夢で、忘れた頃に (咲き人)
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episode1~ghost~
1.「俺、気づいた頃に」


久しぶりの投稿


━━━━━幻想郷。この世界の狭間にあると誰かが噂する幻の別世界。ただし、桃源郷のような夢のような世界ではなく、人々は妖怪を恐れ、この世界よりも命を賭けて日々を過ごしていた。江戸時代辺りで文明は止まり、それ以上の文明開化は人間好きの妖怪の手、無くしては積み上がらなかっただろう。人間と妖怪、それに妖精や神……私たちが今いる世界よりももっと互いが密接し、互いに依存し、幻想郷は成り立っていた。

誰かが言った。時代には争いを修める……時代を平定にさせる者が必要だと。幻想郷でも同じだ。度重なる異常事態を解決し、平穏を創る人間がいた。「博麗の巫女」と彼女たちは呼ばれた。

これは、その中でも歴代最高の天才と呼ばれた「博麗霊夢」の物語……ではなく。

 

 

「……ぅ…ん」

 

小さな呟きが物語を動かす歯車であった。むくりと一人の少女は体を起こす。まだ満月が沈んでいない夜中……重い瞼をこすりながら彼女は目が覚めた。

 

「……ここ、どこ?」

 

あれ?本当にわからないや。こんな布団で寝てたっけ?てか、畳の部屋で寝たっけ?ていうか『俺』……

 

「こんな声高いか……?」

 

ちょ、ちょっと待って!いや、誰も待たせてないし、急いでなんかいないんだけどちょっと待って!今、大ヒット映画が頭をよぎったわ!どっちかというと大ヒット映画の曲が脳内再生して、ずっとリピートしてるんだけど……!君の前前……やめろぉ!見たくない!見たくない!具体的に言うと、自分の体、主に胸部辺りが見たくない!でも、見なきゃいけないんだろうなぁ……

 

「……(チラ)。意外と大きい……じゃなくて!」

 

こ、これは筋肉ですか?こんな凸型筋肉初めて見たわ!いやでもそういう可能性は捨てがたい!唯一の救いよ来い!

 

「……(ムニ)……俺、死んだ」

 

ごめんなさい!この体の本当の持ち主よ、俺はどうやらあの映画のように憑依してしまったようです!どうする!?腕に「お前は誰だ?」って書くか!?いやなに原作再現しようとしてんだ俺!

 

「と、取り敢えず顔洗おう……洗面台どこだ?」

 

少女(男)は自分が知っているあり得ないことが自分の身に起きてパニックになったかと思ったら、冷静になって体を起こそうとした……が、

 

「い、った……ひ、左腕に包帯?痛い痛い!この子、殴られでもしたのかよ!?」

 

少女の左腕は肌が見えないぐらいの量、包帯が巻かれていた。左手を支えとしてに立ち上がろうとした彼は痛みで倒れてしまう。今度は右手で体を立て直す。

 

「よく見たら……ぼろっちい家……でも広いな。この子の名前まで同じだったらしまいには笑うぞ。いや、そうだとしたら隕石降ってくるわ」

 

冗談を口にしているものの、体中の寒気は止まる気配はなく、彼はゆっくりと立ち上がり家の中へと足を進めた。

 

「……現代感なし。完全に田舎だな……薪をくべて燃やして調理……時代背景は江戸辺りか?でも寝間着は江戸時代のものじゃないな」

 

おっと、桶に水が入っている。暗くて見えないが汲みたてて一日も経ってないだろう。俺は桶の中の水を両手で掬い、顔を洗う。冷たくて目覚めの気怠さが一気に吹っ飛んだ。では、さてこんな夜中だが、やることがある。まず、この体の女性は何者かということ。そしてきっと原作通りじゃないだろうから「元に戻る方法」を考えること。この二つだな。いや、なんか申し訳ない気持ちでいっぱいだわ……主にレディーの胸を触ったことだな。元に戻れたらぶん殴ってもらおう。人間としてやってはいけないことをやってしまった。そして……

 

「痛っ!……この包帯に隠れた傷だな!左腕がまともに使えん……」

 

左腕を上げることは出来ても手を一本一本動かすことが出来ない。出来てグーかパーだ。それもぎこちない……取り敢えず、この家について詳しく調べないと……こんな小さな女の子。と言っても16、7歳くらいの子でも一人暮らしとは思えない。寝ている他の住人がいるかも……

 

「……床が完全にぼろいな。こういうのは恐怖心を掻き立てるって聞いたことがあるぜ……」

 

ギシギシと音を立てて暗い廊下を歩く少女。男の元の体であったのならば泥棒を撃退することはできただろうが、今は幼気な少女。仮に男が空手や護身術を持っていたとしても筋力に差がありすぎるため、今誰かに襲われれば撃退することは困難を極めるだろう。まぁ、相手が幽霊だったらどうしようもないことに拍車がかかるわけで、彼は泥棒よりもそっちに警戒を強めた。

 

「というか、本当に家か?ここ……部屋っぽい場所が少ないな……そうまるであの、海に生息する生物を名前の元ネタにしたあの一家のような人数での暮らしは無いと見た!」

 

そんなこと言ってたら久しぶりに見たくなった。あの、明日って日曜日ですか?違いますかそれ以前にテレビがないですかそうですか……orz

 

「あ、待て……なんか俺は現実を見ているのか凄く不安になっている」

 

俺の目の前にあるのは、暗くてよくは見えないが、これは……確実に……「賽銭箱」じゃないか?だってその上にあのガランガランする奴あるもん!縄で鈴鳴らす奴あるもんよ!つまり、彼女が住んでいたのはボロい家ではなく、ボロい神社だったのか……?ど、どこの狐の神様が祀られているボロ神社で生きた人形ちゃんですか。入浴中に呼ぶのはいけないことだぞ☆ってボケかましている場合じゃないわ!

でも、結構よく見ると地面は整備されてるように見えるな。朝になれば恐らく参拝者か誰か来るだろう……それまで……お腹空いた。なんか作ろう……食材がちゃんとあるといいんだが……

 

彼はまた神社に戻った。

 

 

これは博麗霊夢の物語ではなく、博麗霊夢に乗り移った何も知らない男の話……

 

 




四日おき辺りに更新したい(願望)


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2.「色々と、知った頃に」

うむ、いい朝日だ。今日も一日、ラジオ体操から始まります……ごめん、さすがに全部は覚えてないや。普通に屈伸運動とか、腕立て伏せとかやればいいか。女性の体は筋肉が付きにくいが、これはダイエット運動にもなるから効果はあるだろう。体が軽いことで素早いフットワークを可能とし、痴漢とかひったくり、食い逃げ、テロリストにも対抗できるようになるのだ(ならない)。ま、冗談は程々に……でも運動は大事だ。彼女も怠けて体を太くしたくはないだろう。女性は誰しもスリムで綺麗であることを栄光とし、最後の最後まで望むものだと聞いたことがある。あまり詳しくは覚えて無いが……

 

「しかし、そろそろ一番危惧していた問題点が迫ってきている気がする……」

 

その問題とはつまり……着替えだ。今、彼女の体は寝間着を着ている。さっきまで寝ていた部屋に箪笥があった。そろそろ時間的にも箪笥の引き出しを覗かねばならぬな……つまり、否が応でも下着を見ることになる。人権も何もあったものじゃないな君の名うう゛ん!……俺は深くは言わないが、賛否両論あったとだけ言っておこう。

 

「うぅ……この引き出しを開けると下着が……個人的には開けたくない……!だ、だが彼女の体の衛生面を考えると開けざる負えない……!これが人の(さが)か!ええい、ままよ!」

 

入っていたのは……赤を主として白が引き立てる紅白の布地の服……と……包帯?じゃない。さらし……さらし……ゑ?

 

「なぜ晒しを……ブラジャーかと思っていたからか、とんでもない落差だ……いや良かったんだけどさ!派手なブラジャーとかショーツとか見なくて済んだから凄い良かったんだけどさ!これはビックリだよ!」

 

うぉう……結構胸が苦しいな。男の時みたいに胸が平らじゃないからきつく巻くと予想以上に苦しくなるな。豊満過ぎても困りものだろうな。彼女は平均サイズ(?)で助かった。

 

「ふぅ……さて、服は……巫女服なのか?袖ないんだけど。あの、腋部分の袖を下さい」

 

仕方ない着るか……袖は後で買おう。おっと、リボン付きですか。こういうのは男性なので本当になれないんですよねぇ~。下手したら帽子すら被らないというのだから。ふむ、様に……なっているのだろうか?この家に鏡がないから自分の容姿すら分からない。黒髪長めの16、7歳辺りの少女とだけしか分からない。何で年齢が分かるのかって?身長と肌年齢見れば分かりますよ☆皆さんもそうでしょう?

 

「スカートも慣れない……ジーパン欲しい今日この頃です。あ、因みに朝ごはんはお粥でした。久しぶりに食べた気がして懐かしい気持ちでした(中学生並みの感想)」

 

誰に向かって言っているのだろうか……そろそろ人щ(゚Д゚щ)カモーン。勿論、一人は寂しいのよね。でも結局彼女一人暮らしだったのよね……思ってた以上に神経強い系の人なのかもしれない。今時のJKじゃないのかもしれない。ヤンキー?巫女ヤンキーって新しいな!

 

「おーい!」

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる。神社の前だ。つまり、彼女を呼んでいるのだろう。だが、残念なことに今のこの体は彼女ではなく、俺なのだ。呼んだ人には申し訳ないが、申し開きをして、彼女のこととかここら辺のことを聞かねばなるまいて!ならば行くぞ!エジプトへ!って、最後までボケをしている暇はないんだって!

 

(そ、そういえば俺は……彼女は何キャラなんだ!?何キャラを演じれば彼女らしいと言われるのだ!?時間がない、考えろ!生活や周りの状況を詳しく整理した上で推理しよう!一人暮らし……女子高校生辺りの年齢。恐らく、呼んだのは恐らく同級生……ていうか同年齢だろう……そして彼女は巫女ヤンキー(ここ重要)だ。更に今の時刻は早朝……見えた!気怠そうに、でもタメには親しくする親に反抗する系の女子だ!完璧すぐる、俺の推理!では本当に行くぞ!)

 

「……何よ」

 

「おっす!遊びに来たぜー」

 

現れたのは片手に竹箒を持った白エプロンに黒い洋服を着て、ハロウィンでよく見かける黒い帽子を被った金髪の少女。一見、年齢は彼女とあまり変わらないみたいだ。そして俺の名演技は彼女の親しい友人にすら聞いたようだ。いや、たった二文字で何言ってんだこいつって思われるかもしれないけど、些細なことで気づかれてしまうのが本当の友人というものだからな!それをわからなくさせたというのは俺には演技の才能があるということだ!

 

「そいや、『霊夢』……」

 

霊夢……金髪の少女は確かにその名前を彼女に向かって言った。ふむ、不思議な名前だが分かりやすい。忘れることは二度とないだろう……

 

「なるほど霊夢か……」

 

「え?」

 

うん?ああ……考えていることを呟いてしまったようだ。金髪の少女の目が一気に疑惑や欺瞞に満ちた目に変わっていく。あれ、どじった?

 

「お前何者だぜ……?ま、まさか……!」

 

ここはもうアドリブで何とかするしかねぇ!

 

「そう!そのまさか!」

 

「中二病ってやつか!?」

 

「違えよ」

 

ごめん、俺がアドリブで何とかする前にあっちが締めてきたわ。いや、やめよ?俺のヘマを友人の悪乗りと錯覚するの止めよ?君のノリの良さは分かったから!つい、ツッコミ入れちゃったわ!

 

「全然違う!話を聞きなさい!」

 

「え、まじで別人なのかよ!?」

 

「そこに座れ!」

 

「はいぃ!?」

 

ちょこんと金髪の少女を畳の部屋に座らせて、俺はどっぷり胡坐をかいて話をする。恐らく彼女からすれば友人の姿をしたおっさんに叱られているというかなりシュールな光景になっていることだろう。

 

「はぁ、いいか。これは異常事態だ。俺は目覚めてたらこの子……霊夢だっけ?その子の体の中にいた」

 

「……そんなこと言われてもなぁ。声も変わってないし、普段の霊夢っぽかったし」

 

俺が思っている霊夢ちゃんの性格と俺の性格はかなり違うと思うんですけど……まぁ、魔理沙が言っている様子がニヤニヤしていることだし、きっとからかっているのだろう。いなくなった霊夢ちゃんを……

 

「と、言う訳で霊夢を探し、後俺の体も探して元に戻りたいんですよねぇ~」

 

「まー、そりゃそうだろうな。私だってお前がずっと霊夢の姿で話しているのは抵抗あるぜ」

 

「それはすまん。慣れる前に終わらせよう……」

 

 

俺が慣れたくないというのが本音だ。まぁ、その他の配慮としても速攻解決が望ましいのは誰の目からも明らかだ。

 

 

「そんなこと言ったって、自分の体にいた最後の時はどんなとこだったんだぜ?」

 

「それなー。覚えてねぇんだわ全然」

 

「じゃ、情報無いじゃんか」

 

「とんでもなく都合のいい具合に記憶がないんだよねー。見たもの聞いたものの殆どは覚えているし、体験したものもある程度は覚えているのに、自分に関して……つまり自分の名前・容姿・年齢・性格・友人・恋人・家族……そして自分の名前を言っているであろう人物を全員覚えていねぇ」

 

「かなりユニークな記憶喪失だな。霊夢に関わることだし、手伝うぜ。あ、自己紹介が遅れたな!私は霧雨魔理沙だぜ!」

 

「ああ、これからよろしく。魔理沙」

 

魔理沙の協力も得られるとなると、この世界中を虱潰しに探せば流石に一つは情報が手に入るだろう。だが、その前にこの世界について色々と知らないと……なんでこの世界を異世界だと決めつけたかのように話すのかって?いやだって、金髪の少女の名前が魔理沙って、しかも日本語も流暢に話すんだもん。俺のいた世界では有り得ないよ。

 

「さてさて、色々とこの世界について教えてくれ」

 

「おう。まずはだなー……」

 

魔理沙の話をまとめると、この世界は『幻想郷』と呼ばれているらしい。そしてその名の通り、俺の世界で幻と言われてきた生物が存在しているとか、基本的に俺のいた世界を『外の世界』と呼び、外の世界で忘れられたモノが幻想郷に流れ着くのだとか……幻想郷では妖精・妖怪・神などとオカルトめいた幻想が現実となっている。その妖精・神・妖怪と一部の人間にはある特別な力が存在しているらしい。霊夢もそうだ。「空を飛ぶ程度の能力」。程度なのかという疑問は一先ず置いておき、そういったものだと捉えておこう。霊夢の能力だが、実は他の種族は大概能力関係なしに飛べるのだ。それだけ聞くと弱くないか?と思うが、重力を無視すると聞くとかなり凄いと感じられるだろう。

今、俺は霊夢……フルネームは『博麗霊夢』に乗り移ってしまっているが、その能力が使えるのかとても気になる。だって空飛べるとかロマンやん?

 

「そんで、この幻想郷を創った奴が」

 

「私でございますわ」

 

「うおぉい!?背後から耳に直接声かけるとか!質悪いぞレディ!」

 

俺の背後から突如として現れたのは金髪ロングの美女。ある人たちが見ればその妖艶さに惹かれるのだろうが、今の俺は幽霊を見たような驚愕っぷりで腰を抜かしてしまい、それどころではない。そんな俺を見てクスクスと笑う美女。うむ、女性は笑顔がいい味を出しているが、彼女のように分かりやすい怪しさは初めてだ。

 

「今の貴方は霊夢なのですからもう少し慎ましく驚いてくれるとこちらも凄く嬉しいのですけど」

 

「慎ましやかさなんて中身男性に求めないで。イタタタ……」

 

「ふふっ、それもそうですね。私は『八雲紫』。以後お見知りおきを……」

 

「ああ、よろしく」

 

八雲紫と自分を名乗った女性。よくよく見るとタイプではないが、かなりの美女だ。なるほどさっきの不意討ちは許す。可愛いは正義!には敵わないがな!

 

さて、幻想郷についてある程度の知識はついた。これからどうしようかと俺達三人は悩んだ。

 



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3.「影が、光になった頃に」

「うーむ、まずは名前かなぁ」

 

魔理沙がボソッとつぶやいた言葉にうん?と首をかしげたがすぐさま、あー……と納得する。そういえば、今の俺は確かに博麗霊夢だが、別の呼び名が必要だ。主に自分が勘違いしなくなるようにということと、魔理沙たちが分けて呼びやすくするようにという二つの理由で。

 

「ふーむ。凝った名前は面倒だし、取り敢えず『影』って呼んでくれ」

 

「え、そんな名前でいいのかぜ?別の方向で勘違いされると思うんだが」

 

「『二人っきり』の時だけその名前にしてくれ。紫さんもいいですか?」

 

「ええ、でも、その姿で敬語はやめて欲しいわ」

 

「あはは……まぁ、善処するよ」

 

覚えてたらね。よし。名前が決まったところで次は何をしようか。調理場と言えるほど立派な台所は神社(正式名は博麗神社らしい)にはないが、俺もプロの料理人という訳でもないだろうからこの暮らしに不自由は無さそうだ。ただ食材の残りのスタックが心許ないが、そこは今時話題のさとり世代(意味わかってない)として節約しましょ、そうしましょ。

 

「じゃあここらで私はおいとまさせて頂きますわ。捜索の件以外にもスケジュールがつまっておりますから。またお会いしましょう霊夢、魔理沙」

 

そう言って紫は少し後ろへ下がる。何をするのかと興味津々に見ていた俺の目は紫の背後の光景に目を奪われた。一面に敷き詰められた目、目、目……すべてこちらを見ている。ファンタスティック美女とゲテモノとは言ったものだ。なんて冗談言えるほど口はまわるが体は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまっていた。これが紫の能力か。次元を越える程度の能力?って程度じゃないじゃんパナいじゃん、いいじゃんいいじゃんスゲーじゃん。

 

「はぁ、どこが程度の能力なんですかねぇ」

 

「でもそれが普通なんだぜ。ちなみに私は魔法を使う程度の能力だぜ」

 

「ふむ、それっぽい格好してたからもしやと思ってたが、まじで魔法使いだったのか……」

 

「おう!景気づけに一発ドでかいのを撃っとこうか!」

 

「やめとけ。霊夢が戻ってきたときに大変だ」

 

「うぐっ、それもそうだな……あ、ええっとまずは物知りな奴に何処と無く、それとなく聞くのが一番だぜ!」

 

魔理沙の話題転換のやり方が下手なのには特に追求するのはやめておこうか。彼女が可哀想だし、物知りな奴……ねぇ、あまり俺が博麗霊夢であることをばらしたくはないんだよな。

 

「まぁ、最近大きな事件があったかどうかだけ聞けばいいだろうな」

 

「あ、それだとそいつは駄目だな。ニートだし」

 

どうやら魔理沙の頭の中には既に話を聞く候補が一人いたらしいが、俺の言葉でそれは却下された。ニートで物知りか……別に良いと思うが、まぁ俺はその人物を詳しく知っているわけじゃないしここは魔理沙に頼るとするか。

 

 

「そ、そうか……じゃ、結局どこに行くんだ?」

 

「人里だな!よぉし、しゅっぱ~~つ!」

 

(能力トチって落っこちたりしたら霊夢の体が大変なことになっちまうからな。徒歩で行こう)

 

 

人里……(多分)都会育ちの俺にとって、里とは全く無縁の存在。恐らくは行ったことすらないだろう。そんな俺の里への第一印象は疎開のイメージであった。ほら、よくそんな話テレビで放送してるし……でも、それはあくまで外の世界のこと。幻想郷は違う。これは江戸時代後半辺りの世界観が閉じ込められている。まるで時代劇の撮影を現場で見ているみたいだ。それか、タイムスリップして当時に来たみたいだ。それだけの感動に値するほどの人の熱気を感じた。東京駅前の人だかりも、サッカーで勝利した時の銀座109前の交差点も確かにそれらも圧倒されるものだが、今の人里に来た俺の感動に勝るものではない。

 

「いいとこだな。かなり」

 

「ま、唯一の人間が住める場所だからな。当然だぜ」

 

俺と魔理沙は歩を進める。目的は情報が集まりやすい人里で守護者と呼ばれる者に話を聞くこと。本来ならそれに至るまでに人達の信頼を得るべきなのだが、今は博麗霊夢に成りきることでその信頼を手に取ることができる。色々と思うとこはあるが、今は現状に甘んじて最速でこの事件を解決することが最大のお返しになるだろう。……なるのだが、ちょっと待ってくれ。なんでこんなに人達が離れている?なんかひそひそと話しているように見えるんだけど……だけど、魔理沙は何も言わない。こっちも面倒事は極力避ける方向で行動しているため、魔理沙が言わないのだったら俺も特に発言はしない。

 

「お、ついたぜ。ここが寺子屋だ」

 

「寺子屋……」

 

流石江戸時代。小規模一時的児童養護機関兼児童教育機関『TERAKOYA』。ここでお目にかかるとは…ありがたやーありがたやー……って今の俺は巫女でした。魔理沙は俺を待たずして中に入る。最近の若者はお邪魔しますの一言もないのか。まぁ、人里の守護者が寺子屋の先生といえのもどうかと思うが……

 

「邪魔するぜ。『慧音』いるか?」

 

「上白沢先生は今授業中です。もう少し待ってください。それと、こちらに用事があるなら予め連絡してください」

 

『上白沢慧音』……それが人里の守護者のフルネームのようで人気の先生らしい。魔理沙のような無神経な人の突然の訪問も笑顔で少し注意させる程度で受け入れられた。やっぱり田舎の人って優しいんだなとよくわかった。

 

「さてと、もうちょっと待つか。なぁ、霊夢」

 

「ええ、そうね」

 

魔理沙はそっと親指をぐっと立てる。どうやら霊夢っぽく発言できたようだ。ふぅ、一々緊張してしまうな。時間的には3時限目くらいか。授業の間の時間では恐らく、質問は足りなくなるだろうから次の授業は別の先生に代わってもらおう。さっきの先生にそのことを伝えると喜んで代わると言ってくれた。中々泣けてくるぐらい優しくて胸が痛みます。外の世界の人達もこれくらい優しかったら世界から戦争は消えるのに……まぁ、戦争が無かったら平和はないと思っているので、戦争が起こらないでくれとただただ、願うばかりであった━━完。なんて自分の頭の中で物語を終わらせたら丁度よく上白沢慧音先生がこちらにきた。ふむ。でかいな……胸じゃない。背だ……先生というのは背が高いのが特徴的になるが、人を見上げるというのは小学生の頃に戻ったみたいだ。

 

「どうしたんだ霊夢に魔理沙まで……?聞きたいことがあるとか……」

 

「ああ、ここ最近人里の周りで事件が起きたか知りたくてさ」

 

魔理沙と事前に決めていた台詞を魔理沙に言われたorz。でも今は誰が言いたかったとかは特にやらないで話を進めるのが先決だ。

 

「事件?それは霊夢の方がよく知っているだろう?昨日の夜の時だって事件があったと言っていたじゃないか。ってどうしたんだその包帯は!?」

 

な、なんだと!?霊夢に昨日会っている!?い、いやそこは特に驚くことでもない。問題は『霊夢が事件に巻き込まれている』ことだ!この左腕の包帯……つまりは左腕の傷はその事件でついたのか……そ、それにしても返しづらい状況だ。知っているはずの事件を問うことはできないぞ…!

