立花くんのゾンビな日々 (昼寝猫・)
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始まりは
Doom of the day


 ふと思いつきで書き始めた。興が乗るかUAが150を越えたなら続きを書こうかと思います。


「ホヨットーホー!ホヨットーホー!ヘイハ~~~~!!」

 

 

 

 予想外に良いものばかりが手に入り、ご機嫌な俺はおもわず歌いだしてしまった。まあ俺が選んで貯めておいたものなのだから当然と言えば当然なのだが。

 

 

 

「インデムゲヲークブリック~♪」

 

 

 

 ワーグナー第三幕の一節でワルキューレの騎行といえば、だれでも知っているんじゃないだろうか?

 

 

 いま俺がやってることは単純で、学校に何を持っていこうか悩んでいるのだ。あんまり重くなって動きにくくても困るし、逆に足りなくなったりしても大いに困る。

 

 上は別にこっちに危険はないんだから、そんなに重いものいっぱいつけてもしょうがない。まぁ、だから軽めのベストで済まそうと思う。

 そのかわり、色々持てるようにしとくのがいいかな。

 

 あ、でも途中まではタクシーで行く必要があるわけだから・・・あ~、でもそういえば破綻するんだから、自家用車で問題ないのか・・・。

 

 考えてみれば、わざわざこの日のために用意したわけだし。

 

 

 

「~~~~~~!!」

 

 

 

 だめだなもう、記憶がだいぶ薄れてきてるっぽいな。

 

 ここからはほぼ新しい未知の人生といったところだろうか?

 いままでが気持ち悪かっただけで、これから正常ともいえるわけだけれども。あ、でもおかげで助かったことも多いのか!

 そう考えると、世の中何が役に立つかわからないよな~。

 

 

 

「~~~!!!!!~~!」

 

「よしこんなもんか!迷うところだけど結局は全部持っていけばいいよね!」

 

 

 そういうと俺は、FNMINIMIとM27を両方の鞄にしまう。

 

 タクシーは使わない事にしたのだから、色々と車に乗せる移す必要がある。

 棚から車のキーを見つけると、できるだけ目立たないようにするために、ベストの上から学ランを着た。

 荷物を車庫の車に積み終わると最後のチェックのために一通り見て回り、戸締りをした。

 

 

 

「しかし、これ着るのも久しぶりだよな~。下は・・・違うのでもバレないっしょ!」

 

 

 

 さあ、行こうか。

 

 愚かなオレのせいでおかしくなってしまったこの世界を、始まる前に少しだけ抵抗してから地獄を見ようじゃないか。

 

 

 

「~~~~!!~~!!!!!!」

 

「おっと、その前に・・・」

 

 

 

 忘れ物をしていた。

 

 全部準備をしておいて、最後の最後で、全部ぶっ壊されてしまった心底頭の悪い俺。

 その俺の「最後の屁」みたいなことではあるが、これは忘れちゃいけなかったな。

 やっぱり、どうしようもないって解っていても、俺は焦っているようだ。問題ないだろうとはいえ、学校にはまだ彼女がいるわけだし。

 

 

 

 俺は、もう必要ない赤ん坊用の無線とモニターの電源を切ると、隣の家のドアを開けた。

 

 

 

「「「んんーーー!!!!!」」」

 

 

 

「まぁなんだ、俺がヘマこいて、いない間にアカネが死んだわけだが・・・ある意味では、これからの事を知らない彼女は幸せなのかもしれないな。そういう意味では、お前らに感謝しなきゃならないかもね」

 

 

 

 そこには、金色に頭を染めた、頭の悪そうな屑のオス二匹とメスが三匹いた。

 

 彼らはカップルで、とても仲がいい。あんまりにも仲がいいので、床に縛られて放置されている。五匹もそろって仲良く、豚のように口に貼られたガムテープ越しに呻いている。

 

 

 

「え?何言ってるかわからないよ。もっと人間みたいに喋ってくれないと、そんな面白い鳴きまねじゃなくてさ」

 

 

 

 僕は、せせら笑いながら肩をすくめる。

 

 すると、ぼこぼこに歪んだ顔をさらにゆがめ、豚がおびえた目で俺を見つめてくる。

 

 

 そう彼らはとても仲がいい、一緒になってちょっとやりすぎて人一人殺しちゃうくらいには。

 

 

 

「あぁ、これ?そうそう、これを探しに数日いなくなっててね?まあ、その間に君たちが、まんまとしてのけたわけだよ。『どうせ今日まで』とか思って放っておいたらさ、このざまさ」

 

 

 

 手に持った『エモノ』を見せびらかす。

 

 

 

「まあでも本当に、今日からの事を見せなくて済むと思うとさ。正直、少し胸の閊えが取れた気もするよね。彼女すっごい優しかったからさ」

 

 

 

 なら助けてくれ!そう彼らの目が訴えている。

 

 

 

「それでもさ・・・」

 

 

 

 ゆっくりと、俺が立ち上がるとその五匹はいっそう喚きだした。床をはいずり、どうにかして俺から離れようとしている。

 

 

 

「俺はそれでもさ、彼女に生きていて欲しかったんだよ」

 

 

 

「「「「「~~~~~~~~~!!!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 「ソレ」はまるで許しを請うように、怯えた目で床に這いつくばっている。

 

 

 

 

 

 

「謝るの遅えし、相手も違うんじゃねえの?」

 

 

 

 

 

 そう告げると、俺は手に持っていたKeltechKSGショットガンの、グリップの後ろにある真ん中になっているレバーを右に倒す。フォアエンドを一度、ガシャンとスライドさせ、弾を薬きょうに送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五つの破裂音が、閑静な住宅街に響く。

 

 そううちの一件から、学生服を着た少年が現れ、車に乗り込んだ。

 

 少年はKSGを助手席のカーシートの下に置くとエンジンをかけた。

 

 

 

「さて、全部終わっちまう前に弔い合戦だ」

 

 

 

 そう呟くと、少年は大量の武器弾薬を積んだ車を発進させた。

 

 

 

 

 少年の名前は、立花洋介。神に選ばれた転生者である。

 




現在の武装
Spetnaz machete     右太ももカイデックスホルスター
Keltech KSG        ショットシェルホルダー付きスリングで背中
H&K M27IAR(HK416 MGVer)  首掛けの一点スリング
Taurus Gudge Magnum 3inch model   ショルダーホルスター右(左はEKACamlock警棒二本)
Beretta PX4 Storm SD 左太ももカイデックスホルスター
Colt M37           左アンクルホルスター

 彼は残りの面子に復讐するため、車で学校に向かっていますが、頭おかしい武装ですw
特にM27のマガジンは、車に乗るので最初は邪魔にならないC-MAG、他は車載分を含めないでもシェアファイアーの60連と100連のハイキャパマガを各四本装備していってますw
 ちなみにPX4をサブに選んだのは、最近の流行りとかではなく、グリップの握りを簡単に細くできるようになってるからです。
 ある程度、実用性を重視していきますのでご了承を・・・そしてお気づきとはおもいますが、バカスカ撃ちますwそれはもういやってほどw


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原作前
死から始まる人生、あるいはまたの名を痛烈な皮肉


150UAとか一日で余裕でした・・・。マジかよ、2000文字だぜ?見てくれた人超ありがとう!!

ただ同時に一話時点で一点評価も貰った・・・プロローグで評価貰うとも思ってなかったけど、一点は貰うとはもっと思わなかったぜw
 色々考えたが・・・タイトルっすか?あれは「来たる運命の日」的な意味であってわざとDawnじゃないんですけど。理由を教えてもらえるとうれしいです。サーセン。


「え、なんだこれ?」

 

 

 

 気が付いたときには俺は一軒家のリビング、そのど真ん中に突っ立っていた。

 

 

 

「え、なんでこんな高い声で!?ええ!?えっ!!?えええええええ!!!??!?!??」

 

 

 

 

 

 

          ~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

「お、思い出した・・・」

 

 

 

 しばらくの混乱の後に思い出した。どうやら神様は不親切な人間(・・・神だけど)だったようだ。

 

 俺こと立花洋介は転生者である・・・いやまあなんか神様に会って色々とおねだりをした末にこの世界に飛ばされたらしいのだが、その時の制約でいわゆる「原作」というものへの知識が「原作開始時点」までにだんだんとなくなって行くようになっているらしい。

 

 

 だんだんと思いだしてきた、そうだ俺は夢の中でアレに出会ったんだ。

 

 内容はあまり覚えていないが単純な結末だった。

 

 アレに願ったのはいくつかある。がお願いのうちどんな世界に行くのか、は選べないし分からないと言われたので・・・ああ?クソ何を願ったんだったか!言う事聞いておけばよかったぜ!!クソッ、頭がガンガンする!

 

 

 壁に手をついて荒くなった呼吸を整えていく。この記憶障害の原因はこうだ、アレとあったときアレは俺に絶対に振り向くなと厳命してきた。色々と尋ねて行っても別段変なこともされなかったし、言われなかったためどんな姿をしているのか好奇心がわいたのだ。

 

アレが言うには、姿を見てしまえば位の低い俺では死んでしまうというのだ!ますます持って興味がわいた。

 

 

 そのままよせばいいものを、俺は最後の最後で転生するさいに「我槍にてこの夢中の世界で死ぬことによって契約は成立する」と言われたので、どうせ死ぬならとバッと振り返った。

 

 そして俺は見た、燃えさかる青い炎を。一瞬で燃え尽きた俺には刹那のあいだしかそれを見ることは叶わなかったため、うっすらとも形を把握できなかった。できなかったが、あれは紛れもない「青い炎を纏った龍」だった。

 

 くそが!「預言者でも無い身では夢の中でさえ見ること堪え得ない」と言われて気が付けばよかったぜ・・・。あの天使の名は・・・「     」。

 

 

 ・・・・・・どうやら俺は名を思い浮かべることすら許可されないようだ。

 

 

 

 しかし俺の天使にお願いした要求はなんだったんだ?それが思い出せない・・・たしか五つあったはずなんだが・・・。そして俺のことだ、絶対銃に関係するもののはず。

 

 ヘタな死に方をした後遺症で痛む頭を抱えながら、色々と考察を重ねているとふと気になって後ろを振り返ってみた。

 

 そこに映ったのは三歳くらいのあどけない顔をした少年の姿だった。

 

 

 

「お、思い出した!一つ目は「準備期間が欲しい」だ!どんな世界に飛ばされるかは知らないが準備期間無しは無理ゲーっだからって頼んだんだった!!」

 

 

 

 一つ目の願いが思い出せると少し頭痛が収まった。なるほど、つまりお告げ的なものでさずかった能力を知らない状態が異常だから頭が痛いのか・・・な?とにかくとっとと能力を確認する必要がありそうだ。

 

 

 しかし見れば見るほど幼児になってるな俺・・・まて、という事は俺はどうやって生活を・・・。

 

 

 

「洋介~!どこにいるの~?」

 

 

 

 その声を聴いて、それに思い至った瞬間スッと頭痛が軽減された。

 

 そうだ、俺の二つ目の願いは・・・。

 

 

 

「ここにいたの洋介ちゃん!そろそろお昼寝の時間ですよ~♪」

 

 

 

 そうだ俺の願ったのは「都合の良い家族」だ。

 

 どう考えても頭のおかしくなったプレッパー(ナショナルな地理で放送してた「来るべき日」を想定して準備する人の総称らしい・・・本当にいるんだねこんな人!)な行動をしていくと、家族が問題になってくる。

 しかしながら、家族がいないのも大問題だ。友達はどうするとか、学校はどうするとか、根本的に社会生活を送る上で絶対不可欠なものだ。だから都合の良い家族を、俺は選んだんだ。

 

 

 しかしなんだ、叶えてもらったお願いの結果がこの・・・。

 

 

 

「お母さんと一緒にお昼寝しましょうね~♪」

 

 

 

 だいぶ緩そうな美人ってのは、どういうことだってばよ・・・。めちゃくちゃ魅力的な笑顔でニコニコ笑ってやがるぞ、コラ。どう見ても二十代前半・・・こんな若くて美人な奥さんとか、親父ェ・・・。俺の母親は三十路過ぎてから俺を生んだからな・・・もはやこの美人さんは、親という認識が持てない・・・。

 

 まて、確かものの本によると、最近の大人は子供に対して多く求めすぎていると言っていたな・・・健康な体を作りたいならば、一歳前後で立ち上がりをさせるのは、偏平足やそのたの身体に重大な欠陥を作る可能性があるとか。

 

実は、ハイハイのまま三歳ぐらいまでいさせる方が体にいいとかいう話だな・・・ということは、三歳ならまだギリギリじゅny・・・っは!

 

 

 い、いったい今俺は何を・・・?

 

 

 しばらく混乱していたが、なんとか落ち着くことに成功した。

 

 

 

 しかしそれにしても、ここはどこだ?どうやら自宅のようだが、えらくでかい・・・。それに見た感じ・・・!

 

 二つ目を思い出した。そうだ、俺は「必要なだけの住居」を望んだんだ。その結果として「都合の良い家族」金持ち設定になったんだったな・・・。ということは、ここはある程度の広さと要塞化が可能な住居ということになる。壁が厚いのもうなずける話だな。

 

 

 

 となると、気になるのは他の特典だな。早急に思い出す必要がある。

 

 

 

 どんな世界であるにせよ、過激な世界であった場合に備えて準備をしておかなければならない。

 

 それに・・・「都合の良い家族」とは言ったが、さっきからこの母親にもあった事のない父親にも思い浮かべるだけで温かい気持ちが湧いてくる・・・間違いなく、この体に精神が引っ張られているのだろう。

 

 もうすでに俺は、この家族を切り捨てる事を前提に物事を考えられずにいる。早急に準備をととのえなければならない・・・原作が始まるまでに。

 




 主人公が正確幼くなってたり抜けてたりするのはすべてこの天使を直視したせいです。このアラブ呼びだとエロく感じる天使様のせい。

 魔法少女じゃないよ!ジブリールは龍だったんや!
 
 先に言ってしまいますがお願いのうちの一つは「どんな武器でも手に入る」ことです。ぽっと現れるわけではなく手に入れられるというのがミソ。これである人物とのフラグががが。

 ヒロインは毒島センパイを含めて二人決定!あとはノリと要望によっては?


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貰った力

 というわけで貰った特典のお話。

 Last of us最高!発売日にやって翌日に終わらせたw
 
 大体20時間くらいだけどダレがこない良い作りのゲームだった、武器改造があるゲームってハマりません?まだやってないバイオ6がやりたい。


 一週間くらいだろうか?たった頃になって、ようやく俺の頼んだものがなんだったかを思い出すことができた。

 

1・欲しい武器が手に入る

2・欲しい物資が手に入る

3・必要な家屋が手に入る

4・都合の良い家族

5・原作開始前準備期間

 

 

 金持ち設定ならわざわざ1,2、3を設定する必要性がないように思えるかもしれないが、それは間違っている。

 

 そもそも自立するまでに原作が始まってしまった場合に、自分の物件なんて持てるはずがない。

 

 たとえ今から十年たって、13才の子供になったとしても「ぱぱ、セーフハウスを何件か頂戴?」なんて言おうものなら、良くて軽く無視、悪くて重度の無視といったところじゃないだろうか?

 

 まあそのための4番だが、どんな武器でも手に入れられる立場の両親だとして、そんな両親が本当に「都合の良い存在」足り得るのか?どう考えてもトラブルの元だ。

 

 いったいどんな設定だろうか?セーフハウスはもちろんあらゆる物資が手に入り超金持ちで、武器もそろえられる・・・軍隊と癒着関係にあるマフィア?・・・壮絶すぎる。ここはヤングでガンな殺し屋の祭り舞台じゃねえんだぞ・・・原作わからんから否定できないけど。

 

 いずれにせよ「都合の良い家族」は、俺の場合原作開始してもほっといても死なずに済み、ついでに何しても見逃してくれることだけに限られているらしい。線引きがだいぶ曖昧だが、そういうものだと天使には言われた。

 

 1,2、3に関しては都合よくポンポン手に入り、家族が要求を聞いてくれる範囲が増えるだけだという話だ。それのどこがだけなのかはわからないが、武器やらは手に入るしある程度発覚しにくいが、違法であることも変わらないとか・・・その辺はサービスが欲しかった。

 

 が、まあ使わなければ問題ないとのことだし、良いだろう。

 

 

 それにこの1と2を設定したことによって、軍仕様の物資も手に入る!今から楽しみで仕方ない。

 

 ああ、あとこのお願いなんだが、アホみたいに強力なものが選べなかった代わりに各お願いにサービスがついている。両親が金持ちなのもそれだ。具体的に表すと

 

1・家にシューティングレンジを設けても問題ない

2・家や武器に組み込む分には、現実には無理なことでも可能

3・建築基準やその他の煩わしい事は、気にしないでも問題は無い

4・富豪クラス、又1,2,3に関わることに関しては、要望通りになる。

5・準備がすべて整ってなお余裕が残る程度の準備期間、ただし原作開始時点において床巣市の藤美学園に入学していなければならない。

 

 

 床巣市・・・?どっかで聞いた覚えがあるんだが・・・まあいい、いずれにせよ地味に助かるものばかりである。

 

 何度か家を探索してみたが、地下に奥行縦400mはあるどうやって気が付かれずに建てたんだよ!と突っ込みたくなる射撃場があった。四階建ての上に、地下二階までありやがる・・・どうやら床巣市にあるベースとなるこの家は、初めからサービス満点のようだ。

 

 探してみると、他にも厚さ2mあるコンクリートと五センチの銅板で覆われたパニックルーム兼物資保管庫があった。この家は核戦争後でも想定しているのだろうか?なんとなく何かを暗示しているようで怖い・・・原作北斗の拳とかじゃねえだろうな?・・・体鍛えるか?

 

 

 

 

 

 あいかわらず原作が思い出せないし、若干の偏頭痛が治らないが(原作知識が思い出せないせいじゃないだろうか?)とりあえずその後二年くらいは色々悩みながらも、俺は生活を謳歌していた。

 

 どうせ悩んだってなにかしら始まるし、準備期間はかなり多くとってあるとわかっているからだ。ずっと張りつめていては、身が持たない。どうせ若返ったんだからめいいっぱい楽しまなければ損だ!

 

 ちなみにこの町には、原作開始時点いなければならないのだからと手始めに住宅街にガンロッカー付きセーフハウスを2つと、学校の近場の新築マンションを完成次第という予約でワンフロア、近辺の市に1つづつセーフハウスを置いた。

 

 

 ああ、それと家を建てるに際して、藤美学園がうっとおしい事に気が付いた。めんどくさいことに、この学校・・・全寮制である。

 

 やられた・・・騙されたと言っていいだろう!全寮制ってことは家から通えないじゃん!!門限あるじゃん!武器どこにしまうんだよ!!

 

 

 本当に詐欺である。

 

 

 過ぎたことは仕方ないので、マンションをワンフロア五十年契約で借り切ったわけだが。

 

 

 

 

 とにかく、そんなこんなで僕は今生をエンジョイすることにした。

 

 

 手始めに、俺は幼稚園を沖縄で過ごした。いつでも泳げるナイスな環境、開放的でおいしい料理、そしてなによりも暖かい!

 

 寒いのが苦手な俺には、すこぶる良い環境だ。

 

 むろん、それだけが目的なわけではない。俺の能力は簡単に武器が入手できるだけであって、コネは必要とされている。ゆえに・・・。

 

 

 

「HAHAHA、お前さんは若いのに見どころのあるやつだ!ヴァージニアに来る用事があれば、いつでも連絡するがいい!特にヴァージニアビーチは良いぞ、HAHAHAHA!」

 

 

 

 そう、米軍へのコネづくりをシカていたのだ。さすがに五歳くらいの子供うちはガキ相手に、変な警戒する軍人も少ないだろう。そんな魂胆もあり、開放日に将校狙ってコネ作りを始めようとしていたのだ。

 

 米軍のコネで、武器や格闘術を学べたら最高ではないか!むろん、PMCなんかの講座にも行く。が経営者用護身術コースなんかで学べることはたかが知れているし、マジヤバな格闘技なんか教えてくれるわけがない。受けるなら、米軍兵士が自腹切ってでも学びに行くようなコースだ(最近は部隊指揮官なんかの間で結構あるらしい、学んできて部隊全体にフィードバックして練度を上げるんだとか)。

 

 

 そのための開放日だったのだが・・・それより先に観光で伊江島へ向かう途中のフェリーに、やたら年季の入ったただモノじゃない雰囲気を醸し出すアメリカ人らを見つけた。ごつい連中がいるなと思い、話しかけてみたところ案の定米兵で、しかもなんか一発で気に入られた。

 

 というか、何言ってるかわからないだろうからってこいつらなんて話を子供に・・・!おまえ、1979年の人質救出に実は秘密部隊として参加してたって完全にイーグルクローじゃねえか!!

 

 陸軍のやつらがしくりやがったとか・・・デルタじゃん。

 

 え?こいつら海兵隊?本部はリトルクリークじゃない、どういう意味?え、それ以上は言えない?自分たちで暴露してきたんだろうが!!

 

 

 しかし、え?海兵隊でイーグルクローにいたって事は、あいつら特殊部隊の連中だろ?で特殊部隊ってことはSEALSかな?でもあれってデルタフォースが出張ってオリンピックの時のドイツ警察ばりに世紀の大失敗した作戦だろ?

 

 

 ・・・まあ、もう、なんでもいいや!ようするに、俺のお願いの力が半端なかったってことだろ?

 

 

 とにかく、後々アメリカにも留学して武器のつて作って撃ちまくってみたかったし、丁度いいや!!というわけで、米軍海兵隊中佐とのコネゲットだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、これは後で調べてわかった事なんだが・・・シールズの本部はリトルクリークにある。あるのだからシールズじゃないんだが・・・ヴァージニアビーチに滞在する「元海兵隊特殊部隊」というのは、SOCOM隷下に実は存在する・・・。それは元シールズ6である、合衆国海軍特殊戦開発群、通称デブグルである。

 

 現代人(未来人?)っぽくいえば、ビソラディソを「ちょめちょめ」したのがこいつらである。なお、デブグルはくだんの『「イーグルクロー作戦」の失敗を受けて設立された』、とされている。

 

 

 

・・・・・・え?なんか作っちゃいけないコネを作って、知っちゃいけないことを知っちゃってないか、俺?

 




 実は当分原作には入らないんですよね!ごめんなさい!しばらくは原作までの準備に終始します。

 銃に関してですがたぶん趣味に走ります(もう走ってるともいう)要望が多ければ反映させます。が、FN57はグリップ的に日本人には無理だろ!とかの理由で外される場合があります。ガスガン買ったけどまともに保持ができないよあれ・・・。シングルカーラムもあるってはなしだけどどっちみちトリガーガードに指がかからんだろjk。

 当方は色々な作品や動画から影響を受けています。Last of usはありがちな内容だったけど良かった、最後の誓いなんか痺れる親の愛を感じたね。
 
 他にもFPSなロシア人とか最高ですよね!アレのゾンビ対策を見て金掛けられるならどんなの俺は選ぶかっていうオマージュ要素もあります。


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Back to 床主

 会話って難しいです。逆に地の文で説明を延々と続けるのは楽なんですけどね~

 というわけで本作のヒロインの一人の登場です。


 五歳になった。あと一年ほど沖縄にいて、それから小学校を本土の学校に行く予定だ。

 

 アメリカにでも行って銃を撃ちたいが、中学生になってからでも問題ないと思われるので、まだ行く気はない。むしろ中学生以下で銃を撃つ方が、問題な気がするしな。

 

 

 で、今何をしているかというと、来年から通う予定の小学校を見がてら床主市に帰ってきている。

 

 

 いくらコネがあろうと、流石にミックマップ(marine corps martial art program)なんていうまだ出来てもいないものを習う事は出来なかった。まあそれは最初からできないだろうな~、とは思っていたので、次善とばかりに沖縄の伝統武術を少しばかり齧ってみる。

 

 なんとなく興味ある!という雰囲気を出したら、情操教育の一環とでも考えたのだろう、両親はすぐに許可をくれた。

 

 

 さすがに、俺の求めていたような実践的な~というものとはなんか違う気がしたが、前世では短槍やら鉈みたいな武器使う武術なんて習ったこともなかったからこれはこれで面白い。

 

 それによくよく考えてみれば、幼年の部でそんな危険なものを教えてくれるわけない。四、五才なんて体を動かしてるだけで楽しい時期だし、スパルタになってもやめる子供しかいないだろうしな。そう考えれば、俺にはうれしくないが妥当なのだろう、現に対戦なんかはやってないし受け身とかばかりやらされる。

 

 その重要性はわかるから受け身に手は抜かないが、正直真面目にやってるのなんて俺くらいだろう。受け身なんて地味なものより、ウレタンで出来た槍の方が子供たちの人気を集めているし実際面白い。

 

 

 そうそう、両親といえば驚愕の事実が発覚した。実は、あの若い奥さん・・・旦那より年上だった・・・。

 

 

 母親は中流家庭の出身で、父親は金持ちの出身。大学受験中だった父親の家庭教師として雇われたのが一流大学生だった母の洋子で、教えているうちに線の細いイケメンだった父親の事がかわいくなって、勢い余って高校三年生にあがったばっかりの父を食べてしまったんだとか。犯罪ですよ奥さん!

 

 

 ちなみにこの話・・・のろけるように母親本人にされた話だ。

 

 ・・・・・・子供にそんな話すんなよ!!色々話の内容生々しすぎて、どう反応していいかわかんねーだろうが!

 

 

 まあ話を聞いていくと、まず親父なんだが・・・大学二年の時に出来婚、でそのことが親にバレて大ゲンカ(まず大学卒業までどうやって隠し通したんだよと突っ込みたい)。実家と絶縁した上で、大学時代の友人と会社を立ち上げて、大儲けしたらしい。

 

 母親は両親を早くに亡くしていて、親父と結婚してから面倒を見てくれていた祖父母もなくしたらしい。その辺も、親父の親が気に入らなかった原因の一つのようだ。初めは一人で育てる決意をしていたらしいのだが、親父がなんだかんだ強引に引き留め、最後はベッド交渉で母親を説得。その後、余韻冷めやらぬ母親にサインをさせて市役所に速攻提出したのだとか。

 

 

 ・・・良い話じゃんか。

 

 

 というか、親父イケメンすぎるだろ。お願いで貰ったとかどうとか思って距離を置こうと思っていたんだが、こんな良い人たちを嫌いになれるわけがない。

 

 

 今考えるとそれを含めて「都合が良い」のかもしれないが、二年近く付き合ううちに完全に親子になってしまった・・・。精神は体に依存するというが、まさにその通りで、この体になってからやたら涙もろいし味覚もお子様。

 

 知識やらなにやらは劣化するということはなかったが(むしろ記憶力なんかは良くなっている・・・?)、やたらと衝動的な感情に振り回されるようになってしまった。

 

 この前も、こけた拍子に持っていたアイスを落としてしまい大泣きをしてしまいエライ恥をかいてしまった・・・。すこし大人びたところがあるので、むしろ両親には喜ばれてしまったが俺はうれしくねえ!!

 

 まあ何が言いたいかというと、さっきも言ったが・・・俺はこの新しい両親が、すこぶるい気に入ってしまったようだ・・・。

 

 

 

 床主国際洋上空港につくと、体格のがっしりとした男と俺くらいの歳の白いワンピースを着た女の子が待っていた。

 

 

 

「おひさしぶりです!健吾さん!」

 

「やあ、立花くん!ひさしぶりだね。元気そうで何よりだ!」

 

 

 

 親父が剣道を習っていた人物らしい。健吾というその男の人と両親は、とても親しそうに話をしだした。

 

 親父はあまり剣の方は強くなかったようだが、まっすぐな性根が気に入られたようで、実家に勘当された後も親しい付き合いをしていたらしい。

 

 そのお師匠さんの温かい歓迎を受けながら話を聞いていると、この後健吾さんの車に乗ってここから移動して、いったん健吾さんの家まで行くことになっているようだ。

 

 そのことを両親と話し終ると、健吾さんは俺に

 

 

 

「少し大人同士で話があるからさえ、この子と話してをしていてもらえるかな?」

 

 

 

 と言った。

 

 別段こちらに否は無いのでとりあえず「うん、おじちゃん!」、と答えて女の子に話しかけてみた。

 

 女の子は、白いワンピースに、水色の靴下と、黄色い靴を履いていた。長くきれいな黒い髪をストレートに伸ばしていて、それが白色のワンピースと綺麗なコントラストを作っている。どことなく凛とした顔は、将来美人になることを約束しているが、いまはまだあどけない可愛らしさが残る美少女だった。

 

 

 

「はじめまして、僕は立花洋介です。君は?」

 

「・・・・・・!」

 

「こら、さえ!」

 

「あはは、洋介ちゃんにげられちゃったわね~」

 

 

 

 どうやら、恥ずかしがられてしまったようだ。

 

 これくらいの歳だと、初めて会った異性の子に気恥ずかしさを覚えやすい気がするのは俺だけだろうか?若返ってみて久しぶりに、意味もなく顔見知りするという感情を思い出し、面白ささえ感じているが・・・かわいい女の子に話しかけるのは正直、俺も少し恥ずかしい。

 

 かといって、それでコミュニケーションをないがしろにするほど、人生経験短くないので我慢して話しかけたんだが・・・さえ、と呼ばれた少女は父親の健吾さんの後ろに隠れて出てこない。

 

 何度か健吾さんが促すように呼びかけると、しぶしぶとこちらを見て

 

 

 

「・・・さえこ・・・です」

 

 

 

 と、一言だけ言うと顔を赤くしてまた隠れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 これが、俺が後々長いこと付き合うことになる女性の一人、「毒島冴子」との出会いだった。

 




 冴子さんにもこんな時代があったんや!と思うとギャップ萌がすさまじいことになりません?異論は認めるがこんな冴子さんがいてもいいじゃない!だって幼女だもの
      ひるね


ミックマップ(MCMAP)
 米国海兵隊の統一格闘技。本土、在韓、在フィリピンや在日の米軍がそれぞれの国の格闘技に精通していてややこしい!というわけでそれぞれの格闘技をロシアのコマンドサンボよろしく混ぜた物。ロシアの軍隊格闘技は基礎、打撃系、関節系、システマと四段階くらいに分けているが、米軍の場合は基礎、格闘資格、特殊作戦従事資格と資格ごとにヤバい技を教えていく模様。 ちなみに基礎は海兵隊のホームページで無料配布している。


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毒島邸にて

「Si vis pacem, para bellum 汝、平穏を欲するなら。戦へ備えろ」
                       ~ラテン語の警句~




 それからしばらく「さえこ」、は口をきいてくれなかった。

 

 育ちがいいのだろう、完全にこちらから隠れるわけではないが、それでも年相応の恥ずかしがり方を見せた。少なくとも車に乗っている間は、何一つ話してくれなかったし、こちらを極力見ようとはしなかった。

 

 

 そうなってくると、こちらとしても面白くない。

 

 

 なんだよ、こっちは頼まれたからおとなな対応してやっているのに、といった具合に、余計に構いたくなってくる。体が子供になった弊害だろう、所々で俺は子供っぽい衝動がにじみ出てくる。けれど、それが普通なことなわけだし。ただでさえ僕は偏頭痛持ちだ、逆らってもストレスしか生じないわけだから僕はその衝動にある程度従って動くことにしている。その方が子供らしいと思われるしね。

 

 

 あ、この「俺」と「僕」の一人称なんだがすごくめんどくさい!歳が歳なわけで親にはさすがに「俺はやめなさい!」、と「僕」を強制されるから、外行きの一人称は「僕」なわけだが、頭の中では「俺」のままでいる・・・というわけにもいかずふとした拍子に、「俺」が口から出てしまいさらに矯正される。そのうち頭の中でも「僕」、と「俺」、がごっちゃになるようになり気持ちが悪いのだが、なんか慣れてしまった。

 

 そのうちどっちかで統一されるだろうし、ある意味「僕」になれば前世と区切りがつけられて、ちょど良いのではないだろうか?というのが今の気持ちだ。

 

 

 なんだか、どうでもいい話に脱線してしまったな。なんだったか・・・そう、問題は「さえこ」だ。

 

 結局車の中では会話一つすることができなかったわけだが、それは毒島邸(パトラッシュの飼い主みたいな名前の家族とかいないだろうな・・・?)についても同じだった。

 

 いい加減イラっとしてきたが、車が家についたというので降りてみるとなかなかに立派な家だった。

 

 

 

「すごいな・・・」

 

 

 

 この家小さな道場まで敷地内にあるよ・・・。町からは少し外れてるとはいえ、この面積を持っているという事は相当腕のいい道場主ということなんだろうか?

 

 

 

「はは、驚いたかい?この時代に道場を維持するってのは、なかなかに大変でね。数少ない自慢の一つさ」

 

「おみそれしました・・・?」

 

「おお、難しい言葉を知ってるね?」

 

 

 

 親父の方も見ると「うんうん」、と首を縦に振っているのでかなりの使い手なのだろう。

 

 前世で近所に住んでいた、30代の元自衛官で剣道四段全国大会準優勝経験者のママさんは、バカみたいに強いと評判だったが(実話)・・・健吾さんはどのくらい強いんだろう?

 

 同じくバイトで教えていた、高校一年生剣道二段、高校二年剣道三段とか、その塾の塾長剣道二段とか講師剣道四段(全部実話)とか。やたらと前世は剣道に縁があったが、いかんせん自分が振ったことが無いので、強さに関しては見当もつかない。

 

 

 

「・・・・・・とうさまはつよいんだ!」

 

 

 

 いろいろ考えていると、そんな声が聞こえてきた。

 

 あたりを見回してみると、健吾さんの後ろに隠れていた、さえこちゃんが誇らしそうな顔で胸を張っていた・・・せめて足の陰から体全体を出してから胸張ろうぜ?かわいいんだけどさ。

 

 

 健吾さんに頭をわしわしと撫でられながら、誇らしげにしているさえこちゃんが「わたしもしょうらいとうさまみたいにつよくなる!」、とけなげなことを言っている。それをほほえましく思いながらも、少しいたずら心が湧いた。

 

 

 

「えー、そんなところに隠れて出てこなかったのに、ほんとに強くなれるの~?」

 

「む?」

 

「あらあら」

 

 

 

 さえこちゃんはぽかんとした表情で、何が起きたかわからないといった様子だ。ちょっとまずったかな?と思い健吾さんの方を見てみると「かまわん」、といった風にうなずいてくれたので自重しないことにした。

 

 

 

「な、なるもん!」

 

「ほんとに~?」

 

「なるったらなる!」

 

「でも、まだ隠れてるしな~・・・」

 

「う、うう~!!!!」

 

 

 

 さえこちゃんは、なんと言い返したらいいか分からなくなってしまったらしく、健吾さんの足に顔を埋めうーうー唸り始める。なにあれかわいい。

 

 

 

「ほらさえ、あんな事を言わせておいていいのか?」

 

「と、とうさま~・・・」

 

「毒島の女ならあんな兵六玉くらいがつんとぶん殴ってきなさい!」

 

 

 

 あの、もしもし?ひどくない?さっき頷いて許可出したの、あんただよね?

 

あ、あれ?母さんもそこで頷くの?だってさすがにあんだけ避けられると傷つくじゃない?俺に味方はいないわけ?

 

 

 

「男の子は傷ついて強くなるのよ、我慢なさい」

 

「男女差別だ!」

 

「違うわよ」

 

「?」

 

「これは区別よ?」

 

「!?」

 

 

 

 なんだか知らないけれど、世の中の真理に行き当たった気がする。いや、そんなバカな。

 

 

 

「お、おい。ひょうろくだま!」

 

 

 

 理不尽な世界の真理らしき定理に頭を悩ませていると、ふいに声がかかった。ふと顔をあ理げると、なにやら決心した顔のさえこちゃんが目の前にいた。

 

 

 

「あ、隠れてたのが出てきた」

 

「はじめからかくれてなんかないもん!」

 

「え~・・・隠れてたじゃん」

 

「かくれてないの!」

 

「ふ~ん・・・」

 

「・・・かくれてない!」

 

「ホントは怖かったんじゃないの?」

 

「そんなことないもん!」

 

「ふ~ん・・・」

 

「ほんとなんだよ、ほんとなんだからね!?」

 

 

 

 もはや、怒りで恥ずかしさがどこかへ飛んで行ってしまったようだ。今にも噛みついてきそうな勢いだ。

 

 

 

「ほんとに~?」

 

 

 

 ジトッとした目でさえこちゃんを見つめてみるが、さえこちゃんはほんとに!と怒鳴ると、頬を膨らましながらこちらを睨みつける。

 

 

 

「じゃあ・・・僕と遊んでよ」

 

「・・・・・・ふえ?」

 

「やっぱり怖いんだ!」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「じゃあ遊んべるよね?」

 

「・・・そ、それくらい・・・!」

 

 

 

 話についていけず急に心細くなったのか、健吾さんの方をさえこちゃんは見るが、健吾さんは頷くばかりで助けを出そうとしていない。

 

 引っ込みがつかなくなったさえこちゃんは、できるもん!と連呼しながら僕の手を取ると、その日いちにち家の案内をしてくれた。終わるころには俺にも慣れたのか、普通に笑ってくれるようになったのはうれしかった。

 

 方法は少々強引だったが、見事な手腕だったと健吾さんもほめてくれた。母さんは、もう少し優しい方法を覚えてほしいけど、男の子はやんちゃなほうがかわいいしどうしようかしら?とたずねてきた。俺が知るかよ。

 

 

 

 あ、それと表札の『毒島』見て思い出したんたんだけどさ

 

 

 

「そういえばさえ、兵六玉は殴らなくていいのか?」

 

「あ、忘れてましたとおさま・・・えいっ!!」

 

「うぎゃ!なに急にどうしたの!?」

 

「忘れてたの」

 

「何が!?」

 

 

 

 彼女の名前「毒島冴子」って漢字で書くらしいんだけど・・・

 

 

 

「これからもうちのさえと遊んでやってくれ」

 

「とおさま、ちがいます!わたしがよーすけで遊んでやるのです!」

 

「・・・はっはっはっ、そうかそうか。では洋介君、うちのさえにもて遊ばれてやってくれ!」

 

「ひっでえ・・・」

 

 

 

 これハイスクールオブザデッドの世界だは。




 というわけで主人公、ついに完全にどこの世界だか思い出しました。

 こっからが本当の勝負というわけですw



パトラッシュの飼い主みたいな名前の家族
 Waffle,Waffle!

理不尽な世界の真理らしき定理
 高校の先生の言葉。割と真実だと思う


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腕試し

「安全とは迷信に過ぎない。自然界にそのようなもの無く、又人間がそれを享受することも無い」
                             ~ヘレン・ケラー~


「ねえ、ごはんが終わったらなにして遊ぼっか!」

 

「そうだね~。かくれんぼはお昼にしたし、夜は暗いから無理だよね?おもしろそうだけど」

 

「暗いと怖いから、や!・・・おままごとは?」

 

「そうだね~。それでもボクはいいよ?」

 

「じゃあ、さえこが浮気されてマジ切れしてる奥さんの役ね!」

 

「・・・最近のおままごとは、やたらリアルだって聞くけどもさぁ・・・」

 

 

 最近、他の子達に着いて行けない時があるんだよね。

 

 なんていうか、会話が生々しいというか。嫌な意味で下品過ぎるというか。

 聞いてるだけで、反吐が出るような会話を平気でするんだよね・・・。

 

 いやさ。

 子供のいるお昼に、生々しい昼ドラかけてる親が悪いんだろうけど・・・あとキレるって、もはやどの世代も使うのねん・・・。

 

 成長するにつれ、下の世代に使われると変な気分になる言葉ってあるよね・・・。

 

 小学生からのメールに草が生えてた時は、俺もそのうち時代に取り残されるんだろうなって実感したよ・・・って今は俺、同い年じゃね?

