連載版 僕のヒーローアカデミア~希望の娘と絶望の転生者~ (アゲイン)
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雄英高校へようこそっ!
プロローグ


皆様始めまして。アゲインと申します。
短編であげていた作品を読んでくださる方が多く、興がのったので書いてしまいました。

初めての二次創作故至らない点は多いとは思いますが、感想、批判などもらえれば幸いです。

ちなみにプロローグは短編と同じなのでそこまで見ていただかなくても大丈夫です。
とりあえず書けた分をこれ合わせて五話ほど投稿いたします


さて、皆様ごきげんよう。

 ここでこうして挨拶し、画面の向こうの君たちに語り掛けているのはご存じの通り、私が転生者だからだ。

 

 私は元々ただの学生だったのだが、ひょんなことからこの創作の世界である『僕アカ』の世に生まれた訳である。すでに前世より長生きをして子供までいるので人生の絶頂を感じているのだが、ここまでくるのにそれはもう大変だったものだ。

 まあ私の経験上、こういった善悪きっちりした世界観は肌に合わない。特に正義側の奴等がなんというか、気にくわないためある程度内情を調べさせてもらってからは敵として活動してきた。その時のあいつらの顔ったらもう驚き100%といったかんじでなんとも飯ウマだったよ。

 

 最近は活動を控えて日陰でいろいろしてきたが、そうもいっていられなくなる事態になってしまった。

 

「やはり決めたのかい?」

 

 私の言葉に目の前の少女は薄く頷く。あまり感情を露にしないが、私の愛しい愛娘だ。その目には固い覚悟が見てとれる。

 

「うん」

 

 私と同じ灰色とピンク、黒のメッシュが入った特徴的な髪色。こちらは短髪だが彼女は美しいロングストレート、これに櫛を通すのが楽しみだったんだが。いやはや、因果なものだ。

 

「わかった、他ならぬお前の頼みだ。私が断るはずもない」

「ありがとう、お父さん」

 

 ああ、こんなにも美しい娘がこれから私の手を離れてしまうとは、これほどの悲しみがあろうことか。わかってはいたことだ、いずれ飛び立ってしまうことなど。だがしかし、旅立つ娘に泣き顔を見せるようでは親の名が廃る。そのような醜態、私の矜持にかけて見せることはない。

 

「ではこれを持っていきなさい。彼らへの手土産になるだろう」

 

 懐から手帳を取り出すとそれを手渡した。これには私がマークしてきた敵の情報が詰まっている。これを餌にすればこの娘のことを邪険にはすまい。

 

「それじゃ、いくね」

「ああ、達者でな」

 

 迷うことなく部屋の出口に向かっていく愛娘、去り際すら美しい。娘は外へ向いたまま、私に語りかけてくる。

 

「わたし、ヒーローになるよ。そしてあなたを捕まえてみせる」

「娘よ、ならば私も敵としてあろう。いつかお前に対峙しよう」

 

 その言葉を最後に私たちは別れた。次会うときはお互いに明確な相手として、戦う相手として、顔を合わせることだろう。

 

 

 

 私の名前は希望ヶ峰 (ぜつ)。世界の敵。

 娘の名は希望ヶ峰 (のぞみ)。正義の味方。

 

 この物語は彼女がヒーローになる物語。私の悪の物語だ。

 

 

 




読了ありがとうございました。
次からは娘の活躍をご覧ください。


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わたしは来た

どうもアゲインと申します。
ここから娘の紹介となります
よろしくお願いします


 

 わたしは希望ヶ峰 希。敵の父を持つ普通とは言いがたい女だ。

 父は私が生まれてから活動を行っていなかったみたいだが、その職歴?はかなりのものらしく、わたしの知る範囲では、

 

 軍事基地強奪事件。

 三万人の暴動の扇動。

 衛星をハッキングして流星群を造る。

 全国規模の電波ジャック。

 

 など、かなり手広くやっている。その技術によりわたしが表の世界で生活できるように細工をしていたらしい。

 わたしの前で父はごく一般的な父親であったが自身が敵であることを私に隠すようなことはしていなかった。過去の事件がテレビに映る度、どのようにしてそれをやったのかを、まるで子供のように話すのだ。

 

 それを見るのはわたしの数少ない楽しみであったが、将来のことを考えるような年にわたしもなった。その時、何時までもこのまま父の庇護下で暮らして良いのか、そんなことが頭の中をグルグルとしだし、父に似ず頭の回転が悪いわたしはこんなことを思ってしまったのだ。

 

 ヒーローになり、父を隠居させてやろう、と。

 

 いつまでも父を働かせて良いものか? 父が働く=悪事を働くということである。汚い金で生きてきたわたしがこういうのも失礼な話なんだろうが、わたしが働けば父はもうそんなことをしなくてもいいのだ。

 つまりわたしがヒーローになって父に直接隠居を叩きつけてやるのだ。覚悟せよ父。

 

 むふー、と気合いが鼻から漏れていく。試験会場は目の前なのだ。

 

 

 

 

 さあ、早速試験である。説明会で若干騒がしかったが別に問題はなかった。

 

『ハイ、スタートー!!』

 

 説明役であったマイクヒーロー<プレゼント・マイク>のいきなりの合図にほとんどの人は出遅れる。でもわたしはそうじゃない。

 合図が耳に届いた瞬間、わたしの体は加速していた。そう、文字通りに。

 

 足の裏、背中、肩にかけて展開した推進機が恐るべき速度でわたしの体を押し出す。体勢を崩すことなく空へと飛び上がった。

 

 これがわたしの個性。

 『サイボーグ』

 これが---わたしだ。

 

 敵に指定された機械の群れを発見、上空より強襲。両手に展開したブレードで斬りかかる。抵抗はなく両断された。

 これも父との個性開発により様々な機械郡に変化するわたしの主戦力だ。

 

 こうして次々と対象を撃滅していくと、大きな振動と共にそれは現れた。

 あまりにも巨大なその姿、0ポイントターゲットのお出ましだ。

 

「でも、関係ないよ」

 

 どれだけ図体がでかくても、わたしの敵じゃない。わたしは建物の上に降り立ち、体の機能を変化させていく。

 より強力な力を出せるように、それを支えられるように。背後には巨大な支柱、前に出した両手にはそれ以上に大きな大砲。

 すでに周りに人が居ないのは検知している。気にすることなく力が振るえる。

 

「モード変換完了。サイクルエンドの発射までカウント3」

 

 砲門にエネルギーの光が宿る。いまかいまかと音が鳴る。

 

「2」

 

 砲身に走るスパークが音に加わる。後少し。

 

「1」

 

 輝く光は溢れるように、しかし球体を維持して、

 

「発射」

 

 周りの景色を飲み込むような閃光となって放たれる、破壊の一撃。

 それは音より速く敵に当たり、轟音が周囲に響いたときにはすでに対象は大穴を空け、沈黙していた。

 

 排熱のために体から湯気が上がる。これを撃った後は少し動きづらくなるが、まあ結果は示したのだ。周りの被害は極々軽微、これなら採用担当の度肝をも抜いていることだろう。

 

「おなかすいたな」

 

 




読了ありがとうございました
感想などがあれば大歓迎ですので遠慮なく


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試験の裏で

連続投稿の三話になります
娘の試験を見ていた教師陣の視点になります

よろしくお願いします


 採用担当のヒーローたちは目の前の結果に愕然とするしかなかった。

 試験も順調に進み、目ぼしい者たちが注目されはじめ、さあどうするんだ? という場面であったはずなのだ。

 0ポイントの標的にどう立ち向かっていくのか、逃げるのかい協力するのかいどっちなんだい、といったところにあれである。

 

 あまりの光に付近の監視カメラが機能しなくなり、復帰したところに見えてきたのはボスの風格を感じさせない姿にされたターゲットの無惨な映像である。

 これをいきなり理解しろというのは難題であるがそこは現役ヒーロー、すぐさま我に返り事態の真相を探り出した。

 そして発見されたのは驚くべき光景だった。

 

「なんなのこの娘? 速いってもんじゃないわ」

「うーわ、ここ見ろ。綺麗すぎだぜこの切り口」

「あっ、ここだここ!! ほら、よく見ろって!!」

「ごついなこれ、何メートルあるんだ?」

「離れたアングルから・・・・・・こいつはまいった・・・・・・」

 

 口々に出てくる驚愕の映像、明らかに戦闘に慣れた身のこなし、強力な兵装を難なく操る技能、思いきりの良さ。どれをとっても一線を画した実力であると言える。

 

 

 

「---だけどYO、こんだけできる奴が今まで無名だったってことがありえんのか?」

 

 説明役で実際に多くの受験者の顔を見てきたプレゼントマイクが疑問の声を挙げる。明らかに学生の範疇を越えた戦闘能力、あからさまに力を誇示しているようにも見てとれる行動に、こんなに目立つ奴がノーマークだったこと事態に冷や汗が出てくる。

 

 その事に思い至ったのか、他の面々も顔を曇らしていく。

 その時だ。

 

「な~に、心配いらないだろう」

 

 力強い声色が周囲に響いた。その発言に顔を上げ声の主の方に視線を向ける。

 そこには平和の象徴、オールマイトの堂々とした姿があった。

 

「確かに希望ヶ峰少女の個性は強力だ。戦闘センスも素晴らしい。そんな娘がヒーローになるためにここに来たんだ。むしろ歓迎すべきじゃないか?」

「ですがオールマイト、彼女の経歴は綺麗過ぎる。ここに書いてあるだけでも彼女が優秀であることを証明していますが、あの個性で問題が全く起こらないなんておかしいですよ」

 

 他の担当ヒーローが反論するが、当の本人は笑みを深めるだけだ。

 

「確かに君の意見にも一理ある。だがしかしだ、頭から否定してしまっては可能性は0だ」

「だったら、」

「そこでだ、私が直接面接をしようと思っている」

 

 この発言に周囲の反応は別れた。驚愕、納得、心配、好奇心等など、いろんな感情が錯綜するなか、さらに彼は発言を続ける。

 

「これには根津校長にも立ち会って貰いたいのですが、よろしいですか?」

「そうだね! ボクも興味があるよ!!」

「それと相澤先生、よろしいですか?」

 

 オールマイトとは反対側の端の方に、まるで気配を消すようにその男は存在していた。

 一見暗い印象を受けるがその実力はこの中でもトップクラスに位置しているアングラ系ヒーロー、イレイザーヘッドこと相澤消太である。

 

「・・・・・・なぜ私に?」

「勿論君の観察力を見込んでのことさ。先生なら我々が見落としてしまうようなことでも拾い上げることができると思ってのことです」

 

 自身に対するオールマイトからの評価に思うところがあるのか、数秒目を瞑ってから彼は切り出した。

 

「そもそもまず、俺は反対です。確かに強力な個性を持っていて上手く扱っている。ですがこいつの試験の行動を見る限りヒーローに向いているとは思えません」

「ほう、それはなぜ?」

「あいつは終始一人で行動していました。他人への介入も最低限、礼すら無視している。まるで自分本意な行動だ」

 

 それではヒーローとしてやっていけない。

 言外に、しかし強く、その瞳は語っている。

 

「だからこそだよ。彼女にヒーローたる志、その根幹を聞こうというのだ。それを聞いてからでも遅くはないだろう」

「・・・・・・引く気はない、ということですか」

「彼女はまだ子供だ。可能性を潰してはいけない」

 

 オールマイトの言葉は穏やかだ。しかしそこには相澤同様、いやそれ以上の思いが込められている。

 それを受け相澤もまた、一人の教育者として向き合う覚悟を決めた。

 

「・・・・・・わかりました、御受けましょう」

「ありがとう、相澤君!!」

 

 それじゃあ呼び出してくるね、と発言を控えていた根津校長が席を立った。プレゼントマイクを供に携え、彼女を迎えにいくようだ。

 

 こうして彼らは邂逅する。世界の敵の娘と。




読了ありがとうございました
続いて四話をご覧ください


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悪の娘と正義の象徴

遂に対峙した娘とヒーロー
そして明らかになる父の敵名

そんな感じの第四話でございます


 試験も無事終了し帰宅しようとしていたら、扉の影から覗く大きなネズミの頭がこちらを注視していた。・・・・・・今のはけしてジョークではない。

 

 ともかくだ、そのネズミはどうやらわたしを誘っているようで頻りに手を振っている。他に人もいないようなのでわたしで確定だろう。

 こんなところに敵がいるわけもないし、警戒する必要はないだろう。わたしはその可愛い存在にホイホイついていってしまった。

 

 

 

 

「やあ、初めましてだね。私がオールマイトだ!!」

  

 そしたらこれだよ。

 別の扉に入り込んでいくネズミを追っていくと、そこにはテレビでお馴染みのナンバーワンヒーローの姿が。

 スーツを着込んでいるが全く威圧感が押さえられていない。見事な筋肉をしているのがわかる。そしてやっぱり画風が違う。

 

「・・・・・・失礼しました」

「いやいや、君に用があって呼んでもらったんだ」

 

 あまりの事態に逃げ出そうとするがそうはさせてくれない。くっ、なんだってこんなことに。父の偽装はこのくらいの期間では解くことはできないはず。わたしが敵の娘だとどうやってわかったのだ。

 

「他の子たちにはしていないんだが、君には特別話を聞きたくてね。時間がよければ試験のことについていくらか聞いてもいいかい?」

 

 なんだ、そのことか。やれやれ脅かせる。こんな段階でバレては・・・・・・はて、どうしてバレてはいけないんだったか? すでにわたしは父と袂を分かれている。父はわたしの敵なのだ。よし、これが終われば早速交渉してみよう。

 

「かまいません。むしろ大歓迎です」

「そ、そうかい? では遠慮なくいかせてもうおうか!」

 

 そこに座ってくれ、と促され席に着く。見てみるとオールマイト、ネズミさんの他にもう一人、こちらを睨むように、これは観察されている目だな。鋭い目をしてくる暗い人。

 その目線に気を配りつつ、わたしは正面を向いて質問に備えた。

 

「さて、まずは自己紹介といこう。すでに言ったが私がオールマイトだ。そしてこちらが、」

「やあ、僕の名前は根津。人でもネズミでもないその正体は--------校長さ!!」

「ど、どうも」

  

 お、おう。なかなかビックなお人じゃないか。いきなりこんな人と面談なんて、幸先いいのか、これ。

 

「そして彼が相澤先生。今年のヒーロー科の担任でもある」

「・・・・・・」

「ど、どうも」

 

 こ、こっちはこっちでえらい人が。なんでこんなに見られているのかわからないけど、とりあえずあっちは出来るだけ見ないようにしよう。

 

「一応君の名を聞いておこうか」

「あ、はい。希望ヶ峰 希です。よろしくお願いします」

 

 ぺこりー、と。

 父に習ったやり方で頭を下げる。こうすると印象がいいらしい。

 

「ハッハッハ、お願いするのはこちらの方だ。あまり固くならず答えてくれ?」

「は、はい」

 

 さあ、どんとこいや。

 

「さて、まずは試験のことから聞いていこう。君は特に素晴らしい動きをしているが、どこで習ったのだね」

「父に教えてもらいました」

「個性を使った武装については?」

「父と考えました」

「お父様はエンジニアだそうだが、こういったものに関わった仕事ではないようだが?」

「趣味が高じたそうで、わたしと相性が良いものを外注で頼んでくれたんです」

「ふむ、なるほど」

 

 とりあえず納得がいったのか一旦そこで質問は止まった。ちなみに嘘は一つもない。すべて真実である。 

 

「よし、では次にもう少し込み入った話をしよう。君はなぜヒーローになりたいんだ」

 

 おっとその質問か。これはどうしよう、もう少し後で話すことにしようか。

 

「わたしは父の背中を見て育ちました。父は自分の信念を持って行動する人でした。わたしもまた信念を持った活動がしたい。だからわたしはヒーローになりたいんです」

 

 これも本当だ。父は悪事を働いてもそこには信念があった。そのために迷うことなく行動してきた父の姿は格好良かった。

 わたしも父を隠居させるという信念を貫く所存である。

 

「ふむ、その信念というのを聞いても?」

「父を隠居させるためです」

「・・・ん?」

 

 まあ、ここまで延ばしてもあまり意味はなかったか。インパクトは大事だしここらでぶっちゃけよう。

 わたしは懐から手帳を取りだし彼らに差し出した。

 

「わたしの父は敵なんです」

「なっ・・・!?」

「なんだって!?」

「・・・・・・!?」

 

 おうおう、よい反応だ。みな一斉に飛び上がった。これはドッキリは成功したということだろう。

 

「安心してください。わたしはすでに父とは袂を分かれました。今後は敵同士だとも告げています」

「・・・・・・君のお父さんの名は?」

 

 そういえば父は敵名でしか呼ばれたことがないといっていたな。これを期に知って貰おう。

 

「父の名は希望ヶ峰 絶。皆さんには『モノクローム』と言ったほうが分かりやすいですか?」

 

 その名を告げた瞬間、この部屋の空気が凍ったのを感じた。あれ、もしかして不味いことを言ったかも。




読了ありがとうございました
次の第五話で連続投稿は一旦お休み
また書けたならば投稿しますのでそれまで待ってくれるととても嬉しいです
それでわ


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ただならぬ悪

連続投稿最後の話です
原作の悪とちょっとばかしの出会い
おふざけ

そんな五話でございます


 やあ、久々の登場だね、忘れられていないか心配だったが出番を貰えて嬉しい限りだ。どうも、希望ヶ峰 絶です。

 

 いやー、しかし、娘の御披露目が成功したようでよかったよかった、大成功だったね!

 私と共に考え出した武装を駆使して飛び回る姿はまさしく戦乙女、いやさそれ以上の美しさであった。

 

 私のプレゼントも上手く使ってくれたようで成長を感じるよ。ん?どこから見ていたのかって? ハッキングで監視カメラを覗き見していたんだよ言わせんな恥ずかしい。

 

「とまあそんな感じで娘のデビューを記念したいと考えているんだがどうしたらいいと思う? 左右堕君」

「いや、いきなり振られても困るんスけど」

 

 親バカを発揮させるべきかいなか、これはなかなか難しい問題だ。この私の才能を持ってしてもなかなか答えが出せない。うーむむむ、む。

 

「ところでこいつは一体全体なんなんだろうね?」

「さあ、いきなり襲いかかってきたんでわかんないッス」

「こんなファンキーな知り合いはいないから初対面だと思うんだけど、いやはや恐ろしい世の中になってしまったもんだよ」

 

 私の足元、そこには中々奇抜な格好の少年、青年か? が倒れていた。

 

「なんて言ってたっけこいつ?」

「たしか先生がどうだとか・・・」

「先生・・・先生ねぇ・・・・・・」

 

 もう一度襲撃犯に注目してみる。

 奇抜な格好といったが誇張でもなく本当におかしな格好だ。全身に手を取り付けているんだからな。それ以外には・・・・・・特にいうことはないな、今時目が濁っているくらい普通だし。髪とかボサボサだな。大丈夫かこいつ。

 

「だめだ、全くわからん。完全に赤の他人だ」

「じゃあほっといてカレー食いに行きましょう。俺腹減ったっス」

「そうだね、ここにいても時間の無駄だ」

 

 黄色いつなぎを着た背の高い男、左右堕 国広君の言葉に私も考えるのをやめた。さあご飯にしようか。 

 意気揚々と食事に繰り出そうとした私たちだが、その動きを止める声がかかってきた。

 

「申し訳ありませんが少々待っていただけませんか」

「だが断る!!」

 

 だが断る!!

 大事な事なので二回言いましたが特に意味はない。

 

「この希望ヶ峰 絶のもっとも好きなことの一つ、ではないにせよ、なんでもいい!! ネタをぶち込むチャンスだ!! そして有言実行である。サラダバー!!」

 

 シュチュエーション的に反応してしまったがこの世界にJOJOは存在していない。故に元ネタを知らない相手に言っても虚しいだけなのだ。追求されても答えられないしさっさとおさらばしよう。

 

「い、いや、お待ちに---」

「我が希望ヶ峰の技術の一端、閃光玉を食らえい!!」

 

 相手の発言をカットぉ!! するようにポーイと投げ込んでやった。次の瞬間閃光が撒き散らされ、私たちの姿を覆い隠したのだった。

 

「これこそが超上級逃走テク『忌彩カットォー!!』である!!」

 

 背景でもあればそこにババァーン、とでも付いていそうなドヤ顔をしながら裏路地をひた走り表通りへとたどり着いた。

 さあ、食事に赴こう。

 

 この出会いが後々影響してくることをこのときの私は予想していなかった。気づいていればあんなことにはならなかったのに。

 

 

 

 

 あ、けしてシリアスではないよ。




読了ありがとうございました
これで連続投稿は一旦お休みとなります
また評価をいただけるようであればそれを励みにまた投稿いたします
ありがとうございました


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始まる高校生活
わたしの高校デビュー


どうもアゲインと申します
書けた分を二話ほど投稿いたします

今回は娘の視点となっております
そんな感じの六話でございます


 あの後、わたしは父に関する様々な質問を受けた。別に隠すようなことはなかったのでバンバン暴露していったら特待生として雄英に迎えてもらうことになった。やったぜ。

 受験に困ることはなくなったので、入学までの間、わたしは自分なりにさらに力をつけるための訓練をしたり、プロの活動を見たりしていたが、それ以外は普通に生活していた。

 ちなみにわたしはすでに雄英内の寮に特別に住まわせてもらっている。おそらく監視のためだろうし、こちらとしても都合が良かったので特に不満はない。

 

 特に学校内での設備を使わせてもらえたのが良かった。心置きなく個性を使っても迷惑にならないし、個性の使用で減ってしまったエネルギーも美味しいご飯で補給できる。父と居たときは家事は全てやってもらっていたので自分でいろいろするのがそれなりに楽しい。でもやっぱり父に髪を鋤いてもらえないのが少し寂しいかも。自分でやってもこれだけはなんとなく違和感が残る感じだ。

 

 そんな日々を繰り返し、いつしか雄英高校の入学式の日になった。ようやくわたしも高校デビューだ。楽しみだな。

 

 

 

 

 寝起きの髪を整えるのに時間を掛けてしまい、目標の時間から少し遅れてしまった。教室の場所は把握しているので迷うことはないが、それにしたって周りの視線がすごいことになっている。

 中学でもこんなだったけど高校ではもっと、こう、粘っこいというか、性の対象に見られているのを感じる。男子のそんな視線の中に女子からの嫉妬のような視線が混じっている。

 

 わたしは髪以外は母に似ている。

 写真でしか見たことはないがわたしに瓜二つの顔立ちをしていた。過去にどこにいるか聞いたことはあったが父は答えてはくれず、代わりにわたしを抱き締めてくれた。

 泣きそうな声でわたしに囁く父の声は母への愛に溢れていて、それと同じくらいの愛をわたしへ捧げていると何度も語ってくれた。

 それ以来母の話題を父にすることはなかったか、と思いを馳せながら、何時しかわたしは自分の教室、1-Aの扉の前まで来ていた。

 

 ここから始まるのだ。わたしのヒーローへの道が。

 

 わたしは覚悟を新たに、前へと踏み出した。

 

 

 

 

 わたしが教室に入った瞬間、それまで騒がしかったクラスメイトだろう人たちがピタリと喋るのをやめ、こちらに注目してくる。

 何度もこういった反応はされるが、正直わたしより明らかに個性的な面々が見えているのでそこまでの反応をしてほしくはないのだが。

 

「おはよう」

 

 ・・・・・・、だめだ誰も返してくれない。挨拶もできないとかつっかえ、いややめておこう。これから共にヒーローを目指すのだ。ここで変に偏見を持ってなんとするのだ。

 

「わたしの席を教えてもらえない?」

「・・・あっ!? あの、お名前はなんですの?」

 

 こちらの問いかけにようやくフリーズを解いて話しかけて来てくれたのは、この中でも目立つ高い身長の女の子。

 

「あなたは?」

「わ、私は八百万 百と申しますわ」

「そう。わたしは希望ヶ峰 希。百って呼んでいい?」

 

 以外に可愛い感じだったので是非とも友達になりたい。こう言うときのわたしは積極的なのだ。

 

「えっ、そう、ですわね。いやいや全然構いませんわ!!」

「よかった。わたしは希でいいよ」

 

 やった。友達ゲットだぜ。友達だよなこれ?

 まあいい、こんな感じでどんどん友好の輪を広げていこう。

 

   




読了ありがとうございました
続けて七話にお進みください


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わたしの担任とテスト

こちらは七話となっております
六話をまだ読んでおられない方はご注意ください

娘、友達を作りテストを蹂躙する
そんな七話でございます


 それからクラスのみんなと話ができ、だいたいの人の名前は把握できた。

 一部難解な性格の人がいたが、この人たちはまあ、おいおい交流していこう。

 

「それにしてもさ、希ちゃんてほんとに綺麗だよね!!」

 

 元気に語りかけてくる頭に触覚を生やした紫色をした肌の少女、芦戸 三奈。彼女は頻りにわたしの容姿を誉めてくれる。

 

「髪の毛なんて艶々で、この長さでこれってすごいわ」

 

 長髪に憧れでもあるのかため息をつきながらわたしの髪をいじってくる短髪の子、耳朗 響香。

 

 先に仲良くなった百に加えてこの三人は割りと早く仲良くなれた。三人とはすでに名前で呼び合う仲だ。わたしのコミュ力もなかなかのものだろう。 

 他の、特に男子はこちらを遠巻きに見ているだけだ。なかには明らかに性獣が混じっているのでそいつには近づいてほしくない。

 

 さて、そろそろ担任、相澤先生が来る頃だろう。なんて考えていたら、教室のドアを開き謎の物体が侵入してきた。

 わたしはすぐに気づいたが他のみんなは若干時間を掛け静かになった。

 

「はい、君たちが静かになるまで八秒かかりました。」

 

 その物体から顔を出したのはこのクラスの担任、相澤先生の不機嫌な態度を隠しもしない姿だった。というかそれ寝袋なのかよ。

 

「時間は有限。君たちは合理性に欠けるね」

 

 おう、いきなりのジャブだ。攻めてくるなこの教師。

 寝袋から出してきた顔で教室を見回し、睨みを効かせてくる。

 

「担任の相澤 消太だ。よろしくね」

 

 こんな空気にしといて自己紹介ができるのか。さすがプロヒーロー、動じないな。

 

「早速だが、これに着替えてグラウンドに出ろ」

 

 ズルっと取り出したのは体操服。あれ、入学式は?

 

 

 

 

 さあ、いろいろあったが身体測定だ。それも個性を使用しての。

 面白そうだの言っていた奴等は先生の言葉に押し黙る。

 

 個性把握テストと称されたそれは自分達がどこまで出来るのかの限界を知るためのものだ。軽い気持ちでやるような奴はそもそもここにいるべきではないのだろう。

 そして告げられる最下位の除名。これにはクラス全体がどよめく。だけどわたしには関係ない。

 わたしには父と共に研鑽したこの個性がある。問題はこれっぽっちもないのだ。

 

 

 五十メートル走から始まったテストだが、こういった種目というか、こういったものはわたしの十八番といってもいい。

 

 試験のときに展開したブースト機能で急加速。

 瞬く間にゴール。

 一秒弱といったところか。隣で走り出そうとしていた金髪君が風圧で吹き飛ばされていた。ごめんね。

 

 続くハンドボール投げでは大砲を展開し射出した。軽く三千メートルは越えただろう。

 御茶子ちゃんという娘が記録『無限』という結果を出していたのが印象的だった。さすがのわたしでもこれには勝てない。父でも重力制御には手こずっていたなー。

 

 反復橫飛びを高機動モードで残像ができるほどの動きを。ぶっちぎりだった。件の性獣がガン見しきたが関わる気はないので無視した。

 

 と、こんな感じでスペックをフルに活用して他を圧倒するほどの成績を叩き出した。そもそも基本的な身体能力の測定において一般を置き去りにした機能を誇るわたしに勝てる訳がないのだ。もし勝ちたいのだったら父のような理不尽を連れてきてくれなければ。

 

 そんなこんなでテストは終わった。途中、もじゃ髪の子がなにかしていたようだったが、相澤先生と絡んでいるようだったのでそっとしておいた。

 ちなみに除名は嘘だった。ですよねー。

 

 

 

 

 そして放課後。わたしの個性についていろいろ聞かれたが、そういうことができる個性なんだと押し通した。

 

 騒ぎも落ち着き寮に帰ろうとしたとき、わたしを呼び止める声が掛けられた。それは朝話しかけてこなかった男子の声で、

 

「希望ヶ峰、お前に話がある」

 

 そこには50メートル走で吹き飛ばした金髪の少年が、こちらを睨んでいた。最近のわたし、睨まれ過ぎ? 




読了ありがとうございました
今回の投稿はこれにて終わりです
感想などがあれば大歓迎ですので遠慮なくお願いします


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正義と悪

どうもアゲインと申します

父の話をいたしましょう
そんな八話でございます

また、投稿頻度について活動報告のほうに載せています
よろしければご覧ください


「やあ、前回の続きから始まるとでも思っていたのかな? 残念私だ! 希望ヶ峰 絶だとも!! 我慢できずに出てきてしまった!!!」 

 

 画面の前の皆様、いかがお過ごしだろうか。娘と別れてからというもの私は生気を無くしたゾンビのように過ごしていたさ。あまりにも生活に潤いがないものだから心は荒れに荒れているよ。

 

「イェヤぁぁああーーーー!!! 私の歌を聴けぇーーーーー!!」

 

 ほら見てくれ、このおっさんの醜態を。娘の前では格好つけたいだけだったが、その娘がいなければこんなもんである。寂しさを紛らわし、気持ちを上げようと必死になっているのだ。娘にいてほしい思いとこんな姿見せられない思いで板挟みだよ。

 

「娘に会いたいぃーーー!!」

 

 ジャカジャカとギターを適当に掻き鳴らしてはとにかく大声をあげている。ああ、騒音は気にしなくていい。ここは高層ビルの屋上で人が来ることも声が聞こえることもない。こうやって目立つ行為も場所さえいいなら許されるのだ。みんなだってバレないように自分の部屋でシコシコと

 

「おっとまずい。下ネタは自粛しているんだったか」

 

 娘に汚い言葉を覚えさせてはならないと思って言わないようにしていたのについ、口を滑らせてしまうところだった。

 

「というか、早くツッコミを入れてくれないか? ボケ殺しにそれは酷すぎだぜ?」

 

 やれやれ、こんなときはそういったやり取りで場を盛り上げるのが定石というものだろうに。

 

「ユーモアはどうした、顔が固いぞオールマイト?」

 

 なあそうだろう、旧友?

 

 一言も口を開くことなく、その巨漢は静かに、燃えるような瞳でこちらを見ている。

 

 ナチュラルボーンヒーロー、ナンバーワンの正義の象徴。

 オールマイト。

 

 そんな男が、ヒーロー達を引き連れて対峙していた。

 

 

◆ 

 

 少し過去の話をしよう。

 それは私がオールマイトとして活動して少し経った頃に起こった。

 私と同時期にヒーローとして活動していた友人、希望ヶ峰 絶。旧名『神蔵 絶』の唐突な裏切りである。

 

 油断したつもりはなかった。たとえ怪我をさせても彼を止めるつもりで挑みかかった。

 だがしかし、まるで歯が立たなかった。

 

 渾身の一撃は軽く流され、拳圧は理解できない手段で散らされた。私の攻撃を苦にすることなく、あいつは一度も反撃することが無かったにも関わらず、私は彼に勝つことができなかった。

 

 疲弊し倒れ伏す私に彼が言った言葉を、私は忘れたことはない。

 

 

 

 

「おーい、回想は終わったかい? 暇すぎてジョジョ立ちの練習をしてしまったじゃないか」 

 

 この野郎、こっちはきちんと挨拶してやったってのに無視してやがる。あれか? お前なんかと会話もしたくないってか。上等だコラぁ!! とことんやってやろうじゃねいか!!

 

「・・・・・・あの日のことを、忘れたことはない」

「あん?」

 

 エシディシのポーズで威嚇していた私に向けて、あいつから語り掛けてきた。ようやく話をする気になったようだ。

 

「あの日。お前が私たちを裏切り、明確な敵になった日のことだ。その時のお前の言葉、それに私は一度、一度だけ折れそうになった」

「あー、あれか。なに、通過儀礼だよ、あんなのは」

 

 画面の前の皆様は予想がついているだろうか。彼らヒーローを裏切り、倒れ伏すこいつに言った言葉を。

 回答は三秒までとしよう。

 

「あの日誓った。もう屈することはない!」

「それはどうかなオールマイト。人間早々変わらないぜ?」

 

 三秒、

 

「あの時、たった一人のお前を止められなかった。あの頃の私とは違う!!」

「経験か? 人数か? だけどお前はそれを活かせるのかな? 体の力みが見てとれるぞ」

 

 二秒、

 

「この一戦、ここにいるヒーロー全員の矜持を掛け、必ずお前を倒す!!!」

「悪いな先約がいるんだ。それは叶えられないし、叶うはずもない」

 

 一秒、

 

「いくぞっ!!!!」

「なら、俺はこの言葉で迎えよう」

 

 

『お前達の、絶望に染まった顔が---見たい』

 

 

 脳内カウントはゼロ。正解の言葉を告げると共に、戦いは始まる。 正解者には悪いがまた今度結果を聞くことにしよう。

 なにせ復帰祝いにこんな豪勢な面子を集めてくれたんだ。内心笑いが止まらない。

 

 うぷ。

 うぷぷぷ!

 うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!!

 

「さあ、わっくわくの、どっきどきってやつだ!!!」

 

 この身に迫るヒーロー達、彼らはどんな絶望を抱くのか。

 実に楽しみだ。

 




読了ありがとうございました
感想などがあれば大歓迎です


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巨悪の復帰戦、正義のリターンマッチ

どうもアゲインと申します

父の戦闘
そんな九話でございます

また、現在確認したところ、お気に入り数70件を達成いたしました。この短い期間の間に多くの読者様に評価いただいている現状に、とても感謝しております。
鋭意投稿いたしていきますので、今後ともよろしくお願いします


 まず最初に殴りかかってきたのはこの集団の主力、オールマイトだ。こちらを確実にノックダウンして余りある威力が乗った拳が迫る。

 

「おっと、まずは挨拶か」

 

 懐かしいなあ、よくこうやって拳をぶつけることで友情を交わし合ったものだ。今ではこんなことになってしまったが、あれは案外嫌いではなかったか。

 さて、こちらもやりますか。

 

「脳力解放」

 

 私の個性は娘とは違い、体に大きく変化が現れるものではない。それは主に私の脳に影響を与える。

 

「才能選択。武闘家、心理学、バレエ、軽音」

 

 特殊な電流を脳に流すことにより、その活動をより活発にさせる。記憶野から経験、情報を身体にフィードバックさせ、神経伝達の速度を格段に上げることで擬似的に天才的な才能を体現させる。

 

 ダンロンファンには『劣化版カムクライズル』みたいなもの、と言えば説明になるだろうか。

 

「悪闘拳、白刃流し」

 

 迫る巨漢からの拳撃を、その側面を擦らせるようにして受け流す。

 やはり才能は素晴らしい。パクリの技術であってもここまで再現できるとは。心理学で彼らの内心の驚愕が手にとるように分かるよ。

 

 

 受け流した彼の攻撃は、勢いそのままにビルの屋上に突き刺さった。ドゴンとかバゴンとか、人体では出してはいけないような音と共にコンクリートの床を破壊する。

 すかさず受け流した勢いを利用し、バレエのごとき回転をもって蹴撃を食らわせた。

 

「おいおい、こんなもんかい?」

「・・・!?」

 

 飛んでいくオールマイトの表情に笑いが込み上げる。

 そこまで驚いてくれるなよ。こんなもん、過去の再現だぜ? もっともっと打ってこなきゃいけな『っババン!!』

 

「っと。やれやれ、これはスナイプ君だね。まだ横入りは早いんじゃないかい?」

 

 全く手癖の悪い。それはもう少ししてからやるべきだろうに。そんなんじゃ画面の前の皆様が君にヘイトしちゃうぞ。幸い聞こえていたから対処できたが。軽音部の才能は声や演奏技術だけではないのだよ。当然聴力だって天才級さ。

 

「余裕ぶってんなよ『モノクローム』。俺たちゃお前さんを倒すだけなんだからな」

 

 彼の行動を皮切りに、控えていたヒーロー達が動き出す。なるほど、ここからが本番というわけか。

 

「よろしい、ならば私も更なる手札を切ろう」

 

 たしかに数で劣っているのは事実。いくら私が天才だろうと覆せない彼らの長所だ。

 

「娘に託した伝言通りに一人で来なかったのだ。このくらいはやらせてもらうぞ?」

 

 面接の時に娘がオールマイトに渡した手帳には、この時間に私がここにいる旨を記したメッセージカードを挟んでおいたのだ。それにより招待したのはオールマイト一人だったのだが、結果はご覧の通りだ。

 

 私は懐からピンマイクを取り出す。そしてそれに勢いよく、よく通る美声で呼び掛けた。

 

 

「出よ、モノケモノ~~~!!」

 

 

 音声認識により目覚めるは、生物を模した粛清兵器。かつて門番として立ちふさがった五つの機体は、この世界のトンデモ科学力によってその存在を復活させる。見るがいい、ウサギ擬きに倒され続けた悲しき兵器達のその姿を。蹂躙する側が蹂躙されるという一種お約束を体現する物達を。

 

「おい、なんだあれは!?」

「動物・・・? いや、機械だ!!」

 

 ビルの影から出現し、彼らの周囲を取り囲むそれ。

 

「紹介しよう。私が自信をもってプレゼンする新しい武力。部下の努力の結晶。対人生物型自律兵器『モノケモノ』だよ」

 

 虎。

 蛇。

 鳥。

 馬。

 人。

 

 五つの生物の特徴を持った、モノでありケモノである新たなる脅威は、赤い眼光でヒーロー達をロックオンしている。

 

 

「さあ、少々早いが第2ラウンドだ。ついて来てくれよ?」




読了ありがとうございました
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推理ゲームの舞台装置

どうもアゲインと申します

父、戦闘に飽きる
そんな十話でございます


「ダンガンロンパという作品にあたって、こいつらは島の行き来を制限するものでしかなかった。いわゆる行動規制の理由付けみたいなものさ。初代は学校が舞台なのに対し、2は孤島だ。つまり環境という点だけ見れば2のほうが自由度がある。そこを何とかするために、分かりやすい脅威が必要なんだよ。島を行き来するのを橋に限定し、そこに門番を置くことで、ここはまだ行けないよ、としていたわけだ。舞台装置ということで、必ずしもこいつらでなければいけない理由はなかったし、もっと大胆に、橋が浮き上がってくるギミックでもよかったんじゃないかと思うんだよ。こいつらだって海に一体いれば泳いだり船を漕いだりしようなんて思わないだろ? それで行動制限は出来上がる訳だ。ならばなぜ、こんな厳ついやつを門番にしようとしたか。私が思うに、前作を知って要るがゆえの認識、それを利用したかったんじゃないかと思うんだ。大胆に改造された各種おしおき部屋。あれほどの技術があるならこんな兵器があっても不思議じゃない。そう考えたプレイヤーもいたんじゃないかな? そのため、主人公たちがいる世界がゲームだとは気付けない、気付きづらいようにしていたんだ。つまりはプレイヤー自身を欺く大胆かつ巧妙な手口だったということだよ。

 

 ちなみに今の状況とは一切関係がない」

 

 長々と持論を語ってすまなかったね。読者の皆様もなんじゃこいつと思ったことだろう。心から謝罪するよ。

 

