バカとテストと緋想天 (coka/)
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プロローグ

「それでは、始めてください」

 

教師の言葉を合図に、私はテストの紙を裏返す。

最初は現代国語みたいね。

まぁ、私にかかれば余裕だけど!

 

 

私、比那名居天子が通っている、ここ文月学園は少し……いや、かなり特殊な学校だ。

この学園には、化学とオカルトと偶然によって生まれた『試験召喚獣』と、

それによるクラス間の『試験召喚戦争』というものが存在する。

 

この『召喚獣』は、ゲームとかに出てくる架空の生物ではなく、デフォルメされた自分に武装をさせたもの、所謂自分の分身が召喚される。

 

また、クラスはA~Fに分かれており、それぞれ設備のランクが違う。

Aクラスは、設備が学校とは思えないほど良く、教室自体もかなり広い。

 

逆に、Fクラスになると、整備が行き届いているのかさえ不安になるようなオンボロの教室で、

設備も普通の教室以下だそうだ。噂ではチョークすら無いらしい。

 

『試験召喚戦争』通称:試召戦争は、この設備の改善を主な目的として行われる。

 

 

教育委員会に訴えたら面白いことになりそうね!

………ま、この学校結構気に入ってるからやらないけど。

 

 

閑話休題

 

 

クラス分けは、今私が受けている『振り分け試験』の成績によって行われる。

Aクラスに行くには、この試験での成績順で50位までに入らないといけない。

 

なお、この学校のテストは点数の上限を無くしているため、時間内であれば無制限に問題を解くことができる。

だから、1科目数百点とかいった、普通ではありえない点数になることも多い。

まぁ、点数がかぶることはそうそうないわね~

 

 

―――――――――カッカラン

 

 

そんなことを考えながら問題を解いていると、何かの音が聞こえてくる。

 

……多分、誰かがペンでも落としたんでしょ。

そう思っていると、バタンッという誰かの倒れる音も聞こえた。

 

「姫路さん!大丈夫!?しっかりして!」

 

次いで、()()()()()()が聞こえる。

声のした方を見てみると、案の定そいつは、私がよく知っている人物だった。

 

倒れた生徒に駆け寄ったのね。

アイツらしいというかなんと言うか………

 

そんな二人に、試験管役の教師が近づく。

 

「姫路さん、試験の途中退席は『無得点』扱いとなるが、それでいいかね?」

「ちょ、先生!!」

 

途中退席やカンニングは無得点にされる。

試験前の注意事項で言われたことだ。

だが、()()()()は教師に突っかかる

 

「なんだね、吉井君」

「病気じゃ仕方ないじゃないですか!それに、無得点なんて酷いですよ!」

「私は最初に言いましたよ。途中退席とカンニングは無得点扱いにするとね。それに、体調管理も試験の内ですよ?それをできなかった姫路さんの責任です」

 

身も蓋もないわね~

 

「でも!!」

「はぁ、今は試験中ですよ。席に戻ってください!」

「………くっ」

 

そう言われ、悔しそうに教師を睨むバカ。

 

「何ですかその目は。私に逆らうつもりですか?あなたも無得点扱いにしますよ!」

 

………それは職権乱用じゃないかしら?

 

「………姫路さんはどうするんですか?」

「他の先生を呼んで、保健室に連れて行ってもらいます。さあ、早く席に戻りなさい」

 

渋々といった感じで、明久は席に戻った。

まったく、アイツは問題ばっかり起こすんだから。

まぁ、おかげで退屈はしないけどね~

 

 

ふと、さっきの教師がブツブツ何かを言っているのが聞こえた。

 

 

「まったく、ああゆう奴がいるから底の浅いガキの相手は嫌なんですよ。まあでも、私に歯向かったのですから、少し痛い目にはあってもらわないと……」ブツブツ

 

 

うわぁ、この先生もうダメね。

というか、そんなことを言っている時点で、底が浅いのは自分の方じゃない。

そんなことも解らないのに、よく教師になれたわねぇ

 

……おっと、こんな事で一々腹を立てていたら時間の無駄だわ。

さっさと問題を―――――――

 

 

 

「……………はぁ」

 

 

やっぱりダメね。

これじゃ、()()()()()

 

 

 

どうせアイツ等のことだから、Fクラス行きは確定。

私は私でA~Cのどこかには入れる。

でも、それじゃあ絶対つまらないわ。

 

多分、アイツは私に会いに来るでしょうけど、

やっぱりクラスが違えば、そこに少し距離ができる。

きっと、私は疎外感を感じてしまうだろう。

 

 

 

「本当に難儀な性格よねぇ」

 

 

 

 

 

ポツリと呟いて私は消しゴムを手に取った。

 




バカテスのオリ主物を考えていたら、急に天子を出したいと思った。
東方キャラ出てるバカテス二次があるから、
天子が出てるのもあるんじゃないかと思ったが、見つからなかった。
ついでに、思いついたタイトルも検索したが、被ってなかった。
しかも、なんかモチベーションが上がったので先にこっちを書く事にした。

という訳で、初めましてorお久しぶりです。
今回からバカテスやっていきます。某箱庭はやる気が出たらやるかも?
天子の簡単な設定とか出した方がいいのだろうか?

とりあえず、次回は二年生になったところから!
お楽しみに!


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第一次試験召喚戦争篇
第1話


今回は原作成分強めです!


私達が文月学園に入学してから二度目の春が訪れた。

校舎へと続く坂道の両脇には、綺麗な桜が咲き誇っている。

本当なら、その桜をゆっくり見ながら登校したいのだけれど、

今の私()にはそんな余裕はない。

 

「このバカ!なんで一回起こしたのに、そのまま二度寝を始めるのよ!」

「それは天子が、僕の目覚ましより早く起こしに来るからだよ!」

「だからってもう一回寝なくてもいいでしょ!?しかも、その目覚ましだって電池切れだったじゃないの!」

 

絶賛遅刻中。

現在、通学路を猛ダッシュして学校に向かっている。

と言っても、この坂道を登りきれば到着するんだけど。

 

「仕方ないじゃないか!電池換えるの忘れてたんだから!」

「開き直るな!態々待っててあげたんだから、私に感謝しなさいよね!」

「へーへーかんしゃしてますよー」

「心がこもってないわよ」

 

明久と軽口をたたき合いながら進んでいると、校門が見えてきた。

あら?校門の前に誰か立ってる。

 

 

「遅いぞ吉井、比那名居」

 

 

ドスのきいた声でそう言ってくるのは、浅黒い肌と短髪が特徴的な、

スポーツマン然とした男の教師、

 

「げ、鉄――西村先生」

「おはようございます鉄人先生」

 

生活指導と補習担当の鉄人先生だ。

去年、私と明久のクラスの担任でもあった。

本名はたしか西村宗一だったはず。

 

「吉井、今鉄人と言いかけなかったか?そして比那名居、鉄人先生ではなく西村先生と呼べ!」

「ははっ、気のせいですよ」

「いいじゃないですか、せっかくみんなが付けてくれたあだ名なんだから」

 

因みに、この『鉄人』というあだ名の由来は、彼の趣味であるトライアスロンかららしい。

 

「まったく。ほら、お前らで最後だ」

 

そう言って私と明久に茶色い封筒を差し出してくる。

宛名の欄には、しっかりと『比那名居天子』と大きく書かれていた。

振り分け試験の結果通知ね。

私はありがとうございますと言いながらそれを受け取った。

 

「どーもです。それにしても、どうしてこんな面倒なやり方でクラスの発表してるんですか?掲示板に張り出すとかすればいいのに」

 

明久が封筒を受け取りながら言う。

それもそうよね。いちいち全員に封筒を渡すなんて面倒なだけだし。

 

「ああ、普通ならそうするんだがな。まぁ、ウチは世界的に注目されている試験校だからなぁ。この変わったやり方もその一環だそうだ」

「………学園長先生ですか?」

「ああ、あの人にも困ったものだ」

 

鉄人先生の言い方に違和感を覚えたので聞いてみたんだけど、どうやら正解だったらしい。

一応、私も何度かお世話になってる為、あの人の性格は多少わかる。

教育者というよりは、純粋に研究者なのよね~

むしろ教師に向いてないのかも。

 

「さて、そろそろクラスの確認をしろ。これ以上遅れてもらっては俺も困るからな」

「「はーい」」

 

 

さてと。

正直、見なくても結果はわかってるのよね~

なんて思いつつ封筒の中の紙を取り出す。

 

「吉井、俺は去年一年間お前を見ていて、『もしかしたらコイツはバカなんじゃないか』と疑いを抱いていた」

 

急に、先生が語りだした。

 

「だが、試験の結果を見て俺は間違いに気づいたよ」

 

それを不思議そうな顔で聞いていた明久は、封筒から紙を取り出して開く。

 

 

 

『吉井明久……Fクラス』

 

「お前は、疑いの余地もない正真正銘のバカだ」

 

 

結果と先生の言葉を聞いた明久は手を地面につきながらショックを受けていた。

つまりこの形である。 → ガーンorz

 

「ぷぷぷ、ざまぁないわね明久。なんだっけ?『Fクラスは絶対無い!』だっけ?あの自信はなんだったのよ(笑)」

「うう、そういう天子はどこなのさ!」

「私?まだ見てないけど、結果はわかってるわよ?」

「へー。まぁ、天子ならAかBだろうけど……」

「残念ね、私はまだAAカップよ?」

「誰も胸の話なんてしてなかったよね!?」

「比那名居、いい加減結果を見ろ!」

 

鉄人先生に怒られちゃった。

まったくもう、明久のせいよ?

 

「理不尽だ!?」

「はいはい。ほら明久、私の通知見てみなさい」

「え?僕が先に見ていいの?」

「言ったでしょ。もう結果はわかってるのよ」

「えっと、じゃあ見るね……………っ!て、天子これ!」

 

明久は私に通知の紙を見せてくる。

そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

『比那名居天子……Fクラス』

 

 

 

「うん、予想通りね。安心したわ」

 

実はちょっとだけ不安もあったんだけど、杞憂だったわね。

 

「比那名居、やはりアレはわざとか?」

「ええ、そうですよ?じゃなかったら、私が名前を書き忘れるなんて初歩的なミスをするわけがないじゃないですか」

 

私がそう答えると、先生は溜め息をつきながら額に手を当てていた。

 

「えっと、天子どうゆうこと?」

「うん?今のやりとりからそんなこともわからないの?だからお前は馬鹿にされるのよ」

 

そう言われた彼はまた手をついてショックを受けた。

 

「まったく、お前は何を考えているんだ。テストの問題を全部解いておきながら、態々名前を消すなんて」

「ええ!?天子、なんでそんなこと!?」

 

あ、やっぱりバレたんだ。

名前の消し跡残っちゃったのよね~

 

「なんでも何も、友達とクラスが違うだなんてつまらないじゃない」

「あっ」

 

明久が今気がついたと言ったような声を上げる。

 

「そりゃあ、戦争で明久達と戦うのも面白そうだとは思ったけど、どうせなら同じクラスで一緒に戦った方が楽しそうでしょ?」

「俺はお前が後悔しないならそれでいいんだが、本当に良かったのか?名前さえ書いてあれば、Aクラスは確定だったのに」

 

先生がそう聞いてくるが、私の答えは決まっている。

 

「後悔なんてするわけないじゃないですか。だって、私がそうしたいと思ってやったことなんだから」

 

 

 

 

 

 ―――――side明久―――――

 

 

 

「後悔なんてするわけないじゃないですか。だって、私がそうしたいと思ってやったことなんだから」

 

天子は満面の笑みを浮かべながらそう答えた。

鉄人はそれを心底呆れたように見ている。

僕は………天子のその笑みに見惚れていた。

あれだね、いくら普段見慣れている親友の顔とは言っても、

ああゆうのは……その、なんてゆうか………イイよね!

 

って、そうじゃないよ!

一体何を考えてるんだ僕は!

 

 

………天子は本当にこれでいいのかな?

そりゃ、僕も天子と同じクラスの方が良いけどさ。

だからって天子がFクラスにくる必要はなかったと思うんだよね。

 

僕は『振り分け試験の時にもっと勉強しておけばよかったかな?』なんてちょっとだけ後悔した。

まぁ、今更だけどね。

 

「はぁ、わかった。この話は終わりだ。二人共早く教室に向かえ」

「最後の方は先生が足止めしてた気もするんですけど………まぁいいわ、明久行くわよ~?」

「あ、ちょっと待ってよ天子!えっと、それじゃあ西村先生、また!」

 

僕は鉄人に挨拶をしてから天子を追いかた。

 

 

 

 

 

あれ?そう言えば………

 

 

「ねぇ、天子。どうして僕がFクラスだって判ったの?」

「うん?そんなの、今までの明久の成績を考えればすぐに予想できるわ」

 

ガーンorz

 






教室まで行けませんでした!
本当はもう少しやりたかったのですが、きりがよかったので今回はここまでです。

天子はAクラスに行けるだけの点数がありましたが、殆んどの問題用紙の名前を消してしまった為、Fクラス入りとなりました!
前回のラストで判ってた人も多いと思うけどね!

次回は、Aクラスの様子をちょっと見た後に、Fクラスでの自己紹介です。
次も原作強めの構成になりそうですが、よろしくお願いします!


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第2話

私と明久はFクラスの教室に向かっている。

文月学園には新旧二つの校舎が有り、その真ん中の渡り廊下でつながっている。

 

「確か、私たちの教室は三階の旧校舎側だったわよね?」

「そうだね。まぁ、Fクラスの時点で旧校舎なのは確定だったと思うけど」

 

徹底してるわよね~

成績が低かったら校舎まで区別するなんて。

 

「あ、そうだ天子。ちょっとAクラスの方見ていかない?」

 

明久がそんなことを言い出す。

ふむ、確かに興味はあるわ。

それに、どうせ遅刻してるのだし、更に遅れてもあんまり変わらないのよね~

 

「良いわ、見に行きましょ! でも、あんまり騒がないでよ? 迷惑になるから」

「OK! 早速行こう!」

 

明久は元気よくAクラスの方に向かう。

まったく、さっきまでショック受けたりしてたのに、調子がいいんだから。

 

 

 

「「……なんだろう(なによ)、このばかデカイ教室は」」

 

私と明久の声がハモる。

いやいや、これ本当に学校の教室かしら?

普通の教室の五倍くらいあるわよ?

この広さの教室は大学にも無いと思うんだけど……

 

「あ、見てよ天子! システムデスクにリクライニングシート、ノートパソコンまであるよ!?」

「すごいわね。教室の中に図書室並みの本棚がいくつもあるなんて。あ、個別にエアコンと冷蔵庫もあるみたいよ?」

「本当だ! うわ、フリードリンクサーバーにお菓子食べ放題もある! いいな~、羨ましいな~Aクラス!!」

「ちょっとうるさいわよ明久」

 

どうやら設備云々の噂は本当だったようだ。

これは、自分のクラスが心配になるわね。

 

それにしても、コイツは私の話を聞いていたのかしら?

あんまり騒ぐなって言ったのに。

そう思いながら私はため息をつく。

 

「では、クラス代表の紹介をします。霧島翔子さん。前に来てください」

「……はい」

 

Aクラスの担任と思われる教師、確か高橋洋子先生だったかしら? に呼ばれた生徒が、席を離れて前に立つ。

その生徒は、肩まで伸ばした黒髪が綺麗な、まるで日本人形の様な少女だった。

美しく、物静かな雰囲気を持った彼女にクラス全員の視線が集まっている。

 

クラス代表―――つまり、振り分け試験において、このクラスの誰よりも成績の良かった生徒。

それも、学年で最高成績を誇るAクラスでのトップだ。

即ちそれは、二年生全員のトップであると言える。

注目が集まるのは、最早必然と言えるわね。

 

………何故かしら? 彼女から後光みたいのが見えるのだけれど

きっと目の錯覚ね、なんて思いながら彼女の自己紹介に耳を傾ける。

 

「……霧島翔子です。よろしくお願いします」

 

クラス全体の視線を浴びる中、霧島翔子は顔色一つ変えずに淡々と名前を告げた。

ん? 今こっちを見たような? 気のせい?

 

「ねぇ、天子。今霧島さん天子を見てなかった? まさか、あの噂は本当なんじゃ!?」

 

明久が小声でそんな事を言ってくる。

というか、最初からそのくらいの声で話しなさいよ。

 

「多分気のせいよ。それより、噂ってアレのこと?」

「そうそう。霧島さんが同性愛じゃないかって奴」

 

霧島翔子はその学力、容姿、そして性格により一年生の頃から有名人だった。

男子生徒からの告白が絶えなかったとも聞いたが、未だ彼女と付き合えた者はいないと言う。

そこからどんな紆余曲折があったのかは知らないけれど、いつの間にか

『霧島翔子は同性愛者なのではないか』という噂が流れる様になっていた。

 

 

 

まぁ、実際には違ったのだけれど。

 

「その噂、完全なデマよ?」

「え! そうなの!?」

「ええ。だって私本人に直接聞いたもの」

 

そう、私は一年の時その噂が広まり出した頃に、彼女に直接真実を聞きに行ったのだ。

すると彼女は、「……違う。私、好きな人がいるから」と答えてくれた。

勿論、相手は男性らしい。

流石に誰かは聞かなかったわよ?

私そこまで野暮じゃないし。

 

「うわぁ、天子って本当に行動力あるよね。普通は直接聞きに行ったりしないと思うんだけど……」

「別にいいでしょ、気になったんだから。さてと、そろそろ教室に向かいましょ? これ以上遅れたら洒落にもならないわ」

「そうだね」

 

私達は走り出さない程度に廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

さて、私達はやっと教室の前に到着した……のだけれど。

 

「ね、ねぇ天子。ここがFクラスで間違いないんだよね? 物置用の教室とかじゃなくて……」

「え、ええ。間違いないわ」

 

目の前には、半分に割れた『2-F』……いや、『2-E』と書かれたプレートがある。

今しがた、Fと書かれ貼り付けられていた紙が落ちた。

どうやらこの教室は元々Eクラスだったらしい。

入口の横には上靴用の棚が置いてある。

 

「と、とりあえず、中に入りましょ?」

「そ、そうだね」

 

私は少し動揺しつつも、明久に声をかけながら上履きを脱ぐ。

………場所は決まってないみたいね。

私は空いている所にそれを入れ、入口の前に立つ。

 

「さて、行くわよ」

「うん」

 

私は戸を開け、教室に足を踏み入れる。

 

「すみません、遅れました」

「早く座れ、このウジ虫野……ろう?」

 

遅刻の謝罪をしたら、罵倒された。

そいつは、身長180センチくらいの赤髪の男で、私の友人の一人だった。

 

「あら、ウジ虫野郎だなんて随分な言い草じゃないかしら? 雄二?」

 

彼、坂本雄二はポカーンとした顔をしながら私に声をかけてきた。

大方、私がここに来るのが予想外だったのだろう。

あと、さっきセリフは明久宛だったのかも。

 

「あ~、すまん天子。明久だと思った」

「そんなことだろうと思ったけどね」

「ちょっと待ってよ! 僕はウジ虫野郎じゃないよ!?」

「「黙れ(黙ってなさい)、ウジ虫」」

「ううっ……。二人とも酷い」

 

あらら、拗ねちゃった。

流石に言いすぎたわね。

 

「ごめんなさい、明久。貴方はウジ虫じゃなかったわよね」

「て、天子!」

「貴方はゴキブリだもの」

「フォローになってないよ!」

 

ふふ、明久をからかうのは楽しいわね♪

 

「おい、そこのバカ二人、イチャついてないで席に付け」

「雄二はこれのどこがイチャついてるように見えるのさ!」

 

バカとは失礼ね。

それは私じゃなくてそこのバカ(親友)だけでしょ?

 

「……ねぇ、天子。今バカと書いて親友って読まなかった?」

「あら、よくわかったわね」

 

普段鈍感なくせに、こういう時だけ鋭いのよね~

 

「そういえば、雄二はなんで教壇に立ってるのよ? 担任の先生は?」

「ん? ああ、先生が遅れてるらしいからな代わりに教壇に上がってみた」

 

ふむふむ、先生の代わりにねぇ。

 

「つまり、雄二がこのクラスの代表ってことね」

「流石天子、察しがいいな。そのとおり俺がこのクラスの最高成績者だ」

 

そう言いながら、雄二はニヤリと口の端を吊り上げる。

 

最高成績者=クラス代表。

それなら、先生の代わりに教壇に立っているのも頷けるわ。

むしろ違ったら、お前は何してるんだって言われてる所でしょうけど。

 

「これでこのクラス全員が俺の兵隊だな」

 

ふんぞり返ってクラスメイト達を見渡している雄二。

さて、ここで教室を見てみましょうか。

 

床はフローリングやシートとかではなく畳。

椅子は無く、代わりにボロボロの座布団がある。

そして、机はなんと卓袱台だ。

 

いつの時代の教室だろうか……

完全に、学校ではなく寺子屋といった感じね。

これは噂以上だわ。

 

「こ、これがFクラスの教室……くそぅ、これが格差社会というやつか!」

「予想以上にひどいわね」

 

ここで一年過ごすのは流石にキツイわね~

………あ、外のプレートが落ちた。

 

「ふぅ。それで? 僕らの席はどこなの?」

「ああ、好きなところに座れとさ」

「席も決まってないの!?」

 

一々リアクションが大げさね。

まぁ、それだけショックなのでしょうけど。

 

「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

 

不意に背後から声をかけられる。

どうやら担任の先生が来たようだ。

その先生は、寝癖のついた髪とヨレヨレのシャツを着た、いかにも冴えない風体だった。

 

………担任の先生にもクラスの影響が出るのかしら?

そんな失礼なことを考えていると、席についてくださいと言われたので適当な所に座る。

 

明久は窓側の一番端。

雄二はその二つ隣の席。

後、空いている席は二人の間と、明久の前ね。

無難に間でいいわよね?

窓側は窓枠ボロボロで隙間風が寒そうだし。

………そういえばこの教室カーテンもないわね。

 

「えー、私がFクラス担任の福原慎です。皆さん一年間よろしくお願いします」

 

そう言いながら先生は黒板に名前を書こうとして、やめた。

本当にチョークすら用意されてないのね。

 

「皆さん、全員に卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出てください」

「せんせー、俺の座布団ほとんど綿が入ってないです」

 

クラスメイトの誰かが設備の不備を申し出た。

 

「あー、はい。我慢してください」

「センセ、隙間風が寒いんですけどー」

「我慢してください」

 

今度は窓側の前の方の生徒が申し出るが、答えは同じだった。

すると、左隣からバキバキッという音が聞こえる。

見ると、明久の卓袱台の足が折れていた。

 

「先生、僕の卓袱台の足が折れたんですけど」

「我慢してください」

「無理だっつの!」

 

明久も申し出たが同じ答えが返ってきて、反論する。

うん、私も流石に無理だと思うわ。

 

「はっはっはっ、冗談ですよ」

 

福原先生はそう言いながら、木工用ボンドを取り出した。

………自分で直せってこと? 厳しいわね~

 

「では、自己紹介を始めましょう。廊下側の人からお願いします」

 

福原先生の指名を受けて、廊下側一番前の席の生徒が立ち上がる。

あら? あれって……

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

やっぱり。私の去年のクラスメイトで友人の一人、秀吉だった。

 

独特の言葉遣いと小柄な体。

その整った容姿は、双子の姉によく似ており、格好良いというよりは可愛いに部類される。

そのせいで、ぱっと見は女の子に見えるだろう。

 

「「「「「秀吉、愛してるぅぅぅ!!」」」」」」

「ワシは男じゃ!」

 

そう、そんな可愛い容姿の彼は、紛う事なき男子である。

しかも、演劇部のホープと言われるまでの技術を持っている為、知名度は高い。

噂では女子だけでなく、男子にまで何度も告白されたことがあるらしい。

まぁ、噂もなにも本人に聞いたのだけど。

その為、一部のFクラス男子のこの絶叫も頷ける。

………彼の方が実の姉よりも人気があるのは、なんの皮肉かしらね。

 

まぁ、私は両方見慣れているから、余程間違えることはないと思うわ。

入れ替わったりしてたら微妙だけど。

 

「はぁ……まぁなんじゃ、今年一年よろしく頼むぞい」

 

秀吉は疲れたよう言いながらに席に着いた。

なんと言うか、ご愁傷様。

 

「…………土屋康太」

 

次の生徒も立ち上がり、名前を告げる。

彼も友人の一人で去年のクラスメイトだ。

 

言葉数の少ない彼は、小柄だがかなり運動神経が良く、外見も悪くない。

にも関わらず、普段はすごくおとなしいのよね~

まぁ、彼の趣味から推測して、目立つとイロイロ都合が悪いんでしょうけど。

そういえばこのクラス男子ばっかりね。

女子は私ともうひとりだけか。

 

なんて考えているとそのもうひとりの女子が自己紹介を始めていた。

 

「島田美波です。ドイツ育ちで、日本語は会話は出来るけど読み書きが苦手です。後、英語も苦手です。趣味は―――――」

 

帰国子女の彼女、島田美波も去年のクラスメイトである。

というか、知り合いが廊下側に固まりすぎてない?

 

女子にしては高い身長とスレンダーな体型。

茶色の髪をポニーテールにしている。

だが、この後に言うつもりであろう趣味が問題なのよね~

 

「趣味は吉井明久を殴ることです☆」

 

明るく、そんな物騒な事を言う。

 

彼女はどうやら明久のことが気になっている様で、照れ隠しで明久を殴ったり、関節技を決めたりしている。

流石に色々危険だから私が止めたりもしてるけど。

個人的には、あれをツンデレと呼んだらダメな気がするわ……

 

そんな彼女は明久見つけ、彼に手を振っていた。

 

「……あう。し、島田さん」

 

手を振られた本人は少し怯えていた。

………うん、やっぱりダメね。

 

 

 

さて。そんな感じで自己紹介が続いていき、私の座っている列に入ったのだけれど……

 

「はい、では次―――」

 

 

パキパキ―――ズドンッ バラバラバラ……

 

 

先生が次を促しながら教卓に手をついった瞬間、教卓が音を立てながら崩れてしまった。

私を含め、クラスメイト全員が唖然としている。

確かに教卓もボロボロだったけど、流石に手をついただけで壊れるなんて思わなかったわ。

 

「え~、替えを持ってきます。自習でもしながら待っていてください」

 

福原先生は肩を落としつつそう言って、教室を出ていった。

 

 

 

「……はぁ。本当に酷い教室だよなぁ」

 

明久が折れた卓袱台の足をボンドで直しながら言う。

 

「そうね~、ここで一年過ごすと思うと憂鬱になるわよね~」

「文句があるなら振り分け試験でいい点取っとけよ。というか、天子。お前はなんでFクラスなんだ? 欠席とかしてなかっただろうに」

 

自己紹介を終え、座布団を枕にしていた雄二が聞いてくる。

 

「そうだ、雄二聞いてよ。天子ってば僕がFクラスなの最初っからわかってたって言うんだよ? 酷いと思わない?」

「お前がFクラスなのは俺を含めみんなわかってたと思うぞ?」

 

明久がまたショックを受けていた。

 

「私がここに来た理由は、殆どのテストの名前を消したからよ」

「ふーん。つまりわざとここに来たってことか。お前も物好きだな」

「そういう雄二こそクラス代表だなんて、点数の調整とかでもしたのかしら?」

「はっ、俺がそんなことするわけねぇだろ? 偶々だよ」

 

私は気になっていたことを聞いてみたのだが、どうやら違うみたい。

 

「それに、代表になれなくても関係なかっただろうしな」

 

………代表になった人を脅したりするつもりだったのかしら?

雄二はかつて『悪鬼羅刹』と呼ばれるほどに有名な不良だったから、腕っ節には自信があるんでしょうけど。

 

「なんの話をしておるんじゃ?」

 

私達が話していると、秀吉、康太、島田さんの三人が声をかけてくる。

こっちに来ていいのかしら? と思ったが、教室を見渡すとゲームをしている人や寝ている人、あとなんか覆面をした怪しい集団が目に入った。

うん、これなら問題ないわね

 

「なんでもないわよ? ただの世間話だから」

「秀吉たちはどうしたの?」

「なに、せっかくまた同じクラスなのじゃから挨拶でもと思ってのう」

「…………今年もよろしく」

「よろしくね、吉井、坂本、比那名居!」

「こちらこそよろしく! しっかしさすがは学力最低クラス。見渡す限りむさい男ばっかりだなぁ」

 

明久が教室を見渡しながら言う。

貴方もその一人じゃない。

 

「お前もその一人だけどな」

 

どうやら雄二と意見が一致したみたい。

 

「でも良かったぁ。唯一の女子が秀吉みたいな美少女で!」

 

あら~? それはちょっと聞き捨てならないわよ?

 

「明久、私もいること忘れてない?」

「それにさっきも言うたが、わしは男子じゃ」

「あとウチも女子よ?」

 

三者三様に明久に反論する。

百歩譲って秀吉が美少女なのはいいとしても、唯一ってなによ?

 

「わかってないなぁ。女子というのは優しく御淑やかで、見ていて心なごませる存在であって―――――」

 

…………………明久、それは貴方の願望よ。

 

ま、まぁ、冗談で言っていることは私でもわかるけどね?

 

「島田さんのようにガサツで乱暴で怖くて胸が無いのは―――背骨の関節や激しい痛みがぁぁぁぁ」

「明久、今のはお前が悪いわよ」

 

ってこれ以上は流石に危ないわね。

 

「島田さん、それぐらいにしなさい?」

「なんで止めるのよ比那名居! あんたはあんなこと言われて悔しくないの!?」

 

いや、私は明久の冗談だって解ってるからね?

それに、ガサツだなんだって言われたのは島田さんだけだもの。

しかも今の現状を省みるに事実なのよね~

 

 

 

そんなことをしていると、教室の戸がガラッという音と共に開けられる。

 

「あのぅ、遅れてすみません」

 

その声を聞いたクラスメイト全員が声のしたほうを向く。

一瞬、先生が帰ってきたのかと思ったが声が違った。

 

 

 

そこには、息を切らせなががら来たと思われるピンクブロンドの女子生徒が居た。




6000文字超!?

ということで予定より遥かに長くなってしまいました。
もっとテンポ良く行きたいんだけどな~

やっと原作主要キャラと絡ませられました。
そして天子はこれでいいのかな?
おかしな所は指摘してくださいね!
さてさて、一体最後に出てきた女の子はダレナンダロウネ。
気になる正体は次回の冒頭で!

次回は宣戦布告まで行きたいな~
それではまた~


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第3話

バカテスト【化学】

問 以下の問いに答えなさい。

『調理の為に火にかける鍋を制作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。このときの問題とマグネシウムの代わりに用いるべき合金の例を1つあげなさい』



姫路瑞希の答え
『問題点……マグネシウムは炎にかけると、激しく酸素と反応するため、危険であるという点。
合金の例……ジュラルミン』

教師のコメント
正解です。合金なので『鉄』ではダメと言うひっかけ問題なのですが、
姫路さんは引っかかりませんでしたね。



比那名居天子の解答
『問題点……鍋の消失と火災及び爆発の危険性がある点。
合金の例……洋白』

教師のコメント
問題点が大雑把な気がしますが正解です。
因みに洋白は銅・ニッケル・亜鉛の合金で、銀の代わりに使われたりもします。
よく知っていましたね。先生は比那名居さんに感心しました。



土屋康太の答え
『問題点……ガス代を払っていなかった事』

教師のコメント
そこは問題じゃありません。



吉井明久の答え
『合金の例……未来合金(←すごく強い)』

教師のコメント
すごく強いと言われても。



「あのぅ、遅れてすみません。保健室に行っていたら遅くなってしまって」

 

そう言いながら教室に入ってくるピンクブロンドの女子生徒。

彼女を見たクラスメイト達は驚きと興奮の声を上げている。

 

「姫路さん」

 

明久が彼女の名を呟くのが聞こえた。

 

そう、彼女は姫路瑞希。

振り分け試験の時に体調不良で倒れ、途中退席になった生徒だ。

この教室に居ないからてっきり再試験でもしたのかと思っていたのだけれど、遅れていただけだったのね。

 

そんな彼女は教室内をキョロキョロと見回していた。

そして私達のいる方………主に明久を見た。

 

「あ、吉井君!」

 

そう言ってこちらに近づいてくる姫路さん。

男子がブツブツと何か言っているけれど、まぁわざわざ聞く必要はないわよね?

 

「吉井君」

「なに? 姫路さん」

「痛くないんですか?」

 

あ、忘れてた。

 

「うおぉっ、僕の脊椎が生まれてこの方経験したことのない曲がり方をしているぅぅぅぅ」

「島田さん! 流石にそれはやりすぎよ! 止めなさい!!」

「…………見え、みえ」

 

私は島田さんの肩を掴み、明久から引き剥がそうとする。

あと、康太はどさくさに紛れて何をしてるのよ……

 

そんな時、一際強い隙間風が吹いてくる。

………あ。

 

「ひゃんっ」

 

島田さんのスカートがその風で少し浮いた。

その島田さんの正面には姿勢を低くした康太が居る。

ということは、必然的に……

 

「…………う、あ、うあぁ(ダクダクダクダク)」ビクッビクッビクッ

 

康太が鼻血を出しながら倒れ、悶えだした。

その康太に対して明久が叫びながら駆け寄る。

 

「ムッツリーニ! しっかりしろ!!」

「…………み、み」

「喋らないで! 今医者を呼ぶから!!」

 

いや、その前に手当しなさいよ!

尋常じゃないほどの鼻血が出てるわよ!?

 

「…………み、水色(ガクッ)」

「ムッツリーニィィィ」

 

康太はどこか満足気に気絶した。

因みに、さっきから明久が言っているムッツリーニというのは、康太のあだ名だ。

由来は『ムッツリスケベ』から来ている。

まぁ、その名に恥じない行動は確かにしてたわよね。

 

「ムッツリーニ大丈夫か!? 傷は浅いぞ、しっかりしろ! 誰か、誰か助けてください!!」

「明久、バカやってないで康太を座らせて鼻を摘みなさい! いい? 顔を上に向けちゃダメだからね?」

「わ、わかったよ!」

 

私はポケットティッシュを取り出し、詰め物を作る。

姫路さんが島田さんや雄二たちと何か話してるけど、今はこちらが先決だ。

 

「はい、明久。これを康太の鼻に詰めて」

「う、うん」

 

とりあえずこれでいいわね。

本当はタオルとかで冷やした方が良いんだけど……

そんなことを考えていると姫路さんの声が聞こえる。

 

「それじゃぁ、そこ空いてますか?」

「「え?」」

 

姫路さんは私の座っていた席を指さしながら、そう言っていた。

 

「あ~、ごめんね姫路さん。そこは天子の―――――」

「良いわよ? どうぞ?」

「え!? ちょっと天子!?」

 

明久が何か言っているのを無視して私は席を移動する。

 

「えっと、良かったの天子?」

「何がよ? どうせ席なんてどれも一緒じゃない」

 

それに、まだ自己紹介もしてなかったからね。

今変わっても特に問題はないでしょ。

 

ということで、私の席は明久の前の席になった。

………やっぱりちょっと隙間風が寒いわね。

 

「あの、ありがとうございます。えーっと……」

「あら、どういたしまして。私は比那名居天子よ」

「比那名居さんですか、私は姫路瑞希です! よろしくお願いしますね!」

「ええ、よろしくね」

 

態々お礼を言いに来るなんて、流石は優等生ね。

 

「えー、皆さんお待たせしました。自己紹介の続きをやるので、席に戻ってください」

 

福原先生が替えの教卓を持って戻ってきた。

あ、自己紹介の内容考えないと。

 

 

 

 

 

さて、あの後()()自己紹介も終わった。

 

………ええ、姫路さんの自己紹介でFクラスの馬鹿さ加減がさらに露呈したり、私の次だったあのバカが「気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」なんて馬鹿な発言をしていたけれど、無事に終わったのよ。

 

そして、早速一限目から授業かと思いきや……

 

「えー、それではこれから教室の掃除を行います」

 

という福原先生の言葉で、今は掃除中だ。

………授業はやらなくていいのかしら?

それとも、授業ができないほど今の環境が悪いということなのかしらね?

 

「けほっけほっ」

「姫路さん大丈夫? 病み上がりなんだから無理しないでね?」

「あ、ありがとうございます、吉井君」

 

ホコリを吸ってしまったのか、姫路さんが咳こみ、明久がそれを心配していた。

確か、姫路さんは身体が弱いと聞いたことがある。

そんな彼女にこの教室の環境はキツイでしょうね~

 

なんて考えていると、不意に雄二が廊下に出て行くのが見えた。

あら? サボりかしら?

クラス代表がサボるなんていい度胸よね~

私は雄二を連れ戻そうと思い、廊下に出た。

 

「って、何やってるのよ貴方」

「ん? 天子か」

 

廊下に出て私は少し驚く。

てっきり、サボってどこかに行くのだと思ってたんだけど、予想に反して雄二は教室の壁に体をあずけた状態で立っていた。

 

「サボるんだと思って追いかけたのだけど……」

「おいおい、信用ねぇな。俺は明久に話したいことがあると言われただけだ」

「ふ~ん、明久にねぇ」

 

 

ガララッ

 

「あれ、天子?」

 

教室の戸を開けて明久が出てくる。

 

「噂をすれば、来たみたいだな」

「どうして天子がここに?」

「雄二がサボると思ったのよ。で? 何を企んでいるの、明久」

「な、なんのことかな」

「とぼけても無駄よ? 雄二に話があるって事は()()()()()()でしょ?」

 

明久がクラス代表の雄二を廊下に呼び出して二人きりで話そうとするってことは、皆の前では出来ないような相談事。

つまり―――――

 

「つまり『試召戦争』について。だろ? 明久」

「ゆ、雄二!」

 

あら、セリフ取られちゃったわね。

というか、明久はなんで驚いてるのよ?

私に聞かれたら不都合でもあるのかしら?

 

「別に天子なら問題ないだろ」

「なによ明久。私が聞いたらなにかマズイの?」

「い、いやそういう訳じゃ……」

 

なら私がここに居ても良いわけね!

 

「それで? お前はなんで試召戦争をやろうと思ったんだ?」

「えっと、あまりにも設備が酷いから――――」

「「嘘ね(だな)」」

「まだ全部言ってないのに!!」

 

だって、明久がたったそれだけの理由でこんなことを言い出すとは思えないもの。

 

「勉強に興味の無いお前が、勉強用の設備の為だけに戦争を起こすなんてありえないだろ」

「そ、そんなことないよ! 興味がなければこんな学校に来るわけが―――――」

「あら~? おかしいわね。貴方がこの学校を選んだ理由は『学費の安さ』だって、よく私に言ってたじゃない」

「あー、えっと、それはその……」

 

まったく、誤魔化すにしてももっと上手くやりなさいよ。

 

「どうせ、姫路さんの為なんでしょ?」

 

私がそう言うと、明久はビクッと体を震わせた。

分かりやすすぎるわよ?

 

「やっぱりね。貴方のことだから、どうせそんなことだろうと思ったわよ」

「べ、別にそんな理由じゃないんだけど」

「はいはい、今更言い訳しなくてもいいわよ? お前の性格は私がよ~く分かってるから」

「だから本当に違うんだってばぁ」

 

明久が何かを言っているけれど、私は無視する。

 

「とにかくだ。戦争を仕掛けるってことでいいんだな?」

「あら、雄二は明久に賛成なの?」

「まあな。実は俺も仕掛けてみたいと思っていたところだ」

「え、雄二も?」

「ああ、世の中学力だけが全てじゃないって証明してみたくてな」

 

そう言った雄二の顔には、何か含みがある様に見えた。

 

「それで? 天子はどうなんだ?」

「私?」

 

聞かなくてもわかると思うんだけど。

 

「勿論、賛成よ! そんな面白そうなこと私が反対するわけないじゃない!」

「よし! 決まりだな!んじゃ、やってみるか明久、天子」

「ええ」

「うんやろう!」

 

「「「試験召喚戦争!!!」」」

 




宣戦布告までいけませんでしたorz
切りが良かった&時間がなかったので、今回はここまでです。
次回こそ宣戦布告まで行きます!

