とある科学の氷葬地獄(インフェルノ) (水谷祐)
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幻想御手編
プロローグ


前からハマってはいたが、まさか小説を書くとは思っていなかった件について。


 学園都市。

 東京西部の未開拓地を切り開いて作られた街。東京都の三分の一の面積を誇るその場所には人口230万人の内8割が学生のこの都市では学生の脳に自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を作り出し、通常ならば不可能な現象を起こさせる様に日々彼らを開発している。

 ちなみに、学園都市内で能力者と呼ばれるのは凡そ50%位であり、残りは未だに発現していない無能力者(レベル0)だ。高能力者、つまり大能力者(レベル4)以上となると能力者の中でも10%にも満たない人数になる。一番強い超能力者(レベル5)に至っては、現在学園都市の中でも7人しか居ない。

 しかし、六月後半に事態は起こった。今まで七人しか居なかったレベル5に八人目が加わったという一報が常盤台中学校に入って来た。まだ序列は決まっていないようだが、順当にいけば第八位で収まるだろうとのことだった。

 しかし、その見通しは甘かった。八人目は第四位である麦野沈利を蹴落とし、堂々の四位を手に入れた。新たな第四位の能力名は氷葬地獄(インフェルノ)。学園都市でも珍しい氷の能力である。

 

 

 

 

 

 

 銀髪に黒縁眼鏡を掛けた少年は身長も年頃の平均と変わらない、何処にでも居そうな少年だった。強いて少年の目立った特徴を上げるならば、制服の下に着込んだ半袖のパーカーである。

季節は既に暑い夏となっている。周りの生徒が手で顔を扇ぎながら歩く中、彼は汗ひとつ流さずに歩いていた。

 

「暑い。だが暑いと言ったらさらに暑くなる。ならば、寒いと言うべきか?」

 

 ぶつぶつと呟きながら歩く姿はかなり目立っていた。

 すると、公園の近くでクレープを売っている屋台を見つけた。丁度いい。あれでも食べれば少しは体も冷えるだろう。しかし困ったことに少年は体を冷やし過ぎるとまずい体質であった。

 

「すまないがある程度冷たくて体が冷えすぎない、そんな素敵なクレープはありませんか?」

 

 ついでに糖分も。

少年の目には目の前にぶら下がるゲコ太ストラップなど全く目に入っていない。小さな子供たちがクレープを買いに並ぶ中、堂々と聞いてしまうくらい少年は切羽詰まっていたのだ。

 

「あ、はい……」

 

 何やら察してくれたらしい店員はチョコレートアイスを乗せすぎない程度にし、生クリームとトッピングを加えたクレープを渡した。多少量を少なくしたこともあり、値段を下げようとしたが少年はクレープとストラップを受け取り、金を置くと列から離れてしまった。

 

「申し訳ありませんが、ただいまの方でゲコ太ストラップの配布は終了です」

 

 どさっ……。

 何か落としたのかと振り返った少年の目に映ったのは、酷く落ち込んだ様子で両手両膝を付く学園都市第三位の姿だった。

 

「おい。具合でも悪いのか、第三位?」

 

 分かりにくいがこの少年、わりと困った人をほっておけない気質の持ち主である。しかし周りに居た一般人は思っただろう。せめて名前で呼んでやれよ、と。

 

「ゲコ太ぁ……」

 

「ゲコ太? なんだ、それは?」

 

 しかし少年は学園都市第三位である御坂美琴が所望する“ゲコ太”なるものを知らなかった。

 

「ゲコ太って言うのは、ほら貴方が持ってるカエルのマスコットのことですよ」

 

「これが、か? 些か変わったカエルだな。俺の知るカエルなるものは解剖するとピクピク動く可愛らしい物体だが……」

 

 苦笑しながら“ゲコ太”について教えてくれた艶やかな長い黒髪の少女の顔が引きつる。クレープを食べる前にそんな事をさらっと言われたのだ。一般的に考えれば、引いて当然だろう。

 

「しかしこれで理解した。第三位、これをやるから列から出てやれ。子供たちの通行の迷惑になっている」

 

「迷惑って何よ!」

 

「そのまんまの意味だ。早くしろ、第三位」

 

「第三位第三位って、あたしには御坂美琴って名前があるのよ!」

 

「知っているが?」

 

 二人の間に冷たい風が流れた。だが、御坂は何も言い返せなかった。ここで少年の機嫌を損ねてしまえばゲコ太ストラップ(限定版)が手に入らないのである。それは惜しい。是非欲しい。

 

「あらお姉さま。どうかしましたの?」

 

 中々ベンチに戻って来ない御坂を心配して、風紀委員(ジャッジメント)として有名な白井黒子と頭に花飾りを付けた初春飾利が様子を見にやって来た。

 

「あぁ。もしかして御坂さん、この人に交渉してたんですか?」

 

「厳密に言えば、これをやるから何時までもそこで突っ立ってないで列から離れろと言ったんだが」

 

「お姉さま、またですか……」

 

 迷惑をかけたお詫びにと少年は彼女たちが場所を取っていたベンチに案内された。この暑い日差しの中、木陰でひんやりと冷えたままのベンチは純粋に嬉しい。冷たいクレープを口に運びながらそう思う。

 

「それにしても、貴方はお姉さまのことをご存じですのね」

 

「常盤台の第三位って顔も有名だろう?」

 

「確かにそうですね」

 

 共通の知識があると自然と世間話が弾む。聞いた話、どうやら彼女たちは今日初めて知り合ったそうだ。親睦とゲコ太ストラップのゲットも兼ねて、ここのクレープ屋へやって来たそうだ。実に年頃の女子中学生らしい。

 

「あれっ? あの銀行……、なんで昼間から防犯シャッター下ろしてるんでしょう?」

 

 初春が疑問を口にした時、

 

ドガアァンッ!

 

銀行の降ろされたシャッターが、謎の爆発によって弾け飛んだ。子供の多い広場は当然パニックに陥る。

 

「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と怪我人の有無の確認! 急いでくださいな!」

 

「は、はいっ!」

 

 それを見た白井が初春に警備員(アンチスキル)への連絡を指示し、自身は強盗犯と思われる男たちへの対処へ回った。御坂も手を貸そうとしたが、彼女は一般人。白井にやんわりとたしなめられていた。

しかし、相手は三人。幾ら白井が高レベルの能力者とはいえ、援護があった方が良いだろう。

 

「オラァ! お望み通りぶっ殺してやるよ!」

 

 白井は勢いよく拳を突き出した男の腕を引っ張り、バランスを崩したところで足払いをかける。地面に叩きつけられたことで脳震盪でも起こしたらしく、男は倒れたままだ。

 

空間移動能力者(テレポーター)か……。だがっ!」

 

「(発火能力者(パイロキネシスト))……」

 

リーダーと見られる長身の男が右手に炎の塊を発生させ、右腕に纏った瞬間、それは突然掻き消えた。

 

「なっ!?」

 

「馬鹿か、貴様は。そんな力をこんなところで使えば間違えなく死人が出るだろが」

 

 男の右手は凍っていた。見ればこの暑い中、少年の周りにうっすらと氷が張り始めている。

 

「貴方、能力者でしたのね……」

 

「取りあえずな」

 

軽口を叩きあいながら、白井は流れるような手つきで金属矢を手元に転移。瞬く間に男を地面に固定してしまう。

 

「……さーて、残るはあと一人ですわね」

 

「くそ……!」

 

三人組のうちの一人が男の子を人質に逃亡を図った。

 

「だめーっ!」

 

 驚いたことに、佐天が強盗に掴みかかったのだ。なけなしの勇気を振り絞って、男の子を救おうとした佐天が行った精一杯の抵抗。次第に腹が立ったのか、彼は佐天の顔を蹴りつけて車へと走った。

 

「黒子っ!」

 

 びりびりと火花を散らしながら歩く御坂に白井の顔が引きつる。

 

「こっからは私の喧嘩だから……、手、出させて貰うわよ?」

 

そして、ポケットから取り出されたのは何の変哲もない一枚のゲームコイン。

 

「あー……」

 

「君も大変だな」

 

 なら貴方が止めて下さいの! と怒り始めた白井をほって置く。今は佐天の治療の方が先だ。

 

「思い出した! ジャッジメントには捕まったら最後。身も心も踏みにじって再起不能にする最悪の空間移動能力者(テレポーター)がいて…」

 

「一体誰のことですの?」

 

 恐らく、白井の事である。

 

「更には、その空間移動能力者(テレポーター)の身も心もとりこにする、最強の電撃使い(エレクトロマスター)が……」

 

「そう。あの方こそが学園都市二百三十万人の頂点」

 

自慢げに微笑み、綺麗な放物線を描いて空に舞うコインを見つめる白井。コインは吸い込まれるように御坂の正面に落ちてくる。逃走車に乗ってターンをした命知らずは、御坂に向かってアクセルを踏む。

 

「八人の超能力者の第三位」

 

電撃で加速されて打ち出されたメダルは、まるで砲弾(レーザー)に様に周りのアスファルトを抉る。がりがりとアスファルトを削りながら近づいてくるそれに男はなす術もなく、車ごと吹っ飛んだ。御坂の上空を二、三回回転した車は見るも無残な姿で転がっている。

 

超電磁砲(レールガン)、御坂美琴お嬢様。常盤台中学が誇る、最強無敵の電撃姫ですの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急行した警備員(アンチスキル)が強盗犯三人を引っ立てている間に、少年は佐天の治療を優先した。相手は女の子だ。顔に傷が残ることがないよう、細心の注意を図る必要があるだろう。

 

「怪我は大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

 氷をハンカチで包んだ簡易な氷嚢を渡してやる。

 頭に血が上った人間に立ち向かってくのはとても勇気がいる。ましてや、彼女はレベル0。向かっていくことすら怖かったはずだ。

 

「お手柄だったね! 佐天さん。すごくカッコ良かったよ」

 