 しかし、そんなことでもしていない限り、とてもじゃないが暇なんだよ。これは私のリハビリを兼ねた復帰戦だというのに、あいつらモノケモノ相手にどんだけ手こずっているんだか。お前らあれだぞ、数人がかりでモノケモノ一体倒せないようじゃあのモノミ以下という評価しか加えられないぞ? もっと本気ださなきゃさ。

 

「しっかし、本当に弱くなっているなオールマイトの奴」

 

 今も人型のモノケモノの一撃を食らって動きが止まっている。以前であれば軽く吹き飛ばすくらいはしてくれていたもんなんだが。こんなんじゃ私、お前に倒される気がしないよ。

 

「おっと、また一人吹き飛んだ! これは大きいぞ!!」

 

 蛇型の動きに惑わさせたところを馬型に轢き飛ばされた。あれは13号君だったかな。乱戦では君の個性は活かせんだろうに、足を引っ張っているな。個性と同じで。

 

「ダメだ。こんな低レベルの皮肉しか思い浮かばない。こんなんじゃフリースタイルでやっていけないぞ。もっとよいライムを絞り出すんだ」

 

 もはや自分がこうしてここにいる意味を感じなくなってきた。もういいだろう、このくらいで勘弁してやるか。

 

「あー、左右堕君左右堕君。聞こえているかい? こちらおじさん。こちらおじさん。オーバー」

『こちら左右堕です。絶さん、やっぱ過剰戦力だったみたいですね。一、二体戻しますか?』

 

 モノケモノ達を起動させたピンマイクに向かい、制作者であり私の部下である左右堕君に話しかけていた。

 彼はこの超人社会で燻っていた技術者で、自分が無個性であることを理由に不当な扱いを受けていたところ、私がスカウトしたわけである。

 抑圧された社会から抜け出し、のびのびと成長した彼はダンロンでいうところの『超高校級のメカニック』の才能を開花させたのだ。

 

 今ではこうして私の右腕として活躍してくれている。頼もしい限りだ。

 

「いや、もう飽きちゃってね。これ以上居ても意味ない感じだから、『あれ』、やっちゃおう」

 

 

『分かりました、合図はお願いします』

 

 

 私の指示で彼が準備に入る。さて、それでは本日の締めと参りますか。

 自分の顔に笑みが刻まれるのが分かる。ここまでの愉悦はそう、やはり初めて彼らを裏切ったときのに匹敵するだろう。結果を今から想像してにやけてしまうな、これは。

 

「あーあー。あー、ヒーロー諸君。今宵はなんともつまらない時間となってしまった。主催がこんなことを言うのもなんだが、君たちではキャストとして不十分だったらしい。そんな君たちにはせめて最後に余興に付き合ってもらおう。なに遠慮はいらない。存分に楽しんでくれ」

 

 こんなところにもう用はない。憂さ晴らしついでに、見せてやろう。敵として研鑽した私の力を。

 

「脳力解放」

 

 言葉はスイッチとなり、脳内に普段とは異なる電流が流れる。その刺激により脳が活性化する。

 

「才能選択。武闘家、物理学者、幸運」

 

 それはこの身に本来あり得ざる才能を呼び覚ます。身体は一瞬にして引き締まり、瞳はビルの構造を丸裸にする。

 

「ヒーローの皆様は、クロに決定しました。スペシャルなおしおきを用意しております」

 

 一層悪辣に、気狂いのように告げてやる。

 

「それではいってみましょう。レッツ処刑ターイム!!!」

 

 振り上げた拳。打ち付けるのは戦闘でガタガタになった屋上の床。物理学者の才能で見抜いたその弱点に、渾身の一撃を食らわせる。

 武闘家の才能、浸透勁によって衝撃は全体に伝わり、下の二つの階層もろとも屋上は崩れ落ち始めた。

 

 

 

 思い上がった人間に神が下した雷が如く、それは破壊をもたらした。次々と崩れていく階層、一見強靭に見えた建築物も、物理学者の目から見ればトランプのタワーと一緒だ。適切な力を加えれば容易くこうなる。

 

 さらに左右堕君にはこのビルの各所に爆弾を仕掛けてもらっている。屋上で暴れる程度では反応しないが、階層ごと落ちてくるような衝撃には耐えられず、ポップコーンのように弾けるだろう。それによりビルはあっけなく崩れていく。

 

 道化が自分の罠に嵌まるように、私もまた自由落下をしつつ、満足に動かない体でそれでも仲間を助けようとするオールマイトをただただ笑う。悔しげに顔を歪ませる彼の姿を見て、私は手を叩いて彼らを応援してやった。

 

 そうして最後、一階も崩れ、私たちは地上に叩きつけられた。

 

「『バベルの塔』、執行完了」

 

 幸運の才能により傷一つなく降り立った私は、服に着いた埃を払いながらその場を去ろうとした。そんな私を止める声が弱々しく響く。

 

「ま、ま・・・て・・・・・・」

 

 屋上よりもボロボロになったオールマイトの姿の近くには、他のヒーローが全員無事で横たわっていた。どうやらあの状況できちんと全員を救出できたようだ。

 

「オールマイト、今のお前の弱っちい個性では私には勝てない。元超高校級の天才にして、超超人級の絶望たる私に、もはや君では役不足だ」

「なぜだ・・・。なぜそこまでして・・・・・・」

 

 道を違えたかつての友人に、俺はこう言い放った。

 

 

「言っただろう。絶望。ただそれだけだよ」

 

 それだけ告げた私はもう振り返ることなく、すでに退避したモノケモノ達が向かった先へと歩き出す。

 

 彼らヒーローは私の舞台装置足り得なかった。

 推理ゲームに必要のない暴力だけが、彼らの利用価値だったというのに。

 それすらない者達に、もはや興味はなかった。

 

 

 こうして、かつての焼き増しのような戦いは終わった。残るのはただ、瓦礫と、崩れ去るヒーロー達だけだった。




読了ありがとうございました
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次回からは隔日投稿となりますのでご注意ください


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わたしと同級生

少し遅れてしまい申し訳ありません
アゲインと申します

娘に話しかけた同級生の正体は?
そんな十一話でございます


 わたしは声を掛けてきた男の子、金髪の彼に連れられて、人影がない校舎の裏に来ていた。

 このシチュエーションは色々考えさせられるけど、告白ということはあり得ないだろうから、ここはあれ、なんだろう。

 

「ここなら誰にも邪魔されねぇ。さあ、答えてもらうぜ転生者!」

 

 そんなことを言う彼は確か、1-Aクラスメイトの・・・名前がわからないけどクラスメイトだ。

 朝こちらを見てきていた男子の中で、他とは質の違う視線を向けていたはず。あれは・・・・・・疑いの視線だったかな。

 

「だんまりかよ。でも意味ないぜ、俺にはわかってんだからな!」

 

 一クラス二十人が定員だったけど、わたしたちのクラスは二十二人。二人多いのだ。

 わたしが特待生として招かれたけど、彼もそうなんだろうか。それにしてはなんというか・・・・・・チンピラ?っぽい。わたしを睨むようなその目がなんだか濁って見えるのだ。これはいったいなんなんだろう?

 

「・・・おい、いつまでも無視してんじゃ---」

 

 彼の手の中に光源が発生する。どうやらあれが彼の個性のようだ。それはそのまま収束し、こちらへ放たれる。

 む、不穏な気配。前方周域を警戒、可視領域を拡大する。熱源の発生を確認、こちらへの攻撃と認識。軌道予測により命中はしない模様。危険度は高いが回避の必要性なし。

 

「---ねぇ!!」

 

 言葉が届くより速く、光の帯はわたしの近くを通りすぎた。熱の放射によって煽られた風がわたしの髪を巻き上げる。むー、せっかく綺麗にできていたのに、また櫛を通さないと。

 

「はっ! どうだよ、ビビって声もでねぇか! 俺の個性は光を操る。ここも光学迷彩みたいに見られることはねぇ。さあ、なにが目的なんだ! さっさとしゃべらねぇなら次は当たるかもな!」

 

 よく分からないが彼はとても興奮している。目的もなにも、わたしはヒーローになりにここにいるのだ。それ以外の目的はないし、転生者? というのもよくわからない。

 

「みんなとおんなじ。わたしはヒーローになりにきた」

「嘘だな。そんなんに騙されるかよ」

 

 なんということだ。正直に話したのに嘘だと言われてしまった。だったらわたしはここに何しにきたことになるんだろう?

 

「てめぇの思惑はわかってんだ。どうせクラスの男子で逆ハー作る気なんだろ? それじゃ俺が困るんだよ」

「・・・・・・りありー?」

 

 これは困った。彼はどうやら正気ではないらしい。一刻も早く教師の誰かに押し付けたくなってきちゃった。

 

「わたしにそんなつもりはないよ」

「はっ、どうだかな。わざわざそんな姿にしてもらって、さらに強力な個性を持ってんのが証拠だ。原作にお前みたいなのはいねぇんだよ。残念だったな!」

 

 どうせ前世じゃブスだったんだろ!

 

 そう挑発してくる彼の言葉を、わたしは冷静に聞き流した。どうにも彼はありもしない妄想でわたしを、わたしの両親を侮辱している。

 わたしに前世などない。この身体、精神は、父の愛情と母の想いでできている。そのわたしをそこまで言うのなら、それがどれだけ恥知らずなことか理解してもらわなければいけない。

 

「わかった」

「あ? なんだ、観念したのかよ。まあ別に? 身の程を弁えて俺のもんになるなら許してやるよ。お前は顔だけは良いからな」

 

 ・・・・・・本当に、本当に下らない。

 こんな奴に時間を使わなくてはならないことが許せないくらいだ。もういい、こいつは---敵だ。

 

「二つ、言っておく」

「おいおい。俺に物言える立場じゃないっていってんだろ? お前は黙って「一つ」

 

 もうその口を開くな。聞きたくないんだ、その声。

 

「わたしは手加減が上手いほう。安心してほしい」

「・・・」

 

 わたしが何を言いたいか、そのトチ狂った頭でも理解できたようだ。目に見えて戦闘体制に移っている。

 

「二つ」

 

 でも、もう遅い。いくら速く攻撃できようが、わたしを止められるわけがない。

 

「あなたには---折れてもらう」

 

 こいつの性根は腐っている。そんな奴を、のさばらせておくものか。

 

「・・・ふざけてんじゃねぇぞおおお!!!」

 

 彼は瞬時に真っ赤に染まる顔で個性を発動させる。ではこちらもお見せしよう、悪の娘の戦いというものを。

 わたしはある装備郡を展開する。それは父が造り出した、『心折』を目的するものだ。存分に楽しんでもらおう。




読了ありがとうございました
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次は水曜に投稿いたします


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わたしと同級生 その2

どうもアゲインと申します

娘、心折を実践する
そんな十二話でございます


『なあ希、少し聞いてもいいかい?』

『なに? お父さん』

『いやね。もし君がこれから誰かと戦うとして、それが相手を傷つけてはいけないとき。どうすればいいか、その答えを持っているのかと、ふと思ってね』

『なんでそんなこと聞くの?』

『お父さんも信じたくないんだが、お前のクラスの男子がなにやら良からぬことを考えているみたいでね。もしかすればお前を巻き込むかもしれないんだ』

『そうなんだ』

『そうなんだよ』

『でも、どうして?』

『ませたガキほど悪辣なものはないが、なにぶん今はそれを厳しく取り締まれないのさ。未来を守る、人権云々、いろいろね。でもね方法がないわけではないんだよ』

『痛くするの?』

『おお我が娘よ。バイオレンスな感じもいいが、なにもそこまでしなくても簡単に解決できる。お前なら尚更ね』

『でもわたし、簡単に傷つけちゃうし・・・』

『そう、だから聞いたのさ。そしてそれが答えだ。お前は優しい娘だ。でもその優しさを食い物にする輩には、お前は優しくしなくていい』

『どうするの?』

『奴らは舐めている。どうせどうにもできないと。だからこそ、その『心』を『折り』なさい』

『心?』

『人間の行動は『心』が決める。その行き先を『折って』、教えてやるのさ。本来の筋道に行くようにね』

『でも・・・・・・』

『大丈夫だ。なにも心配いらないよ。決して傷つけることなく『心』を『折る』。その方法を教えよう。お前だからできる。そんな方法を』

『わかった。わたしやってみる』

『よろしい! では教えよう。これが希望ヶ峰が誇る『心折理論』だ!!』

 

 そして父の忠告通り、クラスの男子数名は同じ中学の女子を如何わしい目的で監禁しようとし、しかしそれは成されることなく自ら警察に出頭した。彼らは酷く怯え、女性を見るだけで気絶するほどに精神を弱らせていたらしい。

 

 その事件以来、わたしは手加減を覚え、力の使い方を向上させた。

 

 

 

 

「どうかな。もう戦う意思はないと思うけど?」

 

 わたしの声に、あそこまで意気がっていた彼は答えられない。そもそも聞こえているかも怪しい。

 今彼は蹲り、嘔吐感と戦っているのだから。

 

「聞こえていない前提で話すけど、わたしの手加減はこうなる。一応体に傷をつけない最善策なの」

 

 彼がいるところを中心にして、四方を囲むように音波を流している。彼の攻撃を交わすふりをしながら取り付けた小型スピーカー。父の発明で高出力を出せるそれを、違う波長を交差させるようにぶつけることで範囲にいる人間の三半規管を揺らすのだ。

 効果は見ての通り、異形型の個性でもない限り確実に相手を戦闘放棄させる。

 『心折設計』シリーズでもまだ軽いほうのやつだが、相手の慢心もあり簡単に嵌まってくれた。

 

「あなたの個性は確かに強力。でも、あなた自身は脅威ではなかった」

 

 さすがのわたしでも光より速く動くことはできない。でも、

 

「あなたが動くより早く、わたしは動ける」

 

 彼の動き、視線から射線を割り出し、彼の認識より早く動けば当たる訳がない。これは銃撃にさらされたシュミレーションで学んだことだ。そこに銃弾の速さは関係ない。

   

「もうわたしは行くね。五分もしたら自動回収されるよう設定しておいたからそれまでは頑張って」

 

 限界を越えて嘔吐を繰り返す彼を置き去りにし、わたしは自分の寮に帰ることにした。

 一応これは警告のつもりだ。直接的でなくても自分を制圧できる力があると理解できたならば、もうこんなことはしないだろう。

 

 理解できないときは、それ相応の対処をするまでだけど。




読了ありがとうございました
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次は30日、金曜の投稿になります


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私は敵、そして学園長なのだ

どうもアゲインと申します

父、動く
そんな十三話でございます

また、誤字報告をしてくださったえむ様
大変ありがとうございました

今後も出来る限り誤字は無くしていきたいです


 いやはやどうも。ご無沙汰している。希望ヶ峰 絶だ。

 前回オールマイト達ヒーローとの面白くない戦いを繰り広げ、散々にしてやった私だが、今日という日を無事迎えられたことを嬉しく思うよ。

 

 なぜかって?

 そもそも今日はあれから何日か経っているんだが、今まで暖めていた草案が見事実現したのでね。その準備に追われ、ようやく今日完成したのだよ。

 

「相変わらず馬鹿なことをしているな、私は」

 

 ご覧ください、この巨大な戦艦を。

 以前私が犯した犯罪でなかなか有名になった『軍事基地強奪事件』というのがあるのだが、あれは基地が建つ土地そのものを改造し、そのまま『船』にしてやったのだ。

 組織した部下達で軍人共を範囲外まで退去させ、本土から切り離しを行ったときはもう、至極爽快で気分がとてもよかったね!

 部下達も狂喜乱舞といった具合にその日はどんちゃん騒ぎだったさ。次の日そこらじゅうでゲロ吐きまくって地獄絵図だったことは内緒だぞ。

 

「いやー、しかしすごいな、これは」

 

 全国からの捜索に引っ掛からないよう影に潜みながら開発を進め、ついにここまで完成したのだ。

 

 目指したのは『ガルパン』に登場した『学園艦』で、全長約三キロに渡る超大型艦である。

 生活圏を確保し、さらに自由な行動を取れる。これほど悪の組織の相応しい乗り物もないだろう。

 

 軍事基地を取り込み防衛については問題なし。目視だろうがレーダーだろうが関係なく遮断できる独自技術で偽装も完璧。地下資源だって掘れちゃうんだから燃料の心配もいらない。

 

「完璧じゃないか、我が船は」

 

 外装は凝りに凝ったよ。

 モノクマっぽさは譲れないと部下達と論争を繰り広げなんとか押し通し、白黒のツートンカラーにすることができた。船首にはモノクマ像を設置している。

 私としてはそれでもっと染め上げたかったが、やりすぎはよくないからね。後は部下に任せて本題の建築に携わっていたよ。

 

 なにを隠そうこの戦艦。学園艦を自称していたりするので、やっぱり学校が欲しいな、ということで作りましたよ作りましたよ。

 

「うん。どこからどう見ても原作通りだ」

 

 外観を第三部の舞台である『才囚学園』にしたんだよ。いやー、これを知るのは私一人だから大変だったよ。『希望ヶ峰学園』でもよかったけどアニメやゲームで分かる範囲は小さいし、何より遊びを入れられる所が少ないからね。だからといって『ジャバウォック島』ほど広い訳でもないし、種類は違えど船という共通点もあったこれに決まったんだよ。

 

 もちろん船の規格に合うようにいくらか調整されている部分もあるが、おおむね原作通りと言えるだろう。

 

「絶さん。こんなとこに居たんですか。もうすぐ始まっちまいますよ」

「おや、これは気づかなかった。あまりによい出来なので時間を忘れて眺めていたよ」

 

 どうやら今日のメインイベントが始まるようで、わざわざ左右堕君が呼びに来てくれた。

 さて皆様。ここが学園とするならば、足りないものがあるのではないだろうか。

 そう、学生だよ。

 

 これからここで、入学式を行う手筈さ。さあ、行こうか。

 

 

 

  

 広めに設計した体育館にはすでに大勢の少年少女、青年淑女が集まっている。総勢は確か二百人。男女半々の割合で集めたんだったね。

 

「悪いねみんな。外でぼうっとしていたら思いもよらず時間をかけていたみたいだ」

「問題はない。少しばかり時間が過ぎても調整できる」

「ふはははは! 上司がこれでは先が思いやられるな!」

「本当だね。私なんかで勤まるか心配だよ」

「それこそ無駄な心配っすよ。ここじゃあなたが適任だ。田仲のも冗談ですよ」

  

 遅れてしまった私の声に答えてくれたのは部下の二人、戸小山 平子君と田仲 眼侍君だ。二人とも左右堕君と同じような経緯で私がスカウトした人材だ。他にも大勢いて、この学園艦製造にもそれぞれの分野で貢献してくれた。そしてこれからは彼らが教師として活躍するだろう。それもまた楽しみだ。

 

「さて、では私の初仕事をこなしてくるとしよう」

「お願いしますからあんま変なことしないでくださいよ? ただでさえ俺たち怪しいんですから」

「大丈夫だよ。普通にするさ」

「その言葉が信用ならないんですけどねぇ・・・」

 

 疑うような目線を向ける左右堕君に内心謝りつつ、私はそのまま教壇の下に設置された装置に立った。

 

「いや待てそれいつからあった!?」

「悪いな左右堕君! こればかりは譲れないのさ!!」

 

 制止を促すその声を遮り、私の声と同時に装置は私の身体を押し上げる。そう、全ては原作再現のために!!

 

 BGMと共に空中に投げ出された身体は重力に従い下へと落ちる。着陸地点の教壇へブレることなく立てば、あまりの事態にざわめく彼らにマイクをかっさらってシャウトする。

 

「諸君、ようこそこの『才改学園』へ! ご入学おめでとうございます! 私は希望ヶ峰 絶にして『モノクローム』。この学園の学園長さ!!!」

 

 さあ始めよう。希望と絶望の学園ライフを君たちに! 私達教師一同、その支えとなれれば幸いだ!

 

 娘よ。お父さん教職に就きました。




読了ありがとうございました
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次の更新は7月2日、日曜の投稿になります


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才改学園へようこそ

どうもアゲインと申します

父、演説をする
そんな十四話でございます


「ご存じの通り私は敵としてかつて活動していた経歴があるが、この度復職した次第だ。理由は言えないが君たちも興味はあるまい。重要なのは君たちがここに、この『才改学園』にいるのかということだろう」

 

 ここに集められたのはある共通点を持った人々だ。この特徴を持つ人間特有の暗く落ち込んだ瞳をしているじゃないか。うむ、よい目だ。まさに絶望だね。

 

「まどろっこしい言い回しは止しにして、改めてようこそ、『無個性』の諸君」

 

 私のその物言いに目に見えて顔をしかめ、さらに深く闇を纏う彼らだが、まだまだ傷を抉る言葉は用意している。まずは聞いてもらおうじゃいか。

 

「君たちはこの超人社会においてマイノリティーに位置し、その地位は低い。なぜならば、君たちが『無個性』であるからだ。『個性』持ちと比較して能力がパッとしない諸君は世間の評価を正当に受けていると言えるのか? そんな自身との価値観のギャップに悩んだすえに怪しい広告に引っ掛かったのが君たちだ!」

 

 彼らが使っている通信機器にスパムメールの如く送りつけたそれを信じこんなとこまで来ちゃってまあ、よっぽど切羽詰まっていたんだね。大丈夫、悪党の勧誘だよ。

 

「なんでこんな世界になったのか。そう、『個性』を持つ者達が裏に表に蔓延っているからだ! それを持っている奴等がテレビに新聞にSNSに、どこにだって我が物顔で、当たり前みたいに居座っている。そんな世界で、社会で、どうして君たちが羽ばたけようか」

 

 君たちが悪いということはないし、別にそこはどうでもいいのだ。言いたいことはそこではない。

 

「---納得できるかね」

 

 ピクリ、と。

 事実を再確認し、顔を床に向けて前を見ることすら放棄していた彼らが、その言葉に反応する。

 

「人生とは、諦めの連続だ。妥協して生きればそれなりの最後を迎えられる。だが、それでいいと。そう納得できるのかね。自らの価値を示すことなくそこいらの屑石と同じ扱いでいいと、そう思って死ねるかね?」

『『---良いわけねぇだろ!!』』

 

 瞬間爆発するように弾ける館内。あまりの声量によりビリビリとした振動が私を襲う。そうだ、こうでなくては。

 

「その通りだ諸君! 『納得は全てに優先される』のだ! そうでない君たちが、どうしてその生を全うできると思ってるんだこの世界の連中は!」

 

 故に示そう。君たちに、行くべき道を。

 

「君たちがこれからすることは、これまでの人生でもっとも難しいことだ。それは今までの『自分を乗り越える』ことだ! 覚悟を持って、『暗闇の荒野で行くべき道を自ら切り開く』ことだ! 今こそ『未熟な過去に打ち勝つ』時が来たのだ!!」

『『『ゥオオォォオオーーーーーー!!!!!』』』

 

 どうだオールマイト、そして我が娘よ。

 この熱狂する彼らを見たらどう思う。

 お前達の『正義』で救えない彼らを救い、その絶望と才能によって相対しよう。

 そして尚、救って見せるがいい。お前達の『希望』とやらでね。

 

「未来を守る、奪う奴等に、『個性』という武器を持つ彼らに、『才能』によって打ち勝とうではないか!」

 

 そのための学園。そのための組織。

 

「この学園は、君たちの『才能を改め』、人生を『再開』させるためのものである! 励めよ諸君!! 我々は、諸君らのその才能をこそ望むのだ!!」

『『『『はいっ!!』』』』 

 

 よろしい。

 

「これにて学園長からの挨拶とさせていただこう。それでは」




読了ありがとうございました
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次の更新は4日、火曜に投稿します


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いけ! サイボーグ少女希!
わたしと朝の教室


どうもアゲインと申します

娘、朝はこんなかんじ
そんな十五話でございます


 頭のおかしいクラスメイトに対応した次の日。わたしは身だしなみを整えて自分の教室に向かっていた。

 あの後数分姿が見えなかった理由を相澤先生に聞かれたので素直にあいつのことを教えてあげた。そしたら渋い顔をして教えた方向に向かっていった。おそらく雷を落としにいってくれたんだろう。

 

 今日もざわつく通学路を通っているけど、短いなかでここまで注目を集めるのは少し鬱陶しいものがある。話しかけてくるわけではなのにこちらを見てザワつくのはどういう心境なんだろう?

 周囲の反応に疑問を浮かべながらも脚は教室への道を進んでいて、いつの間にか目的地についていた。

 

「おはよう」

 

 教室の扉から姿を現したわたしに、中にいたみんなの反応は少し分かれる。

 

「おはようございますわ」

「おっはよー!!」

「朝のあれ大変じゃない?」

 

 一つは昨日のテストから顔を合わせていなかった百たちだ。彼女たちは結構友好的に接してくれる。

 

「おはよう。大丈夫慣れてるから」

 

 席に向かえば囲むようにして会話を始める。それを遠巻きに見てはそれぞれ別のグループを作っている。

 そういえばあの金髪はどうしているのだろう? 注意を受けただけならここにいると思うんだけど。

 

「ねえ。金髪来てる?」

「金髪、ですか? 爆豪さんであればあちらに」

 

 百の指差す方へ顔を向けてみるが、そこにいたのは別の金髪。

 

「あんなにトゲってないヤツなんだけど」

 

 でもすごいな彼。爆豪・・・確かに爆発してるみたいな頭だ。このクラスであの性獣と同じぐらい個性的な髪型。

 

「そんじゃ上鳴?」

 

 今度は響香の声に反応して視線を移す。いたのは一目でチャラいヤツだとわかるような軽薄系。さっきの爆発君みたいなツンツン頭の赤髪の子と話している。

 

「見た目はそんな感じ。でも違う」

 

 一応教室内を見渡してみたけど、どうやらあの金髪はいないみたい。説教だけじゃ済まなかったのかな。

 

「それじゃあ後は伊留御君かな!」

「ああ。あいつもそういや金髪だったね」

 

 わたしが探しているあの金髪のことに、三奈が最初にたどり着いたみたいだ。それに響香も知っているみたい。

 

「そういえば。けして存在感がないわけでもないのにいないことに気付かないなんて・・・・・・。おかしいですわね?」

 

 百に至ってはいないことに気づいていなくて初めから候補にすら上がっていなかったみたい。

 でもそうかも。

 あいつのことをきちんと気にしたのって話掛けられてからだったし。テスト中にあんな目立つ個性を発動させていたら話題に上がらないわけはないけど・・・・・・。

 

 改めてあの時のことを思い浮かべてみて、そういえばあいつの個性ってああいう記録向けなものじゃないなと思い至った。

 光を操ると言っていたけど、あまり融通が効くようには見えなかったような。攻撃にしか使えない個性の出番はあのテストではないのではないか。

 

「で? あいつに何か用があったの?」

「昨日相澤先生にしょっぴかれたと思うから、その後どうなったのか気になったの」

「エエ!? 彼何かしたの!!」

「初日からなんということを!」

 

 あ、まずった。

 もっとオブラートに言うつもりだったのに、これではわたしがいたこともバレてしまう。できるだけ見ていたってだけにしとかないと。

 

 それからなんとか誤魔化して、今日最初の授業の時間になりおしゃべりは一旦おしまいになった。また追求されそうだけど、その時までちょっと言い訳考えとかないと。

 

 それから教科担任の先生が来て授業が始まった。あの金髪はまだ来る気配はなく、彼の席だろう場所は空いたまま、時間は過ぎていくのだった。




読了ありがとうございました
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わたしと模擬戦

どうもアゲインと申します

娘、コーディネートを披露
そんな十六話でございます


「わーたーしーがっ! 普通にドアから来た!!」

 

 いくつかの授業を受け、次の担当の先生を待っているとその巨漢はいきなりわたしたちの前に現れた。

 受験の時にあってからは顔を合わせることはなかったけど、その迫力にはやはり驚いてしまう。画風が違うと叫ぶ人の言葉には同意しよう。力強さの自己主張が激しい。

 クラスメイト達の熱い声援を受けながら、彼は教壇の前に立つ。

 

 オールマイト

 

 正義の象徴。わたしの父と因縁を持つ人。

 圧倒的な力を持つ彼と身体的には普通の父がどう戦ったのか。以前の決別のそれを、わたしは概要しか教えられていない。

 どんな戦いをしたのかはまた今度聞きに行こう。

 

「今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

  

ババン。と効果音でもつきそうな感じだ。その内容に沸き立つ教室。 

「戦闘……」

「訓練……!」

 

 やる気を声に込めた発言がそこかしこからあがる。

 

「そして、コレだ!!」

 

 派手な機械音を響かせ壁が棚状にせり出してきた。こんな機能を備えていたのかここ。

 

「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた……」

「戦闘服!」

「そうだ! 形から入るってのも大事だぜ少年少女!! 全員着替えたらグラウンドβに集合だ!!!」

 

 

 

 

 『被服免除』というものがあるこの学校では、ヒーローの卵であるわたしたちにも、その個性にあった『戦闘服』を着ることができる。 企業なんかが作ってくれたものが大半だがなかには自前の人もいて、わたしも父に作ってもらったものを着ている。

 

 わたしの個性の特性上、体のいたるところからブースターとかが展開されるため、本気を出せば必然的に露出度は高くなってしまう。

 最低限胸やお腹、腰回りといった見せられないところを隠してはいるけれど、背中や脚腕といったところは機械的なブーツやグローブ型装甲、外付けユニットを装備するぐらいしかできない。特に背中は大型のブースターを展開することが前提のため肩を含め大きく開いている。時々この長い髪を巻き込むこともあるので注意が必要だ。

 これを製作してもらうにあたってかなり恥ずかしい思いをしたけど、性能は父の折り紙付きだ。

 

 スーツの着心地を確かめていると百たちが近づいてくるのが見えたので彼女たちの服にも目を向けてみた。

 

「希さん・・・その・・・」

「百も人のこと言えない」

 

 若干言いにくそうな表情で見てくるけど、彼女の格好だってかなり際どいことになっている。

 

「いや、あんたら変わんないから」

 

 そうツッコんでくる響香は彼女らしくロックな感じだ。この感じ結構好き。

 

「三奈は?」

「あっちで他のと絡んでるよ」

 

 彼女の指す方向を見れば上鳴や他の人たちに文字通り絡んでいる三奈の姿。あのコミュ力わたしも欲しい。

 でもあの中にいくのもなあ。

 

 何人かこちらをチラチラと見てくるのだ。明らかに性的な感情を持っているのが分かる。あの性獣に至ってはよほど興奮しているのか目が血走っていて、見ていて気持ちいいものではない。正直気持ち悪いのだが。

 

「よーし、皆そろったようだな!」

 

 そうこうしているうちに颯爽とオールマイトが登場した。

 シルバー・エイジと呼ばれていたころのコスチュームを纏ったオールマイトは掘りの深い笑みをさらに深める。

 生徒達一人ひとりを見渡し、満足げに頷いた。

 

「さあ、始めようか有精卵共!!」

 

 こうして、模擬とはいえど本気の戦いのコールがかかるのだった。




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わたしと模擬戦 そのニ

どうもアゲインと申します

娘、観戦する
そんな十七話でございます



ここ数日急に閲覧数が増え、評価をいただくことが出来ているという事態に正直驚いております
まだまだ物語の深いところまで書けていないにも関わらずこのような評価を受け、感謝の言葉しかございません
ジョジョネタで受けているのか、思いきりその回のみ伸びがよいのは上手く書けていると受け取っていいものか・・・ダンロン成分が足りているのかという悩みはございますが、これからもよい作品に仕上げていければと思います

長文失礼いたしました


 抽選で選ばれたペア二組がそれぞれヒーロー側、敵側に別れ攻防を行う。

 ヒーロー側は敵が守るオブジェクトに接触すれば勝利となる。

 反対に敵側は十五分オブジェクトを死守するか、確保テープを相手にくくりつけ戦闘不能扱いにすれば勝利だ。

 

 そのようなルールで始まった最初の模擬戦だが、なんというのか見ていて不安になる。

 

「これはひどい」

 

 あの爆発頭、敵側だからって自分のやりたいことを優先して単独行動を強行しすぎだ。もじゃ髪君はタイマンを選んだからよかったものの、普通なら挟まれて終わりだ。相手の戦力を過小評価しすぎているとしか見えないぞ。

 

「まずい展開ですわね」

 

 隣で観戦していた百も同意見のようで、画面に映る二人の戦いに苦い顔をしている。

 

 爆発頭はほぼキレて短絡的な攻撃ばかりで、それを読んだもじゃ君は彼の大降りの一撃を上手く返した。あの動きはおそらく近くでよく見ているからこそ出来る類いのものだろう。二人は同級生だった可能性が高いか。なにがあの爆発頭のトサカにキているのか分からないが、どうやらもじゃ君のことが気に入らないらしい。

 

 そこから爆発頭は自身のスーツの武装である手榴弾型の籠手からピンを抜き、今までの比ではない大規模の爆破を起こして模擬戦会場のビルの一画を吹き飛ばした。

 

「・・・わお」

「な、なんてことを! 出久さんは無事ですの!?」

 

 画面が一時ブラックアウトし、中の様子が見えなくなった。すぐに復旧したがそこに映るもじゃ君はぼろぼろだ。出久君というらしいが、最初のテストのときにもそうだがあまり個性を使わないようだ。あのとき見せた威力から戦闘向きの個性であっても扱いに慣れていないのか体が付いていってないみたい。

 

 単純な増強型でもあそこまでピーキーなものは珍しい。普通はある程度の力加減は覚えているものだけど。

 

「どうやら軽傷に治まったみたいですわね」

「運が良かった」

 

 爆発そのものに巻き込まれていなかったのが要因かな。爆風で煽られただけみたい。それでもダメージがないわけじゃないのによく立つものだ。

 

 それから爆発頭を誘導するようにして動き、クロスカウンター気味の軌道を変えあの凄まじい一撃を天井に向けて繰り出した。それはオブジェクトが置いてある上階の下であり、その部屋に待機していた無重力少女と連携してライダーを撹乱。そのままオブジェクトを確保してヒーロー側の勝利となった。

 

 いろいろとあったがこれでこの戦いは終了。講評に移れば百の的確に過ぎる解説により良いも悪いも丸分かりである。

 これにはオールマイトも悔しげに拳を震わせている。

 

「それでは気を取り直して次の対戦カードの発表といこうか。・・・その前に!」

 

 来たまえ、という彼の言葉に応じるように現れたのは今までこの場にいなかったあの野郎で。

 

「少々事情があって伊留御少年には席を外してもらっていたが、どうやら用事も済んだようなのでこれから参加してもらおう。いいかね伊留御少年?」

「・・・問題ねぇっす」

 

 戦闘服に着替えたやつは不貞腐れたような表情でそこに立っていた。正直もう少し立ち直るのに時間は掛かるかと思っていたけれど、案外図太い根性をしていたみたい。

 それでもこちらには目線を寄越すことはなく他を向いている。苦手意識はあるみたいだ。

 

「さあ、次の対戦カードはこちらだ!」

 

 オールマイトの声に反応し画面の方に視線を向ければ、そこに映る敵側のメンバーにわたしの名前が。それから尾白 猿夫と葉隠 透が組となった。

 こちらが三人という人数的には優位となってしまうがそんなわけはなく。

 

「・・・俺かよ」

 

 相手側、ヒーローメンバーの方にレーザー野郎、伊留御(いるみ) 寧士(ねいじ)の名前が。

 そしてこちらも他に轟 焦凍、障子 目蔵がメンバーとなる。

 

 

「よし! これで両者出揃った! これより三対三の対戦を行う!!」

 




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わたしと模擬戦 その三

どうもアゲインと申します

娘、対策を練る
クソ雑魚オリ主の回想

そんな十八話でございます


 あの電飾野郎のことは置いて、今は編成されたメンバーについて考えるべきかな。関わりたくないし。

 わたしと同じ敵役のメンバーである二人に向かって話しかける。

 

「よろしく」

「ああ、よろしくな」

「がんばろうね!」

 

 道着のような服装なのが尾白くんだろう。それに比べ、葉隠ちゃんは手足にしか防具を着けていない。いくら透明だとはいえ、彼女はこの格好に疑問を抱かないのかな? 

 

「あの中で一番気をつけるべきは轟だろうな」

 

 尾白くんはあまりぱっとしない顔立ちだけど、その肉体はよく鍛えられていて鋭さを感じる佇まいだ。おそらく格闘技を主体とした戦闘スタイルなんだろう。

 彼のいう通り、ヒーロー側の最大戦力は轟くんだ。テストで見た彼の個性はこの模擬戦においてかなりの脅威になるだろう。

 

「でもやりようはいくらでもある」

「なにか考えがあるんだね!」

「うん」

 

 まあその辺りは会場についてからにしよう。彼らを伴ってわたしは戦場に向かうのだった。

 

 

 

 

 ヒーローチームとして参加することになった俺はここに来るまでのことを思い返していた。

 

 伊留御 寧士としてこの世界に転生して、この身に宿した強力な個性で原作の奴等を越えるようなヒーローになって、男の夢であるハーレムを作るのが俺の野望だった。

 

 思惑通り雄英高校に入学できたが、そこで予想していなかった事態に遭遇した。

 オリ主である俺以外にも、転生者がいたのだ。

 

 おそらく神様転生とやらでいろいろ好条件をつけてきたタイプの奴だろうその女は、隠すことなく力をひけらかしてきやがった。クソ!! むかつく女だぜ!!

 灸を据えてやるために放課後呼び出して実力の差を分からせてやるつもりだったが、小賢しいことに不意を突かれて気絶させられちまった。

 

 目覚めたときには相澤の野郎の顔があり、ゲロの臭いがさらに気分を最悪にした。どうやらあの女、相澤にチクっていたようで俺のやったことはある程度バレてるみたいだった。

 そこから長いお説教をくらい、クタクタになって家に帰る頃には辺りは暗くなっていた。

 

 そして今日も相澤に加え校長の根津にネチネチと素行を責められ、こんな時間になっちまった。

 でも、好都合だ。

 

「おい、いくぞ」

「・・・ああ」

 

 こっちには最強格の轟がいる。あっちには雑魚しかいねぇし原作の展開通りなら瞬殺されてる。障子もいれて三対一でなぶってやるぜ。

 待ってろよクソ女ぁ・・・・・・!!

