選択した結果(仮) (ちびっこ)
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飛ばされた世界は……


ども、ちびっこです。
まず完結の見込みはそこそこ。
HUNTER×HUNTERはそこまで読み込んでないので矛盾がポコポコ出てくると思います。今、マンガは手元にないし←
静養中の暇つぶしに書いている作品なのです。
そういった理由と続編なのでチラシ裏に投稿。

豆腐メンタルモードなのでお手柔らかにww
無理だと思ったらすぐにUターンしてくださいね。


 サイズ確認のため袖を通し、鏡の前で確認する。

 

「違和感たっぷりだ」

 

 まぁそれも当然か。中学を卒業し、今年から高校生なのだから。制服が馴染んでいないのは当たり前である。

 

 高校生活はどうなるだろうか。中学の時はいろいろあったからな。……思わず遠い目をしてしまった。

 

 ツナとの出会いで私の世界が変わってしまったのだ。大袈裟ではなく事実である。ツナとぶつかった拍子に家庭教師ヒットマンREBORN!の情報が私の頭に流れ込んできたからな。あれは酷かった。

 

 関わりたくなくて必死に避けていたのだが、いろいろあって最終的にツナ達に根負けし友達になった。未来の知識を知っているとバレたが誰も無理矢理私に口を割らそうとはしなかったしな。そう考えると私はかなり周りの優しさに恵まれていたと思う。いろいろあったが、彼らといるのは心地よかったし。

 

 しかしそのツナ達とも高校で別れる。進路の違いなので仕方がないことなのだが、ちょっと寂しい。……ウソだ。かなり寂しい。

 

 まぁ一人違う高校を受験したのは私なんだけどな。どうしても学びたい分野があったのだ。……土日に遊びに行く許可をツナに貰ったのが後押しになったのも否定しないが。

 

「はぁ……」

 

 大きな溜息が出てしまった。ツナ達以外に友達ができるだろうが。高校生活が不安でしかない。再びぼっちになりそうな気がする。

 

「溜息を吐くと幸せが逃げちゃうよ、サクラ!」

 

 突如私の部屋に現れた兄……神崎桂を見て、再び溜息が出た。私の性格にも原因があるのは間違いないが、私に友達が出来ないのは兄にも問題があるのだ。

 

 普段の私なら「ノック」というツッコミをする。一応私は女なのだから、家族でも必要だと思うからな。しかし今日はそんな気分じゃなくて溜息を吐いた。すると、兄はいつもと反応が違うと嘆き始めた。現在進行形である。もちろんドン引きだ。

 

 シスコンという一言で片付けれるならいいのだが、兄と私の関係はそんな簡単なものじゃない。といっても、血は繋がっているぞ。

 

 非常に胡散臭い内容だが、兄は悪い神に魂をイジられたらしく、容姿端麗でいろいろとハイスペックだが、感情が欠けて産まれたようだ。異常なほどに晴の活性が兄の身体には流れているらしく、リングの力がなくても直ぐに傷が治るという変わった身体をしている。多分、世界を壊せる殺戮兵器として産み出されたと思う。

 

 何とかしようとした神がのちに産まれてくる私をつかって兄に感情を植えつけ正常に戻したらしい。神曰く……私が会ったのは神の子だったが……それはいいか。とにかく、私と兄はほんの少し魂が繋がっているらしい。私が兄の魂を引き寄せられたのを、ほんの少しと表現していいのか疑問が残るが。

 

 一時期、植えつけた感情で私を大切にしていると不安になったが、気持ちを確かめ合った私と兄は元通りの関係に。いや、違うな。シスコン度がアップした。そして私も呆れるが受け入れている。……私もかなりのブラコンなのだ。

 

 とにかく兄は魂をイジられたせいか、注目を集めやすい。その結果、家族以外から私は兄の妹という付属品扱いである。幼い時から兄の妹がなぜ私なのかという視線を向けられるなどいろいろ問題が起きた。兄が私を溺愛しているのでイジメはなかったが、腫れ物扱いで基本ぼっちだった。神云々の事情を知ったのはほんの一年前のことなのだから、私の性格がひねくれたのも、自身を守るために口調が悪くなったのも、仕方がないことだと思う。だから溺愛してくれる兄に依存し、私がブラコンになるのも当然の流れなのだ。異論は認めん。

 

 マンガの世界なのか、似た世界なのかは知らないが、ツナ達は私を兄の妹ではなく、私自身を見てくれた。が、マンガの知識を得てしまった私は身の危険やひねくれた性格もあって、最初は警戒心がヤバかった。今は大切な友達だけどな。ブラコンってバレてるし。

 

 そんな貴重な友達と別れて始まる高校生活は不安でしかなかった。腫れ物扱いは嫌だし、友達という存在を知り、高校でも強請りたくなるのは当然の感情だと思う。だからといって、兄に八つ当たりしたくはない。……溜息をついたぐらいは許してほしい。

 

「……すまないね」

 

 普段能天気な態度をとる兄だが、ハイスペックなのだ。私の気持ちを察しないわけがなかった。もしかするといつものノリで私を元気にしたかったのかもしれない。

 

「バカ、謝るな。……それより、似合うか?」

 

 謝るぐらいなら、私を褒めてくれ。威張るように腰に手を当てる。

 

「可愛すぎて鼻血が出そうなぐらいだよ!」

「……汚すなよ」

 

 鼻に手を当てた兄から距離をとる。兄なら本当にあり得そうで怖い。

 

「おーい、まだダメなのか?」

 

 ドアの向こう側から聞こえてきた声に身体が強張る。そして、兄を睨んだ。何度も言うが、来ているなら教えろ。くそっ、いつもは懐に入っているのにない。新しい制服じゃなければ、愛用のハリセンで兄を叩いたのに。……まぁ私が見せたいと思ってるから呼んでくれたと思うが。

 

「ちょ、ちょっと待て」

 

 ニヤニヤしている兄を睨みつけた後、部屋を見渡し散らかっていないかを確認する。大量のマンガが本棚にあるが、随分前から知られているので問題ない。なので、一番の問題は自身だ。髪の毛などが跳ねていないかチェックする。多分大丈夫。

 

「わ、悪い。待たせた」

 

 準備が出来たので、ドアをソッと開ける。目があったので、思わず晒す。

 

「可愛いな、似合ってるぜ」

 

 ポンポンと軽く頭を撫でられた。完全に子ども扱いなのは気のせいなのだろうか。……おかしい。数日前に兄から太鼓判を押してもらったので間違ってないはずだが、彼は本当に私のことが好きなんだよな?

 

「ん? どうした?」

「いや、なんでもない」

 

 ちょっと怪しんでいたが、問い詰めるレベルでは無かったらしい。再び頭を撫でられたし。

 

「それにしても、いつまで日本にいるんだ? ディーノ」

 

 個人的にはずっと日本に居て欲しいけどな。しかしそうもいかない。彼はマンガ通りイタリアで有名なマフィアのボスである。また弟弟子のツナのフォローで忙しく、師匠のリボーンから無茶振りされる残念な人物でもある。

 

 ディーノはマンガでは部下がいないとヘナチョコになるという究極のボス体質だが、なぜか私の前でも体質が改善されたので、私とペアを組んで行動することが多く、私から無茶振りをされるという非常に残念な人物に彼はなってしまったのだ。今では兄とでも体質が改善するらしく、彼は兄にも振り回されている可哀想な人物だ。

 

 そして一番マンガと違うのは、私とディーノは両片思い中なのだ。私は数日前にやっと彼の気持ちを察したが、彼は私の気持ちにはまっっったく気付いていない。なので、私の都合と兄のアドバイスにより現状維持されるという不憫な男でもある。

 

 ……酷い自己紹介だな。

 

「いやな、そろそろ帰った方がいいとオレも思うんだけど、天候が不安定でよ。帰れねぇんだ」

 

 そういえば、私の誕生日ぐらいからずっと天気が悪いな。

 

「いくら僕でも天気は回復出来ないね」

「彼女じゃあるまいし無理だろ」

 

 兄の言葉に思わずツッコミする。彼女というのは一度だけ会った神の子のことである。10年後の世界でいきなり現れたと思ったら、風を操って雲を呼んで雷を鳴らしたりして……まぁいろいろと凄かった。目が見えていないはずなのにな。ちなみに目が見えないのは彼女の目を私が持っているから。真実の目という名前らしい。私が幻覚に引っかからないのはそれが理由だった。兄の魂の関係で必要と判断してくれたようだ。

 

 ……らしい、ようだ、という言葉を使っているのはよくわからないから。嘘をついていると疑っているのではなく、産まれた時から持っていたのでイマイチ実感がないからだ。返せとも言われなかったし。言われたとしても返す気はないけどな。もう私のものだ。

 

 この真実の目と原作知識、魂の繋がりで原作期間を乗り越えた。正確にいうともう一つかなり重要なものがあるが、それは私が元々持っている能力だったらしいので、神からの補助?はこの3つである。よく乗り切ったと自画自賛したくなる。本当に何度死にかけたか。一番ヤバかったのはやはり兄に心臓を刺された時だろうな。あれは精神的にもキツかった。まぁ私以上にディーノは何度も死にかけたが。

 

 ……これって吊り橋効果というものじゃないのか?

 

「やっぱり何かあったのか?」

 

 ディーノに顔を覗き込まれて慌てて首を横に振る。原作期間も終えてから一年以上たったのだ。例え吊り橋効果がきっかけだとしても、ディーノは私に愛想を尽かさないのだから本気なのだろう。……それに本気じゃなかったら、兄が何かしていたらしいしな。

 

「ん? ちょっと待ってくれ」

「ああ」

 

 そもそも私とディーノは付き合ってるわけじゃないし、私はディーノと付き合いとは思わないから、別に何も問題ない……よな?

 

 ディーノが私のことを好きと気付いて、結構テンパっていたようだ。考えすぎていた。ディーノの気持ちはそこまで重要ではない。私は好かれたいが、彼の気持ちが欲しいわけじゃないから。

 

「ん、大丈夫。スッキリ出来た」

「そうか。なんかあったら言ってくれ。いつでも相談乗るからな」

「助かる」

 

 気持ちがスッキリしたので、天気が悪いという話をしていたことを思い出す。私の気持ちは置いといて、彼はそろそろ帰らないと本当にマズイ。私の受験勉強も手伝ってくれたし、最近は日本に滞在し過ぎた。

 

「ちょっと見てみようか?」

 

 ついに私の能力の活躍場面が来たようだ。なんと私は予知夢が見れるのだ。といっても、絶対に見れるという確証はない。でも最近見れるものと見れないものの違いがわかったので、今回の場合はわかるはずだ。……た、たぶん。

 

 違いはわかったが、成功率がまだ低いのだ。あまり日が離れすぎる未来はみえないようだし。

 

 後は予知夢の能力が関係しているのかわからないが、勘が良くて幸運持ちになった。最近は二分の一ぐらいの確率なら百発百中である。分母が増えれば外れる確率はもちろん増すが、それでもマークシートタイプのテストでは大活躍だった。凄いだろう!……志望校はマークシートじゃなかったけどな!ちくしょう!!本当に幸運持ちなのか!?

 

 気を取り直して、頼りにしてくれていいぞとディーノにチラチラ視線を送る。

 

「大丈夫だ。そこまでする必要はないぜ」

 

 また断られた。そんな大したことじゃないのに……。まぁ今日の夜に見てみるか。上手く行った時はその結果をロマーリオに教えていれば、準備が楽に出来てすぐに帰れるようになるだろ。彼はプライベートジェット機だし。

 

「必要ないからな?」

「もう遅いよ、ディーノ。君がいくら言ってもサクラは気になって無意識に見てしまうからね」

 

 流石、兄である。よくわかってるじゃないか。私が肯定するように何度も頷いているとディーノはやっちまったと頭を抱えた。ドンマイである。

 

 私が他人事のようにディーノを見ていると、バッと振り返った。そのことに疑問を感じる前に、私の目の前に兄がたっていた。

 

「……んだよ、リボーンかよ」

「ちゃおっス」

 

 この声を聞いて、やっと状況を理解した。突如現れた気配に2人は警戒したのだろう。話していた内容が内容だし。

 

 とりあえず兄の横から顔を出し、私も挨拶する。やはり話していた内容が問題だったらしく、私が本人と確認してから2人はやっと肩の力を抜いた。いつも守ってくれてありがとう。

 

「ちょうど良かったみてーだな。サクラ、悪いが見てくれねーか?」

「「サクラ」」

 

 別にいいぞと軽く返事をしようとしたが、兄とディーノに声を揃えて止められた。安請け合いはダメらしい。リボーンの頼みなら別にいいじゃないかとスネながらも、彼らの話に耳を傾ける。

 

「おめーらもちょうどその話をしてたんじゃねぇのか?」

「僕達はそこまで深刻に考えてなかったよ」

「でもお前がわざわざサクラに頼みに来たんだ。何がわかったんだ?」

 

 ……ふむ、サッパリである。何の話をしているんだ。説明を求むという意味で、兄の袖を引っ張る。

 

「天候の悪化についての話だよ」

 

 ああ、なるほど。リボーンはディーノが帰れないことを知っていたのと、兄とディーノの警戒っぷりで私の能力について話をしていたと気付いたのか。確かにリボーンの言う通り、タイミングはちょうど良かったな。

 

 ……3人とも頭良すぎである。凡人には厳しい会話レベルだ。

 

「ユニが見えねーっていうんだ」

「ししょーが?」

 

 ユニが師匠呼びなのは、言葉通りである。10年後の世界へいった時の私は予知夢の力をコントロール出来ず、寝不足になりグロッキー状態で酷いものだった。10年後の世界から帰ったら帰ったで、予知夢を見れなくなるという不安定なものだった。もっとも勘を抜きにしても運が良すぎるので、覚えていないだけであって見えている可能性もあるが。

 

 まぁとにかく虹の呪い編の時に軽い気持ちで相談した結果、ユニに窘められたのだ。それから真剣に考え、ツナ達と進路を変えると決めたことで、私は未来を見る覚悟をしてユニのもとへ行き、コントロール出来るきっかけを与えてもらった。後は私次第らしい。

 

 ちなみに堅苦しく呼ばないのは、ユニはユニで私を恩人だと思っているからだ。原作を知ってる私からすれば、ユニ達の呪いがとけるのは当然だと思うのだが、彼らの気持ちは違うらしい。

 

 確かに私は呪いをとくためにいろいろと画策した。が、みんなが入院するような怪我を負うのが嫌だという自分本位の考えで動いたのだ。原作から逸脱しすぎて下手すれば失敗する可能性もあったし。だから私は元アルコバレーノから恩人扱いを受けるのは不本意なのだ。……という割に、押し切られてしまったが。

 

 なので、ユニは私の師匠で私はユニの恩人というややこしい関係性なのだ。ユニが困った顔をするので、崩して呼ぶ感じになった。

 

「ああ。ユニが嫌な感じがして見ようとしたが何も掴めないって言うんだ」

 

 ユニが無理なら私も無理な可能性も高いけどな。まぁそんなことはリボーンもわかっているだろう。

 

「やってみる。ただ着替えたい」

 

 新しい制服で眠りたくなかったので、少し時間がほしいと頼む。私の要望はあっさりと通ったので、みんな部屋から出て行き兄の部屋で待つことになった。

 

「ん……?」

 

 なんか変な感じがする。私の呟きに反応して部屋から出ようとした3人が振り返った。

 

「ここ、怖い」

 

 嫌な感じがして、私は兄達がいる方へと手を伸ばす。が、届かなかった。急に後ろへと引っ張られたから。

 

 何が起きたのかよくわからないが、気付いた時には真っ暗な空間に私はいた。

 

 バカな私でもピンチだということだけはわかった。




作者のせいで、サクラの人生はハードモード!


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「サクラ!!」

 

 名を呼ばれて、ハッと顔をあげる。パニックにならなかったのは今までの経験だろう。伊達に何度も殺されかけていない。

 

 よくわからない空間にいるが、まだみんなの姿が見える。まだというのは私がこの空間に入ったきっかけになったであろう扉が徐々に閉まりかけているからだ。

 

「って、お兄ちゃん!?」

 

 流石、兄である。私がよくわからない空間にいるのにも関わらず躊躇なく飛び込んできた。無鉄砲過ぎるが、心細かったので非常に助かる。

 

 兄に手を伸ばすが、なかなか届かない。徐々にディーノ達から離れていくので、未だに引っ張られているのかもしれない。それでも飛び込んだ勢いが残っていたのか、ついに届いた。

 

 グィッと引っ張られ、私は兄の腕の中にいた。

 

「にいちゃ、扉が閉まる!!」

「扉?」

 

 見えていないのか。実は名を呼ばれて顔をあげる前に見えていたものがあった。ディーノ達がいる扉とは別にもう1つ扉があったのだ。そっちは開きっぱなしで、私はその方向に流されている。扉の奥には空が見えるので、私の勘が正しければ違う世界に繋がっている。

 

 それを説明したいが時間は残されていない。兄はわかっていると思っていた。

 

「……今まで楽しかったよ。ありがとう」

 

 ちょっと待って、どういう意味だ。10年後の兄は似たような言葉を残して死んだんだぞ。未来から記憶が届いている兄は知っているはずだろ!?

 

「幸せになるのだよ!!」

「にいちゃ!!」

 

 兄に勢いよく飛ばされた。ハイスペックの兄が渾身の力で投げたのだ。一気に私はディーノとリボーンがいる扉へ近づいた。しかしその反動で兄は私が引っ張られていた扉の中に呆気なく入ってしまった。

 

「お兄ちゃん!!」

「サクラ!! 手を伸ばせ!!」

 

 聞こえた声に振り返る。ディーノがムチを持っていた。兄の渾身の力でも戻るには足りなかったのだ。でも多分私が手を伸ばせばディーノのムチが届く。

 

 閉まりそうな扉と、未だに開きっぱなしの扉。

 

 ツナ達の顔が浮かぶ。でも兄は向こうの扉だ。

 

「……みんなにゴメンって伝えて! 今までありがとう!!」

 

 それだけ言って兄が消えた扉へと向きなおる。……兄を1人に出来るわけがない。だって、私がいないと兄はダメなんだ。

 

 神が兄に感情を植え付けるためにつかった方法が『私と触れる』だった。本人に自覚があるのかわからないが、それを知った兄は私に触れると安心したように笑うようになったのだ。多分、感情が消えた記憶も未来から届いたからだと思う。

 

 私がいないと兄はまた壊れる。何があってももう振り向かない。

 

「サクラっ!」

 

 ディーノの声が聞こえて思わず笑った。彼には悪いことをしたと思う。彼は私と違って、本気だった。

 

 片思い中は私を好きになってほしかった。でも両片思いと知った途端、多分怖くなったのだ。だからディーノの気持ちはいらないと思った。私はそこまで真剣じゃなかったのだ。恋をした自身が好きだったのかもしれない。

 

 兄とディーノを天秤にかければ、私は兄を選ぶに決まっている。だからディーノの声でも振り向くことはない。

 

「ん?」

 

 ……腕にムチが絡まっているな。

 

 ……あの場所からじゃ届かなかったよな?

 

 ギョッとして思わず振り返った。……なんでここに居る、ディーノ。

 

「リボーン、後は頼んだぜ」

「戻ってくるんだぞ」

「ああ! 3人揃って必ず戻る!」

「いやいやいや、そこは永遠の別れのところだろ!?」

 

 ツッコミと同時に扉が閉まってリボーンが見えなくなる。グイッと引っ張られ気付くと、ディーノが私を片腕で抱き上げていた。最近の定位置である。……じゃなくて!

 

「君はバカかっ!? なんで君も飛び込んできたんだ!?」

「文句は後で聞くから、どうすりゃいいんだ? お前は見えているんだろ?」

 

 くそっと思わず悪態をついてから口を開く。悔しいことにディーノに指示を出すのは慣れている。

 

「このまま流されれば、多分別世界に行く。空が見えているから落ちる可能性もある」

「わかった」

「後、別世界だから次元?の関係でスクーデリアが出せるかはわからないからな」

「……お前はどうするつもりだったんだ」

「兄任せ」

 

 大きな溜息が聞こえた。おかしい。

 

「兄のことだから私が落ちてこないかしばらく確認すると思うし」

「スクーデリアが出せねぇなら、桂の体に流れてる晴の活性もどうなってるかわからねーだろ……」

「ディーノ、どうしよう!? もう時間がっ!」

 

 ひぃ!と悲鳴をあげながらディーノにしがみつけば、やっと素直になったなと笑った。……余裕そうだな。

 

「サクラ、二択だ。あっちでスクーデリアが出せるか出せないどっちだ!」

「だ、出せる! 出せるぞ、ディーノ!」

 

 素晴らしい質問だ。出せると私の勘がいっている。感動で泣きそうである。

 

 扉をくぐったというより放り出されたといった方が正しいだろう。ディーノが私を掴んでいなかったら、バラバラになっていただろう。それぐらい衝撃が激しかった。その衝撃が緩んでくると自身が落下していることがわかる。

 

「スクーデリア!」

 

 ディーノが呼ぶと同時に天馬が現れる。状況がわかっているのか、ディーノはあっさりと跨いで空中で立て直した。

 

「っと、大丈夫か?」

「なんとか」

 

 ディーノにスクーデリアの上へゆっくりとおろしてもらい、ホッと息を吐く。ツナ達に巻き込まれて慣れてきていると思ったが、心臓がまだドキドキしているぞ。

 

「死ぬ気の炎が出せるなら、桂は大丈夫そうだな。問題はどこにいるか……」

「お兄ちゃんには悪いけど、先に確認したいことがある」

「なんだ?」

 

 空を指差す。

 

「……サクラの目には扉が見えているんだな」

 

 コクリと頷く。兄に向かって言った言葉だったが、やはりディーノにも聞こえていたようだ。

 

「今は閉まってるけど」

 

 いっぱいいっぱいで、いつ閉まったかは見れなかった。でも多分私がこっちに来たから閉まった気がする。最初に変な空間に落ちたのは私が先だし。

 

「ディーノはどういう風に見えていたんだ?」

 

 私が指している方向へ移動しながら質問する。確認することは多いので今のうちに。

 

「夜の炎に似てたぜ。ただ炎の気配はしねーし、サクラが見えたからすぐに別物とわかったけどな。後、時間がないって聞くまで空間が閉じかけてるとは思わなかった」

「ディーノ達は曖昧だったのか。いや、極端といえばいいのか? 私の目にははっきりと扉が見えていたし、閉じて行くのも見えていたからな。ちなみに両扉。ディーノ、ゆっくり。……ストップ」

 

 やはり扉にしか見えないな。ただ普通の扉と違って取っ手がない。触っても大丈夫と私の勘がいっているので手を伸ばす。……実体はあるか。

 

「扉だけど取っ手がない。ディーノは?」

「……ダメだな、触れねぇ」

「真実の目で見えているから触れる感じか? ディーノが強力な幻覚にかかってると思えばいいか」

「ああ。まっこれで帰れる可能性は見えたぜ」

「幸先はいいな」

 

 念のために裏に回ったが、私の目にも見えなかったし触れなかった。裏は私達が通った空間に繋がっているのだろう。

 

 これ以上調べても何もわからないと判断した私達は兄との合流をはかることにした。上空にあがったことで、周りには島が1つしかないことがわかったので兄はここを目指すだろう。

 

「ディーノ、二択」

 

 私に質問すれば、情報を得られるからな。使わない手はない。ただ絞り方が曖昧だと間違った情報を得る可能性もあるため結構難しいのだ。

 

「そうだなー。オレ達がきた世界とこの世界ならどっちが平和だ?」

「……あっち」

 

 少しだけ悪いのか、それともかなり悪いのかがわからないが、警戒心は緩めれないとディーノは判断しただろう。私も気をつけないと。

 

「この島に桂はいるのか、いないのか」

「…………いない」

「なら、この世界に桂はいるのか、いないのか」

「いる」

 

 ホッと息を吐いたが、どういうことだろうか。兄はもうこの島から出たのか?

 

「この島に人がいるのか、いないのか」

「いる」

 

 ここまで質問したところで私の目にもしっかり島が見えてきた。

 

「……ディーノ」

「ん?」

「あれってハートマーク?」

「そうだぜ。変わった建物だよな」

 

 ……心の中で二択する。私の勘違いであってほしい。

 

「ディーノ! 今すぐこの島から離れろ!!」

 

 いきなり指示を出したが、ディーノは戸惑うことなく私の言葉通り動いてくれた。

 

「ここまで離れたら大丈夫だと思う」

「そうか」

 

 スクーデリアには悪いが、このまま空で待機してもらおう。嫌な汗が流れている。

 

「大丈夫か?」

「……ん。あの都市の名は恋愛都市アイアイ」

「見えたのか?」

 

 違うと首を振る。予知ではない。

 

「……マンガで見たことがあるんだ」

「マンガってサクラが読んでるマンガか?」

「そう、それ。さっき私は恋愛都市アイアイか?と自分に質問したんだ。で、当たった」

 

 沈黙が流れる。ディーノも別世界に移動したのは恐らく間違いないと思っていただろう。だが、それがマンガに描かれている世界とは思ってなかったはずだ。混乱していると思う。

 

 私は家庭教師ヒットマンREBORN!というマンガがあったことを知っていて、その世界で過ごしたのだ。この展開はまだ許容範囲だ。しかしHUNTER×HUNTERの世界は許容範囲外だ。この世界は危険が多すぎる。

 

「もし世界観が同じと仮定するぞ。マニアックなところまでは覚えてはいないが、ある程度は覚えている。兄も読んでいるので大丈夫だ」

 

 私の予想では兄の方が覚えている。読んだ回数は私の方が絶対に多いのにな。……まずいな、暗黒大陸のことは特に覚えてないぞ。いや、私は悪くないはずだ。忘れた頃に連載が再開するせいだ。

 

「戸籍がなくてもお金を稼げそうなところも知っている。私はこの世界の文字を覚えているから読めると思う。兄と形が面白くて話したから、兄も大丈夫だと思う」

「はっきり言っていいぜ」

「……ん。ディーノ、もし同じ世界観ならかなりヤバイ。死ぬ確率が高いんだ。兄は晴の活性があるし、私と一緒で幸運持ちだから多少はなんとかなると思うけど……」

「オレでも呆気なく死ぬ可能性があるのか」

 

 コクリと頷く。

 

「似た世界なのか世界観が一緒なのかはわからないが、マンガの情報はそのまま活用できると私の勘がそう言っている。だからとりあえず説明して念を覚えないと……」

「まぁ待て。明るい内に移動しようぜ。あの島はダメなんだよな?」

「ん。兄があの島にいない理由も世界観が一緒なら説明出来る」

「なら、勘で行くしかねーか」

 

 そう言いながらも動かないのは、私が選んだ方がいいからだろう。

 

「このまま真っ直ぐにしよう。大外れの方向に行けば途中で引き返すぞ。大外れは兄でもヤバイところだし、わかると思う。……多分」

「まっ何とかなるだろ」

 

 軽い感じに言ったのは、私を安心させるためとわかっているので、素直に頷いたのだった。



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 方向を決め移動し始めてすぐにディーノはフミ子をだした。まぁ妥当な判断である。フミ子は兄がディーノに譲ったパンダの匣兵器だ。いろいろあって今は匣ではなく、リングの形をしているが、そこはまぁいいだろう。大きさは私が抱き上げれるぐらい。

 

 元々、フミ子は治療タイプの晴の匣兵器だった。それを10年後の兄が、ディーノが持つ大空属性の炎で注入しても、晴の性質である活性の力を持った状態で出てくるように改造した。フミ子の炎を浴びれば怪我は治るが、効果が高ければ高いほど眠くなるので、そこだけは注意していれば使い勝手のいい匣兵器だ。

 

 余談だがフミ子の形態変化はぶっ飛んでいる。フミ子が形態変化すると2つのリングになり、はめた人物の命を支えることが出来るのだ。

 

 簡単に説明すると、生命エネルギーが移動することが出来る。例えば片方が即死するような大怪我を負っても、もう片方の生命エネルギーが尽きる前に、命の危機を乗り越えれれば助かる。ただし、治療が間に合わなかったら2人とも死ぬ。そして厄介なのが、フミ子を通して生命エネルギーを移動しているのでフミ子の好感度が高くなければ、リングをはめても発動しない。今のところ発動するのは私とディーノと兄だけ。これは好感度順。

 

 ちょっと考えるだけで形態変化は使いにくいとわかるので、ディーノも滅多に使用しない。私が死ぬと確信した時に使われた。つらい。……まぁ形態変化が出来るように改造したのは私だけどな。

 

 死にかけた時のことを思い出して遠い目をしていたが、そろそろ文句を言うか。

 

「フミ子、あついし重い」

「パフォ!?」

 

 相変わらずフミ子は私を好きすぎる。元々は兄の匣兵器なのでも仕方がないかもしれないが、今の主人であるディーノを放置するのはどうかと思う。……最初からか。私だと素直に出てくるのに、ディーノの呼びかけだと出てくるとは限らないし。

 

「フミ子、形態変化してくれねーか?」

「はぁ!? フミ子、ストップ! 抱きついていいぞ!」

「パフォ!!」

 

 ふっ、勝った。ディーノが支えているから手を離しても大丈夫だし、ご褒美に撫でてあげよう。もふもふ。

 

「説明」

「エリザベスの形態変化がとけてるみてーだからな」

 

 ディーノに言われて慌てて指を確認する。いつもある場所にリングがなかった。

 

「え? なんで?」

 

 エリザベスはパンダで治療タイプの匣兵器だ。つまりフミ子とほとんど一緒。違うところはフミ子みたいにディーノが使えないことと、形態変化がさらにぶっ飛んでいるぐらいである。強いて言えば、あとはメスとオスぐらい。

 

 エリザベスの形態変化もフミ子と一緒で、2つのリングになる。が、片方は兄と決まっている。生命エネルギーを移動させるだけならまだ可愛らしいもので、エリザベスは対になるリングをはめた人物の怪我や病気など、全て兄が肩代わりするからだ。兄の身体に晴の活性の炎が大量に流れているから出来る裏技みたいなもの。改造したのは10年後の兄。

 

 よく私がつけていて、このおかげで助かったことがある。例をあげると、喉を潰されてもこのおかげですぐに治った。……血の味を思い出してしまった。うぇっ。

 

 気を取り直して。

 

 裏技みたいなものだが、やはり欠点はある。まずすぐ治るが怪我をした時に血は出るので、出血多量で死ぬ可能性があるのだ。まぁ喉を潰された時でも噴き出すほど出なかったからフミ子の上位互換なのは間違いない。

 

 後は兄のおかげで何でも治るので、抵抗力がさがっていく。リングをはめた生活に慣れてしまうと外した時が危険なのだ。私につける想定で改造したものじゃないので、この欠点は仕方がない。

 

 だから外していた日もあったが、あの時はつけていたはずだ。

 

「多分、あの空間で解除されたんだ。あの中じゃスクーデリアが出せなかったからな」

「……ああ。それもあって二択を聞いたのか」

 

 あの空間では無理でも、今から行く世界では使える可能性があったし、使えないとわかっていたなら、違う対策をすぐに立て始めれるからな。よくよく考えると死ぬ気の炎が使えれば、植物使いでもある兄があの空間で何もしないわけがなかった。

 

「無いなら無いでいい」

 

 それより問題はあの空間でエリザベスの形態変化が解除されてしまったなら、兄は私達がこの世界に来ていることもわかってないかもしれない。魂が繋がっていると言っても、場所がわかるとかじゃないし、まいったな。

 

「フミ子、形態変化だ」

 

 抱いていた感触が消えた。すぐに怒鳴りたかったが、私は至って普通の身体能力の持ち主で、急に腕の中にいたパンダが消えればバランスを崩すのは当然のことで……。

 

「わっ!?」

「……す、すまん」

 

 ディーノがすぐに支えたので事なきを得たが、思いっきり睨んでしまったのは仕方がないと思う。今空中に居るんだぞ。落ちたらどうするんだ。

 

「はぁ。ディーノのおかげで無事だったし、それはいい。でもフミ子の形態変化については反対」

「だが、これがねーとお前は……」

「兄が大丈夫と判断した時は外していた。そこまで抵抗力は落ちてない。ディーノよりは低いだろうが、それは元々だ。それと……フミ子の治療能力が使えくなれば厳しくなるのは君の方がわかっているだろ」

 

 フミ子はエリザベスと違って生命エネルギーを移動するだけで治療しているわけじゃない。それに私がもつ生命エネルギーの量だと、ディーノの生命維持を出来るとは思えない。共倒れするだけだ。本当にフミ子の形態変化は使い勝手が悪いのだ。

 

「……そうだな、フミ子」

「パフォ」

 

 流石、フミ子だ。私の残念さを知っているので、形態変化をといてすぐに乗りかかってくることはなかった。まぁすぐに寄ってくるけどな。もふもふ。

 

「スクーデリア、重いけど頑張ってくれ」

 

 任せろというように、こっちに視線を向けてから頷いた。スクーデリアにも好かれてるし、意外と私はハンターに向いてるのかもしれない。

 

 そんな冗談を頭の中で考えていると、メスだからなのか、フミ子はショックを受けていた。……フミ子より、私の方が重いから。

 

 ちょっとほのぼの出来たので、理解しているのに未だ葛藤してそうなディーノに声をかける。

 

「いったい、何が引っかかってるんだ。君らしくもない」

 

 本当にディーノらしくない。この特殊な状況でも彼は安心させるように動くはずだ。実際、さっきまではそうだった。

 

「オレらしく、か……。サクラ」

「ん。なに?」

「好きだ」

 

 フミ子を撫でる手が止まる。しかしそれは数秒のことで、私はゆっくりとディーノに視線を向けてから口を開いた。

 

「断る。だから諦めろ」

 

 これ以上、彼の顔を見れなかったのでフミ子へと視線を戻し、再び撫で始める。

 

「……そういうことかよ」

 

 ディーノの顔を見れないと思っていたのに、聞こえてきた言葉の意味が気になり顔を上げる。

 

「サクラの気持ちはわかった」

「それは良かった」

 

 わかってくれたならいいと視線を再びフミ子に戻すと、いつものように頭を撫でられた。……今、フったばかりだよな?

