俺は最強なんか求めてない! (飛縁魔)
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プロローグ

宣言通り、落第騎士の英雄譚でオリ主で作り始めました。今回は導入回なのでオリキャラしか登場してませんが、お納めください。前回ので自分にクロスオーバーは向いてないと確信したので…。

批判をつけられないような作品にできたらいいなあ…。



「あれ?お前今日チャリなの?じゃ、一緒に帰れないな。」

「あ、マジ?お前今日バス?」

「バス。今朝雨降ったし。」

「あ、そっか。俺が出るとき降ってなかったからな。それじゃあ、また明日な〜。」

「おー、それじゃ。」

 

 ある高校の帰り際。駐輪場で二人の男子が喋っている。焦点を当てるのは、自転車で帰る方の男子だ。

 

 彼の名前は神無月廻兎(かんなづきかいと)。どこにでもいるような、強いて言えば成績がクラス上位にいる、男子だ。彼の家は別段裕福というわけでも、極端に貧乏というわけでもない。三人家族で、仲のいい父母と一緒に暮らしている。

 

 話は逸れるがーーヒトというのは往々にして危機回避能力が低い、というのが作者の自論だ。想像してみてほしい。例えば、目の前に殺されたナニカと、血の付着したナイフを持った狂人がいる。そんな状況で、果たして正常な判断ができるだろうか?どんなにいきっていても、きっとできなくなると思う。

 

 それゆえ、目の前に広がった光景を前に、彼ーー神無月廻兎は、自分がどうすべきか、決めきれずにいた。…いや、もう遅いのだ。先ほど例に挙げた光景そのものが、彼の目に映っている。より具体的に言うならば、原型がわからなくなった母親と思しき物体が転がり、目の前にはナイフを突きつける謎の人物がいた。

 

「お、お前…誰だよ…?なんで…なんで母さんが殺されてるんだよ…?」

 

 神無月の声が恐怖に震える。その問いに、謎の人物は答えない。代わりにナイフを突き出す。

 

 神無月の人生は終了した。駐輪場で友人と交わした約束は果たされないままに。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 神無月が目を覚まし(・・・・・)、見えたのは一面の白だった。

 

「ここ…どこだ?俺はなんでこんなところに…?」

 

 その時、扉が開くような音がした。どうやらここは一つの部屋のようだが、音の方向を向いても誰か人物がいるだけで、扉が見えたり、外が見えたりすることはなかった。

 

「あ、起きましたか?良かった〜。」

 

 その人物は、ホワンとした雰囲気の羽の生えた女性だった。

 

「えーっと…ここは…?どこですか?」

「ここですか?ここはつまるところ死後の世界です〜。」

「死後の世界?俺は…死んだの?」

「はい〜。残念ながら、快楽殺人者に殺されたみたいです〜。」

 

 とてもえげつないことをさらっと言っているのだが、神無月の頭はうまく働かず、さしたる驚きも見せない。

 

「じゃあ、俺は天国か地獄に行くの?」

「いいえ〜。予定外の死であったため、神無月さんにはもう一度最初から、今度は別の世界で人生を謳歌していただきます〜。」

 

 要するに、よくある転生ですね〜。と、気の抜けた声で言う。ここにきてようやく、神無月の記憶と気持ちが追いついてきたようだ。

 

「そっか…俺…死んだんだ。ああ…確か…ナイフで刺されて…!ぅ、あ、あああああああああああああああぁぁぁぁああぁぁぁあ!」

 

 ナイフを向けられた恐怖が今頃押し寄せてきて、神無月は絶叫し、号泣する。しかし…。

 

 女性が神無月を優しく抱きしめる。

 

「大丈夫です〜。怖くなったらしばらくは、私が近くにいますからね〜。」

「え…?あ…ありがとう…ございます…。ウッ…クッ…。」

 

 神無月の目には未だに涙が浮かんでいる。よほど怖かったのだろう。しかしそれも少しすれば治まる。やがて神無月は落ち着きを取り戻し、話の続きを促した。

 

「もう、大丈夫、です。それで、なんでしたっけ…?転生…ですか?あの、二次創作でよく見る…?」

「はい〜、その転生です〜。あなたには少しばかりの特典を付与した上で、好きな世界に行っていただきます〜。」

「その…特典とか世界とかっていうのは、自分で選べるんですか?」

「選べますよ〜。好きな特典、好きな世界です〜。」

 

 そういうことなら。と、神無月は前々から決めていたように言う。

 

「その…別にチートキャラとかにはなりたくないので…落第騎士の英雄譚の世界に、Cランクくらいで、回転能力でお願いできますか?」

「構いませんけど…回転能力っていうのは、どういう感じのですか〜?」

「あらゆるものを回転させることができる感じで。」

「わかりました〜。それにしても決めるのが速かったですね〜。普段から考えてたんですか〜?」

「・・・。」

 

 図星である。

 

「まあ、それはどうでもいいですが〜。それでは、行ってらっしゃ〜い。あ、私の名前を言い忘れてましたね〜。私はサリエルです〜。死を司る大天使とか言われてますけど…別に殺すなんてことしないので安心してくださいね〜。いつになるかわかりませんが、次に会える時を楽しみにしていますよ〜。それでは、別の世界へ、ごあんな〜い。」

 

 次の瞬間、空間にブラックホールのようなものが現れ、神無月は吸い込まれ、意識を失った。これから彼がどのような物語を展開して行くのか。それは、転生し記憶を持ったまま赤ん坊になった彼の頑張り次第である。




こういうタグがいるのではないか、誤字脱字報告等、よろしくおねがいします。

それではまた次作でお会いしましょう。


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第1話

さすがに2話までは投稿スピード速い方がいいかなって…。
もしかすると俺TSUEEEEEE!にしちゃうかもしれないです。


目が覚めると、視点が低かった。どう見積もっても他の人間が自分より大きく見える。それから、考えている頭と行動している体が別々に作動しているーーー要するに、冷静にものを見てはいるが、オギャア、オギャアという声が聞こえているーーーことから、廻兎(かいと)は、自分が赤ん坊になったのだとわかった。

 

先程までのサリエルとの会話は覚えている。彼女の言葉を信じるのなら、転生し、『落第騎士の英雄譚』の世界に来ることができたのだろう。しかし…と、廻兎は思う。

 

(そうか…よく考えれば転生ということは、赤ん坊から人生をやり直すということなのか…。異世界転生って…簡単なことじゃないんだな…。)

 

それでも自分が望んだ世界に来ることができたのだ。廻兎にとって、特に不満はない。

 

