太陽は、いつか――― (biwanosin)
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意味もなく、勢いで書きだしております。
現状のプロットでは時代設定(というか時系列?)に矛盾が発生します。
原作名を『Fate/Grand Order』としていますが、カルデアが絡むのは最後の方、ほんの少しになる予定です。
おかしなところがあれば、感想などでお伝えください。


「はぁ・・・やりたくない、めんどくさい・・・」

 

一つ、また一つと準備を進めていきながら、しかしどうしてもそう呟いてしまう。やりたくないならやめればいい、めんどくさいならやらなければいい。そんなダメ人間根性はいくらでも湧いて出るのだけれど、それ以上に今ロンドンにいる親が怖くて逆らう行動を取ることが出来ない。そんなことを考えている間にも、既に準備は整ってしまった。

 

「はぁ・・・ホントに参加するのかぁ、聖杯戦争」

 

せめて触媒くらい何かくれ、と。そう心の中でぼやきつつ、お気に入りのネックレスの礼装を身に着けた。

 

 

=☆=

 

 

聖杯戦争。何でも願いをかなえてくれるとか言う万能機を奪い合う戦争。この時点でかなりファンタジーなものでるというのに、さらにもう一点として英霊なんてものを呼び出して戦わせるのだという、元からそう言う世界に生きていないと信じられないような戦争だ。

そんな戦争に、何でも願いが叶うという利点から参加しろと息子に言ってきたのが俺の親。当然だけどその被害者が俺。しかも、何をトチ狂ったのか触媒はくれなかった。金とか礼装とかはいくらでもくれるのに召喚の触媒はくれないとはどういうことなのか。あれか。兄貴がいるからなのか。兄貴のおかげで自由な魔術使いライフだとおもってたら兄貴のせいで明日には死んでる身かもしれない・・・何とも言えないなぁ・・・

 

「はぁ・・・そろそろ、現実逃避も終わりかなぁ」

 

全部準備を終えて、あとはもう呪文を唱えるだけ。そんな状態になってから約三時間ほど現実逃避をしていたわけなんだけど、もういい加減そんなことを言ってもいられないと受け入れた。いい感じに他の人たちがサーヴァントを召喚して自分の枠なくならないかなー、と思ってたわけなんだけどよく考えてみれば令呪が出てる時点でそううまいこといかないよね。はぁ・・・

 

「やる、かぁ・・・」

 

いすから立ち上がって、そのまま陣の前に立つ。親から送られてきたモノの中にあったナイフで左手の掌を切って、力を入れて血を垂らしていく。数滴垂れたところで血を止めずに詠唱を開始する。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

詠唱を始め、それと同時に魔術回路を起動させる。銃で撃たれる姿を、何かで殴られる姿を、自身が傷つくような光景をイメージして、掌の痛みに意識を向ける。ここまでしてようやく魔術回路が動き出すあたり、間違いなく俺は魔術師には向いていない。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

そうして起動した魔術回路から、どこかに魔力が吸い取られていく。唐突なそれに少し意識を持って行かれそうになるが、こらえる。英霊召喚なんて儀式、失敗したら何が起こることやら。怖くて仕方ない。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

ふと、何かとつながった感覚があった。目の前にあるものに吸い取られていると感じていた魔力の流れが、こことは違うどこかへと流れていくような。未知の何かに吸い取られているような、そんな感覚が。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ」

 

ここまで来たら、もう躊躇うことはない。暴れ回りそうになる魔力を無理矢理に抑え込み、意志をもってねじ伏せる。召喚した後であれば、死なないために従う立場にもなろう。だが、それまでの間はそうではない。俺が上だ。抑え込まれろ。

 

「誓いを此処に。我は常世全ての善となるもの、我は常世全ての悪を敷く者」

 

さあ、唱えろ。最後の一言を。平穏をぶち壊し、騒乱に自分を落とし込む呪いを。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――ッ!」

 

倒れず、唱えきった。目を覆いたくなる光が眼前に現れ、一軒家の地下で行ってよかったな、だなんて的外れなことを考えている自分に驚く。そんなことを思っている間にも光は収まっていき・・・ふと、花のような甘い香りが漂ってきた。

 

「なんだ、これ・・・?」

 

念のため、キャスターを呼び出していて気が付けば、なんてことがないように礼装を使ってレジストしてみるがこれといって何かあるわけでもなかった。つまり、これは魔術的な何かではなくて相手の性質的な何かなのだろう。・・・まあ、俺なんか比べ物にならないような魔術師って可能性もあるんだけど。

 

「っと、そうも言ってられないか・・・」

 

すでに、光も収まってきている。であるのなら、召喚した英霊・・・サーヴァントと話す必要があるだろう。相手が誰なのかを知らなければ、何ともならない。

 

「サーヴァント、アサシン」

 

と。そう考えている間にも、向こうは既に名乗りを上げようとしてくれている。アサシン、ということはハサンだろうか。何とも戦いづらいクラスになったものだ。

 

「マタ・ハリが通り名よ。よろしくね」

 

が、しかし。その名前はハサンのものではなく・・・俺も知らないものだった。

 

「・・・えっと、ハサン、じゃなくて?」

「ええ、ハサンではないわね。暗殺者、というようなものでもないし」

 

アサシンのクラスでありながら、暗殺者ではないという。一気に勝ち目がなくなったような気がした。

アサシンというクラスにあてはめられる英霊であり、その服装は水着かと思うほどに露出が多い。脳を溶かすかのように甘い香りと・・・なにより、男を誘惑するような煽情的な服装だ。であるのなら、出てくる解は一つ・・・

 

「・・・失礼かもしれないけど、スパイとか、そう言う感じの?」

「ええ、そんなところね。・・・もしかしなくても、知らないの?」

「失礼ながら・・・」

「そう、悲しいわ。・・・まあ、仕方ないのだけれどね」

 

仕方ない。つまり、自分の知名度とかは自覚している、ということだ。それほどにはっきりしているレベルなのだろうか。

しかし、うむ。戦闘手段は・・・失礼ながら、なさそうだし。

 

「えっと、もしかしなくても、戦闘能力とかない感じです?」

「ええ、そうね。我ながら戦闘能力としては最低値だと思うもの」

 

うん、やっぱりそうだった。であれば、次の質問を。

 

「じゃあ、何が何でも聖杯で叶えたい願いとかは?」

「うーん、そうね。こうして召喚に応じてる以上、当然願いはあるわけなんだけれど」

 

あ、やっぱりあるよね。うん。そもそも召喚される条件がそれだし、触媒なしだからそう言う英霊くらいしか呼べないはずだし。

 

「けど、そうね。よっぽど運がよくないと無理だし、そこまでこだわりはないわよ?」

 

あ、やっぱりいけるかも。

 

「でも、それがどうかしたの?」

「あ、いえ。そもそも俺、親に強制されて聖杯戦争参加したクチなんですよね」

「あら、大変ね」

「ええ、本当に大変ですよ」

 

ちょっとシンパシー。

 

「あ、そうだ。そうかしこまらなくてもいいのよ?何度も言ってるように私、そう大した人間でもないもの」

「・・・じゃあ、遠慮なく」

「ええそう、そんな感じ」

 

なんだろう、どんどん沼に沈んでいくというか、飲まれていくというか。大丈夫かな、これ。

 

「じゃあ話を戻すけど・・・少なくとも今、召喚はした」

「ええ、こうして私が召喚されたわね」

「そして、触媒も何もなしに召喚するよう言ってきたのは、俺の親の方だからオレワルクナイ」

「なるほど・・・確かに、悪いのは貴方の両親ね」

 

クスクスと笑いながらダダ甘やかしてくれる感じ。これか、沈んでいくように錯覚したものは。

 

「であるのなら・・・どう考えても勝てそうにないし、いっそもう参加しないのもありかなー、って」

「つまり、教会にいってリタイアを?」

「というよりは、これも一つの縁だし聖杯戦争が終わるまで二人で一緒に過ごしません?」

 

まあ、うん。命がけの戦争に挑む勇気はないわけなんだけど、それでもやっぱり俺も男の子なわけで。であるのなら、英雄と一緒に過ごすというのも、かなり魅力的なわけでして。

 

「そんな感じなんですけど、いかがでしょうか?」

「ふむふむ・・・なるほど。聞いてもいいかしら?」

「なんでしょう?」

「本当に、私のことは知らないのよね?」

「大変失礼ながら・・・」

「攻めてるわけじゃないのよ。だからそんな縮こまらないの」

 

甘えた・・・いやいや、ダメだ駄目だ。

 

「じゃあ、どんな生前だったのか、察しがついいちゃったかしら?」

「あー・・・まあ、つかないではない、です」

「じゃあ、それ(・・)が目的?」

 

あー・・・なるほど。確かに、そう言うとり方もできる。

 

「全く考えてなかった・・・」

「そう・・・なら、どうして?」

 

と、近づいてきて、俺の目を覗き込みながらそう尋ねてくる。見た目同い年の、すっごく綺麗な褐色美女。そんな人に真正面から見られて顔が熱くなるのを感じながら、そしてどうしても敵意を感じ取れなくて・・・いつの間にか、口から漏れていた。

 

「なんとなく・・・面白そうかなぁ、って」

「そう・・・」

 

何でその言葉が口から洩れたのか、全くわからなかった。分からなかったけど、でもそれでいいと。何も不利になることはないと。それだけは、なぜか確信している。

 

「うん、なら、いいわよ。なんだかおもしろそうだし」

 

と、そんな軽い調子で。アサシンは俺としばらく過ごすことを同意してくれた。

何を根拠として良しとしてくれたのかは、俺にはわからない。分からないんだけど・・・まあ、うん。英霊の思考回路なんて一般人に分かるはずもない。魔術とは諦めることである。

 

「それじゃあ・・・何をして過ごそうかしら?聖杯戦争が終わるまで」

「できるなら、色々と。俺としては英霊と過ごすってのがどんな感じなのか気になるだけだから・・・まあ、やりたいように?」

「そう。なら私、この時代で遊んでみたいわ」

「じゃあ、もう今日は遅いし、明日の昼にでも。・・・って、服、それだけ?」

「まずいかしら?」

「うん、超まずい」

 

その服装で歩くだけでも警察ものだし、知り合いにでも見られたらその瞬間に俺の社会的立ち位置が死亡する。

確かに、魔術師の家系に生まれた魔術師なんだけれども。家は兄貴が継ぐし、この世界だけで生きていける程の実力持ちというわけでもないんだ。社会的立ち位置、大切。超大切。

 

「・・・まずは、服を揃えるところから、かな」

「あら、あなたが選んでくれるの?」

「そんなスキルはないので、霊体化してついてきて念話で伝えてください。それ買うから」

「は~い」

 

はてさて、どんな同居生活になるのやら。

 



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匿名投稿は解除した。まだ誰にも読まれてない段階で解除しました。
・・・なんか、心が苦しかったんです・・・
でも『なんでこの人更新止まってるの放置して新しいのだしてるんだろう・・・?』って思われるのが怖いのは、仕方ないと思うの。
うん?自業自得だって?・・・知ってる。


「ふぁ・・・あ、おはよう、ございます」

「ええ、おはようマスター」

 

朝、眠い眠らせろと唸る体を無理矢理布団から放り出してリビングへいくと、昨日召喚したアサシンさんがいた。疲れすぎてすっかり忘れていたためにまだ寝間着姿である。正直恥ずかしい。

 

「あら、よっぽど疲れていたのね。頭、凄いねぐせよ?」

「・・・マジっすか?」

「ええ、マジっす。直してあげましょうか?」

 

大変魅力的・・・って、いかんいかん。これくらいのことは自分でしないと。

 

「えーっと、顔洗って、寝癖なおして、着替えてくるので・・・少し待ってて?」

「は~い」

 

了承をいただけたので顔を洗って寝癖を潰し、自室に戻って考える。ひとまずの課題は、服装だ。

 

「う~む・・・」

 

一般社会で暮らす魔術師もどきが目標地点の俺として、服はある。あるのだが、アサシンさんの隣に立っていて悪目立ちしなさそうに見せられるものが思いつかない。学校の知り合いに会った時のことを考えると学校での面倒事を避けるためにもいっそ誰だか分からないくらいに・・・不審者で一発アウトになるルートが見えた。これは駄目だ。

 

「よし、大人しく諦めるか」

 

ぶっちゃけ、どう頑張っても無理なレベルでアサシンさんは綺麗だ。であれば、もう諦めるしかないだろう。むしろほかの手段があるのなら教えてほしいくらいである。

というわけできっぱりとあきらめて。それでも悪あがきとして少しはマシに見えるであろう服を選ぶ。

 

「・・・そう言えば今日、俺女性用の服売り場に一人で突入しないといけないのか?」

 

厳密には霊体化したアサシンさんがついてくることになるんだけど、つまり周りから見れば男が一人で入ってきた図になるわけで・・・

 

「・・・ジーンズにシャツで、ひとまず出掛けられはするはず。超目立つけど。目立ちすぎるけど・・・」

 

・・・・・・・・・仕方ない、とあきらめた。まだこっちの方がマシだろう、とも言える。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「というわけで早速の予定変更で申し訳ないのですが、この服を着て実体化してついてきてくださらないでしょうか・・・」

「別にいいわよ?私が遊びたいって言ったんだもの」

 

と、向かい合って朝食を取りながら年ごろ男子の葛藤を話したところ、なんてことないかのように言ってくれた。どれだけ頭を下げても下げ足りないのではないだろうか、こんな格好をすることを良しとしてくれるだなんて。

 

「でも、そうね。確かに難しいわよね」

「はい、難しいんです・・・すいません、彼女すらいたことないんで」

「あら、そうなの?可愛い見た目してるのに、不思議ねぇ」

 

可愛い・・・まあ、貶してるわけじゃないみたいだし、いいか。

 

「それはそうと、私までもらっちゃってよかったのかしら?サーヴァントだし、必要はないわよ?」

「昨日も言った通り、目的が英霊と一緒に過ごしてみたいってことなので。むしろ一緒に食べてほしいんですよ」

「ふぅん、不思議な人ね・・・そう言うことなら、遠慮なくいただこうかしら」

「そうしてください。どうせこの費用は親の支払いなんで、なんにも変わりません」

「あら、そこは自分で出すものではないのかしら?」

「息子を死地に送りこむような親なんです、これくらいの仕返しは可愛いものじゃないですか?」

 

と、そう言うとアサシンさんはクスクスと笑う。本当に、動作の一つ一つが男を誘う色香に満ちている。うっかり気を抜くとコロッといってしまいそうで怖い限りだ。さすがアサシンさん・・・

 

「と、そう言えば」

「なあに?