 

「そこは距離を置くところじゃ?」

「今まで通りの方がいいだろ?」

 

 そりゃまぁ、運命共同体というような状況だからな。ギクシャクしている間にあっけなく死ぬかもしれないし。

 

「でも今君は傷心中だろ?」

「ん? お前の気持ちはわかったとは言ったが、諦めるなんてオレは一言も言ってないぜ?」

「……はぁ!?」

 

 やっぱわかってなかったかと呟かれたが、そこは諦めるところだと私は思うぞ。

 

「気になるか?」

「当然」

 

 意識するなという方が無理だ。ディーノの性格上、無理矢理襲ったりしないのはわかっているため、その点は安心している。だが、諦めてほしいと思っているのに、頼らなければならない状況なのだ。やりにくすぎる。

 

「なら、オレの気持ちを利用する気でいればいい。ずっと前から好きだったんだ。サクラがオレに靡かなければ、今までとそう変わらない」

「……君がつらい思いする未来しか想像出来ないんだが」

「大丈夫だ。ハナから長期戦だったしな」

 

 それならなぜこの状況で告白したんだ。思わずツッコミたくなったが、嫌な予感しかしなかったので言葉をかえる。

 

「これが所謂世間でいう、ストーカー予備軍か」

「せめて諦めの悪い男と言ってくれ……」

 

 ガクッと項垂れショックを受けたようたが、私の頭を撫でる手を止めないのだからアウトだと思うぞ。

 

 

 

 ひと段落?したので移動しながらディーノにマンガの内容を教えた。拙い説明だったが、なんとか伝わったようだ。

 

「つまり桂はあの島について、カードで飛ばされたのか」

「そう。確認するのもアリだったけど、バラバラに飛ばされるから怖くて出来なかった」

「まっ正解だぜ。オレ達もバラバラになったら、それこそ終わりだった」

 

 主に私が。

 

「サクラのいう通り念っていうのを覚えるしかねーな。向こうの世界と比べて身体能力の差がありすぎる。鍛えるつもりだが、鍛え上げたとしても念を使えなきゃ負けちまう」

「ん。多分兄もそうしていると思う」

「無理矢理起こすのが手っ取り早いがそうは行かねーし、まずは安全な場所の確保しねーとな」

 

 しっかりと頷く。安全な場所を探さないと私が死ぬ。

 

「で、どうやって稼ぐんだ?」

「天空闘技場」

「主人公が鍛えて、念を覚えた場所だったか? オレも出て稼げばいいんだな、任せろっ」

「君はバカか」

 

 つい本気で言ってしまった。

 

「200階以上に行けば全員念能力者で、念の闘いになるとは確かに言った。言ったが、それ以下の階層で念能力者と出会わないとは言ってないぞ」

「わーってる。でもフミ子がいるから何とかなるだろ?」

「即死の傷だったらどうするつもりなんだ。ディーノが居なければ、人さらいに合うか、死ぬ未来しか見えない。まぁ兄と会うまでは粘るつもりだから、その時は身体を売るしかないぞ……」

 

 威張っていうが、私はディーノが居なければすぐに死んでしまう自信がある。それに身体を売ると言ったが、そういう方法があると知っているだけで具体的な内容を私は全く知らない。兄がまだ知らなくていいと言って教えてくれなかったから。

 

「ダメだ! 絶対にダメだからな!!」

「……私も嫌だから安全策を提案している」

「…………すまん」

 

 やれやれと息を吐き、再び口を開く。

 

「闘技場という言葉で、思いつくのがあるだろ」

「賭け、か?」

「大正解。最初は拾った小銭から始まるだろうが、すぐに何とかなりそうな気がするだろ?」

「稼ぎ過ぎねーように気をつけねぇとな」

 

 この世界のことがわからないだけで、やはりディーノは頭がいいな。稼ぎ過ぎないのは私も同意見だ。戸籍がないから預けることも出来ないし、荒稼ぎして目をつけられる確率は下げたい。バレてしまえば、誘拐フラグがたつ。それぐらい私の能力はヤバイとわかっている。だからもしディーノが居なければ、身体を売るしかないのだ。兄が私を救出しやすい方が、身体を売る方という理由もあるが。……どっちにしろ、血の雨が降りそうだな。

 

「ディーノが念を覚えれたら、ハンター試験を受ける流れ。時期によっては天空闘技場で稼ぐかもしれないけど。どう?」

「ああ。桂も受ける可能性は高いし、戸籍はほしいぜ。会えなくても資格があれば、ハンターサイトで調べることが出来るからな。それに天空闘技場で有名になれば桂が見つけやすくなる」

「じゃ決まりだな」

 

 方針が決まったので、それに向けて私たちは動き出したのだった。



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 私達が天空闘技場に辿りつくまで4日かかった。

 

 適当に進んだ結果、私達はヨルビアン大陸についたのだ。といっても、到着した時点では私達はどこに居るのか見当もつかなかったのだが。

 

 偶然にも、というよりは私が幸運を引き寄せたのだろう。天馬は目立つため、人気の無いところで降りたところすぐにライオンっぽい動物に襲われて居る女性と遭遇し、ディーノが助け出したのだ。

 

 そこからはディーノのイケメン効果が発揮した。命の恩人だからとお礼するからと言って、村へ案内してくれたのだ。もちろん空気を読んだ私はディーノの姪と名乗ったぞ。視線を感じたが、無視だ、無視。

 

 まぁその後に一泊させてくれるという話が出た時に、私に何かあったら兄に合わせる顔がないとか言って、ディーノと同じ部屋に泊まる羽目になったが。もちろん視線は送ったぞ、無視されたけどな。くそぅ。

 

 その日はしっかり休むのは決定だが、私の体力が心配ということもあり、話し合った結果天空闘技場に向かうのはもう1日遅らせようということになった。情報収集したかったし。

 

 予定通り私達は、次の日の朝からフミ子を連れて村の人達の怪我を治して小銭を稼いだり、要らなくなった物を譲ってもらった。もちろんその時に情報を得るのも忘れない。地図は貰えなかったが、写真を撮らせてもらったし天空闘技場への方角がわかった。

 

 外がまだ明るいところで区切りをつけ、私達は村を出た。出る前にディーノには恋愛イベントがあったようだが、断わっていたっぽい。よく聞こえなかったので、詳しくは知らない。

 

 私達は村から少し離れた後、すぐにスクーデリアに乗って移動した。

 

「やっぱ念能力者は少ないんだな……」

「あの規模の村じゃ、一生に一度会えるかどうかかもな。会えても強化系だとは限らないし、彼らが払えるような金額じゃない」

「そうか……」

 

 お互いに思うところがあったので、野宿出来そうな場所を見つけるまで無言だった。

 

「ディーノ、私も見張りをするぞ?」

「明日は長時間の移動だ。出来るだけ休むんだ。オレは数日寝なくたって何とかなるしな。途中でフミ子がかわってくれるみたいだし、大丈夫だ」

 

 そう言われ渋々フミ子と一緒に布に包まる。もふもふだし、ぬくぬくだ。

 

「身体痛くないか?」

「前に野宿したこともあるし、何とかなると思う。最悪、フミ子に眠らせてもらう」

「それがいいかもな」

 

 寝ようと目を閉じる。だけど、考えずにはいられなかった。

 

「……村の人達、まだ探しているかな」

「暗くなっても見つからなかったら、諦めるはずだ。少なくともオレが村長ならそうする」

「だったら、いいなぁ……」

 

 稼いだお金のほんの一部以外は全て村に落としたし、数日経てば私達のことは忘れようとするはずだ。でも仕方がないとはいえ、村人に悪意を植え付けてしまった。それだけ彼らにとってフミ子の能力は魅力的だったのだ。もちろん全員がそう思ってしまったわけじゃないだろう。少なくとも私達に心から感謝していた人達の前で、そういう素振りを一切見せなかったのは救いだと思う。

 

 ディーノが動く気配がしたので視線をむける。私が疑問を浮かべている間に、ディーノは私を横抱きにし、そのまま座り直した。普段なら怒っただろうが、抵抗する気力がなかった。彼の優しさに浸かりたい気持ちだったから。

 

「2人で決めたことだ」

「……ん」

 

 ポンポンと叩かれ、大人しく目を閉じる。1人じゃないと思うと眠れる気がした。

 

 

 

 次の日、明るくなる少し前から私達は移動を開始した。しかしまぁわかっていたことだが遠い。スクーデリアの速度でも丸一日飛びっぱなしだった。当然の如く、私が先にへばった。

 

「ごめん……」

「オレは大丈夫だから眠ってろ」

 

 食料も水分も優先してもらっているのに、これは酷い。ちょっと熱が出ているみたいに頭がボーッとするし。一般人の平均より体力が少ない私にはきつい道のりだ。かといって、陸路はもっとない。日数がのびる分だけ疲れが増すだけだ。

 

 飛行船に乗れるのが一番良かったのだが、戸籍がない私達では国境を越える航路のチケットは買えない。ディーノ1人なら忍び込めただろうが、私には厳しかった。

 

 ……ハンター試験に向かう時も大変そうだ。憂鬱である。今年は何期生なのだろうか。村ではわからなかったんだよな。といっても何期生かわかっても、主人公達の年が何期生か覚えてないので意味はないが。兄なら覚えてるんだろうな。

 

 完全にディーノに頼りきり、私が起きた時には天空闘技場に到着していた。

 

 おんぶのままで申し訳ないないが、どのチケットを買うか小声で指示を出す。今回ばかりは仕方ないので、所謂大穴というような倍率のものに賭ける。ディーノも何も言わなかった。元々、全財産が少ないので私達が賭けたとしても遊び感覚に見えるし、とにかく私を宿で休ませたかったのもあるのだろう。

 

 こんな状態でも、私の勘は外れることもなく無事に宿を確保出来た。ディーノが旅の疲れが出たと宿の人に説明したようで、胃に優しそうな食べ物を用意してくれた。非常に助かる。

 

 明日のことも相談したかったが、食事を終えた私はホッとしたのかそのまま寝てしまった。

 

 

 

 パチっと目を開ける。そして自身が雲の上に立っているという、ありえない光景に思わず溜息を吐いた。どうやら今回の予知夢の景色は上空らしい。……キツイ方か。

 

 私の予知夢は大きく分けて2種類ある。私が意識したというよりも、無意識に見ようとした時、または何気なく見た未来は、写真のような静止画で見える。この写真が結構重要なヒントになって、枚数が多いとそれだけ厄介なことになる。

 

 これはかなり使い勝手がいいが、私の深層心理に深く関わっているのか、私視点が多く、自身に身近な人物のことじゃなければ全く見れない。つまり身近であればあるほど見え、さらに気になれば気になる程、見える。問題は成功率がそこそこ。見たとしても、起きた拍子に忘れることもあるようで回数をこなすしかない。

 

 以前、ディーノが帰れる日を調べる時はこっちで見るつもりだった。他に何も杞憂がなく、気になっているのがそれだけなら、いつか見れるということだ。ディーノが帰る前、律儀に私のところに顔を出すので見える確率をあげていたのだ。まぁ彼は今、私と一緒に居て帰れなかったから、見れなかっただろうけど。

 

 この条件から考えると、私が興味のない野球の点数とかを見たいと思っても見れない。どっちが勝つかは勘でだいたい当たるけど。ちなみにだいたいなのは引き分けや中止があるため厳密には二択ではないから。勝敗の二択しかないと思い込んでいると、外れて驚くことになる。だから私の勘は意外と使い勝手が悪いと思っている。

 

 特に人の心は変わりやすいからか、私の二択能力を知っていると外れる可能性が出てくる。いやまぁ知っているのは限られた人しか居ないから、外れないけど。

 

 天空闘技場は相打ちの引き分けパターンがあるかもしれないが、この場合は払い戻しになるため大丈夫だろう。引き分けを賭ける項目がないし。取られてもシステム料だと思う。……念のため後で確認しよう、そうしよう。

 

 話がそれたが、今日の予知夢はもう1つの方だ。基本、私の深層心理に関わっているようで身近な人のことばかり見える。たまによくわからないのもあるが、後々わかるという内容が多い。つまりもう1つのと原理はほとんど一緒だ。

 

 決定的に違うのは、情報量。ただ1つの予知を見ればいいという時もあれば、大量の予知を同時進行で押し付けられることもある。ほぼほぼ後者。情報量が多過ぎて、何を見せたいのか全くわからないから、未来が見えていたのに後手にまわることがある。精神的にもかなりしんどい。起きたらボロ泣きとか良くある。多分、私のスペックの許容範囲を超えているからだろう。

 

 ちなみにリボーンが私に頼んだ内容を見ようとしたら、多分こっちになっていた。今私がこんな状態になっているし、情報量が多くなるのは明白だから。

 

 原理は一緒だが、瞬時に私はどっちのパターンか判断出来る。楽な方は写真が見えるだけだが、キツイ方は身体の感覚があるのだ。さらに写真ではなく、巨大なフィルムが私の周囲をまわるように流れていく。写真のフィルムよりフィルム映画の方が近いと思う。声も聞こえるから。

 

 ここでも深層心理が反映しているのか、私の体格より何倍もフィルムが大きい。それでも1つならそれだけを見ればいいので楽だ。フィルムの本数が重要になってくる。ちなみに1つの時は今のところ全部自身が死ぬ夢。楽でも全く嬉しくはない。

 

 それでも私が見る夢は未来を変えられるものが多い。ししょーのユニは変えれないものが多いことを考えると、恵まれていると思う。

 

 …………それにしても遅い。いつ始まるんだ。

 

 こっちは予知夢のことを考えて落ち着かせていたのに、一向に始まらない。油断すると大変なことになるので、意味もなくファイティングポーズをとる。

 

「あれ? なんで?」

 

 聞こえてきた声に反応し、振り返る。視界にうつった人物を見て、自身の目が見開いたのがわかった。この夢の世界で人とあったことがないし、以前一度だけ会った神の子だったからだ。

 

 パクパクと口を動かす。驚き過ぎて声が出なかったと一瞬思ったが、この場所では言葉を発することは出来ないようだ。……彼女は出来るのに。

 

「うーん、ちょっとゴメンね」

 

 そう言って彼女は簡単に私と額を合わせた。まったく動けなかったぞ。これがスペックの差である。気付いた時には彼女の顔が目の前にあった。そっちの気はないはずなのに、あまりにも彼女が綺麗過ぎて頬が赤くなる。

 

 ……なんだか彼女も頬が赤くなってきたな。まさか!

 

「違うからね! サクラちゃんの思ってることがわかってしまったの」

 

 なるほど、照れていたのか。

 

「出来れば、何があったか思い浮かべてほしい。何かきっかけがあったと思うんだ。一度繋がったぐらいじゃ、ここに来れるはずがないの。それにタイミングがタイミングだし……」

 

 一度繋がったというのは、私の身体を一度乗っ取ったことだろう。そういえば、謝ってもらってない。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 パッと額から離れ、頭を下げる姿を見て何だか申し訳ない気がしてきた。彼女が私の身体を乗っ取ってフミ子の改造案を出して貰わなければ、私はチョイスで死んでいただろうし。

 

 問題はもう怒っていないと示したいが、あいにく声は出せない。少し悩んで彼女の肩を叩き、顔をあげてもらう。不安そうな瞳をしていたので、前髪をかきあげて額をみせる。彼女も意図を察したようで、額を合わせた。

 

「……ありがとう」

 

 どうやらもう怒ってないぞと伝えることが出来たようだ。ついでに疑問をぶつける。彼女の目は私が持っているから、以前あった時は目には包帯をつけていた。

 

「お父さん……神様に新しいのを貰ったの。ううん、普通の目。えーとね、私は今から人として転生するんだ。神の力はほとんど残ってないけど、このタイミングで会ったのは多分何か意味があると思うの。だから教えてほしい」

 

 そう言われたので、この意味不明な状況を頭に思い浮かべる。HUNTER×HUNTERのマンガを彼女は知らないだろうが、私が思い浮かべればわかってくれるはず。

 

「……世界のバランスが崩れた? でも父は予兆を掴んでいなかった。ということは、崩れたのはHUNTER×HUNTERという世界?」

 

 情報を読み終えたのか、私と距離をとった彼女は呟きながら整理していた。

 

「ごめんなさい。父と連絡を取って聞きたいけど、私にはもうそこまでの力はないの。とりあえず、原因の予想を立てたから聞いてもらえる?」

 

 特に断る理由はないので頷く。解決した後ならどうでもいいが、巻き込まれている最中なので教えてほしい。

 

「あなたが今までに居た世界のバランスが崩れた。もしくは今いる世界のバランスが崩れた。まずこの2つのどちらかに絞っていいと思う。サクラちゃんの目には他の扉が見えなかったんだから、まず間違いないね」

 

 なるほど、私が思っている以上に真実の目のスペックは高いらしい。

 

「私は今いる世界のバランスが変だと思うの。理由はサクラちゃんが欲しかったのはこっちの世界。流されたのでしょ?」

 

 確かに私はHUNTER×HUNTER世界の方に流された。でもなんで私が選ばれたんだ。自身を指さして首を傾げてみる。

 

「一番ふさわしいと思われたんだろうね。サクラちゃんは世界を元に戻した実績があるから。その実績でサクラちゃんは未来をかえる力が誰よりも強くなってるから選ばれちゃったって感じかな?」

 

 両手をついて項垂れたのは仕方がないと思う。兄のためや胸を張ってツナ達と友達になれるように必死で過ごしていた結果がこれかよ!?

 

「えっと、ね。まだ希望はあると思うの。この世界の神関係とは出会ってないわよね?」

 

 項垂れながらも頷く。

 

「多分サクラちゃんは使命とか何もないの。ただ居るだけで世界のバランスが保たれていると思う。でもこの世界の神はそれを望んでいないわ。扉が消えないように維持しているみたいだし。こういう場合、扉はなくなるからね」

 

 えっ。扉がなくなるパターンの方が多いのか?

 

 額を合わせなくても私の顔を見ればわかったのか、彼女はなんてことないように頷いて言った。

 

「私の母はサクラちゃんみたい感じで巻き込まれて、父は利用しようとして口説いたらしいから。殴られたらしいけど」

 

 向こうの世界に戻ったら神に祈るのは止めよう。

 

 とりあえず彼女の話によると、ここの神様は私を利用しようと考えていないらしい。ちょっと気分が上昇したので座り直す。

 

「話を戻そっか。ここの神様は戻してあげたいし、連れてくるつもりもなかったと思うの。向こうの天候の悪化はそれが原因かな。サクラちゃんの誕生日からだし」

 

 誕生日?と首を傾げる。

 

「ずいぶん昔に向こうの世界でも4月4日にバランスが崩れたからね。お兄さんを治すには身近な人が良かったのもあるけど、産まれる日が4月4日だったのもあると思う。わかりやすくいうと何かが起こりやすい日ってことね。でも私の予想じゃこれっきりだと思う。連れてこようにもサクラちゃんの身体がもたないから、意味がないもの」

 

 聞き捨てならない言葉に慌てて額を差し出す。私の疑問に答えてくれ。

 

「戻る分には扉が残っているし身体はもつと思う。元々サクラちゃんの産まれはあっちの世界だからね。きっかけさえあれば、元に戻ろうとする力が働いて負担は少ないよ。……そっちも大丈夫。お兄さんとディーノさんの心配はしなくてもいいわ。全部サクラちゃんの実績になるから、今回みたいに彼らが他の世界に飛ばされることはないよ」

 

 安心したので、彼女から離れる。

 

「問題はきっかけをサクラちゃん達が作らないといけないの。神が力をつかって戻れるなら、もう戻ってるはずだからね」

 

 前に彼女と会った時に、神も大っぴらに力をつかうとバランスが崩れるとか聞いた気がする。いろいろ事情があるのだろう。

 

 それにしてもきっかけ、か。おそらく念能力が鍵となるだろうが、どうすればいいかもサッパリである。

 

「呪文カードの『同行』かなぁ」

 

 あれは主人公達が使ったからはっきり覚えているぞ。行ったことがある街かゲーム内で出会った人のところへ行くカードだ。だが、行ったことがある街というのはゲーム内の街かこの世界のことだろ。向こうの世界には行けないぞ?

 

「うーん、大丈夫かなぁ。まぁサクラちゃんの魂なら耐えられるはずだよね?」

 

 おい、なんか不吉な言葉が聞こえたぞ。

 

「ごめんね。強制的に決めちゃうね」

 

 ……嫌な予感しかしない。逃げようとするが、神の子と呼ばれる存在に敵うはずもなく、あっさり回り込まれる。

 

「大丈夫。元々持ってた能力があがるぐらいだよ。残念だけど、サクラちゃんはメモリ量が少ないみたいだからねー。元々持ってる力をちょっとずつ伸ばすぐらいしか出来ないと思うんだ。んー、残ったので1つ作っちゃおうか」

 

 おい、ノリで作るな。それにちょっとずつとか複数形に聞こえるぞ。1つは予知夢だと思うが……他はどれだ!?

 

 ふふっと笑いながら私に触れた彼女は、雲雀恭弥と似たような空気を出していた。……親切そうに見えたが、実は空気を一切読まないタイプだったようだ。

 

 額を再びあわせ、貰った力に頬がひきつる。彼女は神の子だったことを忘れてた。作った1つはまぁいい。ショボすぎるが兄には有効な能力だったから。問題は私と彼女がイメージするちょっとずつのズレが大きいことだ。私がもつ能力のレベルがあがりすぎだろ!?

 

 ……この後、私は驚きのあまり夢の中なのに意識を飛ばすという奇妙な体験をした。




言い訳はしないよ!ごめんね!
サクラがどうやっても自力で念能力を身につけれるとは思えなかったんだ……。

ここからはサクラの予知夢について。
サクラが考察してましたが、簡単に説明しますね。
こっちの方がわかりやすいと思いますw

発動条件
サクラが気になっていたり、身近なこと。サクラ自身に危機が迫っている時。

内容
Level1…静止画1枚。印象に残らず、見えていたのに起きた拍子に忘れるのがデフォ。(デジャブ?)

Level2…静止画が複数枚。わかる未来は限定的だが、これでも十分ヒントになる。(予知能力者)

Level3…フィルム映画一本。白昼夢もこれに当たる。(予知能力者の上位)

LevelMAX…フィルム映画数本。(?????)


自分本位の考えからか、どのLevelでもサクラ視点が多い。
サクラはLevel3までなら、気持ち悪くなることはなかった。ただサクラはいつもLevel2で見ようとしている節がある。そのせいか危機が迫る時ぐらいしかLevel3で見れなかった。

ちなみに一番サクラにあってるのはLevel3。
Level3とMAXを一括りにしていたことと、未来編の時に毎日Level3で自分が殺される予知夢(兄に刺された予知も含む)を見た結果、苦手意識が増え、深層心理にも影響しコントロールをさらに乱していた。


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ハンター証がほしい


さくさく進む。


 夢の中で神の子と会ってから一ヶ月後、私とディーノはドーレ港の上空に居た。

 

「多いな……」

 

 ディーノの呟きに同意し頷く。これだけドーレ港に集まっているのに、試験会場に辿り着くのは一握しかいないのだから、それはそれで凄いと思う。

 

「行くか」

「ん」

 

 目指す場所は当然一本杉である。ここで主人公達と会えるかで方針が変わる。まぁ念のためにナビゲータのところに向かっているが、十中八九会えると思うけど。私の勘を抜きにしても天空闘技場でのヒソカの勝敗数からして、原作前なのは間違いないし。本当にヒソカ様様である。

 

 実は私達が一番最初に賭けたのはヒソカの試合で、ヒソカの敗北に賭けて稼がせてもらったのだ。ヒソカの強さなら勝つと賭けた人は多かったが、登録を抹消されないために受けただけの試合だった。気持ちしか残ってなかったお金が数日分の宿代になったのだから笑うしかない。ありがとう、ヒソカ。ついでにイレギュラーが起きてハンター試験に来ないでくれたら私は嬉しい。

 

 まぁ例え会ったとしても被害を受けるのはディーノだろうけど。纏ってるオーラを見ながら頷く。私の次の日に目覚めたことから、私が思っている以上に才能の塊だった。

 

「ん? どした?」

「変態に狙われるから可哀想だと思って」

「サクラが狙われねーなら、それぐらいどうってこともねーよ」

 

 強さからの自信の表れか。もしくは単純バカだからなのか。……前者にしてあげよう。毎日バカみたいにオーラを練っていたし。

 

 しばらくすると、一本杉が近づいてきた。途中の過程はもちろんすっ飛ばしている。スクーデリアが居るのに地上から向かう必要性は皆無だから。

 

「おーい」

 

 私達の姿が見えたのか、ブンブンと手を振って呼びかける少年がいた。スクーデリアから発する炎に警戒してもいいと思うのだが。

 

「3人組だし、あいつらか?」

「ん。無視する必要はないし、行くか」

 

 私がそう呟くとスクーデリアが進路をかえた。私達が近付くとレオリオは「こっちに来たぜ」と焦り、クラピカは警戒しながら観察していて、ゴンは無邪気に嬉しそうだった。

 

 ちなみにディーノには彼らの性格は教えていない。自身で判断すると思うし、あんまり原作とかの内容は教えてないから。

 

「よっ」

 

 彼らと対峙する直前にディーノはスクーデリアから降りて、私を守るように前にたった。

 

「お前らも受験生か?」

「そういうあなた達も?」

 

 警戒しているクラピカの問いにディーノは笑って頷いた。ディーノが持つ空気に緊張がとけたのか、自己紹介をし始めた。ついでに私のことも紹介してくれたので軽く頭を下げる。

 

「オレ、ペガサス見るのは初めてなんだ! 触ってもいい?」

「スクーデリアがいいなら」

 

 私がそう言うと、ゴンはスクーデリアと視線を合わせた。しばらくするとスクーデリアが頭を下げたので許可したみたいだ。……動物に好かれやすいとは本当なんだな。

 

「スクーデリアは凄くいい子だね」

 

 そうだろうと偉そうに頷きながら、上手く勘違いしていることに安堵する。狙い通り彼らはスクーデリアの主人は私だと思ったようだ。ディーノはリングを隠すように手袋をはめているしな。

 

「そっちはパンダだよな? まだ小せぇみてーだが」

「ペガサスならまだしも、子どものパンダをハンター試験に連れて行くのは危険ではないのか?」

「フミ子」

 

 ずっと興味なさそうにしていたフミ子だったが、私の呼びかけにスクーデリアから飛び降りた。そして軽々とジャンプして再びスクーデリアの上へ乗った。

 

 バカな……と驚いているクラピカとレオリオを尻目にゴンは凄い凄いとはしゃいでいた。ゴンはフミ子にも触りたさそうにしていたが、フミ子はガン無視である。

 

「フミ子はサクラしか興味がないんだ、すまん」

「ディーノが謝ることはないよ!」

 

 ディーノはゴンのフォローに苦笑いしていた。真実を知っている私は心の中で憐れむ。

 

 主にディーノが彼らと意気投合したので、一緒に一本杉への小屋に入ることに。さて、この後は開けたらビックリ、魔獣である。

 

 私以外の者はすぐに構えた。……そういや、ナビゲータがいると言ったがディーノに魔獣のことを説明し忘れていた。

 

「ディーノ!!」

 

 私の声でムチを振るおうとした手が止まる。そのタイミングでキリコが逃げ出した。追いかけていった二人を私から離れるわけにはいかないディーノは見送るしかない。

 

「……片付けるか」

「頼んだ。オレはこの人を診る」

 

 文句を言われるかと思ったが、レオリオはゴン達が奥さんを連れ戻した後のことを考えて同意したようだ。が、怪我の手当をしながら、レオリオは大丈夫だと声をかけ続けているので、ついに彼がため息を吐きいった。

 

「サクラ、いい加減に説明しろよ。オレは慣れてるが、あいつらはわからねぇんだ」

「まぁもういいか」

 

 レオリオが私達のやり取りを聞いて、視線を向けた。

 

「これも試験の1つ。人柄と観察力、対応力を見るためだ」

「なにぃ!?」

「んなことだろうと思ったぜ。サクラが止めなきゃ、オレは手を抜かなかっただろうしなー」

 

 人を襲う魔獣にはディーノは容赦しないから、本当に危なかった。

 

「父が死ぬと思いました」

 

 ハハハと苦笑いする試験官の言葉に、レオリオは気が抜けたように「マジかよ……」と呟いた。ドンマイである。

 

 当然、私達はこの試験をクリアした。ゴン達は原作通りの理由で、私はネタを暴いたから、ディーノは人柄と圧倒的な強さを持っているという理由で。

 

「サクラはどうしてわかったんだ? 彼らの話からすると、一瞬でわかったようだが?」

「教える義理はない」

 

 私の言葉にクラピカはイラっとしたので、ディーノが慌ててフォローしていた。ちなみに私へのフォローはレオリオである。空気が悪くなった中、純粋にゴンが絶対?と聞いてきた。

 

「ディーノ、どう思う?」

 

 この場合、マンガではなく私の予知のことだ。今後の方針でマンガで知っていることは全部、私が予知能力で知ったということにすると決めたからだ。

 

「……オレは反対だ。ゴン達には悪いが、サクラの安全を優先する」

 

 クラピカのフォローに入ったディーノが言ったため、話さないのも相当な理由があるとわかったらしく、クラピカが非礼を詫びた。

 

「いや、私も口が悪いから」

「しかし話すのが当然だと思っていた私の方に非がある」

 

 確かにそうだと思った私は、謝罪を受け取り許した。

 

 ひと段落したので、試験会場に案内するという話になった。ただ人数が多いのでナビゲータのキリコ達が困っていたので、私とディーノはスクーデリアで移動すると伝えた。そもそも私の腕力ではキリコにぶら下がって移動することは不可能だし。

 

 

 

 

 街の近くに降り立った途端、スクーデリアが消えたことにゴン達が驚くという些細なことが起きたが、概ね順調に洋食屋にたどり着いた。

 

「お風呂入った後に肉か……」

 

 臭いがついて嫌だなと思いながらも、ガッツリ食べる。手袋をつけたままナイフとフォークを使うのにやっと慣れてきた。美味い。

 

 ディーノは手袋を気にすることもなくナイフとフォークを動かして食べながらも、ハンターについて語っている2人の話に感心していた。

 

「まさかゴンだけじゃなくディーノも知らねーとは思わなかったぜ」

「ゴンよりは知ってたぜ。ただオレがサクラを守るにはハンターになるのが手っ取り早いとわかってから、それ以外は興味なかったんだ」

「2人の関係を聞いてもいいか? 私が感じた限りではディーノはサクラの護衛に見えるのだが……」

「そう思ってくれていいぜ」

「オレ、2人は付き合ってると思ってたよ」

 

 むせた。呼吸を整えながら違うと目で訴える。まさかゴンにそんな勘違いされているとは思わなかったぞ。……レオリオもか!