天子の自己紹介は長くなりそうだったのでカットしました。
もしかしたら、オマケや番外編などで出すかも。

アドバイスや感想待ってます!
てか、お願いします。

では、また~


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幕間 自己紹介

これは、前回カットした自己紹介集です。
本当はバカテスト風に載せていこうかと思ったんですが、長くなりそうだったのでまとめました。
その為、予定になかった天子のコメントを追加。

内訳は雄二、瑞希、天子、明久です。(雄二は既に終わったと描写しただけだったので)




自己紹介をしてください。

 

 

坂本雄二の場合

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ」

 

クラスメイト達の反響

「あれがウチの代表か」

「坂本って確かあの『悪鬼羅刹』だろ?」

「まぁ、正直代表とか誰でもいいし」

「おうどん食べたい」

『―――そういうわけで、今年一年よろしく頼む』

 

比那名居天子のコメント

「雄二にしては普通の自己紹介だったわね」

『こんなもん適当でいいだろ、適当で』

 

 

 

姫路瑞希の場合

「えっと、姫路瑞希です。よろしくお願いします」

 

クラスメイト達の反響

「はいっ! 質問です! なんでここにいるんですか?」

『そ、その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……』

「ああ、なるほど。そう言えば、俺も熱の問題が出たせいでFクラスに」

「ああ。化学だろ? あれは難しかったな」

「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出しきれなくて」

「黙れ一人っ子」

「前の晩、彼女(脳内)が寝かせてくれなくって」

「今年一番の大嘘をありがとう」

「姫路さんかぁいい」

『で、ではっ、一年間よろしくお願いしますっ!』

 

比那名居天子のコメント

「姫路さんのついては良かったと思うんだけど……Fクラスって想像以上にバカばっかりね」

『き、緊張しました~……』

 

 

 

比那名居天子の場合

「比那名居天子よ。趣味は読書とゲーム。後は料理かしら? 作るのもの食べるのも好きね。一年間よろしくお願いします」

 

クラスメイト達の反響

「天使!? このクラスには天使がいたのか!!」

『字が違うわよ? 「し」は子供の子だから』

「天子でも、ある意味DQNネームだよな」

「ならあだ名は『てんこちゃん』だな」

『そう呼んだら、流石の私でも殴るわよ?』

「てんしちゃんペロペロ」

『止めなさい』

 

 

 

吉井明久の場合

「―――コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 

クラスメイト達の反響絶叫

「「「ダァァーーリィーーン!!」」」

『―――失礼。忘れてください。とにかく、よろしくお願い致します』

 

比那名居天子のコメント

「………私も言った方がよかったかしら? ねぇ、ダーリン?」

『個人的には凄く惜しいけど、さっきの野太い声の大合唱思い出すから止めて!? 』

「惜しいの?」

『そりゃぁ、可愛い女の子からそんな風に言われたら嬉しいしね。まぁ、天子にその気がないのは知ってるから、違和感しかないだろうけど』

「………お前って時々ズルいわよね」

『へ?』

 




いかがだったでしょうか?
まぁ、殆んど原作通りです。
正直、天子の自己紹介が薄い気もしますが、現実的に考えたらこんなものでしょう。

そう言えば、天子の二人称は「貴方/貴女」で、たまに「お前(今のところ明久限定?)」なんですが
その理由は東方原作『緋想天』と『非想天則』での天子のセリフが主な理由です。
「あんた」にするとAクラスの猫かぶりさんと被るからだったりもしますが。
違和感があったら教えてください。
直すかはわかりませんがね……

それでは、また次回よろしくお願いします。
またね~


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第4話

私達は教室に戻ると早速行動に移した。

 

「みんな、聞いくれ! Fクラス代表として提案する! 俺たちFクラスは試験召喚戦争を仕掛けようと思う!」

『え!?』

「なんじゃと!?」

「試験召喚戦争って、まさか!?」

 

教壇に立った雄二の提案を聞き、クラス中から驚きの声が上がる。

そこには、トランプをしていた秀吉と島田さんの声も含まれていた。

………というか、なんで遊んでるのよ。

一応、今って自習扱いよね?

 

「みんな、このオンボロ教室に不満はないか!」

『大ありじゃぁっ!!』

「だろうな。俺だってこの現状は大いに不満だ!」

 

雄二の隣に立っている私と明久、そして姫路さん以外の2年F組全員の叫び。

まさに、魂の叫びって感じね。

 

「だが、試召戦争に勝利する事さえできればAクラスの豪華な設備を手に入れることだってできる!」

『Aクラスだと?』

『バカな、勝てるわけがない!』

『正直、姫路さんがいれば何もいらない』

 

Aクラスと聞いて上がりだしていた士気が少し下がってしまう。

 

「確かに、俺達では二年最高峰のAクラスに勝つのは難しいかもしれない。だが、可能性がゼロなわけではない!」

 

だが、雄二はあえてそこを突く。

 

「いいか! 我々は最下位だ! 学園の底辺だ! 誰からも見向きもされない、これ以上下のないクズの集まりだ!」

 

雄二は腕をふるいながら、少しオーバーに言い放つ。

これだけボロクソに言われているのに、なんだか鼓舞されているかのように感じるから不思議だ。

彼は本当に口が上手いと思う。

 

「つまりそれは、もう失う物が無いということだ!!」

『はっ!』

 

全員が『なるほど』といった声を上げる。

いや、無いわけではないわよ?

負けたら設備のグレードは下がるし、3ヶ月間自分達から戦争を仕掛けられなくなるから。

まぁ、士気に関わるから言わないけどね。

 

「なら、ダメ元でやってみようじゃないか! それに、俺達には戦争に勝てるだけの要素が揃っている!」

『な、なんだってー!?』

 

………みんなノリがいいわね。

 

「今からそれを説明しよう。おい康太。畳に顔をつけて、姫路のスカートを覗いてないで前に来い」

「…………!!(ブンブン)」

「は、はわっ!」

 

康太は首と手を左右に大きく振りながら否定しているが、顔に畳の跡が付いている。

というか、見えたら見えたで鼻血を出すくせになんで態々覗くのかしら?

 

「土屋康太。こいつがあの有名な『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』だ」

「…………ち、違う!!(ブンブンブンブン)」」

 

ああ、あのあだ名ってそんな当て字だったわね。そういえば。

あと、さっきよりも康太の否定が激しくなった。

 

『な!? ムッツリーニだと!?』

『馬鹿な、ヤツがそうだというのか!?』

 

 

この学園でムッツリーニという名はそこそこ有名だ。

康太は写真撮影が趣味で、その映像や写真等を《ムッツリ商会》という自分の個人商店で販売をしている。(学園で秘密裏に)

売れ行きは上々らしく、その売上で新しいカメラなんかを買ったりしていると本人から聞いた。

 

 

 

実は、一時期私の写真を売っているのを見つけ、ちょっとお話しをした。

まぁ結果だけ言うならば、私の写真等の売上分1/3程度が私の懐に入ることになったわ。

そのかわり、たまに新作の提供をしたりすることになってるけどね~

まぁ、ちょっとしたバイトみたいなものだ。

 

 

「姫路に関しては説明する必要もないだろう。みんなだってその実力は知っているはずだ」

「えっ! わ、私ですかっ?」

「ああ、ウチの主戦力だ。期待している」

『そうだ! 俺たちには姫路さんがいる!』

『ああ。彼女さえいれば何もいらないな』

 

姫路さんは元々Aクラス並みの学力がある。

その成績は、入学して最初のテストで学年二位を取り、その後も上位一桁以内に名を残している程だ。

戦力として彼女はとても頼りになる。

というか、誰よ。さっきから姫路さんにラブコールしてる人は。

そういうのは本人に直接言いなさい!

 

「次に島田美波だ!」

「え!? ウチ!?」

『おお、確か人を殴るのが趣味の』

「いや、ウチそうゆう意味で言ったわけじゃ……」

 

………なんか、島田さんはあらぬ誤解をかけられたみたいね。

 

「島田は漢字の読み書きこそ苦手だが、数学はBクラス並みだ。十分戦力になる」

『おお!? Bクラス並み!!』

 

そうね。彼女は漢字が読めなくて他の教科の点数が低いけれど、漢字が問題文にしかない数学の成績は高い。

Aクラス戦で役に立つかは少し不安だけれど。

 

「木下秀吉だっている!」

『おお……! 演劇部のホープ!!』

『木下優子の双子の妹!!』

「だからワシは男じゃ!!」

 

………?

確かに秀吉は有名だし人気もあるけど、成績はそこまでよ?

ああ、でもあの声帯模写の技術は色々と使えそうね。

それに士気を上げるのには十分だろうし。

 

「それに比那名居天子もいる!」

 

あら? 私?

私そこまで有名じゃないわよ?

 

『比那名居さんが?』

『彼女って頭いいのか?』

「天子の成績はAクラス並だ。そして何を隠そう、天子はあの『地学の天使(アース・エンジェル)』だ!!」

『なんだと!!』

『まさか彼女が!?』

 

あ~、それ言っちゃうんだ……

 

「そう、一年時の最初の地学のテストで771点という最高得点を取り、他のいくつかの科目でも一桁台に名を連ねた、あの地学の天使だ」

『マジかよ!? すげー!!』

『てことは、比那名居さんも体調不良かなにかだったってことか!!』

『天子ちゃんマジ天使』

 

別に私が自分で付けたわけじゃないんだけど、その厨二臭い異名あんまり好きじゃないのよね~

あの時の点数だって、私の得意分野の問題ばっかりだったからだし。

 

それに、私の得意科目は地学じゃないから。

私に名乗って欲しいなら、そっちの方で作ってもらいたいわね。

 

「当然俺も全力を尽くす!」

『確かになんだかやってくれそうだよな』

『そういえば、坂本って小学生の頃は神童って呼ばれてなかったか?』

『なに!? って事はこのクラスにはAクラス並みが三人と、Bクラス並みが一人、それに秀吉が一人いるってことか!!』

 

ああ、勘違いの輪が広がっていくわ。

雄二があの神童って呼ばれていたのは小学校までの話で、今は普通にFクラス並よ?

もし行けたとしてもDクラスまでだと思うわ。

あと、秀吉は元から一人よ。

 

まぁ、これだけ士気が上がれば十分かな?

 

「そして、吉井明久だっている」

 

……シン―――――

 

その言葉を合図にしたかの様に、上がり続けていた士気が一気に下がった。

まるで株価の暴落ね。

 

って冗談言ってる場合じゃないわ!

なんで明久の名前を呼ぶのよ!?

貴方はオチをつけないと気がすまないの!?

 

「ちょっと雄二! どうして僕の名前を呼ぶのさ! そんな必要はないよね!?」

『誰だよ吉井明久って』

『聞いた事もないぞ?』

 

ちょっと待った!

なんで貴方達は明久を忘れてるのよ!

自己紹介してたし、貴方達も叫んでたじゃない!

 

「そうか。知らないなら教えてやろう。なんとコイツは、『観察処分者』だ」

 

更に士気を落とすつもりなの!?

 

『な、何ー!!』

『コイツが観察処分者だって!?』

『ヤッベー、初めて見たぜ!』

「い、いやーそれほどでも……」

 

 

私の心配とは裏腹に、雄二が明久が『観察処分者』であることを言うと皆口々に感嘆の言葉をらした。

『観察処分者』がどうゆうものなのか知らないのかな?

実際はそんなに良いものでもないのだけれど……

明久も苦笑いを浮かべてるしね~

 

そんな時、姫路さんが手を挙げる。

 

「なんだ、姫路?」

「観察処分者ってすごいんですか?」

「ああ、誰にでもなれるわけじゃぁない。成績が悪く、学習意欲に欠ける問題児に与えられる特別待遇だ」

「バカの代名詞とも言われておる」

「全く何の役にも立たない人のことよ」

「へぇ本当にすごいんですね♪」

 

姫路さんはどの辺がすごいと思ったのかしら?

 

「天子、皆の言葉が突き刺さるんだけど。もう穴があったら入りたい気分だよ」

「よしよし、可哀想に。でも、実際お前の自業自得なんだからね?」

「いや、わかってるけどさ……」

 

私は、肩を落とし頭を下げた明久を撫でながら言う。

………なんか、変な視線を感じるんだけど。特に双方向から。

 

『吉井の奴、比那名居に慰めてもらえるなんて羨ましい!!』

『比那名居さん俺も撫でてくれ!』

『むしろ僕は島田さんに蹴ってもらいたい』

『姫路さん好きだー!』

 

クラスメイト達がうるさくなってきたので私は明久の頭を撫でるのをやめた。

 

「吉井君と比那名居さんて仲がいいんですね」

「吉井ってばなにデレデレしてんのよ」

 

島田さんと姫路さんも何か言っていたようだが聞き取れなかった。

なんか変なこと考えてなければいいけど……

 

「ともかく、試召戦争に勝利さすればこんなオンボロ教室とはおさらばだ! どうだみんな、やってみないか?」

『うおおーーっ!!』

「お、おー……」

 

教室が叫び声に包まれる。

クラスの雰囲気に圧されたのか、姫路さんも拳を握り軽く掲げていた。

まぁ、みんなやる気は十分てことね。

 

「まずは手始めに、一つ上のEクラスを倒す! 明久、Fクラス大使としてEクラスに宣戦布告をして来い」

 

………雄二、貴方明久を弄りすぎだと思うわよ?

下位勢力の宣戦布告の使者って殺されたりするのが定番じゃない。

流石に殺人はないでしょうけど、ボコボコにされるのがオチよ?

 

「え、僕? 普通、下位勢力の宣戦布告の使者って酷い目に合うよね?」

 

明久でもこれぐらいは流石に分かるわよね。

よく一緒にそ~いう映画とか見てるし。

 

「それは映画や小説の中の話だ。大事な大使に失礼な真似をするわけがないだろう?」

「でも……」

 

明久は顎に手を当てながら考えている。

そんな明久の両肩を掴み、雄二は真剣な表情で言う。

 

「明久、これはお前にしかできない重要な任務なんだ。騙されたと思って逝ってきてくれ!」

 

騙す気マンマンじゃない!!

まさかこんな言葉信じないわよね明久?

 

「……うん、わかったよ」

 

明久!?

え、ちょっ、本当に行くつもり?

 

「ちょっとちょっと、本気なの明久?」

「大丈夫だよ天子。僕は雄二を信じてるから」

 

と、そんな事を言う明久。

対する雄二は少し苦笑いをしていた。

明久、貴方絶対詐欺とかに引っかかるタイプよ!?

 

そんなことを考えていると、明久は教室を出ようとしていた。

………うんも~、仕方ないわねぇ。

 

「ちょっと待って、明久。私も行くわ」

「え?」

「おい、天子」

「何よ、雄二? 私が行ったらなにかマズイの?」

「ああ、お前はウチの切り札だ。それが相手に露見すると困る」

 

まったく、本当に口が上手いわね~

私じゃなかったら信じてたわよ?

 

「大丈夫よ、私が地学の天使だと知ってる人は殆んどいないから。それに、明久が何もされなければ私は前に出ないわ」

 

そう言いながら雄二と目を合わせ、トドメを刺す。

 

「大事な大使に失礼なことはされないんでしょう?」

「ぐっ……ああ、そうだ」

「うん、じゃあ明久行きましょ?」

「え? あ、うん」

 

こうして私と明久は、隣のEクラスに宣戦布告をする為、教室を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

「すみませ~ん、2年F組の吉井明久ですけど~」

 

明久がEクラスの戸を開け、そんな事を言う。

なんと言うか、そんな適当な言い方でいいのかしら?

 

「バカのFクラスが何の用?」

 

Eクラスの代表と思われる女子生徒が席を立ち、こちらにやって来た。

 

 

私は今明久の後ろに立っているが、身長差がある為Eクラスの生徒から私は見えていないはずだ。

………このまま無事に終わってくれるといいんだけど。

 

「僕達Fクラスは、Eクラスに宣戦布告をします!」

『なんだと!!』

『まだ初日だぞ!? 正気かよ!?』

『Fクラスは一体何を考えてるのよ!?』

『クソッタレ、部活の時間が減るじゃねぇか!』

 

明久が宣言をすると、Eクラスの生徒達から驚きの声や罵倒が返ってくる。

まぁ普通に考えれば、二年の初日から戦争なんてしないだろしね。

 

「わかったわ。それで、開戦はいつ?」

「あ、えっと午後から、つまり昼休みが終わってからで!」

 

ああ、そう言えば何時開戦とかって決めてなかったわね。

んで、丁度五時限目に開戦ね。

ナイスよ明久!

 

「なるほどね、わかったわ」

「じゃあ、よろしく。僕達は失礼するね!」

 

そう言って踵を返し、私にアイコンタクトで帰ろうと伝える明久。

良し、とりあえず無事に終わっ―――――

 

「まぁ、待ちなさいよ」

「え?」

 

Eクラスの代表さんが明久の肩を掴み、引き止めてくる。

 

ああ、やっぱり。

そうは問屋が卸さないのよね。知ってたわ。

 

「やっぱり、Fクラスに嘗められたままってわけにもいかないのよ」

「えーっと?」

「というわけで、みんなヤっちゃっていいわよ?」

『よーし、お前歯ぁ食いしばれよ!』

『おい、誰かバットか木刀持って来い!』

『ヒャッハー! バカは消毒だー!』

『知ってるかい? ボールは友達、友達はボールなんだよ?』

『野郎ぶっ殺してる!』

「え、ちょ、みんな落ち着いて!」

 

なんというか血の気が多いわね。

流石運動部系の生徒で構成されたEクラスって所かしら?

さて、このままだと明久が危ないから私が手助けしないとね♪

 

 

 

 

 

 ―――――side明久―――――

 

 

Eクラスの男子生徒の一人が僕に殴りかかってくる。

ああ、やっぱりこうなるんだ。

雄二のクソッタレ! 後で絶対ブッ殺してやるからな!!

そう思いつつ僕は目を瞑る。

 

 

そんなことを考えていたからだろうか?

普段なら絶対といって良い程忘れない、後ろにいた親友のことを僕は忘れていた。

 

 

ゴスッ!!

 

大きな音がした。

僕は殴られたと思ったが、一向に衝撃や痛みが来ない。

 

「あれ?」

「明久、ケガは無い?」

 

僕が目を開けるとそこには、ニヤリと笑いながらホウキを持った天子がいた。

多分、廊下にある掃除道具用のロッカーから持ってきたんだろう。

よく見ると、すぐ傍でさっき僕を殴ろうとした生徒が痛そうに腹を押さえながら踞っていた。

ああ、そうだ。天子がいたんだった。

 

「僕は大丈夫だけど」

「そう? 良かったわ。さて、貴方達まだやるつもり?」

 

そう言いながらホウキを上下に振る天子。

それに(ひる)んだのか、Eクラスの生徒達は後ずさる。

既に一人やられているせいか、少し(おび)えてしまっている生徒もいた。

 

「きゅ、急に現れて何するの!? あなた一体誰よ!?」

「私? 私は比那名居天子。そこのバカの友人兼今回の護衛役よ。因みに、私は一部始終を見ていたから言い訳とかは聞かないわよ?」

 

天子がそう言うと、Eクラスの面々はバツが悪そうな顔をする。

だけど、流石にこのままじゃ色々と危ない。

 

「天子、僕はもう大丈夫だからさ。ほら、もう教室に帰ろう?」

「………わかったわ」

 

僕がそう言うと、天子は渋々といった感じで頷いてくれた。

よ、良かった。本気で怒ってはいないようだ。

本気の天子を止めるのは、文字通り骨が折れそうになるから。

さぁ、早くFクラスに帰ろう!

 

 

 

「おい、てめぇ嘗めた真似してくれるじゃねぇか」

 

天子にホウキで殴られた生徒が腹を押さえながら立ち上がる。

おい、そこの名前も知らないEクラスの男子!

せっかく全部上手く行きそうだったのに、なんで煽ってるんだ!

僕の努力を返してよ!

 

「………何よ? まだやる気?」

「あたりめぇだ! やられっぱなしってわけにはいかねぇだろうが!!」

「ちょ、ちょっと止めなさいよ!」

 

これには流石のEクラスの代表さん(確認はしていないけど、他にそれっぽいのはいなさそうだし)も止めに入ってくる。

まぁ、とばっちりは受けたくないだろうからね。

 

「止めんじゃねぇよ、中林。これは俺の問題だ!」

「私は良いわよ? 体が鈍ってないか試したかったし」

 

ああ、天子の方もやる気満々だ!

このままじゃ、この教室が血で濡れることになるだろう。

こ、こうなったら!!

 

 

 

「ふ、二人共やめてよ! 僕の為に争わないで!!」

 

 

 

僕がそう言うと、Eクラスの教室が静寂に包まれる。

皆、ポカーンとした表情で口を開けていた。

ただ一人、天子を除いて……

 

「あ~あ、このバカ明久。しらけちゃったじゃないのよ」

「だ、だって天子とそこの男子が喧嘩始めようとするから」

「はぁ、もう良いわよ。………ありがとね」

「へ? 何が?」

 

なんでお礼言われたんだろう?

僕にはそれが判らない。

 

「何でもないわよ。気にしないでさっさと戻りましょう?」

「う、うん」

 

僕は疑問を抱きつつも、Fクラスの教室を出たのだった。

 

 

 

 ―――――sideout―――――

 

 

 

 

 

まったく、あのバカは何を考えてるんだか。

いや、そもそも何にも考えてないんだったわね。

 

私はEクラスの教室から出ていく明久の背中を見ながらそう思う。

さて私も行きましょうか。

っと、その前に……

 

「えっと、騒がしくしたり怖がらせっちゃったりしてごめんなさいね? ましてやまだ授業中だったのに」

 

私は頭を下げながらそう言う。

すると、一早く立ち直ったFクラスの代表らしき人、確か中林さんだったかな? が一瞬驚いたような表情をする。

多分、私の態度が急に変わったからだろう。

 

「い、いや、気にしないで? けし掛けたこちらにも非があるわ」

「というか非しかないわよね? 先に手を出そうとしたのはそっちだし」

「うっ」

 

正論を言われて言葉を失う中林さん。

 

「ま、この続きは試召戦争でやりましょ? じゃ、私も戻るわ。 午後はよろしくね?」

「え、ええ、こちらこそ」

 

言い終わった私は踵を返し教室を出る。

あ、そうだ。

 

「ああ、それと。明久に感謝するといいわよ?」

「はっ?」

「………分からないなら別にいいわ」

 

多分、本人もそのつもりは無かっただろうしね。

私も態々言うつもりはないし、明久本人に聞くつもりもない。

 

「じゃあ、またね?」

 

そう言って今度こそFクラスの教室を出た。

すると、案の定というかなんというか、明久は廊下で私を待っていた。

 

「あら、待っててくれたの? 先に戻っても良かったのに」

「いや、また天子が何かするんじゃないかと思って」

 

む、失礼ね。私は貴方や雄二とは違うのよ?

ちょっとからかってやろうかしら……

 

「つまり明久は、私を信頼していないってことね。一番の親友だと思ってたのは私の勘違いだったのかしら?」

 

私は悲しそう表情を作り明久に言う。

 

「ええっ!! いや、僕はそうゆうつもりで言ったわけじゃなくて!」

「じゃあどういうつもりよ?」

「そ、それは……」

 

明久は困ったような表情をしている。

やっぱり明久は面白いわね。

さて、そろそろネタばらしを……

 

「な~んて、冗だn」

「天子が心配だったから」

「え?」

「だから、天子が心配だったんだって。もう! 恥ずかしいから何度も言わせないでよ!」

 

このバカは急に何を言い出すんだろう?

それと明久、今のセリフはちょっと気持ち悪いわよ?

 

「気持ちわるいわ」

「恥ずかしいの我慢して言ったのに酷くない!?」

 

どうやら、口に出してたみたいだ。

………そういえば、ネタばらし遮られたんだったわね。

 

「ふふ、冗談よ」

「どっからが!? どこから冗談だったかによっていろいろ変わってくると思うんだけど!!」

 

もう、うるさいわね。

さっさと教室に戻るわよ

 

「くそぅ、理不尽だ~」

 

 

そんなことを呟いている明久を無視し、私は歩き出した。

自分の頬に、少し赤みが差していることを感じつつ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ホウキ返すの忘れてた。

 




すみません、一時間程遅れました。

今回は遂に宣戦布告まで行くことができました。
読んでいて違和感があったかもしれないので補足をすると、

アニメ第一期の一話では宣戦布告後に夕方になっていましたが、この物語では宣戦布告~Eクラスとの戦争を初日にまとめます。
その為、今回明久が言ったように午後からの開戦となっているわけです。

さて、今回他にも色々と情報が出たり、謎が増えたりしました。
天子やその周辺の設定は一応固まってはいます。
ですが、細かいところ(今回で言えば天子の異名)はいくつか決まっておらず、その場のノリや勢いとかで決めることもあります。

まぁ、何が言いたいかというと、おかしな所は遠慮なく指摘してください。

ということで、次回はEクラス戦開始です。
その前に昼食と会議が入りますがね……
ではでは、次回もよろしくお願いします!


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第5話

「死にさらせ、雄二!!」

「おっと、何すんだ明久」

 

Fクラスの教室まで戻ってくると、明久が雄二に殴りかかった。

雄二はそれをヒラリと避けてみせる。

 

「このクソ野郎! 天子が助けてくれなきゃ、僕は今頃ボコボコにされてたぞ!」

「やはりな、そう来ると思っていた」

「やっぱり使者への暴行は予想通りだったんだな!!」

「当たり前だ。それぐらい予想できなくては代表は務まらん」

「少しは悪びれろよ!」

 

雄二も雄二だけど、簡単に信じたお前も悪いわよ? 明久。

 

「さぁ、これでもう後には引けなくなった。覚悟はいいか、明久、天子?」

「「え?」」

 

覚悟? そんなの―――――

 

 

「「ああ(ええ)、いつでも来い(来なさい)!!」」

 

 

私と明久の声がハモる。

覚悟なんてのはとっくに出来ている。

まったく、つまらない事聞くわね~

 

「よし、じゃあ今から空き教室に移動するぞ。主要メンバーでミーティングを行う」

 

雄二はそう言って教室を出ていく。

そう言えば、いつものメンバーと姫路さんがいないわね。

もう向かってるのかしら?

 

「天子、行こう!」

「ええ、そうね」

 

私達は雄二の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

さて、今私達は空き教室にいる。

メンバーは雄二、明久、私、康太、秀吉、島田さん、姫路さんの7人だ。

 

 

ここに来たとき、姫路さんと島田さんが明久の心配をしたりしていた。

………島田さんが「ウチが殴る余地はまだありそうね」とか言っていた気がするけど、私はもう気にしないことにしたわ。

 

「天子、明久。宣戦布告はしてきたな?」

「ええ、一応今日の午後から開戦予定だと告げて来たわ」

「というか雄二、開戦時刻決めてなかったけどこれで良かった?」

「ああ、上出来だ」

 

珍しく雄二が明久を褒める。

何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのは、私の悪い癖なのか彼の日頃の行いのせいなのか……

 

「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

「ああ、そうなるな。明久、今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」

「そう思うなら、パンでも奢ってくれると嬉しいんだけど」

「えっ? 吉井君ってお昼食べない人なんですか?」

 

姫路さんが驚いたように明久を見ている。

まぁ学生が、それも食べ盛りの男子高校生がお昼をまともに食べていないと聞けばこんな表情にもなるだろう。

実際は違うんだけどね。

 

「いや、ちゃんと食べてるよ」

「……あれは食べていると言えたんだろうか?」

 

それには私も激しく同意する。

あれは食べているとは絶対に言わないわ。というか言わせない。

 

「何が言いたいのさ、雄二」

「いや、お前の主食って―――塩と水だったろ?」

「失礼な、きちんと砂糖だって食べてい()さ」

 

調味料と水だけの時点で食とは言えないわよ?

 

「ま、飯代まで遊びに使い込んでるお前が悪いよな」

「し、仕送りが少ないんだよ!」

 

嘘をつくな!

ゲームや漫画を自重すれば、色々差し引いても十分な額貰ってるじゃないの。

 

「……あの、良かっ―――」

「安心しなさい雄二。今日()私が明久の分のお弁当持ってきてるから」

 

そう、一時期本当に水と塩と砂糖と油だけで過ごしていた明久を見かねて、私が明久の分のお弁当を作るようになった。

一応、もう明久の食生活はある程度は改善されているのだが。

 

いつの間にか習慣になってるのよね~

まぁ、一人分増えてもあんまり変わらないから良いけど。

 

「本当!? いつもありがとう天子! 僕には君が本物の天使に見えるよ!」

「いつもいつも大袈裟よ? というかそのセリフも聞き飽きたし」

「良かったな、明久。今日も天子の愛妻弁当が食べれて」

「はいはい、愛してる愛してる」

「ちょ、雄二に天使! 誤解を生みそうな冗談やめてってば!」

 

因みにここまでがいつもの流れだ。

別に私は明久の妻でも彼女でもないんだけどね~

あと明久、ナチュラルに天使って言わないで?

 

「あ、あの! 吉井君と比那名居さんって付き合ってるんですか!?」

「「へ?」」

 

姫路さんがいきなりそんな事を聞いてきて、私と明久が声を上げる。

何故か雄二が面白いものを見るかのようにニヤニヤしていた。

………ああ、なるほど。そういうことね。

 

「別にそういうわけじゃないわよ? あれは雄二の冗談だし、私の愛してるってのも友愛って意味でだしね」

「え、そ、そうなんですか? でもお弁当……」

「それは成り行きだし、なんか習慣みたいになってるからよ。何なら姫路さんが明久のお弁当作る?」

 

姫路さんはきっと明久に気があるんだろう。

そう思った私は、そんな提案を姫路さんにする。

 

「え!? 良いんですか?」

「いや、良いもなにも」

 

 

何度も言うが、別に私は明久と付き合っていない。

だから姫路さんが明久に好意があるなら応援するのも吝かではない。

………それに、島田さんよりは色々と心配なさそうだし。

 

「ねぇ、明久? 姫路さんのお弁当食べてみたいわよね?」

「勿論!!」

 

即答だったわね。

 

「じゃあ、今度作ってきますね」

「本当に? ありがとう姫路さん!」

 

笑顔でそう言う明久。

うんうん、いい雰囲気じゃないかしら?

でも、島田さんが面白くなさそうな顔してるのよね~

私が初めて明久にお弁当渡した時とかも、確かこうだったし。

 

「……ふーん。瑞希って随分優しいのね。吉井()()に作ってくるなんて」

 

と、そんなことまでを言い出す島田さん。

………いつの間に名前で呼ぶようになったのかしら?

 

あと、そんな風に言うくらいなら貴女も作ってこればいいじゃない。

こういうのって積極的になった方が良いってよく言うわよ?

それに、恋の山には孔子の倒れとは言うけれど、貴女は誤まり過ぎなんだし。

ここらへんで挽回をしないと、ねぇ?

 

「あ、いえ! その、よかったら皆さんにも」

「俺達にも? いいのか?」

「それは楽しみじゃのう」

「…………(コクコク)」

「……お手並み拝見ね」

「わかりました。それじゃ、皆に作ってきますね!」

 

いつの間にか姫路さんが全員分作ることになっていた。

私や姫路さん本人も入れると七人分。

………流石にそれはキツいんじゃないかしら? 作るのも持ち運ぶのも。

重箱か何かで持って来るなら別だけどね~

 

「姫路さんって優しいね」

「そ、そんな……」

「今だから言うけど、僕、初めて会う前から君のこと好―――」

「おい明久。今振られると弁当の話なくなるぞ」

「―――きにしたいと思ってました」

 

今明かされる衝撃の真実。

私の親友は度し難い変態だった。

 

と、冗談は置いといて。

このバカは一体何を口走ってるんだか……

 

「明久。それだと貴方、欲望をカミングアウトした只の変態よ?」

「明久、お前はたまに俺の想像を超えた人間になる時があるな」

「だって……姫路さんのお弁当が……」

 

だからってあれはないでしょうが。

 

 

 

「さて、かなり話が逸れたな。試召戦争の話に戻ろう」

「そうだね」

 

雄二はチョークで黒板に図を書いていく。

というか、この教室にはチョークあるのね。

 

「戦闘の立会いには長谷川先生を使う。丁度、五時限目にEクラスに向かうところを確保してな」

 

雄二ったら、先生は物じゃないんだから使うって表現はどうにかならないのかしら?

それにしても、長谷川先生か……

 

「長谷川先生というと、科目は数学?」

「数学ならウチの得意分野ね」

「その島田が得意な数学を主力にして戦う」

「瑞希、数学は?」

「苦手ではないですけど」

「じゃあ、瑞希も一緒に戦えるね!」

 

島田さんが嬉しそうに言う。

でも、それは無理だろう。

 

「いや、ダメだ」

「どうして!?」

 

雄二の発言に明久が叫ぶ。

どうしてって、お前が一番よく知ってるでしょうに。

 

「一番最後に受けたテストの点数が召喚獣の戦闘力になる。俺たちが最後に受けたテストは―――」

「?……振り分け、試験……っ!」

 

明久は言った後で、姫路さんの方を見る。

どうやら思い出したようだ。

 

「私は途中退席したから0点なんです」

「あっ……」

「でも戦争が開戦したら回復試験を受けることができるだろ? それを受ければ姫路も途中から参戦することができるさ」

「はい……」

 

姫路さんが申し訳なさそうに呟く。

因みに、私は、いくつかの科目で名前を消さなかったテストがある。

その中には数学も含まれている為、回復試験を受ける必要は無い。

 

「頑張ってくれ」

「……はい!」

 

雄二が励ますと姫路さんは笑顔でそう答えた。

 

 

「……くっ……はぁ」カッカッカッ

 

………あら? 今誰か廊下に居たような?

気のせいかしら?

 

そんなこんなで私達の会議は続いていったのだった。

 

 

 

 

 

 

あれから数時間。

今は昼食も取り終わり、教室で待機している状態だ。

その前にまた色々と一悶着があったんだけどね~

 

既に昼休み終了のチャイムは鳴っている。

もうそろそろ、長谷川先生が来ると思うのだけど……

 

『長谷川先生を確保ーー!!』

 

っと、考えてたら来たみたいね。

 

「開戦だ!! 総員戦闘開始!!」

『おおーーっ!!』

 

私達は拳を上げながら気合を入れる。

さぁ、始めましょうか!

 

 

 

 

 

 ―――――side明久―――――

 

 

『戦死者は補修室に集合!!』

『助けて~、鬼の補習はいや~』

 

Eクラスとの試験召喚戦争が開戦されて数分後、急に鉄人の声と女子生徒の悲鳴が聞こえてくる。

 

「どうやらEクラスから戦死者が出たみたいね」

「ああ、そのようだ」

 

試召戦争のルールの一つに、戦死者は補修室送りにされるというものがある。

また、敵前逃亡も戦死扱いにされるらしい。

味方と交代して逃げるのはOKみたいだけど。

 

 

鉄人の鬼の補習を受けると、趣味は勉強、尊敬する人は二宮金次郎といった人間に仕立て上げられるといった噂がある。

絶対洗脳だよね、それ。

 

「ちなみにその噂、半分は本当で半分は嘘よ?」

「ナチュラルに心を読まないでよ天子! とゆうか半分ってどういうこと?」

「鉄人先生がそ~ゆう生徒を作りたいってのが本当で、無理矢理仕立て上げられるってのが嘘。実際は大量のプリントを戦争終了までやらされるだけらしいわ」

「よく知ってるね」

「本人と、あと補習を受けた生徒に何人か聞いたから」

 

天子の趣味なのかなんなのかは知らないけど、彼女はよく色々な噂を集めてその真相を探ったりしている。

その為、天子に聞けば学園での噂の真相を大抵知ることが出来る。

 

ある意味、天子も情報通ではあるんだよね。

ムッツリーニ程じゃないけどさ。

 

「むしろ康太のは異常すぎると思うわ」

「僕もそう思うよ」

 

 

 

現在廊下では、島田さんと秀吉、ムッツリーニの三人を筆頭にEクラスとの交戦が行われている。

因みに、姫路さんは補給室で回復試験。

僕と天子は護衛役として、雄二や他のクラスメイトと一緒に教室にいた。

数学に強い島田さんが居るからまだまだ大丈夫だとは思うけど……

 

「はぁ~あ」

 

クラス代表である雄二は仰向けで寝転がり、眠むそうに欠伸をしている。

緊張感なさすぎない!?

 

「ねぇ雄二、どうゆう作戦で行くの?」

「作戦なんかねぇよ」

「へ?」

 

作戦を聞いたら予想外の答えが返ってくる。

 

「力任せのパワーゲームで、押し切られた方の教室に敵が流れ込む。そして代表を倒された方の負けだ」

「まぁ、Eクラスとは教室が隣同士だから、細かい作戦なんて決めても役に立たないでしょうね」

 

雄二がそう言うと、隣に座っていた天子が同意する様に説明してくる。

 

「……まさか、押し切られたりはしないよね?」

 

僕がそう聞くと突然、廊下から島田さんの声が聞こえる。

 

「大変、押し切られるわ!!」

「ええ!?」

「まぁ、当然でしょうね」

「Eクラスの方が成績は上だからな。ストレートにぶつかれば、負けるのは時間の問題だ」

「そ、そんな~!」

 

僕は頭を抱えながら叫ぶ。

もうどうしようもないじゃないか!

 

「だが、向こうも所詮はEクラス。ウチとの差は大きくない。押し切るには時間がかかる」

「つまり、その時間が勝負の鍵ってことね?」

「ああ、そうだ」

 

雄二と天子が何かを言っているが、僕の頭じゃとても理解できない。

何となく、時間稼ぎが必要ってのは解ったけど……

 

「あら、明久がそれを理解するなんて。明日は雪かしら?」

「いや、槍だろ」

「僕にだってそれぐらいわかるよ!」

 

雄二と天子が僕をからかってくる。

まったく失礼しちゃうよね!

 

「まぁ、心配するな。こっちには天子って言う切り札があるだろ?」

 

ニヤリと口の端を上げながら雄二はそんなことを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ? 確か天子って……

 

 

 

 ―――――sideout―――――

 

 

 

 

 

島田さんの声が聞こえてから更に数十分後。

 

あの後、先頭に立っていた三人が回復試験を受けに行ったことにより、防衛線は破られた。

そして今、

 

「戦死者は補習!!」

『ひーーっ!』

 

残っていた最後のクラスメイトが戦死した。

これで、この教室にいるのは私と明久、そして代表である雄二だけだ。

目の前には三十人ぐらいいるEクラスの生徒。

完全に囲まれていた。

 

「どうしよう、雄二~」

 

隣の明久が、雄二の肩を揺する。

これで慌てるなっていう方が無理だろうけど、ちょっとは落ち着きなさいよ明久。

 

すると、誰かが私たちの前にやって来る。

 

「もう終わりなの? これまでのようねFクラス代表さん?」

 

そう言いながら現れたのはEクラスの代表、中林宏美(康太に聞いた)だった。

 

「おやおや、Eクラス代表自ら乗り込んでくるとはな。余裕じゃないか」

「新学期早々宣戦布告だなんて、バカじゃないの? 振り分け試験の直後なんだからクラスの差は点数の差よ。あなたたちに勝ち目があるとでも思っていたのかしら?」

「さぁ、どうだろうな?」

「そっか、それがわからないバカだからFクラスなんだ」

 

中林宏美はここぞととばかりに嫌味を言ってくる。

まぁ、否定はしないけどね?

