大海賊時代に降臨する拳王 我が名はラオウ!! (無機名)
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1話

※注意書き(と言う名の苦しい言い訳)

・ワンピース、北斗の拳のクロスです。メインはワンピース。

・原作知識についてですが、ワンピース、北斗の拳、どちらもそれなりに知らなければちょっと苦しいかも……wikiで調べればわかる程度を心がけます。

・『世界最強の白ひげはともかく、その他にラオウが負けるなんて"北斗の拳"の描写を見ればありえねえ……』と思ってます。ラオウはどんなに悪くても引き分け。

・北斗の拳における『気』『闘気』『オーラ』≒ワンピ『覇気』と考えてます。そのため、場面によって覇気と闘気がごっちゃになります。
 闘気と武術を極めたラオウの拳はロギアであっても当たります。北斗剛掌波などの闘気技も当たります。ただし、覇気を武器に纏わすと云う使い方はできません、しません。そもそもラオウは天より授かった己の拳にプライドを持ってますし、武器を拳王様が使うなんて想像がつきません。
 原作でも脅威に感じていたトキに短刀を使った持久戦のために使ったくらいですし……。

・原作の拳王ことラオウの闘気に弱いものが巻き込まれると死ぬ。という設定(vsジュウザ戦の話)は変更します。
 核の炎で焼かれた後の荒廃した世界を生きている。そんな精神耐性が高い人間でさえ、巻き込まれると死んでしまうラオウの闘気をそのまま持ち込んだら、反則もいいところなので、『巻き込まれると死ぬ闘気』は、多少覇気を使えるものでも失神する強力な覇王色と変更します。
 一応、理由も付けるつもりです。

・原作でケンシロウと最後の決闘して、天に還った後なので、ラオウの性格が多少穏やかになっています。……元の性格のままだと、どこででも戦争になりそうですし。^^;

・ムカつくあるキャラをフルボッコにする予定です。……むしろそれが目的。蹂躙に等しい事になりそうです。

・グロにご注意ください。

・北斗神拳究極奥義:無想転生は武装色の覇気を持った者なら『体を原形を留めない自然物に変えることが出来る』ロギアを捉えられるのだから、無想転生も捉えられるのではないか?
 ―――こんな考え方もできるのですが、無想転生は『実体を空に"消し去る"』文字通りの【無】ですから、ただ単に『悪魔の実』の力に頼った、原形を留めないだけ。
 そんなロギアを捕らえる程度では捕らえることは出来ない。と考えています。

 無茶苦茶な設定、文章の少なさ、突っ込みどころ、色々あると思います……。妄想に溢れておりますが、暇つぶしにでもどうぞ。


『―――我が生涯に一片の悔い無し!』

 

 

 その言葉と共に微笑みを受かべ、天へ還った漢が居た。

 

 

 

 ・降臨する の巻

 

 

 彼が感じたのは浮遊感。

 そして次に感じたのは、落下している感覚。

 

(これが天か……覇業と平定のためとは言え、数多を殺めた俺は地獄に落ちている最中……だろうか)

 

 そんなことを考えるのと同時に、行き先であろう地獄での戦いを楽しみにしながら、夢心地で落下を味わっている中、彼は海に落ちた。

 

「ぬう!?ここは……」

 

 着水の衝撃で、夢うつつから完全に目を覚ました男が辺りを確認する暇もなく、次に見たものは巨大な大口。――餌の気配を察して出てきた、この世界で海王類と呼ばれる大型の海の猛獣。普通の人間ならば、彼らの胃袋を満たしておしまいである。

 だが――

 

「ふ、ふははは、このラオウを食おうというか!――ジョイヤー!!」

 

 獲物を口に入れ、咀嚼しようとして動かした上顎、下顎を足と片腕で抑えられた大型の海王類は『ラオウ』と名乗った男の拳、一撃で頭部を吹き飛ばされる。

 その拳圧の余波で仲間に釣られて海面に顔を出し、囲んでいた海王類数体も吹き飛ばされ、助かったものは慌てて海中へ逃げ帰る。

 辺りは死体と気絶した海王類のみとなった。

 

「ぐ……ぬぅ……。」

 

 そんな巨大生物を倒した感慨に浸る暇なく、ラオウは落下の衝撃、あるいは海王類との戦闘で開いた傷が……自らを倒した末弟:ケンシロウに付けられた傷に目眩を覚え、そのまま昏倒する。

 

 

 

 その光景を目にした者達がいた。

 一部始終というわけではなく、見始めたのは海面に顔を出した一体の海王類の頭部が吹き飛び、ほぼ同時にその周りの数体がひっくり返ったところからだった……。

 

「なんだよい……あれ……。」

「とりあえず、食料は確保できたな……浮いている遭難者は、どうする?」

「『遭難者を無視した』と言って、オヤジに殴られたいのかよい?」

「……だな。」

 

 この海域、カームベルトに食料当番で海王類を狩りに来ていた白ひげ海賊団:1番隊隊長マルコと2番隊隊長エースは、船乗りとしてのルールに従ったとは言え、予期せず大量の食料を確保できたと言え、『とんでもないものを拾う事になった』と内心愚痴っていた。

 

 

 

「…ぬ…むぅ、ここは……?」

 

 ラオウはあたりを見回す。そして傷に治療がされている。揺れからここは船だろうと見当をつけることが出来た。

 監視している者が気づいたのだろうか。男が入ってきた。

 

「よう、目が覚めたか。俺はエース。白ひげ海賊団の2番隊隊長やってる。あんたの名は?」

「俺の名はラオウ。……拳法家だ」野望を捨てた今、ただ己の持つものを以って名乗るラオウ。

 

「拳法家?修行でボロボロになってまでカームベルトで海王類を一人で相手にしてたのか?」

 

「……。」(ケンシロウとの戦いの末にこうなったが、それをいちいち言っても仕方が無い。

 そして、むざむざと情報を与えることもない。)

 

 そうラオウは考え、沈黙を選ぶ。

 エースは世界で最も有名な海賊である【白ひげ】の名をだしても反応が薄いことに疑問を覚える。

 

「……なぁ、あんた、『世界最強の海賊』と呼ばれている【白ひげ】を知らないのか?」

「知らぬ。」

「あんだけ強くて、オヤジを知らない?

 ……なんだ……まぁ、オヤジが話を聞きたがってるから早く来てくれ」

 

(……強引な奴だ)

 

 そう思いながら渋々ついていくラオウ。

 

 ラオウはわけがわからないことばかりで、戸惑っていた。世紀末のすべてが滅んだ荒野から、いつの間にかこの船に拾われていたのだから……。

 

 情報収集のために意志に関係なく強制的に口を割らせる秘孔『新一(しんいち)』や『解唖門天聴(かいあもんてんちょう)』等を目の前の男に使い、色々と聞き出そうかと思ったが、船という敵陣のどまんなかで騒ぎを起こすわけにも行かないと判断した。

 

 何より"気"の練りに違和感がある故に、戦闘は極力避けるに越したことはない。

 だがしかし、そんな中でも『世界最強』と言う男がどれほどのものかと想像するだけで高ぶっていた。

 

(覇気だ……オヤジに匹敵するほどの……)

 

 一方、エースは会話をしている中で、ラオウの高まる覇気を感じていた。

 海に浮いていたことから能力者ではない。それを差し引いても、おそらくは四皇、海軍大将に匹敵する――それ以上の強さを持っているのがうかがえた。

 実際、海王類を殺した攻撃は『悪魔の実』の能力者以上と結論づけるしか無かった。

 

 だが、白ひげの名を聞いた時の反応が薄いことが些か気になっていた。

 尤も『世界最強』と聞いてから、後ろを歩く男――ラオウの覇気は高まるばかり。思わず攻撃してしまいそうになる衝動を抑えつつ甲板に出る。その覇気で失神するものもいる一味を横目に通り過ぎ、船長に紹介する。

 

「オヤジ、こいつが例の男だ」

「グララララ、そいつか?海王類なぎ倒したってのは?」

 

 エースがラオウの方へ振り返ると、いつの間にかラオウからの覇気を感じ取れなくなっていた。

 白ひげ海賊団の猛者を前にしているのに、世界最強の異名を持つ白ひげの覇気による威嚇を受けているにかかわらずだ。緊張も気負いもない。

 

「……我が名はラオウ。拳法家だ」

 

 周りから威圧を受けながら淡々と答えるラオウは、落胆を覚えていた。

 ラオウが身につけた北斗神拳は死を司る拳法。同時に生を追い求めた拳法でもある。

 

 ラオウの実弟トキは北斗神拳を医術に転用している。また、ラオウ自身。瀕死の重傷の者を回復させたり、余命数ヶ月の命の者に"闘気"を与えると共に秘孔を突き、命を長らえさせたこともある。

 故に目の前の『世界最強』の称号を冠する男は絶頂期を過ぎ、かつ病魔に侵されていると見切っていた。

 

(天よ……このラオウに何を望む……)

 

 恐怖を以って秩序を為す平和ではなく、心の平安こそが真の平定、真の覇業とラオウは知った。

 そのために弟に討たれる事を望み、最期の最後に望んだ『この世で最強になる』という願いを持って最強となった弟と戦った。―――そして北斗神拳伝承者:ケンシロウはラオウの願いに伝承者として見事に応え、その勇姿を認めたラオウは天へ還った。

 

 その果てに得たこの不思議な体験。さりとて暴力の覇業成就というかつての野望の実現に意味を見出せず、目の前の『世界最強』という男と死合うことにも意味がないのであれば……。

 仰ぎ見た天は一体なにを己に求めているのか。と、ラオウ怒りを覚えずにはいられなかった。

 




外伝においてとは言え、寸止めの拳圧で人の腹に穴を開け、余波で地上十数階のビルに大穴開ける拳王様ですから、海王類に穴開ける位やってのけるはず。原作に於いて、ケンシロウは鋼鉄+コンクリートを使ったシェルターを一撃で穴を開けてますし……。

……パワーバランスどうしよう。とりあえず、チートの無想転生は今のところは使用不能なので、これを抜いたラオウの強さは――

 ①.3大将とまとめて戦って蹴散らせる。
 ②.大将とタイマンならば互角。
 ③.大将と互角!?いくらなんでも、ロギアだぜ。さすがに苦戦くらいするだろ。

 ……どれがいいでしょう?あと、これより弱いというのは無いです。結局、北斗究極奥義・無想転生を使えるようになれば無双の予定なのですが。

2012/12/24 元二話と統合


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2話

ラオウは最強であらねばならないと云う意見で驚いてます。
てっきりパワーバランス重視するべきという意見が多いと思ってたので……。

いっそのことケンシロウ伝のケンシロウのように胸の傷が原因で弱体化でもさせようか……。

感想や閲覧が思った以上に多くて驚いてます。がんばらないで頑張ります。


・接見 の巻

 

 

 北斗神拳は暗殺拳である。人体に708あると言われる「経絡秘孔」を突き、敵を内部から破裂することを極意とする。

 この拳法を最強とするのは、その技の強力さ、多彩な奥義もさることながら、相手の技を瞬時に解析し、盗むこと、「千変万化する戦いの中で奥義を見出し、常に進化を続けている」という点だった。そのため、体力・拳技のみならず英才教育にも力を入れる。戦闘中に敵の技の本質まで見切る末弟:ケンシロウほどではないが、ラオウ自身もそれを当然出来る。

 

 その解析能力をフルに使い、それまでの会話などの流れからわかったことは、ここはラオウ自らが覇業を成そうとした199×年、核戦争によって滅びた世界ではないということ。

 この海賊勢力は、『世界最強』と呼ばれる、目の前の男を頂点としたものになっているらしい。それらをラオウは理解した。

 

 同時に、ラオウを囲む一団に多少の嫉妬を覚えていた。覇道を極めるために捨てたものがたしかに有ったからだ。

 

(……俺が統治した国には無かったものだ。この男にはフドウと似たものを感じる)

 

 そして過去に暴虐の限りを尽くし『鬼』として恐れられ、唯一ラオウが恐怖した男。それが心惹かれた女によって改心してからは、背負った宿命の中で『山のフドウ』。あるいは孤児達を養って生きた『善のフドウ』とも呼ばれた男と似通ったモノを一団に見出していた。

 

 そんなラオウの思考の沈黙を嫌ったか、案内したエースが焦れて質問を矢継ぎ早にしてきた。

 

「――で、あんたはなんであそこにいたんだ?」

「知らぬ。天の悪戯としか思えん」

「能力者か?」

「何の話だ?」

 

 ラオウは本当に何の話かわからないが、エースを始めとした【白ひげ海賊団】の面々は、『能力者がそう簡単に、自らの能力をばらしたりするわけがない。』

 そんな認識があるために、深く問い糾そうとは思わない。

 

「……拳法家といったな。さっきも聞いたが、大抵の剣士、海賊、俺自身もそうだったが……あんたは『世界最強』のオヤジに挑む気でいたんじゃ無いのか?」

 

 そう言いながら向けてくるエースの威圧の"闘気"をラオウは『柳に風』とばかりに受け流しながら答える。

 

「……先ほどまでは、な。だが……老いと病に蝕まれた者と死合うことに意味が見い出せん。」

 

 野望に塗れたその拳を封じようと、ラオウを追い詰めながらも倒れた師父リュウケン。ラオウが恐れた拳の持ち主、実弟トキ。

 ラオウは、老い、あるいは病に蝕まれたために自らに匹敵、上回る技量・力量を持っていながら倒れた。そんな彼らを思い出しながら言い切る。が……

 

「――てめぇ!!」

 

 ラオウの人生を知らない【白ひげ海賊団】の面々には、"覇王色の覇気"を収めて言ったラオウの言葉は、ただの侮辱としか映らない。一瞬で臨戦体制に移った者達の中から、文字通り気炎と共に手に炎を上げ、攻撃しようとするエース。

 それをラオウは静かに構え、迎撃しようとする。

 

「やめろ」

 

 威圧感を含んだ低い声と共に、辺りの険悪な空気は吹き飛ばされた。

 

「……エース。そいつぁ怪我人だ。俺らの飯の借りもある。

 おい、拳法家とか言ったな。傷が癒えるまでは面倒見てやる。……オラァお前の言うとおり病気持ちだ。―――けどな、オメエに負けるほどヤワでもねぇ。覚えておけ」

 

(……老いても『最強』と言われるわけだ)

 

 言葉とともに向けられた強烈な闘気に、思わず笑みを浮かべるラオウだった。




 62代伝承者:霞拳志郎は若くして大学教授やってるほどですから、北斗神拳の教育は半端ないのですよね。
 ちなみに炎を上げたエースにラオウが驚かなかったのは、炎使いと戦ったことがあるからです。
 炎のシュレン、燐を用いて火を操る格闘家。アニメのCV:若本御兄様。後の映画版だと檜山修之……ホント豪華な声優さんを使ったキャラなんですよね。
 出番は殆ど無いくせに……。


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3話

なんか、カウントが増えててびっくりデス。
評価も頂いてるし……。こんな駄文で大丈夫かなぁ……。

感想など待ってます。どんどん指摘してください。


 ・情報収集と晩酌での語らい の巻

 

 

 険悪に終わった白ひげとの会談からの夜……。

 

(何故閉じ込めぬ。見張りはいるが……)

 

 あの白ひげとの謁見の中、ラオウは傷が癒えたら船を下り、適当に一人で世界を巡るつもりであることを告げると、船長の白ひげは「そうかい、好きにしろ」と投げ遣りな答えを返しただけだった。

 そして粗末なものであるが、世界が滅びたあの世界と比べれば上等といえる部屋をあてがわれていた。

 その覇業の中でカサンドラという牢獄を作り、危険人物として実弟すら監禁したラオウにしてみれば理解に苦しむ話だった。

 だが、これ幸いと情報収集のためにこの世界の書物を何冊か読んだ。

 主に世界史と地理を中心に……。

 

(……胸の傷で経絡が乱れている。やはり"気"の巡りが少々狂っている。)

 

 片腕ニ指の逆立ち。二指禅をしながら、穿たれた胸の傷をはじめとした体の回復具合を確認し終える。

 あの接見の時、闘気を発散して威嚇していたが、死んだものは皆無。

 本来、ラオウの闘気はある程度の【気・オーラ】を纏わねば死んでしまうことが大概だった。しかし、誰においても失神するまでしか至らなかった。

 弟ケンシロウとの大死闘の果てに起きたこと故に仕方が無いと考え、同時にこの程度で済んだことに幸運を感じ、座を組み瞑想を行いつつ今後についてを考える。

 

(この世界は秩序が崩壊しているのか、していないのか…。

 199×年以前の不安定な世の中で核が無い世界とでも言ったところなのか?……ここを出て世界を回るとして、手早く路銀を稼ぐならば賞金稼ぎか)

 

 世界を占める『世界政府』その手駒の『海軍』『七武海』。敵対する『革命軍』。

 政府の縛りを振り切り、好き勝手に海を行き交う『海賊』。その頂点『四皇』。この一角に拾われこうして傷を癒せるというのは幸運だと言える。

 しかし『世界最強』と死合うことに愉しみは見いだせそうもなく落胆を覚えたラオウだが、知識として知った『悪魔の実』と能力者、巨人族、10倍の筋力を持つという魚人、そして海軍大将を知り、それらとの邂逅、戦いが楽しみになっていた。

 北斗神拳の道を歩み始めた少年の頃、かつて最強を目指していたその血が騒ぎ出していた。

 

「……いずれにせよ。この俺が何処ぞの軍門に下ることなぞ、ない!」

 

 閉じていた目を開き、気配のする方向に言い放つ。すると見張りらしき男は「ゼハハハハ」と不愉快な笑い声をあげながら去っていった。

 

 

 

(……あの覇気とオヤジを前にした胆力、それに見聞色も大したものじゃねぇか。)

 

 見張りをしていた男は、自分の野望のためにラオウを仲間に加えようと考えていた。同時にスカウトを拒否するならば、殺して海に投げ捨てようとも考えていた。

 だが、ラオウの隙の無さに舌を巻いていた。自分より歳下と見える男にあそこまでの使い手がいることに驚くばかりだった。

 

 

 

 ラオウは寝静まった船の甲板に出て空を仰ぎ見た。

 世界は変わっても北斗七星は変わることなく輝いている。

 

(――何処であっても、あの手合いの夜叉。人を喰らう鬼はいるものだ)

 

 自らが末弟・ケンシロウとの戦いに出向く前に片付けた、ラオウの―――拳王軍の権威を傘に地位と権力を以って欲望のままに行動しようとした者達。

 『人を喰らう鬼』と同じモノを先ほどの見張りから感じた。

 

(『このラオウは人を喰らう鬼を抑え、それらを束ねる【鬼喰らう鬼】』そうも言って多々を見てきたが、あの男は如何なものか。

 ……しかし、ヤツは俺の配下ではない。詮なきことか)

 

 そう開き直り、炊事場から拝借してきた酒を手酌で飲む。

 

「こんなところで何をしてるんだよい?」

「晩酌だ。『出歩くな』というなら閉じ込めるのだな」

「……ウチの船は客人にそんなことはしないよい。」

「――ふん、甘いわ。」

「酒が、かよい?」

 

 ラオウが賞金首の名簿を見た時に記憶した名前では――マルコと言う名の男は、ラオウの言う"甘い"が何を指すのかを理解して言っている。

 そして『俺らがいる前で暴れられるならやってみろ』そう言っているのだろう。そうラオウは理解した。

 尤もマルコ達、白ひげ一団は『どんなに強くても"オヤジ"に敵うワケがない』そんな船長に対する絶対的な信頼だった。

 

「……まぁ、いいわ」

 

 そう言って更に酒を飲むラオウ。

 その横顔を見て、マルコは疑問を口にする。

 

「なぁ、歳……いくつだよい?」

「……30には行ってない」

「え?……冗談かよい?」

「むぅ?……何がだ」

 

 その答えにマルコは思わず詰まってしまう。

 目の前の男が持つ覇気そして佇まいから、少なくとも『四皇』で年齢が最も低い『赤髪』に匹敵する実力を持っていると見ていた。そして、歳もそのくらいだろうと思っていたのだが、見込みをあっさりと外されてしまった。

 知らぬ間に思わずため息をマルコは漏らしていた。

 

「苦労してるんだな。と思ったんだよい……」

「ふん――おれの過去が気になるか?」

 

 この海賊船の中でこれはタブーだ。基本的に誰もが言いたくない傷を持っている。だからこそ海賊なんぞやっている。そして、白ひげ海賊団の長はそんな者達を『息子』と呼び、無条件で受け入れてくれた人物。それを分かっているマルコは言葉が詰まってしまった。

 

「ああ、知りたい」

 

 そんなことを打ち破るように聞いてきた者が居た。

 

「エース……」

 

 隊長といっても、まだ若いエースは白ひげに仇をなすかもしれない者。ましてラオウは自分が拾った漂流者だ。故に聞かずにはいられなかった。

 ラオウはそんな板挟みになったマルコを静かに笑い、口を開いた。

 

「俺の国は乱れていた。俺は平定のために人の欲望を刺激し、束ね。武力と暴力、そこから生まれる恐怖を以って全てを支配・統一しようとした。

 ……そして、意見を違えた弟達と戦った。」

「へぇ―――。すごいな。……それで?その弟とはどっちが勝ったんだ?」

 

 湧いて出た『弟』と言う単語を聞いて、エースは聞かずにはいられなかった。賞金首に手配された弟はいずれこっちに来るのだから。

 

 結果を聞かれ、ラオウは嬉しそうに微笑みながら、一言。

 

「――弟だ。」そう答えるとともにラオウは酒を飲み干し、二人の返答を聞くことなく部屋へ戻っていった。

 

 

「……なんで起きてきたんだよい?」

 

 ラオウが去り、寝ずの番であったマルコがエースに聞く。

 

「ティーチの奴が『あいつは仲間になりそうもない』……そう言って起こしてきたからな。何かするんじゃないかと思ったんだ。」

 

 見張りを放棄したティーチに変わって、ラオウの見張りを行おうと去っていくエースを見ながらマルコは思う。

 

(オヤジに喧嘩を売った時もそうだったよい。仲間を逃して自分だけ残って……きっと、エースが一番の親孝行してるよい)

 

 

 

 そうしてこの日から数日が経ち、四皇の縄張りに当たらず、海軍の所轄範囲にもギリギリ入らない。双方の緩衝地帯に当たる、ある島は災害に見舞われていた。

 

 




あとがきと言う名の補足、言い訳。そして、ちょっとした考え。

 ……というわけで、胸の傷が原因で拳王様の闘気(威圧)はランクダウンです。武装色に当たる攻防、見聞色に当たる気配探知のランクダウンはしない方向でいきたいと思ってます。ケンシロウを上回る北斗神拳が無い拳王様ってありえないですし。

 さて、見聞色についてですが、剛拳のラオウは見聞色を使えるの?と云う意見が有りそうです。
 しかし【無想陰殺】という『相手の気配を読み、殺気との間合いを見切り、無意識・無想に繰り出される必殺の拳』つまり、数多くの実戦によって培われた『敵の気配と殺気を読み取る能力』による技がある以上、出来ると思っています。


 些かラオウの性格が違いますが、これは頭髪を剃った後の劉宗武のように、心に落ち着きをそれなりに取り戻しているからです。……そういうことにしてください。
 乱暴が過ぎるところはありますが、苛烈な野望さえなければ足を怪我して崖から登れなくなった弟トキを引っ張りあげた様に、10人組手に負けたケンシロウの死刑を影では止めようとしていたように、ラオウは優しい人間だと思ってます。だからこそ、非道を行うときはこの上なく冷徹でもあるとも思ってますが……。

 ラオウの年齢は、北斗の拳・主人公のケンシロウは19から21、それより8歳上ということらしいので、二十代後半~三十代目前。……いくら強いからって20代で天下統一ってどれだけ強く、人望を集めていたのか……ただ、偉大としか言いようが無いですね。


 ここまで書いて思ったことなのですが、ケンシロウは甘く。ラオウは野望の中、非道で冷徹。
 この見方は『北斗の拳』でよくされてますが、自分はラオウのほうが肝心なところで甘く、人間臭い。そして不器用ながら(ジャギは際どいながら)兄弟を愛していた。そう思います。
 トキを殺してしまえば、覇業の障害であるケンシロウの成長は望めなくなる。しかし、こんな好都合を実弟ということを差し引いても幽閉で済ましてしまうし、恋人のユリアとの生活に逃避・埋没しようとし、北斗神拳伝承者の役割を放棄しかけた愚弟ケンシロウを無理矢理とは言え、行動させるためにジャギを使い、シンを誘惑してユリアとの仲を引き裂く。……ココらへんはラオウの狙ったことかはさておき、全てケンシロウの成長になっている。

 全てに対して受け身でしか無い救世主:ケンシロウ。考えた末に、矛盾があり悪行であるが人を束ね動かし、平定を目指し戦ったラオウ。
 この異世界トリップで『もし、ラオウではなくケンシロウが来たらどうよ?』仮にこう言われても、感情、情愛があっても意志が大して無く、悪党を叩きのめすだけ。
 ケンシロウ伝ZEROで言われていた渾名、『狼殺し』と共に付けられた『スーパーマシン』そんな受動的な、行動力がさして無い人物の話は描きにくいです。


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4話

 さて、戦闘シーンです。上手く書けるかなぁ……。
 楽しめるモノになってます様に……。セリフがキャラクターになってるかちょっと心配。



 少し前、殆どが岩場であったはずが、今は半分ほどが砂になってしまっている。そこからほんの少し離れた防風林と森の木々はなぎ倒されていた。

 辺りに地響きと、爆発音が響きわたっている。

 今ここで行われている戦い。……このバスターコールも真っ青な破壊をもたらしているこの戦いが、一騎打ちと納得するものはいるだろうか?

 やっているのが、【白ひげ】であるとわかれば納得されよう。

 では――その相手は『悪魔の実』の能力者ではないと誰が信じるだろうか?

 

 

・世界最強との激闘 の巻

 

 

 ラオウは白ひげ海賊団から数着の衣服と外套、旅に使う肩がけ袋。そしてこの世界の通貨、数百万ベリーを貰った。

『餞別にしては多いではないか?』……と、ラオウは聞いたが、

『ラオウがなぎ倒した海王類の肉が市場で高値で売れたから、それを倒したお前にこうして金を払うのは当然だ。』ということだった。

 この海賊団の収入にはこういった危険地帯の狩りがウエイトとして大きいらしい。

 

 さらに、金を渡してきた出納係が言うには『治療代も差し引いて、分前も貰ってる。遠慮せずに持っていけ。』そういうので遠慮なく貰うことにした。

 

 そして、船長・白ひげと戦闘部隊・隊長の数名による厳しい目を受けながら見送られることとなった。

 

 下船の場所としたこの島は緩衝地帯らしく、島民の自衛組織で海賊の接岸箇所、海軍の接岸箇所を遠く分けてそれぞれに取引をすると言う。

 政府側にしてみたら、海賊を援助するなどと頭の痛い話が多い島だが、四皇を始めとした海賊の監視を考えれば仕方ないため、暗黙の了解で目を瞑られていた。

 例えるなら、グランドライン前半部:パラダイス側の船大工の島、W7と同じようなもの。

 

 ラオウは(さすがにここまでしてもらっては、何時かカリを返さねばなるまい)――そう思いつつ船を降りることになった。

 そして、侠気のある船長に少しは報いろうとした行動と言動が事の発端となった。

 

 

 目をつけたのは、黒い無精髭と所々歯の欠けた脂肪の塊の男。ラオウが先日感じた気配はこの男からだった。弱く使った軽功術で瞬時に近づき腹部に一撃を入れる。

 

「……よこしまな心に満ちた目よ。」

 

 そのまま片腕で白ひげの足元にそれを放り投げる。投げられたモノは、よろめきながらも慌てて白ひげの後ろにその巨体を隠そうとする。

 

「最強の海賊。その男、今すぐ殺すがいい。さもなくば、うぬにとって最大の災いとなろう!」

 

 ラオウが言い放ったこの話題は、白ひげ海賊団の唯一にして絶対、最大のタブー。

 知らずとはいえ、その海賊頭白ひげに有無を言わさない物言いをした。―――それを聞いた一団の動きは早かった。

 

「むぅ!?」

 

 三番隊隊長ダイヤモンド・ジョズが、ラオウを巨体に似合わない素早い体当たりで陸に吹き飛ばす。

 しかし、難なく着地したラオウの周りを今度は炎の壁が取り囲んだ。

 

「てめぇ、それはウチの最大のタブーなんだよ。謝れ!!」

 

 その怒声とともに、二番隊隊長エースがその代名詞、火拳を放つ。

 ラオウはそれを荷物を背負ったまま片手で受け止める。

 

「ぬん!!」

 

 並のものなら大火傷である……だが、それがラオウに通じること無く、炎は気合でかき消される。

 その隙を突くように背後から1番隊隊長マルコが不死鳥と成って突進攻撃をかけて来る。同時に二発目の火拳がラオウの眼前に迫ってきていた。

 

「……フン、そうか……ならば、後悔すればいいわ。」

 

 そう言って、軽功術:雷暴神脚を使う。

 その場に足あとを残し、火が点かない程の……否、火の粉すらこびり付かない、弾丸に匹敵する速さで炎の壁を突っ切り離脱する。

 海軍の高速移動を見てきた白ひげ海賊団の面々でも、照準を合わせることを許さない速度どころか、撃たれた鉄砲の弾すら回避するその速さに反応が遅れてしまっていた。

 

 数秒ラオウを見失った面々を尻目に踵を返し、場を離れようとする。

 だが――まさにその眼前の空間に亀裂が入った。その不可思議な現象に、ラオウは思わず後方へ、距離をおいた白ひげ一団の方向に飛び退く。それと同時に、亀裂が入った位置から爆音と猛烈な振動による破壊が巻き起こる。

 

「ほぅ……これが、悪魔の実の力とやらか。」

「……若造、俺の船の掟。知らなかったとは言え、息子を傷つけて―――挙句、俺にその息子を『殺せ』とのたまったこのケジメ、つける気……あるんだろうなぁ!?」

 

 そこには『世界最強』と呼ばれる男が体中につけていた医療器具を外し、船員・戦闘員を『これは俺の決闘だ。』と言って後方に下げ、憤怒の気炎を上げ愛用の薙刀を持って仁王立ちしていた。

 

(戦闘を避ける事は出来まい。)

 

 悟ったラオウは肩がけ袋を肩からすり落とし、マントを脱ぎ捨る。世界最強と言われる男の闘気と怒気に口元が緩むのをラオウは止めることが出来ないでいた。

 

「たわけたことを……俺の目に従って言ったまでだ。謝る?そんなことはありえぬわ!!」

 

 まさに『間違ってるのは貴様らだ』と言わんばかりのラオウの言葉に、ついには殺気すらも滲ませながら白ひげは言い返す。

 

「……腕の一本くらいは覚悟しろ、クソガキ」

 

 そう言って白ひげは薙刀の切っ先に振動と覇気を集中し、一気になぎ払う。

 ラオウは闘気を掌に集め、それを撃ち放つ。

 

「北斗剛掌波!!」

 

 二人の起こした破壊の暴風と闘気の塊が激突し、爆音を上げながら周囲をなぎ倒す。

 ぶつかり合った場の岩は砂と化し、余波で巻き起こった突風というのも生ぬるい破壊の嵐は周囲を薙ぎ払った。

 その破壊に驚く周囲をよそに、ラオウはその間隙に白ひげの真ん前に移動していた。

 

「どおうぁ!」

「――!ぬぇい」

 

 軽功術で一気に踏み込んだラオウは膨大な闘気を纏わせた拳を、見聞色でラオウの位置を掴んだ白ひげは裂帛の気合と共にその拳に覇気と振動を纏わせた拳を―――それぞれぶつけ合う。

 腕力と拳の硬さ、破壊力、そして覇気の総合は互角だったが、体重の差でラオウは後方に飛ばされる。その着地までの隙に白ひげは直線をなぎ払う衝撃波を繰り出す。

 

 ラオウに体制を整え、覇気を貯める時間はない――戦っている白ひげ、その観戦者たちも『終わった』そう思った。

 着地と同時にラオウは衝撃波を静かに、流れに乗るかのようにそれを受け流してしまう。――流された衝撃で地震が起きる。

 必殺の一撃を躱したことに驚く一同をよそに、ラオウの心中は穏やかではなかった。

 

(ぬうううう、よもやこのラオウがトキの拳を使わされることになろうとは!!)