 

 

 ・・・あ、これ前世の記憶か!

 

 

 まったく。

 

 

 色々な事を忘れてしまったが、いらんことばっかり覚えてるな「www」。

 

 

 

 

 結局二、三日滞在していた。

 

 床主にいる間、冴子ちゃんとは良好な関係を築けた。

 

 良家の御嬢さんということもあり、素直に育てられた彼女は本当に良い子だった。

 

 

 人形遊びやおままごとのような、女の子が好きそうな遊びもしたが、そこは剣術指南の家の生まれ。

 

 かくれんぼや鬼ごっこなど、アクティブなことも割と頻繁に遊んだ。

 

 

 しかしだな、まだ俺の体が出来上がっていない、という事ももちろんあるが・・・地味何をやっても強い。

 というか頭を使わないと負ける。

 

 元はいい歳とはいえ、今は子供。

 

 男女差別をする気はサラサラ無いが、それでも女の子にギリギリでしか勝てない。あまつさえ、たまに負けてしまうというのは中々に悔しいものがある。

 

 なんだか、沸々と対抗心が湧いてくるのだ。

 

 自分でも少し、気持ちを持て余し気味だ。

 

 

 まぁ、でもそこは幼くともあの「毒島冴子」である、ということなのだろう。

 

 

 

 美人で頭が良くて、体を動かすのも好き。

 

 なんとも完璧な美少女じゃないか!

 

 

 でも、あの「毒島冴子」ということは将来ああなるんだよな・・・。

 

 

 チラリと横を盗み見る。

 

 

 冴子ちゃんは今、何をして遊ぼうか悩みながら楽しそうにニコニコしている。

 

 

 ひまわりのような明るい笑顔を浮かべている、この少女が将来『アレ』で悩むのか・・・正直想像もつかないな。

 

 

 

 まあそれは追々考えていけばいいだろう。別に実害はないわけだし。

 

 

 

 で、冴子ちゃんの話に戻るが。

 

 

 一応まだ本格的にではないが、剣術の稽古も始めているようだ。

 たまに、家の敷地にある剣道場で竹刀を振っている姿を見る。

 

 将来は刀を振る姿に、色気すら感じる「良い女」になるのだろう。

 

 しかし一生懸命竹刀を振っているその姿はかっこいい、美しいというよりも、いまはまだ愛くるしい可愛さの方が目立つ。

 

 原作で日本刀無双してたのが、信じられないくらいだ!

 

 

・・・無論、その愛くるしい手に持った竹刀から聞こえてくる、鋭い風切り音を除けば、ではあるが。

 

 

「ぜっっっってぇ、あの竹刀の前に立ちたくないわぁ・・・」

 

 

その思いから、武術なんて「わかんない!」という顔をして過ごしていたのだが・・・両親があっさりと夕餉の席でバラしてしまった。

 

 

 その様子も、

 

「うちの息子も、なんとか言う古武術を習っていましてね?中々筋が良いと褒められていました。あっはっは!」

 

 とまぁ、なんとも軽いノリであった。

 

 

 

 単純に自慢してくれているのだろうが、父よ!

 

 武術家に理由を与えるような、そういう危険なマネはやめていただきたい!洒落にならない!

 

 

 それがどれほど洒落にならないかは、那覇市在住のお師匠さんを見ていればよくわかるじゃないか!

 あなた方にとっては、やさしそうな猫背のじいさんかもしれないけれど!

 

 俺は本性を知っている。

 その丸まった背中は可愛らしいにゃんこの背などではなく、血に飢えた老獪な虎の背だ!

 

 夜にバーに、嬉しそうに演奏しに行くのは日米交流(精神)のためなどでは断じて無い!

 どちらかというと、日米交流(物理)のためだ!

 

 

 若い虎は「力を持て余して」喧嘩を売って歩くが、一部の武術家はいくつになっても「わくわく」しながら「買いに」歩く。

 

 「道」ではなく「術」を極めんとする者の業は深いんだよ!父さん!

 

 

だからやめt・・・ひいぃ!?

 

 

 

健吾さんの目が光った!

 

 

 

 目が光る、よく漫画などでも見る表現ではある。

 

 しかしこれ、実は単純な比喩表現ではない。

 

 交感神経が刺激されて瞳孔が拡大した結果、物理的に本当に光って見えるのだ!

 

 

 こ、これは絶対なにかやらされる・・・!!なんとかしなければ・・・!

 

 こうなれば奥の手を・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、ダメでした。

 

 

 古武術を習ってはいるが、俺は徒手よりもっぱらティンベーという盾と、ローチンという短槍を使う琉球古武術に傾倒している。

 

 そして素手ではないとわかると、そこに健吾さんはぐいぐい食いついた。

 

 さらに盾と短槍とわかるやいなや、俺が反論する前に健吾さんはあれよあれよという間に、対戦を仕組んでくれやがった。

 

 

 くそッ、素手なら対戦は断れたのに!

 

 両親も反対しなかったし(むしろノリ気だった。

 どうやらその気で話題を振ったらしい。あの優しい父が・・・あぁ、何と言う事だ!武門の血は争えないということか)、冴子ちゃんも結構乗り気だったこと。

 

 そして、腕が錆びないさせないようにと言われて持ってきていた、練習用のセットが俺に反論の機会を許さず、すぐに対戦実現してしまった。

 

 

 

 記憶が正しければ、かつてニーチェの言った言葉ではなかっただろうか?

 

『神は死んだ』!

 

 

 

 

 まぁなんにせよ、決まってしまったからには仕方ない。

 

 盾と短槍。

 

 ライオットシールドと警棒なんかに応用できそうだからって、安易に決めたのが失敗だったか?

 

 いやしかし、元々なんらかのクライシス系の世界を想定していたのだから、選択は間違っていなかったハズだ。

 

 素手よりいいだろうと思って決めたことだし、原作を考えると間違っていなかったのだから、良い腕試しと考えるべきなのだろうな・・・。

 

 

 それによく考えれば「生き延びるために必要になるかも」という意図があったわけだから、中々に真面目に取り組んでいたわけで。

 そうすると前世の分、他の子共より筋が良く思われるのは避けられない。それに同じく前世の分、真剣にやっている。

 

 久々に思いっきり体を動かすのが面白かったので、やること自体も割と楽しんでやっていた。

 

 

 なんだ。

 そうすると俺が考えていなかっただけで、ある意味この流れは当然だったわけか。

 

 

 すなわち考え方を俺の考えである「護身術程度」としての生き残るための技術ではなく、「武術を極める」ことを楽しそうにやっている子の親側、から考えるのだ。

 

 

 子供同士なら、致命傷になるほどの力をまだ持っていない。

 

 そして武術を学んでいる人間ならば、本気で力を振う必要性とその危険性がわかるのではないだろうか?

 

もし大人同士ならば「本気」でやり合えば相手が死んでしまうかもしれない。しかし子供ならゼロとは言わないが、そこまで危険ではない。

 

 そして「道」ではなく「術」を真剣に取り組んでる俺がいて、「術」の業の深さをある程度理解している父。

 

 

 そう考えると当然の結果だったのだろうか?

 

 

 もしかしたら父は、本当にそのために機会を設けてくれて。

 そして健吾さんはその考えに理解を示し、父の案に乗ってくれた、という事なのではないだろうか?

 

 

 

・・・無いな。

 

 

 いや、多少そういう事を思ってくれてはいるのだろうが、単純に見たことも無い武術が本気で戦っているところを見て見たかっただけだろう!

 

 やるのは身内の子供だから変な因縁も沸いてこないし、それと闘うのは同門で教え子!

 そりゃあ見ていて楽しいだろう!

 

 見ている側はな!

 

 

 

 これで「秘伝だから他門には見せられない!」とでも言えればいいのだろうが・・・柔道や剣道、空手を教えている人たちと合同で、町の体育館を借りてやっているような武術だ。

 

 一緒に体育館の柔道場を借りるわけだから、同じ時間にやる上にお互いにしきりも間仕切りない。

 つまり秘伝もへったくれもあったもんじゃないということ。

 

 

 探しても探しても見つからない言い訳に、試合は逃げられないモノとなり、最終的には「やぁってやるぜ!」とやけになって大見得切った俺。

 それに対して両親と健吾さんが楽しそうに拍手をするという、非常にカオスな事になった。

 

 ・・・おのれ武術家共め。

 

 

 あ、そんなこんなでぇ、なし崩し的に冴子ちゃんと、試合をする運びとぉ、あいなったわけでございまするぅ・・・!!

 

 

 ベンベン

 

 




 あ、だいぶ開いてしまったから忘れられてるかもしれないけれど。どうも、立花洋介です。

さて早速ですが、この話が何故エタりかけたかというと・・・軒並み低評価で、作者の心が折れていたそうです。それはもう、見事なまでにポッキリと。
 
 流石に「0点」はきつかったみたいですね。

 まぁ、運営のガイドを見ると「このサイトで見た中で、最も酷い作品」という意味ですからね。少しは自信あったこともあって、その天狗鼻と一緒に心を、見事にへし折られたようです。

 「もちろんコメントまでいただいているので、真摯に内容は受け止め、改善していくしだいです」

 とかなんとか殊勝なこと言ってましたがね、言ったそばからエタってりゃ世話ねえやって話ですよ。

 特に僕からするとね!

 個人的に言わせてもらえるなら、ネタバレ要求や、作風に対するソレでなければ、低評価のコメントはとても価値があると思うんだ。

 そして「とても価値があったと、小生は感じました」と作者も言っていました。

 そんなわけで低評価を受け、クサクサしていた作者なわけですが・・・それでも、週に百回くらいはコンスタントに閲覧があるのを見て、死ぬほど驚いたそうです。
 見てくれている人がいる事に感動しつつ、「見てくれている人に対する裏切りだ!これではいかん!」と一念発起し、指摘された読みにくさを改善していたようで、前よりはマシになったんじゃないでしょうかね?

「書かれている指摘を読み、自分で何回か読み返してみると、確かに読みにくい・・・かと言って直してみてもなんだか違和感、句読点難しい・・・」

 とかなんとか?


 とまあ、僕がここまで話してきたわけれども。改善できたのかどうなのか、よくわからん文章だけど、それでもよければ、これからもご贔屓にしていただければ嬉しいです。


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私は誰であるか?

「俺の名前を言ってみろ!」
          ~モハメド・アリ~


 俺と冴子ちゃんは、毒島邸にある道場で1・5メートルくらいの距離を開けて相対している。

 

 健吾さんはその間くらいにいて、審判をするようだ。俺の両親は横の方で座って、興味深そうに見学している。

 

 冴子ちゃんは胴着、袴と面、小手、胴と竹刀。

 俺は上は黒、下は白の胴着。胴巻きタイプのプロテクターと、頭にポリカーボネイトを使ったヘッドギア。竹織りの盾ティンベーと固めのウレタンで作ったローチンのセットだ。

 

 実際は、盾と槍や鉈の二つ揃ってティンベー呼ぶのだが、めんどくさいので俺は盾をティンベー、槍もしくは鉈をローチンと呼んでいる。

 

 

「互いに礼・・・始め!」

 

 

 健吾さんが開始の合図を発する。

 

 

 後に酔った健吾さんから聞いた話だが、他流なんかとやる場合、合図なんてやらないらしい。

 俺と冴子ちゃんが友達同士の、遊び心の試合だからきちんと審判らしい審判をしてくれたらしい。

 

 な、なかなかにえげつない。

まぁ他流試合なんて道場破りくらいしかないらしいので、そんな奴には厳しくてもしょうがないのだろうか・・・?

 

 

 

 色々と理屈をこねたりしたが、半ば無理やりの試合とはいえ俺も男だ。

それに、たしかに腕試しにはいい機会だ。

 

 俺に冴子ちゃんほど才能は無いだろうとはいえ、「それなり」にまじめに取り組んできた。

 「それなり」の腕はあるというプライドがある。

 

 

 手加減は、したらすぐバレるだろう。

 

 大人たちの機嫌を少しばかり損ねるのは問題ないが、きっと冴子ちゃんにもわかってしまう。そして冴子ちゃんはソレを許してくれないだろう。

 

 それに冴子ちゃんも健吾さんも、男親と娘の関係とはいえ、武門の真剣な試合で傷くらいを気にするような人たちではない。

 

 つまり真剣にやらない理由はどこにも無い。むしろ真剣になる理由しかない。

 

 

 となると十歳くらいの女の子にマジでやって負けるのは、流石に・・・ねぇ。

 

 

 

 試合が始まると、最初はお互い様子見で無難に何合か打ち合う。

 

 

冴子ちゃんが竹刀で打ち込み、俺の突きを弾く。俺は盾で槍と胴を隠し、打ってきたのをひたすら盾でそらしながら槍で突く。

 

 

 いやそれにしても、今まで剣術とやり合ったことが無いから、間合いが図りにくい!

 

 いつも隣でやってるのを見ているから、どうにかなると思っていたが、中々どうして・・・。

 

 習った武術では、棒術をやる。なのでついつい、その間合いと打ち数を想定してしまうのだが、微妙に全然違う!

 

 珍妙な表現過ぎて、何言ってんだ俺?と自分でも思わないでもないが、言わずにはいられない!

 

 

「・・・なんか盾がやりにくい、槍も突きばっかりだしズルくない?」

 

 

 どうやら冴子ちゃんも、同じくやりにくく思っているようだ。

 

 

「ズルって言われても・・・」

 

 

 あ、そうか。

 剣道の試合なんかだと、突きは年齢制限があるから、まだ出来ないんだっけ?

 

 

「ずるっこだ・・・!」

 

「う~ん・・・でも元々こういう武術だから、許して?だって槍持ってて突かないなら、なんのために持ってるのって感じじゃない?」

 

 

 俺がそういうと、冴子ちゃんはしばらく渋そうな顔をする。

 それでも少しふてくされたようではあったが、しぶしぶ頷いてくれた。

 いやだけど、理解はできるから一応納得しておこう、というった感じだろうか?

 となるとどうやら、槍術にもある程度通じているらしい。

 

 ええ子や・・・そうだはな、武器的に仕方ないとはいえ、禁じ手がオッケーというとんでもない事態だもんね。

 

 使ってる俺も、ちょっと後ろめたいよ。

 

 

「じゃあ、盾は?」

 

「いや、盾がメインなんだけどな、ティンベーは」

 

「むー・・・やりにくい。間合いもなんか・・・気持ち悪いし」

 

 

 き、気持ち悪い。

 

 面越しの冴子ちゃんの顔を見つめてみるが、真剣な顔をしている。他意はなさそうだ。

 きっと純粋に、間合いに関してなんだろう。

 

 

 俺自身が言われたではないとはいえ、美少女に口に出して、気持ち悪いと言われるとなんかショックだ・・・。

 

 

「ほらほら、二人ともおしゃべりばっかりじゃぁ、いつまでたっても終わらないぞ!」

 

「はーい」

「・・・はい」

 

 

 地味にへこんでいると、健吾さんに怒られてしまった。

 

 とりあえず、考え事は後でしよう・・・ヘコむなぁ。

 

 

「えいやぁぁ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 そんなことを思っていたのが悪かったのだろう。

 

 少し意識が逸れたその瞬間、それほど大きくは無いとはいえ、確かに隙が出来てしまった。

 

 そして隙を見せてしまった次の瞬間、冴子ちゃんは竹刀で軽い打ち込みのフェイントとともに、蹴りで盾を弾きに来た。

 

 

「そうくる・・・かよ!」

 

 

 子供同士だから、それほど高度な構えが出来ていないとはいえ、そんな大きな隙じゃなかったはずだ。

 それをさえこちゃんは的確に突いてきたのだ!

 

 

 剣相手だから、体術はこないだろうと油断していた・・・。

 なんという効果的な捨て身技!腕が弾かれて体を開けてしまった!

 

 

一瞬の隙をついた、見事な蹴りだ。

 

 

 

 

 

 『今』の母に育てられた、良い子の『ボク』だったらここで諦めただろう。

 

 ここ数年のあいだ、『俺』と「俺を思い出すまでの『ボク』」はうまく合致できていなかった。結果、心の中の『俺』と、対外的な『良い子のボク』の二つの人格を持つ状態に、立花洋介はあった。

 

 そのうちに自然と合致するだろう。

 

 しかしそのタイミングが中々に掴めなかった。

 

 

 子供は急に大人にはなれない。

 大人は子供には簡単に戻れない。

 

 

 くだらない意地。しかし後々考えると、これが一番最初に『俺』と『ボク』が『僕』になった最初のきっかけだったのかもしれない。

 

 あるいは、この瞬間から僕の名前は「立花洋介」になったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 でも流石に、油断して盾を弾かれてはい、終わり。そんなんじゃあ、まったくもって恰好がつかない。

 

 なけなしのプライドが許さない!

 

 

「意地があるんだよ、男の子にはさぁ・・・!!」

 

 

 頑張って耐えて、槍を前腕に沿うように持って竹刀をそらす。

 

 押し出すような前蹴りからの、蹴り足を使った降りおろし。

 ゆえに年齢にしてはえらい腰が入っているが、そこは化勁で回すようにして力を、なんとか真正面から受けないようにする。

 

 形としては、逆にして腕に沿わせるようにしたローチンで受け、体の外側にそらすのではなく、内側に巻き込むようにしてそらす。

膝を曲げ足を逃がしながら体を屈むように曲げて、その場から抜けるように、ローチンで竹刀を斜め下に叩き落とす!

 

 ここさえしのぎきれば冴子ちゃんの体勢が崩れて・・・よし、崩れた!これで体制を戻すのに数瞬かかるだろう。

 

 だがそれは、弾かれた盾を持った腕と、竹刀を叩き落とすためにローチンを振り下ろした俺も同じ。

 

 数分の一秒という、ほんのわずかに俺の方が体勢を戻すのが早い、くらいでしかない。

 

 そして今の俺の腕では、そこから下がってパパッと巻き返せはしない。

 

 

 このまま離れられては、仕切り直しになってしまう。だから、前に出る!

 

 

 俺は振り下ろしたローチンの先を冴子ちゃんに向け、拳を胸に抱くようにして構え、そのまま半歩前に出る。

 

 

「む、あの技は・・・」

 

「あら。知っているの、あなた?」

 

「うん。あれは最近になって、古武術研究家たちの間で、見直されつつある技の一つなんだ。流派によっては『抱え』と呼ばれる技術で、切り替えしを省いたりするために使われたりするものだよ。主に刀に使う技術だね。竹刀の普及によって廃れたものなんだけど・・・」

 

「あら、どうして?」

 

「うん、竹刀は軽いからね。振る側が容易にコントロールでき過ぎて、本物の刀より振りのテンポが早くなり過ぎたせいなんだ。今の剣道の試合は、打ちの強さによって有効打であるかどうかが決まる。つまり「甲冑を着た上での戦い」を想定しているわけなんだけれど・・・刀も鎧も軽すぎて動きが素早い。それ故に振った際の隙が、現実離れして無くなってしまったんだ。」

 

「というと?」

 

「そうだねぇ、どう考えても相内な「コンマ数秒の戦い」とかがいい例だね。あんなのどう見ても、実刀だったら両方とも死んでいる。じゃあなんでそんなことになってるか?それで判断しないと全部相内になってしまうんだ。それじゃあスポーツにならない、そういうスポーツ化の時代の波を乗り越えた結果として多くの「剣術」の技術が消え去ったんだよ。事実あまりにスポーツ化を果たしてしまった影響で、現代剣道においては十分に固くて武器になる『甲冑格闘』などの武術的要素が無くなってしまった」

 

「そうだったのね・・・それじゃあ、洋ちゃんの今やったのは、そういう無くなっちゃった技の一つなの?」

 

「そうだね、銃剣術なんかにおいては実践されてるみたいだけど、少なくとも剣においては消えていったモノの一つだね。今まで説明したように動作から見ても剣術の技なんだけれど・・・なるほど、あれだけ短いと槍でも活用できるみたいだね。見ててご覧、あの最後の一歩と、体勢を戻そうとする冴子ちゃんの動作が合わさると・・・」

 

 

 

「そこまで!」

 

 

 

 俺の短槍の穂先が、冴子ちゃんの胸元に突き付けられている。盾は戻す動作と一緒に振られ、冴子ちゃんの頭の真横にある。

 

 たとえ本物の甲冑を着ていようと、喉への一撃と、盾の殴撃による脳震盪は免れない。致命打だ。

 

 

 冴子ちゃんの被る面越しにでも、悔しそうな顔が確認できる距離。

 

 その距離で大人げなくも、「俺」と『ボク』は勝利の味を噛みしめた。

 

 

 

 

・・・後々冷静になってから、あまりのバカっぷりに、転げまわった『僕』がいた事は内緒だ。

 




二話連続です。


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備えよ、常に

「ハンティングはスポーツなんかじゃない。参加していることを、片方は知らないのだから」
                          ~ポール・ロドリゲス~



 あれから計二週間の滞在を終え、僕は沖縄に戻る事となった。

 

 試合後からは毎日のように冴子ちゃんに勝負を挑まれたが、もう勝てる気のしなかった僕はせっかくだから勝ち逃げすることにした。

 

 もちろん隠し手ぐらいあと二、三持っているが、手の内を全部晒す気はないし・・・そもそも、使っても勝てるだろうか?

 

 屋敷中を逃げに逃げ、あらゆる手段で気をそらしてついに僕は逃げ切った。

 

 健吾さんいわく、冴子ちゃんは同世代に負けたことが無く、とても悔しがっていたとのことだ。というか六歳で剣道はじめてる子ってそんなにいるのか・・・?

 

 確かに試合直後目に涙を浮かべ、唇をかみしめていた。かわいいなくらいにしか思ってなかったが、もしかしたらいわゆる「初めての挫折」ってやつだったのかもしれん。

 

 特に僕の方がほぼ一歳年下(僕は十二月生まれなのだが、国外の制度と組み合わせると非常にややこしいことになる。まあそれはまた今度話そう)だとわかってからはより顕著になった。

 

 呼び方も自分がお姉さんという事を出そうと「ようすけちゃん」になったし・・・まあすぐに「くん」に変わったが。

 いずれにせよ僕の一勝は、非常に彼女の対抗心を掻き立てたようだ。

 

 いつもより修行に身が入って助かったよ、とは健吾さんの言だが、俺は正直微妙な感じだ。将来とても助かるんだろうけどもさ。

 

 しかし、それ以外に関しては中々良好な関係だった。

「ムキになって突っかかれる初めての人(by健吾さん)」だったこともあって、良い子良い子しなくてよい初めての友達という位置づけに僕はなれたらしい。

 

 それは単純にうれしく思えた。

 

 最初や、試合に勝った直後はあの「毒島冴子女氏」!とか思っていたけども、いざ長く接してみると彼女も人間であると実感できる。

 

 もちろん彼女は人間であることに間違いはないのだけれども、そうだね、「すごい登場人物」といった感じを受けなくなったと言えばわかるだろうか?

 

 

 今は間違いなく、彼女は六歳の女の子でしかない。

 そして僕も、ただの五歳の男の子でしかないのだ。

 

 

 無意識のうちに、まるで彼女を非人間化して考えていた自分の思考を恥じるばかりだよ、まったく。

 

 僕の思い込みを改め、彼女と同世代のライバル兼友達となれるよう全力で遊んだ。

 もちろん多少は大人と子供の関係みたいになっちゃったけどね。

 

 

 年下のライバルのような友達に少しお姉ちゃんぶりたい冴子ちゃんと、同世代だけれど娘のように感じる僕の、奇妙な友情関係。

 

 

 しかし、その甲斐あって僕と冴子ちゃんは急速に仲良くなった。多少の違和感なんて時間が解決してくれる。そして子供の時間はとても速いのだ。

 

 お気に入りの場所を案内してもらったり、町を案内してもらったり、その過程で迷子になって二人して怒られたり。

 用意してもらったお菓子を巡り言い合いになったり、一人だけ稽古しなくちゃいけなくてふてくされた冴子ちゃんをなだめたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝たり。

 

 最後の方、問題だろとか思われても仕方がないけれど。正直六歳相手に意識する方がだいぶ問題だと思うんだよね。

 

 どちらかというと、今の俺には、えらいフランクな娘か孫といった気持ちの方が強い・・・残念ながらね。

 それにほら、僕も引っ張られて子供してるし。将来すげえ良い思い出になるだろうな~とは思ってるけども。

 

 

 

 あ、コラ!冴子ちゃんシャンプー洗い落とす前にお風呂入るんじゃありません!石鹸で濁り湯作るっちゃだめだって!・・・え?そんなに楽しいの?・・・・・・じゃ、じゃあ僕もちょっとだけ・・・これはなかなk「コラァ!冴子!洋介ェ!!!!石鹸を無駄使いするんじゃない!!!」・・・「「ご、ごめんなさい」」

 

 

 

 

 あ、なんか変な部分回想してしまった。

 

 

 

 まあそんな感じで、二人して楽しく遊んだ。

 最後のほうでは近くの公園で友達も何人かできた。今僕はすごく青春してると思う。前世の僕が見たら哭いて悔しがるんじゃないだろうか?

 

 

 

 そんな楽しい時間も過ぎ去り、僕は今から沖縄に戻るところだ。

 

 

 

 今も見送りに来てくれているが、「またぜったい会おうね!やくそくだよ!!」と涙ながらに僕の手を握っている。

 

 まるで今生の別れのような、そんな悲壮感が冴子ちゃんから漂っている。

 

 かなり僕の事を気に入ってくれていることがわかる、まさか泣いて別れを惜しんでくれるとは・・・。

 

 

 健吾さんや両親は苦笑しているが、カワイイ女の子の悲痛な叫びに、周りのおばちゃんなどは少し悲しそうな顔をしている。

 

 

 そんな冴子ちゃんの手を握り返しながら、僕は今回の床主市訪問の成果について考察していた。

 

 

 

 今回の床主市訪問はとても有意義なものであった。

 

 

 

 『僕』がしっかり確認できたこともそうだし、床主市のことが確認できた事もそうだ。

 

 毒島の表札を見たときに「俺」だった時の事を、おそらくすべて思い出せたと思う。

 頭にかかっていた靄のようなものも消えたし、頭痛も二週間ばかり感じない。たぶん二度と頭痛に悩ませられることも無いだろう。

 その辺は純粋にありがたい、どこぞのローマ皇帝じゃないんだから、そんな設定はいらないのだ!

 

 

 前世ともいうべき「俺」の記憶を思い出したことで大きかったのが、「床主市」で『HOTD』の物語がスタートすることを思い出したことだ。

 

 急に「奴ら」が現れた世界、学園から主人公が脱出して生き延びていく、ゾンビサバイバルアクション。登場人物たちがだいぶ右翼的だったがかなり面白かったのを覚えている。

 

 

 俺は、地球総闘争状態の「グローバル市場競争」なんてクソくらえだが、今の「保守型資本主義」なんざ滅びてしまえとも思っている、経済右翼思想左翼なので、若干意見もあったが、ガンアクションが大好きなのでかなりハマった。

 

 ガンアクション好きであの作品が嫌いだった奴はいないんじゃないだろうか?

 

 銃にもこだわってるし、安易にショットガンで扉吹っ飛ばし、なんてことも無いし。

 どこぞの、ガスシリンダーの先端の切り替えスイッチにスリング吊ってた「破天荒」な傭兵モノとは、比べ物にならないくらい面白かった。

 

 今の汚れなき無垢な冴子ちゃんを思うと、微妙な気持ちになるが・・・エロイしね。

 

 

 だけど実際にHOTDの世界にいるとなると、困ったことが一つある。

 

 

 そう、完結していないのだ。

 

 

 たしか一応「休載中」扱いだったはずだ。

 

 物語の謎が全く解き明かされていないのは不安ではあるが・・・人生なんてそう何でもかんでも情報を得られるわけではない、そういった意味では諦めるしかないだろう。

 

 しかしいつだかわからないとはいえ、原作介入は決定事項だ。

 

 なんたって原作介入時に床主にいる事は、僕がここで生きていくうえで負託された条件なわけだし。

 

 それに逆らって行動するだけの理由を持ち合わせていないし、生まれ故郷だし、原作地だし、ここにいる分には原作知識が生きるし・・・それにせっかく物語の人物になったのだ、関わってみたいじゃない?

 

 でもだからこそ僕は手を抜くつもりはない。ありもしない絵空事のような危機も、僕にとっては「Clear and present danger(明白かつ現在の危機)」なのだから。

 すべてひっくるめて迎え撃ってやる。

 

 ここには冴子ちゃんもいる。新しくできた友達もいる。

 

 

 僕はここで、この床主で僕は守りたい人共に生き抜いてやる。

 

 

 

 そんな決意を心に秘めながら、

 

 

 

 

 僕は来年には君の後輩になるよ、という事をどう感情的になっている冴子ちゃんに伝えればいいかわからず、現実逃避していた。

 




 遅くなりました!辻堂さんの二次でちょっとしたことがありまして、こっち書くのが遅くなってしまいました・・・。
 ところでHOTDってどこが舞台なんですかね?洋上空港あるし関空あたり?でもアニメだとパンダ車が警視庁なんですよね・・・。
 あの城どこよ・・・。それによってできることの幅が全く違うのですが・・・。

 ちなみにガスレギュレーターにスリング掛けるという、狂気の沙汰を描いたのは「火線上のハテノレマ 」とかいうマンガですな。
 まあどこぞのマガジンをガスガンそのままで書いた漫画に比べれば・・・。



ポール・ロドリゲス
 アメリカのメキシコ系コメディアン。痛烈な風刺が非常に面白く。例のターミネーターが州知事の頃は「メキシコに鉄のカーテンを引くって?やって見な!言っておくが誰が作ると思ってるんだ?当てて見な!スイスチーズ並みに抜け道だらけになるに決まってんだろw」と皮肉した。
 例のロードショーの「不法滞在エイリアンの撲滅」と面白おかしくCMしていたが、エイリアンとはそもそも「外国人」と言う意味で、州知事は不法滞在メキシコ人の取り締まりを公約していた人物なので、『あのCM笑えるけど結構洒落になっていない』。


ガスレギュレーター
 ボルトがブローバックするのに必要な、火薬の燃えた際に発生するガスをどれくらい使うかを調整するノッチ。サイレンサーなどを使うとマズルから逃げるガスが減り、ブローバックに使うには多くなり過ぎるので減少させたりする。またボルトが煤で汚くなると動きにくくなるので、ガスを大目に使って無理やり動かしたりなどできる。また完全に切ってしまい、ボルトアクションにすることも可能。


明白かつ現在の危機
 法律用語。いかなる権利も実情の前には制限されるという意味。作者的にはふざけんなバーカ!と言った感じだが、残念ながらこの理念のもとにいくばくかの良い法律と、いくつもの悪法が作られた。なお、同名の映画で出てきた銃がゲーム「MGS3」のパトリオット銃のモデルであることはあまりにも有名。


完結していないのだ
 先生、続きが・・・読みたいです・・・!


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原風景、一つに在らず

「狂おしいほどに、我が家を想う事を、断つことはできない」
                ~成龍・映画『大将小兵』より~


ガラガラ

 

 

「めんそーれ!」

 

「おっちゃん、ソーキそば!それからてびちとラフテーとなかみ(モツ)ね」

 

「わらび(ぼうず)、どんだけシシ(肉)好きさー!ソーキ、スバ、てびち、ラフテー、なかみ!」

 

「あい~」

 

「わらび、うやんちゃー(両親)はどうしたさ~?」

 

「今日はひとりさ~」

 

「アイエナー!あっはっは、今日もまた一人!わらびもでーぶ、ウチナー(沖縄)にもウチナーグチ(沖縄弁)慣れてきたさ~」

 

「最初はなにゆうちょるんか、なーんもわからんかったきに」

 

「・・・それはウチナーグチ違うさ~」

 

「皮肉さ~」

 

「皮肉か~」

 

 

 近所に飯屋があると、本当に助かる。

特に内地に渡る前の最後の仕上げということもあり、師匠の訓練が厳しくなったため、とかく腹が減るのだ・・・うん?ナイチって沖縄方言だっけ?

 最近わけわかんなくなってきたな・・・。

 

 沖縄に来て、いざという時のベースを作り(那覇市内、離島三か所に地下二階まであるパニックルーム付きの家を作った)、コネを作り、武術を学んだ。

 学べたし作れたわけだが・・・三年近くも住んでると色々とうつってくる。

 

 特に会う人会う人、住んでる地区から五十キロと離れた事のない人ばかりで、訛りはきついし、料理の味付けも独特、その上で構いたがり。

 

 ありがたくも、地元に馴染むきっかけとなったのは、たまたまお店で会ったお隣さんたちとの酒の席で、母が口を滑らせた両親の武勇伝だった。

 父の武勇伝を奥様方がえらく気に入ったらしく、母が料理を作れなくなるほどのおすそ分けと、育児指導が毎日のように入ったのだ。男衆にもそれなりに受けたらしく、父もよく吐くほど泡盛やらなんやらを飲まされていた。

 

曰く『ヤマトンチュー・・・いや、ヤマトンチュもなかなかやるさー!』とかなんとか。

 

 

 とにもかくにも、そんな近い付き合いをして影響されないわけがない。

 

 

 沖縄そばを打ったり、サトウキビを一緒に狩に行ったり、泳いだり、料理作ったり。これは師匠とだが、一番の極め付けは一緒に狩りに行ったことだろうか?

 

 マングローブの林の中でハブがとぐろを巻いているのを、気が付かずに踏みかけたときは、本当に肝が冷えた。

 

 

 そんなこんなで、パワフルな沖縄人に影響されまくった我が一家は三年間どっぷり沖縄に漬けこまれたのだった。

 

 この店もそんな感じで、休日にちょろっと出かけた帰りに毎週のように通っているお店だ。

 何を隠そうそば打ちを習ったのもここだ・・・日本そばより先に沖縄そば打てるようになるとは・・・。

 

 

・・・なんの話だったっけ?

 

 ああ、腹が減るって話だ!

 

 

・・・元々はそんなに厳しくなかったのだが「ヤマトンチュにしては骨があるさ~」とかなんとかで、本格的に仕込んでくれるとの事だった。

 

 

 ありがたかったので受けたのだが、その日から刃先のスポンジが鉄になり、盾の竹が亀甲になった。

 

 

 重いし、すごく痛い・・・六歳児に行う訓練じゃない!

 

 

 さらに、場所も砂浜や足場の悪い原っぱに変わった。足腰を鍛え、転んだりしないようにするための訓練だと言われて納得はしたのだが、とにかくきつい。

 

 砂浜は足がとられるし炎天下でどんどん体力が取られてしまう。

 一時間もやれば頭が朦朧としてくるが、水を飲んでは朦朧としたままやらされる。

 

 帽子被って、定期的に冷たい水を服にしみこませれば平気だとかなんとか・・・なわないじゃない・・・とか思ってたんだけど、不思議とまだ生きている。

 

 一応時間も計っていたようだし、なんらかのメソッドがあるのだろう。こんな無茶振りやらされたのもおそらく、余計な事を考えずに型を数こなすのと、どんな状態でも戦うための訓練だったのだとにらんでいる。

 

 

 

 原っぱは原っぱで、ひたすらこける。

 

 

 もう信じられないくらいこける。

 

 

 靴を履いて、裸足で、草履で、靴下でやらされたが、最初は一時間の間に50回はこけただろうか?もうとにかくこけてこけて仕方がない。

 

 しかも自分の意識外のところでこけると、異様に疲労が蓄積する。二十回もこければ起き上がれなくなる!

 

 投げられると疲れるが、あれとはまた違う疲労感がある、こればっかりは体験してみないとわからない感覚かもしれない。

 

 なのでいつも最後の方は這いずりまわっていた。

 

 途中すり足をやめて、片膝立ちになって立ち合ったら非常に楽になり、師匠にも褒められた。たぶんこれが正解だったのだろう。

 

 

 おかげで膝がズル剥け・・・床主にいったら真っ先に膝パットを買おう。

 

 

 すり足は確かに起こりが分かりにくい事と、隙ができにくいというメリットがある。

 しかし反面、厚底のハイキングシューズや半長靴などを履いてでこぼこ道、特に草地のそれですり足をすると、引っかかってすぐこけてしまうのだ。

 かと言って足を上げ過ぎると疲れやすく、隙も大きい。

 

 師匠に何度も直された結果、ベストなのは約1・5センチ程度地面からあげて動くことだと体でおぼえさせられた。

 

 慣れてくるとそのまま動くことを強制されるようになり、いまでは歩を進めるのも、入りのために踏み込むのもすべて1・5センチ平均で行えるようになった。

 おかげで移動中の重心が異様に安定するようになり、押されようが躓こうが滅多な事ではよろめきもしなくなった。

 

 原理としては簡単で、すり足を擦らずに、かつすべて2センチ以内で行うだけだ・・・原理としてはね・・・。

 

 中国武術に「沈墜勁」という技術がある。古武術だと「沈身」と言ったはずだ。

 

 とても大雑把に言ってしまうと(興味のある人は調べてくれ!だいぶ違うんだけど感覚的にはあってるから!)、あれを歩くたびに無意識でやれと言う事だ。

 

 超無茶振りではあるが、二週間のあいだいつ寝てるんだかわからないくらい特訓させられた結果、いつの間にかできるようになっていた・・・できたときの感想は「これで寝れる!」。

 

 その後二日ほど眠りこけた。

 

 

 出来るまでは死ぬほど恨んだが、悔しいが確かに重心は安定したし、打撃系の威力が明らかに上がっている。

 

 同門の人たちにはまるで、足が地面に吸い付いているようだと言われた。

 

 平らな場所ではすり足でやっているからだろう。高度制限を設けた足運びが出来るなら摺り足なんてもうね・・・何の問題も無い。

 

 

 これが出来るようになってからは身長140cm以下、体重45kg以下の人間に負けた覚えがない。

 やたら喧嘩が強く、敵対するものを上級生まで拳で教育的指導してたのも、早く馴染むのに一役買っていたと思われる。

 

 沖縄人はおおらかでいい人たちだが、時に理性的であるよりも肉体言語の方が好まれたりするのだ。「それくらいの方が元気があっていいさ~」と言ったところかな?

 

 

 単純に格闘術を教えてもらったというだけでなく、そういった意味でも感謝も尊敬もしている。

 

 ・・・が、正直つらかった、強くなれるまでの過程は、できればもう思い出したくもない。

 

 

「あい、ソーキおまち」

 

 

 

 店のおばさんが、料理が所狭しと載せられたトレーを運んできてくれた。

 

 

 

「お~、丁度良かった」

 

「あい?」

 

「こっちの話しさ~」

 

「?」

 

 

 

 あ~、それにしても沖縄そばは最高だ・・・。

 

 面自体の製法はそんなに違わないとか聞いたんだけどな~・・・生前はチャーシュー大好きだったけど、内地戻って本ソーキ無しで暮らせるだろうか?

 

 ソーキ、軟骨ソーキ、てびち、なかみ・・・。

 

 一か月後にはこの店にも来れないと思うととても悲しい・・・とても悲しい。

 

 

 

 

「わらび」

 

 

 

 喰いすぎなくらい堪能した料理の代金を支払い、店から出ようとすると店のおやじに止められた。

 

 ホレ、と言いながらおやじが大きな袋を俺に手渡してきた。やたら重いなと思いながら中身を見ると、大きな鍋が入っていた。

 

 

 

「これは?」

 

「わらび、ジュン(ほんと)にシシ好きさ~。内地行くだろ~、内地でソーキかめねだわけ(くえないんじゃない)?ならけえる前に『ぼっけえ食うてかえりんしゃい~』」

 

 

 

・・・。

 

 

 

「・・・それは、皮肉?」

 

「皮肉さ~」

 

「そっか・・・・・・・おっちゃんありがとう、大事に食べるよ」

 

 

 

 ニヤリと笑う親父を見ながらそう言うと、俺は料理屋『はなぐすく』の暖簾をくぐって外に出た。

 

 

 

 

         また来よう。何があっても

 




 毎度三千字程度に時間かけて、すみません!