「ありがとうございます……」

 

 年相応の笑顔で笑う彼女たちを少年はただ見ていた。あれは彼女たちの話であり、混じるつもりはなかった。

しばらくして、年相応の笑みから一変した御坂がこちらを見ていった。

 

「ねぇ、アンタ。名前は?」

 

「……ああ、名乗って無かったか。俺は月浦零哉(つきうられいや)だ」

 

 半分正解、半分間違った名前だが、この学園都市にはこの名前で登録しているため、嘘ではない。

 

「月浦? 何処かで聞いた気がしますわ……」

 

「何処も何もコイツが“例の八人目”よ、黒子」

 

「……はい? もう一度お願いしますわ、お姉さま」

 

「だからそいつは新しいレベル5の第四位、氷葬地獄(インフェルノ)よ」

 

 数秒後、警備員(アンチスキル)が驚くほどの声で叫んだ三人を見て、月浦は知らない振りを余儀なくされることになる。

 

 

 




誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます


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第一話 セブンスミスト

「おい、月浦。お前今日暇か?」

 

 同級生でクラスメイトの上条当麻の誘いに月浦は首を振った。

 

「済まないが知り合いから急用(ラブコール)をもらった」

 

「……お互い苦労するよな」

 

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り際、突然白井に呼び出された月浦は風紀委員(ジャッジメント)の支部に来たことを後悔した。

 

「貴方にご協力いただきたいんですの」

 

 渡された資料は最近巷を有名な凶悪犯罪のものだった。

 虚空爆破(グラビトン)事件。爆破する物も爆破する場所もバラバラで、最近は警戒心を削ぐようなぬいぐるみなどにアルミを仕込んでいるという事件である。負傷者も多く出ていると資料には書いてある。

 

「だがこれは御坂の方が良いんじゃないか?」

 

「それも充分考えましたわ。でもお姉さまはどうしても一人で行ってしまいますから……」

 

「なるほどな。それで俺に白羽の矢が立った、と」

 

 月浦の能力は御坂の能力と違い、氷系統の能力である。レベル5とは言え、正直、協力してもあまり力になってやれるような事件ではない。

 

「貴方は過去に風紀委員(ジャッジメント)に協力したことがあると聞いています。だから頼めるだろうと思いましたの」

 

「あんなのただの気まぐれだろう」

 

「あら、月浦は気まぐれで手を貸すようなタイプだったかしら?」

 

 眼鏡をかけた黒髪の女子高校生が見ていたパソコンから目を離し、こちらへやって来た。白井の所属する第一七七支部の固法美偉である。

 

「げっ」

 

「げっ、てなによ。げって。中学まで一緒だった仲でしょ?」

 

 話の通り、月浦と固法は何の縁か小、中学校はずっと同じクラスであった。勿論、我が道を突き進む月浦と学級委員長であり、しっかり者の固法では性格が合わなかった。だが、彼女が所属しているからと何度か協力したのは事実である。

 

「本当に中学まで同じ学校でしたの……?」

 

 会話からあまり仲が良くなかったことが察せられたらしく、白井は気まずそうであった。

 

「残念ながら、な」

 

「それ、どういうことよ」

 

「そのままの意味で受け取ってもらって構わない」

 

「とにかく協力しなさい。一般人にはまだ被害者は出ていないけど、同僚はもう九人負傷してるのよ」

 

「九人、だと……?」

 

 風紀委員(ジャッジメント)だけが九人も負傷? 爆発事件とはいえ、幾ら何でも多すぎやしないか? それにこの資料によると、通報され、風紀委員(ジャッジメント)が到着してから爆発する傾向にある。

 

「おい。あまり言いたくはないが、これは風紀委員(ジャッジメント)を狙っているんじゃないのか?」

 

「……確かに。無差別なら一般人も巻き込まれておかしくないですわ。でしたら、「白井さん。今、衛星が重力子の急激な増大を確認したわ! 場所は第七学区のセブンスミスト! そのまま風紀委員(ジャッジメント)各員に連絡を取って現場に急行する様に伝えて頂戴!」セブンスミストですって!?」

 

 場所を聞いて顔色を真っ青にした白井。事情を聴くに、あそこには今、御坂、初春、佐天が居るらしい。つまり、今回の標的(ターゲット)は初春だ。

 

「……先に行く!」

 

「あ、ちょっと! 月浦っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通に歩いていては間に合わない。そう判断した月浦は自らの能力を発動させた。空気中にある水分を凍結させ、足場を作る。これを使うと、普通に見た限りでは宙を歩いて見えるのだ。普段は気にする通行人の目など気にせず、セブンスミストまで駆ける。

 知っている人間が危ないのに、ほって置けるほど月浦は冷たい人間ではなかった。むしろ、無邪気に懐いてくる一年二人と素直じゃない御坂を好ましく思っている。それを口出さない彼も大概素直じゃない。

セブンスミストの向かいのビルに到達した月浦は、屋上から屋上へ渡ってセンブンスミストへ到着した。下には初春たちが避難させたのであろう人びとが心配そうにビルを見つめていた。

 

「くそっ! アイツらは何処にいる!」

 

 上から順々に見て回っているが、中々初春たちの姿は見つからない。このままでは本当に犠牲者が出る。内心焦りながら、一つ下の階に降りると、人が居ないか確認している初春の姿があった。

 

「おまっ、月浦!?」

 

「何であんたがここに……」

 

 同じ高校に通う上条当麻と第三位、御坂美琴が揃って階段を上ってきた。

 

「話は後だ。早くしないと爆弾が……」

 

「おねーちゃん。メガネかけたおにーちゃんがこれ渡してって」

 

 携帯を耳に当てたまま、呆然とした様子だった初春の目がカエルのぬいぐるみを捉えた。

次の瞬間、女の子の持っていたぬいぐるみがメキメキと音を立てて縮小を始める。すぐさま、ぬいぐるみを遠くに捨てるとその場から飛びのいて叫ぶ。

 

「逃げてください! あれが爆弾ですっ!」

 

 第三位が何もしない訳がない。爆弾ごと吹き飛ばそうと、彼女は自身の最大の武器で通り名の超電磁砲(レールガン)を繰り出そうとしたが、スカートから出したコインを落としてしまった。

 瞬間、人形が極限まで収縮され、爆発した。

 

 

 

 

 




月浦は風紀委員(ジャッジメント)ではない


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第二話 氷の地獄へと葬る(インフェルノ)

 

 

 初春は白井の指示を最後まで聞かなかったことを後悔していた。あのまま聞き続けていれば、女の子は怪我をしなくて済んだかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しかし、爆発の衝撃も痛みも何時まで経ってもやって来なかった。時間が経つに連れて、周囲の温度が低くなっていることが分かった。恐る恐る目を開けてみると、白いもやが漂っているのが見えた。

 

「少し下げすぎたか?」

 

「少し所じゃねぇよ! 凍死させる気かお前は!」

 

 そう会話している月浦とツンツン髪の少年。初春の腕の中で縮こまっている女の子。皆、怪我一つ無い。そう、怪我一つしていないのだ。

 

「え……。怪我、してない?」

 

肌寒いだけで初春も女の子も、そして御坂もかすり傷ひとつ負っていなかった。

 

「なら良かった。寒いなら後で暖かいものでも奢ろう」

 

 通学鞄から何故か出てきたタオルケットを掛けられた。何で夏にタオルケット持ってるんだろう、とか野暮な事は聞かない。

 

「どうしてその優しさを上条さんにも分けてくれないのかな!」

 

「俺は慈悲に溢れているつもりだが? 欲しいならアイスでも奢るぞ」

 

 財布からわざわざアイス割引券を数枚取り出す辺り、本気なんだろう。

 

「余計寒くなるわっ! とにかく、お前の絶対零度は危なすぎだ!」

 

「絶対零度っ!?」

 

 絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 全ての物体はそれがどれほどの低温であろうとも、原子レベルでの運動を行っている。運動をしない物質などこの世界に存在していない。しかし、マイナス273.15度。全ての原子の運動が停止し、その物質はこの世から消え去ってしまう温度。その温度に至った瞬間、物質の存在は無かったことになる。月浦の生み出した、凍てついた存在しないはずの世界が爆発の衝撃波を起こす原子の動きを完全に止めたのだ。

そのような離れ業を難なく行うことが出来る彼は間違えなくレベル5だった。

 

「だから氷の地獄へと葬る(インフェルノ)なんて名前を付けたんだろ?」

 

「いや実は名づけたのは小萌先生なんだが……」

 

「マジかよ!」

 

 二人が口論している内に御坂がエスカレーターを駆け降りていく後姿が見えた。

 

「御坂さん!」

 

「あたし、犯人の顔知ってるから捕まえてくる!」

 

 そう言い終わる前に彼女の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 月浦が飛び出して行ってすぐ、白井も現場へ向かった。

 風紀委員(ジャッジメント)一七七支部に一人残された固法は警備員(アンチスキル)への連絡を行った後、書置きを残して自身も現場へ向かった。今回標的(ターゲット)となった初春も心配だが、行かせてしまった元クラスメイトの安否も気になる。

小、中学校、全てクラスが同じだった固法は月浦がどんな人物か大体把握している。周りに興味を無さそうにしていながら、困った人間はほって置けない。知り合いが危険な状況に陥るとすぐに飛び出す。何だかんだで面倒見がいい。風紀委員(ジャッジメント)向きの性格をしていながら、入る気は全くない。分かりにくいが、とにかく身内に甘い少年だ。

 だからこそ、今回の事件で初春が標的(ターゲット)と気づいてすぐに出て行ってしまった。きっと今回も無茶をしているに違いないと思っての行動だった。しかし、固法は現場についてすぐ、事件を解決したのは御坂になっていることを知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 御坂は不思議に思っていた。