舞台はそれから16年後、廻兎が破軍学園に入学するところから始まる。そのため、彼の成長パートはない。まあご想像にお任せする。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日、日課のランニングを終え、自らの固有霊装(デバイス)、『陰鉄(いんてつ)』の素振りをしていた一輝はいつもと違うこと──と言っても些細な事だが──に巻き込まれた。ただ道を聞かれたのだ。

 

「あの、すみません。破軍学園の先輩…ですか?」

「え?ああ、いる年数で言えば…2年目にはなるかな。」

「申し訳ないのですが、入学式の会場ってどこですか?下見のために来たはいいものの、まだ来たばかりで…場所がわからなくて。」

「ああ、それならあっちの方だよ。この学園は広いからね。最初のうちはよく迷うから、注意して。」

 

一輝は入学式の会場の方向に指を指す。

 

「ありがとうございます。同じ学校にいるのでしたら、顔を合わせることもあるかもしれませんね。それではさようなら。」

「ああ、そうだね。会えるといいね。」

 

これが、神無月廻兎と黒鉄一輝(くろがねいっき)との出会いである。もちろん、道に迷ったというのは方便だ。いや、訂正しよう。半分本当、半分嘘だ。この時間にならば外にいるだろうと一輝を探した結果、迷ってしまっただけなのだから。

 

この後、一輝はちょっとした災難に見舞われるのだが、それはこの話には関係ないことのため割愛する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「確か…こっちに…あれか!第三訓練場!」

 

廻兎は落ちこぼれのFランク(黒鉄一輝)と主席入学のAランク(ステラ・ヴァーミリオン)が戦うという噂を聞き、もうそのイベントが始まるのか!と、胸を高鳴らせて、走って第三訓練場に来たのだ。結果は知っていても、それを実際に見るとまた違った感覚が得られるであろうからだ。

 

しかし、期待はことごとく打ち砕かれた。廻兎が訓練場に入った時にはすでに、黒鉄一輝は自らの伐刀絶技(ノウブルアーツ)一刀修羅(いっとうしゅら)を使っており、それは戦いが終盤に入ったことを意味していた。

 

「ハァ…ハァ…。遅かったか…。まあでも一刀修羅だけは生で見れたし、よしとしとこうかな。」

 

廻兎はそう言い残すと、1分もしないうちにそそくさと出て行ってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

入学式当日。廻兎は教室の椅子に座っていた。期待しすぎて早く来てしまったため、周りには誰もいない。

 

(しまった…早過ぎたら誰もいないのは当たり前だよなあ…。)

 

と反省している廻兎の前に、不意に影が落ちる。誰か来たのだろうか。自分が言うのもなんだけどこんなに早い時間に?廻兎が上を見ると、そこには一度見た黒鉄一輝の姿があった。

 

「君もこのクラスなんだ。前にもあったけど、こんにちは。」

「あれ?前に会った…。先輩じゃないんですか?」

 

ちなみに今、廻兎は怪しまれないよう、言葉に注意している。別の世界から来たとか言ったら恥ずかしいことこの上ない。廻兎が元の世界にいたならば、きっとそう思っただろうからだ。

 

「ハハ…。痛いところを突いてくるね、君は。まあ訳ありでね。…留年してしまったんだ。」

「留年?お言葉ですが、それはなぜ…?」

 

廻兎は、この質問は一輝の傷を抉ることになるだろうとわかっていた。わかってはいたがしかし、この質問をせずにはいられなかった。それに対し一輝は笑みを浮かべてーーー非常に無理をしているように見える笑みを浮かべてーーーこう答えた。

 

「実践の単位が足りなかっただけだよ。まあ…去年色々あってね。」

「そうでしたか…。不躾な質問、すみませんでした。」

「いや、いいよ。…それにしても早いね。なんでこんなに早く教室に?」

「ちょっと期待し過ぎちゃいまして…。それに、早く起きてやることもありませんでしたし。」

「そっか、僕はいつも鍛錬してるけど、他の人もそうとはかぎらないもんね。」

 

この後は30分ほど他に誰もいない教室で遅めの自己紹介をし、歓談していた。時間が経てば当然人が入ってくる。3人目が教室内に入った時点で、2人は会話をやめた。とりあえず、黒鉄一輝と同じクラスということは、ステラ・ヴァーミリオンと同じクラスである、ということも明記しておく。

 

そうして入学式当日が始まり、入学式が終わり、もう一度教室に戻って来てしばらくすると、担任と思しき女性が入ってくる。

 

「はーい☆新入生のみなさんっ!入学おめでとーーーーっ!♡」

 

折木有里先生…入学式の日のキャラは知ってたけど…目の前でされると確かにドン引きしかできねぇ!『ユリちゃん☆』って呼べる歳じゃないと思うなー、俺。以上、神無月廻兎の折木有里先生に対する第一印象。

 

「えー、今日は初日なので授業はありません!でもでも、先生から一つだけみんなに『七星剣舞祭代表選抜戦』についての連絡があります。みんな、生徒手帳を出してくれる?」

 

確か…対戦前に対戦相手の名前と日付がメールで送られてくるんだっけ?正直な話、知ってるから説明は受けなくてもいいんだよなあ…。と思いながらも律儀に手のひらサイズの液晶端末を取り出す。破軍学園の生徒手帳は、身分証明、財布、携帯電話、インターネット端末と、何にでも使える優れものである。

 

折木先生…ユリちゃんが言うには、

・勝ち抜いた6名が『七星剣舞祭』出場資格を得る

・一人十試合以上は軽くかかる。

・不参加も可である。

…らしい。

 

((……あ、そういえば折木先生って……。))

 

 

「じゃあみんな、これから一年、全力全開でがんばろーーーっ!はーいみんなで一緒に

えいえい・おブファーーッッ‼︎(吐血)」

 

…ものすごい病弱だったっけ、と一輝と廻兎はそのことを今更思い出した。

 

その後、一輝が指示した通りにことは進み、折木先生は保健室へ、吐いた血はピーチブロンドの女子たちが処理していた。

 

新入生たちにウザがられていたと知った時の折木先生は…とても、可哀想だった。




大丈夫そうですかね?重めの批判飛んでくるんじゃないかと内心バクバクしてます。

誤字脱字等、よろしくお願いします。


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第2話

新キャラを登場させました。これより大幅なストーリー改変に入りそうです。主人公より先に新キャラが戦うって…。

受験勉強で次回更新がまた遅くなります。


『先生が、今日はもう帰っていいってさ』

 と折木の伝言を一輝が伝えたことで、初日のホームルームはお開きとなった。

 

