多分これが一番… (ひろっさん)
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多分、これが一番最初の方だと思います。
神様転生


6/28 久しぶり過ぎてシステムを思い出すのに時間がかかりますた。


「あなたには選択肢が与えられます。

同じ世界へ記憶を失っての転生か、別の世界への記憶を保ったままの転生か」

「……」

 

6枚羽のロリ巨乳少女が、ロウソクの灯火のような魂に語りかける。

 

「別の世界というのは、あなたの記憶にある『(ファイナル)(ファンタジー)8』の、平行世界となります」

「……」

 

魂は何も応えない。

 

「ただし、あなたが何も手を下さなかった場合、その世界は他の平行世界を巻き込んで滅びます」

「……」

「私達管理者の側としても、それは避けたいところであるため、あなたに選択肢、および報酬にもなる特典、その世界のバランスが崩壊するレベルの力を与えて、連鎖滅亡を食い止めたいのです」

「……」

 

魂が応えないため、天使のようなロリ巨乳少女による一方的な説明は続く。

 

「連鎖滅亡の理由は、正確には隣の平行世界にあります。

『FF5』の平行世界にてエクスデスが戦いに勝利し、『無』の力をより強く支配したエクスデスが、『エヌオー』の力を借りて隣の平行世界へ渡る方法を得てしまったのです」

「……」

「単に平行世界を渡るというだけの力なら、我々も容認しましたが、エクスデスは行き先の被害を考えていません。

二つの世界は同じ『無』を内包しており、別世界の『無』を大量に流入させると、平行世界そのものが破裂し、別の平行世界を破壊する危険があるのです」

「……」

「しかし、私達管理者が手を出すと、その平行世界にて余計に酷いことが発生してしまう可能性が出てきます」

「……」

「ですから、あなたに力を与えて、問題を解決していただくのが最上であると判断いたしました」

「……」

 

徐々に、ロリ巨乳天使も演説めいた話が気持良くなってきたようで、魂が無反応であることの意味を深く考えなくなっていく。

 

「あなたにも選択肢はあります。

生まれ変わりは宗教によっては禁忌となることがありますから、無理強いはできません。

また、あなたが倒すことになるエクスデスは非常に強く、世界のバランスを崩壊させる程度の力では対処できないかもしれません」

「……」

「あなたに勇気があるのなら、特段の理由がないのなら、是非とも私達に力を貸していただけませんか?」

「……」

「……?」

 

ここで、まったく反応がないことにようやく気付いたらしく、小首を傾げる。

 

「アレ?」

 

不安に駆られながらも、ロリ巨乳天使は慌てて魂の状態をチェック。

 

――する寸前に、反応がない理由が判明した。

 

「スヤァ」

「」

 

少女は6枚羽を背中から外して、どこまでも続くように見せている部屋の壁に投げつける。

 

「なんで確認しなかったァァァァッ!!

聞こえてないやつ相手に独り言かまして気持良くなってるって、まるっきりアブないやつだよ!?」

 

頭を抱えて床を転げ回りつつ、ロリ巨乳天使は絶叫した。

 

 

 

「てなことがあってなー」

「起きててんやん」

 

なんの感慨もなく、主人公の短い黒髪少女テレサは、ルームメイトのセルフィとクレアに、自分の転生の記憶を語った。

 

「それで、この世界がゲームになってる世界ってことは、未来のこととかも分かるん?」

「なんか平行世界とかゆーとったし、あたしの知ってる歴史と違ってるんかもしれへんで?」

「おしえておしえて」

 

この時、まだ7歳のセルフィとクレアにとっては、『面白そうな話』程度の認識だった。

 

「じゃあ、テレサって世界救いに行くの?」

「どーかなー。備えるだけ備えとこうって思ってる。

どこ行ったらエエかわからへんし」

「ほなら特訓やね!モンスターに突撃やでー!」

 

いい笑顔で右手を握る茶髪少女セルフィ。

 

「え、いや、あたし情報処理の勉強やりたいんやけど……」

「『ティン』と来た!養成ギプス作ったら、両方鍛えれるやん!」

 

いい笑顔で左手を握る帽子の少女クレア。

 

「え~!まじで!?止めてお願いクレアぁぁぁっ!!いーやぁぁぁっ!!」

 

テレサは悲鳴を挙げながら、2人のパワフルな親友達に引き摺られていくのだった。

 

ちなみに、クレア発案の養成ギプスは、7歳時には早すぎると教員から止められたため、没となった。




――――あとがき

毎度おなじみのひろっさんです。
見ての通り、FF8のオリキャラ二次小説です。

昔、何度か書いたことがあったんですが、FF8のプレイ動画を見ていたら、また書きたくなってきました。
昔のは残ってはいるんですが、かなり黒歴史成分が強く、出す気になれませんでした。

FF8はヒロインに賛否があって、ゲームバランスもいろいろ言われています。
バグもありますしね。

しかし、設定がある程度しっかりしていながら、改変の余地を多く残しているため、二次創作を作りやすいという特徴のある、二次作家にとってはいい素材なんですよ。
この作品で、その辺をしっかり紹介していくことができればと思っています。



――――設定

テレサ・ドゥ:本作主人公で転生者
7歳:女:トラビアガーデン所属:年少クラス
転生特典:???

セルフィ・ティルミット:原作キャラ『プレイヤーキャラ』
7歳:女:トラビアガーデン所属:年少クラス

クレア・プリヴィア:準オリキャラ
7歳:女:トラビアガーデン所属:年少クラス
原作登場『セルフィの親友』


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転生特典

6/28 最初だけは勢いで続く連続投稿。


テレサ・ドゥは転生者である。

神様転生によって、転生特典を与えられている。

 

「その、テンセイトクテンて、これなん?」

「なにこれ、端末?」

「タブレットやね」

 

近未来的な世界観を持ったFF8だが、ある事情から携帯電話、特に電波通信が使用できない。

そのため、セルフィもクレアも、スマートフォンはおろか、ガラケーさえも見たことがなかった。

 

テレサは前世の記憶があるため、慣れた手つきでタブレットを操作する。

これは、彼女が『トラビアガーデン』に引き取られてきた際に、なぜか抱えていたというものだ。

テレサ自身、その辺の記憶はない。

本人としては、気がつくとトラビアガーデンの医務室で目を覚まして、7歳のこの身体になっていたと言ったところ。

 

だから、彼女には自分の素性を示すものが、このタブレット以外に何もない。

もっとも、この世界、この時代はそんな子供も珍しくない。

テレサと違って、自分の素性を示すものが何もない、記憶さえまともに残っていないという子供も珍しくないのだ。

 

「コンピュータみたいやなぁ」

「え、これ、全部画面やけど、どーやって操作してるん?」

「指で、こーやって、ホラ」

 

テレサはルームメイトのセルフィとクレアに律儀に教える。

この時はまだ、彼女は将来のことについてそこまで深く考えていなかったというのもあるが、彼女自身、割と他人を疑わない性格だったのも大きいだろう。

 

「でも、えくすなんたら倒さなあかんのやろ?」

「せやね。コレは便利なんかも知らんけど……」

「まあ、チェックしてみよ。まだなんかあるかもしれへんし」

 

テレサはなぜか魂が眠っていたために、転生する際にロリ巨乳天使?と会話ができず、このタブレット以外の転生特典を知らなかったりする。

 

「なんかブツブツ言ってたけど、聞こえへんかったし」

「やっぱ起きててんやん」

「寝てたよ」

「ホンマにー?」

 

疑いの目を向けるルームメイト2人。

 

どうでもいいのだが、出会って3日目の記憶喪失な少女を相手に、遠慮なくグイグイ寄って来る。

 

「ほら、タブレットで動画見れるねん」

「あー、これ見てたんかー」

「てか、神様もなんでこんなん見せるんやろ?」

「ヒマなんちゃう?」

 

酷い言われようである。

 

「それで、転生特典やねんけど。えーと、確かこっちやったかなー。……あった、これや」

「1つ言ってええかな」

「なんねなんね」

「読めへん」

「へぁ?」

 

よくよく考えれば当たり前だった。

 

この平行世界の公用語は日本語で、テレサは前世で勉強をしていたから読めるものの、そういった土台のない7歳児のセルフィとクレアには、専門用語がズラズラ並んだ説明文が読めないのは、至極当たり前なのだ。

しかも割とネタ全開であり、前世のネタをよく知っているテレサでなければ、おそらく正確には理解できないだろう。

 

「えー、『パラメータアップ』、『原作攻略データ』、『記憶保護』、『エニグマ』。

それとこのタブレットやね。

このタブレットって、状況説明とかも兼ねてるみたい。

なんで『テレサ』って書いてあるんかは分からへんけど」

 

テレサはそれぞれについて一通り解説して聞かせる。

彼女の中に、情報を隠して1人で計画し、完遂するなどという考えは欠片もなかった。

 

ちなみに、『パラメータアップ』は神様からのサービス、『原作攻略データ』はFF8攻略本(アルティマニア)情報、『記憶保護』はGFの記憶障害対策としか書いておらず、大体はFF8攻略本(アルティマニア)のデータベースから検索することになる。

 

「最後のえにぐまってなんなん?なんかの名前っぽいけど」

「スタンドやね。人間を紙にするってやつ」

「……」「……」

 

2人とも、何とも言えない顔をする。

 

「えくすなんたらも紙にできるん?」

「ムリ。怖がらせないかんねんけど、ラスボスよか強いのを怖がらせるって、そんな無理ゲー、あたしにはムリやわ」

「びみょい」

「うん、遠慮ない意見ありがとな」

 

苦笑するテレサ。

 

「まあ、あんまり特典に頼られへんね。だから、自力で鍛えるしかないんやけど」

「とくてんゆーのが頼りになれへんのやね」

「神様に文句言われへんの?

『もうちょいなんかええのくれへんのんか?』って」

「メンドい」

「メンドいって……」

「なんとかできんこともないんよ」

「できるんや?」「えくすなんとかシバけるん?」

 

黒髪少女は頷いた。

 

「この世界の擬似魔法とかGFってやつの特性がエエ感じでな」

 

テレサは何も考えずに情報処理の勉強を選んだわけではない。

 

そこに大きな可能性があるからこそ、である。

元々、彼女には特別な転生特典は必要なかったのだ。

プログラマーである彼女には。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
連載なんて初めてなので、ドッキドキでやっています。

現在、原作開始から10年前の段階で、割とこの時期が都合よかったためにここからスタートとなりました。
この平行世界のエクスデスが超強化されているという情報くらいしかないというのが、本作主人公の現状です。

『エニグマ』は『ジョジョの奇妙な冒険』に出てきたスタンドの名前です。
生物や物体を紙に変えてしまう能力を持ったスタンドですが、どうやら生物が相手の場合は自分が精神的に優位に立ったことを確信する必要があるようです。
ぶっちゃけ、原作通りの相手を恐怖させるという使い方では、肝心のエクスデスに勝てません。
そこをどうにかする必要があるわけですが。

ついでに言うと、セルフィとクレアは7歳児なので、テレサの話を疑ってかかったりしていません。



――――設定

FF8世界(原作)の公用語について。
おそらく英語と思われる。
理由は、魔物に英語名が多く、電波障害の原因である全周波数帯の電波に、英語でのメッセージが流れている上に、看板にも英語が書いてあるから。

この小説の平行世界では日本語としてある。
1つの改変ポイント。


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実験開始

6/29 ちゃんと続くかどうか不安。


「ゾーン突入!」

「甘い!」

「――と見せかけてパス!」

「ひでぶっ!?」

 

テレサはセルフィから顔面パスを食らってひっくり返った。

 

身体を鍛えるのに、最初は走り込みをしていたのだが、校庭にバスケットボールが転がっていたため、ついでに近くのコートでバスケで遊んでいる子供達がいたため、それに混ざることになったのである。

 

もっとも、セルフィが無差別に顔面パスを連発するおかげで、ほどなく追い出されてしまうのだが。

 

「もっと鼻血ブシャーって出るかなって思ってたんやけど」

「意外な危険人物がここにおったわ」

 

とりあえず追い出されたので、また走り込みに移行する。

 

「その辺にロケットランチャーでも転がってへんかなぁ」

 

セルフィが性懲りもなくそんな物騒なことを言い始めた。

7歳児は大体にしてこんなものだ。のど元過ぎれば熱さを忘れる。

 

「ロケランはアレやけど、この後はけっこー派手にやる予定やで」

「え、テレサまで?」

 

言いながら、面白そうなクレア。

 

「うん、最初はどないしても失敗すると思うし、擬似魔法の練習場借りてるんよ」

「ああ、昨日言ってたアレやるん?」

「そゆことやね」

 

ちなみに、小学生な3人は、授業が朝方だけで、午後からは放課後である。

 

 

 

「今日のおやつはー!」

「ずんだもちぃ!」

 

説明しよう!

ずんだもちとは、すりつぶした大豆を餡にした餅のことである。

日本において南東北、宮城を中心とした地域に伝わる郷土菓子なのだ。

 

雪国トラビアでは、糖分を摂取する貴重な食品でもあるため、特に子供達に大人気だった。

その威力は、泣いている子供に与えると泣き止み、ヤンチャな子供がこれを取り上げると脅されると涙目で大人しく従うと言われるほど。

子供達にとっては戦場におけるカレー粉と等価であると言えばその価値が分かるだろうか。

 

「はぐはぐ」「うまうま」「むぐむぐ」

 

もちろん、この貴重な甘味を逃すなど、この3人にはありえず。

 

 

 

おやつの後、甘味にだらけていたお子様2人を引っ張って、セルフィは擬似魔法の練習場に向かう。

練習場と言っても、その辺の石を持ってきて的にするというもので、大きな音が外に漏れないように防音壁で囲われているくらいだ。

 

「派手にやるって楽しみやな~」

「あんまり壊したらあかんぞ」

「ういうい」

 

付き添いの教員にテレサは適当に答えて、準備を始める。

 

さすがに7歳児だけで危険を伴う擬似魔法の練習をさせられず、教員が付き添っているのだ。

テレサが何かやらかすと言っていたのもあるし、セルフィの言動が危なっかし

 

いというのもある。

 

「結局、何をやるんや?」

「こないだ図書室で、『赤魔法』って調べてたんやけど」

「『赤魔法』て、また古いモン引っ張ってきてんな」

「センセー知ってるん?」

「『赤魔法』言うたら、魔法の合成を目指した技法や。

理屈上は威力だけやったら『魔女の魔法』に匹敵するって言われとるんやけど、結局準備に手間がかかりすぎるわ技術的に難しいわで敬遠されてんねん。

最終的にそれを何とかしようとした結果としての高速詠唱って技術が『赤魔法』っちゅうことになっとるみたいやな」

「へー」「ものしりー」

「ワイは先生やがな」

 

言っている間に、テレサは準備を進める。

とはいえ、拳大の石を数個、魔力を込めながら並べていくだけである。

 

「失敗の理由は知ってる?」

「そらぁ、『魔女の魔法』を目指したからや。

擬似魔法自体、まだそんな歴史のある技術やないんよ。

そんなん合成して『魔女の魔法』目指すて、そない上手いことはいかんっちゅうわけやな。

『赤魔法』は、まだまだ開発が始まったばっかりや。

ちょっとひねっただけで、なんぼでも新しい技法になる分野でもある」

「そんなんやったら、なんでみんな挑戦せえへんの?」

 

クレアが尋ねる。

 

「ぶっちゃけ、普通に武器で殴った方が早いからや」

「ぶっちゃけた」「ミもフタもないなー」

「あんまりお勧めはせぇへんよ」

「あんなこと言うてるけど、テレサ、ホンマに『赤魔法』やるん?」

「ひねったらええやん。合成も高速詠唱も『赤魔法』やねんで」

 

黒髪少女は答えた。

 

浅く魔力の籠った10個ほどの小石の1つに手をかざし、詠唱を始める。

 

「“――”『ブリザド』」

 

ほどなく詠唱が完了すると、白い冷気が小石に定着。

さらに詠唱を重ねる。

詠唱時間はそれほど速くない。まだ擬似魔法自体に慣れていないのだ。

 

「“――”『サンダー』」

 

もう1つの擬似魔法は、青白い花火を散らしていた。

そして、蹴っ飛ばす。

 

「あっ!」

 

勢いよく飛んで行った先で白い花火が散り、破裂音と共に小規模な爆発を起こす。

小石は弾け飛び、冷気と電撃を纏った破片が飛び散った。

 

「別の種類の擬似魔法やったらなんか起こると思ってたけど、習って4日目でこれやったら案外エエ威力やな」

 

テレサは呟く。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はバスケとずんだと赤魔法でしたね。
バスケは原作設定で、ずんだと赤魔法は捏造設定です。

テレサは頭がいいの方向性が普通と違う、政治が苦手なタイプとしています。
クレアはまだ常識人で、セルフィはいい意味でネジの飛んだタイプとしています。



――――設定

トラビア:雪国、共和国
アルティマニア情報では、居住に適した土地が少なく、人口の大半がトラビアガーデンの関係者とされている。
トラビアガーデンは世界に3つあるガーデンの内、最も小さいガーデンとされているので、ガーデン自体の収容人数は300人以下、周辺に居住区域を設けていたとしても、1万人には達しないと考えられる。
そのため、トラビア全体の人口も、多くて2万人程度と推測できる。
領土はトラビア大陸の東のトラビアクレーター付近がエスタとの国境で、西はシュミ族の島まで含まれるような書き方をされている。
現実で言えば、ロシアくらいの国土に2万人の人口の国となる。
一応、良質な鉱物資源の採れる鉱山が幾つかあり、エスタとの国境付近にあるトラビア渓谷にある鉱山は世界最大とされる。

大豆:救済食物
幾つか種類があるが、痩せ地でも栽培可能な種が多く、寒冷地、乾燥地でよく栽培される。

この平行世界のトラビアでは他にも同じく寒さや乾燥に強い麦が栽培されており、さらなる農作強化、品種改良などの研究が進んでいる。
この平行世界のトラビアにおける『ずんだ餅』は、実は饅頭の餡を大豆粉で練って作ったもので、厳密には『ずんだ饅頭』と呼ぶべきものである。
ちなみに、甘味成分はリンゴ由来の果糖。
リンゴはバラムから持ち込まれて山脈の麓の斜面で実験栽培されており、トラビアガーデンにも届けられる。

赤魔法:捏造設定
1種類の擬似魔法を複数合成することでランクアップさせる技法。
時間をかければ魔女の魔法に匹敵する威力を発揮させることが可能となるが、逆に言えば準備に時間がかかり過ぎるという欠点を抱えている。

テレサが行ったのは、別種の擬似魔法の合成。
しかも、武器に魔力を込めて擬似魔法を一定時間維持する『魔法剣』の技法も使用した。
別種の擬似魔法の合成に小石が耐えられずに破裂するが、詠唱直後に遠くに蹴り飛ばすことで破裂に巻き込まれるのを回避している。
ただし、実戦で上手く行くかどうかは未知数。

バスケットボール:日本で言う野球
トラビアガーデンで生徒達が熱中するスポーツ。
原作設定で、ゲーム中にもトラビアガーデンにはバスケットボールやバスケットコート、ゴールなどが出てくる。
ちなみに、冒頭のアレは子供が必殺技風に叫んでいるだけ。


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教員泣かせ

6/30 テンションがあんまりよくないらしく、いいネタが思いつかなかった…。


テレサの朝は遅い。

基本的に低血圧で朝に弱い彼女は、主に放課後に練習や実験を行う。

 

授業中は、主に勉強をしている。

転生特典としてタブレットに入っている情報は、所詮は攻略情報である。

近辺の細かい情報など、この世界ならではのことや、原作にない情報などについては分からないことの方が多い。

 

「今日はまた何読んでるんや?」

「『バラムの魔物分布』」

「今は何の時間や?」

「歴史」

「わかっとったら、せめて教科書くらい開いとき。

内容丸暗記してる言うても、周りの目ぇっちゅうもんがあんねん」

「うーい」

 

テレサは大人しく教科書を開く。

 

「ついでに載ってないことも聞け。

100年前に神聖ドール帝国崩壊から10年で今の国境線が大体決定しとるんやけどな、セントラ時代の遺跡っちゅうのが結構残っとる。

調べられとるんも、実は極一部や。

なんでかっちゅう話やけど、原因は魔物のせいで護衛がおっても長期間調査してられへんからやと言われとる。

でも、調査が終わっとる遺跡もある。

その1つがこのトラビアガーデンや」

「知ってた」

「え、ホンマか?」

「図書室で読んだ」

 

テレサは教員泣かせだった。

 

記憶力が凄いのではない。

貪欲にありとあらゆる情報を集めているだけだ。

目的に合致するならば、覚える。

 

中でも、歴史はこの世界のルールを読み解く上で重要な資料だった。

だから、一通りの歴史の本は、この1ヶ月で大体読み漁っている。

 

「RTAは情報収集から始めるんやで」

「?」

 

彼女はよく、教師の首を傾げさせる言葉も使う。

そのため、クラスの中では不思議キャラとして定着していた。

 

 

 

放課後は、体を動かして、その後に小石に擬似魔法を複数込めて、破裂する前に蹴り飛ばすを繰り返す。

 

「こんな方法、よう考えたもんやな」

「コレって、スゴいことなん?」

「ホンマは、この破裂っちゅうのは『赤魔法』にとっても『魔法剣』にとっても失敗なんよ。

でも、その破裂の被害を敵に押し付けるんが、この技の真骨頂や。

上手いこと被害増やせる組み合わせ見つけたら、かなり強い技になるで」

 

教員は眼差しに期待を込める。

居住に適した土地が少ないトラビアに限らず、高い戦闘力の持ち主というのは、この世界では非常に有難がられるのだ。

 

「でも、テレサって、メインは情報処理やるって言うてたで」

「え、ホンマか?」

「うん」

 

情報処理というのは、ハッキングやオペレーションなどといった、機械の操作を主に行う、後衛職だ。

その性質上、戦闘力が低い者に回りやすいポジションでもある。

 

「なんか考えがあるんかなぁ?」

「それは先生も分からへんなぁ」

「せんせーもわからへんのん?」

「分からへんなぁ、ホンマに……」

 

テレサは教員泣かせである。

 

 

 

翌日。

 

「今日は何の本読んでるんや?」

「情報処理」

「へえ、そういえば情報処理の方に行くとか言うとったな」

「うい」

「放課後練習しとるアレ、上手いことやったらかなり強いとセンセ思うんやけどな」

「アレ、実験してるだけやん」

「実験?」

「せやで」

 

教員は目を丸くする。

 

「実験て、何の実験や?」

「擬似魔法の解析してるんよ。

今使える擬似魔法の組み合わせと、『魔法剣』用の魔力の量とか。

色々変えて試してるんやで。

破片の飛び散り方とか、破片に残った属性とか、もうちょいしたら的の属性とかも色々やってくつもりなんよ」

「え、なんやそれ、新しい擬似魔法でも作るつもりなんか?」

「完成形ゆうのはまだ見えへんけど、色々組み合わせて実験するんに、情報処理取ってないとできへんこともあるから」

「……」

 

教員は絶句する。

 

「せんせー、授業授業」

「あ、せやった」

「あ、チャイムやー」

「休み時間やー」

 

テレサは教員泣かせである。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
さて、サブタイどうしましょう?(ォィ←(ryと似てない?

ドヤ顔で解説していたことが大外れだった時の先生や親の顔が見てみたい(ゲス顔

感想に『PARみたいに数値ガリガリ弄るのか、自分で組んだりしちゃうのか』ってありましたが、将来それに近いことはする予定です。
ただ、擬似魔法の仕組みもよく分かっていないため、まだまだそこに至るまでの解析と実験を行っているところです。
割と授業内容はガン無視しており、テストの成績とかはそこまで高くありませんが。



――――設定

神聖ドール帝国:100年前に崩壊
セントラ崩壊後、逃げ伸びてきた人々が作った出島を中心とした大帝国。
現在もドールの名を残す国があるが、かつての繁栄は影もなく、大国の侵攻に耐えるだけの軍を維持することもできていない。
ただ、トラビアほど過酷な状況にあるわけでもなく、出島ゆえの交通の便と粋な景観、しかも気候も温暖なため、独立を保つことはできている。
(アルティマニア情報)

トラビアガーデン:セントラ遺跡の1つ
実は原作設定で、元々はセントラ時代のシェルターを改造して作られているらしい。
ある意味で調査の終了したセントラ時代の遺跡と言えなくもない。

『魔法剣』:特殊技能?
原作設定では、GFの属性攻撃ジャンクションとして、手軽に属性攻撃が使用できるようになっている。
その他に、特殊技にそれらしいものがいくつか含まれており、それが『魔法剣』という名前で技術が紹介されない理由なのではないかと考察している。
つまり、特別な技能などではなく、練習すれば割と誰でも使用可能な戦闘技術という設定にしてある。

また独自に小石や木片など、強度の低いものについてはあまり強い擬似魔法に耐えられず、破裂するとした。
わざわざ武器で実験して、イチイチ壊すわけにもいかないため。


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雪原行軍

7/1 1話ずつ投稿のつもりが2話投稿されていた。まあいいやと今日も書く。


3馬鹿娘は雪原を歩く。

今日は士官生や教員達に引率されて、雪原の森まで来ていた。

 

士官生達にとっては護衛任務の練習であり、テレサ達年少クラスにとっては大抵初めての雪原である。

最初は寒いを通り越して『風が痛い』と言っていた子供達も、感覚がマヒしてきたのか、気にならなくなってきたのか、今ではあまり不満も出ない。

だが、割と元気だった。

 

「ほい、ほい……」

「よいしょ、よいしょ……」

「どぅえっ、どぅえっ、へぶしっ!」

 

皆が歩く中、ジャンプしながら移動しようとしたテレサが頻繁にコケる。

足場の悪い深い雪の中、小刻みにジャンプすれば移動しやすいと考えていたようだが現実はそう上手くいかないようだ。

 

「ほら、あんまりコケんなよ。

雪が深いところでコケたら、たまにそのまんま埋まって見つからへんようになるぞ」

 

士官生が頭から埋まった少女の足を掴んで引っ張り上げる。

 

「うー……」

 

助けられた厚着の少女は唸りながら、大人しく歩いて目的のものを探す。

探しているのは、寒冷地ならではの山の恵み。

 

「お、あったな。コレが『南極の風』や」

 

引率の教員、今回は採取の専門家が子供達に、青白い宝石のようなものを拾って見せた。

見た目は内側に青い光を蓄えた宝石。

近付くと、何か強い魔力を感じる。

 

「『魔石』の一種でな。コレを精製すると冷気属性の擬似魔法が抽出できるんや」

「へー」「へー」「とーりーびーあー」

 

子供達は士官コースの生徒達が周囲を警戒する中、周辺に落ちている青白い宝石を探し回る。

士官生達は、寒い中でも活発に動き回る子供達について行くだけで大変そうだが、これも訓練であるため、文句を垂れながらも見守っていた。

 

そんな中、勝手知ったる『庭』と、周囲に積もった雪を掘り起こし、木の根元に生えるキノコを採取する専門家達。

 

それを観察していたのは、テレサ。

 

「なに取ってるん?」

「『ユキノコ』っちゅう、高級薬の素材やで。

ちょい扱いが難しいてな。熱で融かすわけにもいかんねん」

「へー」

 

少女は白いキノコと、それが自生していた場所を観察する。

 

「なんであるって分かったん?」

「『南極の風』みたいに、冷気を吸収するんやわ。

やから、生えとるとこは雪がちょいへこむねん」

「んー、じゃあ、『魔石』を寒いとこに置いといたら、『南極の風』になったりするん?」

「そないすぐにはならんけど、トラビアやったら半年くらいでなるみたいや」

「へー」

 

テレサは青白い宝石を探すクラスメイトに目を向け、自分も青白い宝石を探しに向かった。

そうして、幾つかの課題と、収穫を持ち帰る。

 

 

 

「おお、写真撮ってたんか」

「タブレットのデジカメ機能」

「便利やなー」

 

トラビアガーデンの子供部屋で、情報の整理を行う。

 

「キレイやなー」

「エエ角度。回りに比べて雪がへこんでんのがようわかる」

「そっちなん?」

 

テレサにとっては、見た目の美しさよりも資料的な価値だった。

 

「課題も見えたで」

「課題て?」

「『南極の風』って、硬いんかな?」

「そこまで硬くはないんちゃう?割れたっぽい跡も結構あったし」

「マジレスするかー」

「え、そうなん?」

「あったよ。モンスターの足跡、妙に凍ってたたやろ?」

 

テレサは画像をスライドさせて、その写真を見せた。

 

「うわ、ホンマや、凍ってる」

「踏んで割ってたっちゅうこと?」

「うん、多分やけど」

「それで、課題て?」

「雪原とか、足場が悪いと、走りにくい」

「あー」「せやなー」

 

至極当たり前で、ぐうの音も出ない正論である。

 

「どないかするん?」

「する」

「どないかする方法あるん?」

「今から考えるー」

 

テレサは言って、それにクレアがこう返した。

 

「せんせーに聞いたら?」

「それや」「聞きにいこ」

 

少女達はあっさり自分で考えることを放棄する。

 

しかし、この後、教員に聞きに行くと、『かんじき』を渡された。

『コレジャナイ』とテレサがゴネたが現実は厳しく、結局自分で考えることになったという。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
変態的な動きの片鱗が幼少期から見え隠れしています。

夏の蒸し暑いこの時期に雪原行軍を書くとか、まともに描写できてるかどうか不安にもなったりするんですが。
それはさておき。

皆様、6月も終わりですが、6月に乾燥注意報が出ていたのはご存知でしょうか?
まさか梅雨入りした後に乾燥注意報が出るなんて、私も予想だにしていませんでした。
もう半月も前の古い話題ですみません。



――――設定

雪原行軍:野外授業、独自設定
年少クラスを連れて近くの森へ行き、様々な素材の採取と調査を行う。
15歳以上で軍に入隊希望の士官科に入った生徒達が護衛する。
雪原における戦闘訓練、行軍訓練も兼ねており、年少クラスの年代を変えて月に一度行われる。

かんじき:雪上歩行用装備、現実に存在
紐や竹枠を編んで足の接地面積を大きくし、足が柔かい雪に沈み込みにくくする装備。
歩き方にコツが要るが、あるとないとでは歩行速度が段違いになる。
走ることには向いていない。

『ユキノコ』:独自設定
雪の下に生える松茸のような白いキノコ。
高級薬の素材として珍重されている他、珍味としても知られている。
他の属性の擬似魔法に触れると弾けてしまうため、扱いが難しい。

『南極の風』:冷気属性を帯びた魔石、半分独自設定
魔物が内蔵する『魔石』が、自然の冷気を吸収した結果、冷気属性を帯びたもの。

『南極の風』というアイテム自体は原作に存在し、『ブリザラ』を精製できる。
原作ゲーム中において、『カード変化』と『道具精製』を駆使することでディスク1中盤から簡単に『ブリザガ』が手に入る上に、『ブリザラ』は『中クラス魔法精製』によって初任務前から簡単に揃えられるため、『南極の風』に注目が集まることはまずない。
やり込んだプレイヤーにとっては、『サカナのヒレ』同様の換金アイテム。


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想定外の反応

7/1 ついに冷房を入れ始めた。


「雪原の戦い方、知りたいねん」

 

テレサは士官コースの中年女性教員に尋ねる。

 

「そうやね。トラビアやと、割と足を止めて撃つか殴るってことが多いな。

やから、擬似魔法を連射するか、もしくはリーチの長い武器で殴るのが得意なんが多いんよ」

「雪に足取られるから?」

「そういうことやね。武器の中でも、長柄ものとか、鎖ものとか、飛び道具とか、色々あるから、自分の好きなもんから使っていくとええよ」

「雪の上を素早く動くて、できへんのん?」

「スキーとかスノボとかやったらあるけど」

「うー……」

 

少女は唸った。

どうも上手くいかない。

 

「自分で開発するしかないんかなー」

「雪だけやないからな。雪に特化したら、今度は氷の上で動かれへんねんよ」

「あー、そゆことかー」

 

つまり、場所によって条件がコロコロ変わるのだ。

土の上、雪の上、氷の上、3つの地形に対応できなければ、トラビアの大地ではまともに活動できないのである。

 

「歩き方1つでどないかはできへんゆうことやね」

「まあ、トラビアはなぁ」

 

テレサは大人しく引き下がった。

結局、自力で移動法を開発するしかない、ということだ。

 

 

 

テレサが肉体鍛錬のために始めたのは、バスケだった。

走ることと、手を動かすこと、周囲を見回すことを同時に行う必要のある球技は、彼女の目的とも合致していたのだ。

 

「手塚ゾーン!」

「ただしボールは顔面に吸い寄せられるパス!」

「あべしっ!?」

 

まあ、大体セルフィの顔面パスの前に沈むのだが。

 

「なんでやー。避けたはずやのにー……」

「しっかりしいテレサ!」

「傷は深いでポックリしい!」

「もうゴールしてがくぅ」

「テレサぁぁぁぁっ!?」

 

色々混ざりすぎて意味が分からなくなった茶番を繰り広げつつ、なんだかんだで鍛錬は続く。

 

 

 

さらに1ヶ月後。擬似魔法練習場。

 

「ひぁっ」

 

テレサは思わず声を挙げた。

小石が破裂するタイミングが予想より早く、蹴った直後に破裂したのだ。

 

「テレサ!?」

「大丈夫!?」

 

ルームメイト2人が駆け寄ってくる。

小石の破片は、華奢な黒髪少女の肌に無数の傷を付けていた。

確認すると、元々の擬似魔法が不完全で威力が低かったためか、着ていた半袖シャツ短パンは破れておらず、剥き出しの足と顔を庇った腕に細かい傷がついている程度。

 

「たぶん、大丈夫。ヤバいのはないんちゃうかな」

「それでもとりあえず保健室や。傷が残ったらアカン」

 

付き添いの教員が擬似魔法で回復しつつ声をかけ、テレサは友人と共に保健室に向かう。

 

 

 

「こんな小さい子に、一体何やらせとったん?」

 

手早く治療(BAN装甲)した保険医の老女が、付き添いの教員に尋ねる。

 

「小石に『赤魔法』使うて破裂させよったんや」

「『赤魔法』?違う種類の擬似魔法の合成やったら、こんなもんで済まへんやろ?」

「教員会議で報告した、『魔法剣』の合わせ技やで。

擬似魔法も下級で不完全やったし、そのおかげでホンマの『赤魔法』の失敗より軽かったんやろな」

「『シェル』使うたらんかったんか?」

「破裂するんは小石やから、『プロテス』使うとったんや」

「読み違うたんか」

「せや。また済まんことしてもうたなぁ」

 

教員は絆創膏だらけのテレサの頭を撫でる。

 

「とりあえず服の上からは傷入ってへんみたいやから、今度から肌隠してやりや」

「うい」

 

意外に温かい声に、今度からは気をつけよう、と誓ったとか誓わなかったとか。

 

 

 

「なんでいつもと違うタイミングで破裂してんやろ?」

 

部屋に戻ってから、テレサは疑問を口にする。

 

「どんな組み合わせやったん?」

「『レビテト』と『ファイア』」

「なんでやろ。魔力多い組み合わせやないんよね?」

「それは気ぃ付けてた。わざと詠唱変更して、威力調整してたし」

 

それはテレサにも分からなかった。

そもそも、そういった当初の想定に用いた理論と違うことが発生する可能性を潰すために、実験を行っていたのである。

想定外が発生したならば、原因を徹底的に追及し、理論を修正する必要があった。

 

「『ファイア』のグループで今までヘンなことなかったんよなぁ?」

「『レビテト』て、確かこないだ新しく教わったやつやろ?」

「うん、まだちょっとしか継続せえへんけど」

「威力あるやつやないて思うてたけど、もしかしたらなんかあるんかな?」

「また実験してみよか」

「今度は厚着でな」

「うーい」

 

こうして、3馬鹿娘は研究を進めていく。

 

テレサにとって幸いだったのが、ルームメイト2人が転生者である彼女の思考に、7歳でついてくることができるという点だった。

 

セルフィは突飛な発想力を持ち前の行動力で実現してしまう、感覚型の天才児。

クレアは堅実な発想でセルフィのブレーキとなりつつ、必要なところでは背中を押す、縁の下の力持ち。

テレサはその間を埋める、研究者肌の無理難題の提供者。

 

2人にとってテレサは退屈凌ぎの遊び相手だったが、無理なくついてきて、アイデア等の支援をくれる2人に、テレサは心底感謝していた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
しばらく変態の片鱗を見せるだけのゆっくり進行でしたが、そろそろ時間を飛ばしてもいいかもしれません。

ついに7月に入りました。
蒸し暑い日々が続きますね。
あまり冷たい水をガブ飲みしていると、夏バテで後で大変なことになると聞きます。
そこそこ常温で、適度に塩分やレモン果汁の入った水がいいそうで、熱中症にも気を付けていきたいところです。
読者の皆様もどうかお体に気を付けて、日本の夏に立ち向かってください。



――――設定

『プロテス』『シェル』:擬似魔法、防御魔法、軽減魔法?
この平行世界においては、衝撃分散系のバリアとして使用される。
例えば拳銃弾の場合は拳で殴る程度の衝撃として一定範囲に分散する。
ダメージが軽減される他、衝撃で姿勢が崩れにくくなるなどの利点があるが、引き換えにバリアの光で位置がバレバレになるなどのデメリットもあり、使用するかしないかはケースバイケースで判断される。
擬似魔法としては中級に分類され、一般の軍隊でこれが使える兵士は少ない。
トラビアでは戦闘となると足を止めるため、生徒全員が『プロテス』と『シェル』を教えられ、これらのバリアを中心としリーチを生かした戦術を叩き込まれる。

ゲームでは『プロテス』が物理半減、『シェル』が魔法半減。
どちらもFF8では割合ダメージ、防御無視にも反応する。
ただし、固定ダメージには反応しない。
ストーリー上では、Seed実地試験の夜に発生するボス戦で初めて『プロテス』を入手することになる。
『プロテスストーン』という形でならば、実地試験後、バラムガーデンへ帰還する前の段階で入手可能。
ただ、そこまでして欲しいものではない。
ディスク1の間なら、ジャンクション用擬似魔法としてそれなりに有用なため、合計300ほどドローして揃えるのはアリ。
『マイティガード』や『ウォール』で代用可能なこともあり、敵からの『ドロー、つかう』以外で戦闘中使用することは滅多にない。
しかし、『オートプロテス』は最終アビリティの候補に挙がるほど重要。
『オートシェル』は回復魔法を半減してしまうため、敬遠されやすい。


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データ精査

7/2 今、将棋がアツい!


データをより効率よく集めるため、3馬鹿娘は実験の模様をビデオカメラに撮影するようになる。

転生特典の『タブレット』を使えば、簡単にそれは叶った。

 

さらなる効率化を求め、木の板を盾に、その両側から手袋に包まれた手を伸ばして実験を行うようになる。

破裂までのタイミングが予想より早まったとしても、最低限の防護はできるように、という配慮だ。

結果の確認は、離れた場所から『タブレット』で動画撮影すればいい。

 

「『レビテト』て、もしかして中級魔法なんかな?

それはそれでエエデータになるんやけど」

「一応、下級に分類されてるで。ただまあ、そんな何回も使う擬似魔法やないし、オダイン博士の実験しかデータがないんも事実や」

 

付き添いの教員が教えてくれる。

最近は、積極的に実験に必要な情報を教えてくれるようになっていた。

というのも、テレサが考えた新型の『赤魔法』が実戦でそれなりに有用なことが、つい先日証明されたからである。

彼女はあくまで実験のために考えた方法だったのだが、それを実戦に利用しようという動きが、トラビアガーデンでは出てきているらしい。

 

ただ、幾つか問題も発見されており、まだ軍の研究施設で実験が行われている最中である。

だから、また何か有用な発見があるのではないかと、興味津々なのだ。

 

「研究施設の方で中級魔法の新型合成の実験データあるはずやから、もらって来よか?」

「うーん、どないしよ?」

「もらった方がエエんちゃう?」

「じゃあ、それで」

「エラい軽いなぁ。まあ了解や」

 

テレサの目的はあくまで強化エクスデスを倒すことであって、この世界の歴史に名を残すことではない。

その点、彼女は自分の手元に派生研究の手柄が残らなくても構わない、と割り切っていた。

 

 

 

数日後、データが届くと、どうやら『レビテト』が実は中級魔法に分類されるらしいことが判明した。

物体を一定時間浮遊させるために使用されるエネルギーが、下級魔法では賄えないレベルに達していたのである。

つまり、破裂までの時間が予想外に早まったのは、元々下級魔法として計算していた魔力量の数値が、実際はそれより数倍は大きい中級魔法だったからなのだ。

 

逆に言えば、破裂までの時間は組み合わせる擬似魔法の魔力量によって決定するという仮説が浮き上がってくる。

 

「ちょいメンドい条件やけど、判明してよかったわ」

「中級同士をそのまんまでやってたら、もっと怪我してたかもしれへんなぁ」

「『魔石』に『魔法剣』とかやったら、どんな威力になるんやろな」

「盾使うても、手ぇとか吹っ飛ぶんちゃう?」

「あ、そっか、じゃあアカンな」

 

過激なことを言っていても、親友が怪我をするかもしれないとなると、素直に言葉を引っ込めるセルフィ。

 

「じゃあ、『レビテト』は後回しにする?」

「セヤナー。中級魔法用の調整もせないかんし」

「擬似魔法の改造なんか、士官コースに教える内容やで?」

「教えてぇな、せんせー」

「しゃあないなぁ」

 

この男性教員(34)がロリコンなのではなく、生徒の自主性と自立性を重んじるトラビアガーデン特有の文化に従ったまでである。

決して彼がロリコンなわけではない。

 

とはいえ、威力を向上させるならばともかく、わざと威力を落とす改造というのは、教員も慣れてはいなかった。

特に中級魔法を下級と同等に落とすとなると、発動するかしないかギリギリのところにまで迫る必要があるのだ。

その辺の技術は、さすがに今の彼にはなかった。

ゆえに、トラビア軍の研究施設に教えてもらうことになる。

 

大人である彼に、そこについての躊躇いはなかった。

子供の育成が第一であり、いいところを見せたいという自分のエゴを満たすのは二の次だと決めていたからだ。

 

 

 

数日後、割と簡単にデータが届いた。

 

「おー、さすが軍の研究施設やな」

「データめっちゃ細かいやん。魔力の強弱まで書いてあるで」

「うれしい誤算やね。でも、こーゆーのって機密とかいうのとちゃうのん?」

「トラビア軍の機密は隠れ家の座標だけや。他は隠さなあかんこともないねん」

 

いつもの教員はそんなことを話す。

 

「トラビア軍の侵攻力は」

「世界一ィィィィィッ!!」

「ただし強いとは言っていない」

「やがますっ」

 

そんなバカなやり取りの後、データの精査を始めた。

 

「フツー、こーゆーのって、センセの方である程度まとめてるんちゃうのん?」

「あっちもデータ収集中のを無理言ってもらってきてん。

それに、お前らにデータのまとめ方とか教えるエエ機会やしな」

「センセやねんなー」

「センセしとるなー」

「ぷぷ」

「なんで笑うねん!普通にエエ話やったやろ!」

 

オチを付けるのもトラビア特有の文化である。

 

精査した結果、研究施設では実験されていない組み合わせがあった。

 

「中級同士の全開以上はまだなんやね」

「そら、中級と下級でこないだのアレやってんし」

「まあ、これからデータも揃ってくるんちゃう?」

「……『レビテト』と、『デスペル』と、『ライブラ』……」

 

テレサはデータリストに名前のない擬似魔法を挙げていく。

 

「どれも組み合わせても意味ない種類の擬似魔法やな」

「なして?」

「浮かせたいんやったらそのまんま『レビテト』使えばエエねん。

『デスペル』は魔法を打ち消すさかい、逆に威力が減る。

『ライブラ』も情報欲しいんやったら組み合わせんとそのまま使えばエエしな」

「コレ、やってみよか」

「え、使えるようにならんと思うで?」

「エエねん。ウチらの目的は使える『赤魔法』の合成やないから」

 

まだ、教員は彼女らがやろうとしていることを理解していなかった。

また、彼女らも今説明して理解してもらえるとは考えておらず、説明していなかった。

 

「でも、今までの分類が信用できへんっちゅうことは、この中に上級魔法が混じっとるかも分からへんっちゅうことなんかな?」

「そらヤバいな」

「やったら、『ケアル』と組にするんはどない?」

「エエな、ソレでいこ」

 

どのような組み合わせでどのような結果になるのか、というデータが、彼女らの手によって蓄積されていく。

この実験は中級魔法までを総当たり完了するまで、約1年続いた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ここから1年ほど時間が飛びます。
新型の『赤魔法』もそれなりに役に立ちますが、連続で別々の魔法を使っているのと大して変わりません。
そして、まだFF8の目玉であるGFジャンクションは影も出てきていません。

この間テレビで見たんですが、エアコンのフィルターは定期的に掃除しないと、カビが生えて部屋中にカビを撒き散らすようになるとかなんとか。
というわけで今日、7月2日、エアコンのフィルターを掃除しようと思います。

もっと早くに知りたかった……。



――――設定

『レビテト』:擬似魔法、分類不明
反重力を発生させて、物体を浮遊させる擬似魔法。
浮遊させると言っても地面に接触しないようにするだけで、一定時間経つと解ける。
ある理由から中級魔法に設定。
浮遊した物体は引っかかりがないと移動できなくなるというわけではなく、バルーンハウスを移動するような感じになる。

ゲーム中では、『マイティガード』のオマケか、『ブラザーズ』と戦う際のギミックとして活用される。
はっきり言ってそれ以外に出番がない。
『ケルベロス』との戦闘時、『クェイク』連打に対して効果があるため、覚えておくといいという程度か。
それも属性防御ジャンクションで無効化してしまえば済む話。
また、ゲーム中では攻撃の際は普通に地面に接地して移動し、しかし『ブラザーズ』のように地面からのエネルギーの吸収を阻害することが可能。
その辻褄を合せようとした結果、バルーンハウスのくだりとなった。

トラビア軍の実力:考察、独自設定
原作のトラビア軍がどれくらい強いのかは、トラビアガーデンの存在と雪国であること人口から推定するしかなく、実際にどのくらいなのかという原作設定はない。

大抵、軍事力というのは脅威度が最大の関心事であり、他国にとっての脅威度で判定される。
過酷な地域にあるトラビア共和国は他国に攻め込むだけの余力がなく、トラビア軍がどれだけの防衛能力を保有していようと、脅威度は限りなくゼロに等しい。
そのため、それなりに国力が高いバラムやドールの方が、脅威度が高いと判定されることが多い。

また、トラビア軍は、常備軍の数が他国に比べて圧倒的に少なく、そもそもの人口が2万人程度しかいないため、総合力ではやはり弱いと考えられる。
ただ、トラビア大陸という魔物が跋扈する雪国という特殊な地域、局地戦に特化した戦術が練り上げられてきていると考えられ、普通に攻め込んだ場合、雪国を想定していない軍隊では非常に大きな痛手を被ると思われる。


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プログラミング

7/3 序盤が蛇足に思えてきた。もっと時間を飛ばそうかなぁ?


1年後。

テレサは必要な魔法合成の実験を一通り終わらせ、他にも様々な技能を習得していた。

 

「……ってなこともなかった」

「⑨.現実は非情である」

「ただし、魔法はシリから出る」

「さすがに上級魔法の改造は厳しいなぁ。出来る奴自体がほとんどおらへんで」

 

8歳児、今までデータ集めついでに鍛錬を繰り返してきたとはいえ、わずか1年であらゆる鍛錬が実るなどというのは、さすがになかったようだ。

 

とはいえ、新型の『赤魔法』、別種合成自体は軍の研究施設でも研究が行われ、一応は「こういう方法がある」という程度のことを授業で教えることが決定していた。

これだけでも大きな成果だ。

 

「とりあえず、セルフィの顔面パス避けれるようにならなな」

「あたしも成長しとるんやで」

「それ自慢するとこなん?」

「身長は伸びてるけど、おっぱいはまだやなー」

「おっぱいはこれからや!」

「最近の若いモンは進んどるんやな……」

「センセも乗っからんといてぇな」

 

変化があったと言えば、クレアがツッコミ役にシフトしてきたところだろうか。

これも常識人枠の宿命なのかもしれない。

 

「できるようになったゆーのは、実験のサイクルが早うなったゆーことくらいかなー?」

「こんだけ繰り返しとったらなぁ」

 

テレサの真似をする生徒も増え、実験もテレサ、セルフィ、クレアでローテーションしていたため、詠唱速度が高まった気もする。

 

「ただし、そこまで極端に詠唱速度高まったわけやないで。

1年でコレやったら上出来やけどな」

 

教員は告げた。

つまり、日頃の鍛錬もあり、子供達の中では天才的だが、まだ大人に交じって戦闘できるほどではない、ということ。

 

「じゃあ、中級までは一通りデータも揃ってんし、そろそろ実戦の練習もしていこか」

「なにするん?」

「全開の擬似魔法の詠唱。ただし邪魔つき」

「セルフィがおる時点で嫌な予感しかせえへんねんけど……」

「邪魔側が厄介な方がエエねん」

「せやったら、あたしはどないしたらエエの?」

「まあ、うん、善処します?」

 

実際、そうとしか言いようがなかった。

嬉しい誤算でもあったのだが、セルフィの集中力妨害能力、予測の上を行く能力が、テレサをして意味不明なレベルに達しつつあったからだ。

 

「実戦やと、『モーニングスター』でも持たせて殴ってるだけで、魔女とか倒せそうやし」

「そら言い過ぎやろ。まあ、言いたいことはわかるわ」

「センセに侮辱されたー、うったえたるー」

「言い過ぎたんは俺やないんやけどな……」

 

この教員も、この頃すっかり苦労人が板についてきていた。

 

 

 

放課後のメニューが変更される。実験から、鍛練へ。

大量の雪玉が持ち込まれ、3人が動きながら1人が詠唱し、残る2人が雪玉でそれを邪魔する。

 

「大リーグボール1号や!」

「ぷぺっ!?」

 

セルフィの投げた雪玉が、正確にテレサの口に直撃した。

物理的に詠唱を妨害に来ている。

なぜか滅多に直撃しないはずの雪玉が、セルフィが投げたものに限ってよく当たるのだ。

 

実はテレサはゲーマーでもあった前世、FPSがそれなりに得意だったのだが、射撃サポートのあったゲーム中でも、こんなにポンポン当てることができなかった。

セルフィの射撃の才能は、それくらい飛び抜けていたのである。

しかも子供の腕には重いバスケットボールでさえ、避けようとした動きを追尾してくるかのような正確さだったのが、雪玉になって軽くなったことで、さらに連射力と命中精度が向上していた。

 

「やっぱセルフィが手強い……!」

「てゆーか、あたしのがゼンゼン当たれへん……!」

「バスケで鍛えとるから」

「普通のパスまで避けたらあかんでテレサ」

「お、おぅ」

 

1年で何もかもを完璧にとはいかない。

 

 

 

「今日は何の本を読んでるんや?」

 

座学の休み時間、教員はテレサに声をかける。

1年も経つと、授業中には声をかけなくなっていた。

彼女の勉強が、授業でやっている初等教育のレベルを遥かに通り過ぎており、最早最先端の研究者同然だったからだ。

 

「プログラム言語」

「また難しいこと言いよるな。悪いけど、俺苦手分野やわ。

入門ぐらいやったら、まだどないかなんねんけど……」

「うい」

 

目的は、今まで集めたデータの解析ソフトの作成である。

この世界はコンピュータがそれなり以上に普及してはいるのだが、プログラミングが発達しているわけではなく、ある程度のソフトは自分自身で組み上げる必要があった。

そのために、この世界のコンピュータで走らせることができる、この世界のプログラム言語を、テレサは勉強していたのだ。

 

「テレサー、でけたよー」

 

クレアが声をかけてくる。

 

「お、なんやなんや?」

「ソフトの外観デザインお願いしててん」

「テレサがやると枠も作らへん言うてたから」

 

必要なこと以外はすべて後回しにする癖のあるテレサにとって、デザインは大きな苦手分野だった。

 

「絵ぇやったらセルフィの方が上手いんちゃうんか?」

「上手過ぎて機能度外視するから」

「ああ、なるほど」

「納得された、訴訟も辞さへん」

「セルフィはもうちょっと目的を考えて行動せいよ」

 

今回ばかりは、感覚型の天才であるセルフィではなく、堅実な秀才であるクレアに軍配が上がったのだ。

才能は高ければいい、というものでもない。

 

「うん、コレやったらいけると思う」

「5回目でやっとかー、ムズいねんな、こういうのって」

「まあ、うん……こんなもんなんちゃうかな?」

 

テレサは誤魔化した。

彼女自身、やったことがないからだ。

前世から、外観デザインが苦手だったため、ずっと人任せにしてきたからである。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
セルフィの設定がおかしくなりつつあると感じていますが、このまま行きます。

ちなみに、作者ひろっさんはFF8はPS版で10回くらいクリアしました。
後半はほとんど低レベルクリアや最強データ作成のための試行錯誤だったりなんですが。
攻略本は『アルティマニア』を持っていまして、世界観のデータなどはゲームと『アルティマニア』頼みです。
大体のデータは網羅しているつもりですが、RTAやTASの動画を見ていると、知らなかったこともちらほら出てきていますね。



――――設定

プログラミング:世界観、独自設定
FF8の文明レベルは地域によって大きな差がある。
大別して蒸気機関と電気駆動、そしてジェットエンジン(!?)があり、それぞれ西暦2000年付近といったところ。
つまりコンピュータや機械は普及しているが、近未来、未来と言えるほど発達していない。
例外はエスタで、浮遊移動するリフターや車など、魔法的な要素を組み込んだ未来都市となっている。

トラビアガーデンの設備がどの程度だったのかを類推する情報は1つしかない。
崩壊後のトラビアガーデンで、コンピュータ設備の復旧作業をしているチームのことだ。
何度か挑戦していると、セルフィの個人データらしきものが発見されるのだが、そこから個人情報を電子データで管理していたことがうかがえる。
おそらく、バラムガーデンと同レベルでコンピュータを管理していたのではないかと考えられる。

これらの考察から、本作二次小説では、プログラミング事情についても現実の西暦2000年付近を目安に設定している。


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武器選定

7/4 結局時間を飛ばした。


4年後、3馬鹿娘12歳。

いよいよ授業でも実技の訓練が始まり、子供達は自分用の武器を選ぶことになる。

武器選びは1つに限らないとはいえ、大体難航する子供が年に数人は出てくるらしい。

 

その1人に、テレサがいた。

 

「ソイヤッ、ソイヤッ、うーん……」

 

幼少期からバスケを始め、色々な鍛錬で鍛えてきたせいか、どれを使っても動きが一定レベル以上ではある。

 

「モーニングスターは威力出るけど、振り回してからのラグが気になるんよな……」

「モーニングスター、アウトー」

「斧は威力あるけど、振り回すんがメンドい」

「斧、アウトー」

「ブーメランて、戻ってくるの待ってなあかんやん」

「ブーメラン、アウトー」

硬鞭(こうべん)て、またマニアックやなぁ。ボツ」

「コウベン、アウトー」

「ていうかセルフィ、面白がってへん?」

「セルフィ、アウトー」

「ぴゃー」

 

セルフィの腋が2人がかりでくすぐられる。

いつもの友人同士のじゃれ合いだった。

 

「剣は扱いやすいんやけど、リーチ短い」

「剣、アウトー」

「弓矢は連射がメンドい」

「弓矢、アウトー」

「槍、うーん、槍……」

「ラケットはどないや?」

 

教員が横から口を挟み、ラクロスのラケットのようなものを手渡す。

 

「ラケット?」

「せや。弾を投げて攻撃できるし、ラケットで殴ってもええし」

「両方使えんねんな」

「ただし、両方を武器にするんは結構難しいで。

別の種類の武器を2つ持ってるて考えた方がええわ」

 

しっかり、リスクも伝える。武器屋の売り子ではないのだ。

彼女らがちゃんと使いこなすことができなければ意味がない。

それでも紹介したのは、テレサならばできると確信していたからである。

 

「別の種類の武器……」

 

テレサは考える。

 

「リーチと、扱いやすさと、威力と、サイクル」

「サイクル?」

「スピード出過ぎたら、鎖もんて動き変わるやろ?」

「ああ、確かになぁ」

 

鎖分銅系の武器のメリットは、防御が難しいことだ。

鎖の途中で受けると回り込んでしまう上に、盾でも直撃を受けると壊れかねないほどの威力が出る。

ただ、それを最大に発揮するには技量が必要とされる。

つまり、デメリットは使い手の動きが制限されてしまうこと。

鎖系武器の扱い方をある程度知っていれば、鎖の先の(おもり)がどう動くか、使い手の動きから簡単に予想がついてしまう。

さらに、鎖の動きを待ってから使い手本体が動く必要があり、素早い行動を阻害しかねない。鎖は強度がある代わりに重量があり、鎖鎌の簡易版のように分銅部分の動きに影響を与えずに本体が動くというのが難しいのだ。

 

そのデメリットをテレサは嫌っていた。

 

「あー、ちゅうことは、要するにリーチと手数が欲しいっちゅうことか?」

「うん」

「制御優先で、威力は多少度外視でもエエか?」

「うん」

「ほんなら、槍やな」

「槍て、アンデッドとかに弱かったりってイメージあるんやけど?」

「ああ、アンデッド相手やったら破壊範囲広い方がエエっちゅうことやろ?

そんなん殴ったらエエ話やで」

「え、そうなん?」

 

テレサは珍しく驚く。

 

「槍で斬ったり殴ったりしたらアカンやゆうこともないねん。

斬る用の槍もあるし、殴る用の槍もあるさかいな」

 

矛やハルバードなど、斬ったり殴ったりすることを用途に含めた槍の一種が存在するのも確かだ。

FFで槍といえば『竜騎士』という思い込みがあったのかもしれない。

 

シリーズによって異なるのだが、『ジャンプ』は大体空中から体重をかけて突き刺すか、空中から槍を投げ落す攻撃となっており、『斬る』や『殴る』とする攻撃はほとんど見ないのも確かだった。

 

「じゃあ、槍にしよ」

「長いのと短いの、どっちがエエ?」

「長い方がエエんとちゃうのん?」

「長いとどないしても小回りが利かへんし、手数が減る。威力出るんやけどな」

「あー、じゃあ、短いの」

「ほんなら、まずは『ショートスピア』か。

斬りたいんか殴りたいんかは後で決めたんでエエわ」

 

この辺は、さすがの教員である。

 

早速、訓練用の『ショートスピア』が持って来られる。

長さは1.5メートル程度、テレサの135センチ前後の身長よりも大きいが、槍は通常2メートル以上あるのが普通で、槍の中でもかなり短い部類である。

今は尖った穂先の代わりにゴム製のカバーがついている。

 

「とりあえず練習の時はコレ振り回すようにしとき。

穂先とか柄の手入れとか、またぼちぼち教えるさかいに」

「うい」

「センセってセンセなんやね」「ちゃんとセンセしとるんやなー」

「失礼なやっちゃな」

 

ともかく、こうしてテレサはとりあえずの武器を決めた。

ここからまた、身体に武器の扱い方を覚え込ませる作業が始まる。

 

「ソイヤッ、ソイヤッ……うん、練習したらイケそうやね」

 

ただ、彼女の目指すところは、一般的なそれとは大きく違っていた。

彼女が求めた手数も、教員が想定したそれとは大きく異なっていた。

 

ちなみに、セルフィは巨大ヌンチャク、クレアはラケットを選択していた。

 

「やっぱ威力高い方がエエやん?」

「ウチは新型の『赤魔法』使おかな思うて」

 

実験も手分けし、擬似魔法の戦闘用鍛錬も積んできたため、クレアは特殊技、つまり切り札に『赤魔法』を選ぶようだ。

 

「エエなぁ、あたしもなんかエエ感じのやりたいなぁ」

「派手なん?」「派手なやつやろ?」

「えー、なんでわかったん?」

「そら、セルフィやし」「わからいでか」

 

後に、セルフィは何が発動するか分からない、ギャンブル要素を含んだド派手な切り札を用いるようになるのだった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
4年の歳月の成果は順次紹介していく予定です。

実は塩分不足っぽい症状を経験したことがあります。
全身がだるくなって、頭も上手く回らなくなって、十分休んでいるはずなのに、動きたいのに動けない、力が入らない。
これって、実はかなりヤバい症状みたいですね。
調べてみると、塩分過多は病気のきっかけになるだけですが、塩分不足はそのまま死に至るんだとか。
まあ、どっちも最後には死に至るという意味で、何事もほどほどがいいんでしょう。
その見極めもまた難しいものなんですけど。



――――設定

武器:考察、独自設定
FF8のゲーム中に登場する武器は、プレイヤーキャラの11種、風神雷神で2種、ガルバディア一般兵1種、エリート兵1種、エスタ兵1種、魔物の持ち物3種、合計16種。

ガルバディア兵とエスタ兵が刃物と銃火器を併用していることから、剣が現役であり、銃器がそれほど信用されていないことが読み取れる。
理由は魔物の存在と擬似魔法の登場が考えられる。
FF8の世界では街の外などに魔物が大量に跋扈しており、銃火器のみでは弾切れになった際に致命的である。
擬似魔法は『アルティマニア』に設定が存在し、武器を持たずとも戦闘力を発揮可能なために、ガルバディアのD地区収容所などでは擬似魔法を減衰させるフィールドを展開しているという話がある。
擬似魔法が戦闘力としてそれなりに評価されていることが分かる。
おそらく、現実における銃火器と同じ感覚で擬似魔法が使用されているものと考えられ、魔物の種類によってはこちらの方が有効なために、銃器類が極端には発達しなかった可能性が考えられる。

ラケット:独自設定
FF9のものと類似した武器。
あちらは魔力を飛ばすが、こちらは小石等の弾を飛ばす。
形状はラクロスのラケットをイメージすると分かりやすい。

現実には『スタッフ・スリング』という武器が最も近い。
あちらは木の棒の端に投擲用の皮パーツを取り付けてあるもので、主に石を投げる補助である。
ラクロスのラケットの方が命中率が高いため、ラケットはスリングの発展型とも考えられるが、打撃武器としては元の棒のまま扱えるスタッフ・スリングの方に軍配が上がる。
本編で教員が別の武器を使っているようなものと称したのは、ラケット部分の強度がどうしても足りず、特殊な扱い方をしなければならないため。

アイデアとしては槍(ジャベリン)と両方持ち、いざという時はラケットで槍を投げるという使い方を考えていた。
しかし、飛び道具は擬似魔法に頼ればいいという考えから、槍とラケットの二刀流案は流れた。


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到達点

7/4 「トラビア」と打つと「虎ビア」に変換された。虎ビールってどこかの商品にありそう。


擬似魔法の実技授業も12歳から始まる。

今までのような止まった石を狙うのではなく、いわゆるクレー射撃だ。

 

「“――”『ファイア』」

 

3馬鹿娘達は、あっさり命中率9割以上を叩き出す。

 

「まあ、毎日妨害アリの練習してたらこうもなるわな」

 

教員が呆れ気味に溜息を吐く。

 

「アレてそんなムズいことやったん?」

「来年教える戦闘詠唱の授業でやるやつや」

「他の子ぉはともかく、セルフィが妨害側やったからなぁ……」

「分身魔球は反則やって」

 

セルフィの進化に必死に追いつこうとした結果が、テレサとクレアの異常とも言えるレベルアップだった。

ただし、それでもセルフィの妨害を回避できるようになったとは言っていない。

 

そこにクラスの男子生徒が声をかけてきた。

 

「ちょいオマエら、詠唱メッチャ早うないか?」

 

彼の言う通り、3馬鹿娘達は詠唱速度が本気の教員と変わらないくらいになっていた。

 

「セルフィの妨害の回数を減らそと思うて、できることやってきた結果や」

「おかげであたし、7回しか投げれへんねんで」

「ちゃうて、2秒くらいで7回投げてくるセルフィがおかしいんやって」

「解せぬ」

 

切磋琢磨()の結晶がそこにあった。

 

 

 

午後にも授業が入るようになり、放課後の鍛錬の時間は減ったが、鍛錬の内容はどんどん濃密に、実戦を想定したものとなっていた。

 

けたたましい打ち合いの音が響く。

擬似魔法の小規模な破裂音も。

それは最早、訓練などではなく戦闘だった。

 

ただ、さすがに武器は訓練用に殺傷力を削ったもので、擬似魔法も威力を落としており、お互いに怪我の危険を減らしていたが。

 

「ソイヤッ、ソイヤッ、ソイヤッ、ソイヤッ、ソイヤッ……!」

 

手数を重視するテレサは、先に保護用のゴムが付いた槍を振るい、連続攻撃を繰り出す。

相手となっているセルフィも、ヌンチャクの柄を二刀流のように扱いながら、防ぎながら鎖を絡めようとするため、なかなか侮れない。

 

「“――”『サンダー』」「“――”『ファイア』」

 

青白い雷と赤い炎の礫が、同時にお互いに命中し、距離を取る。

 

「そこまで、タイムアップ」

 

クレアが、折り良く時間を告げた。

 

「最後、ホンマにアカンか思うたわ」

「でも、押し切れへんかった。目指せマシンガン」

「一体何と戦うつもりやねん」

「エクスデス」

「せやったな」

 

実験と鍛錬を繰り返しているのは、エクスデスに備えるためなのだが。

セルフィやクレアは、まだテレサと遊んでいることの延長、という感覚が抜けていなかった。

 

 

 

そして、テレサが重ねてきた努力は、ある実を結んでいた。

 

「目標設定:対象物の破壊。『プログラム』開始」

 

少女は呟く。

破壊目標は擬似魔法の的となっている、一抱えほどの石。

場所は屋外、時間は夜の帳が下りた頃。

 

「“ ミリオンスライスープロケット逆風の熱線放射電束ミサイルプラズマ幻魔雑霊爆砕金剛跳弾神速ダーク電磁放射電撃曲射陽子ロケット落雷ジャイアントロコ集中稲妻グリフィスローリン三濁流清流タイガー短勁スカイライジングロザリオ塔三龍羅刹十字散水”『略して剣』」

 

それは破壊、というよりも、消滅だった。

 

合計、40もの擬似魔法を組み合わせた結果、対象の石に無理矢理『魔法剣』を付与、4つの異なる擬似魔法を同時に追加し、原子レベルで分解したのである。

破壊力などという生易しいものではなく、発動したが最後の究極の殺傷魔法だった。

 

合計5年の研鑚の結果、ついにある種、『魔女の魔法』に匹敵するレベルに達していたのだ。

 

同時に、テレサは地面に膝を付いた。

 

「ケホッ、ケホッ……!」

「大丈夫か?」

「アカン、キツい……」

 

教員は『ケアル』を使用し、少女の苦痛を軽減する。

 

さすがに人の身で世界中で恐れられる『魔女の魔法』に踏み込んでおいて、代償も何もないほど甘い世界ではなかった。

 

テレサは地面の上に大の字になる。

大抵、使用すると数時間は動けなくなってしまうのだ。

 

ただし、それでも最終目標であるエクスデスに通じるかどうかは分からない。

ぶっつけ本番で試すしかないのが現状だった。

 

「まさか、ホンマにこんなもん作ってまうなんてなぁ……」

「相手が防御積んでないし、詠唱も長いし、疲労もキッツいし、まだまだやで」

「魔女以上に強い相手なんか、ホンマにおるんか?」

「わからへんから備えるんよ」

 

テレサは、決して遊びの延長で鍛錬を行っていたわけではない。

 

彼女には夢があった。

皆で平和に暮らすという、ささやかでちっぽけな夢が。

 

たったそれだけのために、彼女は努力を惜しまない。

 

「もっともっとデータ集めるんや。まだヒドい言うほどやない」

 

目標に到達するまで、彼女は止まらない。

 

その在り方は、兵士というよりも、兵器のそれに近い。

一瞬、そう考えた男性教員は、己を罵った。

努力を続ける教え子に対して、抱いていい感想ではない、と。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
これで大体紹介は終わりです。

今までのはヒドいことになるまでの過程で、まだ基礎の基礎という段階です。
例えるなら、RTAのための通しプレイですかね。
次はテレサやクレア、セルフィにとって大きな転換点になるイベントです。



――――設定

クレー射撃:独自設定、考察
擬似魔法の訓練。
相手を補足しながら詠唱して当てる訓練ができる。
ただ、擬似魔法の戦闘使用としては基礎段階に当たる。

ゲーム中では、命中率が設定されている擬似魔法以外はすべて必中。
なぜ命中するのか、なぜ命中しない擬似魔法があるのか等、説明されていない部分も多い。
そのため、こうして訓練しているという設定を取り入れた。


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黒い靄

7/4 台風直撃?どうも小さい感じ。


12歳になった生徒は、近場における魔物との戦闘も授業に入ってくる。

基本的に安全を取って3人1組で班を組むのだが、さらに最初は2組の班をまとめて6人で行動させることで、戦闘がダメな人間と戦闘ができる人間を安全に見極めようとしていた。

 

戦闘がダメな人間は、徹底的にダメな場合があるのだ。

それは戦闘員として班を組ませると、最悪本人か仲間が死ぬことになる。

トラビアという人口の制限された国においては、たとえ無能であったとしても貴重な労働力であり、戦闘力を発揮できないからと言って仕事が割り振られないなどということはない。

ある意味、ニートに厳しい環境なのである。

 