 

「雄二、やっぱり作戦も無しじゃ上のクラスに勝てっこないよ」ヒソヒソ

「おっと、そう言えば一つだけ作戦を立ててたっけ」

「え?」

 

明久が雄二の耳元で話し始めると、雄二がそんなんことを言った。

そうね、最初から一つだけだったけど、これも立派な作戦よね。

 

「なぜ、お前と天子をここに置いているのか、解らないのか?」

「え? ……そう、か」

 

明久がEクラスの人達の方を向く。

あ、あれ勘違いしてる時の顔だわ。

 

「まさか、そいつは!」

「そう、この吉井明久は『観察処分者』だ! 明久お前の本当の力を見せてやれ!」

「ちぇ、しょうがないな。結局最後は僕と天子が活躍することになるんだね」

 

なんで私も入れてるのよ。

 

「『試獣召喚(サモン)』っ!」

 

明久がそう叫んだ瞬間、魔法陣のようなものと一緒に明久そっくりの召喚獣が出てくる。

これ、小さくて意外と可愛いのよね。

 

 

召喚獣の装備は、学年末試験での総合科目の成績によって変わる。

その為、明久の召喚獣は改造学ランに木刀と言った軽装備だ。

また、点数によって動きが早くなったり、力が強くなったりもするらしい。

まぁもっとも、操作に慣れていないとそう簡単には全力を出しきれないでしょうけどね。

 

「『観察処分者』の召喚獣には特殊な能力がある。罰として先生の雑用を手伝だわさせるために、物体に触ることが出来る」

 

雄二がそう言うと、明久の召喚獣は卓袱台を持ち上げた。

すると、Eクラスの生徒達から驚きの声が上がる。

 

 

通常、召喚獣は物体に触ることができない。

その理由は、簡単に言えば幽霊や立体映像なんかと同じ存在だからだ。

しかし、雄二が言った通り、明久の召喚獣は《物理干渉能力》を持っている為、今実際にやっているように卓袱台を持ち上げたり、それを上に投げたりできる。

まぁ、それは『観察処分者』の召喚獣だけじゃないんだけどね……

 

「そして―――――」

 

雄二が続けて説明をしようとすると、先ほど上に投げた卓袱台が明久の召喚獣の頭に落ちる。

 

「がっ! ……僕の頭が割れるように痛い!!」

「召喚獣が受ける痛みは、その召喚者も受ける。な? 面白いだろ?」

 

そう、物理干渉ができる召喚獣には《フィードバック》があり、痛みや疲労がそのまま召喚者にも伝わる。

これが、『観察処分者』である明久の特徴だ。

 

「て、天子。僕の頭裂けてないかな? 大丈夫かな?」

「安心しなさい明久。裂けてないし、タンコブとかも出来てないから」

 

私は明久の頭を軽く撫でた。

 

「いいわ、まずはその雑魚から相手してあげる」

「おっと、そうはいかないわよ? 私のことも忘れないでよね?」

 

私は前に出て、中林宏美と向かい合う。

 

「う、比那名居天子。そう、彼女が切り札ってわけね」

「ああ、そうだ」

 

彼女がそんなことを言い、雄二が同意する。

 

「貴女の事、いろいろと聞いたわ。まさか、あの『地学の天使』がこんな最低なクラスに居るなんてね」

 

あ、それ聞いたんだ。

でも、私をそう呼ぶのは止めて欲しいわ。

 

「最低なクラスねぇ。確かに、この酷すぎる設備とかは気に入らないけど、仲の良い友人達もいるしこんな面白いことにも参加できる。私からしたら最高なんだけどねぇ?」

「はん、落ちぶれたもんだなぁ」

 

私がそう言うと、中林宏美の後ろに居た男子生徒が声を上げる。

あら、あれって私がホウキで殴った奴じゃない。

 

「また貴方? めんどくさいわね~」

「お前とはまだ決着がついていないからな! 地学の天使だか電子だか知らねぇが、Fクラスにいるお前なんか敵じゃねぇ! さっさと補習室に送ってやらぁ!!」

 

まったく、うるさいったらありゃしないわ。

さっさと終わらせましょうか!

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

私は自分の召喚獣を呼び出した。

 




はい、と言う事で今回はここまでです。
いや~、いい引きになったんじゃないでしょうか。

因みに前回から出てきているEクラスの彼。
別に重要なキャラとかではなく、名前も無いただのモブです。
いや、モブにすらなれない「かませ」です。
東方にすら関係ありません。

まぁ、そんなことは置いといて。
今回の話はいかがだったでしょうか?
続きが気になると思っていただければ幸いです。

ああ、それと各話のサブタイトルとかってあったほうがいいのでしょうか?
幕間とかの場合は付けていくつもりなんですがね。
一応サブタイトルを思いついてしまったから、今こうやって書いているだけなので、このままでもいいなら付けないほうが楽ですし。

さて、次回は遂に天子の召喚獣が登場します!
やっと、ここまでこれた。
テンポが悪いから地味に長かった様に感じます。

それでは、またお会いしましょう!
バイバイ~


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第6話

時は遡り、教室前での会話。

 

「あ、そいういえば天子。お前、点数ってあるのか? テストの名前消して0点なんだろ?」

 

試召戦争をやろうと決め、軽く話し合いをしていると、急に雄二が聞いてきた。

 

「ああ、そのことなら一応問題ないはずよ? 名前を消したのは苦手科目()()だから」

「ほう、なら苦手科目の点数は残ってるわけだ」

「ええ、そうね。他の科目に関しては、一回戦争が終われば補充できるし」

「そうだな。んじゃ、最初は天子の苦手科目を主体にして行くか」

「ちょ、雄二。それは流石に天子が厳しいんじゃ?」

 

私の負担を心配したのか、そんな事を言ってくる明久。

 

「大丈夫よ明久。今回私は前線には出ないから」

「え、そうなの? じゃあ、良いのかな?」

「いいんだよ。んじゃ、クラスの連中を焚きつけるとするか!」

「「うん(ええ)!」」

 

 

 

 

 

 

時は戻り、現在。

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

そう言い、私は自分の召喚獣を召喚した。

 

魔法陣と共にデフォルメされた私そっくりな召喚獣が現れる。

 

服装は桃と葉っぱのついた黒い帽子と白のブラウス、空色のロングスカートにロングブーツといった普通のものだ。

ブラウスの一部は、エプロンや前掛けのようになっていて、そこに虹色の飾りがついている。

また、胸のところには赤色、腰には青色の大きなリボンがあるのも特徴的だ。

そして、肝心の武器だが……

 

 

 

その小さな手には何も握られてはいなかった。

 

 

「はっ、何だその貧相な装備は! 武器も()ぇとか、そこの『観察処分者』より酷いじゃねぇかよ! て、ことはだ、点数も相当低いってことだよなぁ?」

 

目の前の男子生徒は私の召喚獣を見てそんな事を言う。

別に事実なので私は何も言い返さない。

点数のこと以外は。

 

「そう思うんなら、さっさと貴方の召喚獣を召喚して、確認してみればいいじゃない」

「はん、そうさせてもらうさ! 『試獣召喚(サモン)』っ!」

 

彼が自分の召喚獣を呼び出すと、既にその頭上に点数が出ている。

そして、私の召喚獣にも点数が現れた。

 

 

Eクラス かませ犬(雑魚)  数学 104点

 

 

「はっ、どうだ!! 数学は俺の得意分野だからな、Eクラスでは一番高いんだぜ? それに比べてお前の点数は―――――」

 

 

Fクラス 比那名居天子   数学 119点

 

 

「な、なんだと!? Fクラスのくせに俺より点数が高いだとぉ!?」

 

私の点数を見てEクラスの彼は驚いていた。

 

「そ、そうか、お前も俺と同じように数学が得意なんだな! だからその点数なんだろ!」

 

と、そんな事まで聞かれる。

………さっきまでの余裕はどこに行ったのよ。

 

それにしても、数学が得意ねぇ。

私がそれを言っちゃうと、島田さんに怒られそうなんだけど。

なんて考えていると明久が口を挟む。

 

「いや、天子は数学は苦手だよ」

「ああ、あとは英語もな」

 

ちょっと、雄二までバラさないでよ!

まぁ、言ってしまったものは仕方がない。

 

 

私は数学と英語が大の苦手だ。

数学はまだ100点を切ることはないが、英語に関しては良くても80点代までしか点数を取れない。

90点以上をとることはまず無いと言っていいわね。

 

なお余談だが、この時の点数はテスト数枚だけで取った点ではない。

時間内上限無制限テスト。

私はこれをフルに活用し、苦手科目に関しては自分の解ける問題のみを答え、残りは完全に捨てている。

ここが普通の学校だったなら、その時の私の数学や英語の点数は30点にも満たないだろう。

酷い時は1桁や0点の時もあるしね。

 

つまり私は、苦手科目は一度に数十枚以上のテストを受けているということになる。

………なんと言うか、本当に私Aクラスに行けていたのかしら?

 

 

 

閑話休題。

さて、今は目の前の敵を倒さないとね。

 

「さてと、もういいかしら?」

「クソ、ちょっと点数が高いからっていい気になってんじゃねぇぞ!」

 

別になってないのだけれど……

コイツ本当にめんどくさいわね。

さっさと終わらせよう。

 

「行くわよ!」

「来やがれクソアマァ!!」

 

私は相手の召喚獣に向かって突っ込む。

まずは正拳突き。………これは簡単に避けられた。

その勢いのまま回し蹴りを繰り出す。

 

ガスッ!

 

「チィッ!!」

 

 

Eクラス かませ犬(雑魚)  数学 99点

 

 

私の召喚獣が放った回し蹴りは、相手の腕に当たったけれど点数はそんなに減ってはいない。

やっぱり無手だと全然ダメージにならないわね。

 

「嘗めやがって! 今度はこっちから行くぞ!」

 

相手は手に持った武器を振り回し、私に向かってくる。

………ダメダメね。動きが単調すぎるし、何より召喚獣の操作に全く慣れていない。

そんなんじゃ私どころか、明久すら倒せないわよ?

 

私は相手の攻撃を只ひたすら避け続ける。

 

「クソッ、なんでこっちの攻撃が当たらねぇんだ!」

 

相手は悪態を吐きつつ攻撃を続けている。

そろそろ終わらせようかな?

 

「明久! 木刀貸して!」

「え? あ、うん!」

 

私が言うと、明久の召喚獣が木刀を放り投げてくる。

そして、私の召喚獣がそれを受け取り構える。

 

 

「はっ、お前何考えてんだ? 他人の召喚獣の武器は触れることはできても、それでダメージを与えることはできない! そんなことも知らねぇのかぁ?」

 

 

そう、通常試召戦争では他人の召喚獣の武器を奪ったり借りたりして攻撃を行っても、それでダメージを入れることはできない。

そもそも、召喚獣の武器や服などの基本装備はその召喚獣専用の物であり、他人が使うことを想定していないらしい。

だからシステム上触れることはできても、自分の武器として使うことはできないのよね~

 

 

 

()()()()

 

 

私の召喚獣は勢い良く駆け出し、そのまま相手の首を狙った。

敵は余裕の表情で動こうとしない。

私は無意識に口の端を吊り上げる。

 

 

ズバンッ!

 

 

『はぁっ!?』

 

Eクラスの生徒達から驚きの声が上がる。

それはそうだろう。

 

 

Eクラス かませ犬(雑魚)  数学   0点

      VS

Fクラス 比那名居天子   数学 115点

 

 

なにせ、相手の首が切り落とされたのだから。

 

 

「戦死者は補習!」

「ちょ、ちょっと待てや! 今のはどう考えても反則だろ!! てか、なんでその女の召喚獣は他人の武器で攻撃できるんだよ!?」

 

鉄人先生が現れ、男子生徒を補習室に連れて行こうとすると、彼が声を荒げる。

なんでって言われてもねぇ。

 

「言ってなかったけどね、私の召喚獣にもあるのよ。物理干渉能力」

「なんだと!? てことは、お前も『観察処分者』か!」

 

私が『観察処分者』ですって?

失礼ね! 私は明久みたいに問題なんてあまり起こしてないわよ?

………まったく無いとは言えないけど。

 

「いや、それは違うぞ? 比那名居は『観察処分者』ではない」

 

先生が私の代わりに言う。

 

「ならなんでコイツの召喚獣は物に触れるんだよ! それができるのは『観察処分者』だけなんだろ!?」

「あら、誰も『観察処分者』だけだなんて言ってないわよ? 先生達の召喚獣も持ってるしね」

「なんだと!?」

 

元々、物理干渉能力は先生達専用の物だったらしいんだけど、明久が学園初の『観察処分者』になってしまった為に導入されたのよね~

 

因みに、私が持っている理由はひょんな事から学園長の実験に付き合わされたりしているからだったりする。

勿論、フィードバックもあるけどね。

 

「そして、物理干渉を持っている召喚獣は他人の武器で攻撃しても、ダメージを与えることができるわ」

『なるほど、だからアイツの召喚獣の首が切れたのか』

 

Eクラスの誰かがそう呟いた。

因みに、その時の攻撃力は自分の召喚獣の点数に比例する。

だから、今回みたいな状況じゃなかったらあんまりやる意味ないのよね~

 

「もういいか? さあ、お前には補習室でみっちり勉強を教えてやる」

「ちょ、コラ待てよ鉄人! あ、いやすみません。待ってください西村先生。自分で歩けますから!」

 

先生は男子生徒を引きずりながら教室を出ていった。

一瞬、彼を睨んだ時の先生の目がヤバかったんだけど、まぁ色々と自業自得ね。

 

「さてと、うるさい奴もいなくなったし。続きをやりましょう?」

「くっ……」

 

私がそう言うと、Eクラスの面々が後ずさる。

さて、そろそろかしら……

 

「よくやった天子。もう十分だ」

 

すると、雄二から声がかかる。

 

「なに言ってるんだよ雄二! このまま天子に全員倒してもらえば……」

「それは無理よ、明久。この点数じゃ、ここにいる全員を倒す前に補習室か回復試験に行く事になるわ」

「え、じゃあどうするのさ!」

 

はぁ、ちょっとは頭を使いなさいよね?

 

「貴方、誰か忘れてない?」

「へ? ……あ! てことは作戦って!」

「ああ、時間稼ぎはもう十分ってことだ!」

 

雄二がそう言うと、教室の戸が開かれる。

私たちを含め、教室内の全員がそちらを向く。

そこには、私たちの待ち人がいた。

 

『ひ、姫路さん? あれ? Aクラスは今自習中じゃ……』

 

奥の方の生徒がそんな声を上げたのが聞こえてくる。

 

「あ、あの……Fクラス、姫路瑞希。Eクラスに、勝負を申込みます! 『試獣召喚(サモン)』!」

 

姫路さんが召喚獣を呼び出す。

その姿は西洋甲冑を身に纏い、背丈の倍はあるであろう大剣を持っていた。

そして、その左腕には腕輪が付いている。

 

「な、姫路瑞希ってまさか!?」

 

Eクラス代表の中林宏美が声を上げる。

やっぱり、姫路さんは有名よね。

 

「行きますっ!」

 

そんなことを考えていたら、姫路さんが腕輪の能力を使っていた。

召喚獣は400点以上の点数を持っていると腕輪を手に入れ、特殊能力を使うことができる。

まぁ、使用条件として点数を消費してしまうんだけど。

 

どうやら姫路さんの召喚獣は『熱線』を飛ばす能力があるみたい。

 

今の攻撃で、中林宏美以外のEクラスの生徒が戦死した。

あ、姫路さんの点数が表示されたみたいね。

私は彼女の召喚獣の頭上を見る。

 

 

Fクラス 姫路瑞希  数学 412点

 

 

流石、Aクラス候補だっただけはあるわね。

苦手ではないって言ってたけど、得意科目でもないのにこの点数だなんて。

しかも、腕輪の能力を使ってこれってことはもうちょっと高かったってことよね?

 

「一撃でほとんど倒しちゃうなんて、流石はウチの切り札だわ」

「はぁ!? Fクラスの切り札は貴女じゃなかったの!?」

 

私が姫路さんを褒めると、中林宏美がそんな事を言ってくる。

 

「あら、切り札が一つだけだなんて、言ってなかったわよね?」

「な!? 騙したのね!」

「兵は詭道なり。要は、騙された貴女達が悪いのよ。じゃあ、後はよろしくね姫路さん♪」

「はい!」

 

私はその場から離れ、勝負の行方を見守る。

 

「それじゃ、行きます! ごめんなさい!」

「くっ!」

 

姫路さんはそう言うと、中林宏美の召喚獣に向かって空中回転切りを繰り出す。

 

 

Fクラス 姫路瑞希  数学 412点

      VS

Eクラス 中林宏美  数学   0点

 

 

「そ、そんな」

 

 

 

こうして、Eクラスとの試験召喚戦争は、Fクラスの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

「やった~! すごいよ姫路さん! これも姫路さんの力のおかげだよ!」

「そんな、ありがとうございます」

 

Eクラスとの試召戦争に勝利し、今は戦後対談の最中だ。

この場には、戦死しなかった私達と中林さんを入れた五人に、回復試験を行っていた島田さん、秀吉、康太の三人が合流して、計八人がいる。

中林さんはショックで座り込んじゃってるけどね。

まぁ、クラスを変えられると思ってるだろうから仕方ないでしょうけど。

 

「これで、僕らはEクラスと教室の設備を交換できるんだよね?」

「いいや、設備は交換しない」

「え?」

 

明久が嬉しそうに聞くと、雄二がそんなんことを言い出す。

まぁ大方、クラス交換をしない代わりになにか条件をつけるつもりなんでしょうね。

 

「設備は今までのままだ。いい提案だろ? Eクラス代表さん」

「そんな、どうして」

「なんでだよ雄二! せっかく勝ったのに!」

 

明久が雄二に突っかかる。

まぁ、無理もないけどね~

でも、明久。あなた結局何もしてないじゃない。

言う権利あんまりないわよ?

 

と、そんな言い合いをしていたら、教室の戸が開けられる。

そちらを見ると、意外な人物が教室に入ってきていた。

 

「決着は付いた?」

 

そう言いながらこちらに来る女生徒。

彼女は、見た目が秀吉ソックリだった。

言わなくてもわかるだろう。

彼女は木下優子。秀吉の双子の姉だ。

 

「あれ? 秀吉、どうしたのその格好? そうか! やっと本当の自分に気付いたんだね!」

 

明久、貴方やっぱりバカね。

そもそも、本当の自分って何なのよ?

 

「明久よ、ワシはこっちじゃぞ」

「それは、秀吉の双子の姉よ」

「へ?」

 

私と秀吉がそう言うと明久は素っ頓狂な顔した。

 

「私は2年Aクラスから来た大使、木下優子。我々Aクラスは、Fクラスに宣戦布告をします!」

 

『ええーっ!』

 

私と雄二以外の皆が声を上げる。

まさか向こうから来るとわね。

流石に予想外だったわ。

 

「ちょっと待ってよ! どうしてAクラスが僕らに!?」

「さぁ、詳しくは私も知らないわ。でも、最下位クラスだからって手加減はしない。容赦なくたたきつぶすから、そのつもりで」

「まあまあ、ちょっとお付きなさいよ優子」

「っ! 比那名居さん!」

「あら、去年みたいに天子って呼んでくれないのかしら? 残念だわ」

「そ、それは……いえ、今はそんなこと関係ないわ。伝えることも伝えたわけだし、私は失礼するわね」

 

優子はそう言って教室を出ていった。

もう、つれないわね~

 

「えっと、天子。さっきの秀吉のお姉さんと知り合いなの?」

「ええ、去年からね」

 

まぁ、友人というよりはライバルみたいなものだけどね~

確か、私が『地学の天使』って呼ばれ出した頃に知り合ったのよね。

なんか懐かしい。

 

「まあ、Aクラスのことは明日考えるとしよう。さて、設備を交換しない代わりの条件だが―――――」

 

 

 

そんなこんなで私達の二年生初日が終わったのだった。

 




戦闘描写が上手く書けない!
あと、説明が多すぎる!

と言う事で、今回でやっとアニメ一期の一話分が終わりました。
長かった、実に長かった。
次回からはテンポ良く行きたいですね。(するとは言えない)

さて、今回ついに天子の召喚獣が登場しました。
見た目については原作の天子がそのままデフォルメされて、耳が少し尖っているのをイメージしてもらえばOKです。

因みに、今回天子が武器を持っていなかったのには理由があります。
ちゃんと例の剣はありますので安心してください。


さらに、今回はオリジナル設定も登場しました。
簡単に説明すると、
・自分の召喚獣は、他人の召喚獣の武器を使って攻撃してもダメージを与えられない。

・《物理干渉能力》を持った召喚獣はその限りではない。

・他人の武器を持っても攻撃力に変化はなく、自分の召喚獣の点数に比例する。

こんな感じになります。
まぁ、これを作った理由は、原作やアニメで他人の武器を使い、ダメージを与えられるのかが出ていなかった(はずだ)からです。
召喚獣に攻撃は当たるし、雄二が明久の木刀を蹴飛ばしていたので触れることはできると分かっているんですが、ダメージを与えられるかどうかまでは分かりませんでした。

どこかで出ていたら教えてください。
修正するので。

というわけで、まだまだ話したいことはありますが、今回はここまでです。
次回は幕間をやる予定です。
内容は昼食の時に起こった一悶着。

まぁ、先にこっちをやらないとフラグが無いので。

では、また次回よろしくお願います!


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幕間 職員室とお昼ご飯

※WARNING※
今回、前半部分において人によっては不快に感じる表現や描写があります。
予めご了承ください。

そういうのが嫌な人は、職員室での話を飛ばしてください!
もしくは、今回の話を見ないでください。

それでは、よろしくお願いします。


現在、私は職員室にいる。

目の前には鉄人先生と、もう一人の教師。

鉄人先生は睨みながらも疲れたような顔をしており、少し申し訳なく思ってしまう。

一方、もう一人の教師は膝を付き、とても絶望したような顔をしていた。

 

 

 

ドウシテコウナッタノカシラ。

 

 

 

 

 

 

遡ること一時間前。

 

 

試召戦争の会議が終わり、一時限目も終わった休み時間。

今は、特にやる事もないからのんびりしてたんだけど……

 

「比那名居!」

「っ!」

 

急に名前を呼ばれ、少しビックリした。

声のしたを見ると鉄人先生が教室の入口にいた。

私は立ち上がり、先生のところまで行く。

 

「どうかしたんですか鉄人先生?」

「だから、西村先生と呼べと……いや、今はそんなことはいい」

 

あら? よっぽどお急ぎみたいね。いつもの返しが来ないなんて。

………ちょっと寂しいわね。

 

「比那名居。お前がEクラスの生徒を急にホウキで殴ったと報告を受けたんだが、本当か?」

 

………ああ、あの時のことを誰かが言ったのね。

まったく、これはEクラスの策略ってことかしら?

 

「ええ、事実ですよ。色々と言葉足らずな気もしますけどね?」

「ふむ、そうか。なら今すぐ職員室に来い。詳しいことはそこで聞く」

「はい。わかりました」

「ちょ、ちょっと天子!」

 

私が先生について行こうとすると、明久から声がかかる。

 

ああもう、そんな心配そうな顔しないでよ。

私は大丈夫だから。

貴方は心配しないで待ってなさい?

 

なんて、そんな思いを込めながら明久に微笑みかける。

そして先生のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

職員室についた鉄人先生は、Eクラスの担任教諭を呼んだ。

そして、私のいる鉄人先生の机の前にその教師が来る。

あら? この人って確か……?

 

「西村先生、その生徒が我がEクラスの生徒に暴行を働いた、比那名居さんかね?」

「ええ、そうです」

 

その先生は白髪(しらが)頭をオールバックにし、ナイロールタイプのメガネをかけた男性教師だった。

なんと言うか、いかにも私賢いですみたいな感じの人ね。

 

「まったく、これだからFクラスの生徒は。こちらにまで問題を持って来ないで欲しいものですね」

 

ああ、思い出したわ。

振り分け試験の時に試験管役の一人だった()()()()先生ね。

あのブツブツと偉そうなこと言っていた。

 

「まあまあ、落ち着いてください。比那名居にもなにか理由があるようですし」

「理由ですか。どうせくだらないことでしょう。聞く価値もありませんね」

 

うわ~

あの時にも思ったけど、やっぱりこの先生もうダメね。

まぁ、あまり良い()も無かったし。

 

「いや、ですから……」

「黙っていてください。それとも、西村先生はこんな最底辺のクズであるFクラスの生徒を庇うとでも? はっ、貴方も地に落ちたものだ」

「教師である貴方が、そんな差別発言をしてもいいのかしら?」

「なに?」

 

流石の私でもカチンときて、声を出す。

私にクズって言ったのもそうだけど、何よりも鉄人先生にそんなこと言うなんてね。

コイツ、先生がどれだけ良い人なのか知らないでしょ!

 

 

「だから、教師がそんな態度で良いのかって言ってるのよ」

「おい、比那名居!」

 

先生が何か言っているが、私はもう止まらない。

 

「偉そうな態度で人を見下すことしかできない貴方の方こそクズよ!」

「なんです? 誰に口を聞いているんですか?」

「貴方に決まっているでしょ? 二重の意味で生徒に手を出した人間のクズが!!」

『!?』

 

その場にいた教師全員が驚いていた。

やっぱり、先生達は知らなかったみたいね。

 

「な、何を言っているんですか?」

「とぼけても無駄よ? 大学教授になれなくて仕方なく教師になったSラン大学出身者さん? 貴方のことは色々調べたもの」

 

私は、あの振り分け試験以降この教師のことを調べた。

基本的なデータは康太が知っていたし、噂集めは私の十八番だからね。

 

「聞いたわよ? 貴方、自分に突っかかって来る生徒がいたから病院送りにしたんですってね? しかも、その生徒は喧嘩ばっかりしている不良だったから病院送りにされても親は何も言わなかった。あと、これは聞いた話だけれど、警察にも手を回していたみたいじゃない? これ、相当な問題よね?」

「なっ!?」

 

教師はなぜ知っていると言うように驚いていた。

あらあら、ポーカーフェイスもできないのかしら?

よく今まで隠してこれたわね?

 

 

「それだけじゃないわよ? どんな勘違いをしたのか、自分を慕っていた生徒を無理矢理襲ったんですってね?」

「そ、それは質の悪いの噂です!」

「いいえ? 私は本人に聞いたもの」

 

これはハッタリだ。

実際に聞いたのは、襲われた生徒の元友人だ。

今、本人は精神病院に入院しているらしく、親ですら殆んど面会もできない状態らしい。

元友人の人が言うには、病院に入る前に一度、虚ろな目で「先生、ドウシテ」と呟いていたのを聞いてしまったらしい。

よっぽどショックだったのね………

 

「そんな馬鹿な! あの子が言う訳が無い!」

「へぇ、何故ですか?」

「何故もなにもこっちには写真が……っ!!」

 

ああ、ついに墓穴を掘ったわね。

というか、本当によく今まで隠してこれたわね。

軽く突っついただけで簡単にボロを出すじゃないの。

 

「ふ~ん、写真ねぇ。本当にゲスね」

「先生、詳しくお聞かせいただけますかな?」

 

鉄人先生が、このゴミクズでゲスな犯罪者教師を思いっきり睨みつけながら言う。

こんなに怒った先生始めたみたわ。

流石の私も怖いわね。

 

クズなゲス教師は諦めたように膝を付き、絶望していた。

それを、先生は疲れたように睨みつけていた。

 

 

まぁ、明久を痛い目に合わせようなんて呟いたのが、貴方の運の尽きだったわね♪

 

 

 

 

 

 

はい、回想終わり!

 

ということで、今私は困っていた。

もう二時限始まってるから戻りたいのよね~

 

 

そう、私がクズゲス教師、略してクゲ教の行いを暴露していたらかなりの時間が経ってしまっていた。

………クゲ教ってどっかの宗教みたいね。

公家教…………止めよう、この教師が公家の子孫みたいに思えるわ。

 

まぁ、何が言いたいのかというと

 

「先生、私教室に戻りたいんですけど」

「……はぁ。ちょっと待て比那名居。まだお前から事情を聴いていないからな」

「ふむ、つまり合法的に授業をサボれると……」

「馬鹿な事を言っていないで、早く説明をしろ!」

 

あら、怒られちゃったわね。

まぁ、流石にいろいろやりすぎた感があるしね。

 

「Eクラスに宣戦布告に行った明久が、Eクラスの生徒から暴行をされそうだったので助けました。素手では勝てないと思ったので、近くの掃除用のロッカーからホウキを持ってきて応戦しました。確かにホウキで殴ったのは悪かったけれど、先に殴ろうとしてきたのは向こうなので、れっきとした正当防衛だと思います。私の言い分は以上です。後はEクラスと、必要があれば明久にも確認してもらえばわかると思います」

 

私は一言一言しっかりと、それでも捲し立てる様に言った。

どうやら、自分で思っていたよりも鬱憤が溜まっていたみたいね。

 

「……ハァァ。最初からそうしていれば、こんな面倒なことにはならなかったと思うんだが?」

 

先生は、呆れたように私に言ってきた。

私はクズゲス野郎を指さして言う。

 

「ソイツを野放しにておいたほうが良かったですか?」

「いや、そうは言わんが。だが、ほかにもやり方はあっただろ」

 

確かにやろうと思えばいろいろ出来たわね。

普通に証拠を集めて先生達に伝えるとか、被害者には少し酷だけどネットで暴露するとか。

でも、やっぱりこういうのが一番手っ取り早いのよね~

 

「とりあえず、事情は解った。後はEクラスの生徒に確認する。お前は教室に戻れ」

「は~い。あ、先生。ソイツ、他にも余罪があるそうなので徹底的に調べてくださいね?」

「わかったわかった、早く戻れ」

「はい、失礼します」

 

そして、私は職員室を出た。

………ああ、そうだ。

 

「西村先生」

「ん、なんだ? 忘れ物か?」

 

どうやら、私が名前で呼んだことに気がついていないようだ。

 

「すっごく余計なお世話だと思いますが―――――」

「うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソイツみたいな、底の浅い教師にならないでくださいね? 私、先生のこと信頼してますから」

 

 

 

 

 

 ―――――side西村(鉄人)―――――

 

 

比那名居の奴は言いたいことだけを言って、今度こそ職員室を出て行った。

まったく、あいつは……

俺は比那名居の言葉を思い出す。

 

 

『ソイツみたいな、底の浅い教師にならないでくださいね? 私、先生のこと信頼してますから』

 

 

「……たくっ、確かに余計なお世話だ」

 

 

 

今だ項垂れている犯罪者の方を見る。

俺はパキポキと指を鳴らしながら、その男に近づいた。

 

 

 

さて、事情聴取の時間だな。

 

 

 

 ―――――sideout―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

あれから、数時間後。

今、四時限が終わった。

 

さてと、お弁当食べて試召戦争に備えないとね。

私は鞄から弁当箱を二つ取り出し、後ろを向いた。

 

「はい、明久。今日のお弁当」

「ありがとう、天子!」

 

明久は嬉しそうにそれを受け取った。

 

「明久、天子。作戦会議も兼ねて屋上で食おうと思うんだが」

「ああ、なら私飲み物買ってくるわ。何かいる?」

「「お茶」」

「了解。先食べてていいからね~」

 

私はお弁当を明久に預け、財布を持って一階の売店を目指した。

 

 

 

 

 

 

「おお、比那名居。ここに居たのか」

 

私が、売店の自販機で人数分のお茶を買って歩いていると、鉄人先生に会った。

私の事探してたみたいだけど……

 

「………襲う気ですか?」

「お前はなんてことを言うんだ!!」

「ふふ、冗談ですよ。それで、何か御用です?」

「今、その冗談は質が悪いぞ。あの男は懲戒免職処分になった。お前の言った通り、色々と余罪も見つかったからな。職員会議の結果、即日解雇になるそうだ」

 

あら、早かったわね。

こ~ゆうのってもっと時間がかかると思ってたんだけど。

まぁ、問題を残しておきたくないだけでしょうね。

 

「そうですか。それは安心しました……それで、本題はなんですか?」

「……はぁ。その件も含めて、放課後に学園長室に来てくれとのことだ。例の腕輪の点検と調整が終わったそうでな」

 

と疲れたように言う鉄人先生。

今日何回ため息をついたのかしら?

それにしても、放課後ねぇ。

 

「それって放課後じゃないとダメなんですか? 私としては、この後の戦争で使いたいんですど……」

「ああ、調整後の試験運転がしたいらしい。時間がかかると言っていたから放課後の方が都合が良いのだろう」

 

なるほど。

てことは、私は武器無しで戦う事になりそうね。

ちょっと不安だわ。まぁ、それはあとで相談するとしましょうか。

 

「わかりました。放課後ですね」

「ああ、すまんな」

「いえいえ、私の方こそすいません。お手数をおかけして」

「……いつもそうだと、俺としてはありがたいんだがな」

「あら、それは無理な相談ですね」

 

私は私だからね。

敬語や丁寧な口調は使うけれど、殊勝な態度を取るつもりまではないもの。

 

「まったく、吉井や坂本だけでも手一杯だというのに」

「いつもお疲れ様です………お詫びと言ってはなんですけど、お茶いります?」

 

今回は私のせいだから、せめてものお詫びに。

 

「ん? いいのか?」

「ええ、間違って一本余分に買ってしまったので。良かったらどうぞ」

 

ごめんなさい先生。嘘です。

だってこう言わないと、先生受け取らないでしょ?

 

「む、そうか。ではありがたくいただこう」

「はい、どうぞ」

 

私は腕に抱えていたお茶を一本、先生に渡した。

 

「では、気をつけて戻れよ?」

「は~い」

 

私は返事をして先生と別れ、屋上に向かった。

………一本減ったとはいえ、やっぱり歩きづらいわねこの格好。

誰かについてきてもらえば良かったかしら?

 

 

 

 

 

 

「おまたせ~」

 

私は屋上に着き、そう声をかけた。

お茶抱えてたから扉開けにくかったけどね。

 

「あ、おかえり――って、そんなに買ってきたの!?」

「一応全員分買ってきたつもりなんだけど」

「おいおい、よく一人で運べたな。てっきり俺と明久の分含めた三本だけ買ってくると思ってたんだが、通りで来るのが遅い訳だ」

「ついでよ、ついで」

 

そう言って私は、円になって座っている皆の真ん中にお茶を置いた。

それを、皆がお礼を言いながら取っていく。

さて、お弁当食べましょうか。

 

「いただきま~す」

 

 

モグモグ。

 

うんうん。我ながら美味しいわね。

まぁ、まだ明久や康太には負けるんだけどね~

 

「さっき吉井君のお弁当見たときにも話してたんですけど、比那名居さんてお料理上手なんですね」

「そう? 普通だと思うけど?」

 

言いながらまた一口食べる。

 

「謙遜することはないぞい? ワシなんか料理自体そんなに得意ではないしのう」

「あら、でも簡単なものなら作れるじゃない。それだけでも十分マシよ」

 

世の中には料理とも言えないような、ダークマターを作り出す人もいるしね。

 

「ん? おい、天子。今気付いたがお茶、一本足りないぞ?」

「あら? 買い間違えたかしら?」

 

実際は鉄人先生にあげたんだけどね~

 

「比那名居が本数を間違えるなんて……」

「…………珍しい」

「あら、私だって人間なんだから間違えるわよ」

「そうそう。天子って意外と抜けてる時があるからね~」

 

普段から抜けっぱなしの明久には言われたくないわ。

 

「まぁ、いいわ。買い忘れたなら仕方ないし」

「良かったら、僕の飲む?」

「「っ!?」」

「いいの? じゃあ、ちょっと貰うわ」

 

そう言って、明久からお茶を受け取り飲む。

 

「ふ、二人とも何やってるのよ!」

「ふ、不潔です!」

「え?」

「あっ」

 

島田さんと姫路さんが立ち上がって声を荒げる。

し、しまった、ついいつもの癖で!

そんなことを考えていると、島田さんが明久に関節技を決めようとしていた。

 

「ちょ、ちょっと待って島田さん!」

「問答無用よ!」

「吉井君! どうして、比那名居さんと間接キスなんてするんですか!」

「そうよ! このスケベ!!」

「いや、誤解だってば!」

「ふ、二人共落ち着きなさいって! 雄二、笑ってないで抑えるの手伝ってよ!」

 

因みに康太は鼻血を出しており、秀吉がそれを心配している。

康太、貴方間接キスでもダメなの!?

いつもより酷くはないけど、それどうにかしないと今後不便よ!?

 

「と、とにかく落ち着きなさい! 今回は私も不用意だったから私の責任でもあるわ!」

「そ、それに天子とはたまにコップを間違えたりして何度もそういうのはしてるし! 今更そんなの何の問題にも―――――」

「なんですって!?」

「それ本当ですか!?」

 

ああ、もう!!

なんで明久は話をややこしくするようなこと言うのよ!!

そんなの、火に油どころか核爆弾でも落とすようなものじゃないの!!

どうすればいいのよこれ!?

 

「お前らそろそろ落ち着け。もう昼休みも終わっちまうぞ?」

「「でも!!」」

「ああもう、私が言うのもなんだけど、今から二人もすればそれでいいでしょ?」

「「え!?」」

 

二人が顔を真っ赤にして固まる。

視線はお茶に行ってるけど。

 

「明久、さっきのお茶飲みなさい」

「へ? なんで?」

「いいから早く!」

「は、はい!」

 

まったく、このバカの鈍感さには呆れを通り越して感心するわよ。

 

「天子、飲んだけど」

「じゃあそれを――って貴方なんで全部飲んでるのよ!」

「いや、だってあとちょっとしか残ってなかったし」

「「ガーン」」

 

あ、二人が地面に膝をついちゃった。

期待した分ショックが大きかったみたいね……

 

「あ~、そろそろ教室戻らないと本当にヤバイんだが……」

 

雄二がそんな事を言ってくる。

………まだ私食べ終わってないんだけど。

仕方ない。残りは教室で食べよう。

 

 

 

色々あったけど、私達は急いで片付けを済まして、昼休み終了前に教室に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

今度からは気を付けないとね。

 




なんか、前半すっごい筆が乗った!!