「あー、いえ。さすがに外で「アサシンさん」って呼ぶのはかなりあれかなぁ、と思いまして」

「・・・・・・あぁ、一般常識的に?」

「はい、一般常識的に」

 

セイバー、ならまだ行けるんじゃないかと思う。知識として剣士につながる人はいるだろうが、名前にもあると考えてくれるのではなかろうか。

だが、他はそうもいかない。ぶっちゃけ偏見かもだけど、アサシンはその中でもトップクラスではなかろうか。

 

「というわけで、マタハリさん、とかでもいいですか?」

「うーん、それでもいいのだけれど・・・そうね」

 

指についたパン屑をペロッと舐めながら悩む様子を見せるアサシンさん。もう何度見ても色香しか感じないので、そろそろ何かしらの魔術で自分の精神を操ったりした方がいいのかもしれない。ストッパーくらいは何かしらの方法でかけておくべきだろうか。

 

「マルガレータ・・・は長いし、マルガ、にしましょうか」

「・・・そう言えば、マタ・ハリが通り名、とか言ってたっけ。ということは、それが本名?」

「ええ、そうよ。たぶんだけれど、マタ・ハリよりもこちらの方が真名を隠せるでしょうし」

 

ふむ・・・ということは、マタ・ハリが有名な名前であるということなのだろう。もしくは、マルガレータか、マルガという愛称になる名前が多いとか、そんな感じの。

 

「じゃあマルガ、でいこうか」

「ええ、そうしましょう。・・・そうなると、私がマスターと呼ぶのも問題なのかしら?」

「・・・大問題っすね!」

 

その光景を想像して、その後で客観的にその光景を想像して、満面の笑みで答える。はい、完全に異常性癖を持ってしまった変態さんですどうもありがとうございます。

いっそサムズアップしてもいいかもしれない。

 

「和也、って呼んで。というか呼んでくださいお願いします・・・」

「じゃあカズヤ、ね。よろしく、カズヤ」

 

ああ、脳がとろけるんじゃ・・・じゃなくて。

 

「じゃあ、食べ終わったら買い物に行きましょう。服を何着かと部屋着も買って・・・下着類もいりますかね?」

「買ってもらえるなら楽しそうだし色々着てみたいのだけど、本当にいいのかしら?」

「いいんですよ、金銭面は気にしないでください」

 

指を立て、片目をつむってその根拠を語る。

 

「『ちょっと気難しく現代に興味津々のサーヴァントを呼んだので遊ぶ金を送れ』って言ってありますから。今の俺の口座にはかなりの金額が入ってます」

「あらあら、私は気難しくて現代に興味津々のサーヴァントなのね?」

「これまでに彼女もいたことがない16歳童貞にしてみれば女性は全て気難しく、現代に興味があるのは事実だからちょっと誇張しただけです」

 

心底おかしそうに笑う彼女。そんな様子を見ているだけで俺も楽しくなってくる。

さて。英雄と暮らす何日か。どんな光景が広がるのか、何を得ることが出来るのか。それは全くわからないのだけれど・・・一つだけ。この人となら、楽しめるだろうってことだけは、分かる。

 



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実験逝ってきます。(誤字にあらず)


「準備できたわよ、カズヤ」

 

と、そう言って現れたマルガの姿は・・・何というか、こう。詰まっていた。

160はあるだろう身長に対して、それでもなお不釣り合いな胸部装甲が、俺のシャツを着たことで思いっきり詰まっている。露出度は減った、胸元だって元々同じくらい見えていたはずなのに、シャツでギュッとされた結果この上ない魅力を生みだしている。つい反射的に、ゴクリ、と。生唾を飲み込んでしまった。非常にまずい。身長がそんなに変わらないせいで、大変な爆弾を生みだしてしまったかもしれない。

 

「あら・・・どうしたの、カズヤ?」

「分かってて姿勢を取るのやめません?」

「あら、バレちゃった。誘惑はお嫌いかしら?」

 

クスクスと口元に手を当てて笑う。その動作自体は可愛らしい少女のものといっても過言ではないのに、なぜこうも色気があるのだろうか。それくらいじゃないと女スパイにはなれないのかもしれない。いやそうじゃなく。

一つ深呼吸をして、邪念を可能な限り取っ払う。

 

「それじゃあ行こうか、マルガ。目立つのはもう避けようがないけど、早く服を買って少しでもマシにしないと」

「まあ確かに、これは目立つわよねぇ。時間帯によっては大変なことになりそう」

「俺へ向かう視線も針の筵な予感なので・・・」

 

召喚時の服の上から着てもらって、本当に正解だったな。うん。じゃなかったら俺の理性が耐えられた可能性はかなり低いぞ。あと、今日が雨だったらマズかった。うん。

だがしかし、これならなんとかなる!マルガが着替えている間に可能な限りの精神を保ち続ける手段を取ったし、魔術回路を介した魔術的手段も取った。今の俺に死角はない!手をつないで出かけることもできるだろうさ!

 

「さあ、お買い物に行きましょう。現代の街並みがどうなってるのか、楽しみだわ」

「え、あ、ちょ」

 

訂正。腕を組まれた瞬間、そんなものはほぼ全て吹っ飛びました。童貞のスペックをなめるな。

あと、何かを面白がっている表情をされているので、間違いなくからかわれているのだと思われます。勝ち目がないなぁ。

 

 

 

=☆=

 

 

 

「さあ、これで一通りそろったのよね?」

「その辺りは男の俺じゃなくて女性であるマルガが判断してほしいところなんだけどなぁ」

「私の生きていた時代と今とでは全く違うもの、必要なものもそれに合わせて変わっていくのよ?」

「なるほど・・・」

 

そう言われたので、ざっくりと考えてみる。

まず、普段着。これについては三セットほど購入した。ジーンズ、ホットパンツ、ミニスカートに対して上もそれぞれ会うものをマルガのセンスで選び、その上から羽織るものなども全てマルガのセンスで選んだ。俺?試着するまでもなくサイズとか自分の容姿とかにあっている物を選び出すマルガの手腕にただ茫然としていました。肌の露出多目なセットが二つになる辺りなんだろう、こう、そう言うものが好きなのだろうか?

 

次に、部屋着。現代の生活を楽しんでもらおう、と考えている身としてはやはり寝間着に身を包んでふかふかの布団の中で寝てほしい。というわけで地味目なスウェットで、あの胸部装甲でも問題なく着れるものを探し出して購入した。お胸様が立派だとそう言うところでも苦労するんだね、初めて知ったよ。

 

続いて、下着。これについてはもう俺は関与していない。ランジェリーショップに入ることも躊躇われたので、十二分だろうという金額を渡して少し離れた場所で待っていました。無理です、そのクエストは難易度が高すぎて挑むことすらできません。あとブラってサイズが大きくなると値段も上がるそうでほぼ全部が消えていた。女性下着ヤバイ・・・

 

次に化粧品・・・は、本人がいらないと断言したので買っていない。確かにそんなもの無くても問題ないであろう見た目をしているし、そう言う方面のサーヴァントなのだから必要になれば何とかなるのではないだろうか?

 

生理用品。サーヴァントには必要ありません。次。

 

・・・後はもうわからないや。娯楽品なんかは別枠として買うことにするとしても、もうこれ以上必要ないようにも思える。

 

「大丈夫なんじゃないかな?少なくとも一番の問題点だった服に関しては解決したんだし、必要になったら買い足していくこともできるだろうから」

「じゃあ、そうしましょうか。私の中にある知識とも合致するし」

 

・・・・・・うん?

というか、あれ?そう言えば、なんかそんな感じのモノが合った気も・・・

 

「・・・聖杯からの知識に、あった?」

「一部一部だけど、ね。必要最低限のことは分かるようになっていたのではないかしら?」

「そう言うことは、早めに言ってほしかった・・・」

「聖杯は知識を全てくれるわけではないから、自信がなかったのよ」

 

ごめんなさい、と。手を合わせ、片目をつむり、舌をペロッと出しながら言われてしまっては。文句を言うことができないではないか。

 

「はぁ・・・まあいいや。じゃあいい時間だし、ご飯にしようか。何かリクエストなどありますか?」

「んー、そうねぇ・・・そう格式ばったものじゃない、気軽に食べられるものがいいわね」

「気軽に・・・」

 

方向性としてはラーメンとか、なんかそんな感じだろうか。しかし今来ているスーパーにそんなものは入っていなかったはずなので、何か別のところ・・・ジャンクフード系でいこう。

 

「ハンバーガーとか、どうでしょう?」

「お任せします、ご主人様♪」

 

ちょっとクラッと来てしまった。が、頬を叩いてどうにか正気を保つ。落ち着け、割と本気で落ち着け俺。そう言う方向へ行くのが危ないと思ったから色々と手を加えたんだろうが。

自己暗示に近いがどうにか自分を落ち着かせたのち、歩き出す。平日昼間のフードコートだし、そんなに混んでないといいんだけど・・・

 

 

 

=☆=

 

 

 

「本当にこれでよかったの?俺から提案しといてあれだけど、外のお店に入ることもできたし」

 

購入し終えて席についてから言うのか、と言われそうなことをついつい言ってしまう。がしかし、それも仕方ないと思う。

なんせ、連れてきたのは某M字の超有名ハンバーガーショップ。俺の前におかれているのはチーズなやつのセットで、マルガの前におかれているのは一番デフォルトなハンバーガーのセットだ。実際に並べられたものを見て冷静に考えると、それなりにおかしな状況ではないだろうか?

 

「いいのよ、これで。これがいいの」

 

しかし、マルガははっきりとそれを否定する。生前何かあったのか、それとも生前からこうなのか。正直、召喚してから始めてみる憂いを帯びた表情でハンバーガーを手に取った。紙を一部剥がして、出てきたそれにかぶりつく。租借し、嚥下して、口元についたケチャップを舐めとってから、口を開く。

 

「本当に価値があるものは、お金のかかったものなんかじゃなくて、何でもない、なんてことないものなのよ」

 

少し寂しそうな笑みを見て。きっと何かあったのだろうと察する。彼女の信条とか、そう言うレベルの何かが。

これがもし、アーサー王だったなら。ジークフリートだったなら。煌びやかな伝承を持つ英雄であったのなら、聞くことにためらいはなかっただろう。自分のことを語りたがる、もしくは俺のことを育てようとしてくれる英霊であったとしても、聞いただろう。

ただ、彼女には聞きづらい。俺は彼女がどんな人生を送ったのか、伝承的にすら知らないし調べてもいないけれど・・・現代に近い、女スパイ。その人生がどれだけ壮絶なものなのかを想像するのは、そう難しくない。

 

「そっか。じゃあ遠慮なく食べてくれよ。追加購入もいけるから」

 

だから、俺はそう告げる。彼女がポテトを選んだからという理由で選択したセットのナゲットも届く位置に動かして、自分のものの紙を剥がしてかぶりつく。このチープな味は、無性に食べたくなるような中毒性がある。うん、美味い。

 

「じゃあ、貴方のも一口くださらない?」

「もちろん、どうぞどうぞ」

 

チーズのやつを差し出すと、マルガはそれを受け取ってかぶりつく。これも美味しいわねぇといって微笑む彼女につられて俺の楽しくなってきて笑みを浮かべた。

 

想像はしていた。どれだけ無名の英霊であったとしても、英霊となることが出来る以上それなりの人生を、生涯をおくっているはずなのだ。だからこういう状況が生まれることも想定内だったけれど・・・実際に遭遇すると、それなりに重いものがあった。

しかし、不思議と。後悔していないのだから・・・俺もこの状況が楽しいんだなぁ、って。彼女といる空間が楽しいんだなぁ、と。そう、実感した。

 

「晩御飯、どうしよっか?凝ったものとか、あんまりでしょ?」

「そうね。家庭的なものがいいわ」

「じゃあ今日はカレーとかにしようか。超家庭的、どの家庭でも作られて、嫌いな人がいない料理です」

「ええ、楽しみね。じゃあ今から材料を買いに行きましょう」

 



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短いですが書けたので放り投げます。


「さて、と。どうしたものかな・・・」

 

あの後。可能な限り知り合いに合わないために、と電車で隣の市に来ていたのだがさすがにそこから買い物して帰る気にはなれず、家から近いスーパーマーケットへ移動、宣言通りカレーライスの材料と、本人が望んだので一部現代のお酒なんかも(暗示って便利だよね)買い、ついでに色々と補充してきた。

それまでの間も、実体化してという意味では初めて乗る電車に通る改札、レジの仕組みなど一つ一つに驚いているマルガはみていて飽きないものだった。・・・話がそれた気がする。

 

なんにせよ、その後二人でカレーを作り、食べ終えた。今はマルガがお風呂に入っているのでその間に今後のプランを練っているわけだ。

目下の問題はただ一つ。学校である。

 

「一回、ガッツリ暗示をかけるためにも学校に行かないといけないし・・・」

 

要するに、暗示をかけ忘れたのだ。聖杯戦争期間中は学校に行く暇などないだろう、とは最初から思っていたのだけれどそれを行動に移し忘れた。最初のころは何とかして不慮の事故で参加できませんでしたルートに向かおうとしてたからその影響かもしれない。

 

「・・・まあ、暗示の内容には困らない、ってのが唯一の救いかな」

 

親が大変協力的なので、口裏を合わせてもらえば暗示の必要すらなくなる勢いだ。まあ偶然街中で会ったりすると面倒だから暗示は使うのだが、『海外で仕事をしている親のところへ行く』というような内容で暗示をかけておけば十分だろう。

・・・何か抜けがありそうで非常に怖いな。もしくは明日登校したら問題が発生しそうなというか、なんか面倒事の予感がする。なんでだろう、ふっしぎだな?

 

「・・・よし、明日学校に行くか」

「あら、唐突にどうしたの?」

「おわっほい!」

 

ソファに寝転がって目を閉じて考えていたものだから、唐突なマルガの声にびっくりした。反射的に目を開くと、今日買ってきたスウェットに身を包んだマルガがいる。

風呂上がりらしく頬が上気していて、濡れた髪をタオルで拭いている。・・・うん、バスローブが大変しっくりきそうな感じだな。バスローブを買わなくて正解だった!

 

「や、しばらく聖杯戦争に参加するわけじゃん?」

「そうなるわね?」

「ってことは、学校行ってる暇ないから行かなくても大丈夫なように暗示をかけに行かないとなぁ、って」

「本格的に参加するわけじゃないんだし、別に大丈夫じゃないかしら?私も学校というものに興味があるし」

「やー、何かと理由を付けて俺がサボりたいだけなんだなこれが」

「もう・・・めっ、よ」

 

おでこを人差し指でつつかれてしまい、でへへへ、となる。いかんいかん、このままだと流される。俺はノーマル、俺はノーマル。

 

「まあ現実的な話もしておくと、真面目に参加してないって親に思われると後々面倒が多いかなぁ、って」

「あら、別に家を継ぐわけではないのだから大丈夫じゃないかしら?」

「確かに家を継ぐのは兄貴だけど、何かあった時の予備として育てられてるから、それなりに会う機会はあるしね」

 

その時に色々と言われてしまっても面倒だし、今ばれてしまうのも面倒だ。よって、ちゃんと従っているフリくらいはしておきたい。

それと口には出さないが、学校で他のサーヴァントに襲われたりすると面倒事がより多くなるのだ。ほら俺、教会に報告にも言ってないし、できる限り隠蔽作業の押しつけとかお世話になる事態は避けたいかなぁ、って。

 

「というわけで明日、暗示をかけに学校まで行くんだけど・・・よければ一緒に来る?」

「もちろん」

 

楽しそうだなぁ。うんうん、良きかな良きかな。

 

 

=☆=

 

 

 

「・・・言うまでもないと思いますけど、くれぐれも実体化しないでくださいよ?」

『大丈夫よ、ちゃんと霊体化して傍にいるわ。カズヤも念話で話すようにした方がいいんじゃないかしら?』

『・・・それもそうですね』

 

学校のそばまで来てからそう確認を行う。いやまあ見るからに異形ってわけでもないし服も現代のものを着てもらってるから大丈夫といえば大丈夫なんだけど、目立つことには変わりない。というかそうだ、学校に生徒でも教師でもない人がいる、ってのは問題だったか。

そう考えながら頭をかき、校門をくぐって・・・

 

「「死ねぇ!」」

「おわっ!?」

 

その瞬間、校門の影から現れた二人の男に襲われる。マルガが反射的に実体化しようとするのを流す魔力を抑えることで無理矢理止めて、襲い掛かってきた二人を足で迎撃する。

心配するマルガの声が脳に響くけれど、まあ、うん。大丈夫。問題ない。

 

「何のようだ、二人とも・・・」

「何の用だ、じゃない!」

「キサマこそ、昨日のあれは一体なんだ!」

 

昨日のあれ・・・おや、嫌な予感がする。昨日何があったかといえば候補は一つしかないし、あれだろうなぁ・・・面倒なことになったぞぅ。

 

『どうするの?二人に暗示をかけて記憶を消しておく?』

『そこまで強力な暗示は使えないかなぁ・・・仮にみられてたとしても、俺が嫉妬の対象になるだけだし』

『学校を休んできれいな女性とデートしていたのだものね』

 

状況ははっきり理解してくれたらしい。まあ、うん。そういう状況なのだろう。さて、どうするのが正解だろうか・・・

 

『よし、逃げよう』

『あら、逃げるの?』

『逃げる。職員室まで行けば一旦何とかなるだろうし』

 

クラスは同じだから逃げ切れるものではないんだけど、まあ、うん。大丈夫大丈夫、なんとかなるって。

 

「ではな、二人とも!」

「「逃げるな!」」

 

チクショウ・・・やっぱりもう少し変装するべきだったな。何か良いアイデアはないものだろうか。不審者にならない範囲で。

 

『今度私が服を選んであげましょうか?服の印象に小物と髪型だけでも変えれば大きく変わるものよ?』

『ぜひお願いします』

 

そうだ、すぐそばにスパイがいるんだから、最初っから聞いておけばよかった

 



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第五話。なにこのリア充ども。書いてて辛くなってきて書きづらい・・・
そしてついつい癖で鬱らせたくなってくる・・・違う、違うんだ・・・この作品はもう最後まで流れが決まってるんだ・・・ちゃんとその通りに、その通りにしないと・・・


「本当に、本当にそういう関係じゃないんだな?」

「違うよ。さっき言った通り、父さんの関係での知り合いがしばらくうちで過ごすってだけだよ。外国で仕事してるの知ってるだろ?」

「なら何で昨日わざわざ学校をさぼってまで」

「ノリが軽いというか何と言うか、そう言う人でな。ろくに服も持ってきてなかったから買い出しに行った。一緒に暮らすうえで必要なものだろ?」

 

あの後。

職員室へ駆け込むことで一時的に逃げられたものの結局教室で捕まり、なんとかそれらしき設定をでっちあげた。魔術協会にいることを表向き『海外で仕事をしている』ことにしているため、そっちでの同業者の娘さんとか、そんな感じに。

そんなに大きな嘘はついてないしな。父さんの関係で(参加しろと命令された聖杯戦争にて)知り合った知り合いなんだから。うんうん。大丈夫大丈夫。

 

「もういいだろ?そろそろ校門でるし、下校中にまで尋問受けたくねえんだよ」

「何とも釈然としないが・・・」

「まあ、仕方ない、な」

「明日からしばらく外国いくのにこのタイミングってのに非常に納得しないが」

「これ以上引き出せそうにもないしな」

「・・・厳密にはマルガといくつか準備をしてから、ってことで準備期間があるからな」

 

念のため、予防線を張っておく。今後街中で見られることはないようにするけど、万が一というものがあるのだ。まあ昼間っから遊んでるだろうし、遭遇しかねないのでしっかり変装はしておこう。どこまで誤魔化せるのかは未知数だけど、やらないよりはましだ。

 

「じゃあそう言うわけで、俺はこっちだから」

「ハアイ、カズヤ♪」

 

なんか、校門の影からマルガが現れた。ついさっきまで俺のそばで霊体化していたはずなので、面白そうだとタイミングを合わせて実体化したのだろう。反射的に服装を確認するが、ちゃんと現代のものだ。一安心。

腕を組まれた。緊急事態発生です。あと同級生二人の視線が怖いです。

 

「ど、どうしてマルガがここに?」

「あら、帰りを待っていたのよ?ねえ、せっかくだしどこかにご飯でも食べに行きましょう?」

 

・・・ええい、もうやけくそだ!