 

 

 

 

「---ていう感じで行こうと思っているんだけど。どうかな?」

「・・・凄いな。あの短時間でそこまで考えてたのか」

「これならいけるよ!」

 

 わたしの対策について話せば、絶賛の声と共に受け入れられた。特に疑問点もないみたいだしこの作戦でいこう。

 

「尾白くんには負担が掛かっちゃうけど・・・」

「気にしないでくれ。しっかりサポートしてくれるんだろ? それなら問題ないさ」 

 

 なかなかに男気に溢れたことをいってくれる彼は、ここまで説明した作戦でその中核を任せることに最初は驚いていたけれど、自分が負う役割を聞いてからは瞳に強い意思の光を宿している。

 やる気に満ちたいい顔だ。あの野郎とは比べるまでもなく、こういうのをイケメンと呼ぶべきだろう。

 

「透ちゃんもお願いね」

「任せてよ!」 

 

 元気よく返事を返してくれる彼女も重要な役割がある。それにあっさりと名前呼びをさせてくれたこのコミュニケーション能力、侮れない。透明でありながらここまでの存在感を放つ彼女はクラスのムードメーカーと言えるだろう。

 熱感知による顔の造形も可愛い系のつくりをしている。他のみんなに見せれないのが残念だ。

 

 

『双方準備は整ったかな? それでは第二試合を始めよう!!』

 

 

 タイミングよく通信機から聞こえてくるオールマイトの声。どうやらあちらの準備も終わったらしい。

 

「それじゃあ打ち合わせ通りに」

「わかった」

「やってやろー!」

 

 こうして、それぞれの役割を果たすべく私たちも動き出した。




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わたしと模擬戦 その四

どうもアゲインと申します

娘、共闘す
そんな十九話でございます

また、総合UA10000越えを先日達成いたしましたこと、ここに感謝いたします
正直なところ思い付きから始まったこの作品ですが、こうして多くの方に読まれている現状に大いに驚愕するとともに、本当に感謝の言葉しかありません
お気に入りに登録してくださる方、評価をしてくださる方も増え嬉しくてたまりません
読者の皆様のお目汚しとならぬよう、これからも精進していきたいです

少し長くなりましたこれにて謝辞とさせていただきます
本当にありがとうございます


『それではっ! 第二戦・・・・・・レディ-----ファイトっ!!』

 

 通信機から聞こえてくる戦闘開始の合図により、相手の進行が始まった。さあ、どこまでハマるかな。

 

 

 

 

「障子、伊留御。少し離れてろ」

 

 轟の奴が原作通りビルを凍結させて中の奴等の身動きを封じる。だがあのクソ女は飛べる分回避ぐらいはしてるだろう。

 

「おい障子。なかはどんなか分かるか?」

「少し待て」

 

 障子の個性『複製腕』によって中の様子を探ってもらう。いくら俺でもこういったことはできねぇ。雑魚とはいえ役に立ってもらってこっちの負担を軽くするぐらいはやってもらわないとな。

 

「・・・・・・動きはないな。どうやら上手くいったようだ」

「よし。いくぞ」

「命令すんじゃねぇ」

 

 轟がリーダーぶるがそれに従う俺じゃねぇ。

 

「・・・なんだ伊留御」

「あのクソ女がこんな単純な攻撃に対応してねぇわけがねぇ。音が聞こえないなら待ち構えてるに決まってる。障子は俺と来い、二人で叩くぞ」

 

 障子の個性で先に見つけて先制攻撃を食らわしてやる。前衛にこいつを置いておけば射線を曲げれる俺の攻撃は有利になるしな。

 

「そちらは任せていいか、轟?」

「・・・わかった」

「さっさと行くぞ」

 

 こうして俺は障子を伴ってクソ女の撃退に向かうべく行動を開始した。轟を目標に向かわせたのもあいつを誘き出せれば挟み撃ちにできるからな。俺に逆らったことを絶対に後悔させてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なんなんだ、あいつ・・・」

  

 やけに偉そうな態度の伊留御に、轟はどうしたものかと考えていた。別にあのような人物にあったことがないわけではない、自身の父親など尊大さでいえばトップクラスだろう。

 まるで爆豪のようでありながらどこか違う性質の人間であるところがその言動から伺える。

 

「まあ、今は関係ない」

 

 あいつらで希望ヶ丘を押さえてくれるならこっちは目標を押さえるのに集中できる。いくらあの女でも障子の策敵に引っ掛からずにいることは出来ないだろう。

 

 轟は初日に見た希望ヶ峰の個性のことを思い返しながら、すんなりと目標の部屋にたどり着いた。そこにはオブジェクトとそれを守るための役目を負っていたのであろう、尾白が足を拘束されている姿があった。

 

「・・・やっぱり轟か」

「動いてもいいけど、足の皮剥がれちゃ満足に戦えねぇぞ」

 

 部屋の入り口から見て左にいて固まっている尾白。葉隠もどこかにいるんだろうが関係ない。障害物などなく真っ直ぐにオブジェクトが見えているのだ。あとはあれに触ればこちらの勝ちだ。

 尾白から離れた位置からオブジェクトに近づく。もう勝利は確実だ。

 

「---今だっ!」

「っ!?」

 

 無力化したはずの尾白のほうから何かが飛んできて吹き飛ばされた。突然のことに思考が追い付かず床に転がってしまう。

 

「そりゃっ!」

「っがぁ!?」

 

 こちらが動く前に俺を押し倒した何者かは、首もとに押し付けたそれを使う。

 バチリと衝撃と痛みが体に走り、自分の意思に関係なく細かく振動する。

 

「よっしゃー!」

「葉隠、そのまま頼むぞ」

「任せてよ」

 

 その声からのし掛かっているのが葉隠だとは分かったが、理解できないことがあった。

 

「・・・ど、どうして」

「驚いたでしょ!」

「希望ヶ峰の作戦通りだ」

 

 尾白の言葉に驚愕する。まさかこの展開を読まれていたのか。

 

「希望ヶ峰か。こっちは読み通りだ・・・・・・そうか、わかった」

 

 通信機に話しかけていた尾白がこちらを向いて話しかけてくる。

 

「葉隠、あっちも終わったみたいだ」

「さすが希ちゃん!」

 

 それから間をおかず、戦闘終了の合図が告げられた。よくわからないままに終わってしまったが、たった一つだけ理解できた。

 

「(負けた・・・)」

 

 あまりにも呆気ない敗北。それを演出した希望ヶ峰は、自分を上回る相手だと言うことだ。

 悔しさが込み上げてくるが、まずはその敗因を知りたかった。そうでなければ強くなれない。そう、深く感じた。 




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わたしと戦闘講評

どうもアゲインと申します

娘、戦闘を語る
そんな二十話でございます

この作品初の約三千字という文章量
説明をもっとスマートに出来るようになりたいですね


 戦いに勝利したわたしたちは、その結果を出せたことに大いに喜んでいた。

 

「やったね希ちゃん!」

「まさかここまでとはな」

「二人のおかげ。ありがとう」

 

 それからお互いを称えながらみんなのところに帰還する。そこには大番狂わせを起こしたわたしたちに早くも声援をかけてくれる面々の姿が。

 

「すげーぜお前ら!」

「よくもまあやってやったね」

「ンーー驚き!」

 

 それに受け答えしているとヒーロー組のほうも集合したようで、そこでオールマイトの声が掛かった。

 

「ようし。全員揃ったようだね! 早速、素晴らしい結果になったこの試合の講評といこうか!」

 

 希望ヶ峰君! と名指しで前に呼ばれる。作戦の詳しい説明をさせるつもりなのだろう。呼ばれた通りにみんなの前に出る。

 

「こちらでも見ていたが相手の意表を突く良い作戦だった。しかし、この展開にならなければ機能していなかったところもある。もしヒーロー側が三人で来ていたら、とは考えなかったのかね?」

「それはあり得ないと思っていたので」

「ほう、それはなぜだね?」

 

 面白げに聞いてくるけど、別にどうってことはない。普段の生活を見ていて分かりきっている。

 しかしそうは思わないのか、作戦に嵌められた轟君は疑問の声をあげる。

 

「その通りだ。お前は---」

「『いったいどんな根拠があってそう考えたんだ?』 とあなたは言う」

「---いったいどんな根拠があってそう考えたんだ? ・・・っは!?」  

「この通り、あなたみたいなタイプの思考は読みやすい。それこそ次に何を言うかが分かるくらいには」

 

 わたしのこの先読みに動揺を隠せず、驚きの表情をその変化に乏しい顔面に浮かべる彼だけど、この程度なら父に及ばない。あの人ならもっと精度の高い思考トレースが出来るだろう。

 そんな彼は置いといて、わたしは説明を続ける。

 

「彼らが三人で行動しない理由として、まず轟君の個性があげられます。彼の氷の個性は強力ですが、室内での使用となれば大きな制限が掛かります。周囲の味方、今回はオブジェクトも傷つけてはいけないのであまり直接的な攻撃には向きません」 

 

 出来ても精々があのビルの瞬間氷蔵ぐらいだろう。通常であれば大きなアドバンテージだけど、その分思考に大きな隙を作ってしまう。

 

「障子君が向こうに居た時点で内側の動きはある程度把握されます。その場合、下手に動いては位置が分かってしまうのでこちらとしては待ち伏せの選択肢しかありませんでした」

 

 この障子君の索敵もそうと言えるだろう。一旦相手の動きがないと分かれば油断してしまうものだ。

 

「わたしは飛べる個性なので、ビルの凍結に巻き込まれないようにしてから別の部屋に隠れて轟君をやり過ごし、後から来る二人を迎撃するために廊下に待機していました」

 

 この時点で轟君と他二人の別行動になる。周りに影響がでる轟君は先行してくるだろうし、わたしを二人で押さえれば勝利は確実だと思ったのだろう。

 だからこそ、そこに勝機がある。

 

「尾白くんに頼んだことはわざと拘束されてもらうことでした」

「ほう、どうしてわざわざ戦力を減らすようなことを?」

 

 相手の攻撃が分かっているのなら、それを交わすこともできたはずだと彼は言いたいのだろう。でも、それでは勝てない。

 

「すいませんオールマイト、それは俺のほうから説明してもいいですか?」

 

 尾白くんが集団の中から声をあげる。実際に実行した彼から聞いたほうが分かりやすいだろう。オールマイトに目配せし、彼に話すように促す。

 

「では尾白少年。希望ヶ峰君からどのような指示が出ていたのだね?」

 

 みんなの視線の中、尾白くんは語っていく。わたしたちの作戦はこうだ。

 

 

 

 

「まず俺たちが聞かされた作戦は、俺と葉隠の二人で、一人で来るだろう轟を倒すことでした。俺が動けなくされたのは、わざとそうすることで相手を油断させるためです。実際轟は俺が捕まっているのを見て気を緩めていたからな。大成功だったよ」

「・・・そうだな、確かに油断した。でも葉隠はどこから出てきたんだ?」

 

 相手の思惑にまんまとはまっていたことに悔しげな顔をする轟。それでもどうして自分が負けたのか。学ぶ意欲があるのはその瞳が物語っている。

 

「俺の背後で尻尾に乗っていたんだ」

「なに?」

 

 自慢げに目の前に出される尾白の尻尾。彼の個性であるその強靭な尻尾がまさかそのような使われ方をしていたとは思うまい。

  

「オブジェクトのほうに視線がいったところで葉隠に合図を出して轟を襲わせて、希望ヶ峰に貸してもらったスタンガンで動きを封じたってわけだ」

「一発チャンスだから緊張したよー!!」

「まあ保険としてこれも渡されてたけど」

 

 そういって懐から取り出したのはコンクリート片。手頃なサイズにされたそれは投擲するためのものだろう。一度躱されてもそれで邪魔をして、もう一度葉隠に攻撃の機会を与えることも考えていたわけだ。

 

「上手く一度で倒せてよかったよ」

「・・・俺に関しては分かった。でも障子たちを希望ヶ峰だけに任せることについてはどうなんだ。危ないとは思わなかったのか?」

「それについては彼女に聞こう。やれるとは聞かされていたけど、どうやるかまではそこまで知らないんだ」

 

 ある程度納得したのか、今度はわたしのほうに話題が移る。わたしは体の機構を展開し、それを取り出す。

 

「これを使ったの」

「それは一体・・・」

「・・・・・・閃光弾、だな?」

 

 実際に食らった障子君から正解があがる。そう、二人を無力化したのはこの閃光弾だ。

 

「警戒はしていたがまるで気が付かなかった。一階の探索を終えて次の階層に行こうとしていた所でいきなり視界が白く染まった。なぜあんなにもタイミングが良かったんだ?」

 

 電飾野郎も何か言いたそうな雰囲気をしているが口を挟む気は無いようで、こちらを睨むだけだ。こいつに手の内を明かしたくないがしょうがないだろう。

 

「わたしには熱源センサーが備わっている。下の階層から来る二人の体温は、冷やされたあの環境の中でとても目立って分かりやすかった。階段から上がってくる二人のタイミングに合わせてこれを使ったの」

 

 瞳を指差して示す。センサーに変化している時には元の黒から赤い配色になるのだ。

 そしてこの閃光弾は父が作った特別製。破裂音は最小限に抑えられ離れた相手に気付かれない作りになっている。隠密性が求められる作戦なんかで使うことを想定したものだ。

 

「二人が目を眩ましている間に、透ちゃんが使っているスタンガンで簡単に無力化できた」

 

 

 

『何から何まで計算ずくだった』

 

 

 

 そう説明を終えると、周りからまたもや歓声があがる。

 こうしてわたしたちは、ほとんど戦闘をすることなく相手に勝利することができたわけだ。

 

「・・・・・・素晴らしい。その作戦をあの短時間でよく思い付いたものだ。相手の講じる手段を逆手に取る戦術、情報を偽装し油断を誘う手腕は非常に巧みであった。まさしく作戦勝ちと言えるだろう! 改めて、君たちの勝利を称えよう。今回は負けてしまったヒーローチームも、見ていた諸君も、この経験を糧にさらに自身を磨き、仲間との連携についてもっと学ぶといい! これはそのための模擬戦なのだから!」

 

 さあ、次の対戦カードを発表しよう!

 

 そんなふうに締め括った彼の言葉により、わたしたちはようやく注目から逸れることができた。

 悔しげな眼差しをする対戦相手の三人と、次の対戦メンバーの発表にざわめくクラスメイトたちを見ながら、わたしはそっと肩の力を抜いたのだった。 

 




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影差す処 蠢くものあり

どうもアゲインと申します

父、久々の登場 ニューフェイスあらわる
そんな二十一話でございます


 けして明るいとは言えないそこは廃墟のような建物が建ち並ぶ寂れた場所にあり、背景に潜むような印象を受ける。

 一見、人などいないようなこの場所に似合わないような集いの場所、酒場のような造りのここで私は少々酒を嗜んでいた。

 

「・・・ふぅ」

「どうかされたのですか?」

「いや、ね」

 

 忘れられてないかな~、なんてことは言えないので曖昧に答える。

 やあ、久しぶりだね。希望ヶ峰 絶だよ。

 こうして画面の前の皆さんに挨拶するのもいつぶりだろうか、こことは時間の流れが違うかもしれないので二週間とか経っていそうだね。その間私は教育というものの難しさというものを嫌というほど体験していたよ。

 

「マスター、おかわりを頂こう」

「何になさいますか?」

「カミュ、ロックで」

 

 いくら優秀な教師陣がいるとはいえ、彼らも元から教師であったわけではない。天才と言われる彼らはその経験を他者に授けるのにそもそも向いていないところがあるのだ。そういった点をカバーしていたのだがその多いこと多いこと。

 

 あるものは加減を間違えて骨を折り、あるものは実験に参加させ、あるものは動物の相手をさせては危うく食われる寸前といった事態になったりと、それ以外にもまあいろいろあったものだ。

 

 幸いにもそこまで被害は広がらなかったので問題を収めるのに時間が掛からなかったのだが、その頻度が頻度である。

 一日に何回起こせば気が済むのやら。

 

「さて、そろそろ本題に入るとしようか」

「でしたらあの方をお止めになっていただけませんか?」

 

 私をここに連れてきてくれた黒霧というバーテンダー風な彼の指す方向は床であり、そこには二人の人間が重なりあうようにして存在していた。

 さながらセッ、いややめておこう。余計なことを言ってまた疲れる事態になっては面倒だ。

 

 二人の内、下になっているほうは手足を床に拘束されて行動を制限されている。いつだか会ったことのあるあのクレイジーボーイだ。

 用事があってわざわざここに来させてもらったのだが、顔を見せたとたんまたもや襲いかかってきたのだ。当然そんなことをさせるわけなく制圧したのだが、ちょうど同伴させていた子に対応をさせていたのだ。

 

「御鏡君。そろそろいいかね?」

「はいっ! 学園長!」

 

 私の呼び掛けに元気よく反応してくれたのは、短い灰色の髪を跳ねさせた、顔に大きな傷を持つ少女が彼の背から勢いよく飛び退いた。

 

 御鏡(みかがみ) ミラ

 

 私が集めた生徒の一人であり、おおよその教育を終えた一期生と言える人材だ。

 

「悪いね死柄木君」

「・・・・・・ふざけたことしやがってよ」

 

 手元の機械を操作し彼の拘束を解く。立ち上がろうとするその体に力は感じられず緩慢な動きで席に着くと、深いため息のようなものを吐きだした。

 

「しょうがないだろう? 君は話をする態度じゃなかった。当然の対応さ」

「だからってよう・・・・・・」

 

 彼の視線が私の後ろに控えている御鏡君に向く。どうやら先ほどまで彼女にさせていたことがお気に召さないらしい。

 

「ただのマッサージだろう? なあ?」

「はい。しっかりとさせていただきました」

 

 彼女の才能は『整体師』。

 その指先から放たれる指圧は対象のこりを駆逐し、骨格を正し人体を矯正する。的確に体の歪みを見つける眼力を持ち、その才能が敵に発揮されればそこを突かれ悶絶するだろう。

 

「揉み返しに注意してくださいね」

「・・・気に入らねぇ奴だ」

 

 おやおや、気分を損ねてしまったようだ。よかれと思ってしたことがあまり受けなかったのは悲しいことだね。

 まあ、それは置いておいて本題といこう。

 

「それじゃ早速交渉といこうか」

「あのふざけたことか」

 

 私はその言葉に笑みを深める。なんたってこれほど丁度いい舞台はないだろうからね。

 

 

 

「そうだ。君たちの雄英襲撃に私たちも混ぜてほしいのさ」

 




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腹黒い底から

どうもアゲインと申します

父、原作の悪を嗤う
そんな二十二話でございます


 私のその提案に、主催主の死柄木君は顔面につけた手首の装飾の奥から面白くなさそうな視線を向けてくる。いろいろと承服できないところがあるだろうが、まあ話はこれからだ。 

 

「君たちが計画しているパーティーについて小耳に挟んでね。丁度いいしどうせだから参加させてもらおうかとね」

「・・・・・・気に入らねぇ」

「それだけで拒否しないでくれよ。別に邪魔しようってわけじゃないんだからね。人員は出すさ」

 

 またもや懐に手を入れて資料を取り出す。カードのような形状のそれを彼の前に差し出す。

 

「なんだよこれ」

「学生証のコピーだよ。今回参加させようと思っているメンバーの簡単な紹介が載せてある」

「よろしいのですか?」

 

 普通に考えれば問題行為だが、私は学園長だよ? 生徒の全ては私の管理するところであり所有物なので問題はなにもナッシング。そもそも善人の法に縛られない私にそんなことは関係ないのさ。

 

「これは見せ札にすぎないさ。それで、どうだい」

「・・・・・・はっ、話になんねぇよ」

 

 差し出したカードを一瞥することもなく投げ返してくる。散らばるそれを素早く回収し元の場所へと納める。

 

「ふーむ、いい提案だとは思ったのだがね」

「お前なんぞの手なんて借りなくても、俺たちだけで十分だ。オールマイトを殺すのだってな」

 

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・ぶふっ!!」

 

 自信が感じられるその発言に思わず吹き出してしまった。

 なんだって?

 

 『俺たちだけで十分』?

 『オールマイトを殺せる』?

 

 ふふふ、いやー、笑わせないでくれよ。

 口元を押さえてこれ以上笑わないようにしようとするが、ふふ、ふふふ、うぷぷぷぷぷぷぷ!!

 

「だぁあーーーーーはっはっはっはっ!!!!」

 

 だめだ! こんな、こんなおかしなことはない! 

 

 笑いすぎて思わず席から床に身を投げ出してしまった。それでも収まることなく際限なく笑いが込み上げてくる。

 

「き、君たちだけで・・・ぐふっ!・・・オールマイトを殺すだって!! 雄英に乗り込んで!? ここまで荒唐無稽な大言壮語が飛び出すとは、もう無理だ! 可笑しすぎる! 我慢が出来ない! ぐふふっ!ぐふ! うぷぷ!うぷぷぷぷぷぷ! ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 バンバンと何度も床を叩き、吹き上がる床の埃やゴミが衣服を汚そうとも収まらない。腹が捩れるとはこの事だ。苦しい。笑いすぎて苦しい。ここまでのダメージはそうそうないぞ。

 

「学園長。そろそろ」

「ひっ、ひひっ! いやっ、すまなぶふっ! すまないね!」

 

 あー、笑ったなー。ここまで笑ったのは本当に久しぶりだ。

 のたうち回っていた酒場の床から立ち上がり、腹に気合いを入れることでなんとか調子を戻すことができたが、ふふ、少しでも力が緩めばまた笑いだしそうだ。

 もう一度死柄木君に向き合えばその眼光は憎悪にまみれた凄まじいものとなり、今にも動き出しそうな体の震えがその殺意の大きさを表しているようだ。

 

「・・・まずはお前から殺してやる!」

「いかんね。『殺した』なら使っていいぞ」

 

 迸るような殺気そのままに、真っ直ぐこちらの首に目掛けて伸びる手。

 その手に宿る彼の個性から危険感ともいうべき気配が立ち上ぼり、もう触れる寸前といったところで唐突にその勢いが消失し床へと叩きつけられる。

 

「・・・あぐぅ!?」 

 

 衝撃に呻き声をあげ汚い床に伏せることになった死柄木君。さらにその体は主要な関節をほぼ全て外されている。もちろんこれは私の行たものではない。

 

「ご苦労」

「はい!」

 

 目にも止まらぬ早業を繰り出したのは私の背後で付き人よろしく控えていた傷顔の少女。一瞬にして脅威なる存在を無力化してのけた手腕はすでに練達の域に届いている。この娘の存在を無視して私に届くとでも思ったのかね。

 

「大口叩いてこのザマだ。分からんかね? おつむが足りない」

「くそがぁあああ!!」

 

 芋虫のように蠢くその姿、君にとてもよく似合っているよ。

 

 

 

「先人にならい説明しよう。ガキが語る理想とやらがどれほど無意味なものなのかをね」




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絶望を成す者

どうもアゲインと申します

父、絶望として語る
そんな二十三話でございます


「まずは語るべくもなくその杜撰な計画とやらでは成功など望むべくもないことは既に明らかになっていることをわざわざ説明してやろう。

 そもそも敵地に乗り込んでやることがたかだかターゲットの抹殺という点でもはや目も当てられない。それは高度な戦術のもと電撃的に行わなければ加速度的に失敗する可能性が上がるものだ。

 それをちんけな敵の集いで行うだとぅ?

 そいつは相手を侮りすぎじゃあないかい。奥の手とやらにそこまで自信があるのだろうね。バカ丸出しだ。

 

 オールマイトを殺すことがそんなに重要か?

 そんなもの誰にだってできる!!

 そこら辺の人間を拉致って殺してバラした映像を大々的に晒して煽って民衆を騙して追いたて精神的に追い詰めればいいだけの話だ。地に墜ちたそのあとに思う存分なぶればよろしい。

 それとも毒ガスまみれの密室に飛び込まなければ助けられない人間が大勢いればそれだけで十分だ。

 やつ一人を殺したいなら、やつ一人でしか救えない人間を作れば、それだけで十分なんだよ。

 

 それでも順序よく殺したいのであれば今回の作戦は、本当に殺すだとかを考える必要性は全くない。

 与えるのは脅威だけでいい。

 いつ、どこで、だれが、どうのようにあろうとも、

 こうも簡単に、すぐそばで、いとも容易くその命の灯火を消し去るにたる脅威があるぞということを、瞼を閉じずともありありと思い返せるような鮮烈さをもって彼らに刻み込むのだ。

 

 その恐怖を存分に利用しよう。

 戦えない足手まといを量産しよう。

 その血袋で全身を固めて動けなくしてやろう。

 噎せかえるほどの絶望を、溢れ落ちるほどの絶望を、何度も何度も与えてあげよう。

 手を動かせば十人死ぬ、足を動かせば百人死ぬ、喋れば千人、死なねば万人。

 ヒーローたる彼らからヒーロー足らしめるヒーロー以外の民衆全てを奪ってやろう。

 

 そのためにまずやることは、こんなちゃちな活動じゃない。

 君が本当にしなければならないことは、この裏の世界において絶対的な存在になることだ。

 今の君を振り返ってみろ。

 こんな寂れたところで、管を巻きながら殺す殺すと、そんなことはそこら辺のチンピラにでもさしておけばいいのだ。

 

 だがしかし、今回の君の行動事態は悪いわけではない。

 内容が悪いだけで、この行動単体で見れば悪の偉業を成すと言っていいくらいだ。

 雄英という組織が今までにない打撃を受ける。それが凄惨で残酷な結果であればあるほどいい宣伝となるだろう。君はその成果をもってさらに大きな事に望むための戦力を得るだろう。

 

 

 というわけで、今回はヒーロー科の子達をズタボロにしてやろう」

 

 ふう、長々と喋っていささか喉が痛くなってしまったね。私の悪い癖だ。止まらなくなってしまうんだよね、語り出してしまうと。

 

「こちらを」

「ありがたい」

 

 丁度よいタイミングで冷えた水の入ったコップを差し出されたので遠慮なく受けとる。こういう細かいところに気が利くものこの娘を供にしている理由の一つだ。

 

「さて、大方喋りたいことは出し終えたのでそろそろおいとましよう。いや悪かったね時間を使って」

「・・・・・・」

「っ!? でしたら私が」

「必要ないよ」

 

 飲み干したコップを返して御鏡君に合図を送る。こちらの手の動きに反応して彼女は一枚の鏡を取り出す。

 

「もう場所は覚えたのでね。記念に一枚進呈しよう」

「こちらでよろしいですか?」

「うん、構わんさ」

「あの、一体・・・・・・」

 

 小走りで壁に設置したのはなんの変哲もないただの鏡だ。大きさもさほどのものではなく手のひらサイズといったところ。それでなにができるのかと黒霧君は思っているのだろうが、まあ君と同じようなことさ。

 

「それではこれでおさらばだ。決行の日までにこの鏡を壊すことなくこのままにしておくならば、それをもって参入に承諾したとして先のメンバーを送ろう」

 

 『さようなら』

 

 それを合図に鏡が輝きだして彼女の個性が発動したのを確認する。たちまちの内に私と御鏡君を包み込んだそれは一瞬の間をおいてそこから二人の姿をかき消した。

 

「・・・・・・これは」 

 

 光が収まればなにもなかったと錯覚するほどに静寂がその場を支配していた。黒霧もそれでようやく理解できた。

 

「あの少女、転移系の個性を持っていたのか」

 

 情報とは違う、という感情と、およそ人の思考ではないという畏怖のような感情が混じり合い、煙のごとき自分の体が震えるのを感じる黒霧。

 

「・・・なんなんだあの野郎は・・・・・・」

 

 その力量の差に完膚なきまで叩きのめされた死柄木は、今まで感じたことのない屈辱があるというのに、それとはまた違った感情が自分の中で生まれてくるのが理解しがたかった。

 

 

 悪と絶望の邂逅は、こうして一端の終着を迎えるのであった。

 しかしそれは、さらなる絶望の幕開けの一つでしかないことを彼らは知らない。

 相手はまさしく、この超人社会で進化した悪意の塊でしかないと分かるのはまた後の話である。




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正しさで救えなかったから

どうもアゲインと申します

父、新キャラについて説明する
そんな二十四話でございます


 御鏡君の個性によって学園艦へと帰還した私は、一仕事終えた満足感を味わいながら艦内の道を歩いていた。

 

 やあ、画面の前の皆様、場面が変わっても私だ。希望ヶ峰 絶だよ。前回はすまなかったね。なにぶん思った以上に彼がチンピラだったもんだから、おじさん、ついやっちゃった。

 あんな風にイキってる若者ってのはなんでこう、自分の力というものを過大評価するんだろうかね。私の娘を見習って謙虚になったほうがいいぞ。

 

「それにしても御鏡君。今回はとても良い働きだったね。さすがは一期生筆頭だ」

「はい! ありがとうございます! 全ては学園長様のおかげです!!」

「どうだね? 君の働きを労ってスイーツでもご馳走しようじゃないか」

「そ、そんな!? あの程度でそこまでいただくわけにはっ!!」

「はっはっは! なぁに遠慮はいらない。そうだ、ならば私自ら調理をしよう! まさか私の手掛けたものを食べれないとは言わないだろうね?」

「う、う~~・・・! そ、それじゃあいただく以外の選択肢がないですよ~~」

 

 後ろに控えて着いてくる彼女はこちらが語りかけるたびに表情を変え、見ていて飽きることはない。こういうところを見せるようになってから本当に見違えるほど魅力的な少女になったものだ。初めて会ったときにはそれはもう根暗ってな具合でどうしたもんかと思ったが、やはり変われば変わるものだね。

 

 そういえば彼女、御鏡 ミラという少女についてほとんど説明がなかったね。画面の前の皆様にはいきなり新キャラが出てきてなんじゃこいつ、と思っていたことだろう。ここらでちょいと彼女のことを知ってもらおうか。

 

「ちなみになにがいいかね?」

「じゃ、じゃあ・・・・・・モンブランで」

 

 

 

 

 

「ショートケーキ以外あり得ない・・・・・・!!!」

「どうしたの希?」

 

 

 

 

 

 はて、なにか近しい存在がこちらを察したような気配がしたが、いったいなんだったんだろうか? まあいいか。個人的な調理室についたことだし、今は調理をしながらついでに彼女の経緯を脳内で垂れ流しにしていこうじゃないか。あまり好ましくないだろうが、我慢しておじさんの脳内から彼女の姿を想像してくれたまえ。

 

 

 

 まず始めに、私が集めた生徒は『無個性』の人間しかいないわけだったんだが、まあなんというか、私も完璧というわけにはいかないところがあるわけで。

 個性登録票をハッキングして情報収集したわけなんだが、どうやらこの年になっても自分が個性を持っていることに気づかずにいるような子達がいたわけなんだよ。後日教育の過程で判明したんだ。

 

 その一人が、彼女と云うわけだ。

 

 今までも言ってきたが彼女の顔には傷跡が残っており、彼女の証言から産みの母親からの過剰な虐待の結果付けられたものらしい。

 どうやら水商売を生業にしていたらしく、その憂さ晴らしのため、おそらくは父親の方に似ていたその顔には特に激しく憎しみをぶつけていたのだろう。

 我が校への招待も少々変則的で、顧客へのメール対応をさせていたときを見計らって勧誘したのだ。なのせ彼女はそういったものを持たされていないのだからね。直接行くのにもあまり大きな動きをしたくない時期だったので断念せざるを得なかった。

 そんなこんなで入学を果たした彼女だったのだが、まあ常識も知識もないわけで生徒の中でも下の方から数えたほうが早いくらいだったさ。

 

 でも、この学園で発揮されるのは前に進む『希望』ではない。

 他人を自らと同じ底の底へ引きずり込む『絶望』だ。

 

 ちょいと意識を変革してあげれば、彼女はみるみる内にその才能を開花させ、並みいる生徒を押し退けて見事一期生筆頭にまで上り詰めたのだ。

 暗さは鳴りを潜め、毒花の如く艶やかに変化した彼女はその傷を隠すようにしていた髪を切り、見せつけるかのようにし始めた。

 貧弱な肉体は健康的なそれになり、女性的な凹凸が美しい。Dはあるね。

 

 なに?

 『個性』を持った奴は学園の理念に反しているだって?

 知ったことか!!!!

 今さら退けないんだよ!!!

 それに彼女の境遇に同情する者たちが教師のほぼ全員なんだぞ!?

 生徒たちだってそうだし、そもそもこの学園は超人社会で虐げられた者が再起するためのものだぞ!!!

 なんの問題もないわ!!!!!

 

 よし、自己弁護完了。モンブランも完成だ。

 

「よーし、できたぞー」

「わぁあ!! とってもおいしそうですぅうう!!!」

 

 今はこの笑顔になれたことをまずは喜ぼうじゃないか。彼女のこれからの未来が多くの人々の絶望とともにあらんことを私は願うばかりだ。

 幸せそうな顔をしながらハムスターのように頬を膨らませる姿を見ながら、彼女がもたらすであろう未来を思い浮かべると私も自然と笑顔になってしまうね。

 

 

 それはそれは、絶望的な光景になることだろう。

 

 

 さあ、これが食べ終わればメンバーの調整と他にもいろいろとやらねばならないことが立て込んでいるからね。忙しくなるぞ。楽しくなるぞ。

 ああ、娘よ。

 どうか私のこの試練、受け取っておくれ。お前の成長をなによりも誰よりも、私は熱望しているぞ。




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試練来る USJの争乱で少女は愛を知る
わたしとUSJ


どうもアゲインと申します
某所での投稿が一段落したので記念の投稿

娘、襲撃を受ける
そんな二十五話でございます


 電波的なものを受信したような気がした日から少し経ち、ちょっとしたトラブルが学校であったけど、教師たちの迅速な行動と飯田君の機転によって被害はそれほどでもなかった。

 その結果クラスの委員長が彼に決まったのだけど、わたしは人をまとめるのに向いていないので丁度いい人選だと思う。

 

 そして今日は離れたところにある災害再現場にて授業をすることになる。バスに乗って移動しながら友達とお喋りをして交友を深めていた。

 

「なあなあ、希ちゃんてさどうしてあんな強いわけよ?」

「なんつうかさ、頭のいい戦い方って感じだよな」

「あんたらとは違ってね」

「「うっせー!!」」

 

 あの模擬戦以来こうして聞かれることが多くなった。アドバイスを求められて答えたりするが、この二人。切島君と上鳴君はなんというか、よく父が言っていた単細胞というタイプというか、同じ男子でも爆豪君みたいな一見粗暴な見た目に反して頭はいい人がいる一方で見たまんまというか。

 まあ、あまり理解がよろしいほうではないので汗を流しながら瞳からハイライトを無くしたりするにで効果はあまりない。

 

 そんな会話をしては相澤先生の注意を受けたりしながらもバスは進み、目的地に到着した。

 

 そこはさながら遊園地。しかしそれは見せかけ。

 実態は数々のシチュエーションに対応した、巨大研修場。災害再現に特化したここは雄英が保有する設備の中でもかなり大掛かりなものとなっている。

 周りの設備にみんなの興味が移るなか、わたしたちを出迎えてくれたのは宇宙服を着た独特な教師の姿があった。

 

「始めまして。私がこの施設の案内をする13号と申します。

 よろしくお願いしますね」

 

 そんな挨拶から始まった事前説明は個性の使い方に始まり、その危険性について考えて欲しいということっだった。

 みんな真面目に聞いていたのだけど、一度だけこちらに向いたその視線には僅かにだけど恐れのようなものが宿っていた。たぶん父と関わったことがあるのだろう。わたしには身に覚えがないので何かされたのだろうか。

 

 そんな風に考えていたら、人だかりの奥、拓けた場所に黒い点のようなものが浮かび上がってきた。それは瞬く間に広がり闇色の円形のものになったかと思えば、

 

 

 明らかに、敵、と分かる男が現れた。

 

 

 その異常な風貌、一目見て理解できる悪性の淀み。

 みんなはまだ分かっていない。まずい、あれだけで済むわけないのに対処に動ける人が少なすぎる!

 

「一塊になって動くな!!」

 

 相澤先生の鋭い一声が飛ぶ。それでもまだまだ素人なみんなでは反応しきれない。弛緩した空気が危機をきちんと認識できなくさせている。雄英は安全だという、攻められる心配はないという無意識の油断をそれはもう上手く突かれている。

 

「何すか、これ? 訓練?」

 

 もうすでに何十人という規模の様々な敵が姿を現しているというのに何を呑気な。見てわからないのか。そんなことあるわけないだろう!

 

「違う! 奴らは敵(ヴィラン)だ! 13号は生徒を守れ!」 

 

 ゴーグルを素早く下ろし戦闘態勢に移る相澤先生。

 

「オールマイトはどこだ? いないと殺せないじゃないか。平和の象徴・・・・・・」

 

 視線を巡らせてこちらを探る敵の首魁と思われる男。呟きを拾えばこの襲撃の目的が漏れ聞こえる。

 だけど、

 

 

「させない」

 

 

 制止の声を掛けられるより速く、その男に襲いかかる。指示系統をこの男が握っているのなら、ここで終わらせて脅威を取り除く!

 

「(もうすぐ拳がとどっ!?)」

 

 速度を優先し武装の展開をせずにいたけど、それが功をそうした。それは正確にわたしの両眼に放たれ、抉られようかというところで拳で打ち落とす。

 

「無駄っ!」

 

 しかし、そのために突撃は停止させられ後退を余儀なくされた。こちらの意識、さらにはセンサーですら反応できないほどに巧妙な投擲。そしてこれは、

 

「釘?」

「ご名答」

 

 地面に突き刺さるそれは十センチ程度の長さの鉄製の釘。そしてこちらへ言葉を掛けてくるのは先程まで集団の中にはいなかった男。

 明らかに敵の集団とは浮いた格好の、まるで昔ながらの大工のような厳つい男は視界にこちらを納めたまま、警戒を解くことなく先頭へとゆっくりとした足取りで出てくる。

 

「お気をつけを。御息女は甘く見ていい相手では」

「うるせぇ!! ・・・それについちゃまだ納得してねぇんだよ」

「で、あるならば。先の役割は己らにお任せを」

 

 助けた相手に罵声を浴びせる首謀者。それに全く動じずに応える大工風の男。

 

 

 

「お初にお目にかかる。己は才改学園一期生次席、宮造(みやつくり) 斉蔵(さいぞう)

 

 『御父上の命により、御相手致す』

 

 その言葉に、わたしはこの襲撃に紛れる別の悪意の存在に、ようやく気付くことができた。

 男、宮造は、父からの刺客であり、わたしを測りに来た存在だということに。




読了ありがとうございました
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明日も投稿します


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わたしとUSJ その2

俺は隔日更新をやめるぞジョジョーーー!!!
俺は毎日投稿者になる!! お前らの血(PV)でなーーー!!!