はい、ということでいかかがだったでしょうか?
不快に感じた人にはごめんなさい。
それと、30分遅刻したのも合わせてすみません。
後半でほっこりしてくれれば幸いです。

まぁ今回の話は後半がやりたかっただけの話でもあるので、メインは昼食です。
その割には短くなってしまいましたが……


あの教師はプロローグに出てきた教師です。
今後出てくることはないでしょう。(多分)

一応裏設定として、『自分はAクラスやBクラスの担任になれるだろうと勝手に思っていたのに、実際は下から二番目のEクラスだったことが理解できず、腹を立てていた』というのがあります。
マジでどうしようもないカスです。

天子は、明久に危険が及ぶんじゃないかと心配して色々と調べていました。
あまりにもクズすぎて、殆んど興味を無くしていましたがね。


因みにですが、あのカスは原作のカラー絵に何度か出てくる七三分けでメガネの化学教師ではありません。
実際、あの先生って誰なんでしょうね?
二年の化学担当教師は布施先生と五十嵐先生で、布施先生は君やさん付けで呼んでいたし、明久を吉井と呼んでいたことから五十嵐先生の可能性が高いと思いますが……

と言ったところで、今回はここまで!
次回は『天子、学園長室に行く(仮)』をお送りします。
オリジナル腕輪が出る予定ですので、よければ楽しみにしていてください。

それでは、また~



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第7話

バカテスト【数学】

問 以下の問いに答えなさい

『(1)4sinX+3cos3X=2の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を
    1つ答えなさい。

 (2)sin(A+B)と等しい式を示すのは次のどれか、①~④の中から選びなさい
    ①sinA+cosB      ②sinA-cosB  
    ③sinAcosB       ④sinAcosB+cosAsinB』



姫路瑞希の答え
『(1)X = π/6
 (2)④    』

教師のコメント
そうですね。角度を『°』ではなく『π』で書いてありますし、完璧です。



比那名居天子の答え
『(1)    (無回答)
 (2)確か④だったはず』

教師のコメント
(2)は正解ですが、前後のコメントは必要ありません。
解答に不安があるのはわかりますが、そのまま解答欄に書かないようにしましょう。
それと、計算が面倒だからといって選択問題だけを答えないでください。



土屋康太の答え
『(1)X = およそ3』

教師のコメント
およそをつけて誤魔化したい気持ちもわかりますが、これでは解答に近くても点数はあげられません。



吉井明久の答え
『(2)およそ③』

教師のコメント
先生は今まで沢山の生徒を見てきましたが、選択問題でおよそをつける生徒は君が初めてです。



「初日は終わったって言ったわね? あれは嘘よ!」

「え!? 急にどうしたの天子?」

「いえ、何でもないわ」

 

 

中林さんとの交渉も終わり、今は放課後。

Fクラスの生徒は殆んど補習中だし、残ったみんなも鞄を持って帰ろうとしている。

ああ、そういえば学園長先生に呼ばれてたんだったわね。

 

「明久、私先生に呼ばれてるから、先に帰ってていいわよ」

「え、そうなの?」

「そう言えば、色々あって忘れてたが天子はあの後大丈夫だったのか?」

 

雄二が私の話を聞いて言ってくる。

 

「ええ、大丈夫だったわよ? 今回はそれとは別件だし」

 

寧ろそれ以上のことを引き起こしちゃったしね~

私の腕輪も返してもらわないといけないし。

 

「終わるまで待ってようか?」

「時間かかりそうだから別にいいわよ。じゃあ、またね」

 

そう言って私は教室を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

所変わって、学園長室前。

 

私は身嗜みを整えて、その扉をノックする。

 

「誰だい?」

「比那名居天子です」

「ああ、来たのかい。入りな」

「失礼します」

 

許可を貰ったので私は中に入る。

中は広くも狭くもなく、普通の校長室といった感じだ。

正面の机には、老いてはいるが整った顔立ちの女性が居る。

彼女がこの学園の学園長、藤堂カヲルだ。

 

「よく来たね。思っていたより早かったじゃないか」

「ええ、早く腕輪を返してもらいたかったので」

「ふん、そうかい」

 

そう言って学園長先生は机の引き出しから、赤い腕輪を取り出した。

腕輪と言っても、ゴツゴツした大きめのものではなく、男性用のシンプルなブレスレットに近いものだ。

学園長はそれを机の上に置きながら、こちらに渡してくる。

 

「ほら、早く付けてテストしな。アタシも暇じゃないんだ」

「わかりました」

 

彼女のこの物言いには、私ももう慣れたものだ。

最初の頃はイライラしまくりだったんだけどね~

 

私は腕輪を受け取り、それを右の手首に付ける。

その間に学園長はフィールドを張ったようだ。

 

「じゃあ、行きますね? ―――試験召喚獣召喚、『試獣召喚(サモン)』!」

 

私が召喚獣を召喚すると、いつも通り私そっくりな召喚獣が現れる。

服装は昼間と変わりはないが、その手にはあの時には無かった剣を持っていた。

 

その剣は、まるで炎の様な赤黄色い刀身が特徴的な細身の剣だ。

持ち手は黒く、下には白い房のような飾り(剣穂って言うんだったかしら?)もある。

私はこの剣を『緋想の剣』と呼んでいる。

正式名称は長かったから忘れちゃったわ。

 

「ふむ、とりあえずは順調のようだね。今度は腕輪の起動をしてみな」

「はい」

 

私は先ほど付けた腕輪に意識を向け、起動用のワードを呟く。

 

「―――『緋想天(スカーレット)』」

 

私がそう言った瞬間、召喚獣の持つ剣が赤く発光する。

そして、それが瘴気や霧のようになり、私の召喚獣の周りに漂う。

 

いつも思うけど、召喚獣がオーラ出してるみたいよねこれ。

実際は剣から出てるんだけど……

 

「見た目的には前と変わりないし、問題はなさそうだねぇ。そっちはどうだい?」

「特に問題ないと思いますよ? 操作に違和感とかもないですし」

 

私は召喚獣に剣を振るわせる。

うん、大丈夫そうね。

 

「そうかいそれじゃあ次は―――――」

 

 

 

とそんな感じで私は戻ってきた腕輪のテストをしていった。

これ、帰りがかなり遅くなりそうね……

 

 

 

 

 

「ふむ、これで終了さね。ご苦労だったね」

 

いくつかの起動テストを終わらせ、私は少しグッタリする。

さ、流石に疲れたわ。この人、私にもフィードバックがあるの忘れてんじゃないのかしら?

 

「疲れているところ悪いが、まだ話は終わってないよ。先に本題を進めたからね」

 

ああ、そう言えばあのクズの件でも呼ばれてたんだったわね。

でも、たしかあの後……

 

「あのクズの件ですね? でもあれって、懲戒免職処分で即日解雇になったって西村先生に聞きましたけど?」

「そうさね。アイツはあんたが暴露した問題の他にも色々やっていたからね。今それが世間に発覚したらウチにとっては大問題だ」

 

まぁ、この学園は世界的に注目を集めてるからね~

そんな教師がいて、今のいままでそれを知らなかったってなるとイロイロ面倒よね。

だからさっさと処分したんだろうし。

 

「だから処分したと。それならもうそれは解決では?」

「アイツに関してはね。問題はあんただよ比那名居」

「私?」

「そうさ。今回あんたが暴露をしたことで、教師の情報や秘密を詳しく知っている可能性が高い生徒として、一部の教師から危険視されかけてるんだよ」

 

ああ、なるほど。

確かに私は噂を集めて真相を探ることがよくある。

まぁ主な理由としては、真実かどうかわからないのにその情報を鵜呑みにはしたくないからなんだけどね。

 

知識は力なり。

 

どっかの豚肉の塩漬け燻製哲学者の言葉だったと思うけど、まさにその通りよね。

 

で、その真相を探る際に、私は直接噂の本人に聞くことが多い。

例えそれが先生でもだ。

でも、今回のようにあからさまにヤバそうな噂の場合は、あまり本人に聞いたりはしない。

あまり関わったことのない教師なら尚更だ。

 

にも関わらず、噂の真相を知り、剰えその教師を退職にまで追い込んだ。

そんな私の行動力と情報網を、私をよく知らない教師陣が危険視してもおかしくはない。

 

 

でも、危険視するってことはなにか後ろめたいことがあるって言っているようなものよね~

それがどんなに小さな物だとしても……

 

「つまり、学園長先生は私にそれを話して忠告と自重をさせたいと言う訳ですね?」

「……あんたは本当に可愛くないねぇ」

 

あら、私に向かって可愛くないだなんて失礼ね!

確かにこの学園は容姿端麗な生徒が多いけれど、私みたいな美少女もそうそういないと思うんだけど?

 

「まぁ、そういうことだ。あんたも気をつけることだね」

「あら、珍しい。心配してくれるんですか?」

「ふん、誰があんたの心配なんかするもんか。アタシは実験台(モルモット)が減ると少し困るってだけだよ」

 

実験台(モルモット)って……

まったく、この人は本当に素直じゃないわよね。

明久の爪の垢でも飲ませてみたいくらいよ。

………それでバカになられても困るからやらないけどね。

 

「なんだい、その顔は?」

「いえ、何でもないですよ? とりあえず忠告は受けます。自重するかはわかりませんが」

「はぁ……。なら、これで話は終わりさね。さっさと出て行っておくれ。アタシはこれからさっきの結果をまとめなきゃいけないんだ」

「わかりました。失礼します」

 

そう言って私は学園長室を出ようとする。

 

「ああ、そう言えば。今日の試召戦争はどうだったんだい? まさか初日からやろうなんて考えるとは思わなかったんだけどねぇ」

「ええ、我がFクラスが勝ちましたよ?」

「ほぅ、そいつは良かったじゃないか。おめでとうと言っておこうかね」

 

あら、本当に珍しい。

学園長先生が褒めてくれるなんてね。

 

「それで? アタシの実験に付き合って、ある程度操作に慣れたあんたからして、他の奴らはどうだった?」

「全然ダメですね。点数もそうですが操作がまだまだでした。あれなら、『観察処分者』の明久にも勝つのは難しいでしょうね」

 

明久が確実に勝てるとも言えないけど。

 

「そうかそうか。まぁ、武器も持っていないあんたに勝てないようじゃ、そんなもんかね。わかった、もう行っていいよ」

「失礼します」

 

そう言って今度こそ私は学園長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

あ~あ、もう薄暗くなってるじゃない。

早く帰らないと。

そう思いながら教室に入る。

すると……

 

「……ZZZ」

「………なんでまだいるのよ?」

 

明久が自分の卓袱台で寝ていた。

まさか、こんな時間まで私を待ってたの?

先に帰っていいって言ったのに。

このお人好しは……

 

「バカねほんと」

 

そう言って私は明久の頭をワシャワシャと少し乱暴に撫でる。

 

「……んあ? 天子?」

「あら、起きたの?」

「ああ、うん。寝ちゃってたみたいだね――って暗っ! もうそんな時間!?」

 

現在時刻は18時半。

この時期ならあと一時間もすれば、完全に日が落ちて真っ暗になるだろう。

 

「まったく、時間かかりそうだから先に帰って良いって言ったのに」

「いや、まぁそうなんだけどね……」

 

明久は少し気まずそうにしている。

 

「はぁ。とにかく、もう帰りましょ?」

「あ、うん」

 

私と明久は鞄を持って教室を出た。

 

 

 

 

 

「そう言えば天子。かなり遅かったみたいけど、何やってたの?」

 

帰り道、明久がそんな事を聞いてくる。

 

「ん? 気になるの?」

「いや、そりゃまぁね?」

 

………ああ! つまり明久は自分のせいなんじゃないかと思ってるわけね。

それも違うって言ったのに。

 

「だから違うって言ったでしょ? 私が呼ばれたのはコレのことでよ!」

 

そう言って私は腕輪を見せる。

 

「ブレスレット? ……ああ、召喚者用の腕輪だっけ?」

「そうそう。二年生になるからって、点検と調整をしてもらってたのを今日返してもらったのよ」

「ふ~ん。あれ? でもそれ昼休みの方が良かったんじゃない? そしたら、わざわざ武器無しで戦わなくてもすんだだろうし」

 

明久は、この腕輪が私の召喚獣の武器になっているのを知っている。

初めてこれを貰った時とかに、色々と付き合ってもらったしね~

 

「まぁ、試運転のテストとかもあったからね。だからこんなに時間かかったんだし」

「へぇ~」

 

それっきり明久はこの話に興味を無くしたようだ。

 

あ、そうだわ!

 

「ねぇ、明久」

「うん? どうかした天子?」

「私って可愛くない?」

「はい!? え、いや、ど、どうしたの急に!?」

「いえ、学園長先生にちょっとね」

 

実は意外と気にしてたのよね。

高校に入ってから告白とかもされなくなったし。

私、魅力なくなったのかしら?

 

「え、えっとあのババアに何を言われたか知らないけどさ。僕は天子のことすっごく可愛いと思うよ?」

「本当に? お世辞とかじゃないわよね?」

「本当だよ」

「そう、良かったわ」

 

明久が言うなら多分大丈夫ね。

一応美的センスだけは良い方だし。

 

「それにしても珍しいね。天子がそんなんこと気にするなんて」

「だって、ウチの学校美男美女が多いじゃない。そりゃちょっと自信もなくなってくるわよ」

「確かにね~。でも天子は心配することないって」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。これ以上煽てても何も出ないわよ?」

 

出るとしたら次のお弁当が少しだけ豪華になる程度よ。

 

「いや、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど……」

「冗談よ。………ふむ。明久、スーパー寄りたいから付き合いなさい」

「え? あ、うんわかった」

「じゃ、行きましょ!」

 

そう言って私は少し足取りを軽しながら、明久と共に買い物に向かい、帰路についたのだった。

 




はい、今度こそ初日が終わりを告げました。

さてさて、いかがだったでしょうか?
今回出てきたオリジナルの腕輪。
詳しい設定は、Aクラス戦や後日談が終わった後に出すつもりです。

一応軽く説明をすると、
・腕輪はブレスレット型で、黒金の腕輪みたいに大きくはない。
・腕輪を付けていると武器に『緋想の剣』が追加される。
・起動キーを言うと剣が発光し、赤い《気》の様な物が剣や召喚獣の周りを漂う。
・起動キーは『緋想天(スカーレット)

となっています。
まぁ、残りは追々話すとして、
起動キーはこれでよかったのだろうか?

いや、当て字を緋想天にするのは決まっていたのですが、なんて呼ぶかずっと悩んでました。

だって、スカーレットだとどうしてもあのカリスマ(かりちゅま?)吸血鬼とその妹様を連想するんですよね。
まぁ、今のところ彼女達は出てこない予定なので別にいいんですが……
(出てきたとしても従姉妹や親戚の子供とかそういうチョイ役だろうし)
結局、色々悩んだ末に違和感も無さそうなのでこれになりました。
ウェザーとかラプソディーとかレッドとかよりは断然マシでしょう。
因みに当て字は、緋色とか非想天、有頂天なんかがありました。
天人ではないので、後ろの二つはすぐに候補から消えましたがね。

と言ったところで、今回はここまでです。
次回からAクラス戦なんですが、その前に色々とあるので一回戦まで行けないかもです。

それでは、またお会いしましょう。
待て、次回!(今時このネタ分かる人いるんだろうか?)


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第8話

問 以下の問いに答えなさい。
『時に食用できる地下茎を持つ、英語で「lily」という名の植物を答えなさい。』



姫路瑞希の答え
『ユリ』

教師のコメント
正解です。さすがですね、姫路さん。
地下茎は鱗茎とも呼ばれ、養分を蓄えて厚くなった葉で、ネギやらっきょうなども鱗茎に含まれます。



比那名居天子の答え
『ユリ目ユリ科ユリ属の多年草の総称。漢字で書くと「百合」。創作物のジャンルにも「百合」があり、主に女性同士の恋愛(同性愛)に使用される言葉である。』

教師のコメント
一応正解ですが、後半部分の説明は必要だったのでしょうか?



土屋康太の答え
『女同士の恋愛』

教師のコメント
先に比那名居さんの回答を見ておいて良かったと思いました。



吉井明久の答え
『山芋! ジャガイモ! サツマイモ!』

教師のコメント
『食用』以外にも注意を向けてください。



初の試召戦争に勝利し、一夜明けた今日。

私は朝早くから登校して、補習室で点数の補給試験を受けていた。

まぁ、それも今終わったんだけどね。

 

「先生、終わりました」

「ん、そうか。残りも採点して結果を出しておくから、教室に戻っていいぞ」

 

監督は勿論、鉄人先生だ。

なにげに先生って、全科目のフィールドを張れたりするぐらい頭がいいのよね~

 

私は今回の補給試験で、昨日使った数学も合わせて、0点だった科目を全て終わらせた。

………今日一日潰れたけどね。

まぁとりあえず、明日のAクラス戦は大丈夫そうだ。

 

「失礼しました~」

 

そう言って私は補習室を退出し、自分の教室に向かった。

 

 

 

 

 

流石に英語以外のテストすべての補充には時間が掛かったわね。

今は丁度、六時限目が終わる時間。

実はお昼も食べずにぶっ通しでやってたから、お腹空いてるのよね~

早く戻って、お弁当食べないと。

 

とそんなんことを考えて歩いていると、いつの間にかFクラスの教室についていた。

そういえば、みんなまだ教室にいるのかしら?

 

「―――――学園生活の大事なパートナーじゃないか!」

「…………と言うより、一心同体」

 

………いるみたいね。

というか、あのバカはなにやってんのかしら?

 

私は入口の戸を開け、教室に入る。

すると、あまりにもバカバカしい光景が目に入ってくる。

 

「一体貴方は何をやってるのよ、明久」

「あ、天子!」

 

私の目の前には、左手が卓袱台と合体した明久がいた。

康太が一心同体とか言っていた意味がわかったわ。

 

「ああもう! アルファダインでくっつけたわね? お湯もないのにどうするのよこれ!」

「あ、あはははは……」

 

笑い事じゃないでしょ!

 

「そんなことより天子、点数の補給は終わったのか?」

「ええ、とりあえず明日のAクラス戦は大丈夫よ?」

「そうか。まぁ無駄になるかもしれんが、万が一もあるしな」

 

雄二に聞かれたのでそう答えると、彼はそんなことを言いだした。

 

………?

脈略がなさすぎて意味がわからないわよ?

なんで無駄になるのかしら?

 

「とにかく、俺達はAクラスに宣戦布告されたんだ。次に勝てば、Aクラスの設備が手に入る。その卓袱台とはおさらばだ」

 

私の疑問を他所に、雄二は話を続ける。

正直私は、設備とかどうでもいいんだけどね~

 

「まぁ、少し計画は狂ったが問題はない。事は全て、俺のシナリオ通りに進んでる。な、姫路?」

「え!? あ、はい」

 

なんでそこで姫路さんに振ったのかしら?

と言うか、シナリオ通りって……

どんな内容か知らないけど、そんなに余裕ぶってると足元掬われるわよ?

 

ガララッ

 

「さて、Aクラスに乗り込むぞ~」

 

雄二はそう言って、教室を出ていく。

………? なにか交渉にでも行く気かしら?

とりあえず、私達は雄二について行く事にした。

 

 

 

あ、お弁当食べれないじゃないのよ……

 

 

 

 

 

 

「ここがAクラス!」

「まるで高級ホテルのようじゃのう」

 

私達はAクラスの教室に到着し、中に入った。

昨日も見たけど、すごいわよねこの教室。

というか、本当に教室なのこれ?

 

「ふん、僕が学園生活を送るには相応しい設備じゃないか」

 

明久が偉そうにそんなことを言い出す。

………卓袱台手にくっつけたままじゃ格好つかないわよ?

 

「見て吉井! フリードリンクにお菓子が食べ放題よ!」

 

島田さんが驚いたように声を出した。

そう言えば、昨日明久がそんなこと言ってたわね。

 

「ふふん。そんなのに一々驚いてたら足元を見られるよ? もっと堂々と構えてなきゃ」

 

そう言った明久は左手を付く代わりに、卓袱台を壁に付ける。

………制服の上着にお菓子をパンパンに詰めながら。

 

お前が言うなと声を大にして言いたいわ。

 

「尽く、発言と行動が伴わんのう」

 

秀吉は呆れたように言い、島田さんは今にも明久に殴りかかりそうな程、拳を握り締めている。

気持ちは分かるけど、暴力はダメよ島田さん。

 

なんてバカなことをしていると、聞き覚えのある声がした。

 

「あら、開戦は明日じゃないの?」

「あ、姉上!」

 

私達の前に、腕を組んだ状態の木下優子が現れた。

 

「もう降伏しに来たの?」

「もうすぐ俺たちの物になる設備の下見だ」

「随分強気じゃない」

 

え? 本当に下見に来ただけ?

そんな訳無いわよね?

 

雄二はリクライニングシートに座りながら、足を机の上で組む。

ちょっと、行儀悪いわよ?

 

「交渉に来た」

 

あ、良かった。

やっぱり只の下見じゃなかったのね。

だが、次の言葉に私を含めた全員が驚く。

 

 

 

「クラス代表同士での一騎打ちを申込みたい」

『えっ!?』

 

ちょっと雄二、何言ってるのよ!

流石にそれは予想外よ!?

というか、最初からそのつもりだったから、無駄になるかもとか言ってたのね?

 

「あなた、バカじゃないの? 二年の主席に、一騎打ちで勝てるわけないでしょ?」

 

私もそう思うわ。

多分、何か策があるんでしょうけど……

 

「怖いのか? 確かに終戦直後に弱っている弱小クラスに攻め込む卑怯者だしな」

「ムッ……。今ここでやる?」

 

雄二が煽ると、木下優子がそう返す。

代表でもないのに勝手に決めてもいいのかしら?

 

「……まって」

 

その声が聞こえた瞬間、木下優子の後ろに居たAクラスの生徒達が二つに割れる。

そして、その間から一人の女子生徒が現れた。

 

………Aクラスの代表、霧島翔子がね。

 

「一騎打ち、受けてもいい」

「っ! 代表!!」

「でも、条件がある」

 

そう言うと、霧島翔子は姫路さんの前まで歩いていく。

………??? 何がしたいのかしら?

 

そしてそのまま立ち止まり、姫路さんに顔を近づけた。

まるでキスでもするのかと思うぐらいの距離だ。

って、ちょっと待った!

 

「負けた方は、なんでも一つ言う事を聞く」

「え?」

 

明久が疑問の声を出す。

そりゃそうだ、なんでこんな条件出すのよ?

あと、姫路さんに近づいてそんなこと言ったら、また誤解が生まれるじゃないの!

貴女、好きな男子がいるんでしょ!?

 

「それが、Fクラスに宣戦布告した理由か?」

 

雄二がそう聞く。

うん? 雄二は彼女がこう言う理由を知ってるのかしら?

 

 

しかしここで、木下優子が声を上げる。

 

「勘違いしないで! 私達Aクラスには学園の治安と品格を守る義務があるの」

 

………確かにAクラスは学園の顔と言える存在だけど、そんな義務はなかったはずよ?

と言うか、そういうのは風紀委員でも作って勝手にやればいいじゃない。

なんでクラス単位でやる必要があるのよ?

 

 

「一学期早々、何の努力も積まないうちに戦争やらかした、バカへの制裁措置よ!」

 

ツッコミたい所が二つ程ある。

主に『戦争()()()()()』と『バカへの制裁措置』の部分で。

 

………反論してやろうかしら?

いや、今は交渉中だからここで空気を壊すのは流石にマズい。

それに、こんな事で感情的になってもバカバカしいしね。

 

 

でもね? 木下優子。

 

 

 

その他人を見下した態度は、かなり気に入らないわ。

 

 

 

「いいだろう。代表同士の一騎打ち、負けたほうが言う事を聞く」

 

雄二が交渉成立だと言わんばかりにそう言った。

う~ん、でもこれ成立させちゃっていいのかしら?

別に雄二を信じてないと言うわけじゃないけど、あまりにもこちらが不利な気がするわ。

と、そんなことを考えていると、木下優子が口を挟んでくる。

 

「一騎打ちじゃないわ。5対5よ」

「……優子」

「まさか代表が負けるとは思わないけど、慎重になることに越したことはないわ」

 

新しく提案された5対5の勝負。

確かに、これなら色々と心配もなくなる。

でも、こちらの勝率を上げるならもう一押し何か欲しい所ね……

 

「よし、5対5で構わない。その代わり、対戦教科の選択権はこちらが貰う」

 

っ!

なるほど、流石雄二だわ。

これが通れば、こちらの勝率はかなり上がる。

でもこの提案、そう簡単に通るのかしら?

まぁ最悪、五教科の内の三つぐらいは選択権を貰えるでしょうけど……

 

「……わかった」

「交渉成立だ」

 

そう言ってAクラスの教室を出て行こうとする雄二。

あっさり通ったわね。

どんな教科が来ても勝てるっていう自信の顕れかしら?

もしそうなら、天狗になってるその鼻、へし折ってやらないといけないわね。

 

さてと、もう此処には用は無いみたいだしさっさと御暇しましょうか。

私は皆と一緒に雄二を追いかけ、Aクラスの教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

Aクラスの教室から場所を移し、私達は今屋上にいる。

姫路さんは、やることがあると言って教室に残ってるけどね。

 

「どうすんだよ、雄二。あんな約束して」モグモグ

「俺達が勝つんだから関係ない。 ング 向こうが言いなりになる特典が付いただけだ」モグモグ

 

未だ、手と一体化している明久の卓袱台にAクラスから拝借したお菓子類を並べ、それを食べながら話し合いをしている。

と言うか、貴方達口に含んだ物全部飲み込んでから喋りなさいよ。行儀悪い。

因みに、私は一度教室に寄ってお弁当を取ってきた為、それを食べている。

 

「本当によいのか? あの霧島翔子という代表には妙な噂があるようじゃが……」モキュモキュ

 

秀吉がお菓子を食べながらそんな事を言う。

噂ってやっぱりアレのことよね?

 

「それって男子には興味がないって奴?」

「そう、それじゃ」

「へぇ~、モテそうなのにねぇ」

 

そりゃ好きな人がいるらしいからね。

他の男になんて興味ないでしょ。

 

「でもアレってデマらしいよ? ねぇ、天子?」

「おおそう言えば、こういうのは天子が一番詳しかったのう」

 

明久と秀吉が今まで無言だった私に問いかけてくる。

私は口の中に残っているおかずを飲み込み、声を出す。

 

「ゴキュン……。ええ、その噂は嘘っぱちよ。彼女は好きな男子がいるらしいから」

「そうじゃったのか。それなら周りに男子が居ないのも納得じゃのう」

「そうだね。それに、こんな身近に女性同士の恋愛とかそういうのがある訳ないじゃないか。ねぇ、島田さん?」

 

明久が島田さんに聞くと、彼女は渋い顔をしていた。

あ~、そういえば島田さんって確か……

 

「ある」

「え?」

「そんな変な子、身近にいるわ」

「見つけましたお姉さま!」

 

島田さんがそう言った瞬間、オレンジ色の物体が声を発しながら彼女に襲いかかった。

え!? 急に何!?

 

「美春!!」

「酷いですお姉さま! 美春を捨ててこんな汚らわしい豚共とお茶会だなんて!!」

「は、離しなさい! 寄らないで!」

 

島田さんの方を見てその物体を確認する。

そこにはオレンジ色の髪をツインのドリル状にした女生徒がいた。

 

「だれ?」

「…………2年Dクラス、清水美春」

 

明久が聞くと、康太がそう答える。

 

そう、彼女が今しがた話題に上がっていた『そういう変な子』こと、清水美春だ。

大の男嫌いで、男子に豚野郎とか平気で言っていたりする。

今はお姉様こと島田さんにゾッコンのようだ。

 

「恥ずかしがらないで下さいお姉さま! 本当は美春のことを愛してくださっているのに照れ屋なんですね♪」

「ウチは普通に男子の方が好きなの! 吉井なんとか言ってやって!」

 

島田さんはそう言って、抱きついてくる清水さんの腕を振り払った。

………なんで明久に助けを求めるのかしら?

期待できるような答えは返ってこないと思うわよ?

 

「そうだよ清水さん。女同士なんて間違ってるよ!」

 

そう言って、卓袱台ごと立ち上がる明久。

因みに残りのお菓子は、いつの間にか秀吉や雄二が手に持っていた。

私もちょっと貰おうかしら?

 

「確かに島田さんは見た目も性格も、胸のサイズも男と区別できないくらいに―――――」

 

明久が言いきる前に島田さんと清水さんが、あのバカに近づいていく。

まったく、なんで明久はこうも島田さんを男扱いしようとするのかしら?

秀吉を女扱いする為の比較のつもり?

 

「―――四の字固めが決まるぅぅ!」

「ウチはどう見ても女でしょ!」

「そうです! 美春はお姉さまを女性として愛してるんです!」

「ギ、ギブ、ギブ、ギブー!」

「今日という今日は許さないんだからーっ!」

「…………見え、みえ」

 

島田さんと清水さんが明久の両足と右腕に関節技を決め。

康太が島田さんのスカートを覗こうとしていて、明久がギブギブ言っている。

………なんなんでしょうね、このカオスは?

 

「天子、お前もこれ食うか~?」

「お主ももう弁当を食い終わったのじゃろ? 菓子ならここにあるぞい?」

「………貰うわ」

 

我関せずとしていた雄二と秀吉に近づき、お菓子をもらう。

あら、これ美味しいわね。今度買おう。

 

「ちょ、天子助けてよ!」

「今回は全面的にお前が悪いわ。後、日頃の行いね。本当にやばくなったら助けるから、今回は島田さん本人にでも頼みなさい!」

「そ、そんな~!!」

 

私は明久を無視してお菓子を食べる。

一応視線の端には入れてるけどね。

あ、私これ好きなのよね~

 

「ゆ、許して島田さん! なんでも言うこと聞くから!」

「え、本当に!? それじゃあ今度の休み、駅前のラ・ペディスでクレープ食べたいなぁ!」

「え!? そんな、僕の食費――――」

「あぁん?」

 

と、そんなやりとりが耳に入ってくる。

あら、デートに誘うなんて、島田さんも積極的になったわね。

でも明久が反論をしようとしたからって、さらに関節を決めるのはどうなの?

 

「―――がぁぁ! い、いえ奢らせていただきます!」

「そ、それから! 今度からウチを『美波様』って呼びなさい! ウチは『アキ』って呼ぶから」

「はーい! し、美波様!!」

 

うんうん、呼び方は大事よね。

でも、島田さん。貴女は本当にその呼ばれ方でいいの?

あと、明久。今言われたばかりなのに、島田さんって呼びそうになってたわよね?

 

………さて、そろそろ本格的にヤバそうだから助けましょうか。

 

「島田さん、もうその辺で―――――」

「そ、それから! ウ、ウチのこと『愛してるって』言ってみて」

「はい、言い、ます」

 

あらあら、また大胆な手に出たわね。

でもね島田さん? 明久かなり辛そうなんだけど……

顔青くなってるし。

 

「させません!」

「うおぉぉ!」

「言いなさい!」

 

清水さんが明久に言わせないようにさらに右腕の関節を決め、それに対するように島田さんが四の字固めをさらに強く決める。

って! これ以上は本当にヤバいわ!!

 

「二人共これ以上はやめなさい!! 明久の顔が痛みで酷いことになってるから!!」

「止めないで比那名居! これはウチとアキの問題よ!」

「嫌ですわ! それにこんな豚野郎なんてどうなっても構いません!」

 

ああもう!!

 

「さぁ、ウチのこと愛してるって―――――」

 

 

 

 

 

「止めろっつてんのが分かんないのかしら? 島田美波、清水美春!」

 

「「ビクッ!!」」

 

 

私が怒りを込めてそう言うと、二人は驚いたようにこちらを見た。

雄二、秀吉、康太の三人は「あ、やらかした」とでも言うように、少し困った様な顔をしていた。

 

二人が驚いて固まった瞬間、明久の拘束が弱まり彼はぐったりとする。

私は明久に素早く駆け寄って、彼の容態を確認する。

 

「明久! 大丈夫!?」

「あ、て、天子。 う、うん、大丈夫、だよ?」

 

そう言った明久は、無理矢理笑みを浮かべる。

だが、かなり辛そうに見えた。

 

「保健室行く?」

「い、いや、本当に大丈夫だってこれくらい。慣れてるからさ」

「貴方がそう言うならいいけど……」

 

私は明久を座らせ、二人の方を向く。

私が二人を少し睨むと、彼女達はバツが悪そうな顔をした。

その目には後悔も含まれてるようだ。

 

………はぁ。

そんな顔するぐらいなら、最初からやるんじゃないわよ。

 

「さて、貴女達。何か言うことは?」

「あ、え、えっとその……ごめんなさい」

「……す、すみません」

「それを言うのは私じゃなくて明久にでしょ?」

 

私は明久の方を指さしてそう言った。

明久は秀吉に心配され、「あ、あはは。みんな心配性だなぁ」と笑っていた。

なんで笑ってられるのよこのバカ。

 

「アキ、ごめんね?」

「い、いいよ気にしてないから」

「……………」

 

島田さんは素直に謝るが、清水さんは憎々しげに明久を睨んでいる。

まぁ、彼女からしたら男に謝罪するなんてプライドが許さないのかもね。

恋敵になりそうな奴になら尚更。

 

「美春?」

「私はそんな豚野郎に、絶対謝ったりなんかしませんわ!」

 

そう言って清水さんは走り去ってしまった。

流石の私も、追いかけてどうこうしようとは思わない。

こればっかりは性格とかの問題だしねぇ。

 

そんな屋上での一幕により、いつの間にか空が赤く染まり出していたのだった。

私はその夕日を見ながら、一人物思いにふける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、昨日から色々ありすぎじゃない?

 

 




はい、中途半端ですが今回はここまで!

いかがだったでしょうか?
今回の話は後々修正が入るかもしれません。

というのも実は、最初書いている時に予定とは違う方向にかなり逸れてしまった為、急いで軌道修正をしたからです。
元のままだと、あまりにも天子が直上的過ぎたので御蔵入りになりました……
個人的には嫌いではなかったんですけどね。


―追記―
一応、修正が完了しました。
まぁ、流れは殆んど変わってませんけどね。
楽しんでいただければ幸いです。



さて、今回はAクラスとの交渉と、清水美春の登場でした。
Aクラス戦は普通に5対5です。
誰が出るかも、もうお察しかと。

清水美春は正直まだキャラが掴めてません。
これから要確認ですね。


次回は夕暮れの放課後での一コマ。
明久の方では姫路さんのラブレターの件が起きましたが、それじゃあ、天子は……?
それは見てのお楽しみということで!
(本当は今回そこまで行きたかったんですけどねぇ)

それでは、また次回お会い致しましょう!


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第9話

夕日が綺麗に映る放課後。

私はまだ屋上にいた。

 

明久は先に教室に戻ると言っていたし、秀吉は部活。

康太と島田さんも用事があるとか言って、今はここにいない。

まぁ、康太の方は商会関係でしょうけど。

 

ということで、今この屋上には私と雄二の二人だけである。

 

「それで、なんだよ話って?」

「まぁ、ちょっとね~」

 

私は屋上の柵を背にして言う。

 

「はっ、まさか俺に告白でもする気か?」

「ふふふ、もしそうだと言ったらどうするのかしら?」

「おいおい、お前はそんなタマじゃないだろ」

 

あら失礼ね?

もしかしたらがあるじゃない。

まぁ、今のところそんな予定はないけど。

 

「そうね、それじゃあ早速本題」

「おう」

 

私はずっと気になっていたことを雄二に聞く。

 

 

「どうやってAクラスの代表に勝つつもり?」

 

私が気になっていたこと。

それは雄二が考えている霧島翔子への策だ。

きっと彼は、それを彼女への必勝策としているんだと思うけれど、内容が解らないんじゃ、それを信用することができない

 

「ああ何だ、そんなことか」

「ええ。内容を知らないままじゃ不安だからね。と言うか、あなたは何の話だと思ったのよ?」

「いや何、俺はてっきり……」

 

てっきり何よ?

さっきの流れからして、私からの告白とかって思ってたわけじゃないだろうし。

なんだと思ってたのかしら?

 

「まぁ、それは置いといてだ。翔子への策についてだったな」

「あら、名前で呼ぶくらい仲が良かったの?」

 

去年は、一緒にいる所とか見なかった気がするんだけど?

 

「別にそんなんじゃねぇよ。アイツとは小学校からの幼馴染なだけだ」

 

へぇ~! それは面白いことを聞いたわね!!

ふむふむ、小学校からの幼馴染ね~

 

………あら? あらあら~?

もしかしてそう言う事?

だとしたら……

 

「ねぇ、雄二。話は変わるんだけどね?」

「あん? なんだよ急に」

「もしかして雄二って、霧島さんに告白されたことある?」

「はぁ!? 本当になんだ急に!?」

 

おっと、どうやらこの反応は図星のようね。

てことは、霧島さんの好きな人は雄二ってことか。

ふ~ん。へぇ~。なるほどね~。

 

「お、おい天子? なんだよその顔は!?」

「いや~? 何でもないわよ~?」

 

私はニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「いや、絶対なんでもなくはねぇだろ! お前何考えてやがる!?」

「べっつに~? ただ、霧島さんがあんな条件を出した理由がわかったような気がするだけよ~?」

「うっ。そ、そうか」

 

どうやら雄二も気づいてはいるみたいね~

多分、霧島さんは勝った時のお願いで雄二と付き合うつもりなんだろう。

雄二のこの態度とかを見れば何となく解るが、彼は霧島さんを振っているんだと思う。

それに痺れを切らしたのかは知らないけど、彼女は『言う事を聞く権利』を使って強引に攻める気なんだと思う。

 

いや~、やっぱり一途な女の子は強いわね~

 

「ああ、話が逸れちゃったわね。続きをどうぞ?」

「お、おう。具体的に言うとだな、フィールドを限定する」

「フィールドの限定?」

「ああ、教科は日本史。レベルは小学生程度で、方式は100点満点の上限あり。そして、召喚獣勝負じゃなく純粋な点数勝負とする」

 

………確かに試召戦争は、両クラスの合意の上で、かつテストの点数を用いていれば別の方法で戦うこともできる。

今回の様な一騎打ちとか5対5みたいにね。

だから、今雄二が言った内容に限定して戦うこともできるだろう。

何より、教科の選択権もこちらにあるしね。

 

「それって、集中力や注意力の勝負をするってこと? でも、貴方の事だから、霧島さんがミスをする『運』に賭けるってわけじゃないんでしょ?」

「ああ、そうじゃない。俺はあいつが確実に間違える問題を知っている」

「………その問題って?」

「『大化の改新』、その年号だ」

 

『大化の改新』

645年の飛鳥時代に、孝徳天皇が発布した改新の詔に基づいて行なわれた政治的改革。

通称『()()()の改心』

 

多分、年号だけでいいなら明久だって知っているはずだ。

………別の語呂合わせと間違えて覚えていなければね。

しかし、霧島さんはその問題を絶対間違えると雄二は言う。

 

小学生程度の問題なら、確かに『大化の改新の年号を答えよ』といった様な問題が出る可能性は高いだろう。

その問題が出れば霧島さんに勝つことが出来るのだろう。

 

 

 

だけど私は、それに何かが引っかかる。

 

 

「いくつか聞きたいのだけど、いいかしら?」

「ああ、何だ?」

「まず最初に、何故霧島さんはその問題を間違えるの?」

「ああ、それはだな。俺が昔、大化の改新は625年だと間違えて教えたからだ。アイツは一度覚えたことは忘れないからな」

 

なるほどね。

それなら納得はできる。

間違えて教えられたことを()()()()()()()()()()()なら、その問題を間違えるのは確実だ。

()()()()()()()()()()()()のなら尚更ね。

 

………あら? やっぱり何か違和感が……

 

………とりあえず話を進めましょうか。

 

 

「じゃあ、次に。仮にその問題が出て、霧島さんが間違えるとしましょう。点数配分がどうなるかわからないけれど、それでも霧島さんは99~95点は取るでしょうね。それを考えたときに、雄二、ブランクのある貴方に満点を取れるの?」

「はっ、馬鹿にするなよ天子? 小学生程度の問題ならよっぽどのことがない限り間違いようがねぇ。それにお前だって知ってるだろ? 俺が『神童』って呼ばれてたのをよ」

 

確かに雄二は小学生の頃に『神童』と呼ばれていた。

当時、水無月小学校とは別の小学校に通っていた私でも知っていたくらいに、彼は有名だった。

だが、それは過去の栄光に過ぎない。

 

「貴方がそう呼ばれていたのは昔のことでしょ? 小学生レベルの問題だと侮ってたら、確実に足元を掬われるわよ?」

「分かったわかった。明日に向けて、帰ったら復習しとくさ。それでいいだろ?」

 

これで話は終わりだとでも言うように、雄二は踵を返す。

 

「まだ私の話は終わってないわよ?」

「なんだよ? さっさと作戦会議して、帰りたいんだが?」

「まあまあ、待ちなさいってば。次の質問よ」

 

私は一度言葉を溜め、Eクラス戦の時からずっと思っていたことを言う。

 

「ねぇ、雄二。貴方は一体何を焦っているの?」

「っ!? ……なんのことだ?」

 

私が質問をした瞬間、ほんの一瞬だったが図星を突かれて驚いた様な顔をした。

 

「恍けたって無駄よ? たった一年ちょっとの付き合いだけど、今の貴方が焦っていることぐらいわかるわ。何かを探している感じだということも。………流石に、何を探して焦ってるのかまでは解らないけどね?」

「……………」

 

私がそう言うと、雄二は黙ってしまう。

 

 

私がそれに気づけたのは殆んど偶然だった。

戦争を計画する前、雄二が自分の目標を語ったあの時の顔に違和感を覚えて、私は彼を少し観察していた。

その時に判ったことだけれど、彼の瞳には何か焦りの様な物があることに気がついた。

自分でもよく解らない、自分が一番欲しい物を一刻も早く見つけようとしているかのような、そんな焦り。

自分の空いた隙間を埋めようと、必死になっている様なそんな姿。

 

だから、それを感じ取った私は彼に聞いた。

何をそんなに焦っているのかと。

一体何を探しているのかと。

 

でも、返って来たのは無言。

………きっと彼自身もまだ解っていないのだろう。

きっと彼は、ずっとそれを探し続けているんだろう。

 

 

………私は考える。

あの時、『世の中は学力だけが全てじゃないと証明してみたい』と言っていた雄二の顔には、確かに含みや陰りのようなものがあった。

そう、それはまるで……

 

「―――まるで、自分を責めるかのように」

「何?」

 

雄二の声で、自分が声に出していたことに気がつく。

だけど、もし私の推測が正しかったなら……

 

「質問を変えるわ。雄二、貴方が戦争を起こした理由って、世の中は学力が全てじゃないって証明したかったのよね?」

「ああ、そうだ。それは前話しただろう?」

「ええ、そうね。でも、肝心なことを聞いていなかったわ」

「肝心なことだと?」

 

これは只の推測に過ぎない。

だけど、今私の中で一番辻褄が合うものはコレしかない。

だから私は雄二にソレを聞いた。

 

 

 

「雄二。貴方はそれを証明して、どうしたいの?」

 

「何だと?」

「もっと踏み込んで言うなら、一体それを誰に伝えたいのかしら?」

「なっ!」

 

私がたどり着いた答え。

只の深読みだと言われれば、それで終わってしまうような推測。

だけど………どうやらその推測は当たりだったみたいね。

雄二は今までにないくらい、目に見えて狼狽していた。

 

「これは私の勝手な推測だけどね? 貴方がそれを伝えたいのは、昔の自分なんじゃないの?」

「……………」

 

 

雄二は小学生の頃に『神童』と、そして中学の頃には『悪鬼羅刹』と呼ばれていた。

その間に何があったのか、きっかけが何だったのかなんて言うのは私が知る余地もないし、知ろうとも思わない。

だが、そこに何かがあったのは確かだと私でも分かる。

 

 

まぁ人間、聞かれたくないことの一つや二つあるしね。

それが黒歴史とも呼べるようなものなら尚更だ。

 

 

「もしも……もしもね? もしも私の推測が全て当たってるんだとしたら、こんなやり方で勝って貴方は満足なの? 学力が全てじゃないと証明できたと本当に言えるの?」

 

それで貴方が探しているものは見つけられるの?