 

「いいね、じゃあそうするか。何か希望はありますか、お嬢様?」

「昨日と同じリクエストでお任せします、セバスチャン?」

「ではそのようにいたしましょう。・・・ラーメンでいいかな?」

「ええ、そうしましょうか。おすすめのお店へ連れていって?」

 

どうせしばらく学校には来ないのだから、あの二人に会うこともない。担任に暗示をかけたついでにウチに来そうなメンツにもしっかりかけておいたので、これで問題ないと思われる。そうなればあとはもうなるようになれ、だ。

 

 

 

=☆=

 

 

 

「で、なんであんなことをしたのかな?」

「だって面白そうだったんだもの」

「面白そうで簡単にサーヴァントが実体化しないでくれ・・・」

 

あの後、個人的によく行くお店の中で女性にも食べやすい場所を選び移動して。注文を済ませてからの会話がこれである。女性が楽しそうで何よりですなぁ・・・楽しいからいいか。

 

「それに大丈夫よ。これでもサーヴァントだもの、ちゃんと周囲に気を配って、誰もみてないタイミングで実体化したわ」

「他のサーヴァントは」

「それこそ大丈夫よ。気配遮断は持ってないけど、ちゃんと敵対者だと思われなくなるスキルは持ってるわ」

 

しれっとアサシンの切り札に近い気配遮断を持ってないカミングアウトされたんだけど、まあそれは置いといて。ちゃんと考えて行ってくれたらしいので、良しとする。

ついでにいくら敵対者だと思われないとしても、霊体から実体になるのを見られればバトルスタートな気がするのですけど。だってこれ聖杯戦争だし。

・・・大丈夫だって言ってるし、きっと大丈夫だよね、うん。

 

「もういいや・・・さて、明日以降どうします?」

「そうね・・・どこかへ遊びに行きたいわ」

「場所・・・というか目的みたいななものにリクエストは?」

「全部お任せします」

 

この人丸投げにもほどがありませんかね。何かしら理由はあるんだろうけど、そう思わずにはいられない。そしてそう思いながらもしっかり候補を探している自分がいて、俺も楽しんでるなぁ本当に、と実感する。この空気感、すっごく心地いい。

しかし何がいいのかなぁと思いつかず、ラーメンが二つに餃子、チャーハンが一つずつ届いたので、手を合わせて食べ始めて・・・

 

「無難に遊園地とか?」

「どんなところなの?」

「うーん、定番のデートスポット、みたいな?」

「デートスポットなのね」

「男女が二人で出掛けるとなれば、それはすなわちデートではないでしょうか?」

「ええ、そうね」

 

ちゅるん、と麺をすすりながら答えたらマルガは細かくフォークを動かして口の中に麺を運んでいく。そう言えば外国人は麺をすする、という動作に無縁だと聞いたことがあるのを思い出した。そういう意味では、チョイスをミスったかもしれない。反省。次に生かそう。

 

「そうだ、そう言うことなら一つ、提案があるわ」

「丸投げ間半端ないマルガさんからようやくご提案ですか」

「あら、そう言わないの。度の過ぎたものならともかく、これくらいのわがままなら聞くのは男の甲斐性よ?」

「その単語便利すぎませんかね?」

 

そう言いながら、でも度の過ぎたものはスルーしてくれていいといっているのでそうさせてもらうことにする。現代について知らない以上、こちらにある程度丸投げになるのも仕方ないと思ってるし、まあいいや、うん。

 

「それで、その提案ってのは?」

「今時の子たちがいくデートスポット、それをあなたと回りたいわ」

 

ちょっとそれは年ごろの男の子には勘違いされてしまいかねないのでちょっと考えていただきたいなぁなんて思うんですけどもうんもうどうしたらいいんだろうね俺心臓バックバクですってハイ。

スープを飲んで一つ落ち着く。

 

「じゃあ、明日から色々回ってみようか。平日ならある程度すいてるだろうし、結構楽に回れると思う」

「そうしましょうか。食べたり遊んだり、贅沢な日々になりそうねぇ」

「まあ親からたんまりと引きずり出したし、内容自体はそんな金持ちの遊楽じゃないから許される・・・ってことでダメでしょうか?」

「う~ん・・・よし、許します」

「ありがとうございます」

 

またいつも通りわけのわからないやり取りに二人そろって笑う。その後マルガが時間をかけてラーメンを食べきってその後餃子とチャーハンも食べきり、ついでと言わんばかりの勢いでデザートまで食べてから帰った。

 

 

余談なんだけど、帰ってからこの間買ってきたお酒をマルガが飲み始めて、ついでだからとコンビニでつまみを買ってきたりしているうちにマルガが酔って、童貞には視覚的にもその他諸々的にも大変な状況となりました。

あとから思えば、なんでサーヴァントが酔ってたんだって話であって。明らかにからかわれてたなあってお話でした。

 



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何もない、ただ暗いだけの空間。そこにふわふわと漂っている自分がいる。

目的があるわけではない。そもそも、ここがどこなのかすら分かっていない。ただ真っ暗で、何も見えなくて……どこまでが自分なのかすら、はっきりしない。

 

そんな事実を自覚した瞬間、自分と外との区別がさらにつかなくなってくる。大体この辺りが腕だろうと思っていた空間に自分は感じられず。大体この辺りが足だろうと思っていた空間はただぽっかりと闇が広がっているだけ。

どんどん、自分の体が形を失っていくかのように感じる。闇の中に溶け込んで、自分を覆うものと一体になっていくかのような、それに広がっていくかのような、そんな感覚。

 

この正体は一体なんだろうか。こんな状況なのに恐怖を感じることもなく冷静に考えていると、ふと、唐突に。何の前触れもなく、一つの確信を得た。

 

ああ、そっか。闇の中に溶けていったんじゃなくて、元々この闇全てが自分だったのか。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「あ……」

 

目を開く。視界に広がるのは見慣れた天井で、ゆったりと腕を動かすと布団の重みを押しのけて、自分の視界まで上がってくる。そうして自分の体があることを自覚して、同時に先ほどまで見ていたものが夢だったのだと理解した。

 

「なるほど、なぁ……なんで父さんたちが俺に聖杯戦争に出ろだなんていうのかと思ったら、そう言うことかぁ」

 

おそらく、サーヴァントと契約した影響だろう。忘れていたことを思い出して、両親の方針を察する。スイッチ一つで魔術師としての人格と一般人としての人格を切り替えるあの人たちは、昔俺が「魔術師にはならない」といってから、魔術師として関わってくることはなかった。それなのに唐突にこれである。

おそらくは。一般人として生きていくのなら、そのために必要なことだって、そう言うことなんだろうけど……

 

「……ま、どうでもいいか」

 

最悪、これで一般人として生きていく道がふさがれてしまったとしても。俺はマルガとこうして過ごす日々を後悔することはない。そう結論が出たので、父さんたちには悪いけどせっかくのチャンスを棒に振らせてもらおう。

軽く頬を叩き、そう決心したところで目覚ましが鳴りだした。体を起こし、手を伸ばして止める。今日はマルガと朝から一日遊園地だ。それにあたり、年齢をごまかしたり知り合いから気付かれないために軽い変装を施すことになっている。時間はいくらあっても足りない。

 

「っと、その前に朝ご飯準備しないとだった」

 

部屋を出て、寝間着のままリビングへ向かう。後で変装しながら着替えるのだし、まあ別にいいかというずぼらな考えのまま。あとこれから洗濯機に放り込むものならどれだけ汚しても問題ないな、なんて考えで台所に立つ。

 

冷蔵庫を確認。それなりに食材はそろっている。昨日、一昨日と洋食系の朝食だったし、和食で行くのもいいかもしれない。

そうと決めたらすぐに行動に移す。長い一人暮らし歴に沿って身についた調理スキルをもってできる限り効率よく、しかし複数人分準備するというマルガがきて初めての経験にちょっと苦戦しながら。

ごはんは昨日の夜タイマーセットしてある。それに焼き魚と味噌汁、卵焼きなんかを揃えていって、「十人中九人がイメージしそうな和朝食」の出来上がり。

 

「あら、今日の朝ご飯はこれまでのとはちょっと違うわね」

「起きてたの、マルガ?」

「ええ、少し前から。気配遮断はできなくても、これくらいのアサシンらしいことはできるのよ?」

「なるほど納得」

 

起きてきて、俺が作業していたから気付かれないように見ていた、ということだろう。鼻歌とか歌ってた気がするから、ちょっと恥ずかしい。

 

「まあ、せっかくならってことで和食にしてみました。魚とかちょっと食べるのメンドクサイかも」

「骨が多そうよねぇ……取ってくれる?」

「あー……まあ、取り方は知ってるからいいか。あんまりうまくないし、ちょっと残るかもだけど」

「よろしくお願いします」

「頼まれました」

 

頼まれたのでマルガの分と、ついでに自分の魚の骨も前もって取っておく。そうした後にテーブルにいどうして、手を合わせる。

 

「では」

「「いただきます」」

 

手を合わせて、食事を始める。パンはすぐにエネルギーになる代わりになくなるのも早く、ごはんはすぐにはエネルギーにならないものの長続きすると聞いた気がする。これから遊びに行く身としては、こっちの方がよかったのかもしれない。

 

「そういえば、マルガってはしは使えるんだよね」

「そう言えばそうね。不思議よねぇ、聖杯って」

 

箸の使い方って聖杯が必要なものだって判断して渡すものなんだ。正直、その辺りのlineが全くもってわからない。

 

「そう言えば」

「うん?」

「なにか、あった?」

 

ピクリ、と。やっぱり英雄相手に隠しきれなかったかと思いながら、それでも笑顔を装う。だってこんなこと、話したってどうにもならない。もしかすると解決のため聖杯戦争を勝ち抜こうといってくれるかもしれないけど、それじゃだめなのだ。

俺は。マタ・ハリという英霊について知りたいのだ。ただの興味から始まって、今ではそれ以上の感情があって。

だから、このままでいい。このままがいい。たとえその先に待っているのがホルマリン漬けだとしても、構うものか。

 

「大丈夫、なんでもないよ。ちょっと嫌な夢を見ちゃっただけ」

「あら、そう?だったら今日はママが一緒に寝てあげましょうか?」

「……ちょっと引かれる自分がいるので、これ以上の誘惑はやめていただきたく思います」

 

だって、寝心地がいいかはたまたドキドキして眠れないかは分からないけど、どちらにせよプラスが大きいじゃないですか。

歯止めが効かなくなりそうなので、しっかり自制していこう。そしてその上で、マルガにも抑えてもらおう。

 

「じゃあ、別のことで埋めるしかないわね」

「別のこととは?」

「デ・エ・ト、よ。楽しいことをすれば、嫌な夢なんて見る余裕はないわ」

 

そういって、ウインクを一つ。ああ、なるほど。その通りだ。

父さんが封印した記憶が、マルガとの契約で解けて。その結果変な夢を見たのならば。

そんなもの塗りつぶすくらいの一日を過ごすことが出来れば、悪夢なんて見ないに違いない。

 

「じゃあ、食べ終わってから変装の方お願いします。足りないものとかってある?」

「大丈夫よ、カズヤ。カズヤのだけだと確かに難しいけど、お父さんにお兄さんのも使えばなんとでもなるわね」

「さっすが。いい男に仕上げてくださいな」

「素材がいいもの、私も腕の振るいがいがあるわね」

 

そういうことなら、全力でお任せしよう。

 



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ちょっと長めの4980文字くらい。読みづらいかも




それはそれとして、最近FGOの方で出てきたあのマタ・ハリさんよかったですね。・・・ウチの聖杯、全部別の子に使っちゃったよ。使いたくなっちゃったよ


「ではこちら、フリーパス二枚になります」

「ありがとうございます」

「では、いってらっしゃいませ」

 

受け付けで一日のフリーパスを二枚買い、笑顔で手を振られたので会釈を返す。考えてみれば遊園地に来るなんて小学校の頃学校の友人と行ったきりだ。そう思うと俺もワクワクしてきた。

 

「はい、マルガ。これがあれば園内のアトラクションは全部遊べるから」

「本当に全力で遊ぶつもりなのね」

「どうせなら全力全開で、ってね。デートスポットを全部回るんだったら、遊園地は一日で遊びつくさないと」

 

これについては本気で言ってるのもあるけど、二日連続で遊園地というのも体力的に耐えられる気がしなかったのもある。結構体力使うよね、遊園地って。

 

「さて、ここからは本格的に体力勝負なわけなんだけど」

「私は関係ないわよ?」

 

そう言えば、マルガはサーヴァントでした。こうして遊ぶ程度で体力が切れるわけがない。というわけで一つ目の問題は俺が個人的に頑張ればいいということで解決である。

 

「よーし、ではいきますか。まずは何に乗る?」

「そうねぇ……ジェットコースターっていうの、乗ってみたいわ」

「では、レッツゴー!」

「おー!」

 

二人そろって拳を突き上げて。いざ、園内へ!

