ドラクエ3 勇者は出来れば楽をしたい (半生緋色)
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プロローグなのに楽できない

というわけで始まりました。不定期更新です。
DQ3やりこんだのはスーファミ版だけですので、他のバージョンとずれがあったりするかもしれませんがそこは見なかったことにして下さい。
どちらかと言うと思いついたまんまに書いてるので、設定のズレとか深く考えてはいけない。イイネ?


 最初は目の前に広がる景色を夢だと思った。

 だって、誰だってそう思うだろう?寸前まで布団の中寝転がりながらタブレットでゲームをしていた自分が、いつの間にやら知らない森の中に立っているのだ。

 そういう経験をしたことが有る人ならまず連想するだろう。…寝落ちしたのだと。

 

「あーあ、こんなにリアリティーの有る夢なら、別の風景を見たかったな……」

 

 例えば先程まで確かにプレイしていた、某○月のソーシャルゲームの世界とか。

 思わず口から出た言葉は誰に聞かれるでもなく、深い森の中に吸い込まれていく。

 実際、そんな世界に行ったら夢の中であっても40回は殺される自信はある。それでも可愛い眼鏡の後輩に、こんなリアリティーがある世界で会えるのなら本望ではあるのだが。

 

「……結構考えるぐらい意識がはっきりしてるのに、起きないものなんだな。嗅覚とかもちゃんとしてるし」

 

 すぅっと、大きく深呼吸をすれば今まで嗅いだことのないような、濃厚な植物と土の匂いが鼻孔をくすぐる。遠くから水の音も聞こえるし、間違いなくマイナスイオンの濃度が濃いな、なんて笑いながらも、さてどうしたものかと考える。

 自分としては、夢の中で寝るというのもおかしな話では有るのだけど、このままの微かに森の入口から漏れる木漏れ日に当たりながら二度寝をしてしまうのもありかななんて考える。現実世界では明日もまた普段と変わらない仕事に行かなければいけないわけで、夢の中であってもできれば休んでいたい。ただ、よくよく地面を見れば柔らかそうな草木に覆われていて、眠ったら気持ちよさそうでは有るのだけど、其処は流石に森の中、なんだか見たことがない種類の虫が動いてるのを見れば、その考えを無かったことにした。

 

「それに、よく見たら寝間着じゃないし。って、なんだこの服……どこかで見たことが……ってまあ、夢なら見たこと有るものだろうけど」

 

 自分の服装をまじまじと見直しながら、ただ、何かが記憶の中で引っかかる。青い服に額に何処かで見たサークレット。ペタペタとそれに触りながらも、徐々にでは有るがその記憶が蘇ってくる……ああこれは。

 

「はは……もし、もしそうなら。とりあえず、あの場所に行かないと話が進まないよなぁ」

 

 思い出したのは昔かなりやりこんだゲームの始まりのワンシーン。国民的RPGと言われたあのゲームなら、とりあえず、今やることはただ一つだろう。

 やれやれ、何で夢の中でまで歩かないといけないのかなんて思いつつも、想像の世界であろうこの景色。……それでも、当時でも画面越しにすごくきれいだと思った景色少しだけ楽しみながら、俺はあの場所に向かって歩き出す。方角は……、まあ、光が指す方。確か滝なんかが見えた気がしたから、水音がするそちらで間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『アレル……アレル……私の声が聞こえますね?』

 

 結論から言おう。この場所は俺の想像通りDQ3の冒頭シーンだった。ただ、森の中から抜けるのにゲームだと一瞬の画面移動で済んだのだが、夢の中故か、無駄にリアリティーに富んでいたせいか、森から抜けるのに10分。断崖絶壁の崖に向かうまで恐怖と戦いながら更に5分。もう何も始まらなくていいから起きないかな俺、なんて思いつつも、一向に目覚める気配の自分に苛立ちを覚えた頃に聞こえてきた男とも、女ともとれない声に思わずため息が漏れる。

 やっと話が進むと思いつつも、この世界では俺の名前はアレルらしい。間違いなく俺の知るDQ3の関連作品にでてくる勇者の名前だ。ならば勇者らしく無言で答えるのもいいが、其処はそう、此処はきっと俺の夢の中だ。こんな機会じゃなければ言えないお約束であろう言葉を徐ろに口にする。

 

「こいつ、直接脳内に!?」

 

 できるだけオーバーリアクションを意識しつつ、放つ言葉が虚しく響く。そこにリアクションを求めるのは間違っているかもしれないが、返答のないまま数秒の無言が続くのは流石に恥ずかしい。ただ、向こうもこのような『勇者』にあるまじき発言に困惑しているのかもしれない。もしそうだとしたらゲームとは違い続く会話内容も変わってくるかもしれない。変わらないならこのあとの展開もだいたい予想はできるので、とりあえず全部の質問に『はい』と答えるだけなのだが。

 

『私は すべてを司る者。あなたは やがて 真の勇者として 私の前に 現れることでしょう……』

 

 はい、スルーですか。いや、まだ諦めるには早い。変な間があったし。たとえテンプレであろうと向こうも考えて発言している可能性は捨てきれない。俺はワクワクしながら黙って相手の言葉を促した。

 

『しかし その前に この私に 教えてほしいのです。あなたが どういう人なのかを……』

 

 さあきたぞ!このあとの質問だ。俺の記憶が確かなら、続く質問は、いや、質問とはいえない選択の余地のない言葉に俺は覚悟を決めて答える準備をする。ほら、ジョルノだって言ってたじゃないか。『『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!進むべき道を切り開くことだ!』って。

 だから、俺はこのあとの展開を予想できているとはいえ、あの言葉を口にせざるを得なかった。

 

『さあ 私の質問に 正直に答えるのです。用意は…』

「だが断る!」

 

 言葉を遮るように勢い良く口にした言葉。言いかけの相手の言葉は続いてこない。……つまり、ゲーム通りではない。ならばと、俺は責め立てるように言葉を続けた。

 

「何故俺の名前を知っている?…それがすべてを司るものだというなら、そもそも俺に……」

 

 いいかけて言葉を止める。そういえば勇者の年齢は16歳だったか。それであの鳥山明イラストを見れば一人称俺は少し違和感がある。むしろ勇者としては僕や私のほうが印象が良いのではないか?こういうものは早いうちに変えておくことに限る。たとえ夢の中でも俺はロール・プレイするのが大好きだから。なら、こういうときは徹底的したほうがいいだろう。

 

「いや、僕に質問すること自体間違いじゃないのですか?すべてを司るものなのに、僕のことを名前だけしか知らないなんて可笑しいじゃないですか?」

 

『あなたは なかなか 用心深いようですね』

 

 ええ、そのとおりです。俗に面倒くさい性格とも言われます。そんなことは思っても口には出さず、更に続くだろう言葉を待つ。

 

『それとも ただの ひねくれ者なのか……』

 

 はい、間違いなくそうです。それでもテンプレ通りから抜けない貴方も捻くれていると思います。きっとどう話しかけようか考えた末にメモした内容をそのまま読んでいるのだろう。そう思いたい。

 

「はぐらかさないで下さい。……こんなことをして僕のことを探ろうとする者に警戒するのは当たり前です。僕は勇者オルテガの息子…えっとアレルです。父が死んだと聞いてから、僕は魔物に狙われるかもしれないと母が言っていました。見ず知らずのところに連れてこられて、そんな質問されれば、警戒するのは当たり前です」

 

 我ながらそれっぽいことを言えたのではないかなと自負する。名前を一瞬戸惑ったことは抜きにして。出来ればこれで相手の反応が変わってくれればいいのだが……。

 

『それも いずれ わかるでしょう』

 

 はい、スルーされました。それでも聞こえる声から戸惑いが感じられる。此方は一方的に相手のことをゲームで知っているのだからこそ、こんな捻くれたことが言えるが、向こうからすれば選ばれた勇者の候補に不信感を持たれるのは少なくとも不味いことだろう。思い出すゲームの世界はたしかに魔王に世界が制圧されようとしている。ならば、もう一捻り台本通りでない問い掛けが来てもいいんじゃないかな? そう思いながらもこれから続く言葉を俺は待つ。これで、うまく行けば夢から覚めれる。だって、これは起きるためにはちょうどいい出来事だろう?