 

「まだ落とせてねーんだ」

 

 ディーノの言葉は無視だ、無視。おいこら、3人ともディーノを応援するな。なぜ誰も私の味方にならないんだ。

 

 イライラしているとエレベーターが開く。この中で誰よりも早く殺気だった気配に気付いたディーノが私を守るように動いた。前が見えないんだが。

 

「何人?」

「……3人だ」

 

 駆け出しそうになった私の肩をディーノがおさえた。

 

「サクラが探しに行くより、安全で手っ取り早い方法があるだろ?」

 

 意味がわかったので、息を整える。それが終わった後は、思いっきり息を吸い込んで、力一杯叫んだ。

 

「お兄ちゃん!!!!」

 

 いやまぁ予想していたが、速すぎて見えなかった。

 

「……ああ、僕はもうダメかもしれない。サクラのぬくもりを感じるよ。可愛い、可愛いよ、サクラ」

 

 私をぎゅうぎゅうと抱き締めなら呟く兄はかなりヤバイ人だった。ディーノは苦笑いするだけだが、ゴン達はドン引きである。

 

「フミ子」

 

 パフォという鳴き声と共に、フミ子は兄の頭を思いっきり殴った。バタッと仰向けに倒れた兄を放置し、フミ子に良くやったと褒める。

 

「今のは……」

「サクラの兄貴なのか……?」

「お兄さん、大丈夫?」

 

 ゴンが兄の心配をしているので、声をかける。

 

「自己紹介」

「僕の名前は桂! サクラのお兄ちゃんだよ! 道中、サクラが世話になったようだね。まっサクラの可愛さなら助けるのは男として当然のことだけどね!」

 

 ……久しぶりにこのノリに対応するのは疲れるな。

 

「おや? ディーノ?」

「今頃かよ」

「すまないね。サクラしか見えなかったのだよ。君が側に居てくれて本当に助かったよ」

「気にすんな」

「お兄ちゃん、コレ読んで」

 

 今までの経緯を書いた紙を渡したら、兄はサクラからの手紙と呟き、ウットリしていた。

 

「ディーノ、行くぞ。君達も兄にかまってるとハンター試験に乗り遅れるぞ」

 

 兄はシスコンだが、バカではない。手紙を人の目があるところで読むべきじゃないのはわかっている。私達が離れやすいように仕向けたのだ。それがわかっているディーノも、ゴン達の背を押すような言葉をかけていた。

 

「407か」

 

 ゴン達が一つズレていたので、兄の分でズレたのだろう。ちなみにディーノは408。

 

「お兄ちゃんは何番?」

「僕は45番だよ」

 

 当たり前のように私の問いに答えるために現れた兄を見て、ゴン達はギョッとしていた。兄のシスコン度をナメちゃいけないぞ。……威張る内容じゃないか。

 

「桂、手紙は?」

「処分したよ。残念だけどね」

 

 見られたらマズイ内容だしな。私とディーノの念能力についても書いているし。

 

 突如、アラーム音が鳴り響く。マラソン大会が始まるらしい。もちろん私は真面目に参加する気がないので、参加者が走り始めたころ、スクーデリアを出してもらう。周りが驚いたが無視だ。

 

「よっ」

 

 フミ子が手を出して踏み台を作ってくれるし、練習したので1人で乗れるようになった。手紙にもこのことを書いていたので、兄も特に驚かなかった。

 

「サクラ、ずりーぞ!」

「何を言ってる、私のひ弱さをナメちゃいけないぞ」

「威張る内容じゃねー!」

 

 レオリオのツッコミを聞き流し、前を向く。ヒソカが興味を示したのか、視線があった。だが、私の才能の無さがわかったのか、視線がスクーデリアにうつる。

 

 しかし、スクーデリアは念を纏っていない。具現化した生物なら念を纏わなけば念能力として弱すぎる。それなら本物の馬を操作した方が断然いい。でも操作系なら出し入れ出来ないので、具現化した馬にしか思えないのだ。一番おかしいのは私の才能ではこれほど精密な動物を具現化出来るとは思えないことだろう。

 

「うーん♣︎ 試しみようか♠︎」

 

 ヒソカのトランプが迫っていたが、ディーノがムチで叩き落とした。なんだなんだと慌てているレオリオ達に兄がヒソカについて説明する。……トンパの役割を奪ったな。

 

「詳しいな。ヒソカと知り合いなのか?」

「知り合いというほどでもないよ。エレベーターで一緒だっただけさ。僕が詳しいと思うなら、新人つぶしの異名を持つトンパにお礼を言えばいい。多分君達も絡まれるから」

 

 さりげなく本来なら彼らが知った内容を教えたな。流石、兄である。

 

「でもサクラを攻撃したのは見逃せないね。少し挨拶してくるよ」

 

 兄はそう言うと、壁渡りをしてヒソカの横へ移動した。凄い凄いとゴンが喜んでいると、キルアが「そうでもねーよ」と会話に加わった。どうやら兄の行動にキルアのプライドが刺激されたらしい。まぁ私は彼らの会話より大切なことがあるので後回しにする。

 

「ディーノ、ありがと」

「気にすんな。それより桂は大丈夫なのか?」

「兄のことだから、のらりくらり躱すだろ」

「……それもそうか」

 

 兄が本気を出す時は私に何かあった時だ。私にはディーノがついているので、その心配はない。それに兄は白蘭とどーでもいい内容の会話を続けれるんだぞ。絡まれ続け、ヒソカの気が削がれる未来しか見えない。骸曰く、兄はネチっこいらしいし。

 

「ねぇ、サクラは何歳なの?」

「16」

 

 ええ!?と声をあげたのはレオリオだった。そこまで違和感はないだろうと思い、視線を向ける。

 

「……いや、だってよ。犯罪だろ」

「言うな。オレが一番思ってる」

 

 どうやらディーノの年齢をレオリオは確認していたらしい。とりあえず、私はノーコメントを貫く。

 

 最初の方は和気あいあいと進んでいたが、距離が距離なので大変そうだ。ディーノはスクーデリアとフミ子を出しているので心配だが、汗はかいていてもまだ疲れているように見えない。念能力を覚えたことでこれほど効果が出るとは……。

 

 しょぼいオーラしかない私だと、眠らない程度に何度も足とお尻をフミ子に治してもらってるのに。

 

 しばらくするとレオリオが失速し始める。ちなみに私は邪魔になると思ったので、ディーノと一緒に最後尾である。

 

「頑張れ」

 

 応援すれば、睨まれた。しかし、スクーデリアのことだからゴンでも乗せないと思う。結構プライド高いし。仕方ないので先に行くと、物凄い勢いで追い抜かれた。ディーノと目を合わせて笑う。

 

「ゴン、カバン持つぞ。それぐらいならスクーデリアも嫌がらないから」

「ありがとう!」

 

 レオリオのカバンを受け取りすすむ。再び時間がたつと初のリタイアが出た。トンパが楽しもうとしていたので、スクーデリアが威嚇したら逃げていった。後で思いっきり撫でてあげよう。とりあえず今は届く範囲で体をよしよしと撫でる。

 

 私がスクーデリアを褒めていると、ついに階段が現れた。……少し心を折るか。

 

「ディーノ、ごめん。かなりペースあげるぞ」

「ああ、いいぜ」

 

 許可を貰えたのでスクーデリアに声をかける。意図を察したようで翼を出して、飛び立った。抜かしていけば、ズルイという声があちらこちらから聞こえてきたので口を開く。

 

「いやだって、しんどいし」

 

 ブーイングの嵐である。心を折るつもりが、逆効果だったらもしれない。まぁブーイングに兄が怒っていたので、多分酷いのは脱落するだろうな。可哀想に。

 

「人の心は難しい」

 

 そんなことを呟いている間に先頭まで来てしまった。ディーノも壁渡りをしてちゃんと来ているようだ。原作通りゴンとキルアも居たようで、視線が合うと声をかけられた。

 

「ねぇ、さっきまで翼はえてなかったよな。なんで?」

「元々この子は天馬。原理は詳しく知らない」

「突然現れたのは?」

「生体兵器だから収納出来るんだ」

「スクーデリアは兵器なの……?」

「私はそう思ってないぞ。この子達にも感情がある。スクーデリアの目を見た君なら、この子が幸せかどうかわかってるだろ?」

「うん!」

 

 ゴンが嬉しそうに返事したので、偉そうに頷きながらディーノを盗み見る。バレないように隠しているが、私には喜んでいるのがわかった。

 

「あんたが作ったの?」

「作った人はこの世に居ない。私はメンテナンスが出来るぐらいだ」

「ふーん」

 

 キルアの反応からして、ちょっと欲しかったらしい。もしくは暗殺一家としての興味だったかもしれない。

 

「私は戦闘タイプじゃないから、この子達が居なければ落ちていただろうな。まぁハンター証は兄かディーノが取れば別にいいんだが」

「じゃぁサクラはなんでハンター試験に受けたの?」

「実は……私達兄妹が側に居ないとディーノはポンコツになるという残念体質の持ち主で……」

「ちょっと待て!? ゴン達にウソを吹き込むなよ!?」

 

 黙って様子を見てたら、これかよ……とディーノは疲れたように呟いた。本当のことしか言ってないから、私は謝らないぞ。

 

「まぁ金の卵とコネが出来ると思えば、ハンター試験を受ける意味はある」

「面白そうじゃん。あんたから見て、金の卵って誰?」

「強さなら君達2人と忍者は上位。その次がクラピカ。ちなみにヒソカと顔に画鋲みたいなのが刺さってる奴は別枠。あれは卵じゃなくて金だ」

「レオリオは入らないんだね……」

「強さだからな。私個人の感覚では、一番この中で会えて良かったと思える人物はレオリオだ」

 

 実際女好きなところを抜けば、性格の良さは一番だと思う。ゴンは嬉しそうに私を見たが、キルアはちょっと面白くなかったらしい。一番強いと言わなかったからスネているようだ。

 

「大丈夫だ。お前は強いぜ」

「……知ってるつーの」

 

 ディーノってちょっと捻くれた人物の相手をするのが好きだよな。今も抵抗しているキルアの頭を撫でてるし。

 

「っと、今のはあいつか?」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「なんでもねーよ」

 

 多分今のはイルミから殺気を向けられたな。兄の性格上、キルアを気にするだろうし、大変なことになりそうだ。これから起こりそうな未来を思って溜息が出た。



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 ゴン達と会話していると出口が見えてきた。外に出るとサトツの足が止まったので私達も止まる。ヒソカに絡みまくっていた兄も私達と合流した。

 

「お兄ちゃん、ここからは危なさそうだからさ。覚悟が出来てなさそうな人は置いてきた方が良くない?」

「それもそうだねぇ」

 

 周りの人は何言ってんだという視線を向けているが無視だ。

 

「覚悟がないものはトンネルの中に戻りたまえ!!」

 

 兄が叫ぶと、50人ぐらいが戻っていった。相変わらず異様な光景だ。そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、兄を警戒する人が続出した。

 

 ヒソカが嬉しそうに兄を見て笑っているが、まぁ大丈夫だろう。

 

「サクラ、兄貴は何をしたんだ?」

 

 こっそりレオリオが私に耳打ちしてきたので、隠すことなく普段の声量で答える。

 

「人を操ってるように見えるだろ? でも違うんだ。兄は異様に注目されやすい体質なだけ。兄が声をかけるだけで人が動くのは地元じゃよく見る光景だぞ」

「マジかよ……」

「オレ達の故郷だとそういう体質持ちは稀にいるんだ」

「ん。私も変わった体質持ちだし」

 

 ギョッとしたようにレオリオが私を見るので、兄ほどではないと軽く答える。

 

「僕からすれば、サクラの方が凄いと思うよ!」

「……オレからすれば、体質持ちなだけでやべーからな」

 

 ディーノの呟きに、思わずジト目になる。究極のボス体質持ちに言われたくない。それに念能力だってその延長上だろ。

 

 私達が黙るまで待ったからなのか、観察し終わったからなのかはわからないが、サトツが説明し始めた。途中でニセ試験管が出たところで、パフォとフミ子が鳴いた。そこから記憶はない。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 目を開けると建物が見え、状況を察した。フミ子に眠らされたらしい。相変わらず過保護である。

 

「お兄ちゃんが運んでくれたの?」

「そうだとも!」

「ああ、本当だ」

 

 ディーノも同意したならウソではないようだ。兄のことだから、無茶したかもしれないと思っていたのでホッと息を吐く。

 

「覚悟がある者だけだったからね。僕もディーノも手出しはしないさ」

「そ、っか……」

 

 私が助けてあげてと頼む可能性の方が高かったのかもしれないな……。そう考えるとフミ子の判断は正しい。私が一番『死』に慣れていないのだから、わかっていたのに混乱しただろうし。

 

 お姫様抱っこ状態だったので、兄に頼んでおろしてもらいフミ子を探す。スクーデリアの後ろに隠れていた。

 

「フミ子、怒ってないぞ」

 

 私の顔色を伺いながらも、フミ子は少しずつ寄ってくる。なので、手を広げてあげると勢いよく飛びついてきた。……ちょっと痛かった。

 

 フミ子は勝手にブラさがるので放置し、スクーデリアを褒める予定だったので、鼻筋を撫でる。

 

 私がスクーデリアをナデナデしていると、扉が開いた。二次試験が開始のようだ。豚の丸焼きが食べたい、か。

 

「……丸焼きって美味しいのか?」

「好きな人は好きだと思うよ」

 

 好みの問題かと考えながら、行ってこいと兄達に指示を出す。私が心配かもしれないが、早い者勝ちなのでさっさと行った方がいい。スクーデリアに乗ってついて行ってもいいが、襲われている受験者を見てしまうだろう。エリザベスの形態変化をつけれればいいのだが、手袋を外せないからな。外せなくはないが、リスクから考えるとこのままの方がいい。

 

「じゃ、私は火の準備してるから」

 

 私の分はフミ子が持ってきてくれるので、2人と1頭?を送り出す。フミ子に頼んだのは2人に任せて文句をつけられると困るから。護衛としてスクーデリアが残ってくれているので大丈夫だろう。嫌な予感はしない。問題のヒソカとイルミも取りに行ってるし。

 

 心配そうにディーノが何度か振り向いたので、しっしっと手を振った。君のスクーデリアは私を咥えて逃げるぐらい出来るぞ。というか、心配するなら早く戻って来い。

 

 2人と別れた私は安全を優先し建物から離れない位置で落ち葉や枝をせっせと拾う。スクーデリアに持ってもらってる荷物の中からライターを出す。その時にレオリオの鞄がないことに気付いたが、兄かディーノが返したのだろうと気にするのをやめた。あの2人から盗むなんて自殺行為だし。

 

 そこそこいい感じに火が大きくなったと思ったら、兄達とゴン達が見えた。兄とディーノが誘ったのだろう。向こうで火種を起こすより私の火を分けた方が楽だからな。

 

「パフォ!」

「流石フミ子。小さいのに相変わらず凄いな」

 

 褒めて褒めてというようにフミ子が見てくるので、もふもふした。

 

「……普段もこれぐらい謙虚ならいいのにな」

「パフォ!?」

 

 おっと、つい本音が出てしまったようだ。フミ子と私がふざけている間に兄とディーノがセットして私の分の豚も焼いていた。いい匂いでお腹が減ってきたな。……まぁ匂いのせいで物凄いお腹の音を鳴らしている人物が近くにいるので、食べる気はしないが。

 

 焼きあがった豚は再びフミ子が運んでくれたので、私も合格した。ちなみに第一号である。他の受験者より効率よく準備していたし、ゴン達は私達より後にすると譲り、兄とディーノはレディファーストなので、当然の結果でもある。

 

「70人か」

 

 豚の丸焼きの合格者人数が多いのか少ないか、詳しく覚えてない私にはわからない。そのため、兄に視線を向ける。

 

「まずまずの人数だね!」

 

 多いとも少ないとも言わなかった。つまりマンガと同じ人数なのだろう。食べれる量は変わらないので、私達が居ても一緒になったのか。

 

 私が1人納得しているとメンチから課題が発表された。当然メニューはスシだ。ヒントは建物の中にあるというので移動しようとすれば、メンチに407番と止められた。

 

「美食ハンターとして、衛生上の理由から動物を中に入れるのは禁止よ!」

「ああ。それもそうか、すまない」

 

 スクーデリアから荷物を外すと、フミ子と同時に消えた。流石ディーノ、タイミングがばっちりである。ちなみに荷物はすぐに兄に渡した。だって重いし。

 

 しかしまぁ観察されているな、念能力者に。オーラ量の変化を見ていたのだろう。しかし死ぬ気の炎の影響でオーラが変わるのは微々たる量しかない。流石に一度に使いすぎると変化はするが、そのラインは検証済みである。私達に抜かりはないのだ。

 

 何事もなかったように私達は建物に入っていく。ディーノは道具を見て、自身が知っているスシと一緒だと察したようだ。

 

 スタートの合図があったが、誰も動こうとしない。兄は包丁を見て、素晴らしいね!と喜んでいた。

 

「サクラ、お前は作れるのか?」

「ふっ、ナメてもらったら困る。私は食べる専門だ」

 

 ディーノの発言で聞き耳を立てていた者達がずっこけた。ノリがいいな。そこにレオリオの「魚ァ!?」発言である。みんな一斉に外へ向かった。

 

「行かねーのか?」

「この試験が受かるのは兄ぐらいだろ。彼女を唸らせる程の腕は私達にはない」

「職人技だしなー。桂、サクラのことはオレに任せて行ってきていいぜ」

 

 ディーノには二次試験は料理と教えたが、流れは教えてないからな。兄に声をかけるのは当然か。考えた末、私は沈黙を貫く。が、お腹は鳴った。

 

「任せたまえ! サクラのためにとびっきり美味しいスシを用意するよ!」

「メンチにも用意しろよ!?」

 

 颯爽と駆け出した兄にディーノのツッコミが届いたのかは微妙なところだ。

 

 ヤル気のない私は建物の端に座る。ディーノは警戒のためか立ったままだ。

 

「あんた達、失格にするわよ」

「……握り寿司はシャリの量や握り加減による空気の含み具合、後は握る回数か。それで味が変わる。魚も包丁の入れ方でも味が変わるって聞くぞ。素人の私達には難易度が高すぎる」

 

 料理マンガとは別で寿司マンガがあるぐらいだぞ。その時点で奥が深い。包丁をまともに握ったことがない私が作れるわけがない。

 

「へぇ。よく知っているから作らないのね。でも試す気もないのもどうかと思うわ、これはハンター試験よ!」

「……ヒントがあるし、観察力や注意力を見る試験でもあるんだろ? 作り方を初めから知ってる者が入れば、困るのは君だと思うが」

「メンチはオレと違ってあんまり食べれないからなー」

「う、うるさいわよ! ……まったく、口の減らないガキね!」

 

 試験官と会話し終わると、受験生達がチラチラと帰ってきた。ディーノが彼らが持ってる魚の種類を見て、まじかよ……と引いていた。残念、まだ序の口だぞ。

 

 ゴン達のあまりに酷い寿司を見たメンチは私とディーノに視線を送ってきた。普段なら無視するのだが、ちょっとだけ手助けする。

 

「お兄ちゃん、遅いな……」

 

 無駄に耳がいい兄なら、これで戻ってくるだろう。

 

「すまない、サクラ。待たせたね!」

「ん」

 

 兄に返事しながら、私は頭の近くにあるディーノの手に視線を送る。……君も引っかかるな。

 

「サクラ、出来たよ!」

「ん。相変わらず早いな」

 

 兄の手にはこれが握り寿司だ!と断言できる物があった。生半可な者では作ってる過程は見えなかっただろうが、完成図はわかったので何とかなるだろう。

 

「いただきます」

 

 パクッと一口で食べる。兄は私の口のサイズに合わせて調理するので食べやすいのだ。もちろん味は一級品。うまうま。

 

「致命的なミスを犯したな! お前以外にもスシを作れる奴はいるんだ!!」

 

 ……ハンゾー死んだかもな。兄の手捌きが見えたヒソカとイルミも作り上げて並んでいるぞ。まぁ私は口を動かすのに必死なので自力で頑張れ。

 

「サクラ、あまり詰め込みすぎて喉詰まらせるなよ?」

「んんーん」

「ったく」

「ディーノにも恵んであげよう。サクラ1人じゃ食べきれないだろうしね」

「おっ、サンキュー」

 

 うまうまと食べているとメンチが「終わりよ!」と告げた。どうやらお腹がいっぱいになったらしい。

 

「45番、持ってきなさい。まだ一皿ぐらいなら食べれるわ」

「ふざけるな!」

「うるさいわね! 明らかに一級品と言われる物が目の前にあるのに、あなた達のもちゃんと食べて審査したのよ! 試験官としての責務を私は果たしたわ! 45番、持ってきなさい!」

「僕に言わないでくれたまえ。僕が自信を持って作った寿司は全てサクラにあげたからね」

「ん?」

 

 夢中で寿司を食べていると、いつの間にか視線が集まっていた。

 

「サクラ。彼女も食べたいって言ってるのだけど、どうする? ここにあるものしかないのだよ」

「そっちにいっぱいあるだろ。これは私のだ」

 

 あげないという風に寿司を身体で隠すと、周りがざわついた。なぜだ。

 

「あー、サクラ。一個だけだ、な?」

「……ひとつだけだぞ」

 

 ディーノが渡した方がいいとアドバイスしたので、仕方なくメンチに持っていく。

 

「ん」

 

 メンチが兄の寿司を食べると、幸せそうな息を吐いてからソファーに倒れこんだ。兄の料理は美味いだろうと偉そうに何度も頷いていると、ブハラも見ていたので、皿に残っていたのを全部あげた。

 

「ちょっと! 私には渋々で一つだったのに!」

 

 そう言われても私にもよくわからない。彼の目を見てあげようと思ったのだ。

 

「サクラは小さな子どもに甘いからねぇ」

「ああ。ランボと似たような反応したブハラにはあげねー選択は出来なかったんだ」

 

 言われてみると、確かに目がキラキラしてヨダレを垂らしていたからあげたかも。……みんな、元気にしているだろうか。

 

 ほんの少しシンミリしていると、ゴホンとメンチが仕切り直すかのように咳をして注目を集めた。

 

「二次試験、後半の料理審査。合格者は……わかってるわよ。407番、一名よ!」

「は?」

 

 なぜか兄ではなく私が合格していた。……よくわからないが、ラッキーである。



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「んだよ、それ!!」

 

 1人がそう叫ぶ始めると、他の者達も同意し始める。私が言ったわけじゃないし、傍観者に徹しようとすれば、本気の嫉妬の視線や殺気が突き刺さる。それでも私に直接何かしてくる訳じゃない。放置しておこうと思ったが、許さない者がいた。

 

「やべっ」

 

 焦ったようなディーノの声を出していたが、私も頬を引きつらせていた。兄から禍々しいオーラが出ている。耐性のない人が悪意あるオーラに触れれば大変なことになる。隠が使えないので人前で使いたくなかったが、そうも言ってられない。

 

「『愛のあるツッコミ』」

 

 スパーン!と気持ちいい音がした。ブッ倒れている兄を放置し、ギリギリ間に合ったと私は周りを見渡す。一応、ハンター志望というだけあって気を失ってるものはいないようだ。冷や汗は凄そうだが。

 

「で、バカはいつまで寝ているんだ?」

 

 『愛のあるツッコミ』は兄を元に戻すきっかけを作る念能力である。私の視界に兄がいて技名を発すると、必ず兄の頭にハリセンが当たるぶっ飛んだ仕様だ。しかし裏を返せば、兄にしか使えない残念な念能力でもある。ちなみにハリセンが当たると脳内に私のことが流れるらしい。その代わり兄のダメージは0。だから倒れているのは兄のノリ。

 

「すまない、サクラ! 許してくれたまえー!」

 

 私に向かって土下座し始めた兄を見て、溜息しか出なかった。謝る相手が違うし、『愛のあるツッコミ』だけで済んだからいいものの、もう一つ使うことになればイルミとヒソカに目をつけられる可能性があった。私の念能力はかなりレアだから本当に気をつけてほしい。

 

「サクラ、後でオレが怒るから。な?」

 

 暗にお前だけは許してやれとディーノが言うので、許すことにする。後でディーノに思いっきり怒られるといい。

 

 兄のせいで妙な空気になっていると、「合格者一名はちとキビシすぎやせんか?」と外から聞こえてきた。メンチとブハラが連絡した様子はなかったたので、サトツがしたようだ。流石に見過ごせなかったらしい。

 

 ぞろぞろと外に出て行くが、ついていく気がしなかったので、後から行こうと受験生を見送る。すると、流れに逆らってこっちに来る人物がいた。

 

「やぁ♥」

 

 私を守るように兄とディーノは前へ出た。

 

「いい加減、キミ達の本気がみたいな♦︎ それとも後ろに隠れてる子を殺さないと、本気が見れないのかな♣︎」

「くだらない挑発に乗るなよ」

 

 オーラが跳ね上がった2人に注意する。すると、兄が私を抱き上げ、ディーノが窓を割って一緒に建物から出た。

 

 窓は三階ぐらいの高さにしかなかったので、当然そんな派手な方法で外に出ると注目される。

 

「今年は活気がいいのぉ」

 

 ふぉふぉふぉと笑っているネテロ会長はやはり大物かもしれない。でもまぁおかげで脱力出来た気がする。

 

「会長。彼女は試験合格していたので再試験から外してもらってもいいですか?」

「ほぉ。彼女がメンチくんが認めた料理人か」

「それはこっち」

 

 私が兄を指差すと、ネテロ会長はヒゲを撫でながらメンチに視線を向けた。

 

「少々事情がありまして……。ですが、彼女はこの試験の意図を正確に読み取り行動したことから、私が測る予定だった注意力と観察力は申し分ないかと思います」

「よかろう。それにこちらの都合で取り消すのはあまりにも可哀想じゃしな」

 

 そうしてくれと私は頷く。別にスクーデリアに乗って卵を取りに行ってもいいが、撤回されれば兄がうるさいだろうし。今日はもう兄の暴走はやめてほしい。

 

 卵をとりに飛行船で移動することになったが、兄はまだヒソカを警戒しているようで横抱きのままである。ジロジロと見られて恥ずかしい。

 

「おい! ゴン!」

 

 キルアの声が聞こえ視線を向けるとゴンがこっちに駆け寄ってきた。

 

「さっきのどうやったの?」

「どっちだ?」

「えへへ。どっちも」

 

 兄からの威圧感か私が出したハリセンのことかわからず質問すれば、まさかの両方である。欲張りだな。

 

「どっちも原理は一緒。きっかけさえあれば、身につけれるものだ」

「きっかけ?」

「そう。でも無闇に教えてはいけないものだから、知らない人が大多数を占めている。良い師匠を見つけるのが早道だ」

「そっか! ありがとう!」

 

 ブンブンと手を振りながらゴンはキルアの元へ戻って行った。大方、アニキと同じ強さとか言ったのだろう。……可哀想にゴンがキルアに殴られていた。

 

「ディーノ、フォロー頼む」

「君から見える位置にはいるさ」

「……わかった」

 

 ゴン達の仲裁にディーノが入ったので、少しはキルアの警戒心は薄れるだろう。……ディーノが居てくれて本当に助かる。

 

 多分そう思っているのは私だけじゃないと思うので、私は兄の首にしがみついたのだった。

 

 

 みんなが卵を取りに飛び降りている間、私はスクーデリアとフミ子を撫でながら時間を潰す。今回は2人とも一緒に向かった。多分ヒソカを見張りながら行った方がいいと判断したと思う。しかしヒソカがバンジーガムを使った時はどうするのだろうか。……その時は兄が植物を使って足止めをするのかもしれない。

 

「変わった能力じゃのぅ」

 

 オーラを纏ってないから言ったのだろうか。呟いたネテロ会長に答えを教える。

 

「違うぞ。これは科学者が作った生物兵器。……私はこの子達に何度も助けられた」

 

 気にするなというようにスクーデリアが私の頬に顔を寄せた。本当は主人を守りたいはずなのにいい子だ。

 

「なるほどの」

 

 そう言ってネテロ会長は私から離れたが、バレた気がする。主人が私でないことも、そうせざるを得ない理由も。手袋の内側にしか神字は書いてないのに……。

 

「僕の勝ちのようだね!」

「くそっ、負けちまった」

 

 聞こえた声に視線を向ける。どうやら兄とディーノは勝負をしていたらしい。無駄に帰ってくるのがはやかった。私が心配なのもあると思うが。

 

「んなことより、卵プリーズ」

 

 当然のように私は2人に向かって言うと、片方は自信満々にもう片方は苦笑いしながら、二個ずつ取って来ていると私に見せた。

 

 二個も食べれることに上機嫌になった私は2人にさっさと鍋にいれてくれと視線で促す。

 

「ほんと、可愛いな」

「そうだとも! サクラは誰よりも可愛いのさ!」

 

 頭おかしいんじゃないのかと思い、僅かに2人から距離を取るとレオリオにぶつかった。

 

「おっと、悪い。大丈夫か?」

「大丈夫。そもそもこっちが悪いし」

 

 体格のせいで私の方がフラついたが、ぶつかりに行ったのは私である。文句は言わない。

 

「あ」

「お、おい!?」

 

 まずい、倒れる。と思った時、誰かに支えられた。

 

「後のことは任せて寝ろ」

「……ん」

 

 慣れ親しんだ声が聞こえ、私は素直に目を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 眠りについたサクラを抱え直し、ディーノはサクラの上空に視線を向ける。そこには翼の映えた天使のような存在が目を閉じ祈るように手を組んだ姿で浮かんでいた。サクラが強制で絶状態になったことから予想していたが、念能力が発動したらしい。

 

「おいおい……大丈夫なのか? これでも医者志望なんだ、少しは役に立つぜ!」

「いや、大丈夫だ。たまにあるんだ」

「……持病か?」

 

 過保護と言われてもおかしくないぐらい、サクラが1人になることはない。基本、ディーノと桂のどちらがいるし、離れる時があっても動物が側にいるのだから、目の前で倒れるところを見たレオリオがそう考えるのは仕方がないことだろう。

 

「そんなところだ」

「……そうか。ある程度薬は持って来てるんだ。いるなら声をかけてくれ」

「そん時は頼む」

「ああ」

 

 話を切り上げようとする気配に気付いたレオリオは、医者を目指してるものとして、いつでも手助けするということだけは何とか伝えた。が、ディーノの様子からして頼る気はないと薄々感じていた。予想通り、2人は話が終わればその場からすぐに離れた。

 

 レオリオの過去を聞いたクラピカはそっと肩に手を置く。クラピカはディーノとサクラとの交流を減らしたが、それはサクラの兄の異常さを警戒しているからであって、2人を嫌ってるわけではない。

 

 クラピカも気持ちは一緒だと通じたレオリオは振り払うこともなく、サンキュと小さな声で言った。

 

 

 ディーノはレオリオと別れた後、人混みから離れるように移動した。今のところ不審な動きはない。桂が他の念能力者を見張ったのもあるだろうが、ディーノが円をつかったことに気付いているのもあるだろう。

 

 現在のディーノの円の大きさは約30m。念を覚えてそれほど立っていないことから考えると、広範囲だ。尚且つディーノはその状態を一日中維持出来る。ただし、サクラと触れているなら。

 

 ディーノは短時間に念の威力をあげるため、1つの制約をたてた。

 

 サクラがディーノのムチによる攻撃範囲に入ると、その距離に応じてオーラ量がはねあがるように。

 

 もちろんサクラが強ければ、制約の意味がなくここまでディーノは強くならない。そのため条件を満たした状態でサクラが攻撃をしかけると、サクラが与えたダメージの十倍、ディーノのオーラ量が減っていく。オーラが無くなればディーノは絶になる。期間は不明。つまりサクラは足手まといでならないといけないのだ。そのサクラを側に置くリスクを抱えることで、ディーノは強くなっている。

 

 現在、ディーノはサクラを抱き上げて密着している状態だ。更にディーノ本人すら気付いていないが、サクラは念能力を発動し絶状態で眠っていることで、オーラ量がプラスされている。

 

 この制約を知っているため、サクラが眠りに落ちた時に駆けつけたのは桂ではなくディーノだった。

 

 人混みから離れるとネテロが気を遣ったのか、今日の試験は終わりで合格しているから先に休んでいいと飛行船を指しながら言った。ディーノは頭を下げ、飛行船で守りやすそうな場所を確保し、サクラを抱きながら腰を下ろした。

 

「食べるかい?」

 

 すぐに合流した桂の手には、ディーノの分のゆで卵があった。

 

「いや、サクラと一緒に食う。お前もそうだろ?」

「もちろんだとも」

 

 互いに答えはわかっていたのか、2人は笑う。そしてサクラの顔を覗き込む。

 

「いつもこんな急なのかい?」

「普段は夜中だ」

「基本は変わらないのだね」

「ああ」

 

 サクラ曰く、念能力になったおかげで見える未来がわかりやすくなったらしい。サクラの手袋も夢の中で覚えてきたものだ。

 

 重宝はしている。が、リスクは格段に増した。念能力者なら今の状態だけで、サクラはレアな能力者に分類するとわかってしまうだろう。本音を言うと、念を覚えてほしくなかった。

 

「ままならない世界だよ」

「ちげぇねぇ」

 

 あっちの世界ならもっと守りやすいのに、と思わずにいられない2人だった。

 

 

 

 

 

 その日の夜、飛行船の一室で一次試験官のサトツと二次試験官のブハラとメンチが一緒に食事をしていた。

 

 やはり役目を終えたと行っても、先程まで関わっていたのだ。自然と受験生の話題になる。

 

「やっぱり、あの3人組は異質よね」

「そうだねー。組んで受験する人達は毎年いるだろうけど、飛び抜けてるよ。3人とも念能力者だし」

「3人とも受かるかもね」

 

 ハンターという職業柄、強さを求められる試験が多い。そのため念能力者は他の受験生よりアドバンテージがあるのだ。ちなみに不公平という考えはない。努力して身につけたもので、『発』が試験に使えるとも限らないからだ。そもそも試験官や他の受験生の前で『発』は大っぴらに見せるようなものでもない。『発』を知られるのは今後のハンター生活を考えると不利になるのだから。……それでも有利なのは変わりないが。

 

「彼らは1人でも取れればいいそうです」

「はぁ!? ……まじ?」

 

 サトツの表情から冗談ではないと読み取ったメンチだが、信じられない気持ちの方が多い。先程も言ったが、有利な念能力者がハンター試験を受けて、二次試験のような課題に当たらない限り不合格になる確率は低い。

 

「それってやっぱり407番のため?」

「そうでしょうね。恐らく彼女は特質系。そして特質系の中でも珍しい能力の持ち主です。ハンター証があるとないとでは、差は歴然でしょうからね」

「ハンター協会が保護しないのかな?」

「もし彼らが受からなければ、ネテロ会長も考えていると思いますよ。……彼女がその提案に乗るかはわかりませんが」

 

 沈黙がこの場を支配する。ハンター協会としても珍しい念能力者は確保したいだろうが、無償でとは行かない。そんな生易しい世界ではないことを彼らは知っていた。

 