 

「それは……」

 

「まぁ、その事件の詳細なことは言ってくれなかったが……何か別の事件があったのか?」

 

た、助かった……!慧音が今の危機的状況を終わらせてくれた。まじセンキュ。

 

「そ、そうね。人同士のいざこざより、妖怪が絡んだ事件を教えてちょうだい。傷の件も大丈夫よ。紫が大袈裟に巻いただけだから」

 

「ああ、分かった。それが霊夢の言っていた事件と関わっているかもしれないんだろう?人里の平和にも関わる……協力は惜しまないさ」

 

現代だったらここでLINEを交換しているとこだが、幻想郷にそんなものはないし、今はその時間も惜しい。慧音先生は何か分かったことがあれば報告するとだけ言って次の授業の準備に行ってしまった。質問したいことは沢山あったが、さっきの衝撃の事実を言われたショックで聞き忘れてしまったが、さほど支障はないだろう。俺と魔理沙は外へ出た。さっさと立ち去って別の所に移動したかったが、野菜が売っているのを見て、今朝の食料の備蓄を思い出した。また、明日人里に行くことになるかもしれないが、そうやって明日あるからと、明日がある明日がある明日があるさー、と妥協するわけにもいかない。

 

「まいどあり!」

 

そっと買ってしまった。キャベツが安いとか世界がひっくり返るレベルですよ。

 

「もういいかぜ?」

 

「満足♥」

 

「はぁ……」

 

魔理沙よ。ちっちっち。YES!I am!じゃなくて甘いね!魔理沙!チョコフォンデュ魔理沙よ!よく聞け!他人のことで妥協はできても自分のことに妥協はできない質なのだよ!だが、食った分は働くさ。安心しな!

 

「はぁ、なんか予想外のことが多過ぎて疲れたぜ」

 

「そうだな。疲れることを考慮して団子も買えば良かったな」

 

「いい加減にしてくれよ!何でそんなに買ったんだぜ!?」

 

「何さ、安いやつを2、30個程度じゃないか」

 

「程度じゃないじゃん!影が言う外の世界の程度の基準が分からないぜ」

 

「幻想郷の程度の基準だって分からんわ」

 

完全にブーメランな魔理沙の言葉にツッコミを入れざるおえなかった。そのことは置いておき、話をしよう(どこぞの神様風)。

 

「さて、問題と疑問は溢れるように湧いてくるな」

 

「え?例えば?」

 

「魔理沙はもう少し考えてくれよ……まず、昨日の夜の事件だ。不可解なことが多すぎる」

 

俺の言葉に魔理沙は首を傾げる。わからんのかーい。

 

「第一に霊夢を見たという目撃者が少なすぎる!色んな人に聴き込みをしたが、誰一人として見ていない!」

 

「うぇ!?い、一体いつ聞いて来たんだぜ!?」

 

「買い物をした時だ。いくらなんでもこんなに買うわけないだろ」

 

「そ、そうだよな!(やっぱり程度じゃねーじゃんか!)」

 

「夜とはいえ、霊夢の服装を知らないものはいないだろ?なのに警備の奴らにもちょこっと話を聞いたが知らなかった。あの夜に人里を巡回していた慧音だけが霊夢を見たことになるんだ」

 

「確かにそれはおかしいぜ!慧音はどこで霊夢と会ったんだ!?確認する前に帰っちゃ駄目じゃないか?」

 

「まだ何も分かっていない状況で下手に聞いてさっきみたいにドジをしたらまずいからな。慎重に一つ一つの情報を見直すのが得策だ。次にこの左腕の傷だ」

 

「おお、そういえばその包帯……一昨日会った時は無かったぜ!」

 

「そう……しかも慧音まで驚いていたということは慧音と会った後に受けた傷なんだ」

 

なるほどと、魔理沙は頷いたが、いやいやと首を振る。流石にこれは分かったか。

 

「待ってくれだぜ!そうだったら慧音が霊夢と会った時間って……」

 

「ああ、事件現場に行く前ってことだ。つまり霊夢は神社にいる状況下で人里の近く辺りで事件が起きたことを知ったということ」

 

「そんなこと……い、いや!そういうことかぜ!?」

 

魔理沙が気づいたことは既に彼女の目の前にいる存在のことだった。

 

「そういうことかもしれないな。だって、俺が外の世界から幻想郷に来たタイミングだとしたら辻褄が合うんじゃねーか?」

 

「つまり霊夢は影が幻想入りしたことを結界を通して知って、それを確認する時に慧音と会って事件と言った。その後、そこで何かあった!それで精神が……乗り移ったというか、交換したという感じかぜ?」

 

結界……やっぱり幻想郷の創設者の紫がわざわざ出てきた時点で怪しいと思っていたが、博麗霊夢……いや、巫女は特別だったんだ。結界というのは外の世界と幻想郷の間にある壁のようなものという解釈でいいのか分からないが、霊夢はそれの管理役を仰せ仕っていたんだ。

 

「しかし、乗り移った場合も、交換したという場合にもどちらも新たな疑問が生じる。どっちにも言えることは二つ!『事件の発生場所はどこだったのか』、『俺の体はどこにあるのか』だ。これは俺に記憶がないから慧音や目撃者に頼るしかない」

 

「それに追加で霊夢の行方もだな。精神が交換したと考えたら影と同じ記憶喪失をしていると思うぜ!」

 

「だがそれなら深夜とはいえ明かりのあったであろう人里の方に行くだろう。でも、記憶喪失の男の姿をした人物がどこからか来たら事件と言われるはずだ。結果としてそのような人物は見られていない。つまり、精神が交換した時に誰かに連れ去られたというのを除けば精神交換説は無いに等しい」

 

「乗っ取った説はどうだぜ?」

 

「それはまず最初からないようなもの……というか一番確証が取れない説なんだよ。『なんで俺が霊夢の体にいるのか』という根本的な問題だけでなく、『何故元々体の主であった霊夢でなく、俺が体を動かせるのか』という疑問が浮かぶんだ」

 

魔理沙は俺の話を一通り聞き終わるまでずっと俺を見ていた。なんだろうか。霊夢の声でこんなセリフが出てくるのが珍しいのだろうか?いやまぁ、俺の見立てでは霊夢は巫女ヤンキーなので俺の性格とは全然違うと思っているので、魔理沙の視線はあまり不自然なものではないのだが、やはり、元の姿の時から人にじーっと見られるのが苦手なフレンズだったのかもしれない。

 

「なーんか……やっぱり……霊夢じゃない感じが新鮮だな」

 

「新鮮……そうかい」

 

「それに何だか霊夢の体なのに霊夢じゃないみたいだ。あ、性格うんぬんの話じゃないぜ?」

 

霊夢なのに霊夢じゃないって何よ。夢だけど?夢じゃなかったー!みたいなことかい?ま、どっちもでいいか。俺は俺だし、霊夢は霊夢だ。俺の体が現在霊夢の体だとしても俺は俺であることを止める理由にはならない。

 

「……まぁ、取り敢えず今日はこの世界と女性の体と口調に馴染むことにするよ」

 

「ああ、そうした方がいいぜ!じゃあ、私はいつも通り本借りに行く用があるからここらで帰らせてもらうぜー!」

 

「じゃあな魔理沙」

 

「おう、じゃあな影」

 

そう言って魔理沙は箒を跨いで飛んで行った。その速力の源は魔法・魔力と呼ばれるものなのだろう。う~ん、霊夢の空を飛ぶ程度の能力はどれくらいの速度まで加速可能なのだろうか……色々と試さなければこれからの贋者生活にも支障をきたすな。

それに巫女らしい仕事というのもどういったものかさっぱり分からない。言っては何だが外の世界にいた頃の俺は神仏は特に信じない奴だったのだろう。この世界でのそれは自殺行為みたく思えるので、外の世界に戻ったら真面目に神社巡りしようかな……

 

そんな風に俺は考え事をしながら博麗神社まで帰ってくる。問題は山積みだが、まずは生活拠点兼家兼神社であるここのボロボロさが何となくだが心配だ。霊夢が戻ってきた時のために予め綺麗にしたり、暇さえあればリフォームも考えておくべきだな。何はともあれ、まずは夕食の準備だ。

 

俺は階段をゆっくりと上がっていった。目の前に見えるのは赤い鳥居と神社の本堂、そして見慣れぬ女性がそこに立っていた……



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4.「鴉、羽搏く頃に」

神社の賽銭箱の前に佇む……こちらから見て背中を見せている女性は幻想郷の住人ということもあってか、見た目はかなり外の世界のファッションと異なっている。頭にへんてこな……ぼ、帽子なのだろうか?強いて言うならば小さな頭巾に近いものを頭に乗せた……一般的な高校生の制服っぽい服を着た女性が参拝しに来ていた。なんだこんなぼろっちい神社でも物好きは参拝してくれるんだなぁ……と、俺は物凄く失礼なことを考えていたのを悟られたかのようにバッと俺の方へ先程の参拝者は振り向く。

 

「なぁんだ。お出かけ中だったんですか霊夢さん」

 

やっべぇ……また霊夢の知り合いさんだ。またどうするか頭の中で考え続けねば……アドリブで何とかすることに定評のある俺の力ちょっくらみせたるか!

 

「ええ、ちょっと買い物に行ってたのよ」

 

「へぇ……買い物って、そんな買ってらっしゃるー!?どうしちゃったんですか!?頭打ったり……熱とかありますか!?夏風邪!?夏風邪の類ですか!?」

 

「そ、そんな心配すること!?」

 

「『そんな』程度じゃないですよ!こんな買うって……もしかして宴会ですか?でも宴会だって霊夢さん一人が負担することなんていつもないのに……」

 

宴会ってこの年で酒飲むんですか?はぁ……これだから今頃の巫女ヤンキーJKやら、オレオ魔法使いは……

 

「ちょっと色々あっただけよ。後近い!食材置いてきたら相手してやるから大人しくしなさい!」

 

「あやや……」

 

あやや……東北地方の方言か。あややちゃんと呼ばせてもらうか。さて、霊夢の言葉の威圧感にあややもたじろぐようだ。つまり、そういう感じのキャラだったのだろうな。よし、大分掴めてきたぞ……よっこいせ、っと……ふう。女性の体ってかなり筋力がないんだな。これだけでも重く感じられたよ……夕飯のメニュー決めとか下準備とかしたかったんだがしょうがない。あややを構いに行くか。

 

「霊夢さん。い、意外と本当に話して下さるんですね」

 

「……は、はぁ?どういうことよ」

 

「いや。だって、ほら……霊夢さん。いっつも無視するじゃないですかー」

 

まじで?そんな酷い子というイメージはなかったんだけど霊夢……少しぐらい接してあげてもいいじゃないか。

 

「そんなことないわよ」

 

「そ、そうですかね?確かに私が勝手に盛り上がって勝手にいなくなるだけなんですけど……それにだってリアクションが欲しい訳ですよ」

 

勝手に盛り上がって勝手にいなくなるって……はぁ、どっこいどっこいといったところか。

 

「……で?なんか用?」

 

「はい!いつものように新聞を取ってくれないかなぁ……って!」

 

……はぁ、しょうがないな。と言って取ろうとした瞬間、俺の手は止まった。待てよ?俺は神社の本堂は(裏手の物置小屋以外は)全て見て回ったはずだ。そこに新聞なんて一冊も置いてなんかいなかった……まさか、あややよ……俺が霊夢でないことを既に見抜いてその上で新聞を取らせようとしているのではあるまいな!?そのようなブラフに引っ掛かれば100%俺が霊夢でないことが明白になってしまう。おのれあやや、中々あざといな……ここは冷淡にも断るか。よくよく考えたらここ俺の家じゃないんだから勝手に新聞を取っちゃ駄目じゃん?常識的に考えて

 

「要らないわよあんたの新聞」

 

「しれっと酷いこと言いましたね!?清く正しい射命丸文ちゃんの新聞を取ってくれないなんて、およよ……」

 

「泣き真似下手ね。用件はそれだけかしら?なら、早くお引き取り頂きます。今!すぐに!」

 

「そ、そんなに追い立てます!?分かりました!分かりました!言いますよぉ……おほん、いいですか?昨夜、同胞の哨戒天狗がとある男性を発見しました」

 

『昨夜』態々キーワードのように言ったということはその男性が……というか、あやや……というか文は天狗だったのね。妖怪……うむ、わからん!いつもだったらアイエェェ!?天狗!?天狗ナンデって驚いてあげられたのに、なんかごめーんね☆

 

「お察しの通り、その男性の身なりを見る限り、外の世界から来たであると推測されました。その人を博麗神社に匿っているというお話を聞いたので、取材しに来たとそういう訳です」

 

なるほど、俺が霊夢だと疑っていた訳ではなく、霊夢が俺を匿っているかどうかを疑っていたわけだ。新聞記者はスクープ大好き……なるほど、あわよくば熱愛発覚なんてスキャンダルになればいいと思っていたのだろうな。ところがどっこい!これが現実!

 

「はぁ……残念だけど、その人は」

 

「いないんですよね?だって呼んでも誰も出てきませんし」

 

「……近所迷惑」

 

「近所に家一軒ないでしょうが」

 

早い……!伊達にツッコミ四天王の一人としても速攻のあややという二つ名を持っているだけはある。ごめん嘘です。今決めました。

 

「冗談よ。で?その人がいないんじゃ、ここにいるだけ無駄よあんた」

 

「冷たいですねー。行き先くらい教えてくれたっていいじゃないですか」

 

「いやよ、面倒じゃない。あんた一人で探せばいいじゃん」

 

「……何か隠してますね」

 

ギクリ。なんて一々反応してたら記者なんて追い返せないな。恐らく核心をついたように見せかけたブラフだ。だって、さっきまでの言葉は霊夢と同じだと思うし、あややも諦めてくれないかなぁ。

 

「本当に霊夢さんです?」

 

核心ついてますねこれは……あれー?どこでバレたんだ?まぁ、新聞記者に正体をバレたら何書かれるか分かったものじゃないし、しらをきるしかないよね。

 

「ご存知博麗霊夢よ」

 

「ああ……いえ、聞いたのは本当に霊夢さんが男の人を神社まで連れて来たのかなぁ……って話なんですけど」

 

うおい、騙されたぞ。まぁ、天然だと思われただけましと思うか。それにしても文、間違えたあややよ。霊夢が俺を運んだというのは……いや、おかしくないか!?

 

俺は何の違和感も覚えぬまま文の話を聞いていたがよくよく考えるとおかしいぞ!事件現場である人里の近くに俺や霊夢がいたのなら分かる。問題はその次……『霊夢が神社に俺を匿っているという噂』ということだ!見ての通り、俺の体はどこへやら消えてしまっている……なんでそんな噂がたったのか。いや、元々事件現場で『魂のやりとり』があったと考えていたんだ。もし、その噂どおりだと、事件現場で魂のやりとりが無かったにも関わらず、神社に着いた後に魂のやりとりが行われたということになる。誰が?何のために?どうやって?

しかも、噂が本当だとすると、意識のない状態の俺(男)を霊夢(女)一人で運んだということになる。現実に囚われない世界、幻想郷といえども物理法則ぐらいは守って……殆どが飛べるのか。重力系は無視ですかそうですか。いやでも男一人の体重を持ったまま、空を飛んだとしても……いや、飛んだ方が目撃者は自然と多くなる。なんでって?そりゃ、こんなロングスカートという防御硬いスカートの巫女ちゃんが空飛んでたらパンチラ狙おうとするだろ男子は!!俺は絶対しないけどそう考えると……文はミニスカじゃん。絶対パンチラしちゃうやつじゃん!おいおい健全さが売りじゃないのかあややちゃんよぉ。

 

「紫よ」

 

男の人を運んだことに関する質問の答えを適当に人を巻き込んでいくアンサースタイルは悪くないはず。

 

「参りましたね……あの人に取材なんてほぼ無理ですよ。じゃあ、一端調べ直して来ます……」

 

「ああ、その前に一つ」

 

つい、某シーズン15までいっている警察ドラマの主人公のお決まり台詞を言ってしまった。立ち去る人に質問がある時はこの台詞は本当に便利。この台詞を言われた人は当然のように動きを止める。例に漏れず、文も動きを止め、振り替える。

 

「何です?」

 

「スカートは長い方が似合ってるわよ文」

 

「い、いきなりどうしたんですか……///」

 

ふふふ、照れてる照れてる。かわええのぉ……いきなり霊夢から自分の名前が出たらびっくりするだろうという咄嗟に思いついた作戦はどうやら大成功のようだ。

 

「清く正しいんでしょ、だったらそんな短いスカートよりは長い方が清らかさが出ていると思わない?」

 

「そ、それは……そうでけど……///」

 

「文のロングスカート姿見たいわ」

 

「はぅ!し、失礼しました~~!///」

 

心臓発作に近い激しい動悸に手を胸に当て、慌てて飛び去って行った文。ふ、見たか……巫女ヤンキーJK霊夢ちゃんはぶっきらぼうだが、急に優しくなるというツンデレ体質だったのだ!文みたいな手のひら返されると弱い系の新聞記者なんてちょちょいのちょいですよ。

 

「さて……と、そろそろ見るか……この左腕の傷」

 

1話跨いだので改めて説明をば。俺の左腕……つまり、霊夢の左腕は肌が見えなくなるほどに包帯が巻かれていた。何かするたびに激痛が走り、気になってしょうがなかった。しかも魔理沙と慧音の証言によると、この傷は昨日の深夜に誰かがつけたものだ。女性の生傷を見るなんて、億劫になってしまうことだが、真実を知るためには致し方無いことかと割り切るしかない。

 

俺は神社に入ると、自室に入り遂に左腕の包帯の端に手を触れる。

 

しゅるしゅると蛇が這うように音を立てて包帯を取っていく。肩から取っていくが、傷らしい傷は見えない……至って普通の肌だ……

 

ズキッと左腕の疼くような痛みが強さを増していく。まるで、傷を見られたくないように……いや、俺が見たくないから痛いのが大きくなっていると脳が勘違いしているだけだ。

 

そして、包帯を全て取り外した俺は恐怖のあまり咄嗟に後ろへ倒れこんだ。こういった反射的後退行動は本来、恐怖を覚えた対象物から離れるために行うものだが、俺の場合は左腕の傷に恐怖をしたのだ。後ろに下がったとして、それとの距離は変わらないと分かっているはずなのに……いや、分かっていて尚、本能が危険だと警告音を鳴らしまくっていた。

 

「酷いな……」

 

暫く言葉を失っていた俺がやっとのことで口に出せた言葉はその一言だった。簡単に傷について説明しよう。穴だ。『腕に穴が開いている』……風穴のようにぽかんと開いている。ああ、左腕が動かないし、重いものを持てない訳だ。ピンポン玉サイズの穴が骨や筋肉の部分を消し去ってしまっている。ひゅー、と左腕から音がなる。風が穴を通って鳴ったのだ、この傷は現実だ。幻の中での現実だ。穴の側面の血肉や骨がモロに見えている。どこかの漫画のキャラは全身穴だらけだったりしたが、よくよく考えなくてもグロテスクだ……ズキズキと痛むのは、外気に触れているから……ではないだろう。どういうわけか出血していない……普通だったらこの穴が開いた瞬間に大量出血で即死だろう。だったらこの傷が出来た理由が予測できるはずだ……

 

「能力を含めないで考えるとすると、このような傷になるような物は……やはり、棘や槍のような殺傷性のある棒状の何かと考えるのが常識的だな」

 

しかし、それだと疑問が一つ……この傷をつけたのが槍のような棒状のものだと仮定すると、それは左腕のこの部分にのみ、傷をつけたことになる。槍でこのような傷をつけることは出来るだろう。だが霊夢もただ者ではない(魔理沙の話によると)。いくら不意討ちでもこんな綺麗な円形の傷になるだろうか……それ以前に不意討ちだったら心臓を突き刺せば良かっただろう。殺す気は無かったのか?

 

一先ず今の推理は置いておこう。次に槍やそれに似た物じゃなかったとすると実はかなり特定できる。牙だ……知性を持って霊夢を襲うのは妖怪だろう。まぁ、能力で動物を操れたらこの推理による特定は帳消しとなるが、それは含めない方向で話を進めると、この傷の痛みは普通のものではないと分かる。妖怪に噛まれた。そう考えると、何やら良くない菌やウイルスが流れてしまっているかもしれない。または人間にとっての毒なのかもしれない……医者のとこに行きたいがこの傷をつけた人物を特定できない限り、ヘマをしたり、ボロが出てしまう可能性がある。

 

「明日辺りに魔理沙に出会うか、慧音に会わないとな……紫は忙しいか。まず呼ぶ術がないや……」

 

よし、今日はもう寝よう!ご飯食べて歯磨きして着替えて寝よう!明日は魔理沙っち連れておら東京さ行くだじゃねぐで、信用できるお医者様に左腕の傷を見てもらおう。うん、そうと決まったらご飯ご飯〜!