 それにしても文章、なんか違うんですよね・・・昔は「ハリポタくらい俺でも書ける!」とか思ったものです、ごめんなさいローリングさん!

 沖縄弁はあまりつっこまないでください、親が赴任してた頃の話を聞きながら参考にしただけなんです。

 俺の銃の趣味ですが、結構トレンディー(死語)なミーハー(死語?)です。でも要望があって、作品的に合致してればどんな銃でも出します。
 FPSで有名になった銃でも、リアルがクソならこき下ろします。確定しているのだとUTS15とか。
 でもどちらかというと使いまわしの方が気になる方です(お前、日本在住だろうが!)。コスタ撃ちとか、CARとか。銃本体も好きですが、アフターマーケット見てるのも好きなタイプです。
 なのでTuff社のタクレットに、草生やす感じの方はたぶん合わないです。
 外行く時に多少サバイバルな中身の、Molleポーチをセカンドバッグに使ってますから、俺。あれは欲しい人には本当に痒いところに手が届く良いものです。

 最後に予告をしますと、次回から床主幼少編です。

 早ければしあさってには出来るよう頑張ります・・・。



方言
 おっさんが話すと聞きずらいだけだけど、女の子が話すとなんであんなにもっと聞きたくなるんだろうか・・・?


 映画『大将小兵』
 ジャッキーチェンの映画で邦名『ラストソルジャー』。筆者のガチ泣きした映画である。歴史に詳しい人なら、それなりに察しながら見れる作品だが、筆者は全く知らなかったので超ショックを受けた。
 一見の価値アリかと。


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愚かであれ

「もし私が神だったら、私は青春を人生の終わりにおいただろう」
                  ~アナトール・フランス~


 

「ようすけくん、あそぼー!」

「うん、ちょっと待ってて!」

 

 家の外から可愛らしい声が聞こえてくる。その声に応えるとキッチンに入り、女性の背中にしゃべりかける。

 

「お母さん、行ってきていい?」

 

 口から出た口調が自分でもわかるくらいに浮ついていて、少しばかり気恥ずかしい気持ちになる。

 食器を洗う手を止めると女性は振り返り、ニッコリと笑った。

 亜麻色の髪をハーフアップにくくり、白のセーター、檸檬色のプリーツスカート履いた美人だ。目の覚めるような、というわけではないが泣きぼくろが可愛らしい雰囲気を醸し出させる。

 でも実は、見た目に似合わず負けず嫌いで、それでもって結構活動的な人だ。

 

 少しタレ目のその美人は、三十代だとというのに、まだ二十代前半にしか見えない。

 

「うふふ、洋介ちゃんと冴ちゃんはホントに仲良しねぇ。暗くなるまでに帰ってきてね?」

「う、うん。夕ごはんまでには帰ってくるね?」

「いってきま~す!」

 

 浮かれた気分を見抜かれたような気恥ずかしさと、外で遊ぼうとはやる気持ちが抑えられず、思わず駆け足で家の外へと向かう。

 うしろから、あらあら、という声が聞こえた気がしたが、無視してしまう。

 

 玄関に急ぐと、目の前に中々重厚な作りの樫のドアが現れる。

 それほど重いモノでもないが厚さがあり、子供の体で開けるには少し力がいる。

 

 まどろっこしく感じた僕は、玄関脇のフックにかかっていたショルダーバッグを手に取ると、体当たりをするようにドアを跳ね開けた。

 そして同じように、うずうずとしながら待っていただろう友達に声をかけた。

 

 友達はセミロングの艶やかな濡れ羽色髪を、ストレートにおろしている。

 真っ白なシャツと、膝丈にすこしスリットの入った形吊りの落ち着いた紺のジャンパースカートが、髪によく映えている。

 

「お待たせ!どこに遊びに行こう?」

 

 それにこたえる友達、冴子ちゃんのうきうきとした満面の笑顔がとてもまぶしい。同じ気持ちだったことがうれしい。

 

 

 今僕はとても子供っぽい行動していると思う。

 

 

    だが誰が構う事か、今まさしく僕は子供なのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は今、沖縄から引き上げ床主市の実家で生活している。

 元々父親の事業の一貫で沖縄に行っていた(相変わらず都合の良い特典だ!すごく助かる!)わけで、それがひと段落ついたために帰ってきた形になっている。

 

 空港では毒島親子がまた迎えに来てくれたわけだけれど、結局「え、あ、うん」としか言えず、母親にはしゃんとなさい!とどつかれてしまった。何を言おうか色々考えていたのに、いざ目の前にして、すべて頭の中から消え去っていたのだ。

 しかし前回のやりとりを覚えていないのか、そこまで大した意味出なかったのか、僕の一人相撲だったようで、冴子ちゃんは普通に、また会えたこと喜んでくれた。

 結果として特にいざこざも無く僕は、冴子ちゃんとは仲直り?することが出来た。

 

 でもなんだか、正直いろいろ心配して損した気分だ。もにょる・・・。

 

 

 

 なんにせよ、そんなわけだ!

 こっちに来てからは、学校が始まるまでひと月後あるためここ一週間、毎日のように冴子ちゃんと遊び倒しているわけである。そういう事なのだ。

 

 

 

「ようすけくん、今日は公園にいこ?」

「公園?」

 

 何をしようかと問いかけると、冴子ちゃんから提案があった。

 うちと冴子ちゃんの家の近くに公園は無い。もしかするとベッドタウン側にある公園だろうか?

 もっぱら近場の空き地や、お互いの家で遊んでいたため、今まで行ったことは無い場所だ。

 

「うん、今まであきちばっかりだったでしょ?なら公園でびゅー!してみようよ!」

「いいけど?」

 

 なんだか胸を張りつつ、天高らかに拳を振り上げ宣言する冴子ちゃん。

 

 でびゅーって・・・なんだかとりあえず使ってみた響がある。

 

「・・・あ、もしかして昨日の朝やってたやつ?」

 

 不意に僕の頭に、考えが横切った。テレビ番組だ。平日の朝八時のニュースの後にやる、30分くらいの流行モノ特集番組がある。

 

 そしてそういえば昨日の朝のそれでは、主婦の公園デビューに関するモノをやっていた。

 意外と面白くまとめられていたため、僕も最後まで見てしまったのだが、冴子ちゃんもアレを見たのではないだろうか?

 

 考えた事を聞いてみると、元気に手を振り上げた状態のまま固まってしまった。目も泳ぎ回っている。

 

 数秒固まっていたが「早く来ないと、おいてっちゃうよ~!」と言いながらベッドタウンの方へ駆けて行ってしまった。

 

 どうやら図星のようだね。

 

 

 たぶん意味はよくわかっていなかったが、何をするかは分かったので使ってみた、そんなとこだろう。

 

 走って行く冴子ちゃん追いながら、そんな子供っぽいやり取りも楽しく感じている自分を強く感じた。

 

 

 

 

 

 結局2キロもある公園までの道のりも、その途中に寄る場所にも止まらずに走って行けるわけも無く、途中で歩きながら行くことになった。

 

 ばつの悪かったらしい冴子ちゃんは、しばらくは目を合わせてくれなかったが、なだめすかしているうちにどうにか機嫌を直してくれた。今はいつものように、二人でおしゃべりをしながら歩いている。

 

「でね!この前お父さんから褒めてもらえたの!」

「へ~、まあでも錬成大会でそれだけできるのはすごいね!」

 

 いったい何がそれだけ凄いというのか。いや、もちろん小学生剣道錬成大会で上位というのは、とてもすごい。

 そうではなく、小学生は使える語彙が少なくて本当に困る。時々だが、自分がものすごくバカになった気分になる。褒めてるのに、褒め切れた気がしない。しかし褒めてるのに「それどういう意味?」と聞き返されるのはもっと間抜けな気がするのだ・・・。

 ある意味では楽なのだが、周りに合わせてフィーリングだけで会話するのは少し疲れる時がある。もう五年はこの感覚と、どうにか付き合ってくしかないのだろうな・・・。

 

「でしょ~、もう小学2ねん生なんだから!」

 

 むふー、と得意げな冴子ちゃん。大人ぶりたい年頃なのだろう、「ボク」と「俺」との距離感が掴めてからは僕も割とそういうところがある。

 ようするに大人ぶりたいのだ。

 ほほえましいし、その方が社会としては健全だ。大人が子供になりたがるよりは、よっぽどいい。

 

 

 

 それはそうと、冴子ちゃんは自分の家にいる間はお嬢様然としているが、外で遊んでいるときはそうでもないことが多い。むしろ・・・アクティブな分多少おてんばにも見える。

 

 僕だけが知ってるホントの顔!とか思えれば楽しいのだが、見た感じどちらも好きでやっている部分がある。

 たぶんどっちも素だろう。

 

 そりゃあ将来「女の義務」なんて語るお人だからと言って、小学生からそんなんなわけがないはな。

 それでも人前に出た時の楚々とした所作を見るに、素養は十分にありそうだけれども。

 

 もちろん教育の賜物なのだろう。

 健吾さんが海外でも指導しようとするオープンな人なのに対して、おじい様、おばあ様がガチガチの昔かたぎらしい。僕もおじい様の方には会ったことがあるが、御留流を継承しただけあって、酸いも甘いも嚙み分ける一本芯の通った頑固親爺だった。

 

 たまに冴子ちゃんも不満を漏らしている。曰く、大好きだけどうるさい、一緒にいるのはいいけどくっつくとおじい様のお部屋匂いがして嫌、とか。

 

 ・・・確かにあの爺様昭和というより、大正な気質の人だが、女の子には躾け以外大甘な人でもある。そんな言葉聞いたら卒倒するんじゃないだろうか?そんなニュアンスの事を言う時は、オブラートに包むように言っておいたがどこまで耐えられるやら・・・。

 

 

 そんな益体の無い事をつらつら考えながら、僕はしばらく自慢げな冴子ちゃんをほめ続けた。

 はにかむ彼女は本当にかわいいのだ、褒めるだけで見ることが出来るなら安いものだ。かわいいは正義である。

 

「えへへ・・・あ、着いた!早く、早く!」

「いや、約束してるんだから逃げないってば!」

 

 公園までまだあと半ばの住宅街にある、目的地にたどり着いた。インターホンのブザーを鳴らすと「ピンポーン」と電子音が家の中から聞こえてきた。

 

「どちらさまでしょう?」

「こんにちは、ぶすじまさえ子です」

「立花洋介です」

「あら!冴子ちゃんと洋介君いらっしゃい。中に入って待っててもらえる?」

 

 ぺこりと頭を下げながら僕と冴子ちゃんが答えると、薄く茶色がかった髪の女の人が中に入れてくれる。

 女の人は僕達をリビングに通すと、コースターとガラスコップを取り出してどうぞと言ってジュースを注いで机に置いてくれた。部屋は白い壁の、キッチンと一体型の、いわゆるリビングキッチンになっている。家具やドアなどは全体的に木目調だ。

 

 見回すと、人が出入りできる大きな掃出し窓があり、対面にソファーがくの字に置かれている。落ち着いた薄いグリーンの遮光カーテンと、レースのカーテンが中々にお洒落だ。

 そのまま女性は、呼んでくるから待っててね~、と言って扉の向こうへと行ってしまった。

 

 ただ立って待っているのもなんなので、冴子ちゃんと並んでベージュ色のソファーに座ってしまう。目の前にはジュースの置かれたテーブルとテレビがある。結構大きなテレビが据えられていて、今は朝のバラエティーが掛かっている。この前来た時はブラウン管テレビだったが、今はやりのプラズマテレビだろうか?

 

 「早く来すぎちゃったかな?」

 「う~ん・・・」

 

 チラリと時計を見ると、もうそろそろ十一時になりそうだ。さほど変な時間というわけでもないだろう、現に僕も起きて待っていたのだから。

 

「そんなに早くないと、僕は思うけどね?」

「ならよかったのかな?その・・・すごく、楽しみだったから」

 

 そういって照れる冴子ちゃん。

 咄嗟になんと返せば良いかわからなくなってしまう。

 

 チラリとのぞき見ると、俯く冴子ちゃんの頬も少し赤い。

 

 

   カラリ。

 

 

 コップの中で氷が解けて滑り、やけに音を響かせた。

 

 何も言わない冴子ちゃんと、何を言ったらいいかわからない僕だけがいて、しばらく食洗機とテレビから漏れてくる音だけが部屋に響き渡った。

 

 なんだか気恥ずかしい・・・。

 

 

 

 あ~・・・これは何か言った方がいいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 結局なにも思い浮かばないまま時間が過ぎてしまった。

 




 書き方を変えて見ました。

 あんまり詰まってると読みにくいかな?とか思ってたんですが、こっちの方がいいかな?と思い、直してみました。
 そしたらスッキリした気がするんですよ!サブタイとは相反しますが、なんでも試してみればいいってものじゃねぇなと、そう思った次第でw


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日常~Ⅰ~

「あなたの心が正しいと思うことをしなさい。どっちにしたって批判されるのだから」エレノア・ルーズベルト


 しばらくどっしりと構えながら、内心あたふたしていると、上からドシンと20キロ強の物体が床に落ち、その後ドタバタとせわしなく部屋を行き来する音が聞こえてきた。

 

 天井越しに

 

 なんで起こしてくれなかったの~!?起こしたけどあなたが眠いから仮眠とか言って二度寝するからでしょ!でもでも~!!

 

 というやりとりが聞こえてくる。

 

 

 おもわず横を見ると、冴子ちゃんと目が合った。

 

 処置なしだねと僕が肩をすくめると、クスクスとおかしそうに冴子ちゃんも笑った。

 

 さっきまでの雰囲気はどこかへ吹き飛んでしまったわけだが、ほっとしたような残念なような、そんな気分だ。

 

 

 そのあと僕らは十分ほど響いてくるドタバタを音楽に、ジュースの話をしていた。

 

 そうそう、ここの家では自家製の梅酒を作るらしいのだが、酒を入れるか入れないかで梅酒、梅シロップと作り分けられるとかで、梅酒と一緒に子供用に梅ジュースの元(梅シロップ)を作っているのだ。

 

 冴子ちゃんも僕もこの家に来て初めて飲んだのだが、この梅ジュースにすっかりはまってしまった。

 

 なんでも奥さんの実家の秘伝のレシピとかなんとか・・・。

子供としては、酒作りの片手間にジュースを作られるのもなんだかと思っていたのだが、これがなかなかにおいしいのだ。

 

 特に今日みたいなちょっと暑い日には甘味と程よい酸味がもう、ね!

 

 梅の実が必要な季節ものにも関わらず、旦那の好物とか何とかで割といつでもこの家にはストックがある。

 

 そこのところ冴子ちゃんと一緒に聞いてみたところ、お父さんたら梅酒が切れると梅ジュースにほわいとりかー?入れて飲んじゃうの!と憤慨していた。

 

 

 よっぽどはまっているのだろう、そしてそれはもはや中毒ではないだろうか・・・?

 

 

 

「よくわからないけど、この前おばさんが『メシじゃなく、これでだんなのイブクロをつかんだ』とか言ってたよ?」

 

 

 え、普通料理じゃない?

 

「マジで?」 

 

 

「マジマジ?」

 

 うんうん、と言った風に冴子ちゃんがコテンと首をかしげる。最近よく言っている、語感が気に入ってしまったようだ。かわいい。

 

 

 

 しかしお父さん・・・あの顔で梅酒かよ、ハードボイルドどこ行った。

 

 というかよく考えれば奥さん、小学生に何おしえてんだよ。

 

「しらなーい」

 

 

 だよね、うん。

 

 

 

「冴子ちゃんひどーい、おばさんだなんて!」

 

 不意に響いたそんな声に後ろを振り返ると、大人の手が伸びてきた。

 同じく振り返った冴子ちゃんがソファーの背越しに奥さんに抱きすくめられ、むぎゅ、という可愛らしい悲鳴が隣から漏れた。

 

 

 ばたばたと抵抗する冴子ちゃん。

 

 

「やーん、かわいい~!」

 

 

 が、暴走する奥さんからは逃げられない。

 

 た、たすけてようすけくん!・・・隙間から時折見える目がそう訴えかけてくる。

 

・・・涙目の剣道美少女、対するはナイスバディのイケイケ元ヤン元ポリママ。

 

 

 正直眼福である。思わずずっと見ていたくなる・・・。

 

 

・・・。

 

 

・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・ふと、少し開いた扉の隙間から覗く目に気が付いた。洗面所へ顔を洗いに行く最中なのだろう、髪に寝癖がついている。

 

 目が合ったことに気が付くと、あわてて洗面所の方へと走ってしまう。

 

 

 

「・・・っは!奥さん、それくらいにしておいた方が!」

 

 

 え~・・・!と唇を突き出して可愛らしく嫌がる奥さん。似合っているのが憎らしい。

 

 

 そうこうしているうちに冴子ちゃんが、自力でなんとか抜け出した。もう捕まらん、とばかりに僕の後ろに隠れると、背中を抓ってきた。

 

 まあ僕が悪いし・・・甘んじて痛みを受け入れつつ、庇うように立ち上がって一歩前に出る。

 

「あらあら」

 

 ふふふと奥さんは笑った。庇えばこういう目で見られることくらいは分かっていたが、居心地が悪い。

 

 

「そ、それより麗ちゃんはまだですか?」

 

 

 渾身の話題ソラし・・・!

 

 

「あれ~?後ろにかわいい子がいるのに、ナイト様は他の女の子も気になるわけ~?」

 

 

 気のせいか、背中の痛みが増した。

 左頬を冷や汗がつたって、落ちていく・・・。

 

 

 

「おはよう、さえこちゃん!ようす・・・け?」

 

 勢いよく扉が開かれ、僕の第二の幼馴染が飛び込んできた。飛び込んだ部屋の異様な空気に固まってしまっているが、見事な援護だよ、麗ちゃん!

 

 

「おそよう、麗ちゃん!ナイスタイミングだ!」

 

「おはよう・・にはちょっと遅すぎるんじゃないかな?おそよう、麗ちゃん」

 

 

 麗ちゃんはからかう僕らに頬を膨らます。

 

「む~!」

 

 僕らの自称お姉さんな冴子ちゃんは近寄って来た、顔を洗っただけの麗ちゃんの頭をさっそく手櫛で整える。

 彼女らは同じ年なはずだが、そこは旧家で鍛え上げられた冴子ちゃん、どことなく麗ちゃんの方が子供っぽい。

 

 麗ちゃんは自分も姉だと張り合っているが(僕が弟らしい、みんな半年も歳かわらないのに!)、今も膨れつつもおとなしく髪を梳かれている。

 

「はいはい、だから今日は二度寝ちゃダメって言ったでしょ。おそようね、麗」

 

「ママ、うるさい!」

 

 

 こら、お母様にそんな言い方しちゃだめじゃない、だってママが~、だってじゃないよ麗ちゃん、冴子ちゃんがママみたいね~、ママうるさい!麗ちゃん?だって~・・・

 

 

 う~ん、それにしても貴理子さんが若々しいから、まるで歳の離れた三姉妹みたいだな~。

 三人のやり取りも、姉妹でじゃれ合っているようにしか見えない。

 

 

 この整えてもらってなお、ちょこんと飛び出る二房の髪がチャームポイントの女の子が宮本麗ちゃんで、その隣の歳の離れた姉のような母が宮本貴理子さんである。

 間違いなくあの宮本だろう。

 

 最初に会ったときはかなり驚いたが、どうやら貴理子さんと僕の母が知り合いのようで、床巣に来てからご近所さんとして紹介された。事実彼女らは僕の家から300メートルも離れていないところに住んでいる。そして母が言うには、貴理子さんとは親友なのだとか。

 

 紹介された晩にふと、いつから親友なのかと聞くと、母は目をそらしながら話題をそらそうとしていた。不思議に思いつつなんでためらうのかしばらく考えて、原作知識を思い出した。貴理子さんは元族だ、そしてその後交機に入ったということはたぶん中卒か高卒警察官だ。おそらくだが母と貴理子さんは高校時代に知り合ったのだろう。二人は足抜けし、一人は警察官へ、一人は大学生に。

 

 さすがに自分の子に、やんちゃな時期があったことを話すのは気が引けたのだろう。それに僕も、そのことに思い至った当初は少し動揺した。いまのぽわぽわとした母と「族」というイメージが一致しなかったからだ。

 

 がしかし、よく考えればそれほどおかしな話ではないのかもしれない。

 母の昔のことは、父との物語のような逃避行しか知らなかった。だけれども、母は親を早くに亡くしてしまった過去を持っているとは聞いている・・・もしかしたら若いころはやんちゃをしていたのかもしれない、今の母を見ると想像もできないが・・・。

 

 なんにせよ、予想もしていなかった方向から宮本麗とのつながりができたわけだ。

 

 今は冴子ちゃんと僕の遊び友達になっている。実はクラスこそ違えど同じ小学校に通っているのだとかで、麗ちゃんも冴子ちゃんも顔だけは知っていたんだとか。 それが僕を通じて知り合い、馴染みになったのだ・・・微妙な原作改変だ。

 

 

 そうそう、原作といえばどうやら麗ちゃん、小室孝とは幼馴染の関係に無いようだ。

 

 そんな馬鹿な!と麗ちゃんの近所の表札を全部調べて回ったのだが、『小室』という表札は見つからなかった。

 

 少なくとも僕の行く予定の小学校の教員の名前に『小室』という女性職員はいないため、今のところどこにいるのか見当もつかない。

 この違いが一体どのような理由で起きたのか、変化を生み出すのかそれはわからないが、それほど大きな問題にならないといいなと思う。

 

 HOTDの本質がゾンビハザードにおける人間性が問題なのであって、アメリカドラマのようにバックグラウンドの人間関係が馬鹿みたいにかかわっていなかったから、それほど大きな問題にはならないという打算もある。

 

 そこのところはまさに神のみぞ知るだろう、僕は僕でやっていけばいいのだ。

 麗ちゃんは宮本さんちの麗ちゃんなのであって、『宮本麗』じゃないのだから。

 

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうよ。公園に行くんでしょ?」

 

「あ、うんそうだった。麗ちゃん、今日は公園いこ?」

 

「うん、行きたい!ママ、いーい?」

 

 こういう外へ遊びに行くのに思わず許可を求めるところが、ある意味小学生の醍醐味だな~・・・前の時なんかはたまに高校生くらいになっても思わず聞いてしまい、母親に笑われた覚えがある。         

 

 欧米では中世時代に子供の概念がちょっくら消失したわけだが(日本に来た宣教師が絶望して帰ったとかなんとか)、儒教的には二千年くらい前から「行先を言わずに出かけるのは厳罰に値する」となっている。行きすぎだとは思うけど、まあ馬鹿みたいに広いからな、あのあたりは。

 いずれにせよ、子供についていち早く気が付いていながら、義務が大人より多い当たりあたりが何とも、中国的というか・・・。

 

 こういうアホな事考えてられるのも、子供の特権なのだろうか。

 

 

貴理子さんはう~んと少し考え込んでいる。

 

「公園っていうと、ここから一キロくらい・・・遠いところの?」

 

 子供にはわかりにくいから言い直したようだ。

 

 

 

「はい、ちょっと遠いところの!です。あっちの公園も面白いって言われたから、行ってみようと思って」

 

 

 冴子ちゃんの言葉を聞いて、麗ちゃんを見て、冴子ちゃんをみて、僕を見て。それからもう一度麗ちゃんと僕の間を目線が行き来してから、貴理子さんは自分も出かけるから待っててと告げて奥に下がっていった。

 

 

 たぶん、僕がいるから大丈夫だろうとは思いつつ、小学高低学年の子供だけで遠くに行かせるのもいかがなものかと思い直したのだろう。

 

 妥当な判断だ。

 

 

 

 

 この後僕たちは貴理子さんと連れ立って公園へ行き、くたくたになるまで遊んだ。

 

 

 

 

「それじゃあ冴子ちゃん、洋介君、さようなら」

 

「二人ともばいばい!」

 

「うん、また遊ぼうね?」

 

「麗ちゃんのおかあさん、ありがとうございました!またね、麗ちゃん!」

 

 

 四時半には切り上げて遊び終わると、貴理子さんが僕達を家まで送ってくれた。だいぶ日が長くなってきたとはいえ、あたりはもうすでに赤やけている。

 冴子ちゃんは後で健吾さんが僕の家まで迎えに来ることになっている。

 

 

 今日は少し遠くの公園に遊びに行ったわけだし、小室孝や平野コータなんかに会えるかと少しは期待してたんだけど、それっぽい子供はいなかった。やはり物語のように簡単にはいイベント、とはいかないようだ。

 

 

「じゃあようすけ、また遊びにきなさいよね?」

 

「はいはい、また行くよ」

 

「うん、また遊ぼうね!

 

 

 花が咲くような、満面の笑顔で手を振りながら麗ちゃんは去って行った。

 僕と冴子ちゃんも、貴理子さんに手を引かれながら帰っていく彼女が見えなくなるまで手を振った。

 

 

 いや、うん。このおねえさんぶってる麗ちゃんはどうしようかね?年下の友達ができて嬉しいらしく、いつも僕には去り際にあんな感じで話しかけていく。

 かと言って別段理不尽な振る舞いをするわけではないのは、好きでやってるからだろうか?

 

 女の子の多くは小さな子や子犬に構いだすと、親にやられたことを自分基準でやり始めるので、ストレスで死にかねない勢いで構いだすのだが・・・麗ちゃんにその兆候はない。

 その辺貴理子さんの微妙なさじ加減の放任が功を奏しているのだろう、母親は偉大とはよく言ったものだ。あの若干のツンな発言も、それに続く素直さで見事に嫌味を感じない。

 

 

 正直僕はツンデレとかそういう理不尽なのは割とダメなタイプだから、この微妙な素直さはいいと思うんだけど・・・いや、それにしてもどうしてこうなったんだか、これ小室君のフラグ完全にたたき折ってるよね・・・?

 

 

 冴子ちゃんも、麗ちゃんも大事な友達となった今、原作通りに行かない事くらい覚悟で来ている。それにこの人間関係によってバタフライエフェクトが起きたとして、それほど大きな問題にはならないという理論武装だってできている。ただそれでも・・・。

 

 

 

 割り切れても感じてしまう不安を、僕は理不尽に感じた。

 

 




 パソコンが壊れてただで遅い更新が、さらに遅くなって申し訳ないです!

 今回は主人公の日常と不安の話でした。あとちょっとでアメリカ編行こうかと思ってます。軽く十話くらい使うんじゃないだろうか、アメリカ編・・・。
 
 この前メールで何聞きながら書いてるの?と聞かれたので、僕の好きな二次作家みたいに五曲くらいBGM書いていきます。重複してるときは省略
 無理に進めはしませんが、バウディーズは一度聞く価値はあるかと・・・いい意味でヴィジュアル詐欺ですw

BGM・
~Three days grace~
PAIN
BREAK
Just like you
~The Bawdies~
It's too late
Hot dog
Sing your song


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日常~2~

「自らを苦しめるか、あるいは他人を苦しめるか。そのいずれか無しには、恋愛というものは成立しない」~アンリ・ド・レニエ~


 ガラリと扉が引かれ、二人の少女が教室に入ってくる。

 

 

 

 一人は冷ややかな美しさを持つ、肩口まで伸びた艶やかな黒髪が印象的な少女。

 

 もう一人は垢抜けた雰囲気の、母親譲りの茶色がかった髪の少女だ。

 

 

 ホームルームが終わったばかりの教室は、放課後の直後の、ひと時の喧騒に包まれていた。

 しかし一学年上の少女らが入ってくると一瞬静まり返り、また熱を取り戻す。少しばかり、熱の質が異なっているようではあるが。

 

 

 慣れた様子で教室の窓側、真ん中あたりの席まで歩くと、少女は席で片づけをしていた僕の目の前に立ち、こう言った。

 

 

 

「洋介、準備出来た?」

 

 

 

 ネイビーブルーの五分丈デニムと、少し裾の長めの白黒のボーダーTシャツ。きっとあのアクセントに服の上につけたライトブラウンの皮編みベルトは、貴理子さんチョイスだろう。

 

 ピンクのスニーカーソックス少し顔を出している今は上履きだが、確か今日は少しお高く、グッチのレースアップスニーカーの日本限定モデルを履いていたはずだ。

 ほかに装飾品等は着けていないが、それが逆にすっきりとした、違和感の無い着こなしを感じさせる。

 

 

 活動的でオシャレかつよくありがちな、娼婦を彷彿とさせる、それのようにならないセンス。

 女の子の間で彼女は、ファッションリーダーのように慕われているらしいことを、クラスの女の子たちが話しているのを聞いたことがある。

 

 いつ見てもお洒落な母子だ、そういう扱いをされていると知ったときは、むしろ納得してしまった。

 

 

 

ちゃちゃっと教科書を鞄に仕舞ってしまうと、僕は彼女に片づけ終わったことを伝えた。

 

 

 

「それでは洋介君、早く行こう?」

 

 

 

 黒のスラックスに、藍染めで逆に舞い散る桜を染め抜きした、白いTシャツを着ている。

 白色のシャツと優しく染め抜いた藍色が、彼女の艶やかな髪の色によく合っている。

 

 ほかに装飾は着けていないが、トルコ石のループタイを緩くテールを作るための髪留めに使っている。

 二年ほど前に珍しく駄々をこねて僕から取っていった、一粒玉をカメオのようにあしらった代物で、黒い紐の先の鈍色が彼女の耳の下あたりにちらちらと見え隠れする。よほど気に入ったのか昔からよくつけている。

 

 

 買ったはいいが、小学生に使い道がなく持て余していたものだったし、ある意味良いところに落ち着いたのじゃないだろうか。

 

 

 

「待たせちゃってごめんね、それじゃあ行こっか?」

 

 

 

 三年が経ち、7才から10才に成長した冴子ちゃんと麗ちゃん。しゃべり方にだんだんたどたどしさがなくなってきた二人に、僕はそう声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人でお揃いのHerz社のチョコレート色の縦型ランドセルを背負いながら学校を出ると、僕らは総合体育館に向かって歩き出した。

 

 いつか良い思い出になるようにと何かお揃いで面白くて、なおかつ長く使えるものをと選んだ結果ものだ。

 大学生や社会人が使っていても違和感のないものだが、半ば冗談で学校に背負って行ってみた結果何のお咎めも受けなかったのをこれ幸いと使いづけている。

 

 

 どうやらうちの学校はあまりそういう事にうるさくないらしく、ランドリュック、ランドバッグ、ナップランドなどを使っている子もいる。ランドとつけばなんでもいいというのか・・・?

 この手の通学カバンの種類はどうも地方によって違いがあるらしいのだが、指定物扱いされる通学カバンに地方差があるというのは、なんでも画一的な日本にしては珍しいと思う。

 

 

 ちなみに僕がHerzを選んだのは本革、スマート、味がある、丈夫という理由だ。

 

 

 たぶん三人ともずっと使い続けるだろう、選んだとき僕はそう思っていた。

 ただ、大学生の彼女たちはどう着こなすのかなと、考え始めてから高校生までの彼女たちしか思い浮かばず、不思議に思い考え込んでから、自分のあほらしさに気が付いた。

 

 

 なんともどうしようもなく間抜けな話だ。ちょっと最近こどもこどもしているのが楽しくて、気が抜けていたようだ。

 

 それ以来ふとした拍子に鞄に少し皮肉を感じ、少し落ち込んだ気分になる。

 

 

 がしかし、いい鞄ではあるし、二人ともこのプレゼントを気に入ってくれたのでそれはそれでよしとした。

 あげた時に、ずっと大事に使うね!と言われ、自分の考えがそれほど的外れではなかったこともひとつある。

 

 少なくとも高校までは使える。それでいいじゃないか、そう思えるようになってきてはいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうそう、僕たちはいまだ学年こそ違うがいつも三人でいる。それぞれ友達はいるが、学校外ではこの三人でいる時間が一番長い。

 

 僕と冴子ちゃんが一番真面目で、麗ちゃんが僕と冴子ちゃんと一緒に勉強するために平均点より少し上くらいをあがったり戻ったりしている。

 冴子ちゃんが古風なことが一通りできる子で、麗ちゃんが一番流行に敏感でお洒落、僕が面白そうなことをなんでもやってみるという、全方面面白おかしく過ごしている。

 

 

 ある日は親に頼んで郊外モールで買い物をしたり、ある日は禅寺でお茶をたしなんで足を痺れさせたり、またある日は急遽思いついた僕が二人を連れてゴーカートでレースをしたりした。

 

 小学生にもなると男女で分かれ始める時期だ。

 

 僕はどちらも敵にしないように立ち回っていたため、女の子たちから変な目で見られることはなかったが、一部の男の子たちからやっかまれることにはなった。

 

 

 特に、トラはなぜ強いか知っているか?体がでかいからだよ、とばかりに、この頃の子供は体がでかいほどカーストが高い。

 

 そして二次性徴の始まったガキのやることなんて、そんなにパターンはない。

 

 

 アホやってるのが楽しいだけの子もいるわけだが、気になる子へのアプローチなんて簡単によそうできるだろう。

 

 こればっかりは昔から変わりゃしない、ジャイアンなんかが良いステレオタイプといえるだろう・・・。

 

 

 

 現状はまだどうにもなっていないが、麗ちゃんのクラスにまさにそんなのが一人いる。

 

 どうやら麗ちゃんと冴子ちゃん二人ともに興味があるらしく、よくおい、ブス!と二人に声を荒げてくるそうだ。

 典型的すぎて笑えてくる、俺だった時もなんかそんなことやったような気がするし、嫌になるよね!とたまに文句を言っている二人には結構後ろめたい。

 

 

 男は馬鹿なんです、許してつかあさい・・・まぁ、百パーセントやってるほうが悪いのだが・・・。

 

 

 そんでもってつい先日その虎の子が僕に反感を抱いていて、近いうちに何か動きでもあるんじゃないかな~と、それとなく一年上のおねーさま方に忠告を受けた、憂鬱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は漢字の小テストがあって嫌になったとか、ちゃんと予習しておこうよ、めんどくさーい!とか言い合いながら三十分ほど歩いていく床巣市総合体育館にたどり着いた。

 

 

 

 冴子ちゃんは竹刀を振りに、麗ちゃんは槍を習いに、だ。

 

 

 

 それほど体を動かすことに麗ちゃんは興味を持っていなかったのだが、僕と冴子ちゃん、親しい友達二人が武術を習っていたために、彼女も両親に頼んで始めたのだ。

 それなら健吾さんのところで剣道でも始めると思っていたのだが、父親の強い要望で槍術になったのだとか。

 

 よく考えりゃ、今どきの女の子に公安のデカが教えられることなんて何一つ無いわけで、さあいざ自分でも教えられる!と思ったら張り切るはな・・・自分の奥さんに泣きついてでも・・・。

 

 しばらく貴理子さんに呆れた目で見られていたが、気持ちは何となく想像できる。

 まさか自分の選挙区の、政治家の誰それがクサイ、なんてことを教えるわけにもいかないわけだし。

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

 僕は相変わらず冴子ちゃんと手合せするのは避けているのだが、麗ちゃんとはたまに行うことがある。

 

 始めたばかりの麗ちゃんにそうそう負けることなく、勝ち越しているのだが、姉を自認していることもあって、そのことが大きなモチベーションになっているようだ。 

 

 まだまだ負ける兆しがないとはいえ、麗ちゃんは急激に力をつけ始めている。

 

 

 一心に練習を続けているらしく、その辺は麗ちゃんのお父さんもうれしそうにしている・・・ただ僕のことがたまに、いや頻繁にうっとおしそうではあるが(苦笑)。

 

 

「じゃあまたあとでね、二人とも!」

 

「うん、あとで!」

 

 

 そう告げあって、更衣室の前で分かれた。

 

 

 

 

 

 

 僕自身がまだ八歳だし、風呂は人によって違いがあるだろうが、別れる必要性があるとは思わない。

 だが、いつまでたっても三人でまとまっていると、性的な認識の遅れやらなんやらで、隔離される可能性もゼロではない。

 

 それにやらなかった結果、冴子ちゃんや麗ちゃんが、変なトラブルに巻き込まれるのも嫌だし、ちょいちょい精神年齢大人な僕の方で調整するようにしているのだ。

 まぁ小学生やり直してるわけで、いつも一緒にいたいと感じてしまっている『僕』への、大人の俺からの教育という面もある。

 

 

 意識させすぎて、あんまりにも早熟だと困るが、二人ともちゃんと子供をしているし、そういった感じではないので今のところ問題はないだろう。

 

 

 別に僕が彼女たちに性教育を行おうとか、そういう驕ったことを考えてるわけじゃない。喧嘩だってトラブルだって、ジェンダーの問題やお互いの得意不得意についてだって、すくなからず行うべきだ。

 

 

 ただ僕自身が、あんまり起きてほしくないトラブルにならないように、距離を測り始めようとした、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 ・・・それに『そういう問題』はいずれ起きるにせよ、僕がまだ彼女たちに異性を求めていないにせよ・・・僕以外と起こるのだけは嫌だから。

 

 

 

 

 

 

「そういえば今日は洋介、また『飛んだり跳ねたり』?」

 

 

 麗ちゃんがからかうように訪ねてくるが、ひどい言いぐさである。あながち間違っていないので、少し笑えてくるが。

 

 

「そうだね、また『障害物競走』かな?」

 

 

「う~ん、あれを『障害物競走』だと言い張るのは洋介君くらいじゃないかな?」

 

 

 

 そういいながら冴子ちゃんが苦笑した。

 

 

 

 三人でそんなことを言いながら、それぞれ更衣室に分かれた。

 




 



 うむむ・・・それなりに前向きにとらえつつ、色々四苦八苦しつつ、出来ればカッコいいところだけを見てもらいたいと思ってる主人公(八才、120cm、女顔、かわいい)が表現したいんですが・・・難しい・・・え、むろん洋介はまだ両性類ですよ?何言ってるの?

 あ、主人公の設定としては、知識はあるけど「初恋」がモットーです(あと十四歳までは女顔、異論は認めない)。
 なので前回の冴子ちゃんとのソファーでのやりとりなんかは内心、え?なんでこんなに戸惑うの?え?え?みたいな感じです(見た目は百合百合だったりします、俺得です、文句のあるやつ屋上)。


 理由としては、基本的に脳内麻薬やその他神経伝達物質は『神経の太さ』に大きな意味があります。麻薬などは使えば使うほどこの神経が太くなるわけで、そして神経は細くならないのです。

 それゆえ使用量が増えていくわけですね。この辺が麻薬中毒に『更生』が存在せず、『中断』を死ぬまで続けられるかどうかだ、といわれる所以なわけです。


 そして子供に戻ったわけですから、ここも再び子供相応に細くなってるわけです。

 その差異に脳が四苦八苦してたのが頭痛で、ドーパミンやらアンフェタミンやらなんやらの急分泌で奇跡的に摺合せできたのが冴子ちゃんとの試合の最中なわけです(ジブリル補正)。

 なのでこれからも色々『僕』はこの違いに悩んだり、考えたりしていきます。


 実は修行なんかでも、痛みに弱くなってるので何回も泣かされています。コーヒーをブラックで飲もうとして、香りの時点で気持ち悪くなって目を白黒させたり、頭と体の比率を考えず上を向いたらそのままひっくり返ってしまって涙目になったり、ピーマンをこっそり皿の端に寄せて、それを見咎められてふてくされたり・・・かわいい(現在容姿は菊池真)。



 昔から二次もの読んでて楽しんでるのですが、何かしら、納得のいかないことってありません?本作品では、そんな疑問をいくつか投げかけていこうと思います。

 まず一個目がなのは系で多い、「小学生高学年でべったりしてたら、回り流石に引きはがすでしょ」と「子供が子供教えてるてるのはまずい」ということです・・・・・・・が。


 一度その説明を書いたのですが、あんまりにも長くなったのでやめましたw
 気になる方は「ミラーリング」「ほめることの重要性」「母子の相互依存」「第二次性徴」「子供 べったり」等で検索したり本を読んでください。
 人間一人がどれほど『重い』かがわかります。

 教育って算数国語だけじゃないんですぜ・・・?歯磨き、風呂、服、靴、社交性、はなほじり、爪噛み、刃物、歩き方、走り方、自転車例を挙げればキリがありません。こんなもん『ともだち』に教わります?教えられます?