ということで、ちょっと悔しいことがあったので頑張ります
どうもアゲインと申します

娘、クラスメイトと脅威に対峙する
そんな二十六話でございます



「希望ヶ峰! さっさと戻れ!!」

 

 相澤先生の叫ぶような、叱責するようなそれに反応しさらに後退してみんなのところに戻る。

 いきなり飛び出していったわたしに周囲から声が上がるが、今はそれに応えることはできない。

 

「バカなことをするな!!」

「先生」

 

 こちらに掛かる彼にも、わたしは応えられない。

 

 今は

 

「あいつの相手を、させて欲しい」

「何を言ってる!」

「父の手の者だ」

「っ!?」

 

 こうもあからさまに、よくもまあやってくれたものだ。さすがは父、性格が悪い。

 

「先生、通信は生きてる?」

「なに? っ13号、繋がるか!」

「・・・だめです! 反応ありません!!」

 

 やっぱりそうか。

 ここまでの戦力を集めてくる相手がそのことに対処しない訳がないか。誰かを行かせなければ救援は望めない。その隙を作れるかどうか。

 

「では、予定通りに」

「・・・ちっ。黒霧!!」

 

 こちらがどう対応するか決めあぐねているうちに、敵は更なる一手を打ち出してくる。

 途端にわたしたちの周囲に広がる黒い霧状の闇。先程ここから出てきたことを考えればこの霧は転移系の個性。狙いはこちらの分散だろう。

 

 突然の事態にまだ立て直せていないなかでも、それの反応して動く者がいた。

 クラスの特攻野郎、切島君と爆豪君だ。

 しかし相手は非物理系に分類されるために彼らの行動は空振りに終わってしまう。

 

『フフフ……やはり若くても金の卵。ならば---』

 

 黒霧と呼ばれたそいつは霧を狭めて襲ってくる。

 

『散らせて、なぶり殺す』

 

 そして相手の思惑通り、わたしたちは散り散りにされてしまった。

 

 

 

 

 転移に巻き込まれなかった相澤と周囲の生徒たちは、その中で一番速度に勝っていた飯田に連絡役を頼み、敵の対処をしつつ時間を稼ぐことにして戦闘を始めていた。

 

 相澤の脳内ではこの大群に対して自分がどこまでできるか、次々と襲いかかってくる敵たちを蹴散らしながらもじり貧であることに変わらないことを悟っていた。 

 裏で糸を引く『モノクローム』の存在も、焦りに拍車を掛けている。

 

 直接相対したことはなくとも、その犯罪歴は知っている。その男からの刺客がわざわざこの場に来ているということを、彼は重く受け止めていた。

 どのような手段を用いるか定かではなくとも、その悪性によって目的を達成する奴のやり方がここでも行われるのであれば、こちらの動きはある程度読まれていると思っていい、と。

 

 そう思考する相澤の考えは大当たりであり、希望ヶ峰 絶が用意した脅威は的確に、彼らを苦しめるものであった。

 

 

 

 

「だれだ君は!!」

 

 雄英本校へとひた走る飯田の足を止めたのは、例の霧から現れた一人の男。

 この緊急時においてあまりに場違いな格好のその男は、にやにやとした表情でこちらを見ている。

 

「目的から言ったほうがいいかい?」

 

 手に持つは一個のボール。それを器用に指先で回しながら堂々とした態度で口を開く。

 

「あんたを邪魔しにきた」

 

「ふざけるな!!」

 

 時間が惜しい現状、まともに相手をしていられないと強引な突破を試みる飯田だったが、一度止まった状態からでは満足な加速はできず簡単に道を塞がれてしまう。

 

「やるよ」

 

 そして目の前に飛び出てくるボールを咄嗟に咄嗟に弾こうとしたが、足元を払われて態勢を崩してしまう。

 

「くそっ!」

 

「せっかちだねおたくは。紹介はまだ終わってないんだぜ」

 

 素早く立ち直る自分に向けて、余裕綽々といった表情で佇む追手の男。

 そして相澤たちがいる場所でも---

 

 

◆ 

  

 

「---ぐぁっ!!」

 

 その叫びをあげたのは先程まで果敢に黒霧へと攻撃を仕掛けていた爆豪。腕を押さえて顔から油汗を流している。

 睨む先には自分をそうした相手がおり、不快げな雰囲気を隠そうともしていない。

 

「はぁ~~あ。こんなオモチャじゃ楽しめないじゃない。退屈だわ」

 

 爆豪は自分を襲ったものの正体を、その女の手の中に見る。

 それはこの超人社会ではとんと見ることがなくなったそれ。

 

「ゴム弾じゃやっぱだめよね~」

 

 かつて、社会の守護を担っていた存在。そう---銃器である。

 黒光りするフォルムのそれを弄びながら、的確な射撃を披露する。手や足だけに留まらず指先など、ふざけた態度でありながらもこちらの動きを察知してはその支点を崩される。

 

「だれだてめぇは!!」

 

「見た通りあんたたちの敵よお馬鹿さん。はいそこ余計なことしない」

 

 爆豪に気をとられたと見て障子が動くが、それすら適当にあしらわれる。

 

「まあでも一応やっとけって言われたし、自己紹介しましょうか」

 

 

 

 

 

「才改学園一期生四席、斑目(まだらめ) 球道(きゅうどう)

「才改学園一期生三席、紅厳院(くげんいん) 朱美(しゅみ)

 

 

 原作ではなかった脅威によって、更なる苦境に立たされる雄英陣営。だが忘れてはいけない。

 戦いはまだ始まったばかりであるということ。

 この程度が絶望である筈がないことを、なによりも理解しているその尖兵が、いつまでも手加減をしているわけがないことを。

 




読了ありがとうございました
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また、評価をつけてくださるのはとても嬉しいのですが、無言で低評価は勘弁していただければこちらとしてはモチベーションを保てるのでどうかよろしくお願いします

文章力が低いことは承知の上とはいえ、さすがにちょっとな~と思ったりしております
さしでがましいようですが、どうか周知のほどおば


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観戦者たちの会談

どうもアゲインと申します

父、先方と話す
そんな二十七話でございます

祝、20000ua突破
今後ともよろしくお願いします


「ふむ。やはりドラマな展開にはポップコーンだね」

 

 やあ、画面の前の皆様。早い再開を祝うべきかな。

 どうも、希望ヶ峰 絶です。

 私は今椅子に座りながら画面を見ながらブログの更新をしながらポップコーンを食べているよ。ちなみに味は当校オリジナルのピザソースだよ。これがなかなかイけるんだ。

 

 雄英に送り込んだ三人の戦う様子がディスプレイの上で踊っている。いい感じでやってくれているようでなによりだ。

 この映像を撮しているのは超小型なあいつを目指し、ついに完成した六番目の存在。

 

 

 そう、『モノチッチ』である。

 

 

 原作プレイ時からこいつズルいわー、と思っていたんだが実際手に入れてみると無茶苦茶便利なんだわ。

 一応通信を辿られる可能性はあるけれど、まず視認できないこいつの存在に気づくかどうかといったところがある。この超人社会ではどんな個性があるか把握しきれないところがあるからね。

 まあ今回は試運転みたいなところがあるし、気楽に行こうじゃないか。

 

 

 そんなことより娘だよ、娘!

 

 

「よいね。実によい」

 

 相手をしている宮造君もよく分かっているじゃないか。一手一手を確認するように、打ち出させてはいなし攻めては防がせ、どのように対処するかをこちらに見せてくれる。私の意図を十分に汲んでくれていて、いやほんと、後で何かしてあげないとね。

 

「ところでどうだい。そっちの生徒は?」

『まずまずといったところかな』

 

 私の呼び掛けに応えたのは別のディスプレイに映る像。動きはなく、瞳すらないその男はその風貌に関わらず軽い調子であった。

 

 

 オール・フォー・ワン

 

 

 AFOとか略されていたりする、私とキャラ被りしている奴だ。

 こいつとは敵になる以前にちょっとした出会いがあって、そこから細々とした関係が続いていたりする。

 

『しかし驚いたよ。君の方からこんなことを提案してくるとはね』

「こういう襲撃は何回も続けてはインパクトがなくなってしまうだろ? 実践研修にも丁度よかったし、まあ乗っからせてもらったわけさ」

 

 そういえばこいつ一人称も『私』なんだよな。そういうところも被ってるもんだから私がキャラパクしてるって某所で言われてるんだぞ? ちょっとは気を使ってほしいもんだ。

 

「あんなのが後継者かい? ちょっともの足りないとは思わないのかい?」

『彼だからこそ、私の意思を継ぐに相応しい人材なのさ』

「わからないなー。そんなに重要かい。オールマイトが」

『因縁とはそういうものさ』

「そのための教育というわけか」

 

 死柄木 弔のプロフィールが脳裏によぎる。たしかに因縁と言えば因縁だが、ヒーローのせいにするよりもっと健全に恨む対象があるだろうに。

 

「ヒーローとて、敵とて人間なのになあ。なにをそんなに理想を追うかね。私はそういうのは卒業したんだが」

『君の考えは独特だからね』

「あれだね。社会が悪いよ。こんな社会にした一般人どもがどれだけ害悪か。そのせいでこんなおじさんに要らん戦力を持たせることになる」

 

 悪の受け皿が敵というグループであるのなら、弱者の受け皿こそが才改学園と言えるだろう。

 力を持たないマイノリティがあまりにも割を食う世界だ。なのに世界は、社会は、民衆は、なんの問題もないみたいにこの地上で生きている。

 世間の注目はいつだってヒーローに関わることだ。派手で、気持ちのいい勧善懲悪を望み、そうでなければ手のひらを翻して罵倒する。

 見向きもされない、社会的な弱者のことなど、どうでもいいのだろう。

 

「なあ、キャラパクリ」

『それは君のことだろう』

「お前の意思じゃ、無理だぜ」

 

 ディスプレイの向こうにいるこいつの目指す、打倒ヒーローの考え方では、けして勝てはしないだろう。ヒーローに勝てても、民衆には勝てない。あいつらがいる限り、ヒーローって奴は立ち上がる。

 それを見た者たちの中から、その背中に続いていく人間が現れる。

 

「私は倒さない。私は消す。その存在の意味と理由を」

 

 ヒーローの存在が社会を守るのなら、その社会を作るものたちが持つ罪を、公にしてやろう。

 守る価値が、本当に存在しているのか。

 守られる権利が、本当にあるのか。

 

 

 それを私が、世界に問いかけようじゃないか。

 

 

 これはそのために必要な、第一歩だ。

 無造作に、無遠慮に、慈悲なく情けなしで、存分にやってやろう。 

 さあ、娘よ。

 ああ、愛しい娘よ。

 私が与えるこの試練こそが愛情なのだと、言葉なくとも伝わるだろう。

 まずは身近な者たちを守ってみせてくれ。その結果が彼らの未来を決めることになるのだから。

 そういった存在になることを望んだお前には、その責任があるんだからね。




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USJの三人衆 バスケの斑目

どうもアゲインと申します

一人目はこの男、斑目の戦い
そんな二十八話でございます


 才改学園よりの尖兵たちは各々の役割を果たすべく、その才能と能力をのびのびと行使していた。

 

 連絡役の足止めをしている斑目も、今まで感じたことがないような高揚感を隠すことなく、溌剌とした動きをみせていた。

 

「はっはーー! どうしたどうした!! 鈍いじゃねーの!!!」

「くそっ!」

 

 上下左右から自身を抜き去ろうとする飯田の動きを阻害する。速度の変動のタイミングを見抜いて転倒させては振り出しに戻るといったことを繰り返している。

 

「この『超高校級のスウィングマン』を相手にすんなら! もっと激しく来いよ!!」

「ぐぅっ!」

 

 打ち倒そうとする蹴撃を軽やかに避けてはバランスを崩していく。攻防のやりとりをするなかで、相手のフィジカル、テクニックといった能力値を浮き彫りにしていく斑目。すでに十分もの時間が経とうとしているが、こちらの動きを上回る様子は見受けられない。どうやら経験不足のようであることが斑目にはありありと感じられた。

 

「あらっ・・・よ!!」

「うおぉ!?」

 

 ステップを交えた動きでラリアットをするように相手を大きく吹き飛ばした斑目であったが、自分を脅かすほどではないと、どうせだからと構えを解いて質問をすることにした。

 

 

「よう兄ちゃん。どうだい諦めねぇか?」

「何を言っている!?」

「だってよぉ。お前さん、いい加減俺を越えなきゃ増援を呼んでも時間切れになっちまうじゃねぇか。わからねぇことじゃないと思ってんだけど?」

「そんなことにはさせない!! 俺は自分の役割を果たす! みんなのためにもだ!」

「正義感・・・てやつかい。くだんねぇなあ」

 

 斑目は頭をふりかぶり、呆れた様子を見せつける。それを見せられている飯田はそれはもう怒り心頭といった具合だ。それでもやるべきことを忘れるべきではないと必死になって考える。現状を打開するための手段はないか、仮面に隠した目線を巡らして

 

「おい」

「っ!?」

 

 耳に届いた斑目の声、いつの間に自分の目の前にと思考すれど間に合わず、いかな技術かいとも簡単に地面へとうつ伏せに叩き潰されてしまう。

 

「ぐはっ!?」

 

 衝撃が胸を打ち思わず呻き声があがってしまう飯田。その痛みに気をとられていると背中にのし掛かってくるような重量を感じ、身動きできなくされている。

 

「よっこいしょい」

「ど、どけろ!」

「やなこったい」

 

 どかせようとする飯田の動きを押さえ込むようにガッチリと拘束を固める斑目。

 

「まあ聞けって。ある意味あんたは運がいいんだぜ。俺はおしゃべりなんでな、きちんと聞いときゃ俺らの情報が労せず手に入るんだぜ」

「お、お前は!」

「おっと、別に裏切りでも何でもねぇ。俺は心の底から学園長を尊敬してる。これは情けだよ。だらしねぇお前さんにお情けできかせてやんのさ」

「くそっ!」

 

 悪態をつく飯田のことを無視するように、斑目は口を開いて揚々と喋り出す。

 

「まず俺らが所属してんのは無個性の集団なのよ。いくらか例外はあるが全体のほとんどを俺みたいなやつが占めてる」

「む、無個性!?」

「驚いたか、驚いたろ! はっ! いいぜお前の態度。エリートのそんな反応がこうも簡単に見れるなんて、さすがは学園長だ!」

 

 飯田は自分を封じ込んでいるこの男が無個性であることに何より驚いていた。自身の個性である『エンジン』に、素の身体能力で付いてくるばかりか上回っているのだ。その驚愕はかなりのものである。

 その様子がおもしろいのか、さらにテンションを上げていく斑目。

 

「今まで社会の底辺で踏みつけられていた俺たちに、あの人だけが手を差し伸べてくれた。

 あの人だけだ!

 俺たちに生き方を、戦い方を、抗い方を教えてくれたのは!!」

「・・・・・・」

 

 圧倒される。

 なによりもその声に宿るその想いにだ。

 飯田はしばし目的を忘れ、その声に耳を傾けてしまう。自分でも分からないが、ここで振り払うことが正解とは思えなかったのだ。

 

「泥にまみれた生活を! 親に見放される人生を! 必死に自分に言い聞かせて耐えてきた!! でもあの人だけは、胸の内に溢れるこの黒い感情を肯定してくれた!!」

 

 叫ぶように、何度となく周りに響く。

 それを向けられているのは自分だというのに、飯田はまるで自分ではない誰かに訴えているような、そんな思いが浮かんでくる。

 

 本当にこの男は敵なのか。

 

 そんな考えに囚われてしまった飯田は、救援を求めることにさらに時間を掛けてしまうことになる。

 その分だけ味方を苦しめてしまうのに、彼はそれでも動けないでいた。




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USJの三人衆 銃姫の紅厳院

どうもアゲインと申します

二人目は紅一点、紅厳院です
そんな二十九話でございます


 一方こちらは黒霧と共に、無力化された13号を守りながら反撃を繰り出そうとしている生徒たちを撃ち据える少女の姿が。

 

「ほんとゲキ萎え~。草も生えない」

 

 まるっきりやる気のないその態度を改めることはなく、淡々とその手に握る銃器を操り牽制を繰り返す。

 その卓越した技巧により、たとえゴム弾だとしても凄まじい脅威となって雄英の生徒たちを襲い、少女をどうにかしようと迫る者もあえなく返り討ちとなっている。

 

「黒ちゃんあのさあ、ぶっちゃけ飽きてきてんだけど?」

「・・・ならば控えていればよろしいのでは」

「でもさ~、人撃つ機会ってなかなかないじゃん? ここでぶっ殺しなら実弾撃てんのにさ。学園長も意地悪だよね~」

 

 全体的に軍服のようなものが改造された出で立ちの少女、紅厳院 朱美はそのふわふわとした自身の金髪の毛先をいじっては暇潰し程度の会話を続ける。

 この少女と組まされた黒霧は、その恐ろしいまでの射撃のセンスに目を見張っていた。

 

「(『超高校級のガンナー』などと、冗談のような紹介をされたときには実力の程を疑いましたが・・・・・・まさかここまでとは)」

 

 朱美が操る銃、うろ覚えな知識からその種類を探り出してみればかつてメジャーなものであった『S&W』、スミス&ウェッソンと呼ばれるものであることがわかった。

 

「しかし、古風なものをお使いで」

「自動拳銃じゃジャムったときが面倒でしょ。それにこれ、形は古めかしいけど最新の特殊合金製で強度、軽さがダンチなんだからね」

 

 そのように話しながらでも射撃は止まらず、流れるようなリロードに隙は見当たらない。

 

「M19コンバットマグナム。総弾数6発で今回は357マグナム弾を模した特注のゴム弾を使用。全長205mmの2.5インチモデル。重さはなんと635gまで削ったんだから」

 

 流れるように説明される銃器の詳細に、ここまでのものを聞かされるとは思っていなかった黒霧はどう応えたものかと思案してしまう。

 その僅かな隙を突かれたのか、先程から爆発を起こす個性をもった生徒が攻撃の合間を縫って朱美に迫る。

 

「死ねやボケェ!!」

 

 押し寄せる爆発の熱波。数瞬とかからず自らを襲うであろうその脅威に対し、しかし焦ることなく対応する銃姫。

 上からくる攻撃に両手の銃を低く構えたかと思えば、鳴り響く轟音。それは間髪入れずに放たれた弾丸の奏でるもの。爆発を切り裂きさらには爆豪の体に狂いなく突き刺さる。

 

「おごはっ!?」

 

 自身の放った攻撃を、まさか突き進んでくるとは思わず無防備に受けてしまったせいでかなりのダメージが体を硬直させる。降り立つも力が入らずに膝が曲がり出すが、目の前の相手はそれを待つような相手ではではなかった。

 

 

「このダボがぁーーー!!」

 

 

 崩れる爆豪の顔面めがけて繰り出される容赦ない蹴り。軍靴を履いたその一撃は容易く彼を吹き飛ばした。

 あわてた味方のフォローによりなんとか回収されたが、多くの視線はそれを行った彼女に集まっている。

 

「ふざけんじゃねぇぞクソガキが! 私の髪に焦げ目をつけやがって!! まじ許せねぇーーー!!!」

 

 今までの気のない態度が鳴りを潜め、その美しい顔を般若のような厳めしいものへと変貌させている。

 いつの間にしまったのか、右手はフリーになっておりその手には僅かに焼かれた髪が一房握られている。どうやらそれが逆鱗だったらしいと理解した周囲の人間は、その変化にかなりドン引いていた。

 

 

 

「もう手加減は終わりだガキども!! この私の『超高校級のガンナー』としての才能をとくと味会わせて、お前たちを絶望のそこへと叩き込んでやる!!!」

 

 

 

 一度止んだ銃撃の嵐がさらなる暴威を発揮して襲いかかってくる。先程までの攻撃が生易しいと感じるほどのそれによって、雄英の生徒たちは身を守ること以外の行動ができなくさせられてしまった。

 さらには、

 

「私のリロードはエボリューションだ!!」

 

 そう叫ぶ敵の少女は変態的な動きと速度をもってして攻撃が止むことがない。攻め手を欠いた状態でやれることは少なく、銃弾が切れるか、耐えられなくなるかの勝負となった。

 

 

 こうしてここでの戦いは、その有り様をしばし変えたものの、次の局面へと移るのだった。




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USJの三人衆 匠の宮造

どうもアゲインと申します

三人衆最後の一人、宮造と娘の戦い
そんな三十話でございます


 才改学園からの刺客、彼らは今回の襲撃で果たす役割というのがそれぞれ与えられていた。

 

 斑目は増援の妨害。

 紅厳院は黒霧の護衛兼集団戦力の牽制。

 そして三人衆のリーダー、宮造はその能力故にある意味一番大切な役割を負っていた。

 

 

 

 

 

「ふむ」

 

 宮造は果断なく迫る鋭利な刃を見た。十分に命を奪うに足りるその武器を操り、鋭い目線を向けてくる標的のその動きを最小限の動作をもって回避する。

 追尾してくる攻撃を、自身の手に持つ仕事道具にて弾いて距離を離す。

 

「・・・・・・のこぎり?」

「左様。己の仕事道具故、御相手するに不足はないかと」

 

 相手、希望ヶ峰 希が持つ二刀と同じように構えたのは主に木材を切り出すのに使われるおよそ戦闘には向かない道具である。しかしそれを扱うのが自分ならば話は違うと、そういう意味を持たせた動作を見せれば、その氷のような表情を僅かに歪ませ体の各所に力を込めていくのが伺える。

 

「先の紹介では足りぬ部分がありましたな。一応、『超高校級の番匠』などという肩書きを持っております」

 

 番匠、というのは大工の別な呼び方ということでさほど違いがあるわけではないが、何故かそのように命名されている。

 そういった裏事情があれど今は関係がない、必要なのはこの場にて自身の役割を果たすことであると、宮造は改めて目の前の少女に意識を集中させた。

 

 戦闘を開始してからいくらか時間が経ち自身の動きに対応しだした彼女によって、釘投げだけでは迎撃できなくなりついにはこの鋸を出すに至った、となれば最初の関門は突破されたと見ていいだろう。 

 そう判断した宮造は、今度は自分から攻めることして前に踏み出す。大きく広げた両手にて、迎え撃つぞと言外に告げてやれば早速とばかりに襲いかかってくる。

 

「--っふ!」

「甘い」

 

 相手の武器は両刃のブレード。当然宮造が使う鋸よりも厚く鋭い。当然まともに打ち合えば負けるのは必定。しかし逆に言えば多少の柔軟性は持っているということであり通常とは違った動きができる。

 たわませた二対の鋸は迫りくる二刃の内側の腹の部分、さらにその先端を叩くようにして打ち据える。

 それによってずれる剣筋。

 サイボーグとして尋常でない力を発揮するとはいえ、けして技術が通じない訳ではない。機械化されていようとも衝撃を受ければ僅かに止まる。

 その隙が数瞬とはいえ宮造が見逃すわけはなく、

 

 

「御免」

「くっ!?」

 

 

 斬りつけたのは差し出された形となった手首。体を引き距離を離そうとする自分の動きを利用し、その関節に傷をつける。生憎引ききる前に刃の部分から腕をどけられたのでさほど深くはついてはいない。

 しかし、

 

「初めてではないでしょうに、そこまで驚かれますか」

 

 宮造がつけた傷は本人が想定していたよりも浅いものだ。手首を見る彼女の反応はその小ささに比べて酷いものだ。

 

 

 

 

 

「あ・・・あぁ・・・・・・!!」

 

 希の脳内は様々な感情で乱れていた。

 父の刺客、その力量を軽く見た訳ではない。父に挑むつもりで戦闘を仕掛けた。

 にも関わらず、一撃を食らわせるどころか逆にこうして傷をつけられている。

 その事実からもたらされるのは一つ。

 

 

 父は今まで、手加減をしていたということだ。

 

 

 自分が身に付けてきた戦うための力は、全て父から教えられたものだ。そこには様々な方法がある。だが、それが全てでないこと、教えられていなかったことも当然あるといっていた。

 その技術、それをこの男は扱っている。

 

「・・・・・・そういう、ことなの・・・・・・!!」

「何、!?」

 

 宮造がその変化に気づいた時には遅かった。

 瞬間、捉えていたその姿が居なくなる。

 

「(消え、)」

 

 突如湧く、後ろへの気配。

 

「--っせや!!」

 

 その気配に向けて鋸を振るえば、伝わるのは破壊された自分の道具の感触。それも両断されたとしか思えないほどの微細な抵抗。素早く放棄して向き直る。

 

 振り切った体勢のまま、こちらを見据えるその視線。その温度の違いで自身の体に突き刺さるような感覚を覚える宮造。

 

「その笑み、まるでマグマのようだ」

 

 変わらないと思っていた表情は崩れ、何故か笑みを浮かべる少女の姿が恐ろしく映る。

 瞳は変色し紅く染まっている。それもあってかますます抱いていた印象が崩れていく。

 

「---理解、できた」

 

 そして口を開いて出た言葉がこれだ。どうにも自分は勘違いをしたいたようだと、宮造は自身を諌める。

 あの停止は、けしてマイナスの感情で起こった訳ではない。寧ろ逆。少女はあのとき、喜びを感じていたのだと。

 

「父はあなたに告げたのは、わたしの相手をするということ。それはこのためだった、わたしに理解させるためだった!!

 

 

 今理解できた! 心でなく魂で!!

 

 

 成長せよと、あの人は語りかけてくれている。

 わたしに足りないものを、教えきれなかったものを、この男に託したのだと、そうあの人は言っているんだ!!」

 

 

 その光景を見ている宮造は、彼女と同じく理解した。

 真の脅威はここにあると。

 華開くように変貌を遂げるその精神の在り方こそが。

 

「・・・・・・」 

 

 自らの役目、それを見抜くか否か、結果は出た。

 所詮自分の価値などその程度。数あるあの方の才能には届かぬ、その程度の人間。

 しかし、なれど、いやだからこそ。

 

「・・・よろしいか?」

「うん」

 

 その役目、最後まで果たしてこそ本懐。価値を示さずして消えるつもりは毛頭なく、この少女との勝負に挑む自身を誇る。

 

「改めて、その身に刻んでいただこう。

 

 己は宮造 斉像!

 

 生まれ出でし時より地を這いて進む無個性である!

 しかし己は自らに変革を望みて悪を往く者なり!

 己が往く先に希望なく、ひたすらなる絶望の徒なり!

 

 さすれば己が前にて汝何を成す者であるか!」

 

「わたしは希望ヶ峰 希。

 

 悪の父に育てられた正義を志す者。

 父の邪意を砕きその先の未来を望む、その先の平穏を望む者。

 希望の世界を望む者!

 

 わたしはわたしの正義のために、ここであなたを倒す!!」

 

 両者共に挑む者。

 希望と絶望の前哨戦は、こうして佳境へと突入していく。




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反撃の狼煙 新たなる脅威

どうもアゲインと申します

変化する戦場、それぞれの動き
そんな三十一話でございます

また、活動報告のほうでご挨拶がありますのでよろしければご覧ください


 三人衆それぞれが自身の役割を果たしているなかで、一番最初に変化があったのは斑目のところであった。

 

「こなくそーーーー!!!」

「うおっ!?」

 

 うつ伏せで拘束されていた飯田は自身の個性である『エンジン』の特徴である足から延びる排気管から気体を噴出。それにより全く警戒していない刺激を食らった斑目は拘束を緩ませてしまい、その隙に飯田は拘束から逃れる。

 

「---君の境遇に対して同情する点はある! しかし今俺がするべきことは仲間を助けることだ!」

 

 それだけ言い残し、飯田は加速を重ね瞬く間に姿を縮ませていく。斑目が確認したときにはすでに遥か先、追い付くことはできない距離が開いていた。

 

「あーークソ! やられちまった!!」

 

 悔しそうな表情で地面に寝そべる斑目。汚れることを気にすることなく体を左右に振るい、その感情を発散させようとしている。

 

「まあでも二十分以上は確実に稼げたんだ。2クォーターは仕事ができたと考えりゃ、一人の戦果としちゃまずまずだろ」

 

 切り替えが早いのかすっぱりと次の行動に移る。彼は転がっていたボールを回収して首に掛けていたドックタグのようなものに向けて話しかける。

 

「やっほー御鏡ちゃん、聞こえてるー?」

『はい、聞こえてますよ』

 

 そこから響いてくるのは同胞、御鏡 ミラの声。帰還の手段として彼女の個性を使用するためにこうした形で鏡を所持していたのである。

 

「そんじゃ頼むぜ」

『分かりました。すぐにお連れしますね』

 

 そして光が鏡より溢れて斑目の体を包み、収まったときにはドックタグを残して彼の姿は消えていた。

 彼女の個性、『鏡面世界』は出入り口とした鏡は持ち込めない性質を持っているためこうして残ってしまうのだが、それについては対策として鏡に消滅機能が備わっている。才改学園に抜かりはないのだ。

 

 こうして斑目は一足先に役目を終え、帰還を果たすのだった。

 

 

 

 

「---くらああああえええ!」

 

 二丁の銃声を上回るかのような絶叫が辺り一帯に響いている。もちろん正気ではい。彼女、紅厳院は今だかつてない屈辱によって怒り狂っていた。

 

「私は私を傷つける奴を許さない! 許さない!!」

 

 無論それだけでここまでにはならない。彼女が怒っているのはそれが髪だったからだ。

 才能を見いだされる前の彼女にとって、唯一誇れるものはその美しい髪だけだった。絶望のなかにあってそれだけを支えに生きてきたのだ。

 壮絶ないじめにあっても精神を歪ませるだけで済んだのはそれがあったからっだった。

 だからこそ、それを焼いたあのガキとその仲間は許せない。絶対に許せないのだ。 

 

「脳みそ地面にブチまけやがれクソガキどもがーーー!!!」

 

 (その距離じゃでき)ないです。

 マグナムとはいえゴム弾。威力があろうともゴム弾ではこの距離は厳しい。激しい痛みを与えはすれど前衛を固めている面々を突破するほどではないのだ。

 そしてそんな状態で打ちまくれば必然的に。

 

「・・・・・・あ、マズ」

 

 ガチ、という音が両方の銃から聞こえた。体感からして体に仕込んだ銃弾が尽きたことを悟る紅厳院。彼女の判断は早かった。

 

「帰るわ」

「え、はっ?」

 

 一瞬にして冷静になった彼女はすぐさま黒霧に帰還を要請した。いきなりの物言いについていけない黒霧。しかしそんなことはどうでもいいとばかりに紅厳院はせかす。

 

「仕事はここまでってことよ。早くしてくれる?」

「いやいやいや幾らなんでも」

「や・れ」

「はい」

 

 恐ろしいまでの殺気によって黒霧は抵抗の意思をなくした。逆らってはならぬと本能が叫んだのだ。しょうがないことである。

 黒霧は人一人が通れる程度のゲートを作った。

 それに満足げな顔をしながらそれを通ろうとするときに雄英側から声が上がる。

 

「逃げんのかクソ女!!」

 

 銃撃をくらいダウンしていた爆豪が回復し、忌々しい相手が自分の前から去ろうとしているのを見た彼は咄嗟にそう叫んでいた。

 

「ーーーふざけんじゃないわよ」

 

 それに応えたのは底冷えするような殺意の篭った紅厳院の声。雄英側には今背中しか見えていないが浮かべているだろう表情を容易く想像できてしまう。

 

「今の装備じゃ殺せない。そういう指示も出ていない。組織に属する以上勝手はできないの。あのお方が望んでおられないことを私がするわけにはいかないし。これは矜持よ。今はできなくてもいずれ必ず殺すわ」

 

 じゃ、そういうことで。

 

 それだけ言い残し、紅厳院 朱美はその場から姿を消した。脅威としての記憶だけ与えその場を大いに乱したにも関わらず、あまりにも呆気ない退場だった。

 

「・・・どうしろというのだ」

 

 その場に残された黒霧は、なんかもう、疲れていた。ただ、それだけだった。

 

 

 

 

「かぁっ!!!」

「はぁっっ!!!」

 

 お互いに動き回り斬り合いを続けてはその過程で傷を増やし、両者共にボロボロになっていた。

 それでも止まらずに勝負を続ける彼らは、自分たち以外の大きな力の出現に反応し、その方向へと視線を向けた。

 

 そこには異形、という他ない存在が死柄木へと迫っていた相澤を攻撃しているところであった。

 

「・・・あれが脳無か」

 

 それを見た宮造は戦いの手を止める。

 

「あれは・・・」

「敵の首魁が用意した切り札とか。あれによってオールマイトを打倒するのが本来の目的でした」

 

 希の疑問に答える宮造。そこには情報を開示するのになんら躊躇はない。所詮は別の勢力、ばれても困らない情報だ。それより。

 

「お行きなされ」

「・・・いいの?」

「ええ、決着はいずれ。今はあなたの成したいことを」

「ありがとう」

 

 交わした会話は短く、しかしその意思は確かに通っていた。宮造は彼女の助けたいという気持ちを察し、それに希は感謝をして駆け出す。

 一目見てその脅威が分かるあの異形に迷わず立ち向かっていこうとするその姿を後ろから眺めながら、宮造は懐から鏡を取り出す。彼も斑目同様に御鏡の個性にて帰還する。

 

 

 

 こうして才改学園からの刺客はそれぞれの役割を存分に果たし、その脅威を示しながらも襲撃の途中でその姿を消したのだった。




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のぞみんキックは加速力

どうもアゲインと申します

相澤危機一髪、娘の必殺技
そんな三十二話でございます

また、活動報告のほうでご報告と記念企画みたいなものをについて書いております
よろしければご覧ください


「(油断したっ・・・・・・!)」

 

 もうこれ以上の増援はないと決めつけて相手を見誤った。この敵の力量から、勝手にそう思い込んでいた。

 相澤は自身の片腕を捻り上げられ、地面に押さえつけるその黒い異形の圧倒的な力によって身動きを完全に封じられていた。

 

「どうだいヒーロー。すげぇだろ!」

 

 先程までとは立場が逆になったことで自由となった死柄木は、得意気に話を始める。

 

「そいつは脳無と言ってな、対オールマイト用に準備した奴だ。確実にオールマイトを殺すことができる!!」

 

 そう語る彼の目は愉悦に染まり、その声に乗る感情も余裕の現れか昂りを感じるものとなっている。

 それを下から見上げる相澤は拘束による痛みによって起こる呻きを押さえることしかできず、歯を食いしばってそれを耐える。

 

「・・・それにしては関係のない奴等がいたようだが」

「はっ! あんなのに期待なんてしてねぇよ! ムカつく野郎に無理矢理入れさせられただけだ」

 

 最初に希望ヶ峰がその攻撃を防がれてから、二人だけでの攻防を繰り広げていたあの男。相手をしている希望ヶ峰から語られたその男の背後で蠢く存在。

 

 

 希望ヶ峰 絶

 

 

 そいつがただの戦闘員を送り込んできたとは思えない。だが、この主犯の態度を見る限りどうもおかしい。まるでその存在を嫌っているかのようなこの反応。

 

「まあいい。お前もここで死ね」

「くっ・・・!」

 

 思考を妨げるように首を絞める力が強まる。このまま絞め殺すつもりらしい。抵抗しようにもこの剛力では動くことなどできない。意識が遠くなるなかで、それは突然起こった。

 

「------っ!!?」

 

 相澤が霞む意識の中で聞こえたのは誰かが驚愕したような声。そして急に消えた体の重みと拘束の痛み。

 

「・・・ごほっ!?・・・・・・がはっ!?」

 

 締め付けられた反動か、噎せかえる相澤。苦しみから解放されて見上げればそこには背を向けて立つのは、一人の少女。

 

 

 

「---おまたせ」  

 

 

 

 希望ヶ峰 希が、悠然とその場に立ち向かっていた。

 

 

 

 

 父からの刺客、宮造との戦いを中断して急いで駆け寄ったはいいものの、この状況をどうするべきかと思案する。

 先生を拘束しているほうはちょっとやそっとではどうにもならなそう。直接解放させるにはとれる手段が物騒に過ぎる。やれなくはないが先生に被害が出るやり方は却下しなければ。

 

 となれば。

 

「滅殺」

「ぐおあ!!!?」

 

 必殺のぞみんキックは変な装飾を全身につけた敵の集団のボスと言われていた変態野郎に深々と突き刺さった。

 加速機能をフルに活用した一撃。

 のぞみんキックは決着をつけるによし、奇襲によしの必殺技である。食らえばただではすまないけど範囲は足のサイズのまま、余計な被害は出さないこの状況にぴったりの技と言えるだろう。

 

「---脳無!!」

 

 吹き飛ばされた手首マンは負傷した腹部を押さえながら、それでもあの異形に指示を出して迎撃をさせる。

 よし、予定通りだ。

 

 すごい勢いで振り回されるその太い腕から逃れ、先生を背にするように構える。

 

「おまたせ」

「・・・・・・じゃじゃ馬が。おまたせじゃないだろうが」

 

 ふらつきながらもそんな風に毒づいて立ち上がる相澤先生。

 どうやらまだ元気らしい。よかった、一人じゃどうにも決定打がないところだったので助かる。

 

「時間を稼げますか?」

「舐めるな小娘」

 

 疲弊を感じさせない言葉で応える相澤先生はしっかりとした足取りでわたしの横に並ぶ。

 

「そっちの用は済んだのか?」

「うん」

「後できっちり説明してもらうぞ」

「覚悟は出来てる」

 

 そう言い切ったわたしの反応に、先生は呆れたような笑いを一つ漏らしてすぐに戦闘態勢に意識を集中させる。

 わたしもブレードを構え直し、巨躯の異形へと戦意を向ける。

 

「遅れるなよ小娘」

「先生こそ」

「はっ。・・・・・・だったらいくぞ!!」

 

 わたしたちはそれを合図に駆け出した。

 

 

「・・・・・・ふざけやがってっ!! 脳無! 奴等を潰せぇえええ!!」

 

 

 それを見た相手は激昂を露にし、その脅威をわたしたちに差し向ける。

 指示された事柄を忠実に守るロボットのように、脳無と呼ばれた暴力の塊がその力を振るいだす。容易く命を砕くその怪人に向かい、わたしはさらに加速した。




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共闘

どうもアゲインと申します
投稿誤爆しました
一度消させていただいて、改めていつも通りの時間に投稿いたしました
深夜のことなのであまり気にしなくてもよいかと思いますがもし迷惑をかけた方がおられるなら申し訳ありませんでした

改めて
娘、はりきって戦う

そんな三十三話でございます



 立ち上がったとはいえ多くの敵を相手してきた相澤先生の動きは鈍い。個性も多用してきただろうからかなり辛いだろう。それならわたしが前衛を勤めるべきだ。

 

 脳無は先に突っ込んだわたしに狙いを定めて攻撃を仕掛けてくる。

 速い。

 オールマイトを倒すというだけの大口を叩くだけのことはあるということだろうか。

 

「すぅー・・・ふぅー・・・」

 

 それでも慌てることはない。どうやらこの相手、考える力がないように伺える。命令されてから動いていたことからロボットみたいな相手だというのは的を射た表現のようだ。

 バカみたいに単純な攻撃。

 当たれば確かに致命傷だろうが、そうはならない。

 

「---こっちもいるぞ」

 

 殴りかかったのとは反対の腕を縛り付けるのは先生の武器。彼は脳無の体を開かせるように背後を駆ける。もちろんそれだけでは意味はない。とてつもない力を持つこいつにはその程度のことでは効くはずがないことは彼が一番理解している。

 だからこれはこういうことだ。

 

「こう、かな?」

 

 瞬間、宙に舞う脳無。

 わたしがやったことは、さっきまで戦っていた宮造から学んだ新しい戦法。

 

 力には種類があり、流れがあり要点がある。

 それを戦闘に用いた戦い方を、あの戦いの中でわたしは学んだ。

 

「・・・さすがにキツい」

 

 両手でも厳しかったがなんとかなった。

 やったことは簡単で、ようはこいつの力を利用したのだ。

 殴りかかってくる腕の軌道を読み、後押しをするだけ。すると脳無の振るう力を越え、相澤先生の動きもあり上半身は回転してしまう。宙を舞うほどになったのは驚いたけど。

 

「まさか父はこのことを想定していた・・・?」

「馬鹿言ってる場合か!!」

 

 おっと、ついつい思考が。

 転倒させただけで無力化できた訳ではない。すぐにでも立ち上がってくる。

 

「起き攻めは基本」

 

 攻撃するのは支点となる足だ。機動力を削いでしまえば脅威度は下がる。いつだって高機動高威力のユニットほどウザいものはない。

 

「って再生持ちじゃん」

 

 この野郎、なんてふざけた存在なんだ。斬りつけた足がすぐに回復していく。なんだ、この怪力が個性じゃないのか!?

 

「一旦離れろ」

「言われなくてもっ!?」

 

 まずい、捕まれた。よりにもよって脚だ。さっきいったことを自分がされるとは何かの皮肉だろうか。しかしこれでは。

 

「ぐぅう!!」

「希望ヶ峰っ!!!」

 

 思いきり叩きつけられた。これは、本当にまずい。

 背中から地面に落とされ背部ユニットにかなりの損傷、脚は引きちぎれる寸前だ。機械の体でよかったというべきか、痛みを感じにくいおかげで意識は途切れない。

 

「っくそ!」

「ちぃぃ!!」

 

 相澤先生が助けようとするも決定打のない先生ではそれは叶わず、もう一度というように、わたしは持ち上げられる。

 想定が甘かったか。まさかここまでの脅威を持っていたなんて。

 

 そして容赦なく、とどめをさすために振り下ろされる。せめてもう少し時間を稼げないかと抵抗するもまるで意に介さない。

 そんな、ここまで、だというの?