 

 ラオウの実弟トキ、彼の使う激流を制する、静水が如き拳法。

 激流に逆らわず、むしろその流れに身を任せて同化することで、力を必要とせずに相手の攻撃を受け流す事が出来る。この拳技を【柔の拳】と呼ぶ。

 攻撃力の高い技を躱し、隙かし、消耗を狙う。あるいは空振りで隙を作り、反撃する。そういった相手の力を利用すると言えば聞こえはいいが、己の拳に絶対の自信を持ち、文字通り敵を粉砕してきたラオウにとって、これを追い詰められて使わされたことは屈辱どころではなかった。

 

 それと同時にラオウは、目の前の男は自らを破ったケンシロウの様に、恐怖させたフドウの様に背負った想いをその技・その拳に宿らせた攻撃である故、その力を恐れて使わされた。

 それもよく分かっている。だからこそ、自然と言葉が出た。

 

「……詫びよう。最強の海賊。」

「アぁ?」

 

 これからだというのに、突然の降伏宣言か?と訝しげな白ひげ。

 無傷に等しいのにわびをするつもりなのか?とざわつく周囲をよそにラオウは続ける。

 

「『うぬと死合う価値が無い』……と言ったことを、だ。老いても、病に冒されようとも。うぬが『最強』と言われることに偽りも陰りも無い。」

 

 観戦しているものには『何をトンチンカンなことを……』と言わんばかりの表情を浮かべた者がいる中で、ラオウの対戦相手、白ひげは何処か嬉しそうだった。

 

「グララララ、面白れぇ男だ」

「……我が奥義を尽くそう。―――世界最強!」

 

 そう言ってラオウは上げた右腕、左腕を胸の前で交差させる様に動かし、交差する直前で大きく円を描くように腕を回して、左腕を顔の左前、右腕を腹の辺りに持っていく。

 

【天破の構え】天の守護神である北斗七星が天をも破るといわれる北斗神拳の秘奥義。

 

 次の一撃で決着をつける。そして白ひげと言う『最強』を打ち破らんとするラオウの意志と敬意を込めてとった構えだった。

 その緊迫した空気から、白ひげもまた薙刀を地面に突き刺し、両腕を使った衝撃波の準備に入る。

 

「天破活殺!!」

「っつえぃ―――!!」

 

 互いに放たれた闘気と衝撃波は先程と同じく対消滅するかと思われた。だが先ほどのラオウの剛掌波が違い、ラオウの放った闘気は指先からの刺突の闘気。

 

 結果、ラオウの鋭い刺突の闘気は衝撃波を貫通し、白ひげの衝撃波も大した減退をすることなくラオウに襲いかかる。

 

「ぐはあ!!」

「ぬぁ!!」

 

 ラオウは衝撃波によって吹き飛ばされ。白ひげは両胸の下、数カ所に同じ数・対象に点穴される。

 

 衝撃波で転がされたラオウ、点穴をされた白ひげも、ぴくりとも動かなくなり、焦れた白ひげ海賊団の面々が白ひげに近づくと、立ったまま気絶していた。

 それと時を同じくして、ラオウは震える足に手をつきながら立ち上がり、転がった荷物をまとめノロノロとそこから去っていこうとする。

 

 『俺の決闘』と船長が言い切っていたので、白ひげ海賊団はラオウを追いかけることは出来ず、とにかく船長を船に運び込む。

 その中でエースだけが、ラオウに近づく。気配を察したラオウは息絶え絶えながら、

 

「体を厭え、病を癒して、もう一度だ強敵(とも)。――そう、ヤツに伝えろ」

 

 無言のまま言葉を受け取ったエースは難しい顔を浮かべ、去っていく。

 近くの丘を超え、白ひげの船から見えない位置まで来ると、ラオウは再び前のめりに倒れ、気絶した。

 

 




 最強同士、剛の使い手同士の結果は相打ちでした。あっという間に決着ついちゃった……。批判は甘んじて受けます。

 隠れてたジャコウの性分を壁越しに見出して、言い当ててしまう拳王様だから、当然こういった忠告はするかなと。そのお節介がおもいっきり裏目に出てしまいましたが。
 そして、トキが無理矢理とは言え剛拳を使えたのですから、ラオウが【柔の拳】を使えても不思議はないかな。と思ったので使ってみてもらいました。【天破の構え】といい色々と使いすぎだったか……。世界最強を相手にするんだから、このぐらい使っても罰は当たらないはず……。

 海王類の肉が高値で売れる設定はどうだったでしょうか?ルフィいわく海王類のハムが物凄く美味しいそうなので、海王類を狩れるレベルの海賊ならば、安定した収入にはもってこいかと思ったので、白ひげ海賊団の収入のウエイトとして置いてみました。『ナワバリ』の収入も大きいでしょうけどね。

 さて…。こっからが悩みどころで、ここまでが出だしである――白ひげ海賊団にお世話になる。そして最終目標の、ここでの借りがあるから頂上決戦に途中乱入。と言う方針は決まっているのですが、その中間。マリンフォードまで行く。と言う過程があやふやのまま。感想にあるようにプロットが立ってない。全くそのとおりです。嗚呼なんていい加減。^^;
 一応、どうして行くか。というのは決めているのですが、その過程でどんな相手と戦わそう。というのがまるで決まってません。こいつとラオウをバトルさせてみたいぜ。というのがあるのでしたらどうぞ……。


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5話

 世界最強と引き分けた拳王様……。その後の話。今回、拳王様はお休みです。


 ・驚嘆する世界 の巻

 

 どんな場所でも、如何なる時代でも、どの世界でも、弱った獲物を狩る……死肉を漁るハゲタカの様なものは存在する。

 

 丘の中腹に突っ伏している男がいる。

 その周りを賞金稼ぎが取り囲んでいた。後は各々が持っている剣でその男を突き刺せば、名誉が転がり込むはずだ。なにせこの弱って気絶している男は、ついさっき『世界最強』と相打ちだったらしいのだから。

 どんな形であれ、その首をとったならばそれだけで快挙である。

 10名には満たないグループ。そのリーダーらしき男が半死人の周りを取り囲んだことを確認する。

 

「……よし、やれ!!」

 

 合図を待っていたとばかりに全員が剣を挙げ、斬りつけようとする。

 そこで体勢のまま全員固まってしまった。経った時間はタップリと約15秒ほど、その光景をリーダーが訝しんで見ていると、異常が起こり始めた。

 

 一人目は頭の形が歪み、そのまま頭部が爆発。二人目は四肢がネジ曲がり、全身が捻り切れた。

 3人,4人,5人……囲んだ全員が、異常としか言い用のない光景が起こった末に無残な死を遂げた。骨を綺麗に残したまま内蔵がその体ごと爆散しているものすら有った。

 

 死神の拳を使う者は、たとえその意識が無くとも死をもたらす。

 

 ――かつて62代伝承者が無意識・無想で放った別の形の『究極奥義』と呼ばれるものだった。

 

 

 

 チェリーパイをたらふく食べている男が酒場にいる。事は済んだかと、その連絡は今か、今かと待ちわびていた。好物を食べている最中だがイラツキを隠せていない。

 一団の中で10年単位にわたって己の本性を隠したまま目立たず、かつ、その中で必要なくはならない程度で居座ってきた。信頼もそれなりに得てきた。だが、先日海で拾った男は誰も見破ることのない本性をあっさりと見極め、自分のことを船長に向かって『殺せ』と言い切った。

 

 誰も見破ることのない仮面の中を見極めたのだ。

 弱った今こそ……弱った今、それ以外無いだろう。――アレは危険だ。

 その眼光を思い出すだけで恐怖が蘇ってきていた。好物のチェリーパイの味が何も感じられないでいた。

 

 一団の長が『一騎打ち』で受けた以上、その構成員である自身が手を出すことが許されることはない。そして男が属する戦闘部隊の隊長があの男の伝言を、目を覚ました長に伝えたとき、上機嫌に『手を出すな』と厳命していた。

 

 手が出せない――ならば、野盗にでも、賞金稼ぎにでも狩られたことにでもすればいい。

 

 曲りなりに『新世界』と呼ばれる、強者のみが集まる海域で賞金稼ぎをしている連中だ。そいつらに『気絶して動けない美味しい獲物』があることを伝える。

 やったことはそれだけだった。

 

 再び暴食を開始し始めたところで酒場のドアが開く。入ってきたのは男が情報を流した一団のリーダー。それを機嫌よく迎えようとしたが、顔を見るなり飛んできたのは罵声だった。

 

 曰く『あんなバケモノどうしろと言うんだ』『あんなの人の死に方じゃない』『お前が自分でやればよかったじゃないか―――』半ば狂乱に等しいそれを適当にはぐらかしながら、その死に方という情報を引き出すと、最後に『済まないな、裏で侘びの代金を払おうじゃないか』といって裏路地に引っ張り込み、頭を踏みつけて殺した。これで証拠は隠滅。周りの気配の確認は怠っていない。

 

(くそ、やっぱりアレは勘違いじゃなかった)

 

 こっそりやろうと思えば、この男自身出来ないことはなかった。だが、最初に船に連れ込まれた時、害意・殺意をほんの少しでも男に向けるたび、闇の深淵を覗きこんだ気分を覚えた。だからこそ慎重を期して他人を使ったのだ。

 

(だが、今に見てろよ)――力だ。力さえ入れば。

 

 ますます力に対する妄執は強くなるばかりだった。それは、この時から時を得ずして得ることになる。

 

 

 

 白ひげ海賊団はその船長が『世界最強』の異名を持つのに加え、それを慕う部下の隊長格は皆、平均的な海軍本部の将官と戦える戦闘力を有する。トップレベルとなれば大将とすら戦える。それが故に否が応でも注目を浴びている。

 故に、いつの間にかその船に乗り込んでいた男が、突然とある島で『世界最強』と戦い、引き分けた。そしてその男にはどんな背景もない。と来れば驚かずにいられる者は皆無だ。

 

 

 世界の海を管理している海軍本部、そのトップ元帥の部屋で、その部屋の主は腐れ縁と以外、言いたくないが、実力は誰もが認める。そんな悪友を怒鳴り散らしていた。

 本題は先日指名手配された悪友の孫。

 

 この悪友の息子はすでにどうしようもないほどの危険人物・賞金首となっている。

 だからこそかつて『孫が産まれた』と、言われたときは『育て方を間違えるんじゃないぞ』と言っておいた。そのはずなのに、忠告したはずなのに…それはそれはめでたく。モノの見事に世界のゴロツキに仲間入りである。

 『ぶわっはっはっは!!』と豪快に笑い転げているこれが……なんだってこれが『英雄』なんだか。

 

 その説教を中断せざるえないほど、慌てた剣幕で情報官が『白ひげ』の情報を持って来た。

 そして、それを報告書なんざ碌に読みもしない悪友に読み聞かせながら読むと、更に頭痛の種が増えた。と元帥は頭を抱えるばかりだった。

 

 それに対し『ほれみろ、うちの孫なんざマダマダじゃい!』などと、訳の分からないところに胸を張っている。……そんなこのどうしようもない『なんちゃって英雄』に一撃を叩き込む元帥だった。

 

 




与えたトラウマと存在を知られる拳王様と言ったところでした。

……うん、なんだってアレが『英雄』なんでしょうね。
戦闘力だけで言えば、そりゃあ、ロギアのサカズキをぶっ殺せるような発言してたから高いのでしょうけど……。


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6話

うん、やはりラストまでそんなに時間はかからないかと……。……思う。でも、拳王様を書くの楽しい。終わりたくなくなってきたのも本音です。


・とある海賊の不幸 の巻

 

 

 その始まりの理由はどうであれ『世界最強』の名を冠する者との死合いは互角と呼べるもので有り、愉しめた。

 ラオウは考える。ならば――

 

(海軍の者と死合うも一興か……あの強敵[とも]と渡り合って来た者達ならば。――あるいは、別の四皇)

 

 元々、ラオウが拳法を学び始めた頃は『弟を守る』『乱れた国の平定』が意志の源であり、強くなることを実感するほど『最強になる』『天下一になる』と代わり、その内に己の力を存分にぶつける事のできる相手・強者を求め、それらを全てまとめたのが覇業という野望だった。

 そのために、意志を曇らす情と愛から目をそらした。

 

 大事を成す中で小さな汚点は有ったが、それでも国の平定を成し遂げ、『道を誤ったときは、己の拳を封じろ』と約束し、その約束を守るために戦った実弟。

 その遺志を継ぎ最強の男と成った弟と――心の何処かで負けることを望んだとは言え、全力を以って戦った。そして敗れ――終わったはずだった。

 

 神の気まぐれか。それとも悪魔の悪戯であろうか?この世界に落ちた。ここは強者にあふれているのだから、シガラミはもう無いのだから、強者らとの死合いを求めずにいられなかった。

 

 しかし、己が頭目としてならばとにかく。誰かの下で海賊をやるなどラオウの性分からありえるはずはなく『拳法家として死合う』目的の中では組織の頭というのは不便だった。

 ひとまずは海軍の強者が集まっているであろう場所にして、世界を束ねる政府、全てが集中しているらしいマリンフォードに向かうことを、それらを見物に行く事を白ひげの船でこの世界を知った時にラオウは決めていた。

 

 白ひげの船で貰った服、着ていた服はあの戦闘の余波でボロボロになっていたので、その中でなんとか原形をとどめていた貰った金と、気絶から覚めた時に周りに転がっていた肉塊の傍らに有った財布を拝借し、町の洋服屋で購入した。

 

 現在のラオウの格好は黒シャツに革ジャン、革製のリストバンド、下はジーンズと頑丈な革靴。そんなラフな格好の上にマントを羽織っている。その格好は末弟が荒野を彷徨いている時のものと似通っていた。やはり血は繋がっていなくとも兄弟である。

 

 

 現在ラオウはレッドライン方向に向かう交易船に乗り込んでいる。身分証明を求められたが、係員の記憶操作を行い事なきを得た。海を行く船の中で、していることは瞑想をしながら、体力の回復を図っていた。

 

(体力はいずれ回復する。だがこの体をどうにかしなければなるまい)

 

 いくら北斗神拳を極め、超人的な体を手に入れても、傷がふさがっただけに等しい状態で『世界最強』と戦ったため、体にガタが来ていることをラオウは理解している。

 

 以前、重症を負った時。隠居した達人を回復の稽古台として戦ったが、こちらでそれに近い者を探すのは困難であり、見つけたとしてもその一期一会を考えるとあまりに勿体無い。

 そこで考えたのは人と会うことのない無人島で修行すること。だが、この船は交易船だ。そんな場所に人を下ろすわけがない。……降りることができても迎えがない。

 悶々と悩んでいると、突然船が何かにぶつかった振動が伝わってきた。

 

 

 なんとなしに甲板に出てみたラオウが見たものは、世紀末のあの世界と似通った光景だった。護衛をしていた番兵は叩きのめされ、船員がビクついている。海賊たちは船員に物資と荷物のもとに案内させようとしていた。

 

(……ふむ。)思いつけば行動は早く、まず手近にいる戦闘員らしきものの体に、即効性かつ強烈に目立つ死に様となる秘孔を打ち込む。

 

「あ、い、う……う、いあ……えあ"っ!!」

その叫び声と共に戦闘員は爆散し、海賊たちはラオウを下手人と、敵と認識して向かってくる。

 

(船を動かすには人を減らせぬ……儘ならぬな)

 血相を浮かべながら向かってくる海賊を見ながら、その制約に思わずため息が漏れていた。

 

 

 

 その海賊団の船長は何が起こったかわからなかった。いきなり部下の一人が奇声を上げた後に、真っ赤な血煙と化したのだ。

 続き、その周りに居た団員が数メートルの宙を舞う、水平に人が殴り飛ばされるなどの暴力の嵐に巻き込まれていた。

 

 襲った交易船にはちょっとした宝と交換で、水・食料をあちらが許す範囲で分けてもらおうと思っていた。だが、海賊である以上、まともな取引は望めない。ならば一度武力で制圧した上で、きちんとこちらの意思を伝え交渉する。それが彼らのスタイルだった。

 経験上、政府公認とは言えども、島と島の交易船ではその防備・兵力はたかが知れている。それを分かっているからこそ今回の襲撃だ。やはり軽いものだと考えていた中、異常な死が、そして暴力が船員を襲ったのだ。驚かずにはいられない。

 

 賞金額は一億にあと一歩と新世界側では低いが、曲がりなりにもこれまでグランドラインを立派に渡ってきたと言う自負がある。その死に様を引き起こしたのは『悪魔の実』であろうと目星をつけ、最近覚え始めた気合を矢に込め、周りにいる仲間に合図し男に一斉発射する。――仮に仲間のは通じなくても、自分のはこの状況を打破出来るはずだ。

 しかし全員、射た矢をそっくりそのまま射った本人の肩や腹に返された。

 

【二指真空把】投擲武器を二本の指で受け止め、それを相手に向かって投げ返す北斗神拳の奥義。

 

 周りの者は痛みに悶えるが、船長の自分までがそうなっては一団が瓦解する。矢が通じなければ剣。と斬りかかる。

 それもあっさりと二本指で止められ、目に止まらない速さで額に指先を当てられる。何も通じない――体が動かない。絶望感だけがその身を包んでいた。悔しさで、無力感で涙が溢れてきていた。

 指を離し、この暴君は静かに、低く、はっきりと聞こえる声で言う。

 

「貴様の命は一ヶ月――30日だ。さっきの者の様に死にたくなければ。俺の命令を聞かねばならん。名を言えぃ」

 

「ロ、ロックスター……」

 

 




 昇天して穏やかに成ったと言っても『別に拳王様は聖人ってわけじゃないよ』と言う回でした。ロックスターのファンの方、いたらごめんなさい。可哀想ですね……。書いててそう思いました。

 今回のラオウの格好はモデルのシュワルツネッガー(ターミネーター)を参考にしました。そういえばラオウvs大将って、モデルで言えばハリウッドスターvs日本の名俳優……。なんという胸熱な話なのでしょうか。

 強さについては1と2の折半で行こうと思います。ご協力、ありがとうございました。
 一人ひとりの大将との戦闘は悪魔の能力抜きならば優勢。能力を使われると一人はそれでも優勢、一人は五分、一人だけ不利になる。という形にします。まとめて戦うとかなりきつい。それでも、三人を同時に相手取り、戦線を支えるくらいは出来る拳王様です。――無想転生をまとえば瞬殺できますが……。

 ちなみに、拳王様が海をわたるのに泳ぐ必要など有りません。脅すこともできますが、北斗神拳をもってすれば記憶操作でなんとでもなります。ホントに北斗神拳は便利です。
 ロックスターについても記憶操作でお友達になればいいのに、いつもの慣れで脅しに走った拳王様でした。

 改めて考えると結構、ケンシロウとラオウって似通っているんですよね。
 外伝で拳王府の建設作業を3日でやらせるために、目の前で責任者の頭を潰して見せて作業員を脅したラオウ。北斗神拳の恐ろしさを知ってる飯屋のオヤジに孤児の面倒をみさせるために、一月後に爆死する秘孔をついて脅すケンシロウ。やっぱり兄弟って似通っていくものなのでしょうか……。


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7話

うーん、色々と難しい。こっちの世界でラオウの二つ名どうしましょう……。【海賊王】がメインの世界だから、【拳王】じゃまずいし……。
【暗殺者】……【拳神】……。なんかいい案ありますでしょうか?


・修行と千客万来 の巻

 

 ロックスターという頭が率いる海賊団をラオウが屈服させて早2週間。……現在、彼は無人の冬島にこもっていた。

 

「何時まで俺たちは……」

「この俺の体が回復するまでだ」

 

 そう言って約定どおり延命の秘孔を突く。……フリをする。

 最初の交易船での邂逅にて、30日経つと死ぬ秘孔を突いたことで『1週間に一度』食料などをラオウに供給させることを彼らに約束させた。真っ先に探させて持ってこさせたのは、ワの国から輸出された『道着』。心身を鍛え直す意味で持ってこさせたものだった。

 尤も、約束というのは優しい言葉を用いた話であって、もし来なければロックスターは肉塊と化す。事実上の脅迫であった。

 

 船員の中には『そんなペテン、インチキを信じるか!従えるか!』と言う者達も当然いたが、そいつらにはゆっくりと数分間、肉体に猛烈な痛みを感じさせる秘孔を突いたり。肩や腕、足などの一部の筋肉が爆散する秘孔を用いて、己の肉体が壊れる恐怖、痛みを味あわせ、体験させた。数人がそれによりのた打ち回った後は、船員全員が従う様になった。

 こうして一見、恐怖を以って下僕としてこのロックスター海賊団を扱っているが、交わす言葉は少ないが、不思議とそこまで悪い関係でなかった。

 

 一回目に現れた時、『寿命を伸ばす秘孔』と言って突いた秘孔は実のところ『秘孔の効果を解く秘孔』だった。そもそも経絡秘孔は何度も他者に見せるものではない。

 

 それに、あとから聞いた襲撃の理由。

『まともな交渉が出来ないから、一度相手を制圧した後にきちんとした取引を申し込む』という彼らのやり方をラオウは嫌悪していなかった。

 同じアウトローとは言え、『暴力こそ正義』として、皆殺しの上で何もかも略奪していた世紀末のモヒカン集団に比べたら、きちんと己の立てた秩序、ルールの中に従い、生きているのだから。

 

 何より、ラオウは状況、境遇、運命に抗おうとする人間を好いている。……むしろ、そうでなければならないとすら思っている一面がある。

 船長のロックスターは己の弱さに、力不足に悔しさを覚え泣いていた。

 一団の中には『人質として、船長が戻ってくる保証としてここにいる』と言って10名近い者が無人島に残り、ラオウの修行を……ラオウが持つ技術を盗もうと、目をギラつかせながら見ている者がいた。

 

 過去においては『妹を死なせた神に復讐をしたい』と言った者に技を盗むことを許し、そのために付いて来るのを認めたラオウだ。彼らの魂胆は分かっていたが気していなかった。

 そんな彼らをラオウが無下に扱うことをしようとなど思わなかった。むしろ歓迎さえしていた。

 

 

 ラオウの修行は座禅などでの『気』の練り込み。

 あるいは『気』を使わず純粋に肉体のみ、特に指を使って木の根もとに穴を掘り、飛び上がって木に一本拳を叩きこむ。不安定な場所に片足のみで数時間立つ。そして型稽古。……などといったごくごく初歩の。傍目から見れば尤も退屈に見えて、最も重要な基礎鍛錬のみであったが、それを見よう見まねで、彼らは彼ら自身の戦いに使う術を模索していた。

 

 そうして、また一週間が過ぎようとしていた頃、客がやってきた。

 白ひげ海賊団:二番隊隊長『火拳』ポートガス・D・エースだ。

 ロックスター海賊団の面々は、こんなに若くして海賊の中でまさに天上人とも言える者の訪問を受けること、強さと立ち位置に畏敬を覚えずにいられなかった。

 

 そんな者達を尻目にラオウは修行の一環として自身の拳、貫手、蹴り足のみで掘り抜いた今現在仮屋としている洞穴で、挨拶はそこそこに済ませエースにこの訪問を問いただす。

 

「用向きは何だ?俺は今、修行中だ。」

「……」沈黙するエースにはどうも覇気がなかった。

「再戦を急かすならば、あの強敵[とも]の病も癒えてないだろう。……先の話だ。」

 

 ここでラオウの言う【強敵[とも]】とは……病気持ちで話題がエースではないのだから、その上と言ったら……まさか白ひげ?などと想像をふくらませる後ろに居る者達はヒソヒソと話し合う。

 

「………」

 

 なんとも意気消沈した。そんな表情を浮かべるエースに、ラオウは背景を無視しつつ待つことにした。

 

「……………4番隊隊長のサッチが死んだ。」

「ふん」

 

『顔は知っているが、大した会話はしていない男だ』と、ラオウは興味が無いとばかりに続きを促す。

 

「…原因が…あんたが『殺しておけ』といったティーチの仕業で、だ」

「そうか」

 

 やはりその反応は実に素っ気無いものである。そもそも『後悔すればいい』と言い切ったのだから。ラオウにとって本当にどうでもいい話だ。

 

 噛み合わせが狂っているというか、歯切れ、進みが悪い会話をしているところで、ラオウは外に気配を感じた。しかも、白ひげに近いかなり強力な闘気を持っていると見込んだ。

 

「ラオウとか言うヤツはここにいるのか?……?あれ……エースじゃないか。なんでここにいるんだ?」

 

 そこに現れたのは隻腕の剣豪、『四皇』【赤髪のシャンクス】だった。

 




 あれ?
 ロックスター達がいつの間にか拳王様の配下のようなものになってる……。本当にただの下僕のつもりだったんだけど……なんという拳王様の不器用なカリスマ。止められない。^^;
 拳王軍猛将のバルガとかザク、リセキはラオウのこと本当にしたってたし……。

 時間軸は原作ルフィ達がGLに入ろうとしている辺りと見てください。初頭手配書を白ひげに見せていることと、黒ひげがドラムを潰したのを考えると、サッチを殺したのはこのへんでしょうし。

 エースがホントに落ち込むとトコトンまでな子になってしまいました。間違ってるかもしれませんが、私はこういうふうに見てます。
 一方のラオウは要点はとっとと伝えろ。という性格ですから、内心腹を立てています。


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8話

……辛辣かもしれません。そんな拳王イズム。


【四皇:赤髪のシャンクス】がここに来たのは、新世界に入ったばかりのルーキーのスカウトが始まりだった。

 金額は億に届いていないこのルーキーに目をつけたのは、ピースメインとしての傾向が強いからだ。

 

 縄張りらしいナワバリを持たず、ただ単純に新世界という海域を遊び場として呑気に巡る。四皇の中では白ひげと並ぶ温厚さで知られている【赤髪海賊団】。……もっとも、暴れさせたら止まらないが。

 そんな彼らも、悩みはある。戦闘による仲間の損失だ。宝探しなどで残る二名の四皇のナワバリに入り込む事はよくあることだから、当然戦闘が起き死傷者が出る。

 これは海軍も海賊も、戦う以上はしかたがないことだ。

 

 目をつけたロックスター海賊団は補給にきちんとカネを払う。宝さがしがメインで戦闘は二の次、それでいながら敵対した海賊、海軍を蹴散らしてここまできている。

 それは【赤髪海賊団】の在り方と一致していた。だから在り方の近い彼らをスカウト対象として、現在屯(たむろ)しているらしい場所に出向いた。

 

 軽い戦闘の後に制圧し、船長のロックスターに『スカウトに来た』とシャンクスが伝えると、目を丸くしながらもスカウトに応じるそうだった。―――だが、どうにも歯切れが悪い。

『今はまだ仲間になれない』と言う。

 理由を問いただすと真剣な表情を浮かべながら『ある男に勝たなくてはならない』と言う。その沈痛さから更に細かく聞くと、『命を握られている』と言うではないか。

 

 悪魔の実を使ったにせよ、何にせよ―――『仲間になった者に、そんな外道をしている奴がいるとは許せない』そう勇んでの訪問だった。

 

 そしてその件の男――ラオウとの戦闘を予感しながら滞在場所を尋ねると、愛用の麦わら帽子を渡した子供の兄:ポートガス・D・エースが居る。しかしどうやら、かなり深刻な話をしている空気だ。

 とりあえず、シャンクスはエースに会えたということで部下に酒を持ってこさせ酒席として、二人の話の中に入ることで、ラオウと言う人物を見極めようとすることにした。

 

 

・畏怖と恐怖、敬意の中に生きた覇者。鬼と呼ばれた者の子。の巻

 

 

「……経絡秘孔?」

 

 自己紹介を終え、ロックスターに起こっていることを聞いたシャンクスが問いただして聞いたのは、その20年を超える海での生活で初めての言葉だった。

 

「我が北斗神拳の根幹にして奥義――それが経絡秘孔だ」

 

 エースとともにシャンクスは詳しい説明を求めた。

 大雑把にわかったことは経絡と呼ばれるところに【気】を送り込むこみ、人体に様々な変化を齎すことが出来るらしい。『ロックスターの命を握っているのはそれなのか…』そうシャンクスは納得する。

 しかも、突けばそれで終わりなのだから、しゃべってしまっても問題が無いということだろう。

 

(手強いモノだ。)そうシャンクスは思う。

 

「あー、ひょっとして、最近オヤジの体調がいいのはそれか?……なら、手加減したってことか?」

「……あの時は殺す気で放った。だが、あの男の闘気で活法になるまで威力を落とされた」

 

 エースは父と尊敬する男の体調が良くなるのは嬉しい。だが、あの戦いの中で手加減をされたのではないかと思うと腹立たしさを覚えずにいられない。

 そういうつもりで放ったのではないか?といくら聞いても水掛け論なのでエースは諦めた。

 

「―――で、ロックスターのそれは解けないのか?ウチの仲間になるんだ。身内にそんな事されちゃ困る」

 

 どうやら想像以上に……『悪魔の実』より質の悪いモノだ。

 そう見当をつけたシャンクスは、たとえ白ひげと引き分けようとも、厄介な相手であろうとも仲間をいいように使われてはたまらない。覇王色を軽くぶつけながら聞く。

 しかしその返答は明後日の方向を向いたモノだった。

 

「―――既に解いている」

「……なんでだ?」

 

 まさに都合のいい下僕が手に入っていたのに……。シャンクスは感情と別に考えて問いただす。

 

「強くなろうとするからだ。己の無力を感じ、悔しがりながらも立ち上がる者を俺は下僕にしない。強くなれば死合うのみ。

 ……このラオウが嫌うは諦め、他人に媚びへつらい、歓心を買おうとするのみと成った愚図・愚劣な輩だ。下僕として使うのはその手合いの輩よ。」

 

 シラフの、普段のラオウならば少なくとも、前の部分は小っ恥ずかしくて答えないだろう。酒が入り、場の雰囲気から出たこの答えは、シャンクスが思わず納得してしまうほど清々しいものだった。

 エースは何故白ひげが戦いの後、相打ちと不本意な結果なのに上機嫌であったか。自分がトドメを差しに行こうとした時に何故、伝言を聞くのみで見逃してしまったのか解ったような気がした。

 

 

 酒が進み。エースは、ふと自分が、白ひげ海賊団が全く気付けなかったティーチの本質を、その本性をあっさりと見出したラオウに、聞いてみたくなったことを質問することにした。

 

「……なぁ、あんたはゴール・D・ロジャーをどう思う?」

 

 その質問にシャンクスもまた飲むのを止め、ラオウを凝視する。見習いの……青二才の自身の面倒を見てくれた恩人だからだ。

 ラオウは『―――知識としてのみでだが』と前置きをして、

 

「時代の流れの中で人身御供となった男。そして、最後まで戦い続けた。……おそらく、その最期に悔いはあるまい。」

 

『―――出来る事なら、死合いたいものだな。』……と、最後に続け、更に盃を傾ける。

 シャンクスは(……ああ、そうだった)と、その最期を思いながら、目の前の豪傑が下した評価を嬉しく思う。

 

 しかし、エースは自分の過去を思い出していた。

 幼少期から預けられたところでは『鬼の子』と呼ばれ、街でそれとなく聞いても、やはり下衆扱いだった。

 ―――結果だけで言えば目の前の男もそうではないか?己の好き勝手の果てに弟に倒されたと言ったではないか。子供はいないのか?居ないから言えるのではないか?己の身勝手の果てに、近しいものは皆殺しに遭ってもか?

 そんな憤りがフツフツと湧いてきていた。

 

「……あんたに子供は?」

「…………いる。それがどうした?」

 

 深呼吸の後、ラオウは簡潔に言い放つ。

『拳に生き、覇者となるには情など不要。』そう言って時代を駆けていたが、捨てることも、忘れることも出来なかった息子。それを思い出していた。

 だが、その答えに、その心を察するには人生の経験がまだ少ないエースは腹がたつばかりだった。

 

「『世の中の平定のために人を束ねて、暴力で全てを統一しようとした。果てに、意見を違えた弟達と戦って負けた。』……前に、そう言ったよな?」

 

 その言葉に静かにラオウは頷く。

 シャンクスはエースのその憎悪をむき出しにした表情に驚いていた。

 

「なら、あんたは『そんな暴君の息子』となじられる子供の気持ちは解らないのか?どうして子供を作った!……他人(ひと)に恨まれると思わないのか!?」

 

 エースは堰を切った様に矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。眼の前にいるのは彼を形作る半分の血、鬼と呼ばれるその人ではない。だが、いつの間にか重ねてしまっていた。

 

 ラオウもシャンクスも、話の流れからなんとなくそれを察した。

 

 その憤りにシャンクスは何も言えないでいる。

 しかし、ラオウの答えはどこまでも突き放したものだった。

 

「―――だからどうした。このラオウの血を引くならば、子は俺を超えるために足掻くだろう。それが出来ぬならば、それまでの器だったということだ。」

「―――なっ、器!?……超える?」

「北斗の長兄として、俺は弟達に俺の在り方を見せつづけた。

 弟達はこのラオウを追い、めざした。そして最後に弟はこのラオウを超えた。我が子ならば、弟達のように俺を超えねばならん。」

「「……………。」」

 

 この二人の言い合いで、一気に酔いと場の空気は醒めてしまい、そのまま酒席はお開きとなった。

 




・『天破活殺を打ち込んだ際に、病気が治ったり、体調が良くなる秘孔とか突いてたりするか?』という質問ですが、そのとおりです。

 言葉通り、ラオウは『死んでも構わない』という考えで『体調に作用する』秘孔を撃ちました。手加減は絶対にしない人ですから……。
 白ひげの闘気で威力を軽減されたために、殺法で放ったモノが活法となっています。もしも白ひげの闘気がラオウの想定した強さ未満であったならば、そのまま死んでいました。
 つまり、『殺すために撃ったけど、白ひげに真の実力があるならば、それなりの回復をした上で生還する』といった塩梅です。

 ただし、体調が良くなったと言っても、元々かなりの重症と考えてます。医療器具を外して突っ立ってるだけで避けられるはずの攻撃を避けられず、赤犬と戦ってる最中に吐血ですから……。
 回復したのはラオウとの戦いで消耗した分+ちょっと。と言ったところです。スクアードの攻撃を躱せるくらい。
 ちなみに秘孔の位置は、蒼天の拳で霞拳志郎が朋友のヤクザ大親分が半死半生に陥った時に突いた秘孔になります。


・今回はラオウと白ひげの身内に対する違いを描いてみました。ラオウならばエースの『産まれてきてよかったのか』という悩みは『くだらない』で一蹴してしまうでしょう。

 白ひげの『海に出るならみんな海の子』と、どんな者であっても受け入れる包容力。

 一方、ラオウは泣いてる弟:トキに『俺は涙を捨てた。強くなるために』と言い、遠くを目指す姿を見せつけ。
 その背を追いかけたケンシロウも人質に取られたラオウの遺児:リュウに対して『ラオウの息子だ。既に死ぬ覚悟は出来ていよう』と言い放つ。北斗の兄弟は自分で歩かせるために、突き放してあえて背を向ける。

 そんな保護者としての立ち方の違いを書けたかな?優劣なんて付けられませんが……。
 北斗の兄弟達と近いのを挙げるならばガープの『生きてりゃわかる』でしょうか。

・世紀末覇者拳王としてならば、立ち上がる者でも逆らう要素があれば抹殺するでしょうけど、拳法家:ラオウとしてならば死合うことを楽しみにしているので下僕に置いたりしません。若干捏造ですけどご勘弁を。


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9話

ああ、一日書けませんでした申し訳ない。orz

さて、ここにバトルジャンキーが二人居ます。起きることと言ったら……。


・稽古 の巻

 

 

「昨日、親を超えるって言ってたけどよ……。なら、どうすればゴール・D・ロジャーを超えたことになると思う?」

「答えを持たん。俺は拳法家として死合うに足る相手を求めるのみ。」

 

 翌日、誰よりも早く起床し鍛錬を開始したラオウを見つけたエースは、バツの悪そうな顔をしながら聞く。

 しかし、ラオウは無関心とばかりに手近な3メートルほどある岩に人差し指を立て、爆発的な気を一瞬で叩きこみ粉砕する。

 粉々にされた岩の欠片を拾い、握力で握りつぶすと『ふむ』と頷き回復に満足した表情を浮かべる。そしてその顔をしかめてエースに顔を向け言う。

 

「……うぬがここに来た理由。そんな話をしに来たのか?」

「あー、そうだった……。」

 

 いつの間にか目的を忘れ、まるで外れた話題をしていることを思い出し。エースは苦笑いを浮かべる。

 

「仲間を殺したティーチを隊長として追ってる。それで、ヤツがあんたのところに来たりしてないか。と思って……。」

「ない。」

 

 末弟ケンシロウ程ではないが、基本的にラオウもまたコミュニケーションを取るのは積極的でない。大抵が要点だけで済ます。関心がなければなおさらだった。

 ――尤も、興味・関心がある場合、自然現象すら真っ青なことになる……例えるならば大津波と言ったところだろうか。

 

「やっぱそっか、付き合いの長い俺らでも判らなかったティーチを見抜いたあんたに接触するんじゃないかと思ったんだ。」

「……下衆は潰すだけだ。」

 

 あまりに簡潔でわかりやすい返答にエースは肩を竦めて「もっともで……。」と言い荷物を置いてある洞穴に向かう。

 

 

「奴が……なぁ……。」

 

 ラオウの後方から聞こえてきたのは深刻な表情を浮かべた"赤髪のシャンクス"の声だった。

 先程から気配を絶ってエースには気付かれないでいた。ラオウは気づいていたが、害意は無さそうなので放って置いていた。

 シャンクスの苦い表情もほんの少しで、ラオウが破壊した岩をしげしげと眺めると。

 

「それにしてもすごいなぁ。まさか覇気を叩きこむだけで岩を粉々にしちまうとは……これが北斗神拳?本調子ならもっとすごいのか?」

 

 そう言いながら真剣ではなく、ついさっき作ったような、木を削った匂いが残る木剣を実に楽しそうな表情をしながら弄ぶ。

 ラオウは『覇気』という言葉が気になったが、流派の誤差のようなものだろうと納得し、挑発に乗る。――曲がりなりにも【四皇】稽古台にこれ以上は望めない相手なのだから。

 

「――ふん、隻腕で真剣を持たん男を制すくらい造作も無いわ。」

「これは病み上がりのリハビリに対するハンディのつもりなんだがなぁ―――ッ!」

 

 言うやいなや、拳と木剣が激突する。シャンクスが剣に込めた覇気、ラオウの闘気のぶつかりで普通ならばありえない轟音が鳴る。

 

(ホントに重い覇気を叩きこんで来やがる……真剣で同じ事やっても切れそうもないな。)

(まさか剣に"気"を纏わすとは……しかも、一点鐘を弾くほどとは。)

 

 双方に驚きが走る。

 木剣とは言え、その気になればそれで斬鉄をしかねないシャンクスの剣だ。その拳の硬さはおそらくは鋼鉄よりも遙かに固いだろう。その覇気と練度に驚く。

 ラオウの驚きはシャンクスの倍はあった。そもそも北斗神拳は己の拳と体に気を纏わすが、武器に纏わすことはない。そして【北斗一点鐘】:打点から"気"で体を伝い点穴を穿つ技を使ったが、シャンクスが木剣に纏わせた"気"で弾かれてしまったのだから。

 ――それも一瞬。すぐさま互いに次の行動に移る。

 

 無手の者が武器を持つものに対するセオリー、『距離を詰める』とばかりにラオウは高速で前進する。

 しかし、その眼前に飛ぶ斬撃が迫る。

 

「ぬえぇい、剛掌波!!」

 

 掛け声と腕の一振りでラオウのいる範囲の斬撃はかき消される。

 そして覇気の弾丸がシャンクス目掛け飛ぶ。

 

(うわ……バケモノかよ。能力者でもないのに、覇気と体術だけで斬撃をかき消すなよ!覇気をそのまま塊で飛ばすってアリかよ!?)

