海軍大将 白狐 (汎用うさぎ)
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1.海軍の白狐

執筆が滞り、書き悩む事が多くなったので気分転換にと新作品を練ったら予想以上に筆が乗ったでござるの巻。


コツコツとブーツが音を立て長い廊下に響く。背丈150㎝程の少女、着用する白いコートの背中には正義の文字が刻まれている。

少女はある扉の前で立ち止まり、憂鬱そうに溜息を吐くとノロノロと手を伸ばし扉を叩いた。

 

「センゴク元帥、入室の許可を」

 

「おぉ、来たかシルヴィア少将。構わんよ。」

 

ノックして直ぐに返事が返ってきた。少女は扉に手を掛け元帥の執務室へと入る。中には煎餅を齧り書類に目を通しているセンゴク元帥とペットであるヤギが居た。

 

少女は手を挙げて敬礼をピシリと決めた。

 

「失礼します」

 

「急に呼び出してすまないな。任務明けで疲れているだろう、気を張らなくともいい。そこに座って寛いで話を聞いてくれて構わん」

 

センゴク元帥は目を通していた書類を仕事机に置くと立ち上がり、接待用の机に備え付けられたソファに座った。

そして少女にその対面に座るように指示を出した。

 

「お心遣い感謝します。では……はふぅ」

 

少女はそれまでの凜とした態度を一変させ溶けたようにフカフカとソファに沈んだ。他の海兵達が見たら驚愕するほどのダラけっぷりである。

 

「まずは任務ご苦労とでも言っておこうか、シルヴィア少将。首尾よくいったそうでなりよりだ」

 

「えぇ、面倒ではありましたが、何事も卒なくこなす出来る女…ですので」

 

シルヴィアと呼ばれた少女はソファに全身を預けつつもキリっとドヤ顔を決めた。

 

「そうか。ところで任務で疲れた君を呼んだのは褒めるためではないのは分かるな?」

 

「まぁ普通はそうでしょうね。何事です?」

 

「シルヴィア少将、単刀直入に言おう私は君を中将に昇格させるつもりでいる。必要な手続きは既に済ませている、後は君の承諾だけで昇格が決定するだがーー」

 

「お断りします。ただでさえ怠いのに何故中将に…」

 

「そうか、残念だ…。中将ともなれば部下も増えて仕事の負担が減るというのにーー」

 

「その話、受けましょう」

 

「そうかね、有能な部下が昇格してくれると私としても嬉しい限りだよ。」

 

「ですが、天竜人関連の仕事だけは絶対に受けることはありませんので、そこだけはご理解頂きたいです。」

 

「あぁ、重々承知しているとも。」

 

「話はこれだけです?」

 

「そうだな…いや、最後に一つ。」

 

「何です?」

 

「私は、君が数年中将の経験を積んだら大将に据えたいと考えている。その事を頭の隅にでも置いて仕事に努めてくれ。以上だ」

 

「うげぇ…、大将って楽なんですか?」

 

「あぁ、多分楽だとも。」

 

「そうなんですか、じゃあやります」

 

「前向きな返答が貰えて嬉しい限りだ、ではゆっくりと休養してくれたまえ」

 

「はい、失礼しました」

 

少女はソファに沈んだ体を起こし立ち上がると敬礼し執務室を退室した。バタンと閉まるドアの音を聞いたセンゴクは仕事机に向かいシルヴィアの今回の任務の報告書に目を通した。

クロッゾ海賊団の殲滅作戦。懸賞金が総額7億を超える新世界の海賊団。その団員全てを生け捕りにしてマリンフォードへ帰投した。

船長であるクロッゾは5億の懸賞首、少将には荷が重いであろう任務を難なく終えた。

 

「イヌイヌの実、少将、いや、中将でさえも有り余る能力か」

 

動物系幻獣種の悪魔の実「イヌイヌの実」モデル九尾の狐。センゴクはシルヴィアが海軍に入隊した当初よりシルヴィアの実力を買っており、彼女は直ぐに昇格を繰り返し入隊してから2年もしない内に少将に、そして今中将へと昇格した。それに見合うだけの功績も残している。実力は本物、あと数年訓練すれば大将に据えられる程だった。

 

天竜人を毛嫌いしている点を考慮しても、是非とも大将になってもらいたい存在だ。

 

「ガープの奴、とんでもない逸材を拾ってきおって…」

 

センゴクの脳内で憎たらしく笑い飛ばすガープも偶には良いことを仕出かしたもんだと笑みを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室を出て自室に戻る途中、シルヴィアは怠そうに立ち止まり振り返る。

 

「…クザン大将、何用ですか?」

 

少女の後ろには2mを優に超えるであろう大男が真剣な表情で歩いていた。執務室を出て数分もしないうちに後ろにくっついて来たのを無視し続けていたのだが部屋が近くなったので仕方なく声を掛けた。

 

「あらら、特に用はないけど。君のお尻に用があるかな〜って。」

 

クザンの手はくっついて来た初めからシルヴィアのお尻に伸ばされており、サワサワとソフトに撫でてその感触を楽しんでいるようだ。

 

「そうですか。別に構いませんが、私の自室にまで入って来ないでくださいね」

 

「あらら、つれないこと言うじゃない。それなら最後に堪能しとこう…」

 

クザンが先ほどの比ではない程露骨に尻を撫で繰りまわす。というかガッシリと鷲掴みと言っても過言ではない程に尻に情熱を注いできた。何がいいのか理解できないシルヴィアは特に気にせずに自室へと向かう。

 

「あれれぇ〜〜?何をやっとるんだいクザン君 ?セクハラじゃないのそれ〜〜?」

 

その道中、黄色と白のストライプのスーツ、サングラスが特徴の大将黄猿ことボルサリーノがT字路の角からヌッと現れた。

 

途端にクザンの表情が曇り、脂汗を出すほど焦り始めた。

 

「ゲッ、黄猿さん…。違いますよ、コレはその部下との信頼を深めるためのスキンシップですよ」

 

「そうかい?やましいことじゃないなら後でセンゴクさんに伝えておくよ〜〜。シルヴィア君の尻を撫でてたって」

 

「ウェッ!?勘弁してくださいよ。あの人そういうのに厳しいんだから!」

 

「そう思うのならその手を離したらどうだい〜〜?別にわっしはシルヴィア君が嫌じゃないなら止めはしないがねぇ〜〜」

 

「正直言って不快です。何とかしてください黄猿大将。」

 

「んん〜〜、了解したよ。ほら、センゴクさんの所に行くよ〜〜クザン君」

 

黄猿がクザンの首根っこを掴んで執務室へと連れて行こうとする。クザンはジタバタと暴れるが黄猿がしっかりと掴んでいるため徒労となる。

 

「ちょっ、シルヴィア!」

 

クザンは最後の希望に縋るようにシルヴィアに手を伸ばし助けを求めた。シルヴィアは面倒くさ気に溜息を吐いた。

 

「はぁ、私から引き離せばそれでいいです。センゴクさんの所に行かれたら私まで面倒な事になるじゃないですか。それにクザンさんのセクハラなんて常日頃の出来事ですし」

 

「シルヴィア…」

 

「君は相変わらずだねぇ〜〜。君がそれでいいなら構わないけど。でもやっぱりクザン君はセンゴクさんの所に連れて行くよ〜。常日頃セクハラしてること伝えなきゃねぇ〜」

 

流石は「どっちつかずの正義」、情に流されたりはしなかった。いや、正確には彼の正義はそういう簡単なものではないけれど。一瞬思考が停止したクザンも正気を取り戻すと一層暴れだす。

 

「はぁ!?何で!?今いい感じだったじゃない!?シルヴィア!助けて!」

 

「それでは大将方、お疲れ様でした」

 

ニコリと会釈し自室の扉を開ける。クザンが必死に手を伸ばしているのを見て頑張ってくださいとアイサインを送り扉をソッと閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大将2人を見送った後、シルヴィアは自室に備え付けられたベッドに倒れこんだ。

 

「ねむ…でも、お風呂入らなきゃ」

 

任務で2週間海の上だったため少々潮の香りが拭えない。軍艦にも風呂があるが、仕事の過程ですぐに潮の香りがついてしまうのだ。

 

「はぁ…」

 

仕方なく起き上がりコートや衣類を脱衣所で脱いで洗濯カゴに入れ部屋に備え付けられたユニットバスに向かう。お湯を張るのも面倒なのでシャワーを浴びる。

ポタポタと水の音が響く。

 

「私が中将ねぇ…。センゴク元帥は何を考えているのやら。」

 

私のイメージではガープ中将のようなパワーゴリ押しな人や六式を修めた人、覇気を習得した人じゃないとなれないと思っていた。

私は六式は全て納めていないし持久力はあるがパワーは義父であるガープ程はない。覇気はそこそこレベル。完全に能力頼りである。

能力はイヌイヌの実モデル九尾の狐という珍しい能力で、コレが恐ろしく強いらしい。

 

用途としては 相手を化かす能力、式神を操る能力である。つまるところ、幻覚幻聴など人の五感を惑わせる能力。それとめちゃ強い式神を召喚し私を護らせる能力。

 

確かに能力は強いのだろう。が、若年の私に務まるものだろうか。というか、大将に据えるとか言ってるし。絶対面倒な気がする。体良く騙された気がする…センゴク元帥ニヤついてたもん。

 

あぁ、考えるのも面倒くさい。

 

「…ふぅ」

 

シャワーの水を止め、バスタオルで体を拭きそれを体に巻くとシャワールームを出てベッドに倒れこむ。

 

「桐代〜」

 

シルヴィアが指をクルクルと振るとポンっという音ともに煙が発生し、その中から着物を着た長い黒髪の美女が現れる。

濡れ鴉の髪を耳に掛け、恭しく頭を下げた。

 

「お呼びでしょうか、シルヴィア様」

 

「…あとはよろしく。私は寝る」

 

枕に顔を埋めて指示だけ飛ばすとシルヴィアは全身を弛緩させベッドに溶けていった。

 

「畏まりました」

 

シルヴィアは式神の声を聞いて意識を手放した。対する式神である桐代(キリヨ)は主人を起こさぬように体やまだ濡れている髪を丁寧に拭き乾かし服を着せた

 

「…お邪魔しますね、愛しい我が主様」

 

布団を掛けるのと同時に自分も布団に入り桐代はシルヴィアに寄り添うように寝た。

そして翌日、桐代はシルヴィアが目を覚ます前に抜け出して人知れず消えた。

 

 

 




なお、この話は原作開始の10年前の話である。

桐代について。
桐代はシルヴィアの式神として契約しており、種族は鬼。髪に隠れて見えづらいが二本の角が生えている。ワノ国出身で屈強な武人である侍を物ともせず蹂躙したことで恐れられた鬼。騙し討ちによって瀕死までに追い込まれた際にシルヴィアに出会い契約する。
ワノ国は鎖国国家で国外に出るだけ罰せられるため逃亡生活の身である。が、普段はワノ国の近海にある魑魅魍魎が住まう島に住んでいて不気味な島だと近寄る人間はいないため快適な生活を送っている。
シルヴィアの事を心酔しておりシルヴィアに呼び出される事を心待ちにしている。

モデルはFGOの源頼光です。


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2.クザン

連続投稿ゥ。


「ちょっとちょっとぉ!見捨てるなんて酷いじゃないの〜!俺はそのせいで昨日センゴクさんから大目玉食らったんだぜ?」

 

「自業自得でしょう、これに懲りてセクハラはやめてください。」

 

翌日の朝、書類の整理をしているとクザン大将がノックもなしに部屋に入ってきて開口一番にコレである。私は呆れた様子で正論を主張した。

 

「…ぐ、確かにそうだが。仮にも上司じゃん、助けてくれたっていいじゃない」

 

「普段から多めに見ているのに付け込んで調子に乗るからですよ。これまでの悪行が清算されたと思って反省してください」

 

「はいはい、分かりましたよ〜。んで、センゴクさんに何を言われたんだ?昨日呼び出されてたんだろ?」

 

クザンさんは窓際に設置したテーブルとセットの椅子に腰掛けて質問を投げ掛けてきた。

腰の据え方からしてなかなか出て行かないつもりなのが見え見えである。

 

「中将昇格だそうです。将来的には大将も見据えているとも」

 

「かぁー!出来のいい弟子をもったなぁ俺は。俺も逸材なんて持て囃されたもんだが中将なんのに数年かかってーのに。お前は一年半くらいか?」

 

「私はいつから貴方の弟子になったんですか?勝手なこと言わないでください。それと、正確には1年と9ヶ月と7日です」

 

「お前ってダラけてるのかしっかり者なのか偶に分からなくなるよな。」

 

「常にダラけてる貴方とは違うんです、公私は分けるのが出来る女…です」

 

ドヤァ、と年中グータラ大将に皮肉る。仕事の時もダラける貴方とは違うんで。

 

「出たよ、ソレ。自称出来る女」

 

「実際に私は出来る女…」

 

「そうだけどよぉ、自分で言ってると間抜けに見えるぜ?」

 

「万人に理解されようとは思ってませんし、わかる人には分かるからいいんですよ」

 

「へーい」

 

「ところで何の用です?特に理由がなければ来ないで下さいって言いましたよね?」

 

「お前を口説きに来たんだよ」

 

「は?またセンゴクさんのお世話になりたいんですか?」

 

「違う!そういう意味じゃない。いや、あと数年したら楽しみなんだが…。じゃなくてだな、正式に俺の下につけって事だ」

 

「はぁ…そういう派閥みたいなの面倒で嫌なんですが。独立してはいけませんか?」

 

「駄目だな、中将となったんだから身の置き方くらいしっかりしてもらわないと。それに、ボーッとしてたらガープさんやサカズキの軍艦に乗せられるかもしれないぜ」

 

それを聞いて私は正直げんなりする。ガープ中将の軍艦に乗せられたら振り回されるのが目に見えるてるし、赤犬大将の軍艦に乗ったら意見の食い違いが起こって不和を起こすのも容易に想像できる。

 

「ガープ中将はともかく赤犬大将の軍艦は勘弁願いたいですね。」

 

おじぃちゃんはある程度制御効くし。可愛い孫娘を演じるか、『おじぃちゃん大嫌い(棒)』とか言っておけば。

 