 

 

「ーーーーーーーーぁぁぁあああ!!!」

 

 

 諦めそうになっていたわたしの思考を遮ったのは、自棄っぱちなまでの勇気の咆哮。

 まるで本当のヒーローみたいだと、なぜかその時は思った。

 

 

「---SMAAAASHッ!!!」

 

 聞き覚えのあるその雄叫びは、風を起こしてやってきた。

 

「っ効いてない!?」

 

 でもそれは儚い希望。とどめをさすのを止めはしたけれど、それ以上のことはなく。

 

 

「---離せやボケぇ!!!」

 

 

 だけど、助けはそれだけではなかった。

 わたしと共に掲げられた脳無の右腕。それが極光に焼き斬られてわたしごと落ちていく。

 

「あぶないっ!」

 

 素早く回収されて元いた位置とそう変わらない場所に避難できた。そこで初めて助けに来てくれた二人を見る。

 

「・・・もじゃ髪君、中二野郎」

「緑谷なんだけど!?」

「ふざけてんのかてめぇ!!」

 

 各々戦場に似つかわしくない表情で顔を合わせた。勿論冗談だ。

 

 緑谷 出久。

 伊留御 寧士。

 

 二人のクラスメイトが、こうして最前線へと参戦した。




読了ありがとうございました
感想など大歓迎ですので遠慮なくお願いします

いや、本当に間違えました
ちょっとランキングに乗っている方に評価していただいたので浮かれてました
後書きからの感謝というのはどうなんだろうと思いますが
7576氏
高評価、ありがとうございました
ご期待にそえるような作品にしていくためにも今後も邁進していきます


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立ち向かう不揃いな者たち

どうもアゲインと申します

娘の元に集まる者たち
そんな三十四話でございます

活動報告のほうで記念企画の報告のようなものをあげています
どなたでも書き込んでいただいて構いませんので気が向いたらどうかよろしくお願いします


「まず状況教えてくれないかな?」

 

 初めに冷静になったのはもじゃ髪君こと緑谷君だった。目の前の状況を知ろうと真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「電飾、牽制お願い」

「指図すんじゃねぇ!!」

 

 話すにしても脳無を無視することはできない。さっき蒸発した右腕がもう再生を終えようとしている。

 伊留御もそれはわかっているので悪態をつきながらも攻撃の手を止めない。次々と光線を放ってはいるが脳無の表皮を溶かすことしかできていない。

 

「ちっ!!」

 

 それでも何度も打ち込んでは少しでも足止めになるようにしている。こちらも早く情報を伝えなくては。

 

「あの異形はどうやら複数の個性を持っているみたい」

「複数!? 複合型じゃなくて!?」

「疑問は後、とにかく聞いて。あいつは敵の主犯の指示で動いてる。今見てる通りの回復力とわたしをなんか目じゃない怪力を持っている。それにたぶん、打撃に対してもかなりの耐性を持ってると見ていいかも」

「打撃に耐性・・・だから僕の攻撃が効かなかったのか・・・・・・!」

「相手ボスが言っていたこともあながち嘘じゃないみたい。対オールマイトは伊達じゃないってこと」

 

 わたしが知りえる情報を短く的確に伝えていく。それを頭で整理しているのか小さくブツブツとその内容を漏らしている緑谷君を視界の端に納めながら、脳無の様子を伺う。

 

「まだいけそう?」

「話しかけんな! 気が散るんだよ!!」

 

 強気な言葉で返してくるが余裕があるわけではない。もうすでに腕の修復は完了し、今はじりじりとこちらに近寄ってきている。呆れた耐久力だ。

 

「無事か!」

 

 そんなわたしたちに相澤先生も合流した。

 四人。

 正直少ないとしか言えない。

 

 緑谷君では打撃が効かず。

 伊留御では削りきれない。

 先生は言わずもがな。疲労もある。

 わたしに至っては機動力を大幅に削がれて足手まといだ。

 

 

「・・・・・・これならいけるかもしれない」

 

 

 それでも、どうにかするのがヒーローだ。

 

 

「先生も、僕の案を聞いてください」

 

 覚悟を決めた表情で、目の前の脅威に真っ直ぐに立ち向かおうとするその姿。やはり、他の人とは違った資質をこの少年から感じる。それを相澤先生も感じたのだろう、本来は諌める立場にありながらも彼は聞く姿勢を見せている。

 

「伊留御君も!!」

「勝手にやってろ! 手一杯だ!!」

 

 伊留御は牽制に集中していてそれどころではないみたいだ。わたしも、できることをしよう。

 

 

◆ 

 

 

「----って、感じなんだけど」 

 

 短い説明によって、わたしたちの行動は決まった。後は実行あるのみだ。

 

「わかった」

「駄目なら時間稼ぎに速攻で移るからな」

「何でもいいから早くしろ!!」

 

 各々の了承の声に、緑谷君は作戦の決行を合図する。

 

「じゃあ、お願いします!!」

 

 そして、相澤先生と緑谷君は脳無へと駆けていく。伊留御のサポートを受けながら、脳無の腕の振りに当たらないようにして的を絞らせないようにしている。

 

「電飾」

「伊留御だ無愛想女!!」

 

 それを見ながら準備を進めるわたしは、横にいるこの男に話しかけていた。

 

「あなたはこんなことするタイプじゃないと思っていた」

「なんだとこらぁ!!」

 

 残っているユニットを選別しながら徐々に展開していく。形成するのは入学試験の時に使用した兵器だ。

 でも展開速度が遅すぎる、破損した箇所が悪かったみたい。

 

「でも」

 

 相変わらずこいつのことはわからない。

 いきなり喧嘩を仕掛けてきたかと思えば、訳のわからないことを話すし。

 折れたと思っていた精神も、そこまでではなく仕返しを考えるくらいだ。

 正直嫌いなやつだけど、それでも言わなきゃいけないことはある。

 

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 

 そう、救われたのは事実なのだ。ならば、その礼をしなくてはいけない。命の借りを返せないような女ではないのだ。

 

「・・・・・・」

 

 む、返答はなしかこの野郎。折角わたしが過去のあれこれを無視して礼を言ったのにそんな対応をとるとは。なんという奴だろうか!

 

「・・・・・・くそ、見惚れたってか?」

 

 生憎プリプリと怒るわたしには、その言葉は耳に入らなかった。

 それよりも今は作戦を進行することで頭がいっぱいだったので、聞こえなかったというべきか。

 攻撃の頻度があがった伊留御をいぶかしみつつ、わたしは砲身の形成に集中するのだった。 




読了ありがとうございました
感想など大歓迎ですので遠慮なくお願いします


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とどのつまりは人間力

どうもアゲインと申します

脳無打倒のため、走れヒーロー
そんな三十五話でございます

募集いたしましたSSの話が決定いたしました
話の都合上、USJ編が終わるころの掲載となります

それと一応章管理しました
あくまで自分が分かりやすいようにですが


 緑谷が発案の作戦は、簡単に言ってしまえば希の砲撃、『サイクルエンド』による脳無の撃破である。

 

 類い稀な再生能力、オールマイトに匹敵するかというような怪力、打撃に対する耐性。

 

 まさしくオールマイトを打倒するために用意された怪人と言える。

 それでも出来ることがあるとするなら、彼女の一撃を信じて少しでもこいつの動きを制限することだと、飛び交う光線と豪腕による突風の中で緑谷は動き続けていた。

 

「(・・・まだ、なのか!?)」

 

 しかし、いくら体作りをしてオールマイトの個性、『ワン・フォー・オール』を受け継いでいようと発現できる力は制御が効かず、使えば体を破壊する。

 素の身体能力だけでは避けきることはできず、相澤と伊留御のフォローによって辛うじて直撃を逃れていた。

 それで緑谷は諦めない。彼は背後にいる仲間を信じ、必死に足を動かし続ける。

 

 

『緑谷君、いけるよ』

 

 

 そしてその時はきた。事前に渡された通信機から聞こえたのは準備を終えたという希の声。

 

「っ先生!!」

「わかってる!!」

 

 それを合図にして前衛の二人は動きを変える。緑谷は正面から脳無へと駆け出した。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

 腕を振り上げながら向かっていく様はさながら無謀な突撃。脳無もそう感じたのか迎撃の姿勢を見せている。

 全ては緑谷の思い描いた通りであった。

 

「---ここだぁああ!!」

 

 個性によって発動したのは足の指先、右の親指に発生したそれにより緑谷は低空を高速で跳ぶ。それは脳無の一撃を完璧に避け、怪人の背後に飛び出す。

 目標を失った脳無の拳はそのまま地面に砕いて止まる。その一瞬の停滞を伊留御は逃さなかった。

 

「くらえや!!」

 

 その僅かな時間で出せる最大威力によって脳無のいる地面を破裂させる光線を放つ。光の速度に対応できない脳無は爆発に吹き飛ばされ空中へと投げ出される。

 

「はっ!!」

 

 すかさず脳無の腹に巻き付いたのは相澤の拘束布、回避した緑谷もそれを持ち足の痛みに耐えながらもある地点に脳無を引き落とす。

 

「二人とも! 頼んだぁああああ!!」

 

 それは密かに戦いの様子を伺っていた、しかし作戦に組み込まれていた伏兵。

 

「しっかりね、峰田ちゃん」

「う、うおりゃぁあああああ!!」

 

 『蛙』の個性を持つ娃吹 梅雨の背に乗り、脳無の視界に入らないようにスタンバイしていた峰田は脳無の着地点に向かって頭の『もぎもぎ』を連続で投げつける。

 それは先程緑谷たちの危機を救った粘着性の高い球体だ。目的は一目瞭然、敵の拘束だ。

 

 

 希は伊留御の光線に紛れるように小型のスピーカーを娃吹たちのもとへと寄越していた。それによって作戦の内容を教えられてた彼女たちは息を潜めてその合図を待っていた。峰田も恐怖に震えていたがなにより真っ先に助けに入った緑谷の姿を見て覚悟を決めていた。それでも体は震えていたが。

 

 体の中心、胴体のほとんどを地面に接着された脳無はまずはそれを剥がそうとした。しかし弾力と粘着により腕の動きがさらに阻害され、それに気づいた伊留御は牽制を止めて溜め込んでいた光の弾を脳無の四肢へと叩きつける。

 

「威力は足らねぇだろうが、押さえ込むくらいはできるんだよぉおおおお!!!!」

 

 それは脳無を倒すための布石。ここまでやらなくては回避を許してしまうという思考によっての行動。確実に決着をつけるために彼は自身の限界まで個性を使用していた。

 

 

 

「---電飾、よくやった」  

 

 

 

 そしてそれは実を結び、大きな好機を産み出して彼女へとバトンが渡される。

 残った片足で跳躍し、脳無の上空へと躍り出る。展開された砲身にはエネルギーの輝きが溢れて打ち出されるその瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 

「塵も残さず消し飛ぶがいい」

 

 容赦のない物言いはまるで悪役のようだが実際彼女は正義を目指す少女なので安心してほしい。この敵に対してそのような甘いことは言っていられないだけである。

 

 そして、それは放たれる。

 

 

「限定解放、サイクルエンド!!」

 

 

 損傷により巨大ロボを撃墜したときほどの威力が出せていないが、それでも人型のものを消滅させるのに十分なだけの力をもって脳無の肉体を蒸発させていく。

 

「お前を葬るのに、罪悪感なし!

 散滅すべしっ! 脳無!!」

 

 止めさすべくなけなしのエネルギーを込めていく希。このままいけば脳無を倒せる。そう誰もが思った。

 その時だった。

 

 

「---そこまでです」

 

 

 空中にいる希の背後、そこから響く声が聞こえたときには遅かった。振り返ることもできない希をその影は容易く飲み込んだ。黒霧がその役目を放棄し、死柄木の手助けをするために現れたのだ。

 

「希望ヶ峰!!」

 

 叫ぶ相澤。自身の生徒の度重なる危機に脳裏を最悪の結果がよぎる。

 だがしかし、彼女の天命はここで尽きることはない。なぜなら---

 

 

「---DETROIT! SMASH!!」

 

 

 突如吹き荒れる暴風が霧を晴らし、そこの隠された少女の姿を露にする。落下する彼女を腕に抱えながら、その巨漢は現れた。

 

 

「すまないみんな・・・・・・わたしが、来た!!!」

 

 

 オールマイト。

 怒りを携え、ここに参上。

 

 




読了ありがとうございました
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決着

どうもアゲインと申します

巨英、くる
タイトル通りの三十六話でございます


「・・・希くんは、気絶しているか」

 

 サイクルエンドへの過剰なエネルギー供給により、彼女は精魂尽き果てて意識を落としていた。

 オールマイトは彼女のボロボロな姿に、守れなかったことへの後悔と、敵への怒りがこみ上げる。

 

「・・・・・・許さん!!」

 

 希をそっと地面へと横たえ、前に進むオールマイト。脳無は黒霧の個性により自由を取り戻し、共に死柄木のところへと集まっていた。

 

 

 

「どうしますか死柄木」

「決まってんだろ! やれ、脳無!!」

 

 希に消滅させられた箇所は徐々にだが回復が進み、個性による修復にも限界がきているのがわかる。

 それでも死柄木は目的であるオールマイトの存在に、溢れんばかりの憎悪を込めて脳無をけしかける。

 

「オールマイト! 気をつけて、そいつは打撃が効かないんだ!!」

 

 距離を詰める両者、緑谷はせめてもの情報をオールマイトへと知らせる。オールマイトはそれに軽く頷きを返し、鋭い目線で眼前の敵を睨み付けた。

 

「勝負だ敵よ!!」

 

 そして始まる乱打戦。

 肉体が出すものとは思えないような音が重なるようにして響く。オールマイトは敵が繰り出す拳の重さに内心驚愕していた。

 

「(なんという力だ! こんな相手にこの子たちは立ち向かっていたのか!?)」

 

 自身に匹敵するやもしれない脳無の怪力。加えて対打撃、超回復と並みの敵を越える相手に対しここまで奮戦した者たちを思い、彼の感情にさらなる火が灯る。

 

「負けられないな!!!」

 

 圧倒的な脅威を前にして、退かずにあった者たち。

 その勇気ある行動を、時に人は蛮勇というだろう。

 しかし、しかしだ。

 そこに身を置き、誰かの盾になることこそ『ヒーロー』としての在り方!

 誰よりもそれを実践してきた彼が、その行動に心を奮い立たせられないわけがなかった!!

 

「いくぞ敵よ!」

 

 自身の限界を今越えんとばかりに加速、強力になっていくオールマイトの拳打。風を生み衝撃を放つ人型のタイフーンが、一個の敵へと降り注ぐ。

 

「---ぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 ダムが決壊するように、脳無の腕が弾き上げられる。そこからは一方的な展開となった。

 オールマイトの攻撃に耐えきれず、二本線を刻みながら後退していく脳無。数えきれないほどの拳が脳無を襲い、そしてついに、渾身の一撃が突き刺さり、その巨体を吹き飛ばした。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」 

 

 拳を振りきった態勢のまま、荒い息でその行方を注視するオールマイト。彼は油断せず、壁にめり込んだ脳無を観察する。

 

「(教訓が活きた・・・ということか)」

 

 数ヵ月前、モノクロームとの対峙にて実感した自身の弱体化。友を止めるためにと赴いてあの体たらく。彼はその結果から学び、僅かでも肉体を回復できないかと手段を探しつつ、鍛練をやり直していた。

 その成果が、こうして実を結んだのだ。

 

 

 

「・・・・・・ゲームオーバーだ」

 

 死柄木は脳無の様子から、もうそいつが動かないことがわかった。

 目的を果たせないとわかった死柄木はあっさりと見切りをつけ、黒霧に帰還の指示を出していた。

 

「待て!!」

 

 そこに待ったをかけるのは戦闘の意思を滾らせるオールマイト。

 その姿を忌々しげに視界に納め、死柄木は悔しさというよりは決意のようなものをもって応える。

 

「・・・今のままじゃいけないことがよくわかったよ。癪に障ることだがあの野郎の言葉の意味がようやく理解できた。反省するべきだな」

 

 そして彼は奇妙なポーズでさらに言葉を重ねる。その姿にオールマイトはかつての友の影を見た。

 

「やはり奴が・・・!?」

「だが俺は・・・・・・反省すると強いぜ」

 

 

『次は必ず殺す、オールマイト』

 

 

 その言葉を最後にして、敵の首領死柄木 弔は霧の中に消えていった。

 今ごろ飯田の活躍により、各地の敵も制圧されているだろう。

 しかし、彼らの中に何か後味の悪いものを残したという思いが、勝利したという実感よりも深く、胸に刻まれていた。

 

 

 かくして、USJによる争乱は、こうして終息を迎えたのであった。




読了ありがとうございました
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絶望は大いに泣いた 終焉が加速し種は撒かれる

どうもアゲインと申します

父は子の成長を見た
そんな三十七話でございます

また、SSのほうも投稿していますので、こちらを読んでからご覧くださった方がよいかと


 才改学園のある部屋。

 大きなテーブルが中心に設置され、それを取り囲むように椅子が存在している。

 その中で一つ、やたら豪華ででかい椅子に、とてもではないが似合わない男が深々と、有り体に言えばふざけたような格好で座るともいえないような体勢でそこにいた。

 

「・・・・・・ぉおおおぉおおお・・・!・・・・・・うわぁぁああああ・・・!・・・」

 

 泣いていた。

 それはもう盛大に泣いていた。

 ここまで泣くかと言われるんじゃないかってくらいに泣いていた。

 

「うぐぅう! あ、ああ! おぉおぉおぉぉおおお!!」

 

 流れ出る涙をそのままに、身体を弛緩させただただ泣くことに身を任せて感情を露にしていた。

 

「・・・・・・そろそろいいですかね?」

 

 そんな男に声を掛けるのは男の右腕的な存在、ではあるものの上司のその姿に彼は軽く引いていた。叶うなら相手をしたくはなかったが、周りの視線がどうにかしろと訴えかけて止まないので自分がするしかなかった。

 

「う、うぅ・・・・・・。すまない、本当にすまないね。だって・・・だって・・・・・・」

 

 顔を覆う手によって、表情が隠れる。だいたいそうなるだろうなと経験していた男、左右堕は気持ち身を退いていた。

 

 

「---だって、喜ばしいかぎりじゃないかっ!!!」

 

 

 やあ! 画面の前の皆様! 私だ、希望ヶ峰 絶だ!!

 

「素晴らしい! なんと素晴らしい!! そうだそうでなくては!! ああ、なんということだろう!!!」

 

 私は嬉しい。こんなにも嬉しいと思ったのは人生で何度目だろうか。順位でいえば五本の指に入るくらいに嬉しい!!

 

「この私の! この私の予想をだ! 越えてきたのだあの娘は!!」

 

 さんざん天才だなんだ言ってきた私だが、ああ、なんということだろうか!

 ここまでか、ここまでの成長を見せるか、我が娘よ!!

 

「あの脳無はいい練習台にしか見ていなかったが、なんだよなんだよそうくるかい! そうしちまうのかい!!」

 

 私の興奮についてこれない面々を置いてけぼりにしていたが、私もうかうかしていられないな。これは早急に会議をまとめて次の動きに入らなければ。

 

 

◆ 

  

 

「すまない諸君。取り乱したね」

 

 改めて、ドウモ、ドクシャ=サン。キボウガミネ=ゼツです。

 挨拶は大事、古事記にも書いてある。

 

「さて、雄英に送り込んだ彼らのお陰で素晴らしいデモンストレーションを行うことができた。我々もその働きを無為にせぬよう動かねばならない」

 

 視線を向ければそれで理解したのだろう、秘書のような格好をした女性が整えた黒髪を撫でながらファイルを開いて立ち上がる。

 

「お任せを。この『超超人級の秘書』冴川(さえかわ) 氷室(ひむろ)が万事抜かりなく進行中でございます」

 

 テーブルの真ん中が開きモニターが全面に展開される。そこには雄英で起こった一部始終が映されていた。

 それはどれも有名なブログを占領するように改造されたもの。私が更新していたブログは私のものではなく、彼もしくは彼女たちのものだったのだ。

 当然、それは多くの民衆の目に晒されていることだろう。

 

「コメントなどの反応を見ればわかると思いますが、概ね本物だという認識をされています」

 

 某動画コミュニティみたく動画にはコメントが流れるようになっている。それを見れば確かに、そのような意見に紛れる程度にしか否定的な意見はない。これは成功と見ていいだろう。

 

「よし、ではさらに計画を進めよう」

 

 世間は認識したはずだ、これを起こした無個性という新たな脅威を。そしてまた、こうも感じたはずだ。

 個性とは絶対ではない、ならばあの集団はなんなんだ、と。

 

 

「撒き散らそうじゃないか、絶望の種を。同じく社会に不安を持ち、不満を持つ者たちに、居場所を与えてあげよう」

 

 それを合図に集まった面々、才改学園の教師陣が各々動き出す。全てはそう。

 

 

 

「正義が蔓延る世界にて、悪に勝てども意味はなく。救いなくして希望なし。絶たれた望みよまさしく絶望。永劫連鎖の限りの果てに、残るはいかなる望みだろうかな」

 

 

 

 絶望は伝染する。より広く、深く、人々を飲み込むだろう。さあ、私も動くとしよう。




読了ありがとうございました
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いやー、疲れました
これにてUSJ 編は終わりますがこれからが本番だと思うと気がおかしくなりそうですね
オリジナルも混ざるわ、戦闘描写満載の体育祭がくるわ
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします


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SS:世界を動かす絶望は俄に語る

どうもアゲインと申します

この話は総合評価300突破記念のものです
キャラクター原案 ナマケモノ改Ⅱ様 ご提供のものです

流れた動画によって動く世界の一場面
そんなサイドストーリーでございます

前話の通常話から読んでいただくと話の流れがよろしいかと
ご注意ください


 その動画は内容に関わらず、いやむしろだからこそ爆発的に人々の間に広まっていった。

 

 超人社会の象徴ともいえるヒーローを育てる雄英高校。ヒーロー科と呼ばれる金の卵たちが、敷地内の設備にて授業を受けているところからそれは始まった。

 彼らの前に現れたのは、大勢の敵たち。転移系の個性によって出現した彼らのよって、たちまちそこは戦場と化した。

 

 その映像に移る敵の中には、それまでと明らかに違う存在がおり、映像もその者たちを中心に映していた。

 

「・・・これが、無個性の動きなのか?」

 

 私、指方(さしかた ) (まなぶ)はその映像に映る自らを無個性と名乗る子供たちを見ながら、なんとも言えない気持ちになっていた。

 

 

「凄いだろう彼らは」

「っ!?」

 

 

 その時だ。

 自分以外誰も居ないはずの室内から別の人物の声が聞こえた。映像からではない。背後から確かに、しっかりと聞こえた!

 

 暗い部屋の影から、声の主が一歩、また一歩と姿を露にしていく。画面の光に照らされて、ようやくその全貌が明らかになった瞬間。私は生涯で感じることがないような恐怖を覚えた。

 

「あ、あなたは・・・!?」

「おや、知っているはずだろう?」

 

 ああ、そうだ。

 確かに私はこの男を知っている。

 裏切り者、快楽犯罪者、頭脳犯。

 様々な呼び名を持つこの男は、されどそのヒーローの名残が一番有名で。

 

「モノクローム・・・・・・」

「YES I am!」

 

 指を振り腕を振り、特異な動作を交えて肯定するそのやり方。まさしく彼はモノクロームその人。

 元ヒーローにして敵という異色の経歴を持ち。

 そして---

 

 

 ---わたしが長年出会いを渇望した男である。

 

 

◆ 

 

 

「やあ、しかし、こうして初対面を迎えた訳だが・・・どうだい、なにか感想はあるかい?」

 

 私が出した紅茶を疑うでもなく口にし、全く警戒をしていない様子を見せるモノクローム。

 こっちはヒヤヒヤものだというのに、やはり大物の敵だ。態度にまるで遠慮がない。

 

「・・・・・・では、いくらか質問を交えて」

 

 しかし、発言を許可してもらえたのは行幸といえるだろう。長年の望みが叶うのだ。この機会を逃すわけにはいかない。

 

「私は長年あなたを追い、その足跡を辿ってきました。あなたの活動は日の当たるものではありませんでしたが、確かにそこには正義があった。なのになぜ、敵になったのです?」

「それに答えるには長い時間がかかるだろう。手短にいうのなら、ヒーローが救えるものが限られたものだということと、つまらなくなった、ということさ」

「つまらなく?」

「そう、だってあいつら、つまんないじゃないか」

 

 カップを置いてこちらの見るその瞳には、複雑な感情が入り乱れて読み取ることが難しい。だがそこには確かに信念と、それに匹敵する絶望が存在していることだけはわかった。

 

「・・・では、次に。この映像はあなたの差し金ですか?」

 

 私はそのことについて、それ以上は聞き出せないことがわかったので、出回っている雄英襲撃の映像について質問した。

 

「その通りさ。まあ私の主導ではないがね」

「ではこの無個性の子達は」

「私の生徒だよ」

「生徒?」

 

 確かに彼らの名乗りには必ず『才改学園』という単語が含まれていた。まさか本当に、この男が・・・・・・?

 

「重なるかい? 君の子供に」

「っ!? なぜそれを!!」

 

 私は思わず席を立ち上がった。それほどの驚きだった。

 それを知るものは本当に僅かしか存在しないというのに、赤の他人のこの男が何故そのことを!

 

「過激派集団、謎の爆破により全滅。だったかな」

「・・・・・・」

「選民思考の強い奴等が行った悲惨な事件として、『無個性狩り』と呼ばれる事件があった。彼らは個性至上主義を掲げ無個性の者を世界に適合できなかった不良品と見なして凄惨の限りを尽くした」

「・・・・・・っ」

「その中には妊婦もおり、彼らの容赦のなさを全世界へと見せつけた。この事態に警察、ヒーロー両面からの全力の捜査があったにも関わらず過激派はその足取りを掴ませることなく姿を眩ました」

「・・・・・・もう、いい」

「しかし事態は急変する。山奥に存在していた過激派の集会所が謎の爆発により木っ端微塵に。中にいた過激派は一人残らず全滅だ。爆破の原因は爆弾によるものとされたが、実行犯は分からずじまい。一応の解決を向かえたとして人々の記憶から」

「もういい!!!」

 

 ・・・・・・私は耐えきれずに叫び、続きを遮った。

 

 いくら時間が経とうとも、誰もが忘れようとも、私は、私だけはあの事件を忘れはしない。

 手を握りしめ、歯を食い縛る私に、彼はそれまで通りに話をする。

 

「ご冥福を、深く、お祈りするよ。どうか君の愛するものが苦しみから解放されることを」

「・・・・・・勝手なことを」

 

 だが、怒りと後悔に支配された私は、その言葉が許せなくて、許せなくて、気づけば座る彼の首を締め上げて立たせていた。

 

「勝手なことをいうな! 苦しみから解放されるだと? そんなことが、彼女たちにあると思うか!! 

 ずっとだ!

 ずっと、彼女は苦しんでいる!

 彼女の、私の子供は空を見ることなく海を知ることなく風を感じることなく・・・希望を持つことなく惨たらしく殺された!!

 そんな二人が、苦しみから解放されるなんてあるわけがないんだよ!!

 何故だ!

 何故あのとき、あなたは居てくれなかった!

 天才なんだろう?

 ヒーローだったんだろう?

 ならば何故、彼女を・・・二人を助けてくれなかったんだ!!!」

 

 

 はぁ、はぁ、と私の荒い息だけが部屋に響いた。久々にこんな大声を出した。

 黙って私の叫びを聞いていた彼の首に延びている自分の手に今更ながら気がつき、慌てて離そうとする。

 まずい、気が動転してやり過ぎた。急いで謝らなければ。

 そうした考えをよそに、彼は離れていく私の手を、急に掴んだ。

 

「な、何を!?」

「素晴らしい」

 

 締め付けられていたダメージを感じさせないはっきりとした発音で喋る。私を見つめるその目には、蛮行を非難するようなものはなく、代わりにようやく見つけたとでもいうような、そんな輝きを放っていた。

 

「君のような人材を、私は探していたのだ」

「私のような?」

「そうだ!」

 

 彼は身を翻すと大袈裟な身ぶり手振りを繰り出しながら口を動かす。

 

「改めて自己紹介をしよう!

 私はモノクローム! 才改学園の学園長なのだ!

 私は常に同胞を求めている。それもより世界に絶望した者をだ。

 君の絶望、我が学園に迎え入れるに足る人材と見た。

 

 故に聞こう。 

 指方 学君。

 君を、我が才改学園が招こう」

 

 それはあまりにもな提案だった。

 

「・・・私に、悪の道を逝けと」

「すでに君は復讐者だ。その道は険しく、なによりも尽きぬ精神がなければ成り立たない。それを果たした君は、それでもまだその道を歩んでいる。それは、納得がいかないからさ」

 

 納得。

 彼を追うなかで、何度か聞いた言葉だ。

 確かに、と思うことが多い彼の言葉のなかで一番印象に残っている。

 

「家族二人の死に、君は全然納得がいっていない。

 だからこうして私なんかを追っているんだ。

 なにかを追うことに意味はない。追い越して初めて意味を成す。

 幻影さ。なにもないんだ。その先にしか本当は見えない」

「・・・置いていけと?

 私に二人を、苦しみに縛られた妻子を、置いて進めと?」

「覚悟だ。人間の成長には善であれ悪であれ、覚悟がなければならない。

 痛みを背負って進め。君は、二人分の苦しみを背負って、その重みを世界に示す道がある」

 

 重ねられた言葉は、ストンと私の中に収まった。

 結局私は、『誰かのせい』にして、そこから動けずにいたのだ。

 世界が私たちの惨劇を忘れるというなら、私は示すべきだったのだ。

 怒りを、苦しみを、後悔を、なによりも愛を。

 

「・・・できますか、私に」

「できるさ。その絶望こそを私は望む」

 

 そうか。だから私は、この人を追っていたのだ。

 この、漆黒の意思とでもいうべき人間性に、私は惹かれていたのかもしれない。

 

「・・・・・・よろしくお願いします。学園長」

「ようこそ、男の世界へ」

 

 この日から、私は完全に日の元に存在しなくなった。

 私は指方 学。

 才改学園の教師にして、『超超人級の講師』。

 世界への復讐を望む、絶望の徒である。




読了ありがとうございました
感想など大歓迎ですので遠慮なくお願いします

こういったものはこれからも書いていくつもりです
活動報告のほうで募集の告知を行いますので興味のあるかたは気軽に連絡していただければできる限り対応します
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします


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話をしよう まずはそれからだ
始まりは待ってはくれない


どうもアゲインと申します

襲撃が終わり、次の日のこと

そんな三十八話でございます

…………いったいいつの間にランキングに?
ちびっとだけ上がっていました
ありがとうございます!

また、活動報告のほうにまた企画をあげていますので、よろしければメッセージを送っていただければと思います


 敵連合の襲撃から一夜明け、ヒーロー科の面々はそれぞれの行動を取っていた。

 傷を癒す者、鍛える者、無事を喜ぶ者。

 

 自身も怪我を負い、今まで治療を受けていた緑谷はリカバリーガールの個性のお陰で支障がないほどに回復していた。

 そして自由に行動できるようになった彼は、とある人物の個室を目指して歩みを進めていた。

 

 

「あ、デクくん! もう大丈夫なんだ!」

 

 

 そんな彼の背中を発見し声をかけてきたのは緑谷がクラスのなかでも仲のいい、麗日 お茶子だった。

 

「麗日さん。うん、問題ないよ」

「どこか行くところだった?」

「えぇと、希望ヶ峰さんのところに行こうと思って。一番酷い怪我をしていたから、心配で」

 

 緑谷が脳無との戦いに参加したとき、すでにボロボロになっていながらも、自分が立てた作戦に素直に従ってくれた。

 彼女がいなければもっと被害は大きくなっていたかもしれないと緑谷は考えている。だからこそ、体を張って戦い続けた彼女に改めてお礼が言いたいと思って彼は希がいる病室を目指していた。

 

「じゃあ私も行くよ! 怪我で身動きしづらいだろうし、人手がいるかもしれないしね」

「ありがとう麗日さん!」

 

 こうして二人は希の病室に来たのだが、教えられた個室には本人の姿はなく、もぬけの殻であった。

 疑問符を浮かべる二人だが、いないのなら探そうとあちこちを見て回り、ようやく見つけた場所は以外なところで、一種異様な光景をそこに作り出していた。

 

 

 

 

 

「な、なんてことだ・・・・・・」

 

 あるものは、そこを戦場というだろう。

 高まる熱量は陰りを見せることなく高まり続け、熱気となって辺りを包む。

 その光景を生み出しているのは一人の少女。

 それを囲むように人垣ができ、中央の彼女を驚愕の眼差しで見ては、煽るように、はたまた応援するように声を張り上げる。

 それを意識してか少女の動きはさらに加速していく。

 眼前に待ち受ける標的を、機械的な動作で繰り返し繰り返し捌いては亡骸の山に追加していく。

 もはや憐れと思うほど、それはあまりにも無慈悲な光景だった。

 

 

 

「・・・・・・おかわり、十人前」

「勘弁してくれぇえええ!!」

 

 

 

 クックヒーロー・ランチラッシュ。

 彼は生涯で初めて、料理の手を止め膝を屈した。

 異次元の胃袋を持つ少女、希望ヶ峰 希。

 その咀嚼の速度についていけず、彼は真っ白になって意識を手放した。

 

「次を、はやく」

 

 

 

 

 食料が供給されなくなり、ならば用はないとばかりに残りを平らげた彼女は周りの観衆を気にすることなくその場から立ち去った。

 彼女の戦果に恐れをなし、彼らはモーゼのごとく道を譲る。

 

「・・・・・・あ、もじゃ髪くん」

「あん? なんでお前らいんだよ?」

「い、伊留御君もいたんだ」

 

 人の波が割れた先、緑谷たちは逃げるのが遅れて真っ先に見つかった。希にだけ注目していたため伊留御についてはまったく視界に入っておらず、近くにきて初めてその存在を認識した。

 

「なんだとこらぁあっ!!」

「ひぃい! ご、ごめん!!」

「ふわふわちゃんもきたの?」

「ふ、ふわふわ? あ、そっか名前」

 

 オラつく伊留御にビビる緑谷。

 妙な呼び方をされ、きちんと自己紹介した訳では無いことを悟る麗日。

 一同はとりあえず、周りの邪魔にならぬよう希がいた病室まで戻ることにしてその場をあとにすることにした。

 

 

 

 

 

「そ、それで・・・大丈夫なの?」

「ん、問題ない」

 

 病室に集合した四人。緑谷はまず最初の目的である希の安否を確認したが、怪我を負った本人がたいして不調でないことに少々驚いていた。

 

「でもあの怪我・・・」

「わたしはサイボーグ。通常とは治し方が違う」

 

 そういうと彼女は足の包帯を解き、傷のあった箇所を晒す。

 そこには痕が残るのみで深手を負っていたとは思えないほどだ。

 

「自己修復機能をフルに使えばあのくらいなら一日掛からず治せる。そのためにエネルギーが必要だった」

「こいつ、足引きずりながら食堂に向かってたんだよ。怪我人だってのに無茶しやがる」

「時間を無駄にしたくないだけ。電飾こそなんできたの?」

「伊留御だ。いい加減覚えろ。肩貸してやっただろうが」

「頼んでないのにそっちが勝手にやっただけ」

「んだとこらぁあ! 礼の一つも言えねぇのか!!」

「評価が覆ったわけじゃない。調子に乗るな」

「・・・・・・だったら今度こそぶっ飛ばしてやらぁああ!!」

「お、落ち着いて二人とも!!」

 

 緑谷たちを置いて勝手にヒートアップしていく二人。伊留御が身を乗り出したのを二人がかりでなんとか止めたが、全然といっていいほど収まる気配がない。

 

「そ、そもそも伊留御くんは何しにきたん!?」

 

 麗日がかろうじてそう聞くと、伊留御もそのことに思い至ったのか、渋々といった態度で席に座り直す。

 

「・・・・・・情報収集だ。聞きに来たんだよ」

「あの敵たちのこと?」

 

 緑谷は襲撃犯の敵のこと、脳無や主犯のことかと思ったが、伊留御が聞きたいことはそうではなかった。

 

「他の奴から聞いた。明らかにそいつらは他の敵とは違った組織に属しているらしい。軽く行動を調べた限り、どうも別の目的があって襲撃に参加した連中らしい」

「それって・・・・・・」

 

 伊留御の視線の先。希に延びる疑惑の目線。つられるようにして緑谷たちも彼女を見る。

 

「何を知ってる」

 

 厳しい面持ちで希を睨む。伊留御は半ば確信していた。この原作とは違う流れの原因に、この女が関わっていることを。

 鋭い眼差しを正面から受け止め、希は口を開いた。 

 




読了ありがとうございました
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おしゃべりは相応しいところで

どうもアゲインと申します

雑談いろいろ
そんな三十九話でございます

昨日は少しだけですがランキングにこの作品が上がることができました
やっぱりランキング効果ってすごいですね~
本当にありがとうございます

これからもがんばりますので、応援よろしくお願いいたします

また、記念企画のようなものを活動報告の方であげております
もしよろしければ気軽にメッセージ、コメントなどいただければ幸いです


「今はまだ言えない」

「あん?」

 

 伊留御への希の返答は、消極的な拒否であった。

 

「確かにわたしはあなたたちが知りたいことをある程度わかっている。でも、それはみんなが居るところで話すべきだ」

 

 それは自分が問題の渦中にあることの、ある意味誠実な対応をしたいという思いからのことである。

 

「先生たちからも、そう言われてる」

 

 ことは希一人で収まるものではない。彼女が雄英にいる限り、父は周りを巻き込みながら大いに悪巧みを行うだろう。そうなれば今回のように、その尖兵と遭遇して傷つく者も出てくる。

 相澤たちも生徒のため、希の事情を周知させておくことは必要であると考えていた。

 

「・・・・・・黙りこむつもりじゃねぇんだな?」

「わたしは覚悟してここに来た。経歴どうこうは今更な話」

 

 それなら、といった風に伊留御は席から立ち上がる。

 

「い、伊留御くん!?」

「俺は行くぜ。こんなところで時間を無駄にできねぇ」

 

 背中を向けてさっさと帰ろうとする伊留御に緑谷は待ったを掛けようと手を伸ばすが、構わず彼は行ってしまう。

 部屋の入り口を出て、しかし伊留御はそこで止まる。

 

「一つだけ言っとくとだな」

 

 短く、それでいてはっきりとした口調で誰にとは言わず語り出す伊留御。

 それは希に向けてのことでもあったが、同時に原作の主人公である緑谷に向けての発言でもあった。

 

 

「俺がまだまだなのは十分わかった。だがよう---

 

 

 ---負けるつもりはさらさらねぇ」

 

 

 そんだけだ。

 

 それだけを語り、彼は今度こそそこから立ち去った。

 なんとも言えない雰囲気になった病室に居心地が悪くなった緑谷たちは希と軽く挨拶をしてその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・いいよ」 

 

 希は自分の病室から見舞客が去るのを確認し、改めてその存在に呼び掛けた。

  

 

「----いやー、すみません。気を使ってもらったみたいで」

 

 

 するり、と。

 動作が速く、それでいて滑らかと表現できる、そんな動きでその人物は侵入してきた。

 

「・・・手が早い」

「いやいや、私のような木っ端な存在。気にとめていただけ行幸ですよ」

 

 ごてごてとした装飾を各所に着けているが、それにしては体の中心、胴の部分の防御が薄い。タンクトップ一枚という、少女としてはいささか意識が低い装いは、彼女が身を置くところを考えればまあ分からないでもない、といったところだろう。

 

「一応、こういう者です」

 

 かしこまったような物言いの少女は、その手にコインのようなものを取り出す。よく見ればそれはオセロの駒に似た作りになっていたが、黒い側には特徴的な、見るものが見れば即座にその意味を理解できる、紅い刻印がされていた。

 

「『サポーター』として、できる限りのことはいたしますよ」

 

 そう自らを紹介するこの少女は、にこりと笑って丁寧なお辞儀をする。それから体勢を直した彼女は後ろ手に扉を閉めて施錠する。内密の話となれば当然の警戒と言えるだろう。

 

「・・・・・・見透かされているってこと」

 

 彼女の正体は推測するまでもなく父、絶の手の者だろう。まさかとは思ったが行動が早すぎる。いったいどこまで見えているのかと、自分に親でありながら心底恐ろしい、希は改めてその脅威を認識した。

 

「見ての通り、装備の開発などが主な任務ですが・・・どうですか、なにかご入り用な物はございますか?」

 

 そう言ってくる彼女に対し、希は最初にするべきことがあると、まずはそれから始めるべきだと思い、体を彼女の方へと向けた。

 

「まずは名前を聞かせて」

「ああ、これは失礼を。では改めて」

 

 

 

 

 

「才改学園所属、発目(はつめ) (めい)と申します。どうぞ明と、呼び捨てで構いません」

 

 その少女は欠片の迷いなく、敵の組織の者だと告げる。

 照準器のようなその瞳は真っ直ぐに希を捉え、自らの能力を存分に活かす機会がきたことをただただ喜んでいた。

 




読了ありがとうございました
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発明少女が超超人級の絶望と超超人級のメカニックと出会って超高校級のサイボーグの協力者になるに至った訳

どうもアゲインと申します

発明少女が語る
そんな四十話でございます




「そもそもどうして私が才改学園に所属しているかというとですね、あれはなんとも稀な経験であったと言わざるしかないことがございまして。

 

 雄英にサポート科としての入学が決まってから少しして、私の発明のためのインスピレーションを得ようと気分転換に外を散歩していたんです。

 それが夜ということだったのですが、私の個性は『ズーム』といいまして、かなり遠くのものをはっきりと目視できるのです。その存在ははっきりと私のこの自慢の瞳に映り込んだのですよ。

 

 

 暗い夜空を颯爽と飛び行く五つの物体。

 厳めしいそのフォルムは試験で出たという機体とはまるで設計思考が違うもの。

 一目それらを見た瞬間、まさしく稲妻が全身を貫きました。

 

 気付けばそれの行く先を追いかけて駆け出していました。

 感情は、けしてそう前向きなものじゃありませんでしたけどね。

 

 走って走って、たどり着いたのは海岸沿いの小さな港。

 堂々とした出で立ちのその機体、ロボとかそういう類いの機械を間近で見た時、私は生涯で初めて挫折というものを味わいましたね。

 

 『これは無理だ。これは、越えられない』

 

 そんな思いで目の前真っ暗になってた時です、あの人にであったのは」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・お、おう」  

 

 まずい、あまりにも一人でしゃべるものだから意識が飛んでいた。

 マシンガンみたく放たれる言葉の暴力、この場合濁流というべきか。それによって理解するより早く脳内が言葉に占領されるこの感覚、新手の精神攻撃かなにかか。

 この話になるまでに既に三十分以上経っているぞ。いったいどれほどしゃべるつもりなんだ。

 

「その人は無防備に佇んでいた私に気づいてわざわざ話しかけてくれたんです。それなのに私・・・」

「あの、もういいから」

 

 まだ話を続けるだと!?