(えーっと、一輝はこの後珠雫を探しに行くんだっけ?で、日下部加々美さんに…あ。)

 

 そう考えたその時には黒鉄の腕に日下部が抱き付き、ステラが悲鳴をあげていた。

 

(そうそうこうなるんだよ。で、2人の決闘がネットに上げられてるってわかって…。)

 

「なんか気を使わせちゃってごめん。でもクラスメイトなんだから、もっと気軽に声をかけてくれてもいいんだよ?」

「「「本当ですかっ!?」」」

 

 途端、クラスメイトの女の子たちが身を乗り出して一輝に迫る。ああ、羨ま…ゲフンゲフンけしからん。剣の稽古なあ…。俺には必要ないんだよね、残念ながら。

 

(一輝が女遊びしないのはわかってるんだけど、それとこれとは別問題っていうか…。あ〜、ホント羨ましい。俺、現世(あっち)でもモテたことないもんな…。さすがラノベ世界だわ…。)

 

 一輝が散々ミステリアスやら可愛いやら母性本能にクるものがあるやら聴いている間、ステラを見ると目からハイライトが失われていっている気がした。極め付けは次の瞬間の日下部の一言だ。

 

「私、実は新聞部を作ろうと思ってるんですけど、先輩に記念すべき破軍高校壁新聞第一号を飾って欲しいんです!見出しは・・・そうですねー。『驚異の伏兵!噂の超新星(スーパールーキー)を一蹴!』てな感じで。」

「ふぅ〜ん。よかったじゃない。モテモテで。取材、受けて上げたら?先輩。」

 

 うわぁ修羅場だ大丈夫かな、とか思うまでもなく一輝は断っているが、それでも日下部は引き下がらず、一輝の腕を自分の胸にあああっ!そういうのもあったな!一輝ホント羨ましい!天然タラシかよ!天然タラシだな!しかしそうは問屋がおろさない。デレかけている一輝にステラが一喝しようとする。

 

「ちょっとイッキーーーー!」

「おいセンパイ、俺たちともお話しましょうや。」

 

(あ、身の程知らずのモブが来た。)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 廻兎は結果を知っていた。そしてその後起こることも知っている。

 

「知ってるって…つまんないな…。」

 

 それに知っていても、何も知らないような言動を取らなければならない。かなり辛い。

 

 そういうわけで、もう解散していいのだし、と思いながら寮に帰る。誰か同居人はいるだろうか、それともしばらくは1人なんだろうか、1人はいやだなあ、とか考えながら。神無月廻兎、15歳(転生前と合計32歳)、寂しがり屋。

 

 鍵を開ける。…手応えがない。誰かいるっ!?やった!あ、でも不良だとやだな…。

 扉を開ける。自分のものではない靴が置いてある。どんな人だろうか。おそるおそるリビングに行くと、人影が見えた。

 

「あの、すいません。えっと…ルームメイトの方…ですよね?」

「ああ、その通りだ。君こそ、私のルームメイトだな?優しそうな人間でよかった。…まあ、男性だとは思わなかったが。」

 

 そこには凛とした軍人のような雰囲気の、いくつか年上なんじゃないかという女性が微笑んでいる姿があった。

 

「自分も、ルームメイトが女性だとは思いませんでしたよ。えっと、自分…俺は…私は?とにかく、神無月廻兎と言います。これからよろしくお願いします。」

「「俺」で大丈夫だ。タメ口で構わない。私は…この軍人口調をやめられそうにないが、大丈夫だろうか。」

「ああ、いや、大丈夫で…だよ。」

「改めて。私は白金(しろがね)香久夜(かぐや)。と言っても、黒鉄家とは何の関係もないし、黒鉄家のように有名なわけでもない。ただ音が似ているだけだ。」

 

 そういう白金の顔には陰りが見える。過去に何かあったのだろうか。

 

「えっと…風呂かシャワーはもう済んだ?」

「いや、まだだが…それがどうかしたか?」

「ほら、女性に先に入って欲しいし。」

 

 というかそれがマナーだろう。家族でもない人間なのだ、男に先に入って欲しい女はあまり多いとは思えない。

 

「ああ、そういうことか。気が利かなくてすまない。では先に、シャワーを浴びてくる。」

「うん。」

 

 さて、ここで問題が発生する。男としての問題である。今、一輝とステラの部屋では風呂場であんなことやこんなことが行われている。それを知っているという事実が、廻兎の思考能力を一瞬麻痺させる。

 

「…俺もそんな目にあっていいんじゃないか?覗きとか…。」

 

 言いながら頭を振る。これで実行していたら同居人からも友人からも変態扱いされていただろう。いや、最悪の場合…。

 

「死…か。危なかったな…いろんな意味で。」

 

 数分後、香久夜が出てきたため自身もシャワーを浴び、何も考えないようにして眠った。こうして転生者、神無月廻兎の破軍学園初日は終わった。

 

(あれ?でも…白金 香久夜なんてキャラ、本編にはいなかったな…。まあいいか。)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一週間後。廻兎自身は見ていないが、ステラと珠雫が戦い、それによる謹慎が解けた今日。珠雫は一輝をデートに誘い、それにステラが介入し、計画が破綻したからとアリスも付いていく。

 廻兎はもちろん誘われないものだと思っていたのだが、一週間、一輝と親しくしていたことが正解だったのだろう。誘われた。

 香久夜に話すと「私も連れて行ってくれないだろうか。」と聞かないため、6人の大所帯で映画を見に行くことになった。

 

 …が。

 

「何着て行こう。俺オシャレわかんないぞ。」

「軍服でいいだろうか?服選びがよくわからん。」

 

 この部屋にはオシャレを理解できる者がいないらしい。

 

  ♦︎♦︎

 

「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった!」

 

 そう言いながら廻兎と香久夜が走って待ち合わせ場所に到着する。どうやら珠雫とアリスはまだ着いていないようだ。

 

「いいよ、まだ珠雫と有栖院さんが来てないから。ところで、その隣の人が白金さん?」

「そうだ。私が白金 香久夜。昔から軍人口調で、上からの物言いに聞こえるかもしれないが、大丈夫だろうか。」

(まさかこの質問、自分に関係する人全員に言ってるのかな。)

「僕は大丈夫だけど…。ステラは大丈夫?」

「ええ。いくら皇族とはいえ、本人が自覚してるこもに一々口を出したりはしないわ。」

「そうか。ありがたい。ではこの口調のままでいかせてもらおう。」

 