 

『ともかく 私は まつことにしましょう』

 

 脳内に響く、少し苛立ちと不安の感情がこもった言葉。それが聞こえると同時に俺の目の前が真っ暗になる。夢の中なのに眠りに落ちる感覚……そして世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠りに落ちてすぐ言うのは可笑しいかもしれないが、ゆっくりと俺の意識は覚醒した。まだ眠気の残るがはっきり覚えている夢の内容を考えれば仕方がないだろう。夢の中でまで歩くことになるなんて考えてなかったし、あんなリアリティーの有る夢なんて見たら脳もゆっくり休めなかったんだろう。俺は眠たい瞼を指でこすり、時計を見ようとえらくフサフサしたベットから上体を起こす。視線を向けた先はどこまでも続くような深い森で、そこから少し漏れる木漏れ日と水の流れる音が、仕事前のオレの心を癒やしてくれる。

 うん、俺の部屋ってこんなに自然溢れてなかったよね?

 

「……やっぱりこのパターンかよ。いい加減起きたいんだけど」

 

 そこは間違いなく最初に自分が目覚めた森の中で、あの質問にいいえと答えた場合問答無用で何回も送られる場所である。つまりまだ夢の中だということだろう。はぁ、っと大きくため息を付いた俺は、その場で立ち上がり背中についた葉っぱや土を払い落とせば。

 

「待ってろよ、俺が諦めるのが先か、てめぇが諦めるのが先か……試してやろうじゃないか」

 

そう声を上げ奮い立たせば、俺はまたその森の出口に向かって走り出した。




本当はね、プロローグもっと短かったんや……


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俺は、あと何回プロローグをすればいい? 精霊は教えてくれない

まさかの一日で二話!これネタ小説じゃないときにこのペースで掛ければいいのにな


『アレル…私の声が聞こえますね?』

 

 何度目かになる問いかけに、俺はため息混じりに小さく頷く。

 あれから何回この会話をしただろうか。最初は片道15分かかったこの崖っぷちへの移動も、今では慣れて体感時間5分で行き来できるようになり、最初の問いかけのテンプレートである自分の名前すら省略されて、一度だけ呼ばれるだけになった。何でそういうところだけ融通がきくのだろうか。

 ただ、はっきりしたことが有る。俺はどうやらこの夢から醒めることができないらしい。というよりも、もしかしたら本当にドラクエの世界に来てしまっているのかもしれない。どうせ行くならFGOの世界にしろよ! 俺の可愛い眼鏡後輩にあわせろ!

 

「……早くこんな夢から覚めたいのにな」

 

『なら、私の質問に…』

 

「こ・と・わ・る!」

 

『用心深いというよりも、何故そこまで素直に……』

 

「強制して自分のことを喋らせようとするよりはいいと思いますけどねぇ……」

 

『なら、私は待つことにしましょう』

 

「あのさ、此処まで会話してたら僕の性格ぐらいわかると思うですけどぉ!」

 

 素で出たその言葉とともに、また俺の視界が暗転し、意識が眠りに落ちていく感覚が襲う。最初は、此方の拒否に戸惑っていた相手も、今は慣れたもので、脳内に聞こえる声に憐れみが混じっている。早く諦めればいいのにというそんな感情。

 でもさ、世界を救う勇者が簡単に諦めたらいけないでしょう? 此処で諦めて相手の思い通り動く人間を勇者にしてはいけないと俺は思います。これがプロローグで声の主が味方だってわかってる俺ならばいいけど。実際これが本当に魔王の甘言で、此処で答えることによって魔王に呪われてしまうかもしれないわけですよ。相手のことがわかればわかるほど呪いはかけやすいって聞くし、嫌だよ俺? 夜以外馬の姿になる呪いとかかけられるの。水がかかると女になる呪いとかなら考えるけど…。

 え? 味方だとわかってるなら俺はさっさと諦めればいいじゃないかって? あいにく俺は捻くれてるんだよ! 自分から折れることは意地でもしてやるもんか! なんて、自分の中に独り言を垂れ流す程度には心が荒んできている。

 それにしても向こうは此方の夢の世界をある程度自由にできるらしい。相手の声を聞こえるな否や目の前の崖にアイ・キャン・フライしたことが有るが、謎の浮遊感とともに気がつけばまた同じ森の中で眠っていたのである。感覚で言うなら夢の中で階段から落ちる夢を見て、危なっと思った瞬間浮遊感とともに目が覚める感覚だ。飛び降りがだめなら、森の中彷徨ってみるかと思って、森の奥へと進んだことも何度か有るが、結果は『無限ループって怖くね?』である。

 

「あー……よく寝た。此処が部屋なら最高の目覚めだったんだけどなぁ。あれだけ嫌だった翌日の仕事が懐かしく感じるぞぉ、こんちくしょう!」

 

 一瞬の眠りから覚める感覚とともに、どうやらまた始まりの場所に戻ったらしい。俺は倒れている身体を起こして、とりあえず次はどうするかを考える。今までの変な意地で収穫があったとすれば、相手も此方が折れるのを待っている節が有ること。ゲームと同じで同じ言葉しかしゃべれないというわけではなく、少なくとも心や感情が有るNPCとは非なるものであること。つまりある程度の会話ができ、このまま頑張り続ければ向こうも折れる可能性があること。正史で言えば絶対回避不可能なイベント故に、テンプレート道理の「いいえ」選択と同じ行動ではごく僅かな可能性であると思う。

 それに、正直言えばこのまま持久戦をするのは辛い。此方は向こうまで行かなければ会話もできないが、向こうは待っていればいいだけだ。ぶっちゃけ5分の移動がつらすぎる。既にかなり時間の感覚が麻痺してきているのを感じる。精神が消耗しているのを感じることになるとは思わなかったが、できればもう味わいたくない感覚だ。これを味わい続けたオカリンってすげぇななんて考えていると、ふと有ることを思いつく。

 うまく行けば何か違う会話ができる。失敗してもただの独り言で済む…ならばやるしか無いだろう。つまりは、結果的に「はい」「いいえ」以外になるような会話を作り出せばいいのだから。

 

「精霊の祠……」

 

 そう思い、この夢の中で彷徨っているうちに必死に思い出したゲームの記憶から一つの場所名を呟いた。

 だが、それは思った以上に効果があったらしい。一瞬夢の中の森がざわついたかと思うとゆっくりとだが、いつも崖の手前で感じる何かの気配が近づいてくる。

 

『……あなたは 何者ですか?』

 

 聞こえてきたのは、あの崖の上からの上から目線の言葉ではなく、此方を怪しむ明確な警戒感が含まれるそんな言葉。そりゃそうだ、これは俺がゲームをプレイして知っているこの声の主が今いる場所の名前である。目の前のアリアハンから出たことがない16歳にもなっていない小僧にその場所を言い当てられたのだから。……だからといって真面目に答えてやるつもりはないけど。

 

「やっと、あの場所以外で声を聞けた気がしますね。えっと、僕の名前はアレル……だっけ、知っているでしょう?」

 

反撃とばかりにおちゃらけた調子で答える言葉。それに対して明らかに怒気の含まれる声が頭の中に響く。

 

『そういったことを聞いているのではありません。あなた 私のことを知っているのはどういうことでしょうか?』

 

「言いましたよね?僕はどこの誰だかわからない人の質問には答えないって」

 

『どの口がそのようなことを……』

 

「早く起きたい僕をさんざん夢の中に閉じ込めてる人に対して辛辣になるのは当たり前でしょう?それに、僕の言葉が合ってるかどうかもわからないのに。……その様子だと本当に精霊の祠という場所にいるみたいですね」

 

 もちろんこの言葉はブラフである。それでも情報として知っていたが、相手のほぼ肯定とも取れる言葉で此処がドラクエ3の世界であることは確定した。それにゲームでは絶対に起きないであろう会話の成立。それはつまり、たとえゲームの強制イベントだとしても、そのシナリオ以外のことを起こすことが出来るという証明。他のゲームで例えるならドラクエ5なら、パパスを救うことが出来るかもしれない。ドラクエ4なら恋人を救えたかもしれない。なら、ドラクエ3なら何が出来る?そう考えた時、思わず俺は笑わずには居られなかった…。ああ、先に起こる出来事を知っている世界で生きる。そう考えると悪いことだらけではないかもしれない。

 思わず漏れた笑みに、どうやら相手は更に不機嫌になったようで

 

『…試したというわけですか?』

 

 徐々に膨れ上がる敵意。流石に意地の為に相手の敵意を買い過ぎたか?これは不味いと思い俺はなんとか相手のその敵意を削ぐような言葉を考える。

 