 今回、虚空爆破(グラビトン)事件の解決に尽力したのは月浦とあの少年なのに、彼らは揃って「誰が助けたのなんてどうでも良い」と言って帰ってしまった。普通の奴だったら手柄を欲しがるというのにそれは全くない。むしろ、二人とも興味がないように見えた。

 月浦に至っては、初春たちに本当に暖かい飲み物を持って来ていたし、何を考えているか全く分からない。

 

「何よ、アイツら……」

 

「お悩みか。御坂?」

 

「っ!?」

 

 今、月浦が居るのは数メートル上だ。上から御坂を見下ろし、「どうかしたのか?」と聞いているのだ。電撃使い(エレクトロマスター)の彼女も、やろうと思えば磁場で飛ぶことが出来るがあくまで限定的。彼のように何も無い所で出来る訳がなかった。

 

「な、何やってんのよ!?」

 

「見ての通り空中散歩を楽しんでいるが?」

 

「全然答えになってないわ。一体アンタの能力の正式名称は何なのよ?」

 

 空中からひょいっと地面に降りてきた月浦に尋ねる。月浦の知り合いらしいあのツンツン頭の少年は彼の能力名称は付けられたものだと言っていた。なら、正式名称があるのではないかと考えて当然だろう。

 

「上条の言う絶対零度(アブソリュート・ゼロ)瞬間凍結(インスタント・クーリング)だったり、学者によって呼び方が違う。だから正式名称などない。ややこしいから小萌先生……、いや担任が氷葬地獄(インフェルノ)って決めたんだ」

 

「なるほどね……。で、どんくらい強いの?」

 

 序列は強さを表すものではない。しかし、元第四位、原子崩し(メルトダウナー)を五位にする男だ。御坂は彼の強さに純粋な興味があった。

 

「逆に君は強さを何と仮定しているんだ?」

 

「え、あ、それは……」

 

 今までそんなことを考えたこともないし、言われたことすらない。御坂の言う強さは基本的には能力の強さだ。しかしあの少年以外、その考えは適応されていないと言ってもいい。月浦自身も強さと言うより、人柄にこだわっている節が見られた。

 

「俺は意思だと思っている。そういった意味では、上条が強いんだろうな」

 

 

 

 



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第三話 氷葬地獄(かれ)の日常

 

 

 七月二十日。

 昨夜起きた謎の雷のせいで、月浦が住む寮及びその周辺地域は停電に見舞われていた。しかし、彼の部屋は能力の事もあり何時でも涼しい。それを理由に隣室の人間がよく涼みに来るくらいだ。

 月浦の朝は早い。

大体六時くらいに起き、まず紅茶を入れる。彼の従兄から定期的に送られてくる茶葉を消費しようとするうちに、習慣となってしまったものである。お湯が沸くのを待つうちに、昨日の能力で冷やしておいた冷蔵庫の中から食パンと卵、ベーコンを取り出す。食パンをトースターに二枚入れ、フライパンでベーコンを軽く焼いた後に卵を乗せる。それらを組み合わせればベーコンエッグトーストの完成である。それと同時に沸いたお湯で丁寧に紅茶を淹れれば、彼の朝食の準備は出来る。それらを皿に乗せ、隣人の家のベルを鳴らすのが高校に入ってから彼の日課と成りつつある。

 

「起きろ、土御門」

 

『何だ、ツキやんか。今日は舞夏来てないから助かったにゃー』

 

 隣人の名は土御門元春。「だぜい」や「にゃー」などの日本語とは思えない不思議な訛り口調で話すクラスメイトだ。彼には舞夏という妹が居り、彼女が頻繁にご飯を作りに来るのだが朝は滅多に来ない。彼女は彼の昼ごはんは作っていくが、朝ご飯は何とかしろと言うタイプである。

 そのため、月浦が起こすついでにご飯を食べさせて学校に行かせて欲しいと舞夏から頭を下げられてしまった。月浦は面倒見の良い方であったし、彼が一学期休みがちだった時、土御門とその友人はよく部屋を訪れてくれたこともあったので二つ返事で了承した。

 

「にしても、お前少しは料理をしたらどうなんだ?」

 

「俺は夏補修があるから無理だにゃー」

 

「……夏補修?」

 

 聞き覚えのない単語に首をかしげる。

 

「成績が悪かったからそうなったぜい。ま、適当にクリアするにゃー」

 

「よく分からんが、頑張れ」

 

 つい最近レベル5に上がった月浦には、補修など到底理解できない世界であった。

 

 

 

 

 

 

 月詠小萌のクラスにはつい最近まで不登校だった生徒が居た。無能力者の多いこの学校で最近レベル5に上がった、月浦零哉である。

 彼はこの学校に入学して僅か一週間で不登校になった。理由は彼女の指導するクラスの子供達も憤るものだった。能力開発の担当者が無理な時間割り(カリキュラム)を組み、すぐに上がらない能力を罵倒した。それが彼の不登校の原因だった。

 能力と言うものは、通常年単位の時間をかけてじっくり行うものである。それを急に行われれば体を壊す。月浦が取った行動は、自己防衛のためのものだった。

 すぐに同僚の黄泉川に事情を話し、対処に当たったが彼は中々捕まらなかった。というのも、彼は氷系統の能力者である。氷で自身の姿を屈折して映すことで、捕まらないような対策を打たれていたのだ。日に日に暑くなる中、彼との鬼ごっこはかなりきつかった覚えがある。

 ある時、月浦は何の気まぐれか学校にやって来て身体検査(システムスキャン)を受けたいと言い出した。取りあえず学校に顔を出してくれたことを喜んだ小萌は早速手配をし、身体検査(システムスキャン)を行った。

 結果はレベル5。学校に来なかった間、毎日行った鬼ごっこがどうやら功をなしたようだ。その時の心情と言ったら複雑極まりないものだった。

 

『いいですか月浦ちゃん。いじめられたら担任の私にちゃんと言ってください』

 

 皆からよく小さいと言われる身長を精一杯伸ばして言う。

 

『分かりました。何かあったら小萌先生か黄泉川先生に言います』

 

 そう宣言してからというもの、月浦は学校に来るようになった。既に一学期は終わりかけ。しかし、ようやくクラス全員が揃ったことが何よりも嬉しい小萌であった。

 

 

 

 

 

 月浦は一時間目が終わるころになると補修を受けるクラスメイトに差し入れを入れに行く。何処にでもあるクーラーボックスにアイスを詰め、能力で一定温度に保たせて学校まで持っていく。

 馬鹿みたいに暑い日差しを氷で遮りたいところだが、そこまでしたら流石に目立つ(パーカーを着ている地点で既に目立っている)と思い、何とか踏みとどまった。

 

「やってるな」

 

 月浦の所属するクラス一年七組のメンバーの凡そ半分がこの補修を受けている。それプラス先生たちの分でアイスの数は丁度だ。

 

「おー、我等が救いの神!」

 

「月浦さん、どうぞこちらに愛の手を!」

 

 わらわらと集まってくるクラスメイトにアイスを振る舞った後、彼は乗り遅れてしょんぼりとしている少年、上条当麻に話しかける。

 

「何をやってるんだ、上条」

 

「この溶けたアイスを見て何も思わないんですか、月浦さん?」

 

「……左手で食べるなら冷やそうか?」

 

 上条の右手はどういう原理かは分からないが、能力を打ち消す。つまり、アイスを再び凍らせたとしても、彼の右手が振れればジ・エンドである。

 

「是非よろしくお願いします」

 

 無能力者と過ごす日々、それが月浦の日常の一部である。

 

 

 

 

 

 

 虚空爆破(グラビトン)事件の容疑者である介旅初矢(かいたびはつや)が謎の昏睡状態に陥ったという連絡が白井から月浦の元に入った。丁度アイスを先生たちに配り終えた所であり、彼が収容されている病院も近い。帰りに寄るとメールと返し、蒸すような暑さの中を歩く。謎の停電のせいで冷房を入れることが出来ない施設やコンビニは多く、暑さに弱い月浦がつい行きたくないと思ってしまったのは仕方がないことだと思いたい。

 しかしようやく辿り着いた病院のロビーで彼が見たのは、公衆の面前で上半身を下着一枚の女性の姿だった。

 

 

 

 



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第四話 木山春生

 

 

 

「ごめん。流石にやり過ぎたわ……」

 

 最悪のタイミングで病院にたどり着いた月浦は、「ちょっとあんたねぇええええええええっ!」と叫ぶ御坂に電撃を落とされ、しばらく動くことが出来なかった。

 月浦の能力、氷葬地獄(インフェルノ)は水と風で氷を生成している。しかも今日は冷房が効いていなかったこともあり、彼は周囲の温度を能力で冷やすことで暑さをしのいでいた。つまり、感電したのである。

 

「別に怒ってないが、普通なら傷害罪だぞ」

 

 冷房の効いたファミレスで、御坂にジャンボフルーツパフェを所望しておきながらこの言葉である。どうやら彼は意外と根に持つ性格らしい。

 

「……ふむ。君の近くが涼しいのは能力だったのか」

 

「ええ。彼の能力は氷系統ですから」

 

 「ほぅ、珍しいな」と目を細める彼女は大脳生理学の専門家、木山春生。最近幻想御手(レベルアッパー)と言うものを使い、昏睡した学生たちを調べるためにやって来た学者だ。

 

「そうか……。さて、先ほどの話の続きだが同程度の露出でも何故水着は良くて下着はダメなのか――」

 

「「いや、そっちじゃなく」」

 

 仕方ない、とため息を吐いた御坂が幻想御手(レベルアッパー)について調べたことを話始める。ウェイトレスが飲み物を運び、グラスが汗をかき始めた頃、

 

「つまりネット上に幻想御手なるものがあり、ソレが昏睡した学生と関係があると君たちは考えているのだね?」

 

内容を簡潔にまとめて復唱した。

 

「はい。ただ実際に確認された存在でもなく合ったとしても、その情報を開示するわけにもいかないですの。ですから、現段階では公表は見送ることになりましたの」

 

