仮面ライダーDRAGOON 赤龍帝で仮面ライダー (名もなきA・弐)
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キャラクターと世界観

 キャラクター紹介(オリジナルキャラと主人公)と、世界観の解説です。
 話が進むごとに更新されていきます。それでは、どうぞ。


世界設定

世界観(ちょっとした事件など)

ハイスクールD×D と同じで聖書の神話体系の天使・悪魔・堕天使の三大勢力などが存在する世界観だが、実は数十年前に人間世界では『最も公平な裁判』が話題となっていた。

それは重大な刑事事件の被害者遺族や関係者、弁護士や検事、警察官といった関係者同士が争い合い、生き残った勝者の意見が裁判の結果になる裁判員制度が制定されていた。

しかし、ジャーナリストであり、その裁判に参加した経験のある辰巳一誠の父親によって、生みの親である当時の最高裁判長が犯した数々の隠蔽や殺人を明らかにした。

現在では、この裁判員制度は廃止されているが記録や証拠品は政府が丁重に保管している。

 

 

 

 

 

 

キャラクター紹介

辰巳 一誠 性別:男性 ICV梶裕貴

容姿:ほぼ原作と同じだが若干冷めた表情をしていることが多い。

服装:原作と同じだが両手の怪我を隠すため、白い手袋を着用している。

好き/漫画やゲーム、牛乳、チーズケーキなどの乳製品

嫌い/見捨てること、昔の暑苦しい自分

設定:

「駒王学園高等部」の二年生で母親と伯母と共に暮らしており、父親は海外に取材に行っている。

ネオストラに感染したことで仮面ライダードラグーンに変身出来るようになったばかりか、堕天使レイナーレに殺害され、リアス・グレモリーによって悪魔に転生し、眷属兼オカルト研究部の部員となる。

中学生時代は原作と同じく、超重度のおっぱいフェチで覗きを平然と行うなど自他共に認めるドスケベだったが、『ある事件』をきっかけに自粛するようになる。ややツッコミ体質でネオストラに感染していることで悪魔の弱点が相殺されている。

中学時代からの友人でもある「松田」と「元浜」と共に「変態三人組」と女子たちに呼ばれ嫌われているが、『絶対に見捨てないこと』を信条にしているため面倒見が良く、上級生や下級生には男女問わず慕われていたりする。

基本的に温厚で昔の自分を嫌悪しているが、努力を厭わない真面目さや差別のない評価など努力家で誠実な根本は変わっていない。その分、自己犠牲精神が極端に強く両親や友人たちに心配されることもしばしばで「薄気味悪い」とさえ言われる。

過去に自分を助けてくれた『仮面の戦士』に憧れており、上記のモットーもここから来ている。

 

 

ア・ドライグ・ゴッホ(通称:ドライグ) 性別:男性 ICV立木文彦

二天龍の内の一匹で「赤龍帝」の二つ名を持つドラゴン。宿主のことも赤龍帝と呼ばれている。イッセーの神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に魂を宿していたが、ドラグーンドライバーへと変化出来るようになった。イッセーとは幼少時からの仲であり、政宗家(母方の祖父母の実家)で行われている『定期検査』が切っ掛けで知り合ったという良く分からない経歴を持っている。

当初は厳格な性格だったが、幼少期からイッセーと共にいた所為か牙が抜けてしまっており、漫画の続きを待っていたり、全裸の女性を見てテンションを上げるなど現代を謳歌している状態…イッセーのツッコミスキルを上げた元凶。

もし、「おっぱいドラゴン」と呼ばれても大爆笑するだけの余裕があると思う。

 

 

ヴァイア(本名:リヴァイアサン) 性別:男性 ICV蒼井翔太

容姿:かなり小柄であり、端正な顔立ちをしている。水色の短いヘアースタイルが特徴。

服装:青いスーツを着用している。

好き/面白いこと、楽しいこと、食べること 友達とニンゲン

嫌い/酷いこと

設定:

ネオストラであり、イッセーを仮面ライダードラグーンに変身させるように色々と魔改造した少年。アーシアの友達で自称「イッセーの相棒」

基本的に笑顔であり、イッセーを除く全員に「君・ちゃん」づけて呼んでいる。楽しいことや面白いことを好み、マイペースに楽しいことを謳歌している。

インフェクションドライバーが破損しているため、培養は不可能だが呪法を操ることなら出来る。

本名は「リヴァイアサン・ネオストラ」だが、本人はこの名前で呼ばれることを嫌っている。

 

 

政宗 愛奈 性別:女性 ICV植田佳奈

容姿:茶色のロングヘアーに若葉を模した緑色の髪飾りを身に着けており小柄。やや鋭い目つきが特徴。

服装:タイトスカートとスーツの上に白衣を羽織っている。

好き/動物鑑賞、読書(ラノベと漫画)厨二っぽい言動 料理

嫌い/ボケの多い環境 オクラ

設定:

イッセーの伯母。本業は動物学者だが、少しでも生活費を稼ぐため、非常勤講師をしている。イッセーのクラスの副担任で担当は「生物」

世話焼きかつ常識人であり、イッセーに負けず劣らずのツッコミの持ち主だが、中二病じみた言動に心を震わせたり嫌いな食べ物を嫌がったりと若干残念。最近では、教師になろうかどうか考えている。

政宗家の人間であるため、クナイを用いた戦闘を行うがめったなことでは本気を出さない。

甥であるイッセーのことは大切に思っており、彼がグレモリーの悪魔になった時は始末しようと考えていたが、後に取りやめる。

 

 

辰巳 加奈子 性別:女性 ICV種崎敦美

容姿:姉である愛奈と色々と対照的で恵まれた美貌と長身、栗色の髪を伸ばしており凹凸のある身体をしている。

服装:おしゃれとは縁のない生活を送っているため、丈の合っていない上着を着用している。

好き/絵を描くこと、動画サイト オムライス

嫌い/息子をいじめる人 納豆

設定:

イッセーの母親。現時点では姿を見せていないが、そこそこ名の売れたイラストレーターでHEART2でミルタンの部屋に合ったアニメ『魔法少女 プニ☆マジ』のメインイラストも担当している。

かなりマイペースな性格をしており、愛奈の言ったことを冗談と思っているなど察しの悪い部分もある。仕事の際は部屋から出ないほどの集中力を発揮するがスマホのメッセージにはきちんと返信するなど律儀な部分もある。

 

 

 

 

ネオストラサイド

キョンシー・ネオストラ ICV久保田悠来

ネオストラの監視兼粛清を担当している。モチーフは「キョンシーとパンダ」

ぬいぐるみのようなパンダが紫色の中華服と帽子を身に纏った姿をしており、至るところにお札が貼られている。人間態は黒いフロックコートを羽織った洋装の青年で、クールな言動だが苛烈さも持ち合わせており、悪魔や天使などの他種族を「異形」と呼び嫌悪している。

両の拳によるラッシュと凄まじい跳躍力による格闘技を得意とし、遠距離武器を持たないが両腕がバネのようになっているため伸ばすことも出来る。

 

 

ハルピュイア・ネオストラ ICV優木かな

ネオストラの参謀であり監視も担当している。

現時点では怪人態を見せていないが、第三章で怪人態を披露した。水色の猛禽類を思わせるような装甲を纏った剣士のような姿が特徴。人間態は青いメイド服を着た小柄な少女で丁寧な語り口が特徴。

『主』のためにネオストラたちの覚醒を進めているが、我の強い個体に悩ませていたり新たに現れた仮面ライダーに警戒するなど中々の苦労人。

風を操る他、高速での空中戦や翼を模した双剣による剣術を得意とする。

 

 

ケンタウロス・ネオストラ ICV鶴岡聡

ネオストラの護衛や治療などを担当している。モチーフは「馬とケンタウロス(ケイローン)」

頭部の兜には赤い十字架がペイントされており右肩には白い馬のシンボル、胴体には薬棚のような白い重厚な装甲を身に纏った無骨な戦士であり、人間態は薄汚れた白衣を着た大柄の男性で頭部には額帯鏡(医者がつけている丸いアレ)を身に着けている。「治療とオペ」しか頭になく常に笑みを保っている。

巨大なランスを武器としており、体躯に任せたパワーで相手を圧倒する。また手術道具を模した武器を胴体から射出する。

『主』の治療を行っていたが、オペを終えたためハルピュイアと共に日本へと訪れた。

 

 

ホッパー / 仮面ライダーオルタ ICV木村良平

ネオストラのリーダーであり、ハルピュイアが「主」と呼ぶ存在。黒いコートに黒い髪をオールバックにしている長身の青年。

温厚だが、敵対者には容赦なく叩き潰すほか仲間意識も高い。

インフェクションドライバーに自分の力の一部であるホッパーバッテリー(グリーンとブラック)を装填することで本来の力を取り戻すが、ヴァイアに一部の力を奪われている模様。




 ネオストラと仮面ライダーは「ライダー&怪人紹介」で解説します。
 ではでは。ノシ


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★ライダー&怪人紹介

 ドラグーンとネオストラの紹介です。少しばかり次回のネタバレがありますのでご注意ください。
 こちらも、話が進むごとに更新していく予定です。それでは、どうぞ。


仮面ライダードラグーン:

辰巳一誠が乾電池と注射器が合体したようなアイテム『ハートバッテリー』を装填した変身ベルト『ドラグーンドライバー』で変身した姿で共通してアニメキャラクターを彷彿させるような瞳がある。共通モチーフは兵士とドラゴンで、スーツの裏モチーフはアマゾンズのライダーとエグゼイド系のライダー。

幼少からの訓練と初変身時に流れたある戦士の記憶によって戦闘能力はパワー・格闘技・テクニック・魔力操作といったどの分野もグレモリー眷属より優れているが悪く言えば器用貧乏。

決め台詞は「ミッション・スタート!」

 

 

変身ツール

ドラグーンドライバー:

ドラグーンの変身ベルトであり「赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)」こと赤龍帝ドライグ の魂が封印されている。基本カラーは赤。モチーフはドラゴン

赤いボディと恐竜の左眼のようなディスプレイがデザインされており下部にはハートバッテリーを装填するためのホルダーがある。

様々な能力の倍加が可能であり装填したハートバッテリーのインジェクタースイッチを押す回数で変動する。ただし許容量を超える倍加は不可能と言うデメリットがある。

ドライバーを腰に巻きつける。ホルダー部分にハートバッテリーを装填、ホルダーを上に傾けると流れる「WHAT THE CHOICE HEART!? WHAT THE CHOICE BATTERY!?…♪」をバックに「変身」の掛け声でバッテリーのインジェクタースイッチを押す。

【CURSE OF CHARGE!…○○(対応するハートバッテリーの歌)!!♪】の電子音声と共に頭部に刺さった武器型のエネルギーを身体に流し込んでドラグーンに変身する。

能力の発動時はバッテリーを再度押し込み、必殺技の発動時にはホルダーを操作することで「【EXPLOSION! CURSE OF ○○(対応するハートバッテリー)!!】」の音声が鳴り響き、装填したバッテリーの能力に対応した必殺技を繰り出す。

装填されていない状態でホルダーを下げると「SEE YOU……」の音声と共に変身を解除できる。

 

ハートバッテリー

ドラグーンが各ハートへの変身(フォームチェンジ)の際に使用する乾電池と注射器が合わさったアイテムで動物の擬似ハートが記録されている。

ドライバーにセットし、インジェクタースイッチを押すことで様々な能力を倍加させることが出来る。

これは使用するとイッセーの人格に差異が現れるが、口調が変わるだけで根本的な性格に変化はない。

 

 

各ハート(フォーム)

ローカストハート モチーフ:イナゴ 

変身音声は「L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪」

ドラグーンドライバーに「ローカストバッテリー」のスイッチを押して変身する基本形態。赤いスーツの上に緑色のパーカーとプロテクターらしきアーマーが装着されている。瞳の色はオレンジ。

戦闘スタイル :カウンターからの追撃を中心とした我流の格闘技。

必殺技 :ブーステッドストライク ブーステッドスラッシュ

○ズババスラッシャー :ローカストハート専用の双剣。短剣で使い勝手が良く体術と織り交ぜて戦う。

 

シャークハート モチーフ:鮫と僧侶

変身音声は「水と氷の魔法でGO! SAHRK BISHOP~!!♪」

「シャークバッテリー」を装填して変身する特殊能力に優れたドラグーンの派生形態。刺々しいデザインをした青いローブが装着される。

戦闘スタイル :空気中の水分による水の生成と氷の生成を得意とし、銃撃と合気道を組み合わせたガンカタと棍棒モードによる舞を思わせるような棒術を得意とする。

必殺技 :ファングブラスター スプラッシュクラッシュ

○バキューンライフル :シャークハート専用のライフル型武器。グリップを真っ直ぐにすることで棍棒モードに切り替わる。

 

スミロドンハート モチーフ:スミロドン(サーベルタイガー)と騎士

変身音声は「燃えるBEAT! メラBEAT! SMILODON KNIGHT!!♪」

「スミロドンバッテリー」を装填して変身する格闘能力に優れたドラグーンの派生形態で橙色のメカニカルなアーマーと頭部にはスミロドンを模した牙が装着される。

戦闘スタイル :雄叫びと共にアーマーのブースターから放たれる超高熱のビーム『バーニングシャウト』で相手を焼き払う他、獣ような動きを取り入れた高速移動による拳と蹴りのラッシュで相手を撃破する。

必殺技 :ビーストバーニング

○メラメラグローブ :スミロドンハート専用の手袋型グローブ。火炎と高熱の光を拳に纏うことが可能となる。

 

 

必殺技

○ローカストハート

ブーステッドストライク:

倍加のパワーを両脚に流し込み、赤い軌跡を描きながら急降下キックを叩き込む。

ブーステッドスラッシュ:

ローカストバッテリーにズババスラッシャーを装填し、インジェクタースイッチを押して倍加された双剣で斬り捨てる。

 

○シャークハート

ファングブラスター:

激流と氷の弾丸を乱射して標的を貫く。高圧で圧縮された水の弾丸を発射するのと氷の弾丸で打ち抜く二つのパターンがある。

スプラッシュクラッシュ:

右足に高圧水流と左足に氷柱を纏ってドロップキックを叩き込む。

 

○スミロドンハート

ビーストバーニング:

高熱の光と火炎を纏った状態で急降下から繰り出される必殺キック。スミロドンの幻影を纏ったその威力は川の水を干上がらせるほど。

 

 

マシンとガジェット

ブレイブニル:

ドラグーン専用の赤いラインが入った黒いバイク。モチーフはVMAX。

普段はぬいぐるみのような赤いラインが入った黒い馬だが、戦闘や有事になるとバイクへと変形してイッセーの前に現れる。

ブレイブニル・ホースモード:

ブレイブニルがメカニカルな馬形態へと変形する。

強力な馬力を有しており障害物を破壊したりドラグーンのサポートを行う。

本来の性格は温厚で人懐っこいのだが主を傷つける相手には激しい怒りを露わにするため、アーシアの使い魔であるラッセーとは度々大喧嘩をしている。

 

 

ロボックス:

ドラグーンのサポートをするためにヴァイアが製作したガジェット。普段は四角い立方体だが対応するハートバッテリーを並列に装填することで「並列!○○(対応するバッテリーの名前)!!」で変形する。

クマ型のベアーックスと鮫型のシャークックス、スミロドン型のスミロックスがある。

 

 

 

 

ネオストラバッテリー:

粒子状である『ネオストラウィルス』を凝縮して誕生した黒いハートバッテリー。

幹部格のネオストラが右腕に装備している『インフェクションドライバー』から射出することが出来る。

 

ネオストラ:

英文表記は『Neostra』。ニンゲン…人や悪魔、天使といった多種族の知的生命体に感染する習性を持っている。宿主の負の感情を吸収しつつ進化と培養を開始し、等身大の姿へ実体化する。

最初は感染者に寄生し。全身が黒く染まった影の姿でデフォルメした大きく赤いハート型のシンボルが右胸に埋め込まれた『素体ネオストラ』へとなり記号の羅列のような言語だが、やがて感染者を排出すると言語能力と共に動物を模した装甲やローブを身に纏った『覚醒態』へと進化する。

振る舞いがウィルスと酷似しているから便宜上呼んでいるだけであり実態は自我を持った「細胞生命体」が正体である。

 

 

幹部格ネオストラ:

通常ネオストラから更に進化した存在であり中心核。インフェクションドライバーを腹部にセットして『培養』することで怪人態へと姿を変える。

なお、この個体に覚醒すると実在する動物から幻想の生物へと名前が変わる。

インフェクションドライバー:

生物的なクリーチャーデザインをした紫色のデバイスで、大きめの銃口とホルダーがあり幹部全員が所持している。

右腕に装備すると散布モードに、腹部にセットすることでドライバーモードへと二つのモードに変形する。




 序盤なので少ないですが、ライダーとネオストラの紹介がここまでです。
 これからどうなるかお楽しみください、ではでは。ノシ


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Extraなお話
その1 フィギュア、製作しますっ!!


