

 

「そうだな」

 

 

ライダーのサーヴァント、マルタがぼんやりと呟く。彼女のマスター、九条貴利矢もぼんやりとそれに答えた。

緊張はない。とうに使い果たした。悲しみはない。とうに慣れた。焦りもない。とうに過ぎ去った。今はただ、落ち着いて状況を分析する。

 

 

「ありがとう。私と一緒に戦ってくれて」

 

「何を今さら。自分こそ、あんたがいなきゃやってこれなかったさ」

 

「それもそうね」

 

 

そう言葉を交わす。きっと意味のないことだ。どちらも相手の返事を予測して言葉を放っていた。それは最早会話というよりは自己暗示に近い。

 

貴利矢は一つため息をして、白んだ空から目を離して別の方向を見る。

 

 

「おい神、起きてるんだろ?」

 

 

視線の向こうでは、毛布の一つも被ることなく、近くの壁にもたれ掛かっている黎斗神。彼の膝にはパソコンが置かれていて。

そしてその眉は、貴利矢の声に反応して上がっていた。貴利矢はそれを確認して言葉を続ける。

 

 

「……」

 

「確認したいことがある」

 

 

 

 

 

「ん、う……」

 

「……起きられましたか、マスター」

 

 

それと同じ頃、永夢は目を覚ましていた。まだ起きるにはちょっとばかり早い頃だろうとは分かったが、それでも起きてしまったものは仕方なかった。そもそもコンクリートの上に何も敷かずに寝るというのに無理があったとも言える。

 

 

「まだ早いです。休んだ方が良いのでは?」

 

「いえ、もう大丈夫です」

 

「……そうですか」

 

 

彼を気遣うナイチンゲールにそう応対して、永夢は一つ気にかかる。

 

 

「……あの、もう、僕はマスターじゃないんじゃ……」

 

 

もう自分は彼女のマスターではない。彼のサーヴァントだったナイチンゲールはもう消滅した。ここにいるのは同じだけれど違うサーヴァントではないのか、と。

 

ナイチンゲールはその疑問に微笑む。

 

 

「貴方はマスターです。ずっと。貴方が患者の為に戦うのなら、看護婦はそれに従いましょう。それが医療の在るべき形。ならば、どうして態々ドクターのことを忘れる必要がありますか?」

 

「っ……」

 

 

あんまりにも呆気なかった。永夢は妙に納得させられて、頷くことしか出来ない。

分かることは。このサーヴァントは、最後まで一緒に戦ってくれるという、確信だった。

 

───

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

マシュは、朝日に照らされて意識を取り戻す。頭の下に人肌のような感触を感じた。

 

飛び起きる。ロマンが微笑んでいた。……どうやら自分は彼に泣きついたまま寝ていたようだった。

他のサーヴァント達は何かしら別の作業に打ち込んでいるようで、誰もマシュを見ていなかった。それを確認して彼女は胸を撫で下ろす。きっと泣き晴らしてから眠った自分は、少しばかり見苦しかっただろう。

 

 

「あー……その……」

 

「おはよう。よく、眠れたかい?」

 

「……ええ。いい夢を、見られました」

 

「そうかい」

 

 

そんな焦りもすぐに落ち着く。胸に手を当てれば、暖かいものが満ちていた。

 

今日こそが、最後の一日だ。

 

 

 

 

 

「……そちらの調子は、どうでしょうか」

 

「僕は大丈夫です。怪我も処置しましたし、戦えますよ」

 

 

マシュの声かけにそう永夢は応じた。彼女は、ライダー達にも顔を合わせて起きたかった。

返事を終えた永夢は、少しだけ逡巡してからおもむろにマシュの手を取る。

 

 

「……?」

 

「間違っても、自分が倒れるという前提では戦わないで下さい」

 

「……っ」

 

 

その言葉は、マシュの内心を読み取っているようで。マシュの体がすぐに強張り、握られている手が小さく震える。それでも永夢はマシュを放さない。

 

 

「僕は貴方を諦めません。貴方の命も救って見せます。全ての命を笑顔にすることが、僕の夢ですから」

 

「……」

 

「ですから、この戦いが終わったら、一緒に病院を助けてください。まだ、助けるべき人も沢山いるんです。一人でも人手が必要ですし、それに……」

 

 

マシュには、永夢が輝いて見えた。

 

その理由は、分からない。

 

 

「僕は、貴方の笑顔も守りたい」

 

 

……マシュは、ゆっくりと手に力を籠めた。

永夢の笑顔を目に焼き付けながらも、自分を繋ぎ止めている手を外して、彼女は永夢から一歩引く。

 

 

「あっ……」

 

「……私は。私は……貴方の考えは分かりません。貴方の思いやりが何処から来たのか、それは分かりません」

 

 

永夢の顔を見られなかった。それでも、彼の肩越しに見えるナイチンゲールは、分かっていたような、悟っていたような、それでも残念そうな、そんな曖昧な顔をしていた。

 

 

「……でも」

 

「……」

 

「もし私の戦いで、誰かの笑顔が出来たのなら。それは……きっと、素晴らしいことなんだと思います」

 

 

マシュはさらに一歩引く。そうすることで、ライダー達全体が目に入った。

決戦に備えて糖分を補給する飛彩。互いを気遣いあう花家医院の二人。準備運動に励むライダー主従。シミュレーションを重ねるポッピーと灰馬。何かを考えているパラド。パソコンに向かい続ける檀黎斗神。

 

彼らは仮面ライダーだ。人類の自由と平和の為に戦う、自分が憧れてしまった、仮面ライダーなのだ。

 

 

「私の命は辛いことばかりでしたか、楽しいことも、幾つかはありました」

 

 

自分はまだ、なれていない。

仮面ライダーになれていない。

きっと、誰かの為に戦う、ということが出来ない自分は、本当の仮面ライダーにはなれない。

 

 

「貴方達に会えてよかった」

 

 

それでも。

 

足掻こう。戦おう。彼らと共に。サーヴァントと共に。自分と共にいてくれた全てと共に。

 

 

「……ビーストⅩの出現を確認した!!」

 

 

号砲がなる。

 

───

 

 

 

 

 

「怖いかい、マシュ?」

 

「いいえ。……ドクターは、どうですか?」

 

 

シャドウ・ボーダーは既に失われた。故にマシュ達は、オジマンディアスやギルガメッシュの出した天駆ける船に乗り、ビーストの元へと進んでいく。

その中での会話だった。マシュと向かい合うロマンは、見ようによっては物憂げだった。

 

 

「ボクは……うん、ちょっとだけ怖い。この後どうなろうと、僕らの末路は決まっている」

 

「……」

 

「でもいいんだ。あらゆるものは永遠ではなく、いつか苦しみに変わってしまう。でも……それは絶望じゃない」

 

 

ロマンはマシュの頬を撫でた。優しく。これ以上傷つけないように。

 

 

「限られた命で死と断絶に立ち向かう。終わりを知っていても出会いと別れを繰り返す。それが、君の送ってきた旅なんだ。どのような経過を経ようと、それに始まって、それに終わる」

 

「……」

 

 

出会いを思い出した。別れを思い出した。

結局、その繰り返しだった。運命に抗っても。守護者になっても。この世界に来ても。……そればかりだった。

それはきっと、悲しいことではないのだ。

 

 

「これは、星の瞬きのような刹那の旅路。星見(カルデア)が駆け抜けた旅。シールダーのサーヴァント、マシュ・キリエライトの、旅。それは……愛と希望の物語だ」

 

 

風の音が聞こえた。朝日は中空に固定され、光が船を照らす。ロマンはソロモンに姿を変えながらマシュを見つめ続けて。

 

 

「ここからが、君の旅の果て。ボクの旅の果て。刹那の旅路の終着点。ここからどうなるかは君次第だ。……挑めるね?」

 

「はい……はい……!!」

 

 

そして、ビーストのいるエリアに辿り着いた。

高層ビルに囲まれた空白地点。人が行き交っていたであろう広場。そこにはもう人はいない。立っているのは真檀黎斗、ナーサリー・ライム。……そして信長、アヴェンジャー、イリヤ。

 

 

「っ……信長、さん……!?」

 

 

それを視認したマシュは一瞬驚きの声を上げ、それを飲み込む。信長はいつものように笑っていた。

 

船の群れはビースト達へと光線を放ち、しかし何か障害物がある訳でもないのに反射される。どうやら遠巻きの攻撃は当たりそうになかった。ビースト達を覆うようにバリアでもあるのか、そう推測された。ならば、遠距離からは倒せない。

 

 

「……やっぱりダメですか……!!」

 

「まあ、そうだろうね」

 

「そうなると……」

 

「当然、降りることになる。うん。……最終決戦だ」

 

 

もうグランドキャスターは、ソロモンに戻っていた。

船は降りていく。全てのサーヴァントが、全てのマスターが、全てのライダーが大地に降り立つ。剣が、槍が、矢が並ぶ。医者が、看護婦が、人間が並ぶ。

 

 

即ちここは特異点。名医が駆けた、サーヴァントが駆けた、全ての輝ける命が戦い続けた最後の大地。世界全体を救命の為の病棟とし、抗い続けた人間の物語。

 

 

ここは、名医奔走病棟CR。真檀黎斗という機械仕掛けの理不尽(デウス・エクス・マキナ)に、立ち向かう命達の特異点。

 

 

「……さあ、行きましょう!!」

 

 

ナイチンゲールが、隣で声を張り上げる。声が響いた。空の彼方まで届くようにすら思えた。

 

 

「……変身するんだ、マシュ。君の、なりたい君に」

 

「……はい!!」

 

 

そして彼女は、ガシャットに手をかける。

 





次回、仮面ライダーゲンム!!


───決戦の火蓋が切られる

「抗い続けるのか!!」

「変身する!!」

「もう貴様の時代は終わった!!」


───檀黎斗神の真相

「お前のちょっとした嘘を当ててやる」

「私は神だ!!」

「君は確かに私だとも」


───突然の裏切り

「あれはよい旅じゃった」

「余は、それでも……」

「いざ、三界神仏灰燼と帰せ」


第七十話 Justice


「我が名は第六天魔王波旬、織田信長なり!!」


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第七十話 Justice

三十五話のJusticeはクロノスのテーマ
七十話のJusticeはEXTELLA LINKの主題歌



 

『Britain Warriors!!』

 

「私達は……貴方を倒す」

 

 

マシュは真黎斗を見つめた。己の目標を見定めた。もう逃がさない。もう逃げない。自分は、自分を支えてくれた全てを引き連れてそれを倒す。そう決意を抱いた。

 

 

「さあ、決着をつけましょう」

 

 

アルトリアはエクスカリバーを構えた。強大な者との戦い、世界を救う戦い、それを前にかの聖剣(エクスカリバー)は光を解き放つ。

 

 

『Goddess breaker!!』

 

「……世界の行く末を賭けた戦い。これを決戦と言う。ならば我も、出し惜しみはすまい」

 

 

ギルガメッシュはかつて黎斗から受け取ったガシャットを、金色のドライバーに装填する。……それは使用すれば確実に消滅する死のガシャットだが、今さら気にすることはない。

 

 

「いざ行かん、この戦いの先にローマが待つ」

 

 

ロムルスはそう唱え槍を構える。大樹が如きそれは風を巻き込み、敵へ向ける牙を研いだ。この世界はローマなのであり、それを守るのはローマの神祖たるロムルスの使命。

 

 

「神託は下った。晩鐘は汝の名を指し示した」

 

 

山の翁は宣言と共に剣を構えた。最初にして最後のハサン、暗殺者を殺す暗殺者は今、偽りの神に狙いを絞る。全てを殺す剣に鈍りはない。

 

 

「太陽の輝きでもって貴様を焼き付くそう。今、ここで!!」

 

 

オジマンディアスはそう言い放ち杖を向けた。絶対の自信は彼から恐れを持ち去り、ただファラオは威光と共に立つ。

 

 

「全てを精算するときだ、カルデアのかつてのマスター、真檀黎斗」

 

 

ソロモンはそう告げて魔術式を展開した。黎斗が組み上げたそれは最早ソロモン自身の物であり、魔術なき世界において唯一無二。黎斗とそれに翻弄された少女を思い出しながら、魔術王は視線を固定する。

 

 

「最後の治療を始めましょう」

 

 

ナイチンゲールはそう呼び掛けた。拳を握り、敵の集団に飛びかかる用意を終える。この戦いが、地球と言う星の余命を決める戦いだ。延命を。治療を。あらゆる病に抗うことが、医療人の役割ならば。