「なるほど。噂の一人歩きを防ぐには妥当な判断だな。しかし何故私にその話を?」

 

「能力を向上させるということは脳に干渉するシステムに近い。そうなると専門家の意見が必要になるということだろう」

 

 「私のセリフを取らないで下さいの!」と怒る黒子をほって置いて、月浦は山盛りのパフェに挑む。学園都市に来てからというもの、月に一度は口にしていたものが今回は奢りで食べられる。

 彼自身、過去に『滅多にいない氷系能力者を是非研究したい』と様々な研究所から依頼を受けたこともあり、金には全く困っていない。それにも関わらず、従兄兼保護者からは使っても余るような生活費を送ってくる。それでも節約生活を送ってしまうのは彼の性と言ってもいい。

 

「ところで一つ気になったのだが……、そこにいる彼女たちは君たちの知り合いかね?」

 

大きな窓の外には顔を押しつけてにこっと笑う佐天と初春の姿。二人はそのままファミレスに入ると真っ直ぐこちらのテーブルに座ってきた。

 

「こちらの方が木山春生さんといって、大脳生理学を研究している方ですの」

 

「そんな方とどうして白井さんがお茶を? もしかして、白井さんの脳に何か問題でも?」

 

 笑顔で毒を吐く初春に、月浦はまた一つ女性の怖さを思い知った。

 

「実は幻想御手(レベルアッパー)の件について相談していましたの」

 

幻想御手(レベルアッパー)ですか? それなら……」

 

 ポケットを漁り、携帯を取り出した佐天。彼女は都市伝説やその手のサイトをよく見ると聞いている。何らかの情報を得たのかもしれない。しかし彼女は、

 

「黒子がいうには、幻想御手(レベルアッパー)の所有者を保護するんだって」

 

御坂の一言に固まった。

 

「まだ調査中ですので、ハッキリしたことは言えませんが、使用者に副作用が出る可能性がありますの。それに、容易に犯罪に走る傾向が見受けられまして……」

 

「どうかしました?佐天さん」

 

「あ、いや、別に…」

 

明らかに焦った佐天がアイスコーヒーのグラスを倒し、飲み物が木山の脚に掛かった。じわりと広がる染みを見てフキンを取る佐天。

 

「あっ、スミマセンっ!」

 

「ああ……、気にしなくていい。かかったのはストッキングだけだから、脱いでしまえば…」

 

 月浦はつい一時間前ほどの事を思いだし、咄嗟に視界を覆うことに成功した。彼女たちの焦った声が聞こえるが、この際全てスルーさせてもらう。

 

「だ、か、ら! 人前で脱いじゃダメだと言ってますでしょうが!」

 

「しかし、起伏に乏しい私の身体を見て、劣情を催す男性がいるとは……」

 

「趣味趣向は人それぞれですの! それに殿方じゃなくても、歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ! ほら、月浦さんも目を塞いでないでタオルケットを貸して下さいな!」

 

 

 

 

 

 

「今日はお忙しい中ありがとうございました。」

 

「いやいや、こちらこそ色々迷惑をかけて済まなかった。いろいろ楽しかったよ、教鞭をふるっていた頃を思い出してね」

 

「教師をなさっていたんですか?」

 

「昔……、ね」

 

 御坂の問いに嬉しそうに笑って、彼女は帰って行った。

 

 

 

 

 

 



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第五話 幻想御手(レベルアッパー)

 

 

 

 七月二十四日。

 月浦は突然入院した友人、上条当麻の知り合い、禁書目録(インデックス)の世話をしていた。本当であれば月浦の担任である月読小萌が面倒を見る予定だったのだが、「補修が忙しいからシスターちゃんを預かってくださいー」と言う無茶ぶりを受け、今に至る。

 禁書目録(インデックス)と言う銀髪碧眼のシスターは朝ご飯だというのに食べる食べる。家中の食糧を食べ尽くしそうな勢いだったので、土御門の部屋に朝食を届けることを最優先とした。お蔭で月浦の朝食は故郷であるフィンランドの特産物、サ○ミアッキだけである。

 

「うー、ごめんなさい」

 

「いや、怒ってないのだが……。むしろ、それだけ健康だということだろう? だが、今度からは少し加減してくれ」

 

「ごめんなさい……」

 

うー、と唸っている彼女を甘やかすわけにはいかない。何故ならば、一週間分の食事が入っているはずの冷蔵庫のほとんどをたった二日で食い尽くされた。これは、あの暑い中買い出しに出なければいけないということである。……憂鬱な気分になってきた。たまに差し入れしてやらないと上条家の家計は潰れるだろう、そう思った。

 

「でも食べないとお腹が空くかも……」

 

 上目遣いで見られても敢えて無視する。ここで甘やかしたら後々に響くと彼の頭では警鐘が鳴っていた。

 

「腹八分目な、腹八分目」

 

「それってどれくらいなの?」

 

「お腹一杯じゃなく、少し控える感じか。……まぁ、それくらいしたら上条もたまには良いもの食べさせてくれるかもな」

 

 済まない上条。きっと禁書目録(インデックス)はこれから期待した目でお前を見るはずだ。今頃病院で検査中であろう友人に心の中で詫びる。

 すると、机の上に置きっぱなしになっていた携帯が突然震え始めた。動作の感覚からして、電話だろう。表示されていた名前は白井黒子。嫌な予感しかしない。

 

「もしも『お願いします! お姉様と初春を助けて下さいの!』おい、本題が抜けてるぞ」

 

『ですから、幻想御手(レベルアッパー)の犯人は木山春生でしたの!』

 

 調査する側であった木山が首謀者であれば、確かに犯人が見つかるはずがない。ファミレスでは全て分かった上で話を聞いていたのだろうか。しかし、彼女はあれを楽しんでいる節があった。月浦の主観としても彼女は悪い人に見えなかった。

 

「何?」

 

『木山春生が今、初春を人質に取っていますの。警備員(アンチスキル)が出動しましたが、混乱していて状況が全く分かりません。それで、お姉様が……』

 

「……なるほど。場所は?」

 

『今転送しますわ』

 

 送付された情報にざっと目を通す。なるほど、今から行けば充分間に合う距離だ。ならばと、禁書目録(インデックス)に向き直る。

 

禁書目録(インデックス)。夕方まで留守番できてたら今日は食べ放題に連れてってやる」

 

「ホント!?」

 

「ああ。約束する」

 

 万が一、外に出るときは鍵を閉めるように言ってから月浦は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 タクシーを使って途中まで駆けつけたまでは良いものの、現場に居た警備員(

アンチスキル)はほぼ壊滅状態。途中で途切れてしまった高速道路。そして胎児のような姿をした化物。

 月浦が様子を見に向かおうとした時、警備員(アンチスキル)の中に見慣れた顔があった。通っている学校の体育教師、黄泉川愛穂(よみかわあいほ)である。彼女たちが傷だらけということは、あの化け物は警備員(アンチスキル)の重装備と重火器を破ったということだ。

 

「これは酷いな……」

 

 白井が連日の仕事で生傷を増やしていることを聞いたからこそ、月浦は前線へ出てきたのだがここまでなると怪しくなってくる。だが一つ言えることがあると言えば、

 

「全く、最近の化け物は常識がないのか」

 

彼の逆鱗に触れたということである。

 

 

 

 

 

 

 御坂と初春は木山と一緒に居た。化け物を倒すにはどうしたら良いか、それについて話し合っていたらしい。彼女も化け物の攻撃の余波を受けたのか、地面に落ちた白衣は土を被り、全身的に衣服がボロボロだ。

 

「君は……」

 

「どうも。白井から連絡を受けて来てみれば、大変なことになってるみたいだな」

 

「あの怪物の事について知りたいのだな?」

 

「じゃないと止めようがない」

 

「それを私に聞くか」

 

 月浦の問いに彼女は自嘲気味に笑って言い、そして彼女は仮説を話し始めた。

 

「AIM拡散力場の?」

 

「恐らく、集合体だろう。そうだな、仮に幻想猛獣(AIMバースト)とでも呼んでおこうか。幻想御手(レベルアッパー)によって束ねられた一万人のAIM拡散力場。それらが触媒となって生まれた潜在意識の怪物。言い換えれば、あれは一万人の子供たちの思念の塊だ」

 

 苦しそうにもがきながら肥大化していく幻想猛獣(AIMバースト)。それが上げる声は一万人の学生たちの心の叫びに聞こえた。

 

「何か、可哀そう……」

 

「どうすればアレを止めることが出来るの?」

 

「それを私に聞くのかい? 今の私が何を言っても、君たちは信用……」

 

 初春が木山の目の前に手を出して見せ、

 

「私の手錠、木山先生が外してくれたんですよね?」

 

「ただの気まぐれさ。まさかそんなことで私を信用するとは……」

 

「それに、子どもたちを助けるのに、木山先生がウソつくはずありません。信じます!」

 

真っすぐ顔を見て笑う初春。その素直な答えを聞いて、ふっと笑いが漏れたのを見て、「笑わないで下さいよ」とぽかぽかと叩く初春を敢えてそのままにしておく。

月浦は木山の詳しい事情を何も知らない。でも感じるものはあった。月浦に守りたいものがあるように、彼女にも譲れない何かがある。

 

「全く……幻想猛獣(AIMバースト)は、幻想御手(レベルアッパー)のネットワークが生み出した怪物だ。ネットワークを破壊すれば止められるかもしれない」

 

幻想御手(レベルアッパー)の治療プログラム!?」

 

「試してみる価値はあるはずだ」

 

「アイツは私とコイツがなんとかするから、初春さんは、その間にそれを持って警備員(アンチスキル)の所へ」

 

「分かりました」

 

「了解した」

 

 頷いて階段へと走り出した初春を横目に、月浦と御坂も銃を撃ち続けている警備員(アンチスキル)の元へ急ぐ。

 

