もう一人のろくでなし魔術講師 (宗也)
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1話

「あの野郎、元気にしてやがっかな?」

 

俺、ハヤトは魔術師である。こいつ頭大丈夫か?っと思った奴、挙手しなされ、燃やしてやるから。

 

「あの野郎は今日で自宅警備員に就職して1年経過するな。祝いの品でも持っててってやろう。」

 

あの野郎はグレン=レーダス。まあ、俺の友人というわけだ。1年前に、ある理由で前の仕事を辞めているんだ。

 

「俺も人の事言えないけどな!!半年前に仕事辞めたし。」

 

俺とグレンは同じ職場だったんだ。さて、俺が仕事を辞めてから会ってなかったからな。半年ぶりにグレンの奴に会うな。なので、今グレンの住んでいる所に向かってる。

 

「おっ!見えてきたぞ!!」

 

グレンの住んでいる家が見えてきた。まあ、実際は居候らしいがな。家の主はセリカっていう凄腕の魔術師らしい。

 

「ちわーす!!三○屋でーす!!」

 

あれ?インターホン押しても何の反応もないぞ?留守なのか?

 

「仕方ない、また時間を改めて「ちょ!!ちょちょ!!待ってェェェェ!!」えっ!?」

 

何か詠唱が聞こえてきたんですけど!?しかもヤバそうな詠唱だぞ!?

 

「まさか、ウギャァァァァァ!!!」

 

炎の魔術かよぉぉぉぉ!?しかも何で俺目掛けて撃ってくるんだよぉぉぉ!!

 

「ゲホッ、ゲホッ、死ぬかと思った。」

 

「次は、外さん!!」

 

俺に当たってるんですけどぉ!?誰に向かって言ってんだよセリカは!!

 

「セェェェェリィィィィカァァァァ!!」

 

「おやぁ、貴方は誰なのかしら?」

 

「しらばっくれてんじゃねえぞゴラァ!!」

 

セリカはクスクスと笑いながら俺を見ている。くそっ、わざとか!?わざとなのか!?

 

「ハヤト、プッ、イメチェンでもしたのかブホッ!!」

 

「これの何処がイメチェンに見えるんだ!?体全体が真っ黒になるイメチェンが何処にある!?」

 

グレンの奴、土下座しながらこっち見て笑ってやがる。後でハイキック喰らわせてやる。

 

「何で俺の方に撃ったんだセリカ!?」

 

「貴方なら私の魔術を喰らっても死にはしないだろうし。グレンを脅すためにな。」

 

何で俺はグレンの為に真っ黒くろすけにならなきゃならんのだ。

 

「丁度良かった、ハヤトも無職だったな?」

 

「NEETという仕事があります。」

 

「ハヤトも教師になりなさい。グレンと同じクラスでね。」

 

いきなりなんなんだよ!!このバb「其は摂理と円環へと帰還せよ・五素」すいませんでしたぁ!!

 

「ハヤト、お前も綺麗な土下座しやがるな。」

 

うっせぇグレン、この世界を生き延びる為には土下座の取得は必須スキルなんだよ。

 

「グレンだけじゃどうにも不安だからな。ハヤトが居てくれれば安心する。」

 

「俺、教育免許もってねえぞ?運転免許しかねえぞ?」

 

「教育免許?そんなもの無くたって私の権限を使えばどうとでもなる。」

 

職権濫用してるよこの人は、あー働きたくないでござるー!!

 

「それに、可愛い女の子がたくさんいるんだぞ?しかも常時ヘソが見えているんだぞ?」

 

「なんですと!!それは本当かセリカ!?」

 

20年間女の子とほぼ関わりがなかったからな!!これはいいチャンスだ!!

 

「でも働きたくない、けど女の子と関わり合いたい。うーーーーん!!」

 

「じゃ決まり。早速手配しておくわ。」

 

「おい!!俺まだ了承してないんだけど!?勝手に決め付けんなこの400さ「我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に」本当にすいませんでしたぁ!!マジで勘弁してください!!」

 

イクスティンクション・レイはもう喰らいたくない!!しかも本気の殺意をぶつけながらだぞ!!

 

「ハヤト、お前セリカ相手に凄いな。よくそんな悪口言えるよな。」

 

「俺、思ったことは口に出ちゃうタイプだからな!!テヘェ!!」

 

「雷精よ。」

 

ギャァァァァ!!しーびーれーるー!!セリカ、今なんでショック・ボルトを撃ったし!?

 

「いやなんかムカついたから。」

 

「理不尽だ!!」

 

******

 

アルザーノ帝国魔術学院

 

およそ四百年前、アルザーノ帝国が時の女王アリシア三世の提唱により、巨額の国費を投じて設立した国営の魔術師育成専門学校。

 

常に最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎で、魔術を学ぶ者にとっては憧れの聖地とも呼ばれている名門校である。

 

ちなみに、俺もグレンもここのアルザーノの出身だ。

 

「ということで、今日からこのクラスの担任になることになったグレン=レーダスでーす。」

 

「同じく、担任のハヤトでーす。」

 

『……。』

 

あれ?無反応?俺泣いちゃうぞ?泣きわめくぞ?

 

「んじゃ、早速授業していくかぁ。」

 

そう言いグレンは教科書を開き、閉じた。どしたんだ?

 

「各自自習。んじゃ俺は寝るわぁ。」

 

「おいおい、ったく、じゃあ俺が代わりに授業するからな。えーと、ふわぁ、面倒くせえ。」

 

何だこの教科書?馬鹿なのか?こりゃグレンもやる気失うのも分かるな。

 

「ここはー、こうでー、こうなりまーす。わかったかー?」

 

『全然生き生きしてないな。あんな人始めてみた。』

 

生徒達が何やら呆れた感じで見てるけど気にしなーい気にしなーい。

 

「えーと、こうでー、こうなるぞー。」

 

文字は適当でいいや。何となくわかればいいだろ。

 

「字が汚くて全然読めない……。」

 

「システィーナ、とりあえず1発殴っておけば?」

 

何か物騒な事聞こえたぞ?俺を殴っておぶへぇ!!銀髪の野郎め。

 

「先生、真面目に授業をしてください。」

 

痛てえな、物をぶつけられたか。これでも真面目にやってるつーの。

 

「で、多分きっと、こんな感じになりまーす。わかったかー?」

 

「さっきとなんら変わりないじゃない。」

 

何やら銀髪の生徒が唸ってるな。何だ?トイレに行きたいのか?

 

「はぁー、おいグレン起きろよ。」

 

『目が死んでる。』

 

「あのー、質問よろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

茶髪の眼鏡の子が手を挙げてきたな。何だ?指摘か?

 

「さっきのルーン語の事なんですけど、黒板に書いてくれた翻訳がいまいち分からなくて。」

 

「ふーん、ほーん、へぇー、俺もわかんね。グレンはどうだ?」

 

俺はグレンを叩き起こして黒板に書いたルーン語を見せる。

 

「俺もわかんねーな。すまんな、自分で調べてくれ。」

 

「もしくは、ググってくれ。」

 

「待ってください!!」

 

銀髪の子が立ち上がる。なんなんだいったい?

 

「どした?銀髪?」

 

「私にはシスティーナという名前があります!!リンに対してのその態度、教師としてどうなんですか!?」

 

「んなこと言われてもな、わからねえもんはわからねえし、なあグレン?」

 

「ハヤトの言う通りだ。本当にわからねえんだよ。」

 

こいつら、自分で調べる方法も分からねえのか?

 

「ひょっとしてお前ら?辞書の引き型も分からねえのか?だったら調べられね「キーンコーンカーンコーン。」今日はここまでー♪」

 

あいつ!!逃げやがったな!!

 

「じゃ、次回までに辞書の使い方を学んでおくんだな、じゃあなー。」

 

これであの空間から逃げられるぜ!!ヒャッハー!!

 

******

 

「ったく、教師は面倒くせえなぁ!!」

 

「確かにな、早く辞めてーなー。」

 

俺とグレンは愚痴をこぼしながら廊下を歩いている。

 

「特にあの銀髪の子、面倒くさいわー。」

 

「それは言えてるなハヤト、あーあ、本当に教師って面倒くせえなぁ!!」

 

そう言いグレンは何処かのドアを蹴り開ける。ここって何の部屋だっけ?

 

「何で錬金術っては着替える必要が……あっ。」

 

「どうしたグレン……おっ。」

 

これは、あれだな、女子が着替えている所に出くわしたというベタなパターンだな。

 

「ちょっと!!」

 

「「あー待て待て。俺は常日頃こんなお約束展開について物申したいことがある!!」」

 

ちなみに目は瞑ってるぞ、でも、心の目で女子達を見ればいい!!ウヒョ、見える!!見えるぞ俺は!!

 

「何で慌てて目を背けたり、手を引っ込めようとしたりすんだろうってな。」

 

うんうん、グレンの言う通りだ!!

 

「たかが女の裸をちらっと見るのとボコられるのが等価交換だなんて、割に合わねえだろって。」

 

「だから俺は!!この光景を目に焼き付けるんだぁぁぁ!!」

 

「おいハヤト!!おし!!俺も目に焼き付けてやダァァァス!!」

 

こ、このクラスの女の子はいいパンチを持ってやがるぜ、ガクッ。

 

「貴方達それでも教師なんですか!?」

 

「そうだぜ、非常勤だけどな、ガクッ。」

 

*******

 

まあ、そんなこともありながら10日が過ぎていった。もうね、はっきり言うと面倒くさい。だから自習って形を取ってたんだけどね~。

 

「これは、そういう意味と捉えていいんだな?」

 

銀髪がグレンに手袋を投げ付けた。まあ、いわゆる決闘の申し込みだな。

 

「じゃあそうだな、まぁ、この年頃の女の子だしなぁ~俺の言うこと何でも聞いてもらおうかなぁ~。」

 

グレン、流石だな。ニヤニヤとした笑みで銀髪を見てるし、銀髪は涙目になってるな。可愛い!

 

「くっ!!私が勝ったら、真面目に授業をしてもらうんだから!」

 

おおう、それはちとまずいな。グレンー、負けんなよー。って何で銀髪に近づいてんだ?

 

「ぷっ、なんーてな。お前みたいな乳臭いガキに興味無ぇよ。まぁ、俺には文句を2度と言うなよ。」

 

そう言いグレンは教室から出る。俺はもうひと眠りでもしてましょうかねぇ。

 

「何寝ようとしてんの?アンタにも決闘を申し込むわ。」

 

「決闘?俺デュエ○ディスクもデュ○ルカードもないから無理だわ。諦めな。」

 

「逃げる気なのかしら?」

 

そう言って銀髪は俺にも手袋を投げ付ける。やれやれ、やるしかないかぁ。

 

「受けてやんよ、まあ、条件はグレンと一緒でいい。」

 

とまあ、こんな感じで銀髪に決闘を申し込まれた。最初はグレンと戦うらしい。

 

「お前らみたいなガキにケガをさせるわけにはいかねえからな~。魔術はショック・ボルトのみだ。」

 

「上等よ、さあ構えなさい!!」

 

「いーや、先手は譲ってやるよ。いつでも撃ってきな。」

 

グレンの奴、そういうことかよ。

 

「雷精の紫電よ!!」

 

銀髪がショック・ボルトを1節で唱えて、グレンに放つ。グレンは余裕そうな笑みを浮かべて、直撃した。

 

『は?』

 

「な、なかなかやるな。俺が反応出来ない速度で撃ってくるとは。だ、だがこれは3本勝負だ!!一本はハンデとしてくれてやったんだよ!!」

 

グレ~ン、強がるなよ~。膝笑ってるぞ?しかもお前ショック・ボルト三節じゃないと唱えられなきじゃん。

 

「行くぞ!!雷精よ・紫電の「雷精の紫電よ!!」アギャャャァァァァ!!」

 

「ブフッ!!は、腹いてぇ!!俺を笑い殺す気かよ!!」

 

やべ!!腹筋つる、腹筋つってしまう!!

 

「さあ、次はアンタの番よ!!雷精の紫電よ!!」

 

あり?もうグレンはやられたのか。もう少しグレンの苦しんでる姿が見たかったのに。

 

「当たるかアーホ!!」

 

俺は銀髪が撃ってきたショック・ボルトをしゃがんで避ける。

 

「なっ!!ショック・ボルトをかわした!?」

 

「そんな驚くような事か?魔術の速度なんて銃弾に比べれば遅えから簡単に避けれるぞ?」

 

「くうぅ!!雷精の紫電よ!!」

 

銀髪が続けてショック・ボルトを放つが、俺は体重移動やしゃがんだりして避ける。

 

「いい加減に当たりなさいよ!!」

 

「ドMじゃないから嫌です。さて、そろそろ終わらせるか。」

 

そう言い俺は身構える。銀髪は何故かガタガタ震えているな、やっぱトイレに行きたかったのか?

 

「よっと。」

 

俺は銀髪が瞬きした瞬間にバックステップをする。

 

「えっ!?あれ!?先生は!?」

 

おーおー慌ててやらぁ。ちなみに俺は銀髪の後ろにいるぞ。今やったのはバックステップをすると相手の背後に一瞬で回る事が出来る技だ。技の名前忘れたけどな。

 

「システィーナ!!後ろ!!」

 

銀髪の友人らしき人が俺の位置を教えるがもう遅い!!

 

「ほっ。」

 

俺はシスティーナの後頭部にショック・ボルトを放……たないで、膝かっくんをする。しかし、うなじ綺麗だなこいつ。

 

「はい終了、俺の勝ちだから帰るわ。」

 

「ちょっと待ちなさいよ!!何で魔術を使わなかったのよ!?」

 

「面倒だったから。んじゃな。」

 

グレンはほっとくか。あいつゴキブリ並の生命力だからな。というわけでさ~らば!!



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2話

オリジナル要素が含まれてます。


「そいつらに聞くことなんて何もないわ。」

 

オッス、オラハヤト!!銀髪との決闘から3日、俺とグレンはダラダラと授業をしてるぞ。今はリンがグレンに質問しようとしていた時に銀髪が見下した感じで言ってきたぞ。

 

「えっ!!でも!!」

 

「何せそいつは、魔術の崇高さも偉大さも何一つ理解してないんだから。」

 

崇高と偉大ねぇ。本当にこのクラスの奴等はお子ちゃまだな。グレン、何か反論してくんねぇかなぁ。

 

「魔術ってどこが崇高でどこが偉大なんだ?」

 

「確かにグレンの言う通りだな。銀髪、答えてくれよ。」

 

俺らがそう言った時、銀髪は得意そうな顔をして立ち上がった。

 

「フン!!何を言うかと思えば。魔術はこの世界の真理を追究する、いわば神に近付くに等しい尊い学問よ。そんなこともわからないのかしら?」

 

「なるほどねぇ、で、魔術は何の役に立つんだ?」

 

おっ、珍しくグレンが食い下がるな。こりゃ面白くなってきたぞ!!

 

「魔術は、その、あれよ。色々と役に立つのよ!!」

 

「色々って具体的には?」

 

グレンにそう突っ込まれて銀髪は口をごもごもさせる。やっぱりこいつらアホだ。

 

「魔術は普通に生きていれば見ることはない。現にここ以外の人がどれだけ魔術を知っている?魔術が本当に役に立つのか疑問に思うのは俺だけか?」

 

「ハ、ハヤト先生はどう思ってるのよ!?」

 

俺に振るな銀髪、顔を見るからして助け船を出してほしいってか。やだね!!

 

「グレンと一緒だ。例えばライフ・アップ。これは体の治癒能力を上げる魔術だが、別にそんなものなくても医者とかに見せればいいだろ?ここの学院外でライフ・アップを使って驚かれたりしなかったか?」

 

「ハヤト、あまり銀髪を虐めるな。悪いな、魔術はちゃーーんと役に立ってるぜ。」

 

グレンはニヤニヤしながら銀髪を見る。グレンがニヤニヤしている時って安心出来ないんだよな。

 

「人殺しのな!!」

 

グレンがそう言った時、クラスの奴等の顔に緊張が走った。

 

「剣術で一人殺す間に魔術は何十人と殺せる。これほど人殺しに長けた術は無いぜ?しかも安全な位置から殺せる、自分がケガをしなくていい。まさに人殺しの為に造り出されたと言っても過言じゃねえだろ?」

 

「ち、違うわ!魔術はそんな、そんなものの為に造られたんじゃないわよ!!」

 

「違わねえよ。」

 

銀髪の必死の反論をグレンは冷酷な目で抑える。グレン、よく言ったな!!

 

「このアルザーノ帝国が他国から魔導大国と呼ばれる意味は何だ?“帝国宮廷魔道士団”なんて物騒な連中がいる理由は?」

 

「で、でも!!魔術は!!」

 

「何度も言わせんなよ?お前らはどうして学習する魔術が攻撃用の物が多いか考えたことはあるのか?それはな、殺戮に特化した人殺しの術だからだ!!才能さえあれば簡単に人を殺せるんだ!!何処までも血で汚れたロクでもな。」

 

パァン!!

 

「何しやがる?」

 

銀髪が涙目になりながらグレンをひっぱたいたな。グレンの言ってる事がどうしても認めたくないってか。

 

「ハヤト先生は、グレンと一緒の気持ちですか?」

 

「あぁ、そうだ。魔術は人殺しの術。お前らが夢見ている術とはかけ離れてるんだよ。それに気付けよガキ供。」

 

「アンタらなんて、大っ嫌いよ!!」

 

そう言い銀髪は涙を流しながら教室から出ていった。

 

「気分が乗らねぇ、ハヤト、後は任せた。」

 

「わーったよ。」

 

グレンも叩かれた頬を擦りながら教室から出ていく。

 

「いい機会だ、俺やグレンの言った事を否定したい奴はいるか?」

 

「はい。」

 

「お前はルミアだったか、言ってみろ。」

 

「魔術は何も人殺しの物だけではないと思います。現に魔術のお陰でここの都市は栄えています。」

 

ほうほう、魔術のお陰で栄えている、か。

 

「なるほど、確かに魔術のお陰でここの都市は栄えている。けどそれは子供の考えだ。何故だか分かるか?」

 

「そ、それは……。」

 

「魔術で建物が増えていった?それは違う。建築士が頑張ったから建物は増えた。魔術で人口が増えていった?それも違う。農家や医者が頑張ったから人口は増えた。」

 

ったくグレンの奴、後処理を俺に押し付けやがって。今月の給料いくらかかっさらってやる。

 

「魔術は、戦争で勝つためにしか役に立っていない。何故軍用魔術ってのが出来たのか考えてみやがれ。」

 

「で、でも!!ライフ・アップとかがあるじゃないですか!!あれは人殺しの為に造られたものではないはずです!!」

 

まだ食い下がるかルミア。俺はもうここから抜け出したいんだよ!!黙っててくれよ!!

 

「そうだな、ライフ・アップは人殺しの術ではないな。でもあれはより人を殺せるようにサポートする術だ。」

 

「そ、そんなことありません!!」

 

「はぁ、じゃあ答えを言ってやるよ。何故怪我だけでなく、病気も治せる魔術がない?何故土地を元気にする魔術がない?何故人を助ける魔術が少なくて、人を殺す魔術の方が多いんだ?」

 

俺がそう言うとルミアは黙りこんだ。

 

「お前らは魔術の良いところしか見ていない。物事には良いところと悪いところがある。魔術もそれに当てはまる。だからガキなんだよお前らは。」

 

もう耐えられねぇ、俺も出ていこう。

 

「今日はもう終わりだ。」

 

さて、グレンの奴でも探しに行こうかねぇ。

 

*******

 

「はぁー、俺やっぱりこの仕事向いてねぇよ。」

 

あの後、グレンを探したけど見付かんなかった。見付けたらアイアンクローをかましてやろうと思ったのに。

 

「屋上で頭を冷やしてみたけど、流石にちと言い過ぎたかな?」

 

まだあいつらは夢を見ていてもいい年頃なのに、俺やグレンの価値観を押し付けちまったなぁ。

 

「この仕事やーめた。セリカには申し訳ないけど、土下座すれば許してくれるっしょ。」

 

さて、帰ったら新型の土下座でも考えねえと。ん?準備室にいるのは、グレンとルミアか。

 

「グレンがアドバイスしてるな。あれは、魔力円環陣か。」

 

おっ!成功したな。ルミアは喜んでいて、グレンは何かを思い出してるな。

 

「まあ、俺には関係ないし。」

 

さて、帰るか。今日でこの景色も見納めかな。

 

「待ってください先生。」

 

「ん?なんだよ?」

 

屋上の扉が開かれて、そこにいたのはテレサだった。こいつは意外な奴が来たな。

 

「先生って本当は魔術が大好きなんですよね?」

 

「どうしてそう思ったんだ?」

 

「魔術は人殺しの術だ、って言っていた時の先生の表情がとても悲しくて辛そうな表情をしていましたから。」

 

っち、俺そんな表情をしていたのかよ。顔に出さねえようにしていたんだけどなぁ。

 

「大丈夫ですよ、私とルミアさん以外気付いていませんから。」

 

テレサはそう言いながら俺の近くにやって来る。

 

「そーかそーか。で、それだけを言いに来た訳じゃないんだろテレサ?」

 

「はい、先生はこの学院に来る前は何をしていたんですか?」

 

単なる興味本位か?それとも違うことか?あーもう!!テレサの表情からじゃわかんねえ!!

 

「引きこもって毎日ダラダラと過ごしていました!!」

 

「えっ?引きこもりですか?」

 

「学院のセリカって野郎がいるだろ?あいつから半年分の生活費をもらってたからそれを使って引きこもってたのさ。要するにセリカの脛をかじってたのさ。」

 

まあ、穀潰しだけにはなりたくなかったから。格安でボロボロのアパートに住んでたんだけどな。

 

「半年、それよりも前は何をしていたんですか?」

 

っち、思い出させんなよ。胸糞わりい。

 

「……終わり終わり。俺の過去を掘り返すのは終わりだ。今度はこっちから質問するぞ?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「お前らって何でそんなに魔術に必死なんだ?たかが魔術ごときに本気になりすぎだろ。」

 

どうしてあそこまで本気になるのかがわかんねーなぁ。

 

「私は、ルミアさんの夢みたいに、本気で魔術を人の為にしたいと思ってるんです。」

 

「ふーん、本気でねぇ。」

 

「そのために、魔術を深く知りたい。恩返ししたい人がいるんです。」

 

恩返しねぇ、なんだそりゃ?

 

「私の親は貿易商なんです。それで3年前に、ある闇商人に拉致されて奴隷市場に売られそうになったんです。」

 

ふーん、奴隷市場に売られそうになったねぇ。

 

「その時に、正義の魔術師が現れて、私を助けてくれたんです。その人は次々と闇商人達、それに闇商人の仲間の魔術師も殺していったんです。」

 

「……。」

 

「とても恐ろしかった。でも、あの人に助けられて思ったんです。人が魔術の道を踏み外したりしないように導いていける人になろうって。」

 

あれ?なんか、んん?前にそんな事件を解決したような?