「んー408番が許さなさそう」

「45番でしょ。あのヤバイオーラをあんたも見たでしょ」

「オレは割り切れるのは45番の方だと思うな」

 

 ブハラとメンチの意見が分かれたので、サトツに視線が集まる。

 

「ふむ、そうですね。私は選ぶのは彼女だと思ってます」

「理由は?」

「2つありますね。まず彼らは彼女に弱いです。条件次第では彼女はそのつもりだったと思ったからです」

「どこで思ったの、サトツさん」

「一次試験中、知り合った受験生から彼女が持っている動物について聞かれてあっさりと答えたのです。45番のことについても彼女が答えましたよ。私から情報が漏れることを考慮し、問題ないと判断した範囲だけ答えたのです。彼女の価値が少しでも高まる言葉を混ぜながら」

 

 サトツが知っているだけで、サクラは念能力以外にも生物兵器の持ち主でそのメンテナンスが出来、変わった体質持ちだとわかっている。もちろんウソを摑まされている可能性もあるが。

 

「あの3人の中で一番弱いでしょうが、場数は踏んでいますよ。条件が合わなかった場合は今回縁が出来た新人から探すつもりなのでしょう」

「サトツさんは407番がイチオシみたいね」

「そうかもしれません。あれだけ守られることに慣れている念能力者はそうそう居ませんから」

「結局ハンターは変わり者が多いってことね」

 

 メンチもその変わり者に入るってことなんだけど……とブハラは思ったが、口に出すことはなかった。




念能力の解説。

『愛のあるツッコミ』(操作系)
サクラの念能力。
長年愛用のあるハリセンだから具現化に成功した。
またハリセンで殴ったのがほぼ桂の頭だったのも成立した鍵(ほぼなのは過去に一回だけ雲雀を叩いたから)。
桂にしか使えず、ダメージもなく、サクラを思い出せるだけで、この念能力では桂自身を操作出来ないと制約をたてた結果、サクラが技名を言い終わると絶対に当たるというぶっ飛んでるようで全く使えない念能力。
ちなみに、サクラから見えなくなれば発動しないので、サクラの声が聞こえた瞬間に桂のスピードなら逃げれるという大きな穴があるのも成立した鍵。



『Wish You Were Here』
ディーノの念能力(正しくは制約)。
一刻もはやくオーラ量を増やさなければなかったのもあるが、守るべき存在のサクラを1人に出来なかったため作った、苦肉の策でもある。
オーラ量の問題を解決出来た結果、持ち前の才能と器用さで念の基本と応用を大幅に短縮し習得した。得意なのは『周』と『円』。というより、時間がなく先にこの2つを優先し鍛えた。
もちろん『円』は戦闘時になるとオーラ量の問題で範囲が狭まる。が、ムチの届く範囲を維持しながら戦えるので、やはりかなり器用。戦闘時に一般的に多い『堅』ではなく『円』を使うのはサクラが居るから。


余談。
仕方ないのでサクラは修行中、出来るだけディーノさんにふっついてました。サクラからすれば、制約が成立するのが不思議でしかないです。精神的にはディーノさん役得だからww


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 ……うむ、いい湯加減である。この世界でも風呂文化があって本当に良かった。

 

 湯船に浸かりながら、私は夢の内容を思い出し悩み始める。どうするべきか。

 

 私の予知夢に念能力が加わったせいか、性能が恐ろしことになってしまった。……いろんな未来が見えるようになってしまったのだ。

 

 例えば今回だと、私が一番気になっていたのか、ハンター試験を受かるまでの道のりが見えた。ただ見えただけじゃない。パラレルワールドのように数種類の未来が見えるのだ。もっとも白蘭とは少し違うけどな。

 

 昔、ユニが私が予知に現ると未来が広がるといったし、これが神の子がいう未来をかえる力なのだろう。私が存在することで増えた未来なのだ。

 

 どれか一つでもその結末に納得できれば、予知通りに動けばいい。しかし今回はちょっと微妙だ。兄が暴走したり、ディーノが無理するなどいろいろ問題があった。

 

 なので、見えた未来から良いところ取りして、新たに未来を増やす。まぁそうすると三次試験後に私が怒られる未来も出来てしまうだろうが、仕方がない。これが一番ベストだと判断した。

 

「『神の代弁者』か……」

 

 大げさな名だと鼻で笑いたかったなと思いながら、両手を見る。迂闊に人と触れなくなったこの手より、まだマシかと開き直りながら風呂から私は出た。

 

 手袋をしっかりはめたことを確認して私は風呂場から顔を出す。

 

「ゆっくり出来たかい?」

「ん」

 

 兄が誰も入らないように見張ってくれたおかげで、サッパリ出来た。言葉足らずだったが、兄にはちゃんと伝わったようで嬉しそうに微笑んだ。

 

「ディーノは?」

「僕が居るのだからね。サクラのためにも、見張りはやめてもらったよ」

 

 それは助かる。割り切ることは出来るが、ディーノに風呂の前で待たれるのはやはり恥ずかしいからな。まぁ私も出来るだけ離れないようにディーノが風呂に入っている間、扉の外で待機してたし、彼も似たような気持ちでいただろうが。

 

「お兄ちゃん」

「なんだい?」

「どうしてハンター試験を受けるか迷ってたの?」

 

 私は兄の未来がよく見えなかったのだ。だからエレベーターから降りるまで、確証は持てなかった。二択を当日にしなかったのは怖かったのもあるけど……。でも私の勘も日によって変わったのだから、本当に兄はギリギリまで迷っていたのだと思う。

 

「……僕以外に居ないという現実を見たくなかったのかもしれないね」

 

 兄に抱きつく。1人じゃないと教えるために。

 

「サクラ、ありがとう」

「ん」

 

 優しく頭を撫でられ気持ちよくて目が閉じる。

 

「それにしてもサクラでもわからなかったのだね」

「ん。お兄ちゃんが私のことが心配だったからだと思う」

 

 ……兄は私がこの世界に居る可能性を捨てきれなかったから、未来があやふやになった。つまり私の存在が影響を与えていたのだ。

 

「今は安定しているぞ。まぁいつ見れるかわからないし、そんなに見れないけど」

 

 向こうの世界と比べるとかなり見れる回数が減っているし、あまり遠い未来は見えない。多分オーラが足らないのだ。

 

 『神の代弁者』は私自身が強制絶状態なのに、発をしているという意味不明な仕様になっている。ディーノは夢の世界でオーラを練って、身体は疲労回復をはかり維持しようとした結果じゃないかと推測した。向こうの世界で夢の世界があることを知っているから出来たのだろうと。

 

 まぁこれ以上は欲張る気はない。元々の予知夢の力がなければ、私のメモリじゃ成し得なかったことだろうし。もう一個というより二個か? 1つは微妙なラインだがそれも私が元々持ってる力の上乗せだからな。

 

「無理は禁物だよ、サクラ」

「お兄ちゃんもね」

 

 少し兄が不安定な気がする。いや、間違いない。普段の兄なら私への悪意ぐらいなら牽制はしても我を忘れることはなかった。……彼女がぶっ飛んだ能力を授けた理由も今ならわかる。

 

「僕は大丈夫だよ。だからやらなくていい」

 

 手袋を外そうか悩んでいたのがバレていたようだ。やはりハンター試験が終わるまでは無理か……。

 

「次は僕がシャワーを浴びさせてもらおうかな」

 

 兄の言葉でディーノが帰っていたことを知る。兄から離れながらも、なんとなく目を合わせれなくて下を向く。兄が「すまないね」と言って私の頭を撫でてから去っていった。

 

「少しは気分転換出来たか?」

 

 気まずい。私は起きてすぐ頭を整理したいと言って、ディーノから逃げた。……別にディーノの膝の上で寝ていたことに恥ずかしかった訳ではない。毎回のことだし、ディーノの念能力や守りやすさから考えると仕方がないことだとも思ってる。ただ起きた時、心配そうに私をみるディーノの顔が一番最初に目に入るのが耐えれないのだ。今も多分心配そうに私を見ている。

 

 もういい、と言えればいいのに。でもディーノの力は必要だ。……だから結局いつものように顔をあげて、返事をする。

 

「……ん。スッキリ出来たぞ。ディーノも風呂に入っていたんだな」

「ああ。桂が戻ってきたらメシでも食おうぜ」

「ゆで卵!」

「ちゃんと置いてあるから心配するな」

 

 それならいいと偉そうに返事をして、ディーノと会話を続ける。ふと、気にせずオレの気持ちを利用しろというディーノの心の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 身体を思いっきり伸ばす。兄の膝を枕とし再び寝たのが悪かったのか、ちょっと身体が痛い。

 

「変わったところだな」

 

 ディーノの言葉に軽く頷く。私と兄はマンガを知っているからイメージ通りだが、この世界の常識とハンター試験内容ぐらいしか知らないディーノは、不思議に思うことが多そうだ。

 

 ……いや、私の説明が悪いのか。三次試験はトリックタワーの攻略としか教えてないし。今となっちゃ教えなくて正解としか思えないから気にする必要はないか。

 

 さて、生きて下まで降りてくること。という試験内容なので私に視線が集まる。仕方ない、行くか。……十中八九無理なんだけどな。そんな簡単な方法で済むなら、夢で見ている。

 

「……スクーデリア」

 

 名を呼べば、ディーノが合わせたのか天馬が現れる。そしていつの間にか居たフミ子に補助をしてもらいながら跨る。

 

「見てくる」

「待て。オレも行く」

 

 さっさと乗れと視線を送れば、ディーノは簡単に私の後ろに跨った。「気をつけるのだよ」という兄の言葉に手を振って、タワーの下へと向かう。

 

 地面に降り立つ前に『正規ルートのみ合格』という文字が見えた。

 

「まっそう簡単にはいかないよな」

「ん。スクーデリアが飛べるのはバレていたし」

 

 私もディーノも期待してなかったので、タワーの上へと戻る。すると、ロッククライマーのように降りようとする人が居たので声をかける。

 

「こっちはハンター試験側が用意した道じゃないから、合格にならないらしいぞ」

「……本当か?」

「お前の目で確かめてもいいが、時間の無駄になると思うぜ」

 

 私達はがそれを証明するかのようにタワーの頂上へ降り、スクーデリアに戻ってもらう。流石にそれを見れば、壁から降りる気はなくなったようで頂上に戻ってきていた。

 

 これでどこかに下へと続く道があると気付く者が続出する。またトリックタワーという名称と制限時間72時間というヒントが後押しになった。

 

 各々考え込んだのを見て、私は兄とディーノを引っ張る。

 

「お兄ちゃんはこれ、ディーノはここ。私はそこ。カモフラージュされた扉がひっくり返ったら、もうそこは開かないからな」

「バラバラなのか?」

「ん。今回は個人戦。一緒になる部屋はない」

 

 兄が私の顔を見ているが、無視する。

 

「なら、お前は棄権するんだ」

「大丈夫。あの道は私との相性がいいんだ」

「ダメだ」

 

 まいった。ディーノが頑固だ。普段なら兄が手助けしてくれるが、兄は私のウソに気付いている。

 

「……サクラ、見たのだね?」

 

 ディーノは僅かに目を見開く。私は兄の言葉に頷くだけだ。

 

 予知を見ても内容をいつも2人は無理に聞き出すことはしない。私が話せば新たに未来が変わることもあるとわかっているし、話すのが正解とは限らないと知っているからだ。だから話すタイミングは全て私に任せている。

 

「本当に大丈夫なのかい?」

「ん。私1人じゃ無理だけど、スクーデリアが居れば大丈夫」

「仕方ないね、わかったよ。僕は止めない」

 

 兄の言葉に嬉しくて勢いで抱きつく。兄はふらつくこともなく、私を抱きとめた。

 

「……わーった。その代わり約束はしてくれ」

 

 ディーノの言葉に反応し、兄に抱きついたまま顔を向ける。ディーノは私と視線を合わせるように、かかんだ。

 

「危ないことはするな。ヤバイと思ったらすぐに棄権しろ。お前なら……わかるだろ?」

「ん!」

 

 しっかり頷けば頭をガシガシと撫でられた。なんとなく昔に戻った気がして、ちょっと笑ってしまった。すると、ディーノの手が止まる。頭に手が乗ったままなので、変だ。

 

「ディーノ?」

「……いや、なんでもねぇ」

 

 頭から手を離し、視線を逸らしながらディーノは立ち上がった。これも変な反応だったが、ツッコミしなかった。……耳が赤かったから。

 

 くそっ、やりにくい。私も極力ディーノを見ないようにしながら「私から行くぞ」と声をかけた。

 

「じゃ、悪いけど頼んだ」

 

 扉が回転し、下の部屋へ繋がっている状態じゃなければ、スクーデリアを出せないと思うからな。壁を一枚挟んだ状態で匣兵器を出したところを見たことはないし。まぁディーノならタイミングをミスしないだろう。

 

「僕達のことは気にしなくていいよ」

「……ありがとう」

 

 兄に甘え、私はカモフラージュされている地面に乗った。すると、ガコンという音と共に落ちる。

 

「うわっ」

 

 やばい。ディーノと兄がいる未来では助けてくれていたから、後のことを考えてなかった。『纒』から『練』なんてスムーズに出来ないぞ!?

 

「「パフォ!!」」

 

 地面に衝突する前に助けてくれたようだ。ただきになるのは鳴き声は重なっていたことだ。ゆっくりおろしてもらい、落ち着いてから声をかける。

 

「エリザベス、フミ子、助かった」

 

 えっへんと威張るように腰に手を当てたパンダ2匹を見て、兄もディーノも甘いなと思う。そもそも兄は主人が私だと勘違いさせるためにディーノが手袋をはめてると知ってから、アニマルリングを外していたはずだ。だから今も怪しまれるからつけていないと思うのだが。

 

「……飛行船で炎を込めていたのか」

 

 用意周到の兄に苦笑いする。エリザベスもフミ子と一緒で先に炎を込めていれば好きなタイミングに出てくるのだろう。

 

「よろしく頼む」

 

 3匹?に声をかけると頷いたので、私は周りに目を向ける。壁に『多数決の道』と書かれていたので、望んだルートに来ることが出来たようだ。

 

 腕輪をはめて、後はゴン達が来るのを待つだけだ。隅にでも座ろうと考えていると、スクーデリアが足をたたんで座っていた。もたれていいと目で訴えていたので甘えさせてもらう。

 

「今頃、ディーノは怒ってるんだろうな」

 

 兄と同じ場所に出るだけじゃなく、もう1人枠が余っている3人で進むルートなのだ。出来れば私もそのルートに行きたかったが、扉が見えたのは2つだけだった。

 ディーノの体質を考えると1つは埋まる。見なくても私達と別れればどうなるかわかるからな。

 

 夢で私とディーノが一緒に行くと、クリア出来るパターンと出来ないパターンが見えた。クリアするにはディーノが無理するし、私達以外のもう1人が死ぬ。最後までは見えなかったが、間違いないと思う。『死』に慣れない私がシャットダウンしたとしか考えれないのだ。

 

 かといって、私達3人が『多数決の道』に行くと別ルートに進んだクラピカとレオリオが落ちる。ついでとばかりに三次試験の合格人数も変わったのか狩るものが減り、四次試験でディーノも落ちる。……いやまぁ、これは私が悪いんだが。

 

 私とディーノが『多数決の道』に行き、兄がキルアと一緒に攻略するのも見たが、これは絶対なし。兄が暴走する。

 

 どれも結末が良くなかったので、こうするしかなかったのだ。キルア以外の者を誘導するより確実だし。

 

 私の言動から兄はディーノと組むとわかっていたし、フォローしてくれることを期待しよう。……でもやっぱり怒られるだろうなぁ。




念能力の解説。

『神の代弁者』(特質系)
サクラの念能力。
元々持っていた予知夢の力を念で飛躍的にアップさせた。
その結果メモリの消費は少ないが、その消費に見合ってない念能力を持ってしまった。
サクラにとって都合のいい未来を作り上げたり、選ばなかった未来の情報も掴むことが出来る。
念能力になってから内容はあがった分、見れる回数は減った。が、それはサクラが未来をかえすぎたせいで不安定だから。

ちなみに、とある団長さんが盗んでも意味がない。
いい夢ぐらいは見えるかな。




サクラ「ついに私にもチートが!」
桂「サクラは弱いけどね」
サ「……(グスン)」
桂「で、でもこの念能力にはまだ隠れた力があるのだろう?」
サ「ん!これで私も少しは戦える!」
桂「無茶だけはしないでくれたまえ(強くなったわけじゃないから戦っちゃダメだよ!)」
サ「それぐらいわかってる」
作者「そのことなんだけどー。伏線ははったし、次の話にもはってあるけど、使うかはわからないからww」
サ「なん、だと……!?」
作「いいじゃん、他にもチート能力あるから」
サ「はっ!そうだったな」
桂「良かったね、サクラ!」
サ「ん!」
桂・作「(サクラ自身は弱いままとは言えないね)」


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 エリザベスとフミ子が踊っているのを見て時間を潰していると、ゴン達が降りてきた。……レオリオは頭から落ちて大丈夫なのだろうか。

 

「サクラ!?」

「ん。詳しくはあっち」

 

 ゴン達が看板を読んでいる間に、私は立ち上がる。そして全員が腕輪を嵌めたのか、扉が現れた。張り切って進もうとする彼らへ念のために声をかける。

 

「わかってると思うが、戦闘だと私は足手まといだから」

 

 威張っていうと、レオリオに残念な子というような視線を向けられた。

 

「とにかく行こうよ!」

「ああ。時間が惜しい」

 

 ゴンとクラピカの一言で歩き出した。……今となっちゃディーノの方がすらすらハンター文字を読めるんだよな。私を押すのをみんな待ってる気がする。

 

「これのどこに悩むんだ!? 開ける以外ねーだろ!?」

「まぁまぁレオリオ落ちついて」

「声に出して読んでくれたら、もっとはやく出来る」

「読めないのか?」

「時間がかかるだけ。母国語が違うんだ」

 

 クラピカはハンター文字以外の母国語を使う民族とか考えていそうだ。なんにせよ、私が遅い理由がわかってもらえたので次からはゴンが読んでくれる。

 

 右か左か……。ポチッとな。

 

「なんでフツーこういう時左だろ!?」

 

 右の扉が開けば、レオリオが怒り出した。私は当然右である。左はヤバイ気配がするのだ。だから原作通りになってしまった。左を選ばなかった理由をクラピカが説明してるので私は静かに過ごす。

 

「ゴンも右を選んだのかよ」

「オレはレオリオと一緒で左だよ。サクラが右を選んだんでしょ?」

「なにぃ!? お前も知っていたのか!?」

「勘」

 

 おかしい。またレオリオに残念な子という風に見られた。

 

 とにかく右に進むと、手錠をした5人組が目に入る。やはり1人は念能力者だ。どの道を選んでも念能力者には念能力者が当たるようになっているんだろうな。

 

 ルール説明をしてくれているハゲに向かって質問という形で手をあげる。

 

「なんだ!」

「外野からも負けを認めることは出来ないのか?」

「……少し待て」

 

 試験官と相談し始めたようだ。私はどういうことか説明しろとレオリオに声をかけられる。

 

「例えばずっと決着がつかず、本人も熱くなって負けを認めない場合は? 1試合に何時間も足止めされるのもどうかと思って」

「なるほど。向こうは試験官だ。そう簡単には負けを認めることはない」

「一番最悪なのは残り時間ずっとボコられて続けてハンター試験に落ちる」

 

 クラピカもそこまで考えてなかったのか、ギョッとしたように目を見開き私を見た。

 

「オレもその女に賛成。あのボウズ頭、元軍人か傭兵だよ。向こうが足止め目的ならありえるぜ」

「おいおい、向こうは試験官だろ? そこまでするか?」

「……いや、どうやらサクラが正解のようだ。奴らの話を聞いた」

 

 私の耳には聞こえないが、彼らが犯罪者だとわかったらしい。

 

「外野からの負けも認める。ただしその場合は10時間ずつ、別室で過ごしてもらう」

「元々迂闊に言えないのに、10時間となればもっと言いづらいな」

「ああ。我々は2度しか負けれないからな」

「でも早めに割り切らなければ、それこそ時間のロスだ」

 

 追加されたルールに私とクラピカは難しい顔をしながら会話する。すると、意外と2人は似てる?というような会話が聞こえたので揃って中断し、話をすすめる。

 

「トップバッターは誰が行く? 結構重要だぞ」

 

 私がそう声をかけると、私を抜きに話し合いをし始めた。正解である。

 

「じゃオレから行くね!」

 

 多分ゴンが立候補したのだろう。心配そうにしながらも、誰も止めはしない。

 

「ああ、そうだ」

「なんだ?」

「人が死ぬところを見れば、間違いなく使い物にならなくなるから終わったら起こして」

 

私は嫌だぞ。キルアが人を殺すのを見て吐いたりするのは。

 

「はぁー!? 散々みてきただろ!?」

「あの2人は過保護だからな。私には見せないように動いている」

 

 私の言葉にレオリオとクラピカは絶句した。

 

「あんたの見えないところで殺すのはいいの?」

「いい。知り合いに暗殺者がいるし。否定はしない。ただ見たくないだけ」

「ふーん」

「死体は落としてくれれば嬉しいな」

 

 スクーデリアがまた座ってくれたので、枕にして寝転ぶ。フミ子が死ぬ気の炎を浴びせてくれたおかげで、簡単に眠りに落ちた。

 

 

 

 

「サクラ、サクラ」

「……ん、終わったのか?」

 

 ゴンに呼ばれて目をこすりながら起き上がる。なんだか気まずい空気が流れていた。

 

「あんたが勝たないと、オレ達の負けが決定」

 

 落ち込んでる具合からみて、クラピカとレオリオが負けたらしい。で、残っているのは念能力者。

 

「期待はしないでくれ」

「あんたさー、足手まといっていうけど、結構出来るんだろ?」

「んなわけないだろ」

 

 感覚で念を使えるのがわかっているのだろう。だが、念能力は戦闘に向いているとは限らないのだ。私が出来るのは時間稼ぎぐらいで、今回のルールじゃ役に立たない。

 

 スクーデリアに跨り、リングの上に降り立つ。『練』の量から見て、まともにやりあったら勝てないと思った。

 

「……君は犯罪者じゃないだろ」

 

 念能力者がただの手錠で大人しくするとは思えないし。

 

「理由はわかるだろ?」

 

 どうやら試験官が用意した囚人ではなく、ハンターらしい。道理で最後まで残ってるわけだ。私が違う人と当たれば、手加減はするが勝ちを譲る気はなかっただろうな。

 

「……ルールは?」

「オレを戦闘不能にするか、まいったと言わせろ」

「私は戦闘タイプじゃないんだが……。この子達は?」

「お前の強さの一部として認めよう」

「それは助かる」

 

 これで気が楽になった。

 

「じゃ、後は頼んだ」

 

 私の言葉と共にスクーデリアは飛び立ち、エリザベスとフミ子が彼の周りを囲む。

 

「はっ」

「放出系かよ!?」

 

 ついツッコミしてしまった。エリザベスとフミ子を無視して私に念弾を飛ばしてきたから、仕方がないことにしよう。……夢だと私は戦いもしなかったから能力がわからなかったんだよな。

 

「しっかり掴まってるから、多少なら問題ない」

 

 スクーデリアのスピードなら簡単に逃げれるが、私を乗せてるから気を遣ってるからな。激しく左右に動いたりしなければ、大丈夫だと声をかける。

 

「エリザベス、フミ子、終わらせろ」

 

 私の合図と共に、2匹から炎が放出する。相手も警戒し飛び越えるように逃げた。

 

「残念、それは悪手だ」

 

 私とスクーデリアが迫まるのを見て、避けれないと判断し『堅』を使ったようだ。スムーズ具合から見て、かなりの使い手っぽい。それでも、私は先程の言葉を撤回する気はない。

 

 ザシュッ!という音と共に血が舞う。その血すら灰となって消えていく。

 

「スクーデリアの翼は触れるものを切り裂き、灰とする」

 

 ……オーラさえも。

 

「だから認められた者以外は、触らないことをオススメするぞ」

 

 相手が切られた肩が石のように固まったことに驚きながらも、着地した。が、先程の言葉はまだ続いているぞ。

 

「パフォ!!」

 

 フミ子とエリザベスは晴の活性のおかげですぐに治るため、多少の無茶は平常運転だ。パンダがパンダを投げるという変わった戦術も普通である。

 

 弾丸のように投げ飛ばされたパンダは、勢いよく相手の顔にしがみつく。この距離なら死ぬ気の炎から逃げれはしない。フミ子とエリザベスの炎は浴びれば浴びれほど怪我は治る。が、その代わり眠りに落ちやすくなる。この特性を知っているディーノですら、抵抗するのは厳しいという。目の前にいる人物が抗えるわけがない。

 

「この勝負、私達の勝ち」

 

 私の言葉と共に、相手は崩れ落ちた。怪我もちゃんと治ってるし、完勝である。レオリオ達が驚いているが無視だ。

 

「で、どうすればいいんだ?」

 

 寝ていたせいで、試合の流れを知らないのだ。説明を求む。

 

「……ここを通り過ぎると奥に小さな部屋がある。そこで20時間過ごしていただこう」

「20時間?」

「クラピカの試合で10時間、その分をレオリオが取り戻そうとしたんだけど増やしちゃったんだ」

「えっ、バカだろ」

 

 思わずツッコミをいれた。クラピカがワガママを言って、外部が負けを認めた流れはまだわかる。時間を賭けなくていい流れが起きていたのに、なぜ賭けるんだ。ため息を吐きながら小部屋に入った。

 

暇なのでゴンに試合の流れを説明してもらう。小部屋に入る時に思ったが、やはりローソクの人は居なかったらしい。そしてクラピカの試合は私の予想通りの流れだった。で、レオリオは相手の女性の口車に乗って負けて倍にした、と。

 

「放棄して眠った私が言うのもどうかと思うが、クラピカが冷静じゃないなら私を起こすべきだった。冷静に物事を進めれる人物が居なければ、相手の思う壺だぞ」

「ふーん。そこまで言うならあんたなら、どうしたの?」

「レオリオの代わりに私が出ただろうな。賭け事には強いんだ」

「うわっ、もうちょっと説得力がある答えはねーのかよ」

 

 ゴン以外が信じようとしないので、軽く息を吐いてから、口を開く。

 

「4人とも、表か裏どちらかを頭にイメージさせろ。当てるから」

「くだらない」

「面白そう! やってみようよ!」

 

 流石、主人公。他の者もちょっとヤル気になったぞ。

 

「……ゴンは表、キルアも表、レオリオは裏だろ。クラピカは表か?」

 

 全員がギョッとしたように私を見た後、顔を見合わせた。どうやら各々の反応から合ってると気付いたのだろう。

 

「言っただろ、変わった体質持ちって。二分の一なら外さない」

「はぁ!?」

 

 レオリオが声をあげるだけで終わらず立ち上がった。キルアとクラピカは驚きすぎて声を失ったらしい。

 

「じゃぁ、サクラはこれからどっちに進めばいいのかわかるの?」

 

 ゴンの言葉に軽く頷くと、レオリオはマジか……と驚いた。ゴンは純粋に喜んでいるが、キルアとクラピカは警戒しているようだ。

 

「便利に思うが、結構使いどころが悪いぞ。さっきの試合も誰と誰が戦うとわかっていなければ、条件が整わず外れるんだ」

「それでは説明ができない。他に何を隠している?」

「もう少しクラピカはキルアを見習った方がいい。真面目過ぎるのもどうかと思うぞ」

 

 私のアドバイスにゴンとレオリオが首をかしげた。仕方ないので説明する。

 

「たまたま私が落ちた部屋が『多数決の道』で、『多数決の道』はたまたま私に有利で、たまたま一緒になったメンバーは知り合いで、私の言葉を簡単に切って捨てることは出来ない。だから偶然が重なりすぎてクラピカとキルアは警戒しているんだ。で、愚直にもクラピカは私に聞いたから、もし私の頭がイかれていればこの子達が攻撃を仕掛けていたぞと教えたんだ」

 

 ゴンは感心したように息を吐いた。

 

「それと質問の答えはノーコメント。護衛がつく理由に関わってくる」

「サクラ。オレ、親父に会うためにハンターになりたいんだ。この試験に協力してほしい」

「心配しなくても、これ以上引っ掻き回す気はないぞ? 私だって早く合格したいし。……遅くなればなるほど、ディーノに怒られる時間が伸びるから」

 

 私の本音にゴン達が吹き出すように笑ったので、頬が熱くなる。

 

「お節介かもしんねーが、なんで付き合わねーんだ? お前も好きなんだろ?」

「それは君の勘違い。……私は好きじゃなかったんだ」



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遅くなりました。
鬼滅の刃を大人買いして、読み込んでましたww


 長時間一緒に過ごせば、やはり仲は深まるようだ。4人が楽しそうである。私は寝起きなので眠い。ついでにちょっと頭がボーッとする。もうすぐ時間なのでフミ子に起こしてもらったが、もうちょっと寝たかったな。

 

「サクラ、大丈夫? 顔色悪いよ」

「なに!? ちょっと診るぜ」

 

 レオリオが診察してくれるというので、言われた通り口を開けたりする。

 

「ずっと眠ってた癖に体調崩したのかよ。あんた、身体弱すぎ」

「キルア、彼女は持病持ちだ。倒れたところを私とレオリオはみている」

 

 いや、ただの念能力の影響だぞ。キルアの言う通り、身体が弱いだけ。しかしよく食べて眠ることにしていたが、風邪をひく未来から逃れることは出来なかったな。やはりここはレオリオに治してもらおう。

 

「普段、何を飲んでる? 副作用を起こすわけにはいかねぇからな、教えてくれ」

「飲んでないぞ」

「……治る見込みはあるのか?」

「違う違う。急に眠くなるだけで、病気とかじゃないから」

 

 おかしい。ちゃんと説明しているのに、レオリオが心配そうに私をみている。

 

「アレルギーとかは持ってねーか?」

「ん、大丈夫」

「……調べてからするか」

 

 おーい、私の話を聞いてるのかー?と心の中でよびかける。レオリオは完全に何も知らされていない病人と認識しているので、声を出しても意味ないし。

 

「大丈夫そうだな。チクっとするけど、我慢しろよ」

 

 針を見ると更に痛く感じるので、視線はそらす。ふと未来編で10年後の兄に注射されたことを思い出した。……あの時から兄は死ぬつもりだったんだよな。

 

 やはり兄を1人にするわけにはいかない。あんな思いは一回で十分だ。

 

「よし。ギリギリまで楽な体制で休むんだ。眠ってもオレが背負って四次試験まで連れってやるぜ」

「大丈夫。スクーデリアに乗るし、正しい道を選べばすぐに下につくと思うから、合格してから休む」

「……オレはサクラに賭けるぜ!」

「オレも!」

 

 クラピカとキルアは軽く息を吐いてから、同意したのだった。ウソはつかないから安心してくれ。

 

 時間がきたので、ゴンに読んでもらい選択していく。ただしちょっと難しい時は声をかけて多数決をとる。

 

「○の方が最短だけど、嫌な予感がする」

「具体的にはわからないのか?」

「ん。ただの勘だから。でも扉を開く前から嫌な感じがするから、私は×を選ぶ。私の経験上、ロクなことがないから」

「ロクなこと?」

「……最近だと、兄と離れ離れになったな」

 

 違う世界に飛ばされたと説明しても信じてもらえないので、軽めに話した。それでも重く受け止めたらしく、×を選んだ者が多かった。時間がまだ残っているのもあると思うが。

 

 途中にクイズなどもあったが、○と×での解答なので正解を連発すれば、更に彼らから信頼を得られたようで、スタートから約30時間後には最後の選択部屋にたどり着いた。何度か遠回りした割には好タイムだったと思う。

 

 問題は長く困難な道は早くても45時間かかる。私達の残り時間は約42時間。私の勘を使えば時間内につくだろたうが、彼らはいくら私が言っても信じにくいだろう。だって私が一番弱いし。……この子達を使えば勝てるだろうが、そこまでして残りたいとは思わない。

 

「君達が決めてくれ」

 

 ゴンが気付いた原作の結末を教えてもいいが、彼らの回答を聞きたくなった。

 

「オレは○を押すよ。せっかくここまで来たんだから5人で通過したい」

 

 ゴンの言葉に3人は息を顔を見合わせた後、ボタンを押した。それを見て私もゴンもボタンを押す。

 

 画面に目を向けると、5人全員が○を押していた。

 

「私がいうのもなんだが、物好きだな」

「不可能ではない、私はそう判断した」

「病人のサクラ頼みっていうのも気がひけるけどな!」

「オレ1人が×押しても意味ねーし」

 

 彼らは本当に良い人達だな。

 

「得意じゃないけど、やってみるか」

 

 よいしょっという掛け声と共に、スクーデリアからおりる。私の行動にレオリオ達が不思議そうに見ていた。私はそんな彼らの疑問をスルーし、○の扉に入り、少し進んだところで横の壁を叩く。

 

「あ。そっか」

 

 流石、原作でこの案を思いついた張本人だけある。私の僅かな行動で気付いたようだ。ゴンが説明してくれる間に、私は集中する。私は基本の四大行しか使えないし、はっきり言ってお粗末な物だ。それでも時間をかけて念を練れば……。

 

「んっ!」

 

 私が殴ると蜘蛛の巣状にひび割れが起こる。といっても、所詮私程度の念では時間をかけたのに直径で30センチもないし……。

 

「疲れた」

 

 久しぶりに『練』をした気がする。私の場合、『纒』と『発』が無意識に出来るようになって、『練』を拙いながら覚えたという変わった習得方法だったのだ。ちなみに訳あって『絶』は普段使い出来ない。酷い念能力者だ。

 

「それも教われば、出来るようになるの?」

「なるぞ。私は下手だから、才能ある君達ならもっと凄いことになると思う」

 

 私が軽く答えても誰も驚きはしない。恐らく私が眠っている間にゴンとキルアが話していたのだろう。

 

「私に教えてくれないか? 幻影旅団を捕らえるのに使えるかもしれない」

「クモ相手には必要だろうな」

 

 エリザベスとフミ子が構えたが大丈夫だと手を振る。ついでに斧で壊しといてと指示を出す。

 

「答えろ! 何を知っている!」

「よせ! クラピカ!」

「クラピカ!? いきなりどうしたの!?」

 

 ゴンとレオリオが必死に言ったからか、詰め寄られていたが距離を置いた。ホッと息を吐いた2人だが、クラピカの行動に困惑しているようだ。

 

「幻影旅団の名称がクモなんだろ? クラピカの怒り具合から考えるばすぐわかるじゃん」

「……そうだ。このことは限られた者しか知らないはずだ」

「一部では有名だぞ。彼らは私と違って一流の使い手だし。だからこれを覚えなければ、話にならない。頑張って良い師匠を見つけろ」

「それならサクラ達が教えてくれればいいじゃねぇのか?」

「ゴンとキルアにも言ったけど、良い師匠を見つけて教わるのが一番の早道。伸び率が大幅にかわるし、下手すりゃ命を落とす。ベテランを探せ」

「良い師匠ってどうやって探せばいいんだよ……」

 

 レオリオがのボヤキに、私はニヤりと笑ってから口を開いた。

 

「ハンターになるんだろ?」

 

 私の挑発に彼らは乗ったらしく、自信満々に返事をした。その後すぐにクラピカが謝罪したので許した。

 

「参考にしたい。サクラ達はどれぐらい時間がかかった?」

「私達は独学だからなぁ」

「独学?」

「そう。私の頭には知識だけあったんだ。ディーノは私の拙い説明で覚えた。試行錯誤してたし、大変だったと思う。使えるようになるだけなら1日だったけど、形になるには結構かかったぞ。それに今でも完成ではないらしい。奥が深いみたい。後、兄は私と一緒で知識はあったから、離れ離れになってる間に覚えたみたいで私はよく知らない」

 

 私はスクーデリアにもたれて休んでるけど、ゴン達は壁を壊しながらだから大変そうだ。ちなみに私の分はエリザベスとフミ子が頑張っている。後でもふもふしてあげよう。

 

「サクラはどれぐらいかかったの?」

「私の場合は特殊すぎて参考にしない方がいい」

「いいじゃん、教えろよ」

「……起きたら使えていたんだ」

 

 は?というように彼らの手が止まる。その一瞬にエリザベスとフミ子が開通させた。

 

「よし、壊れたな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さっきと話が違うじゃねーか。命を落とすぐらい危ねぇことなんだろ?」

「私は言ったぞ、特殊って」

「特殊すぎだろ!?」

「稀に居るらしいぞ、無意識に使ってる人とか。一流の職人が多いらしい。私はそっちのタイプだっただけ」

 

 一流の職人という言葉に引っかかっているのか、胡散臭そうにみられた。解せぬ。

 

「いい加減、行こうぜ」

 

 これ以上私と話してもマトモな情報を得れないと思ったのか、キルアが声をかけたのだった。

 

 ゴンとキルアの次に行かせてもらった。何かあった時、真ん中の方が安全だから。そしてスクーデリアが先に行き、エリザベスとフミ子に挟まれながら私は滑り落ちる。……地味にお尻が痛い。この世界にきて、私のお尻がピンチ過ぎないか?

