半妖先生ぬらりひょん (半分)
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プロローグ 過去の記憶と十三階段

ぬらりひょん。

かつて民衆から信仰を集めた上位の神。

しかし、科学技術の進歩と時代の流れによって誰もが忘れた神のなれの果て。

 

無銭飲食を繰り返す妖怪として知られつつも、一説においては妖怪の総大将として君臨していると言う。

 

※妖怪百科事典より抜粋

 

 

プロローグ 過去の記憶と十三階段

 

坂本(さかもと)恭也(きょうや)

 

僕は幼いころに人間以外が、この世界で生活していることを知った。

彼らは人々の恐怖や畏れ…善意などの思いで誕生し、大昔から存在している異形の者たち。

 

人々は彼らを妖怪(ようかい)(あやかし)化け物(ばけもの)と呼び、恐れて来た。

しかし、時代の流れと科学の進歩によって、彼らを知る人間達はごくわずかな霊能力者たちだけとなる。

 

そして、僕もまた他の人間同様に、妖怪を信じる事はなかった。

 

そう、妖怪が見えるようになってしまったあの頃までは……。

 

当時、小学校低学年だった僕は、友人たちと野球で遊んでいた。

学校のグラウンドを駆け回り、ボールを追いかけていた。

 

皆で日が暮れるまで遊んだ帰り道。

皆と別れて一人で歩いていた僕の目の前に白い布を頭から被った怪しい人物が立っていた。

 

不審者が現れたと思った僕は、その場を回れ右して逃げ出した。

そして、逃げ出した僕の背後からはヒタヒタと言う音が迫って来た。

 

不審者が追ってくる。

恐怖を増長させた僕は、必死で足を動かし、不審者を混乱させるために小道を右へ左へ縦横無人に駆け回った。

 

しかし、僕の努力を嘲笑(あざわら)うように不審者の足音らしき音は消えてくれない。

体力も無くなり、失速した所で背後から肩を掴まれた僕。

 

反射的に背後を振り向くと……。

白く濁った瞳を見開き、鋭い牙のような歯を生やした大きな口を開けた人の様で人ではない怪物が鉄臭いにおいを漂わせながら立っていた。

 

「ッ~~~~~~~!?」

 

見た事のない異形の怪物をみた僕は、声にならない叫びを上げた瞬間。

怪物に首を噛みつかれた。

 

激しい痛みと暖かい何かが首から零れ落ち、それが上着を濡らしていく感覚。

小学生にして、死を悟った僕。

 

体から力が抜けて指一本動かせなくなった時。

彼は現れた。

 

何もない場所から突如として現れ、怪物の首に刀を差す人物

彼の姿は、僕と同じくらいの身長で長い頭が特徴的な着物姿のおじいさんだった。

 

 

消えゆく意識の中、最後に見たのは霧のように消える怪物を気にした素振りを見せず、自分の手に刀を突きさしてこちらにやって来るおじいさんの姿だった。

 

 

そして、あり得るはずがないと思っていた目覚めを経験した僕が居た場所は…病院のベッドだった。

家族と警察の話によると外傷もなく、血まみれで倒れていた僕を巡回中の警察官が僕を発見。

そのまま、救急車を手配して病院に搬送されたらしい。

 

その後は、ドラマでしか見た事のない事情聴取を経験したが、僕の話を誰も信じる事はなく、不審者にであったショックによる記憶の混乱と判断され、付近の学校に不審者警戒の知らせが送られた。

 

僕の話を信じない周りの反応を見た僕は、怪物の話をする事を辞めていつもの日常へと帰った。

 

 

そして、事件が起こる前の生活に戻った僕の元に、あのおじいさんが現れた。

得体のしれない謎のおじいさん。

僕は彼に問いを投げた。

 

「おじいさんは誰?」

 

僕に投げられた問を聞いたおじいさんは、ニヤリと笑ってこう言った

 

「魑魅魍魎の主……ぬらりひょん」

 