「本当に、根拠もなく人を信用する人間が多くて困る」

 

 一人取り残された木山は何処か嬉しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 幻想猛獣(AIMバースト)

「ぐぁっ!」

 

近くで化け物に銃弾を撃ち込み続けていた同僚の黄泉川が、触手の一撃で壁際まで吹っ飛ばされる。

 

「あっ、隊長!?」

 

 一瞬、視線が逸れた隙を狙って迫ってくる触手。恐怖からか、狙いを定めずに引き金を引き続ける。

 

「っ!? あ、いや、来ないで!」

 

カチカチ、と弾切れを知らせる音を聞きながら後退した。だが触手は成長しながら鉄装を捕まえようとする。その瞬間、彼女の脇腹に衝撃が走る。

 

「何ぼやっとしてんのよ! 死んでも知らないわよ!」

 

見えたのは茶髪に強気な目。灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーターという格好の少女。その隣には銀髪に黒縁眼鏡を掛けた見覚えのある少年が居る。

 

「あ、貴方たち誰? 一般人がこんなところで何してるの!」

 

「ったく。どいつもこいつも一般人、一般人って……」

 

「まぁ風紀委員(ジャッジメント)ではない以上、一般人には変わりないだろ」

 

「あんた、どっちの味方よ?」

 

 「正義の味方」だと言い出した少年と口論を始めた少女。

 そして思いだした。少年の方は黄泉川の勤める高校のレベル5だ。

 

「と、とにかく、すぐにここから逃げな……きゃあっ!」

 

襲ってくる触手を少年は鉄装を連れたまま避け、少女が電撃で触手を焼き落とす。少年が触れた瞬間、分厚い装備を着ているのにも関わらず、ひんやりとした冷気に触れた気がした。

 

「逃げるのはそっち! アイツはこっちが攻撃しなければ寄って来ないんだから」

 

「それでも、撤退するわけにはいかないじゃん」

 

 脇腹を抑えながら、黄泉川が遠くの施設を指さす。

 

「え?」

 

「月浦。あれが何だか分かるか?」

 

数秒の間が空いた後、

 

「原子力実験炉、ですか? 都市開発計画要綱で呼んだ覚えがあります」

 

「……え? マジ?」

 

 さっと青ざめた少女。何故警備員(アンチスキル)が身を挺して化け物の進行を止めようとしているのか、ようやく理解したようだ。少年から続けて説明を受けている少女を横目に何処か安全な場所に黄泉川や仲間を運ぼうと周りの様子を確認。そうしたら、一人の女の子が必死に階段を昇っている姿が見えた。

 

「何やってんの、あの子!」

 

「あれは! 木山の人質になっていた……。くっ! この混乱で逃げ遅れてるじゃん」 

 

「違う。初春さんはもう人質でも逃げ遅れてるんでもない……。頼みがあるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲の磁力を操り、砂鉄の剣を生成した御坂がそれを原子力実験炉へ進む幻想猛獣(AIMバースト)に向かって一振りした。その一動作で剣はうねり、進み続ける幻想猛獣(AIMバースト)の足を容易に切り落とす。

 甲高い悲鳴を上げ、足を再生しながらこちらを向いたそれに容赦なく冷気を浴びせる。それと同時に空気中の水分はますます下がっていく。

 

「アンタの相手は、このあたしよ!」

 

「いや、俺もなんだが……」

 

 話している間に頭上で生み出した光線を打ち出してくる幻想猛獣(AIMバースト)。お互い攻撃を避けながら攻撃を加えていくが、あまりの再生力に攻撃が追い付かない。

 

「ったく、少しは人の話を……、ヤバっ!」

 

 全方位に向けて発射された光線が初春や警備員(アンチスキル)の居る高速道路付近を直撃しようとしている。あそこを撃たれれば、ネットワークの破壊がさらに遅くなるだろう。それは困る。

 月浦の能力は氷系の能力だ。彼の能力の範囲に制限はない。空気中の水分とある程度の風さえあれば幾らでも氷を作ることが出来る。例えそれがどんなに離れた場所であろうとも、場所さえ分かっていれば能力の行使は可能なのだ。

 高速道路の下辺りにちかっと青白い光が瞬くと、それは氷の壁へと変化を遂げた。この間僅か三秒。光線が届くギリギリで防げた、くらいの時間である。

 

「セーフ、か」

 

「……あんたの能力って制限ないの?」

 

「基本はないな。範囲も凡そ学園都市全体だろうという判定だ」

 

 呆れた顔でこちらを見る御坂に心外だと言いつつ返答する。

 

「その辺りは、あたしと変わんないのね!」

 

 再び電撃でこちらに注意を向ける御坂。原子力実験炉に近づけるわけにもいかなかったと言うのもあるが、流れ弾が友人を襲うのを止めたいという思いの方が強いらしい。幻想猛獣(AIMバースト)が少しでも高速道路の方面に光線を撃とうとすれば、「さっさと止めなさいよ!」とお叱りの言葉が飛んでくる。人に任せるのかと内心ため息を吐きながら対処する。

 月浦の能力は元々戦闘に向いていない。彼自身が近接戦闘を得意とするだけあったからか、能力による攻撃手段が少なくとも対処できたからだ。

 

「初春はまだか……!」

 

 やろうと思えば出来る能力攻撃は、残念ながらほとんどが近接戦闘用である。御坂も限界が近い。とにかく早くしてくれ、それだけだった。

 

「? この音は……」

 

 五感に働きかける様な不思議な音色(メロディー)が学園都市上に流れる。するとどうだろう。攻撃しても再生を続けていた幻想猛獣(AIMバースト)が、急にその再生をやめた。

 

「初春さん、やったんだ……! なら悪いけど、これでゲームオーバーよ!」

 

「俺が行く」

 

 電撃を放とうとした御坂より先に飛び出す。再生しないとなった今、月浦には近接戦闘という術が示された。

 月浦がパーカーのポケットから取り出したのは二本の剣の柄の様なもの。彼の周囲の温度がさらに下がると同時にそれは構築されていた。青く輝く二つの刀身が真っ直ぐと幻想猛獣(AIMバースト)に向けられていた。

 フィンランド人の血が濃い月浦の母方の祖父は日本人だった。仕事で忙しい両親に代わって面倒を見てくれた祖父は彼に剣道を教えた。

中でも月浦がハマったのは二刀流だった。両手に握った二本の剣を高度な連携で持って操るそれに魅せられたのは僅か四歳のころ。腕を上げ始めた頃に、学園都市に来た月浦は、それをあまり褒められた事ではない喧嘩で覚えていったのだ。故に動きに無駄は無く、最小限の動きだけで構成された剣技に隙はない。

 

「やった?」

 

「気を抜くな!まだ終わっていない! ネットワークの破壊には成功しても、あれはAIM拡散力場が生んだ1万人の思念の塊。普通の生物の常識は通用しない!」

 

「話が違うじゃない! だったら、どうしろって!?」

 

 痛む体を引きずりながらもやって来た木山の言葉に方法を求める御坂の声に、

 

「核が、力場を固定させている核のようなものが、どこかにあるはずだ! それを破壊すれば……」

 

『ntst欲kgd』

 

 しかし無数の剣閃で切り刻まれた幻想猛獣(それ)は、人語でない何かを話した。そこから感じられる劣等感、悲壮感、嫉妬、切望と言った様々な負の感情。幻想御手(レベルアッパー)に縋った能力者たちの苦しみの声。

 

「さがって、巻き込まれるわよ」

 

「構うものか! 私にはアレを生み出した責任が……」

 

「あんたが良くても、あんたの教え子はどうすんの!? 回復した時、あの子たちが見たいのは、あんたの顔じゃないの? こんなやり方しないなら、私も協力する」

 

「知り合いに連絡を付けてやることも出来る。一人で何もかもやろうとしたって上手くはいかないさ」

 

 驚きで目を見開いてこちらを見た木山に数枚の名刺を放ってやる。それはAIM拡散力場の研究を海外で行っているチームのメンバーの名刺。その中には月浦の従兄の名前も含まれている。

 

「あとね、アイツに巻き込まれるんじゃない。私達が巻き込んじゃうって、言ってんのよ!」

 

瞬時に形成された誘電力場で、電撃を防ぐ幻想猛獣(AIMバースト)。しかし、数秒後にそれは効果を無くしていく。月浦の絶対零度が誘導力場に使われていた原子の動きを完全に止めたのだ。

 

「本当に手間が掛かる奴らだな」

 

「あんたも人の事言えないんじゃない?」

 

「違いない」

 

「……ごめんね。苦しんでるのに気付いてあげられなくて。でもさ、だったらもう一度頑張ってみよ」

 

「努力が実らないと嘆くことは何時だって出来る。だが、嘆くだけでどうする。嘆いて未来の可能性まで捨てるのか、貴様らは」

 

 頑張ってそれでも駄目で挫折して幻想御手(レベルアッパー)に手を出してしまった者たちにもう一度だけ頑張れというのは残酷で、けれども大事なことだった。それさえ分かっていれば、後はどうにでもなる。人間誰だって努力してもダメな時がある。身を以て知っている月浦には彼らの気持ちがよく分かった。

 

「最近レベル5に上がったばっかりのアンタらしい言葉ね」

 

「馬鹿にしているのか?」

 

「まさかね。合わせなさいよ」

 

ピンっ! 指ではじかれたコインが綺麗な放物線を描いて空を舞う。もう日常となってきている命令口調に肩を竦めると、短銃を取り出す。過保護な従兄から送られてきた物騒なもの《プレゼント》。寮から出るときに持ってきておいたものである。

銃の安全装置を外し、コッキング。カチリと鳴ったのを確認し、コインが御坂の正面に落ちて来たのと同時に打ち出す。軽い衝撃と共に打ち出されたそれは幻想猛獣(AIMバースト)の内部に入った瞬間弾けた。それを打ち抜きながらも進む超電磁砲(レールガン)が見事にたくさんの思いの核を打ち抜いた。