 

 女子的にどうなのだろうかと疑問に思ってたり、どうやってディーノの怒りを鎮めようかと考えていると、スベリ台が終わった。

 

 フミ子のおかげで立ち上がれた私は、後から来る2人の邪魔にならない位置に移動する。

 

「ケツ、いてー!」

「レオリオ、危ないぞ?」

 

 声をかけたが遅かったようだ。お尻を気にして動かなかったせいで、クラピカに蹴られていた。ドンマイ。

 

 最後の最後に一悶着あったものの、無事に私達は最後の扉をくぐり抜ける。

 

「ゴール」

「ああ。よく頑張ったな」

 

 ブリキのようにゆっくりと聞こえた声の方向へ首を動かす。

 

「そ、そう。頑張った」

「ああ。偉いぜ」

 

 なぜだ、褒められてるのに全然嬉しくない。後方にいる兄に助けを求めるようと視線を送ろうとした時、ガシッと肩を掴まれた。

 

「サクラ、オレに何か言うことはないのか?」

「反省はしている。だが、後悔はしていない」

 

 キリッとした表情で言い切った。ディーノは「そうか」と呟いた後、私を抱き上げた。流石に恥ずかしいので抗議する。

 

「お、おろせ!」

「すまん。こいつが迷惑をかけた。ここまで連れてくれてありがとな!」

 

 私の言葉を無視し、ディーノはゴン達に声をかけていた。キルア以外からは私のおかげで助かったと言ってフォローしてくれるので「そうだぞ」と偉そうに相槌を打つ。

 

「オレが気付かないと思ってるのか?」

 

 うぐっ。体調を崩しているのがバレていた。

 

「ディーノ、お説教は後でしたまえ」

「だな……」

「礼は僕がしておくよ」

 

 ディーノに変わって今度は兄がゴン達に感謝を伝えていた。……感謝を伝えているはずなのに、兄が絡んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

 

 ゴン達のフォローをしたかったが、ディーノがスタスタと歩き出した。そのため抱っこ状態の私は、肩越しに見るしか出来なかった。

 

 兄達はスペースを確保していたらしく、そこでおろしてもらった。見たことがないキャンプグッズは兄の持ち物か。

 

「とりあえずコレを飲め。桂がお前のために作っていたんだ」

「ん」

 

 料理スキルが低い私達は保存食が多かったが、兄は日持ちする食材などを持ち込んでいたらしい。こんなところで手の込んでそうなスープを飲めるとは、ありがたい。

 

「おいし……」

 

 慣れ親しんだ味だからか、ホッとする。お寿司の時はあまり思わなかったのに。

 

 ゆっくり飲んでいると視線を感じて顔を上げる。私と目が合い「ん?」と首を傾げたディーノが、優しく見える。もちろん普段からトップレベルで優しいんだが、いつもとちょっと違う気がした。

 

「良いことでもあったのか?」

「……オレはまだ怒ってんだぜ」

「それはわかってる。でもなんとなく……そう思ったから」

 

 言葉にしようとしても、雰囲気としか言えない。

 

「そうだなー……。やっぱりサクラには桂が必要だなと思ってよ」

 

 そうかもしれない。兄には私が必要だと思っていたが、私が兄を必要としているのかもしれない。

 

 ……だって、私のお兄ちゃんだもん。

 

 気付いた時には、兄は私を大好きだと公言していた。鬱陶しいぐらい大袈裟だし、呆れるぐらいずっと私の側にいた。10年後の兄が私の目の前で亡くなってから、当たり前が当たり前じゃなくなることを理解していた。……していたつもりだった。

 

 本当に私は大バカだ。兄のためと言って、結局自身のためだった。

 

「ディーノ、覚えてる?」

「ん? 何をだ?」

「いつだったかな、リング争奪戦の時だったか?」

 

 うん、確かそうだった。ディーノに聞かれたんだ。兄に恋人が出来て優先順位が変わった時はどうする?って。その時、私はありえないというような返事をしたんだ。

 

「ディーノは……兄は私のためなら引けるが、私には出来ないって言いたかったんだろ?」

「懐かしいなぁ。そんなこともあったな。それがどうしたんだ?」

「君の言う通りだっていう話。私は兄を好き過ぎる」

 

 だから……と続けようとしたところで、後ろから抱きしめられたので言葉をかえる。

 

「急になんだ」

「サクラ、僕も大好きだよ!」

「ん、大丈夫。知ってる。飲みにくいから離れて」

 

 いつの間にか戻ってきた兄を適当にあしらいながら、こっそり溜息を吐く。私は兄さえ居ればいいんだと伝え、ディーノに諦めてもらおうとしたが出来なかったな……。



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「タイムアップー!!」

 

 突如聞こえた声に飛び起きる。どうやら第3次試験が終了の声だったらしい。

 

「ふむ。少しは良くなったみたいだね。後でレオリオにお礼を言うのだよ」

 

 兄は私の熱を測りながら言った。詳しく聞けば、途中で私の様子を見にきてくれたようだ。そしてついでとばかりに薬も置いていったらしい。後で元気になったと顔を見せに行こう。

 

「ディーノは?」

「あそこだよ」

 

 兄の指を辿れば、見知らぬ受験者と一緒にいた。誰だろうかと首を傾げていると兄が説明してくれた。なんでも死にかけていたらしく、勝手にフミ子が助けに行ったらしい。私が主人ということにしているが、その私がぐーすかと眠っていたため、ディーノが向かったようだ。

 

「その人、起きるのか?」

「どうだろうね?」

 

 死にかけていたほどの傷を治したのなら、睡魔は途轍もなかったはずだ。先程の声でも起きなければ、4次試験の説明までに起きるのは厳しい気がする。……まぁ命あるだけマシか。フミ子のことだから死体を私に見せたくなかっただけだろうし。

 

 私がそんなことを考えていると、ディーノとフミ子はその人物を放置して戻ってきた。

 

「いいのか?」

「ああ。後はハンター協会の方に任せればいいだろ」

 

 彼はそれしか言わなかったが、私が起きたこととタワーから出る扉が開いたことも関係していると思う。

 

「本当にいいのか?」

 

 彼の性格なら肩で担いで外に出したり、交渉したりする気がする。

 

「……サクラの中でオレはどう思われてるんだ? あいつがツナ達なら骨を折るだろうが、そうじゃねぇんだ。そこまでする義理はねーよ」

「そうだとも。彼がなんでも抱え込む人物なら、トップに立つことは不可能だよ」

 

 それもそうか。なんだが最近は私のために奮闘することが多いので勘違いしていたようだ。ディーノは甘いがマフィアのボスだった。

 

「それにディーノとあの受験生なら、サクラはどちらを優先するんだい?」

「……ん、私がバカだった」

 

 自身のことと兄が優先順位を占めているが、たいして知らぬ受験生と比べるならディーノと即答できる。ディーノだって私を守ることを優先するだろう。

 

 ふと未来で会った10年後のディーノのことを思い出した。すぐに入れ替わったためあまり話せなかったが、私とファミリーを天秤にかけて私を選んだのだ。部下の後押しもあったらしいが、10年後の彼はキャバッローネを壊滅させた。

 

 ……今の目の前に居るディーノはどちらなのだろうか。頼むからファミリーであってほしいと願った。

 

「お兄ちゃん、抱っこ」

 

 私が甘えると普段なら大喜びするが、今回は仕方ないように息を吐いてから抱きあげた。ディーノの気持ちから逃げる口実だとバレているからだろう。それでも兄は私が必死にしがみついても何も言わず好きにさせてくれた。

 

 試験官の説明を受け、順番にクジを引く。4次試験は狩る者と狩られる者だ。今から引く番号のナンバープレートを奪わなければならない。

 

 3次試験のクリア順で引いていくので、私はクリア時に居た人数を思い出した。多分15番ぐらいだと思う。……もっと早く引きたかったな。

 

 ヒソカが引きに行ってる間に兄とディーノの順位を聞く。2人は2番目と3番目だった。ヒソカより遅かったのはもう1人受験生が居たからだろう。それでも2人は私より早くゴールしておくべきと考えていたはずなので、その受験生は大変だっただろうな。

 

「お兄ちゃん、順位覚えといて」

 

 兄が引きに行く順番になったので、おろしてもらう直前に声をかける。私が覚えるよりも正確なのだ。兄はこの後の流れを知っているので、ナンバープレートを全て記憶しているだろうし。

 

 私の護衛という意味で2人が交代するため動かないため、クジを引くのに少し時間がかかった。まぁここに残っている受験生は私達の特殊な関係に察しているので特に問題なく進んで行く。

 

「407番」

「ん」

 

 ゴンとキルアが呼ばれていたので、そろそろ私だろうと思っていたため驚くこともなく歩き出す。兄とディーノもギリギリまで側に居たが、大丈夫と声をかけてクジを引きにいく。

 

「……だよな」

 

 いろいろ考えて取ったのに、引いた番号を見て思わず呟いてしまった。切り替えるために軽く頭を振った私は2人の元へ戻る。私の反応に気にはなっているようだが、他の受験生がいるところで話すことではないとわかっていたのだろう。兄達はそっと端へと誘導し、いつものように周りを警戒していた。

 

 島へ移動するための船に乗り込み、私達は人が少ない甲板に移動する。耳が良い人は聞こえるだろうが、番号を確認し合うことは出来る。しかしその前に私はずっと気になっていたことがあるので疑問を口にする。

 

「ナンバープレートを取らないのか?」

 

 つけているのは数人だけだ。そういう私もディーノが取らないのでバレるだろうと付けっ放しだが。

 

「今更っつうのもある」

「僕達は目立っていただろうしね」

 

 確かにそうかもしれないと軽く頷く。

 

「それにあのルールだと隠すのが正解だとは限らないんだ」

「ん?」

「僕達が狩る者の数字じゃないとわかれば、僕達以外に目を向けるだろ?」

「3人狩るより、ターゲット1人を狩る方が楽と考えるだろうからな」

 

 感心したように息を吐く。狩る者には確実に狙われることになるが、関係ない者達からは狙われにくくなるのか。

 

「聞いた私が言うのもなんだが、それを言ってもいいのか?」

「聞かれても問題ないよ。僕達を相手取ろうと考える受験生は少数だから成立するのさ」

 

 その少数に入るヒソカはどうする気なのかを聞いてみた。

 

「島の広さから考えると滞在期間は長そうだかんなー。逃げ回るよりも倒しちまった方が楽そうだ」

「そうだねぇ。ただ彼の望む展開かはわからないよ。僕達は雲雀君みたいに拘りがあるわけじゃないからね」

「一緒に戦うってことか?」

「そうなるだろうね」

「サクラには負担をかけちまうけどな」

 

 この会話をヒソカに聞かれる可能性も考えて話している気がする。現に私の確認した意味も理解し、彼らは言葉をうまく隠して肯定した。

 

「それより狩る者の確認しよーぜ」

 

 これ以上はここで話すべきじゃないので、ディーノが話を変えた。私も兄もそう思うのでカードを取り出す。

 

「せーの」

 

 ディーノの掛け声と共に見せ合う。引いた番号が番号なので私のカードに注目を集める。

 

「ああ。それで僕に声をかけたんだね」

「ん? なんかあったのか?」

「クジを引いた順番を覚えてほしいと頼まれていたのだよ」

「……なるほど。そういうことか」

 

 回避出来るのが一番だったが、出来なければ出来ないでヒントを得れるのだ。

 

「でもやっぱりごめん」

「こればっかりは仕方ねーだろ」

 

 ディーノはそう言って笑いながら私の頭を撫でた。それでも私が引いた408と書かれた番号をみて溜息が出る。

 

「良いように考えようぜ。サクラのおかげで守りやすくなったんだ」

「そうだとも。それに奪われない限り、1人は最終試験に残れるのが確定したのだよ?」

「ああ。なんなら、今渡してもいいぜ」

「いらない。もらっても取られる。それに私が残るのは微妙だろ」

 

 ディーノを狩る者がいないとわかったのは確かに大きし、兄の言い分もわかる。だが、それは私じゃない方が良かった。キルアが人を殺すところを見るとかトラウマでしかないし、私のことを抜きにしても兄は防ぎたいと考えているはずだ。

 

「心配しなくても僕らは狩るさ」

「だな。サクラは体調を崩さねーことだけ考えてろ」

「……ん」

 

 返事をしたが、まだ私がしょんぼりしていることに気付いた兄とディーノは私の頭を撫でまくった。もちろん髪がぐしゃぐしゃにされた私は切れた。

 

 2時間たっても未だに機嫌が直らなかった私は、ゼビル島に上陸する兄達を適当に見送った。私は14番目だったので兄達から約20分ぐらい差がある。エリザベスとフミ子とスクーデリアが居るので大丈夫だと思うが、一応言い付け通りレオリオの元へ行く。

 

「レオリオ」

「ん? ……なんだ?」

 

 いつもと違って少し警戒しているのは試験内容からして仕方がないことだろう。

 

「その、ちゃんと礼を言ってなかったから」

「気にすんな。当然のことをしたまでだ」

「んーん。3次試験中ならまだしも、これからも試験が続くのがわかってるのに、気遣えるのはなかなか出来ないことだ。ありがとう」

「そうか……」

 

 ちょっとテレたらしくレオリオはこめかみをかいた。そんな彼に面倒を押し付ける。

 

「兄達もそう感じたのか、この待機中は君の側から離れるなと言われている」

「は? まぁ別にいいけどよ……」

 

 ツナもだが、人が良すぎるのは大変だな。

 

「ん。ちなみに私のターゲット」

 

 ポイっと札を投げれば、レオリオが番号に驚いたのか思いっきり叫んだ。試験のことはあるが、レオリオの声にゴンとクラピカが寄ってくる。キルアは気にしてそうにこっちを見ているが、私と目が合うと露骨に視線を逸らした。私が思うのもアレだが、素直じゃない。

 

「……見せていいのか?」

「いいぞ」

 

 私のターゲットを知って「これはまた……」とクラピカが呟いた。

 

「サクラは……どうするの?」

「特に。ディーノは笑っていたし」

「見せたのか!?」

 

 当然のように頷けば、クラピカとレオリオは言葉を失ったようだ。ゴンは苦笑いしていた。

 

「まさか、彼は譲る気なのか?」

「私よりディーノが残った方がいいから、今のところなしってことになった」

「……状況によっては手を組むことも視野に入れていたが、手を組むのが当たり前だとは考えていなかったな……」

 

 クラピカは切り替えるように頭を振った。マネ出来ることではないと思ったのだろう。私もオススメはしない。

 

「とりあえず私を連れてきてくれた君達を積極的に狩る気はないらしいから、見かけたら声をかけてきてもいいぞ。食事と情報提供ぐらいはする、兄が」

「……そうか」

 

 レオリオがぐったりしているのは気のせいだろうか。まだ始まっていないが大丈夫なのか?

 

「情報提供?」

「兄はハイスペックだからな。記憶力も凄いんだ。全員の顔と番号が一致している」

「なにぃ!?」

「兄に狙われた人は御愁傷様としか言えない」

 

 ヒソカ並みの強さだと薄々感じている彼らは私の言葉を否定しなかった。……マジで御愁傷様。

 

 結局、そのまま私達は出発前まで話していた。他の受験生の視線は感じていたが無視だ、無視。ゴンとキルアが出たので、私の番になったので声をかける。

 

「世話になった」

「いいってことよ。リラックス出来た」

「レオリオの言う通りだ。始まる前から警戒し過ぎるのは体力が持たなかかったかもしれない」

「そうか。……クラピカは大丈夫そうだが、レオリオは気をつけろよ」

 

 ムッとしたような反応を返したので、私は軽く違うと手を振る。

 

「騙し合いに向いていないから、この試験に不利だと思っただけ。君は親切すぎる」

「……気をつける」

「ん。最終試験に私が居なくても兄達は居ると思うから、その時はよろしく」

 

 そう言って島へ足を踏み入れた途端、ディーノが私の横に立った。船の方でざわざわしているが予定通りである。

 

「サクラ、悪い。横向きに乗ってくれ」

 

 ディーノの言葉に眉間に皺が寄った。彼は私の態度に気にした風もなくスクーデリアに跨り、私の腰を抱き寄せて乗せた。

 

「はぁ」

 

 態とらしく大きな溜息を吐いてからディーノに抱きつき、背中に手をまわす。フミ子は私を支えるように腰を掴んでいた。

 

「しっかり掴まってろよ」

 

 よっ!という掛け声と共にスクーデリアが駆け出す。木が生い茂ってるにも関わらず、猛スピードで景色が流れていった。

 

 

 

 

 私の限界がきたと察したのか、ディーノは徐々にスピードを緩めて止まった。

 

「まいったな……」

 

 ディーノの呟きが気になったが、私の足腰はそれどころじゃなかったのでスルーする。これ以上、スクーデリアに乗るのも厳しいとわかったのか、ディーノは降りて私を抱き上げた。

 

「すまん、無理させた」

 

 意味もなく実行しないとわかっているので、なんとか大丈夫と口にする。ただ理由は気になるので視線で催促する。

 

「ハンター試験側が用意した試験官の中に1人飛び抜けた奴が居たんだ。……サクラについてるみてーだ」

「スクーデリアでも撒けなかったのか」

「ああ」

 

 二人乗りしているのもあるだろうが、大空の推進力より上なのか。本当に厄介な世界である。

 

「でもこれ発信器ついてなかったか?」

「それはそうだけどよ。サクラだって水浴びしたいだろ?」

「よし、ディーノ。やれ」

 

 私が許可する!

 

「……対策は取るつもりだから落ち着けって。まずは桂との合流地点に向かうぜ」

 

 それならば許してあげよう。とりあえず私の足腰は小鹿状態なので、目立つスクーデリアは戻ってもらい、抱っこのまま移動したのだった。




ちなみにスクーデリアより、ディーノさんがオーラを駆使して走った方が速いです。ただ移動にオーラを消費するので、後々のことを考えるとスクーデリアで移動した方がいいです。
後、島の中でというルールがスクーデリアに不利過ぎでした。


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 川に足をつけ、バタバタと動かす。跳ねた水をかけられ邪魔されたにも関わらずフミ子は楽しそうだ。

 

「それにしても遅い」

 

 私の足腰が多少回復するぐらい経ったのに、まだ兄とは合流出来ていないのだ。

 

「念での戦いは感じねーから、その内戻ってくるだろ」

「むぅ」

 

 ご機嫌ナナメである。兄のことだから私のために無茶してそうだ。足手まといとわかっているが、1人で背負わないでほしい。

 

「まっもう帰ってくるぜ。あいつのことだ、サクラがそろそろスネ始める時間とわかってるはずだかんなー」

「スネてない」

 

 否定と一緒に睨め付けるが、ディーノはヘラっと笑って気にする素振りさえ見せない。……面白くない。

 

「嫌い」

 

 フンっと横を向けば、後ろの方でアタフタしている気配がし始めたので「うそ」と訂正した。

 

「好きとは言ってくれないのか?」

「……人としては好き」

 

 視線は合わせていないが、嬉しそうな気配を感じる。恋愛感情はないと断ってるのに、なぜだ。

 

 よくわからない男だと思っていると、急にディーノが私を庇うように構えた。

 

「僕だよ」

「なんだ、桂かよ」

 

 ディーノが離れそうだったので私はそっと袖を引っ張る。

 

「合流出来たんだ、さっさと移動しようぜ。この通り、フミ子のおかげで魚も取れたしな」

「流石、サクラのフミ子だね」

「だな!」

 

 ディーノはニッと笑って私を抱き上げるために後ろを向く。その瞬間に、ムチで何か叩き落とした。

 

「……おかしいな、何か間違えた?オレの変装は完璧だったのに」

「いや、まったく」

 

 思わずツッコミすると、初めて私を視界に入れた。……殺気が懐かしいと感じる時点で、私もかなり毒されている気がする。

 

「お前のターゲットはオレ達じゃねーだろ」

「それもバレているんだ。オレが思っていた以上に厄介そうだね。……うん、早めに消そう」

 

 私達が臨戦状態になった時、莫大なオーラを発しながらもただの散歩中のような足取りで兄は姿を見せた。

 

「サクラの敵は僕の敵だからね。僕も混ぜてもらうよ」

 

 兄が言い終わると同時に、敵対している相手……イルミの足元から植物が生え、晴の活性による急成長で搦め捕ろうとする。

 

 前触れがなかった攻撃だが、流石は有名な殺し屋といったところである。足にオーラを集中させ、飛び退けて逃げた。

 

「すまない。捕まえられると思ったんだけどね」

「桂が来た時点で逃げる気だったみてーだからな。無傷で退けたなら、十分だ。まっ1番のお手柄はサクラだけどな」

「そうだね!」

 

 偉い偉いと2人に頭を撫でられたが、私の感覚では正直何もしていないんだよな。針を使わずオーラで操作したのかもしれないが、『真実の目』だと勝手に『隠』まで見破ってしまうからな。オーラを使った時点で私にはバレバレなのだ。

 

「手の内をひとつ見せちゃったけど、大丈夫?」

「問題ないさ。それに僕が操作系か具現化系だと思っただろうしね」

 

 つまり兄は操作系や具現化系じゃないのか。いったい何だろうと気になりながらも移動し始める。もっとも、私の歩調だと遅いので兄に抱っこされているが。

 

「僕は変化系だよ」

 

 ハンター協会の者が尾行しているのにいいのかと疑問に思う。口元が見えず聞こえない位置なのだろうか?

 

「大丈夫だよ。聞こえたとしても彼は聞かなかったフリをするさ」

 

 合流する前に私を尾行している者に釘を刺していたらしい。それで遅かったのかもしれない。

 

「じゃ遠慮なく。兄は本当に変化系なのか? 気まぐれでウソつきの?」

「そうだよ」

 

 どうも想像がつかなかったので、首を傾げる。しかしディーノは心当たりがあるのか頷いていた。

 

「ディーノが強化系なのは納得出来たのだろ?」

「ん」

「……オレはそんなに単純なのか」

 

 今度は私と兄が揃って頷く。まぁディーノの場合は身内認定した者には騙されやすいという言葉が隠れているが。

 

「それに、強化系は一途だしね」

 

 慌てて兄の口を押さえたが遅かった。そーっとディーノの顔を見ると嬉しそうに笑っていた。……見なかったことにしよう。

 

「サクラの水見式はどのように変化したんだい?」

「私の場合、練がショボいからな。わかりにくかったぞ」

 

 なんとかして練が出来るようになってから試したみたが、大変だった。

 

「時間がかけると、ゆっくりと葉が揺れたんだ。でも念能力から考えると特質系も持ってるのはわかっていたからな。頑張って続けたんだ。でも何も変化が起きなかったから悩んだよな?」

「ああ。そこで浮かせるものを変えてみたんだ」

「いろいろ試した結果、虫に喰われたり折れた葉っぱを浮かせれば葉が揺れながら元に戻った」

「……それはまた、限定的だね」

 

 私もディーノも頷いた。『発』から入らなければ、気付かなかったかもしれない。長時間『練』をすると、疲れるから特に。

 

「オレの考えでは、サクラは普通の念能力者とちょっと毛色が違うんだ。サクラは自分を操作して、元々あった力を高めた結果、特質系が強まったんだ」

「サクラは能力に目覚めるのも遅かったからね。ディーノの言う通り、生れつき特質系の性質を持っているのに、眠っていた可能性はあるだろうね」

 

 自身でも思うが、面倒な体質である。しかしまぁ見事に系統が別れたな。私に攻撃手段がないのを除けば、上手くバランスは取れていると思う。

 

「お兄ちゃんの『発』ってなに?」

「口にした薬の効力をオーラに変える、だよ」

「ん? それって意味あるのか?」

「もちろんだとも。薬を組み合わせて効力を高めたり、副作用をなくすことも出来るのだよ。変化させた僕のオーラに包み込めば、どんな病気だって治してみせるさ」

 

 ……10年後の私が白蘭のせいで寝たきりになったのが関係しているんだろうな。

 

「ただ、まだこの世界の病気を調べきれていないし、金銭面の問題でそこまで手を伸ばせなかったからね。少し失敗したと思っているよ」

「お兄ちゃんも苦労したんだ」

 

 ちょっと意外だという気持ちもあるが、私達は移動手段があって天空闘技場に行けたのが大きかったからな。キャンプグッズは自炊するための道具として揃えたのかもしれない。店で食べる方が高くつくだろうし。

 

「桂」

「僕の苦労話は教えないよ! サクラが心を痛めてしまうじゃないか!」

「……わーった。なら、後で語ろうぜ」

 

 なにそれ、ズルイ。私も聞きたいぞ。

 

「男はね、カッコ良く見せたいものなのだよ。それにこれからは一緒に過ごすのだよ? ハンター証があれば、苦労はぐっと減るのだから、サクラには気にしてほしくないのだよ」

「……じゃぁお兄ちゃんも私達の苦労話を聞いたとしても私に謝らないでね」

「甘やかすのは許してくれたまえ」

 

 謝られるよりはマシかと、了承の意味も込めて兄の首に手をまわす。すると、兄がポンポンと私の背を叩き、ディーノが私の頭を撫でた。

 

 ……この関係のまま続けばいいのに。

 

 思わず出た気持ちにフタをする。私は幸せだが、ディーノに失礼過ぎる考えだ。でも今日ぐらいはいいかと抱きしめる力を強めた。

 

 ある程度移動したところで、兄は足を止めて私をおろした。どうやら今日はここで野宿するらしい。

 

「サクラのためにご馳走を用意したいけど、あまり手の込んだ料理は作れないからねぇ」

 

 残念そうに呟きながらも兄はテキパキ動いていた。ちらっとディーノに視線を向けると、水の量を増やしていた。……強化系ってサバイバルに便利だよな。

 

「私にも何かすることある?」

「休んでろ」

 

 食い込み気味に言われた。少しぐらい考えてくれてもいいのに。大人しくフミ子をもふもふしようと目を向ければ、フミ子は兄の手伝いをしていた。……役に立たないのは私だけか。

 

「そういや、ディーノはどうして彼のターゲットは私じゃないと気付いたんだ?」

 

 私のターゲットはディーノだから、ディーノが外れる理由はわかる。

 

「お前のおかげで絞れていただろ?」

 

 コクリと頷く。私は予知が出来るようになった同時期ぐらいから幸運持ちになった。だから今回のようなクジでもある程度は発揮する。

 

 しかし私が引いた番号はディーノの番号だった。

 

 私が強請ればくれる人物という意味では、間違いなく幸運が発揮している。だが、最高は自分の番号を引くことなのだ。獲物の番号として3点、自身のナンバープレートとして3点が溜まるからな。しかし私は引けなかった。

 

 私が引いた時点では、ディーノの番号が最善の番号だったのだ。つまり私が引く前に無くなっていたことを意味する。だから私よりも早く3次試験をクリアしている人物に絞られた。

 

 問題はイルミは私よりも早くゴールしていたので、この法則に当てはまる。なぜ違うとディーノが言い切れたのかがわからない。

 

「この広い島の中で探すのは大変ってのはわかるだろ?」

「……そうか。見張っていたのか」

 

 私よりも先にクリアしているなら、後からスタートする私を見張るべきだ。ナンバープレートを隠さなかったことがいきてくる。

 

「オレのナンバープレートを絶対に欲しい奴はいねーし、オレらがスクーデリアに乗って猛スピードで移動しても焦るのは1人しかいない」

「それを僕が狩ったのさ」

 

 試験官のことを抜きにしても、あの移動には意味があったらしい。兄が取り出したナンバープレートを見て、思わずご愁傷様と呟いてしまった。殺してはいないだろうが、初日に動けないようにされたので絶望的だと思う。

 

「もしサクラのプレートを狙ってるのがあいつなら、念の戦いになるのはわかっていた。そん時は合流している」

「僕が1人で片付ける案もあったけど、念の戦いには相性があるからね。流石の僕も自重したよ」

「確かに。操作系だったと思うし、私が居ると居ないでは勝率が大幅に変わりそうだもんな」

 

 2人ともなんとも言えないような顔で私を見ていた。弱くて攻撃手段もないのに、相性は良いからだと思う。

 

「そういや、兄はつけられなかったのか?」

「サクラとは前提条件が違うからねぇ。僕の幸運はこのように出たよ」

 

 次に兄が取り出したのは、兄のターゲットのナンバープレートと45番とかかれたクジの札だった。

 

「お前ら幸運過ぎだろ……」

 

 ディーノの呟きに否定することは出来なかった。どうやら兄のターゲットは兄を狩ろうとしていたらしい。兄は狩りながら狩る者も倒せたのだ。

 

 2番目の兄が自分の番号を引けなかったので、てっきりヒソカが引いたのかと思っていたが、兄は私と違って狩れるので自身や仲間の番号を引く必要はなく、兄にとって最良のクジを引いたらしい。……流石、産まれた時からの幸運持ちである。

 

「そういうディーノのターゲットは誰なんだ?」

 

 念のため船の中では名前を出さなかったので、私は誰か知らないのだ。

 

「ポックルつったか?」

「うわぁ。でもある意味良かったのか……?」

「良かったことにすればいいと思うよ」

 

 ディーノが不思議そうにしているので、話すべきか悩む。

 

「その、なんというか、うん。ディーノらしいと思う」

「……詳しくは聞かねーけどよ、それは褒めてるのか?」

 

 私達は頷く。無意識にフラグを立てたり、折ったりするのが本当にディーノらしいのだ。もちろん彼を狩って不合格にすればだが。

 

「もってる男は違うね」

「確かに」

「ぜってぇ褒めてねーだろ!?」

 

 そんなことはないと私達は言ったが、ディーノは信じようとしなかった。




『真実の目』(強化系?)
サクラの能力。
名前に相応しいぐらい、ぶっ飛んでいる。
特に具現化系は泣いていいと思う。
『纒』をするだけで強化され、常に『凝』状態なので。
つまり他の能力を発動時(『絶』の時)は見破れない。



『○○○○○』(変化系)
桂の念能力。
サクラに話した能力は咄嗟に作った建前。
建前なので使えなくはない。
サクラの風邪を治そうとしなかったことから、ディーノさんはウソとすぐに気付いた。


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 一週間は長かった。お風呂が私を呼んでいる。

 

 そんなことを思いながら、番号を見せる。私が持っているナンバープレートは407、34、106、198番である。簡単にいうと自身のと、私を狙っていた人物のもの、ポックルが持っていたもの、移動中に空から降ってきたものである。

 

 兄とディーノは2枚で6点分を稼いだ。兄の狩るものは3次試験を一緒にクリアした人物だったらしい。昨日の友は今日の敵のようだ。ご愁傷様。

 

 ディーノも遠慮なく狩った。ただしちょっとだけ時間がかかった。ポックルが強かったとかではなく、何度も1人で行こうとするので止める羽目になったから。

 

 私達兄妹から離れるとか死亡フラグでしかないことになぜディーノは気付かないんだ。仕方ないので、ディーノに私のそばから離れるなと強請った。あっさり落ちるディーノもどうかと思うが、ニヤニヤしている兄に一番苛立った。ちょっとは協力しろ。

 

 そんなこともあったが、他の受験生とは全くというほど会わなかった。たまに私を急に抱き上げて移動することもあるから、2人が避けていたのだろう。あれからイルミの襲撃もなかったので結構平和だった。……もう野宿は勘弁だけどな!