 

 

 

 ☆

 

 

 

スタート・ジェットコースター

 

「おいおい、高い、高いな、結構高いな、こんなに高かったっけ!?」

「眺めはいいけれど、ここから一気に下るって考えると、ちょーっと怖いものが」

「「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

 

セカンド・フリーフォール

 

「よくよく考えてみたら垂直降下じゃんジェットコースターいけたから大丈夫とか何の参考にもならないじゃん」

「というか生々しい話飛び降りとあんまり変わらない気がするわね。……あ、でもあれは体の向き変わるって言うし」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

 

サード・ジェットコースター(背面)

 

「何か乗る直前テンションおかしいから行ける行けるってなってたけど冷静になってみれば何だよ背面って」

「さっきまでのと違って行く先が見えない、って言うのも怖いわね。人の発想ってどのジャンルでも不可思議よねぇ」

「「イエェェェェェェェェイ!」」

 

 

フォース・メリーゴーランド

 

「あー、この乗ってればいい感じ、平和だなぁ……」

「平和だけど、なんだか、うーん……」

 

 

フィフス・コーヒーカップ

 

「これもこれで、平和な遊具だよなぁ」

「ねえカズヤ、これってどうやって遊ぶの?」

「や、こうして真ん中の円盤を回して自分たちも回る感じで」

「イッエーイ!」

「あ、ちょ、マルガ速い速い速すg……サーヴァントの全力でやったら壊れるから自重してね!?」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

コーヒーカップの後、割と足元がおぼつかなくなったのでマルガの肩を借りて移動し、時間も丁度いいということで昼食タイムとなった。現在は注文した品が届くのを待っている段階である。

 

「大げさねぇ。……って言いたいんだけど、そうでも無かったり?」

「自分がサーヴァント化したことで生前よりもパワフルになってる自覚を持っていただきたい限りです」

「はーい、自重します」

 

すっごく楽しそうな笑顔で言われてもちょっと説得力に欠ける気がするんだけど、笑顔に見とれてしまったので気にしないことにする。マルガに自販機で買ってきてもらったスポドリをもう一口飲んで渡し、体を起こして伸びを一つ。

 

「まあそんなことは置いといて、絶叫系が気に入った感じで?」

「ええ。とっても刺激的でいいと思うわ」

「正直、マルガのイメージとは違って意外なんだけど」

「あら、だったら私のイメージで遊園地で遊ぶものは何なのかしら?」

 

俺の飲みさしを口に含みながら問われたので、意識を逸らして考えてみる。マルガが遊園地にいる様子をイメージして、さて何に乗るのかと考える。ふむ……

 

「そもそも遊園地のイメージがなかった。こう、高級ショッピングみたいなイメージが強い」

「でしょう?だったら遊園地でどう遊んでいたとしても、全く問題ないのよ」

 

何と言う超理論。しかしまあ、本人がそれで楽しいのならそれでいいのかもしれない。そんな結論に至ったところで注文したホッとドックが届いた。そろって手を合わせて、かぶりつく。

 

「そう言えば、本当にいいものは何でもない平凡なものだ、みたいなこと言ってたっけ」

「……ええ、言ったわね、そんなことも」

 

ふと思い出したので口に出してみたが、やはり、あまり心地よい話題ではないらしい。だとすれば、根掘り葉掘り聞く気にはならない。これが今を生きる人間相手であれば話は違うんだろうけど、そうではないのだ。だとすれば、そこに口を出すのは野暮というものであろう。

 

「だとすると、やっぱりこうして選択肢が遊園地だったのは間違ってなかったわけだ」

「……ふふっ、ええ、そうね。買い物は買い物で楽しいでしょうけど、こっちの方が絶対に楽しいと思うもの」

 

そのまま話を逸らす方針でよさそうなので、続行する。そもそも今日は、というかこれから先全部、全力で遊びに来ているのだ。暗い話題を出すとか、俺は本格的にバカなんじゃなかろうか。

 

「さて、マルガが絶叫系を気に入ったとなると、次はどんなところに行くのがいいだろうか……」

「あんまりこう言うものはないのかしら?」

「そりゃ、ガチのところに行けばバンジーとか色々とあるだろうけど、この辺りにはないかなぁ」

「そう、残念ね」

 

眉の下がった笑顔でそう言ったと思えば、しかしすぐに復活する。

 

「でも、大丈夫よ。私としては私の時代にはなかった、私の時代とは変わった娯楽を楽しみたいんだもの。あ、デートスポットで、ね?」

「その条件が人生で彼女無しの男子にはキツいんですけどねー」

 

現代の恋人同士で行く場所と言われて某宿泊施設が浮かんだけど、即座に却下する。そういう目的ではないと初対面の時に断言しただろう、俺。こんな状況で、マルガ相手にそれを反故(ほご)にってのは、最高にカッコ悪いだろう。

……まあ、デートで行きそうな場所をイメージすればいいんだろうし、大丈夫大丈夫。

 

「じゃあ、次は体を動かす系ってことでボーリングかな?カラオケ……は、曲が分からないからキツいか」

「からおけ?」

「あー……曲の伴奏が流れて、それに合わせて歌う娯楽施設、かな?」

「確かにそれは、曲が分からないと難しそうねぇ。たっぷり時間があれば色々と聞いて覚えていくのだけれど」

 

まあ、無理なことをいくら言っても仕方ない。というわけでカラオケは除外して、他には……プリクラとかなのだろうか?うーむ、分からん。

今日の夜にでも、恋人持ちの知り合いに片っ端からメールしてみよう。

 

「まあ、その辺りの話はまた追々家ですることにして。この後はどうします?」

「そうねぇ……もう少し絶叫系を回りたいかしら?」

「マジっすか」

 

マルガさん、結構タフ?体力あり余ってるの?

……よーし、気合入れて全力で付き合おう!

 

 

 

 ☆

 

 

 

「はふぅ……まさか、マジで最期まで徹底して絶叫系に行くとは……」

「とっても楽しかったじゃない、全部、最後まで」

「確かに楽しかったですけど、やっぱり、サーヴァントの体力についていくのは難しかったですね……」

 

昼食の後、テンションを上げに上げた上でちょっと魔力強化(ズル)もして一緒に回ったのだが、やっぱり疲れて観覧車の中でこのざまである。あ、コーヒーカップだけは全力で懇願してやめてもらった。もう一回あれをやったら間違いなく吐いて倒れる。目が覚めたらマルガの膝枕で視界にお胸様とか起こりそうだ。あれ、むしろありだったんじゃないか?

……いや、デートとしては失敗になっただろうし大丈夫、これであってる。でもそれはそれとして膝枕をするならホットパンツかミニスカでお願いします。

いや違う、だからそうじゃない。

 

「はぁ……まあ、いい景色だし、最後はこうでもいいんじゃないですか?」

「ええ、そうね。日が沈んでいって、夕焼けに染まった景色は、とってもきれい」

 

正直これ以上絶叫系に乗れないから頑張って説得した面はあるんだけど、夕焼けの観覧車って想像以上に素晴らしい景色でびっくりしてる。まさかここまでとは思ってなかったよ。

 

「見下ろす街中がどこもかしこも茜色に染まっていて、キラキラ輝いて見えるわね」

「とってもロマンチックな上にとってもリーズナブルですなぁ」

「こーら、デートの最中にそんなロマンの欠片もないことを言わないの」

 

叱られてしまったので、気を付けることにする。確かに女性と二人きりで言う話題ではなかったかもしれない。

 

「……ありがとう、カズヤ」

 

と、今後のために経験値を重ねていたら唐突にお礼を言われた。

 

「どうしたのさ、急に」

「カズヤのおかげで、私今、とっても楽しいもの」

「今回の件については、俺のわがままから始まったと思うんだけど」

「それでも、本当に、楽しいの」

 

その言葉と共に向けられた笑みが、夕焼けに映えて美しくて。

俺は、視線を逸らすことができなかった。

 

「……俺は、聖杯への願いの可能性を奪っちゃったかな、って思ってたんだけど」

「そんなことはないわ。確かに、聖杯へ願いを託す機会は失われてしまったけど、元々無理だろうとは思っていたし、それに……半分くらい、願いがかなったようなものだもの」

 

この状況が、半分くらい願いの叶った状況である、と。それが本心からなのか、お世辞なのかはわからない。そも、英雄の願いがこんなことで叶うとは思えないんだけど……それでも、そう思っていても。

何故か、その言葉を信じることができた。

 

「……だったら、良かったよ。俺なんかで役に立てたってなると、すっごくうれしい」

 

自然と、そんな言葉が漏れた。そして、続く言葉も。

 

「いつか、終わりが来ることではあるんだけどさ。それでも、最後の瞬間まで、一緒に楽しもう」

「あら、そんな約束をしてもいいのかしら?これは聖杯戦争、本当に何が起こるか分からないのよ?」

「だとしても……ううん、だからこそ、だよ。だからこそ、約束」

「そう。じゃあ……」

 

と、マルガが体を乗り出して、こちらへ手を伸ばす。ただ伸ばしたのではなく、小指だけを立てた、ちょっと特殊な形で。

 

「約束、してくれる?」

「もちろん」

 

その指の形は知っている。同じ形を作って伸ばし、小指同士を絡めた。合図もなく決まり文句を告げて、それから小指同士が離れるのが、ちょっと寂しく感じる。

 

「……ありがとね、マルガ」

 

今朝見た夢のことは、まだ忘れていないけど。それでも、もう気にならない。

 

「あら、なんでカズヤがお礼を言うのかしら?」

「なんとなく、言いたくなったから」

 

と、そういって。二人で顔を見合わせて、同時に吹きだして、一緒に笑う。声を出して、ちょっと目尻に涙がたまるくらい、しっかり笑った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

二人がそうしている間に観覧車は一周を終え、キャストに変な目で見られながら観覧車を降りる。閉園間近、最後にと乗ったためにこれ以上園内で何かできるはずもなく、つかず離れず、これまでのマタ・ハリが腕を組んでいた時と比べれば距離が開いた、しかし心的距離は縮まった二人が、そのまま道を行く。

 

既に日は沈んでいる。後はこのまま駅に向かい電車に乗って帰るだけなのだが、酷く遠いわけではないために、二人は歩いて帰るという選択肢を取った。

深い理由はない。ただ、まだ今日という日を終えたくなかっただけ。ギリギリまでその余韻に浸るために、なにか語らうわけでもなく、ただ歩いていた。

 

既に、語ることは終えた。一緒にいるだけで最大に幸福というわけではなく、しかし無言が苦しくないような、そんな心地の良い距離感。そろって抱くのは、明日以降への羨望。

 

男は、一日家でのんびりして、またどこかへ行こうと考える。

女は、生前得られなかった全てに感謝し、希望を抱いている。

 

さあ、次はどこに行こうか。体を動かしたいならボウリングとか?と。そう伝えようとしたところで……しかし、運命(Fate)はそれを許さなかった。

 

忘れてはならない。これは、日常ではない。

忘れてはならない。ここに、平和などない。

忘れてはならない。相手は、こちらの都合など考慮しない。

忘れてはならない。運命は、希望の欠片をこそ蹂躙する。

忘れてはならない。これは、ここは―――――――

 

 

 

 

 

 

 

「よう、お二人さん。サーヴァントとマスターであってるよな?」

 

 

 

 

 

 

 

今、行われているのは。人間と英霊の欲望が入り混じる、聖杯戦争なのだと。

 




biwanoshinの趣味やら書き物やらを以前から知っている人は、ご存じだったかもしれない。


biwanoshinは、ハッピーエンドを書く能力がないのだ、と。

















ちゃんとやらかした自覚はあります。申し訳ありません!でも実は最初からこの予定でした!ちゃんと最後には必死に頑張ってハッピーエンドにするから許して!


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作中にてとある魔術系統を扱いました。一番最初に決めていた主人公の性格的な設定をもとに調べたところ、それを使える原作のキャラ設定からいい感じにできるのではないかな、と感じたためです。


そして自分、Fate関連は「stay night(アニメ)」「UBW(アニメ)」「Zero(アニメ)」「プリヤ(アニメ、原作)」「EXTELLA」「Apocrypha(原作、アニメ)」「Fake」「事件簿」あたりしか見たり読んだりできていない立場の者です。一番最初の原作だけでもどうにかして入手して全ルートやりたいんですけどね。特に桜ルート。ルートがあるヒロイン三人の中では一番好きです。ですから最も欲を言えばR-18いえなんでもありません。


とまあ長くなりましたが要するに何を言いたいかと言いますと、ですね。



自分の知識不足が原因として、独自解釈のもとその要項を扱っております。お目こぼしいただけますと、幸いでございます。


考えてもいなかったイレギュラー。なぜマタ・ハリと共にいるのかを考えれば当然のことでありながら、しかし彼はそれを忘れていた。忘れたかった。

それ故に想定外。そしてそれ故に、彼はこの上なく冷静に、かつ瞬時に状況を判断する。

 

《マスター……いや、最悪だけどサーヴァント。武器は槍で敏捷はA。ランサーのサーヴァントで間違いない。行けるか賭けだけど……!》

 

異常なまでの判断速度。ランサーはまだ返事をまっており、マルガはその顔を驚愕に染めて振り返る最中。そんな速度で情報を整理しきった彼は、手袋の下の令呪を行使する!

 

「令呪を持って命じる!逃げるよ、マルガ!」

「え、ええ!」

 

本当に躊躇うことなく、その命令に二画の令呪を消費する。ランサーのステータス、その敏捷値はAであり、アサシンの敏捷値はEだ。いくらマスターとサーヴァント双方の考えが一致しているとはいえ、令呪一角で埋められる差ではない。最高の状態で二つ消費してギリギリ、その状態でマルガに抱えられてその場を離脱する。

 

「……返事もなく逃げやがった」

『冷静に判断するには時間が短すぎますね。みだりに出歩いているにしては優秀なマスターのようです』

 

そして。その鮮やかすぎる離脱にいっそ感心させられてしまったランサーはその場に残り、石を拾いながらマスターと念話を始める。

 

「しらを切るんじゃなく逃げ出した、ってのもそれなのかね」

『武器を見られている以上一般人であっても、と判断したのでしょう』

「なるほど、だとすれば確かに優秀なマスターだ。サーヴァントの方も警戒すべきかね」

『……おそらく、ステータスからしてアサシンのサーヴァントでしょう』

 

魔力込みで全て低いステータス。そこからクラスをアサシンだと判断したマスターは少しの間思考し、再び口を開く。

 

『アサシンで間違っていなければ、一度離脱して姿が見えなくなるのは危険ですね。時間を与えれば与えるほど、相手の手札を増やすことになるでしょう』

「暗殺者相手、ってんならそうなるわな。……んじゃ、このまま仕留めるってことでいいんだな?」

『はい、それで行きましょう。私もすぐに合流』

「やめとけ。アサシン相手にマスターが前に出るとかバカのやることだぞ」

『誰がバカですか!』

 

結構仲がいい気がする、この主従。

 

「それに、昨日セイバーとやり合った傷がまだ治りきってねぇんだろ?」

『敵がジークフリートでしたからね。……正直、まだ本調子ではありません』

「そらみろ。んな状態でアサシンの前に自分の体さらすなんざ、さあ殺してくれって言うようなもんだ。……逃げたアサシンの探索は任せた」

『仕方ありませんね……任されました。いざという時手を出せる位置に隠れています』

「ったく、おてんばなのか何なのか……」

 

自身も探索(ベルカナ)のルーンを小石に刻みつつそう言い、石の向かう先へ走る。

令呪二画を持ってブーストしたEランクの敏捷値。彼はそれを、素で超える。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「カズヤ、さっきので令呪を二画も」

「あの状況だと二画使わないと逃げられなかった。……今だって、確実に逃げられたわけじゃないけど」

 

マルガに抱えられて屋根から屋根へ飛びつつ、ポケットに手を突っ込んで礼装を二つ取り出す。次々と流れていく景色から現在地を特定しつつネックレスを首にかけ、短すぎるナイフを右手に握る。

 

「良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞いておきたい?」

「なら、悪い方からお願い。現状を把握しておきたいもの」

「ステータス、幸運以外が軒並み高い。大英雄レベルで間違いないと思う」

「確かに、悪い知らせねぇ。良い知らせは?」

「幸運は最低ランクだったから、つけ入る隙がないわけではない」

「さて、どうやって付け入ろうかしらね、そこに」

 

本当に、隙があるとすればそこだけどそこを付ける気がしない。そもそも幸運にたいして付け入る手段とはいったい何なのだろうか。

 

「ゴメン、状況が状況だから無神経に聞かせて。マルガの宝具はこの状況で効きそう?」

「…………」

 

少し答えたくなさそうにして。それでも、答えてくれた。

 

「使い方としては、1つ目に無関係な人を魅了して逃げ切るための盾にする」

「確かに逃げ切れそうだけど、お尋ね者になって詰みそうだなぁ」

「聖杯戦争のルール上、そうなっちゃうわよねぇ……」

 

二人そろって苦笑しつつのコメント。目撃者は消さなければならないが、関係ない人間を積極的に巻き込んでいくのはアウトだ。というわけで、これは却下。

 

「じゃあ二つ目。ランサーの方を魅了できれば、そのまま操り人形にできるわ」

「スゲェな、マルガ」

「ただ、それだけの間躍らせてくれるのかしらね?」

 

なるほど、踊りを見せてそれによって、という形なのか。しかし、うむ。何かあると悟れば、踊っている最中を狙うだろう。マルガのステータスでは槍を投げられて当たった瞬間終わりである。

踊りを見せる必要がある以上、アサシンらしく隠れて行うのも不可能だろう。なんだろう、結構詰んでるな。

 

「よし、方針を決めます」

「どうするの?」

「ひとまずは、このまま逃げる。で、人気のないところに出れたら思いっきり変装して家まで逃げよう。マルガのスキルなら、サーヴァントってのは隠して逃げられる」

 

家まで言ってしまえば結界でごまかせる。朝まで耐えられれば、礼装フル装備して逃げられるはず……!