そして、6人での近場を探索中。

 

「なんやアレ?」

 

チームメイトの男子生徒が指差す。

 

「黒い、モヤモヤ?」

 

そちらに目を向けたクレアが呟いた。

 

空中に黒い何かが浮かんでいるのだ。

大体地上4メートル前後、6人がいた場所から30メートルほど離れた場所。

 

テレサの知識の中にも、タブレットにあった攻略情報にも、あんな物体の情報はない。

 

「なんかちょっとヤバそうやし、離れてセンセ呼んで――」

 

班長を任されていたテレサは、もしものために黒い靄から離れるように指示を出そうとして、一瞬靄の中から見えた紫色の光が目に入った瞬間、衝撃を受けたように身体が跳ねて、そのまま仰向けに地面に倒れ伏した。

 

「テレサ!?」「なんや!?」

 

突然のことに、班員は慌てふためく。

 

「うが、あぁ……!」

 

痺れ、力が入らなくなった上に、脳の不快感から、少女はうめき声を上げた。

その時に気付いたが、上手く舌が回らない。

『逃げろ』とも言えない。

 

彼女は前世の記憶から、相手の正体に気付いた。

同時に、中途半端な特典と情報しか寄越さなかった神を呪った。

 

転生特典に与えられたタブレットには、エクスデスがこの世界へ来る前兆となる現象が、何も書かれていなかったのである。

だから、テレサはこの事態を予見できなかった。

知っていたならば、もっと的確に備えることができたのに。

 

「男子、テレサ抱えて!ガーデンまで走りぃ!」

 

突然倒れた黒髪少女の代わりに、セルフィが指示を出す。

 

「りょ、了解や!」

 

こういう、不測の事態に活躍するのが感覚型の天才たるセルフィだった。

おかげで混乱していた班がまとまりを取り戻し、トラビアガーデンへ移動を始める。

 

テレサは心の中でセルフィに感謝しつつ、一方で脳の不快感に耐えながら、全身が痺れて動かないながらも、なんとか動かないか、色々と試していた。

 

麻痺の感覚というのは、2通りある。

1つは感覚が消えてなくなるだけ。感覚はないが、動かせば動く。

もう1つは、神経の伝達そのものが切れてしまい、動かそうとしても動かないケース。

 

テレサが感じたところ、この麻痺は前者であり、決して動かないものではなかった。

とはいえ、こういうものはかなり慣れなければ自由に動くことはできない。

戦闘行動ができるほどとなると、いきなりは不可能だ。

結局、今回は麻痺が回復するまで、待つことになった。

 

 

 

セルフィの指示でトラビアガーデンまで逃げてきた少年少女達は、教員に危急を告げる。

 

「よっしゃ、わかった。テレサは保健室や、後は俺ら大人に任せえ」

「あ、う……」

 

テレサは、何かを言おうとしたが、上手く言葉にならない。

自分が感じたこと、危険な相手だという警告を伝えることができないもどかしさと共に、男子生徒に背負われて、保健室に向かうことになった。

 

保健室のベッドに寝かされて10分ほど後、テレサはなんとか感覚が戻ってきたのを感じる。

結局、麻痺の効果が切れるまで、まともにしゃべることも、身動きもできなかったことが、とても悔しかった。

 

『ケアル』で脳の不快感は消えていたものの、妙な疲労感が残っており、自分で追加の『ケアル』を使いながら、彼女は戦場に戻る。

 

「テレサ!」「大丈夫なん?」

「あたしは大丈夫や。麻痺とちょっとのダメージやから、大したことない。

でも、センセはヤバいかもしれへん」

「え」「どないゆうこと?」

 

あまりに想定外が起こり過ぎて、固まっていたクレアをよそに、セルフィが尋ねる。

 

「アレ、『マインドフレイア』や。

エクスデスの元の世界におる魔物で、ラスダンにおる雑魚敵やねん。

雑魚でもラスダンまで行ったら、序盤のボスなんか軽くヒネるで」

「ヤバい、センセ3人ほどで行ったで」

「追っかけよ」

「追っかけて、今のテレサに何ができるん!?」

 

クレアが叫ぶ。

 

「テレサまで死んだらアカン。他の上級生とかに任せよ、な?」

「……ゴメン、センセはまだ死んでない。まだ助かるんや。

でも、今からヒト呼んでる時間もないんよ。

それに……あたしも死にに行くわけやない。倒せる算段はあるねん」

 

テレサはクレアの悲痛な叫びを振り切って、現場へ向かった。

 

「クレア、武器持ってついてきて。

セルフィ、多分、大人はみんな倒れてるから、運ぶのにヒト呼んできて」

「う、うん」

「うぅ……!」

 

『ショートスピア』を杖代わりにしつつ、黒髪少女は現場へ戻る。

 

 

 

現場には、法衣を身に纏ったイカの怪物が、黒い靄=次元の穴、から姿を現わしていた。

教員は倒れていたが、テレサがそうしていたように、麻痺している中でもわずかずつ動いており、なんとか生きていることが見て取れた。

 

少女は両方の世界にとって異質な、異常な力を披露する。

今まで、一部の教員にしか見せて来なかった、親友にも秘密にしていた、実験と鍛錬の成果を。

 

「目標設定:対象物の破壊」

 

これは自己暗示。

平時にはあまりに危険な力であるため、目標を設定しない限り、使用しないようにしているのだ。

 

「“ミリオンスライスープロケット逆風の熱線放射電束ミサイルプラズマ幻魔雑霊爆砕金剛跳弾神速ダーク電磁放射電撃曲射陽子ロケット落雷ジャイアントロコ集中稲妻グリフィスローリン三濁流清流タイガー短勁スカイライジングロザリオ塔三龍羅刹十字散水”『略して剣』」

 

40もの擬似魔法を重ねることで、対象の耐性を無視して異種の『魔法剣』を5つ重ねがけし、内部から原子単位の破壊を行う、究極の分解魔法。

FFシリーズにはほとんど登場しない、『原子分解(ディスインテグレート)』と呼ばれる種類の魔法だ。

 

だが。

イカの怪物は絶望を告げた。

 

「ぐうぅぅっ、だが、ワガハイを滅するには、まだタリ――」

 

あくまで今まで通じていたのは耐性も何もない、一抱えほどの石に対してのみ。

 

それを知っていたのは、何よりテレサだった。

だからこそ、仲間を連れてきた。

 

新型の『赤魔法』、しかも、テレサがよく知る技術の使い手。

ラケットに収まった炎の灯った弾に、もう1つ擬似魔法を重ねる。

 

「“――”『スロウ』」

「そんなモノが――グアァァァッ!?」

 

『スロウ』の遅延効果によって、ほんの3秒だけ破裂までの時間が延びた小石は、狙い通りイカの怪物は腕で防ぎ、トラビアガーデンからの移動中に1発の『ストップ』と8発の『ファイア』を蓄積していた小石は、合計10発分の擬似魔法のエネルギーによって爆発し、炎を撒き散らした。

 

これは、トラビア軍の研究施設で発見された、『赤魔法』の安全な運用法である。

『ストップ』によって小石の時間が止まっている内に数発の擬似魔法を蓄積しておき、時空魔法の上書きの性質を利用して時間停止を解除、狙ったタイミングで破裂させる、というものだ。

『スロウ』は対象物の時間を遅くする魔法で、破裂までの時間を調整する目的で使用された。

 

「コムスメどもとアナドったか……」

 

イカの怪物は、人魂のような光となって、テレサの胸に吸い込まれていった。

 

『マインドフレイア』は、自律エネルギー体、つまりGFだったのだ。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ついに大きな転換点です。
テレサにとっても、他の仲間達にとっても。

そしてやっと出てきました、FF8の目玉であるGFが。
この小説は、ここから本格的にヒドいことになります。



――――設定

マインドフレイア:FF5、『次元の挟間』の雑魚敵
速攻で倒さないと青魔法『マインドブラスト』を連発してくるウザい敵。
逆に青魔法『マインドブラスト』をラーニングするのにこれ以上の敵はいない。
ところが、コイツに出会う頃には、『マインドブラスト』は味方が使っても大した技ではなくなっている。
『マインドブラスト』は麻痺とスリップと無属性ダメージ。
麻痺が目的なら『デスクロー』の方が便利で、無属性のダメージソースとしても、他に優秀な魔法やアビリティが多く揃ってしまうため。
スリップでダメージが稼げるまで待っているなら、とっとと倒してしまうというのもある。
味方が使うと大したこともないが、敵が使うとウザい技の使い手。
以上。

FF4では召喚獣となっており、それを参考に今回も自律エネルギー体、つまりGFとして設定した。

『スロウ』、『ストップ』:擬似魔法、時空魔法
便利な時空魔法。
『スロウ』は対象の時間を遅くし、『ストップ』は対象の時間を止める。
今回は最初に『ストップ』を『魔法剣』ではない形で小石にかけて、『魔法剣』の重ねがけによる破裂を遅延させていた。

ゲーム中、相手の動きを完全に止め、カウンターも不発させてしまう『ストップ』の方が強力だが、なかなか通じる相手がおらず、『スロウ』の方が便利であることの方が多い。
『ストップ』は使ってくる相手にST防御ジャンクションにセットする程度がほとんど。
カード稼ぎのための調整時、ST攻撃にセットすると敵のダメージモーションを確率でカットできて便利なこともある。


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新たな扉

7/5 なんでかわかりませんが、口内炎がしょっちゅうできます。


――キョウミ深い。

――このようなニンゲンがおったとは。

 

?――。

 

――フム、ワガハイの声までトドくか。

――カミに与えられしモノではないな。

 

……――。

 

――ここはキサマの夢の中よ。

――ワガハイが見てきた中では、ズイブンとニギヤカだが。

 

……?――。

 

――オボえておらぬか。

――ワガハイはキサマに敗北し、キサマのシモベとなったのだ。

 

……?――。

 

――その問いにコタえるには、時間を要する。

――その前に、キサマにはやらねばならぬことがあろう。

――その間、ワガハイはここで待つ。

――さあ、目覚めるのだ。

 

 

 

黒髪少女は目を覚ます。

保健室のベッドの上。

 

何度となく無茶をしたり、セルフィの顔面パスによって運ばれた場所だ。

 

「知ってる天井や」

「セルフィが言うんかい」

 

なぜか添い寝していた茶髪の親友にツッコミを入れた。

 

「んー……」

 

テレサは身体を起こして伸びをする。

身体の感じからすると、そこまで長く眠っていたわけではないらしい。

 

「セルフィ、あたしどれくらい寝とって――」

 

ふと視線を向けると、セルフィが起き上がろうとして、クレアに首にしがみつかれてバタバタしていた。

1つのベッドに、小柄とはいえ3人も詰め込まれていたのである。

 

「なんでやねん」

「おぉ、起きたんやね」

 

そこに保健医の老女がやってきた。

 

「あ、おばあちゃん」

 

老女は3人娘の額にそれぞれ手を当てて何事かを頷くと、こう言った。

 

「結局誰もベッド分けへんかったんか」

 

保健室の中にはベッドが4つあり、それぞれカーテンで仕切られていたのだが、テレサ達がいたベッド以外は乱れた跡があり、誰もいなかった。

つまり、そこに3人、しばらく前まで大人が横になっていたのだ。

だから、子供3人が1つのベッドとなっていた、ということらしい。

 

老女は文句を垂れながら乱れたベッドのシーツを取り外し洗濯籠に入れると、慣れた手つきで新しいシーツをセットする。

さすがトラビア軍の元軍医であり、基礎的な動きすら美しさを感じる。

 

「ばあちゃん、ばあちゃーん、テレサもたすけて~」

 

首に絡みつかれているセルフィの声が聞こえてきた。

クレアがまだ放してくれないらしい。

 

とりあえず、老女が手際よく外した。

 

「昨日、いきなりの真剣勝負で疲れてたみたいや」

「もう1日経ってたんか」

「セルフィもよう頑張っとったんよ」

「エヘヘ」

 

頭を撫でられて、茶髪少女は照れる。

 

「テレサも、だいぶ無茶しよったんやってな?」

「あ~、う~」

 

温かい手で頭をぐりんぐりんされて唸る。無茶をした自覚はあった。

 

 

 

とりあえず、この日は大事を取って休みとなる。

当然だが、鍛錬も実験も1日禁止が言い渡された。

 

テレサはその間に、GFについて調べる。

『マインドフレイア』が自分にジャンクションしていることが確認できたからだ。

まだ『ドロー』によって魔物などから擬似魔法のエネルギーを吸収していく必要があるのだが、これによって身体能力などを大幅に強化することができるようになる。

 

ただ、同時に原作には記憶障害という代償もあった。

対処法はあるのだが、この世界でも通じるかどうかは分からない。

それを調べる必要があったのだ。

 

しかし、判明したのは噂話程度のものだけ。

 

「GFをジャンクションしたら、ジャンクションしてへん時の運動神経が落ちる……?」

 

テレサは一瞬、険しい表情を浮かべる。

唯一分かった噂では、GFは運動を司る部分に居場所を作り、そこから全身にエネルギーを巡らせることで身体強化を行うため、外した際の運動神経の低下が、ジャンクションの未経験時に比べて大きくなるということ、らしい。

 

これが本当だとすると、とんでもない話だ。

転生特典である『記憶保護』が、ほとんど役立たずとなってしまう。

その上に、GFをジャンクションするならば、GFを外した時の戦闘力の低下を覚悟しなければならなくなる。

 

だが。

ある意味でこの平行世界仕様は、大きな可能性も持っていた。

 

 

 

夜、夢の中。

 

――まずはエクスデスについてのシツモンに答えよう。

 

『マインドフレイア』は、テレサの夢の中、無数のコンピュータとそのモニタで構成された世界で語る。

 

――ワガハイはエクスデスのチカラによって、この世界へと送り込まれた。

――最初に送り込まれたのがワガハイであったのは、ワガハイが『次元の挟間』にて霊体となっていたからだ。

――つまり、まだワガハイのような、『次元の挟間』においてはチカラの劣るモノしか送り込むことができんということだ。

――テイサツとは言われたが、本質は実験であろう。

――ヤツにとって、ワガハイは使い捨てのコマであったということ。

――ユエに、ワガハイとエクスデスの間に繋がりは最早ない。

 

それはそれで、重要な情報だった。

世界を渡る準備を、エクスデスは着々と進めており、その実験として魔物を送り込んでくる可能性が示されたのである。

 

しかし、テレサにとってはもっと重要な、聞かなければならないことがあった。

少女はテレビモニタに脳の図解を映し出し、『マインドフレイア』が脳のどこにいるのかを尋ねる。

 

……?――。

 

――確かに、ワガハイはその『運動野』とかいう部分に場所を作っておる。

――アチラではエイキョウなど考えたこともなかった。

――運動神経のあるモノがワガハイを召喚したことは記憶にない。

 

……?――。

 

テレサは質問を変える。

 

――ワガハイがキサマの脳機能を意図的にセイゲンできるか、だと?




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ここから、ついにテレサがさらに先への扉を開きます。

実は今回、連載としたのは失敗だったかなとか思っています。
連載の前に2回ほど書いていたんですが、どうしてもギャグにできなくなってしまったんですよ。
今回もすでに手遅れ感があるんですが。
できればここから巻き返していきたいと思います。

ついでに、また時間が飛びます。



――――設定

トラビア軍元軍医:考察、独自設定
トラビア軍は100年前に神聖ドール帝国が崩壊した際に設立された。
人口2万のトラビアでは常備軍の数を確保できないため、正規軍自体が特殊部隊と称していいレベルのエリート集団である。
正式な軍医の数も当然少なく、そもそも名医クラスの才能を持った者しか正式な医者になることすらできない。
その中でもトラビアガーデンの保健医は重要で、ただでさえ少ない人口を訓練中の事故や病気で減らすことがないように、サポートも含め最高クラスの実力者が選ばれる。当然、設備も常に最新のものが導入される。

GF(ガーディアンフォース):自律エネルギー体、考察、独自設定
原作において記憶に居場所を作るため、記憶障害を発生させるという設定があった。
ゲームの最初、GFをコンピュータよりダウンロードする描写があるが、記憶障害のことはあくまで噂だった。
その噂が真実だと判明するのは物語中盤となる。

この世界では平行世界ということを強調する意味もあり、その設定を変えている。
運動野にするか小脳にするか迷ったが、小脳は自律神経を司る場所であり、その機能低下は命に係わるため、大脳の運動野とした。

ちなみに、脳機能の意図的な制限については、いずれ本編にて説明することになるかと思われる。


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多分、これが一番変態だと思います。
開花


7/6 台風一過。しかし災害は止まず。


青い空、広い海。

大地に広がるのは、緑色の草原。

 

3年後、15歳のテレサは、バラムにやってきていた。

本来、原作が始まる2年前に、彼女はバラムガーデンに転校した。

 

理由は単純にして切実。

なぜか彼女を狙って、『次元の挟間』の魔物がたびたび送られてくるようになったからである。

 

最初は『マインドフレイア』から半年後、次に4ヶ月後、さらに3ヶ月後、とどんどん短くなり、ついに5日毎に1体、それだけでトラビアが滅びかねない戦力が送られてくるようになっていた。

 

始めの方はトラビア軍が常駐して対応していたのだが、どんどん負傷者が増えていき、最後にはバラムガーデンの傭兵『Seed』を雇い、それでも厳しくなると、完全にテレサ頼みとするしかなくなってしまっていた。

彼女も新たに得たGFの力を戦術に組み込み、一気に戦闘力を伸ばしており、魔女並みの力を持つ兵士として、ある意味重宝されるようになる。

 

しかし、それもいずれ限界が来る。

 

だからこそ、トラビアガーデンの学園長とマスター兼トラビア大統領は、決断せざるを得なかった。

敵が狙ってくるテレサを独り、世界最強の戦力の揃ったバラムガーデンに転校させることを。

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ……」

 

黒髪少女は小刻みにジャンプを繰り返しながら、草原を駆け抜ける。

彼女にとっては草原も、その間を走るアスファルトの道路も、遠くから見える深緑の森も、新鮮なものばかりだった。

 

小刻みにジャンプを繰り返すのは、トラビア大陸の雪原と土の地面と氷の地面を区別なく素早く移動するために編み出した移動方法だ。

そこまで移動に難のないバラム島でこの移動法を使用する意味はなかったのだが、これはテレサの癖のようなものだった。

 

途中に魔物が出たが、彼女は足を止めることすらなく、槍の一撃と蹴りで仕留めて先を急ぐ。

 

バラムガーデン正門では、知り合いの正Seedが彼女を待っていた。

 

「よう、待ってたべ」

 

特有の訛り言葉で声をかけるのは、筋肉質の赤毛男ワッカ・ビレッジ。

トラビアガーデンが以前雇ったSeedの1人だ。

 

「うい」

 

テレサも停止して対応する。

ルールとして、ムービー中に変態移動は行わない。

 

「彼女がそうなの?」

 

もう1人、長い黒髪の美女がいた。

長身の大人びた美貌の持ち主で、泣きボクロがあって胸が大きい。

 

身長もあまり伸びておらず、女性としても育っていないテレサとは大違いだ。

 

「ああ、テレサ・ドゥだ」

「あなた、その名前で通してきたの?

ルールー・ビサイドよ」

「ヨロシク」

 

お互い握手する。

 

 

 

正Seedが2人も案内役を買って出たのには理由がある。

テレサの使う技術が、バラムガーデンで研究されているそれよりも高いレベルにあると認定されたからだ。

 

つまり、彼女は生徒であると同時に、専用の研究室を持った研究者としても、バラムガーデンに転校することとなったのである。

 

「……その技術の提供と引き換えに、我々は5日毎の魔物の来襲に対する戦闘を、全力でサポートします。よろしいですね?」

「おk」

 

学園長室にて、契約書にサインが入れられ、正式に契約が結ばれる。

 

1体で国を1つ滅ぼすような魔物を、5日毎に相手することになるのだ。

引き換えになるのは、魔女にも匹敵すると言われる戦闘技術の提供と研究。

 

バラムガーデン学園長シド・クレイマーの目的として必要なことで、さらに戦力を増強したいマスター・ノーグの思惑にも合致したために、今回の契約となった。

 

「次の5日目、あした。見にくる?」

「おや、そうですか。それでは今から希望者を募りましょう。

場所は、最初ですから外でお願いできますか?」

「りょーかい」

 

テレサは右手を挙げて敬礼し、準備のために去っていく。

 

 

 

翌日。

数人の教員や生徒達が遠巻きに見守る中、バラムガーデンの見える草原にて少女は次元の魔物を待った。

 

黒く、巨大な靄――次元の穴が空中に出現し、そこからボロボロのローブを身にまとった痩せた老人が姿を現した。

それ(・・)は黒髪少女の姿を認めると、周囲に無数の魔物、正確には魔物の死体を出現させる。

 

ほとんど大軍団だった。

1人の少女を相手にぶつける戦力ではない。

たった1体で国を滅ぼせるというのも、決して誇張ではないと思わせるほどの圧力。

 

「『ゾンビ、いなかった』」

 

――はずが、出現と同時に正確に頭を撃ち抜かれ、アンデッド化した魔物はバタバタと倒れていく。

 

やっていることは単純で、『ブリザド』によって氷塊を生み出し、それを砕いて槍で弾いたり、足で蹴飛ばしたりしているだけだ。

しかし、時折爆発が発生しており、生み出された氷塊に『魔法剣』による魔法合成を行っていることが分かる。

 

「『魔球スローカーブ』」

 

1つ1つはそれほど難しくない技なのだが、それを同時にマシンガンのように、しかも一発一発十分な威力を計算して正確に急所に当てるというのは、人間業ではなかった。

 

しかも、テレサは同時に本体である老人へも攻撃を行っており、老人は後手後手に回らざるを得なくなってしまっている。

 

「『撃つと死体が降ってくるゲーム』」

 

しばらくすると、老人が盾にしていた魔物の死体も撃ち抜かれ、老人に氷の礫が直撃し始める。

いや、それどころではなかった。

老人が徐々に石化し始め、石化解除の暇も与えなかったために、完全に石となってしまい、最後に同じく石化した魔物のアンデッドが投げ込まれ、もろとも砕け散った。

 

「『多分、これが一番早いと思います』」

 

言って、テレサはパタリと倒れ伏す。

 

さすがに、これだけの戦闘に体力が追い付かなかったのだ。

 

「衛生班!彼女を保健室へ!」

 

見物客の1人だった教員が、万が一のために待機していたサポートチームに指示を飛ばす。

 

「やれやれ、予想以上でしたねえ」

 

同じく見物していたシド学園長が、今の戦闘で読み取ることができた様々なことに思いを馳せ、今後の方針について会議を開く旨を近くの制服教員に伝えた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
これがテレサの完成形です(白目)。

まだ肉体への負荷が大きく、1戦ごとに気絶してしまうという欠点があるんですが。

『ゾンビ、いなかった』は『THE・ゾンビガンシューティング』のTASネタです。
『魔球スローカーブ』は『パワプロ』(ナンバリング忘れた)のTAS動画ネタです。
『撃つと死体が降ってくるゲーム』は『メタルスラッグ』のTAS動画ネタです。



――――設定

トラビアガーデン学園長、マスター:考察、独自設定
トラビアは人口が少なく鉱物資源の売買以外に目立った産業がない。
その鉱物資源の売買も、交通の便が非常に悪いため、それほど発達していないと考えられる。
このことから、際立ったお金持ちというのがトラビアにはいないのではないかと考えた。

そのため、この小説ではトラビア大統領=トラビアガーデンのマスター、つまり出資者としている。
トラビア共和国は徴兵制(民兵制)の国であるため、国策としてトラビアガーデンを設立し、国家予算で維持していると考えれば、国民の大半がトラビアガーデンの関係者であるという、『アルティマニア』の説明についても辻褄が合う。

バラムガーデン:アルティマニア設定
世界に3つあるガーデンの中心的存在。
自由で開放的な雰囲気があり、校内での服装や行動は生徒達の自主性に任されている。
GFのジャンクションを利用した戦術や、校内に魔物を放った訓練施設などがあり、生徒の戦闘訓練への関心が高い。

希望する生徒は試験を経てSeedに認定され、世界中に派遣して任務に従事し、実戦を経験させるという制度が存在する。
GFのジャンクションを取り入れていることもあり、世界最強の傭兵部隊として知られている。
(他にまともな傭兵部隊についての設定が存在しない)


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予想外

7/6 雨は数日に一度に分散して降ってくれないかな。
7/10 誤字がわからない。何度見返しても。自分で書いてすぐはなんでこう分からないんだろうか?
一応、「脈を採る」を「脈をとる」に変更。


会議室にて、テレサの戦闘の模様がモニタに映し出される。

 

「ヤマザキ先生、わかりますか?」

「『赤魔法』ですな。

しかも、一般的に不可能とされた別種合成と見て間違いありません」

 

シド学園長を始めとして、分析を行う。

 

「噂には聞いていたが、これらがすべてそうだと?」

「すべてではないな。

氷の破片の幾つかに付与しているだけで、礫の3割程度と言ったところだ。

それでもこの速度は尋常ではない」

「単に『ブレイク』が通じたのに、派手な戦闘を求めて最後に回しただけでは?」

 

制服教員の1人が疑問を呈した。

 

「問題はそこだ。テレサ君の様子を映した映像の方を見てみると分かるが、彼女はそもそも『ブレイク』を使用していない」

「この状況ではアンデッドの群れに阻まれてしまうでしょうしね」

「その通りです。だからこそ彼女は、おそらく『ブレイク』の効果を意図して合成したのではないでしょうか。

それも、通常の擬似魔法のような射出という形ではなく、敵の間近で発生させたと考えられます」

「バカな、そんなことが可能なのか?」

 

バラムガーデンにおいて対立する学園長派とマスター派の区別なく、ヤマザキの説明は荒唐無稽に思えたのも無理はない。

 

「それが本当ならば、耐性付与以外で回避不能な異常効果を、好きなタイミングで合成することができることになる」

「そもそも、テレサ君はなぜそのようなことを?」

「これは私の推測ですが、おそらく今回の相手がアンデッドだったからではないでしょうか?」

 

シド学園長が口を挟む。

 

「単独であれほどの力を持ったアンデッドです。

多少のダメージでは即座に再生される、という可能性を考慮したとしても不思議はありません。

だからこそ、ダメージではなく石化、さらにそれを砕くという形で倒すことを選んだのではないかと、考えられないでしょうか?」

「……」「……」

 

皆黙る。

確かに、説得力があったからだ。

アンデッド系の魔物には、とにかくタフなモンスターが少なからずいる。

特に物理攻撃に高い耐性を持つことが多く、総じて厄介な相手と一般的に認識されていた。

 

「……テレサ君の実力は分かった。

それで、その技術を生徒達に教え込むまでに、どれくらい時間がかかる?」

「使用された技術は『赤魔法』の別種合成、それを実現するための『魔法剣』。

そこまでならば、擬似魔法が得意な生徒ならば3ヶ月も訓練すれば習得可能だろう」

「やけに早いな」

「それ自体はただの発想の転換だからな。

しかし、そちらが思うような結果になるという保証はできない」

 

ヤマザキが告げる。

 

「理由は?」

「熟練度がまるで違う。詠唱速度が『連続魔法』の領域だし、あれだけの数の相手に単独で手数で上回るのは、『赤魔法』や『魔法剣』、その他の我々が知る技術では説明がつかない。

さらなる未知の技術と、血の滲むような努力。

その両方が備わらなければ、とても実現はできないだろう」

「もう1つ、この件に関して差し迫った大きな問題があります」

 

優しそうな恰幅のある初老のメガネ男性が言った。

 

「5日後にまた、このクラスの敵が出現するそうです。

たった5日では無理でも、彼女の負担を軽減するくらいの手立ては講じなければなりません。

それがバラムガーデンとトラビアガーデンとの契約であり、彼女が我々に技術を提供する条件です」

「勝手に契約を結んでおいて……!」

「では、トラビア政府との約束を白紙撤回して、テレサ君との契約も破棄し、彼女をトラビアガーデンへ送り返しますか?

魔女を倒しうる唯一の傭兵部隊。

その巨大な評価を手に入れるチャンスを棒に振るということですよ?」

「ぐっ……!」

 

ノーグ派のリーダー格は、唸る。

 

彼らにとってテレサは、ハイリスクハイリターンなのだ。

シド学園長はハイリスクを承知の上で、魔女に匹敵する力を持ったあの少女を引き受けた。

不思議な力などではなく、血の滲むような研鑽によってその領域へと足を踏み入れた、史上初めての英雄の卵を。

 

 

 

「しらないてんみょ……」

「てんみょ?」

 

少女が目を覚ますと、横幅のある中年女性が怪訝な顔をしながら熱を測り、脈をとる。

 

「……今何時?」

「18時だね。例の戦闘から4時間ってところさ。

身体にどこか、痛いところはないかい?」

「おなかへった」

「おや、食いしん坊だねえ。まあいいさ。今担当を呼ぶから待ってな」

「りょうかい」

 

中年白衣の保健医は、有線通信でテレサの世話役を呼ぶ。

近くで待機していたらしく、すぐに担当者がやってきた。

長い黒髪の大人びた美女、ルールーだ。

 

「2日も目覚めないことがあると聞いていたけれど、案外早かったのね」

「今回は『状況再現』で抑えてん」

 

幼児体型の少女はこともなげにそんなことを言った。

 

「え……?」

 

ルールーは絶句した。

彼女も『赤魔法』の使い手で、ワッカから話を聞いて、下級魔法なら『魔法剣』を使い、安全に別種合成を実験できることに辿り着いていたのだ。

しかし、最先端を行くという年下の少女から飛び出てきた言葉は、まったく別のものだった。そしてその口振りからすると、さらに上があるという。

 

そして、ワッカが以前にテレサの戦いぶりを見て報告した内容をルールーは思い出す。

 

『彼女自身が世界のルールだと言わんばかりの暴れっぷり。

魔女アデルでもアレの相手は厳しいかもしれない』

 

バラムガーデンの教員達は、その報告から『魔女に匹敵する』と考えた。

ルールー自身も、ワッカが普段、いい加減な報告書の書き方をするために、話半分くらいに認識していた。

 

だが、もしも、話の方(・・・)が半分(・・・)だったなら?

 

「(いえ、さすがにそれはないかしら。

いくら物理脳で擬似魔法に疎いと言っても……)」

「おなかへったー」

「はいはい、食堂ね」

「おk」

 

黒髪美女は溜息と共に(かぶり)を振って、空腹を主張する少女を食堂へ案内するのだった。

 

今は、そこまで深く考えても仕方がない。

必要になったならば、いずれ教えてくれるだろう。

それがバラムガーデンと、この天才少女との間で結ばれた契約なのだ。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回の敵はFF5のラスダンの雑魚敵、『ネクロマンサー』です。

FF5をプレイするにおいて、味方をゾンビ化させてくる厄介な相手ですが、HP的にはそんなに強くなく、最終的にそこまで記憶に残る敵ではありません。
相手に行動させる前に速攻で倒す、が十分通用しますからね。



――――設定

ルールー・ビサイド:オリキャラ
19歳、正Seed、特殊技は『赤魔法』。
容姿や性格、戦闘スタイルはFF10のルールーにそっくり。
さすがに人形を操ったりはしませんが、擬似魔法中心の戦い方をする。
本作ではテレサの世話役で、同じ『赤魔法』の使い手としてテレサの研究を盗むように指示されている。

ワッカ・ビレッジ:オリキャラ
19歳、正Seed、特殊技は『ブリッツ』。
容姿や性格、戦闘スタイルはFF10のワッカにそっくり。
武器は『モーニングスター』だが、鉄球を投げて攻撃し、特殊技では鉄球を蹴ったり大回転シュートしたりする。
2ヶ月前までトラビアガーデンに雇われ、テレサの負担軽減のために『次元の魔物』との戦いに参加していたが、どんどん強くなる魔物に限界を感じ、両学園長に取り次いでテレサをバラムガーデンに転校させるべく働きかけた。
その関係で責任を感じており、テレサを見かけると何かと世話を焼きたがる。
ルールーとは幼馴染み。

どうしても数人、オリキャラが必要になるため、FFのナンバリングタイトルから作者が知るキャラを引っ張ってくることとした。
名字は両方ビサイドにすることも考えたが、そうすると兄妹か夫婦と勘違いされると思い、別にした。
ビレッジの元ネタはビサイドの英語名ビサイド・ビレッジより。


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本領発揮

7/7 悲しき独り身の七夕。


食事後。

 

「ここの食堂、ボリューム結構ある方なのに、3人前は食べたんじゃない?」

「人外に片足突っ込んでると、燃費悪いんよ」

 

ちなみに、ガーデンというのは兵士養成学校である。

特に実技の訓練は食べなければ持たないことも多く、さらに割と命懸けであるため、女子生徒達もダイエットなど気にせずに遠慮なく食べる傾向があった。

 

そんなガーデン生の目から見ても、テレサは食事量が多い方である。

もっとも、彼女は使う技からしてかなり特殊なケースなのだが。

 

「今日はこれからどうする?」

「解析と調整」

「大丈夫なの?」

「カラダはヘイキやで」

「そう、なら、ヤマザキ先生に映像を借りてきましょうか」

「いらへん」

「解析でしょう?」

「肝心なもん映らへんやん」

「肝心なもの?」

 

ルールーは少し考え込む。

もしかすると、一般的な意味での解析ではないのかもしれない。

なにしろ、バラムガーデンで天才児と言われたルールーでさえ、この少女が使う技術については分からないことの方が多いのだ。

 

「黒い靄。アレ、カメラに映らへんねん」

 

テレサは一貫して、同じ目的のために行動していた。

当然、倒すべき相手の情報を取得することも含む。

『次元の魔物』を自慢げに倒して終わりなどということはしない。

タブレットで何度も撮影して、なぜ映らないのかも含め、解析を進めてきていた。

転生特典なら、映るようにしてくれてもいいと何度も思ったものだが。

 

「私も見たのは見たけれど、アレの正体が分かるの?」

「なんかの魔法で、異世界と繋いでるっちゅうことくらいやね。

『次元の穴』てあたしは呼んでるで」

 

ルールーにとって、色々な意味で予想外の答えだった。

この少女と自分達とでは、目指しているものや見えているものがまるで違う。

 

「肉眼で見て、わかるものなの?」

「めっちゃノイズ入ってるから、解析せんとゼンゼンわからへんよ。

やから、今回は『状況再現』で済ましてんよ。

『任意コード』までやってたら、見てる余裕もあらへんし」

「その、『状況再現』とか、『任意コード』ってなんなの?

あなたが使っていたのって、『魔法剣』を併用した『赤魔法』の別種合成よね?

別種合成で『ブレイク』を発動させたのでしょう?」

 

黒髪美女は尋ねる。

テレサが使う技術を盗めという指示を受けている以上、そこは確認しておかなければならない話だった。

もっとも、それを指示した制服教員達も、新型の『赤魔法』、世界初となる別種合成について意識していたようなのだが。

 

「『赤魔法』て、擬似魔法だけで合成する技術やん。

『状況再現』て、周りの魔力の状況を操作して合成する技術やから、別モンやで?」

「え」

「それに、アタシが合成したんは『ノーザンクロス』やん。

石化があんなぐらいで割れへんて」

「え」

「『任意コード』て、周りの魔力の探知と操作突き詰めて、未来予知と事象改変まで踏み込んでるから、さすがのあたしも他に余計なことやってる余裕ないんよ」

「……」

 

ルールーはワッカの報告書を思い出す。

 

『彼女自身が世界のルールだと言わんばかりの暴れっぷり』

 

まさしく、『任意コード』の説明そのものだった。

 

「解析は分かったけど、調整は?」

「見た方が早いで」

「それじゃあ、どこがいいかしら?訓練施設?」

「ほんならそれで」

 

少女は言うと、立ち上がったルールーの手を握る。

 

「ホァイ」

 

ほんの数秒、目まぐるしく変わる景色が落ち着くと、そこはバラムガーデン内に作られた、魔物が放し飼いにされたエリアの手前、ルールーがよく知る訓練施設だった。

 

「え……?」

 

自分の身に何が起きたか分からず、黒髪美女は頭が真っ白になって立ち尽くす。

 

 

 

エクスデスは、『次元の挟間』から異世界へ魔物を送り込む際の反動に悩まされていた。

 

なぜか、妙に『無』の力が乱れるのだ。

そのせいか、タンスの角に小指をぶつけたり、クシャミが出そうで出ない状態が3日も続いたり、『次元の挟間』なのにタライが降ってきたり、酒瓶が降ってきたり。

 

何度そういった呪いのようなものを払っても、異世界へ魔物を送り込むたびに妙なことが発生する。

おかげで自分自身が異世界へ渡ることができるほどの、大きな穴を開ける実験の回数が、最近は5日に1度から手順を短縮できなくなっていた。

 

しかも、最初に送り込んだ『マインドフレイア』の反応を目印に、何度も世界を滅ぼせるほどの戦力を送り込んでいるのに、なんの反応も返ってこない。

 

エヌオーに相談しても、古い文献を読み漁っても、いずれの理由も分からない。

 

「このまま、不安要素を抱えたまま、異世界へ飛ぶべきかどうか……」

 

エクスデスは、原因不明の反動のようなものに、頭を抱えていた。

 

原因が、平行世界を管理する神が送り込んだ転生者が持つ転生特典にあるとは、さすがに考えが及ばない。

 

話もできなかった魂に、神も期待をかけたりはしなかったのだ。

転生特典とは教えずに、ただ生きているだけでエクスデスの妨害となるような、そういう呪いを持たせていたのである。

 

そうとは知らないエクスデスは呪いに悩まされ続け、テレサも妙に不安定な自身の周囲の魔力に悩まされ続けていた。

 

それを見てほくそ笑むのは、神のみ。

テレサや転生を知る親友達などは邪神の類と考えていたが、あながち間違いではないかもしれない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ようやくテレサが本領発揮して、ギャグっぽくなってきました。

ただ、やっぱり理詰めにしがちな私にはギャグは向かないのかな、と思ったりはします。
感想を書いてくれる読者の優しさに涙しながら、まあ書きますが。
私自身の練習でもあるので。



――――設定

食事量:考察、独自設定
バラムやガルバディアでは、食事量の多さはそこまで問題にはならない。
しかし、食糧事情が厳しいトラビアで多く食べるのは少々問題がある。
もっとも、それは一般家庭単位での話である。
トラビア共和国は農業改革や品種改良など、食糧増産に力を入れており、その食糧を一括管理し、貧富の差による食糧難の緩和に役立つことから、徴兵制の制定やトラビアガーデンへの入学義務に対する反対意見が出なかったのではないかと考えられる。

これは現実においての発展途上国の学校教育、給食支援活動などを参考に考察した。

『ブレイク』:擬似魔法、ST変化魔法
FFシリーズの石化魔法。
ナンバリングタイトルの多くで即死と同様の扱いを受ける強力な魔法。
本小説における設定では、全身を硬化させ、動けなくする魔法としている。
そのため、生半可な攻撃では破壊できない。
ゲームで6万以上の防御無視ダメージを叩き込んでも、欠片も壊れないことからこういう設定にした。

FF8のゲーム中では、石化させるとそれまでに与えたダメージ分しか経験値がもらえないという仕様がある。
それを利用し、よく低レベル進行に活用されるが、普通のモンスターはカードにしてしまえるため、肝心な時に石化を忘れて経験値を吸収させてしまうことがあったりもする。
『ターミネーター』を石化させる際、命中率は1%となっているが、ST攻撃にセットして殴るより『ブレイク』として使用した方が多少効きやすいように感じる。(要検証。一度効いたことがあるが、二度とやりたくない)

『ノーザンクロス』:捏造設定
元ネタはFF6の敵が使ってくる凍結魔法。
凍結した状態は行動不能で、炎魔法を受けると解除されるが、その状態で物理攻撃を受けると即死する。
確か防具での防御は不能で、『ジハード』+『フレイムシールド』の戦法が有効と考えられる。
時間経過でも解除されるが、ぶっちゃけ使われる前に敵を殴り倒す方が早い。

『ネクロマンサー』の耐性を考えた結果、凍結からの破壊で倒すのがいいと判断し、今回登場させた。
元々全体攻撃で、今回もアンデッド複数体を一網打尽にしている。


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対戦

7/12 アツイッシュ。


サイファー・アルマシーは焦りを感じていた。

1つ年下で勝手にライバル視してきた後輩の才能が、自分より飛び抜けていると知ったからだ。

 

さらに、最近は魔女と同等かそれ以上の戦闘力を持つと言われる転校生の噂でもちきりだ。

 

目にも留まらない速度でガーデン構内を吹っ飛んで行く黒髪少女を、最初は言いがかりをつけて叩きのめすつもりでいたが、通路で待ち伏せしていても例の高速移動で正面突破されるのには参った。

必死に追いかけるも、研究室に入られるとどうしようもない。

基本的に不良生徒であるサイファーには、ああいう場所へ踏み込むのはハードルが高いのだ。

 

なので、色々と調べ回った結果、通路で捕まえるのは諦め、訓練施設で待ち伏せすることにした。

 

「うおりゃああああああああああああああっ!」

「ナギッペシッペシッナギッペシッペシッ」

「まだまだぁぁぁっ!!」

「フハハハフハハハフハハハフハハハ」

「ごふぁっ!?」

 

先客がいた。

 

15歳でSeed候補生になったばかりの、サイファーからすると後輩の金髪少年ゼル。

稽古がてら挑んだらしいのだが、ものの見事に相手になっていない。

 

なにしろ、空中で慣性を無視し、後ろに回り込んだりするのだ。

しかも、攻撃が30センチもズレているのに当たったことになったり。

オーラを駆使した小技なのだろうが、それがあまりにも鮮やかで、まるで次元を超えてダメージを与えているかのように見えた。

 

しかし、それなら今のサイファーなら対応できる。

 

「おい、転校生、次は俺と勝負しろ!」

 

 

 

サイファーは保健室で目覚めた。

 

「ぐっ……!」

 

身体中が痛む。

その痛みで、何があったのかを思い出した。

 

あの転校生の少女を相手に、ボロ負けしたのだ。

それでも立ち上がって挑み続け、結果として意識を失い、この保健室に運ばれたらしい。

 

まず、手数が明らかにおかしい。

二刀流を相手にもそれなりに戦える自信があったが、テレサはそれをすら上回った。

サイファーは、候補性の中でも中堅クラス、同年代の中ではかなり強い部類ではあるのだ。

 

ただの剣では単発の攻撃力で勝てない相手が、目標となる先輩にいるため、武器として『ガンブレード』――火薬によって刀身に一瞬だけ高周波を与え、斬る際の抵抗を低減する特殊な武器――を選択した。

扱いの難しいそれにも徐々に慣れてきて、そろそろガンブレードの威力を活かした戦術を組み立てようとしていたところ。

 

出現した圧倒的な手数という壁は、あまりにも高かった。

 

手数が多いから一撃は軽いのかというと、そんなことはない。

小手先のものではなく、ちゃんと体重の載った威力のある攻撃ばかりだった。

スコールが手数と重さを両立する剣術の使い手なのだが、テレサの場合は印象が違う。

 

決まった型をトレースしているように見せて、変幻自在に変えてくるのだ。

その切り替えがあまりにも早く、技の途中からですら複数回切り替えてくるため、行動が読み切れない。

フェイント、などというレベルではない。

その上に攻撃を受けようとすると、防御をすり抜けるようにオーラを撃ち込んでくるのだ。

 

いや、最初はオーラを撃ち込んでいるのだとばかり思い、こちらもオーラで防御していたのだが、武器が防御をすり抜けることが何度かあった。

残像かと思っていると、実体を持ってダメージを与えてくる。

正しく『すり抜けた』としか考えられない現象。

 

さらに、大きく避けたと思ったら、まったく別の角度から柄で殴られたり。

オーラでの攻撃と武器での攻撃は感触が違うため、すぐに分かる。

 

『アタリハンテイ力学』と彼女は言っていた。

 

しかも、サイファーからの攻撃が当たったはずなのに無傷ですり抜け、平然と反撃してくるものだから、どうしようもない。

まるで別々のルール、サイファーだけ一方的に不利な物理法則で戦っているかのようだ。

 

まったく、勝てる糸口すら見えない。

別の次元に生きる生物だとすら思えてくる。

 

「いや、やってやる。どんな手を使ってでも、強くなってやる……!」

 

彼はベッドの脇に立てかけられた鞘に入った自身の武器、『ハイペリオン』に誓った。

 

 

 

訓練施設では、数人の男女が集まってテレサが使う技術の検証実験が行われていた。

ルールーが立てた仮説が、大筋で正しいことがテレサの口から語られたためである。

 

その仮説というのが、『詠唱の終わりで魔力の放出を止めずに次の詠唱に移ることで、前の詠唱の影響が最大限残った状態を利用することができる』というもの。

今までは、一度一度で魔力の放出を止めていたために、次の詠唱が始まる際の残留魔力の影響を一定に保つことが難しかったのである。

 

だからこそ、キスティスが言った『1つの詠唱の途中で効果が発動している』という感想は、大きな進歩のきっかけとなった。

 

とはいえ、それは細かい詠唱の変化による魔力の流れの変化まで読み切らなければならないということで、そんなことは今のバラムの設備でも不可能だ。

そのため、詠唱の内容を少しずつ変えていった結果、擬似魔法が発動するか否かを総当たりで検証し、『連続魔法』以上の詠唱速度を実現する技術の確立を行おうとしていた。

 

もっとも、詠唱速度そのものは単なる副産物に過ぎないということを、彼らは重々承知していた。

テレサはこの理論でも説明のつかないことを、何度も彼らに見せているからだ。

 

そこは一歩一歩、道のりは長くとも、着実に近付いて行くしかない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
熱いですね。
しかも雨が降るのかどうかよく分からない天気予報と空模様に困ります。

バラムガーデンの研究陣が、徐々にテレサの秘密に近付きつつあります。
ただし、追い付くとは言っていない。

そういえばTASさんはストーリーありきの小説には不向きだという感想をチラッと見ました。
返信しようとしたんですが、なぜかそれ以降見つからなくなったんですよね。
なので、ここで大雑把に説明しておこうと思います。

テレサの目的はあくまでエクスデスを倒すことであって、その機会を用意してくれる魔女アルティミシアとの接点を破壊するつもりは欠片もありません。
ただ、用済みになった際にどうするかはまた別の話ですが。
なので、原作開始前に原作がなくなるということはありません。



――――設定

サイファー・アルマシー:原作キャラ
原作開始時点で18歳、長身で白いコートとガンブレード『ハイペリオン』がトレードマーク。
ガーデンの風紀委員だが、風紀委員となった理由は詳しくは語られていない。
二次小説によっては風紀委員長と設定している場合もあるが、彼が風紀委員の長であるという設定も原作には存在しない。

ゲーム中、序盤に一度だけ仲間になるゲストキャラの1人。
ただし、特殊技は全体攻撃の1種類だけで、威力も際立って高いわけではない。
ガンブレードのトリガータイミングが地味に面倒。
しかし、低レベル攻略において、序盤で上級魔法を大量入手する際に経験値を吸収させる相手として重宝する。
経験値の取得を極限まで制限するプレイをする場合、コマンドアビリティの『カード』を落ち着いて取得するには彼に頼るしかない。

敵になった時は、おそらくジャンクションシステムをプレイヤー側が理解していない、あるいは連戦という前提でバランスが調整されており、かなり弱く感じるだろう。
それだけに、2回目と4回目に使ってくる特殊技は相対的になかなか見る機会が少なくなっている。
4回目は特定の条件を満たすとサイファーの数少ない雄姿が見られる。

プレイヤーからすると、強いのか弱いのかよく分からないキャラ。


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理論面

7/10 いきなり減速した。まだ書き溜めは残ってるが、早い内に終わらせた方がいいかも。


調整と言っても、やることは単純、基礎的なことだ。

槍や擬似魔法の基礎を確認するだけ。

いわゆる素振りのようなものだ。

 

「ジョインジョインジョインジャギィデデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーヒャッハーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッヒャッハー ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒ ヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒヒーッヒヒK.O. カテバイイ」

 

ただし、それを通常の3倍速で行うとこうなる。

 

「すげえ、あの槍使い、手数が二刀流以上だぞ!」

「なんだあれ、擬似魔法を詠唱しながら型をトレースしやがった!」

「しかもあの型ってクッソ難しいのに、完璧にマスターしてやがるぜ!」

 

さらに調整は続く。

 

「バトートゥーデッサイダデステニー ペシッヒャッハーバカメ ペシッホクトセンジュサツコイツハドウダァホクトセンジュサツコノオレノカオヨリミニククヤケタダレロ ヘェッヘヘドウダクヤシイカ ハハハハハ

FATAL K.O. マダマダヒヨッコダァ ウィーンジャギィ (パーフェクト)」

 

観客もヒートアップしてきた。

 

「ジャギがぁ、壁際ァ!」

「魔法の数字27ァ!」

「超ガソフィニッシュ!死んだァァァァァッ!!」

 

少し離れ、冷めた目で見ていたルールーは呟く。

 

「なんなのこれ?」

 

根が真面目なために、ノリについていけない天才児だった。

 

ちなみに、ガソリンは蒔かれてなどいない。

 

さすがにテレサも疲れたらしく、色々な話は翌日、ということになった。

 

 

 

テレサに与えられた研究室は、バラムガーデン内に幾つかある部屋の1つ。

軍と密接に繋がっているトラビアガーデンと違い、バラムガーデンは近隣の国であるバラムに国防軍が存在しないため、ガーデン外に戦術や兵器の開発機関がなく、独自に大きな開発機関を抱えていた。

 

『赤魔法』の研究室も当然存在しており、テレサはそこに所属することになる。

 

「では、あれは『赤魔法』ではない、と?」

 

『赤魔法』研究室の室長ヤマザキが、テレサの説明に首を傾げる。

 

「『赤魔法』て、あくまで1つの魔法に1つの詠唱やん?

『状況再現』て、魔力の状況を再現する技術やから、合成とは別やねんよ。

再現に利用する擬似魔法自体は、留めたりせえへんねん」

「では、『ブリザド』の氷を砕いて『魔法剣』を付与していたのは?」

「対集団用の攻撃手段に使える手順のを選んだだけやで」

 

ヤマザキは頭を抱えた。

彼女は予想とまったく違う理由で、攻撃手段を選択していたのだ。

 

「しかし、魔力の状況を再現する……?」

「詠唱て、早口すぎたら発動せえへんやろ?」

「詠唱完了と発動準備完了の相関だな。オダイン博士の論文だったはずだが」

「うん」

 

少女は頷く。

 

「ほんなら、詠唱完了して発動せえへんかったら、魔力て、どないなる?」

「……確か研究はされていなかったと思うが。まさか、残る?」

「さすがに時間経過で散るんやけど、下級魔法でも30秒は残るんよ」

「それを利用するのか」

「『赤魔法』の合成がソレやねん。

でも、発動した後も10秒は残りよる。

発動した後の魔力は別モンになるんやけど。

ソレを利用するんが『状況再現』や」

「新理論だ。こちらでも検証が必要だな」

「トラビア軍で追従実験やっとるから、そっちも参考にしたってな」

「分かった」

 

次の話題に移る。

 

「それで、次は『任意コード』だが……」

「GFのチカラ借りへんかったら、多分ムリやで」

「GF?

特殊なアビリティを利用するということか?」

「GFにお願いすんねん。『脳味噌のリミッター制限して』て」

「脳のリミッター?」

「『火事場の馬鹿力』、脳味噌でやるんよ」

 

火事場の馬鹿力というのは、肉体が危機を察知した時に発揮される、本来以上の筋力のことである。

戦場で活躍する兵士を養成する研究を行っているガーデンでは、この現象は普通にあるものとして認識されていた。そして、意図的に筋力や運動神経のリミッターを解除する方法も研究され、実用化されている。

 

しかし、脳機能を制限するという方法でリミッターを解除する方法については、あまり研究されていない。

なぜならば。

 

「それはやるのはいいが、まともに生活できなくならないか?」

「なるよ。脳味噌の負担きっついもんやから、いっぺん寝込むと起きられへんし、長いこと続けてると判断力メッチャ落ちるで」

「GF利用の代償か……」

 

バラムガーデンでも、GFの利用については覚悟のある生徒に限定しており、必要ない時は極力外しておくように指導している。

 

戦闘指導員でもあるヤマザキとしては信じられないことに、テレサという少女は、代償について何のデータもない状態で、さらなる代償を払うところに踏み込んだようだ。

 

「今すぐは導入できないな……」

 

彼はまたも頭を抱える羽目になった。

 

 

 

エクスデスは頭を抱える。

どうやら昨日、『ネクロマンサー』を送り込んだ際に、『肝心なところでうっかりする呪い』をもらったらしいのだ。

いつものようにそれを解除しようとしたのだが、肝心なところでうっかりしてしまい、なかなか解除できなかった。

 

このままでは、異世界へ威力偵察を送り込むのもままならなくなる。

そう難しい術式ではないため、配下の者に解かせるが、なかなか時間がかかりそうだ。

 

今度の威力偵察の際の儀式は、やや雑になるかもしれない。

それでも、呪いを残したまま儀式を行うよりはマシだったが。

 

次はどのような反動が来るのか、内心戦々恐々としていた。

 

「この機に呪い対策を行うのも良いかもしれんな」

 

元々エクスデスは強い耐性があったため、あまり気にしてこなかったのだが、そろそろそうも言っていられなくなりつつあることを自覚せざるを得なかった。

 

「あちらの世界にも我に仇なす者がおるか」

 

異世界の者がエクスデスを知るわけがないのだが。

なぜか彼はそう考えていた。

 

つい、うっかり。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
現在の鍛錬風景(白目)と、理論面(白目)ですね。

そして解いたつもりで解けてない呪いです。
シムラァ、うしろうしろー!

邪神(邪神)は一体何をしたかったのか。



――――設定

研究室:考察、独自設定
現実の軍隊でも日夜戦術や兵器の開発に勤しむ部署があり、それによって様々な新兵器が開発され、実用化されるのが普通である。
実戦配備に大きく予算を割く必要があり、さらに既存兵器の不具合の解決にも走りまわることになるため、開発だけをやっているわけではなく、開発しているのは攻撃兵器や人殺しのための戦術だけというわけでもない。

トラビアとガルバディアは、ガーデンと軍が密接に繋がっており、軍に研究部があるため、ガーデン内の研究室はバラムガーデンに比べるとかなり小規模となっている。
『アルティマニア』には国から多額の予算の供託を受けているため、設備や兵器の導入に積極的とあるが、おそらくガルバディア軍の特殊兵器を訓練用に買っているものと考えられる。
ガルバディア軍が保有していない兵器の運用について教育、訓練しても訓練する意味がないため。


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噂の転校生

7/10 14話に誤字があるらしい。でも、自分で書いてすぐは分からない。マジで分からない…。


バラムガーデンにテレサがやってきて、いきなり強烈な戦闘力を見せつけ、大きな話題となっていた。

 

「今度の転校生、スゲえんだよ!」

「どこがどう凄いの?」

「なんか、こう……意味不明なんだよ!」

「意味不明?なにそれ」

「とにかく、俺らじゃ何やってるのかサッパリ分からねえんだ!」

「それじゃなにも伝わらないわ。伝令役はもうちょっと言葉を勉強して――」

「ムッ、ムッ、ホァイ」

 

一陣の風が通り抜ける。

物凄いスピードで動く黒髪少女と共に。

 

「待てコラァッ、廊下を、走る、な……!」

 

その後を、金髪オールバックの白コートが追い掛けるが、追い付く気配が全くない。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 

そもそも走っているかどうかも怪しい相手を、風紀委員であるサイファーは汗だくになり、息を切らしながら必死に追いかける。

彼もGFをジャンクションしており、常人を遥かに超えた身体能力を発揮できるのだが、黒髪少女と比べてしまうと雲泥の差だった。

いっそ悲しくなるほどの速度差である。

 

「今のなに?サイファーが追いかけて行ったけど……」

「今のが例の転校生だ」

「本当?」

「あの意味不明っぷりは間違いないぜ。

なんせ、1人で魔女にも勝てるんじゃないかとか言われてるくらいだ」

「そんなバカなことあるわけないでしょう。単独で魔女に勝つなんて……」

 

昨年正Seed認定を受けたばかりの16歳の金髪天才美少女キスティスは、荒唐無稽な同級生の話に深々と溜息を吐く。

 

彼女は任務でしばらくガーデンを離れており、今日帰ってきたばかりだ。

なので、ここ最近のバラムガーデンの話題をさらう年下の転校生の話をほとんど知らない。

 

ソレを知るのは翌日、5日毎の襲撃を見学した時の事となる。

 

 

 

バラムガーデンの鏡餅が遠くに見える草原。

以前より多くの教員や生徒達が詰めかけていた。

彼らの視線の先には、槍を振り回したり演武らしき動きをしつつ、時間を待つ黒髪少女の姿。

 

彼らは目の当たりにすることになる。

テレサの戦い方を『赤魔法』や『魔法剣』の延長と考えていた、自身の大きな間違いを。

 

黒い靄が発生し、そこから黒い角に青白い体躯の四つ足の獣が出現する。

それは一見して強大な魔力を内包していることが知れた。

今のバラムガーデンの総戦力をぶつけて、倒せるかどうか。

まさしく、国1つ程度ならば簡単に滅ぼしてしまえそうな、そんな魔物。

 

「“大地を割ります、敵を割れた大地に落として潰させます、敵から反撃が来て当たれば死にますが”『させません』」

 

それはそのまま、地震と共に発生した大地の裂け目へと吸い込まれるように落ち、地面の崩落に圧し潰されて、死んだ。

 

最後に無数の隕石が降り注ぐ。

それは近くのグアルグ山脈の山頂を一部抉り取り、あまりの衝撃に大規模な崖崩れがそこかしこで発生し、草原が穴だらけとなる。

相当数がパニックになり、『プロテス』や『シェル』を展開したが、見物人達へは至近弾の1つもなく、死者はおろか怪我人も出なかった。

 

「たぶん、これがイチバン早いと思います」

 

そして、黒髪少女は倒れ伏し、翌々日の朝まで昏睡状態となる。

 

 

 

それから丸1日、テレサが起きるまで、大激論が交わされた。

彼女が何をやったのか、誰1人として理解できなかったからである。

 

「一体、あれはなんだったんですか?」

 

キスティスは世話役の先輩ルールーに尋ねる。

ルールーはキスティスの世代の生徒達の憧れの的だった。

 

「彼女の言葉が正しければ、未来予知と事象改変の賜物、らしいわ」

「本当にそんなことが可能なんですか?」

「私だって分からないわよ。

直接話を聞いていても、理解の取っ掛かりすらない。

しかも契約上、あの魔物をあの子抜きで倒せるようになる必要があるそうよ。

本当に、今から気が重い……」

 

どうやら憧れの先輩でさえ、あの少女が行ったことは半分も理解できていないらしい。

 

 

 

「どういうことだ、新型の『赤魔法』など、何一つ使わなかったではないか!」

「どうにか『状況再現』や『任意コード』については聞き出せた内容は、そちらにも回してあるはずだ」

「あんな荒唐無稽な内容など、誰が信じると言うのだ!」

「荒唐無稽であろうと、我々はそこから検証し解析しなければならない。

彼女の技術を取り込むとはそういうことではないのか。

そちらにやる気がないなら、政治的にやり込めるためだけの面会などやめてもらいたい。

我々には今、この時間も惜しいんだ!」

「チッ」

 

ヤマザキと制服教員の激論は、多分にバラムガーデン内の政治対立的な面を含んでいた。

ただ、今回は言いがかりに等しい文句を付けた制服教員の方があっさり引き下がった。

 

「(ノーグめ、いたずらに急がせてもこうなるのは分かっているだろうが。

金のために奴に付いたが、このまま留まっているのも考えものだな)」

 

どうやら、彼らの中でも色々とあるようだ。

 

 

 

エクスデスは儀式の後に新たな反動を受け、そこでやっと『肝心な時にうっかりする呪い』が解けていないことに気付いた。

今度のものは『黒歴史を幻として見せつけられる呪い』である。

 

「こ、これは一刻も早く手を打たねば……!」

 

とりあえず、以前配下に解呪させたおかげで弱まった呪いを自力で打破。

その強大な魔力でゴリ押しして解いた。

 

そして今回の失敗について考える。

 

「『キングベヒーモス』の霊体を送りつけてしまったのか。

道理で儀式そのものは成功したわけだ」

 

あまり大きな力を持った魔物を送り込めるだけの規模の儀式は、そもそも行っていなかったのである。

なのに巨体の『キングベヒーモス』を実体で送り付けた気になってしまっていたのだ。

 

ただ、今までの偵察がすべて失敗に終わっていたため、ある程度は大きな力を持った魔物を送る必要があったのは事実だ。

次こそは生きた『キングベヒーモス』を送ると予定を決め、エクスデスは改めて行動を開始した。

 

 

 

――おれはジュノにいたので急いだところがアワレにも忍者がくずれそうになっているっぽいのがLS会話で叫んでいた。

……?――。

 

――気にするな、コヤツのいつものことだ。

 

――どうやら忍者がたよりないらしく「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーのために俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると。「もうついたのか!」「はやい!」「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった忍者はアワレにも盾の役目を果たせず死んでいた近くですばやくフラッシュを使い盾をした。

 

……!――。

 

――忍者から裏テルで「勝ったと思うなよ・・・」ときたがLSメンバーがどっちの見方だかは一瞬でわからないみたいだった。

――「もう勝負ついてるから」というと黙ったので戦士サポ忍の後ろに回り不意だまスフィストを打つと何回かしてたらキングベヒんもスは倒された。

 

……!――。

 

――やけにヨロコんでおるようだが、シリアイなのか?

 

――おれは光属性のリアルモンク属性だから一目置かれる存在。

――たまに学校に行くとみんながおれに注目する。

 

――キサマは黙っておれ。

 

……――。

 

――なに、コヤツの名前だと?確かにコヤツは『キングベヒーモス』であるが。

 

――『キングベヒんもス』!

 

――わかったわかった。

 

……――。

 

――なんと、異世界にもチンミョウなるモノがおったのだな。

 

……――。

 

――ちくしょうおまえらバカだ……。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
原作キャラ2名追加入りまーす。

そして今回、テレサは本格的に人外技を披露しました。
『します、させます、させません』ですね。
彼女は『任意コード』と呼んでいますが、正確には『乱数調整』、未来予知みたいなものです。

以前の『略して剣』とか『ノーザンクロス』は、可能性が限りなくゼロに近くとも、まだFF8の設定をこねくり回せば人間業として成立する可能性がありましたが、『乱数調整』からは人外に踏み込む必要があります。



――――設定

『キングベヒんもス』:独自設定
ブロント語を話す霊体。
テレサにジャンクションしている『マインドフレイア』とは知り合いだが、特に仲がいいわけではない。

FF5では『次元の挟間』ラストフロアに出現する雑魚モンスターの1種に『キングベヒーモス』がいる。
GBA版では追加ダンジョンに色違いの『ベヒーモス』が出現し、なぜか『キングベヒーモス』より強く設定されている。
FF8に出現するのは『ベヒーモス』で、『キングベヒーモス』は出ない。

HPと耐久が高く、時間がかかる割に魔法攻撃へのカウンターのメテオ以外は特徴がないため、実はそこまで印象に残らないモンスターでもある。

この小説ではGFとしてテレサに協力させる予定。


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糸口

7/12 たまに自分で書いたことを忘れて矛盾した設定を付けそうになる。
フラグ管理ソフトとか設定管理ソフトとかが欲しい。


キスティス・トゥリープは頭を抱えた。

何度説明を聞いても、何度ビデオを見ても、何一つとしてそこに使われている技術が理解できないのだ。

 

『“大地を割ります、敵を割れた大地に落として潰させます、敵から反撃が来て当たれば死にますが”『させません』』

 

何かの宣言としか考えられない。

詠唱としてはあまりに無茶苦茶だった。

普通、こんな文言で魔法は発動しない。

 

なのに、直後に発生した地割れは、宣言された通りのもの。

 

先輩のルールーが言うには、おそらくテレサが『任意コード』と説明していたもの、らしい。

『任意コード』とは、魔力の感知を高めることで、未来予知や事象改変の領域に足を踏み入れる技術。

 

ビデオに映っている現象としては、強大な魔力を内包した10メートル級のモンスターが、黒い靄から出現して、独りでに大地の裂け目に落ち、潰されて死に、その後に無数の隕石が周囲に降り注ぐ、というもの。

 

『赤魔法』らしき技術が利用された痕跡は、専門研究員でもあるヤマザキ先生でも見つけることができていない。

 

本当に意味が分からないのだ。

 

 

 

「やややややややややっふー」

 

なぜか後ろ向きに吹っ飛んで行く幼児体型の黒髪少女。

ダビングされたビデオの中で、何度も見た姿だ。

 

「待ちやがれ……今度こそ、ぜえ、はあ……」

 

その後を、よく見知った金髪白コートが追って行く。

確か、授業をさぼって昼寝している内に、勝手に風紀委員に決められたのだったか。

おかげで授業はサボらなくなったとか。

 

それでも律儀に、よりによって噂の転校生を追い掛ける辺り、根は真面目なのかもしれない。

 

「確か、研究室の方ね」

 

キスティスはテレサに直接話を聞こうと、件の人物を追って移動を始めた。

 

 

 

「彼女ならルールー君と一緒に食堂へ行ったよ」

「研究室から出るのを見ていないんですが」

「どうやら、また違う移動法で向かったようだ。

『ブリザド』で氷のサイを作って蹴っていたが、相変わらず何がどうなったのかサッパリ分からん」

 

これぞ『サイキックワープ(サイ(動物)を蹴ってワープする)』である。

 

「ああ、テレサ君は大体、食事後は訓練施設で鍛錬を行い、それからまたここへ来る。今後、直接彼女と話したいなら覚えておくといい」

「ありがとうございます」

 

キスティスはぺこりと頭を下げて、それから食堂へ向かった。

 

 

 

「チンッ、チンッ、トゥッ」

「……!」「――!?」

 

食後、いつものように、訓練施設へ瞬間移動する。

 

自分で体験してみて分かることだが、本当に何が起きたのか分からない。

同種合成で『ヘイスト』を重ねていることを最初は疑っていたのだが、そもそも擬似魔法など使っていないのではないか、とさえ思えた。

 

キスティス自身『青魔法』の使い手であり、魔力の残った素材からエネルギーの波長を解析し、本来魔物が使用する特殊な魔法を再現することを得意としているため、魔力の感知能力は鍛えている。

ルールーはその感知能力の高さという才能をキスティスに見出しており、期待をかけていた。

 

だからこそ、テレサの世話役として同行を許したのだが。

 

「自信がないことでも、正直に言いなさい。不確定でも今は貴重な情報よ」

 

ルールーはキスティスに声をかける。

 

目の前では、とても人間業とは思えない、慣性を無視した素振りや擬似魔法の連打が行われている。

その速度は残像が見えるほどであり、詠唱も『赤魔法』の奥義、『連続魔法』でギリギリ説明がつくかどうかといったレベル。

『意味不明』と評した元クラスメイトの言葉が思い出される。

 

「(確かに、理論面を勉強しているほど、『意味不明』と表現したくなるわね。普通科のイロモノな先輩だったから、話半分に聞いていたけれど)」

 

そうして見ていて、気付く。

 

「詠唱が途切れてる……?

いえ、1つの詠唱の途中で効果が発動しているということかしら……?」

「何か分かった?」

「はい。ただ、確証はありません」

 

そう断る。

 

「どんな荒唐無稽なことでも構わないわ。

今までの理論で考えていたら、絶対に説明がつかないのは分かってる」

 

返ってきたのは、そんな言葉。

本当にどうしようもない、という状況を吐露する言葉でもあった。

 

「魔力の感じが繋がっているんです。

『連続魔法』や『ダブル』は1つの詠唱に一度の魔法で魔力を切りますが、彼女は魔力を出しっぱなしで制御しています。

あんなことをしたら、普通は前に発動した擬似魔法の影響に邪魔されて、まともに発動さえしなくなるのに……」

「やっぱり、あなたは天才よ、キスティス」

「えっ?」

 

突然褒められて、キスティスは驚いた。

 

「単に早さを突き詰めても、再現できないわけね。

1つの詠唱の途中で効果が発動している、言い得て妙だわ」

 

ルールーやヤマザキは、どうしても『赤魔法』、『連続魔法』で考えてしまっていたために、その常識に縛られていたのだ。

 

「その理屈が本当なら、『状況再現』までは何とかなるかもしれない」

 

それは上る予定だった山の麓がようやく見えた程度だったが、何の手がかりもなかった状況からすれば、大きな前進だった。

 

 

 

エクスデスは次の準備を始める。

まだ複数体を同時に送り込むことはできないものの、徐々に強い魔物を送り込むことができるようになりつつあった。

 

ただ、反動のようなもののこともあるため、対策を練らなくてはならない。

それまでは大したものではなかったために放置していたのだが、『肝心なところでうっかりする呪い』を受けたことで、対策せざるを得なくなっていた。

 

対策というのは、呪いが自動的に解けるように準備しておく、ということだ。

『無』を手に入れたエクスデスは、『光の四戦士』との戦いの際、『無』に呑み込まれかけた。

そのリスクに対策した際に、様々な魔法儀式に『無』を利用できることに気付き、先達である『エヌオー』の知恵を借りて、異世界に渡る儀式の実験を開始した。

 

ただ、順調に行っていたのはそこまでで、それ以降は原因不明の『無』の不安定化や反動のような呪いに悩まされ続け、少しずつ経験を重ねて改善し、現在に至る。

その過程で、一応は呪いについても研究はしていた。

 

『無』を利用する必要はあるものの、エクスデスの強固な耐性を突き抜けてくる呪いを解除することは可能なのだ。

 

ただし、そのための詠唱に問題があった。

 

「“オチ○チ○ビロ~ン”」

 

もしもこの呪いが誰かの意図によるものだとしたら、そいつだけは魂も残さずに滅ぼすと、エクスデスは心に誓った。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
テレサはこれで完成しているように見えるかもしれませんが、まだ不完全です。
だからこそ黒い靄、つまり『次元の穴』の解析を進めているわけですね。
本当に完成すると、色々な意味でもっと理不尽なことを始めます。

『サイキックワープ』というのは、悪魔城TASシリーズのネタです。
結構最近のものなので、一応。
最初はサイに乗って振り向き時に壁にめり込むというものだったんですが。



――――設定

キスティス・トゥリープ:原作プレイヤーキャラ
原作2年前の現時点で16歳。正Seed。
原作ゲーム中にファンクラブができるほどの人気を持つキャラクターで、プレイヤーからも『モルボルおばさん』の愛称で親しまれている。おっぱい。
当時は大人な金髪美女が日本で大きな人気があった。しかし、その後にロリコンブームが隆盛し、18歳で『おばさん』と呼ばれるようになってしまった、ブームの変遷のせいで割を食ったキャラでもある。

この小説でも、やや幼さは残るものの美貌の持ち主であり、むしろこの時代においては今が旬とも言える洋風金髪美少女。


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技術伝達

7/13 外に出ていたら頭が痛くなった。家の中に入ると直った。日射病かな?