 そして子供がときにどれほど悪魔に見えるか・・・本当に母の愛とは偉大ですよ。


追記
忘れてた、スニーカーは・・・例のアレですw欲しい、高い、買えない(´・∞・`)


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日常~宮本麗~

「あの人が私を愛してから、自分が自分にとってどれほど価値のあるものになっただろう」
 ~ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ~『若きウェルテルの悩み』より


 

 

 私にとって立花洋介・・・洋介は気になる男の子、なのかな~?

 

 

 初めて会ったのはママの友達の・・・えっと・・・洋介のお母さん!・・・に会った時。

 

 その時に会ったときからそうだったけど、洋介は不思議な子だった。

 何がっていうのはちょっと説明できないんだけど・・・何考えてるのかよくわからないって言えばいいのかな?

 

 だって会った時は驚かないのに、自己紹介したらものすごくびっくりしていたから・・・私は背がちっちゃくて、女の子みたいにかわいい子だな、くらいにしか思わなかったのに。

 

 

 冴子ちゃんも自己紹介をしたら驚かれたらしくて、だからこの前二人で失礼よね、って話をしていっぱい文句を言っちゃった。

 

 あ、冴子ちゃんは洋介の友達で、今は私の大親友よ。とっても綺麗で・・・冴子ちゃんには言わないけど、ちょっとお姉ちゃんみたい。

 

 

 内緒だけど、最初は洋介も背はちっちゃいのにお兄ちゃんが出来たみたいでその・・・甘えちゃいそうになった。

 でも洋介のお母さんが洋介のほうが年下だって教えてくれてからはそんなことない!

 

 私のほうがお姉さんだってママも言ってたし、面倒見てあげてねって洋介のお母さんにも私が頼まれたの!

 

 

 ・・・勉強は教えてもらってるけど、私のほうがお姉さんなんだから・・・面倒見てあげれるのよ・・・。

 

 

 と、とにかく、会った時から洋介は変だったの!

変なこだわりみたいのをいっつも口にしている。

 

 なんかほかの男の子と違って、変なものを拾ったり集めたりしないし、いつも清潔にしてる。かと思えば変なものを拾って来たり、食べたりしているのよね。

 

 ドクダミとかヨモギとか洋介は言ってたけど、他にもよくわかんない草とかその辺に生えてるもの食べるんだよね・・・アリとか・・・。

 少しくらい体に悪いものとか汚いものも食べないと、体に悪いからねって言うんだけど・・・体に悪いもの食べないと体に悪いの?変なの・・・。

 一緒聞いてたママはとっても微妙な顔をしてた。

 

 

 

 あとはそうね~・・・最近学校中の男子たちの間でムシのアニメが流行ったんだけど、カタツムリやバッタなんかを虫かごに気持ち悪くなるくらいいっぱい集めてる時も、洋介はカブトムシとかクワガタをちょこっと集めるだけだった。

 

 

 男子は、みんな嫌がってるのに女の子に持たせようとしたり、机の上にムシがいっぱい入った虫かごを置いたりする。男子同士では何かの自慢らしいんだけど・・・何が女は弱っちいよ!あんなの気持ち悪いに決まってるじゃない!

 

 私だって洋介と一緒に森でムシ捕まえたりしたから、ムシはそんなに苦手じゃない。けど、クモとかカタツムリを10匹も20匹も、30匹もちっちゃい虫かごに詰め込んだら気持ち悪いに決まってるじゃない!足もぽろぽろ取れるし・・・うう~~!!!

 

 

 ちなみに冴子ちゃんはカタツムリは平気なんだけど、ナメクジは無理なんだって。殻しか違いが無いと思うんだけど・・・。

 

 

 

 とにかく、男子はそういう気持ちの悪いことが好きだし、何かあるとすぐにブスとかうるさいとか言って怒鳴ってくる。私と冴子ちゃんも四年生の男子のリーダーみたいな子が、ブスって怒鳴ってくる。

 気にしないふりをしてるけど、すごくいやになる。なんでそんな風に言うんだろ、洋介は絶対に言わないのに!

 

 冴子ちゃんのとこも、私のクラスも二年生まではそんなでもなかったはずなんだけど、三年生夏休みくらいから、なんだか男子と女子が一緒に遊ばなくなってきて、四年生の今は喧嘩ばかりしてる。なんであんなにでりかしー?・・・が無いんだろう!

 

 

 たまに話をする、洋介のクラスの女の子に聞いたら、洋介のクラスもなんかそんな感じだって言ってた。

 

 でも洋介だけは、そういうところが無いんだって。

 

 洋介はちっちゃいから整列順が前の方らしいんだけど、列の後ろの方の体の大きい子にもきちんと注意出来る子だって言ってた。

 

 なんでもカタツムリを女の子に押し付けて泣かしちゃった男子がいたらしいんだけど、洋介ちゃんが一番体のおっきい男子の肩を叩いて、首を横に振ったら、その子が泣かした男子と一緒に「悪かったな・・・」て謝ったらしい。

 

 うちのクラスでは男子は何があっても謝らない。なんか、女子になんか謝れるかよ!、ってよくわかんない意地張って先生にもあんまり謝ろうとしない。

 

 お姉ちゃんとしては謝らせた事はよくやった!と思うけど、ちょっと不満だわ。

 

 話を聞いてると、その男子たち全然謝ってる気がしてこないもの、洋介がぶん殴ってやればよかったのに!

 

 

 でもちょっと気になって、洋介にどうやったのか聞いたら、宿題手伝ったとかゲームとかの話を少ししただけだって・・・。

 あ、そうそう「自分の持ってるものを、売りたい相手の一番困ってる時に叩きつけてるだけだよ」ってちょっとドキッとするような笑顔で言ってた。

 

 

 ドキドキが治まってからちょっと考えたけど、私もちょっとやりたくない事でも、勉強とかいろいろ助けてもらってる洋介に、頼まれると断れない・・・。

 

 パパにそのことを言ったら「こっすい奴だな・・・麗、付き合いを考えないか?」と言ってママに睨まれてた。

 

 でも洋介って手伝うと、こっちが、嬉しくなっちゃうくらい嬉しがるから、あんまり面倒に感じないのよね。

 冴子ちゃんもおんなじこと言ってけど、ほかの子が手伝ってもちょっとはにかむくらいしかしていないのが、なんだか最近嬉しく感じる。

 

 

 

 それに洋介はなんだかほっておけないんだよね。

 なんでも自分でできそうで、実際けっこうできちゃってるみたいなんだけど・・・意外と痛いのが苦手だったり、強い匂いが苦手で、香水のきついのを匂いだりすると酔っちゃったり。

 

 勉強は出来るけど、周りの子が盛り上がってる時でも話についていけなくて、戸惑ってることがある。

 あからさまにではないけれど、ふと気が付くと洋介はそんな顔をしてる。

 

 そういう時にしてる、あんまり気にしてなさそうだけど、ふてくされたような、寂しそうな、そんな顔を見ると・・・なんか言葉にできない・・・たまらない気持ちになる。

 

 

 

  とにかく洋介はそんな感じで、他の男の子とは全然違う。

 

 洋介が一年生の時からずっと一緒に遊んでるけど、いっぱいいろんなことを知ってて、変なことをいっぱいやってて、あんまり怒らないし、クラスの男子みたいに叩いてこないし・・・とにかく一緒にいて楽しいし、落ち着くんだよね・・・。

 

 私にとって立花洋介は弟親友みたいな、見てないとちょっと危なっかしいところのある、弟みたいな。

 

そんな奴だ。

 

 

 

 

 

 更衣室で着替えて冴子ちゃんと体育場に着くと、パパが槍を持って武道場とは反対側の運動場を、腕を組んで見ていた。

 

 この総合体育館は四つの建物に分かれていて、この体育場は畳敷きの部分とそのほかボールを使わない、床競技などのためのマット敷き場所に分かれてるんだけど、洋介が今日使ってる方を見てるみたい。

 

 そっちのほうを見てみると、洋介が2メートルほどの固いウレタンを吹き付けた壁をウォールパスで飛び越えたところだった。

 

 洋介は飛び越えた勢いに、さらに加速しながら飛び、半ひねりし次に設定してある壁で逆さに受け身を取り(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、地面に足から降りると右方向にPKロールをした。

 そのままの勢いで次の背丈ほどの障害物を、最初に飛び越した壁を壁蹴りして高さを確保して、ハンドスプリングしながら飛び越して行った。

 

 

 

「・・・相変わらずすごいね、あれは・・・」

 

 しばらく三人で茫然していると、冴子ちゃんがそうコメントした・・・。

 

 

「・・・サルだってもっと人間らしく動く」

 

 半分呆れたようにパパがそう呟くのが聞こえた。たぶん思わず言ってしまったんだと思う。

 でもごめん洋介、パパの言葉に否定できないわ・・・。

 

 洋介が言うには、あれはパルクールというフランス発祥の『障害物競争の一種』なんだとか・・・今度は抱え飛び込みの最後で蹴りながら、前に一回転して次の障害物の上に乗ってしまった。やっぱり・・・。

 

「「あれを障害物競走というのは無理がある(ね・な)」」

 

 

・・・。

 

 

「・・・私は何も言ってないわよ」

 

 

「顔に書いてぞ、麗」

 

「顔に書いてあるよ、麗ちゃん」

 

 

 

 やっぱり飛んだり跳ねたりだ!

 





BGM
~Lillix
What I like about you
~Melanie Martinez(Cover)
Toxic
~Demi Lovato
LaLa Land
~Lea Michele Sarfati(Cover)
Gives you hell
~Pink
So what
~Pentatonix
Daft punk

 というわけで『障害物競走』の正体はパルクールでしたwなおフランス語のパルクールを使ってますが、トリック名はフランス語調べんのめんどいのでフリーランニングで勘弁してください、無理です<(_ _)>

 アサシン先生のおかげで有名になったパルクールですが、フランス軍やイギリス軍も既に取り入れていますね。ちなみに僕は『B13-U』という映画で知りました。ドラマの『チャック』では冒頭で冒頭まるパクリでしたねwミラーズエッジは酔う。
 英国海兵隊の広報の動画で、ストリートファッションの若者に軍服が指導されている姿は、なんともシュールでしたw

 スペツナズなんかはすごいですよね!完全に都市不正規戦闘なんかを念頭に入れてやがりますよ、あいつら・・・。
 日本も都市部と山しかないんだから警察とか自衛隊で取り入れればいいのに・・・。

 今回は執筆にあたり、女の子した曲(!?)ばっかり聞いてました。いつもみたいにFFDPとかマキホルとか聞きながら女の子視点は無理がありますからねw
 ・・・しかしこの曲選、完全に歳バレるなw

 あと作中で言及している「アリ」ですが、私はクンビクンビを食って育ちました。ぶっちゃけ幼いころから汚いものを摂取したことのある(一部化学物質を除く)やつはほんと体強いです。
 
 後なんかあったかな・・・?まあいいか。

 Pentatonixは特におすすめです。ホムペでアルバム聞けるので、ぜひ聞いてみてください、気に入ったらぜひ買ってあげてください!(ステマ)


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日常~毒島冴子~

2014/07/30一部変更
二話同時投稿

「これら犯罪者のターゲットにならないためには,自分が周囲の人より少しでも狙われにくい行動をとることが必要です。常に『周囲の人と狙われにくい競争をしている』という意識を持ち続ける必要があります」
           ~在サンパウロ日本国総領事館~『サンパウロにおける安全の手引き』


 最近麗ちゃんは、私の親友の一人である宮本麗は・・・変わったなと思う。

 

 

 

 一緒に遊ぶようになったはじめは、子供っぽいところが目立っていたように、今になって思う。

 まぁもちろん私もまだまだ子供なんだけれど・・・それでも、それぐらい違いがあるようにそう感じる。

 

 変に大人ぶろうとする子みたいな感じではない。

 

 ファッションにびっくりするくらい精通していたり、どんなことにでも嫌々ながらにでも試しに参加したり。

 嫌いな子とでも、距離はおいても遠ざけようとしない。そういうところが頼りになるのか、最近は女の子たちの間でリーダー的な役割を担いるみたいだ。

 とにかく、試しにやってみてから嫌がることはあっても、子供っぽく、試しもせずに嫌がることが無くなった。

 そういうところがふとした拍子に麗ちゃんを、大人だな、と思わせるんだと思う。

 

 

 

 麗ちゃんは、性格的には貴理子さんの影響が強くでてる。勝気でちょっとお姉さん的な事に憧れていて・・・失礼だけど、お父さまに似ずとても女の子してる。

 

 前は小さな妹のようで可愛かったけれど、頼りにできる彼女は、とても魅力的になったと思う。

 

 いつの間にか私も麗ちゃんを、それほど妹扱いしなくなっているしね・・・まぁ、貴理子さんとはいまだ仲の良い姉妹のようではあるが・・・私も母上とは仲の良い方だと思うけど、あんな風にキャッキャッと一緒に騒ぐイメージができない。

 

 

 とにかく、ただただ子供っぽかった麗ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。

 

 理由は明白だ。

 

 

 私が大人っぽくなれたのと、理由は変わらないって、そう私は確信してる。

 

 そう私たちのもう一人の親友、立花洋介。

 

 それ以外に理由はないだろう。

 

 

 

 

 

 会った頃くらいは、麗ちゃんは寝癖でぼさぼさの頭でも気にしない子だった。

 貴理子さんとの会話を聞いていてわかったけど、服なんか人形の服はお姫様みたに着飾らせるのに、自分の服はそれほど気にしていなかったみたい。

 今そのことを言うと、顔を真っ赤にして否定するけど、麗ちゃんの表裏逆に着ている服を何度か着直させた事もある。

 

 でもある日みんなでモールの服屋さんに行った時、そこで貴理子さんに選んでもらった服を着て一日みんなで遊んだあとの帰り道で、洋介が照れた様子で

 

 

「その服・・・とっても似合ってるね」

 

 

 ただ一言そう言った。

 それから麗ちゃんは、それほど服屋さんに行くことを嫌がらなくなった。

そして何度かそういう事があって、麗ちゃんは自分で服を選ぶようになった。それはもう、一生懸命に。

 

 今でも特に新しい服を着てみた時に、麗ちゃんは無意識だと思うのだけれど、洋介に見てどう思うかを聞いている。

 

 麗ちゃんから何も言わなくとも、例えば髪型だとか、新しい髪飾りだとかを、洋介が気が付かなかった時なんか一日中不機嫌になる。

 

 まぁ、洋介は目ざといからそういう事は滅多にないのだけれど、それまではお昼のソースを服で拭いて怒られていたのにだよ?

 

 まったく、人間とはびっくりするほど変わるものだとつくづく思うよ。

 

 

 当時は意識していなかったようだが、すぐに洋介も麗ちゃんのその変化に気がついた。

 最初の頃はその変化に戸惑っていたけれど、嬉しそうに私たち(・ ・ ・)の格好を褒めるようになった。

 

 そう、洋介は鈍感じゃない・・・むしろいろんなことにとても目聡い。特に人の気持ちにとても詳しい。

 

 

 麗ちゃんが洋介といるときと、ほかの子といるときの距離が違うとか。

 

 麗ちゃんが洋介の視線には(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)よく気が付く(・ ・ ・ ・ ・ ・ )とか。

 

 そういう事には気が付いてるはずだ。

 

 

 

 なんで洋介が気持ちに気が付いているってわかるか?

 それは、私も気が付くと洋介とよく目が合うから(洋介を目で追ってしまう)だ。

 

 私も服に気を使(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )うようになったし(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )私も洋介に合(・ ・ ・ ・ ・ ・ )わせるのが苦じゃない( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ )

 

 

 大人に言ったら、そういうのはまだまだ早いって言われるかもしれない。けど後十年たっても、きっとこの気持ちは変わらない。

 

 

 

 そして麗ちゃんも、そろそろ麗ちゃんの気持ちに気がつき始めてる。

 

 自分で言うのもなんだけれど、私も大概大人びていると思う。でも麗ちゃんとは違う形で大人びている自覚はあるし、たまに麗ちゃんがうらやましいと思うことがある。

 例えばあの明るさだとか(どっちの方が好みなんだろう)女の子らしさだとか(私だって努力してるのに)、心の中だけじゃなく洋介と呼び捨てにできる(私だって呼びたいのに ・ ・ ・ )ところとか。

 

 麗ちゃんも私と同じように嫉妬している事を知っている。

 例えばなんで先に知り合えなかったのかとか(私の勝ち)たまに話についていけない時があるとか(頭が良くて良かった)着いていけない時があるとか(これだけは負けない)とか。

 

 自分のことだけど、こんなに醜いのかと、ちょっと自己嫌悪することもある。

 

 

 

 でも自分では見えないけど、きっと私と麗ちゃんは洋介と一緒にいるとき、おんなじ顔をしてるんだろうなって、そう思うから。

 

 

 そして麗ちゃんもそろそろ、私の気持ちに気が付く。その時に私たちの関係がどう変わり、あるいはどう変わらないのか。

 

 クラスのませた子達の好きな子の話を聞いてると、不安にならなきゃいけないんだと思うんだけど・・・私は楽しみで仕方ない。

 

 

 その時が来ても、誰もいなくならないという、そういう確信が私にはある。

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み前、最近日差しがだいぶ熱くなってきた。

 

 いつものように、特に変わりない時間が過ぎてお昼休みなった。

 

 廊下が騒がしくなるけど、私のクラスはまだ終わらない。

 三時間目の授業は社会なのだけれど、社会の町岡先生はいっつも十分くらい授業が長引くからだ・・・みんな嫌がっているけれど、おじいちゃん先生は気にもしない!

 

 お弁当の時間が短くなるから時間通りにして欲しい。担任の先生に言っても、もうお歳だからと何もしてくれない。

 

 なんとかならないかな・・・。

 

 

 そんなことを思っていると、ようやっと授業が終わった。

 

 黒板に書いてあることは、もう全部移し終わっている。

 

 サッと教科書とノートを片づけると、私はお弁当を取り出し、足早に麗ちゃんのクラスへと急いだ。

 

 

 

 私たちの小学校は私にはよくわからないのだけれど、給食がない。その代わりにお弁当を家から持ってくるか、カフェテリアで買うかの、どちらかを選べるようになっている。

 

 

 洋介は

「さ、流石私立パネェ・・・めんどくさい?まぁあれだよ、早めの社会勉強みたいなものだよ、冴子ちゃん」

 と言ってたけど、正直よくわからない。食券機がどうとかタッチパネルがどうとか。そんなに変わってるのだろうか?

 

 あとよくぶつぶつ言ってる「冷凍ミカン」ってなんなんだろう?ミカンを凍らせてもおいしくなさそうだけど・・・カレーのルーの取り合いが醍醐味って・・・それちょっと、意地汚い気がするんだけど。

 

 

 

 

 

「あ、冴子ちゃん!やっと出てきた、遅いよ!」

「ごめん、ごめん。ほら」

「あぁ、そういう事・・・」

 

 

 教室を出ると、お弁当を持って待ちくたびれた様子の麗ちゃんがいた。謝っても少しむくれていた麗ちゃんに、教室の中を指さすとすぐに納得してくれた。

 

 半分は片づけ終わって席を立ち、そのまた半分は席を移動し、残りの少し黒板を写している。そして町岡先生は片づけをしながら、まだ何か話をしている。

 大抵は授業には全く関係の無い話なので、別に聞く必要はない。

 

 見ていても面白い光景でも無いので、どちらからともなく四階の階段へと歩き出す。T字の校舎の三つある中の反対側の階段だ。

 麗ちゃんと洋介とはいつも三人で、屋上で食べている。そのため三階に教室があって、私たちの一階下の洋介とそこで合流するのだ。

 

 

「なんであの先生、あんなに話したがりなんだろ?」

 

 全くだ。

 

「あれでいい人ではあるからね。楽しそうに話すのはいいけれど、どうやったらあんなに話すことがあるんだろうか・・・麗ちゃんのクラスでもあんな感じなの?」

 

「あ~、うん。それも冴子ちゃんところみたいに、何人か最後まで聞いてる子もいるんだよね~」

 

「つまらなくはないからね。むしろだからこそ問題な気もするけど」

 

 それも愛嬌というのだろうか?

 

 

 

 二人で歩いていると廊下を遮っている陰に気が付いた。

 男子が三人道の真ん中に陣取っていて、通行を邪魔しているようだ。横に二人いるコバンザメは名前も知らないが、真ん中で腕を組んでいるのにはとても見覚えがある。

 

「どうする?」

「冴子ちゃんの方が頭良いじゃん」

「ここであんまり頭のよさは関係ないんじゃないかな?」

「もう立ち直ったけど、正直いい加減うっとおしいのよね~」

 

「おい、止まれよ!」

 

 

「・・・・・・それには同感だね」

 

 聞こえないように麗ちゃんに話しかける。

 

「・・・ホンット、頭に来るわ」

「ふふ、麗ちゃんは落ち込んで、洋介君に慰められてたしね」

「な!?」

 

 顔を赤くする麗ちゃん。当たり散らして、訳も分からず泣いて、それでも抱きしめて慰めてもらっていた麗ちゃん。

 

 隣で素通りされた彼の顔も真っ赤になっている気もするが、きっと気のせいだ。

 麗ちゃんの方はすぐに持ち直すと、ニヤリと悪い顔をする。

 

「そういう冴子ちゃんだって、寝たふりをして膝枕してもらってたじゃない」

 

 怒りや悔しさや、いろんな感情が涙と一緒に溢れ出して八つ当たりしてしまった私。

 

「・・・それがどうかしたの?」

「・・・シレッとして隠してるつもりかもしれないけど、頬赤いから」

 

 ・・・やっぱり麗ちゃんも大人になったな・・・となりからジトリとした視線を感じる。

 

「そこで、うんうんって頷かれるのは、ちょっとよくわかんないんだけど?」

 

 

 こっちの話だよ・・・決して顔が熱くなってきたのをごまかしてるわけじゃないよ?

 

 

「冴子ちゃんて、するよりされる方が好きだよね・・・そういうとこ乙女っぽい」

 

 ニシシと猫のように笑う麗ちゃん。

 そうなのだろうか?

 

 

 

 

 

「無視すんなよ・・・このブス!」

 そう怒鳴りながら私と麗ちゃんの前に割り込んでくる、体格のがっしりとした男の子。

 

 もう少しでぶつかりそうになるが、歩幅を縮めて直前で止まる。ぶつかる気でいたのか、体幹を崩してこちらに一歩踏み込んできたのを、一歩下がって避ける。

 

 

 見ると麗ちゃんも、押したりせずにさり気なく一歩引いている。

 

 

(麗ちゃんなら突き飛ばすくらいしそうだと思ったよ)

(ちょっと?冴子ちゃん、それどういう意味かしら?)

 

 思わず呟くと、麗ちゃんの口元が引き攣った。

マズイ、口調が貴理子さんみたいになっている。静かに怒り始めた時の反応だ。

 うん、ちょっと言葉を間違えたかもしれない。。

 

(・・・まあいまはいいわ。)

助かった。

(洋介が言ってたのよ。こういう奴(金魚のフン)で体を擦り付けてこようとする奴がいたら気を付けろって。そういうのは興味のあるやつ(そういう事に)で虎の威を借りて調子乗ってるんだって。)

 

(なるほどね・・・)

 

 チラリと二人の方を見ると、顔色が少し青くなった。

(洋介は距離を取って問題にならないくらいに強く拒絶を表せって・・・確か、パーソナルスペース?には絶対入れるなって言ってたわ)

 

 パーソナルスペース?

 

(一緒にいて嫌な気持ちにならないくらいの距離?って言ってたかな?話してる時に、手を伸ばして手首くらいの距離から、数センチ毎に心の壁が出来てて、二メートル以上無いと話が出来ない人は、心の底から嫌ってる人だって)

 

(なるほどね)

 

 見てみると彼らと私たちは七十センチほど離れて話をしている。麗ちゃんにひょろりとした男子が一歩近づくと、近いんだけど、と言いながら睨みつけて近づけさせない。

 他にも、できるだけ自分からは引かないというルールがあるのだとか・・・本当に洋介は色々知っている。

 

 そしてその距離がどれだけ、今私たちが怒り狂っているかを教えてくれる。

 

 そのやり取りを周りで見ていた女の子からも、「嫌がってるんだから止めなよ!」と聞こえてくるが「うっせえブス!」と聞く耳を持たない。

 特に話したいと思わない私たちは、黙って向こうの要件を待っていたのだが、どうやら向こうは話しかけられるのを待っているようだ。

 

 

 

「おい、どこ行くんだよ」

 

 こちらから話しかけるのもしゃくなので、黙っていると、イライラしてきたようだ。ムスッとした顔で、そう問いかけてきた。

 

 思わず二人して黙り込んでしまう・・・同じ学年でもあるし、男子のリーダー的な役割を彼はしている。

 そして麗ちゃんは女子のリーダー的な存在。そして私たちの学年は、男子よりも女の子同士は仲が良い。

 あまり対立をするのは、私も麗ちゃんも良くないと考えていた。

 

 

「おい、聞いてんのかよ?」

 

 麗ちゃんと目を合わせると、お互いに一つ頷いた。

 

「わるいのだけれど、もう一度何を聞きたいのか教えてくれないかな?」

 私が尋ねる。

 

「だから、どこ行く気だって聞いてるんだよ!」

 

「「はぁ・・・」」

 

 「な、なに溜息ついてんだよ!」

 

 

 

「あのさ、私たちがどこに行こうが、あんたにはなんの関係もなくない?」

 

「・・・は、はあ!?お前、はぁ!?」

 

 ・・・やれやれ

 

「あまりこういう言い方をするのは好きではないんだけれど、麗ちゃんの言う通りだと私は思うよ」

 

 思っていたより冷たい言い方になっているが、構うものか。

 

 

 彼らのおかげでゴールデンウィークはメチャクチャだったのだ。やりたい事も出来なかったし、いろんな人にとても、とても迷惑をかけてしまった。

 

 

     

 

           これは私たちの宣戦布告なのだから。

 

 

 




 いやぁ、軽く仕上げるつもりが気が付けば三万字も・・・。

 書く作業より削る作業で投稿が遅れました<(_ _)>

 
 このテーマはいつか書きたかったことの一つなのでついつい入れ込みすぎてしまいました、はい。

 原作からは乖離していますが、大幅にスキルアップさせた魅力的なヒロインです、こういうトラブルには大いに巻き込まれる可能性があるでしょう。続きは次の話で!

  わかりにくいのでネタバレしますが、やたら麗と冴子が日常に言及するのは理由があります。


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日常~毒島冴子Ⅱ~

2014/07/30一部変更
二話連続投稿

「過覚醒、無気力、侵入/反復、変換、統合」
        ~PTSD Treatment Help~『PTSDからの回復の手引き』


 最初に言われた時はショックだった。

 けれど、それほど自分が傷ついているとは思ってもいなかった。別のクラスで、顔を知ってるだけの男の子に面と向かって悪口を言われた。

 ちょっと混乱したけれど、ただそれだけ。周りにいた友達も気にしちゃだめだよと言ってくれた。

 

 だけれど、それからも何度も私たちだけが彼らに同じようなことを言われて、ゴールデンウィークに入った。

 大人びてるねだとか、カッコいいだとか普段言われていて、すっかりその気になっていた私も麗ちゃんも、全然気にしていないんだと思い込んでいたんだと思う。

 

 だけれどもゴールデンウィーク前あたりから訳も分からず、少しづつ洋介や貴理子さんに当たり散らすようになっていた。叩いたり噛んだり、蹴ったり抓ったり。

 今考えれば休みの日まで張っていた緊張の糸が切れて、行き場のない感情が爆発した結果だったんだろう。

 

 私も麗ちゃんも、そんなことしたくないのに、頭の中が嫌な気分でいっぱいで。悔しくて、訳が分からなくて、怖くて、痛くて、何かしなくちゃいけない気はするのに頭は全然なにも考えられない。

 麗ちゃんともお互いに嫌なことをいっぱい言った。だけどとうさまには言えない。

 だから洋介の事を蹴ったり殴ったりした。指先や足がウズウズとして、とにかく会うたびに、私は腕を爪の跡が消えないくらいに引き絞った。麗ちゃんはランドセルをぶつけていた。

 最初に私が腕をつかんだ時、洋介はキョトンとした顔をしてから、今にも泣きそうな顔をして、気が付かなくてゴメンねと、ただ一言そう言って抵抗しようとも、やめてとも言わなかった。

 

 その意味が分からなくて、それが余裕に思えてひたすら癇に障って、憐れまれてるようで悔しくて、私たちの行動はどんどんエスカレートしていき、小さな洋介は日に日にボロボロなっていった。

 

 

 

 こんな事したくない、でもやめられないよ、どこかに行ってよ!悔しいよ!どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないの!?

 

 

 

 全然すっきり考えられなくなった頭で、やめなくちゃ、やめなくちゃと思ってもやめられないまま、そして決定的に私たちは間違えてしまった。

 

 

 麗ちゃんのお父さんと父様には何とか隠し通して、いつもの道場で練習をしていた。何をやってもうまくいかなくて、叱られる私たち。そしてそんな時に珍しく、 麗ちゃんのお父さんにまで褒められた洋介を見た瞬間抑えられなくなった。

 

 ほとんど同じタイミングだったと思う。気が付いたら渾身の力で竹刀を振りおろしていて、目の前の悪鬼のような表情でゴム槍を振りおろしている麗ちゃんと目があった。

 きっとまったく同じような顔をしているんだろうなと、思った次の瞬間に訪れた苦痛に満ちた悲鳴。

 感触の甘美さと絶望は、きっと一生私の手に残るだろう。

 

 気が付いたら初めて父様達に本気で殴られて、座り込んで泣いている私たち。そんな私たちを抱きしめながら私たちのせいじゃないと泣きながら訴える洋介。

 底なしの沼にはまり込んだような感覚が、絶望なんだと初めて理解しながら、涙でかすむ視界のなかで、ここは安心できるんだと、強くそう思った。

 

 

 

 こうしてゴールデンウィークいっぱい私と麗ちゃんは当たり散らし、無気力になり、そんな自分を否定し続けた。

 武道場で洋介を痛めつけた後に何があったのかはわからないけれど、気が付いたら洋介と母様と、貴理子さんと私たち四人で残りの二日を一日中一緒に過ごしていた。

 まぁ洋介はたまに追い出されたり、ご飯を作らされたりとこき使われていたけれど・・・。

 

 そのあと、母様たちは、まだ足りなそうだ!、と言うなりもう一週間学校にも行かずに、24時間私と麗ちゃんはずっと誰かに抱っこされ続けた。

 怒って、泣いて、話して、励まされて、また怒って。そんなことを一週間学校をサボって繰り返した。

 

 

 そして手を貸そうか聞いてくる洋介に、自分たちで頑張るといえるくらいに立ち直った私たちが今ここに立っている。貴理子さんと母様は、一言も言わずに一緒に父さま達に謝ってくれた。

 洋介はどうして私たちが悪くなくて、どうしてアレがあんなことをしたのかいろいろ教えてくれたけれど、正直その中で私が納得した言葉は、洋介が映画かなにかから引っ張り出してきた一つだけだった。

 

 

「学校で、みんなの前で、そんな中で取り上げられた『自分』は、同じように『みんなの前で』取り戻されなければ取り戻せない」

 

 

 一週間以上かけて、なんとか私と麗ちゃんは、欠けてしまった「自分」を見つけることができたのだ。見つけた『自分』は取り戻さなければならない。非の打ち所がないほど正しいと思った。

 

 

 すくむ足を叱咤して学校に戻って、友達に皆勤賞を取り逃してしまったよと話しながら、あっけないほど簡単に日常に私と麗ちゃんに戻っていった。嫌がらせも同じように戻ってきた。

 すぐにでも叩きのめしてしまいたかったけれど、これ以上父さま達や洋介に迷惑はかけられない。

 

 だからこそ学年中にこの事の噂が広まるのを、問題の表面化を待っていた。

 

 

 

 

「君が私たちと険悪な雰囲気になると、ちょっと戸惑っているのは気が付いていた。だから何か言いたいことがあるのだろうと、私たちも特に強く嫌がらずに話を聞いてきた」

 嘘だ。洋介に指摘されるまで気が付かなかったし、そんな事ほとんど気にならない。

 

「でもさ・・・あんたのやり取りさ、何も変わってないじゃない?一番最初から『おいブス!どこ行くんだよ!』・・・何なのこれ、意味わかんないんだけど、もう五回は聞いたわよ?」

 

 たぶん考えていた場面とかけ離れたからだろう、言われた彼は口をパクパクと動かすが、言葉が出てこない。

 

 

「お、お前らたけるくんに逆らっていいと思ってんのかよ!」

 

 ペースを乱されているのを感じたのか、声を荒げることで威圧しようとして来る。

 

「あ、それと・・・名前わかんないんだけどそこの二人。いちいち触ろうとして来るのやめてくれない、キモいんだけど?」

 

「じ、じいしきかじょーなんだよ、ブス!」

「そ、そーだブス!誰がお前なんか触るか、ブス!・・・このブス!」

 

 ちらちらと、二人組は周りの視線を気にしてから、顔を真っ赤にしてまくし立てる。そんな二人を鼻で笑う麗ちゃん。

 

 「そこのめんどくさいのはどういうつもりか知らないけど。わかりやすいのよ、あんたたちは、女子はみんな気が付いてるわよ?階段でずっと待ってスカートの中覗こうとしたり、ぶつかって胸触ろうとしたり・・・いい加減にしてよね」

 

 

 キモイよね~、私もスカート覗かれた、ちかんよ、ちかん!サイッテー、そんな言葉が決して小さくない声で聞こえてくる。

 

「う、うるせっ!!外野は黙ってろよ!」

 

 

 そう怒鳴る声にも、もはや嘲るような笑い声しか返ってこない。

 彼らのやり取りはもはや、死ねやキモいとか、消えればいいやあんたが消えろとか、決定的なそれしか聞こえてこない。関係修復なんて無理だろう。

 

 周りの空気にあてられた麗ちゃんは、二人と言い合いをしている。だけれども、これだけ騒げばそのうち先生もやってくる。

 

 

「それで、たける君だったかな?」

 

「・・・・・・」

 

「答えないんだね。君は、何がしたかったのかな?」

 

 彼は言わない。

 

「黙っててもなにも始まらないし」

 麗ちゃんもイライラしてる。

 

「私たちは待ったよね?何回も何回も何回も、同じ話をされて・・・傷つく事を言われて」

 

 彼と子分は自分が責められるような、こんな状況になったことがないんだろう。

 周囲みんなが監視カメラみたいで、自分のことを笑うためだけに設置されてるみたいなそんな最悪な感覚(この間までの私地にみたいな)を感じたことがなかったんだろう。

 

「もう一回言うよ?私と冴子ちゃんが、どこで、誰と、何をしようと・・・」

 

 目の前から目をそらさずに、少し声の震えている麗ちゃんの、震えている手を持つと、ビクりと緊張が走った。

 私もいるよと、念じながら手をギュッと握る。

 

 手を握った時に、私の手もこわばっていたことに気が付いた。きっと麗ちゃんも気が付いた。慰める側も慰められる側も震えていることに、ちょっと面白いと感じた。

 

 体から少し緊張の抜けた麗ちゃんは、心の底から、私の思いも載せて、静かに吠えた。

 

 

私たちが何をしていようと(私たちの)あんたらには関係ないでしょ(名前を返せ)!!」

 

 

 

 

 

 

 それから何が起こったかはよく覚えていない。

 

「よく頑張ったね、怖かったよね、偉かったよ・・・あとは全部僕がどうにかするよ」

 

 洋介のそんな声を聴いた覚えはある。

 ただ気が付いたら屋上で、麗ちゃんと二人して洋介に縋り付いて泣いていて。笑っている洋介をポカポカと殴り、いっぱい笑って、お弁当を食べて、授業を受けて家に帰って三人で一つのベッドに入って眠った。

 

 

 

 

 

 あぁ、一つだけ間違えたかもしれない。

 私は麗ちゃんが変わったなと思っていたけれど、私も麗ちゃんも、洋介もすっごく変わって、なんにも変わってない。

 変わったんだとしたらそれはきっと、ひとりから三人に変わったんだ。それぞれに合わせて、それぞれが合わせて。何か離れがたい何かに。

 

 ずっと三人でいたし、これからもずっと三人でいる。

 

 誰もいなくならない予感がする?

 違う、離れられるわけがない。

 

 嫌なところも全部見せあった親友と、嫌なところも全部受け止めてくれる男の子。

 

 増えたりしたって、減りはしない。

 

 

 

         百年経ったって、私たちは一緒にいる。

 

 

 

 

 

 

 




 
 というわけで麗ちゃんたちがやたら饒舌だったりするのは軽いPTSDからの勇気づけの行為です。身体的接触が多くなる、噛みつき、抓る、頭突き、蹴る、退行。典型的なストレス反応です。そのほかこの二人には軽いチックと思考能力の低下がみられます。
 不合理な出来事に会うと大人でも子供でも大きなストレスになり、PTSDになることもあります。ヤクザのタカリにあった大人の男性も上記行動と全く同じ反応が出たケースも存在します。

 子供は大人より一つ一つの出来事の意味が濃いです。そしてどこかで書いたように、トライ&エラーの状態ですから一度有効だと判断した行為は常に使い続けます。
 大人が意味不明と思う行為も、子供には完璧に理論だっているわけです。
 もしあなたが親でそれが間違っていると思うならば『計算式』を正してあげなければ、大概の場合なんの解決策にもならないのです。そしてえてして子供とは数学を嫌う傾向にあります。
 これこそが子育ての一番つらいところじゃないかな~(たぶんメイビー)

 そしてこのケースを見ればわかるように、たまったストレスは気安い(決して親しいという意味だけではない、自分より弱いという場合もある)と感じる相手に自然と出てしまう事なのです。中間管理職が部下に時に無意味に理不尽なのと同じです。長男や長女が悪魔のような表情で妹や弟やペットに爪を立てているのと全く同じ反応です。
 これらは一概に必ずしも叱るべきことではありません。時にストレッサーと乖離したり、向き合うだけの強さを得るまで受け止めて上げる必要もあるわけです(とはいっても全部受け止めるのは大変なので、持ち回りで受け止めたり、半分くらい受け止めればいいのです)。

 というかどう考えてもこの状態の麗ちゃんと冴子ちゃんにビンタする気にならないでしょ?いじめ被害者の美少女がストレスで訳も分からず、はけ口を探している。男ならドドンと受け止めて上げてください。超痛いです、未だに跡が残ってるのもあります。ですがそれが彼女らの心の傷の深さなのです。

 無理だと思ったら転校してしまって、いっそ友達ができるまで親も学校に行くのもアリじゃないですか?(ただしこの時期は退行していて再形成段階ですから幼くなっています、子供の言いたいことしたい事を先回りしては『絶対とは言いませんが』しないべきです)


-----------------------------------
              『 ☆ 結 論 ☆ 』

 なんにせよ、これで書きたいこともかけたし、二人がベタ惚れになった事にも説明がつく、うははは~。



 まぁ何が書きたかったかというと、いじめを受けてて自分がどんどん嫌な奴になっていくあなた。原因はあなたにありません。あなたに必要なのは『助け』です。自己救済はとてもしんどいです。電話相談だけでもしてみてはどうでしょう?

