とある異界の電子遊戯 (【時己之千龍】龍時)
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アインクラッド編
第00話 不可解な転生


 

 目を覚ました龍燕はおかしいことに気づいた。知らないところで寝ていたのだ。

 

 布団から起き上がり、部屋を見回す。すると頭に何かが入ってきた。落ち着いて入ってきた何かを確認すると、入ってきたというよりも思い出したというような、そんな感覚…記憶のようだった。

 

 まずここは自分のいた国ではなく、別世界の国で、この身体も自分の物では無いことも分かった。それから記憶も少しずつ頭に入ってきた。ただ二人分の記憶が頭に入ったせいか少し頭痛がしてくる。

 

 龍燕……ここでは龍旗(リュウキ)の記憶を少しずつ思い出して纏めてみると、まず家族構成は……一人暮らし。幼い頃に両親を無くし、その後はこの屋敷の主だった龍旗の祖父、龍城(リュウセイ)という人だが、半年前に事故で亡くなっていた。

 

 その亡くなった祖父は、二刀流剣術の達人だったが腕の振るえるところがほとんどなく、やっとで見つけたのはSAOというゲームの世界に入って戦うもので、そのβ版に当選し当たっていざ行こうとした時になくなったようだった。β版すらできずだったが、孫の龍旗は正式版で代わりに入り、二刀流でクリアすることを考えていたようだ。

 

 SAOというゲームは記憶によると昨夜のうちに龍旗が寝台で用意しておいたようで、兜の様なものから線が伸び、機械へ繋がっているのを見てすぐに分かった。それからその機械の隣にSAOと書かれた箱があったため、説明書と棚にあったその関連の本を少し読み、多少はどんなものかわかった。

 

「開始は……まだ時間待ち、か」

 

 頭に、時間待ちで昼寝をしていたことが頭に浮かんだ。

 

 何故自分がこうなったかわからないが、まぁいいかと思ってしまった。多分意識はないが、龍旗も龍燕も大きくは気にしないという性格がかぶっているからかもしれない。またそれ以上に龍燕がSAOというのに龍旗の記憶もあるからかもしれないが、強い興味を持ってしまった。

 

 そこでふと気づいた。時間待ちには気づいたが、何時まで待ちなのかが思い出せなかった。辺りを再度見渡し、今日の日付と今の時間まではわかったところで、暦表が頭に浮かんだ。

 

「暦表に……書いた」

 

 龍旗は急いで暦表を探し、見つけ出す。

 

「あった。ええと……11月6日の、午後一時か……ん、あと十分くらい?……というか羅暁と時間の数えが違うのか」

 

 時計の針の差す数字から見て、龍燕はさらに気づく。龍燕がいた世界……羅暁国では一時間が百分。一分が百秒だったがここでは大分違うようだった。さらには一週間の日数も、十日だったのがここでは七日と短い。気を付けないといけないなと思った。

 

「考えている内にあとわずかか。あ、設定があるとか書いてあったからもうそろそろ入ってみるか」

 

 龍旗はナーヴギアという兜の様なものを被って横になった。それから説明書にあった始まりの言葉を口に出した。

 

「リンクスタート」

 

 すると起動音が流れた。それから音声が発せられる。その音声の指示にしたがって設定を行った後、次に移った。

 

 言葉と同時に感覚の全てが消え、意識が何かに飲み込まれるような感覚を受けた直後に真っ暗だった視界が真っ白になり、五つの何か言葉が表示されては消えていき、次に正面に『welcome』の文字が現れた。

 

 それから名前を決めたり、容姿を決めた。また他にもいくつかの設定を進めていき、やっとゲームが始まった。

 

 

 

 

 

 



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第01話 始まりと出会い

 

 龍旗(リュウキ)……アバター名『シエン』は段々と感覚が戻るのを感じ、ゆっくりと目を開けた。辺りは自分の部屋ではなく、広い円形の広場だった。そしてあちこちでゲームに入ってきた参加者達の姿が現れ始め、広場を埋め始めていた。

 

「ここが……SAOというゲームの中、か」

 

今のシエンの姿は現実の龍旗のを少しいじっただけの、言ってしまえば手抜きに近いが細かいことより早くゲームを始めたかったシエンは気にしてはなかった。

 

「ん、うぉ?!」

「ん」

 