 

 闘気弾をかわしつつ、そんなことを考えたシャンクスは構えを変える。

 仮に真剣であってもこの相手を斬殺するのは―――致命傷を与えることさえ、その覇気の使い方と海軍の[鉄塊]のような体術による防御力の高さで難しいだろう。出来ても削っていく様な戦い方にしかならないとシャンクスは悟った。

 最強の攻撃力を有す"悪魔の実"の能力と、強力な覇気を持つ白ひげならばなんとかなるかもしれない。だがシャンクス自身には無理だ。

 ましてや今は木剣。かと言って今更『真剣を使います』……これはシャンクスのプライドに懸けて言えない。

 

 ―――ならば、海賊としての戦い方で制す。

 

 ラオウは攻めあぐねていた。最初のぶつかり合いの時に、この男も白ひげと同じように剛を持って敵を倒す戦い方だと思った。ならば簡単だ。さらなる剛拳を持って討ち倒せばいい。

 

 だが、戦い方が二合目からガラリと変わった。当たりそうで当たらない、動きを封じる様な牽制の斬撃。ラオウが間合いを詰めるといなす。躱す。

 かと思えば、突然急所を狙うような攻撃で防御を取らせ、その間に有利な位置に移動する。そんな掴みどころのない戦い方に変わった。

 

 いわゆる、難剣[なんけん]である。

 

 長年に渡る……今では語りぐさの【鷹の目】と【赤髪】の決闘。

 これが何故、決着が付かなかったか。理由はここにあった。【世界一の剣豪】と呼ばれる【鷹の目】、その膨大な基礎はシャンクスを上回っていた。数戦もすればその基礎の応用で対応が出来るはずだった。

 だが、シャンクスには伝説の海賊団の見習いとして戦ってきた過去・経験がある。子供だから大人に庇われたところもあったが、それでも少年の彼よりも遙かに大きく、力が強く、技を持つ相手といくらでも戦った。戦わざる得なかった。むしろ格上としか戦ってこなかった。

 

 普段の稽古相手でさえ、遥か彼方の腕前を持つ、海賊王の右腕【冥王】シルバーズ・レイリーだ。

 

 その環境の中で身についたのは、基本に忠実な、素直な剣風ではなく。変則的な攻めや技、意表をつく変幻自在な技を出して制す―――難剣。

 

 だからこそ、基礎では勝る【鷹の目】に対応と対策を練られても、それを覆す手段を用いる。そんなイタチごっこが長く続くことになった。

 それは片腕を失っても、そのハンデをもってしても【四皇】と呼ばれる実力者までシャンクスを押し上げる要因となった。そうは言っても片腕のみだ。攻撃のバリエーションは減ってしまい。【鷹の目】から飽きられてしまったのも事実である。

 

 尤も、【四皇】と呼ばれるまでになってからは、久しくそんな戦い方をしなければならない相手と戦っていなかった。それをせざる得ないラオウに対して舌を巻いていた。

 ―――だが、後少しだ。木剣ももう持たないが後少し……。

 

 

 ラオウは違和感を覚えていた。

 腕は良い。技のキレもさすがだ。その難剣から攻撃しづらい。しかし、向こうの攻撃がラオウには通じない。こちらを降参させるような攻撃には至らない。木剣なのが最大の要因だ。

 ならばこの稽古は終わりのはずだ。かと言ってラオウからそれを言う気はないし、決定打を躱されて当ててない。何より相手が何か考えている以上、乗らざる得ない。

 

 ふと、ラオウは気付いた。自分はある一点にのみに立たされていると。地面は散々シャンクスが飛ばしてきた斬撃で辺りの土は緩められ、周りの木もシャンクスの飛ばした斬撃による切り傷、ラオウの放った闘気による打撃の跡が残っている。

 ラオウの打撃を外したのは動きまわるシャンクスが躱したからだ。だが、何故シャンクスの飛ばした斬撃は辺りの木にも食い込んでいる?―――これはまさか、罠か!?

 

 その結論にラオウが至ったのとほぼ同時にシャンクスは笑みを浮かべ、仕上げとばかりに一本の木を蹴る―――後は木々がラオウの逃げ道を塞ぎながら、ドミノ倒しで倒れこむばかりだった。

 

・・・・・・

 

「あーあ、まさか躱されちまうとはなぁ。しかも覇気を攻撃・防御だけじゃなく移動にまで使うとは恐れいったよ……はぁ、こっちの負け。」

 

 お手上げ。とばかりに手を上に挙げる。最後の一手を軽功術を使った飛翔で躱したラオウにシャンクスはため息しか出ない。あの不安定になった足場をものともしなかった。木剣も砕けだ。手立てがもう無い―――負けだ。

 

「うぬの武器が真剣ならばもっと早く出来ただろう。俺の負けよ。」

 

 ラオウが今思い出したのはあの暴力のみが正義の世界。そこで海をわたる時に力になってもらうことを約束した海賊の言葉だった。

 

『固体を砕くことはできても、液体は砕けない』

 

 例えば、樽の中に硫酸を入れて相手に投げる。こうすれば、たとえ樽が砕かれても中身が相手に掛かる。―――そういう手には気をつけろ。こう言われたのを思い出していた。

 そしてモノの見事に『海賊の知恵』と呼ぶべき、それと似通った手段に引っかかってしまった。回避出来たのは直前で気付けたからにすぎない。

 

「―――なぁ、ウチに入らねぇ?」

「俺は拳法家だ。興味が無い。」

「そりゃあ残念だ。……リハビリは終わりだろ?適当な島に送るよ。」

「……助かる。」

 

 二人の戦いで起きた騒音を聞きつけ、遠くから見守るしか無かった【赤髪海賊団】の面々とエースが来るのを見ながら、二人は呑気なものだった。

 




 はい、シャンクスの剣風をおもいっきり捏造しました。こうでもなければ能力など持ってない少年は絶対に命を落してたと思いますから。ルフィの一件で腕を失ってからは尚更。

 ラオウは鋼鉄を切断する真空斬りが出来る【風のヒューイ】の攻撃を傷一つ負わずに殴り殺してますから……拳王様の防御力はデタラメです。燃えた石炭1,800(訂正:1,000~1,700℃)を握力でクラッシュさせても無傷、火傷すら負わない方ですからね……。でも、なぜか【海のリハク】の建物ごと爆発させるのはものすごいダメージを負ってるのが不思議。

 さておき、無類無敵の拳王様でも上手く動かれると追い込まれてしまう。というのをうまく表現出来たでしょうか?今回のシャンクスの手はラオウの知り合い、赤シャチさんの策を参考にしました。

 まったり頑張ります。


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10話

 いつの間にか通算UA5桁……まじですか!?こ、こんな駄文が……。

 さて、そろそろ政府・海軍側との接触をしようかと。北斗神拳はどの勢力にとっても脅威ですからね。悪魔の実なんざ問題にならないほど凶悪で応用が効き、敵将のみを知らぬ間に討ち取ることができて、時には一人で大軍を相手に戦える拳法なんて物騒この上ないです。

 拳王様にちょっとだけ海軍組織・政府を相手に荒らしてもらって、あとは頂上決戦でおしまいと言ったとこです。


・海賊達との別れ の巻

 

 

 稽古というには派手すぎる戦いの後、船長の無事を確認した【赤髪海賊団】の面々は『久しぶりに面白い勝負が見れた』と宴会を朝っぱらから始めた。それを尻目に出発を急ぐエースをシャンクスは見送っていた。

 しかし、その表情は暗い。

 シャンクスには自分が何を言っても、エースが止まるはずもないと分かっているから……。

 

「ティーチを追うんだってな……気をつけろよ」

(……嫌っているなら、嫌っているならば、こんなところで父親に似なくてもいいだろうに……。)

 

 そう、シャンクスは内心で愚痴らずには居られなかった。

 そして、止めることは出来るまい。―――と、諦めていた。

 

「ああ、ありがとう。気をつけるよ。」

「…………うぬでは勝てん。」

「アぁ!?」

 

 有無を言わさぬこの物言いは予想がつく。

 エースが不機嫌な声を上げ、声の聞こえた方向を見ると、稽古でボロボロになった道着を捨て、革ジャンをメインとしたラフな格好で、やはりラオウは立っていた。

 

 エースはつい激発しかけるが、ラオウの物言いは淡々と事実を伝えることから始まる。

 もちろん悪意をもって言うのではなく、ラオウなりの考え方がしっかりとあるゆえの言葉。

 それは白ひげに対する応対、二度の酒席で分かっている。だからこそ、しかし腸は煮えくり返っているが、エースは続きを促した。

 

「……なんでだよ。」

 

「うぬとヤツでは執念が違う。

 己が野望を押し殺し、貴様らの中で疑われもせずに紛れていた者が、その地位を捨て動き始めた。ならば計画と勝算が奴にはあろう。

 ―――かたや追う貴様は、敵討ちに酔っているのみ。それでは執念を糧にした者に勝つことはできん。その有り様で海賊王を超えるなどありえぬ。」

 

「うっせぇよ。俺らの旗を、オヤジを汚された!―――勝算もクソもあるか!!」

 

 そう言ってエースは船に乗り、メラメラの能力を使ってそれを一気に加速させ島を離れる。

 シャンクスとラオウに言葉を返す暇はなかった。

 

「ふん、無鉄砲な奴だ。」

「……白ひげに止めてもらうしか無いな。出来るだけ早急に……あんたも手伝ってはk「断る。」……あっ……そう。」

 

 そんなぶっきらぼうな返答をする拳法家に、積年のライバル【鷹の目】と似通っためんどくささを見い出したシャンクスだった。

 

(……あの時のケンシロウ以上の無鉄砲さよ。…………そうか……兄者。あの男は兄者に……。)

 

 片やラオウは思い馳せていた。

 誰よりも情愛を求めながらそれを手に入れることがついぞ出来ず。結果、情も愛も持たぬ悪に染まることで世から情愛を抹消しようとした男。―――そのあまりの孤独ゆえ、世を自らの破滅に巻き込み、道連れにしようとしていた悲しき兄。

 そんな兄と再会した時の、言い知れぬ感情をラオウは心の片隅に抱いていた。

 

 

・・・・・・

 

 

 それから10日ほどが経った。

 ラオウはレッドラインに更に近づいた、適当な……海軍と海賊勢力の入り混じったある島に降ろされることとなった。

 実際は一週間も有れば来ることの出来る島だったのだが、【赤髪海賊団】はロックスターに掛けられた術が本当に解かれているのか半信半疑であったため、最初の期限である30日を確かめるために、時間をわざと掛けた。

 

 余談であるが、ラオウに対し副船長ベン・ベックマンが、ラオウのその威風と見識から、興味本位で年齢を聞き、船長のシャンクスより10歳近くも歳下であることを知ると、他の船員と共に驚いていた。

 

 ラオウは『訳が判らん。』と唸っていたが、理由がなんとなくわかるシャンクスは、その日は一両日中不機嫌だった。

 

 また、世間ではその間に『医療大国:ドラム王国が突如襲来した海賊団に滅ぼされ消えた。』と、そんなニュースが新聞の片隅に載っていた。

 

「……世話になった。」

「なぁ、聞いてみたいと思ってたんだが、あんたの視点。これから世界はどうなると思う?」

 

 そうシャンクス聞かれると、ラオウはつまらなそうな顔をする。

 そして出たことは、かつての世界の不安定さの経緯、結末を知っているから出た言葉だった。

 

「戦争が起きる。勝者の安穏という幕間の中で栄華を貪ったのだ。世界政府。800年も続けば十分であろう。」

「革命軍にでも入ろうと?」

「くだらん。そこでも『功を成した』という勝者が敗者を虐げるだろう。意味など無い。」

「……ならば、何故、過去に平定を望んだんだ?あんたの言う『貪る者』って言うのも現れたんじゃないか?」

 

 シャンクスの目の前にいる男は今、『拳法家』と名乗り、己しか追求していない。加えて、何処か深い虚無の色すら漂わせている。

 しかし、エースを交えたあの酒席の話では平定のために走り回ったと言う。この違いは一体、何か……。

 

「時代の……天の意志だったからだ。天より授かった我が拳。天命に従って振るうのみ。」

「……よく判らん。」

「…………そうか。ならばそれで構わん。」

 

 そう言ってラオウは外套を翻し、シャンクス達から去っていった。

 




 妙に口数多くなっちゃったし……。拳王様らしくないかも。

 シャンクスがラオウの年齢の話で不機嫌だったのは、振り回される船員たちに『もっとしっかりしてくれよ。お頭』という視線を向けられてたからです。

 うーむ、海軍とあまりかかわらずにそのまま頂上決戦に端折ってもいいのだろうか……。

2013/08/01追記
ラオウ視点から見たエースの危うさを追加しました。

2013/12/17追記
更に加筆・修正


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11話

 今回は世界の中心マリンフォードを目指している割に、ノンビリと道草食っている拳王様です。

 核戦争から時を得ずして、世紀末覇者として恐怖でこの世を統一する。ラオウのやった事業を文章にすれば短い話。

 しかし内容をみれば、短期間の間に大軍団を結成し、覇権をほぼ手中に収めんまでに軍団を急成長させる。
 その間に格闘家達を葬ったり、新しい拳の体得にいそしみ、外伝の設定では葬った格闘家たちから集めた拳法の集大成【ラオウの系譜】を残す。これら全てを同時進行で行いながら、王としての威厳と尊厳を磨き続ける。

 そんな世紀末で誰よりも多忙な日々を送った拳王様だから、多少ノンビリしてもいいと思うのです。
 しかし、原作主人公達はどんなペースでGL前半部を渡ってるんだろう……。原作開始から一年経ってないようだし……。


 噂が流れた。

 『世界最強』の異名を持つ男が、名も知れぬ風来坊に引き分けた。―――『最強』たる人物は老齢だ。ありうるかもしれない。

 最も、その強さを知るものであればあるほどデマだと思われていた。

 しかし、日が経ちただの噂話ではなく事実であるらしい。これに世界は色めき立った。【白ひげ】の異名を疎ましく思っている他の海賊、特に四皇【カイドウ】が『頂点は力を落とした。』そう思い『新世界』で四皇同士の抗争が起きる。

 それを海軍が大将二名を均衡を保つために出撃させ、なんとか鎮圧。これがニュースになる。

 

 尤も、事実はラオウとの引き分け以降、体調が良くなった白ひげが自ら蹴散らし、海軍は後始末を行った。……これが真相であるが、そこはやはり治安を守っている者達、スポンサーである世界政府を立てての報道であった。

 

 これらの騒動の原因は謎に包まれた人物であるとなれば、追わずにいられないのが人の性である。

 その人物に真っ先に行き着いたのはやはりと言うべきか、直接遭遇した海賊を除いて専門の調査機関を持つ世界政府だった。

 

 

・手配 の巻

 

 

 新聞がアラバスタの内戦が終えたことを報じた頃。ラオウが【赤髪海賊団】の船を降りてから2ヶ月近く経っていた。これまで彼がしてきたことは単純である。―――晴耕雨読。

 別に実際、畑を耕していたわけではない。この場合の『畑』とは彼の拳によって駆逐された憐れな海賊たちだった。

 

 降りた島から、再びレッドラインを目指している折、商業施設が発達した小さい島:アルコル島に着いたのは交易船であるが故に必然だった。

 そこでラオウは不愉快なものを見た。あの世紀末での荒廃の極みの世でありふれていた光景。

 要は『女は犯し、男は殺す』そんな光景。

 

 かつてラオウが組織した軍隊:拳王軍はこの世界の海賊の部類で言えば、秩序維持を行なっている海賊『ピースメイン』に当たる。

 あの世紀末の世界で、彼が一時期戦線を離脱せざる得ない重傷を負ったときは、彼の忠臣に統治した村々で暴走を始めた末端の兵を誅殺させていたほど厳しいものだった。

 

 そしてまた、こちらで出逢った【白ひげ】【赤髪】二人の大海賊は、ラオウの在り方と似通っていた。そのため、暴力で欲を満たす。その在り方の海賊が大多数であると分かっていても、荒れてしまったのは仕方が無いことだったのかもしれない。

 

「なんだぁ?お前は?邪魔する奴は死―――」[ドスッ!]

 

 言葉を言い切ること無く、額に指一本の指弾を叩きこまれ、そのまま停止し黙りこむ。外套を頭まで被り、それが何事もなかったかのように道の真ん中を歩こうとする者を海賊たちは取り囲む。

 

「おうおうおう、俺達を誰だと思ってるんだ」「殺す―、殺す―」「ぎゃはははは、死にたいアホなヤツ発見!!」

 

「……何処であっても、下衆はいるものだな。」

 

 その言葉に気色だった海賊団は、侮辱をくれた者を殺さんと各々の武器を振るう。武器で切り、突き、刺し、撃ち……一斉にありとあらゆる方法で私刑を下した。―――はずだった。

 よく見ると外套に血が噴き出た色合いを見せることがない。次に起きたのは各々の武器が砕け散った。鉄砲の弾ですら外套に穴を開けるのみで、地面に転がり落ちていた。唖然とすると同時に最初に額を小突かれた男が血煙を上げながら消し飛ぶ。

 気を取られた者達が次に見たのは、外套を被った男がその腕を振るったところだった。

 

「ぬんっ!!」

 

 裏拳の振り回す凄まじい風圧に、その場の者達は思わず腕で顔を庇い目を閉じる。暴風が止んで目を開くと、誰一人何も起こっていなかった。

 

「な、なにもね、え゛!?」「ぎゃはははは、空振りガよ゛っ?」「ばッ!?」「ゲッ!!」「ばぼあ~」

 

 ボロボロになった外套がズレ落ちる。この男、ラオウがやったことはただの裏拳ではない。闘気を拳に込め、空振りの暴風でそれをまき散らしたのだ。

 ほんの少しでも闘気を纏うか、受け流すことが出来れば、ただの暴風。だが、それらの技法を持たない者には正しく死の風だった。飛ばされた闘気で点穴を穿たれ、無残に飛び散るのみ。

 

「おい!貴様!俺の部下に何をしてくれてんだ!!俺様は「賞金首だろう。捕まって金にでも成るがよいわ。」ぐ……ぬ」

 

 名乗りをあげようとした船長らしき男はラオウに向けて気勢をあげようとするが、威圧感と共に発せられた言葉にあっさりと切られる。

 

「こっ……の、脳みそをぶちまけやがれ!!」

 

 そう言って両手に持った棍棒をラオウに叩きつけようとする。

 それより遙かに早く、ラオウの左ストレートが〈メゴッ〉という音と共に顔面にめり込み、動きを止められる。さらに踏み込み、打ち込んだ拳を捻ることでアッパーに変わり、腕力で10メートル近く上空に吹き飛ぶ。そのまま男は地に落ちる感触を味わうこと無く気絶した。

 

「ふん―――片腹痛いわ。」

 

 憐れにも血反吐を吐きながら、錐揉み回転をしつつ地面に落下した男を眺めラオウはつぶやく。同時にラオウは疑問を覚えた。

(……この島は白ひげの船から降りた島と同じ様な様相。しかし、住民に気概がない。)

 程なく疑問は解ける。

 

 辺りは静寂に包まれていた。すると、長らしきものが指示を飛ばす。叩きのめされた海賊を治療を命じた。

(なるほど、"惻隠(そくいん)"か。)

 そう考えたが、表情は明らかに怯えだった。

 続けて長は、ラオウに『早く出ていってくれ、金を払う。報復が怖いんだ。それに待ってれば海軍が来る。』と言い始めた。

 

「―――貴様、何故媚びる。何故おのれで戦わん。物は奪われ、妻が、娘が、女たちが陵辱され、男は殺され、何故それを黙認する?」

 

 ラオウがそう言うと。今度は、『あんな海賊達でも商売に成る。付き合わなきゃならない。アレは大海賊団なんだから、あんたに報復に来るぞ』などと脅しさえ始めた。

 

「ほぅ……それは【四皇】か?」

 

 大海賊と聞いて色めき立ったラオウだが、返答は"否"。最近『新世界』に来た大海賊団を率いたルーキーらしい。

 期待を裏切られ、落胆する。

 そしてこの手の者には何を言っても、このまま死ぬまでその精神の根から奴隷だろうと考え、『―――もういい、好きにしろ。』と吐き捨て、立ち去ろうとする。

 ―――そこで服の袖を引っ張られた。見ると、10を超えたぐらいの少年が俯向きながら歯を噛み締め、何かを言いたそうにしている。

 

「・・・何だ。」「―――たい」

 

 その様子から何を言わんとしているか。ラオウにはなんとなく分かった。だが、はっきりと言わない限り、意志を示さない限り何かする気は無い。

 

「聞こえんな。」

「強くなりたい!―――もう沢山だ。このまえ母さんが殺されて、今日は姉さんが連れて行かれそうになった。父さんは何時も『逆らっちゃダメだ。海軍に任せろ』そう言ってばかり……。そんなの嫌だ。俺はこの島を守りたい」

「名は?」「……リュウ」

 

「……よかろう。拳を教えてやる」

 

 こうして島のものに拳を教える事になった。

 ただ北斗神拳は教えない。伝承者で無いラオウには教える資格が無い。しかしそれ以外のラオウの知る武術・拳法。例えば南斗聖拳などならば、いくらでも教えることが出来る。

 最初教わりにくる者はリュウのみだった。しかし、報復に来た海賊をラオウがただ一人で蹴散らしていく内、教わりに来る者が増えた。

 その修練は過酷を極めたが、この現実に不満を持つものは多かったらしく、その執念から落伍者は無いままに島の者は上達した。一方で修練に参加しない者はラオウが倒した賞金首の金を使って、島の防御施設を作るようになった。

 

・・・・・・

 

 そして2ヶ月ほど経ったある日。島に珍客が訪れた。黒服を着込んだ初老の男だ。

 

「CP(サイファーポール)です」

「……下郎、なにか言ったか?」

 

 それは稽古の場となっていた場所に現れた。島民の稽古を終え、その後の瞑想を妨げられたために苛つきを見せるラオウを無視し、慇懃無礼に男は続ける。

 

「『世界最強の海賊』と引き分けたとされるラオウ。

 貴方を我々は脅威であると見なすとともに、味方として引き入れたいとも考えています。CPに、『世界政府』にご協力願います」

「断る。俺はな、奴隷ではない。犬猫でもない」

「そうですか。では……」

 

 言うやいなや、黒服の男は六式[剃]で間合いを詰める。

 

「[指銃]」

 

 必殺の一撃で心臓を一突き。『任務完了』と黒服の男:ラスキーは思った。

 

「ふん、面白い技だ。」

「ッ―――[剃刀]」

 

 [指銃]を放ったが目の前の男の筋肉は疎か、皮膚すら突き通せていない。

 体力の衰えで現役最強、CP9ロブ・ルッチには劣るだろうが、日々の研鑽で他の現役世代の連中に負けると思ってない。

 もし、完全な初見があれば【白ひげ】ですら討ち取れると思っていた。

 

「[嵐脚・乱]」

「足で飛ばす斬撃……。南斗白鷺拳の様な技だな。腕でやらんとは―――笑止。」

 

 そう言って目の前の標的ラオウは腕から連撃の斬撃を繰り出す。足と腕では、振りの早さにどうあがいても差が出る。あっさりと数で負け、更には斬撃単体の威力でも劣り、ダメージを受ける。

 現役を引退して指導員となった己に何故司令が下ったか。ラスキーはやっと分かった。

 ―――噂は事実だったと。指令は勧誘と暗殺であったが、暗殺など不可能だと。選ばれた理由は戦闘の後、生き延びて、逃げ延びて情報を持ち帰るべきなのだと。

 逃げなければならないと、空中を高速移動して逃げようとする。だが、判断を下すにはもう遅かった。

 

「[秘孔・気舎(きしゃ)]」

「!?な、何をした……しかも貴様!!」

 

 技を[月歩]をコピーされたらしく、追いつかれ両肩に[指銃]のようなものを突き入れられた。ラスキーは思うやいなや異常に気づいた。

 体がしびれて動けない。

 

「貴様の技を、目的を全て話してもらう。[秘孔・新一(しんいち)]」

 

 何が起きてるかわからないが、海軍秘匿の武術を、何もかもを喋らされる。自決しようにも出来ない。恐怖しか感じない。

 

・・・・・・

 

 次の日

 

 宿屋で目を覚ましたラスキーは疑問を持った。(何故―――この島にいるのだろう?)来た過程は覚えているが、何のために来たのか分からなかった。

 昨日の記憶がすっぱり抜け落ちている。それ以前の記憶に虫食いがある。そして体が重い。

 

 とにかく本部に戻り、報告時に待っていたのは解雇であった。首を捻るばかりでそのまま彼は隠居生活に入ることとなる。

 

 

 ここまでで判明したのは、人を爆散させる。人の記憶を操る。2つの能力を持ち、その戦闘力は【白ひげ】とすら引き分ける拳法家:ラオウ。

 

 政府はこの事実を受け入れ難く思いつつも、海軍に指名手配を依頼する。

 ただし、その技能が一体何なのか。その疑問を晴らすために生け捕りであることを条件に含めた依頼に海軍は頭を抱える事となる。

 

 

 WANTED!【拳皇:ラオウ】―――賞金額3億―――

 

 

 世界はデタラメな初頭手配額と、その額にして【ONLY ALIVE】―――生死問わずで無いことに、生け捕りであることに驚くこととなる。

 




 アルコル……名前の元ネタは北斗七星の8つ目の星、いわゆる死兆星です。
 住民は怯えて待つばかりの、経済だけで従順・秩序の死んだ島:アルコル島。拳王様の指導により島に危害を加えようと訪れる者は滅ぶ脅威の島と変わりました。

 あれ~、のんびりしてもらうつもりが、仕事してる拳王様……。ホントにストイック。
 偶然息子と同名の子供が『強くなりたい』と言って来たからついつい面倒を見てしまった。そんな面もありますが……これはいつの間にかラオウの国を作ったもの同然。
 こんな拳王様ありえないでしょうか?私的には有りだと思ったので書いてみました。これにて拳王様は『世界の敵』認定です。
 ただ、政府はまだ七武海に勧誘しようとか考えております。

 六式を覚えたことで、拳王様の移動が楽になりますね。面倒なので基本船で移動ですが、非常時に場所を問わなくなりました。
 ちなみに、私の中で 南斗聖拳>(技が出来る部位を限定してる壁)>六式 です。
 いちいち足だの腕だので出来る技が限定されてるなんてありえません。腕で出来るなら足で出来て、逆も当然出来ないと極めたことにはならない。
 るろ剣の安慈和尚の二重の極みと同じです。

 ラスキー…20年前のオハラ襲撃の時の戦闘員です。CP9のカリファのオヤジ。政府の奴を殺すのはマズイということで記憶を消されました。下郎の命はいらない。というのが大きいのですが。
 経絡秘孔など知らない政府はラオウが2つの能力を持っているのではないかと思っています。

 二つ名は【拳皇】になりました。四"皇"に匹敵する"拳"法家……拳皇です。アドバイスくれた方ありがとうございます。


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12話

 時系列は原作沿いとは言え、裏手側の展開……やっぱり難しいです。鈍り出すとここまで筆が鈍るとは。
 こうして好き勝手に書いてるものなのに、誰かに書いて欲しい。むしろ読むだけで在りたい。そんなことを思い始める私。オイオイ
 今後、一気に加速予定……のはず。筆も加速して欲しい…。



・騒がしくなる世界 の巻

 

 世界が『麦わら海賊団』のエニエスロビーを襲撃―――。この事件がニュースとして流れ、世間を騒がせた。

 

 それと並んで、一枚の手配書が世界を驚かせた。

 

 WANTED!【拳皇:ラオウ】―――3億―――

 

 つまり【生け捕り】である。億どころか1000万を超えれば、例外を除き皆【DEAD OR ALIVE】:生死を問わず……そのはずなのだ。

 しかし、初頭手配でこの値段。何よりも生存を条件とする事に世界は驚いた。

 

 

 これはアルコル島にも騒動を及ぼした。

 

 旧来の惰性的、外敵に対して従属的な守旧派が『あんな訳の分からないお尋ね者の指導など要らなかったんだ』と騒ぎ始めた。

 

 一方、積極的に拳法を教わった者。それを見て自衛が必要と考え、島に防御施設を作り始めた改革派たちは反論した。

『彼が、ラオウが一体何の悪事を働いたと云うのだ?彼のお陰で我々は取り戻すべきものを取り戻した』

 ―――こう主張し、島は真っ二つになった。

 

 

 ラオウがこれまで、この島に滞在した中でしたことは2つ。

 

 彼の幼馴染である軍師がやった組織的な行動の指針作り。

 リュウを始めとした拳法の教えを請いた者達への指導。

 

 組織行動の指針によって、これまでなおざりだった島に入る船を事前の審査を細かく行うようになり、仮にそれをくぐり抜けても港に隠された砲台の標的にさらされるため、化けて入る海賊船は駆逐される。

 港を使わず横入りしてきた無法者は、まず機雷の攻撃に晒され、上手く上陸出来ても拳法を教わった者達が遊撃で食い止め、最後は罠に嵌め、片付ける形になった。

 

 前者に対してあまり関与しなかったが、後者の弟子と言える者達の育成にそれなりに関わっていた。

 ただし『拳を教える』と言ったものの。ラオウがしたのは基礎と体力の訓練の仕方のみ。

 

 具体的には、関節の柔軟性の強化。山林の野駆け。指弾などの各部位の強化。型稽古。―――要は基礎体力と拳法の基本技の指導。そして、多少苛烈な組手。

 あとはラオウのやる修行を真似ればいいとするだけだった。

 襲ってきた海賊は島民に対応できる者は残し、強者はラオウ自らの手で葬った。……門下の者達に技を見せつけるように。

 

(……あの軍師はこう在るべきだと、説きたかったのだろう)

 

 核戦争で荒廃した世紀末の世界。

 馴染みの軍師が隻脚のため指令が散漫となり、軍団長としての人材を、新たな軍師を求め臣下になるよう会いに行った者は『覇業を捨て民衆とともに立て。ならば共に戦う』とラオウに説いた―――森のリュウロウ。

 

 一刻も早い平定がため、最も効率の良い恐怖をもっての統治を目指したラオウは、主張の違いからそのリュウロウと死合うこととなり死別した。どんな形であれ、例え悪人と呼ばれようとあの地獄と言える世界には時代を支える巨木こそ何より必要だった。あの時代の己の決断を悔いることなどラオウにない。

 むしろ名も要らず、光も要らず。―――その覇業を終えた果てに求め続けた強敵・ケンシロウを己の前に送り出した天に感謝している。

 

 この世界だからこそこう在れる。だからこそ、こう在る事も悪くないと思えている。

 そんな心持ち故に島が割れてる中、改革派の人間に『貴方の意見を賜りたい』問われた時は割り切った返答をするだけだった。

 

「求められた故に応えたまで、うぬらが戦う意志を放棄するならば去るまでだ」…と。

 

 そう突き放してはいても、ラオウを慕い教わりに来た者までもを突き放すことは出来ないでいる。

 だから、北斗神拳を除いてこの世界で知った武術を含め、これまで見聞きした武術と"気"の初歩的な使い方を書いた指南書を集落から外れた庵に篭って書いている。もし去る事になっても力を求めるものに力を与えるために。

 もっとも、どう使うかは当人次第だ。教えるものの知ったことではない。

 

(……少し、弱くなった)そうラオウは思う。

 

 愛とは何かと知り、哀しみを背負った事により、情など不要。そう割り切っていた頃に比べて、余計な世話を焼いている己自身にラオウは戸惑っていた。

 以前のラオウならば多少の愛着のようなものが湧いたからといっても、ここまではしなかったはずだ。何時か実弟に言われたことを思い出す。

 

『愛を心に刻み付け、哀しみを背負い続けた者だけが最強の男となるのだ』

 

 その意味を知った今でも、相も変わらず強者を求め、賞金首となったことさえ楽しみ、孤高の中に彷徨しているラオウを見れば実弟:トキは苦笑混じりにこう言うだろうか。

 

『それが貴方の宿命か』……と。

 

 あるいはこの状況を見て『貴方もそんなことがあるのだな。』と、あのすまし顔を止め、大笑いでもするだろうか。

 

 手配書が出まわって数日後、伝書バットが修行を指南するラオウの下に手紙を届けた。

 その日の稽古を終え、いつの間にか懐いたリュウが興味津々に届いた手紙を眺める。

 

「師匠、なに書いてあるの?」

「稽古以外で……師匠と呼ぶな」

 

 北斗神拳伝承者でないのに"師匠"と呼ばれることにいらだちを感じるラオウだが、手紙のほうを優先する。

 普段はリュウの姉が来れば、彼女に叱られて終わりなのであるが生憎、今日はまだ来ていない。

 

(実際に息子が自らの下にいたらこんな調子なのだろうか?)つい、そんなことを考えてしまうラオウ。

 

「し~ふ~、ラオウ、拳皇さまー」「ぬ……むう」

 

 しつこいリュウを『軽く殴り飛ばしてやろうか。』そうラオウは思ったが【拳皇】と呼ばれると手が出しづらい。

 過去同じ音で『拳王』と名乗っていたから、言われるとこそばゆい。最後に持ってくるあたり、この子供がラオウをどれだけ観察しているか示していた。

 

 リュウの拳法に対する素質は相当のもので10代前半にも関わらず、同じ修行をしている5歳ほど年上の者と互角に戦えていた。雑魚の海賊くらい訳なく叩きのめした。

 その才覚に、影からラオウの修行を眺めているだけでかなりの拳法を使った実弟:トキ、そして最高の才能を持っていた"雲のジュウザ"に近い才能と思い、懐かしく思う。

 

「おお、すごいよ。七武海なんて!」

 

 横から手紙を眺め感嘆を上げるリュウ。内容は"七武海"勧誘だった。

『空いた席を埋めるためにその実力を買いたい。』とのことだ。

 

「政府公認などといっても、ここを荒らした海賊と同じだ。何故そんなことを思う」

「だってすごいじゃん。実力で世界政府に『力不足の自分たちを助けてください。』って言わせるんだもん。海賊は嫌いだけどそのくらい強いってすごいと思う。」

「ふん、そうか・・・」

 

 こうも無邪気に言われると、悪い気はしないものだった。

 




 もし、ラオウがリュウと暮らしたらどうなるか。というのをちょっと想像して書いてみました。はい、ホントに勝手な妄想です。

 この島でラオウが教えたのは自己鍛錬についてこさせただけ。体づくりと拳法の基本技。見取り稽古。組手は死屍累々の地獄でした。多少どころでは無いです。

 どうもラオウのケンシロウ化が進んでるような。元々のパーソナリティは似通ってるから、しがらみ・野望がなくなればこうなると思うんですが…。いいのかな、このまま書き続けて…。性格の土台を変えてる気は無いのですが、かなり変わってきてますから……。
 割り切れてればいいのに、出来ない私。……チキンだ。


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13話

 時間はW7後~スリラーバーグ編までの間と言ったところです。矛盾はありますが、気にしないでください。
 頂上決戦の足音がしてきました。頂上決戦の参戦の仕方どうしよう……。


・真面目な人、不まじめな人 の巻

 

 

 海軍本部マリンフォード

 

「……クザン、お前は行かなくてよかったのか?」

「いや、さすがに子供のお使いじゃないんですから……。」

「ヤツは『孫だから』―――で見逃したばかりなんだがなぁ………」

 

 海軍司令官、元帥:センゴクに叱られているのは海軍最高戦力、大将:青キジことクザン。

 

「いや、あの…。見逃しかけただけで、二度目はちゃんと捕らえに行って、船で逃げられたんですけど……。」

「なんで一度目で捕らえないんだ!?―――しかも、お前も一緒にいながら!!」

 

 自身に矛先を向けられると小さくならざる得ない。

 彼自身、その海賊団を射程範囲に収めながら何度も見逃している。

 

「…センゴクさん…そう言わないでくださいよ。数キロ飛ぶ船なんて思わなかったし。それに今回はちゃんと目ぼしい部下を【昇格祝い】ってことで付けましたから……。」

「【白猟】か……あいつもいい加減、勝手にあっちに行ったり、こっちに行ったりと……。ん?クザン!貴様!!逃げるな!!!」

 

 どのみち、元帥からの口撃は降ってくると諦め、戦略的撤退を敢行するクザン。

 

「お前ら師弟達は、どいつもこいつもーーーー!!」

 

 今日もここはこれでも通常運転である。

 

 

 

 新世界某海域

 

「……安いな。」「ああ、安い。初頭手配でも……。」

「いや、初頭手配でこれはケタ違いだろ?」

「そうじゃない。政府と海軍の奴ら、オヤジを安く見てるんじゃないか!?」

 

 …(喧々諤々)…

 

 モビーディック号にいる【白ひげ海賊団】戦闘部隊長たちは、口々に男の賞金額について言い合っていた。

 先日船長と引き分けた。【拳皇】と二つ名を付けられた男についてである。

 

 エースの定期連絡からの情報では『全力の相手と戦いたい』利己的な目的もあったそうだが、結果的に彼らが慕う者は体調をよくした。これに【白ひげ海賊団】は多少の恩を感じている。また結果は決闘となったが、その警告の原因であるティーチが最悪のルール違反をした以上、あの諫言立ては純粋な忠告だったことに畏敬の念を面々は持っていた。

 

「マルコ。エースからの連絡は?」

「………………。」

「……そうか。」

 

 マルコは質問に対し、沈黙しつつ首を振る。定期連絡を絶って数日。エースからの最後の連絡は『ヤツを補足した』だった。

 船長:エドワード・ニューゲートは不安を覚えていた。もしあの息子が捕まったのならば……。そして最悪の可能性を想定し、一つ決意した。

 

「―――戦争の準備だ。息子たち」

 

 

 

 マリージョア某所

 

「さて、クロコダイルの後任となる七武海だが、どうしたものか……」

 

 古代兵器の探索と保持を目的にとんでもないことをしでかし、称号を剥奪された世界政府公認の海賊:七武海の一角。―――その後釜をどうするべきか。

 世界を統べる老人5名の内の一人が議題に上げる。それぞれの手元には二人の人物の資料がある。

 

「一人はわかりやすい。腹の中に何を秘めてるかわからんが、期待できそうだ。」

 

『マーシャル・D・ティーチ:【黒ひげ】

 先日、仲間殺しの罪に対する誅殺に向かった白ヒゲ海賊団2番隊隊長:【火拳】ポートガス・D・エースを討ち取り捕縛。

 白ヒゲ海賊団に所属していたという過去から、【四皇】の頂点、すなわち世の海賊のトップに君臨する者を裏まで知っているという利点がある』

 

「しかし、こちらも捨てがたい。海賊への脅威となるなら、こちらのほうが上だろう。だが……」

「未知数どころではないな……」

 

 もう一人。こちらが問題だった。

 

『ラオウ:【拳皇】

 拳法家を名乗り『世界最強』の異名を持つ【白ひげ】と引き分ける。―――不確定な情報だが【赤髪】とも引き分けたとされる。

 驚異的な戦闘力の高さから、CP(サイファーポール)各諜報機関を以って経歴、出身を調べたが全くの不明。

 

 これに焦れ、スパンダインが元CP9の凄腕を彼の者の滞在地に送り込み、威力偵察を行う。

 十中八九、還ってこないであろうと見込んだものの、予想に反して諜報員は帰還。

 情報を報告させたところ、何の任務を与えられたか、誰と何をすべきだったのか。それら任務内容を全て忘却していた。

 

 この一件により、それ以前の捜査・報告で挙がった《人を爆散させる能力》に加え《人の記憶を操作する能力》の2つを持っていると仮定。

 前例の無い。悪魔の実2つの能力を保持するのではないかと推察される。

 

 一部の分析班には[悪魔の実と異なった何かではないか]という意見もある。

 これを考慮し、現在、捕縛対象のみの賞金首として手配中―――。』

 

 

「……しかし【白ひげ】、【赤髪】の四皇二名と渡り合い、どちらにも属さないことを見るに、我の強い者と見られる。こちらの要請に応じるものか?」

「先日の伝書バットの返信には『手紙ではなく。説明を受けた後に決める』とある」

「ふむ、【鷹の目】と似た者かもしれんの。迎えは如何した?」

「センゴクは『英雄ガープ』を差し向けたそうだ。」

 

 件の人物は実力は確かだが、気難しい剣豪と似通った一匹狼ではないかと彼らは予測する。

 そして、気まぐれで有名だが、それを補って余りある実力者の出陣に一同は安堵の空気を醸す。

 

「……想像はさておき、どちらにするか決めねばなるまい。」

「そこは簡単だ。戦わせ。残った方を使えばよい。」

「ふむ、そこで見極めようというか。なるほど。……では次、今最も重要な案件の【火拳】についてだが……」

 

 世界を廻す者達の議題が尽きることはない。

 しかし一体なにが本当に重要であったか……蓋を開けてみなければ分からないものである。

 

 

 

 新世界某小島

 

 皆、酔っていた。

 一体誰がこの連中は世界に名だたる大海賊団だと思うだろうか!?