 ちなみに2人の服装は、廻兎はTシャツと長ジーンズ、香久夜は結局軍服である。廻兎はともかく香久夜は浮くだろう。

 

 …と、そこに珠雫とアリスが現れ、4人(内1人は既知)が散々驚いた後、出発した。行き先はショッピングモール!楽しく愉快で、大変な1日がスタートした。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 まずは映画までの時間を潰すため、アリスの勧めで一階のフードコートに来ていた。

 

「クレープか。実は食べたことがないんだ。これは…そのまま食べられるんだよな?」

「ええ、さすがに包みは食べられませんが。」

「ん〜〜このクレープ美味しい〜っ!」

「でしょう?何せ食べ歩いて調べたからね♪」

 

 女子4人(?)がキャピキャピし始めた。一輝と廻兎は女子特有のこの空気が苦手なため、輪の外から眺めていた。

 

「先輩は食べないんですか?クレープ。」

「ああ、甘い物はそこまで好きな方じゃなくてね。」

「まあ、俺もクレープ食べるよりコーヒー飲んでる方がいいんですけど。」

 

 と、珠雫の口元にクリームが付いているのを一輝が見つけた。

 

(ありゃりゃ、折角の化粧が…。)

「珠雫、ちょっと。」

「はい?なんですかお兄様。」

 

 一輝の方を向いた珠雫の口元のクリームを指でぬぐい、そのまま舐めとった。

 

「ほっぺたについてたよ。折角奇麗な格好してるんだから、気をつけないと。」

 

 その後は珠雫が赤くなったりステラが口元を真っ白にしたりするのだが…。

 

「なあ、神無月。」

「どうした?白金。」

「私の口元にもクリーム、ついてないか?」

「ついてるけど…。取って欲しいの?…羨ましかった?」

「…。」

 

 小さく頷く香久夜。それも顔を赤くしながら。軍人気質のようでいて、意外と初心(うぶ)なのだろうか。

 

 かいと に おおきな ダメージ !

 

「…はい。取れたよ。(落ち着け俺…!彼女はクレープを食べるのが初めてだと言っていた。この口ぶりからするとクリームが口元に付いたことも初めてなのではないか。この中で彼女が一番親しいのは俺だ!だから俺にこれを頼んだ!それだけだ!勘違いするな、俺!)」

「ありがとう。」

(メチャメチャかわいい。)

 

 こっちはこっちで色々あったようだ。

 

 ♦︎♦︎

 

 クレープを食べ終え、雑談をしているといつの間にか時間は過ぎ、予定の時刻となった。

 

「そろそろ時間ですし、四階に移動しましょう。」

 

 珠雫がそう切り出して、一同フードコートに並べられたテーブルの席を立ち、映画館(シネマランド)に向かう。

 ちなみに珠雫が見ようと思っていた映画は兄妹のラブストーリー(ステラが却下)、ステラが見たいと言ったのはラブロマンスアニメ(珠雫が却下)、アリスが挙げたのは性別の間を取った映画(ステラ・珠雫が却下)だったため、残りは一つだった。

 

「ワガママねぇ。でもそうなるのは残ってるのは一つ。アクション映画だけね。」

「上演作品少ないね。」

「小さな映画館だから仕方ないわ。」

「でもアクションならジャンル的にも男も女も楽しめそうだし、良いんじゃないかな?4人はどう?」

「むー。極めて残念ですが、お兄様がそれが良いというのなら…。」

「仕方ないわね。まあアタシはアクションも好きだから別に良いわよ。」

「俺はラブストーリー見るよりはアクションの方がいいな。」

「私も同意だ。というより、アクションの方が好きなんだが。」

「じゃあこれで決定ね。ちょうど上映開始ももうすぐだから都合がいいわ。」

「アリス。ちなみにそのアクション映画のタイトルはなんて言うんだい?」

「『ガンジー 怒りの解脱』」

「「「「「なにそれすんごい気になる」」」」」

 

 というわけで見る映画はアクション映画に決まった。その後一輝とアリスが離脱したが、このあと発生することを考えれば、俺は行かない方がいいだろうと考え、チケットを買って、2人を待つ。

 

 結局、6人は映画を見ることができなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これが解放軍(リベリオン)たちか…。そんなにマズくはないけど、ちょっとめんどくさいな…。」

「神無月はあいつらを知っているのか?

「まあ知らないわけじゃないけど、詳しいわけじゃないよ」

「そうなのか。実は私もなんだ(・・・・・・・)。で、どうする?戦うか?」

 

 そう、彼ら2人は…いや、珠雫とステラ含め4人は突如現れた解放軍の人質になっていた。

 …と、小学生くらいの少年が解放軍の1人におそいかかった。

 

「ヤバいな。このままじゃあの親子がうたれる。」

「同意する。このままではいけない。私が出よう。幻想形態ならば大丈夫だろうか?」

「いいと思う。いざとなったら俺も出るから。」

「じゃ、じゃあアタシも…!どうせ正体はそのうちバレるし!」

「待って!…ここは彼女に任せてみよう。能力も知りたいし。」

 

 そうこうしている間になんの躊躇もなく絞られる引き金。瞬きのうちに襲いかかる鉛弾。

 しかし、それが到達することはなかった。親子と銃弾の間に割り込んだ香久夜が、塵一つ残さず消しとばしたからだ。

 

 ♦︎♦︎

 

「それ以上の狼藉は、この私が許ない。」

 

 解放軍の前に立ちはだかるのは、およそ持ち上げるタイプではないだろうライフルを持った、香久夜だった。

 

伐刀者(ブレイザー)だと……ッ!」

「こんのぉ!」

 彼らはほぼ反射的に、香久夜に向かって一斉に銃弾を放った。

 乱れ飛ぶ鉛の飛礫(つぶて)。だがそれらは……。

 

全砲門(・・・)!ファイアー!」

 

 香久夜の後ろから現れた複数のレーザーに消しとばされる。無論、香久夜の固有霊装(デバイス)からも発射されている。幻想形態ならば(もの)は壊すが(モノ)は壊さない。レーザーは銃弾を消したあと、解放軍を幾人も気絶させた。

 怪我した者はいない。全員無事だ。しかし、人質たちにとっては別だ。

 

「「「きゃあああああああああああ!」」」

 

 突然吹き上がるガンファイアに、人質たちはパニックに陥る。そこで香久夜は。

 

「落ち着け!ここは私がなんとかして見せる。あまりここから動かないでくれ。」

 

 そう、人質たちに声をかけた。その声に安堵した人質たちは落ち着きを取り戻す。

 