 いいや限界だ! 止めるね!!

 

「もう、けっこうです」

「そうですか? まだまだ序の口なんですがねー。いいんですよ遠慮せず、敵側の情報知り放題なんですから」

「・・・あなた、いったい立ち位置はどこなの?」

 

 わからないのだ、この少女。

 長々と語る内容をできる限り整理してみたけれど、なんというか完全に敵側、ということではないみたいなのだ。

 

「・・・所属している組織の情報を、何故そこまで躊躇なく話せるの?」

「んー、所属・・・とは言いましたが、表現するならそうかな? といったところでして。例えるなら中間というか、どっちでもないというか・・・・・・」

 

 まいった。なんなんだこの子?

 

「じゃあ、理由は「挑戦です」」

 

 おん?

 わたしの疑問に被せるように食いぎみに答える明。

 少し驚いてその顔を見れば、見覚えのある感情をその瞳に宿しているのがよくわかった。

 挫折。そうか挫折がヒントだったか。

 

「折れましたよ。そりゃあもうポッキリと心が。今までどんなことがあっても止まらなかった開発の意欲が根こそぎです。

 私のドッ可愛いベイビーたちではまるで追い付けないスケールの違いがそこにあったんですもん。いくら私でも、膝から崩れくらいの衝撃がありました」

 

 じっと床を睨みながら、拳を作る手に力が込められていく。

 今彼女は言わなかったが、当時の心境ははっきりいって絶望と呼べるものであったのだろう。

 目指す遥か先をまざまざと見せつけられ、正気ではいられなかったのだろう。

 

「それでも私は、あの人に」

 

 そこを父に、絶望の首魁たるモノクロームに見出だされたのだろう。あの人は絶望が生む行動力というものを誰よりも理解している。けして停滞しない負の活力こそ、あの人が信奉してやまないものだ。

 

「勝ちたいんですよ、私は。

 あの人たちに、天才に! 超人に!

 今までは満足のいく子供たちを造り上げることがなによりだった!

 でもそれじゃあ、届かないんですよ!!

 

 なら、なんでもかんでも、どんなものだって利用してやる!

 

 組織だなんて関係ない!

 技術があるならなんだって身につけて自分のものにしてやる!

 あなたもだ!

 あなたに協力するのも、あなたを利用してより高みにいくためだ!」

 

 

 それが覚悟、なのだろう。

 純心だったはずの、ただの少女だったろうに、やはり毒が強すぎる。

 あまりにかけ離れた存在は、その影響によって容易く人の価値観を揺らがせる。自分が小さい存在なんだと、強制的に縛り付ける。

 

 

「わかった」

 

 

 それでもだ。

 それならそれで、いいのだろう。

 

「・・・いいんですか?」

「構わない。利用されてあげる」

 

 この少女は、絶望への同調ではなく対立を選んだ。それはなによりも得難い資質だ。弱さを理由に投げ出さなかったのだ。

 父はおそらく、それを見抜いていたのだろう。だからこうしてあえて身内として彼女を巻き込んだのだ。

 私の成長のために。

 

「これは試練だ。挑戦という試練だと父はいっている。

 そしてそれは示さねばならない。

 はっきりと、形として。

 そのために、わたしたちは協力しあう必要がある。

 目的のためには、それが必要だ」

 

 雄英体育祭。

 それが今度の山場となるだろう。

 

 

「わたしはあなたを利用して、ヒーローになる」

「私はあなたを利用して、あの人を越える」

 

 

 

 利害の一致はそもそもできているのだ。拒否することはありえない。

 こうして、わたしたちは手を結ぶ。

 そこには正義だとか悪だとか、小難しいことはなにもなく。

 ただ前に進みたいという、当たり前な思いだけがあった。




読了ありがとうございました
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ハツメちゃんの設定に反応してくださる方が何人かいてちょっと驚きました
そこまで突飛な考えじゃないだろうと思っていましたので
彼女はこんなかんじで関わってきまーす


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クウガの時みたいな関係性

どうもアゲインと申します

オールマイトの協力者

そんな四十一話でございます

申し訳ありません
動画の件について書いておりませんでした
警察関係者がそのことに言及しないわけはないと今さら気づきました

書き足しておきましたが話の流れはそこまで変わりません


 一方その頃、自身らも治療を終えたオールマイトと相澤はとある場所にて人に会っていた。

 

 

 

「どうもすみません。忙しいところを」

「お気になさらないでください。今回の事件は警察も無関係とは言えない事態ですから」

 

 

 塚内(つかうち) 直正(なおまさ)

 オールマイトの秘密を知る数少ない人物だ。今回判明した敵連合関係の事件を担当していることもあり、こうして彼の元を訪ねているのだった。

 

「そちらからの情報である程度敵の素性を知ることができています。こちらがその資料です」

「ありがとうございます」

 

 差し出された資料を見ながら質問を繰り返し、相互の認識を擦り合わしていく。

 敵のボス、死柄木 弔。

 改人、脳無。

 その裏で糸を引く、宿敵『オール・フォー・ワン』

 そして、かつての友。

 

「モノクローム・・・・・・」

「そうです。あの人が、また私たちの前に現れました」

 

 こちらを。

 そういって取り出したのは今回の襲撃とはまた違った内容のものだった。

 

「大量失踪事件・・・ですか?」

「大規模、と言い換えてもそう違いはありません。全国から数百人という失踪者が出ていました。捜査を進める内に、彼の関与が浮き彫りになってきました」

 

 資料から読み取れる範囲だけでもその言葉が誇張でないことがわかる。そこにはある共通点があった。

 

「失踪者たちは、その殆どが無個性の者たち・・・?」

 

 それは襲撃に参加していた敵連合とは別の組織と同じ特徴。

 三人という極少数でありながらその脅威は生徒たちを苦しめたと聞いている。

 

 「極めつけにはこの動画です。どのような手段を用いたのかわかりませんが、極めて鮮明に、襲撃の様子が撮られてネットワークに流されていました」

 

 手元のタブレットを操作して、その動画を見せてくる。

 それは襲撃の初めから最後のオールマイトの到着、決着までを映していた。

 しかもそれぞれに分断された生徒たちの様子さえある。

 

「いったいいつの間に」

 

 相澤はもちろん、オールマイトでさえそのことには気づかなかった。周りの生徒たちもまったくだ。

 

「裏でこの映像が出回っています。どうやらハッキングで多くのブログなどに強制的に流されていたり、動画投稿サイトなどにもあげられていました。大本はすべて消しましたが、拡散は止められないでしょう」 

 

 この映像からわかるこちらの戦力。個性やその弱点もおおよそ明らかにされてしまっている。

 失態としてマスコミや各所からの対応に身動きができなくされてしまうのは目に見えているだろう。

 そして世間は伝わる恐怖によって安定を崩していくことだろう。正義の象徴が苦戦し、ヒーローの卵が膝を屈する。

 

 そんな存在が、敵として姿を現した。

 

 しかも片方は、それまで無個性として身近にいた者たちだ。それが力をつけ個性を持つものに対抗できるだけの能力を有することができると証明されたのだ。

 

「・・・相変わらず、恐ろしい人だ」

 

 顔の前で手を組み、冷や汗を流しながら語る塚内。その表情は恐怖で彩られている。

 

「・・・あの人は、以前ヒーローとして活動している時から私たち警察と密な関係にありました。難解な事件を次々と解決に導き、彼の名は警察内で伝説とされてきました」

 

 当時のことを思い返しているのだろう。その働きはけして世間に知られることなくあくまで協力者という立場であったという。

 

「あの人が敵となった時、我々は荒れに荒れました。彼はすでに不動の地位を築いていて、信奉者、とでもいうべき奴らがいました。そいつらが起こした不祥事は、忘れられない大事件でしたよ。

 

 そして、今回の事件です」

 

 今まで姿を消していた奴が、組織を率いて表の世界に舞い戻って来たのだ。これほど恐ろしいことが、彼らにあるだろうか。

 

「・・・おそらくは、娘のためでしょう」

「娘!? 彼に娘がいたんですか!!」

 

 オールマイトはクラスに所属しているモノクロームの娘、希望ヶ峰 希のことをその理由だと口に出したが、それに塚内警部は身を乗り出して驚いた。

 

「え、ええ。ヒーロー科に」

「そんな・・・ということだ」

 

 乗り出した体を席に戻し、今度は頭を抱えて踞ってしまう。瞳は小刻みに動きその動揺がありありと伝わってくる。今、彼の頭の中は過去の事件のことが駆け巡っている。

 

「・・・・・・今度はこれまでとは比べ物にならない被害がでるぞ」

「やはり、そうなりますか」

「十中八九そうなります。単独犯の時ですら押さえきれない被害が出ました。それが今回は組織を作って大々的に、より大きな規模で行われます。失踪者全てが彼の傘下になったとすれば、見たことのないほどの犯罪集団となるでしょう」

 

 その未来が訪れるのは、ほぼ確実と言えます。

 

 その情景が脳裏に浮かび、体が震え出した塚内。吹き出す汗が滴り落ち、テーブルの上に散らばっている。

 

 

「---そうはさせません!」

 

 

 弱気な彼を励ますように、正義の象徴オールマイトは立ち上がる。それは力強い、ヒーローとしての姿だった。

 

「奴を止めるため、あの娘は強くなるために我々のところに来ました。その思いは、必ずやあいつに届くでしょう。私たちは、彼女という希望を信じています」

  

 

 『そのためにできることを、我々は全力でやり遂げる』

 

 

「・・・・・・ええ、わかっています。私たちもできる限りの協力はさせてもらいます。必ずあの人の脅威から、この国を守ってやりましょう」

 

 警察とヒーロー。

 立場は違えども、志すものは同じ、平穏な世界。

 改めて、そのことを確認し合った。

 決意は固く、それこそが彼らの原動力となるのだ。




読了ありがとうございました
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予想ができないから恐ろしい

どうもアゲインと申します

思いもよらないところから

そんな四十二話でございます

前話で書かなくてはいけない内容があったのですが、つい忘れていました
一応話の流れが変わることはないのですが書き加え部分がありますのでご注意ください
申し訳ありませんでした


 塚内警部との情報交換を終えたオールマイトたちは警察署から退散し、昼食をとるために近くの軽食店に来ていた。

 

「相澤君はこういったところには来るほうかい?」

「いや、自分はあまり」

「そ、そうかい」

 

 襲撃が終わってから、相澤は終止暗い顔でいる。原因は生徒を守りきれなかった責任感によるものだろう。

 オールマイトはそれをどうにかしようといろいろ声を掛けてはいるが、思うような効果は出ていない。

 そんな空気でいればおのずと店員の対応も固いものとなってしまうので、店内の雰囲気は一気に悪いものに変わっていってしまう。

 

 

 その時だ。

 

 

「すまないが、こちらにどうだろうか?」

 

 二人の様子を見かねたのだろう、そう声を掛けてくる人物がいた。奥のボックス席にいるその人物は相席を申し出てきており、これ幸いとばかりに彼らのところへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「いや、申し訳あr」

 

 配慮に感謝して礼を述べようとしたオールマイトだったが、相澤とともにその顔を確認した瞬間、戦闘態勢に思考を移すこととなった。

 しかし、店内という環境が手を出すことをさせない。一般人がこうも多くては被害が広がるのは目に見えている。

 目の前に、あの男がいるというのに!!

 

 

 

「いやいや、食事時に周りに配慮するのは当たり前さ」

 

 

 あまりに、大胆不敵。

 まったくと言っていいほど姿を隠す気がない!

 自分達というヒーローを前にして欠片も揺るがない精神力!

 この男は、この男は・・・!!

 

 

「モノクローム・・・!!」

「Exactly(その通りでございます) 」

 

 

 渦中の男、モノクローム。

 正義の対極にいる男が、なんの脈絡もなく、姿を現していた。

 

 

 

 

 しぶしぶ席に着いた二人は悠々と食事をするその男を視界に納めている。どう見たって無防備でありながら手を出させない環境でもって自らの身を守っている。

 

「なにか食べるかね? なんだったら奢るぞ」

「・・・ふざけたことを・・・・・・!」

 

 生徒に被害をもたらした敵の首領の物言いは完全にこちらを煽っていた。それはもう全力である。

 

「おいおい。おいおいおい。ふざけているだってそりゃそうだろうこんな機会はそうそうないんだ! あの雄英教師が二人もいるのに手も足も出ないんだぞ? これほど面白いことはない!」

「ぐっ・・・!」

 

 歯を噛み締めて悔しがる相澤とは対照的にオールマイトは静かなものだった。その理由はモノクローム、希望ヶ峰 絶の隣にいる人物にあった。

 

 隣の喧騒を意に介することなく静かに食事を続けている男性。年の方はよくわからない。短い黒髪を撫で付けていて眼鏡を掛けている。服装は喪服で上下を固めている。

 縁起の悪い装いの男だが、どうにもこう、見覚えがあるようなないような。

 

「オールマイト。彼はシャイだから余り見つめないでくれよ? なんたって最近まで引きこもりだったんだからね」

「・・・・・・好きでやっていた訳じゃないさ」

「それにしてはベットの上で随分な暮らしをしていたじゃないか」

 

 どうにも友好的、という訳ではないようだ。そのやり取りからは少なからず両者の間に壁のようなものを感じる。

 

「・・・彼も、お前の組織の人間か?」

「どうやらその目は節穴のようだ」

 

 オールマイトは絶にそう聞いたつもりだったが、応えたのは喪服の男だった。

 不機嫌な表情を隠すことなくこちらを睨み付ける。その眼光は嫌がおうにも威圧されてしまう、そんな迫力があった。

 

「テンションが高まったこの男に連れ出されたのさ。迷惑しているんだ、こちらは」

「外食なんて何年ぶりだと思っているんだ。外の光を浴びなきゃ苔が生えちまうぜ。それにテンションだって上がるに決まってんだろ?だって娘の成長はこの世の何よりも喜ばしいことじゃあないか!!」

 

 あ^~こころがぴょんぴょんするんじゃ^~。

 店の迷惑を考えてか絶の声は小さいものだったが、それに引き換え気持ち悪い動きをしていた。

 というより、聞きたいのはそんなことではない。

 

「答えろ、絶。何を企んでいる」

「モノクロームだ。二度と、お前がその名で私を呼ぶな」

 

 瞬時に表情を強ばらせ、強い拒絶の言葉を放つかつての友。

 

「希望ヶ峰でも神倉でもない。今、この私はモノクロームだ。その私に、敵に対する態度がそれか? 腑抜けたなオールマイト」

 

 目の前の男は、殊更に覚悟を問う。

 燃え盛るかのように錯覚するほど、その瞳には憎悪が膨らんでいた。

 そうだった、これなのだ。

 この男の一番注意しなければならないのは、この状態になってからだった。

 

「いいだろう。気分のいい私はお前のそのなまっちょろい正義感に乗ってやろうじゃないか」

 

 そして彼が懐から取り出したのは、なんの変哲もないトランプの束だ。

 

 

 

「賭けをしようじゃないか。ポーカー、一発勝負。私が賭けるのは我々に関わる情報を一つだ」

 

 

 

「・・・わかった。私は何を賭ければいい?」

「グッド。それならはこうしよう。

 

 お前の後継者の情報だ」

 

 !!

 内心、ぐさりと来た。

 どこまでも、どこまでも見透かす男だ。こいつは。

 何よりもそこを突いてくるか、この私の。

 だが。

 

 

「待て。それなら俺がやる」

「っ!?」

 

 決意した私の横から、相澤君が名乗りをあげた。

 どういうことだ。これは私とこいつとの。

 

「オールマイト。あなたとこいつじゃ相性が悪いはずだ。過去にいろいろあったあなたでは、余計な感情が邪魔をするかもしれない」

「しかし」

「構わないぜ」

 

 相澤君の提案をこいつはあっさりと許可した。

 

「だが、さすがにそれじゃあ情報はやれないな」

「敵が出す情報が正しいとでも?」

「私はそうだが?」

 

 いや、正直君の方が相性悪そうなんだけど。

 という感情があったが、もうすでに入り込めそうになくなっていた。

 そしてぐだぐだのまま、勝負が始まるのだった。

 




読了ありがとうございました
感想など大歓迎ですので遠慮なくお願いします


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大人の嗜み

どうもアゲインと申します

大人じゃなくても楽しいよね

そんな四十三話でございます


 権謀術数の権化とも言えるモノクロームを相手に、相澤は事細かに賭けのルールを決めていった。

 その重箱の隅をつつくような様子は警戒の現れではあったが、される側からしたらええかげんにせぇよ? と言われるくらいに鬱陶しいものであった。

 

 

「・・・・・・じゃあもう一度確認するけど、

 

 一つ、勝負は一回

 二つ、不正は禁止

 三つ、ジョーカーは除く

 四つ、ディーラーは店員がする

 五つ、手札の交換は交互に行う

 

 ・・・・・・これでいいね?」

「・・・・・・ああ」

 

 確認の声を聞き流すようにしながら、相澤は入念にカードの粗がないかを一枚づつ確かめてた。

 

「いい加減信用したまえよ。いくら調べたって何の変哲もないただのカードさ。そんなものに仕込みを入れるような低俗な奴ではないつもりなんだがね」

「君に信用なんてあったのかい? 初耳だ」

「ふふ、ぶっ飛ばすぞYou」

 

 こうして関わっている以上、この喪服の男も敵という立場の人間なんだろうが。どうしてか、この二人の間柄というか関係性がよくわからない。

 オールマイトから見て、いがみ合っているようにも見えるし、それにしてはギスギスした関係という風には見えない。

 

「あのー、まーだかかりそうっすかね?」

 

 膠着している現状に不満があるのは何も一人ではない。巻き込まれた店員も迷惑そうにしている。

 まあ訳もわからずこうしてキャラの強い集団とはあまり関わりたくないのは当然のことだろう。

 

「早くしてもらいたいんですけど」

「悪いね青年。あとで可愛い娘紹介してあげるから」

「まじすか!」

「気をつけろ青年。絶対よこらんことになる」

「だいじょぶだいじょぶ。ちょっとゴーストが囁いてるだけだから」

「ほらみろ青年。こいつ事故物件押し付けてるだけだぞ」

「違いますー家庭が大変なだけですー」

「そんな相手を紹介するやつがあるか。君、こちらの女性にしたまえ。顔が壊滅しているが環境は素晴らしいぞ」

「どっちにしろ問題物件じゃねぇか!! なにかしら壊れてるじゃん!! なんだよこの女顔面ブルドーザーじゃん!!」

 

 喪服の男が出した写真にはどう見ても女性とは言えないような容姿の、ギリギリ人に見えるくらいの人物が写っていた。

 

「・・・おわったぞ」

 

 そんな喧騒にかけらも興味を示すことなくカードを検査し終わった相澤のぼそりとした呟きが漏れる。

 何故だかすでに疲労しているように見えるが、そういえば彼はドライアイであったことを思いだした。凝視をしすぎて眼に負担が掛かったのだろう。

 

「おいおい、そんな状態で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない」

「いや、本当に大丈夫かい」

 

 その血走った眼が大丈夫だとは思えないのだが。

 

「まあいいかそれじゃ店員君。始めよう」

「まともな娘お願いします」

 

 そしてまとめられたカードがシャッフルされ、それぞれに配られる。

 五枚の手札が揃い、勝負の幕は上がった。

 

 

◆ 

 

 

「(まずまず、といったところか)」

 

 相澤は自分の手札を見て、ひとまずはそう評価した。

 既にジャックのペアが揃い、フルハウスも視野に入れれれば上位の役を揃えることもできるだろう。

 

「(しかし)」

 

 目の前の相手は、そんなことが通じる相手ではない。

 

 

 

 

 

「どうやらいい手配になったようだね」

 

 この男、モノクロームが、ただの賭けをするなどとは思えない。

 

「あれ? ちょっとまて」

 

 こいつ。

 

「なんで、目隠ししてるんだ?」

 

 そう。いったいいつの間にかこの男、視界を覆っていたのだ。これではカードの絵柄どころかこちらの表情すら見えないはず。

 

「(なのに何故、こちらのことが・・・!?)」

 

 まるでわかっているかのように、内心を言い当てた。

 

「天才と言っているだろう? この程度のことにいちいち驚くことはない。さあ、カードの交換はどうするかね?」

「気にするな。なめているだけだ」

「いうことじゃないよね。今そういうこというもんじゃないよね?」

「さっさとしてくれませんか!! いつまでもこうして拘束されてちゃ敵わないんですけど! 店長にどやされる前に終わらしてもらわないと」

「オーケーオーケー。ならば私から、三枚チェンジだ」

 

 裏側に伏せられた手札の内から選び、その内容を見ることも、迷いの一つもなく確信さえ見せつけてくる。

 

「・・・こちらは二枚だ」

 

 相澤も手札を交換し、そろった役を確認する。

 

「(ツーペア)」

 

 交換してキングのペアができた。だがまだだ。この程度では勝てる手札とは言えない。

 

「交換したい。そっちは」

「では私も。一枚だ」

「こちらも一枚」

 

 次の交換で、ついにきた。

 

「(よし!)」

 

 上出来だ。

 スペード、ダイヤのジャック。

 クローバー以外のキング。

 相手はジョーカーがないので最上位の役が揃うことはない。

 

「(今できる最善手、といったところか)」

 

 これ以上は役を崩すことになりかねない。これの手札で勝負しなければならないだろう。

 

「俺はこれでいい」

「そうか。じゃあ」

 

 

 

 そういったこの男の顔は、喜色染まった、およそ悪人がするようなそれとは隔絶したものであった。

 そして。

 

 

「------オォール、チェエエンジ、だ」

「・・・っ!?」

 

 

 それまで交換した手札を、そっくりそのまま捨て去った。

 

「・・・何を考えている・・・・・・!?」

「賭け事に必要なことが、なにかわかるかね相澤君」

 

 指を組ませて顔の前で構える。たったそれだけの動作に、どうしようもなく悪寒が走る。

 覆いの奥にある、その瞳が恐ろしい。

 見えずとも見られているのだ。その感覚が、今はっきりと全身を貫いている。

 

「・・・クレバーな思考だ」

「常人ならば、だ。私はそうじゃない」

 

 配られたカードを弄びながら、くっきりとその笑みを深くする。

 

「こうくるならば、こうくる。そういたならば、そうなる。だがね、そうならないのが、定石など意味をなさない事柄が、この世にはあるのだ。事象とは、時にわけのわからない結果を生み出す」

 

 

 さあ、勝負といこう。

 

 

「・・・・・・」

「お互いに、カードをオープンしよう」

 

 

 そこにある光景は、とてもではないが信じられないことだった。

 

 

「・・・・・・ばかな」

 

 そこにあったのは、こちらの手を越える配役。

 

「エースの・・・フォーカード!?」

「ほう、素晴らしい結果となった」

 

 まぎれもなく、それは確かに現実としてそこにある。

 

「楽しい時間だった」

「っ!? 待て!!」

 

「ああ、緑谷 出久君、だったかな」 

「「っ!?」」

 

「そもそも知ってた情報さ。お遊びにも緊張感がいるだろう? 君、お代だ。いくぞ」

「さらばだ」

 

 驚愕を露にするこちらなど歯牙にも掛けず、その場を後にしようとするあいつは、最後にそんなことを残して姿を消してしまう。

 

「くそっ!」

「相澤君・・・・・・」

 

 敗北感だけを抱かせるだけ抱かせて、嵐のように過ぎ去っていった。

 

 

 

 

「よかったのか?」

「いいさ、別に。それより調子はどうだ」

 

 

 

 なあ、オール・フォー・ワン。

 

 

 

 




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そもそもどういうことかというと

どうもアゲインと申します

明かされる衝撃の真実ーー!!
喪服の正体はAFOだった!!

そんな四十四話でございます

いただいた感想にはこの話でお答えしまさあ!


「・・・・・・あまり人混みでいうものじゃない」

「なに、気にするなよ」

 

 やあ、画面の前の皆様。

 どうも希望ヶ峰 絶だ。

 

 この脳内雑談は説明だから、まずは落ち着いて聞いてほしい。

 うん、「原作ブレイク」なんだ。済まない。

 今までいろいろしてきたけど、仏の顔とか信じてないし、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

 でも、あの最後の一文を見たとき、君たちは、きっと言葉では言い表せない「おどろき」みたいなものを感じてくれたと思う。

 ガチャ沼、社畜、未来へのよくわからない不安。

 殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないでほしい。

 

 

 とかは特になにも思ってないんだよなー。

 

 

 じゃあ、弁明をしようか。

 

 

 

 

 そもそも、どうしてこいつのことをオール・フォー・ワン、めんどいからAFO、もといアフォがこうして普通の人間みたく外を出回っているかというと。

 

 

 簡単に言えば、本体ということではないのだ。

 

 

「それで、どうだい。体の調子は」

 

 この世界は進んだ技術があったりなかったりしている。呼吸器に問題があるこいつが厳ついマスクをつけていたり、元の世界じゃ到底無理なロボットがいたり。

 それは。

 そしてそれは、私という天才にとって、とても都合がよかった。

 何故なら、超技術ほど話を面白く陳腐にするものはないからだ。

 

「クローンだとは思えん完成度だろう」

 

 倫理観やらが邪魔をすることなく、禁忌に手を伸ばすことができる。

 

「そもそもどうやって私のDNAデータを」

「ドクターに頼んだらポンとくれたぜ?」

「あのサイコ野郎・・・・・・!!」

 

 いやー、嬉々として渡してくれたよ。そのお陰でえらく研究が進んだよ。

 

「最初に言っておいた通り、その体には個性が宿ってはいない。さすがにそこまでは再現できなかった。でも健康そのものだろう、感覚だってそのままだ」

 

 VR、という技術があるだろう?

 某ブラッキー先生が無双しちゃったりいちゃついたりフラグを立てたり殺し合いをしたり。

 変態ドM発明家が殺し合いをしたり。

 更正のためのものが悪用されて殺し合いをしたり。

 何かと殺し合いをしたりするあれだよ。

 

 その技術は、有り体にいえば『別の肉体を動かす』という技術と言えなくもない。

 それなら、より自分と近しい肉体であれば違和感を緩和して現実でその肉体を動かすことも可能ではないのか。

 その研究の一端が、この男というわけだ。

 

 

「一応動き回れるくらいにはチューンアップしているし、食後の運動はいかがかな?」

「・・・・・・なるほど、こういうことか」

 

 

 裏道を進みながら人混みを避けていた私たちだが、その周囲には幾人もの人影が囲んでいた。

 当然、それは敵ではない。

 そんなものはここに来るまでに追い払われているだろうさ。

 

 

「---モノクロームだな」

 

 

 この、ヒーロー達の存在によってね。

 

 

 

 

 クローン体の性能テストのため、こうして街に繰り出したのだが存外面白い事態にできたものだ。

 

「相澤君の通報に呼ばれてきたにしてはなんというか、いまいちなかんじだなー。どう思うアフォ、いけるかい」

「おいまて。君のその呼び方はとてもではないが看過できんぞ」

「だって長いじゃん。キャラ被ってるし」

「もっとましなものがあっただろう。どうしてそうなる?」

 

「---我々を無視するな!!」

 

 二人で漫才を繰り広げていたら空気を読めない一人が口を挟んできた。よし、煽りはまずまずといったところか。もっとやろうぜ。

 

「えー無視するなって言われましてもーそもそもいつからいたのかわかんないくらい影が薄いじゃなですかー。

 あ、そうかごめんね!

 私たちのキャラが濃すぎるからか!

 濃いキャラ過ぎてごめんねごめんねー。

 

 

 だってお前ら今後出てこないモブキャラだからさ」

 

 

「・・・っかかれ!!」

 

 煽りに我慢の効かなくなった名も知らないヒーロー達がそれぞれの個性をもって襲い掛かってくる。

 集団戦を主体にするタイプのようで連携に淀みはない。

 並みの敵であれば数で勝っていても勝負にならないだろう。

 何度もいうが、並みであれば、ね。

 

 

 

 

「はっ!」

 

 まず最初に、地面が割れた。

 震脚によって粉々になった破片は周囲の相手の行動を阻害し、吹き飛ばされる者もいる。

 そして、目の前から飛び込んできていた一人は次の攻撃の餌食になった。

 

「ふんっ!!」

 

 震脚が強ければ強いほど、打ち出される拳は強力となる。ここでは地面の破壊に力を使ってしまっているが、さほどのことはない。

 余剰のそれでことが足りる。

 

「くほぉっ・・・!!」

 

 慣性の法則に乗っ取って突き刺さった拳は容易く相手を吹き飛ばし、腹部を強打された彼は血反吐を吐いて気絶する。

 一瞬で仲間の一人が倒されたのが影響したのか、そこでヒーロー陣の動きが鈍った。

 それは絶好の機会であることは、言わずともわかることだ。

 

「ぬん!!」

 

 私の背後に迫った一人にも、流れるような動きで回し蹴りがぶちあたる。

 戦場はすでに、一方的な展開となっていった。

 

 

◆ 

 

 

 そこからはドミノ倒しのように、次々と倒されていくヒーロー達。死屍累々といった具合になった裏道には、破壊の後が深く刻まれている。

 その様子を眺めながら、間接の具合を確かめているアフォに近づく。

 

「いやー危ないところだった。まさか巻き込まれそうになるなんてね。あれわざとだよね絶対そうだよね殺意があったよね」

「むしろ何故死んでない? 君には全力だったんだが一発も当たらなかったぞ」

「残念でしたー幸運もまた才能ですー」

「じゃあ改めてミンチにしてやる」 

 

 ファイトポーズを取るアフォだが、そうじゃないだろ今は。

 

「戦闘データも録れたし、今日はここまでとしよう。ほれ、体返せ」

「・・・・・・ここじゃなくてもいいだろ。というより、一つ疑問なんだが」

 

 拳を閉じたり開いたりしながら聞いてくるが、いったいなんだ。もう十分だろう。決戦に向けてのお膳立てというかリハビリに貸してやってんだから我慢しろよな。

 

「この体、本当に生身か?」

「そんなわけないだろ。骨格はレアメタルで筋肉の密度は人の五倍だ。やったな改造人間」

「やっぱり殺そう」

「我が才改学園の科学力は世界一ィィィ! できんことはないイイィーーーっ!!」

YOU MOST DIE(きみはしななければならない)

「話せばわかるさ」

 

 この後滅茶苦茶追いかけられた。




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希先生が教えるー!! モノクローム講座ーー!!

どうもアゲインと申します

娘がついに正体を明かす

そんな四十五話でございます


記念企画のほうも期限が来ましたのでいただいたもので書いていこうと思います
できる限り早くお見せできればと思います


 愉快犯、モノクロームの犯行により改造人間の体を手に入れたオール・フォー・ワン。

 別の体で全力疾走を繰り広げた彼は加減を間違え、ダウンして回収されてしまった。

 

 そんな、次の日のことであった。

 

 

◆ 

 

 

 襲撃から回復したヒーロー科の生徒の面々は、教室に集合されられていた。

 何故だか怖い顔をした担任、相澤の号令によるものである。

 そしてその隣には、見慣れない格好をした少女が佇んでいたのだから彼らの疑問は最高潮であった。

 

 

「それでは授業を始めます」

「「「(いや、だれだよ?)」」」

 

 クラス一同、当然の一致であった。

 

「・・・・・・希望ヶ峰、遊ぶんじゃない」

「形から入るタイプなので」

「「「ええええええええええ!!!!!!!」」」

 

 クラス一同、驚愕の一致であった。

 声をあげないものもいたがみんなの心は一つであることが証明された貴重な瞬間である。

 

 どうしてここまで驚いているかというと、彼女の格好が普段とあまりにも解離しているからだった。

 

 特徴的だった髪がピンクに染まり、服装はタイトスカートの女教師然としたものになっている。

 悪くもないのに眼鏡などをしており、人相をさらにわかりにくくしている。

 煌めく化粧、ちらりと開かれた胸元、怪しく光るリップ。

 簡単にいうならば『江ノ島 盾子ver女教師』を想像していただければいいだろう。

 

 このように、およそ十代の少女が出せる魅力を超越していたために学友と認識できなかったのである。

 

 

 

 

 

 さて、唐突なネタバレにより放心状態となった数名の意識が覚醒したところで、本日の議題に入るとしよう。

  

「・・・・・本日こうして全員に集まってもらったのは他でもない。昨日の敵連合のことについてだ。

 希望ヶ峰、ポーズをとるな」

 

 相澤の呼び掛けにより集合させられた理由を知り、ほとんどのものは表情を厳しくさせる。

 しかし何人かはたわわな胸を強調したポーズをした希に視線がいっているのでお叱りの声がかかる。

 

「今回は襲撃に参加していたとされる三人のことについて、希望ヶ峰から話があるのでこのような場を設けた。

 希望ヶ峰、踊るな」

 

 三人、というところに反応するのはその相手をしていたメンバーだ。特に飯田、爆豪は直接その脅威を身に染みて感じているので特に反応が大きい。

 しかし何人かは踊る希のほうを見ていたのでお叱りを受ける。

 

「・・・希望ヶ峰。後は頼むぞ」

「よろしいですとも」

「・・・・・・これも血統か」

 

 ふざけていたと思ったらいきなり真面目になるやがる。

 そんなところばかり似やがって、と内心で毒をぼやきつつ、教室の隅へと退散する。正直連日この家族に付き合うのは骨が折れる。

 相澤は痛みが発生する目をほぐしながら、疲れた精神を休めせることにした。

 

 

◆ 

 

 

「それではこれより襲撃犯の組織、才改学園の首謀者についてお話します。わたしの父です。以上」

「「「あっさりいったーーー!!!?」」」

 

 よし、掴みは上々といえるだろう。

 

「ど、どういうことなんだね!?」

 

 真っ先に立ち上がり質問をしてきたのは学級委員長の飯田君だ。そういえば一対一で相手をしていたんだか。

 

「わたしがヒーローを目指す一番の目的は、わたしの父であり第一級犯罪者、モノクロームこと希望ヶ峰 絶を捕まえること」

 

 そういうわたしのことを懐疑的な視線が包む。まあ、こんなことをいきなり話されて素直に理解できる人は少ないだろう。

 

「こちらをご覧ください。父です」

「「「正体明かしてきたーーー!!!?」」」

 

 分かりやすくするためにプロジェクターで父の姿を晒すことにする。たしかこれらは全盛期のものだとか。カメラ映りを完璧に意識しているのがさすがだ。一分の隙もない。

 

「えー、このように父はヒーローとして活動してきた経歴を持ち、こちらの内情についてある程度以上の理解と知識を有しています。ヒーローとしての思考と敵としての思考、両方を併せ持ち、それを悪意をもって執行する非常に質の悪い相手です」

 

 画像を変えて父の経歴を映し出す。

 

「こちらがヒーローとしての経歴、そしてこちらが敵としての経歴です。

 それぞれ有名なものとしては、

 

 『偽神悪鬼事件』、『暴走列車事件』、『連続頭部入れ換え殺人事件』といった、警察主動とされている難解事件の解決に携わっています。これはヒーローとしてです。

 

 次に敵としては、

 『軍事基地強奪事件』、『三万の行軍事件』、『裏切りの夕日事件』あたりが有名ですね」

 

 どれもが世間を賑わせた大事件である。あくまで有名なものだけでもこれなのだ。

 そんな人が、明確な敵として表舞台に再臨したのだ。

 それも、組織を作ってだ。

 

 

 

「そして才改学園は、父が作り上げた無個性たちの組織だと思われる」 




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二時間目だよ! 希先生!

どうもアゲインと申します

まだまだ続くぞ! 希先生!