 

 早くお風呂入りたいと思いながら周りを見渡すと、ゴン達も合格していた。ポックルが居ないのはわかるが、キルアに殺される人も居ない。他はまぁ原作通りのようだ。

 

 ゴンの顔の腫れ具合からみて、原作通りヒソカと戦ったらしい。ヒソカの番号を引いて挑もうと思う神経が凄いと思う。ぶっちゃけ、友達になりたいと思わないタイプ。

 

 やっぱり友人はツナみたいなタイプがいいなと心の中で頷く。似たようなことはしているが、誰かのために前に立とうとするから好感を持てるかもしれない。見守る方からすれば、ゴンよりツナの方が応援しやすいのもあるんだろうな。ハンターという意味ではゴンの方が良いと思う。

 

 つくづく、この世界は私に合わないなと思う。そして早く戻りたいという気持ちが強くなる。……でもそれは私だけかもしれない。

 

 チラッと視線を向ける。兄はこの世界の方が生きやすい気がする。正直、ディーノはいくら身体を鍛えても、この世界に馴染む強さを得れないと思う。持ち前の戦闘センスで念能力を使ってなんとかしている状況だ。強化系というのも救いだったと思う。

 

 一方、兄は馴染める。2tの扉を念をつかわず開けれるだろう。この世界にきて気付いたが、私が思っている以上に兄はセーブしていたのだ。

 

 ……ディーノだけ戻し、この世界で生きる覚悟がいるかもしれないな。

 

「サクラ?」

「ん、なに?」

 

 ディーノに呼ばれたので視線を向けたが、彼は困った表情をしていた。呼んだのは君だろと睨む。ディーノは迷ったように視線を泳がしてから、下を向いた。つられて私も下を向く。

 

「……深い意味はない」

 

 下手な言い訳をしてから手を離す。くそっ、なんで私はディーノの服を掴んでいたんだ。バカだろ。

 

「どこにも行かねーよ」

 

 ディーノが安心させるように私の頭を撫でながら言ったので、泣きそうになりながらも口を開く。

 

「……ごめん」

 

 ディーノを縛っているのは私だ。ディーノの優しさに甘えてしまっている。……それなのに私はディーノを選べない。

 

「大丈夫だ。だから元気出せ、な?」

 

 なんとか頷き、ディーノの優しさから逃れるように兄に抱きつく。兄は私を抱き上げながら「落ち着いたら話し合おう、サクラ。言葉にしないと伝わらないことがあると学んだだろう?」と囁いた。

 

 私達はまだ何も話し合っていないこと今更ながら気付いた。……同じ過ちを繰り返すのだから、やっぱり私はバカなんだなと思って、ちょっと笑えた。

 

 

 飛行船でゆっくりしていると面談の放送が流れた。ヒソカが呼ばれたので、次は兄の番だろう。

 

「……想像出来てしまった」

 

 不思議そうにディーノが首を傾げているが、兄はニッコリと笑っていた。肯定ということだろう。……志望動機も気になる人物も戦いたくない人物も全部私と答えるのか。

 

 付き合わされるネテロ会長が可哀想と思っていると、兄が呼ばれたので見送った。ついネテロ会長がいる方向に手を合わせた私は悪くないと思う。

 

 ネテロ会長がうまくかわしたのか、意外にも兄が帰ってくるのが早かった。そしてそのままサクサク進み、私の番がやってきた。

 

 ノックする前に、兄とディーノに手を振る。面談に配慮したのか、近づきすぎず遠すぎずの距離でいる。さっさと戻ってきて安心させよう。

 

 ネテロ会長の許可が出たので、そーっとドアをあけお邪魔する。私自身、緊張はあまりしていないようだ。雲雀恭弥がいる応接室に顔を出す方が緊張するからだろう。……彼に会いたいと素直に思えないのは私が捻くれてるからじゃないと思う。

 

 ちょっと意識を飛ばしていると、躊躇していると思ったのか、ネテロ会長が座るように促した。

 

「この子達もいい?」

「もちろんじゃよ」

 

 許可をもらえたので、フミ子とエリザベスと一緒に座る。流石に今回はスクーデリアはお留守番である。

 

 久しぶりの畳だと思っていると、ハンター志望動機を聞かれたので口を開く。

 

「ネテロ会長と縁を結ぶため。だから私の目的は果たしたと言ってもいいかな」

「そうかそうか」

 

 動揺はなし。まぁ後半は当然か。4次試験で私のあとをつけていたのはネテロ会長だし、兄達から聞かされていると判断するだろう。

 

 ちなみに兄はネテロ会長をエロジジイと認識しているらしく、私が水浴びする時に他の者は気絶させて、ネテロ会長は隣で見張っていたようだ。まぁ私も簡単に倒せるとは思えなかったし兄の判断に任せた。……兄が飛び出したことで私の近くで見張る羽目になったディーノは頭を抱えていたが。

 

「真面目に話すと、ただ生き抜くためにハンターになった方がいいだけであって、私達はハンターになりたいわけではない。その上であなたと縁を欲したのは、ハンターになれば副会長やあなたの息子に目をつけられる可能性を極力減らすためなら会長派と示した方がいいと思ったから」

「…………ふむ、なるほどのぉ」

 

 返事が遅かった割に、纏ってるオーラに変化はない。本当に強化系なのだろうか。

 

「ネテロ会長が生きていれば起きない問題でもあるから、頑張って」

 

 ニッコリ笑って言えば、わずかにオーラに変化があがった。私の言葉から何かが起きるとわかったのだろう。それも戦闘でというのも察してそうだ。

 

「次の質問に移るかの」

 

 コクリと頷き、気になる人物と戦いたくない人物の名をあげる。

 

「気になるのはキルア。……肩入れするか悩んでいるから」

 

 思わず答えた後に溜息を吐いた。今までの経験から考えるとこの時点で肩入れしているんだよな。ツナのために何度悩んだことか。

 

「戦いたくないのは全員。私は温室育ちだから、根っからハンターに向いていないんだ」

「ふむ、ご苦労じゃった」

 

 話が終わったので立ち上がる。出て行こうとして足にしがみついたパンダを見て、ちょっと笑った。勘をつかわないと私には2匹の違いがよくわからないが、今私にしがみついたのはフミ子だと断言できる。

 

「ネテロ会長」

「ん?」

「兄……45番から408番のことは聞いているか?」

「妹の話ばかりじゃったぞ」

 

 そうだよなと一瞬遠い目をする。気を取り直すかのように首をふってから再び向きなおる。

 

「次は408番のディーノだろ?」

「そうじゃが?」

「ディーノの扱いに困ったら、私を呼べばいいから。この部屋の近くに居る」

 

 私の言葉の意味を考えているのか、ネテロ会長はヒゲを撫でていた。恐らく派手に転んだりするんだろうなと思いながら、私は外へと出た。

 

 私が外に出ると兄とディーノが駆け寄ってきた。ちょっと長かったらしい。

 

「特に何もなかったぞ。それにしても伊達に歳をとってないな」

 

 ポロポロと聞き流せない内容を口にしたのに、全部スルーした。リボーンとはまた違ったタイプである。9代目に近いかもしれない。巨大な組織を背負うようになったらそうなるのか? ……ツナは変わらないでほしいなとボンヤリした頭で思った。

 

「……聞いてねーな」

「ん? なんか言ったか?」

 

 ディーノは呆れたように溜息を吐きながら首を振った。処置無しと言ったところだろう。

 

「ディーノはサクラが心配なのだよ。それだけはわかってあげるんだよ」

「……ん」

 

 誰にも邪魔されないでネテロ会長と話せる機会だったので、ここぞとばかりに有効活用したが、私が負担を背負うことには良しとしなかったらしい。ただディーノがどう思っても、私の価値を高めて生存確率をあげた方がいいのは間違いないんだよな。私は呆気なく死ぬから。

 

「ディーノ、ごめん」

 

 それでもディーノの言い分もわかるので、素直に謝る。すると、ディーノは仕方がないように笑って私の頭を撫でた。

 

 そうこうしている内にディーノが呼び出された。扉の前に居たのでディーノを見送ってから私と兄は急いで離れる。その際に大きな物音が扉の向こうから聞こえてきたので、やれやれと肩をすくめた。

 

「ネテロ会長、がんば」

「彼の腕なら被害を最小限におさえるはずさ」

 

 ネテロ会長は思わぬ伏兵が居たとさぞ驚いているだろう。残念ながら私達3人全員が問題児なのだ。

 

 しばらくの間、兄と雑談していると扉が開いた。無事に面談を終えたのかと視線を向けると、ネテロ会長が手招きしていたので兄と目で会話した後、代表して私が向かう。

 

「悪い、迷惑かけた」

「気にするでない」

 

 ネテロ会長に声をかけた後、部屋を覗き見る。どうやら足が痺れたらしく、ディーノは転がっていた。……流石、ネテロ会長だ。机の上にあった墨は彼から遠ざけている。

 

「ディーノ」

「サ、サクラ!?」

 

 私が居るとわかった途端、ディーノは何もなかったように立ち上がり私に駆け寄ってきた。

 

「どうかしたのか?」

「……足の痺れは?」

「んなもん、どうってことねぇよ」

 

 さっきまで起き上がれなかっただろと心の中でツッコミする。いくら言っても自覚しないので、私は早々に諦めて指示を出す。

 

「なら、さっさと行くぞ」

「おう」

 

 ネテロ会長に「すまなかったぜ」とディーノは声をかけてから私の後に続く。残念なイケメンだと心から思った。さそがしネテロ会長も似たようなことを考えているだろう。




ストックが減ってきた……。


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10

 最終試験のトーナメントが発表され、どういうことだとネテロ会長を睨みつける。

 

「じいさん、サクラが抜けてるぜ?」

 

 ディーノの言う通り、トーナメント表の中に私が居ないのだ。

 

「サクラくんはワシの一存でハンター試験合格じゃ」

 

 私の呆れた「は?」という声はレオリオ達の声でかき消された。

 

「サクラの素晴らしさを理解してもらえたのは喜ばしいよ。でもサクラの立場を考えてほしいものだね」

「ん。余計な恨みは買いたくない」

 

 私も不本意だと示す。スクーデリア達のおかげで楽して合格し、恨みを買うのは当然だと納得している。しかしこのパターンでは割り切れない。

 

「おぬしらの言い分もわかっておる。しかしじゃ、ワシが無理を通しても合格にしたい理由も、おぬしらが一番わかっておるじゃろ。なんなら、ここでワシが説明しようか?」

 

 気付いた時には私を守るように兄とディーノが立っていた。

 

「人が悪いぜ、じいさん」

「ふぉっふぉ」

 

 具体的な内容は掴まれていないだろうが、これからのことを考えると私達はこの提案を飲むしかない。が、ムカつくことには変わりない。

 

「合格してもらったんだ、私からは文句はない。観音様に感謝こめて祈りたいぐらいだ」

 

 ヒクッと引きつらせた顔を見て、少し満足した私は後処理を兄達に丸投げする。ちなみに兄は流石僕の妹だと偉そうにし、ディーノはまた余計なことを言ったとわかったのか溜息を吐いていた。

 

 私達のやりとりで、何度か一緒に行動したゴン達も心当たりあったのか文句は言わなくなった。念をつかえるイルミとヒソカは言わずもがな。

 

「ちょっと待て!? いいのかよ!?」

 

 その結果、接点がなかったハンゾーだけが納得いかないらしく叫んでいた。

 

「いいよ。だってサクラが合格したからってオレ達が不合格になる訳じゃないんでしょ?」

「ふむ、その通りじゃ」

 

 子どものゴンが言ったからなのか、ネテロ会長が断言したからなのか、ハンゾーはうがー!と叫んだ後、文句は言わなくなった。大人である。私ならずっと文句を言い続けるだろうな。

 

 流れが変わったのみて、ネテロ会長が最終試験の説明をし始める。ここは原作通りだったので、不合格者は1人だけと聞いて尚更文句を言えない空気になる。……性格が悪い。

 

 私にはもう関係はないが、トーナメント表をじっくり見る。……これは酷いな。キルアがゴンより劣ってることを気にしているが、そんなことは些細なことだ。

 

 ネテロ会長め、念能力者同士をわざと当てたな。兄はヒソカと、ディーノはイルミと対戦するじゃないか。いやまぁ、念を覚えてないものにチャンスを与えたくなる気持ちもわからなくないが。

 

 ボードには『発』は禁止とデカデカと念で書いているが、どうなることやら。

 

 第1試合であるハンゾー対ゴンが始まったが、時間がかかるのでこの後の展開を予想する。

 

 この試合はハンゾーが負けを認めるだろう。ハンゾーが次に進むとクラピカと戦う。これに負けた方は兄かヒソカと戦う羽目になる。どっちも必死になると思うから正直勝敗は読めない。いやまぁ私の勘はハンゾーの勝利だけど。

 

 隣のブロックの初戦はキルア対レオリオ。実力から見るとキルアが勝つが、レオリオに譲るかもしれないな。ただ負けた方はディーノとギタラクルのどちらかと戦うことになるのだから、調子に乗るかはわからない。一応、ギタラクルはヤバイと助言したし大丈夫と思っておこう。……おい、勘ではレオリオの勝ちと出たぞ!?

 

 仕方なく、試合の順番を予測する。もしキルアが暴走するとしたら順番から考えて、クラピカとハンゾーの対決の敗者と、兄とヒソカとの対決の敗者との戦いの時だろう。だから兄は恐らくヒソカとの戦いを棄権する。

 

 しかし一番良いのはキルアが暴走しないことだ。つまりディーノに負けてもらい、ギタラクルをトーナメントに進めなければいいのだ。その後は上手く調整し、兄とディーノならキルアを落とすことだって可能だろう。最悪、兄が落ちればいい。

 

「ディーノ」

「別室に行くか?」

 

 ディーノはゴンとハンゾーの試合を難しい顔で見ていたが、私が声をかければいつもの雰囲気に戻った。

 

「なんで?」

「……まっそうだよな」

 

 ハンゾーは一切ルールを破っていないし。死なせないルールでの試合なのだから、ビビる内容じゃない。ディーノも同意見なのか、難しい顔をしても止める気配はなかった。

 

「お前らゴンが心配じゃねーのか!?」

「どっちかというとハンゾーの方が心配」

 

 私の言葉にレオリオとクラピカが驚き、ハンゾーもこっちを向いた。

 

「悪い、余計なことを言った」

 

 勝負の邪魔をする気はなかったと頭をさげる。が、説明しろという視線が刺さり続ける。仕方なく、ネテロ会長に視線を向ければ頷いたので口を開く。

 

「ディーノ、ゴンって雲雀恭弥ぐらい頑固だよな?」

「そうだなー。ぜってぇ負けを認めねぇところなんかはそっくりだぜ。それがどうかしたのか?」

「例えば君がどうしても雲雀恭弥に負けを認めさせなければならない時はどうする?」

 

 私の問いにディーノは悩んでそうだ。

 

「あいつは死んでもオレにまいったなんて言わねーぜ? 口に出すぐらいなら死ぬ方を選ぶだろ。どうしてもなのか?」

「どうしても」

「……なら、制限時間でもつけてオレを倒せなかったら恭弥の負けってルールを納得させて新たに作るしかない。まっあいつはゴンと違って、そのルールを聞かなかったことにするかもしれねーが……」

「それは君にだけだと思うけど。彼は納得したルールは守る男だから」

 

 ディーノに教えれば、遠い目をしていた。ドンマイ。

 

「君の敗因はゴンが頑固と気付いていながら、先に2人でルール決めしなかったこと。後は……人質でも作ってゴンを脅せないほど人が良いことだ」

 

 ハンゾーがなぜかポカーンとしているので首をかしげる。

 

「サクラ! お前、変わってるが、悪い奴じゃねーと思ってたのに、人質だと!? 考えが極悪人だぜ!?」

「……人質とかふつーだよな?」

「サクラは脅されることが多いからねぇ……。すまない、僕の力が足りないばかりに!」

「いや、オレのせいだ。オレがもっと強けりゃ……!」

 

 同意を求めれば、不思議なことに兄とディーノが大ダメージをうけていた。

 

「その、元気出せ。私が捕まったせいで2人とも身動き出来なくなったこともあるだろ? お互い様だ」

 

 なぜか2人が再びダメージを受けたらしく、兄は目頭を押さえるし、ディーノに力強く抱きしめらる。見兼ねたフミ子とエリザベスがそれぞれの主を殴るまで2人は正気に戻らなかった。

 

 すまん。シリアスはどこか消えてしまった。

 

「……ゴン、ルール決めしねーか?」

「いやだ」

 

 べーと舌を出したゴンを見て、ハンゾーは頭を抱えることに。流石のゴンも私の話を聞いた後に、そんな提案に乗ることはなかったようだ。

 

 完全に立場が逆転したと気付いたハンゾーはゴンを殴って気絶させた後に「まいった」と言ったのだった。……ハンゾー、大人気ないぞ。

 

 第2試合は兄とヒソカの勝負である。私の予想を外し、兄はすぐに降参しなかった。

 

「少し付き合うよ」

「少し? つれないこと言うね♣︎」

 

 どうやらヒソカのために戦うことにしたらしい。よくよく考えれば、すぐに降参すれば私に恨みが向かう可能性があるからか。

 

「お兄ちゃん、頑張れー」

「もちろんだとも!」

 

 兄が返事し終わったのが合図になったのか、ヒソカが動いた。しかし残念。凡人の私の動体視力ではよく見えない。真実の目という素晴らしい目を持っているはずなのに、残念すぎる。

 

「桂の奴、遊んでるな……」

「そうなのか?」

「ああ。アレの修行のつもりなんだろ」

 

 アレというのは念のことだろう。その割にはヒソカは楽しそうに笑っているけど。ちなみにかなり怪しい笑い声なのでドン引きするものが多数である。私はキャラの濃い暗殺集団を知っているからか何とも思わなかったが。

 

 しばらく手合わせしていたようだが、どうやらヒソカは物足りなくなったらしい。まぁ発も殺しも禁止だからな。

 

「とても楽しい時間だったけど、キミとは違った形で戦いたいな♦︎」

「お断りさせてもらうよ」

「残念♠︎」

「まいったよ、僕の負けさ」

 

 ヒソカは文句を言うこともなく、兄の降参を受け入れた。兄が負けるつもりなのを察していたからだろう。兄のことだから攻撃は仕掛けなかったと思うし。

 

 急なことでちょっと変な空気になったが、ブロックがうつり第3試合のキルア対レオリオが始まる。が、早々にキルアが「まいった」と言った。……機会があれば、殴ろう。今決めた。

 

 仕方ないので私はディーノに負けるように頼まないと。ちょっと忘れかけていたけど、セーフだろう。ちょいちょいと手で耳を貸せと指示を出す。良くあることなので察したディーノは屈んだ。

 

「降参してほしい」

 

 真意を掴むためにディーノは私の顔をジッと見つめた。しばらくすると任せろというようにディーノは私の頭を撫でた。これで安心だと息を吐いた時、カタコトの「まいった」という声が聞こえてきた。

 

「ちょっと待て!? まだ始まってないだろ!?」

 

 慌てて私がストップをかける。何言ってんだ?という視線は無視だ。私はキルアとイルミを戦わせたくないのだ。

 

「しかしのぉ、本人による申告じゃからのぉ」

 

 思わずネテロ会長向かって舌打ちする。ディーノが受かったのに全く喜べない。

 

「じいさん、オレも『まいった』と言えば、どうなるんだ?」

「早い者勝ちじゃ。おぬしはもう合格済みで取り消すことはできん」

 

 本当に失敗した。試合前に申告する可能性を考えてなかった。……最終試験に参加出来ていれば、ルール説明後すぐに私が落ちれば良かったのに。

 

 私達の中で残るは兄だけだ。兄に視線を投げかけると、僅かに首を横に振った。十中八九、私の安全を優先させたからだろう。この場合だと、兄は頑固だ。

 

 ハンゾーじゃないが、叫びたくて仕方がない。ディーノがすまなさそうに私を見ているが、彼は一切悪くない。私がさっさと伝えていれば、ディーノは先に手を打っていたはずだ。私の考えが甘かったのだ。

 

 私が反省している間にハンゾー対クラピカが始まった。ハンゾーがルール決めを提案していたので、完全にルールに振り回されているようだ。クラピカも人が良いのか、ハンゾーを嫌いになれなかったのか、ちょっと笑ってからその提案にのんでいた。

 

 ……この後の展開を考えると、なんて心温まる試合なんだろうと私は思わず目頭を押さえた。




サクラはやりすぎた。

ハンゾーは口車にのせられやすいタイプ。


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11

 ハンゾーの勝利が決まれば、キルア対ギタラクル……イルミの試合が始まった。イルミは針を抜いて変装をといた後、キルアの気持ちをバッサリときって捨てた。そしてレオリオの言葉でゴンはもうキルアを友達だと思っていると知った彼は言った。

 

「よし、ゴンを殺そう」

 

 イルミが発した言葉に息を呑んだ者が数名居たが、私はその中でやっぱりよくあることじゃないかとズレた言葉を発した。

 

 それにしてもイルミの話を聞いているとイライラする。私は兄に誘導はされても強要されたことはないし、私の気持ちをきって捨てるようなことはしなかった。

 

 確かに私が兄のために思い行動し、兄は私の気持ちを汲み取ってスレ違ったことはある。他にも10年後の兄が死ぬとわかって、私も一緒に連れてってと兄に懇願した時は、兄にあんな顔をさせるなとディーノが私の頬を叩いて止めてくれたこともあった。

 

 私達はいっぱい間違えた。多分これからも間違えると思う。でもそこには確かに互いを思い合う気持ちがあった。

 

「お前はキルアの兄なんかじゃない……!」

 

 気付けば、私は口を開いていた。

 

「キルアがどれだけ勇気を振り絞って伝えたのか、なんでわかってやらないんだ! それに心が狭すぎる! 軽く話を聞いただけだが、母親はまだ心が広いぞ。心配だからそれとなく様子を見にいってほしいと言っただけなんだろ。殺し屋としての道に進むことを願っているようだが、君のように強要するような言動はしていない! 私の兄も時間がある限り私を観察したり盗撮しているが、私の将来を縛るようなマネはしないぞ!」

「もちろんさ!」

「……お前ら、威張る内容じゃないからな? 特に桂はもう少し自重しろ」

 

 ディーノのツッコミはスルーする。私達兄妹が変わっているのは知っているし、頭を冷やすためにも自虐ネタをいれたのだ。

 

 しかしまぁここまで言ってしまったんだ。後は私の口八丁で乗り切ってやる!

 

「それと、だ。私の個人的な感情は一旦横に置いても、さっきから矛盾しているぞ。キルアがゴンを殺してしまっても、どこに問題あるんだ」

「あるに決まってるだろ!?」

「ないだろ。もしキルアがゴンを殺した時は彼の言ってることは正しかったってことだ。キルアも殺し屋が天職だったと自覚出来て良かったねという話じゃないのか?」

「問題大有りじゃねーか!?」

 

 レオリオはもう少し落ち着け。まぁクラピカが待てというように手を伸ばしたから大丈夫だろう。……ねちっこい視線を感じる。「ククク♦︎」とか言って笑ってるだけだから、害はなさそうだが。

 

「サクラの考えも間違いではない。ギタラクルからすれば、キルアがゴンを殺しても不都合なことは起きない。強いて言うならば、殺し屋と自覚するまで時間がかかることだ」

 

 予想通り、クラピカも乗ってきた。キルアがゴンを殺さないと信じているからこの展開に賛同出来るのだ。

 

「そうだろ? 今脅して無理矢理押さえつけてイヤイヤ殺し屋をさせるか、時間をかかるかもしれないがキルア自身が自覚して殺し屋として戻ってくるのか。どっちがいいのかって話だ。後々のことを考えると答えは決まってると言ってもいいけど。まぁもし気絶しているゴンがこの話を聞いて、キルアとは一緒に居られないとか言えば、話は変わってくるが……」

 

 ここまで言えば、レオリオも理解したらしい。ゴンはキルアを拒絶するわけないからな。後は論点を正すだけ。

 

「母親の話を聞いた感じでは、殺し屋云々は君の一存で決めれないんじゃないのか? いくら考えても無駄なこと。今考えれるのは、ハンター証を取らせるべきか取らないべきかぐらいじゃないのか? 決めれるのは今ここに居る君だけだし」

「……うん。そうかも。今すぐキルが大人しく帰るなら、父さんにはオレから話しておくけど?」

 

 キルアはゴンのことを思ったのか一度目を伏せた後、コクリと頷いた。

 

「それとキルにハンター証は必要ない」

「うん……わかった」

 

 なんとか上手くいったらしい。家族間のかわったルールと針をさしているからキルアが絶対に殺し屋になると信じて疑わないから誤魔化せた気がする。原作でキルアの父親もそう考えて送り出したことを知っていたのも大きかった。

 

「ふむ。では、キルアが不合格者で良いのかの?」

「……オレはハンターになりたかった訳じゃないから」

 

 キルアが暴走しなかっただけでも私の行動は意味があったと思う。自画自賛してもいいレベルだろうとホッと息を吐いていると、ガシガシと頭を撫でられた。

 

「偉いぜ、サクラ」

「私が手を打たなかったら、君がなんとかしたくせに」

「オレの場合は力づくだったからなぁ」

 

 ……確かに。決して頭が悪い訳じゃないのに、ディーノは相手が乗り気なら力づくになるんだよな。雲雀恭弥と初めて会った時がいい例である。

 

 残念すぎるとディーノに視線を送った後、私は兄の元へ向かう。兄は苦笑いしてから、私を抱きあげた。

 

「……ごめん、心配かけた」

「違うよ。少し……照れ臭かっただけさ。僕の気持ちが届いているからサクラは怒ったということだからね」

 

 ……なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。もじもじと隠れるように兄の肩に顔を押し付けた。

 

「無自覚だったみたいぜ」

「そんなところも可愛いけどね!」

「オレもそう思うけどよ、部屋に案内するって言ってるぜ」

 

 都合の悪い話は聞こえないフリをして、お風呂に入れるかもと期待を寄せる。私の反応を見た2人は軽く笑った後、移動し始めた。無視だ無視、お風呂が私を呼んでいるのだ!

 

 

 

 サッパリした後、私達はこれからの予定を相談する。

 

「再び天空闘技場に戻るのもありだと思うよ」

「桂の念能力を考えると資金はあった方がいいのは間違いないからなー」

「でも彼がいるぞ?」

 

 これ以上、ヒソカと関わるのもどうかと思うのだ。

 

「もう手遅れだと思うぜ」

 

 それは知りたくなかった。

 

「オレとしては試しの門に挑戦したいんだよなー。それに確かキルアの実家だろ?」

 

 うわぁと私はドン引きする。あれに挑戦したいと思う気持ちも、自然に原作へ関わろうとする彼がヤバイ。身体能力の差として試しの門という例をあげたが、ここの原作の流れは教えてないのに。

 

「ディーノは念を極めた方がいいと思うよ! 差を埋めるにはその方向しかないからね」

 

 ちょっと落ち込んでそうだが、私もそう思う。まぁディーノも否定しないからわかってると思うが。ハンター試験で身体能力の差がはっきりしてしまったからな。

 

「兄の目から見て、どれぐらいかかる?」

「……修行期間を含めてもクリアまで半年はかからないよ。ただそれは効率重視で、サクラが割り切れると思えないけどね」

「割り切れる?」

「最後のクイズとクリア報酬から考えて、一度クリアしてしまえば、僕はゲームが続くとは思えないのだよ」

 

 ……つまりゴンとキルアを鍛える機会を潰すのか。

 

「もちろん彼の父の言葉から考えるとゲーム自体は続く可能性もあるけど、クリア報酬があるかはわからない」

 

 ビスケと出会える機会を無くすのはほぼ間違いないと兄は予想しているようだ。

 

 ジッと2人が私の顔を見ている気がする。私が二択すれば答えはわかるからな。

 

「……ディーノ」

「大丈夫だ。あいつらなら、オレが居なくても上手くやってるぜ」

 

 結局、また甘える形になってしまったと私は苦笑いするしかなかった。ディーノが居ると居ないではやれる範囲が全然違うのだ。

 

「話は決まりだね!」

「ん。猶予は出来たけど、やることはいっぱいだし」

「そうだねぇ。流石にわかっている範囲だけでも手を打ちたいところだね!」

「ああ。オレにはわからねーけど、サクラが悔やみながら戻ることは防ぎたい。なんでもするぜ」

「……ありがとう」

 

 私が巻き込んだのに2人は責めないし、私のためにと動いてくれる。言葉にしたことで気が緩んだのか、私はボロボロと泣き始めてしまい、2人を慌てさせてしまったのだった。

 

 

 

 

 次の日、講習を受けるためにどこに座ろうか悩んでいるとレオリオが手をあげたので私達はそっちへと向かう。ゴンとクラピカも一緒に居るな。

 

「サクラ、ありがとう!」

 

 近付くとすぐにゴンに声をかけられた。礼はキルアのことだろう。

 

「私も腹が立っただけだ。それと君がむかえに行けば、後押しになると思う」

「私達もその話をしていたんだ」

「問題はどうやってキルアの家を聞き出すかなんだ。いい案はねぇか?」

「彼の実家は有名だぞ? 確かククルーマウンテンだったかな。観光バスも出ていたはず」

 

 驚いた3人を見て、先にめくれとツッコミしたくなる。ハンター専用サイトで調べなくてもわかると思うし。

 

 私がやれやれと肩をすくめた後、兄とディーノに視線を向ける。会話に入ってこないことに変だと思っていたが、ジャンケンをしていた。何やってんだか。

 

 私が呆れた視線を送っているとイルミがやってきた。……おい、私の後ろに止まるな。怖いから。

 

 恐る恐る振り返ると、いつものように2人は私を守っていたのであまり見えなかった。ホッとする。

 

「僕達に何かあるのかい?」

「……オレ、人に操られたことはないんだよね」

 

 ぞぞぞっと来た。あれか操る方だといいたいのか。兄に抱きつきたいが、いつでも動けるようにしている2人の邪魔は出来ない。

 

「ただ納得もしているんだ。だからお前の言う通りになっただけ。そう思うのも操られているのかな」

 

 イルミは返事が欲しかったわけじゃないようで、言うだけ言って席へ座った。が、ジッと見られている気がする。こっちを向いて居ないのに。

 

「サクラ、僕の腕の中にきたまえ!」

 

 すぐさま兄の膝の上に座った。明らかにおかしな行動だが、誰も引かなかった。……ヒソカは楽しそうに笑っていたが。

 

「相変わらずサクラはかわったタイプに好かれるね」

「まったくだぜ」

 

 2人ともブーメランでかえってくることに気付いているのか。残念ながらビビっていた私の口は動かなかった。

 

 兄の膝の上に乗りながら、講習を聞く。後から来たハンター協会側の人達は何が起こったのか知らないが、注意は飛んでこない。非常に助かる。

 

 講習が終わるとすぐにハンター証は兄に預ける。私が持ってても盗まれるだけだ。

 

「サクラ、ディーノに預けてもいいかい?」

「ん? かまわないが……」

 

 私がそう答えると兄はディーノに渡した。ディーノが驚かなかったことから、決めていたらしい。

 

「サクラ達も行かない?」

「悪いが今回はパス」

「そうか。残念だ」

「連絡先だけでも交換しねーか?」

 

 まいった。戸籍がなかったため、携帯電話もないのだ。

 

「僕達はまだ連絡手段を持っていないのだよ。君達の連絡先を教えてくれれば、こちらから連絡するよ」

「ん? そうなのか?」

 

 そう言いながら、レオリオはすぐに名刺をくれた。クラピカもそれに続くが、ゴンは持ってないので悲しそうな顔をした。

 

「ゴン、良いこと教えてあげる」

「ん? なに?」

「近いうちに君とは会えると私の勘がそう言ってる」

「ほんと!?」

 

 自信を持って頷く。私達はこれから天空闘技場で資金集めをするからな。兄達も修行するらしいし、間違いなく会うだろう。ゴンの腕は折れてないし。

 

 レオリオとクラピカの連絡先を貰っていると、ハンゾーからも名刺を貰う。……日本語が懐かしい。

 

「ジャポンには味噌があるのかい?」

「2次試験の時も思ったけどよ、詳しいな!」

「サクラ、ジャポンに行くのもアリだと僕は思うよ!」

 

 そうかもしれないと頭によぎる。米や味噌が私を呼んでいる……!