 彼らはどんなアホな事でも聞いてくれます。日記にしゃべりかけるみたいな感覚で、とりあえず始めてみませんか?



 いじめを受けたことがあって、今はいじめをしちゃってるなと思ってるあなた、いじめは犯罪です。今のうちに治しましょうよ、あなたの責任ではありません、若い頃の暴行、セクハラの被害者の加害者転向率は四割を超えています。
              あなたはPTSDなのです。
 今すぐ日記にしゃべりかけましょうよ?あんなやつらにあなたが鳴る必要は無いんです。




 そして軽い気持ちで「ハブる」とか「締める」とか「いじる」とか言ってるそこのきさん。


            「おどれ大概にせえよ?」


 きさんはクソ度戯けやからやった事は三秒後には忘れとるかもしれんが、俺らは四十年たっとったってかけらも忘れられん。十年は夢にまで見る。
 きさんのそのクソ軽率なくだらん行為が、人ひとりの名前を奪って、鏡を見る事すらできんようにさせて、上を向いて歩く事もできないようにさせて、人生をめちゃくちゃにしよるんじゃ。
 
 きさんらのような卑劣なクソ野郎を畜生いうんじゃ、反省せい!

 
 あ、書き忘れた!
 追記・ここで登場した合田武(アイダ タケル)君はそれほど邪悪な存在ではありません。

 可愛い子がいる
    ↓
 話しかけたいけれどなんていえば良いかわからない(要求表現がガタイのせいでフィジカルに強気で行けば何でも手に入った。そのためコミュ症・大体の場合親の責任)
    ↓
 子分に唆される+最初の呼び止め方で相手が自分の近くから動けなかった(そのためこの方法が有効であると無意識に判断)
    ↓
 超絶拒否られて自信喪失(弱PTSD気味)

 という流れです。ほとんどセリフが無いのは無害だと思ってた欲しい物に、初めての反抗をされて自失茫然としていたからです。あわれこれからは女子に嫌われた上に反論も出来なかった、ノータリンとして灰色の学園生活が待っていますw
 こういうタイプは絡んでこなければ別に嫌いじゃありません。リーダーシップそれなりに取れますし、ある意味扱いやすいですしw
 あとはリカバリーできるかどうかですか、そこまでは私も責任持てません。書いてるのは私とはいえ自業自得ですので。
 さらに言えば今のところこれ以降の出演予定もありませんw

 さて、アメリカ行く前に一つ問題が片付いて、絆は深まった。しかしこれが本当の問題の露呈でして・・・。


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Dirty deeds done dirt cheap

「悪意というものは、他人の苦痛を目的とするものにあらずして、我々自身の享楽を目的とする」      
                  ~ニーチェ~『人間的な、あまりに人間的な』



「っち!・・・最近ガッコたりー」

 

 背の低い痩せた少年がそう呟いた。

 

「そうだよな~、たけしのやつ腑抜けちゃってよー、マジ使えねえんだけど・・・」

 

 それに背の高い痩せた少年、村本健治がそう返した。

 

「あれ、お前この間までたけしくんとか言ってなかった?」

「あ?あんなやつ呼び捨てで上等っしょ!・・・てかお前もっしょ!」

「まあね~」

 

 自室でだらしなく寝そべりながら、つい最近まで取り入っていた人物の衰退に、下卑た嘲笑をする二人。顔には侮蔑と倦怠感、そして苛立ちが浮かんでいる。

 

 

「にしてももう毒島と宮本にちょっかい出すの無理じゃね?」

 

 しばらくたわいもない話を続けていた彼らだが、背の低い方の、芦狩勝児がそうぼやいた。

 

 その通り現実的ではない。

 

 廊下で言い争いをした事で、彼女たちは教育指導を受けそうになっていた。

 たとえ理由があろうとも、騒ぎを起こしてしまう事に、人間は本能的に忌避感を持っている。

 

 また本能的な話を別にしても、学校で騒ぎを起こした事で、被害者までもが怒られケースは稀ではない。それは不条理ではあっても、学校においてはおかしなことではない。

 なぜならば学校とは、騒ぎを起こさずに物事を解決する、すなわち社会性や組織統括力を教育する場でもあるからである。

 

 教育を受けた者に求められるのは、問題解決能力や円滑に物事を進める事であって、救済されることを待ち望む事ではないからだ。

 

 もちろん不条理を訴え、人を動かすことも問題解決能力だ。それに学校では不条理が許されているわけでもない。

 

 そもそもそのようなことが起こらない事こそが、学校側としても望ましいのだ。

 

 しかし集団である限り、自己と他者の摩擦は必ず発生する。特に未熟なもの同士が集まる集団であれば、それが大きく顕在化することもしばしばだ。

 

 学校とは社会に出た際、圧倒的理不尽に、少しでも耐えられるように理不尽先に経験させるための機関である。そのように捉えることもできるかもしれない。

 

 

 

「だよな~、センコー黙ってんのは予定通りだけど、向こうにまでだまっちゃうんだもんな~」

「な!マジ空気読めよ~」

 

 

 しかしこの二人は自分たちは、親が学校に多額の寄付をしているからそんな事にはならない、とふんでいた。

 呼び出されたとしても、はいはいと適当に言っておけばどうにかなる。

 

 

 そう、自分たちは理不尽を強いる側であるという無意識な自負。

 

 

 そして一方、冴子は剣術道場の娘でしかないし、麗に至っては公安の

いち捜査員の娘でしかない。そんな人間がどうにかできるほど、安い学校(・ ・ ・)ではない。

 故に加害者はお咎めなしで、被害者たちだけ怒られるというその理不尽を、彼らは期待していた。

 

 無力感にさいなまれ、抵抗する力も失っていき、屈辱に塗れた顔を、彼らは期待していたのだ。

 

 

 

 もちろん道場主の~だとか、公安の~だとかは意味も分かっていない二人だったが、大事なことはそこではない。二人の親は、娘を護れないという事さえわかっていれば結果は同じだからだ。

 

 そうすればあの綺麗で、手に入れれば宝石のように目立つだろう二人。

 

 その二人がいずれ自分のモノになると、大人ならざる純粋な物欲で、しかして権力者の子供としての傲慢さをもって、彼らは期待していたのだ。

 

 なぜなら彼ら二人はそのようにしてきた( ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と聞いて育ち、そのようにするものなのだと教えられて育ったのだから。

 

 

 

 だがその期待は裏切られた。

 

 いったいどのような手段を用いたのか彼らは理解できなかったが、毒島冴子も宮本麗も軽い口頭聴取だけで済んでしまうという形で裏切られたのだ。

 

 

 恐らく副校長が問題の顕在化を恐れて無かったこと(・ ・ ・・ ・ ・)にしたのだろう、そう彼らは判断した。

 それが彼らにとって、面白くなかった。

 

 まったくもって面白くなかった。

 

 

 学校は自分たちの思い通りに動かない。故にあの二人にはしばらく手を出せない。

 それは、同じことが起きても副校長はまた罰することはしないだろうし、あまり無茶をして思い切られても困るからだ。

 彼らの計画は水の泡と消えてしまったのだ。

 

 

「梅田空気よめ~!」

「だからハゲなんだよハゲ梅~!」

 

 

 寝転がったまま、二人は足を乱暴に振り回しドシドシと音を立てる。

 

 

 使用人に、『立場の低い人間に』育てられた彼らには、それがとてつもなく苦痛であった。

 

 ではすぐに手を出せないならどうするか?

 

 

 

 

   直接が無理なら、彼女たちの大切な物から壊してしまえばいい。

 

 

 

 

 この二人・・・この一家の常套手段である。

 

 

 

「なあ・・・じゃあやっぱりさ」

「あぁ、立花・・・だっけ?あいつしかないね」

「あいつマジちょーし乗ってるしね~」

 

「な、宮本と毒島に手出すとかまじちょーし乗ってるよね!」

「な、しめるしかないっしょ!・・・あの「めす共」の顔がまじ楽しみなんですけど!」

「じゃあいつものいっても?」

 

 

 彼らはテレビの有名なフレーズを声を合わせて叫ぶと、笑い転げた。

 

 しばらく笑い続けると、勝児がベッドの下からランドセルを乱暴に取り出し、中に入っていた携帯電話を取り出す。短縮ダイアルに入っている名前から一つの名前を選ぶと通話ボタンを押した。

 しばらくコール音がすると、不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。

 

 

「あ、にいちゃん?今平気?あのさあのさ、すっげえ生意気なガキがいるんだけどさ!」

 

 電話の相手は勝児の近い方の兄だ。

 

 頭脳明晰と言うわけではないが、体つきが良く、黒いうわさが絶えない。

 とかく人を殴るのが好きな男で、最近ではボクシングジムにも通いだした。誰かを痛めつけたいときに、勝児はよく彼にいけにえ(・ ・ ・ ・)を捧げている。

 

「・・・そうそう、お願い!え、ほんと?ありがと~いま受験前でイライラしてるっしょ?もうみんなでぼっこぼこにしていいからさ~・・・・・・そうそうやっちゃってほしいんだよね!」

 

 

 その後もいつどこで、どんな相手か。

 

 悪意はどんどんと具体的にその形をあらわにしつつある。

 

 

 

 彼らの悪意に満ちた夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 カーテンの閉められていない部屋で、窓ガラスに反射する、赤い光点がふと消えたことにも気が付かずに。

 




 遅くなって、すみません!
 北海道行ったり、卒論書いたりでてんやわんやでして・・・。おれ、なんでこんな論題にしたんだろう・・・(絶望のまなざし)


 今回はコバンザメ二人です。金魚のフン二人だと思ったら黒幕だったでござるというお話。
 ゲロ以下のにおいがプンプンしてくるように書こうと思ったのですが、どうですかね?個人的にこういう利益的じゃない、訳の分からん理由や、意味もなく相手を害することだけを目的とした悪意は大嫌いです。

 リアルの人物挙げると大問題になるのでやりませんが、デモンベインのティベリウスとかトキノ戦華の大道宗雲とか、バチュラのバッドルートのゲンハとかあまりの怒りに手まで震えましたね、ええ。


BGM
五月天 - Do you ever shine?
Macklemore & Ryan Lewis – Can’t hold us Feat. Ray Dalton
Tetsuya Shibata & Shawn McPherson – Devils never cry
Eminem – Mocking bird
– Lose your self
– 8miles





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SS『鎮魂的黄金体験』

 

 今、僕は今生最大の試練に向き合っているかもしれない。

 

 

「?なんでそんなとこで突っ立てるの、早くいこ?」

 

 あどけない顔で小首を傾げる、珍しくツーサイドアップ(ツインテール)に纏めた美少女。

 旅館備え付けの安っぽい浴衣に赤スリッパ姿でも、宮本麗の溌剌とした少女らしい魅力はみじんも失われていない。

 

 はは、無茶をおっしゃる・・・。

 

 

「麗ちゃん、まだこんなところにいたの?・・・あれ、洋介君も?」

 

 同じくツーサイドアップにした冴子ちゃん。二人ともかわいいのは良いのだが、そのこと自体が僕への試練となっている事を、全く理解していてくれない。

 ただひたすらに友達との温泉を楽しみにしているのだろう。ここの風呂は広めで、マナー違反ではあるが少しくらいなら泳げる広さだと聞いている。お風呂も水泳も好きな麗ちゃんならひときわ楽しみなのだろう。

 その広い(・・)というのが大問題なんだけどね・・・!!

 

 

 

「あ、三人ともこんなところにいた~!早く早く~!」

 

 

かあさん、押すな!というか息子の葛藤に気が付いてください!

 

 ・・・貴理子さんなにニヤニヤしながら見てるんですか、見せモンじゃない・・・その卑猥な手つきをやめろ!!

 

 

 

 

 

 

 

             時は9月、場所は別府。

 

 

 

 

 いったい誰だ、高級旅館に家族風呂なんて作った奴!!

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、僕達が通っている小学校で創立記念日と振替休日がよくわからんくらい重なり、合わせて五連休くらいになってしまった事にある。

 

 それ自体はどの学生もそうであるように、喜ばしいことだったし、それならどこか旅行にでも行こう!と貴理子さんの提案も、別に不自然な事ではなかった。

 メンバーは貴理子さん、母、冴子ちゃん、麗ちゃんと僕だ。

 

 僕と冴子ちゃんと麗ちゃんが遊ぶようになって半年。そろそろ家族ぐるみで旅行にでも行って親交を深めよう。まあそういう事なのだろう。

 

 

 どうせならと子供たちを初の温泉旅行として、日本人の想像する正に温泉街な感じ(私見)、別府温泉街にしたのも別に悪いことじゃあなかった。

 僕は前の時から温泉は好きだったし、久しぶりの地獄蒸しなんかを期待しながら何をしようか相談し合いながら待っていた。

 

 それ自体は問題なかったんだ・・・「よくよく考えれば日程の都合上、男親は来れない」という大問題を除いては・・・!

 

 

 

 朝早くに電車で移動し、昼間に旅館に荷物を全て置いてから温泉街を歩き、ご当地グルメに舌鼓を打つ。

 

 冴子ちゃんも麗ちゃんもそこら中から吹き出す湯気にキャッキャッとはしゃぎまわっていた。女性陣はお土産屋さんで売っていた、青に白抜きの花をあしらった浴衣を着て赤下駄を履き、店を冷やかしながらカラコロと踏み鳴らしていた。

 

 

 僕は、前に僕がこれくらいだった時に少し下火にはなっていたが流行っていた、富士フィルムのチェキというポラロイドカメラのminiをもってきていた。

フィルムならではの味が好きで、色々写真を取ろうと思って持ってきていたものだ。

 

 大学時代の僕はネオクラッシック使いだったのだが、久々に宣伝をやっており、今と同じ年頃の頃にはまったな~とか思い、父にねだったものだ。

 

 

 小学生には少し大きめなので、普段使いに周りからはかなり不評だったのだが・・・これも温泉パワーなのだろうか?

 一枚撮ると、出てきた写真に母と貴理子さん、麗ちゃんと冴子ちゃんはまさに群がるように集まってきた・・・女の子はプリクラとか写メとか・・・ほんと大好きだよね。

 あれよあれよという間に愛用のチェキは奪い取られ、その後宿に帰るまでの僕の仕事は印刷紙の入れ替えであった・・・観光地あるある。

 

 

 その日はそんなことがしばらく続き、満足いくまで遊び倒し、くたくたになって旅館に帰った。

 女将から温泉の準備が出来ていると聞いた僕は、喜び勇んで温泉へ行こうと向かうと、ニコニコした母とニヤニヤした貴理子さんに止められた。

 

 そしてこう告げられたのだ。

 

 

 

 

 

「内緒にしてたんだけど洋介ちゃん、家族風呂の予約取ってあるのよ~?みんなで入りましょ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

 

「だって僕は・・・」

「別に低学年の小学生がお風呂に入ったって問題ないわよ?」

 

 じゃあそのにやけをやめろ。

 

「お父さんたちもいないし、洋介ちゃんだけ別に入るのも微妙じゃない?だからみんなに聞いてみたんだけど、気にしないみたいだし・・・ね、別に構わないでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

 冴子ちゃんも麗ちゃんも、何を気にしてるんだろう?という顔をしている・・・それはそうだ。いくら女の子の方が早熟とはいえ、多少弟のように感じている親しい友達相手に、羞恥心を感じるほどの歳ではまだない。

 

「え、嫌なの?」と少し不安そうな顔までし始めてしまった・・・・・・だめだ・・・!ここでごねてはせっかくの楽しい旅行の空気が悪くなってしまう・・・。

 

 

 

 

 母は美人だ。もちろん貴理子さんも美人だし、二人ともまだまだ若い。その二人と風呂に入るというのは中々に恥ずかしい。

 だがまぁそんなことは母で慣れている。そこそこ慣れているし、これくらいの年の男の子が一緒に入るのを嫌がることは珍しくない。

 

 実際、ニヤニヤしている貴理子さんも、いつも大人っぽい対応している僕があたふたするところを見たいだけだろう。

 だが問題は二人ではない・・・!

 

 

 冴子ちゃんと初めて会ってから既に一年とちょっと・・・麗ちゃんとは半年くらい。

 

 認めよう、通算三十歳近い僕は冴子ちゃんにかなり惹かれている・・・麗ちゃんにもそれなりに惹かれてしまっている。

 

 相当に歌舞いた存在になってしまった僕の、割と破天荒な振る舞いや言動。年齢と合わないような考え方や思考にも、一生懸命合わせてくれる。

 それに冴子ちゃんに至っては、僕よりも五歩も七歩も先を行っている唯一の存在だ。

 

 同じ理由で彼女は僕に惹かれた部分があるのだろうけれど・・・とにかく僕達はお互いの存在が自らの孤高性を薄めてくれる存在なのだ。

 彼女たちは胸の内を開ける唯一の同い年といえる。僕だって不安がないわけじゃないのだ。

 

 

 しかしだ・・・だからこそまずいのだ・・・!

 

 

 何がマズイって、僕としては彼女たちにフィリアを感じていると思っているけれど、もし仮に万が一にでも俗な方の

 

 

               『エロース』

 

 

 

 だった場合・・・僕は一体・・・!!

 

 

 

 そう、僕はいままでずっと避けていたんだ・・・。

 認めるよ、僕は彼女たちに惹かれた際に、精神的な安寧を得られるからだと納得しようとしていた。

 しかし彼女たちに最初に会った時に感じた、あの衝動が『エロース』じゃないなんて誰が言えるだろうか!?

 

 ここでもし僕が『ロリコン』だなんてことになったら・・・僕は死ぬしかないだろう。

 

 

 だから僕の背中を押さないで!やめて、家族風呂に連れて行かないで!

 

 

 

 

 

       オレのそばに近寄るな――――――――――――ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんなに嫌がってたのに、お風呂から上がったら、なんであんなに上機嫌だったのかしら?」

 

「さ、さぁ?わたしも面白がってやっちゃった感があるし、脱衣所での悲壮な顔は正直ミスったと思ったけど・・・まるで、娘をあやすお父さんみたいに背中洗ったり、髪洗ったりしてたわね・・・。

 なんだか長年不安に思っていたことが解決して、『新しいパンツをはいたばかりの正月元旦みたいに爽やか』な顔をしてたわね・・・」

 

「??? なぁに貴理ちゃん、その変な例え?」

 

「え?・・・いま急に頭に浮かんできたのよね・・・なんだか言わなきゃいけない気がして・・・」

 

「?  変な貴理ちゃん」

 

 

 

 

 



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SS『花拳繍腿っ!』

 挿入投稿を色々実験してます。


 

 

 

 

「花法套子!華やかな技など必要ない、武術は実践的でこそ武術なのだ!!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・麗ちゃんが壊れた。

 

 

 

「れ、麗・・・?どうしたんだ、いったい?」

 

 いつもダンディーな麗ちゃんのパパのサングラスがずり落ちかけている。茫然と問いかけるその口調に、いつもの威厳は欠片も見受けるられない。

 

 

 

「パパ!私は気が付いたのよ!武に華やかさなど無用!琢磨される磨き抜かれた凄惨たる技々こそが、真に必要とされるべきなんだってことに!」

 

 

 

 ここは僕らがいつも武術の練習をしている武道場だ。

 

 今日も学校が終わり、家に荷物を置いて練習に来て、いざ始めようかとアップを始めたところで麗ちゃんが急に叫んだのだ。

 

 ある程度真理と言えば真理なのだが、急に主張し始めた麗ちゃんに僕、冴子ちゃん、健吾さんとそして麗ちゃんのパパはどう反応していいのか全く分からないでいる。

 

 冴子ちゃんと健吾さんは竹刀を、僕は短槍と盾を手に固まってしまっている。麗ちゃんのパパなんて手に力が入らないようで、今にも槍を落としてしまいそうだ。

 

 そんな僕らを他所に、ゴム先の十字槍を立て、ふんすと息巻きながら目を輝かせ仁王立ちする麗ちゃん。

 

 

 あんまりと言えば、あんまりな光景だ・・・。

 ほら、なんか銃口を前にしても不敵に笑っていたとか言われてる、健吾さんですら目を見開いて固まっちゃってるよ・・・。

 

 

 

「・・・おじさん、本当に教えてるのは宝蔵院槍術なんですよね?!なんかそのうち『神槍麗』とか呼ばれそうな雰囲気出してるんですけど・・・!?(ヒソヒソ)」

 

「ば、馬鹿を言うな小僧!俺は八極大槍なんて齧ったこと無いし、ましてや教えてなんてない!(ヒソヒソ)」

 

「本当かい?なんだかそのうち「无二打」の極意に達しそうな勢いだよ?(ヒソヒソ)」

 

「あ、父上・・・なんか独特な腰の落とし方をしてます!(ヒソヒソ)」

 

「馬歩・・・完全に決まりじゃないですか、パパさん(ヒソヒソ)」

 

「お前にパパと言われる筋合いは・・・!(ヒソヒソ)」

 

「おじさま、今はそんな事どうでもいいでしょう、そんな事より麗ちゃんが・・・」

 

「そんな事とは・・!」

 

「それにしても一体何が麗ちゃんをあんなことにしたんだろうね・・・洋介君心当たりは?」

 

「さ、さぁ・・・?」

 

 

 

 

 その日一日、不敵な笑みで槍を扱く麗ちゃんに圧倒された僕らは、遠巻きに眺めるほかなかった。集まってヒソヒソと相談する僕らなど目もくれず、ひたすらに槍を繰り出す。

 

 内払、外払い、突きを、ただひたすらに繰り返す。

 

 

 

 

 その後もしばらくの間麗ちゃんはそんな調子で、武道場では何とも言えない空気が流れ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のちに麗ちゃんの部屋から、僕の部屋から勝手に持って行ったと思われる『拳児』全21巻が発見された。

 

 

 




 ぜひいつか『拳児』と『史上最強の弟子ケンイチ』のクロスでSSを書きたい。


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SS『ガンレンジ』

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 あたりに、奥行400mあるコンクリート造りの殺風景な部屋にそんな音が響く。

 

 部屋には三メートル毎に、防弾のポリカーボネイト製の蓋で守られたLED照明が埋め込まれている。今は半分ほどしか点けられていない故に薄暗いが、昼間のように明るくも出来るだろう。

 

 端にある、入口の隣には金網と強固な扉で仕切られた部屋があり、その中には多くの工具を収納した作業台と、8つ鈍色のロッカーが並べられている。

 壁付けされた、突起、キーモッド、ピカティニーレール、M-Lockシステムなどが設けられた大規模なウェポンラックも整備されているが、今はまだ全くと言っていいほど何も無い状態にある。

 

 そのすぐ目の前には簡単な仕切りと台があり、そこにはSurefire社製の高性能耳栓であるEARProEP3を着け、その上からさらに電気的減音機能の付いたHoward Leight社の ヘッドホン型の防音装置、Impact Sportを付けた少年が、5メートル先の紙標的に向けて小口径拳銃を撃っていた。

 

 室内の、それも全面コンクリート造りの部屋では、銃声が乱反響を起こし、耳に重大な障害を残しかねない。そのために少年は二重に耳を保護しているのだ。

 

 

 

 もっとも少年が撃っている銃はSturmruger社のMk2にサイレンサー(注・サプレッサーで、減音を主目的としたものを指す)を付けたものであるため、耳栓を着ける必要もないかもしれない。

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 減音された銃声と、ブローバックする際の作動音だけが一定間隔であたりにコダマする。

 かなり高品質なサイレンサーを使用しているためか、もしかすると作動音の方が大きな音を出しているかもしれない。

 

 RugerMk2は22口径という小さな銃弾を発射する、代表的な小口径拳銃だ。

 シングルカーラムマガジンであるために銃把(グリップ)も小さく、スライドが無くボルトだけが後退(ブローバック)するために反動も少ない。競技用として開発されたために、造りもかなりしっかりとしていおり、高性能な銃である。。

 22口径の銃弾自体が廉価であることも相俟って、女性や子供に限らず、練習用として多くの人が愛用する銃でもある。

 

 

 ただでさえ発砲音の小さいRugerMk2にサイレンサーを着けているため、本当にわずかな音のみがあたりに響いている。

 それほどに小さな音にもかかわらず、しかしほかの銃を撃つ時に付け忘れないために、どの銃を撃つ時も少年は室内では二重に保護するようにしていた。

 

 

 何事も習慣漬ける事が大事なのだと、同じこの部屋で今日と同じ銃を撃っている最中にS&WM500 を父親に隣で撃たれ、あわや失聴しかけた少年は心得ていた。

 

 ・・・後に、三週間近い難聴を経験した少年の父親が、よりにもよって夫婦の寝台のマットレスの下から身に覚えのないエロ本を妻に発見され、壮絶な折檻を受けたというような風の噂が流れたが、その事件とはなんの関連性も無いだろう。

 

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 少年の撃つ、400メートル先の正面の壁は、入り口側より大きく、また真っ黒に塗られている。

 よく見ると天井と違い、少年の側から床が緩やかな傾斜になっており、正面の壁は反対より一メートルほど大きく作られている。かなり本格的なガンレンジの造りのようで、天井のターゲットを吊るす電動式のレール、下からの照明、排気設備、消火器、噴霧器、の他にも色々機能が作られており、いずれも防弾、耐火処置が施されている。

 

 

 ジーンズにTシャツというラフな格好の少年の周囲には、22口径の空薬莢が50個ばかり散乱しており、かなり長い間射撃にいそしんでいたことがわかる。

 

 台の上には同じく22口径ではあるがサイレンサーのついていない、S&W社の傑作拳銃M&Pの22口径型であるM&P22と、Marline社の傑作自動小銃であるModel60が置いてある。

 いずれの銃も赤色のファイバーオプティックフロントサイト(暗い場合でも見やすいように、蛍光色のガラスファイバーを使った照準器)に取り換えられている他は、元のままである。

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 射撃場は地下に、分厚い鉄板、銅板、コンクリートで造られているため、地上からの音は何も通さない。よく見れば入口の扉も水密扉で作られており、非常時には超大規模パニックルームとしての運用が念頭に置かれていることがわかる。

 

 また網戸で仕切られたガンルームの一角には水や食料、その他防災具が大量にストックされている。

 ハズマットスーツ(NBC防護服)やガスマスク・・・それも極低温化や極高温化での活動を前提とされた空気ボンベつきのものまでストックされている。

 

 また銅板や鉄板で完全に部屋全体が隙間なく覆われているために、化学ガスや放射能による汚染の心配をする必要もなく、またコンクリートの塊のようなこの部屋は、耐震板を設けた上でさらに液体ジェルのプールに浮かぶ構造であるため、震度8程度の地震にすら対応できるように作られている。

 

 およそ起こってもらっては困るありとあらゆる事に金に糸目をつけずに作られた、現代日本で何を想定してるんだお前は!と突っ込みたくなるようなこの超違法建築部屋が、一般住宅の真下に備えられていることを、近隣住民が知る日が来ない事が願われる。

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 そんな奇天烈な部屋の真ん中で、立花洋介は銃を撃ち続ける。

 

 

 ターゲットの目と喉、そして手足には二センチ大の穴のみが開いていた。

 



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分岐点

BGM
 I’ve Sound - Mighty heart~ instrumental Ver. ~
 John Murphy - In the House, Without a Heartbeat


 「じゃあまた明日~」

 「また明日ね~!」

 

 学校から帰る別れ道、二人の少女が手を振って一緒に歩いていた少年に別れを告げる。

 

 

 それは彼女たちが、他の誰にも見せないような笑顔。

 

 宮本麗は顔をめいっぱい使って笑顔を作り、元気いっぱいに手を振った。はしゃぐ子犬のように全身を使い、花が咲かんばかりに幸せをあたりにふりまいている。

 

 胸の高さで小さくに手を振る毒島冴子は、左の唇だけを上げた、少し大人びた少女の笑みを浮かべた。少し控えめに見えて、しかし目は心の底から幸せを感じていることが見て取れる

 

  「あ、うん・・・じゃあまたね」

 

 何度か言葉を選ぶように躊躇った後、ポツリと少年はそう返した。

 最近あった出来事から、悲しみを乗り越えた二人の少女。彼女たちのいっそう煌めく笑顔に、少年はたじたじと、少し照れ気味にそう返すしかなかった。

 

 少女たちはクスクスと、顔を合わせながら仲良く去っていく。

クスクスと、嬉しいようなそれでいて少し戸惑ってしまうような笑い声。

そんな笑い声は恐らく、彼女たちの別れ道まで続くのだろうと、容易に少年に想像させる。

 

 最近とみに積極的な彼女たちの想い、それを察している少年は所在なさげにポリポリと頬を掻く。その目元はどことなくうれしそうにしわを寄せる。

 

 

 少年は少し呆け気味に少女たちを見送っていたが、気を取り直し、少し人通りの少ない通りへと少年は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 それを少し離れていたところで眺めていた人影が、音もなく無く集まりだす。

 

 

 

 

 

 

 複数の人影が頷き合う。彼らは嫌らしくにやけそうになる口元を抑えると、少年に気取られないように人の間を縫うように追いかけ始めた。

 

ひとつ、ふたつとあたりから人の姿が減っていく。そしてひとつ、ふたつと影は、人気の少なくなっていく少年を追うように増えていく。

 

 

 追われている事に気が付いた様子のない少年。その後を、ギラギラと悪意によどむ十二対の目がついていく。

 

 

 集団下校から別れた後の帰り道という事もあり、あたりから下校する児童の姿もなくなり始めている。

さらに進んで行くと、やがて大人の姿すらまばらになってしまった。

 

 少し歩けば人もいるようだが、工場のような施設もちらほらと見えている。あたりには低く機械の稼働音が響き、よほど大きな声で叫ばなければ誰も気が付かないかもしれない。

 

 何も知らずに歩く、恥ずかしがっていた少年の頬からもそろそろ赤みが抜け、透徹とした白さが顔に見える。

 

 

 そろそろだと頷き合う人影をよそに、何も知らない様子の少年はふいとどこかの建物の間を曲がった。

 六つの影が建物の影になった暗いその路地をのぞき込むと、少し広めのその路地のだいぶ先に光が見えた。そこは誰も通らなそうな、資材しか置かれていない店裏の小道だった。

 

 誰もいない事を確かめると六つの影は、悪意に満ちた笑みを浮かべながら、獲物を追い詰めたことを確信した。

 

 

「おい、そこのお前!」

 

 一番背の高い影がそう声をかけた。

 

 獲物の少年はその声に反応するように止まり、そしてまた歩き出した。

 

「おい、お前だよガキ!止まれよ!」

 

 

 追いかけながらそう背の高い影が怒鳴りつけると、少年の足が早まる。

 

 

 背の高い影、中学生が隣の仲間に目配せすると、待てよ!と声を荒げながら走り出した。

 

 

 中学生と小学生では体格も違い、すぐに小道の中ほどで追いつかれた少年は、観念したように振り返った。

 

 

 追い詰められてしまった少年・・・立花洋介は、壁に立てかけてあった細めの角材を背に囲まれてしまった。

 洋介の顔は青く、恐怖によって無表情に固まっているように追い詰めた少年達・・・村本健治、芦刈勝児、芦刈の兄と取り巻きたちには見えた。

 

 

 怒鳴りつけてまで追いかけた少年たちはしかし、一転してニヤニヤと嘲笑うばかりで、洋介に話しかけない。誰かを痛めつけるとき、彼らはいつも相手から話をさせた。

 

 にやにやと不気味に笑う彼らに恐怖を抱き、引き攣った音を出すおもちゃ(・・・・)の鳴き声が、彼らをたまらない気持ちにさせるのだ。

 

 

「・・・いち年上の芦刈さん、と村本さんだよね?僕に何か用?」

 

「お前最近ちょーしこいてんだって?」

 

 

 弟からそう聞いてるよ、と続ける芦刈の兄は背も高く、体つきもがっしりとしている。

 

「そんなつもりはないんですけどね」

 

 

「最近受験でイライラしててさ!正義?が下せてストレス解消になるならみんなが得するじゃん?」

 

 へらへらと笑いながら周りに同意を求めると、周りも洋介をせせら笑った。

 

 

「・・・」

 

「何とか言えよ!ガキ!」

 

 

 黙り込んだ洋介に、取り巻きの一人が怒鳴りつける。

 

 彼らは話しかけてはいるが、洋介の答えなど求めてもいない。それでも話させるのは、屈辱を味あわせるためであり、いたぶるためであり、相手が会話するための内容を考えている間は逃げようとしないという理由からだけだった。

 

 ゆえに、一方的言葉をぶつけて甚振る。なんでもいいから無理やり考え込ませる、ただそれだけのための言葉。

 

 彼らは洋介の名前すら把握していない。ただただサンドバッグを殴りに来ているだけだった。

 

「・・・・・・・こんな屑のために・・・」

 

「あん?聞こえねえんだよ!もっとデケェ声でしゃべれよ」

 

 

 

 

 

 空手で鍛えた体を脅すようにゆすりながら、どう甚振ろうか彼は考えていた。目の前にはかわいい顔をした小学生。

 整った容姿の、利発そうな顔が特に彼の癇に障るのだった。

 しかし、今その有望そうな小学生は自分の目の前で、顔を青くして立ち尽くしている。さぞ殴りがいのある事だろう。

 

 目の前にいるのは、可愛げはないが血のつながった弟の献上品。こいつを死なない程度に殴って、それでも気が晴れなければ帰り道に適当に見つけて殴ればいい。

 

そう彼は考えていた。

 

 

 どうせなにをやっても両親がもみ消してくださるのだ(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 あの蔑んだ目でこちらを見て、溜息を一つして携帯を懐から取り出す。

どうしたらこれほど兄と違うのかと言いながら、脂ぎったお偉いさんとやらに電話をして無かったこと(・・・・・・)にするのだ。

 

 

 彼は自嘲と理不尽を強いる事に、鬱屈とした想いでもって酔いしれていた。

 

 

「じゃあ悪いんだけど、黙って殴られててね~」

 

 

 そういいながら取り巻き共と取り囲んでいる輪を縮める。直接のかかわりがあるのは弟だけなのだが、弟はサンドバッグを前に何も言わない。

 いつも通り、下卑た笑みを浮かべながら輪の外で見ている。うざいからしゃべるな、そういうだけで弟は反抗する気力もわかないらしい。

 

 まぁ人を殴るのをビビってる腰抜けに、ほんの少しでも邪魔されたくないからちょうどよくはある。。

 

 すこし脅しつけただけでびくびくと顔色をうかがう弟・・・サンドバッグが襤褸切れのようになって、飽きて捨て置かれてからようやっと言いたいことが言える小汚いガキ。

 それでも足の先で小突くように蹴る事しかできない、女々しさ。

 

 彼には弟がそういう他人の残飯を漁る、ハイエナのような生き物なのだと理解していた。

 

 そう、お頭のいい長男と同じような性根の男。

 

 

 自分でもよく分かってない事を、アイツ(父親)が言うとおりに繰り返すだけのおべっかつかいのクソ野郎。この下卑た弟は自分の立場を弁えた長男にしか見えなかった。

 

 本当は俺が怖いくせにアイツの背に隠れて俺を見下しやがって!俺は全国大会の準準優勝者だ!見ろ!こいつはあまりの恐怖で動けないじゃないか!

 

 

 ぐるぐると腹の中で妬みとも、蔑みともわからないものが彼の中で渦巻いていき、やり場のない思いがどんどんとつのる。

 

 いつかアイツも兄貴もぶん殴ってやる!

 

 

 そう彼はいつまで(・・・)たっても(・・・)できもしない(・・・・・)事を(・・)頭の中で妄想して家族への反抗を雌伏させていく。

 

 

 拳を鳴らしながら近づくと、ガキも一歩下がった。だがもう遅い、もう逃さねえ!

 そう思いさらに歩を進めると、思いのほか低い声で目の前の小学生が言葉を口にした。

 

 

「ちょっと聞きたいんですけど、もしかして・・・僕の名前も知らなかったりしません?」

 

 

 お前の名前など知ったことか!心底彼はそう思った。

 

「・・・あん?それがどうした」

 

 

「・・・あなたがリーダーですよね?瞬きの回数が極端に少ないし、僕の目を直視しながら話してる。取り巻きからも少し間を取られてるし、周りの人が貴方伺うように視線をさっきから送ってる・・・もしかして芦刈さんのお兄さんですか?」

 

 訳の分からない事をしゃべる目の前の小学生に、彼は少し困惑した。瞬きだと視線だとかいったいなんなんだとは思いつつ、少し主導権を奪われた雰囲気に気が付いた。

 彼は確かに名前を聞いた覚えはないなと思いながら、脅しつけるようにまた一歩近づく。

 

 

「あ~、別に知らないしだったとしても、今からボコられるだけの君には何の関係もないんだよね~」

 

「・・・目が右に泳いでから左上へ移動。手の威嚇動作も歩幅も遅くならない・・・」

 

 

「さっきから何言っちゃってんの?」

 

「なにこいつ。頭おかしいんじゃないですかね?」

 

 

 

「ようするに、嘘をついていない、ってことだね・・・」

 

 

 

 ふと気が付くと彼も取り巻きも、暗い興奮が失せ、興が削がれていた。

 それに気が付いたかれは、気を入れようと力強く一歩踏み出そうとして。

 

 

「そしてね・・・全く持ってお話にもならないってことだよ」

 

そしてその一歩が地面に着くよりも少し早く、そういうと立花洋介は手を振りおろした。

 

 

 ガラガラという大きな音ともに立てかけてあった角材が倒れてきて、気が付くと身動きが取れなくなっていた。聞き覚えのある声でいくつもうめき声が上がり、体中が痛みを訴えている。

 

 

 

「やれやれ・・・ようやっと、まともに話が出来るね?」

 

 

 底冷えのするような声、背負っていたランドセルを下ろし、布とペットボトルを取り出すような音。

 

 

 何が起きたのかわからないままに、涙にかすむ視界であたりを見回すと、辺り一面に角材が散らばり、その間から手や足が突き出ている。そこでようやっと彼は、自分が立てかけてあった角材に押しつぶされているのだと気が付いた。

 

 しかし、なぜ?俺はガキをぼこりに来てたのに、何で角材の下にいるのか?

 

 混乱する頭で考えようとするが、ぐるぐると思考が渦を巻く。瞬きをして頭を整理しようとするが、自分が一体どんな格好をしているのかも把握できない。

 

 

「っひい!?」

 

 

 急に腕が掴まれ、無理やり何かを握らされる。冷たい感触のそれを必死に振りほどこうとするが、万力で潰されるような力でもって手のひらを押しつぶされる。

 しばらく握らされると、今度は無理やりにそれを奪われた。

 

 

 「あ~あ~、ダメじゃないですか面白半分でこんな事しちゃあ・・・」

 

 

 無くなった感触に体から強張りが少し抜けていったのを彼は、彼は希望のように感じた。

 いったい何がと頭をひねると目の、本当に目の前の角材に何かが突き刺さる。息を飲みながらよく見てみると、それはオレンジ色のボックスカッターだった。

 

「だめじゃないですか~、刃物で遊んじゃ~」

 

 まるで暗闇の中で海に突き落とされたかのような、唐突な冷たさが心と体を満たし、抑えようが無いほどにガタガタと体が震えだした。呼吸がどんどんと早くなるが、楽になるどころかどんどんと苦しくなっていく。

 

 

「自分たちで、悪戯で角材を縛る紐を切っちゃう(・・・・・・・・・・・・・・・)ようなことするからですよ?」

 

 声が聞こえてくる。しかし目の前のカッターナイフから目が離せない。もし、もしあと五センチずれていたら・・・彼はそう茫然と気が付いた。ズボンに生暖かい感触が広がる。

 

 

「聞いてます?・・・僕としては別にひとりひとり、気が済むまでぶん殴っても良かったんだけどね・・・でもそれじゃあ、君ら何も学ばないでしょ?」

 

 

 ぎゃあぁと痛みを訴える声がそこここから聞こえてくる。押しつぶされるような痛みと共に、今ナイフを突き立てていった誰か(・・)が角材を踏みつけながら歩いたのだと気が付いた。カッターナイフから目が離せない。

 

 

 頭の上の方からカチカチという音が聞こえる。それは始め微かに聞こえる程度だったが、今ははっきりと聞こえるほどに大きい。

 

 

「これは持論なんだけどさ・・・人は躾ける時に、痛みが無いと学ばない生き物だと思うんだよね」

 

 

 うめき声と、すすり泣くような声に、カチカチとあたりに響く音。先ほどまで生暖かったそれは、背中に広がり、今は凍えそうなほどに冷たい。 

 

 「ハヒュ・・・ヒ、ヒュ・・・」

 

 そのどれもが不快で、どうしようもない激情と共に怒鳴り散らそうとする。しようとするが、喉が痛いほどにこわばり、喉を手で絞めつけられたような音しか漏らすことが出来ない。

 

 

「でさ、芦刈と村本さ」

 

 唐突にかけられた声にビクリと震える。彼の心臓は痛いほどに鼓動し、頭はあまりの鼓動の速さに、ガンガンとハンマーで殴り続けているような音が響き渡り、目の前のカッターナイフから目が離せない。

 

 

「俺がさ、何が言いたいかわかるよね?」

 

 

 ひゅー、ひゅーという音を出そうとして失敗したような、そんな音が聞こえてきた。

 

「そっか~、じゃあこれで噛みついたら痛いよってことは学んだね」

 

 それに対して、そう軽く返されたのを聞いて、自分が言われたのではないと彼は気が付いた。

 

 

    弟だ!すべては弟に向かっていたんだ!俺じゃあないんだ!

