始まらない物語 (三柑)
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始まらない物語

ゲームに閉じ込められてデスゲームという展開は、無性に前提を覆してやりたくなります。そんな衝動の赴くまま書いてしまいました。


「ちょっと異世界へ人助けに行ってきてよ」

 公園のベンチで昼食を取っている私に話を持ちかけたのは、神を自称する人物だった。

 冗談のつもりで了承すると、目の前の景色が一変した。

 真っ白な空間。

 この光景は知っている。暇つぶしに読んでいたネットの小説によくあったシチュエーションだ。

 まさか本当に神なのか。

「時間を止める能力をあげるから、ちょっと行ってきてね。ミッションクリアの暁にはその能力持ったまま元の世界に帰してあげるよ」

 そう言って渡されたのはペラ紙一枚。そこには、私がこれから行くことになる世界とやらの概要と司令が書かれていた。

 要約すると、『行くのはソードアート・オンラインの世界。頭がレンジでチンされる機械を全部プレイヤーから外せ』とのことだ。

 この作品のタイトルは知っている。内容はおおまかに聞いたことはあるが、あまり良く知らない。ネットゲームでデスゲーム的なものらしいが。

 とりあえず、現実世界でゲーム接続用ヘルメットのようなものを外そうとすると、マイクロウェーブか何かで脳が焼かれるらしい。

 その状況を打破してこいとのお達しだ。

 面倒だがやってくるか。能力が貰えるのは非常に美味しいし。

 

 

 ところ変わってSAOの世界。

 さて、せっかくの異世界なんだし、元の世界との違いを探してみるか…と思ったが、既に何かおかしい。全く景色が動いていない。

 もしかしてこれ、能力が常時発動してるということか? 元の世界に帰ってもこの状態とかだと非常に困るんだが。

 ん? 携帯に着信が。なになに? 「元の世界に帰ったらON/OFF可能だよ」とのこと。ホッとした。

 件のヘルメット(ナーヴギアというらしい)を装着している人間の居場所はこの携帯に入っているマップに記してあるようだ。

 これを全部回れと。普通はゲームのプレイヤーなんて当然屋内にいるだろうから、入れない場合はどうするんだ?

 先程かかってきた番号に発信して尋ねると、確かにその通りだということで、壁抜け能力をもらえた。

 だがおびただしい数のプレイヤーが世界中に散らばってるので、このままでは作業を終えるまでに餓死するだろうし、海はさすがに自力では渡れない。

 それについてもまた能力の追加で対処された。

 自在にどこへでもテレポートする能力と、過去に食べたことのあるものなら何でも具現化する能力。そして作業を完遂したときに歳を取っていないように不老になる能力までも。

 なんだかどんどん追加されるな。というか神なのにうっかりだったり行き当たりばったりすぎないか?

 まあこれで当面の問題はクリアだ。作業に取り掛かろう。

 

 

 -10日経過-

 

 なんというか、ひたすら地味な作業だ。

 不法侵入してはナーヴギアを外して回るだけ。この停止空間の中では都合の良いところだけしか動かないため、当然レンジでチンは発動しない。

 私は黙々とこなしていった。

 

 

 -さらに30日経過-

 

 これでようやく最後の一人。同じことの繰り返しというのは、拷問のようだった。テレポートで世界を観光がてら移動できたのは良かったが、全く何も動いていないのでリアルな立体映像のような感覚で、感動がかなり薄れる。

 帰ったら再び訪れたいところだ。

 お、時間が動き出した…と思ったらすぐさままたあの白い空間。

 まあいい、これでやっと帰れる。

 ん? その後の世界がどうなったかって? そんなものは知らん。私は言われるがままに作業を行い、何も知らされずに帰ることになったのだから。

 さーて、貰った能力で楽しむとしますか。どうやらサービスで追加の能力まで全部持ち帰れたみたいだし。

 

 めでたしめでたし



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