「勇者としての能力、いえ何かの加護かはわかりませんけど。時々未来で起こるであろうことを夢に見るんですよ」

 

 実際に先に起こるであろうイベントを夢の中で思い出したのだから嘘ではない。そして、最初から問答を繰り返していたからこそわかる、相手は此方の心を読むことができない。ならばと、さらに俺は都合のいい嘘を考える。

 

『……それに私のことが見えたと?』

 

「あなたのおかげで、ずっと長い時間夢の中に居ましたからね。見たくもない未来を色々と。僕が断り続けた単純な理由としては、僕が見た未来を変えたかった。僕が答えれば、あなたは僕に性格を知るために質問をする。真なる名前を聞いて誕生日も聞く」

 

『……』

 

「その質問に対して、僕ははいと答え続ける未来。最後の質問で、夢の中で僕が怪物になり、村を襲わなければいけない未来。誰が好き好んで、筋肉モリモリマッチョマンを焼き殺したいと思いますか?」

 

 此処で言う未来とはゲームの中での進行である。俺の記憶が確かなら、まず間違いなくすべての質問にそう答え、ごうけつを取っている。というか、何周もプレイして毎回そうしているのだから印象に残っている。女勇者にした場合? そんなのセクシーギャルに決まっている。そう答える俺に対して、相手は少し考えるような間を置いてから、最初と同じようにゆっくりとした口調で脳内に語りかけてきた。

 

『私は すべてを司る者。今 あなたが どういうひとなのか わかったような気が します』

 

 何故わざわざ最初と同じように話しかけるのかはわからなかったが、今考えてみるとこれが相手なりの威厳のある喋り方なのだろう。俺は黙って相手の言葉に耳を傾ける。

 

『アレス あなたはすこし いえ、かなり捻くれているように 見えます』

 

 あ、まずい。ひねくれものはかなりステの成長補正が悪い。誰だこんな質問の答え方したのは!

 

『それに かなりがんこものでも あります』

 

 ひねくれものにがんこものが合わさり最強に見えるな……もはや此処まで来るとゲーム的なステータスを考えると諦めにもにた感情にもなる。やっぱりあれなのだろうか、素直な方が人の話をよく聞き成長しやすいということだろうか? だけど俺はくじけない、なぜなら此処はゲームの世界であっても、どうやら全てがゲームに縛られているわけではないのだから。

 

『……私は あなたの話を すべて信じることができません。私には わかります。あなたが 少なからず嘘をついていることを』

 

 流石にすべてを鵜呑みにはしなかったのだろう。むしろこの話をすべて鵜呑みにするような相手が世界を守っているのなら既に世界は滅んでしまっているだろう。いや、もう地下の世界は闇に包まれているのだったか。

 

『あなたは危険です。精霊の加護がある 未来を見ることが出来る人間。ですがあなたが この世界を救う可能性が 一番高いのも事実です』

 

 黙って聞いていればかなり持ち上げられている気がする。確かに相手からすれば、未来が見れる人間が世界を救うのなら、それが一番確実なのだろう。

 

『さあ そろそろ夜が明ける頃。あなたも この眠りから 目覚めることでしょう』

 

「やっと目覚めることが出来るのか……そろそろって、僕は何時間此処にいるのかもう覚えていないんだけど……」

 

『私は すべてを 司る物 いつの日か あなたに会えることを 楽しみに まっています……』

 

「その点はスルーですかそうですか……。地下であった時、覚えてろよこのやろう!!」

 

 相手の最後の言葉にかぶせるように叫べば、瞬間目の前がまた真っ暗になっていく……眠りに落ちる慣れきってしまった感覚に俺は身を任せた。



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目覚めると目の前にエプロンドレスを着た美人のお母さんがいる生活って憧れるよね

 森の中、何度も何度も精神が擦り切れそうになりながらも勇者は諦めなかった。そう、全ては歴史(強制イベント)を覆すため!
ついに勇者は新たな歴史を作り出すことに成功した。その先に待っている未来は、希望か絶望か


「アレル、入るわよ」

 

 扉を軽くノックして私は寝ているだろう息子の部屋の扉を少し躊躇しながらも開ける。

 今日はとても大切な日だ。それは私の息子が16歳になる記念すべき日でも有るし、私の手から離れて外の世界に旅立っていく日でもある。あの子の母としては、できれば息子にはずっとそばに居てほしい。もしこの子が主人と同じような結末を辿るようなことがあれば、私はもう立ち直ることができないだろう。

 最愛の夫をなくしたと聞いた日、わたしの世界は魔王に支配された様に闇に包まれた。それでも、今私がこうやって明るく振る舞うことが出来るのは、あの人との間にできたアレルがそばに居てくれたから。

 あの子だって辛いはずなのに、王様の前で覚悟はできていたなんて嘘をついた時、それを察したのかあの子はただ黙ってその後もずっと私の傍に居てくれた。本当なら16歳になる前にこの街を飛び出すことだってできたはずだ。私にとってあの子はこの真っ暗な世界に残されたただひとつの光だ。

 

 だから、私はあの子を送り出さなければいけない。

 

 夫がなくなったときに言った言葉、この子が夫の意思を継いでくれる。その言葉がきっとあの子を縛ってしまったのだろう。あの日以来、あの子はほとんど喋らなくなった。只々ストイックに私の願いを、夫の意思を継ごうと、城の兵士に剣術の手ほどきを受けたり、ルイーダの酒場に集まる冒険者たちに外の世界の知識を、生き抜くための知識を黙々とつけてきた。

 

 そんなあの子の旅立ちの邪魔なんて出来るはずがない。

 

 開いた扉の先、昔は主人が使っていた部屋のベットにあの子が寝転がっているのが見える。私は、ゆっくりそのベットに近づいていき声をかけた。

 

「起きなさい。起きなさい、私の可愛いアレルや」

 

 いつものあの子なら、ただ無言で眠たい目をこすりながら起き上がり、すぐに下に降りて朝食を食べて訓練に行くだけだった。けれども今日だけは違った。それは、今日が旅立ちの日だからなのか分からないが、既にベットの中起きていたらしいあの子が、私の顔を見て声をかけてくれたのだ。

 

「おはよう、母さん。今までごめん。本当はもっと母さんと話すべきだった。母さんだって辛いのに、僕はそんなことを考えないで父さんの意思を継ぐことだけを考えてた。だから、これだけ旅立ちの前に言わせてほしいんだ。お母さん大好きだよ」

 

 その言葉に思わず私は涙を流してしまった。気がつけば嗚咽を漏らしベットの上のあの子を両手で力強く抱きしめていた。離したくない。今まで我慢していた感情が溢れて止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと深い海の底から浮かび上がるような感覚。見慣れないベットの上で目を覚ました俺の最初の感覚がまさにそれだった。あたりを見れば久しぶりに見る森以外の光景に思わず笑みが漏れる。もはや元の世界の自分の部屋の風景など諦めていた。そう思えるだけ今まで居たあの夢の中の世界は現実味があって、夢なのに夢じゃないという言い方があっているかは分からないがまさにそんな感じだった。とりあえず、部屋のレイアウトは昔見たゲームの中の部屋とだいたい同じだ。大体というのはゲームである以上簡略化されている部分もあるからで、実際あの部屋を現実で見たらこんな部屋になるだろうというそのままの光景が目の前に広がっていた。これで家の外、アリアハンの町並みを見たらどうなるのだろう? そんな好奇心が湧き出し始めたときに思い出す。

 

 そういえば、此処がDQ3の世界なら、魔法が使えるんじゃないか?