 

俺は包帯を左腕に巻き直すと悠々と台所へと歩いていった。

 

「さて、ちょっとばかり作りすぎたかな……タッパーないのはちょっときつい。そうだった、そういうことにも配慮しなきゃならんかったわ」

 

変な関西弁が入ったが気にしないで下さい探さないで下さいスクショしないで

 

やれやれと俺は溜め息をつきながら作りすぎた料理をある程度お盆に乗せたら右手だけで持ち運ぶ。当然何回か分けて気分で食べたい料理を手に取るという計算だ。ちなみにお茶碗一杯なら持てる……これが、不幸中の幸いだろう。

 

「あるえ?紫さ……紫。何でここに……」

 

俺の目の前にはいつの間にか寛いでいる紫の姿が……今朝と同じく敬語で呼ぼうとしたが、紫の目がキランと光ったのが怖くなって咄嗟にタメ口で呼んだ。と、取り敢えず料理を彼女の前に置いた。

 

「あら、私の分まで……?」

 

「ちょっと作りすぎたからお裾分け」

 

紫は座った状態のまま、お盆に乗せた料理を覗きこむ。そして、にんまりと笑って満足そうに頷く。

 

「あら美味しそうね。やっぱり来て正解だったわ」

 

「成る程集りに来たか。紫は寂しがり屋か」

 

なんて冗談を軽く言うと、紫はそれに悪のりして「そうよ私は兎ちゃんなの。寂しくて死んじゃう系の妖怪なの」とこれまたあり得ない冗談を返してきた。

 

「紫、実は兎は寂しいという感情はほぼないんだぞ?」

 

「えっ」

 

どうやらマジで知らなかった模様、しかし、慌てふためいたふりしてお茶碗を手に取っている。まだ箸持ってきてないのにそんな食う姿勢に移行しないでほしいものだ。

 

「分かった食べる準備をするからその手に持っているお茶碗は置いてくれ」

 

「はーい」

 

何ですか子供ですか全く……絶対そんな年じゃないはずだが、デリカシーがないと思われるのも癪だから言わないでおこう……でも、料理を運ぶの手伝ってほしかった。右手だけじゃきついのよー。

 

「はぁ……はぁ……何で飯作って食べるだけなのにこんな疲れちまったんだか……」

 

「ふふふ、お疲れさま。うーん、美味しい……!良いのを買ったわね影」

 

「喜んで貰って何よりですよ……で、仕事の方は終わったです?」

 

「ええ、一通り片付いたわね。影、そっちはどうかしら?何か進展はあった?」

 

「取り敢えず、俺と霊夢の二人が一緒にいるところを見た人がいると聞きました」

 

「あら、お熱いことね」

 

二人が一緒にという部分が少なからず紫のからかうワードに入ってしまったのだろう。一気にこの人と会話するのが面倒になってくる。

 

「その結果は見ての通りですよ。疑問は増えるばかり、謎は一向に解決されずに溜まっていく」

 

「どん詰まりかしら?」

 

「まさか。選択肢が多すぎて困るだけです……取り敢えず左腕を使えるようにしないと後々に困るので、お医者様に行こうかと」

 

「それなら『永遠亭』という場所に行くことをオススメするわ」

 

永遠亭……ふむ、如何にも不老不死になれそうな安直な名前にも聞こえるが、紫がおすすめしてくる程だ。腕は確かなのだろう。俺は素っ気なく「そうか。明日行ってみる」とだけ言って持ってきた料理を口に運んだ。うん、まあまあかな。

 

俺と紫は一通り食べ終わる。二人でもお腹いっぱいになってしまったほどの料理を奮発して作ってしまっていたのは反省点だな。やはり節約生活をしつつ、お金を蓄えないとな……勿論、元に戻った後に必要となることだからというのが一番の理由だ。

 

「ねぇ、影……」

 

珍しく紫は神妙な面持ちで俺に話し掛けてくる。どうしたのだろうか、まあ何を言おうと俺は受け止めるか受け流すしかないしと俺も構えた。

 

「何です?」

 

「……博麗霊夢になった貴方は、色んな敵に狙われるわ」

 

霊夢ってそんなに恨まれてんのか?いや、妖怪でも物好きじゃない限り霊夢(人間)が好きな妖怪はいないだろう。しかも態々人里離れた場所で暮らしていたからには人からも避けられているだろう。勿論その逆かもしれないが……あまり見ない奴は即距離をとれ……今も昔もやることは変わらないか。

 

「この世界のルールも知らない今の貴方じゃ、『異変』が起こってしまったら霊夢ではないことが誰の目からも明らかになるわ」

 

異変……まぁ、異常な事態を起こす輩がいるとそういう訳ですか。お灸を据える側の霊夢が偽者、しかも幻想郷初心者とバレた日にはこてんぱんにされる……なるほど、格闘ゲームや対戦型のゲームでよくある初心者リンチですね分かります。なら相応の力を身に付けなければと思ったが、左腕は肩と手首しか動かない。義手……というか、関節を動かせるような強化外骨格下さい。あ、でもTHE SUR○Eみたいな麻酔なし手術はやめてください。

 

「それなら……医者よりも技師はいませんか?」

 

あまり期待せずに俺は紫に質問をした。というのも人里の文明レベルは江戸時代中期辺りだ。機械らしい機械は存在していない文明だ。破壊す……ごほん!木製の何かはあったが、その程度のカラクリで、この左腕を動かしてもいざ戦闘なんてことになったらまず狙われるようになる。だが、強化外骨格なら装甲は厚いし、そう簡単に壊れることはない……はず。

 

「なら、河童のところに行くといいわ。あいつらは自分の技術を売ってくれるはずよ、なんなら私が事前に手を回して」

 

「そ、そんなにしなくていいって!(紫の「手を回す」は嫌なイメージが出来てしまうからな……!)」

 

「そうかしら。なら、他に私が出来ることは何かしら?」

 

「使っていないノートとペンください」

 

「紙とペン……?」

 

紫が首を傾げるのはもっともだろう。だが、俺にとってこれは必需品なのだ。俺が何歳かなんて問題はさておき、学生時代で慣れたこの二点セットさえあれば、異変だろうと何だろうとばっちこーい!ですよ。

 

「まぁ、よく分からないけど、私も貴方には早く元に戻って欲しいから……明日の朝にはそれらを部屋に置いておくわ」

 

「ああ、ありがとう。それで、河童はどこにいるんだ?」

 

「行ってなかったわね。『妖怪の山』と言われる昔は鬼が統治し、今は天狗が治めている山の滝下にいるわ」

 

ここできたか、天狗。つまり文が飛び去っていた場所だな。それなら覚えているし、何とかなるか。よし、明日は妖怪の山へGO!あ、でもその前に……

 

「あ、そうそう文は紫のこと探してるからそこんとこよろしくぅ!」

 

「えっ」

 

当然これも知らなかった紫。事情をかくかくしかじか四角いキューブと言ったら「軽率だけど的を得ている解答だから文句言えない。ぐぬぬ……」と言っていた。はい、ぐぬぬ頂きましたー!

 

「でも、あの子昔から知っているけど使えそうじゃない?私、あの子を式神にして自分のものにしたくてねー」

 

……本音だろう。多分、俺の性格を完全に理解していて自分も素で……というか、オブラートに包まずドストレートに話してくる。嬉しい反面かなり引いている。式神……陰陽術でかなりポピュラーなものの一つだな。しかし、文を式神にねぇ……確かに一瞬で移動するあの飛行能力と新聞記者としての情報収集能力は確かに捨てがたい……いや、むしろいくらでも有効利用できるな。

 

「アンタに巧みな説得力さえあれば、そんなことに悩んでなんかいないはずだぜ。まぁ、利用するだけしてその後は……みたいな気がするけどな。あんたの場合」

 

「あら、失礼な。私は家族は大切にするわ」

 

「そのために、霊夢か俺に早く戻ってもらいたいんだろ?俺を殺したいから」

 

紫はピクリと動きを止める。先程までの雰囲気はどこへやら殺気を隠そうともせず、だだもれさせながらゆっくりと扇子を開き、口元を隠す。

 

「何故?」

 

「何故分かったか……そんなの最初っからだよ。俺があんたと魔理沙に『二人っきりの時だけ』俺を影と呼んでほしいと言った次にあんたが立ち去る時……あんたは俺を『霊夢』と呼んだ。つまり、あの時からあんたは俺の性格をある程度知ってたって訳だ」

 

「そうね。貴方はどうしようもなく……」

 

「誰も信じちゃいないさ……だって、今回の事件……いや、異変は誰がやったのか……誰も知らねえんだからさ」

 

「…………」

 

「そんでもって俺の体に霊夢が乗り移っているという可能性は50%以下もないに近い……つまり、霊夢はいるが俺の体はない可能性の方が自然と高いんだ……肉体に霊夢の精神が戻れば肉体のない俺は用済み。むしろ、また誰かの精神を乗っ取る可能性まで出てくるから処分した方がいい……それがあんたの時論だ」

 

「ふふ……殺されると分かっていて貴方は元に戻ろうとするのかしら?」

 

「違うな。うん、全然違うさ……いつか分かる。いつか」

 

俺たちは結局夜が更けるまで話し合った。殺す者と殺される者……だが、結局同じ性格だと笑いあった。



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5.「急に、宣戦布告された頃に」

「宣戦布告です博麗の巫女!」

 

「すいません寝起きなんです帰っていただけませんか?そういう宗教的勧誘とかいいんで」

 

「ちょ、ちょっとまともに話聞いて下さい!」

 

ブンブンハ(中略)!はい!今回はモン○トの新モンスターの降臨の超絶級をやって……はっ!俺は一体……?あ、そうでした。朝起きて着替えて神社から出たら目の前に緑色の巫女がいて、宣戦布告吹っ掛けられたんだった。それでつい、現実逃避をして……な、何ィ!?ここは!?さっきまで見ていたy○utu○eは……!何を言っているのやら……私はここで宣戦布告しただけだ。

この一通りのネタを脳内再生できるということは俺はまだ正常だ。

 

「んで?誰よ」

 

「やっと本題入れる……私は『東風谷早苗』、外の世界から来た……」

 

「お茶入れたけど……いる?」

 

「入りません!というか、ちゃんと私の話を」

 

「折角二つ入れたのに……」

 

「い、いります!分かりました飲みますから!」

 

なんか話すと長そうな人だったからカルシウム足りないのかもと思いながら俺は彼女の話を遮ってでも落ち着かせようと、お茶を用意したから効果てきめーん!だ。カテキンで健康的になれるぞ!

 

「ごくごく……いいですか?私は……いえ、私達『守矢神社』の神は博麗神社の役目を譲渡してもらいたく、代表として私は貴女に会いに来ました」

 

博麗神社の役目の譲渡……恐らくは外の世界と幻想郷を繋ぐ結界の管理のことか……譲渡。ふむ、譲渡するメリットはこちらにない。そしてあちらに管理が行った場合、幻想郷は混乱を招く……のだろうな。だってこんな勢力が幻想入りしたんでしょ?やばばやん?

 

「丁重にお断り。まず、第一に幻想郷の賢者に話を通し、許しを乞いたかしら?」

 

「していません。ですが、私は博麗神社がなくても代わりとして守矢神社がその役目をきちんとしていれば賢者も納得するでしょう」

 

「随分と傲慢な考えね。だから外の世界で失敗したんじゃない?」

 

「……何ですって?」

 

「外の世界で失敗した。だって人は神を信仰していないし、神は人を信頼していない……あんたのその態度を見れば一目瞭然」

 

流石に煽りすぎたか早苗はぶちギレた。すくっと立ち上がると、先程の表情のままこっちをディスってきた。

 

「そんな貴女はどうなんですか!聞くところによるとこの神社に参拝客はおらず、倒すべき妖怪とお茶をして過ごす毎日らしいじゃないですか!人里の人間の信仰心も博麗神社に向けられてなんていなかった!信仰ない神とそれを祀る神社なんていらな……」

 

早苗がそこまで言いかけたところです俺も怒りモードにモードチェンジした。

 

「だからお前らがここに来た!それをこの神社と重ねるな!」

 

「っ!」

 

「信仰がない?だから要らない?そんなことあるわけない!……確かに神社はボロボロだし、信仰はないに等しく底辺かもしれない……でもね!人の信仰と人への信頼は(イコール)で繋がってる訳じゃないんだっつーの!」

 

早苗は何も言い返せなくなった。いえ、言い返させる隙は与えない……悪いがシミュレーションゲーム的にこのまま追い詰めさせてもらうぜ。

 

「この神社に信仰はなくてもこの神社は信頼されている。それをあんたに分からせることは面倒だからしないけど、私はこの状況を変えたくない。変えれば崩れる気がするから……あんたの言い分も分からない訳ではないけどね。キャリアも積んでいなければ、人里から超絶な信頼をされていることもないあんたらが、私を殺そうったってそうはいかないのよ!」

 

殺されるというワードを使うのは抵抗があったが、博麗神社が無くなる→博麗の巫女がなくなる→博麗霊夢の社会的死……といった感じで繋がってしまう。あの……怒りながら女言葉を使うというのが本当にしんどくて死んでしまいます。早苗さん、そろそろ心打たれて帰っていって下さいお腹すいたんです。

 

「……分かりました」

 

おお、ようやく……

 

「よろしいならば戦争だ!」

 

てめええええええ!ゾンビ兵の「クリーク!」連呼が無かっただろうが!それなのに何故その結論に至るのだ!くっ、早苗のボケにノリたい……!だが、ここでノったら正体がバレてしまう。

 

「霊夢さん!私が勝ったら先程の話の通りに、逆に貴女が勝ったら先程の話は無し!それに謝罪も含めます。ですからこの世界のルールでぶつかり合いましょう。守矢神社は妖怪の山の中腹から少し上の辺りにあります。そこまで来て下さい拒否権はありません」

 

拒否権下さい。まぁ、売られた喧嘩は買うだけだし?巫女ヤンキーJK的に。なんかチャラいな俺。

そして、早苗も言っていたこの世界のルール的戦争……『スペルカードルール』と呼ばれるもので、弾幕ごっこ(力をメテオにしてぶん投げるゲーム)で勝敗を決めるそうだ。昨日の夜に紫が話してくれた。その弾幕の中で必殺技があり、それがスペルカードとなっている。こういったのは全部霊夢が考案したらしい。ふむ、考案者に乗り移った俺に喧嘩を売るとは……お馬鹿かな?主に俺。

 

「ふふ、それじゃあぶっ潰してあげるで覚悟しててくださいね霊夢さん」

 

「あんたも今からその首から上が消えてなくなる覚悟で首洗って待ってろよ……!」

 

「ヒィッ!?」

 

なんか物騒なこといったらやばい奴だと思われたのかそそくさと逃げていってしまった。根はいいやつなのかもしれないが、ちょっと目の前で人の悪口を高らかに言われてこっちも苛立ちを隠しきれないのでお灸を据えます慈悲はない。

 

……さて、結局妖怪の山は初期の目的地だったし、早苗倒してから初期の目的を果たして……いや、途中で河童に強化外骨格作ってもらってから倒した方が確実やな。よし、霊夢のスペルカードってどこにあるのかなぁ……と、俺は再び神社内を捜索することにした。

 

 

 

私は少し思い違いをしていた。外の世界と幻想郷の文明レベルは大きく違う。故に人の進化もそれほど違うとそう考えていた……先程までは。だが、彼女に会って考えは覆された……世界が変わった、変わって見えた。博麗霊夢……私と同じ巫女で、同じ境地にいたと思っていた。人々からの信仰はない……元々外の世界は科学技術の発展に反比例して神や幽霊などの非現実的なものの信頼度は下がっていったから当然と言えば当然だった。私はそれを良しとするわけにはいかなかった。信仰なくして神は生きられないから……守矢神社の二神も消滅寸前だった。その時、八雲紫の幻想郷移住案を提案してきた。それに乗ってこの世界にきた。

 

「……私だって神なんだ」

 

私はそう自分に言い聞かせて自分を奮い立たせた。そう、私は人間で、巫女だった。でも今は神となった。現人神となったんだ。ただの巫女に……しかも貧乏巫女に負ける訳にはいかない!巫女として、神として……勝たなければ生き残られないんだから……でも、博麗霊夢は一筋縄ではいかないことは今日分かった。よく理解した。怖い……舐め腐っていたらとんでもない人物だと気付かされた。恐怖心が増大する……何を馬鹿な事を……私は神だ!ただの貧乏巫女の人間風情に負けるわけがない……負けたくない。

 

「私は……!幻想郷一の神になる!そうでなければ……再興なんてできやしない……!」

 

覚悟はあの巫女よりも強い。私の『奇跡を起こす程度の能力』は強い想いに反応する。私の意志が覚悟が強ければ強いほど私の能力と合わさり私自身が最強となれるんだ……二人の手を煩わせる訳にはいかない。これは私の戦いなんだ!

 

 

 

「よし、準備完了……初めての飛空体験……行ってみようか!」

 

お、おお!?……と、飛んでる!空飛んでる!?ジャンプしまくってたらなんか飛べたんだけど!イエーイじゃんこれ。俺やりましたよ。人でも飛べるんです!そう、幻想郷ならね!

 

「おーい!」

 

遠くから魔理沙一名入りまーす!どうした魔理沙、ご注文はスペルカードですか?喫煙席はお勧めしませんよ?ってそんなことはどうでもいいですね。魔理沙にも弾幕ごっこに参加してもらおう。だって、一人じゃ寂しいもん。

 

「実は魔理沙、かくかくしかじか」

 

「まるまるうまうまと……分かったぜ!私も手伝うぜ!あ、でもこっちも影に用事があるから早めに終わらせようぜ」

 

フラグかな?それにしても用事ですか……なんか分かったのか、手伝ってほしいことなのか。まぁ、どちらにせよ今回で魔理沙に貸し一つだな。

 

「よし、行くか」

 

「おう!」

 

俺たちはゆっくりとだが、一直線に妖怪の山へと飛んで行った。凄い、これが空を飛ぶ程度の能力……うむ、はっきり言って最高だなこれは……人が何の装置も使わず飛びたい時に飛べるようになる……時代は封じ込まれていてもここはやはり幻想郷。時代の先端は人々からすれば幻想の域だ。幻想郷に無いはずが無い。

 

ん?あっちに紅葉色の服を着た金髪のチャンネーいません?

 

「誰あれ」

 

「山にいる奴は大体妖怪だろ」

 

「失礼ね!私は秋の神!『秋静葉』よ!」

 

そう言ってこちらに近づいて来たチャンネーは茜色の上着に赤みがかったスカート。そのスカートの裾は楓の形に切り取られたのが連なっている。

ふむ、楓は秋だな確かに。なんか秋って話されると焼き芋食べたくなってきた。しません静葉さん、焼き芋にバター塗りたくった奴下さい。

 

「いやー、良い匂いね。焼き芋の匂い」

 

「それ私じゃなくて壌子の方ね、妹よ!」

 

「なら食べるなら妹の方か」

 

「そういうことだな!」

 

俺と魔理沙はそそくさと静葉の横を通りすぎようとすると、静葉は怒って通せんぼしてきた。まぁ、そりゃそうだよな。

 

「待てい人間ども!いくら秋っぽいからといっても神は神!」

 

ごめん、つかぬこと聞くけど秋っぽいって何?秋=神ってどういうことなの?

 

「人は神に供物を捧げる……これは昔からの習わしよ!巫女ならそこんとこ重々承知よね!」

 

「あー、うん。じゃあ供物として……」

 

俺と魔理沙は顔を見合わせる。そして互いに不敵な笑みを浮かべる。どうやら伝わったらしいな……よおし!

 

「「供物として弾幕を喰らって来な!!」」

 

「んな理不尽な!?」

 

二人で一斉に弾幕を放つ。ガードなんて間に合わない完全で完璧な不意討ちに静葉はどうすることも出来ずに、ピチューンというへんてこな効果音と共に墜落していく。若干可哀想ではあるが、悲しいけどこれ……戦争なのよね。ということで無慈悲に次へと進むのであった。

 

 

 

少し前……

私は自分の家に帰って来ていた。またの名を守矢神社に……焦っていた。何でか理由は分からない……ただ迎えに来てくれた二人がそう見えたと言っていた。

 

「妖怪たちがざわついている……そろそろ博麗の巫女が山に近づいて来ているか」

 

「それでー?どうだったの早苗?博麗の巫女は」

 

「ご心配には及びません『神奈子様』、『諏訪子様』。絶対に私が彼女を倒してみせます」

 

 

私の前にいる二神、それぞれ八坂神奈子様、洩矢諏訪子様だ。神奈子様はこの妖怪の山の神として、諏訪子様は土着神としてこの幻想郷に降り立った。だが、この山に人間は近づけない。妖怪たちを説き伏せ、微弱ながらも自分たちの力とするのが正直言って、今の精一杯の努力だった。

 

 

 

 

 

「よくもお姉ちゃんを~!覚悟~!」

 

所変わって影と魔理沙は静葉の妹、『秋壌子』と弾幕ごっこをしていた。3Dシューティングゲーム、しかも自機をジャイロ操作する形のものは初めてプレイするが、思いの外スムーズに弾幕を回避できている。まぁ、メタイ話だが1面ということもあって余裕があるのだろう。イマイチ当たりそうにない二人に対して壌子は遂に懐からある模様が描かれているカードを取りだす。

 

「もうあったまきた!」

 

「スペルカードか!」

 

「秋符『オータムスカイ』!」

 

発動されたスペルカードは消え、穣子の周りに赤と青の二種類の弾幕がまるで紅葉した落ち葉のようにひらひらと落ちてくる。地味に斜めから来る弾幕に動きを惑わされてしまう。……が、そこまでの量があるわけではなく、一度避けてしまえば次への弾幕には隙が生じる。そこに俺は紫が神社に書き置きと共にくれた札をぶん投げる。紫の書き置き曰く、「投げて当てりゃいいのよ!」だそうで……

 

「きゃあ!?痛っ!すっごい痛いんだけどその札!おかしいんじゃない!?なんで妖怪退治用の札で神が大ダメージを受けなきゃいけないのよ!」

 

「一ピチューンщ(゚Д゚щ)カモーン!」

 

「ふざけないでよ!豊符『オヲトシハーベスター』!」

 

本日2枚目のスペルカードは豊符『オヲトシハーベスター』!一体どんな商品なんでしょうか?おおっとーー!?これは光の柱のようなものをランダムにばら撒きつつ、細かい赤いスターフルーツの欠片を散らばせる商品だー!しかもしかも光の柱で大まかな回避ポイントを限定させて、複数のスターフルーツの欠片で完全に囲み倒すという計画性のある商品!こちらなんと!二セット+穣子特製焼き芋もつけまして!お値段!