 

「なるほど、確かにいい手段かもな」

「ッ、マルガ!」

 

と、気付かぬ間に背後まで来ていたランサー。その今にも蹴りぬかれようとしている足を見て、反射的に令呪を行使した。その魔力がマルガの体を無理矢理動かし、威力を殺す方向へ空中で移動させて……それでも空中だったため大した距離にならず、そのまま蹴り飛ばされる。落下地点を確認。空き地、周辺民家無し。しまった、逃げる方向を間違えた……!

 

「さ、これで令呪もなし。姿をさらした暗殺者の末路は決まっている。良い判断ではあったが、その思い切りの良さがあるのなら最初から令呪を三画使っておくべきだったな、坊主」

「そいつはどうも、ランサーさん」

 

そろって転がった後、マルガに抱えられていた都合でマルガより前で止まった。状況的にサーヴァント相手に生身をさらしてる状況なわけだけど、意味がないとわかった上でナイフを構え、一歩ずつ後ろへ下がる。

 

『どうするの、カズヤ?正直もう勝ち目は、』

『だとしても、やるしかない。無いってわかってもギリギリまで足掻くよ。……マルガとの別れがこんなのでたまるか』

 

声を出したかった。はっきり声に出して、そんな諦めるような真似をするなって言いたい。でも、そうはいかない。マルガはアサシン。今からやろうとしてることがバレるってのは、そのまま敗北につながる。

 

『踊りの準備、お願い』

『……了解、マスター』

 

マルガと合流、さらに一歩、二歩と前後位置を入れ替えていき……

 

「ま、もう手遅れだがな」

 

一瞬。本当に瞬きの間すらなく、槍を構えたランサーがそこにいた。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

蘇った記憶の中で、俺は魔術師として父さんから指導を受けていた。

何となく嫌で一般人として生きるって言ったんだけど、それでも……違うか。だからこそ、知っておかなきゃいけないことがあるって言って、その指導を受けていたんだ。

 

目標は、いざという時魔術師としてのスイッチをいれて自身の魔術を操ること。

スイッチは、普通ではありえない異常事態。又は意図的な切り替え。

 

魔術師をするわけじゃないのになんでこんなことを?と、俺は父さんに聞いた。父さんは苦笑いしながら俺の頭に手を置いて、「ちょっと特殊すぎるからな、我慢してくれ」って言っていた。その時の顔は魔術師の父さんの顔じゃなかったから、本当なんだな、って漠然と理解した。

 

そうして、俺はそれを学んだ。スイッチの切り替えを学んで、自分の魔術属性の魔術を二つだけできるようになって。基本魔術だけはまた折を見て教えるななんて言われてうへぇってして。

 

その後、その記憶を封じる直前にもう少しだけ教えてくれた。

 

「お前の魔術属性は、他の魔術師に知られたらホルマリン漬け確定だ」

「だから、もし仮に記憶が戻ったとしてもソレは極力使うんじゃない」

「もし仮に使わざるを得ない状況に陥ったら、命を捨てるか、相手を殺せ」

「むしろ一般人として生きる方がお前にとっては厳しい道な気もするが……父親として、お前の選択を尊重しよう」

 

そういって父さんは、記憶操作で俺の記憶を一部封印した。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

マルガをつき飛ばし、槍の先には代わりに俺が入った。思考だけが加速し、それでも異常なほどに早く迫る槍を見ながら、しかし一気に冷静になる。

『普通のことは冷静にならなくてもいい。が、異常事態にこそ冷静になれ』。それが俺の魔術を操る術だと言った父さんの言葉に、スイッチの入った俺は忠実だった。

 

魔力回路の起動。自傷のイメージでは遅すぎる。自殺のイメージでもなお遅い。故に、右手に握っていたナイフを左腕に突き刺す。

ランサーの顔が少しいぶかしげに歪んだ。それでも槍は一切減速しない。だが魔力回路の起動は間に合った。マルガより少し後ろにいた分、百分の一秒にも満たないだろうが時間を稼ぐこともできた。

ただの人間にはサーヴァントの前に立つことすら自殺行為だ。俺だって、千回やって999回なにもできずに殺される。でも、一回だけなら。全てがうまくいった場合においては。一度きりの切り札もある……!

 

Integral(面よ、実態を持ち立体へ変ぜよ)……」

 

呪文とはすなわち自己暗示。故に、今の知識で最も自分に分かりやすい形へ変更する。

己の影が平面から立体へ変わる。こちらへ向かっていた槍の穂先はその内側に取り込まれたが、構わず進んでくる。何かしようとしているとしてもそれを無視できると判断したのだろうか。確かに、人間のすること程度で英霊を傷つけることすら難しい。

正直この魔術属性、使ってると精神の暗黒面に引きずり込まれるし、これで引いてほしかったんだけど……!

 

Differential(立体よ、全てを巻き込み平面へ帰れ)!」

「何ッ!?」

 

続けての魔術行使。強化や治癒なんかの凡庸的なものを除けば、唯一出来る魔術。幽世の者にこそモロに通じるこの魔術属性、希少すぎて知ってる魔術がなかったからこそ俺のイメージだけで作ることが出来た名前も付けてない魔術。立体を平面へ潰すのではなく、立体から次元を一つ簒奪する。。勢いでランサーも突っ込んできてくれればベスト、武器だけでも奪うことが出来ればベター、一瞬でも引かせられたのならグッド!

それくらいの再び逃げるための時間稼ぎ程度を目的とした一撃は……止まり、槍を引いたランサーによっていともあっさり破られた。

 

「クソ……Integ」

「二度は喰わん」

 

喉元に、槍の穂先が突きつけられた。これ以上続ければ間違いなく突き破られる。そうと分かって、そしてその前に恐怖から言葉は止まる。

 

「褒めてやるよ、坊主。さっきのがもう一瞬遅かったら少なくとも槍は取られていた。オレ自身も危なかっただろうな」

「……そいつはどうも、ランサー。人類史に残る英雄サマにお褒めいただき恐悦至極、って言った方がいいか?」

「ハッ、いいね。この状況でそれだけ強がれるなら上出来だ」

 

獣のように獰猛な笑みを浮かべてそう言ってくるランサーは、この程度の軽口は乗ってくる程度らしい。英雄サマならもっとプライド高かったりしないかなって狙いだったんだけど……親しみやすそうなのが、この状況ではマイナスだ。

さてどうしたものか。笑みを浮かべてこちらを見ているけど、動きは全て把握されている。隠しようもなく影を使って攻撃したから、そっちも監視されているだろう。月が雲で隠れてしまえば把握されずに攻め込めるだろうが、しばらくはそれも望めない。

だったら礼装……ナイフは体に刺して回路の起動を促すためだけのもの。ブレスレット、こっちなら影をすこし込めてあるからうまく使えれば、マルガの踊りを見せる隙を作ることは、あるいは……

 

「ねえ、提案してもいいかしら、ランサーさん?」

 

と、そうして自分の手札を確認しているとマルガの方からランサーへ話しかける。

 

「ああ、どうしたよアサシン。なんか妙な動きを見せたらすぐ首をはねるぞ?」

「分かっているわ、そんなこと。私じゃ……マタ・ハリではこの状況を切り抜けることもできないですし」

「ちょっとアサシンさん!?」

 

しれっと真名を暴露されてしまい反応せざるを得ない。マルガ、何を考えて……

 

「そう言うわけで、1つ交渉なんだけれど」

 

と、そういった彼女は。今日来ていた服装のまま両手を広げて、その提案をする。

 

 

「私の脱落と引き換えに、私のマスターは見逃して下さらない?」

 

 

驚愕で、何も言えなくなった。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

召喚された時真っ先に思ったのは、随分と物好きなマスターだな、ということだった。

確かに、聖杯への願いはある。生前手に入れた価値の無い金銀宝石(ガラクタ)ではなく、お金がなくてもいいから好きな人と幸せな家庭を築きたい、という願いが。だから召喚対象となってもおかしくはないが、実力もなく、一発逆転を狙える技もなく、知名度もない。そんな自分を召喚するとはよっぽどの物好きだなと考えた。

 

その後視界がはれるまでに思ったのは、もしやそういうことが目的なのだろうか、ということだった。

そんなことのためにサーヴァントの召喚を行う魔術師がいるとは思えないけれど、自分を使って優勝を目指すよりは現実味がある。さてそうだったらどうしようか。相手に令呪がある以上こちらは抵抗することはできないだろう。だったらいっそこちらから行こうか。魔術師、即ち一般人よりもプライドも実力もある立場。であれば、人並み以上の欲望もあるだろう。そこに付け入り、スキルと宝具で魅了して、聖杯戦争が終わるまで現代を楽しませてもらう……なんてのもありかもしれない。

 

視界がはれてすぐに思ったのは、随分と可愛らしいマスターだな、ということだった。

顔だけを見れば14、5だといっても通じるだろう。しかし、その表情や目に見られる精神の成長度合いからすると、17くらい。そんな年で聖杯戦争へ参加するとは、よっぽどの事情でもあるのかもしれない。権力者のために身を粉にするのはこりごりだが、こんな可愛らしい男の子のためであれば、良いかもしれないな、なんて。誠実さを持っていそうなその表情と何か奥底に抱え込んでいそうなその瞳に、ふとそう思った。

 

言葉を交わして思ったのは、不思議な少年だな、ということだった。

意図的に私を召喚した以上魔術師なはずなのに、そしてなにか暗いものを抱えているのに、普通の少年にしか見えない。そして、親に強制されたことだから、と聖杯戦争の行く末にすら興味を持っていないと来た。瞳を覗き込んでも回答が変わらなかった以上、本音なのだろう。女性慣れしておらず、可愛らしい顔立ちの男の子で、魔術師らしさが存在しない。物好きなマスターでも性行為を狙ったマスターでもなかったけれど、特異なマスターであることは間違いない。現代を楽しませてくれるというし、適度にからかいながら楽しませてもらおう、なんてそう思った。

 

一緒に二度出かけて思ったのは、なるほどこういう少年なんだな、ということだった。

おそらく彼も、魔術師としての側面を持ち合わせている。ただ、それを切り替えるスイッチの存在とそもそもその側面のことを忘れているのだろう。どことなく、そんな違和感がある。しかし、それは別に今の彼が偽物であるというわけではないの。生前にも見たことがある、どちらも全く同じ人間のちょっと違う側面である、と言うだけのこと。普段はひょうきんものなのに仕事となれば血も涙もない冷酷な人間になる、なんて人もいた。180度違う側面を持っていたとしても、そのどちらもその人間だなんてのはよくある話だ。むしろ全く違う面の方が作っていたりするわけでは無かったりする。だとすれば今抱いている居心地の良さも偽物ではないな、なんて。そんなことを考えだした時点で、こうなるのは決まっていたのかもしれない。

 

カズヤと遊園地に来て思ったのは。一緒にまるで女の子のように走り回って思ったのは。一緒に昼食を取って思ったのは。観覧車に乗って、小指を絡めて思ったのは。彼のためなら死ぬことだってできる、ということだった。

積極的に死ぬつもりはない。でも、それでも。私はサーヴァントで、とっくに死んだ英霊(亡霊)で。カズヤは人間で、今を生きて、未来のある少年で。だとすれば、彼の命をつなぐために私の命を捨てるのは、何らおかしなことではない。今を生きる人間と過去を生きた英霊の命を等価に考えてはいけないだなんて、まるで騎士様みたいで自分でもおかしな話だとは思うけれど、そう思ってしまったのだから仕方ない。だって、どうしようもないのだ。それだけ大切で、名前を呼ぶと嬉しくなって、無言が苦しくなくて、その未来を祝福したい。

 

だって私は、私の願いは―――

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「マルガ、何、言って……」

 

言葉は、あまり形になってくれなかった。

だってそれは、その言葉は、あまりにも予想外だったから。ないはずのものだったから。

 

「へぇ、なるほどな。思ったより忠誠心のあるサーヴァントだった、ってわけだ」

 

しかし、そんな俺を気にする者がいるはずもなく。ランサーは槍を喉元につきつけたまま、マルガへ言葉を投げる。

 

「あら、そんなに以外かしら?」

「ああ、正直意外だね。アンタ、そんな人生送ってきたタマじゃねえだろ」

「まあ確かに、その通りね。でも、彼に対してはそれだけの信頼を感じているのよ」

「へぇ、この小僧が、ね……」

 

カラン、と。ナイフが手から滑り落ちる。ランサーはそんな俺を見て槍をどけて、マルガの方へ歩き出す。

止めなきゃいけない。なのに、俺の体は動かない。マルガの方を見たまま視線は動かせず、膝に力が入らなくて地面についた。なぜこの状況で体が動かないのか。なんで俺は、彼女のあんな顔を見て―――悲しそうに、それでもうれしそうに笑う彼女を見て、体を動かすことすらできないのか。

 

「まあ、そんなことはいい。テメエの提案は自分の命と引き換えにマスターを見逃すこと、でいいんだな?」

「ええ、それで。そちらのマスターさんにもお願いしたいのだけれど」

「ウチのマスターはそれでいいっつってるよ。新しくサーヴァントと契約したりして敵対したら別だけどな」

 

新しいサーヴァントと契約、と言われても。そんな発想を頭が受け入れない。そもそもこの状況を受け入れていないのだから、それも当然なのだろうが。

 

「その時は、仕方ないわね。でも、そうじゃなかったら見逃してくださるの?」

「そうするつもりっぽいな。まあ俺も、その時はともかくそうでなければ令呪使われるまでは抵抗してやる」

「あら太っ腹、男前なのね。じゃあ欲張ってアフターサービスもお願いしちゃおうかしら?」

(したた)かで抜け目のない女は嫌いじゃねえが、あんまり欲張るといいことねえぞ?」

「一応、ケルトの流儀に習ってみたつもりだったのだけれど、違ったかしら?」

「ハッ、確かにウチは色んな欲が強いやつばっかりだったな。そう考えてみれば、そんな提案まだ可愛い方か」

 

そう言うと、ランサーは槍を構える。俺に向けてきたときとはまるで違う、介入できる隙など全く見えない姿勢。一切容赦のない殺戮準備。そこまで見てようやく、体に力が入った。膝に手を当て、さらに力を込めて立ち上がろうと

 

「カズヤ」

 

その瞬間、狙ったように。マルガが、俺の名前を呼んで。

 

「私、とっても楽しかった。聖杯へ託す願いも半分以上叶ったようなものだったから」

 

と、そういって。こんな場面だというのに、色香を纏って笑う。そこでようやくここまで体が動かなかったのは彼女のスキルによるものだと気づいた。

 

「だから、お願い。太陽はいつか、沈むもの。折り合いを付けて、笑って―――」

 

魔術師としてのスイッチを入れている俺が感情に支配されるはずもなかった、すぐに気づくべき簡単な事柄であった。しかしそうとわかった時にはもう、俺の体が言うことを聞くはずもなくて。

 

「長生きしてね。大好きよ、カズヤ」

 

彼女の心臓が槍に貫かれるのを、ただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

サーヴァントの消滅が始まった。

少年は慟哭した。金色(こんじき)の粒子となって消えゆくサーヴァントを見て、ほんの数日の日々を思い出して、ただ何もできずに涙を流す。

少女は破顔した。少年を悲しませてしまったことを悲しんで、同時に自分の死を悲しんでくれる人がいることを喜んで。だからどちらでもない表情へ破顔する。

槍兵は敬意を払う。目の前にいるのは弱者だ。己のように戦場を駆けた人生もなく、怪物を相手取った逸話もない。だがそれでも、最後の覚悟は気高い。戦士であっても中々手に入れられないものだ。

 

サーヴァントは消滅した。

少年は立ち上がった。魅了は解け、体の自由は完全に戻っている。ナイフを持ち上げ、再び腕につき立てようとしたところで、少女の最期の言葉を思い出す。たったそれだけで、もう何もできない。