そんな思いを込めて私は言い放つ。

裕二は、只無言でそれを聞いていた。

そして……

 

「はっ、何言ってんだよ天子。そんなわけねぇだろ? そんなのは全部お前の思い違いだよ」

「………雄二」

 

雄二はあっけらかんとしてそう言った。

だが、隠す様に無理やりそう言っているのは明らかだ。

でも私は……

 

「そっか、雄二がそう言うならそうなんでしょうね。ごめんね? 変なこと言って!」

「なぁに、気にすんなよ。明久の馬鹿発言よりは断然マシだ」

「あら、深読みしすぎたとは言え、アレと比べられるのは心外よ?」

「はははっ、すまんすまん」

 

私達はいつも通り軽口を言い合う。

先程までの空気が嘘みたいね。

 

 

 

………雄二がそう言うならそれでいい。

これは本人の問題だ。

きっと、私がこれ以上口を出していいものじゃない。

だから、今は私の胸に閉まっておこう。

雄二が自分に素直になるまでは。

 

 

 

 

 

「さて、教室にいる明久を捕まえて、作戦会議やってから帰ろうぜ?」

「そうね、雄二には日本史の復習して貰わないといけないし」

「ああ、そうだったな。めんどくせぇ」

「こればっかりはちゃんと勉強しなさいよ? 明日負けても知らないんだから!」

「へいへい」

 

私達は教室を目指して、屋上に続く階段を下りていく。

………あ、お弁当箱屋上に置いたままだわ。

 

「ごめん、雄二。先行ってて! 私お弁当箱忘れてきたから」

「ん? そうなのか? 明久じゃないが、やっぱ天子はどこか抜けてるよな」

「大きなお世話よ」

「そうだな。んじゃ、俺は先に行ってるぞ?」

「ええ」

 

私は踵を返して階段を登っていく。

あ、そうだ。最後にこれだけ………

 

「雄二!!」

「あん? どうしたんだよ天子?」

 

階段をさらに下りていた雄二が、足を止めこちらを向く。

 

「道は近きにあり、然るにこれを遠きに求む。貴方の探し物もきっと直ぐ近くにある筈よ!!」

 

私がそう言うと、雄二はポカーンとした顔になる。

そういえば、昨日も見たわねこの顔。

ふふ、面白い顔してるわ!

 

「じゃあ、また後でね~」

 

そう言って私は、お弁当箱を取りに屋上へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 ―――――side雄二―――――

 

 

俺は天子が屋上に戻っていくのを、呆然と見ていることしかできなかった。

屋上での事といい、今の言葉といいアイツはこちらのことなんか考えず、自分の言いたいことを素直に伝えてくる。

まぁ、それがアイツの良い所でもあるんだがな。

 

 

『道は近きにあり、然るにこれを遠きに求む。』

 

「たしか、孟子だか孔子だかの言葉だっけか?」

 

俺は幼少時にそんなような本を見た覚えがあり、思い出そうとしてみる。

……ダメだな、思い出せん。

こりゃ帰ったら、本当に日本史の復習しといた方が良さそうだな。

そう思い、俺は少し足を速めながら階段を下りる。

 

 

 

天子が俺に言ったことは、大体的を得ていた。

アイツは本当にこういうことには察しが良い。

……話があるって言うから、てっきり明久の事かと思ったんだがなぁ

 

 

俺は、昔『神童』なんて呼ばれて思い上がっていた。

上級生よりも成績が良いというだけで他人を見下している様な、どうしようもないクズだった。

あの事件がなけりゃ、俺は今でもそういう人間だったのかもな。

そう、今の一部のAクラスの奴らの様に。

 

今日、あの教室に行って実際にAクラスの生徒を見てきた。

全員がそうだというわけでは無かったが、やはり中には昔の俺のような奴らが何人もいた。

目を見るまでもなく、雰囲気だけでそういう奴らなんだと直ぐに判った。

経験者は語るってか? 皮肉なもんだな。

 

 

 

俺は未だに自分に何が足りないのか分かっていない。

あの頃には無かった力をつけて、『悪鬼羅刹』と呼ばれる程に俺は強くなった。

あの時思った通りに、バカみたいな事を色々とやったりもした。

だが、それでも自分の欲しいものが見つけられない。

 

「俺は一体何がしたいんだろうなぁ」

 

呟いてみても、答えは返ってこない。

天子が言ったように、俺は昔の自分を見返したいのだろう。

だが、それで満足かと言われたら、どうなんだろうか?

その時俺は答えを見つけられるんだろうか?

 

「ああ、クソ! 俺の悪い癖だな」

 

余計なことを色々と考えすぎるのが、俺の悪い癖。

試召戦争とかになら役に立つだろうが、こういう時には邪魔になる。

まったく、あの時それを理解したくせに、結局なんにも変わってねぇのか俺は?

………はぁ、もっとアイツみたいにバカになりたいもんだ。

 

 

そんな風に考えていると、いつの間にかFクラスの教室に近づいていた。

すると、丁度教室から明久が出てくるのが見えた。

俺は明久に声を掛ける。

 

「丁度いい所で会ったな、明久。作戦会議始めるぞ」

 

俺がそう言うと、明久は面白くなさそうな顔をして歩き出す。

何で不貞腐れてんだコイツ?

 

「おい、どこに行く。明久!」

 

俺は呆れつつも奴を追う。

 

「僕に近寄るな。一緒に歩くんじゃない」

「どうした明久。何があった?」

 

そう聞くと、突然明久が立ち止まる。

本当にどうしたんだ?

 

「僕は、僕は! 受けなんかじゃなーーいっ!」

 

そう言って、明久はなにかから逃げるように走り出した。

 

「はぁ?」

 

俺は訳が分からず、また呆然としてしまった。

なんだってんだ一体?

 

 




大遅刻しました!
すみません!

ということでいかがだったでしょうか?
今回は天子と雄二の会話がメインでした。

天子が、雄二の焦りなんかに気がつけたのには一応理由がありますが、今回だけを見たら違和感しか無いかもしれませんね。
ま、それはまたいつか話すとして………

雄二の考えなんかは原作を意識してますが、殆んどオリジナルですね。
ずっと何かを求めているけれど、それが何なのか解らない。
自分が欲しいと思って手に入れてみたけれど、それでも自分の空白が埋まることはない。
本当はすぐ近くにあるのに、気づかない。
うちの雄二はそんな感じです。
まぁ、またおかしいと思った所は修正していきますがね。

さてさて、いよいよ次回はAクラス戦です!
一回戦はいったい誰が出るのか。
そしてどちらか勝つのか!
乞うご期待です。

と言ったところで、また次回お会いしましょう!
さようなら~


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第10話

「では、両クラス共に準備はいいですか?」

 

Aクラスの担任で、学年主任の高橋先生がそう聞いてくる。

 

現在、時刻は10時を回ったばかり。

私達は今、Aクラスの教室にいた。

そう、遂にAクラスとの5対5の試験召喚戦争が始まる。

 

今この場には、両クラスの生徒全員がいて、私達の勝負を今か今かと注目している。

そして、教室の正面にある巨大ディスプレイの前に、私を含めた代表選手の10人が向かい合うように並んでいた。

 

こちらの五人は、私と明久、康太に姫路さん、そしてクラス代表である雄二。

 

Aクラス側には、木下優子とメガネをかけた黒髪の女子生徒(康太の情報だと、佐藤美穂)、黄緑の髪をショートカットにしたボーイッシュな女の子(同じく、工藤愛子)と学年次席の久保利光、そして、霧島翔子。

 

今回の戦争はこの十人で行われる。

………何故か、私達の後ろには島田さんが、そして教壇にいる高橋先生の横には、これまた何故かラウンドガール姿の秀吉がいた。

 

 

島田さんはウチの主要メンバーの一人だからまだ分かる。

でも、なんで秀吉がそんな姿でそこにいるのよ!!

せめて貴方もこっちにいなさい!

 

「なんでワシがラウンドガールなのじゃ?」

 

秀吉も疑問には思っているらしく、そんなことを言い出す。

 

「何言ってるのさ! 秀吉以外に誰がラウンドガールをやるっていうんだよぉ」

「ワシはガールじゃないと言うとるのに」

「そもそも、ラウンドガールとか必要なのかしら?」

 

明久がそう言い、秀吉が反論の声を上げる。

そして、私が疑問のを口に出すと、

 

「必要だよ! 今何人目・何戦目なのか直ぐにわかるし、何より目の保養になる!」

「ああ、そう」

 

明久がそう力説し、私は呆れたように返事をする。

ふと、周りの生徒に目を向けると、Fクラスの生徒全員と一部のAクラス男子がうんうんと頷いていた。

………この会場にはバカが多いのかしら?

 

「え~、よろしいですね? それでは、一回戦を開始します。両クラス選手前へ」

 

高橋先生がそう言い、フィールドを張る。

既に先生には、一回戦の対戦科目は伝えてあったからね~

この辺の進行はスムーズだ。

 

フィールドが張られた瞬間、Aクラスからは木下優子が前に出てくる。

ふむ、ここまでは予想通りね。

さぁて、始めましょうか!

木下優子が出てきたのを確認して前に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の作戦会議にて……

 

「一回戦は明久で行きましょう」

「「何だって!?」」

 

私がそう言うと、雄二と明久がそう叫ぶ。

そんなに驚くことかしら?

 

「て、天子! なんで僕が一回戦なのさ!?」

「そうだぞ天子。多分向こうは一回戦を確実に取りに行こうとするだろう。てことは、あの木下姉が出てくる可能性が高い」

 

まぁ、そうでしょうね。

康太の情報で分かっていることだが、木下優子はオールラウンダー系で、どの教科でも戦うことが出来るだろう。

だから、一回戦で確実に勝つために彼女が出てくる可能性はかなり高い。

でも、だからこそ私は……

 

「だからよ。木下優子が出てくるからこそ、私は明久を推したい」

「明久は捨て駒役か?」

 

雄二が私に聞いてくる。

その目はどこか、いつもより真剣な目だった。

 

「そんなわけ無いでしょ? 私が明久を切り捨てると思う?」

「いや、思わない。だからこそ、俺はお前の真意を知りたいんだが」

「私の真意ねぇ」

 

そんなの決まってるじゃない。

 

「天狗になっている木下優子の、ひいてはAクラスのやつらの鼻を明かしたいのよ」

「なるほどな、確かにそれなら明久が適任だ」

「え、え? ど、どうゆう事?」

 

どうやら明久本人は気が付いていないらしい。

 

「解らないなら教えてやろう明久。それは、お前がバカだからだ!」

「何だと! このバカ雄二!!」

「こら明久落ち着きなさい。どうせ事実なんだから」

「そこはせめてフォローしてよ天子!」

 

いやよ、私嘘はあんまり好きじゃないもの。

 

「まぁとにかく、そういうわけだから一回戦は明久に出てもらうわ。異存は?」

「俺はないな」

「ありがとう。明久、お願いね?」

「……うん、わかったよ天子!」

 

明久は私の問いに、笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

「あら? アナタが相手なの? てっきりアタシの相手は比那名居さんとかだと思ってたんだけど」

 

木下優子は私の方を見てそう言った。

まるで、明久なんて眼中にないとでも言うように。

 

「私が出る幕もないわよ。貴女相手なら、明久でも十分すぎるくらいだしね」

「へぇ、随分彼への評価が高いのね?」

「あったり前じゃない。伊達や酔狂でそのバカと親友やってないわよ」

「天子、それ僕のこと褒めてないよね!?」

 

あら、今回は褒めてるわよ?

 

「まぁいいわ、早いとこ始めましょう? どうせ勝負にならないんだし」

「あら、そんな風に明久を見下していていいのかしら? 木下優子。そんなんじゃ痛い目に遭うわよ?」

「私はそんな挑発に乗ったりはしないわよ? 比那名居さん?」

 

挑発じゃないんだけどねぇ。

まぁ、いいわ。

 

「明久! 頼りにしてるわよ♪」

「任せといてよ、天子!」

 

私が明久に声を掛けると、彼は元気にそう返してくる。

………あ、あら? なんか寒気がしてくるんだけど、何で?

周りを見渡すと、Fクラスの男子が恨めしそうに明久を見ていた。

どういうことよ?

 

「やっぱり、比那名居が一番の強敵ね……」ブツブツ

「どうして吉井君はあんなに嬉しそうに返事をするんですかぁ?」ブツブツ

 

なぜか寒気がさらに強くなった気がするんだけど……

 

「試合開始!」

 

高橋先生の合図とともに、ゴングが鳴り響く。

さぁ、頑張りなさいよ明久。

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

木下優子が召喚獣を呼び出す。

装備は西洋風の鎧と少し大きめのランス。

リーチの差なら向こうの方が少し有利ね。

 

「ねぇ、坂本。本当にアキで大丈夫なの? やっぱりウチが出たほうが良かったんじゃ……」

 

島田さんが雄二にそんな事を聞いてくる。

 

「大丈夫よ島田さん。明久なら何の問題もないわ」

「でも!?」

「まぁ落ち着け、島田。見てればわかるさ」

 

雄二がそう言ったことで、島田さんは渋々引き下がる。

………何故か一瞬だけ睨まれた気がしなんだけど。

私なにかしたかしら? まぁ、多分気のせいよね?

 

「貴方の噂は聞いてるわ、吉井君。『観察処分者』なんですってね? 全く学園の恥もいいところだわ」

「僕だってなりたくてなったわけじゃないんだけどね。まぁ、自業自得だけどさ」

「そんなことどうでもいいわ。さっさと召喚獣を出してよ」

 

………彼女ってあんなに不遜だったかしら?

なんか、明久にだけかなり当りが強い気もするんだけど……

 

「言われなくても! 『試獣召喚(サモン)』っ!」

 

そう言って明久も召喚獣を出す。

こちらはいつも通り、学ランと木刀姿だ。

 

「さて、教科は何? 何が来ても同じだと思うけど」

 

木下優子はそう言い、ディスプレイの方を見る。

 

今回の戦争では、対戦科目と点数がディスプレイに表示される。

まぁ、他の人も見やすいだろうしね。

 

そして、対戦教科が表示された。

 

 

フィールド[日本史]

 

 

「あら、アナタ日本史が得意なの?」

「まぁ、それなりにね」

「ふ~ん、まぁ私には勝てないでしょうけどね」

 

そう言った木下優子と明久の点数が表示される。

 

 

フィールド[日本史]

木下優子 359点 VS 吉井明久 110点

 

 

あら、頑張ったじゃない明久。

 

「な、アキが100点超え!?」

「すごいです、吉井君!!」

 

明久の点数を見て、島田さんと姫路さんが驚く。

隣では、雄二や康太、そして壇上の秀吉も感心していた。

 

「アイツいつの間にあんな点数を……」

「いつもは60点くらいなのにのう」

「…………驚いた」

「僕だってやろうと思えば出来るんだよ!」

 

皆が驚いていると、明久がそう叫ぶ。

まぁ、ネタばらしをすると私が教えたんだけどね。

 

元々、歴史モノのゲームをいくつかやったりしていて、明久の日本史と世界史の成績は他の科目と比べると高い方だった。

さらに、明久が暗記系が得意だったこともあり、二年生になる少し前から私がその二つを教えていたのだ。

ここ三日間は日本史に絞って勉強してたしね~

 

「へぇ、頑張ったのね。でも、三倍以上あるこの点数差で勝てると思ってるのかしら?」

「そんなの、やってみないとわからないさ!」

 

そう言って明久の召喚獣が動く。

木下優子の召喚獣は冷静にランスを構え、突っ込んでくる明久の召喚獣を狙う。

 

「終わりよ!」

「吉井君!!」

「アキ!!」

 

木下優子がそう言い、明久の召喚獣を貫こうとした。

その瞬間、姫路さんと島田さんが叫ぶ。

 

 

 

だが、明久の召喚獣はそれをヒラリと簡単に躱してみせた。

 

「な!?」

 

木下優子は驚きの声を上げた。

そしてその隙に明久は、彼女の召喚獣に木刀で攻撃を食らわせた。

 

 

フィールド[日本史]

木下優子 341点 VS 吉井明久 110点

 

 

当たったのは腕だった為、そこまでのダメージではなかった。

 

召喚獣も構造は人間と同じなので、急所を狙えば大ダメージを与えられる。

だけど、今みたいにちょっと当たった程度では削れる点数も少ない。

まぁそれでも、先制を取れたのは大きいけどね。

 

「ふん、上手く避けたみたいね。だけど、これならどうかしら?」

 

そう言って彼女は、ランスで連続攻撃を行い明久の召喚獣を狙う。

右に、左に、縦横無尽にランスを振り攻撃を行うが、明久の召喚獣にそれが当たるどころか掠りもしない。

 

「なんで、攻撃が当たらないのよ!」

「これでも『観察処分者』だからね。召喚獣の操作はお手の物だよ!」

 

召喚獣の操作は簡単なものではない。

集中力はもちろんのこと、慣れも必要になる。

コツを掴めれば、意外と早く慣れることができるが、そのコツを掴むまでに時間がかかってしまう。

 

明久も無駄に『観察処分者』として、先生達の雑用などをやっているわけではなく、操作を覚えそれに慣れるように動かしながら仕事をしている。

元々明久はゲームの操作などが得意だったし、召喚獣も似たようなものだろうとか言いながら、色々と試行錯誤もしていた。

フィードバックがあるから感覚もつかみやすいしね~

多分、今の二年生の中では一番と言ってもいいほど操作は上手いでしょうね。

私でも真正面から明久に攻撃したら簡単に避けらて攻撃されちゃうし。

まぁ、一番ネックなのは点数によるその攻撃力と防御力の低さなんだけど……今の明久の点数ならそれも大丈夫かな?

 

「ふっふっふ、当たらなければどうということはない!」

 

明久はドヤ顔で某赤い彗星のセリフを言ったりしている。

こら、だからって調子に乗らないの!

 

私が睨んだことで寒気を感じたのか、明久は一瞬肩を震わせ、操作に集中を戻した。

まったく、ちょっと褒めるとこれなんだから。

 

 

そんなんことを考えながら数分が経つ。

 

フィールド[日本史]

木下優子 201点 VS 吉井明久 110点

 

明久は木下優子の攻撃を避け続け、彼女の召喚獣に攻撃を繰り返していった。

点差は既に、二倍を下回っている。

 

「くっ……。なんで、こんな奴に!」

 

それが貴女の敗因よ、木下優子。

成績が低いからと見下して、明久を相手に油断していた。

自分なら格下相手でも勝てると慢心していた。

 

『彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に殆うし。』

 

相手の実力と自分の実力がわからない様な貴女に、明久は倒せないわ。

そして、遂に……

 

 

 

フィールド[日本史]

木下優子  0点 VS 吉井明久 110点

 

 

明久は一撃も攻撃を貰うことなく、木下優子を倒したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者! Fクラス、吉井明久!」

『うおーーっ!』

 

高橋先生が明久の勝利を告げると、Fクラスの生徒達が叫ぶ。

私は、少し疲れたように勝利の余韻に浸っている明久に近づいていった。

 

「お疲れ様、明久。格好良かったわよ?」

「あはは、ありがとう天子」

 

私達は互いに片手を出し合い、ハイタッチをする。

パンッと良い音が鳴った。

 

「それにしても、正直まだ信じられないや。Aクラスの木下さんに勝てたなんて」

「もっと自信を持ちなさいよ。これが、あなたの実力なんだから」

「……うん!」

 

私達が話していると、雄二達もこちらに来たようだ。

 

「よくやった明久!」

「ちょ、痛いよ雄二!」

 

雄二は明久の肩を掴み、頭をグリグリと撫で回す。

 

「まさか姉上に勝つとはのう!」

「…………おめでとう」

 

秀吉と康太も明久に賞賛の言葉を送る。

 

「すごいじゃないアキ! 一体どんな裏技使ったのよ!」

「本当にすごいですね、吉井君!」

 

島田さんと姫路っさんも来たみたいね。

 

私は一人、いまだにその場で項垂れている木下優子に近づいた。

 

「木下優子」

「っ! 何よ、比那名居さん。惨めなアタシを笑いにでも来たの?」

 

私が声をかけると、彼女は不貞腐れたように言う。

 

「あら、笑って欲しいの?」

「……そうね。そのほうが幾分か気が楽だわ」

「悔しい?」

「……ええ、とっても悔しいわ!」

 

見ると、彼女は目に涙を浮かべていた。

相当悔しかったのだろう。

そして、情けなかったのだろう。

そして今、彼女は罪悪感と不安感に押し潰されそうになっているのだろう。

 

「なら、その悔しさを忘れないことね。貴女の今回の敗因は、自分の力を過信していた事と明久を見下してその力量を見誤ったことよ」

「……………」

「自分を知り、相手を知れば次は必ず勝てる筈よ? その為には、まず自分の態度を見直しなさい。ちょっと他より成績が良いからって、他人を見下していてはダメよ? そんなことをしてたら足元を掬われるわ。それは今回、貴女がよ~く解ったでしょ?」

「……ええ、そうね」

「うんうん。過ちを改めざるを、これ過ちという。今回のことで過ちに気づけた貴女の事、期待してるからね? ()()。」

「っ! ええ、見てなさいよ()()!」

 

優子は笑みを浮かべながらそう言った。

どうやら吹っ切れてくれたみたいね。

良かった良かった。

 

それにしても……

 

「やっと名前で呼んでくれたわねぇ。なんで頑なに苗字で呼んでたのよ?」

「そ、それは……だって、天子が……」

 

そう言って優子は黙ってしまう。

ううん? 一体何なのかしら?

私が? 私、優子になにかしたっけ?

 

「な、何でもないわ! そんな事もうどうでもいいでしょ!?」

「え~、私すっごく気になるんだけど~」

「そんなの気にしなくってもいいってば! じゃあ、アタシ戻るから!」

「あ、優子~」

 

そう言って、Aクラスの面々の方に歩いていってしまう優子。

もう、相変わらずつれないわね~

 

「天子」

 

そんな事を思っていると、私の後ろに雄二がいた。

因みに明久はなぜかFクラスの皆に胴上げをされていた。

いや、まだ一回戦に勝っただけなのになんでよ。

明久も困ったような顔してるし……

 

「それで、どうしたの雄二?」

「ああ、いや、そのな?」

 

うん? どうしたのかしら?

さっきの優子みたいに、何故か雄二も歯切れが悪そうにしている。

それ、最近流行ってでもいるのかしら?

 

「いや、やっぱりいい。次の試合はお前が出るんだろ? お前なら心配ないと思うが、頼んだぞ?」

「ふふ、なによそれぇ」

 

私は雄二の態度が可笑しくて笑ってしまう。

まったく、優子といい雄二といい素直じゃないわね。

何を言いたいのか知らないけど、言いたいことは素直に言ったほうが良いのよ?

自分の本音なんて口に出して言わないと、伝えたくても伝わらないんだから。

 

「おいおい、笑うんじゃねぇよ」

「だ、だって可笑しくって、あはははは」

「はぁ、まったく」

「皆、そろそろ降ろしてよ! まだ一回戦が終わっただけなのに大袈裟だってばぁ!」

 

私が笑い雄二が呆れていると、そんな明久の声が聞こえてくる。

まだやってたのね。

 

「さて、そろそろ再開するか。頼むぞ、天子」

「ええ、今回は全力で行くからね。私に任せておきなさい!」

「はっ、頼もしい限りだよ。おいお前ら! そろそろ二回戦始めるから向こうに戻れ!」

 

雄二が私から離れ、胴上げをしていた生徒達に言うと、彼らはそそくさと先程まで自分達がいた席に戻っていった。

 

明久を地に落として。

 

「いったーっ! もう、みんな酷いよ!」

 

明久が叫び、皆が笑っている。

私も少しクスリとしてしまった。

 

さぁて、今度は私の番よ!

 




またも一時間遅刻しました。
遅くなってすみません。

さぁて、今回の話はいかがだったでしょうか!?
自分で言うのもなんですが、今回はそこそこ面白かったと思います。

皆さん一回戦は天子VS優子だと思っていた人が多いのではないでしょうか?
実は元のプロット(有って無いような、プロットとも言えない想像の産物)では天子と優子の予定でした。
ですが今日、これを書く直前にふと、明久と優子でも面白いんじゃないかと思い、迷った末にこちらになりました。

まぁ、理由としては、優子を徹底的に負かして考えを改めさせたかったからです。
その為には『観察処分者』である明久が一番適任かなと思いました。

因みに優子が天子を苗字で呼んだり、明久に当りが少し強かったりしたのは、優子が天子に対して寂しさを感じていたからです。
優子は天子をライバル兼仲の良い友人と感じているためそうなりました。
ある意味では、『Fクラスに明久達を追いかけて来なかった天子』だといえるかもしれませんね。
だから、Aクラスの雰囲気に毒されたりもしていました。


そうそう、明久といえば点数のことがありました。
彼の日本史と世界史の成績は、天子のおかげで上がっています。
この二つに関しては、明久の得意科目として少しづつ良くなっていく予定です。
それでも400点は行きませんがね。

あ、それと、これは前回の後書きで書き忘れたんですが……
今って『大化の改新』は645年ではなく646年で覚えるんですね。
………私の時ってどっちだったっけ?
まぁ、ちょっとびっくりしましたというお話です。


さて、次回はついに天子が大活躍!
得意科目に腕輪、緋想の剣の力など盛り沢山の予定です!
きっと彼女の全力を見ることが出来るでしょう!

それでは、どうぞ次回もお楽しみに!


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第11話

「それでは、二回戦を始めます。選手、前へ」

 

高橋先生の声を合図に、Aクラス側の生徒が前に来る。

レンズの大きいい丸メガネを掛けた黒髪の女子生徒。

たしか、佐藤美穂ね。

 

「Aクラス、佐藤美穂です」

 

彼女は、丁寧にお辞儀をしながら召喚獣を召喚した。

装備はネイティブアメリカン風の衣装に、鎖鎌ね。

 

 

「ご丁寧にどうも。私はFクラスの比那名居天子よ」

「知っています。あの『地学の天使(アース・エンジェル)』と戦えると思うと光栄です」

「そ、そう」

 

どうやら、彼女は私のことを知っているようだ。

なぜか、少しキラキラしたような目で見られている。

やめて! 私をそんな目で見ないで!

私別に、地学が得意なわけじゃないから!

 

「対戦科目は何にしますか?」

 

高橋先生がそう聞いてきた。

 

「本当ならここで、貴女の得意科目で戦ってあげるとか格好良いコト言ってみたいんだけど……ごめんなさいね? 今回私、全力で行くって決めてるから」

「いいえ、構いませんよ。私も貴女の全力が見てみたいですし」

「そう? なら、私の本気見せてあげるわ!」

 

私はそう言って高橋先生に対戦科目を告げる。

 

 

 

「高橋先生! 科目は――()()でお願いします!」

「なっ!?」

『なにーーっ!』

「分かりました。教科の変更をします」

 

私が告げると、佐藤美穂と会場にいる殆どの生徒が驚愕する。

Aクラス側では、あの霧島翔子や久保利光まで驚いている。

なんだか新鮮だわ。

そんな中でも、高橋先生は淡々と教科の変更を行っていた。

因みに、驚いていないのは去年クラスメイトだった明久達五人と事前に教えていた姫路さん、そして私の得意科目を知っている優子だけだ。

 

 

皆、私が地学で挑んでくると思ってたんでしょうね~

その証拠に……

 

『何だと、地学じゃないのか!?』

『地学の天使って呼ばれてるのに!?』

『おいおいどういうことだよ! 比那名居さんの得意科目って地学じゃなかったのか!?』

『天子ちゃんマジ天子』

 

と言った風に、あっちこっちから声が上がっている。

皆、目の前の情報に騙されすぎじゃないかしら?

 

 

私の得意科目は古典や日本史、次いで現代国語といった文系教科だ。

今あげたこの三つに関しては、常に400点を超えているぐらいにね。

さて、そんな私が何故地学が771点という高得点を取れたのかというと……

前にも言ったけど、私の得意な分野の問題、つまり地震や天気、後は天文学関係の問題が多く出たからだ。

そのおかげと言うか、そのせいと言うか、私は地学で自分の得意科目である古典を上回るほどの点数を取ることができた。

 

寧ろ、地学の点数のインパクトが大きすぎて、古典の点数が霞んじゃったのよね~

あの時は古典でも一位だったのに……

 

 

そんなんことを考えていると、どうやら教科の変更が終わったようだ。

 

「まさか、地学ではないとは驚きました」

 

佐藤美穂がそんな事を言う。

 

「あの時は偶々問題との相性が良かったのよ。私の得意科目はコッチ」

「そうだったんですか。ですが、だからといって負ける気はありません!」

「そう、でも今回は私が勝つわ」

 

私がそう言うと、高橋先生が片手を挙げて宣言をする。

 

「それでは、二回戦、始め!」

「『試獣召喚(サモン)』っ!」

 

開始の宣言と共に、私は召喚獣を呼び出した。

 

「それが貴女の召喚獣ですか」

「そうよ? 可愛いでしょ?」

 

私の言葉に合わせて、召喚獣の私が腰に手を当てて胸を張った。

因みに、今回はちゃんと『緋想の剣』も持っている。

 

そんなことを考えていると、ディスプレイに私達の点数が現れた。

 

 

フィールド[古典]

佐藤美穂 274点 VS 比那名居天子 780点

 

 

『な、780点!?』

『そんな馬鹿な!』

『これ、教師の点数より高いんじゃないの!?』

 

私の点数を見てAクラスの生徒から声が上がる。

まぁそれはそうよね、700点超なんて先生でもあんまりいないし。

 

そして、Fクラスの方はというと……

 

『すげーっ! 俺あんな点数初めて見たよ!』

『俺だってそうだ! 比那名居さんあんなに点数高かったんだな』

『天子ちゃんマジ孔子』

 

といった感じで、こちらもかなり驚いていた。

………最後の奴は孔子と講師でもかけたのかしらね?

と言うか、「し」しか合ってないじゃない!

 

「す、すごいよ天子!」

「ああ、古典が得意なのは知ってたが、まさかあそこまでとはな」

 

明久や雄二も驚いてくれたみたいだ。

うんうん、褒められると嬉しいわね~

 

「そ、そんなまさか!」

「どう? 驚いた? これが私の本当の実力よ」

「くっ……」

 

佐藤美穂とその召喚獣は少し後ずさる。

そんな及び腰で大丈夫かしら?

私の全力はまだまだこれからなのに。

 

「それじゃあ、始めましょう? どっからでもかかってきなさい!」

 

私はそう言い、剣を構えた。

 

「行きます!」

 

彼女の召喚獣は、大きくジャンプしながら私に向かってくる。

ふむ、操作の方はまずまずってところだけど、やっぱりまだ慣れてはいないみたいね。

私は、着地と同時に振り下ろされた鎌をバックステップで避ける。

武器で受け止めてもいいんだけど、今は点数を減らしたくないしね。

その後も何度か鎌を振り、私の召喚獣に攻撃を仕掛けてきたが、私はそれを全て躱してみせた。

 

「くっ、当たらない!」

「明久程じゃないけど、私も召喚獣の扱いには慣れてるの。貴女の攻撃なら簡単によけられるわ!」

 

そう言って彼女の攻撃をさらに避け続ける。

だけど、相手はAクラス。

そんなに単純にはいかない。

 

「それなら、これで!」

「無駄よ!」

 

片方の鎌で私を攻撃し、それを躱した方向にもう片方の鎌を投げる。

私の召喚獣はそれを上にジャンプすることで回避する。

投げた鎌は、もう片方と鎖でつながっているため、彼女の召喚獣の手元に戻っている。

流石、頭が良いだけのことはあるわね。

鎖鎌をこんな使い方するなんて。

 

 

なんて、そんなことを考えていたからだろう。

私の召喚獣に一瞬だが隙ができる。

そして、彼女がその隙を見逃す訳がなく……

 

「そこっ!」

 

相手の鎌が、私の召喚獣の首を狙って振り下ろされる。

 

………このまま鎌で切り裂かれれば、私の点数はかなり削られるだろう。

最悪、一瞬で0点になるかもしれない。

ああ、やっちゃった。

優子に油断したから負けたとか偉そうに言ったくせに、その自分がこれだ。

まったく、我ながら呆れるわ。

誇ってもいいわよ? 佐藤美穂。

貴女は二年生の中でも十分強いと思うわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、残念だったわね。

言ったでしょ? 私は全力で行くって。

 

 

 

『無念無想の境地』っ!」

 

 

 

私がそう叫んだところで、私の召喚獣に鎌が振り下ろされた。

その衝撃が、フィードバックによって私に伝わって来る。

 

「ぐっ……!」

 

痛い!痛すぎるわ!!

流石にこればっかりは慣れない。

身を裂くような痛みとはこういう事を言うのだろうか?

あのバカにはよく耐えれるもんだと感心するわね。

 

「やった、これで……なっ!」

 

佐藤美穂が嬉しそうに言うが、何かに気がつく。

彼女が気がつけた事に私は素直に感心する。

でもね? まだ高橋先生が終了の宣言もしていないのに、その油断は大敵よ?

 

 

私の召喚獣は消滅してはいなかった。

それどころか、あの攻撃を食らったのにも関わらず、点数が減っていない。

つまり、無傷でその場に立っていた。

 

私の方はフィードバックで無傷じゃないけどね……

 

「な、なんで!? 確かに当たったのに!」

「そうね、今のはかなり効いたわ。すごく痛かったもの。でもね、何か忘れてないかしら」

「忘れていること? ……っ! ま、まさかこれは!」

 

どうやら気が付いたようだ。

 

「そう、これは私の腕輪の能力よ!」

 

 

覚えているかしら?

400点以上の点数を持つ召喚獣は、特殊能力を使うことができる。

その証として、私の召喚獣にも腕輪がついている。

つまり、私の召喚獣も腕輪の能力を使うことが出来るということだ!

そして、私は先ほどその能力を使用した。

 

「私の腕輪の能力『無念無想の境地』は簡単に言えば無敵モードになれる能力よ」

「無敵モードですか?」

「ええ、つまり攻撃を受けても点数が減ることがなくなるわ」

「な、そんな能力反則じゃ!?」

「そうなのよ。だから、制限時間を付けられたわ」

 

因みにその時間はたったの16秒。

これでも長くなった方なんだけどね。

学園長先生なんか最初、10秒にしようとか言ってたし。

まぁ、おかげで消費点数も減ったからあまり文句は無いけどね~

 

最初は300点だったのが、今では十分の一の30点である。

そりゃ、無敵になるくらいだからそれぐらい消費するわよね。

なんてったって、その効果が、『科目を変えるかフィールドから出るまで続く』んだから。

あまりにも頭のおかしい性能過ぎて、即学園長室行きになったし。

 

「まぁ、そういうわけだから、能力の効果が続いてるうちにさっさと終わらせるわ」

「そんなに簡単にはやられませんよ! それに、能力が切れるまであなたに攻撃しなければ良いだけです!」

 

そうよね。

攻撃が通らないのならば、効果が切れるのを待つ。それが普通だ。

でも、私がそれを許すと思うのかしら?

 

「見せてあげるわ。『緋金の腕輪』の力をね! 『緋想天(スカーレット)』っ!」

 

私が右の手首に手を添えてそう叫ぶと、剣が赤く光り、それが私の召喚獣の周りに《気》の様なものになって霧みたいに漂う。

 

「なっ!?」

「これぐらいで驚いてちゃダメよ?」

 

そう言って私は佐藤美穂の召喚獣に急接近した。

そして、剣で彼女に切りかかる。

 

「させません!」

 

そう叫ぶと同時に、鎌で私の剣を受け止めた。

しかし、私の剣の方が威力が高かったのか、彼女の召喚獣が後ろに押され、少しだけ仰け反った。

だがすぐさま体勢を立て直す。

 

フィールド[古典]

佐藤美穂 260点 VS 比那名居天子 750点

 

今ので少し削れたみたいね。

さて、もう16秒経っちゃうし、そろそろ終わりにしましょうか!

 

「悪いけど、そろそろ終わりにするわ」

「何を言っているんですか、まだまだこれからですよ!」

「いいえ、終わりよ!」

 

私がそう言うと同時に、腕輪の効果が切れる。

その瞬間、私の召喚獣は大きく飛び上がり、剣を左手に持った状態で前に突き出す。

そして私は、もう一度自分の右手の腕輪に触れた。

 

「言い忘れてたんだけどね? 私実は―――左利きなのよ」

「はい?」

 

私がそう宣言をすると、彼女は何言ってんだコイツといった顔をする。

まぁ、特に理由はないんだけどね。

 

「喰らいなさい! これが私の全力全開!!」

 

私がそう言うと、召喚獣の周りに漂っていた赤い気のようなものが、全て剣に集束していく。

 

「っ!」

 

佐藤美穂が危険を察知したみたいだが、もう遅い。

そこは私の()()()()だ。

 

 

 

 

 

『全人類の緋想天』

 

 

 

 

 

私がそう言った瞬間、集束された《気》が赤いレーザーのようになって剣から放たれる。

そしてそれは、佐藤美穂の召喚獣に直撃し、彼女の点数を削りきったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょ、勝者! Fクラス、比那名居天子!」

 

高橋先生が私の勝利を宣言した。

しかし、先程の明久のように、歓声は上がらない。

唯一人、

 

「やった! 天子の勝ちだ!」

 

明久だけが声を上げた。

お前は少し空気を読みなさいよね?

そう言って喜んでくれるのは嬉しいんだけどさ。

 

 

このAクラスに居る生徒は全員、唖然としていた。

そしてその視線は、正面のディスプレイに集まっている。

まぁ、それはそうでしょうね。

なにせ―――――

 

 

フィールド[古典]

佐藤美穂  0点 VS 比那名居天子  1点

 

 

ダメージを食らわなかったはずの私の点数が、1()()になっていたのだから。

 

 

 

『緋想の剣』から発生するオーラのようなもの。

一応、形式的に《気》と呼んでいるそれは、その実、私の点数が剣によって赤色に気化したものらしい。

どうゆう原理でそうなったのかは、開発者の学園長でも分からないらしい。

だが、私が使っているこの『緋金の腕輪』はオカルト要素をかなり強めに設定して作られているため、何が起きても不思議ではないらしい。

 

いや、不思議すぎるわよ!

なによ点数を気体化するって。

剰えそれで攻撃できるなんて、色々おかしいんじゃない!?

そもそも、なんで作った本人が原理分かってない上に、そんなものを生徒に預けるのよ!

研究と実験のためでしょ! 言われなくてもわかってるわよ!