赤犬大将は…うん、無理。あの人とは反りが合わない。

 

「だろ?だから俺のところに来なって。仕事もそんなに回さないつもりだからさ」

 

「む、それは魅力的です。でも、セクハラ上司がいるのはマイナスポイントです。私的には黄猿大将の方がいいかな」

 

あの人紳士だし。ちょっと癖の強い叔父様みたいなものだ。飄々としてて何考えてるか読めない人だから嫌われやすい人だと思うけど、私は嫌いではない。

 

「あの人の仕事知ってる?大方天竜人関連の仕事ばかりだぜ?」

 

うわ、ぜってぇやだわ。やっぱ黄猿大将の軍艦だけは無理。くそ、多少の面倒は避けられないだろうけどここは…

 

「やっぱりガープ中将の軍艦ですかね」

 

そう言った瞬間にクザンさんはズッコケて椅子から滑り落ちた。

 

「なんでだよ!?俺んところに来いよ!」

 

「セクハラしませんか?」

 

疑惑の目を送る。クザンさんは目線を縦横無尽に泳がせていた。汗も出始めた。

 

「……あ、あぁ。」

 

「目を見てください」

 

そう言ってもクザンさんの目は私の視線から逃げるように泳ぎに泳いでいた。そして束の間の沈黙を破りクザンさんは立ち上がって私に詰め寄った。

 

「ーーあぁ、もうまったく!いいんじゃないの!お尻くらい!」

 

「うわ、開き直りましたね。ないわー。しかもお尻くらいって。最低ですね」

 

「お前なぁ、上司虐めて楽しいか?もっと敬意とかそういうの払うべきじゃない?!」

 

「真面目に仕事してる時ならそのつもりですが?」

 

「うぐ…」

 

「でもまぁ…ほかに比べればマシですし、いいですよ」

 

「おぉ、マジで?冷たいシルヴィちゃんにもデレ期が来たんじゃないの」

 

「うわっ、いきなり頭触らないで下さいよ。セクハラで訴えますよ?しかもシルヴィちゃんとか言わないでくれます?鳥肌立ちました」

 

「ちぇ〜少しくらいいいじゃない。減るもんじゃあるまいし」

 

「ちょっとセンゴク元帥に用が出来たので部屋を開けます。物色したら怒りますからね」

 

「待て待てっ!俺が悪かったから!許してくれよ〜!」

 

「まったく、貴方って人は…。今回だけですよ?」

 

「はいはい、んじゃあシルヴィアの了解も得たところだし。俺は少し仕事してくるとしますか」

 

「へぇ、何するかは知りませんけど頑張って下さい」

 

「おぅ優しいねシルヴィちゃん、愛してるぜ〜」

 

クザンさんはそう言い残して部屋を出て行った。投げキッスと共に。

……あの歳で投げキッスとか。

 

「ないわー」

 

私はぽつりと呟き、処理の途中だった資料に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資料を整理し終わってやっとダラけられると思った矢先、ドスドスと大きな足音が部屋の外から響いてくる。まさかと思っていると、粗雑にドアがノックされる。

 

「おーい!シルヴィはおるか?」

 

やっぱりと頭を抱えながらドアを開いて顔を出すと、ガタイの良い白髪の老人が豪快に笑って出迎える。

 

「何の用ですガープ中将?」

 

「職務関連の話じゃない、いつも通りおじいちゃんと呼んでくれてもええんじゃぞ?んん?」

 

この人おじいちゃんって言わないと口聞いてくれないくせに白々しい…。思わず溜め息を吐く。

 

「何か用なのおじいちゃん?」

 

私がそう言うと、おじいちゃんは表情の喜色を強めて笑ってサムズアップした。

 

「よくぞ聞いてくれた!シルヴィが中将に昇格と聞いてな、居ても立っても居られなくなったんじゃ!という事で」

 

ちょい開けして顔のみを出して対応していた私の首根っこをむんずと掴んで引きずり出すと、そのまま肩に抱えて歩き出した。

 

「ちょ!?おじいちゃん!?どこへ連れて行く気なの!?」

 

「昇格祝いじゃ!!」

 

「ちゃんと答えてよ!!」

 

ジタバタと身を捩り抵抗するも、大砲を素手で投げる義祖父の手から逃れる事は出来ず。さらには会話すらろくに成立せずに私は軍艦に乗せられた。

 

 




シルヴィアは三大将の再来と謳われる程の化け物新兵として活躍しており、次期大将候補の1人に数えられていた。

クザンはシルヴィアの本質を見抜き、サカズキから遠ざけるように色々と工作してきた。
そのことをシルヴィアは気付いているが、特に何も言わず知らぬふりをしている。
感謝はしているが単純に面倒なだけ。

サカズキは実力は認めているがクザンに毒されていると考えているため良いイメージを持ってはいない。

黄猿は仕事も出来て実力も兼ね備えるシルヴィアの存在を良き後進と捉えている。


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3.モンキー・D・ガープ

連続投稿ゥ


「…ガープ中将、身勝手に私を振り回さないで欲しいと再三進言しましたよね?」

 

船尾にある一室で私は煎餅を囓るガープ中将の背中に向かって責めるようなキツイ視線を飛ばしていた。

 

無論、私の制止を無視して軍艦でどこかへ向かっている事に対してだ。幸いタスクは全て終わらせていたから良いものの、毎度この人に振り回されてはかなわない。

 

「……」

 

ガープ中将はまるで聞こえてないかのように振り返りもせず煎餅に手を伸ばしていた

 

「はぁ…。ガープおじいちゃん?」

 

この頑固爺めと思いながら公私の私にあたる部分を引き出しガープおじいちゃんと呼んだ。するとガープおじいちゃんはバッと勢いよく振り返り笑顔で答えた。

 

「おぉ、なんじゃシルヴィ。何を突っ立っておる、こっちに来て座らんか。煎餅食べるか?」

 

「あのね、私はもう中将の身なんだからおじいちゃんの勝手に振り回されるわけにいかないの。」

 

煎餅はいらないと手で合図しつつガープおじいちゃんの前の席に座る。

 

「何を言っとるか!ワシはただシルヴィの昇格祝いにと思ってだな」

 

単純に善意でやらかしたのは分かるから、取り敢えず煎餅食べたまま喋らないで欲しい。

 

おじいちゃんの口から飛んでくる食べかすをガードしつつキッと睨みつける。

 

「今どこに向かってるか知らないけど許可は取ったの?幸い、私は仕事の引き継ぎだけで仕事は特になかったから支障は出ないと思うけど。」

 

「ちゃんとセンゴクの奴に言っておるわい。」

 

「一方的に喋って逃げてきたんじゃあ許可を取ったって言わないからね?」

 

「ぬぅ…。し、しかしセンゴクの事だからどうにかしてるはずじゃ問題はなかろう」

 

この反応を見るに「シルヴィの昇格祝いじゃから軍艦一つ借りるぞ」「待てガープ貴様!どこに行くつもりだ!?」なんてやり取りが目に浮かぶ。

 

「私が言ってるのはそういう事じゃないの。良いか悪いかなんて聞いてないし、なんでおじいちゃんはいつもそう適当なの?おじいちゃん大嫌い(棒読み)」

 

演技するのも面倒くさくなった私は感情を込めずに適当にあしらったつもりだが、対するおじいちゃんはーー

 

「…ぐ、ぐはぁっ…!?」

 

ショックで一気に老けたおじいちゃんを尻目に私は部屋を出て行く。

後ろでノロノロと私に手を伸ばすおじいちゃんの手を払うとジト目で睨みつける。

 

「ちゃんとセンゴク元帥に報告するまで話しかけてこないでくれる?それまでおじいちゃんの事無視するから」

 

そう言い残して扉を閉じると扉の向こうからバタンと何かが倒れる音が聞こえたが無視して甲板へと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精神的ショックでしばらく放心状態だったガープは義孫娘が出て行ってから数分後に気を取り戻し、最後に残していった忠告を思い出し電伝虫に手を伸ばした。

 

「あー、あー。こちらガープ、聞こえるかセンゴク?」

 

「ガープ貴様ァ!シルヴィア中将をどこへ拉致した!?」

 

「うぉ…。そう叫ばずとも聞こえるわい。少しは落ち着いたらどうじゃ?」

 

「貴様という奴は…!もういい、それで貴様は今どこへいる?」

 

「どこって、東の海じゃが?言っておらんかったか?故郷に帰ると言ったつもりじゃったが」

 

「一言も聞いとらん!…直ぐにでも戻ってこいと言いたいところだが、いいだろう、1週間程滞在を許す。」

 

「おぉ、そうか!」

 

「幸いな事にお前もシルヴィア中将も急を要する案件はない。シルヴィア君にはしっかりと羽を休めるようによろしく言っておいておくれ。」

 

「あー分かった。」

 

「それと最後に、お前の処罰は追って連絡するが…本部に戻った時が楽しみだな」

 

「ほーい」

 

鼻くそほじりながら適当に返事を返す。小指をフッと息で吹くと電伝虫から怒髪天を衝くような怒声が飛ぶ。

 

「貴様!今回仕出かした事の重大さが分かっておるのか!?シルヴィア中将にはーー」

 

あまりの声量に驚いて受話器を落としてしまい、それが拍子に電伝虫の通信も切れてしまった。シルヴィアがどうとか言ってた気がするが…

 

「あ、しもうた。切れた。まぁいいか」

 

ガープは特に気にせず、煎餅を囓ると立ち上がり目に入れても痛くない義孫娘を探して船尾室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プツリと通信が切れる、わなわなと手を震わせながら受話器を置く。

 

「ガープの奴…!毎度の事だが頭が痛い…。あいつが海軍の英雄なんていう称号がなければ即刻インペルダウンに収監してやるというのに…!」

 

鼻くそほじってるガープの顔が思い浮かび余計に苛立つ。恨み言を溢しているとドアが開いてクザンが現れる。

 

「あらら、どうしたんですか?そんなカリカリして。」

 

「クザン…。あの馬鹿をどうにかしてくれ」

 

「えぇ?ガープさんの事ですか?俺に言っても無駄だって知ってるでしょ?少なくとも俺の手には負えないのは確かですからねぇ。んで?今回は何やらかしたんであの人?」

 

「シルヴィアを連れて里帰りだ」

 

「は?許可は出したんですか?」

 

「そうじゃないからキレているんだ…!」

 

「ひぇ〜、そりゃ大変。っと、そういえばセンゴクさん、シルヴィアの事ですが」

 

「なんだ?」

 

「身の振り方を話し合って、俺の下につく事に決めました。大分避けられましたが」

 

「そうか、ガープの奴の所じゃなくなって安心したよ。お手柄だ」

 

「俺としては絶対にあの男(赤犬)の所だけは行かせたくなかったんで俺も一息ってところですが」

 

「確かに、相性は極めて悪いだろうな。同じ船に乗せれば必ず不和を起こすのも目に見える。」

 

「えぇ、俺もそう思いますし本人もそう感じてるでしょう。ところで、里帰りって言うと…東の海ですか?」

 

「あぁ、そうだ。生まれ故郷ってわけではないらしいが…詳しい事は私も知らん。ガープの奴も頑なに口を割らん。ただ、ガープが何処かで保護してそのまま東の海の小さな村に連れ帰ったという報告は来ている。」

 

「…」

 

「気になるならガープに聞いてみろ。シルヴィア中将はお前の事を少なからずは信頼している、であればガープも口を割るかもしれん。それか、本人が口を割るのが先かもしれんな」

 

「俺としちゃあ後者の方が望ましいですけど」

 

「まぁ、何にせよガープには今回の件でしっかり責任を取らせねばなるまい」

 

「シルヴィア連れ出したのがそんな大きな問題だったんですか?」

 

「何事も規範が重要だと言っているのだ。主力である中将2人が突如消えたらどうなるか、ガープはそれを分かっておきながら勝手な行動を取っているのは明白だ。」

 

「センゴクさんも大変ですねぇ。あ、コレシルヴィアの配属願い受理したんで確認よろしくお願いします」

 

「…ふむ、確かに承った。これで恙無く進むだろう。…シルヴィア中将は海軍の有望株で上層部の期待も高い。しっかりと頼むぞ、クザン」

 

「言われなくても大事に育てますよ。まぁ、あいつは特に何もせずとも大物になるとは思いますが」

 

「私もそう思うが、環境は重要であるのは間違いない。その点ではお前は信頼出来ると私は思っている」

 

「光栄なこって、期待には応えてみせますよ…と、俺は仕事あるんで戻ります」

 

壁に立てかけられた時計を見てクザンは用事を思い出し、出口へと向かった。

 

「あぁ、ダラけずしっかりとな。」

 

「分かってますよ〜」

 

クザンは振り返らずに手を振って答えて部屋を出て行った。

 

 




シルヴィアは6歳の時ガープに拾われフウシャ村とマリンフォードなどで幼少期を過ごした。
ガープは任務で家を開けることが多かったが家事炊事洗濯は自分で出来たので生活に困ることはなかった。実質一人暮らしであった。


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4.フーシャ村

時系列としては、幼少期(グレイターミナル)編の終盤です。


心地よい風が頰を撫でていく。空は快晴、気温もそこそこに。文句のつけようがない良い天気である。

 

「ここに来るのいつぶりだろう。マキノちゃん元気かな?みんな元気だと良いけど」

 

少し長めの航海の末にフーシャ村へと辿り着いた私とおじいちゃんは軍艦の船員から敬礼を受け、それに応えるのもそこそこにして歩き出し、今はフーシャ村へと向かっている。

 

懐かしい香りを感じる。やっぱり帰ってきたと思えるのは存外私もホームシックとやらを患っていたのかもしれない。マリンフォードにも自宅はあるが、やはり故郷と言われると此方であるのは隠しようもない事実である。

 

故郷の風景とともに浮かび上がってくるのは酒場の女主人、年の離れた弟達、村長、村のみんな、次々に湧いて出てくる

 

「おぉ、そうじゃな。みんな元気じゃろう」

 

「あ、そうだ思い出した。この前ここに来たの半年前だった。」

 

