夏休み中の魔法を導く奇跡~三期~ (名無しの権左衛門)
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1-1:微睡の世界

1-1:微睡の世界

 

 

 私は、一之瀬 正樹。22歳の男だ。

夢は小学校教師になる事。

そして目標は、生徒に自分という人間を確実に作り上げられるようにすること。

 

 とまあ、目標指針を固めたわけなんだが……。

実はというと、親がこの学校の校長なわけだから、一応学校教師を召そうと思ってやっただけなんだよねぇ。

最低じゃねぇか!って思うかもしれないじゃん?

 

 でもさ、親の期待の眼差しって、あんまり無視できないし。

だから私はいろんな意味で生き残るために、再度考えたんだ!

 

そう、学校指針は無視して、最強の生徒になるよう導いちゃってもいいさ、と!

 

 学校指針は、”清く・正しく・誠実に”。

しかし、こういう形骸化しそうなものほど、破るのが常なのだ!

 

<今日は皆さんにお知らせがあります。なんと、新任の先生がいらっしゃいました!>

 

 よし、私の出番だ!

空回りにならない様、地に足をつけて頑張ろう!

 

 

 私はこの綺麗な体育館で行われる始業式を皮切りに、教師生活が始まった!

 

 

 

<紹介をお願いします>

「はい。本日付より、小学3年生の副担任をするようになった、一之瀬 正樹です。

 学校生徒の皆さん、教師陣の皆さん、宜しくお願いします」

 

 

 という事で、今日のカリキュラム終了!

 

直ぐに教室に向かう事になった。

 

 

「私は稗田と云います。ここの担任です」

「一之瀬です。一か月、宜しくお願いします」

 

 教室に入る前に、担任というより私を担任にしても差し支えない能力をもっているかどうか、

選別する人だ。

だからしくじらない。この一か月は絶対に!

 

 

 最初に稗田先生が教室に入って、それに続いて私も入る。

そこで自己紹介をして、この3年生の出席を取らせてもらう。

 

 

 私はこの教室にいる、高町なのはという少女のとある場面に遭遇することで、波乱の人生が幕を開けたのだった。

 

 

 それはある日の事。

3年生の生徒全員の名前と顔の合致に一週間かかっている時、夜遅くまで仕事をしていた。

明日のプリントやメニュー、目標を立てる紙等を作っていたんだ。

 

そしてその日は満月だったんだ。

 

 私は仕事に関しての気分転換の為、湖畔ではないがそういう公園があるので訪れた。

私はベンチに座って、満月を堪能しようとしたその時だった。

 

 

 

ドドオオォォン

 

 

 

 爆音が比較的近くから聞こえたんだ。

爆破テロか?それともヤンキー共が、花火にちょっかいをだしたのかと思い走り出した。

悪ガキはその時に叱責しないと、事の重大さを身に染みてわかってくれない痴呆だ。

だから今すぐにいかないと、けが人が出てからでは困る。

 

 

 私は走って現場に向かう。

しかし私は予想の範疇を超える現状に、頭が痛くなった。

そこではなんか、桃色の光線と黒い蠢く何かが動きまくっていた。

 

 正直気持ち悪い。なんだあれ。

 

 すると何者かが、私の近くの樹に当たる。

更に先ほどの蠢く何かが、その対象を攻撃しにかかる。

 

 その攻撃した気持ち悪い奴は、桃色の結界に阻まれていた。

しかしそんな状態でも推力や慣性は衰えず、そのまま突撃していた。

 

私は何者かに襲われている者を助けたかった。

ただ、それだけ。

私は駆けだした。

 

 

 人を助けられなかった私は、次こそ助けてやると鍛えた己を奴にぶつけてやる。

私はその蠢く何かに、飛び膝蹴りを行った。

動物っぽい感触の中、そいつは蹴った方向に飛んでいった。

 

 桃色の結界もほどけたようなので、その襲われた人物を見る。

 

 

 その人物とは……。

 

 

「あたたたぁ……」

「大丈夫、なのは?」

「う……ん、ユーノ君」

 

 

 

「高町なのは?」

 

 

 

 凍り付くような空気感。

彼女も目を真ん丸に見開いて、こちらを見てくる。

 

 

「い、一之瀬……先生……?」

 

 

 

 彼女が驚いているのもつかの間、敵が今度はこちらに向かってくる。

そしてとびかかってくる。

 

 

「まずい!」

 

 

 オコジョっぽいのが喋る。

 

 だが私は大丈夫だ。

私は身体をすこしずらして、相手の面前から消える。

そして膝を上に突き上げる。

 

 気味悪い化け物は、そのまま後ろ方面に回転しているのでそのまま足を踏みこんで、

右ストレートで殴打する。奴は結構ふっとんで、地面の装飾を破壊した。

 

 

「嘘……」

「凄い……」

 

 また奴は向かってくる。

奴の体型は猪に似ている。ならば、心臓を貫けばいいな。

 

 

「また来た!」

「先生!逃げてください!」

 

 

 高町はよろよろと杖をついて、立ち上がろうとする。

その姿を見ると、大人はこんな小さな子供にこんな醜い事を遣らせているのかと思う。

ならば、私がこの狩猟を遣らせてもらおう。

 

 

「大丈夫です……あと、後一回だけなら……」

「なのは……」

 

 

 後ろから奴が迫ってくる音が分かる。

オコジョ。お前、まじで役立ってないな。

まあ、それは良い事として……教師は、常に生徒の希望であれ。

 

誰が言ったかな?

 

 

「此処は私に任せなさい」

「で、でも……」

 

 

「高町は私の生徒だ。先生が生徒に守られてどうする」

 

 

 来た。

 

 

「せっ―――後ろっ―――!」

 

「―――私に任せろ」

 

 

 直に後ろへしゃがみながら少々下がり、右腕を一気にこいつの心臓めがけて拳を貫く。

何か石っぽいものを掴んだので、一気に引きずり出した。

気持ち悪い化け物は、遠くに蹴り飛ばす。

 

 

「そ、そんな……物理ダメージはほとんど効かないはずなのに」

 

 

 フェレットがそうつぶやく。

戦闘が終了したのか、高町も木を背にずり落ちる。

 

 

 二人が呆然としている最中、私は掴んだ青色の石を高町ではなく、このピンク色の杖の方に差し出す。

 

 

「これ、どう見てもオーパーツだ。そして、これは順序立てて封印すべきだ。

 シーリングとでもいうのかな」

 

<……『Sealing』>

 

 

「おお、インテリジェンスデバイスか。どう見ても地球の物じゃないね。

 それにそこのオコジョも、知的生命体にしては、大脳が小さすぎる。

 君も人間かな?」

 

 

 私は気になった事を、高町の前で座ってびしばしと指摘する。

 

 

「あわわわわ」

 

 

 高町は混乱しているから、ある程度当たっているとでもいうのか。

 

 

「さて。違法物品を管理者に任せず、幼い子供に任せるという行為は……誘拐罪。

 またこの服装と砲撃からして魔法めいたものとして、故意と強制的な理由をこじつけたという事もあり、

 強姦致傷罪と営利的拉致。更には強要罪として……つまり、やばいことしているのは、わかるな?」

 

「「ごめんなさい」」

<Sorry>

 

 

 実際私もやばいんだけど。今回は一緒のグルになってやろう。

 

 

「というわけで、だ。逃げるぞ」

「「へ?」」

 

 

 遠くから警察のサイレンが、けたたましく周辺に響く。

普通にやばい。

 

 

 私は私の荷物を持たせた高町をおんぶして、一度近くの公園に立ち寄った。

 

「だぁー、逃げ切れた……」

「ご、ごめんなさい……」

「いや。今回は、私も共犯だ。皆が黙っておけば、基本的に大丈夫さ」

「はい!」

 

 

 一度ベンチに彼女を座らせて、荷物の中にある絆創膏・湿布等を用いて彼女の傷の手当をする。

擦り傷は治るが切り傷と青あざは、痕が残る可能性が非常に高い。

だから今やった方が良い。

 

「痛っ」

「我慢しなさい」

 

 

 私は高町なのはに、どのような経緯でこのような事をしでかしたのか、深くまで聞き入った。

話はこのオコジョ、ユーノにあるようだ。

 

 彼が居る世界は非常に科学技術が発達していて、次元空間内移動も可能なようだ。

そして彼は考古学者だったりいろんなことをする人間で、過去の遺物を掘って居たら管理体制が盤石じゃなかったため、

この世界にそのオーパーツが落ちて来たんだとか。

 

そこで適性な者を見繕って、今回収をしてもらっているんだとか。

 

「ふむ。痴情は持ち込んでいないんだね?」

「そこは約束しています。一時的な協力として、なので」

「だが、上が介入する可能性がある。

 そして今でも監視している可能性だってあるぞ?」

 

 ユーノは俯いて黙ってしまった。

まあ仕方ないだろう。

しかし時間にして夜の9時か。

 

この時間帯に彼女を一人で帰らせるのは、さすがに教師として選択肢にない。

仕方ない……理由を言って、怒られよう……。

今回は特殊な事情だ。嘘の事情を云えば、彼女に罪はいかない。

 

 

 教師はこういう時、便利だ。

さあ、行こうか。

 




 さあ、お待ちかねの第三期!
ソードアートBro'sのストックがなくなるまで更新します。


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1-2:諸君、授業を始めよう

1-2

 

 

 私は高町なのはを、家に迄送った。

遅れた理由の一つとして、体育で弾数の高い跳び箱を飛んでいるとき引っかかって高いところから落ちたと言った。

そしてお店をやっている事を聴いて、営業妨害にならないよう背負って送り届けた旨を伝えた。

副担任とはいえ、限界を見極められなかった愚鈍な者として、真摯に伝えた。

 

 

 

「今後、こういうことはないようにお願いします」

「なのはも女の子なんです。お願いします」

「わかりました。今後、このようなことにならない様、努めます」

 

 礼をして帰った。

 

 

 あ、荷物、高町に渡したままだ。

あぁ、どうしよう……。

仕方ない。もう一回作るか。

 

 

 

 私は徹夜して再度同じ作業を行った。

ただ、寝る時間は最終就寝時間の一時間後に寝入った。

遅刻しちゃ意味がないからね。

 

 

 さて……私は一つ決めたことがあるんだよ。

 

 

 それは高町なのはのような、非現実的な現状を抱えている幼少の子が居ないか探す事だ。

理由として心身の健全化等、変にストレスを抱えて死亡するかもしれない。

ならばそうなる前に、私や人間心理学を専攻している先生が介入して、物事の解決ややると決めた彼等を最大限に応援できるような仕組みを作る。

 これくらいしてやらなければ、彼等の未来がその不特定多数の理不尽に踏み躙られる。

 先生がいる理由は、生徒達に生きる術を教えることも含まれる。

だからいつでも頼る事が出来、その人生の模範としてあるべき者が主任になるべきである。

今の所私はそんな人物を、小学校教員で見たことがない。

 

 たぶんきっと数か月すれば、先生方の性格もわかってくるだろう。

しかし生徒主体で動くので、勉学の現場や他の教員との接点がなくなりやすい。

非常に強かでフットワークの軽い人物が求められる。

 

 

 う、うわぁ。非常に面倒な人材だ。

こんな人材いるのか?

 

 

 いやこんな高望みの前に、私が模範となる人物にならねばなるまい。

 今でも悲しんでいる子が居るはずだ。

 

 思い立ったが吉日故、行動するべし!

 

 

 

 

 というわけで、今朝保健室へダッシュした。

 

 

 

「おはよう「おはようございます、飯島先生!」あ、うん」

 

 

 私は全力全開で動き、途中の先生方全てに挨拶して現場へ行く。

この学校の中央部分に位置するのは、どこからでもけが人が平等に足を運びやすくするためだとか、そんな理由に作られた保健室は……でかかった。

 

 

 この学校はそれぞれ小学校等と分かれているが、500M以内に幼稚園・中学校・高校・大学が存在する学園特区なのだ。

だからお互いがお互いを、相互利用できるようになっている。

おかげで何かあれば、全ての学校と情報等を共有し万が一の事態に対応できるようになっている。

私はそんな学校で、一番影響を受けている場所に来ているようなものだ。

 

 

「宮本先生いらっしゃいますか?」

「はい。何の御用ですか?」

「実は……」

 

 

 私は学校主体で学校が認知・感知できていない事件に巻き込まれている生徒を、精神的に肉体的に補助すべきという持論を展開した。

でも先生は実証や実態がわからない場合無闇に手を出すと、学校全体がリスクを背負い関係のない者まで被害を受ける可能性があることを指摘される。

 

だが私はそれを待っていたんだよ。

 

 こんな得体のしれない非現実的な事を云っても、信用されないのは当然の摂理だ。

 たとえ話としたら、”幽霊が実体化して生徒を襲っているので学校全てが協力して、幽霊退治してください”と同じだ。

この幽霊は一か所に来る生徒を襲っているのを確認した先生が、学校全体で今後あり得るかもしれない事を自分の知識と常識を咥え勝手にアレンジした妄想で、理事会などに提出する。

 しかし理事会は、その幽霊が本当に悪なのか、大規模なのか、他の場所や他者に危害を複数与えているか等の根拠ある実証を欲しがる。

 なにせ理事会という最高責任者共は、利権を失い学校を導けなくなることを非常に恐れているからだ。

そんな無茶なことで変に警戒態勢にして、更に目的外の所でいじめや障害が発生すればただで置けなくなってしまう。

 

ひいては学園の存亡の危機に陥ってしまうんだ。

 

 

 そこで私はこう引き出した。

実証できる人物はいるので、その人物だけの専用顧問にしてくださいと。

保健の先生は色んな生徒や先生の噂や愚痴が集まるところ。

ならば不思議な事象も耳に入っているだろう。

 私はその”風の噂”を頼りに、彼女にお願いした。

きっと上へのゆすれるネタもあるはずだ。

 

 

「私の容姿を見て、それを思いついたのですか?」

「如何に美人だろうと、責任を求められれば自己保身に動きます。そんなものです」

「……わかりました。非現実的現象専用顧問として、上に言っておきます。

 またカウンセラーとして、私もその子に働き掛けさせていただきます」

「ありがとうございます」

 

 

 私は丸椅子から立ち上がり、出入り口へ歩く。

一度身体ごと振り返り一礼。

踵を返して出入り口を開いて、外へ出ていく。

 

 

 

 私は外に出たら直ぐに職員室へ向かう。

そろそと朝礼がある頃合いだろうからな。

 

 

「先生!」

 

 

 む、こんな時間に生徒か?勉強熱心な……。

 

 

「一之瀬先生!」

「高町じゃないか、どうしたって、あ……」

 

 

 高町は私が忘れて行った手提げかばんを、胸に抱えて走ってきた。

 

 

「これ。忘れてましたよ」

「ありがとう、良い子だ」

「えへへ」

 

 

 私は同じ目線になるように屈んで、彼女の頭を撫でる。

無邪気な頃が一番かわいらしく、自己を育てる一番の時期だ。

 

 だからこそ私は、彼女の今の状況が気に入らない。

 身体、如いては心にひどく深い傷を負えば、彼女のような努力する人物をこの国は失ってしまう。

それはなによりも耐えがたい事だ。

 

「どうしたんですか?」

「いんや、なんでもないよ」

 

 私は俯いていたようだ。

だが顔を上げ、悟られない様表情を繕う。

 

 

「そうだ、高町」

「なんですか?」

「放課後17時頃、ユーノを直接連れて昨日の公園に来てくれないか。

 通達すべきことがある」

「はい、わかりました!」

 

 

 私はそれだけを伝え、いったん別れた。

 

 

 それと先生職員一同の朝礼に遅れた私は、こっぴどく叱られた。

遅刻したわけじゃない事を、保険の先生に擁護されたので言及は避けられた。

 

 

 

 

 さてと……プリント用意しよ。

 

 

 

 私が担当するのは、理科の授業だ。

計算式じゃなくて実験系ばかりだから、比較的覚え教えやすい分野だ。

 

しかし私は昨日の事で、自分を守り間違えれば自分を殺す様な毒を以って毒を制する授業にしようと思った。

 

 

「今日は石灰水と二酸化炭素について、実験しようと思いましたがやめました」

「「「え~!」」何でですか!?」

 

 ブーイングが来る。

当然だ。何せ私は実体験を体験し、それを追求するスタイルが主だからだ。

 

 

「今日から、危険物第一種取り扱いの技能を持つ私と共に、戦闘機を作り上げようと思います」

「せんせー、戦闘機って何ですか?」

「今日皆さんに配ったカラープリンタがあるね。そこにある飛行機が戦闘機です。

 これの縮尺を小さくした奴を作り上げ、戦闘を行ってもらいます。

 私の授業の最終は、私が受け持つクラスで戦略と戦術が勝利を左右する”戦争”をやってもらいます」

 

 

 私は他のクラスも受け持ちしている。

理由は実体験型授業が、このクラスを中心に伝播していったからだ。

其れと共に私の敬語を使用した、教える者教えられる者の境界を確かにした授業形態が人気になったから。

 

 理由の一つは日常会話に、私が受け持つ子供達が謙譲語・尊敬語を積極的に使用することで、

他者との関係に緩衝材として君臨しているという報告があった。

また通常会話型で、先生と生徒の距離を短くするという形態が今まであった。

しかしそれだと先生が先生である必要性がなく、子供が大人を嘗めるようになるという悪影響が報告されている。

 

 私が自然に行っていたことを生徒もまねることによって、良い循環になったというのが本筋だ。

決して私が意図的に行い、生徒に強要したわけじゃない。

 

 

「生徒の諸君。これより、戦争です。血で血を洗い、肉で山河を埋める醜い喧嘩をしましょう」

 

 

 私が最初に教えるのは、機械系をパズルとして組み立てる作業。

これは私の父親の力と私の給料にモノを言わせて、三菱重工に作ってもらったものだ。

おかげで旧世代の戦闘機を手作業で作り、人に怪我をさせられる兵器が作れる。

 

 

 しかし最初から戦闘機ではなく、プロペラ機にする。

理由は空力エネルギーに関しての説明と慣性との関係性を伝えるためだ。

 過度なハイGターンをすると機器に不調がでたり、失速・ストールして墜落するかもしれない等の説明をする。

これ等の専門用語を聴くとハイになる生徒がいる。

彼等には戦闘機を操ってもらう。

 

 

 銃弾はペイント弾。実験や検証には、汚れてもいい服を用意してもらってそれで授業をやってもらっている。

またこれらパズルを改造して、チューンする者もいるが自由にしている。

研究は人生と命をかけたもの。平和とはそれらの準備期間で、戦争はそのお披露目会。

秘蔵にするなんて勿体無い。

 

 そんな戦闘機の他にも作ってもらっているのが、戦車や戦艦だ。

戦闘区域は既に発注しているので、一か月以内に返事は来るだろう。

とにかく彼等には計算方法や改造方法等を伝え、それ専用の武器や武具・道具を渡している。

 怪我をする子もいるが、興奮さめ止まぬ子が多いので研究と試用運転をしていた子だろうな。

 私は情熱を持たせたい。

死ぬかもしれない、そんな瞬間があるがそれと同じような感覚を味わわせ、さらなる感性の強化を行ってもらいたい。

 

 そういえば文系等、苦手な子もいる。

その子らには、戦闘地形データを渡して戦術や戦略・戦闘機等の整備を行わせた。

またペイント弾の生成等。

 

 

 色々戦争の準備を行わせた。

またスパイという間諜を遣わせたりして、情報流出等国家間の妨害工作もありにした。

これにより輝く子も増えた。

地上管制や指揮するもの、鼓舞するもの、監視する者……。

 

 

 私は彼等の為に、質や量共に最強にする手段を行う。

それは私が副担任をしているクラスだ。

此処にはZ.O.Eを配備したり、ミサイル等を配備した。

更にベルケの格言を、彼らに教授した。

 

 

 本当に何故こんなことをしたのか。

それは規定路線で決められたものより、自分の知的好奇心を満たし自分に合った職を見つけコミュニケーション能力を向上させ、仲間と協力するという姿勢を作り出す為だ。

 

 

 そして本懐を告げる理由は、戦争とはなんなのかということ。

皆に戦争の楽しさと悲しさ等、本質を感じてもらいたいのだよ。

本質は知るモノではない。感じるものである。

理由は本質そのものが曖昧で、個々人の感性に捕らわれた中での自己完結の一つだからだ

 

 

「楽しんでるか?」

「おうよ!先生、いや実務顧問殿!」

 

 

 私はこの授業のみ、ある程度の溜口を許している。

理由はつけあがりや慢心を防ぐため、そして良い事悪い事を要約し端的に述べられるため。

一々謙譲語等をつけて気にする必要などない。

技術は奪い学び利用し使うのが、戦争勝利への一歩だ。

 

 

 さて、私は特別に4時間も時間を取らせてくれた、その先生方にお礼を述べに行こう。

新たな授業方針として、最初の革命だ。

この有意義な行動方針は、さぞ皆さんにとっては痛快で自尊心を傷つけられた事だろう。

 

いやぁ、愉快愉快。

 

 

……

 

 説明責任を果たした今、最後の班を見回るだけになった。

私はノックして入る。

 

「調子はどうかね。空軍戦略指揮官殿」

 

 

「あ、一之瀬実務顧問殿!」

「げ、実務顧問が来た」

「まだ戦術決まってねぇぞ!」

 

 

 ここは私が副担任をしているクラスに貸し出している多目的室だ。

ここでは私が教授し航空力学に基づいた、航空軍事学を展開させた。

おかげでニュートン力学・解剖学・生物学・人間心理学等を容易く理解できる生徒のみが、この場所に残りテストという名の戦争に備えシミュレーションを行っている。

 

 また抗力に関して開発顧問(生徒)に教えたり、一定のスパイに教えることで技術開発を急がせている。

 

 基本的にレシプロの零戦から始まり、今現在受け持ちのクラスの中には震電やジェット戦闘機を作っているところもある。

技術工はそれ専門の人を、工場から拝借している。

 

 

 無茶苦茶やったが、後悔はしていない。

 

 

 

 

 

 授業は12時30分に終了する。

此処からは給食や片付けが待っている。

時間外での開発は、教室でのみ可能。

更に間諜もその間活動可能にしている。

 

 

 ただし相手の教室に入り込み、武器等の破壊工作や奪取は窃盗罪として処分することを説明しておいた。

15才未満?知らんな。

 

 

「授業は毎週水曜日の1~4時限を使用する。

 その時は皆や技術者との意見交換を行い、開発するように。

 最初のαテストは、三週間後だ。

 各自努力奮起せよ」

「「「は!!」」」

 

 

 運動場に皆を集結させて、檀上の上で号令をかけた。

 

 

 この後すぐに放送室へ駆けこむ。

放送室には放送委員が在中し昼食中に紹介とか色々するんだが、今回は数十秒のみ使わせてもらえるようになっている。

 

私はすぐにモールス信号を録音したテープを流してもらう。

 

その内容は、”空戦戦術 勉強 15:30 一時間 高校音楽ホール”というものだ。

 

 モールス信号に関しての勉強は、スパイに伝播させている。

これを聞いた者で、モールス信号の魅力に気づき勉強したものは皆こぞって来るだろう。

なんせ同じ学園特区生徒であれば、他の学校への進入は許されている。

故にやる気がある者は、確実に来る。

 

 

「ありがとうございます、皆さん」

 

 

 私はそのまま立ち去り、自身が受け持つ教室へ戻った。

 

 

 

 この学園はもともと弁当を持ってくる私立だったようだ。

でも昨年から、給食制度の復活と県立の学園特区へ編入するようになった。

理由の一つはやはり、食事から成る身体の成長だ。

 

 もしも親があまり料理せず、炭水化物ばかりとらせていたら?