テレサが受ける授業というものに、基本的に戦闘面のものはない。

その戦闘スタイルがあまりにも意味不明なために、誰も口を出すことができないからだ。

下手に口を出して、その圧倒的な戦闘力が損なわれてしまっては元も子もないというのもある。

 

では、何の授業を受けるのかというと、歴史や地理、そしてこの平行世界のテレサの知識にはない常識の話である。

例えば、GFの利用に関しても、彼女の利用法はかなりオリジナルが入っているが、バラムガーデンで行っている利用法を詳しく知っているというわけではないのだ。

 

そもそも、原作世界とこの平行世界とでは、代償が異なるという改変ポイントがあった。

そのため、GFが原作のままの性質を持った存在であるという保証がない。

 

さらに言えば、FF8のゲームが得意で、攻略本の情報があるからと言って、現地人がどのような形でGFのコマンドアビリティをセットしているのか、活用しているのかといった、どうしても分からないことがあるのは当たり前なのだ。

それに、長年GFを利用してきたバラムガーデンで研究されてきた工夫については、テレサにとって重大な情報だった。

下手をすると、ここからさらにもう一歩踏み込み、さらに大きな代償を支払う必要があるからだ。

 

ただその後、何かの間違いでGFを外した時に、そのまま自分で復帰できずに死亡するなどという事態は、さすがに避けたい。

だからこそ、彼女はバラムガーデンのGF実用研究に注目していた。

どこまでが命に係わるボーダーラインで、どこまで安全なのか、少人数で研究を重ねるわけにはいかなかったのである。

親友達を巻き込みたくなかった、というのもある。

 

それを聞いたヤマザキは、まずは魔物による動物実験を行うことにした。

 

ターゲットとなるのは『バイトバグ』。

世界中、どこの大陸にも生息する、巨大な顎を持った蜂のような羽虫だ。

 

訓練施設に特別な部屋を作り、そこで飼育することになる。

そうして、生体に致命的なGFの作用や、新たな利用法を編み出そうというのがこの研究の趣旨だ。

 

それとは別に、テレサと同じ方法による戦闘力の向上についても、研究が行われることになった。

こちらは人体実験となる。

というのも、生徒の1人が人体実験となることを承知で名乗りを挙げたのだ。

 

サイファー・アルマシーだった。

 

様々な意味での問題児だったが、制服教員達は問題児1人の犠牲で研究が進むならと承諾。

学園長派も、サイファーならば放っておいても同じことをするだろうという結論になり、それならば自分達で管理するべきということになって承諾された。

 

 

 

「グッ、頭が……!」

「ほいそこまでや」

 

最初に行ったのは、医療機器に囲まれた状態で、さらにテレサが監修する中での、思考能力の拡張。

 

「俺はまだいける……!」

「無理して脳味噌イカれたら元も子もあらへんて。

それにや、ちゃんと知識も詰めこまなアカンし、現象の解析も覚えなアカンねん。

必要ない時にイチイチ気絶しとったら、効率悪いんよ」

「……チッ」

 

舌打ちしながら、サイファーは脳のリミッターを入れるようにGFに命令する。

すると、地獄のような頭痛は消えていったが、知恵熱で頭がぼんやりしていた。

 

「コレ自体で死ぬことはないんやけどね。死ぬ前に気絶するし」

「実体験か?」

「うん。防衛本能サマサマやで」

 

テレサ自身、決して特別な才能があったわけではない。

血の滲むような努力の末に、今のこの戦闘力を手に入れていたのだ。

 

 

 

次は少し休憩して、簡単な『状況再現』の手順をトレースしていく。

 

「“リヴァイヴァスライバベル水撃スープジャイアンロコ金剛カイザーブラスター陽子ロケット鬼バルカン破壊鉄下駄電束火炎プラズマ跳弾神速熱線放射ソニックディフレクト電撃濁流清流アル三スカイ燕曲射短勁フラッシュライジングロザリオアル・十字塔無月真アル・羅刹掌”『略して剣、相手は死ぬ』」

 

テレサが先に見本を見せる。

 

「“リヴァイヴァスライバベル水撃スープジャイアンロコ金剛カイザーブラスター陽子ロケット鬼バルカン破壊鉄下駄電束火炎プラズマ跳弾神速熱線放射ソニックディフレクト電撃濁流清流アル三スカイ燕曲射短勁フラッシュライジングロザリオアル・十字塔無月真アル・羅刹掌”『略して剣、相手は死ぬ』」

 

隣でサイファーが真似をする。

木製の的がポンと乾いた音を立て、灰を散らした。

 

「ぐっ……!」

 

急激な脱力感に呻く。

 

「今の、どないなったか分かった?」

「一瞬で灰になったな。超高温で焼いたって風でもなかったが」

 

あらかじめ、起きる現象を覚えて解析するように言われていたため、サイファーは分からないなりに推理してみる。

擬似魔法までならわかるのだが、物理攻撃担当の彼は『赤魔法』や『青魔法』といった、理論面が重視されるものは苦手なのだ。

 

「温度上がってたんは、副次効果やね」

 

年下の少女は説明する。

 

「『サンダー()』『ブライン()』『ファイア()』『ブリザド()』『ウォータ()』『サンダー()』て手順で72メートルまで射程伸ばして。

ブリザド()』『ウォータ()』『サイレス()』『サンダラ(10)』『スリプル(11)』『バイオ(12)』『サイレス(13)』『ブライン(14)』で耐性引っぺがすねん」

「……」

「『サイレス(15)』『プロテス(16)』『ライブラ(17)』で相手に『魔法剣ライブラ』かけてな。

エスナ(18)』『リフレク(19)』『ケアル(20)』『ストップ(21)』で耐性無視して『ストップ』。

サイレス(22)』『バーサク(23)』『プロテス(24)』『シェル(25)』で『魔法剣シェル』」

 

まだまだ続く。

 

「『サイレス(26)』『シェル(27)』『ライブラ(28)』でまた『魔法剣ライブラ』。

サイレス(29)』『スリプル(30)』『サイレス(31)』『ブライン(32)』で『魔法剣ブライン』。

サイレス(33)』『コンフュ(34)』『バーサク(35)』『ライブラ(36)』で『魔法剣ライブラ』。

サイレス(37)』『バイオ(38)』『サンダー(39)』『サンダガ(40)』で『魔法剣レビテト』。

最後に『エスナ(41)』で『ストップ』解除してドッカーンや」

 

そして最後にこう言った。

 

「な?カンタンやろ?」

「ただ説明を聞いてても何一つ理解できねえってことだけは理解できたぜ」

「解せぬ」

 

幼児体型の黒髪少女は不満げに頬を膨らませる。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
まだ実験の段階ですが、テレサの技術の伝達が始まります。
サイファーがどこまで行けるのかは今後のお楽しみということで。

少し前まで塩分の過剰摂取を目の敵にしていたんですが、塩分不足って割と簡単に死ぬそうですね。
結局、塩が人間にとって必須栄養素であることに違いはない、ということです。
それを言うなら水だって飲み過ぎると死ぬそうですし。
世の中、何事もほどほどがいい、ということなんでしょうか。



――――設定

『バイトバグ』:FF8、雑魚モンスター
ゲーム中でも世界中に生息する、FF8を代表する雑魚敵。ぶんぶん。
空を飛んで世界中に生息域を拡大したのだろうか。
バラム、トラビア、ガルバディアはおろか、セントラやエスタにも出現する。

HPがそれなりに高く、カードにする際のHP調整がそこそこ容易。
しかし、レベルが上がると『おなら』でこちらをバーサク状態にしてくるのは少々面倒。
『ニードル(毒付与)』?知らない子ですね。

カードのレア判定で『エルヴィオレ』を入手可能なため、序盤のカードゲームに負けたくなければ乱獲するのもアリ。
『エルヴィオレ』はバラムで入手可能なノンレアカードの内では最強と言える数字の並びを持っている。『カード変化』で『デスストーン』になるが、特に縛りプレイなどでもなければ覚えておく必要はない。


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疑惑の判定

7/14 エアコン設定温度30℃。科学的にはこのくらいの方がいいらしい。


テレサがバラムガーデンに来てから3度目の『次元の魔物』戦。

 

5日前に無数の隕石が降り注いだ傷跡も生々しい戦場の近くには、今回も多くの観戦者が詰めかけていた。

今回は隕石が降ってきてもいいように、最初から擬似魔法で防護している。

もちろん、カメラも魔力の計測器具などなども用意され、余すことなくデータを採ろうという意気込みが見られた。

 

今回、黒い靄から出現したのは、前回と同じく『キングベヒーモス』。

しかし、威圧感が違った。

 

前回は霊体、死んだ後に自律エネルギー体となったものだったのに対し、今回は生体、生きた個体だからだ。

 

「前の奴より、かなり強いようだな」

「同じ魔物ではないのか!?」

「万が一ということもあります。

GFの所持者は攻撃準備状態を維持して待機!

非戦闘員は退避準備を!」

 

騒然となる中、落ち着いた指示が飛ぶ。

 

「すぐ退避させた方がいいのでは?」

「無駄です。テレサ君が敗北し、その後の一斉攻撃でも倒せなかった場合、誰も生き残りません。アレはそういう存在です」

 

過去の経験から覚悟を決めたシド学園長の視線の先で、黒髪少女は独り、強大な相手を前に怖気付く素振りも見せない。

 

 

 

両者の戦いは、一瞬で終わった。

 

「“まず、『アルテマストーン』で『魔法剣アルテマ』を武器に付与します。

『必殺剣空』を構えます。それから敵に物理攻撃をさせます。

相手はカウンター持ちですが、こちらのカウンター行動には反応しません”『(くう)、疲れました』」

 

二次創作ではよくある『魔法剣アルテマ』だが、おそらくこんな使われ方をしたのは初めてだろう。

 

いつの間にか訓練施設から持ってきていた木刀に究極魔法が付与されて輝き、そこに『キングベヒーモス』が巨大な角で少女を突き上げる。

その攻撃を回避するどころか踏み込んで、テレサは究極魔法の籠った木刀を叩き付けた。

 

すると、木刀のくせに巨獣の頭に深々と刺さり、そこで武器強度の限界がきて破裂、内包されていた『アルテマ』のエネルギーが解放され、頭蓋骨が丸ごと吹き飛ぶ大爆発が発生する。

 

爆心地には、角も爆発も直撃だったはずなのに、なぜか無傷なテレサが意識を失って倒れていた。

 

 

 

翌日。

 

「しかし、この『魔法剣アルテマ』もそうだが、我々に理解できる部分は、基礎技術の塊なんだな」

「基礎技術ですか?『魔法剣アルテマ』が?」

 

研究室でビデオを見返していたヤマザキの呟きに、キスティスが怪訝な顔で返す。

 

「『アルテマ』が『魔法剣』として付与できない理由は知っているな?」

「はい。『アルテマ』単体のエネルギーが高過ぎて、耐えられる物質が存在しないか、オーラで補強するにしても、単純計算で上級魔法の20倍とも言われるエネルギーに耐えなければならないため、実用性に乏しいとされているからです」

「やっぱり優秀だな、トゥリープ君」

 

教師として満点回答が返ってきたことを褒め、彼は結論を告げる。

 

「それが、もしも『魔法剣』として実用する気が欠片もなかったらどうなる?」

「間違いなく破裂します。あっ――!」

「そう、それに関しては『魔法剣』の基礎ができるだけでいい。

破裂までの間に、その武器を投げ捨てるつもりなら、維持する必要がない。

『アルテマ』そのものにしても、『アルテマストーン』は『魔導石』に『アルテマ』を封入した品で、使用についても小難しいことは必要ない。

つまり、『魔法剣アルテマ』に関してだけは、再現は難しくないということだ。

もっとも、活用できるかどうかは別問題だが……」

「それは確かに……」

 

2人して渋い顔をする。

 

『アルテマストーン』を入手しているなら、『魔法剣アルテマ』などを使わずに『アルテマ』をそのままぶつけた方が手っ取り早い。

それに、高エネルギーの魔力があんな至近距離で『破裂』しようものなら、即死もありうる。

その上に、『魔法剣アルテマ』を使えば、その武器は必ず破壊されるのだ。

つまり、テレサの不可思議な技術が前提の戦術と言える。

 

「今回重要なのは回避技術の方、というわけですか」

「そういうことだな。あれでなぜ無傷なのか、まったく分からん」

「そういえば、あの子と稽古したサイファーやゼルも、『攻撃や防御がすり抜ける』と言っていました」

「そんな技術があるのなら、どこかの組織が実用化しているだろうな」

「でしょうね……」

 

結局、自分達で解明するしかない、ということらしい。

 

 

 

エクスデスは新たな反動(のろい)を受け、用意しておいた解呪法を試す。

それは一度だけ、魔法円の中に入るだけで呪いを解くというものだ。

 

しかし、『○○○(好きなんすねえ)に毛が絡まる呪い』は解けなかった。

実験とはいえ、用意した魔法円はかなり気合を入れていたのに、だ。

つまり、今までは単に条件を満たしたから解けていただけだったのである。

 

「神に等しい力を得たこのエクスデスに、解けん呪いだと……?」

 

黙考する。

 

クリスタルをも制し、『暁の四戦士』の加護に守られた『光の四戦士』を下した力は、決して神に届かないものではない。

その気になれば、新たなクリスタル(無の制御装置)を創り、無から世界を創り出すことすら可能なのだ。

そんな存在が、解ける条件を満たす以外にどうしようもない呪い。

その内容からしても、明らかに何者かの意図が入り込んでいた。

 

「まさか、異世界の神……?」

 

そう考えれば、偵察に送り込んだ戦力が報告も返さないことについても説明できる。

そんな上位の存在が相手ならば、妨害がなければ世界を滅ぼせるという程度の戦力ではまるで相手にならないだろう。

 

エクスデスは選択を迫られる。

先に今ある戦力で潰しにかかるか、慎重に情報を集めにかかるか。

今まではとにかく強い魔物を送り込んでいたが、次からは数を送り込むことを考えた方がいいかもしれない。

 

そんなことを思いながら、彼は○○○(ヌッ)に絡まった毛を処理していた。

 

呪いは解いたが、それまでに絡まった毛は物理的にどうにかするしかないのだ。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。

そういえば、この二次小説のオリ主の転生特典ってスタンド『エニグマ』なんですよねえ。
最初に役に立たないってことが紹介されて以降、一切出番がありませんが。
それどころか、最近はタブレットの出番も……。

まあ、私が書く小説におけるテンプレ設定の扱いなんてこんなもんです。
期待は裏切ってこそと言いますか。
ひねくれ者でしてね。



――――設定

『必殺剣 空』:独自設定
テレサはネタのつもりで言っている。
FF6のカイエンが使用するコマンドアビリティ『必殺剣』の2番目にあるカウンター技。
選択してからゲージが移動するまで待ってから入力するという、なかなかストレスの溜まる方式のため、多くの場合は前半しか日の目を見ない。

この技を利用した『カイエン暴走モード』というバグ技がある。
手順は『必殺剣 空』を選択した状態で、一度戦闘不能にした後、『フェニックスの尾』などで復帰させる。
そうすることで、敵味方の多くの行動に対して『必殺剣 空』を発動させるようになる。
さらにその状態のカイエンをカッパにすることで、敵が死ぬまで延々と通常攻撃を繰り出すことになる。『カイエン暴走カッパモード』と呼ばれる。

ある意味、非常に強力な裏技だが、FF6にはラスボスでさえターンを回す前に仕留めることができる上に、1ターン目に倒す方法なら他にももっと簡単な手順のものが多くあるため、発動すると確殺ではないこのバグ技は陰が薄くなりがち。

本当は『カイエン暴走』状態で倒すつもりだったが、『キングベヒーモス』にカウンターの『メテオ』を発動させないためという観点から、相手の物理攻撃に対して耐性無視の即死カウンターを叩き込むという形にした。

『アルテマ』:最強魔法、独自設定
過去に悲しき歴史(FF2)を持つ究極魔法。
FF8に限らずFFの二次創作界隈では、最強の攻撃魔法としてよく爆発オチのネタにされる。

FF8では攻撃性能もさることながら、むしろジャンクション性能が断トツのトップであることから、よく利用される。
FF8の有名なバグ『マルチジャンクション』にて利用されることが圧倒的に多いが、ラスボス戦ではリスクが高いため、バグ技の利用は相手を選んだ方がいい。

早期入手は中盤にてシュミ族の村の手前の有料ドローポイントがオススメ。
それ以外はドロー回数に制限があったり、時期が遅かったりする。

『魔法剣アルテマ』:独自設定
FFナンバリングタイトルには、『魔法剣アルテマ』は存在しない。
というのも、無属性の『魔法剣』で最も威力が高いのが『魔法剣フレア』であり、『魔法剣』の性質上全体攻撃ができないため、『魔法剣フレア』以上が存在しない。
ある意味『魔法剣フレア』以上の『魔法剣ジハード』は存在するが、あれは闇属性である。

二次創作では最強の決め技としてよく採用されており、何の代償もなく振るわれることが多い。
この小説では、『アルテマ』のエネルギーに耐えられる武器が存在しないという設定にしてある。
また、何気に『アルテマストーン』からの『アルテマ』を『魔法剣』として付与するというのも、難易度をそこそこ高く設定してある。
ヤマザキがそれに言及していないのは、『魔法剣アルテマ』が実用性に乏しく、研究が進んでいないため。


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達成目標

7/14 眠い。夜なので。


サイファーが新しいGF利用法の実験台となって5日が経った。

それを開発した先人の監修もあり、ある程度は安心して鍛錬に集中することができていた。

 

「大丈夫?」

 

銀髪隻眼の少女が回復魔法を使いながらサイファーを気遣う。

 

「ああ、問題ねえ」

 

彼は今、鍛錬中だった。

テレサに教わった動きを思い出し、練習していたのだ。

 

身体に負担をかけるものも少なからずあり、それに関しては『ケアル』で痛みを軽減しながら続けている。

 

自然治癒力を高めて肉体の故障を軽減することができる回復魔法は、トレーニングによく利用されていた。

テレサも同じく利用していたため、てっきり同じ目的なのかと思っていたのだが。

 

「ここと、ここだな」

 

サイファーは言われた通り、痛みが発生した箇所を思い出しながら、そこに負荷がかかる理由を考えつつ、トレーニングを再開する。

5日に2日ほど、テレサは『次元の魔物』との戦いで寝込むため、こうして自主トレーニングのやり方を教わっていた。

 

重要になってくるのは、スポーツ医学だ。

 

「まさか、頭を回す方を重視してるとは思わなかったぜ」

 

サイファーは時折銀髪少女からスポーツ医学の話を聞きながら、呟いた。

 

「サイファー、それが終わったら次はプログラミングよ」

「そっちこそ、ちゃんと終わってんのか?」

 

訓練施設のモンスターエリアから戻ってきた金髪美少女キスティスを睨む。

 

「魔力映像と温度映像は火、冷気、雷でそれぞれ3回分撮ってきたわ」

「そりゃまあ、ルールー先輩が一緒だしなぁ」

 

失敗するわけがない、と言うサイファーの言葉には、多分に棘があった。

 

「可愛い彼女とマンツーマンで楽していた人に言われたくないわね」

 

キスティスも言い返す。1つ年下の銀髪少女が顔を赤くしてそっぽを向いているのは気にしない。

 

「はいはい、そこまでよ」

 

憧れの先輩に声をかけられ、キスティスは小走りにそちらへ向かった。

これから撮影してきた映像を解析しやすいように整理し、ノイズを取る作業が待っているのだ。

 

「ワッカ、ノイズ取りが終わるまで、あの子(サイファー)をお願い」

「おう、了解だべ」

「げ」

 

撮影チームの護衛を終えた、むさくるしい赤毛の大男が目の前に来て、サイファーは仰け反った。

 

正Seedの中でも、最強の物理攻撃力を誇る男だ。

破壊力のある『モーニングスター』の使い手で、しかも扱いの難しい鎖武器のくせに狙った獲物はほとんど外さない。

訓練施設のモンスターエリアで最強を誇る『アルケオダイノス』を、1対1で倒せる数少ない生徒の1人でもある。

 

さらに言えば、若干デリカシーに欠けるところもあり、何より手加減が苦手という、稽古で相手をしたくない生徒の筆頭でもあった。

 

「心配すんな、訓練用のやつ使うべ」

「テメエ、今までそれで何人保健室送りにしてきたと思ってんだ!」

 

異常に強くとも手加減は上手い年下の転校生が一刻も早く目覚めるのを、サイファーとしては祈るしかなかった。

 

 

 

テレサは1番弟子となるサイファーに、不思議な課題を出していた。

その内容はスタート地点からバラムの森に入り、魔物5体を狩ってまたスタート地点に戻ってくるというもの。

5日毎に2日ほどテレサが寝込んでしまうため、その間の目標として出した課題である。

 

魔物との遭遇率が安定せず、普通にやれば4時間ほどもかかるこの課題だが、テレサは30分での達成を第一の目標として設定している。

ちなみに、彼女自身は4分33秒という記録を叩き出した。

 

魔物の動きを把握していても到底不可能なタイムで、どうやったのかと問うと、少女はこともなげに『向かってきてもらった』と言ってのけた。

 

「つーかよ、普通に戦ってたら、それだけで4分半くらい過ぎちまうぜ?」

「『次元の魔物』との戦闘記録で、2度ほど、敵を操ったような形跡があったわ。それの延長だと思うけれど。

まずはそれの前段階の技術を習得しろということね」

「簡単に言ってくれるぜ」

 

それがどれだけ難しいことなのか、サイファーは今までの経験で思い知っていた。

 

「まずは『アルケオ』に遭ってもいいように鍛えるべ」

「遭わないようにするって選択肢はねえのか?」

「例の4分33秒、『アルケオダイノス』2体込みよ」

「……マジかよ……」

 

さすがのサイファーも絶句せざるを得ない。

こうしてとりあえずの目標へと向けて、彼は地獄の鍛錬を始めた。

 

 

 

エクスデスは準備を始める。

反動として受ける呪いは受けた後に解くことにした。

現状、それ以外にできることはない。

 

だが、調査を行うことは必要だ。

 

なので、次は送り込む魔物のランクを下げて、複数体送り込むことにした。

今までが大雑把過ぎたのだ。

なにしろ、抵抗がなければ世界を数百回は破滅させることができるだけの戦力を送り込んできたのである。

それでどうにもならないとすれば、やり方を変えるしかない。

 

今もあちらの世界に存在し、魔力反応の発信源となって送り込む儀式を手助けしてくれる『マインドフレイア』を宿主ごと呼び出すことも考えたのだが、そうするとその世界に確実に送り込むことができなくなる可能性があった。

そのため、複数の霊体を憑依させた個体を送り込み、付近の生物に逃げながら霊体を憑依させて回る作戦を取る。

 

こうすることで、ある程度はあちらの世界の情報が手に入るはずだ。

今まで偵察が上手くいかなかった理由も、ほどなく判明するに違いない。

 

「さすがにのんびりし過ぎたやもしれぬ」

 

ひとしきり呟き、エクスデスは自らを戒める。

今度発見した異世界には、確実にエクスデスと同等クラスの神が存在する。

これまで色々とやってきたことから、確実にエクスデスの存在には感付かれている。

 

だからこそ、慎重になる必要があった。

クリスタルの戦士達に妨害されながら、『無』を手に入れるために奔走した、あの時のような緊張感を持って事に当たる必要がある。

 

「さて、魔物の選定も行う必要がある、忙しくなるな」

 

誰も指摘する者がいないため、最近彼が独り言をつぶやく癖ができたと噂になっていることを、彼自身は知らない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。

エクスデスが本気になりました。
だから成功するかというと、また別の話ですが。

サイファーの魔改造が本格的に始まります。
普通にやれば4時間33分かかることを、テレサは4分33秒でやってのけました。
なんでや!阪神関係ないやろ!



――――設定

『アルケオダイノス』:アルティマニア情報、独自設定
赤い鱗の大型肉食恐竜。ティラノサウルスかな?
攻撃は大体物理で、単体攻撃と全体攻撃、それに魔法に対するカウンターがある。
太古の昔から生息しているらしいが、なぜ絶滅せずに繁栄しているのかは不明。
耐性的にも寒さに弱いはずなのだが、なぜかトラビアの森にも出現する。

この小説内では、バラムに生息する生物の中ではGFを除けば最強としている。
理由は、他の生物を設定するのが面倒臭かったから。

FF8の二次創作業界では、よくオリキャラかスコールがコイツを軽くひねる場面から物語が始まる。
チートをぶつける相手として使いやすいからだろう。

ゲーム内では、搦め手の重要性を教えてくれる。
『ケアル』や回復薬を駆使して倒せなくはないが、初期段階では非常に時間がかかる。
代わりにST攻撃は一通り効くため、色々試すといい。
ただし、レベルを上げると魔法に対して1.5倍の威力を持った単体カウンターを叩き込んでくる。油断すると即死するダメージなので、物理防御をしっかり整えておくことをお勧めする。

HPが高く、初期レベルで1万以上あるため、GF『シヴァ』のレベルを上げて召喚すると、9999ダメージから即カードにできるため、カードを稼ぎたければやる価値はある。
ただ、『恐竜の骨』からの『クェイク』は序盤は有用だが、そこまで欲しいものでもない。

何気に初任務に出発する前までは、唯一『竜の牙』を入手できる可能性のあるモンスター。
ただ、最速『ライオンハート』に必要な『アダマンタイン』を入手するには、ティンバーを出る必要があるため、結局ワールドマップの高台判定の場所で出現する『グレンデル』を狩るのと差が出ない。


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失言

7/15 なんか、イマイチ調子がパッとしない。こういう時は大体塩分不足か水分不足と相場が決まっている。


……――。

 

無数のモニタの前で、少女は今までの記憶を見返す。

視点は少女のものだ。

 

そして、視線は黒い靄に固定されていた。

『次元の穴』にまつわる現象を解析しているのだ。

 

今までの情報から、この穴はこちらからの物理現象、『魔法剣』を付与された物質、擬似魔法を含む、こちらの世界の法則による現象を通さないものであることが判明していた。

 

どうやら、今のままではあちらの、FF5の世界にこちらから乗り込む、ということはできないらしい。

エクスデスが直接こちらの世界に乗り込んで来るまで、待つ必要がある。

 

……――。

 

――ブッシツ、ホウソク、おかしなハナシではある。

 

『マインドフレイア』は呟いた。

 

――元々カナタとコナタは、『次元の挟間』を通じて繋がっておるはず。

――だからこそ、エクスデスはワガハイのような『次元の魔物』を送り込むことができておるのだ。

――『無』といえど、『次元の穴』を開き、その上でコナタよりの逆流を防ぐなどという真似が、そうカンタンにできるとも思えぬ。

 

おかしいというのはそこだった。

 

『次元の穴』の逆流を行うには、特別な術式を組まなければならないというのが『マインドフレイア』の見解で、おそらく正しい。

しかし、自身の力に絶対の自信を持つエクスデスが、そのようなことを行うだろうか?

逆流によってFF8側の魔物や戦士がFF5側に送り込まれたとして、最悪でも『無』に呑み込んでしまえばいいと考えるのではないだろうか。

実際、今のエクスデスはそうやってFF5側の主人公達、『光の四戦士』を倒してきたのである。

 

まだ何か、見落としがある。

解明されていない法則がある。

 

テレサはなかなか、その先が見えないでいた。

ともかく、ありとあらゆることを、試してみるしかない。

 

 

 

テレサが目覚めると、サイファーに色々と教える。

どんな思惑からであろうと、テレサの技術を受け取るために、代償を払うことを了承したことに違いはないのだ。

 

テレサ自身、よくある修行漫画のように、弟子の性根を問うような真似をするつもりというのはない。

大体、今の彼女にはそれができない理由があった。

この世界が平行世界であり、サイファーが原作と違って憧れの魔女よりも仲間を優先してくれることを祈るのみ。

 

「やってて疑問に思ってたんだが、なんで前衛の俺が『プログラミング』なんだ?」

「『詠唱組み換え』までは自力でできるようになってもらうからやで」

「『詠唱組み換え』って、例の意味があるようなないようなやつか?」

 

通常、擬似魔法の詠唱は魔女の魔法の詠唱と共通しており、ある程度は意味が通るようにできていた。

しかし、テレサが使う詠唱短縮や『状況再現』では、単語の羅列や切り取りがあり、意味が通っても滅茶苦茶な内容のことも少なくない。

 

「せやで。あたしで詠唱組むんやったら、GFにお願いして脳味噌のリミッター解除してもらう必要もないねん」

「それでアンタの動きに追い付けるか?」

「ムリやね」

 

テレサは断言する。

 

「アレ、自分の動きに合わせて『詠唱組み換え』しよるんよ。

型つくったらできへんこともないんやけど、そらただの初見殺しやし。

『アタリハンテイ力学』もソレの応用やから」

「……道のりの遠さに眩暈がしそうだぜ……」

「一歩ずつ歩きよったら、いずれは着くんよ」

「そりゃ、天才様とは違うのさ」

「……!」

 

少女は、胸を締め付けられるような感じがした。

 

「?」

 

そして、彼女はなぜそうなったのか、自分で分からなかった。

 

「どうした?」

「わからへん」

 

自分の失言に気付かなかったサイファーも、ただ首を傾げるばかり。

 

 

 

「彼女の戦闘に関する才能が、下の方?」

「あくまで『かもしれない』という程度の推測です」

 

シド学園長は、意味不明な現象をたびたび発生させる転校生について、自分の見解を述べた。

聞いていたのは、サポートのためについていた制服教員。

細かい部分で対立することがあるとはいえ、バラムガーデンを運営するのに互いの力を合わせなければならないと考えているのは同じなのだ。

両者の亀裂は、まだ決定的にはなっていない。

 

「彼女の戦闘を見ていると、戦闘センスを要する部分がほとんどないように思えるのです」

「しかし、それであれほどの動きが?」

「思考能力のリミッターを意図的に解除しているなら、感覚的に時間がゆっくり流れているのかもしれません。

攻撃を避けるというよりも、障害物を避けるという感覚なのでしょう。

様々な現象を観測し、本人は未来予知に踏み込んでいるといいますし、逆に言えば瞬間的な判断力は少しも要していない、ということなのではないでしょうか」

「未来予知に匹敵する先読み能力は、戦闘センスによるものなのでは?」

「そこは分かりません。

ただ、これはトラビアガーデンからの報告書にあったのですが。

テレサ君は、一度として鍛錬などは行わず、代わりに不可思議な現象について徹底的に研究を行っていたのだとか。

そのデータはトラビア正規軍において参考にされるほどの量で、『状況再現』に関しましては、共同開発という形になっていたのだと聞いています」

技術者(・・・)だったということですか」

「あくまで推測です。今のところ、それを否定する情報がないというだけで、事実は異なるのかもしれません」

 

自分で曖昧なことを言うものの、シド学園長はその可能性は決して低くないと考えていた。

 

もしもテレサの戦闘センスが高かったならば、わざわざ既存の利用法にはない代償を払ってまで、戦闘力を高めようとはしなかったはずだとも考えていたからだ。

 

「いずれにせよ、彼女の言動には、今後も注視していく必要があります。

トラビアガーデンとの契約もありますし、バラムガーデンの戦力増強にもなります。

そういう意味で、私はノーグ派にも期待しているのですよ。

『次元の魔物』の解析について、今後もよろしくお願いします」

 

バラムガーデンが得るものは、決してテレサの技術だけではない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
インターミッションって感じですね。

テレサは天才には違いありませんが、あくまでプログラマーであって、戦闘の天才ではない、ということです。
つまり、神様(邪神)の要求は、彼女にとってはとんでもない無茶振りだったんですよ。

今回、解説することがあんまりないので、シド学園長のことについて解説しようと思います。



――――設定

シド・クレイマー:アルティマニア情報、独自設定
バラムガーデンの学園長。
Seedの理念を提唱した人物であり、有力な出資者を得て原作開始から12年前、この小説の現時点から10年前にバラムガーデンを創立する。
魔女とも因縁浅からぬ関係にあり、生徒達へ愛情を傾けつつ、その裏では計り知れない苦悩を抱えている。
色々な意味で当事者であり脇役であるという、複雑な立ち位置。
割とタヌキオヤジ。

ゲーム中では攻略上重要なキーパーソン。
『エンカウントなし』という超重要なアビリティを入手するために、初任務を受けた後、ティンバー行きの列車に搭乗する前に話しかけ、あるアイテムを入手する必要がある。
カードをコンプリートしようとする時、F.H.までにサイファーのカードをもらうことを忘れると、死ぬほど後悔することになる。

この二次小説では、ノーグ派と学園長派の対立が原作以上に鮮明になっている。
数の上ではノーグ派が勝っているが、個々の実力や影響力の高さで学園長派が上であり、両者の勢力は拮抗している。
学園長はノーグがなかなか表に出てこないのをいいことに、言葉巧みにノーグ派を誘導しており、原作よりも大分強かに設定している。
将来に魔女との対決があることを見越し生徒達に力を与えることを急いでおり、テレサの技術を得るのに大きな代償を必要とすることを知りながら、リスキーな契約を断行してSeedの強化を推し進める。


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縛りプレイ

7/16 深夜でもエアコンをつける。外に出ると蚊が飛んでくる。全体的にイライラする季節。


スコールは、暇な時はいつも訓練施設で1人鍛錬を行っている。

Seed候補生になって、モンスターエリアへ行くことも増えたとはいえ、ガンブレードの素振りを行うなど、やることは多い。

 

元々バラムガーデンの生徒は戦闘に関心が強く、多く訓練施設を利用するため、なかなか完全に1人だけで鍛錬を行うという時間は少なかったりするのだが。

そして、そんな中でストイックに己を高め続けようとするスコールの姿勢は、地味に注目が集まっていたりする。

 

最近は、転校生の鍛錬風景を見るという目的のために、訓練施設に人が集まってくることが多くなった。

なんでも、教員達が彼女の技術を研究するために、特別な予算を組んでいるらしい。

とんでもない話だ。

 

そんな中、奇妙な行動をする女子生徒に遭遇することが多くなった。

 

自身の武器らしい『ジャベリン』の素振りをしているのだが、信じられないほど下手なのだ。

運動神経を司る部分に居場所を作るため、GFは外すと著しく運動神経を損なうのだが、彼女ほど酷くはならない。

 

夕食後、人がほとんどいなくなる時間帯、決まって1人で練習している。

まだ見かけて20日も経っていないのだが、素人もいいところだ。

 

「ひぁっ!?」

 

自分の足につまずいて、転倒する。

その拍子に、制服のフレアスカートに槍の石突を引っ掛けて中身がモロに見えてしまうが。

気にした様子もなく立ち上がると、もう一度一通りの型を試して、なぜか満足げに頷き、去っていく。

 

スカートの下は短パンだった。

 

「(新入生か?)」

 

ガーデンは入学の年齢制限が5歳から15歳と、比較的緩い。

そのため、Seed候補生に素人同然の生徒が入ってくるということが、少ないながらもあった。

そういう生徒は大抵が苦労する。

Seedが強いのは、才能もさることながら、幼少期から過酷な訓練を受けてきたからなのだ。

13歳から入学して15歳でSeedになったキスティスのような存在は例外として、戦闘訓練の経験の長さは明確に戦闘力、判断力に響いてくる。

 

どんな事情があるのかはスコールには分からなかったが、彼にできることはあまり多くない。

そして、彼には他者とかかわり合っている時間も余裕もなかった。

 

強くなるという、ただ一点において、彼は人一倍強い想いがある。

 

ただ、その小柄な黒髪少女が求める『力』が尋常なものではないこと、思いが至らなかった。

 

 

 

スコールが自分の思い違いを知ったのは、2日後のことである。

いつも何かと突っかかって来るサイファーが、噂の転校生の弟子になったと聞いてから、しばらく後のことだ。

実は昼間にもその様子は何度か見かけていたのだが、興味がなかったため、あまりじっくり見たことはなかった。

 

その日は、実技の授業で総当たり形式の試合が行われた。

さすがに真剣や実弾は使用せず、擬似魔法も禁止だ。

特に珍しい内容ではない。

例の転校生が来てから、初めて行われたというだけである。

 

サイファーとは、いつもお互いに真剣勝負に近くなる。

今回は木剣同士だが、勝つか負けるかはその時々。

ただ、サイファーは負けそうになるとルール違反をやったり、絡め手に走ったりもする。

 

今回は師匠を得たからか、強くなっていた。

細かい身体能力に変化はないが、視野が広くなったというか、余裕を持って動くようになったというか。

おかげで形勢を立て直せず、追い詰められて負けてしまう。

 

次に驚いたのはゼルだ。

攻撃方法が無手の格闘技なため、武器でもあるグローブの着用を許されていたのだが、こちらも手強くなっていた。

こちらは勝ったが。

 

そして、最後に転校生の少女。

短い黒髪の、小柄な少女で、私服の長袖シャツに短パン、スパッツにニーソックスという格好。

どこかで見覚えのある訓練用の槍を手に、一切の表情を消してスコールと対峙していた。

 

強い強いと言われるが、制限された中でどれくらい強いのか、興味がないと言えば嘘になる。

 

「始め!」

 

開始の合図と共に、スコールは地面にうつ伏せに倒れ伏していた。

 

「……?」

 

素早く立ち上がって木剣を構える。

 

すると、何かが足元を掬いにくる気配を感じ、とっさに飛び退いた。

 

「うお、避けた!?」

「マジかよ!?」

「?」

 

観衆のざわめきに内心首を傾げながら、ステップを踏んで動き回りつつ、少女の姿を視界に収めようと頭を巡らせる。

無意味でも足を止めてはいけない、と勘が囁いていた。

 

「『お前の飛び方はおかしい』」

 

彼女の姿は頭上にあった。

なぜか明後日の方向に槍を振りかぶりながら。

 

それを一瞬、攻撃しようと考えるが、スコールは嫌な予感がして回避に専念。

すると、瞬間移動したように少女の姿が地上に移り、槍で足元を払おうとして空振りする。

 

さらにスコールがもう一度、今度は地面に仰向けに転がっていたが、慌てずにすぐ復帰、背後からの攻撃を前方に転がることで回避した。

 

「ホンマ、セルフィやないんやから……」

 

彼女が攻め切れない現状に苦笑していたと気付いた人間が、どれだけいたか。

 

「瞬間移動は脅威だが、それだけか?」

「擬似魔法禁止されとらんかったら、まだやりようあんねんけどなぁ」

 

スコールの挑発には、乗らない。

 

「ヒラでやるんなんか、久しぶりやでホンマ」

 

テレサは槍を振り回して、構えを変える。

 

「!」

 

その時になって、スコールはようやく気付いた。

その独特の構えが、夜の訓練施設で見かける、ド下手な槍使いの少女のものだということに。

 

「代償か……」

 

呟き、構え直す。

 

この日、バラムガーデンに転校してきて以来、初めてテレサは敗北を喫した。

 

それは、いつも通り擬似魔法禁止のルールで対人戦を行わせた教員すら予想していなかったことだった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
主にスコール視点、テレサ、初敗北回でした。
まだ彼女は完全な人外には至っていないので、本物の戦闘の天才が相手で縛りプレイだと負ける可能性が多いにあります。

また、それっぽくは書いてありますが、良いネタがなかったのでオリジナルになってしまっています。
『お前の飛び方はおかしい』が結構曖昧で、瞬間移動攻撃はネタとしてほとんどなかったりします。



――――設定

スコール・レオンハート:独自設定
原作開始時17歳、現段階で15歳。
原作OPムービーでサイファーとやり合った際、サイファーのラフプレイにより敗北を喫したと推測される。
ただ、原作ゲーム中のセリフなどにより、相当に強いことがわかる。

特殊技は『連続剣』で、FF6、FF7から続くパワーインフレに拍車をかけた技となっている。
最低4連撃、運次第で最高20万ダメージを超えるなど、割とお手軽にインフレダメージを叩き出してくれる。
武器のガンブレードはサイファーのものと違ってトリガーのタイミングが分かりやすく、モンスターをカードにする際などのダメージ調整にかなり有用。

当時は20万ダメージが衝撃的だったのか、FF8の二次創作では最強キャラとして君臨することが多い。
今で言うラノベ主人公的な要素も多いが、実は女性陣より萌えシーンが多いツンデレイケメン。
彼のせいで腐った女性もいるのではないかと推測される。
フィニッシュブローが意味不明だったり、801がはかどるシチュが多いなど、二次ネタも豊富。

この小説では戦闘センスが飛び抜けて高いと設定している。
条件次第でテレサに勝てる2人目のキャラでもある。


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タイムリミット

7/17 睡眠時間が不安定なのは暑いからなのか、体調不良なのか。コレガワカラナイ。


4回目の『次元の魔物』は、5メートル級のやや小振りなドラゴンだった。

翼の大きな、翼竜というカテゴリだ。

常に空中に浮遊し、積極的に攻撃してこようとはしない。

 

「“特に貴重でもないオオコウモリが”『降りてくるのが悪い』」

 

自分から仕掛けて来なくとも、テレサは容赦しなかった。

放っておけばロクでもないことになるのは目に見えていたからだ。

 

上空のドラゴンが自分でも分からない理由で地面に吸い寄せられ、激しく抵抗するもテレサの槍による攻撃が命中し、翼や首をバラバラにされて絶命する。

 

そしてテレサ自身も、脳のリミッター解除状態での戦闘による負荷で倒れ伏した。

 

 

 

バラムガーデンでは、スコールの話で持ちきりだった。

 

直弟子のサイファーでさえ一撃も入れることができなかったのに、意味不明な動きの大半を禁止された状態だったとはいえ、テレサに勝利してのけたのである。

ちなみに、その時の試合の戦績は、スコールが唯一のテレサに対する勝者だった。

 

おかげで、しばらくスコールへの挑戦者が絶えなかった。

そして、スコールはそのすべてを断らずに受け、疲れ果てていた。

 

「(サイファーのやつ、1日に5回も……)」

 

結局、大先輩のワッカがやってきて最終的にサイファーを引き摺って行くことで、騒ぎは一応の終息を見ることになる。

ヤマザキ先生から、どうやってテレサに勝ったのか事情を聞かれたり、ほんの2日ほどで本当に色々とあった。

 

ちなみに、スコールはテレサとの対戦中に発生した不可思議な現象について、『そういうもの』と割り切って動いていた。

理由を深く考えずに、発生した現象に対処するためだけに頭を使っていたのだ。

なぜなら、ゼルやサイファーがテレサに負けた理由が、不可思議な現象を体験して足を止めてしまったからだと考えたからである。

 

『その辺がまだ人外に踏み込んでへんとこやね』

 

とテレサ自身、擬似魔法を封じられると何もできないと自分で認めていた。

 

もっとも、テレサがどうやってスコールを強制的に動かしていたのかは、結局理解できなかった。

彼女は『壁抜けさして反発で体勢変えさした』という、意味不明な事を言っていたが。

弟子のサイファーも研究しているルールーもキスティスも、『赤魔法』の実用研究第一人者であるヤマザキ先生さえも理解できないところらしい。

 

「(そういえば、サイファーはノルマがどうこう言っていたな)」

 

スコールはいつも通り鍛錬を行いながら、考える。

ガンブレードという特殊な武器を使いこなすには、とにかく回数を重ねてトリガーを引くタイミングを体に覚えさせることが大切だ。

 

「スコールと他の生徒の違うところって、目先の格好良さを求めないところよね」

 

1つ年上の金髪美少女がやってきて言った。

 

「……(また何か聞きに来たのか?)」

 

スコールが素振りの手を止めて怪訝な顔を向けると、キスティスは心得たように話す。

 

「例の模擬戦とは別の話よ」

 

彼女が言うには、スコールもサイファーと一緒にテレサの教えを受けないか、という話が上がっているらしい。

もちろん、『赤魔法』の研究室での話だ。

 

ただ、志願したサイファーで安全確認している最中だが、GFの利用についてさらなる代償を払う必要も出てくるという。

 

「(予想はしていたが、あの動きの違いはやっぱりか)」

 

テレサがなぜいつも制服で、しかも人気の少ない夜に代償の確認をしているのかは分からなかったが、GFを外した際の運動神経の低下が一段と酷くなるのは間違いないようだ。

 

「そこに関してスコールの返答は後でいいわ。

それより、GFの利用まではいかなくとも、テレサがサイファーに出した課題くらいは伝えておこうということになってね」

「(課題?)」

「バラムの森で魔物5体狩ってくるのに、30分以内という時間制限を付けたの」

「……(とんでもない課題だな)」

 

スコールは少し考えて、質問する。

 

「いつまでにという期限は設定していないのか?」

「してないわ。サイファーなら、設定しなくても本気でやるだろうけど」

「(ああ、確かに……)」

「ちなみに、テレサ自身がやってみた記録は4分33秒よ」

「(擬似魔法の有無でそこまで違うのか……)」

「スコールは5体で30分、可能だと思う?」

「模擬戦の時の高速移動を習得してれば可能なんじゃないか?」

「なるほど……確かに、大半は探す時間ね」

 

キスティスは腕を組んで顎に手を当て、頷いた。

 

擬似魔法を禁止されたテレサが模擬戦の際に使用した不可思議な技術は、相手の体勢を無理矢理崩す技術と、瞬間移動だ。

その内、瞬間移動さえ習得できたなら、森の中で魔物を探す時間は大幅に短縮できる。

後は遭遇した魔物を、短時間に狩れるかどうかだ。

1発勝負というわけでもなし、そこは何度も試しながらノウハウを蓄積していくのがセオリーとなるだろう。

 

「(ポイントは、『アルケオダイノス』を狩るかどうかを見極めること。

彼女なら、足を止めることすらしないだろうな。

あれに5分、3分以上時間をかけるようなら、次からは避けた方がいい)」

 

スコールは知らなかった。

その、合理に割り切った思考こそを、テレサがこの課題で最も重要視していたことを。

 

そしてキスティスは知らなかった。

スコールがテレサの瞬間移動を研究し、戦闘に取り入れようとしていたことを。

 

彼がドゥエるようになる日も、そう遠くないかもしれない。

 

 

 

「トラビア軍から例のデータが届いた。

どうも軍全体で大々的に研究を行っていて、取りまとめに時間がかかっていたらしい」

「あちらではどれくらい研究が進んでいるのでしょうね?」

 

黒髪美女は溜息を吐く。

 

「トラビアガーデンに、『状況再現』の使い手が3人いる。

1人は教員で、残る2人は生徒だ。

3人とも、『次元の魔物』との戦いで大怪我をして、現在療養中だそうだ」

「……それは、どういうことですか?」

「彼女は自分で言っていた。GFの新しい利用法は、長く続けると判断力が低下すると。

つまり、『次元の魔物』を倒すことに特化し過ぎてしまったんじゃないか?」

「……」

 

思い出されるのは、バラムガーデンに来てからテレサが倒した『次元の魔物』の2体目と3体目。

2体目は無数の隕石を降り注がせ、死者負傷者こそ出なかったものの、大混乱に陥った。

それを反省してか、3体目にはおそらく『メテオ』を撃たせなかったのではないか。

そんな推測も挙がっていたことがある。

 

「もしかすると、我々にはタイムリミットがあるのかもしれないな。

彼女の判断力の低下が深まり、また2体目のようなことが、それも死者が出るようなことが発生する可能性は十分に考えられる」

 

ルールーは、あの小柄である種呑気な少女が抱える事情を、甘く見ていたのかもしれないと自省した。

それはヤマザキも同じだったが。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
スコールメインで、最後だけ第三者視点です。

そろそろ時間を飛ばそうかなとか考えています。
このままだと完結までネタが持たなくなってきそうですし。

そうそう、原作ストーリーについて、かなり、大幅に変更する予定です。
FF8二次創作は今まで、かなりの数が作られてきました。
中には原作ストーリーガン無視というのも少なくありません。
この小説もそうなる予定です。



――――設定

『メテオ』:擬似魔法
様々なシリーズで使用されてきた強力な全体攻撃魔法。
FF4ではイベント魔法の一種で、強力な代わりに特にラスボス戦では大きなデメリットがあるという、ギミックが仕込まれていた。
FF5では入手が特殊だが強力な複数回攻撃となり、世界が『次元の挟間』を通じて繋がっている描写のあるFF8では、それを反映してか複数回攻撃となっている。
FF7では『メテオ』は巨大隕石を召喚するイベント魔法であり、プレイヤーが使用する魔法には複数回攻撃の『コメテオ』が用意されている。
そしてFF7と繋がっているFF10には『メテオ』がないが、FF10-2にはある。

他のシリーズでは多くて4回攻撃だったのが、FF8とFF10-2では10回攻撃となっている。
FF10-2では待機時間の関係から、それほど使えるものではないが、FF8では擬似魔法で合計ダメージ9999を突破可能な、強力な魔法として注目され、『ヴァリーメテオ』という第二の上限である6万に匹敵する大ダメージを毎ターン叩き出す強力な戦術を生み出した。
シリーズによっては『アルテマ』より強い事があると覚えておくといい。


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多分、これが一番変態だと思います。<更新版>
そして変態へ


7/17 時間を飛ばした。グダるのもどうかと思ってのことだが、説明が足りない気がしないでもない。
以前、説明ガン積みの小説を書いた後遺症が残っている気がする。


テレサがバラムガーデンへやって来てから1年後。

いきなり時間が飛ぶが、何をやっていたのかというと、トラビア軍の研究施設へ集められていた無数のデータを解析していたのである。

 

それは、テレサが最初に実験を始めて、『状況再現』へと至るまで、そしてそれ以降、『詠唱組み換え』から『任意コード』へ至るまでの道程でもあった。

それを、テレサ自身の話を交えて解説されていたのである。

 

そのため、バラムガーデンで行われていたのはその検証実験だけでよかった。

それだけでも1年もかかってしまったのは、スケジュールがそれだけ濃密で、しかも内容が膨大だったからである。

 

その間に、頼れる先輩だったワッカとルールーは20歳になり、バラムガーデンを卒業。

ワッカはフリーランス(自由契約傭兵)として活動し、ルールーは主にドールを拠点に遺跡探査などの随伴員として活動するという。

 

キスティスは半年ほど教員資格の研修に出て、それが終わったためにバラムガーデンに戻り、Seed候補生クラスの担任となって、これからはテレサから伝えられる様々な技術を含めて生徒達に教えていくことになる。

それと同時に、見事な金髪美女に育った彼女に畏敬の念を抱いた生徒達が、ファンクラブを作ることになる。

 

「ズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサー」

「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ」

「私のスコールを返して」「私のサイファーを返せ」

 

変態的な高速移動法を習得したサイファーとスコールの対戦風景を見た金髪美女と銀髪美女が、あまり育っていない黒髪少女に訴えかけた。

 

「なんでやねん」

「でも、気持ちは分からへんでもないかなぁ」

 

テレサに言うのは、トラビア人の中年男性。

トラビアガーデンの教員だ。

教え子のサポートを行うためにやってきていた。

 

「てゆーか、なんでセンセなん?」

「お前の理論説明すんのに、お前口下手やろ?」

「う、うん」

「セルフィとクレアは?」

「エスタ旅行中や」

「エスタぁ?」

「あの2人はあの2人で、考えあるみたいなんや」

「ふーん……」

 

こうして、バラムガーデンでの研究は劇的に進むことになる。

 

 

 

もう1つ、テレサの戦闘センス的なものが、実はガーデンの生徒達の中では中の下、天才どころか、かなり凡庸な部類であることが判明した。

 

「そらそうや。テレサがホンマモンの天才なんは、後方支援要員としてやからな」

 

トラビア教員、デンネンは深々と頷く。

ヤマザキは深々と溜息をついた。

 

「ということは、我々は戦闘において後方支援要員のサポートすらままならなかったということか……」

「そら俺らも一緒やがな」

 

デンネンは苦笑した。

事実、彼らがテレサのサポートについて不覚をとったがために、テレサはバラムガーデンに転校せざるを得なくなっていたのである。

最も重要な、判断力の補助を行うには、テレサに接近して指示を飛ばす必要があるのだが、そうなるともちろん『次元の魔物』の攻撃に巻き込まれることになる。

そこで、ある程度戦力の整ったバラムガーデンにて、その判断力の補助を行うように願い出ていたのが真相だ。

Seedならば、交代ででもそういった補助を行うことができると期待して。

 

結果は、バラムガーデンにも判断力の補助を行う余裕がなく、死者こそ出なかったものの、様々な破壊痕がそこかしこに残る結果となってしまった。

それでも、最初にサイファーが高速移動を覚えたことで、ある程度は『次元の魔物』との戦いに参加できるようになり、判断力の補助も行えるようになったのだ。

おかげで、テレサが寝込む時間が、少しずつ短くなりつつある。

様々なことに配慮を設定しながら戦闘する必要がなくなってきたからである。

そこは大きな成果だった。

 

「まったく、判断力の低下とという代償があるとは聞いていたが、指揮官としての判断が自分でできなくなることだったとは……」

「なかなかムツカシイ子ぉやろ」

「まったくですな」

 

ただ、良いことばかりでもない。

テレサと同じGFの利用法の実験台となったサイファーにも、同じ症状が表れ始めたのである。

 

「ソレに関しては、俺らもよぉわからんねん。

GF外して時間経ったら治るんちゃうかとは推測しとってんやけど、『次元の魔物』のせいでなかなか実験もできへんでな」

 

そもそも、トラビアにはGF運用のノウハウ自体がない。

そのため、テレサの症状の軽減や治療も、バラムガーデンへの期待には含まれていた。

 

「フム、1ヶ月ほど休暇を出して様子を見ようかという話もある。

スコール君やゼル君といった、判断力の補助までなら代替可能な生徒も出てきているし、早い内に試しておこう」

「テレサのサポートは俺も手伝うで」

「ありがたい」

「ええんよ、面倒事持ち込んだんは俺らやしな」

 

こうして、今後の話はまとまる。

 

 

 

エクスデスは、なかなか偵察すらままならない現状に苛立ちを覚えていた。

数を送り込んでも、強く素早い魔物を送り込んでも、偵察が上手くいかないのだ。

 

そろそろ時間をかければ大きな力を持った配下を送り込むこともできそうではあるのだが、投げ捨てていいような手札は少ない。

それもこれも、『光の四戦士』との戦いで、多くの配下が命を落としたからである。

確かにエクスデスは勝利を納めたが、決して無傷の勝利というわけにはいかなかったのだ。

 

そして、例の反動にも、変化が訪れた。

 

『触れたキノコがタケノコになる呪い』

 

「よし、殺そう」

 

エクスデスは、この呪いをかけた何者かを、己の存在をかけて抹殺することを己の魂に誓った。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
そろそろエクスデスが可哀想になってきた今日この頃。

1年でガーデンの生徒数人が汚染されました。
銀髪美女(ダレダロウナー)とキスティス先生、ご愁傷さまです。

ちなみにスコールとサイファー、割といい勝負してます。
勝率はサイファーの方が少しだけ高いですね。
GFの新しい利用法の差です。
この小説内ではキャラアビリティに分類されます。
オン、オフの手順がちょっと面倒なんですよね。



――――設定

ドール:議会制、アルティマニア情報、独自設定
かつての大国、神聖ドール帝国の名を残す国。
ガルバディア大陸北東部に位置し、巨大な山脈に陸路の大半を塞がれた立地から、守りやすく攻めにくい。
出島のように造成された半島に港湾施設や高級リゾート地を整備しており、観光産業を中心に今も栄えている。
街を一望できる高台には現在唯一電波放送が可能な出力を誇る電波塔が存在しているが、世界的な電波障害が発生して以降、使われなくなり、20年近く整備もされていないため、周辺は魔物の巣窟と化している。

ゲーム中では初任務前の大イベントが発生する他、ストーリー中に欠かせないイベントが絡む場所でもあり、大小のサイドイベントがそこそこ多く用意されている。
ある意味カードの聖地で、カードをコンプリートするなら、必ずドールを何度も訪れることになる。
ここの『ランダムハンド』だけは真っ先に消すことをお勧めする。

この二次小説では、神聖ドール帝国の崩壊は100年前と設定している。
それから戦乱期があり、魔女戦争を経て現在に至る。
これは推測だが、現在のドールの街は、かつての神聖ドール帝国時代の首都だったのではないかと考えられる。
つまり、わざと攻めにくく守りやすい、陸路を山脈に制限された立地に都市を建設したのではないか、ということ。
ただし、滅多に攻められることがないため、軍隊が弱兵揃いとなってしまっており、優良な立地でもドール軍単独では守り切れないという、本末転倒な状態になってしまっている。


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休暇する変態

7/18 活動報告の方でタグやサブタイ案など、色々募集中です(ネタがない)


休暇中。

サイファーはティンバーまで来ていた。

自身が使うガンブレードの調整をしてもらうのが目的だ。

 

ガンブレードと言いながら、飛び道具ではない。

火薬の衝撃を刀身に伝え、瞬間的に高周波ブレードのような切れ味を発揮させ、威力を上げるタイプの武器である。

 

こういう武器が発達したのは、擬似魔法が開発され、それが普及したからだ。

擬似魔法は特別な装備を必要とせずに使用できる遠距離攻撃であり、兵士は強力な近接用武器を持っていれば事足りた。

だからこそ、その接近戦の威力を少しでも向上させるために開発された武器。

それがガンブレードである。

 

幾つかの種類があるが、主に2つの系統に分類される。

『ハイペリオンタイプ』と、『リボルバータイプ』だ。

両者の違いは、柄を両手で持つかどうか。

 

『ハイペリオン』は無理をすれば両手で持てなくはないのだが、基本的に片手持ちで戦う武器だ。

弾倉の最大装弾数は12。

 

『リボルバー』は両手持ちが基本であり、一撃が重いが、両手持ち武器の常として、十全に扱うには高い技量を要求される。

弾倉の最大装弾数は6。

 

ただ、教練にて使用される武器は片刃の大剣が多く、その延長として使用できる武器として、『リボルバー』が選択されることが多い。

それでも、一時期『ハイペリオン』を使う兵士が増えたことがあった。

 

その理由は、『魔女の騎士ゼファー』という映画が発表されたからである。

いつの時代も、映画の主役は子供達の憧れだった。

サイファーも、同じ理由で『ハイペリオン』を使っていた。

 

「……ここか」

 

サイファーは、ガンブレードの製造元に立ち寄る。

 

『魔女の騎士ゼファー』はティンバーの映画会社で制作された映画で、小道具類は基本的にティンバーのものが使用されていた。

ティンバーは映画が制作される2年前に、軍事大国ガルバディアに占領されており、自立心の強いティンバー市民は、意地でもガルバディア製のものを映画に使用しなかったのだという、製作秘話、噂話がある。

 

「よくここまで使い込んだね。

1週間もらえれば、最高の状態に仕上げてみせるよ!」

「あ、ああ、頼んだぜ」

 

なんだか先方に気に入られてしまったらしい。

最近、『ハイペリオン』の使い手がめっきり減ってしまっているのだとか。

映画効果も、15年も経過すれば下火になる。

 

 

 

1週間ほど滞在することになったため、ホテルを予約してから街をぶらつく。

 

ティンバーはガルバディア軍に占領されているからか、全体的に陰気だった。

とはいえ、普通はそうは見えないだろう。

というのも、市民が決まって、余所者である金髪青年の姿を一度は確認するからだ。

 

「(大半が何らかのレジスタンスの一員、か……)」

 

事前情報を頭の中で反芻する。

 

占領からもう17年にもなる。

そろそろ市民すべてが陰での行動、情報収集に慣れてきているように、サイファーには感じられた。

 

なんとなく、歩道橋から電車の発着する線路を眺めていると、青い服のガルバディア兵が水色の服を着た黒髪少女に絡んでいるのが見えた。

 

「なによ、放して!」「大人しくした方が身のためだぞ」「そうそう、俺達ガルバディア兵に逆らうとろくな目に遭わねえからな」

「チッ」

 

サイファーは、悪くない風景の中に目障りなものが混ざり込んだのが、神経に障るのを感じた。

これは、ティンバー市民でなくとも、眉をひそめるだろう。

ティンバーの、雑多ながら合理の塊でできた街を愛していればなおさら。

 

飛び込むことに躊躇はなかった。

 

「カサカサカサカサカサカサ、チン、チン、トゥッ!」

「ぐわっ!?」「なんっ、ぶほっ!?」「気持ち悪ぅっ!?」

 

ガルバディア兵2人を背後から殴り倒し、少女にはドン引きされる。

 

「……?」

 

サイファーは小首を傾げた。

 

彼は今、武器を預けていて手ぶらで、なおかつ、GFをすべて外した状態である。

なのに、バラムガーデンの生徒ほどの身体能力がなく、油断もしていたとはいえ、あまりに一方的に勝つことができてしまったのだ。

おそらく、この2人はサイファーの姿をすら認識してはいないだろう。

 

「強くなり過ぎちまったってのか?」

「あ、あなた、早く逃げなきゃ!」

「そうだな、この程度なら束になろうが敵じゃねえが、ガーデンに迷惑がかかるのもいけねえ」

「えっ?」

 

戸惑う少女の身体を横抱きにして、サイファーは手早くその場を離れる。

 

「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ」

「ちょっ、揺らさ、酔っ……!」

 

この後、少女は滅茶苦茶吐いた。

 

 

 

「悪かったよ。女がか弱いっての、すっかり忘れちまってた」

 

サイファーの周囲にいた印象深い女性といえば、銀髪の少女とテレサとキスティスである。

テレサは論外として、15歳で正Seedに、さらにこの間、教員試験に合格したキスティスがか弱いという印象はなかった。

そして、最後の銀髪少女もサイファーのもう1人の取り巻きによく蹴りを入れており、なおかつそれなりの戦闘力を持つため、あまりか弱いという印象がない。

 

既に卒業したが、ルールーもそうだ。

物理のワッカ、擬似魔法のルールーと称されるほどの天才児であり、サイファーも擬似魔法込みの模擬戦では勝ったことがない。

高速移動法を習得した後も、スコールと同じ対処法を身に着けており、結局勝てなかった。

擬似魔法を禁止されると極端に戦闘力が低下するテレサとは、戦闘センスが桁違いだったということである。

 

「(けど、じゃあ戦闘センスなしであれだけ強いテレサがどうなんだって話だな)」

 

しばらくベッドで休んでいた黒髪少女は、ふとサイファーに尋ねる。

 

「ね、あなた、ガーデンの生徒なの?」

「まあな」

「ガーデンの生徒って、みんなあんなことができるの?」

「全員ってわけじゃねえな。アレが開発されたの自体、最近の話だ。

だから、開発した奴から見て盗んでるってのが一番近いだろうな」

「思ったよりカッコ悪かった……」

「言うけどよ。お前、『わざとめり込んでその反発で加速してる』って言われて、理解できるか?」

「ゴメン、私が悪かった」

 

大体にして、師が弟子に『見て盗め』と言う時は、大抵口で説明できないからなのだ。

 

「私はリノア。あなたは?」

「サイファーだ」

 

この後、サイファーはこの少女にティンバーを案内されて、少しトラブルがありながら、観光を楽しむことになる。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回は例の人とサイファーの話です。
もちろん、色々台無しになりました。

GFを外した状態で出歩くのは危険と思われるかもしれませんが、一応ちゃんと専用デバイスに保管していて、戦闘になるようならジャンクションできるようにしています。
今回は必要なかっただけで。



――――設定

『魔女の騎士ゼファー』:原作設定、考察
原作でサイファーが魔女の騎士を夢見た原因で大ヒット作らしい。
実は物語に結構絡んでおり、とある人物が出演している。
どこで制作されたかは公式に明言されていない。

この小説中では映画制作をティンバーの会社としたが、この手のノウハウがある会社がティンバーというイメージによるもの。
可能性としては、他に色々あるが、どれも考えにくい。

デリングシティは、当時魔女戦争の最中、小康状態であり、敵であるエスタの魔女を称えるような内容の映画を発表できたとは考えにくい。
ドールは戦争状態のエスタに大陸でのロケを許可するとは考えられない。
バラムもドールと同じく。
トラビアは、原作ゲーム中における監督の口調がトラビア弁ではなかったため。
ウィンヒルは当時街中まで魔物が入り込んでおり、映画撮影する余裕があったとは思えない。

ティンバーだけはガルバディア軍に占領支配されている最中であり、ガルバディア軍の敵である魔女を応援する機運があったとしてもおかしくない。

ティンバー:アルティマニア情報
ガルバディア大陸南東部に位置する大都市。
名称は『森林』を意味する『timber』にちなむ。
天然資源のアルカイックガスが豊富に採れることから、ガルバディア軍の侵攻目標となり、武力制圧されてガルバディア軍の占領支配を受けている。
マスメディア関連の施設が充実しており、特にティンバー・マニアックスという出版社が世界的に有名。
住民の大半がレジスタンスに所属しているが、過去に行われた弾圧やレジスタンス狩りのおかげで、ほとんどの組織は休止を余儀なくされている。

原作中の描写では、治安の悪さは主にガルバディア兵による横暴が原因らしい。
この小説でもリノアとサイファーの出会いについて、ガルバディア兵の横暴をきっかけとした。


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カードバトル

7/20 暑ゥゥイ!


「『ダメージブースト』!今だテレサ!」

 

金髪トサカの少年ゼルが叫び、同時に高速移動で戦場から離脱する。

 

「“クローンノ フカヒノ ジョセフノ”『カプコン製ヘリコプター』」

 

巨大な氷の塊が無数上空に出現し、敵である水晶殻の東洋龍に降り注ぐ。

それは通常の自由落下程度ならば回避できただろうが、倍近い不自然な加速度で一帯を爆撃した。

なぜかヘリコプターの形をした氷の塊は、無数の別種合成遅延氷礫を満載し、高い再生能力を持った魔物を一気に押し潰し、爆破。

 

断末魔と共に、長い胴体を持った東洋龍は地面に墜落し、倒れ伏す。

 

そして、それを行った黒髪少女も、少し離れた場所で力を失って地面に倒れ伏す前に、隣にいた金髪美女に抱き留められた。

 

「お疲れ様」

 

その後、テレサは5時間ほどで目覚めた。

 

 

 

「起きてきたな。よし、勝負だテレサ!」

 

休暇から戻ってきたサイファーが、訓練施設で勝負を挑んでくる。

 

「ええけど……」

「サイファー、旅行先で何かあったの?」

「サイファー、女?」

「帰ってきてから、なんでか調子がいいんだ。

それと女じゃねえ。旅行先でやたら押しの強いのがいたが、別に関係ねえから睨むな!