 

 そう気が付つくと、いつの間にか止めていた息が抜けていくとともに、涙がぽろぽろと溢れ出して止まらない。

 

 抑えるんだ!

 

 あとは何もかもが終わってしまうまで、静かにしていればいい!そう、彼は自分に言い聞かせるように、自分を励ます。

 

 目はとじない。

 目を閉じたというそれだけで、何かをされるのではないか?冗談のような、そんな思考がどうしようもなく、彼にはリアルに感じ取れた。

 

 

 そう、ほかには何も無いのだとばかりに目の前にあるソレ(・ ・)にだけ集中する。

 

 恐怖だ!

 心臓が張り裂けんばかりに彼は恐怖を感じているのだと気が付いた!

 二度と、何があっても二度とこんなものには近づきたくないという恐怖が、彼のありとあらゆる思考を満たしている事に、彼は全身で感じ取っていた。

 

 

「じゃあこれで、二度と僕に近づこうと思わない事を学べたね、良かったね~」

 

 

 ふざけた調子で聞こえてくる拍手。しかしその事に誰一人反感を持つものはいない。

 

 一刻も早く過ぎ去ってほしい。この場にいる一人を除いて誰もがそう感じていることを、誰もが抑えることのできない震えでもって感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 もう一度、じゃあ、というその声を聞くまでは。

 

 

 

 

 

「てめえらみたいな屑が、どうやって呼吸をして生きていけばいいのか学ぼうか?」

 

 

 

 その言葉と共に手が彼の頭に伸び、抵抗する間もなく口と鼻を覆うようにタオルが巻かれた。頭を振るが少しも緩んでくれない。

 

 そして乱暴な手つきで無理やり、祈るように見つめていたカッターナイフから上を向かされる。タオルの上から、手がコンクリートの道に頭を押さえつける。

 

「まずはお前からだ」

 

 路地を曲がった時と、周りを囲んで詰め寄った時と、変わらないほど真っ青な顔があった。

 

 手に水の入った、天然水とラベルの張られたペットボトルを持っていた。その手に持つ水をちらり見て、それから見たその目は、彼を金縛りにあったように動けなくさせた。

 

 その黒曜石のように穢れなく、(あれは恐怖で青ざめていた)美しい瞳を彼はここで(のでは無いと理解した)初めて見た。

 

 

 

 

               「 耐えろ 」

 

 

 

 

 

 そう鈴を転がすような声が耳に届くと、芦刈省二は顔にかかる冷たい水を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立花洋介のその瞳は、氷さえも凍てつかせる、極寒の業火を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 その後、しばらくしてから木材を使おうと出てきた店の店員により、ズボンを濡らして座り込んだ小学生二人と、体中を上半身を濡らした、木材に埋もれた中学生らが発見される。

 かれらはとても怖い体験をしたらしく、衰弱しており、自分たちの悪戯で木材を倒してしまったことを素直に認めた。
 しかしながらボックスカッターは自分たちのモノではないとして、取り上げられるのをむしろ嬉しがっている様子であったことを、店員は不思議に思いつつも無視することにした。
 心の底から反省している様子でもあり、衰弱もしていることから、彼らを自らの車で店員は送り届けることにした。

 自分にもこのくらいやんちゃな頃があったなと、鼻歌交じりに運転する店員は、なぜ彼らが上半身だけが特に濡れているのかを疑問に思う事はなかった。





「怒りで真っ赤になる者は、怒りで真っ青になる者よりも怖くはない」
                      ~デカルト~『情念論』









 一応ゾンビものを読んでいるという事を、みなさん理解されているとは思っています。
 しかし今回いつもより字が多いのは、


僕の作品は具体的に言えばこの続きくらいなら余裕で書いちゃうよという事です。



 この辺りで続きを読むか、それともやめるかを決めていただければと思います。
 性的なゴア表現(リョナ等)でもなけりゃあR18にゃあしませんぜ、旦那!

 僕の基準は『デクスター』は性的興奮が混じってるからNG『CSI』は性的興奮が無いからOKくらいなもんです。あとはそんなもんじゃあないくらいのグロ。


 それから立花君のような立場に陥った時、このような対応をするべきだといっているわけではありません、この話はフィクションであってリアルではありません!明言しておきます。

 ですから天然水も完全にただの水ですし(何とは言わないけど、チョコレートに含まれてるあれとかちょっと混ぜた方が効くし)、木材はFRP材です。

 実はケガ自体はかすり傷程度ですし、取り巻き立ちと芦刈省二が所属している空手道場や、担任の持つ出席簿等を盗み見て持病等が無いことを確認したうえで実行しています。
 後遺症を残すようなものは、心的外傷以外ありません。

 実際には絶対に行わない事!(ここ重要)

 木材の保有者に迷惑をかけますからね!(爆)


 本来はこの手のテクニックはボカすのが通例なのですが、ではなぜこの手法を書いたか。
 それは「こんな事聞いたこともない人が、ゾンビもの好きなはずないから」です。
 普通にドラマや映画で出ますからね、このテク。
 グアンタナモ関係でニュースでも取りざたされてますから、NHK見てる人なら知ってておかしくないですし、おすし。

 これで気分を害された方は、申し訳ないですが、そろそろ読むのをよされた方がいいです。
 僕はこういう事も含めて、書いていきたいと思ってます。

 ガン、エロ、グロ、バイオレンス。元の話が元の話だからしょうがないね(開き直り)



 この話が僕とみなさんとの『分岐点』かと思います。




 今年の初めより大流行しているエボラ出血熱によって命を落とされた方々に、謹んでお悔やみ申し上げます。
 防護具すら不足しているなか、勇敢にも医療等に従事されている方々、無事を心からお祈りしております。
 現在出血熱と闘病されている方々、一日も早い回復を願っております。

 私の住んでいた国も近く、友達も多数おります。少しでも早く収束することを、心からお祈りします。


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アメリカ編
新世界


 この話から新章ですが・・・幼少編ももうちっとだけ続くんじゃ

 2014/10/22改訂

 これでだいぶマシかな?
 それでもSい発言は撤回しませんw
 個人的にドSな四方のセリフを使わせていただきましたwガハラさん、旦那、ネウ口、兵長・・・素晴らしい言い回しだよねw


 さて、めんどくさいことの多かった一年でしたが、ようやっと気楽になってきました。

 

 お久しぶりです、立花洋介です。

 

 ・・・え?久しぶりじゃない?僕が話してるのは結構久しぶりじゃないかな?

 

 

 

 そうだね、一番大変だったことというと、アメリカ行きを決めたことじゃないだろうか?

 

 と言っても沖縄にいるころからある程度決めていたことだし、別に改めて考える事でもないわけれだけれど・・・問題は僕が床巣で築き上げた絆の方だった。

 

 それはもちろん、冴子ちゃんと麗ちゃんとのことが問題なわけだ。

 

 僕たちはなんだかんだで一番親しい友達だったし、色々あってからは正直依存みたいな関係になっている。

 

 僕もそういう傾向はあるんだけど・・・行って四年だし、休みのたびにどちらかがあいに行くか、来るかする、と考えればそれほど寂しくは感じない。

 ちょっと離れたくらいでどうにかなるような、そんな付き合いじゃあないっていう確信だってある。

 

 なにより公に銃を習うとするとすれば、アメリカほど適した場所はないわけで・・・それを考えればアメリカかカナダは絶対に長期間滞在すべき場所だった。

 正直一銃一免許制の日本で学べることなど、無に等しい。

 

 特に僕の覚えている限り、原作が開始すれば銃はあればあるほど役に立つ。射撃技能は必須の技能のはずだ。習わないという選択肢は無い。

 

 でもそれをまだ小学生でしかない二人に理解しろというのは、あまりに酷な事だ。

 

 

 健吾さんとだって親しくなった。

 

 貴理子さん、正さん夫妻とも親しくなった。

 

 パルクールを習っている生徒さん達とも、近所の人とも親しくなった。

 

 

 でも、大人の関係と子供の関係では、生きている時間の流れ方が全く違う。

 僕達子供にとって四年は、それは永遠とも言える時間なんだ。

 

 

 だからこそ悩んで悩んで悩みぬいて、それで早めに告げた方が良いと、そう僕は決めたんだ。

 

 

 

 

 

 まぁ悩んでいるちょうどその頃に、阿呆が二人にちょっかいを出してくれたせいで、気が付くのに遅れて結構な大事になったんだけど。

 

・・・でもあの後の二人の成長具合を考えると、むしろああなってよかったのかな?

 

 あの二人がそのうちやっかみを受けるのは、わかりきっていた事だし。結果はうまく転んだ。

 

 阿呆共とも、その後きっちりとけじめを着けておいたから後を引くこともないだろう。

 

 ちょっとやりすぎたかな~とは思ったけど、聞いてて胸糞悪くなるような噂のある中学生達だったし、いい教訓になったんじゃなかろうか?

 

 あれから彼らの悪いうわさもパッタリ止んだしね、うん。

 

 

 途中変なスイッチ入っちゃったらしく、気が付いたら

 

『臭いなぁ。いや、別に貴様が臭いとはいった訳じゃ無いのだ。確かに貴様は汚物だが』

 

『豚のような悲鳴をあげろ!』

 

『もう謝った・・・?わかりきったことをピーピー喚くな!』

 

『好奇心というのは全くゴキブリみたいだな・・・人の触れられたくないモノにばかり、こぞって寄ってくる。鬱陶しくてたまらない。神経に触れるんだよ、つまらない虫けらごときが・・・!』

 

 

 とか言っていた気もするが・・・気のせいだろう。

 

 

 

 

          閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

 本題は麗ちゃんと冴子ちゃんとどうなったかという話だ。

 

 色々考えてはみたが僕は、とっととアメリカへ行くと告げてしまおうと、と結論付けたんだ。

 

 ぎりぎりになって話をして、和解もできないまま遠くに行ってしまうよりも、早めに説明してとっとと思い出作りに励んだ方が建設的だと気が付いたからだ。

 

 「遅延は否定の最悪の形」というのは英国の歴史学者の言葉だ。

 

 考えてみると

「そんな大切な事を教えてくれなかったなんて、私たちのことなんてどうでもいいの!?」

 と問い詰められたとしよう。

 

 ここで言い訳をして、納得してもらえなかったならば、「告げなかった期間の長さ」こそが雄弁に彼女たちの大切さを否定してしまうわけだ。

 ならばとっとと告げて、言い訳もして、早く和解をしてしまえばそれほど傷も深くならないだろうという、そういう魂胆なわけだ。

 

 

 

 だからこそ僕は、彼女たちが立ち直った頃を見計らい、色々タイミングを考えながら、恐る恐る二人を呼び出して、いくつも言葉を用意しながら、できる限り誠実に僕の考えを彼女たちに告げた。

 

 もちろん原作云々を告げるわけにはいかないので、少し苦しい説明であることを、その時の僕も自覚していた。

 だから説明出来ない部分を、誠意をもって謝り倒すつもりだった。

 

 それが将来僕たちの役に、絶対にたつと信じていたからだ。

 

 

 正直、『俺』だった頃に受けた司法試験の結果を待っていた時(落ちた)より、なお緊張しながら話した僕に対して二人は・・・・・・・・・「ふ~ん」と一言だけ言った。

 

 全く持って、目玉が飛び出るほどにウッスイ反応だったのを、よく記憶している。

 

 

 

 後から考えると赤面ものだが、僕はその時は割と一世一代のソレのつもりだった。

 それ故に、そのウッスイ反応にしばらく頭が真っ白になってしまっていた。

 

 貴理子さんに聞いた話だが、僕は笑えるくらいポカンとして座り込んでいたらしい。

 

 あんまりと言えばあんまりな反応に、フリーズから立ち直った後も、二人が理解できてないのかと丁寧に説明しても

 

 

「・・・で?」

 

である。

 

 どうやら完全に僕の言ってることを完璧に理解したうえで、この反応だったらしく、不覚にも当時の僕はちょっと泣きそうになっていた。

 

 

 このくらいの年の子なら、普通親しい友達とか家族が遠くに行ってしまうとなったら、泣いて困らせたりするもんじゃぁないの?少なくとも前の俺はそうだったよ?

 

 そんな思いがぐるぐると頭をめぐる中、どうにかこうにか平静を保ちつつ、その日は解散した。

 

 実は裏で色々あったらしく、先に相談していた貴理子さんと母が先にケアをしていたらしい。

それで二人はある程度の理解を示していたらしく、納得行かない気持ちを、僕を困らせて発散させていたらしい。

 

 その後割と真剣に自分の立ち位置を悩んでいた僕の、その様子を見て鬱憤が晴れたらしく、必ず休みに会う事を約束しつつ二人にはお許しを貰った。

 

 いい結果に落ち着いたから文句は言わないけれど、相談した内容を先に言っちゃうのはマナー違反でしょう、貴理子さん、母よ・・・。

 

 

 

 とにかくそんな感じであっさり片付いてしまい、僕のアメリカ行きが決まった。

 

 結構いろいろ宥める手段を考えていたのだが、ぜ~んぶ無駄になってしまった。

 

 

 まぁ、アメリカ行くまで一年はあったので、その間に消化できたので無駄にはならなかったからよかったのだろうが・・・。

 

 

 

 

 とにかくそんなこんなで、アメリカ行きを麗ちゃんと冴子ちゃんに告げてから一年が経ち。

 

 

 

「Scuse me, are you Mr Yosuke Tachibana?(失礼、あなたが立花洋介さんですか?)」

 

「… I am, and you are…Mr.Nivans? According to your plate?(・・・そうですが、え~と、あなたは・・・ミスタニヴァンス?ネームプレートによれば、ですが)」

 

「I’m sorry, I’m your …ahh… friend’s friend? …I suppose?(ああ、申し訳ない。俺は・・・あ~・・・友達の友達?・・・になるのかな?)」

 

「Huh?(え~っとぉ・・・?)」

 

「Aahh…19XX,In Okinawa, ferry?(あ~・・・19XX年、沖縄、フェリー?)」

 

「……Oh! That man!...wait a minute, how the hell did he know I was comin to…(・・・ああ!あの人か!・・・ちょっと待ってくださいよ、一体全体どうやって僕が来るってことを・・・)」

 

「You really don’t wanna know that…but! I assure you no intention of harm. Provably just to tease you, you know?(それは知らない方が良いいと思うよ・・・でも!悪いことをしようってんじゃない事は俺が保証するよ。というかたぶん君をからかうためじゃないかな?)」

 

「Sounds like him…well, is it possible to see your ID? Just in case(確かに彼ならやりそうだなぁ・・・さて、あなたのIDを見せて貰っても構わないですか?一応念のため)」

 

「Wise choice.here(賢明な判断だ。ほら)」

 

「Thank you sir. Can’t suspect a man with a badge! Shall we sir? (ありがとうございます。バッジ持ってる人は疑えない!そろそろ行きましょうか?)」

 

「Call me Piers, I’m the “Teased buddy”(ピアーズと呼んでくれ、俺は『からかわれ仲間』さ)」

 

「OK then “Buddy” !Long flight, I’m Starving man!(オーケー『相棒』!長旅で腹が減っちまったよ!)」

 

「Haha, Seems like your catching up fast, I like it! Since your my “buddy” … I know a place that makes best Po boy, let’s go…oh, and…(HAHA、呑み込みが早いじゃないか、気に入った! じゃあ君は僕の『相棒』なわけだし・・・最高のポーボーイを作る店を知ってるんだ、そこへ行こう・・・あぁ、それと・・・)」

 

「Just a sec, gatta call that I’m meetin some one……K’ done. What was it?(ちょっと待って、人と会ってから行くって電話するから・・・・・・よし、終わった。なんだったっけ?)」

 

「We “TeamSIX” Welcome you. Welcome to America!!(我々『チームシックス』は君を歓迎する。ようこそアメリカへ!!)」

 

 

 

いま、僕はアメリカ、ルイ・アームストロングニューオーリンズ国際空港にいる。

 

 

     ルイジアナ州、ニューオーリンズ

 

 住民の銃の所持率が50%を超える、アメリカにおける銃天国の一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(I knew it?! It was Fxckin Team6, I knew it…!!(やっぱりかよ?!やっぱりチーム6だったか、クソッタレ!!))」

 

 

 

 

 







 これよりサブタイは楽曲名。


 やっちまった・・・思わず出しちまった・・・!でも後悔はしていない・・・(`・ω・´)キリッ
 ピアーズ・ニヴァンス・・・彼はいったいなにピアーズなんだ・・・!(棒)


 これからはしばらくショートエピソード書きながらアメリカ編を進めます。

 ぶっちゃけアメリカなんて行った事もないので、ボロが出る事もあるかも・・・?でもニューオーリンズ在住、元在住の読者なんていないよね!

 この話を書く上で、結構このアメリカ編と本編の二つがガチで書きたいところでありました。原作まで今しばらくのご辛抱を何卒・・・。


Po-Boy
 ルイジアナの名物サンドイッチ。フランスパン(フランス系)に揚た肉(黒人系)を挟んだめちゃイケ(死語)の料理らしい。画像検索した感じめっちゃ食いたい。
 ニューオーリンズはフランス料理と黒人料理の融合した独自の食文化が多いです。
 人によっては黒人料理と蔑む人もいますが、フライドチキン等揚げ物が南部黒人料理として有名。

一銃一免許制
 免許一つに付き、極例外を除いてその人以外、撃つどころか触る事すら許されない銃が一丁所持できるという事。そりゃそうだろうと強く思うけど、猟友会の人間が足りないと行政府も言ってるくらいなら、国営でいいから免許なしでも撃てるクレー射撃場を作ってくれよ・・・。

ピアーズ・ニヴァンス
 発売前はどうでもいいキャラと思いきや、発売後超絶人気の出たバイオハザード6のキャラクター。BSAAの将来をも担うと目されたほどの凄腕のスナイパーでもある。クリス編の最後は泣いた。
 最近画像検索すると腐向け画像が多くて少々いやんなる。
 陸軍な気もするけど、海軍に入隊してもらいました。

BGM
Jet - Are you gonna be my girl
Jaron & The Long Road to Love - Pray for You


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人物紹介兼設定資料

 書く上での妄想話。書くのに思い出す必要があるので、ぶっちゃけ一番見るのは私になるでしょう・・・。

 あ、いけね。二話連続です


立花洋介

キャラクターイメージ

  菊池真

 ジェイソン・ボーン

 鉄美弓華

イメージソング

  Meg rock – Clover

Alstroemeria Records – Bad Apple!!

  Daft punk – Get lucky

戦闘時

Sick puppies – You’re going down

特技

  パルクール

  琉球古武術

  特殊工作

  英語

  心理分析

  神様特典

前世技能

  原作知識(期間限定)

  普通免許AT限定

  司法書士資格

 昼寝猫・が送るゾンビパニックガンアクションのハーレム系主人公。多数の羽と、眉間に太陽の埋め込まれた天使を直視したために記憶の混乱の激しい転生者。苦いものが美味しくないと感じるのが最近の悩み。

「か、カフェオレしか飲めないなんて・・・」

 

 興味本位で天使なんて見なければもっと楽に再統合が出来たものを・・・と作者が「この設定超ミスったな」とめんどくさがっている登場人物ナンバーワン。正直そこかしこにその弊害を書き入れているけど、細かすぎて作者でもわからんレベル。本当に扱いに困る子・・・。

 

 背は低め。菊池真似の正真正銘男の娘である。

 この後鉄美弓華か草薙素子似になって麗や冴子様達と見た目百合な耽美に浸るか、それともあこがれのドニー・イェンの兄貴やチョウ・ユンファ兄貴似のベビーフェイスダンディーにするか悩み中。

 

 冴子の自分に対する気持ちにも、麗の気持ちにも気づいていて戸惑っているような、そうでもないような・・・。不誠実な性格ではないが、冴子と麗の両方を手放す気が全く持てずにいる事に葛藤を持っている。

 というのも自分ではマンガにいるという展開に少し楽しみなのだと思い込もうとしているが、先行きのあまりの悲惨さに長期的なパニックを起こしており、依存先を探しているから(この辺りが物語内の行動の矛盾差の原因)である。

 

 

 立花さくら

キャラクターイメージ

 間桐桜

 三浦梓

イメージソング

  三浦梓 - 9:02pm

若い頃

  たかはし智秋 - 今夜はチュパリコ

特技

  料理

  自動二輪及び四輪(現在免許アリ)

搭乗車両

Porche918Spyder

JaguarF-type coupé

SUZUKI GSX1300R 隼

 

 名前はひらがな。立花洋介の母。両親は死亡し祖父母に育てられるが途中で死別。

 中高は地元床巣で族をしていた。もちろん無免。その時に親しくしていたのが貴理子。高校三年生で族抜けをし、浪人しながら猛勉強の末奨学金で国立大学へ進学。

 家庭教師先の生徒と恋に落ち駆け落ちという破天荒娘。夫婦生活は良好で、現在もアツアツ。というか不良だったことが信じられないくらいぽわぽわ良妻賢母。

 

 不良をやっていたころは根っからの走り屋であり、抗争なんかにあまり興味はなかった。とはいえひとたび喧嘩となれば貴理子と一緒に大暴れをし、大の男も震え上がらせた。

 

 特にジャックナイフターンによる攻撃が有名で、二輪に跨ってる間は絶対に手を出すなと地元で名が知られていた。しかしながらバイクコントロールのために腕力、特に握力がとてつもなく、リアルスネークバイトとしても知られていた。

 ゆえにバイクに乗ってなくても手を出すなとも有名だったわけだっただが、敵からすればどないせいちゅーねんという話である。

 息子の若干天然プレイボーイ具合を複雑に思いつつも、娘が欲しかったのよね~と冴子と麗を愛で、思考放棄気味。たぶん物語に書かないうちに籠絡される。

「洋太郎さん、私今とても幸せです。」

 

 

 

 

 立花洋太郎

キャラクターイメージ

  マック・テイラー

イメージソング

  The Who - Baba O'Riley(歌詞が驚くほどぴったりでびっくりした)

  

特技

  剣道三段

発明

資格

  大型自動車免許、大型特殊自動車免許、一級小型船舶航海士免許、毒物劇物取扱者資格、爆発物取扱い免許、無線局免許、行政書士資格、知的財産管理技能士認定、情報セキュリティスペシャリスト、企業情報管理士認定、シスコ技術者認定、データベーススペシャリスト、

etc

搭乗車両

Chevrolet Avalanche

Plan B Supply 6x6CargoTruck Expedision

 

 稀代の発明家にして、豪運の持ち主。神様特典のためにチート化されたスーパーマン。大学受験のために雇った家庭教師にペロリといただかれた上に駆け落ちした資産家の息子。

 駆け落ち前に洒落で買った三億くじが当選。前後賞含めて五億の資産を駆け落ち直後にゲット。

 

 その資金を使って非上場の発明家集団を募り会社法人を設立。プログラムと特許、著作権と発明品の子会社による少量生産だけで年商三十億をたたき出す「子会社合わせて従業員25人」の化け物企業「オールザワイズメン」を設立。

 

 会社名は酔って気を大きくした初期メンバーが気を大きくして命名。長いしダサいしでリアルでもネットでも「お面」とか「ワメン」としか読んでもらえない。

 受付や秘書、顧客対応を除けば十人というマンガのような会社。ほぼ一人パソコン一台で事足りるというあたり神様補正の理不尽さが・・・顧客対応すら年収三桁の後半。

 

 作者の「こんな会社入りてえちくしょう!」という思いから生まれた。最近海外支部を作り始めたが、実は社員会議で決定した保養地でしかない。

 馬鹿みたいに給料もらってるので、誰も多少給料が減ろうが気にしなかった模様。マジでこんな会社無いかな・・・。

 

 なお、息子と冴子と麗の関係に気が付かないくらいには鈍い。当然学生時代は鈍感系主人公。部活が化学部なのにモテるなんて聞いたことねえぞ。

         「実は僕、超すごいんです(ふんす)」

 

 

 

 

毒島健吾

キャラクターイメージ

  長谷川平蔵(中村吉右衛門)

  ジン・ウズキ

  習っていた合気道の先生

イメージソング

  Gipsy kings – inspiration

 

 原作登場しないだろうからと登場した、あるオリキャラ。

 厳しいけど優しく、人格者。古くからある家の人間にしてはリベラルで、片言英語で単身渡米して指導しちゃったり、子供の部やら一般にも広く門戸を開いていたりする。しかしながら剣術家としても著名で、超絶的な剣客。

 若干バトルジャンキー気味。

 

 最近の悩みは、娘の冴子が昔の元弟子の息子にゾッコンなこと。娘のアクション自体は仲の良い男の子くらいだが、娘のことながら引くくらい「洋介のいない世界」を想定していない点にゴールデンウィークくらいに気が付いた。最近ネットでヤンデレという言葉を知った38歳の夏。

 

少し真剣に悩んでいたが、すわ死んだかと思うくらいの気迫でぶっ叩かれても庇う洋介の大人でもできないような男気を思い出し、まあなるようになるよね!と最近開き直った。

 

 渡米した折には昔から興味があったとして「ガチで銃弾を日本刀で両断」。刃こぼれ一つ無く切ったまでは良かったが、切った後の鉄片の一つが体にあたり負傷、病院で手当てを受けながら「コツはつかんだ、次はうまく切る」と放言。

 周囲の必至の説得の末、小学生の娘に泣きながら説教を受けて断念。その後もアメリカで銃を見るたびに未練がましそうに見つめているとか・・・。

      「多分今なら、二点バーストまでは余裕だと思うんだ」

 

 

 

毒島冴子

イメージソング

  Christina Aguilera - Something's Got a Hold On Me

White stripes – you don’t know what love is

戦闘時

  The Pretty Reckless - Going To Hell

特技

  毒島流剣術

  毒島流組手

  毒島流服装術

 われらがヒロイン第一号にして、経てば芍薬~を素で行く和美人。

 性格改変を受けた一人で、割と洋介、麗ちゃんラブなところがある。

 

 原作よりも精神年齢高いところもあるが、実は麗と洋介よりも三人への依存度が高い。原作でもあった暴力衝動だが、ゴールデンウィーク中に洋介をぶっ叩いて見事に開花。

 絶望的な感触とともに感じたためより背徳的に進化しているが、罪悪感を快感に感じているのか、暴力をふるう事に快感を感じたのか判断できずにいる。

 

 SにもMにも転べるある意味本作最大の地雷を抱えてらっしゃる方。

 

 そして洋介がハーレム作る事を前提に動いているところがある。

 

 洋介に全力で試合をして負けるという事を経て、剣術の腕前は原作より

もアップ。ゴールデンウィークの出来事をばねにさらに猛特訓をし、さらにアップ。原作開始時点では若干17にして目録まで許されている。

 他にも洋介の影響で徒手空拳や、先端技術を使ったものにも詳しい。技術に節操ない友達のせいで武器に絶対的なこだわりはない。

 

 毒島流服装術は健在であり、たまにやっては洋介をドギマギさせている。現在麗をそちらの道に引き込もうと画策中。

 総じて小学生のやる事じゃねえ・・・という評価を周りから受ける、かっこいい女。

 

 ちなみに作者の冴子様のイメージフラワーは曼珠沙華と菖蒲である。

       「次はどんな女の子落としてきちゃうんだろうね?」

 

 

宮本麗

イメージソング

  Katy Perry - I Kissed A Girl

  MACKLEMORE & RYAN LEWIS - CAN'T HOLD US FEAT. RAY DALTON

戦闘時

  岩崎琢 – RODのテーマ

追加イメージ

 リア・トーレス

特技

  宝蔵院流槍術

  行動分析

  ファッション

  姐さん

  

 われらがヒロイン第二号。

 幼馴染の間では妹系だが、洋介と冴子に憧れている面もあり、最近カッコいい姐さん系になりつつある。

 

 学校のファッションリーダー的な位置づけにあり、その可愛さと裏表のない気持ちのいい性格から、母親の貴理子とともに地元商店街のアイドル。

 

 冴子と洋介の影響で父から宝蔵院流槍術を習っている。冴子の同じく毒島流剣術をやりたかったが、父親がごねにごねたために父親から槍術を習うことになった。

 

 パパはこれで威厳を見せられると思ったようだが株価は大暴落。一応パパの威厳は少しづつ取り戻していたが、ゴールデンウィーク中に見直すとともに怖がられる出来事があったため、パパ大傷心中。

 ご愁傷様である。

 

 勉強は洋介と冴子ほどは出来ないが、洋介のたまに話している心理学的な話には多大な興味を持っている。

 昔は精神年齢の高い二人において行かれないか、いつも不安に思っていた事とその知識から「ナチュラル」と言われる心理分析の才能を持っていたり・・・。

 

 ゆえに実は冴子の思っているほど幼いわけでもなく、洋介の葛藤にも気が付いているし、さり気なく冴子のメンタルケアをしていたりする。

 というか冴子より先に割り切っていて、冴子をハーレム肯定に誘導した節がある・・・でも習慣は怖いもので、未だにみんなの前では妹系の扱いをされてしまう、そしてそんな自分が嫌じゃないのが最近の悩み。

 

 心理分析の方はここ四年の間に習得し始めたため、完ぺきではないし、今の段階では空気のとても読める子、くらいの技術。

 でも親ゆずりの頑固さから人に譲るより、姐さん的になってしまう、気持ちのいい子。

 原黒になれない、原黒系。そのままでいてくれ!

         「姐さんって、いうな!」

 

 

 

本編には出てこない裏設定

1・『立花洋太郎』という名の神様特典

 

 ちなみに公安のデカの娘がお高い私立学校に洋介たちと一緒にいるのは、公費が出ているからである。

「オールザワイズメン」は資本金五億で年商三十億をたたき出しているが、一部で知られた変人は多いし、ちょこちょこ国内外で土地買ってるし、株は従業員の持ち回りの上、ほとんどライセンス契約だけしかしてない非上場企業という内情が全くわからん会社。

 

 しかも活動に、金がかかっていないといっても差支えが無いほどに経費が掛かっていない。

 また最近黒いうわさの絶えない海運系企業とのコンタクトがうわさされている・・・。

 

 実際は治安が良い方が住みやすいという考えからだったのだが、保養地のある地元警察にパトカーやら白バイやらネットランチャーやらサーモモニターやら・・・とにかく寄付しまくったり、ボランティア活動や福祉関係に投資しまくったのもいろいろ疑われる原因となっていたり・・・。

 

 特に疑われる原因となっているのは、立花洋太郎の豪運で、何となくかった株やら、宝くじ(味を占めた)やら、企業投資やらが尽く当たって(一部は洋介の未来知識で誘導)、40歳以下の富豪ランキングで五十位以内に入っていたりすること・・・ちょっとあり得ない当り方故にインサイダーやら不正利得やら税務所得隠し等々が疑われる・・・が全く証拠が出てこない。

 

 事実は小説よりも奇なり。

 

 さらに悪いことに幾度か官民問わず上場への圧力がかかったが(影響がデカいのに株主が送り込める役員枠が無い、そのため交渉では直接的な圧力と交渉力しか効果が無いため=一代企業なのに乗っ取りもできない)、すべて跳ねのけている。

 

 借金先の銀行も活動の説明を求めたが、オールザワイズメン側が「あんまりしつこいと従業員の定期すべて解約の上、借金は全額返済するよ?」と言って黙らせた経緯がある。

 

 そのためオールザワイズメンの長期調査が決まった際に、出資者で取締役の立花家とたまたま親しくなっていた公安のデカに白羽の矢が立ったのである。

 ある日本部長に呼び出され「学校が変わって疎遠になっては困るから、公立の払い以上は、なぜか払い込まれるボーナスで賄うよう」とお達しを出された宮本パパの混乱は想像に難くないかと・・・。

 

 しかし結果同じ学校に行ける事に喜んだ娘の評価が上がり、まぁいいか!とパパが開き直ったのはその夜のことである。

 

 しかしながら床巣空港警察、床巣警察、床巣検察、県警本部への最大寄付者にその後なったことから、まず重大犯罪でもない限りはノータッチ・・・全部合法なのに期せずしてカポネばりのアンタッチャブルになったのまで含めてが神様特典。

 

 

 随時更新



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I'm glad you came




「明日死ぬかのように生きよ。 永遠に生きるかのように学べ」
                   ~マハトマ・ガンジー~


 

 

 

 

 その日はピアーズに町を色々案内して貰い、これから住む家まで送ってもらった。いかにも南部と言った感じの、フレンチテイストな白い家だ。

 

 聞くと彼は22だとか。

 

 若くてハンサムな彼だが、乗っているネイビーブルーのフリーランダーも中々にカッコいい。やっぱりSUVにはごついパイプのフロントバンパーが栄えるよね。

 

 

 

「今日はとても楽しかったよ、本当にありがとう!」

 

「気にするなよ、『相棒』だろ?」

 

「それ気に入ったの?」

 

 

 空港で会ったあたりは冗談めかしていたらしく、すぐ名前呼びになっていた。

 

 しかし、途中で寄った射撃場で簡単なスリーガン(ショットガン、オートマチックライフル、ハンドガンの三種類を使った、普通の競技射撃よりも実践的な競技。9.11以降アメリカではかなりの人気を博している)コースをやってみせると目の色を変えていた。

 特に銃の安全チェックがきちんとできていたり、体格に合った10ゲージ、M&P22やMarline Model60を使ったことが高評価だったようだ。

 

 それ以降はまた『相棒』になっていた。

 

 

「かなりね!・・・いったい誰が十歳と大人のコンピがいるなんて想像するよ?」

 

「いないだろうねぇ~」

 

「まるでDCコミックスだ!ロビンだってもうちょっと年取ってるぜ!」

 

 

 HAHAHAと大笑いするピアーズ。お前をバットマンというには、銃の扱いに長け過ぎな気がするけどねと僕は思った。

 

 せっかくだし試しに撃ってもらったが、反動による跳ね上がりがほとんどなかった。

 お遊びという事もあり、五メートルほど先のターゲットにAR15を撃ってもらったのだがセミオートを二秒で14発撃ち込みやがった。ターゲットには三インチ程度の穴しか開いていなかった・・・いったいどんな筋肉してやがるんだと聞くと、力で抑えてこんでいるうちは無理だよと言われた。

 

 

 凄腕にも程があるだろう。

 

 

 

 だいぶ落ち着いたが、まだクックッと笑うピアーズ。

 

 彼的には僕の射撃に何か認めるところがあったようだ。そして俺を『相棒』と呼ぶことに、何かツボにハマるものがあったようだ。

 

 

 頑張ってはいたし、特殊部隊員に少しは認められるところがあるというのは嬉しかったりするが・・・意味わかんねーよ。

 

 

 

 

 

「しかしわかっちゃいたけど・・・すげえ家だな・・・」

 

 ひとしきり笑うと、車のウィンドウ越しに見える家を見つめながらピアーズは改めてそう言った。

 

 

それは僕も思っていた。

 

 なんたって膝ほどに低いとはいえ石垣、それと板塀で囲まれ、立派な鉄格子の門まで据えてあるのだ!

 なんだこれ、家は見た感じ三百坪強もあるし、敷地面積は合わせて八百坪くらいあるんじゃないか?

 どんな富豪の家だよ。

 

 

日本なら巨大豪邸・・・と思いきや、もっと小さい家もあるが、この辺りの家はぽつぽつそんな感じだ。

 

 

 向かいの家なんて門と屋根の上に、なんかガーゴイルがいるぞ?

 

 なんなのあれ、動くの?不死教会なの?

 

 

 

 

 日本にいたころに写真で見せられた頃から、なんだか映画のセットのようだなとは思っていたが、いざ目の前に新古典様式の真っ白な豪邸がドーンと構えているところを見ると、何とも言えない気持ちになる。

 

 何といえばいいだろう?『風と共に去りぬ』で出てきたようなやつだ。

  流石にあそこまで敷地はデカくないが、十分にデカすぎる。あの車庫何台止まってるんだ・・・?

 二百坪近い芝生だが、他に何も植えないのだろうか?いや、瀟洒な雰囲気が大変お洒落ではあるが・・・。

 

 アメリカは土地が広い、広いとは聞いていたけど・・・。

 

 

 父は出張らしく家にはいないが、母はいるはずだ。ピアーズが送ってくれたので必要なくなったが、本来は空港からを迎えの人とハイヤー借りるはずだった。

 その人は、仕事の無い日にハンディーマンという便利屋みたいな事もやっている人で、ミラーさん・・・とか言ったかな?うちでよく仕事を頼んでいるとか。

 

 たぶんこちらに気が付いて近づいてきている、あの人がそうだろう。がっしりとした体格で、遠目に三十代くらいに見える。

 

 便利屋なんてそんなもん雇うのか?と思うかもしれないが、アメリカはとにかく広い!

 

 近所の電気屋がちょっと来て直してくれるというのとは、結構違うのだ。なので出来るだけ家周りの事は自分たちでする習慣があるらしいのだが、それも少し専門的になったり、DIYが不得意な人ややりたくない金持ちもいる。

 

 ならば近場に住む、そういう技能を持った人に頼む方が早いし、安上がりなのだとか。

 我が家の場合、母が一人でいる事も多く、電気系統の仕事を頼んでいるのだとか。

 

 

 

 そうそう、仕事の関係もあり父と母は何度もこっちに来ていたが、僕がアメリカに来るのは初めてだ。

 父は頻繁に出張に出かけ、たまに母が付いていく。そんな感じでここを利用していたらしい。いずれアメリカで住む期間があるのは決まっていたし、会社の拠点も必要だしで家を買ってしまったらしい。

 

 パニックルームやサーバールーム掘る必要があったり、セキュリティーの関係があるとはいえ、借家じゃないとか・・・父は金を使うのが金持ちの仕事だと言っていた。

 

 射撃場やら銃器でしこたま金を使わせておいてなんだが、理屈はわかるが、中々慣れない。

 

 

 

「なんかすごい入りにくいな・・・ピアーズも来ない?」

 

「あっはっはっ、遠慮するよ!」

 

 とっとと降りろバ金持ち!とピアーズにせかされ、車から降りる。軍人家系で、祖父は元陸軍大将のお前の家も、割と裕福だろ!そう言い返すも、ピアーズは高笑いしながら行ってしまった。

 

 

「はぁ・・・気をつかってフランクに接してくれたのはありがたいけど、結構容赦なく引っ掻き回すタイプだな、彼は・・・」

 

 

 真面目だけど茶目っ気たっぷりな人物だった。全然キラーエリート(Devgru)という雰囲気が無いのも、それはそれで怖いよな・・・兵士だって人間という事ではあるだが。

 

 

 

 それにしても!