 

「……行くしかねーみたいだな」

 

 苦笑いしながらディーノに頭を撫でられた。だが、譲れない。日本が恋しいのだ。お風呂に入りたいのもその影響である。

 

 ハンゾーにまた連絡すると約束し終われば、ここにはもう用はないと思っているとメンチがやってきた。私達というより兄に用があるんだろうな。

 

「ありがたく受け取りなさい。私の料理を食べようと思えば数年待ちするのよ」

 

 私とディーノの分もくれたことから、兄の性格がよくわかっている。1人分なら絶対行かなかった。3人分というより私の分もあったため、兄が手土産を持って行くと約束していた。その際にメンチが小さくガッツポーズしていたのを私は見逃さない。「オレ達にはねーのかよ……」というレオリオの呟きはスルーするが。

 

 今度こそ終わりだと思っているとイルミが居た。いつから居たんだ、超怖い。兄とディーノ以外みんなギョッとしているじゃないか。

 

 スッと名刺を私に向かって出されたが、兄が受け取った。イルミは何も言わず、ジッと私を見た後に去った。

 

「思った以上に厄介な奴に目をつけられたな……」

「僕も連絡先を渡すほどとは思わなかったよ」

 

 そう言って兄は名刺をポケットにしまった。……捨てないのか。

 

「そろそろオレ達は行くぜ」

 

 ディーノの言葉で今度こそ、さよならだ。ズルをいっぱいしたけど、割と楽しかったなと思いながらもゴン達に手を振った。




章の終わりっぽいけど、まだ1話ある。
次の章は全部で6話っぽい。6話で5ヶ月進むから、やっぱりサクサク行く。薄っぺらいともいう。

グリードアイランドについて。
クリア後の展開は賛否両論だと思う。
一度じゃなければ、せこい話だけどキルアも擬態とか使えば99枚集めれて、報酬をもらった後に揃えればまたもらえるんですよね。クリア報酬をどれにするか悩まなくて良いじゃん。
選挙にゲームマスターも居たし。
だから私は「一度限り」と決めた。異論は認めるw


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12

 やっぱり飛行船は時間がかかるよな。スクーデリアの移動に慣れ始めていたため、余計にそう思ってしまう。楽だから飛行船でいいけど。

 

「サクラ、少し話をしよう」

「……ディーノは?」

「散歩に行ってもらったよ」

 

 え、大丈夫か?という言葉をのみこむ。私達のために部屋から出てもらったのだから。

 

「心配ないさ。この飛行船には念能力者はいないからね」

 

 先に調べていたのか。まぁヒソカとばったりとか私も嫌だし確認するのも当然か。安心した私は兄と向かい合うように椅子に座る。

 

「……お兄ちゃん」

「なんだい?」

「一緒にこの世界で過ごさない?」

 

 私の言葉に兄はすぐさま首を振った。

 

「サクラにこの世界は合わないよ」

「兄は過ごしやすいだろ?」

「それは関係ないさ。サクラが苦労するこの世界に僕が留まる理由はないよ」

 

 また私のためか。思わず睨んだ。

 

「すまないね。僕はサクラが怒る理由がわからないのだよ」

「だってお兄ちゃんはいつも私のためって言う! お兄ちゃんは自分のために動かない!」

 

 感情的になり過ぎたのか、目に涙がたまる。

 

「そんなことはないよ」

「あるもん!」

 

 うー!と唸りながら、鼻息を荒くする。そんな私を見て、兄は「怒ってもサクラは可愛いね」と言い、微笑んだ。……完全に相手にされていない!

 

「お兄ちゃん!!」

「僕はね、サクラが考えるような良い人ではないよ。……サクラが幸せになるためなら僕は手段を選ばない」

「ダメだ! 絶対にダメだ!」

 

 私が怒ると兄は嬉しそうに笑うだけだ。

 

「少しは真面目に考えろ!」

「僕はいつでも大真面目だよ」

「……お兄ちゃんはもっと好きに生きていいんだぞ?」

「僕以上に好きに生きている人はいると思うかい?」

 

 つい「いない」と言いそうになった。でも兄は好き勝手に生きてるように見えるが、私の幸せを最優先している。

 

「お兄ちゃんが無理する必要はない!」

「僕は無理をしたつもりはないよ」

 

 平行線だ。いくら言っても通じないことが悲しい。

 

「……少し席を外したほうがいいかな」

 

 止めようとしたのに、声をかけれなかった。心配するようにエリザベスが私の顔を覗き込んだのが視界に入る。私はエリザベスを机の上へ移動させ、顔が埋もれるように抱きく。

 

 しばらくすると、頭を撫でられた。撫で心地でディーノとわかる。兄が呼んだのだろう。また私を優先した!

 

「……兄になんて言われたんだ」

「ん? あいつはサクラを怒らせてしまったと言ってただけだぜ?」

「違う! 怒ってない! わかってくれないのが、悲しいんだ……」

 

 顔を上げて否定する。ディーノは椅子を移動させて、私の隣に腰掛けた。

 

「最初から話してくれ。お前らは家族のことになると視野が狭くなるから、これだけじゃ判断出来ねぇ」

 

 少し悩んだが、全部教えた。私がディーノだけを元の世界に戻すことを考えていたもバレてしまったが、あまり彼は怒っていなかった。

 

「その可能性も考えていたからな」

 

 私の思考を読んだようにディーノはそう言って、私の頭をガシガシと撫でた。

 

「オレの言葉より桂からの方が納得すると思って何も言わなかったんだ。任せてこんなことになっちまったけどな」

 

 はぁとディーノは大きな溜息を吐き、一緒に居れば良かったなと呟いた。

 

「まず桂の言葉は間違ってねーよ。あいつはサクラのためなら人だって殺す。それは知ってるだろ?」

 

 コクリと頷く。10年後の兄は私のためにボンゴレ狩りをした。

 

「でもお兄ちゃんは平気じゃない」

 

 エリザベスはユニの命を肩代わりするために改造された。責任をとって10年後の兄は死んだのだ。

 

「今なら大丈夫か……」

「ん?」

「あの時はちょっと違うんだ。桂が納得したことじゃなかったからな。桂が必要だと思えば、人を殺してもなんとも思わねーよ」

「やっぱり私のせい、だよな……」

 

 10年後の私が人質にならなきゃ、兄はそんなことしなかった。

 

「そう考えているとわかっているから、誰も言わないんだ。特にあの時のお前は、桂のあとを追って死のうとしていたからな」

 

 うぐっと言葉に詰まる。

 

「そもそも10年後のオレがサクラを守れなかったことが発端だ。責任を取るとしたらオレであるべきだった」

「いや、それは違う。私は君にずっと守られていた。ディーノが防げなかったなら、兄でも防げない」

「お前がそう思ってるから桂はオレを責めなかったんだぜ。もちろん桂はサクラも悪いと思っていない。あの時、桂が一番自分の中で納得したのがあの結末だったんだ。サクラを残すことになるが、オレ達が居るなら大丈夫だと思えたんだよ、あいつは……」

 

 ディーノも死んだ10年後の兄のことを度々思い出していたことに今になって気付いた。

 

「あの時は例外だが、桂はお前を守るためなら平気でやる。お前の知らないところで脅していることをオレは知っている」

「……そうなのか」

 

 守られているとわかっていたつもりだったが、甘かったらしい。

 

「そうだな……。例えば、ファミリーを守るためなら、オレは手を汚すこともある。それはわかるんだろ?」

「……ん。いろいろあると思うし」

「桂も一緒だ。それをずっとサクラに見せなかっただけだ」

 

 行き過ぎだとは言ってはいけないと思う。守られているのは私だから。

 

「深く考える必要はないんだ。あいつはお前が幸せならそれで救われる」

「ディーノもロマーリオ達が幸せならいいのか?」

「ああ。まっオレはそこにシマのみんなも入るぜ」

 

 そういえば、ディーノのシマの人達はみんな笑っていたな。……ディーノに守られていることに誇りを持っているかもしれない。

 

「私は、兄の気持ちを踏みにじっていたのか……」

「……なんでそうなるんだ」

 

 視線を向けるとディーノは困ったように頭をかいていた。

 

「ぁー、オレがサクラを心配したり怒るのは負担か?」

「いや。どっちかというとありがたい。ディーノは私のストッパーになっている」

 

 兄は何でも許すから、歯止めがきかなくなるのだ。

 

「桂も同じように考えても不思議じゃねーだろ? あいつは特に嬉しいと思うタイプだぜ」

 

 そういえば、私が怒ったら兄は笑っていたな。……あしらってるのではなく本当に喜んでいたのか。

 

「じゃ私もディーノみたいにガミガミ言った方がいいのか」

 

 頬を引っ張られた、痛い。頑張って冗談と伝えると放してもらえた。

 

「ったく……。あいつはサクラに幸せになってほしいだけだ。この世界にきて、何回ぶっ倒れてるんだ? そんなところでサクラと一緒に過ごしたいと桂は絶対に思わねーよ」

 

 頬を押さえながら頷けば、ディーノは良くできましたというように笑った。ふと疑問に思ったので口を開く。

 

「ディーノはどうしてそこまでしてくれんだ?」

 

 割と面倒な兄妹だと思うんだよな。それなのにディーノは積極的に関わろうとしている。

 

「……珍しいな。聞きたくなったのか?」

 

 僅かに首を傾げれば、ディーノはニッと笑って言った。

 

「サクラが好きだからだ」

「え、あ、うん。そう……でした」

 

 なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ……!

 

 視線を泳がしていると頬に手が触れた。さっき摘んだ場所を撫でられて、もっと恥ずかしくなる。

 

「ほんと、サクラは可愛いな」

「……お、お兄ちゃん探してくる!!」

 

 脱兎の如く、椅子から立ち上がり部屋から出る。止められなかったので追いかける気はないのだろう。護衛として私についてきたエリザベスを抱え、足早に歩き出した。

 

 

 

 兄は簡単に見つかった。反省中というように落ち込んで居たからか、たくさんの人に慰められていたからだ。久しぶりに見る光景に思わずヒクッと頬がひきつる。

 

 人だかりに突入する気力はなかったので、「お兄ちゃん」と呼びかける。兄が反応したからなのか、人が波が割れるように動いた。……つい逃げたくなる。

 

「……帰るんだろ」

 

 パッと顔をあげて兄は私が伸ばした手を掴んだ。

 

「チョロすぎ」

「僕が愛するサクラの言葉だからね!」

 

 もう私は仕方ないように笑うしかなかった。

 

 2人揃って部屋に戻ると、ディーノが転がっていた。……兄もディーノも目を離すとめんどくさいことになりすぎだろ!?

 

「ち、違うからな。今のは床が滑ったんだ」

「そんなことより、これからの予定をおさらいするよ!」

「急に威張るな」

「スルーかよ……」

 

 仕方ないよなと兄と目で会話する。

 

「まっ仲が戻って何よりだ」

「また世話になったようだね! そろそろディーノには何か返した方がいいかもしれないね! でも僕が用意するよりもサクラがした方がディーノは嬉しいだろう?」

「そりゃな」

 

 慌てて2人の会話を止め、どうしてそうなるとツッコミする。

 

「サクラはお礼したいとは思わないのかい?」

 

 そう言われると何も言えない。世話になってるのは事実だし。

 

「桂、無理矢理はダメだ。気持ちだけもらうぜ、ありがとな」

「……私に出来ることならいい。変なことはダメだぞ!」

「本当にいいのか?」

「二言はない」

 

 威張るように胸を張る。ディーノは少し悩んだ後、口にした。

 

「……これしかねーな。3人一緒に帰る」

「え?」

 

 想像していたのと違った。それにディーノはもう私が帰る前提でいるとわかっているはずだが……。

 

「サクラがそう願うだけで、オレと桂は迷わない。死ぬ気の炎も念も同じだ。覚悟すればするほど強くなれる」

 

 ジッと2人から見つめられ、私は口を開いた。

 

「一緒に帰りたい。……お兄ちゃん、ディーノ、一緒に帰ろう!」

「僕達がサクラの願いを叶えるのは当然さ」

「ああ。オレはそのために来たんだ。一緒に帰ろうぜ」

「ん!」

 

 私が頷くと、2人に思いっきり頭を撫でられた。また髪がボサボサになったが今回は怒らなかった。

 

 

 

 

 その日の夜、サクラが寝静まったころから桂とディーノは飲み明かしていた。もちろん警戒を緩めることはない。

 

「すまないね。君に頼りっぱなしだよ」

「オレも好きでやってんだ。気にすんな」

 

 そう言ってディーノは桂に酒を注ぐ。桂もお返しにディーノのグラスへ注ぎながらも再び口を開く。

 

「それでも今回のことでサクラは更に僕に依存してしまっただろ? 苦労しているんじゃないのかい?」

 

 再会してからすぐに桂はサクラがディーノへの恋心が薄れていることに気付いていたのだ。

 

「否定はしねーけどよ、桂が謝ることじゃねぇんだ。それに少しは進展があった」

 

 おや?と桂は眉をあげた。いつの間に。

 

「可愛かったぜ?」

「当然さ」

 

 サクラのことが好き同士には、最高の酒のアテだった。

 

「しっかしよー、イルミだったか? あいつのことはどう思う?」

「彼の倫理観はズレているからね。正直僕もどう転ぶかわからないよ」

「やっぱ好きという感情じゃねーのか」

「そうだろうね」

 

 2人して頷く。サクラの見る目からはそう言った感情は読み取れなかった、と。

 

「僕はね、サクラがゾルディック家として必要だと彼が判断した時が怖いよ」

 

 サクラは相手の性格や未来を知っていると、空気を読みすぎる。最終試験に参加していないはずなのに、誰よりもあの場をコントロールしていた。本人は人見知りで口下手だと思っているが、サクラの話術は群を抜いている。情報戦で圧倒的に有利なのだから当然だ。慣れれば、サクラの欠点にも気付くが浅い付き合いでは不可能に近い。

 

「それで試しの門に行くことを却下したんだな」

「身体能力の差は仕方がないけど、念をつかっての成果もわかりやすいところだったけどね……。サクラがゾルディック家と関わる機会は極力減らしたかったのさ」

 

 サクラが何に対して心残りが出来るのかわからないディーノは、桂が極力という言葉を使ったことで関わることは決定していることに気付く。

 

「そこまでキルアに肩入れしてんのか……」

 

 あんなにイルミに対してビビっていたのにな、とディーノは溜息を吐く。それと同時に嫉妬心も湧き上がる。

 

「キルア、というより死んでしまった僕と重ねてるんじゃないかな」

 

 それなら仕方ねぇとディーノは笑いながら酒を飲む。

 

「僕としては、キルアで良かったと思ってるよ」

「? ……クラピカか?」

「彼は復讐者だからね」

 

 消去法で導き出したと判断したので、桂は理由を教えた。ディーノの反応から予想通りサクラから何も聞かされていなかったようで、空になったディーノのグラスに酒を注ぐ。すぐさまグィッと飲み干したことに桂は苦笑いしながらもサクラのフォローする。

 

「君に頼ったのもあったと思うよ。サクラは君や沢田君のような性格を好むからね。気にはしているけど、どうしても彼の考えが理解出来ないのだよ」

「知ってると、オレはサクラのために関わらねーようにと思うだろうかんなー」

 

 サクラが気にする範囲が思った以上に広いことがわかり、ディーノに桂が求めるレベルの高さを理解した。修行期間をとるわけだ、と。

 

「おりるなら今のうちだよ」

「おりた時点でお前はオレを失格とみなすくせによく言うぜ」

「サクラに相応しくないからね」

 

 ニコニコとしながら言い切った桂に、ディーノは溜息を吐く。桂を味方にしなければ、サクラを落とすのは不可能なのだから。

 

「まっ泣かせたくねーから、やるに決まってんだけどな」

「惚れた弱みだね」

「お前も似たようなもんだろ」

 

 フッと笑い合い、2人はグラスを空にした。




桂さんの交友関係。
親友…笹川了平
悪友…白蘭
飲み仲間…ディーノ
一方的な遊び相手…六道骸

桂さんが考えるサクラの理想の相手。
一位…ディーノ
二位…リボーン
三位…沢田綱吉、雲雀恭弥


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お金と名声がほしい


微妙な設定捏造と1話限りのオリキャラが出ます。


 がっぽりである。通帳を見て、ニヤける。

 

「いくら貯まったんだ?」

「1億」

「……また随分無茶したな」

 

 呆れたようにディーノは溜息を吐いた。ディーノだって200階まで行ったのだから、私の何倍も貯まってるだろ。それにこれでも目立たないようにちょっとずつ賭けているんだぞ。まぁスタッフには顔を覚えられていると思うが。

 

「お? あれは桂じゃねーのか?」

「ん、やっとか」

 

 顔をあげたものの、初戦なのだから負けるわけがない。案の定、すぐに終わった。

 

「待った時間の方が長かった」

「まっそれは仕方ねーぜ」

 

 もう1試合組まされるだろうから移動する。……キャーキャーうるさいな。

 

「遊んできてもいいぞ?」

「しねーからな!」

 

 200階以上の登録はしなかったのに、影響力ありすぎだろ。っけ、これだからイケメンは。

 

 

 

 私達は天空闘技場についてからまずディーノが200階まで目指した。ディーノが200階まで行くと今度は兄の番、つまり今日。同時に挑戦しなかったのは、私が1人になる可能性があったからだった。

 

 そしてディーノが200階以上に挑戦しなかった理由は2つ。手の内を出すのはアホらしいのと、私達がチケットを取れない日が来るかもしれないと思ったから。試合のたびに私が名を呼んで、ここに居るぞとディーノにわからせないといけないからな。全くもって、厄介な体質である。

 

 そもそも目を離す時間が増えるのでリスクが高すぎる。その証拠にヒソカがポンコツのディーノを送り届けてくれた日があった。すぐに私と兄は察した。拍子抜けしただろうな、と。そして割と親切だと思った。雲雀恭弥なら放置しているぞ。

 

「……才能溢れてて良かったな」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

 切り替えるように画面を見る。兄はどこの階層で試合するんだろうか。51〜59の間なのは間違いないが。

 

「うわぁ、流石兄だな」

「もしかしてキルアって、あのキルアなのか?」

「そうだと思う」

「ってことはあいつらがアレを覚える時期なのか」

 

 ゴンの腕が折れてないから多少は早まり、ズシと会えないかもと危惧していたが、こうなるとは……。

 

「早く行こうぜ」

 

 パッと繋がれた手を見つめる。必死に振りほどく嫌ではないが、これは良いのだろうか。いや、今更か。散々抱っことかしているし、向こうの世界でも手を繋いで出かけていたのだから。

 

 多少戸惑ったが、何も言わずにディーノについていくと僅かに握る力がこもった。手は痛くなかったが、なぜか胸が痛くなった。

 

 急いで会場に向かったが、まだ始まっていない。

 

「やっぱ出場者より観客の方が先に発表されるんだな」

「賭けのための時間もだけど、チケット代も釣り上げたいんだろ。君の試合は他の人と比べて高かったし」

 

 100階以降から個室があるのは留まらせようという意味もあるのだろう。100階までにファンを獲得させて、本人に確実に会うには試合観戦が一番手っ取り早い。売れる見込みがある試合のチケットは高くすればいい。

 

「桂も高くなりそうだな……」

 

 200階以下は道具の持ち込みが禁止なのもあって、『纒』のみで戦ったディーノは結構ギリギリだったからな。イケメンだし、兄は見せる試合をしそうだ。

 

 いやまぁ、身体能力の差を埋めるためにディーノはテクニックで乗り切ったのだから、見せる試合は出来ていた。が、軟弱なイメージもついたらしく、男性ファンは少なかったのだ。

 

 パフォーマンスなのか、アイドルのように兄は手を振りながら入って来た。キルアがイラっとしているな。

 

「サーークラーー!!」

 

 兄に見つかってしまったので、仕方なく手を振る。ついでにキルアがこっちを向いたので、彼にも手を振る。すると、恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「ツンデレ乙」

「ん?」

「なんでもない」

 

 思わず本音が出てしまっただけである。兄もディーノと一緒で『纒』しか使わないが、キルアは勝てないだろうな。

 

 試合が始まったと同時に、兄が挑発したためキルアが動いた。相手が相手なので、キルアも初っ端から『肢曲』を使った。

 

「性格わりぃぜ……」

 

 ディーノに激しく同意する。見よう見まねで『肢曲』を兄も使いこなし、驚いたキルアに一撃をいれたのだ。そのまま倒せたはずなのに、クリティカルポイントだけでおさえた。

 

 キルアもかなり動揺したのか、兄から距離をとった。

 

「君は強い。それは間違いないよ。でもね、僕に勝つには足らないものがいくつもある。最低でももう一段階あがらなければ、話にならないよ」

「もう一段階……?」

「サクラからヒントは貰っているはずだよ」

 

 兄がそう言った途端、気付いた時にはキルアは場外へ吹っ飛ばされていた。私と一緒で見えなかった人が多かったようで、スロー再生された。どうやら鳩尾を殴っていたようだ。

 

「5発もくらえば、キルアでも起き上がれねぇだろうな」

 

 ポツリと呟いたディーノの声に驚いた。スロー再生でもまだ見えてなかったらしい。

 

 ディーノの予想通り、キルアは気絶しなかったものの起き上がれなかったため、兄の勝利が確定したのだった。

 

「行くか」

「ん」

 

 ディーノの声に立ち上がり、兄との待ち合わせ場所へ向かう。ゴンとキルアは兄が誘っているだろうな。

 

 

 

 

 もぐもぐと必死に口を動かす。

 

「サクラの頬がハムスターみたいだよ!」

「食いすぎるなよ? あいつらと違ってお前はそんなに食べれねーんだぜ?」

 

 わかってると何度か頷く。ただ目の前でガッツリ食べられると、私もと思ってしまうのだ。

 

「あー、美味しかった! でも本当にいいの?」

「おい、ゴン。本人がいいって言ってるんだぜ」

「キルアは負けちゃってファイトマネーないもんね」

 

 掴み合いのケンカが始まったが、じゃれあってるレベルなのでスルーする。

 

「まっお金の心配はすんな。オレは200階まで行った後で余裕がある」

「そうなの!?」

「桂と交代してもう出てねーけどな」

「僕よりディーノの試合の方が君達には勉強になったかもしれないね」

 

 確かに。愛用の武器を使えないし、相手の戦術や体格を見て攻め方を全てかえたからな。……ちょっとカッコよかったと思ったのはヒミツだ。

 

「オレ達は修行が出来て、お金も貰えるからここに来たんだ。サクラ達は?」

「2人が天空闘技場に出場したのはお金と名声が目的だな。欲しいものがある」

「欲しいもの?」

「グリードアイランドっていうゲーム。定価は58億ジェニー」

「「58億!?」」

 

 ゴンとキルアが立ち上がったので、席に座るように促す。

 

「正攻法で得るつもりはないけど、お金はあった方がいろいろと便利だから」

「ふーん。盗むの?」

「まさか。持っている人に交渉するだけ」

「それで名声?」

 

 大正解という意味で頷く。

 

「まぁ私達のことはいいだろ。君達が兄の言葉に大人しくついてきたのは手がかりがほしいからだろ?」

「えへへ。実はそうなんだ」

 

 チラッと兄とディーノに確認する。任せるという視線を送るので口を開いた。

 

「明日は社会見学にするか」

 

 ?マークを浮かべる2人だが、詳しくは明日といって彼らの疑問を聞き流した。

 

 

 

 次の日、同じ宿をとっていたので食堂で待ち合わせしていた。私達がおりるとすぐに駆け寄ってきたので、待たせていたようだ。約束の時間前なので謝らないが。

 

「どこ行くんだよ。気になって昨日眠れなかったんだぜ」

「天空闘技場」

「はぁ?」

「ただし、200階クラス」

 

 いつもなら私を守るように兄とディーノは隣を歩くが、今日はゴンとキルアも居るので後ろに待機する形で歩いていた。

 

 今日の試合予定を見て、どれにしようかと考える。出来れば念を使ってるとわかりやすく、私が見ても大丈夫そうな試合がいいのだが。

 

「この試合がいいと思うよ」

 

 兄が指した試合を見て、問題ないと判断した私は頷いた。チケット代はディーノが出してくれたので、5人揃って席に座る。ゴンは熱気の凄さに目を輝かせていた。

 

「あまり気を抜くなよ。試合内容によるけど、観客にも被害が行くことがあるから」

「そうなの?」

「酷ければ、問題になるからね。故意じゃない限りあっても流れ弾ぐらいだよ」

 

 そういえば、クロロはヒソカの死を確認しなかった気がする。逃げたから仲間に頼んだのか。

 

 そんなことを考えていると試合が始まる。片方はここ最近人気のある選手だ。もう片方は強化系!という感じの男性選手。

 

「見るのは女の人の方」

 

 返事がないなと思っているともう2人は試合に魅入ってた。うーん、思った以上に凄い集中力だ。

 

 私が今何を言っても聞こえないと思うので、私も試合に視線を向ける。

 

 彼女の試合は綺麗の一言だ。ふわふわの彼女の周囲に水が漂う。時には龍になったり、水の上を滑って高速移動したり、雨のように細かく空から降らせたり。最後のは棘が刺さったみたいになるから、かなり痛そうだけど。

 

 今回は相手が強化系ということで、龍が身体に巻きついて動きを鈍らせて、抵抗が弱った瞬間に投げ飛ばしたりしていた。もう少し操れる水の量が多ければ、楽に終われると思うんだけどな。でもいつも同じペットボトルから水を出して使っているから厳しいのだろう。

 

「決まったな」

「ディーノならどうする?」

「オレとは相性悪いしなー。付かず離れずの距離で仕掛けるか、真っ向から破るか、維持出来ないほどのダメージを与えるしかねーな」

 

 脳筋という言葉が浮かんだが、強化系なのだから仕方がない。下手なことを覚えるより、確実だ。

 

「……オレ達に見せた理由は?」

「君の頭の良さなら気付いているだろ」

 

 わざわざ私が200階クラスの試合と言った意味をキルアが理解していないはずがない。

 

「200階クラスは、アニキと一緒の強さ……」

「え? それって、サクラ達が使えるのと一緒ってこと?」

「ああ。200階クラスは全員使える」

「それを知らない者があがってきて死ぬことは良くあるのだよ。ここでは200階の洗礼と呼ばれているけどね」

 

 原作でヒソカが彼らを止めたのは、ここで死んだり使いものにならなくなるのは惜しいと思ったからだろう。兄とディーノだってそう思っているはずだ。だから1日潰すことになっても2人は反対しなかった。

 

「で、君達は今から選択出来る。今すぐ去る、200階以上には挑戦しない、これを覚える」

 

無謀にも今のまま200階クラスに挑戦するというのもあったけど、選択肢に入れるのをやめた。

 

「決まってるよな、ゴン」

「うん。オレ達は覚えるよ!」

 

 素直でよろしい。

 

「では覚えるための方法。自力で指導者を探す、私達と今から一緒に指導者のところへ向かう」

「あんた達が教えるってのは?」

「前に言ったけど、それはやめとけ。私達は自己流だ。というか、アドバイスがほしいぐらい」

 

 どうする?とゴンとキルアが相談し始めたので、念のために口を開く。

 

「自力で探せと前に言った通り、私の気持ちとしてはどっちでもいいと思ってる。ただもし君達が自力で探してる間に200階クラスに挑戦することになったら、全力で私達が阻止するから」

 

 ハンター試験で私がでしゃばった意味がなくなるからな。そんなことをさせるために助けたわけじゃない。

 

「んー、オレ達が行かなくても向かうの?」

 

 コクリと頷く。いつかは行くつもりだったから。ゴンとキルアは顔を見合わせた後、揃って行くと返事をしたのだった。




天空闘技場のシステムが謎すぎる。
チケット代も釣り上げないと厳しい気がする。
ヒソカ対カストロの試合が高くてキルアが叫んでたから、ありえなくはないと思ってます。

オリキャラについて。
操作系の方がわかりやすいと思ったぐらいで、適当に考えました。
王道っぽいのに水を操る人って居ないよね?
どこにもあるからこそ、思入れもなく難しいのかも。


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サクラはチート。……弱いけど。


 5人揃ってウイングさんがいる家に突撃する。いやまぁ突撃と言ってもチャイムを鳴らすけど。

 

『はい?』

「すみません。ウイングさん、いらっしゃいますか?」

『少々お待ちください。師範ー』

 

 私がちょっとまともな言葉を使ったら、キルアがギョッとしたのが視界の端に見えた。失礼だな、私も最初ぐらいはしっぽをふるぞ。

 

 しばらくすると、扉が開いた。そして兄、ディーノ、私と視線を向けた後にゴンとキルアを見た。

 

「……ここではなんです、どうぞ入ってください」

 

 そう言って貰えたので、遠慮なく入る。キルアが警戒していたが、ディーノがフォローしてあげたので大丈夫だろう。

 

「用件を聞きましょうか」

 

 ウイングさんの言葉を聞いて、ゴンとキルアに視線を向ける。私が言っても意味ないし。

 

「ウイング?さん、オレはゴン! オレ達天空闘技場で200階クラスの人達と戦えるようになりたいんだ! ね、キルア」

「ああ。オレ達に足りてねーから知りたいんだ」

「君達の話はわかりました。あなた達は? 必要ありませんよね?」

 

 そう言って私達に視線を向けたので、口を開く。

 

「一度お礼を言おうと思って。あなたのおかげで助かったから」

「……どこかでお会いしましたか?」

「一方的に知ってるだけ。でも恩人」

 

 私が頭をさげると、兄とディーノも頭をさげた気配がした。ウイングさんに「気持ちはわかりました。頭をあげてください」と言われたので、頭をあげる。すると、困惑してそうな顔が見えた。

 

「説明したいけど、彼らをどうするかによっては話せない」

「……わかりました。ゴン君とキルア君でしたね。私から教わりたいということですね。では、今日からあなた達は私の弟子にします。いいですか?」

 

 2人が返事したのはいいが、「押忍!」じゃなかったので違和感がある。

 

「ゴンとキルアには悪いけど、すっ飛ばすぞ。この場所もあなたが心源流師範代なのも私の念能力で知った」

「「念能力?」」

 

 チラッと視線を向けるとウイングさんが基礎から説明し始めた。が、ちょっと止めるために手をあげる。

 

「ズシを呼んでもいいぞ。復習になるかもしれないが、勉強になるだろ? それに彼ならいい」

「……そうですか。ズシ!」

 

 ウイングさんに呼ばれてきたら5人も居て、マジックボードに念について書いているのだから、さぞ驚いただろう。それでもすぐに「押忍」と挨拶するのだから偉い。ちなみに私はみんなと違って、軽く頭をさげただけだ。

 

 ズシも話を聞きなさいといい、全員で基礎の話を聞く。何度かディーノが感心していたので、私の拙い説明だとやはりわかりにくかったらしい。申し訳ない。

 

「サクラの念能力ってどれのことを言ってるの?」

「それは『発』にあたります。そうですよね?」

「ん」

 

 再び発?と首をかしげるので、ウイングさんがホワイトボードを使って説明する。ゴンとキルアは詰め込み勉強である。いやまぁ遠ざけても良かったが、聞いてもらった方がいいと思う。もちろんこの流れになる可能性も考えて、昨日のうちに兄とディーノも了解済みである。

 

「ふーん。サクラはどの系統に当たんの?」

「対策を取られるから君達はわかっても迂闊に話すなよ。私は操作系よりの特質系、もしくは特質系よりの操作系。多分後者」

「どれかわからないの?」

「いえ、水見式という調べる方法があります。やってみますか?」

 

 それは知っていると答える。

 

「水見式ではどっちも反応したんだ」

「……初めて聞きました。そのようなことがあるのですね……」

 

 ズシはウイングさんが知らないことがあると驚き、ゴンはついていけなくなってるのか、キルアに後で説明してやるよと言われていた。

 

「サクラは念とは別に能力を持っていたんだ」

「念の概念を知らなかったのでは? 稀にですが、無意識に使っている人もいます」

「それはねぇ。オレもそん時は覚えてなかったけどよ、念を覚える前と後では明らかに違うと感じ取れた」

 

 私が神の子と会っている時も絶状態だったらしいからな。ディーノはそれはもう驚いたらしい。私の存在感が薄まったから。

 

「まぁ発が強制的に決まったから、ウイングさんの考えも強ち間違いでもない。ただ素質があったところにプラスされたからややこしいんだ」

「サクラは念でいうと操作系よりのものと特質系よりのものの能力を持っていたからねぇ」

「はあ!? 2つも持ってたのかよ!?」

「……正確に話すなら3つだ」

 