 振り返るとちょうど自分の真後ろに生成されたのか、少女が驚いた顔をしていた。

 少女の姿は肩より少し長めの髪に、頭にヘアバンドを飾っていた。

 

「あ、すまない…驚かせたか?」

「えと、少し……。あ、そうだ。一緒にプレイしない?」

「一緒に?」

 

 少女はうんうんと笑顔で頷く。

 

「こんな近くで出現して、この世界で初めて逢ったのも何かの縁かもしれないし。ダメ……かな?」

「いや、俺は構わない。一人よりは複数人いて助け合える方がいいからな。俺はりゅ……いやこの世界ではシエンだ。よろしく」

 

 シエンは少女に手を差し出すとすぐに握り返してきた。

 

「ボクはユウキ。よろしく!ええと……まずどうしようか」

「そうだな。確か手を振るとメニューが出るんだったな?」

 

 前もって読んでいた説明書通りに右手を縦に振り下ろす。するとメニューが表示され思わず、シエンはおぉと声を漏らしてしまった。

 

「装備は……片手直剣、か。出来れば刀がいいが……多分ないか。武器屋を確認してから狩りに行ってみようか」

「うん!そうしよ!」

 

 二人は武器屋を見つけ、品を見ていく。

 

「やっぱり刀は無いみたいだ。刀身の曲がりが少し気になるが、代わりに曲刀というのを買うか」

 

 そう言ってシエンはNPCの商人に声をかけ、曲刀を二振り購入する。

 

「ユウキはどうする?」

「ボクは……今のままでいいかな?そういえば二本買ってたけど、片方は予備?」

 

 シエンが曲刀を二振り買ったのを見たユウキが聞いてくる。それをシエンは首を横に振り答える。

 

「俺は二刀流でな。この世界でも有効かどうか見てみたいんだ」

「そうなんだ。二刀流かぁ……格好いいな」

 

 見るの楽しみと言いながらユウキはワクワクと笑みを浮かばせていた。

 

 

 

 

 町から出て少し歩き狩りの出来そうなところを探していると、猪が出現しているところをみつけた。そしてその猪を相手にしている二人が視界に入る。

 

「ほう、剣が光ってるな」

「うん。あれがきっとソードスキルだよ」

 

 あれが、とシエンは呟く。それから数度頷き、シエンは口を開く。

 

「あの様子から指南を受けているようだな。交ざってみるか。ソードスキル以外にも、よい情報が手に入るかもしれない」

「あ、そうだね。教えてもらおう」

 

 するとユウキはねぇねぇと走りながら二人に声を掛けに行く。シエンはその後を追った。

 

「ソードスキルを教えてるんでしょ?できたらボクたちにも教えてもらえないかな?」

「別に構わないけど、君達は?」

「俺はシエンだ。こっちは」

「ボクはユウキ!よろしくね」

「俺はクライン」

「……キリトだ。よろしく」

 

 お互いに簡単な自己紹介を済ませ、猪の方を見た。それからソードスキルの説明をクラインとユウキ、シエンは聞き、順に猪を相手に実践を行った。そして皆が一匹ずつ倒したし終えたところで、シエンはやってみたかった事を実行してみることにした。

 

「素人考えに二刀流は危ないぞ?」

 

 シエンが両腰にそれぞれ一振りずつ、曲刀を差したのを見たキリトが忠告する。

 

「このゲーム、本当は俺の祖父がやるはずだったんだ。祖父は現実では二刀流を使っていて、代々受け継いてきた流派を何処かで使ってみたいと考え、やっと見つけたのがこのSAOだったんだ。祖父はβ版には当たったがやる少し前に事故で亡くなってな、ここには俺が代わりに来たんだ。祖父が使っていた流派と俺のとは違うが……有効かどうか試してみたいんだ」

 

 そう言ってシエンは両の手に曲刀を引き抜いた。

 

「灼煉院家本家眞炎流(マエンリュウ)……いざ参る」

 

 猪に近づき、気づいた猪はシエンに向け突進を始めた。シエンは猪に衝突する寸前流れるように右へと移動し、突進する猪の首に両手に持った曲刀を突き刺し、そのまま二閃を流れるように切り裂いていき、曲刀が抜け数秒を置いて猪は硝子のように砕け散った。

 単純だが全ての動作に無駄がなく、流れるような勢いで行われたためほんの数秒の出来事だった。

 