 

 勇者って最初何か魔法を覚えていたっけと? 序盤の記憶を「思い出そうと」した時、頭のなかで一つの言葉が出てきた。そう、文字通り「おもいだす」だ。たしかあれはMP消費もないので、魔法というよりも特技の部類になりそうだが、それでも物は試しと俺は心のなかで「おもいだす」を使うと意識してみる。

 

 結論から言うと、それは失敗だった。

 

 思い出すを使うと意識した瞬間、俺の頭のなかで、今まで俺が現実世界で暮らしていた記憶とは違う記憶。つまり、この世界で今まで生きてきた勇者の記憶が流れ込んできたのだ。あくまで思い出すだけなので、その映像を俺は当事者ではない第三者視点で見ているだけのような感覚なのだが、それでも思った以上に色々「心に刻んでいた」らしい。感情までは再生されないが、それでもやっぱり気分のいいものではなかった。

と言うか、この勇者素直すぎだろ! ああ、素直じゃないとこんな事できないか。勇者になるって心に決めてから、ただ魔王を倒すことだけを考えて生きてきた。文字通り、勇者の役割だけを全うしようとした人生。それは元々一般人の俺からは理解できない生き方だ。もっと楽がしたいはずだ。同じ世代の他のことも遊び回りたいはずだ。でも、この勇者にはそんな思い出が殆ど無い。……まあ、ゲームの主人公で勇者になろうとしたらそうなってしまうのは仕方がないだろうが。

それにしてもお母さんが不遇すぎるだろう。俺は知っている。このまま勇者が世界を救えば、この勇者は地底世界に閉じ込められる可能性がある。なぜならあの大穴が塞がれてしまうからだ。まあ、ロトの紋章ルートとかだと行き来は出来るはずだが、お母さんと再会できないエンドのほうが圧倒的に多い。実際俺もゲームやってたときはお母さんのことをただ宿としか考えていなかった。けど、こうやってこの勇者の記憶を見てしまえばそうも言ってられないぐらい感情移入してしまう。と言うか、お母さんが美人すぎる。何だこのきれいな人は!? 羨ましいなこんちくしょう。一体何歳で結婚したんだ? こういう世界だと結婚は早かったりするしな……。

 

「あ~、もうこの人を絶対不幸にしてはいけないよな」

 

 気づけば俺は、ベットの中頭を抱えながら転がっていた。言っておくが俺はマザコン属性はないからな! 人妻属性は持っているが……。それにしても、この後どうしよう。そういえばこのあと、オレの記憶通りなら母がこの部屋に入ってきて、俺のことを起こしに来るはずだ。思い出してみたこいつの記憶の中でも毎日同じように起こしにきてくれていたし。……ていうか、こいつもっと喋れよな。起こしにきてもらっているのに殆ど喋らないとか、こいつマジでコミュ障かもしれない。とりあえず、この思い出してしまったせいで無駄に溢れた気持ちを息子の体をして伝えてしまおう。そう思って俺はベットに寝転がってその瞬間をじっと待つことにした。

 

 

 

 

 

 そして、この現状である。

 どうしてこうなった? まあ、美人のお母さんに抱きしめられてるので、満更でもないのだが……。むしろ嬉しいのでもう少しこのままでいいか。しかし、これでは話も進まないのではないのか? 思っていた以上にあの精霊が手ごわかっただけで、ゲーム内イベントの強制力は其処まで強くないのかもしれない。

 少しして、母も落ち着いたのか抱きしめていた手を緩め始めた。

 

「ごめんなさい、アレル。母さん少し取り乱したみたいで。今日は大切な日だったわね。アレルが王様に旅立ちの許しをいただく日だったでしょう?」

 

 そう口にする母の顔が心なしか近い気がする。勇者の記憶の中では母は此処まで近づいて来ることはなかった気がするが。

 

「そうだね。僕も王様に真剣に父さんの意思を継ぐことを伝えないといけない。今までただ黙々と行動してきたけど、それじゃあ駄目だって思ったんだ。」

 

 不思議に思いつつも、俺も言葉を続けた。

 このまま一人の勇者として旅立つと王に伝えるだけでは駄目なのだ。此方が本気であるということを伝えなければ、待っているのは50Gと服と3本の棒である。

 ただ、その言葉を聞いた母はどこか悲しそうに、だけど何かを決意したように言葉を続けた。

 

「そう…真剣なのね。なら、かあさんも準備しなきゃ。アレル、あなたも出発の準備をしなさい」

 

 それだけ言うと、母は部屋の外に出ていってしまった。

 残された俺はと言うと。

 

「あんなセリフ無かったよな……確か。まあ、準備……準備かー」

 

 とりあえずベットから起き上がり、寝間着から服を着替える。青い寝間着から同じように青色の旅人の服に、そして、タンスに立てかけてあった銅の剣を装備する。初めて着る服、剣では有るが体が勝手に使い方を理解しているのか、うまく鞘も背負うことができた。

 

「あとは……そうだ」

 

 ポツリと独り言を呟くと、部屋のタンスを無造作に漁る。

 其処には現実世界には見たことがない謎の種が入っていた。

 そう、これこそゲーム世界によくあるドーピングアイテム、力の種である。俺はそれを何の躊躇もなく口に含み飲み込む。するとどうだろうか、飲み込むと同時に体中に力が溢れ出す。食べただけで理解できるほど身体に活力が増している。

 

「あはは……半信半疑だったけどマジですごいな、これ。まあ、味は流石によろしくないけど。でも、これは使える。どうにかして自分の手で集めるんじゃなくて、人に集めてもらうことが出来れば」

 

 そう、例えば王様に頼むとか。

 思いつきでは有るがそれも今後の行動の選択に入れる。ゲーム外の行動ができるのだからこういう発想は柔軟な方がいいだろう。俺は一通り準備が整うと自分の部屋の出入り口に向かう。確か、ゲームでは母が扉の向こうで待っていたはずだ。準備をすると行っていたのが少し気になるが此処で深く考えても仕方がない。そう思い俺は扉を開けた。だが、その扉の前で待っていたのは。

 

「さあ、母さんについてらっしゃい」

 

 其処には、笑顔を浮かべながら俺のことを待っていた大きな荷物を背負った母の姿だった。




さて、母さんの職業何にしようかな。


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それが王様のすることかよぉ!

可笑しい、俺はヒロアカの小説を書き始めていたはずだったんだ。でも気がついたらこっちを書いていた。
な……何を言っているのかわからねーと思うが 
俺も、何をされたのかわからなかった…


「あー……此処ってこんな広い街だったんだ」

 

「どうしたの? アレルはいつも見ているじゃない」

 

「いや、今日でここから旅立つと思うと、少しだけ感慨深いというか……」

 

 母の後について家の階段を下り、玄関を抜けてみたアリアハンの町並みは俺が想像したよりもずっと綺麗で大きいものだった。それもそうだ。俺が今出てきた家と同じで、俺が知っているのはゲームの画面の中のアリアハンだ。あくまで画面に写っていたのはデフォルメされた町並みや室内なのである。ゲームでは明らかに住人の数に対してベットの数が足りなかったりするのは、其処まで描写してしまえばゲーム内の探索が面倒くさいだろうから仕方がない。

 

「……寂しいなら、まだ来年までこの町に居ていいのよ?」

 

 城に向かって歩き始めていた母が振り返って俺に言った。

 

「世界を出来るだけ早く救いたい。だから、それはダメだよ母さん」

 

 返す言葉に嘘はない。そもそもゲームの世界に来たことは納得するしかない現状だし、今のところ楽しんでいるのも事実だが、俺はまだ帰るのを諦めたわけではない。

 どうしてこんなことになったのか見当もつかないが、こういった事で元の世界に戻る一番王道な方法といえばゲームクリアすることだろう。確実とは言えないがその目標が立っている以上、俺は一年も水源のはずの井戸の底に一軒家があって、しかもやたらと人の出入りがあるこんな町に長居するつもりはない。あのメダルおやじの家のトイレどうなっているんだと考えただけで、一刻も早くおいしい水が飲めそうな町に移動したいものである。

 まあ、母さんが美人だし家には時々泊まりに返ってくるつもりでは有るのだけど。

 

「……そうね、ごめんなさい。私も決心したはずなのに」

 

「大丈夫、家には顔を出しに何度も戻ってくる予定だから」

 

「あらあら、心配しなくても大丈夫よ? おじいさん、ああ見えてまだまだ元気だから。でも時々顔を見せてあげないと」

 

 何故だろう、時々母さんと会話が噛み合っていない気がするのだが。そもそも前を歩く母さんが背負っている荷物は何なのだろうか? 家に出る前に聞いても笑ってはぐらかされるばかりだったし。もしかしたら、勇者が旅の途中持っている袋ってあれのことなのだろうか?それなら薬草99個や装備を山ほど入れれるのも少し納得できる。

 そういったことで少しだけ不安になるが、此処まではゲームの展開どおりだ。『おもいだす』では記憶に残った出来事しか思い出せなかったので街の風景などはあまりなかったのだが、それでも町の中に一際大きくそびえ立つ城に向かって進んでいるのは間違いない。そして見えてきた大きな橋。なら、このへんで……

 

「ここから真っ直ぐいくと、アリアハンのお城です。と言っても、あなたは城の兵士に剣技を学んでいたから今更でしょうけど」

 

 記憶通りの言葉に少しだけ言葉が付け足されている。これもまだ誤差の範囲だろう。

 

「なら、僕行ってくるよ。王様にはちゃんと挨拶するし、勇者として母さんの息子として失礼がないように…」

 

 そう思って、母さんの言葉を奪うように俺は先に声をかけようとするが。

 

「王様にはかあさんも一緒に挨拶しに行くわ」

 

 帰ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「え?」

 

「なにかおかしいかしら?」

 

 いや、可笑しくはない。そもそも不自然ではない。だけど、ゲームでは一人で城まで行かせていた母が付いて来るという違和感に少しだけ戸惑う。これでは王様に会う前に城にいるメイドさんとお姫様にちょっかいが出せないじゃないか!