外野は笑うな!」

 

ウガーッ、と声を上げつつ、テレサに木刀を向けた。

 

「さあ、やるぞ!今日は擬似魔法アリでも勝てそうな気がするんだ」

「ふーん……」

 

ティンバーで出会ったのと違って貧相な身体の黒髪少女は、ニコリと笑みを浮かべた。

 

「([∩∩])<遊びは終わりだ」

「チィッ!」

 

サイファーは嫌な予感を覚え、わけも分からず回避する。

直後、戦闘開始位置に氷の球体が叩き込まれた。

 

サイファーとテレサの間には、戦闘センスという才能の壁があった。

戦闘において、才能ではサイファーの方が上なのだ。

しかしそれでもなお、テレサは制限なしでサイファーに負けたことがなかった。

理由は、テレサの冗談のような計算能力にある。

 

彼女自身がもたらした『状況再現』は、レパートリーが数百にも上る。

通常は長い時間をかけて総当たりで探していくところを、テレサはGFの新しい利用法を用いることで、その場で作り出すことさえできてしまうからだ。

これも、長年続けてきたGFによる思考速度の拡張の成果だった。

 

引き換えとも言えるのだが、彼女は勝負事には一切の容赦がなかった。

ルール内でなら、常識から外れたありとあらゆることを行って、それで勝利としてしまうのである。

 

今回も、サイファーの回避先に回り込み、彼のトレードマークである白いコートに訓練用に穂先を丸めた木製の槍を引っ掛け、近くの池に叩き落とした。

 

「ぶはぁ!?」

「ほい、勝ちや」

 

池から顔を出したサイファーに、テレサが槍を突き付けて勝利宣言する。

 

「く、くそっ、これでもまだ読まれるのかよ!」

「見てから昇竜余裕やったで」

「動き出しが早かったってことか」

 

トラビア教員デンネンは2人の会話を見ていて呟く。

 

「今の会話で理解できよるくらいにはなっとんねんな」

「スコールも分かるの?今ので?」

「……ああ」

 

傍で聞いていたキスティスに聞かれて、スコールは微妙な表情で頷いた。

 

ちなみに、サイファーの症状がある程度治ったことで変なテンションになったせいでポロッと出てきた旅先の女性について、様々な憶測が流れたのは言うまでもない。

 

 

 

「テレサについて相談があるんですが」

 

キスティスが、たまたま食堂でくつろいでいたデンネンに話しかける。

 

「ホの字やったらライバルが1人おる「違います」

 

下ネタに走ろうとしたオッサンを笑顔で威圧し、彼女は本題に入る。

 

「テレサがカードバトルをやりたがらないんです」

「あぁ、それなぁ……」

「何か理由があるんでしょうか?」

「単純やで、アイツに勝てる奴がおらへんからや」

 

微妙に困った顔で、中年オヤジは語った。

 

「トラビアガーデンのカード大会で、テレサがこっち来るチョイ前に全試合完封(フルパーフェクト)やってん。

俺も何回かやったけど、ありゃ勝てんわ。

それでもセルフィと何回かやっとるんは見かけたなぁ」

「そんなことが……」

「まあ、今から考えたら、脳味噌開発しとるんやもんなぁ。

強ぉて当たり前っちゅうたら当たり前なんや。

話題のついでやし、やってみるか?」

「……そうですね。トラビアがどのくらいのレベルなのかも知っておきたいですし」

「よっしゃ、やろか。せっかくやし、トラビアのルールと混ぜてみよか」

「ええ、是非」

 

後に、キスティスは保健医のカドワキに語る。

 

トラビアは、カードバトルにおいては修羅の国だと。

 

要するに、思考能力を3年かけて拡張し続けていたテレサに対し、最後の1度しか全試合完封(フルパーフェクト)を許さなかったということなのだ。

それに気付いたのは、そこそこ(・・・・)強い方(・・・)というデンネンと、10戦して引き分けた後の話。

 

ちなみに、キスティスは現在、バラム最強の腕前を認定されている。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はカードでしたね。

テレサにカードバトルが絡むと、必ずトラビアガーデンの話が出てくる上に、彼女はこの手のゲームが得意でカードの種類をほぼ完全に網羅していて、思考能力の拡張までやっていますから、かなり最適解に近い一手を選ぶことができます。
そのせいで、勘で最適解を選んでくることがあるセルフィ以外とはあんまり勝負にならないんですよね。

トラビアエリアには『プラス』があるのもネックです。
数字の強弱では単純に有利不利が決まりませんから。
それに加えて『ランダムハンド』があるため、バラムとはカードゲームの環境が違いすぎます。



――――設定

カードバトル:アルティマニア情報
正式名称『トリプルトライアド』。
世界的に普及し、親しまれているカードゲーム。

ゲーム中では『カード変化』に絡み、様々なアイテムの入手と密接に係わっており、カードゲームだけでもやるとやらないとでは難易度が大きく変化する。
ただし、結構な中毒性があり、ハマると1時間くらいは軽く吹き飛ぶ。

カードをコンプリートする際、注意すべき点はカードクイーンのイベントと三大修羅の国。
カードクイーンはレアカードを渡すか奪うとドールに移動し、特定のレアカードを要求してくる。
ドールでのイベントで渡したレアカード自体は画家の孫が持っているため、取り返せるが、そのレアカードを渡した際にカードクイーンは移動してしまうため、またドールに移動させる必要がある。
アルティマニアにはどこへ移動するかのパーセンテージが書いてあるが、あまり信用しない方がいい。

また、画家の孫のAIが強く、『ランダムハンド』が残っている状態で挑むと、レアカードを取り返すどころか、さらにレアカードを奪われるということもよくある(5敗)。
なので、カードコンプリートを目指す場合は、最初にドールのカードルールから『ランダムハンド』を消すことを強く推奨する。

FF8カードバトル三大修羅の国とは、トラビア、セントラ、宇宙のこと。
いずれもカードルールに『ランダムハンド』と『プラス』がある。
ただ、最高に難しいのはすべてのルールがある宇宙エリアではなく、セントラ。
バラムで調子に乗っていた後にセントラへ行くと、自分がどれだけバラムのルールに甘えていたのかを思い知らせてくれる。
FF8最強カードがセントラに配置されている辺り、スタッフは分かってやっているとしか思えない。

そして、宇宙とセントラが特に難しいからと言って、トラビアが簡単かというと、そんなことはない。
雪国なせいで、バスケの他にはカードくらいしかやることがないのだろうか?


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代償

7/21 蚊って、実は本格的に暑い時期はそんなに活発にはならない気がする。


テレサは焦りを感じていた。

何に対して焦っているのか、自分でもよく分かっていないのだが、このままでは将来よくないことが起こるということだけは感じていた。

そんな漠然とした不安が起こったのは、サイファーと対戦した後のこと。

 

脳機能の拡張を無理に行ってきたテレサは、計算能力が桁違いに高い代わりに、判断力が普通よりもかなり低下してしまっており、しかも『次元の魔物』の来襲のせいで、サイファーのように長期休暇もできない状態が続いていた。

だから、それはある意味で必然だったのかもしれない。

 

テレサは、以前に自分が禁じ手としたものに手を出すことを決意したのだ。

 

「“レイヴン、助けてくれ、レイヴンが化け物だ”『ナニカサレタヨウダ』」

 

そして、なぜ自分が禁じ手としたのかを、彼女は思い出した。

 

 

 

「……」

 

目覚めると、3日経っていた。

 

これが第一の理由。

つまり、脳にかかる負荷が、これまでよりもさらに大きいのだ。

 

そして、部屋に届けられていた槍、『ジャベリン』は、テレサの禁じ手に耐えられずに破壊されていた。

以前よりは原形を留めている分、マシとも言えるが。

逆に言えば、以前も同じことになったのだ。

 

それが第二の理由。

つまり、テレサの本気に、武器が耐え切れないのである。

元々、理想に到達してしまったなら、耐えられる武器などないのは分かっていたのだが。

それでも、これはテレサとトラビアガーデンの仲間達を繋ぐ、彼女を人間のままに押し留める、絆の一つだった。

 

幸いにして予備はあるのだが、問題はテレサが絆を失うことに慣れてしまった場合である。

 

それが第三の理由。

 

この世界のGFは記憶を抑え込まない。

しかし、今のテレサの利用法は、判断力を低下させる。

本当に大事なことを、目的のために無視し始める可能性があった。

もう誰しもが記憶の彼方に放り投げているであろう『記憶保護』も、この世界では役に立たない。

 

他よりも、最後の理由が最も大きい。

テレサには、エクスデスを倒すのと引き換えに、この世界を滅ぼすことをよしとする可能性があるのだ。

 

「うああああああっ!!」

 

少女は自分の行いの意味に気付き、慟哭した。

 

 

 

「恐れとったことが起きたっちゅうやつやな」

 

明らかに様子がおかしくなったテレサを保健室で休ませて、デンネンは腕を組んで皆に説明する。

 

「何があったんですか?」

「『バーサク』使うたんや。もちろん、普通のやないけどな」

 

彼は語る。

 

「つまり、一時的に、脳味噌に極限まで負荷かけてんよ」

「今回って、そんな強いやつじゃなかったろ?」

「目的は分からへん。けど、トラビアガーデンで俺らが大怪我した時も、同じことしよってんやわ。

俺らはそれに巻き込まれて大怪我したんよ」

「それって……」

「味方ごと攻撃した……?」

 

聞いていた全員が、顔をしかめた。

 

「判断力の低下で、味方を巻き込んでも、死なへんかったらええ、て思うたんかもしれへん」

「そんなことが……」

「前の時はこんな、塞ぎ込んでなかったんだろ?」

「まあなぁ、セルフィもクレアもおったし。

みんなで大丈夫なようにて作ったんが、あの『ジャベリン』やねん。

予備はあるんやけど、単なる武器やいう以上に、テレサにとって大事なもんやってんやなぁ」

「そういえば、前から不思議に思っていたのよ」

 

キスティスが話す。

 

「『次元の魔物』と戦う時、『任意コード』を使った時って、槍は使わないのよね。

それ以外だと氷で槍を作ることも少なくないわ。

彼女にとって、本来武器なんて必要ないんじゃないかしら」

「……」

 

この中で、最も複雑な表情をしていたのは、サイファーだった。

GFによる脳機能のリミッター解除の副作用として、実際に判断力の低下という症状が発症したことがある、唯一の人間だ。

彼自身の症状が進めばこうなる、という実例が、テレサなのだ。

 

「そろそろ、本番でもいいのかもしれない」

 

そんな皆の様子を見ていたスコールが、珍しく自分から意見を言う。

 

「本番って?」

「『次元の魔物』を、テレサ抜きで倒せないか?」

「!」「――」「!」

 

皆が驚く。誰もしなかった発想だったからだ。

 

「それはいいですねえ」

「学園長先生」

 

全員がそれぞれ、敬礼をする。

各ガーデンで文化や戦術、事情が大きく違っていても、この敬礼だけは共通していた。

 

学園長は答礼する。

 

「休みなさい」

 

バラムガーデン学園長、シド・クレイマーはこう言った。

 

「テレサ君の負担を軽減することは、トラビアガーデンとの契約でもあります。

そのために君達は、彼女から様々な技術を学んできました。

ならば、そろそろ本格的に彼女の役目を代替することを始めてもいいのかもしれません。

たとえ、本来は文字通り、テレサ君のサポートが目的の契約だったとしても。

君達はそこ(サポート)で止まっているつもりはないのでしょう?」

 

最初に言い出したスコールはもちろん、この場にいる全員がやる気になっていた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
珍しくシリアス回でした。

今回のネタは、『アーマードコア』シリーズからです。

ついでに、『次元の魔物』のネタを解説していなかったということを思い出しましたので、今回解説しようと思います。

ちなみに今回の『次元の魔物』は、決めてはあったんですが、本編に表現が入りませんでした。



――――設定

『ドラゴンエイビス』:FF5、25話『タイムリミット』
『次元の挟間(塔)』に出現する雑魚敵。
『りゅうのきば』を落とす。
全体攻撃の『ブレスウィング』を使ってくる。

周囲に出る雑魚敵の中ではHPが高めで少々面倒だが、出現場所自体がそう広くもなく、他に多く面倒な敵が出る場所なため、印象に残りにくい。
というか、一緒に出てくる『にんじゃ』の方が10倍面倒なため、そちらの印象に持って行かれている。

空を飛ぶ魔物で霊体を憑依して偵察できるという基準で選定した。
そのため、前回等に比べると魔物のランクがいくらか落ちている。

『すいしょうりゅう』:FF5、28話『カードバトル』
『次元の挟間(ラストフロア)』に出現する雑魚敵。
『ひりゅうのやり』が盗める。
全体攻撃の『ブレスウィング』を使用する他、常時『リジェネ』状態で、HPもかなり高い。

FF5の強戦術を発見していない内は、かなり厄介な相手。
特に高HPと自動『リジェネ』による高いタフネスのおかげで、ボス並みに時間を食われることもある。
ただ、常にお供を連れずに単体で出現するため、『にとうりゅう』+『みだれうち』の餌食。

この小説中で選択された理由は、エクスデスによる実験。
異世界に送り込める魔物のランクをどれだけ高められるか、という内容。


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テレサ抜き縛り

7/22 いつも寝苦しくて目が覚める。それからエアコン入れて横になっていることが多い。


目の前で、無数のアンデッドとバラムガーデンの生徒達との死闘が繰り広げられていた。

 

今回の相手は『ネクロマンサー』。

以前から、何度か見てきた相手だ。

 

「チンッチンットゥッ」

「ズサーズサーズサーズサーズサー」

「ヘイホー、ヒアウィゴー」

「カサカサカサカサカサ」

 

ゼル、スコール、デンネン、サイファー、4人の前衛が飛び込んで手当たり次第殴り倒していく。

アンデッドの数は凄まじいが、1体1体はそこまで早くも強くもないため、本体への火力攻撃を担う後衛へ敵の攻撃を届かせないためだけなら、そう難しくもなかった。

 

「“アアクゥダイカァン、ハンマァナゲェ”『ショコランラ・ペリッチャァァァアア』」

 

そこに長い黒髪Seedシュウが、本体である老人を巻き込んで、『状況再現』による魔法攻撃を行う。

 

今回は巨大な氷の塊が高速回転しながら射出されるというもの。

無数のアンデッドを原形を留めないほど挽き潰しつつ、『ネクロマンサー』へ向かっていく。

それは結局群がるアンデッドの数によって逸らされてしまうのだが、『ネクロマンサー』の防壁であるアンデッドの大半を削ることには成功した。

 

しかし、『ネクロマンサー』は周囲に灰色のガスを発する。

これは気絶するとアンデッドのように操られてしまうガスで、時々これを使用して周囲の魔物を自分の配下に加えるのが、この『ネクロマンサー』の戦い方だった。

灰色のガスの中ではいつどこからアンデッドが襲ってくるか分からず、そのために灰色のガスからは退避するのがセオリーとなりつつある。

 

「“モルボルのことキスティスって言うのやめろよ”『臭い息』」

 

そこに、キスティスが灰色のガスの中に、緑と茶色の凄まじい色の毒ガスを混ぜ込んだ。

『状況再現』などではなく、単なる『青魔法』である。

もっとも、これを再現するのに『状況再現』を利用していた。

 

詠唱のせいか、キスティスは普通に『青魔法』として使えるようになろうと、日夜努力しているのだが、正規の方法でないせいか、なかなか上手くいっていないようだ。

 

効果は劇的である。

無数のアンデッドの大半が石化したり弱体化し、動きが遅くなったり動きが止まったりしており、さらに目標を見失って共食いを始める者もいた。

 

「“アアクゥダイカァン、ハンマァナゲェ”『ショコランラ・ペリッチャァァァアア』」

 

そこにシュウがもう一度高速回転する氷の巨塊を叩き込む。

無数のアンデッドをすり潰すと共にキスティスの毒ガスも吹き散らし、『ネクロマンサー』本体をアンデッドの群れから弾き出した。

 

「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ!」

「ズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサー!」

 

そこへサイファーとスコールが高速移動で追い付き、それぞれ別方向から飛び込む。

 

『ネクロマンサー』は自前のバリアでそれぞれ防ぐが、ガンブレードという武器の性質を見誤り、バリアを破壊されてしまう。

 

「よっしゃいけぇぇぇい!」

「うおりゃあああああっ!!」

 

そこに飛び込んだのがゼル。

デンネンに背中を蹴られ、そのダメージを利用した埋め込み反動、いわゆる『ダメージブースト』で一直線に、『ネクロマンサー』の上半身を砕き散らした。

ゼルはこの『ダメージブースト』が得意で、直線的な移動速度ならテレサを除いてダントツトップを誇っている。

 

老人の下半身が地面に落ちた。

 

「『ファイガ』」

「『エアロ』」

 

サイファーとスコールがすかさず、残った下半身を焼き払い、風で吹き散らす。

 

それから、まだ動いていたアンデッドを片付け、『ネクロマンサー』が復活してこないことを確認。

 

 

 

そこでやっと、それを見ていたテレサは深々と溜息を吐いた。

 

「もしかしてと思っていましたが、他人に任せるということに慣れていないようですね?」

「うん」

 

一緒に見ていたシド学園長に言われて、少女は素直に頷く。

背中には予備の槍があった。

 

「ヤマザキ先生からも報告を受けていますが、テレサ君の力は魔女を倒しうる可能性が十分にあります。

しかし、君はどうやら、それですら満足していないようですね」

「うん」

「一体、君は何と戦おうというのでしょう?

この世界で魔女以上の力を持った存在というと、『力のハイン』くらいしか思い当たるものがありません。

しかし、『力のハイン』は積極的に人類に害をなす存在ではありません」

「……」

 

しばし黙っていたが、テレサは観念して口を開く。

 

「あの『黒い靄』の向こっ(から)から、『次元の魔物』送り込んできよるやつ。

『エクスデス』て言うんやって」

 

最初はそれに対する備えだった。

 

しかし、4年前からこうして魔物を送り込んでくるようになり、テレサの中で実在が証明された。

だから、かつて言われたこと、エクスデス本人がこちらの世界に来て、あちらの世界の『無』を呼び込めば、まるで『魔法剣』による別種合成に使用した小石のように、この世界とあちらの世界が破裂してしまうことを、無視できなくなったのだ。

 

あちらの世界では『暁の四戦士』と『光の四戦士』が手を取り合って戦い、それでも倒せなかった。

こちらの世界では、そんな特別な力が手に入る保証はない。

あるとすれば不思議の力か魔女の力くらいだが、そんなものがそう易々と手に入るとも思えない。

 

だから、テレサは自分自身で、一から魔女を超える力を身に付けるしかなかったのである。

それを誰に言ったとしても、信じてもらえるとは思えなかったから。

 

「それでは、テレサ君の様子がおかしかったのは、間に合わないかもしれないと思っていたから、でしょうか?」

「あ、ソレちゃうねん。

寝とる間に立てかけてあった壊れた槍蹴っ飛ばしてたみたいやねん。

それがカード入ったケースに直撃しよって……。

結構レアなカードダメにしてもてたから」

「あぁ……それは辛いですね」

 

シド学園長は微妙な顔で嘆息した。

 

カードゲーム『トリプルトライアド』は、世界的に普及しているカードゲームである。

基本的にカードバトルによるトレードによってカードの受け渡しは行われるのだが、ボス級のレア度の高いカードは、かなりの高値で取引されることがあった。

世界に1枚しかないレアカードとなると、1つで3万ギル近くとなることも珍しくない。

 

自身もカードバトルには力を入れていたシド・クレイマーは、テレサが塞ぎ込んでいた理由を理解しつつも、なんとも言えない微妙な残念さを感じていた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
シリアス!傷は深いぞポックリしろ!

きっかけはともかく、テレサ抜きで『次元の魔物』を倒し切ることに初めて成功しました。
最後のオチでシリアスが息してないんですが。

バトルの描写ってこんなもんでいいですかね?
得意げに書くと割といくらでも書けてしまうので、毎回冗長的にならないようにだけ心がけています。



――――設定

『ファイガ』:擬似魔法
見えにくいが、小さい何かが直撃して爆発を起こす魔法。
FF6とFF8が同じエフェクト。

他のシリーズではガ級ともなるとかなり頼れる威力だが、FF8は擬似魔法の設定的にGFのジャンクションで強化しないと頼りにできない上に、強い擬似魔法ほどジャンクション時の数値上昇が高く、使用し辛いという特徴があり、なかなか使用されない。
序盤は属性によって効いたり半減したりという幅が大きいが、中盤以降はGFや特殊技に頼るため、使用されない。

やり込みプレイヤーはダメージソースとして特殊技や『グラビデ』に頼ることが多く、序盤のHP調整は下級で済ませるため、結局使われない。
炎属性攻撃は属性攻撃Jに『ファイガ』をつければ十分なため、擬似魔法としての使用はまずされない。

『エアロ』:擬似魔法
カマイタチで敵を切り裂く魔法。
FF8以外では基本的に『青魔法』の下級として登場する。
FF8では威力的にも設定的にも中級魔法らしく、『上級魔法精製』で『トルネド』にできる。
はっきり言って実用的にもジャンクション的にも使わない。

特にやり込みプレイヤーがこれを手に入れる頃にはガ級の擬似魔法、あるいは禁断級魔法以下では最高の数字を誇る『トルネド』が手に入っているため、やはり使わない。

カードの値段:独自設定
原作でカードの価格を推測することができるイベントはただ1つ、ゾーンに『となりのカノジョ』を渡した際の報酬であるレアカードと25500ギルという値段。
そこから、この小説では3万近くが珍しくないと設定している。


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新たな段階へ

7/22 体重がヤバい。まさか体重の低下で危機感を持つようになるとは思わんかった。


テレサ抜きでもかなり戦えるまで戦力強化に成功したことが判明したため、本格的にテレサの症状改善を図ることになった。

今まで5日置きに脳に大きな負担をかけ続けてきた彼女は、Seed試験を受けさせるには致命的なレベルの、判断力低下の症状を発症していたのだ。

 

「スヤァ」

「だからって、授業をBGMに寝るこたぁねえんじゃねえか?」

「よく言うわね、遅刻サボり居眠りの常習犯」

「いや、どうせ起きてる時間が不安定なんだから、眠いんだったら部屋で寝ればいいだろ?」

 

サイファーに俵持ちされながら、学生寮に運ばれるテレサ。

それを後ろから茶化すのは、正Seedになったばかりのシュウ。

 

ルールーが卒業した後、『次元の魔物』対応チームが組まれた。

ヤマザキを顧問に、キスティスがリーダー、サイファー、スコール、ゼル、そしてシュウ、デンネンという顔ぶれだ。

テレサを含めてもたった8人なのは、あまり多くの正Seedを加入させると、バラムガーデンの傭兵派遣業に支障が出るというのと、逆にこのチームのメンバーが単純な戦闘力では正Seedより遥かに強いという理由からである。

 

この辺の事情には、マスター派の思惑もあった。

つまり、戦力増強はいいが、傭兵業による金儲けが上手くいかなくなるのは本末転倒だということだ。

傭兵稼業を続けつつの戦力強化というところに落ち着いたのは、学園長がマスター派と折衝した結果でもある。

 

ともかく、サポート体制が整ったテレサがあまり気を張らなくなった結果、テレサ生来のねぼすけな性質が顔をのぞかせ始めていた。

いや、正確には本人がそう思っているだけで、前世は特にブラックな職場で疲労が大変なことになっていたために、常時睡眠不足になっていたというだけなのだが。

 

 

 

「自分に魔法を撃って回復した!?」

 

次の『ゴーキマイラ』に、チームは苦戦を強いられる。

この世界にも同種の魔物は存在するのだが、行動パターンが桁違いに厄介だった。

 

単純にステータスが高いのはもちろんだが、炎、冷気、雷、水の4つの属性を吸収する上に、ダメージが蓄積する前に自分自身に各属性の魔法を使用し、体力回復を図るのである。

以前はテレサが一瞬で倒していたために観測できなかった厄介さが、チームメンバーを苦しめる。

 

「火力が足りない……!」

 

チームリーダーのキスティスは歯噛みする。

前回、一度だけ、たまたま相性のいい相手を倒せたが、だからそのまますべて、とはいかなかったらしい。

 

「耐性、4つまでやったら無条件にぶっ飛ばせんねん」

 

そんな時、キスティスの後ろにいた黒髪少女が声をかけてきた。

 

「テレサ?」

「2人がかりやったら、『魔法剣』3つ重ねくらいやったらいけるんちゃう?」

 

それは助言だった。

 

『状況再現』とは、魔力の状態を再現することで、本来は特殊なアイテムなどがなければ再現できないはずの魔物の技などを再現する技術である。

だが、テレサが研究していたのは、そのさらに向こう側。

ありえないはずの効果を発現させ、敵の動きを操ったり、耐性を無視して即死させる技術。

そこに一歩踏み込んだものを再現するだけならば、詠唱を再現するだけでできてしまうくらい、彼女は研究を重ねてきた。

 

だからこその助言だ。

テレサが単に才能でそれを実現させていたならば、出来なかったはずの助言である。

 

「シュウ、『原子分解』。私が合わせる」

「了解」

 

必死に足止めする前衛達のためにも、出来ることはすべてやっておかなければならなかった、というのもある。

 

その前に、これはシド学園長からテレサへの指示でもあった。

すなわち、口は出しても、要請があるまでは手を出すな、という指示。

少女はそれに従う。

 

自分自身の判断では、また何かやらかしてしまうかもしれないと知っているから、他人に判断を委ねる。

理由を問わず、ただ目標を達成する。

 

その在り方は、戦士や兵士というよりも、兵器のそれに近い印象をキスティスに与えた。

 

「“リヴァイヴァスライバベル水撃スープジャイアンロコ金剛カイザーブラスター陽子ロケット鬼バルカン破壊鉄下駄電束火炎プラズマ跳弾神速熱線放射ソニックディフレクト電撃濁流清流アル三スカイ燕曲射短勁フラッシュライジングロザリオアル・十字塔無月真アル・羅刹掌”『すなわち剣、相手は死ぬ』」

「“リヴァイヴァスライバベル水撃スープジャイアンロコ金剛カイザーブラスター陽子ロケット鬼バルカン破壊鉄下駄電束火炎プラズマ跳弾神速熱線放射ソニックディフレクト電撃濁流清流アル三スカイ燕曲射短勁フラッシュライジングロザリオアル・十字塔無月真アル・羅刹掌”『すなわち剣、相手は死ぬ』」

 

キスティスは親友のシュウの詠唱に合わせ、魔力の状態を調整することで『状況再現』を確かなものとする。

これは魔力感知を鍛えている『青魔法』の使い手、キスティスだからこそできることだ。

 

たまたまかわざとか、妙な詠唱をさせられている分、早く自力で『状況再現』を組み上げることができるように、努力している成果でもある。

 

『ゴーキマイラ』は突然自分のものではない魔力の浸透を感じてそれを放出しようとするが、少し遅かった。

右前脚が弾け飛び、動きが一気に鈍くなる。

 

「いける!」

「もう1回!」

 

消耗は決して無視できるものではなかったものの、前衛への負担が減ったことで余裕ができ、数回の使用では数時間の気絶で済むことを知っていたため、2人は躊躇いなく再度の使用を行った。

 

今度は『ゴーキマイラ』の頭の1つが弾け飛び、目に見えて動きが鈍くなったため、後は前衛が傷口を抉って切り刻んで終わる。

引き換えにキスティスもシュウも気絶したが、今度も『次元の魔物』を倒すことに成功はしたわけだ。

 

 

 

エクスデスは様々な手立てを講じても成果が上がらないことに、そこまで強く苛立ちを募らせることをしなくなった。

それよりももっと、彼を苛立たせることが頻発していたからである。

 

『卵にかけた醤油がソースに変わる呪い』。

 

「……」

 

エクスデスは静かに五穀米の入った茶碗を握り潰した。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
テレサ抜きの『次元の魔物』戦もう1回でした。

一応、FF5の『クリスタル』の力がそれだけ大きいものだったということを伝える目的で、今度は苦戦させてみました。
テレサはバックアップについています。



――――設定

『ゴーキマイラ』:
FF5、『次元の挟間(ラストフロア)』に出現する魔物。
ヤギ、ライオン、鳥、龍の4つの頭を持った合成獣。
FF8に出る『キマイラブレイン』と似た姿をしているのは、両者の世界の繋がりを意識しているからだろうか?

4属性を吸収し、4つの属性の攻撃を行う。
さらに属性魔法を自分に使用して回復まで行う。
使用する属性魔法がラ級止まりのため回復量がそこまでではないが、コイツを倒せないようならラストフロアで稼ぎを行わない方がいい。
地味に『リフレク』で反射できない魔法属性攻撃をしてくるが、ダメージもラ級止まりのため、これまでのボスを正面突破してきたパーティなら、そこまで極端に苦戦はしないはず。


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本格導入

7/24 雨が降るのか降らないのか。降るにしても小分けにして降ってほしい。


「10秒で地下へ」

 

バラムガーデン地下層のマスタールームへ、テレサは呼び出された。

 

「3秒で来たで」

「!?」「!?」

 

中央にあるエレベータを利用することなく、床をすり抜けて降ってきた少女に驚く制服教員達。

 

「3階やったら2秒で行けたんに、地下やったら自由落下するしかないから遅いねん」

「そ、そうか……」

 

謎の文句に動揺しつつ、制服教員は案内する。

はっきり言って、案内される時間の方が長かった。

 

玉座のような装置の前で、質問が投げかけられた。

テレサは中身がノーグであると前世の知識から知っていたため、特に動揺はない。

 

「生徒達の強化はいつ始められる?」

「そらセンセらにまかせとる。

あたしの方でも教えてるけど、あたし、教えるのヘタっぴみたいなんよ」

「理論だけでも提出できないか?」

「だいたい書いて渡してるで」

「荒唐無稽過ぎる」

「あたしやと、アレ以上分かりやすぅはできへんねん」

 

テレサはあまり他者に教えるように理論を組んでいないのだ。

それでもまだ、すべて感覚でやってしまう本当の意味での天才よりはマシなのだが、まだまだ生徒が理解できるレベルではなかった。

 

「とにかく、Seedの強化計画を急いでもらいたい」

「今でメいっぱいやから、これ以上はムリ」

 

テレサは、頭はいいのだが、誤魔化しのような処世術は苦手だった。

 

「チッ、『何某』め……!」

 

罵られるが、少女は特に反応しない。

 

「て、テレサが……なに!?」

 

目の前で消えられて慌てて探しに来た制服教員が、ようやくやってきて、テレサがとっくに着いていたことを知った。

 

 

 

所変わって『赤魔法研究室』。

 

「ということはだ、GFによる脳のリミッター解除は、連続使用による判断力の低下を休暇で回避していれば、従来のジャンクションよりも、むしろ代償は軽いということか」

「多分な」

 

ヤマザキの結論に、サイファーは頷く。

 

「ただ、テレサのアレは俺より大分無茶してやがる。

例の武器を壊した時も、その前に何かに焦ってた様子だった。

時間的にも、症状は俺よりかなり深いはずだ」

「『次元の魔物』を倒す戦いの代替を始めたことで、彼女がしっかり休めていればいいんだが」

「ああ、言えてるぜ……」

 

最近のサイファーは、ガキ大将的な部分がなりを潜めつつあった。

大人になってきた、と言うべきか。

おかげで、『次元の魔物』対策チームのサブリーダーとして評価されつつあり、それがさらに彼の中で良い方向に責任感を持たせているようだ。

 

「なら、そろそろ本格的に授業の取り入れていこう。

例の『変態機動』の方は、教えられそうか?」

「人を選ぶとしか言えねえな。感覚を掴めるかどうかなんだが……」

「さすがに全員が習得するとはいかんか……」

「やるだけやってみて損はねえ、ってのが俺の意見だ。

なんとか説明できるやつが出てくれば、ソイツに任せるってのも手だな」

「うむ。妥当だな」

 

以前はこうやって教員に意見して、それが通ることなどなかったのだが、今はヤマザキも唸る意見を言ってくるようになった。

 

「これもGFの新しい利用法のおかげかな……」

「なんだって?」

「いや、なんでもない」

 

ヤマザキは寂しいような嬉しいような複雑な気持ちで、苦笑を返す。

 

 

 

イデアは様々な人間を魅了して操り、情報を集めていた。

『この時代』の脅威となる人間を見極めるために。

 

他の魔女を探すことができれば手っ取り早いのだが、魔女は基本的に社会には馴染めない。

民衆が魔女を嫌がり、結果として魔女は隠れるのが上手くなっていく。

そう簡単に探すことはできない。

 

それに、首尾よく見つけ出すことができたとしても、彼女の行動理由に反するため、他の魔女に手を出すのは気が引けた。

 

「やはり、ガルバディアか……」

 

『この時代』の知識はそれほど多くはなかったが、10年以上潜伏し情報を集めていると、ガルバディア以外は難しいことを知った。

 

しかし、同時に最近、奇妙な噂を耳にするようになった。

ドールを中心に活動するフリーの傭兵の中に、別種合成を成功させた『赤魔法』の使い手がいるようなのだ。

別種合成は、かなり後の時代の技術である。

 

「手品のようなものか」

 

内容を聞いて、イデアは唸る。

どう考えても本来の別種合成ではない。

『魔法剣』を利用する方法では、そもそも下級魔法を2つまでしか合成できないのだ。

雑魚相手ならば、それでもそれなりに役には立つのだが、魔女を倒すほどの脅威とはなりえない。

 

『赤魔法』は、威力だけならば『魔女の魔法』に匹敵するのだが、準備時間の長さから、対魔女の技術としては不足だった。

脅威度なら、『青魔法』や『魔法剣』の方が上と言えた。

 

「それよりも、そのような不完全な技術を上手く扱う機転の方が脅威か」

 

呟き、調査を指示する。

 

彼女は彼女で、やることがあった。

これからガルバディアを乗っ取るための方策を練らなければならない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
「10秒で来い」「3秒で来た」は、FF8でやりたかったネタの1つです。

ここから本格的にバラムガーデン生の魔改造が始まります。
ついでに、イデアの話も入ってきます。

ストーリーは原作からかなり変えるつもりです。
まあ、『当然こうなるよな』という話がかなりありますし。
もしかすると予想がつくかもしれませんが。



――――設定

『何某』:ある意味原作設定、現実知識
本作主人公テレサ・ドゥの『ドゥ』の意味。
イギリスの身元不明の死体や記憶喪失者などに、便宜上つけられる名前。
日本で言うところの『ドザエモン』や『名無しの権兵衛』に当たる。
この世界では、『ドゥ』という名字から変えられた子供はそう珍しくないと設定している。
原作開始から18年前まで、魔女戦争が続いていたため。

テレサに両親がおらず、名字が分からない子供だったことを意味する。
通常は成長に伴い、別の名字が付けられるが、テレサはそうはならなかった。
一応、彼女なりの理由がある。

ちなみに、FF5のガラフも、記憶喪失だった序盤は『ガラフ・ドゥ』だった。


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多分、ここからがゲーム本編だと思います。
ドール侵攻


7/24 やっぱ執筆の調子が健康状態に左右されてるような気がする。


1年後。

ガルバディア軍が突如としてドールへ侵攻を開始した。

 

「ルー、市街地は?」

「なんとか避難は完了したわ。

義勇部隊を編成しようという動きを抑えるのが大変だったくらい」

 

いくら訓練次第で誰でも擬似魔法を使用できるとはいえ、戦闘訓練を受けているかどうかでかなり変わってくることも違いないのだ。

そういう戦いの素人に戦場をうろつかれることに比べれば、きつく言ってでも抑え込む方がいいという判断である。

 

「防衛線は?」

「俺が見たとこ、結構厳しい。2時間持てばいい方だべ」

「応援要請はまだなの?」

「連中、なんかいい顔しねえんだわ。なに考えてんだかな」

「本当にね」

 

一応、各ガーデンに伝令を向かわせてはいるものの、ルールーやワッカがSeedを雇うとしても、数は知れている。

大体にして、ドール軍はルールーやワッカなどのバラムガーデン卒業生への応援要請も行っておらず、それどころか防衛戦への参加希望も渋り、今まさに窮地に立たされていた。

 

「私は議会に直談判してくる。ワッカは傭兵仲間の編成をお願い」

「おう」

 

2人は別れ、それぞれ自分のやるべきことを果たすべく、必要な現場へと向かう。

 

 

 

ワッカは道中、ドール兵に囲まれていた。

 

「どういうことだ?今は防衛戦の真っ最中だ。

傭兵風情に構ってていいのかい?」

「黙れ!内通者が!」

「はぁ?なんだって……!」

 

一瞬、激高しそうになるが、彼は多くのドール兵が疲労と憎しみと悲しみの目をしていることに気付いた。

嘘は言っていない。

デリカシーがないとよく言われるワッカも、そう思わざるを得ない雰囲気がそこにあった。

 

「どういう話になってんだ?そういや前線は?」

「さっき破られたんだよ!」

「お前らバラムガーデンが使うGFが後ろから襲いかかってきたせいでな!」

「なんだって?」

 

それは、この世界における大きな異変だった。

 

ルールーのような、優秀なバラムガーデン卒業生の存在を脅威に感じたイデアが、その力を封じるために動いていたのである。

 

「コイツらがガルバディア軍を呼び込んだんだ!」

「ドールはバラムガーデンに裏切られた!」

 

根拠のない憎悪を叩きつけられ、ワッカは恐怖を感じた。

何者かは知らないが、まともに正面からぶつかる戦い方をしてこない。

そして、ここでこういう状況になっているのなら、議会に直談判に行ったルールーが危ない。

 

「チィッ!」

 

ワッカは一瞬腰を沈め、大きく飛び上がった。

さすがにGFを捨てたまま、傭兵稼業を行うようなことはしない。

この世界のGFの代償は、運動神経なのだ。

 

何度かジャンプを繰り返し、傭兵仲間のいる場所へと向かう。

 

「マジかよ……」

 

そこにあったのは、ガルバディア軍の機械兵器とドール軍の板挟みによって次々と倒れていく仲間達。

機械兵器を破壊しようとするのだが、突然ドール兵に背中から撃たれて倒れ、動揺している隙に機械兵器に攻撃され、被害が拡大しつつあるのだ。

その様子が異常であることに、ドール兵も気付いている様子がない。

 

「ぬああああああああああああああああっ!!」

 

彼は感情に任せて叫び、蜘蛛のような蟹のような機械兵器に『モーニングスター』を叩き付け、戻ってきた鉄球をさらに蹴って機械兵器の中枢を叩き壊す。

機械兵器が脆かったのではなく、仲間がダメージを蓄積しておいてくれたおかげである。

 

「散れ!」

 

生き残った仲間にそうとだけ叫んでから、ワッカはルールーを助けるべく議事堂へ走った。

 

 

 

議事堂では、突然どこからともなく現れたドール兵にルールーは囲まれ、一目でそれらが人間ではない、と彼女は看破していた。

 

そうして、明らかに『連続魔法』以上の速度で、周囲を取り囲む人形達に擬似魔法を叩き込んでいく。

ルールーの特技『連続魔法』に、テレサの技術が合わさった、『テンプテーション』である。

 

そうして撃退している内に、ワッカが到着した。

 

「ルー!どうなってんだこりゃ!?」

「コイツらはドール兵ではないわ!人形か何かよ!」

「なんでわかる?」

「私がドール兵全員の顔と名前を覚えてるから」

「すげえべなオイ!」

 

よく見ると、ルールーに倒されたドール兵のような何かは、砕けた骨となって地面に転がっている。

戦死体がいきなり骨になるのはさすがにありえない。

 

「まさか、アンデッドか?」

 

試しに、ワッカは『ケアル』をドール兵もどきに使った。

すると、彼らは幻で固められた表面を失い、砕けた骨となって転げ落ちる。

 

「さすがにそこまでは考えなかったわね」

 

こんな状況で敵に『ケアル』をかけるワッカに呆れつつも、見えた突破口を切り開くべく、回復薬の小瓶の入ったポーチを探った。

 

 

 

イデアはリスクを冒して繰り出した手札が凌がれ、獲物を仕留め損なったことを感じた。

あまり多くの者に手札を晒しておくわけにもいかず、幻術を解除して『スケルトン』の制御を解く。

 

後はなぜか大量のスケルトンが市街地に出現したという怪奇現象が残るのみとなる。

 

「しかし、あの布陣で仕留め切れぬとはな」

 

ガルバディア軍で雇ったバラムガーデン生を基準に考えていたのが、どうやら間違っていたようだ。

 

想定していたよりも遥かに機転が利く上に、驚くべき切り札も持ち合わせている。

どうやら、ただの人間と侮っていい存在ではなさそうだ。

 

「まあよい。計画に支障はない。いざとなれば、私が直接出向くだけのこと」

 

強大な魔力を操る魔女であるという自信が、この後の驚愕へと繋がる。

 

「取り急ぎ報告いたします!」

 

魅了で操っている、ガルバディア大統領から提供されたガルバディア兵が、急報を告げた。

 

「もう落ちたか?」

「いえ、逆であります」

「なに?」

「我が方のドール侵攻部隊が、壊滅したとのことであります!」

「――」

「我が軍は谷にて分断され、市街地に入り込んだ部隊とは連絡が取れず、確保した陣地内の部隊は全滅。

それより2時間経過も状況に変化なく、司令部は4割の兵が失われたと判断し、撤退を開始している模様であります!」

 

イデアはしばらくフリーズしていた。

魅了の力が及んでいる限り、このガルバディア兵が嘘を言うなどありえないと知っているため、余計に混乱していた。

 

「私が『目』の映像を切ったのは、今の今だ。

幻術は解除したが、大量のスケルトンを送り込んだのも間違いない。

ならば、なぜ数分も立たぬ内に、このような報告が上がる?」

 

疑問も尽きなかったが、優先するべきは今後の計画の出鼻をくじかれたことであると切り替え、イデアは立ち上がった。

 

「官邸へ行く。連絡を」

「はっ」




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
時系列的には原作突入、ドール実地試験の場面です。

真相は次話に持ち越しですが、何が原因でこうなったのかは、勘のいい人は予想がつくと思います。

何度も言っていますが、原作通りにストーリーが進むことはありません。



――――設定

ガルバディア:軍事独裁国家、アルティマニア情報
科学に優れたエスタを支配した魔女が全世界に戦争を仕掛けた魔女戦争を契機に、軍備と領土の拡大を推進。
また、若くして大統領となったビンザー・デリングが十数年をかけて、ガルバディアを西の大国に押し上げた。
現在はいわゆる高度成長期であり、ガルバディア国内はかなり景気がいい。

ガルバディアという国には居住に適した土地が少ない。
中央には巨大な砂漠があり、首都であるデリングシティの近辺には雲が集まりやすく、年に十数日しか晴れ間が見えないなど、極端な気候の過酷な土地でもある。

政府の方針は誰に対しても高圧的で、国内では政治思想の弾圧や政治犯を投獄するための専用の刑務所『()地区収容所』を作ったりしており、周囲はイエスマンで固められている。
ティンバー占領なども行っており、やっていることは恐怖政治そのもの。

ガルバディア軍は世界最大規模の軍隊で、兵員数もさることながら、無人の巨大機械兵器の威力のために、今やエスタと同等の軍事力を誇る国家となっている。
ただ、ガルバディア一般兵の給料は上司の気分で決まるため、モラルはかなり低下しており、職務の鬱憤を晴らすべく一般市民に暴力う振るう兵士が存在するなど、規律の乱れはかなり深刻。
この二次小説でも大体こんな感じ。

ゲーム中では最後の方まで出てくる雑魚敵製造器。
唯一強いのは『BGH251F2』、通称『アイアンクラッド』くらい。
ただ、やり込む上では『ガルバディア兵』、『エリート兵』のシリーズはカード化できず、経験値を持っているなど、低レベル攻略の大きな障害となる。
ビッグスとウェッジ以外の兵士には大体石化が通じるということを覚えておこう。
(FF8では、ダメージを与えないまま石化で勝利すると経験値が入らない)


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ドール実地試験

7/25 エアコンはなぜかその時の気温より1度下げるだけで寒く感じる。


ドールで何が起こったのかを説明するには、ガルバディア軍による侵攻により、ドールに通じる唯一の陸路ドール峡谷の防衛線が破られる数時間前のバラムガーデンでの出来事を語る必要があった。

 

「今報せが入りましたが、ドールがガルバディア軍の侵攻を受け、峡谷の防衛線崩壊も時間の問題であるようです」

 

たった1人の部隊を前に、メガネの太った中年男性は話す。

 

「少々フライングではありますが、テレサ君にはアオヤギ君のドールへの送迎をお願いします。

彼をドール議事堂に送り届け、交渉成立後にまたバラムガーデンへ送り返してください」

「うい」

「それではよろしくたの――」

「ホァイ」

 

こうして、実はルールーとワッカが避難誘導や傭兵仲間達による戦闘への参加を要請していた頃、既にドール議事堂内では、バラムガーデンへの依頼と値段交渉は完了し、2人はバラムガーデンへ戻っていたのである。

 

 

 

そうして、たった3人の部隊が高速艇で派遣された。

 

1つはアオヤギによる交渉開始があまりにも早く、都合が良過ぎたこと。

そのために疑惑をかけられ、それを晴らすために値段を抑えざるを得なかったのだ。

だからこその、たった3人とも言える。

 

「命令は第一に市街地からのガルバディア軍排除、それから防衛陣地の奪取よ」

「実地試験っつっても、評価役のSeedが1人だけなんだよなぁ」

「一番心配なサイファーは私が見ているから心配しないで」

「勘弁してくれよ」

 

サイファーはキスティスの軽口に苦笑で返した。

 

「そういやサイファー、1年前の休暇の時に、ガルバディア兵とやり合ったって言ってたよな?

どんな感じだったんだ?」

「GF外して、素手で殴っても普通に勝てたって言えば分かるか?」

「ああ、よくわかったよ」

「……(なるほど、それで今回の試験に文句を付けなかったのか)」

 

GFを外すと、GFのジャンクションに慣れた者は著しく戦闘力が低下する。

なぜならば、運動神経が常人のそれよりも低下してしまうからだ。

それは戦闘時以外は外していればそこまで問題無いことなのだが、鍛錬のためにも戦闘が多くなるバラムガーデン生にとっては到底無視できない問題だった。

 

しかし、それでも1年前の時点のサイファーが、武器もなしに勝てたということは、それだけ実力差があったということを示していた。

もちろん、テレサから盗んだ技術のおかげもあっただろうが、サイファーの戦闘センスが運動神経の低下をものともしなかったということもあるだろう。

 

「さて、そろそろだ、全員でデッキに上がるぞ」

「……了解」「了解!」

 

やることは皆、分かっていた。

 

高速艇は、あくまで彼らの足が届く距離に近付くまでの乗り物なのだ。

その足が届く距離というのが、今回は数キロメートル先になっているという、ただそれだけのことである。

 

「確認するが、俺らが固まってやってても非効率だ。

それぞれ手分けしてかかる。

スコールは中央広場方面、ゼルは港一帯、俺は防衛陣地の奪還だ。

自分とこだけ獲物が少なそうなんて言うなよ」

「……了解」「了解!」

「いい距離だ。サイファー班、出るぞ!」

 

海上の高速艇から、3人は陸地へ向けてそれぞれ床を蹴る。

 

彼らには、上陸地点の確保すら必要なかった。

進路上に立ち塞がる敵を、片端から倒していくだけだからだ。

 

正しく弾丸の速度で上陸した3人は、事前の打ち合わせ通り、手分けしてガルバディア兵の掃討に当たる。

 

それは戦闘などではなく、屠殺だった。

圧倒的実力差のせいで、戦闘の結果を覆す可能性を得ることが、ガルバディア兵達には誰にもできなかったのだ。

 

スコールは、たまたま持ち込まれるところだったカニのような機械兵器に遭遇。

 

「“ミシン流、フンッ!ヤッ!トゥッ!テイッ!トリャッ!”『遅いけど速い変態』(真顔)」

 

敵を認めると懐に飛び込み、機械の中枢らしき場所を秒間10回というありえない速度で切り刻み、破壊する。

さすがに自己修復機能を持った機械兵器も、修復が追い付かずに破壊された。

5秒ほどで。

 

「なんだと――ひでぶぅ!?」

「く、くる――あべしぃ!?」

 

周囲のガルバディア兵達も、逃げる暇もなく斬り伏せられていく。

 

その移動速度は、意外にもそれほど速くなかった。

普通に走る程度だ。

 

これには理由があった。

土地鑑のないスコールでは、敵がどこに潜んでいるのか分からないため、敵兵側から出てきてもらおうと彼は考えていたのである。

そのためには、姿を視認できない速度で動き回るのは都合が悪かったのだ。

 

しかし、敵を発見した際は一瞬でそこへ向かい、斬り伏せる。

こうすることで、見た目の怪しさも倍増し、敵を誘引する効果も倍増する。

 

しばらくそうやって進んでいると、なぜか『スケルトン』の群れに遭遇。

 

「……?」

 

疑問に思いつつ、斬ったり蹴ったり擬似魔法で細かいところまで掃討しながら、中央広場方面へ。

 

スコールが受け持っているのは中央広場ではなく、中央広場を含む北側エリア一帯であるため、ひたすら『スケルトン』の群れを探しつつ走って行くことになった。

途中で逃げ惑うドール兵に遭遇したが、まずは周囲の安全確保が先と考え、そのまま魔物を含めた敵の掃討を続行。

 

その途中で、知り合いに遭遇した。

ドール議事堂前の広場で『スケルトン』を相手に奮闘していた元Seed、ルールーとワッカである。

 

「状況は?」

「わけがわからん。最初はこのガイコツどもがドール兵に化けてたが、やり合ってる内に見た目からガイコツに戻った」

「ガルバディアの離間工作だと思っていたのだけれど、それだとSeedが派遣された理由が分からないわね」

「そうか、ガーデンの交渉人を送迎したのがテレサだからだ。

おそらく、直接議事堂内に送ったんだろう」

「ああ、それを敵が気付かずにこの離間工作をやっていたということ」

 

ルールーは事態を理解した。

議事堂内では、バラムガーデンとドールの連携にヒビを入れる、離間工作の影響が及んでいなかったのである。

 

 

 

イデアは今回のドール侵攻で、Seedの派遣が行われたことを知った。

 

しかし、確認されたのはわずか3名。

たったそれだけで、ものの数分で市街地に送り込んだガルバディア兵や機械兵器はおろか、500体もの『スケルトン』の大群が蹴散らされたというのだ。

 

ガルバディア軍司令官の判断は正しく、そのまま戦闘を続行していた場合、何の利益も見込めないままに、さらに損害は増えていただろう。

 

「『この時代』のSeedの力を過小評価していた……?

いや、仕組みそのものは後の世のSeedとも同じのはず。

まさか、『伝説のSeed』……?」

 

『目』から見たルールーやワッカの戦いぶりは確かに大したものだったが、ものの数分で『スケルトン』を掃討するなどという馬鹿げたものではなかった。

精々が『連続魔法』の極致とも言える連射を見せ、途中からはアンデッドに対する回復魔法で浄化していたくらいだ。

 

『この時代』の人間としては戦闘力が高いと言えるが、あくまで人間レベルである。

 

「まさか、潜伏していた魔女が手を貸した?いや、それはありえぬ」

 

疑問を口にし、即座に否定する。

そんなことをする魔女が1人でもいたのなら、イデアは『こう』はなっていないのだから。

 

今まで、世界最強の戦力が整っているとはいえ、バラムガーデンだけで国家や魔女を倒すほどではないとして、それほど強くマークされてこなかったのである。

しかし、今回の結果はその定説を覆すに余りあるものだった。

 

ともかく、今後の方針として計画を練り直し、もっと慎重に進めることが決定した。

ガルバディア大統領も、可能な限りバラムガーデンの情報を集めるという。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
バラムガーデンの授業にテレサの技術が導入された結果、肝心の電波塔までガルバディア兵が到達しませんでした。
そのせいでイデアもビンザー・デリングも、慎重にならざるを得なくなっています。

時系列的にドール実地試験なんですが、同時に新技術を導入したガーデン生のお披露目でもあります。

ちなみに、『スケルトン』はただ簡単に数を揃えられそうな魔物ということで考えました。
原作にも『ナムタルウトク』っているので、アンデッドならある程度はいけるかなと。

もう1つ、アオヤギは原作に存在しないオリキャラですが、設定は深く考えていません。
デンネンと同じく、制服教員とだけ書いてもいいくらいのキャラです。



――――設定

カニのような蜘蛛のような機械兵器:『X-ATM092』
通称『ブラックウィドウ(蜘蛛の一種)』。
名前から必死に蜘蛛を主張するが、4本脚に左右1本ずつ、ハサミの付いた腕と、どちらかというとカニに近い。

負けイベントのようなもので、通常はコイツに追いかけられながら帰還ポイントである『ルプタンビーチ』まで走ることになる。
最初の1戦目だけは絶対に倒せないが、それ以降は何度も大ダメージを与えていると破壊できる。

HPが一定以下になると地面に伏せて自己修復モードに入り、その間に逃げることができるようになる。
HPが0になると強制的に復帰し、HPも全回復している。
しかし、一度HPを0にすると、大量のAP(アビリティポイント)とドロップアイテムを入手できるため、やり込みプレイヤーは時間が許す限りコイツと戦い続ける。

原作ゲーム中に『シュネルアインス号』と『シャルフツヴァイ号』という名前付きの個体が出てくるが、戦うのはドール実地試験時の1体のみ。
両方とも、ドール実地試験後に電波塔へ向かうとその雄姿()を見ることができるが、名前が出てくるのはその時の一度だけ。


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認定記念パーティ

7/25 あと4分で26日。ちなみにここの日付は投稿日。まだ余裕はある。


サイファーの報告はこうだ。

 

『街の入り口から谷の防衛線まで片付けたら、敵が逃げていった。

またカニが出てくるのかと思ったら、そのまんまマジで退却したらしい。

追撃して戦果拡大するってのも考えたが、やってる間に抜け道かなんかで防衛線再奪取なんてことになるのもつまらねえし、ドール兵が防衛線再構築するまでは待つことにした。

その間に撤収命令が来た』

 

ゼルの報告はこうだ。

 

『港のガルバディア兵は374人、その内、赤い服のやつが27人いた。

デカイカニは1機だけ。ドール兵を守りながらだったから時間稼ぎに海に落としたら、そのまま戻ってこなくなった。

その後、なんかガイコツ72体が中央広場の方から流れてきたから、片っ端から倒した』

 

スコールの報告はこうだ。

 

『ガルバディア一般兵451名、エリート兵62名、『X-ATM092』を1機、制圧した。

内、一般兵50名とエリート兵20名が高台の方へ移動しようとしているのが見て取れた。

エリア内に『スケルトン』系と見られるアンデッドが393体出現したため、これを討伐した。

その際、ガーデン卒業生ルールーとワッカに遭遇。

説明を求められたため、一定の状況を説明後、エリア内を見回り、怪我人に応急処置をして回った。

なお、ドール兵に話を聞いたところ、高台には電波塔しかなく、現在は魔物の巣窟となり、立ち入り禁止となっているとのこと』

 

いずれも、苦戦の気配すら感じさせないものであり、正Seed認定に不足なところはなかったため、3人とも試験は合格となった。

 

『ルールーとワッカ他、ドール在住のフリー傭兵達は、『スケルトン』が化けたドール兵に背中から撃たれ、1名死亡、5名が重傷を負っています。

その補償についてはドール議会が行うとのことですが、問題はこのような離間工作を行った何者かの存在です。

今回の『スケルトン』の特徴は、弱く、幻が被せられていたこととなります。

多数の目撃情報によると、人間の声と確実に認識可能な音声を発しており、またルールーの話によると、その顔がドール兵の誰とも一致しなかったとのこと。

任務中既に現地では魔女の仕業を疑う声も挙がっており、追調査の必要性があると考えられます』

 

これは評価のために同行したキスティスの報告書である。

 

 

 

試験の夕方、Seed実地試験合格者のためのパーティが開かれる。

今回はいずれも問題児の3人とはいえ、新技術を取得した生徒の初の合格であり、新時代の幕開けという期待があったため、学園長派もマスター派も、3人を祝うことに異存はなかった。

 

また、既にSeedながら数年かけて新技術を取得したキスティスも、瑕疵なく役目を終えてきたため、何も憂患がないかに思えたのだが。

 

バルコニーで夜風に当たる4人の顔は浮かない。

 

「あ、サイファー見つけた。どうしたの?

っていうか、3人ともパーティの主役じゃなかったっけ?」

 

乳白色のワンピースドレスに身を包んだ、長い黒髪の少女がバルコニーの方にやってきた。

 

「お前、リノアか」

「サイファー、知合?」

 

同じく青っぽいドレス姿の、『風神』と呼ばれる背の高い銀髪美女が問う。

 

「去年の休暇の時のティンバー案内人」

「納得」

 

1年前は散々からかわれたためもあって、反応が冷たい。

 

「それで、なんでみんな暗いの?Seedになれたんでしょ?」

 

初見の男女の方が多いのに、既知の如く話しかけてくる。

 

「その試験で、近い将来、ヘタすると恩人と殺し合いになりそうだってことが分かっちまったんだよ」

「ああ、そういう……」

 

この世界では、GFジャンクションの代償は運動神経である。

そのため、魔女と聞いて全員が思い出してしまったのだ。

 

自分達を孤児院に引き取り、育ててくれたのも魔女で、何らかの異変によって姿を消してしまったらしいということを。

その異変を考えると、高い確率で敵対し殺し合うことになることが分かっていた。

 

「せめて誰か1人でも、ガルバディアで調査する許可があればね……」

「ま、確かにコッチは1人までだったら抜けてもいいけどよ」

「あ、許可だったらどうにかなるかも」

 

ガーデン部外者のリノアがのたまう。

マスター派も学園長派も説得できなさそうな、権限も交渉力もなさそうな少女が、だ。

 

「そういや、リノア、お前なんでバラムガーデンに来てんだ?入学希望か?」

「Seedを雇いたいから。私、ティンバーレジスタンスのメンバーなの」

「そっか、ティンバーレジスタンスなら、ガルバディアで調査する口実も立つわね」

「……(俺達『次元の魔物』対策班の誰かなら、戦力的に問題無い。多少は無茶な命令でも……)」

「でもよ、マスター派が許すか?連中、絶対ふっかけるぜ?

なんたって、俺達は――おっふ……!」

 

サイファーがゼルの脇腹を軽く小突く。

 

「何しやがる!」

「(知らねえ方が『押し』が利くだろ)」

 

抗議する金髪トサカ頭を無理矢理小脇に抱えて、サイファーが囁いた。

 

「う」

 

交渉事は苦手なゼルが押し黙る。

 

「え、なに、あなたたち、そういうカンケイなの?」

「ちげえよ!」「違う!」

 

男子2人は若干興奮気味なリノアに断固抗議した。

 

 

 

イデアはバラムガーデンに『目』を送り込む。

そこで見たものは、草原や周囲の山に刻まれた、無数のクレーター。

 

それらの痕跡は既に自然に還りつつあったが、そこでとてつもない破壊が行われたことに疑いの余地はなかった。

 

イデアは、別の魔女がバラムガーデンに協力しているのではないか、という疑いを深める。

しかし、ありえない。

『この時代』においても、後の世においても、ガーデンとSeedは魔女弾圧の象徴だった。

 

だからこそ、混乱する。

 

「(知らなければ。『この時代』で、一体何が起きていたのかを)」

 

イデアは決意する。

それは彼女が『こう』なった原因でもあるはずなのだ。

ならば、彼女にはそれを知る権利と義務がある。

 

それに、これを見てしまったら、理由の解明なく、ガルバディアを乗っ取る計画を進めるというわけにはいかなくなった。

 

「(あの計画は、魔女に対する明確な脅威の出現を想定しておらぬ)」

 

あるいは、ガルバディアを乗っ取って手に入れた戦力ですら、足りないかもしれない。

 

そう実感するに十分足る、異常な光景だった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
リノアの提案は、実は行き当たりばったりだったりします。

学園長派とマスター派の対立がある以上、依頼者の指名と学園長の利害の一致とかがない限り、この戦力を調査のためだけに派遣というわけにはいかないんですよ。
そこで、『そういえばリノアって依頼側だったような』と思い出し、リノアに指名させることにしたわけです。

これが吉と出るか凶と出るかは、これからのお楽しみということで。



――――設定

リノア・ハーティリー:原作キャラ、独自設定
FF8メインヒロインにして、FF8に賛否両論がある理由ともされる。
スクエニ三大悪女と言われることも。

ガルバディア、デリングシティ出身、父は軍高官で、母は有名な歌手。
母はすでに他界しており、それが原因か、父娘関係はあまり良好とは言えない。
そんな親子関係を示すように、ガルバディア軍高官の娘でありながら、ティンバーレジスタンスに身を投じている。
レジスタンスの組織が寄り合い所帯でリーダーが本番に弱いこともあり、彼女が代理でリーダーをすることも少なくない。

『アンジェロ』という愛犬と姉妹のように育っており、手先が不器用。
癇癪を起こすと相手を引っ掻くなど、なかなか御転婆。

ゲーム中では、メインヒロインらしくモーションが多い。
その上に、押しが強く振る舞いがあざとい。(これが嫌われる理由?)

性能はプレイヤーキャラ11人中、魔力が最も高い。
が、ジャンクションシステムやドーピングアイテムの存在などから、元々のステータスは飾り。
唯一、2種類の特殊技を覚えるキャラで、それぞれの特性を上手く利用すればかなり強く、ラスボスにも隠しボスにも十分通用する。

ただ、やり込みプレイヤーにとっては忘れた頃に発動する低確率のカウンター技が鬱陶しかったりもするため、一長一短。
性格的にも性能的にもクセの強いキャラと言える。


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初任務

7/26 そろそろ本格的に原作ガン無視になってくる。


キスティスがリノアと共にシド学園長を説得したところ、あっさりと許可が出た。

 

「この1年の君達の努力の成果としまして、テレサ君の調子が上がってきていましてね。

それで、全員とはいきませんが、対策班のメンバーを入れ替えることを考えていたのです」

 

サイファー達は、この1年で『次元の魔物』への対応と、新技術の研究と鍛錬法の開発を行っていた。

結果、才能の偏りによる得手不得手を解消することはできなかったものの、Seedや候補生を中心に新技術を使用して戦闘力を著しく向上させることができた生徒達がかなり増えていたのだ。

 

裏にはリスクを承知で導入を急いだシド学園長の支援もある。

彼はいつ始まるか予想のつかない中で、魔女との戦いに備えてきたのだ。

そんな彼が、魔女の調査に力を入れないわけがなかった。

 

 

 

打ち合わせは深夜に及んだ。

結果として、契約も計画も、しっかりしたものとなる。

 

「しっかりしたもの……?」

 

朝一番でティンバーへ帰る列車の中、契約書を読み返してみて、リノアは首を傾げた。

 

「依頼相手への戦力貸与、期間はティンバー解放まで。

シドさんの話だと、魔女がガルバディアに味方していたら、魔女を対処するだけでティンバーが解放されるって言ってたケド……」

 

次の項目に目を移す。

 

「優先順位、依頼者の命令が第一。

次に情勢関係の情報、および魔女に関する情報のバラムガーデンへの逐一報告。

コレを呑んだから、依頼料を半額にしてくれたのよね」

 

うんうん、と頷きつつ、次の項目に目を移す。

 

「バラムガーデンへの連絡は、定時にティンバー駅前にて行う。

まだ納得できる」

 

次の項目、を探し、どこにもないことに愕然とする。

 

「派遣したSeedって、どうやって確認すればいいのか決めるの忘れた……!」

 

列車の中で、何度もバッグを引っ繰り返して、焦る。

とりあえず、お金はかかるがもう一度バラムガーデンへ戻って、再度打ち合わせを行うしかない。

オンラインの電話でこんな打ち合わせをするのは自殺行為だ。

通話記録は、すべてガルバディア軍に握られている。

 

そんな焦燥感と共にティンバーのバラム行きの駅に到着し、列車を降りたリノアの前に現れたのは、焦げ茶色の髪をした黒ずくめのイケメン、スコール。

黒を基調としたSeedの制服と雰囲気がほとんど同じだったため、一目で本人だと分かった。

 

「……」「……」

 

スコールは無口で、リノアは絶句していた。

 

「もしかして、スコールが?」

「ああ」

「え、でも、どうやって?今の列車に乗ってたの?」

「別の移動手段で来た」

「列車よりも早く?」

「ああ」

 

色々な意味で予想外だった。

 

つまり、シド学園長は朝一番でリノアがティンバー行きの列車に乗るという情報だけ知っていたために、どうやって見分けるのか、という部分をわざと省略したのである。

遠くまで一瞬で行き来出来るテレサがいれば、こうしてバラム行きの駅前でSeedの側が待っていればいい。

 

もしもガルバディア軍がマークしていたとしても、時間的に明らかにおかしなことが発生すれば、混乱もするだろう。

そういう反応を狙ってのことでもあった。

 

 

 

2人は『森のフクロウ』がアジトとしている列車に乗る。

 

「俺がバラムガーデンから派遣されてきたSeed、スコールだ」

「『森のフクロウ』のリーダー、ゾーンだ。これからヨロシク頼むぜ」

 

ゾーンは握手のために手を差し伸べるが、スコールは応じない。

 

「ところで、1人なのか?」

「そうだ」

「戦闘とかを主に頼みたいんだが、大丈夫か?」

「別に。問題無い」

「……」

 

スコールはあまり主張する方ではないため、どの程度ならいけるのか、まったく判断がつかなかった。

 

「これは別に疑っているわけじゃないんだが、どの程度までの敵だったら、正面からやり合って勝てる自信があるんだ?」

 

ゾーンは質問を変える。

 

「実績があるのは、ガルバディア一般兵451名、エリート兵62名、『X-ATM092』1機、それに『スケルトン』393体だ。

昨日のガルバディア軍のドール侵攻で倒してきた」

 

気負いもなく、自惚れもなく。

ただ淡々とスコールは事実を告げる。

 

「昨日!?」

 

リノアが驚きの声を挙げた。

まさか、そんな死闘の直後だとは考えていなかったのである。

 

「昨日って、ワッツ、知ってるか?」

「ドールの方で何かあったってチラッと聞いたッス。詳細はまだッス」

「ねえ、スコール」

 

リーダーと情報収集役に任せていても埒が明かないと思ったのか、リノアが声をかけた。

 

「サイファーがやってた、あの変態移動はできる?」

「クセが違うが、速度は同じくらいだ」

「嘘じゃないっていうのはよく分かったわ」

「サイファーって、アレか、1年前にティンバーを案内しようとしたら、危険な場所をガン無視して突撃かましたっていう……」

「そのサイファーよ」

「……(何やってんだよ、アイツ……)」

 

スコールは思わず頭を抱える。

バラムガーデンでは確かに問題児だったのだが、最近は大人になってきていたと思っていたのだが。

 

もっとも、リノアも頭を抱えたいのは同じだった。

まさか、単騎でティンバーを解放できるかもしれない戦力をよこすとは、思ってもみなかったのである。

1年前は突然のことで、任務でもなかったために有効活用できなかったが、今回はそうではない。

魔女など関係なく、上手くすればティンバーを解放することができるだろう。

 

 

 

サイファーは盛大にクシャミしていた。

場所はガルバディアガーデン。

 

「ちくしょうめ、誰かが噂してやがる」

 

彼の任務はガルバディアに雇われたバラムガーデンの生徒との接触と、魔女に関する情報収集である。

そのために、まずはガルバディアガーデンのマスター兼学園長と接触し、ガルバディアの事情にある程度詳しい生徒を借りることにしていた。

 

というのは口実で、同じく関係者である、かつての幼馴染を巻き込むつもりでいたのだ。

 

「どうせ、魔女って聞いちまったら、いても立ってもいられなくなるだろうしな」

 

もちろん、送迎はテレサである。

 

 

 

イデアはバラムガーデンへ『目』を入れる。

正確には『目』を持たせた人間を潜入させていた。

リスクは大きかったが、最悪でも瞬間移動で『目』だけ呼び戻せばいい。

 

そして目撃した。

 

「ややややややややっふー!」

「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ」

「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ」

「ズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサー」

 

そっと物陰に隠れ、意味もなく深呼吸して、もう一度見る。

 

「チンッ!チンッ!トゥッ!」

「ムッ!ムッ!ホァイ!」

「ペポゥ」

「ショーターイ!」

 

そうして愕然とした。

 

「(想定していた訓練風景と違う!)」




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
魔女イデア、『目』を通しての安定の二度見。
SAN値が削られます。

さて、ここからどうしましょう、マジで。

初任務にスコールとサイファーを出したはいいんですが、実は十分なお金を払っての依頼があれば、ガルバディア軍を直接制圧しても良かったりします。
ちなみに、『目』は独自設定です。
原作にありそうなんですが、描写とかはないんですよね。



――――設定

『森のフクロウ』:ティンバーレジスタンスの1つ
ゾーンがリーダー、メンバーはワッツ、リノア、他数名。(確認できただけで3名)
ティンバーレジスタンスの大半はガルバディア軍によるレジスタンス狩りや経済的な理由で休止状態にある中、ほとんど唯一活動しているのが『森のフクロウ』。
ティンバーレジスタンスは、ティンバーの名に誇りを持っており、名前に『森の~』とつけることが多いらしい。
他に名前だけなら『森のキツネ』と『森のカモ』が確認されている。


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残念美人

7/27 外で仕事をすると汗がダラダラ出る。


スコールは夢を見る。

 

……これは――。

 

森の中を走る、ガルバディア一般兵の青い服を着た3人の男達。

 

「ラグナ君、俺らは屈強なティンバー兵を相手にしに来たんだよな?」

「それが、なんで魔物相手にチマチマやってんだ?」

 

背後の2人から、文句を言われる。

 

「そりゃ、あの……な?」

「また道間違えた」

 

部下らしき2人から白い目で見られ、言い訳しようとするが、かぶせるように図星を突かれ、逃げ出す。

 

……久しぶりに普通に走っている気がする――。

 

スコールにとっては、案外新鮮だった。

 

そもそも、この現象を、彼は知っていた。

 

他者の精神を過去の人間にジャンクションさせる不思議な能力。

GFのジャンクションにまつわる技術も、彼女の能力を研究した末に確立されたと言われている。

 

……エルオーネ、そうか、バラムガーデンに来ていたっけ――。

 

大人しそうな見た目で、その実かなりヤンチャな性格の、従姉。

厄介な人間であると同時に、スコールに温かみをくれる、ほぼ唯一の人間。

 

――釘を刺されてしまったわ。

 

……誰に――?