ここで解決したいのは、特殊な脂肪酸摂取やビタミン系の摂取だ。

解決には学費の上昇の代わり、安定した安全な食事だ。

 

 調理栄養技師らによる研究の粋が、これら給食にあると言われている。

 

 これらの革新のおかげで、生徒の転校が増えた代わりに健康で健全な生徒が入学するようになった。

 

 

「やはりおいしい」

「先生、昼休みに理事長からお呼び出しが」

「解りました、稗田先生」

 

 

……

 

 

 私は理事長に呼ばれた。

内容は非現実的現象専用顧問と理科の授業内容についてだ。

 

 

 非現実的現象専用顧問の方は、保険の先生と協力して行う事を伝えた。

目的としては非現実的な魔法や幽霊に関して、精神や肉体へ被害を訴えた子へカウンセリングと実質的な解消を目指す

解決機関として動く事を示す。

もしこれを度外視すれば、おかしな話が尾ひれ付きで世間に浸透するため、この学園特区の信頼性の低下が招かれることになる。

私は上記の事をゆすれるネタと共に提供した。

 

 

「脅しかね?」

「違います。相互理解を深める為の道具でしかありません。

 あなたたちはその地位に恋々とし、特別な席にしがみついててください。

 動くのは現場の私だけで十分です。ですのでふんぞり返るのは結構ですが、私達に迷惑はかけないように」

「上司は我々だが?」

「仕方ない。特高に連絡「すまない、悪かった」解ればいいんです」

 

 

 次は理科の授業内容だ。

これは生徒の自発的行動やリーダーシップ・それぞれ日常では培えなかった才能を見いだし、

未来への糧にしてもらうためのもの。

生物は基本的に命にかかわる事案に巻き込まれると、とたんに自己防衛機能が働く。

 これを利用することで、平和で何事もない世界に色を付けられることを主目的にしている。

戦争はただの手段でしかない。その先の未来が目的である。

 

 先ほどの御願いもあって、普通に認可される。

 

 私は比較的真っ黒な部屋で8名の理事長に次ぐ人物から、圧迫面接をされている。

だがぬるい。

これくらい生徒の天真爛漫な活動に比べれば、比較にもならんわ!

 

 

「以上でよろしいですか?」

「うむ。足労をかけた」

 

 

……

 

 

 私の日常は基本的に無茶苦茶な事をやりながら、生徒の可能性を他者による圧力を無視し伸ばす方針を取っている。

更に理科の授業では、自衛隊で習うようなことも惜しまず教え、知的好奇心をみたしている。

だがそれでも普通に向かない子供達にはそれぞれ勉強を教えたり、他の時間が空いている先生が成績に関係しない

簡易な勉学を行わせている。

 

 

 ただ基本的にこのような格差勉強はさせたくない。

だから合わない子には、究極としてレーン作業をさせている。

 

 

それはいいか。

 

 

 さて、空戦戦術の授業を行おうか。

この空戦戦術は航空専門用語を伝えながら、状況に応じての使い分けを行わせている。

さらに映像投射器を使用して、状況説明からの使用可能な戦術技能を伝える。

 

 戦闘機の高度はノズルを上下に移動させず、スロットルでの加速・減速で調整する。

速度の増減はノズル角度を一定にすることで決定する。

上げると迎え角が大きくなり、速力が低下する。

しかしその逆は『アンロード加速』となり、抗力が低減し速力が増加する。

 

 

 クルビット・インメルマンターン・スプリット・パワーダイブ等の航空機動。

位置エネルギー・空力エネルギー・運動エネルギー・重力・抗力等の授業外専門知識。

アンブッシュや釣り雲伏せ・ドラッグ機動。

地上部隊との連携や編隊を組むという事を伝える。

 

 

 また私だけでなく、この道のプロからも色々体験談ややってみてほしい事等を伝えられる。

 

 この後は質問をやって今回の授業は終わりだ。

16時に終わった。

丁度いい感じかな。

 

 

 この後は16時30分までに、その航空自衛隊に携わったことがあるそのプロに対して感謝の言葉等を告げた。

次の講義は陸上について話そうかな。

 

 



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1-3:非現実的現象への対処

1-3

 

 16時50分。

私はイエローテープがたくさん巻かれてある公園の端である、海岸線にくる。

この公園は無駄に広いので、池や遊具やら幾何学模様や水と緑の憩いの場とかある。

 

今回の訪問は以前の戦闘があった、海岸線だ。

まだここらへんは河口付近なので、完全に海というわけではない。

 

 

 

 ふぅ、潮風が心地よい。

凪の時間でなくてよかったと思う。

 

 

 16時55分。

 

 そろそろだが、彼女はどこにいるのだろう?

 

……ああ、いた。

 

 

 あー、高町が吹っ飛んで凹ませた木があるな。

そういえばここだったか。

地面にあった装飾路面も、綺麗に整備されているようだ。

 

 

<マスター。彼が来ました>

「あ、一之瀬先生!」

 

 

 私は聲をかけられた。

高町は手を大きく振って、私の方を向いている。

実に無邪気でよろしい。

 

 だが一年後には性教育の過程がまっているので、無邪気なのはここまでになってしまうな。

仕方ない。さて、今日は面談だ。

 

 

「こんばんは」

「こんばんは、先生」

 

 

 今日話したい事。

それは今後の事について、高町への処分が決まった事を伝える。

 

「処分?」

「はい。処分と云っても、退学というわけではありません。

 非現実的現象専用顧問として、私が貴方の心身共に異常がないかを見る者となりました」

「ふぇええっ!?」

 

 何かオーバーリアクションだなぁ。

まあ現実が非現実な魔法に対して、対処法として私を派遣するのが予想外と云ったところか?

 

「主な活動としては、私が現象に対して対象を護衛する役割を持っています。

 また身体と精神にかんしては、小学校の保険の先生が傷害とカウンセリングを行います。

 基本的にこれらは外部干渉を受けず、私が全てにおいての責任者になります」

「ど、どどど、どう云う事なんですか!?」

 

 混乱しているようで、全く伝わっていないようだ。

近くにあるベンチに座って説明しているが、やはり要約すべきか。

 

 

「つまり公式上一之瀬さんが、なのはを護るということなんですよね?」

「そうです。高町なのはを、私が全責任を以って守りその現象に対して個人で難なく対処できるまでが、

 我々の仕事です。しかし、磐石な体制の為、必要あらば今後とも支援すべきと考えています」

 

 オコジョというよりフェレットと教えられたが、ユーノが言う事は的確な説明として片づけられる。

 

 

「更に戦闘面に於いて、戦術や戦略も私に一任されています」

「……一之瀬さん。じつはですね、なのはから念話として色々聞いているんです」

「ほほう」

「あの授業からの応用を使うんですか?」

「空は飛べるんですよね?」

「はい」

 

 

 高町の膝に乗る彼に私が返答していく。

彼女は私達の会話に、あまりついていけていない可能性がある。

 

「ユーノ君?」

「……あの授業はなのはの為ですか?」

「そうですよ」

 

 私は笑って答える。

 

「無茶苦茶だ……」

 

 まあ、そうだよな。

 

「えーと、インテリジェンスデバイスの貴方は、どのようなお名前ですか?」

<私はレイジングハートといいます>

 

 

 紅い玉は点滅して、機械音声に近い肉声が響く。

 

「非現実的現象であれば、常時重力に逆らって空中に浮けるかもしれない。

 ならばそこから世界史的に、常識を破る事が起こるかもしれない。

 よって、授業に航空力学を入れながら、実習を含めた戦争というものを入れてみました」

 

 私は三人に目くばせをする。

私は近場に居る者を第一に考える。

尤も不憫なのかどうかはわからないが、それでも少しでも生存率を上げられれば重畳だ。

 

 

「今回の戦争シミュレートも全て、高町さんが生き残る事を重点的に考えた結果です。

 それと今から、その魔法に関して少し助言をと思いましてね」

 

 

 今は誰も公園にいない時間だ。

基本的にここは立地条件がわるい。

綺麗で優美だが、そのかわり沿岸部だ。

故に微妙に訪れにくい。

 

更に沿岸部の公園は、碧が多い此処以外にも多数存在する。

浪漫を求めるのならば、もう一つの沿岸公園の方が良い。

 

 

「レイジングハートさん。今高町さんが使える魔法は、今は何種類ですか?」

<中距離一種、封印一種、飛翔一種、防御二種>

 

「なるほど。では、私がいう事を実践してみてください。

 一応プリントとして用意しておりますので、休暇中にやってみてください」

 

 

 私が提案したのは、魔法に関する種類だ。

 

 遠距離・中距離・近距離。範囲・一極集中。長時間使用の必殺技・即行発動系。

狙撃・弾幕。弾幕に関しては戦略指揮が上手なので、多数を上手く扱えるものをつかえばいいだろう。

速度重点・威力重視・バリアブレイク・バリア貫通等。

 

 防御に関しては、一極集中・範囲。真正面・自動防御・受け流し。ベクトル転換。

 

 補助。二重発動。遅延発動。魔法陣介入による発動阻害。拘束。ジャケットパージ又はバースト。

    罠。

 

「どうでしょうか?」

 

 

 魔法陣に関してはあの戦闘で見ているので、ある程度理解できている。

だから提案は難しくないんだ。

 

 

 っと、高町なのは・ユーノ・レイジングハートは、プリントを食入る様に見つめている。

プリントには運用方法なども描いているので、ある程度想像が可能だろう。

たぶん悪くはないと思う。

手段の多角化は、決めてを欠くよりかはましなものだと思いたい。

 

 

「凄いです。僕よりも、魔法の可能性を熟知している……。

 特に二重発動や遅延発動は、考えたことすらなかった」

<これくらいならば、マスターでも容易だと思われます>

「全部やるの?」

 

 

「いや、全部やらなくていいのですよ」

 

 

 私は最初にレイジングハートに小さな魔力弾を作ってもらった。

これを多数つくり半分を攻撃半分を防御に使えるように、レイジングハートと高町自身が役割分担をする。

そしてこれらは戦闘中出現しっぱなしがいい。

 

 理由としては明確な戦闘意欲の提示と、武力による牽制だ。

いつでも攻撃が来てもおかしくない、と思わせれば勝ちである。

そうすると相手はその魔力弾に意識を奪われてしまうので、徐々に神経が衰弱していって集中力の低下を招ける。

 

 攻撃面で言えば、一つを向かわせ弾丸を回避したところにもう一つの魔力弾を向かわせておく。

他にも解剖学や生物学を利用した、死角突きや肉体の行動制限・眼球の不得手な補足範囲である上下運動を行わせる事。

更には回避でなく防御をされたとき、後方または爆風の中に魔力弾を仕込んでおけば勝手にダメージを与えられる。

 

 防御面でも相手が来る予測位置を割り出し、そこの魔力弾を置くことで相手の行動を阻害できる。

また魔力弾に魔法陣の命令式を組み込む事で、ただの攻撃が自身を拘束する魔法に変化等……色々できる。

 

 

「もしも。もしもですよ?その管理局とかいう組織が、私達に絡んできて高町さんが将来働きたいと言った場合。私の護衛はなくなります」

「え、どうしてですか?」

 

「これは非現実的現象から、対象を護衛するためです。つまり、被害者である必要性があります。

 しかしこれに進んでやってしまうのであれば解消します」

「……わかりました」

「勿論これは貴方の人生です。高町さんの意見が優先されます。

 これは覚えておいてください」

「はい」

 

 

 今後のこの護衛については、誰にも言わない事を約束してもらう。

高町さんは私の生徒なので、一人の生徒にかまけているという噂が流れれば私も高町さんも、要らぬ誤解と不利益を被りますと。

 

 色々と考えることが多いだろうが、学校側は親から子を預からせてもらっている。

だからお金を貰っている側からすると、ユーノ達に任せるしかないんだ。

 

「では、そろそろおうちに帰りましょう。送ります」

「あ、はい」

 

 

 勿論自転車だ。

後部座席は物を置くことが多いので、クッションなどを敷いていることがある。

今回は荷物はないが、彼女を送ることを考えて、クッションを敷いて置いた。

 

「どうぞ」

「は、はい……」

「前は見えませんが、どうぞ身を委ねてください。

 バランスが崩れるかもしれませんので」

 

 私は自転車を漕ぐ。

漕いでいる途中、背中がほんのり暖かくなる。

よかった。バランスを崩さなくて済みそうだ。

 

 

 しばらく黙っているが、きっと彼女はそちらの世界へ行くでしょう。

なにせ、空間把握能力と戦略的指揮能力・更に忍耐力が非常に高い。

これは自衛隊で魅せてほしいという位の人材だ。

だがここでは使えないんだ。

 

 だからそっちの世界へ行くべきだ。

 

 応援しているよ。高町なのは。

 

 

 

ギギ……

 

 

 

 っと、喫茶店に着いた。

 

 

「到着しましたよ」

「ありがとうございます」

 

 

 彼女は地面へ降り立つ。

さて私も帰るか。

 

 

「では、高町さん。また明日、学校で」

 

 彼女はなぜかわからないが、俯いている。

え、住所間違えた?いや、ここで合っているはず。

 

「あの……」

 

「どうしたんですか?」

 

「う、うちによってください!おもてなししたいの!」

「え、わ、わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 どうかしたんだろうか?

まさか、前の件で嘘吐きなのがばれたか!?

どうしよう。本当にどうしよう……。ええい、腹を括れ!

教師の特権である、土下座を使ってでも許しを請おう。

 

 

 

 

 私は中へ通された。

先に高町さんが親御さんに、情報を通達しにいった。

すると自立浮遊したレイジングハートに導かれて、喫茶店の裏口から中へ入る。

 そこはフロアだった。

喫茶店として機能するその机や椅子、ステンレスのシャッターを下ろしていながら中はまだ明るかった。

 

 

「こんばんは。昨日ぶりですね」

「こんばんは。ご無沙汰しております」

 

 

 私は高町さんの父親に、席へ通される。

変な汗が背中を伝う。あー、変な顔になってないかなー?

 

 

「レイジングハート、案内ご苦労様」

<いえ、ごゆっくりどうぞ>

 

 

 浮遊してどっかいく。

緊張してやばいな。

 

 

「一之瀬さん。昨日の事なのですが」

「はい」

「嘘をついていらしたのですね?」

「申し訳ございません」

 

「いえ、怒っているわけじゃないんです」

「と、いうとどういう?」

 

「昨日の嘘のおかげで、娘を取り巻く環境が分かりました。

 単刀直入に聴きます。なのはは、この地球でちゃんとした暮らしを享受できるでしょうか」

 

 なるほど、そういうわけか。

確かにきになるよな。

非現実な麻薬に等しいものを手に入れたんだ。

 

手放せるのかという問題だ。

なら逆に考えるんだ、魔法の道に歩ませちゃっていいんじゃないかと。

 

 

「教師として答えますと。この国で働くべき、逸材です」

「そうですか。では、個人的には?」

 

 

 さすが、よく聴いていらっしゃる。

 

 

「個人的には、魔法の道に進むべきと思っております」

 

 彼はこの言葉で眉間を歪ませる。

ああ、この人は非常に現実主義で、娘想いないい父親だ。

だからこそ突きつけてやる、現実という奴を。

 

「何故、でしょうか」

「はい。まず、自由な翼を手に入れて、それを自分の手でむしり取り地上に残れと言われてできますか?

 その自由な翼で行ける天国が、空中戦を自由にできるだけの地球の縮図の可能性は否めません。

 しかしそれでも持っていなかったものを手に入れられた人は、日常を享受できましょうか。

 

  私は無理だと考えております。

 ですので彼女の事を考えるのであれば、空間把握能力・戦略眼・指揮能力は向こうの世界で自分の為に

 使うべきと考えております」

 

「そうか……私の妻と同じことを言うのですね」

 

 

「決めるのは高町なのはさん自身です。

 私達は見守る側です。

  もしも私が親でしたら、限界までやらせますね。

 そしていつでも帰ってきていいんだよ、と精神的安寧を与えておきます。

 ふるさとはいつだって、御両親がいらっしゃる此処なんですから」

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 すると物音がする。

そこには高町なのはの母親と御本人がいた。

本人はお盆に、お茶とお茶菓子を載せて持ってきた。

 

「一之瀬先生、飲んでみて」

「ありがとう」

 

 うわー、目の前の父方さんがめっちゃにらんできてる!

怖過ぎる。味が分からん。

まあすぐに飲むことはしないけども。

 

 

 作法は分からないが、カップを持って匂いを嗅ぐ。

更に沈殿している紅茶の葉を見て、少しわかることがある。

って、うん。若干甘みと酸味が混ざってるなー。

そして後味が若干苦い。けれど、嫌悪感を感じさせない。

 

 

 とにかく、若干失敗している感がある。

焦ったのか葉取りに失敗したのか。

 

 

「どう?」

 

 高町さんは恐る恐る聴いている感じだ。

どうしたんだろうか?怖いんだけど。

 

とにかく作り笑いは通用しないのは分かっているから、自然体でいく。

 

 

「ちょっと焦ったのか知らないですけど、茶葉が残っていましたね」

「ぁぅ……」

「ですが、長い間培われた紅茶に関しての技術は、非常に高いです。

 個人的にはこの茶葉が残した苦味が、後味をよくしてましたので……。

 おいしいですよ、高町さん。ありがとうございます」

 

 盆を持って顔を隠す姿は、褒められ慣れていないのかな?

いいですね。私くらいになると、褒められる事は裏の顔持ちっていう感じですから。

 

 

「い、一之瀬先生!」

「なにかな?」

 

 

 高町さんは盆を降ろして、顔をおもてに出す。

行き成り大きな聲を出されたから、ちょっと驚いたけど大丈夫さ。

 

 

「わ、私の事、”なのは”って呼んで!呼んで……ください……」

 

 どうしたんだろうか。

学校では多くの友達といるじゃないか。

バニングスや月村というご令嬢とも仲良しであるし……。

 

 

「一之瀬先生。私達はこっちで精いっぱいなのです。

 ですから、魔法に関しては、先生を頼らざるをえないのです」

 

 なるほど、切り盛りしているけれど、人気であるからこそ手を割けないのか。

そういうことならば、全力で守ろう。

 

 

「解りました。もとよりなのはさんの事は、教師として学校側で保護するべきと議論に挙げ護衛することとなっています。

 大事な娘さんを預からせて頂いている為、全力を挙げて守らせていただきます。

 そして個人的な面でも、助言や心身の調子管理等全てにおいて、磐石となるよう努めさせていただきます」

 

 私は御両親にそう告げる。

御二方は表情を少し和らげてくれた。

 

 

 この後私は高町親子と他愛のない会話を楽しみ、30分後この家を後にする。

私は普通に去ったわけではない。

あの高町家の大黒柱に、週末に私の護衛としての実力を見せてほしいと言われた。

 

なるほど当然の事だね。

大事なお子さんだ。そりゃ、護衛の者の覚悟と実力の証左が必要なんだろう。

 

 私とてただの正義感でやっているわけじゃない。

 

 こんな一人の生徒にかまけてる時点で、教師としては最底辺なものだ。

教師はいろんな意味で、生徒を平等に扱わなくてはいけない。

この思考や思想だけで、既に生徒に対して不平等な思いを抱いている事を証明しているようなもの。

 

 それでも私はやる。

やり遂げて見せるさ。

 

流れ出した水は絶対に止まりやしないんだ。

 

 

 



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1-4:秘密を知る覚悟

1-4

 

「一之瀬先生。ちょっと面貸して」

「ちょ、ちょっとアリサちゃん」

 

 

 次の日、私は昼休みに担当しているクラスのお嬢様に、聲を掛けられる。

 

 やべぇ、ナニカやったのか?