 

「これで終わりだぜ!」

 

「ピチューン!」

 

おっと、俺が脳内で豊符『オヲトシハーベスター』という名前の商品紹介をしていたらいつの間にか穣子の近くまで弾幕を搔い潜っていた魔理沙が止めを刺し、先程と同じ間抜けというか気の抜けた音が鳴ってゲームは終了する。

 

「こんなんでいいのだろうか……」

 

何がとは言わないが俺は今日一日不安になってきた。

 

「よおしテキパキ進むぜー!」

 

「は~い……」




唐突に風神録編始動


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6.「脅し、報われぬ頃に」

今や私はこの妖怪の山に住む妖怪の殆どの信仰心を手に入れている。つまり、妖怪の山で起きた多少のことを

私は神社にいながら知ることができる。秋姉妹がやられた……霊夢さんと魔理沙さん……異変解決者と言われるいつも二人だそうだ。ふん、秋姉妹がやられたか!奴等は神の中でも最弱……神の面汚しよ!一緒にするでないわ!……ふぅ、大分余裕が生まれてきた。神奈子様と諏訪子様には心配をおかけしてしまったけど、もう大丈夫……な、はず。今頃あの二人は厄神の『鍵山雛』と弾幕ごっこをしているはずだろう。いつも山の麓か少し上の辺りを彷徨いているイメージがある彼女だが、いざというときはやってくれる系の神……な、はず。あー!駄目だ駄目だ!どうして弱気になっているんだ東風谷早苗!しっかりしろ私!人間の頃みたいに弱いままじゃいられないんだ。だから神になったんだ!神奈子様と諏訪子様を守りたいから、そう強く願ったから能力が発動したんだ。だからこそ奇跡が起こったんだ!この奇跡は終わらせない……ここで負けたらずっと負け犬だ。幻想郷でも不利なままだ。私は強い。そう強く願い続けるんだ。私の能力はそうあるべきものなのだから……

 

 

 

 

「な、中々強いわね……でも、ここからは妖怪たちも黙ってないわよ」

 

ピチューンという音は鳴ったが、鍵山雛は気絶しなかった。それどころか、俺たちに警告までしてくれた。やっぱ神様といえども優しい人もいるものだ。いや、優しい神か……

 

「ま、今んとこ問題なしね。寧ろ騒いで貰いたいぐらいだわ」

 

「だな、拍子抜けだし、神ばっかで妖怪の山感ないし」

 

「それはこっちの自由でしょ。ああ、厄い厄いわー。ちょっと雛流し(正攻法)してくるわ」

 

「「行ってらー」」

 

雛流しって確か雛人形を代わり身として子供の災厄を払うとかなんとかの儀式だったはず。神様が態々I can flyして溜まった災厄を払うとは……厄神様々だぜ。さてと、先程雛に言われた通り、ここからは本格的に妖怪たちがメインで襲ってくるだろうな。その時に河童が参戦してきたらボッコボ……話し合いをして、脅……お友達になって、強化外骨格アーマーを作ってもらおうじゃないかフヘヘヘ(ゲス笑)。

 

「うむ、雛の言った通りとは違ってさ、妖精ばっかになってないか!?しかも、ちょっと多くない!?」

 

「さっきから馬鹿みたいに弾幕ばら蒔きまくる妖精がうじゃうじゃいるからな!」

 

急降下爆撃のようにどこからか猛スピードで飛んで来たかと思えば、青色の中サイズ弾幕を何個かぶん投げて帰ろうとしていく妖精も複数いるし、少し大きい妖精はなんか、自身の周囲に桜の花弁のような弾幕と黒い魚の鱗のような弾幕が3:1の割合で、列になって飛ばしてくる妖精もいる。妖精さんはもっとナビしてくれないと、リッスン!とかHEY!とか言ってくんないとさ……

 

「ん?」

 

「お?」

 

俺と魔理沙はほぼ同時にある物体を発見する。白のブラウスに青の上着とスカートの女性。ウェーブのかかったはねた青髪、服は青い作業着にも見えるけれど、実に見にくい……なんか、透けてる?

 

「あんた誰?」

 

「げげ、人間!?」

 

「あ、あれ?何処行くの?」

 

なんか逃げられました悲しい。まるで俺が不審者みたいじゃないですか。そんな……俺はただの巫女ヤンキーJKに乗り移ったであろう記憶無し年齢不詳の男ですよ……うん。凄く不審者☆

 

「あれ、河童だぜ!」

 

「マジでぇ!?追いかけよう!」

 

頭に皿乗ってたかな?と一瞬考えたが帽子を被っていて分からなかったと魔理沙の言葉を信じるしかない状況だが、先程彼女の姿が見にくかったのはもしや光学迷彩かもしれない!透明人間じゃん!いや、透明河童じゃんか!しかも水辺で生息している河童が作るアイテムなんて全部防水対策出来てるじゃんすげーじゃん。

 

「魔理沙は河童に何か作ってもらったことあるか?」

 

「いんやないぜ。てか、はっきり見たのも今のが初めてだしな」

 

「おいおいおい」

 

死ぬわアイツ……じゃなくて、大丈夫かよ魔理沙さん?人物関係ではっきり見てないのは致命傷ぜよ。日本の夜明けぜよ。

 

「ま、大丈夫だろ。アイツら基本群れだし。特徴的だしさ」

 

魔理沙の話によるとどうやら河童は皆、さっきの彼女のような特徴的な服装をしているそうで。ふむ、そういうことなら間違いないだろうな。

 

「じゃ、しれっと先急ぎますか」

 

「そうだな。河童と言えども絶対私達を止めなきゃいけないだろうしな」

 

て、いる……いない?ちょっと薄ぅぅく、さっきの子いない?

 

「あれ、さっきの人間か。奥に進なって言ったでしょ?」

 

言ってないよね?寧ろ邪魔しかしていないような気がするんだが……まぁ、彼女がどう言おうが力の差を分からせる以外の選択肢がないんだけどね!

 

「邪魔ばっかしてたぜ」

 

そうだそうだー!と俺は俺は魔理沙の意見に賛同してみたりー!……止めよう。さもなくば某一方通行さんに吹き飛ばされてしまうからな。

 

「邪魔しに出向く訳ないよ。というか、進むのは止めといた方がいいよ本当に……私は谷カッパの『河城にとり』。人間はさぁ、帰った!帰った!それかこっから先の奴等を倒せる程の実力を私に示すんだね」

 

「都合のいい戦闘へのこじつけね」

 

「だな、ちゃっちゃとやるぜ霊夢!」

 

「当たり前よ!」

 

 

 

長い一時間だ。軽く半日は経った気がした。まだ彼女たちは来ていない。こんな早く来るわけがないのに、まるで今すぐにでも目の前に立っていそうなそんな考えが頭から離れない。何を恐れている?負けること?巫女として負けること?神として負けること?違う。いや、違わない……負ける……負けて死ぬことを恐れているのか……負ければ人から信仰は得られない。元々妖怪たちでは安定的な信仰を保つことが出来ていなかった。今回で負ければ更に不安定になることは目に見えている。

 

「おーい、早苗?」

 

「あ……は、はいなんでしょう!?」

 

私の意識をはっきりさせてくれたのは諏訪子様だった。いつもの二つの目玉が飛び出ているへんてこな帽子を被って、私を見てくる。

 

「早苗さ……緊張してるでしょ」

 

「そ、そんなことありませんよ!緊張するわけないじゃないですか!」

 

「いや、全身ガチガチに固まってるよー。おいしいお菓子買ってきてあげるからリラックスしなよ」

 

「こ、子供扱いしないでください!」

 

「だってー、そんな目に見えるぐらい緊張してるだもん」

 

「うぐっ……」

 

見くびられているわけではない。きっと、信頼した上で心配してくれているのだろう。そう思うと私の心は少し軽くなった。金縛りが解けたみたいに……だけど不安はまだ私の心の中で蛇みたいに巻き付いている。不安はまだ拭えていない。責任感からくるプレッシャーだろう。お二方は訳あって戦わない……守矢神社の命を持っているのは私なんだ。心を拘束する蛇も、見えない圧力も全部取っ払ったとしてもこの責任感だけは誰にも取れない……

 

 

 

「うぅ……もう少し手加減してくれよぉ……」

 

にとりをフルボッコにしてしまいました(主に魔理沙が)。なんか恨みでもあったのかね?こっちは左腕使えないから札投げしかやることないのよねぇ……まぁ、あの札真っ直ぐ進んでいくという物理法則無視自動追尾機能付属のアイテムだからそれだけで強いけどねー!

今、にとりの怪我を治療するという名目で彼女を人質にすることで堂々と河童たちの里へ侵入することが出来ましたへっへーい!

 

「はいはい……実はあんたに頼みたいことがあんのよ」

 

俺はそう言って少し汚れた四つ折りのノートのページを取りだしてにとりに渡す。

 

「何これ?……強化外骨格って?」

 

「外の世界から流れ着いたものよ」

 

「ああ~」

 

魔理沙の「ああ~」はにとりからすれば霊夢の言葉に対して「ああ、それか」と言った納得した感じに聞こえたと思うが、実際は「あ、影が書いた奴か」という納得の声だったりする。しかし、我ながらナイスアイディアだったな。強化外骨格の設計図紙をわざと汚れさせるという自分が書いた新品のノートと思わせないこの完璧な作戦!

 

「う~ん、分かった」

 

おっ、創作意欲に掻き立てられてくれて俺も嬉しいよ。じゃあ、何時間かかり、いくらかかるのか交渉しようじゃ……なんて思っていたらニトリの方から衝撃の提案がキマシタワー!

 

「じゃあ、お前の尻小玉一つと交換という条件でどうだ?」

 

「……何それ?」

 

「ちょ、おまっ!」

 

魔理沙は何かを知っているようで慌てふためている……何だろうか?

 

「それ命みたいなモンじゃねーかよ!引っこ抜かれたら死ぬって文献に書いてあったぜ!?」

 

ワァーオ……中々に河童デンジャラスリクエスト!抜かれたらその人間が死ぬような玉をくれと申すかにとり殿……きっと彼女なりの復讐なのだろう。さっきめっちゃコテンパンにしたわ、脅迫して自分たちの里に入って来るわ、変な機械作らせるわでイライラが有頂天となった!状態なんでしょうね……

 

「なるほどね……つまり、この強化外骨格には私の命以上の価値があり、かつ……あんたでもそれ以上の作成には労力を費やすと」

 

「……何だって?」

 

「つまり、この強化外骨格……左腕だけでもあんた一人で作ることは不可能って話でしょ?だから断らせようと私にとって無理難題を要求してきた……違う?」

 

「こんな設計図があるのに河童の私が作れないと言っているのか……?」

 

結構白熱してきたよ、この口論……煽られるの苦手かなー?にとりちゃーんwww(ウザさ満天)

 

「作れるならそれを考慮してお客にお値段のほどを提供してもらいたいわね。もっと正確で納得のいく値段ってやつをね」

 

「……このっ!あー、もう分かったよ!作るよ仕方ないな!」

 

「そうそう聞き分けのいい妖怪は好きよ私」

 

妖怪退治専門家(博麗の巫女)に言われても気色悪いっての!全く……左腕だけなら2時間もあれば作れる。けど、メンテナンスとかしないといけないから明日にもう一回来てくれよ!」

 

すぐ作れちゃうって凄いね。もう作るための材料は揃っているのか……侮っていたぜ。河童の科学力ってやつをよぉ……まさか、全身武器になったり、お腹からガトリング砲とか出せるようになるのだろうか。河童の技術力は世界一ィィィィ!!ってことか。流石や……

 

「あ、でもちゃんと払うわよ。流石に尻小玉はあげないけど……『影』」

 

「影?」

 

「ええ、私の影をくれてあげるわ」

 

「……不吉だし、いらないよ。それで何か作れるか?」

 

「さぁ……?」

 

 

にとりには分からない暗号のような実体を怪しむに決まっている。だからそれを交換材料にする……勿論気味悪がって拒否する。これで一方的に俺が得するということだ。あ、勿論影っていうのは俺のことな?もし、「取り敢えず貰っておくか」みたいなこと言われたら俺を差し出せねばならんかったぜ。つまり、結果として尻小玉を引っこ抜かれていたということよ。勿論本気で言った訳じゃないぞ?だって抵抗できる力があるのにあんな要求飲む訳ないじゃないですかヤダー!その代わり魔理沙の慌てふためきようが半端なくて面白かった。口には出せないから必死にジェスチャーみたいに身振り手振りでわちゃわちゃしているのが、構ってほしいワンちゃんみたいで可愛いかったですまる

 

しかし、二時間……早苗には悪いが、二時間ほど待たせてあげます。ちょっと対早苗の良い計画を考えてくるのでね。

 

 

 

……本当に二時間しか経っていない?やっぱり私が霊夢さんに宣戦布告してから軽く半日は経っている気がする。こんなにやることがない日は初めてだ。何故だろう……何でだろう……いつもはあんなに忙がしいのに、いつもは夜遅くになれば疲れたと感じられるのに、今日は何もしていないのに凄く疲れた気がする。

 

「全く……変に思い詰めちゃってるようだね早苗」

 

「あ……神奈子様」

 

返事が乏しくなっているぞ。と神奈子様は苦笑しながら隣に座る。

 

「まぁ、殆ど私の独断でこの世界に来させてしまったのは説明不足だと謝るよ」

 

「い、いえそんな!私は……あっちの世界に未練なんて……ありませんから」

 

「……でも自棄になってきてるのは確かだと思うよ。君がやることにも結果にも私達は身を委ねるさ」

 

「……」

 

「早苗。博麗霊夢に会ったのは君だけだから私の勝手の推測なんだが……」

 

「なんですか?」

 

神奈子様は何かを言い淀んだ。なんだろうか……霊夢さんについて何か意見したいのは確かだと思うが……神奈子様は「いや……」と首を横に振って恐らく自分の思考回路を否定した。

 

「さっきのは忘れてくれ早苗。私の憶測では……博麗霊夢その人に会わない限り語れないことだ」

 

「は、はぁ……」

 

気になる……が、神奈子様も確信のない話だと割り切って立ち去る……何だったのだろうか……

 

 

 

真実は闇の中に蛇のように息を潜めている。



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7.「狗、遠く吠える頃に」

はい、にとりとの約束の二時間が経ちました。その間ににとりがまた変な要求されるのかとヒヤヒヤしていましたが左腕の長さを測られただけで別段何もありませんでしたよかったね。魔理沙はつまらなくなって辺りをウロウロ……それをにとりに注意されてからは俺の膝を枕にして寝てしまった。……うーん、ムズムズするし痒いし、そわそわする。俺、年齢不詳、そわそわする!うーん、最近はメレンゲの○○○でしか見ないなぁ……なんてこの世界では変なことを考えていたらにとりが奥の工房から出てきた。

 

「時間ぴったしね」

 

「ほんとはもっと早く出来たさ……ほれ」

 

「え、やば」

 

渡されたのは俺が設計した奴よりも上……つまり予想以上をいっていた。分かりやすく言うなればMr.鉄男(メタリック)のアレに近いかもしれない。左腕そのものをコピーしたアームは薄い外殻だが、軽い。そんなに気にならないし、負担にもならないレベルだ。流石は河童。流石はにとりと言ったところか。お値段以上なのは健在か……

 

「まぁ、何だ。作りがいってのはある商品だったから耐久性は保証するよ。壊れたら言ってくれれば修理するさ……あ、でも次からは代金を払ってくれよ!」

 

「分かった分かった……ありがとね」

 

「ふん、これだけは言わせてもらうけどね……私達からすれば古くから人間は盟友なんだ」

 

「お友達は大切に……ね。んじゃ、私達は先いくわ。起きろ魔理沙」

 

膝枕から落ちてもずっと寝続けている魔理沙をげしげしと蹴るとやっとこさ起きる。早速身につけた左腕のパワーを見せつけるか……おおお!?左腕だけで魔理沙の全身を持ってる!これは革命的なイノベーションだよ。魔理沙も意識をはっきりと覚醒させたので、次行くぞー。

 

 

 

「なぁ、影……もしかしてこういうつもりでその名前にしたのか?」

 

「そんなつもりは無かったさ。今回のは霊夢の影武者として生きるだけだと思ってたが、変に不気味なアイテムになれたってだけ」

 

「……」

 

河童の里から出てしばらくすると魔理沙からこんな会話を投げかけられる。勿論俺は思った通りのことを言うだけど、魔理沙は難しい顔をする。難しいというのは俺から見てどんな表情なのか判断しにくいという意味の方だ。自分をアイテムと言った無価値だったかのように自虐的に聞こえる俺の言葉に対して、魔理沙はジョークだと思って笑っているのか、悲しそうに聞こえて同情しているのか、簡単に自分を売り出したことに怒っているのか……まぁ、どれにしても魔理沙に対して好印象とは正反対で一番人に与えてはいけない自分の印象を見せてしまった。これは反省会行きですね間違いない。いや、霊夢の相棒にこんなこと言うのはちょっとやってしまった感が上げ上げです。

 

「影」

 

ごめんなさい。咄嗟に思い浮かんだ言葉はそれだった。だって冷淡に、しかも自分の名前だけを呼ばれたら母親に呼ばれたような気がして反射的に謝らざる負えなかった。

 

「私達は友達だからな」

 

「へっ?う、うん。そうじゃなかったの?」

 

どうやら魔理沙的に今やっとこさ友達になれたっぽい。なんか、違和感は感じるし、間違ってる気もするが、それはそれとして先を急ぎますわ、よくってよ!

 

「てか、用事どうしたよ」

 

「あ、寝てて忘れてたぜ」

 

「おい」

 

「まぁまぁ……現状が現状だし、守矢神社?の巫女?倒してから言うぜ」

 

うむ、まぁ、そうしてくれるとぶっちゃけ有難いわ。でも、そこまで出し惜しみされると余計気になるなぁ……確かに現状はヤロウブッコシャァァァァァァ!!だけど、そんなに勿体ぶるようなことなのか?だとしたら謎が謎を呼ぶ現在94刊も出ている探偵ものの漫画でも相当びっくりさせるような衝撃の真実ぅ~~~!って感じなんだろうな。魔理沙さん、色んな意味で期待してますよ

 

「それはそうと、敵の量こそ多いけれどTHE・妖怪!って感じはしない……わね」

 

「そうだな〜、でも弾幕は鬱陶しいぜ(明らかに取って付けた「わね」w)」

 

魔理沙のツボにシュゥゥー……超☆エキサイティン!結構ツボってんなあの子……そんなに無理矢理感面白かったかなー?確かに変だったけどさ。しかし、妖精さんにしか見えないのよね。この敵たち……もっとバリエーションよカモーン。

 

「そこまでだ!」

 

おっと、まるで悪役の悪さに主人公の怒りが頂点になったときのセリフだな。どちら様ですか?と問う前に見た目で分かった……そうか、獣耳っ娘!見た目はさらさら白髪のわんわんおだ!

 

「どちら様かなわんわんおよ」

 

「犬じゃない!白狼天狗だ!」

 

狼?ニホンオオカミ!?馬鹿な……!絶滅したはず!?何故ニホンオオカミがここに!?まさか自力で脱出を!?……彼女はニホンオオカミではない(無言の腹パン)ぐぉ!?なんて一人で遊んでいたら魔理沙が「でも」と、否定した。

 

「天狗って『狗』じゃないかぜ?」

 

「……ああ、確かに~!ってなるか!」

 

結構いいセンスのノリツッコミィ!しかも、わざと手をポンとおいて、昔の納得したポーズを取るぐらいの芸人気質……!この子、ただ者……ただ犬じゃない!?

 

「ここから先は天狗の完全支配下にある!」

 

「うーん、山の神様が治めてるって聞いたけど……自治体かな?」

 

「じ、じちたいとは何だ?」

 

「自分達の棲みかを自分達で守る人たちってとこかな?」

 

「じゃ、じゃあそれだ!人間が侵入することは昔から許されんことなんだ!素直に引き返すならば攻撃はしない」

 

あれ?意外と紳士的……いや、女性だから淑女的?まぁ、何でもいいや!(思考放棄)すまんがわんわんおよ。今この瞬間から俺にはもう一つの目的が出来たのだ……その目的成就のために……やられてくれ。というか、元々この先に用があるから倒さないと進めないのよね。

 

「やなこった。あんたらの後ろで私たちを待ってる奴らがいんのよ!」

 

「ち、面倒事を作ったかあの神たちは!」

 

わんわんお天狗は腰に付けた剣を鞘から引き抜く。え、もしかして肉弾戦?とか思っていたけどちゃんと弾幕撃ってきました。ほっとしたっていうか安心だフォンしたって言うか……なんか、わんわんお天狗さんの弾幕、平仮名の「の」に見えてきた。まさかその「の」の字による回転で目を眩まそうというのか!?セコい……セコいぞわんわんお!