厳しくもあり優しくもある、そんな学園都市第三位と四位の手により、幻想猛獣(AIMバースト)はゆっくり消失していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 ようやく現れた警備員(アンチスキル)の応援を内心「役立たずめ……」と思いながら眺めていた。

 

「あの……その、どうするの? 子どもたちのこと」

 

 今回の事件を起こした事情を知っているらしい御坂が木山にそう聞いた。

 

「もちろん、あきらめるつもりはない、もう一度やり直すさ。刑務所だろうと、世界の果てだろうと、私の頭脳はここにあるのだから。ただし、今後も手段を選ぶつもりはない。気に入らなければその時は、また邪魔しに来たまえ」

 

 おいおい、と思いながら連行されていく木山を見ていると、すれ違いざまに「君も気をつけたまえ」と忠告を受けた。あまりに心当たりが有り過ぎるため、心に留めておくことにした。

 そして次の瞬間、月浦は頭を抱えた。ああ、そう言えばこの後食べ放題に付き合わないといけないんだった。警備員(アンチスキル)や白井からの感謝の言葉を受けても、それは変わらない。

 帰りたくない、切実に感じた夏の日の出来事だった。

 



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番外編:とある一七七支部の後輩研修

 

 

 

「新しい風紀委員(ジャッジメント)が入る……?」

 

 白井を驚かせたのは先輩の固法美偉の言葉だった。

 確かに夏の募集で合格した物達が各支部に振り分けられる時期だ。しかしこの一七七支部は人員が足りている事から、新しい風紀委員(ジャッジメント)が入ると言うことはないと思いこんでいた。

 

「ええ。しかも小学三年生なのにレベル3。中々優秀な子よ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「月浦の身内なのよね……」

 

 月浦零哉。学園都市を代表するレベル5であり、新しい第四位氷葬地獄(インフェルノ)である。他のレベル5と同様に彼もかなりの変わり者である。

常識があるという点では白井の慕う御坂と同じなのだが、彼は研究者タイプだ。珍しいものは見て、調べたい。最近はそのためだけに風紀委員(ジャッジメント)の支部に入り浸る辺り、彼も充分変人である。

そして、先日の幻想御手(レベルアッパー)事件で発覚したが、月浦は身内に甘い。

 本人は決して認めないが、白井たちを佐天の退院祝いにと食べ放題に連れて行ってくれたのはつい先日のことである。メニューを見て、あまりの高さに腰を抜かしかけたが全て彼の奢り。固法が当たり前の様に奢られていたのだ。これが彼の通常なのだろう。

 つまり、身内に甘い月浦が身内の風紀委員(ジャッジメント)入りを聞いたら確実に止めにかかる。

 

「それは、大変ですね……」

 

「そうなのよ。月浦の奴、あの子のこと溺愛してるもんだから絶対反対するわ」

 

「で、溺愛ですの?」

 

 八歳の男の子を溺愛する月浦。……想像すら出来ない。いや、むしろしたくない。

 

「ええ。家庭の事情もあって月浦が面倒を見ていたそうよ」

 

 「確かに可愛いんだけど、ちょっと問題があるのよね……」と言葉を濁した固法。彼女が言うに、中学時代に何度かあったことがあるらしい。先ほども言ったように新入りは優秀だ。しかし、月浦同様に性格に難あり、とのことだ。

 

「大丈夫ですよ。白井さんも結構問題ありますし」

 

「初春、それはわざと言ってるんですの?」

 

 

 

 

 

 

 

 新たな風紀委員(ジャッジメント)は金髪碧眼の小柄な少年だった。兄貴分と同じく、半袖のパーカーを着た少年は年相応で可愛らしかった。これが月浦の身内だとは思いたくない白井であったが、彼の自己紹介を聞いた瞬間、彼は確かに身内だと思わざるをえなかった。。

 

月浦海斗(つきうらかいと)だにゃ。よろしくなんだなー」

 

 何故語尾に「にゃ」がついているんだろうか。言動も変わっていたが、考え方も八歳と思えないくらい達観している。ああ、この子は確かに月浦の身内だと思い知らされた。

 

「美偉姉ちゃんも久しぶりにゃ。兄ちゃんは元気―?」

 

「元気よ」

 

「良かったにゃー。最近忙しいって聞いたから電話も控えたにゃー」

 

「そろそろ日本語にも慣れたかしら?」

 

「大丈夫なんだにゃ。兄ちゃんの知り合いが教えてくれてるにゃー」

 

 そして少年は随分おかしな日本語を話す。見るからに外国人である彼に、一体誰がこんな間違った日本語を教えたのだろう。彼の友人であるという者がすごく気になった白井だった。

 

 

 

 

 

 

 

 月浦の目の前に座る茶髪の少年は学園都市の第六位、御坂美月(みさかみづき)。能力は破壊音声(キル・サウンド)

 物体の持つ固有の振動数を音波の振動で増幅することで固いものでは破壊する。やろうと思えば人体すら破壊しかねない能力だ。本来の名称は音声操作(サウンドハンド)らしいが、あまりの破壊力に彼自身の能力名称が与えられた。

 

「美月。お前、木山春生の研究に手を貸したな」

 

「それ、わざわざ呼び出して言うこと?」

 

「妹が首を突っ込んだと聞いてもそれを言えるのか?」

 

 店員が運んできたカップに手を伸ばした美月の手が震えた。見るからに焦ったその姿に「そう言えば、お前はシスコンだったか」と言っておく。

 

「……零哉。美琴には内緒の方向で。バレたら明日、葬式になるかも」

 

 毎度のことだが、この男は大袈裟に考えすぎだと思う。あの御坂が実兄相手に本気で十億万ボルトを落とすはずがない。

 

「了解した。しかし、御坂はお前に電撃を落とすのか?」

 

「レベル5に上がってから落とすようになったよ。あれ、ホントに勘弁してほしい。美琴の電撃の音は頭に響くから」

 

 音を操る能力者である美月はどんな微小な音でも拾ってしまう。そのため、普段はヘッドホンを装着しているくらいだ。そのため、電撃もとい、雷の音は非常に頭に響くと言うことだ。御坂に勝負を挑まれれば、頭に響く音に耐えながらの戦闘である。兄であろうと恐らく容赦しない性格である御坂の事を考えれば当然か、と思い直した。

 

 

 

 

 

 

「初姉ちゃんは地図書くの下手だにゃー」

 

「うぅ……」

 

 にゃーなどとお子様口調で喋る彼の研修を任されたのは初春と白井だった。

確かにちょっと生意気な部分もあるが、思いのほか冷静な彼に初春は終始振り回されている。白井に至ってはいつも通り突っ走ってしまい、今は二人きり。この気まずさから逃げたいが研修中ゆえにそうはいかない。

 

「海斗君はどうして上手いんですか?」

 

「んー? 俺の住んでたのはフィンランドでも田舎の方でねー、全部ご近所さんで済んじゃったにゃ。でも学園都市ってそうはいかないからー、自分で地図書くようにしたにゃ」

 

 西葛西と言う東京の都会で育った初春には経験のないことで、苦労しているんだなぁ、と思った。月浦もフィンランド出身だと言っていたし、彼らは日本に来て言語と地理に苦労したのだろう。

 

「苦労してるんですね」

 

「にゃー? よく分かんないけど馬鹿にされたー?」

 

「してませんよ!」

 

 しかし、彼女たちの後輩研修はまだ始まったばかりである。

 




月浦の身内と御坂兄を出したかった。このまま妹達(シスターズ)編に入ります。海斗の能力はそこで分かる予定


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妹達(シスターズ)編
第一話 妹との出会い


 

 

 小学校三年生に上がって数か月の弟分が風紀委員(ジャッジメント)に入ったという知らせを聞いたのはつい数日前の事だった。

フィンランドで暮らしていた時からの弟分に当たる海斗は一見人懐っこい性格をしているが、興味がない人には淡白な所がある。その海斗が自分からなりたいと言ったのなら止める気はない。そう固法に言ったら、「あんた、熱あるんじゃないの?」と言われた。……解せぬ。

 

『あのねぇ、兄ちゃん。最近色んな所にマネーカードが落ちてるって聞いたんだにゃー。風紀委員(ジャッジメント)は取り締まれないし、どうしたら良いかにゃー?』

 

「マネーカードとはまた酔狂な奴も居るんだな……」

 

 紙幣をばらまくことに関しては罪に問われる学園都市だが、マネーカードの件はまだ法整備が整っていない。海斗の言う通り、気になりはする。学園都市に金持ちは数多く居るが、そんな酔狂な事をして回る奴などいないだろう。誰がどんな目的でマネーカードをばらまいているのか。

 

『にゃー? 兄ちゃんじゃないんだー。てっきり兄ちゃんかと思ったんだなー』

 

「……海斗?」

 

『ごめんなんだにゃー』

 

「まぁ、人間観察の為にやりそうとお前が思うのは分かる。だが、俺は金の無駄遣いはしない」

 

『だよねぇ。兄ちゃんって無駄遣い好きじゃないし。まぁ、俺も探してみるにゃー』

 

 そう言って電話を切る海斗に溜め息をついてしまった俺は間違っていない。

 海斗の能力はレベル3の連結転移(コネクト・ポイント)

遠く離れた地点を連結(コネクト)することで物体を遠くまで飛ばしてくる。現在海斗の能力の限界値は一千三百五十七メートル。質量は凡そ八百キロ。それでいて遠くのものを引き寄せることも出来る。現在学園都市で最も距離を飛ばすことの出来る移動能力者(テレポーター)だ。

 しかしこの能力、レベル4に上がった時の予想データを見る限り海斗はかなり苦労する。連結転移(コネクト・ポイント)は自身を飛ばすことに向いていないのだ。そのため、自身を飛ばせるようになるまでかなり時間がかかるらしい。今で充分使えるレベルなので月浦は大して言及しないが、担当教員は焦るだろうなぁと思う。