「シエン、それって……剣術か?」

「灼煉院家本家、眞炎流刀剣術の二刀流。その名の通り剣術。この剣術は……いや説明はしにくいし、現実の話は基本ダメだったな…簡単に剣術で」

 

 シエンは途中で話を切り換えし、納刀しつつ振り返ってみるとユウキが目をキラキラとさせていた。クラインも同様にシエンの技に惹かれているようだった。

 

「おめぇスゲーな、二刀流なんて」

「うん!すごいよ!」

「ありがとう。本来は小太刀二刀なんだがな。俺はほかにも大太刀一刀。それから格闘術が使える。格闘術はさすがにこの世界では有効かわからないが機会がやってみたいと……いや、やってみるか」

 

 シエンは左半身を前に出し、軽く腰を下ろして構える。

 

「物は試し、だな」

「うんうん」

「格闘術まで使えるなんてなぁ」

 

 ユウキとクラインがシエンをみる。先程から静かにキリトもシエンを見ていた。

 

烈掌(レッショウ)

 

 突進してきた猪から先程のように流れるように避けて、首を真横から右掌打を放ち叩きつける。猪は突進力を無くし倒れるも再び立ち上がる。HPバーをみれば、減り具合からそこそこ効いているのがわかった。ステータスの上げ具合で格闘術も有効なのかもしれない。

 

「シエン、ちょっといいか?」

「ん?」

 

 今まで黙っていたキリトがシエンに声を掛けてきた。

 

「もし出来たら、機会があれば二刀流を伝授してほしい」

「ああ、構わないよ」

「あ、俺も大太刀の一刀の方を教えてほしいぜ」

 

 シエンは機会があれば教えるとクラインにも答え、その後夕方辺りまで雑談や攻略法

を話したりしながら過ごした。

 

「もう五時半になるな。俺はもうそろそろ落ちるわ。五時半に熱々のピザを予約してるんだ」

「そうか。あ、そういえばフレンド登録っていうのやってなかったな」

 

 そのシエンの言葉にそういえばと三人が呟き、今更ながら登録しあった。

 

「じゃ、またな」

「ああ、またな。また一緒に狩りをしような」

 

 クラインはニッと笑い、右手を振ってログアウトボタンを探す。

 

「あれ?」

「ん、どうしたの?」

 

 クラインの声にユウキが聞く。

 

「ログアウトボタンがねぇ」

「よく見てみろよ」

 

 簡単に説明しながらキリトもログアウトボタンを表示しようとメニューを開く。しかしあるはずのログアウトボタンがなぜか『空欄』となっていた。

 

「確かにないな」

「ないね……ってどうするの?」

 

 確かめたシエン、ユウキも同様に驚きながらキリトにいう。β版を経験し、このゲームに詳しいキリトに聞く他に三人はわからない。

 

「退出方法はメニューを操作してログアウトボタンを押すしか方法はない」

「他には本当にねぇのかよ?!」

 

 クラインが色々と思い付く言葉を口にし、ポーズまでとる。しかし何も起こらない。

 

「ないって言ったろ」

「しかし、これは運営側にとって致命的なものだろう?退出ができない。今やったがGMコールというのも全く反応がない。普通なら放送を流し、対処を始めてもおかしくもないはず……」

 

 何度かGMコールをやっていたが無駄と知り、メニューウインドウを消して腕を組ながらシエンは言う。

 

「そうだな。今後の運営にも関わるし、適切な方法として向こう側から強制ログアウトがあるはずだが……」

 

 するとごーん、ごーん……と鐘が辺りに響き渡り、四人は強制転移を受けた。転移の先、着いたのは開始時に最初にログインをした広場だった。辺りにはプレイしていた他のプレイヤー達、およそ一万人が広場に集まっていた。

 

「こ、ここは?」

「広場だな。キリトの言っていた強制ログアウトをやってくれるのか?しかし、なんだか怪しい感じがするな……」

 

 わざわざ集めず簡単に説明して、それから強制ログアウトでも良いのではないか?とシエンは思った。

 

「ん……ユウキ、上」

「上?……何あれ?」

 

 ふと気づき、シエンはユウキに言いながら上を見上げる。

 

「……どうやら強制ログアウトではないようだな」

「どうして?」

「演出がおかしい。それでそんな感じがする」

 

 赤く染まった空。そこから血とも思えるような赤い液体が漏れ出すように溢れ出て、

宙に形作る。その液体は顔のない、赤いローブの巨大なアバターとなった。

 