 今回は番外編です。このままだとイッセーの母親を登場させる機会がないと思ったのでこのような話にしました。
 ちなみに、話の元ネタはS○ET DANCEのあるお話がモチーフになっています。


さて、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに向けてグレモリー眷属は十日間修行をすることになる。

彼らが己を鍛えるために激しい修行をする中、『彼女たち』は何をしていたのかを語り記述しよう。

場所は至って普通の辰巳宅。そこの二階に存在するイッセーの部屋の隣室では、カーテンを閉め切った状態で一人作業する女性がいた。

 

「……」

 

一言も発さず、上着の袖が擦れていることも気づかないどころか眼中にない彼女は黙々と己の作業道具であるペンタブで一枚のイラストを描き上げて行く。

そしてカラー処理を終えた彼女はすぐに二枚目へと突入する。その際、自分で撮った写真や通販で取り寄せた図鑑やモデルガン…仕事相手から渡された資料に素早く目を通しながら作業を進める。

三枚目、四枚目、五枚目とイラストを完成させて最後のイラストを描き終えたことで仕事が終わった。

そして彼女はたどたどしくも丁重に、自身が手掛けたイラストを担当編集に送信すると少しばかり散らかっている部屋を歩き回る。

やがて自分の探していた物…ベッドの上にあったスマートフォンを見つけた彼女は何処かへ電話を掛ける。

 

「もしもし、木村さん?アニメ『魔法少女 カナ☆マジ』のキャラクター原案と『僕は実力主義の学び舎で青春を謳歌する』のライトノベルとゲーム版、あの新人作家さんの『ラブコメはファンタジーと共に』のイラスト全部終わりましたぁ……えっ、どの作品も締め切りはまだ?じゃあ、やり直しですかぁ……問題ない?じゃあ、これでお願いしまぁす。先生やPさんたちには改めてお礼をしますので、はい…はぁい。失礼しまぁす」

 

通話を終えた彼女はカーテンを開けて日の光を浴びると、椅子の背もたれに背中を預ける。

 

「ん、んぅ~……終わったぁぁぁぁ…」

 

そう言って、彼女…『辰巳加奈子』は思い切り伸びをした。

加奈子はイラストレーターを職業としている。

何処か大らかな雰囲気と言動からのんびりした女性だと思われることが多いが、基本的にスタートが早い上に集中力が極端に高いので、先ほどのように別作品のイラストを仕上げることは稀ではない。

あまりにも化け物じみたスペックの持ち主であるため、親族からは「イラスト製造機」、編集からは「時間旅行されてる」などと言われているが特に気にしていない。

ちなみに『木村』なる人物は仕事関係で知り合った彼女の友人であり、顔も広いためこのような無茶振りを加奈子からされることも多々あるがそれをこなしているため、そちらも十分化け物であることを言及しておこう。

閑話休題……しかし、ようやく仕事が全て終わった彼女は現在フリー。

自由時間となった加奈子は、腹の虫を鳴らしながら階段を下りて食事をしようとリビングに向かう。

 

「あっ、シャワー浴びないと」

 

そう一人ごちた彼女は一端、部屋に戻って着替えを持ってくると再びリビングへと向かい、風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

シャワーを浴び、着替えを終えた彼女は愛奈が作っておいた朝食をレンジで温めてから食事をする。

オムライスを頬張ってから数分後、「御馳走様でした」と食事を終えた彼女はこれからどうするかと考える。

ちなみに彼女の服装はアームカバー代わりとなっている丈の合っていない上着と灰色のズボンを着用しており、オシャレとは縁がない格好をしているが恵まれた美貌と長身、長く伸ばした栗色の髪の先端を黒いリボンで纏めている。

そして非常に起伏のある身体は姉である愛奈とは完全に正反対(本人に聞かれたらただでは済まないだろうが)である。

食器を洗い終えた後、彼女が決めたことは一つだった。

掃除機とはたきを常備して家の掃除を始めた。

基本的に家事などは愛奈とイッセーに任せているが仕事が終わり、またはオフ期間の時は率先して家事をするのだ。

一階の掃除を終えた後、今度はイッセーの部屋へと侵入する。

久々に入る息子の部屋に妙な好奇心を躍らせながらも彼女は埃を綺麗にしたり、ベッドの下にあった本などを綺麗に整頓してから空いている本棚に入れる。

そして、ふとある物が目に入った。

 

(これ…確かイッセーちゃんがはまっていたアニメの…)

 

プラモデルと一緒に並んでいる中、一際浮いているフィギュアが目に入ったのだ。

明らかに深夜向けアニメのような、ツインテールにしている豊満なキャラクターのフィギュアはイラストレーターである加奈子でも知っている作品だ。

その造形に興味を煽られた彼女は手に持ってそれを確かめ始める。

正面から左右から更には真下から……一しきりの角度で鑑賞を終えた彼女は元の位置に戻そうとした時だった。

 

「…くしゅっ」

 

可愛らしいくしゃみと何かが落ちた音がしたのはほんの数秒のラグだった。

彼女の手にあったはずのフィギュアは床に転がっており、それに気づいた加奈子は慌てて拾ったが……。

 

(あっ…あぁ…!?)

 

衣装の部分が落ちた衝撃で剥げてしまったのだ。

事態に気づいた加奈子は慌ててどうするべきか考える…イッセーはしばらくの間いないが、自室に来たら間違いなく気付くであろう。

そうなると疑われる人物は一人、自分しかいない……自分の末路も決まったも同然。

 

(だ、大丈夫っ!ま、まだ塗装が剥がれただけだし、家には道具がたくさんある!諦めたら試合終了だよぉっ!!)

 

幸いにも今は誰もいない。その時間内で全ての工程を終わらせれば良いだけの話だと自分で自分を鼓舞する。

手先の器用さには自信があるし、問題はない。

かくして、加奈子の一人孤独な戦いは幕を開けた。

 

 

 

 

 

愛奈は帰路へと足を進めていた。

今日は駒王学園には顔を出さず、本業の動物学者の方を優先していたので教授にレポートを提出するだけだったのだ。

意外にも早く終わったことに驚きながらも、自宅へと辿り着いた愛奈は鍵を開けて扉を開いた。

 

「ただいまー…」

 

ドアを開けた彼女を待っていたのは、絶句するほどの光景だった。

何せ自分の妹である加奈子が両手で何かを守るようにしながら蹲っており、身体を震わせていたのだ。

事情が全く分からないながらも、彼女は妹を刺激しないように優しく話しかける。

 

「か、加奈子…?」

「びえええええええええええ、お姉ちゃあああああああああああああんっっ!!」

 

一方、姉である愛奈の存在に気づいた加奈子は、涙を大量に零しながらタックル紛いに彼女を抱き締める。

身長差もあってか、自身の豊満な胸を愛奈に押し付ける形になってしまう。

 

「イッセーちゃんに、イッセーちゃんに嫌われるうううううううううううううっっ!!」

「ふごごっ!ふぐぅ…!…ぷはっ、とりあえず離れろおおおおおおおおっ!!」

 

パニックになっている加奈子の抱擁から解放された愛奈は、渾身の想いを込めて叫んだのであった。

 

 

 

 

 

「…で、このフィギュアを修正しようと色々としていたら顔が消えたと」

「うん…」

 

一時間後、何とか落ち着きを取り戻した加奈子はぐずりながらも事情を説明し、納得した愛奈はのっぺらぼうになったフィギュアを見る。

色々と手を打ったのだが結果として事態は最悪の一途を辿ってしまい、どうすることも出来ずに蹲っていたところで愛奈が帰ってきたのだ。

しかし、これではどうあがいても不可能だ。

油性ペンで誤魔化す段階を明らかに超えているため、素人の自分ではどうすることも出来ない。

しばらく考えて、あることを思い出す。……確か、このフィギュアは中学生の時に友人と共に買ったかクレーンゲームで手に入れたかだったはずだ。

ならば、そこから打開策が見つかるかもしれない……。

そう考えた愛奈はフィギュアをカバンに入れると、加奈子を連れて駒王学園へと向かった。

 

 

 

 

 

駒王学園へと到着した二人は、下校準備をしている松田と元浜を見つけると、愛奈は満面の笑顔で説得を行い空き教室へと連れ去り事情を説明する。

 

「……て、感じよ。分かる二人とも?」

「事情は分かったんスけど」

「それで俺たちにどうしろと?」

「君たちどうせ、帰ったらエロDVDを見るしかないんでしょ?だったら私たちを助けなさいっ」

 

半ば脅迫に近い、言動に松田と元浜も普段のテンションを維持出来ずにいる。

しかしフィギュアのことを知っているからといってその技術があるわけでもない。とてつもない無茶ぶりに対して途方に暮れている彼らだったがやがてあることに気づく。

 

「……そうだ…!確か模型部があったよな?」

「…あぁっ!!あった!俺、そいつと顔見知りだっ!」

「それよっ!」

 

これならフィギュアも修復出来るかもしれない、一筋の希望が見えたことで愛奈は思い切り万歳をする。

それがいけなかった。

勢いよく両腕を上げたことでフィギュアがすっぽ抜けてしまい、フィギュアは弧を描いて開いていた窓へと飛んでいく。

更に不幸は続き、用務員が運んでいたゴミ箱に入ってしまい、それに気づかないままその男性は焼却炉の中へとゴミを入れる。

 

「ち、ちょっと待っ…!!」

 

愛奈は叫ぶも、その声が遠くにいる用務員に聞こえるはずもなくフィギュアは焼却させられた。

 

『……』

 

あまりにもありえない…誰かの作為としか思えない出来事に全員が沈黙する。終わった…完全に詰んだ、チェックメイト。

そんな絶望が全員に振りかかる中、加奈子だけは僅かに瞳の色を変えた。

その目は諦めでも、自暴自棄になった人のそれではない。

 

「松田君、模型部に案内して」

「えっ?は、はい」

 

加奈子に急かされる形で松田は彼女たちを案内する。

模型部の部室へと到着し、その知り合いである生徒に話を通してもらった彼らはその部長に事情を説明する。

そして加奈子が最初に発した言葉は……。

 

「フィギュアの素材って、基本的にどういう奴かな?」

「えっと…ガレキ(ガレージキットの略)用は色々ありますけど、初心だったら『ファンド』って奴が良いと思います」

「ふむ…」

 

紙粘土のような長方形の素材を置きながら話す部長からの説明に、加奈子は真剣な表情でそれを聞く…そしてガレージキットについてあれこれと質問すると彼女はそれに対して何度も頷く。

嫌な予感がした愛奈は恐る恐る尋ねた。

 

「ねぇ、加奈子?あんた、まさか……」

「お姉ちゃん。私、フィギュアを一から作り直す」

 

はっきりと、力強く宣言した彼女の言葉に愛奈はおろかこの場にいた全員が絶句する。

しかし、それに対して異議を唱えたのは模型部の部長だ。

 

「そ、それは無茶ですよっ!てか、本気ですかっ!?素人がフィギュア制作なんて」

「やるしかないんだもんっ!やらなきゃイッセーちゃんに嫌われるもんっ!!」

 

その言葉に、子どものように反論する加奈子だが、そんな彼女を落ち着かせるように松田が口を開く。

 

「嫌っ、無理っすよっ!いくらおばさんでも…」

「大丈夫っ。私は小さいころ、お父さんのプレゼントに金賞並の紙粘土作品を送ったことあるから」

「知らないっすよ!そんな子どものころのほのぼのエピソードッ!!」

 

元浜の至極当然なツッコミを加奈子はスルーしながらも部長に作り方を教授してもらう。

フィギュア作りは針金またはファンド自身で芯を構築してからバランス良く盛っていくのだが、はっきり言えば素人が出来る範囲ではない。

しかし…。

 

「こう?」

「何で出来るのよっ!?我が妹ながら器用にも程があるわっ!!!」

「ちょっとっ!?本当に初めてなんですかあなたっ!!?」

 

かなりバランスの良い顔のパーツをファンドで作り、それを見た愛奈と部長は驚きの表情を露わにする。

松田と元浜も言葉が出ない中、加奈子は疑問符を浮かべながらもその答えを口にする。

 

「子どものころの粘土細工の感覚を思い出しながらやっただけだけど」

「どんなクオリティだったんスか、その作品っ!!」

「で、でも…このセンスなら全然いけるぜっ!?」

 

化け物スペックを発揮する彼女にドン引きしながらも、見えてきた希望の道筋に元浜と松田たちも色めき立つ。

しかし…。

 

「あれ?どんな形だったっけ?」

 

加奈子は自分で見た物しか作ることが出来ないのだ。

イラストの際も自撮りした写真で構図を取っている。

フィギュアを見ようにも肝心のフィギュアは焼却炉の中……しかし、そこで元浜は眼鏡を光らせる。

 

「まだだっ!確か、あのフィギュア…ミルたんさんの友達が持っていたっ!!その人の電話番号とメアドを持ってるっ!!」

「元浜君っ、すぐに繋いでっ!」

 

愛奈の言葉を聞いた元浜はすぐにミルたんの友達に電話し、ある程度の事情を説明すると快く了承してくれた。

その数分後、元浜のスマホからそのフィギュアの動画と画像が送信される。

部長も率先して協力をしてくれるのか、フィギュアに関する雑誌や資料及び道具や塗料を心置きなく貸してくれた。

かくして、加奈子のフィギュア制作が始まったのだった。

 

 

 

 

 

あれから、五日後。

試行錯誤を繰り返した結果……フィギュアは完成した。

その出来はオリジナルと比べても何ら遜色はなく、むしろ一から作り直したのもあってか新品とほぼ同じである。

完成した作品を元の場所に設置する。こうして辰巳加奈子のフィギュア制作は無事に成功を迎えたのであった。

 

「イッセーちゃんにばれないよね?」

「その時は一緒に謝りましょ」

 

今さら不安で押し潰されそうになっている加奈子に対して、姉である愛奈はソファで項垂れている彼女の頭を優しく撫でるのであった。

そして、加奈子の作ったフィギュアはイッセーにばれたのかばれなかったのか……それは、この章で終わった時明らかになるであろう。




 オチがない?この話のオチはフェニックス編が終了した後になりますのでそれまでお待ちください。
 ちなみに、このお話はフィクションですので実際のお仕事ではこのような無茶は絶対に通りません。ご了承ください。
 ではでは。ノシ


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旧校舎のDiabolos
HEART 0 暗躍するNew Species


 懲りずに新連載してしまいました。
 あくまでもアーサーの筆休めですので更新ペースがかーなーり、遅いです。短いですが、今作の怪人と主人公がわずかに登場します。
 それでは、どうぞ。


そこは、広く薄暗い一室だった。

妙に小綺麗な内装からは、そこが何処かの洋館の一室であることが確認出来るが、周囲には乱雑に置かれたコンピューター機器と少年・青年向けの週刊雑誌や月刊雑誌が辺りに散らばっており、状態からそこまで昔の物ではない。

現に、その一室には何十人、何百人ほどの人影が……正確には、異形がたむろしていた。

その異形は一貫して全身が黒く染まっており、まるで影のようにも見える。しかし、彼らは共通してデフォルメした大きく赤いハート型のシンボルが右胸に埋め込まれている。

一番目立つ特徴を持った異形たちは椅子にもたれかかる、書物に読みふける、あろうことか人間のようにコミュニケーションを取っている個体もいる。

やがて、扉が開く。

全員が思い思いの作業をやめて振り向くと、そこには彼らと同じ四体の異形が立っており、彼らは中心まで歩く。

やがて、先陣を切っていた異形が口を開いた。

 

『…友よ、今ここにいる…もしくはこれから姿を得るであろう我らが同胞たちよ。ついにこの時が来た』

 

透き通るような青年の声で言葉を発するその異形の声量は決して大きくはなかったが、それでも彼らには響き渡り、その声に聴き入っている。

 

『我々は、もはや影の存在ではない。我々は、「心」を持った生命であり神話体系に新たに名を刻む種だ。だが、この世界を牛耳る「ニンゲン」たちは俺たち細胞生命体の進化を侮っていたらしい』

 

そこで、一度言葉を区切ると中心にいる異形の内一体が彼の言葉に続くように一歩前に出る。

 

『俺たちは、弱者でもなければ愚かな傍観者でもない。人々を堕落させる薄汚い翼を生やした「異形」を始末するために選ばれた存在だ。俺たちは進化する』

『そして、この世界を侵略し支配する!あぁっ、オペッ!オペだっ!!待ちに待ったオペの時間が始まるぅっ!!患者、患者は何処だぁっ!!?』

 

冷たい声色を持った異形に続くように、威圧感のある声で隣にいた異形がエキセントリックな言動で一方的にまくし立てる。

彼らの声は着実に、徐々にここにいる異形たちの士気を高め、ある種の連帯感を与えている。

そして、最後の異形は年端のいかぬ…それでいて落ち着いた声色で言葉を続ける。

 

『私たちは、力を得るための手段がある。進化がある…私たち「ネオストラ」は、胡坐をかいているニンゲンたちの頂点に君臨するっ!!』

『666666666666666666ZZZ!!!』

『ネオストラf@yx@e!!f@yx@e!!f@yx@e!!』

『0qdqat@dfer.k9Z!!』

 

女性の異形…ネオストラが宣言すると、残りのネオストラたちは…聞き取れない、まるで文字化けしたような言語でまくし立てながらも彼らは拳を振り上げる。

高揚した彼らに満足するように、最初に言葉を発していたネオストラが全員に見せつけるように握り拳を固めながら、再び口を開いた。

 

『さぁっ、侵略の時だ。同胞たちよ……革命を起こすぞ…!!』

 

その言葉と共にネオストラたちは散開した。

ある者は扉を蹴破るように、またある者は自身をコンピューターウィルスへと存在を変えて…地球への侵略を開始した。

 

 

 

 

 

踏み入れてからまだ数か月…それでも慣れ親しんだ場所に変わりはないその土地を踏みしめながら、少年は呆然としていた。

辺りは土煙が舞い、鉄臭さと硝煙の臭いが充満する…最悪の光景を眺めるしかなかった。

そして目の前には…親しくなった人たちがいたその場所には、瓦礫と真っ赤に染まった惨状が。

 

「あっ、あぁ…!」

 

少年は叫んだ。自身の喉が張り裂けるほど…ボロボロになった手を必死に動かし、もはや激痛すらも感じないその両手を使って必死に瓦礫をどかそうとする。

それが無理だと分かっていても、自己満足ですらない現実逃避だと分かっていても彼は瓦礫を手に持とうとした。

その時。

 

「…っ!!?」

 

急に自分の周囲が暗くなり、麻痺した頭を必死に回転させて上を見る。

それが瓦礫だと気づいた時…彼は自らの終わりを受け入れた。

だが、運命はそれを許しなどしなかった。

 

「えっ……」

 

突如、自分の前に誰かが降り立ったかと思うと右手に持った『何か』を振るい瓦礫が中央から分断される。

その誰かは、鎧を纏った異形だった…姿こそ完全には見えなかったがティラノサウルスを彷彿させるような赤い鎧を纏い、紫色のアンダースーツで全身を覆っていた。

右手には銃のリボルバーに刀身が合体したような奇妙な武器が握られており、恐らくあの銃剣で瓦礫を切り裂いたのだろう。

しかし仮面の目に当たる部分には綺麗なグリーンカラーの『瞳』があり、まるで一昔前の玩具のようだと場違いにも感じた。

呆然としている少年に対し、誰か…仮面の戦士は右手に持った武器を消すとこちらへと近づいてくる。

 

「…もう大丈夫だ」

 

優しく、そう言われた少年は柄にもなく彼にしがみつき涙を流し思いの丈を言葉にする。

目の前にいたのに何も出来なかった、どうしてこんな目に、力があったのに誰も救えなかった…そんな八つ当たりとも取れるその言葉を仮面の戦士は黙って聞き、それを受け入れる。

まともに立てない少年と目線を合わせるように戦士は少しだけ頭を下げる。

 

「…すまない。本当に、すまなかった……!!」

 

なぜ彼が謝るのか、なぜ彼は震える声で彼を強く抱きしめたのか、なぜ仮面の下で彼が鳴いていたのか、それは少年には分からなかった。

 

「うっ、ゲホッ!!」

 

やがて少年は激痛に苦しむ。

無理もない。彼の身体は既に限界が来ており負傷も酷い…応急処置をしなければすぐにでも死んでしまうだろう。

薄れゆく景色の中で、仮面の戦士が自分の身体に触れたことを感じながら、意識を手放した。

 

 

 

 

 

目が覚めた時、少年がいたのは清潔感あるベッドの上だった。

医師が言うには病院の前で倒れており、そこにいた人たちの活躍で一命を取り留めたらしい…目立った外傷もなかったが、彼の手だけは現在の医療では不可能だったので手袋を使用せざるを得なかったが幾分かましだろう。

入院の間は共に来ていた友人二人に泣きつかれたり心配され、帰国後は両親たちにとても心配された。

心の傷までは完全に治療出来なかったものの、彼には目標が出来た。

まず一つは、手の届く範囲でも良い…困っている誰かを決して見捨てないこと。

もう一つは、自分を助けてくれた仮面の戦士のような人間になること。

そして、少しばかりの変化と共に物語は0から1へと始まる。

少年…『辰巳一誠(たつみ いっせい)』の物語が……。




 短いですが、こんな感じです。イッセーの苗字変更については少しばかり家族構成を変更するからです。原作を愛する方は本当に申し訳ありません(汗)
 ちなみに意味不明な言語を喋っていたネオストラたちですがあれはあるゲームの言語を使っています。
 続く予定ではありますがアーサーの連載が一区切りついたら進める予定です。
 ではでは。ノシ


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HEART1 奇跡と言う名のDestiny

 一話ですがまだ変身はしません。とりあえず本作のイッセーがどんな人間かわかっていただけたら幸いです。
 それでは、どうぞ。


「はい、ドーンッ!!」

「ぶふぅっ!!?」

 

謎の声と共に顔を水面に叩きつけられた辰巳一誠は、激しく抵抗すると意識を覚醒させた。

少しだけ水を飲み込んでしまった彼は、咳き込みながら周囲を見渡す。

背後を見ると巨大な滝があり、そこから流れる音がこれは現実だと彼にはっきりと認識させる。

あちこちを見渡すと視線の先には彼岸花が点々と咲いており、神秘さや寂しさを感じさせる…そんな場所に彼はいた。

 

「やっと起きたかー。君遅いぞー?」

 

見覚えもない自分のいる場所に混乱している彼を笑うように、目の前にいた少年は話しかけてくる。

その少年は青いスーツを着ており、中々の美貌だがあどけない笑いから自分よりも幼く見える。

スーツが水で濡れるのにも構わず、少年は川辺の水で遊んでいる。

 

「えっ!いや…そもそもここは何処っ!?誰っ!?」

「おーおー、分かりやすい反応だなー。一から説明してあげるから適当に腰を掛けなよ…あっ、君の中にいるドラゴン君も質問があれば喋っても構わないから」

(っ!?こいつ…!!)