 しかし、海斗は自分で飛べないなら道具を使えば良いと言う考え方をする。その内、何処のアクション映画だと言うようなワイヤーアクションを身に付けてくるに違いない。そう思うと頭が痛くなる月浦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 朝七時。

御坂美月は頭に響く蝉の声で目が覚めた。音を操る能力者(サウンドハンド)である美月にとって蝉の音のみ聞こえなくするのは簡単な事だ。しかしそれをやる気はない。何故ならば、夏の風物詩の声が聞こえないのは多少寂しいからである。響く蝉の声を我慢しながら体を起こし、枕元のヘッドホンを装着。

壁に掛かったままの白いシャツとライトイエローのニットベスト、紺の格子柄(タータンチェック)のネクタイ 。薄い黒の格子模様(ギンガムチェック)のスラックス。これは美月の通う落陽(らくよう)高校の制服である。言うならば、同じ第七学区にある常盤台中学の男子校バージョンだ。冬服はこれにダークレッドのブレザーを羽織る。面倒なことに休日も制服と言う規則があるため、やむを得ずそれを着る。

夏休みであるにも関わらず、美月が珍しく早起きした理由は別の学校へ行った友人からのお誘いがあったからだ。美月にとって彼は、レベル5だろうと分け隔てなく接してくれる数少ない人間だった。

 

「でもマネーカードを見つけて欲しいって何でだろう……」

 

 友人の頼みが変わっているのは何時もの事だが、今回のものは度を越していると思った。

 

 

 

 

 

 

 

 美月の能力で周囲のマネーカードの情報を集め、先回りして手に入れると言う作戦は上手くいった。その成果はマネーカードを探し始めて三時間で十五枚にも上っていた。万が一狙われることがあっても、二人はレベル5。簡単に蹴散らすことが出来る。

 

「暑いねぇ、零哉……」

 

 カーキ色の上着をパタパタさせながら言う美月は本当に暑そうだった。対する月浦も首にクールネックと呼ばれるスカーフを付けている。能力上、水分さえあれば空気を冷やすことが出来る彼も実は暑さには弱かった。

 

「暑い。もう溶けそうだ」

 

「大丈夫、じゃないよねぇ。アイスでもって……、美琴?」

 

 美月が指さす先に居たのは、常盤台中学の制服を身に付けた茶髪の中学生。彼の妹であり、常盤台の電撃姫、超電磁砲(レールガン)の異名を持つ御坂美琴だった。彼女はベンチに座る月浦たちの視線に気づいたのか、じっと見つめ返してくる。

 妙なことに彼女は一言も話さない。普段であれば「月浦じゃない!」や「この愚兄!」などと言ってくるはずなのにじっと見つめてくるだけ。

 

「え、えーと、どうしたの、美琴。何時もの挨拶は?」

 

「意味が分かりません。むしろお兄様は何がおっしゃりたいのですか、とミサカは顔をしかめてみます」

 

 ……全くしかめてないんだが。

 

「れ、零哉! この子美琴じゃないよ! 美琴がお、お兄様なんて!?」

 

「お、落ち着け、美月。お前が冷静に聞けば声のトーンが違うことぐらい分かるだろう」

 

 シスコン前回の美月を止め、冷静になることを促す。

 実をいうと、月浦も混乱していた。御坂らしくないことから、彼女は恐らくクローン。現在、学園都市でも世界でも人間のクローンを作ることは禁止されている。それなのに彼女が居る。どう考えても、嫌な考えしか浮かばない。

 

「あ、え、うん、そうだった。そう言えば君。美琴と声が違うね? 俺の記憶じゃ、妹なんか居なかったんだけど……」

 

「そうですよ。私は御坂美琴お姉さまのクローンです、とミサカは銀髪の貴方を見て答えます」

 

 

 




月浦海斗の能力は連結転移(コネクト・ポイント)。物体を遠くに飛ばす、もしくは遠くから引き寄せるタイプの移動能力者(テレポーター)。白井や結標の能力とは違う、一風変わった移動能力者(テレポーター)を目指した結果。


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第二話 零哉と9985号

青髪ピアスの名前、能力はあくまで模造です


「あ~、これも可愛いなぁ……。零哉はどう思う?」

 

 よくは分からないが、御坂妹改め9985号を可愛くコーディネートすると燃え始めた美月に連れられて来たのはセブンスミスト。虚空爆破(グラビトン)事件以来、この店に来ていなかった月浦が修復の速さにツッコむことはなかった。

 

「……どうしてこうなった」

 

「お兄様は女子力が高いのですか? とミサカは貴方に問いかけます」

 

「高い。無駄にっ!?」

 

 ハームリムの赤眼鏡にピンクのリボン付きカチューシャ。シャツに赤いタイ、水色のノースリーブパーカー。チェックのプリーツスカートにスニーカー。月浦が見たのは夏らしい、そして常盤台の制服とはまた違った9985号の姿だった。

 パーカーを勧めた月浦が言うのもなんだが、よくそこから可愛らしいこのコーディネートを作り上げたな、と半ば感心してしまった。

 

「美琴だと分からないように髪の毛もいじって可愛くしてみたんだけどこれが一番かな」

 

「妹にその女子力を分けてやれ」

 

「えー、美琴は美琴でセンスあると思うけど……」

 

 ちょっと金銭感覚がおかしいんだよね、あの子。と苦笑いする美月。

 同じ家庭で育ったはずなのにおっとりとした女子力の高い美月と活発で曲がったことが嫌いな美琴。この兄妹、色んな意味ですごいな、と思っても口にはしない。

 

「……良いんですか? とミサカはお兄様をで上目遣いで見ます」

 

「うん、良いよ。美琴のクローンも俺の妹でしょ? 妹にやることだから変わんないよね」

 

 妹に甘すぎる兄の解答にちょっと嬉しそうな9985号。彼女の話を総合するに、美月の事はレベル5の能力者でオリジナルの兄と言う情報しか貰っていなかったらしい。そのため妹に優しく、コーディネートまでしてくれる美月を見て嬉しいようだ。

 月浦にも弟分である海斗が居るが、彼とは血がつながっていない。遠いイギリスの住む従兄の妻の忘れ形見である。あの従兄がどういう経緯で海斗を預けたか理解しているが未だ解せないところもたくさんある。その分、クローンとはいえ血が繋がっている二人は羨ましかった。

 

「ところで零哉。カードの合計金額はどれくらいだった?」

 

「27万8000円だ。まぁまぁと言った所か」

 

「その二割を涼風に渡さないとねー」

 

 涼風、とは月浦と同じくとある高校に通う涼風葉《すすかぜよう》の事だ。御坂母の友人の息子と言う関係である彼の能力は、原石能力者の中でも際立って特異な能力である。その能力で御坂に危険がないか常に探らせているのがこの兄、美月だ。

 

「いい加減お前は自腹を切れ」

 

 27万8000円の二割は5万5600円。そして服代は大凡5万。つまりこれで十万は消えた訳だ。解せぬ。非常に解せぬ。

 

「まぁまぁ。あの葉があだ名で遊びまわってるって言うし、お金払った方が真面目にやるじゃん」

 

「そもそもアイツを選んだことが人選ミスだろ……」

 

 青髪ピアスと言うニックネームでちゃらちゃらした格好をするクラスメイトを思い浮かべ、何でコイツなんだと思ったのは今日だけではない。四月から八月までの四か月で既に四十件近い職質を掛けられている人間だ。それなのに何故友人を続けているのか月浦自身不思議だ。だが、悪い奴じゃないのは分かっている。

 

「その方は、お兄様達のご友人ですか? とミサカは疑問を口にします」

 

 不思議そうに首を傾げた9985号に美月はにっこり笑って、

 

「そうだね。どっちかと言うと悪友かなぁ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 一方二人に噂されている青髪ピアス、改め本名、涼風葉(すすかぜよう)は自身の能力で友人の妹を遠くから監視していた。 とある高校に通っていながら彼は高いレベルの能力者である。何故この学校にしたのか。簡単だ。皆の言うように月読先生目当てだ。

 何時もの彼ならば土御門や上条に絡んで行くところだが、生憎上条はまだ補修。何だかんだでいち早く補修を抜けてしまった彼は下宿先でバイトをするか、友人の妹の監視に勤めていた。しかし、それもすぐ飽きる。

 

「流石に半日は飽きるわ……」

 

 オレンジ色に変わっていく空を見ながら一人ごと。

 

『暇そうだね~、涼風』

 

 頭に響いた声は学園都市に来る前からの友人、御坂美月の声。彼の能力、破壊音声(キルサウンド)を持ってすれば、この様な芸当は夕飯前だ。

 

「僕ぁ、眠そうじゃないよ? 落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持っている僕がどうやって女の子とのフラグを立てるか考えてるんや!」

 

『おい! 一人女じゃないのが混じってるぞ!?』

 

「月浦は細かすぎるんや。それじゃあ、カミやんと一緒やで?」

 

 クラスメイトの月浦のツッコミにすかさず返す。だが彼も深くは言わない。本名を名乗らず、あだ名で済ませる彼の能力名を知っているからだ。

 

『俺はどうでも良いんだけど、美琴の方はどう?』

 

「あの子ならクローン? と仲良くケーキとか紅茶飲んだ後、いきなり公衆電話に駆け込んだけど?」

 

『……え?』

 

 

 

 



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第三話 一方通行

 

 

「くそっ! 俺じゃショートカットなんて出来ないのに!」

 

 青髪ピアスの言う通り、御坂の通った道を虱潰しに探しているのだが、中々彼女の姿は見つからない。

 

「俺も流石に三人一気に移動は無理だ」

 

「おい、レベル5」

 

「仕様がないだろう。俺の能力は元々念動力(テレキネシス)なんだ」

 