 

「あー、目が回りそう……」

 

「同感だぜ。さっさと片付けてやる!」

 

魔理沙はおもいっきり飛ばしてわんわんおとの距離をつめる。そして彼女が取り出したのは、てれてれってれー!マジックボム~!これを使うと魔力が爆発するという通常の爆弾よりも芸術的な弾幕の一つなんだ。って、何故か頭の中で某猫型自律機械(狸との類似性大)のお決まりセリフが浮かんでしまいました。ま、しゃーない。

 

「よっしゃ!命中……」

 

魔理沙が彼女自身の肩でぶん投げたマジックボム~!はわんわんおに見事ヒット……したかと思ったが、なんと彼女は紅葉のマークが描かれた盾でガードしていた。うっそ!?それでガード判定になるの!?小娘、派手にやるじゃねーか!これから毎日盾を持とうぜ。

 

「まじかよ!」

 

「どきなさい魔理沙!」

 

驚いている魔理沙そっちのけで俺もわんわんおに接近する。

 

「ここまで近づくのなら……斬り捨てる!」

 

天狗の素早い、速すぎる剣筋にほぼ、無意識に俺は左腕でガードした。ガキンという時代劇での剣の鍔迫り合いに似た音が発する。ちゃんと強化外骨格でもガード判定に入る様子……

 

「その腕……河童の!」

 

「使えるモンは使うのが定石よ!後、あんただけ盾でガード出来るってずるいっての!」

 

わんわんおがこの左腕に驚いている隙に魔理沙が復讐にもう一度マジックボムをポイする。

 

「あ、(ピチューン」

 

「あっぶねえええええ!おい、魔理沙!おr……私がいるのに広範囲攻撃はないんじゃないの!?」

 

つい、素になるところだったが、よく見たらさっきのわんわんおはまだ気絶していなかったので、言いとどまって、言い直した。

 

「悪かった悪かったって……」

 

「くっ、不覚」

 

「ま、2対1だし、当然の結果よね。後でまた会いましょう。さ、行くわよ魔理沙」

 

「なぁ、悪かったって」

 

「うるさいわ!何回心無い謝罪してんのよ!」

 

棒読みで何度も言われるのは来るものがあるぞ。主にイライラが……しかし、この左腕便利すぎましたね。いや、便利にしたくて河童のにとりさんに頼んだ訳なんですが……ちょっと戦闘面でここまで活躍するのは計算外。あまりの強さに公平さを無視した卑怯なものに思えて来たので左腕でガードするのは盾持ちかインチキ弾幕(回避不可能の弾幕) してくる相手だけにしておこう。

 

「あややや!」

 

「あ、いつもの天狗が来たぜ」

 

あややんキマシッ!だけどどうやら敵対視されている様子。視線が痛い……

 

「ここまでよく来ました」

 

あ、出たボスキャラ特有のベタ褒め。

 

「ですが、その快進撃もここまでです。これから先は完全に天狗の領地……あの神たちは確かに迷惑ですが、こちらにも有益なので許可しています」

 

質問するより先回りして、そのことを言われた。ただし、天狗の社会も一枚岩ではないのは分かっているが、どうやら先程あややが言っていたあの神たちを許可したのはどうやら上司の天狗……所謂上層部たちのようだ。でなければさっき倒したわんわんおは不満を言わなかった筈である。で、あれば当然あやや……いや、文も少なからず不満を抱いているはずである。と言うことは、上層部があの神たちを妖怪の山にいさせた訳……それは……まぁ、大体予想がついた。

 

「でも、さっきの哨戒天狗?は、あまりよく思って無かったわよ?」

 

「でしょうね。私もあまり良いものとは思いません。ですが、上からの命令は絶対です」

 

「どうして?理由も聞かなかったの?」

 

「……」

 

その様子だと聞かなかったというより、聞けなかったようだな。きっと、他の上位の天狗が質問していたら答えてくれたのだろうが、恐らく文だから質問させなかったんだな。

 

「どうしてだと思う?」

 

「え?」

 

「あんたの上司があの神たちをここに置いた理由ってやつよ」

 

「……」

 

分からないようね。あ!わ、分からないようだな。危ないねぇ……ついつい頭の中でも女言葉になりかけていたのよ。……のよ?

 

「答えはシンプル簡単ね。私を……博麗霊夢を排除するためよ」

 

「「なっ!?」」

 

文も……魔理沙も当然驚く。

 

「それじゃあ、あの巫女が言っていたことを鵜呑みにしたってことか!」

 

「ええ、そして超可能性は低いけど、もし、あの巫女が勝利した時、次の巫女は自分たちのテリトリー内にいる」

 

「そういうことかぜ!あの神たちが博麗大結界の管理職を手に入れたところであの神たちを倒せば幻想郷は自分たちの支配下になる!」

 

魔理沙が出した結論は俺の考えていたことと完全に一致している。ま、勿論霊夢を倒すという大前提だ。倒せる訳がないと俺も謎の自信に駆られているため、そう簡単に今の結論が現実にはならないだろう。

 

「……」

 

同時に文は、自分が上司に理由も聞けなかった理由(わけ)が分かった。彼女は新聞記者として霊夢に接触し、ある程度の認知度と信頼度があったからだ。もし、文に理由を説明していたら霊夢に話して計画が台無しになるのは明白だ。だが、理由を頑なに話さなかったとしてもこのように怪しまれ、行動力のある文ならかなり早めに理由が分かってしまうだろう。俺が文の上司で、この状況だったらこの時点で文を暗殺している。その点、文の上司……というか天狗はあくまで種族(プライド)主義(メイン)。ここで捨てるという選択肢がないのは愚かだな。

 

「と、いうことで先を通しなさい文」

 

「……駄目です」

 

「ど、どうしてだぜ!」

 

「……霊夢さんの言ったその通りだったとしても今の私は山の射命丸文なんです。山では上司の命令は絶対……」

 

通すべき義理ってやつか……記憶がないからなんとも言えないが、それのせいで一番大切なものまで失う気がするのは何でかな。

 

「文、私は今3つのことで怒ってる……1つはあの巫女。私への侮辱と人への侮辱……2つはあんたの上司の奴等。プライドを失ったあの巫女やら神やらに同じくプライドを失ってまで人間一人を殺そうとするその愚かさ!そして3つ!それは……」

 

ごくりと文は緊張で生唾を飲み込む。

 

「あんた、私が言ってたロングスカートどうしたのよ!」

 

「は?」

 

文と同じく俺が何を言うのか怖かったというか注目していた魔理沙は話の意図が飲み込めずただ疑問符ばかりが浮かんでいた。だが、文は顔を真っ赤にして、照れている。

 

「あ、あの時は文々。新聞の記者の時の射命丸文でしたが、今はさっきも言いましたが山の射命丸文なんです!たから……///」

 

「だからって仕事場では清らかさの欠片も無いのあんたは!?違うでしょ!似合うものを着て悪いことなんて一つもない!」

 

熱弁ぽく垂らしているが、実際は戦いたくないからいなくなって☆……という下劣な考えが含まれていたのだ!な、何だってー!?

 

「う、うぅ……そ、そういう意見、山の文ちゃんは聞き入れないのです!そういうのは戦って勝ってから思いっきり言ってください!」

 

はい、文ちゃんついに吹っ切れました。そしてやはり思い通りにならずに彼女とのバトルへ……はぁ、どうしてこう戦闘ばっかりになるのかなぁ……(揉め事は弾幕ごっこで決めるっていうルールがあるから)

 

「さあ!手加減してあげるから本気でかかってきなさい!」



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8.「神と、相対する頃に」

霊夢(影)と魔理沙……異変解決組と呼ばれる彼女らは様々な異変を解決してきたが、全て力を合わせて戦ったらしいものは殆ど無く、「どちらが先にボスを倒し異変を解決できるか」という競争の形で二人は個々の力のみで戦ってきた。故に協力した二人の実力は測り知れず、タッグならば敵無しとも噂されていた……だが、

 

「あはははは!どうしましたお二人さん!止まって見えますよ!」

 

幻想郷の中でも最強の部類に入る天狗、射命丸文は強敵であった。弾幕の量こそ手加減されているのが見え見えだが、彼女自身の速さが尋常ではなく、とてもじゃないが追い付けないし、目で追うことすら出来ない。

 

「ち、こうなったら一瞬でもアイツを止めなきゃ勝てないぜ……!」

 

「そうね……!(もう色仕掛けは通用しないだろうし、新たな策を用意しないとな)」

 

俺としてももうこんな色仕掛けもしたくない。恥ずかしくて死んぢゃいそう。しかし速すぎるなあのブンブン……くっ、片仮名でブンブンっていうとあの敵キャラになっちゃうから止めよう。

 

「いっ!?こんな時に……!」

 

「おい、嘘だろ霊夢!?」

 

突如またもや激痛が左腕を襲う。昨日ぶりだね激痛さん!強化外骨格を付けて慢心していたらこれだ……!やっぱり紫の言う通りに永遠亭とやらに行けば良かったかもな……だが、これは逆にチャンスだ。咄嗟に作戦が思い付いた、普通なら成功率は低めな作戦だが、あくまでも文は手加減しているならどうにかなるかもしれない。状況は変わらず最悪だが……

 

「おやおや~?霊夢さん戦線離脱ですか~?」

 

地味に腹立つなあの煽り……まぁ、ちょうどいい……魔理沙もあのスピードには参っていただろうし……

 

「魔理沙、私に構わず全力で行きなさい」

 

「だ、大丈夫なのかぜ?」

 

「獲物くれてやるって言ってんのよ!さっさと倒して来なさい!」

 

「……!おう!分かったぜ霊夢!」

 

これが俺が考えた対文の策……その名も作戦放棄!……というのは半分冗談。詳しくはwebで!

 

「よぉし、軽くぶっ飛ばしてやるから覚悟しな!」

 

「魔理沙さん一人で大丈夫なんですか~?」

 

「このイライラはお前に当てるから全然大丈夫だぜ!」

 

やってしまいなさい魔理沙さん!弟の仇をとるのです!(神の声)

 

「弾幕はパワーだぜ!」

 

これが魔理沙の通常弾幕……結構広範囲に星形の弾幕をばら蒔いて文の動きを妨げようってことか……うぅむ。魔理スターがどうしてもキラリン☆レボリューションに……なんかパッと思い付いた。

 

「ちょこまかと鬱陶しいぜ!」

 

いや、どちらかというと君の弾幕の方が鬱陶しい気がするんですがね。まぁ、一々ツッコミを入れるのは野暮だし、脳内でツッコミさせてもらうぜ。

 

「くっ!」

 

文のスピードがみるみるミルトンしているうちに下がってきている。うん、そろそろ怒られた方がいいな俺!それはさておき、文のスピードダウンに反比例して魔理沙の弾幕は過激さを増していく。計 画 通 り……やはり魔理沙は文よりも手加減していた。恐らく俺が近くにいたからだ。これが俺の策よ!それは俺が弾幕ごっこから抜けることだ……なんて最低で底辺な作戦なのだろうか。後で魔理沙に目の前で愚痴を言われても仕方ないレベル。しかし、結果が全てだ!何をしようと勝てばよかろうなのだあああ!

 

「これでもっと邪魔してやるぜ!恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」

 

これは酷いスペルカードだな。四つの玉が表れたかと思うと魔理沙の周りを回りながらレーザーを放って来ている。つまり文は回転に合わせて動かなければならず、レーザーの速度に合わせるということは自然とスピードはその速度と同じになる。考えたな魔理沙!因みにノンディレクショナルとは無指向性……主の送受信器の寸法と波長の関係で、波長の方が長い場合がノンディレクショナルだ。因みにマイクロホンとかそういった系統のものは指向性で、無指向性というのは指向性のような一ヶ所に強い音波を放てるようなものではない。つまり、考えるな感じろ、全部ブッパしちまえば関係ねえ!という脳筋ワードなのであった。なんでこんなの覚えてんだろ俺……

 

「捉えたぜ!」

 

文を射程に収め、今すぐ撃ち抜こうとする姿勢に入ったが、文もただやられる訳にもいかないと懐からスペルカードを手に取る。

 

「ち、『幻想風靡』!」

 

速い……一番最初に無意識的に呟いた言葉はそれだった。魔理沙の前に文がいるのは分かる、理解できる。だが、速すぎる……文が高速で移動しているために軌道が文の姿を塗りつぶしている。魔理沙も認識出来ていないだろう。だが、どれだけ速く移動していると言っても同じような場所を何度も行ったり来たりしているだけだ。今、攻撃すれば……いや、魔理沙が攻撃が中断するわけがない……いくらか当たっているはず……なのだが、いつもの腑抜けた音楽は鳴らない。

 

「まさか無敵?」

 

「これは耐久スペカだぜ……!」

 

耐久スペルカードだと!?やはりただ者ではないなあのあやや!つまりスペルカードの効果時間まで魔理沙が避け続けなければ文は倒すことが出来ないのか。だが、高速で移動し続ける文もこちらを狙っての攻撃なんて難しいはず……いや、だからこそ、被弾率の高い米粒みたいな弾幕をおかしい量を飛ばして来ているのか。勿論、米粒のような形なだけで随分と大きい。

 

「望むところだぜ!目には目を!速さには速さを!彗星『ブレイジングスター』!」

 

魔理沙が持つ妙な小道具を箒の穂先に付ける。大噴出する魔力。魔法を目の前で見たことのない俺でもよく分かる魔力の奔流。魔理沙の本気が、このスペルカードか……名前の通り彗星のような速度で魔理沙がそこから姿を消した。本来魔理沙の箒は魔力で細かな移動も可能にしていたがこれは豪快の域に入る。彼女ですら制御出来ない程だろう。ブーストしている小道具からは先程よりも大きな星形弾幕が放たれており、文がばら蒔く米粒型弾幕を蹴散らしていく。

 

「そこだああああ!」

 

魔理沙も馬鹿じゃなかったか、文のスペルカードが切れる時間を計算して自分もスペルカードを発動した。右から左、左から右と一定の規則性がある以上、時間を測れれば文のスペルカードの効果時間が切れた時に文が何処にいるのかはすぐ分かる。そしてそこへ全力の一撃を与えればいい。脳筋でもここまで行けます。そうライザッ○なら!

 

「流石……ッ!」

 

文も観念して真っ正面から喰らった。サッカーの試合のホイッスルの代わりにピチューンという気だるさを促進させる音が終了を知らせる。

 

「やったぜ!」

 

「お疲れ様、魔理沙」

 

やっと左腕の痛みも和らいで来た。ナイスタイミングだ私の腕。でも魔理沙とのハイタッチは右手で行った。右手も痛くなったが魔理沙も強敵あややを倒せてついつい力が入りすぎたのだろう。

 

「……では、私を倒した褒美に守矢神社まで案内しますよ」

 

「ロングスk」

 

「分かりました!次会ったらそれにしておきますから!」

 

ふふふ、今訳ありで戦えなかった俺をからかった罰ゲームだ。きっと一生ネタにしてやる戒めてやる。

 

 

時刻は大体お昼ちょっと過ぎ辺りか。小腹が空くが用事が先だ。あの緑髪の巫女神様ぶっ飛ばす……?ああ、首から上を無くすって本人に言ってあげたんだった。よし、あの女の首から上なくそう。いやいや……流石に物騒で、しかも霊夢の姿でやるとなると抵抗があるので止めておきましょう。

 

「突然彼女たちはここに現れて自分たちの力を説いたのです」

 

「へぇ……」

 

「霊夢さんを挑発したのが『東風谷早苗』という巫女……人間と神の奇跡である現人神。そして山の神『八坂神奈子』と土着神『洩矢諏訪子』の三人が守矢神社の三柱です」

 

「ま、煽ってきたのはその早苗ってやつだけだし、他は無視よ無視無視。それにアイツはタイマンを望んだからね。私がぶん殴ってやんのよ」

 

「あはは……」

 

文は笑っているように見えるが顔が引き攣っている。どうやら俺の口の恐ろしさ思い知ったようだな……あ、口臭のことじゃないぞ?お喋り力よ、最近はJK力って言うの?アタシJK力マックスバリューだから~……みたいな?うん、JK分かんない☆教えて早苗さん!

 

「着きました。では、私はこれで~」

 

「おう、じゃあな文」

 

「ばいばい」

 

俺と魔理沙の簡単な挨拶を簡単に受け取って文はどこかへと飛んで行った。きっと、自分の家か、これからアポとってあった場所へ取材にでも行ったのだろう。さてと、俺……いや、私は前にある神社を睨みつけた。はぁ、随分とウチ(博麗神社)とは異なってお綺麗ですこと(素直に褒めてる)。どこが外の世界でやっていけていないから幻想郷に来たのだろうかと疑問符が浮かぶほどだ。

 

「来ましたね霊夢さん……」

 

そう言って上からふわふわと降りてきたのは朝挑発行為をしてきた早苗ちゃんじゃないですかー!よし、全面戦争(弾幕ごっこ)だ。

 

「待たせたわね。でも、ま……フルパワーで遊んであげるから覚悟しなさい」

 

「それはこっちのセリフ……いえ、こちらにとってのソレは遊びではありません。弾幕ごっこではありますが、文字通り命を懸けた戦いです!」

 

「……あ、そ」

 

一気に俺のテンションが下がっていき、ボソッと今の言葉を呟いた。プチン……あ、やっちまったな。と反射的に思ったがもう遅い。目の前で対峙している早苗の怒りのボルテージが一気に最高峰を超えたのを感じ取った。

 

「貴女だけには……絶対に……負けるものか!」

 

「!」

 

超巨大な星型弾幕を怒り狂った早苗は大量に放ってくる。あれ、ちょっと待って?まだ5ステージ目だよね!?(メタい)あ、いや待て……星型弾幕というのはちょっと分かりにくいな。通常の弾幕がくっつきあって☆の形を象っている。つまり、何が言いたいかと言うと……非常に避けにくいッ!

 

「……!雨?」

 

まさか、早苗さんの怒りが天候すらも動かしているのか!?どんどん曇天へと雲が移動してきている……早苗さんはどこの古龍種ですか!?

 

「秘術『グレイソーマタージ』!」

 

「いきなりスペルカード……」

 

またあの星型弾幕か……と思ったが、捻じれて解れたかのように小さな弾幕に分裂する。先程の文の幻想風靡と比べればこれは大したことはない……が、幻想風靡を突破したのは俺じゃないし、これもきついことには変わりないがな

!それでも突破は突破じゃい!

 

「ぬるいっての!」

 

お返しだ、俺は紫から貰った「当たれば痛いよ札」を両腕で投げつける。数は少ないがホーミング機能は捨てがたいし、早苗にとっては厄介なはず……何だが、ギリギリを回避されてしまった。こちらが攻撃に転じれる機会は少ないってのに!

 

「奇跡『白昼の客星』!」

 

早苗の両サイドからレーザーが照射されたかと思ったら別の弾が交差するように撃ってきているじゃありんすかー!?因みに客星というのは一時的に明るくなる星のことで、明るくなるのは近くの巨大恒星の爆発や彗星の接近などの別の光源によるものだそうです。ついでにあくまで一時的な明るさというのは宇宙空間でのことであり、早苗のスペルカードの白昼っていうのは1024年に現れた客星で1年と10ヶ月もの間、光り続けていたそうです~!以上、現場からでした!だから何でこんなの覚えてんの俺!?

 

「はぁ……はぁ……(体力を温存しとかないと……アイツの連続スペルカードは堪えるぞ!)」

 

「!(息切れ!チャンスだ!)」

 

早苗は霊夢の微かな隙を見つけるとチラッと自分の残りのスペルカードの枚数を確認した。今ここで必殺技連打すれば勝てるかもしれない……いや、まだ温存して置かないとまずい。霊夢は一度もスペルカードを使っていないのに比べ、こちらはもう二枚も使っている。

 

「……」

 

「……」

 

一時の沈黙が周囲を支配する。これは準備のための無……一瞬の瞬きにも近く、一回の呼吸にも等しい。その沈黙も次の瞬間には弾幕が魅せる光景が音の代わりにかき消した。

 



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9.「奇跡が、歴史を紡ぐ頃に」

最初に動いたのは霊夢だった。今の彼女に博麗霊夢としての記憶はない。故に、この世界での博麗霊夢流の戦い方も何も知らない。ただホーミングアミュレットと呼ばれる博麗札を投げつけることしか脳がない少女に成り下がってしまっているが、今の霊夢にとってはそれが全力であった。

 

「……」

 

声を出す暇さえない。それは早苗も同じだった。一瞬でも油断すれば被弾してしまうような命懸けの戦い。これはごっこじゃない。もうごっこでは済ませない。

 

「「……!」」

 

霊夢と早苗、どちらの前にも現状で回避不可能の弾幕が飛んでくる。すかさず両者共にスペルカードを取り出す。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

「開海『海が割れる日』!」

 

霊夢のスペルカードで霊夢にとって不都合な弾幕は全てデリートされ、早苗のスペルカードで半分以上の行動できる範囲が弾幕……というよりはレーザーの波が埋め尽くしている。

 

「まだまだ!」

 

早苗は追い討ちとばかりに槍のように連なった弾幕を霊夢に向けて発射する。逃げるスペースは削られているが、少し横にずれるだけでその槍は回避した。だが、早苗の放つ槍はまだある。逆に霊夢は早苗の動きが止まっているところを狙って封魔針と呼ばれる鋭い針を飛ばす。まさに一進一退。息つく暇さえお互いに与えない。

 

「いい加減……散れ!」

 

「そっちこそ消えなさい神紛い!」

 

「黙れ!奇跡を起こすは神の所業!つまり私は神だ!風よ巻き起これ!」

 

早苗の奇跡の力が強風を呼び起こす。風は早苗の弾幕の追い風に、霊夢の弾幕が向かい風になってしまう。故に霊夢の封魔針は早苗に当たるまでに風で勢いが殺されてしまい、届かない。早苗は既に勝利を確信していた。

 

「ははは!どうだ?これが神である者の力だ!博麗の巫女!もう諦めることね!」

 

調子に乗った早苗の煽りに霊夢の堪忍袋の緒が切れる……いや、爆発袋の導火線に火がついたとでも言った方が適切かもしれない。霊力とは主に女性が感じやすい霊的現象の察知能力の高さを言うものだ。つまり、現代で言うところの言霊のような信じ込みに近い。霊夢は人間の中では最強とも言える程の霊力の持ち主だ。脳内にある巫女としてのセンスや彼女自身の性格から生まれたものと推測される。だが、『今回のは』普段のそれとは一際違った。

 

「…………今、何って言った?」

 

殺意。一瞬で霊夢の脳内には早苗に対する怒りで埋め尽くされている。咄嗟に、反射的に早苗は後退りした。

 

「諦める……?誰が?私が?何に?この戦いに勝つことに?はっ!違うでしょ……あんたが私に勝てないと諦めなさい!」

 

何故だ?早苗の頭には疑問符ばかりが浮かび上がる。怒りに囚われているから?違うはずだ。もし、怒りに囚われてしまったからといってもこの力の差は歴然としている。どこからあんな自信が現れている?