 

 

閑話休題

つまり、気化された点数をそのまま放つことで、その分の点数を消費して攻撃ができる。

『全人類の緋想天』はその気化した点数の()()()を消費して放たれる。

その為、使用後は私の点数が1桁分しか残らない。

基本的には1点になるのだが、たまに3点や8点とかになる。

 

余談だけど、これは400点を超えていなくても使うことができる。

まぁ、その分威力はかなり落ちるんだけどね。

逆に、今回みたいに点数が高い状態で放てば確実に相手を倒すこともできる。

 

一撃必殺の諸刃の剣。

使い勝手や燃費は悪いし、使いどころも難しい。

でも、だからこそ強い私の最終秘奥義(ラストワード)だ。

 

まぁ、秘密じゃなくなっちゃったけどね♪

 

 

 

 

 

私はあの場を離れて、皆の所に戻る。

 

「お疲れ様、天子!」

「まさか、お前があんな隠し球を持ってるとはなぁ」

 

私が戻ってくると、明久と雄二が声をかけてきた。

 

「どうよ? あたしの全力は」

「ああ、恐れ入ったよ。てか、マジで敵に回らなくてよかったぜ」

「そうだよね。僕も何回か食らったけど、あれは絶対敵に回したくない」

「……お前、あれくらってよく死ななかったな」

「……本当にね」

 

明久には何度か実験に付き合ってもらって試したことがある。

最初、そこまで威力が出るなんて知らずにあれを撃ったら、明久がフィードバックで酷いことになっていた。

まぁそれで、その時だけ明久のフィードバックを外してもらったんだけどね。

 

「でも、あれかなり疲れるのよ。やっぱり点数で攻撃してるからかしら?」

「あとは集中力とかじゃないかな? あれ使うとき、かなり神経使いそうだしね」

 

と、明久がそんなことを言い出して、私達は驚く。

 

「な、なにさ?」

「いや、明久。お前大丈夫か?」

「………明久がそんな分析してるなんて……やっぱり島田さんの関節技とかの後遺症で……」

「失礼な! 僕だってこれぐらい出来るってば!」

「……12と18の最大公約数を答えろ」

「へんっ、馬鹿にするなよ雄二! 僕だってそれぐらい覚えてるぞ! 答えは2だ!」

「「良かった、いつもの明久だ」」

「どういうことだよそれ!?」

 

そんなことを言い合いながら、私は二回戦を終えたのだった。

さぁ次は貴方よ、康太!





どうも、もう22時投稿でいいんじゃないかと考え始めた私です。
いや、それでも30分遅刻なんですけどね。


というわけで、今回の話はいかがだったでしょうか?
私はやっぱり、もっと戦闘描写が上手くなりたいと思いました。

今回は天子対Aクラスのメガネっ子、佐藤美穂でした。
あの子はこんな感じのキャラで本当によかったのだろうか?
まぁ、あまり登場しないのでこんな感じでいいでしょう!

さて、今回は色々と隠されていた情報が出てきましたね。

天子の得意科目は古典と日本史、次いで現国です。
まぁ、天子のキャラ的に考えて、理系よりは文系かなと。
地学で点数が高かったのは、地震学と天候学(気象学もかな?)、そして天文学の問題が出たから。
この辺も一応、原作の天子を意識したものとなってます。

一応、また設定のときに書くつもりですが、補足を入れると、
この物語での文月学園では、天文学は地学と物理学の両方に分類されてます。
まぁ、細かくは決めていないのであれなんですが、地学の方がそういった分野の問題が多く出る程度に考えておいてください。


そしてついに今回二つの腕輪の能力が出ました。
まぁ、こちらも設定の時に詳しく説明しますが……

腕輪の能力『無念無想の境地』は原作だと無敵ではなく、防御力が上がり仰け反らなくなるだけです。
また、他のスペルを使用すると直ぐに効果が切れます。

しかし、『全人類の緋想天』との兼合いを考えると、そのままではどうしても使えなくなるので、制限時間付きの無敵モードとなりました。

『全人類の緋想天』は本編でも説明したとおりです。
原作では発動に周囲の気質を全て使うという点がある為、剣から発生する気質を点数として、その殆んどを使うことで撃てる事にしました。
全部使ったら負けちゃいますしね。

因みに、『無念無想の境地』を使った状態で『全人類の緋想天』を使っても点数は消費されます。
消費されないなら燃費が良すぎて連発できますからね。
しかも威力高いままで。
そんなチートにするつもりはありませんのであしからず。
まぁ代わりと言ってはなんですが、『全人類の緋想天』を撃った後でも『無念無想の境地』は持続します。
その為、残り時間内であれば、1点とかでもまだ戦えるでしょう。
切れたら知りませんがね。


と言ったところで、残りは設定集を上げた頃にでも話しましょう。
話しすぎて後書きが1000文字超えそうなので。

次回はムッツリーニVS工藤愛子です!
しかし、既にFクラスが2勝してしまっている現状。
一体、二人の勝負はどうなるのか!
どうぞご期待下さい!

次回予告で1000文字超えてしまった……
それではまた次回、よろしくね!


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第12話

バカテスト【保健体育】

問 以下の問いに答えなさい。
『女性は( )を迎えることで第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』



姫路瑞希の答え
『初潮』

教師のコメント
正解です。



比那名居天子の答え
『初経』

教師のコメント
これも正解です。
今回の問題はどちらで答えてもらっても構いません。



島田美波の答え
『処刑』

教師のコメント
字が違います。



吉井明久の答え
『明日』

教師のコメント
随分と急な話ですね。



土屋康太の答え
『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では、生理の事を月経、初潮の事を初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43kgに達するころに初潮をみるものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均十二歳。また、体重の他にも初潮年齢は人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される』

教師のコメント
詳し過ぎです。




現在、私と明久がAクラスに勝利し、Fクラスが2勝している。

つまり、あと1勝すれば必然的に私達の勝利となる。

そして、そんな中迎える次の選手は……

 

「ムッツリーニ、あとはお前に任せた」

「…………(コクリ)。行ってくる」

 

そう、三人目は康太だ。

やっぱり、科目の選択権を貰えたのがかなり活きてくるわね。

 

康太は基本的に、殆どの科目の点数が低い。

下手したら、明久以上に。

しかし、保健体育に関しては常に学年一位を取っているくらい成績が高い。

まぁ、ムッツリーニなんて呼ばれるくらいには、性に関する知識が人並み外れているわけよね。

余談だが、彼の総合科目の点数の約80%が保健体育で獲得されているそうだ。(本人談)

 

 

 

「では、三人目の方どうぞ」

 

高橋先生の声で、康太が前に出る。

Aクラスの方からは、あまり見覚えのない、ショートカットの女子生徒が前に出てきていた。

康太から貰った情報によると、彼女は工藤愛子。

どうやら、一年の終わりに転入してきた生徒ようだ。

そりゃ、見覚えがないわけよね。

 

「教科は何にしますか?」

「…………保健体育」

 

康太がそう宣言すると、工藤愛子が片目を瞑りながら楽しそうに微笑んだ。

 

「キミ、保健体育が得意なんだってね。だけど、ボクだってかなり得意なんだよ?」

 

工藤愛子はそう言うと、スカートを少し摘んで上に上げる。

というか、ボクっ娘なのね。珍しい。

 

「それもキミと違って―――実技で、ね♪」

「…………じつ、ぎ? …………(ブバッ)」

 

実技って……

………多分、保健の実技じゃなくて体育の実技の方ね、あれ。

だが、康太は何を想像したのか、かなりの量の鼻血を噴射しながら後ろに倒れた。

あ、マズイ。

 

「ムッツリィーー二!」

 

明久が無駄にジャンプしながら、康太に駆け寄る。

貴方、いつの間にそんなアクロバティックに……

そんなことを考えていると、明久が工藤愛子の方を少し睨みながら言う。

 

「よくもムッツリーニに! なんて酷いことを! 卑怯だぞ!」

 

いや、よく考えてみなさい明久。

それどう考えても、康太の自爆だからね?

まぁ、康太限定の戦略としては正解だけど。

そんな明久に向かって、工藤愛子は腕を組んで不敵に笑う。

 

「キミ、吉井君だっけ? キミが選手交代する? でも召喚獣の操作は上手くても、勉強の方は苦手そうだね? 保健体育で良かったら、ボクが教えてあげるよ? 勿論―――実技でね」

 

「「ブバッ!!」」

 

工藤愛子の言葉によって、明久と康太がさらに鼻血を出して倒れた。

うんも~、あのエロバカ共どうしてくれようかしら……

私は、溜息をつきながら二人に近寄ろうとした。

すると……

 

「吉井君!!」「アキ!!」

 

姫路さんと島田さんが血だまりの中、明久に駆け寄っていく。

あら、出遅れちゃったわ。

まぁ、あの二人に任せても大丈夫でしょ。

 

なんて、そんな私の期待は、衝撃の言葉とともに裏切られた。

 

 

「余計なお世話よ! アキには永遠にそんな機会無いから!」

「そうです! 吉井君には金輪際、必要ありません!」

 

 

………前言撤回。

なんであの二人は、明久に更に追い討ちをかけるようなこと言うのかしら?

いや、嫉妬からっていうのは判るんだけどね?

というかそれ、貴女達にもブーメランなの分かってる?

 

「なぁ、天子。明久が死ぬ程哀しそうな顔をして泣いてるんだが。あれ、止めなくても良いのか?」

「既に放たれた物を、どう止めろって言うのよ?」

「いや、それはそうなんだが……」

 

雄二も流石に気の毒に思ったのか、私にそんな事を言ってきた。

私だって、出来ることならああなる前に止めたかったわよ。

でも、もうこうなったら仕方ないじゃない?

 

………そうね。あの二人にはいつか、言葉の重みというものをその身で理解してもらおうかしら。

どっちが明久と付き合えるのか知らないけど。

 

 

なんて、そんなんことを考えていると、康太がフラフラと立ち上がる。

その鼻からは、未だ大量の鼻血が出ている。

アレ、本当に大丈夫かしら?

普通に致死量超えてると思うんだけど……

 

「ムッツリーニ!」

「…………大丈夫、これしき」

 

康太はそう言って、自分の顔についた血を拭った。

 

 

「そろそろ、開始してもよろしいですか?」

 

そう高橋先生に促され、明久と姫路さん、島田さんがこちらに戻ってきた。

明久は未だに少し哀しそうな顔をしている。

それを見た私と雄二は苦笑いをしてしまった。

仕方ないわね~、フォロー入れて上げましょうか。

 

「明久、大丈夫かしら?」

「ああ、天子。……うん、大丈夫だよ」

 

うわ、これは重症だ。

女子二人から言われたのが、かなりショックだったみたいね。

 

「もしかして、二人に言われたこと気にしてるの?」

 

私は小声で明久にそう話しかけた。

 

「い、いや、別にそういうわけじゃ……」

「まったく、そんなの一々気にしなくっても大丈夫よ。貴方にだっていつかはそういう機会が来るはずだから。ね?」

「ほ、本当に!?」

「多分ね」

 

私がそう言うと、明久は目に見えて嬉しそうになった。

どんだけショックだったのよ……

 

「流石天子だな。明久の扱いが上手い」

「別にこれぐらい、貴方だって出来るじゃない」

「何だ、知らなかったのか? 俺はアイツの不幸を見るのが好きなんだ」

「ああ、そう」

 

私は呆れたように溜息をつきながら、そう言ったのだった。

 

「比那名居と話して、なんでアキはあんなに嬉しそうなのよ……」ブツブツ

「比那名居さんは吉井君に一体何を言ったんでしょう……」ブツブツ

 

………ここ二、三日、よく寒気を感じるんだけど、なぜかしら?

風邪でもひいたかな……?

 

 

 

 

 

「では、三回戦。試合開始!」

「「『試獣召喚(サモン)』っ!」」

 

やっと三回戦が開始され、康太と工藤愛子の召喚獣が召喚された。

康太の召喚獣は、忍者装束に二刀流の小太刀といった装備。

対する工藤愛子の召喚獣は……

 

「何だあの巨大な斧は!!」

 

明久が叫ぶ。

彼女の召喚獣は、セーラー服といった軽装ではあるが、その手に一本の巨大な斧が握られていた。

しかも、その左手には腕輪もある。

ということは、彼女も400点オーバーということね。

 

「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげる!」

 

工藤愛子がそう言った瞬間、ディスプレイに二人の点数が表示される。

 

 

フィールド[保健体育]

工藤愛子 446点 VS 土屋康太 576点

 

 

「な!?」

「500点オーバー! 強い、保健体育だけで僕の総合科目並みの点数だ!」

 

工藤愛子と明久が驚いたように言う。

というか、明久。

日本史と世界史の点数上がってるはずなのに、総合科目の点数が600点以下ってどういうことよ?

………歴史科目以外も教えないといけないわね。

 

「そ、そんな! この、ボクが……でも! 負けないよムッツリーニくん!」

「…………『加速』」

 

康太がそう言うと、彼の召喚獣の姿がブレる。

どうやら、腕輪を使ったみたいね。

彼の腕輪の効果は、今見た感じだと速度の上昇だろうか?

忍者みたいな装備だと思ったら、能力まで忍者っぽいみたいね。

 

そして、康太の召喚獣が一瞬で工藤愛子の召喚獣に近づき、小太刀で切りかかった。

 

 

 

 

 

「……ふふっ。かかったね、ムッツリーニくん!!」

 

 

 

しかし、康太が彼女の召喚獣を切り裂く瞬間、()()は起こる。

工藤愛子の召喚獣から電撃のようなものが発生した。

その電撃はバチバチと音を立てながら、青白い光が康太の召喚獣を襲う。

康太の斬撃は当たったものの、致命傷とはならず、彼の召喚獣は電撃のダメージで片膝を付いた。

 

 

「…………なに!?」

「どう? これがボクの能力、『電気操作』さ!」

 

工藤愛子はそう言うと、斧に青白い電気を帯電させる。

 

「ボクの召喚獣は電気を発生させてそれを操ることが出来る。だからさっきみたいに君に強力な電気を流したり、今みたいに武器に電気を流して纏わせる事だって出来るんだ♪」

 

彼女は得意げに自分の能力を語った。

ふむ、かなり使い勝手のいい能力ね。

正直、ちょっと羨ましいわ。

しかも、その威力も強力なようだ。

その証拠に……

 

フィールド[保健体育]

工藤愛子 274点 VS 土屋康太 260点

 

康太の召喚獣の点数が300点以上削られていた。

腕輪の消費点数が50~100点だと考えると確実に200点以上は持ってかれてるわね。

まぁ向こうも、かなり浅かったとはいえ直撃した康太の斬撃に腕輪の使用で点数が減ってるけど。

 

「そ・れ・に~。どうかな、ムッツリーニくん? 今、召喚獣動かせないでしょ?」

「…………っ!?」

 

康太は工藤愛子に言われ、召喚獣を動かそうとする。

しかし、康太の召喚獣は体の自由が利かないのか、思うように立てないようだ。

………これって、まさかっ!

 

「ふふ、気付いたみたいだね? キミの召喚獣は体が痺れて動けないみたいだよ?」

「…………くっ!?」

 

康太はもう一度召喚獣を動かそうとするが、やはり上手い具合に立ち上がることができない。

どうやら、彼女の言った通り先程の電気で痺れて動けないようだ。

 

「さて、そろそろ終わりにしようかな?」

 

工藤愛子がそう言い、彼女の召喚獣が康太の召喚獣に近づいていく。

これはかなり拙いわね……

今、彼女の電撃を帯びた斧が直撃すれば、康太の点数は0にされてしまうだろう。

しかし、康太の召喚獣は痺れてしまって動けない。

万事休すとはこのことね。

 

「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん!」

「………くっ」

 

康太はなんとか自分の召喚獣を動かし、小太刀を構えさせる。

だが、やはりまだ思うようには立ち上がれないみたいだ。

そんな彼の召喚獣に向かって、工藤愛子の召喚獣が斧を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『加速』っ!」

 

 

 

それは本当に一瞬の出来事だった。

 

 

 

康太の召喚獣が、自分の両足の太腿に小太刀を突き刺す。

そして能力の発動により、一瞬のうちに工藤愛子の攻撃を躱した。

 

 

 

つまり、ダメージ覚悟で自分の両足を突き刺し、イチかバチか痛みで痺れが取れるのに賭けたのだ。

結果、康太は賭けに成功した。

足の痺れは取れ、能力によって彼女の攻撃を無理矢理回避したのだ。

 

それにしたって、無茶苦茶すぎるわよ!?

 

「そ、そんな!? 自分の足を傷つけて、無理矢理痺れを取るなんて!!」

「…………ダメ元だったが、上手くいった」

 

康太はサムズアップしながらそう言う。

そんなのできるのは普通漫画とかゲームの話の中だけだからね?

現実でやろうとしたら、先ず痛みで余計に動けなくなるから!

 

「でも、今のでキミの点数はかなり減っちゃったみたいだよ?」

 

工藤愛子は、ディスプレイを見ながらそう言った。

私もそちらに目を向ける。

 

フィールド[保健体育]

工藤愛子 274点 VS 土屋康太 140点

 

確かに康太の点数は腕輪の使用と自傷のダメージで、100点近く減っていた。

また、足を傷つけた為、痺れはなくなったがまた操作がしにくそうだ。

依然、ピンチには変わりないわね。

でも……

 

「…………関係ない。俺はお前を倒す。」

 

康太は珍しく真剣な表情で、工藤愛子を見た。

それに対して彼女の方は、彼の思い切りの良さと今の表情を見て、少し怯んでしまっている様に見えた。

 

康太の召喚獣が動き、攻撃をする。

能力も使ってない上に、足をケガしている為、その動きはあまり良くない。

しかし、及び腰になった工藤愛子は、それを躱しきることができず、少しずつだがダメージを食らっていく。

 

 

フィールド[保健体育]

工藤愛子 168点 VS 土屋康太 140点

 

 

「…………どうした工藤愛子。動きが鈍くなっている」

「そ、それは」

「…………まぁいい。俺は仲間の為にも、ここで負けられない!」

「っ!」

 

康太がそう言うと、工藤愛子はハッとした顔になった。

 

康太って普段無口なくせに、こういう時だけやけに熱くなるのよね。

まぁ、それだけ仲間思いってことなんでしょうね~

多分、本人は照れて否定するでしょうけど。

 

私がそんな風に考えていると、工藤愛子の表情から恐怖や迷いといったものが消えていることに気がつく。

ああ、今の康太の言葉で吹っ切れちゃったみたいね。

 

「そうだよね。ボクだってここで負けるわけにはいかないんだ! 行くよ、ムッツリーニくん!」

「…………来い、工藤愛子!」

 

二人は腕輪の能力を、同時に使い接近する。

そして、二人の召喚獣が互いの体を深く切り裂いた。

 

 

 

 

 

フィールド[保健体育]

工藤愛子  0点 VS 土屋康太  0点

 

 

 

ほぼ同時に攻撃が決まり、お互の残りの点数を全て削りきったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………すまない、勝てなかった」

 

試合の結果が引き分けとなり、康太がショボンとしながら戻ってきた。

 

「なぁに、気にすんなよ。 いい試合だったぜ?」

「そうそう! それに、あの状態から引き分けに持ち込んだんだから凄いよ!」

「そうね、あの時は流石にもうダメかと思ったもの。まさかあんな方法で切り抜けるなんてね」

 

雄二、明久、私の順に康太に賛辞を送る。

 

「…………昔読んだ漫画に載っていた方法を試しただけ」

「あの土壇場で、それを実践できる貴方が凄いって言ってるのよ」

「僕や天子だったらフィードバックがあるから、あんなこと簡単にはできないしね」

 

そうよね。痛みで集中力とかが切れちゃうかも知れないからね。

まぁでも、ああいう時の対処法が判っただけでも良しかしら?

 

「とりあえず、これで2勝1分けだな」

 

そうね、これでウチのクラスの敗北は無くなった。

後は姫路さんと代表戦。

どちらかで勝てばFクラスの勝利が決まるわ。

 

「頼んだぜ、姫路」

「は、はい!」

 

姫路さんは緊張したように声を上げた。

だが私は、その彼女の緊張に一抹の不安を覚えたのだった。




な、なんとか今日中に間に合った!

ということで、大幅に遅れて申し訳ありません。
言い訳をするなら、暑さで脳が回りませんでした。
皆さん熱中症とかにはお気をつけくださいね?


さて、今回はムッツリーニVS工藤愛子でした。
いかがだったでしょうか?
この展開は、実は一回戦に明久を出すと決めた後で考えました。
その前は普通にムッツリーニが勝って、明久が引き分けという流れでした。
まぁこの辺は流れが変わった弊害ですね。


さて、今回出た愛子の腕輪の能力。
原作だと、攻撃に電気属性の付与といった簡単なものでしたが、この物語では某レールガンを彷彿させる仕様になりました。
といっても、あそこまで強くないですがね。

簡単に説明すると、電気の放電と帯電ができます。
放電は言わなくてもわかると思いますが、相手に電撃を流したりできます。
そうすることで、相手にダメージを与えつつ、麻痺をさせることもできます。
帯電は元の能力である電撃付与と同じだと思ってもらえば大丈夫かと。
消費は帯電が50点で放電が80点です。

因みに、ムッツリーニの能力『加速』の消費点数は50点です。
まぁ、この辺は目安ですがね。


と言ったところで、今回はここまでとしましょう。
もう、暑くて頭が働きませんので。
次回は、久保君対姫路産(姫路さんで一発変換するといつもコレになる)です。
もう後がないAクラスの久保君と緊張気味の姫路さん。
二人の勝負の行方は!?

もうバレてるかもしれないその答えは、次回をお楽しみに!
明日こそは21時に………
ではでは~


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第13話

「そ、それじゃあ、行ってきます!」

 

姫路さんが緊張した面持ちで、そう言う。

現在、2勝1分けでこちらがリードしている状態。

そんな中での大事な試合だから、緊張するのもわかる。

でも、何故か私の不安が拭えないのよねぇ。

 

「姫路さん頑張って!」

「はい!」

 

明久に応援され、彼女は微笑みながら返事をする。

しかし、その笑みは少し強張って見えた。

本当に大丈夫かしら……?

 

 

 

 

 

「では、三回戦を始めたいと思います。両者前へ」

「それでは、僕が相手をしよう」

 

そう言って前へと出てくるのは、学年次席の座にいる久保利光。

元々は姫路さんの方が実力は上だったのだが、彼女が振り分け試験でリタイアしてしまった為、今は彼が二年の次席になっている。

 

「さて、ここが一番の心配どころだな」

 

雄二が苦い顔をしてそう言った。

それもその筈だ。

いくら姫路さんの方が、元は成績が上とは言ってもその差は数十点程度だからね。

今回の戦いで何度も見ている通り、召喚獣の操作技術次第で点数の高い相手を倒すことだってできる。

まぁ、だからといってAクラス陣よりも操作に慣れている姫路さんが簡単に負けるとは思えないけど。

 

 

普段通りなら……

 

 

「教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

高橋先生にそう聞かれ、久保利光が答えた。

ちょっと!? 勝手に何言ってるのよ!

 

「そんな勝手に! 選択権は僕らが―――――」

 

明久が抗議をしようとすると、それまで黙っていた姫路さんが口を開く。

 

「構いません」

「姫路さん……」

 

姫路さんは覚悟を決めたように言った。

 

「少しマズイな。総合科目は学年順位がそのまま点数になる。今の姫路で久保の点数を超えられるかどうか……」

 

雄二が僅かに焦りを見せた。

総合科目はその名の通り、他の教科の合計点だ。

学園長先生が言うには、センター試験とかを意識してあるから、純粋な合計点ではないらしいけど……

 

「第四回戦、試合開始!」

「「『試獣召喚(サモン)』」」

 

高橋先生の合図で、姫路さんと久保利光が召喚獣を召喚する。

久保利光の召喚獣は、剣士風の服に鎌のようにも見える二本の戦斧といった装備だ。

対する姫路さんの召喚獣は前と同じ装備だが、また腕輪がついていた。

あら? 確か総合科目の腕輪って……

 

フィールド[総合科目]

久保利光 3997点 VS 姫路瑞希 4409点

 

 

『4000点オーバー!?』

『嘘だろ!?』

『あの点数、学年主席の霧島翔子に匹敵するレベルだぞ!』

 

一般科目とは違い、総合科目で腕輪が使えるのは4000点以上である。

姫路さんの召喚獣が腕輪を持っていたという事は、その点数を超えているということだ。

それにしても、久保君と400点以上差があるのは予想外だったわ。

 

「ぐ……。いつの間にこんな実力を……!」

 

久保利光が悔しそうに言った。

まぁ、次席の自分より点数が高かったら、そりゃ悔しいでしょうね。

それも、今まで実力が拮抗していた相手だから余計に……

 

「……私、このクラスが好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

 

久保利光に対して、そう返す姫路さん。

 

 

 

………彼女はなんで勘違いしてるのかしら?

明久とかならいざ知らず、Fクラスの奴らなんて、ノリと勢いとあと設備の為にやってるようなものだし。

私だって、皆と一緒に何かをやるのが楽しいから参加しているだけ。

人の為にとか考えているのは、あのバカみたいな極一部だと思うんだけど……

 

「Fクラスが……好き?」

「はい。だから頑張れるんです!」

「そうか……」

 

久保利光は姫路さんの返答を聞いて、何かを考える。

そして、

 

「そういうことなら、僕もAクラスの為に負けるわけにはいかないな!」

 

久保利光も覚悟を決めたようで、姫路さんの召喚獣に向かって飛び出した。

そして、その二本の戦斧を振り彼女の召喚獣に攻撃をする。

姫路さんはそれを大剣で受け止め、両者の召喚獣がその反動で後ろに下がった。

しかし、すかさずもう一度接近して、互いに攻撃を続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールド[総合科目]

久保利光 2381点 VS 姫路瑞希 2793点

 

 

久保利光は操作は甘いが、その知識と判断力を大いに生かして戦う。

姫路さんも、少しだが操作に慣れているため、相手の隙を付きながら攻撃を繰り出す。

二人の勝負はほぼ互角で、試合開始から数十分以上経った今でも接戦が続いていた。

それでも、まだ姫路さんの方が点数は高い。

けれど……

 

「……はぁ、はぁ」

 

姫路さんは額に汗を浮かべ、少し辛そうに息をしている。

 

 

召喚獣の操作には集中力はもちろん、僅かだが体力も必要になってくる。

私や明久、先生達の様にフィードバックがあるとかなりの体力が消費され疲労感や脱力感を感じるのだが、普通の生徒であれば、「ちょっと疲れたかな?」程度で済む。

しかし、あまり体力が無く、少し身体の弱い生徒が長時間召喚獣で絶えず戦い続ければどうなるか……

それは、今の姫路さんを見てもらえれば一目瞭然だろう。

 

「ね、ねえ雄二。さっきから姫路さんかなり辛そうだけど……」

「ああ、もうすぐ開始から一時間位経つからな。体力の少ない姫路にはキツイだろう」

「そんな、それじゃ瑞希は……」

 

隣では、明久や島田さんが姫路さんを心配している。

私が戦っている二人に視線を戻すと、いまだ二人の力は拮抗していた。

しかしそれも、時間の問題だろう。

そして、ここで姫路さんが手札を切った。

 

「これでっ!」

「何!?」

 

姫路さんがここで腕輪の能力である『熱線』使用する。

容赦ないその一撃が久保利光の召喚獣を襲った。

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

「くっ……! ここで負けるわけにはいかない!」

 

 

久保利光がそう叫び片方の戦斧をおもいっきり地面に叩きつけ、棒高跳びの要領で上空に飛び上がる。

それにより、姫路さんの『熱線』は彼の召喚獣には当たらず、彼が手放した片方の戦斧のみを飲み込んだのだった。

 

「そんな、まさか武器を片方捨てることで回避するなんて!?」

「多分、私達の試合を色々と参考にしたんでしょうね。彼、意外と度胸あるじゃない」

「…………普通できることじゃない」

 

あんな躱し方した康太には言われたくないと思うわよ?

むしろ、彼のあれは康太の行動力を参考にした結果だろうし。

しっかし、今のでかなり戦況が不利になったわね。

 

フィールド[総合科目]

久保利光 1521点 VS 姫路瑞希  933点

 

 

能力の使用により、姫路さんの点数は1000点程消費された。

実力が拮抗している中で、色々と消耗している今の姫路さんでは勝つのは難しいだろう。

 

 

そして、更に数分後……

 

「これで終わりだ!」

「あっ――――――」

 

 

フィールド[総合科目]

久保利光  606点 VS 姫路瑞希  0点

 

 

 

最後は隙を突かれ、久保利光が姫路さんの召喚獣を、一本だけとなったその戦斧で切り裂いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者! Aクラス、久保利光!」

 

 

『おお、やったぞ!』

『これで首の皮一枚繋がったわね!』

『流石、学年次席なだけはあるな』

 

高橋先生が彼の勝利を告げると、Aクラスの生徒達から歓声が上がった。

まぁ、やっと1勝取ることができたんだから嬉しいわよね。

 

「姫路さん、大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫、です……」

 

試合が終わり、久保君は姫路さんを気遣うように声をかけていた。

 

「いい勝負だった。あの時、腕輪の能力を躱せていなかったら負けていたのは僕の方だろうね」

「そ、そんな……私なんて……」

「卑屈になることなんかないさ。君は十分強敵だったから」

 

彼はそう言って優子達の居る方へと戻っていった。

ふむ、プライドは高そうだけど、他の奴らみたいに他人を見下したりとかするような人ではないみたいね。

 

そんなことを考えていると姫路さんもこちらに戻ってくる。

 

「すいません! 負けてしまいました……」

「気にしなくていいぞ、姫路。お前は良くやってくれた」

「そうだよ、姫路さん! すっごく格好よかったよ! それと、体調の方は大丈夫?」

「吉井君……。はい、大丈夫です!」

 

姫路さんは明久に励まされ、少し元気を取り戻しだしたようだった。

 

 

 

「さてと、これで2勝1敗1分けね」

「次の一戦で勝負が決まるわけじゃのう」

「「「ん?」」」

 

急に秀吉の声がして私と明久、康太の三人がそちらを向いた。

 

「「ぐはっ(ブバッ)」」

 

そこには上半身裸で、胸を腕で隠す様に立っている秀吉がいた。

それを見た康太と明久は、また鼻血を出して倒れる。

………男の裸を見て倒れるこの二人もそうだけど、

 

「ねぇ、秀吉。なんで胸を隠してるのよ。男ならもっと堂々としてなさい!」

「む、それもそうじゃな」

『おおーーっ!』

 

そう言って腕を外す秀吉。

すると、それを見た何人かの男子が喜んだり絶望したり、二人のように鼻血を出したりしていた。

 

………ここの男子、もう色々とダメかもしれないわね。

 

そんなことを考えていると、島田さんと姫路さんが急いでやってきた。

 

「木下! アンタ何やってるのよ!」

「木下君! 前! 前隠してください!」

「な、なんじゃ二人共!? ワシは男だから別に隠す必要は――――て、天子! お主からも言ってや―――」

 

もう付き合ってられないわ。

私はもみくちゃにされる秀吉を尻目にその場を離れた。

 

 

 

「あいつらは一体何をやってんだか……」

「さぁ? もう私にもわからないわよ」

 

あの場を離れた私は、雄二とお互いにため息を付き合いながら話していた。

 

「まぁそんなことより雄二。後は貴方にかかってるわよ?」

「ああ、そうだな。だが、俺には策がある。お前も知っているだろう?」

「………ええ、そうね」

 

私は少し不安を含ませながら言う。

実際、私はまだあの時感じた違和感の正体を掴めていない。

そして、この作戦に疑問を抱いている。

本当にそれでいいのかと……

 

「なぁに、心配するな。お前のおかげで復習はバッチリだ! 俺がお前らを勝たせてやるよ」

「………そうね、既に御膳立は済んでいるものね。頑張りなさいよ? 雄二」

「おう、あとは任せろ!」

 

彼は不敵に笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、

 

 

そう言って笑った彼の瞳に、

 

 

迷いの色が写っていることを、

 

 

私は気づいていなかった。

 




はい、と言ったところで今回はここまで!
どうだったでしょうか。
多分、これを読んでくれている殆どの人がこの展開を予想できていたのではないでしょうかね?


今回は久保君対姫路さん。
この話は、正直最初から結果に関しては決まっていました。
ここで久保君が負けたり、引き分けになってしまうとAクラスに後がないからです。
でもどうやって久保君を勝たすのかに結構悩みましたね。
悩みすぎて天子と戦わせようかと考えるぐらいに。
その結果『熱線』を避けて、点数を消費させた所で持久戦で勝つといった感じになりました。

そんな久保君。
彼って明久が強く関わり過ぎてゲイのイメージが強いですが、普通にいい奴ですよね?
さらに意外と度胸もある。
そんな彼を今回初めて見て、天子は彼を良い方に評価しました。
まぁ、その評価も後に少し下がりそうですが……(主に明久関係で)


一応オリジナル設定というかなんというか、
総合科目は4000点オーバーで腕輪を使えるようにしました。
この設定って、二次創作ではよく見かけますが、原作ってたしか出てないよね?
もし今後不都合とかが出たら、この設定自体無くなる可能性もありますが、まぁ大丈夫でしょう。

因みに、総合科目での腕輪の消費点数は普段の10倍となります。
まぁ、このへんも設定集でまた書くでしょうがね……


次回はついに代表戦!
長かったAクラス戦及び第一次試験召喚戦争篇もそろそろ終わりですね。
雄二と翔子の勝負の行方はどうなるのか!?
そして、一体どちらが勝つのだろうか!?
乞うご期待!!

それでは、また次回!


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第14話

「それでは、五回戦。最終ラウンドを始めます」

 

高橋先生の宣言で、雄二は腕を組んだまま不敵に笑う。

 

「さて、俺の番だな」

「雄二……」

「まぁ見てな」

 

不安そうに自分の名を呼ぶ明久に、雄二はそう答え前に出る。

向こうからも霧島翔子が歩いてきている。

 

「Fクラス代表、坂本雄二だ」

「……Aクラス代表、霧島翔子」

 

一応形式として二人は、自分の名を名乗った。

普通なら、幼馴染同士の二人にはそんな必要ないんだけどね~

 

「では、教科は何にしますか?」

「……………」

「……? 雄二?」

 

高橋先生の問いに、雄二は黙ってしまった。

………どうしたのかしら?

あれだけ自信満々だったのに、今更どうしたのって言うのよ?

そんなことを考えていると、雄二がその口を開いた。

 

「……ふぅ。勝負は日本史の限定テスト対決でお願いします。内容は小学生レベルで、方式は100点満点の上限あり!」

 

雄二がそう答えると、この教室内がざわざわと騒がしくなる。

まぁ、この内容じゃ驚くわよね。

私も知ってなかったら驚いてただろうし。

 

『テストバトル!? 召喚獣の勝負じゃないのかよ!!』

『それに、テストの上限ありって!?』

『しかも内容が小学生レベルとか、満点確実じゃないの!?』

 

そんな声があっちこっちから上がる中、高橋先生は淡々と、

 

「わかりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しこのまま待っていてください」

 

そう言ってノートパソコンを閉じ、教室を出ていった。

流石は学年主任。適応力が高いわね。

 

高橋先生がいなくなったことで、雄二がこちらに戻ってくる。

 

「どういうことだよ、雄二!」

「小学生レベルの問題じゃと、二人共100点を取って当たり前じゃ!」

「それじゃあ、引き分けじゃない!?」

「いいえ、小さなミス一つで負けるってことですよ」

 

雄二に対して明久達が問いかけ、姫路さんがそう言った。

まぁ、全体的にだけ見ればそうよね。

 

「その通り、学力じゃなくて注意力と集中力の勝負になる」

「雄二……」

「心配するな勝算はある」

 

そう言って、自分の策を話し出す雄二。

その間、私はやはりなにか違和感を感じていた。

一体なんなんだろう……

 

「待ってよ、雄二!」

「うん?」

 

ふと、違和感について考えていた私の耳に、明久の声が聞こえてくる。

 

「『大化の改新』って625年じゃなかったっけ?」

「無事故の改新、645年だ!」

 

どうやら、明久は間違えて覚えていたようだ。

もう、それぐらい覚えてなさいよ!

あれだけ勉強してなんで間違えるんだか……

まぁでも、()()()()()()()()()()()()()で…………しょ?

 

 

 

ちょっと待った。

私は今何を考えた?

なんで今まで気がつかなかった?

いや、でも、それなら違和感の正体は……

 

「このクラスのシステムデスク、俺達の物にしてやる」

「………盛り上がってる所悪いんだけど、雄二。ちょっといいかしら?」

「あん? どうした天子?」

「いいからちょっとこっち来なさい」

「あ、お、おい!」

「天子?」

 

私は雄二の腕を引きながら、その場から少し離れる。

そして、私は雄二に背を向けたまま立っていた。

 

「なんだよ天子。そろそろ高橋女史が戻ってくるだろうから、手短に頼むぞ?」

「………ええ、わかってるわ。ねぇ雄二。貴方が霧島翔子に『大化の改新』を間違えて教えたのは、いつ?」

「はぁ? なんだよその質問?」

「いいから答えなさい!」

 

私は背を向けたままで、少し強く言い放つ。

それに少しだけ気圧されたように雄二が口を開く。

 

「あ、ああ。確か小三の頃だったと思うが……」

 

雄二の答えに、私は確信を抱いた。

そして彼にもう一つの質問をする。

 

「ねぇ、雄二。それ以降で、小学校か中学校で『大化の改新』の問題って出てるわよね?」

「出てるんじゃないか? よくは覚えてないが」

 

そう、なら……

 

「なら、なんで霧島翔子はいまだに『大化の改新』を『625年』で覚えているのかしら?」

「っ!?」

 

雄二が驚いたように表情を変える。

 

「霧島翔子は一度覚えたことを忘れないんでしょ? なら、テストで間違いだと知って正確な答え、『645年』だと()()()()()はずでしょ? でも、あなたは彼女が間違えると確信している」

「……何が言いたい?」

 

私の話に、表情をこわばらせる雄二。

その答えは、貴方が一番知っていることでしょう?

 

「つまり、その『625年』を教えた時の貴方との出来事は、彼女にとって上書きできないほど大切な思い出ということじゃないの? 今も間違え続けるぐらいに」

「……………」

 

雄二に対して一途な霧島翔子のことだ、彼との思い出は何物にも変えがたいものなのだろう。

だから、今でも答えを間違え続けているんだと私は思う。

そして、雄二はそれを今回利用する気なんだ。

………こういうのは当人達の問題だから、私はこれ以上深入りはできない。

でも……

でも、もう一度これだけ……

 

「ねぇ、雄二。昨日のこと蒸し返すようで悪いんだけどね? でも、あえてもう一度言うわよ?」

「……なんだよ」

 

 

 

 

 

「貴方は本当にこれでいいの?」

 

 

 

 

 

私が彼にそう告げると、高橋先生が戻ってきた。

そして、二人を連れて視聴覚室に向かう。

私達はこのAクラスの教室の巨大ディスプレイで、その映像を見ることができるようだ。

 

「ねぇ、天子。雄二と何話してたの? 出て行くときなんか変な顔にしてたけどさ」

「あの素直になれないツンデレ男にちょっと助言をしたというか、お灸を据えたというか」

「本当に何したのさ?」

「まぁ、全ては雄二しだいってことよ」

「わけがわからないよ」

 

明久に聞かれ私はそう答えたが、どうやら更に意味がわからなくなってしまったらしい。

でも明久、その言い方はやめて。

あのアニメのナマモノ思い出すから……

 

 

 

まぁ結局、どうするかは全部貴方次第なのよ。

私がどうこう言った所で、貴方は納得しないでしょ?

自分が本当に欲しいものは自分で見つけなくては意味がない。

いや、自分じゃないと見つけられない。

だからね、雄二。

少しは自分に素直になりなさいよ。

他人がどうとか関係ない。

自分が本当に満足できるやり方で。

学力だけが全てじゃないんだと、証明しなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、私にはそんなやり方無理だけどね」

 

 

 

 

 

 ―――――side雄二―――――

 

 

俺は迷っていた。

昨日、屋上で天子と話をしてから、心のどこかでは「本当にこれでいいのか」と悩んでいた。

 

そして、一回戦の時に偶然聞いたあの言葉。

 

『過ちを改めざるを、これ過ちという。』

 

古典が得意だからなのかはわからないが、なんでアイツはああいう言葉に詳しいんだろうな?

