進化を続けるこの世界で (だゆつー)
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序章 アスタ遺跡調査編
第1話


 子供の泣き声が聞こえる。まだ声変わりも何もしていない甲高い声だ。

 

 その泣き声の方に目を向けると10歳くらいの少年が地面に顔を埋めていた。

 泣きじゃくるその子供とそれを黙って見ている自分。

 

 この世界は夢だと気がついたのは、泣いている子供が昔の自分だと分かった時か、それとも、いつの間にかに子供の前に立っていた美しい女を見た時か。

 

 その女は少年を黙って見つづけている。泣いている少年に声をかけず、ハンカチを渡すことも無くただただ見続けてている。

 

 何時間たったのだろうか、夢だと分かりながらもその二人から目を離せなかった、いや違うか、目を離してはいけなかった。何故なら、これが自分の恩人となる女性との初めての出会いであり、そして…この女性を俺が、リョウ・リノーアが--

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺さなければならいから」

 

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ 

 

 

 

 

 

 

「嫌な夢を見た」

 

 思わず呟いてしまう。気分が悪い。ふと枕元にある時計を見ると時刻は午前5時。いつもよりも1時間早く起きてしまった。このままもうひと眠りするのもいいが、さっきの夢のせいで目が冴えわたっている。

 

「たまには早く起きるか」

 

 そう呟きながらベッドから抜け出す。冬ならばここで身震いのひとつもするのだろうが、今は4月、寒さはもうほとんどなくなっていた。

 

 パジャマ姿のまま朝食を食べようと、リビングに向かうとテレビの音が聞こえてきた。どうやら先客がいるらしい。とは言ってもここの住民は自分を含めて2人しかいないので誰だかは分かっているのだが…。

 

「おはよう……」

「おお!おはよう。なんだ、今日は早いじゃないか」

 

 朝の挨拶をするとかえってきたのは綺麗なソプラノの声。声の主の方に顔を向けると見慣れた人物がいた。整った顔、黄金色のパッチリとした目、珍しいライトグリーンの色をした髪を背中まで伸ばしている。そして服の上からでもわかるでかく、形の良い胸、100人中100人が見惚れるであろう美女、エレナ・リノーアがコーヒーを飲んでいた。

 

「なんだリョウ、私のことをじりじろ見て、もしかして惚れたか?」

 

 艶やかな笑みを浮かべながらこう言ってきた。普通の男ならばついついここで顔を赤くしたまま黙ってしまうだろう。美女を目の前にした男なんてそんなものだ。

 だけど俺は……

 

「それはない、見た目が全てだと思うなよ。」

 

 冷静にそれに言い返す。こいつの正体や本性を知っていると恋愛感情だの性的感情だの全く起こらない。しかし、そんな俺の冷たい返しにひるむことなく今度は馬鹿にするような笑みで言い返してきた。

 

「相変わらず可愛げのない男だな、冗談の一つも吐けないようじゃ女にモテないぞ。」

「その男から可愛げを奪ったのはどこの誰ですかね、それとモテたいという気はさらさらない。」

 

 つまらないな~、なんてふざけた返事を聞きつつ俺もコーヒーを淹れテーブルについた。

 

「おっと、すまない。コーヒーを飲む前にカーテンを開けてくれ。朝日はあまり好きではないから閉めてたんだが、流石にもうそろそろ外の光を浴びないと違和感がある。」

「自分で開けろ」

「私は今から朝食を作るんだ。お前の分もな。それなりの対価はあるんだ、それぐらいしろ。」

「……分かった」

 

 違う、窓を開けるのが嫌なんじゃない、むしろそれには賛成だ。朝日を浴びなければ体内時計がくるうからな、俺が嫌なのはお前の命令を聞くことだ。なんて言いたいのだが言おうものならどうなるか分かったもんじゃない。

 

 寝起きのせいで重く感じる体をなんとか動かして自分の身長くらいのカーテンの前に立つと、俺は早くなる心臓の鼓動を静めるために深呼吸をする。カーテンを開けるというのはいつもの日常だがここのカーテンだけは別だ。開けるのに相当緊張する。

 

「--よし!」

 

 気合を入れ、カーテンを思いっきり横にスライドした。朝日の眩しさに思わず目をつぶる。

 そして目を開け見た景色は--

 

 

 圧巻だった。

 

 

 地平線にまでそびえ立つビルの数々、そのビルほとんどが40から50階建だ。早朝にも関わらず、すでに空には車が行き交い、地面を見ると多くの人々が忙しなく歩いている姿が見える。そして一番目につくのはてっぺんが雲に隠れて見えないほど高く、国の3分の1を占めるほど大きい城だ。60階建のマンションの最上階から見ても圧倒される立派な城。永遠のエネルギーを持ちうる三つの都市の一つ聖都ルドリアの主張にして要、ルドリア城。その中にはこの国の王がいたり、学校があったりと多くの機能を兼ね備えている。まあとにかくこの国はこの城を中心に出来ているということだ。

 

 全く、本当に何度見ても見慣れない。この景色を見るだけで全身に鳥肌が立つ。

 

「まったく、人間はまた凄まじい物を作ったな。」

 

 台所で料理をしているエレナがそう呟いた。

 

「違う、これは人間の力で作ったなんじゃない、あんたの力で創ったんだ。」

「何度も言うがそれは誤解だ。私はただ、一つのパーツを与えただけだ、単体ではなんの役にも立たないパーツをな。それを研究し、他の物と組み合わせ、役に立つようにしたのは人間の力だ。」

「……そうか」

 

 この国、いや、この世界の科学がここまで発展したのには理由がある。

現に二百年前にはこの世界の科学の進歩は完全に止まっていたという。空飛ぶ車もなく、一瞬で遠くまで行ける機械もなければ人を守るバリアもない、そんな世界だったという。そして人間が科学の発展を諦めかけていた時、現れたのが自らを創造神と名乗る謎の生命体だった。

 創造神は言った、「この世界は残念ながらこれ以上の進歩はない。しかし、それではあまりにもつまらないので私はあなたたちにチャンスを与えよう」と。

 そのチャンスというのが、「永遠のエネルギー」と言われる永遠に衰退することの無い未知のエネルギーを渡す代わりに、新たな生命体をこの星に宿すというもの。

 当時の人間はすぐにこの話に乗ったという。「永遠のエネルギー」があれば間違いなく、また科学は進歩を始める。新しい生命体の事など考えてはいなかったらしい、新しい生命体など自分たちよりも高次の存在ではないと、犬や猫のような存在だろうと思っていた。……しかしこの考えはすぐに改めることとなる。

 

 人間が創造神から「永遠のエネルギー」を受け取った数日後「魔物」と呼ばれる生命体が現れた。

 その魔物と呼ばれる生命体は、知恵は人間に届かずとも身体能力は完全に人間を超えており、その種類によって火を吐いたり、物を凍らせるなどのの能力も使ってきたのだ。当時の兵器のほとんどが魔物に効かず、人間はやられるばかりだった。

 

 人間は今のままでは滅んでしまうと思い、「永遠のエネルギー」を兵器として使おうとした。その考えは的を得ておりすぐに「永遠のエネルギー」を使った兵器を編み出すと、従来の兵器とは比べ物にならない程の破壊力がある兵器ですぐに人は魔物と互角に戦える力を手に入れた。だが、それがいけなかった。

 

 そこから二百年、後に「暗黒の時代」と呼ばれる時期が訪れる。

 

 魔物と人間の戦争に加えて、人間同士による「永遠のエネルギー」の奪い合いも始まったのだ。いや、より詳しく言えば「永遠のエネルギー」を使った兵器の奪い合いか。

 

 同時に行われた二つの争いはそれぞれとてつもない戦いだったという、今でもなぜ人間がこの時代を乗り切り存在しているのか分からないとまで言われている。

 

 暗黒の時代を乗り切り、「永遠のエネルギー」は三つの国が所有する事となった。そしてその三つの国々は互いに和平の条約を結び、魔物から人間を守れるように、そしてより良い暮らしのために共同研究に乗り出した。

 百年間、「永遠のエネルギー」を研究し、これ以上ないくらいに科学の発展は進んだ。魔物が入ってこれないようなバリアを開発し、その中で人間はより良い暮らしを手に入れた。その結果が今、俺たちが生きているこの時代だ。

 

 さて、落ち着きを取り戻した世界にある一つの疑問が生まれる。ある者は救世主と、ある者は災害を招く者と呼ぶ創造神はなんなのか?そして「永遠のエネルギー」を人間に渡し、魔物を誕生させた後どこに消えてしまったのか。世界で一番の謎と言われている。

 

 もちろんその答えを知る者はいない、今も、そしてこれからも現れる事はないだろう……今俺の家のキッチンで鼻歌を歌いながら朝ごはんを作っている奴以外は。

 

 なぜその世界で一番の謎をこの女が知っているかというと、答えは至極単純。

 

 この人が創造神だからです。何を言っているのか分からない?安心してください、俺も本人から言われた時は唖然とした。

 しかし、それは事実なようで高級マンションの最上階に位置するこの部屋のもののほとんどはこの女が創った物だ。作ったのではない、創ったのだ。

 

 この世界に止まっている理由を聞いた事があるのだが、本人曰く、

 

「この世界でまだやり残した事がある。だから私はここに留まっている。ん?やり残した事とはなんだ?、だと?そんな事お前に教えるわけがないだろう。どうしてもというのなら私を殺してみせろ。その方がお前の目的も達成できて一石二鳥だろう。まあ、絶対に無理だろうがなww」

 

 なんて言いやがった。文末に草まではやして。

 もちろん、なぜ「永遠のエネルギー」なんて物を人間に渡し、魔物を誕生させたのかという質問も同じように教えてもらえなかった。

 

 そんな感じで創造神は意外と身近にいる。この事を知っているのは俺を含めて5人だけだが。

 

「さて、もう気は済んだか?この世界の説明はそれぐらいでいいだろう、朝食をが出来た。温かいうちにさっさと食べろ。」

「その発言にはいろいろ問題が発生するから止めろ。」

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「「ごちそうさま」」

 

 

 朝ごはんを食べ終わった、悔しい事にエレナが作るごはんはとても美味い。どうやら料理が好きなようで、料理だけは創るのではなく、しっかりと作っている。しかしあとかたずけは嫌いなようでそこは俺にやらせている。俺も少しは手伝おうと思い、この件に関しては文句も何もないのだが。

 いつものように食器を洗っていると、いつの間にかにスーツに着替えていた~が少し慌てた様子で俺に話しかけてきた。

 

「私はもう学校に行くから玄関の鍵を閉めてくれ。」

「?、今日は随分と早いな」

 

 今は6時、いつも~が家を出るのは7時だから1時間早い。

 

「今日は学校の始業式だからな、教師は早く行って今日の動きを確認しなきゃいけないんだ。全く、教師も大変だ」

 

 そう言いながら靴をはき、玄関から外へ出ようとすると何かを思い出したかのように立ち止まった。

 

「そう言えば言い忘れていた、今日が今月最後の学校になるから楽しんでこい、他の3人にもそう言っといてくれ。じゃ、行ってきまーす。遅刻するなよ~。」

「はっ?それはどういう意味……行っちゃたよ」

 

 俺の疑問を聞く事なくエレナは外に出てしまった。今度は何を考えているんだか。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 残った食器を洗い終えた後、俺は着替えなどの学校へ行く準備を整え、最後に持ち物を確認しているとテレビのニュースキャスターの慌ただしそうな声が聞こえた。どうやら速報が入ったらしい。

 

「新しいダンジョンが出現か……」

 

 ダンジョン、世界に魔物が現れてから出来るようになった謎の場所。現れる時間、場所はバラバラで種類もただの洞穴みたいだったり、遺跡みたいだったりと多種多様だ。

 ダンジョンの中には魔物が住み着いており、素人が入ったらまず生きて帰ることが出来ないであろう危ない場所だ。ただ、たまにお宝も眠っておりそれを狙って入る奴もいる。ほとんどが生きて帰ってきていないらしいが。

 

 そのため通常、ダンジョンというのは発見されたらすぐに国がそれが安全か危険かどうかの調査が行われる。

その調査というものどんなに狭いダンジョンでも必ず1ヵ月以上かけて厳重に行われる大掛かりなものだ。

 

 一瞬家から出て行く前にはエレナが言った言葉を思い出したがすぐに考えるのをやめた。

 俺の予想は多分当たっているが、それを俺たちがなんと言おうが、絶対にエレナは自分の考えを実行に移すだろう。全く、いつも振り回される方の気持ちも考えて欲しい。

 

 そんなことを考えながら、持ち物の確認を終えると携帯にメールが入った。

 中身を見てみると、俺の幼馴染の1人からで、内容は早く来いとのこと。どうやら少しゆっくりと準備しすぎたようだ。

 

「もう行くか。」

 

 戸締りをして、電気が全て消えているのを確認すると俺はバッグを持ち、玄関に出してある使い慣れたローファーをはいた。

 

「さて、今日はどんな事が起こるのか」

 

 そう呟くと俺は進化を続けるこの世界に今日も一歩踏み出した。

 

 

 




初めまして、だゆつーと申します。
最後までお読み頂きありがとうございました!
小説を投稿するのは初めてですが頑張りますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください!

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第2話

 玄関を出た俺は幼馴染達がいる待ち合わせ場所へと向かっていた。辺りを見渡すと、仕事へ向かうサラリーマンや俺と同じように学校へ向かう学生達などの人々であふれかえっている。朝のこの光景はどの時代もあまり変わらないらしい。

そんな他愛ない事を考えながら歩いていると待ち合わせ場所の公園が見えてきた。科学が進歩を続け、高層ビルがほとんどの土地を占めているこの国にとっては多くの緑を見ることができる貴重な場所だ。

 

「さて、メールからするに俺以外は全員来てるはずウガァ!!!!!」

 

 公園に着いた途端、いきなり背中に衝撃がはしった。急いで振り向いてみると金髪の美少女が頬を膨らませながら立っていた。

 

「遅い!もうみんな集合してるよ!!」

 

 俺に蹴りをいれて、目の前で怒ってますアピールをしているのが俺の幼馴染の一人、リア・ルノア。金髪ショートカットの美少女で、元気で明るい性格とその容姿で非常にモテている。あと巨乳。

 

「おいまて、俺は珍しく時間に間に合ったはずだ。なんで蹴られる必要がある?」

「あっ、えっと……あの」

「おい、俺の目を見ろ」

 

 さっきの自己紹介にバカっていう情報追加。おいコラ、テヘって舌出してごまかしても許さないぞ……可愛いけど。

 

「なに朝っぱらからバカやってんだ」

「そうですよ、朝ぐらい静かに過ごせないんですか?」

 

 リアのこめかみを締め上げていると見知った顔の男女が声をかけてきた。

 

「全く、毎朝毎朝飽きねぇのか」

 

 不機嫌そうに声をかけてきた男はリアと一緒で俺の幼馴染の1人、コウタ・ソラル。身長が高く、がたいが良いため見た目は怖そうなイメージだが、結構世話焼きで良いやつ。あと動物が大好き。

 

 「えー、そんなこと言いながら自分も私たちの会話に入りたいくせにってイタッ!謝るから無言でたたくの止めてぇぇぇ!」

「まったく、コウタまで参加してどうするんですか……」

 

 俺たちを見ながらため息をついているこの黒髪ロングの清楚系美少女は俺の4人目の幼馴染のシズ・アルノール。家がお金持ちのお嬢様で、幼馴染の俺たちにも敬語を使っている礼儀正しいやつ。ちなみにシズもリアと一緒で相当モテる。あと貧乳。

 

「リョウ、今失礼なこと考えていませんでしたか?」

「いえ、めっそうもない。」

「……まぁ良いでしょう。そこの2人も喧嘩はやめて早く学校に行きましょう」

 

 シズがそう言い、歩き始めると喧嘩を止めた2人と俺は、彼女についていくように歩き出した。

 

「にしても学校に行くのってなんか久しぶりだね」

 

 リアが嬉しそうに横にいる2人に話しかけた。

 

「確かにそうだな、あの事件が解決したらちょうど春休みに入っちまったからな」

「フフッ、そうですね。久しぶりの学校、私も楽しみです」

 