小学校低学年のこの日。

命の恩人である妖怪ぬらりひょんと友達となり、僕は妖怪世界と自身が命を助けられた事で、普通の人間ではなくなった事を知った。

 

それから18年後の現在。

 

ぬらりひょんを始めとした妖怪達との出会いと別れを繰り返し。

僕は今、小学校の先生になっていた。

 

 

―童守小学校―

 

 

教職に就いた僕は生徒たちと日々、それなりに平和な日常を過ごして居る。

そんなある日、僕は学校の廊下で見てしまった。

 

ぬ~べ~クラスと呼ばれる三組の木村くんが半妖怪化した霊と共に廊下を走っていく姿を……。

霊が半妖怪化するのは、それだけの悪事を重ねて人々に恐れられ、恐怖の念を集めたからだ。

それが殺しなのか、神隠しなのかは知らない。

 

だが…このまま助けなければ、木村君の命が危険だ。

 

彼を助けなければならない。

叶うなら、かつて僕を救ってくれたぬらりひょんの様に……。

 

木村君を助けると決めた僕の体が決意に呼応するように血が熱くなるのを感じながら、()は彼らの後を追った。

 

 

 

彼らの後姿を追って、たどり着いたのは童守小学校の七不思議の一つ。

 

『魔の十三階段』

 

今、()の目の前で彼らが昇っている階段は旧校舎の屋上に続く階段で、昼間は12段なのだが夜になると13段となり13段目を踏んだ生徒は二度と帰って来れない。

神隠しの類の噂話。

 

「なるほど……妖力で作った異空間に自分とよく似た子供を引きずり込む。

まるで蟻地獄(ありじごく)みたいじゃねぇか」

 

「だ、誰だ!?」

 

「え!?だ、誰かいるのか!?

居るんだったら助けてくれぇーー!!」

 

二人は階段の途中でこちらを振り向き、数歩先の()を探している。

そう、彼らは()という存在を認識する事が出来ないのだ。

 

いや、()と言う存在が強大過ぎて、魂と本能が認識することを拒否しているのだ。

 

「悪いが、この小僧をくれてやる事は出来ないぞ。悪ガキ」

 

木村の肩を後ろから掴んだ後、階段を上らせようと押し上げる悪ガキの腕を切り落とし、木村をこちら側に引き寄せる。

 

「な!?え!?」

 

「へ?お前誰だよ?俺の手は?ち、力も抜けていく………な、なにしたんだよお前!?」

 

突然現れた男の腕に抱えられ、驚く木村と肘から先が消滅した腕を見ながら狼狽する悪ガキ。

丁度あの男もやって来たし、木村は奴に任せてとどめを指すか……。

 

「ほら、大事な生徒だぜ」

 

「克也ーーっ!!」

 

「ひぃーーー!!?」

 

特殊な霊力を持った、木村の担任教師である鵺野の存在を感知した()は鵺野に向けて腕に抱えていた、木村を放り投げる。

それに反応した鵺野は持ち前の運動神経を駆使して空中に放り投げられた木村の体を傷つける事無くキャッチ。

()はその姿を見届けた後、正面の悪ガキを見据える。

さて、これで目の前の悪ガキに集中できるぜ。

 

「俺の部屋が…俺の仲間が……俺の力が……」

 

()の特別な刀に斬られた事により妖力を失った悪ガキは自身の能力である異空間を制御する事が出来なくなった。

そのせいで、部屋は13段目の階段と共に消滅し、囚われていたガキの魂も外へと解放される。

 

「これで終わりだ」

 

「ひぃ!?」

 

上段に構えた刀を悪ガキに躊躇する事なく振り下ろす。

()の刀に斬られた悪ガキは、刀の力によって霧のように現世から退場した。

恐らく今頃は天で自分が犯した罪の裁定が下されているはずだ。

 

「おい…お前は一体()なんだ?