 

混乱している彼に少年は笑顔を崩さずに岸の方まで案内すると楽しそうに答えると、静観していた彼の中にいた『それ』は話しかけてきた彼に警戒する。

そんな二人(?)の様子を気にする様子もなく、少年は少し大きめの岩場に腰を掛けながら口を開いた。

 

「そうだなー、君は自分の身に何があったか覚えてる?」

「…えっと」

 

少年からの問いに自分のことを思い返す…そうだ、自分は帰り道の途中で誰かと出会って、それで戦っていたはずだ。

でも、『何か』のせいで動きが止まって、それで、それで……。

こうなった原因を探り出そうと…走馬灯のように今日の出来事が再生された。

 

 

 

 

 

自身の通う学び舎『駒王学園』に所属する辰巳一誠…気心の知れた人たちからは「イッセー」と呼ばれている彼は、二人の友人と共に廊下を全速力でダッシュしていた。

本来、廊下は走る場所ではないのだが、この時ばかりはそんな校則など無視して追跡者から逃走を開始しており、必死に足を動かす。

そして、追跡者からの怒声が響いた。

 

『待てええええええええええええっっ!!この覗き魔共おおおおおおおおおおおおっっ!!!!』

「今日という今日は絶対に許さないわよおおおおおおおっっ!!!」

「「「ぎゃああああああああああああっっ!!!?」」」

 

追跡者…剣道部の女子たちの怨嗟とも憤怒とも言える言葉に三人は折れそうになる心を必死に支え、ギアを上げる。

察しの良い方々なら既に分かりきっているかも知れないが、イッセーと中学からの付き合いであるその友人、丸刈り頭の『松田』と眼鏡でロリコンの『元浜』は『変態三人組』として良く知られており、今回の騒動も松田の発案によって覗きをしようとしたが案の女子一同にばれてしまい、このように追い掛け回されているのだ。

一応のフォローだが、イッセー個人は人並み以上の性欲はあるし、中学時代には彼らとは紳士トークに花を咲かすなどをしていたが高校入学時には一通りのPTOを弁えるようになっていたため、「どうせ失敗するから諦めろ」と忠告したが当然聞き入れられず、流されるがままに参加してしまったのだ。

しかし、そんなことは被害者からしたら知ったことではないし、知っていて止めなかったのならそれは連帯責任だ。

「殴り飛ばしてでも止めとけば良かった」と内心毒づきながらイッセーは足を速めた。

 

(やれやれ、相棒も損な性格をしているな)

(そういうお前は呑気だな畜生っ!)

 

呑気そうに渋い声で語りかけるのは、ア・ドライグ・ゴッホこと『ドライグ』…二天龍のうちの一匹であり、「赤龍帝」の二つ名を持つドラゴンでありイッセーの神器に魂を封印されている存在だ。

イッセーとは何と幼少時からの仲であり、母方の祖父母の実家で行われている『定期検査』が切っ掛けで知り合った異色の経歴を持っている。

当初は厳格な性格だったが、今では牙が抜けてしまったのか現代を謳歌している状態であり、そんな彼にイッセーはツッコミを入れると主犯である松田に話しかける。

 

「松田っ!もう土下座しようっ!!誠心誠意真心を込めれば相手もきっと許してくれるはずだっ!!逝って来いっ!」

「おいっ!今お前違う方の言葉使わなかったかっ!?元浜お前が逝けっ!」

「ふざけんな、お前らが逝けっ!!そして俺のために犠牲になれっ!」

 

そんな余裕とも言える掛け合いをしながらも、三人は捨石を用意しようと醜い言い争いを続けていたが、ふとイッセーが窓の方を見る。

 

「っ!お、おいイッセーッ!?」

 

何と彼はそのままUターンを開始したのだ。

突然の行動に松田はおろか元浜や剣道部全員が足を止めてしまう…イッセーはそれを気にもせず先ほど通り過ぎた窓まで走り、窓枠に足をかけると思い切り跳躍した。

 

(おい、相棒何をっ!?)

(うるさいっ!)

 

流石の行動にドライグは驚きの声をあげるが、イッセーはそれを無視して近くの木の枝に着地し、そこにあった『何か』を抱えると足を滑らし…。

 

「あれ?」

 

そのまま地面へと自由落下を開始した。

 

 

 

 

 

「あー、まだ身体いてー」

(無理をするからだ。愛奈殿も表情こそ出さなかったが心配していたぞ)

 

夕方、イッセーは未だ痛む身体に眉を顰めながら帰路へとついていた。

あの後、クラスの副担任であり伯母でもある『政宗愛奈』に捕まり、反省文及び一週間の教師たちの手伝いで処分は決まり、女子たちにも謝罪したことで何とか場は治まった。

ちなみに無事だったとはいえ、人が落ちる瞬間を見てしまった女子もいたのでイッセーはそれに関しても謝っていた。

 

(しかし、まさか黒猫一匹のために窓から木に飛び移るとはな)

「見捨てるわけにもいかないだろ」

 

周囲に人がいないのでドライグの声に口を開いて言い返す。

イッセーのモットーは「絶対に見捨てない」ことであり、例えそれが猫でも見捨てないし見過ごせないのだ。

それが彼の目標の一つでもあり、『罪滅ぼし』でもあるのだ。

歩きながら、イッセーは白い手袋に覆われた自分の掌を見る…それは消してはいけない過去であり、絶対に忘れてはいけない傷痕。

やがて、歩道橋を過ぎて近道である公園まで通りがかったところで「あの!」と少女の声が聞こえてきた。

自分に話しかけられたのだと気づいた彼は後ろを振り向く。

そこには一人の少女がいた…長く美しい黒髪に均整の取れた豊満な身体、恥かしそうに頬を染めている彼女は他校と思わしき学生服に身を包んでいる。

 

「は、はい…」

(相棒、声が上ずっているぞ)

 

好みのタイプに近い女子を見て緊張するイッセーをドライグは茶化すが、当然そのような声は目の前にいる少女には聞こえない。

当のイッセーは「モテ期かっ!俺にもついにっ!?」と内心狂喜乱舞していていたが、恥ずかしそうにしている彼女に違和感を覚える。

やがてそれが確信へと変わりながらも、女子生徒は顔を俯かせながら言葉を紡いでいく。

 

「私、『天野夕麻』って言います…その、私と…」

「ごめん、殺気を出している人とは付き合えない」

「っ!?」

 

天野の言葉を遮るように言い放ったイッセーのその言葉に、彼女は顔を上げて目を見開いた。

しかし、その表情は悲しみでも驚きでもない…例えるならそれは。

 

「そう……なら、消えなさい」

 

冷たい、氷のような…冷酷なまでの感情。

言葉と共に天野は召喚した光の槍でイッセーを貫こうとする…しかし、彼はそれを最小限の動きで躱し左手に召喚した赤いドラゴンを彷彿させる籠手…『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』でカウンターを叩き込む。

呻きながらも彼女は距離を取り、黒いボンデージに身を包み黒い翼を生やして宙に浮かぶとイッセーが召喚した神器を見て笑みを浮かべる。

 

「…はっ。神器を宿してるって聞いたからマークしてたけど、『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』じゃない。警戒して損したわっ!!」

 

吐き捨てるように、傲慢なまでの態度と表情をその美貌に載せながら冷たい声で嘲笑う。

赤龍帝の籠手は厳密には神滅具に分類されるのだが、一介の高校生が宿しているとは思わないだろう。

完全に油断をしている彼女に視線を外さず、イッセーは打開策を考える。

相手がこっちを弱者と認識している以上、それを利用しない手はない…持久戦に持ち込むことも可能と言えば可能だがそろそろ帰らないと愛奈と母がうるさいだろう。

それならば……。

 

(先手必勝っ!!)

 

速攻で片付けることを決定すると、巨大な光弾…ドラゴンショットを二発だけ飛ばす。

そのスピードと大きさに驚いた天野は苦虫を噛み潰すように紙一重で躱す…それがイッセーの目的だった。

脚に魔力を込めて走り、思い切り跳躍して天野に近づく…油断し驚愕していた彼女の顔面に魔力の籠った左拳が炸裂した。

吹き飛ばされた彼女は態勢を整えて、顔を抑えながら憎悪の籠った目でイッセーを睨む。

 

「この…人間の分際でええええええええええええっっ!!!」

 

堕天使である自分にとって、人間に追い詰められるのは耐え難い屈辱であろう。

最初の面影とは見る影もなくなった天野は、感情に突き動かされるように先ほど以上の光の槍を生成し投擲する。

あまりにも単純、シンプルな攻撃にイッセーはため息を吐いて躱そうとするが…後ろから聞こえた鳴き声に気を取られてしまい…。

 

「ぐっ……うぅ…!!」

 

光の槍は無情にも彼の胴体を貫いた。

辛うじて立っていられる状態だが、口からは赤い塊を吐き出し地面を赤く染める。

それを、イッセーの後ろにいた子犬が見つめている。

首輪がついていることから恐らく飼い主と離れてしまったのだろう…場違いにもそんなことを考えていたイッセーの思考をかき消すように天野は楽しそうに笑う。

 

「あはははははっ!!まさか犬を守って重傷だなんて…気付いてなかったらデート位はしてあげたのに…可哀想な一誠君♪」

 

その言葉を聞いてようやく確信する…どうやら彼女の目的は自分だったようであり、理由は不明だが自分を始末するつもりだったのだろう。

下手に動かない方が出血も抑えられるがそれでもイッセーは身動きを取る。

天野は完全に勝利を確信している…このまま退散しないのも自分を追い詰めた人間が苦しんで倒れる様を観たいのだろう……それならば、チャンスはここしかない。

 

【BOOST!】

「…はっ?」

【BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST!…】

 

連続して鳴り響く倍加の音…それと同時に膨大なまでの力と魔力の奔流がイッセーの身体から漏れ出す。

左手に力を込めて、朦朧としている意識を払うように呆然としている天野を睨む。

 

「なっ、何よ…その魔力……くっ、来るなっ!!」

 

明らかに龍の籠手では出せない威力に恐怖でひきつらせた表情と共に光の槍を飛ばすが、それを掠らせるように躱して勢いよく走る。

ここで逃がしてはいけない、恐らく奴は自分に会う前から同じことを繰り返していたはずだ…ならば自分が止めるべきだ。

死なない程度に…二度と悪巧みが出来ないように再起不能にさせる……。

右手で天野の黒い翼を渾身の力でもぎ取り、怨嗟と激痛の悲鳴をあげる彼女目掛けて赤龍帝の籠手を構える。

 

「ひっ、やめ…」

 

命乞いを聞く暇も必要もない彼は、鳩尾に膨大な力が籠った拳を叩き込んだ。

悲鳴をあげることも出来ないまま…天野は黒い羽根を撒き散らしながら上空へと吹き飛ばされた。

 

「は、はは…ざまぁみろ。ゲホッ!!」

 

目の前の敵を倒したイッセーは薄れゆく意識の中、勝利を確信すると制服を真っ赤に汚す。

恐らくもう限界だろう、彼はそんな今日の一日を走馬灯のように思い返すと家族と友人たちへの懺悔と共に意識をシャットダウンさせた。

 

 

 

 

 

「…夕麻ちゃんの攻撃を受けて…それで」

「敵にも『ちゃん』づけとは恐れ入ったなー。そうそう、でも…君はまだ生きているよ」

「えっ?」

 

少年の言い放った言葉に、イッセーは驚きの表情を見せるも彼は言葉を続けて行く。

 

「とは言ってもかなりやばい状態だよ。普通の人間なら死んでもおかしくないのに丈夫だねー、もしかして生まれが特殊とか?…まぁそれは良いか。とにかく君はまだ生きてるし僕なら簡単に君の怪我を治すことが出来る」

 

少年のその言葉にイッセーは半信半疑ではあったが、彼が嘘を言っている様子もなく、何を考えているかは分からなかったがその言葉だけは不思議と信用することが出来た。

 

「だったら…!」

「その代わりにさ、僕の手伝いをしてほしいんだ」

 

逸る気持ちを抑えるように少年はイッセーを手で制すると、わざとらしい咳払いをしてから本題へと入る。

 

「単刀直入に言うよ。ネオストラを倒すための戦士…仮面ライダーになって、ちなみに拒否権はないからね♪」

「……はっ?」

 

突然の要求に唖然としている彼を無視して、少年は目の前で手をかざしてイッセーの腹部に赤いバックルを召喚させる。

赤いボディと恐竜の左眼のようなディスプレイがデザインされており下部には何かを装填するためのホルダーがある。

急に現れた見たこともないバックルにイッセーは困惑するばかり。

そして……。

 

『おいっ!これはどういうことだっ!?』

「ドライグッ!?」

 

何とそのバックルから聞こえてきたのはドライグの声…突然の出来事に普段冷静な彼も慌てており、イッセーもベルトから聞こえてくる相棒の声に驚くしかない。

 

「それはネオストラと戦うための道具…えっと、二天龍の赤い方が入っているから…『ドラグーンドライバー』でいっか。それとこれもプレゼント」

 

思い付きで名前を決めると、少年から投げ渡された手のひらサイズの物体を反射的に受け取る。

それは注射器と乾電池が合体した不思議な形状をしており、底の部分はスイッチとなっていて、中央に赤い銀色のラインが入ったグリーンカラーとなっている。

 

「それは『ハートバッテリー』…動物の擬似心、まぁ動物の力を宿した物体だと思ってくれて良い。これで君の神器は生まれ変わった」

 

「良し」と納得した少年はイッセーが困っているのにも関わらず、何度も嬉しそうに頷く。

しかし、しばらくしてから「おっ」と何かに気づいた彼は指を鳴らす。

 

「ナイスタイミング!これはもう鬼に金棒…あれ?一石二鳥?まぁどっちでも良いか。安心しなイッセー…これでもう君は完全復活だ、むしろ強くてNew Gameだよ」

 

「ラッキー」と言わんばかりの満面の笑みでそうまくし立てると、彼の元に近づき嬉しそうに肩を叩く。

 

「それじゃ、頑張りたまえっ!!」

「えっ!?ちょっ…うわああああああああああっっっ!!?」

 

少年の明るい言葉と共に、心の準備も出来ぬままイッセーは先ほどまで自分がいた場所…滝壺へと落とされた。

 

 

 

 

 

薄暗い森に存在する今や使われていない廃墟となった教会に、天野夕麻こと『レイナーレ』は這いずるように自身のアジトでもあるこの場所へと戻って来た。

イッセーの渾身の一撃によって吹き飛ばされた彼女は光の力すらも生成出来ない己の身体を引きずりながら扉を開いて内部へ入る。

本来なら自分は人間になど負けるはずがなかった…至高の存在である堕天使の自分にどう傷を負わせたどころか美貌を傷つけた。

それに憤りを感じずにはいられるか…彼から受けた激痛と屈辱に憎悪の炎を瞳に宿し始めた時だった。

 

「何だ、随分と遅い帰りだったな」

 

そう語りかけたのは教会の席に座っていた青年…黒いスーツの上には同じ色のフロックコートを羽織っておりレイナーレの目には見えなかったが文庫本に目を通していた。

顔立ちは端正で短くも長くもない茶髪が特徴の青年であり、身に纏っている黒い手袋とブーツからまるで明治時代の洋装を思わせる。

自分には目もくれず、必要最低限の言葉しか話さない協力者でもある青年に彼女は怒りの矛先を彼に向ける。

 

「…ざけんじゃないわよっ!!何なのよあのガキッ!?あんな力を持っているなんて聞いてなかったわよっ!!!」

 

自身に蝕む激痛に身体を震わせ、壁で支えるように立ち上がると余裕のない口調で男を責め立てるレイナーレ。

そんな彼女に気にもせずページを捲りながらも青年は言葉を返す。

 

「言ったはずだ。辰巳一誠は強力な神器を宿している…とな。そのことを理解せずにバカ正直に向かったのは誰だ?実際に戦ったのにも関わらず、赤龍帝の籠手だということにも気づかなかったとはな」

「ブ、赤龍帝の籠手?十秒ごとに力を倍増させる、神を殺せる力を宿した最強の神器…それをあんな高校生が…!?」

「何だ、それすらも分からなかったのか?所詮、光る物を漁るしか能のない薄汚いカラスか」

 

一度も視線を向けないまま、鼻で笑うようにページを捲る男にレイナーレの殺意は限界まで来ていた。

どいつもこいつも自分を侮辱する……それは誇り高い堕天使のプライドを刺激するには十分だった。

 

「ふざ、けるなっ!!!」

 

武器すらも生成出来なくなった身体を動かして彼に掴みかかろうとするがそれよりも先に彼は行動を開始していた。

 

「俺と…ネオストラと対等の口を利くな、異形風情が…っ!!」

 

右腕に装備した生物的なクリーチャーデザインをした紫色のデバイスにある銃口を向けるとグリップにあるボタンを押して、そこから黒いハートバッテリーをレイナーレに向けて射出する。

躱すことも出来ないまま、レイナーレは黒いハートバッテリー…『ネオストラバッテリー』に命中してしまい、地面に崩れ落ちると共に胸を抑えて苦しむ。

 

「あっ、あぁ…ゲェッ!?あああああああああああああああっっっ!!!!」

 

胸元を掻き毟るように床にのた打ち回る彼女を横目に彼はデバイス『インフェクションドライバー』のディスプレイを観察する。

そこには二つの情報が映し出されており、片方は先ほど射出したレイナーレ…そしてもう片方は最初に見込みのある人間に放った奴だ。

 

「…そろそろ、最初の奴が『覚醒』するころか」

 

そう呟いた青年の横で、レイナーレは黒い粒子に覆われるようにその姿を隠すとそれを振り払うように右胸にハート型のシンボルが埋め込まれた黒い異形…素体ネオストラが立ち上がる。

 

「奴の監視を行え。もしも独断行動をしていたなら……俺に報告しろ」

『g@)e』

 

青年の言葉に、レイナーレの声で不可解な言語で了承した素体ネオストラは口から白い糸を吐き出しながら境界を後にする。

 

「さて、お前はどう動くかな?」

 

この場にいない存在に語りかけるように、青年は口元を僅かに吊り上げながら再び文庫本の活字に目を通し始めた。




 カギを握る人物は取りあえず登場させました…急展開な上に詰め込んだ気もしますが…。
 それとレイナーレファンの方はごめんなさい。彼女の魅力を引き出したかったのですがネオストラの特徴を知るための生贄にしてしまいました…面目ない。
 次回は『彼女たち』と初変身(の予定)です。ではでは。ノシ


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HEART2 出会いと変身のMoment

 二話目です。しかし、書いていて思いましたがこれはちょっと設定を練り直した方が良いのでは思う今日この頃…何せアーサーと違って面白い設定を使っただけですし…うーん。
 それでは、どうぞ。


【オキナイト、コロシマス……オキナイト、バラバラヨ】

 

目覚めの朝が一瞬で悪くなるようなヤンデレボイスの目覚まし時計でイッセーの意識は覚醒した。

そろそろ買い替え時なのだが趣味以外の物にあまり出資をしたくない彼にとっては目覚まし時計を買うのはあり得ないことであり、そんな考えすら起きなかったのだが……。

とにもかくにもイッセーは目覚め寝ぼけた頭でゆっくりと周囲を見渡す。

 

(確か、夕麻ちゃんにやられたと思ったら三途の川みたいな場所で変な少年に会って……っ!?)