 

 

「争いに終焉を。きっと、世界を救いましょうね」

 

 

マルタはそう唱え杖を握った。哀しみばかりの戦いに終わりを。振り撒かれた恩讐に結末を。あらゆる悪逆には理由があり、相応しい結末がある。それが今だと彼女は確信した。

 

 

『刀剣伝ガイム!!』

 

「……すまないマスター。それでも余は、貴様を倒す!!」

 

 

刀剣伝ガイムを起動したのはラーマだった。サーヴァントとしての攻撃が防がれるのなら仮面ライダーの姿を借りればいい。そんな単純で、でも確かに希望がある考え。彼は元々のマスターを裏切り、自分の正義と、自分に力を貸してくれた善き人々に殉ずる。

 

 

『カイガン ゴースト!!』

 

「私達は最後まで戦う!!」

 

 

そしてシータはカイガンゴーストを起動した。CRに頼めば、快く貸してくれた物だった。……もう迷いはない。ただ走り続けるだけでいい。自分も愛する人も、それだけで、自分達でいられる。

 

 

『ジャングル オーズ!!』

 

「審議官、一緒に戦ってください」

 

 

灰馬はそう言って、ジャングルオーズを手に取った。かつて患者を守るために消えていった勇気ある医療人達、彼らを救う為の希望となる戦いが幕を上げる。

 

 

『スペースギャラクシー フォーゼ!!』

 

「天才ゲーマーNの力、見せてあげる!!」

 

 

ニコは力強くガシャットロフィーを起動した。ここまでの戦いで多くの人を失った。それでも頼りになる仲間は隣にいて、それ故この後の戦闘を態々怖れる必要はなかった。

 

 

『ときめきクライシス!!』

 

「行くよ……!!」

 

 

ポッピーはそう言い、装着したバグヴァイザーに目をやる。昨日ようやく帰ってきたもの。久方ぶりの変身。せめて足を引っ張らないように……彼女はそう思いながら味方を意識する。

 

 

『The Strongest Fist!! What's the next stage?』

 

「心が……踊るなぁ……!! MAX大──」

 

 

パラドはガシャットをゲーマドライバーに装填して叫んだ。もう負ける訳にはいかない。かつて人々を苦しめた贖罪を籠めて、ここで悲劇に決着をつける。もう誰も、苦しめさせない。そう心に決めた。

 

 

『マイティアクション X!!』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

「君を削除する。グレードⅩ-0」

 

 

黎斗神はそう呟いた。残りライフの犠牲は厭わない。自分の不始末で生まれでた怪物を、己自身(真檀黎斗)をここでデリートする。誰のためでもなく自身(檀黎斗神)の為に。それは彼の中での決定事項。

 

 

『爆走バイク!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

「最後までノリに乗って行くぜ? ──爆速」

 

 

貴利矢は余裕を崩さずにガシャットを装填する。既にガシャコンスパローも再生した。動かない理由はなく、戦わない言い訳もない。最後まで抵抗を。その末に勝利を。

 

 

『Bang Bang Simulation!!』

 

「ミッション開始だ……第伍拾戦術」

 

 

大我はガシャットのギアを傾けながら顔をしかめる。痛みは抜けきっていない。それでもこの戦いに乗り遅れる訳にはいかなかった。人類の未来を決める大切な一戦、きっと敗北すれば悔いが残る。手を貸す以外の選択はない。

 

 

『タドル レガシー!!』

 

「お前はこの世界の癌だ。……これより、ビースト切除手術を開始する。術式レベル100!!」

 

 

飛彩は敵を睨み付けた。そして、ここまでの戦いを思い出した。沢山のサーヴァントが消えていったのを想起する。それを思えば、ここで倒れる訳にはいかない。この人類の敵を討たなければ、全ての苦しみが無駄になる。そう剣を握り締めた。

 

 

『マキシマムマイティX!!』

 

『ハイパームテキ!!』

 

「世界の運命は……僕達が変える。ハイパー、大──」

 

 

そして永夢は、マキシマムマイティXにハイパームテキを合体させる。久々に変身する形態。油断はしない。一刻も早く、悪夢のゲームを終わらせる。全ての患者の為に、全力で戦い続けよう。それが、ここまで引き継がれてきた、医療の形だ。

 

そして、彼らは変身した。

 

 

『『『『『『変身ッ!!』』』』』』

 

 

轟音が響く。空気が唸る。ゲームエリアは衝撃に揺れ、意思と意思とが交差する。

 

 

『響け護国の砲!! 唸れ騎士の剣!! 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

『至高の王の財宝!! 黄金の最強英雄王!! 人の明日を拓け!!』

 

『オレンジイチゴにパイナポー!! バナナ!! ブドウ!! メロン!! ソイヤ!! ガイム!!』

 

『ゴッゴゴッゴゴッ!! カイガン!! レッツゴー!! ゴッゴゴゴゴッ!! カイガン!! カクゴースト!!』

 

『タトバガタキリバシャウタサゴーゾ!! ラトラタプトティラタジャドルオーズ!!』

 

『ぶっ飛ばせ!! 友情!! 青春ギャラクシー!! 3・2・1・フォーゼッ!!』

 

『ドリーミンガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女は何時もときめきクライシス!!』

 

『赤い拳強さ!! 青いパズル連鎖!! 赤と青の交差!! パーフェクトノックアーウト!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! X!!』

『デーンジャデーンジャー!! デス ザ クライシス デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『爆走独走激走暴走!! 爆走バイク!!』

『ぶっ飛びジェット トゥ ザ スカイ!! フライ!! ハイ!! スカイ!! ジェットコーンバーット!!』

 

『スクランブルだ!! 出撃発進バンバンシミュレーション!! 発進!!』

 

『辿る歴史目覚める騎士 タドルレガシー!!』

 

『マキシマームパワー!! X!!』

『輝け流星の如く!! 黄金の最強ゲーマー!! ハイパームテキ エグゼイド!!』

 

 

並び立つは二十の戦士。七のサーヴァントに十三のライダー。標的は一つのビーストと四体のサーヴァント。もう後はない。進むことしか許されはしない。後戻りは出来ない。その未来は獣を越えた先にある。

 

 

「君達は、君達はここまで抗い続けるのか!!」

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

『Fate/Grand Order!!』

 

 

獣は吠えた。自らの産み出したバグに。反逆者に。敵に。それは腰にゲーマドライバーを装着し、浮遊させたガシャットを二本装填する。

 

 

「ならば……全てを受け止めて、捻り潰してみせよう!! 神の力の前に絶望するがいい!! 変身!!」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『それは、未来を取り戻す物語──Fate/Grand Order!!』

 

「ゲームの命運は、私が決める!!」

 

 

病める獣。進化する獣。人類を強引に進歩へと引きずり込むビーストⅩ。その鎧は変わらず熱を纏い、病を纏う。

 

 

「私達がこのゲームを達成するわ!! 何が何でもよ!!」

 

『ときめきクライシスⅡ!!』

 

「……変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

『ドリーミーンガール!! 恋のレボリューション!! 乙女はずっとときめきクライシス!!』

 

 

そしてその隣で、ナーサリーも変身した。これが、この騒動の最後の戦いとなる。誰もがそれを理解していた。

 

ガシャコンキースラッシャーを構えたエグゼイドと、ガシャコンブレイカーを構えた黎斗神のゲンムが、一番槍として飛びかかる。

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

『マイティ アクション クリティカルフィニッシュ!!』

 

「もう貴様の時代は終わった、真檀黎斗!! ここからは、私の時代だ……!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

───

 

 

 

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「残りライフ、16……流石は私か、最後まで粘りが強い」

 

「当然だ!! そして最後を迎えるのは君達だ!! 神である私には何人たりとも敵いはしない……そうでなければならないのだ!!」

 

「そんなことには、させない!!」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

戦いは難航を極めた。数の差は圧倒的、しかしビースト一体だけで、ライダー全員を圧倒して余りあるだけの力があった。どうやら一晩の間にパワーを強く調整したらしい。ビーストと斬りあうブレイブはそう一瞬考え、すぐにまた戦いに集中する。

 

いつの間にか、戦場は三分割されていた。

 

エグゼイド、ブレイブ、レーザーターボ、ゲンム、鎧武、ゴースト、オーズ、シールダー、アルトリア、バビロン、山の翁、マルタがビーストを取り囲み。

 

スナイプ、パラドクス、ロムルス、オジマンディアス、ソロモンが信長、アヴェンジャー、イリヤと刃を交え。

 

ポッピー、フォーゼ、ナイチンゲールがナーサリーと戦い続けていた。

 

 

「これで……」

 

「どうだぁっ!!」

 

『クリティカル クルセイド!!』

 

『コズミック ランチャー リミットブレイク!!』

 

 

そのポッピーとフォーゼが、ナーサリーへと必殺技を放つ。ポッピーはナーサリーの周囲を回転しながらエネルギー弾を乱発し、フォーゼはフリーズスイッチの力を付随させたミサイルをナーサリーの周囲に解き放つ。

 

 

「あらあら、怖い怖い。でも、私も同じことが出来るのよ?」

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

 

しかしその攻撃の中心にいたナーサリーは慌てることもなく、自分を軸にしてさらに強力なエネルギーを振り撒き、自分を付け狙う攻撃を無力化した。

 

 

「っ……」

 

「そんな!!」

 

「フフ、私たちだって、この戦いに備えてきたの。マスターも強いし、私達だってさらに強くなった。簡単に倒せるなんて、思わないでね?」

 

 

ナーサリーはそう微笑む。

立ち竦むフォーゼの横をすり抜けてナイチンゲールが彼女に拳を突き出したが、その一撃はナーサリーが呼び出した薔薇の蔓に絡め取られて。

 

 

 

 

 

『高速化!!』

 

『マッスル化!!』

 

『伸縮化!!』

 

「今度こそ本気を出してもらうぞ」

 

「オレは乗り気じゃないんだがな」

 

 

それを横目に、パラドクスはアヴェンジャーと殴りあっていた。いよいよ変身すら放棄したアヴェンジャーにパラドクスは怒りを覚え、しかしどうやら強化を施されたらしい敵に苦戦する。

二人は高速化し、右へ左へと飛び回りながら敵の弱点を狙い続ける。

 

 

 

 

『トリプル!! スキャニングチャージ!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「「「はあっ!!」」」

 

 

そして、ビーストを攻略しようとする面子も手を休めることはない。

上からメダジャリバー、前からガシャコンスパロー、後ろからガシャコンソードが同時にビーストへと降り下ろされる。それぞれは並大抵の金属なら羊羮よろしく両断出来た筈の斬撃。しかし、ビーストはそれらを己から放った衝撃波で打ち消して、逆に吹き飛ばした。

 

 

「うわあわああっ!?」

 

「親父ッ!?」

 

 

そして、上から剣を降り下ろしていた灰馬が変身するオーズはあえなく飛ばされて、近くのビルの壁に衝突する。

 

 

原罪(メロダック)!!』

 

絶世の名剣(デュランダル)!!』

 

『方天画戟!!』

 

「……チッ、流石にこの程度ではくたばらぬか……生き汚い奴だ」

 

 

ギルガメッシュの変身した仮面ライダーバビロン、それがビーストへと真名解放した宝具を雨のように落とす。しかしそれはビーストの頭上を捉えた段階で回避されて。

 

……並の方法ではこれは倒せない。そう誰もが思った。戦場は息切れ気味だ。

 

 

「当然だ!! 私は檀黎斗、神の才能を持つ男!! 誰にも敵わない、皆恵みを受けとるのみぃ!!」

 

 

 

 

 

「さて、本当にそうかな?」

 

 

……その発言を待っていた。そんな声色で、レーザーターボが呟いた。

ビーストはそれに耳を傾ける。傾けてしまう。それは全能さ故の慢心か、自分が完全だと言う自信からか。

 

 

「……どういうことだ、九条貴利矢!!」

 

「ここまできたんだ、出し惜しみは必要ない……真檀黎斗、お前のちょっとした嘘を当ててやる」

 

 

そしてレーザーターボは宣言した。

 

 

「お前は、完全な檀黎斗じゃない」

 

「……何だと?」

 

 

レーザーターボは両手を無防備に広げ、努めてゆったりとビーストの周囲を回る。誰もそれを邪魔しない。ビーストは怒りを籠めて不届き者へと怒鳴った。

 

 

「ふざけるな!! 私は神だ!! この状況がそれを証明している!!」

 