妖怪の様だが……何故ここに居る?」

 

声のする方を振り向くと生徒を守るようにして前に出ている鵺野と後ろに隠れてこちらを伺う木村…そして、廊下と職員室などの限られた場所であるが顔を合わせた事のある子供らが階段の踊り場にてこちらを伺っている。

そう、彼らは()を5年4組の担任教師である坂本 恭也と認識できていないのだ。

 

もちろん、先ほど使った能力を使っているわけではない。

単純に俺の外見が大幅に変化しているからだ。

 

「そう警戒するなよ、ダダの気まぐれだ。

夜の学校は風情があるからと立ち寄っただけだ」

 

「ま、待て!!」

 

「き、消えた!?」

 

「さっきまで目の前に居たのに………」

 

「妖怪だったけど、カクレンジャーみたいでちょっとカッコよかったのだ……」

 

()を認識できなくなった鵺野と生徒たちの脇をすり抜け、教職員用のトイレに入り、鏡を見る。

 

「まあ、確かにこの姿で現れたら、昼間の姿と今の()が同じ人物であるなんて気づく事は出来ないだろうな」

 

鏡に映った今の()は白い髪を後ろに伸ばし、血のように紅く鋭い瞳をしている。

さらに服装はいつものスーツではなく、着物で腰には白鞘の刀を差していた。

そう、()はあの時、ぬらりひょんに与えられた()によって助けられた。

 

あの日から……俺は…。

 

「さて、久々に変化したんだ。

たまにはこの姿で夜の街に出てみるか」

 

半分だけ、ぬらりひょんになってしまったのだ。

 

 




※思いつきなので、連載するかは不明です。


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一話 しょうけらがのぞく①

 

霊能力者の鵺野先生の前で変化(へんげ)した姿をみせた僕だったが、日常生活に変化(へんか)はなかった。

平和な生活と帰る前の部活の練習に汗を流して笑顔で頑張る子供たち。

 

グラウンドで元気に走る彼らを見ていると、こっちも笑顔になってくる。

 

サッカー部はもうすぐ他校のサッカー部と練習試合を行う事になっており、僕のクラスの生徒もレギュラーとして練習に励んでいる。

当日は応援に行くつもりだ。

 

「あら?坂本先生。サッカー部を見ているんですか?」

 

サッカー部の練習をグランドの隅で鑑賞していると後ろから、一人の女性に声を掛けられる。

後ろに振り向くと、そこには5年2組担任の高橋先生が立っていた。

高橋先生はナイスバディで黒髪ロングの美女。

僕ら男性教諭達の憧れの的だ。

 

「は、はい。僕の生徒である隼人(はやと)くんがレギュラーでして……その応援をしていたんです」

 

憧れの女性にドキドキしながら、正直に話すが顔が熱くて緊張する。

変な奴だと思われていないだろうか?

 

「まあ、そうなんですか?私も自分の生徒である風間(かざま)くんの様子を見に来たんですよ」

 

「そ、そうなんですか?奇遇ですね……」

 

誰もが見惚れる笑顔で話をしてくれる高橋先生との会話に必死について行こうと頭をフル回転させる。

正直、人間を襲う妖怪と戦う以上に気を遣う。

何気ない会話だが僕は幸せだ。

 

その後は、しばらく生徒たちの頑張る姿を見続けた僕らはそれぞれの自宅へと帰った。

 

明日はいい事があるかもしれない。

 

「二代目。何か嬉しい事でもあったのですか?」

 

好きな女性と会話出来た事で軽い足取りで自宅マンションに辿り着いた僕を待っていたのは右手に錫杖を持ち、修験者のような着物を着こなす烏天狗(からすてんぐ)だった。

烏天狗は先代であるぬらりひょんに仕えていた妖怪であり、現在は妖怪の二代目総大将となった僕に仕えてくれている。

彼は普通のカラスと同じくらいの身長であるが、何百年も生きた大妖怪であり天狗一族をまとめる立派な統領だ。

 

彼の仕事は半分が人間である僕のサポートや僕に反発する妖怪達の監視など様々だ。

 

「まぁね。それよりも今日はどうだった?」

 