 

「ぎゃははははは」「ルフィ、3億、キタ――――!!」「ラオウもいきなり来たーーー!!」

 

「安くね?」「初頭手配だぞ!ありえねぇだろ」「そーそー」

 

「ん?ロックスター。泣いてん?」「先輩、いきなり(賞金額を)抜かれて悔しいです」

「あー、気にするな気にしたら負け。アレは規格外」

 

 この酒席の惨状に頭を痛めているのは、いつもどおり副船長ベン・ベックマンである。

 エースを見送りに行ったときもまともかと思ったら、戻ってきてスグに酒席だったし、今回もニュース・クーが来て新聞を受け取った途端にこれである。

 もうこの島での宝探しは終わったというのに……。

 

「なぁ、お頭……今日こそ、この島から船を出すんじゃなかったのか?」

 

「んー、駄目だ。今日は宴!めでたい!!みんな飲むぞ!!!」

 

「「「「オー!」」」」

 

 ハメを外さなきゃ、外し過ぎなきゃ、この海賊団の船長は最高なのに……。

 副船長は10年で増えた白髪に手をかけ、頭を抱えていた。

 

 

 

 アルコル島 近海

 

 務めて丁寧に……。尊敬できそうもない人間性であっても丁寧に話す。

 

「……中将、任務……分ってますよね?」

「わ~っちょるわい。要はブチのめして、ふんじばって来いってことじゃろう!」

「いや、七武海の勧誘ですから、慎重に、丁寧にと………」

 

 ここまで言ってみて(こんな短絡的なセリフを吐くジジイは、やはりあの孫と同列だ)そう思うと共に(駄目だこいつ。もう手遅れだ)と考える。

 スモーカーは諦めた。―――近づいてきた島が、仮に灰燼に帰そうとも。

 




 さて、これまでとはちょっと違う形で書いてみました。場所を冒頭に書く……この書き方、我ながらあまり好きじゃない。
 次にこんな場面を書くなら振らなくてもわかるようにがんばろう。

 サカズキと拳王って水と油どころじゃないですね。きっと……。
 自己が定めればなんでも焼き殺す『徹底的な正義:赤犬』。
 覇道を邪魔するなら何が何でもブチのめす『世紀末覇者:拳王』

 まぁ、このラオウは覇道を捨ててますから、そこまで荒れないと思うけど…最近はキャラクターが動くに任せてるからどうなるやら。
 人はこれを『投げ遣り』と言う……。反省はしない。


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14話

 ものすごい難産。気に入らなくても消すもんじゃないですね。消したものより劣化してしまったし……。


・襲来する"英雄" の巻

 

 教えを請うた者達に適当な指導をする。ここ二ヶ月の中の日常。アルコル島でラオウが行なってきたことだ。

 

(そろそろ終わりだな。しかし、これほど長く続くとは……)

 

 ラオウは感慨に耽っていた。

 ここ半月、幾度となく襲撃してきた海賊団に対してラオウは少し飽き始めていた。チラホラと居る"悪魔の実"の能力者は、それぞれに特徴があり、戦うのは楽しかった。

 だがその能力を見極めれば。―――もとい、見極める以前に"闘気"を以って拳を振るえば大半が吹き飛ぶ。好勝負を演じた【白ひげ】や【赤髪】に匹敵する使い手はいなかった。

 ほとんどが能力にかまけてしまい。己を鍛え上げ、オーラを纏い、自身の格を上げることを忘れた者しか見ていない。

 そして拳法家と呼べそうな、素手で戦う者は……ラオウが知る限り最も低レベルな使い手の愚弟:ジャギ程度の者すらいなかった。

 

 そのため、島の者達の指導に一段とのめり込んだ。

 伝承者以外は教えることを禁じている北斗神拳と、教えるべきでない武術を除いて―――南斗聖拳の基礎と教えていいと思える武術・拳法、そしてこの世界で知った六式を教えることを考えた。

 そのためにこの2ヶ月の稽古の内、8割を基礎に費やした。二割は実戦で見せる見取り稽古。

 その甲斐あって、教え子達はその基礎で8桁の賞金首であってもそれなりに渡り合える様になっていた。そしてラオウ自身が居なくなっても指導を行うために、技を習得させるために書き記した指南書を残す。 

 

 それらを極めた者と戦うことを考えると、あるいはこれまで実戦で見せてきた北斗神拳を盗んだ者が現れたら……。

 教えはじめた当初と目的が変わってきているが、そう思うと楽しみでたまらないラオウだった。

 

「はぁ……師匠、おはようございます……。」

「こんにちわ、ラオウさん。今日もウチのリュウがお世話になります」

 

 最も熱心な教え子であるリュウ、その姉オウカが今日も来た。リュウは普段、姉を置いて一番に来るはずが、この日はなぜか稽古が始まる直前にようやくだった。他の門弟達とラオウはそれを少し訝しんだが気を取り直し、"地獄"と周りから囁かれる稽古を始めようとする。

 オウカは医者の卵で、怪我人が出るといつも治療に当たっている。いつもどおり医療器具と消耗品を持ってきていた。

 

 時間が来たことで、黙って瞑想をしているラオウの前に門弟達が並ぶ中、リュウが何か言いたげに声を上げる。

 

「あ、あの師匠……」「たのもー!!」

 

 それを遮り、老けた男の大声が空気を吹き飛ばした。

 

「ワシは格闘家のガープという。ラオウとか言う拳法家はここにおるか?」

「―――変な人が……」(小声)

 

 彼らの目を惹いているのは、アロハシャツにサングラス、サンダルに短パンを履いた"格闘家"と名乗るジジイ。しかも『ガープ』と名乗っている。

 変装をしているつもりだろうが、この格好では"格闘家"でなく"旅行者"である。顔を隠していても、それはサングラスだけで古傷、年季の入った髪などの特徴は丸出し。物事を多少なりに知っている者にとって、海軍の広告塔―――『英雄ガープ』と呼ばれる男とよく分かるままだった。

 

 ………なにかがズレてる。確実に色々とズレている。

 

 この男を連れて来た姉弟も微妙な表情を浮かべていた。この珍客当人を除いて、居合わせた者達の思いは一致している。

 

((((これが『英雄』と呼ばれる人物なのか!?))))

 

 その中でラオウは、笑みを、門弟達にとっては海賊が来た時の『いつもの笑み』。

 初めて見る者にとっては獰猛で凶悪で、そして愉しげな顔を浮かべていた。

 

 

・・・・・・

 

 

 海軍本部中将:ガープはアルコル島の街を練り歩いていた。隣にいるお伴のスモーカー新任准将はゲンナリとしている。

 現在、彼らの格好は白い『正義』を綴ったコートを羽織らずにただのスーツ姿。

 

 この発端はガープが言い出したことからだ『W7では大所帯で出向いて警戒されちまったから、今度は少数で行く』……と。

 それでも、『お目付け役はどうあっても必要。』そう周りに騒がれたために、仕方なしに相方として指名されたのはスモーカー。

 ガープの副官:ボガードはスモーカーに向け『頑張れ。こっちは気苦労がないこの時間を満喫させてもらう。』そう言いたげな、いい笑顔だった。

 弟子のコビーとヘルメッポは『これがなければなぁ……』と、スモーカーに同情の目を向けていた。

 そして、スモーカーの副官:たしぎは二人の指導をすることになった。

 

 スモーカー、コビーとヘルメッポはともかく、付き合いの長いボガードは気付くべきだった。

 ガープが自分から妙な案を出した時点で、この一生涯の悪ガキがなにか企んでいる様な笑みを浮かべていたことに……。

 

 

(まったく、戦ってみんことには相手のことなぞわからんじゃろうに……なんだって、あいつはワシに厄介事を押し付けるんじゃい!)

 

 別にガープは不真面目というわけではない。ただ単に私情が絡むとどうしようもなくなるだけで、その頻度がちょっと多いと言うところだ。そう、ちょっとだけ……。

 厄介事を押し付けられたのは自業自得である。今回のガープに与えられた任務は、七武海候補の【拳皇】ラオウの送迎。これは政府から回ってきた任務で、部下も知っている。

 

 同時にガープはもう一つ任務が与えられていた。

 それはセンゴクから『ラオウと言う人物を調べてこい。あわよくばその戦闘力を見てこい…。』と言う任務を。

 

 センゴクがこんな指示をしたのには、当然理由がある。

 情報が少なすぎたのだ。政府と海軍。それぞれ別の組織であるが、犯罪者に対する連携はしっかりと行なっている。

 しかし、【拳皇】についての情報はほとんど渡されていない。海軍が把握しているのは【白ひげ】と引き分けたらしい。―――それくらいである。

 

 今海軍は忙しい。何より、今年はルーキー側、前半部:パラダイスの方が何かと騒がしかったために、新世界側は【四皇】の大雑把な動向以外はなおざりにしていた。

 だからこそ、CP(サイファーポール)に問いただしたのだが、情報がちっとも元帥のセンゴクに降りてこない。

 そこで、現地に赴くついでに、致命的に向かないが仕方なしに、迎えに行くガープに対して別件の任務が降りていた。

 

 そう……内容はあくまで観察であり、『戦え』と言われていない。だが、脳筋しか無いガープに、戦闘力を見るというのは、戦う―――以外の選択肢は頭に無かった。

 

「……で、どうするつもりです?」

「そうじゃのぉ…。うん、とりあえず……メシ!!」「はぁ!?」

「情報は飯屋に集まる!!そして、まずは腹ごしらえじゃろう?」

 

『どう考えても、情報よりもメシが優先じゃないのか?!孫と同じように……』そう突っ込もうと思ったところで、横合いから声をかけられた。

 

 その人物の顔を見て、スモーカーは島の顔役であることを思い出す。

 貴重な情報を得られそうだとガープに声をかけようとするが、既にそこにガープはいなかった。

 スモーカーが慌てて辺りを見回すと、ガープはかなり遠くにいた。そして……。

 

「そこは任せた!ワシは飯屋に行く!!」

 

 そう言い残し、ものすごい速さで去っていくガープの後ろ姿を見ながら、

 

(………やっぱりあの孫にしてこのジジイだ!!)

 

 もの凄い怒りを覚えたが、押し付けられた現場を放り出すことも出来ず、スモーカーは渋々と情報収集を始めることにした。

 

 

・・・・・・

 

 

 ガープは飯屋で呑気に食いながら情報を集めていた。食事代は海軍元帥:センゴクにツケである。

 

「最近手配書に載った人でしょ?怖いわよね、早くどっかに行ってくれないものかね。」

「ラオウ?彼が来てからこの島の治安は良くなったよ。」

「教わってる者たちは、よくあんな拷問についていけるもんだと思うね。」

「あんな、あんなバケモノ居るかよ。……俺は故郷に帰って堅気になるよ。」

「海軍みたいに理屈つけて逃げないからね。良い人だよ。変な誘拐事件も起こらなくなったし。」

「わからないものだよ。なんであの人が賞金首なんだか……。」

 

(うーん、ロジャーのヤツみたいな感じかのぉ……。)

 

 大雑把に集めた内容はこんなもので、そこからガープはかつての海賊王と同じ印象を持った。

 

 直接会ってない者にとってはあまりいい印象をもたれることがなく。一方で、直接会ったことのある人間。よく知るものにとっては憎むことの出来ない。

 一種の人望を持っている者とガープは思った。普通、もうちょっと調べるべきなのだが、ガープにそんなつもりはない。

 手っ取り早く変装をするために、近くの服屋に入り、休暇にでも着るような服を買い揃え、一緒に買ったカバンにスーツをしまい込む。

 

(さて、どうやってラオウとやらのもとへ行こうかの。)

 

 そこにちょうど件の人物の話題をして歩く者達がいた。耳に届くものではないが、見聞色の覇気で盗み聞きをする。

 

「姉さんはラオウのことどう思ってるの?」

「ん?どうって?」

「―――いや、好きか、嫌いか。」

「はぁ……コイツ、いつの間にかマセてる。」

「目が怖いって…。それで、どうなの?あの人を兄貴って呼べるなら嬉しいし。」

「んー、あの人は好きな人がいるみたいね。無理無理」

 

 そう言いながら顔の横で手を振る、白衣を羽織った年頃の娘と、動きやすい服装をした10代前半の男の子。

 そんな姉弟らしき組み合わせに耳を傾けた。

 

「でもさ、俺達が教わってないこと教わってるでしょ?それって……」

「ああ、医術のツボのこと?だってリュウ、怪我してばっかりじゃない。」

 

 オウカは治療効果のあるモノのみであるが、経絡秘孔をいくつか盗んでいる。本人が医者を目指していることと、無鉄砲なリュウを気遣う姿、それを見たラオウは実弟とかつて惹かれた女に重ねて黙認していた。

 

「俺には教えてくれないんだぞ。『伝承者じゃないから。』って……」

「あのね。あたしのあれだって見よう見まねよ?見てるなら同じじゃないの。ボロボロになったみんなにラオウが突いた場所を覚えて、夜になったら同じ場所を言われた加減で突いてるだけ。覚えられないのはリュウがちゃんと見てないんじゃない?」

「ぐ……」

 

 そう言われるとリュウは言葉がない。盗んでやろうと努力しているが、姉ほど盗めていない。

 

「―――はぁ、でもすごいよね。知らない薬草の調合とか、薬の使い方とか。あたしの知らないことばかり。どこの医術なんだろう……」

「さぁ?」

 

 興味深い話をしているが、嫌な気配が近づいてきたことを察知したガープは二人の話に割りこむことにする。

 

「……のう。」

「あ、はい―――」

 

 ガープの声に反応したのは姉、オウカ。話が切れたので、リュウはラオウの元に行こうとする。

 

「……姉さん。俺、先に行くね。」

「用があるのはお前さんじゃい。」

「「え?」」

「実はの、お前さんらが言っているラオウのところに行きたいんじゃが、道に迷っておるんじゃ。

 ―――案内せい!」

「え、あ、うん……」(…なんで頼んでいるのに、最後が命令なんだよ?)

 

 疑問を持ちながらも、なんとなく流されるままに道案内を始めるリュウ。姉はこの強引で脳天気な訳の分からない爺に思考停止である。

 

「ぬ!?いかん!!」

 

 そう言って、リュウを抱えものすごい勢いで駆け出すガープ。リュウが『そっちじゃない!』と騒ぐが、

 

「だめじゃ、うざったい奴が来とる!!」

 

 そう言われて、リュウが首を後ろに向けてみると、煙の塊が「ジジイ!待てこらー!!」と怒声を上げて追いかけてくる。

 こんな二人の鬼ごっこでリュウは時間を大幅に無駄にしてしまった。

 結局スモーカーを振り切り、ラオウのもとにガープ達がついたのは稽古の始まるギリギリ。

 

・・・・・・

 

 島を散々連れ回された挙句、ようやく簡素に作られたラオウの野外道場にリュウとガープがついたのは、姉のオウカが買い揃えた医薬品を持ってやってきたのと同じ時だった。

 近くにはラオウが居を構えた庵がある。

 

「―――あれ?リュウ、先に出てたよね。なんで今つくの?」

「……この爺さんに振り回されてた。」

 

 そう言いながら指を刺されたガープは『ぶわっはっはっは』と笑いながら「いい準備運動になったわい」と宣っている。

 そんなガープにリュウは驚いていた。皆グロッキーになる山を走り回る特訓。それに値する運動量をこなしてこのジジイは汗一つかいていない。そんなバケモノはラオウ以外に知らなかった。

 

「ええと……おじいさん。落ち着いたら、あたしたちが紹介しますから、少し待っててくださいね。」

 

 そう言ってオウカとリュウはガープを場に残して道場に向かう。だがカープの忍耐が3分持つことはない。

 

「たのもー!!ワシは格闘家のガープという。ラオウとか言う拳法家はここにおるか?」

「……あの、少し待っててくださいって言いましたよね。」

 

 唖然としている門下生達を差し置いて、ガープの近くにいるオウカが応対する。

 

「うむ、待っとったぞ。」『―――ちゃんと待ってたんだ。どうだ、偉いだろ。』と言わんばかりに胸を張るガープ。

「―――五分も経ってません。」「長いわい!!」

 

 漫才のようなことになり始めている中、ガープの前にラオウが無言で出てきていた。

 その威圧感にガープはラオウの方を向く。

 

「………道場破りか?」

「腕試しじゃい」

「そうか・・・」

 

 そう言って愉しそうに"闘気"を身にまとうラオウに呼応するように、ガープはその顔を引き締め、"覇気"を強固に纏った。

 




 まだロギアと戦ってはいませんが、悪魔の実の能力者との戦いに飽きて、北斗同士の……純粋な肉弾戦に飢えている拳王様です。

 医療をちょっとだけ教えてますが、北斗神拳は修行の中で秘薬・秘孔などを使ってると思ってるからです。
 そうでなかったら、北斗の男は筋肉がモブより少ないのに、それに遙かに勝るパワー出せると思いませんから。

 よその拳法の秘伝書を読むだけでその秘伝書の真贋を見極め、内容を把握し、修得することが出来る理解力・実践力。アミバが回してくる秘孔の実験データ、メディスンシティの薬を把握する拳王様の知識量……。

 きっとトキが医者を目指していたから、影でそっちの努力をなされていたのでは無いでしょうか?
 何もかも兄として弟に勝ってないと気が済まない人ですし。
 ジャギもその姿を見習えばよかったのに……。見習ったのはプライドだけで、努力をしてるとは言いがたい愚弟ですからね。

 そろそろ甘さがあるラオウは終わりに近いです……。次の……その次位からは容赦のない覇王として動くと思います。


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15話

……感想がついてなかった。つまらなかったかな……。OTZ


・海軍の最高峰 の巻

 

 スモーカー准将は唸っていた。

 

『島の顔役など、海賊による被害を受けて政府に対して保証金を求める事のできる者は、そこからピン撥ねをする事が出来なくなったために評判が悪い。

 一方でこれまで損害を大きく受けて、泣き寝入りをするしかなかった大多数の者達は『戦う意志』に応え、共に戦い。力を与えてくれた【拳王】に対して感謝している。』

 

 これが【拳皇】について得られた情報。

 外面が強面であってもローグタウン―――"始まりと終わりの町"でかなりの信頼を得ていた。それを勝ち取るために住民との交流を欠かしていない。

 この経験から、この島でも上手く情報を入手することが出来た。そしてその情報に危機感を持っていた。

 

(……敵を作る以上に味方を作っている。危険な男だ。)

 

 スモーカーはそう思った。この恐ろしさはよく知っている。

 彼がローグタウンという職場を放棄する原因となった、"麦わらの一味"と同じだ。アラバスタの一件で事後処理の事情聴取の報告を読んでも、住民からの被害は食い逃げ程度であった。

 

 後はどんな行動をしていたか。その情報は出てくるが、友好的な感情が読み取れる話しか出てこなかった。

 この【拳皇】も同じだ。敵は悪評を振りまくが、味方から悪評がでることがない。

 

「……ちっ、あのジジイどこ行った」

 

 思わず口に出てしまったが、今は【拳皇】よりも逃げ出した上司が気がかりだった。あの脳筋ジジイならどうするかスモーカーは考える。

 そして、その脳筋スチャラカじじいが追い掛け回した時、子供を連れていたことを思い出した。

 

(……そういえば、なんで子供を……道案内?まさか戦いに行くつもりじゃないだろうな。

 ―――いや、むしろなんで気付かなかった。来る船の中でも、あのジジイ―――それしか考えてなかったじゃねぇか!!)

 

 そう思い至り、あわてて【拳皇】が居るという庵に向かうことにした。

 

・・・・・・・

 

 ラオウとガープ。二人のぶつかり合う"闘気"と"覇気"が風を舞わせていた。

 その圧倒的な"気"のぶつかり合いと、ラオウの変質した"滅する闘気"―――この世界における"覇王色の覇気"を受けて、門弟達はその強烈な圧迫感から遠くへ離れる者はいても、気絶するものは皆無。

 日頃"闘気"を纏うラオウとの組手を強いられてきた成果だった。

 

「リュウ……師父は本気を出すと思う?」

「……今は海賊を相手にしてる時の師父だね。ホントに本気の師父を見てみたいよね。」

 

(ガープって爺さんはともかく、ラオウは絶対に本気じゃないよな……本気かぁ…)

 

 2才ほど年上の門弟との小声の会話の中で、リュウは本気はないと見ていた。

 門弟の中でセンスが良い者は、不完全ながらも"気:オーラ"とまではいかないまでも、"覇気"を纏う術を身につけ始めていた。

 北斗・南斗聖拳どちらも気を扱うことは必須事項。故に数段飛びでラオウは仕込んだ。ラオウの師父リュウケン譲りの。『死ぬかもしれない。』と傍目から心配されるほどの組手を……。

 

 そんな生死ギリギリの組手をラオウは門弟に行った。既に"気"の断片を、"覇気"を扱う者が居るのは当然なのかもしれない。

 その拷問に応え、耐えぬく執念を見せた門弟達も並の覚悟ではない。成長はうなずけるものだった。

 

「ふうぅぅうううぅうう」

「ぬああ~~~!」

 

 ガープは見込み違いを悔いていた。所詮若造だから、どうってこともないと思っていた。【白ひげ】と引き分けたなどと、善戦に尾ひれがついたものだと、どこかで高を括ってしまっていた。

 その一方で若い頃の高揚感を覚えていた。

 

(若造め、この"覇気"センゴクやロジャーと……それ以上か)

 

 ラオウもまた楽しんでいた。

 

(心地良い"闘気"。紛れもなく【白ひげ】や【赤髪】に並ぶ使い手―――!!)

 

「―――そりゃあ!!」

「でぇい!」

 

 互いの、闘気を込めたラオウの拳と、覇気と共に六式:鉄塊"砕"を使ったガープのパンチがぶつかり合い、『ドギャアン!』と人の身で出せるとは思えない轟音が辺りに響き渡る。

 それとともに両者共に数歩たたらを踏み、間合いが広まる。

 

「嵐…脚。じゃい!!」

「むぅん」

 

 ガープの繰り出した斬撃をラオウは放出した闘気波で消し飛ばし、なお放出される"気"は斬撃を貫通し、そのまま攻撃となる。

 

「ぬわぁ!?―――」

 

 慌ててガープはその闘気を六式:"剃"で躱す。躱された闘気が爆発を起こす。その爆煙を利用し、ガープはラオウの側面に回りこむ。間髪入れず、連続のパンチを繰り出す。

 隙の少ない闘気弾と違い、反動が大きい闘気波で硬直するラオウ。それでもガープの攻撃にガードが間に合わせるのはラオウが常識はずれの天才であるゆえんだろう。

 

「そりゃ、そりゃ、そりゃァ!!」

「むぉ!どうあっ!!」

 

 掌打でパンチを弾き、数発受けたところでラオウもまた拳をぶつけ出す。

 

「そりゃりゃりゃりゃりゃりゃ」「おぉおぉぉぉおおぉぉぉ」

 

 そのまま互い回転が上がり、拳の弾幕がぶつかり合う。北斗神拳の驚異的な拳のスピードにガープは食い下がっていた。だが全盛期に比べてはパワーが落ちているガープと、今がまさに全盛期のラオウとでは差が出て、ガープは数メートル飛ばされる。

 

「そのスキ、もらったわー!」

 

 瞬時に間合いを詰め、ラオウは必殺の闘気弾を繰り出す。"六式"の"月歩"の速度では間に合うことがなく、地面に着地した後の"剃"でも間に合わない。まさに絶好のタイミングだった。

 

「―――ヤバ、フン!・・・そりゃあ!!」

 

 しかし飛ばされた勢いをそのまま生かしガープは"剃"と"月歩"の複合技。"剃刀"で瞬時に間合いを詰め、ガープは右の拳骨を繰り出す。

 驚きを一瞬で放り捨て、応戦するようにラオウも左の拳を繰り出す。

 

 それを両者共に紙一重、皮膚一枚を切らすヘッドスリップで躱し、拳の勢いそのままに頭突きが『ゴッシィ』と音を立てぶつかり合う。

 さらに互いに残った拳をぶつけ、押し合いを始める。

 

「速いな……。」

「…うん。」

「はぁ、怪我が心配ね。」

「……姉さん。」

 

 激化する二人の闘争の余波が広まりだしている中、リュウをはじめとする門下の者達とリュウの姉はかなり離れて眺めている。

 そんな中、彼女は後始末の心配をし始めていた。彼女にとったら、強さ比べなんて馬鹿げた話なのである。身を守れる強さがあればいい。

 

「ふ、ふふふ、ははははは」

「……何がおかしいんじゃい」

 

 力比べという気の抜けない中で、拳骨で頭部を切っているラオウは不敵に笑い出す。

 同じく傷を負っているガープは訝しむ。

 

「我が拳を、技を振るえる相手に出会えたことに、このラオウ。うち震えておったわ!」

 

 これまで戦った中でラオウが北斗神拳を殺人用に使ったのはザコの一掃。"北斗剛掌波"を除けば、【白ひげ】に使ったのは"天破活殺"を生命力増強の秘孔へ、【赤髪】には"北斗一点鐘"を秘孔:止動穴に使おうとした程度。しかもどちらも武器ありである。

 そして『前者は強敵の体調を戻すため、後者は稽古で使えそうな秘孔。』さらに病人と隻腕。本人は自覚していないが、ラオウは全力で拳を振るうのをどこかでためらっていた。

 

「……ぶわっはっはっは、フン!!」

「むお?!」

 

 瞬時に高められたガープの覇気と腕力で、今度はラオウが数メートル飛ばされた。

 

「ワシも若造と思って、手を抜いておったみたいだわい。」

 

 言いながらガープは首をゴリゴリ鳴らし、さらに指を鳴らす。

 その言動に笑みをラオウは浮かべる。

 

「……ゆくぞ!むん!!」右の拳がものすごい残像を持つ。「ぬん!!」更に左の拳にも同じ現象が起きる。

「ッ―――何じゃい、そりゃ!?」

 

 ガープの驚きをよそに、ラオウは作り出した数百の拳の残像を一斉に叩きつけるために接近する。

 

「―――北斗、百裂拳!!!」

 

 観戦者は勝負あり。そう思った。―――だが、常識を超える天才(バケモノ)という言葉がラオウを指すならば、ガープは常識が通じぬ天然(バカ)である。

 ガープは百裂拳と同じようなことを見様見真似でやり始めていた。

 

「拳・骨・大流星群!!」

 

 拳の弾幕同士が大砲の打ち合いの様な大爆音を上げ、お互いがものすごいスピードで吹き飛ぶ。

 双方ともに木に叩きつけられ、もたれかかったままピクリとも動かないでいた。

 




 ガープvsラオウ。『道場破り』=押し込み強盗という拳王様ですから結構本気になりました。とはいっても、相手が海軍のガープと分ってますから、全力全開ではありませんが…。

 『常識を超える天才(バケモノ)。常識が通じぬ天然(バカ)。』の下りは某漫画から借りてみました。分かる人がいれば嬉しいです。

 『ルフィが剃をパクってるんですから、ガープが"百裂拳"をパクる事ができてもいいかな。』と思ってやらせてみました。孫のルフィに百裂拳と似た"ガトリング"、"暴風雨"がありますしね。
 私の中ではガープ>(手負いや病人にトドメを刺したがる差)>赤犬です。相手選んでんじゃないか?アイツ……。


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16話

 ちょっと中途半端な気がしてならないのですが、暫く更新できそうもない用事ができてしまったので……。


 スモーカーが見たのは、【拳皇】が無数の拳を繰り出すところだった。

 そして、スチャラカジジイが同じことをやり始め……。それがぶつかり、互いに森の木を何本もなぎ倒しながら吹き飛んだ。

 

 訣別 の巻

 

 吹き飛んで辺りが静まり返った中で、まっさきに動いたのはリュウとその姉:オウカだった。

 

「リュウ、こっち、急いで!」

「うん!」

 

 そう言って二人は、ガープが倒れ込んでいるもとへ駆け出した。

 スモーカーは尊敬はできなくても、信頼は出来る上司に追い打ちでもかけるのではないかと思い、回りこむ。目の前に現れた男に驚きつつも、脇をすり抜けようとしたリュウをその体を煙と化し捕まえる。

 

「うわ!?能力者!!」

「待て、……何するつもりだ?」

「どいてください。早くしないと死んでしまいます。」

 

 リュウが捕まり、刺激するべきではないと立ち止まったオウカは端的に事実を伝える。その剣幕にスモーカーはたじろぐ。その間に二人は脇をすり抜けていた。

 ガープのもとにたどり着くと、オウカは目を閉じ、気絶しているガープの頭部から手のひらをゆっくりと胴体に向かって下ろしていく。

 

「姉さん。どこを突けばいい?!」

「あんなにぶつけあってたら、わかりにくいの……。ここを突いて!思いっ切り!!」

「ふーーっ……。」

 

 気を整え、リュウは示されたガープの腹部に指弾を叩きこもうとする。

 その腕は突き入れる寸前に止められた―――ラオウに。

 

「俺がやる。」

 

 そう言って、ラオウは静かにオウカが示した箇所へ『トン』と指を置く。すると血の気が失せていたガープの顔に色が戻り始めた。

 それを見て安堵し、ガープの傷を消毒、包帯を巻き始めたオウカ。片や秘孔の使い方を間違えて怒られるとビクつくリュウに、傍目からは笑ったように見えないほどの薄い笑みをラオウは浮かべ、小声で言う。

 

「……上出来だ。」

 

 そのねぎらいにリュウとオウカは互いに顔を合わせ、言い合う。

 

「……明日は雪でも降るかな。」

「この島は秋島よ。雷の竜巻でも起こるんじゃないかな……。」

 

 無愛想が売りのラオウが人を褒めるなんてありえないと。それが元でとんでもない自然現象が起こるのではないか。二人は怯えていた。

 スモーカーはその光景を唖然と眺めていた。

 

 

・・・・・・

 

 

「ぶわっはっはっは。そうか!死にかけたか!!」

 

 ガープは傍らに控えていたスモーカーから経過を聞き、大笑いを上げる。本来ならば数日は起きないはずだったが、数刻もせずに起きた彼は正しくバケモノだろう。

 

 ガープは"百裂拳"を見た時、即座にそれを真似、打ち返した。だが、真似に集中するあまり、パンチの"鉄塊"と"覇気"を緩めてしまい、ラオウのパンチからの"気"の流し込みを完全に止めることが出来なかった。

 ―――そう、一撃から流し込まれた"気"の量はほんの少し。しかし、ぶつかり合った百の拳から"気"を流し込まれ、それが塵も積もれば……。

 体への悪影響を及ぼさずにいなかった。

 

「中将。『北斗神拳』。聞いたことは?」

「ないのぅ……。」

 

 戦いで地面にはひびが入り、その余波で周囲の木々がところどころ倒れ込んだ野外の拳法道場で今は、門下の者達は型稽古を行なっている。

 

「……のう」「はい?」少し落とした声でガープがスモーカーに問いかける。

 