「別に自分はお前が別人だとは言っていないさ」

 

「なら何だ!!」

 

 

それに答えるように、今度はゲンムが前に出る。引き付けるように、見せつけるように。檀黎斗は己だと。

 

 

「ああ、君は確かに私だとも。私が認めよう。……しかし残念ながら、君は最初の最初、情報体として電脳空間に潜伏した際に、余計なものと混ざってしまった」

 

「そんなことは……そんな……」

 

 

即座にビーストはそれを否定しようとして……漸く、ずっと心の内にあったような違和感に気づく。自分は檀黎斗だ、そう思っていた筈なのに。檀黎斗だと思っていたのに、何か、決定的に違うような。

 

 

「それが君と私の差だ。故に君は、私でありながら私らしからぬ作戦を行ってきた」

 

「……」

 

「そして今も、こちらだけに集中している」

 

 

ビーストはそこまで聞いて。

 

これが体力回復までのちょっとした時間稼ぎなのだと気がついた。そして、そのちょっとで戦況は変わるかもしれない。

周囲を見渡す。誰も、襲ってくる気配はなく。

 

何気無く上を見上げて。

 

ビーストは目を見開いた。

 

 

「……もう遅い!! 姐さん!!」

 

「ええ、最後まで付き合いなさい!! ……逃げ場は無いわ!! 荒れ狂う哀しき竜よ(タラスク)!!」

 

 

空には、高く高く飛び上がったマルタが、(タラスク)と共に落下していている姿があった。

タラスクはマルタの下へと回り込み……重力のままに、ビーストを押し潰す。あえて側面で、ビーストの体を露出させるようにしながら。

例えサーヴァントとしての攻撃が届かなくとも、重力は無視できない。ビーストが後からそれを操作しようと試み始めた頃には、もう準備は整っている。

 

 

「決めるぞ!!」

 

『爆走 クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

そしてレーザーターボが、弓にしたガシャコンスパローから、高速回転するバイクの車輪を撃ち出した。

 

 

『バナスピアー!!』

 

『影松!!』

 

『極 スカッシュ!!』

 

「合わせろシータ!!」

 

『イノチダイカイガン!! タノシーストライク!!』

 

「うんっ!!」

 

 

続けて鎧武とゴーストがビーストの頭の方に刃と矢を高密度で放ち命中させる。足の方には、バビロンが同じように宝具を降らせていて。

 

 

「合わせて行きましょう!!」

 

「はい!!」

 

『Noble phantasm』

 

 

そしてそこから間を開けずに飛び上がったシールダーとアルトリアが、同時にビーストに聖剣を降り下ろした。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   カッ

 

 

光の柱が二本立つ。周囲の大地が割れ、岩盤が揺れ、タラスクは砕け、空の上にあった雲が弾けとんだ。

 

 

 

 

 

「……ここまで、やるとはな。しかし届かない。私は神だ、誰がどう言おうと、私が私を神にする。この世界の最高の神。君達はその礎になればいい!!」

 

 

……それでも。それでもビーストは倒れなかった。それは意地か、それとも妄念か。

 

結局の所、この獣にとっては、自分が檀黎斗なのかどうかは、ある種些細な問題だった。名前などどうでもいい、大切なのは己にあるこの才能と、それを使うキャンバスたるこの世界のみ。

 

そう思えば、本当にレーザーターボの発言は足止めでしかなかった。そのあとの攻撃を堪えた以上もう問題はない。もう動揺はない。もう止まらない。今度こそ止まらない。一息の元に捻り潰す。

 

……そこまで考えて。

 

 

 

 

 

   グサッ

 

「……」

 

 

ビーストは、背中に一瞬冷たいものを感じた。すぐに熱さと痛みがそれを塗り潰し、彼は苦痛の声をあげる。……丁度、刃物で刺されたときの痛みだ。

振り向いた。全く警戒させない攻撃。しかも、自分の装甲を破れるだけの強化が施されている。

今自分を刺したのは誰だ?

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「さて、何じゃろうなあ」

 

 

……振り向けば、信長がしたり顔で密着していた。彼女の愛刀が、ビーストによって強化された愛刀が、ビーストを貫いていた。

 

 

「わしは最初から最後まで、徹頭徹尾やりたいようにやるだけじゃ──いざ、三界神仏灰燼と帰せ」

 

 

次の瞬間、信長の周囲に紅蓮の焔が巻き起こる。信長と、その刀が貫いたビーストが燃え上がる。それは篝火のように、空へと駆ける竜のように。

抵抗の術はない。それをするには、ビーストは動揺しすぎた。援護の術はない。ナーサリーを押さえ込むために……イリヤが乱入していた。

 

 

「我が名は第六天魔王波旬、織田信長なり!!」

 

「っ、何故だ……!!」

 

 

宝具、第六天魔王波旬。信長の有り様が具現化した炎の世界。

ビーストは呻く。何故、自分が宝具を食らっているのか。何故、神仏を燃やす炎が己の身を焦がしているのか。

信長はフリーズするビーストを逃がすまいと更に深々と刀を突き立て、笑った。

 

 

「全く、お主はほとほと、可哀想なくらいに他人の考えを見抜く目というものがないのう」

 

「何、だと……」

 

「わしが()()()()()()()()()()、と言ったのも、毎日ガシャットを持ち出したのも、全てはこうするためじゃったというのに」

 

「なっ──」

 

 

……そして思い出す。これまでの信長の行動を。

 

自分を持ち上げて神性を獲得させたのは、宝具を効果的に使う為だった。

毎日ガシャットを持ち出したのは、好きなように手を加えるため。

 

しかし。しかし、信長にそれが出来る能力はない。そんな力は与えていない。ビーストは炎の中で考える。

……その疑問は、すぐに晴れた。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「っが……!?」

 

 

紅蓮の火に、青い炎が継ぎ足される。当然、その炎を放ったのはアヴェンジャーで。

 

ああ、そういうことか。ビーストはいっそ冷静になって思った。

アヴェンジャーならば、ガシャットに手をつけられる。その思考能力は、場合によっては神の想像を越えるもの。信長とアヴェンジャーがやけに親密だったのはそういう訳だったのか、と。

 

 

「信長さんっ!!」

 

 

シールダーが声を上げる。この火力だと、信長の霊基まで焼き尽くされてしまうと。既に日中だった筈なのに、信長の炎は周囲から影という影を取り払った。

……信長は当然のように忠告を無視する。そして、炎の中で大声で独白した。

 

 

「何故わしがこうしたのか解るか、マスター!!」

 

「……」

 

「あの旅は、よいものじゃった。人類史を駆け世界を救う旅。わしは、とてもカッコいいと思うぞ? それが本物でも、そうでなくても」

 

 

それは信長の本心。今日まで暗躍し続けたゲンムのアーチャーの原動力。

 

 

「しかし、後始末がいけなかった。お主、あろうことか派手にバラしてそれで終わりじゃったからな!! 何のフォローもなく、虚無だけ残して全てを終らせ、そして突然覚醒させた。お主に散々引っ掻き回されたマシュの内心が穏やかじゃなかったことは言うまでもあるまい?」

 

 

彼女は、才ある者を愛する。当然、檀黎斗も。しかし同時に、認められる働きには恩賞を与えるべきであり、身内にはなるべく甘くなければならない、という考えもあった。だからこそ……黎斗のやり方が気に食わなかった。

 

 

「わしはな、活躍した部下には然るべき恩賞を与えるべきだと思うのじゃ。去るのなら、満足と納得の上でなければならない。じゃが、お主はそうではなかった」

 

「っ……」

 

「だから、わしが代わりにやったのじゃ。全てのサーヴァントが、笑顔で退場出来るようにな」

 

 

ゲンムのセイバー、ジークフリート。マシュ・キリエライトに正義を託して消滅。

ゲンムのランサー、エリザベート。最後の希望を回収して、その希望を繋いで消滅。

ゲンムのキャスター、ジル・ド・レェ。アサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。バーサーカー、カリギュラ、各々、檀黎斗に希望を託して消滅。

 

ここまでは、どうにかこうにか、皆が笑顔で終われるようにやってきた。彼女自身があの旅に価値を認めていたから、各々のサーヴァントの命を悲劇で終わらせるわけにはいかなかった。

命はいつか終わる。なら、幸せに逝くべきだ。それが、信長の正義だった。

 

 

「私は君を……君達を、侮っていたらしいッ……!! はああああああっ!!」

 

   バチン バチンッ

 

 

……そこまで聞き届けたビーストは全身に力を籠めて、己の装甲、燃え盛るカルデアスの外装を勢いよくパージした。

周囲に破片が弾丸にも勝る勢いで射出され、もろに食らった信長はビーストから引き剥がされシールダーの元まで飛ばされる。

 

 

   グシャッ

 

「信長さん!?」

 

「っつ……流石にやりすぎたのう。こんなにバーニングしたんじゃから、是非もないよネ……!!」

 

「そんな……」

 

 

その体は、消滅を始めていた。信長はふらふらと立ち上がって、透けた手足でシールダーへと歩み寄り、弱々しく、でも力強く抱き締めた。

 

 

「っ……」

 

「先に逝って待っておくぞ、マシュ」

 

「……ありがとうございました」

 

「……楽しかったか?」

 

「ええ……とても」

 

「なら、良かった」

 

 

そして……シールダーは刹那の間感じていた信長の重量を見失う。

 

ゲンムのアーチャー、織田信長。笑顔で死す。

 




次回、仮面ライダーシールダー!!



───神の暴走

「溶け出してる……」

「神に人のカタチなど必要あるまい」

「あれは、私達に任せてください」


───駆け抜ける少女

「あの時の答えを見つけました」

「君は私に敵わない」

「私だけの戦いは、もう止めました」


───最後の決意

「最後まで、付き合ってください」

「これが旅の終わり」

議決開始(ディシジョン・スタート)


第七十一話 色彩


「私が見ている未来は一つだけ」


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第七十一話 色彩

この物語の主人公はマシュ・キリエライトです



 

 

 

信長が消滅して、シールダーは再びビーストを見る。

 

その体は。

 

 

「中身が……溶け出してる……?」

 

 

……そんな印象を受けさせた。

カルデアスの装甲の真紅が、鎧の中から溢れ出してビーストの腹を伝い、足を飲み込んでいく。泥のように。マグマのように。

 

 

「カルデアスの外壁を破壊した為に、中枢部のエネルギーが溢れ出したということなのでしょうね」

 

 

隣に立ったアルトリアがそう呟く。きっと抑止力からの知識で分析できたのだろう。シールダーはビーストへ一歩踏み出そうとし、そしてビーストから尋常じゃない熱量を感じて踏みとどまる。

 

 

「っ、熱い……」

 

 

カルデアスは高密度の情報体、次元が異なる領域……そのように設定されたもの。触れればただでは済むまい、いや、実際に片腕が溶けたパラドクスという前例もいる。

それが、節操なく溢れだそうとしていた。

 

 

「……ここまで及んだ事を評価しよう。しかしまだだ。勝利するのは私だ。私は神だ……不滅だ……!!」

 

「しかし君も、この熱では耐えきれまい。システム自体がそうは作られていない筈だが?」

 

 

そう声を上げるのは黎斗神のゲンム。

ビーストはそれを見て端から見てもよく分かるくらいにけらけらと笑う。……その姿は、さっきまでより幾らか膨らんでいるように見えて。

 

 

「それは知っているとも。だからこそ私にここまでやらせた君達を評価しているのさ……そして私とて、今すぐにそれに耐えられる作りを産み出せる訳でもない」

 

「……それは、つまり?」

 

   メキメキバキバキバキバキ

 

「っ!?」

 

 

……刹那、肥大したビーストの背中がパックリと割れて、そこから勢いよく真檀黎斗が飛び出した。

 

 

「フゥッ!!」

 

「もう一人現れただと!?」

 

「マトリョーシカかよてめぇ!!」

 

「何、一旦調整をするために意識等の機能を分割したまでのこと……別に神に、人のカタチなど必要あるまい?」

 

 

そう言いながら何でもないように宙に静止した真黎斗は、変身もしていないのに自分の周りに紅い槍状のエネルギーを精製して周囲に落とす。

地面が揺れた。それが貫いた大地はクレーターよろしく陥没し煙を上げる。

しかも脱け殻のビーストの方も全く問題はないらしく、近くのライダー達へとカルデアスの一部を変形させた剣で斬りかかった。

 

 

「っ、こっちも動くのか!!」

 

「触れたら死ぬぞ、気を付けろ!!」

 