 コウタとシズも笑みを浮かべながらリアに返答をしている。そのまま3人は友人の事や宿題などの学生っぽい話で盛り上がり始めた。

 前を歩いている3人が楽しそうに会話をしているものだからとても言いづらく、そして言いたくはないのだが、しょうがない。と1人で意思を固め、俺は思い切って笑いあってる3人にとっては最悪であろうことを言った。

 

「エレナからの伝言だ、今日が今月最後の学校になるから楽しんで来いだってよ」

「「「……」」」

 

 瞬間、笑いあっていた3人は無表情になり、周りの空気が一瞬で凍った。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 しばらく歩いていると俺たちの学校が見えてきた。ルドリア城の南部に位置していて、この国で一番大きく、有名な学校、国立ルドリア騎士養成学校。その名の通り聖都ルドリアの騎士を養成する学校だ。

 

 「騎士」とは簡単に言うと、この国を守るのが役目の者達だ。だが、他にも国から依頼されたダンジョンの調査や地位の高い人の護衛も騎士がやっている。

 

 俺たちはこの春からこの学校の2年生となる。去年はある事件があって後期は忙しく、学校へあまり行けなかったので今年は何の事件もなく平和に過ごしたい。さっそく出鼻からくじかれたが。

 

 さて、学校に到着したのだが俺以外の3人は用事があるらしく、早々とどこかへ行ってしまった。このまま始業式の会場まで行こうかと考えたが、まだ30分以上も時間がある。仕方がなく、そこら辺のベンチに座り本でも読むことにした。

 

 あっという間に時間が過ぎ、始業式まであと10分くらいのところでそろそろ移動しようと腰を上げると、ピンク色の髪の色をしている女子生徒が俺に声をかけてきた。

 

「あのぉ、すみません。始業式の会場はどこにあるのでしょうか?」

 

 制服に付けてあるピンバッチの色を見ると、どうやら新入生らしくまだこの学校に全然慣れていないらしい。当然だ、俺もこの学校で1年間過ごしたが、たまに迷うこともある。それだけこの学校は広い。

 

 そんなことは置いといてだ、この女子生徒の頼みをどうするかだが、まぁ俺とこの女子生徒の目的地は同じわけだし

 

「俺も今から会場に行くところだったんだ。行くついでに案内もするよ。」

 

 こう返事をするのが妥当だろう。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 俺が返事をすると女子生徒は少し緊張気味にお礼を言ってきた。

 それから俺たちは一言も会話をすることなく歩き、すぐに目的地の聖堂に到着した。

 

「ここで始業式が執り行われるよ。確か新入生は前の方で先生がどう並べば良いか教えてくれるはずだから、その指示通りに移動したら大丈夫だと思う」

「は、はい。こ、この度は誠にあ、ありがとうご、ございました。」

 

 俺が少し話すと女子生徒は顔を赤くしながら、走って聖堂の中に入ってしまった。言動と行動を見るに、どうやら人と話すのには慣れていなかったらしい。

 

「ちゃんと会場には案内したし大丈夫か」

 

 そんな事を呟きながら、俺も聖堂の中に入って行った。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 長い始業式が終わり、自分のクラスの担任が解散を言い渡すと、生徒たちは自分たちの家に帰り始めた。中には遊んで帰る生徒もいるようで、どこに行くかなど話し合っている声も聞こえてくる。俺も遊びに誘われたが断った、否、断るしかなかった。俺以外の3人も同じなようで各々不満そうな顔をしている。

 

「始業式が終わったとたんに呼び出されたら、学校を楽しむなんて出来ないんですけど。」

「文句があるんだったらこの扉の奥にいるやつに言ってくれ」

 

 そう、俺たちは始業式が終わったとたんに各担任に至急、第一会議室に行くように指示をされたせいで、友達と遊ぶことや少しゆっくりと話す事もできないまま会議室の前にいる。これではリアの言う通り学校を楽しむもくそもない。

 

「ここでカリカリしても仕方がねぇ、さっさと扉を開けねぇか?」

「そうですね、文句はこの部屋の中にいる人に言いましょう」

「む~、リョウよろしく。」

「なんで俺なんだ」

 

 いや、開けるけども。だからそんな不満そうな目で俺を見ないでくれ。

 俺は仕方なくドアをノックするとそのまま会議室の中に入った。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 中に入ると全ての元凶のエレナが優雅にコーヒーを飲みながら椅子に座ってくつろいでいた。

 

「やっと来たか、とりあえずそこに座ってくれ。なに?その前に文句を言いたいだって?そんな事は後でいくらでも聞くだけ聞いてやるから後にしろ。さて、私がお前たちを呼び出したのは他でもない、私がお前たちに騎士の仕事を一緒にさせてもらえないか頼みこんだら、なんと一緒に仕事をさせてもらえることになった。感謝しろよ、いろいろ大変だったんだから。自分たちは頼んでいないだと?まぁそう言うな、こんなチャンスはめったにないほどの大きな仕事を貰ってきた。聞いて驚くなよ、その仕事とは……

 

ダンジョンの調査だ!」

 

 こんな感じで俺の新学期は幕を開けた。今思えばこれは、これから起こるやっかいごとの言わば序章だったのかもしれない。 




こんにちは、だゆつーと申します。
第2話を最後までお読みいただきありがとうございました。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第3話

「聞いて驚くなよ、その仕事とは……

 

ダンジョンの調査だ!」

「「「「うん、知ってた」」」」

 

 エレナの衝撃?の告白に俺たちは口をそろえて返した。

 

「何故だ!?これはまだリョウにも言っていなかったのに!」

「いや、お前の朝言ったセリフと新ダンジョン発見のニュースで予想、というかほぼ確信してたぞ」

「エレナが興味ありそうな最新の出来事ってそのくらいだしね」

「お前が持ってくるやっかいごとは大体普通ではありえないことだからな」

「一体何度あなたに振り回されたと思ってるんですか」

 

 ただし、何故エレナが俺たちにそんなことをさせようとしているのかは分からないが。聞いてもどうせはぐらかされるだけなので俺たちも自分から聞くことはしない。

 そう、こいつは行動パターンは簡単に分かるが、その行動の理由は決して明かさない。昔からそうだった。なぜこんなことを俺たちにやらせるのか、なぜ自分から動かないのか、なぜ創造神が俺たちただの人間、さらにその子供に自分の正体を明かし何年も一緒にいるのか。

 いつか絶対にその理由を聞き出すつもりだ。俺の目的のためにも絶対に……。

 

「私、一様創造神なのに、この世界の神なのに……」

 

 その前にこんなやつを神だと認めたくはないが。

 

「エレナ、ウソ泣きはやめてそろそろ本題に移せ」

「もう茶番を終わりにするのか、もう少し続けたかったのだがな」

 

 そう言って咳払いをすると真剣な顔つきで話をし始めた。

 

「さて、今回のダンジョン調査についての話をする前に一様言っておく。今回の機会を得ることができたのは私が頼んだのもあるが、去年起きた事件を解決したお前たちの実力が評価されたこともある。そのことは頭に入れといてくれ。」

 

 周りの空気が張り詰めたのを察し、俺たちもしっかりと聞く姿勢を整えてうなずく。

そんな俺たちを見てエレナは満足げにうなずくと今回の件についての詳細を説明し始めた。

 

「さて、今回の件だがお前たちの言った通り、今朝のニュースで話題になっていたダンジョンの調査に参加してもらう。ダンジョンの詳細は向こうに行ってから責任者の騎士が詳しく話すが、重要なことを簡単に話しておく。今回のダンジョンは遺跡のような作りになっている。魔物は比較的弱くあまり出てこないが、罠がその分多いらしい」

「それは結構厄介だな」

 

 コウタのつぶやきにエレナがうなずく。

 

「ああ。ダンジョン調査に慣れている騎士たちならまだしも、初めてのお前たちにとっては正直に言って厳しいものになるだろうな」

 

 確かにそうだ、俺たちは魔物を倒すだけならば相当経験をしているが、初めてのダンジョン調査、それも自分たちがあまり慣れていないパターンだと相当な苦戦を強いられるだろう。

 

「そこら辺をどうするかはお前たちで考えてくれ」

「相変わらず助言の1つもくれないんですね」

「その分お前たちを信用しているということさ、それに今回は私からお前たちにプレゼントも用意してある。そら、受け取れ」

 

 エレナがそう言うと俺たちの前にいきなり武器が現れた。

 

「お前たちがいつも使っている武器を私が改良しておいた。安心しろ、パーツは私が創っておいた。いきなり壊れることは万が一にもないさ」

「珍しいな、お前が俺たちにこんな物を渡すなんて」

「なに、初めてのダンジョン調査の私からのささやかな贈り物さ。さて、話はここまでにしてさっさと移動するぞ。安心しろお前たちの家にはもう連絡をしておいた」

「待って、私たち服とかその他もろもろ何も準備してないんですけど!」

 

 リアが抗議の声を上げるが、

 

「必要な物は私がもう用意してある。良いからさっさと行くぞ」

 

 そう言われてリアがおとなしく引き下がると、俺たちはすぐに学園にあるワープ装置まで移動した。

 

「使用許可は私がさっき取っといたから安心しろ」

「この装置を使う許可が出るのは、申請してから最低でも2日はかかると思うのですけど……」

「権力って素晴らしいと思わないか?」

「お前、職権乱用って知ってっか?」

 

 そんな話をしつつ俺たちはワープ装置の上に立つ。係の人が俺たちに合図をし、エレナが移動準備オッケーのサインを出すと周りが光だし、ワープの準備が始まった。

 

「永遠のエネルギー正常に運転、座標特定、場所は聖都ルドリアの北にあるダンジョン、アスタ遺跡。ワープまで3秒前、2、1、ワープ開始」

 

 その瞬間、目の前が一瞬見えなくなり、瞬きをすると俺たちの目の前には巨大な遺跡が佇んでいた。周りは木々に囲まれていて、苔が生えている黄土色の石がピラミッドのように積みあがっている。その入り口らしいところの付近には、簡易型の建物があり、多くの騎士たちが食べ物を食べたり、話し合いをしたり思い思いの事をしている。ちなみにエレナは用事があると言って着いてすぐにどこかへ行ってしまった。

 

「なんか緊張感が全然ないわね~」

「今は休憩中だからね、休憩が終わると君たちがイメージしていたみたいな状態になるよ」

 

いきなり聞こえた声の方に顔を向けるとそこには20代前半くらいの金髪のイケメンが微笑みながら立っていた。

 

「君たちがエレナさんから推薦された子たちだね、僕の名前はラント・ローウルフ、この調査の責任者ってことになっているよ。気軽にラントと呼んでくれ。よろしく。」

 

 そう言ってラントは俺たちに手を差し出してきた。

 

「よろしくお願いします、ラント。俺の名前はリョウ・リノーアと言います。それでこの俺の右にいるのがシズ・アルノール、左にいるのがコウタ・ソラル、そして後ろにいるのがリア・ルノ「キャァァァァァァァ!!!!」!?」

 

 いきなりリアが叫ぶと、凄まじいスピードでラントの手を取った。

 

「私の名前はリア・ルノアと言います!リアと呼び捨てにしていただいて結構です!あの、後でサインくれませんか!?」

「ハハッ、かまわないよ」

 

 興奮しながら早口で喋るリアに慣れたふうに返事をするラント。

 

「一体どういうことだ?」

 

 コウタが呟く。俺も何がなんだかわからん。

 

「ラント・ローウルフはイケメン騎士として女性向けの雑誌によくモデルとして出ているんですよ。そのおかげか女子からはイケメン騎士の1人として人気が高いんです」

 

 シズが俺たちの疑問に答える。なるほどだからリアはこんなに興奮しているのか。

 

そんな事を考えているうちに、リアが少し暴走し始めているのでコウタが止めに入っていた。それを見て隣のシズはため息をついている。

 

「シズは行かなくても良いのか?」

「私が惹かれた男性はこれまでも、そしてこれからも1人しかいませんから」

 

 そう言ってシズは俺の方を向いてくる。俺は慌てて目をそらし、騒がしくしているリアとコウタの方に向かった。

 

「そこまでにしてそろそろラントの話を聞くぞ」

 

 そう言うとリアはしぶしぶラントから離れて、話を聞く体制になった。

それを見たラントは笑いながら俺たちにこれからの事を話してきた。

 

「さて、これからの事なんだけど君たちがダンジョンに入るのは明日の朝9時ってことになっているよ。だからそれまでは各自準備と休息をとって欲しい。時間になったらまた呼ぶからよろしくね。何か質問はある?」

 

俺たちが首を横に振るとラントは満足げに頷いた。

 

「よし、じゃあそれまで解散!」

 

 ラントがそう言うと俺たちは各自準備のために散らばった。

 

「あっ、リョウ君少し待ってくれないか」

 

  俺だけ呼び止められた、なんだろう?

 

「変なことを聞くようだけどリョウ君ってエレナさんの息子なのかい?」

 

 ああ、そう言うことか。

 

「違いますよ、俺はただの養子です。親が俺が小さいころに亡くなって、それでエレナが俺を引き取ったんですよ」

 

 よく聞かれる質問なので慣れた口調で言い返す。ファミリーネームが同じなのでエレナを狙っている男性から聞かれるのだ。

 それを聞いて安心したのか、ラントは息を小さく吐くと、変なことを聞いたと謝罪をし、建物の方に消えていった。

 

「イケメンもやっぱり男性か」

 

ついつい俺はそうつぶやくと、他の3人と同じように明日の準備を始めた。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 翌朝、俺たちはラントのところに集合していた。今回はエレナもいる。ラントは昨日とは違いとても真剣な様子で俺たちに話しかけてきた。

 

「さて、これから君たちにはダンジョンの中に入り調査をしてもらう。いろいろ話す前に1つ聞きたいことがある。君たちは死ぬのが怖くないかい?」

 

 ラントの質問に俺たちは声をそろえて答える。

 

「「「「怖い」」」」

 

 そうするとラントは一瞬呆けた顔になったが、俺たちの目を見るとすぐに満足した様子でダンジョン探索について詳しく説明してきた。

 

「今回君はエレナさんの要望で、君たちはほとんど自由に動けるようになっている。しかし、これから言う3つの事だけは絶対に守ってもらうよ。1つ、ダンジョン内では絶対に4人で行動すること、もしはぐれた場合はすぐに君たちに渡したアイテムでここに戻ってくること。2つ、僕たちと話す通信機とは別に渡したその通信機は常にオンにしておくこと。君たちの会話は常にエレナさんが聞き、何か問題があればすぐにエレナさんが対処することになっている。3つ、宝を見つけたら絶対に触らず、すぐに連絡すること。良いかい?」

 

はい、と俺たちは返事をする。まぁでも縛りは実質2つだな。2つ目のことについてはエレナは俺たちに何かあっても絶対に動かないだろうからな。ほら、もうコーヒーを飲み始めてるし。

 

「よし、では……。ラント・ローウルフの名のもとに君たちのダンジョン調査の参加を許可する。各自身体強化を施し、武器を構え、問題がなければすぐにダンジョンに向かってくれ。必ず生きて帰ってこい!行け!」

 

「「「「はい!」」」」

 

俺たちは腕に付けてあるブレスレットを起動して「永遠のエネルギー」によって自身の身体能力を強化すると、武器を構えダンジョンの中に入って行った。

 

 

 

4月2日 AM 9:00 アスタ遺跡の調査開始

 

撤退条件 4人のうち1人でもはぐれる、または死ぬこと。




こんにちは、だゆつーと申します。
第3話を最後までお読みいただきありがとうございました。
最近、FGOで源頼光が欲しすぎてつらい。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第4話

 俺たちがダンジョンに入ってしばらくたったが、今のところは何も問題なく先へ進んでいた。

 

「魔物も弱いし、罠も少ないしでなんか拍子抜けだね」

「ここはもう騎士が一度通った道だから罠とかは全部解除されてんじゃねぇの」

「そうですね。マップに映ってるということは、もう騎士の誰かが通ってるはず。道もまっすぐなのでこの状態がしばらく続くでしょう」

 

 俺の後ろの3人が話しているのが聞こえる。いつ襲われてもおかしくない状況だが、いつも通りのような会話ができるほど、今の俺たちにはまだ余裕があった。

 