何か……思い出せ!令嬢がいう事は基本的に、常識外の無理強いばかりだ!

 

 私は月村さんとバニングスさんの後ろをつけながら、必死で思い出していた。

 

 そういえば高町と会話している時、剥きになって騒いでいたんだったか?

 

 私は担任の先生からクラスの皆の情報が書かれた用紙の内容を思い出していた。

確か彼女達は小学1年生以来、ずっと(意図的)同じクラスだったはず。

ならば高町の口調や態度の変移は、余裕で察せるんだな。

 

嗚呼、だから私は連行されているわけね。あいわかった。

 

「バニングスさん、月村さん。話しがあるのでしたら、誰もいない場所へ行きましょう」

 

 

 私は人がいない理科準備室に、彼女達を連れてくる。

準備室には授業に関する道具しか置かれていない。

なのでここで話をすることは、非常に効率がいいのですよね。

其れに静寂性や隠密性に優れているので、密会や密談にはちょうどいい。

 

 私は壊れかけの椅子を持ってきて、彼女達に腰掛けて貰う。

 

 バニングスは椅子に関して文句を言っていた。

しょうがないだろう?

限りある予算は、別に使った方がいいこともあるんだ。

 

 

「さてと……色々聞きたい事は山ほどあるんだけど、その中で重要性の高い事を聴くわ」

「ええ、構いませんよ」

 

 敬語じゃないのは別に構わない。

何せ授業中じゃないから。

 

「一之瀬先生。なんでなのはを”高町さん”から、”なのは”さんに言い換えたの?

 あの呼び方は、生半可な覚悟じゃ呼べないわよ」

 

 なにそれ、初耳なんだけど。

 

「私は仕事の関係上、高町さんに関する重要な任務を遂行中です。

 如何に親友な貴方達であろうと、口外するわけにはいきません」

 

 私は何も表情に出さないで、彼女たちにそれ以上行けばそこは私の領域なのでダメだと口外に含む。

この言葉の意味をちゃんと理解しているのか、バニングスさんはいらだったような表情をする。

 

「わかっちゃいるわよ、そんなこと。

 私達がなのはと付き合って、一年でやっとなのはと呼べるようになったのよ?

 それなのに、たった一か月未満でそれを手に入れるなんて、おかしいでしょ!」

 

 つまり、今の自分の状況に於いて歯がゆいか、嫉妬しているわけか。

 

 それに下の名前に拘るね。

それくらい特別な思いがあるのか。

 

 

 もし、此処で聞けるなら、聞きたい。

 

「バニングスさん。感情を抑えてください。

 今のあなたは何かあれば、全てをぽろっと云ってしまうような勢いです。

 一度息を整えてください」

「そうだよ、アリサちゃん。代わりに私が説明するね」

「御願い、すずか」

 

 

 私はバニングスから月村へ視線を向ける。

 

 バニングスもそうだが、何故そのような顔になる?

いつもの破天荒さは、一体なんなんだ?

 

まさかと思うが、高町の為に繕っているとでもいうんだろうか。

 

知りたい。いや、知らなければならない。

そうでなければ、高町のご両親の表情の意味が分かるかもしれない。

 

 

 

 私は後悔しない。

 

 

 

 

 

「なのはちゃんの寿命は、後2年です」

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

「理由はわかりませんが、私達のグループが再検査した結果。

 通常の人間以上に、自己破壊が過ぎるんです。

 そのせいで少なくとも二年の間に、体内の破壊細胞により死んでしまいます。

 

 今は自己生成細胞が勝っているのですが、栄養や疲労の蓄積等で形勢が崩壊していると考えれば

 後二年で基幹や精神を食いつぶして、植物人間になります」

 

 

 いやいやいや、ありえなくはないが……二年だと……?

自己破壊が過ぎる。これだと常時痛みが有る筈だ。

 

まさか神経痛を耐えているとでもいうのか!?

 

いや神経痛による過度な電気信号により、脳細胞が死ぬことで痛覚がなくなり徐々に機能不全になっていくのか?

これだと二年より短くなる。

 

 

 どうやって二年だと断定した?

理科の教師として会いたいな。

 

「月村さん、その二年はどのように断定したのですか?」

「財力にものを言わせて検査してもらいましたので」

「そういう問題ではなく、誰に診てもらったんだ?」

 

 

 私は月村からその人物の名前と電話番号、今居る病院の名前を聴く。

この人物と会話しなければならない。

 

きっと月村さんは、私を結果を聴いても直に聴かないと気が済まない人間だと思うだろう。

だが今回の予測はやりすぎだ。

私の過度な予想もあれなものだけど、きっと魔法を知っている者な可能性が高い。

 

 もしもそうではなくて、知恵と知識、培ってきた勘と能力で生きながらえた最高の名医なら、

少しでも寿命を延ばせられる方法を聞こう。

 

「それで高町さんの名前ですが……」

「あれはただの友達とかそういうのじゃないのよ」

 

 

 バニングスさんは顔を上げ、私の方をちゃんとみる。

強気な彼女はどこか打ちひしがれた少女となっている。

 

人の名前はその者を表す。

外国は知らないが、この国ではそうだ。

 

だから高町さんも、そのような使い方をしたんだろう。

 

 

「なのはが下の名前を呼ばせるのって、”状況を知っても尚、人として接してくれる”または、

 ”本当の心と触れ合ってくれて、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれる”その人にだけ呼ばせているのよ」

 

 なるほど。

私と同じような使い方をするんだなぁ。

私も今の状況にならなければ、下の名前はずっと使わないつもりだった。

 

だが認可の証として使うのならば、悪くはないと思うようになっていたりする。

 

 この感情は皆の御蔭だよ。全く。

 

 

 それとバニングスの言葉は、少し抜けている所があるかもしれない。

実際は”私を私として扱い、この情報を絶対に口外せず触れてきた責任をもって墓場まで、それを持っていく”事を

前提とした呼び名なんだろうな。

 

まあこれも私の価値観に当てはめた妄想だろうが。

 

 ただ決めたことがある。

彼女達と家族の前以外では、高町の事をなのはと呼ばないようにすること。

今回は実験的だったが、これを聴いて決心した。

 

これはいっちゃだめだ。

 

 

 生徒は大人の真似をして、成長していく。

まだ基礎しかしらない子供たちは、大人の真似事をするのは必至である。

だから私がむやみやたらに言うと、高町の事を下の名前で言うのは確実。

 

彼女が意図していないところで、そう呼ばれるのは相当の精神被害を受けるだろう。

そんな事は私がさせない。

 

 

 もしも彼女が学校でも呼んでほしいとなった場合は、彼女と面談して説明責任を果たそう。

そうでなければ、下手な鉄火場に首を突っ込ませることになる。

 

 

基本的に責任は上の者が取る。

ならば下の者は、上の者がやっていることは正義であると仮定、または絶対視して行動を起こすことは目に見えている。

 

 

……どう見ても、波乱の幕開けだ。

 

 

「ありがとうございます、月村さん・バニングスさん。

 これで皆さんの前で、なのはさんと呼ばなくて済みます。

 もしもご本人から要請があった場合、説明し納得していただきますので」

 

「はい。先生、ありがとうございます」

 

「……あんた、これから一之(瀬)先(生)ってよぶから」

「略称ですね。いいでしょう。ですが、ちゃんと呼ぶからには、言っている生徒に説明してくださいね」

「ええ、勿論」

 

 

 一之先[いちのさき]か。

渾名をつけられるとは思わなかったなぁ。

 

これは良い事なんだろうか。

親しみを込めてか、ただ長いから省略か、侮辱や畏怖を込めた二つ名か。

 

色々あるけれども、私はいいんじゃないかと思っている。

 

 さあ授業もあるし、さっさと戻ろうか。

私は月村さんとバニングスさんを先に出てもらって、準備室の鍵を閉める。

 

午後はあのクラスだ。

それでは、一時解散だ。

 

……

 

 

 

 放課後。

私は職員室に戻って、作業を開始する。

ここらへんの最適化は、既にソフトを作っているので簡単に終わらせられるようになっている。

またこのソフト関連は、全ての教員にいきわたっているので、情報の伝達やそのほかのデータ保全に役立っている。

 

 

「おや、一之瀬先生、新たに生徒メモをつくるんですか?」

「そうですよ、稗田先生。

 確かに稗田先生や先達の先生から頂いた資料は、確実性が高いものです。

 しかしそれは誰もが見ても大丈夫な情報だけです。

 故に個人のみの情報を取り扱う、マル秘情報付きの名簿をつくるのです」

 

 パソコンに生徒名簿の原型を作り上げ、後に印刷機で刷る。

そしてそれを冊子にして、自分でどうにか情報を確認できるようにした。

勿論これは私自身だけが見ても構わない、という事前提で作り上げた物。

その為他者に見られない様に、十全に管理しなければならない。

 

 

 後は明日である金曜日の理科の授業、来週の月曜日に行う授業の予習・復習を行わなければ。

後はテストまでのスケジュール管理と生徒達への宿題等の提出。

他にも運動会や学園特区の合同文化祭、学園特区の地域別合同体育祭の準備がある。

 

 

一言で片付いているだろうけれど、私は徐々に稗田先生や他の理科の先生から多数の仕事を押し付……貰っている。

だからその事務処理がものっそい……ね?

 

 でも生徒達が成長し糧を得て、己を形成していく様を見るのはとても楽しい事です。

 

 んーよし。今日も校門で下校する生徒を見送ろうか。

高町さんは多目的室で、元帥と共に作戦を練っている。

 

 

 私は鞄に資料を入れて、職員室に残っている先生方に挨拶をしてここを出ていく。

そしてそのまま靴を履き替え、駐車場にある私の車の所へいく。

私は高町さんの護衛役だが、いつも一緒にいるわけではないし、自転車を乗り回しているわけでもない。

 

 ユーノに聴く限りでは、例の遺物は合計20個程あるらしい。

今現在1個入手しているようで、魔法少女になり活動を始めたのも昨日が初めて。

更にジュエルシードと云われている其れは、ユーノが知る限り13個見つかっている。

今日回収しに行くと言って、個人で回収しに行ったとのこと。

 

 それならば高町を巻き込むなと言いたいところだが、そうしなければ彼女は死んでいた。

だから仕方がない事であったとしか言いようがないわけだ。

 

 この問題は仕方ないとして、ユーノ本人がもっとなんとかできた筈だ。

後の祭りだとしても、人に頼り切りだ。

 

とにかく今は頑張ってもらうしかない。

もし頑張れ無くなれば、私がレイジングハートを引っ下げて全て回収して引き渡す。

寧ろこれが教師的観念から考えて最適なんじゃないか?

 

 いや、どうみても独りよがりに過ぎない。

教師的観念でいえば、なのはを護衛しつつ課題を終わらすのを支援することが最上だと考える。

それにもう結論は決まっているんだ。

全てを回収できればいい事になっている。

 

 基本的になんとかなるだろう。

何せ私からの技術提供があったんだ。

集中力とレイジングハートの支援があればなんとでもなりそうだ。

 

 ああそうだ、一応なのはに挨拶してから帰宅しようか。

 

 私は多目的室に立ち寄る。

そこでは水曜日の1~4時限を使う授業の研究が、日夜休憩時間等を使用して行われている。

使用しているのは私が副担任をしている所だ。

ちょっとした優遇だが、勿論スパイであるクラス生徒に情報を流している。

 

 私はこのクラスのドアをノックして、入室許可を貰う。

 するとドアの『閉』が『開』の表示へ変動する。

 

ガラッ

 

 

「調子はどうかな。空軍戦略指揮官殿」

 

 

「一之瀬実務顧問殿、空軍戦略指揮官殿は早急に退勤しました」

「む、なるほど。相分かった。ところで課題である、戦闘マップから作り上げた戦略データはまだかな?」

「まだ海軍がちょっと……」

「わかった。期日まで楽しみにしているよ、元帥殿」

「はっ!」

 

 

 三年生の男子生徒は、敬礼をして私が退出するまで直立不動だった。

別に気を楽にしてくれてもいいんだけどなぁ。

 

 おっと、余命宣告を行った病院への訪問についても、今日連絡しておかなければな。

 

 

「……」

 

 

 私は月村から聞いたその病院とその先生に関して、高町なのはについて訪問して聞きたい事を伝える。

すると相手からは重要な事項であり、その情報は国家機密となってしまっているようだ。

だからこの情報は渡せないし、個人情報の保護の観念からしても開示も不可能とのこと。

 

 私はなんとか理事長の権限や私の教師として知っておくべき事項として、下から御願いしてみたがやはり無理だった。

 

 この電話は歩きながら人気のない所まで歩いて到達してからやったので、他の人に会話内容を聴かれている可能性は低いだろう。

何せ生徒の大半は下校している。

部活動がある生徒もいるが、今日は晴れているので外に出る部活動が多い。

その為大きな聲でかき消されていることも含め、防諜対策は完全だろう。

 

たぶん。

 

 

<何と云われても不可能です。では>

 

 

ブツン

 

 

 私は携帯を仕舞い、屋上の手すりに手をかけ盛大な溜息をつく。

 

 

 

 国家機密ってなんだよ。

そんな理由で高町を救えるかもしれない可能性を、完全に殺してしまったじゃないか。

兵器転用またはその現象を利用して、C又はBC兵器を繕うとでも思ってんのか。

 

納得いかない。

 

 納得なんて、してたまるか。

 

 

 だが私にできることなんてない。

権力は他人頼り。

私の功績なんざ、ただの一握り。今まで怠惰だったのが響いてきたなぁ。

 

 

「一之先」

「なんですか?」

 

 

 私は手すりにもたれかかって夕日を眺めながら、後方から聞いたことがある声が近づいてくる。

その人物は私の真横に来て、共に外界を眺める。

 

 

「あたしも取り合ってみたけど、ダメだったのよ。

 国家にはあたしら財閥は歯向かえないわ」

「そういうものですよ」

「むしろ自己破壊細胞が悪さをしているところまで知れたのはよかったわ」

 

 私は夕日の朱に焼かれ輝く、金色の頭髪をたなびかせるアリサをわき目で見る。

そして私は地面である校舎屋上の屋根に座り込む。

汚いが仕方ない。

 

ここまで無力感に苛まれたのは初めてなんだよ。

 

「私達は本当に無力ですね、バニングスさん」

「ええ、そうね」

「でも、できることがあります」

 

 私はバニングスさんを安心させるため、微笑んで言い放つ。

しかし彼女は悟るような表情から、少々いらだつような表情をして私の方をにらむ。

 

「何もないわよ!あたしらにできることなんて、なのはが無残に散る様を近場でみるだけなのよ!?」

 

 彼女は無気力に座る私をしかりつける。

絶対的な権力に脅され、保身に走った国内大臣のような心境だ。

もうやってることが意味ないなっていうやつだ。

 

しかしそれでもできることは決まっている。

それは私達でしかできないことだ。

 

「落ち着いてください」

「落ち着いていられないわよ!二年前から奔走してるのよ!?

 なのになんの糸口も掴めてないし、なのはは徐々に弱っていくし……もう……友達が傷ついていくなんてこと……耐えられない……」

 

 私の電話で言われたことや聴かされたことと同じかそれ以上の言葉が、バニングスさんに振りかけられたのだろう。

それに月村が居ないという事は、月村は共にいたが既にバニングスさんがやっていたことをやっていて、バニングスさんは同じことをやらかした私に諦め、またはほかの何かを要求しに来たんだろう。

 

 遂にバニングスさんは目尻から雫を出し始め、言葉の最後の方では嗚咽を繰り返すほどになってしまった。

 

 私はそう悲観的になることでもないだろうにと思いながら、片足を地面につけて中腰になる。

そして彼女の頭を撫でる。

行き成りの行為に、バニングスさんはしどろもどろする。

 

「バニングスさんは凄いです。

 

 私はたった数分であきらめました。

 それなのに、一人の友人の為に必死になれる事は、きっとなのはさんもうれしく思ってくれます」

 

「う、嘘よ!だって、何もしてないのに……!」

 

「高町さんの為に何もしていない人が、高町さんに下の名前で呼ばせてもらえることなんてありませんよ。

 だって、誰でもない他人である自分を気遣ってくれるんですよ?

 

 それと聞いたことがあります。

 なのはさんは、自分が一年生の時一時的な記憶障害の中、苛めている男子をおっぱらったそうじゃないですか」

 

「そ、それは大事な友達だから……」

 

「普通はそこまでできないんですよ。

 とにかく今は、しょげくれている時じゃありません。

 

 私はなのはさんと愉しく授業したいです。

 

 バニングスさんはどうですか?」

 

 

 私は学生メモに書かれていたことを本人から聞いたかのように伝え、

いまだに頬を濡らすバニングスさんの目尻にハンカチを宛がう。

 

このハンカチ、吸水性がいいな。じゃなくて!

 

 

「あたしは……」

 

 

「最近疎遠気味なの、知っていますよ。

 バニングスさんが今やれるのは、なのはさんと一生の思い出をたくさん作ることです。

 人生は一度きりなので、思いっきり遊んじゃってください。

 隣の席の子として、友達として、なのはに認められる親友として、ね?」

 

「はい……!一之先……一之瀬先生、ありがとうございます……」

 

 うーん、まだそんなに笑顔じゃない。

 

 私は彼女の口の端を両手の人差し指を使って、少しでも頬を上げさせる。

 

「ふぇっ!?」

「笑顔ですよ」

 

 私は心を込めて、彼女に笑顔を見せる。

まだまだ精神的に立ち直れてない。

だったら表面を繕ってでもいいから、作ってもらおう。

 

大人だと理屈を述べるけど、このくらいの歳の子だと表面に内側が引っ張られるから

無理やりでも笑顔を作ることはいいんだよ。

 

「なのはさんは悲しい顔をして喜ぶ友達?」

「ち、違うわ!なのはは毎日笑顔で、皆に明るさと元気を振り分けてくれる大切な親友よ!」

「そっか。なら、なのはと一生物の思い出を作らないといけないですね。

 勿論、そこで突っ立っている月村さんと共に」

 

 

 私は室内から屋上へでる扉の前に居る月村さんに、指で指し示す。

バニングスさんは、”えっ”と小さく呟き月村さんを視界に入れ走り出す。

 

二人は抱き合う。

彼女達が話す言葉の中には、電話なんてやったって無駄、なんて事を云いにバニングスさんが私の所に来たことが分かる。

更にバニングスさんが”そんなこと言わなくても、無駄で無意味な事をすぐに思い知るから止めた方が良い”、なんて月村さんが言った事もわかった。

 

 この会話で二人は袂を分かったんだろうと思う。

結局バニングスは遠回りに、愚痴を云っただけに過ぎなかった。

月村さんもバニングスさんが心配で、見に来たこともわかった。

 

ならば私は次の指針を示せばいいだけだ。

 

 私は立ち上がって、抱擁しあう二人と視線を合わせて頭を撫でる。

驚いているだろうけど、私は非常に愉快な気分だから度外視する。

 

「さあ二人とも、今日は遅い。帰って明日の為に、英気を養ってください。

 お二人の笑顔と元気があれば、なのはさんは……」

「「元気になる!」」

「そのとおり!」

 

 二人は元気になったようだ。

安心安心。と思っていると、両腕をいつの間にか二人に掴まれていた。

何でだ!?

 

「先生。こんな遅い時間に、可愛い生徒を一人で帰させるつもりですか?」

 

 月村さんが私を見上げてそう言ってくる。

あー、夕日がなくなって、薄暗くなってきているなー。

 

うむ。これはダメだな!

 

「そんなわけないじゃないですか。

 いまから駐車場へ行きましょう」

 

 

 私となのはさんの親友二人と、駐車場へ向かう。

その途中いろんな先生や生徒に見つかってしまう。

基本的にはたった一か月以内に、生徒の心をつかんだ事への賞賛があった。

だが一部のませた生徒や奥さんがいる先生からは、三角関係とかなんとか野次を飛ばされた。

 

 なんでだあ?