 

――テレサちゃん。

 

……安全を確認したのか――。

 

――寝顔かわいい、だって。

 

……――。

 

どうやら、アジトの客室まで来て確認したらしい。

本当の意味で神出鬼没。

 

スコール達も、まだあの黒髪少女ほど瞬間移動を使いこなすことはできない。

正確には高速移動と壁抜けの合わせ技で、擬似魔法によって補助することで、他の大陸まで、ものの数分で移動可能というとんでもないものだった。

昨日の朝、リノアが乗った朝一番の列車より早くティンバーに到着したのも、テレサの力だ。

 

最近、判断力低下の症状が改善するにつれ、一息で移動可能な距離が一気に伸びたと言っていた。

 

場面は移り変わり、どこかの大都市へ。

とはいえ、スコールの記憶の中にない大都市は数少ない。

 

ドールは一昨日に見たし、バラムはよく見ている、トラビアにはほかの地域にあるような大きな都市はなく、ティンバーは今いる場所だ。

ということは、科学技術がもっとも発達しているエスタか、もしくはガルバディア、デリングシティということになる。

 

ラグナ、キロス、ウォードというガルバディア兵3人が帰還していることからも、デリングシティで間違いないだろう。

 

……そういえば、エルオーネの能力は、一度会ったことがある人間にしか使えなかったよな――。

 

――そうね、これはまだ出会ってない時期みたいだけど。

 

……誰だ――?

 

――ふふ、秘密。

 

大きなホテルの地下にあるバーで、ジュリアという美人ピアニストが奏でる音色に聞き惚れ、機会があれば毎度通っているというラグナ。

告白しようとしたラグナは、しかし緊張で足が攣ってしまい、情けない姿を見せただけに終わる。

 

しかし、ピアノの演奏を終えたジュリアの方からラグナの方にやってきた。

そしてこう言った。

 

「3人はどういう集まりなの?」

 

スコールは、嫌な予感がした。

 

というのも、デリングシティ出身というリノアが、昼に同じことを聞いてきて、対応に苦慮していたからだ。

 

……エルオーネ――。

 

――なあに?

 

……接続を切ってくれ、ここから先は聞かない方がいい――。

 

――え、ええ?

 

エルオーネが戸惑っている内に、ジュリアが自分の部屋にラグナを招き、しつこく3人の関係を聞き出そうと迫る。

同じバーにいた他のガルバディア兵達は、ジュリアのお誘いを受けたラグナに羨望の眼差しを向けていたが。

 

「ああ、歌詞が湧いてくるわ。もっと、もっと私を腐らせて……!」

「こんなジュリア見たくなかったぜ……!」

「そういえば不思議なんだけど、私と本気で付き合おうって言う人、意外と少ないの」

「そりゃそうだぜ!」

 

皆の憧れ、後の世に大ヒット作を生み出した歌手、その真の姿がコレだった。

 

――ゴメン、私も眠っているから、接続が切れないんだわ。

 

……いや、いいよ、もう――。

 

色々な意味で疲れたスコールだった。

 

 

 

バラムガーデンが見える平原。

何度目かの『次元の魔物』戦が行われた。

 

今回の相手は、巨大な宝玉を抱えた、青白い肌の美女。

今までの相手とはケタ違いの魔力を持ち、『状況再現』でも大したダメージを与えることができなかった。

しかも、強力なバリアを展開しており、ゼルの高速突撃からの物理攻撃もなかなかダメージが通らない。

 

そんな高い防御力から、強力な魔法を連打してくる、魔女のような戦い方をする相手だ。

 

「霊体による力の底上げと、それ専用の練られた戦術……」

 

青白い女性は呟く。

 

「確かに、今までの雑魚を倒すだけのものは揃っているようね。

しかし、懸念されたほどのものではない。

『クリスタル』の力を継いでいるわけでも、特別な魔力を持つわけでもない」

 

それは、こちらを小馬鹿にしたような音を含んでいた。

 

「テレサ、お願い!」

「うい」

 

これは勝てないと感じたキスティスは、他の仲間を退避させてからテレサにバトンタッチする。

 

「囮としても、その程度の力では、私は止まらな――」

 

魔力を感知して敵の強さを図っていた青白い女性は、度肝を抜かれることになる。

 

「“この辺から槍でボス部屋にワープし、画面外から長く硬く逞しい骨を投げつけた結果”『ワシが育った』」

「人の話を最後まで――ヴォアアッ!?」

 

投げつけられた氷でできた骨を腕で打ち払おうとすると、それは何の抵抗もなく青白い女性の右肩から先を抉り取った。

 

「な、なんですって……!?」

 

さらなる氷の骨の投擲に危機を感じ、避けようとするも、なぜか背後の、バリアの内側にあった氷でできた数本の槍が彼女の動きを邪魔する。

下がることも、前に出ることも、飛び上がることも、地面に伏せることも、彼女には許されなかった。

 

「なんてこと、ただの氷ではない……!」

 

そして次々に、魔力ではない不可思議な現象によって生み出される氷の骨が青白い肌の女性を削り取り、最後にトドメを刺す。

 

「イガァァァァァッ!!」

 

断末魔と共に、五体をバラバラにされた女性は何もできないまま、地面に倒れ伏した。

 

 

 

それを『目』を通して見ていたイデアは、戦慄する。

 

「魔女をして倒せぬ、だと……?」

 

あの青白い肌の美女は、熟練した魔女と同等かそれ以上の力を有していた。

それを、バラムガーデンの生徒の1人は苦もなく倒してのけたのだ。

 

しかも、特別な力を持っているようには見えず、魔力もさほどではないように見える。

青白い美女が油断したのも、理解できないではない。

 

それ以前に戦っていたバラムガーデンの生徒達も、ただGFの力で身体能力を強化しているだけでは説明のできない超高速移動法を使用していた。

だから、あれほどの魔力を持った相手にも、損害ゼロで戦うことができていたのである。

むしろそんな超高速で移動する生徒達を相手に、普通に魔法を当てていた青白い美女の鍛錬を褒めるべきだろう。

 

ドールの時のガルバディア軍壊滅も、こんな生徒達が数人派遣されたとすれば説明がつく。

やはり、計画を止めて慎重に調査しようとしたのは間違いではなかったらしい。

 

しかし、最後に出てきた黒髪の貧相な少女がすべてを持って行った。

 

「バリアを、すり抜けた……?」

 

ただの氷ではない、と青白い美女は呟いていたが、イデアの見立てではそうではなく、何かの技術によって氷の槍や骨に擬似魔法による『魔法剣』を付与し、青白い美女の動きを巧妙に封じていたのだ。

しかも、バリアをすり抜けたのは、氷の骨や氷の槍とは直接は関係のない、何か別の技術のように思えた。

 

いずれにせよ、イデアがこれから行うことに対する、大きな脅威であることに違いはない。

特にあの、テレサという黒髪少女の存在は、到底見過ごせるものではなかった。

 

普通の方法では対策できないが、何か対策しなければならない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
最近出番が少なかった最強系主人公の面目躍如です。

ついでに、何気にエクスデスの実験が新しい段階に入りました。
ボス級の『次元の魔物』が投入されています。

リノアとジュリアは改変しています。
原作設定だとか、そんなことは決してありません。
それだけは真実を伝えたかった……。



――――設定

『カロフィステリ』:FF5
『次元の挟間(森)』に出るボス。エロ担当。
『次元の挟間』に入って、砂漠、遺跡、森と長く歩いてから出てくる。
珍しく直前にセーブポイントがないが、大して強くもない。

自分に『リフレク』を使用し、それに魔法を反射して攻撃してくる頭のいいボス。
さらにプレイヤー側に『リフレク』をかけたキャラがいる場合、回復魔法や補助魔法を反射して自分に掛けようとする。
物理攻撃に対してはカウンターで『ドレイン』を使ってくる。
逆に言えばそれだけ。
『魔法剣サイレス』で完封できてしまう、悲しきボスの1人。
が、別に『魔法剣サイレス』を使わずに物理でゴリ押ししても普通に勝てる。

この小説では、独自に強力なバリアを設定している。
でないと確実に『水晶龍』より弱いため。

ジュリア・ハーティリー:重要人物
FF8の主題歌とも言える『Eyes On Me』を作中で作詞作曲し、歌った人物。
リノアの実の母親で、ラグナと恋仲になりかけていた。
要所要所にアレンジメロディが出てくるなど、FF8のテーマである恋愛を語る上でかなり重要な人物。
原作開始時点では、大ヒット作品を世に出した夭折の歌姫として有名。

当然、この二次小説のように腐女子だったりはしない。
リノアも原作では腐ってはいない。
この二次小説はあくまでフィクションであり、原作の人物設定とは何の関係もありません。

ちなみに、『Eyes On Me』の現実におけるボーカルはフェイ・ウォン(王菲)という香港出身の女性歌手。


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わけがわからんぞ

7/28 外の仕事を済ませた後のクーラーは格別だぜ!(涙)


イデアは観察によって得られた情報から、テレサが使用している技術について検証する。

場所はガルバディア軍の実験施設。

 

「“この辺から槍でボス部屋にワープし、画面外から長く硬く逞しい骨を投げつけた結果”『ワシが育った』」

 

膨大な魔力によるゴリ押しではあるが、一応は氷の槍と氷の骨を出現させることはできた。

 

しかし。

 

「こんなものを御して見せたというか、あの娘は……」

 

十数本の氷の槍も氷の骨も、意図した方向とは全く別の向きに出現し、飛んで行った。

 

「……ふむ。このままでは使い物にもならぬか」

 

イデアは地面から突き出した氷の槍に触れ、呟く。

それは触れるとすぐに崩れ落ち、魔力に帰った。

 

これでは青白い美女に対して効果を発揮したような強度は到底得られない。

『魔法剣』の付与、出現位置の制御、氷の骨のあの威力を同時に再現する目途も立たない。

 

この検証は、彼女にとっても衝撃的なものだった。

 

「魔力も不思議な力も持たぬ、ただの小娘がアレを成し遂げたのだ。

未来の技術を持ち、魔女の魔力を持ったこの私に、本来出来ぬはずがない。

なれば、認めざるをえまい。

あの娘が魔女と同等か、それ以上の力の持ち主であると。

『この時代』に埋もれた、無名の天才であると」

 

イデアは考える。

 

おそらく、あれほどの力は、周囲の者に恐れられ、疎まれたがために、歴史の闇に葬られたのだろう。

ならば、力でぶつかるのではなく、それを取り込む方向で考えるのが得策だ。

本来、熟練の魔女にこの選択をさせることが異常なのだと、本人を含め、周囲に教えてやればいい。

 

そして、この検証実験の模様を見ていた、イデアに魅了された兵士達の間で『ワシが育った』という言葉が流行るのだが、彼女には知る由もなかった。

 

 

 

イデアが送り込んだ『目』を持ったスパイは、バラムガーデンへの潜入調査を続行する。

 

テレサは丸1日、保健室で眠り続けていた。

 

「(さすがにあれだけの力を振るったのだ、無事というわけにはいかんか)」

 

てっきり、少ない魔力を振り絞ったのだと思っていたのだが。

 

いきなり不可解なことが発生し、思考がそちらに向いてしまう。

 

「今日は軽くね」

「ういうい。ホァイ」

 

兵士養成学校とは思えないほど軽い返事を返すと、件の黒髪少女は消えた。

一緒にいた金髪の美女と共に。

 

「(なにっ!?)」

 

スパイは戸惑う。

追いかけようにも、どこへ行ったか分からなかったのである。

 

慌てて探し回るが、その時になってやっと気付いた。

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエドゥエ」

「カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ」

「ビターンビターンビターンビターンビターンビターン」

「ユクゾッユクゾッユクゾッユクゾッユクゾッユクゾッ」

 

見ないようにしていたが、生徒達の大半が通路を普通ではない速度で行き来しているのだ。

その技術をもたらしたのがあの少女ならば、彼女がそれ以上の速度で、文字通り目にも留まらない速度で高速移動できるのは、当然と言えば当然だった。

 

「(チッ、見失ったか……しかし、必ず次の機会はある)」

 

こうして、スパイは潜伏を続ける。

 

ちなみに、スパイが見つからないのは、バラムガーデン内に変態が蔓延しているというのも理由の一つだった。

木の葉を隠すなら森の中、というわけだ。

 

 

 

さらに翌日。

 

「やっふぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

スパイがガーデン内でテレサを探していると、ほんの一瞬だけ上空を何かが飛んで行った。

 

それが訓練施設へ向かっていたため、そちらへ向かう。

というより、それ以外に追えるものがなかったとも言えるのだが。

 

「『Zスライド』!」

「『横に落ちる変態』!」

 

そこでは、妙に速い後ろ歩きを練習する生徒、物凄い速度ですっ飛んで行く生徒など、かなりわけのわからない状況があった。

 

「“バスガス爆発、バスギャスビャクヒャチュ、バスバスバスバス”『フレア』」

「“サシセマッタ ツメタイ シンダ ライオン”『ホーリー』」

 

擬似魔法の練習用の的に向けて、無茶苦茶な詠唱の擬似魔法が放たれる。

 

「(なんだ、なぜ発動するのだ?)」

 

まるでわけが分からない。

 

なまじ完成された未来の知識を持っているからこそ、ここで練習されている技術を見て、イデアは混乱した。

規則性というものが欠片も感じられないのだ。

 

この実技の授業は以前も見たが、魔女をして何をしているのかさっぱりなのである。

 

「挑戦者が出たぞ!みんな集まれ!」

 

大人の男性、教員の声で、全員がそちらに注目する。

 

一組の男女が向かい合い、構えているのか何なのか。

頬に入れ墨の金髪短パン少年が、入念に身体を伸ばしている向かい側で、件の黒髪少女が槍を持ち、なぜか回転しながら小刻みにジャンプと急降下を繰り返していた。

 

「今回は何秒持つかな?」「嘘でも勝つか負けるかって言ってやろうぜ」

「勝てると思うか?」「思うわけねえじゃん」

 

生徒達は、口々に勝手なことを言う。

 

「擬似魔法は相手に当てない限りOK。

武器は当てても相手に怪我させないこと。

両方とも、いいな?」

「うい」「了解!」

 

教員(レフリー)が両者にルールを確認。

そして開始の合図を出す。

 

「始め!」

「スイー」「スイー」

 

両者、足をまったく動かさずに移動する。

 

「(なんだ、この気持ち悪い動きは……?)」

 

魔女として恐ろしい魔物を見せつけることも少なくないイデアだが、そういう分かりやすい恐怖は、『理解しようとしても何一つ理解できない』という事実によって容易に塗り潰されるということに気付いた。

 

「次にお前は『なぜとばたし』という」

「『なぜとばたし』――ぶべらっ!?」

 

お互いに慎重に距離を測っていたように見えたが、ある時点で両者ともに瞬間移動し、何がどうなったのか、金髪少年側が槍を支点としたドロップキックに顔面から突っ込んで吹き飛んだ。

 

「それまで!」

 

レフリーが勝負ありと見て止める。

 

「(どういうことなのだ、まるでわけがわからんぞ)」

 

結局、直接見ても分からないものは分からないということが分かっただけに終わった。

 

そして、対策を立てようにも原理が分からないため、イデアは頭を抱える。

 

「(結局、取り込む方向で考えるしかないということか。

それも、この様子を見るに一筋縄ではいかぬ)」

 

誰も、件の少女を恐れているようには見えない。

模擬戦の結果に昼食を賭けるくらい、生徒達にとって当たり前となっていた。

それでもやるしかないのだが。

バラムガーデン内での離間工作が成功しなければ、計画をどう変更しようとも、成功する道がないのだ。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
とりあえずバラムガーデン編です。

結局スパイを送り込んでも、そもそも理解するのに一筋縄ではいかないものなため、対策を立てることもできないという。
そして、地味に魅了との合わせ技による二次被害が……。



――――設定

『フレア』:
アルティマニア情報では、『核エネルギーの爆発に巻き込む』と書いてある。
『アルテマ』は『対象を核爆発させる究極魔法』と書いてある。
違いが良く分からないが、『フレア』は単体攻撃で、『アルテマ』は全体攻撃。
他のFFナンバリングタイトルでは、『フレア』は無属性の強力な単体攻撃魔法であることが多い。

FF8では、ジャンクションの際の上昇値が優秀な擬似魔法の1つ。
属性防御にジャンクションすると、炎、冷気、雷の3種を吸収できるため、便利ではある。

ただし、魔力Jでは『ペイン』と『メテオ』、力Jでは『オーラ』と『メテオ』に劣るため、出番はあっても中盤まで。
他は味方の女性に使用し、エフェクトで胸が大きくなる様子を観察するくらいしか使い道がない。

最低レベルでも、レベルが上がらないように『炎魔法精製』を覚えさせれば、ドール実地試験前に揃えることができる。

『ホーリー』:
唯一の聖属性の攻撃魔法。
他のFFナンバリングタイトルでは、かなり強力な使い道があった。
FF8では、威力は高いが、エフェクトの長さもあって普通に使用されることはまずない。

ジャンクションの上昇値がそこそこ優秀で、聖属性に弱い敵が多く、さらにST防御Jに付けると複数のST変化を防御してくれる、優秀な擬似魔法であり、序盤から終盤まで通して利用できる。
ただし、『オーラ』や『ペイン』より上ということはなく、他の禁断級魔法よりは多少マシという程度。

初任務前でも、『炎の洞窟』の『ボム』をカードにする際、レア判定で手に入る『コキュートス』をカード変化させて『ホーリーストーン』を入手し、それから『生命魔法精製』で『ホーリー』にするという面倒な手順を踏めば、初期レベルでも十分揃えることができる。


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祝、ツッコミ役

7/29 一般人から見るとこんな感じのようです。


ガンマン風のヤサ男アーヴァイン・キニアスは、突然やってきた幼馴染に振り回されていた。

 

「遅ぇぞ」

「なんで列車より早く着いてるんだよ!?」

 

デリングシティのショッピングモールにて、サイファーに文句を言われて言い返す。

 

「あぁ、そういや普通は列車より速くは走れねえんだったな」

「バラムガーデンで使ってるGFって、そんな人外チックなことができるっけ?

ボク聞いたことないんだけど……」

「まあ、GFのチカラっちゃぁチカラだな。

新しい利用法が発見されたんだよ」

「えぇ……」

 

なんだか、納得がいかない。

 

「ともかく、魔女の情報を集める。なんかいい手はねえか?」

「寝起きのところを服と装備だけ持って正門に引っ張り出されて、学園長から魔女がどうのこうの言われて部屋に戻る時間も与えられずに列車に飛び乗らざるを得なかったボクのことについて、もうちょっと言葉があってもいいと思うんだ」

「悪かったよ」

「……!」

 

もっと言いたいことはあったが、なんとかそれを呑み込むアーヴァイン。

彼は目の前のガキ大将と違って大人なのだ。

 

「さすがにドールの件は伝わってきてたよ。

だから、デリングシティでママ先生について色々と情報を集める方法は練ってきた」

「ママ先生のままかどうかわからねえ」

「呼び方の問題さ。『魔女』と言えば誰もが反応するけど、『ママ先生』ならボク達しか知らない」

「おお、なるほど」

 

サイファーは頷く。

 

「それで?」

「まずは『魔女』という単語について軍幹部がどう反応するのか、それを調べてある。

ボク達だけじゃ、さすがに手が足りないからね。

っていうか、サイファーだけなの?セフィとかキスティは?」

「万が一ガルバディア全軍と正面衝突するってことになっても、俺1人でなんとかなる。

キスティスなんか一緒にいたら、下手すりゃ全滅だ」

「おっと、その返事は予想外だったかな。

ていうか、どんだけ人外チックになってんのさ、ボクの幼馴染達は?」

「この間のドール侵攻で、俺とゼルとスコールの3人で戦況引っ繰り返してきたぞ。到着から5分で」

「この間のドール侵攻って、ガルバディア軍負けたって言ってたけど、アレ、サイファー達の仕業だったんだ?

って、ええええええええええええええっ!?」

「おい、声」

 

サイファーは慌ててアーヴァインの口を塞いだ。

ここは街角、路上なのだ。

 

「軍幹部の反応を調べてあるって言ってたな。どうやってだ?」

「手紙さ。さすがに『スケルトン』の群れはドドンナ学園長も予想外だったらしくてね。

魔女の可能性についてちょっと煽ったら、すぐに協力してくれたよ」

「なんて?」

「ガルバディア政府の裏に魔女がいて、もし世界征服を狙っているとしたら、その拠点は浮遊移動機能のあるガルバディアガーデンにするんじゃないか?

って」

「相変わらず狡いやつだな」

「失敬な、ボクだって目立ってないだけで、必死に色々と考えてるんだよ?」

「ああ、悪かったよ」

 

言い合っていても始まらないので、サイファーは先を促す。

 

「それで、協力してくれそうな軍幹部は見つかったのか?」

「ああ。フューリィ・カーウェイ大佐さ。

デリング大統領の友人で、信頼の厚いガルバディア軍の重役」

「それは大丈夫なのか?」

「大丈夫も何も、魔女が存在するっていう確定情報をガルバディアガーデンにリークしてきた唯一の軍幹部さ。

パターンは2つ。魔女を危険視しているか、ガルバディアガーデンを試そうとしているか。

こればっかりは直接聞くしかない」

「よし、乗り込むか」

「いきなり手荒なことはやめてよ?味方になるかもしれないんだから」

「オーケー了解した、軍師どの」

「不安だなぁ」

 

アーヴァインはぼやく。

ともかく、今は信じるしかないのだ。

 

 

 

「とは言っても、アポが間に合ってるかどうかわからないんだよね。

なんせ急な話だったし」

 

カーウェイ邸前の警備兵に、ドドンナ学園長からの紹介状を渡す。

 

「……なるほど、急な話とは聞いておりましたが、テストをこちらで行うなら納得であります」

「テスト?」

 

サイファーは警備兵に聞き返した。

 

「つまり、あなた方の実力を示していただければ」

「ああ、その間にカーウェイ大佐の準備を済ませるんだね」

「まあ、それも含みますが」

 

警備兵はあっさり認める。

 

「そうですね。砂漠の魔物を3体狩ってきてください。

ドロップアイテムを見せていただければ結構です」

「砂漠の魔物を3体?きつくない?」

「往復時間も含め、半日程度を見ております」

「要は魔物を狩るついでに半日時間を潰してりゃいいんだろ?」

「ええ、そうとも言えますが……」

「なら問題ねえよ」

 

サイファーは特に文句も言わずに請け負った。

 

「探す時間も入るんだよ?」

「片っ端から擬似魔法撃ち込んで引っ張ってくればいい」

「それ、ボクら死なない?」

「お前が俺に誤射しなきゃ平気だろ」

「えぇ……」

 

サイファーは押し切った。

 

 

 

半日後。

非常に疲れた表情のアーヴァインと、平然とした顔のサイファーがカーウェイ邸前の警備兵に戦利品を提示する。

 

「あの、想定の50倍近い数でありますが……」

「そういや言ってなかったな。

俺の師匠から、森の中で30分で5体狩れって目標出されたことがあってよ。

今の俺の記録は19分19秒だ。

砂漠は視界が開けてるから、見つけやすかったぜ」

「1体見つけてから倒すのに2秒だよ。

ボクの銃が間に合わないって、どういうことなの……。

ていうか、途中で置いて行かれかけたし」

「お前、高速移動できねえんだからしょうがねえだろ。

二手に分かれた方が効率的だ」

「レベル3クラス以上しか出ない砂漠で独り置いて行かれたら、普通に死ぬよ!」

「相変わらずひ弱な奴だな」

「サイファーがおかしいんだって!ねえ、警備兵さん、そう思うよね!?」

「はいはい、わかりました、わかりました、合格でいいですから落ち着いてください」

 

ともかく、予想外のことも多かったが、カーウェイ大佐と直接情報交換ができることになった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
アービン初登場です。

やっと登場したツッコミ役、苦労人枠で常識人となります。
この二次小説では貴重ですね。
バラムガーデン生は大分テレサに毒されていますから。



――――設定

レベル3クラス:独自設定
カードから。雑魚には違いないがちょっと強いクラス。
GFの補助がないと単独では死ねるクラスではあるという設定。
魔物の強さを示すのに、他に指針がなかったため。
ただ、これが絶対の指針というわけでもない。ただの目安。

アーヴァイン・キニアス:アルティマニア情報、独自設定
ガルバディアガーデン所属の狙撃手。
ガンマン風のヤサ男で2枚目のチャラ男。
狙撃手は孤独とか言っているが、要はビビリ。

ゲーム中の性能は銃の攻撃モーションが短いのが優秀。
特殊技の『ショット』も、弾の消費を気にする必要はあるが、かなり扱いやすい。
RTA他、縛りプレイの主役。
頑張れば『クイックショット』で1度だけ50発以上叩き込める。
速射弾が100発以上持てればスコール以上のダメージソースになれただけに、システムの壁に阻まれたのは惜しいとしか言いようがない。
効率的には『ノーマルショット』か『フレイムショット』がオススメ。

この二次小説では、希少なツッコミ役にして軍師役。
キスティスもある意味軍師役だが、彼女は表ルート担当。
アーヴァインは裏ルート担当として活躍してもらう予定。


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魔改造の果てに

7/30 体重がヤバい。


「状況を説明しよう」

 

妙に老け込んだ白髪の中年男性カーウェイ大佐が説明する。

 

「魔女の暗躍によって、ドール議会は電波塔の使用権を1年の期限付きでガルバディア政府に貸与した。それによって、軍事力的な面ではなく、政治的にガルバディア政府の威厳は魔女に奪われつつある。

それに危機感を強めているのは、私を含め政府内にも数人いるが、実際にある程度動けるのは私だけだ」

「デリング大統領の友人だから?」

「そういうことだな。

だが、それもお目溢しを受けているにすぎん。

魔女によって実権を持って行かれるまでがタイムリミット。

しかし、一度でも失敗すればその時点でアウトだ。慎重に動かねばならん」

 

なかなか難しい状況のようだ。

 

「ボク達は、過去に魔女が経営していた孤児院に入っていました。

しかし、7年前に彼女は夫に重傷を負わせて姿を消し、今もなお見つかっていません。

もしかすると、ガルバディアを支援している魔女がそうかもしれない、そう思ってボク達は調査に来ています」

 

アーヴァインが自分達の状況を説明する。

 

「ふむ……それで、ガルバディアの魔女が君達の恩人だったとしたら、君達はどうするつもりかね?」

「とりあえず、魔女の旦那に一報を入れる」

 

サイファーが答えた。

 

「妨害があるだろうが、それでも連絡がつくのかね?」

「問題ねえよ。星の裏側にだって一瞬で行き来出来る奴が迎えに来る」

「それが魔女だというオチか」

「いや、アイツは魔女じゃねえな。

ていうか、あんなモンと魔女を一緒にしたら魔女が可愛そぶ――っ!」

 

サイファーの後頭部に槍の柄がめり込んでいた。

 

「何者だ!?」

「え、マジで誰?」

「コレの師匠や」

「何しやがる、定時連絡はまだ先だろうが」

「ティンバーから手紙やで」

「あぁ?」

 

突然屋敷内に現れた小柄な黒髪少女は、封筒にすら入っていない手紙をサイファーに押し付けると、なぜかサイの氷像を召喚し、それを蹴ってどこかへ消えた。

サイの氷像は魔力で編まれていたらしく、数秒で砕けて消えてなくなる。

 

「屋敷の警備を見直さねばならんか……」

「アイツに関しちゃ無駄だと言っておくぜ。

今のだって、そこの壁際から外に抜けてったんだ」

「意味が分からないよ!」

 

アーヴァインは頭を抱えた。

 

「今のサイは?」

「『サイキックワープ』だな。

幾つかある瞬間移動の手法の一つで、壁抜けからワープに繋げる方法だ。

俺はまだ自分であそこまではできねえから、なんでサイなのかってのは説明できねえんだが」

「ボクの幼馴染がそこまで変態じゃなくて良かったなんて一瞬でも考えたボクは負けた気がする」

 

そうして、サイファーは少女から押し付けられた手紙に目を通す。

 

「ぶっ!?」

 

彼は突然噴き出した。

 

「一体、何が書いてあった?」

「見せていい内容?」

「両方とも見た方がいいだろうな。特に大佐」

 

手紙にはこう書いてあった。

 

『本物のビンザー・デリング大統領らしき人物を捕縛することに成功したが、どうすればいいと思う?

byティンバー班』

 

「ファーwww」「ファーwww」

 

アーヴァインもカーウェイ大佐も、あまりの予想外の出来事に笑うしかなかった。

 

 

 

ティンバーでは、『森のフクロウ』のメンバーも戸惑っていた。

 

「なんだというのだ、何が起こったというのだ、どうすればいい?」

「マジか、本物のデリング大統領、なんだよな?」

「そうとも、私がビンザー・デリング終身大統領だ。

今ならまだ君らの命を助けてやらんでもないが」

「うわ、エラそう」

「……(命令されてのこととはいえ、やってしまった感が半端じゃない)」

 

スコールは頭を抱える。

 

一体どうやって誘拐したのかというと。

単純明快、正面突破である。

 

最初は『森のフクロウ』の情報から、ティンバーにやってきたデリング大統領を誘拐しようとした。

作戦は単純に列車を片端から制圧していくというもので、アジト列車から飛び移り、緊急事態に列車が次々?切り離されていく中、見事スコールは12秒でそのミッションを達成。

だが、その列車に乗っていたのは、怪物が化けた偽物だった。

 

次に放送局を使った電波障害発生以来初の電波放送で、ティンバーの独立宣言を『森のフクロウ』は立案したのだが、計画が実行される前に大勢のガルバディア兵が放送局周辺と内部を固めてしまった。

 

それに対して、スコールは正面突破を提案。

リノアはそれを了承し、スコールに敵中単独突撃して、デリング大統領の誘拐を命令した。

 

様々な人間にとって不幸なことに、スコールにはそれができるだけの実力があった。

 

そして現在。

スコール1人に制圧された放送局で、デリング大統領は手錠で手足を拘束され、床に転がされている。

 

「先程、何かを伝令に渡していたが、無駄だろう。

我がガルバディア軍が蟻一匹逃がしはしない」

「……(さすがに、もうデリングシティに到着してるなんて思わないよな)」

 

スコールは、憐憫の籠った視線を落とす。

 

「な、なんだ、その目は……」

「……(昨日は今までより強いやつが出てきたから、定時連絡に来れなかったらしい。

むしろガルバディア軍より、そっちの方が心配だ)」

 

なんの感慨もなく、視線を逸らした。

 

「くっ、貴様、顔を覚えたからな。子供とて容赦はせんぞ……!」

「……(サイファーの方の材料になるなら……そうか。コイツに聞けばいい)」

 

スコールは視線を床に転がる大統領に戻す。

 

「1つ聞きたいことがある」

「拷問されても言わん」

「大したことじゃないさ。

ガルバディアがドールを侵攻した際の、ドール市街に出現した大量の『スケルトン』は、誰の仕業だ?」

「……」

 

デリングは睨むばかり。

 

「魔女の仕業だということまでは分かっている。その魔女の名前を知りたい」

「なぜ名前などを知りたがる?」

「(そうだな……)その内倒しに行くのに、知り合いだったら気まずいと思わないか?」

 

特に気負うことなく、怯えることもなく、少年は淡々と告げた。

 

「魔女を、倒す……だと?馬鹿な、荒唐無稽だ。できるはずがない!」

「……(ああ、コイツからすると、できないから利用価値があるのか)」

 

スコールにとって、魔女は人々に恐怖を与える存在ではない。

かつては身近にあって、今は敵になりうる人間の1人だ。

 

周囲では、『森のフクロウ』のメンバー達によって、放送局のスタッフの協力を得ての、電波障害後初の電波放送の準備が進められていた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
初任務がエラい酷いことになっています。

果たしてスコールはどうなってしまうんでしょうか(白目)。

今回、解説することがないんですがどうしましょう?
そうですね、カーウェイ大佐についてでもやりますか。



――――設定

フューリィ・カーウェイ大佐:アルティマニア情報、考察、独自設定
デリングシティ東地区に巨大な邸宅を構える、ガルバディア軍の事実上の最高実力者。
世界的な歌手として有名になったジュリア・ハーティリーと結婚し、リノアが生まれる。
原作でも魔女を政策の中心に掲げようとしたガルバディア政府に危機感を抱き、魔女の暗殺を企んだ。

二次創作では、
・ラグナを危険な偵察任務に送り込んだ。
・ジュリアとの結婚は略奪結婚。
・ジュリアの死を裏で策謀した。
・ジュリアの死に際、会いに行くより仕事を優先した。
などの疑惑が持たれている。

しかし、
・ラグナを偵察任務に送り込んだのは、作中の台詞などからビッグスであることがうかがえる。
・ジュリアとの結婚について、恋愛結婚だったかどうかは不明。(情報なし)
・ジュリアの死を裏で策謀したなら、リノアも排除しているはず。(連れ戻そうと考えているような台詞がある)
・カーウェイ大佐には大統領を名前で呼び捨てにするセリフがあり、そんなことができるほど大統領と親しい間柄の人間が、妻の死に目より仕事を優先しようとした際、上司が土下座してでも行かせた可能性が高い。(大統領からの不興を恐れて)
等、疑惑に関しては不確定か、否定する情報がある。

ただ、幾つか突っ込み所はある。
アルティマニアでは巨大な邸宅とされているが、人間と大きさを比較すると普通の一戸建ての2倍ほどであり、都会ではかなり大きい方だが、『巨大』というほどではない。
ガルバディア軍の階級がどうなっているのかは分からないが、大佐は通常、政略について口を出す階級ではない。(将官がその階級)
独裁国家の最高権力者の友人が、18年かけて少佐から大佐にしか昇進していない。(ただし、急性な昇進を断った可能性がある)

この小説では、原作よりもかなり老け込んでおり、白髪の量が多い。
理由は妻と娘の趣味のせい。
そのため、妻と娘の実情を知る人間からは、羨望よりも同情の目を向けられている。


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まさかの展開

7/30 ある意味盆前進行中。


「まさか、バラムガーデンがガルバディアという国家に対して敵対を企んでいたとはな」

「それは誤解です。

バラムガーデンは『森のフクロウ』に対して戦力を提供したのであって、行動の主体はあくまで『森のフクロウ』です。

バラムガーデンが完全に独自に動いていたのは魔女に対する調査までであり、ガルバディアという特定の国家や組織との敵対を企図してのことではありません」

 

ティンバーの大議事堂にて、会談が行われた。

提案したのはアーヴァイン。セッティングしたのはカーウェイ大佐。

決まってから20分ほどで、要人すべてをティンバーに送り届けたのは、テレサ。

 

会談の出席者は、カーウェイ大佐、ビンザー・デリング大統領、シド学園長、『森のフクロウ』の代表者リノア、それにスコール。

アーヴァインとサイファー、それにテレサは壁際で会談の模様を見守っていた。

 

「それを証明する証拠は?」

「そうですね。テレサ君。ミサイル基地はわかりますね?」

「うい」

「そこの責任者を連れてきてください。

見分けがつかなければ、司令室にいる赤い軍服の兵士で結構です」

「ういうい」

 

シド学園長の命令に従い、テレサは一瞬で地面に沈み込んでいった。

 

「彼女は何だというのだ?」

「とある技術を開発した、天才児ですよ。

その技術に最も熟練しており、我々バラムガーデンへ、その技術の恩恵を与えてくれる、重要な生徒です。

我々バラムガーデンは、彼女を単独で魔女を討伐可能な個人と評価しております」

 

話している内に、テレサは天井から戻ってきた。

 

「なっ、ここはどこだ!まやかしか!?」

「驚くのは分かるが、一度深呼吸して落ち着きたまえ」

「カーウェイ大佐?……こ、これは大統領閣下!?」

「たぶん、これが一番早いと思います」

 

デリングはミサイル基地の指揮官が慌てているのを見て、苦々しい顔をする。

それはミサイル基地の責任者ではないのだが、司令室に常駐している副官の1人だった。

ミサイル基地の先任官であり、他に2人いる副官と合わせて、ミサイル基地の実権を握っていると言っても過言ではない軍人である。

デリング自身もミサイル基地には何度か視察に行ったことがあり、その時に顔を合わせていた。

 

「つまり、暗殺も誘拐もやりたい放題というわけか」

「しかも、対象が星の裏側にいようとも、命令から数分後には完遂します。

それは今御覧になった通りです」

「……」

 

要するに、本当にシド学園長がガルバディアを潰そうと考えていたならば、デリング大統領の命はとっくに消えてなくなっていたということだ。

 

「サラッとスゴいことやったけど、アレ、何者?」

「さあな。俺にもよく分からん」

 

サイファーは改めて問われると、首を傾げざるを得なかった。

悪人でないことだけは確かなのだが、それ以外の部分をどう評価すればいいのか、よく分からないのだ。

 

「1つだけ確かなのは、学園長の話が、話の方が半分だってことだ」

「え」

「さっき、バラムの森で魔物5匹狩る試験の話しただろ?」

「あ、うん。20分切りって、砂漠でも頭のおかしい数字だけど」

「アイツは、2年前の時点で4分半を叩き出しやがった。しかも初見でだ」

 

アーヴァインは返す言葉が何も浮かばなかった。

 

「それ本当?」

「……本当だと思わせるだけの実力は見てきた。嫌というほど」

 

逆隣のスコールが頷く。

以前から、そして今でも真面目な彼は、必要もないのに嘘を吐くような人間ではない。

 

「ちなみにスコールは25分25秒だ」

「半年前からやってないだけだ」

「そんなんだから6:4で俺が勝つんだろ」

「サイファーには関係ないだろ」

「お前がエルオーネを守るんだろ。なら先輩の言うことも聞いとけ」

「……」

 

スコールは黙る。

それを見ていたアーヴァインは驚いた。

 

「(あのサイファーがちゃんと兄貴分やってる……!)」

 

会談は進む。

 

 

 

リノアは予想外の父親の登場に動揺しまくっていた。

そのせいで、アガリ症のゾーンの代理という役目を、なかなか果たせずにいる。

 

「(やっば。お父さんと大統領を題材にしたBL本、全部処分したつもりだったのに、まだ残ってたのかな?)」

 

原作に比べてカーウェイ大佐が妙に老け込んでいるのは、間違いなくこの母娘のせいだろう。

顔は母親譲りの美人で、性格も悪いことはないのだが、趣味がすべてを引っ繰り返してしまっていた。

 

「そもそもフューリィ、君は一体、どういうつもりでこの会談をセッティングしたのだね?」

「幾つか、聞いてほしいことがある。

そしてそれを君と、彼らで話し合わなければならないと考えたからだ」

 

幸いにして、話は父親の方から振られる。

 

「ビンザー、君が捕まっていると聞いた時、私はすぐに親衛隊に問い合わせた。

真偽の確認を行うには親衛隊が手っ取り早いし、もしかすると警備に手違いがあったのではないかと考えてね。

すると、なんという返事が来たと思う?

『魔女様の許可のない者には伝えることができない』だ」

「なんだと?聞き間違いではないのかね?」

「官邸への直通のホットラインに、私を知らない者が出るわけがないだろう。

だから、サイファー君達を伴って官邸へ直接乗り込んだのだ。

すると、奇妙なことが分かった」

「奇妙なこと?」

「君を盲信する者ほど、『魔女様』と言うのだ。

何人かの古参兵は私に気付き、真偽の確認に応じてくれたよ」

「一体、どういうことだ?」

 

デリング大統領は首を傾げた。

 

「魔女の魅了ですね」

 

そこにシド学園長が口を挟む。

 

「魔女の魅了は、抵抗できた人間とできなかった人間の違いが、はっきりと表れます。

特に魔女の側から指示がなければ、様付けで呼ぶのも特徴です」

「なるほど、確かにその特徴に合致するな……」

「つまり、今のデリングシティは、魔女の支配下にあるということか?」

「私を捕えようとはしなかったところを見るに、まだ本腰を入れているわけではないようだが、時間の問題であることも違いはないだろう」

「……魔女を過小評価したか」

 

デリングは頭を抱えた。

 

「元々は、エスタの軍事力とエスタを支配する魔女アデルに対抗するためだった。

再度のエスタの侵攻が始まれば、被害は今までの比ではない。

そのためのティンバー侵攻だったが、結局はガルバディア大陸を平定しようとも、エスタの軍事力と、魔女アデルに同時に対抗することができないと判明したのみに終わった。

だからこその、魔女だったのだ。

魔女に関しては、本当に、慎重に接触し、恐ろしい魔女ではないと、何度も確認したよ。

結果がこれだ。

私は世界を破滅に追いやるだけの力を、恐ろしい魔女に献上する道化に過ぎなかったのだ」

 

20年に渡り栄華を極めた男は打ちひしがれる。

 

「まだ諦めるのは早いぞ、ビンザー。

わずかな希望がここにある。

だからこそ、私は君を怒らせることを覚悟で、この会談をセッティングした」

「相手はガルバディア軍と魔女だぞ。どちらか片方ならばともかく」

「私は、アーヴァイン・キニアス君から、ガルバディアの魔女について調べていると聞いた。

魔女が自分の夫に重傷を負わせて姿を消したとも。

おかしいと思わないか?

なぜバラムガーデンが、独自に魔女について調べるのだ?

シド学園長。あなたはもしや……」

「はい、私がその、魔女イデアの騎士にして、夫です」

 

シドはやや照れくさそうに頷いた。

 

「何を書いてんだ?」

 

急展開する流れについて行けずに、別のことを始めたリノアの横から、ゾーンが彼女のノートを覗き込む。

 

「うん、年齢も結構合ってるから、お父さんと大統領とシドさんの3Pもいいかなって……」

「リノア……」「……(ティンバー代表なんだぞ、もうちょっと自覚持てよ)」

 

その時、テレサがリノアのノートを覗き込んで言った。

 

「こういうの、もっとトンガらなアカンで」

「えっ?」

「まだ恥じらいあるんちゃう?」

「う、うん。どうすればいいのかな?」

「せやな、たとえば、ここのシチュをもっと派手に過激に……」

「……」

「きゃん!?」「ふぎゃ!?」

 

2人の娘にカーウェイ大佐の、親父のゲンコツが落ちた。

 

「(俺が反応できなかった、だと……!)」

 

カーウェイ大佐の割と普通の動きに、スコール1人が戦慄していたという。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ありとあらゆる意味でのまさかの展開でした。

ムービー中は今の彼らでは動けません。



――――設定

ミサイル基地:
ガルバディア軍が保有する大陸間弾道ミサイルの発射基地。
燃料注入とかいう単語が出てくることから、液体燃料方式と考えられる。
ちなみに、現在の現実世界の主流は固体燃料。

セキュリティ管理がかなり杜撰で、ミサイル発射のための補助電源も申し訳程度のものしかない。
税金を湯水のごとく使ってD地区収容所のような無駄に複雑なものを作るより、こちらにお金を回せよと思わなくもない。

ゲーム中では発射阻止のために潜入することになる。
内部の進め方によって、Seedとしての評価に大きく係わってくる。
着弾誤差修正の際、コンソールを弄るのだが、装備情報チェックの画面で特殊なことをすると、ガルバディア兵の踊る姿を見ることができる。
一体何を考えてこんなものを作ったのか。
……と、誰かが呟いたような記憶がある。

何気にセルフィ主人公で進むため、彼女の素の言葉遣いがもろに出てくる。
フィールド上でセルフィの姿で歩き回ることができるのは、ミサイル基地襲撃直前のみ。


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カーウェイの策

8/1 暑くて目が覚めるとエアコンを入れてまた寝る。


『森のフクロウ』とデリング、カーウェイの間で、話し合いが行われた。

 

ポイントは、ティンバーの解放とデリングシティの解放だ。

 

元々、ティンバーの占領はエスタに対抗するためのものだった。

しかし、ティンバー周辺にある肥沃な土地や大量の資源のおかげで意味が変わり、ガルバディアの繁栄のためにティンバー占領が継続されるようになった。

 

ところが、デリングの油断によって、デリングシティの政府庁舎の大半が魔女の支配下に置かれてしまった。

デリング自身も、魔女の名前を利用しての恫喝外交を強行しようとして、ティンバーレジスタンスに捕縛されるという体たらく。

 

魔女の魅了の影響がどこまで広がっているかは分からないが、首都デリングシティにいるガルバディア軍主力部隊は敵に回ったと見ていい。

そんな状態でティンバー占領を継続することなどできず、デリングもティンバー解放を決断せざるを得ないことを認めた。

 

重要なのは、これによってティンバー占領を行っていたガルバディア軍の大部隊を、カーウェイの直轄に戻すことができるということにある。

 

同じく、D地区収容所の囚人を解放、同施設を放棄。

そこを維持する部隊をカーウェイ軍に取り込む。

ミサイル基地も同じく放棄。

 

そこまですると、ガルバディア軍主力に対抗可能な軍団が出来上がるのだ。

 

さすがに魔女も無視はできないだろう。

軍を差し向けてくるのは間違いない。

 

「そうすると、必然的に魔女の守りは手薄になる」

「そこにSeedを投入して魔女を討伐する、というわけですか」

「報酬は十分に用意する」

 

デリングはシド学園長に頼み込む。

 

「やれやれ、本当に急転直下ですねえ。

この会談がセッティングされていなければ、どうなっていたことか」

 

優しそうなメガネ中年は後ろ頭を掻き、そして頷く。

 

「わかりました。お受けします。

ただ、テレサ君はSeedではありません。

魔女に対しては他に十分な戦力を用意していますから、そちらを派遣することになるかと思います」

「わかった。人員の選定はそちらに任せよう」

 

こうして、割と『森のフクロウ』置いてけぼりな会談は終了した。

 

 

 

イデアは、大統領官邸の様子がおかしいことに気付いた。

それについて、洗脳した兵士に調べさせる。

 

「どうやら、ティンバーにて電波放送の準備中にトラブルがあった模様です。

現在、情報が錯綜しており、軍部が確認作業に走っているとのことであります」

「……強行した上にしくじるとは、存外使えぬ男よ」

 

彼女はすぐにデリングが襲撃されたのだと察した。

そして、無事ならばその連絡はすぐにでも伝わるはずだ。

つまり、無事ではない、少なくとも連絡がつく状態ではないということ。

 

「パレードはデリングの帰還を待たずに計画通り執り行う。

同時に計画を前倒しし、これよりガルバディア軍の掌握に着手する」

「はっ」

 

イデアは居室の椅子から立ち上がり、分度器を展開して大統領官邸内の制圧を行う旨を命じた。

 

実は、大統領官邸の職員の大半が魔女の魅了にやられて叛旗を翻したというのは、カーウェイ大佐のハッタリである。

やろうと思えばすぐにできる状態ではあったのだが、イデアはまだそれを行ってはいなかったのだ。

 

「(見切り発車だな。『目』には、噂を流すだけ流させて引き揚げさせるか)」

 

イデアは『目』を通じてスパイにバラムガーデンに噂を流させる。

 

内容は『テレサはいずれ世界を滅ぼす。テレサに対抗できるのは、魔女だけ』。

 

 

 

「いや、この間魔女っぽいやつがフルボッコだったじゃねえか」

 

噂を聞いたゼルが、そう返す。

 

「あの子が魔女より強い可能性があるなんて、今更よね」

 

これはキスティス。

 

「ていうか、テレサってそうならないようにバラムガーデンを頼ってきてるんだから、テレサに対抗しちゃダメでしょ」

 

シュウがトドメを刺す。

 

結局、バラムガーデンでは、笑い話にしかならなかったという。

 

 

 

その夜、スコールは夢を見る。

内容は、ラグナ達がエスタ軍がセントラにて何かを発掘している現場の偵察。

 

「これって」「最悪の」「パターン?」

 

文字通り崖っぷちの袋小路に追い詰められたラグナ達は、奮闘する。

 

「(俺が戦えれば、このくらいの数なんとかなるのに。もどかしい)」

 

しかし、キロスとウォードが大怪我を負い、脱出には成功したものの、ラグナ自身も崖から落ちて全治6ヶ月の重傷を負った。

 

「(なかなかあの瞬間には接続できないわね……)」

「(あの瞬間?)」

「(レインが死んだ瞬間)」

「(ああ……)」

 

スコールは、エルオーネがやろうとしていることを理解した。

 

スコールの中で、幼い日のエルオーネとの別れが心の傷となっているように、エルオーネ自身も同じような心の傷を抱えているのだ。

 

「(エルオーネ)」

「(なあに、スコール)」

「(俺を、ママ先生の中に接続できないか?)」

「(それはダメ。魔女の中には、魔女しか接続できないみたいなの)」

「(そうか……)」

 

エルオーネの不思議な力も、決して万能というわけではない。

細かい制御が難しいというのもあるし、接続には様々な条件があった。

 

まず、エルオーネが直接出会ったことのある人物同士しか接続できないということ。

次に、魔女同士しか接続できないということ。

 

「(もしかすると、ママ先生を殺すことになるかもしれない)」

「(……そっか、ガーデンのSeedだもんね)」

 

幼少期に『魔女を倒すのがSeed』と聞いていたスコールは、覚悟と恐れを抱いていた。

任務としてシドに命令されれば、スコールはイデアを倒すのだろう。

夫の決断に口を挟むべきではないと、今は考えているからだ。

 

 

 

イデアは『目』を持ったスパイに帰還するよう指示を出す。

しかしその直後、その命令を撤回した。

 

『目』の視界の端に、彼女が探し求めていた人物の姿が映ったからだ。

 

「(エルオーネ、見つけたぞ……!)」

 

思わず、彼女は口元に笑みを浮かべた。

 

さすがに推定40半ば、口元に小ジワができてしまったが。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はギャグは控え目です。
色々と状況を整理している内に、ギャグ要素が抜けてしまいました。

テレサの参加についてシド学園長が言葉を濁したのは、前回カロフィステリというボス級の『次元の魔物』が出てきたことで、必ずしもいつでも任務に出せる状況ではないと考えていたからです。



――――設定

エルオーネ:
FF8の最重要人物。
彼女の人の精神を他者の過去に送るという能力を中心にFF8の物語は展開する。
そのため、FF8には過去編と現代編の2種類のストーリーがあり、2人の主人公がいる。

原作ゲーム中、唯一エスタ兵やエスタ系兵器と戦闘可能な機会を提供してくれる。
ただし、そのために余計な経験値が発生する可能性があり、低レベルクリアの障害もついてくる。

兵器はカードにすることが可能で、『エスタ兵』と『ターミネータ』は低確率で石化が有効。
ただし、『ターミネータ』が石化する確率は超低確率であり、おそらく直接『ブレイク』を連打することでしか石化しないと考えられる。
正確な計算式はわからないが、おそらく1%以下の確率が切り捨てられて0%として計算されているのではないかと。

2度目の過去編のラストの『ターミネータ』はボス扱いのイベントバトルで、経験値が入らない代わりに、戦闘終了時のキロスとウォードのHPは必ず1か0になるという仕様。
そのため、それを利用して色々と遊ぶこともできる。
アルティマニアに載っているものでは、ラグナを戦闘不能にしておくと、戦闘後のイベントでHP0のラグナがHP1の2人を励ますという、逆転現象が起きる。


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アパンダ

8/3 他にタイトルが思いつかなかった。


イデアはパレードの始まりの演説で、デリング大統領の死を告げる。

そして、パレードに熱狂する民衆へ、魅了の魔力を振り撒いた。

 

たったこれだけで、ガルバディア軍もデリングシティの民衆も、すべて支配下に置いた。

 

魔女は万能ではない。

世間で噂になっているようなことは半分もできない。

しかし、普通の人間ではそう簡単に倒せないのと、国家一つ分程度ならば簡単に掌握してしまえるのも確かなのだ。

 

後は、この時代でやるべきこと、彼女の計画をすべて行うだけ。

そのために必要なものがある。

 

それがガルバディアガーデン。

浮遊移動機能を有した、空飛ぶ巨大要塞。

 

そして、ミサイル基地への、トラビアガーデンとバラムガーデンへの攻撃命令。

各ガーデンには、ガルバディアガーデンと同じく浮遊移動機能があった。

元々はセントラ時代に作られたシェルターを改造した建物。

それらを今の内に破壊しておく必要があった。

 

ガルバディアガーデンも最終的には破壊するが、最後でいい。

 

最優先事項は、エルオーネ誘拐の隙を作ること。

もっと過去へと遡り、ガーデンの種を跡形もなく消し去る。

 

ガルバディアガーデンへ入ると同時に、突如ティンバーが解放されたという報せが飛び込んできた。

 

「あの男め、我が身かわいさに国を売ったか」

 

この時イデアは、デリングからの反撃の狼煙にまだ気付いていなかった。

 

ミサイル基地から、ミサイルが発射される。

最初の狙いはトラビアガーデン。

 

バラムガーデンも後で撃つが、それで破壊できるとは思えなかった。

イデア自身が乗り込んでも勝てる気がしない。

そのため、まずは補給を絶ち、干上がらせる作戦で行く。

 

それに、エルオーネが手中に入りさえすれば、そこでこのゲームは終わる。

ガーデンが創立される前に飛んでしまえば、どんなに強かろうとも何もできない。

 

 

 

バラムガーデンが見える草原。

5日毎の『次元の魔物』戦が行われる。

 

今回黒い靄から出現したのは、1冊の、一抱えもある仰々しい本。

実に現代のサイズにしてA2という、ポスターくらいにしか使われない、1ページのサイズが大きな、まさしく魔道書というイメージのハードカバー本。

 

そのタイトルにはこうあった。

 

『アパンダ』。

 

本はひとりでに開くと、中から強大な魔力を持った魔物が出現する。

ねじくれた2本の角を持った、2足歩行の牛のような魔物。

 

「まさか、本当に『カロフィステリ』がやられているとはな」

 

準備万端に整えていたバラムガーデンの精鋭部隊は、その魔物の眼中にも入っていない。

 

というのも、前回の青白い美女の時もそうだったのだが、魔力の多寡で相手の強さを測る癖があるようなのだ。

その癖はエクスデスのものなのか、それとも黒い靄の向こう側の常識なのか、それは分からない。

 

「油断などはせん。これまで数多の魔物を倒し、『カロフィステリ』までもがやられたのだ。

それとも、隠し玉は後ろに控えているのか?」

 

アパンダは魔力を発して鋭い爪を振るい、広範囲にカマイタチを発生させる。

魔力による後押しがあるとはいえ、現象そのものは物理攻撃だ。

当たれば何の防備もしていない人間など、一瞬で真っ二つである。

当たれば、だが。

 

「回避!」

 

キスティスの指示で、7人は全員がその攻撃範囲から逃れた。

変態的な動きで、一瞬で。

 

「ほう、なるほど、小手調べに足るだけの力はあるか」

 

アパンダは面白そうに目を細める。

 

「前衛後衛関係なしかよ。

やられねえ自信はあるが、後衛を守れる自信がねえ。どうする、先生?」

「全員で散開しつつ接近攻撃よ。

ただし、実験と時間稼ぎの意味があるから、回避優先で」

「了解!」「了解」

 

『次元の魔物』対策班の役割は、テレサの負担を軽減することにある。

テレサの性質は、徹底した情報取得からの、最短の手順による相手の討伐だ。

その情報取得を助けるには、勝てないからと最初から投げているわけにはいかない。

 

「テレサ、時間を稼ぐから、準備をお願い」

「ういうい」

 

虎の子に準備するように指示してから、キスティス達は全員でアパンダを抑えにかかる。

 

「まさか、ワレがむざむざとその作戦に――」

「よっしゃいったれぇぇぇい!!」

「ウォイショーイ!!」

 

ゼルがデンネンの後押しを受けて突貫するのを、アパンダは素早く迎撃。

 

しかし、爪から出した糸で瞬間的に展開された網は、ゼルの身体に絡まることなくすり抜け、アパンダは右頬に強烈な打撃を受けた。

 

「――っ!?」

 

ほんのわずかにでも触れれば『ストップ』の効果を発揮するアパンダ自慢の糸が、何の効果も発揮しなかったのである。

 

「あっぶね、んな手を使って来やがんのか!」

 

ゼルは糸を避け、アパンダの身体を蹴ってすぐに離脱。

爪の反撃も空振りした。

 

しかし、地面に着地してから力が抜けて、地面に膝を付く。

 

「なんだ、これ、『ドレイン』か?

直接触ると吸われるぞ!」

 

受けた攻撃の感触から、ゼルは皆に注意を呼びかける。

 

「チィ、すり抜けただと、面倒な……」

 

実は、糸が触れるコースが腕だけだったため、不完全な壁抜けを得意とするゼルはすり抜けることができたのである。

もしも糸が頭や体の中心を通るコースだった場合、捕まっていただろう。

ちなみに、前回の『カロフィステリ』のバリアをすり抜けられなかったのも、それが理由である。

 

なお、大ダメージを与えるのが目的ではなく、物理攻撃を行うことで『プロテス』やカウンターの有無をチェックしたのである。

 

「“アツゥイ”『ファイア』」

 

シュウが近距離から炎の礫を飛ばした。

『リフレク』、『シェル』の確認と、魔法に対するカウンターのチェック。

 

大してダメージを受けていない様子で、アパンダは周囲にカマイタチを発生させる。

 

「“3年B組、モルボルせんせーい”『臭い息』」

 

皆が回避のために離れた隙を狙って、キスティスが神経ガスを撒いた。

アパンダは鬱陶しそうにはしているが、効いている様子はない。

ステータス変化に対する耐性のチェック。

 

「結局はソイツさえ潰せば、有効な攻め手などあるまい!」

「みんなは撤収!テレサ、ゴー!」

 

怪物がテレサを攻撃する構えを見せた瞬間に、キスティスは合図を出す。

 

「“じゃす(JUST)ごー(GO)ふぉ(FOR)(IT)ふぃにーしゅ(FINISHED)”『ジョー・ベルモンドゥエ』」

 

『ヘイスト』で加速し、瞬間移動をさらに高速化して、アパンダの攻撃であるカマイタチを置き去り、槍攻撃の衝撃(ダメージ)を『ストップ』で虚空に41回ほど重ね、そこにアパンダを接触させて『ドレイン』によるカウンターを発動させずに、一撃(41連撃)で粉砕した。

 

一度見たすり抜けを警戒するどころか、攻撃に反応する暇すら、アパンダには与えられない。

 

「『ヘイスト』が入ると動体視力的にさすがに辛いわね」

「そろそろビデオ撮影も限界じゃねえか?」

「特注品のハイスピードカメラを使っているから、まだなんとかってところ」

「……これが対策班レギュラーの世界か……」

 

サイファーとスコールが抜けたことで入った、地味な黒髪少年は呟いた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
この辺からイデア視点が多くなってくると思います。
何か事件があれば、それを描写するという感じになるでしょう。

今回は解説が多くなるのでこの辺で。



――――設定

『アパンダ』:FF5
『次元の挟間(図書室)』のボス。
先に進むためのスイッチとなる本を開くと1度だけ出現する。

普通にプレイしていると、ここへ来るまでにそれなりにレベルが上がっている上に、おそらく伝説の武器も揃えていると思われるため、そこまで苦労しない。
火属性に弱く『ファイガ』を連打しているとすぐ倒せる。
『イフリート』を使用すると怖がって『ちりょう』を使い、モードチェンジして後ろを向いて『ちゆ』で自分を回復し続けるというギミックがある。
残念ながら作者ひろっさんはそれを見たことがないため、回復量や前を向く条件を知らない。

『ヘイスト』:擬似魔法
対象1体の時間を加速することで、素早く行動順を回す時空魔法。
FF5でもFF8でも、使用頻度はかなり高い。
特に3Dで表現されるFF8では、攻撃モーションがほんの少し短くなるという隠された効果があり、さらに他の時空魔法には他の時空魔法を上書きする性質があり、『ヘイスト』状態で固定してしまうオートアビリティ『オートヘイスト』は、実質『ストップ』と『スロウ』への完全耐性も兼ねる。
地味に早さJと回避Jの上昇値がそこそこ高く、『トリプル』と『トルネド』が手に入るまではジャンクションでもお世話になる。
(ただし、入手可能になる時期は『トルネド』が一番早い)

ただ、他のタイトルもそうだが、『死の宣告』や『石化中』、『毒』といった時間経過でデメリットが加速する系統の状態異常の効果を高めてしまうことがある。
特にFF8は行動するとその手のデメリットが加速するシステムのため、治療手段の準備を怠ると割とあっさりやられてしまうことも。


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インターミッション

8/4 納期寸前の仕様変更はきついってことを、みんなにも覚えておいてほしい。


イデアはガルバディアガーデンを浮遊させ、機動要塞とする。

生徒や教員の内、従わない者は追い出して、ガルバディア兵を配備。

 

戦力は積めるだけ積んだ。

バラムガーデンとの戦闘は極力回避する方向で行くとはいえ、不意の遭遇は想定していなければならない。

ただでさえ、予想外な出来事が重なって、計画に不安のある状態で進めざるを得なくなっているのだ。

慎重になってなり過ぎるということはない。

 

また、この時代にいるはずの魔女アデルの復活についても、考える必要が出てきた。

エルオーネは、バラムガーデンにいるのだ。

 

イデア1人だけでは戦力的に不安がある。

魔女アデルを蘇らせ、説得し、エスタ軍を掌握して投入することを考えなければならない。

それで、バラムガーデン内に潜伏させているスパイが、エルオーネの誘拐を実行できる隙を作り出す。

 

そのためには、まずF.H.からエスタへ人員を派遣し、どうにかして宇宙にあるアデルの封印を解く必要があった。

 

「まずは、F.H.へ向かう。ホライズンブリッジを渡ってエスタへ向かう人員を選定せよ」

 

イデアは命じた。

 

 

 

数日前のティンバー会議室。

アーヴァインは、カーウェイ大佐から魔女イデアの大まかな予定を聞いて、考える。

 

「やっぱり、誰かに乗っ取られてるね」

「なぜそう思うのですか?」

「ママ先生なら、バラムガーデンを乗っ取る方が簡単だから。

そうでしょ、シドさん?」

「私がイデアの魅了を受け入れてしまうと?」

「魅了じゃなくて、ある程度だったらママ先生のお願いを聞いてしまうよ。

ボクたちも含めて、今までママ先生のために色々と準備してきたんだから」

「……なるほど、イデアのままお願いされれば、聞いてしまう可能性は否定できませんね。

そしてそれは、ガルバディアを乗っ取るよりも簡単なのかもしれません」

 

シドは渋い顔ながら頷いた。

 

「ママ先生がそうしないのには理由があるはずなんだ」

「そして、魅了の魔力の無闇な使用は、隠れ住むためには禁忌と言っていいほどの行いです」

「そうなのかね?」

「私は魔女イデアの騎士であり、夫です。

そんな私が洗脳されていないと、他者に証明することができると思いますか?」

「む……」

 

問われて、カーウェイは言葉を途切れさせる。

 

「洗脳というのは、単に人を殺すよりも、より人々に忌み嫌われる行いです。

その人が生きている限り、思いつく限りの冒涜を行わせることができてしまいますから。

しかも、魔女の仕業であると分かりやすく、自分の行動の違和感などから、痕跡も残りやすいのが特徴です。

隠れ住むには、とても都合の悪い力なのです」

「なるほど……」

 

アーヴァインは、話を進める。

 

「ママ先生が意識を乗っ取られているとすることで、説明できることが他にも幾つかあるんだ」

「ドールですか」

「ドール?確かにガルバディア軍は手酷い敗北を喫したが」

「まだ調べは付いていないようですね。

あの戦いには、ドール議会の要請でSeedを派遣していました。

おかげで、不自然な『スケルトン』の大量発生について、詳細な報告が上がってきているのです」

「『スケルトン』だと?」

「正確には、『スケルトン』にドール兵の幻を被せて、離間工作を仕掛けてきたんです」

「そういえば、内部から崩すとか言っていたぞ」

 

デリングがシドの情報を補完する。

 

「……ちょっと待て」

 

カーウェイは、口を挟んだ。

 

「すると何か、そこまで絶望的な状況から、Seed部隊だけで引っ繰り返したと?」

「新技術を導入した候補生を一般任務に投入した、初の実例です。

さすがに保険的な意味で、オーバー気味な数を投入しましたが」

「……なるほど、アレを実現してしまえる戦力があるとするならば、魔女と正面から戦うことになろうとも、問題はなかろうな」

 

大佐は苦々しく呟く。

 

ガルバディア軍内から見た視点では、まるで空間ごと抉り取られたかのように、情報も戦力も、一瞬で消えてしまったのだ。

国内に魔女がいたことから、カーウェイは一時、ドールにも魔女が出てきたのかと疑ったほどである。

世間に知られていない魔女がどこにいるのかという正確な情報は、魔女当人達を含めて誰も持っていない。

 

「まあ、ともかく、シドさんがバラムガーデンにいて、ドール議会がSeedの派遣を要請する可能性がある以上、『スケルトン』の投入はないでしょ?」

「確かにそうですね。事実、私もイデアを知る生徒達も、あの件で魔女の存在を確信し、サイファー君にガルバディアでの情報収集を命じました」

「魔女に詳しい者がいると知っていれば、もっと慎重に立ち回るか。

確かに頷ける」

 

アーヴァインはさらに続ける。

 

「次に、明らかに不用意なのが、デリング大統領のティンバー行き。

コレもシドさんが魔女のことを知っていたら、調査に来るのは分かってるんだから、今回みたいな鉢合わせの可能性を上げているだけになる」

「ビンザー、これは君の不用意もあるぞ。

ドール侵攻の失敗の原因を、もっと注意深く調べていれば、こうはならなかったはずだ」

「わかったわかった。反省しているとも」

「11年前もそう言っていたような気がするが……。リ、ノ、ア」

「ひゃいっ」

 

テーブルの下に隠したノートにBLネタを書いていた愛娘に、カーウェイは注意を飛ばした。

 

「11年前?確か……」

「当初、ティンバーレジスタンス狩りがあのタイミングで行われる予定はなかった。

ある程度、武装組織を取り込んで、エスタ軍スパイへの備えとする計画もあったのでな。

それが、ビンザーが不用意にティンバー観光などするものだから、レジスタンスを刺激して、襲撃を受けたのだ。

おかげで懐柔し取り込む予定だったレジスタンスは軒並み壊滅だ」

 

ゾーンの問いに、渋面のカーウェイが語る。

友人といい、妻といい、娘といい、かなりの苦労人のようだ。

 

「問題は、ママ先生がどうやって乗っ取られているかなんだけど……。

ボクは、お姉ちゃんの力だと思う」

「イデアは確かに、あの子を守るために色々なものを用意していましたね。

思えば、ガーデンのアイデア、魔女への対抗策という目的も、あの子を守るためなのかもしれませんが……。

あの子の力がイデアを乗っ取っている?」

「お姉ちゃんが直接力を使ってるんじゃなくて、ほら、お姉ちゃんって、昔エスタに攫われてたでしょ?」

「ああ、確か、オダイン博士の研究所で、その力を研究されていたと言っていました」

「アーヴァイン、お前、よく覚えてるな」

 

サイファーが感心する。

 

「つまり、お姉ちゃんの力が未来で装置として実現されてる可能性がある」

「あの子の力を研究した結果が、GFのジャンクションです。

推測を重ねた話ではありますが、可能性は十分にありますね」

「なるほど、キニアス君が言いたいことが分かってきた」

 

カーウェイも感心した。

 

「魔女イデアを乗っ取った者は、何かの目的を持って行動している。

そして、その目的というのは……」

「間違いなく、あの子ですね。

状況証拠となりますが、それしか考えられません」

 

アーヴァインの推理によって、イデアを操る何者かの目的が、かなり正確に暴かれていた。

 

「さて、これを踏まえて、作戦があるんだけど……」

 

 

 

エクスデスは、手応えを感じていた。

 

あちら側の情報は相変わらず入ってこないが、徐々に開く『次元の穴』が大きくなってきているのだ。

エクスデス自身が異世界へ渡り、何が起きているのかをその目で確かめることができるようになるのも、そう遠い話ではない。

 

「ファファファ」

 

彼は笑う。

 

「今まで散々散々散々散々散々、おちょくってくれおって、ヤローオブクラッシャー!」

 

ちょっとコワれてきていた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
アービンのターンのつもりが、全体的にカーウェイ大佐のターンだった件について。

ここのアービンは、気持ち悪いほど頭がいいです。
その頭脳をフル活用した作戦がどうなるのかは、予定は未定です(爆)



――――設定

シド学園長と魔女イデア:
FF8シナリオにおいて、エルオーネの次に重要な夫婦。
イデアは2度もボスを務め、シドは妻を倒せと命じなければならない人間として、夫婦愛を表現するドラマを作り上げた。
FF8のテーマである『愛』がここでも回収されている。
ただ、子供には難しいかもしれないが。

ゲーム攻略上、シド学園長は結構重要で、『やみのランプ』や『バトル計』を所持しており、さらにレアカードも持っている。
カードバトルではAIが強く、ルールによってはかなり苦労することになる。
ただ、初期はそこまで強いカードを持っていないため、レアカードをもらうなら初任務前がいい。

1つ1つの行動を見ていくと、割ととんでもないことをスコールに押し付けてくれているが、スコールとラグナとの関係を知っていれば理解できなくはない。
(ラグナは超強運な上にカリスマあり。エルオーネから聞いた?)