「はっ。5年前に行った恭也様の偉業により大半の妖怪は大人しくしております。

しかし……新たに生まれた現代妖怪は魑魅魍魎の主である恭也様の御威光が届かないようなのです」

 

「で?そいつらはどうした?」

 

「幸い新参者達は、我らで懲らしめてやりましたが……厄介な奴がこの町にやって来たみたいなのです。」

 

「厄介なやつ?」

 

「しょうけら…我ら百鬼夜行に名を連ねる疫病神でございます。」

 

烏天狗から出て来た妖怪の名前に思わず眉を顰める。

僕の支配下に置けなかった古き妖怪達が僅かにだが存在する。

しょうけらはその中の一匹であり、未だに僕の二代目就任に反発していた妖怪だ。

 

力もあり、本能で人間に災いをもたらす動物のような疫病神。

まさかこの町にやって来るとは……。

 

「烏天狗。二代目総大将としての命令だ。

しょうけらのヤロウを見つけ出し、俺に報告しろ」

 

「はっ!バカ息子たちを使って捜索致します!!」

 

部屋の窓から弾丸のように飛び出す烏天狗を見送った後、変化した俺も外に出て、しょうけらの捜索に加わった。

 

「今日も血が熱い……」

 

妖怪の姿で町に繰り出した俺は沼に住むカッパや家を転々とする座敷童などから話を聞きながら夜の街を駆け回った。

しかし、どんなに走り周ろうとも俺はしょうけらを発見する事が出来なかった。

しょうけらは人々の恐れから厄病神に昇華した妖怪だ。

もしかしたらぬらりひょんの様に周りに認識されない能力の様な物があるのかもしれない。

本当に厄介な奴だ。

 

―翌日―

 

しょうけらを発見できずに朝を迎えた僕は急いで自宅のシャワーを浴びていつもよりも早めに出勤した。

普段よりも早く出勤したのは自分のクラスの生徒に憑りつかれた子がいないかを確認するためだ。

 

朝礼会議をいつもの様に済ませた僕は、焦る気持ちを抑える事が出来ずに急いで教室に向かった。

 

いつもの廊下が長く感じながらも足を動かし、自身が担当する子供たちの居る教室へと入る。

 

「先生今日は早いね?どうかしたの?」

 

「先生?なんか表情が硬いけど何かあった?」

 

「先生!今度の試合楽しみにしてくれよな、(ひろし)や風間以上に活躍出来るように頑張るから!!」

 

教室に入ると元気な姿の子供たちが僕の姿を見て急いで自分の席に座る光景が広がっていた。

よかった…みんな居る。

誰も被害にあっていない…本当によかった。

教室に配置されているすべての勉強机に座る生徒たちを見て心の底から安堵した。

 

「先生、大丈夫かよ?」

 

「え?ああ、大丈夫大丈夫。

皆が元気そうで何よりだよ」

 

一番前の席の生徒に心配され、すぐに気持ちを切り替えた僕はいつもの様にHRを始めるのだった。

僕のクラスは大丈夫だったが、他の生徒たちも心配だ。

一応、全クラスの子供たちが来ているか先生たちに確認しよう。

 

手早くHRを終えた僕は職員室に向かう。

早い先生なら今頃、教室で次の授業の準備をしているはずだ。

 

職員室に戻って来た僕が見たのは電話の前で驚きの表情を浮かべる高橋先生の姿だった。

まさか……。

 

「高橋先生今の電話は?」

 

高橋先生が受話器を置いたタイミングで声を掛ける僕。

 

「え…?ええ、風間君が突然肺炎になったみたいで……。

お医者様が言うには、大丈夫らしいんですが……」

 

引きつった表情で答える高橋先生。

昨日あれだけ元気だった風間君が肺炎なんて幾らなんでもあり得ない。

もしかしたらしょうけらは風間君に……。

 

「そうですか……大丈夫ですよ高橋先生。

お医者様が言っているならすぐに回復して今度の試合だって参加できますよ」

 

「そ、そうですね。ありがとうございます坂本先生」

 