 

 駐車場に来たとき、どのような順序で帰るか聞く。

場所的にバニングスさんを最初に下ろす事が決まった。

私は二人を後部座席に乗せる。助手席は普通に危ないから却下。

 

 

「一之瀬先生、感謝しなさいよ!学校で一番人気な私達が、乗ってあげてるんだからね!」

「ええ。何事にも一生懸命な可愛い子に乗ってもらえて、私の車もハッスルしますよ」

「と、当然でしょ!」

 

 頬を朱に染めながら、シートベルトを締めている姿をバックミラー越しで確認する。

全く……なのはさんは、幸せ者だなぁ……。

 

とにかくなのはさんに深くかかわるという事は、彼女達も護衛しなくちゃならんということか。

上等だ、やってやるよ。

 

 

 

 私は決意を新たにしながら、バニングスを門の前で降ろす。

また明日会おう、という事を告げて発車する。

 

既に闇夜に包まれてしまっている。

 

車を走らせる中、月村さんが話しかけてくる。

 

「一之瀬先生。リンカーコアって知っていますか?」

「へ?あ、いや、全くです」

「リンカーコアというのは、生命力を表しながらもう一つの力を顕現するためのものです。

 しかしこれを抜き取られ全くない状態になった、『無魂体』の生体が発見されます。

 なのはちゃんは、このリンカーコアにあるもう一つの力が継続的に減少して行っている状態です。

 更に減少するというその現象が不可解であり、量子論でも分からない為何らかの形で物理的に、リンカーコアが損壊させられそれと同時に、なのはちゃんの肉体や精神を食い破っているものと考えられます」

 

 私は冷静にそれを聴く。

リンカーコア?聞いたことがないな。

 

「月村さん、それはどこ情報ですか?」

「父上から聞きました」

「わかりました。情報提供、ありがとうございます。

 ここからは大人の時間です。任せて頂きたいのですが?」

「御願いします。私ではここが限度でした……。

 それと、この事については御内密に」

「勿論ですよ」

 

 

 私は月村さんと約束し、彼女を屋敷の門前に降ろす。

 

 

 

 そして中へ入っていくのを確認して―――

 

 

 

 

 

―――電話に出る。

 

 

<一之瀬さん、あの公園に早く!>

「わかりました」

 

 

 

 全く………何をしているんだ!

 



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1-5:幸せとは不幸であるから幸せである

1-5

 

 私は自動車を使って速度違反をしながら、例の公園に到着する。

駐車して走っていくのはかったるいので、一度やったことがある二輪走行をして公園内に入り込む。

帰りも同じようにスタントができる壁があるので、経路は確保した。

 

そして散歩道を突破して、近くの憩いの場に停車させる。

鍵を閉めてそのまま、緑色の光に包まれている所へ走っていった。

 

 

「ユーノ、来ましたよ」

「一之瀬さん!状況を端的に言いますと、敵にリンカーコアを取られましてなのはが昏睡状態に!」

「専門用語が出てきたが、それは命に関わることで尚も敵が追ってきているということですね?」

「そ、そうです!」

 

 ユーノがそう云った瞬間、何者かの気配を水辺から大量に感じた。

それと同時に河口である水面に桃色の光が灯る。

 

徐々に光が強くなるのと共に、その何者かが大量に地上に出現する。

 

 

「オイオイオイ、逃げんなよォ。俺達の食事を邪魔しようってかァ?」

 

 

 水中から出現したのは、耳の部分が魚のヒレとなった何とも言えない人型の異形だった。

総勢50人程度。

その中に一人右手に、大きく輝く桃色の珠がある。

これがリンカーコアだと思われる。

 

 うん、ぶち殺し決定だ。

法律は人間に課される。異形人や異邦人には、課されることがない。

 

 

「少し待ってください。何故それを持っているのですか?」

「ん?あぁ、知らねぇのか。んじゃ、冥土の土産に教えてやるよ」

 

 敵にありがちな軽口か。正直いってありがたい。

 

「俺達魔族はな、人間の感情から出てくる瘴気を食って強くなったり、魔界っつーところに捧げて現界を保ってんだ。

 でもなそれだけじゃたりねぇんだ。もっと強くなるためには、その巨大な奴を食わねぇといけねぇんだ。

 例えば、魔力。これは単純に瘴気に換算される奴だ。誰でも持ってる。

 

 次にソウルジェム。これは何故か知らんが、12~15の思春期真っ盛りの女からしか物理的に採取できねぇ。

 特に真っ黒に染まった時が喰い時だァ。

 

 最後にリンカーコア。こいつはソウルジェムよりも珍しいながらも圧縮され、超強大な瘴気に変換できる魔力がある。

 こいつだけで俺は魔王クラスに成れる。

 だがなぁ、こいつは持ち主の意思がねぇと変換できねェんだ。

 だからその本体くれよ。女だから楽しみがいがあるし、堕としやすい」

 

「ど、どうやって奪ったんだ……!?」

 

 

 私は怯えているように演技する。

上手く行っているかな?

 

 

「どうってよォ……どうするんだ?」

「俺達魔族や天使等が争うと、そこだけ異次元に呑みこまれるんだよ。勿論、魔力を使った瞬間もだな」

「そーそーで、戻し方は普通に突っ込めばいいんだよな」

「「そーだな」」

 

 なるほど、案外簡単な感じだなぁ。

 

 

「と云う訳で、にいちゃん。死んでくれや」

 

 

 一気に駆けよってくる。

 

 それぞれを見るが、水中が得意なのか走るのが苦手なのが40名。

まず地上にいるだけで苦しそうにしているのが、15名。

元気に駆けてきているのは、たったの5名だ。

 

 司令塔はその場に突っ立っているだけ。

なるほど。

戦力はガタガタってわけだ。

 

 

 

 

 だったら、簡単だな。

 

 

「「ひっ」」

「何怯んでやがる!弱い人間だ、ヤレ!」

 

 確かに人間離れした容姿に、爪等の凶器だ。

でもそれしかないようだ。

一部は人間になり切れていないのか、魚眼によりその場で嘔吐している馬鹿もいる。

 

 

 私は殴ってくる奴の腕を、片腕で弾いて拳を鳩尾に手首を捻るようにして当てる。

敵はそのまま吹っ飛んでいって、ボーリングのピンの様に弾き飛ばされ河口の中へ飛んでいった。

 

それに呆気に取られている馬鹿共から二匹掴んで、司令塔へ投げる。

 

「お、オレ様を守れエエエエ!!」

「だ、誰が仲間を殺せるかよ!」

「だまれ!オレ様が魔王になれば、なんでも復活するんだよ!」

 

 

 そのまま私はそいつらを投げる。

一匹は普通に投げて司令塔の肩をぶっ壊し、リンカーコアを取得。

もう一匹は普通に振り回して、変化している爪を利用して仲間殺しを行わせる。

最後は戦う気力がある者にだけ、ぶつけて壊した。

 

 敵が怯えて大半が逃げていく。

その逃走に対して扇動し士気を上げようとする司令塔を無視して、バックステップでなのはの所へ戻る。

直ぐに彼女にリンカーコアを入れて、セットし直す。

 

 無理やり取られたリンカーコアは、ユーノの魔法によって肉体とつなぎ留められた。

 

 樹木にしだれかかる彼女が最初に動かしたのは指だ。

首筋に人差し指と中指で脈拍を測る。

徐々に安定するのが判明。

 

 

「だ……れ……?」

「なのは!?僕だよ、ユーノ・スクライアだよ!?」

「ユーノ。今は安静にしましょう」

「は、はい……」

「レイジングハートさん、ユーノ君と共になのはさんの意識確認をしてください」

<わかりました>

 

 

 私はまだまだ内輪もめしている魔族へ近づく。

 

「クソオ!オレ様たち、海魔族の威信にかけて!今まで手に入れた、ソウルジェム・リンカーコアを使って

 魔王になってやる!海魔王ダゴンよ、異端者であるオレらの雄姿をみよ!」

 

 

 ダゴン。クトゥルフ神話における、イカかタコの神話生物だった気がする。

そして目の前の海魔族は、全ての同胞[はらから]を吸収して真っ黒で巨大な蛸になる。

クトゥルフ系は触手系が多く、気持ち悪い形状が殆どを占めている。

 

そのため私であっても、その姿は少し胸に来る。

ただそれは変身の時だけであって、変身後はただの黒い蛸と化した。

 

私はなのはさん・ユーノ君・レイジングハートさんを後方に押し込み、前線にでて奴と戦う。

 

「シネエ!」

 

 

 蛸は大量の触手で攻撃してくる。

 

 

 

 まあ、無意味だと思ったが、ほんとうに無意味だった。

私は点の攻撃に強いが、面や線の攻撃に弱い。

 

下がれば死。戦えば死。どうすることもできないな。

 

 

 

 

嗚呼、皆ともっと授業したかったよ。

 

 

 

 

 

「見てらんねぇな」

 

 

 

 

 どこからか聲が聞こえた。

それと同時に私は殺しに来る触手の一部しか、断絶できなかった。

しかしその聲の主が、私が対処できなかった触手を全て断ち切った。

 

 

その主は私の後方左に着地する。

 

 その者は見たことのない服装をしている。

両手に刃・腰に大きな鞘の箱の上に鉄のタンクがあり、翼が描かれたマントを羽織っている青年。

 

「チッ、汚ぇな」

 

 彼は両手に降りかかった黒い墨をふるって落とす。

 

 

「あ、ありがとうございます」

「お前は後方に下がってろ。俺達の狩りの邪魔だ」

 

 

 私にとっては死闘だが、彼等にとってはただの狩でしかないのか……。

私は潔く下がった。

 

 

「解ってるじゃねぇか。おい、哲也」

「知っている」

 

 今度は彼はトランシーバーを取り出して、誰かに連絡している。

非常に淡々としている。

これが軍隊で特殊部隊と言われても信じれる。

 

 

「『神宮流秘術:頸木』」

 

 誰が上空に居る。

そして何か動くのと同時に、海魔王の触手が全て純白の光の針に貫かれて空中に貼り付けられる。

 

 

「ん……ぅう……ユーノ君……?」

「なのは!」

「え、あれ…?一之瀬先生、なんでここに、ぅあっ……」

 

 なのはさんは、痙攣を引き起こす。

この現象を治そうとユーノ君が回復魔法を施す。

しかし痙攣現象が戻ることはない。

 

 

「それじゃ駄目ですよ」

 

 

 若い女性の聲が真後ろから聞こえる。

振り返ると、ピンクと白に塗れた少女がいた。

その少女はほのかに光っており、闇夜の中でも存在感が別格だ。

 

 

 少女はなのはの傍に膝を着いて中腰になり、彼女の手を取る。

そしてその手をバリアジャケットが破れている胸の部分へ当てる。

 

 

「リンカーコアを感じて。そして、自分という器にリンカーコアを入れる感じを想像して?

 そう、そして、照合して……うん、これで次から取り出されても、自分のリンカーコアになるよ」

「あ、貴方は……?」

「わたしはまどか。鹿目まどか」

「まどか……」

 

 

「隼、『ラスターパージ』」

 

 

 見ているだけの私は、空中に浮いているその者の聲を聞いた。

すると空中で真っ白な爆発が引き起こされる。

それと同時に海魔王が黒から白の光によって蒸発しながら、ナニカが空中に存在する。

そのナニカは海魔王になった海魔族だ。

 

 十字架に磔にされているような姿で、空中に居る。

 

 そんな中、こっちでも進展がある。

 

 

「今からあれを一緒に封印するよ」

「ん……」

「えーと、一之瀬さんでしたっけ。お願いします、彼女を支えてあげてください」

「わかりました」

 

 

 鹿目さんはピンクの光を発光させ、弓と矢を召喚する。

そして矢を番える。

私もなのはの身体を支え、射撃準備に入る。

 

 

「一之瀬先生……」

「なんですか、なのはさん?」

「来てくれるって、信じてました……」

「当然です。なのはさんは、私が守ると約束したのですから」

「うん……レイジングハート、ディバインバスターを撃つよ」

<Alright,My Master>

 

 

 私はなのはさんを支えるように態勢を変えている。

なのはさんは私の胸にもたれ掛かり、安全で楽な姿勢になる。

右手も左手も、彼女とほぼ同じ場所にある。

 

 

「いい?」

「……っ」

 

 振り向き確認する鹿目さん。

なのはさんは、それに頷いて答える。

 

 

「行くよ………」

「ディバイン……ぅくっ」

 

 

 やはりまだ適合していないようで、苦しんでいる。

トリガーにかけられた指は、引く事ができない。

 

「なのはさん」

 

 私はなのはさんに、無茶はしないようにこえを掛ける。

 

「せんせ……一つだけ、御願いしてもいいですか?」

 

 しかしなのはさんは、聲を絞り出すようにして言う。

 

「…なんですか?」

 

 

「これを言って頂けるなら、私……どんな痛いのでも、耐えられます……」

 

 

「わかりました。私にできることなら……」

 

 私は何もできない無力な人間であることをこの時痛感した。

やはり何も成長していないじゃないか。

 

護衛とは一体なんだ!

 

 

 私は両手に力を入れてしまう。

 

「先生は悪くないです……これを……」

 

 私はなのはさんの口からそれを聴く。

それを聴くと胸が熱くなるのと共に、急激に感情が冷えていく感じがした。

私は……なんてことをしてしまったんだ、と。

 

 

「私の勘違いでもいいです……でも、言ってほしいんです……。

 

 凄く痛くて……もしこれで死んじゃったら、後悔する……っ

 

 

 だからっ…………」

 

 

 

 なのはさんは瞳から、大粒の涙を流す。

 

 

 

「まどかさん!」

 

「駄目です。私となのはちゃんじゃないと、止められません!

 

 覚悟を決めて!!」

 

「くそっ、くっそおおおお!!」

 

 

 私は無力だ。

こんな図体・知識を持っていても、何の役にも立っていない。

 

 

 知っているさ。何もできないって。だから、委ねよう、全てを………。

 

 

ごめんな……。

 

 

「好きだ、なのは! 愛してる! だから、死なないでくれッ!」

 

 

 私は全身全霊で叫ぶ。

 

 

 

「はい、正樹さん……私も、大好きです…………くぅっ!」

 

 

 

「「『ディバインバスタアアアアア』!!!!」」

 

 

 

 溜めに溜めた魔法は、『ディバインバスター』ではなかった。

足元にあったのは、まき散らされた魔力を固めて放つ収束型魔法……。

 

名称:『Star Right Breaker』。

 

 

 私は悔し涙を流しながら、歯を食いしばり反動をこらえて撃った。

なのはさんも最後目の前が真っ白になる瞬間、私を見て云いました。

 

”愛しています”と。

 

 

 




 今日はここまでです。
高町なのはは、何故このように思ったのか。
そして出現した集団は一体なんなのか。

……徐々に紐解かれていきます。


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1-6

1-6

 

 全ては終わった。

月村さんに連絡して特殊な救急車を呼んでもらい、国立中央病院になのはさんは搬送された。

 

 

そして罪は誰にもなく、犯人のいないひき逃げ事故として扱われた。

 

 

まどかさん達は、既にどこにもおらず忽然といなくなっていた。

 

 私は自宅で睡眠しており、知らなかったとして無罪放免になった。

そしてレイジングハートとユーノ君は、私の家に来てもらっている。

何せなのはさんは帰宅途中どこかで遊び、その途中に事故を被り大怪我をした事になっている。

 

だからそこにレイジングハートさんとユーノ君が居ることは、非常に不自然なんだ。

 

 本来ならばレイジングハートさんは居るべきだった。

しかし私は知らなければならない。

何故なのはさんが、あのような大怪我を負ってしまったのかを。

 

 とにかく明日も学校なんだ。

汗を流さないといけない。

 

そこで三人で共に風呂に入ることにした。

 

 

「ユーノ君は人間にならないのですか?」

「はい。僕はこれで十分です」

 

 

 レイジングハートさんは、風呂内部にある台座の上に置く。

勿論、柔らかくきめ細かい眼鏡拭きの布を敷いている。

 

ユーノ君は変化しているだけなので、毛玉や脱毛することはないから湯船に浸かっても大丈夫と言っていた。

だから男二人とたぶん女性一人で、裸の付き合いをする。

 

 

「極楽極楽……さて、今日何があったかききましょうか」

「ふぅ……はい。全てお話します。

 と言っても、戦闘状況を撮影したもので説明させてもらいますが」

 

 そういうとレイジングハートが点滅し、私達の目の前に映像が出現した。

 

 その映像は想像を絶するものだった。

 

 最初の方は普通に郊外で回収していたが、都市部で謎の雷撃を食らいダメージが蓄積される。

またジュエルシードが単体で、都市部中央に存在しているのを見て『シーリング』を開始。

しかしまたも雷撃や稲妻を纏った攻撃で攻撃される。

 なのはさんはその発起点を発見する。

 それは同い年だと思われる少女だった。

黒のレオタードと呼べそうな非常に、防御面で言えば脆い服装をしていた。

金髪のツインテールをたなびかせ、黄色のコアを持つ黒鉄の斧を持っている。

 

 攻撃速度移動速度共に、非常に速いが雷速までではない。

私が考案した魔力弾による攻撃を、相手も使用しておりそれを回避するなのはさん。

やはり空間把握能力が高いですね。

 

 まあそこまではよかったんです。

 途中で黒の集団が出現し、なのはさんとその少女を襲い始めました。

少女は逃げたのですが、徹底抗戦したなのはさんはジュエルシードとリンカーコアを奪われてしまいました。

そのあとユーノ君が人間と化して、なのはさんをレイジングハートと共に連れて公園へ行ったのです。

 

 そしてなのはさんの携帯を借りて、私に連絡をしたのだと。

遂に連絡を終えた瞬間魔力が尽きて、ユーノ君はフェレットに戻ってしまいました。

 

 

 例のジュエルシードは、今レイジングハートが取得している。

個数は7個。今晩で一気に回収したようで素晴らしい手際だと思っている。

私は二人と今後について話し合う事にした。

 

 一番先決するべきこととして、本人のメンタルケアだ。

 

 次に遺物に関して。

特別出動を名目として一定期間自由に活動できる時間を作り、なのはさんの護衛をすること。

 

 

 最後は授業や放課後を通して、戦闘に魔法以外を取り込みアウトレンジによる有視界外で撃破すること。

 

 

「というわけで、レイジングハートさん。適合率は低いですが、今後の為少し機能を貸してください」

<ええ、構いません。ですが、どうするのですか?>

「ユーノ君の魔力を借りて、アウトレンジ戦法を生み出します」

 

 

 私は最初に例の少女の雷撃について聞いた。

なんでも魔力変換資質というもので、魔力を炎・雷・氷属性に変化させられる稀有な能力なんだとか。

ただでさえ稀有なのに、氷属性の人はまずいないとのこと。

 

そこで魔力変換資質がなくても、それらの物質の変移を疑似的に魔力で作ればなんにでもなるということになる。

 

 

 まず最初に化学物質の構成元素表を引っ張り出してきて、トリニトロトルエンの項目を探す。

そしてこれを疑似的に魔法と魔力で作りだす。

 

これを風呂場から上がって、外で一時間かけて作った。

 

「これは?」

「TNTです」

「へ?」

 

「軍事用爆薬です」

「どういう効果ですか?」

「では、レイジングハートさん、この穴の中へその魔力弾をいれてください」

<はい>

 

 

 頭にクエッションマークを浮かべる彼の為に、実演を行う。

さて、どんな結果になるかな?

 

私達は一応離れて観察する。

 

<起爆>

 

 

ドッ

 

 

 籠った破裂音が聞こえるのと同時に、TNTを埋めた場所を中心に直径4M程が地上へ40Mほど吹き上がる。

中々の威力だ。

 

 

「どうですか?」

「あ、あはは……」

 

 ユーノ君の眼が虚ろになっている。どうしたんだろうか?

 

<これは質量兵器ですね>

「今更ですか。しかしこれは質量兵器を模した魔法です。質量兵器ではありません」

<ですので、次元世界での法律に触れていません>

 

 私には関係ないが、彼女らには関係あるんだろう。

大丈夫。全て魔法で補いますから。

 

 しかし魔法陣がなのはさんが使っていた砲撃魔法陣の情報量を、簡単に追い抜いてしまっていて結構膨大になってしまった。

普通ならば直径1Mほどだけれど、私が開発した其れは直径10M程。

これでは実践で使えない。

 

そこで私はレイジングハートさんに、この魔力系のプログラミングを教えてもらう事にしました。

勿論ユーノ先生にかかりっきりになって貰います。

 

 

「ユーノ教授。残りのジュエルシードはどこにありますか?」

「たぶん海か市街地ですね」

「でしたら海で魔力反応を起こせば、出てくるかもしれませんね」

「そ、そうですね……あの、先生?嫌な予感がするんですが……」

 

 私は笑顔でユーノ教授とレイジングハートさんに応える。

 

「では、今からあの少女の雷撃を完封して、ジュエルシードだけもらう練習をしましょう」

「や、やっぱり!」

<た、助けて、マスター>

 

 

 さて私達は一度室内に入り、休憩がてら理科のお勉強を開始した。

それは電流や落雷に関しての勉強だ。

電位差・電界・負電荷・正電荷・絶縁破壊・階段型前駆・矢型前駆・帯電・放電路……。

 

 

更に上記の言葉を使って、魔法の組み立て理論をくみ上げる。

 

 基本的に正から負へ向かう小粒の正電荷と大粒の負電荷に分け、自身に正電荷をまとわりつかせ

相手周辺又は相手のイオンに結合させ、帰還雷撃と多重雷撃でダメージを与える。

 

又、海水に放つ事で電離によってできた酸素と水素を魔法で集め、後続雷撃というホットライトニングを使って

水素の酸化反応を引き起こすことができる。

もしも電離できない状況であれば、後続雷撃のないコールドライトニングで対象物に含まれる水分を水蒸気に変化させ、

破裂させることも可能だ。

 

 たぶんこれをつかえば、海魔族は殲滅できる。

 そしてその少女も完封できる。

やりすぎると殺してしまうかもしれない。

 

だが、既に手を出されているんだ。

だから止めろと言っても、言い分は聴かない。

情状酌量はなのはさんに任せる。

 

 

 で、問題の魔法陣だが……半径10Mだ。

先ほどの二倍!