確か任務でフーシャ村の近く通ったから少しだけ進路を変えて貰ったんだっけ?まぁ、私の一存で長居は出来ないから船から村の方を眺めただけだったけど。

 

今考えてみれば重度のホームシックだったのだろうか。郷愁の念にかられるとは良く言ったものだ。

 

「なぁシルヴィ、ルフィ達の事なんじゃが…」

 

「2人の説得は面倒だし無駄だと思う」

 

「そこを何とか…のぅ。あいつらわしの言うことをまるで聞いてくれんのじゃ」

 

(2人もおじいちゃんに対して同じこと思ってるんだろうなぁ)

 

「はぁ、わかった。話はするつもりだからその時聞いてみる。面倒だけど」

 

「おぉ!そうか!海賊なぞ絶対に許さんとキツく言っておいてくれ!」

 

「ダル…」

 

「なんじゃもう疲れたのか?背負ってやろう、ほれ」

 

おじいちゃんは少し屈んで背中を見せている。別に歩くのが怠いんじゃなくて説得が怠いと言ったつもりだったのだが。まぁ歩くのもやっぱり怠い。

 

「んー」

 

おじいちゃんの好意に甘えてがっしりとした背中に飛びついた。

 

そうして他愛のない話をしながら歩いているとフーシャ村に到着した。おじいちゃんは大柄なのでとても目立つ。ゆえに村に入った瞬間から視線は自然と集まった。村を歩いているとキーコキーコと椅子を揺らして寛いでいたボーダーの入った帽子を被った老人が目をひん剥いて椅子から立ち上がった。

 

「あ!?ガープさん!?何でここに?」

 

「おぉ、村長。今日は特に用はない。可愛い孫娘と里帰りじゃ!」

 

ぴょこっとガープの背中から顔を出して会釈をする。おじいちゃんの背中は広くて安定してるから降りたくはない。少し硬いのが玉に瑕だけど。

 

「おぉ、シルヴィアちゃんも居たのか。久し振りだな。元気にしてたかね?」

 

「えぇ、まぁそこそこに」

 

「聞いてくれ村長!何とシルヴィはまた昇格したんじゃ!今はもうシルヴィア中将じゃ」

 

「…な、なんと!?ちゅ、中将ぉ!?」

 

村長の奇声に周囲もざわつき始める。こりゃ目出度いと彼方此方から声が聞こえる。囃し立てられるのは好きじゃないし面倒くさいなぁ…と思いつつ村長に是と答える

 

「身に余る役柄だと思いますけど、なっちゃいましたね」

 

「ぶわっはっはっはっ!何を言うか!実力はこのわしが保証するから安心せい!」

 

「…こりゃめでたい。わしらとしても鼻が高いな。村の身内から海軍中将が輩出されとは。これは村総出でお祝いでもしようか」

 

ルフィやエースが海賊になると言う中、私の昇格は本当に嬉しいのだろう。海賊などけしからんが口癖のようなものだったしね。

 

「村のみんなも大変だからいいよ。気持ちだけで十分だし、スピーチなんか求められたら面倒だし、やらなくて大丈夫」

 

「後半が本音のようだな…。まるで変わらないなシルヴィアちゃんは」

 

「村長さんも健勝で何よりです。」

 

「いやぁ、最近は腰が少し痛むがな…。そうだ、マキノも喜ぶだろうし会ってくるといい」

 

「マキノちゃん元気?」

 

「自分の目で確かめるといいさ」

 

「わしは村長と話をしてるから気にせんでいいぞ。ゆっくりしてくるといい」

 

「うん、行ってくる」

 

名残惜しいがおじいちゃんの背中から飛び降りる。おじいちゃんと村長の談笑を背に、私はPARTYs BARを目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふーんふふーん♪っと、今日の仕入れも終わりかな。洗い物も終わったし、予定より早く終わっちゃった。」

 

予定よりも開店準備が終わったマキノは近くの椅子に腰を掛けて自分で淹れたコーヒー片手に一息を吐いていると、カランカランとベルが鳴った。マキノはコーヒーをカウンターに置くと扉へ向かう

 

「すみません、まだ開店は…ってシルヴィ?!こっち来てたのね!」

 

「おひさ、元気だった…みたいだね」

 

「うん!シルヴィも元気そうでなりよりだよ。でもいきなりこっちに来るなんて、手紙でもくれれば歓迎会も開けたのに」

 

「あー、気持ちは嬉しいけどね。私はそういうのいいかなーって」

 

近くの手頃な椅子に座り手をプラプラと振った。マキノは私の分のコーヒーを淹れ、私の座る席の手前の椅子にコーヒーを置いてそのまま私と対面になるように座った。

 

「言うと思った。面倒くさがりなところは変わらないね。でもそれはそれで安心するなぁ。」

 

「私の性分だからね。」

 

私は出されたコーヒーに即座に口をつけて答える。何も言わずに頂くのは無礼に当たるかもしれないが自分とマキノの仲である、ほんわか顔でコーヒーを楽しむ私を眺めてマキノはニコニコと笑っていた。

 

「ふふ、そうね。それにしても仕事は大変なの?最近は全然こっちに遊びに来なかったし。なんか少し寂しかったなぁ」

 

「上司が私をスピード出世させようと頑張っちゃったせいでね…。今はもう中将。私には過ぎた身分だと思うけど」

 

「えぇーーーっ!?中将なの!?そ、それってガープさんと同じ立場ってことなの?!」

 

「一応ね、まぁおじいちゃんは普通の中将とは違うから。私はおじいちゃんほど偉くないよ」

 

「でも凄いわ!入隊数年で中将だもん。なんか急にシルヴィが大人に見えてきたかも」

 

「元々私は大人の女性。出来る女…だよ」

 

「あはははははっ!久し振りにそれ聞いたなぁ。可愛い〜。」

 

「む…」

 

「ごめんごめん、馬鹿にしてるわけじゃないのよ?なんか凄く懐かしくってね。あ、そうだ!ルフィ達も会いたがってたから会いに行ってあげて。今は乗り越えたとは思うんだけど、エース君たまにボーッと海の方眺めてる時あるから少し心配なんだ」

 

「…エースになんかあったの?」

 

「…そっか、シルヴィは知らないのね…。…エース君自体は無事だったのよ。でも、これはエース君達から聞いたほうがいいわ。私の口から言える問題じゃないのよ…」

 

「…うん、そうする」

 

もっとマキノと話をしていたかったが深刻な表情のマキノに不安を覚え、久方ぶりにコルボ山へ赴く事にする。胸がさざめく、嫌な予感は一歩踏み出すごとに強くなっていった。

 

 

 




シルヴィアとマキノの年の差は2歳です。
シルヴィア(19)マキノ(21)エース(11)サボ(11)ルフィ(8)

マキノさんの年齢は公式では不明です。この作品の独自の設定です。


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5.エース

フウシャ村のすぐ側にコルボ山という山賊達が住む山がある。そこは山賊だけではなく常人なら太刀打ち出来ないような猛獣達の棲家でもある。ゆえに危険な山としてフウシャ村の村人は好んで立ち寄りはしない。

そんな山の獣道を鼻歌まじりに登る白い少女がいた。言うまでもないがシルヴィアである。普通、匂いを嗅ぎつけて恐ろしい猛獣が集まってくるのだが、集まってきた猛獣達は木々や大岩などの物陰に隠れてシルヴィアを忍び見ていた。それも酷く怯えた様子で。

 

それは、シルヴィアから発せられる覇気、覇王色の覇気を敏感に感じ取っていたためである。獣の本能が、アレに逆らえば殺されると警鐘を鳴らしているのだ。

 

当の本人はそんなつもりは微塵もなくダラダラと歩いているだけなのだが、コルボ山の猛獣達は相対すればノータイムで腹を見せるくらいに怯えていた。

 

「そろそろかな…というか山登るの面倒くさい。桐代〜」

 

私の呼び出しに桐代はノータイムで応じてポンッという音ともに参上した。

急な呼び出しに嫌な顔もしない、嫌な顔どころか恍惚の表情である。私はいつもの事だと気にするのを大分前から諦めている。

 

「お呼びでしょうか」

 

「おんぶ。」

 

「畏まりました」

 

二つ返事で了承し、桐代は私の前で屈んだ。桐代は女性にしては高身長で175cmもあるのに対し私は152cmしかないためである。

私は桐代に倒れこむように抱きついた。半ば飛びついたようなものだが、桐代はビクともせず受け止めると太ももあたりに手を伸ばし軽々しく立ち上がった。

 

「目的地の場所はどこでございましょう?」

 

「うーん、説明するの面倒くさいなぁ…。取り敢えずまっすぐ!」

 

「承知しました、この桐代にお任せください」

 

おっとりした返事とは裏腹に、鬼の膂力を持ってして全力疾走せんと足腰にググッと力を入れているのを悟った私は堪らず制止をかける。

 

「まって!急ぐ必要はないからね!?ゆっくり行こう、ね?」

 

「あらあら、まぁまぁ!それは私との時間を大切に過ごしたいと、そう言っているのですね!私、とても嬉しいです」

 

本当は身の危険を感じ取っただけで先程のはそういう意味を含蓄した発言ではないのだが、訂正するのも可哀想だし面倒くさいので黙っておく。

 

「愛おしいお方…」

 

身の危険、いや貞操の危険もビンビン感じる。桐代は命令に忠実なので暴挙に出ることはないが、仮に自由にしたら最後どうなるか分からない。少し褒めた、感謝するだけで悦に入るあたり本当にヤバいと思う。

 

今後の桐代の対応を考えているとダダンの家が視界に入る。

 

「あ、見えた。あそこの家に向かって」

 

「はい、分かりました」

 

おっとりと返事する桐代。普段はお淑やかな大人の女性にしか見えない彼女。

しかし、私の事となると話が通じなくなるくらいに狂ってしまう。

 

ーー思い出すのはやめよう。良い思い出がない。

 

「到着致しました。あとはどうしますか?」

 

感傷に浸っている内にダダンの家に着いていた。私はもそもそと桐代の背中から降りると指をビシッと指した。

 

「任務ご苦労帰ってよし」

 

「承知しました、また御用とあれば何時であろうとお呼びくださいませ。この桐代喜んで参上致します」

 

少し残念そうに桐代はポンッという音ともに帰って行った。改めてダダンの家を見る。そして、その脇にある謎の建物というか小屋を見る。エースの国、ルフィの国…。小屋の主は見たら一瞬で分かる。しかし小屋の主は留守にしているようだ。

 

見聞色の覇気で近場を探っても彼らの気配は感じ取れなかった。

 

私はふぅ、と一息吐くとダダンの家の扉をドンドンと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドンと玄関から音が響く。タバコを吸いながら新聞を読んでいたダダンは怪訝に顔を歪ませた。

 

(クソガキ共か…いや、ガープの奴かも知れん…そうなると厄介だな。取り敢えず)

 

「あぁ?クソガキ共の悪戯か?ちょっと見てきなドグラ」

 

無難に手下に対応させようとたまたまダダンの近くにいたドグラに声をかけた。

 

「お頭ぁ、人使い荒くニーですか?」

 

「うるせぇッ!」

 

「はいはい分かりやしたよ…。」

 

ドグラが扉を開けるのをゴクリと唾を飲みながら見ていると、扉の向こうに現れたのはガープのような大男の影ではなく小柄の少女だった。

 

「…お前もしかして、シルヴィアか?」

 

「うん。ダダン、皆も久し振りに会えて嬉しいよ」

 

「ふん、心にもねぇ事を…」

 

「何故バレた…」

 

「正直だなオイッ!チッ、お前の目的のエース達はもう此処にはいねぇよ。さっさと出て行きな!」

 

「え?何で?」

 

「外の巫山戯た小屋見ただろ?独立するんだとよ。有難い事だね!あのクソガキ共の世話見なくて済むんだからよ」

 

「何処にいるの?」

 

「あぁ?外に居ねぇってんなら知らないね、アタシが知ってるとでも思ったか?テメェで探しな!…でもまぁ、あのクソガキ共だったら森で殴り合いしてんじゃねのーか?知らねえけど」

 

「…うん、分かった。ありがとうダダン」

 

「うるせぇ、黙って出て行きな」

 

「…あ。もしかしたら後でガープおじいちゃんが此処に来るかも。頑張ってね」

 

「そうかよ………え?ちょっ、シルヴィアァァァァ!?待ってくれ!一緖に話をして待とうじゃないか!?」

 

「お頭、もうシルヴィアの奴いニーです。」

 

「…クソッ!ガープの奴も来てやがるのか!今度は一体何の用だってんだ!」

 

ダダンの悲鳴のような叫びがコルボ山に木霊した。それを少し離れた場所にいた私は聞いていたが無視して森の中を探索した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、開けたスペースのある草原で2人の少年が互いの力を競い合っていた。

 

1人は腕を伸ばして戦い、1人は慌てずそれを対処していき、そしてーー

 

「今日も俺の勝ちだなルフィ」

 

麦わら帽子の少年、ルフィはエースの蹴りを食らって地面に倒れた。しかし、然程ダメージはないのかムクリと体を起こすと地団駄を踏んで悔しがる。

 

「くっそー!何で勝てねぇんだ!」

 

「お前が俺に勝つのは100年はえぇんだよ!まだ1人で熊も狩れねぇくせによ!」

 

「エースだってちょっと前までは無理だったろ!」

 

「うるせぇ!昔の話してんじゃねぇよ!」

 

「図星かぁ?」「うるせぇ!」と、口論は次第に熱を増していき、“何時ものように”殴り合いへと発展した。互いに罵倒しつつ殴る蹴るの応酬である。

 

そんな2人の間に気怠そうな声が割って入る。

 

「ーー2人とも何やってるの?特訓はいいけど喧嘩はダメだよ」

 

声の主は2人の拳を掴んで止めた。エースとルフィは驚いたように拳を握った張本人を見る。目に飛び込んできたのは白。見覚えのある白く透き通るような髪。

 

「シルヴィア!?何でここに?!」

 

「おぉ!姉ちゃん!久し振りだな〜!」

 

「休暇で帰省中。ルフィもエースも久し振り。元気にしてた?」

 

「俺は元気だぞ〜!」

 

「けっ、聞くまでもねぇだろ」

 