 

そこで昨日の出来事を鮮明に思い出した彼はもう一度周囲を…見慣れた自分の部屋を見渡す…そこは紛れもなく自分の寝室であり漫画とゲーム(大人向け含む)と言った至って普通の高校生の部屋だった。

 

『起きたか、相棒』

「ドライグ……」

『言っておくが、夢ではないぞ。昨日のあれは俺も覚えているし……何よりも「証拠」がある』

 

「見ろ」とドライグに指示されるままに勉強机の上を見ると、そこには昨日少年に渡されたアイテム…ハートバッテリーが無造作に置いてあり、ベッドから起き上がってそれを手に取る。

 

「…あの後、どうなったんだ?」

『俺も分からん、気が付いた時には相棒はベッドに寝かされていたし愛奈殿の帰りも遅かったからな。少なくともお前が助かったのは事実だ』

 

その言葉を聞いたイッセーは安堵の息を漏らす…自分の身に起こったことを流石に説明するのは骨が折れると思ったからだ。

ゆっくりと伸びをしてから彼は部屋のカーテンに手を掛け日光を身体に浴びる。

 

「…くぅー、やっぱ朝はこうでなくっちゃ……」

『あ、相棒…何ともないのか?』

「えっ?いや別に何も」

 

戸惑うように質問してきたドライグにイッセーは首を傾げながら答えるが、彼は「怠くはないか」・「試しに神に祈ってみろ」などと問い詰めてきたので全て実行してみたが身体にこれと言った異常も変化もない。

 

『……まさか。いや、そんなはずはない…だとしても辻褄が……』

「どうしたんだよ、ドライグ?」

 

考えをまとめるように独り言を始めたドライグにイッセーは訝しみながらも、彼に問い掛ける。

「仕方がない」と言わんばかりにドライグは一度深く息を吸うと言葉を紡いだ。

 

『結論から言うぞ。相棒、お前は悪魔に転生している』

「悪魔って…あの『悪魔』か?」

『そうだ、だがそうだとしてもおかしい。本来悪魔は日光にも弱いが神・天使・光などとは先天的に相容れない性質を持っている。相棒が中級悪魔の素質だったとしても今度は祈りによるダメージがないことが不可解だ』

「転生した時にバグった、とか?」

『分からん、もしかしたら祈りの真似事だったからかもしれないが……』

 

彼の言葉を聞きながらイッセーは机のタンスを引いて、十四の時に一時のテンションで買った銀色の十字架のネックレスに触れるが何ともない。

ふと、少年の言葉が脳内で再生される……。

 

――――『ナイスタイミング!これはもう鬼に金棒…あれ?一石二鳥?まぁどっちでも良いか……』――――

(あの言葉と関係があるのか?)

 

もしかしたら、その時点で自分は誰かに転生させられたのだろうか……それならあの言葉の意味にも合点が行くしタイミングもそこしか考えられない。

どちらにせよ自分はまた助けられたのだ…自分が悪魔?になったことよりも瀕死の重傷を負ったことよりも、その事実が感謝と共にイッセーの中に巣食う自己嫌悪感を増幅させた。

 

「……とりあえず、学校に行こう」

 

自分の身に何が起こっているのか気にはなったが、一先ずは何時ものように登校することを結論付けると下へと降りて行った。

 

 

 

 

 

「御馳走様でした」

『お粗末さん。やはりと言うか家族全員で食べる時間がないな』

「仕方ないよ、母さんは部屋で仕事だし父さんは海外でレンさんと取材。姉さんに至っては朝が早い時もあるんだ、流石にそれは贅沢だろ?」

 

愛奈が作ってくれた目玉焼きとベーコンといったシンプルな朝食を完食し、食器を洗い終えると駒王学園の制服に着替えスマホで母親に「行ってきます」とメッセージを送るとしばらくしてから母からメッセージが届く。

 

『行ってらっしゃい、気をつけてね』

 

短くも何処か温かい文面を見て軽く笑みを浮かべ、イッセーは玄関のドアを開けた。

 

 

 

 

 

「……あああああああああっ、重いっ!!先生、これ無理!絶対無理だって!絶対腕もげるって!!」

「松田くーん?ごちゃごちゃ文句を言うようだったらその上にもう一個乗せるけどー?」

「…と思ったら、腕がもげそうなくらい超軽いなー!!先生の役に立てるなんて俺はとんだ幸せ者だなー!!」

 

現在の時刻は昼休み…昼食を食べ終えたイッセーたち三人は愛奈の手伝いをしていた。

その中で一番体力のある松田が段ボールに入ってある荷物に苦言を呈していたが、彼女の一言によって目から熱い水を流しながらせっせと歩く。

茶色のロングヘアーに若葉を模した緑色の髪飾りを愛奈は身に着けており女子生徒と同等の身長だがこれでも成人女性でありイッセーの伯母でもある愛奈の本職は「動物学者」だが甥と妹たちと暮らしているため、少しでも生活費を稼ぐため講師としても活動しているのだ。

…最近だと正式に駒王学園の教師になろうかどうか本気で考えているが本編とは関係がないため割愛する。

イッセーも荷物を両手で運びながらも、疲れの取れていない身体を動かし階段に足を掛けた時だった。

 

「あ……」

 

ふと、足を止めてしまった。

階段の上にいたのは美しい紅い髪を長く伸ばした美少女……すらりとした長い手足とモデルのようなスタイルの彼女は軽く微笑むと、イッセーはそれに顔を赤くしながらも頭を軽く下げる。

この学園に通う者なら誰もが彼女のことを知っている……二大お姉様の一人である三年の『リアス・グレモリー』だ。

その後はお互いに何か言うこともなく、長かったような一瞬の時間は過ぎ去り彼女は下の階へ、イッセーは上の階へと向かう。

その際、彼女が振り向いてもう一度自分に微笑んでくれたように感じた。

 

 

 

 

 

その後は何事もなく午後の授業を受け、イッセーは帰り支度を終えて涙を流して絶叫している松田と元浜を無視して教室から退室した。

ちなみに二人が泣いているのは心ここに非ずだった彼を元気づけようと主演女優が堕天使の設定であるエロDVDのパッケージを見せてきたのだが今の彼には一番聞きたくない単語だったので条件反射で中のディスクごとへし折ってしまったのである。

とりあえずそれに対して一言謝っておいた彼は帰路に就いており昨日の場所を通り過ぎようとしたが……。

 

『f####……!!』

「ガ、ゲホ……!」

 

そこには一つの惨劇が繰り広げられていた。

右胸にハート型の赤いシンボル…この時のイッセーは知る由もなかったが素体ネオストラはうめき声をあげながら黒いシルクハットのような帽子を被っているスーツ姿の男性を片手で締め上げていた。

その男性は黒い翼を生やしてこそいたが毟られたであろう羽の残骸が地面に散らばっており、苦しげな声を漏らす。

 

「……何だ、あれ…!?」

『悪魔、ではないな。それに天使とも違う…そもそもあんな生き物は見たことがない』

 

イッセーの動揺する声に応えるようにドライグが口を開くが、彼にしては珍しく動揺が声に現れている。

素体ネオストラが楽しそうに締め上げている腕に力を込めた。

 

「…っ!やめろぉっ!!」

 

両脚に魔力を流し込んで一直線に素体ネオストラ目掛けて直進すると、イッセーは赤龍帝の籠手で思い切り殴り飛ばす。

 

『4&Z!?』

 

呻くように声を漏らすと、不意をつかれたのもあってか男性から手を離してしまう。

急いで彼の首根っこを掴んで安否を確認する。

満身創痍ではあったが幸いにも男性は微かに息があることに安堵するとイッセーは素体ネオストラと対峙する。

 

『iy:@y2p@et@9hm7Zwh;quZ!!c;sm、6j5t@t0li3cyw@h;ykt。3#Z?』

「何を言ってるのか分からねぇけど、この人を襲うんだったら俺が相手になってやるっ!!」

 

男性の声で苛立たしげにまくし立てる素体ネオストラにイッセーは籠手を見せつけるように左腕を前に突き出すと倍加を始める。

 

【BOOST! BOOST! BOOST!】

「行くぜっ!!」

 

さらにそこから倍加を行ったイッセーは相手の懐に入り込む…その際、素体ネオストラは鋭いパンチを浴びせようとするがそれを躱すと一気に倍加した力を解放した。

 

【EXPLOSION!!】

「ぶっ飛べぇっ!!」

 

内角をえぐるように渾身の拳を叩き込んだ……しかし。

 

『…hZffffffZZ!!!uyq@cl'3Z!-@hdyh@kj<b@st#Z!?』

「…なっ!?」

『下がれ、相棒っ!!』

 

ダメージを受けるどころか、吹き飛びもせずに嘲るように笑う素体ネオストラに愕然とするイッセーにドライグは警告するが隙だらけだったボディに重い拳を叩き込まれてしまう。

吹き飛ばされたイッセーは受け身を取ることも出来ないまま、噴水に激突する。

 

「ぐっ、ゲホッ、ゲホッ!!」

『6;qai「c;」fz4d@<%9。ネオストラニ、セイクリッド・ギアハ、キュウシュウ、サレルンダヨ』

 

やがて、不可解な言語から…片言だが幾分か聞き取れるようになってきた素体ネオストラの言葉を聞きながらイッセーはあるキーワードに反応する。

 

(ネオストラ…もしかしてこいつが…?)

『オット、ジャマガ、ハイリヤガッタカ。ココデ、オイトマ、サセテモラウゼ』

 

「ジャアナ」と片言でそう吐き捨てて彼は姿を消した。

敵がいなくなったことを確認したイッセーは胸を抑えながらも震える脚で必死に立ち上がろうとする。

 

『相棒っ!無茶をするなっ!!いくら悪魔になったとしてもダメージが大きい』

「でも、あの人を…助けなくちゃ…」

『奴は堕天使だっ!お前を襲った奴の仲間かもしれないんだぞっ!!まずは、自分の心配をしろっ!』

「それでも、見捨てられ…な…」

 

ドライグの必死の説得にもイッセーは力が入らず、地面に倒れてしまうが這い蹲りながらも気絶した男性の元へ近寄ろうとするが意識が薄れて行く。

 

(…畜生…畜、生ぉっ……!!)

 

また同じようなことを繰り返す、どうしようもなく無力でクズな自分にイッセーは憎悪を募らせながら、もはや動かない身体を必死に動かそうとした時…薄れゆく視界に赤い魔法陣のような物体と、駒王学園の女性の制服を着た数人の女子が映る。

その中で…記憶に新しい紅く美しい髪を持った人物…彼女は、確か……。

そこで、イッセーの意識はシャットダウンされた。

 

 

 

 

 

夢を、見ていた……自分を助けてくれた仮面の戦士が、先ほど自分が戦った異形と戦っている夢だ。

あの時と同じ、武器を振るう彼は襲い掛かる敵を斬り払いながら遠くにいる二体を撃ち抜く…颯爽としているのに、自分には何処か苦しそうで……酷く悲しく見えた。

そこで彼の目は覚めた。

 

「ん……変な夢」

 

その呟きと共にまだ鳴っていない目覚まし時計を止めて布団ごと上体を起こす。

やはりと言うか自分はベッドにいる…まるで昨日の朝の出来事をそのまま再現しているみたいだ。

しかし、違うところがあるとすれば今度は自分と同じ学園の生徒が魔法陣と共に助けに現れた…恐らく自分を悪魔に転生させたのも彼女たちなのだろう。

 

(とりあえず、姉さんたちに自分の身体のことを言ってそれから…)

 

今日の出来事を考えながらベッドから起き上がろうとした時、ある違和感に気づく。

今のイッセーは何も身に纏っていない、所謂全裸…もしくはフルティンだ。

 

(何でっ!?)

 

自分が一糸纏わぬ状態であることに流石のイッセーも混乱するしかなく、どうして自分が全裸なのか必死に思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せようとするがどうしても思い出せない。

 

「……うぅん。すーすー……」

「……えっ?」

 

自分ではない艶っぽい声と寝息に思わず声を出してしまう……しかも、自分のベッドからだ。

恐る恐る自分の隣を見る……そこに『彼女』はいた。

健康的な白い肌は眩しく、紅の髪が美しく映える…駒王学園のアイドル的存在であるリアス・グレモリーが全裸で寝ていたのだ。

大事な問題なのでもう一度言おう、何も身に着けず全裸で気持ちよさそうに眠っていたのである。

 

(いやいやいやいやっ!待て待て待て待ってくださいっ!!どうして!?WHY!? WHAT!?何がどうなってんのっ!!俺は一体何したのっ!!…もしかして、グレモリー先輩に貞操を…!!?///)

(落ち着け相棒…それを言うのは逆だし、お前もリアス・グレモリーも何もしてない)

 

パニックになっているイッセーはあらぬ妄想を抱いて自分の両肩を抱くが、呆れたようにドライグがツッコミを入れる。

唯一の証人ならぬ証ドラゴンに安堵したイッセーはドライグに質問をぶつける…無論、隣にいるリアスを起こさぬようにだ。

 

(リアス・グレモリーがお前を運んだ後、何を思ったのか服を脱ぎだしてな…最初は何事かと思ったが裸で密着すること魔力を与えて傷を塞いだのだろう、ふひひ)

「おい、マダオ(まるで駄目なオスドラゴンの略)。本音が最後の笑いとして漏れてるぞ」

 

思わず声に出してツッコンでしまったがどうやら過ちを犯していないようで安心した。

自分としては貴重なシーンを思い出せないのは惜しい上に、自分のような塵芥の存在と高嶺の花である彼女と一夜を共にするなんて最低にも程がある行為だ。

 

(さらりと自分を卑下するのはやめろ相棒。お前の悪い癖だ)

「…悪い」

 

イッセーの事情を知っているドライグは厳しい口調で窘めると、彼は申し訳なさそうに謝るが……下の階で声が聞こえてきた。

 

『イッセー?まだ寝てんのー!もう学校でしょー!!』

「『っ!!』」

 

一回から聞こえてくる愛奈の声にイッセーとドライグは反応する。

何時もなら返事をするなりして下から降りれば良いのだが隣で寝ているリアスをどうすれば良いかだ。

起こすべきなのだが全裸で寝ている美少女に健全な男子生徒がベッドの上にいる…どう考えても犯罪である。

 

『イッセー!?まだ寝てるのー!!…たく、しょうがないわね』

 

愛奈の声が聞こえた後、階段を上がってくる足音が聞こえる…心なしか音が大きいことから怒っているのだろう。

慌ててイッセーは愛奈を止めようと声をあげる。

 

「起きた、もう起きたからっ!!だから待って!」

『そうだ愛奈殿っ!相棒は俺が起こしたっ!!ハハッ!このお寝坊さん♪』

『何で目覚まし持っている奴をわざわざあんたが起こすのよっ!!後、その笑い声と口調イラッとするからやめろっ!!』

 

ドライグの渾身のフォローも愛奈の言葉によって打ち砕かれてしまい、足音がやむ気配がない。

そこで、さらにアクシデントが起こった。

 

「んっ?うぅん……朝?」

 

リアスが寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こし始めたのだ。

「起きたー!?」とイッセーとドライグがパニクる中、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「おはようございます…て、政宗先生?」

 

ドアを開けた愛奈と視線が合ったリアスは満面の笑みで爽やかな挨拶を行うが生物を押している非常勤講師である彼女を見て小首を傾げる。

表情が固まったまま、愛奈は甥であるイッセーに視線を向けるが当の本人は適当な言い訳も思いつかず視線を逸らす。

 

「シタク、チャント、シナサイネ」

 

機械的に言うと、愛奈は覚束ない足取りでふらふらと部屋から出ると静かに扉を閉めた。

そして、慌ただしい足音が聞こえた後、隣の部屋のドアを叩きながら声をあげる。

 

「『加奈子』おおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!起きなさいっ!イッセーがっ、イッセーがあああああああああああああああっっ!!」

 

けたたましい音と共に慌てふためいた涙声でイッセーの母であり愛奈の妹である『辰巳加奈子』を呼ぶがドアを叩く音が聞こえている辺り、応じていないのだろう。

 

「何かあったに決まってんでしょうっ!?イッセーが外国の人とっ、しかもよりによってうちの学校の生徒とおおおおおおおおおおっっ!!!良いから早く出てこいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!」

 

騒いでいる愛奈にイッセーは両手で頭を抱えるしかなく、ドライグも「家族会議決定だな」と諦めていた。

しかし、そんな混沌溢れる辰巳家を生み出した張本人であるリアスは「朝から賑やかな家族ね」と楽しそうに笑っており、ベッドに腰を掛け直してからゆっくりと脚を組む。

 

「……っ!?///」

(ヒュー!見ろよあの女の身体をっ!まるで芸術品のようだっ!!)

(お前もう頼むから黙ってくれドライグッ!!)