 

「だから、もっと魔術の事をよく知ろうって。そんな道を歩んでいけば。」

 

そう言いテレサは俺の隣に来て、顔を上げた。これ俺の顔を見てるのか。

 

「いつか、あの時の人が現れて、お礼が言えるんじゃないかって思ったんです!!」

 

はぁ、そうか。そういうことか。

 

「もう駄目だと思って泣いていた私を助けてくれて、そして魔術師という夢を与えてくれた、あの人に。」

 

「お前、まさかな。」

 

「どうかしましたか?」

 

テレサは頬に手を当ててきょとんとした表情になった。やべっ、可愛いな。

 

「いや、なんでもねえよ。んじゃ、俺は帰るからな。」

 

「あと先生、後でシスティーナさんやルミアさんに謝っておいてくださいね。」

 

そう言いテレサは俺に微笑んで、屋上の扉の方に向かっていった。

 

「……あいつ意外と見てるよな。抜け目がないっつーかなんつーか。」

 

やれやれ、これはもうやるしかねえな。

 

******

 

「昨日はすまんかった。」

 

「昨日はどうもすみませんでした。」

 

翌日、俺とグレンは銀髪やクラスの人に向かって謝った。グレンは頭を下げた。俺?俺は土下座ですよ。

 

「確かに俺は魔術が嫌いだが、昨日は言いすぎた。ええと、その、悪かったな白猫。」

 

「俺も言い過ぎた、すまん。」

 

俺とグレンはそう言って教壇の方に行く。

 

「それでは、授業を始める。ハヤトは俺のサポートだ、分からないところはハヤトに聞いてくれ。」

 

「んじゃ、始める前に全員に言っておく事がある。お前ら本当にアホだよな。」

 

「ハヤト、アホじゃないだろ。バカの方が正しいだろ。バカ。」

 

「バカって言うなよグレン!!バカって言った方がバカなんだぞ!!」

 

「今バカって言ったから認めた事になるぞハヤト。」

 

グレン、言わせておけば!!

 

「「バーカ!!アーホ!!ドジ、マヌゲボォ!!」」

 

「早く授業を始めなさいよバカ!!」

 

「システィーナさんの言う通り、授業を始めてくれませんか?」

 

痛ってぇ、教科書投げんなよ。グレンにはシスティーナ、俺にはテレサの投げた教科書が頭にぶつかった。

 

「へいへい、まあつまりだ、お前らは魔術のことをなぁーんにも分かっちゃいない。いや、わかったふりをしている。」

 

「ハヤトの言う通りだ。じゃ、まずはショック・ボルトからやってくぞ。」

 

ショック・ボルト、初歩の魔術だな。

 

「ショック・ボルト?ショック・ボルトの略式詠唱も出来ない三流魔術師に教えられたくありませんね。」

 

なんだこの男眼鏡、名前は確かギイブルだったな。こいつ慢心してやがるなぁ。

 

「そして、そこのハヤト先生もどうせ三流魔術師なんでしょう?」

 

「それを言われると耳が痛いな。否定も弁解も出来ない。グレン、続けて。」

 

「俺も耳が痛い。俺には略式詠唱の才能が全くないからなぁ。」

 

ないじゃなくて、マイナスを振り切ってるけどなグレン。

 

「まあその話は置いといてやってくぞ。雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ。」

 

グレンはそう言いドア目掛けて電気の力線を放つ。まあ、これは基本だな。

 

「三節詠唱からですか。」

 

「そんなもの、とっくに極めておりますわ。ショック・ボルトなんて。」

 

「そうか、じゃあ聞こう、今は三節詠唱だったが、四節詠唱になったらどうなるかわかるか?んじゃ、ギイブル。」

 

俺は男眼鏡に指を指して当てる。流石に分かるだろう。

 

「その呪文はまともに起動しませんよ。必ず何らかの形で失敗しますね。そんなこともわからないんですか?」

 

「んなこたぁ、わかってんだよ。俺はその失敗の形がどうなってるかって聞いてんの。」

 

「そんなもの、ランダムに決まってますわ!!」

 

ん?さっきのショック・ボルトを極めたって言ってたウェンディか。

 

「ランダム?ブハハ!!お前極めたんじゃなかったのか?ププッ!!」

 

「ぐっ!!」

 

俺に指摘されてウェンディは黙ったな。他は、だんまりか。

 

「なんだよ全滅かよ、じゃあグレン。答えを言ってやってくれ。」

 

「わーったよ。答えは、右に曲がるだ。」

 

そう言いグレンは黒板に向けて詠唱を始める。ん?ちょっとまて、その位置は!!

 

「雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ。」

 

「おまっ!!」

 

グレンの放ったショック・ボルトは黒板に向かったが、黒板に当たる直前に右に曲がって俺に向かってきた。

 

「どぉぉぉあ!!」

 

俺はその場でブリッジをしてショック・ボルトを避ける。あの野郎!!

 

「グレン!!俺に当てる気だっただろ!!」

 

「ちなみに、四節ではなくて、五節にするとだな。」

 

「聞けや人の話!!」

 

そう言いグレンは俺の方に向けてショック・ボルトを放つ。だから俺に向けるな!!

 

「射程が落ちる。一部を抜かすと威力が下がる。極めたって言うならこれくらい知っておかねえとな。」

 

「グレン、後で覚えておけよ?」

 

お前は俺を怒らせた。後でたっぷり仕返ししてやる。

 

「要するに、魔術ってのは要は高度な自己暗示なんだ。呪文を唱える時に使うルーン語ってのはその自己暗示を最も効率よく行える言語だ。人の深層意識を変革させ世界の法則に結果として介入する。魔術は世界の真理を求める物じゃねぇんだよ。魔術はな、人の心を突き詰めるもんなんだ。」

 

うんうん、グレンの言う通りだ。グレンはやる気を出せば凄い奴なんだよな。

 

「と言われても想像出来ないんですけど。」

 

「そりゃそうだよなルミア。口だけの説明で言葉ごときが世界に介入するなんて言っても想像出来ないよな。じゃあそうだな、おい、白猫。」

 

「私にはシスティーナっていう名前があります!!」

 

グレンに猫って言われてるな。ひょっとして、あいつと重ね合わせているのか?

 

「愛してる。一目見た時から、お前に惚れていた。」

 

「はにゃ!?」

 

おーおー、システィーナの顔が真っ赤になったな。今黄身をシスティーナの顔に当てれば目玉焼き出来るかな?

 

「はい注目ー。白猫の顔が見事真っ赤になりましたね~。言葉ごときがこいつの意識に影響を与えたワケですよ。」

 

騙されたなシスティーナ、可愛そうだが、これも白猫の定めなのだぁ!!

 

「言葉で世界に影響を与える。これが魔術のうがっ!?教科書投げ付けんなバカ!!」

 

「馬鹿はあんたよ!!馬鹿馬鹿馬鹿ーー!!」

 

「ヒーヒヒヒ!!アーッハハハ!!腹いてぇ!!お前ら漫才でもしてるのかよ!!」

 

やべぇ、呼吸困難になりそう、ガチで苦しい!!

 

「いてて。まぁ、魔術にも文法と公式みたいなもんがあんだよ。深層意識を自分が望む形に変革させるためのな。それが分かりゃあ例えば、そうだな。」

 

「だからグレン!!俺の方に「まあ・とにかく・しびれろ。」撃つんじゃねえ!!」

 

もう許さねえ、マジで許さねえ!!

 

「とまあ、こんな感じに改変とか出来る。」

 

「グーレーン?人の注意を何度も無視するなんてなぁ。覚悟はできてんだろうな?」

 

「えっと、てへっ☆」

 

「んな笑顔見せても無駄だ!!神聖なる光よ集え、この名を以ちて、我が仇なす敵を討て!ディヴァインセイバー!!」

 

「おまっ!!それはだギャァァァァァ!!」

 

俺は魔法陣をグレンの上に展開し、グレンの周りに雷を落とし、それからグレンに向かって大量の雷を落とす。

 

「す、すごい。」

 

「ふぅ、すっとしたぜ。おっと、横道にそれたな。簡単に言っちまえば、魔術なんて連想ゲームと一緒なんだ。【ショック・ボルト】なら相手を痺れさせる。だからそれが連想できるキーワードを言えば、それが呪文になる。」

 

「だ、だが、そのド基礎をすっ飛ばしてこのクソ教科書で『とにかく覚えろ』と言わんばかりに呪文を書き取りま翻訳だの、それがお前らがやって来た勉強だ。はっ!アホか。」

 

そう言いグレンは小鹿のように足を震わせながら教科書を放り捨てる。

 

「今のお前らは単に魔術を上手く使えるだけの『魔術使い』に過ぎん。『魔術師』を名乗りたいなら自分に足りん物は何かよく考えとけ。」

 

「あと、常に物事について疑問を持て。人に言われたからその通りにやる。書いてあったからその通りにやるじゃ、力は付かねえぞ。」

 

「じゃあ今からそのド基礎を教えてやるよ。興味のない奴は寝てな。」

 

「じゃあ俺寝てるわ。グレン、あとは任せた。」

 

さあて、おやす「お前は黒板に文を書くんだよ!!」へいへい。

 



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3話

その後、グレンの評価は一気に上がった。

 

やる気になったグレンの授業は、他の講師とは次元が違う。真の意味でその分野を理解し、その知識をわかりやすく解説する力があるこその実りのある授業。

 

「お前らは固有魔術を習得したいと考えているようだが、今は止めておけ。固有魔術はつくるのはそんなに難しくないからいつでもできる。」

 

俺?俺は黒板にグレンが言った事、それを要点だけまとめて書き出している。あと、分からない生徒がいたら質問に答えてやったりとかだな。

 

「むしろ汎用魔術を極めていけ。汎用魔術は長い年月をかけてつくられてきたんだ。汎用魔術を極めてから固有魔術をつくっても遅くはねえからさ。」

 

今は受講しに来る生徒がたくさんいて椅子が足りてない状況だ。後ろに立ってまで、参加してるよ。

 

「ほんじゃ、今日はここまでだな。」

 

「分からねえ所があったら調べるか質問をしろよ。分からねえ所を分からねえままにするのが1番駄目だからな。」

 

そう言い俺とグレンは黒板を消し始める。やれやれ、今日もたくさん書いたな。

 

「先生、まだ書ききってないので残しておいてください!!」

 

「や~だね!!フハハハハ!!」

 

グレンはシスティーナの言葉を無視して黒板の半分の面積の文字を消した。

 

「残しておいてって言ったじゃないですか!!」

 

「聞こえんな~?ザマーミロ~!!」

 

「子供ですかグレン先生は!!」

 

「男は皆子供なんだよ~!!」

 

グレン、楽しそうだな。少しは生き生きとしてきたな。良かった良かった。

 

「グレン、俺は荷物を運んでおくからな。」

 

「悪いなハヤト、黒板消し終わったら手伝ってやるから。」

 

「だから黒板を消さないでください!!」

 

「だが断る!!フハハハハ、止めれるものなら止めてみやがはっ!!物投げるのは卑怯だぞ白猫!?」

 

グレンとシスティーナが痴話喧嘩している内に、荷物をまとめて運び始める。はぁ、本20冊は重いな。

 

「グレンだったらな~、運ぶの手伝いましょうか?とか声をかけられるんだがなぁ。」

 

グレンの評価は上がったが、俺の評価はそこまで上がってない。何処へでもいる普通の教師まで評価は上がったらしいけど。

 

「やっぱり、黒板に文を書くだけじゃ駄目か。明日から俺も生徒にアドバイスをしていこうかねぇ。」

 

今もしてるよアドバイス、だけどそんなに効果はない。皆グレンの話に夢中だからな。俺の話なんて聞いちゃいないんだろう。

 

「おっ、着いた。」

 

考え事してると目的地にすぐ着くな。さて、教科書を置いて、あー腰いてぇ!!

 

「ハヤト、手伝うか?」

 

「いやいい、もう終わったしな。俺は屋上に行くけどグレンはどうすんだ?」

 

「俺も屋上に行く。」

 

さあて、仲良く二人で黄昏ますかぁ!!

 

******

 

「なぁ、グレン。お前変わったよな。」

 

今は生徒達が帰宅した放課後、俺とグレンは屋上で夕焼けを眺めていた。

 

「そうか?まあ、なんつーか。相変わらず魔術は嫌いだけどよ。反吐が出るけどよ。こういう風に講師をやるのは、悪くないって感じて来てるんだ。」

 

「そりゃ、良かったな。」

 

俺は、どうするか。正直、俺がいなくてもグレンは一人でやっていけるだろう。

 

「おーおー、夕日に向かって黄昏ちゃってまあ、青春してるね~!!」

 

「セリカか。何しに来たんだよ?お前、明日からの学会の準備で忙しいんじゃなかったのか?」

 

そうか、明日から魔術学会だったな。俺とグレンには関係ないが。

 

「おいおい、可愛い息子に会いに来ちゃ駄目なのか?」

 

「俺はセリカの息子じゃねえから。」

 

「グレンがこーんなに小さい時から面倒を見ていたのは私だぞ?母親を名乗る権利くらいある。」

 

あっ、俺忘れられてますね。このまま空気になっておこ。

 

「元気が出たようで、良かった。」

 

「はぁ?なんだよセリカ?」

 

「ふふっ。」

 

間抜けな声を出すグレンと、それを見て嬉しそうに笑っているセリカだった。まるで親子だな。

 

「お前、気づいてないのか?最近のお前、結構生き生きしてるぞ?前のお前は死んで一ヶ月経った魚のような目をしていたが、今は死んで一日経った魚のような目をしている。」

 

「なんだそりゃ?」

 

セリカ、その例えだとどっちも死んでるから変わりねえぞ?強いていうなら白骨化してるからしてないかだ。

 

「……心配かけたな。悪かったよ。」

 

おや?グレンは頭をかきながら恥ずかしそうにしてますねぇ。これは珍しいもんが見れた。ビデオに保存っと。

 

「いや、いい。私のせいだからな。その証拠に、お前は魔術をまだ嫌悪している。」

 

「なるほどな。で、魔術の楽しさを思い出して欲しくて、魔術講師か?ったく、俺とお前を結びつけてるのは、魔術だけじゃねーだろ。たしかに魔術は嫌いだが、お前まで嫌いなることはありえねーよ。」

 

今グレンの言った事ってさ、変に解釈すると軽い告白みたいなもんだよな?

 

「そうか、それならいいんだ。」

 

セリカが安心したように呟くと、屋上の出入口扉が開かれて、システィーナとルミアが現れる。

 

「あれ?アルフォネア教授。ひょっとして、私達お邪魔でしたか?」

 

「いいや。気にしなくていい。どうした?グレンに用事か?」

 

「はい。」

 

にこやかに笑うルミアはそう言ってグレンに近付く。あれ?俺ルミアやシスティーナにも気付かれてない?おーい!!ちょっとーー!?

 

「私達、図書館で今日の復習をしてたんですけど、どうしても先生に聞きたいことがあるって、システィが言ってました。」

 

「ちょ、それは言わない約束でしょルミア!?」

 

「ほぅ、このグレン大先生様に聞きたいことがあると?」

 

グレン、本当に嬉しそうな表情をしてるな。まあ、システィーナはグレンの為にも弄られキャラになってくれ。

 

「こうなるからこいつにだけは聞きたくなかったのよ!!すぐこの調子なんだから!!」

 

「すみません、このあとお時間ありますかグレン先生?」

 

「ああ、悪いな、ルミア。今日の説明は俺も言葉足らずだったから、多分そこだろう。図書館で教えてやるよ。」

 

そう言いグレンとルミアとシスティーナは屋上の出入口から出ていった。あの二人最後まで俺に気付かなかったな。

 

「さて、これで話せるな。ハヤト、お前はこれからどうするんだ?」

 

ルミアとシスティーナが出ていったのを見計らって、セリカがそう言ってきた。あえて気付いてないふりをしてたのか。

 

「俺は、もう少ししたらこの学院から去りますよ。俺はもう必要とされてませんからね。」

 

「ほう、何故そう考える?」

 

「俺がいてもいなくても現状そんなに変わらないですから。グレンの負担がちょっと増えるだけ。」

 

最近はグレンが話終わった時に、俺が捕捉をしようとすると、お前は話すんじゃねえよオーラが生徒から漂ってきているからな。

 

「この学院を去って、何をするんだ?」

 

「それは俺の自由だろ?またニートに逆戻りするのもありかなぁ。」

 

グレンは講師に向いていた。俺は講師に向いていなかった。そんだけの話さ。

 

「じゃあ辞めるのは何時にするんだ?」

 

「競技祭が終わってからだな。最後にあいつらの笑顔を見て去りたいからな。」

 

「ほう、てっきり明日明後日くらいに辞めるのかと思ってたぞ?」

 

まあ、そうしたいのは山々なんだけどな。まだ満足してない事があんだよ!!

 

「それに、まだ女子生徒のお腹やへそ、太股や胸や顔が見足りないんだ!!全員のを記憶に焼き付けてから辞めるね!!」

 

俺がそう言うと、セリカは大きなタメ息を付いた。そんなくだらない事言ったか俺?

 

「ハヤト、その為だけにまだ続けるのか?」

 

「ああそうだ!!20年間まともに女子と会話や二人きりになるという事がなかったんだぞ!?少しくらいいいじゃねえかよぉぉぉぉぉ!!」

 

この学院去ったらもう女子と関わる事がほぼないんだぞ!?俺女子の友達なんて一人もいないんだからな!!

 

「ハヤト、泣くな。みっともない。」

 

「グレンは女子生徒とワイワイしやがってよぉぉぉぉぉ!!しかもルミアもシスティーナもレベル高いじゃねえか!!リア充くたばりやがれ!!」

 

「大丈夫だハヤト、お前もいつかグレンみたいに女子とワイワイ出来るさ。」

 

「余計に傷付くからヤメロォォォ!!その優しさはかえって人を傷付けるんだぞぉぉぉぉぉ!!」

 

もういい、俺帰る。帰ってやけ酒してやるぅぅぅぅ!!グレンのバーーーーカ!!

 

******

 

「やべぇ、昨日は飲み過ぎた。」

 

あの後、酒を飲みまくったから寝過ごした。本当なら休日なのになぁ。前任のせいで休日も出勤ですよ。時間外労働の請求書出してやる。

 

「もう走っても間に合わねえな。まっ、たまにはいいか。のんびり歩……いてられねえな。」

 

なんだ?人がいなくなったな。人払いの魔術か。

 

「ん?あそこにいるのは、グレンと謎の男か!!」

 

明らかに謎の男がグレンに向けて魔術を放とうとしているな、そうだ、八つ当たりしよう!!

 

「お前はここで死ぬのだ「秘伝奥義!!千年殺しィィィィ!!」アッーーーーー!!」

 

「またつまらぬものを突いてしまった。」

 

「いや、ハヤト。お前なにしてんの?」

 

「えっ?秘伝奥義を謎の男に使用しただけですが何か?」

 

まあ、ただのものスッゴいカンチョーだけどな!!

 

「さてグレン、この見るからに怪しい男を縛っておいて。」

 

「任せな!!」

 

そう言いグレンは謎の男を甲冑縛りで縛った。うわぁ、色々と痛そう。

 

「グレン、何が起きているんだ?」

 

「テロだ。目的は分からないが学院でテロを起こそうとしてやがる。こいつは俺らをここで始末する奴だと思う。」

 

「学院でか、少し様子を見てみるか。定めよ・見渡せ・万象を見据えよ。」

 

今唱えたのは白魔 オーバー・センス。選択した五感の内の一つを拡張する魔術だ。俺が選んだのは目、つまり視力を底上げした。

 

「ふおぉぉぉぉ!!見える!!見えるぞぉぉ!!」

 

「わかったから、何が見えたのか報告してくれハヤト。」

 

「システィーナがチャラ男に実験室に連れてかれた。システィーナの両腕は縛られてる。」

 

「おいまさか。」

 

そのまさかだな。あのチャラ男ヤる気満々ですわ。

 

「とにかく、早く実験室に急ぐぞ!!よし、このブーツを履けグレン!!」

 

俺は羽の付いたブーツをグレンに渡す。

 

「なんだこれ?」

 

「ウイングブーツ。Bダッシュが出来るようになるぞ。」

 

そう言い俺は走り出す。このブーツは普通に走る速度の三倍まで走る速度を上げれる。

 

「おまっ!!これ速すぎるだろ!?」

 

「体が軽い。まるで鳥になったような気分だ!!これで、もう何も怖くない!!俺、このテロを解決したら女子生徒の頭を撫でるんだ。」

 

「フラグをポンポン立てるんじゃねぇハヤト!!」

 

*******

 

「ここだな。」

 

あの後、2分で実験室まで着きました。さて、早くシスティーナを助けてやらねぇとな。

 

「どうする?普通に入るかグレン?」

 

「普通に入るか。」

 

グレンが前、俺が後ろの立ち位置で実験室の扉を開けた。そこで見たのは。

 

「あぁ?なんだテメェ?」

 

チャラ男が服装が乱れているシスティーナの顔をペロペロと舐めていた。かぁ!!気持ち悪りぃ!!やだおめぇ!!

 

「「す、すまん。邪魔したわ。」」

 

「助けなさいよ!!」

 

見て見ぬふりをしようとしたら止められた。お楽しみの最中に邪魔するのは気が引けるなぁ。

 

「おい、そこのペロリスト。お前やってること犯罪だぞそれ?」

 

「ペロリストじゃねえ!!テロリストだ!!」

 

いやもう、ペロペロしてたからペロリストでいいじゃんチャラ男。

 

「つーかガキだからって、そこまでするのかお前。余程溜まっていたんだな可愛そうに。」

 

「先生達逃げて!!先生達じゃそいつらに勝てない!!」

 

「助けろって言ったり、逃げろって言ったり、どっちなんだよ白猫?」

 

グレンの言う通りだ。ん?チャラ男がグレンと俺に人差し指を向けてるな。

 

「ズドン!!」

 

チャラ男がそう言うと、人差し指から魔法陣が現れて、破裂した。

 

「「はっ?」」

 

「もう魔術は起動しねえよ。『愚者の世界』俺はこの固有魔術を使って俺を中心とした一定効果範囲内における魔術の起動を完全に封鎖させる。これが俺の固有魔術だ。」

 

「固有魔術!?テメェ、もうその領域に入っていやがるのか!!」

 

愚者の世界を使ったか、それを見るのは一年振りだなぁ。

 

「魔術の起動を封鎖って無敵じゃないですかグレン先生!!」

 

「まあ、俺も魔術を起動出来ないんだけどな。てへっ☆」

 

そう、グレンも効果範囲内にいるから魔術を使用出来ない。当たり前だな。

 

「「はっ?」」

 

「いやだって、俺も効果範囲内にいるんだから、起動出来ないのは当たり前だろ?」

 

あっ、グレンがそう言った時、システィーナが泣き始めた。

 

「ブハハハハァ!!魔術師が自分の魔術を封じてどうやって戦うんだよ!?バッカじゃねえの!?テメェさっさと「ふんっ!!」ゲハハッ!!」

 

「魔術が使えない?なら話は簡単だ。物理で殴ればいい。」

 

「て、テメェ!!」

 

チャラ男はそう言ってグレンに殴りかかったな。グレンはギリギリで避けてチャラ男の顔面を殴り付け、怯んだ隙に、重心が乗ってる方を蹴って、服を掴んで壁に叩き付けた。

 

「こ、これは帝国式軍隊格闘術!?テメェ、何者だ!?」

 

「グレン=レーダス。非常勤講師だ。」

 

「す、すごい。」

 

素人から見れば凄いんだろうけど、腕落ちたなグレン。あの頃よりキレがない。

 

「くそ、じゃあテメェだ!!」

 

「ハヤト先生危ない!!」

 

おっ?グレンじゃ勝ち目ないから俺に向かって来たか。俺だと勝てると思ったのか?