 これからここに住むんだなと思うと、少し気おくれしてしまう。

 

 

 日本の、床巣の家もなかなかに豪邸だったが、流石になれていた。何年も過ごしていたわけだし、今は愛着もある。

 

 

 しかし流石アメリカ・・・土地が余りまくってるだけあって、とんでもない敷地面積だ・・・。

 

 これと比べられてしまうと、流石にウサギ小屋とは言わないが、俺の時に住んでいた家は、確かに倉庫くらいなのかもしれない・・・。

 

 

 銃を撃った時も、師匠に習った時も、小学校にもう一度通う羽目になった時もそうだが・・・本当にとんでもないところまで来てしまったんだなと、そうつくづく思わされる。

 

 

 

「やぁ、もしかして君が洋介君かな?」

 

 

 先ほど見かけた、ミラーさんと思しき、芝刈り機の修理をしていた男性が門の前にたどり着いた。

 ガタイはいかついが、子供好きそうな柔和な笑みを浮かべている。

 

 

「そうです、もしかしてあなたが『ミラーさん』ですか?」

 

「礼儀正しいんだね。そうだ、俺が『ミラーさん』、ジョエル・ミラーだ。これから何度も会うことになるが、よろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね?」

 

「よかった、うまくやっていけそうだ。クソガキだったらどうしようかと思ったよ!」

 

 

 門を開け、ウインクをしながら冗談を言うミラーさん。

 

「わからないですよ~、こう見えてメチャクチャ言うかもしれないですよ~?」

 

「おお、言うじゃないか」

 

 

 

 二人で顔を合わせて笑いあっていると、家から母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 僕が着いた事に気が付いたのだろう。

 ミラーさんと家の方に歩き始める。

 

 

 お~いと手を振ると、家から女性が飛び出てきた。母さんだろう。

 

「みてみて、すごいおうちでしょ~!?」

 

 

 元が僕と同じような母さんだ、多分自分の時も驚いたのだろう。自慢する様子が本当に楽しそうだ。

 

 芝生の隣の舗装された車道をお互いに歩み寄る。

 

「今日からここが洋介ちゃんの家で~す!だから・・・」

 

 

 目の前まで来ると母さんは僕を抱きしめ、満面の笑みでお帰りと、一言そういった。

 

 

 

 






 
 デッドラ3やってきました。まさかのケイティー・・・チャックさん出てくるまで気が付かなかった・・・。
 ケイティーかわいいけど主人公の良い人ぶりに一番泣いた。
 そして確かにピクミン→ピクミン2くらい難易度下がってる。

 箱庭げーに難易度とか求めてないから、個人的には嬉しいけど最近ヌルゲー化が相次いでるよね。マリオの協力プレイのヌルゲーさにはお茶を吹いたw

 ウォッチドッグスの最後みたいに難易度急上昇するのも困るけど、正直信号機のアレ手に入れたら・・・。

追記

 てかお気に入り200越えてるじゃないですか、やった!!


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Lalaland

ミラーさんーCV山寺宏一

進行が遅くてホント申し訳ない。


「この箱は解いちゃっていいのかい?」

 

「あ~もう、全部開けちゃってください!どうせ本棚に入れるか収納箱に収納するだけですし」

 

 ズズッ

 

「なんだこれ・・・『FBI心理分析官』?すっごい禍々しい表紙してるけど、こんなの読んでるの?・・・気持ち悪くならない?」

 

 ズズッ

 

「意外かもしれないですけど、社会的弱者保護の重要性が死ぬほどよくわかりますよ、その本。でも学校のゼロ・トラレンスポリシーにもろに引っかかりそうですね」

 

「サイコパスも実は社会環境に造られるってやつ?俺はその論は暴論だと思うけどなぁ・・・たぶん退学じゃないの?」

 

 ズズッ

 

 

「・・・二人ともそんなのよく飲めるわね」

 

「そうですか?俺はこれ気に入ったんですけどね」

 

 

 荷解きをしながらマグカップからコーヒーを飲む僕とミラーさん。僕が淹れたものだが、母さんには不評のようだ。

 

「いやぁ、いいものを教えてもらった!これならインスタントも美味しく飲めそうだ!」

 

 顔に似合わず甘党と言うので、甘めに入れたコーヒーに生姜粉を入れたものを出すとミラーさんは大絶賛しながら、既に二杯お代わりをしている。

 嫌いな人はウエッとするので、このおっさんはスタバの常連と見た。

 

 

 話を聞いていくと彼は、普段建築作業員をしているとのこと。配線周りを独学で勉強したらしく、修理が得意らしい。

 

 本人曰く

「こういう配線とか勉強しとくと、首切られにくいかな~って」

 とのこと。

 

 なんでも妻を早くに亡くし、一人で娘を育てているらしい。会話していてわかったのだが本人の頭は良い。しかし金銭的な理由で大学に行けず、作業員でギリギリの生活をしていたらしい。

 

 ハンディーマンとして理解のある以来の仕方をしてくれて、かなり助かっていると母は感謝されていた。少しテレながら、有能な人だからよ~なんて言っているが、主な理由じゃあないだろう。

 

 

 聞けば高校在籍中に妊娠してしまったらしく、実家からは二人とも勘当されてしまったらしい。

 ・・・たぶん自分の過去とダブって見えたのだろう。じゃなきゃ父も母も、若い屈強な男を母一人の時でも家に頻繁に呼んだりしないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・あとは母さんが、近所に誤解されないために頻繁に一緒に遊びに来ているという、娘さんのサラを猫かわいがりしているからだろうね、うん。

 

 

 さっきチラリと見た冷蔵庫には僕の写真は一枚だけだけど、見たことの無い金髪の女の子と母さんが一緒に写った写真がたくさん貼ってあったからね。

 

 

「この前も一緒にケーキを焼いていたよ・・・い、いやぁ。このまま行くと娘取られちゃいそうな勢いだよね!ハハハ!」

 

「そのうちパパじゃなくて、おじさんて呼ばれたりしてね」

 

 

 おいおい、洒落にならんことを言わんでくれよとミラーさんは言っていたが、案外母さんがママと呼ばれる日は近い気がする。

 

 

 それにしても、床巣の実家も麗ちゃんと冴子ちゃんと撮った写真ばっかりだった。たぶん何も知らない人が見たら、僕がこの家の子だってわからないんじゃないかな?

 

 

 その後も色々話を聞いたが、どうやら僕とその娘さんは同じクラスになるらしい。あまり拘束されたくないので、公立小学校に行くからだ。

 家が近いのかとも思ったが、地図で見せて貰った限り、そんなことは全然なかった。米国はほんとなんでもでかいようだ・・・。

 

 いくつか高校入試問題などをやってみたが、正直アメリカの教育レベルは私立の良いところにでも行かない限りかなり低い。理系科目に関しては壊滅的なところが多かった。

 そして良いとこに行ってもどちらかというとレポートが重視されるので、時間ばかりが拘束されるのだ・・・日本のグレーゾーンも白と言い切る、右翼的で談合の集大成みたいな教科書教育が最高とは言わないが、正直日本式の方が効率的だし肌に合う・・・と思う。

 

 

 そんなこんなで当てどなく雑談をしながらだったけれど、それほど持ち物が多いわけでもないので、割とすぐに荷解きは終わってしまった。

しかしながら終わるまでにミラーさんは、結局四杯のコーヒーを飲み切った。

 

 

 この人、相当な甘党だな~。

 考えたのは僕だけど、二杯以上短時間で飲む気にならんぞ、僕は。

 

 

 

「さて、これで最後ですね!ありがとうございました」

 

「どういたしまして。さて、それじゃあ良い時間だし俺も家に帰るよ」

 

 

 ありがとう、助かったわ~と、相変わらずぽわぽわした母さんがサラへのお土産を手渡す。

 

 

「そうだ、洋介君。明日は暇かい?」

 

「明日ですか?明日は来週から通う事になる、小学校でも見に行こうかな~とか考えてましたけど、なんでですか?」

 

 

 それなら丁度いいと頷くミラーさん。

 

 

「サラも明日は暇なんだ、どうせだから娘に案内して貰ったらどうだ?」

 

 

 

 非常にありがたい提案をしてくれるミラーさん。どうやらいつの間にか携帯で連絡を取っていたようだ。

 

 

「それなら晩御飯はみんなで食べましょう?」

 

「え、いいんですか?いや~助かるな~!ここの家の飯は美味しいからな!」

 

「あらあら、褒めてもお酒ぐらいしかでませんよ?」

 

 

 満更でもなさそうな母さん。

 

 

「うわ、ミラーさんそれが目的か!こすい!」

 

「いいか、洋介君。褒めて得するなら、人間迷わずそうすべきなんだよ!

 

 

 

・・・それと最近娘の舌が最近肥えて来たみたいでね、この間パパのごはん美味しくないといわれてしまった・・・俺も正直物足りなくてな・・・」

 

 

 

「あ~、なんかすみませんでした」

 

「そこで謝られると、もっと立つ瀬がないんだけど・・・ゴホン!とにかく明日は学校の下見ってことでいいかな?」

 

「それじゃあお願いします。冗談めかしてしまったけど、割と助かります」

 

 

 困ったときはお互い様さと肩をすくめていうと、ミラーさんは中々様になっていたが、もしかしてこの差し出されたマグカップは五杯目という事だろうか?

 

 

 




説明

 ゼロ・トラレンスポリシー
 アメリカの教育機関における割れ窓理論を極端に取り入れた政策。学校側の考えるありとあらゆる危険物の所持、危険行為に対して厳罰に処すというもの。
 コロンバイン高校銃撃事件以降かなりの暴走を起こしており、食事用のナイフを食堂で使う、鉛筆を小型ナイフで削る、サウンドオブミュージックの演劇のために持っていたナチス将校の軍服、苛めに堪え切れず木の椅子で反撃に出た等の事柄で退学になる生徒が後を絶たない。例はすべて成績上位者にも関わらず退学処分を受けた。
 しかしながらいわゆるジョックと呼ばれるスポーツの得意な者たちによる虐めには寛容であり、コロンバイン高校事件以降アメリカではおよそ約一年半に一度の割合で、教育機関内でいじめを受けていた生徒による無差別銃乱射事件が発生している。無差別のモノを含まないモノは月一、犯人が生徒ではないものを含める場合は2012年以降週に一度をマークしている。
 ゼロ・トラレンスポリシーが虐めになんら効果が無いことや、根本的な解決に全くなっていない、また切り捨てられた生徒による犯罪の増加を促進しているという批判を受けている。日本においても同程度の厳しさを持つポリシーの導入が検討された事がある。

 ジンジャー入りミルクコーヒー
 作者がスタバのジンジャーマンブレッドコーヒーを気に入ったために作ったもの。特に何も考えずに入れたら美味しかったので、たぶん先駆者はいくらでもいる。

 アメリカの教育水準
 いうほど低くはないです。ただ理系科目は基礎教育では非常に衰退しており「レジ打ちがお釣りを間違えないなんてありえない」「ネイソン・ゾナーによる一酸化二水素に関する社会実験」等、特に数学分野における上位校以下の学校の生徒の水準は日本の中学生程度でしかない。

 サイコパスと社会環境
 いわゆるサイコパスとされる人物の、そのほとんどが幼少期から重度の継続的心的あるいは精神的虐待を受けている。故に社会保障によりそのほとんどの発生が抑止可能であり、サイコパスの条件にDNAは関係ないとされている。
 虐待被害者が加害者になる確率は10~20%程度である。ただし重度の虐待を受けたものの加害者転向率は80%を超えている。

 教科書教育
 そういう考えもあるということ。作者は制度自体は悪くないと思うが、「誰にとって効率的であるか」という事は常に考える必要性があると思われる。いまだに「四大文明」等と記しているあたり、心底権威的な書物であることはたぶん誰にも否定できないと思われる。



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Hou you like me now?

二話連続投稿

「猫は美しい女王になっても、ネズミを捕える事をやめない」
             『断片と警句』~カール・ルートヴィヒ・ベルネ~


 流石に色々と見て回っていたら疲れてしまったので、昨日はミラーさんが帰ると晩御飯を食べてとっとと寝てしまった。

 

 家の中は、まだ見て回ってもいない。

 

 飛行機に乗るのが久々というのもあったが、あんなに空港とは大きいものだっただろうか?大げさかもしれないけれど、お土産エリアなんて一生かかっても見終わらない気がした。

 子供の体だと視点が低いとはいえ、圧倒されて、終始緊張してしまっていた。

 

 まぁ疲れた一番大きな原因は少しでも、あのクソ高い飛行機代の元を取ろうと、眠いのを我慢して映画を見続けたからだろうが・・・。

 

 

 

 

 

「はい、洋介君おそようさん!」

 

 キッチンでスクランブルエッグかなんかを作ってる母さんが、後ろを向いたまま機嫌よく挨拶をしてくれる。

 

「おはよう母さん・・・頭に響くからもうちょっと声量下げてくれる・・・?」

「まるで二日酔いのお父さんね~・・・シャキッとしなさいよ」

 

 出来上がったベーコンとスクランブルエッグに、食パンを添えて持ってきてくれる母さん。

 ぷんぷんと口で言っている。

 

 シャキッとって、あなたのぽわぽわ声で言われてもね。

 

 

 

「ところで眠かったから十一時ってこと以外、なにも決めてないんだけどどうやって学校行けばいい?というか遠いの?」

 

「ええ~・・・、洋介ちゃんノープランにも程があるわよ?」

「だって眠かったんだもん」

 

 今日だって、辛うじて目覚ましを時差合わせるの覚えてたから起きれたようなもので、無かったら爆睡してた自信がある。

 時差十時間くらいだっけ?正直、まだ全然眠い。

 

「もん!とか言っちゃって。可愛いからって何やっても許されるわけじゃないのよ?」

 

 心外である。

 

 

「将来高身長、ふとマッチョなイケメンになりたい僕としては、その発言は看過できない」

 

 マイクタイソンもモハメドアリも、若い頃のガリガリより、円熟期の筋肉も脂肪もある太い方が絶対にカッコいい。やっぱり男は太くなくちゃ!

 ・・・え、ナジームハメド?彼は伝説だよ。復帰なんて無かった、いいね?

 

 

「洋介ちゃん、夢はベッドの上で見るものよ?」

 

「酷いよ・・・母さん」

 

 

 両親ともあんまり身長高くないし、ちょっとそんな気はしてるんだよね・・・。

 

 

 ・・・。

 

 

「・・・で、結局どうやって行くの?」

 

「ああ、その事なんだけど洋介ちゃん」

 

 自分とついでに僕の分のコーヒー(インスタントでない)を淹れていた母さんが

 

 

 

 

          「クモさんとヒョウさんどっちが好き?」

 

 

 

 満面の笑顔で、そう僕に尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんと学校の前で待っていると、急に動物の吠えるような声が聞こえた。

 テレビで見た猛獣みたいなのだ。

 

 とっても大きい音で、びっくりしてお父さんに抱き付いちゃった。お父さんもなんだかあたりをキョロキョロ見回している。

 段々大きな音が近づいてきているような気がする。

 

 

 

 

 

 

 私がここにいるのは、サクラさんの息子さんを案内するためだ。

 

 

 昨日、急にお父さんからメールで、今日の予定を聞かれてびっくりしてしまった。

 サクラさん・・・結婚しているのは知っていたけど、なんだかお母さんみたいな気がしててちょっとショックを受けてる私がいる。

 

 今までも何回かヨースケの話は聞いていたけど、なんだかコミックヒーローのような、フェアリーテールの王子様のような彼の話に、変な話・・・ほんとうにいる子供のように感じてなかったからだ。

 

 だから私は面白おかしく教えてもらうヨースケの話を、なんだかわくわくしながら聞いてきた。こんな人が本当にいたらいいな~って。

 その、かっこいいお兄ちゃんが私にいるみたいな気がして。

 

 

 でも昨日メールを貰った私は、急に夢から覚めたような。まるで冷たい水の中に突き落とされたような、そんな感じがした。

 

 

 わたしはサクラさんの娘じゃない。

 そんなことはわかってた。

 

 

 さくらさんにはヨーイチローさんがいる。だから私のお母さんになることはない。

 

 わかっていた。でももしかしたら私のお母さんも、サクラさんみたいに優しい人だったのかなと、そう一緒にいると思っちゃってたんだって、そう気づいた。

 あり得ないってわかってたけど、お父さんとサクラさんが結婚したらいいな~って。

 

 

 

 でもお父さんがお母さんを愛してたのを、私はよく知っている。

 だって今でも、何か嬉しいことがあるたびに指輪を指で撫でてる。

 

 

 他のお父さんたちがしてるようなのじゃなくて、もっと安っぽくて・・・いっつも弄ってるから色もくすんじゃってる指輪。

 私が触っても冷たいそれは、お父さんが触るととっても温かそうで・・・なによりも綺麗な宝物に見えるから。

 だからお父さんがあの冷たい指輪がそんなに熱くなるくらいに、お母さんが好きだったってよくわかる。

 

 

 ほんとはサクラさんをお母さんって、呼んでみたいけど、そうしたらお父さんが悲しむ。

 

 だからお母さんって言わない。

 

 

 でも昨日ヨースケがサクラの家(・・・・)に来たって聞いて、すっごく嫌な気持ちになった。

 スーパーヒーローが、王子様が私の居場所を奪って行っちゃった。そんな気がしたんだ。

 

 

 王子様なんて来なきゃいいのに。

 

 

 お父さんはサプライズだったから、今まで私には言わなかったって。そういってた。

 でももしかしたら私の気持ちに気が付いてたのかもしれない。

 

 サクラさんが幸せそうにヨースケの事を話すときに、きっと無意識にそう思っちゃった私が少なからずいたことに。

 

 

 

 

 嫌な子だな、私。

 

 考えれば考えるほど、ヨースケなんて来なきゃいいのにって思ってしまう。本当に嫌な子だ、私。

 そんなことを考えていた時に、何もかも吹っ飛ばしちゃうようなそれが聞こえてきたんだ。

 

 

 

     「                !!!!」

 

 

 

 考えてること全部を吹き飛ばしちゃうような、豹の大きな遠吠えと一緒に、黄色に黒い四角がチェック柄の影が、飛ぶように現れた。

 すごい音を響かせながら跳ねるように現れた黄色い影は、甲高い音を立てながら半回転して、私たちの目の前で止まった。

 

 

 私もお父さんも抱き合ったまま、一歩も動けなかった。

 

 ディスカバリーチャンネルでしか見無いような、テレビの向こうの世界の、狩終えた後の湯気の上がりそうな熱くなった筋肉を冷ます、生々しい獣がそこにいた。

 

 

 信じられない、目を疑うような光景に、ゴシゴシ目をこすってもう一度見ると、そこには黄色に黒のチェックの入ったスポーツカー(ジャガーF-type)が停まっていた。

 

 

 

 何が起きたのかよくわからなくて、思わず振り向くと私を抱きしめたまま、お父さんもまったく動けないでいる。

 たっぷり十秒ほどしてから反対側の、不快気に唸る(ジャガー)の助手席のドアが開いて子供が転がるように出てきた(引っかかった小骨のように吐き出された)

 

 

 私から見てもかわいい顔を真っ青にして、その子はガターの蓋を開けると、とても不快な音を立て始めた。

      なぜだろう、でもその子を責める気に全然なれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、間に合ったわね!まったく洋介ったらゆっくりご飯食べるから遅れそうだったじゃない!」

 

 

 そっち(・・・)を出来るだけ意識しないようにしてると運転席の窓が開き始めて、そんな声が聞こえてきた。なんだか聞きなれたような、でもそんなハズない荒々しい雰囲気の声。

 

 私の前に回された腕を見ると、ちょうど秒針が回りきって、十一時になったところだった。

 

 

 窓が開くと、ベースボールの人が着けてるみたいなサングラスを、かっこよく上げるサクラさんがいた。

 

「ごめんなさい、時間は間に合ったかしら?」

 

 なんていえばいいんだろう?

 ジャガーみたいにギラギラと輝く瞳に、お父さんと私は思わず一歩下がってしまった。

 

 

 やっちゃった!

 そんな声が聞こえてきそうな顔をすると、ちょっと悩んだ顔をするサクラさん。

 

 エイヤ!と掛け声をしながら扉を開けて出てくると、いつものロングスカートや長めの服ではなく、七分の黒いズボンに黒のVネックシャツの上から白いジャケットを着ている。腕にはおっきな時計をしてる。

 

 

「あ、ロレックスのサブマリン・・・」

 

 ぽつりとお父さんが呟く。

 

 

 

 コホンと咳払いをすると、腰に手を当てて人差し指を立てた右手を出して、今まで見た誰よりもチャーミングな、ドキッとするようなウインクをしながらこう言った。

 

 

How you like me now(こんな私はいかがかしら)?」

 

 

 

 彼女の後ろの黄色い獣が、満足げに唸り声を上げた気がした。

 




 実はこのネタ思い立って、ジャガーF-type使おうと決めた翌日に、錦織圭さんが宣伝してましたwとんだ偶然もあるものだ。


時差
 だいたい十五時間

 ジャガーF-type
 超カッコいい。セダン型も超カッコいい。合言葉は『I't good to be bad(悪の美学)
 エンジン音なんかほんとに唸り声のよう。
 ちなみに、さくらの乗ってるのはコンパチではない。

 クモさん
 ポルシェ918スパイダー。たぶん現在世界最高の性能の車じゃないかと。超カッコいい、超ほしい、超すげぇ・・・その分お値段もぶっ飛んでますがw

 ロレックス・サブマリン(サブマリーナ)
 ~ナが表すように、男なら一度は憧れる最高にエレガントな女。腕に着けたら、もう浮気なんてできないとはうちの父親の言(持って無いのになんでわかるんだろう?)。

ガター
 排水路の事。

 ~ウインク
 サービス、サービスぅ!
 


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ABC

 さきほど操作ミス起こしました。失礼しました。

 それと評価一言の読み方やっと思い出しました・・・無視してたわけではないのです!いくつか返答しようと思います。

・台詞だけで動作伝わらない<
 すみません、ニュービーなんです、長い目で見てやってください。
・特典を付けた意味がわからん、内容はまあまあ(要約)<
 これは私見なんですが、銃を現代日本に持ち込めるのも、海外行けるのも、練習場所を得られるのも、普通に考えたら無理ですよね?
 よく特典ものでその辺全然説明出来てないので、それっておかしくね?という事がやりたかったのです。正直、特典モノで出てくる家族は異様に都合がいいですからね。そういった意味で主人公の行動、全てが特典準拠してます。
 ただいくつかの設定に関しては、僕も超絶公開してます。
・毒にも薬にもならない作品だと思います
 僕の文才の無さはとても感じますが、基本二次創作ですからそりゃそうなのではないでしょうか?(困惑
・最近詰まんなくなってきた(要約)
 頑張ります
・これからに期待
 裏切らないよう、頑張ります
・原作まで長すぎる
 ホントそうですね、でも一話の通り思いつきネタから始まったので勘弁してください・・・原作再開までの先延ばしと、やりたい事やるのと、再開しなかった場合の一応の完結までの伏線張りが難しいのです。

 追記
 書き忘れてました。
 評価の基準がなんとなくながらも分かり、とても参考になりました。
 戒めにも、励みにもなりました。感想を書いてくれた方、評価時に一言付け加えてくれた方、ありがとうございます!


 

 

 そういえば元ヤンなんだったっけ、バイク専門だと思ってた。

 

 

 ジョエルさんに背中を擦られながら、そんな事を僕は思った。

 

 ジョエルと呼んでくれと言ってくれたジョエルさんとは、昨日のやり取りよりも急激に距離が近づいた気がする。

 なんでだろう、それは良いことなハズなのに目が潤むんだ・・・。

 

 

車庫にはバイクもズラリと並んでいたけど・・・車でコレならあっちは何があっても絶対に後ろに乗らないや、僕。

 

 

「王子様が吐いてる・・・」

 

 

 そんな感想を抱かれたら、人間関係完全に終わっちゃいそうな気がする。

 が、悩んでたこと全部が吹っ切れたかのように、母さんと実の母娘のようにキャッキャしてるサラちゃん。

 彼女はむしろ、その事があってから僕に親近感を抱いたかのように見えた。

 

 

  わけが分からないよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 学校の入り口まで肩を貸してくれたジョエルさんは、心配げな顔をしつつ仕事に向かってしまったが、僕は根性で学校見学を続行した。

 つらいが少し休んだし、うずうずしているサラちゃんを待たせるのも悪いだろう・・・なんか案内したいのは僕じゃなさそうだけども。

 

 

 

 アメリカの学校制度では小学一年生から九年生まである。つまり小中一貫というやつだ。小中高一貫で十二年生一貫という奴もあって、この学校は後者だった。

 

 つまりむやみやたらと広いのだ!

 生徒のべ人数も1,500人近い。多すぎて手がいきわたらず、現在は一クラスあたりの人数を減らす方向に動いてるそうだ。

 

 そういえばこの学校は純粋な日本人は少なく、僕と同じ学年に一人と、僕より年上が五人しかいない。

 うち三人は最高学年なので来年にはいなくなるとか。人によっては日本人学校のあるところにいるらしいし、単に私立に行く人が多いのだとか。

 

 公立という事もあり経営が傾いて、一時期非行もグッと増えたらしいが、三年ほど前から大口の寄付金が入るようになり、今はマシになっているらしい。

 

 イッタイダレガキフヲシタンダロウ、キトクナヒトモイタモノダ・・・。

 

 

 

「ここが理科室で、いろんな実験器具があるのよ、サクラ!」

 

「あらあら、国は違うけれどなんだか懐かしい感じがするわね~・・・フラスコとか並んでるわね」

「サクラも使ったことあるの?」

 

「私も小学生したことあるのよ?」

「・・・全然想像つかない!」

 

「サラ、ひどーい!」

「えへへ」

 

 

 途中退場したジョエルさんによると、今まではサクラさん(MsSakura)と呼んでいたらしいのだが、母さんが何だか年を喰って感じるからいい機会だしMsを外してくれと言ったらしい。

 

 教養のある家庭だとまずやらせないけど、ここでは俺たちが外人だしいいか!という事らしい。たぶん近所のお姉さんな感じが、そろそろ<検閲されました>の自尊心を満たすのだろう。

 

 

「あっちはなに?」

 

「あっちは音楽室!」

 

「・・・・・・僕の案内じゃなかったっけ?」

 

「音楽室は私が二年生になってから、楽器がいっぱいあるんだよ~!」

「あら~、他も見たけど、まともに使われてるのね?」

 

 僕のつぶやきは、虚空に吸い込まれてしまったらしく、誰にも届かないようだ。

 ホント、思わず苦笑してしまうくらいに仲がいい。

 

 

「妬かない、妬かない」

「やかない、やかない」

 

       「「ね~!」」

 

 満面の笑顔で顔を合わせる二人。

 そのまま歌でも歌いそうな軽い足取りで先に行ってしまう。

 

 

 

 ・・・・・・やれやれだぜ。

 

 僕には肩を竦める事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたりを大まかに説明すると、サラちゃんは「母さんに」見せたいものがたくさんあるらしく、引張って行ってしまった。

 

 どう考えても僕の存在が邪魔だったので、しばらく一人で見て回りたいと言ったら、その五秒後には二人の影も形もあたりから消え失せていた。

 少し寂しくもあるが、父子家庭の女の子だ。ここは僕が大人になるべきなんだろう。

 

 

 そのまま突っ立っていてもバカみたいなので、僕も歩き回ることにした。

 

 

 しかしやはり日本と色々違って面白いものだ。廊下にズラ~っとロッカーが並んでるのもそうだし、廊下の幅や高さが大きいのもそうだ。

 

 背の関係でそうなるのだろうけれど、やはりアメリカのモノはなんでも高く作ってある気がする。

 

 

 理系棟やらなんやらも独立して作られているし、チラリと見た教室の時間割を見ると授業のたびに教室が移動になっているようだ。

 歴史、生物、化学、物理、数学なんかが全部教室違うってのも面白いよな。

 

 

 

 あ、ぶらぶら歩いてたら、気持ち悪かったのだいぶマシになってきたかも。

 

 

 

 しばらく歩いていると、休みとはいえちらほら学生とすれ違う。色々抱えながら移動する生徒が大半なので、休みの間の課外活動的な何かだろう。

 そんなに多くなさそうだし。

 

 その多くはこの学校は制服なので、私服でうろついている僕を怪訝そうに見ている。女の子は少し黄がかった半そでシャツに深緑と灰色のチックスカート。

 

 同じくらいの年の男の子は・・・半ズボンか・・・。

 

 

 すっげえ履きたくないが、ジュニアハイまで我慢するしかないんだろうな・・・わかっていたこととはいえなんだかな。

 

 

「You can’t just come in and walk around, you now?(勝手入って歩きまわっちゃダメって知ってた?)」

 

 自分の半ズボン姿を想像して萎えていると、女の子に声をかけられた。

 思ったより注目を集めてしまっていたようだ。

 

 

「Was it that obvious?(そんなに目立った?)」

「Duh?(そりゃねぇ?)」

 

 

 まあ俺だけ私服だしね・・・。

 

 学校の許可は取ってるよと告げつつ振り返ると、左側の髪を編み込みにし、もう半分を後ろに流した、切れ目の女の子が腰に手を当てて立っていた。

 

 僕より背が高く、中学生くらいだろうか?肌は焼けた感じじゃなく浅黒く、たぶん黒人かヒスパニックと、黄色人か白人のハーフの子じゃないだろうか。今風だが制服を着崩した様子も無く、清潔な印象を与える子だ。

 ・・・いや、中東の方か?その辺って見ただけじゃわからないよな。

 

 

 ちょっと失礼にあたりそうな、微妙な事を考えていると、疑った事を謝ってくれた。

 

 チャイニーズかコリアンかと聞かれたので、ジャパニーズだと答えた。

 

 

「あら、ならお仲間ね?」

「君も日本人?」

 

「ええ、パパが日系二世のアメリカ人で、ママが日本出身の黒人とのハーフなの。複雑な家庭でしょ?」

 

 ・・・それは見た目日本人なパパの方が英語が上手で、見た目アメリカンなママの方が日本語が上手ということだろうか?

 

 それはコンプリケイテッド(複雑な家庭)というよりコンプレックスド(こんがらがる家庭)って感じじゃねーだろうか?

 

 

「ええ、まさにそんな感じね、面白いでしょ?」

 

 そうフフッと笑う彼女の顔は、野性的な魅力を感じさせる。スカートから伸びるしなやかな脚を見てると、滑らかな毛皮の黒豹を彷彿とさせる。

 でも僕は、きっと彼女も将来ジャガーF-type(僕の不調の原因)とかに乗りたがるんだろうなと、エロスより先に憂鬱な感情を抱いた。

 

 

 

「ところでエレメンタリー(小学生)に見えるけど、ご両親はどうしたの?」

 

 ニコニコとしながらそう問いかけてくる。

 ・・・ふむ、僕の緊張が解けるよう仕向けてたのか、いまの会話。そう気が付くと、親しげにしながらも間合いがきちんと取れてる。

 

 

 別に害意も無さそうという事は、素でやっているという事だけど、いったいどんな教育を受けてるんだろう・・・この子ちょっと興味がわいたかもしれない。

 

「実はいったん別れて見て回ろうという事になったんだけど、思いのほか広くて集合場所わからなくなっちゃいました」

 

 

 それは大変なんじゃない?と眉をしかめる彼女。

 

 

「いえ、でも分からなくなったら表の駐車場で、って事になってるし平気かな?

 でもいい加減一人で見て回るのも飽きてきちゃってね~・・・よかったらお姉さん、案内して貰えません?」

 

「そうね~、もう用事は終わっちゃったし、いまシズカ・・・一向に現れない友達と待ち合わせててね。その子も一緒でいい?」

 

「ほんとに?迷惑じゃない?」

 

「用事が無いからね、今日はお姉さんの特別よ~?」

 

「じゃあ特別ありがとう!」

「はい、どういたしまして」

 

 

 ちょっとフランクすぎる気もするが、ハイソってわけでもないし平気だろう。あんまり相手を上に見過ぎるとギャップが埋まらなくなるしな。

 

 

「ところで僕は立花洋介、お姉さんは?」

 

「私は・・・

  

   「リ――――――――――カ――――――!!ごめ―――――ん!!!」

        

                               Obvious isn’t it(わかったかしら)…?」

 

 

Ahh…Duh(あ~・・・まぁね)

 

 

「途中で躓いて箱の中身ばら撒いちゃって、それを拾い集めてたら置いておいた箱に男の子が躓いちゃって、それでまたそれを拾い集めてて・・・!」

 

「ええい、落ち着きなさい、鬱陶しい!」

 

 

 リカに飛びついた女の子は、セミロングの艶やかな髪を振り乱し頬ずりをして謝るが、容赦ないチョップが額に炸裂する。

 

「いった~い、何するのよリカ~!」

「寄るな、触るな、っても~む~な~!!」

 

「ギャン!?だってリカの胸大きくて気持ちいいし・・・」

「あんたに言われると嫌味にしか聞こえないのよ!てか嫌味か~!!」

「・・・もみもみ」

 

「静香、いい加減にしなさいよ・・・?」

「いふぁふぁふぁ。りふぁ、いふぁいふぉ!」

 

 

 しばらく百合百合しい漫才に呆気にとられていると、僕の存在を思い出したリカが頬を赤らめてコホン!と咳ばらいをした。

 

「な~に~リカ、おっさん臭い咳払いなんて・・・あれ、誰この子?」

 

「よかった、今日は一日段々と透明人間になる日なのかと思ったけど、気が付いてもらえた」

「わ、わざとじゃないのよ?」

「あ、君にっぽんじん?よろしく~」

 

 

 シズカって呼んでね、とニコニコしながら頭を撫でてくる。

 

 

「さっき言ってたお友達ですか?」

 

「ええ・・・悲しいことに」

「リカ、ひど~い!」

 

 ぷんぷんと頬を膨らませるシズカ。

 あぁ、なんだか似た雰囲気の人を知っている気がする。

 

 

「改めてよろしく、私は南リカよ。漢字じゃなくてカタカナのリカね?」

「鞠川静香です、静かに香る~・・・なんちゃらの川って書くのよ?」

 

「なんちゃらって・・・」

「ごめんなさい、こういう子なの」

 

 少し恥ずかしそうに謝るが、リカとニコニコ笑っている静香の二人の距離はかなり近い。女友達がたまに百合っぽいのは普通だと聞くし、すごく仲のいい友達なんだろう、うん。

 

 

 

「平気です、どことなく気の抜けてる時の母にそっくりなので。僕は立花洋介です」

「そう、それは大変ね」

 

ん?しかしなんか聞き覚えが・・・。

 

「じゃあ約束通り案内するわね?」

 

 

 抗議の声を上げる静香を黙殺するリカの声を皮切りに、この日僕はようやっとまともに学校を案内して貰うことが出来た。

 

 

 

 

 

「それにしても、キミ英語うまいよね、どこで習ったの?」

 

「う~ん、ドラマ?」

 

「...『Kid』ing me?(私をからかってるつもりかしら、坊や?)

 

「Obvious?」

 

「言ってなさいよ、もう」

 

「え、リカ今のなんなの?」

 

「貴方はいいの!」

 

 

 










英語
 主人公は元々渡米する気満々だったし前世もあるので結構ペラペラ。メインの教材はドラマと映画とホビー本。
 父親は実家の英才教育で、母親は単車の研究の過程で身に着いたというつわもの。


Duh
 黒人系の米語スラングの一つ。侮蔑の意味で使われていたこともあるが、現在では「明らかに~」という意味で使われる。
 黒人系の女の子から広まり、今風の女の子なら人種の区別なく割と使っていて割と困る。
 ライス国務長官がブッシュ政権で現役時にラジオ番組で思わず使ってしまい、慌ててなぜかロシア語で否定しまくった事件はあまりに有名。「Duh?・・・・ニェットニェットニェット!!」


米語スラング
 悪口と撮られがちだが、方言の事もさす。ただアメリカが広すぎて人種が多すぎるので、北部スラングや南部スラングなど、地方によっては全く通じない。イギリスのスラングはまた違った形なので、英語圏の人すべてに共通しないという意味。
 例)プート(雌犬野郎)(まんまスペイン語)、パペール(おじいちゃん)(南部フランス系)、ブロ(兄弟)(黒人系)、カウワバンガ(感嘆詞兼挨拶)(サーファー語)、ゲイ《イケてない》(JK語)


リカ、静香(呼び捨て)
 彼らの会話の一部日英ごっちゃ。なので会話の最中にちゃんを着けたり、外したりしてるうちに、めんどくさいので呼び捨てで行こう!となってしまった。サラもそのうちに呼び捨てなってしまった。その辺は言語文化の違いである。

ミス、ミスタ
 ちまたでは、欧米では平社員が重役を呼び捨てにすると書くおバカな日本人がいますが、そんな事はない。上記はたぶん、ウォールストリートのハイエナやなんかを念頭に置いて話をしていると思われる。
 近年そういう傾向にあるのは確かだが、軍人家系の父親は子供にサーと呼ばせるし、学校もエリート校であれば先生に対してサー、ミスタ、ミス、マムが普通。またイギリスでは事実上のカーストが未だあるので、本当にピンキリではある。平社員が親しくも無い上司にタメ口きいたらその場で怒鳴られるかも?
 正しくは『ある一定の欧米人は気にしないが、ある一定の欧米人は気にする』。同じように地方や、人によって変わるので、ビジネスの機会には「どうお呼びしましょう」と聞いた方が無難だと思われる。



人種
 私は基本、人種や民族でDNAに、人間的に劣った部分があるという考えが嫌いなのです。


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Carol of the bells

 年代的におかしなパーツなんかが出てきてます。後で直すかも・・・?

 興味の無い人はパパーっと読み飛ばしちゃって構いません!すみません、前から書いてたやりたかった事って、こういうのです!(あと次話)



 俺と同じくボッチの人、メリークリスマス!
 相手がいる人は、その人に祝ってもらってくださいww


 

 駐車錠前の日蔭で階段に腰かけていると、黒いSUVが一台入ってきた。FordのEscapeだ。

 見覚えのあるエスケープは僕の立っている、入り口の一番近くで止まると、中から三人の知り合いが出てきた。

 

「ミスタジェームス今日はよろしくお願いします」

「おう、銃が好きってガキは多いが、銃が好きで礼儀正しいガキは少ないからな!お前は大歓迎だよ、ボウズ」

 

 ワハハと豪快に笑う彼はリカの父親だ。

 

 

「ハーイ、洋介。手ぶらだけど何撃つの?」

 

「洋介ちゃん、ハイタ~ッチ!」

「ハーイリカ、イエーイ」

「イエ~イ」

 

 会話をぶった切る静香とハイタッチついでに、リカともハイタッチをする。リカと僕の付き合いで来た静香は、銃に全然興味が無いから先にご機嫌を取っておくのだ。興味ないながらも、最近リカのスポッターをやるのが楽しそうだが。

 

 リカも三回くらいハイタッチを求められてるが、遠い目をしつつ全部受けている。引っ張り込んだ自覚はあるのだろう。

 

「さては洋介、俺のスーパーカッチョいい銃に触ってみたいってところか?」

 

 ライフルケースを車から降ろしながら、ニヤニヤとするジェームスさん。

 タンカラーのカーゴに黒いポロシャツを着ている。多くの州でそうであるように、彼は刑事とSWATを兼任しているため、ごっつい体つきをしている。

 黒い短髪の髪にNOPD SOD(ニューオーリンズ警察特殊作戦課)と書かれたキャップを被っている。

 

 というかいいのかそのキャップ。僕の記憶が正しければSWATは身バレダメなんじゃないのか・・・?