 襲ってくる魔物は俺がまず剣で迎え撃ち、取りこぼしを後ろにいるコウタの弓とシズの銃で倒し、いきなり後ろから現れた敵には、フットワークの軽いリアが双剣で倒す。

 俺はもっと細かく陣形を変えなければいけないと思っていたが、そんなことも無くここまで進むことができた。まぁ俺と同じようなことを考えていたから、他の3人もいつも道理でいられるのだろうが。

 

 このような感じでしばらく進んでいると、3つの分かれ道がある場所に着いた。分かれ道の前の俺たちが立っている空間は広いので、体の大きな魔物が出てくると思っていたが、そららしい魔物は死体となって転がっていた。どうやら先に来た騎士達が倒してくれたようだ。

 

「しかしやっぱり騎士はすごいな。この魔物には必要最低限の傷しかない」

「できるだけ体力を使わずに対応するのも、ダンジョンの中で生き残るために必要だっつうことか」

 

 俺のつぶやきにコウタが反応する。それから10分くらい空間を探索した後、隠し扉も特にないと判断したのかシズが指示をしてきた。

 

「さて、3つある道ですが私たちは、まだ誰も探索していない真ん中の道を進みたいと思います」

「おっ、未知の場所に行けるんだね!やっとダンジョンらしくなってきた~!!」

「おいリア、気ぃ抜くなよ。これからは魔物だけじゃなく罠も出てくるぞ」

 

 そう、誰も通っていない道ということは罠もまだ手をつけられていないということである。ここから先はこれまでみたいにはいかないだろう。

 しかし、進む前に俺はシズに聞きたいことがあった。

 

「シズ、お前の意見に文句を言うつもりはないが、右の道の少し進んだところには騎士が休憩中だと伝えられている。そっちに一回向かって休まなくても良いのか?」

「いえ、みんなが疲れているのなら向かおうと思いましたが、まだまだ余裕そうなのでこのまま進むことにしました。もし、途中で無理だと判断したら早い段階でここに戻って来るつもりです」

 

 分かった。そう返事をすると俺たちはこれまでの陣形は変えずに真ん中の道へ向かって行った。

 

「リア、もっと集中しろ。そんな事じゃすぐに罠に引っかかって窮地に追いこまれるぞ」

 

 少し進むとコウタがリアに注意をうながす。

 

「大丈夫、分かってるって。この私がそんなへま起こすわけ『ガコン』ガコン?」

 

 コウタの注意にリアが返しているとき、ちょうどリアが手を置いたところの壁が沈んだ。俺たちは瞬間何が起こるかと身構えたが、何も起こらなかった。運よくスカを引いたようだ。

 

「てめぇ!今俺が注意したばかりだっただろうが!」

「ごめんごめん、何も起こらなかったからいいじゃん!今からちゃんと集中するからそんなに怒らないで『ゴロゴロ』ゴロゴロ?」

 

 コウタとリアが話している時にまた音が聞こえてきた。どうやら後ろから巨大な玉がもうスピードで転がりながら迫って来る音らしい……迫って来る!?

 

「ヤバい、みんな逃げろ!!」

 

 俺が叫ぶ瞬間には、もう全員走り始めていた。

 

「ふざけんな!なんでお前はいつも肝心なところでやらかすんだ!!」

「てへぺろ☆」

「てへぺろ☆っじゃあねぇ!!」

 

 こんな時でもけんかをする2人は流石である。ってそろそろ止めなきゃ。

 

「おい、2人ともけんかは後にしろ。余計な体力使うぞ!」

「そうですね、2人とも今は逃げることに集中してください。にしても何というベタな罠にはまってしまっているのでしょうか」

「お前もそんなこと言ってる場合か」

 

 どうやらみんな冷静なふりをして内心相当混乱してるようだった。俺もそうだが!

 

 入り組んだ道を曲がりながら逃げているが、巨大な玉は追尾性能があるのかどこまでも追いかけてくる。そろそろ俺たちの体力が心配になってきた。

 

「まずいですね。そろそろ本格的にどうかしなければいけません」

 

 シズが相当焦ったように呟く。

 

「じゃ、じゃあ貰ったアイテムでダンジョンから脱出するのはどう!?」

 

 リアがそう提案してくる。確かにそれが一番良いのだが……

 

「ダメです。貰ったアイテムは発動準備に5秒ほど時間がかかります!」

 

 その通りだ。とてもギリギリのところで逃げている俺たちは、5秒も立ち止まったら必ず移動する前に潰される。かといって球を引き離す体力も残っていない。

 

「じゃあ、どうする!?武器を使って速度を落とすか?」

「それもダメです。あまりにも距離が近すぎてそんな余裕はありません!」

「じゃあどうすんだよ!!」

 

 どうするか……!俺も走りながら一生懸命考えているがなかなか良い案が出ない。万事休すか。そう思ったとき、ガコンといやな音がリアの方から聞こえてきた。

 

「ごめん、何か踏んだ~!!!!」

「ま た お ま え か !!!!!!!」

 

 どうやらリアにはドジっ子属性があったようだ!

 軽い現実逃避をしながら内心ツッコミをいれていると、急に地面が無くなった。まずい。

 

「今度は落とし穴ですか」

「いや、だからそんなこと言ってる場合じゃないだろ」

 

 俺たちはもちろん全員落とし穴に落ちていった。地面がある方を見てみると球は落とし穴の直前でしっかりと止まっていた。ちくしょう!

 

 「身体強化してるからって流石にこの高さは怪我じゃすまなくない!?」

 

 リアが叫ぶ。しかし重力には逆らえずどんどん地面が迫ってくる。あきらめて、できるだけ衝撃を抑えようと空中でどうにか体制を整えた瞬間、目の前に柔らかいクッション的な何かが俺たちを包み込んだ。そのまま地面に衝突したがクッションみたいな物のおかげで全員無事なようだ。

 

「これって?」

「一様買っといてよかったぜ」

 

 シズが疑問を浮かべると、隣のコウタが安心したように言った。

 

「いつ何が起こるか分からないから前に買っといたんだ。こんなところで役立つとは思わなかったが。2000円の価値はあったな」

 

 どうやら俺たちが助かったのはコウタのおかげらしい。自分たちが生きていると実感したら4人で同時にその場で座り込んでしまった。

 

「よかった~。死ぬかと思った。でもこんなアイテムを用意しているなんて流石コウタ!」

「もとはお前のせいだけどな」

 

 それからまた喧嘩を始める2人を見るとついつい笑ってしまう。どうやらシズも同じなようでしばらく2人で喧嘩を見ていた。

 

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 ヒートアップしてきた喧嘩を止め、しばらく休むと俺たちは地上の本部に今の状況を説明した。シズが通信を切ると俺たちは立ち上がり今いるこの空間を調べ始めた。

 

「そういえば相当暗いだろうが、身体強化のおかげかはっきりと向こうまで見えるな。やっぱり今の技術ってすげぇわ」

「そうですね、これが永遠のエネルギーの力ってことでしょうね」

 

 ついつい自分たちが体感している技術のすばらしさを語ってしまっている2人だったが何かに気が付いたのか武器を構えた。後ろを歩いていた俺とリアも何かいると気が付き素早く武器を構え後衛の2人の前に出た。

 

「リョウ、何かいる」

「分かってる」

 

 俺が真剣な口調で話してくるリアに返事をした瞬間、

 

「上だ!!」

 

 コウタの叫びが聞こえると俺たちはすばやく後ろに下がる。すると俺たちが今いた場所に何か落ちてきた。

 砂煙がなくなり、落ちてきたもの、いや、生物をみた瞬間思わず呟いてしまった。

 

「ドラゴン?」

 

 そう、俺たちの前にいたのは燃えるような赤い鱗で全身を埋め尽くし、立派な羽を広げた、まさにドラゴンだった。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第4話を最後までお読みいただきありがとうございました。
結局、源頼光は来ませんでした(泣)

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第5話

「ドラゴン?」

 

 俺がそう呟いた瞬間「ギャァァァァァァァ!!!」とドラゴンは雄たけびを上げ、俺たちに突進してきた。

 

「くっ!」

 

 それを俺たちはギリギリかわす。まずいな、こいつ図体がでかい癖に動きが相当早い。

 

 一瞬、俺は他の3人と目を合わせると、俺は全速力で逃げ始めた。他の3人も、俺について行くように走り始める。本部への報告とこれからの作戦を話し合う必要があるので、そこら辺の岩の後ろなんかに隠れたいが……

 

「まずい、あいつ俺たちを追いかけてきてるぞ!」

 

 後ろのコウタが叫ぶ。やはりそう簡単には逃がしてくれないらしい。だったら、

 

「シズ、頼む!」

「はい、みんな目をつぶってください!」

 

 俺がシズに合図をすると、シズはドラゴンの目に向かって銃を撃った。するとその弾はドラゴンの前でいきなり光輝く。ドラゴンはその光に目がくらんだらしく、その場で目をつぶりながら悶え始めた。その隙に俺たちは、近くの岩に隠れるとアイテムで簡易型の気配遮断の結界を作った。

 

「早く地上に戻ろうよ!」

 

 リアに言われるまでもなく俺は地上に戻るアイテムをすぐに使ってみる。が……

 

「ダメだ、特殊な結界でもはってあるのか帰還のアイテムが使えない」

「おいおい、この部屋だけ使えなくしてるとかどんなご都合主義だよ」

 

 使えないことが分かると、シズが本部に連絡を入れる。

 

「……はい、分かりました。どうやらすぐに私たちを助ける為の部隊を向かわせるようです。場所はある程度特定できているらしいので、すぐに向かうとは言ってましたが……」

「道中の罠に加えて迷路のような道、助けが来るにはしばらく時間がかかりそうだな」

「じゃあ、私たちがあいつを相手しなきゃいけないってこと?」

「そういうことになっちまうな。クソ!おいエレナ、会話は聞いてたんだろ!今俺たちの前にいる魔物の弱点くらい教えろ!!」

「そう叫ぶなコウタ、聞こえている」

 

 コウタの声にエレナの面倒くさそうな声が通信機から聞こえてきた。

 

「全く、しょうがない。今回はサービスして弱点も教えてやるから、さっさと魔物の特徴を言え」

「外見は赤い鱗のドラゴンだ。体長は20メートルくらいだな。角とかは特に見当たらなかった」

 

 エレナに俺が魔物の特徴を伝える。10秒ほど沈黙があるとエレナが魔物の名前と特徴、弱点を言ってきた。

 

「そいつは多分レッドドラゴンだな。ドラゴンの派生の魔物で、特徴は火のブレスの威力が通常のやつよりも少し高いだけだ。弱点はまぁ……強いて言うなら目だろうな」

「目か、分かった。もうすぐ気配遮断の結界がなくなるから会話を切るぞ」

「ああ、お前たちなら倒せるレベルの魔物だ。助けが来る前に倒せよ」

 

 エレナと俺の会話が終わるとシズが作戦を俺たちに伝える。俺たちは互いに頷くと結界がなくなるのを待つ。

 

3……2……1……よし!

 

 結界がなくなると、俺とリアがレッドドラゴンに向かって走り出す。目はもう治った様子のレッドドラゴンが俺たちを踏みつぶそうとしてくるが、

 

「さっきはびっくりしたけど、ちゃんと見れば避けれない速さじゃないよね!」

「油断するなよ」

「分かってるって」

 

 それを俺たちは軽々と避ける。リアの言ったようによく見れば避けれない速さじゃない。そして俺たちが囮となっている隙に

 

「私たちが遠距離から目を狙います!」

「ああ!」

 

 シズが銃を撃ち、コウタが矢を放つ。威力と狙いは十分、目に当たったらレッドドラゴンでもただでは済まないだろう。そう、当たればの話だが。

 

 案の定、弾と矢をレッドドラゴンは瞬きをして攻撃を防いだ。やはりそう簡単に弱点を攻撃させてくれるほど甘くはないか。

 

「リア、今度は攻撃もいれてもっと敵を引き付けるぞ」

「わかった!」

 

 言った通り今度は隙があれば剣で切り付ける。剣で切ることでダメージを与えているだろうが、隙があまりないためレッドドラゴンへの総ダメージ量は多くはないだろう。

 その間に少しでもチャンスがあればシズとコウタの攻撃をする。それを何回も繰り返した、しかし……

 

「ダメだ、俺の矢もシズの弾も防がれちまう!」

「思ってたより危険を察知する能力が高いですね」

「どうすんだ、このままじゃリアとリョウの体力がなくなっちまうぞ」

 

 確かにこのままじゃ俺たちの体力がなくなり、負ける。

 

「なら、銃や矢よりも威力が高い武器であいつの目を攻撃するしかないだろ」

 

 悩んでるシズとコウタに俺が通信をいれる。

 

「俺のやりたいことは分かるだろ?」

「でも、それってリョウが危なくない!?」

「それでも、このままよりは良い結果になると思うぞ」

「……分かりました。悩んでいる時間はありません。リア!コウタ!」

 

 2人は一瞬悩んだ様子だったが、

 

「うん!」

「ちっ、分かった!」

 

 俺の作戦に賛成したのか2人が俺の近くに集まってくる。シズが最後に来ると俺たちはレッドドラゴンの正面に立つ。

 

 さて、敵が1つに集まり、隙ができたなら……

 

 瞬間、レッドドラゴンが炎を吐いてきた。

 

「やっぱり、一網打尽にしようと大技を放つよな!」

 

 炎を俺以外の3人は避ける準備をしていたため、ギリギリだがその炎をかわす。

そして俺は……その炎を真正面から受ける。

 

 熱い、身体が溶けるように熱い。だけど、これで準備はできた。

 

「はあああああああああああああああ!」

 

 俺は剣の一振りで炎を吹き飛ばす。レッドドラゴンを見ると驚いているようだった。俺が炎を吹き飛ばしたからではなく、俺が炎に吞み込まれたのに生きてることに驚いているようだ。

 

 そんなレッドドラゴンに、俺は睨みつけながら言い放つ。

 

「なにを驚いているんだ。人間の俺が魔物のお前の炎を受けても無傷で立っているのがそんなに不思議か?なめるんじゃないぞ、今まで進化を遂げてきたのはお前たち魔物だけじゃない。そのことを今から見せてやるよ」

 

 そう言うと俺は剣を構えた。さあ、第2ラウンドの始まりといこうか。

 




こんにちはだゆつーと申します。
第5話を最後までお読みいただきありがとうございます。
これから多忙のため、投稿のペースが落ちてしまうかもしれませんが投稿をやめる気は全くないので、これからもよろしくお願いします。


誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。


最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第6話

「早く編成を組んでダンジョンへ向かえ!」

 

「緊急事態だ!回復できる武器を持っている者を多く編成しろ!」

 

「手遅れになる前に早く!!」

 

 外が騒がしくなってきた、どうやらあいつらを助ける為に救助隊を向かわせるらしい。まだ高校生の子供をダンジョン探索に参加させ、その上死なせたとなれば大問題になるだろう。そのせいか救助隊の人数が多い。ていうか多すぎないか?待機組のほとんどを向かわせる気か。

 

 私はついついため息をつくとあいつらの通信の方に気を向ける。そうすると、どうやらリョウが能力を発動させたらしい。この程度の相手に能力を発動させるとはあいつらもまだまだ実力不足だな。今度はもっと強い魔物と戦わせるか、そうだな、それがいい!