「それから、別にお前たちと戦闘するつもりはない。私の話を聞いてくれないだろうか。」

 

 そう言って交渉を持ちかける香久夜。

 

「お前たちが何者なのか。これは聞かない。しかし、私たちに危害を加えるというのなら、戦わざるを得なくなる。あまり荒事にはしたくない。人質を代表し、そちらの(かしら)と交渉させてはくれないだろうか。」

「な、なに言ってんだこの女。テメェに何の権利があるってんだ!仲間をここまで気絶させやがって!」

「それはお前たちが撃ってきたからだろう。」

 

「おやおやおや〜?まさか一般人の中に伐刀者がまぎれこんでいたとはぁ。」

 

 言い争う両者の間に、顔に入れ墨の入った男が割って入った。

 香久夜がボソリと、誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「お前が…ビショウか。」




誤字脱字等報告お願いします。


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第3話

すいません!英検とか受験とかFGOのイベントとかで忙しくなかなか更新できず…。
主人公いつ戦うんだろ…。まあ予定はあるんですけど、それまで遠いなあ、と。
それから、主人公を絡ませられない、原作通りのシーンって、どうすればいいんです?


「お前が(かしら)か?」

「ええ、そうですよぉ。名はビショウと申します。以後お見知りおきを、お嬢さま。」

「ならば丁度いい。あんなことをしてはいるが、私はあまり戦闘を好まない。まずは対話を考えているが、応じるつもりはあるか?」

 

 どうやら香久夜はできることなら対話でことをつけたいらしい。その無意味さもわかってはいるのだろうが。

 

「その問答の前に、一つこちらでしたいことがありましてね。少し時間をもらっても?」

「…構わない。」

 

 そう言ってビショウは、香久夜に向けていた目を部下たちに移す。その眼光は香久夜に向けていたほど優しくはない。

 

「おい。何をガタガタやってんだ。てめぇらぁお留守番(・・・・)もまともにできねえのかよぉ。」

「ひっ」

「俺ァ大人しく待ってろっつったよなぁ?大切な人質には手ェ出すなっつったよなぁ俺ぇ?」

「お、俺たちあ止めたんスよ!でもヤキンの奴が言うこと聞かなくって!」

「ヤぁキン……。この騒ぎの原因はテメェか?」

「い、いや、ち、違うんですッ!あ、あのガキが俺のズボンをよごしやがったから……。」

「アァ!?たかがそんなことでガタガターーー……いや。」

 

 ふと、ビショウは何を思ったのか、思案顔をして黙り込むと、

 

「……ヒヒヒ。」

「び、ビショウさん?」

「……アァ、ヤキン。そりゃ災難だったなァ。同情するぜ俺ァ。」

 

 急に先ほどまでと態度を豹変させ、ズボンを汚された部下の両肩を叩きーー

 

「だが安心しろ。てめぇら《名誉市民》の名誉は俺たちがまもってやるからな。」

 

 懐から拳銃を取り出すと、その銃口を母親に庇われている子供へ向けた。

 

「…一応聞いておこう。何をするつもりだ?」

「何って、そりゃ決まってまさぁお嬢さま。このガキに自分のやったことのケジメを付けさせるんですよォ。……そりゃァ大事なことでしょう?人として。」

「やはり…対話をしようとした私が莫迦(ばか)だったようだ。一つ言っておこう。罪には罰を(・・・・・)確かにいい言葉だ(・・・・・・・・)。だがな、それを使っていい相手は犯罪者だけだよ。…お前たちのような、なぁ!」

 

 瞬間、ビショウの周りから多数のレーザーが放たれる。しかし、それらは全て、ビショウに掠ることもなく消える。

 

「……。」

「無言になって…驚きましたか?」

 

 ビショウがその両手を掲げる。その中指には、禍々しい赤光を放つ指輪がはめられている。それこそが彼の固有霊装(デバイス)大法官の指輪(ジャッジメントリング)》。その特性は罪と罰。左の指輪は彼に対するありとあらゆる危害を『罪』として吸収し、右の指輪でその力を『罰』と言う魔力に変えて打ち返すことができる。つまり、相手が強ければ強いほど強くなるということだ。

 

 しかし。

 

「いや…知っていたよ(・・・・・・)。話に聞いていたからな。それで?今吸収したレーザーをどうする?」

「知っていたなら知っていたで構いませんねェ。レーザー?そのままあなたに打ち出すに決まってるでしょうよォ!」

 

 そういって右手から打ち出される一本のレーザー。多数のレーザーを受け止めたのだ威力は半端なものじゃないだろう。

 

「残念だ。お前は贖罪の機会を失った。」

 

 その時、香久夜の姿が廻兎の隣に移り、それと同時に珠雫(しずく)の声が聞こえた。

 

「《障波水蓮(しょうはすいれん)》ーーーーッッ!!」

 

 水使い・黒鉄珠雫が生み出した水の防壁が、人質と解放軍(リベリオン)を分断した。それが、合図だった。

 

 ♦︎♦︎

 

 はーい、俺、すなわち神無月廻兎視点でいこう。あとはわかるよね?実は上で見ていた一輝先輩が第七秘剣・雷光(らいこう)でビショウの左腕を斬って返す刀で右手も切断。戦意喪失したビショウが気絶して終わりだ。ちなみに人質の中に混じっていた解放軍は、バレないように俺がオとしておいた。そうしてないと面倒だし…。あ、でも彼がカッコよく出てくることはできそうにないね。

 

 ♦︎♦︎

 

「おいおい、ボクの見せ場がないじゃないか。」

 

 突然どこからでもない(・・・・・・・・)、まるで直接頭の中に語りかけるような男の声が響いた。

 

「こいつ…直接あたm「それ以上言ってはいけない気がするぞ、神無月。」すいません、白金さん…。」

 

 声の主と思われる人物が、目の前の何もない空間から現れた。手に弓の形をした固有霊装(デバイス)を携える、一輝たちと年の変わらない、線の細い少年が。

 

 彼の気配は、この場にいる誰もが感じ取れていなかった。Aランクのステラや、ビショウたちの襲撃を察していた有栖院でさえも、だ。

 

 それもそのはず、それが彼の能力特性。

 そしてそれを一輝は知っている何しろ彼は、一輝の元クラスメイトなのだから。

 

「ひさしぶりだね、桐原(きりはら)君。」

 

 彼の名前は桐原静矢(しずや)。前年度の『主席入学者』にしてーー去年の七星剣武祭代表の一人だ。後にジャンケンがどうとか言われるようになる例の彼である。

 

 ガールフレンドは多いしイラつく言動するしで原作でもアニメでもいい思い出ないんだよな…。

 

「ああ、。ひさしぶりだね、黒鉄一輝君。」

 

 かつての級友との再会に桐原は静かに微笑み、

 

「君、まだ学校にいたんだ。」

 

 細めたまぶたの隙間から、嘲りの視線を寄越した。

 

 …俺こいつ嫌い!原作でもアニメでも!ましてや三次元になるとそのウザさは1.5倍くらいに跳ね上がる。しかもこの辺俺とか原作にいない白金さんとか関係ないし。

 

 よって割愛!