 

赤面しながらも、イッセーは妙なテンションになっているドライグを黙らせるが目の前にいるリアスを見てしまう。

括れた細い腰と長い手足、形の良いヒップと胸がほんの少しの動作だけで微かに揺れる。

 

「……見えています」

「見たいなら見ても良いけど?」

 

あまりの衝撃的なひと言にイッセーとドライグは固まってしまう…まさかうら若き学園のアイドルからそのような言葉が出るとは思わなかったのだろう。

そして、そこから一言。

 

「ちなみに私は処女よ」

「あっ、そうなんですか…て、誰も聞いてませんわっ!!」

 

何処か誇らしげに言い放ったリアスにイッセーは渾身のツッコミを入れるが咳払いをしてから本題に切り出す。

 

「グレモリー先輩。昨日と、一昨日に俺を救ってくれたのって…」

「そこまで分かっているのね。そう、私はリアス・グレモリー……悪魔であり、あなたのご主人様よ。よろしくね、辰巳一誠君…『イッセー』って呼んでも良いかしら」

 

その魔性の微笑みは、普通の人間には出せないほど美しかった。

 

 

 

 

 

味噌汁を飲み終えたリアスが両手を合わせて「御馳走様」と言ってから、家族会議が始まった。

愛奈は落ち着いているように見えるが視線が忙しなく動いており今だ慌てているのが分かる。

やがて、話を切り出した。

 

「それで、グレモリーさん。どうしてイッセーの、私の甥の家にいたのか教えてくれないかしら?」

「実は、辰巳君を我が部にスカウトしようと思いまして」

「うちの子を悪魔にしておいて良くそんな戯言をほざけるわね…!!」

 

その言葉にリアスは驚いたような表情を見せる…無理もない、彼女は愛奈を含めイッセーをごく普通の常識を持った人間だと思っていたからだ。

そして彼女から放出される魔力にリアスは驚きの表情を浮かべるが息を吐くように魔力の余波を消す。

 

「冗談よ。あなたがいなければイッセーは五体満足でいられなかったでしょうし、悪魔だろうがイッセーは私たちの家族よ。ごめんなさい、グレモリーさん。恩人なのに怖がらせるような真似をして」

「いえっ……ありがとうございます。先生」

 

そう言って、二人は互いに深く頭を下げた。

イッセーはそのことに胸を撫で下ろしたがメッセージが受信されたスマホを起動させる。

 

『紅い髪の女の子なんて本当にいないよね、イッセーちゃん?』

「……信じてなかったんかい」

 

察しの悪い母親にイッセーは苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

 

そして、時間は過ぎて放課後…イッセーは爽やかな笑顔が似合う金髪の少年、所謂イケメンに分類される人物『木場祐斗』の後をついていた。

今朝の投稿では、同学年の男子女子に嫉妬の視線を向けられており「当然か」と苦笑いしていたが一部の下級生たちは「辰巳先輩がグレモリー先輩と…やっぱりすごいっす!」・「そんな、辰巳先輩が…あっ」と騒いでいたが当人はそれに気づいていなかった。

実はイッセー、面倒見の良さと並外れた行動力の持ち主などから後輩たちに慕われているのだがあまり自覚がないのだ。

閑話休題……とにかく木場に呼ばれたイッセーはそのまま旧校舎へと入って行き、しばらくして「オカルト研究部」と書かれた扉のプレート前で止まる。

 

「部長、連れてきました」

『入ってちょうだい』

 

扉越しにそう言った木場の声にリアスの声が聞こえると彼は扉を開けて、イッセーと共に部室に入る。

室内は薄暗い雰囲気となっているがアンティーク調の灯台に立てられているろうそくの火が光源となっている。

二つあるソファには白髪の小柄な少女が座っており水ようかんを爪楊枝で刺して口に持って行く。

 

(確か、『塔城小猫』……だよな。一年の)

 

元浜が熱く語っていた一年の生徒で学園のマスコット的存在として人気を集めている少女だ。

木場にしてもそうだ…自分や松田たちと違って女子生徒に高い人気がある男子生徒でこちらもリアスや小猫ほどではないが有名人の一人だ。

 

「辰巳君はここに座っておいてね?」

「おう」

 

言われた通り、イッセーはソファに腰を掛ける。

 

「粗茶ですが」

「あ、どうも」

 

するとタイミングを狙ったかのように前にある机にお茶が出される。

長く美しい黒髪を持った…リアスに負けずとも劣らないプロモーションを持った女子生徒はイッセーのお礼の言葉を聞くとにこやかに微笑んでくれる。

 

(『姫島朱乃』先輩までもか……)

(これが悪の組織だったら完全に詰んでいる状態だな)

 

二大お姉様の片割れである姫島朱乃だと気づいたイッセーは表情を隠すように湯飲み茶わんに入ったお茶を飲む。

ドライグは楽しそうに語っていたが冗談でも聞こえないことを祈るばかりだった。

ふと耳の入った水音が聞こえる…恐らくリアスがシャワーを浴びているのだろう…朱乃が部室にあるカーテンに近づきバスタオルを差し出すと中にいるリアスがそれを受け取る。

しばらくして、学生服を着たリアスがカーテンから現れたことで説明が始まった。

 

「さて、早速だけど…イッセー、あなたは神器を使用出来るみたいだけど悪魔や天使、堕天使のことは知ってる?」

「それは……」

(相棒、正直に答えた方が良いぞ。ただし、答えられる範囲でだ…流石にお前の母方のことまで話すと長くなる)

 

どう答えるべきか言い淀んでいるイッセーに対してドライグは的確なアドバイスを送る…確かに、母親のことまで話すとなるとかなり時間が掛かる上に本筋から外れる可能性がある。

何より、悪魔などよりも突拍子もなさすぎる……。

それを肝に銘じながらイッセーは話を始める。

 

「はい、詳しく…とまでは行きませんが大体のことなら知っています」

「差し支えなければ、誰から聞いたか教えてもらっても構わないかしら?」

「祖母です。小さい頃、祖母ちゃんが俺や従兄弟たちに悪魔や天使たちのことを童話として読み聞かせてくれたんです」

 

数百年前、自分の世界ではずっと昔に聖書の神話体系の天使・悪魔・堕天使の間でかつて大戦争が生じたこと、そして二天龍が起こした喧嘩を三大勢力が協力の元に倒し、魂を神器に封印された状態となっていること。

 

「祖母ちゃん家でやっている定期検査で、その一匹の魂を封印した神器があることに気づいたんです」

「それってもしかして…!」

 

その言葉に反応したリアスは冷静を装いながらも驚いているように見える。

「論より証拠」と言わんばかりにイッセーは左腕を前に突き出す。

 

「来い、赤龍帝の籠手ッ!!」

 

その言葉と共にイッセーの左腕に赤龍帝の籠手が召喚されると、リアスを含む全員が驚き目を見開いている。

 

「赤龍帝の籠手…それじゃあやっぱり…!!」

『お察しの通りだ、リアス・グレモリー……俺は二天龍の内の一匹「赤い龍」だ』

 

ドライグの肯定する言葉に、リアスの表情は増々驚愕に染まる。

しかし、それよりもイッセーに気になることがありそれを彼女に質問する。

 

「今度は俺から良いですか…どうして堕天使は俺を襲ったのでしょう?それに俺はどうやって転生したのですか?」

「恐らくだけど、あなたに神器を宿していたからよ。あなたの場合、それよりもレアな神滅具だったのだけれどね」

 

その言葉を聞いて、多少なりとも納得した。

どうして神器を持った人間を襲うのか疑問に思ったが、ある程度の理由はつく…なぜ自分を危険視したのかなど釈然としない部分はあったがとりあえずは理解することにした。

 

「二つ目の質問だけど、私は瀕死だったあなたに悪魔の駒を与えることで下僕として悪魔に転生させたわ」

「……悪魔の駒?」

 

聞き慣れない単語が聞こえたイッセーは復唱すると、その言葉を待っていたというようにリアスは席に置いてある赤いチェス盤の駒を一つ手に取る。

 

「簡単に言ってしまえば、人間などの特定の存在を悪魔に転生させる物よ。上級悪魔に持たされ、それで自分だけの眷属を作るの」

「へぇ…もしかして悪魔ってそんなに多くないんですか?」

 

イッセーの問いにリアスは肯定するように頷く。

 

「そうね、永遠に近い寿命を持つ代わりに妊娠率や出生率はきわめて低いの。これはそのためのシステムと言ったところね」

 

その後のリアスの解説では、本来複数の駒を使うであろう資質を宿した転生体を一つの駒で済ませてしまう特異な駒『変異の駒』というものも存在するらしい。

ちなみに自分は兵士の駒八つを消費したらしい。

あまり実感のない話だっが「レアキャラみたいなものか」と適当に自分を納得させた。

そして一通り話を聞き終わったのを見計らって四人はリアスを中心に並び立つと背中から黒い悪魔の翼を生やす。

 

「改めて、僕は木場祐斗。『騎士』をやらせてもらってるよ」

「塔城小猫…『戦車』です。よろしくお願いします、イッセー先輩」

「姫島朱乃。『女王』を務めさせていただいてますわ。よろしくね、イッセー君」

「そして、私はこのオカルト研究部部長でありグレモリー眷属の『王』よ。これからよろしくね、イッセー」

 

四人の挨拶の後に「よろしくお願いします」とイッセーは元気よく頭を下げた。

 

 

 

 

 

そして、数日後イッセーは自転車を漕ぎながら真夜中の駒王町の家のポストに簡易魔法陣のチラシ配りをしていた。

リアス曰く「悪魔は人間の欲望を叶える者であり、その欲望を叶える代わりに対価を貰う」……俗にいう悪魔との取引だ。

対価はその欲望に応じて比例するようで、願いが大きいほどそれ相応のリスクも伴うのだろう。

 

『何だか早朝の新聞配達を連想させるな』

「夜更かしは慣れているけど、流石にきついなー」

 

ドライグと軽口を叩きあいながらも手を止めずに作業を進めて行く。

リアスには言ってなかったのだが、本来悪魔は日の光が苦手で昼夜が逆転するのだがイッセーはなぜかそう言った弱点がないのだ。

しかも、全ての言語を共通の言語として捉える能力…つまり相手が話している言語を理解出来るだけでなく、自分が話している言葉も相手は理解出来るようになる。

「英語のテストの時便利だなー」と思っていたが結局あまり意味なかったのは内緒の話である。

やがて、全てのチラシを配り終えたのを確認したイッセーは部室に戻り部長であるリアスに報告すると彼女から「お疲れ様」と労いの言葉と共に指令が与えられる。

 

「小猫の代わりに、お願いしようと思ってね」

「…お願いします、先輩……」

 

ソファに座っていた小猫が軽く頭を下げると、イッセーもそれに快く了承する。

 

「了解、でもあんま期待しないでね」

 

そう答えた彼はリアスに導かれるように歩くと、赤い魔法陣が浮かび光り出す。

そして意を決するように魔法陣へと足を踏み入れた。

……結論から言えば、今回の依頼者は小猫のお得意様でもある『森沢』という眼鏡でやせ形の男性であり人との触れ合いに飢えている人であった。

とりあえず事情を説明して話すことになったのだが本棚にあった人気漫画が目に入り、それが切っ掛けで話が弾み、名シーンの再現ごっこをしていたら何時の間にか契約が取れており、対価に人気アニメのポスターをもらった。

二人目は世紀末覇者の如き屈強な肉体に魔女っ子に憧れる乙女心を宿した『ミルたん』。猫耳付きのゴスロリ衣装に身を固め、語尾には「にょ」と付ける漢の娘(誤字ではない、念のため)。

「自分を魔法少女にしてほしいにょ」と頼み込んできたのでどうするか悩んだが母が以前イラストを手掛けていた『魔法少女 プニ☆マジ』と、恐らくミルたんの名前の由来であろう『魔法少女ミルキー』のアニメBlulay-Boxがあったのでそれを一緒に観ながら筋トレに付き合ったことで契約を結ぶことが出来た。

対価は古びた厚い書物だったが不気味だったので丁重に部室の本棚に置くことにした。

ちなみに契約自体は無事結ぶことが出来たのだがリアスからは「にょ…何これ?」とミルたんの語尾に対して小首を傾げていたが笑ってごまかすことにした。

そして…その次の日、日も暮れかかった夕方にイッセーはリアスたちの後についていくようにある廃墟に訪れていた。

 

「『はぐれ悪魔』……ですか」

「そうよ。主を始末、または裏切った悪魔のことで各勢力から危険視されているの」

 

歩を進めながらもリアスはイッセーに分かりやすく教えて行く。

はぐれ悪魔は各勢力から危険視されており見つけ次第、消滅させることになっているとのことらしい。

 

「……それって、『消す』ってことですよね。今まで俺たちと同じように話したり笑ったりしていた人を…」

「……そうね」

「すいません。俺…」

「良いのよ。あなたは優しい…ここ数日あなたと話して何となく分かる。でも、はぐれになった悪魔は非常に凶悪になっているし被害も出てる…だから私たちがいるの」

「……」

 

リアスにフォローされたことでイッセーは増々自己嫌悪が強くなる…主であり恩人でもある人に自分みたいな腰抜けがフォローされた。

しかし、小猫が止まると同時にドライグが声を掛ける。

 

(…相棒)

「……血の匂い」

 

彼の言葉と彼女の呟きでイッセーは我に返る。

鉄臭さが辺りに漂うようになると、上半身は見た目麗しい女性だったが下半身は完全な化け物へと変化しておりケンタウロスと表現した方が正しいだろうか?

 

『ケ、ケタケタケタケタ』

(おう、気色悪いな)

(せっかくの美人も台無しだな)

 

壊れた人形のように不気味に笑うはぐれ悪魔にドライグとイッセーは胸中で毒を吐く中、何かを思いついたリアスは彼に話しかける。

 

「……イッセー、これも何かの機会よ。悪魔の駒の各駒の特性と由来をレクチャーするわ」

「わ、分かりました」

 

その言葉を聞いた彼は頭の中でメンバーに与えられた駒を思い出す。

木場が『騎士』で小猫ちゃんが『戦車』、朱乃が『女王』、そしてリアスが『王』……そして、自分は『兵士』。

イッセーが自分の駒を確認する横で、一歩前に踏み出したリアスは不気味な風貌のはぐれ悪魔に動じず、厳しい口調で宣言する。

 

「己の欲を満たすために主を殺したはぐれ悪魔『バイサー』………悪魔の風上にも置けない貴方を消し飛ばしてあげる!」

『小娘が……返り討ちにしてやるぅっ!!!』

「祐斗」

 

相手の不気味な声に臆さず彼女は短く木場の名前を呼ぶ…「はい」と短く返事をした彼は腰に帯剣していた剣を引き抜き、常人には目にも負えないような速度で動いていた。

バイサーは召喚した武器で木場を貫こうとするが非常に速い速度でその攻撃を全て受け流し、軽く躱す。

 

「祐斗の駒の性質『騎士』……あのように騎士になった悪魔は速度が増すわ。そして祐斗の最大の武器は……剣」

 

リアスが解説をする中、木場はバイサーの片腕を目にも留まらぬ速さで切り落とすとバイサーの苦痛に塗れた絶叫が響く。

「速い」とイッセーが呟く中、バイサーは片腕を失いながらも体勢を立て直そうとするが彼女の足元に既にオープンフィンガーグローブを装着した小猫がファイトスタイルのまま立ちはだかる。

 

「小猫の特性『戦車』は至ってシンプルよ」

 

バイサーは足元に自分よりも小さな悪魔を踏み潰そうと肥大化した四本の脚を振り下ろすが彼女はそれを難なく両手で止める。

 

「馬鹿げた力と、圧倒的な防御力!あれぐらい悪魔じゃあ、小猫を潰せないわ」

「……えいっ」

 

終いには片手で巨体を持ち上げた小猫は空いた右手で小さな拳を握り、思い切り振るうとバイサーの巨体が紙切れのように吹き飛ぶ。

 

(なるほど、これがギャップ萌えか)

(いや、絶対に違う!…と思う)

「最後に朱乃ね」

 

素っ頓狂な発言をするドライグにイッセーがツッコミを入れる中、リアスは女王である朱乃に声を掛ける。

 

「あらあら、うふふ……分かりましたわ、部長」

 

にこやかな表情を崩さぬまま、朱乃はゆっくりと満身創痍であるバイサーに近づく。

二人のダメージだけで既にボロボロであったがバイサーは未だに戦意を喪失しておらず、急に起き上がり鋭くなった歯で彼女を食い破ろうとするが、ぴたりと動きを止めてしまう……理性を失った者が最後に頼る能力、本能。

朱乃の気圧にゆっくりと交代するが、気にせず彼女は手から黄色い電気のようなものが発生する。

 

「朱乃の駒は『女王』…『王』を除いた全ての特性を持つ最強の駒。そして、最強の副部長よ」

 

彼女は手を上にかざした瞬間、バイサーの上空からそこから激しい落雷降り注いだ。

 

『がああああああああっっ!!?ぐぅぅぅぅ……!!』

「あらあら、まだ元気みたいですわねぇ。なら…」

 

ボロボロになりながらも朱乃さんを睨み付けるバイサーだが、それを見た彼女は心なしか増々笑みを浮かべると、次々に雷撃を浴びせて行く。

 

「うふふふふ」

「そうそう、朱乃は究極のSなの」

「見れば分かりますよっ!!」

 

リアスは何てことのないように話すが惨状を始めてみるイッセーは悲鳴に近いツッコミを入れるが彼女は「大丈夫よ」と彼を落ち着かせる。

 

「彼女は味方には優しいから」

(そういう奴に限って、身内を弄るのが大好きかもしれんな)

(ありそうかつ怖いこと言うんじゃねーよっ!!)