そんな四十六話でございます


わたしがいったことを理解した時、クラスのほとんどがあり得ない、ということの内容の言葉をわめき散らした。

 まあ、直接見たりしたのは半数にも満たない人数しかいないのだ。

 たった三人。

 それも、その内の二人は一対一で戦い、その力を知るものはわたしと飯田君だけ。

 転移の個性を持っていたあの男と一緒にいた女の子が一番露出が多いけど、それだって正しく認識できているか。

 

「・・・みんな。おそらく・・・本当だ」

 

 騒々しくなる教室の中で、絞り出すようにして溢れたその言葉が、彼らの注目を集める。

 

「・・・昨日話したと思うが、僕はその敵に足止めを食らっていた。援軍を呼ぶために全速力で走っていたときに、彼は現れた。

 

 簡単にあしらわれた。

 

 ヒーローとなるべく研鑽を積んできた、そんな自信を砕かれそうになるほどに、いとも容易くだ・・・!」

 

 胸の内をさらけ出すようにしたその彼の姿は、周りのみんなの意識に深く響くようであった。みんな口を閉じて飯田君の方に視線を向けている。

 

「・・・・・・じゃあなにか。クソ眼鏡」

 

 最初の喧騒が嘘のように静かになるなか、爆豪君のイラついたような発言があった。

 明らかに納得などしていないというその表情はおよそ善人とはいえないような凶悪なものである。

 

「俺はそんな、無個性にいいようにされてたってのか・・・・・・!!!」

 

 プライドの高い彼からしたら、それは認められない事態なのだろう。実際彼は以前からそういった態度をとっていたということをどこかで聞いたことがある。

 あれは・・・そうか、模擬戦のときか。

 緑谷君との軋轢がそれに関わっているとかなんとか。

 

「・・・君がそうなのなら。その結果こそが真実だろう」

「ふざけんじゃねぇぞ!!!」

 

 暗に認めているという飯田君の言葉に、反発するように叫びをあげる爆豪君。

 

「そんなことあのクソ女は言ってねぇ! 俺が無個性に負けるわけねぇだろうが!!!」

「・・・僕は彼と戦いながら、彼らのことを聞かされていた。荒唐無稽な話じゃない。・・・少なくとも嘘ではないと信じることができるほど、彼の言葉には心があった!!」

「ふ、二人とも落ち着けって!!」

「そ、そうですわ!」

 

 ヒートアップした二人がお互いに詰め寄ろうとしているところを止めにかかる。これはもう少し詳しいことを話さなければならないだろう。

 隅のほうで様子を伺っていた相澤先生に許しを受け、次の話に移ることにする。

 

「そこまでだ」

「「はばっ!?」」

「「飯田!?」」「「爆豪!?」」

 

 諌めるのに手っ取り早くテーザーガンを打ち込んだ。

 

「安心してください。低電圧ですよ」

「明らかそういう問題じゃねえ!!」

「本当にそうなのか!? なんかビクビクしてんだけど!!」

 

 うるさいガキは嫌いだよ。

 騒音の原因を鎮圧し、みんなの視線をこちらに集める。

 いきなり仕出かしたわたしに若干怯えの感情を見せるが、構うものかよ。

 

「えー、先ほど述べた無個性の集団ということの根拠ですが、こちらをご覧ください」

 

 そしてプロジェクターからの映像に、判明している彼らの情報が映し出される。

 これは警察から提供していただいたものだ。

 

「これは彼らの資料です。照合した結果、確かに彼らは無個性であることが証明されます」

 

 そこには名前や経歴に加えて、しっかりと無個性ということが書かれていた。

 それを見る彼らの表情は難しいものだ。

 でも、重要なのはそこではないのだ。

 

「そして、彼らは全国規模の失踪者のメンバーであり、その多くが彼らと同じく無個性です。

 

 

 結論から言って、そのすべてが才改学園の組織下にあると見ていいでしょう」




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SS:慰労会とかに年齢は関係ない

どうもアゲインと申します

申し訳ありません!!
急な用事で執筆の時間が取れませんでした!!

流れを切ってしまう代わりにストックを差し出すので勘弁してたください!!

一期生たちのSSでございます


 雄英高校への襲撃に参加し、それなりの戦果をげた三人衆は帰還した足で御鏡と共に街へとくりだしていた。

 成果の報告を済ませた四人はその働きを評価され、モノクローム直々に報酬を与えられていた。その報酬で、ここに来ていた。

 

 

 

「・・・なぜここなのだ?」

 

 席に座りながら最初にそう呟いたのは、全身に包帯を巻いた男。

 『超高校級の番匠』こと、宮造 斉像である。

 治療も最低限に済ませたこの男は、自身の上に位置する少女の呼び掛けにより、あまり事情を知らされることなく連れてこられていた。

 

「学園長のおすすめなんですって!」

 

 それに応えたのはその少女、『超高校級の整体師』御鏡 ミラである。

 一期生筆頭という立場の彼女は、奮戦した仲間のためにできることはないかと絶に相談していた。

 その相談を受けた絶は快く応じ、以前からの行き着けであった飲食店を紹介したのだ。

 

「いいじゃねぇかよ。折角の機会だぜ」

「ずっと船の中というのも気が滅入るしね~」

 

 同調するように発言する二人も同じく一期生の襲撃者。

 

 『超高校級のスウィングマン』、斑目 球道。

 『超高校級のガンナー』、紅厳院 朱美。

 

 彼らもまた、ミラによってここに連れてこられていた。

 

「別に不満があるわけではない。そうではなく、」

 

 ミラの個性により直通で店に来ていたため、どのようなところなのかを知らなかった宮造は、奥の座敷で疑問に思っていた。

 

 

 

「何故、お好み焼きなのだ」

 

 

 

 そう、ミラが紹介されたここは、お好み焼き専門といいつつもんじゃ焼きなどもある某とんぼりみたいなところなのだ。

 経営難に陥ったところを絶に救われた過去を持つのでとても協力的だぞ!

 

 

「今日はお代は結構だ! さあ、食ってってくれよ!!」

 

 事前に説明を受けていた店長、店員各人はそれはもう満面の顔で彼らのことを迎え入れていた。

 恩人の教え子であるならばどうこういうのは粋じゃない、というのがここまでの態度をとられている理由である。

 料金先払いの大幅収入も原因だろう。

 

「そんじゃあ、俺は豚玉肉増しで」

「私は海鮮」

「ここからここまでお願いします!」

 

 ついていけない宮造を置いてどんどんと料理を頼んでいく。

 

「次席はどうするよ?」

「・・・・・・わかった。己も頼もう」

 

 しぶしぶといった具合にメニューを開く宮造。そこまで乗り気じゃないのは実は理由があるのだが、ここでいうのも野暮というものだろうかと、そう、気を抜いたのが悪かった。

 不運、だといえるだろう。

 そういうしかないのだから。

 

 

 

「---広島焼きを頼む」

 

 

 

「・・・あん?」 

 

 斑目は、敵意を。

 

「へ~」

 

 紅厳院は、薄い関心。

 

「ジュースおかわりください!」

 

 御鏡は気にしていなかった。

 

 

「おい、次席。お好み焼きなら大阪だろうが。ここにもちゃんとそう載ってんだぜ」

 

 斑目は敵意そのままに言葉を投げ掛ける。それは陽気な彼にあるまじき態度であった。

 

「・・・よもや、ここにもいたか」

 

 そう応じた宮造も、不穏な気配を発し始めている。

 

「え、なんで? なんで雰囲気悪くなってんの?」

 

 二人の男たちのいきなりの衝突に、紅厳院は困惑している。楽しいはずの慰労会でまさかの事態になってしまい動揺を隠せない。

 

「ふむ。もう少しですね」

 

 御鏡は気にしていなかった。

 

「はっ。どうやら次席は本物を知らんらしい」

「ああ、軟弱者の貴様には似合っておろうがな」

  

 

 ああ、悲しきは文化かな。

 対立は人の業であるというところか。

 たとえ仲良き間柄であろうと、理解し合えないものはあるのだから。

 

 

 

「決着つけてやらぁああああああ!!!」

「いったな腑抜けがああああああああ!!!」

 

 些細なことにより、戦争勃発。

 お互いに防御を捨てたガチンコである。

 

「いきなりなんなのこいつら!?」

「ああ!? ひっくり返すのしくじりました!!」

「いや止めてよ!! 筆頭でしょうが!!」

 

 意外と常識人だった紅厳院は巻き込まれたくないので待避した。

 御鏡はやっぱり気にしていなかった。

 

 お好み焼きが宙を舞い、タレと青海苔踊りだす。

 喧騒止まず、日が暮れるまでどんちゃん騒ぎがあったとな。

 後に訪れたモノクロームは語る。

 

 

『今度は野外でBBQにするよ。はっちゃけ過ぎだバーカ』




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どうにかしなきゃね! 三時間目!

どうもアゲインと申します

前回は失礼いたしました
今回はきちんと続きとなります

それでは、四十七話でございます


 わたしの言ったことがどれほど大変なことか、簡単に説明するならば今の敵の事情が変化する、ということなのだ。

 それも、かなり深刻な問題であるのだ。

 こんな風に言い合いをしている場合ではなく、迫る脅威について早急に対策をなさねばならないのだ。

 

 

「対峙した人たちには分かると思うけど、

 

 ---強いよ、彼ら。

 

 個性があるからとかじゃなく、人として」

 

 おそらくそれこそが、父が見いだした絶望としての強さなのだ。

 弱さ故の強さなのだ。

 初めからそうだったわたしたちとは、力に対する覚悟が違うのだ。

 

「そして展開も早い。どこからか襲撃の様子が撮影させられていてネットに流れている。

 これはアピール。

 世間に対する、ひび割れた人の中に染み込んでいく毒液」

 

 これにはやられた。これを見た者の中には父の組織に接触する影の有力者、実力者、日陰者たちがいるだろう。

 そしてもっと大きな組織となっていくことが考えなくたって分かる。警察関係も慌ただしくなるだろう。

 

「父は彼らの才能を目覚めさせることができる。そんな人たちが、何十、何百と徒党を組んで世界を壊すよ。

 彼らは絶望している。

 その絶望は、どんどん感染していく。

 やがて世界はその絶望で包まれる。このまま。なにもしなければ、必ずそんな未来がやって来る。

 

 父は、不可能を可能にする天才だから」

 

 なかなかに困難なことをさせるものだ。彼らに雑兵は一人としていない。全員が全てを投げ出してでも世界に爪痕を残さんとする死兵であり精鋭なのだ。

 それをわたし一人で相手することなんてできるわけがない。

 だから。

 

「こうなったのは、わたしがヒーローを目指したから。父はそのために敵としての活動を再開してしまった。わたしのせいで、いろんな人がその運命をねじ曲げられてしまっている。

 それでもわたしはやりとげたい。わたし自身の意思で」

 

 わがままなのは百も承知だ。こんなことになったのは、わたしのわがままに他ならない。

 

「でも、わたし一人じゃ父に、その組織に、絶望にはけして勝てない。そう改めて認識させられた。

 

 

 だからお願い、力を貸してほしい。

 

 

 今度はもっと大きな被害が出る。それを黙って見過ごすわけにはいかない。どうかお願い」

 

 わたしは頭を下げた。深く深く、体を沈ませるように。

 誠意を持って、頼まねばならない。

 

 わたしのその態度にざわつくクラスのみんなに、続けざまに語りかける。

 

「このままの実力ではどうしたって抵抗なんてできない。撃退だってできない。打倒などできようはずもない。

 

 『協力』して『強くなる』

 

 両方同時にしなければ、なにもできずに滅びを待つだけ」

 

 問わねばならない。

 『覚悟』を、なによりも『覚悟』を!!

 

「『壁を見る』か!!

 『星を見る』か!!

 二つに一つしか選べないのなら・・・・・・

 

 わたしはっ! 星の光を見ていたい!!

 希望の光に! 手を伸ばす存在で在りたい!!」 

 

 体を前に戻し、真っ直ぐにみんなを見渡す。相澤先生は黙って事態を見守ってくれている。すべてはお前次第だと、そうやって無言でもわかる視線を向けている。

 

 みんなが黙り込む中、初めに声を発したのは百だった。

 

「・・・希さん」

「百」

 

 それなりに親しくしてきたと思っている彼女だ。その瞳に浮かぶ感情を読み間違えるようなことはないと思う。

  

「私たちはヒーローとなるべくここにいます。今回の襲撃で実際の脅威を体験しましたわ。力をつけねばならないということは身に染みて感じております。あなたのことには驚きましたが、それがなんだと言うのです?」

 

 使命感を伴った『覚悟』のある輝き。それが瞳から感じられる。

 

「騙していたわけじゃないけど、それでも言わなかったことがこういしてあなたたちに大変な事態を引き起こしている」

「こんな事態にならなければ信じるもなにもなかったでしょう。今のことを前の私たちが聞いても、受け入れることもできなかったでしょう。

 そしてなによりも、希さん。あなたはこうして話してくださいました。頼ってくれた、頭を下げてまで。

 

 

 それに応えなくて、なにがヒーローと言えましょう!!」

 

 その宣言があたえた影響は凄まじいものだった。

 瞬間、沸き立つ教室。

 暗かった彼らの表情は一気に気力に満ち溢れ、それまでの雰囲気を払拭した。

 

「やってやろうぜ!!」「負けてたまるもんか!!」「怖ぇけど、怖ぇけどよ!!」「ここまでいわれちゃね?」「ぜってーぶっ殺す!!」「次こそは!!」

 

 口々にみんなの声があがる。

 

「希さん。私たちは負けませんわ」

「・・・・・・ありがとう」

 

 感謝しかない。ただ、感謝を。

 さらに騒がしくなる教室。その中を相澤先生が前に出てきた。

 

「威勢がいいのは結構だが、何もこれだけがお前たちのやるべきことではないことを忘れるな」

「「「?」」」

 

 

 

 

「---雄英体育祭。一大イベントだ、振るって励めよ」




読了ありがとうございました
感想など大歓迎ですので遠慮なくお願いします


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暗躍は やめられないし とめられない

どうもアゲインと申します

父、またも暗躍す

そんな四十八話でございます


 やあ、画面の前の皆様。

 どうも、希望ヶ峰 絶です。

 改造人間アフォの実戦テストもほどよく完了し、今は別の個体の製造に取り組んでいるところだ。

 別にあいつ専用という訳ではないからね。これはある意味とても素晴らしい交渉材料となるのだから。

 

「氷室君。交渉の席についてくれる方々はもうお目見えかね?」

「はい、学園長。五十三名の方がモニタールームでお待ちです」

「それは上々だ。早速いこう」

 

 進捗を確かめていた部屋から場所を移し、数多くのモニターがずらりと並ぶところにきた。モニターには既に幾人もの人物が映し出されており、よく映画とかで見るような大会議のような様相となっている。

 

 

「やあやあ、始めての方もそうでない方も、改めましてモノクロームだ。今日は有意義な時間を提供できるよう努力させて貰おうじゃないか」

 

 不遜な態度を全面に押し出した私の姿に、画面の内の何人かは目に見えて不快な顔をする。それだけでこいつらが中の下の奴らということが確認できた。せいぜいほざいてもらおう。

 

『高々敵の首領が大きな態度ではないか。あまり我らをなめるなよ』

 

 そう告げてきたのはこの中でも身なりのいい男だ。アジア圏のとある国のなんたら企業の重鎮だったかな?

 

「いや失礼した。豚ごときに払う敬意は持ち合わせていないものでね。謝るよ、ごめんなブーちゃん」

『貴様っ!?』

『待て』

 

 容易く激昂した豚を諌めたのは白人の男。ふふ、懐かしい顔だ。なんだい、こんなところに出てくるほどの男になっていたか。

 

「久しいね、アイン」

『ええ、お久しゅうございます。モノクローム』

 

 ヒーローの時に出会い、そして敵になったこの私に対しても変わらない態度をとってくれる。

 

『あの時のご恩、ここで返せればと思い参上いたしました』

「なに、仕事のついでだっただけさ。そこまで言われるほどのことじゃない。死者には安息が必要であったというだけのこと」

『そのお陰で、私はこうして地位を得ることができました。全てはあなたが絶ち切ってくれたからです』

「嬉しいねぇ。過去がこうして良い結果を産み出すのはとても嬉しいじゃないか」

 

 思わず二人の空間になっていたところに、次々と声が掛かってくる。

 

『ヘイ! 俺もいるぜ旦那!!』

「ボールスか! かみさんはどうだ、元気してるか?」

『あー、あたいもいるんだが・・・』

「おおマリー、綺麗になって。町娘がえらい変身だ」

『ここにもおりますぞ』

「弁天丸! 弁天丸じゃないか!!」

 

 いやー、懐かしい顔ぶれだ。みんな元気にやっているようで私はとても嬉しい。嬉しい限りだよ。

 

「じゃ、始めようか」

 

 悪の組織の秘密の会議だ。盛大にやらかそうじゃないか!!

 

 

 

 

「さて、こうして諸君をこの場に呼んだのは他でもない。我々才改学園は君たちに売り出したいものがあるのだよ。氷室君、データを」

「皆様、こちらをご覧ください」

 

 席に腰かける私の背後に大型ディスプレイで映し出されたのはアフォの戦闘の模様だ。もちろんこれは改造人間として、データ取りの一環にとこさえていたものだ。

 これに見入る面々に、今回に主旨を説明していく。

 

「ご覧の通り、とある人物から造り出した所謂クローン体でね。良くできてるだろう。なんの個性も持たずこの性能だ」

 

 そして、これがもたらすのは革命と言えるものなのだ。

 

 

「諸君には、この技術を交渉材料に---」

 

 

 ---ちょっと世界征服の足掛かりを作っちゃくれないかい。

 

 

 今の私の表情は、それはそれは邪悪に染まっていることだろう。だがそれを咎めるような人間はこの空間にはいない。

 我ら輩、絶望の徒なり。

 さあさ、いやさと、励もうじゃなか。

 

 

 

「さあ、お楽しみは、これからだ!!!」




読了ありがとうございました
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華開く 時限爆弾 ちゃくちゃくと

どうもアゲインと申します

コネを使って楽しく戦争準備だ!

そんな四十九話でございます


この短い間にまた評価をしていただいてありがとうございます
とても励みになっております
サイドストーリーももう少しで投稿できそうなので、どうかお待ちください


「こいつの利用価値は言うまでもない。医療という面に限った話でも多岐にわたる使い道があるだろう。まさしく命を繋ぐ希望となるだろうさ。体を動かせない、そんな奴らのは喉から手が出るほど。

 

 地面を駆ける自由を。

 水を泳ぐ自由を。

 風を感じる自由を。

 触れ合える感動を。

 

 振り撒いてやろうじゃないか!

 存分に善人面して思いきりかっこよく彼ら彼女らを救ってやろう!

 救世主ってやつになってやろうじゃないか!

 ヒーローなんて不確かな、敵なんて傍迷惑な連中とは格が違うってことを見せつけてやろうぜ!!」

 

 ふはははははははははははははははは!!!!!!!

 実に、実に気分がいいぞ!!

 最高にハイってやつだーーー!!!

 

「戦争ビジネスもいいな!

 愛だ平和だ囀ずっている連中に見せてやりたいもんだ!

 問題がまるで解決していないのに終わった気になっているんだから爆笑もんだよね!

 火種はそこらじゅうにあるというのに、まるでそんなものは無いみたいにただただ表で起きる事件にばかりだ!

 

 だから、わからせてやろうじゃないか!!

 

 真に絶望せんとするためには、希望がなくてはならない!

 そのために、種を蒔こう!

 絶望の大輪を咲かせるために、世界に希望の種を蒔こう!

 世界に溢れる希望とやらが、どれだけ陳腐でありふれていて下らないかを、私たちのもたらす仮初めの希望で塗りつぶしてやろう!

 

 争いを起こそう!

 どうしようもない争いを起こそう!!

 絶滅しなければならないほどの大きな争いだ。殺し尽くさなければならないほどの戦争だ。主義主張が真っ向からぶつかり合う抗争だ。

 

 拳で足で頭突きで歯で、

 剣で槍で斧で弓で、

 毒で銃で爆弾でミサイルで、

 

 総力戦だ。まごうことなき『完全版ヒーロー大戦~永劫無限闘争ボクアカ』を、ここにいる全員で演出してやろうじゃあないか!!」

 

「我々は!

 この世全ての善を成そう!!

 

 我々は!

 この世全ての悪を成そう!!

 

 全ては、そう全てはしかるのちの絶望のためだ!!

 悪でなく善でなく、悪であり善である、この世全ての最も忌むべきものを、この地上にこの世界に、乱立する多種多様な駒を擁するこの盤上に、地中深くから地面を抉り砕いて登場してやろう!!!」

 

 ああ、いいぞ。

 これはいい!!

 これほどの材料はない、逸材はない、好機はない。

 今この時でなければ上げられない、大きな大きな打ち上げ花火。

 その下準備のために、彼らの協力があればなお良い。

 

「やってくれないかな、地ならしを頼みたい。この世界が希望に溢れれば溢れるほど、もたらされる絶望は期待できるなんてものじゃなくなるだろう」

 

 この提案に、諸手をあげて協力を申し出てくれるのはかつての仕事で出会った彼らだった。

 

『オーダーはなんだ? うずうずしてるんだ、早く頼むよ!』

「アイン、英国側の指揮を執れ。じっくりといけよ」

 

 白人、アイン・ドルガーは政争で敗れ、舞い戻った男だ。政敵の不正を暴くことを手伝い、犠牲となった妻子の敵討ちをした。

 

『はっはー! 祭りの準備か堪らんねぇええ!!』

「ボールス。合衆国に根付く差別問題に火を着けろ、肉を焼くようにな」

 

 黒人、ボールス・ゴドウィン。マフィアに狙われた貴族の娘を救うために裏の世界に足を踏み入れた男。返り討ちにしてやって今ではゴッドファーザーだ。

 

『あたいはいつでもいけるよ!!』

「マリー。歌姫の君には酷な頼みだが、どうか歌ってくれないか。悲しみの歌を」

 

 歌姫、マリー・アリアントワット。赤い髪の町娘は夢を見て、そして潰された。ならばと新たなレコーディング会社を立ち上げ、ライバルに十倍近い大差をつけて勝利した。

 

『いやはや、若いもんはいいですのー』

「弁天丸ー。お前さんにもどんどん働いてもらうからなー。頭の固い連中をそれとなく誘導しろ。心地良い夢を見せてやれ」

 

 老獪、大門寺 弁天丸。因習により双子の娘を殺さなくてはならない息子のために一族を裏切った。最終的に拳で語り合った結果、今ではいがみ合いながらも立派な子に育て合う関係だ。

 

 そして集められた御大層な者たちに次々と指示を出し、世界をよくしつつすぐに崩れ去るように、トランプの城を構築しよう。

 

「君たちの貢献に、我ら才改学園全力で応えよう。精鋭を用意して全ての行程を満遍なくこなしてみせよう。本気の度合いが違うってことがどれほどの脅威を生み出すか、

 

 

 ---結果をもって証明しよう」

 

 世界を相手取るのに人員はいくらあっても足りない。それなら潜在的なものを作り出し、民衆をその流れに乗せてしまおう。

 

「重要なものは何か、それをしっかり確かめながら、甘い密で世界を溶かそう」

 

 さあ、お互いに準備期間といこうじゃないか。

 励め、娘よ。

 父はこうして暗躍するから、そっちはそっちでがんばるんだよ。

 良い感じの混沌とした世界情勢を作り出しておくから、後で思う存分戦おうじゃないか。

 

 

「楽しみだ。ああ、楽しみだとも。なんもかんもぶつけ合って、最後に立っていたほうが勝者だ。そういう戦いを、しよう」 




読了ありがとうございました
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SS:学園の日常 前編

どうもアゲインと申します

体育祭の前にサイドストーリーとなります

今回は前編となります。才改学園はこんなところだよ、というないようです

それではどうぞ!


「えー、皆さんようこそですの。この才改学園は皆様の入学を歓迎致しますの。今回はこの私、『超高校級のガイド』こと廻廻(めぐりめぐり) (めぐり)が皆様の案内役を勤めさせていただきますの。よろしくお願いしますの!!」

 

 うー、緊張しますの~。

 皆さん私より背が高いから、見下ろされてのこの視線は厳しいですの~。

 

「(う~、学園長の無茶ぶりですの~・・・!)」

 

 巡はこの新しい入学者の方たちの案内を任されたんですの。新人さんたちはこの施設のことを知らないので、きちんと紹介しておかなければ危険が危ない状態なのです。

 基本的にここの人たちは表の世界の軛から解き放たれた反動ではっちゃけているので内部がかなりカオスになっているんですの。

 なので、ここでしっかり認識してもらわなければならないのです。しっかり、きちんとですの。

 

 

「それでは、ついて来てくださいですの!!」  

 

 

 

 

 順序としては使用頻度の多い施設から、ということで、ここからですの。

 

「まず最初に紹介するのは教室棟ですの。皆さんが授業を受ける各教室があるところですの。こちらは教頭の『指方 学』先生ですの」

 

 私の指す方向にいるのは学園長にヘッドハンティングされた方ですの。特化型の多いこの学園において各方面に満遍なく精通している貴重な、そしてまともな先生ですの。

 

「皆さん、この学園はその名の通り『再開』を目指したものです。暗い泥沼から、その泥を纏ってでも這い出ていた者たちの修練所だ。我々は諸君らの奮闘をそのまま評価する。そしてその努力が、君たちの絶望の矛先を鋭利なものとするだろう。

 

 研げ、しかして武器とせよ」

 

 おお、さすがは並みいる教師を退けて教頭という地位を勝ち取った強者ですの。言葉から感じる力強さが半端ねぇですの。

 

「---む?」

 

 教頭先生は何かを察知したようで、まるで霞のようにその姿を眩ましましたの。おそらくはまたやらかした生徒、それか教師の動きに反応したんですの。

 その一瞬の出来事に新入生の一部でニンジャコールが止まりませんの。でも教頭先生は違いますの。

 ニンジャは存在しない。イイネ?

 

「このように、頼れる教師陣もあなたたちをバックアップします。安心はしていいですが、それに胡座をかくようではぶち殺されますので心掛けて励みましょう」

 

 では、次にいくですの~。

 

 

 

 

 次はグラウンドですの。ここも船の中とは思えないほどの規模となっていますの。ありとあらゆる路面の状況を再現し、どんな状況でも動けるように訓練するため。

 そして。

 

「---来ましたの」

 

 今いるのはレーストラックの会場ですの。もちろんそこにはレーシングマシンのバイクの猛り狂う騒音が鳴り響いている。見えてくるのはデッドヒートを繰り広げる二機のマシンですの。

 高速でゴールに迫り、ほとんど同時に到着しましたの。

 

「---どっちだぁああ!!!」

 

 機体を止めてそう怒鳴りながらバイクから降り立ったのは、美しい(かんばせ)をヘルメットから解放する美女。

 抜群のプロポーションをライダースーツで際立たせた長身の女性ですの。

 

「---はよ言えおらぁああ!!!」

 

 こちらも同じように汗まみれの顔を晒すのですが、女性と違い全体的にごつい作りの男性ですの。

 しかもその髪型も、女性のほうが長髪ストレートに対してドレッドという一見不良にしか見えないのですの。

 

「---出ました! カメラ判定の結果、同着! 引き分けです!」

 

「「くそがぁああああああああああ!!!!!!」」

 

 結果判定に同時にヘルメットを地面に叩きつけたのです。恐ろしいのです。一撃でへしゃげているのです。仮にもこの学園謹製のものであるにも関わらずにですの。

 

 『超超人級のライダー』、殺陣亡(さつじんぼう) 三咲(みさき)

 『超超人級の走り屋』、荒走(あらばしり) 凶児(きょうじ)

 

 才改学園が誇る二大スピード狂としてその名を馳せる、教師の中でも注意が必要な御仁達ですの。

 それでもここの使用にはこの方達の認可がなくては、勝手にやってレースに巻き込まれでもしたら重症ですめば良い方ですの。

 

「お二方、お疲れさまですの!!」

「「あぁんっ!!」」

 

 こ、怖いですのーー!!

 で、でも! ここで退いてはお役目を全うできませんの!

 

「あ、新しい入学者の施設回りに来ましたの! お二方にもご挨拶をと思いまして顔出しさせていただいた次第ですの!!」

「あーそんな話あったねー。マシンのこと考えてて耳に入ってなかったわ」

(かしら)が言ってた新顔か」

 

 私の後ろに控えている方達を一頻り眺めた後、それはもう含みのある笑顔で語りかけてきますの。

 

「よう社会の底辺ども。ここじゃお前らみたいな奴等を一線級の使える人材にするために、日夜あたしらみたいなのが働いてる」

「始めに言っておくがよ、好き勝手できるとは思わねぇことだ。まずはお前らを笑ったり泣いたりできなくするところからやるんでな」

 

「そして注意しておくことだね。ここに今までの常識は通用しない。なぜなら」

「それに縛られていたからこそ、元の社会で落ちこぼれたからだ。その枷はここには存在しねぇ」

 

「最後に、他のどのルールよりも優先されるもんがある」

「これさえ守っときゃ、ミンチになることはねぇだろうよ」

 

 

 

「「(ヘッド)に逆らうな。そこんとこ、夜露死苦」」

 

 

 

『『『イエッサァアアアーーーー!!!』』』

 

 なんということでしょう。匠の見事な手腕により、見事連帯感を得た彼らの動きは、まさに軍隊か族のような規律正しいものとなりました。

 

「ご教授ありがとうございますの!!」

 

 私もぴたりと敬礼で返しますの。怖いからですの。死にたくないからですの!!

 

「じゃあ、あたしらもっかいやってくっから」

「メンテが先だ。あばよ」

 

 そういって躊躇なく整備室の方へとバイクを移動させていきましたの。脅威はついに去りましたの。

 

「・・・ふー。このように、ここは人外魔境の巣窟となっていますの。今言われたことを魂に刻んで決して忘れないようにするんですの。

 

 それでは、早めの昼食を挟んだら次に施設にいきますの。レッツゴーー!! ですの!!」

 

 早くいかないと席の確保ができませんの。自由な人たちはいくら予定を組んでいても無視してその場を荒らしてしまうんですの。迅速な行動こそが勝負の決め手になりますのーー!!




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SS:学園の日常 中編

どうもアゲインと申します

学園の生活、中編

そんなサイドストーリーでございます


 グラウンドの視察も終わり、大食堂にやってきましたの。ほとんどが学生のこの学園の食堂ですからそれはもう巨大なのです。

 そして何より頑丈!

 度重なる破壊と改修を繰り返した結果、ビルの倒壊に巻き込まれようと無事という訳の分からない強度を誇る施設となったのです。

 もっと他に強化するべき場所があるはずなのですが、あまりの頻度に左右堕先生がブチキレて全面改修を施したのですの。

 

「この食堂は皆さん無料で利用することができるのですの。あくまで学食だからですからね。趣向品が欲しい場合はまた別の手段が要りますの」

 

 ついでだからここでその説明もしておくことにしますの。

 私はポケットからスマフォのようなものを取り出してみせる。

 

「これは『電子生徒手帳』ですの。生徒全員に支給されて、各々の働きによってこの学園内だけで使える電子通貨『モノポイント』、通称『MP』が使えるようになりますの。他にも校則や学園の地図、もちろん通信にも使えますの」

 

 食事をしながら聞いていた面々から疑問の声があがりましたの。

 ふむふむ、『どうやってポイントを獲得するのか?』、ですか。よい質問ですの。当然ともいえるそこにいち早く気付けるかはこの早馬の目を盗むかのような環境では大事なことですの。

 

「---それは自分が答える」

 

 食堂の扉から出てきた人影に、ここにいた人たちの視線が集まりましたの。けして大きいとは言えない声量でしたが、不思議と空間に響くような、そんな声でしたの。

 

「始めまして諸君。私はこの学園の教師の一人、『超超人級の生存者』こと不死身沢(ふじみざわ) 生死牢(せいしろう)だ。担当は主に特殊授業を請け負っている」

 

 私にも彼らと同じものを、と厨房に指示を出し、皆さんの視線が集まりやすいところへ移動しましたの。

 

「巡。少し時間を貰うぞ」

「いえいえ、どうぞよろしくお願いしますの」

 

 あまりこういうのはどうかと思うのですが、教師の中でもだらしない格好なのです。上下を黒いスウェットに身を包んでいるのですが、汚れというかしわというか、とにかく着っぱなしなのです。

 お風呂には入っているようですが、それでもこれはちょっと・・・。

 

「さて、君たちが気にしているポイントだが、基本的には才能開発の過程で得ることができる。これは授業を真面目に受けていれば貰える。次に研究補助、これはこの学園でその才能を認められたもの達の研究に駆り出されることがあり、その活動を評価するものだ。そして---」

 

 そこでいったん溜めを作り、周りを見渡すようにして視線を巡らせたかと思うと、ゾッとするような笑顔を浮かべた。

 

「---私が提供す特別授業。内容は---

 

 

 ---コロシアイだ」

 

 その瞬間に新入生の間には言い知れない悪寒が全身を駆け抜けていったような感じがした。まるで首輪を掛けられてしまったかのような、死神にあったかのような、そんな不吉な感覚が止まないのだ。

 

「おいおい安心しろよなにも本気にすることないだろ。まじな殺し合いをするわけじゃないのだから。確かに本気の殺意をもってあらゆる計略を使い対象を殺す訳だが、なにも本当に殺さなくていい」

 

「特殊な施設内で共同生活を送り、その中で行うコロシアイサバイバルだ。一定時間ごとに殺人の動機が与えられる。殺人が成立した時点で殺されたと判断されたものは退場。状況を再現した人形に入れ替わる。そしてその死体役を三名以上が見つけた時点で本題に入るわけだ」

 

「諸君らはこの事件を調査し、学級裁判にて殺したものを見つけ出す必要がある。殺したものをクロ、それ以外はシロとなり、クロを見つけ出せばクロだけがお仕置き、それ以外のシロにポイントを進呈する。違う相手をクロとした場合はクロ以外の全ての生徒がお仕置き。はれてクロの勝利となり、大量のポイントをゲットできる。簡単だろ?」

 

「私の用意するコロシアイのための研究だ。人間の根本に迫る究極の探求だ。多くの参加を期待しているよ」

 

 それではよい学園生活を。

 いうだけいって、いつのまにか感触していたランチを返却しにいってしまったですの。

 

「・・・えー、こういたったことも学園の一部ですの。あまり人気がないのでここまで出てきたみたいですの。今は気にすることはないので、どうしてもポイントが欲しい場合以外は関わらないほうが得策ですの。

 

 さあ、気を取り直して午後からも視察を頑張りますの!!」

 

 不死身沢 生死牢。

 自身の探求のために人がいるのに、その性質のために望みが叶わない、自業自得な男であった。




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SS:学園の日常 後編

どうもアゲインと申します

学園の案内、後編

そんな内容でございます


更新時間が遅れて申し訳ありません
新作の案がパッと頭に浮かんだため、その内容をまとめるのに時間がかかってしまいこのような時間となってしまいました
本当に申し訳ありません


 さて、妨害がありましたが改めて、そしてはりきって次の所に向かうのですの。

 午後からは、さらにこの学園特有の施設を見学していきますの。

 

 

 

 皆さんを連れてきたのは船の後方に作られた施設ですの。今までのようなまさしく学校、という雰囲気を覆すような夜の大人の施設。

 

 そう---カァージィノー(カジノ)、ですの。

 

「レディース&ジェントルメン!! 娯楽の殿堂へようこそですの! ここは夢と希望と絶望、スリルと興奮が混ざりあったハイテンションアミューズメント!

 知力と根性、運とイカサマ!

 全てを駆使して相手を打倒する至高にして思考の勝負場!

 

 その名も!! 『タレントダービー』!!!」

 

 イエーーー!! 最高に盛り上がってますのーーーー!!!

 光るネオン。響くサウンド、泣きわらい。

 愛憎こもごもなこの巨大賭博場こそ、我ら才改学園が誇る総合アミューズメント施設なんですの!!

 

「ここでは先程の『モノポイント』を賭けて勝負しますの。勝負の内容は自由。カードでもボードゲームでも、殴り合いでも構いませんの。重要なのは、『いついかなる条件であれ、勝負に全力を尽くすこと』」

 

「全戦力を使い、極限まで集中し、逆境に僅かな光明を見いだせるか。そこまでして、初めて自身の才能と向き合うことができる。

 というのが学園長のお考えですの。

 才能といっても、本人がそれを受け入れるかは本人次第ですの。極端な例でいえば、心優しい人に殺人鬼の才能が見出だされたとしますの。当然その人はその才能を忌避するでしょう。しかし、重大な局面で、それは大きな枷となります」

 

 丁度いい、そこでやっているのをちょっと見学させてもらうのです。これを見ればよく理解できるですの。

 

 そこには、小さなテーブルの上で、膨大な殺気を発しながら対峙する、二人の男が居たんですの。

 

 

 

 

 積み上げられたチップは、それぞれのポイントを視覚化したものだ。一枚の最上限の五十万ポイントチップ、それが山となり谷となり、うず高く積まれている。

 

「・・・もう、いいだろう」

 

 そうつぶやいたのは、この長い戦いに辟易していたからだ。すでに何百戦と繰り返し、何百人と蹴落とした。最後に残ったこの男こそ、本当に最後の相手であった。

 

「そうだな」

 

 疲れたようなこちらの声に応えたのは、逆に普通な、特に気負ったものを持たない男の声だ。

 

「ダニエル。オールインだ」

「・・・応じよう。オールインしよう、赤代」

 

 それでも、やはり同じことを考えていた。いくらやっても鼬ごっこ、それはここまでの対戦で嫌というほど味わった。

 それならば、この一戦で勝負を着けようというのは合理的な考えであった。

 

「勝負」

「・・・勝負」

 

 お互いの手札を公開し、この勝負の幕引きを行った。

 

 

 結果、

 

「なん・・・だと」

「ば、馬鹿な」

 

 お互いに、豚。ノーペア・・・! 役無し・・・!!

 

「き、貴様! ここまできてこれか!!」

「お前だってそうだろうが!! どうすんだこれ!!」

 

 通常であれば、ドローという結果となる。

 しかし!

 ここではそうではない。この学園では、オールインでのドロー、引き分けの場合、

 

 胴元の勝ち、掛け金は全回収となってしまうのだ・・・!!

 

 そしてこの場合の胴元とは、この施設の責任者。

 

「---どうやらうちらの勝ちみたいだね」

「---うん。ボロ勝ち」

 

 柱の影から二人の女性が現れる。一人は無表情だったが、二人揃って明らかに楽しげな雰囲気を醸し出している。

 

「いやー、儲けた儲けた。大儲けだね」

「待ってくれ先生!」

「待たない。ルール」

「今月の食費が!?」 

 

 無慈悲なる宣告により、絶望の淵に追いやられた男子は膝から崩れ落ちた。そんな様子には目もくれず、嬉々としてテーブルのチップを袋に回収している。

 

「ふひひ。大量大量!!」

「ざくざく」

 

 この二人こそ、この施設の責任者にして無敗のギャンブラー。

 

『超超人級の賭け狂い』、霧島(きりしま) 令忌(れいき)

『超超人級の予言者』、霧島(きりしま) 幽忌(ゆうき)

 

 姉妹の教員であり、たびたびこうして大会のようなものを開いてはカモを見つけて根こそぎ刈り取るのだ。

 犠牲者にはご冥福を祈っておこう。

 

「次はもうちょっと上手くやるんだよ~」

「パフェ食べたい」

「お~よしよし! お姉ちゃんがたらふく食べさせてあげるからね~」

 

 よっしいこう。

 いこう。

 

 そうして振り替えることなく、この場から去っていってしまった。

 それはもう、躊躇の欠片も持たないものであった。

 

 

 

 

「皆さんお分かりですね。こうして、力がなくば奪われるだけなのです。それが嫌ならば、全力で抗わなくてはならないのです。

 励まなくては、すかんぴんなのです」

 

 新入生一同、同じことを思った。

 『ああ、この人も被害にあったんだな』、と。

 憐れんだ目線にさらされた巡は、誤魔化すようにして大声をあげる。

 

「と、とにかく! こんなことにならないためにも、頑張って才能を身に付けなければならないのです!!