 ディーノの言葉にウイングさんとキルアが絶句した。いや、真実の目はそんな大したことじゃないぞ。……多分。

 

「えっと、サクラの念能力の1つは二択を外さないのが凄くなったってことだよね?」

「それを入れるなら4つだな……。あれは念で強化はされてねーんだよ……」

「バッッカじゃねーの!? オレ達に話していいのかよ!?」

 

 キルアに怒られたので、大げさに肩をすくめる。話した方がスムーズに進むのだから仕方がない。

 

「まぁ念能力になって、私もこれはヤバイと危機感を覚えたんだ。その時にウイングさんに助けてもらった」

「……私は何をしたのでしょうか?」

「私をかくまって、神字を教えてくれた。という未来があったんだ」

 

 私は片方の手袋を少しだけ裏返す。普通なら神字は威力を高めるために使うが、ウイングさんは念を抑えるために神字を教えてくれたのだ。

 

 正直、そんな方法があることに私は驚いた。が、考えてみれば、念をかけたものを除念出来るなら、神字で高められるなら弱めることも可能だろ、と。

 

「……未来? 予知か!」

「ああ。サクラは未来がみえるんだ。いろいろ条件はあるけどな」

 

 ウイングさんのオーラがかなり揺れてるな。いやまぁ驚くしかないだろう。

 

「ウイングさんは見ればわかると思うけど、迂闊に私は人に触れないんだ。これも厄介な能力で、無差別で発動するから手袋をはめれば外で過ごせるようにしてくれた。だから恩人」

 

 事の大きさにキルアはついに頭を抱えた。ドンマイ。

 

「サクラはどうしてすぐにウイングさんへ会いに行かなかったの?」

「いきなり恩人ですと言われても混乱すると思ったから。それに君達を案内して念能力で見つけたと言った方が、話を聞こうと思うだろ?」

「あ。そっか」

「ってことは、オレ達が行くと答えるってわかってたのかよ!?」

「それは二択」

 

 そっちもあったとキルアは頭が痛そうな反応をした。

 

「予知は念能力の中でもレアな分類になるから、バレれば誘拐される。ということで、黙ってて」

「あったりめーだ! 話せるかよ!」

 

 プンスカと怒っているキルアをゴンが宥めていた。まぁ彼らは大丈夫なのでウイングさんに視線を向ける。

 

「……ズシ、話してはいけませんよ。理由は十分わかってますね?」

「お、押忍!」

 

 混乱しているのにやはり指導者である。

 

「じゃ、もう一つの本題に入るか」

「……終わりではなかったのですね」

「し、師範! 自分も頑張るっス!」

 

 別に追い詰めたいわけじゃないんだが……。

 

「キルア」

「んだよ、今度は」

「実家からの呪縛を解きたいか?」

 

 キルアが完全に固まった。呪縛ってどういうこと?とゴンが聞くので、念の説明に使われたホワイトボードを指す。

 

「まさか……」

「ウイングさん、何かわかったの!?」

「え、ええ。内容はさまざまですが、操作系や具現化系の念能力で相手に影響を与えるものがあるのです。しかし……」

 

 キルアを見た後、ウイングさんは私の顔を見た。ありえないと言いたいのだろう。レアな能力ばかり持っているからな。私もそう思う。

 

「キルアなら今ここで解いてあげてもいいと思ってる。でも君が解きたくないならしない」

「解きたいに決まってるだろ!?」

「キルア、落ち着いて。サクラは意味もなくこんな言い方しないよ」

 

 兄とディーノから感心したような声があがった。慣れないと私の捻くれた言い回しだと見逃すからだろう。

 

「理由は2つ。念を覚えてないキルアにやったからなのか、手荒だが自力でも解ける。後、解いたら君は悩む」

「悩む?」

「ん。私が一番危惧しているのは、君が焦って失敗すること。君達も知ってると思うけど、私は弱い。念能力も1つも戦闘に向いているものがない。念をまだ覚えてない君達でもこれがどれだけマヌケなことかわかるだろ?」

 

 兄とディーノが側にいる理由は理解してもらえたと思う。

 

「……なんで、ここまで……」

 

 キルアの言葉に首を傾げる。すると、兄が私の肩に手を置いた。不思議に思ってるとディーノが前に出て、キルアと視線を合わせた。

 

「お前は嫌がるかもしんねーけど、まだガキなんだ。オレ達に甘えればいいんだ」

 

 そう言ってディーノはキルアの頭をガシガシと撫でていた。ここは私よりディーノに任せろという意味で兄は止めたようだ。

 

「サクラ、ありがとう!」

 

 ゴンにお礼を言われたので偉そうに頷く。悪い気はしない。ただ……まだ何もしてないんだが。

 

「話はよくわかりました。キルア君、いかがなさいますか? 私としては、解いてもらうべきだと思います。彼女の危惧はわかりますが、もしそうなったとしても、それは指導者である私の責任です」

 

 本題に戻しつつ、キルアと私へのフォローを入れるとは……。ウイングさんは理想の指導者かもしれない。いや、リボーンも好きだけどな。

 

「……頼む」

「ん。ちょっと私もキルアも無防備になると思うから驚かないように」

 

 周りに許可をもらえたので、キルア座ってもらう。私も座ってから両手の手袋をとる。すると、ポンっと手のひらサイズの生物が現れた。

 

「は? あんただよな?」

「うるさい」

 

 私が一番変だと思ってるのだ、とキルアに八つ当たりする。何が嬉しくて自身を形どったものを具現化しなくちゃいけないんだ。手袋をつけるか、『神の代弁者』を発動している間以外はずっと私の手の周りん飛んでるんだぞ。恥ずかしくて仕方がない。

 

 乱された心を何度か深呼吸をして落ち着かせてからキルアに目を向ける。

 

「触るぞ」

 

 悩んだ末、キルアの手首を掴む。すると、ミニチュアの私がキルアの胸の中に吸い込まれていく。

 

 その瞬間から切り替わる。目の前でふわふわと浮いているのがキルアの魂だろう。

 

 ゆっくりと慎重に触れながら気持ちを込める。魂が本来の形に戻るように……。

 

 しばらくするとキルアが目の前に居た。どうやら戻ってきたらしい。その証拠にミニチュアの私がキルアの身体から抜け出してきた。

 

 私が手を離すとキルアも普通に戻ったらしい。ボロ泣きしているが。そのためキルアは慌てて袖で拭い、視線もそらされた。

 

「スッキリしたか?」

「……ああ。すっげー、スッキリした」

 

 それは良かった呟き、手袋をはめ直す。ミニチュアの私は5日というプラカードを首から下げていたので、しばらく使えないようだ。兄の場合は0日でディーノの時は20日だったことから悪くはないのだろう。

 

「じゃ、後のことは頼んだ」

 

 キルアの焦る声を聞きながら、私はおやすみタイムへ突入した。

 

 

 

 

 

 

「おい!? サクラ!?」

 

 サクラがいきなり気を失って倒れ込むので、キルアは手を伸ばす。しかしその前にディーノがサクラを支えた。

 

「大丈夫だ。ただ疲れて眠っただけだぜ」

「……んだよ、人騒がせな奴」

 

 そう言いつつも、ホッとキルアは息を吐き、素直じゃないんだからとゴンが小言をもらっていた。ディーノは2人のやりとりに笑いながら、慣れた手つきでサクラを抱きあげる。

 

「……疲れただけ、ですか」

 

 ポツリと呟いたウイングの発言に、キルアとゴンは視線を向ける。

 

「いえ、これ以上は何も伺いません。門下生を問い詰めるようなことはしたくありませんから」

「道理でサクラが懐くわけだぜ」

「本当だねぇ。良い人にサクラは巡り会えたよ」

 

 2人はまたしても頭を下げる。今度は戸惑うことなくウイングはその感謝を受け取った。

 

「じゃオレ達は帰るぜ。キルア、サクラがどういう意味で言ったかオレにはわからねーけどよ。焦んなよ」

「……あんた達に勝てるぐらいになるまでやらねーよ」

「目標が出来たようだけど、友情も忘れてはいけないよ。サクラが解こうと思ったのは、友達がほしいと君が願ったからだからね」

「……んなの、わかってる」

 

 サクラのおかげで頭がスッキリし、友達を見捨てるようなことはしないと断言できるようになったのだから。

 

 キルアの気持ちが伝わったのか、桂は満足したように頷き、サクラと一緒に2人は帰って行った。

 

 ウイングは見送った後、2人に向き直る。

 

「ゴン君、キルア君、良い友人を持ちましたね」

「うん!」

「……まぁな」

 

 未だにテレてぶっきらぼうのキルアに向かって、ウイングは視線を合わせる。

 

「君は本当に恵まれました。除念が出来る人はそう簡単に見つかるものじゃありません。私も今日初めて会いました。この意味はわかりますか?」

「……うん」

「では、私からはもう何も言いません。念について、詳しく教えましょう」

 

 師範代、人生何が起きるかわかりませんねとウイングは心の中で言いながら、引き受けた門下生2人と向き合った。そして、彼らも規格外だと気付くまで時間はかからなかった。




増幅出来るなら、おさえる神字もあるはず。
御都合主義じゃないと作者は思ってる。異論は認める。


『神の手』(操作系)
サクラの念能力。
元々もってた魂を元に戻す力が強化された結果、ぶっ飛んだ念能力になった。マジでヤバイ。
念能力になる前から常時発動型のせいで、触れただけで発動してしまう。使えない間か、『神の代弁者』を発動している時間以外は気をつけないといけない。
元々兄を治すためという基準なため、兄と性質が遠ければ遠いほど使えなくなる日数が増える。
ウイングさんは『発』にならないようにオーラをおさえる神字をサクラに教えた。
片手でも発動するが、抑えてるのでオーラ消費の問題で疲れがたまる。また両手を別々の人物に触ると先に触った方で発動する。全くの同時の場合はサクラ自身の魂に触れる。
ミニチュアサクラは手のひらサイズ。服装はなぜか並中の制服。具現化しているはずなのに、相手の身体の中に消えるという不思議な生物。魂の世界へ行った…? 詳しいことはサクラもわかっていない。もちろん桂さんは可愛すぎて悶えている。

この力がぶっ飛んだ理由は、かけられた念能力をどうにかするのではなく、魂に触れて正しい状態に戻すこと。簡単に説明すると、なかったことにする力。相手の想い(念能力)など知ったことではない。
サクラが一番恐れたのは、悪感情を抱いたまま触れてしまえばどこまで戻るかわからないから。実際、魂だけの状態まで戻りキレイにしてしまう。マジでヤバイ。
軽い気持ちで触って使えない期間を作ることが出来ず、ミニチュアサクラが具現化してしまっているせいでバレバレなのも問題。また腹が立つことに念の応用技が使えないという制約だった。

ちなみに、ディーノさんは人と触れるのが怖くなり拒絶しかけていたサクラの手を自らの意思で握った。魂に触れるまで戻ることが出来ないため、サクラはディーノさんのお前なら大丈夫という言葉を信じて触れた。起きてディーノさんが変わらないことを確認した後、わんわん泣いて大変だった。


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 意外と無害かもと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

 

「あんたの趣味ってこんな感じの子だったんだ」

「やきもち?」

「死ね。あたしは帰るよ」

「残念♥」

「行かないでくれ! 変態と2人っきりは嫌だ!!」

 

 兄の試合を見た後、天空闘技場のトイレの個室を出たところでマチに拉致されたが、今はフミ子も居ないのだ。助けを求めれるのは彼女しかいない。……まぁ今日死ぬ夢を見なかったから、生きて帰れるとは思うが、変態と2人っきりは嫌だ。

 

 変態に捕捉された私を不憫と思ったのか、マチは溜息を吐いて壁にもたれてくれた。いやまぁヒソカがわざわざマチに依頼して頼んだ理由が気になったのもあると思うけど。

 

「どう? せっかくだし一緒に食事でも♥」

「「…………」」

「ああ♥」

 

 もうやだ、この人。

 

 マチと一緒に絶対零度の視線を送ったのに。喜ぶのは兄ぐらいだぞ! ……いや、他にも何人か居たな。どこの世界も変態と変人多すぎ。

 

「……何が目的だ? 兄とディーノか?」

「怒った彼らと戦いたいのもあるけど、君はボクの見立て通りの強さじゃないから♦︎」

「強ければ、捕まってないだろ。私は超弱いぞ」

 

 偉そうに威張る。

 

「知ってる♠︎」

 

 肯定されると、ちょっとイラっとした。

 

「でもボクが今君を殺そうと思っても……」

 

 嫌な予感がし一歩横に動けば、先程まで居た顔の位置にヒソカの腕があった。

 

「やっぱり死なない♥」

 

 すぐにヒソカが離れてくれたが、冷や汗がダラダラである。

 

「ボクの見立てでは今ので死ぬはずなのに♣︎」

 

 ミスった。マチを帰らせば良かったな……。ちょっと興味深そうに私を見ている。

 

 どうしようかと考えていると、ズンっとお腹に響くようなオーラを感じた。私達3人はすぐさまドアへと視線を向ける。見えないのにゆっくりと近づいているのがわかるから。私に至っては優雅に歩いている兄の姿まで想像出来た。

 

「お迎えがきたようだね♠︎ いいオーラだ♥」

「あたしは関係ないのに……」

 

 ヒソカの言葉で巻き込まれたと察したマチは、文句をいいながらも構えた。

 

 コン、コン、コン。

 

 ノックとは珍しく気がきくじゃないか。いやまぁ中の状況がはっきりとわからないから私の動きに合わせるしかないのだろうが。2人の意識がドアの向こう側にいる兄にしかないことを確認し、ゆっくりと『絶』になる。

 

 私が完全にオーラを閉じると『神の代弁者』が発動する。ハッとしたようにヒソカとマチが私に視線を向けようとしたが残念、もう遅い。

 

 ドアが吹っ飛ぶ。

 

 再び視線が兄の方へ向く中でも、マチが私に針を投げてきたが、その未来は見えていたのでしゃがむように避ける。

 

 そして次に起こる未来がわかっていた私は、窓が割れても破片に当たることはない。

 

 まるでタイミングを合わせたように次々に起こる中、窓とドアの両方からヒソカとマチに向かって2匹のパンダが突っ込んでいった。私はそれにかまわず、窓の外へと飛び出す。

 

 スクーデリアに乗って空中で待ち構えていたディーノの腕におさまり、横向きのまま乗せてもらう。

 

 僅か数秒の出来事。

 

 普通ならばこの2人のスキをついて、あっさりと行くはずがない。しかし兄の空気にのまれたのだ。強さではない、好かれやすく注目を集めやすい体質に。また私の能力を知らなかったことが大きい。今の私の状態なら近い未来がみえるからな。

 

「惚れ惚れする連携だったよ♦︎」

「まったくだね。あんたに付き合うんじゃなかったよ」

 

 流石である。ヒソカとマチはフミ子とエリザベスを拘束していた。一瞬で死ぬ気の炎に当たらない方がいいと判断したらしい。

 

 これから起こる未来を知り、ディーノに視線を送ろうとしたがやめた。説得される未来も見えたから。

 

「警告だ。サクラに手を出すならオレ達がお前らを潰す」

「いいね♠︎」

「そうか。なら、まずオールバックに逆さの十字架」

 

 今まで仕方なく付き合っていたマチが本気で私達を見た。

 

「オレ達の大事なものを奪うつもりなら、それぐれーの覚悟は出来てんのかって話だ。言ったぜ、これは警告だ。おめーらに時間をくうのも勿体ねーし、バカじゃねーことを願うぜ」

 

 ディーノが言い終わると、エリザベスが消えてすぐにフミ子も消えた。……スクーデリアが移動し始めたし、兄が逃げる時間稼ぎでもあったのか。

 

「私のワガママに付き合ってくれて、ありがと」

 

 去る直前にマチに向かってバイバイと手を振ると、今のところは手を出す気はないという風に息を吐く未来が見えた。ヒソカは……大丈夫だろう。多分本当に私のことが気になっただけで今回は兄達と戦う気はなかった。もしその気だったら最初からバンジーガムで捕まえていただろうから。そのため次の問題であるディーノへと私は視線を向ける。

 

「君は悪くない」

 

 グッとディーノは歯を食いしばった。言わせない未来を選んだが、正解だったかはわからない。だから……。

 

「……すまん、遅くなった」

「ん」

 

 この謝罪だけは受け取った。もうちょっと早く来て欲しかったのは本当なので。

 

 もう追いかけて来ないとわかった私は『絶』から『纒』に戻し、『神の代弁者』を解除する。やはりちょっと頭が痛い。数手先の未来も見ているのでしんどいのだ。まぁ頑張って起きるけど。

 

「オレだけじゃ不安で、休めねーよな……」

 

 ……ディーノは悪くないと伝えたんだが。

 

「そんなわけないだろ。せっかくだし景色が見ようと思っただけ」

 

 天空闘技場にもう来ることはないと思うし。私の言葉が本音だとわかったディーノは「そうか」と小さな声で呟いた。……まだ気にしているな。

 

「ケーキ食べ放題。ホテルのケーキ食べ放題で手を打ってもいい」

「……もっといいもん奢ってやる」

 

 満足そうに私が笑うと、ディーノもつられて表情を緩めた。黒曜編の後と同じ言葉でかえしたことから、彼も思い出しながら答えたのだろう。

 

「頼んだぞ、ディーノ」

「ああ。任せろ」

 

 いつものディーノに戻ったので、私は今度こそ景色に目を向ける。

 

 離れて行く天空闘技場を見ながら、ヒソカのせいでネームバリューをGETしよう作戦が失敗したなと思った。兄は150階にまでしか行ってないからな。せめてディーノを200階に到達させておくべきだったか。

 

 この未来が見えていたなら防ぎようがあったのにと思うも、景色を見ていたらどうでも良くなっていく。夜だからか、街並みの照明で綺麗だ。

 

「そういや、ゴンとキルア挨拶してない」

 

 ヒソカの性格なら、あの2人をマチに売ることはないだろうが、黙って去れば心配する気がする。

 

「ウイングに伝言を残してきた」

「それが正解」

 

 本人に伝えれば、オレ達も一緒に!みたいなパターンになるし、断ったとしてもついてくるだろう。伝言を聞いて怒るかもしれないが、実力不足なのだからどうしようもない。

 

「これからどこ行くんだ?」

「桂はカキン国に行くっつてたぜ」

「カキン国?」

 

 まったく記憶にない。どこだったか。出来れば近くがいいな。このまま移動するはしんどいから。

 

「結構遠いみてーだから、飛行船をチャーターするって言ってたな」

「ん、ならいい」

「まっ、まずは桂と合流しようぜ」

 

 異議なしというように私は何度か頷けば、ディーノに優しく頭を撫でられた。

 

 ジッと彼の顔を見て、話すなら兄が居ない今しかないと思った。

 

「ん? どうした?」

「……ディーノ。君の覚悟は嬉しかった。でも、ごめん。私は返せない」

 

 嬉しいと伝えても断ったのだから、結局自己満足で自分勝手なのだろう。

 

 一緒に帰る覚悟は出来た。でもどうしても彼の気持ちに応えることは出来ない。無事に戻ってからで返事をすれば良かったかもしれないが、彼の覚悟を聞いてやはりそれは出来なかったのだ。

 

「泣かなくていいんだぜ?」

 

 そう言われて気付く。自身が泣いていることに。

 

「ごめっ」

 

 いつものように拭ってくれた彼の優しさに涙が溢れ出る。彼に甘えて……甘えるだけで、私は何も返せない。

 

「私は、君を、選べない」

「桂を選ぶからか?」

 

 核心をつかれ、私はただ頷くしか出来なかった。すると、ディーノに抱きしめられた。この腕の中も、兄と居る時のように安心出来る場所だった。

 

「ディ、ノ、ごめっ」

「お前の気持ちはわかったから、泣く必要はないんだ」

 

 ディーノはいつも私のためになるように動く。今だって傷ついているのは彼のはずなのに、私を落ち着かせようと背を叩く。

 

「なぁ、サクラ」

 

 返事をしようと思ったが、鼻をすする音が返事の代わりになってしまう。

 

「オレは2番を狙ってるんだぜ? だから泣く必要はないんだ」

 

 耳に入ってきた言葉を飲み込めなくて、思わず顔をあげて少し離れる。ディーノはまた私の涙を拭った。

 

「お? 止まったな」

 

 いや、それは多分驚きすぎたからだと思う。

 

「んんっ。ディーノ、さっきなんて言った?」

「2番を狙ってるってとこか?」

 

 咳払いした後にもう一度確認してみたが、どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

「私が兄を第一に考えるのはいいのか?」

「ああ、いいぜ」

「普通嫌じゃないのか?」

「そうか?」

 

 私の常識がおかしいのだろうか。ディーノが首を傾げながら返事をしたので、釣られて私も首を傾げてしまった。

 

「可愛いな」

 

 あれれー? おかしいぞー? ……思わず、高校生が小学生になってしまった。

 

「……私は兄を選ぶんだぞ?」

「おう」

 

 ニカっとディーノは笑った。あまりにも自然過ぎて納得してしまいそうになった。ブンブンと首を振って、突っかかる。

 

「いや、やっぱりダメだろ」

「なんでだ?」

「君に失礼だ」

「オレがいいって言ってるんだぜ?」

 

 うぐっ、確かに。

 

「わ、私は兄と君なら兄を選び続けるぞ」

「ああ」

「ずっとだぞ! それでもいいのか!?」

「それでいい」

 

 なぜ言い切れるかわからないでいると、彼は何気なく言った。本当に彼は自然に言ったのだ。

 

「オレが好きになったサクラは、桂のことが大好きなサクラだかんなー」

「…………君が変人なのはよくわかった」

 

 プイッとディーノから視線を外す。変人という言葉にショックを受けている気配がしたが、私は振り向かなかった。でも声はかけた。

 

「保留……」

「ん?」

「返事、保留、変更」

「ああ! もちろんいいぜ!」

 

 恋がよくわからないけど、今度はちゃんと彼と向き合おうと思えた。




『神の代弁者』裏モード。
サクラが『絶』になると『神の代弁者』が強制発動し数秒先の未来が見える。
夢の世界に半分入りかけ、白昼夢のように未来がみえるようになるが、現実のサクラは絶状態なので防御力がゼロ。
また半分しか入らないため、現実の世界と夢の世界の両方を見ることになり情報過多で脳に負担も。やりすぎると廃人コース。
ちなみにこの時に現れる天使の眼は開いている。


補足。
桂さんはサクラがギリギリ見える場所にディーノさんを誘導してから別行動しました。
普段はそこまで丁寧に面倒をみないのですが、流石に今回はサクラの危険を減らすためなのでディーノさんの面倒をみています。


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更新再開。


 カキン国に向かっている飛行船では兄にべったり甘えていた。ディーノと2人っきりになるのはちょっと恥ずかしかったのだ。困った子だね……と兄に言われたが、嬉しそうにしていたのは隠しきれてなかったので聞き流した。それにディーノも笑っていたから問題なかったと思う。

 

 が、それも今日まで。兄はカキン国の首都に用があるらしく、別行動なのだ。

 

「どうしてもダメなのか?」

「サクラが居ると動きにくいからね」

 

 こうもはっきり言われてしまえば、諦めるしかない。普段から私のワガママを叶えてくれるのだから、本当にダメなのだろう。そしてそれほど危険という意味でもある。何も教えてくれないし。

 

「にいちゃ、行っちゃダメ……」

「どうしても調べたいことがあるのだよ。わかってくれたまえ」

 

 未練がましく兄の服を握っていると、ディーノに手を添えられた。これ以上、困らせるなと言いたいのだろう。

 

「絶対、戻ってくるんだぞ……?」

「もちろんだとも! 3人揃って一緒に帰ると約束しただろう?」

「ん!」

 

 そっと手を離す。ディーノが「サクラのことは任せろ」と言ったのを聞いた兄は満足そうに笑った後、私に手を振りながら去っていった。

 

「オレ達も行くぜ?」

「ん……」

 

 スクーデリアに乗ったディーノが手を差し出したが、しょんぼりしているので、横乗りがいいと訴える。ディーノは仕方ねーなと言いながら乗せてくれた。

 

「緊急時なら別だけどよ、オレも男なんだぜ?」

 

 寂しさを紛らわせるために、すぐにぎゅうぎゅうとディーノに抱きつくと呆れたように言われたので反論する。

 

「君だって私を抱きしめることがあるだろ」

「あるけどよ……。惚れた女にするのと、されるのでは違うつーか、我慢の度合いが……」

 

 よくわからないがブツブツ言い始めたので、ツッコミする。

 

「なら、フミ子を出せ」

「……行くか」

 

 おい、やっぱりわざとなのか。と心の中でツッコミしながらも、ディーノから離れなかったのだから、私も大概だと思う。

 

 

 しばらく野宿の日々が続いたが、ついに見つけた。というより、見つかった。

 

「サクラ、起きろ」

「んー……?」

 

 渋々起き上がると、私を隠すようにディーノが警戒体制だったので目が覚めた。

 

「大丈夫だ」

 

 ディーノの言葉にゆっくりと息を吐く。どうやら思った以上に緊張しているらしい。

 

 私でも人の気配を感じたころに、向こうから声をかけてきた。ディーノにもう大丈夫と服を引っ張ると、僅かに横にズレた。

 

「お前ら、こんなところで何してんだ?」

「人探しだった」

「だった?」

「ん。探していた人物が目の前に居るから」

 

 ちょっと言葉を選び間違えたかもと思いながら、口を開こうとした時にそれは起こった。

 

「サクラ!?」

「……ごめっ、寝る」

「このタイミングかよ……」

 

 そう言いながらも、抱きとめたディーノがポンポンと私の背を叩くので眠りに落ち、『神の代弁者』が発動したのだった。

 

 

 

 

 

 目を開く前に、ディーノが誰かと会話しているのが耳に入った。次に気付いたのは私が膝枕していて、頭を撫でられていること。

 

「起きたか?」

 

 動いたつもりはなかったが、ディーノは気付いたらしい。いやまぁ『神の代弁者』の効果が切れれば誰でもわかるか。軽く頷いた後、私はもぞもぞ動き、ディーノの腰に抱きつく。

 

「大丈夫だ」

 

 あまり良くない内容を見たと判断したディーノは私を安心させるように背を撫でていた。……油断したな。

 

「やれ」

「なっ!?」

 

 ゴンっ!となかなか良い音が聞こえた。頭を抑えてるディーノを放置し、私はさっさと離れる。だって、逃げれないようにするために抱きついただけだし。フミ子は撫でてあげよう、良くやった。もふもふ。

 

 私の変わり身を見て、目の前にいる人物は頬を引きつらせていた。私を警戒しないことから、どうやらディーノとそこそこ仲良くなっていたらしい。

 

「いきなりなんだよ……」

 

 ちっ、もう復活したのか。

 

「バカに明日指示を出すからその通りに動けと連絡しろ」

「……すまん」

 

 やっぱりディーノは兄が何をするのか知っていたのか。まったく、誰だか知らないが暗殺しに行ったらしい。兄が決めたことだし、人体収集家みたいなので止めはしないが、見つかって余計な殺生をする前に引きあげてほしいものである。

 

 そしてやっぱり私は冷たく自分勝手だな。兄が人を殺すのを見ても他人事だった。目の前で見ない限り何とも思わないようだ。

 

 切り替えるように頬を叩き、向き直る。

 

「ドタバタしてすまない。カイト……さん」

「カイトでいい」

「助かる」

 

 しかしどう話すべきか。

 

「依頼しに来たことは伝えたぜ」

「なら、話が早い」

「ディーノにも言ったが、今オレは依頼を受けている途中だ。お前達もハンターならわかるだろ? 投げ出すことは出来ないな」

 

 チラッとどうするんだ?とディーノに視線を向けられたが、想定の範囲内なので問題ない。

 

「私の依頼はカイトに優秀なハンターを紹介してほしいだけだ」

「……どうしてオレに?」

 

 カイトの疑問も当然である。会ったこともない相手に、わざわざ探しに来たのだ。怪し過ぎる。

 

「まず私達は今年ハンター試験を受かったばかりの新参者。ネテロ会長は私の情報だけで動けないだろうし、他に安心して頼める伝手が無さすぎる」

 

 いやまぁ、ヒソカやイルミに依頼してもいいが、ヒソカはディーノか兄とのバトルを迫るだろうし、出来るだけ会いたくないイルミに頼むにはお金が足らなすぎる。くそっ、ヒソカめ。

 

「そこで私が知った中で、性格がまともで、生物を狩れるハンターとの伝手を持っていると思ったから頼ることにした」

「……答えになってないな」

 

 残念ながら、はぐらかされてはくれないようだ。

 

「私の念能力」

「サクラ!」

「いいんだ、どうせ見られたんだから」

 

 ディーノもわかっていただろうに。私が兄への伝言を声に出して言ったのだから。まぁそれでも心配してくれるのは嬉しい。

 

「名前は……まぁいいか。私は予知夢が見れるんだ」

「……そうか」

「ちょっと見過ごせない内容が見えた。出来れば、カイトと同等かそれ以上の強さを持つハンターを紹介してほしい。期間は来年の3月末から」

「4月からならオレが開いているな」

「それでは遅い。場所はNGLで依頼内容は2メートルほどあるキメラアント女王蟻の討伐だ」

「……悪い」

 

 カイトが急に立ち上がったため、ディーノが警戒したから謝ったのだろう。本当に最悪の組み合わせだからなぁ。

 

「その、キメラアントってのはそんなにまずいのか?」

「ん。気に入ったものばかり食べる。それも大量に」

「生態系が崩れちま……」

 

 どうやらディーノも何を食べるのか気付いたらしい。

 

「まぁ最悪だぞ。女王蟻はそこまで強くないと思うが……まず硬い。普通の兵隊長でディーノの『硬』で死ぬかなってところ。念能力も使えるようになるし、直属護衛隊はカイト1人では無理だ」

 

 やってられないと私は首を左右に振る。

 

「王が……生まれたのは見たのか?」

「ん。ネテロ会長が相討ちにした……って言っていいのか? 負けるとわかったネテロ会長が貧者の薔薇を使って……毒を撒き散らして倒した」

 

 あまりの内容にカイトが頭を抱えたかったのか、帽子をおさえた。

 

「オレと桂……サクラの兄な。2人で女王蟻を倒すのはダメなのか?」

「私達が何を捨てても欲しいものが、ちょうどその時に得れるか得れないかの瀬戸際。一応余裕を持って行動するつもりだが、間に合わなかった時が困る」

 

 グリードアイランドの攻略のタイミングだと気付いたのか、押し黙った。脅威と感じながらも、優先しないとカイトにも伝わったようだ。沈黙が支配する。

 

 私は軽く息を吐いてから、口を開く。

 

「一応、1つは手を打った」

「そうなのか?」

「ん。君が」

 

 オレが?というようにディーノは首を傾げた。

 

「本来なら今年のハンター試験の合格者だった人が、念を覚えて仲間と一緒にNGLに調査していた。その人物は念についても情報を聞き出された挙句、エサにされたんだ。だからディーノが落としても何も言わなかった」

「……話せないのはわかるけどよ。オレが落としちまった後なら言えただろ?」

「だから今言った」

 

 全く反省していない私を見て、ディーノは大きな溜息を吐いた。

 

「まぁ残念ながら、証明出来るものはないし。子どもの戯言と聞き流してもいい」

「信用するさ。ウソをつく要素がない」

 

 強いてあげるなら、依頼した人物を闇討ち出来るぐらいか?……ないな。カイトが誰に頼むかわからないし、カイト同等かそれ以上の強さを持つものだ。ちょっとやそっとでヤられる訳がない。

 

「……その、聞きにくいんだが、相場ってどれぐらいするんだ?」

「お前達次第だ。上手くいけば、タダで受けてくれるな」

 

 そう言って、カイトはケイタイを操作し始めた。……マジで?タダなら本気で嬉しい。全財産消えていくかと思ったんだが。

 

「もしもし? ジンさん、ちょっといいか?」

 

 むせた。ディーノが背をさすってくれているが、ちょっと落ち着くのに時間がかかりそうだ。

 

「知ってるのか?」

「世界トップレベルの念能力者。後、ゴンの父親」

「ゴンの?」

「ん? ゴンのこと知ってるのか? ジンさん、ゴンの知り合いだってよ」

 

 教えたのはマズかったかなと思ったが、意外にも会ってくれることに。例え私達が連絡しても間に合わないとわかってると考えたかもしれない。ゴンが今天空闘技場に居るのは調べればすぐにわかるからな。

 

「お前達ラッキーだな。近くに居るから明日には来るってさ」

 

 ディーノに視線を向けられた。私の幸運が発揮したと思ったのだろう。私もそう思う。

 

「凄い人物を紹介してくれて、ありがとう」

「遠慮するな。もしジンさんが断ったなら、他の人を紹介するから安心しな。依頼料はいらない」

「それは助かるぜ」

 

 カイト、まじ良い人。……ホッとしたのか、眠くなってきた。

 

「後はオレに任せて寝ていいぜ?」

「ん。……抱っこ」

 

 ちょっと驚いた反応を見せたが、ディーノは私の好きにさせてくれた。眠いけど、寝るのがちょっと怖いと察したからかもしれない。

 

 しばらくの間、ディーノの心臓の音を聞きつつ、2人の会話も聞いていたが、いつの間にか私は眠りに落ちていた。



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