槍兵は何もしない。女は自らの命と引き換えに少年の助命を請い、マスターも何も言ってこない。であればせめて、落ち着いたところで己を殺したくはないのかと問う必要があるだろうから。アフターサービスの一環、明日を生きていくために乗り越えるべき壁として。

 

繋がりは断たれた。

少年の手から、最後の痕跡が消えうせた。本当に全て終わってしまったのだと言われて、再び膝をつく。ナイフを落とし、滂沱の如く涙を流し、夜空へ向けて咆哮する。

 

全てが終わった。

少年の戦争は、これにて終結。

 



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これにて、本編はおしまい。

さあ、クソッタレな後日談を始めよう。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「……また、懐かしい夢だなぁ」

 

ベッドから体を起こし、無意識のうちにそう呟く。

枕もとにおいてある端末の電源を入れて時間を確認。寝坊でもなく早起きでもない時間帯。落ち着いて着替え諸々をすませる方針で決定。

と、ベッドから降りて洗面所へ向かっているとどうしてもあの時のことを思い出してしまう。あんな夢を見たからだろうか。

 

ひとしきり泣いて泣いて泣き尽くした後、立ち上がった俺にランサーはどうするのか、と声をかけてきた。その姿を見て殺意がわかないではなかったが、無言で首を振った。生きてほしいと言われてしまったのだ。それを早速反故にするわけにはいかない。

そう伝えたところで、ランサーのマスターも現れた。聖杯はマスターの脱落者が出た際、優先的に脱落したマスターへ再度令呪を配布する。故に、セルフギアス・スクロールでその行動を制限することになる。聖杯戦争からの完全脱落と危害を加えないという制約。

まあもし仮に令呪を配布されたとしても参加するつもりはなかったので承諾。向こうが出してきた条件、危害を加えない、『魔術属性・虚数』に関する他言は一切しない、という条件につられた面もある。珍しすぎる魔術属性故にホルマリン漬けの危険がある身としては大変ありがたかった。

 

その契約をしながら少しでも気を紛らわせるために雑談をしていると、ランサーが自身のマスターを弄る目的でとあるへまについて話してくれた。なんでも、日本に来て早々に財布を落としてしまい樹の根をかじりながら野宿をしているのだとか。樹の根って、と思わずにいられなかった俺は家の前まで来てもらいマルガと買ってきた多めの食材や飲むか分からなかったけど残りのお酒なんかを持ち出し、鞄に入れて渡した。相手のマスターさんが中身を見た後反射的に直角に腰を曲げてきたのには若干引いた。そう言えばとコンビニで飛行機諸々の代金だけ引いて親から送られてきたお金の残りも引き出して渡したところまさかのジャパニーズDO☆GE☆ZAまで披露されてしまった。コンビニから離れて渡してよかったと心から思ったね。なおランサーは終始そんなマスターの様子を笑っていた。

 

そんなやり取りの後町を出てロンドンへ向かうために飛行場へ向かったところ、飛行場へついたあたりで聖杯戦争は終結したっぽかった。勝者が出たのか全員敗者となったのかはわからないけれど、まあそれなりの爪後は残ったらしい。ランサー陣営がどうなったのか、そもそも俺が出会っていない残りの陣営がどうなったのか等々もう謎しかなかったわけなんだけど、まあどうでもいいかと投げる。もし仮に聖杯が完成していたのなら、なんて未練はあるけれど、確実に死んでいただろうからと無理矢理に無視した。

 

ロンドン時計塔にきて真っ先にしたのは、父さんの研究室的なところにいって土下座をすることだった。事故が起こったら兄貴の代わりのスペアをするという条件こそあったものの魔術師の家系としてはありえないわがままを言ったのは事実なのだ。それを認めてくれて一般人として生きてくことを許してくれた。その為に必要だろうからといざってときに自分の魔術を制御する術を与えて、その記憶を封印してくれた。今回に至ってはその魔術属性を消すか書き換えるために聖杯戦争の参加枠の一つまで渡してくれた。にも関わらず、魔術を教えてくれである。呆れたようにため息を一つつかれて、目的を聞かれて、答えたら許してくれた。その後、目的達成のためと属性ゆえの身の安全保障のためにアニムスフィア家への養子入りの話までつけてくれた。本当に、感謝してもしきれない。これまでも感謝はしてきたが、マジで足を向けて寝られない人になるとは思ってもいなかった。

 

アニムスフィア家としてもサーヴァントの使役経験のある人間は価値があったらしく、子供として扱われたことは一度たりともなかったものの悪い扱いはされなかった。そちらの目的が目的故に毎日それなりに厳しい訓練的なものもあったし虚数属性の方も鍛錬させられまくったけれど、まあ目的への一番安全な近道だ。そんな意識もあったために三十路になるまでの間結構頑張ることができた。

 

そしてつい先日、そのプロジェクトが始まった。周りが若い子供たちばかりなところでレイシフトメンバーに混ざっていたのはとっても複雑な気分であったけど、まあ身内(仮)ということもあってそれなりの立場としてメンバーに入っており、コフィンに入ってからの爆発である。最も力を入れて身に着けた自動防御影のおかげで破壊する形ではあるもののコフィンを脱出でき、にもかかわらずそのままレイシフト。そこからはもう落ち着く間もなく特異点を走り回り、スケルトンから走って逃げ回り、真っ黒なサーヴァントに目を付けられて陰で身を守りながら逃げ回り、キャスターになったランサーに出会って反射的に逃げ回り、とかしながら三十路にはつらい運動をした末に帰還することができた。

 

そして数日の間情報整理や設備の補修などを行う期間ほぼ休日として過ごしてからの今日である。改めてろくな日々を送っていないことが分かった。と言うか特異点でしたことってもしかして影で身を守ることと逃げ回ることしかしていないのではないだろうか。年下の藤丸くんとかマシュちゃんとかはかなり頑張っていたのに、情けない限りである。

 

「まあ、こんなもんかな」

 

顔を洗い、髪を整えて、この歳で着るにはちょっと恥ずかしい制服を着て。そうして準備を終えてから自室を出る。今日は予定が決められていたはずなのでひとまず、トレーニングルームではなく食堂へ。朝食を済ませていればその間にロマンかダ・ヴィンチちゃんがくるだろう。

 

「あ、おはようございます和也さん」

「うん?……ああ、おはよう藤丸君にマシュちゃん。今日も元気そうで何よりだ」

 

後ろから挨拶をされて振り向くと並んで歩く二人が。魔術師初心者とサーヴァント初心者の二人だからこそなのか、まだ会って短いはずなのに仲がよい。仲良きことは素晴らしきかな。

 

「フォーウ!」

「ああ、ごめんごめん。フォウもおはよう」

「フォウ!」

 

と、マシュちゃんの肩に乗っていた謎生物フォウから「俺を忘れるな」と言わんばかりの抗議の声があげられたので、別個で挨拶を返す。ずっと姿を見なかった謎生物なのに藤丸君が来てからよく見るようになった気がするから不思議なものだ。まあ今でも触れようとすると逃げられるのだけど。おっさんがダメなのだろうか……

 

「和也さんも今から朝食ですか?」

「も、ってことは二人もこれから?」

「はい。先輩と朝のトレーニングを終えたので朝食に、と」

「……若い子は元気だなぁ」

 

麻早起きしてトレーニングをするのはそろそろ難しくなってきた。体が付いて来てくれないのだ、困ったことに。

 

「和也さんも朝食後どうですか?一休みしてから魔術のことか教えてほしいんですけど……まだこの制服の機能も十分に扱えてないですから」

「そう言われると俺なんかで良ければ、って言いたくなるんだけどね。二人とも、今日は予定が決められてるの忘れてない?」

 

そう言うと二人は一瞬悩んだのち、ハッと思い出したようなりアクションを取る。彼らに直接かかわることではないけれど、今後の問題にはなるのだから覚えておいてほしい。そう言うところも教えていくべきなのかな?

……そう言うところはできるならキャスターにやっておいてほしいんだけど、彼実戦で学べって言い出しそうだよなぁ。危険からは守ってくれるだろうけど、ちょっと荒そうなイメージだ。実際マシュちゃんの宝具の件では荒っぽかった。

 

「「和也さんのサーヴァント召喚!」」

「その通り」

 

 

 

 =☆=

 

 

 

『こっちの準備は完了した。緊急事態のためキャスターも待機済み。いつでもオッケーだよ、和也』

「了解、ロマン。報酬の件も受諾してくれた、ってことでいいのかな?」

『ああ。ある英霊を召喚するためだけの触媒の入手とフェイトを一回使う権利だろう?大丈夫、最悪の場合でも全て終われば僕のツテでなんとかなるよ』

「なら―――マスター登録No.1、御影和也。英霊召喚システム・フェイトの起動を申請します」

 

一度はアニムスフィアになった苗字も、しばらく前に元の苗字へ戻した。庇護下から外れたわけではなく、はっきりと後継者関連から身を引いているとアピールするために。湯集な実子がいるのに養子を後継者にする理由など万に一つも存在しないが、俺の持っている虚数属性というものはその一つの可能性を考えさせてしまったらしい。どれだけ焦っていたのだろうか、あの辺の人たちは。

 

『申請者の権限を確認、申請を受諾。英霊召喚システム・フェイトを起動します』

 

無機質な声と共に召喚システムが起動。右手の甲に意味もなく刻まれていた令呪が反応して魔力の線が繋がる。召喚そのものはシステムが自動的に行ってくれるから、後俺がやらなければならないのは、英霊を呼びかけることだけだ。

ネックレスに触れ、念のため身に着けたナイフを確認して、万全の態勢で右腕をつきだす。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が恩師アニムスフィア」

 

呪文を唱えながらスムーズに魔力回路を起動できているのを感じ、成長を実感した。あの頃は自傷のイメージをしないと起動できなかったのだから、俺にとってはこれだけでも大きな一歩である、

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

俺の魔力だけで段々と増してきた光に向けて天井から極彩色に輝く石が投入される。その石に込められた無色の魔力もまたフェイトを動かす燃料として取り込まれて、これまでとは比べ物にならないほどに輝きだす。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

懐かしい、どこかへとつながる感覚。改めて、これからサーヴァントと契約するんだな、と実感した。これから召喚するのは人理を救うため、強大な敵と戦う戦士だ。ということは……いや、考えるな。システムによってとりおこなわれるとはいえ、英霊召喚の最中に他所事を考えるのは危険すぎる。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、人理の行く末は我らが覚悟に。カルデアの寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ」

 

今にして思えば、なんて尊大な呪文なのだろうか。まるでサーヴァントとマスターが対等な関係であるかのようだ。彼らは俺達なんかよりよっぽどできた人間であるというのに。

 

「誓いを此処に。我は常世全ての善となるもの、我は常世全ての悪を敷く者」

 

さあ、唱えろ。最後の一言を。願いのために我が身を捨て、死の香る戦場へ向かう宣言を。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、人理の防人よ――ッ!」

 

瞬間、視認できるほどに高められていた魔力が1点に集まる。それと同時に視界も光に満たされるが、目を閉じてはいけない。どんな英霊が召喚されたのかは確認しなければならないし、危険な反英霊であったらすぐに召喚室から退避して閉じ込め、霊基変換する必要がある。

 

と、そう気を張っていたら。ふと、甘い香りが漂ってきた。どこかで嗅いだ覚えがあるな、なんて思った時にはもう、体は意識から離れて動き出した。

 

「あっ、おいミカゲ!?」

 

キャスターの声は聞こえたけど、それくらいで体は止まらない。間違いないのだ。十年以上たっているが、それでもこの香りを……この花のような甘い香りを忘れるものか。

召喚陣へ踏み込み、そのまま中央へ向かう。光の中に入る形になって最初のうちは視界が最悪だったが眼球へ魔力を回しどうにか視界を確保する。

 

足を進める。その先にいたのは――――――

 

「あら、マスターの方が自分から来るだなんて」

「ごめん……どうしても、我慢できなくて」

 

姿を見て、声を聞いて。確信へと変わった瞬間涙がこぼれそうになったが、必死に耐える。唐突に自分を召喚した初対面の相手が涙を流している、だなんて気持ち悪い光景にもほどがある。状況が状況故に藤丸君くらいの年齢なら大丈夫なのかもしれないけど、残念ながらこちらは三十路だ。許されることではないだろう。

 

「それに、君にしてみたら、今から俺が言うことは意味不明だと思う。全く心当たりがなくて、初対面の相手がわけわからないことを言ってるだけかもしれない。でも、俺は、」

 

それでも、涙は我慢できたが、言葉は我慢できなかった。涙を無理に我慢しているからか言葉が変にとぎれとぎれだけど、それでも、はっきり言わなきゃいけない。この時のためだけに、俺は魔術の世界に入ったんだから。

 

 

「俺、は」

 

一々どこかで召喚された記憶なんて、英霊側に残っているわけがない。座へ情報として保存されることはあるかもしれないけど、たったあれだけの期間が、何も与えられなかった俺の行動が、覚えられているわけがないと。

 

「あら……もしかして、カズヤ?」

 

だから、期待していなかったから。俺の名前が呼ばれた瞬間、もう涙をこらえることはできなかった。

 

「なんで、覚えて」

「……不思議ね。私にも、なんでなのか分からない。たった数日のことだったけど、これまでで一番楽しい時間だったからかしら」

 

そう言いながら、マルガは涙を流す俺を抱きしめてくれた。力が入らなくなって膝から崩れて、一緒にしゃがんでくれたマルガの顔が俺の顔の横に来る。

 

「あれから何年たったのか分からない。でも……大きく、カッコよくなった。もう可愛らしいマスターだなんて、言えないわね」

「マルガ、俺、あれから、」

「ええ……何も知らないけど、頑張ってくれたのは分かるわ。本当に、頑張ったのね」

 

もしも、マルガが覚えていたら、なんて考えなかったわけではない。未練がましく、何度でも考えた。だからいくらでも話したいことがあったはずなのに、何一つ口をついてこない。嗚咽に邪魔されて、マルガの涙声が聞こえてきて、何よりも間違いなくそこにいることが体温で分かったから。マルガの腕が俺の背に回されているように抱きしめ返すと、柔らかさと温かさが帰ってくる。固い人形でもなく、冷たい死体でもなく、カルデアによって半受肉されて間違いなくそこにいる。

大切にしたいと思った人がそこにいて、また名前を呼べることがうれしくて、無言でこうしているだけでも心が満たされて、再び共に過ごす日常が輝いて見える。

 

それでも、これだけは言わなくちゃいけない。絶対にもう一度あって伝えるのだと決めていたことと、マルガが覚えてくれているとわかって改めて伝えたくなったことの2つを。

 

 

 

「マルガ、あの時はありがとう。あの日々と、あの最後があったおかげで、今、人間らしく生きてる。―――――――大好きです」

「カズヤ、あの数日間をありがとう。生前得られなかった宝物をくれて、こうして別の場所でも覚えてられて、再会できて、とっても幸せ。――――――大好きよ」

 

 

 

 =☆=

 

 

 

これにて、彼らの物語はおしまいだ。実に自分本位な終わりを迎えたものだろう。

確かに、一度は触媒なしの相性召喚で召喚された身なのだから、同じことを行って同じ現象が起こることもあるだろう。そうはいっても、他の候補もいくらでもいた。その中からマタ・ハリを呼ぶなんて、ご都合主義と言うほかないだろう。

 

それだけではない。そもそも彼が聖杯戦争後に送った人生そのものが、本来ならありえないようなご都合展開だというほかない。あまりにも、彼らにとって都合のいい点が重なり過ぎている。見世物としては二流三流どころではない低さだろう。

 

だが、だからこそ。『物語』としては価値がないが、『人生』としては大きな価値を持つ。

 

女は、太陽はいつか沈むものだ、と言った。そして男は、太陽を再び昇らせて見せた。太陽はいずれ沈むのが道理だというのならば、再び昇るのもまた道理だろう。そんな(さま)をただの人間が見ることが出来た人生なのだ。価値がないわけがない。

 

だからこそ、この言葉を送って終わりにしよう。

 

ハッピーエンド、と。

 




前話で完結だと、誰が言った。

これでこの作品は完結でございます。全話で完結だっと思った方々、申し訳ありませんでした。でもこんな感じの終わりにすることは結構最初の段階で決まっていて、その上で読者の皆様を一瞬だませるのでは?なんて考えも最初のころにあったのでどうか許してください。ほら、サプライズって大切だって言うし、読者を驚かせることは物書きとしては重要なことだって・・・

それに、あれで終わりだったら前々から言っていたハッピーエンドを目指すってのがウソになってしまいます。さすがにあの終わりをハッピーエンドだなんて口が裂けても言うことはできません。や、自分の趣味に極振りしたらあれで終わりにするんですけどね。そんなんじゃダメだな、ってことで書きだした作品です。ご都合主義とでもなんとでも言え!どうせやるなら見えっ見えのクッサイ展開で終わらせてやるのだってかやったのだ!