『諸君、私の世界へようこそ』

 

 赤ローブから歓迎の言葉を述べられ、ログアウトボタンが消えているという『バグ』さえなければ何かのイベントと思える言い出しだった。そして赤ローブは茅場晶彦と名乗った。茅場晶彦はこのゲーム世界を作り上げた人物で、ログイン前に見た本に載っていたためシエンも少しは知っていた。

 それからログアウトボタンが無いことはこのゲーム本来の仕様ということ。次に外部の…現実世界の状況を説明し始め、既に二百名以上が死んでしまった事を告げた。

 

『次に、β版にはなかったOSS……オリジナルソードスキルを新たに実装しておいた。ソードスキルは私がほとんどを作り上げたものだ。とすれば最終ボスとして現れる私に対し不利であることを考え、自ら作り上げる事ができるOSSは君達にとって希望のようなものだ。詳細はヘルプ欄に記入しておいたので、興味があれば読んでみることをお薦めする。そして最後に……』

 

 赤ローブは左手を振りメニューを操作する。

 

『君達のアイテムストレージに贈り物を入れておいた。確認したまえ』

 

 シエンとユウキはそれに従い、アイテムストレージ欄を開きそこにさっきまではなかった『手鏡』を押し、オブジェクト化して手に取った。

 その手鏡は特に変わったところはなかったが、突然自分も含め辺りにいたプレイヤーの皆が炎に包まれ、姿が変わっていった。

 

「なんだったんだ……」

「あれ……シエン、なの?」

 

 ふとユウキからの言葉にシエンはユウキをみた。

 

「ユウキなのか?いや、声はユウキだが……」

 

 ユウキの姿が先程と少しばかり違っていた。単純に肩より長かった髪が肩上までの長さになっている。

 

「姿が少し変わったけどシエンなんだね?」

 

 姿?と呟き、シエンは手に持っている手鏡を再び見てみる。そこには何故か、前世の姿……『龍燕』の顔があった。いや、近い容姿だが正確には現実世界の龍旗の姿だろう。

 

「なぜ……この姿に?いや今はいいか」

 

 辺りも大分変わり、装備は変わらなかったのかスカートを履いた可哀想な男性がかなり増えていた。恐らくアバター設定時に性別を変えていた人達なのだろう……。

 

「あの茅場って人はなんでこんなことしたの?」

「俺にもよくわからないが……こんなことをしたんだ。本人が説明してくれるだろう」

 

 シエンとユウキは再び赤ローブを見上げる。そして何故こんなことをしたのかを言った。

 

『この世界を作り出し、観賞するためにのみナーヴギアを、ソードアート・オンラインを造った』

 

 シエンはそんな理由でここにいる約一万人を箱庭の中に閉じ込めたのかと、最悪な天才だなと思った。

 そして赤ローブは姿を消した。それからしばらく静寂が包んでからドッと怒鳴り声や悲鳴などが飛び交った。

 

「来い、シエン、ユウキ」

「……キリトか、ユウキ行くぞ」

「え?あ、うん」

 

 シエンはその声からキリトと分かり、ユウキを呼んでついて行った。

 

 

 

 

 クライン、シエン、ユウキはキリトに連れていかれ、狭く他に誰もいない路地へ入った。

 

「いいか、よく聞け。茅場の言うことが本当なら自分を強化しないとならない」

「と、なると次のところを拠点にした方が得策、か」

 

 シエンの言葉にキリトは頷く。

 

「ああ。ここら一帯は狩り尽くされるだろう。それでだ、俺なら次の村までの安全な道のりを知ってる。一緒に来ないか?」

 

 キリトの申し出にシエンとユウキは着いていくことを決めた。しかしクラインは友達のことも心配だと言い、ログインしているはず友達と合流して行動すると返した。

 

「またな、クライン」

「何かあったら呼んでくれ。駆けつける」

「また会おうね」

「おう、またな」

 

 クラインと別れ、キリト、シエン、ユウキの三人は次の村へ向け走った。

 

 

 

 

 

 



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第02話 手助け

 

 デスゲーム開始から一週間が過ぎ、シエンとユウキはキリトと別れた。別れた理由としては、他パーティーを助けることにキリトは余裕がないと言ったからだ。

 