   ガンッ

 

 

ブレイブがその刃を受け止めて呻く。ガシャコンソードは煙を上げ始めた。……長く鍔競りあうのは得策ではないだろう。

 

「それでは少しばかり離脱するとしよう。何、すぐに戻ってくるさ」

 

「待てっ!!」

 

『バンバン クリティカル ファイヤー!!』

 

 

そして瞬間移動しようとした真黎斗に、スナイプが咄嗟にミサイルを放った。しかし、全方位から真黎斗の一点を狙って放たれた数多の攻撃を、真黎斗は展開したシールドで眉一つ動かすことなく無力化する。

……しかし、時間稼ぎとしては十分だった。

 

 

「行かせないっ!!」

 

   ギュインッ

 

「っ──」

 

 

直後、体勢を整えて準備を終えたソロモンが魔術を発動して、真檀黎斗を魔方陣で拘束する。一瞬真黎斗のゲンムは動きを止め、すぐに魔術を解除して自由になった。

 

 

   バリンッ

 

「無駄だ。君の魔術では……ん?」

 

 

……しかし、どういう訳だかもう真黎斗は瞬間移動が出来なくなっていた。

 

信長とアヴェンジャーが仕掛けた罠だった。二人がガシャットを触れたのはごくごく短い期間だったし、本当に重要な部分はプロテクトが頑丈すぎて入れなかった。

しかしそれでもやりようはある。信長は自身の消滅をトリガーとして発動する弱体化をガシャットに仕掛け、それはめでたく発動した。ソロモンの魔術を強化したのはその一例に過ぎない。

 

そして、その一つのチャンスが、シールダーに決断させた。

 

 

「あれは、私達に任せてください!!」

 

「……分かりました。幸運を」

 

 

シールダーが飛び上がる。空中に静止していた真黎斗へと飛び上がる。……他の外敵なら真黎斗の意識がなくともFate/Grand Orderの機能を残しているビーストが対応しただろう。しかしシールダーだけは、真黎斗のいないビーストは捉えられない。

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

 

今までで最も速いスピードで、彼女は真黎斗を突き飛ばした。

 

───

 

 

 

 

 

   スタッ

 

「はぁ、はぁ……」

 

『ガッシューン』

 

 

着地したとき、シールダーは傷だらけだった。何度も繰り返した攻撃は的確に防がれ、逆に真黎斗の攻撃は躱すことが出来ない。そのせいで彼女だけがダメージを受けて、強制的に変身は解除された。

それでも彼女は、真黎斗を強引に他の人々から引き剥がした。

 

 

「……あの時の答えを見つけました」

 

 

マシュは大地を踏みしめて声を張り上げた。視線の先ではゆっくりと立ち上がった真黎斗が、ドライバーを装着もせずにマシュを観察している。

 

 

「あの時……あの時貴方は言いました。人類の歴史に痛みのない改革はなかったと。誰も苦しまない進化はなかったと」

 

「……」

 

 

あの時。まだ、この世界に来て二日目の頃。彼女は真黎斗の世界をどうにか否定しようとして、すぐに黙らされた。

あの頃からどれだけ成長できただろう。いや、本当は何も変わっていないかもしれない。

それでも、今なら言えることが一つある。

 

 

「どんな状況にあっても、人には抵抗する力がある。自分が嫌だと思うことに『違う』と言える力がある。人の未来を決めるのは貴方じゃない。誰かが勝手に強引に引いていくんじゃなくて、皆で進んでいくべきなんです」

 

「……ほう」

 

 

今日まで見てきたもの。混乱する中でも足掻き続けた人間。誰かを救うために走るドクター。自分の決断を貫いたサーヴァント。その全てが走馬灯のように脳裏を駆けた。

 

 

「君の成長は喜ばしいものだ。私の才能が完璧だという裏付けになるのだからね」

 

「……」

 

「それでも、今回ばかりは本気で消去するとしよう。何、この場合は抵抗は無意味だ。君は私に敵わない」

 

『マイティアクション NEXT!!』

 

 

対する真黎斗はマシュの言葉を何でもないと断じて、虚空に出現させたガシャットの電源を入れた。

……どうやらFate/Grand Orderは向こう側に残したらしく、この一本しか出していない。しかしそのガシャットは、向こう側のビースト同様、赤の光を纏っていた。

 

 

「……ええ、そうでしょう」

 

「ほう?」

 

 

……しかし、シールダーは真黎斗の言葉を否定しなかった。しかし降参する気配はない。真黎斗はそれにほんの少し違和感を覚える。

シールダーは真っ直ぐ真黎斗を見て、そしてガシャットを胸の前に掲げ、宣言した。

 

 

「ええ……私だけなら、貴方には届きません。ただ突き進むだけの私には力がない。でも……そのがむしゃらな歩みは無駄じゃなかった。今日まで走ってきたから、皆と会えたんです」

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「……私だけの戦いは、もう止めました」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

その瞬間。ガシャットの電源を入れたその刹那、シールダーの視界に一瞬だけ別の世界が映り込んだ。

 

数字の見え隠れする白い世界。作られた自分の内面。その中に並ぶサーヴァント……今日までに出会ったサーヴァント。ガシャットの中のサーヴァントも、自分の中に取り込んだサーヴァントも皆並んでいて。……どういう訳だか、キアラも大人しく立っていて。

 

 

「……ふふっ」

 

 

マシュは笑った。これまでに何度も笑えと言われてきたが、この笑いは自発的な物だった。

清々しい気分だった。頬を風が撫でていく。目の前の敵はマシュを観察し続けていて。それもまた可笑しかった。

 

 

「最後まで、付き合ってください」

 

 

……彼女は、変身する。

 

 

「……変身ッ!!」

 

『マザル アァップ』

 

 

バグヴァイザーから飛び出したパネルは、白銀に輝いていた。その中に、仮面ライダーのシルエットが青く浮かんでいた。そしてそれはマシュを飲み込む。

最後の変身。最後の戦い。今がそれなのだと、マシュの直感が告げて。

 

 

『放て護星の砲!! 穿て騎士の剣!! 正義は其処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

「これが私の旅の終わり。私達の旅の終わり。……そして、貴方の終わり!!」

 

 

……変身を終えた彼女は、全身に青みがかった銀の光を纏っていた。無理な変身のせいなのか、エクスカリバーはガシャコンカリバーに変形せず、体にも時折ノイズが走る。それでもシールダーは、戦えた。

 

 

「君に引導を渡してやろう。君を産み出した者として。ここは、君だけの終点だ」

 

『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』

 

『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

 

それに向き合った真黎斗も変身した。やはり赤い光を纏っていた。戦闘力は先程と遜色ないのだろう。

 

赤いカルデアス(ゲンム)と、青いカルデアス(シールダー)が向かい合う。二人が真っ直ぐに互いに互いを見つめあったのは、もしかしたらこれが初めてなのかもしれなかった。

 

そしてビーストは両手のガシャコンブレイカーを握り締め、両手にエクスカリバーとバルムンクを持ったシールダーへと突き進んでいく。

 

───

 

「良かったのか」

 

 

アヴェンジャーが、隣にいたソロモンに言った。

 

もうアヴェンジャーは敵ではない。イリヤもだ。彼らは信長の裏切りに合わせてビーストに反旗を翻した存在。……もうここには敵は、ビーストの半身とナーサリーだけだ。

 

しかしそれでも、ビーストは強大で。中々迂闊にも近づけず、倒す手がかりが見つからない。

 

 

「……」

 

「……彼女を見送らなくて」

 

 

そんな中でアヴェンジャーはソロモンに言っていた。彼は、ソロモンがロマンだと知っている。彼がどれだけマシュを気にかけていたかを知っている。

 

それでもソロモンは、アヴェンジャーの問いにこう答えた。

 

 

「良いんだ。……彼女はもう強くなった。もう、自分の未来を、選びたかった未来を掴み取れる。何も心配は、いらないよ」

 

「……そうか」

 

───

 

「はああっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

   ガンッ

 

 

バルムンクが受け止められる。ガシャコンブレイカーを受け止める。機能を分割したことによって弱体化しかビーストと強制変身解除の後に再変身したシールダー、二人のライダーは、戦力的には拮抗していた。

しかし、戦いが続くのなら話は違う。

 

 

「うっ……!!」

 

「どうした、その程度か!!」

 

 

シールダーは戦いが長引けば長引くほど弱くなる。それはどうしようもない事実だった。

 

ネロの劇場を展開しても、この状態ではすぐに破壊されるだろう。もしかしたら今ならキアラの触手も自由に扱えるかもしれないが、最初から本番というのはリスクが高すぎる。

 

 

「……まだまだぁっ!!」

 

 

それでも、戦い続けると決めた。

 

シールダーは一気にビーストに接近し、二本の剣で一気に敵に食らいつく。

 

 

   カキン

 

   ガン ガン

 

   ガギンッ

 

 

火花が散った。熱に頭がくらくらする。四肢には激痛が走り続けて。腕を降り下ろす度に視界が白く明滅した。

 

 

幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)!!」

 

「甘い!!」

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

宝具を撃ち続ける。例えどれだけ弾かれても。今日までがむしゃらに戦ってきたのだから、この戦いでもそれしか出来ない。

自分は器用にはやれないということをシールダーは知っている。目の前のビーストのようにも、さっき消滅した信長のようにもなれない。

自分は自分にしかなれないのだ。

 

それでもいい。その上で、自分は彼を乗り越える。

 

 

「まだ終わってない!!幻想大剣・邪神失墜(バルムンク・カルデアス)ッ!!」

 

「いい加減に、倒れろ!!」

 

   ガンッ

 

 

ビーストの動きも大振りになり始めた。強く弾かれて、バルムンクが飛んでいく。……それでも、同時に相手の片方のガシャコンブレイカーを吹き飛ばすことに成功した。

 

反動に耐えられずに二、三歩シールダーは後ずさった。一瞬脱力して、エクスカリバーが地面に転がる。瞳は、ビーストしか捉えていない。……旅を始めた頃からそうだったようにすら思えた。

 

 

「……っう……」

 

 

意識が朦朧とする。

ふいに、これまでの旅の全てが蘇った。

 

何も分からなかった冬木。

あっという間だったフランス。

人々が輝いていたローマ。

驚きばかりだったオケアノス。

見ることしか出来なかったロンドン。

沢山悩まされたアメリカ。

決意を抱いたエルサレム。

戦い抜いたバビロニア。

 

そして、沢山の人と出会えたこの特異点。

 

その全てを、力にしよう。そう感じた。

 

 

「……アルトリアさん」

 

 

朦朧とする意識の中で、マシュは地面に転がっているエクスカリバーを掴む。どういう訳だか、ビーストの姿にアルトリアがダブって見えた。そして、そのアルトリアは何かを囁いているようで。

 

……それが何を意味しているのかを、今の彼女は理解できた。

 

 

「……」

 

 

足を踏ん張って真っ直ぐ立ち、拾い上げたエクスカリバーの切っ先をビーストに向けた。

そして、魂の奥で囁いているアルトリアの声をなぞる。

 

 

「……応えてください、皆さん!! 議決開始(ディシジョン・スタート)──ッ!!」

 

 

……それと同時に駆け出した。ビーストへと接近し、その脳天へのエクスカリバーを降り下ろす。当然ガシャコンブレイカーに防がれた。それでも構わない。

 

 

《承認、ジークフリート》

 

『是は、正義ある戦いである』

 

 

そんな声が聞こえた。自分の袂の内から聞こえる声だった。自分に力を貸してくれている英霊の声だった。

エクスカリバーの光が強くなる。

 

エクスカリバー。それは強大な力を籠めた聖剣。その強さゆえに、簡単には全力が出せないように拘束が掛けられている。

今シールダーが行っていることはその拘束の解放。本来は円卓の騎士が行う議決の再現。自分の中の英霊による十三拘束解放の儀。

 

 

「……その音声は……まさか、君は」

 

   ガギンッ

 

「……貴方を、越えるっ!!」

 

 

《承認、ネロ》

 

『是は、ロマン(ローマ)ある戦いである』

 

 

「私のために!! 世界のために!! この世界を、救う!!」

 

 

《承認、殺生院キアラ(ビーストⅢ/R)

 

『是は、自分の為の戦いである』

 

 

光が増していく。それに連れて、自分の力が増していくような気がした。いくらでも前に出られる。ビーストを、押していける。

 

 

《承認、ブーディカ》

 

『是は、勝利への戦いである』

 

 