 さあ、次にいきますですの!!!」

 

 そうしてその後も、他の施設を回り、新入生は基本的なことを学んでいった。

 彼らもまた、経験を積み、その才能を磨き掛けていくことだろう。

 自らの意思の元、絶望の尖兵とならんがために。




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SS:Fate/Grand Orderに絶望父が参戦した場合

どうもアゲインと申します

いや、つい・・・ね?
思いついちゃった(てへぺろ

適当に序章流しまーす


 人理継続保証機関カルデアのマスター、藤丸立香はトラブルによって特異点にレイシフトされてしまった。

 デミサーヴァントとなったマシュ・キリエライトやカルデアの所長、オルガマリー。現地のサーヴァントたちの手伝いもあり、特異点の原因を解決することができた彼女だったが、そんな彼女たちの前に衝撃の展開が起こっていた。

 

 

「まったく、不快な話だ」

 

 

 どこかで聞いたことがことがあるような、具体的には通信機から聞こえてきたような、じゃじゃ馬娘のわがままに付き合っている本名不明な高校生のような、死んだ魚みたいな目をした銀髪みたいな、住所不特定で巨大な剣を持っている死に戻り兄貴似の、そんな声が聞こえてきた。

 

「レフ!ああ、レフなの!」

 

 歓喜の声をあげてその存在を受け入れるように体を向けるオルガマリー。

 しかし、現実はそんなに甘くなく、彼女の望んだような結果にはなることはないのだ。

 彼の口から語られる驚愕の真実、それはあまりにも絶望的なものであった。

 人理焼却。

 そしてすでに自分が死んでいることを告げられたオルガマリーは、見せしめとして疑似天球にへと徐々にくべられようとしていた。

 

 

「いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!」 

 

 

 傷を負い協力者もいない立香たちでは助けることは、できない。

 

 

「だってまだ褒められてない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!」 

 

 

 聖杯はその役割を終え、新たなサーヴァントが呼ばれることも、ない。

 

 

「どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!?」

 

 

 彼女の悲痛な叫びは、なんの救いも招かない。

  

 

「誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!」 

「やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!」 

「生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!」

 

 だから、それは救いではない。

 その声に応えたのは、救世主ではないのだから。

 

 

 

 

 

「---その絶望、実にいい」

 

 

 

 

 

 浮遊する彼女の体に向かう一陣の影。

 それは容易く彼女を浚い、赤熱する天球へと向かう運命をねじ曲げた。

 

「・・・え?」

 

 自身をしっかりと抱き締めるその感覚に、乱れていた思考が停止する。視界に入り込むその光景に、ただただ自分が助かったということだけが彼女の頭を埋めていた。

 

「貴様!?」

「「所長!!」」

 

 レフは自身の術が破られたことに驚愕し、二人は助かったオルガマリーの無事を喜んだ。

 

「何者だ!」

 

 正体不明の邪魔物の存在に、嫌が応にも心が掻き乱されるレフ。見たところ英霊のようであるが、それならそれで登場のタイミングがおかしいのだ。

 聖杯はその機能を止め、これ以上英霊が召喚されることはない。しかし、この男は確かにここに存在している。

 何かがおかしい。そのような思考をさせられているのにも臓腑が焼かれるような憤怒に晒される。

 

「あなたは・・・」

「すまないね。妻と娘に操を立てているものだから、あまり女性とこういうことを続けていられないんだ」

 

 レフのことを意に介さず、力の抜けたオルガマリーの体をゆっくりと丁寧に地面へと下ろす介入者。

 その男性に見える存在は、なんとも派手な格好をしていた。

 

 

 

 

 

「さて、問われたなら答えよう」

 

 短く揃えられた髪は灰、桃、黒の三色に彩られ、男の異様さに一役買っている。

 

「ヒーロー、とは間違っても呼ばれたくはないしね」 

 

 黒と白、二色を巧みに使った前衛的なスーツに身を包み、

 

「御初に御目にかかる」

 

 とても悪辣な、恐ろしい気配で高らかにその名を告げた。

 

 

 

「我が名はモノクローム!! これでも悪党でね、クラスはアルタ-エゴ。

 絶望の声を聞き馳せ参じた!

 そうさ! こんな機会は滅多にない!

 こんなまさにな展開を、英雄などに任せてなるか!! やらせて堪るものか!!

 絶望をもたらさんとする者を、この私以外に認めるものか!!

 

 全戦力をもってお前たちの計画をぶっ壊してやるから、楽しみにしてるんだな!!!」

 

 

 異世界の大悪党、運命の地へと降臨する。

 少女たちの数奇な冒険譚に加わったこの男によって、その旅路は、さらに混迷を極めることになるだろう。

 しかし、それはまた、未来の話である。

 今はただ、この男の登場が起こすことを見守ろう。




続きません
適当にステータスです

クラス:アルタ-エゴ
属性:混沌・悪
真名:希望ヶ峰 絶
時代:20XX~不明
地域:日本

筋力:C 耐久:D 敏捷:C
魔力:E 幸運:E 宝具:EX

保有スキル
絶望の権化:EX
カリスマ:A
脳力解放:EX

クラススキル
単独顕現:A
ヴィラン:A
家族愛:EX

宝具名
疑似宝具『おもしろき、こともなきよを、おもしろく(ダーティー・ワーク)
ランク:EX
種別:対人~対界宝具



キャラクター詳細

正義の敵対者。あまねく絶望の権化たらんとする者。
才改学園の疑似人格、アルタ-エゴ研究の一環として開発されたものが何故か流出した結果、偶然の連続によって霊核を得て顕現した。
元の人格とさほど違いがないが、英霊となって肉体的、物理的な限界が存在しないためもっといろいろする。
基本的に英雄が好きくない。希望の象徴だから。
魔神柱も嫌悪している。絶望とは自分であってお前らちゃうねんぞ。
それでもマスターのためには戦っちゃう。だって娘と同年代だし。
所長のぽんこつ具合もなんだか見てられない。
でも、家族を馬鹿にするやつには微塵も容赦しない。絶対にユルサナイ。

「悪党の流儀でいいなら働こう。労働の対価はあのドル箱の飯だ」


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戦いはすでに始まっている的なあれ
威圧を基本とした挑発 


どうもアゲインと申します

気になった人たちへの対応はこうする

新章、体育祭騒乱
そんな五十話でございます



 才改学園への反抗を決意したヒーロー科一同。

 それはそれとして、目の前に差し迫った一大イベント『雄英体育祭』、これに向けての研鑽の日々が始まろうとしていた。

 しかし、それは何も彼らだけではない。

 この機会に己が力を示さんとする他の科の者たち。彼らもまた、能力の向上に勤めると共に、格上の相手として認識しているヒーロー科の者たちの動向に気をつけていた。

 

 なにより、今回の襲撃はすでに知れ渡っている。自分達よりもっずっと早く実戦を経験したというのは大きい。

 話題性グンバツな1-Aの教室は、大量の見物人によって包囲されていた。

 

 

 

 

 がやがやと騒々しい廊下からの視線に晒されるクラスの面々。庶民派な者たちの多くはこの状況に慣れていない。緑谷などはガチガチになってしまっている。

 だが、そうはならない者もいるのだ。

 

 

「・・・ウゼェ」

 

 クラス随一の不良、爆豪。

 周りのプレッシャーなど意に介さない、傍若無人の権化である。

 

  

「・・・ふん」

 

 光を操る個性を持つ、伊留御。

 へし折られた根性が逆に強靭な精神を作りつつある。

 

  

「・・・・・・」

 

 クールな無愛想男、轟。

 No.2ヒーローの息子の彼には、乗り越えねばならない壁の存在で頭がいっぱいだった。

 

  

「・・・この甘味、深い・・・!?」

 

 サイボーグ系少女、希。

 おやつの羊羮の旨さに、今更ながらに驚愕していた。

 

 

 

 若干一名外のことには一切興味がなかったりしてるが、概ねこの四人が中心となって関心をかっていた。

 妬み嫉みは多々あれど、その力量は注目されてしかるべきであろう。警戒と牽制のため、多くの観衆が辺りを取り巻いていた。

 

 

「・・・あれが?」「ああ、そうみたいだ」「きつい顔してるな」「あれがエンデヴァーの息子か」「あっちの二人は?」「知らない奴等だ」「希ちゃんprpr」「違反者だ裁きに掛けろ」「惜しい奴を・・・いや惜しくはないか」

 

 

 集団にもおかしな連中がいるみたいだ。緑谷は別の警戒をするべきではないかと思った。

 そうこうしている内に教室の中で動きがあった。そもそもが放課後なのだ。自分を鍛える時間が少しでも欲しいのに、こうも邪魔されては堪らないとばかりに、まずは爆豪が動いた。

 

 

「・・・どけ、モブども」

「「「ああ!!」」」「「「なんだと!!」」」

 

 喧嘩を売っていくスタイルである。

 一瞬にして偵察しにきた者たちを敵にまわした。

 爆豪の不遜な態度の物申すべく集団から幾人か動きがあったが、それを一陣の風が押し止めた。

 突然の風の発生源に目をやれば、そこには腕を変形させた少女が立ち上がり、扉の外の群衆に向けてその腕を向けている。

 

 希である。

 

 頬を膨らませてモゴモゴとしているが、咀嚼が終わったのかそれも終えて外に歩いてくる。

 

「・・・いくよ電飾」

「伊留御だっつってんだろ」

 

 雑な呼び掛けに伊留御が応えつつ、海を割るモーゼの如く闊歩していく様はまるで女帝のような有り様である。

 その後ろに控えるように伊留御、爆豪が続く。

 見るものが見ればマフィアかなにかの子供にしか見えない面子である。

 するとその足を止め、行進を集団の中で取り止める。

 なんだと思う周囲の者たちに向けて、少女は語り出す。

 

「ここにいる奴等の気がしれない。こんなことをしているぐらいなら、自分を鍛える時間に費やした方がいい」

 

 喧嘩を売るスタイルである。

 一瞬で周りが敵になった。

 

「・・・ふぅ。今の挑発で感情が動いた人はそれこそ相手にならない」

 

 あきれたような物言いに、言い返そうとしていた面々の出鼻を挫く。『やれやれだぜ』とでもいうような、あまりにもイラつく動作を見せつけてくるので上手く言葉に出来ないのもあり、唸り声のようなもの以外は声をあげられないでいる。

 

「全力で相手をする。くだらないことをする暇があるならそのための力をつけてからくることにした方がいい。

 

 

 じゃないと優勝する意味がない」

 

 それは爆豪などよりよほど不遜な、圧倒的に上からの優勝宣言であった。

 呆気にとられる群衆を尻目に、彼女たちは歩みを進めていってしまう。

 その背中には、決意のようなものがありありと浮かんでいる。

 それが見えた者はその発言がハッタリでないことを感じ取った。

 

 強敵の存在を知った者たちは、行動を開始した。

 そんれによって起こるだろう、騒乱がすぐそこまで迫っているのだった。




読了ありがとうございました
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基本から何から

どうもアゲインと申します

何故に爆豪?

そんな五十一話でございます

今回はパッと浮かんだ設定でSS書いたのもあげてます
あとで前章のところに移動させます


 ひと足先に訓練場にきた三人は、体をほぐしつつ今日の訓練メニューの確認をしていた。

 さて、画面の前の皆様も気になっていることだろう。

 

 何故、爆豪 勝己が集団行動をしているかということを。

 

 無論これには訳がある。作者が適当こいているわけではないのだ。

 この唯我独尊男がこうして彼女たちと行動を共にしているのは、深いようで別にそうでもないような、そんな理由があるのだ。

 

 そもそもプライドの高い男である。本来であれば一人で鍛練をするはずだと皆さんは認識しているはずである。

 その彼がなぜ、こんなことをしているか。それは彼らの会話で分かるだろう。

 

「・・・さてと」

 

 まず口火を開いたのは希。その口調は短いながらもあまり楽しいものでなのが感じられる。

 

「本当にやるの?」

 

 その疑問は当然爆豪へのものだ。彼女は当初、さらに素早い動きと咄嗟の機転を効くようになるための練習相手として伊留御を伴うことにしていたのだが、そこに爆豪から待ったが入った。

 曰く、『俺を鍛えてくれ』とのことだったが、特にこっちに利点がないので最初は拒否していたのだ。

 

「・・・頼む」

 

 先程までの覇気など微塵もない姿がそこにあった。

 まるで牙を抜かれた獣である。

 

「マジで来るとはな」

「・・・チッ・・・!」

 

 伊留御もあまり予想していなかった展開に疑問の声をあげる。てっきり希は断ると思っていたのだ。あまり男子とは行動しない希であったので自分に声を掛けられたことにも驚いていたのだから。

 

「・・・とりあえず、やるべきことは多いけれど何よりしなくてはならないのは基本的な能力向上」

「個性は鍛えなくていいのかよ?」

 

 まあ、それでも一度請け負ったのだ。並々ならぬ決意があってのことだろうことは予想できる。今さら、ということだろう。

 希の命じることはいたって普通のことであったが、爆豪は個性も鍛えるべきではないかと問う。

 

「天才肌なあなたは感覚でものを捉える能力が高い。しかもそれを冷静に分析して、根拠立てて説明できるくらいには頭がいい。でも、それで全ての状況に対応できるわけじゃない。動きにムラがある、癖も多い。我流で身に付けた戦闘スタイルはあなたの個性に合っているだろうけど、個性の使用を前提としていればそうでない状況には対応できないことになる」

 

 今回の催しに、そんな状況がないとも言い切れない。

 その可能性は少ないが、それでも手札が多いに越したことはない。

 

 その二つのことから、爆豪の訓練は体の使い方をまず学ぶべきということにしたのだ。

 

「いいよね?」

「・・・・・・分かった」

 

 よし、それではいってみよう。

 

「まずは目隠しをしてもらう。あなたにはわたしのエアブローをその状態で回避してもらう。音で判断して避けて」

「馬鹿にしてんのか」

 

 いきなりの無茶振りを軽く言われた爆豪はすかさずつっこんだ。だがまだマシな方であることを彼は知らない。

 世の中にはいきなり殺し合いを強要されることもあるのだ。この程度で臆さないでほしい。

 

「なんでいきなり難易度MAXなんだよ。おかしいだろ曲芸やりにきてんじゃねぇんだぞ!」

「そう・・・じゃあ」

 

 そうか、彼はそこまで出来ないのか。

 ならば。

 

「マシンガン掃射付きのデスマーチと殺意満点組手のどっちがいい?」

「選択肢がどっちにしろ地獄じゃねぇか!!」

「どっちもでいいんじゃね」

「ふざけんじゃねぇええ!!!」

「いいかもしれない」

「悪魔かてめぇ!!!」

 

 おお、なんという顔だろう。まるで画風が変わってしまった。

 

「なにが不満?」

「全部だ全部!! なんだそのレパートリーは殺す気か! 大体お前はその間なにするんだよ!」

「電飾に背後から光線の雨に晒されつつ、行動を共にする」

「それ俺にも被害が出るじゃねぇか!?」

「電飾じゃねぇ伊留御な」

 

 なかなか進まない訓練内容のすり合わせはそれからも続いた。

 その結果マイルドにはなったが、そこには爆豪の涙ぐましい努力があったことをここに記しておく。

 この日は軽い手合わせで終わったが、彼の表情はそれはもう疲弊していたのであった。

 こんなことでいいのかと、疲労した精神と肉体を休めつつ、あまりにも早い眠気の訪れに抗えなかった爆豪は、ろくな成果を得られないままに初日の訓練を終えたのであった。

 全ては明日から。

 彼の苦難は、始まったばかりである。




読了ありがとうございました
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誇りのために泥にまみれる覚悟

どうもアゲインと申します

遅れてすんませんしたぁあ!!
用事を片付けるのに時間が掛かってしまいこのような時間になってしまいました!
本当にすいません!!

爆豪くんの決意

そんな五十二話でございます!!


 朝早く目覚めた爆豪は早朝の訓練に参加するために学校へと向かっていた。

 希からの指示である。

 何をするにも時間が掛かっていいことはない、できる限りのことは教えるがその後は自分でやらなければならない。そのためにもやれる時にはやる。

 そう事前に言われては無下にできるわけもなく、自分から頼み込んだ手前拒否もできずにこうして行動しているのだ。

 

  

「(強くなるためだ・・・)」

 

 一番になる。

 その目標にできることは何でもする。

 例えそれが越えなければならない相手からの教えでも、それを糧にもっともっと強く、高みにいるヒーローたちに、憧れのオールマイトに匹敵する奴になってやる。

 

 胸に秘めた決意を原動力として、爆豪はさらに早く地面を駆けた。

 

 

 

 

「あっ!」

「・・・チッ」

 

 嫌な顔を見てしまった。

 彼の前には相変わらず冴えない顔をした緑谷 出久が驚いたような態度で固まっている。

 

「・・・ふん」

「ま、待ってよかっちゃん!!」

 

 絡んでいる時間がもったいない。

 そう思って訓練場に向かおうとすれば緑谷からストップがかかる。気に障る存在との絡みなどごめんだが、どうにもそうはさせて貰えない。どうしても聞かなければならない、気迫のこもったそれは、ここに来てから身に付けてきた度胸もあって尻込みすることなくこちらの歩みを止める。

 

「・・・なんだクソデク」

「あ、あのさ。希望ヶ峰さんたちと特訓するって本当?」

「・・・なんでそんなことが気になるんだよ?」

「そ、それは・・・その・・・」

 

 爆豪が素直に応えたのが以外だったのだろう、どもりながらであったが、はっきりとした口調で疑問を口にする。

 

「かっちゃんだったら、一人でやると思ってたから」

 

 至極当然な疑問だった。今までであればそうだっただろう。どんな困難であっても、自分一人の力でまずはやりとげる。

 そんな自分であっただろう。

 今までであれば。

 

「勝つために決まってんだろ」

「勝つため?」

 

 理解したのだ。今までの自分では、あの女に勝てないと。

 

「あいつの親父が組織した連中と戦った。あんだけ自信があったのに手も足も出なかった。俺以外にもいた、それなのに遊ばれていた。それが個性を持った敵なら、まだ納得したはずだ。

 

 でも無個性だった。前のお前みてぇーな無個性にだ」

 

「・・・っ!?」

 

 それは衝撃をもって彼らの間に駆け抜けた、恐ろしい事実だった。

 希から語られた様々な事柄は、その脅威をまざまざと見せつけてくれた。

 緑谷もまた、ありえないという思いがあったことを否定出来ない。

 元々オールマイトですら無理だと断定した、無個性のヒーロー。

 今でこそ個性を得てその道を進み始めた彼だが、最初はそのことに心折れたものだ。

 それが、敵として確かな戦闘力をもって現れたのだ。

 無個性でも、個性に勝てる。

 そんな夢物語が、現実に起こってしまった。

 

「わかんだろ。奴らは強ぇ」

 

 爆豪は拳を握って目の前に構えた。

 悔しさ。情けなさ。至らなさ。

 それがための、享受という選択であった。

 

「そんな奴らが何百といやがる。そいつらが行動を開始するのにどんだけ時間が掛かるかなんてわからねぇ。なら、できることをしねぇで後悔するなんてことを俺は許せねぇ。

 

 今度こそ、完膚なきまでに勝つ!」

 

 そのためにやるだけだ。

 

 言うだけいって、爆豪はその場を去った。

 迷いなどなく、しっかりとした足取りで。

 緑谷もまた、その姿から感じるものがあった。強くならなくてはいけない。ライバルに置いていかれないように。

 彼もまた、自分を鍛えるために行動を始めるのだった。

 

 




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だいたいこんな戦闘をします

どうもアゲインと申します

こんな感じで戦うよ!

そんな五十三話でございます


 朝の訓練場は人が少ない。

 見れる範囲には人影すらない。

 ただし、あいつらを除いて、という条件は付くが。

 

 

 

 

 

「---おらっ!!」

 

 地上を走り回っているのは伊留御の野郎だ。

 背後に作り出した光球から光線を何本も打ち出している。

 狙いは上空を飛び回るあの女だ。

 

「・・・ふっ・・・はっ・・・」

 

 飛行ユニットだとかいうのを背中に生やした希望ヶ峰 希だ。

 光線によって隙間の少なくなった空を縦横無尽に動き回り、的を絞らせない。

 爆豪の目からしても、対応に手こずるスピードである。

 

「ぜぇええあああ!!!」

「・・・・・・!!」

 

 絶叫のち---極光。

 伊留御の渾身を込めたであろう一撃は、中央から延びる極太の光線を補助するように幾重もの細い光線が複雑に絡み合って突き進む。さらには光の珠が進行上に展開したかと思えば、爆発したかのように空間を喰らい潰す。

 

 回避など許さないとばかりに放たれた破壊光線の奔流は、その本質たる光の速さを存分に発揮して希に迫る。

 

 希もまたユニットの形状を変形させ、被弾面積を極端に減らす。

 さらには驚くべき行動に出た。

 

「マジかよっ・・・!?」

 

 本来であれば回避のために動くのがセオリーだ。だがそれを希はしなかった。むしろ全速力で伊留御のいる地上へと急降下を始めたのだ。

 

「・・・・・・!」

「・・・っちぃい!!」

 

 一直線に地面へと落ちた希。

 追突ギリギリで九十度に切り返し、速度を殺すことなく伊留御に向かって低空を駆ける。

 伊留御も展開していた光の柱の一部をほどき、地上から迫る希へと光撃を繰り出す。

 驚異的な反応速度で回避運動を繰り返し、ついに伊留御へと手を掛ける。

 

「---こなくそぉおおお!!」

 

 最後の交差、伊留御は右手に溜めた光ごと拳を叩きつける。 

 

「・・・・・・!!」 

 

 希もいつのまにか展開していたガントレットのようなもので応戦する。クロスカウンターのような形で撃ち合った拳はお互いを弾き飛ばした。

  

 伊留御は希の加速を受けて。

 希は伊留御の光爆によって。

 

 それによって制御がなくなった光柱の類いが分解され、綻ぶようにしてその形をなくしていく。

 降り注ぐ光が幻想的だが、そんなものに気を回すような奴がいないことが残念である。

 

「・・・ちくしょう」

「まずった」

 

 すぐに立ち直った二人がそれぞれ立ち上がる。その表情は台詞と違ってそこまで暗いものでない。

 

「・・・朝っぱらからなにやってんだ」

「あ、来てたんだ」

「おせーぞ」

「ふざけんな十分早いわ」

 

 爆豪の存在に気づいた二人は服の埃を払いながら近づいてくる。あそこまでの戦闘を繰り広げたというのにあまり疲労していない。

 

「何やってんだよ?」

「模擬戦」

「見りゃわかんだろ」

「規模がデケーよ。ちょっとは自重しろ」

 

 こんなところであんな戦闘を繰り広げては他の奴らにだって能力がばれるだろう。いくら早朝でも来ている者がいないわけではないのだから。

 

「つーか、なんであれを避けれんだよ」

「あれ?」

「あのやたら眩しいのだよ」

「俺の『ビックバンアタック』だな」

「「クソだせぇ」」

「買うぞ。高値で買うぞその喧嘩」

 

 まあいい。それより聞きたいのはなぜあんな行動をしたかだ。

 

「あんなことした根拠があんだろ」

「まあね」 

 

 そういった彼女は体をほぐしつつ説明を始めた。

  

「そもそも電飾の攻撃の性質に問題がある。

 大きな範囲を塗りつぶした攻撃は、光の速度で迫る巨大な柱のようなもの。確かに避けることは困難。

 でも、この面での攻撃にはある欠点もある。

 

 一つはそれが光であること。

 測定方法は数多くある。

 発射のタイミングや範囲、それらは事前にわたしのセンサーに見切られていた。

 

 そしてそれが一直線の攻撃であったこと。

 いくら範囲が広くても、わたしがいたのは上空。移動は地上と違って自由であるのだからとれる選択は多い。

 当然、面で迫る攻撃でもその範囲から外れてしまえば問題ない。

 急速降下はその中で一番ましな選択だった。

 それだけ」

 

「・・・・・・」

 

 軽くいってくれるが、そもそもそれをできるのはこの女だけだ。

 

「(俺なら、できていたか・・・?)」

 

 そう考えてしまうが、あの状況でできることはないと思ってしまう。

 

「別にあなたがそうする必要はない」

「っ!?」

 

 思考を読まれているのか、すぐさま言い当てられた。

 驚く爆豪の顔を興味なさげに眺めている希からはそんな言葉が出てくる。

 

「これは模擬戦。わたしはあの状況でどう戦うかという経験のために

ああしていた。これが本当の戦いならもっと他の手段を使う。

 あなたもそう。

 どんな状況であれ、相手にしたときに自分の能力を十全に扱えるようになればいい」

 

 そういう訓練をこれからしていく。

 基礎から発展まで、きっちりと。

 

 そうつぶやく希の瞳は赤く染まり、爆豪はなぜかそれに悪寒を感じて背筋を震わせていた。

 まだ特訓の日々は始まったばかりである。

 どれほどの困難があるのだろう。

 爆豪の受難は、まだその全貌をまるで見せていないのだから。

 

 




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ゲーム開始二秒で死亡する難易度

どうもアゲインと申します

希望の前には困難がなければならない・・・!

そんな五十四話でございます


 訓練二日目、放課後。

 前日の軽い手合わせを除けば、まともな訓練がようやく始まったといえる。

 爆豪、伊留御は事前に示し合わせた訓練場にて希の到着を待っていた。

 

『ちょっと待ってて』

 

 それだけ告げた希は二人を先行させ、どこぞに姿を眩ませたのだ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 正直、気まずい。

 そもそもが同じような粗暴さを持つ二人だが、友好などこれまでほとんどなかった。

 お互いに自分から話をするような性質ではなくなっている。

 

 爆豪は緑谷との関係性による葛藤故。

 伊留御は折れた鼻っ柱のため。

 

 自分を内面を表に出すことに戸惑いを覚える感覚。まさしくボッチの思考である。

 会話という最大のコミュニケーションをとることを今まで放棄してきた。自分中心で動いてきたツケともいえる。

 周りの視線ではなく、特定の相手との力関係の変化が原因といよう。

 

 そんな二人が共に訓練を行うとしても、積極的に話しかけるということはなかった。

 

「おまたせ」

「「---いや、まったく!!」」  

 

 まあ、それも希が来るまでであった。

 似た者同士、言うタイミングすら同じであった。

 伊留御にいたっては『きた! メイン盾きた! これで勝つる!』と希の到来に感謝すらしていた。

 

「・・・? まあいいや」 

 

 なんか変な二人だな。というぐらいにしか希は思っていない。

 この娘もボッチの素質があるものの、父親の強い個性が耐性を作り人見知りなどしない。あの強烈な父親の前ではほとんどの人間が凡人である。

 臆せず攻める。

 友好関係を広げるのに躊躇などなかった。

 

「今回から本格的な訓練に入るよ」

「・・・ああ、頼む」

 

 爆豪のやる気を確認した希は軽く頷き返し、それ(・・)を連れてきた。

 

 

 

 

 

 『ゴウン・・・ゴウン・・・!!』

 

 あまりに巨大な物体の移動に伴う轟音。

 地面とそれの軋みによって起こる嫌な音が伴奏が加わり、殊更その異様さを際立たせる。

 学校という環境において見ることなどないそれ(・・)は、圧倒をもってこの場に召喚されていた。

 

 

「これが、あなたの壁だ」

 

 

 巨大トレーラー。

 コンボイとも呼ばれる大型輸送用車両が、黒い猛獣がごとき威圧を放ってその存在を露にしていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 爆豪、唖然。

 圧倒的・・・唖然・・・!

 肝をブッコ抜かれたと言っていい!!

 

 基礎を鍛える。

 その宣言から飛び出してきたこのモンスターの存在に、完璧に思考をぶっ飛ばされる。

 

「・・・・・・」

 

 伊留御、驚愕。

 ただただ驚愕・・・!

 

 とんでもない女であると認識していたが軽く越えてきた。

 想像できようはずもないことを仕出かされ、

 

 しかしそれもまた認識不足であることをこのあと知るのだ。

 

 

「明ちゃん。展開せよ」

『ラジャーです!!』

 

 トレーラーから知らない声が響いたかと思えば、途端に変貌を遂げていく荷台。

 壁が割れ、その後ろから支えるようにして小型の運搬ロボが訓練場に展開していく。

 恐ろしいほど迅速な動きで展開を終え、瞬く間に陣を構築した。

 

 

 

 

 

「こいつは・・・・・・」

 

 空白となっいた思考が回復し、現実を見ることができるようになった爆豪の目の間にはロボと壁にて作られた特設会場の姿が。

 

「開発科所属の発目 明共同のもと、どんな環境でも対応できるように開発した訓練用変形トレーラー。

 

 その名も『コンボイの謎』

 

 これであなたの心身を鍛える」

 

 クソゲーの予感しかしねぇ。

 

「では始めよう。

 死(ぬかもしれないシゴキ)と苦しみ(とか)に満ちたゲームをな・・・」




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修行編だと思っていた私がいました

どうもアゲインと申します

突然の父 何があった?

そんな五十五話でございます


 とある海域の某所。

 才改学園を乗せた学園艦のデッキの上で黄昏ている男がいた。

 

 というか私だ。

 

「・・・・・・やあ、画面の前の皆様。

 おそらくタイトルを見て来てくださった方は残念な思いでいると思う。

 そうさ、修行編なんて嘘さ。

 そんな描写を挟む暇があるなんて、この底辺作者にできるとでも思っていたのか?

 できるかチクショー。

 だいたいなんだよ『コンボイの謎』って。やったことねぇよ。世代がちげぇよ。なんであの娘知ってんだよ。

 

 私だって見たかったさ。

 目標に向けて努力する娘の姿を。みんで見たかった・・・!

 でもなあ! 描写されなければそれは無いもの同然なんだよ!!

 

 理由はいろいろある!

 

 世界征服の準備に忙しかったから。

 モノチッチの突然の不調。

 大いなる世界の意思の介入。

 

 そういった事情が重なった結果私たちは修行風景の入手が途中で途切れてしまったバカヤロー!!

 なんでだ!

 娘の成長記録が撮れないじゃないか!

 私の人生で一番重要な使命を邪魔しやがって!

 ムシャクシャしすぎて島が一つ消えただろうがどうしてくれる!

 結構重要な研究施設だったんだぞ!

 

 ええいそんなことはどうでもいい!!

 娘の一瞬のきらめきに比べればどうということはない!

 

 華開かんとする過程でこそ見られる未成熟ゆえの葛藤!

 友の励まし、応援に心震わせ限界を越えんとする覚悟!

 困難に自ら望んで立ち向かっていく、無謀ともいえる挑戦心!

 

 それを!

 それを・・・見ることが・・・私には出来ない・・・・・・!

 

 絶望だ・・・!

 この世に溢れる悪行の中でこれほどのものが存在するだろうか!

 

 愛する存在の成長を見ることが出来ないことがどれほどの責め苦であることか!

 なに? 盗撮しといて何いってやがるだと?

 うるせぇ! そんなこと知ったこっちゃねえ!

 今はそんなこと言ってないんだよ!

 娘の成長が見られないことについていってんだよ!!

 それにお前らだってさんざん画面の前で娘の活躍について見たきただろうが!

 あれ? そういうことなら皆様もまた同類ということに「仕事をしてください」タコス!?」

 

 うぼぁーーー!

 この学園長を足蹴にするとは何事か!!

 

「何をするというのだね!!」 

「いや、仕事してくださいよ」

 

 甲板に打ち付けられた私に冷たい視線を向けながら仕事をしろとせっつくのは、教師陣の一人。

 

 『超超人級の薬剤士』にして学校医としても働いている、薬師寺(やくしじ) 投子(とうこ)である。

 

「うっかり沈没した無人島の研究施設の代わりを見つけるってご自分でいってたじゃないですか。面倒なのに手が空いてた私から言っといてくれって押し付けられたんですよ? ああ面倒臭い」

 

 ああ、その件だったか。

 だったらわざわざ蹴らなくたっていいのに。

 だって。

 

「もう終わるけど」

「は?」

 

 呆けたように力の抜けた顔をする薬師寺君だが、突如海面を割った衝撃によって体勢を崩してしまった。

 大きな水飛沫が船を叩き、中にいる者たちに多大な被害をもたらしながら、それは出現した。

 

「・・・は?・・・え?」

 

 一番にそれの存在を確認した薬師寺君はいきなりの展開についてこれていない。

 ここは私のほうからきちんと発表しておこうじゃないか。

 

 

 

「龍波動空母エビデゴラスだ。すまん、世代だったもんでな」

 

 ついでだから作っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、体育祭は明日からだって。

 

 




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雄英体育祭~大乱闘スマッシュヒーローズ~
雄英体育祭 開幕!!


どうもアゲインと申します

始まるぞ!! 体育祭だ!!

そんな五十六話でございます


 二週間が経った。

 修練の日々、地獄のような毎日を爆豪たちはひたすらに耐え抜いてきた、はずだ。

 なんというか、実感がないのだ。

 記憶もない。

 ただ訓練の日々を思いだそうとすると頭に痛みが走り内容を思い出すことができない。

 二人は悪寒で震え上がる全身が訴える、これ以上はいけない、という信号に素直にしたがってそれ以上は過去を振り返らなかった。

 それにもう、そんなことに気を割いている場合ではなくなっているのだから。

 

 もうすぐ始まる。

 そこまで来ている。

 歩んだ結果のその場所が。

 

「・・・いくか」

 

 決戦の時来たれり。

 ナンバーワンを決める戦いが、始まろうとしている。

 

 

 さあ、雄英体育祭の始まりだ。

 

 

 

 

「なんか久々な気がする」

 

 なんだろう、この、わたしの元に主導権が帰ってきたような感覚は。思っていることを自分できちんと表現できているような。

 モノローグを語っているかのような、この感覚は。

 

「まあ、いいや」

 

 それは、そこまで重要ではない。

 目の前のことを頑張ろう。

 もう、体育祭なんだから。

 

「ふう・・・ん」

 

 体の調子もいい感じだ。

 どこにも淀みを感じない。

 隅々にまで意識が伝わってどこまでも自由に動く。

 

「まさしく快調」

 

 さあ、見せにいこう。

 

「父さん」

 

 娘の成長を、今日見せよう。

 

 

◆  

 

 

『---さあやってまいりました!!

 現代のオリンピックともいわれる一大イベント!!

 今日は快晴! いうなれば新生! ニューフェイスたちの登竜門!!

 長々と語る必要はねぇよなエブリバディー!!

 

 

 雄英体育祭のぉおおお始まりだぁああああああああ!!!!!

 

 

                              』

 

 プレゼント・マイクの宣誓により、開戦の狼煙が上がる。

 多くの観客、選手の歓声が会場を埋めつくし、天に響けや地よ割れろやとばかりに、際限なく轟いていく。

 

「選手宣誓! 代表、爆豪 勝己君!」

 

 18禁ヒーロー『ミッドナイト』が彼を呼ぶ。

 ヒーロー科で成績一位の彼が今回の宣誓に選ばれていたのだ。

 言っておくけど本当はわたしが一番なんだからね。わたしの経歴上そういう目立つことを避けるために成績は誤魔化されているのだ。

 

 運動服に身を包んだ彼は堂々とした足取りで台の上に歩いていく。

 ・・・・・・その体は痛々しい姿だ。

 全身を包帯で染めた彼の壮絶な日々を嫌でも想像させる。

 

「---宣誓

 

 

        俺が一位になる       

 

 

 

                 てめぇら全員ぶっ飛ばしてな」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ほう、よく吼えた。

 さすがはわたしたちの特設ステージをクリアしただけはある。

 今までの彼からは感じられなかったであろう、研ぎ澄まされた感情の噴出を感じる。

 一皮剥けてよかったじゃないか。

 

 ここにいる全員を敵に回して、それでも勝つと言ってのけるか。

 

 その意気やよし。

 

「・・・受けて立とう」

 

 そのくらいじゃなきゃ、楽しくないからね。

 

 怒声の上がる観衆の中、その姿勢を曲げることなく堂々と受け止める彼の姿を見ながら、その宣戦布告を受け入れる。

 早く戦おう。競い合おう。

 

 

「一番はわたしだ」

 

 

 それだけは------譲らない。

 

 

 

 

 

 こうして、雄英体育祭は始まった。

 ありとあらゆる人間がその矜持を掛けて戦う刻が来た。

 そのぶつかり合いこそが、人を高みに連れていく。

 父よ。

 その言葉が本当のことだとよく理解できた。

 こんなにも、心が踊るのだから。

 

 

 

 

 

 

 生徒の中で立ち上がる闘志を感じながら、第一競技の開始を、今か今かと待つのだった。




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63話

どうもアゲインと申します

 

今回は少しばかりお伝えしたいことがございまして筆をとりました

 

単刀直入にいいまして、この作品を書くにいたって時間をいただきたい、ということです

 

 

 

今日に至るまでの投稿を振り返って、正直面白い作品を書けていない、ということを強く思いました

多くの方に見ていただいて、読んでいただいて、ここまで書いてきましたが最近はなんといいますか、モチベーションが上がらず、自分でも書いていて面白くないな、と思うことがあり、今回のようなご報告をさせていただいたしだいです

 

 

 

アイディアを文章にしても、これでいいのか? と疑問に思うことが多くなりこのまま書いていってもいい作品にはならない

そう思い、一時この作品の投稿に時間を置きさせていただきたい

今回はそういったお願いとご報告とさせていただきたいと思います

 

ここまで応援してきてくださった方々には失望させてしまうことかと思います

しかし、しこりのあるままで書いていくことはできないと思い、そう決断いたしました

 

一旦この作品は凍結いたしますが、他の作品を投稿するつもりではあります

こんな作者ではありますが、今後も応援していただけるなら幸いです

もっと技量を高めて、この作品をもっとよいものにしていきたいという思いです

本当に申し訳ありません

 

また日の目を見る時を目指して、暫しのお別れでございます

 

ここまでの応援、本当にありがとうございました

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年、8月4日。

掲載必要数を満たすために載せていた箇所が文字数稼ぎとして運営よりご指摘を受けたので該当部分を削除し、この文章を書き込んでいます。

ついでなので近状についてでもお話致しますか。

 

とはいえ、特に何ということはしておりません。

新しい作品を作り出すために思索の日々を送っております。

中々世間に刺さるようなこれだ、と思えるものには辿り着けてはおらず、正直苦しいというのが本音です。

自分の作品の色が今の流行りとも解離しているのは理解しているのですが、馴染んだ構成というのは手放しがたく自分の殻を破れずにいます。

それでも小説を書くこと、小説家になることを諦めることはありません。

先日友人が電子の方ではありますが書籍化を果たし、下火になっていた創作意欲が沸き上がってきているからです。

何時になるかは分かりません。

それでも少しでも自分の夢に近づくための努力を続けていきます。

その時が来たらどうか、また応援していただけると幸いです。

それではまた、別の作品でお会いしましょう。



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