「ほぅ、この私に向かってその口の利き方…後悔させてやろう」

 

私は指をクイクイっと動かし挑発する。腰に携えた刀には手を添えず素手だけで対応するつもりだ。

 

「はっ!昔みたいににいくと思うなよ!」

 

対するエースは直ぐに挑発に乗っかり構えを取った。これまでの敗北の屈辱を雪ぐために。

 

「エース!姉ちゃん!どっちも頑張れ〜〜!」

 

ルフィの声援が試合開始の合図となり両者が動き出した。

 

エースとシルヴィアの戦績、126戦中、シルヴィアの全戦全勝。

 

 




シルヴィアの帯刀している刀は昔桐代が侍から奪った刀で、桐代本人もその刀の銘を知らないのでシルヴィアは無銘と呼んでいる。本当は最上大業物だとかそうじゃないとか。



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6.サボ

 

エースの体が宙を舞い、そのまま重力に従ってドサっと落下する。背中を強打し肺が圧迫され苦悶の声を漏らす。

 

戦う意思はあれど、体が言う事を聞かない。仰向けに倒れた状態から立ち上がれない。

 

勝敗は決した。シルヴィアの127勝目である。

 

「ぐっ…くそ…!」

 

「これまでかな。エース強くなったね。」

 

「待て!俺はまだやれる!何を…勝手に決めてやがる…!」

 

エースが必死に起き上がろうとするも出来ない。身を起こすこともままならない。

 

「エース、私が終わらせようと思ったら簡単なんだよ?それをしなかったのは実力を測るため、私がこれまでと言ったら終わりなんだよ」

 

「…テメェ本気じゃなかったのかよ!」

 

「うん、だって私は海軍中将。おじいちゃんと肩を並べる海兵だよ?本気出したらエース死んじゃうし」

 

「はぁ!?ジジィと一緖…?!」

 

「そうだよ。だからね、その程度で海に出たところで、運悪く私の目の前に現れた瞬間に海賊人生が終わりなんだよ。」

 

私は暗に海賊なんぞやめておけと忠告する。それに対してエースは眉をひそめた。

 

「…ジジィに頼まれたな?」

 

図星。ま、バレたところで困るわけでもないし。

 

「まぁ、そりゃねぇ。私が説得なんて面倒くさい事を自主的にする訳ないでしょ」

 

「だろうな」

 

エースの迷いのない返答。それはそれでちょっとムカッとした。私が無気力人間か何かと勘違いしてるんじゃないか?なんか気に入らない。

 

「でも、さっき言った事は本当だよ?相当運が良くなければ捕まるか“死ぬ”。私はエース達にそうなって欲しくない。海兵にならなくてもいい、でも海賊になるのはやめーー」

 

エースがダンっと地面を殴りつけた。私を捉えるエースの目は闘争心ではなく怒りで燃えていた。

 

私は堪らず口を閉ざした。

 

「…うるせぇ!俺は死なねぇ!俺は、俺たちは誰に何を言われようが海に出る!絶対に…“くい”のないように生きるんだよ!」

 

何がエースの琴線に触れたのかは分からない。ただ、私は急変したエースが酷く不安定な様子に見えた。

 

「…エース、なにかあったの?」

 

エースを心配しての一言だった、しかしそれは火に油を注ぐようなものだった。

 

エースは痛む体を無理矢理起こして私の襟首を掴んだ。怒りの色は更に増している。

 

「お前…!何も知らないくせに!」

 

“何も知らないくせに”その言葉は私の心を大きく揺さぶった。ここへ来る前に貰ったマキノの言葉、エースの怒り。

 

私の知らないところで、弟達に何かが起こっていたのだ。

 

何があったのか聞き出さなければならない。だが、酷く喉が渇いて上手く言葉が出せない。

 

いや、私の本心が聞きたくないと拒否しているのかもしれない。聞いてはいけない、知ってはいけない。私の防衛本能がそう訴えかけている。

 

「エース!」

 

ルフィの悲痛な声でハッと我に返る。それはエースも同じだったようでエースは私の襟首をパッと離して私の横を通り過ぎて行った。

 

「……悪りぃ、頭冷やしてくる」

 

「待って!エースどこにーー」

 

今にも壊れそうな雰囲気で森の奥へと消えるエースを追いかけようとした瞬間、服の裾を掴まれる。

 

「姉ちゃん、エースは大丈夫だ。それより、話があるんだ。」

 

普段からは想像出来ないような真剣な表情のルフィ。よく見ると目尻に涙を浮かべている。

 

「…うん、聞かせて。あなた達に何があったのか」

 

未だに心はやめろと訴えかけている。だが、私は知らなくてはならない、彼らの、弟達の姉として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィの慟哭が森の中に響いた。ルフィは嗚咽を漏らしながらも何があったのか、それからどう決意したのか語ってくれた。

 

私はそれを他人事のように相槌を打って聞いていた。

 

「…そっか、サボが…」

 

サボの死。ルフィの口から放たれた話は酷く現実味がなく感じられた。エースと同じクソガキで変に礼儀正しくて、いつも試合と称してエースと一緒に突っかかってきた。その都度軽くあしらっては“どうやったらそんな強くなれるんだ!?”と助言を求めてきたり。

 

エースはまだシルヴィアなんて呼び捨てするけど、サボは私の事を姉ちゃんと呼んでくれていた。最初はエースの姉貴なんて他人行儀だったけど、いつからか自然と姉ちゃんと呼んでくれていた。

 

そんな可愛い弟が、死んだ。

 

「…ひっぐ…姉ちゃん。」

 

「なぁに?」

 

「俺たちは…ひっぐ、海に出るって約束したんだ…」

 

「うん。」

 

「だから…姉ちゃんが止めても俺たちは海賊になる…!」

 

「どうしても?」

 

「なる!!」

 

「…そっか。なら私は海に出て好き勝手してる弟達を見つけたらとっ捕まえなくちゃいけないね。」

 

「姉ちゃん…!へへっ、捕まらねーよーだ!」

 

「お?なんなら今捕まえてあげよう…」

 

にししと笑って胸を張っているルフィの首根っこを掴んで持ち上げる。空中で激しく手足をばたつかせるが私からは逃げられない。

 

「うわー!!?離せーー!!」

 

暫くは悪魔の実の力で腕を伸ばしたりして暴れていたけど遂に力尽きて手足をプラーンとぶら下げた。

 

私はルフィの顔を覗きこんで彼らの姉としてお願いする。

 

「…ルフィ、今は弱くていい。でもいつかは私に捕まらないように強くなって」

 

「言われなくても!!」

 

「なら良かった、これで私も気兼ねなく海兵を全う出来るからね」

 

「俺は海賊王になる!!」

 

「なら私は海軍大将。」

 

「にししっ」

 

「あはははっ」

 

2人で笑いあった、互いに涙の跡は渇いていなかったし、目が充血して目を腫らしていた、それでも2人は笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海が展望出来る崖の上にエースは居た。ただ何もすることなく水平線を眺めて立ち尽くしていた。

 

「エース、やっと見つけた」

 

「…何か用かよ」

 

「ルフィに話は聞いたよ」

 

「だから何だよ」

 

「エースは、どうするの?」

 

「さっきも言った。“くい”のないように生きる」

 

「…そっか。」

 

「……サボからお前に伝言がある」

 

「なんて?」

 

「“海軍に行って会う機会は少なくなったけど、今でも俺は、シルヴィアの事も大事な兄弟だと思ってる。もし海の上で会ったらお手柔らかに頼む”だってさ」

 

「…」

 

「シルヴィア、俺たちはお前を敵に回してでも海に出る。俺はお前より弱い。だけど俺は誰よりも自由に生きるために、今以上に力をつける。お前なんかに捕まってやるか!」

 

「生意気」

 

「なんだとォ!?」

 

「ルフィにも言ったけど、エース達が凄い海賊になるって言うんなら、私は海軍大将。私に出くわしたら素直に諦めるといい」

 

「やなこった!返り討ちにしてやるから覚悟しとけ!」

 

「ふ、実は秘密にしていたが私はあと二段階変身を残している…」

 

「どこの化け物だテメェは!!」

 

「姉に向かってテメェだのお前だの…もう一度試合(教育)をするしかないようだな…」

 

「上等だオラァ!!」

 

結果は言うまでもないがシルヴィアの128勝目となる。

 

 

 




これは彼女の海兵としての姿勢、掲げる正義に大きく影響を与える事になる。

サボの死(生きてるけど)を知らなかったのは任務で忙しかったからです。


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7.掲げる正義

短いですがどうぞ。


「…一週間、早かったな。」

 

「なんじゃシルヴィ、もっとフーシャ村で過ごしたかったのか?」

 

「ううん、私もやる事出来たし。これ以上は此処に留まるつもりはないよ。」

 

「そういえば出航の時ルフィとエースが訳の分からん事を叫んどったな。ありゃあなんじゃ?」

 

「さぁ?私は分かんないや」

 

「そうか…」

 

「…」

 

『姉貴/姉ちゃん!!直ぐに名を上げてやるから手洗って待ってな!!』

 

「…ぷっ…くく。手洗ってどうすんの?洗うのは首でしょ…」

 

「なんじゃ?なんか言ったかシルヴィ?」

 

「ううん、何にも」

 

おじいちゃんは訝しむ顔をしつつも言及はせずに何処かへ行った。経験が活きたな…。

 

というのも以前、私に“何をしていたのか?今日は何を食べた”など数えるとキリがないほどしつこく聞いてきた時期がある。

 

それが一時のものであれば良かったが年がら年中その調子ではさしもの私も怒る。というかキレた。私を思っての事だろうしと自分を納得させて我慢していたが、流石に毎日の私生活全てを開示するような真似を続けていたらストレスが溜まってきた。

 

故に、おじいちゃんがしつこく言及してくる時に限って無視したところ精神的に来たのか質問攻めはやめてくれた。

 

遠回しに部下に確認させているとも噂で聞いたが、私には特に負担がないので気にしてない。

 

「…海賊と海兵かぁ…」

 

日が沈み、夕暮れに染まる海。船尾から臨む光景をぽーっと眺め、ボソッと呟く。

 

船は進み、段々とフーシャ村は遠ざかっていく。村が水平線に飲まれるのを見つめ、考える。

 

私の在り方、掲げる正義とはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして6年後ーー

 

「頑張れよー!!エース〜〜〜!!!」

 

「待ってろすぐに名を上げてやる!!!」

 

エース、出航。

 

その3年後ーー

 

よっしゃ行くぞ!!!海賊王におれはなる!!!」

 

ルフィ、出航。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、シルヴィアはーー

 

「…」

 

「失礼しますシルヴィア中将、お時間です。センゴク元帥より召集がかかってますので……シルヴィア中将?」

 

伝達事項を報告していたシルヴィアの部下の女海兵セラは上司(シルヴィア)の異変を察知して語気を弱めた。セラの視線の先にはーー

 

「…zzz」

 

椅子にどっぷりと腰を据えて爆睡するシルヴィアの姿があった。俯き気味の顔を覗き込んでも起きる様子はない。くーくーと可愛い寝息を立てている。

 

ーー寝顔も可愛い。これで30近くだなんて詐欺です…流石は合法少女…じゃなくて!!起こさなきゃ!!

 

「あ、あの〜シルヴィア中将?」

 

シルヴィア中将の目の前で軽く手を振ってみる。反応なし。頬っぺたを突っついてみる。み、瑞々しい…!

 

「…うぅん」

 

「お、起きた…?」

 

一瞬鬱陶しげに眉を顰めたものの、シルヴィアは目を覚ます様子はなかった。普段優しい上司の魅惑の頬っぺたに無意識に手が伸びる。

 

ぷにぷにぷにぷにぷにぷに…

 

「あらあらお前さん何やってんの?」

 

頬っぺたに没頭していた私は背後から近寄る男の存在に気づかなかった。

 

「うひぃ!?クッ、クザン大将…!?いえ、その、これは違うんです!!ちょっとした出来心で!!」

 

バッとその場から飛び退いて全力でブンブンと手を振って体裁を取り繕う。

 

いや、本当に出来心なんです!いつもは触れがたいシルヴィア中将に触れるチャンスだと私の悪魔が囁いたんです!!それで触って見たら魅惑の頬っぺたでもう止められなくて…だってぷにぷになんですもん!?