「クザンの若造が『バスターコール』を使ったのは知ってるか?」

「えぇ……標的の"麦わら一味"に逃げられましたね。」

 

 その答えに「うむ、さすがわしの孫じゃわい!!」と胸を張るガープ。

 そんな答えに(……このジジイしばいてやろうか。)

 スモーカーは敵意を見せるが、真面目な顔に一変して続けるガープに押し黙る。

 

「実は……の、サカズキの馬鹿に、この島を『アレ』の対象とさせようとしてたらしいんじゃ。

 ―――政府が。」

「・・・・・・は?」

 

 そもそも『バスターコール』は大将以上の地位を持つものの独自裁量権である。

 事後報告で良い。

 しかし、センゴクは犯罪行為を行なっていない。海賊さえやってない。ポーネグリフさえ知らない。―――極論すれば『度が外れて強いだけ』の男に何故、世界政府がバスターコールの発動を依頼しようとしたのか訝しんだ。

 

 しかも情報を大して与えず、海軍ではあまりに苛烈な性情で知られる人物に対しての依頼。

 それが今回、センゴクがガープを訪問させた理由でもある。迎えがガープならば、戦いたがり、殺したがりのサカズキも納得するだろう。そんな配慮だった。

 

「―――まぁ、ヤツが『七武海』への加入を検討するということで、立ち消えになったんじゃがの。

 もっとも、やっとったら、たった一人に『バスターコール』に使われる軍艦五隻が沈んで、中将5人が討ち死にしかねんかったわ。」

「…………。」

 

 『うんうん』と頷くガープの傍らで、スモーカーはこの異常さに冷や汗が流れるのを感じた。文字通り『なりふり構わず』なのだ。たとえ犠牲を出そうとも【拳皇】の存在に、【白ひげ】以上の固執を政府が示したのだと理解した。

 同時に別の驚きもあった。(このジジイにこんな真面目なところもあったのか)…と。

 

 

 ……話は変わるが、実は先日、ラオウの前に現れたCP9のロートル:ラスキー。

 彼はラオウを討伐するための。そのバスターコール発動の口実にスパンダインが送り込んだ尖兵の意味合いも持ってた。

 

 事実をかいつまむと、サカズキへのバスターコール依頼は政府首脳の判断ではなく、我欲の塊である男が政府を通じた命令。それは権力への固執、独断。政府にとって未知の力を欲しがったためだった。

 

 事が上手く行けば謎の力、つまり、"北斗神拳"を手に入れた功績が手に入り。仮に拒絶され、不慮の事態が起きても『危険人物』を探り当てたという実績が付くので、どう転んでも良かった。

 

 これはラオウが工作員を殺してしまったらバスターコールを招き、力を見せて生かして返せば、報告されてしまい、どう転ぶかわからない不安定な状況に追い込まれる。―――そんな予定だった。

 しかしラオウは秘孔術を以ってラスキーから聞き出した情報、言葉からそれを予測し、記憶操作を行い時間を引き伸ばす。そして世界政府と交渉を行う意志を示した。

 

 そのためにスパンダインの企みは、ご破算となった。

 

 このことはセンゴクを始め、命令が下ったサカズキ、ましてガープが知るはずもない。

 

 

「ん……あれ、ワシがルフィ達にやった稽古よりすごくね?」

 

 唐突にガープが唸った。それに反応して、スモーカーも稽古を見る。

 そこには門下生達が、いつの間にか戻ってきているラオウに挑みかかり、次々と宙に舞っていく光景が続いていた。

 

【北斗連環組手】―――北斗神拳の初歩の組み技。あくまでも組手であるため殺しはしないが、鍛えた軍人でさえ一撃で昏倒しかねない威力でその技は放たれていた。

 

 それを比較対象にする時点でスモーカーは思った。

 

(……孫にどんな拷問を強いたんだよ。)

 

・・・・・・

 

 稽古後の礼。今日はその上座に座るラオウはいつもと違っていた。

 

「稽古は今日で終わりだ。初めて教えた時も言ったが、その拳は戦いの"宿命"をうぬらに呼び込む。何のために拳を求めたか忘れるな。

 そして、俺が道を誤った時はうぬらがこの俺の命を取るに来るのだ。……よいな?」

 

 ラオウの有無を言わせぬ言葉を沈痛な表情で聞き、門下たちは静かに頷く。

 最後まで稽古を見ていたガープたちは、その要求に目を丸くしていた。

 

「……指南書だ。使うか使わないかはそれぞれで決めろ。」

 

 そう言って本を年長に渡すと共に、解散を指示しラオウはスモーカーに「すぐ戻る」と言い庵に向かう。

 粛々と皆家路に付く中、ガープは案内させた……もとい、連れ回したリュウに声をかける。

 

「のう、いいのか?」

 

 少し嫌な顔をしながら「何が?」とリュウは答える。

 

「今日で終わり―――なんじゃろ?無責任と思ったんじゃ」

 

 その言葉にスモーカーは(お前ほどの無責任が居るかよ)と思ったが、口には出さない。

 

「元々『気が乗らなければやめる』って言ってたから、気にしてないよ。短かったけど、みんな強くなれたから……。」

 

 サバサバとした。悔いも恨みもない答えだった。

 ガープもスモーカーも、その答えに子供らしい強がりが見えていたが、特に何も言おうとはしない。

 

「ところで……。」とリュウは続ける。そしてスモーカーに指を指し、

 

「爺さんはどうやってそっちのおじさんに触ったの?だって煙…かな。……触れないでしょ?」

「愛をこめるんじゃ!愛ある拳に防ぐすべなし!!」

 

 聞かれて嬉しかったか、ガープはニヤけながらリュウに"覇気"を込めた拳を見せる。

 

「―――"闘気"を拳に込めるか。その身が気体であっても、"気"があるならば"気"を持って穿てるが道理というわけだな。」

 

 そこには先程までの道着から着替えた。ジーンズ、タンクトップの上に革ジャン、マントを羽織り、旅行袋を肩がけにしたラオウが立っていた。

 (なるほど。)納得したリュウはラオウのそれを見て初めて会った時を思い出す。

 

「……なんか、久しぶりだね。その格好。」

 

 いよいよ別れが近いと思い。リュウは周りから見えないように俯向きながら悲しい顔を浮かべる。ラオウは察しても、ただ黙って歩を進めた。

 港にスモーカーが電伝虫で呼び出したガープの船が、その主の帰還を待っていた。

 




 CPのロートルを生かしたか……。理由はこんなところでした。
 そして、拳王様の内心で政府は敵です。七武海になろうとなんて思ってません。
 どうなるんでしょうね(・∀・)ニヤニヤ

 ちなみに、ラオウがガープに使ったのは、霞鉄心が魏瑞鷹に『秘孔の致死効果を解く秘孔』として使った秘孔です。
 ガープが死にかけたのを補足するならば、白ひげ、赤髪と違い、本気の北斗神拳をラオウが使ったからです。ガープ自身のミスも大きいのですが……。
 稽古と実戦、やはり違うってことです。
 使者を殺してはまずいとラオウは解きましたが……。姉弟が慌てたのはガープと言う人物が死ぬのが耐えられなかったからです。

 西斗月拳の複数の秘孔を突くことで完成する『相雷拳』のように、いつの間にか視神経を封じられたり、手元を狂わせたり…。総括すれば『ちょっとした接触で既に死んでいる』という悪夢が出来る。
 そんな北斗神拳。ホントに敵に回したくないですね。


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17話

 おまたせしました。
 これまでのらしくない、愛を知った、慈悲を持ったラオウでなく。覇者として生きてきた、鬼のラオウが出てきます。
 それと、戦闘が増えてしまいそうです。

 こうして一人でいる拳王様の言動がケンシロウっぽいセリフになることが多くなるというか。
 そこら辺に頭を痛めていたのですが、拳王様はケンの育て親のようなものだから、もう仕方が無いということに。殺人マシーンにはなりませんが……。

 文章……うまくならないなぁ……。


「行っちゃった。」「…そうだね。」

 

 拳の才と、意志に恵まれているとラオウが内心で評していたリュウ。北斗の秘孔医療術を学んだリュウの姉・オウカ。そしてラオウに恩を感じている者達。

 彼らはラオウを乗せ、島から去っていく軍艦を見送っていた。

 

「……帰ってくるかな?」リュウは少し悲しい顔を浮かべながら姉に縋る。

 

 まだ10才そこそこ。リュウは別れに不安を覚えずにいられなかった。

 

「どうだろうね。ねぇ、リュウは最後になんて言われた?」

 

 姉は質問を逸らし、問い返す。

 オウカは、ラオウが戻ってくると思っていない。それを弟に伝えるのを憚(はばか)った。

 

「『男なら強くなれ。……愛を心に刻み、哀しみを知り、背負え。』って言ってた。……よくわかんないよ。」

「うん、難しいね」静かにオウカは頷く。「―――他には?」と促す。

 

「『迷ったら蒼天を見ろ』って……。」

「『宿命の旅を楽しめ』っても言ってたよね?」

「……姉さん。『哀しみ』ってなに?」

「大丈夫、きっとそのうち分かるよ」(あの時、私を背負おうとしたんだからさ)

 

 オウカは嬉しそうに、リュウがラオウに弟子入りを求めた時を思い出す。

 そして、別れの時にラオウに撫でられた弟の頭をグシャグシャとこねくり回した。

 

「何すんだよぅ…」唸るリュウに、オウカは出来の悪い身内を持った親のような表情を浮かべて言う。

 

「さぁて、貰った指南書。見せてもらったけど、基礎だけでもたいへんだ。何年もかかるよね?」

「う、うん」

 

 元々ラオウは長居する気がなかった。

 だからこそ、この二ヶ月技を見せるだけ見せていても基礎を重点的に行い。同時に、勘と動体視力を養わせるための組手をかなり多く取った。―――それでも基礎は足ない。

 そのため、指南書には実戦を除いて最低でも1年間は柔軟、型稽古、馬歩等の膨大な基礎に費やすように指示されていた。

 そして、ラオウにとって期待値の大きいリュウは、基礎が他の者の倍はあった。

 

「と・こ・ろ・で、勉強もあったよね~?『あたしから医者を教われ。』だっけ?」

「・・・あ」

 

 指南書に書かれていない北斗神拳は当然ながら、指南書に書かれた南斗聖拳にも多少の秘孔の技がある。そして拳法は相手の肉体を破壊することを目的とするがゆえに、自らの肉体を作ることも主眼とする。また鍛錬前後に独自の漢方薬を処方することで、肉体の故障の回避、修行の効果を増す等の秘薬の調合がある。

 つまり、どうあがいても医術の知識が必要なのだ。ラオウはこれらについて言付けていた。

 それを思い出し『勉強はイヤ』と言わんばかりに逃げようと後ずさるリュウ。目だけは笑ってない笑顔を浮かべながらあっさりと逃げる弟を捕まえる姉。

 

「さぁ、今まで散々逃げてきた分。勉強、たっぷり教えるからね~」

 

 楽しそうに言う姉に、どんなに力が強くなっても年を経ても姉には敵いそうもない。捕まったリュウはそう思った。

 

 ラオウが居たほんの2ヶ月。アルコル島はそれまでの暴力・略奪に無気力でなすがままであった虚無に苛まれた日々から決別し、穏やかで自由な日常を手に入れていた。

 島でラオウが取った在り方は、宿命の下に敵対した末弟・ケンシロウの『民衆と共にある在り方』だった。

 

 

・荒らされる聖地(前) の巻

 

 

 数日の船旅の末、ラオウはマリージョアに到着した。

 ガープの船はそこらの船より遙かに大きい。つまり、船足はこの上なく速い。定期船などならば半月ほどかかるところが、わずか数日でのアルコル島から到着だった。

 

「……ここが世界の中心か。」

「いや、世界の中心に位置するのは海軍本部マリンフォード。ここはマリージョア。政治の中心だ」

 

 説明するのはスモーカー。随伴するコビーとヘルメッポ、スモーカーの副官・たしぎ、彼らはその街に目を輝かせている。

 

「ふん、そうか。」

 

 スモーカーは気難しい人物と印象を持ったラオウの案内をガープに任されていた。

 任じたガープは、『ラオウを連れて戻る』とセンゴクに連絡をした時から様子が変わり、船がレッドラインに到着するや、前半部"楽園"側に船を移送する手続きを副官のボガードに任せ、当人のガープは『政府に用がある。』と言い残し、我先に、足早に向かっていってしまっていた。

 

「ここからは、私が案内いたします」

 

 しばらく無言のままスモーカー達と歩き、マリージョア行政区に案内されたラオウは、引き継いだ政府役人に行政府の建物を案内される。

 そんな中、ラオウは苛立ちを覚え始めていた。突然立ち止まり、案内される道ではなく、あさっての方向に歩き出す。

 

「……不愉快な匂いだ。」

「お、お待ちを―――どちらに!?」

 

 予定された道を無視したことで慌てふためく案内人を意に介さず、ラオウは匂いがする方へズカズカと足を向ける。

 北斗の者は総じて、五感が比べものにならないほどに利く。

 

 少し歩き、目星をつけた部屋のドアを蹴破る。―――食べ物、飲料、酒類を辺りかまわず散らかしたその部屋に、予想通りの人物がいた。

 

「豚の匂いがすると思えば、やはり貴様か。」

「ゼハハハハハ。まさかお前がここに来るとはなぁ。ラオウ」

 

 不愉快な笑い声を上げる下衆を一瞥しラオウは、思わず臨戦態勢を取った【黒ひげ海賊団】の面々に対し、気を飲みにかかる。

 その放たれた野生の猛獣の動きをも止める闘気、息をすることも許さない覇気に硬直してしまう。

 

 その威圧に【黒ひげ】ことマーシャル・D・ティーチは冷や汗を浮かべながら宣う。

 

「…ハ、ハ……す、すげえ覇気だな。昔のオヤジに勝るとも劣らねぇじゃねぇか……」

 

 ラオウは請け合うこともせずに、威圧を向けなかった男。案内をしてきた男に近づき、胸ぐらを掴みあげる。

 

「おい、世界政府とやらはこのラオウを謀り―――挙句、試そうとでも言うつもりか?」

 

 七武海に任命されていない海賊が、指名手配されたラオウと同じようにマリージョアに居る。

 その状況から、ラオウは己が何を望まれているのかをおぼろげながら理解していた。

 

「そ、そそそ、それは、その……」

 

 その推察の的確さと、ラオウの怒りの形相に思わず、しどろもどろになる男。

 

「このラオウを試そうなどと、不愉快極まる。―――どうしてくれようか!!」

「ひ、ひぃ、もごは!!」

 

 恐怖のあまりに思わず逃げようと身を捩る案内人の口に、上顎の歯をへし折りながら、ラオウの指が突き刺さる。

 

「秘孔、上顎(じょうがく)。―――知ってることを全て吐いてもらおう。

 まずは、スパンダインとやらについて聞こうか……どこに居る。どこによく現れる?知らぬならば、知ることの出来る場所はどこだ?」

 

 ラオウにとって幸運なことに、この男はスパンダインの息のかかった者だった。

 先日、息子が犯した失態をはるかに超える業績。『世界最強の男と引き分けた男』を世界政府の組織に引き込む。それを確実にするために男はここに送られてきていた。

 

「ス、スパンダインさんは、先日入院した息子さんの見舞いを毎日欠かさず「――その病院とやらはどこだ?」この建物から2ブロック先に……な、なんでしゃべって……」

「……よかろう。」

 

 頭部に軽い突きが入り、その目から意志が消え失せ、棒立ちとなる。

 それら、あまりにも現実味のない光景に【黒ひげ海賊団】は、ただ唖然とするばかりだった。

 

 ラオウは、男を通路の端に寄せるように放り捨て、黒ひげの方を向く。

 

「『豚の皮を被った狼』だと思っていたが、どういうつもりだ。何故ここにいる?」

「ち、力を得るには、寄り道も必要ということだ。」

 

 先程から背を向けながらも、怒気を混じらせた闘気を油断なく向けるラオウに、冷や汗を流しながら答えるティーチ。

 

「ふん、狼ではなく残飯を食い漁る賎しいヤセ犬。己が道を自らの手で切り開けぬ愚物か、貴様は。―――くだらぬな。」

 

 ラオウは自身にとっての恥を、恥と思ってないこの下衆な男に一方的に言い放ち、もはや眼中に無いとばかりに踵を返す。

 案内人に「部屋に案内しろ。」と言うと、意志を剥奪されていた男はあやつり人形のように頷き、歩を進める。

 ラオウはそれに続き去っていった。

 

 

 

「……せ、船長……どうする」

「あぁ、マズイな……」

 

 ラオウの威圧感から解放された【黒ひげ海賊団】の面々は相談をはじめる。

 口火を切ったのは狙撃手:ヴァン・オーガー。好戦的な彼だが、ラオウの威圧感に圧倒され、何も出来なかった。

 病弱なドクQは泡を吹いてのびてしまっている。

 

 彼ら【黒ひげ海賊団】にとってまずい状況になった。 [火拳のエース]を捉え、それを政府に引き渡したことで七武海への道が開けたとおもいきや、連日豪勢な食事が出るだけで、政府関係者からは『待て』の一辺倒だった。

 

 これは『引き入れるかどうか悩んでいる』そう彼らも分っていたが、『エースを捕らえている以上、【白ひげ】と対決しなければならない。ならば、駒として自分たち【黒ひげ海賊団】は絶対に必要なはずだ。』

 そんな打算があったから、何もせず余裕をもって待つばかりだった。

 

「まさか、あいつも七武海に……?」

 

 操舵手のジーザス・バージェスがつぶやく。

 よりにもよって『白ひげと引き分けた男』が来てしまっては話が変わる。知名度が云々と言うどころか、実績が天と地である。

 こうして彼らと同じ対応を受けている以上、七武海の勧誘に応じたのだろうと感じていた。

 

「……しかし船長、それはどうでしょうか?」

 

 そんな重たい空気の中、海軍本部に侵入し交渉を行った過去を持つ、ラフィットがつぶやく。それに反応し、一同が彼の方を向く。

 

「船長から以前聞いた話では、あの男は人の下には付かない。……そうですね?」

「ああ、俺の前ではっきりと言いやがった。」

 

 その答えにラフィットは満足気にうなずき、続けて話す。

 

「先程、あの男は"スパンダイン"という者について聞いていました。つまり、船長……」

「ゼハハハハ、そうか、あいつはここを荒らしに来た。ってことだな!?」

 

「そう、そのとおりです」とラフィットが答え、彼らは悪巧みをはじめるのだった。

 

 

――夜――

 

「あれ?スパンダインさん。どうしたんです?」

「ご、五老星に報告があって…な。―――い、急いでいるんだ。と、通してくれ。」

「はぁ、貴方なら大丈夫でしょうけど…。」

 

 世界政府中枢の建物。その門兵は政府中枢に強いパイプを持つ大物を言われるがままに通す。

 しかし、いつもの尊大な態度と違う。どこか気の抜けた―――。機械的な。どこか虚ろな感覚をスパンダインから覚えた。それでいながらなぜか慌てた様に、首を傾げながらしばらく持ち場に立っていると、虫が肌に接触した程度の感触と共に突然睡魔が襲い、そのまま眠ってしまった。

 

「…………。」

 

 門兵に軽い一突きを入れた影は、それが眠ったことを確認し建物に入っていった。

 この日、スパンダインが目指す部屋までに出会った当直の見張りは、その悉くが原因不明で昏倒しているのが後に発見されることとなる。

 




 今回のメインは"黒ひげ"と"拳王様"のほんのちょっとの会話でした。(成立してないような気もしますが……)

 活動報告に強さについて書きましたので、それについての意見があればそちらにお願いします。

 今更ながら、拳王様はDBのようなことをワリと平気で出来るんですね。旧映画版の北斗の拳の描写見るともはや怪獣……。これ、最近知りました。


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18話

グロ注意報 そして文が荒いです。


 時を少し遡り―――。

 世界政府役人:スパンダインはこの日、上機嫌だった。

 先日エニエス・ロビーでの息子の失態を、何とか現場の構成員に責任を押し付けウヤムヤにした。そのために派閥の者には借りを多く作ってしまった。また、敵対する派閥の者には、付け入る隙を与える事になった。

 しかし、それを補って余りある成果が近々手に入る。そう思っていた。―――息子を見舞いに行ったその時まで。

 

・荒らされる聖地(後) の巻

 

 先日、元CP9:ロブ・ルッチからの復讐の宣言に怯える息子に、スパンダインは己の手足・部下共を使い、元CP9達に対する対策と対応を練ったことを伝え、安心させていた。

 そんなところに、病院で聞いたことのない声が―――低く、威圧感と重圧に満ちた声による問いかけが聞こえてきた。

 

[うぬが、スパンダインとやらだな」

「「―――えっ!?」」

 

 その問いかけが聞こえた方に親子揃って反応し顔を向けると、そこには、銀灰色のややカールのかかった短髪の偉丈夫が立っていた。

 過去に現場に出向き、予想外の事態に見舞われた時には道化に等しい醜態を晒したスパンダインだが、仮にも世界政府に於いて地位を得るほどの野心と実力を持っている彼だ。眼の前に居る男が一体誰なのかを理解する。

 

「ま、まさか……【拳皇】!?」

 

 そこまで言って、その存在感に圧倒されてしてしまう。

 四皇、世界の頂点である【白ひげ】と引き分けたとされる男だ。一体、何故、それが目の前に来たのか。何をしに来たのか。

 その目的と理由を測りかねていた。七武海の就任について話し合いに来ていたはずだ。―――それが何故ここに来る!?

 その疑問は多少の違いこそあれ、彼の息子:スパンダムも同じであった。

 

 ラオウはそんなことなどお構いなしに、彼らの目に映ることのない速度で、スパンダインの秘孔を数カ所突く。

 秘孔を突かれたスパンダインには、周りを風が吹いた程度にしか感じていない。そして、ラオウはスパンダムに足を向ける。

 唖然とするばかりの彼らが気づいた時には、ラオウがスパンダムの額に二指の指弾を突き刺し、引き抜いているところだった。

 

「―――北斗壊骨拳(ほくとかいこつけん)。」「ふえっ!?」

 

 スパンダムが驚きのあまりに声を発する。ラオウは「語ることなど無い」とばかりに背を向け、病室のドアの前に足を向けていた。

 思わず、スパンダインが『何をしたんだ!?』……そう声をあげようとしたところで、異常は始まった。

 

「あおか、あお…おえ、げがげが……」

「え、おい!?」

 

 スパンダムが突然、痙攣を始めた。慌てて息子に近寄るスパンダイン。

 だが、その異常は止まることはなく、

 

「―――げへえっ!!」

 

 断末魔とともに、スパンダムの肉体はベッドには骨を綺麗に残し、骨意外の肉・体組織は天井に[ベチャベチャ]と音を立ててこびり付く。

 そしてその場には、張り付いた肉塊から文字通り、血の雨が降り注ぐばかり。

 

「!?っ―――!!!!」

 

 その傍らにいたスパンダインの体に愛息の血の雨が体に振りかかる。あまりにも無惨な惨劇に悲鳴を上げようとする、しかし喉から猛烈な激痛が襲う。

 ならば今度は……と、彼の居る辺りに有るはずの電伝虫を使って、外部に連絡を取ろうとする。―――だが、探してもどこにもない。

 壁でも殴りつけて異常を周りに知らせようとしても、もはや激痛が体の動きを封じて何も出来ない。のたうち回ることさえ出来ない。

 

[ゴシャ、ビチャビチャ、ボトボト……ヒュッ、ペチャ。ヒュッ、ペチャ。]

 

 そんな何かを潰した音と、潰れたモノが落ちてくる音が、スパンダムが降らす血の雨以外からする。そして、何かが空を切る音と共に液体が振り払われている音がする。

 そちらに目を向けるとそこには人の足。その足元には、この部屋に有ったはずの電伝虫の色が、そしてその貝殻が散らばっている。

 

 そのまま見上げると、惨劇を引き起こした。【拳皇】と呼ばれる―――人の形をした悪魔が電電虫を握りつぶし、その体液を振り落としていた。

 スパンダインの感じている恐怖、絶望に対して何の感慨も持たいない。まさに害虫を見るかのような。感情を写すことのない目でラオウは彼を見ていた。

 

 伝承者から外れた過去を持っていても、ラオウは北斗の漢である。

 これまでスパンダイン親子についての見聞は女、子どもを弄び、人を貶める外道。直接彼ら親子を見ることでそれを確信に変えた。

 そんな者を、北斗の血統を継ぐ彼が許すことはない。

 

 部屋の時計の針は、スパンダインにとっての悪魔が、死神が入って来て一分も動いていない。

 そのわずか一分にも満たない時間で、スパンダインが長年積み重ねた"地位"、"名誉"、"権力の後継者"。人生で得たモノはすべて崩壊してしまっていた。

 

 更に時が過ぎること2分ほど、ラオウにとってはスパンダインが正気に戻るのを待つちょっとした間。スパンダインにとっては永遠にも等しい時が過ぎる。

 その状況に慣れてきたか少しずつ痛みが引き、そのひいた痛みの分、増してきた恐怖に怯え、体を震え始めたスパンダインにラオウは近づく。

 

「―――政府最高幹部の五老星とやらの元へ行け。今夜中に、だ。」

「ふ?……へぇ??」

 

 だが時間をおいても、息子を失った事により、文字通り何もかも失ったスパンダインに言葉を聞くことなど不可能であり、まして理解することなど出来はしない。

 

 ラオウは呆れ返っていた。

 かつて組織した【拳王軍】。その雑兵すらここまで精神が弱くなかった。あちらで行った脅迫に比べたら遙かに生ぬるいモノであっさりと抜け殻にも等しい状態になったスパンダインに、ラオウは手段を変えることにする。

 もっとも核戦争で文明が崩壊した世紀末のあの世界で、曲がりなりにもたくましく(?)生きている夜盗、モヒカン達。それらと文明が健在でその権力と権威を振るうことに酔いしれ、当人の能力が皆無に等しいスパンダインと比べるのはおこがましいのかもしれないが……。

 

「…………北斗神拳、九神奪命(くしんだつめい)。」

 

 言いながらラオウは、一指拳を後頭部に深く突き刺す。突き刺されたスパンダインは顔が面白いように変化する。悲痛と絶望の色に……。

 

「う………ぎゃ、ひ…や、え…あ………う……え……」

 

【九神奪命】:突いた相手を下僕と変え、使用者の意思通りに動かせるようになる、秘孔・奥義。この技のえげつないところは、被害者の意識を残したまま体の自由を完全に掌握されてしまうところにある。

 例えば、相手がどんなに大事な人間であろうとも、命令されればその手で絞め殺したり、銃で撃ち殺したり。―――意識を残したままである。被害者であるスパンダインが虚ろになっている事は、あるいは幸いであろうか……。

 

 関わる事件、政府の敵、部下すらも己が出世のための道具。そんな人の使い方をしてきたスパンダインの最期は、道具と思っていた人物の傀儡と化す―――。

 そんな惨めなものであった。

 

 

 深夜、マリージョア行政区。

 

「『【拳皇】への説明はつつがなく終了。先方に就任を受ける意志あり』……か」

「ふむ、白ひげとの決戦が間近に迫ってる中で、この戦力加入は喜ばしい」

 

 五人の老人が話し合いを続けている。それまでは政府の運営についてまとめ、ようやく今後の方針と情報の分析に入ることが出来ていた。彼らに休みなど無いに等しい。

 しかし今、精査している報告はもちろん。ラオウにより記憶を改竄された者が書いたもので、真実とまるで違うものである。

 

「どうだろうか。試合などせずに、この際【黒ひげ】、【拳皇】双方共に七武海に加えるのは?」

「……なるほど、ジンベエか。」

 

 実は【黒ひげ】が【火拳】を捕えてからというもの。どこからかその情報を得てきた七武海:海侠ジンベエがその解放を求めてマリージョアに来ていた。

 正式な発表を近々控えているため、伝えてはいないが、【火拳】の処刑を伝えれば、彼が【白ひげ海賊団】と懇意にしていることから、その後の行動は火を見るよりも明らかであった。今は暴れた場合に備えた戦力を密かに用意している。

 

 戦(いくさ)への参戦が望めないのであれば、それを外して別の人物を加入させてしまえばいい。―――そんな提案が出ていた。

 そんな中、ノックが部屋に響く。

 

「お忙しい中、失礼します。スパンダイン氏が"重大な報告"のために面会を求めております」

「うん?……ふむ、よかろう。通しなさい」

「はい」

 

 そんな中、部屋の入口に控えている者が、来訪者を伝える。

 アポイントはとっていないが、『重大な報告』そしてその来訪者は、ちょうど話題に上がっている人物を担当していたことから、それについての話を持ってきたのだろうと、五人の老人。五老星たちは考え、招き入れる。

 

「―――さて、報告なさい。」

「………………。」

 

 入ってきたスパンダインに報告を促しても、何も答えない。

 良い結果があるならば、己の欲をわかりやすいほどに丸出しに成果を報告するはずだ。そう五老星たちが訝しんでいると、それは起きた。

 

[ゴキゴキ、ベキベキ……グニャ、グニャリ…ドボンッ]

 

 そんな音を立てて、スパンダインの内部から骨が軋み、砕ける音が鳴り響き、体と肉が歪み、最後には血しぶきを振りまきながら爆散した。

 

「―――なっ!?」「こ、コレは!?」

 

 五老星全員がそのあまりにも奇天烈な死に様に目を丸くする。悪魔の実ですら、こんなデタラメな死に様を見せるものはおそらく無いであろう。

 戸惑っていると、再びドアが開き、部屋に誰かが入ってきた。

 

「……うぬらが、このゴミの飼い主だな?」

「「「!?」」」

 

 そこには件の人物、本人が立っていた。何故そこにいるかはさておき、五老星たちはラオウを睨みつける。

 彼らの経験から、隣の誰かに頼るような隙を見せれば、間違いなく死ぬ―――ラオウから放たれる気配にそんな予感を持っていた。

 

「……聞かせてもらっても構わんかね?……何用だ?」

 

 即座に襲いかかって来ないことから話は通じるだろうと、坊主頭でメガネを掛け、着流しをその身を纏い、刀を携えた老人は質問をする。

 

「このラオウに『従わねば、島を地図から消す』と宣った下司を潰しに来ただけよ……貴様らはその飼い主。違うか?」

 

 問いに対する答えは簡潔だった。『飼い犬が噛み付いたのならば、それは飼い主の責任』そうラオウは言っている。それを即座に彼らは理解する。

 

「……そうか。ではどうやってここまで来た?」

「ふん、北斗の者には、如何なる城塞も意味が無い――。」

 

 この世界政府の最大拠点においてすら、その守りは無意味と言い切った。

 彼らは知りえぬ話であるが、北斗に連なるある使い手は20世紀最大の独裁者の寝室に忍び込んだ実績がある。映像電伝虫などがあるとはいえ、元の世界と同じ程度の人と科学による警備では、ラオウにとって侵入は容易な話であった。

 

 そして、五老星全員に衝撃が走る。―――『北斗』という名に。

 

「―――ま、まさか『究極の暗殺拳』か!?」

「そうも呼ばれているな。……人は呼ばんのか?」

 

 左右に大きくひげを蓄えた者が声を張り上げる。だが、警備が来る気配がない。来れば即座に皆殺しにしようとラオウは考えていたが、それが無いことにラオウは疑問を覚える。

 

「ここまで何の沙汰もなく来た時点で、貴様に対抗出来る者はそれこそわずかであろう。ならば人を浪費することなどできん。……目的を果たしたらどうだ?

 そして出来る事ならば、それは私のみに留めてもらいたい。」

 

 金髪と金のヒゲの男が言い切る。それは他の者も同じであった。

 皆、同じ目で……一人、柱に名乗りでたことで安心することなどなく、ラオウを見ている。

 

 その覚悟と見切りにラオウは「ほぅ……」と嘆息し、

「―――なるほど、見事な歳の取り方だな、老人ども。飾りの地位ではなく。その手腕で、歴史と世界を動かしている者の匂いと英気を感じる。」

 

 そう、言ったそのままに部屋を出て行こうとする。

 

「……いいのか?」

 

 左側頭部に傷を持った老人が問いかける。『自分たちをこのまま見逃すのか?』…と。

 

「北斗の拳は天帝の守護拳。英雄を密かに守護し、平和を祈る拳だ。―――天命に生きるものを殺しはしない。」

 

 侵入者―――ラオウはそう言い残し、去っていった。

 

「……お伽話の類(たぐい)かと思ったが、まさか、実在したとはな。」

「だが、そのお伽話が事実ならば、必ずしも我々に味方するというわけでもあるまい。」

 

「うむ。海軍に賞金額を引き上げさせねばなるまい。四皇と同等―――それ以上の警戒を以って。」

「では【拳皇】は残念ながら……。不安要素が多いが、新任の七武海には【黒ひげ】を任じよう。

 そして、ジンベエは出来る限りの説得を試みることにしようか。」

 

 ラオウが去ったことでその威圧から開放され、五老星はひとまずこれからについて話し合う。

 しかし、百戦錬磨の彼らでもやはり人なのだろうか。戦争を控えた差し迫った状況であるゆえに、戦力の、均衡の問題についてのみに盲目になり、ラオウとの会話から肝心なことを見いだせず、それに対策を取れなかったことは……。

 

 

 一方、ラオウは荷物を回収し、夜の闇に包まれたマリージョアをグランドライン前半部に向けて歩いていた。マリージョアの地理など昼間のうちにすべて把握済みである。

 五老星を見て、戦闘の実力は感じていたが、絶頂期をとうに過ぎ、白ひげよりも遙かに見劣りしていた。だからか、戦う気など起きなかった。

 

(―――覇業を持ち出す必要はなかろう。)

 

 世を気にすることなく、ラオウ自身の望むままに戦いを求めることが出来ることに、少しうれしさを覚えていた。組織が腐っていても、気骨のある人物が上に立っているのだから……。まだ救いはある。

 

 あの世紀末の世界では、ついぞ平和をもたらす天命を持つ者は現れず、そのまま世界は全面戦争に突入し、禁断の兵器・核により世界は―――文明は崩壊した。

 

 かつてラオウは師父や兄弟に隠れ、為政者というものを見定めに出向いていたりしていた。

 彼らに故国:修羅の国をどうにか出来る者はいないのかと。―――北斗神拳を使い、守護するに足りる者は、英雄は居るのかと……。

 だが、居たのは皆、我欲にまみれたバカばかりだった。

 

 だからこそ、そんな者達の欲望により世界が滅び、暴力のみが支配する。

 そんな神にすら見捨てられた世に納得ができず。―――平和をもたらす天命を持つ英雄の出現など、到底信じることは出来なかった。

 

 その果てに……。『―――ならば、己が天を握る。』

 

 そんな考えに思い至っていた。その野望を危惧した師父:リュウケンと死合い、抹殺。

 その後、弟達と血を血で洗う宿命の対決に至った。

 

 ここではそこまで至る必要はない。そうラオウは考えた。

 

 ならばやはり、かつて覇業が完成に近づいた時、その終着点が見えた後、最後に望んだもの。『強敵との戦い』に没頭しようと考える。

 

 そんなことを思いながらしばらく歩き、あと少しでグランドライン前半部の海に出る港へ近づいたところでラオウは足を止めた。

 そして、路地裏につながる闇を苛つきを隠さずに睨みつける。

 

「……この俺に不意打ちは通じぬぞ。」

「ゼハハハハ、気づかれるとは思わなかったぜ。流石だな―――ラオウ。」

「………やはり、貴様か。」

 

 そこには不愉快なモノがいた。

 

 




 いずれあるかと思ってましたが、"蹂躙物"という意見が来ました。……というわけで先日、タグに『蹂躙』を追加。説明文にも注釈を入れました。

 たしかに、"蹂躙モノ"と言われても仕方が無い。批判は甘んじて受けますが、換える気は毛頭ありません。外道には外道的な手段と技を以ってトドメを刺します。
 これがやりたかったことでもありますし。蹂躙しない拳王様ってあり得ます?ケンシロウみたいに放浪で終わらせはしませんが……。
 ついにはラオウの過去をちょっと捏造しまいました。この世界の北斗神拳伝説も捏造するつもりですが、ご容赦を……。

 さて、原作にて『【拳王】なんていなくなりゃ、ただのションベン』と抜かして、外道行為に走っていたモヒカンを黒王号が踏み潰す程度でスパンダイン親子を扱ったラオウでした。
 人質を取るような態度で脅迫したスパンダインに対し、直接命を握りに行くラオウ。人質一つの扱い方の違いがどうのこうのって、冨樫漫画に有ったような……。まぁ、いいや。

 今回、書いてて思ったことですが、小悪党がちびちびと積み重ねたモノが、一気にご破算になるのが、思ったより愉しかった。何処ぞの外道神父か、自分は!?……自己嫌悪。


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19話

 もっと短いまま終わると思ってたのですが、先は長い……。
 筆が乗ったので早く書けました。ところどころに穴が出てきた気がするけど、気にしない。

 書いている最中、リボーン・アシュラマンの
『数字はおなじ1000万パワーかもしれんが、現代の見てくれだけの悪行超人とは違い。わたしたちオリジナル悪魔超人は…鍛え方が違う!精根が違う!理想が違う!決意が違う!』という言葉を思い出してました。



・闇 対 北斗 の巻

 

 形容しがたいほど剣呑な空気がその一角を包んでいた。

 そんな空気を醸し出しているのは、空いた七武海の補填候補【黒ひげ】ことマーシャル・D・ティーチ。

 そして、七武海勧誘を利用して目的を果たした【拳皇】こと、ラオウ。

 

 その場所が住宅地ではなく、昼間のみ賑わう港の近くであったことは幸運であっただろう。もしも一般人がいたら、原因不明の……ラオウの"闘気"に当てられた昏睡者が山のように折り重なっていたことだろうから。

 

 しかし油断なく"闘気"を纏って居るラオウだが、落胆を覚えていた。

 幾千、幾万の軍勢を率いていた彼にとって、不意打ち、挟撃、謀略など常套手段であり。そんなことをとやかく言うつもりはない。始まりどんな形であろうと、戦う以上どうでもいい。どのみち、戦いは好物である。

 だがしかし、死兆星の気配をまるで感じない。何よりも求める死闘を目の前のモノからは到底望めそうもない。

 

【死兆星】:死期が近いもの、あるいは武人が闘争において敗北の運命を持った時に輝く星とされている。

 

 ただし、ラオウが求めている死兆星は『互角の拳を持つ強者相戦う時、その両者の頭上に死兆星輝く。』

 そんな北斗の言い伝え―――神にすら決着を読むことの出来ない死闘である。

 その究極の死闘と呼べる戦い。頭上に死兆星の気配を感じたのは、かつての世界では実弟:トキ。北斗神拳伝承者:ケンシロウ。今になって思い返せば、師父:リュウケン。彼らとの戦いの時だけであった。

 

 あくまでも稽古の範疇で戦った【英雄ガープ】、【赤髪】はさておき。純粋な勝負として戦った『世界最強』の名を冠したエドワード・ニューゲートのみが死兆星の気配を呼んでいた。

 ―――尤もそれは、ほんのわずかの間であったが……。

 

「……失せろ。貴様程度、不意打ち以外でこの俺と戦うことなどできん。」

 

 目深に被ったマントのため、表情をティーチに察することは出来ないが、ラオウは『興味がない』とばかりに歩を進めようとする。

 そもそも『究極の暗殺拳』北斗神拳を継承しているラオウに、どんな不意打ちも通じるはずも無いが……。

 

「おおっと、ちょっと待てよ。俺は別にお前と戦いに来たわけじゃあないんだぜ?」

「なぁにィ?」

 

 何を言い出すのかと、歩を止め、ラオウは不機嫌な気配を一段と強める。

 そのティーチの態度にどこかで見たような、既視感をラオウは感じていた。

 

「なぁラオウ。お前は『欲望を刺激し、束ね、武力と暴力。そして恐怖で支配・統一』……だったかぁ?