 

「喰らえ!!」

 

チャラ男がさっきと同じように殴りかかってきたから、殴ってきた方の腕を引っ張り、重心が乗ってる足を払って宙に浮かせ、回し蹴りを腹に喰らわせてチャラ男を壁に激突させる。

 

「テメェも格闘術を!?」

 

「俺は我流だ。さて、グレン、あれをやるぞ?」

 

「おーけー。最後は伝説の超魔術、魔法の鉄拳『マジカル・パンチ』で止めをさしてやる。行くぜハヤト!!」

 

「くうぅ!!」

 

むっ?チャラ男が身構えたか、でも無駄なんだよなぁ。

 

「「マージーカールー!!」」

 

俺とグレンはジャンプしながら拳を大きく振りかぶり。

 

「「パーンチ!!」」

 

グレンは首もと、俺はチャラ男がガードしている頭の側頭部を狙ってキックをする。

 

「「決まった!!」」

 

「キックじゃねえか!!」

 

「お前、分かってないなぁ。」

 

「そこら辺がなんとなく、マジカル。さーて、チャラ男、システィーナ以外にさらって行った人はいるか?」

 

俺はチャラ男をパンツ一丁にして縛り上げながら聞く。残り一人くらいいそうだな。

 

「誰がテメェなんか「言わなければ、もう1回マジカル・パンチを喰らわせようかな~?」言います!!言いますからそれだけは止めてください!!」

 

そんなにマジカル・パンチが嫌いか。

 

「ルミアちゃん、それに紫色の髪の子を連れ去った。」

 

紫色の髪、まさか!!

 

「定めよ・見渡せ・万象を見据えよ!!ッ!!グレン、俺はもう一人を助けに行く。ルミアは頼んだ。」

 

「紫色の髪ってまさかテレサ!?」

 

「当たりだよくそったれ。グレン、後で合流しよう。」

 

俺はそう言い残して実験室を出る。オーバー・センスで位置は把握したから目的地まではすぐに着ける!!

 

「オラァ!!」

 

俺はもう1つの実験室の扉を蹴り開ける。そこにいたのは、両腕を縛られて、首を締め上げられているテレサと荒い息を吐きながらテレサの首を締めているゲス男がいた。

 

「っち、もう少し楽しみたかったのによぉ。で、お前誰?」

 

「今すぐ離れろ。」

 

「あー?聞こえねぇなぁ?」

 

「今すぐ俺の教え子から離れろって言ってんのが聞こえねぇのか!?」

 

俺はゲス男に殺意をぶつけながら怒鳴る。

 

「先……生。逃げ……て。」

 

よく見ると、テレサの顔は殴られた痕が付いていて、制服が焦げていた。しかも、そこら辺に飛び散ってる血、もう我慢ならねぇ。

 

「俺っちを倒すのか?いいねぇ!!いいねぇ!!お前はヒーローみたいだなぁ!!だけどさぁ、俺っち負ける気がしないんだわ。」

 

「どういうことだ?」

 

「俺っちのコートにはなぁ、魔術を無効化する特別製のコートなんだよ!!」

 

「それがどうした?」

 

「これを聞いてもまだ諦めねえのかよぉ、まあいい。お前を殺して、このテレサちゃんもそっちに行かせてやるよ!!その前にたっぷりと楽しませてもらうけどなぁ!!」

 

ゲス男、こいつは人を苦しませたり、その顔をみることで欲求を満たす奴か。こいつのせいで!!

 

「先生……私に、構わないで、先生だけでも……。」

 

「こいつは泣けるねぇ!!痺れるねぇ!!まさに感動の場面ってやつだねぇ!!でもざ~んね~ん。テレサちゃんの先生は俺っちが殺「友には癒しを、仇なす者には戒めをシャインフィールド!!」ナニィ!?」

 

俺はテレサの足元に光の魔法陣を出現させ、ゲス男を衝撃波で吹き飛ばし、それと同時にテレサの傷や火傷を回復させる。

 

「お前!!これはなんだ!?魔術じゃねえのか!?」

 

「悪いな、今のは魔術じゃねえんだよ。」

 

俺がそう言うとゲス男は懐からロープを取り出し、俺を縛ろうとする。はっ、馬鹿が。

 

「縛っちまえばこっちのもんだ!!」

 

「やられると思うか?蒼破刃!!」

 

俺は魔術で刀を召喚し、衝撃波をゲス男に放って壁に激突させる。

 

「お前!!一体それは何だ!?」

 

「俺の固有魔術、『魔技開放』これはてめえらが知らねえ魔法や技を使うことが出来んだよ。さっきのシャインフィールドは魔法だ。」

 

デメリットは、固有魔術を使ってる間は、魔術の出力がかなり低下することだな。

 

「くそっ!!だがここで自爆すれば!!」

 

「させねえよ、集え暗き炎よ、宴の客を戦慄の歌で迎え、もて成せ!!ブラッティハウリング!!」

 

俺はクズ男の足元に魔法陣を出現させ、闇の炎を魔法陣から出現させ、クズ男を焼いた。骨も臓器も残らないようにな。



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4話

「大丈夫かテレサ?」

 

「は、はい。」

 

俺はゲス男を火葬した後、テレサの傷の治療をしていた。シャインフィールドは応急処置みたいもんだし、綺麗な肌が傷付いてるのは見たくねえからな。

 

「すまなかった、もっと早く来ていれば!!」

 

「大丈夫ですよ先生、先生は助けに来てくれたじゃないですか。」

 

そう言いテレサは頬笑む。いや、微笑んでるがそれは強がりだな。体は震えているし、目は涙目になってる。

 

「そんなに強がるなよ、泣いてもいいんだぞ?」

 

「こ、子供じゃないんですから。な、泣きま……うぅ。ぐすっ。」

 

「俺からしてみれば子供だ。辛かったな、感情を思う存分ぶつけていいぞ。」

 

俺がそう言うとテレサは静かに泣き始める。やっぱり、あの時の子だな。

 

「頑張ったな、偉いぞ。」

 

俺は泣いているテレサの頭を撫でる。まるで兄になった気分だ。

 

「おーいハヤト、終わった……か?」

 

「ちょっと!!立ち止まらないでくれ……る?」

 

ん?グレンとシスティーナが俺の方を向いた時、固まったな。なんでだ?

 

「あんた!!テレサを泣かしたのね!!しかも乱暴までして!!ろくでもない奴だと思っていたけど、本当にろくでもない奴ね!!」

 

「違うぞシスティーナ!!これは俺がやった訳ではなくてだな!!」

 

「うるさい!!大いなる風よ!!」

 

「ちょ!!ギャアァァァ!!」

 

酷くね?俺テレサを助けたのに、なんでこんな仕打ち受けてんの?

 

「システィーナ、ハヤト先生は私を助けてくれたんです。」

 

「そうなの?なら早く言いなさいよ!!」

 

「システィーナが聞く耳持たなかったからだろ!!」

 

こんの、生意気娘め!!

 

「どうどう、落ち着けお前ら。「私は馬か!?」言い争っても時間の無駄だ。」

 

「グレンの言う通りだな、とりあえずテレサ、これを着とけ。」

 

俺はテレサにスーツの上着を渡す。まあ、今のテレサの格好がちょっと乱れすぎてるからな。にしてもテレサはスタイルいいな!!ご馳走です!!

 

「どうしてですかハヤト先生?」

 

「服が乱れてるからだ。」

 

俺がそう指摘するとテレサは顔を真っ赤にしながら、俺の上着を来た。まあ、これで大丈夫だろう。

 

「さてグレン、1つ聞きたいんだがいいか?」

 

「奇遇だな、俺も1つ聞きたい事があった。」

 

「「骸骨召喚したのお前か?」」

 

何か俺の目の前に骸骨がうじゃうじゃいるんだよね。何でかな?

 

「さっきの男が召喚してました。」

 

「あのゲス男がか!!要らねえ土産を残しやがって。」

 

俺は骸骨に右ストレートを放つが、骸骨の頭は砕けなかった。こいつ硬すぎ!!

 

「ハヤト、お前まだまだだな。」

 

「グレン、多分お前でも「痛って!!」やっぱり。」

 

「この骸骨ミルク飲み過ぎだろ!!」

 

「いや、煮干しの食べ過ぎだな。手がジンジンしてやらぁ。」

 

マナを温存しておきたいんだよな、どうすっかな。

 

「「その剣に光あれ!!」」

 

むっ、エンチャントか、助かる!!

 

「すまん白猫!!テレサ!!」

 

「えっ!?俺にはないの!?」

 

そう言いグレンがもう1回骸骨に右ストレートを放つ。すると骸骨の骨は砕けて粉々になった。

 

「よし、今の内に逃げるぞ!!」

 

「あらほいさっさ!!」

 

俺はテレサとシスティーナを両脇に抱えて実験室から出る。グレン?置いてきた!!

 

「ちょっと!!グレンを置いてくの!?」

 

「大丈夫、ちゃんとあいつなら追い付くから。」

 

「ハヤト!!待ちやがれ!!」

 

しばらく走っていたが、グレンの息が切れ始めたから止まる。体力ないなぁグレン。

 

「はぁ、はぁ、これで骸骨は撒けたか?」

 

グレンよそれはフラグだ、っとシスティーナとテレサを降ろさないとな。

 

「残念グレン、お前の後ろにうじゃうじゃいるぞ。」

 

しかもさっきより数増えてね?どっから出て来たんだよーーー!!

 

「おい白猫、俺とハヤトが骸骨を食い止めてる間に、お前は得意のゲイル・ブロウを改変しろ。」

 

「そ、そんなの無理です!!」

 

「大丈夫だ、お前は生意気だが才能はある。きっと出来るさ、生意気だからな。な・ま・い・きだからな!!」

 

「生意気強調しないでください!!」

 

おいおい、いきなり実戦で改変かよ。無茶な提案をするなぁグレン。

 

「テレサ、お前はシスティーナのサポートだ。」

 

「で、でも!!私はシスティーナみたいに才能はないですし、私がサポート出来るんでしょうか?」

 

「大丈夫だって、もっと自分に自信を持てよテレサ。テレサは優秀な生徒なんだからさ。まあ、生意気の差でシスティーナに負けるけどな。」

 

「だから!!私は生意気ではないです!!」

 

「「どの口が言うんだが。」」

 

さて、俺もなんか魔法を考えておくか。範囲魔法はあるんだけど、直線上に放つ魔法はあんまねえんだよな。

 

「よし、行くぞ!!」

 

そう言いグレンは骸骨の群れに突撃する。俺も突撃しないとな。

 

「ウラーーーーー!!」

 

「どけどけーーー!!骨っこ供!!慰謝料は降りねぇからなぁ!!」

 

こいつら死んでるからなグレン。

 

「だぁぁぁぁぁ!!無理!!もう無理だ!!」

 

早っ!!さっきまでの勢いはどうしたんだよ!?

 

「グレン!!まだ二行しか持ちこたえてねえぞ!!」

 

「きついもん!!こっちは素手なのに相手は武器持ってんだぞ!!」

 

「持ちこたえねえと白猫にまたブーブー言われるぞ!!」

 

「おっしゃぁぁぁぁ!!かかってこいやぁぁぁぁ!!」

 

よし、グレンがピンチになった時はシスティーナの話をしよう。

 

「先生!!出来ました!!」

 

「白猫!!何節だ!?」

 

「三節です!!今から唱えます!!テレサ、行くわよ!!」

 

システィーナとテレサが魔術を唱えると同時に俺とグレンはシスティーナとテレサの隣に移動する。

 

「「拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを!!」」

 

「成功したか!!しかもこれは!!」

 

あいつが良く使っていたストーム・ウォール!!まさかまた見られるとはな!!

 

「でも、完全には足止め出来ない。ごめんなさい先生!!」

 

「いいや、充分だよ白猫、テレサ。」

 

「でも!!このままじゃ!!」

 

「大丈夫だテレサ、グレンを信じろ。」

 

グレンはポケットから赤色の宝石、魔術触媒を取り出し構える。

 

「我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに。」

 

おいおいマジかよ!!これってセリカが使っていたあの魔術じゃねえか!!

 

「ええい!!ぶっ飛べ有象無象!!黒魔改『イクスティンクション・レイ!!』」

 

グレンの前方に出現した魔法陣から虚数エネルギーを放つ、前方の空間を消滅させた。

 

「「す、すごい。」」

 

「でも、これを使ったあとはマナ欠乏症になるんだけどな。」

 

「先生!!」

 

グレンは倒れこんで血を吐いた。それを見たシスティーナとテレサはグレンに駆け寄る。無茶しやがって。

 

「大丈夫だ、これで骸骨も全滅……何だと!?」

 

「骸骨はまだ全滅してないな。さっきの倍の数になってるぞ。」

 

「そ、そんな。」

 

グレンはマナ欠乏症、システィーナとテレサじゃ、骸骨は倒せない。仕方ねえな。

 

「グレン、骸骨はこいつらで最後か?」

 

「恐らくはそうだ、だがハヤト。さっきの倍、イクスティンクション・レイみたいな魔術とかあるのか?」

 

「あるから聞いてるんだよ。システィーナ、テレサ、グレンを少しでも回復させとけ。」

 

さあて、久しぶりに使いますか!!

 

「大地の咆吼、其は恐れる地龍の爪牙、その身を贄にして、敵を砕かん、グランドダッシャー!!」

 

俺は骸骨がいる床に魔法陣を展開させ、そこから骸骨を岩で串刺にする。

 

「ふぅ、殲滅完了っと。」

 

「先生!!大丈夫ですか!?」

 

「だいじょばない、マナ切れ寸前だ。」

 

しばらく魔法を使ってなかったからな、大技を使いすぎたか。

 

「グレン、立てるか?」

 

「なんとかな。それに、立ってないと敵を倒せないしな。」

 

そう言いグレンは血を拭って立ち上がる。顔色悪いな。

 

「ほう、あの骸骨を殲滅したか。」

 

何だ?なんか黒ローブの男が来たぞ?しかも剣を浮遊させてるし。

 

「あー、もう、浮いてる剣ってだけで嫌な予感するよなぁ。あれって絶対、術者の意思で自由に動かせるとか、手練の剣士の技を記憶していて自動で動くとか、そういうやつじゃん。」

 

「しかも魔術は起動済みか。本当に厄介だな。」

 

「「先生……。」」

 

俺とグレンがブーブー文句を言ってると、システィーナとテレサがこっちを不安そうに見てくる。

 

「グレン=レーダス。前調査では第三階梯にしか過ぎない三流魔術師と聞いていたが、誤算だな。それとハヤト、調査ではグレン=レーダスと同じ第三階梯と聞いていたんだがな。」

 

「俺の事まで調べたのか。ご苦労なこって。レイクさんよ。」

 

「私の名前を知っていたか。」

 

いや、あのチャラ男に聞いただけなんだけど。

 

「一人を完全に殺したのはお前だろうが。人のせいにすんな。」

 

「命令違反だ。任務を放棄し、勝手なことをした報いだ。聞き分けのない犬に慈悲を掛けてやるほど、私は聖人じゃない。」

 

「ああ、そうかい。そりゃ厳しいことで。で、なんだ?その露骨な剣の魔導器は俺対策か?それともハヤト対策か?」

 

「知れたこと。貴様は魔術の起動を封殺できる。そんな術があるのだろう?それともう片方は今魔術の出力が下がっているのだろう?ディスペル・フォースは使えまい。」

 

こいつ、俺の固有魔術のデメリットも知ってやがるのか。

 

「おい白猫、ディスペル・フォースを使えるマナは残っているか?」

 

「はい、でも私だけじゃ足りません。」

 

「テレサ、お前は?」

 

「は、はい。残っています。ですけど、それを相手が許してくれるのでしょうか?」

 

んー、許してくれないだろうな。仕方ない。

 

「そうか、おいグレン。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「「先生?」」

 

「「んじゃま、とりあえず落とすわ。」」

 

グレンはシスティーナを、俺はテレサを押して外に出す。

 

「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

「…………。」

 

レイクって奴、お前ら何してんの?って顔になってるな。

 

「さてと、やりますか。」

 

「貴様らは逃げないのか?」

 

「えっ?見逃してくれ「そんなわけないだろう。」ですよねー。」

 

「おいハヤト!!来るぞ!!」

 

レイクは浮遊している剣を俺達に向けて放ってくる。

 

「くっ!!ちぃ!!」

 

「あーうぜー!!ちょこまかちょこまか鬱陶しい!!」

 

俺は二本、グレンは三本の剣の攻撃を弾いたり、回避する。

 

「あぐっ!!」

 

「グレン!!」

 

グレンはちとヤバイな。マナ欠乏症に加えて素手と剣、相性は最悪だ。

 

「どうした?その程度か?」

 

「んなわけねえだろ!!切り裂け烈風、烈風刃!!」

 

俺は刀を抜刀して、レイクの操ってる剣を風の刃で全て打ち落とす。

 

「グレン今だ!!」

 

「サンキュー!!猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て!!」

 

「ちぃ!!」

 

グレンはライトニング・ピアスをレイクに放つが、レイクは俺が弾いた剣を自分の前に持ってきてライトニング・ピアスを防いだ。

 

「貴様ら、何者だ?」

 

「「ただの講師だよ。非常勤だけどな。」」

 

「そうか、なら貴様ら敬意を称して、死ね!!」

 

そう言いレイクは浮遊している剣5本をグレンに突き刺した。

 

「俺を忘れ「忘れてはいない。」な、に。」

 

俺にも五本の剣が刺さってる?あいつ!!

 

「五本しかないと思ったか?」

 

「あぁ、思ってないぜ!!」

 

「原初の力よ・正負均衡保ちて・零に帰せ。」

 

グレンはディスペル・フォースを唱えたが、魔力を少々削っただけだった。

 

「悪足掻きか、だがそれもし「「力よ無に帰せ!!」」何だと!?」

 

ようやく来たか、でもシスティーナとテレサのありったけのマナを使っても五本が限界か。って全部グレンの剣かよ。

 

「だが残りの五本で仕留めれば!!」

 

「させっかよ!!陵、其は崩壊の序曲を刻みし者、 重圧、エアプレッシャー!!」

 

俺は自分のの周りの重圧を上げて、剣を抜けなくする。くそっ、思った以上にキツい!!

 

「「グレン先生!!」」

 

「自分ごとだと!?目覚めよやい「おっせぇ!!」がはっ!!」

 

グレンはレイクが操っていた剣でレイクの急所を刺した。ふぅ、エアプレッシャー解除と。

 

「そうか、思い出したぞ。つい最近まで帝国宮廷魔導師団に一人、凄腕の魔術師殺しがいたそうだ。いかなる術理を用いたのか預かり知らぬが、魔術を封殺する魔術を持って、反社会的な外道魔術師達を一方的に殺して廻った帝国子飼いの暗殺者。」

 

「それも、知っていやがったのか。」

 

「活動期間はおよそ三年。その間に始末した達人級の外道魔術師の数は明らかになっているだけでも二十四人。その誰もが敗れる姿など想像もつかなかった凄腕ばかり。裏の魔術師達の誰もが恐れた魔術師殺し、コードネームは。『愚者』」

 

そう言いレイクは血を吐く、さて、剣を抜くか。うわっ!!痛てぇ!!

 

「それと、半年前まで帝国宮廷魔導師団に所属し、『愚者』と同じように反社会的な外道魔術師達を、魔術ではなく魔法と剣技で殺していった化物がいたと。」

 

「……。」

 

「『愚者』がいなくなっても、その代わりとして活動していた。始末した魔術師は少なくても30人以上、しかも全員達人以上の実力者。さらにセリカ・アルフォネアと互角の戦いをしたという伝説を残した。コードネームは、『未知』」

 

そう言いレイクは動かなくなった。ってか、何でこのタイミングで解説すんの?要らなくね?

 

「「胸糞悪い事させやがって。」」

 

「「先生!!大丈夫ですか!?」」

 

「大丈夫、よく俺の意図が分かったな?」

 

グレンがそう言った時、システィーナは涙目になっていた。

 

「グレン先生は、何の意味もなく、行動するとは思えませんでしたから。」

 

「多分、7割くらい駄目だと思ってた。」

 

それな、本当にそれな!!

 

「ハヤト先生。」

 

「ん?どしたテレサ?」

 

何故驚いた表情をしているんだ?何か俺に付いているのか?

 

「その出血量、大丈夫ですか!?」

 

足元を見たら、血だまりが出来ていた。まあ、15分以内に治せば大丈夫。

 

「……俺よりもグレンを診てやってくれ。」

 

グレンは、倒れたな。まあ、マナ欠乏症に大量出血、そりゃ倒れるわ。

 

「慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を。」

 

システィーナとテレサはグレンにライフ・アップを掛けたな。

 

「やっぱ、駄目だったか。」

 

「「えっ?」」

 

「正義の魔術使いになりたかった。」

 

そう言ってグレンは意識を失った。思い出さないようにしていた過去を思い出したのか。

 

「さて、俺は座って休むか。その前にシスティーナ、テレサ。」

 

俺はシスティーナとテレサがこっち向いた瞬間に水色のグミを口に向かって放り投げる。

 

「「あむっ、なんですかこれ?」」

 

「マナと体力の回復を早めるグミだ。」

 

そう言い俺も水色のグミを食べる。うん、ミラクルな味だな。

 

「システィーナ、テレサ、俺は少し寝る。」

 

「ハヤト先生!!」

 

「そんな顔すんなよ。少し寝るだけだ。」

 

おやすみー、いい夢を見よう。

 

******

 

「ん?ふあぁ。よく寝たな。」

 

何時間寝たかわかんねえな。システィーナとテレサは寝ているのか。

 

「起きたのかハヤト。」

 

「グレン、目が覚めたんだな。」

 

グレンは立ってストレッチをしていたが、傷が傷むのかしかめっ面になる。

 

「俺はルミアを助けに行く。ハヤトは白猫とテレサを見ていてくれ。」

 

「わかった、これを持っていってくれ。」

 

俺はグレンに腕時計を渡す。まあ、ただの腕時計じゃねえけどな。

 

「それは俺と通信出来る腕時計だ。何かあったら呼べよ?」

 

「分かった、にしてもハヤト。テレサはあいつに似てるよな。あいつと重ねているのか?」

 

「ッ!!早く行けグレン!!お前だってシスティーナをあいつと重ねているだろ!!」

 

重ねちゃいけないのは分かってる。けど!!

 

「……悪い、じゃあ行ってくる。」

 

そう言いグレンはルミアが捕らえられている所に向かって走っていった。

 

「あら、寝ていないのですね。」

 

「誰だ!?」

 

後ろから声が聞こえたから振り替えったら、メイド服を来た女性がいた。

 

「そう身構えなくても、私はただのメイドですわ。」

 

「んじゃあ、その殺気をしまえよ。二人が起きちまうだろうが、天の智慧研究会の者。」

 

「隠していたつもりなんですが、気付くとは流石コードネーム『未知』ですわね。」

 

そう言いメイドは笑う。何の用なんだ?胡散臭いオーラが匂うぜ全く。

 

「王女はあの愚者に助けられるから、そこの二人を人質に捕ろうと思ったのですが、貴方がいたのでは無理ですね。」

 

「無理ならここに来ないだろ、何かしたな?エレノア=シャーレット。」

 

「まあ、私の名前を知っているなんて光栄ですわ。ええ、私の可愛い子供達を呼びましたのよ?」

 

エレノアがそう言うと後ろの廊下から大量のゾンビが出現した。多すぎだろ!!

 

「テメェ、何人生みやがった!?」

 

「それは秘密ですわ。さて、どうします?そこの二人を私にくれるなら見逃してあげますわよ?」

 

「ほざけゾンビ女、教え子を危ない奴に渡すかよ。」

 

「そうですか、なら私の子達と優雅な一時をお過ごしくださいませ。」

 

「逃がすか!!」

 

俺はゾンビ女に刀を投げ付けるが、その前にゾンビ女はスカートを捲し上げて礼をし、消えていった。

 

「逃がしたか、それよりもゾンビをなんとかしねえとな!!」

 

マナは、全快じゃねえけどそれなりにある。ったくバイオ○ザードじゃねえんだからよぉ。

 

「さてゾンビ供、お前らの姿は女の子には見せられねぇ。だから駆逐してやんよぉ!!」

 

1対100?200?上等、1匹残らず倒してやらぁ!!



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5話

やぁ、ハヤトーです。まずゾンビ供、お前らから血祭りにあげてやる!