イデアは1回目の戦いは負けイベントで、戦闘そのものに勝っても、負けたものとして物語が進む。
この小説ではパレードを飛ばしたが、暗殺ミッションでは、どう考えてもパレードカーの裏から狙撃しているのに、前からの狙撃を防いでいるように描写されている。
2回目、戦闘後に命があったのは、おそらくたまたま。

多分、分度器ややたら演出過剰なのは、彼女の精神を支配していた未来の魔女の趣味。
支配から解放されたイデアは、『まま先生』に相応しい、愛情溢れた女性として描写されている。


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いわゆるテコ入れ回

8/5 台風が心配。これが投稿されてる頃にはまた来るんじゃなかろうか。


ミサイルが険しい雪山の上空を飛んで行く。

備え付けられたセンサーが目標を探し、かつては移動シェルターだったものを改造した建物へと、進路を修正。

 

魔女の憎悪を載せた破壊の権化は、多くの子供達が集う学び舎へと殺到した。

 

しかし。

 

「『お祓い棒、四刀流巫女』」

 

回転しながら飛んでくる、鋼鉄でできた棒が4本、8発のミサイルを貫いた。

ミサイルは空中で爆発し、周囲に破片を撒き散らす。

 

だが、戻ってきた棒、ヌンチャクの片側は1本のみ。

そしてそれを受け取ったのは、青いスーツを身に着けた茶髪の少女。

 

「よっしゃ、コレでアタシらも動けるわ」

 

彼女は、第二の故郷に迫る危機を撃ち払った後、親友に会いに向かう。

彼女らが行っていた成果を告げるために。

 

 

 

ガルバディアガーデンは白波を立て、悠然と海上を進む。

航海は順調そのものだった。

 

さすがに1日でとはいかないが、ガルバディアガーデンの速力ならば、1週間もあれば到着するだろう。

F.H.では、エルオーネを探すフリをしながら街を焼く。

補給不能にしてしまうのと、エスタへ破壊工作部隊を送り込むのが肝要だ。

 

魔女アデルを復活させるには、幾つかの手順が必要となる。

今、彼女は宇宙にある『アデルセメタリー』に封印されているため、それを地上に降ろさなくてはならない。

 

方法は、『月の涙』を利用する。

古代セントラ文明を崩壊させたのは、『月の涙』と共に地上に降ってきた『大石柱』というもの。

巨大隕石の直撃にも似た巨大な破壊によって、首都が一瞬で壊滅した。

その痕跡が、今はすっかり水没しているセントラクレーターだ。

 

『大石柱』の落着を伴わなかった『月の涙』の痕跡がトラビアクレーターだが、その大きさを比較すると破壊の規模の違いが歴然としていることが分かる。

 

その『大石柱』だが、実はエスタが発掘し、浮遊移動装置を取り付けて要塞化してあった。

『月の涙』を意図的に発生させる兵器『ルナティックパンドラ』として利用しようとしたのである。

 

「(それによって、魔女と人間の対立は決定的となり、ガーデンという、魔女への対抗策を生み出させる契機となった。

憎悪の螺旋の始まりというわけだ)」

 

さすがに、思うところがないわけではない。

イデアを操る者の第一目標はガーデンの消滅だが、第二目標は魔女アデルなのだ。

その両方を達成するために、今は魔女アデルの復活が必要だった。

 

魔女アデルの復活には、今が好都合だ。

『アデルセメタリー』の周回軌道が、『月の涙』の発生予想と重なっており、『月の涙』が発生すれば、重力異変によって月から降り注ぐ魔物の群れに『アデルセメタリー』が巻き込まれ、地上に降りてくることになる。

 

ただ、『月の涙』を発生させるとなると、こっそりというわけにはいかない。

そこで、『ルナティックパンドラ』を移動させる際に邪魔をしてくるであろうエスタ軍を抑えるため、破壊工作部隊を送り込もうというわけだ。

 

しかし、ここで計画を台無しにする大事件が発生する。

 

ガルバディアガーデンが突然、大きな衝撃に揺れたのである。

 

「何事だ!」

 

側近が慌てて状況を確認。

その結果、こんな報告があった。

 

「イデア様、何かの構造物が直撃した模様であります」

「構造物?」

「はっ、人工物であることは分かるのですが、我々ではそれが何なのか判別が難しいものであります」

「ふむ……私が直接見に行こう」

「了解いたしました」

 

側近はすぐに現場に連絡を入れる。

 

ガルバディアガーデンを移動し、1階校庭の屋根を突き抜けて降ってきたものを目にして、イデアは計画の変更を決断した。

 

 

 

それを説明するのに、24時間ほど時間を遡る必要がある。

24時間前とは、バラムガーデンではすっかり恒例となった、『次元の魔物』戦があった時間帯だ。

 

「チッ、やりにくいな……」

 

今回は、無数の触手を持った、巨大な1つ目の怪物。

 

ゼルが舌打ちしたのは、周囲に重力を発生させ、高速移動を制限してくることである。

しかも『クェイク』で地震を発生させ、広範囲に地属性の魔力を放ち、足を中心にダメージを与えてくる。

さらに、動きが鈍ったところに触手が飛んでくるため、なかなか思ったように攻撃できないでいた。

 

『レビテト』によって地属性の魔力を遮断しようとも、周囲に発生させている重力に『レビテト』を打ち消す効果があるらしく、すぐに地上に引きずり降ろされてしまう。

 

そして、今回は以前とは違うところが1つあった。

 

「あの黒い靄、やけに長く残っているわね」

 

シュウが呟く。

 

「地震と重力込みで組み直すわ!

シュウ、『シェル』を敵にパターンC。

風神、『レビテト』をゼルにパターンD。

ゼル、今から懐に潜り込ませるから、頼んだわよ!」

「了解!」「了解」「了解」

 

キスティスが矢継ぎ早に指示を出し、自分も詠唱する。

 

「“貴様の業、俺が背負おう、死んだふ力学”『これで森に自然が戻りました』」

 

ゼルが眠らされ、ゆったりとした動きで宙を漂うように怪物に向かっていく。

 

「『シェル』」

 

魔法によるダメージを薄めることで軽減するフィールドによって、重力と地震が弱まる。

魔力の放射が『シェル』によって、正しく作用しなくなったのだ。

それも2秒程度のことで、怪物はすぐに修正してきたが。

 

「『レビテト』」

 

今度は触手によるゼルへの攻撃が、一瞬だけ働いた反重力によって回避。

 

『レビテト』が切れたゼルは、重力攻撃によるものよりもさらに加速して怪物の真上に落下。

この作用は予想外だったらしく、怪物は触手攻撃を外してしまった

 

そしてその衝撃でゼルは目覚める。

 

「うおっ!?『メテオストライク』!」

 

敵の懐に飛び込んだ状況を察知し、思わず天高く怪物を投げた。

 

「『デスペル』」

「!?」

 

怪物は重力攻撃を止めて着地しようとしたが、急に衝撃変換フィールドが解かれたことで魔力の加減を読み誤ってしまい、地面に激突。

慌てて周囲を確認し、重力攻撃を行うも、自分の体の下に潜り込んだゼルには気付いておらず、もう一度投げられる羽目になる。

 

2度目投げられた時には、他に褐色肌の大男雷神やデンネンが重力を振り切って近付いてきており、対応している内に投げられ、を繰り返している内に、最終的に動かなくなった。

 

「ギリギリだったけど、なんとかなったもんよ」

 

武器である(きね)(鋼鉄製)を一心不乱に叩き付けまくって、ボロボロにしてしまった雷神は、大きくため息を付いた。

5日後までに最低でも修理しなければならない。

 

 

 

エクスデスは『次元の穴』から、今送り込んだ『カタストロフィ』が倒されるのを見ていた。

 

「こやつらではないな……確かに我の知らん奇妙な技術を使うが、所詮は人間よ」

 

彼は、今まで散々呪いをかけてきた相手を探していた。

 

「遠くに何かおる」

 

はじめて直接異世界の様子を確認することができたエクスデスは、その世界を満たす強い思念波に気付く。

あちらの世界の神と呼ぶには邪悪な思念だが、おそらくかなり強い。

問題は、それが呪いの主かどうかを確かめるには、距離があり過ぎることだったが。

 

「確かめるには少々遠いが、『無』ならば容易い」

 

エクスデスは『次元の穴』越しに『無』を送り込み、力を振るう。

 

 

 

それは遠くの空にあり、本来の軌道を逸れて地上に墜ちてきた。

そして、たまたま通りかかった、赤く巨大な建物ガルバディアガーデンに直撃。

 

「『アデルセメタリー』、だと……!?」

 

本来ありえないことにイデアを驚愕させ、そして計画の変更を決断させた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
敵サイドへのテコ入れ、のように見せて、話を噛み合わせるための予定変更です。

あのままだと、アービンの作戦が活躍する余地がなくなりますから。

そして謎?の少女参戦フラグ。



――――設定

『クェイク』:
ほぼ唯一の地属性魔法。使用可能なタイトルではすべて全体攻撃。
FF6では地属性の敵味方無差別の全体攻撃であり、地属性吸収防具が店売りで入手可能なことから、強力な全体回復手段として利用する戦術が存在した。
火属性でより威力の高い『メルトン』でも同じ戦術が可能。

FF8では画面全体を使っての地割れを含んだ地震が発生する地属性の全体攻撃。
使用した側はどこかへ消えてしまうためか、無差別攻撃魔法ではなくなっている。
ただ、CPUの処理的にラグが酷く、ダメージもそこまで高くないため、結局使われない。
地属性は『クェイク』1種類しかなく、扱いはおそらく上級魔法。

敵と味方で印象がまったく異なる典型的な魔法の1つで、特に『ケルベロス』が『トリプル』から連打してくる際など、上級魔法クラスの威力があるということを忘れて属性防御による無力化を怠ると、普通に死ねる。(1敗)
逆に属性防御をしっかりしていると、回復魔法と化す。

ジャンクションは、序盤で入手可能な擬似魔法の中では強力なステータス上昇値を持ち、『フレア』や『ホーリー』のような苦行を要求されるものに比べれば入手難度はかなり低いため、攻略の設計に組み込まれることも多い。
ただし、上級魔法の中ではガ級以上だが、他の上級魔法、禁断級魔法には届かないことも確か。
『ケルベロス』、『アデル』、『アルテマウェポン』、『オメガウェポン』などが使用してくるため、『アルテマ』を属性防御にジャンクションしない場合は属性防御にオススメ。

『カタストロフィ』:FF5
『次元城』に出現するボス敵。
進路上の牢屋で女性を襲っているか、女性に使役されているような描写があり、牢屋の扉を開くと襲ってくる、必須ボス。
攻撃は通常攻撃と強力な地属性の全体攻撃『アースシェイカー』と『じゅうりょく100ばい』。
『レビテト』で浮遊している味方がいると『じゅうりょく100ばい』で引きずり降ろしてくるが、それでターンが消費されてしまうため、『レビテト』を何度も使用しているとそれだけで完封できてしまうこともある。
FF5でたまに出現する、頭の弱いボスの1体。
(ある意味『バハムート』も含まれる)


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アーヴァインの作戦

8/6 行事があると雨が降るかどうかがかなり気になる。


ミサイルが雲を突き抜け、バラムガーデンに降り注ぐ。

 

しかし、なぜかピンク色の球体がミサイルに衝突。

それが当たった反動で跳ねて、掛けられていた回転によって別のミサイルへ命中。

 

そこで赤く力を貯めて解放すると、ビリヤードのように次々と別のミサイルに命中、跳ねて別のミサイルへを繰り返し、あっという間に無数のミサイルがセンサーを狂わされ、空の彼方へと飛んで行った。

 

「たぶん、コレがイチバン楽やと思います」

 

黒髪少女は呟いた。

 

 

 

タイミングを計り、アーヴァインが考えた作戦が始動する。

 

キモはただ1つ。

魔女イデアの居場所を固定すること。

 

そのための要素が、エルオーネだった。

彼女が持つ不思議な力を、イデアを操る何物かは求めて行動している。

 

その何者かからイデアを取り戻すには、最低でもイデアの居場所を確定させる必要があった。

 

『魔女イデアには、洗脳使役していい人員を何人か預けてある。

それと、計画の強行には慎重だった。

ドールの敗戦を挽回する必要があったため私が押し切ったが、結局ティンバーには来なかったのだ。

電波放送は、幻を被せた代役で済ませる予定だった』

 

というデリングの証言から、アーヴァインは魔女がテレサやサイファーのような、新技術についてある程度の情報があるものと想定した。

 

ということは、バラムガーデンと正面から戦えば負けると考えている。

しかし、正確にどれだけのことができるのか、把握しているとは思えない。

把握するには直接バラムガーデンに乗り込み、生徒達に聞いて回る必要があるのだ。

だが、潜入させたスパイでは、それができない。

ガーデン内で変態移動を鍛錬する生徒達に目が行くだろう。

 

つまり、魔女はテレサが大陸間であろうと瞬間移動できることを知らないのである。

 

 

 

お姉ちゃんには、悪いけど、囮になってほしいんだ――。

 

――ママ先生を取り戻すためだもんね。

 

……お姉ちゃんの守りは?――。

 

――そこはスコールの出番よ。

 

……俺の?――。

 

連絡には、エルオーネの接続能力が使用された。

 

飛ばされた過去は、ウィンヒルでの穏やかな日々。

 

「ジュリアって、あの歌手の?」

 

小さなバーを営む女性レインが、居候のラグナに会いに来たキロスに聞き返す。

 

セントラ発掘現場より脱出に成功したものの、全身の骨を折る重傷を負ったラグナは、近くのウィンヒルに搬送されて治療を受けた。

全治6ヶ月。

 

その間、看病していたのがこのレインだった。

 

「彼女は、ホテルのバーでピアノを弾いていて、ラグナ君はいつもそこに通っていたんだ」

「へぇ、ジュリアって、歌手になる前はピアノを弾いていたのね」

「ラグナおじちゃん?どうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「なぜかラグナはあの日から、ジュリアの話を嫌がるようになっていてね」

「そうなの?」

「私はホテルの部屋に呼ばれた時に、何か大失敗をやらかしたんじゃないかと勘繰っているんだが、なかなか話してくれないんだ」

「いいじゃねっかよ~!」

 

キロスの中に入っていたアーヴァインが首を傾げる。

 

これって、何があったの?――。

 

……聞くな――。

 

――まあ、ねえ……。

 

スコールとエルオーネは2人とも、言葉を濁す。

 

美女としても有名な歌姫ジュリア。

そのイメージを進んで壊すほど、2人は野暮ではない。

 

――何、何の話?

 

キスティスは、今はウォードの中に入っているのだが、彼はこの時、別の場所にいた。

だから、彼女だけは話に参加できていないのだ。

 

ええっと、作戦の話に戻ろうか――。

 

アーヴァインの作戦はこうだ。

 

カーウェイ大佐の策によって、魔女が掌握するガルバディア軍主力部隊に対抗可能な戦力、仮称『カーウェイ軍』が揃いつつある。

それはデリングが必死にかき集めた戦力だが、実際に魔女に対抗できるわけではなかった。

十分な訓練を受けているとはいえ、主力戦闘部隊と施設の維持管理と防衛を主任務とする部隊では、受けている訓練の質に差があるのは当たり前だ。

 

魔女の側も、それは承知しているはずだ。

だからこそ、カーウェイ軍にエルオーネを護衛させる。

実際は、白いSeedの船を経由し、カーウェイ軍に化けたスコール達が誘拐するのである。

エルオーネ誘拐の理由は、デリング大統領の命令とでもすればいい。

今まで散々、理不尽な命令で部下達を振り回してきたのである。

美女を1人連れ去るように命令する程度のことは、むしろ信憑性を高めることになる。

 

その情報を受けた魔女は、標的をカーウェイ軍に変えて戦いを挑んでくるだろう。

魔女はカーウェイ軍を雑魚の集まりと見ているはずだ。

そこをサイファー達Seed主力部隊で叩く。

 

サイファー、キスティスがガルバディアガーデンを攻撃するためのSeed主力部隊。

スコールはカーウェイ軍に化け、エルオーネを狂言誘拐する役回り。

 

この作戦中は『次元の魔物』対策班をフル投入するため、『次元の魔物』への対応はテレサ1人に託される。

元々、テレサで倒せなければどうにもならなかったため、誰も問題視はしなかった。

 

この作戦は、スコールの演技にかかってる――。

任せたよ――。

 

――ちゃんと誘拐してね。

 

……了解――。

 

――特に移動系の新技術は使っちゃダメよ。

――かなり目立つから。

 

…………了解――。

 

 

 

魔女イデアは、エルオーネの移動をそう不審には思わなかった。

なぜならば、移動先が白いSeedの船、エルオーネのためにイデア、乗っ取られる前の魔女がエルオーネのために用意した乗り物だったからである。

そこならば安全だとでも思ったのだろう。

 

実際、あの船には魔女の追跡を振り切る仕掛けがあった。

せっかく『この時代』で用意した『目』が使えないため、スパイを潜り込ませる意味がないのだ。

 

発信器などはない。

電波障害の発生源が手中に収まり、電波が使用可能になったのはいいが、18年という歳月は電波関連のオフライン機器を現場から駆逐するには十分だったということだ。

バラムガーデンでもバラムの街でも、発信機として利用可能な機器は手に入らないのである。

 

だから、とりあえずは魔女アデルの復活を優先することにした。

 

バラムガーデンさえ潰すことができたなら、エルオーネを探すのは後回しでいい、という判断だ。

スパイもバラムガーデンから引き揚げさせた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
アービンの作戦の全貌でした。
後数話で決戦へ突入の予定です。

さあ、難しいのはアデルですね。
なんせ、情報がほとんどありませんから。
というわけで、二次創作の特権として、半オリキャラ化させることにします。
どうなるかは今後のお楽しみということで(未定)。



――――設定

魔女アデル:アルティマニア情報、考察
18年前までエスタを支配していた恐怖の魔女。
魔女の中ではかなり強いということと、欲望のままに魔力を振るっていたということ、油断したせいでラグナにしてやられ魔女封印装置で封印され、原作で封印が解けるまでは電波障害の原因になっていたということ以外、分かっていることはない。
FF8の中ではかなり謎に包まれた存在でもある。
セリフはたった1つで、「こんな手に乗ると思ったのか?」だけ。

二次設定で多いのは、『復活したアデルをスコール達が倒せているのは、復活したばかりで本調子ではなかったから』とする説。
GFの力だけでエスタを支配した魔女が倒せてしまったら、アデルの立場がないと考える人が多いのかもしれない。

原作での戦闘時、リノアを『ドレイン』で取り込みながらの戦闘となり、リノアのHPが0になるとゲームオーバーとなる。
なお、HPが最大51000しかなく、特殊技でゴリ押しして倒せてしまう。
スコールで意気揚々と連続剣を叩き込むと、フィニッシュブローが発動してリノアを殺してしまうのは、何度もやっていると一度は経験することである。
ちなみに、アデルと同時にリノアを倒してしまってもゲームオーバーにはならないため、GF『エデン』で応援込み6万ダメージを叩き込んでもクリア可能。

攻撃の方は普通に痛く、油断して準備せずに臨むと普通に全滅する。
ただ、アデルに負けるようだと、その後の魔女連戦がかなり辛いため、負けた場合はすぐ再戦ではなく、行動可能な範囲でパーティを強化するのがオススメ。

アデルからは結構なレアアイテム『ソウルオブサマサ』を盗むことができ、リノアからも『ラストエリクサー8個』を盗むことが可能なため、パーティ1人の力を極力抑え、回復手段も用意するのがやり込みプレイヤー。
盗む際、うっかりクリティカルしないようにスコールにやらせるのが常道。

これらから、おそらくプレイヤーのうっかりでリノアを一番多く殺してきたのは、スコールであると考えられる。
そのためか、よく二次創作のネタにされている。


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最大のイレギュラー

8/7 一体、いつからテレサが最強だと錯覚していた?


「目覚めたか、恐怖の魔女、『始まりの魔女』アデルよ」

 

魔女は、エスタの技術の粋を尽くして作られたパッキングによる封印を前に、呼びかけた。

 

これは全周波数帯の電波を妨害することで、アデルの思念を内部に封じるパッキング技術によるものである。

この装置による強力な封印が、魔女アデルを一切抵抗できない状態で封印していたために、18年前、全世界規模の電波障害が発生したのである。

それは魔女アデルの敗北の証でもあった。

 

赤い髪の大柄な魔女アデルは問う。

 

「ヘイユー何者だ?」

「『未来の魔女』アルティミシア」

 

魔女はそう名乗る。

魔女イデアではない、その精神を乗っ取った何者かとして。

 

魔女か(ウィッチ)……何を望み(ウィッシュ)、マイ封印(シーリング)解い(キャンセルし)た?」

「後始末を」

「後始末?」

「貴様が『この時代』に好き勝手に暴れてくれたおかげで、遠い未来、人類は滅ぶのだ」

「……」

 

アルティミシアが向けたのは、先人への敬意でも憧憬でもなかった。

遠い未来、人類を滅ぼすことになる、そのきっかけを作り上げた人間への、憎悪である。

 

「協力してもらうぞ。魔女アデル。

そのためならば、私は何度でもこの時代へやってくる。

ジャンクションマシーン・エルオーネの力によってな」

ほざくか(ビークライ)。その依り代(ドール)を砕かれれば、ミーの前に立つことも叶わぬシチュエーションであろうに」

 

アデルの怒りと共に大気に魔力が満ちる。

 

どうでもいいが、アルティミシアはよくアデルの独特のしゃべり方を理解できているものである。

 

「過去を変えるためならば、何度でも」

「ならばなぜ(ホワイ)、マイ封印(シーリング)解い(キャンセルし)た?

アイアム、ユアエネミーであろうに」

「別の障害が発生した」

魔女の障害(ウィッチエネミー)ありえんな(ノーウェイ)

「私も、アレを見るまではそう思っていた」

 

アルティミシアは、自分の記憶から映像を投影する。

 

それは『次元の魔物』との戦いの模様。

後にカロフィステリという名が判明する、青白い肌の美女。

 

防御的な戦闘が得意なようで、しばらく相手の力を見極めるように攻撃していなかったが、その魔力は明らかに魔女と同等かそれ以上だった。

 

魔女(ウィッチ)ではないな。何者だ?」

「わからぬ。だが、問題はこれを倒した何者かの方だ」

「ファッツ、倒した?これを?」

 

戦いの模様はなかなか進行しなかったが、戦っていた7名ほどが、たった1人の黒髪少女とバトンタッチした途端に、一気に終わりを見せる。

様々な奇妙な現象を発生させ、強大な魔力を持った魔女でさえ、確実に倒せるかどうか分からない相手を、あっという間にバラバラにしてしまったのだ。

 

「アレが今、計画の邪魔になっておる脅威だ」

「……」

 

アデルは言葉を失っていた。

予想以上の脅威だったからである。

 

 

 

一方で、エルオーネ狂言誘拐作戦に参加していたスコール班で、とんでもないトラブルが発生していた。

なぜか、特徴的な青いボディスーツに身を包んだエスタ兵が、襲撃をかけてきたのである。

 

相手はたった1人。

スコール、ゼル、ニーダの3人で対処するも、船の上を縦横無尽に、それこそ空中であろうと海面であろうと関係なく、物理法則を完全無視した動きで圧倒してくる。

 

「(まるでテレサを相手にしているようだ。だが……)」

 

視界内に辛うじてチラチラと入る、その小柄な青い人影は、あの黒髪少女とは明らかに違う部分があった。

 

「(大きい)」

「どこ見てんねん」

「ぐふっ」

 

スコールの視線を察知したのか、小柄なエスタ兵はスコールの顔面に巨大なヌンチャクを直撃させた。

少々鼻血が出たが、命に別条は感じられない。

 

「何者だ?」

「それは言えない」

「……トラビア人は確か、仲間意識が強いはずだな」

「……」

 

一瞬、動きが固まった。

 

「これ以上、邪魔をするようなら、トラビアガーデンにミサイルが飛ぶぞ」

「……ソレもう……ゴニョゴニョ……」

「なんだ?」

 

聞きながらも、攻防は続く。

というより、一瞬たりとも油断ができなかった。

どうやら手加減しているのか、即死させようとはしてこないものの、テレサを彷彿とさせる縦横無尽っぷりを見せる相手に、油断する余裕など欠片もなかった。

 

しかも、今のスコール達は新技術の使用を見せるわけにはいかないのだ。

その気になられる前に、引いてもらうしかない。

 

「ひゃぶっ!?」

 

その時、突然エスタ兵の格好をした少女らしき何者かが、海面に落ちた。

 

「なんだ!?」

 

スコールは驚くが、頭の中のざわめきが大きくなったことで、その現象の正体に気付く。

 

「エルオーネ!?」

 

どうやら、苦戦していると見たエルオーネが、接続能力を使用したようなのだ。

 

背後を振り返ると、ニーダの背中からこちらに手を振る、従姉の姿が。

 

「スコール!今の子、探して!」

「なに?」

 

突然の要求に驚く。

 

「今の、セルフィなの!」

「……!」

 

どうして気付かなかったのか、とスコールは自分の不明を叱咤した。

 

テレサと同じ技術を使うトラビア人といえば、テレサの親友2人しかいない。

その内の1人は、スコールとも面識がある、セルフィである。

セルフィは、同じ『イデアの家』という孤児院で暮らしていたことのある、幼馴染なのだ。

ならば、エルオーネを助けに来たとしてもおかしくはないだろう。

 

スコールは慌てて海に飛び込もうとして、そして気付く。

波間の遥か彼方、残像を残しつつジグザグに、海の彼方へ去っていくエスタ兵の服を着たセルフィの姿に。

 

「ダメだ、追い付けない」

 

珍しくもないが、彼は舌打ちをした。

もう少し早く気付いていれば、作戦を伝えて参加してもらうこともできたのに。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はアルティミシアとアデルの対話と、最大の不確定要素の話でした。

アルティミシアの時代になるまでの歴史は、FF8二次創作では色々とありますが、この二次小説ではできるだけ矛盾が少なくなるように仮説を組んであります。

ところで、アデルのしゃべり方はこんな感じになりました。
英語と日本語の境目がちょっと曖昧です。



――――設定

リノアル説:リノア=アルティミシア説について
FF8発売後、数年経過してから唱えられた説である。

1.スコールとリノアしか知らないはずのグリーヴァの名前についてアルティミシアが知っている。
2.時間圧縮中の魔女連戦が始まる際、イベントが始まる部屋が『始まりの部屋』、リノアがスコールに恋をした部屋と同じ見た目である。
3.エンディングでリノアの姿がスコールの記憶から消える際、アルティミシアの顔が重なる。
4.イデアの家で、リノアがスコールに『悪い魔女になったら殺してほしい』と言っていた。その約束を果たしてもらうために、スコールのいる過去と未来を繋げる時間圧縮を行った?

しかし、矛盾も多々ある。

1は、スコールをイデアに乗り移ったアルティミシアが『伝説のSeed』と呼んだことから、未来では有名な話だった可能性がある。
それと、由来と名前はともかく、スコールがグリーヴァの指輪を大切にしていることを、ゼルは確実に知っている。

2は、アルティミシアが用意したとは限らないとしか。
時間遡行を行ったメンバーに魔女リノアが含まれているため、彼女の思念に引き摺られた可能性も少なくない。

3は、アルティミシアがリノアとスコールの子孫であるとすると、面影がある理由を説明可能なため、確定するのに十分な材料にはならない。

4は、そもそもアルティミシアがイデアを乗っ取ったのが12年前であり、スコールに殺されるのが目的ならば、その時点で時間圧縮を行えばよかった。

さらに、サイファーにSeedやバラムガーデンが魔女に反抗する理由について拷問させているが、リノア=アルティミシアならば、ヘタするとイデア以上に知っているはずの話である。

リノアル説では、宇宙で魔女アデルを復活させ、さらにその後リノアを宇宙に投げ捨てた理由が説明できない。
リノアには『月の涙』を発生させる理由もアデルを復活させる理由もなく、さらに下手をすると自分が魔女の継承もできないかもしれない宇宙の藻屑になるところだった。
(スコールは助けに来るだろうが、目の前でスコールの死体を眺め続ける羽目になり、『その内考えるのを止めた』になる可能性が高い)

また、スコールの死後(老衰?)、何らかの理由でリノアの魔女が継承されなかったという説もあり、こちらは記憶の矛盾についてある程度説明できるが、ラストバトル前の、Seedを執拗に憎む言動について説明できない。

他にも平行世界のリノア=アルティミシアがかかわったとする説、不確定原理を唱える者もいるが、結局誰しもを納得させることができるリノア=アルティミシア説を唱えた者はいない。



最後に。
ゲーム本編中のイデアのセリフに、
『アルティミシアは未来の魔女です。私の何代も何代も後の遠い未来の魔女です』
とあるため、イデアのすぐ次の代であるリノア=アルティミシアである可能性は、それを覆す公式情報が出ない限り否定されている。


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砂漠の決戦

8/8 テレサが珍しくピンチになります。


決戦の場は、D地区収容所。

 

ティンバーを手放した関係で、巨大施設を維持できなくなるため、最後に戦時拠点として最大限活用しようという魂胆である。

移動要塞であるガルバディアガーデンに対抗可能な要塞として改造可能なのも、ポイントが高かった。

潜行浮上機能を有するため、直線的な攻撃を回避する可能性があるのだ。

 

「なるほど、カーウェイ大佐の仕込みか」

 

イデアを乗っ取っているアルティミシアは、その布陣を見て呟く。

 

アデルが調子を取り戻すまで少々時間はかかったが、準備に時間がかかったのはカーウェイ軍も同じであるらしい。

 

いずれにせよ(エニウェイ)、ミーの存在は計算に入っておるまい」

「(そろそろツッコミを入れた方がいいのか?

いや、成功にしろ失敗にしろ、短い付き合いとなるのは違いない。

放っておこう)」

 

どうでもいい決断が行われた後、決戦が始まる。

 

後世、『ディンゴー砂漠大戦』と称されることになるこの戦いは、幾つかの理由で浮遊要塞を持つ魔女側が圧倒的有利であるとされていた。

 

カーウェイ大佐は稀代の戦略家で、拠点を中心とした隙のない堅実な布陣を敷き、大量の無人機械兵器を投入。

元々無人機械兵器は魅了の力を持つ対魔女用に考案されたもので、ティンバーという豊富な資源地帯を手に入れたガルバディア軍の快進撃の原動力でもあった。

 

しかし、それも魔女を正面から叩き潰すとなると力不足であり、数を並べて疲労を強いるという消極的な戦術のために、数が用意されたに過ぎなかったのである。

そして、肝心の数でさえ、ガルバディア主力部隊を擁する魔女の側に分があった。

 

何をどうしても、カーウェイ軍には勝ち目がなかったのである。

D地区収容所という堅固な拠点を構えたことで、短期間での敗北がなくなったに過ぎない。

 

問題は、魔女の側がアデルという隠し玉を得ていたことと、カーウェイ軍側がSeedという隠し玉を得ていたことにある。

 

後世でも、戦闘に熟練した魔女とSeedでは、6対1で交換可能と言われていた。

さらにアルティミシアが控えているとなると、カーウェイ軍の敗色は濃厚だった。

 

ただ、だからこそ、カーウェイ軍を勝利に導いた存在が際立った。

 

 

 

アルティミシアとアデルが戦線に投入した、無数の魔物達、GFが、一斉にある1方向を向いた。

 

「なんだと……!なぜここにアレが出る!?」

 

そこにあったのは、黒い靄。

『次元の魔物』が出現する前兆である。

 

このタイミングを選択したのは、アデルである。

テレサが戦闘に参加できないタイミングでなければ、そもそも決戦に挑むことすら危険と彼女は判断していた。

 

アデル自身、過去に似たような誘いに乗ってエルオーネに近付き、油断から封印される羽目になったことがあるのだ。

慎重になるのは当然だった。

 

うろたえるな(ドントウォーリー)。ウィーが予想を外しただけのこと」

 

それでもアデルは落ち着いている。

 

「結局、テレサとやらがアレを倒さねばならんことに違いはない。

アレが我々を選択的に攻撃することはなかろう」

 

それでも、その見積もりは甘かったと言わざるを得ない。

 

この作戦を考えたアーヴァインは、エルオーネの接続能力によって、テレサが何をどの程度できるのかを、知っていたのだ。

つまり、この場で『次元の魔物』の出現を待たせたのは、テレサの力を利用するためである。

 

魔女はバラムガーデンについて調べている。

ならば、バラム平原で派手に戦っているテレサと『次元の魔物』の出現周期について調べていないわけがなく、テレサと直接対決せずに済むタイミングで仕掛けてくるのは、簡単に予想できた。

 

バラムガーデンを最大の脅威とした場合、テレサとバラムガーデンの最大部隊であるSeedを各個撃破することは、魔女にとって勝利へ向けた必須条件だからである。

要するに、アデルが共にあろうといなかろうと、魔女はこのタイミングで仕掛けざるを得ず、『次元の魔物』の出現条件を知らなかった魔女では、本当にまずいタイミングを選ぶことができなかったのだ。

 

そのため、うろたえようと落ち着いていようと、最早すべてが遅かった。

 

「“不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています”『直ちに使用を中止してください』

“ペポゥ、チンッチンットゥッ、選手入村、レベラッ、プリッ、レベラッ、チンッチンットゥッ、ショーターイ”『悪魔城外ドラキュラ(ながくくるしいたたかいだった)』」

「IGAAAAA!!」

 

黒い靄から出現した『ハリカルナッソス』は、何もさせてもらえずに氷の斧と槍で刻まれ、そのついでにガルバディアガーデンが崩れ始める。

 

この瞬間、拠点を失った魔女側は、拠点が健在なカーウェイ軍に対し、戦術上の勝ち目を失った。

 

「イッツクレイジー」

「馬鹿な、あれだけの相手を討伐するついでに、ガーデンを落としたというのか……!」

 

魔女2名とも、起きた現象に頬を引き攣らせる。

 

 

 

地上に引きずり降ろされた魔女2人の前に、8人のSeed達が立ち塞がる。

カーウェイ軍に紛れ込んでいたのだ。

依頼者であるデリングも了承済みで、ガルバディア兵の服が貸し出されており、こうして相対するまではSeedが紛れ込んでいるとは、魔女側も知らなかった。

もっとも、それは戦うのが魔女1人の予定だった8人の側も同じだったが。

 

「なんで魔女が2人いるんだ!?」

「知らないわよ!」

「でも、結局は倒してしまわないと、この戦争は終わらないわ」

「……(コイツまさか、魔女アデル、なのか?)」

 

Seed側に利点があるとすれば、この8人が基本的に地力で自分より強い敵を相手にし続けてきた、『次元の魔物』対策班ということである。

そのため、お互いの連携は完璧に近かった。

 

物理法則の限界を超えた速度で動き回るSeed達を、アデルもアルティミシアも、なかなか捉えることができなかった。

 

「小癪な……!『メイルシュトローム』」

 

広範囲を巻き込む攻撃魔法を使用しても、一瞬で効果範囲の外まで逃げられてしまう。

バリアで攻撃を弾くことはできるが、無限に続けていることはできない。

 

「“――”『クェイク』」

 

それでも、消耗を度外視して攻撃を続けるしかなかった。

新技術を知ってから戦闘に入るまで、準備時間があまりにも少なかったからである。

しかも、想定していたのはテレサだけで、『次元の魔物』を1年も相手し続けてきた対策班については、眼中になかった。

 

つまり、致命的に読みを外してしまったのだ。

 

「(魔女アデルよ、頼みがある)」

「(ファッツ?)」

「(テレサにイデア(このおんな)の魔女を継がせたい)」

「(……乗っ取るのか)」

 

魔女2人も、ただでは倒れなかった。

 

護衛と共に退避しつつある、この世界で最強の少女を乗っ取るために行動を始めたのである。

アデルも、このままでは2人とも倒れることは避けられないと気付いていた。

だから、その作戦に乗った。

 

「“――”『アルテマ』」

 

アデルは自分を巻き込んで、核爆発を発生させる。

しかし、敵はすぐに効果範囲の外に逃れていた。

 

究極の名を冠するこの魔法が、こうも力不足に悩まされることになろうとは、彼女自身予想だにしていなかった。

ここで逃れて、エスタを手中に収めて反抗しようとも、結局はバラムガーデンのSeedの存在が、世界の支配に対するネックとなってしまう。

 

だから、最強の存在であるテレサの乗っ取りを、成功させる必要があった。

アルティミシアが語った魔女の未来は、アデルにはどうでもよかったが、この上は一矢報いなければ気が済まない。

 

「ゴー!『メテオ』」

 

隕石を、アルティミシアを守るように降り注がせながら、アデルは叫ぶ。

 

「逃げた!?」「……(エルオーネの方向、ではない?)」

「スコール!ゼル!ニーダ!足止めだ!」

 

サイファーが気を散らしかけた他のメンバーに指示を出すことで、迷いを消す。

 

「『トルネド』」

「“あんなものを浮かべて喜ぶか、変態どもめ”『コジマは、まずい』」

 

魔女達にもう1つ誤算があるとすれば、バラムガーデン随一の天才児キスティスがテレサの領域に足を踏み入れていたことだろう。

もっとも、相性のせいか、条件があったが。

 

「“ヒトギライノ カクノ ポーション”『北斗残悔拳(ほくとざんかいけん)』」

 

アデルに投げつけられたのは、なぜか『ポーション』だった。

痛みや疲労を軽減する薬であり、全世界中で重宝されているもの。

それがバリアをすり抜けて、アデルの赤毛を濡らした。

 

「ホワイ、なんのつもりだ……?」

 

投げつけたキスティスは、地面に倒れ伏している。

 

アデルは、自分がなぜか戦場から離れていくのに気がつかなかった。

同時に、なぜか魔力が限界を超えて高まり続けていることにも。

 

「シュウ、キスティスを頼む」

「ええ、了解」

 

サイファーは気付いていた。

アデルはもう『終わった』ということに。

 

「残りはまま先生の方だ。行くぞ!」

「了解」「了解だもんよ!」

 

しかし、3人が追い付いた頃には、もうイデアの方も終わっていた。

色々な意味で、すべてが。

 

カーウェイ軍と魔女軍、魔女が呼び出した魔物が戦う砂漠から離れた場所で、核爆発のキノコ雲が噴き上がる。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回は決戦回でした。

色々と含みを残していますのが、その辺の説明はまた次で。



――――設定

『ハルカリナッソス』:FF5
『次元城』の玉座で戦う必須ボス。
キスで相手を操る(テレキネシス的な)能力があるらしく、そのために倒さなければ先へ進めない。
行動はたった3種類。
こちら全体をカエルにしてくる『クルルルル』と『ヘイスト』、それにHPが減ると使用してくる『ホーリー』。
HPは3万を超えており、対策を立てないと倒すのがかなり面倒。
開幕で『カーバンクル』の使用に成功すると、勝ちが確定する悲しきボスでもある。
FF5のボスはこんなんばっかか。

『メイルシュトローム』:
元々はノルウェー近辺の海で発生する大渦潮のこと。
そのためか、海や水に関連してこの名前が使われることが多い。

FF8ではなぜか重力を発生させる、魔女専用の魔法。
効果は、全体に現在HPの3/4の割合ダメージと、『カース』のステータス異常(いわゆるデバフ)。
『カース』は特殊技が使えなくなる異常で、それまで特殊技にばかり頼っていると辛い思いをすることになる。

イデア2回目とアルティミシアが使ってくるが、アデルや魔女連戦では使ってこないため、アルティミシアかイデアの魔女を継承した者専用と考えられる。

少々面倒だが、『カース』にST防御で耐性を付けてしまえば、特殊技の条件を満たしてくれるお助け魔法になり下がる。
ダメージは大きいが、割合ダメージである以上それだけで死ぬことはなく、性質を知っていれば特に恐くもなんともない。


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世界最強

8/8 台風が過ぎたと思ったらまだ雨降ってる。
8/12 5話ほど先の話を間違ってうpしてしまう。対処済み。申し訳ない。


「ふ……ふはは……やったぞ、ついに……!」

 

アルティミシアは、Seedにイデアを倒させることで、目論見通りテレサに魔女を継がせ、その肉体を乗っ取ることに成功した。

 

「なんだと……!」「マジかよ!?」「もうだめだ、おしまいだ……!」

 

せっかく、どうにかイデアを生きたまま倒すことに成功したスコール達は、そこに誕生した絶望に身構える。

 

「(とはいうものの、さすがに負担も大きいな。

あれだけのことをしたのだ、いたしかたないのかもしれん)」

 

アルティミシアは、非常に明晰に動く頭でこれからのことを考える。

少々頭痛がするものの、魔法の行使まで不可能というわけではなかった。

 

イデアに比べ、かなり記憶領域や思考速度といった脳機能が拡張されており、それも相当な無茶をした結果だということが判明した。

 

「ふむ……」

 

不思議な力など、欠片もない。

ただ、その概念を知っていたから目指しただけ。

そのためにあらゆることをして、情報を集め、実験を繰り返し、不断の努力の末に、ここまでの技術を築き上げた。

 

技術の開発者、そして『プログラマー』としては天才であろうとも、戦士、兵士として天才ではない。

なぜならば、一度戦場に出ると、自分自身の肉体を度外視してしまう性格だからである。

それは、兵士や戦士というよりも、『兵器』のそれに近かった。

 

アルティミシアは、テレサの記憶に残る技術を使用する。

地面や空気にわずかな魔力を浸透させ、そこに重なるように自分の肉体をめり込ませ、その反発力で加速するのだ。

 

「むおっ!?」

 

加減を失敗したせいか、一気に2kmほど移動してしまう。

なんとか着地するが、それを追ってきたスコール達と、気絶していたテレサを護衛していたデンネンが追い付いてきた。

 

「逃がさへんで!」

「チッ……!」

 

アルティミシアは舌打ちする。

 

今、相手にできる戦力ではない。

テレサの技術を十全に扱え、また、体調が万全ならばともかく、技術の制御が不完全な状態で勝てる相手ではない。

魔女の力をプラスしても意味がないことは、テレサの記憶が教えてくれた。

 

今のスコール達は、その4人だけで魔女を倒すことができる。

特にスコールは、戦闘の天才だった。

多少の技術的なハンデでは、簡単に引っ繰り返してしまう実力の持ち主。

 

今ぶつかるべきではない。

 

「“ザ・ワールド”『時よ止まれ』」

 

アルティミシアは、彼女の魔力、魔法をテレサの技術を少し利用して発動させる。

周囲の時間を停止させることで、逃げるまでだけでも時間を稼ごうというのだ。

 

技術の制御を完全にモノにするのは時間がかかるが、今は逃げ切れればいい。

 

そうして止まった時間の中を逃げようとして――。

 

――高速移動のその途中にいた、エスタ兵の蹴りに自分から突っ込んで、元の場所に押し戻された。

 

「ぐはっ!?」

 

ダメージを受け集中力が切れたため、時間停止が解ける。

 

この戦いにおける『最大のイレギュラー』の登場だった。

 

 

 

「やっふー」

 

青いスーツのマスクを外して、小柄な茶髪少女セルフィは、かつて同じ孤児院にいた仲間達に挨拶する。

 

「セルフィやないか!」

「なんでエスタ兵?」

「え、知り合い?」

「……」

「話は後や」

 

セルフィはアルティミシアに支配された親友が逃げようとするのを、また阻止する。

親友の顔面を遠慮なく蹴り飛ばして、押し返していた。

 

「なぜだ!時間を止めての移動を、なぜ防げる!

そんな技術はテレサの記憶にもないのだぞ!?」

「テレサ、アタシの勘だけは解明できへんかってんよ」

「なっ……!」

 

アルティミシアの顔が絶望に染まる。

そう、彼女は大きな思い違いをしていたのである。

 

この世界における最強は、テレサではなくセルフィなのだ。

親友達が大怪我をして、バラムガーデンへ向かってから、2年経過していたため、テレサは親友達がどれだけ鍛錬を重ねていたのか、知らなかった。

だから、テレサの記憶の中では、この瞬間まではテレサがこの世界で最強だったというわけである。

 

どれほどの頭脳を持った天才児であろうと、間違いは起こす。

テレサはそれをよく知っていたからこそ、バラムガーデンに判断を委ねたのだ。

 

「せやから、チョイ眠っといてな。

3日ほど、テレサの話聞いてとってくれへん?」

「ふざけ――げふっ!?」

 

セルフィの容赦ない攻撃で、アルティミシアは意識を飛ばされた。

 

 

 

「セフィ、だよね?」

「おー、アービン、マジでイケメンなってるやん」

 

かつての孤児院仲間達と再会を喜ぶセルフィ。

 

「スコール、こないだゴメンな、お姉ちゃん誘拐されてるんかと思ってたら、作戦やってんな」

「いいさ。加減してくれていたようだしな」

「いやまあ、アタシの動き『見える』ようなんがガルバディア一般兵なわけないやん?」

「確かに……(かといって、作戦の中核だったから、お姉ちゃんを渡すわけにもいかなかったんだよな)」

 

それで思い出したのか、スコールは尋ねる。

 

「そういえば、トラビアガーデンへミサイルが撃ち込まれると言った時、何か言いかけていたが、まさか、撃ち落としたのか?」

「うん。ばっちり。

逆にミサイル基地に叩き返そうかとか思っててんけど、基地爆破ミッションとかやってたらアレやし、落とした方が丸いかなって」

「我ながら下手な脅しだと思っていたが……」

 

素で対応できる人間だったわけだ。

 

「でも、ガルバディア軍と協力して魔女と戦っててんやな。

予定と大分ちゃうかったから、びっくりしたで」

「予定?」

「あー、うん、どこがええかな。とりあえず移動しよ」

 

セルフィはぐったりしたテレサの身体を抱え上げた。

 

「そうだな。もうすぐサイファー達が来るはずだ」

 

スコールは頷く。

込み入った話は、バラムガーデンに帰ってからでいいはずだ。

 

遠くで、核爆発のキノコ雲が噴き上がるのが見え、その後大地を揺るがす爆音が響いてきた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
セルフィ参入です。
『最大のイレギュラー』とは、実はセルフィのことだったんだよ!(白目)

時を止めるというのは、ディシディアが元ではあるんですが、FF8本編でも似たようなことをしているようなシーンがあったりします。
ティンバー放送局で、サイファーを追ってきたキスティスやスコール達を止めるシーンですね。
その間に時間の経過がどうなっているのかは分かりませんでしたが、一定範囲の時間を止める魔法だとしました。
アレを再現した『全体化100%ストップ』とか、戦闘で使われると結構ヤバかったんですが、イデア2回目でも『スロウ』を単体にしか使ってこないので、難易度はそこまで高くない感じです。

次は色々な意味で説明回ですね。



――――設定

『ストップ』:時空魔法
敵味方単体の時間を止めるという強力な魔法。
その強力すぎる効果ゆえに、効果時間が短いことが多々あるが、FF9では効果が切れないため、即死と同等の強力な魔法となっている。

特に3Dモーションが取り入れられたFF7以降、時間停止は敵のモーションをカットする意味でそこそこ重要な役割を持つようになった。
ダメージモーション、クリティカルダメージモーションの長い敵と戦う際など、短時間でも使って損はない。
また、3D以前でも、敵のカウンター行動やファイナルアタック行動をキャンセルできるため、縛りプレイなどでは重宝されることが多い。

FF8では、ST攻撃にセットするという使い道があり、『ストップ』への耐性が弱い敵に対して、かなり強力に効果を発揮する。
ボスの大半には通じないが、カード狩りの際など、モンスターのモーションやカウンター行動をカットするのにストック数消費なしはかなり有用。

『時空魔法精製』によって『魔導石』から入手すれば、ティンバー前に揃えることができる。
しかし、逆に言えば普通プレイ時に役立つかというと微妙。
モーションや経験値を気にしなければ、『デス』や『スリプル』の方が効きやすく強力なことも多い。

D地区収容所:アルティマニア情報
ガルバディアによって税金を湯水のごとく投入して建設された、政治犯用の監獄。
地下へ潜る機能を有するため、許可のない潜入や脱走が極めて難しい。

合計15層もあり、中央の吹き抜けにはエレベータが設置されている。
独房はこのエレベータによって直接運ばれる構造。
また、擬似魔法を著しく減衰させるフィールドが常時展開されており、内部では擬似魔法やGF召喚の威力がかなり落ちてしまう。
ただ、GFのドーピング効果は減衰されない模様。

同じ風景の場所を延々と歩かされるため、ダンジョンとしては冗長的になりやすい。
イベントのない階層を中心に3階層ほど削ってもよかったかもしれない。

ちなみに、内部にいる囚人にカードゲームで勝つとアイテムをもらえ、ガーデン生に勝つとバトル計を改造してもらえる。
特に囚人はドーピングアイテムや『ロゼッタ石』などのレアアイテムをくれることがあり、さらに『ハイポーション改』を精製以外で入手可能な唯一の場所でもある。


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多分、これが一番原作無視していると思います。
セルフィの説明回


8/8 筆が進む。


――これは一体、どういうこと?

 

アルティミシアは、無数の液晶モニタで埋め尽くされた部屋、テレサの精神世界に戸惑う。

 

通常、人間はこうもはっきりと精神世界が描かれることがないのだ。

そこに他者が入ると、強い拒絶反応を示す。

それを力でねじ伏せることができるからこそ、アルティミシアは『ジャンクションマシーン・エルオーネ』を利用して、過去の世界で活動することができていた。

 

しかし、テレサの精神世界は全くの逆。

最初からテレサ以外の人間に精神を開け渡すことを、全く躊躇っていない。

他者に判断を委ねる。

その在り様は、兵士や戦士などではなく、『兵器』のそれに近い。

 

世界をも滅ぼすことができる力を持ちながら、肝心の自分自身の意思を切って捨てた人間。

それがテレサという少女。

 

ただ、アルティミシアが戸惑ったのはそこではない。

 

――なぜお前は、肉体と(・・・)精神が(・・・)まるで(・・・)違うの(・・・)

 

同じ黒髪少女でも、テレサの外見と精神世界での姿はまるで違った。

肉体的な外見は、おそらくガルバディア人とトラビア人の混血児。

精神的な外見は、日本人(・・・)だった。

 

実際に幼いのではなく、日本人という人種の特徴として幼く見えるだけ。

それは彼女の転生前の姿だった。

 

……――。

 

その声は小さい。

精神世界なため、語りかけられれば聞こえるのだが、声の小ささは隠しようもなかった。

 

――リノアに似ている?

――当然でしょう。私は彼女の子孫なのだから。

 

……!――。

 

――『ファイナルファンタジー8』?平行世界?

――何を言っている?

 

アルティミシアの戸惑いは大きくなるばかり。

 

 

 

ディンゴー砂漠での決戦の後。

任務完了したことで、Seed達はバラムガーデンへ帰還していた。

 

カーウェイ軍は、魔女が放った魔物を討伐し、ガルバディア主力部隊と合流し、機械兵器の制御を取り戻すと、デリングシティに魅了の影響が残っていないかを確認しに向かった。

ティンバーを再度占領するかどうかは今後検討が必要とカーウェイは言っていた。

 

大義名分であるエスタ軍への対抗策は、新技術を導入したバラムガーデンの存在によって崩れて消えた。

これから急いで軍縮を行い、さらに大規模な改革も必要になるだろう。

今までデリング大統領が好き勝手してきた分の後始末が待っていた。

しばらく、ガルバディアは動けない。

動く意味も失った。

 

なにしろ、肝心の魔女アデルがなぜか戦いに参加し、しかも倒せてしまったのである。

それはつまり、エスタが解放され、世界に一定の平和が戻ったことを意味していた。

 

 

 

バラムガーデンの学園長室。

 

「けっこーややこしいんやけど。

エスタ軍特殊技術研究室所属の傭兵セルフィ・ティルミットやで」

「軍属なのか?傭兵なのか?」

「傭兵やね」

 

サイファーの問いにセルフィは答えた。

 

「よくエスタ政府が許しましたね。

テレサ君と同等以上ということは、セルフィ君1人でエスタ軍に勝てる、ということでしょう?」

「分かりやすく言うたら、オダイン研究所所属の傭兵やねん。

クレアが擬似魔法の研究設備欲しがってたし、アタシはアタシでこの特製強化服欲しかったし」

「研究所所属の傭兵ですか?」

「あそこ、いちおう、大統領の直轄部署やから。命令来る時は、大統領官邸から直接なんよ」

「なるほど……」

 

つまり、世界最先端の科学技術を求めて、セルフィとクレアはエスタへと渡ったのだ。

 

「それで、チョイチョイこっち来ながら情報集めて、タイミング見計らっとってん」

「つまり今、セルフィ君は独断でここにいるのですか?」

「許可は大統領が出してくれてんよ」

「剛毅なことですね」

 

エスタ軍を単独で滅ぼせる戦力に、自由行動を許しているのである。

 

テレサが来た時にガーデン内で激論が交わされたのは、まさしく自由行動させておくかどうかだった。

後で、テレサを留めておく方法がないため、割り切るしかないと判明しても、なかなか納得できないという教員や事務員達は少なくなかった。

 

大き過ぎる戦力というのは、それだけ無用なトラブルを招く可能性があるのだ。

 

「そういや、エスタって、今どうなってんだ?

魔女アデルがなんであそこきてたのかとか、こっちは分からねえことだらけなんだ」

「魔女アデルって、17年前に封印されてたんよ。

『アデルセメタリー』って、封印施設が宇宙に打ち上げられてて、半年に1回大統領が封印の状態を直接チェックしに行くねん。

アタシも見たことあんねんけど、なんでか知らんけど、ガルバディアガーデンの瓦礫の中に『アデルセメタリー』見かけたで」

「ということは、エスタはもう17年前に解放されていた、ということですか?」

「そゆことやね」

 

サイファーとシド学園長は驚く。

 

ガルバディアがティンバーを支配し続けた大義名分は、誰も知らなかったとはいえ、17年前には崩れていたのだ。

 

「あのアデルも相当強かったぞ。17年前ってことは、アレに変態技術もGFもナシで、生身で勝ったってことだろ?」

「なんか、封印装置の前に呼び出して、油断してる隙に封印したって言うてたで」

「マジかよ……」

「それでも、素晴らしい知恵と勇気ですね」

 

そして、シド学園長は尋ねる。

 

「それで、セルフィ君は、どのような用向きでこちらへ?

バラムガーデンという意味ではなく、ガルバディアでの決戦に参加したのか、という意味です」

「うん、その話もするつもりで来てんやけど、テレサのサポートする約束やったんよ」

「『次元の魔物』のことだったら、もっと早くてよかったんじゃねえのか?」

「サイファー、なんで『次元の魔物』て呼んでるんか、知っとる?」

「そりゃ、別世界から来たからだろ?」

「その別世界から来たて、誰が言うたか知っとる?」

「テレサ君、ですか?」

「シドさん、当たり」

「それがどうかしたのか?」

「どこかから魔女が召喚したのだとは、なぜ考えなかったのでしょう?

――ということです」

「――!」

 

サイファーは息を呑んだ。

 

確かに、この世界において、不思議なことは大抵GFと魔女で説明がつく。

普通は説明のできないことは、魔女の仕業にするのだ。

この世界の人間は、そういう風に教育されており、特段の事情がなければそう考えるように仕込まれている。

 

しかし、テレサだけはそうは考えなかった。

真っ先に、『次元の魔物』と呼び、魔女とは関係のない現象であるとして、それが今現在、バラムガーデンにも定着している。

 

魔女ができることとできないことについて詳しく知る、シド学園長ならばともかく。

 

「そもそも、今回のことに至る直前、私はテレサ君に聞いたことがあります。

最近の『次元の魔物』は、明らかに魔女と同等かそれ以上の力を有しており、テレサ君は楽にとは言いませんが、それを倒してのけています。

まるで、魔女以上の相手と戦うために、鍛錬を積んできたのではないかとしか思えないほどの力を有していたわけです。

彼女は、そこまで力を付けた目的について、『次元の魔物』を送り込んでいる何者かがいる、と教えてくれました。

それは、おそらく魔女ではなく、魔女よりも遥かに高い力を有しているのでしょう」

「やっぱスゴいんやな。シドさん。説明してへんかったデンネン先生もどないかって思うんやけど」

 

セルフィは、テレサが完全な異世界から来た、転生者であるということと、その証拠があるということを話した。

 

「まま先生を支配してたアルティミシア。その協力が欲しいねん。

ホンマにヤバいやつ倒さへんかったら、この世界、未来もまるごと滅ぶんよ」




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
説明回でした。
ここから、本格的にアルティミシアと協力してエクスデスを倒すための行動となります。

幾つかルートがあって、他にも『時間圧縮』を利用してFF5の側に乗り込むか、エクスデスが来てから倒すか、決めていませんでした。
このルートになったのは、アルティミシアがテレサを支配するために、イデアの魔女を無理矢理継承させたからです。
それまでは本当にどのルートにするか、決めていませんでした。



――――解説

アルティミシア:考察、独自設定
未来の魔女と銘打たれた魔女。
アルティミシアという名前も本名かどうか不明。(アルテマをもじった?)
アルティマニアにも詳しい説明はなく、ゲーム中のセリフなどから類推するしかない。
(フロム脳がはかどる)

現在分かっているのは以下の通り。
・ガーデンとSeedを憎んでいる。
・人々に対して恐怖の魔女を演出しようとしている。
・原作時点12年前より以前の過去からの時間圧縮を目指している。

また、『月の涙』を発生させ、アデルを復活させた理由にも謎が残る。
あの時点では、リノアの肉体に留まっているだけで、オダインが勝手にエルオーネの力を使って時間圧縮させ、アルティミシアを倒す算段を付けていた可能性が高い。
そもそも、単に時間圧縮だけが目的ならば、12年前の時点でシドを騙すなりしてエルオーネの力を借り、可能な限り遠い過去に飛ばしてもらうこともできたはず。
もっとも、ガーデンとSeedへの憎しみから、感情的にそれができなかった可能性はある。

これらの不合理から、アルティミシアの目的は、魔女の力を消すことそのものだという説もあり、リノアル説誕生の原因にもなった。
(まさしくフロム脳)

これに関する公式の見解はない。(2017年8月8日現在)


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おとなのみりき

8/10 なぜここまで筆が進むのかと思ったら、読者からの反応があるからだと気付いた。


「むむむ……」

 

アルティミシアは呻いた。

 

この世界、この時代に、時間圧縮どころではない危機が迫っていると知らされ、話をするしかなくなったのである。

 

テレサの精神世界では『マインドフレイア』と『キングベヒんモス』の証言があり、現実ではテレサに依頼を告げ、転生させた神の様子が記された、どうやって動いているのか、未来の技術でも解析不能な『タブレット』を見せられ、信じざるを得なくなった。

 

実際、『次元の魔物』には不可解な部分が多いのだ。

 

「私はこの『目』を用いて、バラムガーデンを調査していた。

その際に1度『次元の魔物』を見た」

 

テレサの身体を操りアルティミシアは呟く。

乗っ取っているというよりも、人形を操っているという感覚が近い。

それほどにテレサの意思による抵抗がないのだ。

 

「その際の疑問は、3つだ。

1つは、『次元の魔物』という呼び名。

もう1つは、『次元の魔物』の異常な強さ。

最後に、『次元の魔物』の出所だ」

 

場所はエスタ、オダイン研究所。

 

魔女アルティミシアの協力を得るにあたって、作戦会議をする場所として、セルフィが提案したのがここだった。

最新科学によって、テレサが開発した新技術を、セルフィとクレアが持ち込み、さらに発展させるべく研究を繰り返していた場所でもある。

 

「『次元の魔物』て、テレサが言い出したことやね。

最初はゲームから持ってきたんか思ててんけど」

 

白衣に帽子の少女クレアが呟く。

研究職になっていたらしい。だからエスタから離れなかったのか。

 

「この娘が創作した造語ではあるようだ。

そして、今まさに関係している別世界の物語が元となったゲームから持ってきておる。

この世界も、まったくの無関係というわけではないらしい」

「あんま嬉しない正解やな」

 

クレアは顔をしかめた。

 

「じゃあ、次は『次元の魔物』の強さだな」

 

シャツとズボンとサンダルという、その辺のオヤジといった恰好の男が先を促す。

 

「……(コレがエスタ大統領……?)」

「(しかもスコールのパパだったり)」

 

別にスコールの心の声が聞こえていたりはしないのだが、エルオーネはまるで聞こえているかのように心の中で付け足す。

 

この会談に呼ばれたエルオーネが選んだ護衛がスコールだった。

エルオーネの護衛はスコールと自然に決まったように見えたが、エルオーネにはスコールとエスタ大統領ラグナを逢わせるという目的もあった。

 

「オダインも『次元の魔物』の映像データを見たでおじゃるが、なかなかとてつもないものでおじゃるな。

おそらく、『次元の挟間』という場所に魔力が満ちているために、あのように強くなったのでおじゃろう」

 

珍妙な格好をした老科学者オダインが勝手に説明を始める。

 

「魔力が満ちた場所で生活しているだけで、ああはならないでしょ?」

 

これはキスティス。

 

彼女は魔女アデルの魔女を受け継いでおり、今回の会談に参加することになった。

おそらく、魔女アデルを直接倒したためだろうと考えられているが、詳しいことは分かっていない。

魔女継承の法則は、まだ解明されていないのだ。

一応、エルオーネの護衛を兼ねている。

 

「タブレットには、『危険な魔物が封印される場所』とあったでおじゃる。

つまり、『次元の挟間』は一種の流刑地だったということでおじゃるな。

邪悪な存在が送り込まれた先が、魔力に満ちた『次元の挟間』であったなら、その大半は積極的に魔力を取り込み、より大きな力を得ようとするのでおじゃろう。

すなわち、『次元の魔物』とは、理屈上は雑魚であろうとも魔女と同等の力を持つのでおじゃるよ」

「参ったぜ、そんなのさすがに想定してねえや」

 

ラグナは頭を抱えた。

 

「特殊技術実験部隊という備えはあるだろう?」

「そうは言うけどよ、数足りるか?」

「『別に全部が乗り込んでくるわけじゃないんだろ?』とウォードは言っているが」

「そうなのか?」

「そもそも、こっちから乗り込んで本命倒したら、こっちの世界は助かるんやで」

「それ、あっちの世界はどうなるんだ?」

「――!」

 

ラグナが当然のように口にした言葉に、アルティミシアは息を呑んだ。

 

「(コイツ、こちらの世界だけでなく、あちらの世界も救う気か……!)」

 

欠片も考えていなかった。

 

「推測はできるんやけど、アッチ行ってみいへんかったら何とも言えへんわ」

「推測できるの?」

「テレサの記憶頼みやから、推測の域出えへんねん。

この世界の情報やって、平行世界になってて、記憶の情報とちゃうことようさん出てきてるし」

 

クレアは後ろ頭を掻きながら答える。

 

「アッチの世界て、『クリスタル』が世界を維持しよったんよ。

でも、『クリスタル』が壊されて、しかも『無』っちゅうもんに呑まれてしもとる。

情報通りやったら、ホンマは勝つはずやったヒーローが持ってる『クリスタル』の力で、呑まれたとこが再構築されるんやけど……」

「情報通りかどうかはわからんのでおじゃる」

「そう上手くはいかないのね……」

 

キスティスは溜息を吐いた。

 

珍しくスコールが口を開く。

 

「物語と言っていたが、未来の情報が分かったりするのか?」

「んー、当たるわけあらへん情報でエエんやったら」

「当たらない?」

「デリングシティでパレードの時に、魔女暗殺ミッションでイデアさんに挑んで負ける」

「なかったな」

「D地区収容所脱出した後に、ミサイルがトラビアガーデンに撃たれて壊滅。

コレはセルフィがなんとかした。

バラムがガルバディア軍に占領されたり、F.H.がガルバディア軍に襲撃されたりとか、アルティミシアがここにおったら、もうありえへん。

そもそも、イデアさんの魔女継承するん、リノアっちゅう女の子やし」

「……そうか、それはそれでよかった……のか?」

「ディンゴー砂漠の決戦はどうなの?」

「バラムガーデンとガルバディアガーデンの決戦がセントラ大陸ってなっとる」

「ああ、バラムガーデンが飛んだんだな。ガルバディアガーデンと同じように」

「なるほど……もう、かなり違ってるわけね」

 

もう原作通りにはならない。

実はそれは2年前、セルフィとクレアがエスタに向かった時に決まっていたのだが、その情報は必要ないだろう。

 

いずれにせよ、テレサの原作情報は、未来予知とするにはアテにならず、世界観に関しても、歯抜けが多く、アテにならないのが現状だ。

 

「ところで、アルティミシア、でいいんだよな」

 

ラグナがアルティミシアに声をかける。

 

「あんた、結局何がやりたかったんだ?」

「なぜそんなことを聞く?」

「いや、あんたが時間圧縮したいってことまでは分かってんだが、そもそも目的が分かってたら、俺らでどうにかできることもあるんじゃねえかって思ってな」

「……!(この男、私まで救おうというのか……!)」

 

アルティミシアの心は揺れる。

 

「そうは言うがラグナ君。もし彼女がアデルのように話が通じない魔女だったら、どうするつもりだ?」

「そりゃここに来て、話をしてくれてんじゃねっかよ~!」

「……」「む……」

 

大男ウォードに言われて、キロスは口を噤む。

『珍しく言い負かされたな』とでも言われたらしい。

ウォードは過去、エスタ兵に咽喉をやられており、声が出なくなっていた。

しかし、なぜかラグナとキロスは意思疎通ができるのだ。

『顔を見ればわかる』とはラグナの弁だが。

 

「……私の目的は……」

 

アルティミシアは、ラグナからの善意の圧力に耐え切れなくなり、口を開く。

 

「(なんだ?魔力も技術もない、GFの力すらない、ただの人間のはずなのに)」

 

最初は打算も混じっていた。

あの酷い未来を回避できる可能性が少しでもあるのなら。

そう考えたのだ。

 

しかし、話している内に感情的になり、いつしか涙を流している自分がいた。

自分の言葉が切って捨てられず、受け入れられるなど、彼女は長く経験していなかったのである。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
主に情報交換ですね。

バラムガーデンでは、主に制服教員が自分達に都合のいいところだけ取り入れようとしていましたが、エスタでは最初からエクスデス対策の研究が進められていました。
これも器の違いというやつですね。



――――設定

エスタ:アルティマニア情報、独自設定
17年前に他国との交流を断ち、いわゆる鎖国状態にある国。
元々優れた科学技術を持った国だったが、次第に軍事国家へ傾倒していき(この時F.H.独立と思われる)、魔女戦争の際は世界を相手に戦った。

魔女アデルによる支配から、独裁体制を倒す動きが活発化し、魔女の封印に成功したラグナを大統領に多数の補佐官がサポートする、共和制へ移行している。
17年もラグナが大統領をしているが、民衆から不満は出ていないらしく、エスタ市街の大きさに比べて、エスタ兵の数は少ない印象。

鎖国は、エスタの進み過ぎた科学技術が漏れることによる混乱を懸念してのもの。
エスタへの渡航は、大陸を囲むように張り巡らされた光学迷彩装置によって遮断されており、都市の位置さえ分からないという徹底ぶり。
そのため、エスタへ渡航する、空路以外の現実的な方法は、現在は閉鎖されているホライズンブリッジを歩いて渡るか、稀に出てくるエスタ軍の船に乗せてもらうかのどちらか。

軍隊はハイテク技術を応用した兵器を配備しており、規模も世界最大と、今なお世界最大の軍事大国を維持している。
ただし、軍の規模は必ずしも国力、人間を犠牲にしておらず、アンドロイドや機械兵器、強化服を用いたコスト低減が進められている。
逆に、アデル時代の状況を知らない若い人間の兵士は強化服に頼る傾向が強く、運動不足が懸念されている。

開発されているアンドロイド『ターミネータ』はカードバトルもこなせるほど優秀で、ゲーム中でも一般のエスタ兵より若干強い。生身のエスタ兵の存在意義が問われるが、どうやら『ターミネータ』は生産や維持費が高いため、あまり多くは導入されていない模様。

この小説では、セルフィとクレアがもたらした新技術を解析し、導入した特殊部隊が存在する。
筋力補助はGFの代わりに特製の強化服にて行われている。


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未来の記憶

8/11 原作メインヒロインの面目躍如(白目


アルティミシアが涙ながらに語った未来の世界は、壮絶なものだった。

 

「まずこの時代に発生したのは、『月の涙』とアデルの復活だ」

 

つまり、エスタ軍が海中に投棄した『月の涙』を意図的に発生させる装置、『ルナティックパンドラ』が引き上げられ、エスタの『ティアーズポイント』に到達。

エスタが壊滅し、月から地球へ移動する魔物の群れに『アデルセメタリー』が巻き込まれて、『ルナティックパンドラ』に直撃。

さらに『ルナサイドベース』が巻き込まれて地上へ落下、その破片が魔女封印施設を破壊してしまった。

 

対抗手段がほぼすべて失われてしまった中、復活した魔女アデルは、今までの憎しみから猛威を振るい始めた。

力を取り戻して『ルナティックパンドラ』を掌握すると、次々と別の大陸に『月の涙』を発生させ、地上を魔物で溢れさせていったのである。

 

それに対抗したのは、当時3つ健在だったガーデンだった。

それでも多大な犠牲を払い、5年かけてようやく魔女アデルを撃破することに成功したのだが、そこからが本当の地獄となる。

 

多くの都市が壊滅し、真相を知る英雄達が死んでいったため、『魔女をすべて倒せばこの地獄は終わる』というデマを信じて、執拗に魔女を狩り始めたのだ。

デマを流したのは魔女アデルとの戦いで大きく勢力を減じたシド・クレイマー学園長と対立していた一派だったらしい。

 

彼らは魔女アデルを倒したガーデンの英雄達、『伝説のSeed』を祀り上げながら、ガーデンの運営からは追放し、自分達に都合のいい偽情報を人々に植え付け、金儲けを企んだ。

 

世界に満ち溢れた魔物を掃討しつつ、デマを広めていった彼らは、情勢が落ち着いてきた頃に世界中で魔女狩りが始まったところに飛び付いた。

魔女に対抗できるのはSeedだけという情報も流し、魔女とそれを憎む人々を利用して、争いを生み出して金儲けを行う、いわゆる『死の商人』のようなことを始めたのだ。

 

そうして今から100年以上後、『ガーデン支配期』と呼ばれる時代の、最後に生まれたのがアルティミシアである。

 

彼女は魔女達から魔女の力を集め、1人で強大な魔力を制御して見せると、ガーデンを倒した。

しかし、その時にはすべてが遅かった。

 

当初あった金儲けという理念すら消えてなくなったガーデンは、自分達が流した魔女への憎しみに支配された、魔女狩りの装置となり果てていたからである。

ガーデンは倒れても、魔女への憎しみは消えることがなかった。

 

さらにその時には一般人への被害を顧みない過度な魔女狩りにより、世界の人口は激減していた。

 

望まずに世界を支配する魔女となったアルティミシアは、次第に人を遠ざけ、GFや魔物を傍に置くようになった。

苦しい思いをして強大な力を得て、世界の歪みの中心であるガーデンとSeedを倒し。

しかし、魔女を巡る環境は何も変わらなかった。

 

失意に打ちひしがれるアルティミシアは、しばらくして『ジャンクションマシーン・エルオーネ』の完成品と出会う。

 

「私の目的は、『始まりの魔女』、魔女アデルの存在を歴史から消すことだ」

 

アルティミシアは告げた。

 

規模は違えど、方向性はエルオーネのそれと同じ。

『過去を変えること』。

 

 

 

……!――。

 

テレサの精神世界では、アルティミシアが見せた未来の記憶を見て、テレサがはしゃいでいた。

 

魔女アデルの魔力によって凶悪に変形した『ルナティックパンドラ』に対抗するべく、3つのガーデンが合体していたからである。

それによって『ルナティックパンドラ』を覆っていたバリアを突破。

大迫力の要塞戦が繰り広げられていた。

 

浮遊していてもどう考えても合体できなさそうな構造に見えたのだが、そこはセントラの古代技術。

ガルバティアガーデンがダイナミックに展開し、バラムガーデンの鏡餅の下半分を包み込むと、その上から下側が展開したトラビアガーデンが半包囲状に蓋をすることで、まるで『ハマグリ』のような外観となっていた。

 

最早なんでもアリである。

 

――私の印象だが、これは魔女が作ったものかもしれん。

 

……?――。

 

――元々は魔女の拠点だったのだろう。

――それを決戦の時は合体させて、エネルギー出力を束ねてバリアを強固にする。

――そうでなければ、私の城のバリアが突破された時の出力を説明できん。

 

皮肉なものである。

 

邪悪な欲望に支配された魔女に対抗するための理念は魔女イデアのもので、ガーデンの建物、GFの利用法も、元々は魔女のものだったのだ。

 

――しかし、目的を遂げてみれば、実に情報不足だったのだと痛感するよ。

――私は感情的にガーデンを破壊しようとしたが、ラグナ大統領を生かしておくだけでよかったとはな。

 

……?――。

 

――ああ、魔女アデルがこの時点で倒れたのは、嬉しい誤算だった。

――魔女アデルを倒せる戦力を整えてくれたお前には礼を言う。

――これで未来にも少しは救いがあるだろう。

 

――レイにはマダはやいのである。

 

――わかっているとも。

――エクスデスとやらを倒せねば、結局のところ未来は消えてなくなる。

――この世界の未来を地獄としたのは、魔女アデルではなくエクスデスやもしれん。

――なれば、手など抜かん。全力でやらせてもらおう。

 

おそらく前代未聞、アルティミシアの協力が決定した。

 

 

 

そんな決意を見せる未来の魔女に、テレサは言う。

 

……――。

 

――なに?私を封じる方法?