 

 ♦︎♦︎

 

 デパートから帰った廻兎たちは、それぞれの部屋に戻った。

 

「ほんっとに嫌な奴だな、あいつ(桐原)。一輝の試合の日が楽しみだ、まったく…。さっさと負けて生き恥晒せばいいのに。」

 

 部屋で一人ごちる廻兎。香久夜はシャワーを浴びている。

 

「まあそれはともかく…。白金さんにはあとから聞かないといけないことがあるな。」

 

 噂をすれば影がさす、と言うが、丁度香久夜が出てきたところだった。

 

「いつもいつも先に済まないな。風呂場、空いたぞ。」

「ああ、ありがとう。…ところで質問なんだけどさ、転生って知ってる?」

「てて転生?こ、言葉としては知っているが、そそそ、それはどう言う意図の質問だ?」

 

 目が泳ぎ、口元が引きつっている。動揺が激しすぎるだろ!だろうなとは思ってたけど隠す努力ぐらいしようよ!

 

「誰にも言ってないんだけどさ、俺、別の世界から転生してきたんだ。」

「ほ、ほー、そうなのかー。それは驚きだなー!」

「完全に棒読みだよ。昼の戦闘中でも、解放軍とかビショウとか知ってたし、出てない言葉を先取りしてたし、向こうの世界のネットでよく見たスラングを遮ったりしてたし。…君も転生したんじゃないのかい?」

「うぅ…はい、そうですぅ。あ、で、でも、このことは誰にも言わないでね?」

 

 もう口調が崩れている。軍人口調はキャラ作りだったらしい。しかしそんなところも可愛い。

 

「誰にも言わないよ。ていうか、俺もそうな以上誰にも言えないし。」

「ありがとう、神無月君…。」

 

 しかし、転生者である以上、向こうの世界で死んでいるということだ。彼女にも何かトラウマがあるかもしれない。が、それは今聞くようなことではないだろう。

 

「この話題はここまで!じゃあ、俺は風呂に入ってくるよ。今の口調もギャップがあっていいと思うけど、俺はやっぱり軍人口調の方が好きだな。」

「そ、そう?じゃあ、そのままにしておくよ。…いや、そのままにしておこう。」

 

 というわけで答え合わせ終わり!その後?特に何もイベントはなく風呂に入って寝ましたよ。ええ、何もなかったですとも。…何も…なんでないんだろうなぁ…。




誤字脱字等報告おねがいします。


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第4話

設定を考えるのが難しい…。モブの。


 解放軍(リベリオン)の事件から一夜が明けた月曜日。

 破軍学園ではついに六つの『七星剣武祭出場枠』を巡る『選抜戦』が始まった。

 

『さあ始まりました!選抜戦初日の注目カード!またもや黒鉄珠雫選手に続くBランク!とは言いますが限りなくAランクに近い彼は、いったいどんな戦いを見せてくれるのかぁ!神無月廻兎選手の第一戦ですッ!』

 

 ちなみに彼は新入生ナンバー3。珠雫に少し劣っている程度。観客席はそんな彼の偵察に来た生徒たちで溢れていた。

 

『相手をするのは二年生、入学以降その能力と共に学園に名前を響かせてきたCランク騎士・雑賀石山(ざいがせきざん)選手!去年は七星剣武祭代表に選ばれませんでしたが今年はどうか!今、試合開始のブザーがーー鳴りましたぁ!』

 

「ごめんね、でも今年こそは出場したいんだ。だから僕は君を倒し、先に進む。」

 

 そう言って石山は自らの固有霊装(デバイス)である杖を取り出す。

 

「僕の能力は石化!足を止めたところを一撃で仕留める!」

 

『序盤から出たぁぁ!石山選手の伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《石魔物(メデューサ )》だあ!廻兎選手の足が固まる!このまま負けてしまうのかぁ!」

 

「確かに動けないですけど、この能力ならもっと上まで石化させた方が良かったですね。…第1回転、旋風(サイクロン)!」

 

 廻兎の周囲から風が吹き始める。俗に言う旋風だ。風力としてはあまり強くはない。

 

「それが君の伐刀絶技かい?Bランクだというのに、あまり強い能力じゃないんだね。それならやはりこちらのものだよ!」

 

「何言ってるんですか、まだまだ行きますよ!第2回転、台風(タイフーン)!そして…第・3・回・転!竜巻(トルネード)ォ!」

 

 最初は旋風であったそれは、さらなる強風を経て、天井を突き破らんばかりの勢力を誇る竜巻へと進化した。

 

『おおっとぉ!石山選手の足が、まるで自分の能力をかけられたように停止したぁ!まさかこんな能力を有していたとは、噂にたがわぬBランク!会場も騒然としています!解説の折木先生、彼の能力とはどのようなものなのでしょうか!?

 

『んー。私もよく知ってるわけじゃないんなけどね?入学試験の時からよく竜巻起こしたー、とか、攻撃が弾かれるー、とかっていう噂を聞いてるわ。でも本人は別に風の能力じゃないって否定しているし…。真相はまだ謎のままなのよ。』

 

『ありがとうございます!そして吐血しませんでしたね!調子いいですね、先生!』

 

『私としてはお薬打てないから残念なんだけどね…。』

 

 ちなみに一つ前の珠雫選では三回目の吐血をし、注射を打っていた。…あの先生はいったいどうやって生きているのだろう、といつも廻兎は思っている。

 

「そのまま薙ぎ払う!風の竜よ!呑み込め!《一頭竜(ファフニール)》!」

 

 石山の体は竜巻に巻き込まれ、飛んで行き、そのまま地面に落ちた。そしてーーー

 

「雑賀石山、戦闘不能ッ!勝者、神無月廻兎!」

 

 気絶した。

 

『試合終了ーーーーッ!勝ったのは1年、神無月廻兎選手!石化能力を歯牙にも掛けず、初戦を白星で飾りましたぁ!!』

 