 

「っと、その前にシスティーナとテレサを保護しないとな。魔技解放。」

 

なんかあったっけな?うーん。

 

「そうだ、あれがあったな。堅固たる護り手の調べ フォースフィールド!!」

 

システィーナとテレサの周りに結界を張ってと。

 

「さて、ゾンビ狩りの時間じゃぁぁぁぁぁ!!」

 

俺はゾンビの群れに突っ込んでいって、まず1体目を蹴り飛ばす。その次に2体目の体をまっ二つにする。

 

「まだまだぁ!!」

 

三体目の首を斬り、四体目も同様に斬る。その後、払い斬りでゾンビ供を吹き飛ばす。

 

「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け、サンダーブレード!!」

 

吹き飛ばし切れなかったゾンビ供に向けて雷を纏った巨大な剣を上からぶっ刺す。これで何体目だ?

 

「隙だらけですわよ?吠えよ炎獅子。」

 

「何っ!?ゾンビ女!!あっつ!!」

 

ぐっ!!ブレイズ・バーストをもろに喰らった。体が焼けちまう!!

 

「逃げたと思いましたか?残念、気が変わったのですよ。」

 

「そのまま帰れよ!!戻ってくんな!!」

 

「あら、冷たいお方。こんなにも美人な人に冷たくするなんて、もったいないですわよ?」

 

確かに美人だ、だがゾンビじゃなかったらな!!

 

「ほらほら、私に気を取られてていいんですか?私の子達も遊んでほしいと言っておりますわよ?」

 

「あぐっ!!遊ぶなら、ラグー○シティにでも行ってろ!!」

 

俺の背中を爪で切ってきたゾンビをエルボーで頭を吹き飛ばす。続けて横にいたゾンビにアッパーカットをして怯ませ、腹を切り裂く。

 

「面倒くせえ!!一網打尽にしてやる。渦巻くは、紺青の誘い、メイルシュトローム!!」

 

俺の足元に次第に大きくなる渦潮を展開し、ゾンビ供を捩ってぐちゃぐちゃにする。これで大分減ったか?

 

「あぁ!!私の知らない魔術ばかり、もっとお見せくださいませ!!」

 

「うるせぇ!!黙りやがッ!!」

 

くそっ、バラバラになった筈のゾンビの腕が俺の足に刺さっていやがった。メイジュストロームじゃ駄目か!!

 

「あのくらいの魔術では、私の子達を倒すことは出来ませんよ。」

 

「だったらお前を狙えばいい!!」

 

俺はゾンビ女に近付き、居合い斬りを放ち、両手を切り落とす。

 

「剣術も見事な腕前、段々貴方が欲しくなってきましたわ!!」

 

「丁重にお断りす……っち、再生しやがったか。」

 

一瞬で再生しやがった。何なのお前?魔人○ウか何かですか?

 

「さて、今日はこのくらいで引き下がります。あとは私の子達と過ごしてください。」

 

「待ちやが「あと、後ろにご注意くださいませ。」がはっ!!」

 

振り向いたらゾンビがナイフを俺に投げ付けた。ゾンビも武器持つのかよ!!

 

「はぁ、はぁ、くそったれ!!」

 

ゾンビ女には逃げられるし、さっきの投げ付けられたナイフは肩と腹に刺さったし。うげっ、頭にも刺さったのか。

 

「これは完全に消滅させねえと駄目ってことだな。いいぜ、やってやるよ。」

 

切り札の一つを使っちまうけど、仕方ないか。こいつら野放しにしたら教え子達が危ない。

 

「天光満つる処に・我はあり・満ちよ天光・開け黄泉の門・この名を持ちて出でよ・神の雷・インディグネイション!!」

 

ゾンビ供を囲うように紫の魔法陣を展開させ、そこから雷を撃ち落とす。威力?イクスティンクション・レイと同等と考えてくれればいい。

 

「ゲホッ!!ゴホッ!!流石秘奥義、威力がえげつねぇし、持っていかれるマナもえげつねぇ。」

 

ゾンビ供がいた所の建物は消滅し、見るも無惨な姿になっていた。システィーナとテレサ?大丈夫、結界で守ったから無事だ。

 

「けど、魔力容量落ちたなぁ。マナ欠乏症になるなんて。半年前じゃ考えらんねぇよ。」

 

さて、今すぐにでもバタンキューしたいが、ルミアを助けに行かねえとな。敵はもういないし、システィーナとテレサは目覚めたら結界は解くようにしてあるから大丈夫だろう。

 

******

 

「先生!!私に構わず逃げてください!!」

 

「うるせぇ!!少し黙ってろ!!」

 

ルミアが捕らえられている所の階段を登っていたらグレンとルミアの声が聞こえてきた。ルミアを拘束している魔術が凄いのか。

 

「これ以上魔術を使い続けたら先生が死んじゃいます!!」

 

「あぁ、そりゃ白猫が大喜びだな!!」

 

くそ、今すぐにでも助けに向かいてえけど、体が言うこと聞かねぇ!!まるで鉛を背負ってるみてえだ!!早く階段を登らねえと!!

 

「そんな!!どうしてそこまでするんですか!?自分の命を賭けてまで!!」

 

「俺は、正義の魔法使いに憧れていた。だが魔術の世界には薄汚ない血みどろの現実しかなかった。ほんと、人生の無駄遣いだったよ。」

 

確かにな、グレンの言う通りだ。本当に、あの3年間は何をしていたんだかわからねえよ。

 

「それでも、やっぱり諦め切れないんだよ!!」

 

グレン、セラを思い出しているのか。そうだよな、諦め切れねえよな!!

 

「ここで逃げたら、俺の人生は一体何だったんだ?正義の魔法使いに賭けた人生、無意味だったのは分かっている。だが、無価値にだけはしたくねえんだ!!」

 

あぁ、その通りだ。俺も逃げたら、あいつに、シェリーに合わす顔がねぇ!!

 

「文句あるかこんちくしょぉぉぉぉぉ!!」

 

「残り一層、先生!!」

 

俺が着く前に終わりそうだな。でも、嫌な予感がする!!

 

「がはっ!!こ、こんなところで!!」

 

「先生!!」

 

グレン、もう少しだぞ。踏ん張れよ、踏ん張りやがれよ!!

 

「くそっ、冗談じゃねえ。こっちのマナが先に切れるなんて!!」

 

「先生!!しっかりしてください!!」

 

「だが、これを解けば!!」

 

「そう上手くは行きませんよ。」

 

何だ?犯人の声か?一体どうなった!?

 

「ぐはっ!!な、何で……。」

 

「残り一層になった時、予備の魔力でもう一度転送魔法陣を作るようにしておいたんですよ。もしもの為にね。」

 

この声、前任のヒューイか!!ふざけやがって!!

 

「はぁ、はぁ、ごめんなルミア。」

 

「先生!!先生!!起きてくださいよ!!」

 

「ゲームオーバーですグレン先生。さて残り3分、そろそろですね。」

 

「何がゲームオーバーだくそ野郎。」

 

俺は扉を蹴り飛ばして中に入る。中央にはルミア、その斜め前にはヒューイ。そして、魔法陣の前で倒れているグレンがいた。

 

「おや、貴方がもう一人の先生ですか。でももう何もかもお仕舞いですよ。」

 

「ハヤト先生逃げてください!!グレン先生と一緒に逃げてください!!」

 

「逃げねえよ、俺もグレンも。魔法陣を解除してルミアを助けるからな!!」

 

「残り3分で何が出来るんですか?貴方の魔技解放では解除魔術はないはずです。愚者の世界はもう切れてますけどね。」

 

んなこたぁわかってんだよ!!そもそも魔技解放はここでは使わねぇ。

 

「ルミア、今助けるからな。」

 

「どうして、どうしてそこまでするんですか!?私には守られる価値なんてないのに。そんな傷まで負って。」

 

所々に血の痕、なるほどな。

 

「グレン、お前はやっぱりすげえよ。」

 

俺は両手首を噛み、懐から巻物を取り出して開き、それに血を端から端まで一直線に血の線を引き、それを振り回して術式を唱える。

 

「ルミア、文句は後で聞いてやる。終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし!!」

 

詠唱し終わると、転送魔法陣の五層の内三層が解除された。

 

「そんな解除方法があったとは、本当に貴方達には恐れ入ります。」

 

「くそったれ!!マナが足りねぇ!!」

 

巻物はもう使えない、なら魔法陣に直接血で術式を書くしかない。

 

「もういいです!!どうして、どうしてそこまでするんですか!?グレン先生もハヤト先生も!!」

 

「どうしてだって?教え子を守るのが講師の役目だ。それに、救える筈だった人を救えなかった。そんな事はもうしたくねえんだ!!」

 

グレンと同じように血で術式を書き、四層目を解除する。くっ!!ヤバイ、意識が朦朧としてきやがった。

 

「ゲホッ!!ゴホッ!!あと一つ、あと一つなんだよ!!動けよ俺の体、頼むから動いてくれよくそったれがぁぁぁぁ!!」

 

「ハヤト、後は任せな。」

 

グレンが這いつくばって最後の一層の所に手をかけた瞬間にぴたりと動かなくなった。

 

「私だって、私だって!!」

 

そう言いルミアは閉じ込められている所を無理やり穴を空けてグレンの体に触れる。

 

「やった、諦めなかったから届いた!!先生、受け取ってください。」

 

ルミアがそう言うと、グレンの体が黄色い光に包まれた。なるほど、だからルミアは狙われたのか。

 

「ッ!!魔力がみなぎってくる。」

 

触れたものの魔力を爆発的に高める異能を持つ存在、感応増幅者。グレンの魔力をほぼ回復させやがった!!これほどとはな!!

 

「終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし!!」

 

グレンはイレイズを血を媒体にして唱え、転送魔法陣を解除した。って力込めすぎだろグレン!!衝撃が半端ない!!

 

「僕の、負けですか。組織の言いなりになって死ぬか、組織に逆らって死ぬか、僕はどうすれば良かったんでしょうかね。」

 

「知らねえよ、同情はするが自分で道を選ばなかったお前が悪いんだろ。てめえの不始末は、てめえで片付けろ!!」

 

グレンの言う通りだな、よっこらせっと。

 

「それじゃ、歯ぁ食いしばれ!!」

 

グレンはヒューイを思いっきり殴り、気絶させる。すげぇ、上○みたいにワンパンで気絶させやがった!!

 

「……。」

 

「グレン先生!!」

 

グレンはヒューイを殴った後、自分も気絶した。やれやれ。

 

「ルミア、膝枕してやれ。枕があった方が寝やすいからな。」

 

「ハヤト先生は!?今にも倒れそうじゃないですか!!」

 

えっ?俺にもしてくれるパターンか!?是非ともしてもらいたいねぇ!!けど、今回はグレンに譲ってやるか。

 

「後始末だよ。どっかの誰かが血を大量に流したからその掃除。」

 

血が付いてる部屋で寝たくないからな。アクアエッジっと。

 

「水の魔術、初めて見ました。」

 

「これで大丈夫だな、あとは「「先生!!無事ですか!?」」来たか。」

 

システィーナとテレサが来た。二人ともグレンに駆け寄って行ったな。

 

「しー、そんなに大声出したら起きちゃうよ。」

 

ルミアはそう言い寝ているグレンの頭を撫でる。羨ましいぜグレン!!俺も頑張ったからそういうのあってもいいよね!?

 

「というわけだ、システィーナ、テレサ。テロは解決したから教室に行って皆に伝えてくれ。」

 

さて、俺も教室に戻りますか……な。あれ?

 

「「ハヤト先生!?」」

 

「あれー?何でかなー?視界が傾いてるぞ?俺立っていたよな?テレサ、説明プリーズ。」

 

「先生が倒れてるからですよ!!」

 

そうなのかー、どおりで体が動かない訳だ。あはははー、頭が働かないぞー。

 

「すまん、体が動かないから先に教室行ってて。」

 

「その状態の先生を放っておけません!!」

 

ん?頬に柔らかい感触が。あー、なんか眠たくなってきた。

 

「システィーナ、私はここでハヤト先生を見てるから教室に行って皆に報告をお願いね。」

 

「わかったわ。」

 

「ハヤト先生、ルミアを助けてくれてありがとうございます。」

 

「私からもお礼を言います。ハヤト先生、ありがとうございます。」

 

ありがとうか、久しぶりに聞いたな。涙が出そうだぜ全く。

 

******

 

「ルミアがまさか3年前に死んだ筈の王女だったとはなぁ。」

 

テロから数日後、俺とグレンは学院の屋上でセリカからルミアの正体を聞いた。

 

「異能者に対する恨みは根強い。それが王族なら国がひっくり返る。」

 

「学院内でも知っているのは、セリカと学院長くらいってところか?」

 

「その通りだハヤト。」

 

まあ、それ以外の人に広めたら色々まずいからな。

 

「まあ、どうでもいいけど。」

 

「それにしても、どうして講師を続ける気になったんだグレン?」

 

セリカがグレンにそう訊ねると、下からシスティーナとルミアの声が聞こえてきた。

 

「グレン先生ーー!!」

 

「さっきの授業、言いたい事があるんですけど!!」

 

グレンはルミアとシスティーナを見て、微笑んだ。

 

「見てみたくなったんだよ、あいつらがこれから何をやってくれるか、暇潰しには丁度いいだろ?」

 

グレンはそう言ってシスティーナとルミアがいる所に向かっていった。

 

「素直じゃねえなあいつ。」

 

「確かにな、ところでハヤト。何でハヤトは呼ばれなかったんだ?」

 

「さっきの授業、俺は黒板に文章を書いてただけだからな。解説ならグレンの方がいいと考えたんだろ。」

 

グレンは講師を続ける事になったけど、俺はまだ非常勤だからな。

 

「なあセリカ、俺はここに居てもいいのか?」

 

「それは自分で決めろ、けど、少なくても私は居てもいいと考えてるがな。」

 

「ハヤト先生!!」

 

呼ばれたから下を見ると、テレサとルミアが俺に向けて手を振っていた。システィーナは、腰に手を当てているな。

 

「あいつだけじゃ不安だからハヤト先生も来てください!!」

 

「「あはははは。」」

 

システィーナがいった言葉に対してテレサとルミアが笑っているな。やれやれ、行くしかないな。

 

「もう少し考えてみるさ。セリカ、ありがとな。」

 

「気にするな、お前はグレンの親友だからな。」

 

俺は屋上から飛び降りて、グレンの隣に着地する。さて、また頑張りますか!!




これで一巻終了です。気付いた人はいるかも知れませんが、オリ主のヒロインはテレサです。

いやね、ヒロインがシスティーナやリィエルやルミアだと他の作品と被ってしまうからね。被らない人は誰かと考えた結果、テレサになりました。

理由としては、他の作品でテレサの出番ってほぼなかったので、自分で作ろうと思ったからです。あと可愛いからです!!


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6話

「さて、グレン。早速だけど稽古を付けてやる。」

 

テロからしばらくの日が経ち、平和な日々を過ごしていた。だが俺とグレンには関係ない!

 

「なんだよハヤト、休日だからカジノでも行こうと思ってたのによぉ。」

 

「お前、それだから貯金出来ねえんだよ。俺に勝ったら行っていいぞ。」

 

今は学院の中庭にいる。グレンの奴、今日は休みなのに出勤したからな。ウーケールー。まあ、敢えて嘘を教えたんですけどね。

 

「ったく、面倒くせえことしやがって。」

 

何故突然稽古だって?テロの時に自分達の実力がかな~り下がってたからな。少しでも全盛期に戻したい。

 

「魔術、格闘、なんでもありだけど愚者の世界は使うなよ?」

 

「そっちこそ、魔技解放は使うんじゃねえぞ?」

 

「え?駄目なの?」

 

「駄目に決まってんだろ!!何で俺の固有魔術が駄目でハヤトの固有魔術がいいって事になんだよ!?」

 

ちえっ、グレンをボッコボコに出来るチャンスだったのに、まあいいや。

 

「勝敗は負けを認めるまで。じゃあ行くぞ!!」

 

「おっしゃぁぁぁ!!来いやぁぁぁぁぁ!!俺が勝ったらお前もカジノに付き合ってもらうぞ!!」

 

げっ!!それは勘弁だな。俺賭け事なんて苦手だし。

 

「まずは小手調べだ、貫け雷槍!!」

 

「いきなりライトニング・ピアスかよ!!うわっ、あぶな!!」

 

グレンの足目掛けて放ったけど、ジャンプで避けられたか。勘は鈍ってないみたいだな。

 

「おいハヤト!!俺は三節詠唱しか出来ねぇんだぞ!!少しは手加減しやがれ!!」

 

「手加減ってなんだぁ?グレン?」

 

「だーもうムカつくぜ!!」

 

グレンはそう言い、俺に格闘で挑んでくる。俺格闘は得意じゃないんだよな。

 

「くっ、この!!当たれよ!!」

 

「やーだね。誰が当たるもんか、グレンのパンチ痛いからやだ!!」

 

俺はグレンの攻撃をいなし、たまに反撃しながら様子を伺う。ふむ、近接じゃ分が悪いな。

 

「そろそろ当たれ!!カジノが俺を呼んでいる!!」

 

「いいよ、グレンのパンチ喰らってやるよ。」

 

俺がそう言うと、グレンは動きを止めて警戒する。なんだ?来ないのか?

 

「あれー?もしかしてびびったかー?ほらほらグレンちゃん、かかっておいでー!!」

 

「お前、泣かしてやる!!」

 

おしおし、突っ込んで来たな。計画通り(にやっ)

 

「かかったなアホが!!大いなる風よ!!」

 

俺は突っ込んで来たグレンを吹き飛ばそうとゲイル・ブロウを放つが、グレンは横っ跳びで避けた。ありゃ、外れた。

 

「ハッハハハ!!俺がそんな見え見えの挑発に乗るわけないだろ!!残念だったな!!」

 

「いや、想定内だし。拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを!!ストーム・ウォール!!」

 

「ちょ!!お前、それ白猫の!!」

 

教え子が使ってるんだから、俺も使っていい筈だ!!異論は認めない。

 

「こりゃ想像以上の威力だな。けど、動けないわけじゃねえ。紅蓮の獅子よ・憤怒のままに「集え暴風・戦鎚となりて・撃ち据えよ。」待て待てって!!」

 

「あーん?聞こえないなぁ。もっと腹から声出せ!」

 

俺はストーム・ウォールを解除した後、すぐブラスト・ブロウでグレンを攻撃する。大人げない?知らんな。

 

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

 

「ホームラン!!さて、グレンを回収しないとな。」

 

逃げられたら困るし、回収回収。

 

*******

 

「お願いしますハヤトさん、カジノに行かせてくださいこのとーり!!」

 

勝負は俺の勝ち。でもグレンは余程カジノに行きたいのか、めっちゃ綺麗な土下座をしてくる。無駄に洗礼された無駄のない無駄なスキルだな。

 

「駄目だ、そもそも賭け事に弱いグレンがカジノに行ってもぼろ負けするのが落ちだろ。」

 

「今日は、今日はいけそうな気がするんだ!!だからお願いしますカジノに行かせてください何でもしますんで!!」

 

「ん?今何でもするって言った「金と労働以外の事でオナシャス!!」こいつ~!!」

 

グレンがそこまで言うんだったら、俺は最終兵器を出すしかないな!!

 

「ということで、カジノに行ってきま~す!!」

 

「グレン、セリカを呼ぶぞ?」

 

「本当に申し訳ございませんでしたハヤト様!!だからそれだけは勘弁してください!!」

 

うわぁ、また綺麗な土下座。グレンはどんだけ土下座の練習したんだよ……、もっと違うものに力を使えよ。

 

「あれ?グレン先生にハヤト先生、ここで何をしているんですか?」

 

「おうルミア、ちょっとグレンを懲らしめていた所だ。」

 

「懲らしめてって、グレン先生が土下座してるじゃない。ハヤト先生何したんですか?」

 

ルミアとシスティーナか、しかも制服じゃなくて私服だと!?ヘソが見れないじゃないか!!

 

「聞いてくれよ白猫!!俺は単にカジノに行きたいだけなのに、ハヤトが止めてくるんだ!!しかも武力公使までしてだぞ、酷くないか!?」

 

「知りませんよそんなこと。」

 

「あはは、暴力は流石にやり過ぎだと思うなぁ。」

 

「有り金を全部ギャンブルに使う奴に慈悲はない。ギャンブル中毒者死すべし。」

 

俺がそう言うと、システィーナはグレンをジト目で見下ろし、ルミアは苦笑いをする。

 

「と言うわけでグレン、要するに暇なんだろ?だったら「カジノに行っていいって事だな!!」話を最後まで聞けアホ。」

 

「ノーノー!!アイアンクローは駄目だって、痛い痛い痛い痛い!!助けてパパー!!」

 

「誰がパパだアホグレン!!」

 

俺はグレンにアイアンクローをした後、地面に叩き付ける。母なる大地とキスでもしてろ。

 

「ハヤト先生、いくらなんでもやり過ぎですよ。」

 

「大丈夫だ、問題ない。話がそれたな、グレン、システィーナとルミアとどっか出掛けたらどうだ?」

 

「はぁ!?どどどどうしてグレン先生と出掛けなきゃならないんですか!?」

 

システィーナ、動揺し過ぎだろ、別にデートってわけじゃねえだろ。でも、この反応、面白くなりそうだ!!

 

「私はいいですけど、システィはどう?」

 

「し、仕方ないわね。グレン先生、またルミアに変なことしたら吹き飛ばしますからね!!」

 

よし、二人の了承は得られたな。あとはグレンだけだが、うっわ、行きたくねぇオーラ全快だ。

 

「ルミアはいいとして、何で白猫と出掛けなきゃなんねえんだよ。面倒くせえからい「ほれ、費用を渡してやるからさ。」よし二人とも、俺に付いてこい!!」

 

変り身はえー、二人とも困ってんぞ。

 

「ハヤト先生は来ないんですか?」

 

「超行きたい!!けど、やることがあるから行けねえんだよ。まっ、楽しんできな。」

 

「ありがとうございます。グレン先生、システィ、行こ♪」

 

「はいはい、ほら白猫。置いてくぞー。」

 

「外でその呼び方は止めてください!!私にはシスティーナっていう名前があります!!いい加減覚えてください!!」

 

「わかったよ白猫。」

 

「全然わかってないじゃないですか!?」

 

3人はワイワイ騒ぎながら歩いていった。フフフ、計算通りだぜ!!

 

「さて、バレないようにこっそり付いていきますか!!」

 

俺の楽しみはな、こっそりと付いていって、陰からクスクスと微笑んだり、ニヤニヤすることなんだよ。ん?変態だと思ったか?正解だ!!

 

「さあて、ニヤニヤする場面や、面白い場面があったらカメラやビデオに納めよっと。」

 

後で弄るネタにしよう。ちなみにカメラやビデオは俺特製だ。

 

******

 

「じゃあ何処に行こっか?」

 

「そうだなー、ちょうど昼時だし、飯でも食いに行くか。」

 

「まだ11時なんですけど?早くないですか?」

 

こちらハヤト、今スニーキングミッションの最中だ。3人は取り敢えずレストランに行くらしい。

 

「んなこと言ってもよぉ、俺朝飯食ってねえんだから。それに、白猫はもっと食べた方がいいぞ?」

 

「女子は少食なんです!!昼御飯はまだ早いです!!」

 

システィーナがそう言った瞬間、お腹の音が鳴った。システィーナから。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

「ほら言わんこっちゃない。にしても、体は正直なんだな。心も正直になりゃい「馬鹿!!馬鹿馬鹿馬鹿!!」痛てぇ!!俺を殴るな!!」

 

「システィ、誰でもお腹は鳴るんだから落ち着こう。ねっ?」

 

システィーナは顔を真っ赤にして、からかってきたグレンに対してポコポコ殴ってるな。カメラに撮ってと、あとビデオで録画してと。

 

「よし、この店に入るか。今日はグレン大先生の奢りだ。こんなことは滅多にないぞぉ?たらふく食えよ二人とも。」

 

「お金はハヤト先生のでしょ!!何でグレン先生が偉そうにしてんのよ!?」

 

「まあまあシスティ、取り敢えず中に入ろ?」

 

うんうん、青春してるな~!!特にグレン、お前すげー楽しそうだな、俺感動したよ!!