 

「出来心?まぁいいか。それよりも、こーんな爆睡しちゃって。誰に似たんだか…。まぁいいや、シルヴィアはおれに任せて、君は行ってよし。お勤めご苦労さん」

 

脳内での必死の弁明は無駄だったらしく、角度的に私の愚行はクザン大将から見えてなかった。今更罪悪感に襲われるも、シルヴィア中将の信頼は失いたくないので私は即座に部屋を出て行く事にする。

 

「はっ!し、失礼します!!」

 

シルヴィア中将の頬っぺた…柔らかかったなぁ…もう一度あの頬っぺたをつつきたい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、シルヴィア起きろ〜。起きないと色んな所触っーー」

 

クザンがノロノロとシルヴィアの胸に手を伸ばし、あと数センチの所で手を引っ込めた。

 

「指の骨折りますよ」

 

理由は私の“黒い”手だ。武装色の覇気を纏った手でクザンさんの伸ばした指をへし折らんと素早く振るった。本気と書いてマジである。

 

「おっとっと…冗談に決まってんだろ?」

 

それをサッと避けられる。余裕綽々なこの感じが毎度の事だがムカつく。(余裕そうに見えるクザンは内心冷や汗をかいています)

 

「それが冗談って言うなら、あなたは年がら年中冗談言ってることになりますね。冗談ばかり言ってると嫌われますよ。」

 

「ちょっとちょっと〜、ここ最近一層辛辣じゃない?」

 

「さぁ?というか話してる場合じゃないですよ。センゴクさんのところに行かないと。」

 

私は深く据えた腰を上げ、正義のコートを纏って廊下へ出る。クザンさんもそれに追随して歩く。

 

大将と中将が並んで歩く、それだけで視線は集まる。すれ違う海兵達はピシッと敬礼していく。それに軽く会釈しながら私達は廊下を進む。視線が集まって少し鬱陶しい。

 

「それにしてもさぁ、さっきまで爆睡してるもんだから君の部下困ってたぜ?えーと、セラちゃんだっけ彼女?」

 

むむ、彼女が起こしに来てくれていたのか。申し訳ない事をしたな。今度謝っておこう。

 

「時間管理はしっかりしてますので問題ないです。というか何で私の部下の名前を把握してるんですか?手を出したら殴りますよ」

 

「肝に命じておくとしよう。」

 

「着きましたね、というかいつまで付いてくるんですか?」

 

「あー、まぁまぁ俺のことは気にすんなって。俺もセンゴクさんに呼ばれるからさ」

 

「?センゴク元帥、シルヴィアです。」

 

私はクザンさんも呼ばれている事に疑問を抱きつつもドアをノックする。

 

センゴク元帥の「入れ」という声を受け、重い扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか…まぁ掛けてくれたまえ。それとクザン、貴様には予定より早く来いと召集をかけたはずだが?」

 

「あれ?そうでしたっけ?まぁ一番大事な場面に間に合ったんだから良しとしましょうよ」

 

「どうした?座れと言うておるじゃろうが。さっさと座らんかい」

 

「オー、サカズキ〜そんなに急かすもんじゃないよォ〜〜シルヴィア君も固まってるじゃないか〜〜」

 

「…大丈夫だ、座れって。取って食われるってワケじゃないからさ」

 

元帥、センゴク。三大将、赤犬、黄猿、青雉。そして、私。あとカウントしていいのか分からないけど山羊1匹。

 

ーーえ?何この状況。

 

「え、あ、はい。」

 

状況把握が儘ならぬまま、クザンさんに促されて4人の前に座る。

 

「シルヴィア中将、我々がこうして集まったのは他でもない、君の意思を聞くためだ」

 

「…大将方が勢揃いということは」

 

ここで大方察する。

 

「そうだ、大将昇格の件についてだ。上層部と我々は君の功績を認め、シルヴィア中将を大将に据えたいと考えている。クザンからの強い推薦もある、他の2人からも反対はない。後は君の意思を聞くだけだ。」

 

4人の視線が全て私へと向けられる。

 

「私が海軍大将…」

 

ーーあの時の私なら、面倒くさがって迷っただろうけど。私は約束を反故にはしない。弟達との約束ならば尚のこと。

 

決断はとうの昔に済ませている。

 

弟達が悪行を重ねないように、重ねても直ぐ捕まえて更生させてやる。ま、海の平和も守る事を前提だけども。

 

「…謹んでお受けしましょう。」

 

今日この日この時を持って海軍大将に白狐が加わり、海軍三大将より海軍四大将となる。

 

 




セラ→シルヴィアの部下。オリキャラです。一応少将

・シルヴィアの大将昇格に対する評価。

センゴク→職務に忠実、実力も折り紙付き。クザンの推薦もある。文句なしに大将昇格は妥当と考える。

サカズキ→悪に対しては甘さがない。しかし、いざという時に非情になれない、疑わしきを罰せずという姿勢がある。反対はしないがあまり快くは思っていない。

ボルサリーノ→基本はセンゴクと同評価。しかし、単純な戦力の増強が嬉しいとかそのくらい。賛成派の1人。

クザン→言わずもがな。


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8.スペード海賊団

「ルーキーにして自然系(ロギア)の能力を持つこの男は放ってはおけません!略奪等の目立った行為は起こしてはいませんが、海賊同士のいざこざでは連戦連勝。今最も勢いのあるルーキーです!!先日も懸賞首の海賊の一団を壊滅させたとの報告が入っております」

 

海軍本部マリンフォードの議事の間にて、1人の男が話題に上がった。その男の名はーー

 

「スペード海賊団、ポートガス・D・エース…」

 

自然系(ロギア)の能力者ともなればルーキーでも能力次第では海軍の脅威となり得る、それ故に議事に参加する将校達も真剣な表情で手配書を睨みつける。

 

「そしてこのルーキーにこのまま勢いに乗って新世界で暴れられるより、王下七武海として召集し飼い慣らす方が得策、というのが上の判断です。幸い居場所は現在特定出来ておりますので、使者を決め次第勧誘に向かう予定です。つきましてはこの議事において使者の選抜をーー」

 

エースに対しての今後の対応を説くブランニューは、将校達が並ぶ議席の中の1人が手を挙げた事で力説していた口を閉じた。

 

「…ブランニュー少佐、少しいいですか?」

 

「シ、シルヴィア大将…何でしょうか?」

 

挙手した人物は海軍大将が1人白狐のシルヴィアである。普段は会議に現れる事のない、大将が会議に参加し、尚且つ手を挙げた事で場の緊張感が高まっていく。

 

将校達の視線は全てシルヴィアに向かい、固唾を飲んでシルヴィアの言葉を待った。ブランニューも大将からの質疑応答である、非常に緊張してシルヴィアの一挙一動を目で追いーー

 

「火拳の勧誘、私が出向く。」

 

「…は?」

 

あまりの突拍子のなさにブランニューは口をあんぐりと開いて間の抜けた顔を晒してしまう。

 

「火拳に関しては全て私が受け持つ。邪魔が入ると面倒だから他の海兵は皆手を引くように、監視も必要ないです。」

 

「…わ、私の一存では図りかねますので至急上に確認を取ってみます…!」

 

「あぁ、その必要はないよ。私がセンゴクさんに直接交渉するから。じゃあ会議の途中で悪いけど私は行きますね。」

 

シルヴィアは手をプラプラと振って議事の間から出て行った。途端に場の緊張感から解放されて将校達は息を吐いた。

 

それと同時に、大将が直接動かせた火拳のエースという海賊の注目度は跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと?シルヴィア君が?」

 

センゴクさんにエース勧誘に私が行って良いかと正直に伝えたところ困惑までとはいかないが微妙な表情をされた。

 

「はい、駄目ですか?」

 

「いや、大将の君が動くような案件ではないと思っただけなのだが、何故 火拳に執着するのだ?」

 

理由は家族だから様子を見に行きたい、であるが馬鹿正直に言えるはずもない。海軍大将が一海賊に思い入れがあるなどあってはいけない。これは私も承知の上である。それでも何とかしてエース勧誘に乗り出したいのだ。

 

「うーん、勘ですかね。放っておく訳にはいかないと私の獣センサーがビンビンです。」

 

頭に耳、お尻に尻尾を生やす。耳はピクピクと動かし、尻尾はピンと立てる。流石の私でも獣娘とかあざといと思ったので普段は仕舞っているがここぞとばかりに主張させる。

 

必死の誤魔化しも虚しく、センゴクさんは更に訝しむような目を向けてきた。

 

「…“D”の男だ。シルヴィア君、奴について何か知ってるのではないのかね?」

 

「“D”に関してはさっぱりですが?」

 

これは事実である。私はDを冠するもの達がどういう者達なのかは知らない。私はキッパリと断言すると、センゴクさんは少しだけ手元のエースに関する資料を一瞥すると溜息を吐いた。

 

「…そうか、まぁいい。火拳の勧誘は君に一任しよう。」

 

取り敢えず許可を貰えた事に安堵し、足早に部屋を出ようとする。扉に手を掛けた所で妙案を思いつく。私は振り返ってセンゴクさんに提案する。

 

「あぁ、センゴクさん。失敗した時は、全員捕縛で構いませんよね?」

 

こうすれば私とエースの関係も誤魔化せるのではないのだろうか?仮に七武海の勧誘に固執したとしても捕縛に乗り出したという事実が良い感じに打ち消してくれるはずだ。

 

それにエースの実力を試したい、というのもある。

 

「あぁ、良い報告を期待しているよ」

 

センゴクさんは私の提案に対して悪い笑みを浮かべて送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)のとある島。

 

「せ、船長ォ〜〜〜!!大変です!!か、海軍の軍艦が一隻こちらに接近してます〜!!!」」

 

エース率いるスペード海賊団は食料や水などの物資を補給するためにとある島に立ち寄った。補給が終わり、出航まで休憩を取って宴会をしていた最中である。見張り役の男が汗水垂らし、切羽詰まった様子で宴会場まで走ってきた。

 

「…なんだと?」

 

長年の勘というのか、体に染み込んでいた酒がスッと急激に抜けていくのを感じる。

 

軍艦引き連れてまで態々俺を捕らえにきたってのか?ありえねェな、何か企んでやがるのか?

 

「やったなエース、海軍に目を付けられたとありゃ賞金首に箔が付くってもんだ!」

 

「ギャハハッ!違ェねェ!!」

 

クルー達はまだ酔っているのか事態の深刻さを飲み込めていない。陽気なクルー達と対照にエースは底冷えする程の嫌な予感を感じ取っていた。

 

「そんな呑気な事言ってる場合じゃねぇよ!!あの軍艦に“大将”が乗ってるんだよォ!!!」

 

それを裏打ちするように、見張りが衝撃の事実を発する。

 

「大将だとォ!?」

 

エースの驚愕の声が響いた瞬間、宴会場のど真ん中に正義と刻まれたコートを着た女性が現れる。騒がしかった宴会場は唖然とするクルーで埋め尽くされ、空気が凍りつく。

 

「ーーあなた達がスペード海賊団であってる?結構人数多いね」

 

「…なっ!?い、いつの間に!?」

 

「た、大将白狐…!?」

 

「まぁいいや。えー、海軍の正義の下にあなたたちを捕縛する。お前らの航海はここで終わりだ、ってやつ?」

 

酷く間の抜けた声が凍りついた宴会場に響き渡る。

 

「ふ、ふざけんなァ!!この野郎ッ!!」

 

逆上したクルーが手元の剣を抜刀してシルヴィアに斬りかかった。

 

「おい馬鹿!!!手を出すなァ!!」

 

エースが何もするなと叫ぶが“既に”遅かった。

 

「…いぎぃっ!?ぐぁぁぁあああ!?」

 

クルーの体は袈裟斬りにされて地面に崩れ落ちた。

 

「無駄な抵抗はしないで。手元が狂って斬り殺してしまうかもしれないから。」

 

ーーいつの間に剣を抜きやがった!?

 

シルヴィアが剣に着いた血を振り払って宣告する。仲間が重傷を負った、あるいはシルヴィアの剣技を目の当たりにしてクルー達の酔いは醒め、赤かった顔は色を変えて青褪めた。

 

「シルヴィア!!テメェッ!!」

 

エースが激昂し、シルヴィアの襟首を掴み上げた。それに意に介さずシルヴィアはニコリとエースに笑いかけた。

 

「やぁエース。久しぶりに試合でもしようよ。私の連勝記録を止められるかな?」

 

「お前らは手ェだすなよ…!!」

 

エースはシルヴィアの襟首を乱暴に離して突き飛ばすと体を燃え上がらせた。そして、右腕を突き出し手を構えて力を込め、解放する。

 

「“火拳”!!!」

 

海賊船を4〜5船を海に沈める程の威力も持つ豪炎がシルヴィアに殺到する。シルヴィアは特に動く事なく棒立ちしたまま豪炎に直撃する。灼熱の炎がシルヴィアを包み囂々と燃え盛る。

 

「やったか!?」

 

遠巻きに見ていたクルーの1人が叫んだ。盛大なフラグを。

 

「ーーいや、全然?」

 

豪炎の中に居たはずのシルヴィアはフラグを立てたクルーの腹に剣を突き立てていた。エースを含め、囲むように見ていたクルー達の誰もシルヴィアが移動した事を知覚出来なかった。

 

「あがっ…」

 

シルヴィアは剣を引き抜き再びエースに向き直った。

 

「やめろォッ!!仲間に手を出すな!!」

 

「仲間が大事なら守ってみせて。あなたの実力を私に見せて」

 

「ッッッ!!」

 

全身を炎に変化させ、エースはシルヴィアへ襲いかかった。火力の手加減はなく、迸る業火が島の森に引火して燃え盛る。

 

島一つを焼き払う苛烈な姉弟喧嘩が今始まる。

 




シルヴィアから漂う強キャラ感。次回シルヴィアの能力解放です。

捕捉するとシルヴィアが大将になったのはエース出航後、ルフィ出航前です。


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9.七武海

遅くなりました。9話です。


シルヴィアとエース、2人の攻防が進むにつれ、スペード海賊団のクルー達は戦場から離れて2人の戦いを見ていた。近くにいると船長であるエースが本気を出さないと知っているからである。それは正解で、エースも本領を発揮し、猛炎を撒き散らし攻撃の苛烈さを増して行く。

 

「オラァ!!」

 

それでもなお、シルヴィアに攻撃は届かない。猛攻するエースと対照に、シルヴィアは攻撃に関して消極的だった。数回手にする刀を振っただけで自然系(ロギア)のエースには通用しなかった。

 

「うん、攻撃力は上々…、自然系(ロギア)だから攻撃もただ切るだけじゃあ当たらないか…。うんうん、これなら偉大なる航路(グランドライン)は余裕そうだね。」

 

観察するように、品定めするに姉貴は俺の動きを見てブツブツ感想を述べ、その表情は余裕に満ち溢れていた。

 

「じゃあ、これはどうかな?」

 

姉貴は剣を納刀すると何を血迷ったか素手で殴り掛かってきた。俺はいつものように受けに回って次の攻撃に備えるべく体を炎に変える。

 

姉貴の拳が眼前に迫り、俺の体をすり抜けーー

 

「ブベッ!?」

 

なかった。姉貴の拳は吸い込まれるように俺の右頬を捉え、碌な受け身も取れずに地面へとめり込んだ。

 

馬鹿な…!!俺は自然系(ロギア)だぞ!?何故殴れる…!?

 

「おー、まだ覇気を知らないとなると新世界は辛いねぇ…」

 

ハキ…!?俺がやられたのそいつせいか!?

 

「おい!“ハキ”ってのはなんだ!?」

 

「んー、秘密。というか知る必要ないヨネ。ここで捕まる訳だし」

 

「捕まってたまるか!!“火拳”ッ!!」

 

もはや何度放ったか分からない、自分の異名ともなるほどの技。右手から放たれた火拳は姉貴へと真っ直ぐ進み、直撃した。

 

「外れ。私の姿、ちゃんと見えてる?私は“此処”だよ?」

 

いや、姉貴に直撃したはずだった。しかし、直撃した姉貴は煙のように掻き消えて気付けば姉貴は俺の後ろに立っている。これで一体何度目だ…!?