 

ドライグは冷静にコメントを入れたがイッセーによって強引に黙らされる。

そんなことをしながらも、バイサーは完全に倒れておりもはや抵抗すらしない。

 

「部長」

「分かっているわ」

 

そして、この四人を束ねる『王』は毅然とした態度で倒れているバイサーにゆっくりと近づく。

 

「何か言うことは有るかしら?」

「殺せ」

 

リアスからの問い掛けに一言だけ返すと、彼女の手から極大の魔力が生成される…その魔力は黒と赤を混ぜたようなそれは詳しく分からないイッセーでさえも身の危険を感じるほどだ。

 

「なら……消し飛びなさい」

 

その一言と共にリアスから発せられた魔力の塊を受けたはぐれ悪魔…バイサーは跡形もなく消し飛んだ。

その様子をイッセーは悲しげに見つめていた…生物が消滅する光景を目の当たりにした彼は、湧き上がる吐き気を堪えつつもいくつか分かったことをリアスに伝える。

 

「部長、俺の『兵士』は…もしかして『王』以外の全ての駒の特性を使えるんですか?」

「鋭いわね、正解よ。『兵士』は私の承諾によって『王』以外のすべての駒に昇格しその能力を使用出来る『プロモーション』を持っているの」

「なるほど」

 

チェスは、よく探偵を営んでいた叔母から教わっていたが大体の特性が悪魔の駒と同じらしい…こうしてはぐれ悪魔討伐及びイッセーへの悪魔の駒講座が終了するとイッセーはバイサーがいた場所に両手を合わせ、黙とうする。

 

「イッセー?」

「すいません。俺の自己満足ですので」

 

面識も何もなかったが、それでも見捨てられなかったイッセーは黙とうを終えてみんなの方に振り向いた。

 

「じゃっ、帰りましょうか!俺もう疲れちゃいましたよ!!」

 

明るくそう言う彼だったがリアスはほんの少しだけ後悔していた。

もしかして自分は最も非道なことを彼に強要してしまったのではないかと…口ではああ言ったが結局彼に最低なことをさせてしまったのではないかと……。

 

(…帰ったら、イッセーに謝っておきましょう)

 

そう結論付けた彼女は痛む心を手で軽く抑えながらも旧校舎に戻ろうとした時だった。

 

「おいおいおいおい、何だもう終わっちまったのかぁ?」

 

聞き慣れない声と共に彼らの行く手を阻むように現れたのは眼鏡をかけたグレーのスーツを着たサラリーマン風の男性。

しかし、その態度と言動は全くと言って良いほど一致しておらず何処か不可解さを感じさせる。

 

「けど、まぁ…赤龍帝の籠手のガキと、そこにいるニンゲン四匹も強そうだな。グレモリー眷属ってのをぶっ潰したらお上からもそれなり優遇されんだろうな」

 

ぶつぶつと独り言を言いながら男性は全員にうすら寒い殺気で舐めるように観察する。

全員に心当たりがなかったが、イッセーだけは心当たりがあった。

何処か粘着質のある…その声を。

 

「んじゃっ、精々逃げ回れよニンゲン共ぉっ!!」

 

そう叫ぶや否や男性の身体は黒と紫の何かに包まれると…イッセーが初めて対峙した素体ネオストラへと変わる。

しかし、それだけでは終わらない。

 

『ぐっ、うぅ……ははっ!来たっ、来たぜええええええええっ!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』

 

雄叫びを上げると、素体ネオストラから先ほどの男性が倒れるように排出されると同時に上半身に変化が生じる。

爬虫類の鱗で出来た装甲、拳部分には毒牙を模したグローブが装着されており、それはさながら蛇のようでもある。

悪魔とも…ましてや堕天使や天使とも妖怪とも違う異形にリアスは視線を外さずに口を開いた。

 

「あなた、何者なの…!?」

『あぁ?はっはは!!特別に名乗ってやるよ、俺はネオストラ…歴史に新たな名を刻む細胞生命体。そして俺は、「スネーク・ネオストラ」だあああああああああっっ!!!』

「危ないっ!!」

 

好戦的な口調でそう名乗りを上げたスネーク・ネオストラはリアス目掛けて拳を振るう、ゴムか何かのように凄まじいスピードで伸縮したその拳はイッセーが彼女ごと押し倒したせいで難を逃れるが廃墟の壁にけたたましい音と共に穴を空ける。

 

『~~~~最高だぜぇ!!やっぱ気に入らねぇ上司も、ガキ共も、身の程知らずに襲ってきた堕天使の男もっ!この手でぶちのめすのに限るなぁっ!!えぇっ、おいっ!?』

 

楽しそうにまくし立てるスネークに狂喜に満ちた表情で目の前にいる多くの得物たちを睨みつける。

 

「…舐めるなっ!」

「……っ!!」

 

木場も高速で相手との距離を詰めて攻撃を、小猫も鋭いストレートを放とうとする。

しかし……。

 

『無駄なんだよぉっ!!』

「うわっ!?」

「くっ…!!」

 

スネークは刀身を防御せずに、小猫のストレートを掌で受け止めると思い切り身体を振るって吹き飛ばす。

 

「お仕置きですわっ!!」

 

今度は朱乃が落雷を操り、スネークに直撃する…イッセーに庇われたリアスも彼に礼を言うと、追撃するように滅びの力を放つ。

手ごたえを感じた彼女たちは勝利を確信する……。

 

『無駄だ。てめぇらは既に「呪われてんだよ」……』

 

その言葉に全員が首を傾げるがやがて全員が苦しげに膝をつく。

それを見たスネークは楽しそうに笑うと、言葉を紡ぐ。

 

『所詮はニンゲンのガキかっ!!俺たちは特殊な術…「呪法」でてめぇらを無力化出来るんだよっ!つまり、今のてめぇらはヒト以下ってことだ』

 

楽しそうに、狂喜に歪んだ声で開設するスネークの右胸に埋め込まれたハート型シンボルが脈打つ。

まるで、次の得物を待ち望むように……。

一方のイッセーは頭を働かせていた。

彼だけはスネークの呪法による影響を受けなかったのだが戦況が不利なことには変わらない……このままでは全滅してしまう、また誰も救えずに…。

諦めかけたその時、ポケットに当たる固い感覚に慌てて中をまさぐると入れておいたまま放っておいたハートバッテリーがある。

それと同時に、少年の声がフラッシュバックする。

 

――――「それはネオストラと戦うための道具…えっと、二天龍の赤い方が入っているから…『ドラグーンドライバー』でいっか。それとこれもプレゼント」――――

――――「それは『ハートバッテリー』…動物の擬似心、まぁ動物の力を宿した物体だと思ってくれて良い。これで君の神器は生まれ変わった」――――

「っ!…一か八かだっ!!」

 

イッセーは、覚悟を決めると赤龍帝の籠手を解除する……そして、『自身の魔力』で生成したドラグーンドライバーを腰に巻きつけた。

 

【START UP! DRAGOON!!】

『っ!!?』

 

ドライグの声にも似たテンションの高い電子音声に、全員がイッセーの方を振り向く。

リアスたちは動揺していたが、ただ一人…スネークだけは動揺した声をあげていた。

 

『バッ、バカなっ!!そのベルトは…』

 

スネークの慌てた声を無視して、イッセーは緑色のハートバッテリー…『ローカストバッテリー』を下部のホルダーにセットし、ホルダーを上に傾けた。

 

【WHAT THE CHOICE HEART!? WHAT THE CHOICE BATTERY!?…♪】

 

テンションの高い待機音声が鳴り響く中、イッセーは相手から視線を逸らさずに装填されたローカストバッテリーのインジェクタースイッチを押し込んだ。

 

「変身っ!!」

 

瞬間、イッセーの身体は赤い龍を思わせるような赤いスーツに装着する。

そして何処からともなく飛翔してきた緑色の双剣に似たエネルギーがイッセーに向かって飛んでくるが彼はそれを受け止めることもせず、交差するように彼の頭部に突き刺さった。

 

「イッ、イッセー!!?」

 

リアスは突然の惨劇に悲鳴をあげるが……。

 

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

 

軽快な電子音声が鳴り響き、緑色のラインが全身に駆け巡るとその上にイナゴを模したパーカーが装備された。

そこに現れたのは赤と緑の戦士でありアニメキャラクターを思わせるようなオレンジの瞳は禍々しさと獰猛さを感じさせる。

『仮面ライダードラグーン ローカストハート』……辰巳イッセーが変身するネオストラと戦うための姿。

 

『仮面、ライダー…!!』

 

恐れるように、先ほどまでの態度が嘘のように一歩下がるスネークをしり目にドラグーンは産声をあげた。

 

「ミッション・スタート…!!」

 

湧き上がる高揚感を抑えるように、ドラグーンは相手に宣言した。




 かなり長くなりました。
 もしかしたら、設定を練り直すために削除するかもしれません……そうなったら申し訳ありません。
 ではでは。ノシ


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HEART3 Accelerateする物語

 お待たせしました、初戦闘パートです。ドラグーンがどういった能力を持っているのか分かると思います。
 後、やはり急展開が多いです。申し訳ない……原作通りの執筆がこんなに大変とは思いませんでした(汗)


「ミッション・スタート…!!」

 

そのセリフと共に仮面ライダードラグーンはゆっくりとスネークの方へ歩く。

足取りに迷いはなく、コミカルな瞳はしっかりと標的から視線を外していない。

 

『…っ!な、何が仮面ライダーだぁっ!!ただのガキじゃねぇかっ!!!』

 

今まで動揺していたスネークは自身を鼓舞するように叫び、拳を握り締めながら一直線に前進する。

なぜ目の前の少年が自分たちの天敵に変身出来たのかは定かではないが所詮はニンゲンの子ども、臆するに値しないと判断したのだろう。

もしこの場で逃げ出したらとんだ笑いものだ……。

 

『オラァッ!!』

 

進化した自分の力で相手を殴り飛ばそうとスネークは拳を振るう…その一撃は先ほどのように壁を粉々に出来るほどの威力だ。

当然それをまともに受ければただでは済まないだろう……しかし。

 

『な、にぃ…!?』

「……」

 

ドラグーンはそれを掌で受け止めていた。

常人ならばまともに躱すことも、ましてや防ぐことも不可能に近い自分の攻撃を目の前の戦士は難なく受け止め、あろうことか力を込めて完全に防ぐ。

腕を下げようにも力を込められているため、ドラグーンの手から解放することも出来ない。

そして、ドラグーンはハートバッテリーのインジェクタースイッチを再度押し込む。

 

【DOUBLE BOOST!】

「…オラァッ!!」

『がああああああああああああああああっっ!!?』

 

赤龍帝の籠手と酷似した音声が鳴り響いたのと同時に両脚に赤いエネルギー…呪法がチャージされるとそのままスネークの胴体を蹴り飛ばした。

倍加されたキックを受けた彼は悲鳴と共に吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「…戦車に昇格もしていないのに」

 

小猫は先ほどの光景に驚く…変身したのにも驚きだがドラグーンはあの強力なパンチを正面から受け止めただけでなく、あの強靭な身体を持つ怪人を吹き飛ばしたのだ。

ドラグーンドライバーは赤龍帝の籠手と同化を果たしており装填されたハートバッテリーの能力を倍加し全身に纏わせることが出来る…言わば「全身赤龍帝の籠手」と呼んでも過言ではない。

一方、起き上がったスネークは自分に攻撃を与えたことに怒りを燃やしながら再度拳を叩き込もうとするが今度は僅かな動きでそれを躱し、直後にカウンターとして放たれた拳が鳩尾へと叩き込まれる。

再び怯んだスネークの顔面を今度はストレートで殴り、胴体を蹴り飛ばして地面に這い蹲らせる。

 

『相棒、聞こえるか?』

「ドライグ?」

 

相手の攻撃を捌きながらもカウンターを叩き込むドラグーンに対してドライグは複眼を模したディスプレイを光らせながら話しかける。

 

『このドライバーの特性を理解した。必要な物はあるか?』

「じゃあ、武器くれ」

『任せろ』

 

追撃の跳び膝蹴りを叩き込みながら、ドライバーの解析を終えた彼にドラグーンは短く応えると、ドライグは二振りの短剣…変身の際にドラグーンの頭部に刺さった武器と酷似したそれを両手で構える。

 

【ZUBABA SLASHER!!】

「て、てめぇ…!!」

 

刀身の短い緑色の双剣『ズババスラッシャー』を装備した彼に、よろめきながらも立ち上がったスネークは自身の能力である伸縮能力で伸ばした腕で薙ぎ払おうとする。

しかし、ドラグーンはその攻撃をズババスラッシャーで受け流すと一直線に走りながらインジェクタースイッチを三回押す。

 

【TRIPLE BOOST!】

「はぁっ!!」

『ぐああああああああっっ!!』

 

倍加を施した斬撃がスネークの身体を斬り裂いた。

火花が激しく散りながら彼は叫び声をあげるが、ドラグーンは気にせず追撃を重ねて行く。

ダメージを受けながらも、スネークの自身のパワーと強靭な体躯を活かしたパンチやキックなどの格闘術で攻撃を仕掛けるがドラグーンはそれらを躱し、武器で捌く。

攻撃に当たることはなくドラグーンは「お返しだ」と言わんばかりのカウンターを決めて、蹴りを織り交ぜながら柄の部分にある持ち手を掴みトンファーのように使ってスネークを追い詰める。

 

「……すごい」

 

その戦いを眺めている木場と朱乃は驚きを隠せない……先ほどまでダメージどころか未知の力で自分たちを苦しめてきた怪人に、姿を変えた彼は圧倒していたのだから。

ドラグーンの双剣を用いた剣術はどの型にも収まらず、ある程度の基礎は受けていたのかもしれないが我流の剣術から繰り出される技はある種の美しさを感じた。

 

「そうですわね、それに…魔力の扱いも」

 

朱乃の言葉の通り、現在ドラグーンは倍加した魔力を身体の部位に流し込みながら戦闘を行っており余分な力を出していないのだ。

相手の攻撃を受け流し、カウンターで的確に急所を攻めている……確かにドラグーンことイッセーは自身の神器を使いこなすため、護身も兼ねて剣術や格闘技と言ったある程度の技術は練習していたが才能のない彼は基礎を極めることしか出来なかった。

しかし、「才能がないなら努力と別の何かで補えば良い」と考えた彼は相手の攻撃を見抜くための眼と、手数で攻めるための双剣術と足技を重点的に修行していたのだ。

そう言った才能がない故の努力と…そして、変身した直後に流れ込んできた『戦士』の記憶がそのセンスを確実な物へとしていた。

姿こそ見えなかったが、その記憶と戦い方から『彼』だという確信もあった。

なぜ彼の記憶が流れ込んできたのか…それは分からなかったがそれはドラグーンの冷めていた心を燃やすには十分であった。

 

「オラァッ!!」

『ぐおおおおおおおおおっっ!!』

 

締めのドロップキックをまともに受けたスネークは吹き飛び地面を転がる。

ズババスラッシャーを投げ捨てたドラグーンはホルダーを下げてインジェクタースイッチを押す。

 

【EXPLOSION! CURSE OF LOCUST!!】

「はぁぁぁ……!!」

 

倍加したエネルギーが両脚にチャージされると、それは緑色の巨大な暴風となって零れ始める。

ドラグーンは助走してから勢いよく跳躍し、渾身の跳び蹴りを叩き込んだ。

その名も……。

 

「『ブーステッド・ストライク』ウウウウウウウウッッ!!!!」

『がああああああっっ!?そ、そんな…俺が、俺があああああああああああっっっ!!!』

 

赤い軌跡を描きながら必殺の跳び蹴りを叩き込んだドラグーンは華麗に着地をする。

その背後で火花を散らしたスネーク・ネオストラは己の敗北を認められないまま、爆散するとハート型のシンボルがカシャン、と音を立てて砕け散った。

戦闘が終わったのを確認した、ドラグーンは再度ホルダーを上げてハートバッテリーを抜き取ってからホルダーを下げると「SEE YOU…」の電子音声と共に変身が解除される。

 

「…イッセー、あなたは…」

 

「何者なの」と尋ねようとしたリアスの言葉を遮るように拍手の音が響く…そして、イッセーの近くには青いスーツを着た少年がおり心底楽しそうに胡散臭い笑顔で全員に語り始める。

 

「いやー、初陣を飾れたねー。流石は僕が見込んだだけのことはある…うん、僕の見立ては間違っていなかった!」

 

満足そうに頷く謎の少年にリアスたちはどう反応して良いか分からない。

それもそのはずであり、自分たちは新人悪魔の指導を兼ねてはぐれ悪魔の討伐をしていたのに未知の怪人に襲われ、未知の戦士に変身したイッセーが倒したと思ったら今度は胡散臭い少年が出てきた。

これに対応出来る者がいるとしたら、それは変人の類か…あるいは黒幕のどちらかであろう。

 

「おっと、『お前は誰だ』・『さっきの怪物とどんな関係だ』と言いたげだね。うん、分かるよ、だってどう考えても常識の範囲を超えてるもん」

 

「悪魔なのにねー」と楽しそうに笑う少年にイッセーもどう言葉を返したら良いか分からない。

そして、彼は何かを思いつくと手を叩くと……。

 

「良しっ!ここで立ち話も何だから君たちの部室で話し合おうじゃないか!!」

 

一方的に少年はそう決めてしまった。

 

 

 

 

 

「何、スネークが倒されただと?」

 

教会では読書をしていた青年が素体ネオストラの報告を聞いていた。

彼女は青年の命令を受けて第一号…スネークとなったネオストラの監視をしていたのだがその様子を最後まで見ていた素体ネオストラは慌てて上司である彼に報告を続ける。

 

『はい。独断で派手な行動をしていたので報告をと思いましたが、今代の赤龍帝が変身した仮面ライダーと戦闘を開始したのですがコアも完全に破壊されていました』

「『奴』以外の仮面ライダーか…そうなると、あの裏切者も関与しているだろうな」

『如何がなさいますか?』

「お前もそろそろ進化する…ここに来る手筈の『シスター』を優先しろ」

 

青年の言葉を聞いた素体ネオストラは「了解」の言葉と共にその姿を少女…レイナーレの姿へと変わる。

しかし。

 

「レ、レイナーレ…様?」

 

その声の方向に振り向くと、そこには黒を基調としたゴシックロリータの衣装を着用した金色のツインテールをした青い瞳の少女……『レイナーレ』の部下である『ミッテルト』は怪物から元の姿へとなった彼女に呆然としている。

それを見た二人は冷たい視線を彼女に向けると、レイナーレは青年に視線を向ける。

 

「……始末しろ」

「仰せのままに」

 

何の感情もない声色で下された指示にレイナーレは素体ネオストラへと変化すると彼女の方にゆっくりと向かう。

 

「ひっ!?く、来るな化け物ぉっ!!」

 

直感で自分の上司ではないと判断したミッテルトは光の槍を飛ばすが粒子となって消滅してしまう。

完全に恐怖に支配された彼女は何度も同じ攻撃を放つが素体ネオストラはそれに呆れるように歩き、やがて彼女のとこまで辿り着くと躊躇なく首を絞める。

 

「あ…がっ……!!?」

『残念ね、何も見なかったら…残りの二匹みたいに利用してあげたのに』

 

その言葉と共に素体ネオストラはミッテルトの身体を貫いた。

貫かれた彼女は血を流すことなく粒子状となって消滅する…そこで、素体ネオストラに異変が起こる。

ハート型シンボルが脈打つと感染者であるレイナーレを排出し、素体ネオストラの身体に蜘蛛を模したローブとボンテージが装備される。

 

「ん……ひっ!?」

 

すぐに目を覚ましたレイナーレは、二人の怪物に怯え逃げようとするが『スパイダー・ネオストラ』は両腕に装備した武器から白い弾丸を発射して彼女の眉間を撃ち抜き消滅させる。

 

『このスパイダー…必ずや、至高の存在へとなることを約束します』

「……まぁ良い。後はお前の好きにしろ」

 

それだけを言うと、青年は教会から出て行く。

仮面ライダー…しかも、自分たちを狙っていた個体とは異なる存在を同胞たちへと連絡するべく行動を開始する。

薄暗い道を歩きながら彼はコートを纏った男性…スネークに襲われていた堕天使である『ドーナシーク』とすれ違う。

それだけなら何の問題もなかった……しかし、彼は黒く毟られた痛々しい翼を生やしていたのだ。

 

「汚らしい…!!」

 

知らずに彼の逆鱗に触れていたことに気づかないまま、既に成り変わっている上司に報告しようとするドーナシークの後頭部を、青年は怪人態となったその拳で叩き潰した。

 

 

 

 

 

オカルト研究部の部室は現在、様々な感情が渦巻いていた。

部員たちはイッセーと少年を見ているがこのカオスの原因でもある彼はさして気にする様子もなく朱乃が淹れてくれたお茶を飲んでいる。

そして、ようやく口を開いたのはここの部長でもあるリアスだった、

 

「それで、あなたは一体…?」

「ん、あーそうだね。僕は『ヴァイア』、君たちより先にイッセーに力を与えた張本人だよ…同時に命の恩人でもあるかな?」

 

あっさりと答えた彼…ヴァイアは「待ってました」と言わんばかりに話を始める。

 

「そうだねぇ、君たちが堕天使に気づいて彼を蘇生するよりも先に僕が接触していたんだ。まぁ、彼の精神世界に入り込んでいたから気づかなかったのも仕方ないけどね」

「…じゃあ、君は一体何者なんだ」

「何って、ネオストラだけど」

 