 

「さて、変装して俺も中に入りますか。」

 

どれどれ店の中は、ほほう中々洒落た所じゃないか。

 

「グレン達は、もう料理が来てるのか。早いな。」

 

ルミアはパンケーキ、システィーナはスコーン3つ、グレンは、おいてめぇ、何で五品も頼んでんだよ?

 

「先生って、本当によく食べますよね。」

 

「そうか、これくらい普通だと思うんだがな。逆に白猫、お前スコーン3つとか少食過ぎんだろ。」

 

「いいんです!!私はこれくらいでいいんです!!」

 

「そうかよ、おい白猫、これなんだ?」

 

グレンはそう言い『あ』と書かれた紙をシスティーナに見せた。

 

「あ」

 

「隙あり!!」

 

システィーナの口が開いた瞬間に、グレンは一口くらいの大きさにした自分の料理をシスティーナの口の中に突っ込んだ。

 

「ったく、白猫はもっと食えよ。成長する所も成長しねえぞそんなんじゃ。」

 

「余計なお世話です!!」

 

「グレン先生、私にも一口ください。」

 

「いいぞ、ほれ。」

 

グレンは皿に一口くらいの大きさにした料理を乗せ、ルミアに渡す。

 

「あっ!美味しいですねこれ!!」

 

「だろ~?何せこのグレン先生が選んだ料理だ!!不味い訳がない!!」

 

「どちらかと言うとグレン先生が選んだ料理って、不味そうなイメージがあったんで「なんならもう一口食え、ほら。」んぐっ!!」

 

グレンは喋っているシスティーナの口に料理を突っ込む。システィーナは不貞腐れながら食べているな。

 

「つーか、イチャイチャし過ぎだろあいつら。」

 

見ていて腹が立ってきた、なんなのあれ?もはやカップルじゃん。

 

「あれ?目からミネラルウォーターが出てきたぞ?おっかしいな~?」

 

だが弄るネタは大量に取れたからよしとするか。

 

******

 

「いや~旨かったな!!」

 

「そうですね!!とても美味しかったです。」

 

「う~、食べ過ぎちゃったじゃないのよ。」

 

店から出てきたな。次は何処に行くんだ?

 

「さて、お前らは何処に行きたい?」

 

「グレン先生?」

 

「生憎と俺はあんまりこういうところに来ないからな。お前らが行きたい所に俺は付いてくよ。」

 

グレンはショッピングとかするタイプじゃねえからな。出掛けるって言ってもカジノとか、飯屋とかそこら辺しか行かねえからな。

 

「あっ!じゃあ服屋に行きましょう。ルミアもそれでいい?」

 

「うん。でもどうして服屋なのシスティ?」

 

「なな、何となくよ!!」

 

おいおいシスティーナ、何となくの癖にどうして顔が赤いんだ?気になるなぁ(ニヤニヤ)

 

「まっ、いいけどよ。」

 

「ほら、早く行くわよ!!」

 

そう言いシスティーナはずんずん進んでいく。やれやれ、初ですなぁ。

 

「あれ?今誰かに見られたような?」

 

「どうしたルミア?白猫に置いてかれるぞ?」

 

「あっ、待ってよシスティ!!」

 

あっぶねぇ!!ルミアにバレる所だった。ちょっと油断してたか。反省反省っと。

 

「さて、ここからは慎重にかつ大胆に行こう。」

 

3人は服屋に入ったな。どれ、幻の六人目みたいに空気とシンクロしますか。

 

「ねえねえシスティ、これ可愛いんじゃないかな!?」

 

「そうね、でも私はこっちの方がいいわね。」

 

システィーナとルミアは仲良く服を選んでるな。それをグレンはぼーっと眺めてんな。

 

「グレン先生、ちょっとこっちに来てください。」

 

「わかったわかった。」

 

ルミアの声は試着室から聞こえたな。試着した姿を見せるのか。俺も付いていこう。

 

「どうですかグレン先生?似合ってます?」

 

試着室からルミアが出てきた。……大天使ルミアはここにいたのか。めっちゃ似合ってんな!!服装?皆さんの想像に任せる!!

 

「似合ってるよ、センスがいいじゃねえか。」

 

「ありがとうございます!システィー、着替え終わった?」

 

「いい今出るわ!!」

 

隣の試着室からシスティーナが出てくる。ほほう、中々に可愛いじゃないか。

 

「ど、どうですか?」

 

「…………。」

 

あれ?グレンは固まってるな。なんで……あぁ、真正面から見ればグレンの大切な人にそっくりだ。

 

「グレン先生?ぼーっとしてないでシスティの服の感想を言わないと。」

 

「あ、あぁ。悪いな。まっ、白猫にしちゃ似合ってるんじゃねえの。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

システィーナはグレンに褒められて恥ずかしいのか、顔が真っ赤になってるな。カメラカメラっと。

 

「ハヤト先生、こんなところで何をしているんですか?」

 

おっと、ビデオにも納めないとな。ムフフ、顔がにやけちまいそうだ。

 

「ハヤト先生、聞こえてますか?」

 

ルミアとシスティーナは試着室に戻っていったな。グレンは、頭を掻いて上を見上げてるな。

 

「ハヤト先生?(ニコリ)」

 

「痛い痛い痛い痛い!!耳を引っ張るな!!誰だか知らねえけど、俺の邪魔をす……るな。」

 

耳を引っ張られたから振りほどこうと、手を横に降るったら、柔らかい物に触れました。えっと、これは。

 

「先生?何してるんですか?(ニッコリ)」

 

テレサかよぉぉぉぉぉ!!何でこんなところで会うんだよぉぉぉぉぉ!!しかも額に青筋を浮かべながらニコニコしてるし、これあれだよな。

 

「まあ待て、こういうお約束展開にも俺は言いたい事がある。何で間違えて女の子の胸に触った瞬間に、手を引っ込めるのだろうって。」

 

「何が言いたいんですか?(ニッコリ)」

 

「手を引っ込めるのはひよっこがすることだ。せっかく触るチャンスが貰えたんだから、俺はこの感触を忘れない為に一生懸命モミモミしまくァァァァァイ!!」

 

美しい右ストレートだテレサ、威力もスピードも申し分ない。いいセンスだ、ガクッ。



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7話

「おいお前らそこに直れ、燃やしてやる。」

 

「「マジすいませんでした!!」」

 

俺とグレンは今にも魔術を俺らに使いそうなセリカに土下座している。しかも学院長室でだ。

 

「グレンは有り金を全てギャンブルに費やして金欠、ハヤトはストーカー紛いの事をして二人の生徒にボコボコにされたと。」

 

グレンてめぇ、結局カジノに行ってきたのかよふぁっきゅー!!

 

「その通りでごぜーます。だから餓死してしまうお肉食べたいお小遣いプリーズミー!!」

 

「くたばれ。」

 

「落ちろ。」

 

セリカはブレイズ・バーストでグレンを燃やし、俺はグレンの上空に魔法陣を展開させ、そこから雷を落とす。技名?リリジャスだよ。

 

「お前ら!!俺を殺す気か!?」

 

「「何か文句あんのか?」」

 

「いやないです。」

 

これでも手加減してんだぞ?本当ならインディグネイション使いたいんだが。

 

「グレン、お前は次の給料日までシロッテの枝で飯を我慢しろ。私の食糧庫に手を出したら、殺すからな?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!ママぁぁぁぁぁぁ!!」

 

情けねぇ、グレンは背を向けたセリカに抱き付いて駄々をこねているが、セリカにアイアンクローされて黙った。

 

「ほーう、余程私の魔術を喰らいたいようだなぁ?グレン?」

 

「いだだだだ!!もう勘弁してください!!何でもします「ん?今何でもしますって?」やっぱ無理!!だから、ハヤト後は任せた!!」

 

「おいグレン!ちょっと待てやぁ!」

 

グレンはセリカのアイアンクローから脱出した後、もの凄い速さで学院長室から逃げ出した。

 

「さて、ハヤト。お前は何故生徒を尾行していたんだ?」

 

「その生徒に悪い虫が付かないように見張ってい「・其は摂理と円環へと帰還せよ・五素より成りし物」弄るネタに出来ないかと思って尾行しました!!」

 

セリカ、本気の殺意を向けてイクステンション・レイを唱えないでくれません?マジ怖いっす。

 

「次はないと思えよ?」

 

「イエッサー!!」

 

「で、その傷はフィーベルとティンジェルに付けられたのか?」

 

セリカは殺意を抑え、鏡を見せながら聞いてくる。うわひでぇ、顔面が真っ赤に腫れてやらぁ。それとタンコブがすげー出来てる、これもはや芸術だな。

 

「システィーナにはやられたけど、ルミアにはやられてない。もう一人はテレサにやられた。」

 

もうね、動けなくなる程ボコボコにしなくてもいいと思うんだ。システィーナは顔を真っ赤にして殴ってくるし、テレサもシスティーナと同様に顔を真っ赤にして殴ってくるし、ルミア?ルミアは遠くから見てましたよ。

 

「レイディか、あの子がそんなことするなんて珍しいな。」

 

まあ、あのおっとりとした雰囲気からは想像出来ないよな、あいつもそうだったな。

 

「ハヤト、今あいつの事を考えてたな?確かにあいつとレイディは似てはいるが。」

 

「……わかってはいるんだよ。わかってはいるんだが、どうしても重ねちまう。グレンだってそうだろ。」

 

「そうだな、悪い、嫌な事を思い出させてしまった。話を変えよう、それでボコボコにされた後は何をしていたんだ?」

 

セリカが俺の雰囲気を察知して話題を変えた。すんませんね、どうしてもあいつの話をされるとねぇ。

 

「あのあと?あのあとは罰としてテレサの買い物に付き合ったよ。」

 

荷物持ちとしてな、でも何故かテレサが嬉しそうな表情をしていたな。なんでだ?

 

「そうか、ハヤト。もう一度言う、この学院に残ってくれないか?」

 

「悪いけど、もう決めたんだ。競技祭が終わったらここから出ていくってな。」

 

俺はそう言い学院長室から出る。出来ればセリカの頼みは聞いてあげたいが、こればっかりは無理だ。

 

「俺が居ると生徒達が騒乱に巻き込まれる。只でさえグレンがいるのに、俺までいたら生徒を守りきれなくなるしな。さて、魔術競技祭か。」

 

おっと説明してなかったな。魔術競技祭とはアルザーノ帝国魔術学院で年に三度に分けて開催される、生徒同士による魔術の技量の競い合いである。

 

「つまり、運動会と言うわけだな。まだ続いていたなんてな。」

 

各クラスから選出された選手達が様々な魔術競技で腕を比べ合うお祭り、であるのだが。何時からか出場するのは成績優秀者ばかり、挙句同じ選手の使い回しが当然のように行われるようになり、お祭りという楽しい印象からは掛け離れた代物へと成り下がっていた。

 

「俺の時代からそうなったからなぁ。昔は楽しいものだったらしいが。」

 

おっと、考え事をしながら歩いていたら教室の前に来てたか。よっと。

 

「あっ!!せんせ……ってその顔「諸事情です。」いやでも。」

 

俺がクラスに入った瞬間に、なんかざわめきだしたな。

 

「諸事情です。決してシスティーナにボコボコにされた訳ではありませんよ?決してグレンに服を褒められて有頂天になった姿をビデオに納めたからボコボコにされた訳ではありませんよ?「雷精の紫電よ!!」あばーー!!」

 

システィーナにショック・ボルト撃たれた。だかな、これくらいの事で俺はへこまんぞ、へっへへ!!

 

「もう!!ハヤト先生の馬鹿ーーーー!!」

 

「システィ、やり過ぎだよ。」

 

「ごめん。」

 

まあ、この傷はシスティーナ8割、テレサ2割だからな。テレサは勘弁しておいてやるか。

 

「で、今何してんのルミア?」

 

「魔術競技祭に出場するメンバーを選出していたんですけど、出たい人が中々いなくて。」

 

ルミアとシスティーナが前に出て指揮を取ってるけど、他の人は知らんぷりしてるな。まあ、面倒くさいってか?いや、もう1つ理由があるな。

 

「なるほど、今年は女王陛下が来るから醜態をさらしたくないから出たくない。そういうことだな?」

 

俺がそう言うと、シーンとなった。図星かいな、でも安心するがいいぞ(ゲス顔)

 

「そうなんです。困ったなぁ。」

 

「グレンへの弁当作りかシスティーナ?大丈夫だ、あいつは何でも食うから量を多く「違いますから!!」おぶっ、黒板消し投げ付けんな!!」

 

顔面真っ白になっちまったじゃねえか。

 

「ったく、こういうのはグレンが決めるべきなんだが、俺が決めてやるよ。」

 

「でもハヤト先生、時間もあまりな「大丈夫だルミア、もう決めたから。」早くないですか!?」

 

「じゃねえと講師なんてやってられんわ。取り敢「ハヤト先生が決める?冗談はその辺にしておいてくださいよ。」なんだむっつり眼鏡?」

 

なんかギイブルが俺を見下して来たから、お返しにむっつり眼鏡って呼んだらめっちゃ怒った顔になってた。

 

「何もしていない貴方が決めれるんですか?それで女王陛下に醜態をさらしたら、貴方はどう責任を取るつもりですか?」

 

「まあ、なんとかするさむっつりスケベ眼鏡。」

 

「何ですかそれは!!」

 

「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁ!!」

 

何か大声を上げながらグレンが教室の扉を開けたな。しかもシロッテの枝くわえてるし、お前もう一文無しかよ。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まない、そして何よりも。」

 

グレンはきらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて続ける。

 

「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか!?なあハヤト!!」

 

「キモいから近付くなグレン。」

 

「そう邪険にすんなよ~、お前らは競技決めに苦戦してるみたいだな。」

 

「そうだよ、むっつりスケベ眼鏡陰険野郎が屁理屈並べてるから中々進まないんだよ。」

 

「それって僕の事ですか!?」

 

えっ?何?聞こえないなぁ~?

 

「ったく、何やってんだ、やる気あんのか?他のクラスの連中はとっくに種目決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ。」

 

「いやお前、やる気なかっただろ?」

 

「そうですよ!!だいたいグレン先生、私が魔術競技祭はどうするのか尋ねたら、『お前達の好きにしろ』って言ったじゃないですか!なんで今更になってそんなこと言うんですか!?」

 

「そそそそれはな、あああれだよ、大人にはふか~いふか~い事情があるのさ。まっ、白猫にはわからんだろうがな。」

 

おいグレン、声が震えてるぞ?そんなドや顔しても無駄だぞ?

 

「どうせ記憶になかったんだろグレン?」

 

「それもあるがな!!ハハハハ!!」

 

「やっぱり面倒くさくて人の話聞いてないんですね!」

 

おいおいシスティーナ、そんなにワナワナしなくていいだろ。グレンが人の話を聞かないのは日常茶飯事だからな。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいとして。ハヤト、お前は誰が競技に出た方がいいか決めたのか?」

 

「あぁ、決めてる。俺が発表してもいいか?」

 

「どうぞご自由に~。」

 

「サンキュー、さて、俺が総監督するからには、全力で勝ちに行くぞ。全力でな。俺がお前らを優勝させてやる。だからそう言う編成をさせてもらう。遊びはナシだ。覚悟しろよ?」

 

俺がそう言うと、皆唖然とした表情で俺を見ていた。なんだ?そんなにシリアスな俺が不思議か?

 

「高配点の決闘戦、これはシスティーナ、ギイブル、あと一人はカッシュだな。」

 

「ええっ!?」

 

「暗号早解きはウェンディ一択だな。飛行競争はロッドとカイ。魔術狙撃はセシル。」

 

「ちょっと待ってください!!」

 

ん?何だウェンディ?不満か?

 

「どうして私が決闘戦の選抜から漏れているんですの!?納得いたしませんわ!!」

 

「んー?お前は呪文の数も知識も凄いけどな、不器用な癖にどんくさいとこあるからな。たまに呪文噛むし。」

 

「それ俺も思ってたわ、だから運動能力と状況判断のいいカッシュというわけなんだよなハヤト?」

 

グレン俺の台詞取るなよ、まあその通りだけどな。

 

「だがウェンディならリードランゲージは文句なしのピカ一だ。だから暗号早解きで点数を稼いでくれ。」

 

「そ、そういうことでしたら、納得いたしますわ。」

 

「上手く丸め込んだなハヤト。」

 

「俺は事実を言ったまでだグレン。次に遠隔重量上げはテレサ以外にありえないな。」

 

「ちょっと待ってくださいハヤト先生、私で大丈夫なんでしょうか?」

 

テレサが自信無さそうに訊ねてきたな。やれやれ、もっと自信持てよ。

 

「テレサは自分で気付いてないかもしれないが、念動系の白魔術、特に遠隔操作系の魔術の腕がピカ一だし相性が良い。俺のこの無数のタンコブを作った時の状況を思い出してみろ。」

 

俺に付いてるタンコブは俺がテレサにセクハ……スキンシップを取ろうとした時に出来たものだ。顔を真っ赤にしながらそこら辺にある物をサイ・テレキネシスを使って俺の頭にぶつけてきたからな。

 

「!!!」

 

「思い出したか?」

 

おおう、見事にテレサの顔が真っ赤ですな。脳内保存脳内保存。

 

「テレサ?どういたしましたの?」

 

「ななな、何でもない!!」

 

「続けるぞ、精神防御はルミア以外にありえない。で、変身はリンに頼む。これで決まりだな!!」

 

「ハヤト先生って、ちゃんと私達の事見ていてくれてたんですね。」

 

どういう意味だよシスティーナ、そりゃ生徒の事は見るだろ。

 

「グレン、これで文句はないな?」

 

「俺も同じ編成で行こうと考えてたところだ。文句なんかねえよ。」

 

「ハヤト先生、全員参加させてくれるんですね!」

 

ルミアが満面の笑みで訊ねてくる。まあ、勝ちには行くけど、楽しまないとな。

 

「まあそうだな。あと文句あるやついるか?」

 

「ハヤト先生、いい加減にしてくれませんか?先ほどから勝手に決め付けて、見るに耐えません。」

 

「どうしたむっつりスケベ陰険ぼっち眼鏡君?これ以上良い編成があるのか?」

 

「だから何ですかその呼び方は!?」

 

「見た目から判断して付けたんだがギイブル?」

 

「アヒャヒャヒャ!!ヒーッヒヒヒ!!ハヤト、俺を笑い殺す気か!?腹捻れるわ!!」

 

ギイブルは眼鏡をくいくい上げて怒ってるな。そしてグレン、笑いすぎだ。

 

「そんなもの、決まってます。成績上位者で全種目を固めるんです。それが恒例で全クラスやっていることじゃないですか!!」

 

「えっ?そうなのハヤト?」

 

グレン、お前知らなかったのかよ。俺らの時もそうだったじゃねえか。

 

「ちょっとギイブル!!」

 

「落ち着けシスティーナ、ギイブル、んなことは知ってんだよ。」

 

「だったら、何故成績上位者で固めないんですか?僕からその下三名で固めないんですか!?」

 

ギイブルがそう言うと、テレサやカッシュ達が下を向いて俯いた。はぁ、これだから眼鏡野郎は。

 

「そこまで言うんだったら、ギイブル、お前が全種目出てもらおうか?」

 

「えっ?」

 

「アヒャヒャヒャ!!フーフフフ!!やベェ、腹痛いよママーーーー!!」

 

「成績上位者で固める?それでも結構だが、掛け持ちを禁止して、一人1つの競技に集中した方がいいだろ。一人何種目もやったら、体力持たねぇだろ。」

 

俺がそう言うと、ギイブルは拳を震わしていた。正論言ってるから反論出来ねぇんだろうな。

 

「それに、せっかくの祭だぜ?全員で楽しもうや。」

 

「「先生!!」」

 

「ん?どうし……ってなんでシスティーナとルミアは目を輝かせてるんだよ?」

 

しかも良い笑顔で、俺二人になんかしたか?

 

「こんなにも私達の事を考えてくれていたんですね!!」

 

「さあ皆!!優勝するわよ!!」

 

おおう、なんか士気が上がったな。まあ、こういうのも悪くはないな。



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8話

あれから1週間、魔術競技祭当日になった。女王陛下の宣言で魔術競技祭が始まった。だから歓声がすごい、つーかうるせぇ!!

 

「けど、女王陛下か。ルミアは大丈夫か?」

 

ルミアを見れば女王陛下を見て悲しそうな表情をし、女王陛下もルミアを見て、悲しそうな表情をする。似たもん同士だこりゃ。

 

ルミア=ティンジェルは偽名であり、本当の名はエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。名前長すぎだろ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング並に長いだろ。

 

帝国王室直系の血筋を持つ。すなわち、女王陛下の娘ということだ。

 

「まあ、勘の鋭い奴はあの雰囲気を感じて察知すると思うけどな。」

 

ただ、ルミアは【感応増幅者】と呼ばれる先天的異能力者だ。異能力者はこの国では悪魔だとかなんとかで迫害される。ルミアはその1人であり、王室の血をひいてることもあるため、女王陛下は娘を追い出したということになる。

 

「けど、苦渋の決断だったようだな陛下。」

 

だって女王陛下の視線がルミアを捉えているからな。片や、娘のためと思って追い出した母親、片や理由を知っていても認めることができず、心に傷を負った少女。なんとかならんかねぇ。

 

「まあ、そこら辺はグレンがなんとかするだろ。」

 

さて、最初は飛行競争だったな。ぶっちゃけそこまで良い順位に入れるとは思ってなかった。

 

何故ならこの『飛行競争』は魔導器を使ってレビデート・フライの呪文を唱えることで飛行し、学院敷地内に設定された一週五キロのコースを二人で交代しながら計二十周する競技だ。

 

だからグレンはこの競技を飛行スピードではなく、ペース配分が大事だと見て、ペース配分の練習だけしてろと二人にアドバイスをしていた。けど、それだけでねぇ。

 

「なんとぉおおお!? 飛行競争は二組が三位! あの二組が三位だぁ──ッ! 誰が、誰がこの結果を予想したァアアアアア──ッ!? トップ争いの一角だった四組が最後の最後で抜かれる、大どんでん返しぃぃ!!」

 

「あれー?うそーん。」

 

「マジかよ、マジかよ。」

 

なんかね、3位になっちゃってんだよ。つーか他のクラスの奴等がアホ過ぎだ。なんで最初からガンガン飛ばしてんだよ。

 

「やった!!3位ですよ先生!!凄いですね!!これも先生の指示のお陰ですね!!」

 

ちなみに競技祭の練習の指示はグレンがやった。だからシスティーナが興奮してグレンに話し掛ける。

 

「そそそその通りだ白猫!!この競技はスピードよりペース配分が大事だと思って、あいつらにはペース配分の練習だけさせただけだ。後は連中がペース配分に間違って自滅するのを待て、と指示しただけ。フッ。楽な采配だぜ!!」

 

冷や汗をかかず、体を震わせてなければ最高に格好いいのにな、動揺しまくりじゃねえか。

 

「これはもしかしたら!!」

 

「いけるわよ皆!!」

 

すげー盛り上がり、まあ祭はこうでなくちゃな。

 

「ちっ! たまたま勝ったからっていい気になりやがって!!」

 

1組の連中がこっちを睨んでるな。愉快愉快!何故なら1組の担任の、誰だっけ?ゲーハー先生だったっけ?そいつとグレンが祭で勝った方に給料三ヶ月分を渡すという賭けをしているからだ。

 

「たまたまじゃない!これは全部、グレン先生の策略なんだ!」

 

「そうだそうだ!お前らはしょせん、先生の掌の上踊っているに過ぎないんだよ!」

 

4組の連中も負けた腹いせにこっちを睨んでるから、2組が挑発してるな。いいぞもっとやれ!!