 こんな機会でないとリアルメイドさんをお目にかかることがないのに。それにお姫様だぞ! ゲームだったら簡単にお城に入れるけど、こうやって現実感がある世界ではそう簡単にお城に侵入なんてできないし、そもそも普段から裏庭で遊んでいるとも限らない。そんな数少ないチャンスを此処で潰してしまっていいのか? いや良くない!

 

「いや、母さん此処は僕が一人で……」

 

「……かあさんが一緒では何か問題が有るのですか?」

 

 間髪を入れずに母が笑顔で此方に逆に問いかける。とてもいい笑顔でだ。こんなもの断れるはずがない。

 

「あ……なにもないです。はい。」

 

「そう。なら、早く王様に挨拶しに行きましょう。時間も伝えてありますし、遅れてはいけませんから」

 

 そう言って、母は俺の手を掴み橋を渡りだす。少しだけなんだか恥ずかしい。というのも現実世界での俺は異性と手をつなぐことはもとより、母親と手をつなぐ機会なんてあまりなかったからだ。一般的な親子ならこれが普通なのだろうと納得して、俺は母に手をひかれながら橋を渡り王城へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は今玉座の前で、威厳あふれるアリアハンの王に謁見している。

 

「よくぞ来た!勇敢なるオルテガの息子、アレル。そして、オルテガの奥方よ」

 

 恥ずかしい……。何だこれは、新手の拷問か!?ほら、王様だって流石に苦笑いですよ。

 此処に来る途中に出会った兵士たちもそうであったが、周りの兵士たちが此方を見る目が痛い。そもそも、そろそろ手を離してくれてもいいんじゃないか母さん!!

 最初は橋を渡るまで手を繋いでいるつもりだったのだが、王城の正門の前の兵士に用件を伝えるときに手を離そうとしたら、母さんが全く手を離してくれなかったのだ。

 

「謁見の件については、連絡を受けている。さあ、王様がお待ちだ。……が、何故母君まで一緒なのだ?」

 

 不審に思った門番の兵士も苦笑いを浮かべながら、そう援護射撃を送ってくれたのだが。

 

「そうだよ、母さん。王様にはやっぱり僕一人が……」

 

「息子の旅立ちに母が最後までつきそうことが悪いことでしょうか?」

 

 そう言って少し兵士を笑顔で睨んだ母の握る手に力がこもる。

 あれ、手が痛いよ母さん。ていうか、力強くないか? 俺一応勇者で男なんだけど。しかも此処に来る前に力の種一つ飲んできたんですが。この俺の筋肉は飾りだとでも言うのですか? ムキムキに見えて筋力Dだとでも言うのか。手よ、動け! 手よ、何故動かん!?

 

「あ、いや、そういうわけでは無く、元々上の方からは恐らく勇者一人で来ると連絡が来ていたのでな。少し待たれよ」

 

 何故其処で圧される門番よ。俺の記憶の中では、お前普通にこの城の中にいる兵士の中では上位の実力者だろう。元勇者の記憶の中ではそうなってるぞ! 此処は「流石にそれは許されない。王と会うのに保護者同伴は旅立ちの儀としても似つかわしくない。諦めて頂けぬか?」とやんわり諌める所だろう。

 そんな俺の心の声は届くこともなく、俺達にそう声をかけた門番はもうひとりの門番をこの場に残し、王城の中に入っていく。

 

「勇者アレルが保護者同伴で王に謁見を求めているのだが」

 

「はぁ、前代未聞だろう!? そんなことが許されるわけ……」

 

「だが、王が既にお待ちだ。一応大臣に判断を……」

 

「訓練の時は寡黙で黙々とトレーニングをしていたのに、まさかまだ母親離れできていなかったとは……」

 

 おい、聞こえてるぞ兵士たちよ。まあ、これは王城の扉が開きっぱなしなのも悪いが、お前達も慌てすぎだ。まあ、訓練された勇者はこれぐらいでは動じない。何故なら素数を数えているからだ。素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる……。

 

「2……3……5、7、11……」

 

「どうしたのアレル? 顔が真っ赤だわ。旅立ちの日だというのに体調が悪いのかしら」

 

 此方を心配そうに見つめる母の顔。だから近い! そして、大体の原因は貴女のせいです。

 でも、まあ流石に大臣にまで相談すれば止めてくれるだろう。王様は勇者に50Gと棒と服しか旅立ちの準備で渡してくれないが、それでも大臣なら……俺達の大臣ならどうにかしてくれる。そう甘い考えをしていた俺にとどめを刺すように母が言葉を続けた。

 

「まだ帰ってこないわね。これでは王様を待たせてしまうわ。行くわよ、アレル」

 

「あ、待たれよ!」

 

流石に兵士が母を静止するように前に立つ。これは出来る門番である。昼でも夜でも勇者一行なら素通りさせるような世界の門番とは違うなー。

 

「元々謁見については事前に連絡をしていたわ。人数については伝えていなかったけど。そんなことより王様を待たせてしまう方が問題が有るのではなくて?」

 

「そ、それは」

 

「何かあれば私達が責任を取りますし、まさか勇者オルテガの親族がこの国の王に何か害することをするとでも?」

 

「そういうわけでは……」

 

 この人が出来る門番だと思っていた頃が数秒ほど僕にもありました。門番の頼りなさに俺も小さくため息を付いてしまう。

 

「さあ、付いてきなさいアレル。王様には失礼のないようにね。」

 

 それ、母さんが言う言葉ではない気がする。 

 俺はされるがまま、母に手を引かれ王城の中を有るき進んでいく。どうしてこうなった……どうしてこうなった!!

 

 

 

 

 

 そうして、話は謁見場面に戻る。

 

「既に隣りにいる母から聞いておろう」

 

 俺は真っ赤な顔を隠すように頭を垂れ王の話を聞いている。

 

「そなたの父、オルテガは戦いの末、火山に落ちて亡くなってしまった」

 

 良かった。此処はちゃんと原作通り話が進んでいる。さすがは王。苦笑いを浮かべても話すべきこと、やるべきことは心得ている。まあ、俺は王様のありがたい話を遮って色々と提案を切り出すつもりなのだが。 

 

「しかし、その父のあとを継ぎ、旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞ! そなたならきっと、父の遺志を継ぎ、世界を平和に導いてくれるであろう」

 

 そう思うなら、ちゃんとした装備と援助をしてくださいよ王様。俺はそう心のなかで思ったがまだその話を切り出すタイミングではない。

 

「敵は魔王バラモスじゃ!世界の殆どの人々は、未だ魔王バラモスの名前すら知らぬ」

 

 まあ、世界的な危機として認知されていれば、各国で国内が混乱するかもしれないのだから当たり前といえば当たり前である。世界を征服しようとする明白な悪意。しかもそれがかなりの力を持っていると人々が知れば、食料の買い占めや暴動が起こっても可笑しくはないだろう。ただでさえ、魔王が居なくても世界には明白な魔物という人類の敵がいるわけだし。

 

「だが、このままではやがて世界は魔王バラモスの手に……。それだけは、なんとしても食い止めねばならぬ! アレルよ、魔王バラモスを倒してまいれ!」

 

 王様が玉座より立ち上がりそう力強く宣言する。一国の王として威厳のある姿だ。世界の平和を願う姿はに偽りはない。ただ、少しばかり、いやかなりケチなだけだ。さて、じゃあそろそろ話を切り出すか。

 

「しかし一人では、そなたの父、オルテガの不運を再びたどるやも知れぬ」

 

「無礼を承知で…」「王様、話を遮ってしまい申し訳ありません。ですが、それならば心配ありません」

 

 ん? かあさん!?