 別れた後レべリングをしながら二人は迷宮区を進む。ここ一週間はキリトの判断で突き進んでいたが、もうそろそろ追いついてくるかなと思っていた。そして迷宮区を出ようと出口に向かっていた時、モンスターに襲われているパーティーを見つけた。しかもモンスターの数が多いため苦戦していた。

 

「ユウキ!」

「うん!」

 

 二人はそれぞれに武器を引き抜き、駆け出す。

 

「助太刀する」

「あ、ありがとう」

 

 シエンとユウキが加わったことで二十体ほどいたモンスターを速やかに倒し、迷宮区を出て一息ついた。

 

 二人はダメージはほとんど皆無だったが、助けたパーティー側は皆赤近くまで減っていて危険な状況だった。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

 回復薬を飲みながらパーティーメンバーの一人が言う。

 

「いや、助かったならよかった。君らはパーティーだよな?長は?」

 

 シエンの問いにパーティーの皆は眼を背ける。それでいないのがわかった。

 

「そ、そうか…いままで良くやってこれたな。まぁまずは自己紹介だな。俺はシエンだ」

「ボクはユウキ。よろしくね」

 

シエンの隣で小さく手を振りながらユウキが言う。

 

「俺はアキラだ。改めて二人には礼を言うよ。君達はいつも二人で、あそこで狩っているのか?俺達五人で苦戦していたのに……凄く強いんだね。もしかしてベータテスターだったのか?」

「いや、俺もユウキも初心者から始めた。ゲームを始めた日に、そのベータテスターの一人に指南を受けてな。それからは俺の場合は現実で武術をやっていて、ここでもそれが有効だったんだ。ユウキの場合は覚えが早かったりしてな」

「そ、そんなことないって!シエン達の教え方がとても分かりやすいんだよ」

 

 シエンの言葉にユウキが顔を紅く染めながらいうと、アキラ達が笑った。

 

「そうなのか。じゃあ俺もお願いしてもいいかな」

 

 アキラが少し真剣な顔になり、その仲間もアキラが何を言おうとしているのか予想したのか静かになった。

 

「俺達に剣の使い方を教えてくれないか?」

「…うむ。ユウキはどう思う?」

「シエンがいいなら僕もいいよ」

「わかった、教えるよ」

「!、ありがとう」

 

 

 

 

 

 シエンはそのパーティーに剣術を指南することになった。今日はフレンド登録して一度解散し、翌日に迷宮の入り口で待ち合わせることにした。シエンは食材を出すモンスターをユウキと狩った。

 

「今日はいっぱい狩るね。みんなの分?」

「ああ。それにこの世界の食事はイマイチだからな。自分で料理のスキルを地道に上げて作らないと幅も広がらないし……現実なら材料次第で結構作れたんだがな」

「料理できるんだ。凄いな」

「現実世界へ戻れたらご馳走するよ。さてだいぶ集まったな」

 

 周りのモンスターを狩りつくし、いないことを確認する。握り飯を作りたいが米がないためサンドイッチだ。葉の物は採取で先程揃えて、肉もだいぶ集まった。今のメンバー分なら一週間あるかどうかの量かな。

 

「さて夕方か。帰って夕食にしよう。まだ料理スキルが低くてサンドイッチだがな」

 

 申し訳なさそうにシエンが言うとユウキが首を横に振った。

 

「ううん!シエンのサンドイッチはおいしいよ。お店で売ってるのはただのパンとかだし。それにそのパンだと味がほんとにいまいちだもん。だからサンドイッチが作れるだけでも幸せだよ」

「ありがとう」

 

 シエンはもっといろいろな料理が作れるようになったら、まずはユウキに食べさせてあげたいなと思った。

 

 

 

 

 

 



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第03話 ギルド結成

 デスゲーム開始から二週間が経った。

 

 シエンとユウキは共に互いのレベルを上げながら、危なそうな人達や危険になった人達を最優先に助けていた。

 

 そして助けられたパーティー達がシエン達と一緒にレベル上げするようになり、気付けば三十人を越えていた。

 

 

 

 ある日、最初に助けたパーティーのリーダー、アキラがシエンに声をかける。

 

「あのさ、シエン」

「どうした」

「皆にも言いたい。デスゲームが始まって二週間が経ち、シエン達と一週間一緒に戦って思ったことがある。シエンと一緒なら、このデスゲームもクリアできるかもしれない。だからシエンをリーダーにギルドを作らないか?」

 

 アキラの提案に皆が顔を見合わせた。

 