 

「諦めるって言葉……嫌いなのよね。どれだけ不利だろうと……いえ、不利だからこそ言わせてもらうわ……博麗の巫女は絶対勝つ!」

 

霊夢の迫力に完全に押し負けた早苗は目の前から来た霊夢の攻撃を咄嗟に弾幕を放って相殺してしまう。先程彼女の攻撃は自分へ届かないと分かっていたはずなのに……そのたね姿を一瞬で見逃してしまう。はっと我に還った時にはもう遅い、見当たらなくなってしまった。ならば……と、早苗は1枚のスペルカードを取り出す。見失ったのならば、見境なく、更に現れざる負えなくなるように不利な状況にしてしまえばいい!

 

「準備『神風を喚ぶ星の儀式』!」

 

赤い星型弾幕がいくつも展開し、早苗の周りを囲む。その数10ぴったし。それらが分裂した瞬間、次は青の星型弾幕が10個先程のように早苗の周りに展開する。赤と青の星型弾幕が交互に放たれる。

 

「さぁ、どこだ!さっさと出てきて……これは!」

 

早苗の視線からかなり離れたとこに何枚もの札が一列に飛んでいっている。まさかと振り返るとそちらからも同じようなものが、飛んでいる……これは結界だ。大量の札を媒体に自身の霊力を伝達させて一つのドーム状の檻のようなものが出来上がる。それが結界というものの仕組みなのだが、これは規模がデカい……早苗はこの危険度を察知した。

 

「……針か!」

 

ヒュンッ!という風を切る音が聞こえたかと思うと後ろから早苗の頬を掠めていった。グレイズという被弾扱いにはならない判定に助けられたが、早苗は一転して自分の不利になってしまっていることに気づいた。

 

「まさか、後ろに!」

 

先程早苗は追い風を生み出した。それは早苗の後ろから前へと吹く風だ。逆に言えば霊夢が早苗の後ろを取れれば、霊夢にとっての追い風となり、早苗には向かい風となってしまう。この状況を得るために霊夢はキレたふりをしてまで殺気を早苗に当てたのだ。

 

「今の針……山の方からか!小賢しい真似を!ならそちらを集中的に撃つだけ……」

 

「あら、敵に背を向けていいのかしら?」

 

「!?」

 

早苗の後ろから飛んでくる封魔針の方に霊夢がいると思い、振り向いたが、すぐ背後から声が聞こえる。化けも……霊夢だ。どうして後ろから針が来るのに霊夢本人がいるのかという彼女の疑問は言うより前に霊夢が答える。

 

「ちょっと最近、左腕が便利になってね」

 

 

 

 

 

少し前に河童の里にて……

 

「なんで強化外骨格にワイヤー機能ってのがあるの?」

 

霊夢は左腕をカチカチと叩いたりして触りながら偶然発見したその機能について製作者のにとりに自分の中の疑問をぶつけた。

 

「ああ、その……あれだ。ロマンだよロマン、それにワイヤーみたいな切断能力が高い奴がじゃなくてちょっと丈夫な蜘蛛の糸みたいなものさ。ほら、博麗の巫女は妖怪を捕縛する時も来るだろう?盟友、私はお前を思ってそれを付けたんだよ」

 

にとりは得意気に解説する。なんか話が長くなりそうだけど気になっていたことにも触れた。

 

「じゃあ、何でこの糸は妖力を持ってんのよ」

 

「捕縛した妖怪が動けにくくなる」

 

「なる~」

 

 

 

 

 

最初は妖力が糸全体に付与されたため、もし、糸を使ったとしても妖力のせいで、糸の存在がバレてしまうから使い道が限られているなと思っていたが、ここは例外。妖怪の山は全体的に妖力が充満している……左腕の強化外骨格に埋め込まれた何メートルにも伸びる糸で簡易的な罠を作ったとしてもバレにくいはず。更に最初に針を投げた時点で、針は山の方へ落っこちていた。後はその位置を覚えて、そこへ降りるだけ……下準備は既に済んでいた。

 

「ま、結果オーライね。右手薬指」

 

霊夢の右手薬指に結びついていた糸がシュルシュルと解ける。それとほぼ同時に早苗の後ろから再び針が飛び始める。

 

「くっ!」

 

「ほっ!」

 

早苗はまたもやグレイズする。霊夢も持っている針をぶん投げる。だが、早苗の能力で発生した強風がまだ残っているため、早苗には当たらないはず……のだが、霊夢の目的は早苗へ直接攻撃することではなかった。早苗の後ろから飛んできた外れの針に命中し、別の風の軌道に乗って再び早苗の方へと飛んできた。

 

「そんな……!」

 

早苗の弾幕が間一髪のところでそれらを撃ち落としたが、霊夢の右手の指についていた糸が更に解けているのに気付く。

 

「一体何時こんな作戦を!?」

 

早苗からすれば当然の疑問だ。霊夢が博麗の巫女の中でも天才だという話は聞いていたが、これほどまでに知略を使う軍師としての才も持ち合わせているとは聞いていなかったからだ。勿論、それもそのはず……たった2日前に霊夢の精神(中身)が別の誰かとシフトチェンジしているのだから。

 

(あんた)に答える義理はないわ!」

 

先程までの早苗優勢だった状況は一転、今度は早苗の能力すら利用した霊夢の作戦で優勢なのがどちらかなんて、誰の目にも明らかだった。そのことが早苗の神としてのプライドと二柱から信頼されているというプレッシャーを刺激した。

 

「負けるか!負けるか!奇跡が、ただの人に……負けるものか!奇跡『神の風』!」

 

早苗の最後のスペルカードが発動する。大量の米粒型の弾幕が早苗の中心のように渦となって集まっていき、一気に逆方向へと飛ばされる。更には球状弾幕で全体攻撃である複数の米粒弾幕と合わせて追い打ちをかける。

 

「……!作戦変更ね」

 

霊夢は針を飛ばすのを止め、回避の方に専念する態勢に変更する。だが、逃げれる範囲は早苗の能力によって生まれた台風のような強風に狭められている。

 

「こうなったら……奥の手よ!霊符『夢想封印』!」

 

そのスペルカードの発動に巨大な結界が反応して発光する。結界が次々と早苗の周囲を取り囲み、霊夢の周りでは赤と白、更にそれらが混じったような色の6つの巨大な弾幕が飛び交う。

 

「行け!」

 

巨大弾幕も霊夢の合図に合わせて早苗の周りを飛び交うようになる。これら全部が早苗に当たるのだ。咄嗟に能力を最大に、スペルカードの威力を最大にした。

 

「負けるか!私は……」

 

負けられない!

 

 

 

 

 

 

「まだ……まだだ」

 

早苗はギリギリのところで耐えていた。けほけほと舞った煙を吸ってしまったようで咳き込んでいる。

 

「さっきの爆発で罠が壊れて使い物にならなくなったとはいえ、私はまだ1枚、スペルカードを持ってる。文字通り、完全にひっくり返してあげたわ」

 

これが博麗の巫女。いや、博麗霊夢の力……勝てない。

 

「……頑張れ!早苗!」

 

「そうだ!お前は強い子だ!」

 

神奈子様……諏訪子様……そうだ。これは私と霊夢さんとの試合であっても、私一人の戦いじゃない!応援してくれる二人がいる。私の支えになってくれる二人が!あの二人のために私はもっと強くなりたい!霊夢さんを越えられるぐらい……!

 

「……!これは……」

 

ここにきて早苗の力が膨れ上がっていく。疲れや体力は回復していないようだが、こちらを倒す力は確実のものになってきている。

 

「ふ、あはははは!見ろ!視ろ!観ろ!これは私たちの奇跡!絆という名の最強の奇跡が起きたのだ!」

 

「……ふふ」

 

笑ってる……?何でですか霊夢さん……貴女の状況ははっきり言って絶望的のはず。私の奇跡で巻き起こった風は幻想郷の中でも強大だ。何故この状況で笑えるんだ……

 

「なあんだ。あんたまだ、捨ててないじゃない。一番大切で一番忘れていたこと」

 

「一番大切で一番忘れていたこと……」

 

「最初に会った時からさっきまで『それ』が一切感じられなかった。いえ、正確には自主的には表に出てこなかった。あんたが不必要だと恥じて裏に隠してきたもの……それが一番大切なものよ」

 

「何をくどくどと!私の力が増したと言うことは、弾幕の質も量は上がったということ!」

 

そうだ。事実その弾幕のサイズも量もランクアップしているんだ。だから何故……当たらない。霊夢さんを狙って撃っているのに、こっちの方が有利なのに!何故彼女は終わらない!?

 

「あんたの大切なものはね!今の貴女の状況!」

 

「は?何を言って……」

 

「応援してもらって、喜んで、嬉しくなって、応援してくれる人のために強くなりたいと心から願う……なんて、貴女はやっぱり『人間』なのよ」

 

「」

 

声が出なくなった。私はまだ人間?違うはずだ。いや、違う……違うんだ。何でだ、何でこんなに自信がないんだ……私は神だ。神になったんだ。何のために?決まっている!二人と同じ場所に立って、二人を救おうと━━━━痛みを共感するのは人間だからじゃないの?

 

「違う!」

 

思わず怒鳴った。怒鳴ってしまった。どこからの声に疑問に怒ったのだ。それじゃ駄目な大人と同じだ。訂正しようと慌てて口を開こうにも言葉が喉から上に出てこなくなっている。

 

「何が違うのよ!」

 

っ!霊夢さんの一喝だ。何故だろう……彼女の方がさっきの私の怒号よりも声の大きさは小さいはずなのにズシンと胸に届き響いている。

 

「あんたはもしかしたら凄い神なのかもしれない!でも、それ以前にあんたは人間として世界に生まれたのよ!それを誇りと思わずしてなんと言うの!」

 

「……」

 

人として生まれたことを誇りに……神を信じる側に、元から神ではない私には足りないものがあることははっきりと分かっていた。だって二つの憧れが、遠くに見える存在が直ぐ側にいたから……でも、人間に……しかも、よりによって一番敵対しているものに悟らされた。

 

「今のあんたも強いのかもね。でも見せかけにしか見えない。何故なら……私の方が強いから!」

 

霊夢さんの手には既に新たなスペルカードが握られていた。私は咄嗟に弾幕を放った。

 

「夢符『二重結界』!」

 

弾幕が霊夢さんに被弾する前に霊夢さんのスペルカードが発動した。するとどうだろうか……私の弾幕は全て霊夢さんの前に張られた結界に吸い込まれていくではないか。

 

「あんたが強くなればなるほど、この結界も強くなる!あんたの奇跡……返して上げるわ!」

 

もう一つの結界が私を取り囲み、吸収されていた弾幕が解放される。

 

「……!完敗です」

 

私は対抗策が思い付かず肩に限界まで入っていた力をやっと抜いた。敗北を受け入れたんだ。

 

「あ、ついでに針投げとこ」

 

「え、ひぃ!?や、やめ……」

 

ピチューン!私はあろうことか自分の奇跡ではなく、思い出したかのように投げられた針に刺されてゲームオーバーとなったのであった。

 

 

 

 

 

「ぐすっ……ぐす、せめて、自分の技でやられたかった」

 

「……なんか、ごめん。ふと、あ、針投げとこうかなって思っちゃってさ」

 

「要らなかったですよねぇ!?最後のあの針!」

 

早苗の激しい抗議はもっともだ。アレは所謂駄目押しというやつだが、まさか早苗がアレに当たるとは思わなかった。見事に刺さってたし、痛かっただろうなぁ……

 

「でも、針が刺さってから目がよくなった気がします!」

 

「ツボに刺さってるじゃない」

 

先程の早苗とは正反対で目を輝かせている……ツボに針一本刺さっただけでこうもハイライトが変わるものなのか……どうも、針治療師霊夢です。皆さんもどうです?ちゃんと効果以上に金をぼったくりますよ。

 

「じゃあ、私帰るわ。またお茶でも飲みに来なさいな」

 

「……ま、待って下さい!」

 

「うん?」

 

私は咄嗟に飛び上がって霊夢さんを呼び止めた。思っていたのと違う。今日の朝に会ったあの時の彼女と今の彼女は何かが違うように思ったから……

 

「ここを……潰さないんですか?」

 

「潰す理由ないでしょ?」

 

「え……」

 

「ふ、ここどこだと思ってんのよ」

 

俺は早苗を嘲笑う。それに便乗して今のいままで完全に空気だった魔理沙が割り込んでくる。

 

「そうそう!ここは幻想郷、外の世界とかけ離れているんだぜ!」

 

「って訳よ。幻想郷に二つの神社ありけり……って歴史に刻めるように頑張りなさい。行くわよ魔理沙、帰ったらパーティーよ」

 

「お、いいね!久しぶりに上手い酒が飲みたいぜ~」

 

そう言ってお二人はここから姿を消した。私はそれを呆然と眺めていた。そこに神奈子様と諏訪子様が私の横にくる。

 

「ふふ、早苗。私たちは『今から』新参者だ」

 

「もう、早苗は元気いっぱいだね。でも先人から学ぶことも大切だよ」

 

「神奈子様、諏訪子様……私、気付きました」

 

二柱はうんうんと頷いた。早苗に足りなかったものは落ち着きと情報だと二人は途中で気づいていた。それを分からなかった早苗が今回負けるのは当然だと心の何処かでは感じていた。そして、早苗はようやく理解した。これからまた一からどうにかしようと頑張ろうと早苗が言うのを期待していると……早苗はもう一度口を開いた。

 

 

 

 

 

「幻想郷って、お酒を二十歳以下から飲めるんですね!」

 

「「そこかよ!」」

 

……どうやら早苗はまだまだ足りないものが多すぎたようだ。



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10.「混乱、渦巻く頃に」

早苗との激闘も無事に終了した霊夢と魔理沙。しかし、霊夢の中ではとある疑問が頭の中で渦巻いていた。その疑問を放って置くというのは、気持ち悪い……

 

「と、言うわけであんたに会いに来たわわんわんお」

 

「何がという訳だ!何も前置き無かったぞ!それにわんわんおじゃない!」

 

「でも、名前聞いてないし呼び名に困るわ」

 

「うぐっ!い、犬走椛だ」

 

「「やっぱり犬じゃん!」」

 

「そう言うと思ったから言わなかったんだ!」

 

という訳で哨戒天狗のわんわんお改め、犬走さんにお会いしております。相変わらずのツッコミ精度に感服です。

 

「はぁ、何のようだ」

 

「その尻尾をもふもふしたくて」

 

「は?」

 

「魔理沙」

 

「はいよ」

 

俺の合図と共に魔理沙が犬走っちを押さえつける。ふっふっふ……俺が7話で言っていたもう一つの目的とはこれのことだったのだよ!尻尾もふもふ……いいじゃないか。王道だな!

 

「もふもふ」

 

「もふもふ」

 

「や、やめ!くすゅぐった……!あふぅ……」

 

 

数分後……落ち着きました兼反省しました。今は魔理沙と並んで犬走っちの前で正座しています。

 

「全く、あの調子に乗った神たちを叩きのめしたから多目に見てあげるが今度からこのような真似はしないように」

 

「……気持ち良かったくせに(ボソッ」

 

みるみる内に犬走の頬が紅潮してくる。図星か、まぁそうだろう。猫カフェで癒されてきた俺のもふりテクにかかれば犬っころ一匹どうってことないのよ。

 

「そうそう、幸せそうな顔してたぜ」

 

「し、してない!断じて幸せそうな顔などしてない!」

 

「「またまたそんなこと言っちゃって素直じゃないな〜」」

 

「気味が悪いぞお前たち!何で同時に一語一句間違えずに喋れるのだ!?」

 

あー、このツッコミを聞くだけでさっきまでの死闘の疲れが取れるわ〜。通いつめようかしら。なんかオネエみたい。

 

「まぁ、冗談は置いときまして」

 

「やっとか」

 

「え、その冗談はどこに置いとけばいいんだ?」

 

「「知らねえよ」」

 

魔理沙のボケに流石の俺もツッコミを入れざるおえなかった。犬走っちも同時にツッコんだ。あれ、一語一句間違えずに喋れてるけど……まぁ、余計なことは言わないでおこう。てか、何の話だっけ……ああ思い出した。犬走っちに聞きたいことがあったんだ。危うく聞きそびれるとこだったじゃないか魔理沙!

 

「本題よ、本題!一昨日の夜、人里の近くで私を発見した哨戒天狗って……あんたでしょ」

 

「ああ、そうだが?というかその口ぶり的に文様喋りましたね……ん?ちょっとおかしいな」

 

え?なんかおかしいとこあったかな?昨日の朝に文に言われたこと一語一句聞き間違えずに覚えてたはずなんだけど……

 

「私が一昨日の夜に最初にお前を見つけたのは『紅魔館の近く』だぞ?確かに人里の近くまで移動しているところまでは見ていたが」

 

はい新しい行き先でましたー。もう、この世界はRPGですか。紅の魔の館で紅魔館……はぁ、キナ臭いというか中二病というか、それでも恋をしたいというか……まぁ、怪しさ満点。紫の第一印象並と言えば皆は俺がどれだけ怪しんでいるか分かってくれるよね?

 

「で、それがどうかしたか?」

 

「文が言っていたことに引っ掛かりを感じてね。当事者に聞くしかないなこれは、と思ったわけ」

 

「そうか」

 

そう言って犬走っちとは別れ、やっとこさ帰宅。道中の妖精やら何やらは結局何だったのか帰りは襲ってこないというRPG仕様でした。いや、夕暮れなら妖怪たちの本領発揮の時間なんだろうけど俺たち朝から昼頃に来ちゃったから……今思えばそりゃ妖怪も来ないわ。完全に夜行性のイメージだもん。いや、守矢神社みてからの博麗神社だとホラーかと思っちまうぐらい怖いのな。

 

「んで、結局何の不思議も無かったのかぜ?」

 

「いんや?寧ろありまくりすぎでクリスマスイブだわ」

 

「どういうことだよ」

 

「大変ってことさ……はぁー!?もう何なのよこの問題数は!?もう妖怪全員怪しいんだけどー!もう妖怪は全員死ぬべきじゃね?疑わしきは罰する制度幻想郷に取り入れましょー!」

 

ついに頭がパンクした俺氏。マジで俺の中で爆発袋の導火線に火が点いてた。

 

「お、落ち着け落ち着け……まずは整理しようぜ?」

 

魔理沙さん……気遣いしてくれるなんて、なんてええ娘なんやー!おじさん感激じゃ……よし、気を取り直そうか。

 

「まずは文と椛の証言だよ!これがマジで意味わからん!文の話だと霊夢は俺の元の体を運んでいたらしいが椛の話にはそんなこと一切出てこねぇ!そんでもって椛の話では事件が起きた前後と思わしき時間帯に霊夢は紅魔館にいたと言っていたが、文と霊夢から直接話を聞いた慧音の話だと人里の近くで事件は起きてる!全くもって噛み合ってない!」

 

しかも椛のあの言い方だと決して紅魔館は人里に近くないどころか遠そうだもんな」

 

「ああ、凄い遠いぜ」

 

ですよねー。あ、今自然に頭の中のこと口に出してしまいました。あー、恥ずかしい。

 

「でもさ、文の場合は他の哨戒天狗にも話を聞いただけじゃないかぜ?」

 

それは俺も最初は思ったよ。でも違うんだ。根本的にさ……

 

「じゃあ何で椛の意見を一つも取り入れないで俺に話したんだ?ってことになる。確かに椛の話では俺の体の話は無かったから文が単に言わなかっただけかもしれないが、そもそも論だ。椛は人里の近くまでしか霊夢を見ていない。文の話は根本から信憑性が崩れてんだよ」

 

「あ、確かに」

 

「な?だのに椛に話しかけた時、『文様喋りましたね……』と言っていたということは椛からも情報を貰っていた。しかも文のような新聞記者が聞き間違えたり、覚え違ったりなんてするわけないんだ」

 

「え、だけどまだ他の哨戒天狗に聞いたって説が有力じゃないか?」

 

「文の言い方だと情報提供者は一人だけだった。もし他に情報提供者がいたとして、新聞に載るわけないのに、てか載っても同僚だから問題ないはずなのに匿名使ったり、証言者の数を誤魔化したりするか普通?」

 

魔理沙は首を横に振った。当然だな、文の新聞がどれほど有名なのかはさておき、匿名やら人数の誤魔化しやらを使うほどではない。いや、それは文の書き方次第になるけど俺は必要ないと思う。そういう方向性で話を進めるとしよう。

 

「てことはだ。考えられるのは大きく3つ!椛が文に、または俺のどちらか一方に嘘を言った。それかどっちにも嘘を言った。若しくは文が椛から本当か嘘の証言を貰った上で俺にそのままか嘘を言ったか哨戒天狗以外の誰かから情報を得た」

 

「……4つあるけど」

 

「つまるところはまぁ、椛が悪意を持って嘘をついたのか、文が悪意を持って嘘をついたか。それかどちらも別々の思惑があって嘘に嘘を重ねたのかってことだ」

 

俺はノートを取ってきて図を整理する。事件の概要は不明。目撃者の霊夢は死亡または行方不明。被害者の俺は記憶喪失。被疑者も死亡または行方不明。そして、事件前に霊夢を見た人物は慧音のみ、事件後に霊夢を見たのは椛のみが今のところ判明している。そして紫が俺を殺そうとしているのは……書かなくていいか。態々書くほどのことじゃないし。次に文か、文は……うん?