 

「エレナさん、少しよろしいでしょうか?」

 

 これからの予定を考えながらコーヒーを飲んでいると、後ろから若い男性の声が聞こえてきた。

 

「どうしたラント、何か用か?」

 

 私はその声の主、ラント・ローウルフの方を向かずに、背中を向けながら応対する。

 

「いえ、少し聞きたいことがありまして」

「なんだ?」

「あなたは彼らの通信を聞いてましたよね?」

「ああ」

「なら、なんで罠にかかった時点で僕たちに知らせてくれなかったんですか!?」

「知らせる必要はないと私が判断したまでだ。あいつらならこのくらい自分たちで乗り越えられる」

 

 熱くなっているラントに私は冷静に言い返す。やっぱりこいつ……

 

「それでも今彼らは死にそうなんだ!あなたが早く報告してくれればもっと早く救助隊を向かわせることができた!!」

 

 あぁ、やはりそうか。私はそのセリフを聞いた瞬間に、この男の興味をなくした。押し寄せてくるのはこの男に対する失望と、自分の見る目のなさによる怒り。背後の男が何か私に言ってきているがもう私の耳の届くことはない。

 私が適当に返事をしていると静かにいらだちを見せながらどこかへ行った。

 

「あいつは『はずれ』か」

 

 才能があり、若くしてダンジョン探索の隊長に任命されたから『あたり』かもしれないと思い接触したが、

 

「実力があっても、他人の実力を測れないんだったら意味がない」

 

 あいつはこのことに気が付いていない。気が付いていないということは自分で弱点を克服することができない。一番の弱点を克服できないようじゃこれから先、実力が上がったとしてもそれで終わりだ。それ以上の進化は望めない。これから気が付くもしれないが、肝心なのはあくまでも自分一人の力で弱点を克服していくこと。人に言われて気が付くことはあるかもしれないが、自分で気が付くことは絶対にないだろう。

 

「進化を望めないやつに興味はない」

 

 そう呟くと、手元が熱い気が付く。どうやらイライラして無意識に手で持っていたコーヒーが入った紙コップを握り潰してしまったらしい。そばに置いてある手をハンカチで拭くと気分転換にあいつらの通信に耳を向ける。

 

「……ほう」

 

 そろそろあの男が率いる救助隊がダンジョンに入るころか。まぁあれだ、これから進化が止まる者と死ぬまで進化が止まらない者、その差を自分の目で見てくるといいさ。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 剣を構えると俺はレッドドラゴンに向かって全力で走り始める。レッドドラゴンはそんな俺に向かって炎の弾を吐いてくる。さっきの炎より威力は弱いが、それでも当たったらただではすまないだろう……さっきまでの俺だったらな。

 俺はそれにひるむことなく走り続けた。当然炎の弾は正面からくらうが、

 

「全然効かないね」

 

 俺にダメージはない。レッドドラゴンは炎の弾に当たっても走っている俺に連続で炎の弾を吐くが、俺はそれらに当たっても気にせず走る。そしてそのまま目に向かってジャンプをした。助走は十分、余裕で届く!

 

 空中で俺を叩き落とそうするレッドドラゴンだが、他の三人の腕への集中攻撃により一瞬動きを止める。その一瞬の差でレッドドラゴンが俺を叩き落とすよりも早く俺は目にたどり着く。瞬間、俺は剣を思いっきり目へと突き立てる。が、まぶたでガードされてしまった。いくら剣を押しても貫通しない。だがここまでは想定内。

 

「『EVOLUTION』」

 

 俺がそう呟くとまぶたに突き刺さっている俺の剣が輝き始め、普通の剣から大剣へと姿を変えた。伸びた刀身の勢いでまぶたを貫通し、レッドドラゴンの目から血しぶきが上がる。

 

「よし!」

 

 その後、痛みで暴れまわるレッドドラゴンに振り落とされてしまったが目的は果たした。

 

「ちょっと、その剣また強くなってない?」

 

 俺は態勢を立て直し、近くに落ちている大剣を拾っているとリアが駆け寄って来る。

 

「最近は筋力を鍛えていたからな、こんな姿になったんだろ。さて、目は片方潰したがまだ油断はするなよ」

「もう終わったも同然だよ」

 

 リアと話しているとレッドドラゴンの叫びが聞こえてくる。そっちの方を見るとレッドドラゴンのもう片方の目が潰されていた。どうやらコウタとシズがやったらしい。レッドドラゴンが痛みのせいで危険察知が鈍ってるおかげか、遠距離からの攻撃が防御されなかったのだろう。

 

両方の目を潰されたレッドドラゴンはその痛みと、視界が見えないことへのパニックで正気を失っていた。確かにこれではもう終わったも同然だろう。

 

「最後のとどめも油断しないように」

 

 シズからの通信の後、俺たちはとどめを刺すべくレッドドラゴンへ一斉攻撃を始めた。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「終わったか」

 

 私は通信機を外し机に置くと、長時間座っていたせいで硬くなっている体をほぐすために立ち上がる。思いっきり背中をそらすと背骨からが恐ろしいほどの音が鳴った。

 

「そうやって体をそらしてるのを見て確信した。やっぱりでけぇな、お前の」

 

 さっきの若い男の声とは正反対のおじさんの声が背後から聞こえてきた。

 

「そのセリフはセクハラとして受け取ってもいいですか?」

「セクハラじゃない、事実を言っただけさ」

 

 今度はしっかりと後ろを向くと40代中盤くらいの無精ひげを生やしたおじさんが立っていた。

 

「それをセクハラと言うんですが……それは置いといて、聖都ルドリアの王が仕事をさぼって何の用ですか?」

「いやな、お前さんの気に入っている弟子が初ダンジョン調査と聞いてな、少し様子を見に来たってことよ。で、どうだった?」

「今、ちょうどレッドドラゴンを倒したところです」

「ほお!あの年でレッドドラゴンを倒したのか!いやぁ大したもんだ」

 

 がっはっはっと笑うおじさん、もといルドリアの王。

 しばらくして笑い終えるとルドリアの王が私にある手紙を渡してきた。

 

「これはついでだ、暇があったら見てくれ。それじゃ、俺はもう行こう。もうそろそろルリアがここに来そうだからな。」

「本当に何しに来たんですか……」

「さっき言ったろう、あんたの弟子を様子を見に来ただけだ。将来、あんたに届く可能性がある子供達をな」

「……………それはどっちの私に?」

「さあな」

 

 軽く手を私に振り、ルドリアの王はワープ装置の方に向かって行った。

 

 姿が見えなくなったところで渡された手紙を開き目を通す。

 

「何が暇があったら見てくれだあのジジイ」

 

 私は手をライターで手紙を燃やすとコーヒーを飲むために新しいコップを取りに行った。

 

 

 

 

 

 ちなみに手紙の第1文目が「マル秘」と書かれていたことだけはここで伝えておく。




こんにちは、だゆつーと申します。
第6話を最後までお読みいただきありがとうございます。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。まだ忙しいため投稿スピードはまだ戻すことができませんが、どうにか時間を作り書いていくつもりなので、これからもよろしくお願いします。


誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。


最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第7話

・武器について

 

 この世の中に普及している武器はほぼすべてに『永遠のエネルギー』が使われている。これにより、武器は使い手と経験を重ねるとともに進化する。どう進化するかは使い手次第で、例えば使い手が筋力を強化し力を中心に戦うと武器は大きくなる、などがある。

 一定の経験値が武器にたまり、「EVILUTION」と言うと武器は進化を遂げる。戦闘が上手い人などは自分の武器の進化を予測し、戦闘中に武器を進化させ状況を変えることがよくある。これを呼んでいる諸君もぜひそのようになってほしい。

 

 

・『能力』

 

 『永遠のエネルギー』が創造神に与えられてから進化したのは何も科学だけではない。この魔物やこの星も進化を遂げてきた。そして人間でさえも……。この『能力』というものは人間の進化を代表するものだ。

 『能力』は様々な種類があり、どれもある条件を満たすと発動できる。ただし、今のところ1人につき最大2個までしか『能力』が発現していない。また、『能力』を発動できる人間はまだ全体の約10パーセントである。

 しかしこのような人間の進化を誰が予想できただろうか。何百年も前までは魔法などと呼ばれたものが今では条件はあるものの、使える人間が出てきたのだ。もしかしたらこれは神にも予想できなかった進化なのかもしれない。

 

 

エレナ・リノーア著 「この世の進化」より一部抜粋

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 

「暇だ……」

 

 ため込んでいた漫画を全部読んでしまい、面白そうなテレビ番組がない事が分かるとついつい呟いてしまった。今は平日の午後2時。俺は自宅で、昨日命がけで魔物と戦っていたとは思えないほど平和な1日を過ごしていた。

 

 結局、俺たちがレッドドラゴンを倒した後、1時間後に俺たちを救出するためのラントを隊長とする部隊が到着した。ラントは到着した時、レッドドラゴンを俺たちが倒したのに驚いていたものの適切な指示で部下に俺たちの応急処置を施させ、地上まで連れ出してくれた。俺たちはそのまま一様、聖都の病院まで送還されて検査をされた。もちろん命の危険があるような怪我はしていなく、4人とも入院までには至らなかった。

 

 そして俺たちはその場にいたエレナの指示でダンジョン探索を止めることとなる。本人曰く、「もうあそこに用はない。それよりも、もっと面白いもといお前たちの良い経験となることを見つけたからそれまで体を休めていろ」らしい。一瞬、本音がもれていたが全員疲れで反応する余裕はなかった。

 

というのがこれまでの経緯だ。

 

「エレナも朝早く学校に行ったし、他の3人も久しぶりの1人の時間を楽しみたいと思うし、どうしようか」

 

 そう言えば、今日の朝エレナは少し気分が良かったな。なんか今度は『当たり』だとか何とか。新入生の誰かが気に入ったのだろうか。もしそうだとしたら、その新入生はどんまいとしか言いようがないな。

 

 エレナはすべての才能がある人に『当たり』と『はずれ』に分類している。評価基準は分らないが今のところ、『当たり』は4人しかいないらしい。もちろんその4人とは俺達の事だ。今回ラントが『はずれ』だったから病院の時は機嫌が悪かった。もし今回が本当に『当たり』だとしたら晴れて俺たちの仲間入りをし、エレナに振り回される日々が幕を開けるだろう。そんな滅多にない、というか俺たち以外1度もなかったことなどどうでも良いが。

 

「まぁ今朝機嫌が良かったからいいか」

 

 ちなみに、エレナは機嫌が悪いと本当に面倒くさくなる。1回本当に機嫌が悪くなった時があったのだが、それはまた今度話すとしよう。はっきり言ってあまり思い出したくない……。

 

「ん?」

 

 俺が思い出したくないことを思い出しそうになり、無理やり記憶の片隅にしまおうとしていた時、俺の携帯が大きな音で部屋になり響いた。どうやらリアかららしい。

 

「大変だよ!」

「どうしたリア、お前も暇なのか?」

「あ~、超暇!これからどっか遊びに行く?」

「それもいいが、もう午後だしどうせだったら後日4人で遊ばないか?」

「それもそうだね、じゃあ私は久しぶりの休日をゆっくりと家で過ごすよ。じゃ、また!」

「ああ、また」

 

 短い会を終えると携帯をきり、ソファーに放り投げる。

 

………………………………………ピリリリリリリ!

 

1分くらいするとまた電話がかかってきた。

 

「もしもし」

「じゃなくて!大変なんだってば!!」

 

 やっぱりあの短時間で目的を忘れてたか。昔と変わらずこいつって、本当にバカだな。

 

「なんか失礼なこと考えてるでしょ」

「ああ、リアは昔から変わらずバカだな~て」

「バカだな~て、じゃないわよ!次会った時覚えてなさいよ!」

 

 そっちこそしっかりと覚えてとけよ。

 

「で、用件は?」

「そうだった!テレビつけてみて!」

 

俺はそう言われると机にあるリモコンを使ってテレビをつける。すると、ちょうどニュースが放送されており、すぐにリアが言いたいことが分かった。

 

「このたび、聖都ルドリアを含めた「永遠のエネルギー」を持つ3国で、初めてとなる騎士の交流戦が開催されるとの情報が入りました。詳しくは後日話されるとのことです。では次のニュースです……」

 

「……これはエレナが好きそうだ」

「やっぱり?」

 

 俺はテレビを消すと大きく深呼吸をして、リアにこう言った。

 

「せっかくの休みだし、これから4人でどっか行くか」

「うん、私もそう思ってたところ」

 

 俺は電話を切ると、すぐに他の2人にも電話をかけた。この1日だけの貴重な休みを存分に楽しもう。心からそう思った。

 

 

 

 

 

次回、三国対抗騎士交流戦編 開始

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第7話を最後までお読みいただきありがとうございます。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。用事の方が落ち着いてきたので、投稿スピードが少し早くなると思います。
そして、お気に入り登録をしていただいた2名様、本当にありがとうございます。

これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。


最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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1章 三国対抗騎士交流戦編
第8話


更新が遅れてしまい申し訳ございません!


 無数の高層ビルが建ち、自然が少ないこの国では貴重な緑を多く見ることができる公園のベンチに座りながら、俺は幼馴染3人を待っていた。

 俺を含めた4人で学校に行くために、ここで待つ合わせをするのはいつも通りの事だが今日は少しいつもとは違うところがあった。

 

「あら、リョウが1番最初にいるなんて、珍しいことがあるんですね。今日は雨でも降るのでしょうか」

 

 そのいつもとは違う部分を言ってくれた、黒髪ロングの女性の名前はシズ・アルノール。俺の幼馴染の1人だ。

 

「今日の降水確率は1日を通して0%だ。」

「ふふっ、冗談ですよ。それにしても本当に今日は早いんですね、何かあったのですか?」

「いや、特に何かあったわけじゃないんだけど久しぶりの学校だから、楽しみで体が勝手に家を出てたんだ。少し子供っぽいけど」

「気持ちは分かりますよ。私も今日は楽しみでしたから」

 

 学校というものは不思議もので、毎日通っているとだんだん同じ生活に飽きてきて、行くの面倒くさいと思ってしまうが逆に長期の休みなどで学校に行っていなければ、久しぶりの学校が楽しみで仕方がなくなる。

 俺たちの場合は始業式の時を除くと、本当に久しぶりにちゃんとして学校生活を送ることができるのだ。

 

「お~い!」

「そんな話をしていると、私たちの中で1番学校を楽しみにしてそうな人が来ましたね」

「あれ!?リョウ、今日早くない?」

「珍しいこともあんだな、雨でも降んのか?」

 

今来たこの2人もシズと同じく俺の幼馴染で、俺を見てびっくりしたように声をあげた、ショートヘアの元気な女性がリア・ルノア、身長が高く、がっしりとした体形で今俺にシズと同じことを言ってきた男性がコウタ・ソラルだ。それにしても、

 

「そんなに俺が早いのが珍しいか?」

 

俺の問いかけに3人は少し考えると、

 

「だって、ねぇ……」

「リョウは来るのいつも1番最後ですし……」

「珍しいっつうより、俺達より早く来たの初めてなんじゃねぇのか?」

「……まぁね」

 

 ぐうの音も出ない答えが返って来た。結局は自分の日ごろの行いが原因……

 

「でもさ、1番最後なのに遅刻したことはないんだよね~」

「そうなんですよね。遅刻はしてないから文句が言えないんですよ」

「つまんねぇの」

「なんでだよ!別に時間通りに来てんだからいいだろ!そんなあきれたような顔をするな」

 

 それにコウタ、お前今なんつった!?

 

「まぁいいでしょう。そろそろ時間ですし、おふざけはここまでにしてそろそろ行きましょうか」

「さんせー!」

「ああ」

「……納得がいかない」

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 学校に着くと学校の桜が結構散ったな、というのが俺が1番最初に思ったことだった。4月1日、始業式の日から4日がたち今日は4月5日。ほとんどの桜が散ってしまうのは当たり前なのだが、それでもその4日が1日にも思えた俺にとっては、目に留まった大きな違いがそれだった。

 俺達4人は昇降口で学校指定の運動靴に履き替えると、それぞれ別れを言ってそれぞれの教室に向かう。今年は4人ともきれいにクラスがばらけてしまった。俺が1組でシズが2組、コウタが3組でリアが4組だ。俺たちの学年は全部で10クラスなのできれいに数が並ぶのは珍しい。それはさておき、

 

「そういえば初めて会う人もいるのか」

 

 クラス替えをしたから当然、知り合い以外の人もいるわけだ。新クラスになって早々休んだからクラスになじめるか心配だが……まだ5日目だし、何とかなるだろう。

 俺はそう勝手に結論づけると教室の後ろの自動ドアから教室に入った。前からは流石に入りずらい。

 教室に入ると何人かの生徒がそれぞれ固まって談笑しているのを視界に入れながら自分の席を探す。

 

「お前の席は俺の隣のそこ」

 

 席を探していると、俺が立っている位置の真後ろの席から聞いたことがある男性の声が聞こえてきた。

 

「よっ、久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな。ソラ」

 

話しかけてきたのは去年のクラスメイトで、今日もワックスでキッチリ髪を整えているソラ・ワンドだった。

 

「始業式に見なかったんだけど、休んでたのか?」

「いや、いたんだけど終わったらすぐに呼び出しされてな」

「ってことは、またエレナ先生の手伝いで休んでたのか?」

「そんな感じ」

 

 俺たちが前回のような理由で学校を休む時、学校側にはエレナの手伝いと言ってごまかしている。エレナはこの国では地位が高い方だから学校側は何も言及してこない、というかできない。

 

「か~!いいなそんな美人と一緒に仕事とかうらやましいぜ!つーか、いつも通り幼馴染3人で行ったんだろ」

「まあ……」

「てことはシズさんやリアちゃんも一緒ってことだろ!ハーレムじゃねぇかこのやろう!」

「いや、コウタもいるから……」

 

 それにシズやリアはともかくエレナは女として俺はカウントできない。神だし。

 そんなことは口が裂けても言えず、ソラのハーレム談義?は続いた。

 

「つーか、俺も可愛い幼馴染が欲しい!俺も女の子に囲まれてウハウハしたい!」

 

 何を言ってるんだこいつは。

 

「ハーレムと言えば男の夢だろ!?1度は人生で体験したいだろ!?」

「お、おい。もうちょっと声を小さく」

 

 ヤバい、ソラのやつ声が大きくなってきて周りの人が興奮具合にも話の内容にも引き始めている(ほとんどが女の子)!