 

「クソ…ッ!!」

 

落ち着け…何か種があるはずだ。直撃して消えて背後に現れるってことは、自然系(ロギア)って線もねェはずだ。それじゃあ一体何だってんだ…?

 

「ん?もうギブアップ?」

 

姉貴が俺の周りをクルクルと回って「ん?ん〜?」と非常にウザい煽りを入れてくる。

 

「んなわけあるかァ!!“炎戒”!!」

 

煽る姉貴を振り払うように、俺の周囲を焼き尽くすべく炎を展開した。業火が地を這うように広がり、それに姉貴も巻き込まれるも先程と同じように掻き消えーー

 

「粘るねぇ…あちっ!?」

 

「ん?」

 

再び現れた姉貴が苦痛の表情を浮かべて手に息を吹きかけていた。

 

「あ」

 

姉貴は一頻り手を振った後に俺の微妙な視線で自分の失態に気づいたのか短く声を漏らした。

 

そういう事かよ…!!よく分からねェが、あの姉貴は偽物で本物はこの近くに居る…ここら一帯焼き払ってやれば当たるっぽいな。なら話は簡単だ!!

 

「エ、エース?島が燃え尽きちゃうからやめようね?ね?」

 

「やなこった!!“蛍火”」

 

その名の通り、蛍のような淡い光を放つ小さな炎が無作為にばら撒かれ、姉貴はこの戦いにおいて初めて焦りを見せる。

 

「ちょ、待って…」

 

「待てと言われて待つかよ…“火達磨”ァ!!」

 

俺は合図を出し、蛍火を一斉に起爆させる。視界の全てを爆炎が占領する。チカチカと点滅するような眩しさが通り過ぎ、炎の勢いが弱まった頃合いに、姉貴の姿を探す。

 

 

 

 

 

しかし、立ち上がる黒煙を払った先には姉貴はいなかった。

 

「…いねェ!?どこへいっーー」

 

「ーー死ぬ覚悟は出来ていますか?」

 

ゾクリ、背筋が凍るような殺意が上から降ってきた。自然系(ロギア)だから避ける必要はない、はずなのに体が勝手に動いた。頭上に襲来する剣は避けなければならないと本能が告げたのだ。

 

「う、うぉぉぉぉぉぉぉおおッ!??」

 

鋭く振るわれる剣は刀身が黒く変色していた。そしてその剣からは途轍もなく嫌な感じがする。海楼石と似た感覚ではないが、同等の危険度があるのだろうか。それとも姉貴の言う“ハキ”ってやつなのか…!?

 

それにあの剣…姉貴のやつに似てるな…っぶね!?

 

「あらあら、小賢しい虫ですね。さっさと潰されてくださいませ」

 

再び剣が鋭く振るわれる。それも正確に(タマ)を取りに来ている。もはや奴が振り回す剣が死神の鎌のように見えた。

 

「誰だお前は!?」

 

剣を観察していて反応が遅れたが、やっとここで剣の持ち主に目を移す。地面にまで届きそうな長髪、見たことのない意匠の服、ハイライトのない暗い目。

 

やはりおかしい、こんな奴は島にいるはずがない。島に居たのは俺とあいつら(クルー)、それと姉貴だけのはず…。少なくとも海兵ではないはず…。

 

「シルヴィア様の忠実なる下僕、桐代と申します。以後宜しくお願いしますわ…と言いたいところですが、すぐ死ぬ運命にある羽虫には必要のないことです」

 

「姉貴の知り合い?いやそれよりも何故俺を狙う!?」

 

「愚問です、貴方は私の主に火傷を負わせたのです。死で償ってもなお足りない罪を犯したのです」

 

「は?」

 

「許せない…私の主…火傷…あぁ!!許されない事です!!お覚悟、どうぞ…」

 

相対してから常に剣の柄に置いていた手がわなわなと震え、暗い目はより一層濁って禍々しい気配を放ち始める。

 

ここまで様々な悪意に晒されて生きて来たが、ここまで明確でヘドロのようにドロドロと絡みつくような殺気を浴びたことは無かった。

 

奴が剣を抜刀した。剣から銀の輝きが失われ、鈍く光る黒色に染まる。それだけで心臓を鷲掴みにされたような、一気に寿命が削り取られていく、そんな感覚に襲われて脂汗が止まらない。

 

「その腹を捌いて五臓六腑を引きずり出して燃やし尽くしてあげましょう。話はそれからです…」

 

ゆらゆらと幽鬼のように歩み寄る桐代、これまでは剣など恐るるに足らずと鼻で笑っていた。そして今日、姉貴に素手で殴られ、奴の剣を我武者羅で避けた。少し前の余裕や自身はとうの昔に崩れて消えた。

 

先程までは遊びだったと思えるほどの殺気。少しでも動けば手足のいずれかが斬り飛ばされるビジョンが脳裏を過る。

 

どうすれば切り抜けられる…この女、隙がまるでない…!!どうする…!?

 

「誅伐執行…」

 

何の策も練られず、桐代は目の前に迫り、手にした剣を天高く掲げーー

 

「桐代!!すとっぷ!!ふりーず!かむばっく!!」

 

「はい、お呼びでしょうか?」

 

姉貴の声が響くと同時に桐代は即座に納刀して姉貴の側へと駆け寄っていた。それも喜色満面で。

 

「私は守ってとしか命令してない。攻撃してなんて言ってないよ」

 

「私ったらなんて恥ずかしい…。至らぬ私をお許しください」

 

「はいはい許す許す。それとエースは私の弟だから殺しちゃ駄目。分かった?」

 

「…ご命令とあらば、この桐代、例えそれがどんなに我慢し難い事であっても従います…」

 

深々と礼をしながらも桐代は俺に殺意を浴びせ続けているので生きた心地がしない。あの女ヤバすぎるだろ…

 

「…さて、やろうか。さっきのはちょっと焦ったよ」

 

キリっとした表情で仕切り直す姉貴。薄々気づいてはいたが、先程までのやり取りでほぼ確信する。

 

「…なぁ姉貴、本当は俺を捕まえる気ないだろ?」

 

確証を得るために姉貴に質問すれば特に驚く様子もなく構えを解いて笑った。

 

「あー、バレた?」

 

「殺しちゃ駄目とか言ってる時点でバレバレだっつーの。それに戦いも見に回って碌な攻撃してこねェし、最初っからソイツけしかければいい話だったろ。」

 

「まー、エースの力を試したかったからね。結果は概ね良かったとは思うよ?」

 

姉貴は若干言葉を濁したように言った。

 

「…はっきり言えよ。俺は弱ェんだろ?」

 

「んー、エースは今のルーキーでは一番実力あると思うよ。このまま行けば新世界でもそこそこは通用するんじゃないかな?四皇には逆立ちしても敵わないと思うけど」

 

「…」

 

四皇、新世界の海を統べる4人の大海賊。新世界に入ってそいつらを倒せば名を上げられる。漠然とした目標だった。ルーキーの俺らには早ェ目標だなんて笑ってた。だが俺たちなら出来る、そう思ってこの海を渡ってきた。

 

しかし今となって思う、本当に俺たちは出来るのか…?

 

「海の広さを知ったエースに提案があるんだけど」

 

俯いていた顔を上げて姉貴を見る。表情は柔らかく、少し笑っているように見えた。

 

「…あんだよ」

 

馬鹿にされているように思えたのでぶっきらぼうに返事をした。

 

姉貴は俺の反応を楽しんでいるように見えた。そして、

 

「ーーエース、七武海にならない?」

 

「…は?」

 

予想だにしない提案に、俺は呆然と声を漏らした。




姉弟喧嘩にママが出てきた。(娘贔屓)
シルヴィアは幼少期から能力をエース達に見せていません。能ある鷹は爪を隠す、出来る女だから…ドヤァ(油断して火傷した)

シルヴィアの能力について補足。
・エースの攻撃が当たらず搔き消える→視覚を惑わす(幻覚)
・クルーの重傷→痛覚を弄る&幻覚でリアルに重傷負ったようにみせた。実際は怪我してない。痛みで気絶してるだけ

痛覚に関しては対象との接触が必要。物を介してでもよい(棒きれでも可)


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10.エース覇気を知る

おだっちによる公式のエース生存if√。何故そうならなかったんだ…(無念)。エースの死がきっかけでルフィやサボの強化や魅力があるんだとは思いますが…無念…。

それでは10話です。


ーー海軍本部ーー

 

「ーーなんだと?直ぐには決められない?」

 

「えぇ、適当に制圧してから話し合いをしましたが、時間が欲しいと言うので」

 

「解放したのか…?」

 

「はい、連絡は伝書バットを寄越すとの事です。」

 

迂闊としか言えない対応に顔を覆う。

 

「…逃げられたな、恐らく七武海勧誘は蹴る。体良く逃げる口実を作ったのだろう…」

 

「まぁ、まだ決まったわけではないですし。取り敢えず私は寝ます。久々に調きょーーコホン、運動したので」

 

「ん…?まぁいい、ご苦労だったなシルヴィア君」

 

何かシルヴィアの口からトンデモナイ言葉が聞こえた気がするが気のせいだろう。疲労が溜まっているようなのでこれ以上引き留めるのも悪い。

 

「あ、はい。では失礼しました」

 

シルヴィアはテクテクと足早に部屋を出て行った。おそらくいち早くダラけるためだろう。

 

「はぁ…五老星になんと報告するべきか…大将が出向いたというのに逃げられたなどあってはならん。」

 

しかし任務遂行に余念がないシルヴィアにしては何かが引っかかる報告だった。普段なら手紙など面倒な手間をかけずに連行するというのに、逃走するのが目に見えている案を飲んだというのか…

 

彼女に限ってそれはないと思うが。

 

「…まずは火拳からの伝書バットを待つ他ないか…」

 

五老星への説明を熟考しながらガープの置いていった煎餅に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーエース、七武海にならない?」

 

「は?」

 

うわ、露骨に何言ってんだコイツ?みたいな顔された。いや大体予想はついてたけど、ここまで露骨な呆れ顔で見られるとは…!!

 

でも私はめげんぞ。

 

「…だから、王下七武海。知ってるよね?」

 

「あぁ、知ってる。海軍お抱えの海賊だろ?」

 

「そうそう。七武海になれば政府公認で海を航海出来る権限がーー」

 

「断る、海軍の犬なんざお断りだ。」

 

海軍の犬って…あの海賊たちは犬なんて可愛い気のある奴らじゃないよ。狂犬よ狂犬。下手すると噛み付いてくるし。

 

ま、エースの事だから断るのは知ってた。

 

「…デスヨネー。そう言うと思ってた。」

 

「なら誘うんじゃねぇよ。突然変な事言うから呆れたぜ」

 

「念のためってやつ?ま、なってくれればおーけー、駄目なら予想通り。しかし私の予想は外れないな、やはり出来る女は違う…」

 

私の勘は百発百中。ついでに言うと嫌な予感も百発百中。ま、まぁ…メリットとデメリットを差し引きしたらメリットの方が多いから、やはり私は出来る女…

 

「…毎度自画自賛してるけどよ、空しくねェのかそれ?」

 

「ない。事実だから」ムフー

 

ん?なんだエース。その可哀想な物を見る目は?なぜ私を捉えている?

 

まるで分からないな。

 

「…なぁ、姉貴。一つ教えてくれ。」

 

「なに?」

 

「俺を殴ったよな、どうやったんだ?」

 

ふーん、やっぱり気になるかー。でもなぁ…姉に対してその不遜な態度は改めてねばなるまい。

 

「いずれ分かる、って突き放しても良いんだけどなぁ…。エースがそれ相応の礼儀と態度を示してくれれば私の口も滑りが良くなるかもなぁ…なんて、ねぇ?」

 

ほれほれ、交渉材料皆無の君には私に頭を下げる他ないのだよ?んん〜?

 

「…ぐっ…!お、お願いします…、教えやがれ下さい…!!」

 

私の意図に気づいたエースがギリギリと歯軋りしながら唸り声のように喉を震わせた。

 

私が期待していたリアクションどうも。それではおかわり。

 

「ん?聞こえないな?」

 

「お、おおおお教えやがれ!!………下さいッ…!!」

 

面白過ぎる。もう少し遊んでいたいけど、これ以上はエースの血管がプッツンしかけない。十分楽しめたし、教えてしんぜよう。

 

「ま、妥協点かな。いいよ覇気っていうのはねーー」

 

 

ーー少女(アラサー)説明中

 

 

 

 

 

 

 

「ーーそんなものがあったのか…!?」

 

前半の海で覇気使いなんて早々いないし、知る機会ないよね。やはりというか当然のごとくエースは覇気に関して無知だった。

 

「ま、覇気は一応誰にでも素養はあるけど簡単に習得出来るものじゃないし。前半の海だったら自然系(ロギア)のエースが困ることは少ないと思うけど。油断してると死ぬのは間違いないね。前半の海ほど新世界は甘くない」

 

覇気は万人が持つ素養であるだが特殊な訓練を積まなきゃ習得出来ない。中でも覇王色の覇気は異質で数百万人に1人が持つと言われる。

 

そして、新世界では能力を過信した自然系(ロギア)ほど早死にする。理由は言わずもがな。

 

「武装色の覇気か…」

 

「ちなみに私が止めなかったら桐代の刀でさっくりと逝ってたね。スパッと」

 

桐代ヤル気満々だったからね。武神怪鬼の名は伊達ではなく、戦闘のエキスパートである桐代は他の追随を許さない覇気の練度を誇っている。九蛇の戦士にすら勝る覇気使いなのだ。

 

そんな桐代の刀で斬られたとあれば斬られた事に気付かずにあの世行きである。

 

「やっぱりあの女も使えるのかよ…」

 

桐代が大分トラウマなのかエースは苦虫潰したような顔で呻いた。

 

「ま、姉として忠告しておくけど。覇気使いに限らず回避っていう選択肢を念頭に置いておくこと。分かった?」

 