 

……――。

 

――リノア?あの娘がどうした?

 

……――。

 

――!?

 

……――。

 

――!!!

 

なんと言われたのかは、秘密である。

ともかく、これ以降、アルティミシアはこの時代であまり余計なことはしなくなったという。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
この二次小説のアルティミシアは、原作のアルティミシアとは多分別人です。

いや、ね。
イデアのセリフで『邪悪な魔女』ってありますから。
まあ、結局私が整理し切れなかったってだけなんですが。

アルティミシアが倒される間際、色々と意味深なセリフを吐くんです。
そこから、どちらかというと大切な人を交通事故で亡くして、その悲しみと怒りを発散できなくなった結果、狂ってしまったケースなんじゃないかと。
そんな想像をしてみました。



――――設定

『月の涙』:
古来から何十年という周期で発生する、甚大な被害をもたらす現象として知られてきた。
地上と月の重力異常によって、地上に大量の魔物が降り注ぐ現象のこと。
フィールドではトラビアクレーターとセントラクレーターにてその被害の規模が確認できる。
また、月から降り注いだ魔物が地上の動物を狂わせることがある。

トラビアクレーターは地面が抉れて黒くなっている。
それと、ゲーム中にバラムガーデンで乗り越えようとすると、『計器が狂う』というニーダのセリフと共に押し戻される。
徒歩やチョコボでも越えることができない。
ラグナがどうやってトラビア渓谷へ辿り着いたのかは不明。

セントラクレーターは分かりにくいが、ワールドマップでクレーターの大半が海に沈んでいることが確認できる。
大陸の大半が抉れており、セントラ大陸にあった文明がどれほど大きかろうと壊滅したのは仕方がないと思わせる破壊痕となっている。
セントラが滅んだ『月の涙』発生時は、月から『大石柱』という巨大な質量体が降ってきたとされる。
クレーターの巨大さはそれが原因と考えられる。
(元々『月の涙』とは大量の魔物が降ってくるものなので、中枢機能の壊滅と無数の魔物は致命的)

『ルナティックパンドラ』:
エスタ軍が『月の涙』を引き起こす結晶物質である『大石柱』を掘り起こし、浮遊装置を取り付けて移動可能にし要塞化した代物。
大きさはバラムガーデンの10倍近くにもなり、周囲にはバリアが張られている。
17年前に建造され(おそらくアデルの命令)、その後ラグナが中心となって海中に投棄された。

エスタの『月の涙』:ゲーム中
ゲーム中、ガルバディア軍が海中から引っ張り上げた『ルナティックパンドラ』によって発生し、周辺のモンスターの出現率を大きく塗り替える。
トラビアやセントラと違い、クレーターはできていないが、多くの魔物がエスタ市街へ直接降り注いでおり、エスタの中枢機能は停止していないものの、市街は半壊状態となった。

また、電磁波に影響を及ぼすらしく、発生直後はエスタの移動手段であるリフターが暴走して壁などに衝突、停止しており、その後リフターは撤去されている。
ただ、大統領官邸に入るためのリフターだったりオダイン研究所内のリフターは稼働している。(ご都合主義?)


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もう1人のツッコミ役

8/12 まさかの誤投稿。修正済み。超恥ずかしい。


「ヘイホー!」「ヘイホー!」「ヘイホー!」

 

エスタ軍特殊技術実験部隊、通称『ヘイホー隊』の訓練風景を見て、アルティミシアは頭を抱えたくなった。

 

「そういえば、協力するということはこういうことだったな……」

「バラムガーデンで研究しているのとは少し違うのね……カサカサカサカサカサ」

「そら、GF前提なんと強化服前提なんはちゃうて。ユクゾッユクゾッユクゾッ」

 

いつもの鍛錬を、世間話を交えつつ行う変態達は、一体どこへ向かっているのだろうか。

 

「そーいや、キスティてどの辺までいけるん?」

「移動は苦手なんだけど、改造『バーサク』込みでなら『任意コード』ができるようになってるわ。アデルもそれで倒したのよ」

「おー、やるやん」

「ちなみに、直線の速度だけならゼルがトップ。

移動距離と回避能力ならサイファー、スコールは擬似魔法禁止のテレサに勝ったっていう実績があるわ」

「お、おぅ……」

「アーヴァインだけはガルバディアガーデンだったから、こっちの練習はしてなかったんだけど……」

「例のアレやな。ガルバディアガーデンの進路誘導した作戦」

「ええ、アレは私も驚いたわ」

「結局、この技術て、相手の位置分からへんかったら、どないしようもないんよな」

 

相手の居場所が分からなければ、どんな敵も倒せない。

当たり前のことだが、それはこの技術の大きな欠点となっていた。

 

アーヴァインは誘導作戦を立てることで、それを補ったのだ。

 

「今回のMVPはアービンやね」

「それがねえ。ちょっと作戦がうまくハマり過ぎたせいで、別方向の意味で私達と同類に見られるようになったのがショックだったみたい」

「そらまた、難儀やな」

「そういえば、テレサは最初の頃、ドゥエってたけど、アレって実はあんまり効率がいい移動方法じゃなかったんでしょ?」

「あー、多分クセやったんちゃうかな。

トラビアて雪とか岩場とか多いから、小刻みにジャンプした方が有利やねん」

「ああ、それで……」

 

普通の世間話だが、キスティスとセルフィの2人は超高速で移動しながらである。

今はセルフィがキスティスの移動速度に合わせているのだが。

 

「ついて行くのがやっととは……」

 

同じく練習していたアルティミシアは、呻いた。

 

「ホッホー!」「ヒアウィ!」「ヘイホー!」

 

ヘイホー隊の掛け声が訓練場に響く。

 

 

 

……?――。

 

テレサの精神世界でも、アルティミシアと打ち合わせが行われていた。

とはいえ、やることは限られているため、今はテレサがアルティミシアの記憶を確認している。

 

――アデルか。あの口調に関しては私も分からん。

――拗ねられても面倒だから、指摘はしなかったが。

 

……――。

 

――ああ、苦労していたとも。

――敵は絶望的なほど強そうだし、なのにデリングは突っ走るし。

――おかげで動かざるを得なくなり、アーヴァインとかいう小僧の作戦に引っ掛かってあのザマだ。

――アデルと共闘が成立しなければ、私は逃げ回りながら戦うつもりだった。

 

……――。

 

――そうだろう。

――まあ、結果論ではあるんだが。

 

アルティミシアは盛大に愚痴っていた。

 

 

 

「はーい、オッケーやでー。ちょい休憩しよかー」

 

オダイン研究所では、スコールとシュウがGF前提の新技術について、エスタの最新設備で検査していた。

 

「さすがテレサやなー。エスタの設備なしでここまで合わせれるんやから」

「テレサって、どういう子だったの?」

「努力が明後日の方向に飛んで行って、なんでか成功する子やったでー」

「……(わかる)」

 

スコールとシュウの印象では、このクレアという少女は、物腰柔らかで落ち着いた雰囲気があった。

セルフィやテレサの親友とは思えない、地味で縁の下の力持ちタイプ。

 

「スコール君、セルフィがおっぱいガン見しとった言うてたけど、バラムガーデンて、そない禁欲的なん?」

「スコール……その話詳しく」

「……(なんてこった……)」

 

油断していたスコールは頭を抱える羽目になる。

 

そしてその後、依頼者のリノアに(『趣味』の話で)迫られたり、ポケットにリノアが趣味で描いた絵(18禁)が忍び込まされていたりといった事件について聞き出され、めでたく『むっつりスケベ』の称号を与えられることになった。

 

「……濡れ衣だ……!」

 

とスコールが言ったかどうかは、なぜか誰も気にしなかったという。

 

 

 

数日後。

エスタ大陸の荒野、5日毎の『次元の魔物』戦である。

 

今回、黒い靄、『次元の穴』から出現したのは、美しい女性だった。

しかも、全裸に触手を巻き付けて大事なところを隠しているという、刺激的な恰好。

しかし、その魔力は以前の『カロフィステリ』と同等かそれ以上だった。

 

「はよ倒さんと、スコールの視線が釘付けやな」

「……(勘弁してくれ)」

「ほう、倒せるつもりでいるのか?」

 

触手美女は、魔力の波動を揺らめかせ、バリアを形成する。

 

「今までの者は、魔力ばかり高いだけで、『魔力を操る』ということに無関心だった。

その真髄を見せてあげましょう」

「魔女……!」

 

テレサ=アルティミシアは鋭く叫ぶ。

正確には違うのかもしれないが、強大な魔力を持ち、その扱いに熟練しているのならば、大して違いはない。

 

しかも、アルティミシアの印象では、アデルよりも遥かに強かった。

だが、マスクを着用しつつ対峙するセルフィに悲壮感は欠片もない。

なぜならば、セルフィは正しく、テレサよりも強かったからだ。

 

1つはセルフィとクレアが2年がかりで調整してきた、身体能力を強化するスーツ。

これは本来、筋力を補助するためのものだったのだが、オダイン研究所へ2人が持ち込んだ新技術を研究し、それ専用に再開発した結果、50倍以上の値段の高級品となっている。

デザインも、より肉体にフィットするような形となり、セルフィのボディラインを際立たせていた。

 

スコールはそのエスタ一般兵のスーツとのデザインの違いを気にしていたのであって、決してセルフィの若干控え目なボディにハァハァしていたわけではない。

 

その重要なポイントは、視界に映し出される魔力の分布と、特定の擬似魔法を使用することによる変化の予測、つまりセンサー系と演算性能の強化だ。

これによって、適性のあったエスタ兵が、セルフィやクレアを真似て新技術を習得しやすくなった。そうやって特殊な技術を身に着けたのが、エスタ軍特殊技術実験部隊、通称『ヘイホー隊』だった。

 

そしてもう1つは、テレサが最後まで解明できなかった、セルフィの意味不明な勘の良さである。

これによって、セルフィはテレサと同等かそれ以上まで、力を発揮できるようになっていた。

 

「“スカートに顔を突っ込んで尻を出す変態”『咲夜A砲』」

 

複数の擬似魔法が込められた無数のナイフが触手美女に突き刺さり、『赤魔法』の別種合成の法則に従い破裂していく。

それは当然のようにバリアをすり抜け、至近距離まで接近したセルフィから放たれ、何十という数に達しながらも、一向に尽きる気配がない。

 

「なかなかの密度だけれど……迂闊に近付き過ぎよ!」

 

触手美女は距離を取るのではなく、逆にセルフィを抱きしめた。

そしてセルフィに吸い込まれるように消えていく。

 

『そちらにも乗っ取る力を持つ者がいるのに、迂闊ではなくて?』

「ほんの一瞬でよかってんよ。あんたが勝ちを確信して気が緩む一瞬」

『――!?』

 

セルフィを乗っ取ったと思い込んでいた、触手美女が動揺する。

 

「なっ、あれは……!」

「ほんの一瞬、こないだ釣って冷凍保存しとった300kg級の『バッダムフィッシュ』を、冷凍庫から持ってくるだけの一瞬がな!」

「一……瞬……?」

 

アルティミシアが首を傾げた。

 

触手美女が乗り移っていたのは、冷凍マグロ……ではなく、冷凍巨大魚だったのである。

 

『ちっ……!』

「遅いで。仕掛けはもう済んどる」

『う、ヴぉぁぁぁっ!?』

 

冷凍バッダムフィッシュには、しっかり別種合成が行われていた。

しかも、『ペイン』と『サンダガ』と『トルネド』。

3種とも上級魔法である。

『魔法剣』の重ねがけに耐えられる物質は存在せず、瞬間的に破裂するのみ。

 

こうして、触手美女は実体化した瞬間に間近で発生した大爆発に巻き込まれて、即死した。

 

「テレサより強いというのは半信半疑だったけど、確かにそう名乗っていいだけの実力はあるわね……」

「そうだったのかもしれんが、なにかこう、コレジャナイ……」

 

ただし、バッダムフィッシュは加熱すると独特の強烈な悪臭を発する魚として有名である。

破片と共に周辺にその臭いが飛び散り、後で『ヘイホー隊』が焼却し、風で流すという、後始末をする羽目になった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
今回はギャグパートです。

そしてこの世界では最強のセルフィの実力が披露されました。



――――設定

バラムフィッシュ:アルティマニア情報、類似種、考察
バラム近海で採れる、ターコイズ色の鱗を持った巨大魚。
世界三大珍味として知られる。

ただし、素人では見分けのつかない類似種『バッダムフィッシュ』がおり、そちらは加熱すると強烈な悪臭を放ち、しかも食べると中毒症状を引き起こす。

おそらく、バッダムフィッシュが毒を持った魚として先にあり、バラムフィッシュが毒を持った魚に似せて進化したと考えられる。

ゲーム中では、バラム解放イベント中、雷神が釣って調理し、食べる。
時間切れ(エリアの切り替え回数による)がある、脱出ゲームめいた推理イベントであり、SeedLvを下げたくないなら、ネットなどでクリアの手順をチェックするといい。
(SeedLvを上げたいだけなら、強いモンスターを倒し続けていれば、その内上がるため、そこまで気にすることもない)

ちなみに、雷神は食べてもなぜか中毒にならなかった。


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恋人(いるとは言っていない)

8/13 昨日はやらかしたから、今日は気を付ける。
8/19 まさかのダブルミス。誤字もあり。なんでここに固まってんだ?


キスティスは魔女をアデルから継承したことで、できることを研究していた。

 

「研究している魔女は、それほど多くはないと思うわ。

私も、魔物への対処と魅了への対抗策くらいしか研究していなかったし」

 

バラムガーデンにて、イデアはキスティスにそう語る。

イデアはかつて孤児院を運営しており、その孤児院に保護されていたことがある子供の1人がキスティスだった。

 

「魅了対策ですか?」

「ええ、結局のところ、魔女に対する最も大きな恐怖というのは、魅了の力だから」

 

今、魔女の力を失ったイデアは、バラムガーデンで魔女だった時の経験を子供達に教えたり、年少組の相手をしたりして、短期間で受け入れられていった。

 

制服教員達、マスター派がやっかみの目を向けることも多いらしいが、おそらく魔女の力とは関係のないカリスマ性のようなものがあるらしく、逆に制服教員達の権力が削がれつつあるらしい。

もっとも、それはシド学園長が抱えていた人間ドラマが知られるようになったからとも考えられる。

 

「キスティスは元々、魔力の流れを感知して制御することが得意だから、しばらくは大丈夫でしょうけど、いずれ騎士を作ることも考えておいた方がいいと思うわ」

「騎士、ですか?」

「そう。魔女の力は、常に力の持ち主の心を邪悪へ引き込もうとするの。

今は大丈夫そうだけれど、苦難を前に心が弱まると、魔女の力に頼らせようとするでしょう。

それを防ぐには、この人が止めたなら、必ず止まると、すべてを委ねることができる人を作っておくの。

何があっても、必ずキスティスの心を守ろうとしてくれる人がいいわ」

 

言われて、キスティスは苦笑する。

 

「『次元の魔物』を倒すより難題かもしれません」

 

キスティスは、その美貌と才能から、バラムガーデンでファンクラブができるほどの人気を誇る。

しかし、それは魅了された人間とさほど変わりがないのだ。

本当の意味で、キスティスのすべてを受け入れ、心を守ってくれる人間となると、思い至らないのも事実だった。

 

それはつまり、恋人を作るということだった。

 

 

 

「アービン、ホンマにオトコマエになってんなー」

 

現在、崩壊したガルバディアガーデンの再建が行われていた。

マスター兼学園長のドドンナが、それまで溜め込んだ資金を投資して、人を集めて再建事業を始めたのだ。

 

デリング大統領は健在であるものの、魔女の脅威が去ったということで、建物はそのままに兵士養成学校としての厳格さ、設備の規模を縮小する方向でまとまりつつある。

 

「セフィも変態だったなんて、ボクはショックだよ……」

「あっはっは、ジブンも大概やん。魔女の行動パターン読み切って誘導するとか、アタシら考えもせんかったで」

 

幼馴染の茶髪少女は、イケメンヤサ男の背中をばしばし叩く。

 

「これでも、戦術とか戦略とかはずっと研究してたんだよ?

仮想敵はアデルだったけど、まま先生を助けるのに、結局まま先生に近付かなきゃいけないから」

「あー、シドさんが『作戦がスラスラ出てきた』て言うてたけど、ずっと考えてたからなんや?」

「多分、みんな魔女として倒すことしか考えてないと思ったから。

特にキスティ、2年前にガルバディアガーデンに来た時に会ったんだけど、まま先生の居場所をどうやって特定するのかとか、卒業生に協力してもらって探してる以外に出てこなくて……」

 

アーヴァインは、言いながらチラチラと片思いの幼馴染み(セルフィ)に視線を向ける。

 

彼女の恰好は、今もエスタ兵のものと同じ、青を基調としたカラフルに塗り分けられたデザインの全身タイツのようなスーツである。

エスタ兵のそれと細かいところでは違っていて、特にスーツの布地が薄いらしく、小柄で華奢ながらも、大人になりかけな少女特有の、丸みを帯びたしなやかなボディラインが強調されていた。

ありていに言えば、目に毒だったのだ。

 

「ていうかセルフィって、なんでガーデンの復興現場にいるのさ?」

「なんかね。ラグナ大統領がガーデン作りたいんやって」

「え、でもエスタって、軍事力は世界でトップだよね?」

「『月の涙』。次はエスタな可能性、結構高いらしいんよ」

「そうなの?」

「うん。ソレで、エスタ政府で『月の涙』対策に特化したガーデン作るてハナシ」

 

そのために、他のガーデンの大まかな構造を参考に、『エスタガーデン』を作ろうとしている。

 

魔女も侵略戦争も当面はなくなったが、唯一『月の涙』だけは、文明が滅びかねない大きな被害を出す可能性として、今も残っているのだ。

 

「トラビアクレーターとか、結構手広く調査して備えてるんやで」

「へー……」

 

エルオーネが昔話としてよく話題に挙げる人物ラグナ。

軽い雰囲気のお調子者という印象が強かったが、大統領になって大丈夫かと思っていたが、しっかり国民を守るという仕事はしているのだ。

 

「お、前の設計図もろて来てんな」

「ばっちりやで」

 

一緒に来ていたのはクレア。

彼女はセルフィと同じスーツを着用しているのだが、ボディラインは白衣に隠れていた。

 

「アービン、部屋どこらへん?」

「え、この辺だけど」

 

言われて、思わず答える。

 

すると、2人はこんなことを言い出した。

 

「よっしゃ、エロ本探しに行くでセルフィ!」

「アタシのおっぱい194秒も見よったし、期待できそうやで!」

「ちょっ――!?」

 

アーヴァインは慌ててセルフィの肩を掴もうとするも、その寸前で姦しい女子2人は煙のように消えてしまった。

 

その後、セルフィの成長後の想像図(期待込み込み)が発見されて弄り倒され、彼は泣きながら走り去ろうとして、結局捕まることになる。

 

 

 

エクスデスは次を考えていた。

 

「『無』を直接あちらに送り込むのは、現状は難しい。

あちらの世界へ送り込む穴を開ける儀式に吸われてしまいおる。

しかし、あの様子では、これ以上の強者を送り込んだとしても、偵察はおろかただ生き残ることも難しかろう」

 

彼は今、呪いによって投げ込まれたシュールストレミング(世界一臭い缶詰)の臭いを除去する作業で手一杯だった。

バッダムフィッシュの臭いを押し戻すことに成功したため、安心していたらこれである。

 

鼻に詰め物をしていても臭うため、考え事をしながら作業をするしかなかったのである。

 

「む、いや、いたな。そういえば。

『無』に捕獲したはいいが、結局扱いあぐねておった者が」

 

作業が終わりかけになり、少しは余裕が出てきたのか、それとも悟り始めているのか、エクスデスはある名案を思い付く。

 

『無』を使えば捕獲可能なことはもう分かっているため、ソレが世界を滅ぼしてしまっても、むしろ後がやりやすくなる。

実際に幾つもの世界を滅ぼしてきた実績を持つ、捕えられなかった破壊。

 

そして、勝てなければ勝てなかったで、ソレを捕え続ける労力が減る。

どちらに転んでも悪くない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
アルティミシア以外のギャグパートで伏線でした。

そういえばモルボル先生の相手とか考えてなかったなと。
そして、以前伏線が張られていたアービン弄りです。
片思いの好きな子にエロ本を探されて、逃げられずに弄り倒されるって、拷問でしょうか?それともご褒美でしょうか?



――――設定

エスタガーデン:紹介
FF8二次創作では、ゲームEND後が物語の舞台になることがかなり多い。
その20年ほど後の物語で、エスタにガーデンができていることがある。
ちなみにそのパターンでは、学園長がスコールで、マスターがラグナのことが多い。
ただ、設立目的が明言されることは少ない。

この小説では、ガーデンとアルティミシアの話を聞いたラグナが発案した。
それに伴い、『月の涙』がエスタで発生する確率が高いとしている。
(ゲーム中はエスタにて人工的に発生)

また、次の『月の涙』を予測することができれば、ガーデンをそこに向かわせて対処するための拠点にできるため、割と真剣に検討されている。
ちなみに、ガーデンをゼロから作る技術はエスタにはある。
(『ルナティックパンドラ』は、ガーデンの数十倍の重量があるものを浮かせている)

今回、クレアが入手した、以前のガルバディアガーデンの設計図というのは、学園としての機能がどうあればいいか、参考にする意味がある。


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オメガ

8/13 涼しくなったら涼しくなったで、蚊が勢いづく。


「では、少し交替する」

 

アルティミシアがジャンクションを解除する。

アルティミシアがテレサの身体を操っていたのは、別にアルティミシアが無理矢理操っていたからではない。

テレサが支配権を預けてぐうたらしていただけである。

 

今まで肉体を鍛える意味で身体を動かしていたが、代わりにやってくれる人がいれば任せてしまうのが彼女だ。

元々、プログラマーであって運動が得意なわけではない。

 

「テレサぁ、スーツのチェックやでー」

「ういうい」

 

現在、オダイン研究所でクレアが用意した、特製スーツの試験が行われていた。

セルフィが使用しているものとほぼ同じで、魔力予測なども行ってくれる優れモノ。

 

「ちょっと世界一周してくる。ホァイ」

「コンビニ言ってくるみたいなノリやなー」

 

テレサは地面に沈み込み、数秒後にはまた戻ってくる。

行きがけの駄賃とばかりにデリングシティからかっぱらってきた、リノア秘蔵のエロ本を抱えて。

 

「どうやった?」

 

そんな親友の奇行にも、クレアは驚かなかった。

 

「最高速やったら、描画が30メートルまで減るでー」

「やっぱフレームの限界超えてんやなー」

「なんと、過剰と思っていたでおじゃるが、足りなかったでおじゃるか!?」

 

オダイン博士は愕然としている。

 

「新技術による移動でも追い付くように改造したでおじゃるが……」

「ちなみに、バグって見えた?」

「18コ」

「案外少ないなー。ほんなら、ちゃちゃっとバグ取りしてまおかー」

「うーい」

 

ゆるい雰囲気で試験は進んでいたが、これは2つの世界にまたがっての最強を生み出すための作業である。

本来、世界を滅ぼしかねない様々な代償を支払って行うことを、彼女らは特に気負うこともなく、下手をすると代償を払うよりももっと上の高みへと手を伸ばそうとしていた。

 

「そーいや、『無』の解析てどれくらい進んでんのん?」

「今、仮説の確認作業。でも30%くらいやね」

「この世界の『無』は召喚できたりするん?」

「多分、やらん方がエエで。神様が言うた通りやったら、法則違う根源エネルギーの接触でドッカーンやから」

「おおぅ、ヤバいなソレ」

 

クレアはタブレットで確認する。

 

「あ、そうや、テレサ、『エニグマ』のことやねんけど……」

「なんかわかったん?」

「アレて、ホンマに生物を紙にするだけなん?」

「また髪の話をしているでおじゃる……」

 

オダイン博士(エリマキバカトノ)はすっかり薄くなってしまった自分の頭を撫でながら呟いた。

 

「あー、生物以外もできる。生物以外やったら、条件はなかったと思うで」

「ほんなら、――できへんやろか?」

「おー、そら考えへんかったなぁ……」

 

テレサは唸る。

クレアの提案は、それほどリスクの高いものではなかった。

むしろ、試す価値はある。

 

そして、それはテレサの新技術を、テレサ限定ながら、さらに新しい領域へと押し上げるのに十分なものとなる。

 

ありていに言うと、エクスデスの勝機は完全に消えた。

 

 

 

サイファーは、エスタ政府の依頼を受けて、『ルナティックパンドラ』を調査していた。

アルティミシアの証言で、『月の涙』が未来に大きな悪影響を及ぼすことが判明したからである。

 

調査のついでに、いっそのこと『ルナティックパンドラ』の移動装置を取り外してしまおうということにもなっている。

 

「なんだこりゃ、ガルバディアのミサイルか?なんでこんなとこに?」

 

破片に書かれていた文字を確認して、サイファーは呟く。

 

海中に投棄されていた『ルナティックパンドラ』の移動装置は、なぜかガルバディア製のミサイルによって完全破壊されていた。

 

「これじゃ、再利用の前にまず撤去だな」

 

とりあえず、ミサイルの破片を証拠として持ち帰る。

 

後で判明するのだが、これをやったのはテレサだった。

アルティミシアがダメモトで撃ったミサイルを、センサーを狂わせて『ルナティックパンドラ』の浮遊装置に直撃させたのだ。

 

これによって少なくとも当面の間、『大石柱』による『月の涙』は発生しなくなった。

後は自然発生する『月の涙』を解明し、どう対処するかである。

それに関しては、エスタが行っている研究と備えに任せることになる。

 

内部に巣食っていた魔物の駆除に入ったサイファーの報告内容を確認した調査隊は、話し合いの結果、破壊された移動装置などは撤去せずに置いておくことにした。

わざわざこれ(大災害発生装置)を利用する何者かの手助けをしてやる必要はない。

 

 

 

……――。

 

テレサの精神世界では、無数のモニタに様々な記憶が映し出され、検証が行われていた。

こうした地道な思考の繰り返しの果てに、単独で世界征服も可能な技術を開発し、今もそれを発展させているのだ。

彼女にとっては、『次元の魔物』との戦いも、実験である。

 

ここへ来て、転生特典の価値が輝きを見せ始めていた。

 

『タブレット』は、常に高性能なスマートフォンに近く、実験映像の動画撮影などに力を発揮。

『エニグマ』はクレアが新しい利用法を発見したおかげで、1段階技術のステージが上がった。

もう1つが『記憶保護』。

 

当初はGFの代償が運動神経だったため、何の意味もない特典とテレサ自身も考えていたが、精神世界での検証を繰り返すうちに、その重要性に気付いた。

『記憶保護』というのは、言い換えれば完全記憶能力の付与である。

どんなゴミ記憶も忘れることがない。

 

これが検証の際、どれほど重要だったのか。

『エニグマ』を再検証し、新しく実験する際に、テレサは思い知った。

『記憶保護』によって検証実験の回数を大幅にカットできたのである。

 

それはもう、次の5日目に間に合うほどに。

 

 

 

次の『次元の魔物』は、機械だった。

 

4つ足、膨大な魔力を秘め、センサーで周囲を眺めつつ、破壊対象を探す。

自身の意思を持たず暴走している、完全なる無差別大量破壊兵器。

今までの『次元の魔物』とは一線を画している。

 

その場にいる全員が、『次元の魔物』に慣れているはずのバラムガーデンからの見学者でさえ、全身が悪寒で総毛立った。

 

「アカン、これ、ヤバいやつや……!」

 

セルフィでさえ、すがるようにテレサに視線を向ける。

今までのような、耐性やバリアを無視すれば倒せるというような、ある種簡単な相手ではないということだ。

この場にいる全員が命懸けで戦って、勝てるかどうか。

全員がそんな印象を持っていた。

 

次の瞬間、ほとんど前触れもなく魔力が集中すると、放射状に広範囲を薙ぎ払うレーザー、『波動砲』が放たれる――。

それは、避ければエスタ市街の大半が焼き払われるほど、威力と範囲があり、そのままではエスタの壊滅も避けられなかっただろう。

 

その直前、テレサのタブレット操作が間に合わなければ。

 

「『エニグマ』!」

 

どれほどの魔力を内包していようと、どれほど危険な暴走兵器であろうと、いくつの世界を滅ぼしていようと。

それは無機物であり、魂を内包しているわけではない。

 

転生特典によりテレサがタブレットを持っている時にだけ使用可能な『エニグマ』は、魂を持たない無機物ならば、無条件に紙にしてしまうことができるのだ。

 

つまり、今回の敵『オメガ』も、一瞬で紙にしてしまった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
まさかの『オメガ』瞬殺でした。

コレ、予想できていた人いますかね?
実は転生特典を決めた時から、このネタは温めてありました。
『オメガ』は色々と設定があるようなんですが、結局魂があるわけでなし、世界渡航中の暴走兵器には違いないだろうってことです。



――――設定

『オメガ』:FF5
『次元の挟間(洞窟)』にシンボルエンカウントとして出現する古代文明の破壊兵器。
『空より現れし、心を持たぬもの』とFF5のゲーム中、『次元の挟間(図書館)』に記述が確認できる。
また、同じ部屋に『12の武器を持つ勇者達でもかなわない…しずかに、次元のはざまに、眠らせておくべし…決して、かたりかける事なかれ』とあり、相当に危険な相手であることが見て取れる。
ただ、できれば『オメガ』のシンボルが出るエリアの前にその情報を置いておいてほしかった。

『オメガ』のシンボルは割と動き回るため、思い切りがないと割と長時間足止めを食らうことになる。
シンボル、グラフィックは『プロトタイプ』や『マシーンヘッド』と同じ。
両方ともその時点で戦うと決して弱くはないが、『オメガ』はそれらと比べても桁違いに強い。

『ブラスター』は単体に即死、『レベル5デス』はレベルが5の倍数のキャラを即死、『デルタアタック』は単体に石化、『サークル』はカウンター行動で味方キャラ1人を戦闘から除外と、即死系が一通り揃っている。
他にも『アトミックレイ』は全体攻撃、『はどうほう』は全体に最大HPの半分の割合+スリップダメージ、『地震』という全体攻撃、『ミールストーム』は全体を瀕死化、攻撃が多彩で行動も早い。
しかも常時『リフレク』。カウンターに大ダメージ+スリップの『マスタードボム』や割合3/4ダメージの『ロケットパンチ』も使用する。

普通に戦うと、大体は『サークル』に怯えながら高い回避率に苦しむことになるため、1回の行動で大ダメージを与えるのが肝要になる。
そのため、攻略サイトには『魔法剣サンダガ+二刀流+みだれうちが正攻法』と書かれることも。

ただ、弱点がないわけではない。
有名なのは『ストップ』が効くことで、素早さを限界まで上げて『ヘイスト』をかけた3人で『あいのうた』を使い続けるとカウンターも何もしてこなくなる。
雷属性も弱点で、普通はこれらが突破口になる。

普通でない倒し方をするなら、『祝福のキッス』と『ゴーレム』を組み合わせたり、『デスポーション』を使用したり、『くろのしょうげき』と『レベル2オールド』でレベルを下げて『レベル5デス』を当てたり、やり方は色々とある。
(どのボスでも大体効く)


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多分、テレサが一番TASさんだと思います。
大作戦始動!


8/14 外に出て作業してると蚊が寄ってくる。キンチョールも効きやしねえ。
8/20 まさかのミス発見。慈愛じゃなくていたわりだった。ネタ修正へ。


エクスデスは焦っていた。

まさか、下手をすると彼自身よりも強い『オメガ』が、一瞬で消されてしまうとは思いもしなかったのである。

 

そして、直後に視線を向けてきた貧相な体躯の黒髪少女に、悪寒が走った。

 

声は聞こえなかったが、その口は確かに言葉を発していた。

それを認識した瞬間、エクスデスは彼女を明確に、倒さなければならない敵と確信する。

 

「奴は、私を倒すために何者かが送り込んだ刺客なのだ。

おそらくは、奴を送り込んだ何者かこそが、この呪いの主……!」

 

以前までは小娘と侮っていた相手。

以前との違いは、多少魔力が増えて、奇妙な青い服を身に着けるようになっただけ。

 

魔力は素のエクスデスにも及ばず、青い服による筋力の増強も、クリスタルの戦士達に比べると大したことがない。

そこに『オメガ』を倒した、何者かに与えられた借り物の力を加えても、大した脅威にはならない。

精々が、『次元の挟間』の雑魚では厳しそうだという、その程度。

 

しかし、エクスデスが感じたのは、自身と同等かそれ以上の脅威だった。

 

「このまま、あの世界に攻め込むのは危険すぎる。

今まで、何度も繋げて緩んだ世界線を封印せねば……」

 

そう考えた時には、もう遅かった。

 

少女は確かにこう呟いていたのだ。

 

『『無』を取得』

 

と。

 

 

 

一方、テレサの精神世界にて、テレサの指導に従い、アルティミシアは『時間圧縮』の術式に手を加えていた。

いや、手を加えていた、というのは正しくない。

 

――あちらの世界の性質に合わせて、新しい術式を組み直すことになるとは。

 

これは、ラグナがFF5側の世界を救いたいと提案し、オダイン博士とクレアが研究の末に考案した方法である。

 

魔女アルティミシアの『時間圧縮』の術式を、あちらの世界で使用できるように組み直し、あちらの世界で敗北した『光の四戦士』を、彼らが敗北した時点まで遡って『時間圧縮』を行うことで、復活させようということだ。

 

――元々、エルオーネの接続だけで過去の改変を行うことは不可能。

 

当初、セルフィとクレアは、魔女アルティミシアの力を借りて、『次元の挟間』に近い空間に向かうことで、こちらからエクスデスのところに乗り込む予定だった。

しかし、ラグナがあちらの世界を救いたがったため、この作戦が立案されている。

 

――この世界で私は色々と行ったが、土台にはガルバディアの暴走がある。

――デリングが行うはずだった大虐殺を、私が頭と目的を挿げ替えた。

――『ルナティックパンドラ』の発見と引き上げ、『月の涙』の発生とラグナ大統領の死、魔女アデルの復活も、元はと言えばデリングが行うはずだった。

――それを代わりに行うという形でならば、過去の改変は可能だということだ。

 

アルティミシアは語る。

 

――しかし、死人を蘇らせることはできない。

――それが可能なのは『時間圧縮』のみ。

――でも、『時間圧縮』もそう都合よくはない。

――死者の全体数は変えられない。

――変えようとすると、大きな揺り戻しが発生する。

 

どうやら、彼女は彼女で、何度も試してきたらしい。

もっと未来の段階で『時間圧縮』を行っていたのだ。

 

――でも、逆に言えば、『未来』なら変えることができる。

――例えば、そのままでは滅亡してしまう、絶望しかない未来。

――例え一時期、人口が激減するとしても、人類同士に助け合う絆があれば、希望は生まれる。

――将来を考えて暮らすことができる。

 

魔女アルティミシアも、必死だったのである。

ただ遠い過去で暴れていたわけではない。

そこには確かに目的があったのだ。

 

……――。

 

――そうだな。今回は、神が手を加えた。

――それはつまり、今回に限っては、揺り戻しは起きないということなのだろう。

 

この世界にて、アルティミシアは過去の改変という思いを遂げた。

 

――おそらくあちらの世界でも、過去の改変には同様の揺り戻しに気をつけねばならん。

――エクスデスに勝てる自信があるとしても、必ずしもリスクなくことが運ぶわけではない。

 

……――。

 

――無用の心配だったか。

 

間もなく、準備は完了する。

 

 

 

「愛と希望と勇気と好奇心の大作戦、説明するぜ!」

 

ラグナ大統領が参加メンバーに告げる。

 

「まず、エルオーネがテレサちゃんとアルティミシアを5年以上前の過去に飛ばす。

テレサちゃんは辛いと思うけど、我慢してくれな」

「ういうい」

 

「ありがとう!

次にアルティミシアは飛ばされた過去で『時間圧縮』する。

最初はこの世界用だ。頼むぜ!」

「了解した」

 

テレサと主導権を入れ替えて、アルティミシアが頷いた。器用なものだ。

 

「よっし!

次に『時間圧縮』空間で合流。

これはみんなで同じ場所、同じメンバーを心の中で強く思い描けばいい。

相手を強く意識すれば、相手も意識してくれることで、『時間圧縮』の中でも存在できるぞ!

みんなの絆が試される!」

「私が慣れているから、もし危なければ拾おう」

 

アルティミシアの宣言にラグナは満足そうに頷く。

 

「次にテレサちゃんが、あっちの世界の『次元の挟間』に向けて穴を開ける。

これも頼むな」

「ういうい」

「さっすが!

あとは、あっちに乗り込んでエビゾリックスを倒す!」

「エクスデスだ、ラグナ君。

いい加減、エとスしか合っていない間違いを止めないか、というウォードの視線を感じないか」

 

キロスに指摘されて、ラグナはばつが悪そうに後ろ頭を掻く。

 

「そのエクスデスを倒してからが本番だ!

協力してくれそうな人を見つけて、エルオーネがアルティミシアを過去に飛ばす。

その先、あっちの世界の『光の四戦士』が生きてる時代を含めて、また『時間圧縮』。

今度はあっちの世界用だ。頼むぜ、アルティミシア!」

「了解した」

「よーし。

後は『光の四戦士』が生きた状態で、過去のエクスデスをもっかい倒すだけ!

ちっと複雑になっちまったかな」

「大丈夫、私が覚えています」

「さっすが優等生!」

 

手を挙げたキスティスを、親指を立てて褒めるラグナ。

 

今回、作戦に参加するのは、テレサ=アルティミシアを筆頭に、セルフィ、クレア、キスティス、エルオーネ、スコール、それにサイファーとイデアである。

 

イデアが入っているのは、もしも『光の四戦士』に心の力が足りなかった場合、役割を代替しなければならないからだ。

スコールはエルオーネの、サイファーはイデアの護衛である。

 

『光の四戦士』を代替する際の分担は、サイファーが探究、イデアが慈愛、スコールが勇気、エルオーネが希望となる。

主人公まさかのハブられだが、もっと重要な役割を持っているため、負担が大きくなり過ぎないように、この役割からはあえて外されていた。

 

テレサ以外に、世界を渡る術式を扱える者がいないのである。

 

こうして、いよいよ最後の戦い、エクスデスとの決戦が始まる。

 

ちなみに、慈愛ではなく『いたわり』なのだが、ラグナが間違えたのではなく、テレサがタブレットに書き込む際に間違えている。

FF5の細かい話をすべて覚えているわけではないということだ。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
物語もいよいよクライマックスとなってまいりました。

エクスデスは一体どうやってテレサを相手に戦うのか。
次回、『エクスデス散る!』デュエルスタンバイ!



――――設定

ラグナ・レウァール:アルティマニア情報
元ガルバディア兵で、FF8の物語の最重要人物。
相当なうっかり者で、作戦行動中もしょっちゅう道に迷ったり、地図を間違えたりする。(間違えた地図で正解の場所に辿り着く、奇跡の方向音痴)
お世辞にも軍人向けの人間ではなく、本人もジャーナリストを志望している。

お気楽でお調子者で、諦めるということを知らない、ポジティブな性格。
絶望の中にあっても、相手が強大な存在でも、ラグナだけは自分を曲げないという安心感があり、どんな状況でもラグナの手にかかればドタバタの喜劇になる。
その行動力、独特な思考回路から、数々の奇跡を引き起こしてきた。
ただし、割とヘタレ。

面倒見がよく、子供時代のエルオーネにとても懐かれていたようで、エルオーネには大人になってからも『大好きなラグナおじさん』と呼んでいる。
また、シュミ族の村では獣同然なムンバに言葉を教えようとするなど、その思考回路は独特。その行動は結果的に息子の助けとなった。

エルオーネが連れ去られた時は、本当に世界中を旅して回っていたようで、その時の模様が雑誌『ティンバーマニアックス』に投稿されており、失敗談も数々掲載されている。

最終的にアデルの封印作戦にて、最も危険な役回りをこなし、成功させるなどの功績により、エスタ大統領に祀り上げられ、レインを迎えに行くことができなくなってしまったという悲劇もある。
しかし、意外にも大統領としては上手くやっている模様。

FF8二次創作では、よく『おとなのみりき』がネタにされており、モンスターとも仲良くなってしまうなど、拡大解釈もされている。
他にネタとして有名なのは特殊技リミットの『デスペラード』。
引っかけたりするもののない草原でも、ワイヤーでぶら下がりながら射撃する。
小ネタとして、世界各地で女性関係にだらしなく、リノアも実はラグナの子供かもしれないなどという説を採用したギャグ短編もあった。

この小説では、『おとなのみりき』を少し拡大し、アルティミシアを味方に引き込んでいる。


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時間圧縮より『無』へ

8/16 なんか投稿の日付間違えてたのに気付いたけどまあいいや。やっと誤字報告の使い方に気付いた。なんてアホなんだ俺。


アルティミシアの『時間圧縮』に伴い、テレサは未来と過去と現在がごちゃ混ぜになった空間を漂う。

 

「第一目標:自己の維持とメンバーの集結」

 

クレアが2年がかりで作り上げた補助スーツと、魔女の力、アルティミシアの『時間圧縮』の術式。

それらはテレサの技術を新たなステージへと押し上げた。

 

「“口寄せ”『TNK(たんく)』」

 

まず、戦車を召喚。

その運転席に滑り込み、操作を始める。

 

なぜか出現した道路の壁にぶつけながら加速。

速度が溜まり過ぎて空を飛び始めた。

 

『時間圧縮』の空間の中を、超スピードで飛び回りながら、未来に存在するアルティミシアではない魔女を跳ね飛ばし、それと戦っていたキスティス、スコール、サイファーを拾い上げる。

 

「エルオーネは!?」「まま先生が見つからねえ!」

 

接触が早過ぎたらしく、まだ見つけていないようだ。

 

「“口寄せ”『ミニタツマキ』、“口寄せ”『へいたくしー、イデアさん1人お願い』」

「ニャニャーン!」

 

どこかで風の吹く音がして、さらに2足歩行の猫が召喚され、どこかに消えて行った。

 

「また一段とフリーダムになったわね」

 

条件は同じはずのキスティスが呆れる。

 

ちなみに、キスティスにもクレアが開発した補助スーツは贈られていた。

大人びたプロポーションの彼女が着用していると、同性異性問わずにかなり目のやり場に困るため、その上から赤いコートを着ている。

 

「きゃっ!?」

 

間もなくエルオーネが吹っ飛んできて、スコールが抜群の反射神経でそれを受け止めた。

 

「あら、まあ……」

 

次に困り顔のイデアが、粗末な台車に乗せられ、二足歩行の猫に曳かれて登場。

 

「めっけー!」「ホンマにおったぁ!?」

 

そうこうしていると、セルフィとクレアが駆けつけてきた。

どうやらセルフィが持ち前の勘でここに辿り着いたらしい。

 

「まさか、私が一番最後になったのか……」

 

最後に魔女アルティミシア。

赤と黒のドレスという派手な格好だが、背中の黒い翼はない。

準備している暇もなかったのだろうか。

 

「みんな、準備はいいな?」

 

スコールが声をかけると、皆が頷く。

 

「テレサ、頼む」

「うい」

 

テレサは儀式を始めた。

 

「“『無』を取得”」

 

 

 

エクスデスは目を見張った。

別世界への扉を開く儀式場を封印している最中、突然ひとりでに『無』のエネルギーが注入され、儀式が始まったのである。

 

「馬鹿な、別世界の『無』を操るだと……!」

 

慌ててエクスデスも『無』を操作し、『次元の穴』を閉じようとする。

 

その結果、過剰に『無』のエネルギーが集中した空間ができ、余計に世界線が不安定化、『黒い靄』が発生した。

 

「なっ、しまった……!」

 

エクスデスは自分の失策に気付く。

 

この黒い靄の正体は、空間の裂け目である。

あまりに強大な『無』のエネルギーが集中したことによって、空間が耐え切れなくなり、裂け始めているのだ。

それが無数の細かいヒビとなって目に見えるため、見た目には黒い靄に見えていた。

 

元々、『次元の穴』を開くのに『無』のエネルギーが必要だったのも、空間を引き裂くのに『無』という強大なエネルギー源を必要としたからである。

それによって発生した空間の裂け目を広げ、別世界への通り道を作り出し、維持するのがこの儀式の仕組みだった。

 

だからこそ、エクスデスは知らなかった。

別世界側にも『黒い靄』が発生していたことを。

 

当初、テレサはそれが『無』であると勘違いしていた。

しかし、何度も実験と研究、検証を行う内に、『レビテト』を12回重ねると、似たような黒い靄が、ほんの少し、一瞬だけ発生することを突き止めた。

 

それを発見したのは、1年前のことである。

ルールーの卒業前に『レビテト』のデータがほとんどないという話をし、ルールーが正規の『赤魔法』、同種合成で『レビテト』を12回重ねる実験を行ったのだ。

その時に、まるで『グラビデ』のような重力の歪みが発生した。

同じ地属性の『クェイク』では発生しなかったため、モンスターに使用するなどして何度か実験し、ルールーの卒業後、ヤマザキがその性質を表にまとめた。

すると、『青魔法』の中の『デジョネーター』に近い性質があるということが分かった。

 

そこで、テレサは記憶の中で何度も検証し、ノイズを取り除いていくと、『黒い靄』と同種の現象が発生していることを発見したのだ。

 

問題は『レビテト』の性質ではなく、『黒い靄』の性質である。

『無』ではないとすると、それまでのテレサの仮説が大きく崩れてしまうのだ。

彼女の研究は行き詰ってしまった。

 

それを打開する鍵となったのは、アルティミシアの記憶である。

つまり、未来に研究されていた魔女の力。

アルティミシアは同じ『黒い靄』に関係する現象を、『時間圧縮』の儀式に用いていた。

魔女の膨大な魔力で『黒い靄』を発生させ、それを起点に時空を引き裂いたのだ。

 

『次元の穴』を作り出すのが横穴とすると、『時間圧縮』は縦穴を掘る作業である。

両者の技術は、十二分に応用が利いた。

 

しかし、『黒い靄』を発生させるのに、膨大なエネルギーを必要とするという、大きな壁が立ちはだかる。

FF8側の世界に封じられている『無』を使用すると、『無』のエネルギーに近い場所にあるであろうFF5側にて、お互いの世界の『無』がぶつかり合い、世界を複数吹き飛ばす大爆発を起こしてしまう危険があった。

 

そこで、テレサはなんと、FF5側の『無』を用いることにしたのである。

通常空間の安定した状態では難しいが、よりFF5側、『次元の挟間』に近い『時間圧縮』の最中ならば、十分に可能だ。

 

「『ちょっと異世界行ってくる』」

 

結果、エクスデスの目の前、封印が行われる寸前の儀式場に扉が現れ、そこを通ってテレサが出現した。

実に、テレサが世界の法則の研究を始めて紆余曲折、10年後のことである。

 

「き、貴様……!」

「テレサ・ドゥ、推参や」

 

呻くエクスデスに、テレサは宣言した。

 

「“レベル2オールド、祝福のキッス、レベル5デス”『長く苦しい戦いだった』」

「終わりなや。まだ戦うてへんやん」

「『無』とは一体……うごごごご……!」

「終わるんかーい!」

 

こうして、セルフィのツッコミの中、エクスデスは無に呑まれる。

 

しかし、テレサは驚き、こう呟いた。

 

「え、なんで、第二形態に移行しよるんやコイツ?…FA(ファイナルアタック)封じたんに」

 

ここからが本番である。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
エクスデス第一形態は倒れました(白目

本来、カウンターを発生させずに倒す手順ですが、なぜかエクスデスは第二形態へ。
そして、本当の意味でここからが本番となります。

エクスデスに一体何が起こっているのか。
一体なぜクリスタルの戦士達が敗れたのか。
その秘密が明らかになります。



――――設定

『レビテト』:考察、独自設定
味方単体を浮遊させる魔法。
FF8では時間経過で解除され、FF5では永続、戦闘後も継続。

FF8では接地していると一定時間に回復するボスがいるため、それを浮遊させるという特殊な使い方をする。
しかし1戦のみで、それ以外は地属性は吸収してしまえるため、使用されない。

FF5では地震系の攻撃をしてくる敵が多く、なかなか活躍する。
また、『レビテト』だけを解除する行動をしてくるボスも存在し、永続だからと安心もできない。

人間を浮遊させるということは気流操作で浮かせているか、重力操作で浮かせているということ。
気流操作の場合は風属性となるが、『レビテト』は地属性(属性防御Jより)のため、重力操作によって浮遊させていることになる。
重力操作というのは、実は『グラビデ』と同系統の作用であり、1分ほどとはいえ人間(120kg以下)を浮遊させ続けるには、相当に大きなエネルギーを必要とする。

そこから、この小説ではエネルギーとしては中級魔法とした。

エクスデス:考察、独自設定
FF5のラスボス。
序盤ではクリスタルの力で封印されていたが、中盤で復活し、世界中で暴れまくった末に『無』の力で世界中を穴だらけにした、まごうことなき極悪人。
異常に『無』にこだわるが、自前の力でゴリ押しすればいいんじゃないかと思えるほど、エクスデス自身も強い。(ただしムービー中)
割と現場に出てくる上に、色々と自慢げに教えてくれる。

ラストバトルでは『無』の力で強化されたと思しき技を連打してくるが、実は割と色々と効いてしまうため、色々と試せば割と勝ててしまう。
ファイナルアタックでイベントが発生し、『ネオエクスデス』にメガシンカする。

『ネオエクスデス』が本番で、『二刀流+みだれうち』や『クイック+メテオ』といった強力な戦術に対し、ダミーターゲットという形で対策している上、複数の状態異常を与える『グランドクロス』や全体ランダムダメージの『アルマゲドン』、強力な単体物理攻撃の『しんくうは』などを使用してくる。
ただ、それでも何も反撃させずに倒す方法もあり、集めるものを集めていれば、縛らずに倒すのはそう苦労しない。
それが『オメガ』や『しんりゅう』より弱いと言われる理由。

この二次小説では、『光の四戦士』が倒せなかった理由を追加してある。


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無とは

8/17 ここからは未知の領域。作者にとっても。


「わたしは、ネオエクスデス。

すべての記憶、すべてのそんざい、すべての次元を消し。

そして、わたしも消えよう、永遠に」

 

『無』の制御を失い『無』そのものとなり、色々な生物がごちゃ混ぜになったエクスデスが、告げる。

 

「下がって!」「なんやコレ!?」「えー、どないなったん?見てなかってんけど、コイツがエクスデス?」

「私達は足手まといのようです、下がりましょう」「あ、うん」

「一応、バリアを展開しておくが、『次元の魔物』相手には気休め程度にしかならんぞ」

「余波を防げるならOKよ」

 

テレサが速攻でエクスデスを倒し、ネオエクスデスにしてしまったため、場が混沌とし始めていた。

 

テレサ自身にとっても、この結果は予想外で、セルフィ、クレアと一緒にネオエクスデスの注意を惹きつけながら、様子を見る。

他のメンバーは、非戦闘員を護衛しつつ、周囲の魔物を倒し、安全地帯を確保しようとする。

 

「“無明逆流れ”『未来予知打法』」

 

クレアがラケットで真空の刃を撃ち返す。

物理的にありえないことだが、今さら気にする者はいない。

 

それはネオエクスデスに命中したが、瞬間的に傷口から名状しがたい奇妙な生物(でっていう)が生えてきて、傷が塞がった。

 

「“十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字十字砲火”『結局、剣』」

 

セルフィは可能な限り消耗を低減し、詠唱を短縮した、強制自爆を使用する。

 

元々、『無』のエネルギーを内包していたネオエクスデスは、半分ほどが吹き飛んだ。

『無』が飛び散り、しかし1秒もたたずに残ったネオエクスデスに吸収され、傷口に無数の奇怪な生物(ワンワンとボム兵とブーメランブロス)が生えてきて、反撃を始める。

 

「なんやコイツ、再生怪人かいな!」

 

いくら攻撃してもごく短期間で無尽蔵にある『無』を吸収し、傷口に何かの生物を創生してしまうため、普通の手段では倒せないのだ。

これが理由で、新旧『クリスタルの戦士達』は敗北した。

 

とても不条理で、理不尽だった。

ただ、『オメガ』ほど危険な感じは受けない。

 

「あ、そゆことやってんや?」

 

クレアは、テレサに視線を送る。

 

「ってことは、『無』の供給引っぺがしたらいけるんちゃう?」

 

親友ならできる。

確信があった。

 

黒髪少女はその期待に応える。

 

「“口寄せ”『フカヒノ、クルマノ、かめのこうら』。

“『無』を取得”『ミニ黒い寒い美しいなんでも食べる胃』

ていっ」

 

テレサはその場で作り出した黒い物体を、召喚した亀の甲羅を蹴ってぶつけ、ネオエクスデスに直撃させる。

黒い物体は『無』ごとネオエクスデスの身体を抉り取り、そこに留まって再生、肉体創造されるたびに吸い込み続けた。

 

「“口寄せ”『ブラックホール』」

 

残りの肉体も、重力操作によって黒い物体に吸い込ませ、ネオエクスデスは完全に消えてなくなる。

 

 

 

「さて、この世界で『時間圧縮』を行うには、まずはジャンクションにて私を過去へ送り込むことが必要だ」

「人を探さないとダメね。まだ生き残っていればいいけど……」

 

エルオーネは少し困った顔で言った。

未来の『ジャンクションマシーン・エルオーネ』を使用する案もあったのだが、より融通の利くエルオーネ自身を連れてきた方が確実だということになった経緯がある。

エルオーネの力なら、テレサがある程度は調整できるからだ。

 

だが、アルティミシアは言う。

 

「ただ人間であればいいわけではない。

我々の世界では、魔女の精神を過去に飛ばすための器は、魔女である必要があった。

この世界では、特別な力を持った人間を探す必要がある」

「『光の四戦士』?」

「生きとるんかな?」

「もっと確実に生きとる奴おるで」

 

クレアが声を上げる。

 

「最初に『無』を生み出した魔道士エヌオーや」

「エクスデスの先輩やな」

「でも、テレサの話だと、ソイツはエクスデスに協力してたんだろ?」

 

サイファーが口を挟む。

 

「捕獲していうこと聞かせたらエエで」

「……(そんなにうまく行くのか……?)」

「とにかく、会いに行ってみましょう」

「“口寄せ”『航空ノ戦艦』」

 

キスティスの提案で、全員がテレサが召喚した空飛ぶ巨大戦艦に乗り込む。

 

 

 

道中、大した敵には遭わなかった。

エクスデスがあっさり倒されたことで、手を出してはならない集団と認識されたらしい。

それとも、ワープに近い速度で航行する鋼鉄の塊を認識できなかっただけかもしれない。

 

途中で何度か、何かにぶつけて壊したような衝撃があったが、あっさりと次元を突破して、『光と闇の果て』の奥地へと到着した。

最早、世界を隔てる壁や距離など、あってないが如しである。

 

「エクスデスですらも、ここまで非常識ではなかったぞ」

「ぐう正論」「フツーの返事や、つまらへん」「ウチら、非常識を求めてるわけでもないんやけどね」

「むしろこれで常識的とか言われたら話ができねえぞ」

「むしろ自分達が非常識だという認識があったのか……」

「気持ちは分かるけど、物凄く失礼なこと言ってない?」

 

文句を言う触手のようなものを纏った男は、頭を抱える。

 

「……突然、あんなもので押しかけたのは悪かった。

けど、協力してほしいことがあるんだ」

 

混沌とした中で、スコールが声をかける。

 

「我に協力をだと?」

 

エヌオーは少し思案し、こう言った。

 

「ならば、力を示して見――」

「“まじで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るぞ”『キングベヒんモス』」

“『多分奥歯が揺れるくらいの威力はあるはずだしね』”

「はおおぅっ!?」

 

セリフに被せたテレサが召喚したGFの攻撃を『股間』に食らって、エヌオーはのた打ち回る。

巨大獣の角による、男の急所への一撃は、軽減しても効いたようだ。

 

「指輪なのにネックレスとは……」

「……そこなのか……?」

「それに、指輪は表面を抉る効果があるのであって、奥歯を揺らすのはコインを数十枚握った方が効果があるはずだ」

「いや、そうマジになられてもな……」

 

エヌオーのツッコミに、スコールとサイファーが頭を傾げた。

 

「しかし、事象改変に踏み込むとは……」

「まだ常識的だったと思うが、今ので分かったというのか。

なるほど、伝説として語り継がれるほどではあるようだ」

 

アルティミシアが驚く。

今の滅茶苦茶な召喚と攻撃で、テレサが何をやったのか、気付いたらしい。

 

「常識的だと?

我がバリアの内側に召喚して、瞬きの間に攻撃を当てるアレがか?」

「……すまん、私も彼女らに毒されてきているのか……」

 

アルティミシアは指摘されて頭を抱えた。

自分自身が対処に回り、練習もしていたが故に、常識と非常識の境目が曖昧になっていたようだ。

 

「事象改変は神の力。

神が『無』と4つの『心』を用い、『クリスタル』を作り出して、世界を安定させた。

私は神とは別の方法にて、『無』をこの世界に呼び出したに過ぎん。

しかしそこの娘よ。

お前の力はこの世界を作り上げた神のそれに近い。

その力と我が『無』を用い、お前は新たな神にでもなるつもりか?」

「あ、そゆんやないから。

過去に飛べる器になれるヒト探してただけやし」

「……………………………………………………………………………………なに?」

 

エヌオー、協力を承諾するも、真の『無』の力を振るう機会なし。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
FF5編、作戦進行中です。

ルートは幾つか考えていたんですが、ネオエクスデスがバグったところから、『無』に呑まれた四戦士をサルベージする案は消えました。
あんなのと戦って、まともに生きてるわけないですからね。
誰をどうやってサルベージするかという問題もありましたし。

なので、GBAのエヌオーに白羽の矢が立ちました。
他のキャラは大体死んでいるか、人間ではないか、『無』に呑まれているので。

ちなみに、私ひろっさんはGBAはやっていません。



――――設定

エヌオー:FF5GBA
ゲームボーイアドバンス版FF5の追加ダンジョンにいる隠しボス。

『無』を操って世界を支配しようとし、12の武器を持った勇者に倒された。
元々は不死身だったが、『無』を生み出す際に不死を失ったらしい。
そのために倒されたが、なぜか復活。

説明では『無』を生み出したとなっているが、それだとクリア後にクリスタルの力で世界が元通りになるシーンの『最初に無があった』のくだりが説明できないため、『無』を普通ではない方法で手中に収めたということにした。

原作では『無』がどういう性質を持ったエネルギーなのか、細かくは説明されていないため、どうとでも解釈できてしまう。
(フロム脳がはかどる)


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未知との遭遇

8/18 サブタイがちょっと苦しい。良いアイデアがあれば活動報告の方へお願いします。


愛と勇気と希望と好奇心の大作戦進行中。

予定通り、2度目の『時間圧縮』が始まる。

テレサが解析したこの世界の性質を加味し、調整した術式を用い、アルティミシアが過去のエヌオーの身体を操って行った。

 

さすがに2度目で慣れたためか、メンバーの再集結も早い。

 

しかし、ちょっとしたアクシデントがあった。

 

「む……何かがこちらへ来る――!」

 

アルティミシアが警告する。

 

「これって、『オメガ』クラスの魔力よ!」

 

キスティスが叫んだ。

 

ほどなく姿を現したのは、1体のドラゴン。

50メートル近い蛇のような胴体に、小さな手足の生えた、いわゆる東洋龍だ。

それは青紫色の鱗を備え、神々しい輝きを放っていた。

 

「『神龍(しんりゅう)』……!」

「『オメガ』に続くヤベーやつやん……!」

 

一行は身構えるが、東洋龍はこう声をかけてくる。

 

「私は『オメガ』の気配を追ってきた。

この近くにいることは分かっておる。なぜ姿が見えぬ?」

 

それは声をかけたというよりも、自問しているようにも見えた。

 

「なんや、やるんやないんか」

 

セルフィは若干残念そうにしていた。

後ろを気にせずに暴れることができるため、『オメガ』の時と違い、やる気満々だったのだが。

 

「『オメガ』の気配って、テレサ、あの紙持ってきてるのか?」

 

サイファーはテレサに尋ねる。

『オメガ』との戦いの際、彼は直接は見ていなかったのだが、それを見ていたキスティスを通じて話は聞いていた。

 

「エクスデスどないかするん先にして、後回しにしててんよ。

ちょいメンドいことになっとるねん」

 

テレサは、懐から紙を取り出して話す。

それは絶対に開かないように、丸めてガムテープでぐるぐる巻きにされ、棒のようになっていた。

 

「気配の源はそれか。まさか封印に成功していたとは。

しかし、面倒なこととは?」

「コレ、破ったら中身を破壊できんねんけど、封印したんが『波動砲』の発射直前やねん。

発射したら大陸1つ吹っ飛ぶエネルギーやから、下手したら破った瞬間にドッカーンてなるかもしれへん。

おんなじ理由で、開いて解放もできへん。

『時間圧縮』の間に万が一ゆうことあるから、あたしが持ってた方が安全かな、て」

「なるほど……あのネオエクスデスを前にすれば、『オメガ』でさえも瑣末事ではあろう」

 

神龍は納得していた。

宝箱の中で眠り、『オメガ』を倒すだけの力を蓄えていた神龍が目覚めたのは、まさにネオエクスデスが倒される直前である。

 

「ほな、コレの処分、お願いしてもエエやろか?」

「無論、我が悲願である。引き受けよう」

 

テレサは神龍にガムテープで巻かれた紙を渡した。

 

「私はこれより『オメガ』の破壊を行いに向かうが、礼に一つ教えておくことがある」

 

最後に、神龍は語る。

 

 

 

青年バッツは突然の地面の揺らぎに驚いた。

そして、地面の揺らぎではなく、見える景色全体が歪んでいることに気付く。

 

エクスデスを倒すために、エヌオーを倒したとされる12の武器の封印をすべて解放し、それが封印されていた封印城クーザーから出てきたところ。

これからというタイミングでの異変だった。

 

「まさか、これが『無』の力……?」

「いえ、『無』はこんな景色が歪んだりはしなかったわ」

 

『無』に呑まれかけた経験のある、気品ある美女レナがそれを否定する。

 

「じゃあ、これはなんなんだ?」

「わからない。でも、『無』じゃない、別の何かよ!」

 

荒っぽくもレナに似たポニーテールの美女ファリスの問いには、首を横に振る。

 

「聞こえる……世界中で起きてるよ、これ!」

 

年端もない金髪少女クルルが叫ぶ。

 

「なんだって!?」

 

クルルの、動物の声が聞こえる不思議な力を知っているバッツは、驚きの声を上げた。

 

「エクスデスだけでも大変だってのに、何が起きてるんだよ!」

「めっけ」

 

バッツの叫びに、答える者がいた。

 

「!?」「えっ――!!」「!!」「――っ!!?」

 

4人は、声をかけられるまで、その大きな魔力(魔女の力)を持った少女の存在に気付かなかった。

まるで、気配が突然そこに出現したような、瞬間移動してきたかのような印象さえあった。

しかも、『テレポ』の気配もなく。

 

 

 

「とりあえず、まずは私達について説明するわね」

 

驚き、戸惑うバッツ達に対し、キスティスが説明を行う。

キスティス達がどういう存在で、どういう目的でこの現象、『時間圧縮』を行ったのか。

 

それには、当然ながら未来の情報、バッツ達がネオエクスデスに敗北することも含まれていた。

 

「俺達が負けるだって?

12の伝説の武器も手に入れてるし、『クリスタル』の力もあるんだぜ?」

「バッツ、油断しちゃダメ!