それともっと単純な理由として、あれで終わりだとしたら原作名FGOじゃダメでしょう。FGO要素がマタ・ハリさんしかいません。タグで十分です。



コホン、まあそんな話は置いておきまして。せっかくの完結作品で、短編とはいえbiwanoshin初の完結作品となりますから完結記念裏話でも。スッキリ終わらせることが出来たのだからこのままスッキリ終わるべきなのかもしれませんが、作者のわがままとして許してくださいませ。ブラウザバックするという手段もありますし。

そもそもこの作品のアイデアが思いついたのはFGOプレイ中のことです。スキルレベルをおまけ要素と言い放ちあまりの運のなさからレア鯖も全然引けない我がカルデアでは手持ちサーヴァント全員がレベルマになっています。星三以下は全員持っていてその状態なので、当然マタハリさんもレベルマです。
そして、いくら低レアであったとしても、そしてそれ以上に自分のようなヘタクソな低能マスターであったとしても、レベルマにすればイベントクエストだったり普段の曜日クエストは(ターン数はともかく)クリアすることが出来ます。なので周回パーティポチポチに飽きると星三以下だけで編成して遊んだりしています。そしてその際不慮の事故でマタ・ハリさんが倒れまして(オイ)。その時の消滅台詞の「太陽は、いつか沈むものね……」を聞いて「沈んだらまた昇るのかな?」とかいうクソみたいな発想が大元となっています。……我ながら下らなくてびっくりしてしまいますね。
まあその結果、「太陽はいつか沈むもの」「太陽はいつか再び昇るもの」という二つの意味合いを持たせて、本作品のタイトル「太陽は、いつか―――」となり、書き始めることとなりました。

その後、「さあ書くぜ!でも長編は無理だから短編でスッキリ行こう!最後はご都合主義で力技!」と意志を固め、プロットとして簡単な流れを作成しました。内容として

1:サーヴァント召喚。乗り気ではない
2:サーヴァントと遊ぼう、のコーナー
3:サーヴァントと遊園地、のコーナー
4:遊園地の帰りにサーヴァントと遭遇、敗退、消滅
5:「太陽は、いつかしずむもの」発言を入れる
6:時間がたちカルデアで再会。
7:「太陽はいつかまた昇るもの」というワードを入れる
8:END

以上です。自分で書いていて「なんであの時の俺もっと考えなかった―!!!」とキレそうになりながら書きました。あの時の自分を殴り飛ばしたくなりますね。この時は敵サーヴァントアニキとすら決まってませんでしたし。アニキが登場した話を書くとき、「誰にする……誰にすれば上手いことやってくれるんだ……」って悩みました。
そして、こんなプロットで書いたにしては割とまともな作品になったんじゃないかな、なんて思います。口が裂けても良作だとは言えませんが、biwanoshinの実力以上の文章を書くことが出来た気がしますし、Fate特有の別離とFGOだからできる再会、その後の未来への期待なんかも表現出来た方なんじゃないかな、って。……石が飛んできそうな発言だけどもう気にしない。簡潔できてうれしいんだもの!今日はバイトが終わったら酒でも飲もうっと!



さて、というわけで。改めましてこの作品はこれで完結です。9話っていう半端な数字ですけど、10話にしようとしたら蛇足すぎる話が前話と今話の間に入ったので、「これはねえよ」ってことでやめにしました。あの別離からこの再会の間に無駄なものを挟むのは、さすがにはばかられましたし。
この先二人がどのように生きていくのかは、もう自分にも分かりません。人理修復のための戦闘力として召喚を行ったのに、戦闘能力の無いサーヴァントを召喚してしまったカルデアはどのようにして特異点を修復していくのか。謎に満ちていますねぇ……諜報部隊かな?まあ分かりません。何か思いついたらifストーリー的な短編を投稿するかもしれませんが、だとしてもそれはifストーリー。皆様方の中で彼らが生きて、彼らの物語が出来上がっていったのなら、それ以上の幸福はありません。
この作品を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


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外伝・最も穢れ無き物語

前々から書きたかった外伝をようやく書き上げられました。
いやー、長かった・・・というか書くのにかかった期間が長すぎて最後無理矢理駆け足になった感もある。

でも御免なさい、本編と違って書きたいなって思った者を意味もなく書き殴っただけなので、本編以上に考えなしです。
さて、それでは一つだけ注意事項。


この外伝では、終局特異点に関するネタバレを超多大に含んでおります。
個人的に終局特異点はしっかりゲームで楽しんでほしいです。だって素晴らしいんだもの、あれ。
少なくともこのお話では終局特異点を楽しめるような書き方はできておらず、というかゲームで終局特異点を経験しているとわかるから楽しめるような感じです。
というわけですので、その前提の下、自己責任で読んでください。


前に語ったのは、一つの歴史だ。正史ではなく、口が裂けても素晴らしい物語とは言えない、一つの物語。二人のシリーズ、それにサブタイトルを付けるのであれば、『最も美しい物語』だ。一人の人間と一人の英霊。幸せを知らず、愛を知らずに生きた二人が出会い、人に向ける愛を知り、人から向けられる愛を知り、そして他の全てを置いてけぼりにしてでも幸せをつかんだ二人。全てを得るのではなくただ一つを手に入れたからこそ、それは美しい物語なのだ。

 

さて、ではこれから語る物語は何だというのか。

 

それは、ifのifの物語だ。

それは、決して正しくはない物語だ。

それは、二人の獣の物語だ。

そしてそれは、愛に狂わない物語だ。

 

だからこそ、サブタイトルを付けるのであれば、そう……

 

『最も穢れ無き物語』だ。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

大好きだといって、彼女は死んでいった。

目の前で、心臓を貫かれた。

 

戦いの果てに死んだのではない。不意を打たれ卑怯な手で殺されたのではない。ただ、俺を生き残らせるために彼女が死んだ。

 

俺が力不足だから、彼女が死んでしまった。

俺が何もできないから、彼女の命で生き残ることになった。

俺には何の価値もないのに、彼女の未来を対価としてしまった。

 

死んだ、死んだ、死んだ、死んだ。死んでしまった。殺されてしまった。

なぜそうなった。ああだから、俺が力不足だったからだ。俺が力不足だったから、目の前にいるランサーへ対抗する手段がなかったから、逃げ切る手段がなかったから、だからこうなってしまった。

 

力が欲しい。力をよこせ。代償に俺の全てをくれてやってもいい。俺の全てを消し飛ばしてもいい。ああそうだ、だったらいっそ、虚数魔術を。心の闇を。自分すら滅ぼしうるくらい開放して、うち滅ぼしにかかれば、可能性があるのではないか……こんな世界に価値はないのだからなんでもしてやると、そう考えたとき。内側から声が聞こえた。

 

『そうだ、人類に価値はない。終わりの定まった生命に意味は無く、そのような生涯は意味がない』

 

その言葉に、俺は心からの同意を示した。

だってこの命にオワリが定まっていなければ、彼女が対価となることもなかったのだから。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

「何だってんだ、これは……ッ!」

 

ランサーは目の前に現れたそれに、そんな言葉を紡ぐことしかできない。当然だろう。一つの神話を駆け抜けた彼ですら見たことのないような存在が目の前にいるのだから。

 

それを言い現わすのなら、肉の柱である。目玉が大量にくっついている肉の柱。ただそれだけであれば、彼が恐れることはなかった。クランの猛犬、クー・フーリン。彼の持つ武勇は、それほどのものである。

しかしそんな彼も正体不明のそれから躊躇うことなく距離を置く。少なくとも一人で相対したのなら負けるのは間違いないと、その結果マスターも死ぬと分かっていたがために、戦士としての彼はそれを良しとしなかった。

 

「七十二柱の魔神が一柱。序列七十。セーレ。宝を発掘し、届け征く者。されど汝へ与えるものはない。ただ絶望し、ただ奪われ、ただ死にゆくがよい……!」

 

瞬間、柱中の目が見開かれる。何が来るのかはわからない。だが間違いなく何かをしようとしている。そうとわかった時にはもう駆けだしている。マスターを抱え上げその俊足をもって駆ける。

あれを放置すれば、間違いなく今を生きる者たちへ多大なる被害が及ぶ。だがしかし、自分が一人で挑んだとしても変わらない。ならば少しでも勝率を増やすために、マスターを避難させる。しかる後に他のサーヴァントと協力体制を敷き、そしてあれを―――

 

「焼却式 セーレ」

 

されど、魔神は容赦なく。その背へ焔を放つ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「無事ですか、ランサー」

「ああ、生きてるぜマスター。無事とは……ちょっと言いづらいな」

 

躊躇うことなく放たれた暗黒のナニカ。ランサーはそれに染められていく空間を器用に避け、その俊足を持って逃げ切った。しかし代償が何もなかったわけではなく、そのまま戦線へ復帰するのは難しいだろう。

 

「見せてください、ランサー。治療します」

「わり、頼む」

 

肉の柱から視線を逸らさないまま患部を見せ、バゼットはそこへ治療魔術を施す。どれだけ効果があるか分からないが、いざとなれば令呪で回復させるだろう。

 

「それで、ランサー。あれ(・・)はなんですか?」

「はっきりとはわからねえが、間違いなく世界にとって良くないものだ」

「良くないもの……」

「オレたち英雄が何人も集まって倒すべきもの、って言った方が分かりやすいか」

 

ケルトの大英雄クー・フーリンをして『何人もの英雄』と言わせるほどのもの。なぜそんなものが現れたのか、全く状況がつかめない。それほどの魔術を継承している家だったのだろうか……

 

「なあ、そこのお二方。あれが何なのか、知ってるのか?」

 

と、そろって注意がそれていたところに一人の男が現れた。注意がそれていたこともあり背にマスターをかばうと、その男の方が慌てたように両手を上げる。

 

「ちょい待った、さすがに今やり合う気はない。あんなのが現れちゃ、聖杯戦争も中断だろう」

「ま、確かにそうなんだがな。こっちはマスターが晒されてるのにそっちはサーヴァントだけ、クラスも不明だ。警戒くらいするだろうさ」

「ふむ、なるほどその通り。しっかしどうしたもんかな……」

 

両手を上げたままどう説得したものかと考える。目をつむり、しばらく思考した後に。

 

「クラスはアーチャー、真名はアーラシュ・カマンガーだ。これで足りるか?」

「へぇ、ペルシャの大英雄か。確かに名前としては信用できる」

 

アーラシュ・カマンガー。アーラシュ・ザ・アーチャー。その身を犠牲として戦争を終わらせた英雄。確かにその名前であれば、この状況を乗り越えようとしていると言われても信用できる。

 

「信用してもらえたんならよかった。で、あれは何だ?」

「大したことは分かってねえが、アサシンのマスターがああなった」

「アサシンの……ってことは、あれはアサシンの仕込みか?」

「いや、それはないだろう。間違いなくアサシンは殺したし……あの最後でまだあがきを続けるとは思えねえ」

 

勿論、それはランサーの感覚に過ぎない。人間ではありえない何かが発生していることだけは間違いない以上、信用するのは難しいのだが、それでも。

 

「まあ、そう言うならそうなんだろうな」

 

アーチャーはそれを信じた。自らの目で目の前の相手の言うことであれば信用できると判断して、その前提で話を進めていく。

 

「だとすれば、原因として考えられるのはマスター方か、他のサーヴァントってことになるんだが」

「マスターの方、ね……」

「何か心当たりがあるのか?」

「普通じゃない魔術は使っていた。あれは何なんだ?」

 

サーヴァントである自分相手でも十分以上の効果を出していたであろうそれのことを思いだし、原因がそこにあるのではないかと自らのマスターへ問う。問われたバゼットは少し考えてから。

 

「あれは虚数魔術……極めて珍しい魔術属性・虚数によるものです」

『だとすれば、それが原因ということはなさそうですね』

 

割り込むように、虚空から女性の声が。当然ながらランサー陣営は警戒の色を示した。

 

『唐突に失礼しました。アーチャーのマスター、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアです』

「ユグドミレニアの。貴女も聖杯戦争へ参加していたのですね」

『姿も見せない無礼、お許しください』

「いえ、お構いなく。そちらの事情については存じていますので」

 

お互い最低限の会話だけで良しとし、先ほどの話を再開させる。

 

「虚数魔術は未だに謎多い魔術属性ですが、あのような変性を起こすものではない……はずです」

「なんだ、自信なさげじゃねえか」

「実際、自信はありませんから。あれはあまりにも特殊すぎる」

 

そもそも、サーヴァントを十二分に殺しうる魔術というもの自体が特殊であり。観測不能な虚数という属性であり。そういう観点で見れば、おかしな存在への変性もなくはない‥…のかもしれない。そんな意味を含めての曖昧な表現。

 

「だとすれば、現状それはないと考えて進めるのが正解かな?」

「だろうな。はっきりわからないものをいつまでも相手にし続ける意味は薄い」

 

分からないのであれば、分からないまま相手にするしかない。戦乱を生きた二人の英霊は躊躇いなくそう結論付け、戦士としての顔をもつバゼットと魔術師であるフィオレもそれに従った。

 

「とすれば他のサーヴァントによる介入だが、アーチャー。そっちで関わりのある陣営はどこだ?」

「ライダーとバーサーカーだ」

「その中に今回のことに関わっていそうなのは?」

「バーサーカーはもう脱落した。ライダーは間違いなくこういうことをするタイプじゃない。そっちはどうだ?」

「アサシンの他にはセイバーとやり合ったが、そのまま倒した。もう脱落してる」

「となるとキャスターだが……」

 

実際問題として、キャスターであればありえるのだ。名前の通り魔術師のクラス、その中でも神代の魔術師であればそれくらいのことをやってのけたとしても、その技量に驚くにとどまる。

 

「我々の調べではキャスターの工房は発見できず、痕跡も見つかりませんでしたがそちらはどうでしたか?」

『こちらも同様です。もちろん、それだけ優秀な魔術師であるという可能性もありますが』

「優秀な魔術師のサーヴァントがあれだけのものを作れるんなら、わざわざアサシンのマスターを使う必要もねえだろ」

「他の一般人をじゃんじゃん使って作る、って方針でもないらしいしな」

 

それがキャスターの玄界であるという可能性もあるが、これだけのことが出来るキャスターのやる戦法としては地味に思える。それ以上にやはり、人間を必要とするという点が違和感満載だ。

 

「なんにせよ、あれを何とかする必要があるわけなんだが……」

『では、共闘という形でも?』

「こちらはそれでも構いません。そうでなくともあんなものがいる状況で続けるわけにはいかないでしょう」

『では、そのように。アーチャーもそれでいいですね』

「ま、あれを放っておくわけにはいかねえしな」

 

ランサーの意見は聞かなかったのだけれど、それでいいのだろうか。いいのかもしれない。なんだかんだこういった事態を放っておけるタチではないし、そうでなかったとしても主の命なら実行できてしまう性格をしているのだから。

 

「しっかし、そうなるとどうしたもんかな……大英雄レベルのサーヴァントとはいえたった二騎で勝てるのか、あれ?」

「普通にやれば難しいだろうが……策はないではない」

 

実際、もう既に作戦を一つ考えていたのだから。

その作戦が実行可能かどうか、それを確認するためにお互いの性能確認が始まった。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

ソレはすぐにでも街の蹂躙を始めるかに思われたが、思いのほか何もしないでいた。その場から動くこともなく、無数にある目でひたすらに何かを探している。

ふと考えればどうしてそうなっているのか不思議な光景だが、少し考えれば当然のことなのかもしれない。確かに彼は、世界に絶望してこうなった。だが、元々世界に対して冷め切っていたわけでもなければ、その考えを長い間聞いてきたわけでもない。ただ突発的に絶望し、変状しただけ。故にこそこれまで自分が過ごしてきた街への思い入れも、平和に今を生きる人々への思いやりも、無意識下に残っていた。

 

では、なぜ先ほどは躊躇うことなく攻撃を放ったのか。その答えは単純、ランサーがいたからだ。ランサーが憎く、ランサーを殺したい。その願いだけは、何よりも優先される。仮にクラスを当てはめるとしたら狂戦士。狂化のランクは例外種のEx。

 

と、そんな性質を持っているのだが。それは全てではなくともおおよそ見抜かれている。変状後の口上、そこからランサーへのただならぬ恨みは明確だったのだから。だとすれば……彼が実行する作戦は、決まっている。

 

「これは聖杯戦争だ。故に謝罪はしない、いくぞセーレ―――」

 

その俊足でもって柱の意識の外側から、一瞬で射程圏内へ。

柱の現れた場所は狙って蹴落とした、人気のない空き地。多少周囲への被害が心配だが、これを放置することに比べれば許容範囲だと判断。圧倒的強敵に向けて、初撃から全力を撃ち放つ―――!