 月浦は多重能力者(デュアルスキル)ではない。ただ念動力(テレキネシス)系統の能力を使いこなす能力者だった。物体を浮かせる能力者が多い念動力(テレキネシス)の中で多くのものに干渉する事が出来る彼だからレベルを上げるのに時間が掛かった。

 

「え、念動力(テレキネシス)だったんか」

 

「ああ。俺の場合、氷の精製が極端に得意だったから氷系統の能力区分なんだ」

 

要は分子振動を操作して物体を凍結させたり、大気の流れを操作したり、空気自体を圧縮・拡散させたり、自分自身の推進力に使ったり出来るのだ。そして、元々の物体を浮かせると言う力の使い方自体はそこまで得意ではない。

 

念動力(テレキネシス)って元々万能な能力だしね。月浦はそのせいで中々レベルが上がらなかったんだけど」

 

「まぁ、僕よりは便利やなぁ」

 

「お前ほど訳の分からない能力者はいないから安心しろ」

 

 

 

 

 

 

『わああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああっ!』

 

 涼風の目撃情報を元に妹を探す美月の頭に響いたのは妹、御坂美琴の悲鳴。音の対象を美琴と友人二人だけに絞って居るため、美月は妹達(シスターズ)の最後の声に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月浦が見たのは大きな血溜まりだった。日常生活では滅多なことではお目にかかれない光景。そして、御坂の足らしきものが転がっていた。

 

「……一方通行(アクセラレータ)

 

 白色をもつ髪。血に染まったような赤い瞳。能力者らしい肉が付いていない体。学園都市最強の能力者である第一位。対峙するは学園都市第六位、破壊音声(キルサウンド)御坂美月。ちなみに最近決まった序列で月浦は麦野沈利と同列の第四位となった。

 

「僕ぁ、隠れて援護するからな! 絶対に前には出らんよ!」

 

「いやお前はその方が効率良いし、それで良いよ」

 

 真っ先に飛び出して言った美月を追う前の作戦会議は僅か十秒程度のこと。その間に美月と一方通行との会話は進んでいた。

 

「お前! 人の妹に何してくれてるんだよ!」

 

「ああン? 何だ、お前ェ?」

 

「お前が殺した子の兄貴だよ、この馬鹿やろう!」

 

 御坂を後ろ手で庇いながら一方通行と彼女の間に割り込んだ。放心状態の御坂がのろのろと顔を上げ、美月を見る。見る見るうちに溜まった涙はきっと見間違えではない。

 

「兄貴? あのクローンに兄とか居たかァ?」

 

「厳密に言えばオリジナルである御坂の兄だが、彼女たちの兄であることには変わりないさ!」

 

 予め演算によって構築しておいた氷塊を能力で飛ばす。上下左右、そして地面から。四方八方から放たれるそれを避けることは出来ない。一方通行にこの手の攻撃が聞かないことも承知している。月浦は、ただの時間稼ぎだ。

 ベクトル操作によって次々跳ね返ってくる氷塊は美月の能力により、当たる前にかき消されていく。

 

「ああ? んだこりゃあ?」

 

 しかし、一歩踏み出すことでさらなる反撃を加えようとした一方通行の足はまるで縫い付けられたように動かない(・・・・)

 

「お待ちください。破壊音声(キルサウンド)氷葬地獄(インフェルノ)、いえ念動支配(テレキネスマスター)死霊使い(ネクロマンサー)

 

死霊使い(ネクロマンサー)。既に死した者と会話し、その力を借りる能力。青髪ピアスは学園都市に数十人しかいない原石能力者の一人。死んだ者達に一方通行のベクトル操作は効かないからこそ、出来る事がある。

 

「計画外の戦闘は、予測演算に誤差を生じる恐れがあります。とミサカは警告します」

 

御坂と同じ様なクローンが十数人程やってきた。

9985号と言う御坂妹を見た時点で、それが複数人いる事は容易に想像出来た訳だが、やはり本人達を目の前にすると、正直ゾッとした。この現実をすぐに受け止められるのは恐らく、一方通行と美月だけだろう。

 

「特にお姉様、お兄様方は」

 

超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)ですので」

 

「戦闘により生じる歪みは」

 

「非常に大きい」

 

「そのため、計画を途中で変更することは極めて困難であるとミサカは説明します」

 

「分かったよ、ちょっとからかっただけだってんのに」

 

 「リレーして喋んな、気持ち悪ィ」と吐き捨てて去っていく一方通行を見送ってすぐ、妹達は死体を淡々と片付け始めた。その異常な光景に御坂が耐え切れないように呟いた。

 

「あんたたち、何なの……。おかしいよ、なんでこんな計画に付き合っているの? 殺されちゃうのよ」

 

 その言葉は、ここに居る四人の言葉を代弁したものだった。

 

「ミサカは計画のために作られた模造品です」

 

「作り物の身体に、作り物の心……単価にして18万円の実験動物ですから」

 

 作業が終わった後、ピンクのカチューシャを付けたミサカが月浦たちに謝罪を申し出て来た。

 

『本実験に関係のないお兄様達を巻き込んでしまった事については重ねて謝罪します、っとミサカは頭を下げます』

 

 そう言って頭を下げ、「今日は楽しかったです、さようなら」と言った9985号を見た瞬間、今起こった事がいっきに現実味を帯びてきた。あの子は、9985号はそう遠くない日に実験で命を落とすのだろう。

 

 

 

 

 

 

 御坂を寮近くまで送り届けた後、真っ先にリタイアを申し出たのは青髪ピアスだった。彼曰く「下宿先に迷惑をかけるのはマズい」らしい。御坂についてはこれからも護衛を行うため、見逃して欲しい、と。

これから首を突っ込もうとしていることは明らかに学園都市の機密に関わることだったからか美月はあっさり承諾していた。ただし、御坂に何かあったらすぐに連絡するようにと釘を刺すことだけは忘れなかった。

 

「でも意外だなぁ。零哉が付き合ってくれるなんて思わなかったよ」

 

「些か心外だが、まぁ乗りかかった船だ。一人でも多く救えるように動くぞ」

 

「……うん」

 

 



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とある月浦の設定資料

月浦零哉(つきうられいや)(半分本名である) 男 16歳

 

能力名:絶対零度(アブソリュート・ゼロ)瞬間凍結(インスタント・クーリング)と呼ばれることが多い

 

通り名:学園都市 第四位 氷葬地獄(インフェルノ)

 

主な能力効果:空気中の水分を凍らせて足場を作る

       柄を用意すれば氷の剣を作ることが出来る

       絶対零度を生み出す

 

本来の能力名称:念動支配(テレキネスマスター)

 

能力効果:分子振動を操作、もしくは分子操作(月浦の場合はこれが極端に得意だった)

     大気の流れを操作する

     空気自体を圧縮・拡散

     自分自身の推進力

     熱移動

     などと主に念動力(テレキネシス)による物質の精密操作

     

能力欠点:力押しは得意ではない

     物体を浮かせると言う主な能力自体は仕える。ただし、浮かせたままの空中移動は流石に人数制限がある

 

 

主な戦闘方法:普段は能力ではなく、近接戦闘で終わらせるタイプ

       格闘術は不健全な理由で覚えた

 

武器:主に双剣(銃は危ないので滅多に使わない)

 

出身:フィンランド

 

見た目:銀髪に菫色の目。黒縁眼鏡、もしくは銀縁眼鏡を着用。制服の下に常にパーカー(フード付き)を着用。

 

 

 フィンランド出身のクオーター(フィンランド人の血の方が濃い)。常に我が道を突き進む少年で、上条たちと同じとある高校に通う。真摯に相談に乗ってくれた小萌先生や黄泉川先生とは仲が良い。

 困っている人を放っておけず、知っている人だと問題解決まで付き合う。固法とは小・中と同じクラスであった。彼女に風紀委員(ジャッジメント)に向いていると言われているが全く興味がない。

身内にとっても甘い人。恐らく、イギリスでAIM拡散力場について研究している過保護な従兄のせいである。何故か隣室の土御門の面倒を見ている。たまに禁書目録(インデックス)の面倒を見ることも。上条とは苦労人同士で仲がいい。初春、佐天、御坂、白井を本人は可愛がっているつもりである。固法とは仲が悪いが、性格上放っておけない腐れ縁。

 

 

 

 

御坂美月(みさかみづき) 男 16歳

 

 

能力名:音声操作(サウンドハンド)

 

通り名:学園都市 六位 破壊音声(キルサウンド)

 

主な能力効果:声を変えることが出来る

       音を介して物体の振動数に干渉できる

       人間に聞こえない音まで聞こえる

       人間に聞こえない周波数を扱う

       やろうと思えばキャパシティ・ダウンを行える

 

能力欠点:音が聞こえすぎる

     ヘッドフォンがないと歩けないくらい音に敏感

     どんな小さな音でも拾ってしまう

 

主な戦闘方法:主に足技

 

武器:何故か鉄パイプを使うことが多い

 

出身:日本

 

見た目:薄い茶髪。主に落陽高校の制服にヘッドフォン

 

 

 

 落陽高校の一年生で御坂美琴の兄。重度のシスコン。正体不明の第六位として君臨する理由はただ一つ。彼が目立つをことを嫌っており、尚且つ、レベルを4と偽って登録するように第五位に依頼したから。心理掌握(メンタルアウト)の使い手である食蜂操祈(しょくほうみさき)から何故か好意を寄せられている。しかし、妹愛の激しい美月に全く気付いてもらえていない。

 親の知り合いに青髪ピアスこと涼風葉(すずかぜよう)がおり、パシっていることが多い。月浦とは中学が同じだった。固法とも同じ中学だったが、関わりたくないと言う理由であまり話したことがない。普段からヘッドフォンを付けているが周りの音は聞こえているため、日常生活に問題はない。

 最近の悩みは妹に会うたびに勝負を持ちかけられること。



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