あっさりと答えると、リアスたちは身構える……無理もない、彼女たちは先ほどスネーク・ネオストラに襲われたのだ。

ネオストラ=自分たちを襲う敵と思っても仕方がない、しかしヴァイアはそれに対してへらへら笑う。

 

「まっ、そう言う反応するよね。でも僕は無害なネオストラだよ…むしろ僕はあいつらを止めたいと思っているんだから」

「…どういうことですか?」

「その前に、ネオストラ…僕たち細胞生命体について簡単に説明しようか」

 

小猫の問いに答えるように、彼は何処からともかく取り出したホワイトボードを取り出して説明を始める。

 

「まず…僕たちネオストラは『細胞生命体』の異名を持っていてね、君たちニンゲン…つまり人や悪魔、天使といった知的生命体に感染する習性を持っている。そして宿主の負の感情を吸収しつつ進化と培養を開始する…最初は意味不明な言語だけど次第に知能が上がり、そして進化する」

 

その説明にリアスたちは驚く…そんな未知の生命体が存在していたのもそうだが不気味な習性を持っていることに恐怖も感じていた。

気にせずヴァイアは話を続けて行く。

 

「僕たちにとって、ニンゲンは成長するための宿や苗床に過ぎない。動物の姿と名前を持った個体に進化すると感染していた宿主を捨てて行動を開始する…そこからもう一段階あるけど…まぁ面倒くさいから割愛するよ。そして素体と進化した個体には共通する能力があってね、『神器とニンゲンの駆使する異能の完全吸収』と『呪法』…君たちを一時的にだが無力化させることも出来る」

「それが、ネオストラ…」

 

朱乃の呟きに頷くと、彼は次の説明へと入る。

 

「最初はそんな能力はなかったんだけどね…奴らが進化した証ってことだよ。次にイッセーが変身した姿『仮面ライダー』についてだ」

「仮面、ライダー……」

「あの姿はネオストラと戦うための戦士さ。毒を持って毒を制す…擬似ハートのハートバッテリーを装填することでネオストラの能力を無効化することも出来る」

 

ヴァイアの話に納得していた一同だが、ふとリアスが挙手するとマジックペンを彼女に向ける。

 

「ネオストラと仮面ライダーのことは分かったわ。でも…どうしてイッセーなの?」

「そりゃあ、彼がネオストラに感染していたからだよ」

 

「簡単」と言いたげに質問に答えると、周囲の空気が一瞬だけ停止する。

そして、それに驚いたのは他でもないイッセーだった。

 

「おっ、おい!どういうことだよっ!!お、俺が…いつっ!?」

「いつって、最初に君を川に落とした時だよ?」

「あっ、あの時…てことはまさかっ!!?」

「そう、感染させたのは何を隠そう…この僕だよ」

 

重大な出来事を何てことないようにあっさりと能天気に答えたヴァイアに全員が軽く殺意にも似たオーラを醸し出すが彼はそれに臆することなく笑う。

 

「まぁ気持ちは分かるよ…でも、あの時僕が感染させていなかったらイッセーは危なかったし仮に転生させたとしても後遺症が残っていた可能性もある。それにウィルスのおかげで君は悪魔の天敵が相殺されているはずだよ?」

「っ!?イッセー、本当なの?」

「…はい、ドライグや俺も気になっていましたけど」

 

リアスの言葉に返したイッセーだがこれで合点が行った。

ネオストラに感染していたからこそ、イッセーは光や十字架などの聖なる物に効き目が薄かったのだ。

その原因が分かったことで複雑な表情を見せる彼にヴァイアは会話を続ける。

 

そう考えれば僕は最良の手段を取ったと思うけどね」

『…一つだけ答えろ、ヴァイア』

 

笑みを崩さずいけしゃあしゃあと語る彼に、今度はドライグが威圧感のある声で口を開く。

 

『貴様もネオストラなら、なぜ自分で戦わない?俺の思っている通りなら、貴様はここにいる誰よりも強いはずだ。なぜ戦闘経験の薄い相棒を利用する』

「単純だよ、今の僕は戦えないからだ」

 

そう言って、彼は右腕に構えたクリーチャーデザインの紫色のデバイス『インフェクションドライバー』を全員に見せる。

しかし、それは所々破損しており素人目から見ても使えないことが分かるだろう。

 

「前の時、ちょっとやられてね。こいつがないと僕は自分の力を完全に開放出来ない上にネオストラを生み出すほどのウィルス、ネオストラバッテリーも打てない…それに」

 

そこで一旦、彼は言葉を区切る……そしてイッセーの方に目を向けた。

 

「彼が優しかったからだよ」

「…俺が?」

「あの時、君は躱せるはずの攻撃を躱さなかった。子犬がいたから躱さなかったんだろう?僕の望む戦士は、優しくなくちゃいけない…だから君を助けようと思った、君を戦士にしようと思った。あの時は仕方がなかったとは言え君を戦いに巻き込んでしまった……それに関してはこちらの落ち度だ」

 

「すまない」と彼は頭を下げる…真面目に話し出したと思ったら今度は彼に対して謝罪の言葉を贈る彼に当の本人であるイッセーはおろか、メンバーも混乱するばかりだ。

やがて、彼が頭を上げる頃には先ほどのような胡散臭い笑みを張り付けて話し始める。

 

「まぁ、ギャグとシリアスを一度にやったところで…話すことは話したし、僕はしばらくここの部室でお世話になるよ」

「はっ!?いや、ちょっ…」

「じゃっ、僕はコンビニで買い物して来るから…みんなも早く家に帰るんだよ。しゅわっちっ!!」

 

リアスの抗議を最後まで聞くこともなく、ヴァイアは自分の身体を粒子状にしてこの場から去ってしまった。

あまりにも一度に多くのことが多すぎて理解が追いつかないメンバーだったがイッセーの着信…愛奈からの電話に「げっ!?」と驚く。

 

「部長、そろそろ帰って良いですか?あの…姉さんが」

「…そうね。みんな、今日はお疲れ様」

 

リアスのその言葉に全員が帰り支度をし、特に何も言わぬまま扉を開けて部室から出て行く。

イッセーもカバンを持ってドアノブに手を掛けようとした時、リアスに声を掛けられる。

 

「イッセー」

「はい?」

「その、今日はごめんなさい。あなたに嫌な思いをさせてしまって……」

 

恐らく今日のはぐれ悪魔の討伐のことを言っているのだろう…あまり良い顔をしていなかった彼に対してリアスは謝罪の言葉を口にする。

先ほどまでとは違う、年相応の態度で謝る彼女にイッセーは驚きながらも笑みを作る。

 

「俺は大丈夫ですよ。次からは俺も、頑張りますから」

 

そう言うと、彼は今度こそ部室から出て行った。

一人だけになったリアスはこれからもことを考えながらも、部室を後にした。

 

 

 

 

 

その日の休日、イッセーはジョギングを行っていた。

トレーニングでもあり日課でもあるジョギングだが休日だといつも以上の距離を走ることになっている。

やがて、休憩ポイントに差し掛かったところで手に持っていたペットボトルのふたを開けようとした時だった。

 

「はぅっ!!いたた……」

 

可愛らしい声と共に、イッセーは振り返るとそこには一人の少女がいた。

白いヴェールを被っており、その下には美しく長い金髪が見える…イッセーよりも背の低いその小柄な少女はグリーンカラーの瞳を駆け寄ってきた彼に向けた。

これが、イッセーと…少女『アーシア・アルジェント』のファーストコンタクトだった。




 てなわけでアーシアとの出会いまでで今回は終了です。
 スパイダーネオストラと会話をしていた青年…彼を一言で表すならば異形アレルギーです。堕天使や悪魔はもちろん、天使や妖怪も異常なほど嫌悪と憎悪を抱いています。
 ではでは。

スネーク・ネオストラ
素体ネオストラが進化した姿。感染者であるサラリーマンの「上司への不満」を負の感情として吸収していた。
爬虫類の鱗で出来た装甲、拳部分には毒牙を模したグローブが装着されており屈強な肉体を持っている。
両腕を自由に伸縮する能力を持っており、それをしならせて攻撃したり重い拳を遠距離にいる標的に叩き込むことも可能。


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HEART4 Sisterと神父の出会い

 うわー、長くなった!いつもは七千字以上を目安にしているのですが今回は長くしすぎたと思います。
 ですが、変身シーンも入れたらここまで長くならざるを得なくなってしまいました…大変申し訳ありません。
 それでは、どうぞ。


「そっか、アーシアは仕事で日本に」

「はい、色々な人たちに神のご加護を広めようと」

 

「立派だ」とイッセーが褒めるとアーシアは照れた表情で謙遜する。

あの後、互いに自己紹介を終え、イッセーは彼女が向かおうとしている町はずれの教会へと案内しており、その道中で軽い話をしていた。

ちなみに、アーシアは外国人なのだが悪魔の特性でもあるGo○gle翻訳もびっくりな能力で互いにコミュニケーションが取れるようになっているのだ。

やがて、二人が公園を通り過ぎようとした時…子どもの泣き声が聞こえた。

慌ててそちらへと向かうと、膝を抱えて地面に尻もちをついている男の子がおりそこから血が流れている。

イッセーは応急処置をしようと行動に移す前に、アーシアが駆け寄り男の子の膝に優しく手を当てる。

 

「……」

 

すると、彼女の手から淡い緑色の光が発せられた瞬間、すると男の子の膝の傷がなくなるように治り、最後には傷が完全に治癒された。

 

(ドライグ…あれは)

(間違いない、神器だ……それも飛び切りレア物のな)

 

イッセーたちが彼女の『能力』に驚き、分析していることに気づかないままアーシアは治癒を施した男の子に「もう大丈夫ですよ」優しい笑みを向ける。

 

「……!」

 

当然、彼女の言葉は彼には通じなかったが「自分を助けてくれたことを理解する」と男の子は「ありがとう!」と感謝の言葉を口にする。

 

「えっと……」

「『ありがとう』だってさ」

 

イッセーが通訳したその言葉にアーシアは再び微笑むと、元気よく手を振って走る男の子に彼女も手を振って返した。

 

「すみません、つい」

「アーシア、その力って…」

「はい、治癒の力です……神様から頂いた、大切な…」

 

アーシアは舌を出して小さく、嬉しそうに笑う。

イッセーは先ほどの出来事について尋ねるが、彼女は先ほどの表情とは違う暗い表情へと変わる。

それ以上先のことを聞くことはしなかった…彼女の笑顔を曇らせてしまうようで、イッセーは何も言わなかった。

やがて、教会の目印が見えてくると二人はそこで一端立ち止まる。

 

「教会は、そこから真っ直ぐだから」

「はい、何から何までありがとうございます。イッセーさん」

「良いよ。お礼を言われるために助けたわけじゃないから…何か困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ」

 

笑顔でそう返したイッセーに、アーシアは笑顔を見せるとそのまま教会の道へと足を進めて行った。

 

「…良い子だったな」

『まったくだ、あれが巷で話題の「癒し系女子」か』

 

再会出来ることを思いながら、イッセーとドライグは軽口を叩きながら帰路へと向かった。

 

「あ、連絡先教えるの忘れた」

『教会に行けば会えるだろ』

 

 

 

 

 

アーシアを教会まで送り届けたその日の夜、オカ研の部室でイッセーはリアスに怒られていた。

 

「二度と教会に近づいたら駄目よ」

 

リアスの表情が険しく、はっきりと彼を見据えて彼を窘める言葉を口にする。

その光景に木場と朱乃は苦笑いしており、小猫に至っては黙々と洋菓子を口にしている。

黙って話を聞いている彼を見て彼女は話を続ける。

 

「良い、イッセー?私たち、悪魔にとって教会とは踏み込めばそれだけで危険な場所なの。それこそ、いつ光の槍が飛んでくるかわからないわ……」

 

淡々と怒ってこそいたが、その表情はとても心配そうで…まるで姉や母のようにその身を案じているようだ。

木場や他の部員から聞いた話だが、グレモリー家は悪魔の中でも情愛が深いこと…つまり身内を大切にすることで有名らしい。

彼女の表情に流石にバツが悪くなったイッセーは素直に頭を下げる。

 

「すいませんでした。次からは、気をつけます」

「……私も少し熱くなりすぎたわ、ごめんなさい。でもこれだけは言わせて頂戴……悪魔払いは私たちを完全に消滅させる。悪魔の死は『無』よ。それだけは覚えていて」

 

彼へのお説教を終えたリアスは、場の空気を変えるように手を叩いて「今日は解散」と連絡してお開きとなった。

イッセーも帰り支度を終えて旧校舎から外に出た時、突如後ろから声がかけられる。

 

「ハロー、イッセー♪」

「ヴァイアッ!?今まで何処に…」

「僕はシリアスが嫌いだからね、外で時間を潰していたの。それよりも、さ…」

 

突然背後から現れたヴァイアは胡散臭い笑顔を向けながら、彼の耳元に顔を近づける。

 

「…緊急事態だ、黙って僕の後について来てくれ」

「っ!?」

 

今まで聞いたことのない真面目なその声色に、イッセーは顔を上げた。

 

 

 

 

 

住宅に辿り着くのは一瞬だった。

ヴァイアと共に人間以上のスピードで、やや豪華な家を見据える。

 

「君も感じるだろ、上手いこと臭いを誤魔化しているようだけど…」

「……」

 

彼の言葉に、冷や汗をにじませながら頷くと先陣を切るヴァイアの後を追うように鍵のかかっていないドアを開けて侵入する。

部屋には薄暗く、アンティークな電灯だけが光源となっている通路を歩きながら光が僅かに強くなっているリビングへと足を踏み入れた。

 

「うっ…!?」

 

イッセーの視界には、血塗れになって転がっている男性の遺体と血まみれの室内…そして、そこのソファに座っている白髪の青年。

 

「……君が、この惨状を引き起こした原因かい?」

「んんぅ?」

 

笑ってこそいたが、冷たい視線を向けるヴァイアの声に白髪の青年は首をこちらへと振り向く。

 

「おぉ~?これはこれは悪魔君たちじゃあーりませんか~?」

 

最初こそ怪訝な表情だったが、二人を見た青年は楽しそうに立ち上がりその姿を彼らにはっきりと見せる。

白い服の上に黒いコートを羽織った神父服の少年であり、彼はふざけた口調で殺意をぶつける。

 

「俺の名前は『フリード・セルゼン』。とある悪魔払い組織に所属する末端にございますですよぉ」

 

青年……フリード・セルゼンはふざけた言動で自己紹介をしながらも恭しく一礼するが、ヴァイアはそれを無視して再度質問する。

 

「これは、君が、やったのか」

「そう!俺っちです、はいっ!悪魔に頼るなんてのは人として終わった証拠、EndですよEndッ!!だから殺してあげたんですぅっ!!くそ悪魔とくそに魅入られたくそ以下を退治するのがぁ……俺様のオシゴトなのぉっ……!!」

 

言動を崩さず、さも当たり前のように自慢げで話すフリードにイッセーはそれを無視して素通りし、遺体となっている男性にシーツをかける。

ヴァイアもドヤ顔で銃と光剣を構える彼を無視して男性に近寄り黙とうする。

その様子に不思議な顔をするフリードだがやがてイッセーが口を開いた。

 

「今すぐこの場から消えて、二度と人を殺さないと誓うか」

「それとも僕たちに無様に負けるか……どちらか選択しな」

「アーハン?」

 

首を傾げるフリードが怪訝な表情で視線を向けた時だった。

 

「きゃあああ!!!」

 

女性の悲鳴が室内に響き渡り、イッセーとヴァイア…フリードも声がした方向に視線を向ける。

リビングの惨状に表情を固まらせていたのは教会へ案内をした少女…アーシアだった。

フリードは気にせず、彼女に声をかける。

 

「おんやぁ?助手のアーシアちゃん。結界は張り終わったのか、なぁん?」

「こ、これは…………」

「そっかそっかぁ♪アーシアちゃんはビギナーでしたなぁ。そう、これが俺らの仕事。悪魔に魅入られた駄目人間をこうして始末するんす♪」

 

そう言って、被せたシーツを切り裂いて見せた原型を留めていない遺体に呆然としているアーシアに、フリードは何でもないような口ぶりで自分が行なったことを説明する。

 

「そ、そんな……っ!?」

 

その説明を聞いてショックを受けた彼女が恐る恐る振り向き、その表情は驚愕したものへと変化する。

イッセーの顔を見た彼女は、声を震わせて呟く。

 

「……イッセーさん?」

「…アーシア」

 

まさか普通の男子高校生が、しかも以前知り合った彼がここにいるとは思わないだろう…ヴァイアは何も言わなかったがこの空気に気づいたのは、フリードだ。

 

「何なぁに?君たちお知り合い???もしかして悪魔風情と仲良くなっちゃった系って感じぃ?」

「悪魔?…イッセーさんが?」

「ごめん…アーシア……」

 

ふざけた口調で嘲笑うフリードの言葉に「信じられない」と言わんばかりに両手で口を抑える。

その表情にいたたまれなくなったイッセーは、ぽつりと謝罪の言葉を口にする。

フリードはアーシアに近づき、囁くように話す。

 

「残念だけどアーシアちゃん、悪魔と人間は…相容れませぁん……!!ましてや、ボキたちぃ、堕天使様のご加護なしではぁ、生きてはいけぬ半端者ですからなぁ…!?」

(…堕天使だって?)