 待って、何?何この展開……

 俺は慌てて未だに手を離さない母の方に視線を向ける。王様もどうやら予想外だったらしく、その発言で慌てる兵たちを手で諌めると、改まって一つ咳払いをすれば。

 

「よい、話を続けよ。して、心配はいらないとはどういうことじゃ?」

 

「アレルの旅には私も同行しようと思います」

 

 さすがの王もこの発言には言葉が詰まる。だが、さも何も問題がないとでも言うように母が話を続ける。

 

「私自身も、息子であるアレルに全てを背負わせてしまっていいのか? と、夫を亡くしたあの日からずっと考えていました。それはただ責任をアレルに押し付けているだけではないのかと。本当の家族だというのなら、その重荷も一緒に背負うべきではないのかと」

 

「……何を言っておるのか、自分自身でもわかっているのか?」

 

 静まり返る謁見の間。その場にいる人間の視線は全て王とそれに意見する一人の母に注がれている。

 あー、これ今俺が口を挟むべき場面ではないな。何だこの蚊帳の外感は。一応俺の旅立ちの儀だよね?このままじゃあ、王様に装備品をたかろうとしてる俺がすごく小さい人間みたいじゃないか。まあ、勇者の体の中身はただの小市民だからね。仕方がないね。

 

「私自身も王様もご存知のように、元々冒険者です。その旅の途中、夫に出会い所帯を持ち、母として子を育てるため一線を離れこの子を育ててきました。ですが、この子も今日で16歳。一人で旅立つことが出来ると自負出来るまで、勇敢に育て上げたつもりです。なら、私も母としての役割を終え、一人の冒険者としてアレルの旅に同行したいのです。どうか王様、私のこの気持ちをご理解下さい」

 

 母の言葉に神妙な顔をして考え込む王。俺もこの話は初耳である。ゲームでもそのようなことは書かれていなかった。でも、話を聞く限り不自然ではない。魔王討伐の旅前から勇者と呼ばれていたオルテガとどうやって結婚したのかと考えると、むしろ元旅の仲間だというのは王道である。あれ?でもよく考えたらこのままだと魔王討伐最後まで母を同伴させることにならない?

 

「母さん、どうして此処までついてきたと思ったらそういうことだったんだね。何で何も相談してくれなかったの?」

 

 さすがの俺もこの流れは不味いと声を上げる。このままでは最終的に女性キャラで水着装備ハーレムパーティーの夢が潰えてしまう。

 

「アレル。貴方は優しい子だから、相談したら必ず反対すると思ったの」

 

「当たり前だよ。僕は母さんまで危険に合わせたくない。母さんには安全な場所で平和に暮らしていてほしい。そのために僕は世界を救いに行くんだから」

 

 そう、俺はあくまで自分の知っている知識を活用して、楽しく楽に世界を救いたいのだ。その為に縛りになりそうな母の同伴は極力避けたい。だって勇者にあるまじき行動とか既に予定にはいってるし。

 俺は助けを求めるように俺達を見ていた王様に視線を向ける。

 

「……諦めるんじゃな」

 

 さすが王様。母を思う子の意思をくんでくれた!

 

「王になって長いが、これほど強固な意思の宿った目を見たことがない。それほどまでに本気ということじゃ」

 

 自慢ではないが俺の目にそんな意志はどちらかというと無い。多分某漫画の銀髪天パザムライぐらい目が死んでいる自信もある。あれ……これは

 

「アレルよ、諦めるのじゃ。……良い母を持ったではないか。いや違うな、オルテガよ、いい奥方をもらったという方が正しいか」

 

 王様はしみじみと此方の様子を見ながら呟いた。よく見ると少しだけ目元に涙が見える。何いい話風にまとめようとしてるんだ! 完全に感情に流されてるだけだろう。

 

「王様、それでも僕は母を連れて行くのは反対なのです。父を亡くした上に、もし此の旅で母まで亡くしてしまえば、僕は何のために世界を救うのかわかりません……」

 

「勇者とは、世界を救うものに与えられる称号じゃ。その勇者が身近な仲間を守れずして世界が救えるわけがなかろう」

 

 王の言葉に、周りの兵士たちも納得したように頷くのが見える。お前ら他人事だと思って。結局全部俺に背負わせてるだけじゃねえか!

 どうしてくれようかと、俺が次の言葉を考える。だが、ああ無情。時に感情というのは抗うことができない流れを作ってしまうもので……。

 

「アレルよ、もう何も言うでない。これは王命じゃ。勇者アレルよ。母とともに魔王バラモスの討伐の旅に出るのじゃ!」

 

 王命まで言われてしまえば、今の俺に逆らう術が有るはずもない。俺はため息とともにその言葉を受け入れることしかできなかった。でも、これだけは心のなかで叫んでもいいだろう?

 

『これが王様のやることかよぉ!』

 

 あー、もう吹っ切れた!王様がそのつもりなら、俺だって考えがある。もう遠慮しなくてもいいんだよな?なんて言ったって、個人の意志で魔王を倒す旅に出る許しを得たのではなく『王命』で直々に倒してこいと言われたんだ。その為に王は力を貸すべきだよな?俺はそんなグツグツ煮えたぎった感情をできるだけ顔に出さずに、王様に頭を垂れ言葉をひねり出した。

 

「王命、確かに承りました。では王様、これからの話しをしましょうか」

 

俯いたまま、すうっと一度深呼吸をする。ここからだ。ここからが俺の本当の戦いが始まるのだ。俺はその言葉の後に少し間を開けて言葉を続けた。

 




感想感謝です!
行き当たりばったりで書いてますが、色々参考にさせてもらってます!

お母さんの職業は迷い迷った末決まりました!
あとはどんなPTメンバーにするかお楽しみを。
まあ、人数制限とかゲームの枠組みとかぶち壊すとは思いますが


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ハーレムパーティーとか、全年齢対象ゲームでは許されないんだよ

全年齢対象ゲームでハーレムパーティーが許されるのは薄い本まで!


「これからの話しとな? よかろう、言ってみるが良い」

 

 俺の発言とともに、自分たちを取り巻く周りの雰囲気が変わる。王様が先程とは違い表情を引き締め、真剣な目で此方を覗き込む。それに合わせるように周りからも突き刺さるような視線が自分に集まってくる。この場で話を此方から切り出すのは明らかに不敬行為である。ただでさえ穏やかに流れたとは言え母の発言だけでも異例であろう。だけど

 

「ありがとうございます。王様」

 

 深呼吸が終わりちょうどいい間が空いた頃、俺はゆっくりと顔を上げ王様に言葉を続ける。

 この程度で怖気づいていてはこれからの旅はもたない。此方の事情とか関係なく旅に出れば魔物は襲い掛かってくるだろう。

 ……まさしく命がけである。ゲームと同じように復活するとは思うが、それも確かめられない現状、旅をして死ぬ可能性を減らすためならこれぐらいのことは嘘の笑顔の仮面で乗り越えなければいけない。……正直仕事では取引先とのやり取りでよくあったことだし。よく言うじゃないか、死ななきゃ安いって。それに本来はもっと厳しい中で自分から発言する予定だったのだから、それを少しでも緩めてくれた母に少しだけ心のなかで感謝する。

 

 

「はい。これからの旅……もう既に二人旅になってしまっていますが、先ほど王も言っておられた通り僕はまだまだ父オルテガと比べれば未熟者もいいところです」

 

 少し母の方を見るような仕草をしつつ俺は話を続ける。そして、俺の話す内容を王様も毛考えていたのだろう話を促すように無言で視線を送ってくる。

 

「なので、当初より何人かの仲間を連れ旅に出ようと考えていたのですが、僕らが行くのは魔王討伐という安全とは程遠い旅。王様に仕える精鋭であるアリアハンの兵士や志が高いものであれば僕らの旅に付いてきていただけるでしょう。ですが、精鋭であるアリアハン兵士を引き抜けば王城や町の守りに影響が出てしまい、志が高いものであっても実力が伴わないものであれば簡単に命を落としてしまうでしょう。なので僕としては、仲間をルイーダの酒場以外からも旅について来れるような人をスカウトという形で探したいと考えています」

 

 実際ルイーダの酒場に集まる勇者に付いて来る仲間など、ゲームのシステム的には仕方がないかも知れないが旅に出たことがないレベル1の者たちばかりである。これは、魔王討伐という意志をきっちり持ち実力がある者は既に行動を起こしていて酒場に居ないというのもあるだろうし、既に勇者以外のメンバーとパーティーを組んで魔物退治や護衛などの仕事をこなしているのが殆どだからだろう。