 そんなことを思っていても止められずにソラの興奮具合は上がってきている。もうソラが何言っているのか俺には分かりません。

 

「そろそろホームルームよ~、座った方がいいんじゃないかしらぁ~」

 

 もうダメか、そう思ったとき俺たちに声をかけてきた人物がいた。

 

「ダメよソラちゃん、そんなに変なことで興奮しちゃ。そんなことじゃ、いつまでたってもモテないわよ~」

「誰がモテないだ!ってお前かよ、ゴリ」

「そうよ~、さっきも言った通りあと1分くらいでホームルームだから座った方がいいわよん」

「分かったよ、リョウも悪かったな変なこと言い始めちまって」

「あ、ああ」

 

 そう言うとソラは自分の席に座った。それにしても、

 

「久しぶりだな、ゴリ」

「久しぶりね、リョウ。いろいろ話したいけどんホームルームが終わった後にしましょ、じゃあね~」

 

 そう言い残し、マッチョで去年と同じクラスだったゴリ・ピエールは自分の席に戻って行った。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 ゴリが戻った後、ちょうど鐘がなり俺も自分の席に着き、担任が来たところでHRが始まった。

 

「さて、今日ホームルームで話す内容はお前たちも、もう知っているであろう騎士交流戦の話だ」

 

 教室ががやがやし始めるのを担任の先生、ソロア・ロウ先生は目を鋭くしながら一喝して鎮めた。

 

「全く、人の話はしっかりと聞け。私も詳しいことはまだ聞いてないが、学校側から言われたことを要約して伝える。今回の騎士交流戦はプロの騎士ではなく、お前たち学生が主役だ。プロの騎士が戦うのはエキシビジョンで何戦かやるだけでそう多くはやらないらしい。」

「つまり、今回は俺達、若い騎士のレベルや実力の向上が目的ってことですか?」

「私もそれ以上は何も聞いてないからその答えには返答できない」

 

 男子生徒の質問にロウ先生は腕を組みながらそっけなく答える。

 先生も今日いきなり言われて本人もまだ困惑しているのだろう。クラスのみんなも同じようで、何人かがまた話し始めた。

 

「うるさい!でだ、その騎士交流戦に出る代表生徒を学校と国で決めるらしい。その評価にはこれまで、そしてこれからの成績や態度で決めるらしい。お前達全員に出場するチャンスはあると思え。以上、HRを終わりにする!」

 

 そう言うとロウ先生は教室から出て行った。

 

「ひゃ~相変わらず凄い覇気だなあの女先生は」

「ああ、去年と変わりなくて安心したよ」

 

 ちなみにロウ先生は去年の俺たちのクラスの担任だったりする。

 

「なんか面白いことになりそうじゃない」

「ゴリは出場を狙っているのか?」

「当然よ!全国にあたしの肉体美を見せつけるチャンスだわ!」

 

 俺たちの前にやって来たゴリはそう言い放ち筋肉を目立たせるようなポーズをとる。相変わらず凄い筋肉だ……。

 

「俺も出場を狙うぜ!何故なら……」

「「女の子にモテそうだからだろ(でしょ)」」

「その通り!」

 

 騎士交流戦の話を聞いてもいつも通りの2人だった。

 

「リョウちゃんも出場狙ってるの?」

「俺か?俺は……」

 

 そう言いかけると1時間目予鈴ともに授業担当の先生が入って来る。それと同時に俺たちは話を止めて授業の準備に取り掛かる。

 

「みんな準備が終わったな。じゃ、始めるぞ~」

 

 そう言うとさっそく黒板に何か書きだす。俺は板書を移しながらさっき俺が言えなかったことを誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。

 

「俺はどうせ強制だからな」

 

 また面倒ごとが起こるだろうが、それまでのこのいつも通りの日常を楽しもう。そう思いながら、俺は授業に耳を傾けた。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第8話を最後までお読みいただきありがとうございます。
また、お気に入り登録をしていただいた1名様、本当にありがとうございます。

これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。


最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


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第9話

「マジかよ……」

 

 朝のHWが終わってから時間はたち、今は4時間目と5時間目の間の昼休み。俺はナスタ遺跡の調査中よりも不安に駆られていた。

 

「まさか今日の1から4時間目の授業が全部復習テストだったとは」

 

 今の俺の机の上には「再試験」と大きく書かれたテストが4枚広げられていた。騎士を育成するための学校とは言え、俺たちは学生。少し戦いが強いだけでは生きていけないのである。

 

「語学、数学、理科に社会。見事に全部再試験かよ」

 

 ソラが呆れたような視線を俺に向けてくる。何か言い返してやりたいのだが全テスト90点越えに全教科30点前後のやつが何を言っても虚しいだけだ。

 

「まぁでもしょうがないんじゃないかしら?リョウは去年の後期あまり学校に来てないんだし」

「甘やかすなよゴリ、そんなのはただの言い訳だ。きっと美人と戯れすぎてばちが当たったんだ!」

 

 フハハハハと高笑いするソラ。そんなんだったらコウタも同じだろう。ちなみにコウタは全テストしっかりと合格点を取ったらしい。そんなわけでこの結果は俺の自業自得である。

 

「はぁ……なんかテンション下がった」

「んもうリョウ、昼ご飯でも食べて元気出しなさいな!次の時間は特訓なのよ、リョウの得意分野でしょう。ソラも高笑いはそこまでにしておきなさい」

 

 ゴリの言う通り気分転換にさっき買ったパンに食らいつく。やけ食いは得意分野だ。

 しばらく食べるのに集中していると、俺の隣でゴリに注意されて、静かに弁当を食べていたソラがふと何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そいや特訓の授業にテストなんてあったっけ?」

「そういえば……」

 

 特訓の授業ではその名の通り騎士になるための力をつけるために特訓する授業だ。ここにいる生徒たちはこの授業を受けるためにこの学校に来ていると言っても過言ではないため、すべての生徒がしっかりとこの授業を受けている。そしてこの授業にテストはなく、あるとしても模擬試合のトーナメント戦だけだ。

 

「でもさっき先生が言ってたわよね、特訓のテストも頑張れよって」

「それってただ単に先生が言い間違えただけなんじゃないのか?」

「そうかしら?」

 

 ……何か気になるな。今からできることはないから注意だけしておこうか。そう考え、パンの最後の一切れを口の中に放り込む。ご馳走様と言い、手を合わせ終わると、ちょうど俺と同じように昼食を食べ終わったソラとゴリが俺をじっと見ているのに気が付いた。

 

「な、なんだよ」

「いや、その……お前あの量のパンよく全部食ったな」

「20個以上はあったわよ……」

 

 確かに少し食いすぎたし、俺の財布に小さくはないダメージは受けたが後悔はしてない。昔からストレスが溜まった時は食べてしまうのだからしょうがないのだ。

 

「そんな目で見るな。ほら、もうそろそろ運動着に着替えにいくぞ!」

「へいへい」

「分かったわよん」

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「あ!リョウだ~」

 

 5時間目の為に運動着に着替えて特訓場に来ると、リアが俺の方に小走りで近づいて来た。リアがここにいるということはこの授業は1組と4組の合同授業らしい。

 

「おう、今朝ぶりだな」

「そうだね……リョウはテストどうだった」

 

 少しげっそりした様子で俺に聞いてくる。こいつもやっぱり俺と同類か……うれしくはないが。

 

「俺は全教科再テストだ」

「やった~!仲間がいた~!コウタもシズも全部合格したらしかったから心細かったよ」

「頭の良さがお前と同レベルみたいでなんか屈辱なんだが」

「ちょっと!それじゃ私が頭が悪いみたいな言い方じゃない!」

「違うのか?」

 

 「も~!」と言いながらリアが俺の体をポカポカ叩いてくる。ちなみに俺は決して頭が悪いわけではない。しっかりと勉強すれ良い点数は取れるのだ。誰でも勉強すればテストで点数が取れる、なんて言ってはいけない。

 

「相変わらず、あなた達は仲がいいわね」

 

 筋肉を際立たせるぴっちりとした運動着を着たゴリが特訓場の入り口から向かってきた。後ろにはソラもいる。

 

「あっ!ゴリちゃん久しぶり、元気にしてた?」

「ええ。私は心身共に健康だったわよ。この筋肉にも磨きがかかったわ!」

「ソラ君も久しぶり!」

「ひ、ひさし、久しぶりです!リアさ、さん!」

 

 リアの挨拶にゴリは筋肉を見せつけながら、ソラはがちがちに緊張しながら返事をする。ゴリはいいのだが、ソラは普段からモテたいモテたいと連呼してるくせに女子の前だとこのように緊張してしまう。これが、顔が整っていて、いいやつなのに女子と付き合えない理由の1つだったりする。

 

「それにしてもリアちゃん、特訓の授業にテストがあったなんて知ってた?」

 

 ゴリの質問にリアが首を横に振る。

 

「ううん。私も初めて知ったよ。テストが終わったばかりで頭が疲れてるのに最悪だよ~」

「……そうゆう事か」

「リョウ何か分かったの?」

 

 リアの問いに俺が口を開こうとすると、ちょうど先生から集合がかかってしまった。

 

「あっ、私もうクラスに戻るね!じゃあ、また後でね~」

 

 手を振りながらリアがクラスメイトのところに戻って行った。

 

「さて、私たちも行きましょ」

「そうだな。それにしても、リアちゃんはやっぱり可愛かったな~」

 

 2人も同じように歩いて行こうとする。リアは大丈夫だと思うが、2人には一様言っておくか。

 

「2人とも、少し待ってくれ」

 

 俺の声に2人が振り向き、どうしたのか聞いてくる。

 

「これから授業が終わるまで、一瞬たりとも集中を切らさないでくれ」

「あら、これまたなんで?」

「さっき言いかけたことと何か関係があるのか?」

「ああ、まぁ「おい!そこの3人、早く集まれ!」」

 

 大きな声が聞こえた方を振り向くと、ロウ先生が俺たちの方をにらみつけていた。どうやら俺達以外は全員集まっているようだ。早くいかないとロウ先生の機嫌がどんどん悪くなってしまう。

 

「説明を受ける暇はなさそうだな。まぁ忠告通りにしとくぜ」

「ええ、そうね。リョウのアドバイスはいつも役に立つしね」

 

そう言うと2人は今度こそクラスが集まっている場所に向かった。その後、深呼吸をすると俺も少し小走りで、2人の後を追いかけた。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「よし!みんな集まったな」

 

 1組と4組のクラスが全員いることを確認すると、ロウ先生が前に立ち話始める。

 

「さっそくだがテストを始める!」

 

 ロウ先生がそう言うと周りの3人の先生たちが俺達から距離を置いた。やっぱりそういう事か。リアも気が付いたようでいつでも動けるような体制をとっていた。ソラとゴリも先生の意図に気が付いてはいないようだが、俺の助言を守っていて集中しているようだった。

 

「では、武器の展開と身体の強化を始めろ」

 

 先生の指示通り、身体に強化を施し、俺の武器である大剣の刀身を展開する。刀身の色は訓練用の青色だ。ちなみに赤色は相手の命まで奪うが、青色はただダメージを与えるだけで、命には別状がない。

 俺が刀身を展開してから3秒くらいたった後、急に地面が青く光り始めた。

 

「っと!」

 

 俺はそれに反応し、青く光っている地面から脱出する。その直後、青い光は反応できなかった生徒を呑み込み、パリン!と音を立てて生徒とともに消えた。消えた生徒は訓練場の観客席に移動している。どうやら、訓練場に設定された以上のダメージを受け、はじき出されたらしい。

 周りを見渡すと残っている生徒は全体の4分の1くらいだった。どうやらテストには合格したようだ。よかっ「リョウ!」……っ!

 

「ほう、よく今の一撃に反応したな」

 

 リアに呼ばれた瞬間、大剣を横に振りロウ先生が投げたであろう短剣をはじいた。背中に冷や汗がつたっていくのが分かる。リアに呼ばれなかったら今頃、俺は観客席にいるだろう。

 まったく、さっき2人に集中するように言ったのに自分が集中を切らしてしまうとは情けない。

 

「さて、ここにいる諸君。武器を構えろ、その時間はやる」

 

 その言葉を聞き、俺を含めて残っている全員が武器を構えて目の前の敵に意識を集中させる。俺達の敵、ロウ先生は全員が武器を構えたのを確認すると自分も武器の短剣を構えた。

 

「さて、ここからが本当のテストの時間だ」

 

 ロウ先生は不敵に笑いながらそう言い放った。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第9話を最後までお読みいただきありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


私のカルデアにマーリンは来なさそうです……




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第10話

更新の間隔が長く空いてしまって申し訳ありません!


 それは一瞬の出来事だった。ロウ先生が不敵に笑い、残っている俺たちが武器を構えた瞬間。

 ロウ先生の首が落ちた。なんの前触れもなく、いきなりだ。このフィールドに残っている者、そしてこの戦いを見ている者も反応出来なかっただろう。俺もその一人だった。

 首が地面に落ちて間もなくして、首がないロウ先生の体が人形のように倒れた。その代わりに女子生徒、ロウ先生の首を狩ったであろう本人がただ1人立っている。

 俺はその女子生徒が誰だか認識すると、思わずその者の名前を叫んでしまった。

 

「リア!」

「分かってる!」

 

 俺が叫ぶと同時にその女子生徒、リア・ルノアは後ろに振り向きながら自分の剣を振りぬいた。その瞬間、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

 

「まずい……」

 

 俺はすぐに隠し持っていたナイフを戦っている二人の間に投げ、リアが逃げる隙を一瞬だがつくった。リアは俺の考えを察したのか俺がつくった隙をうまく使い戦闘から離脱をして俺の隣まで後退してくる。

 

「ルノア、お前の能力は知っていたが流石に今のは驚いたよ。」

 

 首と胴体がつながっているロウ先生がリアに話しかける。その声はさっきまでの余裕があるようなものではなく、敵を前にしたような真剣な声だった。

 

「手ごたえはあったはずなんですけど……流石は『不死』といったところですか?」

「やめてくれ、それはもう3年前の呼び名だ。もうそのように呼ばれるような実力はもうないよ」

 

 『不死』、それはロウ先生がまだ現役だったの頃の二つ名だ。ソロア・ロウの能力は『自分が受けたダメージを自分と瓜二つの何かに肩代わりさせる』という能力。この能力のおかげで彼女は何をされても死ぬことはなく、そして数々の功績を上げたことでつけられたのがこの二つ名だ。

 

「だが、この能力にも弱点はある。1つ目が自分と瓜二つのなにかを創れるのは半年に1個。2つ目はそれを貯められる個数には上限があること。3つ目は無意識に貯めているものにダメージを肩代わりさせることができないこと」

 

 リアは3つ目の弱点を狙い、ロウ先生が能力を発動させる暇を与えずに倒そうとした。だけど……

 

「それは読まれてたってことか……」

「教師なのでね、生徒の能力はすべて書類で見たよ。ルノア、お前の能力は私の能力の弱点を正確に突くことができるからな。警戒はしていた」

 

 リアは少し悔しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締めた。すぐに気持ちを入れ替え、次に自分が何をするべきか考えられる、リアの強みの1つだ。

 

「さて、少し話しすぎたな。次は私から動くとしよう」

 

 そう言った瞬間、ロウ先生は俺たちに向かって走って来る。俺たちも応戦できるよう神経をとがらせた。そして俺の大剣が届く範囲に入ると、彼女の姿がいきなり消えた。

 

「上よ!!」

 

 消えたのではなく、ロウ先生は俺たちの上を飛び越えていた。

 

「くそ!早すぎて目で追えなかった」

 

俺が大剣を振るうよりも早く、ロウ先生は着地をして俺達とは別の生徒へと接近して行った。まだうまく状況が呑み込めていない生徒へと。

 

「え……」

 

 男子生徒が思わず声を出すと、その瞬間彼の姿は消えた。これで終わりではなく、次々と生徒がこのフィールドから消えていく。

そして、彼女のナイフがゴリとソラを切り裂こうとした瞬間……

 

「ぐっ……」

 

 俺の大剣の刀身と彼女のナイフが触れ合った。

 

「ほう、大剣を持っているのにそのスピード、流石だな」

「そりゃどうも!」

 

 俺はナイフを先生ごと力で押し、体勢が崩れたところで蹴りをいれた。ロウ先生はそれを後方にジャンプすることでうまくいなし、俺と距離をとる。

 

「ちょっと、何が起こったの!?」

「どうやら、リョウが俺たちを助けてくれなかったら今頃俺たちは観客席送りにされていたらしい」

 

 だんだん状況が把握できて来た2人に俺は動くなと声をかけると、ロウ先生の方へ向かう。

 もうすでにリアと戦っていたところに俺は隙を突いて攻撃するが、先生はナイフで大剣をいなしてうまくよけ、逆に俺の心臓を狙いナイフを振るう。体をそらしてそれをギリギリで避けると俺は大剣を薙ぎ払うように横に振った。先生がジャンプして避けたところを、リアが着地点を狙って攻撃しようとするが、先生が空中から投げたナイフで阻まれてしまった。

 

「やっぱりキッツイね」

「攻撃を止めるな、もう一回行くぞ!」

 

 俺たちはもう一回攻撃を仕掛けようと足を一歩前に出す……な!?