 ―――つまり…だ。野望に走ってたんだろ!?」

「……なるほど、やはりあの時、聞いていたか。それがどうした?」

 

 以前、【白ひげ海賊団】のモビーディック号に乗っていた時、【火拳】と【不死鳥】に自身の過去を多少語った晩酌のことをラオウは思い出す。あの時、たしかに気配を感じてはいたが、別に害が無いと放って置いていた。

 そして世紀末の乱世。どんなに腹立っていても、敵と分かっていても、戦闘に突入しない限り。相手が対話を望むならば、ラオウはとりあえず応じてきていた。

 今回もまた、とりあえずは話を聞くことしていた。

 

「おう、そこだ。俺の仲間にならねぇか!?この前、倒したエースを政府に引き渡した。

 そして俺が七武海になりゃあ、計画の完成まで後少しだ!!」

「……そうか。やはりあれは負けたか。」

 

 予測していたこと故に、大した感慨をもラオウは感じることなく、返答する。

 こうして聞いても、(忠告はしたのだから、聞かない方が悪い。)そんな感想しかラオウは持っていない。

 そんなことはお構いなしにティーチは続ける。

 

「そうさ、老いた"白ひげ"の時代はもう終わりだ。そして、俺が海賊王になる!!だが、お前ほどの力は惜しい。その力を俺の野望に貸せ!!」

 

 ティーチが求めるは"海賊王"―――この大海賊時代、誰もが夢見る称号。

 しかし、ラオウはこれを一笑に付す。

 

「過去の者と同じ名を求め、そのために他人から与えられる地位で力を得る……か。

 ……フン、小さいわ。」

 

 全ては己が力で、その生涯のうちで築く―――と、信念にするラオウにとって、過去の人物と同じ名を求める思考。

 まして他人の威を借り、力を求めるなどまるで理解できない。

 

 一方、野望に生きてきたのなら、野心があるのならば、確実に己の計略・計画に乗ってくるだろうと思っていたティーチは絶句する。

 

「―――んな!?」

「……そして、貴様。仮にも"親"と呼んでいた男をそうも言おうか?」

 

 反論を許さず続けたラオウの言葉は怒気をはらんでいた。

 結果が喧嘩別れとは言え、ラオウが認めた者をこうも言うのだから。その者の擁護にいたものが罵詈雑言を吐くのだ……。

 

「ゼハハハハ。……おいおい、『意見を違えた弟達』と闘って負けたんだろ?なあ、ラオウ?

 ……なら聞くけどよぉ。弟でそうならば、他の肉親はどうだったんだ?―――どうだ。俺と共にその弟達に借りを返さねぇか!?」

「・・・・・・っ!」

 

 気を取り直し、ティーチがラオウに持ちだした誘い文句はラオウを絶句させた。そしてラオウは思い至った。

 

(コイツはジャギ、アミバ。その他の下衆どもと同じだ。)……と。

 

 場の空気は完全に変わっていた。ラオウが放つものは怒気ではなく、殺気に変わっていた。

 

 北斗の4兄弟と呼ばれる内の三男:ジャギ。

 実力で遙かに差がある、ラオウと次兄:トキにおもねり諂い。一方で末弟のケンシロウには、訳の分からないプライドを振りかざす。

 そして修行時代から、己の拳を鍛えることなく、極めた北斗の技に比べたら遙かに劣る、銃などとくだらないものを頼りにするばかりだった。

 挙句、伝承者に末弟のケンシロウが指名されれば逆恨みをし、その名を騙り、名声を落としにかかっていた。

 

『漢たらねば、たとえ血を分けようとも兄弟たらず。』

 

 その信条故に、ラオウが弟と認めることはついぞなかった愚劣。

 

 目的が【覇者・拳王】として統一を目的としたラオウと利害が一致した故に遊ばせていたが、次兄:トキに嫉妬し、顔を変え、その名と地位を奪った下衆、アミバ。

 

 かつてのラオウの……【拳王】という名の影に隠れてくだらない我欲に走る小物。媚を売ることで出世を狙うドブネズミ共。

 

 それらと目の前にいるマーシャル・D・ティーチと言うブタは同じ。人を貶め、食いつぶすだけの下衆―――そう、ラオウは確信した。

 

「―――なるほど。貴様が言うように、このラオウ。養父であり、師であったリュウケンを我が拳で屠ったわ。」

「ゼハハハハ、やっぱりそうか。ならば俺達と「―――戯け。」……アァ!?」

「人がドブネズミの下に付くなどありえん。―――往ね。そして二度と俺の前に姿を現すな!!」

 

 親代わりの者と敵対した。―――そう言うならば、それは同じかもしれない。

 

 しかし、ラオウの腸は煮えくり返っていた。

 ラオウの戦いは信条、手段の食い違い。征く道が違ったからこそ起きた骨肉の争い。……だが、すべて拳法家としての死合いだった。すべて真正面からの勝負であった。

 

 それを仲間と呼んだ者を闇討ちし、当人が居ないことをいいことに悪態をつく目の前のドブネズミは、それとラオウの過去を同列扱いをした。

 

 荷物袋を肩がけ持ちのままにラオウは肩幅に足を開き、軽く臨戦態勢を取る。これは最後の警告であった。

 

 ラオウの前にいるゲスはそれを見て、片腕を上げて言う。

 

「ああ、残念だぜ。ラオウ―――」

 

[ドパパパァアアァン]―――銃声が響き渡る。

 

「ゼハハハハ、不意打ちでしか戦えない?―――なら、そうするまでさ!!」

 

 音を置き去りに弾が着弾するという、超遠距離からの狙撃であった。被ったマントで血は見えないが、マントに空いた穴から弾丸が眉間、喉、心臓とラオウの正中線を綺麗に穿ったことがうかがえた。

 ティーチが上げた手は狙撃の合図。撃ったのは狙撃手:ヴァン・オーガー。まさに神業の狙撃であった。

 ロギアの"悪魔の実"の能力者、あるいは特殊な超人系の能力者でない限り、即死。

 立っているが、ラオウの命はあと僅かであろうとティーチは思っていた。

 

[キン、キン、キン]

 

 下卑た笑みを浮かべながら、息絶え、倒れるラオウの姿を待っているティーチのその顔が、ラオウのかぶるマントから落ちる銃弾を見て引きつる。

 

 それをよそに、ラオウは語りながら北の空を指差す。

 

「………いずれ【白ひげ】が誅すと思っていたが、気が変わった。

 お前、北の空に連なる7つの星。北斗七星の脇に輝く蒼星。―――それが見えるか?」

「お、お前、死んでねぇのか!?なにをやった!!?」

 

 ラオウは無言のままである。

 

 使った奥義は【北斗神拳:操気術】"気"を自在に操れるという北斗の業。

 

 白ひげに撃ち込んだ【天破活殺】を始めとする、"気"の奥義の基礎とも言える。

 以前アルコル島で海賊に囲まれて、四方八方からの攻撃を受けた時に、それをいなしたのもこの奥義。その応用。

 ラオウはこの奥義を用いれば"闘気"の壁で弾丸はもとより、10トン単位を超える巨大鉄球でさえ手を触れずに押し返すことが出来る。

 たかだか銃の弾ごとき、ラオウには風に混じった砂粒程度のものでしかない。

 

「ウィ~~~ハ――――!!!」

 

 ラオウがティーチに注目している。油断しているのだろうと、ジーザス・バージェスが近くの建物を投げつける。

 

「フンッ!!」

 

 ラオウは持ち前の剛拳で一撃のもとに粉砕する。投げつけた大質量があっさりと砕かれたことに驚きながらも、バージェスはオーガーの狙撃を盾にラオウから一気に離れる。

 傷を与えることが出来ずとも、狙撃はやはり煩わしい。

 

「……まぁ、死兆星が見えていようがいまいが、お前らが死ぬことに変わりはない。」

 

 問いに対する回答は無い。そう考え、ラオウは辺りを見回す。その目線は他の黒ひげ海賊団が隠れている位置を正確に追っていた。

 ラオウが目の前に視線を戻すと、ティーチを中心に漆黒が、ヤミヤミの実の能力が発動していた。

 

「"闇穴道"!!……ここで使う気はなかったがなぁ、ラオウ。おれァ"闇人間"!!」

「…ほぅ…闇。」

「―――そうだ!!お前ほどの"覇気"を纏ってるヤツを飲み込むのは骨だがなぁ。このままお前を、この無限の重力で押しつぶしてやるぜ!!」

 

 それに対し、無言のままラオウは闘気弾の"北斗剛掌波"を放つ。だがそれは、再び現れたバージェスが投げ込んだ建物で防がれた。

 また、剛掌波によって建物が崩れる間に、ラオウにまとわり付いた闇は膝に近い所まで来ていた。

 

「ゼハハハハ!!お前がやれることは、もう分ってんだよ!!確かに"覇気"を撃ち出せるのはすげぇ。……けどな、それは直接のパンチにゃ及ばねぇ。

 そしてオヤジの体調を回復させたり、俺が雇った賞金稼ぎを殺したのは、ワの国にある針治療のようなものだろ?―――なら、近づかなけりゃあいいだけだ。

 ラオウ、お前ぇはこのまま何も出来ずに死ねよ!!!」

 

 白ひげとの戦い。自身がけしかけた賞金稼ぎの話と、その死体を見て情報を得たティーチは、ラオウの……北斗神拳の本質を荒削りながら把握していた。

 故にここで【黒ひげ海賊団】が取った戦術は『直接の接触は避ける。』そして、『"覇気"の弾丸などは周囲にあるモノを使って防ぐ。』というもの。

 

 離れた距離へのラオウの持つ攻撃手段はおおまかに"闘気"を撃ち出す"北斗剛掌波"と"天破活殺"。

 それを投げ込む障害物で防がれ、しかも闇に取り込まれる中では移動もままならない。傍目から見れば追い込まれているように見えるだろう。

 

 もっとも、ラオウにはティーチがまだ知らない。―――目の前の敵、全てを消し飛ばす秘奥義がある。

 しかし、この周りを囲まれた状況で大量の"闘気"を消費するそれを使えば、ほんの数秒ほどの間であるが、"闘気"による防御が弱まってしまい。その隙に先程から続く狙撃などによって大怪我を負うことが予測できた。

 ラオウにそんな相打ちなどを選ぶつもりなど毛頭無い。それを覚悟したのは過去に一度、その未知の拳に恐怖を覚えた末弟との戦いの時のみ。

 

 こうして、黒ひげ海賊団に意図していない部分が多々あるが、彼らの戦術は確かにラオウを追い詰めていた。

 ―――だが、この程度で屈するならば、北斗神拳は約2000年もの長きに渡って『地上最強の拳法』とは呼ばれてはいない。

 

「フン、『貴様の体に取り込む能力』と言ったところか……。

 "闇"などと大層な名。どんなものかと思えば、我が北斗神拳の敵ではない。」

 

 言いながら、ラオウは拳を闇の中に入れる。ティーチ達、黒ひげ一団には跪いた様に見えた。

 

「ん、ん~?跪いて俺に忠誠でも誓うか?ラオウ~~。」

「……"闘気"で……貴様の心臓を撃つ!―――どおりゃあ――っ!!」

「?……ぬぐ、がぁああぁ!!」

 

 ラオウの気合を込めて数秒、衝撃がティーチの胸を襲った。その一撃でティーチから出ている辺りの闇は霧散する。

 ラオウは致命傷を狙った。が、あるいは距離があったためか、大打撃を与えるまでにとどまった。それを察し、痛みでのた打ち回るティーチにトドメを刺すために、ラオウは一歩一歩近づく。

 

「例え秘孔を突けずとも、体に取り込まれるならばそれを伝って闘気を叩き込むまで。

 貴様の"闇"如きに、天空に輝く北斗の星を飲むことなど出来はせんわ!!」

「ぐ、グゥが……」

 

 後、数歩で必殺の間合いというところだった。

 

「―――船長、遅くなりました。」

 

 細身の男、ラフィットがティーチの傍らに着地する。

 それに遅れて、黒ひげ海賊団よりも遙かに強烈な二つの気配が来るのをラオウは感じ取った。

 

「…………。」

「よくも……よくもこの【聖地】を荒らしてくれたな。―――【拳皇】!!」

 

 無言のまま構える【英雄】モンキー・D・ガープ。【仏】の称号を冠する元帥:センゴク。

 海軍の生きた伝説と言える、二人の古強者がラオウの後方に立っていた。

 




 ラスボス候補vsかつてのラスボスでした。

 書いて改めて思ったけど、黒ひげと拳王様とでは格が違いすぎる。
 ティーチは幕間にあった。孤独な過去。などの理由があるのだろうけど、やってることは強者から逃げて陰口。"悪魔の実"と元から強いヤツなどの武器を手に入れる。手に入れた武器に頼って、自分を鍛えている描写がない。ただコスい。

 北斗の拳のキャラに当てはめれば、小ボスのジャッカル、ジャギ、アミバ。
 アレがラスボスってなら……やっぱり不満。

 一応、ラオウと双璧を成す。もう一人の北斗のラスボス:カイオウもティーチと似たような邪道を行ったが、黒ひげは拳法家として己を鍛えてるわけでなく、その脅威は"悪魔の実"という武器を持っているだけ。同じラスボスとしてはやはり小物と再認識。

 まぁ、何が言いたいかというと、ティーチは信条はさておき、手段が余りにも下劣かつ中途半端に過ぎるってことです。もっと壮大な野望をもった貫き通した悪ならばよかったのに……。

 連戦で海軍伝説の最強タッグチーム。……流石にヤバイかも。
 だがしかし、レイ、ケンシロウ、トキ、ケンシロウの4連戦を乗り切っている拳王様ならば…拳王様ならばなんとかしてくれる。


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20話

 最近、見つけた『北斗の拳- The Road of Lords』を作業用に使ってます。
 北斗の世界観が良く表現されてていい曲です。作業、止まることが多いけど(^^;

 もう、マーシャル・D・ティーチという存在自体が拳王様の逆鱗に触れる気がしてきました。
 白ひげに天破活殺を放った時以来、力を出すことがなかった拳王様。―――今回かなり本気です。


「ゼハハハハ、ラフィット、遅かったじゃねぇか。あとちょっとで殺されちまうところだったぜ。」

 

 先程まで激痛でのたうち回っていたマーシャル・D・ティーチが荒い息を吐き、部下を労いつつも愚痴を吐く。

 それに対して、ラフィットがその体を支えながら答える。

 

「ホホホ、申し訳ない。海軍のお歴々が話を聞いてくださらなくて遅くなりました。」

 

(抜け抜けと海賊が―――。)

 センゴクはその物言いを腹立たしく思うが、まさにその通りだった。

 

『仲間を裏切った【黒ひげ】よりも【拳皇】の方が信頼できそうである。』

 

 ガープからの話による先入観から【拳皇】を、所詮犯罪者である者をここまで泳がせてしまった。それをセンゴクは悔いていた。

 今、ガープとセンゴク。二人は聖地を荒らしたラオウの背後をとっている。距離はたった5メートルほど。一挙手一投足の間合い。

 だが、彼らにはこれ以上ラオウに近づくことが出来ないでいた。

 驚くべきことに、ここまでの戦闘でラオウは左腕を肩がけの荷物袋を持つために使っていなかった。少なくとも、全員の戦闘力が海軍本部:大佐以上の実力を持つだろう【黒ひげ海賊団】と戦っていながらである。

 この事実を抜きにしても、センゴクたちはラオウの隙を伺うどころか、その"覇気"に打ち込めば訪れるであろう死の気配を感じていた。

 

「……ドブネズミ。これがうぬのやり方か?」

 

 一方ラオウは、黒ひげ一団の会話と、ガープ達から向けられる敵意から己が泳がされ、言い逃れのできない状況に追い落とされた事を理解した。

 もともと言い訳、言い逃れをするつもりなど無い。

 先刻より十分に承知していだが、ラオウ自身の在り方とは真逆。己を晒すこと無く人の影に隠れ、果実だけを攫っていくやり方をひた走るゲスに不快感を覚え、問いただしていた。

 

「ああ!?使うものはなんでも使う。これが策略ってもんだろ。―――"覇道"ってもんだろうが!!」

 

 海軍の古強者二人が来たことにより、そして【黒ひげ海賊団】が集まった事による有利を覚えたティーチは機嫌よく答える。

 これは火に油を注ぐ行為でしかなかった。沸点を超えたラオウは、左腕を制限していた荷物を放り投げるとともに静かに言い始め、最後は叫んでいた。

 

「"覇道"……だと?貴様は己が力で事を何一つ成さず、仲間を裏切り、謀略で人を扱うことを―――"覇道"とぬかすか!!」

 

 ラオウの怒声と共に強烈な"気(オーラ)"あるいは"闘気"をこれまでの薄い陽炎としてではなく、"覇気"を扱えぬ者でさえ見えるほど強く纏う。

 その"闘気"は地面にヒビを入れ、砂塵を巻き上げ、突風をも起こしていた。

 

「―――ヒッ」「……なんちゅう覇気。」

 

 ティーチを始めとした黒ひげ海賊団は言葉を失い、一度戦ったガープでさえも、開放されたラオウの力に驚いていた。

 ―――しかし、義務感・正義感の強いセンゴクは違った。

 

[ゴーン!!]

 

「ぐわぁ!!」

「ぬぅ――――――!!」

 

 これ以上、ラオウの威圧に飲まれてはマズイと思い、センゴクが放った衝撃波。

 ティーチのもとに集まっていた【黒ひげ海賊団】はマリージョアの街の方向へ転がされる。しかしラオウは、マントをところどころ破られながらも、数メートル地面を削りながらも耐え、立っていた。

 

「ぬ…むぅ……。」

「ラオウ!!如何に貴様が強大であろうと、ここは世界政府の中央マリージョア。貴様の好きにはさせん!!!」

 

 センゴクが啖呵を切る。一時代を率いた男の意地が言わせた台詞であった。

 そこに吹き飛ばされた黒ひげが便乗する。

 

「ゼハハハハハ、相変わらず、すげぇじゃねぇか!センゴク元帥よぉ。ラオウ、お前はもう終わりだぜ!!」

 

 そう言ったティーチを、ラオウは一瞥し吐き捨てる。

 

「…………もはやゴミにしか見えん。そこまで見苦しいと殺す気も失せるわ。白ひげに挑んで死ぬがよい。

 ―――うぬの異形、"悪魔の実"だな。何の実だ?」

 

 後半、センゴクに向きを変えながらラオウはその姿を認め、問う。

 その問いかけに不穏な空気を感じながらセンゴクは答える。

 

「……"ヒトヒトの実:モデル:大仏"だ。」

「ふ、ふぁははははははは~~~!まさか、"仏"を象ったそれと戦うことが出来ようとはな―――!!【"仏"のセンゴク】とはそういうことだったか!!!」

 

 センゴクには預かり知らぬことであるが、北斗神拳は真言密教―――仏教と深い関わりがある。

 不運なことに、正しくその能力はラオウの興味を向ける結果となっていた。

 

「ッ―――ぬええい!!!」

 

 センゴクを威圧しながら笑い続けるラオウに殴りかかったのはガープ。一段と強くなった死の気配を感じさせる"覇気"の矛先が戦友に向いた。

『目の前の男を倒さねば、センゴクは死ぬ―――。』

 彼の孫同様、その危機を頭で考えるより先に体が動いた。

 

「―――むお!!」

 

 逃した衝撃で地面を陥没させながらも、ラオウはガープのパンチを捌き、投げる。

 ラオウの威圧から開放されたセンゴクは、命令を聞かずに勝手に攻撃したガープを咎めずに構える。構えながらセンゴクは、共に戦う戦友の忠告を思い出していた。

 

『【拳皇】の"覇気使い"としての力量はわしらより上の領域に―――。』

 

 

 

 ・拳王 対 海軍の古強者達 の巻

 

 

「ハァ……それで……【拳皇】はどうだったんだ。」

「やっと本題か、センゴク。」

 

 長い長い説教が一段落し、ため息を吐き別の話題を切り出した海軍元帥【仏】のセンゴク。

 これまでの説教に、まったく堪えていない【海軍の英雄】ガープ。彼は呑気にも湯呑みを手にし、それが冷めていることにしかめっ面を浮かべている。

 

「……はぁ、茶が冷めてしもうたわい。――あ!アルコルで買った菓子があった。食べるか?」

「誰のせいだ!?そんなもの一人で食べてろ!!」

 

 二人のやり取りを眺めながら、部屋の入口でいたたまれなく立っているスモーカー准将。ガープの孫弟子当たるが、不幸(?)にも彼の生真面目さから、その心持ちは外の闇のように暗かった。

 彼らが報告をしに来たのは、夕暮れ前に始まったはずなのだが外は既に夜の闇に包まれ、街灯がポツポツ光っている。

 

 まずセンゴクは報告をスモーカーに求めた。

 ガープに説明を求めては、すべてガープにとっての都合のいい事だけ。ガープ自身の失態・失敗は悉く、はぐらかされ。彼の性格上、具体的な説明は無く、すべて子供の感想程度の報告しか期待できないであろう。

 そのことが分かっていたからだ。

 

 実際、電伝虫を使ってのガープの報告は『【拳皇】を連れて行く。』……だけだった。だからこそ詳しい報告を改めて求めた。

 そして、スモーカーからの報告、そこで分かったガープの行動をおおまかにまとめると。

 

『・少人数で行くと言って、お伴を置いてきぼりに一人で突っ走る。

 ・メシ屋に乗り込み、10万ベリーに登る食事、ツケをセンゴクへあてつける。(代金はスモーカーが立て替えた。)

 ・調査対象の【拳皇】と関わりある現地の子供に接触。

 ・その子供を拉致、半ば強制的に道案内させる。

 ・単独・独断行動を咎めようとしたスモーカーから逃げまわり、それを撒く。

 ・対象に政府・海軍に離反意志を持たれかねないような、直接の戦闘に訴え出る。

 ・―――戦った結果、半死半生に追い込まれた。』

 

 前半二つはどうでもいい……わけではないが、やはり『いつものこと』である。メシ屋の一件をスモーカーから聞いた時、センゴクはポケットマネーで補填した。

 そして、『そんな事、せんでええのに。』などと笑うバカをついでに殴り飛ばす。

 

 さておき、ここまで説教が長くなったのは残り4つの報告。結果オーライとは言え、危うく危険人物を明確な敵に回しかねない行動。

 更に問題なのが最後の報告だ。

 全盛期に比べて多少衰えがあると言え、海軍の最高戦力である大将と遜色ない戦闘力を持つガープを追い込んだということだ。

 

「……もう一度聞くぞ、ガープ。【拳皇】はお前から見てどうだった。」

 

 とりあえずセンゴクは改めて説教を切り上げ、鼻クソをほじっているガープにラオウの見立てを質問することにした。

(人物がわかれば対処の仕様があるはずだ。)とセンゴクは考えていた。

 

「うーん、難しいのぉ……ロジャーのヤツに似てるといえばそうだし。でも違う気がするのぉ……。」

「ふむ、ロジャーに似ているのか。――――難しい?」

 

 能天気なガープにしては、珍しく腕を組みウンウン唸りつつ言葉を探している。彼にはどこか子供のように直感的に、説明や証明など必要とせずに人を見切るところがある。

 そのはずなのだが、はっきりと言い切らない。答えに窮している。

 

「元帥、聞きたいことがあるのですが……。」

 

 そこにスモーカーが口を挟む。

 

「何だ?言ってみろ。」

 

 何かガープには言い表せない何かを言うのだろうと、センゴクはスモーカーに回答を促す。

 

「【拳皇】がどこかの国で"王"であったと言う記録は?」

「ない。……むしろ、白ひげと引き分けた。その話題が出るまでの経歴が一切不明だ。」

 

 センゴクはきっぱりと言い切る。情報を渡さない政府に業を煮やし、センゴクは五老星に詰めより確認を取っていた。

 そして、そこで情報を得ても、やはりつかみきれなかった。

 

「あ、そうだ!!アイツ、"覇王色"を持っておったぞ。」

「!?……何故、真っ先にそれを言わん。」

 

 どんな形であれ、他人に影響を与える素質。数百万人に1人の「王の資質」を持つ者しか身に繆うことができない覇気。―――【覇王色の覇気】。

 近年でそれを持っている者で歴史に名を残した者と言えば、ゴールド・ロジャー。

 

『それを持っているならば、アルコル島を僅か3ヶ月に満たない期間で、島民の在り方を変えてしまったことは必然。』

 

 頭痛を覚えながらもセンゴクはそう納得した。

 

「……元帥、まだ続きが……。」

「ああ、スマンな。で、何だ。」

 

 無視する形になったスモーカーに謝り、とりあえず続きを促す。

 

「あの島で【拳皇】は戦闘技能の指導だけではなく。戦術、戦略面の指導もしていたことを……。」

「………。」

 

 もうセンゴクは、反応を返すに返せなくなってきていた。

 

「それとな、センゴク。言いにくいんじゃが、はっきりと分っておることがある。」

「……まだあるか……何だ?」

 

 ガープはそれまでの呑気な態度を改め、重く言葉を紡ごうとした。

 

「「―――っ!!」」

 

 そこで、センゴクとガープの二人は、部屋の窓に目を向ける。

 それにつられてスモーカーも同じ方向を見る。

 

「おや、さすが海軍の生きた伝説。…と言われる御二方ですね。」

 

 細身のシルクハットを被った男、ラフィットが窓枠に座っていた。

 スモーカーは愛用の十手を手にし、ガープも警戒態勢に入りすぐ動けるよう構える。

 

「落ち着け。……何の用だ。」

 

 殺気立つ二人を制し、センゴクは用向きを問いただす。

 部屋に侵入してきたラフィットは得意げに言う。

 

「【拳皇】についてです。彼はこの"聖地"を荒らしに来た。その事をご報告差し上げようと来た次第です。」

 

 その回答に、なおのこと不穏な空気が部屋を包む。

 しかし、センゴクはその空気に流されること無く、更に情報を引き出そうとする。

 

「……ふむ、それは一体何を根拠にしているんだ?」

「【拳皇】から直接聞きました。そして、私の仲間がそれを追跡しております。」

 

 言いながらラフィットは電伝虫を取り出す。

 

「先に訊いておこう……。貴様らは何を企んでいる?」

「簡単なことです。我々は海賊。こうして船長が七武海に就こうとしている中、あなた方に信用されないというのは心苦しい。そういう事ですよ。」

 

 質問に対し、もっともらしい理由を吐く。

 この場にいる海兵三人はなおのこと警戒感を強めた。『ここで信用を得て何をしようとしている?』と。そんな中、電伝虫が呼び鈴を鳴らす。

 

「こちら、ラフィット……。」

『オーガーだ。【拳皇】は今、行政府を出て前半部・港方向に足を向けている。船長が足止めをすると言って止まらん。そっちはまだか?』

 

 その報告は世界政府・行政府に賊が侵入したという。そんな事はフィッシャー・タイガーの以来の……それを上回る大事件であった。

 驚いたセンゴクは思わず電伝虫に問いただしていた。

 

「何があった!?番の者達はどうした!!?」

『この声はセンゴク元帥殿か?―――では、答えよう。門番は【拳皇】が何かやったようで倒れている。生きているかはわからない。

 ……船長が行ってしまった。俺は援護に入る。後はドクQが連絡を引き継ぐ。』

『このまま運が…ゴホ…悪ければおれ達あの世行き…ハァ。』

「……ドク…あなた、いつも不吉なことしかいいませんね。」

「ええい、海軍のメンツに関わる。状況はどうなんだ!?」

 

 なんか変な空気が部屋に漂いはじめたが、その空気に逆らってこそアクの強い海軍を束ねる元帥。

 とにかく状況の把握に務める。

 

『今船長が……ああっ!』[ドサ]というなにかが倒れる音がして『ア…ア、すまん、奴の"覇気"にあてられた……。ゴホッ、もう動けない。ゲフ…。』……そう続いた。

「……まったく……いつもどおりそのまま死んでいなさい。―――とにかくこんな状況です。相手はあの【白ひげ】と引き分けた男。助力を願えませんでしょうか?」

 

 ラフィットはドクにあきれた。とりあえず、いつもの"死ぬ死ぬ詐欺"なので流す。

 そして、再び用向きを再びセンゴクに伝える。

 

「スモーカー准将、五老星に連絡をとれ!!安否確認を急ぐんだ。ガープ、行くぞ!!」

「ハッ!!」「えー、いいよ。」

 

 センゴクは【正義】の文字が入ったコートを羽織り、ガープもまたやり気があるかないか分からないような、いつもどおりの返事をしながら部屋を出た。

 スモーカーは急いで行政府に連絡を取ろうとする。

 部屋を出て少し歩いたところ、二人だけになったところで、ガープは密かに、深刻な声色でセンゴクに言う。

 

「―――さっき言いそびれたがの、センゴク。」

「……なんだ?」

「アルコルでの手合わせで測れんかったが、おそらく…【拳皇】の"覇気使い"としての力量は、わしらより上の領域におるぞ。」

「な――!?ならば、なおのこと俺達の手で何とかしなければならん。」

 

 ガープが先程、努めていつもどおりの態度をとったのかセンゴクは理解した。

 これから戦う相手は、かつて幾度と無く戦ったシキ、白ひげ、そしてゴールド・ロジャー。彼らと戦う時と同等・それ以上の覚悟を持って戦わなくてはならないと。その緊張を部下に伝えないためだったと。

 

 

・・・・・・

 

 

「ほぅ、その纏う"気(オーラ)"そして、神を模した"悪魔の実"か……。

 ここまで血がたぎるのは久しぶりだ。―――よかろう。海軍の古強者。死合うに足りる…来い!」

 

 開始のゴング代わりに放たれたガープのパンチを難なくさばき、状況を五分に戻したラオウは黒ひげ海賊団の攻撃。センゴクの衝撃波により用をなさなくなった外套を脱ぎ捨て、荷物を道の端に放る。

 そうして構えると共に、手首を返し挑発する。

 

「こっ…若造が……。」

「―――。」

 

 センゴクが唸り、ガープは無言のまま"剃"を使い一息に接近する。

[ガギィイン!]