 

 

 まぁリカも父親とお揃いの格好をしていて、二人ともキャップの上にオークリーのシューティンググラスを着けているから、たぶん帽子くらいじゃ誰も真に受けないのだろう。

 

 

 刑事のジェームス・ミナミ・・・そう、初対面の時の反応。どっかで覚えがあるなと思っていたが、俺の時にされた「被疑者を質問するときの警官の位置取り」そのまんまだったのだ。

 どうりで!という気もするし、自然にそんなことできるまで教え込んだ意義を問いただしたい気もする。しないけど。

 

 

 確かにマジモンのSWATの狙撃銃にも興味があるが、違う違うと軽く手を振って否定する。

 

「このガンレンジは父の会社の建物だから、僕の銃は既に中にあるんですよ」

 

 送ってくれた父は、出社したのでもういないが。

 

 

「あら、そう。私も貸してもらっていい?」

「・・・なんでもあんな、ホント」

 

 すこし興味ありげなリカと、肩を落とすジェームスさん。

 お前のとこのが来るまで成金は嫌いだったんだけどな~と、彼は肩を竦めた。

 

 最近できたばっかりだから、利用者でもオーナーなんて知らなくても無理はないけどね。

 社名出してないし。

 

 

 彼の感想に関しても、まぁ俺の頃なら同意見だが、何を隠そうオールザワイズメンが支部寄付しまくってからこの町、犯罪発生率が10%近く下がり、検挙率が30%近く増えたのだ。たぶん嫌いな奴は犯罪者くらいだろう。

 

 いや~、働き口はあんまり増やしてないから健全ではないけど、寄付物と特定のプログラムの推進だけで結構何とかなるもんだ。

 

 

「じゃあ、そろそろ行こうか?」

 

 建物に顔見知りの受付のお姉さんにメンバーズカードを見せると、僕たちはファミリースペースのレンジに入った。

 

 さて、今日は何を撃とうか!

 

 

 

 

 

 

 学校に通いだしてから、1年ほどが経った。

 

 

 思っていたよりも米国のいじめ問題は根が深いんだなぁと実感しつつも、何とか僕は学校になじみつつある。

 呆れるほど大きな家も、何があるかようやく把握しつつあるし、英語ベースの生活にも慣れつつある。何もかも順調に動き始めてはいるが、実は最初は結構危惧する部分もあった。

 

 というのも、日本時の多くは私立に通っているが、実は日系アメリカ人がいるという事を僕がすっかり忘れていたのだ。

 実際に見るまで忘れていたが、スクールカーストよりもよっぽどデカい問題だったというにもかかわらずだ。

 

 そのへんは流石人種のサラダボールと思いながらも、如何にもアメリカらしく、肌の色でグループ分けが、されていることが問題だったのだ。

 たかが小学校と思えどこれが中々にやっかいで、オタク(ナード)スポーツ系(ジョック)イケてる連中(ガーイズ)同士、日本でもある棲み分けでつるむほかに、人種ベースのつながりというのがあるのだ。

 

 

 すなわち上級生、下級生の垣根を越えて、親戚や付き合いのある家族の子供達の結びつきがとても、とても強い。

 

 

 だから下手に苛めが発生した時に、グループ間の闘争だけでなく、人種問題やグループ問題に発展し、超めんどくせーのだ。

 

 

 それを嫌が応にも実感させられたのは、登校し始めてから一週間目くらいだった。

 フランス系グループと日本人グループで「某有名ゲームの本家はどちらの国か」で喧嘩が始まった時だった。起きた時には不覚にも呆気にとられて、逃げる事も忘れてしまった。

 最終的にそれは学年問わずの大規模な乱闘になり、十人を超す停学者を出した。

 

 いやぁ、唖然としたね。だって理由が「ポケ○○」だぜ?

 多くはは発端なんて知りもせずに参加していたというのだから、驚きだ。

 

 

 何とか手を出さずに逃げ続けたというのに、その場にいたというだけで僕も処分されかけたのにはホント困った。駆け付けたリカと静香に弁明してもらい、何とか処分を免れたが、学校ってこんなにスリリングな場所だっただろうか?

 

 後々理解にではあるが助かった理由は、比較的大人しいイメージが強いらしい日本人であることと、アッパーステート(高級住宅街)に住んでいるという事もさいわしたようだが・・・ミスタジェームスが警官だったことが大きな役割を買っていた事が分かった。「問題を全然起こさない、警察官の娘が言うなら」みたいなもんだ。

 

 学校は社会の縮図だとは日本でも言われているが、これほど政治力が必要な団体だったんだなとつくづく学ばせられたよ、まったく。

 

 

  あ、ちなみに僕のコミュニティーはマジモンのガン&ナイフコミュだ。特性上人員は少な目だが、その分学外にコネクションが多い。

 リカやほかの上級生が大会にも出場しているため、影響力とかは微妙だが、地味に一目置かれているコミュニティーだ。

まぁそりゃあ、南部だから銃社会だし、銃大好きな常に銃やナイフ持ち歩いてるおっさんたちとコネがあればちょっとした不良なら怖がる。

 なんせ南部の銃好きというのは、店によっては平気で自分の強面のナイフでステーキとか切り出すのだ。

 

 始めてみた時はギョッとした。正直日本にいたら絶対に関わり合いになりたくない感じの人種だ・・・。

 

 それに銃好きな子供が影響力を持てば教師だって過剰反応しかねないから、こちらとしても変な事件は起こせない。

 

 

 

 

 なんにせよ、その縁あってリカと静香とも仲良く付き合いがある。正直リカと仲良くなったら、静香とも・・・と言った面もある。あの二人いつも一緒だからね。

 

 美人二人と仲がいいから、日系グループからはちょっと嫌われてるけどね。

 ・・・さしずめオタクの可愛い子に、非ヲタのイケメンが近づいたみたいな感じだろうか?他にもかわいい子いるんだからウチの界隈から取るな!的な・・・?

 

 

 

 僕の感覚としては、結構散財してるし、普通に金持ちしてるつもりだから、ちょっとくらい隔意を持たれるかな?と思っていたが「君といると楽しいし、金持ちっぽく鼻につかない」らしくそんな事は無かった。

 

 どの辺がプラスに働いたのか、未だによくわからないが、ジョエルさんも似たようなことを言っていたのでこのままのスタンスで構わないのだろう。謎だ。

 

 

 

 リカからは、派閥の取り込みなんかをそそのかされた時は、迷わず相談するよう言われた。なんでもリカの父親のジェームスさんが割と影響力の強い刑事で、日系コミュニティーの調停役のような人なのだそうだ。

 

 彼によると、えてしてアンダーグラウンドはヤンキー、族からヤクザへと、段々とつながりがあるらしい。一度入ったら中々抜け出せないといわれる由縁は、この辺りにあるのだろう。

 

 

 

 もちろん頻繁にこんな事に巻き込まれる人がいるわけではないが、いざとなったら結構本気でコネがモノを言う世界らしい。

 

 

 

     そんなこんなで、色々と学ばさせられる二月だった。

 

 

 

 悪いことをする気はないが、警察とは仲良くしておくべきなんだな~と実感した僕は、すぐに父に相談して色々とばら撒く事に決めた。

 

 

 まずニューオーリンズ警察宛で

パトカー10台

ハイエース5台

白バイ6台

タクティカルベスト150着

タクティカルベルト1000個

メディキット500個

ペッパースプレー1000個

ミル サンダー5  120丁

.410ショットシェルの非殺傷弾50000発

Glock21 50丁

M4 15丁

RemingtonM24sws  15丁

MP5 15丁

MP5K 5丁

Keltech KSG 40丁

非殺傷ショットシェル4000発

電気式閃光弾50個

シェアファイアーローマンフラッシュライト400

サーマルカメラ10台

暗視スコープ10台

化学防護服50着

遠心力分離機1台

薬物測定機1台

DNA測定器1台

携帯指紋照合機10台+ソフト

携帯臭気分析器5台

FAXコピー機30台

鑑識用カメラセット3台

薬物鑑定試薬セット500個

非常食500食

毛布200枚

 

 基本は、それだけではないけれど、警察のレスリーサルな質を全体的に上げる感じの寄付だ。

 非殺傷を選べる武器というのは結構知名度低いし、いざ導入するとなると抵抗が出るもの。なので、一方的に手段を増やさせたのだ。

 

 .410ショットシェルというのは45口径と円周がほぼ同一という、かなり小さめのショットシェルで、ハンドガンで撃ってもそこまで反動が強くない。

 そのためにリボルバーに詰めて使えるようにしてしまえ!というのがこのミル社のサンダー5だ。むろん開発元はレスリーサルとか考えていなかったが、未来知識で知っているので先取りしてしまった。

 

 というのも通常弾薬を非殺傷にするのはとんでもなく難しいが、ショットシェルなら割と簡単なのだ。

 バードショットくらいの小さい鉛玉なら、袋詰めにしてしまえばよほど当たり所が悪くなければ人は死なない。しかもリボルバーならショットガンほど嵩張らないので、現場の警官も使い勝手が良いという寸法だ。

 

 

 次に市に対して

消防車2台

はしご車1台

消火器500個

インパルス消火システム8個

救急車5台

簡易血圧測定器50個

体重測定器25台

音波測定器3台

薬物測定器3台

CTスキャナー一台

毛布3000枚

非常食1万食

組み立て式二段ベッド50個

中古図書8000冊

中古パソコン300台

 

 

 

 とそれからホームレスシェルター基金に15万ドル、職業支援基金に30万ドル、軽犯罪者職業支援プログラムに50万ドル、負傷警官支援基金に30万ドル募金した。市のチャリティーオークションでは50万ドル分の落札を行った。

 

 かなり無茶したかな~と思ったが、父親は良いことに使う分には全く問題ないとのこと。当たった宝くじが元手で、それをすべてチャリティーに使ったため、結構な節税になったらしい。

 アメリカの寄付をする金持ちには多いらしいが、税金でわけわからん使われ方するくらいなら!(寄付の総額で税金が減るため)という事らしい。

 流石金に困らん神様特典・・・。

 

 

 というかはしご車、測定器とかCTスキャナーって死ぬほど高いのな。

 

 

 市長も飛び上がって喜んでいたけれど、警察署長に至っては車両を見るなりモミ手ですり寄り、コンテナ二個に詰めた寄付物を見て父親に抱き付き、寄付金に気が付いてキスの嵐を降らしていた。

 

 40も後半に近いメタボリックの濃ゆい顔のおっさんに、サバ折りとデスキッスを頂いた時の親父の顔を、俺は一生忘れられないだろう。

 

 

 あ、Glock17(9ミリオート)じゃなくてGlock21(45口径)なのは、米国警官が基本的にフォーティーファイブ信者だからだよ。

 

 40S&W?聞こえんなぁ~・・・。

 

 

 

 

 

 

 現物ばっかりで目に見える形だったのもあって、現場の警官たちからもかなり支持を得た。特に5.11社のZeroG plate付きのタクティカルベルトは、腰にメチャクチャ優しいと好評だった。

 

 ややこしいがなんでも全米で、身に着ける道具の多さゆえに退職までに腰痛になる警察官が4割近いとかなんとかで、それを解消するために医者やカイロプラクティシャンと共同で開発したと持ち込まれたものを、パテント取って販売してる代物だとか。

 

 コンセプトは良いものだけれど、流石に子供用は無いので、僕は使っていない。

 

 

市の検挙率が上がったのは、 何よりもDNAや指紋照合がより早くされるようになったからだろう。これには本当に感謝された。

 

 

 そんなこんなで、立花家は地元に好意的に受け入れられている。

 

 おかげで警官の娘リカや医者の娘の静香とも、家族ぐるみで仲良くなったし、万々歳と言ったところじゃないかな!

 まあそのあいだに色々とあったが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

「で、今日は何を撃つつもりなの?」

 

 流石に自分自身の銃を持っているわけではないので、父親が射撃台の後ろにあるデカい作業台でセッティングをする間、暇だったリカが尋ねてきた。目がキラキラと輝いている。

 

 リカが銃を趣味にしていると聞いてから、何度か射撃に行った時に父が調子に乗って色々見せたことがあるからだろう。あの時の食いつきようは凄かった。

 

 苦笑しながら保管室に入り数ある中から自分用のと、彼女の好きそうなライフルを持ち出し、一丁彼女に渡した。

 

 

 

 

 この射撃場は他に何もなさそうな草地のど真ん中にあり、縦2.2キロあり横は200メートルほどある。社の持ち物とは言ったが、法律と経営がめんどくさいので新しくやりたい人に丸投げした、厳密には85%以上の出資者って感じだ。子会社だね、ようするに。

 

 縦が長いのは先に飛び過ぎた時に人がいると困るからで、ターゲット側には四メートル程の土壁がある。45度で撃つような馬鹿には対応できないが・・・その先は誰も来ないような草原しか広がっていないし、壁を超えるような撃ち方したら一発出禁になっている。

 弾着の確認やターゲット替え用に簡単な車道も用意されているので、誰かほかに使っている人がいる場合は注意が必要だがかなりいい設備なんじゃないだろうか?

 

 屋外射撃場の隣にはキリングハウス風の室内射撃場、とスリーガン風やその他イベントに使える広場があるしね。

 

 メインは入り口にある駐車場と白い受付兼管理事務所な建物と銃砲店以外、人避けのフェンスをグルーッとめぐらしただけの簡単なものだ。

 ちょっと安っぽく感じるが、38のゆったりとした射撃スペースにしっかりした屋根と柱という、スタンダードなものよりちょっと良い設備だ。

 

 よくある柱とフラットな屋根だけみたいな構造だが、仕切りもあるし冬場は寒いので、開いてるところはすべてシャッターを下ろせるようになっている・・・とはいえニューオーリンズは雪なんて滅多に降らないので、密封という感じではないが。

 

 50メートルまでならペーパーターゲットを、紐を使って移動させるリールも備え付けられている。

 またファミリー用の四つあるファミリースペースはソファーがあったり、射撃場からもはいれる銃砲店は中々の品ぞろえだ。ちなみに銃砲店の方にも頼んで、店のガンロッカーの一部を社人専用ガンロッカーとして使っちゃったりなんか・・・。

 まぁ、マニアな店主なので、銃は好きに使っていいよと言ったら、速オーケーを貰ったが。

 

 

 

 

 リカは渡した銃をすぐさま気に入ったようで、スコープを覗いたり、ボルトを開け閉めして感触を確かめている。

 女の子とゴツイ銃って・・・良いけど、リアルに見るとクルものがあるなぁ・・・。

 

 

 

「・・・おい、おいおいおい!

よく見たらそのボルトハンドル、トリガーにマズルってことは、それM24SWSか!?純正品が手に入るわけが・・・!?」

 

 

 自分のライフルを用意していたジェームスさんが、ふと娘に渡された銃を見てあわて始めた。

 

 しかし、一見してわかるとは流石だ。コアメカニズム以外ほとんど改造してあるのになんでわかるかな・・・刻印すらないぞ?

 

 思わず「秘密です」と音符でも付きそうな感じで返すと、頭を抱えてぶつぶつ言い始めた。

 

 

「馬鹿みたいにカスタムされまくってるけどそうだよな・・・・・・・・・そうか、寄付できるくらいなんだから、どうにか調達ぐらいできるよな・・・」

 

「?変なパパ」

「アハハ~、まぁ特殊な銃なのは確かだよね」

 

規制品だからね~。

 

 

 しかしぶつぶつ言いながらも手の止まらないところも、流石だ・・・。

 

 

 

 

「ねぇ、撃つなら早くしようよ~」

 

 静香はいい加減じれてきたようだ。今日はジーンズ地のワンピースなんて珍しいものを着ている。

 

「はいはい、じゃあ撃ってていい?」

 

「うん、これが弾だよ。僕でも撃てるように、かなりストック調整できるようにしてあるから、匐射がいいかも・・・あと反動強いからストックの間にこれ挟んでね?」

 

 二ミリほどのウレタンシートと7・62x51精密射撃用NATO規格 FMJBT弾(M118LR)を手渡すと、リカは静香の手を引き、射撃台脇のスペースにマットレスを敷きマガジンに弾を込めだした。

 

 これセミオート用じゃないとか言っているが、聞こえない振りをする。

 

 

 精密射撃弾とは文字通り、精密射撃用に通常の工場規格ではなく、通常のNATO弾よりも厳格な検査規格を求められた弾だ。作り方も違うわけで、その分お高くなるが弾のバラつき方が全然違う。

 もちろん職人のハンドメイドカスタムの専用狙撃用弾丸より精度は低いが、手間が省けるし僕はその精度の射撃技術は持っていないので、こちらで十分なのだ。

 

 

 FMJとは鉛の弾丸を鋼で完全に覆ってしまっている完全被甲弾の事で、貫通力を高めた弾丸規格の一つである。別にそんな物騒な弾丸が欲しかったわけではないが、サープラス・・・つまり軍、法執行機関用品の払下げを買い取ったのでこうなったのだ。

 ちなみに、BTはBoat Taleの略で、船尾のようにフットボール型じゃなく切り落としたみたいな形になっているという意味だ。

 この後ろの形一つで結構精度が変わるのだ。

 

 

 

 いや~しかし、父親がSWATのスナイパーという事もあって、ボルトアクションを好むとは思ってたけど・・・すごい目がギラついてるな・・・。

 よっぽど気に入ったようだ。自信作の一つではあるんだけどもね。

 

 

 込め終わったのか肩幅に両足を投げ出した形のプローン姿勢を取るリカ。流石に親仕込みとあって堂に入った構えだ。つま先も立っていない。

 

 そしてそのまま色々ギミックを調整しだした。

 静香は胡坐をかいて座り、三脚に乗せたレンズのついたデカいメガホンみたいな単眼鏡をのぞき込んでいる。

 

 中々面白そうなことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 リカの構えている銃だが、元はジェームスさんの言う通りM24SWSという銃だ。レミントンM700をベースにした軍用高性能狙撃銃で、一部警察などにも使われている。

 

 名前ももうそのまんまで、M24 Sniper Weapon System(狙撃兵器システム)である。

 販売元のレンミントン社は、付属するパッケージまるまる含めて一つのシステムであると豪語しているわけだ。

 

 

 元々高性能なM700をベースにしているとはいえ、言うだけあって相当優秀な銃である。がどうせだからもっと使いやすくしよう!と七十万ほどのこの銃を徹底的に改造したものがコレである。

 

 本体とストックのジョイント部分には折り畳み機能を着けて持ち運びを容易にし、ストックはMagpulPRSという強化ポリマー素材のものに変えた。丈夫で軽いうえにチークライザーやストックの長さの調節が効く優れものだ。

 このストックは下部にピカデニーレールが付いているので、そこにはAccushot社のモノポッドを着けた。このモノポッドは伸縮だけでなく、折り畳み機能が付いているため、砂袋をストックに当てるより早く調整が出来、無くしようが無いため持ち運びも楽なのだ。

 

 

 本体はそれほどいじらなかった。

 代わりに固定マガジンを廃止し、Surgeon社の、AI社のAICSマガジンを着けられる、マガジンシステムをところどころ削りながら着けた。

 元の銃は五発の固定マガジンしかなく、トップロード式だから若干使いにくかったのだ。まさかライフルで『ニューヨークリロード』するわけにもいかないしね。

 

グリップも取り外し可能にし、今はBCMGunfighter社のMod0グリップを着けてCQBにも対応させている。

 トリガーガードは手袋をはめても使えるよう、ぶった切ってから広く取り、かつ下に出っ張りを作りフィンガーレストとした。とげみたいな形になっている。

 トリガーは、特に変える必要性を感じなかったので純正のままだ。

 

 本体も必要部分はすべてアルミ合金だが、穴あきしまくり残りはポリマーにし、強度を確保しつつ極限まで軽量化を図ってある。

 

 

 銃身部分は当然、一体化したアッパーレシーバーではあるが、穴抜きしたアルミ合金フレームで20インチ銃身をフリーフロート化。上部はすべてピカデニーレール化してある。

 上にはカスタムオーダーして調整器と照準器に、距離目盛のついたMMil基準(メートルミル基準)にしたLeupold社 のLR Mk4スコープが載っており・・・それとMagupul社のMBUSオフセットサイトがついている。これはマグプル社には珍しく金属製のサイトだ。プラスチックのモノより小さくいところが気に入っている。

 

 またスコープにはDefence age社のACI/ACD MOUNT COMPLETE W水準器とクリアー光学のボタンコンパスを張っ着けてあるため、方位と銃の横と上下の傾きが分かるようになっており、観測手なしでも銃単体でもかなりの精密射撃が出来るようになっている。

 

 

 バイポッドはハリス社のHBRSという銃を傾けられるバイポッドに、同社のSLockという銃の傾き固定器具と、RBA-1という銃本体とバイポッドのジョイントを横方向に可動させられる器具が付いている。バイポッドの位置を変えずとも照準を横に振る事の出来るもためのものだ

 これにより、動いているものにも対応できる。そしてオフセットサイトを、バイポッドを着けた状態でも銃本体を傾けて、使用できるようにしているのだ。

 

 さらにこのバイポッドには固く締めるためのロックがついているから、移動時には可動して音を立てたりしない。

 射撃時にこそ必要なそのゆるみだが、持ち運びの時に鳴って相手に気が付かれないための配慮だ。

 

 

 スリングはMagpul社のMS4QDスリングを使っているので、銃にはストックとレールの先端とストック後ろにQDマウントが付いている。

 QDマウントはスリングと銃のジョイントが挿入式なため、特別なアタッチメントを着ける必要があるが、カチャカチャと耳障りな音を立てない。スリングの音が気になる人には必須といえるだろう。

 このスリングは一点スリングの他、二点スリングにもなる使い勝手の良いスリングだ。このスリングとストックの折り畳み機能を併用することで、室内でも取り回しの良い運用ができるので、『CQB対応長距離狙撃銃』という相反した特性を、この銃に持たせることが出来たのだ。

 ストックがある場合は体に引きつけるように、折りたたんだ場合は銃を突き出すようにして固定する。無論ボルトアクションライフルだから、連射性は低いが、それでもCQBに対応していれば運用の幅が広がる。

 

 

 レミントンMSRが発売されたり、アキュラシーインターナショナルのAICSがGen6(第六世代)くらいまで進めばベースをそこから始めても良かったが・・・MSRは当分先だし、現行AICSは七キロ近い上にライトや暗視スコープやQDスリングを着けようとすると、そこここに穴を空けまくらなければならない。

 

 

 そしてなによりも・・・重い!

 

 スコープ、バイポッド、マガジン無しで7キロ強とメチャクチャ重い!

 アルミ合金とポリマーを使いまくった今の銃は、弾丸も全部合わせて6キロにぎりぎり届かないといえば、どれほど違いがあるかがわかると思う。

 頑張っただけあって、満足の行く出来に仕上がった。コストパフォーマンスは・・・。

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 ・・・・・・製作費は千万を超えたとだけ言っておこう・・・。

 

 

 

 

 

 いずれにせよ、使い方さえ知っていればとんでもなく懐の広い銃だが、わからなければどうにもしようがないものだ。リカはどうするのだろう?

 









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Lithium flower

二話連続投稿


「考えるな、感じろ!」
      ~李 小龍(ブルース・リー)~『燃えよドラゴン』より


 

 

 コンクリートの床に薄いマットレスを敷くと、折りたたまれたストックとバイポッドを広げ、ストックにクリアブルーのウレタンを張り付ける。

 銃を持ったままマットレスに腹ばいになると、帽子を脱いで横に置き、両肘を地面について、私はストックを肩付けした。

 

 マガジンを入れないまま、引ききった状態のボルトを開け閉めする。弾は入っていないが、動作は良い感じ。

 ストックに目を落とすと、長さの変長とチークピースの昇降が出来るようなので、それも弄ってしまう。意外だけれど、子供の私より小さく調整してあったから、この銃を最後に使ったのは洋介なのだろう。

 

 チークは高く、ストックは短くしてあった・・・なんだか引っかかる。

 

 

 気を取り直して砂袋をストックとマットレスの間に置き、イヤピース(耳栓)とイヤーマフを着ける。

 風の音も、木の葉のざわめきも、全ての音が消え失せる。そしてそれは狙撃前にいつも感じる、胸の高鳴りをより強く感じさせる。

 

 私の好きな音だ。

 

 

 

 耳の保護が出来ていることを確認すると、イヤーマフを首にかけ、イヤーマフを片方外す。

 

「距離は?」

「500メートル」

「風」

「追い風で微風、風速・・・2」

 

 打てば響くように答えてくれる静香。

 静香も最初は嫌々していたけど、一緒にやるというところが少し楽しく感じているように思う。

 医者の娘にこんな事を仕込んじゃったのは少し申し訳なく思うけど、なんだかんだ言いながら付き合ってくれるんだから仕方ないわよね?

 

 

「洋介、ライフリングは何?」

トゥウェルブワン(12-1)のコンペンセイター無し。メチャクチャカスタムしてあるけど、説明は?」

 つまり飾り立て(・・・・)以外はスタンダード。

「とりあえず撃ってみるわ・・・ゼロイング(照準点)は?」

「25。頑張ってね」

 

 

 警官の娘の前でミルスペック(軍仕様)ってことね?いい度胸だわ。

 

 見た瞬間びっくりするような近未来的なボルトアクションライフルは、パパと洋介の会話を聞く限りレミントンM700のマッチカスタム。

 頬付けしても機械油のツンとした匂いすらしない・・・むしろミントのような良い匂いのする、摩訶不思議な銃。

 

 色々ついてるみたいだけど中身は22インチ銃身のトゥウェルブワンツイストでコンペンセイター(反動、発火炎、銃声の抑制器)無しのノーマルと同じ。

 

 それで25メートルゼロ(25mで当たる、警察なら100)という事は600メートルゼロイング(米軍精密射撃手照準点)と理論値は一緒という事だ。

 跳起(銃身の跳ね上がり)によるブレは考えなければならないけど、風は微風だし誤差は右に1クリック程度ってとこかしら。

 

 赤い点のついたセイフティーの上に着いてるボタンコンパスによると、南寄りの南南西だから、コリオリ力による影響は500mならあまり考えなくていい。

 

 スコープからも草原の草が少し揺れているのが見えるが、これなら凪ぐかもしれない。

 

 ターゲットはスチールターゲットだから、最悪目視確認は必要ない。当たれば金属音がする。

 14倍率のスコープ越しに、塗ったばかりの真っ白な鉄板が見える。真ん中には黒く点が塗られている。このスコープではMilドットの半分だから0.1Mil・・・直径五センチくらいかしら?

 

 

「フゥゥ・・・」

 息を吐きながらグッと銃を体に引き付ける。右手の人差し指はまだトリガーにはかけない。

 

 ほぼ真横に標的があるからバイポッドの調整はいらないはず。引き付けた分だけ変わったチークピースとストックの位置を調節する。

 ストックを抱え込むようにして砂袋を握りしめる左手。カーキ色の砂袋を握りしめたりゆるめたりしながら、ストックの高さを整えていく。

 

 

 スコープには上下の調整ノブの手前側には小さなチューブが付いていて、その中には蛍光黄緑の液体で満たされ、空気の泡が一つ閉じ込められている。

 この泡が真ん中のちょうど泡と同じ間隔の二つ線から外れていると銃本体が傾いているという事になるが、今は真ん中にある。

 

 私は、こんな便利なものもあるんだなぁと思いながらも、すぐに使い方が分かった。

 きっとそれはパパが教えてくれたことが身に着いてるせいだ。身についていることが実感できて、ちょっと嬉しいかも。

 

 

 なぜコレの使い方がわかるのか?

 それは狙撃をする時に絶対に気を付けないといけない事を、このインジケーターが示していると直感したからだ。

 

 銃弾は撃針に叩かれ本体から発射される際、銃身の内側に彫り込んである溝(ライフリング)によって回転をしながら飛び出す。縦方向ではなく、感じとしてはラグビーボールみたいな感じになる。

 そしてこの銃弾の回転というのは、ちょうど上方向のカーブボールのようにかかっている。

 

 そのため実際の丸い弾丸が描く放物線よりも登頂点も到達点もはるかに高く長く、そして空気抵抗を出来るだけ受けずに、受け流しながら進んでいくのだ。

 

 

 しかし、銃身の上方向にカーブしている故に、銃を傾ける行為(キャンティング)をすると、傾けた方向に銃の軌跡も傾くことになる。放物線が斜めになってしまう。

 

 そうなれば、銃身とスコープの横位置が一致しない以上の問題が出てきてしまう。

 

 

 分かりにくいかもしれないけど、つまりこれは銃弾が野球と同じカーブ回転により普段より横にそれるだけでなく、登頂点が低くなり、弾着点が左右だけでなく上下にもずれてしまうってことよ・・・・・・と説明したら、洋介はしばらく信じていたわね。

 

 なかなか可愛げのあるふくれっ面だったわ。

 

 

 もちろん回転で空気を受け流す際に、左巻きか右巻きかによって多少違いは出るけれど、それは縦方向とはあんまり関係ない。

 銃弾は弾の先端を中心に、コマのようにまわってジャイロ効果を得て安定した軌道を描いているのであって、上下には関係しない。

 

 もちろんライフリングと銃弾の接触位置が変わって、回転率が変わるという事もあるけど、それは本当に微々たる変化ね。

 

 

 ホントは、キャンティングをした際に銃身を中心に傾けていないため、銃身の傾きが変わってくることが問題になる。

 これは銃弾が発射された際に放物線を描くため起こる事ね。元々スコープと銃身は水平に設置されていないから、スコープを中心に傾けるとスコープと銃身の傾きだけ倒した方向に着弾点がズレてしまう事になる。

 

 指を半開きにした鋏のように重ねるとわかりやすいかしら?

 一本をスコープに、もう一方を銃身に見立てて、スコープを地面と水平に保ったまま45度銃身を傾けたら、弾着点がどれだけズレるかがわかるわね。

 

 

 ある程度射撃を身に着けたのなら、これさえクリア出来れば、馬鹿でも的に当てられるということ・・・それを何発で当てられるかは別としてね?

 

 

 

 さて、後はスコープの調整だけね。

 相当カスタムされているスコープらしく、陸軍出身のパパが教えてくれたメートル法準拠の再度フォーカスノブやイルミネーションノブまで付いたスコープが乗っている。

 

 わざわざ「Custumed in Meter」とレーザー刻印されているところを見ると、エレベーションノブの細い赤い線はクリックで、太い白い線と文字は均等に着いていないから多分距離目盛だろう。

 一々クリックで合わせていかなくていいように、銃、弾、射手、ゼロイン毎にカスタムされた距離目盛・・・ね。

 この銃一丁にいくらかけたのやら・・・。

 

 

 

 なんにせよ、せっかく面白い銃を貸してもらったのに、いきなり距離目盛を使ってしまっては面白くないわね・・・。

 

 かと言ってゼロから全部合わせるのも面倒だし、後で治すのが大変だから、この状態から左右と上下を合わせてやってみましょう。

 

 

 25mゼロと洋介は意地の悪い言い方をしたが、要するに600mゼロになっているという事。実際パラレックスノブの目盛も600mを指してる。

 そして距離は500m・・・弾はM118だったわよね?

 

 1milは100メートルで10センチ(スコープに映るドット中心から)だから、等倍(次のドット中心まで)500メートルだと50センチ(ドットの間隔が実測値と等いため)

 このスコープは1/8Milだから・・・1クリック(左右上下の調整ノブ1メモリ)で50センチの8分の1だから6.25センチという事になる。

 

 500メートルから600メートルでの落ち幅の違いは127.3センチだ。つまり

 

127.3(銃弾落差)   ÷ 50(500mでのMil値)     ×    8(1クリックで変わる距離)=20.368

 

 となる。

 0.368クリックなんてできるわけないから、20クリックと気持ち上と言ったところね。

 

洋介は私と同じで右利きだから、乗り出し具合は気を着けなくていい。今まで見た感じ反動の制御はそこそこできてるから、私より弾は右上に行くだけ多分上と横に1クリック程度。

 

 私はグリップから手を放し、エレベーション(上下調整)ノブを20クリック回し、ウィンデージ(左右調整)ノブを1クリック左に動かした。サイドフォーカスは500。

 

 

 ノブを見ると、ほとんど距離目盛と合致している。

 この距離目盛というのは今までしてきた計算をあらかじめしておいて、距離ごとにそのクリックの場所に入れてある線の事だ。

 今みたいに計算すると時間もかかるし、20も50もクリックすると途中で何クリック目だったかを忘れてしまったりする。

 

 そういうめんどくさいことを省ける便利なもので、こちらを使った方が楽なのだけれど使わなかった。だって、つまらないじゃない?

 

 だから今回はわざとクリックで調整した。

 それにこれこそ狙撃の醍醐味でもあるし、気分的に入る(・・)のに丁度いいマインドセットなのだ。

 

 

 

 もう一度呼吸をする。

 

 いい感じに集中してきた。

 

 

 

 薬室に弾が入っていない事をもう一度確認してから、マガジンを差し込む。狙撃の体勢を作って一度全身に力を入れてからゆっくりと力を抜く。

 

 バイポッドが跳ね上がらないように、少し前に体を移動させ、バイポッドの前方向の遊びをなくす。こうすることで銃を撃った時にブローバックをバイボッドの後ろへの移動で多少殺せるからだ。

 

 

 ボルトを前後させ薬室に弾を送る。少しボルトを後退させ、弾が装填されたのを確かめてから戻し、グリップを握る。

 そしてもう一度砂袋を握りながらストックの位置を調整し、レティクルをスチールターゲットに被せ、照準を合わせる。気持ち左、気持ち高め。

 

 

 

 目を閉じて3回深呼吸をする。

 目を開けるとレティクルは狙ったところからズレていない。

 

 

 

 体に力は入っていない、銃は完璧で照準も出来る事はやった。スコープ上に揺れるものは何もない(風が凪いだ)

 トリガーに指をかけて、絞るように引く、その何もかもが遅く感じる刹那、先ほどの違和感が何だったのかに気が付いた。

 

 

 ストックが短く調整してあった(すっぽり体が腕の中に収まるかも)

 

 チークは高く調整してあった(きっと彼の肩に私の顎が乗るくらい)

 

 

 そして何よりも洋介と同じ香りがする(・・・・・・・・・・)

 

 ドンと肩に蹴られたような衝撃が走り、レティクルがブレる。M118LRなら撃針が銃弾を叩いてから着弾までジャスト0.8秒。

 

 

 

 

 

    銃弾は秒速870メートルから、段々と速度を落としながら飛んでいく。

 

 

 

 

 

 そうこの銃は、まるで洋介を抱えてるみたいに感じるのだ。

 そう気が付くとともにカーンとスチールターゲットが音を立てて揺れる。

 

 

 

「・・・・・・・・・流石だね」

 

 

 洋介がそう呟くのが聞こえた。

 まだまだ声変わり前の、かわいらしい声。

 可愛く子供っぽくて、話していてリラックスする大人っぽさがあって。頭も良くて話に着いてこれる、唯一の男の子・・・。

 

 銃弾はスチールターゲットに描かれた黒い点の中。

 中心よりほんの少し右にズレているだけだった。

 

 

 まぐれもここまで来ると運命的ね。

 

 心臓がバクバクしてる。

 顔もきっと赤い。

 

 一瞬でカッと体が燃えそうなほど熱くなるが、頭は不思議と氷水に浸したように冷たい。狙撃する時のその冷静さを保ったまま、私はいたって冷静にたった数ヶ月の出会いを客観視することが出来た。

 

 

 弟みたいに思って連れまわしているのだと思っていたけれど、よく考えれば洋介より私の頭の中に強く存在する男の子なんて一人もいない。

 私の親友にも、パパにも気に入られている男の子。

 

 頼りにならないかと思えば、意外なほどしっかりとしていて・・・お金持ちでもある。

 

 なんで気が付かなかったんだろう?会って数ヶ月で、明日会えると解っていても別れる時が惜しく感じ(・・・・・・・・・・)ているなんて。

 

 

 気が付いたら途端にダメになった。

 

 洋介のにおいのする銃を持ったまま、動けないでいる。

 

 一緒にいて楽しい子が、ふと私と違う生き物(男なんだ)と感じた瞬間、たまらない気持に私をさせている。

 

 

・・・・・・静香。鼻で笑っていたけど、私あなたの言っていた「ショタコン」になっちゃったかも・・・。

 

 

 

 

 

 そして、それが嫌じゃない。

 

 Pretty,young,handsome(かわいくて、若くて、イケてて),rich and Situlating(その上お金持ちで刺激的。). Makes me calm(一緒にいると落ち着いて) and makes me wild(そして何でも許してくれる!)! What do I need more(これ以上が他にあるの、私?)?

 

「あはっ、あはは」

 

 

 急に笑いがこみあげてきた。

 

 

「あっはっはっはっはっ!!ふふ、あはは!!」

 

 セイフティをかけると、その場に仰向けになってお腹を抱えながらひとしきり笑う。

 

 

 その時に見えた洋介のキョトンとした顔。いろんな意味で私のツボだった。

 もう、それが答えのようなもの。

 

 

「シャクだから、もう少し見極めるつもりだけど・・・覚悟してね洋介?」

 

 

 そう言ってウインクを投げかると、戸惑ったその顔がもう・・・。

 パパは「何だこいつ」みたいな目でこっちを見ているし、静香はよくわかんないと半笑いで首をかしげている。

 

 なんだか女の子の影がいっぱいする洋介だけど、私も負ける気はない。

 

 







アクセサリーとカスタムパーツ
 ggったら出ますが、要望があれば別途説明します。こんなもんに興味ある人がいるとも思えませんがw
 あと撃ち方で間違ってるとこあったら、優しくスルーしてください。あんまりにも頓珍漢なこと言ってたらプギャーと言ってもらえれば、該当箇所調べて直します。
 いくつか使ってないパーツアリますが、そのうち使うので説明は無しだよ!
 あと銃の年代気にしてんのにパーツは良いのかよ!と思った方申し訳ありません。だいたい今2004年頃です。


洋介のにおいがする
 フログルーブ(Frog lube)という金属製品のための潤滑剤です。百パーセントバイオ由来。そのうえ食品グレードなので食べられるという代物です、美味しくないですがw
 通常の石油由来の潤滑剤を使うと匂いが取れなくなります。しかしこの潤滑剤はミントみたいな匂いがしますし、素手で触っても何の害もない。そのためハードボイルドでありがちな「銃のにおいの染みついた手」みたいなことにならないのです。

 洋介は麗ちゃんに嫌がられたので、探しまくって見つけました。基本洗浄から潤滑からコーティングまでこれ一本で事足りるという魔法みたいな潤滑剤で、しかも潮風レジストという革新的すぎるブツ。
 床巣は海に近いですから、まさにこの作品のためにあるような製品ですね。

 ナイフとか金属製品何にでも使っているので洋介は、いつもこれのにおいがします。そして狙ってもいないのにミントっぽい匂いを嗅ぐたび洋介が思い出され、サブリミナルに好きになっていくヒロインたち。
 まさに孔明の罠!


リカの想い
 個人的にリカって恋愛割り切るタイプだと思うんですよね。打算でも付き合えちゃうみたいな? それが初恋でめっちゃ相性のいいタイプと会って、自分がやられちゃってると気が付いたら!!みたなコンセプトです。
 首輪みたいなチョーカーしてるのに、全く飼いならされた感じのしない未来のリカさんは、なにかドラマがあってなびくというイメージが付かなかったのでこんな感じです。

 表現しづらいのですが、年下で可愛いと思ってたら、包容力あるし甘えても受け止めてくれるし、かといって変に束縛しないし、一緒にいて楽しいのでなついちゃった気まぐれな猫。

 マキたいので全然書いてませんが、初対面かなり相性よさそうに書いている(?)ハズです。のちに相性の良さは、別エピソードで書くつもりです。
 


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