「貴方の作ろうとしている世界は正しくない!! 貴方の倫理は、この世界には早すぎる!!」

 

 

《承認、ドレイク》

 

『是は、不可能への挑戦である』

 

 

「っ、生意気な……っ!!」

 

『マイティ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

猛攻に慌てたビーストがガシャコンブレイカーのキメワザスロットにガシャットを生成してキメワザを発動した。ガシャコンブレイカーに追加された赤いエネルギーがエクスカリバーを押し返そうとし──

 

 

《承認、モードレッド》

 

『是は、邪悪との戦いである』

 

 

「はあああああっ!!」

 

   ガンッ

 

 

しかし、エクスカリバーに追加された新たな光がそれを押さえ込む。押し負けたビーストは大きく飛び退いて体勢を建て直そうとして。

 

 

《承認、ジャック・ザ・リッパー》

 

『是は、お母さんとの戦いである』

 

 

「逃がさない!!」

 

 

そこに追撃せんとシールダーは斬り込んだ。己を産み出した者へと、彼女は刃を向け続ける。しかしもう、それは不毛な行いではない。

 

 

《承認、ジキル/ハイド》

 

『是は、必要な戦いである』

 

 

「私が見ている未来は一つだけ!!」

 

 

《承認、バベッジ》

 

『是は、理想への戦いである』

 

 

「永遠なんて少しも必要じゃない!!」

 

 

《承認、ロビンフッド》

 

『是は、迷いなき戦いである』

 

 

「一分一秒が愛おしい、当たり前の世界を!!」

 

 

《承認、ランスロット》

 

『是は、精霊との戦いではない』

 

 

「私は、守る!!」

 

 

追いかけ続ける。追いかけ続ける。攻撃を休めずに。自分の体が上げる悲鳴も無視して。

ビーストの方も、こうも責め立てられると対応が出来ない。本来の力を向こう側のビーストと分かち合っている彼は、この、最後の残光をフルに使っているシールダーに決め手がない。

 

 

《承認、ガウェイン》

 

『是は、誉れ高き戦いである』

 

 

「っ……君は、そのまま攻撃を続ければ消滅するぞ!!」

 

「それが何でしょう!! これが私のやりたいこと!! これが私の結論!!」

 

 

《承認、トリスタン》

 

『是は、善い心の者との戦いではない』

 

 

「大切なものが何かは、分かってる!!」

 

   ザンッ

 

 

光が増していく。自分でも直視できないくらいに。ついさっき見たばかりの信長の炎にも負けないくらいに。

それと同時に、自分の足が崩れていくような感覚に襲われた。それでも、構わない。

 

 

《承認、アグラヴェイン》

 

『是は、真実のための戦いである』

 

 

「沢山の人と会ってきました!! 沢山の人が笑っていました!! だから、それを守れれば、それ以上の望みはありません!!」

 

 

《承認、ギャラハッド》

 

『是は、私欲なき戦いである』

 

 

……いつの間にか、変身が解け始めていた。顔のパーツが先端から灰になっていく。

それでも、同時にビーストの変身もまた解け始めていて。なら、手を緩める謂れはない。

 

 

《承認、ナイチンゲール》

 

『是は、誰かを救う戦いである』

 

 

誰かの自由や笑顔の為に戦う仮面ライダー。それに、彼女はどうしようもなく、憧れていた。

 

 

《承認、アルトリア》

 

『是は、世界を救う戦いである』

 

 

「っ……」

 

   カランカラン

 

「終わりにしましょうっ!!」

 

 

エクスカリバーはもう、剣の形が分からないくらいに眩く輝いていた。熱量も、赤いカルデアスよりずっと強く感じられた。それはきっと、希望の熱さだ。

攻撃を受けすぎたビーストの手から、ガシャコンブレイカーが溢れ落ちる。

 

 

《承認、プライミッツ・マーダー(ビーストⅣ)

 

『是は、満足のいく戦いである』

 

 

次の瞬間、シールダーはエクスカリバーをビーストの胴体に突きつけていた。……もう顔の部分の変身は消え、肩の部分も露になっている。

それでも迷いはない。……彼女の口元には、まだ笑みがあった。

 

 

「……これは!!」

 

「待て、止めるんだ……!!」

 

「全てを賭けた戦いである!!」

 

《承認、マシュ・キリエライト》

 

約束した(エクスカリバー)──」

 

 

既に、エクスカリバーを縛っていた拘束は解き放たれた。全てのサーヴァントの願いを練り上げた星の聖剣の極光の束は、人類悪へと放たれる。

 

少女の旅。少女の命。少女の願い。その全てを籠めた最期の一撃の銘は。

 

 

 

 

 

英雄の剣(グランドオーダー)ァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……っ……」

 

 

……マシュは膝をついた。目の前には、近隣の建物を悉く溶かし、地平線まできれいに抉り取られた穴が開いていた。

そして、呻く真黎斗と、砕けたマイティアクションNEXTも。

 

 

「っ……マシュ・キリエライト……」

 

「……何でしょうか、黎斗さん」

 

 

その黎斗はもう立つことも出来ない。マシュの宝具で、胴体から下が存在ごと消滅していたからだった。もう、再生はしない。

 

 

「……私は……間違っているのか?」

 

 

そしてその真黎斗は呟く。掠れた、消えそうな声で。

 

 

「死をなくし……恐怖をなくす行いが、間違いなのか?」

 

「……貴方は、やり方を間違えてしまったんです。もっと……他の人、皆に、寄り添わないと、いけなかったんです」

 

 

そしてそんな彼に、マシュは自分の考えを告げた。少し前までならきっと自分も思い至らなかっただろう考えを。

それを聞き届けた真黎斗は、少しだけ笑った。

 

 

「それは……不可能な話だ……私は、神でしか、ないのだから……」

 

 

──そして。ビーストⅩ、真檀黎斗の意識は、消滅した。

 

 

 

 

 

「……私は」

 

 

それを見届けたマシュは空を仰ぐ。

もう、ガシャットギアデュアルBは砕けた。ガシャコンバグヴァイザーL・D・Vも壊れた。

後はもう託した。

 

最後に、何処までも続く青い空に問う。

 

 

「仮面ライダーに、なれたでしょうか」

 

 

 

 

 

〔……なれたとも。だから今はゆっくりと休めばいい、仮面ライダー〕

 

 

 

 

 

「……ふふ……」

 

 

……そして。少女の体は静かに大地に溶けた。

 




次回、仮面ライダーゲンム!! 最終話!!



───戦いの終わり

「切っ掛けは開けた」

「後はどうすればいいか、分かるな?」

「倒すだけだ」


───悲劇に決着を

「これを使え」

「戦いを終わらせる」

「皆を取り戻す!!」


───最後に勝つのは

「私は諦めない」

「力を貸してください」

「戦いぬきましょう、最後まで!!」


最終話 EXCITE


「フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」


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最終話 EXCITE

 

 

 

 

「我が無限の光輝、太陽は此処に降臨せり!! 光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)!!」

 

「■■■■■■■ァァァァッッ!!」

 

 

空から降り注ぐピラミッド。その真下のビーストはそのピラミッドに熔解させたカルデアスを噴射する。二つは互いを融かしあい……ピラミッドが破壊された。

 

 

「チッ……小癪な真似を」

 

「あれは……近づくには熱すぎるのだろうな。先程よりも熱量が増しているように見える」

 

 

半身を分離したことにより意識を失い、敵を倒すプログラムに戻ったビーストは、今や人としての形を捨てつつあった。

より効率的な攻撃を。より効果的な攻撃を。それを突き詰めていった結果、ビーストの全身は熔解したカルデアスで包まれ、体からそのカルデアスの一部を切り離し、自由に動かすような攻撃をするようになっていた。

その温度は凄まじく、しかもさらに高温になっていく。もうブレイブのガシャコンソードは豆腐のように溶かし斬られるようになっていたし、スナイプのミサイルも近づいただけで勝手に暴発するようになっていた。

 

 

『無双セイバー!!』

 

『大橙丸!!』

 

『オレンジ チャージ!!』

 

   ジュワッ

 

「やはり届かないか……!!」

 

 

形成した薙刀を投げつけてみた鎧武も、物理攻撃は届かないと受け入れる。しかしあの熱の前にはどんな冷気もどんな水も届かない。

 

 

「打つ手が、ない……」

 

 

そんな声を漏らしたのは誰だったか。少なくともそれは、全員の脳裏に首をもたげた感情で。

 

 

「■■■■■■■!!」

 

「っ、来るぞ!!」

 

「気を付けろ!!」

 

 

一際大きくビーストが吠えた。もうヒトガタではないそれは胸元がパックリと開き、そこが口のように動いていて。

 

そしてビーストは一つのサーヴァントへと超高速でカルデアスを伸ばした触手を向かわせる。

ソロモンだった。

 

 

「不味いっ!!」

 

   バリン

 

   バリン

 

   バリン

 

「っ……」

 

 

展開した防御術式は紙のように砕かれていく。その一撃はソロモンに迫り、飲み込まんと口を開き──

 

 

 

 

 

……刹那。

 

 

「……■■■、■」

 

 

ビーストの動きが一瞬止まった。同時に少しの間グラフィックがバグを起こし、放っていた熱も段々と低くなっていく。

 

彼らは知るよしもなかったが、この瞬間に、もう片方のビースト、真檀黎斗が消滅したのだった。

 

 

「……今か!!」

 

天の鎖(エルキドゥ)!!』

 

 

次の瞬間、ビーストがどうにか押さえ込める温度まで低下したと踏んだバビロンが己の蔵を展開し、ビーストの体を金の煌めきを携えた鎖が縛り上げる。真黎斗によってゲーム上最高の神性を備えたビーストは、四肢を動かすことすら敵わない。

 

 

「お? 決まったか?」

 

「慢心をするな九条貴利矢。あの程度で私は倒せない」

 

「そうよマスター、ほら、カルデアスが伸びてくるわ、避けて!!」

 

 

しかしそれでも、ビーストはまだ自在にカルデアスを伸び縮みさせて操ることが出来て。熱量も減らされたとはいえどちらにしろ触れれば致命傷だ。

タラスクを失ったマルタは飛び退きながら光弾を壁のように展開して解き放ったが、その全てはカルデアスに飲み込まれて塵と消えた。

 

 

「……精々、切っ掛けは開けた、程度のものか。まああの獣に対してなら上等よ」

 

「ふん、口が大きいぞ太陽の」

 

 

オジマンディアスとバビロンがそう言葉を交わす。その隣ではロムルスと山の翁が伸縮するカルデアスをいなしていて。

 

 

「……彼女は、やったみたいだ」

 

 

体勢を立て直したソロモンはそれを眺め、また自分でも攻撃を続けながらぼんやりと呟く。再び彼に並び立ったアヴェンジャーがそれに小さく頷き、問った。

 

 

「そのようだな。……後はどうすればいいか、分かるな?」

 

「ああ、当然、分かっているさ」

 

 

そしてソロモンは手を握り締める。

今の彼は自分の魔術の威力を最大にでき、また大抵の魔術を扱うことも出来る。

そう、それは、あの自分から溢れ出たとされたあの獣の魔術に関しても例外ではなく。

 

 

「……あの子の決意を無駄にはしない。僕も彼を、倒すだけだ」

 

 

ソロモンの右手の回りに、小さな光帯が出現した。

 

───

 

「私は諦めない!! 私の才能は、不滅よ!!」

 

 

ナーサリーは悟っていた。もう真檀黎斗は斃れたと。彼は選択肢を間違えたのだと。……それでもまだ、自分が残っている。ナーサリーは諦めるという手段を持たなかった。

 

ビーストだってどうにかなる。ここでこのライダー達の、サーヴァント達の猛攻を堪えて撤退できれば、落ち着いた時間さえ手に入ればビーストの主導権を自らに移行できる。

自分には神の才能がある。例えマスターが居なくとも、堪えてみせる。

 

そう思えばこそ、ナーサリーの攻撃は益々勢いを増した。

 

 

『ときめき クリティカル ストライク!!』

 

「はあああああああああっ!!」

 

 

彼女は地面に手をつきキメワザを発動する。彼女の全力を注ぎ込んだその攻撃は地面から伸び上がった無数の薔薇の蔓に姿を変え、壁となり槍となり、周囲へと襲い掛かって。

 

 

「っ!! 下がって!!」

 

『シールド オン』

 

 

咄嗟にシールドモジュールを展開したフォーゼが前に出て、他のライダーを庇った。……しかし、荒れ狂う植物の波の前には、あまり長く持つようには思えなくて。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「ニコちゃん、しっかり!!」