 俺としては出来得る限り楽がしたい。ならばどうすればいいのか?答えは簡単である、既に実力がある人物を仲間に入れてしまえばいい。例えば復活の呪文が使える教会にいる神父さん。例えばこのあたりの敵とは全然強さのレベルが違う魔物とやりあっている船乗り。

 そういった人が一人でもいれば、この辺りのレベルのモンスター程度ならば、楽に捻ることが出来るだろう。…つまり俺が楽をできる。その為にはまずどうにかして引き抜く手段が必要なのだが。

 

「既に王様は、僕の危惧していた一人旅についても考えて居た様子。遮ってしまいましたが、きっと王が言い掛けた言葉はそれを考えての提案なのでしょう」

 

 そう言って俺は王様を一度見る。まあ、どうやら少し驚いているようだが王様もすぐ小さく頷き口を開く。

 

「そうじゃ。お主がルイーダの酒場以外でも仲間を集めるというのは少し予想外ではあったが、儂もその点を考えておった。そして、志が高いが実力が伴わぬ者の対策として勇者に賛同するルイーダの酒場にいる冒険者に儂からの激励の品として大地の魔力の結晶たる種を送る予定だったのだ。だが、お主がルイーダの酒場以外での仲間を探すとなると、配布の問題があるのぅ……」

 

 少し困ったように言葉に詰まる王に対し、俺は予想が当たっていたことに内心でほくそ笑う。

 本来であればルイーダの酒場に流れるはずのこの種だが、ゲームでは主人公が王様に会った後でなければルイーダの酒場が利用できない。俗に言うフラグが立っていない状態だ。現実的に考えれば、主人公が王様と話してルイーダの酒場で仲間を集めよと伝えた後に、ルイーダの酒場に王様の指示で運ばれるのだろう。先に運ばれていないかとヒヤヒヤしたがまず第一関門はクリアした。

 つまり、今はまだルイーダの酒場に運ばれるはずの大量の種はこの場にあるということ。ならば……

 

「なら、僕がその種を預かり仲間を集め次第その仲間に王の激励の品として配布。もしくは、仲間になっていただく対価として使用できないでしょうか?そうした場合、僕自身の仲間探しもうまくいくと思うのです。その場合貴重な種の数もある程度絞れより効率よく使うことも出来ると思うのですが」

 

 実際ゲームの中では冒険者登録さえすれば王様から貴重な種が一人あたり5個もらえるというどう考えても種の無駄遣いなシステムだ。これが現実に割り当てれば、一緒に冒険する可能性がないけど勇者用にルイーダの酒場で冒険者として登録すれば、激励の品として貴重な種がタダで貰えるのだから、世界を救う気がないものまで登録する可能性がある。……逆に外道勇者なんかが、ちょっと小銭が足りないからと登録だけして仲間から服を剥ぎ取り、それを売却して後は放置される冒険者だっているのだけど。

 

「そなたの提案、確かに理にはかなっていると言えるな。全ての希望者に種を与えれば貴重な種の消費も激しく、かと言って酒場に任せ種を配布するのであれば基準も曖昧じゃ。ならば、アレル、お主が人を実力を見て直接手渡したほうが確実なのも確かか……」

 

 王様が少し思案する。これまで俺の旅立ちのために準備してきたことを急に変更していいのかという葛藤だろう。俺はさらにその追い打ちをかけるように王様に言葉を続けた。

 

「それに、母さんが一人の冒険者としてついてくる言ってくれているのです。そして、王様もお認めになった。その母に激励の品として種を渡すには、王様の提案では母が一度酒場に登録をしなければいけない。……とても言いにくいことなのですが、勇者の母が酒場で勇者の仲間の候補として名簿に登録する所を僕としては人に見られたくないのです」

 

 誰だってそうだろう。勇者のパーティーを学校で例えるなら、勇者が学校に通うことになったから、その学校に母自身が入学手続きをしに行くようなものだ。……既にパーティーに母親が来るのが確定しているので結局は恥ずかしい思いをするのは変わらないが。

 そして、王もその姿を想像したのだろう思わず声を出して笑ってしまう。誰のせいだ。

 

「確かに、フフ……確かにそうじゃ。お主はまだ若いのだからなおさら恥ずかしく感じるじゃろう。わかった、お主の言うとおりに手配しておこう。大臣、話は聞いていたであろう。ルイーダの酒場には後で連絡を入れておけ」

 

 王の言葉に、黙って話を聞いていた大臣も王に頭を垂れ、何やら書記官を連れて書類の準備をし始める。こんな展開にした俺が言うのも何だけど、予定を狂わされ王様に振り回される大臣も大変そうだ。今のところ一番困らせたのはまず間違いなく母の同伴なのは目をつぶる。

 それにしても、思った以上に簡単に事が進んだ。なら、もう少し踏み込んでしまってもいいか?

 

「王様、ご配慮ありがとうございます。それに後幾つか……」

 

「むぅ、まだあるのか? ……まあ良い。お主は何も考えず発言する軽率な者では無いようじゃからな。今日という日のために色々と考えてきたのであろう? 許す、言ってみよ」

 

 王の反応も悪くはない。ただ、なんだか大臣には睨まれている気がするがそれはそれ、彼はどうせバラモス倒した後に政務を一挙に引き受けてもらうのだから、今のうちから苦労には慣れてもらわないといけない。さあ、気兼ねせず行ける所まで行ってしまおう。

 

「では、これも提案なのですが……」

 

 そうして俺は、此処に来るまでに考えていたプランを王様と大臣の前で説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレル、流石に王様にあのようなことを言うのは失礼だったんじゃないかしら?」

 

 王城の正門。王様との話し合いが終わり、兵士たちに見送られながら出てきた俺に対して母さんが心配そうに声をかけてきた。まあ、先程の話し合いの内容を考えれば当然といえば当然と言える。この国の英雄、勇者オルテガの息子だとしても普通ならばあのような無礼は許されないであろう。下手すれば牢屋行きだったのだが、それでも自分たちが無事に出てこれたのはひとえに今の世界の状況をある意味理解しているアリアハン王と、此方がどんな手段を使ってでも魔王を倒すという意志を提案という形で見せたからだろうか。

 まあ、流石に旅立ち前の勇者を牢屋にぶち込めば国民から反感を買うのは理解しているだろう。

 

「……母さんが一緒に来るなんて言わなかったら、あんなことは言ってないよ」

 

 少し不貞腐れたように俺は母に答える。まあ、もちろん大嘘なのだが。母さんが何もしなかったとしても俺は『あの要求』をしただろう。

 というか、魔物と戦って死んでしまった勇者に対して、死んでしまうとは情けないとか、もう一度機会を与えようとか、かなり上から目線のうえ、旅立ちに際してあんな装備しか渡さない王様のくせに実はゾーマが居ましたってだけで、絶望するような豆腐メンタルなのだから、少し相手を立てつつ下手に出て交渉すればいけるのでは? という、俺の予想が当たっていて安心した。

 

「それに、王様もちゃんと僕達を認めてくれた上で援助もしてくれた。だから、大事なのはこれからのことだよ」

 

 俺は手に持った袋の中身を確かめる。それは王様との交渉の結果の一つ、ルイーダの酒場で仲間を登録するときに王様から激励の品としてもらえる各種の種である。一応は桃太郎のキビダンゴのように、王様には交渉の材料には多少使うつもりだと伝えていたせいか、思ったよりもいっぱい入ってるそれを先程から俺はスナック感覚で何個か食べているが、それでもまだまだ無くなりそうにない。

 え? パーティーメンバーに使わないのかって? そんなの自分が一番かわいいに決まってるだろう。そもそも奴ら転職さえすればいくらでもレベル上げれるけど、俺のレベルは有限なんだよ!