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

放たれたるは対軍宝具、全力に全魔力、魔槍の呪いを最大限発揮した投擲。命中させるなどというチマチマしたことは考えず、その威力を持ってもろとも吹き飛ばす、大伸宣言(グングニル)をも上回る圧倒的な暴力。

的は一つであるために分裂する必要もなく、赤槍はその柱を削る。その威力、その光景は見るものすべてにランサーの勝利を確信させるが……本人は、そんなこと考えもせずに走り出す。槍は勝手に戻ってくるという信用と今の一撃では倒しきれないという確信が、躊躇うことなく一時撤退を選ばせた。

他にも英霊がいれば、このまま玉砕覚悟で削りにかかる選択もあった。だが、今は一騎でも失われたら敗北が確定する。可能な限り確実なヒットアンドアウェイ。それがこの状況を乗り切る最低条件である。

しかし、当然のこととして。標的が現れたのなら照準を定めないはずもなく。柱はその目を輝かせて―――無数の矢によって撃ち抜かれる。

弓矢作成スキル。それによって空中に作り出された無数の矢が、意識のそれた瞬間に降り注ぐ。ヒットアンドアウェイを実行するのに必要なのは攻撃担当が確実に逃げ切ること。その為の手段として、アーチャーの矢でもって視界を封じる。

 

もちろん、この相手が普通の魔神柱であったのならこの程度の策で乗り越えることはできない。ほかの魔神柱であったのなら魔神としての意識を持ち、生きてきたがゆえにその戦い方も身についている。では今回はどうだったか。

答えは単純、完全なイレギュラーであった。突発的に起きた事態、それが相手に同意させるに足るだけのものであったために、突発的に行われたこと。まだその体での戦い方も知らず、対処のしかたも知らず、能力すらあやふやだ。使えることなんて焼却式と虚数魔術を交えた単純な攻撃のみ。本当に、いい的だ。

 

されど、ただやられ続けるわけではなく。英霊の本気の一撃で持っても倒しきれない怪物は、その体を大きくえぐられながら防ぐ手段を実行した。

 

『ランサー、待ちなさい!』

「っと、これは……」

 

その手段とは単純なもの。虚数魔術による虚数空間を盾になるよう広げただけ。たったそれだけのことながら、維持できたのなら最強の盾が完成する。

さて、英霊諸君。攻撃手段は奪われた。これより先、如何様にするのかといえば……

 

「アーチャー!いける(・・・)か!?」

「十分だ!」

「よし、ならタイミングは任せた!」

 

そんなもの、決まっている。壮絶な生前を駆け抜けたその力を持って、全力で打ち破るのみ!

 

『令呪をすべてあずけます、ランサー!』

「手向けとして受け取れ―――突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

三画の令呪でもって保護された呪槍は、虚ろの盾へ向けて放たれる。そのまま呑まれるはずの一撃はしかし、令呪による魔力でもって保護され、入らない段階で耐え続ける。

では、この後どうなるのか。少なくともセーレはこれで盾を動かせなくなった。動かすこともできず、薄くすることもできない。この盾に全魔力を注ぎ込んで槍を飲み込まなくては、致命的な一撃をくらいかねない。理性のない獣は、直感をもってそれを理解する。無数の矢が降り注ぐ可能性はあったが、槍に比べれば危険度は圧倒的に少ない。

そんな判断、まったくもって正しくはないのだが。

 

「陽のいと聖なる主よ」

 

セーレはこの場にある最大の威力をランサーの槍であると判断した。その程度の破壊力、鼻で笑われる。

 

「あらゆる叡智、尊厳、力を与えたもう輝きの主よ」

 

セーレはこの場における最大の脅威をランサーの宝具であると判断した。そのレベルの脅威など、その献身と比べたらたいしたことはない。

 

「我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

その英霊は、戦争を終わらせた英雄だ。文字通り大地を割り、国境を生み出した英霊だ。その献身は死して英霊となった後に伝承にそぐわぬ一撃として昇華された。

 

「さあ、月と星を作りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ」

 

その段階になって、さすがのセーレも正しく脅威を認識した。目の前に迫る槍を受けることなど、その一撃を受けることに比べればたいしたことではない。離脱を図り……天を駆ける船より放たれた黄金の輝きに撃ち抜かれた。聖なる献身を前に逃げ出すことなど、許されなかった。

 

「この渾身の一射を放ちし後に――――――我が強靭の五体、即座に砕け散る(・・・・)であろう!」

『令呪を持って、我がサーヴァントへ命じます。宝具を開放してください』

 

さあ、戦争を終わらせた英雄よ。献身の英雄よ。その身を代償に世界を守りたまえ。

 

「―――――流星一条(ステラ)ァァァァァァァァァァ!!」

 

弓兵の五体は砕け散る。たった一度きりの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。献身の一矢は、魔神柱を滅ぼした。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

かくして、二騎の大英雄によって和也(セーレ)は滅ぼされた。移動をしなかったために被害はせいぜい空き地周辺がすべてクレーターになった程度。

しかし、魔神柱はその程度では滅びない。セーレは王の玉座へと向かった。

魔術王によって築かれた神殿。かの王の魔術回路を基盤として作られた小宇宙、固有結界「時間神殿ソロモン」。

未だ彼の中から人類への絶望は失われておらず、滅ぼさなければならないと考えている。故にその場にて待機し、万が一にもこの場へたどり着くものがいたのなら、全力で持って滅ぼそう。今の人類(かつての自分)に意味はなく、終わりあるイノチに価値はない。一度壊して、そのエネルギーを持って再構成する総体の考えには大いに賛同している。

 

さあ、来るがいい人類よ。挑むがいい、この絶望へ。人類の終末を、彼女への手向けとしよう。

 

 

 

 =☆=

 

 

 

さて、彼らは、気づいてるのかな?

そう考えている時点で、まだ人間の心が残っている、ということに。

 

っと、君。いたのかい?前のハッピーエンドでは満足しないで次の話を聞きに来たのか。

もしかすると、後日譚を見たくて来たのだろうか?だとしたらここまで残念でしたと言う他ない。怒るのなら私ではなく、このような運命を紡いだ何者かへ向けてほしい。私はあくまでも渡された物語を読み、場合によっては伝えるだけの存在だからね。決定権はないんだ。

 

ところで質問なのだけれど、まだこの続きを聞きたいかい?絶望に染まり、獣へと墜ちた少年のお話を、まだ聞きたい?

……そうか、ここで頷く物好きがいるとは、正直予想外だった。ならば仕方ない、この先の未来を語ろうじゃないか。ただ一つだけ、正史の終局特異点を知らない人は、必ずそちらへたどり着いてからにしてほしい。なにせそれはもう知っている者として、蛇足は省いていくのだから。

 

まずはざっくりとしたあらすじを。当然のことながら少年の行いは歴史へ何の影響も及ぼさなかった。正しい歴史の通り七つの特異点は修正され、玉座への道が開かれた。当然、彼であったものもそこに参加している。

 

第八の拠点・廃棄孔。アンドロマリウスを主軸としてムルムル、グレモリー、オセ、アミー、ベリアル、デカラビア、ダンタリオンと共に人類最後の希望へ絶望を叩きつけにかかった。七つの特異点で築いた絆は、すでに使いつくしている。これ以上の援軍は望むべくもなく、彼ら二人で挑んだところでこの場を乗り越えることはできず、万が一が起こったとしてもその先に勝ち目はない……はずだった。

 

始まりに現れたのは、復讐者だった。高笑いとともに現れ、それをきっかけにさらなる英霊が現れる。

竜の魔女が嗤い、聖職者のなりそこないは義を持って、戦乙女は戦士の下へ。

(いかづち)は地を蹂躙し、変なのは存在理由とは別に剣を振るい、極女将はその手綱を握る。

大うつけの筒は火を噴いて、人斬りの口は血を吹いて、忍びは辛らつに言葉を吐く。

 

幼子ですら駆け付けた。気ままに人を喰らう鬼ですら駆け付けた。守護者もどきサーヴァントもどきですら駆け付けた。

人類に絶望した彼ではこれは不可能だっただろう。諦めず人類に希望を持った少年だったからこそ、英雄も反英雄も英雄ですらないものですらも、駆け付けた。どれだけの覚悟があったとしても、そんな集団に勝てるはずがない。

 

かくして、廃棄孔は閉鎖した。これはその後の、ゲーティアすら倒れた後の、蛇足である。

 

 

 

=☆=

 

 

 

敗北した。ゲーティアは敗れ、同じ存在である俺達もこのまま敗北するのだろう。結局オワリのあるイノチに価値はないという考えは正しくなかったと言われたようで、本当に何も言えなくなる。価値がないんだったら、あの時の……

 

(あれ、なんだったっけ)

 

思い出せなかった。始まりの出来事を。ああ何故だ、何故こうなったのか、何故この道を選んだのか、何故今へたどり着いたのか、

 

「何故、このような結末へ至ったのだ……」

「あら、分からないの?」

 

ふとした呟きは、一騎の英霊に拾われた。そちらを見ると、踊り子がいる。踊り子の英霊、真名は確か……マタ・ハリ、だったか。

マタ・ハリ。マルガレータ……マルガ。その名前を聞くと、何か覚えがあるような、そんな違和感を抱く。

 

「分からないというより、忘れてしまったのかしら?」

「忘れた……何か、知っているのか、英霊」

「ええ、知っているわ。だって私、貴方と共に過ごしたんですもの」

 

共に過ごした。それは人間として生きていたころのことだろうか。だが魔神へ至るものが英霊と共に過ごすなど、あるはずがない。そんな状況に至って見抜かれることなく、生きていられるなど……元々、そんな予定ではなかった?

 

「最初は分からなかった。でも、その瞳には見覚えがあった。どうしてそうなってしまったのか分かるから、なおさら辛いのだけれど……思い出して、カズヤ」

 

カズヤ、和也。呼ばれた名で、摩耗していた記憶がよみがえる。蘇ったがゆえに、今見られている状況がとてつもなく恥ずかしい。

 

「ああ、そっか……そうだった、んだな」

「ええ、そうだったのよ。たぶん、原因は私……ごめんなさいね」

「いいんだ、これは俺が悪かったんだから」

 

対話をしているからか、他の英霊はこちらへ攻撃してこない。だとしても、ここからどうしろと言うのか。

 

「ねえ、カズヤ。よかったら、色々と話しを聞かせて?」

「話し、かぁ……あんまり面白みがないかもだけど、それでもいい?」

「ええ、構わないわ。貴方と共に過ごす時間は、何でもないものこそ幸せよ」

「そっか。じゃあ……」

 

恥ずかしいと思っていたのに、合わせる顔がないとすら思っていたのに、語っているうちにそんなことどうでもよくなった。

 

統括局ゲーティアへ報告。俺はゲーティアであることを放棄し、そのまま離脱させてもらう。戦う理由を失った。

 

マタ・ハリと共に、この宙域を離脱する。唐突に行ったからか周りの誰もが見逃し、そのまま離脱に成功する。

そのまま肉の柱であることも放棄して、ゲーティアを模した体となる。ゲーティアの2Pカラーと言ったところか。

 

「さて、まずはどこを目指そうか。どうせ話すなら、しっかり腰を据えて話したい」

「それもそうね。……じゃあ、どこかの時代を目指しましょうか。そこで聖杯を作りましょう?」

「今の俺なら作れると思うけど、どうして?」

「特異点を作るため、かしら?一緒に話したいからこうして離脱してしまったけど……貴方はもう、生きていてはいけない存在だもの」

 

言われてみればその通りだ。なら確かに、特異点を作ってカルデアの人々に滅ぼしてもらうのが一番だろう。

 

「どうせ特異点を作るなら、しっかりと試練を作りましょう。貴方が学んだこと、感じたこと、これから学んでいくこと。カルデアのマスターがまだ自覚できていない人間の汚さを、教えてあげましょうか」

「マルガって、そういう側面もあったんだね。苦しめる結果になるのに、それでいいの?」

「仕方のない、そして必要なことだもの。彼らはあまりにも綺麗すぎる。人類史が取り戻された今、穢いものを知らないのでは喰い潰されてしまうわ」

 

穢いもの、かぁ。だったらマタ・ハリの生前にちなんで、愛憎の汚い特異点となるのだろうか。

 

「さあ、行きましょう。地獄の果てまで付き合うわ、カズヤ」

「ありがとう、行こうか。地獄の果てを作り出そう、マルガ」

 

二匹の獣は、人類史を救った英雄に倒されるため、試練となる。

欲からなるのではない。執念からなるのではない。願望からなるのでもない。自身が死ぬべきであるのならそれを生かそうと、そんな意志から。

 




以上でした。

正直、セーレじゃなくてアバトンでやりたかったんですよね。廃棄孔にアバドンがいたらアバドンにしたと思います。セーレにしたのは大分無理があったと思います。

あとついでなので、あの聖杯戦争で召喚されたサーヴァントの中で「コイツかなぁ」って決まってたものだけ載せておきます

セイバー:ジークフリート(ランサーによって脱落)
ランサー:クー・フーリン
アーチャー:アーラシュ
ライダー:オジマンディアス
アサシン:マタ・ハリ(ランサーによって脱落)
バーサーカー:フランケンシュタイン(アーチャーによって脱落)





当然のことですが、特異点のことはほとんど全く考えておりません!
書きたかったのはここまで!なんか思いついてるものが部分部分にはあるけど、書き上げるには詰めが甘いのでたぶん無理ですね。ですので、現状思いついている分だけでも晒して終わりにしようかな、って。

あ、もし万が一にも『足りない部分の情報はこっちで補完して書いてやる。感謝しろ』と言う人がいらっしゃいましたら、言ってください。書いてくれるのであれば追加の情報をお届けします。具体的には真名隠しした鯖の真名とか宝具名とか。
だって仕方ないじゃない、読みたいんだもの!読めるものなら読みたいんだもの!
でも書けないんだもん(涙)!!!




1630年日本、日本橋葺屋町
愛憎混成都市・吉原
カルデアからついてくるサーヴァント
 マリー・アントワネット:国を愛し、裏切られてなお愛を貫いた女
 別衣装:花魁風の和服。和傘つき
 鈴鹿御前:愛したもののために生きる、尽くす女
 別衣装:ヴィクトリアンメイド


特異点に召喚されたサーヴァント
 カルデア側
  ・寺院のキャスター
   罪を犯し、焔に焼かれた男
   特異点の中心である吉原をちょっと外れたところにある寺で出会う
   出会った場所が寺だったので「寺院のキャスター」を名乗る
   本人の頭も坊主なのでそれっぽい。服装は緩い
   戦闘能力:ほぼ絶無。足は丈夫。蒼い炎を操れる
   宝具:???
   「真名封鎖、疑似宝具展開。名乗らぬ無礼をお許しあれ……これは、わが身を燃やす罪の焔」
   スキル
    転身:C(変化と同じスキル)
    脱兎:B(自身の敏捷ステータスを1上げる)
    虚偽:A(自身のクラス、ステータスを偽るスキル)


 特異点側
  ・王城のアヴェンジャー
   愛したものに裏切られた生前を持ち、その側面を強調召喚されたサーヴァント
   特異点になんか建ってる城に居座っているサーヴァント
   罪人は殺す、自身に与えられた領内の者は自らの奴隷
   しかし、それは変質した結果であるが故に歪
   宝具:???
   「ハッ、名乗る価値もない。――――――ただ、死ね」



こんなところですかね。宝具演出を乗せようかと思ったのですが、それをすると真名バレバレなのでやめておきます。しかしこの情報だけで当てるのは・・・もしかして無理じゃね?無理ゲーじゃね?無理無理じゃね?
誰か書いて―!


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