 

「分かってるって!!」

 

 

それを見つめていたイリヤは、再びナーサリーの敵となった彼女は、一旦目を閉じてここまでの戦いを想起する。

 

自分のことを考えて動いてくれたアヴェンジャー。

目的を果たして消えていったエリザベート。

最後の最後に役目を果たした信長。

 

二週間にも満たない短い戦いだった。

決して沢山のものを見たとは言えず、決して正しい答えを見つけたとは言えない。

 

それでも。

 

 

「……力を、貸してください!!」

 

 

もう、これ以上、これまで戦ってきたサーヴァント達を苦しませない。もう、戦わせない。

イリヤはそう心に決めて、まだ持ちこたえているフォーゼから数歩分後退り、あの時受け取ったランサーのクラスカードを地面に押し付けた。

 

 

「……やるんですねイリヤさん?」

 

「うん……インストール!!」

 

 

体が光に包まれる。目の前にはいよいよ限界なのかひび割れていくシールドモジュール。周囲には伸びていく薔薇の蔓。

……その全てを、断つ。

 

イリヤの右手に槍が現れた。エリザベートの槍。もう何回も使っているのを眺めた槍。そして衣装も、エリザベートの物に変化する。

 

 

   ガリガリガリガリ

 

「もう……むりポ……!!」

 

「っ、どうしよう……」

 

 

……転身は完了した。

役者は交代する時間だ。

 

 

「……ここは、任せてください!!」

 

「主人公の参上ですよっ!!」

 

 

次の瞬間、イリヤはフォーゼの前に飛び出して、槍の一振りで全ての蔓を切り裂いた。

 

 

   ザンッ

 

「……そんなっ……!?」

 

「貴女、その姿は……」

 

「……エリザベートさん、一緒に、戦ってください!!」

 

 

彼女は走り出す。槍を振り回して飛んでくる攻撃を斬り伏せ、薔薇の壁を貫き、ナーサリーの本体へと斬り込んでいく。

それを、他の人々が黙って見ている謂われもなく。

 

 

「戦いぬきましょう、最後まで!!」

 

 

そしてナイチンゲールも、ポッピーもフォーゼも、彼女に続いて駆け出した。

 

───

 

『ズズズッキューン!!』

 

「はあっ!!」

 

 

ガシャコンキースラッシャーから射撃を放つエグゼイド。それは確実にビーストを捉えたが、半ば液体になっていたビーストには大した痛手でもなく、開いた穴はすぐに塞がっていく。

 

 

「っ……なら、もっと吹き飛ばす範囲を増やすまで!!」

 

『ロボッツ!!』

 

『マフィン!!』

 

 

それでもエグゼイドは屈しない。今度は彼は一撃で破壊する範囲を増やそうと、巨大な腕パーツを特徴とする二本のガシャットをガシャコンキースラッシャーに装填して。

 

 

 

 

 

「宝生永夢ゥ!!」

 

「んっ!?」

 

 

……いきなり聞こえたその声に、エグゼイドは思わず振り返った。そこには、丁度近くにコンティニューしてきたゲンムが、昨日使ったガシャットを持って立っていて。

 

 

「残りライフ7……これを使え!!」

 

 

そしてゲンムは、そのガシャットを……Holy grailをエグゼイドに投げ渡した。

手に取ったエグゼイドはそのガシャットの異変に気づく。……加工されていた。丁度、ハイパームテキが合体出来るように。

 

 

「これは……」

 

「あのガシャットを改良した。マキシマムマイティXより、このガシャットの方がより効果的だろう」

 

「……分かりました」

 

『ガッシューン』

 

 

エグゼイドはその言葉を信用して、一旦変身を解き、渡されたガシャットの電源を入れる。

 

 

『Holy grail』

 

『ハイパームテキ!!』

 

『ガッシャット!! ガッチャーン!!』

 

『ドッキーング!!』

 

 

確かに、ハイパームテキはHoly grailに合体した。後方を仰ぎ見れば、そこでは二つのゲームタイトルが融合し、白金の輝きを放っていて。

再び前を見る。鎖に縛られなお暴れるビーストが、それに立ち向かう人間とバグスターが目に入って。

 

今度こそ、本当にゲームを終わらせる時だ。

 

 

「ウルトラハイパー 大変身!!」

 

『パッカーン!!』

 

 

エグゼイドが光を身に宿す。

 

 

『輝け 黄金の聖杯!! 願い抱く最強ゲーマー!! ハイパームテキ エグゼイド!!』

 

「……戦いを終わらせて、皆を取り戻す!!」

 

 

それは、プラチナのように白金に輝くハイパームテキ。死のゲームになってしまったFate/Grand Orderを終わらせるドクター。

 

 

「はああああっ!!」

 

 

駆け出す。次の瞬間にはエグゼイドは風となり、ビーストの体に腕を捩じ込んでいて。

 

 

   バキン

 

「──■■!?」

 

「ビーストが……固まった!?」

 

「何だありゃあ……」

 

 

その腕をねじ入れた周辺が急激に冷却され、個体となり、動かなくなった。ビーストの動きが鈍る。

エグゼイドにしか出来ないことだ。Fate/Grand Orderのプログラムに聖杯として直接介入できるエグゼイドにしか出来ないこと。ハイパームテキの力でのプログラムの一部破壊、そしてHoly grailによる剥き出しになった部分の変質。

 

今の彼なら、ビーストを弱らせられる。

 

───

 

『エレキ オン』

 

『クリティカル サクリファイス』

 

「「そりゃああっ!!」」

 

   ザンッ ザンッ

 

「っぐ……ううっ……!!」

 

 

ナーサリーは後ずさった。雷を纏ったバリズンソードとチェーンソーモードのガシャコンバグヴァイザーⅡ、二つの刃をもろに受けた腹に痛みが走り、彼女は思わず膝をつく。ライフゲージは残り3つ。

横目では、体の各所を個体にされていって段々鈍くなっていくビーストを捉えていたのだが、そこに救援に迎えるようにも思えなくて。

 

 

「緊急治療!!」

 

徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)!!」

 

   ガンガンガンガンッ

 

 

余所見をしていたら、また大きな一撃を食らってしまった。大きくよろける。

 

 

「っ……酷いわ、もう……っ!!」

 

 

……ふと、ナーサリーの脳裏に、カルデアでの旅が蘇った。

 

初めは怖かったけれどすぐに馴れたマスター。何だかんだで協力的だったサーヴァント達。頼もしかったマスター。立ちはだかってきた敵。才能を開花させて、それを信じてくれたマスター。そのマスターを信じた自分。

 

 

「……ふふっ」

 

 

笑いが漏れた。丁度、目尻の向こう側にビーストの、真檀黎斗が抜け出した痕である裂け目が見えた。

あの中に飛び込んだなら、あるいはビーストと一体化出来るかもしれない。確証はない。自滅の可能性も高い。しかしこのまま足掻いても勝てるかは怪しかった。もうゲームマスターの優位はない。

 

ナーサリーは走り出す。ビーストへと。その裂け目へと。

 

 

「っ、逃がさない!!」

 

『ランチャー オン』

 

『ネット オン』

 

 

ミサイルが飛んでくる。躱す。

 

 

「まさか……!!」

 

『クリティカル ジャッジメント』

 

 

ビームが飛んでくる。直感で躱す。

 

この高揚感は何時ぶりだっただろう。走りながらそんなことを思った。バビロニアでグガランナを造った時だったろうか。ロンドンで黎斗と一体化してビーストⅣに立ち向かった時だったろうか。

とにかく、黎斗と共にいた頃で間違いはない。そして、ここに来てからは覚えたことがないものだ。

 

 

「マスター……マスター……マスター!!」

 

 

声を上げていた。

楽しい。

楽しい。

とても愉快だ。純粋に愉快だ。

 

……もう、それで彼女は満足していた。

 

 

   ドスッ

 

「っ……」

 

「──治療の最中です。動かないで。……この世界は、何としてでも治療します」

 

 

不思議なことに、回り込んできたナイチンゲールに鳩尾を殴られ歩みを止められても、その満足感は消えなかった。

 

 

「ここで、決める!! 鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)ッ!!」

 

 

彼女が最後に見たのは──

 

───

 

 

 

 

 

『バンバン クリティカル ファイアー!!』

 

「はああっ!! ……はあ、はあ」

 

「まだ戦えるかスナイプ?」

 

『回復!!』

 

『回復!!』

 

 

スナイプはよろけながらも、パラドクスの支援で立ち上がった。それをするのはもう何度目か。……言えることは、ようやく攻撃が通るようになった、ということだった。

目の前ではタジャドルコンボのオーズとムゲン魂のゴーストが空を舞い、ビーストへとエネルギー弾を撃ち込んでいる。

 

 

「大我、大丈夫?」

 

「ああ。そっちこそ、大丈夫なのか」

 

「どうにかね」

 

 

そして、後から追い付いたフォーゼとスナイプが並び立った。

もうナーサリー(神の才能)はいない。あとは、遺されたビーストがあるだけ。

そしてそのビーストも、ここまでの全ての戦力の努力によって、動くことも出来ず、攻撃も飛ばせなくなった。

 

あとは、決着をつけるだけ。

 

 

『キメワザ!!』

 

 

エグゼイドが、ドライバー上部のボタンを叩く。白金の光は足元に集まり、ますます輝きを増していく。

そのエグゼイドの横に立ったナイチンゲールは、何も言わずに、ただ静かに拳を構えて。

 

……次の瞬間、ビーストを囲むように孔が開いた。聖杯の孔、空間を繋ぐ孔。……その孔の其々は、ビーストを囲んで立つ全ての存在の前に開いていて。

 

この戦いは、バラバラでの戦いだった。

なら最後は、全員で。

 

 

「……フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」

 

『Hyper Grail Critical Sparking!!』

 

 

最初に飛び出したエグゼイドは、ビーストの天辺に突き刺さった。続いてナイチンゲールは、その隣に拳を捩じ込んでいく。ビーストが呻いた。

 

 

『タドル クリティカル ストライク!!』

 

『バンバン クリティカル ファイアー!!』

 

『爆走 クリティカル ストライク!!』

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

『パーフェクト ノックアウト!! クリティカル ボンバー!!』

 

『クリティカル クルセイド』

 

 

ブレイブ。レーザーターボ。ゲンム。パラドクス。ポッピーの足が突き刺さり、スナイプのミサイルが継ぎ足されていく。比例するようにビーストの悲鳴が弱々しくなっていく。

 

 

『スキャニングチャージ!!』

 

『ロケット ドリル リミットブレイク!!』

 

『極 スパーキング!!』

 

『チョーダイカイガン!! ムゲン!! ゴッド オメガドライブ!!』

 

「……悔い改めなさい!!」

 

 

赤いオーズ、青いフォーゼ、銀の鎧武、白いゴースト、そしてマルタ。それらもビーストに突き刺さり、最後の一撃に加わる。

そして、並んだサーヴァント達もまた、この攻撃に加わった。

 

 

「……約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァッ!!」

 

 

光がビーストの内部に刺さっていく。

 

 

『ブレイカー クリティカル ストライク!!』

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

 

嵐がまた別の方向からビーストを壊していく。

 

 

すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)!!」

 

死告天使(アズライール)!!」

 

光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)!!」

 

 

大樹が刺さる。死が食らいつく。神殿が降り注ぐ。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!!」

 

 

誰もが、戦いの終わりを望んでいる。もう、これ以上の苦しみは望まない。もう、これ以上の試練は望まない。

 

そして最後は、ソロモンの番。

光帯が回転数を増していく。熱量を増加させていく。今の彼ならば、あの宝具を発動できる。

 

……あの日を思い出した。あの、ゲーティアの神殿にマシュと黎斗が突入した日。黎斗が正体を明かした日。全てが終わった日。

あの時自分は、管制室から見ることしか出来なかった。

でも今は、自分はゲーティアのように、黎斗に止めを刺そうとする。

 

……皮肉だなと、少し笑った。

そして、全力で、人理の砲撃を再現するー

 

 

「……誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロニモス)!!」

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

『ガッシューン』

 

「……ふぅ」

 

 

永夢は変身を解いた。手に取ったHoly grailはもう黒ずんでいた。電源は起動しない。他のガシャットロフィーも同様に起動しないようだった。彼はハイパームテキを懐に閉まって振り返る。ナイチンゲールがたっていた。

 

 

「……お疲れ様でした、マスター」

 