少しだけど持ち直した高橋先生と笑顔で別れた僕は学校が終わり次第すぐに病院に行くことを決意した。

高橋先生…風間君は僕が必ず救って見せます。

 

だから……明日にはいつもの様に笑顔でいてください。

 

 




この小説はとある作品を作る過程で偶然に生まれたものです。
ですので評価次第によって打ち切りになる事をご了承の上でご観覧ください。


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二話 しょうけらがのぞく②

子供たちが、自宅への帰路についたり部活の練習へと向かう姿を見送った後、僕は急いで病院へと駆け付けた。

童守病院に辿り着いた僕は受付の人に風間君の病室を教えてもらい、風間君の元へと急いだったのだが…。

 

「きっとアイツが…屋根で踊っていたアイツのせいで……」

 

「なるほど……その不思議な怪物を見た君は体調が急激におかしくなったと……」

 

「ぬ~べ~。これって妖怪の仕業なのかな?」

 

鵺野先生とサッカー部のエースである立野(たての) (ひろし)君がすでにお見舞いに来ており、病室で風間君からしょうけらの情報を聞いていた。

高橋先生が鵺野先生に相談する事はまずないだろうから、広君が鵺野先生に相談し、二人で風間君の様子を見に来たんだろう。

 

「おや?坂本先生?もしや坂本先生も風間のお見舞いですか?」

 

「え、ええ。高橋先生の様子を見ていたら心配になってしまいまして……」

 

病室の前で立っていた僕の存在に気付いた鵺野先生が風間君の見舞いの品であるバナナをもぐもぐと食べながら声を掛けて来たので、それらしい理由で答える僕。

この人は本当に遠慮がないんだな……。

見舞いの品をもぐもぐ食べている目の前の男が除霊の時は命懸けで子供を救っている人物と同じ人間とはとても思えない。

まあ、このフレンドリーな感じが生徒たちを惹きつける魅力の一つなのだろう。

 

「へぇ…他のクラスの生徒のお見舞いだなんて……本当に先生は生徒想いなんですね」

 

「いやいや、鵺野先生もそうでしょう?」

 

「いやー…そう思います?アハハ」

 

照れる鵺野先生から視線を風間君に移して病状を聞いてみる。

 

「風間君。体調はどうだい?」

 

「はは、正直…結構つらいです」

 

本当につらいのだろう。

苦しそうな表情で無理矢理作った笑顔で答える風間君を見ていると心が痛くなる。

はやく、しょうけらを滅して風間君に掛けられた呪いを解かないと……。

僕は決意をあらたに風間君の周辺を警護する事を決めた。

 

「…鵺野先生。風間君をお願いします」

 

「あ、はい。任せてください」

 

「大丈夫だよ坂本先生!ぬ~べ~なら何とかしてくれるからさ!」

 

「うん。そうだね」

 

真剣な鵺野先生とその鵺野先生に絶対の信頼を寄せる広君の言葉を信じた僕は鵺野先生に風間君を任せ、病院の周囲を散策する為に病院の外に出た。

少しでも早く風間君を助けないと……。

 

―――――――――――

 

人目のない場所で妖怪の姿に変化し、病院の周囲の屋根の上から裏路地を日が沈むまで散策したが収穫はなかった。

ったく!一体どこにいるんだ!!

 

「総大将ーーー!!」

 

焦って捜索の範囲を伸ばしているとすっかり暗くなった頭上からバサバサという羽の音と共に烏天狗が舞い降りて来た。

 

「烏天狗!?もしかして見つけたか!?」

 

「はい!奴は童守病院の屋上に現れました!!」

 

っち、真っ先に現れるなら病院の屋上に待機しておけばよかったぜ!!

 

「急ぐぞ、烏天狗!!」

 

「はっ!!」

 

人の家の屋根から屋根へと飛び移り、道をショートカットして病院へと闇夜に紛れて烏天狗と共に向う。

風間君、待ってろよ!!