「よし、とりあえず一戦は突破した、っと。」

 

 そうして微笑みながら訓練場を後にした。

 

(そういえば、あっちはどうなったかな。)

 

 ♦︎♦︎

 

 ステラの試合が終わった後の、第七訓練場。

 そこにはステラの時のような騒がしさはなく、静寂が訪れていた。

 当然と言えば当然。

 ステラはそのくらい人が集まる人気者だが、ここに立っているのはそんな人気者ではない。

 

「ここまで人が減るのか…。人に見られるのは苦手だが、ここまで人がいないとなると…それはそれで悲しいな。」

 

 そこに立つのは廻兎のルームメイト、白金香久夜だった。

 

『新入生主席の戦いが終わり、観客は少なくなりましたが!まもなく次の試合が始まろうとしています!そこにいるのは新入生、白金香久夜選手!まだ誰とも戦ったことがないという彼女ですが、いったいどんな戦いを見せてくれるのかぁ!それに対するは3年生、《鉄の処女(アイアン・メイデン)》こと鳩里(はとり)絵留(える)選手!さあ今日も出るか!?多数の相手から血を搾り取ってきた必殺技、スパイクがぁ!』

 

「先に謝っておきますね。私の能力は、相手に傷をつけることを最も得意とします。ですからズタズタになるかもしれませんが…泣かないでくださいねぇ。」

 

 邪悪な笑みをこぼす妖艶な美女、鳩里に対し、香久夜も謝る。

 

「こちらこそすまないな。例え相手が目上の人でも、この口調は直せないんだ。そこだけ了承してほしい。それから…そちらこそ、泣くなよ。」

 

『両者共に固有霊装を構える!鳩里選手は禍々しき杖を!白金選手は猛々(たけだけ)しきライフルを!そして!今!試合開始のブザーが鳴りましたぁ!ーーっとォ!?ブザーが鳴った瞬間、白金選手の姿が消えたぁ!彼女はどこに行ったのか!?』

 

「後ろだよ。武器を捨てて手を上げろ。さもなくば…撃つぞ?」

 

 言いながら鳩里の頭に照準を当て引き金を引く。射出されるのは当たり前のごとくレーザー。

 

「ああ、それから…私の銃は少しばかり強力すぎるんだ。幻想形態だが、勘弁してほしい。」

 

『そのライフルから撃ち出されるは弾ではなくレーザー!しかし直前に幻想形態に変えたようです!人を傷つけたくないのでしょうか?何はともあれ試合終了ォ!経験差をものともせず、わずか数秒で勝利を収めましたぁ!』

 

 彼女は知っている。いかにIPS再生槽(カプセル)が優秀とはいえど、失ったものは戻ってこないことを。そして、自分のレーザーは一切を消滅させるものであることを。

 

(よし、1回戦は突破した。神無月は勝っただろうか?)

 

 そう思いながらリングを後にする。その途中、

 

『えーたった今、第十五訓練場で試合を行なっていた新入生、神無月廻兎選手も、二年・雑賀石山選手を相手に勝利を収めたと連絡がありました!』

 

 廻兎の勝利を知った。

 それを聞き小さくガッツポーズをしたのは、自分だけの秘密だ。

 

 ♦︎♦︎

 

「お疲れ様、白金さん。」

 

 寮室に入った香久夜がまず最初に聞いたのは、廻兎からの労いだった。

 

「神無月こそ、お疲れ。」

 

「とりあえず一回戦が終わったね。これからも、がんばろう。」

 

「ああ、七星剣武祭には出場してみたいからな。ステラや黒鉄とは当たりたくないものだ。」

 

「明日は一輝さんの初戦があるけど…見に行く?多分不快な思いをすると思うけど。」

 

 その戦いは《狩人》、桐原静也(きりはらしずや)との戦いである。観客席がどうなるか、リングでどうなるか、2人は知っている。

 

「行くさ。友の初舞台だろう?」

 

「白金さんならそう言ってくれると思ったよ。明日は精一杯応援しよう。」

 

「「俺(私)たちの友のために。」」




雑賀さんと鳩里さんの出番はこれで終了です。所詮モブ…。
それと廻兎の能力詳細を明かす時がいつになるか、自分でもわからない…。
誤字脱字等報告お願いします。


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第5話

 翌日、場所は第四訓練場、時間は十三時半。

 そう、第四試合、黒鉄一輝と桐原静矢の試合である。

 廻兎(かいと)香久夜(かぐや)の両者はこの試合の結末を知っている。知っているが、自分たちが関わったことで何かが変わってやしないかと心配していた。

 

 (いや、大丈夫なはず。確かに一輝とは関わってきたけど、戦闘面に関することは特に何もしていない。)

 

 訓練場に二人が向かい合うように入ってくる。

 方や優勝候補の一角、方やFランクの落第騎士(ワーストワン)。彼らは一言二言言葉を交わし、先頭の火蓋は切って落とされた。

 突然消える桐原、後何故か生えてくる木。

 廻兎は隣に座る香久夜に小声で話しかける。

 

 「香久夜、あれなんで木生えるんだろうな」

 

 「さぁ……そういえばよくわからん」

 

 「しかしやっぱ対人戦において消えた上で存在感を消すって厄介だよなあ。俺は広範囲持ってるから問題ねえが」

 

 「私も問題はない。しかし見る限り……一輝が苦戦するのはよくわかる」

 

 矢を撃たれる一輝。それを意に介さず刀で打ち落とす。本体が見えなくとも矢が見えれば対処できる。そういう考えだ。

 しかし。

 

 「ぐ、ああぁ!」

 

 突然の苦鳴。見ると、一輝の太ももには穴が開いており、そこには不自然に止まる血の飛沫があった。

 

 「見えない矢、か。緊張してんだな」

 

 「ステラも気付いたようだ。私たちが転生者だとバレないよう、もう少し声のボリュームを落とすとしよう」

 

 「ああ」

 

 そこから先は一方的だった。一方的な『狩猟』。実況の月夜見の声が詰まるほどに。

 致命傷となる場所には矢を打ち込まず、手や足といった部分にのみ矢を打っていく。側から見れば打つ手なし、勝ち目なしの負け戦だ。

 

 「一輝は、こんな戦いをしたんだな」

 

 「正直見ていられないな。私がヤツと当たれば腕の一つや二つ、吹き飛ばしたというのに」

 