ユーノ君にある魔力と私に微量ある魔力を、結構使って仕上げた。

 

「こ、こんな情報量、レイジングハートと分割して行うなんて……!」

「いえいえ、これくらいならばそこらの小学生でもできますよ」

 

 ただしプログラミングと構造に関しての知識がないとできないけどね。

 

 

 私はこの後あらゆる現代兵器からヒントを受けて、プログラムだけ作ってみた。

 

 

 一つは純魔力結晶に二つの魔力による過剰な反応を与える事で、爆発が起きた事から刺激を受けた。

『魔力核』。純魔力を特殊な構造で作り上げ、そこに過剰で特殊な刺激を与え爆発させる。

周囲へMWP(Magical Waves Pulse)、魔力パルスを発生させる。

MWPによりデバイスや魔法陣に、サージ魔力を発生させそれらを破壊・使用不可にする。

ただしMWP防御結界魔法によりサージ魔力の妨害を別方向へ回避しながら、魔法を使うことができる。

 

 

<理論上可能です>

 

 

 二つ目、燃料気化爆弾。

魔力を使用するほど、大気中に魔力が残る。

これを魔力で刺激し、連鎖反応を引き起こさせる事で広範囲を爆風で吹き飛ばせる。

むしろこの魔力を還元し、自身の魔力を回復させた方が良いかもしれない。

 

 

<回復させた方がむしろいいですね>

 

 

 三つめ、弾性体・粘性体魔力結界。

物理系であれば粘性を使い、吹き飛ばされないようにする。

他は弾性体を使う事で、威力を低減することができる。

 勿論弾性体は二重構造でなければ、容易に突き抜けられるのでちゃんと二重発動すること。

また弾性体魔力結界を使えば、異常な攻撃力に対して結界の臨界点でパージすれば雷撃ホイッスラーを

相手に指向性として放つことができる。

耳から血液が出るだろうが、知ったこっちゃない。

 

 

「なるほど、いままで結界は守る事と耐える事が主だったけど、副産物として攻撃もできるようにしたのか……」

<非常に合理的です。今すぐしましょう>

 

 

 

 4つ目、転移魔法による隕石攻撃。

無差別として利用できる。

超高高度に石や岩等を転移させ、位置エネルギーを運動エネルギーに変換し攻撃する質量兵器。

また運動エネルギーを少々消費して、攻撃座標を変化させられる。

 爆心地は普通に危ない。タングステンを投下すると大惨事は間違いない。

しかし当たれば確実に倒せる。

 

 

<非合理ですが、可能です>

「しない方が良いですよ?」

 

 

 最後。魔力弾によるベクトル変更。

砲撃や砲弾系にベクトルを変化させるプログラム変異のウィルスを、その魔法に合体・忍び込ませ

反射または反らすことが可能になる。

 

 

<非常にいいですね。これが一番簡単でしょう>

「やるのは僕だよね!?」

「当然です」

 

 

 少々徹夜をしてしまったが、私達の探求は止まりませんよ。

勿論私の魔力を使って念話もできるようになりましたし、常にユーノ教授に試してもらえます。

いやぁ、実践してもらえるかな?しないかな?

やってもらえると、非常にうれしいのですがね。

 

 

 



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1-7

1-7

 

次の日。

 

 

 私と月村さんはバニングスさんに叱られた。

 

 

 放課後直ぐに理科準備室に連れ込まれた。

やはり令嬢ともいえるが、その情報は昼休みに掴んで私と月村さんが関わっている事がばれた。

 

 

「ごめんなさい。私が至らぬばかりに……」

「あたしがなんで叱ってんのか、ちゃんとわかってんの!?」

「すみません……」

 

 私は全面降伏、無条件降伏状態で平謝りするしかない状況。

無力すぎた。

だから私は土曜日に市外へ行き、強者を求める旅をする予定だ。

 

きっとこれからも危険な事が続く。

いや絶対だ。

 

 こんなに危険な状態でなのはさんの護衛なんざ、努められるわけがない。

だから私は危険因子は確実に殺していく。

心の中にある確実性から生まれる慢心を、完全に破壊する。

 

これから生きるのは修羅の道だ。

 

 

「あたしはなのはとすずかと……一之先と普通の日常を過ごしたいだけなのよ!

 先生はあたしたちの副担任なんでしょ!?

 たった一人の生徒すら守れないの!?」

「アリサちゃん!」

 

 

 バニングスさんの怒りに、月村さんの仲裁が入る。

 

 

「……っ、ごめん。ちょっと、独りにさせて」

 

 

 バニングスさんは準備室を出て行った。

私は追いかけようとして、椅子から立ち上がり駆けようとした。

しかし月村さんが私の服の裾を掴んでいて、前へ進むことができない。

 

 私は月村さんの方へ振り向く。

 

 月村さんは俯いていた。

彼女も怒っているのだろうか。

いや怒っているだろう。

 

 私の不注意と慢心により、彼女も私の罪に巻き込んでしまった。

そしてバニングスさんの言う通り、私は皆さんの副担任だ。

副次的であっても、私は先生であり大人だ。

 

こんな大人がぐうたらで、いざという時には生徒に頼ってしまった私が愚かだ。

 

「先生……」

「なんですか、月村さん」

 

 

 

「先生はなんで、アリサちゃんに一之先ってよばれたり、なのはちゃんに下の名前で呼ばれているかわかります?」

 

 

 え?

ただの教師と生徒の友好の証じゃないのか?

それになのはについては、自己の確立を認めてくれるってことじゃ?

 

 

「……」

「わからないんですか? 私達、凄くアピールしてるのに……鈍感な人……」

 

 

 は?いや、私の性格まで罵倒するような事項があったか?

そんなはずはないよね?

たぶん。ないはず。

 

でも、私は底辺の屑野郎っていう事は分かる。

だからその屑を止めるために修行をしたのに、結局本質は変えられなかった。

どうすればいいんだろうな……。

 

 

 自身の更正のしようの無さに嘆いていると、月村さんが私の裾を更に強く引っ張る。

 

 

「私達、先生が来る前まで、頻繁に喧嘩していたんですよ?」

「え?」

 

 

 嘘だろ?

仲良し三人組って、メモ帳に書いていた。

 

いや、どうせ主観ばかりで下校した生徒達を、一般人視点から見ていないだけだろう。

 

あ、でも、なんで彼女たちは喧嘩をしていたんだろう?

 

「何でって顔ですね」

「え、あ、すみません」

「いいんですよ。私達が先生の事を知りたいように、私達の事先生にもっと知ってもらいたいのですから」

 

 月村さんはくすっと笑う。

小学三年生がするような笑いじゃないよ、それ……。

所作も優雅だし、さすがは令嬢。半端じゃない。

 

 

「私達って実は、凄く気が強いんです。

 ですから一度意見が分かれると、負けを認めるまで対立しちゃうんです。

 でも先生が来てから、なのはちゃんとアリサちゃんは喧嘩しなくなっちゃって……

 

 本当に楽しそうに過ごしている二人を見るのは、久しぶりなんです……」

 

 月村さんは優しいんだなぁ。

常に二人の事を考えている。

 

もしかしたら月村さんから、バニングスさんへ情報を流したのかもしれない。

心優しいから、友達に情報をって感じかな。

 

「だから先生……お願いします……なのはちゃんを救ってください……

 アリサちゃんも、悪気はないんです。

 

 だってなのはちゃんが、今まで私達に見せたことがない顔を先生に見せたんですよ?

 三年以上の付き合いがある私達からみれば、嫉妬しちゃうに決まっているじゃないですか……」

 

 あぁ……そっか。

私は勘違いしていた。

 

 

バニングスさんも月村さんも、結局の原動力は『嫉妬』にあったんだな。

 

 だとしたら早急に、バニングスさんの所へ行かなくちゃいけない。

変に感情や関係をこじらせると、ナイスボートになる。

それだけは嫌だ!

 

 

「先生は私達だけの先生になれないんですか?」

 

 私は内心焦っていると、月村さんは顔を上げて私が生きてきた中で知らない表情をしてきた。

少し考えが吹っ飛んでしまったが、端的に情報を組み合わせた。

これが私の答えだ。

 

 

「月村さん、ごめんなさい。私はこの学校の三年生副担任です。

 貴方達だけの先生にはなれません。

 私は皆さんの先生ですので」

 

 私は月村さんの目線と同じ位になる様に中腰になって、彼女の頭を撫でる。

すると私の裾を握っている手が緩くなる。

よし、バニングスさんの拗れを治しに行こう!

 

「月村さん。そろそろ昼休憩が終わります。

 私はバニングスさんを迎えに行きますので、貴方は教室にてお待ちください」

 

 私はこのなんだか重苦しい空気を絶つため、満面の笑みで言う。

こんなの耐えられないからね。

 

「わかりました。先生、アリサちゃんをお願いします」

「お任せください。先生には出来ないことがあっても、やれないことはないんですよ?」

 

 心配そうな月村さんに、私は自信満々の調子をみせる。

生徒を不安に導くのは、最底辺な教師であってもやってはいけない。

 

 

希望でなければ、生徒達はついてこない。

 

 

さあ、やろう。

 

 

 月村さんは準備室からお辞儀をして、教室へ小走りで走っていった。

 

 私はバニングスさんを探しに、早歩きで探し回る。

授業に関しては、暇をしている先生に頼み込んで自由学習にしてもらった。

勝手な事をしていることは、重々承知だ。

頼んだ先生からも、何が起きたか知らないが生徒からの評判に繋がるぞ、と叱責を受けた。

 

 それでも一人の生徒だからという理由で、捨てる事なんてできない。

 

 それ以前に私が原因で、生徒がバニングスさんが落ち込み何かをやらかせば、学校側に非難が来る。

此れだけは避けないといけない。

私の痴情のせいで、全てを巻き込むのはごめんなんだ。

 

「バニングスさん!」

 

 

 私は屋上で彼女を見つける。

 

 バニングスさんは、外の景色を見ている。

 

 

 私は歩いて彼女に近づく。

 

 

「バニングスさん、ごめんなさい。

 私のせいです。護衛でありながら、何の成果もあげられませんでした。

 昨日の約束を、反故してしまい……申し訳ありません」

 

 私は頭を下げた。

不甲斐ないという言葉が、一番似合う私。

 

 

彼女達の絆や信頼を、全てを以って破壊してしまった。

この罪は非常に重い。

 

 

 しかし彼女達に、償いの方法を見出せないのもそうである。

 

 

 情けない。

 

 

 非常に情けない!

 

 

「先生」

 

 

 バニングスさんは、景色を見つめながらそうつぶやく。

 

 

「なんですか?」

 

 

 私は頭を上げ、彼女の言葉を待つ。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「バニングスさんが謝る必要なんてありません。

 私の不徳とするところです」

 

「違う。そういうのじゃないの」

 

 

 バニングスさんは、黄昏るのを止めて私の方へ振り返る。

その表情は悲壮なのか悲哀なのか、全く読み取れない。

無表情ともいえるのか。いや、そうじゃない。

 

 

「私ね。なのはやすずかと一緒に居られればいいと思って、先生方の動向を調べては脅迫したりして、

 私達に近づけない様にしていたのよ」

 

 

 バニングスさんは、私を見上げ微笑みかける。

 

訳が分からない。何故私にそのような事を云いだしたのか。

それよりもそんな妨害知らない。

 

 いや、仕事中は携帯電話の電源を切っているし、移動中は今後の動向を思案していることが多いから、

そのような事に気づかなかっただけかもしれない。

 

 

「でも、先生は例外だったのよ。だって、なのはが私達に見せない表情をするのよ?

 他の餓鬼っぽい男子にも見せない、教員にも見せない……憧れの姿……。

 だから脅しは止めて、情報収集をしてみたの。

 そしたら、先生……なのはの為に、凄く頑張っていたって事がわかってね。

 

 正直、先生に取られたくなかった。

 だけどなのはは、私達の輪を抜けてまでも先生に近づいたのよ」

 

 

 はて、そうだったかな?

そういえば放課後に、毎日特別な講義を始業式の次の日から始めたんだけれど、

その日から多くの知識欲を満たしたい生徒が見聞を聞きに来たような……。

 

 まさか、そこになのはさんが居たのだろうか?

 

 いやありえないだろう。

素性がまだわからない教師の講義に、即行で心酔するなんて……。

 

そういえばあの時、来ていた人物は女子5人、男子2人だ。

行った講義は、『家政学』。

 

 プリントや電卓を使って、家計の付け方とその合理性のある物事の順序を教えただけだ。

たったそんだけだ。

 

 

「それで私はすずかと一緒に、今回の先生は頼りになるからという建前の下なのはの秘密を教えたの。

 でも本当は生徒想いの先生に、無理難題を強いて私の言葉で挫折させて、さっさとどこか行ってもらいたかったんだけどね。

 

 でも、一之瀬先生は、挫けなかった。

 

 寧ろ私が……」

 

 

 バニングスさんは頭を振る。

私は静かに、彼女の独白を聴くしかなかった。

それくらい私は情報の整理に、神経を割かなければならなかったからだ。

 

 

「私もすずかも、なのはが魔法に関係しているのは知ってるの。

 でも、なのはは必死にその事を隠してた。

 だって私達が知って居るはずないもの。

 

 だから私達は介入しづらくなった」

 

 なるほど、自分で自分の首を絞めて仕舞ったんだな。

魔法の方も、裏で消すこともでき無いようだ。

傍から見ると非常に楽しそうな魔法も、少しこじらせると面倒な物に変化する。

 

 核みたいなものになってしまっている。

 

 そこから私達にやった仕打ちを聞いた。

いや私は全く被害を受けていないから何とも思わない。

だがそれでもその告白から、なんとかバニングスさんの自己加害を止められる方法を編み出す。

 

そう、私とバニングスさんの距離を縮める、最適な行動を……。

 

 

 

「私、転校するわ」

 

 

「え?」

 

 

「元々一人だったし、丁度いい頃合いかなって。

 今まで迷惑をかけたし、すずかも脅迫と強要は非常にまずいって言ってた。

 幸いすずかは先生を認めているし、私がいなくなっても……」

「逃げるな」

 

 

 

 私ははっとする。やっべ、言っちまった。

バニングスさんも、驚愕しているようで固まっている。

 

 私は生徒の言葉に共感しながらも、それに意見して方向性をずらすことを主体とした話し方をしてきた。

だけども私は彼女の独りよがりでありながら、言葉の表裏に見える『逃げ』を感知して自然と聲に出してしまったようだ。

何故なら私はそういう逆境を、どんなに落ち込んでくよくよしても逃げずに立ち向かってきたからだ。

 

だから今は彼女自身の勝手な解釈と他を見捨てる様な言動をとる彼女の思惑そのものが、

私にとって受け入れがたい信念であるから真っ向から拒否してしまった。

 

 

「”逃げるな”ですって……?

 わ、私がどれだけ苦悩して言っているのかわからないの!?」

「分かるさ。大体どんな事情か、当事者から言うと容易にわかる。

 だがな、私はアリサ・バニングスではない。

 圧倒的容姿・財産・名誉、その他諸々同じような思想・思考・性別を持っているわけではない。

 しかし同じような状況であるからこそ、共有し共感できることもある」

「だったら、私の事を”逃げ”と認めないで、さっさと許可しなさいよ!

 あんた校長と理事長の親族なんでしょ。早く承認しなさいよ!」

「阿呆抜かすな、アリサ・バニングス!

 お前の親友をほっといて、自分だけぬくぬく他の場所で過ごす気か!

 何故なのはがアリサを親友だと思って―――」

 

「ただの友情ごっこに、興味なんてないわ」

 

「そうか。お前はこの舞台から降りると云う訳なんだな?」

 

「ええ。全く興味ないわ」

 

 

 いけしゃあしゃあと述べているように見えるが、瞳が揺れていて今にも心が決壊しそうになっているのが見て取れる。

ただの強がりだ。

気が強いとはいうが、これはどうみてもやりすぎだ。

これではただの我慢と変わらない。

 

 だから私は、強行する。

 

 

 私は一気に駆け、バニングスさんの胸倉をつかみ上げ、校舎の外に彼女を吊るしだす。

彼女の足元には、3階立分の高さの下にコンクリートの地面がある。

幸い皆授業中。体育を行う運動場も、つるし上げている方向の真逆にあるので見られない。

 

 

「くぅっ!」

 

「アリサ。お前、この舞台から降りるということは、私が立っているこの舞台から去るということだ。

 それはつまり、わかるよな?」

「ええ、わかるわ!さっさと……さっさと放しなさいよお!」

 

 アリサは両手で私の腕を握り、離させるような行動をとる。

しかしただの小学生の握力で私の腕から、離脱できると思わないでほしい。

 

ただ、脅しも必要だろう。

私は彼女の胸倉をつかまず、人差し指だけで服のつっかかりを使って持ち上げる。

 

「っ!?」

「どうした?去りたいんだろ?むしろ、死んだ方がましだなんて、思っているんだろ?

 ん?そのへんどうなんだ?」

「……」

 

 アリサは歯を食いしばって耐える、

うーん、強情。仕方ない。アレをするか。

 

 

 私はアリサの胸倉をつかみ思いっきり上空に投げる。

そしてすぐに三年生の教室へ向かい、ドアを蹴飛ばして、閉じている窓を割り道中にいるすずかを拉致して飛び降りる。

 

 

「へ?」

「月村さん、すまない。ちょっとしくじりました。

 力を貸してください」

「い、良いですけど……」

「君は何も見なかったし聴かなかった、いいね?」

「あ、はい」

 

 

 二階から地上に降り立ち、そこにすずかを降ろす。

次に窓のつっかえを使って、屋上まで登りアリサが落ちてくるのを見て私が飛んで、位置エネルギーが

運動エネルギーに変化するその頂点をアリサの落下地点を合わせて地上へ降り立つ。

 

 

 私は足を捻挫したし、腕は脱臼した。

ただアリサが無事なので、問題ない。

 

 

 彼女は身体を震わせ、失禁していた。

だが失神はしていない。さすがにここまでくると笑うよ。

 

「月村さん、バニングスさんの本心を誘導する様にしてみてください。

 一応心は壊してしまったので、あっさりといけるはずです」

「何してるんですか……」

 

 月村さんは私に呆れ、盛大な溜息をつく。

しかしすぐに気を引き締めて、問答に入る。

 

月村さんはバニングスさんの両手を取って、彼女の顔を覗き込むようにして言う。

 

「アリサ・バニングス。天国へようこそ。ここでは貴方が現世にしてきたことを、一生悔やみながら懺悔できる場所です。

 あなたは地上で何をしましたか?」

 

 囁く様に彼女に言う。

するとバニングスさんは目を閉じて、身体を震わせながら言葉を一つ一つ紡いでいった。

 

「はぁ……はぁ……私は、せんせーにひどい事いいました……。

 私、何もしてないのに……せんせーだけ、必死に動いてなのはの事……守ってました……。

 何もできない事……歯がゆくて……そしたら、なのは……せんせーの事が好きってラインで来て……。

 発狂……したのかな……。性格が性格だから……初めて友達ができたの、うれしかった……。

 

 

 なのに、せんせーになのはを取られて……きづいたら遅かった……。

 なのはに逢いたい……。逢えるの……?」

 

 

「ええ、逢えます。今からその場所へ行きますね。少々風が吹きますが、安静にしていてください」

「はい……」

 

 

 月村さんは私に微笑みかける。

殺す気かな?まあ、私がやっちまったことだし、やってやるよ。

捻挫でひどい痛みと違和感の中、なのはさんが幽閉されている病院へ向かった。

勿論月村さんを背負い、バニングスさんを腕に抱えてね。

 

 全力で走っている途中、月村さんが何か電話をしていました。

どうしたんだろうと思って、病院に到着すると大量の警察が周辺を制圧していました。

私は途中月村さんに案内され、病院に入り込む事に成功。

 

そして幽閉されている階層に来て、誰もいない通路を通って例の場所に来る。

 

 私は既に開いている扉を開けて、中へ入り込む。

そこは真っ白な広い部屋で、中央にぽつんとベッドがある。

ベッドにはなのはさんがいて、周辺機器が充実していた。

 

 

 私はなのはさんにバニングスさんを近づける。

月村さんは所定位置に着いて、バニングスさんの意識を誘導し始めた。

占い師とかカウンセラーに向いている言動っぷり、それとも彼女の性格を熟知しているのか……?