 

「な、なんだと!? くっ、おのれ二組、いきがりやがって! 俺達四組はこれから、お前達二組を率先して潰しにいくからな! 覚悟しろよッ!?」

 

「返り討ちにしてやるぜ! なんてったって俺達にはグレン先生とハヤト先生がついているんだ!」

 

「ああ、先生達がいる限り、俺達は負けない!!」

 

「ふふっ、だそうですよハヤト先生?」

 

「だそうだとグレン?」

 

「ハヤト先生に言っているんですよ?他人に押し付けるのは駄目だと思いますよ、ふふっ♪」

 

テレサ、笑顔で言うな。つーかその笑み怖いわ!!ハードル上がりまくってるじゃねえか。

 

「グレン、何かあったら責任とってくれ。常勤金欠講師さん?」

 

「その呼び方やめろ!!ってかこれ以上ハードルを上げないでくれ!!」

 

おおう、必死だなグレン。うん、必死なのはいいことだと思うぞ。

 

******

 

午前の部における競技は恙無く終了した。結果も上々と言えるだろう。飛行競争では三位、魔術狙撃も三位の結果だ。

 

「さて1組との点差は、そんなに開いてない。これは行けるな!!」

 

暗号解読ではウェンディが驚異的な速度で竜言語とかいうさっぱりわからない神話級言語を解いて一位、もしかしたら暗号解読の能力は俺より高いかもな。

 

そして精神防御においては、ルミアが獲得した一位。そりゃそうだ、いつでも死ねる覚悟を持って過ごしてるからそこら辺の生徒よりは断然にメンタルが強い。

 

「けど、死ぬ覚悟を生きる覚悟に変えてほしいんだけどな。ルミアの性格上、厳しいだろうな。」

 

どうしたもんかねぇ、結果的に総合して二位に落ち着いているが、一位である一組との差も十二分に午後の競技では逆転を狙える範囲だ。良かったなグレン、飯が食えるぞ?

 

「さて、昼休憩に入ったし。飯でも食いにい……財布忘れた。」

 

やべえよ、布団の上に起きっぱだったよ。どうしよう、マジどうしよう。

 

「おーーいハヤトーー!!」

 

「んだよグレン?言っておくが、財布忘れたから飯奢れとか言われても無理だからな。」

 

「なん、だと!?」

 

グレンが俺の言葉を聞いた瞬間、口から魂が抜けていった。お前いつから飯食ってねえんだよ?

 

「どうすんだよ!?俺もう腹ペコで死にそうなんだよ!!せっかくハヤトの財布の中身をすっからかんにしてやろうと思ったのによぉ。」

 

「グレン、今から体の中身をすっからかんにしてやろうか?」

 

「大変申し訳ありませんでした!!だからその刀を捨ててくれるとありがたいですお願いします!!」

 

「わかったよ、ほら捨てたぞ?」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!おまっ!!人に向かって刀を投げ付ける奴がいるか!?」

 

「いや、捨てろっていうから。」

 

俺はグレンの言う通りにしてただけなんだが?

 

「馬鹿じゃねえの!?俺に刺さったらどうするつもりだったんだよ!?」

 

「グレンごと魔術で焼却するだけですが?」

 

「俺は燃えるゴミ扱いかい!!」

 

いや、粗大ごみだな。

 

「ったく、あんまし体力使わせないでくれよ。もうふらふらなんだわ。」

 

「ギャンブルで使い果たすからだ。少しは反省しろ。」

 

「あそこで表情を上手くコントロール出来なかったのが原因だな。もうちとポーカーフェイスの練習でもするか。いや、むしろ最初から慌てて油断させるとか。」

 

駄目だこりゃ。また有り金使い果たす気満々ですわ。

 

「俺は行くからな、それとタンポポやつくしは調理したら食えるからな。」

 

「マジでか!!早速採取に出掛けるぞ!!後に続けハヤト!!」

 

「てめえ一人で行きやがれアホ!!」

 

俺はグレンを蹴飛ばし、会場に戻る。

 

「ったく、俺も腹へってんだよ。飯は食わねえとやる気出ねえんだよ。食える草でも探すか。」

 

えっと、キョウチクトウやトウゴマだったっけ?食べられるの。まあ、毒草じゃなきゃいいか。

 

「どはぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ん?グレンの叫び声か。どうせルミアにでも化けてシスティーナの持ってきたサンドイッチを食おうとしたら、バレてゲイル・ブロウで吹き飛ばされたんだろどうせ。

 

「全く、弁当を作ってきてくれる人がいて羨ましいぜ。」

 

「あら、お久しぶりですねハヤト。」

 

「ん?まさかあんたから出向いてくるとはな女王陛下。」

 

ぶつぶつ文句言ってたら目の前に女王陛下がいたぜ、危うくトラブルになって国賊になるところだったぜ。

 

「どうせルミアの楽しそうな表情を見ていたらいてもたってもいられなかったから会いに行こうとしてたんだろ?」

 

「当たりです。貴方は読心術でも使えるのですか?」

 

「顔にそう書いてある。言っておくが、ルミアに会いに行っても赤の他人として扱われるぞ。それでも会いに行くのか?」

 

「ええ、例え反応が分かっていても、娘には会いたいのです。」

 

「そうかい、なら止めはしない。ただ、これだけは言っておく。取り返しのつかなくなる前に和解してこい。」

 

俺はそう言って女王陛下に背を向けて歩き出す。お互いね不器用なんだよ。見ていてむかむかしてくるんだよな。

 

「そう言っても、家族の問題に外野が横やり入れても無駄だしな。」

 

さあて時間は、げっ!!もう午後の競技始まるじゃねえか!!

 

「誰かぁぁぁぁ!!オラに飯を分けてくれぇぇぇぇぇ!!」

 

「何してるんですかハヤト先生?」

 

「キャーーー見られたぁぁぁ!!」

 

「何で女の子っぽい反応をしてるんですか。」

 

あっ?テレサか。そうか、ここ競技選手の控え室の前だったな。

 

「次の競技頑張れよ、まっ、心配はしていないけどさ。」

 

「はい、出来る限り頑張りますね。ですけど、私が他のクラスの人に勝てるのでしょう?」

 

「何言ってんだよ。大丈夫だ、テレサなら勝てるって信じてるからな。」

 

そう言い俺はテレサの肩を軽く叩く。テレサは少しびっくりしてたけど、緊張が解けた笑顔を見せてくれた。

 

「よし、楽しんでこい。」

 

「はい!!」

 

そう言ってテレサは競技会場に向かっていった。さて、俺はある所に行かなければな!!

 

*******

 

「ふぉぉぉぉぉぉ!!やべぇ、やべぇくらい腹が痛い!!」

 

あれか、そこら辺にある草を食ったのが間違いだったか!!トイレが近くにあって助かった。

 

「しかし、よう出るな。全身から毒素が抜け落ちた気分だぜ!!」

 

「おい2組、貴様は黙って用を足すことも出来ないのか!?」

 

「この声、まさかゲーリー先生か!?」

 

「ハーレイだ!!ハーレイ=アストレイだ!!」

 

いやはや、同じトイレの中にいるなんて奇遇ですなぁ。ゲーリー先生。

 

「ハヤトの方か、貴様何故ここにいる?」

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぞ。」

 

「まあいい、午前の部で2組と大分差を縮められたが午後の部で圧倒的な差で優勝してやろう。覚悟しておくんだな。」

 

「トイレの中でそんなこと言われても、締まらないっすよゲーリー先生。」

 

「だからハーレイだ!!何度言わせれば気が済むんだ!?」

 

いやだって、さっきからゲーリー先生の方からピーゴロゴロっていう音が断続的に聞こえてるからさ。今まさに下痢になってるからゲーリー先生でいいかなと思った。

 

「ふん、今に見てろ。私の優秀な生徒達が圧倒的な実力を見せて2組に勝つからな!!」

 

「そんな事を言ったゲーリー先生に今行われてる競技の実況を聞かせて上げましょう。」

 

通信機をぽちっとな。

 

「2組のテレサちゃん!!50kgクリア!!」

 

「馬鹿な!!あり得ない!!」

 

「ねえねえ今どんな気持ち?ねえねえどんな気持ち?圧倒的な実力どころか2組が勝っちゃってる今の状況。」

 

「……。」

 

あれ?返事が帰ってこない。まさか失神でもしたか?

 

「まっ、これで1組との差も縮まっただろ。さあて、戻る……ってグレンから連絡か。」

 

珍しいな、何かあったのか?

 

「ハヤト、ルミアを見なかったか?」

 

「いや、見てねえな。ルミアがどうかしたのか?」

 

「いや、ルミアを競技会場に連れていこうと思ってな。あいつ今一人だからさ。」

 

「そうか、探してみるよ。」

 

そう言い俺は通信を切る。それと同時に外が騒がしくなってきた。

 

「なんだなんだ?やけに騒がしいな?」

 

トイレから出ると、王宮騎士団の兵士が必死に誰かを探していた。

 

「何か敵襲でもあったのか?」

 

一応、後を追い掛けて見ますか。何もなきゃいいんだが。

 

******

 

「目を閉じ動かぬことだルミア=ティンジェル。急所を外せば長く苦しむ事になるぞ?」

 

「止めてください!!ルミアを殺さないで!!」

 

「大丈夫だよテレサ、私は、怖くないから。」

 

おいおいなんだよこの状況、ルミアが木に縛り付けられて、テレサは地面に押さえ付けられてるな。グレンは、気絶していやがんのか。

 

「女王暗殺を企てたその罪、貴様の命で償え。」

 

「……はい。」

 

「何かの間違いです!!ルミアはそんなことしません!!」

 

「黙れ小娘!!貴様も女王暗殺に協力した罪で殺されたいか!?」

 

テレサは必死に押さえ付けられている兵士の腕を振りほどこうとしてるが、首筋に剣を突き付けられ、泣きながら黙った。

 

「急いで助けねえと!!だけどこのまま行くのは定番過ぎてつまらねえよな。そうだ、変身するか。」

 

とある本で見た人物に変身!!うん、これで行けるな!!

 

「ズッ、バァァァァァァァットォ!!」

 

「「「えっ?」」」

 

俺は魔術で飛行出来るようになったスクーター?というもので空を飛んでいる。そして、スクーターからジャンプして木の上に降り立つ!!

 

「HAHAHAHAHA!!」

 

「誰だ貴様は!?」

 

「ズバット参上!!ズバット救出!!人呼んで、アルザーノのヒーロー!!ティチャー、ズゥバアアット!!」

 

ふっ、決まった!!みんなの視線を独り占めだぜ!!

 

「何しているんですかハヤト先生?」

 

「違うぞテレサ君!!私はティチャー、ズゥバアアットだ!!誠実な生徒を縛ったり押し付けたり、あ・ま・つ・さ・え!!無実の生徒に女王暗殺の容疑を擦り付けたその罪。断じてゆるざん!!」

 

「貴様刃向かう気か!?貴様も女王暗殺を企てた協力者として捕らえるぞ!!」

 

知るかそんなこと、生徒が殺されそうになってるのに黙って見てる奴がいるか。

 

「ズゥバアアアアアアットォォ!!」

 

俺は木から飛び下り、テレサを押さえ付けていた兵士を蹴り飛ばし、気絶させる。ふっ、脆いな。

 

「ありがとうございます先生。」

 

「貴様!!この謎の男を捕らえろ!!」

 

「もう逃げてください!!貴方が捕らえられる必要はないんですよ!!」

 

「安心しなルミア君、すーぐに終わるさ。」

 

俺はルミアにそう言った後、向かってくる兵士に背を向ける。それを見たテレサは唖然とした表情をしていた。うん、可愛いな!!

 

「貴様、死ぬ覚悟が出来たようだな。」

 

「死ぬ覚悟?違うな、私は語ろうとしているだけだ。男なら、背中で語るもんだ!!」

 

俺は背中にマナを溜める。本当は尻に溜めようと考えたが、悲惨なことになったので止めた。

 

「喰らえ!!ズゥバアアアアアアットォォ!!ビイィィィィム!!」

 

背中から白色のビームを地面が抉れるくらいの威力で兵士達に向けて放つ。死ぬんじゃないかって?兵士達の装備には魔術の攻撃を軽減するものが付いてるから大丈夫。

 

「グレン、仇は取ったぜ。」

 

「勝手に殺すんじゃねえよ。生きてるわ。」

 

「あふん。」

 

いつの間にか来ていたグレンに蹴られた、良いじゃねえか別に。さっきま「力よ無に帰せ。」あっ。

 

「ハヤト先生!?やっぱり、あの変な人はハヤト先生だったんですね!?」

 

モロバレかよ、っとそんなことよりもルミアを縛り付けてるロープをほどかないとな。

 

「それより、何でテレサがここにいるんだ?」

 

「競技が終わった後、ハヤト先生を探していたらルミアが兵士の人に連れていかれそうになっていたので、止めていたら人質として捕らえられました。」

 

なるほと、悪いことをしたなテレサには。

 

「ハヤト、お前が倒しきれなかった兵士は倒しておいた。」

 

「すまんな、助かるよ。」

 

「ハヤト先生!!グレン先生!!どうして私を助けたんですか!?」

 

「見捨てたら白猫に叱られんだろ。あいつの説教は勘弁だからな。」

 

「俺はちょっとやってみたかった事があったから。」

 

いやー、満足満足。

 

「ふざけている場合じゃありません!!このままじゃ先生まで!!」

 

「「約束、だからな。」」

 

「ッ!!テレサ!!テレサもどうして私を助けようとしたのよ!?」

 

「友達が拐われようとしているのを見たからです。」

 

テレサは笑ってルミアにそう言う、ルミアは泣きそうになってるな。

 

「にしてと、無茶し過ぎだテレサ。俺が来なかったらどうする気だった?」

 

「すみません、でも、私はあの時助けてくれた、あの人みたいに誰かを助けたかったんです!!」

 

やっぱりそうか。テレサがあの時の子なんだな。

 

「おのれ反逆者どもめ!!成敗してくれる!!」

 

むっ、増援か。王宮騎士団はマジのようだな。

 

「おーおー、団体様のお出ましだぁ。どうするグレン?」

 

「もちろん、とんずらだ!!ルミア、ちょいと失礼。」

 

「えっ!?あの!?」

 

グレンはルミアをお姫様抱っこしたな。いいなぁ、羨ましいなぁ!!

 

「テレサ、逃げるぞ。」

 

「分かりましたハヤトせんせ……ッ!!」

 

「どうしたテレサ?足が痛むのか?」

 

「はい、無理矢理押さえ付けられた時に足を捻ったみたいです。」

 

ふーむ、ライフ・アップを掛けている暇はないしなぁ。

 

「なら、ちょいと失礼テレサ。」

 

「えっ?はは、ハヤト先生!?」

 

俺もグレンとオナジクテレサをお姫様抱っこする。テレサの顔が赤いけど、どうしたのかな~?(にやにや)

 

「「三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし!!」」

 

俺とグレンはグラビティ・コントロールを使って高いところに飛び移る。

 

「あーもー!!どうして次から次へと厄介事ばかり起きるんだよ!!だから俺は働くのが嫌だったんだよ!!」

 

「んなこと言ってる場合か?今俺達はリアル鬼畜鬼ごっこしてるんだぞ?」

 

鬼は騎士団兵士、捕まったら死刑。あー笑えねぇ。

 

「まっ、美少女を抱えながらの逃走劇ってのを一度やってみたかったんだよな。」

 

「それなグレン!!」

 

んー?ルミアとテレサが顔が赤いな、何でかな~?俺は心当たりはありませんよ?



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9話

今回はシリアス多めです。


「はぁ、なんとか撒いたか。」

 

あの後、必死に逃げて住宅街の裏路地に逃げ込んだ。いやぁ、生きた心地しなかったわー。

 

「あの、ハヤト先生。これからどうするんですか?」

 

「んー?取り敢えずグレンはセリカに連絡してるから、それ次第だな。」

 

俺がルミアにそう言い終わった時、グレンは通信機を切ってこっちを向いてきた。何か難しい顔をしてるな。

 

「で、どうだったんだ?」

 

「セリカは俺にしかこの事件を解決することが出来ないって言った。俺にしか出来ないこと……なんだ?」

 

「グレンにしか出来ないことねぇ、愚者の世界じゃねえの?おおよそ、女王陛下に何らかの呪殺具がついてるとかじゃねえのか?」

 

「それだ!!」

 

ったく、グレンにしか出来ないことって魔術の封殺しかねえだろうに。

 

「でも、そこまで行けるかが問題だよな。」

 

「そうだなグレン、騎士団に見付からずに女王陛下の所まで行く。気付かれた瞬間にダーイ。ベリーハードですわー。」

 

俺一人ならなんとかなるが、四人となると無理だな。

 

「しかも騎士団団長のゼーロスがいるんだろ?敵対すればものの数分でゴウトゥヘルだ。」

 

「グレン、これ無理ゲーなんじゃね?」

 

「グレン先生、ハヤト先生、やっぱり私は投降します。このままだと先生達まで罪人として殺されてしまいます。それにテレサも殺されてしまいます。」

 

「ルミア?それ本心で言っているの?私は認めないよ。」

 

テレサ?あっ、怒ってる。テレサはルミアに怒気を含めて言ってるな。

 

「けど、このままじゃ皆殺されてしまいます!!」

 

「ルミア、もう出遅れなんだよ。だからルミア一人犠牲にならなくてもいいんだよ。」

 

「そんなことありませんハヤト先生。私が懇願して、どうにかお許しを貰えるようにします。だから……。」

 

はぁ、この自己犠牲の考えは治らないのかねぇ。

 

「あー、はいはい。自己犠牲はいいから。お前を見捨てるとかあり得ないからな。大人しく助けられてくれ。なあハヤト?」

 

「グレンの言う通りだ。ルミアは子供だ。こういう時は大人を頼れ。わかったな?」

 

「どうしてそこまで……。何か理由でもあるんですか!!」

 

今にも泣き出しそうな顔でルミアは俺とグレンを見てくる。どうしてか、それは一つしかねえよ。

 

「誓ったんだよ。もう二度と、大切なものを奪わやせしない。あんな絶望を味わうのは願い下げだ。」

 

「俺もだ、手を伸ばせば救えるはずのものが伸ばさなかったから救えなかった。あんな思いはもうこりごりだ。誰にもあんな思いは味あわせたくないんだよ。」

 

「ハヤト先生。」

 

「それに、目の前で傷付いている人がいる。それだけで誰かを助ける理由になるんだよ。」

 

俺はルミアとテレサに近付き、二人の頭を撫でる。これで少しは落ち着けたか?

 

「それよりもだ、これからどうするハヤト?」

 

んー、どうすっかねぇ。パッと思い付かねえよ。

 

「ハヤト先生!!」

 

「ん?どしたテレサ?」

 

「何か女の子が凄いスピードで突っ込んで来ますよ!!」

 

ははっ、そんなわ……マジだ!!しかもあいつかよ!!

 

「小柄な女の子で、でかい剣を持っている、間違いないな。」

 

「何呑気に解析してんだよハヤト!?あいつ俺らを殺す気満々だぞ!?」

 

「グレン、こういう時こそな、慌てなーい慌てなーい。一休み一休みってな。」

 

「ふざけてないでくださいよハヤト先生!!」

 

いやだって、ふざけてても大丈夫だし。

 

「ふぎゅ!!」

 

「「えっ?」」

 

襲い掛かってきた女の子の後ろにいた男が女の子に向けてライトニング・ピアスを放った。軍用魔術 を街中で使うなよ。

 

「っ、てやぁぁぁぁぁ!!」

 

おいおい!ライトニング・ピアスが頭に直撃したのに一瞬の硬直だけで済むのかい!

 

「ぎゃぁぁぁ!!ハヤトォォォ助けてぇぇぇぇ!!」

 

女の子がグレンに向けて大剣を降り下ろすが、グレンは白羽取りで攻撃を受け止める。

 

「グレン、こんな言葉がある。諦めも肝心ってな!」

 

「要するに俺に死ねと言ってるんだな!?」

 

「イグザクトリー!!」

 

がんばれーグレン。骨は拾ってやるからなー。

 

「グレン、受け止めないで。斬れない。」

 

「受け止めないと死ぬわ!!」

 

「おい、いい加減にしろ。」

 

女の子にライトニング・ピアスを放った男が女の子の服の襟を掴んでグレンから引き離す。

 

「いやー、助かったぜアルベルト。」

 

「久しぶりだなグレン、場所を変えるぞ。」

 

※※※※※※※※※

 

「グレン、痛い。」

 

「このやろこのやろこのやろ!!」

 

アルベルトという男に付いていき、人気のない所にやってきた。グレンは襲撃してきた女の子の頭を両手でグリグリしていた。

 

「あの、先生。この人達は?」

 

「あぁ、俺の元同僚だルミア。王室宮廷魔導師、特務分室執行官だよ二人とも。男の方が『星』のアルベルト・フレイザー。もう一人が『戦車』のリィエル・レイフォードだ。」

 

「えっ?そうなのかグレン?知らなかったわー。」

 

「お前も元特務分室執行官だろうがハヤト!!」

 

いやだって、俺は基本的にサポートだったから、アルベルトとリィエルとの面識はないんだよね。リィエルの噂は聞いてたけど。

 

「ったく、状況を見ろよバカが!!俺との決闘したかったなんて今じゃなくて良いだろうが!」

「だって、ある人が言っていたから。いつ決闘するの?今でしょ?」

 

「やかましいわ!!」

 

グレンはリィエルにガミガミと説教をしていた、これじゃまるで兄妹だな。あんな妹いらんが。

 

「グレン痛い、こんなか弱い女の子に暴力を振るうなんて。」

 

「大剣を振り回して建物や地形を破壊する女の子は女の子じゃない。マウンテン・ゴリラって言うんだぞ。」

 

「「……。」」

 

ルミアとテレサは状況に付いていけずに唖然とした表情をしてるな。

 

「お前がハヤトか。まさかグレンと同じ所にいたとはな。」

 

「ん?俺の事知ってんの?」

 

「お前は特務分室の中でも有名だからな。知らない人はいない。」

 

わあお、俺ってば有名人!!まっ、あんだけ派手にやればそうなるか。

 

「これからどうするグレン?」

 

「そうだな、取り敢えずセリカの所まで行ければいいんだが、それをどうするかだ。」

 

「考えても仕方ない。私がいい作戦を思い付いた。」

 

リィエルが作戦?嫌な予感しかしねぇ。

 

「まず私が敵に正面から突っ込む。次にアルベルトが敵に正面から突っ込む。次にハヤトが敵に正面から突っ込む。最後にグレンが敵に正面から突っ込む。」

 

要するに強行突破ってことですねわかります。ってわかりたくねえ。

 

「お前は脳ミソも筋肉で詰まっているのか!?」

 

「あうあう、痛いグレン。」

 

「いたぞ!!反逆者達だ!!」

 

グレンがリィエルの頭をグリグリしながらシェイクをしていたら騎士団に見付かった。

 

「アルベルトが軍用魔術を使ったから見付かった。」

 

「「いや、お前のせいだからなリィエル。」」

 

あーもー、リィエルのせいで敵に見付かった。しょうがねぇな。

 

「グレン、リィエル、アルベルト、ルミアとテレサを頼むわ。」

 

「ハヤト、お前囮になるつもりか!?」

 

「そうでもしねえと全滅まではいかなくても不利な状況になるだろグレン。」

 