「ギルド……か」

「いいと思う」

「やろうぜ!」

 

 周りから声が上がる。

 

「わかった。皆、ついてきてくれるか?」

 

 シエンの問いに皆が「おう」や「はい」「どこまでもついていきます」と答えた。

 

 

 

 

 ギルド立ち上げを決めて三日目。ギルドができた。人数は35人。シエンが総隊長。ユウキが総隊長補佐だ。デスゲームが始まって最初のギルドだった。

 

「今日はギルド『戦英旗隊(センエイキタイ)』の記念すべき日だ。飲み、食べ……共に祝おう!」

 

 あちこちで乾杯の声が上がり、数人はジョッキが割れるということもあったがそれはそれでさらに盛り上がった。ちなみに料理はシエンの手製だ。

 

 

 

 

 『戦英旗隊』。戦は最強集いで、弱い者を助ける意味。英は利益を分け与え笑顔を増やすと言うのでつけた。

 

 それから初期の分け方で、前線組、教導組、製作組の三つだ。

 

 前線組は高レベルの集まりでボスとやり合い、迷宮区にも挑む。

 

 教導組はレベルはまだ弱いが、将来的には攻略組に入りたいという者達で、できる限り安全に、効率よく教導する組。

 

 製作組は基本後方支援で、前線組や教導組の武具防具を生成したりする組。

 

 ギルドの資金は、前線組や教導組から得た金やアイテム。それから製作組が熟練度を上げるのに作ったものを売ったりして得る。

 

 ギルドを作り、制度等も安定してから二週間が過ぎた。そしてシエンやユウキ、他の前線組が戦英旗隊用の制服を作ることに決めギルド内の皆からシエンが決めるのがいいということになり、記憶にある胴着を基本として、その上に羽織や鎧を考えた。

 

 

 

 

 

「デスゲームが始まってもう二ヶ月になるのか」

「うん。早いね」

 

 シエンとユウキが敵を軽く倒しながら話す。他の前線組は今は別行動だ。何故かお二人で仲良くどうぞと言いながら別のところへ行ってしまった。なぜかユウキはありがとうねとお礼を言っていたが、シエンにはよくわからなかった。

 

「ん、前に誰か……数名いるな」

「わかるの?ボクには見えないけど…」

「現実世界で武術をやっていてな。気配を感じとる……技のようなもの。最近、この世界でなれてしまったのかだいぶわかるようになってきた」

「凄い!武術をやってたんだ」

「凄いか?」

 

 周りにモンスターに囲まれ戦いながら、平然と会話をしていた。そして倒し終えたところでその気配の主達がきた。

 

「こんにちは。調子はどうだ?」

 

 シエンがパーティーに話をかける。

 

「こんにちは。調子は上々ですよ。向こうの階段を上がった先で、ようやくボス部屋を見つけましたしね」

「見つけた?じゃあ……」

「これから戻ってすぐにパーティーやソロ達に伝えて、早速明日にでも攻略会議をやろうと思ってる。シエンも来てくれるかな?」

「あぁこちらの前線組を揃えていくよ。ん、俺のことを知っていたのか?」

「二人は有名だよ?『夫婦で』ギルドをやっているってね」

 

 それを聞いてユウキの顔が一気に真っ赤になった。

 

「ぼ、ぼぼボクとシエンが夫婦だって?!」

「あれ、違うのかい?」

 

 パーティーリーダーがおかしいなぁと頭を掻きながら声を漏らす。その後ろのパーティーメンバー達も同じ感じだ。

 

「ち、ちちち違うよ。シエンとは……まだ……」

 

 ユウキは下を見ながら黙り混んでしまった。

 

「あはは。『まだ』だが、いつか『攻略』するよ」

 

 シエンが笑いながらパーティーリーダーに言い返すとユウキが目をぐるぐるにして後ろに倒れてしまった。

 

「あ、大丈夫かユウキ?しっかりしろ!」

 

 すぐにシエンが倒れたユウキの肩を持つ。

 

「刺激が強かったかなぁ……」

「ちょっとやり過ぎてしまったな」

「仲がいい夫婦になりそうだな」

「ボス攻略くらいに楽しみにしてますよ」

「また会いましょう」

 

 パーティーメンバー達も笑いながら行ってしまった。

 

「さてどうするかな」

 

 とりあえずユウキを端に寝かせて、シエンは休憩することにした。

 

 

 

 

 

 



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