 

「アリサ。到着しました」

 

 なのはさんは左腕に点滴を受けているので、右側に来て比較的自由に行動を起こす。

バニングスさんは周囲の状況に目がいかず、なのはさんの右手を取る。

しかし私はそれ以上先は見ることはできない。

 

 じつはなのはさんは、白い布っぽいものをかけられていた。

それをめくると、なのはさんは全裸だということがわかった。

だから目線を外したんだけれども、バニングスさんが自分の世界に落ち込んでいる時、

月村さんが私に催促した。

 

「一之瀬先生。なのはちゃんは先生が好きだって言ってたんですよ?

 だったら見る位どうってことないじゃないですか」

「まあ、実質私の生徒であり護衛対象です。肉体的損傷がないか確認しておいてもいいでしょう」

 

 勿論何かあれば、責任者を引っ張り出して処刑しますが。

ただ私刑ではなく、ちゃんと意見を集めたうえで私刑にします。

ん?どっちみち変わってないような……?

 

 

「ん……んぅ…………アリサちゃん?」

「なのは……」

 

 気づいたみたいだ。

だが残念ながら、私はバニングスを抱えているのでなのはから私は見えないのだ!

 

 

 バニングスとなのはは、お互いの事を確認しあい思っている事をぶちまけた。

 

 

「なのは、ごめんね。あたし、なのはが先生に取られると思って……」

 

「大丈夫だよ、アリサちゃん。魔法少女になってから、検索魔法で不審な人、たくさん見つけたことがあるんだ。

 あの人達って、アリサちゃんが仕向けた人だったんだね」

 

「うん。もしなにかあったら、あたしは……」

 

「ごめんね、アリサちゃん。私は先生の事が好き。生徒としてじゃなくて……」

 

「あいつのどこがいいのよ……」

 

「……私達の事、ちゃんと見てくれるから、かな?今までやけに怯えている先生が多かったし」

 

 バニングスは監視の事だけ言い、脅迫と強要の事は言っていない。

強かだな、おい。

 

「それと、私の事を可哀想だ、って一言も言わなかった事とほめてくれたこと。

 後は、私が淹れた紅茶をちゃんと指摘してくれたこと」

 

「そんなこと?」

 

「む。私だって喫茶店の娘なんだよ?

 皆おいしいとかいいつつも、冷や汗だして無理やり笑顔を作って誤魔化してた。

 でも、先生はそんなのなかった」

 

 うーん、なのははちゃんと会話できている。

リンカーコアは、肉体と結合しているのか?

 

 

「なのはちゃん。もう大丈夫?」

 

 

 月村はなのはに確認する。

 

 

「っ!?え、いたの?」

「居たんだよ?後、先生も」

 

 

 私はドッキリ大成功と同じぐらいの思考レベルで、アリサの身体の陰から頭を出す。

 

「やあ、なのはさん。リンカーコア結合、できました?」

「っ!!!?」

 

 するとなのはさんは、右手でめくれている布団を使って首下まで隠した。

結構な焦りっぷりだ。私は皆さんをそういう目で見れないのですがね。

 

「先生、アリサちゃんの解放をお願いします」

「そうですね。レコーダーに十分な情報を収納できました。これで利用できます」

 

 私は山籠もりで取得したツボを使って、バニングスさんの感覚神経遮断をしていた。

自然にこれを行う位慣れてしまったものですから、前説明なくやってしまいました。

とにかく解放します。

 

「んぁっ。っつぅ……って、ええっ!?一之瀬先生!?すずか!?」

 

 私と月村さんは、爆笑と最高の微笑みを見せる。

 

「告白、ありがとうございました」

「せ、先生の馬鹿あああっ!」

 

 私がこういうと、バニングスは私を蹴飛ばしました。

私は華麗にしゃがんで回避して、彼女の攻撃を無効化しました。

しかし回避する時、スカートが翻ります。

 

そして本来ならば、下着をつけている筈なのですがありませんでした。

 

 そういえば失禁していたのを思い出しました。

尿素でアンモニア臭を漂わせるくらいならば、下着をパージすればいいじゃないか、と。

素晴らしい考え持ってんな。

 

非常に合理的だ。

 

「アリサちゃん。おねしょな下着は、私が切り落としといたよ」

「なんか、涼しいと思ったら、あんたのせいね!」

「あ、見られたのは気にしないんだ」

 

 うがーっとアリサは、一気に騒がしくなる。

彼女の言葉は羞恥心がないようで、気にしていない事はなのはに言われている。

 

「気にするわよ!で、でも、先生ならいいかなって……」

「一之瀬先生は渡さないから!」

「そんなんじゃないわよ!」

「なのはちゃんもアリサちゃんも、先生に口説かれたもんね」

 

 うんうん、子供は元気が一番だ。

私について語っているけれども、気を引きたければ結婚適性年齢まで引き上げて挑戦しなさい。

法律的にも私の教師魂的にも、二人や三人の婦女子を特殊な感情で贔屓するには不可能としかいいようがない。

まず私にそんな気はないので。

 

 今は不可解な世界の動乱を知らないと、これからが危なくなる。

だからそちらに気が行くな。

 

「それで、リンカーコアは……」

 

 

 

<それについては、私が説明しよう!>

 

 

 

 いきなりホログラムで担当主治医が出現した。

何というオーバーテクノロジー!

 

 

 バニングスさんと月村さんは、その立体映像に驚くがなのはは先生と言って認めている様子。

ふむ。これは……協力体制を敷けるか?

試そう。

 

 

<今回のリンカーコアの損耗率は78% 損壊率は88% 適合率1% 魔力ランクAAA[トリプルエー]です。

 損耗は魔力使用で、損壊は摘出による魔力以外による損耗、適合はリンカーコアとの結合と共に燃費よく消費できるかの

 重要な値であり、また保有している本人との魂的結合の意味があり意識レベルの回復等注視されるものです>

 

 

 この主治医やるな。

今後彼と組もう。そうしよう。

それにもし魔力に関する問題があった場合、彼とコネクションがある場合活用できるかもしれない。

 

 

<現在全ての%[パーセンテージ]は、100%となりました。

 今後の治療の心配はございません。

 それと今回の事により、国立学園特区の一之瀬正樹非現実的現象専用顧問と我々地球魔導研究機関と連携することになりました。

 私は西田 洋一。今後ともよろしくお願いします>

 

 先に根回しをされていた。

という事は、宮本先生の影響かな?

 

 それと国立学園特区は、学園特区の計画・整地・大学建設を国がやっているだけ。

他は計画と整地による学区に、県がそれぞれ建てるだけ。

 

「よろしくお願いします、西田さん。

 ですが私個人ではなく今後増える可能性がある為、保険の先生である宮本さんと一度対話して頂きたい」

<既に介入は済んでおります。

 今の所は魔力やそこらの基本的な事を、宮本先生の所へ送っております。

 

 えー、高町なのはさんは、既に完治しておりますが体調回復の為、一週間は入院してもらいます。

 それとアリサ・バニングスさんは、身体に大きな凍傷があることが確認されていますので、此方も診察を受けてください。

 月村すずかさんは、今回の件について少々長引く会議があるので、そこに参加してもらいます。

 一之瀬正樹さんは、全身打撲・脱臼・捻挫を確認しております。こちらも集中治療をさせていただきます>

 

 あちゃー、ばれてた。

 

 

「「全身打撲!?」」

「強気なアリサちゃんを凍傷させてまで、心を開かせるつもりだった結果がそうなんでしょ、先生?」

「そうですよ、月村さん。

 私はどんなに強気であったり問題児であったとしても、どんなことをやってでも心を開かせて見せます。

 ですので我が身の安全は、省みません」

 

 私は堂々と言う。

全ては生徒の為!

 

どんなことになろうとあきらめないで、いろんな妥協を行いながらも解決を図っていく。

これが教師魂。

 

 少々加害がすぎたり、物損も行うが……生徒が新たな発見をしてくれれば重畳だ。

なにせ、子は宝だからな!

 

しかし、これでようやく私達は歩み始められる。

後は……私が悲願とする、あの子たちをどうにかしなければならない。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 出入り口である扉が開く。

其処から入ってきたのは、警部格一名・モーションブラー担架二台と付属の病院従属者4名。

 

 

「月村様、こちらにおられましたか。院長室まで同行を」

 

「一之瀬様とバニングス様は、こちらの担架に寝そべってください。

 拒否はできません」

 

 あ、やっべ。

 

 

「色々ありますがまずは皆さん、自身の用事を済ましてからにしましょう」

「一之瀬先生、またお会いしましょう」

「一之先、また病室で!」

「皆、また逢おうね」

「いったん解散だ」

 

 

 私達はそれぞれの担当者の指示に従った。

またこれに従った事により、後の面倒なことがすべて犯人が居ない事故として判断されいろんな責任から逃れられることになった。

 

特に病院の占拠と学園特区での誘拐が、リンクしていないながらも既に終身刑となっている者へ責任をなすりつけられた。

 

私とすれば解雇だろうという事を危惧していたが、まさかこんな解決されるとは全く思いもしなかった。

今後はもっと静かに、物事の解決をしていこうと思う。

 

 

 

――――週末の護衛の奴は後に説明するだけ。

 

 



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2-1:鈴鳴りの杖

 

2-1:鈴鳴りの杖

 

 

 私は一之瀬正樹。

 

 実は今、上の命令で隣町の小学校に派遣されてる。

理由は以前学校の扉を破壊して、その責任をもって隣町の教師不足として緊急充足されたからだよ。

 

 あーあー、一日で治ったものの、あの後怒ったなのはの父親やきょうだいと決闘したり、アリサのペットにかまれたり、

すずかのきょうだいに刀で斬られたり色々された。

更に学校の水曜日のアレも4時間から二時間に、規模が縮小されたし……。

 

専用顧問も宮本先生が、今一人でやっている状態だ。

 

だいたい、この町でやるのは二週間くらいだ。

なぁに、私がやるのは担任の先生だよ。

 

 それに私は産休関連とその補充の間の補欠みたいなもんだから。

故に二週間くらい。

この学校に来て一週間くらい経過したかな。

 

授業時間や献立はあまり変わらない。

やはり町なだけあって、1クラスの人数もだいぶ少なく組も少ない。

 

 あっちだと1-Aとか色々あったが、こっちでは1-1とかだ。

少ないので他のクラスも受け持ちをしている。

これもまた上からの罰の一端らしい。

 

 まあ、やる気が上がるからいいんだけどもね。

 

 

 

 

 

 

 

 でもさぁ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――なんで私が行くとこ行くとこ問題が発生するんだ?

 

 

 

 

 最近はなのはさんという、普通の教師ができながら若干重い程度の問題だけだった。

それ以外は軒並み普通じゃないが。

今回も非常にパワフルで、異常なかつ魅力的な展開だ畜生。

 

 

 一週間前。

 

 

「えー今まで担任の先生がやってきた社会だけど、どこまでやりました?」

「国会・内閣・裁判の三権分立までです」

「わかりました。では、質問です。

 国が国であるために、一番必要なのはなんですか?」

 

 私は小学4年生に対して投げかけている。

この質問は多分容易だろう。

まあ当然の如く、ちらほらと言葉少なく言う生徒がいる。

 

 

「まあ、領土・領海・領空・憲法とか必要だね」

 

 

 私はこっちの学校は、そんなに敬語にしない。

理由は言葉軽さというよりも、堅苦しさを与えない為だよ。

この二週間はいきなり知らない人によって統治されるんだ。

だからなるべく、ストレスは減らしておきたい。

 

 それにどんなになれたとしても、二週間には去るしね。

だから適当に飄々としておけば、評判は悪くはならないがよくもならない。

 

でも私はこの二週間だけ、特殊な事を行う。

 

 

「さて、皆さん。教科書だけしまってください」

「「「?」」」

 

「私が配属になるのは、二週間だけです。

 最初の十分だけ、ある程度授業をやったらそのあとは漫画でもなんでも読んでてください」

 

 すると生徒達はおしゃべりをし始めた。

 

 

「ですが、授業はやらないとは言っていません。

 勝手に教室外に出たり・おしゃべり・ゲーム・携帯等、関係ない事をすれば授業態度と

 成績が勝手に下がっていくのでお気を付けください。

 それと絵描きや小説を書く・予習復習等は、勿論構いません。

 

 では、どうぞ」

 

 

 私は教卓で教科書を読む。

ただ、教科書は読んでいない。別の何かを読んでいるからだ。

そして5分待つ。

 

5分間何をするのかというと、何故教科書だけ仕舞わせたのかということを考えさせるためだ。

もしただ先生が指示したのなら、という後発的な物事を考える子は私の地獄に付いてこれなく可能性がある。

それを見切るだけだ。

 

 

 もしもこの私の地獄についてこれるならば、二週間後の地獄のテストの結果次第で彼らが得意な分野を見極める事ができる。

それを伝えて、将来に役立ててほしいかな。

 

 

 5分経過。

この教科書だけを仕舞っただけの生徒はほぼすべて。

ノートを仕舞った子は、30人中26人。

 

まあ知ってた。

 

論外は3人。彼らの授業態度は1(最低)だな。

 

 

 私は立ち上がり、チョークを持つ。

そして書き始める。

 

 

「さて、今ノートを机の上に出している子だけ、授業を再開しよう。

 必要なのは、国民が必要。なので、今から基本的人権について学ぼう」

 

 

 急な事態に皆は付いてこれていない。

今からノートを出そうとする生徒がいる。

 

「そこの国岡、ノートは仕舞え。しまった奴は、授業に参加するな。

 二度も言わせるな。

 授業はやらないとは言っていない。

 なのに先生である私の指示もなく、ノートもしまいました。

 貴様等には、授業を受ける資格等ない。

 

 異論があるならいい給え」

「差別だ!」

「授業とは関係ない趣旨の質問は度外視させてもらう。

 では、ノートを出している、やるきのある生徒の皆さんはついてきてください」

 

 

 格差勉強とはこういうことだ。

これで私が引き継がれるとき、生徒の皆さんは次の人を快く迎えるだろう。

 

 

私は大学レベルの速度で、勉学を進めていく。

 

 色付きチョークは使わない。

大切な所は、自分で見極めるように。そう言い聞かせながら、黒板に書いていく。

 

 

 自由と平等の思想・市民の権利と市民の自由・国家権力の制限・私人間への効力という基本を書く。

次に種類を書き、説明を書いていく。

 

社会権・体系・自由権・請求権・生存権・参政権・人権の保障。

 

 更にこれらの歴史と主にこれらの発足と影響を及ぼした条約を書く。

少数民族保護条約・奴隷売買禁止条約・婦女、児童売買禁止条約・亡命者、難民保護条約・

アヘン、麻薬禁止条約・衛生条約・国際労働条約・世界人権宣言・国際人権規約・ジェノサイド条約・

人間差別撤廃条約・民族自決。

 

 

 これらを即行で書いて、30分で授業を終わらせた。

ちなみに男女平等や男女共同参画社会基本法とかは、国内で影響されたもの。

応用は中学生でやってくれ。こっちは世界で影響されたものだけだからさ。

 

 さあ、次の授業も地獄の勉強に取り掛かろうか。

 

 

 っとその前に、教室にボイスレコーダーを仕掛けておこう。

今回の愚痴や文句が聞けたら最高だね。

 

「くそっ、なんなんだよあの先生」

「しょーがないよ、僕らの深読みがなかったんだ」

「あー、まだ黒板消さないで!」

「だまれ!二週間しかいない先公の授業なんて、消してやる!」

 

 

 

 退室間近でも、普通に聞こえた。

うんうん、最高だね!

 

 

 私はこの後、理科で逆転層・数学で幾何学・国語で狂言を教えた。

それから一週間、ずっと大学生もびっくりな授業をしているとさ、苦情が来るわけなんだわ。

でも授業だからということで、苦情をはねのけた。

 

まあ教育心理学的に、やっちゃいけないんだよね。

だって生徒の心を傷つけるし、やる気をなくす行いなんだ。

 

このおかげで、起立と礼を私の授業の時だけやらなくなった。

他の先生だと喜々としてやるからね。

計画通り!

 

 

 

 ただ……ただ一人だけ喜々として、私の授業を受けている生徒がいる。

その子がまた、とんでもない子だった。

 

……

 

「先生!今回の理科の物理的・科学的吸着についてもっと教えて!」

「構わないけど、仕事を終えてからでいいかな?

 時間外授業は賃金が発生しないから、結果的にサビ残になって叱られるんだ」

「うん……よし、じゃあ、先生が終わるまで待つね!」

「ええ!?いや、早く帰らないと……」

「だいじょーぶ!明日休みだから、遅れても何ら問題ない!」

「OK分かった。じゃあ、教室か応接室にいるか?なんなら、ビデオでも」

「ビデオ!」

 

 

 と云う訳で、彼女にビデオを見てもらう事になった。

ああ、彼女というのは私が担当している、小学4年生の子なんだ。

 

確か名前が、美咲エリ。

非常に勤勉で、私が行う授業についてくる非常に珍しい子だ。

 

 あれ、嫌ってもらうためなのに、何でこんなに懐かれてるんだろ。

やっぱ、例外はいるもんだなぁ。

しかも美咲さんは、私を本能的に拒否する人に対してなんか色々言って言い争いになることが多い。

 

「ちょっと、先生の事をボロクソに言ったの誰!?」

「俺だ!なんだ言って悪いのか!」

「馬鹿じゃないの!?もっと深くまで読み込みなよ!」

「はあ!?賢いからって調子にのんな!」

「うっわ、美咲の奴。可愛いからって、三尾君にしっぽ振ってるきっも」

 

 

 とまあ、非常に携帯による俗世に染まっている子が多い。

おかげで私はともかく、美咲さんがたった一人で反対派に周っている為存在が滑稽になっている。

 

一度私の事は気にしなくてもいい事を、個人面談を利用して話した。

 

すると……

 

 

「皆先生の授業の面白さを知らないだけだよ。

 勿論私は面白いし、楽しいと思ってる。

 もしかして、嫌ってもらうためにわざとやってるの?」

 

 まあ簡単に突かれた。

なので興味を持ってもらっている事の感謝と日頃の労いとして、美咲さんに本当の狙いを話した。

教育的心理学の欠如を以って、次期担任への引き渡しと心の受け入れと印象を良くするため、と。

 

 

「大丈夫!先生を悪くいう奴は、私が説得するから!」

「そういう問題じゃないから」

「えーなんで?」

「美咲さんが私の事をかばう度に、皆の風当たりが強くなるよ?」

「うーん……じゃあ、何かあったら助けてね!」

「それなら任せろ、大得意だ!」

 

 と豪語したおかげか、まあおもむろに美咲さんの態度が凄くなってしまって、

彼女の友人一人以外彼女に近づかなくなった。

口すら利かなくなった。

 

此れがこっちに入ってきて、6日目。

つまり昨日だ。

 

「み、美咲さん?私がいなくなったらどうする気ですか?」

「先生が来たところ、隣町の学園特区に転校する!」

 

 学術中毒にでもなったかな?

とにかく私は彼女の言い分は、冗談として受け止めながらやるなよ?本当にやるなよ?、と念を押しといた。

 

まあいいか。彼女のような特例は、ギフテッドのようなもんだろう。

だから飛び級なんてせずに、ゆっくりと自己の確立・鍛練を行い何をしたいのか見極めればいいさ。

 

 

 

「一之瀬先生、お疲れさまです」

「お疲れ様です、中田先生」

 

 さーて、夜何時だ?

21時?やっべ、さすがに帰っているだろ。

 

 

 私は校舎を全て周って扉の施錠をしていった。

そして教務員室も閉めて、最後に応接室に来る。

 

「入るぞー」

 

 

 入ると、応接室のソファーで夢見心地に寝入っている。

まあ小学生なら、これくらい当然だろうな。

一応連絡しておこうか。

 

 私は美咲さんの親御さんに連絡を取った。

理由は体育中に捻挫をしたので、安静にしていたけれどちっとも治らなかったので病院へ。

戻ってきて授業を行ってから、下校時間に帰らせようとしたが他の先生方の手が空いていなかったので、

私がおんぶして帰る事を告げた。

 

 まあそのあとの叱咤はきつかったね。

 なれたもんだけどさ。

 

 私は美咲さんのランドセルを背負って、手提げかばんを彼女に持たせてお嬢様だっこをして帰路につく。

しかしまあ、色々非効率で重い。ランドセルと私の荷物と美咲さんで、40キロはあるのか。

あーお米の袋一つ分に匹敵するな。

 

 私は美咲さんを送り届けて、科学的・化学的吸着に関するプリントを彼女のポケットに忍ばせて置いた。

これで朝起きたら読んでくれるだろう。

さあ後は帰るだけだ。

 

適当に公園で新月の中、くつろいで帰ろう。

 

 

 

 午後22時10分ごろ。

なんか、やばい雰囲気を感じ取る。

 

 

 私は身体能力を使って、高層ビルをよじ登ってその雰囲気の場所を感じ取る。

その方向を見ると、何故か地面が歪んだりしていた。

更に他の所を見ると、なにやらおかしなものが蠢いていた。

 

 これは、私の非現実的現象専用顧問が動かなくてはならない事態かもしれない。

よし、行かなければ。

 

私は高層マンションを飛び移って行って、その歪んだ場所へ行く。

 

 

その場所は非常に広大でありながら、その場所は多くの得体のしれない者が大勢いた。

 

 

 

 あれは非常にまずい。

 

更に集団の中に、少数精鋭で戦う婦女子が居た。

非常に劣勢のようだ。いや、なんとかなっている?