エースは勘がいいから覇気で攻撃されたら野生の勘を発揮して避けるとは思うけど。別に逃げ腰になれと言っている訳ではない、避けるのも立派な戦法だ。自然系(ロギア)になってかエースは回避という概念が薄いように感じた。

 

エースの顔を覗き込んで武装色の覇気を纏わせ鼻を突っついた。

 

ほれほれー、しっかりと戒めろー

 

「い、痛ェ!?…分かった!分かったから…離れろ!!」

 

肩を掴まれ強引に突き飛ばされる。危うく転んで尻餅をつくところだった…。

 

ほう…姉に対してこの仕打ち。そうかそうか、君はそういう奴だったんだなエース君。

 

「あ…す、すまん!!つい…」

 

「…エース君。ここで一つ、私が覇気の特訓をつけてあげよう。」

 

「え?」

 

「見聞色の覇気。これの特訓をつけてやろう。まずは視覚を奪って…」

 

エースに目隠しするように両手を翳して視覚を奪う。物理的にではなく、能力によって。そのため翳した両手を離してもエースには何にも見えてない。

 

「うわ!?なんだ!?真っ暗だ!!何しやがった姉貴ーーぐぇ!?」

 

「見聞色の覇気が習得出来れば視覚を絶っても敵を把握出来るし相手の攻撃も読める。その習得方法は…目隠しをして私の攻撃を避ける事。ま、私が今適当に考えた特訓方法だけど。」

 

さて、特訓と称した調きょーーゲフンゲフン。教育を始めようか。

 

「はぁ!?そんなの無理に決まってーーうわらばっ!?」

 

無防備に喚き散らすエースの腹を武装色の覇気を纏わせた腕で殴る。エース、愛の鞭なのだ…決して楽しんでやってるわけじゃないんだ…ホントだよー(棒読み)

 

早々に根をあげたエース君。アドバイスをあげよう。

 

考えるな(Don't think)感じろ(Feel)

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「ふはははははは!!これが終わったら武装色の覇気の特訓だ!!」

 

この後滅茶苦茶特訓した。

 

 




瀕死のエースを尻目にシルヴィアはホクホク顔で本部に帰投したとさ。ちゃんちゃん。


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11.クロッゾ海賊団

最近多忙にて更新が出来なかったの巻。本当に申し訳ない。

ではでは、11話です。11話はシルヴィア中将昇格の功績となったクロッゾ海賊団についてです。どうぞー


 

ーーシルヴィアが中将になる前ーー

 

 

「ーーおぉ、センゴク。なんじゃ新世界で大暴れしとる馬鹿がいるらしいの?わしが沈めてやるぞ?」

 

報告書に目を通して大きく溜息をついた矢先、更に大きく溜息をつきたくなる馬鹿(ガープ)が部屋に入ってきて報告書を奪い取っていった。

 

ガープは備え付けの煎餅を勝手にバリバリと頬張りながらどかっとソファに腰を下ろした。咀嚼と共に食べカスがボロボロと床に落ちる。いつもなら怒鳴っているところだが苛立ちを抑える。

 

「…お前は成果と被害が釣り合わんから大人しくしておけ、といつもなら言っているところだが…」

 

「んん?珍しく歯切れが悪いのぉ、それほど厄介な奴なのかコイツは」

 

ガープにクロッゾ海賊団の資料を追加で手渡す。主に被害報告や構成員の懸賞金を纏め上げたものだが、簡潔にまとめられたものなので馬鹿には丁度いいだろう。

 

「ボロボロの実の腐食人間だそうだ。奴はその能力を使って航海途中に立ち寄った街を既に5つ壊滅させ海軍支部の駐屯部隊も全滅だそうだ」

 

クロッゾが通った後は草一本残らない、とまで言われている。しかもクロッゾは捕らえた住民を拷問にかけて殺す、またはヒューマンショップに売り捌いているというのだからなお度し難い海賊だった。

 

「街を壊滅か…若造めが…!!」

 

ガープが資料を破りさり勢い良く立ち上がると大股で外へ歩き出した。

 

「待てガープ!!今回は貴様の出番はない!」

 

「なんだと!?」

 

「今回は…任務から帰投中のシルヴィア君に任せる。」

 

私がそう言った瞬間にガープは体をぐるりと180度回転させ、口をあんぐり開けていた。

 

「…本気か?」

 

「私とて少将を5億の賞金首にあてるなど気が狂ったとしか思えんがな…彼女を少将で止まらせておくべきではない」

 

「わしが言っておるのはそういうことじゃない!!ワシのシルヴィが怪我したらどうする!?責任取れるのか!?」

 

ガープが襟首を掴んで抗議してくるが、私は意見を変えるつもりはない。彼女には機会を可能な限り与えていく。

 

「責任は取る、私が指令を出したのだから当然だ。それよりもいいのか?貴様の愛娘の昇格のチャンスだぞ?」

 

「ぬ…ぐぅ…!!」

 

昇格をチラつかせれば承諾すると思ったが存外に渋るガープ。仕方がないので此方も最大限の譲歩をすることにした。

 

「特別にお前もシルヴィア君の討伐任務を観に行く事を許可する。だが邪魔はするなよ?お前が手を貸したとあれば昇格の話はなしだ」

 

「ぐ…!!わしは行くぞセンゴク!!」

 

コイツは愛娘の事になると扱い易くて助かる。思わずニヤリとしてしまうのも仕方がないことだろう。

 

「あぁ、勝手にするがいい。だが、分かっているな?」

 

「分かっとる!!」

 

ガープは乱雑に扉を殴り開けて出て行った。当然扉は破壊され、修理は免れない。

 

ふむ、奴の給料から天引きしておくか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍支部の視察を終えた私に電伝虫を通してセンゴク元帥から指令が下る。それは帰路につく船の進行方向を大きく変えて、自由の限りを尽くす海賊団を殲滅しろ、というものだった。

 

「分かりました。進路を変更し、クロッゾ海賊団の制圧に向かいます。えぇ、生死は問わず…ですね。了解しました。」

 

『任務終わりで疲れているかもしれんのにすまないな。これは私から君に送る特命だ、身の危険を感じたら撤退してもかまわん』

 

確か船長は5億の賞金首だっけ?まぁ、今聞いた悪行を聞く限りではもっと上がるだろうな。私が捕まえなければ。賞金が上がるまでもなく私が捕まえておしまいにしてやろう。

 

「あー、はい。分かりました。では、おーばー」

 

「シルヴィア少将…」

 

連絡を隠れて聞いていたのであろう部下のセラちゃんである。彼女は直接私が訓練兵の中からスカウトした海兵で潜在能力(ポテンシャル)はピカイチ…のはず。本人は気づいてないけど。常にオドオドしてるし、可愛いものです。

 

取り敢えず、ナイスタイミングと言っておこう。

 

「おーセラちゃん良いところに、総員に戦闘準備と伝えておいてくれない?まぁ、出るのは私だけだけど、一応ね。南西の島を襲撃してる海賊団制圧してくるから、皆んなには捕縛だけお願いするね」

 

部下の皆んなが相手するには荷が重い。当然打って出るのは私と桐代だけだ。

 

「そんな!シルヴィア少将だけ出撃するなんて…わ、私も行きます!!」

 

恐らく彼女は勇気を振り絞って懇願したのだろう。私一人で事足りるし必要はないのだが、彼女の勇気を不意にはしたくない。

 

「…セラちゃんは…見聞色の覇気を修めてたっけ?」

 

「は、はい!」

 

「なら、ついて来ても大丈夫かな。…うん、おいで」

 

見聞色の覇気を修めていれば私を見失う事もないだろうし。大丈夫かな。

 

「分かりました!」

 

嬉しそうに笑う彼女を引き連れ、甲板に上がる。

 

軍艦の航海に従事していた海兵達は動きを止め、敬礼する。それを確認してから私は宣言する。

 

「総員戦闘準備!!目標は南西に位置する島を襲撃しているクロッゾ海賊団だ、正義の名の下に奴らを捕らえる!」

 

「「「「「はっ!!」」」」

 

しかし…こういう口上を述べるっていうのは恥ずかしいなぁ。部下を鼓舞する意味では必要な事なのかもしれないけどさぁ…。やだなぁ…。

 

シルヴィアの愚痴は潮風に消える。そして軍艦は航路を変え、南西へと進む。

 




はい、クロッゾ海賊団船長のクロッゾさん。未だ一言も発してないけど、モデルはSCPで有名なオールドマンです。性格も人を痛ぶりながら殺すというイカレ具合です。仕出かした悪行を加味するに7億は超えるであろう危険人物さんです。


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12.腐蝕する者

今回はちょい長めです。
クロッゾな笑い声をボロロロロロに変更しました。ワンピース特有の特徴的な笑い声ですな。


「総員甲板にて待機、私とセラ准将が制圧に向かう。目標であるクロッゾを捕縛した後、信号を送る。受信次第諸君らも島へと上陸しろ。以上だ」

 

クロッゾ海賊団が暴れているという島に辿り着き、軍艦を港に停泊させる。

 

既に港は壊滅しており、街は腐り落ちて異臭を漂わせていた。住民の声は一切聞こえない。逃げたか殺されたか、攫われたか、いずれにしろ許せる所業ではない。

 

シルヴィア少将は見るも無惨な港を一瞥すると凛とした声で指令を出した。

 

「「「「はっ!」」」」

 

軍艦に乗る海兵全員が敬礼を持ってシルヴィア少将を送り出す。

 

「さて、先陣を切るぞセラ。」

 

この町の被害を見るに恐ろしく強い能力者がいるというのに、シルヴィア少将はいつもと変わらない様子で軍艦を降りた。

 

「はい!」

 

私から願い出た手前退く訳にもいかないし、シルヴィア少将の期待を裏からような事はあってはならない。私は覚悟を決めてシルヴィア少将の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の認識が甘かったのだと思い知らされる。おおよそ予想していた海賊行為はひどく甘いものだったのだ、と。軽い覚悟で付いてきたしまった事を後悔した。

 

「なに…これ…」

 

かつては盛況に栄えていた町は、もはや見る影もないほどに腐っていた。古くも情緒のある軒並みは腐り落ち、瓦礫の屑が散開している。

 

そして、地を埋め尽くす町民の遺骸。辛うじて息のある者は苦痛に身を焼かれながら地を這っている。

 

「…ぃた…い…」

 

「…こ…ろ……く…れ…」

 

肢体を欠損し、肌は爛れてずり落ちてなお、死ねない町民達は地獄のような苦しみから逃れようと地面をのたうちまわっている。

 

見聞色の覇気は多くの苦しみに喘ぐ声を私に届ける。それら全て脆弱でか細い声であった。命が燃え尽きかけるその瞬間に発するような。

 

「…た、助けなくちゃーー」

 

予め用意していた医療器具をバックパックから取り出そうとした手を静かに止められる。

 

「よせ」

 

その手の持ち主を見上げてみれば、シルヴィア少将は普段の柔和な表情からは考えられないような厳格な表情で私を見つめていた。

 

「な、なんでですか!?今すぐ治療すればまだ…」

 

「無駄だ、もはや助からない。クロッゾが死なないように拷問したのだろう、内臓が腐っている。それだけならまだしも生存に必要な臓器が悉く腐蝕されている。それを治療する技術はない。」

 

「そんな…」

 

「私たちが出来ることは苦痛から解放してあげることだけ。」

 

シルヴィア少将はスラリと刀を抜刀すると躊躇なく町民の胸元に狙いを定め刀を引き、淀みなく刺突する。

 

私は、その全てを見るまでもなく目を逸らした。否、全てを受け入れられず、目を閉じた。

 

町民の最後が見たくないから閉じた、あの優しいシルヴィア少将がここまで躊躇なく人を殺してしまうのを信じたくないから目を閉じた。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…これが現実のはずがない。

 

目を閉じ続ける私の耳には断続的に町民達の死ぬ間際に漏らす呻き声が聞こえる。

 

「…ぁぐっ……ぁりが…と…う…」

 

「…っ!!」

 

それは、断末魔の悲鳴でも、呪詛でもなく、ただ只管に感謝する声であった。

 

そして数分もしないうちに見聞色の覇気が声を拾えなくなった。

 

「…セラ、目を開けて。弔いの火は貴方が」

 

シルヴィア少将の声が耳元で響く。パチパチと燃える音も聞こえる。恐る恐る目を開けて、直ぐに閉じた。

 

「…うぅ…!」

 

数瞬の瞬きにて捉えた光景に、耐えられなかった。胃の中の物が迫り上がり酷い嘔吐感に襲われる。

 

「セラ、決して人の死に慣れるなとは言ってない。でも今は目を開けて。これはきっと貴方に必要な事だから」

 

「…っ…分かりました…」

 

シルヴィア少将から火種を貰い受け、遺骸を集め寄せた山へそっと投げる。腐敗した遺骸の山はガスに引火して爆発するように燃え盛り、遺骸は灰へと形を変える。

 

「セラ、町民のためにもクロッゾは必ず捕らえるよ」

 

「…はい」

 

この惨劇を生み出した元凶、腐蝕人間クロッゾ…必ず報いを受けさせる。私はそう強く胸に刻みつける。

 

そして私は、今も燃え盛る死の山の先、少し丘のように隆起した大地の上に1人の男が此方を見ているのを見つける。

 

「ーーあぁ?なんだァ?俺のおもちゃを燃やしたのはどこのどいつだァ!?」

 

その男は顔を歪め、激昂した。私は一瞬奴の言っていることが理解出来なかった。おもちゃ?この町の人々が?