 

「なぁ、魔理沙」

 

「なんだぜ?」

 

「何で文は椛から情報を得ようとしたんだ?」

 

「え?そりゃ、霊夢を見たのは椛だからじゃないのか?」

 

「違う。『その前だ』」

 

「え、え?」

 

「何で文は椛が霊夢の情報を持ってるって知ってるんだ?一昨日の夜に何か起きたのを知っていたから椛に聞いたんじゃないか?」

 

「妖怪の山で何らかの騒ぎがあった……とか?」

 

「それが霊夢に関係するのなら人里にも何らかの形で騒ぎになってるはずだ。椛が文に自主的に霊夢を目撃したことを言うと思うか?俺だったら文の上の存在がいるならそっちに報告に行くね」

 

「そうだよな、じゃあ文から話しかけたということに……なったら何で話しかけたんだろ?」

 

「そこだ。毎日椛から話を聞いているとしたら椛はあんなこと言わなかった」

 

あんなこととはさっきも言ったが『文様喋りましたね……』というボソッと喋ったあの一言。いつも情報を文に与えていたらあんな発言しなかった。きっと『また』という言葉が付け足されていたはず。

……少し考えすぎなのかもしれないがちょっとだけ犯人像に予想がついた。

 

「変装した複数人の犯行だったとしたら辻褄が合わないか?」

 

「私もそれを思ってたぜ」

 

俺の思いつきの一つだが、偶然にも魔理沙と気が合ったようだ。そうだ、変身やら変装やらに長所的な能力を持った妖怪の一人や二人いるだろう。

 

「椛がいつもあそこを見張っているとは限らない。もし、椛と文のそれぞれにお互いが会った場所を聞いて異なった場所を示した場合、今言った犯人たちがいる可能性が異常に高くなる」

 

つまり、椛があの時文と会った場合をAとして、文があの時椛と会った場所をBとした場合、AとBのそれぞれに文か椛に変装した第三、第四の人物がいたことになる。そしてその第三、第四の人物が文と椛に嘘の情報を話すことで噛み合わない情報が生まれるって訳だ。

 

「それにしてもよく影は椛が情報持ってる哨戒天狗だって分かったな」

 

「ああ、それは勘」

 

「霊夢に似てきてるぜ……」

 

知ったかというのが現実です。あれで違っても椛は優しいだろうから目撃者のことを教えてくれただろうという短絡的な発想に基づいた話しかけだったのだよ。

しかし、勘で何でも解決する名探偵霊夢ですか……巫女ヤンキーJKに+しておかないと……空飛ぶ名探偵ツンデレ巫女ヤンキーJK……二つ名長いな。

 

「取り敢えず今日は疲れたし、飲み明かそうぜ」

 

魔理沙のその提案はどこか甘い誘惑にも聞こえる。ふむ、酒の味を知らないのか忘れたのか記憶にない。記憶にないことをしようと提案されると少年時代に味わってきただろう冒険心と探求欲が刺激される。ぶっちゃけると飲みたい。潰れるぐらい飲んでみたい。ごくりと無意識的に唾を飲んでしまうほどに喉が渇く。

だ、だがここで二日酔いにでもなった日には事件解決が遅れて迷宮入りになってしまうかもしれない。控えめに飲む……いや、無理だろ。酒への欲求。それは幸せなものに思えるだろう……だが、その本当の正体は沼ッ…!数々の人間を沈めてきた沼だ…!

 

「飲もう。ほどほどに」

 

「がっつりじゃないのかぜ?」

 

「俺が飲みすぎないのには3つの理由がある!1つ、明日早くから調査をしたいから。2つ、二日酔いになればその調査に支障をきたすから。3つ、へべけれ状態の俺に情報を与える奴はいないし、俺も聞き取ることが出来ないから」

 

「あの、2つ目と3つ目意味同じじゃ……」

 

馬鹿な。あの21年続くカードゲームのアニメの最新の方の主人公の口癖らしきものを言ったのにマジレスされちゃったよ!

 

「ともかく、俺は絶対飲みすぎない!」

 

数分後……

 

「えへへ~、まりしゃー。まりしゃーが四人もいる」

 

お酒には勝てなかったよ……。

 

 

 

 

チュンチュン……雀の声が綺麗に聞こえるぐらい透き通った朝。いやぁ、朝になってました。うむ、気持ち悪い。酒パワー強すぎるな。そして俺に酒への耐性がないことがはっきりわかった。今度からは控えよう。

 

「ふわぁ、あれ、魔理s……」

 

魔理沙はどうしたんだろ、もう帰ったのかなという一言言おうとした瞬間、俺は一人で布団で寝ていたのではないと気づいてしまった。

 

「うーん、むにゃむにゃ」

 

なんと魔理沙が横で寝ているではないか。え?まさか一緒に寝たの?寝ちゃったの!?いやいや体は女、中身は男!その名も空飛ぶ名探偵ツンデレ巫女ヤンキーJK霊夢!ってだから長すぎるんだよ!そうじゃなくて俺と寝てしまったのか魔理沙。い、いや服がはだけてたりとかしてないから何も無かったんだろうけどさ。中身男性と一緒の布団で寝ちゃだめだよ!

 

「あ、おはよ……霊」

 

魔理沙はそこまで言って停止する。どうやら眠気が徐々に覚めてきてこの状況が分かってしまったようだ。魔理沙の瞳に写っている俺と同じようにみるみるうちに顔が紅潮する。急いで起き上がって支度をする。そうでもしなくてはお互いの顔を見ることなんて出来なかったからだ。

 

「なんて嫌なスタートだ」



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11.「また、平穏な頃に」

皆さんおはようございます(執筆時23時だけど)。今、俺氏は人里にいます。一昨日に話した慧音から何か情報を得たいなぁ……という、希望をしつつ、本命は紅魔館への訪問の二本でお送りします。

 

一昨日のうちにたくさん買い物をしたので本日は特に買いたい物はないかな、とお店を流し見しつつ、寺子屋に移動する。

 

「「「先生さようならー!」」」

 

数人の児童が寺子屋から出て来て中にいるのだろう先生に向かって挨拶をしてそれぞれ解散していく。ふむ、小学校の児童たちの光景がこれと同じように見えてくる。ふむ、微笑ましい光景なんだが、今俺が元の体だったら完全に不審者扱いされていたと思ってしまう。

 

「あ!化け物だ!逃げろー!」

 

俺(博麗霊夢)を指さして一人の子供が一目散に逃げ出す。それに釣られて他の児童たちも逃げていってしまった。

 

「ふ、化け物扱いか……」

 

勿論良い気はしない。マゾ+ショタコンorロリコンの人しか今のに快感を覚える人はいないだろう。この変態が!

だが、ある程度的を得ている話だ。博麗の巫女は人の世を離れ、人の世を救う……あんな場所に神社がある理由の一つはそれだろう。更に一歩でも間違えれば本物の化け物になりそうなほどの実力者でもある。そりゃ、非力な人間からすれば強者のすることは全て規模が理不尽に見えるし、それに自分たちも巻き込まれてしまうかもと恐れるだろう。

 

中からこちらを見てくる人物がいた。恐らく先程子供たちに挨拶をされていた先生だろう。よく見たら一昨日、寺子屋に来たときにいた先生だ。今日はあの時のような優しい顔はどこへやら……凄く不機嫌そうな顔をしている。周りの人達もこちらを見てくる。なんだ?皆、霊夢を化け物扱いですか。それとも早苗たちの影響か……まぁ、どうでもいい。俺はここで事実さえ知れればそれでいいんだからな……皆水の民なんて知らないだろうから今のネタ誰も知らないだろうなな。あ、心の声です。因みにCVは櫻井孝○

 

「慧音はいるかしら?」

 

「……今、休憩中だそうです。呼びに行きましょうか」

 

「あんたさっきまで授業してたんでしょ。私一人で充分だから休んどけば」

 

ぶっきらぼうにこちらにハイライトのない目で見ながら話してくる。ま、入らぬ心配だな。どいつもこいつも嫌な目をするしか出来ない。強者に対して弱者が出来ることと言えば一致団結するか、影で悪口を言うことしかできない。

 

「おお、霊夢か。すまないな、皆気が立っていて」

 

職員室……ではないな。慧音個人の部屋か。中々の広さで、盗み聞きはしづらい場所だ。慧音にいきなり謝られたのには少しびっくりしたが、まぁ、ハートはダイヤモンドなので大丈夫です。ダイヤモンドは砕けない。

 

「早苗を懲らしめた結果かなぁ」

 

「さぁ、それは分からない。だが、『世代交代』だと他の人は言っていた」

 

世代交代……うーん、霊夢と早苗はほぼ同い年だと思うんだけどなぁ。確かに外の世界でもよくある上位互換と常識への浸透化の賜物のお陰で我々は日々の暮らしが良くなって来ている。それが幻想郷でも起きるのは当然だ。同じ日本人ばかりだし、幕末からの西洋化なんて凄いことだったはずだ。そりゃ、そういう観点から物事を見れば確かに「博麗の巫女」や「博麗神社」は古いものだ。新システムである「現人神な巫女」と「守矢神社」は未来型にも見えてくるだろう。だからそれを賛同しているからと言って、「あの目」で見てくるか。子供に人を指さし、「化け物!」と言わせるか。いい大人が情けないことばかりしている。

 

「すまない、子供たちには後で言い付けておくから」

 

「そこまでしなくていいって。人は流れるもの……時代にも他人にも他の生き物にも誰にだって流されてしまう……簡単な生き物じゃない?」

 

「そ、そこまで言うか。まぁ、確かに……私も『人』というものは少しだけだが知っていると自負しているつもりだ。人とはその場の意見によって味方を作り、数で……大で小を殺す生き物だ」

 

大で小を殺す生き物……成程、評論文を書くのに向いてるよ慧音さん。

 

「まぁ、人の定義なんて今はどうでもいいのよ。議論している暇はないわ、どうだった?なんか事件はあったかしら?」

 

「ああ、五日ほど前に妖怪たちが人里の近くをうろついていたという情報があった。事件というほどのものではないが、何かを企んでいるのかも……とな」

 

事件発生の二日前……「人里の近くにいた」という噂があったってことは事件現場の近くにもいたということ。たった二日で霊夢を陥れる作戦があったかというのは疑わしいと思うが、五日前以降からも作戦を練っていたと考えるのが定石。そして作戦決行の日に近づいたために下見に来た……こういう推理で間違いはないだろう。

その目撃された妖怪たちが霊夢や俺を襲った犯人ならな。普通、事件を起こそうと考えている場所を下見するのならばれないようにコソコソとやるものだ。人里の近くなら尚更だ。しかも、俺や魔理沙の推測だと犯人、またはそれの協力者は変装・変身能力を持っている。人間に変装か変身すればバレる心配をしなくていい。

 

「成程ね。一応用心しておくに越したことはないわね」

 

「そうだな。ああ、それ以外にも妖怪絡みの事件が……って、お前も少しは知っていることだが、守矢神社の巫女が布教活動を始めてから妖怪たちがウロチョロするようになった。勿論、人里へ侵入することはないが安心して外に出られなくなっている人が多くなっている」

 

「……早苗の影響で妖怪たちも彼女たちを信仰しているとは聞いたけど、人里の近くまで来てるって?穏やかじゃなさそうね」

 

早苗……昨日の朝宣言した謝罪はどこへやら……君、とんでもないことやってくれましたね。これはもう……早苗には妖怪を退治する悦びを知ってもらうしかないな。何とかラバーズなんだ!

 

「私が聞いたのはそれだけだ。傷は結局大丈夫なのか?その……河童に付けてもらった腕は?」

 

「まぁね。でも、気にしなくていいわよ。これから永遠亭に行くつもりだから」

 

「それなら妹紅のところを訪ねるといい。きっと案内してくれるぞ」

 

誰だろう?妹紅?妹さんですか。でも、ここで「妹紅?」と聞き返すのはナンセンスだ。妹紅の現在地が分からないとドストレートに言ってしまった方がいいだろう。きっと妹紅はそこまで霊夢の友人という感じではなさそうだし。

 

「妹紅か……いや、でも家知らないし」

 

「そう言えば霊夢は妹紅が普段どこにいるか知らないんだったな。竹林の中の筍を取っている時間だろうから、そういうのが目印になると思うぞ」

 

すんげえアバウトなんですけど。まぁ、確かに筍が引っこ抜かれた後があったら分かりやすいし、探しやすいかもしれないな。うむ、そうと分かれば、いざさらば。

 

「結構いい話を聞けて良かったわ」

 

「ああ、他の人たちのことは気にしないでくれてありがとう」

 

「いいっていいって!人は言語を理解できても、言動やその意味を理解出来ないことが多いの。私は理解しないわ。だって、無意味ですもの……あ、でも最後に私が病気でこうなっていること秘密にしておいてね」

 

ちょっとウインクして左腕を見せながら慧音の部屋を後にする。結構悪役っぽかったかもしれないな今の俺氏。いや、悪い笑みが零れそうなのを堪えるので精一杯だ。だって、態々信頼できそうな相手に対して嘘をついてしまうほどの悪人だ。あくまで「信頼できそう」ってだけなんだから警戒するに越したことはないけど……

こんな実証がある。日本人犯罪者への尋問による自白率は世界でもトップクラスなのだそうだ。それは警察側の尋問には才があるから……というわけではなく、日本人犯罪者は口を滑らせやすいということだ。日本人そのものは自分だけが知っていることを口に出してしまう傾向がある。これは独り言という部類ではなく、他人へ教えてしまう。教えたくなってしまうというものだ。つまりだ。日本人は一人で解決できる問題……いや、己でしか解決できない問題を他人に提示し、他人に話してはいけないことを言ってしまうという外国人から見れば愚かにも愚かな欲求がある。

 

「……」

 

今、こちらを見ている人間たちもそういうことだ。言わなくていいことその人に対する悪口を他人その人に話してしまう。ボソッと、小声で俺に聞こえるか聞こえないかの瀬戸際辺りで

 

「消えろ化け物」

 

ふ、あはははは!面白おかしいとはまさにこのことだ。霊夢を化け物扱いにするのを俺が許すと思うか?勿論、許さない。今、発言した奴の顔は認識した。きっと一生忘れないぞ……ぶっ殺してやる……ぶっ殺してやるからな!お前!(テニスで)

 

「化け物」

 

「化け物」

 

ほらこれだ。単純に進化しただけの猿に成り下がっているじゃないか。旧人辺りが妥当か……その程度の知能レベルでの罵倒……ふむ、下らんし、相手にしているだけ無駄だな。永遠亭に急ごう……あ、紫からもう一冊ノートを借りれば良かった。ひらがなで「ふくしゅうちょう」って書いてある奴。書くとそれが現実になるやつだともっといい。完全に○来○記だけど。

 

「竹林……こりゃやばい量だな」

 

目にいいはずの緑色ですら気持ち悪く感じてしまうほど鬱蒼とした竹・竹・竹……正面や上を向いても目がチカチカする。ああ、さっきのイライラと今のチカチカの奴で忘れそうになったが、筍が目印なんだった。前を向こうが上を見ようが筍はないな。

 

「筍…筍……どこかに一本だけ光輝く竹があったりしないか……はあああ!」

 

あった……!マジであった!ピカピカ光ってる竹一つありけり!翁じゃないけど中身は見たい。斧がない……が、俺には針がある。刺突武器だが、横に抉るぐらいはできる。俺は中身を一人の女性だと思いながらその竹へと歩み寄る。

 

「ん!?」

 

ずり落ちるように一瞬で地面が消えた。一気にネットは取れる。落とし穴だ。煙と埃が舞い上がる。そこにしめしめと一匹の兎耳の薄いピンク色のワンピースを着た少女が悪そうな顔で近くの竹林から出てきた。

 

「ウシシシ!あの巫女が引っ掛かったウサ!ばーか!ばーか!金目のものがあるとでも思ったか!」

 

「どうりで幼稚な罠なわけね」

 

「へ?」

 

ゴゴゴと音がどこからか鳴りながら指をポキポキと鳴らす博麗の巫女。冷や汗が止まらない兎っ娘。すぐ「ギャー!」という悲鳴が聞こえたのは想像に難くないだろう。

 

 

 

「今日は兎鍋かしらね」

 

「ま、待つウサ!取り引きしようじゃないか」

 

「無償でしょ?当然よね(ニコッ)」

 

「は、はいィィ!」

 

兎ッ娘を代わりに案内役にすることに成功した。さっきの落とし穴に引っ掛かったんじゃないかって?いや、空飛べるもん俺……重力を利用した罠なんて通用しませんよ。ええ、引っ掛かった方が面白かったかもね!(逆ギレ)

 

「妹紅に案内してもらおうと思ってたけど手間が省けたわ」

 

「あの人なら今、永遠亭にいるウサ。私がいて良かったね!」

 

「いや、そんなに?」

 

兎ッ娘は黙る。いや、正確には「覚えとけよ」と小声でブツブツ言っていた。お馬鹿め、丸聞こえだ。しかし、空から見た時よりも広いように感じるなこの竹林。まさか、空間に異常でも起きているのか?

 

 

 

 

 

「ほ、ほら着いたウサ。目的は叶えたからもう離してウサ!」

 

「ああ、確かに。ほれ」

 

遠いところ目がけてポーイとぶん投げる。また戻ってきてイタズラされても困るだけだからな。絶対許さないからなーと言われても……うん。まぁ、そうだよねとしか返事できん。

 

「あ、霊夢じゃない!どうしたの?」

 

永遠亭の入り口からもう一人兎耳の今度は高校の制服に似た服を着た子が出迎えてくれた。偶然居合わせたともいうが……実際豊満なバストであった。お客様の中にニンジャ視力を持ってる人はいませんかー!

 

「ちょ、ちょっと用事があってね。中に入っていいかしら?」

 

「いいわよ、師匠も暇してるし……ねぇ、さっき『てゐ』の声が聞こえた気がするんだけど……」

 

「し~らない!お邪魔しまーす」

 

てゐね、覚えた。今度やってきたら叱ろう。そして、このJK兎ッ娘には師匠がいる。この三人はほぼ確実に霊夢の知り合いだろう。どこまで誤魔化せるか……後、妹紅っていう人もいるのか……別の意味で修羅場の予感。

 

「あら、意外と人いるのね」

 

こんな辺境のような場所にみたいなニュアンスを含んでしまったが、実際それに近い印象を受けた。案内が必要な程には、博麗神社よりも辿り着くことは困難な場所にこんなにも人が……妹紅さんって結構仕事大変なんじゃ?そういえば紫が俺の左腕の怪我を治すためにまずおすすめしたのが永遠亭だもんな。それほど腕が立つ医者がいて、かつ人間にフレンドリー(こんなに人がいるということは人気ということだし)。てか、これだけいるのに暇という部類に入るのかウサJK……っていなくなってた。

 

「おやおや、巫女様ではないですか」

 

「ん?」

 

突然呼び掛けられたのでそっちの方を見ると杖を支えにゆっくり歩くお爺さんが。翁?いやいや……

 

「巫女様も八意先生のところを訪れるとは……大丈夫ですかな?巫女様は儂らの安全を保証してくれる味方。病にかかってしまったら大変じゃ」

 

「あら、心配してくれてるの?でも、大丈夫よ。あなた達に迷惑をかけるほど私は柔じゃないから」

 

結構意外だ。霊夢を巫女様と呼び、気までかけてくれる人がいるとは。いや、早苗たちの布教活動で影響を受けたのはあくまで若者ばかりということか。それか、頼るものを見失った人ぐらいだろう。聞いたか早苗。これが信頼というものだ。

 

「最近の馬鹿者どもは新しい巫女が博麗の巫女様に代わる……いや、それ以上のものだと抜かしおる」

 

ぬかしおるww

 

「儂らがどれほど長き間、博麗の巫女様に守られてきたものか知りもせん」

 

お爺ちゃん・お婆ちゃん特有のすぐ怒りっぽくなるやつ。待ってる人達も気を悪くしている。変な空気になってしまう。

 

「いいのよ、お爺さん。賛否両論……これが常、そして絶対な常識なんてものもないのよ。私が病にかかることもあれば、守矢の巫女が人里を守るものになることもあるでしょう。多目に見なさい」

 

「巫女様……」

 

そのお爺さんだけでなく、その場にいた人達もこちらをずっと見つめてくる。なんか、恥ずかしい。事実を述べただけなのにここまで暖かい目で見られるのは、こう……来るものがあるよね。一発ギャグでもして空気を換気したくなったが、ここでそれをすると100%凍る。

 

「次の人どうぞ」

 

「はい」

 

奥の扉が開いて女性の声がする。多分、さっきのJKの声だったかな?仕方ないからお爺さんを近くの椅子に座らせた。だって椅子余ってるのに座らないのは勿体ないでしょうが。

俺は自分の番が来るまで静かに立っていることにした。

 

 

 



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12.「永遠、時々炎上する頃に」

次の方ー……という言葉が何回か聞こえた後に俺以外に患者はいなくなった。皆立ち去る時に「ありがとうございました」と俺に言ってきたんだけど俺なんかしたかな?まぁ、いいや。人助けしたってことで……次の方コールが聞こえなくなってから俺はコンコンとドアを叩く。

 

「入って」

 

ただの患者ではない扱いのようです。まぁ、そりゃそうか。中身がこれでも……あくまでも『博麗霊夢』だからな。

 

「はぁ、本日はどのようなご用件で?」

 

「そんな下手に出なくていいわよ。今日は検診で来たの」

 

お初にお目にかかります誰ですかと言いたかったが、ここはぐっと我慢して目の前にいる銀髪の女性の前の席に座る。う~ん……どことなく紫っぽいな。あー、二人の(精神も含む)年齢が近いのかも?