だったら別に大丈夫か。

 

 私は此処で観察をし続けた。

観察を続けていると、何者かが高速でこの戦闘区域に来た。

何者か確認する。

なんだ、ただの少女か。

 

って、子供!?

 

 あかんあかん、そんなことした親御さんが悲しむぞ!

更に何かが超上空から飛来。

戦闘域に入った。

 

 あんまり近くに行くと、接敵してしまうので遠くから見守る。

 

 あー敵の首謀者が、子供を捕えて戦闘域に入る。

そしたらなんか、天使っぽいのが子供を解放したなー。

 

 

 

 で、こっからが問題だ。

 

 

 

 なんと、その子供は純白の光を発生し、周辺を呑みこんだ。

光が晴れるとそこには、変身した少女がいた。

あれー?その髪型と容姿、見たことあるぞー?

 

 

……どうみても美咲さんだ、これ!

 

 

 でも近づくとやばいしな……。

あ、やっぱりそうだ。

 

雑魚一匹が攻撃したら、なんか反射された。

すると首謀者の後ろにいる大男が、大量の剣を出して攻撃したけど吹っ飛んだ。

で多くの人が逃げてたけど、二人の人間が歩み進んで一人が彼女を殴った。

 

 

普通なら吹っ飛ばされるはずなのに、吹っ飛ばされたのは美咲さんの方だった。

 

 

 

 私は教師として、彼等の断罪を明確に発表した。

では、殲滅を始めよう。

 

 

 

 一気にマンションやアパートを飛び越える。

近づくたびに得体のしれない者に阻まれるが、全て感覚麻痺のツボをついて行動不可能にさせる。

そして少数精鋭な美咲さん側の勢力は、もう一人の白髪の少年に謎の力で攻撃され撃墜されていった。

また、角刈りの大男も何かを叫んでいるが、白髪少年に全身から血液を噴出させられて吹き飛ばされた。

 

 

「ヒャハハハハハハ!いい気味だ!流石だな、さすが俺の仲間だ!」

「ア?誰が”俺の仲間”だァ?俺は一度もテメェらの仲間とは、言ってねェぞ?」

「ああ、俺達は、つぶされた学生寮の弁償の為にここにきている。

 それにこいつらはもともと、つぶす予定だったんだよ」

 

 

 白髪の人物と頭髪トゲトゲの人物は、首謀者を張り倒して実効支配されない勢力として頭を出す。

私はこの意味不明な言動を見て、怒りに燃えるがまずは美咲さんの所に行って無事を確認しないといけない。

 

 

「美咲さん!」

「せ……んせ……?」

 

 

 私は瓦礫を吹っ飛ばしたり、一つ一つの物質の脆弱な所を強打して岩石を砂に変化させた。

私は美咲さんを助けた後、持っている鞄から応急処置の薬や湿布等を張って怪我を何とかする。

 

なにせ今の彼女は、変身したあの姿が解かれている状態なんだから。

一応杖はあるから大丈夫だ。

 

 

「皆は……?」

 

「大分やられてしまっているよ。大丈夫、直ぐに助けるから」

 

 私は美咲さんのいう、仲間の皆さんを救出するために立ち上がる。

 

 

「英雄気取りは楽しいかァ?」

「すまないが、一片黙っててくれ」

 

 

 私は近づいてきた白髪の子を、殴り飛ばした。

するともう一人追撃で白髪少年をやろうとしたが、なにかの方向を変化させられたのか吹っ飛んだ。

 

私はどうやってやったのか、なんとなくわかっていた。

彼の一定範囲に入れば、力の方向を真逆にされる。

だからその範囲の中に、彼の方向に向かわないベクトルを持つ拳を握っていれば、

勝手に彼の肉体に拳が入っていくんだ。

 

 その一定範囲内にいれるのは簡単だ。

彼の範囲がこっちに来ればいい。引かれると困るが、押し込んで来れば簡単に攻撃できる。

 

 私は一瞬、後方で何かひかるのを確認する。

 

 

 それは美咲さんがもう一度変身して、槍っぽいものを構えて放とうとしていた。

私は即座に回避。光の槍は、白髪の少年が反射して美咲さんに行った。

途中黒い人が割り込んで防御したけど、全く意味がなく難なく貫通された。

 

 わたしはその槍を構成する魔力素の結合を見抜いて、その点を殴ってやる。

すると槍は粒子と化して、その場で消える。

槍の切っ先は美咲さんの鼻先に来ており、ぎりぎりで消滅で来た。

 

 

「手も足もでないってかア!?」

 

 

 

 白髪の少年は周辺のビルやアパートを、ベクトル変換で投げつけてくる。

その途中、頭が尖っている少年から肩を叩かれて、瓦礫に混じって去っていった。

 

私は美咲さんの近くに行って、瓦礫を壊す。

 

「美咲さん、防御結界は張れますか?」

「……」

 

 彼女は茫然としており、過呼吸のなか汗を掻いて身体を震わせている。

私は美咲さんに目くばせしながら、周囲を見てみると美咲さん勢力は息を吹き返している。

しかし相次ぐ瓦礫と砂や石の攻撃で、全てのマンションやアパートを防ぐことはできていないようだ。

 

 そして私もスーツに汚れがついてしまった。

あークリーニング代、要請してぇ。

 

 

「『神宮流秘術:蜘蛛糸』」

 

 

 私はがれきの中、この聲だけが鮮明に聞こえた。

この聲を聴いて、あの時の事を思い出す。

 

 

 

 死闘なのに、彼等にとっては狩でしかない。

私はたった一人の生徒すら救えない。

 

 

 

 あんな事、二度とさせない。しない。

そういうことを再認識した重要な戦の中で聞こえた、とある人物の聲。

 

 

 その秘術らしい蜘蛛糸は、此方に向かってくるマンションやアパート等の瓦礫全てを白い糸で空中で固定した。

固定した少しあと、それら瓦礫は白い粒子として消えていった。

 

私は放心する。

しかし私はこの広い戦場の中央に立つ、和服姿のその者に目を奪われる。

 

 刀を帯剣し、その場に静かに佇む背の小さい子。

どう見ても子供だ。

なのにどうしてだろうか、戦おうとする気すら起きない。

 

どうみても、戦う前から戦闘が終わっている。

 

 

「くそ!弱っている今がチャンスだ、かかれ!」

 

 首謀者がそういうのと同時に、魚や蛸の群れが彼に向かう。

駄目だ。しかけちゃ、終わるぞ。

 

 

そう思うと少年はなにかを取り出し、地面に何かを描いて”コンッ”と音を出して終わらせる。

 

 

「済まないが、時間もないのでね。終わらせてもらう。

 

『第二型:三角方陣四重複合魔法布陣』」

 

 

 叫んでいないのに、この喧噪な空気をものともせずはっきりと耳に聞こえるその聲。

そしてその聲を出すと、彼の足元に幾何学模様が光り出して、閃光を放ち始める。

閃光が放たれると、敵の魚群が肉片を弾け飛ばす。

そして魔法陣から直接紫電が出現し、周囲に這っていく。

 

 その這う紫電をあびた者は、落雷をどこから浴び真っ黒に肉体を焦がす。

 

 

「さて、貴様等。首謀者はだれだ?」

 

 

 魚群を全て掃討した彼は、戦意喪失した得体のしれない者達に語り掛けその者をあぶりだす。

彼が戦後処理をしている最中、私は美咲さんを背負って仲間の人と合流を果たす。

 

「生きてますか?」

「ええ、生きてるわよっ」

「ありがとう、正直助かったわ」

 

 天使らしきお二人さんは、無傷だが行動が制限されるほどだったらしい。

 

 

「ふんぬっ! っと、大丈夫ですか、お二人さん」

「ありがとな。死ぬかと思ったぜ」

「助かったよ」

 

 大量の砂に埋まっていたお二人組を救助した。

 

 

「美咲さん、ペガサスとか飛行できるの出せない?」

「ご、ごめんなさい、う、腕が震えて……出せないの……。うぅ、ペガサス……召喚!」

 

 不発だ。全くでない。出るのは、グングニールだけ。

 

「大丈夫だ、厚志さんは俺が連れていく。どうやら終わったらしいしな」

 

 あ、ベクトル変換で吹っ飛ばされ、槍で貫通された人だ。

 

「桜、そっちは頼んだわ」

 

 天使が指示して、戦闘の収束と事後処理が行われていく。

そして私は美咲さんと共にこの場に残り、悪魔・天使という存在を初めて知らされた。

 

また彼の方も、今後悪いことはしない事を確約させた後、首謀者のみ拉致されていった。

無念だね。

 

 

 さて、私はうとうとと眠りながら、悪夢を見ているのか魘される彼女の手を握りながら、

お嬢様だっこをして彼女の家の部屋まで静かにたどり着いた。

そして服を脱がして、濡らした布で彼女の身体をぬぐってから、新たな寝間着に着替えさせて布団で寝させた。

 

脱いだ寝間着は綺麗にたたんで、端っこに置いておく。

 

介護みたいで楽しかったかな。

 

「お休みなさい、美咲さん」

「ぅ……」

 

 帰ろうと思ったら、彼女は私の手を放さないでいたので、私は此処で正座して仮眠をとることにした。

まあ手を握っていると、安眠するようになったのでこのままでもいいかな、なんて思った。

そういえば明日は休みか。

 

ならば、大丈夫かな?

 

 



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2-2

2-2

 

 私は今転勤先の宿泊施設に居る。

いや、まあ、ただの休みなんだけれども、私の目の前にいる人達がなんか暗いんだ。

 

理由はなんとなくわかるけど、来ている人を紹介しよう。

 

 

 一人目は、美咲エリちゃん。

二人と三人目は、ミルクとココアさん。

他のお仲間さんは、此処にはいない。

 

 さあ、聴いてみようか。

 

「えー、粗茶ですが……」

「ありがとうございます」

 

 ミルココはそのお茶を呑むが、美咲さんが動いていない。

俯いており、その表情はまだ何かに憑かれているような感じだ。

 

 

「どういう訳でいらしたのか、大体わかります。

 ですが私ではどうにも……」

「それもそうなんですけどね」

「エリちゃん、先生の所に行くって聞かないんです」

 

どういう事だ?

化学・科学的吸着についての用紙は渡した筈。

 

 ちょいと前の事件やそのあとの対応も、そんなに悪くなかった筈。たぶん。

 

 やっぱりあの時の朝の対応か?いや、別に何も悪くなかったし、うーん。

考えを巡らせても結局分からず仕舞いか。

 

「い、一之瀬先生……」

「どうしましたか?」

 

 美咲さんは身体を震わせナニカをこらえるようにして、言いだしたい事を云えないようなそんな気配を感じる。

実際息が荒く言葉を呟き、本質を私の方に言おうとしない。

そして時偶に歯噛みをし、上手く言葉にできないような印象を受ける。

 

 きっとあの戦闘で、ぼろくそにされたのがなにか心的外傷を負っているんだろう。

 

 なにせ彼女の想いが全て、あのトゲツン頭の青年の右手や白髪の青年に阻まれていた。

 

 

 しっかし、あの二人……どっかで見たことがあるような気がするんだよなあ。

この子らが帰ったら、ちょっと資料を探してみようか。

 

 

「焦らないでください。ゆっくりして、そして言えそうだったら言ってほしいです」

 

 私は席を外させてもらう。

此れでも教師なんだ。カリキュラムというかスケジューリングと、一週間分の準備があるんだ。

あとはあっちの学校の戦闘用地だとかの用意も必要。

 

だからちょっとくらいいいだろう?

 

 

 

「『一方通行[アクセラレータ]』」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 私とミルココの聲が重なる。

美咲さんの喉から出てきたのは、ナニカの英単語だ。

 

 

 

 

「私、あの白髪の人知ってるの……!知らないのにっ……!

 あの『幻想殺し[イマジンブレイカー]』に殴られてから、知らない記憶が出てきてっ……。

 頭が割れそうなの!

 

 誰の記憶か分からなくて、昨日からずっと私の頭にこびりついてて離れないの!

 なんでこの記憶の私は、私すらわからない事をしてるの!?

 怖い、怖いよ!」

 

  美咲さんはその直後頭を抑え、そのままうずくまる。

ミルココが美咲さんを介抱しようとしても、頭痛がひどくなるばかりのようでどうしようもないようだ、

私はすぐに美咲さんの後ろに周って、肩に両手を置く。

 

 

「美咲さん!」

「っ!」

「頭痛はどうですか?」

 

 

 すると美咲さんは泣きついてきた。

おーよしよし。頭痛が治ったようで良かった。

 

しかし、どういうことなんだろうか?

 

美咲さんの記憶は以前があり、改竄されてしまった可能性がある。

 

 くっそー、また面倒な事。

 

 

「すぅ……」

「あれ」

「あ、寝ちゃいましたね」

「一之瀬さん、そのままエリちゃんを抱いてあげてください。

 ずっとソレで苦しんでいたので」

 

 

 え、あの日からずっと!?

よし、私が解決のカギになったのなら、最高に僥倖といえるだろう。

誰にでもできないのであれば、私がやってみせる。

 

 私は美咲さんを脚に乗せて、椅子に座る。

そしてミルココさんと対面して、今の状況を教えてもらった。

 

いまの状況は少々まずいらしい。

 

 まずは美咲さんが変身および召喚ができない事、魔王軍と限定軍事同盟と不可侵を結んだが決戦兵器が使えない。

美咲さんが私の傍から、離れて生活ができなくなってしまう可能性大。

 

 

「……え、あまりまずくないんじゃ?」

「あのですね、プリティ・ベルが出現する時、世界規模で未曾有の危機が訪れるって言い伝えがあるんです」

 

 ココアさんが近くにあるホワイトボードで、マジックを使って説明してくれる。

非常にわかりやすく、どんな状況に置かれているかわかった。

 

 端的に言えば、今襲われると一般人な美咲さんは、死んでしまうという事が分かった。

だから今生活圏や職業柄、同棲が不可能な現状……美咲さんの命は私の手腕にかかっているのだ。

 

非常に扱いにくいこの状況だが、本当のプリティ・ベルがどんな人物かどうかわからなければ、

美咲さんが攻撃される可能性が低い。

ただ私がここに居られるのは、3日ほどだけどな!

 

 

 さて、私は行くとしようか。

 

 

「どこへ行かれるんですか?」

「何って、臨時出勤だよこん畜生」

「た、大変ですね……」

「君たちも来てみるかい?」

「いいんですか?」

「大歓迎ですよ」

 

 

 私は自家用車に美咲さん・ミルココさんを乗せて、私が本来勤めている学校に来る。

此処に来るまでに美咲さんは起床して、軽い食事を取ってもらった。

こうしないと今日の授業と終わりまでに、何もできない可能性があるからね。

 

ミルココには、レーダになってもらう。

そうじゃないと、何時敵が来るか分からないじゃないか。

 

 

 

 45分程で隣町の学園特区、初等区である小学校に来た。

相も変わらず、美咲さんが通っている学校よりも金かかってんなぁ。

若干酸性と化してきた雨にも負けない真っ白な校舎。

非常に美しい。

 

 私は駐車場に入るために、この学校の教員であることを示すカードキーをかざして中に入る。

入り口付近には、警察官も居て厳戒態勢となっている。

 

 

「すご……」

「あっちとは違う世界ね……」

「まあ、あっちは住宅地と商業系が主だよ。

 というか、更に隣に特別行政区があるじゃないか。

 こっちは教育機関が集まっているだけだよ」

「つまり私らの街は、普通だってことよね?」

「そういうこった」

 

 

 私は手提げかばんを持って、三人と一緒に職員室へ向かう。

教務員室ともいう。

丁度二時限目の休み時間なので、お目通りが可能というわけだ。

 

「失礼します」

「おお、一之瀬先生!復帰したんですね!?」

「稗田先生、ご無沙汰しております。まだ復帰ではありませんよ。

 ただ上から私のクラスを臨時担当している先生が、教員適性試験に向かうと聞いたので来ただけです」

「なんだ。まだか」

 

 私は落胆している稗田先生と少し話してから教務員室に居る教頭や校長と話して、

向こうの生徒と共に勉強できるような態勢を取らせてもらった。せっかく美咲さんも来たんだし、こっちの授業を体験してみてほしい。

ミルココも一味違う世界を、屋上でなく実際の授業風景を見ていってほしい。

 そしてよければ皆と友達になってもらいたいな。

美咲さんも中学校からなら、こっちにこれるかな?

 

 あ、いや……。なのはさんと是非友人関係になってほしいからなぁ……。

それと非現実的現象専用顧問としては、彼女を護衛しなければならない。

しかし残念ながら、少々住む場所が遠い。

まあ出張という意味で、派遣されるのも悪くはない。

 

「よろしいですね?」

「構わんよ。それに、閉鎖気味な当学校も、他校の者との交流をすべきとの考えがある。

 まさか行動前に行うとは、さすがは稀代の先生ですな」

「……それをいうのはちょっと駄目じゃね?」

「……駄目だな」

 

 親父ぃ、さすがにそれはあかんよ……。

 

 

「さあ行け、若人よ!」

「かしこ」

 

 

(あれ、校長と末端教員なのに、なんなのこの空気)

 

 ん?ミルココが固まってる。どうしたんだろう?

ほな、いこか。

 

 

……

 

 

 さて、今は三年生の教室前に来ている。

既に予鈴が鳴ったが気にしない。

 

私は美咲さんとミルココさんに、用意はいいかどうか聞く。

 

「ここの生徒って、制服なんだよね?」

「だから、一応貸したじゃないか」

 

 

 詳しい採寸をしていないから、若干だぶだぶだけどそれしかないんだよ。

受注作成は、初期段階しか作ってくれないからさ。

ミルココもそのままの服装で大丈夫だ。

一応授業を見に来たという名目だから。

 

さあ、約一週間と4日ぶりの皆との邂逅だ!

 

やばい雰囲気でなければいいな。

 

 

 そうそう中の雰囲気だが、非常に静かだ。

私の場合は授業中喋りまくる議論だったり、意見だしまくりのブレーンストーミングが多いからおしゃべりが多いはずだけど。

あ、でも……大学生レベルの勉強になると、喋りは禁止にしているからその影響かな。

 

 教務員室でも、私のクラスの快進撃はものすごいらしい。

何がとは言わないが、やる気や目の色が違うんだと。

 

それは重畳。皆が皆その道を目指そうと躍起になっているんだ。

ならば教師がその道を、実体化させなければならない。

そしてその道をまっすぐ通りながら、紆余曲折し自分の成りたいものになっていく。

 

これを実現させれば、教師としてありがたいことはない。

 

 

さあ、いくぞ。

 

 

 ガラッと扉を開けて、中へ入る。

入ると生徒は皆私の方へ、一気に視線を向けてくる。

そのまま教卓へ進む。

 昔はこの学校の机や椅子は、扇形に広がり見下ろし式となっていた。

だが今はそこらへんの学校と同じように、一人一つの机と椅子・ロッカーが与えられている。

理由の一つは、共同体としての意識をして自己意識の薄弱化を推進するより、

小さくしてでも自己管理を徹底させることにより、自己管理と共にプライバシープライベートの確立を促す事に注目した。

 

 ちなみに黒板は二枚。上下スライド可能だ。

これは一々取り壊すのが面倒だからやっていないだけ。

それにこれはこれで利用価値があるので、そのまま残しているとのこと。

 

 まあ、この小学校はどこかの私立を取り込んでできたものらしいし、名残があるのは当然だよな。

改築も行われて、一階にはごはんを作るところがある。

これも共同作業の一つにしている。

皆が力を合わせなければ、誰も飯にありつけない。

 

 理にかなっているから、大学方式より旧来の体制にしている。

まあ効力を発揮しすぎているのか、発足一年後の今まで私立に慣れている子と新入生の子との間に、

運動会での規律が圧倒的な差を生み出したとかもあったなぁ。

 

 大学方式に慣れている子程、新体制になれず取り残された。

だから幼い子程、行進が軒並み揃っていたりするんだよ。

 

 

 教卓に位置取り、皆を一度見渡す。

なのはさん、元帥(三年クラス委員長)、バニングスさん、月村さん。

彼ら4人だけ、私に対して圧倒的な信頼の表情を見せてきた。

 

 嬉しいんだけど、皆の眼が怖いよ。

 

「お久しぶりです、皆さん。

 学校の教員が試験へ向かったので、臨時に入ることになりました」

 

「実務顧問殿!早急に戻ってきてください!我々の技術の粋を、見て頂きたいのです!」

「主任!戦争を!一心不乱の大戦争を!」

「パリを燃やせ!血が我らを燃やすのだあ!!」

「一之瀬先生、ケインズ経済学史についてっ!」

「馬鹿野郎っ、金本位制が先だ!」

「たかが資本主義野郎は、楽市楽座からやりなおせ!」

 

 あれ、これ、私が抜けていた分、皆さんの知識欲によりオーバーフローが発生しているみたいだ。

今日は死ぬかもしれないなぁ。

まあマップはもう完成しているに近いから、試用運転もかねて放課後やるか。

 

「では今日はあまり時間もありませんし、今後の自己確立により引きおこる中二病について学んでいきましょう」

 

 

 中二病。英語やドイツ語を使い、日常会話では使わない言葉を使う事で赤裸々な事をする一種の精神的な病だ。

病気ではないけれども、思春期の子に非常に多い。

実際私もこのころは、非常に荒れていた。

 

まあ実際は第二次性徴期によるホルモンバランスが云々の問題であって、なんら悪影響もないから安心するといい。

むしろ色々知識欲が湧いてくる、常時発情期であるのでやれることはやっといた方が良い時期だ。

この時に逃せば、後々響くことがある。恋人とか……。

感情の移り変わりが激しいので、中学教員は小学教員より肉体的な強度が必要だ。

 小学教員はただ単に、精神的なものが必要だね。

主に幼い子供達を相手取る場合だ。

やはりやらかすんだよね。それを庇いつつ、今後良くなるように導ける人物が良い。

 

 私のクラス?