 

「う、動かない」

「な、なんで!?」

 

 体が金縛りにあったように動かない。指はかろうじて動かすことができるがそれ以外がまったく動かせない!

 

「短期決戦を仕掛けようとしたのは良かったが、攻撃することに気を取られすぎたな」

 

 ロウ先生がこっちに向かって歩いて近づいて来るが何もすることができない。俺たちが今動けない理由は多分……

 

「糸だね……」

「ああ、更に『永遠のエネルギー』を使った特注品みたいだな」

「敵につかまっているのに冷静にそこまで考えられるとはな。流石、先輩の弟子たちというところかな」

 

 ロウ先生は俺たちの前まで来るとナイフを取り出す。

 

「悪いが、これで終わりだな」

 

 そう呟くと、俺たちの首めがけてナイフを容赦なく振るってくる。このナイフは間違いなく俺たちをこのフィールドから退場させることができる一撃だろう。

うまく当たれば、の話だが。

 

「私達を!」

「忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

ナイフが俺たちの首まで届く直前、ロウ先生は後ろに下がった。その後、俺たちを守るように2人の生徒が前に立つ。

 

「助かったよ、2人とも」

「ごめんなさいね、遅れて」

「これでさっきの借りは返したぜ、リョウ」

 

 2人の生徒、ゴリとソラがそれぞれの武器、ガントレットとレイピアを構えていた。そのすぐ後に無数の矢が俺たちを縛っている糸を切った。

 

「リアちゃん大丈夫!?」

「大丈夫!ありがとうモエちゃん!」

 

 モエと呼ばれる女子生徒がリアの方に走って来る。弓を持っていることから彼女が糸を切ってくれたのだろう。お礼を言いたいがそんな場合ではない。

 

「それでリョウ、これからどうする?ロウ先生がさっきからこっちに殺気飛ばしてくるんだけど」

 

 ソラが俺に聞いてくる。俺の後ろに隠れていなかったら、少しかっこよかったのに。いや、そんなことは今はどうでもいい。

 

「とりあえず、俺とリアがまたさっきみたいに突っ込むから、そのサポートを他のみんなはしてくれ」

 

 詳しく作戦を話す時間はないのですごくザックリとした説明になってしまったが、みんなは納得してくれたようで頷いてくれる。

が、やっぱり例外はいるようで、

 

「ふざけるな!なんで僕たちが貴様の命令に従わなければいかないんだ!」

 

 俺に反論してきたのは金髪の青年だった。後ろに嫌そうな顔をしている2人の男子生徒もいる。この3人は確か俺と同じクラスだったか。

 

「はぁ?何言ってんだ、この状況では今のがベストだろ」

「ベストではない!僕たちが先行して攻撃をするのがベストだ!何故なら、僕たちはこいつよりも強いからなぁ」

 

 ソラの言葉に青年は俺に指をさしながらドヤ顔で言ってくる。

 

「あなた、さっきまで何も出来なかったくせによくそんなことが言えるものね」

「動けなかったのではない、動かなかったのだ!」

「なにわけの分からないことをほざいているのか」

 

 ヤバい、ソラとゴリが男子生徒たちと喧嘩し始めた。そこにリアのクラスメイトの女子生徒もソラとゴリに加勢をしてヒートアップしていく。

 それにしてもなぜ、こいつらは今になって目立とうとしているのか。

 俺は考えているとリアに肩をつつかれる。リアの方に向くと、本人は観客席の方に向かって指を刺していた。俺はそっちに目線をずらすと、いつからいたのか分からないが見知った女性が1人、ニヤニヤしながら座っていた。

 その瞬間、彼らの行動のすべてを理解する。まったく、アピールはもっと他の分野ですれば良いものを……

 

「貴様ら!戦いの最中になにをくだらない事で言い争っている!」

 

 いつの間に俺たちの近くまで来ていたロウ先生の一喝でみんなが一気に口を閉じた。

 

「ありゃ、もう戦いはいいんですか?」

「タイムアップだ」

 

 ロウ先生は呆れ顔でリアに答える。そんなこんなで、急に始まったロウ先生との戦いは、なんとも後味の悪いまま終了してしまった。




こんにちは、だゆつーと申します。
第10話を最後までお読みいただきありがとうございます。

そして、お気に入り登録をして下さった1名様、本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


FGOの巴御前が可愛い……




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第11話

「ふぅ……」

 

 久々に感じた肉体的な疲労に思わずため息をついてしまう。現役を引退してから確かに武器を持つ機会はは減ったがまさか自分がここまで弱体化しているとは思っていなかった。

 

「本当は全員倒すつもりだったんだがな……」

 

 倒さなかった、ではなく倒せなかった、がこの場合正しい言い方だろう。自分の腕が鈍っているのもあっただろうが、やはりあの2人の存在が大きかったのだろう。

 先輩に選ばれたにも関わらず取り込まれなかった4人。最後に変な騒ぎを起こした3人。あの3人は選ばれなかったに取り込まれた。しかし、あの4人は彼らよりもずっと近くにいるのに自分の意思をしっかりと持ち、自分の目的の為に歩いている。あの4人と3人は何が違うのか、武の強さか、心の強さか、はたまた育ってきた環境か。今日実際戦ってみて答えが出ると思っていたがそんなことはなかった。

 唯一分かったのは、今まで自分が考えてきた違いではなかったということ。確かに武に関しても、心の強さに関しても、あの3人より今日の2人の方がずっと強いというのは感じた。育ってきた環境も、きっと私には考えられない環境で育ってきたであろうことも。しかしそれらは決定的な違いではなかった。

 

「一体何が違うのか、あの4人と、私たちは……」

 

 私の呟いた言葉は誰にも届くことはなく、静かに薄暗い空間に溶けていった。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「てことがあったんだよ~」

 

 予想してなかった戦いから時は過ぎ、今は放課後。俺はいつもの3人と一緒に家に帰っていた。横では今日の出来事をリアが他の2人に話している。ちなみにコウタとシズも俺達と同じことが起こったそうだが、俺とリアのクラスが合同だったように、コウタとシズのクラスで合同だったらしい。2人の方は俺達より残った人数は少なかったものの、最後には相手の教師を戦闘不能まで持っていったという。少し悔しいが、俺たちの実力不足と相手が悪かった、というふうにしておこう。

 

「それにしても、最後はしけた終わり方だったよね」

「ああ、あの3人のことか」

「聞いた話では、そいつらはエレナ信者らしいじゃねぇか」

「運が悪かったですね。エレナとよく一緒にいる私たちはただでさえ、そういう人たちに狙われやすいのに、その中でも特にあなたは……」

「ああ、殺気が飛んでくるのは、もはや日常だ」

 

 エレナに一回でも目を付けられた人の約10割は、今日の3人のようにエレナを信仰するようになる。目を付けられただけでなく、少し話しただけなのにそうなる人もいるのだから恐ろしい。ちなみに約10割とわざわざ約をつけたのは、そうならない人も数人いるからだ。俺たちのように。

 話が少しそれたが、そのエレナを信仰する人間が多くなってきて、まるで宗教のようになってしまったため、エレナ教と俺たちは勝手に呼んでいる。そいつらはシズが言った通り、俺達を恨んでいる……というよりは嫉妬しているのだろう。その中でも、俺はエレナの養子で一緒に暮らしているためか、特に当たりが強い。命だって危なかったことがある。以前、流石に我慢できなくなりエレナにどうにかするように頼んだが、

 

『どうにもならんさ。むしろ私にとってはうれしいことだ!創造神で信仰されるだけでなく、人間としても信仰されるとは!まさに理想の神様だな私は!!ハッハッハ!』

 

 と言われた。思わず、剣で攻撃をしてしまった俺は悪くないはず(結局、全部かわされたが)。どうやらエレナは俺たちがこのような状況に置かれていることを楽しんでいるようだ。

 

「で、結局何も改善せずに月日が過ぎてしまった」

「何というか……ドンマイ」

 

 俺は空を見上げる。ああ、今日はきれいな夕焼けが見れるなぁ……。

 

「そ、そういえば交流戦は何どこで開催されるのでしょうか?」

「確かに、なんも聞いてないな」

 

 どこか遠い目をしているであろう俺に気を使ったのか、シズが無理やり話題を変えてくる。

 

「どうせだったらどこか他の国に行きたいな~」

「なんで俺たちがもう代表生徒になった前提で話が進んでんだ」

「まぁどうせ選ばれるだろうけどな」

 

 そう、どうせ選ばれる。俺たちの平穏な日常が長く続かないのはもう長いようで短い月日の中で知っている。

 

「そういえば、私たちは他の国に行ったことがないですね」

「確かにな。自分で言うのもなんだが、なんか意外だな」

「私達ってしょっちゅうこの国の外に出てるけど、思い返せば楽しい記憶が1回もないよねぇ……」

 

 今度は俺だけでなく、4人全員でどこか遠い目になる。「ママ~、なんであのお兄ちゃんたち動かずに空を見上げてるの?」「しっ!見ちゃいけません」

 

 コホンと再生の早かったシズの咳払いで現実に戻って来る。

 

「確かに、どうせどっか行くのなら他の国に行きたいですね」

「俺は共和国に行きたいかな。食べ物がおいしいって有名だしな」

「俺は帝国だな。あの国独自の部品に少し興味がある」

 

 俺とコウタがそれぞれの願望を口に出す。それから、女子2人も加わり始め、自分たちが思い思いの意見を言いながら歩いているといつの間にか、朝の集合場所の公園に着いてしまった。会話が終わるのは名残惜しいが、それぞれ宿題やらなんやらで帰ると言っているので、今日はこのまま解散となった。俺も公園を離れ、家に帰って来た。

 

「ただいま~」

「やっと帰って来たか!お前の帰りが待ち遠しすぎて思わず世界をもう1つ創ってしまうところだった」

 

洒落にならない。

 

「で、なんで俺の帰りが待ち遠しかったんだ?」

「なんとな、交流戦の開催する場所が決まった!」

 

 いつもならこういうことはスルーするのだが、さっきまで話していたこともあってエレナの言葉に思わず耳を傾けてしまう。

 

「そしてその場所だが、まだ公式に発表されない機密事項なのだが特別に教えてやろうと思ってな」

「まいど思うことなんだけど、その機密事項を毎回俺達に知らせていいのか?」

「細かいことは気にするな。私が知らせたいんだ、それでいいだろう」

 

 いいことはないのだが、流石に今回は気になる。もしかしたら……いや待て、何度それで騙されたと思ってるんだ!思い出せ!リョウ・リノーア。いつもこうやって期待したところで連れて行かれるのは森の中や山の中だっただろう。そう、今回もどうせそんなオチに決まって……

 

「開催するのは帝国だ。ボルマーレ帝国。『永遠のエネルギー』を保持している国の1つの」

「えっマジで?」

「マジで」

 

 開いた口がふさがらない。

 

「おいおい、流石にいつもみたいに私1人の独断で今回は決められんよ。3国が関わっているのだからな」

「それはお前が決めていたら変なところだったということにも受け取れるが」

「もちろん。とびっきり面白い場所にする。例えば会場に着くまでに参加人数が半分になるような場所とか」

 

 俺はこれからの期待でそれどころじゃなく、エレナが何か言ったような気がしたが耳に届いてなかった。

 

「そうそう、その顔が見たかったんだ。いや~リョウの珍しい顔が見れたことだし、少し私は最近買ったゲームでもしようかな。世界を早く救わねば」

 

 初めて他の国に行くのだからネットで何を持っていけばいいのか調べないと。いや、その前に3人に報告だな。そう思い俺は携帯を取り出す。きっとみんなも喜ぶだろう。

 

「この時、俺たちは思ってもいなかった。まさかあんな出来事が起きるなんて……」

「おいやめろ」

 

 勝手にフラグを立てるんじゃない。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第11話を最後までお読みいただきありがとうございます。

これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。


あらすじを書き直しました。



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第12話

・ボルマーレ帝国

 

 『永遠のエネルギー』を保持している3国の1つ。人口が3国の中で最も多く、敷地面積も1番広い。『永遠のエネルギー』を上手く使い、とてもユニークな進化を遂げた国である。それがどのようなものかは有名なのでこの本ではあえて明言せず、自分の目で直接見て欲しいとだけ書き記す。

 

 

エレナ・リノーア著 「この世の進化」より一部抜粋

 

 

 

 

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俺が対抗戦の開催場所を聞いた翌日、政府から正式にボルマーレ帝国が開催場所だと発表された。

そこからはとても忙しくなった。すぐに今回の代表選手が発表され、その代表選手は貴重な放課後を返上し、他国に行くのにあたっての手続きや対抗戦のスケジュール説明やなんやらで拘束されていた。もちろん俺達4人も代表選手に選ばれており、ここ最近ゆっくりした覚えがない。まぁそれでも眠たい目をこすりながら空いた時間で準備を進めて、俺たちはなんとか今、帝国行きの電車の中にいる。

 

「いやぁ!楽しみだね、帝国」

「うるせえ、俺は今寝ようとしてんだ。静かにしろ」

 

 と、言うわけで短い回想は終わりにして、今この状況を詳しく説明しようと思う。さっきも言った通り、今は聖都の代表選手を乗せて帝国に移動している最中の電車の中。俺達4人は1つの机を囲んでいる座り心地の良い席に、2手に分かれて机を隔て向かいあう感じで座っている。

 そして俺の前では、興奮を隠しきれないリアが寝ようとしているコウタに注意されている。ここまでは普通のよく見ているやり取りだ。ただし2人の目の下に普段は見られない大きな隈がなければの話だが。最近忙しかったと冒頭説明したと思うが、少なくとも俺が今までの人生の中で経験したことなかったほどだった。

 必要な書類は机の上に山のように積まれ、ボールペンできれいな字を意識しながらその書類に必要事項を書かなければいけない。間違ったらもう1度やり直し。今のこの時代に何故、紙にこのようなことを書かなくてはいけないのか。パソコンではだめなのか。何度そう思っただろうか。

 そしてやっと書き終わったら、帝国に行くときの注意事項と帝国の歴史について何日かに分けて説明された。前者は分かるが後者は完全に蛇足だ。修学旅行か。

 結局全部終わったのが一昨日で、昨日寝ないで荷物の準備をしていた。そして今日この有様である。俺達以外の生徒も一緒だったのか、電車の中の雰囲気が完全にどん底である。唯一、リアはいつも通りに見えるが、隈を見る限り完全な深夜テンションだ。