 繰り出したガープの拳とラオウの腕が、鋼と鋼がぶつかり合うような音をたてる。受け止めたままガープを掴み、先と同じようにいなそうとする。

 同じ技と感じたガープは、その野生の勘そのまま体を捻り、嵐脚を至近距離で繰り出そうとする。ラオウはそれに対し足のスネ。言い換えれば刀の柄となる部分への攻撃を行う。そのぶつかり合いで再び鋼同士がぶつかり合いの音が響く。

 

 結果、地に立つラオウの有利でガープを殴り飛ばす。一対一ならばそのまま転がったガープに追撃を入れるところだが、今は一対ニ。

 この対処で隙が出来たラオウに、センゴクは能力を使い巨大化した鉄拳を入れる。長年の杵柄と言えるコンビネーション。

 しかし、その攻撃は突如高速で動いたラオウには当たらなかった。

 

「「なっ!?」」

「ふん、速度は落ちるが……"気"を使わない分、この技は使いやすい。」

 

 二人は息を呑む。攻撃が躱されたことに驚いたのではない。躱した技に驚いていた。

 "剃"―――海軍秘伝の高速移動術。習得が難しいと言われるが、単純に言えば高速の足踏みにすぎない。ラオウにとってこの程度の技、たやすいものである。

 

 先ほどのぶつかり合いでも、センゴクらはおかしいと思っていた。鉄が……"鉄塊"同士がぶつかる音だったのだ。しかも、海軍随一の武勇を誇るガープとぶつかって、まるで押し負けていない。経緯はどうであれ、技を完璧に奪われたことに二人は愕然とする。

 

「――貴様!!その技、どこで身につけた!?」

 

 ラオウに六式を身につけさせたは北斗神拳【水影心】:一度戦った相手の拳を己の分身とし、使うことができる奥義。

 

 しかし、この奥義は相手の拳を写す事が出来ても、それを再現するだけの力が本人になければならない。

 海軍の者から見れば、習得が難しい六式。しかし、あらゆる拳法を極めた男:【拳王】と呼ばれたラオウからすればこの程度、児戯にも等しい。

 そして、複数の強者を相手にしなければならない今のラオウにとって、ただの足踏みに過ぎない"剃"のほうが消耗が少なく、有益であった。

 

 センゴクの質問に答えず、ラオウは不敵に笑う。

 

「ふん、いちいち答えるものか?……どぉりゃあ!!」

「ぬわ!!」

 

 ラオウは両手首を合わせ、手のひらをガープに向けて素早く突き出す。

【羅漢仁王拳:風殺金鋼拳(ふうさつこんごうけん)】―――巻き起こった風圧でガープは港の灯台に向かって吹き飛ばされる。

 

「ガープ!!」

 

 飛ばされた悪友の名を呼んだと同時に、聞き慣れた金切り音をセンゴクは聴き取る。彼の知る威力とはケタ違いの破壊を持つ"嵐脚"。それがガープが飛ばされた位置に重なるように飛んでいく。

 飛ばされたガープがぶつかった衝撃と、嵐脚の斬撃で灯台は崩れだす。

 

「―――おのれ!!」

 

 蹴りで体制を崩したラオウにセンゴクは一気に接近する。衝撃波が大して効かない事は分かった。だが大仏の能力と覇気、そして六式を使った防御力ならばこの"嵐脚"にも耐えられると踏んで突進する。

 突進に反応したラオウは"闘気"を纏い手刀を高速で繰り出す。

 

「っ―――!!」

 

 危険を感じたセンゴクは、先の予想を放り捨て"見聞色"と"紙絵"を全力で使い、ラオウの腕の延長線上全てを躱す。

 

【南斗水鳥拳奥義、千塵岩破斬(せんじんがんはざん)】:文字通り相手を肉片に切り刻む奥義。そこにラオウの剛拳と闘気が付加され、写した本来の使い手の威力を遙かに上回っていた。

 

 すべて紙一重で躱したセンゴクは踏み込み、ラオウを殴り飛ばす。

 

「なんと!?―――ぐぬぉ!!」

 

 驚きながらも防御は間に合い、肉体の破損を嫌ったラオウは自ら後ろに飛ぶ。そのままラオウは、センゴクの拳の威力により建物を突き破りさらに隣の建物にその身をめり込ませた。

 一方、殴り飛ばしたセンゴクの背後の建物は犀の目に切られ倒壊。彼自身も服と薄皮をところどころ切られ、切り口から血を吹き出す。

 

「……あれで能力者でないのか。しかも、まったく堪えておらんとは……。」

「じゃっから言ったろに。」

「―――お前は『"覇気使い"として上だ。』としか言っとらんわ!!」

「ありゃ……忘れとったかの?」

 

 寸でのところで嵐脚を躱し、戦列に復帰したガープが相槌を打ち、そこにセンゴクが突っ込みを返す。そう、ガープはラオウが数多の技を持っている事は言っていなかった。

 いつもどおりの会話をしたところでセンゴクはいくらか落ち着きを取り直し、埋まった体をひきずり出すラオウを見ながら次を考える。

 

「ところで、気付いたか?ガープ。」

「あぁ……。」

「あとは奴が合わせられるか、カケだな。」

「まぁ、なんとかなるじゃろ。―――ワシの弟子だし。」

「……(そこが不安なんだが)。」

 

 

 ここまで、ラオウは不利を承知で北斗神拳を封印していた。―――理由は二つ。

 一つは『拳王』を名乗り、世を席巻した時のように、初見の相手の様子見には他流派の技を使い手の内を晒さない。そして北斗神拳は奥の手―――認めた強者に対してのみに使う。この習慣。

 

 もう一つ、今回はこちらを重視した。―――それは場所。

 そもそも、北斗の拳はそう簡単に盗まれたり、対策をたてられたりするような武術でない。

 今回、黒ひげが小細工を弄したが、結局は通じていない。だが、いまここマリージョアは敵地そのもの。見られるにしては度が過ぎている。

 

(北斗神拳を迂闊に使うわけにはいかぬ。しかしどれほど少なく見積もろうと、南斗六聖拳伝承者に匹敵する者が二人……か。)

 

 いま戦っている二人―――以前、一瞬で多数の拳を叩きこむ事を重視した"百裂拳"を見様見真似で返したガープ。ここまでの会話などから、理論派と見受けるセンゴク。おそらくどこかで観戦しているだろう黒ひげ海賊団とその他の海兵。

 これらを前に北斗神拳を使えばどうなるか。それぞれの分析能力を評価したからこそ、あえて封印していた。

 

 なによりも、この戦闘は【黒ひげ】によって扇動されたようなもの。己の意志で戦うのならば、ラオウは北斗神拳を出し惜しみなく使ったことだろう。だが敵に分析されるために使うなど我慢ならない話であった。

 口の中を切り、その血を吐き捨てながら、ラオウはそのハンデさえ楽しみながら獰猛な笑みを浮かべる。

 

「―――だが、面白い!」

 

 肩を回し、手を腹の前辺りに持って行き『かはー』と息を吐き、気を整える。

 そこで気がついた。辺り一面の地面を"闇"が、ティーチの能力が覆い尽くしていることに。

 

「チッ……まだいたか、ゴミどもめ。」

 

 ティーチの姿を認める事はできないが、ラオウは呆れの言葉とともに、今度は足で"闘気"を足元の"闇"に撃ち込む。

 距離が離れていたためか、数秒して『ぐぎゃあぁぁ』と叫び声が上がる。―――それが第二ラウンド開始の合図となった。

 




 遅くなってごめんなさい。

 天破活殺を放って、白ひげの衝撃波を耐えた時以来。潜在能力(呼吸法などで引き出される70%)をそれなりに開放しました。
 老いと病にボロボロの白ひげなら、真っ向から倒せそうなガープ、センゴク。二人の古強者たちでもなんとか五分。もうちょっと劣勢にするつもりだったのに。さすが拳王様、お強い。

 原作では北斗神拳以外の拳法を使っている描写が少ないですが、アニメ版では他流派の技を以外と使っているので、今回はそちらを重視して闘っていただきました。
 感想で『他流派は使ってない。』なんて大見得きって、恥ずかしい限りです。


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21話

 お待たせしました。今年度初です。……不幸があったので『あけまして~』は、ナシで。


[チリン、チリン]

 

 夜の海をベルを鳴らしながら自転車が走っている。

 そう、海を自転車が走っている。異常である――しかし、異常が無いことが異常と言えるグランドラインから見ればよくあること。

 

「……はぁ、ガープさんはなんで俺なんか呼び出すんだか。

 …………『【白ひげ】引き分けた【拳皇】がこれまた最近、頭角を現した【黒ひげ】と戦うから見ておけ。』……か。

 それにセンゴクさんはセンゴクさんで『ジンベエを捕えるから手伝え』って。ふたりとも人使い荒いなぁ。まったく。」

 

 ため息を吐きながら自転車を漕ぐアイマスクを額につけている男は、こう考えていた。

 

『理由は実のところは取ってつけたモノで、よくあるガープのワガママがまた炸裂してセンゴクが爆発。その尻拭いに自分は呼び出されたのだろう。』

 

 そんな考えは目的地マリージョアを目にして吹き飛んだ。

 

「おいおい、なんだありゃ……。」

 

 マリージョア湾口の建物の大半が崩れ、港の目印となっている灯台は無くなっている。視界の中でさらに建物が轟音を立てて倒壊した。

 これはその場所でなおも戦闘が続いている事を示している。男は"見聞色の覇気"を使い、戦場を探る。

 

「あらら、ガープさん。それに、センゴクさんまで……。

 この気配、デタラメじゃないの。――――急ぐか。」

 

 足の方が早いと自転車を置き去りにして、男は戦場に向かって駆け出した。

 

 

・続く激闘 の巻

 

 

 戦場音楽が奏でられている。

 

[ドォ・・ン、ガゴォ・・ン、ギィン、ガァ・・ン]

 

 その場で戦う者、全員が高速移動技・"剃"を最高速で使いながら戦っているため、周囲の破壊がまたたく間に広がっていた。

 

「……ちっ、くそったれ、怪物どもめが。」

 

 その光景を肩越しに見ながら、ティーチが吐き捨てる。少し離れたところから観戦していた黒ひげ海賊団は、居住区に向けて逃げ出していた。

 

 先程『【拳皇】は消耗したに違いない』と考え、自身のヤミヤミの実の能力でラオウを飲み込み、自分たちの存在をアピールしようとした。 

 

 しかし、やぶ蛇であった。

 その余計な行い以降、ラオウの攻撃は『【黒ひげ海賊団】を巻き込んで殺せるならば殺す。』

 そう言わんばかりに広範囲に攻撃を撒き散らし始めていた。放たれるラオウの攻撃は奥義で無くとも、黒ひげ一団にしてみれば全て必殺。逃げるしかなかった。

 

 無言でラオウが放った回し蹴り―――南斗聖拳の足技【南斗白鷺拳奥義:烈脚斬陣】の生み出した真空の刃が周囲360度を切り裂く。

 ガープは持ち前の野生の勘でそれを躱す。センゴクは"覇気"と"六式"、そこに"悪魔の実"の防御力を用いて耐え、反撃の衝撃波を放つ。

 衝撃波はラオウの"闘気"の壁により、逸らされる。かき消されずに残ったラオウの攻撃、逸らされたセンゴクの技により、港町の被害は更に拡大する。

 

 依然続く、世界の頂上に位置する者達の第二ラウンド。戦陣風が舞うマリージョア港地区。

 『拳皇、英雄、仏』それぞれが異名を持つ者達による破壊活動。それを黒ひげ海賊団以外に見ている者達がいた。

 

「……ひどいもんだ。あの脳筋たちは……シキ以来だね。」

 

 既に当時を上回る惨状を眺め、ため息を吐きながら巾着袋に入っている小粒の鉄球に"覇気"を込め、それを弾き飛ばし、飛んでくる破片を粉砕している老女。大参謀:つる中将。

 隣に立つシワが深い顔とサングラス、ヒゲが特徴的な男。―――大将:黄猿、ボルサリーノもまた、破片を"悪魔の実"の能力を用いたレーザーで撃ち落とす。

 

「オー、わっしも行きましょう。」

「……おやめ。馬鹿言ってんじゃないよ、この状況を見ていいな。あんたまで加わってひどくなったら、後始末は誰がするんだい?まったく。

 ……あとね。あんたがここから抜けて居住区に被害が出たら、世界貴族に何を言われるかわかんないよ。」

 

 安直な考えで提案したボルサリーノは、その指摘に押し黙る。

 眼下の戦いで使われている"悪魔の実"はセンゴクの幻獣種の動物系。ガープは非能力者。【拳皇】がどうかは分からないが、少なくともロギアではない。そこに自然系能力者の黄猿を投入すれば、敵を追い込むことが出来るのは間違いない。

 

 だが、それでも決着が長引けば破壊は加速度的に増し、被害は更に拡大する事は必定。この場所が聖地でなければ許されるだろうが、ここで万が一そうなれば許されることではない。

 

 その指摘に黄猿は諦め、戦場からの余波を居住区に及ばないよう守備に専念する。と、彼らの横を通りすぎ、戦場に向かおうとする者が現れた。

 つるは声をかけながら、その肩をつかむ。

 

「お待ち、どこに行こうってんだい?坊主。」

 

 それはスモーカー准将だった。能力ですり抜けようとしたが、つるが"覇気"を纏って掴んだために振り切ることは出来ない。

 

「くっ、放…つる中将!?―――申し訳ありません。」

「ん?あんたはクザンのところの悪ガキだね。何しに行くつもりだい?」

 

 スモーカーを止めたのがガープ辺りならば、普段の反抗的な口調でぞんざいに撒くところだが、つるではそうもいかない。それなりに丁寧な軍隊口調で用向きを伝える。

 

「ハッ、その……五老星からこれを―――。」

 

 彼女が渡された物は世界政府の印紙付き書簡。走り書きであるが、ご丁寧に五老星全員の署名が書かれていた。

 それを確認すると顔をつるはしかめた。

 

「……なんかの冗談かい?これは……。」

「いえ、連絡の取れないセンゴク元帥、ガープ中将を止めろと、五老星より仰せつかりました。」

「んん~~~、ホントだねぇ~~~。これは五老星の字だよぉ~~。」

 

 隣のボルサリーノも確認する。

 その内容は『―――直ちに戦闘を中止。本日、拳皇に手出しをすることは許さぬ。』とあった。

 かつてのフィッシャー・タイガー以上の大事件であるのにもかかわらず、である。

 

 命令が例え納得の行かない内容であっても、軍人である以上は従わなければならない。つるは諦めスモーカーを放し、戦場を指さす。

 

「わかった。……お行き―――坊主なら、そう簡単に死んだりしないだろうからね。」

「はっ!!」

 

 言われたスモーカーは走りだす。

 

「いいのかい?つる中将~~。」

 

 見送ったボルサリーノが問いただす。

『あの危険分子をここで逃せば、とんでも無いことになる。』そして、『強烈な覇気を纏った戦いに、あの程度の者を送り出していいのか?』の意味を込めて進言だった。

 それに対し、つるは諦めたように頭を振りながら言う。

 

「今回は諦めな。だから、ガープとセンゴクが戦ってるうちに見ておくんだ。

 そら、【拳皇】は戦い方を変えたみたいだね。きっとまだ何か隠してるよ。それに、警戒されてるあたしらよりも、あっちからの不意打ちのほうがきっとましだろうさ。

 ―――あの坊主がたどり着くまでに、どんな形であれケリは付く。」

 

 言われたボルサリーノは深く気配を探る。そして気付き、思わず声を上げる。

 

「?……あぁ~~!!ホントだ。この気配…つるさん、ひょっとしてぇ、わかってたぁ~~?」

「……あの悪ガキが通りかかった時くらいだよ。『確認のために呼び止めました。その間に決着は付きました。』……なら、言い訳が立つだろう?

 ―――しくじっても問題ないさね。」

 

 あっけらかんと言ってのける老女に、周りの者は絶句した。

 そんな彼らの考えは一致していた。『このバアさん。今でもやり手だ。』…と。

 

「誰がバアさんだって!?あたしゃあんたらに遅れを取った覚えはないよ!!」

 

 そして、諸々の図星を見事に突いた怒声に、場の空気は重苦しいものになった。

 

 

 

 ガープとセンゴク。二人はラオウに向けて突進し、攻撃を繰り出す。

 センゴクは衝撃波と拳。ガープは得意の拳骨の弾幕。そんな大砲を上回る攻撃の嵐に晒され続けているラオウは、攻撃が途切れた間隙に"月歩"で空へ逃れ、落下の勢いと共に反撃する。

 

「―――南斗、飛鳥乱戟波(ひちょうらんげきは)!!」

「くっ!!」「ふんっ!!」

 

 突進と共にラオウは無数の抜き手、そこから発生させた真空波を乱射する。大砲がガトリング砲の連射力で破壊するような音があたりに響き渡る。

 しかし、その攻撃には強い"闘気"を十分に込められていない。込めることが出来ない。一山いくら程度のものならば即死であるが、この二人には通じることはない。躱され、防御されてしまう。

 

 第二ラウンドを開始してから、センゴクは"覇気"と"悪魔の実"のよる巨大化による巨躯を生かし、強力な一撃必殺と言える攻撃を繰り出しつづける。

 ガープは大振りになりがちなセンゴクの隙を補うように、出せる限り最高速の"剃"と圧倒的な手数で攻撃。

 

 二人はインターバルの後、この戦法を取り続けていた。

 1ラウンド目で彼らが判ったことは、一対一ではラオウに分があるということ。

 しかし互いの持ち味を最大限に生かし、撹乱して削る。―――センゴクが悪魔の実を含めた高い攻防力で削り、ガープが手数と速度で動きを封じる戦術。これならば確実に追い込むことができる。

 二人の長年の経験から、言葉を交わさずとも自然な流れで成り立った戦い方だった。

 

 そんな少しでも守りの"闘気"を緩めればノックアウトされかねない攻撃と手数とスピードに晒され、防御重視となり攻撃に集中出来ない。

 

 これはラオウの失策だった。

 本来の無意識・無想の拳に程遠い、使い慣れない南斗聖拳を逐一考えながら使っていたため、ガープ達の"見聞色の覇気"によりその攻撃をかなりの頻度で察知されてしまっていた。

 

 さらに、北斗神拳を使う時と同じように敵の攻撃に回避は行わず防御、あるいは反撃で返している。南斗聖拳は北斗と違い、技のキレと速度が重視される。そのため足捌き等による受け流しが基軸となるのだが、今は剛拳として技を振るっているため、それを使おうとしていない。

 

 これら要因により、ラオウはほぼ一方的な防戦を強いられてしまった。その不利を示すかのように服は所々ちぎれ始めていた。

 

 もちろん打開策はある。北斗神拳を使えば、状況を打破することがたやすく見込める。

 

 そう。これまでラオウは、この劣勢であってもスピードを重視した攻撃ならば当てることが出来ていた。―――ならば軽い攻撃であっても、相手の状態を少しずつでも悪化させることができる経絡秘孔への点穴を用いる北斗の技ならば、確実に状況を好転させ、敵を仕留めることが出来る。

 

 だが、凄まじい意地を持つ彼は、この場で北斗神拳を使わないと決めた以上、絶対に使おうと思わない。このまま行けば【拳皇】は倒れる。傍目からはそう思えた。

 しかし―――。

 

「ぬ、むぅ!……このラオウに、柔の技を使わせようとは……白ひげ以来だ。誇るがいいわ。」

 

 ラオウがそう、静かにつぶやいた後だった。

 その数秒後、ガープは腕に攻撃を喰らい思わずそこを抑え。センゴクの肩口からは血しぶきが上がった。

 

「ぐぅ!!」「―――ぐわっ!!」

 

 ラオウはガープの拳の弾幕を"紙絵"のような柔軟な動きで躱しつつ、その腕を手刀で切る。それは剛ではなく、柔の南斗水鳥拳。

 

 反撃に出て体勢が崩れるラオウの隙を狙い、センゴクは拳を振り下ろす。

 しかし、ガープ同様しなやかな動きで回避され、"剃刀"を用いた高速移動で傍らをすり抜けつつ、肩口の肉を抉り取られた。

 その拳は【泰山天狼拳】。覇業の果てに目指した平和のため、心を殺しながらラオウに忠義を尽くした漢の拳。

 

 ガープは間一髪"鉄塊"が間に合って、腕に多少の痛みを覚えた程度。

 だがセンゴクは"悪魔の実"を使った巨体がため、回避が間に合わず、腕の動きに違和感を覚える程の傷を負った。

 

 二人共痛みはあるが、かまわずラオウを睨みつける。そこで彼らは困惑を覚えた。これまでの『どんな攻撃をも真正面で受け止める。』と言わんばかりの、かかとに体重を乗せた力と威圧を感じさせる構えでなく。

 両腕をゆるやかに垂らし、つま先に軽く体重を乗せた、いわゆる猫足立ち。柳のようなしなやかさを思わせるモノであった。

 

 その構えの使い手は、世紀末覇者「拳王」を名乗ったラオウに王道を行く事を説き、結果戦い、手傷を負わせたほどの使い手―――軍師:森のリュウロウ。

 流派【南斗流鴎拳(なんとりゅうおうけん)】『風に乗って水辺を浮遊するカモメの如き拳』と例えられる南斗108派の拳。その拳の質は柔拳。

 

 

「おのれ!!」

 

 戦闘を再開する。闘いながらセンゴクは思わず、繰り言を発していた。

 今、ラオウは自身の"剛の拳"を乗せた南斗聖拳に加え、柔の技:流鴎拳を織り混ぜ、更に時折逆立ちの体勢から蹴りを放つ―――彼の朋友が修めた【嵩山旋風脚(すうざんせんぷうきゃく)】など、変則的な技まで使い始めた。

 しかもラオウは何が嬉しいのか、あるいは余裕があるのか、笑みを浮かべてさえいた。センゴクは愚痴を吐かずにいられなかった。

 

「センゴク―――ワシが決める!!」

 

 完全に作戦を無視することになるが、ガープはセンゴクに吠えた。

 自分が連れて来た男がこのマリージョアで好き勝手し、更に戦友に手傷を負わせた。これらはガープの矜恃に触れ、もう間もなく来るだろう援軍を待つという作戦を吹き飛ばしていた。

 その心情を察したセンゴクは、落ち着かせるのは無理であると判断し、ガープを援護するため、これまでの牽制として使ったものではなく、全力の"覇気"を込めた最大級の衝撃波を繰り出す。

 

[ゴーン!!]

 

「ぬうお!?」

 

 その威力は、かつてラオウが白ひげの攻撃に対抗するために用いた、全力レベルの"北斗剛掌波"に匹敵するほど。

 ラオウは闘気を全力で纏い、防御する。防御に専念したラオウに致命傷を与えることは出来ない。しかし、その一瞬でガープはラオウの背後に回りこみ、両手突きを放つ。

 

「フ、フフハハハ~~~、これがうぬらの切り札か?―――下らぬわ!!」

 

 しかしラオウは巧みな足捌きで反転し、繰り出されたガープの拳を掴みとった。世紀末の数多の戦場を駆けた男にこの程度のことでは通じない。

 だが、敵の体に触れているということが海軍の精鋭が持つ秘技、切り札を使うに好都合だった。

 

 それは"嵐脚"、"月歩"、"剃"の脚力で生み出す力。それを"鉄塊"と"紙絵"という相反する技を同時に使い増幅。このエネルギーを"指銃"の一点集中、さらに"覇気"を込めて体内へ撃ち出す奥義。名は―――。

 

「―――六王銃!!!」

 

 完璧なタイミングで体内目掛け打ち込まれる衝撃、いわゆる浸透勁。この状況で完璧な防御を成し遂げた者いない。

 ―――だが、世紀末覇者:拳王の知識と経験、会得した技はこの不可能を覆す。

 

 その技は、愛する妹を守る。その一念による執念を見せ付けた【雲】と呼ばれた天賦の才を持つ漢の秘拳。

 六王銃がその身に浸透するまでの刹那。ラオウは拳を受け止めた手のひら、数ミリ単位の隙間でエネルギーを溜め、それを強烈な打撃として撃ち放つ。

 

「撃壁背水掌!!」

 

 互いが発した高圧縮、高密度のエネルギーが炸裂する。

 

「ぶわはっ!!」

「ぐはっ!!うおおおーっ!!」

 

 そして、アルコル島での戦闘の結末と同じように、ガープはマリージョア中央の方向。ラオウは港の方向へ、それぞれ飛ばされた。

 飛んできたガープをセンゴクは受け止める。

 

「大丈夫か!?ガープ!!」

「くそ、鈍ったわい。」

 

 センゴクに受け止められたガープは全盛期ならば―――と、思わず吐き捨てる。

 しかし、センゴクはラオウの飛ばされた方向を見ながら言う。

 

「―――いや、ちょうどいい頃合いだ。」

 

 センゴクが答えたと同じくして、港に冷気が満ちていた。

 




 古強者達の反撃ターンでした。まだちょっとだけ続きそうです。
 知恵者の大参謀:つるに見られていた事を考えると、パクられる技が出てきそう……。経絡秘孔の知識が必要な北斗に比べ、南斗聖拳の技は六式を極めてれば、模倣するのに苦労しないと思いますし。
 劣勢なら意地を張ってないで、北斗神拳を使えばいいのに。拳王様は『愛を心に刻みつけた。それだけは死んでもいえぬ!!』…こう言う人ですから、使わないと決めたら、使わない。意地っ張りというか、すっごく頑固です。

 過大評価かもしれませんが、以前に活動報告に書いたように、同条件の破壊範囲で拳王様と全力ガチンコのタイマンを張れるキャラと言ったら、蟻王:メルエム(強化版)くらいしか思い当たらない……。

 さて、『アンチで大丈夫か?』そう悩んでいる中。たくさんの方の励まし、ありがとうございます。
 何分、小心者ですので、今後もあれこれ悩みながら書くことになるでしょう。けど、読んでくれる方、待ってくれている方がいる限り頑張ります。気長にお付き合いの事を。

 …次は…色々あってシャボンディ諸島に着いたラオウ。そこにいたのは……次回:傍若、天竜人――死ぬのはお前だ!!の巻(半分冗談)
 ただ、そこまでいけるのかわからないです。^^;


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22話

気落ちがひどく、更新が遅れに遅れて申し訳ないです。とりあえず一話。
そして、やはりというか、予告のシーンまで届きませんでした。OTZ

UVERの『Fight For Liberty』が『北斗の拳』の者達の世界観・生き方に合ってるように思う、今日このごろ。



・シャボンディ諸島へ の巻

 

 氷結能力を持つ自然系:ヒエヒエの実。一瞬でモノを氷結させる能力。

 

『敵が自分たちより、遙かに強力な"覇気"を持っていても、ロギア:自然系の能力をもってすれば、消耗した敵に致命的なダメージを確実にもたらす。』

 

 そう考え、ここまで耐えていたセンゴクは、クザンの能力による冷気を感じた瞬間、(―――勝った。)そう思った。

 このタイミングに現れた青キジに対し、喝采を送っていた。

 

 だが、【拳皇】の気配を感じる辺りから、そんな期待を嘲笑うかのように大爆発が起こる。

 

「―――なっ!?」

「ク、クザン!!」

 

 100メートルほど離れたそこで起こった、周囲を薙ぎ払う爆発に驚きながらも、ガープとセンゴクの二人はその場に向かおうとする。

 しかし、そんな彼らの前にスモーカーが現れた。

 

「センゴク元帥。五老星から戦闘停止命令です。」

「―――なっ!?」「なんじゃと―――!?」

 

・・・・・・

 

 爆発を引き起こした攻防はほんの僅か、5秒にも満たない間に繰り広げられた。

 

「ちっ、油断したわ。よもやあそこまで力を持っていたとは。『英雄』……ただの称号ではなかったか。だが、"六式"。完全に見切った。」

 

 ラオウは、ガープとぶつけ合ったエネルギーの衝撃に吹き飛ばされながらも無事、着地していた。

 

 そして彼は抱いていた侮りを戒める。

 

 以前CP9のロートル、ラスキーへの追撃戦。そこで聞き出していた六式の技。

 ラオウはこれを『所詮、南斗の亜種未満』と過小評価していた。外功―――筋力を頼りとするのみの技であり、内功の爆発―――発勁。拳法の技とは無縁のものだと思っていた。

 それが全盛期を過ぎた老兵の、無い筈と慢心していた奥義に吹き飛ばされるという体たらく。

 

 多少離れた場に佇む二人の老兵を、ただの敵から死合うに足る強者とラオウは認識を改めた。

 

「―――アイス、タイム。」

 

 しかし、そこにこれまで警戒していた範囲外・想定外の方向、海から敵が来た。

 だが武術に浸り続けたその身は、驚きなど問題とせず、反撃を行う。

 

「むぅん!」

 

 右腕のバックブロー。多少の達人であっても即殺の拳を乱入者に叩きつける。

 ―――その手応えは人を殴った感触ではなく、氷の塊を殴ったもの。

 

「ぐっ――凍れ。」

 

 見聞色の覇気でラオウの攻撃の軌道を読んだクザンは、咄嗟に"覇気"の防御と、"悪魔の実"の流動化を同時に用いる。

 

 それでも、ラオウの闘気を込めた殴打によって、腹部から湧き上がる血の匂い、嘔吐感、骨が軋む不快感を感じる。

 しかし、それらを飲み込みながら、能力を発動した。この男を離すものか、逃がしてはならぬと、ラオウの腕を掴み、そのままその身を凍結させようとする。

 

 ガープとセンゴクが作ったチャンスを逃すわけにはいかない。世界政府・海軍に対し、間違いなく強大な敵となるだろう人物をココで逃す事は許されない。

 普段、クザンは『だらけきった正義』などといっても、その性根は誰よりも熱い。

 

「ぬう!?―――どりゃあ!!」

 

 体が凍らされる事を感じたラオウは、瞬時に"闘気"を左手の平に溜めると共に、それを高熱に変えクザンに叩きこむ。

 一瞬で人はおろか海を氷漬けにする冷気と、一瞬で鋼鉄を溶断する猛烈な熱を持つ"闘気"。

 ぶつかり合ったそれは、水蒸気爆発を引き起こした。

 

「どわぁっっ!!」

 

 クザンは叫びを上げながら海に飛ばされ、ラオウもまた爆発を正面からまともに受け飛ばされた。

 

「ぐぬっ―――っ!」

 

 

 余談だが、2ヶ月のアルコルの滞在期間。

 ラオウは未熟者には脅威となる"悪魔の実"のことを考え、見せる以外に教えることが出来ない、北斗神拳以外の技でソレに対抗する拳法を徒弟達に伝える事を考えた。

 熟慮の末、彼らに大まかな概要を伝えた拳法は【元斗皇拳】―――北斗神拳と同じく『天帝の守護の拳』と称され、あるいは北斗神拳を上回ると囁かれている拳法。

 技を伝えるため、ラオウ自身、技に磨きをかけていたことが幸いした。

 あの2ヶ月の修行がなかったら、これほど技を速く使うことは叶わず、右腕に致命的な傷をもらっていたことだろう。

 

 

 再び吹き飛ばされたラオウは、マリージョア中央側、センゴク、ガープたちのいる10メートルほど前になんとか着地する。

 

(ちぃ。おのれ、老兵ども……これを狙っていたか。)

 

 全身に擦過傷、切り傷、火傷と刻まれ。

 さらに凍傷、爆発のダメージを受けた右腕には、痺れを覚えているラオウだが、その表情は痛みの苦痛など浮かんでいない。

 来ないと思い込んでいた海側からの奇襲。

 最強といわれる白ひげと闘っていながらも"悪魔の実"の威力への軽視。そんな己の慢心、不甲斐なさに対する憤怒に満ちていた。

 

 かつて、エサで釣り、おびき寄せ、部屋ごと巻き込み自爆する。そんな作戦を画策した軍師―――"海のリハク"に突け入れられた以来の屈辱であった。同じことを繰り返してしまった。

 片膝をつきながらラオウは、北斗神拳は封じながらの不本意な戦いではあるが、死を覚悟する。

 

「……ぬ……むぅ?」

 

 しかし、追撃が来ない。

 

 真っ先に強襲するだろうセンゴクたちがいる場に、ラオウは目を移す。

 そこには、腕に巻かれた電伝虫に叫ぶセンゴク、傍らにスモーカーが冷や汗を流しなら立ち、少し離れたところで戦意を失って鼻に指を突っ込んでるガープの姿があった。

 

 場に戦意がないことを確認したラオウは、その雰囲気にため息をつき、とりあえず瓦礫に埋まった荷物を掘り出しはじめた。

 一方、海軍の元帥とその上司である五老星の言い争いはヒートアップしていた。

 

「なぜですっ!?あと少しで―――!」

『ならん。拳皇の力は未知数。戦争を控えたこの状況で、その様な敵と戦うことは認められん!!』

 

 五老星に近く行われる【白ひげ海賊団】との決戦の事を示唆されたことをセンゴクは悟った。

 

「しかし、ヤツをここで逃せば―――。」

 

 二の句に詰まりながらも、なお反論を重ねようとするが、別の声が落ち着きと威圧を込めて声を上げる。

 

『……センゴク元帥。君の正義は『仁義』だったはずだな?我々は【拳皇】に借りがある。"仁義"に背くわけにいかんのだ。』

 

 己の信条を引き合いに出され、絶句したセンゴク。

 そこに、これまでの緊迫した闘気を収め、いつもの呑気な雰囲気を醸すガープが、センゴクの肩を叩きながら辺りを見回し、言う。

 

「センゴク。これ以上、闘っておったら、ウザったい連中にナニを言われるか分からんわい。それに【拳皇】は……。」

 

 言うにつられてラオウのいる方向を見る。

 やる気を失った【拳皇】は、瓦礫の中から私物を取り出し、外套を纏い、荷物袋を肩がけにして踵を返そうとしていた。

 

「「…………。」」

「のぉ?」

 

 嫌な空気が辺りに流れる。根がとても真面目なセンゴク、スモーカーはそれぞれ固まってしまっていた。電伝虫の向こうで聞き耳を立てている五老星の面々も同様である。

 ラオウもまた絶句していた。

 

 ラオウは(漁夫の利を得ようとしている下衆の前で、これ以上の技を見せる気がしない。)こう考えた。

 だからこそ敵が引くならば、と去ろうとしていた。しかし、呼び止められてしまった。

 

 センゴクは途中から、(たしかに、立ち去ってくれるなら現状では最良。)そう考え、五老星との口論に没頭することにして、時が過ぎるのを待っていた。

 しかし―――気付かされてしまった。

 

 気まずい。

 

 ガープがすべきは、もはや災害と冠するに相応しいラオウを黙って見逃せばいいはずなのに、このド天然[大バカ]は空気を察しても、空気を読まない。

 そして、この固まった空気を読まないのもガープだった。

 

「ん?行かんのか?」

 

 ………………。((((―――お前が、原因だろ!?))))