 

 

あの言葉を聞いたとき、俺は天子に聞いてみたくなった。

 

「俺は今も過ちを犯し続けているんだろうか?」

 

だが、聞いたところで答えなんて返ってくるわけがない。

アイツは察しはいいが、心まで読めるわけじゃない。

俺の過去をすべて知っているわけじゃない。

あの頃の俺のことを知らない。

 

『ちょっと他より成績が良いからって、他人を見下していてはダメよ? そんなことをしてたら足元を掬われるわ。』

 

ああ、お前の言う通りだ。

その言葉を昔の俺に聞かせてやりたいぐらいだ。

 

それは、俺が一番よくわかっていることだ。

それは、俺の罪だから。

それは、俺の後悔だから。

それは、俺が犯した過ちだから。

 

俺は小学生の頃に一度失敗した。

だからバカで何も考えずに行動できるやつになりたいと思った。

そう、誰かの為に自分を顧みず行動できるあいつ(明久)みたいに。

 

そして、昔の自分に教えてやりたかった。

世の中は学力が全てじゃないんだと。

他人を見下していても良い事なんてないんだと。

バカの方が楽しいぞと。

 

だが、俺はそれで本当に改めたと言えるんだろうか?

俺は未だに過ちを犯しているんじゃないか?

俺はどうすればいい?

 

 

 

そんな考えが頭の中をグルグルと回り続ける。

 

「制限時間は五十分。満点は100点です」

 

ふと、高橋女史の声で我に返る。

いつの間にか、俺は視聴覚室で答案用紙を配られていた。

色々考えているうちに、もう始まる直前だったようだ。

 

「不正行為等は即失格となります。いいですね?」

「……はい」

「わかっているさ」

 

俺が高橋女史をに言うと、彼女は時計を見た。

そして……

 

「では、始めてください」

 

ついに俺と翔子の勝負が始まる。

俺は問題用紙を表に返した。

今更色々考えたってしょうがない。

もう勝負は始まったんだ。

あとはアレが出れば!

 

 

 

俺は次々と問題を解いていった。

天子に言われ、事前に勉強をしておいたおかげかスラスラと問題の答えを書いていく。

ここまでは順調だった。

そしてついに、その問題が現れる。

 

《『大化の改新』は何年に起きた出来事?》

 

勝った!

俺はそう思い、横目でチラリと翔子を見た。

このまま行けば、確実に俺は満点を取れるだろう。

ある意味、天子のおかげだな。

復習をしていなかったら、所詮小学生学校の問題だと油断して、60点にも届いていなかっただろう

 

そんな時、俺は試合前にアイツに言われたことを思い出す。

 

 

 

『貴方は本当にこれでいいの?』

 

 

 

 

 

……………良いわけがない。

 

 

 

ああそうだ! 俺だって本当はわかっている!

こんなのが……こんなことで掴んだ勝利に何の意味がある?

こんなのはただ翔子を悲しませるだけなんじゃないのか?

俺はまた過ちを繰り返すのか?

それも昔よりも酷い過ちを……

 

それに自分で集中力や注意力がどうとか言ったが、そんなのは自分に対しての言い訳にすぎない。

こんなもの、結局は相手の弱点を付いただけの学力勝負じゃないか。

 

 

『こんなやり方で勝って貴方は満足なの? 』

 

満足なわけがない。

だが、こうでもしないと俺は……

 

 

『学力が全てじゃないと証明できたと本当に言えるの?』

 

言えは、しないだろう。

結局、周りの奴らだって元神童だからとか言って、学力でしか判断しないだろう。

それじゃあ、ダメだ。

 

そう、ダメなんだ。

結局、俺は翔子に、Aクラスに勝つことだけを考えすぎていた。

『最弱でも最強に勝てる』

そんな、アニメや漫画のヒーローや主人公みたいなことをして見返したいと思っていたわけだが、やはり俺には向いていなかったらしい。

 

 

 

むしろそういうのは、明久や天子の方が向いていそうだな。

 

 

 

同時に、アイツ等が主人公だなんて似合わねぇなとも思う

俺は声が出るのを必死に我慢しながら笑った。

 

 

 

 

 

よし、腹は決まった。

 

勝つためには騙し討ちだろうがなんだろうがやってやるさ。

利用できるものは全部利用する。

たとえ何度やられようとも、這いつくばって何度でも挑んでやる。

 

いまだ自分が一番欲しいものは見つからねぇが、そんなのは正直今更だ。

見つからないなら、見つけられるまで足掻けばいい。

俺は自分のやりたいようにやる。

今までも、そんでこれからもな。

 

 

 

……だから、今回のこれは俺のケジメだ。

 

 

 

そう思いながら、俺は問題用紙に回答を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《日本史勝負 限定テスト 100点満点》

 

 

《Aクラス  霧島翔子     97点》

 

       VS

 

《Fクラス       (坂本雄二)     97点》

 

 

 

 

 

俺はこの試合、無記名により翔子に敗北したのだった。

 




またも大遅刻。
もうすみませんとしか言いようがないです。

と言ったところで、いかがだったでしょうか。
今回はAクラス戦の最終決戦である、雄二VS翔子でした。

正直、今回はけっこうな難産でした。
というのも最後までどっちを勝たせるのか悩みに悩んだからです。
最終的には、順当に雄二の負けで収まりましたがね。
(ここだけの話、無記名にするのはこの後書きを書いてる時に思いつきました。)
今回の話は天子の気づきと、雄二の考えがメインです。
その為どうしてもいつもより短くなてしまいました。
まぁ、勝負の内容が内容ですからね。

雄二はある程度吹っ切れた感じですが、まだ自分が一番欲しいモノがわかっていません。
すぐ傍にあるんだから、素直になえばすぐ見つかるんですがねぇ。
まぁ、そのお話はまたの機会に。
(詳しく言うと、雄二と翔子の如月ハイランド篇で)

と言ったところで、今回はここまで!
次回はAクラスとの戦後対談!
引き分けとなったことによる、その対談の内容とは!?
次回、いよいよ第一章最終回!?
どうぞご期待下さい!

それではまた次回~


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幕間 一方、その頃……

視聴覚室にて、両クラスの代表戦が行われている頃。
Aクラスの教室に残り、ディスプレイで二人の様子を見ている天子達はというと……


「では、始めてください」

 

その言葉で第五回戦、つまり雄二と霧島翔子のクラス代表戦が始まった。

二人共スラスラと問題を解いていく。

まぁ、霧島翔子は勿論、勉強したと言っていた雄二ならこれくらいは余裕だろう。

 

ディスプレイの下側には、ご丁寧に問題が一問づつ表示されていった。

ふむ……

 

「明久、ちょっとアレ答えなさい」

「ちょ、天子! また僕のこと馬鹿にしてるね!?」

「いや、あれぐらい解けるだろうと思って言ってるのよ?」

「ふんっ、なら次の問題から解いてあげるよ!」

 

そう言ってディスプレイを見ていると、画面下の問題が切り替わる。

 

問 『織田信長が長篠の戦いで手を結んだのは誰?』

 

ああ、これなら簡単ね。

 

「答えは徳川家康だよね?」

「ええ、正解よ」

 

戦国時代系の問題は明久の得意分野でもあるしね。

流石ゲームをやり込んでいるだけはある。

 

「では、明久。その織田と戦ったのは誰じゃ?」

 

秀吉が明久にそう聞いた。

まぁ、これも大丈夫でしょう。

 

「もう、バカにしないでよ秀吉! 武田信玄じゃないか!」

 

………なんでそうなるのよ

 

「明久、答えはその息子の武田勝頼じゃ。信玄はその前に死んでおる」

「あ、あれ!? そうだっけ?」

「まぁ、真田幸村と答えなかっただけマシね」

 

因みに知ってると思うけど、真田幸村の本名は真田信繁よ。

そんなんことを考えていると、また問題が変わる。

 

問 『アメリカ総領事ハリスとの間に、日米修好通商条約を結んだ大老は?』

 

「井伊直弼!」

 

正解。

それなら……

 

「じゃあ、その時の将軍は?」

「え!? え~とぉ……」

 

まぁ、急に言われたら分からないわよね……

 

「…………徳川家梨(いえなし)

「違うわ康太。答えは徳川家茂よ」

 

というか、家梨ってなによ。

そんなの名前の将軍いないわよ。

 

「…………家を持っている方だったか」

「家を持ってないから家梨ってこと? そもそも将軍はみんな家は持ってるでしょうが……」

 

と、そんなことを話していると、

 

「あ、解った! 徳川吉宗だ!」

「明久、それは暴れん坊将軍じゃ……」

 

………はぁ。

 

「明久、もう一回最初っから日本史勉強する?」

「また飛鳥時代からやるの!? 流石にそれは勘弁して!!」

「いいえ、今度は旧石器からやるわ」

「さらに酷くなった!!」

 

まぁ、流石に冗談だけどね?

 

「というか、比那名居がアキに日本史教えたの?」

「ええ、そうよ? 春休みとかにみっちりとね」

「おかげで点数は上がったけど、ちょっと頭パンクしそうだったよ」

「なによ大げさねぇ」

 

ちょっと一日六時間勉強しただけじゃない。

日本史と世界史をメインに三時間ずつ。

………いや、流石にやりすぎだったかしら?

 

「日本史や世界史だけならまだしも、合間合間に国語やら理科やら教えてくるんだもん。そりゃパンクしそうになるよ」

「だって、歴史ばっかやっててもつまらないじゃない。だから、その時代に関係してる言葉とか使われた薬品とかを教えてるのよ?」

「そんな風に勉強するのは比那名居さんだけな気がしますけど……」

「まぁ、説明自体はすっごく分かりやすかったんだけどさ……」

 

明久どころか姫路さんにまで呆れられてしまった。

解せないわ。

 

「…………問題が年号系に変わった」

 

康太のその発言で、私達はもう一度ディスプレイに意識を向ける。

 

問 『元明天皇が平城京に遷都を行ったのは何年か』

 

 

問 『平安京に桓武天皇が遷都したのは何年か』

 

 

………なんか問題自体は小学生レベルなのに、問題文の言い回しがおかしい気がするんだけど。

気のせいかしら?

 

「……? 桓武天皇は知ってるけど、元明天皇って誰だっけ?」

 

明久がそんな事を聞いてきた。

まぁ、流石にこれはあんまり教えてなかったし知らないわよね。

 

「元明天皇っていうのは、平城京に遷都した時の天皇よ。確か性別は女性だったはず」

「へぇ~、流石天子、詳しいね」

「私もあんまり知らないけどね」

 

因みにだが、平城京は710年。平安京は794年である。

そんなんことを考えていたら、また問題が変わった。

 

問 「鎌倉幕府が設立されたのは何年か答えなさい。」

 

()()()()()ろう鎌倉幕府!」

「正解だけど、大声で言う必要はないわよ?」

 

鎌倉幕府は源頼朝を創設者として1192年に作られた。

実際は北条氏が設立したのよね~

 

「あっ! よ、吉井君!」

「どうしたの姫路さ―――あっ!」

 

ディスプレイに視線を戻していた姫路さんと明久が驚く。

私もそちらを見てみると……

 

問 『大化の改新は何年に起きた出来事?』

 

あっ、出た。

 

「こ、これで後は雄二が満点を取れば!」

「ワシらの机がシステムデスクになるというわけじゃのう」

「…………ノートパソコンもある」

 

三人が口々にそう言った。

 

 

 

私は画面を見つめている。

雄二はその問題に気づいたのか、一瞬手を止めた。

………さぁ、どうするの雄二。

 

私だけでなく、AクラスとFクラス両方の生徒が固唾を飲んで、この試合を見守っている。

 

 

 

 

 

ふと、私は気づいた。

 

 

 

「笑ってる?」

「え? どうしたの天子?」

「あっ。いや、何でもないわ」

 

私は明久にそう言って、もう一度画面の向こうに目を向ける。

確かにさっき雄二は笑っているように見えた。

それも、いつもみたいなニヒルな笑みではなく、心の底から面白いことを考えていたかのような、そんな笑み。

 

そして、次いでペンを走らせた雄二の顔は吹っ切れたような清々しいもののように感じ取る。

 

………一体何を考えているのかしら?

いくら私でも、表情から察することはできても、心を読むなんて芸当はできない。

だから、今の雄二が何を考え、どう思っているのかはわからない。

けれど、どうやら焦りはなくなったようだ。

それを感じて私は、口の端を少し吊り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、勝負の結果を見た時、流石の私でも唖然とした。

 

 

 

 

 

《日本史勝負 限定テスト 100点満点》

 

 

《Aクラス  霧島翔子     97点》

 

       VS

 

《Fクラス            97点》

 

 

 

 

 

 

雄二の無記名により、結果は霧島翔子の勝ち。

 

 

 

よって、Aクラス対Fクラスの試験召喚戦争は、引き分けという結果で幕を閉じたのだった。

 




突発的にやりたくなって書きました。

ということで、今回は幕間を投稿しました。
ちょっとでも面白いと思っていただければ幸いです。


まぁ、今回の話は蛇足の様な物です。
雄二がなんか葛藤している間、天子達は何をしていたのか。
………普通に問題解いたりしながら喋ってただけなんですがね。
その為、中身なんて全く無い様な薄い話になりました。
まぁ幕間だからそんなもんだよ、って感じでこれからもご覧ください。


次回は予定通り、戦後対談をお送りします。
急に投稿されたと思ったら、こんな話で申し訳ないです。
それでは、また次回お会いしましょ~


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第15話

バカテスト【歴史】


問 次の(  )に正しい年号を記入しなさい。
『(     )年 キリスト教伝来』



霧島翔子の答え
『1549年』

教師のコメント
正解。特にコメントはありません。



坂本雄二の答え
『雪の降り積もる中、寒さに震えるキミの手を握りながら、以後よく広まった1549』

教師のコメント
正解ですが、なぜそんなロマンチックな表現をするのでしょうか?
 


「二対二で、今回の試召戦争は引き分けとなりました。両クラス、この後どうするのかを話し合ってください」

 

Aクラスの教室に戻ってきた高橋先生の宣言により、勝敗が言い渡される。

後は生徒同士で話し合えってことね。

 

「なんだよ雄二、あの結果は!?」

「見ての通りだ明久。俺は名前を書き忘れた」

「僕でもそんなミスしないのに!!」

「いやまさか、あんな伏兵が潜んでいるとは意外だったなぁ」

「自分が伏兵になってどうするんだよ!」

 

明久が雄二に対して叫ぶ。

その間に、私は高橋先生に近づきヒソヒソと話す。

 

「………高橋先生、雄二の答案用紙を見せてください」

「いいですよ。はい、どうぞ」

 

そう言って先生が渡してきた答案用紙を見た。

そこには確かに名前がなかった。

しかしよく見れば、そこには名前が書いてあっただろうことが分かる。

そう、そこには『坂本雄二』と読める跡が残っているのだ。

 

自分の名前を消したのね……

そして、彼が間違えた問題とその回答を見て、私は苦笑いを浮かべた。

 

「まったく、()()するなら最初からやらなかったらよかったのに」

 

私はいまだ責められている雄二の方をチラリと見ながら、そう呟いた。

彼が間違えた問題は『大化の改新』。

そしてその回答欄に書かれているのは、『625年』だった。

 

「ありがとうございました」

 

私は高橋先生にそう言って、用紙を返す。

さてと、こうなったら仕方ないわね。

戦後対談での交渉を頑張らないと。

 

「皆その辺にしなさい」

「でも天子!」

「明久もそこまでよ。今はこのあとの対談のことを考えないとでしょ? なら一々過ぎた事を言っても仕方ないわ」

「そうだけどさ……」

「それでも気に食わないってんなら、全部終わったあとにしなさい」

「おい天子! そいつはフォローになってねぇぞ!?」

 

私の発言に雄二がそう叫ぶ。

あら、何を勘違いしてるのやら。

 

「誰も貴方のフォローなんてしてないわよ? そもそも、ちゃんと名前を書いていれば勝ちだったにも関わらず、無記名で引き分けにしたクラス代表さんなんかのフォローなんかを、私がするとでも思ったの?」

「うぐっ……」

 

私の辛辣な言葉に、雄二は苦い顔をして黙る。

 

「そんな顔するぐらいなら、ちゃんとやりなさいよね。さてと、代表さん? 対談は私がやってもいいかしら? 明久でもしないようなミスをしたポンコツには任せてなんておけないので」

「あ、ああ頼んだ」

「頼んだ? それが人に物を頼む態度かしら?」

「お、お願いします!」

「よろしい」

「天子、地味に怒ってるね」ヒソヒソ

「あんなに辛辣な天子は久しぶりに見るのじゃ」ヒソヒソ

「…………恐ろしい(ブルブル)」ヒソヒソ

 

………全部聞こえてるんだけど。

因みに、康太が震えている理由は、私の写真を勝手に売りさばいていた時のお話で、今みたいに辛辣に話したからだったりする。

 

「それじゃあ、行ってくるわ」

 

私はいつものメンバーにそう告げ、対戦の時のように真ん中へと向かった。

Aクラス側からは、既に優子が来ている。

さてと、始めましょうか!

 

 

 

「お待たせしてごめんなさいね? 早速、戦後対談の交渉を始めましょうか」

「あら、交渉するのが前提なのね」

「当たり前でしょう? それとも何? 数分後に戦争でも始めるつもりかしら?」

「ウチはそれでもいいみたいだけどね」

 

私が聞くと、そう答える優子。

へぇ、本当にいいのかしら?

 

「とりあえず、案を出そうと思うわ」

「ふ~ん、とりあえず聞いてあげる」

 

見習いなさい、島田さん。

こういうのが本当のツンデレよ?

照れ隠しで暴力ばっかり振るう事だけがツンデレではないわ。

 

「ありがとう。それじゃあ一気に言うけど、

一つ目は、このまま普通の試験召喚戦争に移行する案。

勿論、開始前に回復試験は受けれない等の条件が付くけどね。

 

二つ目は延長戦を行う。

これは単純にクラスからまた一人づつ出して戦わせるわ。

そして、これに勝った方を勝利とする案。

 

三つ目は、このまま引き分けで終わる案。

これも単純ね。引き分けのまま戦争を終わらせる。

まぁ、それだけじゃ納得できないというなら、お互いに条件を出し合うのも有りよ。

 

と、まぁこんな所かしら?

一応、この対談でどちらかの勝利にするということもできるけど、流石にそれは論外よね~」

 

 

「そうね。後は引き分けの一戦をやり直すとか?」

「悪いけどそれは却下ね。確実にこちらの負けが決まってるもの」

 

康太は保険体育以外はからっきしだし、工藤さんは他の点数もそこそこ高いだろうしねぇ。

 

「なら、さっきも言ったけれど、ウチとしては一番の戦争の移行。つまり総力戦を推すわよ?」

「へぇ、この状態でそれを言うの?」

「あら、どう考えたってウチが有利でしょ?」

 

ふむふむ、確かに点数だけで見ればAクラスのほうが有利でしょうね。

でも……

 

「なら、貴女と工藤さん、あと、佐藤さんは補習室行きね」

「は? なんでよ?」

「まさか忘れたの? 今言った三人は、さっきの戦いで既に戦死してるじゃない。まぁ、ウチも康太と姫路さんが戦死してるけど」

「あっ……」

「それに、明久は日本史と世界史の点数が高得点のまま残っているし、私もこの二つは得意だからね。それを主力に戦えば、操作に慣れていないAクラス相手でも勝ち目は十分あるわよ? 私達の実力は、今回身に染みてわかっているでしょうし」

「で、でも、こちらにはまだ代表もいるのよ? いくら貴女達二人が強くても代表相手じゃ……」

 

ああ、やっぱり忘れてるのね。

 

「優子。霧島さんの日本史の点数が今いくつぐらいか分かる?」

「はい? 分からないけど、代表は暗記系が得意だし400点以上はあるんじゃない?」

「……優子、私の日本史の点数は今そんなにない」

「え?」

 

私達の交渉を聞いていた霧島さんがそう言う。

そう、今の彼女にそんな点数はないはずだ。

なぜなら……

 

「霧島さんが日本史のテストを受けたのついさっきよ? つまり、彼女の日本史は97点しかない。よって、私達が日本史をメインに挑めば、そちらの代表である霧島さんを簡単に倒すことができるわ」

「っ!! そんなの上手く行く訳……」

「上手く行くかじゃないわ。上手く行かせるのよ。たとえ、私と明久、雄二の三人以外が戦死しようとね」

 

私が黒い笑みを浮かべながらそう言うと、優子が少し後ずさった。

あらあら。こんなの殆どはったりに過ぎないのに、そんな及び腰でいいのかしら?

 

 

たしかに日本史でなら霧島さんを楽に倒せるだろう。

最悪、私の国語とかで『全人類の緋想天』を当てられれば勝てるだろうしね。

でも、Aクラスが戦死覚悟で、大人数で攻めてきたらさすがの私達でもさばききれないのよ?

それに~、流石に今から総力戦とか私も面倒なのよね。

フィードバックで疲れてるし。

何より、姫路さんと康太がいないのはやっぱり辛いからね。

 

だから、総力戦はどのみち却下なのよね~

 

「ということで、二番の延長戦で白黒つはっきりつけるか、三番の条件付きの引き分けで終戦をオススメするわ。因みに一押しは三番よ?」

 

二番は勝ちにこだわるなら選ぶでしょうけど、その分リスクも高いだろうし。

 

「……気になるんだけど、なぜ勝てる自信があるならそれをやらないの?」

「そうだよ天子! 勝てるのなら戦った方が得じゃないか!」

 

優子の言葉に明久が叫んだ。

ああ、そのことね。

 

「確かにAクラス戦に勝つことはできる。でも、そのあとが問題なのよね」

「そのあと?」

「ええ。たとえ今Aクラスに勝って設備を手に入れても、消耗しきっている状態で他のクラスに挑まれたら負けるもの。それを考えたら、無理に戦う必要がないじゃない」

「なるほどね」

 

一応これは、私達FクラスがAクラスに負けた場合にも言えるんだけどね。

まぁ、言わないけど。

 

「……因みになんだけど、延長戦の場合は誰を出すの?」

「うん? 気になるの?」

「ええ。誰が出るかで色々と変わるからね」

「まぁ、そうでしょうね」

 

誰が出るかねぇ。

そんなの……

 

「私が出るわよ?」

『はぁっ!?』

 

私の返答に、優子だけじゃなく交渉を聞いていた両クラスの生徒から疑問の声が上がる。

え? 皆なんでそんなに驚いてるのよ?

 

「何言ってるのよ! 貴女はもう出たじゃない!」

「別に二回出てはいけないというルールは無かったじゃないの。それに、私は負けていないし」

「いやいや、そうじゃなくて! 普通延長戦なら、クラスの別の誰かを出すんじゃないの!?」

 

はい? 優子は何を言っているのかしら?

 

「優子。貴女が最初に言ったじゃない。5対5の勝負だと。つまり延長戦となれば、5人の内の負けていない選手が出るもんじゃないの?」

 

格闘漫画のチーム戦とかなら普通そうだと思うんだけど?

 

「高橋先生、私が言ったことに問題はありますか? 今回の形式が代表選手選出式の5対5なので、延長とならば私の言った通りでは?」

 

私は疑問をそのまま審判役の高橋先生に聞いた。

いくらAクラスの担任でも、ダメとは言わないと思うけど……

 

「はい、この場合は比那名居さんが出ても問題はないでしょう。細かくルールも決まっていませんでしたし、先ほど負けてもいないので。もちろん、別の誰かを出しても大丈夫でもありますが……」

 

ふむふむ。じゃあ、とりあえず私が出るのは問題ないわね。

あ~、良かった。

Aクラス相手の一騎打ちなら、私が出た方が確実だろうしね~

 

「そういうことだから、私が出るわよ。因みに、延長戦なら教科の選択権もまだこっちにあるしね」

「うぐっ………わかったわ、引き分けでいいわよ!」

 

優子は困ったような顔で霧島さんを見て、彼女が頷いたのを確認してから少し投げやり気味にそう言った。

よし、とりあえず面倒なことにはなりそうにないわね~

良かった良かった。

 

「ありがとう。それじゃあ、条件の交渉を行いましょうか。何か希望はあるかしら?」

「そうね、とりあえずFクラスの3ヶ月間の宣戦布告の禁止はどうかしら?」

「ええ、構わないわ」

 

優子がそう言い、私は雄二に確認するまでもなく返答をする。

 

「その代わり、Aクラスも同じく3ヶ月間宣戦布告を禁止ね。元々、そちらが仕掛けてきたのだし」

「わかってるわ」

 

後は何かあるかしら?

とりあえず設備の交換やランクダウンとかは無理として……

……………あっ!

 

 

「もう一つ条件の提案いいかしら?」

「内容によるわ」

「まぁ、貴方達に損はないわよ。私の提案は霧島さんが言った『勝った方が言うことを聞く権利』の話よ」

「っ!? おい天子! お前何を考えて―――――!?」

「交渉は私に任せると言ったでしょ? 一々口出ししないでよ。明久、秀吉、康太。雄二を押さえなさい」

「う、うん、わかったよ」

「よく分からんが、こうすればよいのか?」

「…………任された!」

 

私の言葉によって、明久と秀吉、康太の三人が雄二をその場に押さえだした。

 

「おい、お前ら離せ!!」

「さて、話を戻しましょうか。『勝った方が言う事を聞く権利』の件だけど、あの権利を霧島さんのみに承諾しようと思うわ。その代わり、それを使用できるのは彼女に負けたうちの代表にのみよ」

「なっ!? 天子、何を勝手に―――――」

「どうかしら霧島さん?」

 

私は声を荒げる雄二を無視して、霧島さんに聞く。

多分、私の予想は当たってると思うんだけど……

 

「……いいの?」

「ええ。なにか叶えたい事があるんでしょ?」

「……(コクリ)」

 

霧島さんが頬を少し赤らめながら頷いた。

どうやらビンゴみたいね♪

 

「とういうことで、FクラスとAクラスの3ヶ月間の宣戦布告の禁止と、霧島翔子による坂本雄二への命令権を条件に、この戦争を引き分けで終戦としたいのだけど?」

 

私は薄く笑みを浮かべながら、優子に聞く。

 

「ええ、それで了承するわ」

「交渉成立ね♪」

 

 

 

こうして、条件付きの引き分けという形で、Aクラスとの戦争は終戦を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと……

 

「それじゃあ、霧島さん。命令をどうぞ?」

「ありがとう、比那名居」

「どういたしまして」

 

私がそう言うと、霧島さんが今しがた解放された雄二に近づいていく。

そして、疲れたような表情の彼の前に立った。

 

さぁ、覚悟しなさい雄二。

一途に恋する乙女は意外と強かなのよ?

 

 

 

「……雄二、私と付き合って」

 

 

 

霧島さんが雄二に告白をする。

それによって、教室にいるほとんどの生徒がポカンとした顔をしていた。

 

まぁ、あの霧島さんがこの大勢の中、Fクラスの雄二に告白したんだからそうなるわよね~

そして、それに対する雄二の返答は……

 

「やっぱりな。お前まだ諦めてな方のか」

 

彼は予想通りだという風にそう言った。

 

「……私は諦めない。ずっと雄二のことが好き」

「その話は何度も断ってるだろ? 他の男と付き合う気は無いのか?」

「……私には雄二しかいない。他の人なんて興味ない」

 

わ~お、霧島さんって本当に一途なのね。

 

「拒否権は?」

 

そんな彼女に対して、酷いことを言う雄二。

 

「……ない。約束だから。今からデートに行く」

 

まぁ、あるわけ無いわよね~

そもそも、これはお願いじゃなくて命令なんだし。

 

「いや、ちょっと待て!? そもそもあれは天子が勝手に決めただけで!?」

「……でも、私は雄二に勝った。誰も、戦争に負けた方とは言っていない」

「ぐっ……。いや待て、やっぱり俺達の負けでいい! だからこの約束だけはなかった事に―――」

 

とそんなことを言い出す雄二。

いや、どんだけ嫌なのよ。それはそれで、霧島さんが可哀想じゃない。

まったく。素直じゃない上に往生際まで悪いんだから……

 

 

なんて呑気なことを考えていたら、霧島さんが雄二を気絶させようとでも思ったのか、拳を握っていた。

って! 流石にそれは待った!!

 

「ストップよ、霧島さん!!」

 

私はそう言いながら、二人の間に割って入る。

 

「た、助かったぜ天子」

「……比那名居、止めないで」

 

雄二が私に礼を言い、霧島さんが抗議をしてくる。

 

「いいえ、霧島さん。私は止めるわ。貴女の為にもね」

「……私の為?」

 

霧島さんはわけが分からないといった様に、小首を傾げた。

人形みたいな容姿も相まって、凄く綺麗で可愛いわね。

でも、今は真剣にお話しないと。

私は真剣な表情で話を続ける。

 

「そう、貴女の為よ? あのね、命令権で雄二と無理矢理付き合うのはまだ良いわ」

 

私がそう言うと、雄二が「良くねぇよ」とか言ってくるが無視する。

 

「でも、暴力だけは絶対ダメよ? そんなことをして雄二が喜ぶと思う?」

「……でも」

「確かに雄二は素直じゃないから嫌だとかダメだとか言うだろうけど、だからって暴力に訴えていたら良い結果にはならないわ。むしろ、雄二が貴女のことを嫌いになってしまう可能性だってあるわ」

「……っ! そ、そんなことっ!」

「無いと言い切れる? だって暴力を振るわれて痛い思いをするのは雄二なのよ?」

「……私だって心が痛い」

「それは、貴女の勝手な気持ちでしょう? いい、霧島さん? 心の痛みと物理的な痛み。より危険が有るのはどう考えても後者よ。何か起こってからじゃ遅すぎるの。最悪の場合雄二と一緒に居れなくなる可能性だってあるのよ?」

「……それは嫌!!」

 

雄二と一緒に居れなくなる。

そう言った瞬間、彼女が今までで一番大きな声を出した。

まったく。ここまで明確に愛されてるのに雄二の奴ったら……

 

「なら、暴力は振るっちゃダメ。ある程度なら雄二だって許容できるだろうけど、今みたいに気絶させようとしたり痛めつけようとするのはダメだからね? せめて無理矢理引っ張るとかにしなさい」

「オイマテ天子! 最後のはフォローになってねぇぞ!」

「……わかった。気をつける」

「ええ、そうしてね? 流石に私も友人がボロボロにされるのとか、貴女と彼の関係が崩れたりするのを見たくはないから」

「……比那名居は優しい」

「そうかしら? まぁでも、もし相談とかあったら乗ってあげるわよ。私あんまりそういう経験ないけど」

「……ありがとう」

 

私は話を終えたのでその場から少しズレて立つ。

そして一歩、霧島さんが雄二に向かって前に出た。

 

「……雄二、デート行く」

「いやだから、俺はお前とは付き合わないしデートも行かないって言ってるだろ?」

「……それでも行く」

 

そう言って彼女は雄二の後ろに回り、少し背伸びをして彼の首根っこを掴んだ。

 

「おいちょっと待て翔子! 今天子に暴力はやめろって言われたばかりだろ!?」

「……これは暴力じゃない。それに、無理矢理引っ張るとかなら良いと言われた」

「それにこれぐらいなら、貴方は何ともないでしょ? 甘んじて受け入れなさいね、雄二?」

「クソッタレッ!! 次の戦争の時は絶対こき使ってやるから覚悟しとけよ、天子!!」

 

雄二は捨て台詞を言いながら、ズルズルと霧島さんに引きづられていったのだった。

とりあえず、めでたしめでたしね。

 

 

 

今回私が彼女の行動に口を出した理由は二つ。

一つ目は、単純に霧島さんの暴力行為の抑制。

彼女のような一途なタイプは、嫉妬等で周りが見えなくなる可能性が高い。

そうなると最悪の場合、病院送りや警察沙汰になってしまうかもしれないだろう。

 

まさに、恋は盲目。

しかも本人が純粋で素直な分、嫉妬に駆られた場合突拍子もない行動に出る可能性がある。

そうなると、ヤンデレルートまっしぐらね。

監禁とかで済めばまだいいけど、友人が死ぬのだけは避けたし。

 

 

そして二つ目の理由。

それは島田さんにチャンスを与えること。

具体的に言えば、彼女の行為の抑制が主な理由だ。

 

霧島さんに言ったことと似通っているが、今のままでは島田さんと明久が付き合ったりする可能性は低いだろう。

むしろ、明久の彼女への苦手意識が今よりも強くなってしまうかもしれない。

そうなれば、自然と彼は島田さんと距離を置いてしまう可能性がある。

まぁ、可能性があると言うだけで、あのお人好しのバカが実際にそうするかは分からないけどね?

 

まぁ、こちらは「島田さんがそうなればいいな~」程度のものだから、あまり期待はしてない。

でももしこれで彼女が変われるのなら、私も素直に応援できるようになるだろう。

 

正直、何様だって言われても仕方ないんだけどね~

まぁ親友の幸せを願っているということで、ここはどうか一つお願いするわ!

 

………私は一体誰にお願いしてるのかしら?

 

 

 

「さぁ~てと。それじゃあ、アキ? 約束通り、クレープ食べに行こっか!」

「え、それは週末って約束じゃぁ!?」

「週末は週末。今日は今日!」

「そ、そんなぁ!? 二度も奢らされたら、次の仕送りまで僕の食費とかが!!」

 

霧島さんたちがいなくなり、私が色々と思考の整理をしていると、いつの間にか回復して話をしていた明久達が騒ぎだす。

周りを見ると、FクラスやAクラスの生徒は殆んど帰ってしまったようだ。

本当にいつの間に……

 

「ダメですよ。吉井君は私と映画を観に行くんです!」

「ええぇぇ!? 姫路さんそれは話題にすら上がってないよ!?」

「はい。今決めたんです」

 

姫路さんが明久の右手を取りながらそう言った。

二人とも積極的ね~

 

「ほら早く! クレープ食べに行くわよ!」

「どんな映画に連れてってくれますか!」

 

二人が明久の腕を引っ張りながら連れ去られていく。

なんていうか、あれね。

向きが違うけど、宇宙人が連れて行かれている写真を思い出すわ。

なんだったかしら。

ロズウェル事件?

 

「そんなぁ、いやぁぁっ! 生活費が! 栄養がぁ! そ、そうだ! 助けて天子!!」

「いってらっしゃい。楽しんできなさいよ~」

「唯一の希望に見放された!! あ、ちょ、待って二人共!! 背中が―――!!」

 

私は引きづられて背中を打っている明久を見送った。

すると、近くで同じく三人のやりとりを見ていた秀吉と康太がこちらに来る。

 

「あいつはもしかしたら、本物のバカかも知れぬのう」

「…………うん(コクリ)」

「と言うよりは、ものすごく鈍感なだけでしょうけどね~」

 

二人の言葉に私が自分の意見を言ってみた。

ああいうのを朴念仁というのかしら?

いやでも、恋愛自体には興味あるみたいだし。

………わからないわねぇ

 

「…………天子。今日の写真を売ってもいいか?」

 

不意に、康太がそう言って私に写真を見せてきた。

その写真は私と私の召喚獣が写っており、『全人類の緋想天』を撃っている姿だった。

あの場面でよく撮れたわね……

 

「良いけど、よくこんなに上手く撮れたわね。あと、これ売れるの?」

「…………ベストショットは逃さない。売れないこともない。あと、お得意様は多分買う」

 

お得意様ねぇ。

私の写真を売り出した頃から買ってるらしいけど、一体誰なのかしら?

流石の康太も守秘義務で教えてはくれないし。

 

「まぁ、いいんじゃない?」

「…………協力感謝する。できれば、もう一枚くらい新作が欲しい」

「………そっちが本題でしょ?」

「…………ち、違う(ブンブンブン)」

「ムッツリーニよ。そんなに勢い良く頭を振ったら首を痛めるぞい?」

「…………問題ない(ブンブンブン)」

 

まったく、そうならそうとはっきり言えばいいのに。

別に今日はもう暇だから邪険にもしないのにね~

 

「わかったわよ。とりあえず、今回はどうするの? 家で撮ってこれば良いのか、貴方が撮るのか」

「…………前回は撮ってきて貰ったから、今回は俺が撮る」

「衣装とかは?」

「…………秀吉に頼んだ」

「うむ、心配はいらぬぞ天子」

 

別に心配はしてないんだけどねぇ。

 

「わかったわ。それじゃあ、演劇部の部室の方に行けばいいかしら?」

「そうじゃな。そうしてくれると助かる」

「了解。それじゃあ二人とも行きましょうか」

 

私はそう言って教室を出た。

後ろから二人も付いてくる。

まぁ、何はともあれ今日も疲れたわね~

 

 

 

 

 

このあと、私は演劇部の部室で撮影をしてから、帰路に着いたのであった。




またもギリギリになってしまいました。
そして、時間もないというね……
中途半端に終わってしまい、申し訳ありません。

―追記―
加筆修正が終わりました。

はい。ということで、いかがだったでしょうか?
今回は戦後対談と交渉がメインでした。
後半の翔子の告白と、暴力行為の抑制もありましたがね。


今回の話は途中で一度投稿を行ってから加筆修正を行いました。
一日かかるとは思いませんでしたがね……
まぁ、こんなグダグダな作者でも、見放さずに見ていただければ幸いです。


暗い話はここまで!
交渉はあんな感じになりました。
ぶっちゃけ、特に思いつかなかったからなんですがね。


翔子の暴力行為の抑制。
あれについては彼女の嫉妬等によるものだと思うのですが、だからといって雄二を痛めつけていい理由にはならないのでこうしました。
まぁ、うちの翔子は原作よりはやりすぎないと思いますよ?
それでも色々空回りはしそうですがね。

最後の明久や康太&秀吉の絡みは、只の次回の伏線です。
まぁ、次回はアニメ第3話の内容なのでね。


と言ったところで、今回はここまで。
改めて、一度中途半端に投稿してしまいすみませんでした。
今後はないように気を付けます。

次回は幕間の予定です。
内容は明久と雄二はあの後どうなったのか。
まぁ、アニメ版の第三話冒頭とあまり変わりませんがね。
その上かなり短くなると思います。
まぁ、楽しんでいただければ幸いですが。

それでは、また次回お会いしましょうね~


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幕間 その後の5人と映画館

今回の話は、Aクラス戦終戦後に連れ去られた明久と雄二のその後です。
内容はアニメ版の第三話の冒頭とあまり変わりはなく、短いお話となるでしょう。
暇つぶし程度にお読みくださいね~

尚、視点は明久となります。
話の都合上、天子は出てこないのでご了承ください。


Aクラスとの試召戦争が終わった、放課後。

 

僕は姫路さんと美波様に連れられて、映画館に来ていた。

中に入り、料金の書かれた看板を見る。

 

一般    1800円

大高校生  1500円

小中高生  1000円

幼児(3歳~)   900円

お金持ち  75890円

泥酔者   お断り!

団地妻    OK!

 

 

……後半は書く必要あるのかな?

それにしても……

 

「学割とは言えチケット一枚1500円。コーラMサイズ、300円。ポップコーンSサイズ、400円。これがたったの2時間で消費されるのかっ! 映画館なんと恐ろしい場所だぁ!」

 

と言うか、お金持ちってあんなに取られるの!?

初めて知ったんだけど!?

若干、お金持ちになりたくなくなったよ?

もしくは、なっても映画館には来ない。

 

 

「よ、吉井君」

 

僕が映画館の価格設定に打ち拉がれていると、姫路さんが声をかけてくる。

おっと、危ない危ない。

 

「な、何? 姫路さん?」

「これ! 観ませんか!?」

「へぇ~、いいんじゃない? これにしようよアキ!」

 

二人が指を差した映画は恋愛モノ。

タイトルは『世界の中心で僕の初恋2《発動篇》』。

1を見たことないんだけど……

 

「そ、そう。じゃあ僕はいいから二人で見てきてよ」

「「えぇ~っ!?」」

 

僕がそう言うと二人が声を上げた。

いや、だって僕の生活費が!!

しかも、このあとクレープも行くんでしょ!?

なら、ここでちょっとでも節約しないと!!

ただでさえ、食費の件で色々迷惑かけてるのに!!