 

「あら、天下の博麗の巫女が病気ですって?」

 

皮肉られてんな~……いくら天下の巫女でも一応は人間なんだよ?ってか天下の巫女ってなんだよ。俺はこほんと咳こんで左腕に付けていた強化外骨格を取り外し、包帯を取り、俺自身久しぶりに見るあの傷……いや、穴を彼女に見せる。

 

「これは……貴女ほどの実力者が油断でもしたの?」

 

「……最近、私をお役御免にさせたい奴らがいるみたいでね~」

 

「この穴を塞ぎたいのね?」

 

「まぁ、それ以外にも時々激痛が走ることがあるからそれもちょちょいっと原因解決してくれたら……ちゃんとお金払うわ」

 

ちゃんと指を丸めてあのポーズをとる。あ、これはお金欲しいポーズだった。お金払う時のポーズ……ないか、だれか作ってください不便……でもないや、いいや忘れて。

 

「……少し検査するわ。横になってちょうだい」

 

 

 

 

 

同時刻に上白沢慧音は小休止を終えていた。霊夢との会話の後、直ぐに授業をしていたが、霊夢がここ最近の事件について聞いてくる理由を考えていた。考え過ぎてしまい、休憩を入れたのだ。

 

霊夢の左腕は肌が見えないように包帯が全体に巻かれていた。それは私が三日前の夜に出会った時の霊夢には巻かれてなかった。これは私の憶測だが霊夢は何かしらの攻撃を受けて、その攻撃してきた人物を見ていないのだ。それで、それ以前にも人里の人が襲われた事件があるか探っていたのやもしれん。霊夢を蔑ろ……寧ろ亡き者にしようとする妖怪が少ない訳じゃない。だが、いままでは妖怪同士のプライドが相容れず、単独で巫女を討ち取ろうとする輩が9割以上だったから霊夢は負けなしだった。本当に「いままでは」……

だが、今回の事件は霊夢が油断して傷を負うほどだ。集団的計画だと断言していいだろう。本人は病気だと言ったが、たった三、四日で左腕を隠さなければならないレベルの病気なんてかかるわけがない。きっと、情報漏洩を避けたのだろう。私の部屋に来たとき、辺りをキョロキョロ見渡していたのは盗み聞きされている危険性があったから。

 

「上白沢先生」

 

他の先生に呼ばれて私は反射的に「はい」と返事をする。

 

「上白沢先生、守矢神社の方々がお見えに」

 

守矢神社。霊夢の存在を否定するもう一人の巫女。この人のせいで現在、人里では博麗の巫女に守護された恩を感謝している保守派と守矢の巫女を新たな幻想郷の守護者にしようと蜂起した革命派の二つが密かに対立するようになってしまったです。

 

「失礼します。人里の守護者さん」

 

人里の守護者。私はそう呼ばれているが、守護しているだけに過ぎない。異変を解決するのはいつも霊夢や魔理沙だ。

 

「過ぎた名前だよ。守矢の巫女、どうぞ私の部屋へ……すいませんが人払いを頼みます」

 

他の先生に人を近寄らせないように頼むと喜んでと返されて私と守矢の巫女は私の部屋に行った。今日は巫女二人を自分の部屋に招くことになるとは思わなかった。

 

「さて、紹介が遅れました。改めまして私は東風谷早苗……守矢神社の巫女をやらせてもらってます」

 

「ああ、私は上白沢慧音。ここで教師をやっている……それで、何の用かな?」

 

私からすれば彼女はあまり好印象とは受け取れない。勿論、単純に霊夢の方がいいとかそういう問題ではなく。霊夢にはキャリアがあり、彼女は未知数だ。現在、私の中の霊夢と彼女の信頼度は天と地の差がある。それに今は彼女の信仰は人間だけではなく、妖怪にまで及んでいる。そのせいで人里の周りに狂暴な妖怪が彷徨いている可能性が出てきてしまった。人里の守護者としての顔を持つ私からすれば早苗が良い存在だとは思えない。

 

「今日、ここら辺に霊夢さんがいたという目撃情報がありまして……実は今日はあの人に謝りたいことがあって……」

 

しどろもどろに話す早苗。謝りたいことか……そういえば今日、霊夢が早苗を懲らしめたとか言っていたし、きっとあいつのことだ。子供たちがよく言うギッタンギッタンのボッコボコにでもしたのだろう。最近まで調子に乗りすぎて天狗となっていた早苗がここまで畏まっている様子から推測は簡単だ。まぁ、その話はしない方がいいな。人払いをしているが……いや、人払いをしているだけに聞き耳を立てている輩がいないとは限らない。その人物に早苗が霊夢に負けたとなると、対立の火が一気に燃え広がってしまう。その可能性を視野に入れてその話をするのはやめておこう。

 

「なるほど、霊夢は永遠亭に行くと言っていた」

 

「うーん、迷いの竹林ですか。あ、でも案内してくれる人がいると聞きました!」

 

「……うん、まぁ……その案内人に会えるかどうかは別としているっちゃいるが」

 

「私、運はいいのでちょっと会いに行きます」

 

どうやら本当に霊夢に会いに行くためだったようだ。密かにこちら側になれとか言われたらどうしようかと内心、冷や汗が出てきそうだったが、要らぬ心配だったようだ。

 

「あ、でもその前に」

 

慧音は呼び止められる。まだ何かあるのだろうか。会ったこともないゆえに何の話が来るか予想できない。

 

「霊夢さんって……その、私と同い年らしいんですけど。大人、ですよね」

 

「霊夢が大人?成人とかそういうことではなく?」

 

「はい」

 

私は腕を組んで頭の中の記憶の引き出しを引っ張って見る。霊夢は昔からかなり自分勝手で邪魔する者には容赦のない。中国の皇帝のような暴君だ。参拝客が来ないから、改善策として色んなことをしてきたが殆ど失敗していたり、長続きしなかったりする。発想もどこか天然のような幼稚な感じだ。それが大人……まぁ、最近は確かにそう思うことがある。人間について哲学を述べるような奴ではなかったし、妙によそよそしいというか、昔あった包丁のような鋭い雰囲気がなくなったし、人をコキ使うのではなく、頼るようになった。神社への参拝客の改善策は上手くいってないのに、彼女自身の改善は恐ろしい程良くできているといった感じだ。まぁ、不意打ちで左腕がああなってしまって、慢心していたと反省したんだろう。何かが原因で人はあり得ない程変わることがある。私はそういう人間をよく見てきたからな。

 

「昔のあいつは君みたいに何事も思い通りみたいに我が物顔だったときがあったさ。大概失敗していたがね……それでも彼女の精神力は相当なものだ。最近は丸くなったというか、内側に抑える方法を身に付けたようだ。多分、それが君の言う霊夢の大人っぽい部分だろう」

 

「なるほど……私は、名一杯頑張って、悩んで、そして漸く得た力を……一蹴されて、悔しくて……でも、霊夢さんに言われて気づいたんです。意味無いことを頑張ってたし、意味無いことで悩んでたし、意味無い力を持った気になってただけなんだって……私、霊夢さんの強さが知りたくて、憧れて……謝りたいことが出来たんです」

 

そうか、彼女はかなり素直な人間なんだな。現人神と言う神でもあると言っていたが、人間であることをやめた訳ではなかったか。

 

「……少し時間があるし、私が案内しよう」

 

あまり永遠亭には行ったことはないが、妹紅に会うことはきっとできるだろう。

 

「はい、おねがいします」

 

 

 

 

「はい、もう起き上がっていいわ」

 

怖い装置を付けられるわけでもなく、ちょっと体の一部分を押された。押された場所がツボだったりして、かなり痛かったがそれでも検査は終わったらしい。言われた通り起き上がって見ると腰がボキボキボキと大きく音を鳴らした。おおふ……体の節々が……

 

「そ、それで……どうだった?」

 

「……変だわ」

 

「当然でしょ」

 

「いいえ。『異常なし』よ」

 

「は?」

 

い、異常なし?この穴があって、そのせいで神経が切れてて強化外骨格なしじゃまともに動かせないのに?異常なし?チョットナニイッテルカワカラナイ。思考停止です。もうギブアップ。

 

「……それと貴女、記憶障害があるでしょ」

 

止めを刺された。咳き込みが止まらない。もう図星って思われてもしょうがないものだ。

 

「やっぱりね」

 

うん、そーなんです(白目)もう頭が頭痛です。回路がショートしそう。疑問符ばかりで何も確証が得られません。真実はいつも一つなんだろうけどその真実が顔を出すようには見えないし、その尻尾すら掴むどころか見つけられないやしていねえ。

 

「打撲痕は見当たらなかったから精神的ストレスか傷のショックか……記憶を失ったことに変わりはないけど原因はどちらかだと思うわ」

 

最先端技術越えてるんじゃないかって驚いてしまうほどの検査結果。凄腕にも天才レベルか……

 

「……そうよ」

 

「それを知っている人は?」

 

「紫だけね」

 

魔理沙も知っているがわざと教えない。俺の知らないところでこの人と魔理沙が何らかの話をしていて、どちらかが敵だったとしたら目も当てられない。まぁ、どっちにも知られてしまっている時点で、もしそうだとしてももう手遅れなんですけどねー。

 

「どうりで言い淀むことが多かったのね。私の名前を思い出せないから」

 

読者に勘違いされたくないので今言っておくが俺は記憶喪失だが、博麗霊夢の記憶を持っている訳ではない。つまり、彼女の名前が思い出せないのではなく、知らないのだ。ついでに八意先生というワードはご老人から聞いていたがこの世界で霊夢に名字で呼ばれる人は少ないだろうという判断から私はわざと八意先生という言葉を使わなかったのだ。

 

「改めて私は八意永淋。弟子は鈴仙・優曇華院・イナバ……霊夢、貴女はどこまで覚えているの?」

 

永淋ね。覚えた覚えた。さっきのウサミミJKは名前長いよ。う、うどんでいいかな?

 

「そう……ね。魔理沙と紫は辛うじて覚えていたわ。後、弾幕ごっこのスペルカードも」

 

「殆どのことが欠落してるわね」

 

「幻想郷については……よ?人間の基礎的行動とかは全然大丈夫よ?」

 

「そこら辺は聞いてないわ。生活に支障が出てないのは見れば分かるわ」

 

永淋がそう言って俺が部屋の隅っこに寄せておいた強化外骨格を見る。確かに言わなくても良かったかもな。寧ろ適応していると思われたと思う。

 

「異常なし……ね」

 

「ええ、その穴が開いていても身体に異常は見られなかったわ。つまり、仮に塞いだとしても貴女の言う激痛は収まらない可能性があるわ」

 

最後の望みがタタレター。ってふざけている場合じゃないな。この穴と共に事件を解決しないといけないとは……いつか相棒とか言っちゃうぞこれ。穴だけど相『棒』とはこれいかに。上手くないな……

 

「つまり、普通にしてたら悪化はないってことかしら?」

 

「普通にしてたらね……絶対しないでしょ」

 

「うん」

 

「はぁ……痛み止めは出してあげるから一ヶ月後か、悪化したらもう一度来なさい」

 

「あ、それと……」

 

 

 

「じゃあ、さっさと帰ることね」

 

「はい、せんせー」

 

そう言って俺は永遠亭を出る……あ、そういえばどうやって帰ればいいんだ?俺がわざわざ案内役に任命してあげたてゐも俺がぶん投げちゃったし、いや待てよ?確か慧音が言っていた案内人ってのは本来別の人物だったな。そしててゐが言うには永遠亭にいるとか……探すしかあるまい。思考は放棄したがまだやることが積み重なっているのだからな。しかし、ここはあくまで診療所。奥はかなり広い……恐らくそっちにいるな。

俺は自分の能力で空を飛び、上空から見ようとした次の瞬間……!

 

「爆発音!?」

 

え?え?何戦隊何レンジャーが現れたの?それともライダーキック喰らった怪人が爆発した?大丈夫?どっかに飛び火来てない?火が燃え……燃え移ってるうぅぅぅ!消火器!消火器はよ!火災報知器鳴れ!中にいる永淋と

鈴仙・うどん・ソバ?そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。取り敢えずノーファイアーにスモークはバーニングしねぇ!火元を鎮圧する!俺は霧の捨て台詞を吐きながら飛び出した。



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13.「博麗、散る頃に」

「ゲホッ、ゲホッ……」

 

自分で出した爆炎で発生した煙に目が染みる。だが、あっちも同じ状況のようなのでしてやったりと笑ってやったが、煙が入ってきてもう一度激しく咳き込んだ。

 

「ゴホゴホ!あー、死んだわ!」

 

「じゃあまた引き分けだな」

 

お互い地面に伏せていたが、あいつは立ち上がり、目に見える埃を払うと、私に指を指して、笑っていた。何がおかしいのかは分からないが兎に角その笑みが腹立ったので私は睨んでやった。

 

「でも賭けは終わってないわよ!勝った方が負けた方を燃料するというデンジャーギャンブルはね!」

 

「あれそんなヤバい賭けだったっけ!?」

 

確か、バーベキューするからそのための燃料調達をどっちにするかという賭けのはずだったのだが……いつのまにやら人の尊厳を失った内容に変わっていた。前の焼き土下座よりも酷いぞ……

 

「火元見っけ!」

 

うん?空から飛んできたのは……霊夢か。ここに来るなんて珍しいな。てか、案内無しで永遠亭まで来れたのか?前の異変の時もそうだが、かなりの幸運の持ち主だな。

 

「両成敗!」

 

「「え」」

 

なんか、お札飛んできて当たってピチュッた。

 

 

 

「何するんだ霊夢!今のは痛かった!死ななくても痛いものは痛いんだぞ!」

 

どっちが妹紅か今見極めているところだ黙ってもらおう!白髪の方が妹紅と見た!じゃあ、残りの黒髪長髪の美人さんは誰かって?そりゃお前……竹取物語のかぐや姫だろ。きっと何年か前は竹に閉じ込められていたんだわ!可哀想に……

 

「痛い……そうよ、全く……お陰で私の屋敷がメラメラと……メラ……燃えてるー!?」

 

「うわっ、マジだ!一体どうして!」

 

「おめぇらだよ!」

 

ちょっと素が出ちゃってるよ俺。いやでもこれはバレても仕方ないが素が出ちゃうのも仕方がない。だって永遠亭が燃えてんだもん!急いで消火活動しなければ!

 

「ど、どどどどうしようかしら!?」

 

「おお、おおちつ……餅つけ!」

 

「駄目だこいつら冷静さを欠いてやがる……!」

 

俺は二人の馬鹿を置いて慌てて火元まで空を飛んで近づく。意外と離れたつもりだったがここからでも熱いな……左腕に強化外骨格を付けているからかもしれないが……いや、そんなことで渋っている暇はない!俺は意を決して建物の壁を突き破って廊下に出る。ダイナミックお邪魔しますってやつだが今はボケている暇じゃない。流石に永遠亭は診療所ではあるんだからこういう時のために……あったよ!消火器!、幻想郷にもあって良かった!

 

恐らく先程の二人のいざこざで燃えたのならあの二人がいた面の壁が原因のはず……よし、それっぽい火加減の場所がある。偶然にも消火器の使用方法を記憶しているため、手早く消火活動を行う!速やかに鎮圧せよ!レスキューファ……あっつ!やっぱ、熱いです!

 

「くそ、結構煙が蔓延してんな……」

 

「霊夢!この火事は一体……」

 

永淋が後ろからかきつけて来た。ナイスタイミングってほどじゃないが、良いところに来た!あの馬鹿ズにお仕置きするより前にやることがある。取り敢えず状況を短く教えましょう。

 

「あそこで慌ててる馬鹿二人がやらかしたのよ!」

 

これ以上にない素晴らしい説明だとは思わないか諸君、ほら、その証拠に永琳は頭を天井を見上げるように上げ、手で目を覆い、今にも「Oh my god……」か「ジーザス……」とか言いそうだもん。

 

「全くあの二人は……兎に角、急いで消火するわ!鈴仙を呼んでくる!」

 

「頼んだわよ」

 

永淋がログアウトしました。別名助け船を出すことにしました。今、消火活動を行う能力を持ってる人がいたら儲かるだろうなぁ……なんて下らないことを思い付いた私を許せ!ええい、このポンコツ消火器め!ちょっとしか消せなかったじゃないか。もう替えの消火器もないし、どうすれば……

俺は……自分の頭の回転は早い方だと自負していた。故に今こそ自分の本当の能力……特殊でも何でもないがその力をフル活用するべきだと俺は考えた。

だが、足に激痛が走り、回転は止まった。

 

「いった!な、何……兎?」

 

ウサミミJKの鈴仙が来た訳ではなく、足の近くに白い兎が歯を立てて噛んでいた。痛い痛い!分かった!人参だな!人参……あるわけねぇだろ!ってか忙しいんだよ!

 

「何だよ……って白い兎は野性じゃないよな……ここで飼ってるやつか?」

 

兎は噛むのを止めると炎が燃えてる場所を一点に見つめ始める。その意図に俺ははっとした。

 

「……まだあっちに仲間がいるんだな?」

 

兎は鳴かない。だが、円らな瞳が「肯定」の一言を物語っていた。俺は左腕の強化外骨格を取り外す。幸か不幸かこのタイミングでスプリンクラーが作動する。水浸しになるのは好きじゃないが、この際なりふり構ってられないな。俺は袖の一部を引きちぎり、口元に当てる。そして俺は覚悟を決めた。意を決して、炎の中へと突っ込んだ。

 

「霊夢!?」

 

永淋が鈴仙を連れてきた所で霊夢は火の中へ飛び込んでいった。

 

 

熱い……だが、火傷はしていない。まだ大丈夫だな、兎は鳴かないがあの兎が建物内で暮らしているようには思えない。空を飛んだ時にちょろっと見たが、中庭らしきものがあったな。煙が蔓延していて見辛かったがその場所にいるとしか考えられない。

ウサギは鳴かない。鳴けない訳ではなく、声帯が未発達で他の兎とのコミュニケーションをあまりとらない動物なので炎のパチパチと燃える音にかき消されてしまっている。

 

「兎は危機や不安(ストレス)を感じていると鳴き方が「キューキュー」や「キュキュッと落ちてるー!」と鳴くらしい……後半はお皿洗いのCMだった!?やばいやばいパニックパニークだ!」

 

べきべきと音を立てて柱が一本、こちら側へ落ちてくる。咄嗟に回避した霊夢だったが、更に地面に火が燃え広がってしまう。

 

「ゲホッゲホッ!煙が充満してきてるのか……くそが。吹き飛ばして……そうじゃん!?」

 

俺に電撃走る。そうじゃん。この時もあろうかとスペルカードは懐に携えておいたのだった!盲点だよ!そうと決まれば……

 

「霊符『夢想封印』!」

 

勿論、地面にいるであろう兎たちに当たらないよう、燃え盛る柱だけを薙ぎ倒していく。そろそろ熱い……熱いのが最先端……って何を言っているんだ俺は。

 

「熱い……おい、ウサ公!さっさと出てこい!」

 

思わず素が出てしまったが、相手は兎……常に発情期に入っているような小動物がどうすることもできまい!(雑魚キャラ特有のフラグ)

 

「っ!こんな時に……」

 

また腕の痛みが荒波のように激しさを増している……何でこうもピンポイントなタイミングで俺の腕は疼くのですか神よ!中二病の神よ!

 

中二病の神「お前の左腕には邪龍の力が封印されていた。だが、その穴が開いたことによりその封印が弱まりつつあるのだ」

 

なんだこのニ○ニ○動画のコメント欄みたいな糞漫才。そんなことしている間に俺の近くにあった柱が燃え、壊れていく音が聞こえる。だが、その地面にあからさまに盛り上がった土が見える。いた!そういや、飼育されている兎しか見たことがないから忘れていたが兎は土中を住処とする習性があるんだった。だが、柱があっちに落ちたら……!

 

「全く……何で兎ごときに命賭けなきゃいけねえんだよ!これで俺が助からなかったら一生繁栄できない呪いを込めて死んでやる……!」

 

熱すぎて思考がおかしくなってしまったのか。いや、おかしいのは生き残っていた兎を見た時の俺の反応だろう。何故あの時、他人の家のペット如きだと見殺しにしなかった。何故あの時、可哀想……助けたいと思ったんだ。俺にそんな時間は残されていないというのに……何で今、俺は!『落ちてくる柱から兎が掘った巣に覆い被さっているんだ』!!

 

「俺の……馬鹿野郎があぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

同時刻、東風谷早苗は上白沢慧音に連れられて永遠亭を目指して歩いていた。だが……

 

「爆発音!?」

 

「永遠亭の方からだ!」

 

二人は急いで空を飛び、爆発音が聞こえた方へと向かった。小さな爆炎が起きていた。永遠亭の中庭があった場所には黒い煙が噴き上げており、早苗には最近外の世界でTVで見たビルの炎上のようだ。すると、裏から誰かが出てきた。

 

「け、慧音!何でここに!」

 

「妹紅か。一体これはどういうことだ」

 

「ちょっとやんちゃしたらこれだ。反省してますだから頭突きはやめ……(ゴーン」

 

「大馬鹿者!」

 

早苗はヒエッ……っと慧音に対して恐怖を覚えたが、そんなことはどうでもいいんだ重要なことじゃない。今はこの火災をどうにかしないといけない。

 

「奇跡よ、雨よ降らしたまえ!」

 

早苗の能力「奇跡を起こす程度の能力」で雨が降って来た。竹林の中なのになぜこんなに垂直で雨が降って来たのか不思議ではあるが仕方ない。奇跡だもん。

 

「あ、あの妹紅さん?霊夢さんはどこにいるんでしょうか……」

 

「霊夢?え……っと消火するとは言ってような……すまないね。霊夢に怒られて仲裁って言われてお札投げられたから記憶があんまり……」

 

「ちっ、使えね」

 

「え?」

 

「そ、そうだったんですかー。でも、自業自得ですねー」

 

「う……」

 

早苗から厳しい一言を言われた妹紅はうずくまってしまった。プライドが行方不明の彼女は不貞腐れてしまったのだった。そこへ、八意永琳が永遠亭から出てくる。額には汗の一滴もかいていない。

 

「その話だけど……」

 

「八意先生!霊夢はどこに……」

 

「……霊夢は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだわ。」

 

 

 

次回予告

 

突然、幻想郷全域に渡り博麗霊夢の死が告げられた。沢山の人がその衝撃の事実にパニックを起こしたが、同時に闇夜に暗躍する一つの影が……

 

次章「episode2~magic~」

次の主人公は魔理沙です(たぶん)。

 




一章「episode1~ghost~」はこれで終わりです。

次章作成のため、次話の投稿は未定ですが、そのあとは週一更新に間隔を広げます。ご了承ください。


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