騎士団の兵士は50人、いやもっと増えるか。

 

「私が斬る。」

 

「いや、ここは俺一人で十分だ。他の所でやってくれリィエル。」

 

「ん、わかった。グレンの親友の貴方の言うことを聞くことにする。」

 

「ハヤト先生!!無茶ですよ!!」

 

テレサが俺にそう言ってくるな。いや、無茶ではないんだけど。

 

「大丈夫だってテレサ、俺は死にはしないからさ。」

 

「そういうことではありません!!私は心配なんですよ!!」

 

「それはどうも。でも本当に大丈夫だからな。」

 

俺はテレサに笑顔でそう言う、するとテレサははっとした表情をしていた。

 

「まさか、あの時の人って。」

 

「当て身!!」

 

「うっ!」

 

俺は動揺しているテレサの首の後ろをチョップして気絶させる。悪いな、こんな方法しか思い付かなくて。

 

「グレン、丁寧に運べよ?」

 

「わーったよ。ほれ、ルミア行くぞ。」

 

「分かりました、ハヤト先生、無理しないでくださいね!」

 

「貴方は私が斬るから。」

 

俺は気絶しているテレサをグレンに渡す。受け取ったグレンはルミアとリィエルを連れて競技場へ走っていった。

 

「アルベルト、早く行けよ。」

 

「ハヤト、こんなところでくたばるなよ?」

 

「当たり前だ。」

 

アルベルトはそう言った後、グレンの方へ走っていった。

 

「反逆者め!!仲間を逃がしやがって、追え!!」

 

「そうはいかねーんだよなぁ。」

 

俺は近くを通り抜けようとする兵士を刀で斬り捨てる。殺してはいないからな。

 

「貴様!!何度も何度も邪魔しやがって!!」

 

「悪いな、ここから先は通行止めだ。」

 

「ちっ、相手は一人だ!!囲んで斬り捨てろ!!」

 

おうおう、数で挑めば俺に勝てると思ってんの?健気だねぇ。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

「アホだなお前ら。月夜に沈め、朧月夜!!」

 

俺は囲んで攻撃をしてきた兵士達に向かって回転斬りをし、周囲に吹き飛ばす。

 

「怯むな!!殺れ!!」

 

「殺られはしねえんだよ。」

 

向かって来た兵士にボディブローを放ち、怯んだ隙に蹴り飛ばす。続けて頭を掴み、集団に向けて投げ飛ばす。

 

「もらった!!」

 

「残念、残像だ。」

 

後ろから剣で刺そうとしてきたから、それを左右のステップで回避して斬り捨てる。今のステップはアラウンドステップって言うぞ。

 

「これならどうだ!!」

 

盾持ちがやって来たか。盾持ちが俺の攻撃を防いで、隙が出来たら他の奴が攻撃か。

 

「けど、俺には通用しないんだぜ。ぶっ飛べ、烈破掌!!」

 

盾持ちの盾に左手を乗せ、そこから衝撃波を放って吹き飛ばす。

 

「なんなんだよこいつは!?」

 

「どけぇぇ!!蜂の巣にしてやる!!」

 

むっ、弓兵部隊がやって来たか。つーかそこまでしてまで反逆者を殺したいのかよ。

 

「放てーーーー!!」

 

「よっと、ほっと、うげっ、刺さった!!」

 

俺は飛んでくる矢を刀で打ち落としたり、避けたりするが、何本か刺さっちまった。

 

「何故避けられる!?」

 

「いやだって、弓矢って銃弾よりは遅いから避けれるだろ?全部は無理だったが。」

 

銃弾を飛び交う中で突っ込んで行った経験があるからな。どうってことはない。

 

「くそ、第2部隊用意!!」

 

「打たせるわけねえだろ、カチカチツルツルピキピキドカーン?」

 

「貴様、何だその言葉は!?何処までも舐めやがぎゃぁぁぁ!!」

 

第2部隊の足元に魔法陣を展開させ、そこから出てきたでかい氷の中に閉じ込めて凍らせる。

 

「インヴェルノ、人の詠唱は最後まで聞くんだな。」

 

「出でよ赤き獣の王!!」

 

「マジかよ!!」

 

後ろから詠唱の声が聞こえたと思ったら爆炎に巻き込まれた。あっついわ!!

 

「ゲホッ!!ゴホッ!!」

 

「今だ!!」

 

全身に火傷を負って怯んだ隙を狙って兵士達が斬り掛かってきやがった。

 

「ッ!!断空剣!!」

 

俺は回転して飛び上がりながら、竜巻を発生させて兵士達を地面に叩き付ける。

 

「はぁ、はぁ、兵士はこれで一通り行動不能にしたか。」

 

にしても、さっきのクイック・イグニッション。あれは兵士がやった訳じゃない。おそらくあの女だろうな、余計な事しやがって。

 

「やめだ、考えたら火傷の傷が痛む。あっ、今競技祭どうなってるかねぇ?」

 

腕時計のあるボタンを押してと、ふむ、今は決闘祭の最中か。

 

「急いで戻らねえとな。何が起きるかわからねえし。」

 

ポケットの中に確かグミが、げっ!全部のグミが黒焦げになってやがる!!

 

「ええい!!適当にこれでいいや!!」

 

さてさて、選んだグミはどんな味かね。ん、ミックスジュースみたいな味か。

 

「よし、競技会場に行くか。」

 

時折兵士の叫び声や、兵士が宙を舞っているのが見えるんだが、リィエルの仕業だよな絶対。

 

※※※※※※※※

 

「取り敢えずは、競技会場に着いたんだが、何故表彰台に結界が張られてるんだ?」

 

結界の周りにいる兵士や生徒達に気付かれないように結界に近付く。

 

「そういうことかよ。」

 

中にいたのは、首のブローチをまじまじと見ている女王陛下と、腕を組んで立っているセリカ、泣き崩れているルミア、ルミアを励ましてるテレサがいた。

 

「しかもグレンとゼーロスは戦闘中、恐らくグレンは女王陛下の呪殺具を解除しようとしてるが、ゼーロスが阻止してるんだな。」

 

グレンが女王陛下に危害を加えようとしている風に見えるのかあのジジイは。

 

「ったく、周りをもう少し見ろってんだジジイ。」

 

この結界を壊して中に入らねえとな。でもこの結界強力なんだよな。あれを使うか。

 

「蒼海の神姫、未知なる道を切り開け!!シアンディーム・エクシード!!」

 

刀の先から螺旋状に回転した水のレーザーで結界を貫き、グレンに止めを刺そうとしていたゼーロスを吹き飛ばす。

 

「来たか、ハヤト。」

 

「セリカ、もうちっと結界の強度落としてくれない?」

 

危うく結界を貫く事が出来なかったぞ。

 

「廃棄王女の為に、ボロボロになりながらも来るとはな。」

 

「てめぇ、今何て言った?」

 

「生きてはならない筈の廃棄王女の為に命を張る愚か者がいたものだと言ったのだ。」

 

そうかいそうかい、ルミアは死ななくてはならない。そう言いたいんだなジジイ?

 

「異能者は排除しなくてはならない。帝国の為にもな。」

 

「あぁ、やっぱりそうなんだ。私は、生きてはいけないんだ。」

 

「ルミア!!ルミアは生きていいんだよ!!」

 

「ルミア!!あんな野郎の話を鵜呑みにするな!!」

 

テレサとグレンがルミアを励ましてるが、効果は無かった。

 

「ありがとうテレサ、グレン先生、私はもう大丈夫だから……。」

 

「何、するの?」

 

「私の命を捧げます。だから、他の人に手を出さな「ふざけるな!!」えっ。」

 

異能者は生きてはならない?いらない王女だから殺しても構わないだと?

 

「勝手に決めんなよ、ルミアの人生を、てめえらの都合で勝手に決めてんじゃねえよ!!てめえは女王陛下を守るために仕えているんだろ!?だったら、その女王陛下の娘も守らなきゃいけねえんじゃねえのか!?」

 

「貴様!!口の聞き方に気を付けろ!!」

 

「ルミアもルミアだ!!自分の命を簡単に差し出すんじゃねえよ!!もっと生きていたいだろ!?もっと友達と遊びたいだろ!?ルミアはどうしたいんだ!?」

 

「ハヤト、先生。」

 

「生きたいんだったら助けを求めろ!!それでも死にたいんだったら勝手にしろ!!けど、ルミアはどうしたいんだ!?本当の気持ちはどうなんだ!?自分で選んでみろよ!!」

 

「私は、私は、もっと生きていたい!!クラスの皆ともっといたい!!先生達の授業をもっと受けたい!!お母さんと仲直りしたい!!もっと幸せな時間を過ごしたい!!だから、助けて!!」

 

「「任せろ!!」」

 

ルミアの本心を聞いた後、グレンと俺はルミアの前に立つ。

 

「グレン、俺はあのくそジジイの相手をする。隙が出来たら愚者の世界で呪殺具をなんとかしろ。」

 

「わかった。そっちは大丈夫なの、か?」

 

くそったれ、久しぶりに頭にきた。本気で戦ってやる。

 

「あの廃棄王女を殺す前に貴様から殺す。」

 

「やってみろよクソジジイ。てめえなんかに負けねえよ。」

 

そう言い、俺とゼーロスは激突する。



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10話

「ふん、貴様腕が落ちたのではないか?」

 

「うっせぇ、全身火傷に刺傷複数、少しは動きが鈍くなんだろ!!」

 

俺はゼーロスと刀と剣をぶつけ合いながら話す。ったく、本当に面倒くせえ!!

 

「貴様は何故立ち塞がる?あの廃棄王女を殺せば解決する。だが何故貴様はそれを許さない?」

 

「んなもん一つに決まってんだろ!!教え子を黙って殺させる訳ねえだろうが!!」

 

ゼーロスが俺の心臓に突きをしてくるのを、体を捻って回避し、その回避した反動でゼーロスの腕を斬ろうとするが、バックステップで避けられる。

 

「ふん、あの異能者を庇うなんてな。貴様も愚か者だが、あの廃棄王女の隣にいる学生の方がもっと愚かだ。」

 

「その学生ってのはテレサの事を言ってるのか?」

 

「もちろんだ、学生の身分でこんな死地に飛び込んで来るとはな。愚か者としか言い様がない。」

 

「そうかそうか、取り敢えずその発言取り消せよクソ野郎。」

 

俺はゼーロスに高速の居合い斬りをして剣を吹き飛ばそうとするが、ゼーロスは居合い斬りを受け流して、グレンの方に向かう。

 

「しまった!!」

 

「死ね。」

 

「させるか。てめえの相手は俺だクソジジイ。」

 

グレンとゼーロスの間に割り込んで、ゼーロスの攻撃を受け止める。今のようにグレンが女王陛下の所に近付こうとすると、ゼーロスが一瞬で距離を詰めてグレンに攻撃する。お陰で愚者の世界の範囲内に女王陛下を入れることが出来ない。

 

「すまん、助かったハヤト。」

 

「ちぃ、また邪魔しよって。」

 

「話が終わってねえんだよ。てめえはテレサを愚か者と言ったよな?あいつは愚か者じゃねえ、普通は足がすくんで動けなくなり逃げ出す状況の中、あいつは友達の為に逃げ出さずに体を張ったんだぞ?」

 

15、16の歳の奴が出来ない事をやってのけてる。俺やグレンを馬鹿にしたり、罵ったりするのはどうでもいい。だが、ルミアやテレサを馬鹿にするのは許さねぇ!!

 

「そんな奴を愚か者?てめえの方が愚か者だ!!」

 

「ぬかせ!!」

 

「拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを!!」

 

俺はストームウォールでゼーロスの動きを遅くする。ゼーロスは驚いているようだな。

 

「この魔術はシスティーナとテレサが作った魔術だ。」

 

「学生がこんな改変呪文をだと!?やはりここで殺さねばならない!!」

 

「ハヤト!!女王陛下の呪殺具を無効化したぞ!!」

 

ナイスだグレン、これでクソジジイも攻撃をやめ……しまった!!

 

「小癪な魔術を覚えよって、そんなもの効かぬわ!!」

 

「キャッ!!」

 

「ルミア!!テレサ!!」

 

クソジジイがルミアとテレサを攻撃しようとしていた、くそっ、間に合え!!

 

「死ね廃棄王女!!」

 

「させるかって言ってんだろうがぁぁぁぁ!!」

 

ルミアとテレサの前に立ってゼーロスの突きを受け止める。左肩に刺さり、なんとか受け止めた。

 

「それで受け止めたと思ってるのか?」

 

「何!?」

 

ぐっ、左肩に刺した剣を貫通させてルミアの頭目掛けて攻撃だと!?ヤバイ!!この状態だと守れねぇ!!

 

「危ないルミア!!」

 

「テレサ!?」

 

ザシュ!!

 

「……ち、仕留め損ねたか。」

 

嘘だよな?まさか、テレサが、嘘だよな!?

 

「ぐっ!!ハヤト、大丈夫だ。テレサの頭には刺さってねえよ。」

 

グレンか、右手で剣の軌道をそらしたか。けど、頭にはってことは。

 

「うっ、くっ。」

 

「テレサ!!しっかりして!?今ライフ・アップをかけるからね!!」

 

「……。」

 

クソジジイは無言で剣を俺の左肩から抜き取った。テレサは大丈夫なのか!?

 

「左頬に大きな切り傷、しかもその余波で左肩にも複数切り傷が出来ている。」

 

「そうか、グレン。二人を頼むわ。」

 

「ハヤト、もう武器を納めなさい。これ以上ゼーロスと戦う理由はないはずです。」

 

女王陛下は俺に向けてそう言うが、気付いてねえのかよ。当然か、俺もさっき気が付いたからな。

 

「理由ならあんだよ。クソジジイ、いやエレノア・シャーレット!!」

 

「うふふ、ばれてしまいましたか。」

 

ゼーロスから煙が出て、エレノアが俺にお辞儀をしながら姿を現した。女王陛下とルミアとグレンはびっくりしてるな。

 

「何故、分かったのかしら?」

 

「あのジジイは戦ってる最中に学生、ましてや丸腰の相手に攻撃なんかしねえんだよ。」

 

「あらあら、私としたことが迂闊でしたわ。今後の参考にさせて頂きますわ。」

 

「今後も何もねえよ、ここで殺してやるからな。」

 

俺が殺気を含めた目で睨むと、エレノアは頬を赤くしてこっちを見てくる。

 

「その殺気、いいですわ。でも、存分に味わうのは次回にしておきますわ。」

 

「させるかよ、ルミアやテレサを傷付けておきながら逃げる?逃がすわけねえだろ。」

 

「「ハヤト先生!!その体では無理です!!」」

 

ルミアとテレサがそう言ってきた。俺はルミアとテレサの方を向きながら笑顔で親指を立てる。

 

「心配すんな。俺は大丈夫。」

 

「ハヤト先生はいつも一人で無理をし過ぎです!!人には頼れと言いながらどうして自分は誰も頼らないんですか!?」

 

「ハヤト先生、治癒魔術をかけますからテレサの近くにいてく……。」

 

俺はさっきよりも殺気を出しながらエレノアの方を見る。

 

「あらあら、そんなに殺気を出したら、王女やその友達が意識を失「失せろ、魔神剣。」せっかちな人ね。」

 

エレノアが話してる間に地面を走る衝撃波を放つが、エレノアはニヤリと顔を歪めて何処かに消えた。けど、大体の位置は分かってるんだよゾンビ女。

 

「セリカ、女王陛下を頼む。」

 

「分かった、止めても行くんだろう?だがハヤト、死ぬなよ?」

 

「死ぬつもりなんてさらさらねえよ。」

 

そう言い俺はルミアに治療を受けてもらってるテレサに近付く。

 

「すまなかった、テレサに傷を負わせてしまった。本当にすまなかった。」

 

テレサの傷は大体治ってるが、まだ痛むのかライフ・アップをルミアにかけてもらっていた。

 

「大丈夫とは言いません。でも、覚悟はしていましたから。あと先生?」

 

「何だ?出来る限りの事は聞く。」

 

「止めても行くんですよね?無事帰ってきたら、お説教です。」

 

そう言いテレサは右頬に右手を当てながら笑顔を見せてくる。これ勝っても負けても地獄じゃね?

 

「わかったよ。」

 

「ハヤト先生、心配してるのはテレサだけじゃないんですよ。帰ってきたら私もハヤト先生にお説教しますからね?」

 

「ルミア、母親との決着を着けろよ?」

 

美少女二人からの説教、本当にある意味地獄だこれは。

 

「ったく、ハヤト。死んで俺の仕事を増やすなよ?これ以上仕事が増えるのはごめんだからな。」

 

「グレン、手は大丈夫か?」

 

「ハヤトに比べたらどうってことねえよ。死ぬんじゃねえぞ?死んだらルミアやテレサ、白猫やクラスの奴が悲しむ。そして、シェリーに何て言われるか分からねえぞ?」

 

シェリーの名前を出すんじゃねえよ。尚更死ぬわけにはいかなくなったじゃねえか。死んでシェリーの説教を受けたくねえからな。

 

「俺は後始末する。あのメイドは頼んだ。」

 

「グレン、そっちは任せた。」

 

俺はセリカが結界を一部分解除してくれた所から外に出て、あのゾンビ女がいる所に向かう。その道中で藍色のグミを食べる。これでなんとかなるだろう。

 

「ふふ、来ましたわね。」

 

「易々と逃がすわけねえだろ。」

 

ある路地裏の広い広場で俺はエレノアを睨む。対するエレノアは顔をにやけさせながらこっちを見てくる。

 

「王女を連れ帰る事が出来なかったから、代わりに貴方を連れ帰る事にしますわ。」

 

「丁重に御断りする。飛散せよ、流転の泉、スプレッド!!」

 

エレノアの足下から水を思いっきり噴き出させるが、エレノアは横に飛んで回避しやがった。思った以上に身軽な奴だ。

 

「あらあら、濡れてしまいましたわ。服が肌にくっついてしまってますわ。」

 

「普通の人ならその台詞を聞けば興奮するんだろうが、てめえ相手だと全く興奮しねえよ。」

 

「私の体がそんなに魅力がないんですか?うふふ、正直になってもいいのよ?」

 

エレノアは顔を赤らめて言ってくるが、ゾンビ女には興奮しねえよ。

 

「はぁ、はぁ。」

 

「あらあら、傷口から出血してますわよ?貫け雷槍。」

 

エレノアがライトニング・ピアスを放ってきたのを、体を捻って回避して近付く。

 

「んなもんには当たらねえよ!!噛み尽せ、風牙絶咬!!」

 

エレノアに高速の突きを放つが、左腕で受け止められる。ちぃ、いとも簡単に自分の体を犠牲にしやがった。

 

「いい突きでしたわよ?でも刺した所から刀を抜くのに時間がかかるそうですわね。がら空きですわよ?」

 

「ぐっ!!」

 

左腕をそのままにして右手でボディーブローを放って来やがった。しかもその後、回し蹴りで傷口を蹴ってきやがった!!

 

「あぐっ、て、てめえ。」

 

「いいですわその表情、もっと見せてくださいませ!!」

 

「誰が見せるか!!燃え盛れ、赤き猛威よ、イラプション!!」

 

エレノアに炎の衝撃波を数回放つが、全て上に飛んで回避された。

 

「あら、服が乾きましたわ。私からもお返ししなくてはなりませんね。」

 

そう言いエレノアは突っ込んできて、近くにあった剣を掴み、斬りかかってくる。

 

「ちぃ、素早くて攻撃が重たい。面倒くぶっ!!」

 

「お喋りしていると舌を噛みますわよ?」

 

攻撃を防いだ瞬間に蹴りを放って来やがった。くそ、いくらグミである程度回復したとはいえ、体が思うように動かねぇ。

 

「私、天才らしくて、ある程度の事ならなんでも出来るんですのよ。」

 

「憎らしい才能だな、ゴホッ、ゴホッ!!」

 

「マナ欠乏症になってますわよ?全盛期の半分の実力になったとはいえ、貴方が手負いの身では無かったら勝ち目はありませんでしたわ。」

 

へっ、本当だよ。手負いじゃなかったらぶちのめしてやったのによ。

 

「大人しく連れ去られてくれれば、痛い目に合わずに済みますわよ?」

 

「ほざきやがれ、誰がてめえなんかに連れ去られるかよ。」

 

「強がっても無駄ですわよ、抵抗する力が残ってないのは分かってますわ。今なら貴方を歓迎致しますわよ?」

 

そう言いエレノアは手を差し伸べてくる。今度は勧誘かよ。

 

「そうか、そう来るのか。」

 

俺は差し伸べて来たエレノアの手を掴み、立ち上がりながらエレノアを壁に投げ飛ばす。

 

「なっ!!」

 

「予想外って顔してるぜ?俺がてめえを投げ飛ばしたからか?」

 

「いいわ、ますます貴方に興味を持ちましたわ。是が非でも連れ去って私の傍に置いておきたいですわ!!」

 

「それは聞けねえな。さて、時間的にそろそろ来る頃か。」

 

俺がそう言った瞬間に、体から緑色のオーラが出始める。ようやくなったか、久しぶりに使ったから時間がかかっちまったな。

 

「へぇ、それはなんの魔術、いやなんの魔技なのですか?」

 

「これはオーバードライブって言ってな、色々な能力を底上げする技なんだよ。見た目は緑色のオーラを纏った風にしか見えねえけど。」

 

これはlevel2だ。level1は青色のオーラを纏う。

 

「また私の知らない魔技、次はどんなものを見せてくれるんでしょうか?」

 

「見せてやるよ、今の最大火力をな。てめえは殺しても再生するんだったな。だったら、分解しちまったらどうなるんだろうな?」

 

俺がそう言うと、エレノアは驚愕の表情を浮かべた。俺が今からやることを予想できたか?

 

「っと、そのまえに。茨よ、アイヴィーラッシュ!!」

 

「チィ!!」

 

エレノアの足下から茨の根や茎を出現させて、エレノアの動きを封じる。これでゆっくり詠唱出来るな。

 

「我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに。」

 

「馬鹿な!!魔技開放している間は魔術は使えないはず!!」

 

「ただ出力が大幅に落ちるだけだ。けど、オーバードライブを使った時は関係ねえ。ぶっ飛びやがれ有象無象!!黒魔改、イクスティンクション・レイ!!」

 

エレノアに全てを分解生滅させる巨大レーザーを放つ。これも切り札の1つだったんだけどな。

 

「はぁ、はぁ、もう無理だ。もう何も出来ねえ。」

 

オーバードライブも解除され、意識を保つのがやっとだ。これで復活とかさせられたら終わりだ。

 

「うふふふふ、素晴らしい、素晴らしいですわハヤト!!」

 

「まさか、冗談だろ?」

 

後ろからグジュグジュと生々しい音が聞こえてきたから振り向いたら、エレノアの体が再生していた。冗談はよしてくれよ本当に。

 

「咄嗟に服を脱ぎ捨てなければ、生滅するところでしたわ。直撃しなくても、余波で容易く殺されましたわ。」

 

「くそ、たれ。当たって、なかった、のか。」

 

エレノアが足音を立てながら近付いてくる。万事休すか。

 

「本当に素晴らしいですわ。さあ、殺された責任を取ってもらう為に来てもらいますわ。」

 

「させない。」

 

ん?リィエルの声。ようやく来やがったか、遅すぎるぞ全く。

 

「まあいいですわ、ここは撤退させて頂きますわ。」

 

「逃がさない。」

 

エレノアが消え去る音が聞こえたのと同時にリィエルの持っていた剣が地面に刺さる音が聞こえた。

 

「間に合ったようだなハヤト。」

 

「おせえんだよ、アルベルト。」

 

もう無理、意識が保てねぇ。後処理はアルベルトに任せて寝させてもらう。おやす。

 

********

 

「ん?食べ物の匂い?」

 

目が覚めると、そこは見知らぬ天井が見えた。どうやら地獄では無さそうだな。

 

「下から生徒達の騒ぎ声が聞こえるってことは、店の2階で寝ていたのか。取り敢えず1階に行くか。」

 

つーかうるせぇ!!どんだけはしゃいでいるんだよ!!傷口に響くわ!!