 

「じゃあ、アニメにする?」

「いや、そうゆうことではなくてぇ!」

 

因みに、彼女達がそう言って指を差した映画は、

『崖っぷちのポ二オ』というタイトルだった。

 

 

 

「観念するんだな、明久」

「「「あっ!」」」

 

僕達がそんなことをやっていると、雄二の声が聞こえた。

そしてそちらを見てみると……

 

「男とは、無力だ」

「ゆ、雄二っ?」

 

腕に木製の大きな手錠を着けられた雄二と、その鎖を持っている霧島さんの二人がいた。

雄二のその表情には諦念の色が、僕でもわかるくらいに濃く現れていた。

まるで今から処刑でもされるみたいだ……

 

「……雄二、どれが見たい?」

「早く自由になりたい」

「……じゃあ、『地獄の黙示録《完全版》」

「オイ、待て! それ、3時間23分もあるぞ!?」

「……二回見る」

「一日の授業より長いじゃねぇか!」

 

二回で6時間46分。

つまり、約7時間。

確かに辛いねそれは。

連続で同じものを見るなら余計に。

 

「……授業の間、雄二に会えない分の、う・め・あ・わ・せ♪」

 

霧島さんがそんな事を言う。

なるほど! 雄二は愛されてるんだな~

 

「やっぱ、帰る!」

 

雄二はそう言って帰ろうとするが、霧島さんが鎖を持っているため逃げられていない。

 

「……今日は帰さない」

 

霧島さんはそう言うと、ポケットからスタンガンを出した。

ちょっと待って!? なんでそんなの持ってるの!?

 

「な、なんだそれ翔子!?」

「……安心して。比那名居に言われたから、出力は低め」

「いや待て! いくら威力が低くても痛いもんは痛いんだぞ!?」

「……じゃあ、一緒に見てくれる?」

「……くそっ! 短めのならいい」

「わかった、じゃあ、あれにする」

 

そう言って彼女が指を差したのは『ノーワールド/ゼロ』だった。

あれって数年前にやってたアニメが映画化したものだっけ?

内容は確か主人公達より遥か昔の過去話だったような……

 

「おい翔子、お前アレ知ってんのか?」

「知らない」

「ならなんで観ようと思った!?」

「何となく」

 

どうやら霧島さんはアニメの方は見ていないようだ。

僕は見たけど、原作の本は持ってないしなぁ

あれ? でも天子があの作品好きだったような?

 

そんなことを考えていると、霧島さんと雄二がチケットを買うためカウンターの前に立つ。

 

「学生二枚、二回分」

「おい翔子! 結局二回は見るのか!?」

「はい、学生一枚、手錠をされて首根っこを掴まれている学生一枚、無駄に二回分ですね」

「オイ!! 店員はこの状況をおかしいと思わねぇのか!?」

 

雄二は霧島さんに引きづられながら、シアターの方に行ってしまった。

 

 

 

「仲の良いカップルですねぇ」

「憧れるよねぇ」

 

姫路さんと美波様はあの二人を見て、憧れを抱いたらしい。

本当にそれでいいのかな?

 

「でも、霧島さんはもっと積極的に行ってもいいと思うのよね~」

「そうですよね。もっと積極的にならないと!」

 

そう言って二人は僕の手を取った。

って、あれ?

 

「えっと、二人とも?」

「さぁ、アキ。私達も行くわよ!」

「行きましょう、吉井君!」

「あ、ちょっ! まって!」

 

僕の抵抗は虚しく、二人に連れられて僕達三人は映画を見たのだった。

そして、その後駅前の喫茶店でクレープを食べた。

いや、美味しかったけどさ。

でも生活費が~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、本当に凄く美味しかったので、一応お土産にクレープを買って帰った。

甘いもの好きだから、喜んでくれると思うけど……

 




はいということで、今回はここまで!
いかがだったでしょうか。
後、前回はすみませんでした。
一応、加筆修正終わったのでよければそちらもどうぞ。


今回この話を書いたのは、前回の加筆修正で時間がなかったのと、翔子の行動がどう変わったのかをお見せする為です。
結果として、彼女は躊躇なく雄二を気絶させることが無くなりました。
とは言っても、脅したり弱い威力で攻撃しようとしたりはしますが……
それでも、改善はされた方なのではないでしょうか?


ああ、そう言えば今回出した映画の中に、実際明後日から放映される映画を捩ったものがあります。
所謂、時事ネタってやつです。
流石にそのまま出すわけにはいかないので、タイトルを捩りました。
多分、分かる人にはわかるでしょう。
私も明後日見に行ってきます!


そんなこんなで、ここまでとしましょう。

次回はアニメ版第三話の最初の方をお送りします。
あの二人の意外な関係がついに明らかに!?
乞うご期待です!

それではまた次回~


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日常編
第16話


問 以下の問いに答えなさい。
『家計の消費支出の中で、食費が占める割合を何と呼ぶでしょう。』



姫路瑞希の答え
『エンゲル係数』

教師のコメント
正解です。さすがですね、姫路さん。一般に、エンゲル係数が高いほど、生活水準は低いとされています。



比那名居天子の答え
『我が家のエンゲル係数は、40%ぐらいです。』

教師のコメント
『一人暮らしでそれは多すぎませんか?』



吉井明久の答え
『我が家のオタク系数は約65%です。』

教師のコメント
『オタク系数とはなんでしょうか? それと、他の割合がどうなっているのか気になる所です……』



朝。

私は6時前に目を覚まし、身支度を整える。

そして、キッチンに向かいお弁当を作り始めた。

と言っても、既に殆どのおかずは昨日の内に作り置きしてある為、あとは卵焼きなどを作って詰めるだけ。

高校に入ってから毎日作っているから、もう手馴れたものだ。

 

一部のおかずを作り終えた私は、()()の弁当箱にご飯とおかずを詰めていく。

これももう一年生の頃から習慣となってしまっている。

まぁ、持ってかなくても購買や食堂で済ますと思うんだけど、下手したらあのバカは昼食を抜こうとするのよね。

だからいつの間にか、私がお弁当を渡して確実に食べさせる様になっている。

 

「よし、完成ね」

 

私はそう言って今日のお弁当を見る。

うんうん、いつも通り良い出来ね。

………そう言えば、今度姫路さんがお弁当作ってきてくれるのよね~

私は弁当箱の蓋を閉めながら、いつぞやの約束を思い出す。

いつ持ってくるのか聞いておかないとな~

その日に持っていくのが被ると余分になるだろうし。

なんてことを考えながら、私は登校の準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

現在時刻は午前7時。

制服に着替え、鞄を持って忘れ物がないかを確認する。

うん、大丈夫そうね。

ちゃんと弁当箱も持ったし。

 

 

 

「さてと。それじゃあ、アイツを起こしに行きますか」

 

そう呟いて、私は玄関を出て鍵を閉める。

そして、隣の部屋の玄関の前まで歩き、インターホンを押した。

 

 

 

 

 

私は一昨年、中学を卒業して直ぐに一人暮らしを始めた。

まぁ、中学の頃も寮で生活をしていたから正直今更感があったんだけどね。

とにかく、私が中学を卒業するにあたって部屋を探していた時に、明久の両親から丁度隣の部屋が空いていると言われた。

実際に部屋を見せてもらった時に、一人で生活するには広すぎるんじゃないかと思ったが、家賃が比較的安かったので色々と相談をした結果ここに決めたのだ。

 

私と明久は学校は違ったが中学からの付き合いで、その時から彼の両親にも色々とお世話になった。

正直、実の親よりも頼りになる。

 

生活費については普通に生活をしていればバイトをしなくても十分なほど仕送りが送られてくるため、今のところ困ってはいない。

食費が嵩んでるのはちょっと問題な気もするけれど……

 

 

 

さて、インターホンを押してみたが一向に明久が出てくる気配はない。

いつもの事だけどね~

私はそう思いながら、先程使った自分の家の鍵と一緒になっているもう一本の鍵を使って目の前の扉を開ける。

まぁ、簡単に言えば明久の家の合鍵だ。

 

なぜ私がそんなものを持っているのかというと、単純に明久の両親に渡されたから。

明久のことよろしくねと言われて。

当時はどれだけ信用されてないのよと思ったが、今の彼の生活を見ればあの二人の心配は予想通りだったと言えるだろう。

 

 

 

私は明久の家に足を踏み入れ、リビングに自分の鞄を置く。

そしてキッチンに向かい、トースターで食パンを二枚焼いておく。

この辺ももう完全に日課となってしまっている。

勝手知ったる他人の家とは正にこのことだ。

まっ、中学の頃からほぼ毎日入り浸ってるしね~

このマンションに引っ越してからは特に。

おかげで、みっちり勉強を教えたり出来きる。

 

パンが焼きあがる前に、私は明久を起こしに行くことにした。

彼の部屋の前に立ちノックをする。

 

コンコン。

 

 

 

………反応はない。

やっぱりまだ寝ているみたいね。

私は扉を開けて彼の部屋に入る。

 

まず目に入ってくるのは、窓とベッド。

次いで小さなガラステーブルがあり、ベットの上では明久が静かな寝息をたてている。

私はベッドに近づき、気持ちよさそうに寝ている彼の顔を見る。

 

………いつも思うけど寝顔可愛いのよね~

まぁ、女子の間で受けがどうとかネコがどうとか言われてるみたいだから、わからないでもないんだけどね?

 

因みに、私は同性愛に奇異とかはない。

同時に興味もないけどね~

そういうのが好きな友人はいるけど……

 

 

 

閑話休題。

さっさと起こさないとね。

 

「あきひさ~、朝よ~」

「うぅ~ん……」

「ほら、早く起きないと遅刻するわよ?」

 

私は明久の体を揺すりながら、彼を起こそうとする。

 

「うあ~、後30分~」

「そんなこと言って、前に一時間寝てたじゃないの。ほらほら、さっさと起きる!」

「う~……ZZZ」

 

うんも~、このままだと本当に遅刻しちゃうわよ?

………仕方ない。あの手で行きましょうか。

 

「あ、あ~。ああ~、うん」

 

私は声の調整をする。

秀吉みたいに完璧にはできないけど……

 

 

 

「アキくん。早く起きないと、姉さんがおはようのチューをしますよ?」

「おはようございますっ!!」

 

私が明久のお姉さんの声真似をして言うと、明久が勢いよく起き上がる。

効果覿面ね。

明久はキョロキョロと周りを見渡し、私だけなのを確認すると安堵の溜め息を付いた。

 

「もう、天子! いつも、それで起こすのは止めてって言ってるのに!!」

「貴方が素直に起きないのが悪いのよ。ほら、早く支度しなさい?」

「わかったよ……おはよう、天子」

「ええ。おはよう、明久」

 

挨拶を終えて、私は彼の部屋を出た。

そして、すぐさまキッチンの方に戻る。

よし、ちゃんと焼けてるわね~♪

焼きあがったパンを確認し、紅茶とバターの用意を始めた。

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

私と明久が声を合わせて合掌をする。

 

「食器は僕がやるよ」

「ん。よろしくね~」

 

じゃあ、私は歯でも磨こうかな~

そう思いながら自分の鞄を漁り、歯ブラシセットを取り出す。

 

実は一時期、面倒くさいからと私の歯ブラシやコップなんかを明久の家の洗面所に置いていたことがあった。

まあ、遊びに来た雄二達に色々勘違いされたり、からかわれたりしたから鞄に入れて持ち歩くようになったけどね~

 

洗面所に行き、歯磨きを終えてもう一度身嗜みを整える。

そして、入れ替わるように明久が歯を磨きだした。

その間私は鞄を持って靴を履き、外で明久が来るのを待つ。

 

数分後、明久が準備を終えて出てきた。

 

「お待たせ~」

「はいはい。ほら、ちゃんと鍵閉めなさいよ?」

「わかってるってば」

 

そんなやり取りをしながら、私たちは登校を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

私と明久は少し小走りで、学校に続く坂を登っている。

まぁ、そんなに急ぐ必要はないんだけどね~

 

「あっ」

「うん? どうしたのよ?」

 

明久が前方で何かに気づいたようだ。

その視線の先を見ると、私達の担任である福原先生がいた。

なるほどね。

 

「「おはようございます。福原先生」」

「ああ。おはようございます」

 

私達は挨拶をしながら先生の横を通り過ぎていった。

そして、坂を登りきった先の曲がり角で……

 

「「うわっ!?」」

「ちょっ!?」

 

明久が誰かとぶつかってしまった。

あらら。

 

「いたたたたた……あっ!」

「いってててて……うん? っ! 君はFクラスの吉井君!」

「君は確か、Aクラスの久保君?」

 

見ると、確かに明久とぶつかった相手は久保君だった。

私は二人に駆け寄る。

 

「ちょっと、二人とも大丈夫?」

「うん、僕は大丈夫だよ」

「ああ、比那名居さんも一緒か。僕の方も大丈夫だ」

「あ、でもパンが……」

 

明久の発言により、私と久保君の視線がそこに集中する。

確かに、久保君が食べていたと思われる食パンが地面に落ちてしまっていた。

 

「ごめんね、久保君」

「な、なに。吉井君が気にする必要はないさ」

 

明久が謝ると、久保君はそう言って立ち上がり腕時計を確認にした。

 

「いけない、急がないと一時限目の予習時間が無くなってしまう」

 

へぇ~、流石Aクラス。予習とかしてるのね。

ウチのクラスでそんな事をしているのは……姫路さんぐらいだろう。

 

「じゃあ、またの機会に」

「うん」

「ええ」

 

挨拶をして先に歩いていく久保君。

その頬には何故か、若干の赤みが差していた。

………ま、まさか久保君って

私はチラリと明久の方を見る。

 

「どうかした天子? 僕の顔に何かついてる?」

「いえ、何でもないわ」

 

まさか、ねぇ?

 

 

 

私は噂を集めて真相をよく探っているのだが、その中で興味の惹かれない噂もいくつかある。

そういう噂に対しては真相を調べたりせず、完全に放置していたりする。

 

しかし、その中に明久に関するある噂があった。

曰く、『吉井明久の事を好きな()()がいるらしい。』

 

別に私は腐女子ではないし、BLに興味もない。

しかも親友に関わる噂だ。

一度は明久の為に調べた方がいいかとも思ったけれど、こういうのはあまり深入りはしない方がいいし、何より面倒くさいと思ったので放置していた。

そもそも、その男子が誰なのか素性も分かってなかったしね~

 

だが、今のやりとりからその男子はきっと久保君だと私は思った。

………今日、康太に会ったら聞いてみよう。

彼なら、多分知っている可能性が高いだろうから。

 

「天子! 僕達も早く行こうよ!」

「あ、そうね」

 

考え事をしていた為、足が止まっていた私に明久が声をかけた。

見ると、明久は少し先にいる。

私は彼に追いつくと、並んで学校を目指した。

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよう姫路さん!」

 

私達が学園の下駄箱に着くと、姫路さんが神妙な顔で立っていた。

手には手紙の様な物を持っている。

ふむ? 察するに明久宛のラブレターかなにかしら?

彼女が立っているのは明久の下駄入れの前だし。

 

「へっ!? あ、おはようございます、です。吉井君!」

 

彼女は声を掛けられて、驚いたようにそう返す。

驚きすぎて手紙を隠すの一瞬忘れていたけどね。

そして小走りで階段の方に行ってしまった。

………私には気付かなかったみたいね。

いや、別にいいんだけど。

 

ふと横の明久を見ると、なにか考え事をしていた。

どうせ、さっきの姫路さんの手紙のことを考えてるんでしょうね。

まぁ、本人達の事だから私は口出しませんけどね~

 

「よう、珍しく早いな明久、天子」

「あら、雄二。おはよう」

「あ、おはよう雄二」

「明久、昨日はどうだった?」

「今月の生活費のほとんどが一瞬にして映画と胃袋の闇の中に消えた」

 

……胃袋の闇って言うと腹黒いみたいじゃない。

というか、そんな事なら私にお土産とか買ってこなければいいのに。

桃のクレープおいしかったけどさ。

 

「雄二は?」

「ああ、面白かったぞあの映画。珍しく京子が涙浮かべてた」

「あ、ノーワールド?」

「おう」

「今度見に行く予定だからネタバレしないでよ? まあ、原作持ってるから内容は知ってるんだけどね」

 

面白いのよねあれ。

原作読み返すたびに目が潤んでくるし。

 

「二回見ても全然飽きなかったぞ、逃げるのも忘れるぐらいにな」

「本当に二回見たんだ……」

「原作見たくなったら貸してあげるわ、ラノベだけど」

「おう、頼むわ」

 

「はぁ、そんなことより次の仕送りまでどうやって生きていこう」

「ん? あのゲームの山を売ればいいじゃないか」

「「なんてこと言うんだ(のよ)!!」」

 

私と明久が同時に声を上げる。

 

「何物にも代えがたい優秀な作品の数々を生活費になんか変えられるわけないじゃないか!!」

「そうよ!! それに、まだクリアしてないのだっていくつかあるし、貴方達と遊ぶ用の奴だってあるのよ!?」

「お前ら自業自得って言葉知ってるか?」

「ふん、別にいいのよ。食費は私でゲーム関係は明久。ちゃんと分担はできてるんだから!!」

「いや、よくはねぇだろ。完全に明久が天子のヒモじゃねぇか」

「うん……だから僕も嘆いてはいるんだけどね?」

「去年からずっとだから今更よ! それに私はゲーム買わなくても遊べるし」

「僕から借りるからね……」

「まあ、お前らがそれでいいなら俺は口出さんが……」

 

私は別にそれでいいのよね~

まあ、明久が納得してないみたいだけど

 

 

 

 

 

 

いつまでも下駄箱に居るわけにもいかないので2-Fの教室に向かう。

あ、教室のプレートいつの間にか新しくなってるわね。

木製の看板にはしっかりと『2-F』と彫られている。

 

「それにしても、結局教室の設備が変わらないとは思わなかったよ」

「そうね、まさに骨折り損って所かしら?」

「これというのも、すべて貴様のせいだ!!」

 

明久がそう言いながら雄二を指さす。

行儀が悪いと言いたい所だけど、私は一切口には出さない。

雄二が名前を消さなければ勝ってたのは本当の事だからね~

 

「皆が力を合わせた結果に文句を言うなんて、無粋な奴だな」

「雄二が名前を書き忘れたせいで負けたんだろぉ!」

「落ち着きなさい明久、今更そんな事言っても無意味よ」

「でもさ天子!! こいつは作戦の要だったのに僕でもしないミスして負けたんだよ!? 書いてたら引き分けになって僕達の勝ちだったのに!!」

「別にもういいでしょ、結局引き分けになってこれ以上設備が悪くならなかったんだから」

「……悪くなる可能性あったの?」

「多分卓袱台がみかん箱か何かになってたんじゃない? あと座布団なしとか」

 

もしくは机と座布団が無くなって画板と御座だけとか?

……そんな教室で授業受けたくないわ。

そんなことを考えていると、姫路さんがこっちにやってきた。

 

「坂本君を責めちゃだめですよ。私も負けちゃいましたし」

「う、あ」

「それに、いいじゃないですか。私、この教室好きですよ?」

 

少し頬を赤らめながら言う姫路さん。

まあ、確かに姫路さん的にはそうかもね~

明久の隣に座れるし。

……さて、そろそろ福原先生が来る時間ね。

 

「とりあえず、そろそろホームルームだから座りましょう?」

 

私がそう言うと皆適当に座り始めた。

席が決まってないのはやっぱりどうかと思うのよね……

とりあえず私は昨日と同じ席に座る。

私の後ろには同じく明久と姫路さんが座った。

 

キーンコーンカーンコーン

「キーンコーンカーン。よーしホームルームを始めるぞぉ。皆席につけーってもう座ってるな」

 

チャイムと同時に鉄人先生が入ってきた。

あら? 福原先生はどうしたのかしら?

登校中にすれ違ったから休みなわけないし……

まさかあの後事故に?

 

「あれ、どうして西村先生が?」

 

当然の疑問を島田さんが聞いた。

……なんか背後で桃色の空間ができてる気がするんだけど、気のせいかしら?

 

「お前らがあまりにもバカなので、少しでも成績向上を目指そうと今日から福原先生に代わって、補習授業担当のこの俺がFクラスの担任を務めることになった!」

「「「「「「「「なにーっ!!」」」」」」」」

「鉄人が担任にっ!?」

 

私以外のFクラス全員が叫ぶ。

へ~っ! 

鉄人先生が担任だなんて、これはまた面白くなるわね!

 

「容赦なくビシバシしごくから覚悟しておけ!」

 

 

……あ、そっか鉄人先生って全教科教えれるから、このクラスは担当ごとの先生の入れ替わりもないのか。

ま、その方が効率は良さそうだからどうでもいいわね。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ、これじゃ毎日が鬼の補修になる様なものじゃないか」

「そうじゃのう、どうにかできないものじゃろうか?」

 

私と明久、雄二、秀吉の四人は屋上で休みながら話をしていた。

諦めが悪いというかなんというか。

 

「そうだっ、もう一度召喚戦争をやって勝てばいいんだ!」

「それは無理な話だな」

「どうして!?」

「忘れたの明久? Aクラスとの交渉の結果、お互いに3ヶ月間宣戦布告を禁止にしたじゃない」

「あ、そうだった……」

「因みにだが、負けてた場合も3ヶ月禁止になる」

「なるほどのう」

 

まあ、3ヶ月もできないとなると操作が鈍りそうで困るんだけどね~

また明久の手伝いでもして慣らしておこうかしら?

 

「なぁに、3ヶ月なんてあっという間だ。その間に新たな作戦でも立てるさ」

「ぬあ~、どうしてこんなことに~」

 

明久が頭を抱えて唸り始めた。

すると、いつの間にか康太が現れ明久の肩に手を置いた。

 

「…………いいこともある」

「うん?」

 

康太が明久に何かの写真を見せた。

こちらからは何が写っているのかは見えないが、隣で秀吉が額に手を当てていることから昨日の秀吉の写真だろうと予想をつける。

二枚あるけど二枚とも秀吉の写真なのかしら?

 

「一枚五百円……今ならプラス三百円でこれもつける」

「全部勝ったぁ!!」

「まいどあり~」

 

そう言って康太は校内に戻っていった。

合計千三百円の出費。

……バカじゃないの?

 

「うおぉぉ、生ぁ!!」

「お前、生活費は?」

 

雄二の言葉にA型バリケードを壊しながら尻餅をつく明久。

 

「おぉぉぉぉぉ」

「何を悩んでおるのじゃ?」

「男なら後悔しなぁい!!」

「勇者だな」

泣きながら、写真を一枚ずつ小さなアルバムに入れていく明久。

バカだ。こいつは本物のバカだわ。

 

「これでとうとう、次の仕送りまで一日カップラーメン一個決定だ」

「安心しなさい明久、次の仕送りまで食費は面倒見てあげるわよ」

「天子!!」

「その代わり、映画代よろしく♪」

「分かった!!」

「完全に尻に敷かれてるな」

「そうじゃのう……そう言えば明久よ、お主何か忘れておらぬか?」

「え?」

「あ、ここにいたんですね!」

 

そう言って、姫路さんと島田さんがこちらにやってきた。

何かあったのかしら?

 

「ねぇねぇアキ、週末の待ち合わせどうする?」

「まち、あわせ?」

 

…………

 

「忘れたとは言わせないわよ?クレープ奢ってくれる約束でしょ!」

「えっ……そ、それって、昨日ので終わりじゃないの!?」

「昨日は昨日、約束は約束」

 

ああうん、確かに昨日そんな事言ってたわね。

 

「私もご一緒していいですか?」

「えっ……姫路さんも!?」

「実は吉井君と一緒に見たい映画があるんです」

「え、ええっとぉ」

 

そう言いながら、助けを求める様にこちらを見る明久。

うんも~、仕方ないわね

 

「二人とも週末はダメよ」

「な、何でよ比那名居!!」

「そうですよ、何でですか!!」

「理由は三つ。一つ目は昨日奢ってもらったんでしょ? それなら週末も奢って貰おうなんてのはダメだと思うんだけど?」

「そ、そんな事言ったって、約束は約束でしょ!!」

「だから昨日()()()()奢って貰ったんでしょ? ならもう一回っていうのは流石に横暴じゃないかしら?」

「それは……」

「二つ目に、明久にはもう奢れるだけのお金がないのよ。だから物理的に無理」

「ちょっと天子!?」

 

私がそう言うと慌てて叫ぶ明久。

 

「何よ、事実でしょ?」

「確かに事実だけど、僕が情けなくなって来るから止めて!?」

「安心しなさい明久、もうお前は情けないわ」

「手遅れ!?」

 

いや、そもそも食費の時点で情けないのに何を今更。

 

「三つ目、明久と昨日週末に映画見に行こうって約束したのよ。昨日奢って週末空いたからって」

「なっ、どういうことよアキ!!」

「い、いやだってさ、昨日奢って終わりだと思ってたんだよ! まさか週末も連続で行くなんて思わないじゃないか」

 

うん、これが問題なのだ。

明久としては昨日奢って終わりだと思っていた。

私も明久がそう言っていたから、そのまま鵜呑みにして約束をしてしまったのだ。

なんなら、既に席も二人分ネットで予約してしまった。

後で明久から徴収するけどね。

 

「じゃ、じゃあ、四人で一緒に行きましょう? その方が楽しいですし!」

「別にいいけど、席ももう予約してるから離れるかもしれないわよ?」

「もういいわよ!! 瑞希行こ!!」

「あ、美波ちゃん!!」

「えっと、なんかごめんね?」

「い、いえ、それでは! 待ってください美波ちゃん!!」

 

校内に向かって歩き出した島田さんを追いかけていく姫路さん。

う~ん、なんか悪い事したわね。

空気も悪くなったし……

 

「お前のせいよ明久」

「え、あ、うん。ごめん天子……」

「……夕飯抜きでいい?」

「それは勘弁して!?」

 

とそんなやり取りをしていると、苦笑いをしながら雄二が声をかけてくる。

 

 

「まあなんだ、取り合えずデート楽しんで来いよ?」

「う~ん、明久とはしょっちゅう二人で出かけてるから、今更デートって感じもしないのよね」

「そりゃなんともお熱いこって」

 

そ~いうのじゃ全然ないんだけどね~

ま、映画は楽しみにしておきましょうか!!

 

 




お久しぶりです、若しくは初めまして?
いつの間にか二年も経ってしまいました。
リアルが落ち着いて、連載再開となりましたのでもしよければ見てやってください。

この二年はノゲゼロ見まくったり、憑依華に天子来てヒャッハーしたり、茨歌仙で天子がカッコ可愛くてヒャッハーしたりしてました。


今回は二人の関係性にスポットが当たりました。
明久の買った写真が増えていた理由は、15話の最後を見ていただければなんとなく分かるかと。

次回は二人のデート回です。
流石に持って行き方が無理やりすぎたでしょうか?
でもこれ以上にいい方法が思いつかなかったです。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。
バイバイ。


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第17話

週末の朝。

私は私服に着替えて鏡の前に立つ。

……うん、いつも通り可愛いわね!

 

今日は待ちに待った週末。

明久と二人で映画館に行って『ノーワールド/ゼロ』を見に行くのだ。

雄二の奴はデートだとか言ってたけど…………よく一緒に買い物とか行ったりしてるから今更よね?

……そ、そうよ、別に変に意識しなくてもいつも通りでいいんだって。

明久だって普通に映画見に行くだけだと思ってるだろうし。

それに、そんなことに頭使って映画を楽しめなくなるなんて絶対に嫌だしね~

 

なんて考えながら家を出ようとして、頭上にいつのも“アレ”が無いことに気が付く。

ほらぁ、考え事してたから忘れそうになったじゃない。

私は部屋に戻りキャスケットを取りに行く。

桃の飾りが付いた黒いキャスケット。

外出時にはいつも被っている私のお気に入りだ。

 

しっかりと鏡の前で位置を確認して被る。

……よしっ♪

さてと、それじゃ行きますか!

 

 

 

マンションの入り口に向かうと、珍しく明久が既に待っていた。

いつもは時間通りかまだ寝てるかなのに、待ち合わせ時間の10分前にいるなんて……

 

「おはよう明久、珍しく早いじゃない」

「あ、おはよう天子! 僕だって早来るぐらいはできるよ。特に今日は映画を見に行く予定だしね」

「ふーん、いつもこうだとありがたいんだけど?」

「……善処します」

「よろしい」

 

そんな会話をしながら私たちは映画館を目指しながら歩く。

……いつもの事だけど、さらっと車道側歩くのよねコイツ。

そのへんは姉と母親に鍛えられたのかしら?

 

「そ、そういえば、今日の服似合ってるよね!」

「はっ?…………お前本当に明久?」

「失礼なっ!! 僕だって服を褒めたりぐらいするよ!!」

「だっていつも二人で出かける時はそんな事言わないじゃない」

 

いつもは話題にすら上げないくせに、急にそんな事言われたら偽物と疑ってもおかしくはないでしょ?

そりゃ、褒められたらうれしいけどさ。

 

「き、今日はそんな気分だったんだよ!!」

「ぷっ、何よそれ」

 

思わず吹き出してしまった。

やはり、今日の明久はどこかおかしい。

何かあったのかしら?

…………あっ!

 

「明久、貴方前に雄二にデートって言われたこと気にしてるでしょ」

「ななななっ、な、何言ってるんだよ天子!?」

 

どもりながら頬を赤く染める明久。

どうやら図星だったみたいね♪

 

「へ~、ふ~ん、ほ~?」

「ニヤニヤしながらこっち見ないで!?」

「まさか明久が今更そんな事気にするとはね~♪」

「べ、別にいいだろ!」

 

明久は内心がバレて恥ずかしそうにしている。

面白いのが見れたわね!

 

「って、バカな事やってたら映画に遅れるわね。行くわよ明久!!」

「あ、ちょっと待ってよ天子!?」

 

私が軽く走り出すと、それを追いかけるように明久も駆け出し始める。

そうして、私達は映画館へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

「面白かったわねノーワールド」

「うんそうだね」

 

私と明久は喫茶店で映画の余韻に浸っていた。

原作読んでて内容は知っていたけど、やっぱりアニメとか映画になるとさらに面白くなるわよね。

後半とか何回も泣きそうになるし、ホントゾクゾクしっぱなしだったわ~

 

「というか、明久隣で号泣してたわね」

「天子だってポロポロ泣いてたじゃないか」

「そりゃ泣くでしょあんなの」

「うん」

 

そんな話を二人でしながらクレープを食べる。

今私たちがいるのは、この前明久がお土産に買ってきてくれたクレープのお店だ。

あの時食べた桃のクレープがおいしかったから、また食べたいと言って明久に案内してもらった。

私はクレープを一口切手口に運ぶ。

 

「う~ん♪ やっぱり美味しいわねここのクレープ」

「そうだね~、というか僕の分まで本当に良かったの?」

 

そう言って自分のお皿に乗っているストロベリーバナナクレープを見る明久。

 

「いいのいいの、こういうのは共有しないとでしょ? それに前も言ったけど食費は私の担当だしね」

「いや、でもさぁ」

 

明久はいまだに難色を示している。

何がそんなに気に入らないのかしら?

せっかく私が奢ってあげるって言ってるのに。

 

「明久」

「え、何てん――――」

「えいっ」

「んむっ!!??」

 

私は明久の口に無理やりクレープを突っ込んだ。

使ってるのがフォークだからいきなりやると危ないんだけどね。

 

「ゴクンッ――っていきなり何するのさ天子!?」

「お前がいつまでもウダウダ言ってるからでしょ? ほらさっさと食べるわよ?」

「……だからってフォークは流石に危ないんじゃ?」

「あ、やっぱりそう思う?」

 

まあでも、明久ならいいかなって。

 

「酷くない!?」

「冗談よ。それより私のクレープ食べたんだからそっちも寄こしなさいよ」

「流石に横暴じゃないですか天子さん?」

「なによ、私の奢りなんだからいいでしょ? ほらあ~ん」

「うっ、はい」

 

明久がクレープを切り分けて私の口に入れる。

その瞬間、パシャリという音がした。

 

「えっ、何!?」

「うん美味しい♪ で、どちら様ですか?」

「何で天子はそんなに冷静なのさ!?」

「いや~、すみませんね~。いい写真が撮れそうだったもんでつい」

 

そう言ってインスタントカメラから出てきた写真をこちらに渡してくる一人の女性。

 

「お二人はデートですか?」

「……まぁ、そんな所ですね。付き合ってはいませんが」

「なるほどなるほど~」

「あの、所で貴女は?」

 

明久が女性にそう聞くと、彼女はしまったといった顔をして自己紹介を始める。

 

「これは失礼しました。(ワタクシ)しがない写真家で絵璃子と申します! よろしければお二人の写真を撮らせて貰いたいのですが~」

「僕たちの写真を?」

「はい、そうなのですよ。バカっぽい青年と可愛い美少女って絵になると思うんですよね~」

「ちょっと、バカっぽいって何ですか!?」

「その通りじゃない」

 

私がそう言うと明久がさめざめと泣いた。

いつもの事だけどね。

 

「そ・れ・で~? いかがですか~?」

「ふむ。じゃあここの支払いしてくれればいいですよ?」

「ちょっと天子!?」

「何よ明久?」

「いや、初対面の人にさすがにそれは………」

「いえいえ構いませんよ~。むしろそれで写真を撮らせてもらえるならお安い御用ですよ!」

「じゃあ契約成立ね。明久、早く食べて終わらせるわよ」

 

そう話を打ち切り、私はクレープを味わって行った。

 

 

 

 

 

 

クレープと紅茶を食べ終え、店の外で何枚か写真を撮った。

明久とのツーショットだったり、一人ずつだったり。

何枚か写真を撮り終わると、女性は満足したように礼を言って立ち去って行った。

 

「……何だったんだろうねあの人?」

「さあ?」

 

まあ、撮った写真は変な事に使ったりはしないという話だったので大丈夫だと思う。

因みに、私と明久は一枚ずつ写真を選んでそれを報酬として貰った。

最初のクレープのも合わせて私の手元には二枚の写真がある。

なので一枚は自分だけが写ったものにして康太にでも渡そうかと思ったが、せっかくなので明久と二人で撮ったものにしておいた。

 

「まあ、偶にはこ~ゆうのも良いんじゃない? それに、食事代とプリクラ代が浮いたようなもんだし」

「あ~、まあ確かにね」

「そんことより、明久。まだまだ休日の時間はあるんだから色々遊びに行くわよ!」

「了解。次はどこに行くの?」

「ん~、デパートね。服見たりゲーセン行ったりしたいし。と言うわけで、行くわよ明久!」

 

そう言いながら私は明久の腕を取り駆け出した。

まぁそんなこんなで、私と明久の休日は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――side???―――――

 

 

とある一室。

そこに二人の女性がいた。

 

「以上が今回の結果です。これでよろしかったですか~?」

 

白髪の女性がそう言うと、写真を見ていたもう一人の金髪の女性が顔を上げた。

 

「ええ、これでいいわ。引き続きよろしくね?」

「かしこまり~。ではでは、失礼します!」

 

そう言って白髪の女性は部屋を出ていった。

それを確認した金髪の女性がため息をついた。

 

「なんというかあの子といると疲れるわね。……さてと、これから忙しくなるわねぇ」

 

忙しくなりそうだと言いつつ、女性はとても楽しそうにニヤリと笑いながらどこかに電話をかけ始めるのだった。

 

 

 

フムフム、どうやらもうすぐ物語が動き出しそうですね~

ではでは~、ワタクシはそれを楽しみにしながら()()()()を続けましょうかね~

さ~てお仕事お仕事♪

……あれ? もしかして見られてる? よくここに気が付きましたね?

でもまあ、どうでもいっか。

それではまた。




あれ? なんか短い?
というわけでデート回でした。
すごくあっさり目に終わった気がする。
と言うかヤマなしオチなしの普通の日常回だったような……?

個人的にはふしぎ遊戯のくだり(額に炙の文字)とか模擬試召戦争をやりたかったのですが、まあ長くなりそうだったので止めました。

因みに途中で出てきた写真家は某烏天狗二人ではありませんので悪しからず。

さて、次回は葉月ちゃん登場&死のお弁当。
アニメでは4話のお話ですね。
葉月ちゃん回想回を先にやろうかとも思いましたが、まあ後のお楽しみということで。
ではではまた来週~
バイバイ。


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設定資料:比那名居天子

【名前】()()()() 天子(てんし)

 

【ステータス】

 性別:女

 年齢:16歳

 誕生日:4月24日 牡牛座

 

 身長:142cm 体重:41kg

 血液型:AB型        

 利き手:左(一応両利きではある)

 スリーサイズ:B70-W56-H78 AAカップ

     後に:B71-W56-H78   Aカップ

          アンダーバスト:60.5cm

【容姿】

 腰まである綺麗な青髪と赤い瞳が特徴的。

 整った顔立ちに白い肌と、自他共に認める美少女である。

 また、小柄な体型で愛嬌もある為、人当たりも良い。

 

 よく食べるのに対して太ることが殆んど無ないため、女子から羨ましがられている模様。

 

 

【性格】

 基本的にはマイペースで素直。

 だが、自分勝手で我が儘な面もある。

 しかし、意外と寛容で優しい気質なため、お節介や世話を焼いたりもしている。

 

 よく他人をからかったり、冗談を言ったりしているが、相手が言われたくないと思っている様な事は口に出さない。

 陰口や悪口なども基本的には言わない模様。

 まれに、中国の偉人の言葉を引用して忠言したりもする。

 しかしその殆どが、自分では実行できないものだったりする。

 

 実は意外と寂しがり屋。

 その為、孤独や退屈を嫌う傾向にある。

 だから、基本的には明久の家にいることが多い。

 

 

【服装】

 学園指定の制服にオーバーニーソックスをはいている。

 実は、他の女子生徒よりもスカートの丈が少し長い。

 

 私服は色々な種類を持っており、その日の気分や気候なんかで決めている。

 但し屋外に出るときは、桃の飾り(花ではなく実の方)が付いたキャスケットを愛用しています。

 余談だが、このキャスケットは天子が明久から初めてプレゼントされたものだったりする。

私服に関しては『天子 私服』で画像検索してね。

 

【趣味】

 主に、読書やゲーム、料理。

 頻度は少ないが、カラオケ、天体観測、釣り、ダンスなどもする為、多趣味である。

 

 一度熱中すると、時間を忘れてやっていることが多い。

 その為、休みの日には明久と一日中ゲームをしていることもある。

 料理は作るのも食べるのも好きで、暇な時や金銭的余裕があるときにはグルメ探索と称して食べ歩きをすることもある。

 

 また、噂好きの一面もあり、その噂の真相を探ったりもしている。

 康太とよく情報交換等もするため、学園の情報通の一人である。

 但し、情報を売ったりはしていない。

 噂の真相程度なら、聞けば簡単に教えてくれる。

 

 

【好物】

 好きな事は面白いことや楽しいことを、見たり体験すること。

 特にお祭りやイベント事等を好む。

 また、友人と遊んだりバカ騒ぎするのも好きである。

 

 食べ物では特に、桃・甘いもの・明久の料理が好み。

 苦手な物やアレルギー等は特にない。

 食べられて、美味しいものなら基本的にはなんでも食べる。

 

 

【嫌い/苦手な物】 

 母親・孤独・退屈・マズイ料理・悪人・人を見下す奴

 

 虫なんかはあまり苦手ではない。

 ゴキブリは素手では触れない程度。

 

 

【得意科目】

 古典・日本史・現代国語・家庭科。

 上記の科目は400点以上を確実に取れる。

 

 また、地学において天候学と地震学、気象学の分野が得意である。

 天文学も得意ではあるが、文月学園では天文学の科目が存在せず、地学と物理学の両方に属される為そちらに点数が振り分けられてしまう。

 

 

【苦手科目】

 英語・数学。

 数学の点数は100点を切る事はないのだが、英語は80点代までしか取ることができない。

 また、上記二つの教科よりは酷くないが、他にも化学と物理、政治経済等の一部が苦手である。

 

スケールにしてみると……

古典=地学(得意分野+天文学のみ)≧日本史≧現国≧家庭科>世界史>保健体育>>>地理<現代社会>>生物≧地学(得意分野以外)>>政治経済>物理>>化学>>>超えられない壁>>>数学>>100点の壁>>>>>英語

といった感じである。

 

 

 




現在、その他情報を収集・整理中。
対象の観察を続行。
確認が取れ次第、追記する予定。
以上、報告を一旦終了と致します。


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