 

「リア、本当に静かにしてもらえませんか」

 

 俺の隣のシズが少し鋭い声で言い放つ。穏やかな性格で、あまり感情を表に出さないシズがこうなのだから相当ストレスが溜まっているのが分かる。女子は男子より用意する物が多そうだし、きっと大変だったのだろう。

 

「しょうがない、最後の手段にでるか」

 

 俺はまだ口を付けてないペットボトルのお茶を取りだしてキャップを開けると、ほんのちょっとだけ細工をほどこした。

 

「リア、1回これでも飲んで落ち着け」

「おお~ありがとう!ちょうどのどが渇いてたんだ!」

 

 リアはペットボトルを俺から受け取ると勢いよく飲み始める。お茶を半分くらいまで飲みほしてペットボトルを俺に返すと、そのまま倒れるように眠ってしまった。床に倒れそうになるリアを支え、席に戻す。

 

「こういう時の為にエレナからもらっといた睡眠薬だ。持って来て良かった」

「いつもならあまり褒めるべき方法ではないのですが、今回は心の底から感謝します」

「ああ、助かったぜ」

 

 リアが眠りについた後、シズとコウタから10秒もたたないうちに寝息が聞こえてきた。周りからも聞こえ始めたのでリアがどんなに迷惑をかけていたのかが分かる。俺は1人で苦笑いをするとそのまま目をつぶり、みんなに続いて夢の世界へ旅だった。

 

「落ち着け、お前はまだ寝るのに早い」

 

 女性の声とそれと同時に襲い掛かって来た衝撃で目を覚ます。夢の世界へ行くどころかまだそこへ歩こうとしていない段階で現実に引き戻された。俺をこっちへ引き戻した本人を思いっきりにらむ。

 

「不機嫌って顔にでかく書いてありそうな不機嫌な顔だな」

 

 俺のにらみをまったく気にせず、俺をバカにしたような言葉を発したのは毎日嫌でも顔を合わしている女性、エレナ・リノーアだった。

 

「お前に手伝って欲しいことがある」

「嫌だ」

「おねが~い」

「可愛く言っても嫌だ」

「お・ね・が・い」

「色気を前面に押し出しても嫌だ」

「報酬は何がいい」

「俺の平和な睡眠時間」

「ふむ。まぁ隣の車両で待ってるからな~」

 

 スキップしながら隣の車両に移動して行ったエレナを見つめながら、大きなため息をつく。どうやら拒否権はないようだ。もう1度ため息をつくと、俺は重たい腰を上げてエレナの後を追いかけるようにして歩き出した。

 

 

 

 

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「いやはや、助かったよ。私一人だったら帝国に着く前に終わらせられなかった」

「嘘つけ、余裕で終わる仕事量だっただろ」

 

 2時間後、すべての書類をかたずけ終わった俺達はコーヒーをすすりながらゆっくりしていた。眠気も、手を動かしたり、途中エレナが俺に渡して来た謎の飲み物を飲んだせいでほとんど吹き飛んでしまった。ちなみにその飲み物は何なのかはいつも通りはぐらかされた。

 

「それで、わざわざこんなことの為に俺を呼んだんじゃないだろ」

「なんだよ、こんなこととは。本当に結構1人じゃ大変だったんだぞ。でも、今までのがちょっとした準備運動だったのは否定しないが」

 

 エレナはそう言うとピンク色のブランドものバックの中から電子式のファイルを取り出して俺の前に置いた。目線をエレナに向けると首を少し前に動かしてくる。読めってことらしい。

 さっそくスイッチを押し、出てきた画面を上から順に読んでいく。最初の方は本当にどうでも良い内容だったが、中盤に差し掛かるとさっきとは違う意味で残っていた眠気が吹き飛んだ。

 

「おいおい、これは……」

「まだ先の話になると思うがな。ま、何が言いたいか簡単に言うと本当に大変なのは交流戦が終わった後ってことだ」

 

 俺は最後までそれを読むとすぐにエレナに返した。想像してたよりもヤバい内容だった。

 

「それで、読んだ限りだとこの出来事の中心となるであろう人物がいるらしいが」

「ああ、もちろん見つけておいた。苦労したよ」

 

エレナはファイルをしまうと、それと交換するように1枚の写真を出して俺に渡した。俺は写真の人物を見た瞬間、驚きで目を大きく見開く。

 

「なんだ、知っていたのか」

「まぁな、そうは言ってもほぼ他人だけど」

 

 その写真の人物は、始業式の日に道案内をしてあげたピンク色の髪をした女子生徒だった。

 

 

 

 

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 俺がエレナと会話を終えて戻った頃にはもうそろそろ帝国に到着する時間で、生徒たちは全員起きており、電車から降りるために荷物をまとめているところだった。

 

「あら、どこに行っていたんですか」

 

 良い睡眠がとれたのか、スッキリした顔をしているシズが、あらかじめ持って来ていた紅茶を水筒からプラスチックのコップに注いでいた。ちょうど良いタイミングで戻って来たらしい。

 

「エレナに仕事を手伝わされてな」

「それは……災難でしたね」

 

 シズは苦笑いしながら俺にコップを差し出して来る。

 

「さあどうぞ。お仕事の終わりには温かい紅茶でゆっくりするのが1番ですよ」

 

 先ほどのエレナの話はまだしなくて良いだろう。何せまだ正確な情報は入ってきてないのだし、当分先の出来事になりそうだからな。俺はそう結論づけるとシズから紅茶を受け取り、帝国に着くまでのあと少ない電車の旅を楽しむことにした。

 車窓を見ながら、座り心地が良い席でおいしい紅茶を飲むという贅沢はそう簡単には味わえないだろうから。

 

 本当に余談だが、俺はコーヒーよりも紅茶の方が好きだ。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第12話を最後までお読みいただきありがとうございます。

そして新たにお気に入り登録をして下さった4名様、本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。

セイレム、個人的にはとても楽しめました。



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第13話

お久しぶりです。


 荷物を持ち電車を降り、初めて帝国の土地に足を踏み入れる。俺たちが着いたときは夜の8時くらいになっていたが、大きめの駅には人が溢れかえっていた。スーツを着た人や観光客らしい人、俺たちのように制服を着た学生もいる。帝国と言ってもそこらへんは聖都とあまり変わらないらしい。

 その中を俺たちは少し歩き、駅内にある少し大きなスペース、団体用スペースと地図には書いてあるがそこで俺たちは荷物を降ろした。立ちながら談笑して数分後、先生方の話が始まった。少し長かったので要点をまとめると、俺たちはこれから帝国内部に入り、ホテルへ直行してその後は自由行動になるらしい。

 交流戦は明々後日。明日は自由に観光をして明後日は交流戦の詳しい説明と、各自作戦会議に1日費やす。俺はチーム戦に出るのだがパートナーがコウタなので何も心配はいらない。2時間くらい軽い作戦を話して終わりだろう。

 いきなりだがチーム戦という単語が出てきたので、今回の交流戦の説明をしようと思う。詳しい話はいつかするので今は簡単に。今回の交流戦は第1回ということで、学校の運動会みたいに何種類も競技はない。大きく分けてたったの2つだけだ。それが個人戦とチーム戦。

 個人戦は1対1の戦いで、先にダウンした方が負けというシンプルなルールだ。チーム

戦は2対2、3対3があるが、違うのは人数だけ。ルールは個人戦と同じだ。

 さて、ちょっとした説明が終わったところで、順番ずつ生徒達が移動し始めた。俺たちが移動するのは少し先らしい。

 

「今日は寝ないで観光を楽しむぞ~!ねっ3人とも」

「いや、俺は寝るぞ」

「私もです。やっとしっかりとしたベッドで睡眠がとれますから」

「え~、そんな~!」

 

 横ではリアの徹夜で観光という意見がコウタとシズによってバッサリと却下されていた。2人に速攻で却下されていたが、リアの意見は分からないわけでもない。初めての外国で今回は何も厄介ごとが起きていない。こんな最高のシチュエーションはここ数年なかったからな、寝るのがもったいないという気持ちは俺も無いわけではない。

 それに帝国は層によって時間帯がずれているので、国全体で見ると朝、昼、夕方、夜が同時に起こっている。故に遊園地にカジノにショッピング、いろいろな娯楽が24時間いつでも楽しめるのだ。そしてこの大きさ、たった数日間寝ずに観光しても帝国の中の観光地の1割もまわれないだろう。全部まわるには少なくとも2、3か月は余裕で必要だ。

 だがそれでも、限られた時間の中でより多くの場所に行きたいと思うのは当然のことであって、それはここにいる生徒全員に当てはまるだろう。

 コウタとシズを攻めるのを一回諦めて、リアは俺の方を向いて太陽のような笑顔で俺に話しかけてきた。

 

「じゃあリョウ行こうよ!」

「嫌だ。眠い」

 

 即答だった。だって眠いものは眠いんだもん!

 

「リョウまで!」

 

 つまんない!と、だだをこね始めたリア。俺たちは思わずため息をついてしまう。こうなるとリアは面倒くさい。リアは俺たちの中で地味に1番好奇心旺盛だからな。初めて訪れた場所ではいつも以上にじっとすることができなくなるのだ。

 昔からこんな感じで誘って来たのを俺たちは初め何回かは断るのだが、結局押し切られて一緒に行く羽目になる。というのが何というか、4人で旅行へ行った時のお約束みたいなものだった。ほら、それを分かっているから他の2人も持参の観光ガイドをバッグから出し始めた。ていうか今回は行動が速いな。結局2人も観光か睡眠かは結構迷っていたらしい。

 そしてやはり、というか当然今回もいつも通りリアに押し切られた俺たちは多少の不満をリアに垂れ流しながら、動き始めた周りの生徒たちにつられて歩き始める。

 

「あら、観光なら私たちも一緒にいいかしら」

「せっかく帝国に来たんだから、寝るなんてもったいないぜ」

 

 歩き始めてすぐ、俺たちがこれからどこ行くか話し合っていると、聞き覚えがある声が聞こえた。振り返るとそこには、見覚えのあるマッチョと茶髪をワックスでばっちり決めた男性2人、俺のクラスメイトのゴリ・ピエールとソラ・ワンドが俺たちと同じように大きな荷物を持って歩いていた。

 

「おお、ゴリとソラじゃないか」

 

 俺は2人と軽い挨拶をするとそれにつられて他の3人も挨拶をする。

そういえば今回はこいつらも選ばれていたのだった。俺たちのクラスは試験で残っていた生徒が多くなかったので、最後まで残った生徒はそのまま代表に選出されていた。となると、あの俺たちに突っかかって来た3人も選ばれているわけだが……何もトラブルが起こらなければいいが。

 

「そぉいや、お前たちも選ばれてたな」

「ひどいわコウタ、私たちのこと忘れてたの!?」

「忘れてなかったから引っ付くな暑苦しい!」

「お久しぶりですね、ソラさん」

「お、お、お久しぶりです!シズさん!」

「もう、そんなに緊張しなくてもいいのに~」

「ひゃ、ひゃい!」

「ダメだこりゃ」

 

 っと少し自分の世界に浸ってしまった。俺の意識が現実に戻るとゴリはコウタと、ソラはシズとリアと話し始めていて、いつの間にか周りが騒がしくなってくる。さっきまでみんな眠気と戦っていたはずなのだがそんなこと、もう頭にないらしい。

 

「ま、この騒がしさは嫌いじゃないけど」

 

 俺はいつの間にか軽くなった瞼をこすり、観光用に買った本をバックから取り出して開いた。

 

 

 

 

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 団体用スペースから10分くらい移動して、俺たちは今エレベータの中にいる。そのエベーターは普通のビルにある大きさではなく、100人くらいが余裕で入りそうなエレベーターだ。中は赤いじゅうたんが敷かれていて、壁には高そうな絵がいくつか掛けられている。さっきのエレベーターホールには10台の同じようなエレベーターがあり、それらが俺たちが乗った場所だけではなく、何十か所もあるというのだからそれだけで帝国がどれだけ大きい国かは分かる。

 動き始めて5分くらいたったのだが、まだエレベーターが止まる気配はない。帝国は全部で地下108層からなっており、層から層への移動はこのようにエレベーターを使用する。

 ちなみに今俺たちが向かっているのは38層。帝国の中で観光地として有名な層だ。

38層ならばすぐに到着しそうな気がするが、こんなに時間がかかるということは1つの層にすごい厚みがあるのだろう。そのようなことを考えながら、エレベーターが止まるのを待つ。

 

『38層のホテル地区に到着しました』

 

 エレベーターに乗ってから10分くらいがたったのだろうか、アナウンスが流れた。エレベーターの動きがゆっくりと止まり、独特の浮遊を感じる。扉の上のホログラムに38と表示され、扉が開き始める。周りを見渡すと全員食いつくように扉の方を見ていた。

 そして、扉が完全に開くと外の光景、ボルマーレ帝国の地下の光景が初めて俺たちの目の前に広がった。

 

 

 

 

「ようこそボルマーレ帝国へ!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「「「「はあああああああ!?」」」」

 

 初めての光景に感動する前に、見覚えのあるライトグリーン色の髪が特徴的な美女がそれはそれは楽しそうに笑いながら立っているのに目がいった。いってしまった。

 

「勘弁しろって……」

 

 俺の一言に、いつもの3人は無言で頷いた。

 




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最近、懐かしのボンゴレリングのガチャガチャを見つけて1人でテンションが上がってました。


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第14話

「ようこそボルマーレ帝国へ!」

 

 膝まで伸びているライトグリーン色の髪をたなびかせながら俺たちを出迎えたのは、何を隠そうこの人。この大会の聖都側の責任者にしてみんなのあこがれ、そして俺たちにとっては悪魔、疫病神、創造神のエレナ・リノーア様である。

 

 今にも光に反射して輝きだしそうなほど綺麗な色をしている髪を膝まで伸ばし、モデルのような体系に男でも女でも見惚れてしまうほどの容姿をしている。そんな絶世の美女が胸元が大胆に開かれた髪と同じ色のドレスを着て、さらにしっかりと化粧もしていたら見惚れない人はこの世の中には数人を除いていないだろう。その証拠についつい大声で叫んでしまった俺たちの声は周りの人達には聞こえていないようだった。

 

 数秒間の静寂のうち、再起動したと同時に混乱している生徒たちの声が聞こえ始めた。それもそうだろう。滅多にお目にかかれないみんなのアイドル的存在が目の前にいるのだ。普通は混乱しながらも、急いで紙とペンを探してサインを求めてしまうところだ。今回はエレナと一緒に待っていた先生達が素早く生徒のこの行動を止めていたが。

 

 ていうか、実際は行きの電車の中で手が届く範囲まで近づいた人は何人もいたのだが。まぁあの時は疲れ果てて俺以外はぐっすりだったので誰も気が付かなかったのだろう。

 

 いきなりだが、ここにいる生徒たちの反応から分かるように人間としてのエレナ・リノーアはほとんどの人にとっては雲の上の存在だ。この容姿にして、すべての聖都の騎士を束ねる者。「女神」エレナ・リノーアの名前は聖都だけではなく、他の二国にもその存在が知れ渡っている。この女性を知らない人はそれこそ、まだ言葉が分からない赤ちゃんしかいない。

 

 曰く、その女神の容姿はいついかなる場所でも美しく、

 

 曰く、その女神の声は男女問わず聞き惚れ、

 

 曰く、その女神の戦いはこの世のどのようなダンスよりも華麗である。

 

 それが、「女神」エレナ・リノーアの姿。人間としての創造神の姿である。

 

 

 ……ちなみにその「女神」は今の状況を見ながら、してやったりと言いたげな顔をしているのだが。

 

 あの女、この今の生徒たちの反応を見たいがために普段では絶対にしないおめかしまでして、忙しい中この場に顔を出したのが俺たちにはすぐに分かった。となりのリアが「服のセンスは壊滅的のくせに……」と小さい声で呟いている。

 

 ちなみにこれは俺たちしか知らないエレナの弱点?である。

 

 俺たち四人がこぞって呆れている中、生徒のざわめきがヒートアップしてきたところで先生達が注意をし始めた。約3分ほどの生徒と先生の格闘の結果、この場には二度目の静寂が訪れていた。

 