 廻兎の顔に皺が寄る。彼に押し寄せる感情はただ一つ、怒りだけだった。そしてそれは、香久夜もまた同じ。

 自分たちの隣にいるステラたち3人を見ると、似たような顔をしていることに気づく。

 しかし、二人には絶対的な自信があった。一輝は勝つと。それは未来を知っているから、というチープな理由ではない。そこにあるのは信頼だ。

 そしてついに桐原が仕掛けた。内臓が詰まった胴体を、撃ち抜き始めた。と同時に煽り始める。

 やがて聞こえ始めるのは観客たちの嘲笑の声。

 

 「あ〜、クソみてえだな。死なねえかなこいつら」

 

 「こらこら、そういうことは言うものじゃないぞ?」

 

 「だって今こうやって嘲笑ってるこいつら、一輝が選抜戦勝ち抜く頃には手のひら返してんだぜ?」

 

 「それは……そう考えると一度死んだ方がいいのではないか?」

 

 「さすがに冗談だがな」

 

 冗談に聞こえない冗談を言う廻兎。事実、今訓練場を支配しているのは一輝を馬鹿にする声だ。

 Fランクが七星剣王になどなれるわけがない。ステラとの試合はヤラセだった。クズだ。ペテン野郎。そういった罵声で埋め尽くされている。少数は一輝を応援する輩もいるにはいるが、数が少なすぎる。

 

 「ま、ここで声を上げるのは俺たちじゃねえよ」

 

 「そんなこと知っているさ。……そろそろだろう?」

 

 一輝の心が弱い方へ傾きかけた、その時だった。

 

 「だまれぇぇえええええええええてええええええええ‼︎‼︎」

 

 あかりに緋色の瞳を燃やし、火炎の燐光を散らす《紅蓮の皇女》、ステラ・ヴァーミリオンの心からの叫び声。

 

 「そうそう、一輝の目を覚ますのはこれじゃないと」

 

 「笑っているぞ?廻兎」

 

 「ん?そうか?いやー、生で聞いたら今までの苛々全部吹っ飛んでなあ」

 

 ステラの叫びはまだまだ続く。

 

 「FランクがAランクに勝てるわけがない?そんなの、アンタ達が勝手に決めつけた格付けじゃないのッ!アタシ達天才には何をやっても勝てない。そうやって勝手に枠にはめて、自分自身の諦めを正当化しているだけ!そうやってお前達が諦めるのは勝手よ。だけどお前達の諦めを理由にイッキの強さを否定するなァッ‼︎」

 

 廻兎達二人はそれを聞いて晴れやかな気分になった。

 二人は知っている。ステラが、一輝が自分よりも強いことを知っていることを。それ故に、それをバカにする奴らを許せないことを。天才が、才能が、努力に勝てないこともあることを。

 

 「知ってるってのもいいもんだなあ。それなりに安心できる」

 

 「いいシーンだ、喋るものじゃないぞ」

 

 「才能なんてその人間のほんの一部でしかない。そんな小さなモノにしがみついてるアンタ達に、イッキの強さがわかるわけがないッ!理解できるわけがない!だからそんな知った風な口で、ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 顔を上げ、ステラの方を向く一輝。その顔は今にも崩れ落ちそうな弱々しいものだった。

 

 「イッキ言ったじゃないの……ッ。他人に何を言われても、自分を諦めないって……!アタシ、そんなイッキとなら、どこまでも上を目指していけるって思ったのよ!だからこんな奴らに好き勝手言われたくらいで、そんな、諦めたような顔するんじゃないわよッ!アタシはそんな弱い男に負けたつもりはないわ‼︎アタシが、……っ、アタシが憧れたのは、……アタシが好きになったのは、いつだって上を向いて、自分自身を誇り続ける黒鉄一輝という()()なんだから‼︎ーーだからッッ

 

 アタシの前ではずっと格好いいアンタのままでいなさいよこのバカァアァアァッ‼︎‼︎‼︎」

 

 直後、一輝が自分の拳でじぶんのがんめんを、音が響くほど強く殴りつけた。

 

 「ありがとう。ステラ。……いい活が入った。」

 

 そして立ち上がる。ゆっくりと、しかし力強く。

 

 「流石に喋れねえよ、今は」

 

 「そうだな。最高のシーンだ」

 

 一輝は叫びながら魔力をかき集める。《一刀修羅》のために。

 そして……。

 

 「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を捕まえる。ーー勝負だ。桐原君!」

 

 「ここで決め台詞!一輝くんカッコいい!最高!」

 

 「ハァ、わかったから落ち着け。廻兎」

 

 香久夜は赤くなっている。例のアレのせいである。

 一応落ち着いた廻兎は真剣な眼差しで一輝を見る。丁度心臓に放たれた矢を掴んだところだった。そう、《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》の発動である。

 そこから先はまるでお返しのように一方的だった。百を超える不可視の矢を放つ伐刀絶技(ノウブルアーツ)驟雨烈光閃(ミリオンレイン)の絨毯爆撃を避け切った一輝は、見えない《狩人》(笑)に近づいていく。

 

 「なあ香久夜、そろそろじゃない?」

 

 「確かにそうだな。声を合わせるか」

 

 「「「そ、そうだ!ジャンケンで決めよう‼︎」」」

 

 「これがやりたかっただけ」

 

 「わかる」

 

  「ひ、ヒィィィィィイィィィィイイイイイイイ!や、ヤメロオオオォォオォオオオオ‼︎‼︎わかった!ボクの負けでいい!ボクの負けでいいから痛いのはいやだああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎」

 

 桐原の情けない声が響く。これには廻兎達二人もニッコリ。

 一輝が、ザン、と一閃を振り下ろした。

 桐原の鼻の頭にはほんの少しの傷がつき、そして気絶した。

 というか降参して気絶した。

 

 「桐原静矢、戦闘不能!勝者、黒鉄一輝‼︎」

 

 レフェリーにより、一輝の初戦勝利が宣言された。

 その後一刀修羅の反動、何より戦闘での傷が大きかったことにより一輝は気絶、IPS再生槽(カプセル)に入れられた。桐原はリングから引きずり出された。ついでに応援の女子に愛想尽かされた。

 

 「ざまぁwww」

 

 「廻兎……」

 

 「何はともあれ勝ってよかった。さ、ステラも病室行ったし、俺らも部屋戻るか」

 

 「そうするとしよう。アリス、珠雫、私たちは先に行くぞ」

 

 「わかったわ、気をつけて。あたしは珠雫と美味しいもの食べに行くから」

 

 「香久夜も今度行こう?」

 

 「ああ、また今度な」

 

 廻兎はなんとなく気まずい想いをしていたが、二人はこうして帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地の文すっくな


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