 

 奇妙にも、この感想で場は一致していた。

 とりあえず、ガープの破天荒に最も慣れているセンゴクがラオウに言う。

 

「命令だ。これ以上は戦わん。去れ。船をくれてやることは出来んがな―――。」

「……よかろう。奥義を尽くせぬ闘いなど、これ以上、望まぬわ。」

 

 去ることができるならばやってみろ。言外に込められた皮肉を気にもかけず、ラオウが身を翻したところだった。

 海に飛ばされていたクザンが突撃をかけてきた。彼には未だ停戦命令は伝わっていなかった。

 

「―――アイス塊 両棘矛[アイスブロック パルチザン]!!」

 

 次々とラオウに突き刺さる氷の槍。しかし、その姿は次の瞬間には消え失せる。

 攻撃が当たったかに見えたそれは、軽功術:【雷暴神脚】が見せた残像。本物のラオウは、その位置から離れた海側に立っていた。

 海軍元帥から大将、英雄:ガープ、スモーカーに至る面々が、そのあまりの速さに目を見張る。

 

「ふん、部下のしつけがなってないな。―――南斗雷震掌[なんとらいしんしょう]!!」

 

 高く突き上げた指を、ラオウは地面に突き刺す。

 そこから、地を奔った"闘気"はクザンの足元で火柱のように噴出する。

 

「ぐわあああ!!」「くっ!」「クザンっ!!」「うっ!」

 

 その"闘気"を真正面に受けたクザンが悲鳴を上げ、近くにいたセンゴク達は思わず防御態勢を取る。

 気柱が収まり、辺りを確認する余裕が生まれた彼らの視界に【拳皇】の姿は既になかった。 

 

「………逃げおったのぉ。」

「……ガープさん、こっちの心配はしてくれないんですか?」

「お前がそう簡単に、おっ死ぬタマかい。」

 

 彼らが"見聞色の覇気"で去ったラオウを感知すれば、どうやら"六式・月歩"の要領で、シャボンディ諸島に向けて海の上を走っているようだった。

 そのあまりにも見事な逃げ方に感嘆を上げるガープと、ラオウの闘気で全身に傷を負ってボロボロのクザンが言い合う。

 

「……とにかく、俺は五老星に【拳皇】について問いただしてくる。お前らは片付けを……。」

「ワシも行くぞ!」「……俺も。」

 

 上司に事の顛末を報告、戦闘停止の理由を伺いに行こうとするセンゴクに、ガープとクザンは付いていこうとする。

 …………しかし。

 

「―――へぇ、街をぶっ壊した男どもは、あたしに始末を全部押し付けようってんのかい?」

 

 彼らの背後から【拳皇】の覇気のソレとは別の……。しかし、逆らったら確実にひどい目に合うことが予測できる恐怖を感じさせる。そんなドスの効いた声を上げながら、笑顔を浮かべている者の気配がする。

 そして、勇気を振り絞って背後を見た彼らは、付き合いが長く、その手綱を握る老女の迫力に、恐れおののくことになった。

 




ちょっと拳王様っぽくない展開でありますが、もうい~や。原作完全崩壊のDD北斗の拳が原作者公認でありますし……。
こんな構成しか出来なくて申し訳ないです。そして、括弧統一が出来てない……。ダメダメです。

……………………とりあえず、散々プロットを練った結果、ラオウ様によるゴールド・ロジャー断罪は確定。こいつら完全にそりが合わないです。(大汗)
アンチ・ヘイトに加え、嫌われ系、SEKKYOU、チートになりかねないことに頭を痛めてます(拳王様はもともとチートですが)。

遅筆申し訳ない。批判を行うのはエネルギーの消耗が半端ないです。

テレビのコメンテーターとか、よくもあれだけ他人のことを、なんだかんだと言えるものだなぁ。と思えるこの頃。


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23話

 前回、敵の能力・奥義・知略などに対する慢心、奢りで師父:リュウケン、南斗の軍師:リハク以来、ひどい目にあったラオウ様。今回でやっとシャボンディ諸島入りです。

 ……つまり、前々から書いているように、タグにあるようなアンチ・ヘイトがここから始まります(念の為)。
 ご了承ください。

 最後に、お好きな処刑用BGMをかけた上で読むことをおすすめします。


 シャボンディ諸島、60番グローブ・海軍駐屯、世界政府出入りがメインとなる地区の本屋。

 そこで、筋肉が服を押し上げているのがよく分かる。それほど屈強な男が、立ち読みをしている。

 

 ツー、ペらッ、ツー、ペらッ、つー…………。

 

 男が本を読み進める早さはとても早く、ページをめくるのに大体10秒かかってない。右手から肘にかけて包帯を巻いているが器用なものである。

 彼が居座って半日近く。先ほどまで哲学・文学を同様のペースで読みふけっていた。そして今、読んでいる書棚のジャンルは兵器・戦術・"悪魔の実の辞典"などを扱うコーナー。

 かなりの専門用語が使われている難解な本ばかりなのだが、そんな難しい本を読んでいるようなペースには見えない。

 

 黒いインナーシャツの上、前を開けて羽織っているポロシャツの背中には『MARINE』と書かれ、被っている帽子・正面にも同じ文字。そしてカモメを象ったマークが描かれている。その服装からして海兵の一般兵だろう。

 しかし、普通、将官未満の海兵は"悪魔の実"の能力所持者。あるいは秘伝武術である六式を身につけていない限り、武器―――大抵は銃を携行しているものなのだが、彼が持っているモノは足元に置いてある荷物袋だけ。

 先に挙げた右腕に加え、ところどころに絆創膏、湿布をつけていることから、戦闘に従事したのが見て取れる。だが、この男はなぜ職務を放り捨ててそこにいるのか。

 

「あ、あのぉ……海兵さん……?」

「…………」

 

 そんな得体のしれない者に店主がおずおずと話しかける。だが男は無言。店主が黙れば、あるのは本をめくる音だけ……。

 服装が世を守る海兵だからこそ、なんとか店主も話しかけることが出来ていた。そうでなければ、声をかけるなどありえない。というより、存在感が怖くて近寄ることなど出来ない。

 

 しばらく黙読していた男はおもむろに手帳を取り出し、本の要点を書き込む。そしてまた、続きを読み進める。

 さすがにこれは立ち読みどころではなく、万引き・泥棒にも等しい行為である。たまらず店主は大声を張り上げた。

 

「そのっ!うちの店は長時間の立ち読みはお断り―――!」

〈ジロ……〉

「は、はひぃ~。ど、どどどど、どうぞお好きなだけお楽しみください~(泣)」

 

 ただ見ただけ。別に睨んだわけではないのだが、その眼力に圧倒され店主は奥に引っ込んでいく。男は再び本に目を戻し黙々と本を読む。

 あるいは男がかぶる帽子からはみ出た銀髪、伊達メガネの奥にある鋭い目つきを確認すれば、その人物が初頭手配額で億単位の値段が付いたことに話題となった者―――そう認めたことだったろう。

 

 

・ 暴凶星と超新星、そして…… の巻!

 

 

「そうか、【拳皇】はそんなところに。―――いや、絶対に手出しはするな。

 監視は遠距離で……そうだ。…………ハァ。」

 

 海軍元帥:センゴクはその報告を聞いて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ交信を終える。

 今でも、世界最強の一角に数えられる彼であるが、その称号に似つかわしくないことに包帯を巻き、その腕を吊っていた。

 大事を取って……とは言え、そんな姿はここ20年近くありえたことではない。力なく椅子に腰掛けたその様子には、疲労の色が濃かった。

 

 昨日から一昼夜……ほぼ休息なしでようやく、港の大破壊をマリージョアにいる者達全員で片付けた。

 その作業と【拳皇】との戦闘による体力の消耗も半端ではないが、それ以上に気疲れが彼らに疲労をもたらしていた。

 これ以上復旧が遅れていたら、あの生まれながらに与えられた権力を振るうことに何の疑問も持たない……。それゆえわがまま。人のやることにケチを付けることが大好きな連中からのクレームがとんでも無いことになっていただろう。

 

 今の時点でさえ、『安眠妨害だ。砂埃がひどい……』といった苦情をまとめた書類の束に辟易していた。

 

 そんな片付けの途中、ガープが逃げ出そうとする。クザンが眠りこける……などなどのすったもんだの果て。なんとか一息つけたところで来た報告。

 それによると、大破壊の発端となった男は、自分たちを嘲笑うかのように海軍の駐屯地近くの本屋で読書と来た。

 しかも、その服装はいつの間にか盗んでいたらしい海軍の軍服……。なめられているにも程がある。

 

「オー~なんとか、片付いたねぇ~……センゴクさん。」

「……ああ、ところでガープは?」

「ガープさんは……

 『疲れた。【拳皇】についてはお前が聞いてこい。ワシはメシ食って、寝る!』

 そう言って、食堂で50人分近くのメシを平らげたあと、ご自身の執務室でイビキかいて寝てます。スモーカーに時間になったら起こすように言っておきましたから、しばらくしたら起きてきますよ。」

「……アイツは、軍の執務室をなんだと思ってるんだ?」

「いつものことじゃないかい……」

 

 海軍大将・黄猿:ボルサリーノが終了を確認。ガープがいないことに疑問を感じたセンゴクに青キジ:クザンが答え。大参謀:つるが、呆れ混じりのため息を吐く。あの【英雄】の奔放さには呆れ返る以外ない。

『修行のために、山を拳骨で粉砕してきた!!』……などと、とんでも無いことを言ったのは何時だったろうか。

 

「しかしねぇ~、センゴクさん。この手配書はやりすぎじゃないかなぁ~?」

 

 そう言って、ボルサリーノは新品の手配書を手に取る。

 そこには『Dead or Alive―――生死問わず。【拳皇】ラオウ:7億7千万ベリー』―――なんと、それまでの2倍をゆうに超える値段が書かれていた。

 写真もまた、先日の騒動のものに差し替えられ、その闘いを楽しむ笑みが実に恐ろしく写っている。

 普通、億を超えたらそう簡単に上がらないものなのだが、この値上がりは異常。

 

「これでも引き下げた方だ。上からは『10億以上―――』そう言われていたのだ。……だが、そんな値段を軽々とつけるなど、海軍の誇りにかけて出来ん!……ところで、クザン。傷の具合はどうだ?」

 

 値段についてはさておき、彼らがいうところの"覇気"―――ラオウの"闘気"の気柱を真正面から受けたクザンを見てセンゴクは問う。

 昨日、彼はラオウの南斗聖拳の性質を持つ―――いわゆる、切り刻む"闘気"によって傷だらけにされた。

 大概ロギアの能力者は、並の人間が即死の攻撃であっても傷つくことなど殆ど無く、たとえ傷を負ってもすぐ治るはずなのだ……。

 

「治りが悪いですね。普通、"覇気"の攻撃でも、すぐに治るはずなんですけど……ちょっとかかりそうです。……まぁ、予定には間に合うと思いますよ。」

「あんな次元の"覇気"使いだからね。その程度ですんで良かったと思うべきさ。

 むしろセンゴク、アンタはどうなんだい?」

 

 つるが相槌を打ち、センゴクに問い返す。

 海軍随一の知恵者である彼女の見立てでさえ、『【拳皇】の底を計りきれない』というのが結論だった。

 だからこそ、疑問が浮かぶ。『あの状況で、たとえカリがあっても、あの超一級の危険人物との戦闘の停止を命じたのか』……と。

 

「おれも問題ない。これから五老星のところに行く。貴様らはどうする?」

「お~、行きましょう~。」

「……そうだね。ちゃんと、あの命令の理由は聞かないとね。」

「…………」

 

 元帥センゴクにボルサリーノ、つる、クザンの順で続く。

 ひとまずこれで一段落。―――そう思っていたところに、とんでもない続きが起きるとは、予想だにしていなかった。

 

 

 話題の男―――ラオウは頭を悩ませていた。

 物見兼、腕試しに乱入しようと思っている海軍本部:マリンフォードが思った以上に厳しい場所だったからだ。

 

 ラオウは先日マリージョアで見た海軍本部の概要を思い出す。大将と戦うまでに一体どれだけの雑兵、ザコ共と戦わなければならないかと思うと大概だった。

 もちろんその気になれば、相手が"悪魔の実"の力を持っていても、それが"気"を扱えない者であれば何万いようとも、ラオウには問題にならない。

 

 兵士がただ銃を撃てる程度ならば、闘気をぶつけただけで昇天。多少の六式使いであっても、"覇気"を使えないならば秒殺。たとえ覇気を使えてもその練度が並程度ならば、1分も持たないだろう。

 しかし、最悪を想定するなら……。

 例えば、右腕に全治3日ほどの傷を食らわせた青キジ。彼の能力を考えれば、海に投げ出し、まるごと凍らす。そんなことが予想できる。

 あるいは、他の"悪魔の実"の使い手がコンビネーションを発揮したら。

 右腕にダメージを負ったことに加え、様々な敵の戦法。敵の本拠地という悪条件の中で浅略に出れば、それこそ20年程前に単独で海軍本部に突撃をかけて捕まった、舵輪の鶏冠をつけた海賊の二の舞を演じるだけ……。

 先日は、それらの危険性を感じたための撤退だった。

 

 これは、過去ラオウが覇業を目指す出発点。

 師父:リュウケンと死合いにおいて……師匠とは言え、老いぼれた麒麟に負けるはずがないと挑んだ。その結果、伝承者の秘奥義に一方的に血だるまにされる事となった。

 それでも、その時は幸運を掴み、辛勝。

 だが、それ以来、ラオウは相手が格下であろうとも相手の見極め、様子見を欠かさなくなった。

 あの師父との闘いの経験で得た慎重さ。これもまた、あの世紀末の荒野でラオウを覇者と呼ばれるに押し上げる要因となった。

 

 ましてや今は世界最強である【白ひげ】との決着を控えている身。だからこそ、とりあえず粗忽な行動は控えようとラオウは考える。

 

(―――だが、海軍大将は紛れも無く強者。こちらからではなく、大将だけをおびき寄せ戦うことは出来ぬものか……)

 

 そんな、どう考えても都合のいい。甘ったれた考えを頭を振って打ち消しながら、視線がねちっこい海軍の監視を撒く。

 遅くなった昼食を取るため、レストランがある24番グローブに向かっている途中のことだった。

 

 前方から、フルアーマーの騎士らしき者が看護師姿の女を引っ張ってきていた。

 

「お願いです。お願いですから、彼に手当だけでも。どうか、手当だけでも……」

「ちっ、いいから歩け。天竜人様に夫人として召し上げられておきながら下賎な下々民を気遣うな。」

 

 その言葉を受け、なお女は涙を流す。人はまばらなところだが、あたりの者は女性の事情を察し、いたたまれない表情を浮かべている。

 ラオウの―――北斗の者として鍛えられた聴力は、最低1キロメートル先のささやき声を聞き分ける。それらの会話も、当然、聞き漏らす事はない。

 その中で、ある単語に興味をひかれた。

 

「むぅ……」(……天……龍……?)

 

 騎士はゆっくりと近づく海兵―――ラオウの姿を認め、『なぜ海兵がこんなところにいるか?』―――そう、訝しみながらも制止を命令する。

 

「なんだ海兵、失せろ!私は天竜人様の撲、貴様に用はない。」

 

 常に天竜人の看板に守られたため、恐怖など滅多に感じないその鈍感さ。虎の威を借る狐でなければ、こんなことを言うことはなかっただろう。

 その騎士が吐いた言葉は、ラオウの怒りに触れるに十分だった。

 

「………………」[スッ]

「?何だそれは。聞こえなかったのか!?うせ……らぁべッ―――!!」

 

 眼前に指を突き出されたのを見た男は、わけも分からず、もう一度「―――失せろ」そう言おうとした。

 瞬間、指先に光が淡く見えたのがその騎士の最期に見た光景になった。

 

 男の肉体は爆散した。

 

 それは以前、ラオウが無人島で修行していたとき【赤髪】が見た―――岩を指一本から発した"気"で粉砕した技。

 今回、その破壊の対象は、岩ではなく人。その肉体は原型を留めず、残るのは血煙と肉片に塗れた鎧のみと化していた。

 

 この惨殺劇にあたりにいるものは皆、顔面蒼白。

 連れられていた看護師:マリィは先程目の前で婚約者が撃たれたことに加え、このむごたらしい殺人現場で精神が限界に達し、錯乱状態。どうしようもない程に震えていた。

 

「あ、……ああ、あ……」

「…………定神」

 

 その様子を一瞥したラオウは素早く鼻の下を点穴する。

 突いた秘孔は【定神(ていしん)】錯乱状態にある者を気絶させ、目覚めたときに落ち着かせるという秘孔。

 点穴が効き、女が伏した事を確認すると、ラオウはおもむろに変装に使っていた軍服を脱ぎ捨てる。

 そしてマントを荷物袋から取り出し、羽織った。

 

「おい、てめぇ『天竜人』の兵隊を手に掛けるってどういうつもりだ!?」

 

 そこに引きつった顔を浮かべながら、ピンク色の髪の女が怒鳴りかけてきた。そして、部下らしい者達が遠巻きにラオウを囲む。

 しかし、ラオウは動じない。むしろ疑問を返す。

 

「……女、『天竜人』とはなんだ?」

「はぁ?『世界貴族』だろうが―――じゃねぇよ!この島に『大将』呼び寄せる気か!?ウチラに迷惑を……」

「―――ほぅ、それで。その『天竜人』とやらを殺せば大将が出てくるのか?」

 

 会話から世界貴族の別称であることを知り、ラオウは苛立ちを覚える。

 しかし、同時に(殺すことによって『海軍大将』が自ら出張ってくるならば、好都合)―――そう考え、凶相を浮かべる。

 その考えはピンク色の髪を持つ女海賊、億単位の賞金額を付けられているジュエリー・ボニーですら埒外の考え。理解までに時間を要するほどのモノだった。

 

「……――――なっ!?……てめェ、正気か!!」

「うぬは海賊であろう。なぜ海軍如き恐れる?」

「相手は海軍大将だぞ?!わかってんのか??―――勝てるわけがないだろうが!!」

 

 それはボニーがよく知る海軍の。そして、大将の力への恐怖から出てきた。悲鳴に近い叫びだった。

 しかし、ラオウは淡々と返すのみ。

 

「勝てぬ……か。所詮、女の身ではそこまでか……。」

「ほ、本気で大将と戦う気なのか……い、イカれてる……。」

「―――そこの女を連れて行け。」

 

 そして、ぶっきらぼうに24番グローブを指しながらボニーに命令するラオウ。

 もちろん、ボニーが反発しないわけがない。

 

「ちょっ……なんで、あたしがそんなことを!?」

「所詮、貴様は力の前に忍従するのみであろう?もう一度、言う。連れて行け。」

「う……ぐ……。」

 

 ボニーは、彼女の一味の者共もまた、このほんの少しのラオウとの接触で、格の違いを感じたからこそ黙るしか無い。

 もはや彼女らに興味はないと、ラオウは持ち前の嗅覚と聴力、"気"の探知でそれらしい気配を感じ取ると、身を翻し1番グローブの方向へ駆け出した。

 

「『天』を名乗る者、か。―――よかろう。このラオウが見定めてくれるわ!」

 

 ボニーはその背を、見つめているだけしか出来なかった。その体が、重く、硬直していくのがわかった。そして、顔の熱が上がるのを感じていた。

 

「……ボニー船長。」

 

 そんな中、船長の身を案じた部下が声をかける。

 ありえないことを考えた。―――と、思わず頭を振って意識を取り戻したボニーは指示を出す。

 

「あんた達は出港の準備をしときな!……あたしはコイツを運ぶ。アイツはあのバカ助どころじゃない。海軍が―――大将が来る前にずらかるよ!!」

 

 船長の指示に、ボニー海賊団の部下達は慌てて行動を開始した。

 そんな一部始終を、更に遠巻きに眺めていた者がいた。【赤旗】:X・ドレークだった。

 

「ドレーク船長……」

「出港準備だけはしておけ。―――あれが【拳皇】。ニュースも、噂も当てにならんな。」

 

 ドレークが知っているラオウの噂。

 

『【四皇】に喧嘩を売った【拳皇】は、その力に追い落とされた"新世界"の脱落者。

 その過去よって七武海の候補に上がった。……そして、マリージョアで交渉が行われた。

 だが―――決裂。

 結果、英雄:ガープ、仏:センゴクと聖地・マリージョアにて闘い、そこでもまた【拳皇】は辛くも逃げ出した。』

 

 つまり―――力はあるが、あくまでも逃げ足のみの人物。

 それが、メンツを重んじる政府によって広められた噂であった。

 

 しかし、それらの噂は実際と違う事を確信する。

 それと同時に、世の不安をもたらさないために行われたのだろう情報操作が、拳皇の存在が、とんでも無いことになる予感をドレークは覚えていた。

 

 

 …………

 

 

 辺りが静寂に包まれていた。

 海賊"麦わらのルフィ"が天竜人:チャルロス聖を殴り飛ばした。

 あまりにもイカれた行動に、その場に居合わせた者達ほとんどが唖然と口を開くのみだった。

 

「悪い、お前ら…………。

 コイツ殴ったら、海軍の"大将"が軍艦引っぱって来んだって………………」

 

 事を起こした"麦わらのルフィ"が仲間に詫びたその時だった。入り口からマントを頭までかぶった男が現れたのは。

 その男――――ラオウは辺りを見回すと、入り口近くまで殴り飛ばされた天竜人に近づき……。

 

《―――ドグシャッ!!》

 

 ―――チャルロスの頭を踏みつぶした。

 

「……これが、"天"……だと―――?!」

 

 この凶行には、ニヤけながら"麦わら"の行いを見ていた他の海賊も、顔がひきつる有り様だった。

 そんな周囲のことなぞ気にせず、憤怒の気配を隠さず、ラオウはサングラスをかけた天竜人へ向けて歩き出す。

 そこでようやく衛兵達は正気に帰り、通路を歩く殺人犯に攻撃を仕掛ける。

 

「て、天竜人様に、チャルロス聖に―――!!」「貴様―――」

 

 しかし、ラオウの間合いに入った瞬間。

 彼らの頭部には次々と穴が、それも兜などにヒビ一つなく空いていく。

 

「どえっ」「ふぇっ」「衛兵、出会え~~~バラボぁ」

 

 その時点でなんとか体が動いた者は仲間がやられたため、あるいは恐怖に駆られて、チャルロスを殴り飛ばした"麦わら"などすでに無視し、皆、一様に叫び声を上げながらラオウに向けて一斉に飛びかかる。

 

「「「ぬおぅわ~~!!」」」

「ぴっ」「ぺっ」「ぱらペっ」「ちょ」「ひっ」「わっ」

 

 それでも次々に、左手一本指の指弾を容赦なく叩きこまれ、珍妙な叫びを上げて停止する。

 そして、ラオウは"天"を名乗るにはあまりにも何の素質も資質も、まして英気も感じないゴミを前にする。

 

「―――きさま、なめとんのかコラ!」

「へっ……あ……よくも息子を!!この世界の創造主の末裔の―――あでっ!?」

 

 歩く途中フードがはずれ、怒りがにじみ出る顔があらわになったラオウに臆すこと無くロズワードは銃を向ける。瞬間、銃は手からなくなっていた。

 その銃を持つ手を打ち払われていた。尤も、打撃自体は大したことは無く、ケガと言えるほどではない。

 

「珍妙な兜だな……何だそれは?」

「ぬうぅぅ、『海軍大将』と『軍艦』を呼べ!!目にモノを―――ぎっ!?」

「貴様は耳が聞こえないのか?……被り物はなんだ?そう聞いている。」

 

 復讐のため――と、周囲にいるだろう下僕に命令を下す途中、思わぬ痛みに悲鳴を上げたロズワード聖の左耳は切り落とされていた。

 その斬撃の余波で、ついでとばかりに頭部のシャボンは弾ける。

 

「おれ、飛ぶとも行ってないんですけど~~~。どわあああああああ」

 

 そこに、数匹のトビウオがオークション会場に文字通り飛び入り、それぞれから飛び降りる者達がいた。

 その内の一人、それがラオウの頭上に何か落ちてきたが、ラオウは視線も向けずに"闘気"の壁ではじき飛ばす。

 今、ハエにかかずらう気などラオウには毛頭に無い。

 

「あああああああ」《ドガシャッ》「う、ウソップ~~!?」

 

 どんなに鈍くとも。普通の人生を送ってきたならば、ラオウの存在、威圧感に恐怖を覚えるだろう。

 しかし、長い歴史で血に刻まれたその鈍感な精神は恐怖を感じることもなく、ただ罵詈雑言を吐く。

 

「貴様―――このわしに下賎な下々民と、同じ空気を吸わせるとは―――

《ドババ、どバ、ドバドドバババババ》……―――ひっ!?あがっ!!」

 

 言う途中、それまで停止していた衛兵達がわずかに身動ぎをすると共に、その全てが肉片と血煙になって爆散する。

 遅くながらやっと、その人生で初めて感じることになった恐怖に悲鳴を上げる間もなく、ロズワードは左こめかみに指弾を叩きこまれた。

 

「……息を吸いたくない……か。」

 

 ラオウは突き入れた指を軽く捻った後、それを引き抜き、ステージ……三人目の天竜人へ歩を進める。

 自分もまた何かされたと悟ったロズワードは、思わず声を上げる。

 

「き、貴様……何を―――ハガッ!?……ガッ……はっ」

 

 言う途中、異常がロズワードに振りかかる。息が吸えない。声を出すことは――息を吐くことはできたのに―――。

 困惑と焦り、苦しさにもがく男にラオウは静かに言い放つ。

 

「息を吸いたく無いのだろう?喘破〈ぜんは〉という秘孔を突いた。

 ――――息を吐けても、吸うことは出来ぬ。」

「そ、そん……な…………っは!」

《ドサッ》

「お父様~~~~ヒッ――――」

 

 ロズワードの娘―――シャルリア宮が、父親の死に悲鳴を上げかけるが、ラオウのひと睨みで黙らせられる。

 その威圧感に気を失うことも出来ず、ただ震えながら見ることしかできないでいた。

 そこにラオウは、まさに下の者に指図するように、手の平を向けて言う。

 

「女、うぬらが『天竜人』と、そのふざけた名を名乗る限り、このラオウが敵になる。

 ……それを語るがいい。―――む!?」

「天竜人を嫌うのはわかるが、あんまり、女性をいじめるものでは無いと思うがね。

 ―――若いの?」

 

 "覇王色の覇気"をぶつけてラオウの気を引き、同時に天竜人シャルリアの意識を飛ばしたのは、ステージに穴を開けて現れた老人だった。

 すかさず、残りの衛兵たち、隙を伺っていた者達がラオウに向け、一斉に飛びかかる。

 

 だが―――

 

「北斗劉家拳―――魔舞紅躁(まぶこうそう)」

 

 飛びかかった衛兵達は空中で静止。そして突風が吹き抜ける音とともに、一瞬で血霧の風と化しながら消し飛んだ。

 その惨劇、技名に老兵、冥王シルバーズ・レイリーは目を見開き、言葉を漏らす。

 

「―――っ!?北斗……だと……」

 

 




 ラオウ様、大暴れ。

 秘孔:喘破(ぜんは)北斗の拳、作中でケンシロウが使った、被害者を窒息させる秘孔です。
 書き始めた時から、これを天竜人に決めてやろうと思ってました。

 やっと、使うことが出来た。……後半が文章になってない気がする。相変わらず下手くそ。

 さておき、今までグダグダしてたので、話を一気に進めました。……ハハハ……乾いた笑いしか出て来ない。世紀末覇者、半端ない。

 師匠リュウケンに「そんな(天を握る)ことは神が許さぬぞ!! 」……そう言われれば「―――ならば神とも戦うまで!! 」こう言い返す、生き様を貫き通したラオウ様の前では、超新星などと呼ばれてても格が違う。
 ケンシロウが『ラオウの血は時代に飲まれぬ』―――そう言ってたけど、拳王は世界にすら飲まれない。―――ホント、どうしてこうなった!?
 書いている自分にも止められません。


 ボニーの口調、その他にまるで自信ナシです。指摘をいただいたらすぐに直そうと思います。


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24話

 Warning!! Warning!!
 以後、強烈なアンチ・ヘイト、蹂躙が入ります。ご注意ください。




 場所は24番グローブ。億超えの海賊を死体とした男は、調度良く通りすがり海兵を見つける。その海兵がつける階級章は准将。

 

「ちょうどええ。報告せい。【拳皇】はどこじゃ?」

「ひっ、サカズキ大将!?」

 

 海軍大将サカズキは怯える姿に自身の派閥ではない事を確信すると共に、普段の己に怯えたのだろうと溜息をつく。

 その無様な有り様から察するに、おそらく将校は無法者の前から逃げ出したのだろう。

 普段のサカズキならば"即殺"であるが、今回は仕方がない。相手は世界政府の役人がバスターコールで葬り去ろうとした上、つい先日には海軍の上層部複数人とまとめて渡り合った【拳皇】なのだ。相手が悪すぎる。仕方がない。そう己に言い聞かせ、自重する。

 とりあえずは海軍に階級がある以上、質問に答えるだろうと思い回答を待った。

 

「!?何じゃい。その顔は・・・」

 

 しかし、准将は顔が歪むとともに、訳の分からない悲鳴を上げはじめる。

 

「あわ、あう……わ、あが、がばば……ぼぉおっ!!……けん……おう…………」

 

 そして肉体から血煙を吹き出し爆散。最期の一言を遺し、事切れた。

 その准将の遺した言葉は、返り血を浴びながらもサカズキの耳に届いく。漠然と理解した。これは――挑戦状。自分たち海軍、世界政府を【拳皇】があざ笑ったと。

 

「―――っ、おのれ拳皇!貴様だけは生かしちゃぁおかん!!」

 

 そのエリア、グローブ全てに海軍大将:サカズキの怒号が響き渡った。

 

 

・その報に激震する者達 の巻

 

 

 時をその怒号から多少、遡る。

 

「ふん、甘いことをぬかすから、バカどもがつけ上がる。・・・それで貴様は北斗の何を知っている?」

 

 隙を見たとばかりに襲ってきた衛兵たちを血風と肉片に変えて葬ったラオウは、甘いことを言った乱入者の老人【冥王】シルバーズ・レイリーを推し量る。

 北斗の名を呟いたレイリーにラオウの興味が向いたため、オークション会場の者達は天竜人とその衛兵のみならず、その場にいる海賊たちもまた開放される。そして彼らは各々に惨劇を引き起こした【拳皇】の技を考察する。

 

「―――なんだ。今のは……?」「悪魔の実か!?」「あ、あ、あいつ、ヤバイ……」

 

 その中で1人、ラオウの頭上に落下した長鼻はあからさまに怯えを見せる。

 また、威圧から開放されたのは観客達も同じだった。感情と恐怖のタガが外れた彼らは、各々思う限りに叫びながら会場から逃げ出す。

 

「て、天竜人を殺した~~~!」「海軍本部から"大将"と"軍艦"が来るぞ~~~!!」

「海賊が天竜人を手にかけた~~~!!」「にげろ~~~!」

 

「……このラオウをザコ共と、海賊と一緒くたにするな。」

 

 不機嫌なため息を吐きながら、ラオウは肩がけにした荷物の紐を持ち直す。

 

 周囲の者が【悪魔の実】と勘違いした技は、ラオウが左腕のみで放った北斗劉家拳―――北斗琉拳とも呼ばれる拳法の奥義。疾風の如き速さを持つ拳で秘孔を突く【魔舞紅躁〈まぶこうそう〉】。

 

 場にいる殆どの者には、突風とともに人が消し飛んだようにしか見えていないかった。悪魔の実と勘違いするのも無理は無い。――尤も、それをラオウ本人に言ったら、血の滲むような修練で身につけた業を手品扱いされた。と、怒り狂うことだろうが・・・。

 そんな中、おぼろげながらもラオウが何をしたか、数えきれぬ拳の弾幕を放ったと冥王:シルバーズ・レイリーだけは感じとっていた。

 

(…………これが、伝説の……)

「にゅ~、レイリー……」

 

 シルバーズ・レイリーが、ラオウの凄まじき技と覇気に唸っているところ、彼の記憶にある声がした。

 

「おお、ハチじゃないか!久しぶりだ―――その傷はどうした!?……ああ、言わんでいい…………成る程、ひどい目にあったな、ハチ。」

 

 警戒をしているが、今のところ敵意は持っている様子はない北斗の使い手のことはひとまず置いておいて、レイリーはその場を探り状況を把握した後、場を鎮めるために覇気を飛ばし威嚇する。

 それによって足がすくんで残っていた観客、ラオウに対する恐怖に竦み上がり最後まで戦いに参加できなかった衛兵が倒れた。

 

「会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ!」

 

(広く、薄く、弱く、ただ当てるのみ。"心の一方"に似た"気"の扱いか。

 しかし、モンキー・Dだと?……まぁ、いい。)

 

 老兵が発した技を考察しながら、ラオウは一つ疑念と嫌悪感を混じったモノを抱く。

 そして、レイリーが敵意を向けてはいないと判断を下し、蚊帳の外に置かれた事に多少の不満はあるが、少々気になった会話が聞こえる奥の部屋に踏み込んで行った。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 聖地:マリージョア 海軍:元帥センゴク執務室

 

「「「「………………」」」」

 

 元帥:センゴク、海軍大将:青キジと黄猿、大参謀:つる。彼らは一様に黙りこんでいた。

 

『北斗……それは―――』

 

 先程、五老星から語られた伝説を改めて噛み締めていた。

 

「……あの話、信じられるか?」

「アレだけの事をやらかせるのだから、きっと事実だろうね」

 

 センゴクが思わず吐いた問いに、つるは先日の闘いを指し、冷静に返す。

 拳皇はゴールド・ロジャーの時代トップを張った二人と戦い、悪魔の実の力を借りずに"覇気"を打ち出すという超絶技巧を見せつけ、己の不利が決定的になった時点で見事に撤退を果たした。

 

 しかし、それでも、あの話はあまりにも衝撃だった。

 仮にその話を認めるならば、近いうちに起こるだろう【白ひげ海賊団】との戦争に用いるだろう海軍の戦力。その全てをぶつけないでもしない限り、たった一人であるはずの【拳皇】を打倒することは不可能なのではないか。そう、参謀:つると元帥:センゴクは見込んでしまっていた。

 そんな仮定を時間をかけて噛みしめる間もなく、彼らには新たな情報が飛び込む。

 

「センゴク元帥、大変です!!"麦わら一味"が天竜人を―――」

「……"麦わら"。また、あの小僧か……」

 

 グランドライン前半部でとんでも無い暴れ方をして来た海賊一味。それを率いる、腐れ縁の孫を思い出し、センゴクは額に手をあてる。

 情報を持ってきた将校は、続けて同じ場所に海賊;ユースタス・キッド、海賊:トラファルガー・ロー、加えて彼らの部下たちが居合わせた事。その場にいる賞金首の人数を報告。その後、現場と連絡が取れないことから、人間オークションハウスの者は全てやられた可能性を伝えた。

 

「何がどうであれ、世界貴族に手を出されて、我々が動かんわけにはいかんでしょう。わっしが出ましょう。すぐ戻ります」

 

 その報告に対し、黄猿が出撃すると言いだした。

 普段からこの男もまた、青キジに劣らずの、のらりくらりとだらけきったものだが、やる時はやるのだ。こいつが出向くならばなんとかなるだろう。そんな安堵の空気が生まれる。

 しかし、そこにまた別の情報官が駆け込んできた。その報告は緩んだ空気をあっさりと吹き飛ばした。

 

「元帥!!職業安定所の天竜人3名、うち2名が死亡!!犯人の容貌を推察するに、賞金額7億7千万ベリー【拳皇】です!!」

「「「!?」」」

「なん……だと……」

 

 全員が絶句し、センゴクでさえ信じられない。という表情を浮かべていた。そして、その後に続く報告で一同は愕然とする。

 

「――なお、同様の報告を聞いたサカズキ大将は、既にマリンフォードから出撃されました!!」

 

 その言葉に面々の気色は青くなる。相手が並みならば、これまで敵を文字通り灰塵に化して来たサカズキが出撃したのならば、この時点で皆、安心して茶でも飲み始めていただろう。だが、今回は相手の凄まじさ、危険性が度を超えている。むしろ、先ほど聞いた話から推察すれば、ガープとセンゴクの二人と渡り合ったことを考えれば、大将一人で戦えば返り討ちにされるだろう。

 背筋に冷たいものが走ったセンゴクは慌てて黄猿に命令を下す。

 

「黄猿、急げ!!【拳皇】とサカズキが戦うことをなんとしても避けろ。今の時点で我々は戦力を消耗することは出来ん。現場にもそう伝達するのを忘れるな!!」

「わかりました。行ってきましょう!」

 

 その伝説を五老星から聞かされてしまったからには仕方がない。だが、天竜人に対する役目・義務が海兵上層部にある以上、どうしようもないことも確かだ。

 彼らに出来る事は投入できる戦力を以って【拳皇】から受ける被害を何としてでも減らし、同時に体目だけでも何とか役目を果たさなくてはならない。そう動くしかなかった。

 

 

 聖地:マリージョア 五老星 執務室

 

 同様の衝撃を受けていたのは、海軍上層部のみではなかった。

 それは世界政府の頭脳、五老星たちも同様だった。それぞれが皆、暗い表情を浮かべていた。

 

「見誤ったな……」

「……ああ」

 

 思い出すのは先日のこと。あの時の一言を肝に銘じておけばこんな事にはならなかっただろう。

 しかし、彼らは死神の気配に圧倒されながらも気丈に立ち向かったのだ。その後に瑣末な手抜かりがあっても、それを誰が責められようか。

 

『北斗の拳は天帝の守護拳。英雄を密かに守護し、平和を祈る拳だ。―――天命に生きるものを殺しはしない』

 

 先日、現れた死神。ラオウはたしかにそう言った。

 ならば、世界政府創設者その英雄の血筋。それだけで【天】を名乗り、文字通りの傍若無人を通す世界貴族を―――天竜人をあの死神が前にすればどうなるか。

 

 あの時、ラオウは搦め手を使って己を手駒にしようとしたスパンダインの行動に怒り、わざわざ出向いてそれを始末し、報復のついでに世界政府最高責任者:五老星に釘を刺しに来たのだ。

 それらの行動を鑑みれば簡単に予想が付くことだった。【拳皇】がいる場所に天竜人が出向く事は何としてでも止めなければならなかった。

 

「……今、ヤツと戦えば、たとえ倒すことが出来ても、戦力を食いつぶすことになるな」

「前提が違う。それは『うまく行けば』という話だ。多分に我々は大将を失い。そのまま奴が再びこの地に踏み込んで来ることが考えられる。そうなれば……」

「世界政府は終わりだな。だが、悔やんでも仕方ない。そして、海軍のみではどうにもなるまい。―――どうする?」

「……それは、何とかして追い払うしかあるまい」

「何をバカな……追い払う?ふむ、そうか、なるほど……電伝虫を―――」

 

 北斗神拳の使い手とは過去、世界政府が相手取った、いかなる敵よりも絶望的な相手。それを理解していても世界政府の頭脳であり、最高責任者である彼らに退路はない。やることはただ知恵を絞ることのみだった。

 

 

 

 




とりあえず投稿……長くお待たせしました。
次は……未定。


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