ネオエクスデスって、どんな相手か分からないんだから!」

 

年下のクルルに注意されて、20歳児とも言われるバッツはばつが悪そうに頭を掻く。

 

「瞬間的な肉体創生だって?『無』を無限に吸収して?」

「それって『無』が尽きない限り、永遠に倒せないってことなの?」

 

美人姉妹(ファリスとレナ)は難しい顔で唸った。

確かに、今のバッツ達の戦力では難しそうだったのだ。

 

そして、バッツ達が敗北するからこそ、今ここにテレサ達がいて、『時間圧縮』という面倒な方法で危難を伝えてきたという事実は動かせない。

 

「でも、参ったな。伝説の武器が通用しないってことになると、どうすればいいか分からないぜ」

「ちょっと待って」

 

レナが口を挟む。

 

「あなた達が未来から来たということは、未来のエクスデス、ネオエクスデスなのかしら、それを見たということよね?」

「ええ、すぐに倒してしまったけど、様子がおかしいというところまでは私にも理解できたわ」

「倒したって?」

「無限の瞬間的肉体創生ってやつをか?」

「『無』ごと吸い込むヤバイやつぶつけたらどないかなったで」

 

テレサは驚くバッツとファリスにこともなげに告げた。

 

「今、こやつを理解する必要はないが、『『無』ごと吸い込む』というのが、どうやら正解だったようでな。

先程、遭遇した『神龍(しんりゅう)』の話で、ネオエクスデスがなぜ倒れたのかに関しては私も理解できた」

 

アルティミシアが語る。

 

「どうやら、今のエクスデスは『クリスタルの欠片』を手に入れているようなのだ。

『無』はすべてを呑み込み、『クリスタル』は『無』より世界を創生する。

同じ『クリスタル』の力をぶつければ、質はどうあれ無尽蔵のエネルギー源があるネオエクスデスには、お前達では勝てん、ということなのだろう。

逆に言えば、『次元の挟間』に封印されていた『無』を枯渇させてしまえば、ネオエクスデスは自身を維持できなくなり、自滅する」

 

彼女は溜息を吐く。

 

「『無』を枯渇させるって、それこそどうすりゃいいんだ?」

「私達が『クリスタル』を人工的に生成するの」

「『クリスタル』を?」「そんなことできるの?」

「不完全にはなるでしょう。

元々、私達は別世界の人間だから、心の力が足りていようとも、この世界のシステムには馴染まないと思うわ」

「それでも、膨大な『無』を消費することに違いはない」

 

この話をしていたアルティミシアの内心は、驚愕と戦慄に満ちていた。

 

「(まさか、このような形で状況を打開するとはな。

大雑把な備えだと?最後の切り札ではないか。

――アーヴァイン・キニアス)」

 

そう、この作戦を用意したのはアーヴァインなのである。

 

片思いの少女の様子を見たいからと、オダイン研究所に来て、当初の作戦と情報を聞いてから、考えうる不測の事態に備え、FF8側の人間で『クリスタル』を人工的に生成し、『無』を枯渇させる補助作戦を考えたのだ。

それは、FF5側、バッツ達がなぜエクスデスに敗れたのか、推測しかできないからこその備えだった。

 

『無』を枯渇させてしまえば、エクスデスであろうとネオエクスデスであろうと、大した力を振るうことができなくなる。

そうすれば、後はどうにでもなる。

 

本人が言うには大雑把な備えだったが、実はどんな理由でバッツ達が敗北したのであれ、対応できるだけの応用力のある作戦でもあったのだ。

 

「(そして、これを採用したラグナ・レウァールの胆力よ)」

 

通常、作戦には余計なものを入れないのが普通だった。

しかし、今回は明らかな異物、非戦闘員が参加している。

それはエクスデス、ネオエクスデスを倒せなくなるかもしれないということを意味していたのだが。

 

それでも何かあった場合に状況を打開できるのなら、とラグナは非戦闘員を作戦に組み込むことを許可していた。

このメンバーならば、エルオーネとイデアを守り切り、任務を完遂できると信じてのことである。

 

「(テレサというイレギュラーがなくとも、戦えば負けていたのは私か……)」




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
多分、もうすぐ終わりです。
また説明やらなんやらで多少長引くかもしれませんが、エンディングが見えてきました。

最後、どうするかについては、あんまり考えてなかったりするんですよね。
この小説は最後の最後まで行き当たりばったりです。

戦慄の、そこにいないのに存在感を主張するアービン。



――――設定

神龍(しんりゅう)』:FF5、考察、独自設定
『次元の挟間(ラストフロア)』の宝箱に入っており、開けると襲ってくる、FF5最強格の裏ボス。
GBAでは強化版が出てくるらしい。

『オメガ』を追っているようだが、その理由、なぜ宝箱に入っているのか等は不明。
一応、12の伝説の武器を持った英雄でも倒せなかったという記述があり、『オメガ』と同格とされる。
『オメガ』は遭遇すると逃げられないが、『神龍』は逃げられる。

強力な全体攻撃を連発してくるタイプのボスで、通常攻撃もかなり強力。
開幕『タイダルウェイブ』を放ってきて、耐えられなければ即全滅する初見殺し。
ただ、属性攻撃が多く装備などで吸収できる上に、『サークル』や『デルタアタック』(石化+ダメージ)のような悪辣な攻撃は少なく、完全ローテーション行動であるため、殺意は低めに感じる。

『オメガ』より『神龍』の方が弱いという説があるが、『神龍』からは逃げられることから、本気を出していないとも考えられ、実際に『オメガ』VS『神龍』となるとどちらが勝つかはわからない。(論争あり、未決着)

この小説では、過去に『オメガ』と戦って疲労しており、宝箱の中で回復中だったと設定している。


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多分、これが一番酷いと思います

8/19 ミス発覚、後書きに詳細あり。ついでに誤字もあった。マジか。こんな酷さは要らないんだが。しかも誤字をネタにできなかった。


「“『無』を取得、空白、キ5”『アイテム複製』」

 

バッツ達から借りた『クリスタルの欠片』を真上に放り投げ、名状し難い何かを2度投げ捨てる。

それから落ちてきた『クリスタルの欠片』を片手でキャッチすると、もう片方の手に『クリスタルの欠片』が出現した。

 

「さすがに俺達が持ってるのと比べると、輝きがくすんでるな。大きさも小さいし……」

 

バッツは残念そうに呟く。

 

「まま先生の『いたわり』でこれだと、やっぱりかなり『無』に近付かないといけないということみたいね」

「下手すりゃ戦闘の真っ只中か」「そうなるか」

「あら、まあ……」

 

イデアは少し困った顔をする。

キスティスもサイファーも、他のメンバーも、誰1人としてイデア以上に『いたわり』の心の強い人間がいないという意見に異論を唱えなかったのである。

アルティミシアも含めて。

 

「それでも凄いぞ、コレ」

「テレサ、消耗はどうだ?」

「22回以上は帰りがキツい」

「そっか、元の世界に帰らなきゃなんだね……」

 

クルルがバッツとは別の意味で残念そうに呟いた。

 

「でも、今見た感じだと、あなた達だけじゃ『クリスタル』は維持できないのね」

「ああ、今まで『無』から『クリスタル』を生成するなんて考えもしなかったが、『クリスタル』が選んだ俺達の心が核になって、『クリスタル』が維持されるみたいだ」

「彼女達が元の世界に帰ってしまうと、この『クリスタル』も砕けてしまうんだろうな」

 

さすがに『クリスタル』と関係が深いと、この辺はすぐに理解できるようだ。

 

「でも」

「ええ、今は『クリスタル』を生成できること自体が大切よ」

「じゃあ、俺達はエクスデス、ネオエクスデスを相手に時間稼ぎしてればいいわけか」

「襲ってくる『次元の挟間』の魔物は、彼らだけで戦うことになるけれど……」

 

大して力を持たない者が多く混じっていることをレナが心配するが、アルティミシアがこう答えた。

 

「それは大丈夫だろう。今まで何度も、エクスデスが送り込んできた『次元の魔物』を倒してきた猛者達だ」

「マジかよ……」

 

『クリスタル』の力に頼ってきたバッツ達からすると、それは信じられないことだった。

何度か魔物と軍隊との戦いを見てきた彼らは、自分達にとってかなり弱い魔物でも、訓練された兵士達にとっては大きな脅威であることを知っていたのだ。

 

「作戦を確認するわよ」

 

キスティスが皆に呼び掛けた。

 

「まず、エクスデスと直接戦うのはバッツ達にお願いします」

 

バッツ達は頷く。

 

「次に、テレサは『クリスタル』の生成。

まま先生が必須として、エルオーネも一緒に。

私とアルティミシア、サイファー、スコールが護衛するわ」

「ウチらはー?」「なんかやることないん?」

「両方のサポートよ。

エクスデスがいつの段階で『無限創生』するようになったのか分からないわ。

だから、何が起きてもいいように、控えていてもらいたいの」

「了解、きのこ先生」

「……(きのこ……?)」

 

スコールがやや首を傾げた以外は、概ねこの作戦で行くことになった。

 

「基本的に命令系統みたいなものはないから、みんな臨機応変にお願いするわ」

「了解!」「了解」「承知した」

 

それぞれ頷き、戦いが始まる。

 

 

 

『時間圧縮』空間の中で、エクスデスは配下の者を呼び寄せ、守りを固めていた。

 

「エクスデス様、これは一体……?」

「何者かが我らの勝利の歴史を改竄しようとしておるようだ」

 

実はエクスデスも内心動揺していたのだが、配下達の前でそれを露わにすることはない。

さらに言えば、『勝利の歴史』というのもハッタリだったりする。

 

「(『無』をぶつけると一応は安定するようだが、時間を歪めるだと?

このような術式、エヌオーからも聞いておらんぞ……)」

 

まさか、別世界の未来の存在が行っているとは、夢にも思わなかった。

そもそもこの時点のエクスデスは、未来の自分が別世界にちょっかいを出していることなど知らないのだ。

 

そして、刺客を呼び戻して団体での決戦などということになるとは、予想だにしていなかった。

もちろん、バッツ達が新たな仲間を得て確実に自分達を殺しにくるなど、考えもしない。

 

ましてや、自分達が奇襲を受け、次々倒されていくなどとは……。

 

「“さすがディオ”『へんじがない』」

「エクスデス様――ぐふっ!?」

「“俺達にできないことを平然とやってのける”『ただの』」

「なんだ貴様ら――ひでぶっ!?」

「“そこにシビレる”『しかばねの』」

「奇襲だと――あべしっ!?」

「“憧れるゥ”『ようだ』」

「アッ――!?」

 

上から順に、テレサが『アポカリョープス』、セルフィが『ツインタニア』、クレアが『ハリカルナッソス』、キスティスが『ネクロフォビア』と倒していった。

『ハリカルナッソス』は2度目だが、時間軸的にバッツ達が倒される前に戻っているため、復活していた。結局瞬殺だが。

 

「“他界他界”『セカイガオワルマデハー』」

「ヴぉおおお……!」

 

少し遅れてサイファーが『カタストロフィ』の巨体を瞬間的に連続して切り上げることで、天高く浮かせて刻み倒す。

 

「ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ……」

「ヴぁあああ……!」

 

さらに、スコールが『アパンダ』を打ち上げ、落ちてくる先に回り込んで打ち上げるを繰り返して倒した。

 

「もう、あいつらだけでいいんじゃないか?」

「姉さん、そういうわけにもいかないでしょ」

「エクスデス様ぁああっ!!」

 

言いながら、バッツ達が息の合ったコンビネーションで『カロフィステリ』を倒す。

 

「……」

 

目の前の惨劇に、頭が真っ白になるエクスデス。

 

『次元の挟間』に封じられていた、名だたる魔物達が一瞬で全滅したのだ。

『無』の力を得たエクスデスにすら、そんなことができるかどうか。

 

「さあ、覚悟しろ、エクスデス!」

「ファファファ、ま、まだ私に逆らおうという者がいたとは。

だが、『無』の力の前に平伏すがいい!」

「あ」「ちょいどもった」「噛んだ?」

「いいからこっちはこっちで作戦通りにやるわよ……!」

 

エクスデス以外のボスを倒したテレサ達は、キスティスの注意を受けて、さっさと『無』に接触できる場所に別の足場を作っているアルティミシアのところへ瞬間移動していく。

 

「ええっと、“バクサツ、ボクサツ、おやすみベア”『永眠剣スヤァ』」

「とぅ!」

「今更『魔法剣スリプル』程度がこの私に――スヤァ」

「ホントに寝たぁぁぁっ!?」

 

テレサが組み上げた『状況再現』による新技術『耐性無視魔法剣スリプル』。

それが効いたことに、クルルの補助を受けて攻撃したバッツ自身が驚いていた。

 

こうして、FF5側の世界は、見所が行方不明のまま、救われることになる。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
私ひろっさんが、久々にやらかしたようです。
感想返信にも書いたんですが、改めて。

現在、私が使っているノートパソコンは、メモ帳にクセがありまして、『右端で折り返す』をONにしていると、文章を保存した際に自動で折り返した部分が切られてしまいます。
保存データの方には普通に切られずに保存されていますが、問題は保存後に作業を続行し、特にコピペしたりすると、右端で切られたままコピーされてしまうという性質があります。

一度閉じて開き直してからコピペすれば済む話なんですが、眠かったり疲れていたりすると、やってしまうようです。
そして今回ミスをした日付は、以前に先の話を誤投稿した翌日でした。
自分でそこまでとは思っていなかったんですが、どうやら疲れていたようです。

もちろん、それが言い訳になるとは思っていません。
こういうミスはない方がいいに決まっていますから。

以上が今回の顛末です。



――――設定

アイテム増殖バグ:FF5、独自設定
スーパーファミコン版FF5に2種類あるアイテム増殖バグの1つ。
『99増殖バグ』とも呼ばれる。

増殖したいアイテムがない状態にする。
装備でき、かつ投げることができる武器を1種類1個だけ用意。
(個数を1にするという意味。武器のレア度、種類は問わない)
アビリティ『なげる』と『ぬすむ』をセット。
(バラけさせてもいいし1人に集中させてもいい)
用意した武器を並び替えで一番左上に配置。
用意した武器を装備できるキャラを素手にする。(装備を外すという意味)

戦闘中、アイテム欄から素手のキャラに用意した武器を装備させる。
『なげる』で、一番左上にできた空欄を選択し、投げる。
もう一度『なげる』で、一番左上に出現した『キ5』を投げる。
その後、モンスターから増殖したいアイテムを盗む。
するとそのアイテムが99個手に入る。

もう1つ『255増殖バグ(無限増殖とも)』が存在。
『99増殖バグ』の際、出現する『キ5』を投げずに盗み、それからそのアイテムを使ったり捨てたりすることで数を減らす。
すると個数が『キ5』となる。
ただし、こちらでは店では1個か255個でしか売れなくなる。
1個ずつ売ると無限に売れるため、『無限増殖バグ』と呼ばれることがある。

この小説では、『99増殖バグ』の手順を用いて『クリスタル』を複製している。
実はサイズは心の強さや別世界人であることとは何の関係もない。
単にテレサが召喚した『無』の総量が少なかったのが、小さいサイズだった原因。
また、別世界人であることで、イデアの『いたわり』の心を上手く核にできなかったために、輝きが失われている。
……という設定。


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最後のエクスデス

8/20 タイトルに偽りなし。『最期』ではない。


「“『無』を取得、空白、キ5使用”『アイテム複製』――おっ?」

 

『無』に直接手を突っ込んでいたテレサが声を上げる。

 

周囲では、『次元の挟間』に封じられていた雑魚魔物達とサイファー達護衛との戦闘が行われていた。

とはいえ、どうやら瞬殺されたりお手玉されている強者を見ていた者も多いらしく、そこまで攻撃が激しくはなっていない。

それとも、『時間圧縮』というアルティミシア専用フィールドに屈して溶けてしまったのだろうか。

 

ともかく、テレサが手応えに異常を感じたのは、『次元の挟間』に封じられていた『無』を枯渇させるために、『クリスタル』を無理矢理複製していた時のことである。

 

テレサはびっくりして『無』に触れていた手を引っ込めた。

複製した『クリスタル』は、5メートル近いサイズになっている。

おそらく、元々FF5にあったフルサイズだろうと思われる。

ただ、やはり輝きはないが。

 

「大丈夫かしら、みんな、まだ余裕があるようだし、少し休む?」

 

手を繋いでいたイデアが、労りの声をかける。

 

「んにゃ、そっちは大丈夫やで。ちょい『無』がコッチ突っ込んできただけ」

 

テレサは首を横に振った。

 

「えっと、ホントに大丈夫なの?」

 

エルオーネも心配そうに声をかける。

 

「欲張って『無』をよーさん『無』のまんま制御しようとかしよると、逆に『無』が呑み込みにくるみたいやねん。

量に気ぃ付けたら大丈夫やで」

 

テレサは大丈夫と返し、作業を再開する。

 

「“『無』を取得、袋2番目、『クリスタル』を袋へ、魔法の鍵を袋へ”『クリスタル複製』」

 

今度は手順を変えて、先程の5メートル級の『クリスタル』をそのまま複製することにした。

それを合計6つ用意したところで、『次元の挟間』に封印されていた『無』が枯渇を始める。

 

「ん、んん……?」

 

ここで、作業をしていたテレサがまた眉をひそめる。

 

「もう大分減ったのがわかるくらいになってきたけれど……どうかしたの?」

「作業に問題ないんやけど、妙に『無』が散ろうとするんよね……」

 

本来、『無』とは強力に空間を歪める。

それは重力に似た性質を持ち、つまり何もかもを吸い込むはずなのだ。

しかし、テレサはそれとは逆の性質を感じていた。

 

先程、『無』が呑み込みに来た時、顕著になったため、それから制御する『無』の量を一定に制限していたのと合わせて、注意していたのだが。

やはり、テレサに近付くと『無』が発散している。

イデアやエルオーネ、アルティミシアではそんなことはなかったのに。

 

テレサにあって、上記の3人にないもの。

それは3人の特殊性を考えれば、すぐに答えが出る。

 

イデアは魔女をテレサに継承して失ったとはいえ、その『いたわり』の心の大きさは、魔女アルティミシアが異論を挟まないほど。

魔女に関する古い術式の知識に関しては、アルティミシアをも凌ぐ。

 

エルオーネは言わずと知れた不思議の力、接続能力の持ち主。

他者の精神を過去の別の人間の中に『接続』する能力を研究することによって、GFを人間の脳にジャンクションすることができるようになった。

『無』がそれに影響される可能性はないではない。

 

現役の未来の魔女アルティミシアは、『時間圧縮』という特殊な術式を用いて過去を改変しようとした。

『時間圧縮』は現代では『クイック』という時間を止める強力な魔法の一種としてイデアが知っている。

つまり、現在だけを圧縮し、擬似的に時間を止めるのが『クイック』だ。

現代では『ダブル』、『トリプル』という形で、肉体を動かさないという条件で弱体化、擬似魔法に落とし込まれていた。

自分の精神を過去へと飛ばし、儀式を行って過去方向へ範囲を拡大することで、過去と現在を圧縮して混ぜ、過去を改変するのが『時間圧縮』というわけだ。

 

実は、テレサも完全に解明し切れているわけではない。

だから、『時間圧縮』の実行のために、アルティミシアの協力が必要となっていた。

逆に言えば、知識面、技術面の話であり、かなり多くの魔女を1人に継承しているということを除いて、テレサとそう大きな違いはない。

 

今は、アルティミシアが魔女であるということが重要だった。

つまり、テレサが魔女であることが原因ではないということだ。

 

ならば、残るは1つしかない。

テレサが転生者であり、神から依頼と共に転生特典を与えられていることである。

 

『タブレット端末』、『記憶保護』、『エニグマ』、『パラメータアップ』。

 

正直、転生特典でまともに役に立ったのは、『タブレット端末』そのものだけである。

幼い頃、ビデオカメラを申請できなかった時、擬似魔法やこの世界の法則を検証するのに、多いに役立った。

しかし、他はあれば便利という程度であり、なくて困ったことは一度もない。

 

ここへ来て、5つ目の転生特典の可能性が発覚した。

しかも、彼女はそれが、むしろ解析の邪魔になっている可能性に思い至る。

 

テレサの周囲だけ、『無』の働き方が特殊になるのだ。

彼女はそれを加味して『無』を制御しなければならない。

 

そして、散ろうとする『無』を片端から召喚して固め、2メートル強というサイズの『クリスタル』を生成したところで、『次元の挟間』に封印されていた『無』が底をついた。

 

「……うし」

 

テレサは確認してから頷き、合図を送る。

 

「やっちゃえバーサーカー!」

 

『時間圧縮』の最中、その合図を受けて、バッツ達は無力化されたエクスデスを倒した。

非常に釈然としない気持ちの中で。

 

しかし、まだ終わってはいない。

 

 

 

「『タンスの角に小指をぶつける呪い』」

 

エクスデスは静かに告げる。

 

「『クシャミが出そうで出なくなる呪い』。

『タライが降ってくる呪い』。『酒瓶が降ってくる呪い』。

『肝心なところでうっかりする呪い』。

『呪いを解く詠唱がオチ○チ○ビロ~ンになる呪い』。

○○○(気が狂うほど気持ちええんじゃ~)に毛が絡まる呪い』」

 

なぜか青、赤、白の蛇の目模様の入った鎧のエクスデスは、さらに続ける。

 

「『キノコがタケノコになる呪い』!

『卵にかけた醤油がソースに変わる呪い』!

『紅茶が切れる呪い』!!」

 

激しくヒートアップしながら。

 

「小娘ェ、貴様が原因かァ!カメェェェェッ!!ヤローテメーブッコロース!!」

 

蛇の目エクスデスが、『無』をかなぐり捨てて、この時点では未来からテレサを追跡し、襲いかかってきた。

 

それはもう、ご立腹な様子で。

 

「“『無』を取得、ドラゴンパワー、サムソンパワー、英雄の薬、レベル5デス”『()()しい()いだった』」

 

テレサはとっさに迎撃し、退避する。

 

「“『無』なんぞ使ってんじゃねえ!軟弱者は消え失せろ!”『断罪のエクセキューションンン』!!」

 

しかし、蛇の目エクスデスは逆に反撃してくる。

 

「ッ――ホァイ!」

 

テレサはイデアとエルオーネを連れて、攻撃の範囲外に回避。

どうしてか、『無』の気配もないのに別人のように強化、狂化されており、今のテレサでさえも即死耐性を突破できなくなっていた。

 

「どないなっとんねん?」

 

何が起きているのか、まったく分からない。

 

「テレサ、アレ、マジか?」

 

異変を感知してきたセルフィが、蛇の目エクスデスに視線を送りながら、尋ねる。

誰かに尋ねたくなる事態が、まさに目の前で起きていた。

 

「なんで、エクスデスがテレサっぽい技術使いよんねん?」

 

セルフィ自身答えが返ってくるなどとは思っていなかった。

しかし、すぐにそれどころではなくなる。

 

「“一発で沈めてやるよ、覚悟はできたか?”『ワールドデストロイヤー』!!」

「まずい、距離と時間が……!」

 

アルティミシアは焦りの声を上げる。

蛇の目エクスデスが振り下ろした腕が、『時間圧縮』の術式と共に、『時間圧縮』によって不安定化していた世界線を砕いたのだ。

空間の無秩序化によって瞬間移動、高速移動で退避できない状態になったテレサ達は、為す術もなくFF8側の世界へと放り込まれる。

 

そしてエクスデスとの、本当に最後の戦いが始まった。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
次回、VSエクスデス3戦目、暴走エクスデス、あるいはエクスデス(若本)です。

割とまっとうな理由で怒り狂うエクスデスは、なんとテレサと似た技術を使います。
テレサが『クリスタル』を複製する際に色々とおかしなことに気付いていましたが、エクスデス戦の伏線でした。

いよいよフィナーレも近いですね。

ちなみに、一応、後でフォローは入れますが、バッツ達『光の四戦士』はFF5の世界に残っていますので、最後のエクスデス戦には参加しません。

今回、解説をすることがないので、FF8のやり込み『ディスク1ライオンハート』について解説します。



――――設定

ディスク1で『ライオンハート』:手順
『ライオンハート』というのはFF8主人公スコールの最強武器。
スコールの特殊技はガンブレードの改造段階によって追加されていくため、『ライオンハート』の入手は最強技『エンドオブハート』が使用可能になるという意味でもある。

必要素材は『アダマンタイン』、『竜の牙』、『波動弾』。
『アダマンタイン』の最速入手は、ティンバー後、ガルバディア大陸のいずれかの海岸に出現する『アダマンタイマイ』レベル20~29からのレアドロップ(12/256)。
『竜の牙』の最速入手は、OP正門到達前、訓練施設に出る『アルケオダイノス』レベル20~29からのドロップ(51/256)。
『波動弾』の最速入手は、『炎の洞窟』クリア後、『エルノーイル』のカードを20枚集めて『ケツァクアトル』の『カード変化』により『エネルギー結晶体』へ、さらに『イフリート』の『弾薬精製』で『波動弾』へ。

『アダマンタイン』は、カードから入手するには『ミノタウロス』を倒して『ミノタウロス』のカードを入手する必要があり、デリングシティ到達後になってしまう。
『竜の牙』はティンバー後、高台判定の場所に出現する『グレンデル』が通常ドロップするため、それを狙ってもいい。
レベルを一定に保ちたいなら、モンスターを『カード』にして倒すといい。

やり込みプレイヤーは中盤辺りまで低レベルで進めることが多く、『ライオンハート』の最速入手は基本的にスルーする。
特殊技での大ダメージが必要なのは『セクレト』戦だが、この戦闘ではアーヴァインの『アーマーショット』やゼルの『超究武神破拳』で代用可能。


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TASさんがログインしました

8/20 これくらい理不尽でなきゃ。


敵はなぜかテレサを追ってくるため、テレサがエスタ大陸から南、セントラ大陸の東端にあるカシュクバール砂漠に移動し、他の人々の安全を確保する。

 

「“男に後退の二文字はねえ!”『絶望のシリングフォール』」

「“男は黙って”『金閣寺の一枚天井』」

 

何もないところから落ちてくる天井の瓦礫を、黒髪少女は木製の天井板にして、蛇の目エクスデスに投げ返す。

 

「『ぶるぁあああああああああああああああ!!』」

 

それをエクスデスは手に持っていた斧で真っ二つにした。

防御を透過する効果を無効化して。

 

『無』をかなぐり捨てたエクスデスは、信じられないほど強かった。

FF8側の『時間圧縮』の術式も破壊され、非戦闘員を気にしながら戦える相手でもなかったテレサがクレアの助言を受けて選択したのは、砂漠への退避。

 

カシュクバール砂漠は古代セントラ文明があった時代に行われた実験が元で不毛の大地となったとも言われており、そこに住む生物を調査する人間がたまに訪れるくらいで、基本的に人間は住んでいない。

 

ここならば、周囲の地形破壊を気にせずに暴れることができた。

とはいえ、問題はFF5側の世界を救う作戦からの連戦という点。

魔女の継承や補助スーツのおかげでかなり軽減されていたとはいえ、そろそろテレサの疲労は限界に達しつつあった。

 

しかし、それでもテレサはセルフィ達の助力を断り、万が一の時のための後詰めを要請する。

 

「事情ありそうやから無視するんは悪いんやけど……。

あたしかて、毎回毎回けったいなモン送りつけられて、ウンザリしとってんよな。

テレサ・ドゥて、あんさんが撃退された男の名前で当てつけてたんやで。

やから、遠慮なくツブさしてもらうわ」

「“縮こまってんじゃねえ!”『灼熱のバーンストライク』」

 

会話が成立しているようにも見えるが、偶然である。

 

絶賛怒り狂い、暴走中のエクスデスは、周囲に火の玉を降らせた。

着弾点の砂が融け、グツグツと煮立つほどの超高温である。

 

正直、避けることだけならば今のテレサでも数時間可能だったが、それで穴子化したエクスデスが止まる保証もなく、手っ取り早く倒すという決断を、テレサは選択していたのだ。

 

問題は、これによってテレサ自身が暴走した場合、誰にも止められなくなってしまうことにある。

しかも、疲労がかなり蓄積してきている今、これを使えば、どんな代償があるか分からない。

今までは数日寝込むだけで済んだが、二度と目覚めなくなる可能性すらあった。

 

世界を救うため、人類を救うため、などという、高尚な目的意識はテレサにはない。

ただ、彼女自身が言った通り、何度も何度も送りつけられてくる『次元の魔物』に対処し、エクスデスを倒せる戦力を一刻も早く整えるために、無茶をして焦って失敗もして。

そうやって10年間溜め込んだ鬱憤を晴らすという、低俗な目的で、この少女は今、戦おうとしていた。

 

そして、案外私怨を理由にした方が力が出る人種というのはいる。

テレサもそうだった。

 

なにしろ、そのせいで親友達を殺しかけたのだ。

 

「“貴様の死に場所は……ここだ!ここだ!ここだぁぁぁ!!”『具現結晶ルナシェイド』」

「“TASさんがログインしたようです”『人間辞めました』」

 

当たらないなら回避できないようにすべてを吹き飛ばすとばかりに、エクスデスは自分を中心に超破壊を引き起こす。

 

 

 

「あっ!テレサ!?」

 

テレサに言われて、遠目からやきもきしながら眺めていたセルフィは、親友が蛇の目鎧のエクスデスが放った広範囲攻撃をまともに食らったのを目にして、思わず飛び出しかけた。

 

その一歩は次の瞬間、近くにいたアーヴァインやキスティスの首根っこを掴んでの退避に変わる。

 

「ちょっと、一体、どうしたの!テレサが危ないんでしょ!?」

「セフィ、他のみんなは……!?」

「アタシらが一番前や!テレサから見える範囲や!」

 

セルフィはそう叫んで、エスタ軍が展開していた偵察用の小型無人飛空艇を一瞥。

つまり、彼女ら3人以外はカメラを通じての観測である。

 

「2年前、アタシらが大怪我したて聞いたやろ?」

 

安全な場所に到着したのか、やや青ざめた顔のセルフィは語り始める。

 

「アレな、テレサの攻撃に巻き込まれたんとちゃうねん」

「どういうこと?」

「操ってんよ。テレサが、アタシらを。

正確には、見えてる範囲の人間とか魔物やね」

「敵を操るだけじゃなくて?」

 

新技術にある程度詳しいキスティスが聞き返す。

 

「キスティ、結構『魔改造バーサク』使いよるやろ?

アレ、多分テレサが実験して、安全確保したバージョンやと思うんやけど。

対象設定に敵と自分ってあるんわかる?」

「ええ、あの子が、これがないと大変なことになるって……まさか?」

「そのまさかやで。

対象設定せえへん、リミッターが完全に解除された『魔改造バーサク』て、認識できてる範囲のモン全部使うて目標達成するんよ。

その過程で、誰が何人死ぬとか、そんなんお構いなしや。

テレサ自身も危ないんやけど……。

今はアカン、近付かれへん。アタシらが巻き込まれたら、テレサが泣く」

「……」「……」

 

2人は、もう見えなくなった戦地へ、厳しい目を向けるしかできない。

もう、誰かが介入して何かの結果を変えるということはできなくなったのである。

 

セルフィはエスタ軍と連絡を取り、無人偵察機のリアルタイム映像を回してもらうことにした。

 

 

 

「“死ぬかぁ!”『轟炎斬』

“消えるかぁ!”『斬空断』

“土下座してでも生き延びるのかぁ!”『裂砕断』

『これぞ奥義・三連殺』」

 

黒髪少女の体が斧に刻まれる。

3人。

 

「あたしは、死ぬと、『増える(エクステンデッド)から』」

 

その言葉通り、近寄って来た別の魔物が黒髪少女の姿となり、儀式を始める。

 

周囲には、黒髪少女から戻った魔物の死骸が無数に転がっていた。

 

「“俺の背後に、立つんじゃねえぇい!!!”『バックスナイパー』」

 

背後から近付く黒髪少女に反応してカウンター攻撃の紫光弾をバラ撒くと、その攻撃を受けた黒髪少女がそれぞれ巨大化し、エクスデスに攻撃を仕掛ける。

 

それは、異様な光景だった。

最早、戦闘などという生易しいものではない。

無限に続く攻撃、倒しても倒しても現れ続ける敵。

しかも、1人1人が素のテレサと同等の力を持つ。

エクスデスに正気があったなら、この光景を見て心を折られていただろう。

 

「“大きすぎる……修正が必要だ……”」

「“勝負だレイヴン。どちらが正しいかは戦いで決めよう”」

「“ダァーイレイヴォォォン!!”」

「“ターゲット確認、排除……開始”」

「“排除、排除、排除……”」

 

黒髪少女の、複数の詠唱が周囲に響き渡る。

 

「“微塵に砕けろぉ!”『ジェノサイドブレイバー』」

 

周囲を薙ぎ払うも、詠唱は止まらない。

 

複数の口を持ったテレサを止めることは、最早誰にもできない。

エクスデスが狂い、もがいている内に、長時間かけて行われていた詠唱、魔力操作は完成した。

 

「“メモリ改竄用セーブデータを眺めて”」

「“5秒以内にニューゲーム”」

「『長く苦しい戦いだった(オープニング終了後10秒以内にクリア)』」

「オ……!」

 

エクスデスの鎧から色が失われて灰色になり、砂のように崩れていく。

最後の抵抗として何かをしていたが、それすらもテレサに操作されてのことだと、彼は最後の最後まで気付かなかった。

 

無数の魔物の屍の中央に、砂漠の砂の中に埋もれていた少女が眠っている姿が現れ、数分後に親友達に回収されていった。

 

後に、数百体はいると思われた魔物の死骸は、たった52体だったことが判明する。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
ついにエクスデスが倒れ、世界を乱すものは何もなくなりました。

本物のTASは、相手からするとこんな感じなんじゃないかと。
この最後の暴走エクスデスは、チートによって無敵、攻撃力命中率無限化していましたが、だからこそ正気だったらSAN値が直送されていたような方法での討伐となりました。

今回も解説することがないため、ドール実地試験の目玉ボス、例のカニマシンについてとなります。



――――設定

カニマシン戦:X-ATM092『ブラックウィドウ』
ドール実地試験のみ戦うことができる、色々な意味での目玉ボス。
時限イベント中は戦闘で破壊可能で、逃げれば何度でも戦闘可能。

最も重要な点は、一度HPを0に削り切ると、逃げた際にAP50やドロップアイテムがもらえるという点。
そのため、やり込みプレイヤーはAP50を目当てに、むしろ時限イベントの時間が許す限り何度も戦う事が多い。
(低レベル進行するには、経験値が入らず大量のAPが入るこの戦闘は都合がいい)

HPを削り切る方法は4パターンある。
1つ目は、GFを使用する方法。
『ケツァクアトル』をレベル100にすると、3500以上の雷属性ダメージとなり、召喚魔法+10%~30%、属性によるダメージ増加、応援を含めると9000近いダメージを安定して出せる。
ただし、GF召喚は演出が長いため、罠と言われることが多い。

2つ目は、最大限力を上げて特殊技を使用する方法。
最も特殊技モーションの短いセルフィではダメージが足りず、その次のスコールはダメージが足りるが、フィニッシュブローで時間を取られる可能性がそれなりにあるため、GFと同じく罠。

3つ目は、最大限力を上げ、属性攻撃に『サンダガ』をセットして通常攻撃。
この時点で入手可能な擬似魔法で最大の力上昇量があるのは『フレア』。
しかし低レベルでは200しか揃わない上に、一撃で1000ダメージ程度のため、実は微妙だったりする。
高レベルを容認するなら話は別で、『イフリート』の『力ボーナス』でキャラクターを十分育てていれば、ほぼ1撃か2撃で倒し切ることが可能。
(ただし、低レベルで大量のAPを稼ぐという趣旨から外れてしまう)

4つ目は、事前の『エルヴィオレ』戦で『ダブル』を大量ドローしておき、魔力を上げて『サンダガ』を連発する方法。
魔力の上昇値は『フレア』が44、『トルネド』が42で、揃えやすい『トルネド』で代用可能な数値なのが利点と言えば利点。
全員が『サンダガ』を6回使用するとHPを削り切れるが、演出の長さ的に『ダブル』+『サンダガ』となるため、通常攻撃パターンと比べると安定はしているが微妙かもしれない。
『ダブル』を選択しての『サンダガ』は2回目の演出が1回目に被る上に詠唱モーションが1回になるため、普通に2回使うよりも時間が短いのは確か。

いずれにせよ、ちゃんと時間を測っていないため、どの方法が最も時間効率が高いのかは要検証。

もっとも、実は『セイレーン』が『生命魔法精製』、『ST防御J』、『ST防御J×2』、『ST攻撃J』を覚えた辺りで、それ以上の大量AP獲得が必要なくなるため、極限の効率化を追求すること自体に疑問も出てきてしまう。


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戦後

8/20 なんか、一日で3話くらい書いた気がする。


FF5側。

 

「とりあえず、こんなもんか……」

 

バッツはピラミッドの最奥の台座に『クリスタル』を設置する。

5メートルもある巨大なものだが、バッツ達が触れると不思議なことに、独りでに浮かび始めたのだ。

 

色々と酷いエクスデスとの戦いの後、『時間圧縮』が突然解けたため、『次元の挟間』を探し回ったが、別世界人の姿はどこにもなかった。

代わりに、輝きのない『クリスタル』が大小十数個も残されており、彼らがバッツ達の世界を助けてくれて、何かがあって元の世界へ帰ったのだと、思うことにした。

 

「かなり理不尽で破天荒な連中だったけど、悪いやつではなかったよな」

 

『クリスタル』は、バッツ達が触れることで輝きを得て、エクスデスが操った『無』によって虫食い状態になってしまった世界が取り戻され、『無』に呑み込まれていた人々も無事戻ってきた。

テレサの技術で足りない部分を、バッツ達『クリスタルの戦士』達の力で補ったとでも言うべきなのかもしれないが。

 

『次元の挟間』については、タイクーン城上空に入口が少し残っており、飛空艇から進入することができる状態だ。

とはいえ、その入口は徐々に閉じ始めており、1ヶ月も立たずに入口は消えてなくなるだろう。

 

まだこちらの世界は少し混乱が残ってはいた。

元々分かれていた2つの世界が突然1つになったことで、人々が戸惑っているのだ。

特に新しい隣人との付き合いに四苦八苦している様子も見受けられた。

 

しかし、エクスデスという大きな脅威が取り除かれた今、ほどなく長い平和が訪れるだろうという確信が、バッツ達にはあった。

その前に、こうして別世界人達の努力の証である『クリスタル』を、『次元の挟間』から持ち帰ってそれぞれの神殿に設置する作業が残ってはいたが。

 

「でも、合計18個ってかなり多いよな……」

 

バッツは1人呟く。

 

5メートル級の大きいものは6つ、2メートル級が3つ、後は1メートル級が7つ、それ以下が2つ。

おそらく、思考錯誤も含んでの結果だろう。

 

本来4つしかなかった『クリスタル』は、従来の手順ではない方法で生成されたとはいえ、それだけの数世界が分裂するなどということもなく、エクスデスとの戦いに貢献してくれた人々を中心に世界中に分けられていった。

 

シドとミドなどは、複製された小さな『クリスタル』を、さらに複製できないか、増幅しないまま大きな力に変換できないか、研究を重ねている。

ギードは1メートル級の『クリスタル』を自分の祠に預けられ、

『大事にはするが、何か面倒なことが起きぬといいがのう』

と、呆れ半分にぼやいていた。

 

「心配もなくはないけど、まあ、今のところは大体平和かな……」

 

そう言って、ピラミッドを後にする。

 

バッツは今も相棒のボコと共に世界中を旅して回っていた。

 

 

 

FF8側。

 

ガルバディア軍のドール侵攻から始まった一連の事件の後始末が始まる。

 

まず、ガルバディアガーデンの再建が本格化した。

ガルバディア軍が大幅に規模縮小するため、兵士の大口顧客がなくなってしまったが、逆に軍や政府との癒着もなくなり、理不尽な要求を受けることもなくなったため、元々の理念である中立の立場に戻ったとも言える。

 

ティンバーは、ガルバディア軍が決戦のために占領軍を持って行ったため、独立に成功したことで賑わったものの、熱狂から冷めてみると国を治めるトップがいないことに気付き、大慌てで選挙を行っている最中。

独立、ガルバディア軍がいなくなった真相は、徐々に民衆に知れ渡っており、『森のフクロウ』のリーダー、ゾーンが英雄として大統領選挙に担ぎ出されようとしている。

 

ちなみに、リノアは創作意欲が高まったとかで、実家に帰っていた。

数ヶ月後、デリング大統領とカーウェイ大佐をモデルにしたキャラクターのBL本が、性的な趣味を超えて大人気を博し、モデルとなった両氏が頭を抱えたという。

 

バラムガーデンでは、新技術の普及に調子付いたマスター派が、世間の魔女への恐怖を利用して、魔女賞金の設定を政治的に働きかけようと提案。

その動きを監視していたサイファー、風神、雷神に、塩でとっちめられ、ノーグが繭化。

マスター派の体制が瓦解したため、魔女への過剰な恐怖を駆り立て、遠い未来まで禍根を残す動きは初動で対処され、消えた。

 

その後の運営については、シド学園長は生徒達を含め皆を集めて相談中。

 

トラビアガーデンは、トラビア軍との共同研究によって導入された新技術を利用し、過酷な雪国での生活圏拡大に成功。

相変わらず自然との戦いがメインとなるが、数万人しか維持できない国土環境の改善に向けて、一歩ずつ着実な歩みを見せている。

いずれ、クレアがエスタの技術をある程度持ち帰り、風雪に強い温室を作る技術を研究する方向で調整中。

 

エスタは最後のエクスデス戦時、戦闘の余波による被害があったが、ラグナが先頭に立って対応したことで大した混乱もなく、当初の計画として立ち上がっていたエスタガーデン構想が本格的にスタート。

それに伴い、進み過ぎた技術による混乱を避けるために閉鎖されていたホライズンブリッジの列車運行再開に向けて、ティンバーやF.H.に外交官が派遣された。

 

ホライズンブリッジ再開の理由は、エスタガーデンの建設予定地が『大塩湖』の西側、ウェストコート地方だからである。

いざという時、世界中を駆け回るのに、存在を消すフェンスが張り巡らされた内側では都合が悪いという事情があったのだ。

 

魔女アルティミシアは、エクスデスに『時間圧縮』が破られて以降、接続してきていない。

これについて、オダイン博士やクレアは、未来にアルティミシアの存在を許さないほどに、過去が改変されてしまった結果だとした。

 

元々、『時間圧縮』というのは、古来から伝わる珍しい術式に『ジャンクションマシーン・エルオーネ』の作用を組み込んだものである。

それは多少の努力で組み上がるものではなく、『過去を変えたい』という強い想いがなければ、作ろうとすら思わない可能性が高かった。

つまり、これ以上過去を変える必要がない程度には、未来がよくなるということを示しているともとれるわけだ。

 

 

 

テレサは、1ヶ月後も目を覚まさなかった。

 

元々疲労が蓄積していたのに加えて、さらにあらゆる意味でのリミッターを解除する『魔改造バーサク』の使用によって、昏睡状態に陥ってしまったのである。

 

「まあ、よう頑張ったわ。ホンマ、最初っからテレサがムチャしてガンバってなかったら、この世界滅んでたかもしれへん」

 

セルフィは親友の髪を撫でる。

 

極限の反動のためか、その髪はある長さから真っ白に変色していた。

それも1ヶ月の長い休養を経て、徐々に金色、赤、茶色とグラデーションを経て戻りつつある。

 

最後のエクスデスがどれほどの強敵だったのか。

後になって、映像やテレサが着用していた補助スーツのデータを解析したセルフィとクレア、キスティスが一致した答えを導き出した。

それは、あのエクスデスには、古今東西どのような攻撃も通じず、しかもあらゆる攻撃に触れただけで耐性を無視して即死するという、理不尽と不条理の体現者。

 

それを倒すために、テレサは禁じ手となっていた『魔改造バーサク』を使用した。

その状態の彼女の攻撃も、理不尽と不条理の塊。

 

エクスデスは確かに理不尽状態だったのだが、唯一にして通常は想定すらしない弱点があった。

それは攻撃が命中する、つまりそこに存在がある、ということだ。

 

それに対して、『魔改造バーサク』によってリミッターを完全に解除したテレサが行ったのは、『存在の消滅』である。

 

まず、自分自身の存在を一時的に消滅させた。

しかしそれではエクスデスに干渉できなくなるため、周囲の魔物を無差別に呼び寄せ、無理矢理自分自身に変身させる。

それはエクスデスの攻撃によって次々死んでいくものの、次々と自分自身を複製し、操ることで、エクスデスの魔力操作の処理能力を突破。

 

しかも、その膨大な処理能力により本来は触れることができないはずの世界の記憶を書き換えることに成功。世界のルールとしてエクスデスの存在を維持できなくしてしまったのだ。

これは、対象を取ることができるなら、たとえ別世界に逃げようとも倒し切ってしまえるという、理不尽極まりない攻撃方法である。

 

世界では究極の攻撃魔法として『原子分解(ディスインテグレート)』が存在するかどうかが議論の対象となり、研究が進んでいたが、テレサが行ったのはそれよりも上。

存在の記憶を書き換えるという、ハインの伝承にも出てこなかった、文字通りの神業だった。

 

逆に言えば、あの暴走エクスデスは、それ以外では倒せなかったのである。

 

「でも、あんまり遅かったら、アタシが抜け駆けしてまうかもしれへんで」

 

セルフィは呟く。

 

「テレサは、ガンバってんから、シアワセにならんとアカンで」

 

エスタ中央病院の病室に、少女の親友に対する切なる願いが空しく響いた。

 

とはいえ、そんな劇的なこともなく、テレサは数日後に目覚め、リハビリを始めることになる。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
エクスデス戦後です。

ちょろっとFF5側の話のフォローも入れてみました。
……フォローになってますかね?

ぶっちゃけ、ここからはエンディングで、この後は蛇足のオマケなんですが。



――――設定

『バーサク』:アルティマニア情報、考察、独自設定
自動的に攻撃を行い続ける、攻撃力が50%増加(状態異常としての説明)
対象の闘争本能を引き出し無意識に攻撃させる(魔法としての説明)

おそらく感情を激昂させる、神経操作系の擬似魔法と考えられる。
毒ガス、神経ガスに『笑気ガス』というものがリアルに存在する。
催涙ガスや催眠ガスのような、相手を無力化する非殺傷兵器の一種で、副交感神経を刺激して無理矢理笑わせることで、行動や判断の精度を著しく落とすというもの。

それに似た作用をすると考えるなら、自分自身専用に調整することで、常識や忌避感などによる感情的なリミッターを一時的に解除できるのではないかと考えたのが、この小説における『魔改造バーサク』。

目標達成のために他のことを一切顧みなくなるため、非常に大きなリスクを伴う。
反動による昏睡は『魔改造バーサク』そのものではなく、あくまでその後の行動が原因となっている。


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多分、これが一番最後だと思います。
人間卒業しました


8/22 暑い。日中外に出て汗ダラダラかいて水分と塩分控えろなんてやってられん。


――マダやるのか……?

 

……――。

 

――ナニ、神にだと……?

 

……――。

 

――チェーンソーでズタズタに切り裂いてやろうか!

 

――キサマは黙っておれい。

 

……――。

 

――確かに、ソコへ行く手段を作らねばナラヌ。

 

……――。

 

 

 

テレサが目覚めてから、しばらくリハビリだった。

 

1ヶ月もの昏睡は、彼女から技術の精度を奪っていたのだ。

かつて、未来の魔女アルティミシアがテレサの肉体を使って真似て、その要求精度の高さにより完全再現には至らなかった技術。

万分の1ミリという単位の精密動作を要求する、常人では達成不可能な領域。

 

それを再び取り戻すために。

 

幸いにして、技術の土台は既にあった。

後は肉体の動作精度をそこに合わせていくだけ。

 

しかし、壁もある。

テレサがこれから始めるのは、神への反逆にも等しい行為。

それも、ハインなどというエクスデスとそう変わらない存在ではなく、この物語を作り上げた作者への反逆だ。

 

ヒントはあった。

研究もした。

 

後は、人間を完全に辞める領域へと、足を踏み入れるだけ。

 

「『若者の深刻な人間離れ』」

 

1年後、人々が復興のその先へと足を進める中、彼女は人間の領域を逸脱、神の領域へと足を踏み入れた。

 

 

 

「ようこそ、『物語の外側』へ」

 

無限に続くように見せた部屋にて、伸びた黒髪の胸のない女性テレサと、いつか見たロリ巨乳少女が対峙する。

 

「まさか、ここまで踏み込んで来るとは思わなかったわ」

「バレてへんとか思うてたん?」

「アンタの行動は全部チェックしてたわよ」

「やったら、あたしに言わなアカンことあるんちゃう?」

「……」

 

剣呑な雰囲気に、ロリ巨乳は押し黙った。

しかし、それも長くは続かずに吐き出す。

 

「メンドクサッ。後始末押し付けただけでナニキレてんの?」

「詰みやで」

「何が詰み?

『物語の外側』に出たばっかのヒヨッコに、私が負けるとか希望抱いちゃってんの?

コソコソやってたようだけど、切り札なんてないでしょ。

負けるのはお前だ、バァカ!ゲラゲラゲラ!」

 

可笑しくてたまらないといった表情で、少女は嘲笑う。

 

「あたしは負ける」

「あら認めちゃうの?」

「そしたら、()()飛んでくるんやろ?

こんなとこでバトルとか、わからへん上司やったら、自分で(・・・)送り(・・)込んだ(・・・)転生者(・・・)の始末つけさしたりせえへんもんな」

「……」

 

ロリ巨乳少女の顔から、表情が抜け落ちた。

 

「アンタは、まともな実力なんか出せへん。

あたしと違うて、細かい調整なんか利かへんねんやろ?」

「……こ、この、クソガキどもがぁぁぁぁっ!!」

 

激昂するロリ巨乳に、テレサは遠慮なくフルパワーの力を使用した。

 

「“TASさんの敗北”『オープントレイ』

“『スロット』、『ジエンド』”『ムービーエンド』」

 

『魔改造バーサク』を調整し、物語の外側を経由しての干渉に踏み込み、自分にとっての勝利以外の結果を消してしまう、究極の『任意コード実行』。

それに使用する魔法の組み合わせに、相手の人生を強制終了させる、FF8における最強の即死魔法が含まれていたのは、何の皮肉だろうか。

 

もっとも、今まで猛威を振るってきたテレサの技術は、今回ばかりは通用しない。

このロリ巨乳が、そこに存在しないからである。

テレビ電話のような状態で話をしていたと言えば分かりやすいだろうか。

 

もちろん、盛大に空振るし、テレサとしてもそれでよかった。

これは殺意こそマシマシだったが、さらに上位の存在への合図となればよかったからである。

 

「チッ、せめてテメエだけでもっ――「ハァイトラブってるー?」

 

ロリ巨乳は上司が来る前に、腹癒せにテレサだけでも消そうと力を振るう。

それは使用すれば自分以外の世界そのものを破壊してしまう、確かに小回りの利かない力だった。

そうして破壊してから創世するのが彼女のスタイルなのだ。

 

しかし、ロリ巨乳が攻撃のためにテレビ電話状態での高みの見物から実体を露わした瞬間、肩に死神の手が置かれる。

彼女の肩が跳ねた。

 

「が、ガイア先輩……!

こ、コイツ、いきなり私達の管理体制潰すとか言い出――!」

 

言い訳を始めたロリ巨乳の頭を、金髪少女が良い笑顔を浮かべながら鷲掴みにする。

 

「アンタってやつは自分でなんかやらかしたら、いつも最初に言い訳するわよねえ、ガブリエル?」

「ヒッ……!」

 

他にも何かをやらかしてきた問題児だったらしい。

 

そこからは、ガイアと呼ばれた金髪少女が間に入っての調停となった。

 

 

 

「うわぁお、世界のバランスを崩壊させる力が『エニグマ』と『パラメータアップ』と『記憶保護』ねえ?」

 

ガイアは転生特典の内訳を聞いて、溜息を吐く。

 

「いや、十分ですよね?実際に実験した時はコレでどうにかなったし……」

「バカ。

『タブレット』と『呪い』を特典に入れたせいで、三位一体が崩れてボーナスレベルになってるじゃん。

特典は多けりゃいいってもんじゃない。

3つを残してボーナスに設定しないと、特典ゼロの状態で放り込むことになるから気を付けろっつったはずだけど。

しかも、『呪い』は明らかにテレサちゃんの妨害になっちゃってるし、『記憶保護』ってこの平行世界の性質調べなかったのか、このボケ」

「役には立ったみたいだからいいじゃーん!」

 

ガブリエルは喚いた。

 

「もっと深刻なのは情報不足でしょ。

なんでエクスデスが転生者だって教えなかった?」

「うぐ……」

 

ロリ巨乳ガブリエルは言葉に詰まりながら、それを口にする。

 

どうやら、元々がこのロリ巨乳の不始末で、そもそもバッツに転生させるつもりがエクスデスに転生させてしまい、転生者がそれにキレて、腹癒せに神が手を出す要件である、他の平行世界の無差別破壊を行うことで溜飲を下げるか、あわよくばガブリエルを呼び出す算段だったらしいのだ。

 

「コイツにはなんにも期待してなくてですね。

『呪い』のキャリアとして生き残っていれば、自動的にエクスデスを倒せるようにはしてたんです、はい。

だから、そもそもエクスデスの情報は必要なかったわけで……」

「エクスデスが5年前の時点から魔物送り込むていうのんは?」

「そ、それは……」

 

ガブリエルは口ごもる。

 

「極めつけ、『無』はホンマはFF5側とFF8側で共通やっちゅうことやで。

その嘘がなかったら、あたしはFF8側で『無』を習得して研究できたんや」

「ぐっ……!」

 

そして、ガイアのゲンコツが落ちた。

 

「いたぁっ!」

「『呪い』の内容が『エクスデスの人格書き換え』ってどういうこと?

しかもこれ、『無』をエネルギー源に世界の記憶から書き換える方式じゃん。

アンタ、まさか『クリスタルの欠片』を作用させて世界を再創造させようとしたわけ?

これじゃ、世界を維持する『無』が枯渇して、短期間で世界が崩壊するじゃない」

「……」

 

テレサはガブリエルに冷たい視線を送る。

 

「そもそも、両方の世界崩壊が前提なんやろ?

そんでなかったら、あたしをFF5側に転生させてたらおしまいやん」

「あ……」

「はい、有罪(ギルティ)

「ヒッ……!」

 

こうして、今回の騒動の元凶の元凶であるガブリエルが手を引いたことで、この世界は一時ガイアの管轄下となり、ガイアが不干渉を約束したために、世界の長い平和が約束された。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。

これで蛇足も終わり、次で一応の完結となります。
エクスデス戦と何度も言ってきましたが、真のラスボスはロリ巨乳神(邪神?)なので、ラスボス戦とは書きませんでした。

えっ、あらすじ?
予定は未定ということで…(ry



――――設定

『ジエンド』:『スロット』
色々な意味で謎の多いセルフィの特殊技『スロット』の中の最強魔法。
効果は耐性を無視しての即死。
『オメガウェポン』がこれで即死する風景がよく見られるが、ラスボスにも通じる。
ただし、ラスボスは1回で即クリアにはならない仕様のため、ラスボスを『ジエンド』だけで倒し切るには、10回近く当てる必要がある。
チートじみた性能だが、『スロット』で意図した魔法を意図したタイミングで使用するのは、乱数調整でも行わなければ不可能。
昔、『ジエンド縛り』という狂った縛りプレイについてのレポートが存在したが、アレを見て自分もやろうと思うのは余程の変態だけである。

『オープントレイ』:裏技
FF8では戦闘中にトレイを開けてディスクを取り出すと、戦闘中の時間の流れが停止する。(イベントタイマーは止まらない)
主に『スロット』で意図した魔法を使用するのに用いられる。
バグ技と異なりデバッグではどうにもできないため、プレイヤーが意図的にムービー中にするテクニックとも言える。
主に『ジエンド』を当てるまで『スロット』を回すのに用いられるが、元々『ジエンド』はなかなか出ないため、油断して送り過ぎてしまい、次の『ジエンド』が来るまで泣きながら回すまでが、FF8あるある。


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多分、これが一番困ると思います

8/22 長いようで短かった。


やることがなくなって、テレサはボーッとしていた。

 

ガイアが言うには、テレサは『睡眠相』という、特殊な魂であるらしい。

そうでなければ、魂の状態でずっと眠り続けるなどありえないという。

 

その性質は、何かがあれば文字通り神にも手が届くことをやってのけるが、何もなければずっと眠っているというもの。

 

前世は何かがあったため、テレサ自身も気がつかなかった。

とにかく眠かったことを覚えている。

 

家族を食べさせるために、どんな無茶な仕事も上げて見せた。

ブラックな気質を持った上司は、それがどれほどの負担になっているかも考えずに、同じような無茶をたびたび要求。

社員達が休暇を要求すると、次々クビにしていった。

テレサは契約を盾に脅されていたため、どれほど負担を押し付けられても逃げることができず。

結局、仕事中に倒れて、そのまま死亡。

 

あの後、その会社は仕事の効率が激減し、わずか2ヶ月で20億の借金を背負って倒産。

テレサの家族は辞めていった社員の1人がなんとか救済しようとして、断念。

 

というのも、テレサの家族というのが、娘が稼いだ莫大なお金をあっという間に使い切ってしまう、どうしようもない放蕩家族だったからである。

結局、莫大な借金を娘に背負わせたその家族は周囲のあらゆる人々から見捨てられて破産し、ホームレスとなって盗みを繰り返し、牢獄と冷たい路上を行き来する惨めな生活を死ぬまで強いられた。

 

 

 

トラビアガーデンのリングの上、空を流れる雲やたまに飛ぶ鳥を眺めながら、ガイアに言われたことを思い出す。

 

テレサは、神の力に手が届いた。

 

『神の力っていうのは、世界の記憶を書き換えるってことよ。

他のどんな力をも上書きしてしまえるわ。

不老不死も、無いはずのものを生み出すのも、他人を生き返らせるのも、自由自在。

世界の記憶を書き換えることができるんなら、『物語の外側』で自分を維持できる。

他の世界に行くことだってできる。

未来を変えることも、過去を変えることも、好きにできるの』

 

やろうと思えば、できる。

『物語の外側』に自力で到達してみて、理解できた。

 

『その力は、一つの世界に留まり続けるには、大き過ぎる』

 

その気になって鍛錬を積めば、なんでもできてしまう。

神の所業として思いつくことは、およそすべてやってのけてしまえるのだ。

 

もちろん、未来を計算し切ることだってできる。

それは、テレサの認識の中の大切な人との会話を、歴史の1ページという記録にしてしまうことでもあった。

 

だから、ガイアはテレサにこの世界だけなら好きにするようにと言った。

もしも手に負えなくなってしまったら、『リセット』のやり方を教えるから、と。

 

それはつまり、世界が滅茶苦茶になり、滅ぶようなことになってしまったなら、その時はテレサ自身が手を下せ、ということである。

 

あるいはもう1つ、何も手を下さずに力をすべて封印し、つまり人間として生涯を終えるか。

 

 

 

だから、とりあえず、テレサは寝ることにした。

 

ガブリエルがテレサの魂に仕込んだ『パラメータアップ』は、テレサの魂を無理矢理起こしており、おかげでテレサは暇潰しも兼ねて、極限の効率でエクスデスを倒すための準備を行い、それが過ぎて神の力に手を届かせたのである。

つまり、そもそも転生特典は『パラメータアップ』以外は必要なかったのだ。

 

その影響を脱することに成功した彼女は、前世の分も合わせて、ようやくありつけた睡眠時間を存分に使い、惰眠を貪ることにしたのだ。

 

どうせこの世界には、少なくとも数百年は文明が滅ぶような大災害はない。

 

 

 

それから4000年。

テレサはふと目覚める。

 

「ん、ふぁ……」

 

寝過ぎた気がしないでもない。

 

親友達の要望で、死者の魂をGFにしたり、魔女の継承を引き受けたり、親友をGFにして取り込んだりしている内に、なんだか死に時を失って4000年もゴロゴロしていたのである。

 

「アレー?ここセントラやっけー?」

 

と言うほど、周囲が様変わりしていた。

 

そもそも、テレサのことが記憶にある人々がいなくなってから、精神世界以外で人と話した記憶がない。

数百体のGFをジャンクションし、すっかり賑やかになった精神世界が楽し過ぎたせいもあるだろう。

 

軽く世界中を見て回ってみる。

 

「なんでどこにもニンゲンおれへんねん?」

 

首を傾げる。

 

『月の涙』も克服し、全体的に技術が発展し、数千年程度で文明が滅ぶような要素は欠片もなくなったはずなのだが。

 

テレサが眠っていた元の場所に戻ってみると、なんだか人っぽい魔物っぽい何かが慌てた様子で何やら話し合っていた。

赤い体毛を持っている2足歩行の獣、と言った感じ。

 

以下、解読文である。

 

○○○(おんばしら)が消えたぞ!」

「なんてことだ!これでは世界は○○(デシンク)してしまう!」

「hshsできなくなる!」

「knknできなくなる!」

「この世の終わりだー!」

 

割と解読ミスしていた気がしなくもないが、どうやら御神体のようなものが消えてしまったので騒いでいるようだ。

 

どうせやることもなく暇だし、ということで、テレサは声をかけてみることにした。

 

「やっほ、どないしてん?」

 

そして、迂闊に声をかけたことを、未来永劫悔やむことになる。

 

「おお、大いなるハインよ!お目覚めになられたのですね!」

「」

 

人間の代わりに地上を支配し始めていた種族達に平伏された。

 

どうやら、御神体というのは、ずっと眠っていたテレサ自身のことだったらしい。

 

この後、滅茶苦茶崇拝された。

hshsされてknknされた。

 

prprされそうになって逃げた。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
はい、完結です。

割と思い付きでこういうエンディングにしました。
一時は前話で終わらせようと考えていたんですが、それではあんまりに汚いといいますか。
なので、こんな形である程度整えてみました。



これで連載としては終了です。
またエピソードを追加する可能性はありますが、それは気が向いた時に、ということで。

いやー、連載って、大変ですね。
同時に物凄く楽しくもあります。
やっぱり書きながら読者の感想が見えると、モチベーションにグッときます。
それだけに、体調との兼ね合いといいますか、脳味噌の回転の見極めが大変でした。
要するに、モチベーションが上がり過ぎて、止め時を見失うんですよ。
そのせいで翌日に響いて、『今日の内に上げてしまおう』とか考えて、誤投稿をやらかしたんだと思います。

後で見てみると、誤字を含めてミスの箇所が集中してるんですね。
なので、そういうことなんだろうと。
今後、連載する時があれば、またその辺は調整していきたいです。

実はタイトルとかタグとかサブタイトルとか、活動報告の方で募集していたんですが、そちらは8月22日現在、PVが87と悲しいことになっています。
書き込みは堂々のゼロ。
一応、感想の方でタグのご提案がありましたが、それだけでした。
8月28日まで書き込みがなければ、『多分これが一番…(仮題)』のまま、完走ということになります。
その時は(仮題)を外しますかね。

それでは、またいつの日か。
丸2ヶ月、お疲れ様でした。



――――設定

ハイン:アルティマニア情報
FF8創世神話の神のような存在。
ゲーム中では魔女は『大いなるハインの末裔』という尊称で呼ばれる他、バラムの民家でハインに関する伝承を聞くことができる。

アルティマニアの巻末に『ある日のガーデンの授業風景』という小説のようなものがあり、魔女の授業の中にハイン関連の話が出てくる。
主に『偉大なるバスカリューン記』に出てくる記述。

ハインは地形を改造する道具として人間を作り出し、眠っている間に仕事をしていた人間が増えすぎたため、ハインが人間の子供を間引いたことで人間と対立、長い戦いの末に人間達がハインに勝利した。
ハインは魔法の力を手に入れる者を人間同士の争いで決めさせ、その争いの間に『力のハイン』を残して『魔法のハイン』を逃がした。
『魔法のハイン』は今も見つかっていない。

ということが語られている。
ただ、バスカリューンの子孫が書いたとする『偉大なるバスカリューン記』の内容は怪しく、すべて本当だとするとバスカリューンは980年も生きたことになるらしい。

次に500年前の歴史家テムの歴史書がある。
彼は『魔法のハイン』の正体を当時から存在が判明していた、魔法の力を持った女性だと断定し、歴史上初めて『魔女』と名付けた人物として有名。

ただし、テムは伝説や言い伝えと事実をごちゃまぜにして扱っているため、歴史学者というよりも物語作家とされているらしい。
つまり、こちらも根拠が怪しい。


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多分、これが一番平和だと思います

8/26 ガイア視点の後日談。


ガイアはテレサが涙目で逃げて行った後、原因を眺める。

 

まずはテレサが人間を逸脱して神になった後から。

 

エスタでは、予定通りエスタガーデンが設立された。

『月の涙』への対応を目的とし、マスターはラグナで学園長はエスタ軍の退役将校。

バラムガーデンのSeed制度を取り入れ、卒業後は希望者を『ヘイホー隊』で受け入れる。

また、入学希望者は孤児を優先して受け入れるため、国民のウケもよかった。

セルフィが教員として赴任、後に学園長に。

 

トラビアガーデンにはクレアが戻り、トラビア軍と提携して新技術の研究促進が行われた。

また、エスタから技術を持ち帰り、雪国でも十分に適応可能な温室を開発できたため、後に他国並みに人口が増えることになる。

 

バラムガーデンはSeed傭兵業のギルド制を採用することになったが、ガルバディアガーデンからの戦力貸与依頼からキスティスとスコールが出向。

キスティスは教員としても教鞭を振るい、新技術や魔女への対処法などを伝えていった。

 

ガルバディアガーデンは再建されるも、調査の結果現状最弱のガーデンとなっていることが発覚、バラムガーデンに依頼し、新技術の提供を受けたことで、世界のバランスを担う一角として成長を遂げた。

後にドドンナが一線を退くと、キスティスが学園長となる。

 

また、12年後には各国やガーデンの首脳陣が集まる国際会議が開かれ、ガーデンの目的について話し合われる。

当初、魔女への対策を目的としていたが、新技術の普及のために、魔女がそこまで脅威ではなくなり、新技術もそろそろオーバーキルになり始めていたからである。

 

その際にラグナの提案により、『月の涙』への対抗策が十分かどうか、起きてみなければ分からないという話になり、目的を失いつつあったガーデンに『月の涙』への対抗策が付け加えられた。

 

 

 

テレサが眠りについてから20年後、エスタで『月の涙』が発生する。

 

ある程度被害は出たものの、ほとんどが『月の涙』に伴う重力異常や磁場異常によるものだった。

降り注いだ魔物は、世界中から集結したガーデン生達によって駆逐され、エスタ市街が壊滅などということにはならなかった。

 

重力や磁場の異常に対して対抗策が練られ、それ以降の『月の涙』によってはほぼ被害が出なくなる。

また、『月の涙』の研究が進み、場所とタイミングがかなり正確に分かるようになったため、事前に準備しておくことができるようになったのも、被害低減の一助となった。

 

 

 

数百年後。

 

世界中で人口が爆発的に増え、それに対して食糧の供給が追い付かなくなり始める。

世界中で積極的に魔物が狩られ、人々が生活圏を大きく拡大したのが原因だった。

 

それに伴い、鉱物資源も底をつき始めたため、大規模な宇宙開発が始まった。

 

そして近くに豊かな土壌を持った星が発見され、そちらへの移住計画が始動。

『エクソダス計画』と名付けられたこの計画によって、人間の大半が地上からいなくなる。

 

テレサは長い時からその存在が忘れ去られており、ずっと眠ったまま取り残された。

 

 

 

それから数千年、人間に変わる新たな地上の支配者が誕生し、眠り続けるテレサを発見。

なんでも宗教に結びつけてしまう古代の人々は、テレサを神と呼ぶようになった。

 

古代の遺跡から、神=ハインと解読されたため、目覚めたテレサはハインと呼ばれた。

 

 

 

「www『シムアース』かってのwww」

 

ガイアは笑い転げる。

つまり、別に理不尽な災害が起きて文明が滅んだとかそういうことではなく、人々が地上を捨てて宇宙へ旅立ったというだけだったのだ。

ならば特に干渉することもないだろう。

 

親友や知り合いの希望者を数百人GFとして受け入れてきたため、精神世界が随分と賑やかになったということもあり、テレサは神として『物語の外側』で活動するようになったのである。

 

 

 

ちなみに。

 

この世界最大の問題児リノアは溢れる創作の才能を開花させ、美人作家として活躍。

30代手前で美男の代表格スコールと結婚し、世界中から祝福された。

 

父親のフューリィ・カーウェイ、ラグナ・レウァールは子供達を祝福し、苦労があると全力でサポートした。

 

他にも、セルフィを追い掛けてエスタへ移住したアーヴァインは、見事セルフィのハートを射止め、結婚。後にエスタガーデンのマスターとなる。

 

サイファーは風神と結婚し、ガルバディアへ移住。

しばらく傭兵団を率いていたが、なぜか引退前のデリングに担ぎ出され、ガルバディア大統領に就任している。

 

サイファーは土壌改善事業と共に各地のガーデン戦力を頼みとした軍再編を行い、さらにガーデン同士の親善試合などを企画し、それが全世界に広まったことから、『近代秩序の父』と呼ばれるようになる。

本人は自分の手で暗殺者を捕縛するなど、大統領になっても前線で暴れ回っていたようだが。

 

 

 

テレサの知り合いの内、GFとなることを希望したのが半数、安らかに眠ることを希望したのが半数。

今も、彼女にジャンクションしている。

 

また、魔女がその力を捨てる対象としてテレサが選ばれることが多く、多くの魔女をテレサ1人で継承することになった。

 

古い歴史家が言い出した、魔女を『魔法のハイン』とする説が正しいならば、『魔法のハイン』以上の力をその身に宿したテレサは、ある意味で『魔法のハイン』であると言うこともできるのだ。

 

 

 

ちなみに、数百年後にアルティミシアという魔女が誕生する。

彼女は躊躇いなく魔女の力を使用し、世界に君臨した。

 

ただし、魅了の力や攻撃魔法による恐怖支配ではなく、その特殊ながら芸術的なセンスによって、多くの彫像、銅像を世に送り出し、芸術界に魔法の力、擬似魔法の力を取り込んだ芸術の革命児として、長らく世界に君臨することになる。

 

遠くリノアとジュリアの血を継ぐ彼女の趣味は、同性の行き過ぎた友情に偏っており、なんというか、腐っていたという。

どうやら、『ジャンクションマシーン・エルオーネ』によって、テレサ経由で先祖の趣味に衝撃を受け、そちらに傾倒してしまったらしい。

 

「どwうwしwてwこwうwなwっwたwしw」

 

ガイアの腹筋が破壊されたのは言うまでもない。




――――あとがき

こんばんは、毎度お馴染みのひろっさんです。
以前、その後の話も欲しいと言われたことがあったので追加してみました。
特にアルティミシアのオチは本編に伏線が張ってあったため、それが消化できないのは心残りだったんですよ。

この後の話になると、もうテレサの『俺TUEEE』にしかならなくなってしまうと思うので、基本的には書きません。
また何かネタができれば書くかもしれませんが、現在二次創作業界でFF5とFF8の両方が下火なので、メジャーな世界へ行って直接暴れるということだけはないと思います。

8月26日現在、活動報告のPV88。
かなしみ。


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