 

十件十五件とぴょんぴょん駆け抜けていくとようやく屋上が見え始め、俺は目を疑った。

 

なんと、しょうけらが高橋先生を襲っている最中なのだ。

 

「ヤロウ……ぜってぇに許さねぇ!!」

 

怒りの赴くままに、俺は走る速度をさらに上げた。

妖力によって強化された足で、瞬く間に病院にたどり着いた俺は、病院の壁を垂直に駆け上る。

 

「その女に……触るな!!」

 

『ギャァアアアアア!!!?』

 

屋上に辿り着くと同時に高橋先生の前に躍り出た俺は、勢いをそのままにしょうけらを妖怪殺しの妖刀『祢々切丸(ねねきりまる)』を振るい、高橋先生へと伸ばしていた右手を切り裂く。

右手首から先を切断されたしょうけらはあまりの痛みに絶叫を上げ、腕を抱えるように悶絶する。

 

「高橋先生、無事か!?」

 

悶絶するしょうけらをそのままに、後ろに居る高橋先生に駆け寄り彼女の状態を確認する。

 

「どうして…私の……なま…え……?」

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

か細い声で何か言った後、高橋先生の意識は途絶えてしまった。

先ほどよりも大きい声を出して彼女の肩をゆすってみるが、反応が返ってこない。

もしかして、間に合わなかったのか?

 

「総大将、落ち着いてご覧ください!!その娘は気絶しているだけでございます!!」

 

烏天狗に頭を叩かれ、言う通りに冷静にゆっくりと高橋先生を観察すると規則正しい呼吸をしている。

よかった……彼女は無事の大丈夫のようだ

 

「…助かった烏天狗」

 

「総大将の補佐をするのが、この烏天狗の仕事でありますので……」

 

屋上の床にそっと、高橋先生を寝かせた俺はゆっくりと立ち上がって、しょうけらの方へと振り返る。

 

「しょうけら……てめぇは俺の超えてはならない一線を二つも越えやがった。

今から俺が冥府魔道に送ってやるから覚悟しな!!」

 

「ゲェゲェ……許さねぇのは俺の方だ!!この半端者がぁあああ!!」

 

傷口から妖気が抜けきり、弱り切ったしょうけらが俺を引き裂こうと繰り出される左手の爪。

俺は遅すぎるその動作を観測しながら左手も右手首同様に払うように斬り飛ばす。

 

「終わりだ」

 

そして、そのまま祢々切丸を上段に構え、しょうけらを頭上から一気に振り下ろして一刀両断にした。

左右に両断されたしょうけらは断末魔の叫びをあげる事無く、煙のように現世から消滅する。

これで風間の肺炎も治るはずだ。

 

「総大将、そろそろ鬼の気配がする例の霊能教師がやってきます。

この娘は彼に任せましょう」

 

「…ああ、そうだな」

 

烏天狗に言われ、鵺野の特殊な霊力を感知した俺は高橋先生を一瞥した後、彼女の傍に居たいという思いに後ろ髪を引かれながらも烏天狗と共に夜の町へと消える。

 

彼女を助ける為とはいえ、この姿を見られた。

 

目が覚めたら彼女はどう思うだろうか?

十中八九、怖がりの彼女は妖怪の姿をした俺に恐怖するだろう。

 

もしかしたら、彼女を助けたのは半妖怪の俺ではなく鵺野だと思うかもしれない。

 

そんな考えがよぎると胸にチクリと何かが刺さったような感覚を覚える。

 

……いや、これでいい。

 

風間君も彼女も無事だった。

半妖怪の俺は彼女と関わらず、人間の坂本恭也として彼女の邪魔にならないように想い続ければいい。

 

大好きな生徒たちとの時間と、彼女の笑顔が守れるのならこの想いが報われなくても構わない。

 

愛する女性と生徒を救った誇りを胸に抱き、自宅へと戻って変化を解いた僕は、風間君の様子を見る為に素知らぬ顔で病院へと向かう。

 

「……総大将」

 

家を出る際に玄関で漢泣きしている鴉天狗は見なかった事にした。

 

 

 



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