彼等は特別性だから……。

だって小学三年生でこれだぜ?

 

 

「……と中二病の主な説明はここまで。

 次は英語に行きましょう。

 大層な名詞や動詞を書いていきますので、好きに書いちゃってください」

 

 

 ミルココさんや美咲さんの紹介は終わらせた。

普通に大歓声で受け入れられた。三人共年上なのにな!

 

一応机・椅子・勉強道具一式を、美咲さんに渡しているから大丈夫だろう。

 

 ブレイク・ジェノサイド・バースト・パージ・クエーサー・パルス・カラミティ・アビス・アース

ガイア・ブレス・ブレイブ・ブレード・ドライブ・アクセル・ファイア・エターナル・フェイト・ディスティニー・

フレア・ブラックホール・アルティメット・バイオ・ファイナル・フィン・ファンタジー・デス・ダーク・

ディバイン・ジャッジメント・フォース・セイクリッド・クロス・ロード・マスター・ウルトラ・ハイパー・スーパーセル・

スーパープルーム・サンダー・ライトニング・ブライトニング・ハウル・ロア・ノア・ルール・ドミネイター

・フォールアパート・ブレイクダウン・デストロイ・イマジン・ラヴェージ・パスト・フューチャー・フュージョン

・ディザスター・フォーチュン・ルーン・ルイン・ライン・オメガ・シグマ・オメガ・テラ・ラッシュ・ヴィヴィド

・ラディカル・アサルト・インヴィンシブル・アンリヴェイルドゥ等。

 

「次は中二病に欠かせないのは、伝説の武器です。一応列挙していくますので、書いてもいいですよ?」

 

 草薙の剣・妖刀正宗・村正・聖水・エクスカリバー・カリバーン・レヴァンティン・八咫鏡・八尺瓊勾玉

・仏の御石の八・蓬莱の玉の枝・火鼠の皮衣・竜の首の珠・燕の産んだ子安貝・オルナ・カラドボルグ・

クラウ、ソラス・フラガラッハ・ベガルタ・グラム・フロッティ・ハルペー・アロンダイト・

ジョワユーズ・デュランダル・ブルドガング・ネグリング・アスカロン・奉天画戟・青虹の剣・倚天の剣

グングニル・ゲイジャルグ・ゲイボルグ・ブリューナク・ルーン・トリアイナ・

トリシューラ・アラドヴァル・天沼矛・蛇矛・オリディンクス・ミストルティン・ガーンディーヴァ・

ピナカ・ニョルニル・アイシール・カトヤンガ・ウコンバサラ・如意棒・降妖宝杖・タスラム・ヴァジュラ・

天叢雲剣・十束剣・雷切・村雨・今剣・物干竿・青龍偃月刀・七星剣・干将・莫耶・宝貝・

パイルバンカー・アスカロン・AK-47・カーテナ・種子島・バムルンク・童子切・鬼丸・三日月・大典太

・数珠丸・蜻蛉切等。

 

「他にも、掛け声の中に、ウラーとかパンツァーフォーとかありますね。

 ロシア語・ドイツ語。共に習うのもいいかもしれません」

 

 私は皆さんにとって有意義なものにしたいと思って、色々考えてきて書いた。

だがしかし……つまらない。

国語の授業だから、古代学とかやりたかったんだけど、こっちの方が建設的に思えたんだよな。

 

まあいいさ。

私はこの中二病に関して、いろんな諸説やこの間に起こる自己意識の変化についても語っておいた。

 

 そうこうしていると、予鈴がなる。

この瞬間に皆が起立・礼・解散する。

授業評価は最初っから滑ってしまったが、次の授業でどうにかするさ。

 

 

「一之瀬先生、小学校でこんな授業を受けさせていいの?」

 

 

 教卓にある椅子に座る私は、隣に来た美咲さんに身体ごとそちらへ向けて話を聴く。

 

「先程のは少々特殊な奴だよ。ふむ……そろそろやるべきかな」

「何を?」

 

 私は次の授業で渡すプリントの中の一枚を渡す。

美咲さんはこれを見て、頭を捻る。

なにを示し、何を行い、何を計算しているのか。

まだ彼女にはわからないかもしれない。

 

何せこれは、戦争への布石なのだから。

 

「一之瀬先生っ!」

「うおっと。どうかしましたか、高町さん?」

 

 なのはさんが私の後ろから抱き付いてくる。

そして顔を私の頭の横に置くような感じで、腕を私の首に回してくる。

 

「昼休み、理科準備室に皆集まるんですけど、来ますか?」

 

 彼女は他の人に聞こえない様に、耳元で囁きかけてくる。

私はそれに頷く。

 

「やったあ!アリサちゃんとすずかちゃんにも伝えてくるね!」

「はい、御願いします」

 

 私は一週間と4日ぶりに、三人と顔合わせになる。

生徒という意味で対等で平等な付き合いをするのは勿論だが、非現実的現象専用顧問としては彼女達に意識を傾注しないといけない。

今回昼休みに、美咲さんとミルココさんを連れて理科準備室に行こう。

 

 なのはさんが教室外に走っていくのと同時に、ミルココさんがにやけて私に近づいてくる。

 

「禁断の生徒に手を出す先生ね~?」

「しかも三人に気に居られている。やはり、ハーレムは素晴らしいっ!」

 

 ミルクさん、手を出してはいません。

護るための身体は、差し出していますが。

 

 ココアさん、親父みたいに興奮しないでください。

後ハーレムじゃありません。懇親会です。

 

「ミルココさん、美咲さん、昼休み私と理科準備室に行きましょう」

 

 私はにこやかに三人に言うと、美咲さんは純粋に頷いてくれた。

しかしミルココさんは、逆に自身の身体に腕を抱かせて”一之瀬先生は誰も彼もハーレムに入れる凄腕!見境ない!”、と

暴走していたので普通に無視した。

これは酔っ払いと同じく、こういう輩は相手にしちゃいけないな。うん。

 

 

 さ、予鈴が鳴った。

予鈴が鳴る前に、生徒は此処に戻ってきた。

 

私はプリントを配る。一番前の人に、その列の人数分をまとめて渡して、後ろへ回して行ってもらう。

 

そしてそれが一定の人に渡ると、絶叫を発する。

 

 

「研究がっ、これでっ、捗る!」

「来た!これであいつらに勝てる!」

 

 美咲さんやミルココさんは、一番後ろになのでまだ分からない。

 

 遂に彼女達にそれが配られると、三人共ポカンとする。

美咲さんはすぐに眉間を皺立たせ、その内容を解読しようと試みている。

 

「今日は模擬戦まで半分を過ぎたので、詳しい計算式を行います。

 そう、開発に於いて大事な、『航空学』を学んでいきます」

 

 デルタ翼とかカナード翼とか、航空機に働く力を導き出す翼の形を見出すことができる計算方法。

また性能や構造、風洞実験に関しても記している。

 

さあ、始めよう。

 



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2-3

2-3

 

 昼休み、理科準備室。

 

 

「美咲さん、ミルココさん。ここですよ」

「ここが桃源郷っ!」

「違いますよ」

「?」

 

 美咲さん、真剣に悩まないでください。

全くこの天使様は何を云っているんだか。

 

 

 私は準備室に入る。

準備室は私がいない間、学校の鍵かけに置いておく事になっている。

だから勝手に開けられるようになっている。

 

しかし私が在任中は、私が管理していたのでここに立ち入ることは不可能になっている。

 

「あ」

「え」

「あれ」

「ん?」

 

 

 さて、準備室というのは、基本的に窓を閉じている。

普通ならば開けるのだが、やはり物品の保全の意味でも開ける事はあまりない。

しかし開けなければ、埃や暑さで喉や服がやられる。

 

そう、普通ならば開けるんだが、目の前の彼女達は開けず……制服の一部を脱いだり短くしていた。

私はもう、盛大に溜息をつくしかない。

 

「せーんせ、見ちゃった?」

「なのはさん、だらしないですよ」

 

「一之先、私の身体は高くつくわよ?」

「高くつきません。大事な命なんですから、非売品です」

 

「先生、ノックなしで入ってくるなんて大胆ですね」

「申し訳ない。素で忘れてた」

 

「すげぇ、ありとあらゆるフラグを回避したぞ、この一級建築士!」

「ココアさんは黙ってください」

 

 私は皆さんの頭が、熱にやられている事を認め窓を開ける。

あー、開けた瞬間、熱気と埃が外へでていくんじゃー。

 

「一之瀬先生、何でここにきたの?」

 

 美咲さんが神様に見える。純粋ってすばらしいなぁ。

そんじゃ、閑話休題として本題へ入ろうか。

 

 

 私は皆さんにギシギシなる、非常に軋み煩い襤褸の椅子を配布する。

丸椅子からネジがない木製の椅子、座り心地がわるいパイプ椅子。

この準備室なんでこんなに、椅子があるんだ?

 

「美咲さん、ありがとう。さ、本題行こうか。

 早急に議題に挙げるとすれば、美咲エリさんは非現実的現象専用顧問の管理下に置く事を検討する」

 

 この一言で、なのはさん・バニングスさん・月村さんは、真剣な表情になる。

空気が少々張り詰める。

この空気感に、ミルココさんも彼女達と私が、何故密接な関係になってしまったか分かるだろう。

美咲さんもさすがに、私達が異質な存在だと分かったろう。

 

「どういう非現実的現象なの?」

 

 バニングスさんが聴いてくる。

 

「リンカーコア・ソウルジェム・魔力瘴気の中で、魔力瘴気の部類に入ります。

 美咲さんの総合魔力瘴気は、1億5千万程です。これは魔導士ランクをSSS+を容易に超える数字です。

 また美咲さんは、プリティ・ベルという魔法少女となり、リィン・ロッドという召喚器を用い、

 神話生物・神話武器を召喚し攻防を行います。

 

 現状美咲さんは、魔王クラスの一般人・レーダ天使・上級悪魔・北軍の兵士が護衛についています。

 それでも十分とは言えないでしょう。

 そして今回魔法少女は二人いますが、一人は美咲さんもう一人は高田厚志さんという男性です。

 

 彼は魔王クラスなので、基本的に問題はいりません。しかし護衛対象の増加により、少々面倒な事になっている事は否めません」

 

 私はミルココさんのレーダっぷりを紹介するが、だから何程度の認識だ。

何せ彼女達が分かるのは、瘴気魔力を転換する者にしか効かないからだ。

しかし私の『気』を読む力やなのはさん達が使う、調査魔法などの類の方が圧倒的に便利だ。

 

 確かに敵意の有無やそのほかスペックが分かるのはいい。

だがその程度しかないという事。

 

 これらを踏まえた場合、たった個人であり群体でしかない彼らに非現実的現象を受けた生徒を守らせるわけにはいかない。

こっちは既に国家や私達を支援する医療機関・一般企業が背後にいる。

既に情報量が違う。

ただの協力体制でなく、一蓮托生であるので関係は密接だ。

 

「というわけで、非現実的現象専用顧問にミルココさんを追加したいと思います」

「「あれ?」」

 

 ミルココさんは剣呑な雰囲気を放っていたが、直ぐに露散した。

まあ自分らをこけにされたんじゃ、腹の虫が収まらんだろうしね。

それに彼女達の能力は、専門的であるからこそ協力体制を築いた方が良いのは明白だ。

 

「お二人が加われば、魔力瘴気に関して対策が95%磐石になります。

 また加わっていただければ、此方の戦力や情報を共有してもらうことになります。

 この中の一部は、他者に言えない物もありますが、此処にいる本人と情報収集者の耳には入れておいた方が良いでしょう」

 

 という事で、ミルココさんを誘ってみると、反応は微妙だった。

まあ最初からどうこうしようという気は更々ない。

 

「残念だけど、実力すらわからない連中と組んでもいいことがないわ」

「それにどういう組織かわからないし」

 

 つまり、非現実的現象に対して、現実がそれに対して対抗する組織である。

カウンセラー・医療機関。ここから飛躍して、国家の行政機関・自衛隊・軍需産業・他有名大企業と提携を結んでいる。

これ等の情報は宮本先生から、自宅への手紙でわかった事。

 

「残念ながら、限定軍事同盟や不可侵を結んでいるだけで、全面的な一体制を敷いていない貴方達こそ非常に不利なのは、

 招致しているのでしょうか?」

「私達は魔族・天使の世界で生きてるの。一々他者からの介入なんていらないわ」

「仕方ありません。高田厚志さんを、国際指名手配しましょう」

「「!?」」

「今は厳重な体制になっておりますので、私達の匙加減でどうにかなります。

 また人間とは違う物質構成の者を捕え、それらに対する兵器や異空間生成器も作られています。

 申し訳ありませんが、この非現実的現象専用顧問として私達と戦線を張ってくれませんか?

 最低でも、私やこちらの戦力をお貸しします」

 

 私は朗らかに言い、右手を差し出す。

しかし強情なのか、全く反応を示さない。

寧ろはたかれて拒絶された。

 

「馬鹿にしないで」

「そうですか。では、美咲さんはどうです?この学校に通ってみませんか?」

「っ! そう来たか」

「ええ、個人には関係ありませんよね?それに美咲さん一人では、よく勉強できる環境が一つのみに定まります。

 それでは数多の視線や感情を考えて行動できませんよね?

 例えば学んだ通りに他者に対して自分の考えや価値感を押し付けてしまい、他者の意見にたいして寛容さを見出せないとか。

 最近では経済に学んでいるようですけど、学んでいるのはその一つの部分です。

 経済という全体を見るのはいいですが、一つの部分を追求しなければ問題点は浮上しません。

 

 ですので、マクロという俯瞰視点の一環で、全体視するのは間違っているといえるでしょう」

「え、違うでしょ?経済はどんなものにも変わる不定形な生物だって」

「それは『マクロからみた経済のすべて』という、有名経済学者の著書ですね。

 残念ながら、それは個人の価値観と知っているだけの知識と情報だけでもって、読み手の考えと同調しながら否定し、

 自身の考えに浸るように思考誘導しているだけの書物です。

 

 申し訳ありませんが、美咲さんはマクロの文字しかわかっておりません。

 分かっても理解をするには、もっと細かい……ミクロの世界を見なければなりません。

 そして何事にも、国民感情というものが付いてきます。

 機械的な数字や言葉では、何も分からないことなんてたくさんあるんですよ?」

 

 私は美咲さんの方を見て、真摯に話す。

実際私もこれらの本を見て、自分の考えが正しいとしたことで議論と言いながら討論になったことがある。

だから私はいろんな哲学系の本を見たり、同じことに関して語っている国内外の人物の論文を見た。

 

やはり感情は入ってしまうのが、この世の常らしい。

 

 私の言葉も彼女を、此方へ誘導する言葉でいっぱいだ。

だから別に完全否定するわけでもない、曖昧な言葉で閉めた。

 

「……エリちゃん、先生との授業は楽しいよ?実験もたくさんあって、頭だけじゃわからないことも

 実際にやってもらえるよ。

 それに大半が先生の給料からによる、自由な資材で実験されるから皆楽しんでるよ?」

「そうなの?」

 

 なのはさんは、美咲さんの言いくるめを始める。

私が指示したわけじゃない。きっと美咲さんの思考が、中々面白く有用性があるからと気づいたんだろう。

たぶん彼女を接収することで、私が副担をするクラスは凄い事になるだろう。

 

「だめよ、エリちゃん。お母さんたちをほっといて、こっちにくるの?」

「でも、先生の所に泊まればいいよね?ほら、ホームステイって」

「エリちゃん!自分の命と授業、どっちが大切か……」

 

 

 ココアさんは美咲さんの心を揺さぶりにかかる。

 

 

「エリちゃん、一度しかない小学校生活を、そんなものの為に捧げていいの?」

 

 バニングスさんも、美咲さんへゆさぶりをかける。

 

「エリちゃんっ、御願いだから断って……こっちは死ぬ可能性があるのよ?」

 

 ミルクさんは美咲さんを引き留める。 

 

「うーん……確かにすっごく難しい問題だよね。

 世界滅亡か個人か。でも、結局一番かわいいのは、自分なんだよね」

 

 美咲さんは当然という言葉を放つ。

そしてこれを聞いて、私はあきらめる事にした。

やはり、自分の命が大事なんだな、と思った。

仕方ない。これも人生だ。

 

 美咲さんの言葉は、聴いている者にぶつかる。

遂に美咲さんの最終審判が入る。

 

「つまり、戦力を割いちゃうけど、こっちに着た方が良いってことね」

「エリちゃん、それはっ……」

「解ってる。危険が増えるし、戦力分散はまずい。

 かといって、今後の為の協力体制っていう情報の共有化も図れる可能性を反故するのは、早計にすぎる。

 だから半分住み込みっていうのは、悪くないと思う。ね、先生?」

 

 

 なるほどね。

 

 

「部屋なんて腐るほど余っているよ」

「それじゃあ決定だね」

 

 全てが決まった。

此れで上手く動けば、ソウルジェムの人物もどうにかすることができる。

 

「じゃあ、エリちゃんの歓迎パーティをしないといけないよね?」

 

 月村さんが私の方を見てくる。

あの、財布が厳しいんですが?

 

「一之先、心配しなくていいのよ?主催はバニングス家がやるから!

 先生は実験のために、資金を費やしてね」

「あ、はい」

 

 

 あれだなぁ、そうと決まれば事がトントンと進んでいく。

ココアさんは向こうに電話をしているし、きっといけるだろう。

拒否はないはずだ。

 

「あー、一之瀬先生?」

「なんですか?高田さんからですか?」

「えー、まあ、そうなんですけど」

 

 

 私はこの準備室にある固定器の受話器をココアさんから受け取る。

受け取り会話を始めると、なんか色々言ってきたね。

母親へのホームステイの事とか、異動の事とか。

後は非現実的現象専用顧問とか知らないが、実力を見せてほしいとのこと。

 

またか!?

 

 

 あー、また死にそうな思いをしなければならないのか。

致し方あるまい。

魔王クラスに勝てるわけないんだけどなぁ。

それにボディービルダーだろ?あの筋肉でやられたら、死にそう……。

 

 まあ新たな生徒を迎え入れるんだ。

これくらいへでもないね。

 

 

 私はふと時計を見る。

時計は既に予鈴まで5分を切っていた。

色々話し込んだり、放課後の試験運用のための場所取りの為に、電話を長時間していた結果だ。

 

さ、後二時間で、皆の成果を見られる。

 

 αテストまで一週間の月末に、βテストまで4ヶ月の夏休み前に行う予定だ。

今回は本当のストレステストとして使ってもらう。

他の生徒に差別的ではないかだって?

大丈夫だ、風洞実験を行わせているしその施設も、元日本軍の地下塹壕を使っているから。

 

 

「えーと、先生の所に潜り込むのは、エリちゃん・私・マッドです」

 

 

 予鈴が鳴るかもしれない移動前に、ココアさんが伝えてきた。

それを用紙に書きなぐり、スケジュール帳に挟み込む。

後に美咲さんの所や高田さんの所に、あいさつ回りをしないといけない。

更に上からの現実からの事情を、本人たちに知っておいてもらおう。

 

 何せ自分勝手に動かれちゃ困るからね。

 

 

「分かりました。ただ準備もあるので、来月ということになります」

「そうですか」

 

 非常に悔やんでいる表情。

しかしこちらの世界なんだ。こちらのルールに従ってもらわないといけない。

もしも人間界で外れた行動をするのであれば、排除させてもらうに限る。

 

 

「ほらほら、皆教室へ戻りましょう」

 

 

 皆椅子をほっといてそのまま出ていく。

ほったらかしなのは、此処を使う教員がいないからだ。

だからこうやって放置している。野放図ではない。

 

 仲良し三人組は”またね”、と手を振り去っていく。

ミルココさんも教室へ、美咲さんと共に去る。

私は用意していたプリントと教科書を持って、教室へ早歩きで行く。

 

 

 

「では、これより反射炉を作って、刀を作ってみましょう」

 

 

 あ、これ、数学の授業です。

 



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