 それを確認したエレナは、胸元につけているマイクのスイッチを入れると同時にさっきまでのふざけた表情を引き締めて、今度は責任者としての話を始めた。

 

「改めて、ようこそボルマーレ帝国へ」

 

 先ほどと同じセリフだが、先ほどと異なっているのはエレナの声の鋭さだろう。まるで澄み切った声がナイフのようになり、俺たちの喉元へ突き付けてられるような感覚だった。それと同時に生徒たちは顔を引き締めてエレナのセリフを一字一句逃さないように耳を傾ける。

 

「私がここに来たのは皆さんを驚かせるためだけではない。ちょいとこの大会のルールを説明するために来た」

 

 大会のルールはここに来る前に最低限は説明さている。今更何を説明するのかと首を傾げたが、エレナから説明されたのは急遽決まった追加ルールだった。約二十分間の話をまとめると、

 

1、フィールドについて

 

 普通のフィールドではつまらない。ということで急遽追加されたルールらしい。内容は単純で、フィールドの地形、そして天候は完全にランダムに決められるということだ。例えば、一回戦が雲一つない晴天の中草原で戦っていたとしても、二回戦では嵐の中、足場の悪い泥の中で戦うことがあり得てしまう。これにより、参加者たちはあらゆる地形と天気を考慮してより念入りに作戦を立てておかなければならなくなってしまった。

 

2、武器について

 

 武器は自分たちの使用していた武器ではなく、国が用意したものを使用しなければならないというものだ。ちなみに、武器の種類は指定できるが、すべてまったくの新品らしいので進化も改造もされていない。つまり、武器による選手たちのレベルの広がりを抑えたわけだ。確かに改造ならともかく、武器の進化の段階では大きすぎるほどのアドバンテージになってしまう。

 武器の指定は明日全員に前もってしてもらうらしい。一人につき最大三つの武器指定が可能で、すべて違う種類にしても良いし、逆にすべて同じ種類にしても問題ないそうだ。

 

3、ポイント制の導入

 

 これが今回の大きな追加点にして、この大会で最も重要なルールだろう。ちなみに、なぜそのような重要なことがこんなギリギリで話されたかという疑問に関しては、帝国側が準備に手間取っていたかららしい。地下に大帝国を作れるほどの技術を持っているこの国が手間取ってしまったかという疑問に関しては少し後に説明するとして、まずはこのポイント制についてだ。簡単に言うと、このポイントを専門の販売店に払うことで、そのポイントの量に応じて武器改造に使用する道具や材料などの戦いを有利に進めるためのものを買うことができる、というものだ。つまり、簡易的なお金の役割をする。

 

 しかし、お金と言ってもこの大会期間中で特定の店でしか使用することができないのでそれほど万能ではない。それでもこのポイントが今回の戦いで重要なカギを握っているのは確かなのだが……。

 

 さて、ここら辺を考えるのは後でにして、ここまで聞いて気になり始めるのはそのポイントの集め方だろう。ポイントを集めるのにはいろいろな方法があるらしい。カジノやバイトや友人からの受け渡し、もしかしたら道端で拾うこともあるかもしれない。このように基本、実際の金を増やす方法でポイントは増やすことが可能だ。 また、ポイントを増やせる期間はこの大会開催中なので、ポイントがなくなったらどこかで増やすというのもできる。

 

 ちなみにこの制度の急な導入を帝国全土に説明したり、専用の機械の準備などのせいで帝国側は準備が遅れてしまったそうだ。

 

 それはさておき、以上の三点が今回説明された追加ルールだ。

 

「理解できたかな?もしもより詳しいことが聞きたかったら後で近くの教師にでも聞いてくれ。それでは、時間もないので早速……」

 

 エレナがパチン!と指を鳴らす。するとここにいる生徒すべての右手首に電子的なブレスレッドが巻かれた。そこには10000という文字が浮かんでいる。

 

「それでポイントのやり取りをしてくれ。最初は全員公平に一万ポイント配布することになっている。そこに、10000という文字が浮かんでいるはずだ。これが今の君たちが手にしているポイント数、ということだ」

 

 ちなみに、文字の色は変えることが可能!と、どうでも良い情報もついでに話した。そして少しブレスレッドの使い方について話した後、

 

「さて、私の仕事は終わりだ。あとは先生方の指示に従ってくれたまえ」

 

 そう言い放ち、エレナは後ろに控えていた最新鋭の技術が詰まってそうなリムジンに乗ってどこかに行ってしまった。

 

 嵐のように現れて、嵐のように去る。つまりいつも通りのエレナだった。

 

「それにしても、まるでゲームのようなルールが追加されたな」

 

 エレナがいなくなったと同時に緊張の糸が切れ、周りが急な追加ルールのことで盛り上がり始めているところだが、それとは正反対のテンションのコウタがため息をつきながら右手首に巻き付いているブレスレッドを観察し始める。

 

「さらにこれ、絶対にエレナが企画設計したものだよね」

 

「エレナの自分が作成したものにどうでも良い機能を付けて、さらにそれをまるで世紀の発明品のようにドヤ顔で話す癖も出てましたしね」

 

 リアとシズもコウタと似たような表情をしながらブレスレッドについての感想を話していた。

 

 各自いろいろなことを思い、声にしているそうだがそのせいで、またもや先生たちと生徒たちとの格闘が始まることは誰もが簡単に予想できる未来だ。

 

「それにしても」

 

「エレナが責任の一端を担っている、にしては少しグダグダなようにも思えるんだけど」

 

 これが今回の話を聞いた俺の感想だった。

 

 エレナが仕事をめんどくさがったのか、はたまた三国がしっかりと協力しあってないのか。

 

「それとも、何か企んでいるのか」

 

 そんな俺のつぶやきは、たぶん誰にも聞こえてはいないだろう。

 

 

 

 

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 座り心地の良い椅子に座りながら私は持参した紅茶をカップに入れ始める。今はリムジンの中なのだが、揺れを全く感じないのがこのリムジンの性能をはっきりと表していた。

 

 おかげさまで紅茶をこぼさずに入れ終え、周りの高そうな酒やジュース囲まれている中、私はここでは場違いな値段の紅茶に口をつける。

 

「さて、これで準備は整った」

 

 つい口から漏れてしまった私のつぶやきは、きっと誰にも聞かれることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんにちは、だゆつーと申します。
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最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。

無料配布の星4サーヴァントはパールヴァティーにしました。


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第15話

「ウ、ウソデショ……」

 

 ここは帝国の有名な娯楽街の中にあるカジノの施設内。その小さなつぶやきは周りが雑音で騒がしいながらもしっかりと耳に届いた。それを聞いて、ある者はその人物から目をそらし、ある者はその人物をゴミのような目で見た。

 

 いつもは活発で元気な彼女なのだが、今は見る影もない。棒立ちで顔面蒼白、この世の終わりが来てしまったような表情をしていた。

 なぜそうなってしまったのか、というのはここがカジノという時点でほとんどの人は察するだろう。

 

 彼女はそう、負けてしまった。賭けに負けてしまったのだ。

 

 繰り返すようだがここはカジノ。勝者がいれば敗者がいるのはいたって普通のことなのだが、ここまで見事にテンプレみたいな負け方をした人物を見たのは初めてだった。

 

 この空気をどうにかしなければならない。それは分かっているのだ。だけど彼女にどんな言葉をかければよいのか俺にはわからない。隣にいる自分と同じ境遇にいる幼馴染に助けを求めてみるが、そっと祈るように目を閉じただけだった。

 

「ド、ドウシテコウナッタ……」

 

 手首に巻かれている電子的なブレスレッドに映し出されている0という数字を見ながら彼女が再び口を開いた。いや、本当にどうしてこうなった。

 

 話は1時間前まで遡る。

 

 

 

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 エレナがこの場を去り生徒達のざわめきもなくなった後、俺たちは先生たちの指示に従ってホテルまで移動した。そんなに時間はかからず、歩いて約10分で着いた。

 

 見たときはみんな驚いただろう。なぜならそこにはよくある御伽話の中で出てくるような見事な城が立っていたのだから。

 もちろん聖都の城よりは明らかに小さいものの、俺たちが驚くには十分だった。

 

 中に入るとそこにはホテルっぽく受付があるのだが、俺たちが思っているようなホテルはそこまで。

受けつけのすぐ後ろにはまるで舞踏会でも行われていそうなロビーと、高価そうなカーペットが敷かれている大きな階段が佇んでいる。

 誰もが想像していたような城の内部がそこにはあった。

 

 ちなみにだが、聖都の城は見た目は御伽噺のそれだが、中は近代的な設備ばっかで正直他のビルの中を綺麗にした感じだ。へーやっぱ国のお金で建てられているものは違うぜーとしか思わない。

 

 さてホテルの感想はさておき、俺たちは中に入ったあとすぐに部屋分けを指示されたので、10分後に今いる場所で落ち合おうということでそれぞれの部屋へ向かった。

 

 今回は二人または三人部屋なのだが、俺は二人部屋配属で相方はコウタだった。ちなみにリアとシズもお互い同じ部屋らしく何かエレナ的なものが働いていると感じたのだが、とりあえず問題は特にはないので考えないことにした。

 

 そして荷物を置いて少し休んだ後、時間になったので集合場所に向かった。

 ホテルは貸し切りらしく一般客はいなかったのだが、みんなやっぱりこのホテルの内装に興奮しているのか、ほとんどの生徒が部屋の外に出てそれぞれの感想を話していた。

 

 俺たちもその生徒の一部で、いつもよりもテンション高めで話していたと思う。

 

 集合場所に着くと、そこには俺とコウタ以外のメンバー、リアとシズ、それにゴリとソラもすでに集まっていた。

 全員集まったのを確認した後、どこに行くか少し議論になり、「カジノに行きたい!」というリアの強い要望により俺たちはホテルのすぐ横のカジノへ向かった。

 

「うわぁ!」

 

 カジノに入った瞬間リアがそんな驚いたような声を出していたがそれもそのはず。騒がしいけれど緊張感があるそんな初めて感じる雰囲気の中で、多くの人が知っているものから見たことがないものまで様々な種類のギャンブルをしているのだ。正直に言うととても圧倒された。

 

 これまでカジノは漫画やドラマなどで知っていたが、実際に自分で来てみるとカジノの印象は全く違うものになっていた。

 

「ようこそおいでくださいました。聖都代表の皆様」

 

 入り口で立ち尽くしている俺たちを我に返したのは、スーツに身を包み、しっかりと髪を整えていてこの場の雰囲気にうまくなじんでいる50代くらいの男性だった。

 

「は、はい」

 

 一番その男性の近くにいたシズが少し声が裏返ったような声で返事そ返す。

 

「そう緊張なさらないでください。言い遅れましたが、私はこのカジノの支配人、ルート・カキュラスと申します。どうぞよろしくお願い致します」

 

「いえ、ご丁寧にありがとうございます。私はシズ・アルノールといいます」

 

 シズに続いてそれぞれが軽い自己紹介をすると、カキュラスさんは優しく笑いながら俺たちの顔を一度見渡してから口を開いた。

 

「良い生徒さんたちで安心しました。話は聞いておりますので是非楽しんでいってください」

 

「ありがとうございます。では早速「その前に」

 

 言葉を遮られたシズはつい怪訝な顔でカキュラスさんを見る。そんな顔を向け垂れているカキュラスさんは申し訳なさそうにしながら話の続きを始めた。

 

「よろしければ少し豪華な格好で観光してみませんか?」

 

 俺たちは一斉に首をかしげた。

 

「帝都のここら辺の階層は一番華やかな観光地でして、制服もよいのですがドレスやスーツといった服の方がよりこの階層の雰囲気に溶け込むことができて楽しんで頂けるかと。勿論、服の方は無料でお貸しいたします」

 

 シズは少し悩んだ後に、「では、せっかくなので」と返事をすると俺たちに同意を求めてきた。俺は勿論、他のみんなも乗り気なようで反対意見はなかった。

 

 こういうところに来たのだから形から入るのも悪くはない。

 

そういうことで俺たちはそれぞれの更衣室で自分の着る服を選び、着替えることにした。

 

 

 

 

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「俺が一番か」

 

 スーツに着替えた俺は更衣室から出てロビーに戻っていた。着馴れていない黒のスーツ姿は妙に緊張するが、カキュラスさんの言う通り場の雰囲気には馴染めている感じがした。

 

「おーい」

 

 待つこと3分、後ろから聞きなれた声がしたので振り向くと……そこには美女がいた。

 深紅の胸元を強調するようなドレスに身を包み、元の顔の良さを引き出す化粧、そして極めつけの彼女に似合う少し派手目の髪飾り。その全てがリアの可愛さを存分に引き出していた。

 

「あれ、まだリョウしかいないの?」

 

「あ、ああ。まだ俺しか来てないな」

 

 一瞬見とれて返事が遅れてしまう、それほどまでにリアは可愛かった。いつもよりも多めの視線がそのことを証明している。

 

 そんな中で当の本人は周りの目も気にせずにカジノの風景に目を輝かせながらはしゃいでいた。

 

「ねえねえ!みんなが来るまでさ、少しここら辺を見てみようよ」

 

 そのセリフに中身はいつも通りなことを確認できた俺は少し安心しながら、少し考える素振りをした後、そうだなと返事を返すのであった。

 

 そして数分後、冒頭のような状況になるとは知らずに

 

 

 

 

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「リョウ、あなたがついていながら……なぜこんなことに?」

 

「いや、本当に面目ない」

 

 シズの強めの口調に俺はそれとは正反対のいつもより弱めの口調で返事をする。

 

「謝罪はもういいから早く説明してくれ」

 

「お、おう」

 

 コウタの追撃に心が折れた俺は簡単にまとめながら、みんなを待っている間のことを話し始めた。

 

 リアがスロットで大当たりを連続で出したこと、そのあとにポーカーに行きそのポイントを更に増やそうとして負けたこと、そしてもう一回、もう一回、次でラスト、なんて言っているうちに気が付いたらもうポイントがゼロになっていたこと……

 

「なんでお前はリアさんがそうなる前に止めなかったんだ!」

 

「いや、本当にスロットで大儲けしてそう簡単になくなるわけないと思ってたというか、ポーカーでも惜しいときがあったし次は勝てるんじゃないかと思っちゃったりして……」

 

「この二人にギャンブルはやらせちゃダメね。ついでにソシャゲの課金も」

 

「はぁ……全く、これからだというのに」

 

 ゴリとシズの呆れた視線が更に俺の心を抉っていった。いやほんとにごめんなさい。

 

「おい、リアもいつまでへこんでんだ!早く立ち直ってこれからのことを少しでも考えろ」

 

「う、うん」

 

 弱々しく立ち上がるリアには、さっきまでの人々を魅了する可愛さはなくなっていた。

 まるで大富豪から大貧民になってしまったお嬢様みたいだ……。

 

「とにかく、余裕がないうちはカジノはやめましょう。さっきカキュラスさんに聞いたのですが、安定してポイントを増やすにはアルバイトがいいそうです。大会の関係でそう長い時間拘束されないらしいですし、何より仕事しながら観光もできるものが多いそうですよ」

 

 確かにそれが一番良さそうだな。本当にそう思う……。

 そのアルバイト募集の掲示板は街に多く張り出されているようなので、観光ついでに良いアルバイトがあったらそこでポイントを集めることになった。

 

 カジノを出るときにカキュラスさんにお礼をしようとすると、彼は俺たちが何かを言う前に一人一人に何か飲み物のようなものを渡してきた。

 

「それはいわゆるエナジードリンクというものです。まだ発売前の商品ですが運よく手に入れましてね。ぜひそれを飲んでみてください、効果は保証しますよ」

 

「何から何までありがとうございます。これはありがたく飲ませて頂きますね」

 

 シズが頭を下げるのと同時に俺たちも頭を下げる。

 

「いえいえ、いいのですよ。さあ、時間も限られているのですから早く行った方が良いですよ」

 

 ホホホホと笑うカキュラスさんに見送られながら、豪華な服に身を包んだ俺たちはカジノを後にするのだった。

 




こんにちは、だゆつーと申します。
第15話を最後までお読みいただきありがとうございます。

これからも頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
また、感想とアドバイスがあればぜひお聞かせください。

最後に、次回の話もお読みしていただければ幸いです。

今年の花粉少し頑張りすぎてませんか!?


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