「はい……ありがとうございました」

 

 

ビーストは消滅した。Fate/Grand Orderは砕けた。もう起動しない。ソロモンが誰よりも早くガシャットを回収して、熱で燃やした後に粉砕してしまった。

 

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「フゥッ!! ……残りライフ、2……差し引きでライフの増減は0か。まずまずの結果だな」

 

「黎斗さん……」

 

「檀黎斗神だ!!」

 

 

土管から現れた黎斗神は、裾を払いながら周囲を見渡す。……周囲全てのサーヴァントの姿が、透け始めていた。

 

 

 

 

 

マルタと向かい合った貴利矢が、分かっていたような、悲しいようなそんな曖昧な顔をする。

 

 

「何て顔してるのよ、マスター」

 

「ああ、いや、な……」

 

「はぁ……情けないわね」

 

 

マルタはやれやれと首を竦めて、少し背伸びをして貴利矢の頭を撫でた。

 

 

「……姐さん」

 

「私は楽しかったわよ? それで良いじゃない。……いいマスターだったわよ、貴方」

 

「そうかい……ありがとな」

 

「ええ……ありがとう、ね」

 

 

……そして、マルタは消滅した。

CRのサーヴァントは、これにて全てが消え去った。

 

 

 

 

 

「我はここに興味はない」

 

「気があったな、余も同じことを思っていた」

 

「どこか腹立たしいですが、私もです。この世界の未来は、この世界の住民が決めることでしょう」

 

ここ(ローマ)もまた、ローマだ。ローマならば、正しく歩めるだろう」

 

「……我はただの骸だ。最早ここに役目はない」

 

 

ギルガメッシュ、オジマンディアス、アルトリア、ロムルス、山の翁が次々と退去していく。ガシャットという依代のないバグスターはあまり長持ちしない為だった。……ギルガメッシュはどちらにしろ変身の反動で消滅する定めだったが、この世界に未練はさっぱりなかった。

この世界に、この世界ではない場所の住民の口出しは不要だ……その考えに相違はなく。全てが金の光として消えていく。

 

 

「……オレは行くが、どうする?」

 

「あ、私も行きます。あんまりいると、迷惑になっちゃうでしょうし」

 

「お二人共ハードボイルドですねぇ。もっと名残惜しそうにはしないんですか?」

 

「まさか……これでいいんだ。ああ……酷く、疲れたな」

 

 

アヴェンジャーとイリヤ、そしてルビーも消えていった。真黎斗に作られた物語は、もうこれ以上の改悪は望まない。安らかな眠りだけあれば十分だ。

 

 

「行くぞ、シータ」

 

「うん……行こっか」

 

「……最後まで、君が僕の側にいてくれて、本当に良かった」

 

「私も。……本当に、ありがとう」

 

「ありがとうを言うなら、彼らにだ」

 

 

ラーマとシータも退去を選ぶ。互いの手を握りながら、一つCRの人々へと深々と礼をして。……もう、苦しむ必要はない。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

そしてソロモンは一人誰からも離れ、ロマニ・アーキマンに戻って、見つけた手頃なベンチに腰かけて辺りをぼんやりと眺めた。

街が直っていく。割れた大地も崩れたビルも消えた人々も、そうあるように改編したFate/Grand Orderが消滅したことで元に戻っていく。……人々の中のFate/Grand Orderでの記憶はかなり薄れたようで、周囲は混乱しているようだった。

 

 

「うん、満足満足。ボクの役割はここで終わりだね」

 

 

そしてロマニの体も、足先から消え始める。もう、自分達が呼び戻される心配はない。

彼は青い空を見上げた。どこまでも広い空。きっとマシュも見上げただろう空。

 

 

「……お疲れ様」

 

 

そして、カルデアにいた一人の職員、ロマニ・アーキマンは、戦いの終わりを見届けて消滅した。

 

 

 

 

 

「私もそろそろ限界ですね」

 

「……ナイチンゲールさん」

 

 

永夢は、ナイチンゲールの手を握っていた。もうその手には令呪はなく、もうナイチンゲールの体温も感じられない。空気を握っているような感触だった。

それを実感して、永夢は妙に泣きそうになった。

そんな永夢を、ナイチンゲールが抱き寄せる。

 

 

「……マスター」

 

   ギュッ

 

「え、あ……」

 

「これからも、戦い続けて下さい、マスター。貴方なら、人々を病から救うことが出来ます。貴方なら、人々を恐怖から救うことが出来ます……私は信じています」

 

「……はい」

 

「私は側にいます。貴方が戦う限り。……それを忘れないで」

 

 

感触が薄れていく。体重が感じられなくなっていく。

寂しくて、よりいっそう強く抱き締めて。

 

 

「……ありがとうございました。貴女が僕のサーヴァントで、本当に、良かった」

 

「ええ……私も、貴方がマスターで良かった」

 

 

最期に、ナイチンゲールは永夢の顔を見る。その顔は、泣きながらも笑っていた。希望を確かに抱いていた。

 

……それに安心して、彼女も空に消えた。

 

───

 

 

 

 

 

「ああ、作さん。体は大丈夫ですか?」

 

「お陰さまで何とかなってますよ。いやー、戦いが終わって本当に良かった」

 

 

その数日後。復旧が済んだ聖都大学附属病院にて、永夢は作と並んで話していた。ここ数日は連日の騒動の対処としてCRでゲーム病の一斉検査を行っている為かおちおち眠る暇もなく、これが永夢にとって暫く振りの休憩だった。

 

 

「で、その時助けてくれた魔法使い……彼は、何処に?」

 

「それが何処かに行っちゃいまして……足取り掴めないんですよね」

 

「そうですか……」

 

「……あ、僕ここから放射線科行くので」

 

「あ、お気をつけて!!」

 

 

そして永夢は作と離れて、一人で廊下を歩く。と言っても廊下は静かではなく、何処に行っても、ゲーム病から解放された人々の笑い声が聞こえていた。

 

戦いは終わったのだと、漸く自覚出来た気がした。

 

黎斗神は再び収容され、今はパラドに頼まれて新作を作ることに熱中しているらしい。もうこの前のような事件は、きっと起こらないのだろう。

灰馬も飛彩も医者として復帰したし、花家医院を再開した。全てが元に戻りつつある。

 

 

「……ナイチンゲールさん」

 

 

ふと呟く。そうしないと、うっかり彼女のことを忘れてしまうような気がした。……あの戦いを、あの出会いを忘れない。永夢はそう強く心に決めた。

窓の外を見れば、青い空がどこまでも澄んでいた。

 

 

「……僕は、頑張りますからね」

 

 

その言葉は空に溶けた。









檀黎斗神へ

貴方は我々に沢山のことを教えてくれました。
不屈であれ。己の才能を信じよ。自信を持て。常に上を向き続けろ。果たすべき仕事なら命も賭けよ。自らの行いを信じよ。笑顔を忘れるな。ユーモアを持ち続けろ。
貴方の教えを心に抱き続けたからこそ、こうしてこの物語を完結させることが出来ました。

我々は貴方の才能を持っていません。ですが、それでも我々には別の才能がある筈です。我々はその各々の才能を信じて、いつか貴方の御座に辿り着きます。

偉大なる檀黎斗神。
高笑いと共に、見守っていて下さい。


仮面ライダーシリーズと、Fateシリーズと、ここまで見てくれた読者の皆様に無上の感謝を。

                 初手降参


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Fate/Game Master Material 第二部

 

 

 

 

 

Fate/Game Master Material 

 

 

ネタバレ注意

 

 

CR陣営

 

CRのセイバー……ジャンヌ・ダルク

マスター……鏡飛彩

 

医者と聖女という、どちらも人を救う存在であったという縁によって飛彩のサーヴァントとして召喚された。

聖都大学附属病院に入ってからは時々飛彩との関係を疑われたりもしつつ飛彩を手伝い、戦闘面でも活躍。後にアルターエゴ、キアラの暴走に際して宝具紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)を使用し自爆する。

その後にFate/Grand Orderの力で聖杯戦争が開始し、聖杯の完成が近づいた千代田区のルーラーとして復活。オーズ討伐等の活躍を上げる。

最終的には、仮面ライダー討伐時に見に受けたペイルライダーの因子によって行動を塗り替えられ敵対してしまった飛彩によって倒される。

 

マスターとの関係は良好だった。飛彩の事情を知る前も夢を通じて知ってからもサーヴァントとして彼の側に控えている姿に、飛彩はどこか小姫の面影を見ることはあったが、二人は最後まで戦友として在った。

 

 

CRのアーチャー……エミヤ

マスター……花家大我

 

似たような自己犠牲的精神を持ち合わせているという縁で大我のサーヴァントとして召喚された。

マスターと共に花家医院に入ってからは、スキルである単独行動を生かした仕事をこなし、また同じ守護者であるマシュを気にかけることもあった。

聖杯戦争勃発の後には、手数の多さや攻撃の威力をフルに活用して花家医院の防衛に専念し、フィンと共にフォーゼ討伐等の功績を上げる。

最終的にはジャンヌ同様に己のマスターに牙を剥く。しかし横から入ってきたマシュに妨害され、結果彼女に倒された。

 

マスターとは積極的に会話をすることはなかったが、互いに互いを認め、またその在り方を痛ましく思っていた。

 

 

CRのランサー……フィン・マックール

マスター……西馬ニコ

 

フィンの能力に人を癒すものがあったことが、医療関係者となったばかりのニコとの薄い縁を結び、たまたまその薄い縁によって彼女のサーヴァントとして召喚される。

花家医院に入ってから暫くの間は、宝具のこの手に掬う命達よ(ウシュク・ベーハー)の力を生かして人々の病状を和らげることを強制させられていたが、聖杯戦争開始後はやむを得ず近隣の防衛役として戦う。

後にフォーゼを倒したことでエミヤと共にニコの敵になり、彼女を追い詰めたが後から乱入してきたラーマの尽力によってマスターを殺すことなく消滅する。

 

マスターとの関係はやや一方的。ニコの方は第一印象から大してよくなく、最終的にはまあ改善するものの最後まで深い関わりはあまりない。フィンの方はそんなニコでも嫌うことなく接し続けた。

 

 

CRのアサシン……シャルル・アンリ・サンソン

マスター……パラド

 

どちらも共に沢山の人間を葬った者だという縁によってパラドのサーヴァントとして召喚された。

聖都大学附属病院では医者としての技量を生かして人々の救護をしたり、サーヴァントとしてファントム・オブ・ジ・オペラを倒すなどの活躍を上げる。

聖杯戦争開始前に、周囲を纏めて破壊しようとしたカリギュラを押さえ込んで自爆に巻き込まれ、結果消滅する。

 

マスターとはやや噛み合わない関係だったが、どちらも似たような精神性の状態だった為トラブルにはならなかった。また、パラドの言動が彼の救いにもなっていた。

 

 

CRのライダー……マルタ

マスター……九条貴利矢

 

自分を偽りがちなことと、分かり合った存在を亡くしたという二点の縁で貴利矢のサーヴァントとして召喚された。

聖都大学附属病院では病院の防衛の要のような役割を果たし、その宝具である愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)と共に窮地を切り抜けてきた。

聖都大学附属病院陥落後は騎乗スキルを活用してシャドウ・ボーダーの運転手になり、本来なら車より速く走れるサーヴァントの追っ手を振り切る等の活躍をし、また行く先々で救命や戦闘を行ってきた。

結果として東京23区での聖杯戦争が終わる瞬間まで生き残り、真黎斗とナーサリーの主従と交戦、逆転への時間を稼ぐ。

そして二人は主従を維持したままで事件の終焉に立ち会い、笑ってマルタは消滅した。

 

マスターとの関係は、貴利矢が彼女を「姐さん」と言うように姉弟のそれに近い。互いに心を許しあい、各々を否定せずに生かしあってきたという点で最良の主従とも言える。

 

 

CRのキャスター……メディア・リリィ

マスター……檀黎斗神

 

全てのサーヴァントの開発者という、あらゆるサーヴァントと平等に強すぎる縁を持っていた黎斗神は、結果的に偶然メディア・リリィを引き当てる。

黎斗神は初めは彼女に自らの残機の回復や体力の維持をさせつつ彼女を通してサーヴァントを研究し、Fate/Grand Orderへの対策を練る。また、彼女に命じてブランクガシャットにサーヴァントの魂を籠められるようにした。

聖杯戦争開始後も暫くはそうして作業を続けていたが、彼女の体力を回復させるプログラムの複製に成功したらもう用は無くなった為、黎斗神は彼女をジル・ド・レェもろともに自爆させる。