 

「お前がクロッゾか?」

 

隣に立つシルヴィア少将が底冷えするような冷たい声を発していた。

 

「あァ、いかにも。そういうテメェは…海軍将校か?」

 

「海軍の正義の下、貴様を捕縛する。」

 

「ボロッ!ボロロロロロォッ!!やれるもんならやってみなァ!!」

 

狂気的な笑い声と共に、クロッゾの周囲の空気が変わる。クロッゾの立つ大地はドロドロに溶け始める。

 

「セラ、貴方は下がってて。これは命令。」

 

クロッゾの狂気に飲まれかけていた私をシルヴィア少将が呼び覚ます。

 

「でも…いえ、分かりました…ご武運を!!」

 

共に戦っても足手まといになるのは間違いない。私なんかが介入できる余地はない。私が出来るのは戦況を見つめるだけ。

 

自分でも情けないと思うけど、最良の選択肢を選ばなくてはならないことくらい分かる。

 

シルヴィア少将、どうか無事に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロッゾは腐蝕を齎らす手でシルヴィアの体を触れる。しかし、シルヴィアの体は煙のように搔き消え、クロッゾは怪訝そうに眉を顰めた。

 

「こりゃァ幻覚か?テメェ、ワノクニの忍者か?気味が悪ぃ…」

 

「ワノクニ出身ではないしお前に言われたくない。その能力、危険極まりない。お前は必ずここで捕らえる」

 

「捕らえるだァ?錠でもかけて俺を檻に閉じ込めようってか?ハッ、海楼石の錠だろうが腐り落としてやるよ!!」

 

クロッゾは自信満々にそう言い放つと同時にシルヴィアに襲いかかった。

 

「ハッタリだ」

 

私は平静さを欠くことなくクロッゾの攻撃を幻覚を用いて捌いた。海楼石の錠を腐蝕させるのは不可能だ。触れずに能力で破壊できる、という可能性はあるが、仮に両手に嵌めたとしたら能力者は何も出来ない。

 

「そいつはどうかなァ?」

 

意味深に笑うクロッゾ。例え、本当に破壊できる術を持っていたとしても関係がない。

 

「まぁ、海楼石の錠を使うのはお前の意識を刈り取ってからだ」

 

意識がなければ能力は正確に行使出来ないだろう。海楼石の錠の出番はそれからだ。

 

「どうやってだ?残念だが、テメェの幻覚はもう通じねェぞ?何の実の能力者かは知らねェが、突破口は見えた。」

 

物理攻撃すれば腐蝕される。まさにえんがちょ、私としても直接触れるのは絶対にやだ。えんがちょえんがちょ。

 

なんて考えてるとクロッゾは幻覚に目もくれず私に一直線に突き進んできた。なるほど、クロッゾは見聞色の覇気を持っているのか…。

 

私の幻覚には短所がある、見聞色の覇気を使える者には通じにくいという点である。私の幻覚は“声”を持たない。故に見聞色の覇気によって容易く突破される。

 

「喰らいなァ!!」

 

能力によって一種の透明人間になっている私にクロッゾが正確に手刀を振り下ろす。私は大きく後退し攻撃を避ける。

 

私はクロッゾと距離を置いて透明人間状態を解除して姿を現わす。それを見たクロッゾは下卑た笑みを浮かべていた。

 

狩りで獲物を追い詰めた、舌舐めずりするが如き笑み。

 

「何か勘違いしてるみたいだけど、私の能力は幻覚見せるだけじゃないよ」

 

確かに腐蝕に晒されたら私もただではすまないし、桐代から貰った刀を溶かされたくもない、物理接触も危険。直接攻撃出来ないのは厄介だけど、私には関係ない。

 

「何ィ?」

 

「お前は幻覚と真実、見極められるかな?」

 

私は、能力を解放する。自分でも卑怯過ぎると思う、凶悪無比なもう一つの能力を。

 

ーー夢か現か幻か。狐の見せる白昼夢、ご堪能あれ

 




シルヴィアの幻覚は見聞色の覇気を持つ者ならば見抜けます。単なる幻覚なら(フラグ)

クロッゾは接触を忌避しなくてはならないレベルでヤバいです。触れたらそこから溶けて落ちます。また腐蝕作用を広範囲に拡散させることも出来る。(マゼランの侵食する毒とそう変わらない
人の多い市街や混戦の中に投入されたら待った無しに地獄絵図を作り上げる。


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13.有幻覚

はい、タイトルの通り某家庭教師に出てくるあのチート能力です。


戦闘に入ってから終始姿を隠していた白髪の女が実体を晒した。俺が見聞色の覇気を持っていて幻覚が通用しないと悟ったからだろう。

 

だが、妙な事をほざきやがった。狐の見せる白昼夢、だァ?意味の分からねェ事を…

 

「次はどんな手品見せてくれんだァ?」

 

「種無しの手品、存分に味わうといいよ」

 

何か変わった事をしてくるだろうという予想に反して、女は懲りずに幻覚を用いて再現した砲弾を十数個間髪入れずに投擲してきた。

 

それら全て幻覚であると判断し、回避せずに女に向かって一直線に突き進む。黒光りする砲弾が目の前に迫るが迷わず突き進む。初弾、次弾と体をすり抜けて行った。

 

「どうしたァ!さっきと変わらねーーぐぉっ!?」

 

腹に突き刺さった砲弾がズシンと重量感のある音を立てて地面に落ちる。

 

何ィ…!?本物の砲弾だとォ…!?馬鹿な、この俺が見逃すはずがねェ!!それに何だこの砲弾は…って、消えやがった!?幻覚だったのか…!?

 

「女ァ!!テメェ何しやがったァ!!」

 

「種無しの手品だから、何とも言えないねぇ」

 

「クソが…!!」

 

「ん〜次は…こんなのはどうかな」

 

イラつく間の抜けた声で女が銃を手に取った。そしてその背後にも計16挺展開した。

 

勘は全て幻覚と判断している、がしかし先ほどの事を鑑みるに。非常に癪だが、受けるのは危険。

 

横にあった腐蝕し切れずに残っていた建物を腐蝕させて崩し、一時的に壁として機能させる。

 

それと同時に「発射〜」という女の声と銃声が鳴り響いた。銃弾の音と衝撃が壁に走る。ありえない、幻覚のはずだというのに物理的な質量を持っている。まさか幻覚に見せかけた本物か…?いや、まさか…!!

 

「…幻覚に実体を…?」

 

「さて、どうだろうね」

 

のほほんと惚ける女。腹が煮えくり返る。ここまで俺をイラつかせたのはテメェが初めてだぞ女ァ…!!だが厄介なのは本当だ。かなりの実力者だと認めざるを得ない。

 

俺の予想が正しけりゃァかなりやべェ能力かもしれん…。ちっ、多少のリスク背負ってでも試す必要があるなァ…

 

俺は壁を腐蝕させて突き破り一直線に女へと突貫する。女は腰に下げた刀ではなく、これまた幻覚によって再現した刀を手にして構えた。当然これも幻覚だと判断する。俺は刀を無視するように女を殴ろうとしてーー

 

ーー咄嗟に武装色の覇気を右腕に纏わせ斬撃の通り道に割り込ませる。するとガキンッという音を立てて右手の甲に女の刀が食い込んでいた。

 

「ぐぅお…!?」

 

更に女は刀を斬り結ぼうとしたので迅速に後退したものの、何太刀か擦り傷を浴びてしまい、ツゥと切り口から血が滴る。

 

「粗雑な言動の癖に意外と賢いね。流石は新世界の海賊だ」

 

「うるせェ…!というか何が種無しの手品だァ!!タネは割れたぞコラ!!テメェ…やっぱり幻覚を実体化させてるな…!!」

 

「お、正解。私の見立てを超えて賢い。名付けて有幻覚。攻略法は…ない」

 

ドヤ顔する女が分裂して6人になる。全員が刀で武装して俺に殺到する。

 

「なんだと…!?」

 

動揺を押し殺し、此方を斬り殺そうする女共を武装色の覇気で捌く。連携がうまく、中々距離を取る事が出来ず歯噛みする。

 

「誰が本物でしょうか〜?ま、分かったところで意味もないけど」

 

「黙ってろ!!要はテメェら全員ぶっ倒せばいいんだろォ!!」

 

俺は能力を解放し腐蝕の波動によって左側に殺到していた女共を一掃する。煙のように消えたところを見るに左側にいた3人は幻覚だった。ともかく手薄になった故に出来た余裕を持ってして右側の女を1人2人と殴りつけていく、これまた煙のように消える。

 

そして最後の1人に万物を溶かす、腐蝕の手を伸ばす。最後の1人は見聞色の覇気が実体と訴えている。

 

「テメェかァ!!」

 

「あ…ぐ…っ」

 

腐蝕の手は女の腹を突き破り、体を内部から腐蝕させる。内臓は確実に腐り落ちた。

 

ーー殺った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー残念、はずれ」

 

「ぐァ…!!」

 

ーー確かに能力が発動し、女はドロドロに溶けて地面に崩れ落ちた。勝利を確信した瞬間、俺の腹を刀が突き破った。

 

「…馬鹿な…殺し、た…はず…」

 

「うん、殺したね有幻覚(実体)を。それは私であって私じゃない。そもそも(本物)は最初っから戦闘すらしてないよ」

 

なん…だと…ッ!?最初から、俺は幻覚と戯れてたって事か!?そんな出鱈目な能力があってたまるか!!巫山戯るなよ!!

 

「…く、そッ…!」

 

「…それじゃあ、次目が覚めた時は暗い檻の中だよ。さようなら」

 

女が幻覚で作り出した大きな槌を振り上げる。

 

「…クソがァァァァァァッ!!」

 

俺の記憶はここで途絶えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有幻覚の槌を消して、気絶したクロッゾを見下ろす。そして腐蝕してしまったコートの裾を見て冷や汗を流す。

 

「ふぅ、危ない能力だった…」

 

最後、6人がかりで攻めた時にクロッゾが放った腐蝕の波動が偶々シルヴィアが隠れ潜んでいた場所まで届いていたのだ。予想を超える射程の大きさに驚いて逃げたもののコートの裾が一部、つまりは正義の文字の義の部分が欠けて無くなってしまった。

 

新しいの貰えるかな…

 

「シルヴィア少将!!」

 

戦闘の終わりを感じたのか、遠くで待機していたセラちゃんが駆け寄ってきた。

 

「お、セラちゃん。アレ出してアレ。」

 

「あ、はい。海楼石の錠ですね…」

 

以心伝心、つーと言えばかー。長年連れ添った夫婦みたいなやり取りをしてしまった。いやー嬉しいねぇ、まさかアレで通じるとは…。いや、まてよ…よく考えたらクロッゾ気絶してるの見てるし直ぐ連想出来るか。そう考えるとなんか残念な気持ちになるな…

 

「あ、念のため私がかけるから。セラちゃんは艦隊に信号送っておいて」

 

クロッゾにその辺の石を落として見て腐蝕はないって確かめたけど一応ね。セラちゃんに危険な事させられないし。

 

「あ、はい。分かりました!!」

 

セラちゃんが電伝虫で信号を送るのを尻目に私は不用意に触らないようにしつつクロッゾの両手に錠をかけた。

 

「捕縛かんりょーー、これでひと段落ついたかな。」

 

まだ懸賞金クラスの部下もいるっぽいけどクロッゾ程手間はかからないだろう。

 

「あ、あの!!シルヴィア少将!質問よろしいですか!?」

 

「ん?なぁに?」

 

「い、今私と話しているシルヴィア少将は…本物なんですか!?」

 

セラちゃんは恐る恐るそう言った。先ほどの戦闘を見ていればそうなるのは仕方ないけど、何この子超可愛い。小動物か何か?

 

「…ぷっ、あははは。そうだね、本物だよ。まぁセラちゃんが不安に思うのも分かるけど。」

 

「そ、そうですか…」

 

「軽く説明するとね、普通の幻覚を見せて攻略法を掴ませる事で先入観持たせたところで実体を持つ有幻覚を織り交ぜるんだ。クロッゾは見事に嵌ってくれたなー」

 

「有幻覚…ですか」

 

「そう、クロッゾは思いの外頭が切れたから余計に引っかかったよ」

 

一回有幻覚見せただけで勘付いたし、対応も早かった。故にこの戦法の餌食となる。

 

幻覚は見聞色で見抜ける、そもそもこの前提が間違っている。

 

「幻覚の中に潜む有幻覚(リアル)有幻覚(リアル)の中に潜む幻覚(フェイク)。どれが本物か、そもそも本物はそこにあるのか。五里霧中だよ。」

 

今回は物理的な接触時のみに限定して有幻覚化し、それ以外は幻覚で通した事で幻覚と有幻覚の区別をつけ辛くした。それ故にクロッゾは最後油断しきっていたところを私に刺される事になった。

 

「む、難しいです」

 

「分かる方が異常だから安心して。さて、そろそろ部隊も到着する頃だ。残党狩りだよセラちゃん。」

 

「はい!」

 

パパッと終わらせて帰って寝よう。久しぶりに神経すり減らしたわ。眠気がすごい。

 

この後、シルヴィアは眠気と戦いつつ、危なげなく任務を遂行し終え、本部に帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー見とったか!!シルヴィがやったぞ!!流石わしの孫娘じゃ!!」

 

軍艦から望遠鏡にてシルヴィアの戦いを見ていたガープは大きく拳を掲げて高々に笑ってシルヴィアを賞賛した。

 

「…な、何が起こっていたのかさっぱりなのですが…」

 

「馬鹿め、わしの孫娘の凄さが分からんようじゃ鍛錬が足りとらんぞ!」

 

あの戦いは分かるものにしか分からん。そのレベルに至っているとすれば中将以上、もしくは少数だが少将クラスでないと分からんじゃろう。流石わしの孫娘じゃ!!

 

「す、すみません…」

 

「まぁよい、帰ったら特訓……いや、シルヴィの祝賀会の準備をしなくてはならんな!!よし!本部に帰るぞ!!」

 

特訓なぞしてる場合じゃない!まずはケーキじゃろ?あとはシルヴィの好きな食べ物を作らせて、他にもーーー

 

帰還途中ずっと祝賀会の構想を練り続けたガープだが、“シルヴィアはそういうのが嫌いだからやると嫌われる”というクザンの助言により開催を断念する。

 

クザンの助言は正しく、もし開催して無理矢理参加させていればシルヴィアは二、三週間は口をきかなくなるという結末が待っていた事をガープは知らない。

 

 

 

 




クロッゾの見聞色の覇気は半径10m程です。かなり狭いですが感知能力は異常に高いです。H×Hの円みたいな感じ。

シルヴィアは幻覚が直撃する時に限定して有幻覚化させ、即解除というチートくさい事やってます。(ガチート)

そして本体は安全圏で観戦。

シルヴィア「いつから私が戦っていると錯覚していた?」


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