 

「あっ、先生起きたんですね!!」

 

階段をゆっくりと降りていると、テレサがこっちに気が付き、近付いてくる。良かった、傷は完全に塞がってるし、跡も付いてないな。

 

「ついさっきな、テレサの傷が完全に塞がっててよか「良くありません!!」おっとと、テレサ?」

 

なんかテレサが涙目になりながら俺に抱き付いて来た。すげぇ心配させちまったのか。

 

「死んでしまったかと思ったんですよ!!無理しないでくださいと言ったのに!!」

 

「悪い悪い、けどこうして生きてるから良しとしてく「良くないです!!」わわ、分かったから抱き付く力を弱めぎゃぁぁぁぁぁ!!傷口塞がってねえんだよぉぉぉぉぉ!!」

 

血がブシャーーーって出ちゃうから!!あと骨もミシミシ言ってるから!!

 

「これは無理をしたハヤト先生への罰です。」

 

「洒落にならんくらいの罰だぞ、勘弁してくれよテレサ。」

 

「ふふ、なんだかハヤト先生に抱き付いていると安心します。」

 

俺は抱き枕か何かか?けど、美少女に抱き付かれるのは最高だな!!

 

「テレサ、腹が減って辛いから先に進みたいんだが?」

 

「分かりました。」

 

テレサはそう言って離れ、皆がいる所に向かった。さあて、飯だ!!め、し……。

 

「あっ!ハヤト先生!!」

 

「ん?システィーナか。どうやら楽しんで「ダーーーイブ!!」what?」

 

なんかシスティーナも抱き付いて来たんだが?しかも頭を俺の体に擦り付けてるし、もう猫じゃねえか。

 

「酒の匂いが漂うって事は、カッシュ。説明プリーズ。」

 

「システィーナにブランデーケーキを与えた途端に酔いだして、ワインを頼んで皆で飲みました!!勢いでやりました、後悔は一ミリもしていません!!」

 

「おい誰だ!?高級ワインを頼んだ奴は!?優勝したからって羽目外し過ぎだろ!!」

 

あっ、グレン来てたんだ。グレンは空いてあるワインの銘柄を見てギョッとしてるな。それと競技祭は優勝したんだな。

 

「よーグレン。楽しんでるか?」

 

「さっき来たばっかだよ。しかし、カオス過ぎるだろこれ。」

 

確かにな、皆酔っ払って言葉では言い表せない状況になってる。

 

「グレン、ちょっと猫を預かっててくれないか?」

 

「猫?おい猫ってまさか?」

 

俺はいまだに抱き付いてるシスティーナを引っ剥がして、グレンに投げ付ける。

 

「グレン先生ーーーーーー!!」

 

「やっぱお前か白猫!!うわっ!!抱き付くな頭を擦り付けるな匂いを嗅ぐんじゃねえ!!」

 

システィーナは酔うと素直になり、誰にでも抱き付くか。グレン、システィーナに抱き付かれ照れてやがる。

 

「さて、猫も飼い主の所に戻したし、飯でも食べるか。」

 

適当な席に座ってと、何を頼もうかねぇ。

 

「ハヤト先生、料理を持ってきました。」

 

「サンキューテレサ。おっ!どれも旨そうだ。」

 

グラタンにオムライス、ステーキにビーフシチューか。やべっ、涎が出てきた。

 

「まずはビーフシチューだな、旨すぎる!!」

 

「そうですね、とても美味しいです。」

 

「いや、何でテレサは平然と隣に座って俺が手をつけてる料理を食べちゃってるの?まあいいんだけど。」

 

「でも少し辛いですね。」

 

テレサは近くにあった水を一気に飲み干した。テレサの言う通り少し辛い。水、水っと。ってこれ白ワインじゃねえか!!

 

「まあ美味しいからいいんだけどさ。テレサ、辛かったら食べなくてもいいんだからな?」

 

「…………。」

 

「テレサ?」

 

何か、テレサの顔が赤いな。これってつまり。

 

「先生、ここ熱くないですか?」

 

そう言いテレサは着けているマントを脱ぎ出した。皆の熱気がすごいもんな。

 

「確かに、少し熱いな。」

 

「ふぅ、これも脱いじゃいますね。」

 

テレサ!?えっ、何服を脱ごうとしてんの?まさか、テレサは酔ったら服を脱ぐ癖があるのか!?

 

「いいねぇいいねぇ最っ高だねぇ!!(やめろテレサ!!女の子なんだから人前で脱ぐな!!)」

 

「ハヤト先生、心の声が漏れてますわよ?」

 

仕方なくねウェンディ、テレサはメリハリの利いたモデル体型だからな。そのモデル体型のテレサが目の前で脱ぎ出すんだぜ?興奮せずにはいられねぇだろ!!

 

「ハヤト先生、料理の箸が進んでいませんよ?」

 

「ん?あぁ、ちょっとテレサに見とれていたからな。」

 

俺がそう言うとテレサは頬に手を当てて微笑んだ。これは脳内保存確定ですわ!!

 

「よし、料理を食べッ!!」

 

「腕が痛むんですか?じゃあ私が食べさせてあげますね。」

 

やべっ、下着姿のテレサからあーんしてもらえるなんて。これなんてギャルゲー?

 

「ちょっとテレサ!?取り敢えず服を着るのが先ですわよ!!」

 

「大丈夫よウェンディ、スカートは今履くから。」

 

「それなら安心って違いますわ!!上着も着てくださいまし!!」

 

ウェンディ、口調が安定してないぞ?

 

「はい先生、あーん。」

 

ウボァ!!上は下着、下はスカートを着ているが太股が見えている中でニコニコ顔のテレサからのあーん。破壊力有りすぎだ!!

 

「ん、最高に旨いよテレサ。」

 

体を張った甲斐があったなぁ。顔がにやけちまうよ。

 

「ハヤト先生。」

 

「ん?どしたテレサ?ってその姿で腕に抱き付くのは勘弁してくれ。san値がゴリゴリ削られるから。」

 

「これも無理をしたハヤト先生への罰の1つですよ。」

 

罰?むしろご褒美でしかないんだが?ってヤバイヤバイヤバイ!!理性が崩壊する!!とりま深呼吸して落ち着こう。あっ、テレサの体柔らけえな。

 

「まだまだ料理はありますから。しっかりと食べてくださいねハヤト先生?」

 

「もしかしなくても、ずっとあーんをしてくれるのかテレサ?」

 

「はい。あとハヤト先生、頭を撫でてくれると嬉しいです。」

 

なんなのテレサ!?俺を萌え殺す気なの!?

 

「こうか?」

 

「はい、ありがとうございます♪」

 

やっぱりテレサの笑顔は素晴らしいな。さあて、宴は始まったばかりだ。楽しみまくるぜ!!



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11話

お久しぶりです。執筆意欲が湧いたので投稿します。あと、技とかの解説ってあった方がいいんでしょうか?


「ここの店には、おっ!リンゴが安いな。」

 

どーもどーもハヤトだ、魔術競技祭の打ち上げは特に何事もなく終わったぞ。まあ、グレンが口から魂を出していたけどな!

 

「いらっしゃい兄ちゃん!兄ちゃんが来るって事はあれが必要なんだな!?」

 

「そうだよ店主、在庫はたくさんあるか?」

 

「バッチリよ!!だからじゃんじゃん持ってけ!!」

 

今は八百屋でリンゴを大量に買っている所だ。しかもこの店主、俺が大量のリンゴを買う日を理解してるらしく、その日は八百屋からリンゴ屋になるんだよな。

 

「よっと、これくらいあればいいか。店主、ありがとな。」

 

「いいってもんよ!!」

 

まあ、俺が値段以上のお金を出すからな。しかもこの八百屋に来る客も俺がリンゴを大量に買うことを理解してるんだよな。

 

「店主、また次も頼むぜ?」

 

「もちろんだ!!また頼むぜ!!」

 

気前のいい店主は嫌いじゃないぜ。さて、リンゴを10箱買ったからな、今はでっかい台車にリンゴ箱を乗せてるぞ。

 

「転送魔術とかあったら便利なんだけどな。」

 

前にやってみたけど、思いもよらない方向に向かって行って全ておじゃんになったからな。俺に転送魔術の才能はないようだ。泣きたい。

 

「さて、リンゴも買ったし、後は「ハヤト先生?何しているんですか?」げっ。システィーナ。」

 

「げっ、とは失礼ですね。って何で大量のリンゴを買ってるんですか!?」

 

「ハヤト先生、買い占めでもするんですか?」

 

台車を押していたらシスティーナとテレサに会った。何でこの日にエンカウントするんだよ。

 

「違う違う、ある物を作る為に必要なんだよ。っと次はこの店だな。」

 

リンゴの次はオレンジが必要だからな。さてさて、あるかなっと。

 

「あっ!ハヤト先生!!ハヤト先生も買い物ですか?」

 

ルミアにもエンカウントしちまったよ。今まであれを作るときに会ったことねえんだけど。

 

「ルミア、買い物は終わったの?」

 

「うん終わったよシスティ。ハヤト先生は何を買いに来たんですか?」

 

「ちょっと果物をな。そうだ、せっかくだから手伝ってくれね?」

 

流石に一人で運ぶのは辛いからな。

 

「どうしてですか!?私達が手伝う理由が見当たりません!!」

 

「まあまあシスティ、手伝ってあげようよ。」

 

「ルミアの言う通り、手伝ってあげたほうがいいんじゃないかしら?」

 

全く、生意気娘は可愛くねえな。グレンには素直になれねえくせに。

 

「ルミアとテレサがそこまで言うんだったら手伝ってあげるわよ!」

 

「どうも、さて、まだまだ買うものはたくさんあるからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後

 

「うう、重い……。」

 

「ほらほらどうしたシスティーナ?そんなんで弱音吐いてたらグレンに笑われんぞ?」

 

あの後、オレンジ、レモン、パイン、ピーチ、グレープ、メロンを大量に買ったぞ。台車に一箱だけ乗せられなかったらシスティーナにもってもらってるぞ。

 

「なんで私なんですか!?」

 

「ルミアは天使、テレサは可愛い、システィーナは生意気。だからシスティーナに持たせてる。」

 

俺がそう言った瞬間にルミアは苦笑いをし、システィーナはジト目で俺を見て、テレサは少し顔を赤くしてるな!

 

「そういえばテレサ、いつも一緒にいるウェンディはどうしたの?」

 

「ウェンディは家の用事で今日は出掛けられないのよ。」

 

「そういえばテレサ、いつもウェンディと一緒にいるよな?なんでだ?」

 

本当になんでだろうな?何か昔の知り合いとかなのか?

 

「ウェンディと一緒にいるのは、ウェンディと一緒なら自分の力が最大限に出せるからです。」

 

「まあウェンディはドジだけど、それが無くなればシスティーナにも負けない実力を持ってるからな。」

 

「ふふ、ハヤト先生は分かっていますね。」

 

本当に見る目があるぜテレサ。あと左手を頬に付ける癖がいいね!おっ、家に着いたな。

 

「先生?まさかだとは思いますけれど、あそこのボロボロのアパートが先生の家じゃないですよね?」

 

「えっ?そうだけどシスティーナ?」

 

目の前にあるアパートは建物に亀裂が入っていたり変色したりしていて今にも崩れ落ちそうな見た目をしてるからな!

 

「じょ、冗談はよして下さい先生……。」

 

「冗談じゃないんだなテレサ。公園に住むか、このオンボロアパートに住むか悩んだ結果、ここに住むことになったからな。」

 

まあ、貴族の娘だったり貿易商の娘だったり王女には縁のない建物だけどな!

 

「おうおうおう?てめえら人の敷地に何勝手に入って来やがってんだゴラァ?」

 

「せ、先生!!あのモヒカンの男性は一体何者なんですか!?」

 

中に入ろうとしたらモヒカン頭のごっついお兄さん達に囲まれました。ここ世紀末の世界じゃねえはずなんだけど?

 

「知らん、どうせ中二病を拗らせた結果ああなったんだろう。」

 

「ふふ、ああはなりたくないですね。」

 

「あはは……。」

 

テレサとルミア、意外と胆力あんなぁ。システィーナはびくびくしてんのに二人は苦笑いしてやがる。

 

「黙ってれば好き放題言いやがって!!おいお前ら、さっさと男を殺してその荷物と女を奪い取るぞ!!」

 

「「「ヒャッハー!!ハーレム野郎は消毒だぜぇぇぇぇ!!」」」

 

モヒカン野郎達はボウガンに釘バット、剣等を持って襲いかかってきたな。いや本当に何処の世紀末世界出身だよお前ら?

 

「ハヤト先生!!どうするんですか!?」

 

「どうするもこうするも、迎え撃つしかねえだろシスティーナ。」

 

「で、でも!!」

 

やれやれ、メンタルは本当にダメダメだなシスティーナは。何も殺せとは言ってねえぞ?

 

「テレサ、ルミア、奴等の足止め頼んだ。」

 

「分かりましたハヤト先生。」

 

「テレサ!?だ、大丈夫なの!?」

 

「あのテロリストの事件や競技祭の事件の時に比べれば全然平気。」

 

うわぁ、テレサが逞しくなってきてるな。俺は嬉しいぞ!

 

「そうだね、よくよく考えてみればそうだね!」

 

「余所見は厳禁だぜお嬢ちゃん達!!」

 

「お前がな、『魔技解放』、風よ起これ、サッと吹いてサッと切れ、ウインドカッター!」

 

ルミアに剣を振り下ろそうとしていた野郎を風のカッターで吹き飛ばす。殺人?大丈夫だ、非殺傷性設定にしてあるからな!

 

「くそっ!魔術師か!」

 

「だが男と女を同時に襲えば大丈夫だ!ものども、かかれーー!!」

 

リーダーらしき人物から号令が放たれて野郎供が襲い掛かってくる。あーもう面倒くせえな。

 

「まとめて吹き飛ばすか、神聖なる雫よ、この名を以て悪しきを散らせ、ライトニングブラスター!!」

 

俺の目の前から無数の雷を発生させてモヒカン野郎達に浴びせる。便利だなこの魔法。

 

「野郎!男はもういい、女だけ狙え!!」

 

いい判断だな、だが無意味だ。ルミアとテレサは大人しくやられねえぞ?システィーナは知らん。

 

「き、来たわよルミア!テレサ!どうするのよ!?」

 

「ちょっと痛いけど、我慢して下さい!!テレサ、お願い!」

 

「任せて!拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢も安らぎを!」

 

おっ!テレサがストーム・ウォールでモヒカン野郎達の動きを止めてる隙に、ルミアがショック・ボルトで気絶させていってるな。

 

「システィ、システィも手伝って!」

 

「わかったわ!大いなる風よ!!」

 

システィーナのゲイル・ブロウも加わってモヒカン野郎達は次々と気絶していくな、ざまぁ!

 

「この小娘供が!!もういい、あれを出せ!」

 

「あれ?って嘘!?火炎放射機!?」

 

いや、マジで世紀末世界に帰れってモヒカン野郎。場違いな雰囲気半端ねえからさ。

 

「てめえらまとめて消毒だぁぁぁぁぁ!!」

 

「せ、先生どうするんで「大丈夫、あれ不良品だから。」すか?」

 

俺がそう言った瞬間に、火炎放射機を持っていた野郎が爆発した。汚ねえ花火だ。

 

「お、終わったの?」

 

「終わったな。おいモヒカン野郎、襲うのは構わねえけど諦めた方がいいぞ?」

 

「ちくしょう!覚えてやがれ!今度会ったときはこうはいかねえからな!」

 

モヒカン野郎達はそそくさと逃げていったな、つーか捨て台詞を吐いて逃げるなよ。雑魚丸出しじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハヤトの部屋

 

「ふぅー、なんとかなったか。」

 

「それよりもハヤト先生!何故火炎放射機が爆発したんですか!?何故私達が襲われたんですか!?」

 

「細工しといたから。たまにここに住んでる奴を襲って身ぐるみを剥いで金にしようとしてる奴のターゲットにされたから。さて、何もない部屋だけどゆっくりしていてってくれや。」

 

今は俺の部屋にいるぞ。まあ、色々と物はあるんだけどな!

 

「中は意外と綺麗なんですね。」

 

ルミアがキョロキョロと辺りを見渡してるな、まあ外見はオンボロだけど中は綺麗だからな。

 

「色々な本と、これは何ですか?」

 

テレサが緑色のグミが入った箱を持ってきた。やっぱ興味あるのか?

 

「それはグミだな。」

 

「見れば分かります。でも普通のグミじゃないような。」

 

「当たり、それは身体の耐久力を一時的に上げるグミだ。」

 

まあ、本当に一時的だから使うことはほぼねえけどな。

 

「さて、今からグミ作りを始めるが、見ていくか?」

 

「どうしてグミなんか作ってるのよ?ハヤト先生の趣味ですか?」

 

「回復アイテムを補充するためだシスティーナ。」

 

何処かのメイドのせいでほぼ全てのグミが台無しになったからな。

 

「よし、作るか。」

 

まずはグミの実とリンゴを銀色のポットに突っ込んで5秒待つ。

 

「ほい、リンゴ味のグミの完成。」

 

「早くないですか!?ただポットらしき物にリンゴと何かを入れただけですよね!?」

 

1からグミを作ると思ったか?そんな面倒くせえことしねえよ。

 

「これは素材を突っ込んだら自動的に合成してくれるポットだ。欲しいかシスティーナ?あげねえけどな!」

 

「いいいりませんよ!!」

 

「ハヤト先生、何種類のグミを作るんですか?」

 

ルミアは出来たアップルグミをまじまじと見詰めながら聞いてきたな。

 

「そうだな、オレンジのグミとレモンのグミ、パインのグミとピーチのグミ、グレープのグミにミックスグミにミラクルグミだ。」

 

「結構作るんですね、先生、出来たグミをいくつか貰っても良いですか?」

 

「いいぞ、ただ貿易に利用しようとは考えないでくれよテレサ?果物がなくなっちまう。」

 

俺がそう言った瞬間にテレサは珍しくオロオロしていた。絶対親に言って貿易に利用しようと考えてたな?

 

「もしかして先生、大量に買った果物はそのグミを作る為に買ったんですか?」

 

「そういうこと、じゃあこれからグミ作りに専念するから帰ってもいいし、ここでゆっくりしてもいいぞ。」

 

まあ、クローゼットさえ開けなければ何しても構わ「わっ!このクローゼットの中、たくさん武器がありますよ先生!?」開けるなよルミア!!

 

「おーいルミアくーん?何で人家のクローゼットを勝手に開けてるのかなぁ?」

 

「えっと、好奇心でつい……。」

 

そう言いルミアは舌を出して肩をくすめた。王族なのに意外とやんちゃなんだな。

 

「はぁ、まあ見ちまったもんは仕方ねえな。」

 

「何でこんなにも大量に武器があるんですか先生!?」

 

「これは剣、これは弓、これは、剣?ブーメラン?」

 

システィーナ、驚くのは結構だけどゲイル・ブロウを放とうとするのを止めような?あとテレサ、色々武器を手にとってまじまじと見すぎだ。

 

「それと、この写真は、ハヤト先生と誰?」

 

「テレサ何見てるの?わぁ!グレン先生とハヤト先生がキリッとした顔で写ってる!!システィも見る?」

 

「わわ、私はいいわよ!でもあいつのキリッとした顔、って何考えてるのよ!?」

 

テレサが手にしてる写真は、特務分室時代の時の俺とグレンが写ってる写真だな。

 

「それともう一枚が、ハヤト先生と、私!?」

 

「本当だ、ハヤト先生と一緒に写ってる人、テレサにそっくりだね。」

 

っち、その写真を見られたか。テレサには見られたくなかったんだけどな。

 

「違う違う、俺と一緒に写ってる人は俺のパートナーだった人だ。」

 

「だった人?つまり今はもういないってことですか?」

 

「……ああ。あいつは逝っちまったよ。」

 

俺がそう言うとテレサとルミアは気まずそうな表情になっていたな。だったら聞くなよったく。

 

「ハヤト先生、もしかしてハヤト先生が魔術嫌いなのって、この人が関係しているんですか?」

 

「そうだよ。」

 

「じゃあグレン先生も魔術嫌いなのって……。」

 

システィーナの考えてる通りだよ。パートナーを守れなかった、それが決定的になって魔術嫌いになったからな。

 

「システィーナ、ルミア、テレサ、グレンの過去は本人に聞くなよ?」

 

「「「分かりました。」」」

 

「けど、俺の過去なら話してやる。何が聞きたい?」

 

「ハヤト先生のパートナーってどんな人だったんですか?」

 

そこ聞くのかよテレサ?まあいいけどさ。

 

「テレサみたいな性格だったんですか?」

 

「だったら良かったんだけどなぁ。名前はシェリー・パース、年齢は俺と一緒だな。そして何よりの風呂嫌い。」

 

「「「えっ?」」」

風呂嫌いって言った瞬間に三人はポカンとした表情になったな。何か面白いから写真撮っとこ。

 

「お、女の子でそんな人いるんですか?」

 

「いるんだよルミア、間違いであってほしかったと何度思ったことやら。」

 

「わ、私はお風呂はちゃんと入りますよ!?」

 

うん、知ってるぞテレサ。シェリーのお蔭?で他人がどれだけ風呂に入っていないかが分かるようになったからな。テレサは昨日風呂に入ったみたいだな!

 

「そしてシェリーは猫みたいな奴だったよ。」

 

俺がそう言った瞬間にテレサとルミアがシスティーナの方を向いたな。

 

「わ、私は猫じゃないわよ!?」

 

「その生意気さが猫っぽいんだがな。まあシェリーは猫でも野良猫だな。」

 

気が付けばあっちへフラフラこっちへフラフラ、かと思えば突然俺の部屋に乱入。でかい野良猫を飼ってるみたいだったな。

 

「しかも色々な所に強引につれ回されたりして、後始末が大変だったな。」

 

まあ、楽しかったから良かったんだけどなぁ。

 

「そんな奴だったけど、頭は良くて魔術の腕も良かった。」

 

「そんな人がどうして亡くなったんですか?」

 

「俺の力不足のせいだ。あの時、判断がもっと早ければ。」

 

悔いた所で過去は何も変わらないのは分かってるんだけどな。けど、何でもっと早く助けれなかったのか。

 

『ハヤトは悪くないよ、これはヘマをしたあたしのせい。』

 

シェリーはそう言ってくれたけど、明らかに俺のせいなんだよな。あと1秒、ほんの1秒早く行動出来ていたら!!

 

「ハヤト先生……。」

 

「それから俺はこの世界に嫌気が差して引きこもった。はい、おしまい。」

 

「ごめんなさい先生、軽い気持ちで先生の過去を検索してしまって。」

 

「いいんだよルミア、誰かに話したらちょっと楽になった。さて、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 

もう夕方だからな。夜までいさせて親御さんに変な疑いをかけられたくねえし。

 

「そ、そうだね。システィ、テレサ、行こ?」

 

ルミアはそそくさと立ち上がってテレサとシスティーナの手を引っ張って行ったな。

 

「……シェリー、お前はどう思ってるんだ?のうのうと生きてる俺を許してくれてるのか?」

 

問い掛けた所で何も返事は帰ってこない。久し振りに酒でも飲むかな。

 

「……くそが、最高に不味い。バナナパイも、不味いじゃねえか。」

 

あいつの好物、また一緒に食べてえなぁ。



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