 因みに、バスタードソードは手に入りませんでした。というよりもバラモスを一人で倒すというフラグを建てないと手に入らないアイテムである。言葉巧みに要求しても良かったのだが…

 

「まずは僕が魔王を倒しうる実力があると必ず王様に証明してみせます。王様に認められるような実力をつけた時、この城に伝わるというバスタードソードを僕に貸出ていただけないでしょうか? その剣で必ずやバラモスを倒してみせます」

 

 という、ある程度同じようにフラグを立てつつ、王様も折れやすい案を提案した。王様と話しているうちに気づいたことなのだが、どうやらこの世界は『ゲーム内イベント』に反した行動をしようとすると歴史の修正力とでも言うのか、どうにかして正規ルートに戻そうという力がかかっている気がする。最初の夢の世界がその顕著だろう。まあ、無理やり曲げたんですが。

 逆に言えば、イベントに近い内容の行動をすれば、これ絶対駄目だろうという行動も許容されやすいのだろう。その提案は無下にはされなかった。

 

「これから……聞いていなかったのだけど、アレルはこれからどう旅をするつもりなの? 正直王様は何も説明してくれなかったし」

 

 俺のこれからという言葉に言葉に母は立ち止まり此方に向き心配そうに尋ねてきた。母さんも考えていたのだろう。まず魔王を倒してこいと言う割に、王様は魔王のことについて何も説明していないのだ。その居城を、その戦力を。その割には倒してこいといって旅立たせるんだから本当に魔王倒すつもりが有るのだろうかと。

 

「あー……一応は城で剣の稽古をしている間に色々情報は集めてたんだ。まずはナジミの塔を目指そうかなって」

 

 もちろん、情報収集などしていない。原作の知識だけなのだが。

 

「あの向こうに見える島にある塔ね。そんな所にどうして?」

 

 母さんが不思議そうに尋ねる。まあ、まず魔王を倒しに行く度なのにあんな身近な島に行く必要は普通に考えれば無いだろうから仕方がない。俺も本来ならある策でさっさと次の国に行ってしまいたいところだが、そうも行かない理由があそこにはある。

 

「盗賊バコタだったかな。その人が作った盗賊の鍵があの塔にあるんだ。王様にお願いした件が準備できるまでの間に、まずその鍵を探しに行こうと思う」

 

「さすがアレルね。最初の目的地が決まっているなら、あとは準備をして出発するだけかしら」

 

「そういうこと。だから母さんは旅の為に一旦家に戻っていて準備を整えていてくれないかな? 僕はその間にルイーダの酒場に行って、旅の仲間にふさわしそうな人を何人か探しておこうかなって」

 

 そう、母が居ては女性メンバーでパーティーを固めることが難しくなる。そして、母のこの感じでは冒険中ずっとついてくるだろう。まさか母が此処まで子離れできない人だとは想像だにしなかったが、きっとこれも俺になる前の勇者が悪い。どうしてこうなるまで放っておいたんだ。

 だからチャンスが有るとすれば今しかないだろう。旅の支度のために家に母が帰っている間に何人かの女性メンバーを確保しなければいけない。理想はさっさと仲間にして母に事後報告出来ればなし崩し的に認めてもらえるかもしれないからだ。

「世界は救う」「ハーレムパーティーを作る」

「両方」やらなくっちゃあならないってのが「勇者」のつらいところだぜ。

 

「でも大切な旅の仲間になるかもしれない人たちでしょ? やっぱり母さんも一緒にいくわ」

 

 そんな俺の気持ちなんてつゆ知らず、心配そうにそう提案する母さん。まあ、当たり前といえば当たり前なのだが。それでも俺はどうにかして此処は一人で行かなければいけない。

 

「いや、おじいちゃんにも母さんのこと伝えないといけないし、旅の準備も仲間を探すのと同じぐらい大切なことだよ。それにそういう準備って僕をよく知る母さんにしか頼めないことだから」 

 

 我ながら会心の出来だと思う母を信頼しているような笑顔で母を見る。どうだ! 中の人の心が汚れていても、浮かべる笑顔と肉体だけは清らかな勇者だからな!

 これだけ息子に頼られたら流石に母は折れてくれるだろう。そう思ってたのだけど。

 

「心配しなくても、旅の準備ならもう出来てるわよ。最初の目標があの塔なら野営の準備もいらないでしょうし、仕舞っておいた私の昔の装備もこの通り揃えてきたから」

 

 現実は非情である。

 

 これだけあれば大丈夫でしょ? っと母は背負っていた荷物を此方に見せてくる。中に見えるのは数個の乾燥させた薬草とキメラのつばさ、ランタンやロープなどの俗に言う冒険者キットのようなも。そして母の装備だろう武闘着のような丈夫そうな服。王様の謁見の場でも流石に兵士に預けていたが、まさかあの袋の中身がこれだったとは。そして、おじいちゃんについては華麗にスルーするんですね母さん。きっともう既に俺の知らないところで話がついていたのだろう。……むしろついていてくれ。これで普通におじいちゃんが放置されていたら、中の俺とは他人とは言え、おじいさんが可哀想でならない。

 

「あはは……さすが母さん。そうだね。とりあえずあの塔程度なら野宿することもないし……うん、大丈夫」

 

 苦笑いを浮かべながら俺は母の言葉に頷くことしかできなかった。そもそも旅の準備なんて中身が一般人な俺がそんなに詳しくわかるはずもない。元冒険者、つまりプロだった母が大丈夫というのだ、頷くことしかできない。

 

「じゃあ、早速二人でルイーダの酒場に行きましょう? これから一緒に旅をする仲間になるかもしれない方ですもん。母さんもきっちり審査しないと」

 

 俺が頷くのを確認すると母は満足そうに笑顔を浮かべ、俺の返事を待たずに、善は急げとばかりに手を取りあるき始めるのだ。

 不味い、非常に不味い。

 

「え? ちょっと待って母さん。その辺りのことはできれば僕に……」

 

 慌てて母に声をかける。それでも相変わらず力が強い母の手は力の種でさらにドーピングしたはずの俺の力でも振り払うこともできず有無を言わさず引っ張られるだけなのだが。ああ、これ本当にそのままルイーダの酒場に行くパターンだ。

 

「いいえ、母さんもちゃんと審査します。安心しなさいアレル? こう見えて母さんは人を見る目は確かだから」

 

 まあ、オルテガさんの奥さんなんだからその辺りは信頼はしています。だけどそうじゃないんです。

 

「……因みに女の子が僕らのパーティーに参加したいと言ったら?」

 

「アレルにとって悪い虫になりそうなら実力があっても潰します」

 

 間髪入れずに笑顔で母は呟いた。

 ちょっとまって、この人潰すとか普通に言ったんですけど。

 

「ごめんなさいね。アレルの考えていることは、なんとなく母さんにもわかるの。だって、アレルも年頃だもの。アレルのお父さんもね、昔はそんな感じだったの。私以外の仲間も全員女の人だった」

 

 母の言葉に驚いてるうちに、前を歩きながら懐かしむように母はそう呟いた。 

 

「想像できる? 勇者と呼ばれて将来を約束された冒険者のお父さん。それを取り巻くのは女性ばかり」

 

 正直羨ましいです。なんて心の中で思いつつも。黙っていた俺に対して母は話を続ける。

 

「最初は仲良く旅をしていたの。でも、お父さんは素敵な男性だったから、仲間の中でお父さんを好きになる人が現れたの。私もそう。だからこそ、お父さんと結婚して貴方がいるんだもの」

 

 母の語り口調がどんどんと淡々としたものに変わってくる。

 ……なんだか嫌な予感がする。

 

「最初は少しギスギスして来ただけだった。でも、母さんが本格的にお父さんとおつきあいするようになってから……」

 

「母さん、その話はもういいよ! なんとなくわかったから」

 

 話をぶった切るように俺は声を上げる。

 何でオルテガが最後一人旅を選んだのかはなんとなくわかった気がした。確実にパーティーを組んでいたときに何かあったんだろう。そういえば、おもいだすを使った時、父と一緒にお風呂に入っていた記憶を思いだしたのだが、父の背中を流していた時、背中にある傷について聞いて父が苦笑いを浮かべながら誤魔化していたのを覚えていた。父ほどのものが後ろを取られるなんてすごい敵もいたんだなとその時の幼い勇者が思って記憶にとどめていたのだろうが、今考える……いや、まさかな

 

「わかってくれたのなら嬉しいわ。さ、早く行きましょう」 

 

「そ、そうだね。……酒場に頼もしい人がいればいいんだけど」

 

 只々、無表情でそう告げる母に、俺はそう言って頷くことしかできなかった。

 それからはただ無言で俺達二人は、ルイーダの酒場に向かって歩いて行くのだった。 




そろそろ本格的にヒロアカ小説動かそうと思うので、次回以降更新が結構間が開くと思います

仲間については既に案があるので、確定事項だけどそのへんは色々ゲーム設定に当てはめない展開で行きたいと思います。
あ、あと母さんは結構高レベルの格闘家です。

王様にした提案はメモ書きで書いてありますが、後々小出ししていこうかなと。そのへんは予想してくださると楽しいかも


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