 

マスターとの関係は一方的。人を裏切りたくなくまた裏切られたくないメディア・リリィが黎斗神に尽くすのに対して、黎斗神は最初から彼女を駒としか思っていなかった。

 

 

CRのバーサーカー……ナイチンゲール

マスター……宝生永夢

 

どちらも人間を救うという信念の元に動いたことと、黎斗がナイチンゲールのモデルに永夢を入れていたという極めて強い縁によって永夢のサーヴァントとして召喚された。

聖都大学附属病院ではドクターである永夢に付き添う看護婦として活動する。共に理想は同じだが、時代のずれもあって最初のうちは戸惑うこともあった。

聖杯戦争開始後は、主従共に人命を最優先するという目的のために、人々の安全を守るということを重点に置いて活動する。戦闘向きの宝具を持たないナイチンゲールは永夢のサポートに回り続けた。

ゴーストを倒したことでペイルライダーの因子に感染したものの感染度合いが偶々薄かった為に、誰も殺せないように自分を人目につかない所まで動かした所で永夢に発見され、激励と共に自分を倒させた。

その後、病そのものであるペイルライダーを取り込んだビーストへのカウンターとして、仮初めのグランドバーサーカーに選ばれ再び永夢と共に戦う。

そして全てが終わった後に、再び永夢に激励の言葉をかけて満足して消滅した。

 

マスターとの関係は後半に進むにつれて良くなっていった。元々彼女と永夢は同じ医療関係者だが時代背景の差、動機の差等で対立する可能性もあった。しかし、事情がすぐに切迫し始めたことがナイチンゲールの意識を永夢のそれに寄せていき、結果二人は最後まで同士でいられた。

永夢は時折ナイチンゲールに照れを覚えていたが、ナイチンゲールは彼を一貫して自らの後に続く医者だと捉えている。

 

 

CRのムーンキャンサー……BB

マスター……ポッピーピポパポ→パラド

 

BBの宝具C.C.C.(カースド・キューピッド・クレンザー)発動時の衣装が看護婦であるという点が看護婦であるポッピーとの縁を結び、彼女のサーヴァントとなった。

始めのうちは自らが作られた存在だと自覚していることもあって戦闘を嫌い、マスターを伴って好き勝手に活動する。しかし二度目のキアラ戦でマスターをポッピーからパラドに乗り換えた辺りから戦闘に対しても前向きになる。

聖杯戦争開始後はパラドと共に避難所となった国会議事堂を防衛し続け、パラドに聖杯を掴む権利を手に入れさせる活躍をする。しかしそれによって人々に集中的に狙われるようになり、パラドを守ってBBは消滅する。

 

ポッピーとの関係はあまり良くない。その時のBBが不真面目だったこともあり相互コミニュケーションに欠けていた。しかしBB自体はポッピーも気にかけていた。

パラドとの関係も微妙で、どちらかというと玩具を見る感覚でいる。しかしパラドの意思に暖かいものも感じていた為に彼の期待に応えようと思わされ、結果的に彼を守った。

 

 

CRのアルターエゴ……殺生院キアラ

マスター……小星作

 

特に特定のサーヴァントとの強い繋がりのなかった作の元に偶然呼び出されたサーヴァントがキアラだった。

彼女は作を手玉にとり、自分を強化するガシャットを作らせ、人々を取り込み始めるがジャンヌの捨て身の特攻で計画は失敗。その後逃げ延びた彼女は力を蓄え、マシュも飲み込んでリベンジを謀るが、作の産み出したガシャットと自ら飲み込んだマシュの力で敗北する。

その後、ポッピーに染み込んだキアラの因子とテール・オブ・クトゥルフを合成して黎斗神が新たにキアラを作り出した。それはゲンムコーポレーションへの爆弾としての役目を担っていたがそれは果たされず、彼女はマシュに取り込まれる。

取り込まれた後はネロとジークフリートに説得され、好き勝手した後にマシュへの協力に同意する。

 

マスターとの関係は最悪。初めは作を洗脳したが、洗脳が解けた後は作は責任を感じてキアラと敵対、彼がキアラへの決め手となることも多くあった。

 

 

 

ゲンム陣営

 

マスター……真檀黎斗

 

衛生省に回収されたFate/Grand Order内部の黎斗のセーブデータが自我を取り戻しバグスターとして復活したもの。しかし自我を取り戻す過程で数多の人が触れるインターネットに直接接触、情報が一部汚染され、本来の檀黎斗の人格から少しばかりずれた行いをするようになった。

ゲーム開始時から一貫してゲームマスターとしての立場を維持し、ゲームを思い通りに動かすことに執心してきた。その目的はゲームを通じて世界を掌握、命を管理するという手段を経て、世界から恐怖をなくし娯楽が溢れる理想郷を体現すること。

しかしその強引すぎるやり方は他のサーヴァントの敵意を買い、最終的には強化した味方に背中から刺されたことを切っ掛けとして弱体化、自我はマシュに、肉体はライダー達に倒される。

 

 

ゲンムのセイバー……ジークフリート

 

カルデアにいたジークフリート。召喚されてからは自分の行いが正しいのかを悩み続け、CRの敵にもなれない煮え切らない態度を取り続ける。最終的には信長の助言にしたがって窮地のマシュを助け、バルムンクと霊核を託して消滅した。

その後はマシュの中でネロと共に彼女の戦いを見守り続ける。キアラが入ってきた際にはあらゆる手を尽くして説得した。

 

 

ゲンムのアーチャー……織田信長

 

カルデアにいた信長。召喚された時から最終的には真黎斗を倒そうと考えており、その為の種を巻き続ける。真黎斗に神性を獲得させたのも定期的にガシャットを借りて戦況を見ていたのもその一環。

ジークフリートを決断させ、エリザベートの決意を確かめ、アヴェンジャーを味方に引き込み、ラーマとシータに恩師を裏切らせ、そうすることで全てのサーヴァントが後悔なく逝けるように配慮してきた。

最終的には勝てる状況を確信して自らの霊基を燃やして自爆、後に全てを託した。

 

 

ゲンムのランサー……エリザベート・バートリー

 

カルデアにいたエリザベート。始めのうちは現在の状況を極力楽しもうと努めていたが、人々の苦しみを目の当たりにするうちに迷いが生まれ、戦えなくなる。その後偽物のウィザードが放たれたことを機に一念発起し、ゲンムコーポレーションをイリヤと共に離れ、己の身もろともにウィザードを倒す。

 

 

ゲンムのアサシン……ファントム・オブ・ジ・オペラ

 

カルデアにいたファントム。かつてのように真黎斗に付き従い、その命令に従って聖都大学附属病院に侵入する。しかしパラドと貴利矢に抵抗され作戦は失敗、真黎斗の勝利を祈って消滅した。

 

 

ゲンムのライダー……ペイルライダー

 

ゲンムが長い期間をかけて産み出した究極のライダー。ドクターに対抗する病そのもの。仮面ライダーの偽物を解き放った際にはこのライダーの一部を忍ばせていて、その感染力のテストとして他のサーヴァントの行動を書き換えさせた。

実体化してからはライダー達を苦戦させ、ビーストの構成要素となって立ちはだかる。

 

 

ゲンムのキャスター……ジル・ド・レェ

 

カルデアにいたジル・ド・レェ。真黎斗の意見に従い残虐な活動もいとわずに戦う。ゲンムコーポレーションの防衛も行い、プレイヤーの徒党や自衛隊を殲滅した。

テール・オブ・クトゥルフを手に入れてからも真黎斗に従い続けたが、それを危険視した黎斗神がメディア・リリィを自爆させたことにより巻き込まれ消滅。回収されたガシャットはキアラの残滓と混ぜられることとなる。

 

 

ゲンムのキャスター……ナーサリー・ライム

 

カルデアにいたナーサリー・ライム。黎斗の才能もまだ健在だったため、真黎斗と共にゲームマスターとしてゲームを動かす。積極的にガシャットの開発などを行ったが、しかし彼女はゲームマスターとしての日々に退屈も覚えていた。

その分、最終決戦では派手に暴れるが、その中で彼女は本当の満足を得る。その満足はゲームマスターとしての物ではなく、旅を楽しむ少女のものだった。

 

 

ゲンムのバーサーカー……カリギュラ

 

カルデアにいたカリギュラ。やはり狂気に呑まれていたが、それでも真黎斗を信じていて、自分が消滅すると知っていてもなお彼の計画に従った。彼の力によって関東に狂気が振り撒かれ、聖杯戦争の始まりが円滑に進むこととなる。

 

 

ゲンムのアヴェンジャー……エドモン・ダンテス

 

カルデアにいたアヴェンジャー。初めは真黎斗の恩讐の行く末を見届けるために彼の行いに賛同、静観していたが、イリヤと出会った辺りから真黎斗への反意を抱き始める。それを見破った信長が彼に助言をしたことによってアヴェンジャーも信長の側につき、真黎斗を裏切ることとなった。

全てが終わった後には、安堵と疲労感と満足感と共に眠りにつく。

 

 

ゲンムのカップル……ラーマ、シータ

 

カルデアにいたラーマとシータ。今でもずっと、本来二度と会えない自分達を引き合わせてくれた黎斗に感謝を抱いている。しかしシータが真黎斗の行いで苦しむ人々を見て気に病み、またラーマもそんなシータを見て悩んだ。結果、信長の助言によってラーマはシータと共にゲンムコーポレーションから離れる。

その後は大我を助けたり、最終決戦に突入するなどしてCRを助けた。ビースト討伐後は互いに生き延びられたことを喜び、手を取り合って眠りについた。

 

 

ゲンムのシールダー……マシュ・キリエライト

 

カルデアにいた守護者、マシュ・キリエライト・オルタ。こちらの世界でももう盾はない。元々人理を守ることだけを考えてきた彼女は自らのやりたいことを見失い、迷走を続ける。

しかしエミヤとの対話、人々の観察等を経た結果、自分のために世界を救うのだという結論に辿り着き、CRと一緒にはならずとも協力すると決意した。

その後真黎斗に挑み敗北し、ジークフリートのバルムンクと霊核を受け継ぐ。そうすることでFate/Grand Orderの枠から外れた存在になった彼女は仮面ライダーを倒したり人々を救ったりして戦い続け、最終的に多くの人々の助けを得て真黎斗と再び相対する。

 

彼女は人にはなれなかった。しかし全てのサーヴァントの思いを受け止め、それと共に世界を救うことで、確かに仮面ライダーになることは出来た。

 

 

 

その他

 

マシュの一部……ネロ

 

第六特異点でマシュの中に入ったままこの特異点まで引き継がれた。マシュの心の高揚に応じて原初の火(アエストゥス・エストゥス)の炎を与えたり黄金劇場を与えたりとマシュを隠れて支え続ける。また、キアラが入ってきた際には彼女を押さえ込み、あの手この手でジークフリートと共に説得した。

 

 

主を亡くしたキャスター……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

 

ゲンムコーポレーションを攻略しようとしたとあるマスターのサーヴァント。戦いの中でマスターが消滅し、自らも消えるのを待つのみになった彼女はたまたま出会ったアヴェンジャーに助けられ、迷い、悩み、その末にエリザベートと共に出奔する。その後またゲンムコーポレーションに戻ってきた時には、彼女はもう戦う目的を見つけていた。

最終的にはアヴェンジャーと共に戦い続けてビーストを倒し、彼と共に安らかな眠りに戻っていった。

 

 

通りすがりのマスター……操真晴人

 

オケアノスのキャスターと名乗る謎のサーヴァントのマスターだった人間。かつて使えた魔法はゲームエリアによって封じられたが、それでもキャスターにかけられた強化魔術で人々を救い続けた。

その果てにエリザベートと遭遇、ウィザードのガシャットロフィーを託される。その後はウィザードの力で人々の希望を守り続けた。

 

 

グランドキャスター……ソロモン

 

本来ならFate/Grand Orderのゲームのラスボスだったゲーティアと共に消える筈だったが、黎斗がゲーティアを倒した為に残っていた存在。グランドキャスターとしてフルスペックが使える状態で呼ばれたため、ゲーティアのように光帯を回しての人理砲も再現可能。

当然彼もまたカルデアのことを覚えていた為に、真黎斗には思うところがあった。ビーストを倒した後には、もう二度と自分達が目覚めないようにFate/Grand Orderを徹底的に破壊、粉砕する。そして安心して消えていった。

 



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