「さて。ちょちょいとオシゴトをぉ…完了させましょうかねぇ!」

 

フリードはイッセーに光剣を突き付けた瞬間だった。

何とアーシアがイッセーとヴァイアの前に立ち、庇うように両手を広げたのだ。

 

「おいおいマジですかぁっ?」

「フリード神父、お願いです。この方と…イッセーさんのお友達を見逃してください。悪魔に魅入られたからといって、人間を裁いたり悪魔を殺すなんて……そんなの、絶対に間違ってますっ!!」

(…彼女は)

 

目に涙を溜めながら、懇願するアーシアに先ほどまでふざけていたフリードに嫌悪と憤怒の感情が宿る。

ヴァイアはそんな彼女に感嘆する…悪魔であるイッセーはおろか会ったこともない自分を必死に守ろうとする芯の強いその姿に唖然とする。

 

「あ、そうですか…それなら……バイバイしちゃおうねえええええええええええっっ!!!」

「……っ!!」

 

フリードが思い切り、光剣を振り上げたのを見たアーシアは強く眼を瞑り迫りくるであろう激痛に身を委ねようとした。

しかし…。

 

「んなっ…!!」

「……っ!!」

 

驚愕するフリードの声にアーシアがゆっくりと目を開く。

そこには左腕に赤龍帝の籠手を装備したイッセーが彼女を守るように立ち塞がり、左手で刀身を掴んでいた。

 

「アーシアを、泣かせたな…!!」

「な、なぁっ…!?」

【BOOST!】

 

強い闘志が彼の瞳に宿り、倍加の音声が響き渡るとイッセーはその光り輝く刀身を粉々に握り潰す。

フリードが驚愕の表情を見せるが、すぐさまバックステップして懐から拳銃を取り出し、両腕に持った二丁の拳銃から銀の銃弾を発射する。

 

【BOOST!】

「甘いっ!」

 

銃弾の嵐をイッセーは躱し、赤龍帝の籠手で弾いたり斬り裂いたりしながらフリードへと接近する。

 

「なめてんじゃねぇぞ、くそ悪魔あああああああああっっ!!」

 

拳銃を投げ捨て、予備の光剣を取り出して彼を斬り捨てようとするが上段から振り下ろされた攻撃を僅かな動作で躱すと、彼の懐まで入り込んだ。

 

「まずはっ!相手を怯ませるっ!!」

「痛いっ!?」

 

逃げないように彼の胸倉を掴み、思い切り頭を振りかぶって頭突きをする。

頭突きとは思えないほどの痛みにフリードは怯む……その隙を見逃さなかった。

 

【BOOST!】

「これは、この家の人の分っ!!」

「がっ!?」

 

更に倍加した左腕でフリードの顎を殴って少しだけ空中に打ち上げると、彼の顔面目掛けて拳を振り下ろした。

 

「これが、アーシアを泣かせた分だぁっ!!!」

【EXPLOSION!】

「ブベエエエエエエエエエエエエッッ!!」

 

強烈な一撃を受けたフリードは断末魔と共に地面に叩きつけられた。

今の攻撃で完全に意識がなくなったのかフリードは白目を向いたまま地面を転がっており起き上がる気配はない。

ヴァイアがビニールテープの紐で彼の手足を拘束する中イッセーはアーシアの安否を確認する。

 

「大丈夫か、アーシア?」

「はい、イッセーさんのおかげです」

 

ほんの少しだけ笑みを見せた彼女に緊張が解けると、神器を解除して地面に腰を下ろす。

ヴァイアがフリードの顔に「餌を与えないでください」と書かれた紙を張り付けていると赤い魔法陣…今ではもう見慣れたそこから木場たちが現れる。

 

「遅いよー、君たち。ここにいたエクソシスト擬きは僕とイッセーが倒したよ」

『お前は何もしてないだろうが』

 

彼らに笑顔向けて話すヴァイアにドライグがツッコミを入れると、最後に現れたリアスが男性の遺体に目を向ける。

 

「……すいません。俺が、俺のせいで…」

「イッセー、これはあなたのせいじゃないわ」

「でも、もしかしたら救えたかも知れない命なんです……俺が…!」

「イッセー君、これ以上はいけませんわ」

 

悔しそうに、自分を罰するように自分の腕を強く掴む彼に朱乃が静かな声で窘める。

「すいません」と頭を下げる彼に、リアスはアーシアの方を見る。

 

「イッセー。あなたはそこにいる女の子の正体を知っているのね?」

「……はい」

 

彼女は何も言わなかったがイッセーにはその意味が分かった。

悪魔と天使、そして堕天使の三大勢力には互いに境界線がある……つまり、悪魔とシスターは相容れない。

理屈は分かっているし、彼女の真意も分かる…けれども。

 

「俺は…」

「っ!部長、この近くに堕天使のような気配が近づいていますわ」

 

堕天使の気配を感じ取った朱乃がリアスにそう告げると、彼女は手を開いてその場に魔法陣を出現させる。

 

「イッセー、話しは後で聞くから今は帰るわよ!」

「ならアーシアもっ!」

「…無理よ。この魔法陣は眷族しか転移されない、だから…その子は無理なの。彼女は堕天使に関与している者なら猶更よ」

 

彼女の言葉に、イッセーは愕然とするが再び赤龍帝の籠手を装備しようとするが…。

 

「それなら…よっと」

「きゃっ!?」

 

何と先ほどまで黙っていたヴァイアが彼女を抱え始めたのだ。

まるで米俵を担ぐように、その華奢な見た目からは想像も出来ない力で彼女を持ち上げて彼らに告げる。

 

「はっはー!僕は、君たちの眷属でもなければ悪魔でもないからね…というわけで、彼女は僕が責任を持って預かる!では、諸君…サラダバーッ!!」

 

一方的にそれだけ話すと、ヴァイアはそのまま窓枠へ脚を掛ける。

 

「あ、あの、イッセーさんっ!また、また会いましょうっ!」

「アーシア…」

 

そして、眩い光と共に…イッセーはリアスたちと共にオカルト研究部の部室へと移された。

 

 

 

 

 

その翌日、初めて学校を休んだイッセーは勉強を終えると、ただぼんやりと自室で漫画を読んでいた。

考えているのは、アーシアのことだ……ヴァイアは彼女を何処へ連れて行ったのか、あれから彼女は無事なのだろうか。

その不安だけが胸の内を締め付けていた。

ふと、部室に転移されてからのリアスの言葉を思い出す。

 

――――「もし、堕天使と戦ったら私たちも堕天使たちと争うことになるわ。それで私の可愛い眷属を失うのは嫌なの……分かって頂戴、イッセー…」――――

 

悔しいが、事実なのだ。

眷属になったばかりのちっぽけな自分の気持ちだけで、彼らを危険な目に遭わせるわけにはいかない。

だけど、彼は見捨てられないのだ。

 

『相棒、そこにいても気が滅入るだけだ』

「そう…だな」

『外に出るぞ、俺は連載したばかりの「東都科学者」が読みたい』

「買うのは俺だぞ」

 

ドライグに言われたイッセーは、彼と軽口を叩きながら着替えて少しばかりの身支度をすると、街へと繰り出した。

暫く外をゆっくり歩いていると、公園を通りがかった辺りで見知った姿を見つける。

 

 

「とう!……ふっふー、見たかアーシアちゃん。これが逆上がりだよっ!」

「す、すごいです!体が回転して……」

 

鉄棒で逆上がりをして自慢げに話しているヴァイアと、白いヴェールを頭に被ったシスター少女…アーシアだ。

半ば無条件に、イッセーは早足で彼女の元へ向かう。

 

「アーシアッ!」

「あっ、イッセーさんっ!!」

「無事だったんだな……良かったっ!」

 

何も異常がないアーシアにイッセーは安堵のため息を吐く。

やがて、彼の存在に気づいたヴァイアは鉄棒から手を離して話しかける。

 

「やぁ、イッセー!ところで見てくれたかな?僕の完璧な逆上がりをっ!」

「誰が見るかっ!」

「酷いっ!?僕は初めて逆上がりが出来たんだぞっ!懸垂逆上がりなら出来るけど」

「逆に何でそれが出来るんだよっ!?むしろそっちがすげぇわっ!!」

 

出しゃばる彼にツッコミを終えたイッセーは、咳払いをしてからアーシアに話しかける。

 

「アーシア、どうしてここに?」

「その、ご飯を食べようと思いまして……///」

「んで、保護者である僕が一緒にいるってわけさ」

 

彼女とヴァイアの言葉通りなら、堕天使たちは居場所を完全に把握出来ていないのだろう…嫌な予感がしていたイッセーからしたら彼の存在はある意味で幸運だった。

 

「そっか…なぁ、アーシア。もし用事とかなかったら」

「は、はい」

「今日は、俺と遊ぼうか!昨日の件のリフレッシュだ」

 

ウィンクして言った彼の言葉に、アーシアは呆然としていたがやがて言葉の意味を理解すると……。

 

「……はいっ!」

「僕を忘れないでっ!」

 

彼女は、年相応の満面の笑みで頷いた。

……ヴァイアもいたが。

 

 

 

 

 

最初はハンバーガーショップで腹ごしらえをする。

アーシアは教会出身なのか興味深そうに、けれどどう食べて良いか分からず困惑していたがイッセーとヴァイアが手本を見せるように食べると彼女も小さく口を開けて食べる。

 

「…!美味しいです!イッセーさん、ヴァイアさん!」

 

食事を終えた後、ヴァイアは「コンビニの賞品手に入れなきゃ」と独り言を言いながら、別行動を開始したため、イッセーとアーシアはゲームセンターへと向かう。

町の灯りとは違う、大きな音とゲーム機に目を輝かせながら一緒にプリクラをしたり興味深そうに見ていたクレーンゲームの賞品であるぬいぐるみを取ったりする。

 

「ありがとうございます!この子は、イッセーさんとの出会いが生んだ宝物です」

「あはは……」

(結構百円玉使ったけどな)

(シャラップだドライグ!)

 

大事そうに両腕でぬいぐるみを抱えるアーシアの言葉に、イッセーは照れ臭そうに笑うが呟いたドライグを黙らせる。

そうしている内に、二人は立ち寄った公園の水辺を歩く。

 

「やっほー!限定品ついでに飲み物買ってきたよ」

 

そこにはヴァイアが付近のベンチで座っており、イッセーにオラ○ジーナを投げ渡し、アーシアには午○ティーを差し出す。

 

「…と、サンキュ」

「ありがとうございます!」

 

彼にお礼を言うと、二人は渇いた喉を潤す。

「ぷは」とイッセーは楽しそうに笑う。

 

「流石に疲れたなー」

「でも、こんなに楽しかったのは、生まれて初めてですっ!!」

「大げさだよ。だけど、女の子と楽しく遊んだのは初めてかもな」

 

アーシアの輝くような笑顔に、イッセーも自分のことのように喜ぶ。

ヴァイアは限定品である下敷きやポストカードの袋から出してチェックしていたが、やがて彼女は意を決したように口を開いた。

 

「私の話……聞いてもらえますか?」

「…俺なんかで良いなら…聞くよ」

「異議なし」

 

二人の了承に、アーシアは自らの過去を話し始めた。

ほんの一筋の涙を零しながら……。

 

「私は、すぐ生まれて親に捨てられたんです」

「えっ」

 

彼女の言葉に、イッセーは顔を僅かに上げる。

ヨーロッパの小さな田舎町の教会の前で、泣いていたらしい。

彼女はそこで育ち、暮らしていたが八つの時、転機が訪れた……ある日、教会に迷い込んだ怪我を負った子犬を発見し、そしてその犬を助けようと祈っていた時、目覚めさせた神器で治癒をしたのだ。

能力を教会が知ると、アーシアは大きな教会へと連れて行かれ、人々の傷や病気を癒し続けた。

そこで、自身の持つ力から彼女は「聖女」と呼ばれ崇められた。

何処かそんな穴の空いた生活を続けていたある日、アーシアは教会の前で、傷を負った男性…黒い翼を生やした悪魔を救ったことが、悲劇の始まりだった。

神を信じる神父や信徒からしたら、穢れた存在と言い伝えられている悪魔を救えるその力は聖なるものどころか奇跡ですらない。

『魔女のものだ』と教会は判断し、アーシアを追放して見捨てた。

 

「だから、アーシアは…堕天使に」

 

その過去に、イッセーはどう言葉にすれば良いか分からなかった。

アーシアは、言葉を続ける。

 

「きっとこれも、主の試練なんです…この試練を乗り越えさえすれば、私の夢が……たくさんの友達と……」

 

アーシアは顔を俯けて、そう語る。

神器とは世界に対して平等に働き、多種多様な種族にも影響する……それに、神器は人ならざる力、異質な目で見られるのはどの世界でも見られる光景だ。

味方はおろか友達もいない、誰も守ってくれない……そんな孤独を味わいながらも彼女は人々を癒そうとしたのだ。

アーシア・アルジェントは、一緒に本を読んだりお花を買ったり出来るような…そんな当たり前の日常が欲しかったのだ。

そんな当たり前の夢を持った少女に、イッセーはゆっくりと立ち上がる。

 

「俺が、アーシアの友達になるっ」

「イッセー、さん…?」

「ほら、今日は一日楽しんだだろ?だからもう、俺たちは友達だよ!」

「確かに、それだけ辛い思いをしたんだ。だったら、この出会いこそが神様への贈り物なのかもね。本とか花は絵面的に無理だけど」

 

アーシアは二人の言葉を黙って聞いており、ぬいぐるみを強く抱きしめる。

 

「…いいえ、いいえっ、いいえっ!!嬉しいです、本当に…!でも、お二人にご迷惑が…」

「友達は迷惑を掛けて何ぼだっ。互いに楽しいことや辛いことを共有するのが、友達だからさ」

 

涙を流す彼女は、辛い笑みを向けるがイッセーはそれでもはっきりと言葉にした。

その言葉に、何処か安心したような笑顔を二人に見せてくれた

しかし……。

 

「良いセリフ、感動的…だけど、無理よ」

 

突如聞こえた第三者の声に、イッセーたちは水辺の方を振り向く。

そこには、最初の時のような学生服姿のレイナーレが立っており、黒い羽根が舞い散る。

 

「夕麻ちゃん…!?」

「レイナーレ様っ…!?」

「……」

 

異なる名前を呟くイッセーとアーシアを守るように、ヴァイアは無言で前に立ち塞がり、ゆっくりと口を開く。

 

「目的は、彼女かい?『同胞』」

「ふん、裏切者風情が軽々しく私と一緒にしないでほしいわね」

 

彼の言葉に、張り巡らせた蜘蛛の巣の上に立っていたレイナーレは胸の下で腕を組むとその姿を変える。

蜘蛛を模した、黄色と黒のカラーリングが特徴のローブとボンテージ姿を上半身に纏った素体ネオストラ…否、覚醒態であるスパイダー・ネオストラは忌々しそうに口を開く。

 

『まったく、駒を使ってあの子を手に入れるつもりが…まさかあなたに邪魔されるとはね』

「嫌な気配が感じたからね。念には念をと考えていたのさ」

 

その言葉に鼻を鳴らすと、スパイダーは未だ状況が呑み込めずに困惑しているアーシアに呼びかける。

 

『アーシア、こっちに来なさい。私の「計画」にはあなたが必要なの』

「えっ、わ、私は……」

「させるかっ!……変身っ!!」

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

 

ドラグーンドライバーを腹部に装着し、ハートバッテリーのスイッチを押し込んで変身したドラグーンはそのままスパイダーを殴る。

 

『くっ!うざったいわねっ!!あなたはこいつらとでも遊んでなさいっ!』

 

距離を取ったスパイダーが指を鳴らすと、彼女から黒い靄が現れそこからハート型のシンボルを持った紫色の人型が群れを成して現れる。

『それら』は銃と短剣の形態を持つ武器を手に持ち、ドラグーンに襲い掛かる。

 

「うぉっ!何だこいつらっ!?」

「イッセー、そいつらは『ライオット』ッ!ネオストラの共通能力を持たない雑魚だっ!!」

 

ズババスラッシャーでライオットの攻撃を防ぐドラグーンに、ヴァイアは迫りくる戦闘員たちの攻撃を躱してカウンターを決める。

しかし……。

 

「きゃあああああああああっっ!!?」

「っ!アーシアッ!!」

 

スパイダーが口から吐き出した糸にアーシアは拘束されており、引っ張られると彼女は捕われてしまう。

 

『ふふふ、この子さえ手に入れれば長居は無用よっ!!』

「イッセーさんっ!イッセーさぁんっ!!」

「アーシアッ!!」

 

アーシアを捕えたまま、スパイダーは再び口から糸を吐き出してワイヤーアクションさながらに逃走する。

助けを求める彼女に手を指し伸ばすが、それを妨害するようにライオットたちが行く手を阻む。

 

「邪魔だぁっ!!」

【FULL ACTION! CURSE OF LOCUST!!】

 

右手に持ったズババスラッシャーのホルダーにローカストバッテリーを装填してスイッチを押すと、異なる必殺技の電子音声が鳴り響く。

そして群がるライオットたちを緑色のオーラを帯びた双剣による斬撃で一掃した。

 

『~~~~~ッッ!!?』

 

ライオットたちは唸り声と共に消滅し、ヴァイアは辺りを確認するが悔しそうに舌打ちをする。

 

「駄目だっ、もう反応がないっ」

「…くそっ!!」

 

アーシアを守れなかった……。

その事実だけが、彼を追い詰めた。




 フリードの口調、面倒くさいっ!!もしかしたらこいつと、アーシアの過去で話が長くなってしまった印象です。
 ちなみに、フリードはヴァイアを悪魔と勘違いしています。というよりも彼なら悪魔だろうとなかろうと問答無用で「敵認定」しそうですけど(笑)
 さて、次回はどうなる!?ではでは。ノシ


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HEART5 Dragonの覚悟

 さて、第一章もクライマックスです。スパイダーとの決着もこれで終わらせます。さぁ、アーシアを助けることが出来るのか!?
 それでは、どうぞ。


パシン……!!

乾いたその音が、オカルト研究部の室内に響き渡る…リアスが、イッセーの頬に平手打ちをしたのだ。

その表情は、怒りに染まっており彼のした行動に本気で怒っている……。

イッセーとヴァイアはスパイダーに攫われたアーシアを助けに行こうとしたが、彼を探していたらしい木場と小猫に発見され、部室まで来たのだ。

事の顛末を話した彼は、彼女を救おうと部室に出ようとした瞬間…彼女の平手打ちを受けた。

 

「何度言えば分かるの…駄目なものは駄目よ。辛いけど、彼女のことは忘れなさい。あなたは、グレモリー眷属なのよ」

 

しかし、いくら駒王町で動いていた堕天使がネオストラと成り代わっていとしても所属としては堕天使陣営であり、そこに足を踏み入れることは出来ないのだ。

リアスは自分勝手なことをしたイッセーに怒っているのではない…危険な道に足を踏みれ用としている、命を顧みない彼に対して怒っているのだ。

自分の眷属を大切にしているからこそ、彼女は厳しい口調で彼を責める。

彼女の言い分が分からないほど、イッセーは愚鈍ではない。

しかし、それでも彼は……。

 

「…だったら、俺をグレモリー眷属から外してください。そうすれば、部長たちに迷惑はかけません」

「お願い、言うことを聞いて…!私は、私はあなたの主なのっ、主として、眷属を危険に晒すなんて、出来ない…!」

 

非常とも言えるその言葉に、リアスは辛い表情を彼に向けて叫ぶ。

その想いは、イッセーにもはっきりと伝わった。

それでも、彼には譲れないものがある。

 

「…ありがとうございます、部長。俺なんかのために……でも、嫌なんです。誰かを見捨てるのは、もう嫌なんです」

 

「お願いします」とリアスに寂しい表情を見せたイッセーは頭を下げる。

その態度に、彼女は少し息を吸い込む。

 

「本気、なのね」

「はいっ、俺は友達を…アーシア・アルジェントを助けに行きます」

 

迷いのない、その答えにリアスはゆっくりと眼を瞑ると彼に背を向けた。

 

「私と朱乃は少し外出します。祐斗、小猫…お願いね」

 

それだけを言うと、彼女たちは魔法陣を展開してこの場から立ち去る。

イッセーは、そのまま無言で部室から出ようとしたが準備をしている木場と小猫を見て驚く。

 

「どうして…」

「これでもあの方の眷属だからね。部長は、教会を『敵陣地』と認めたんだよ」

「じゃあ、小猫ちゃんも?」

「…二人では、不安です」

 

その言葉に、イッセーは二人と…この場にはないリアスたちに感謝すると扉を開けて外に出る。

通路にはヴァイアが肩組んで立っており壁にもたれかかっており、彼は楽しそうに話しかけてくる。

 

「良い主を持ったね君たち。それじゃ、行こうか!」

「はは…君も来るのかい?」

「だって、僕はアーシアちゃんの友達で…イッセーの相棒だからね」

「いつから相棒になったんだよ」

「たった今からさ」

 

木場の問いに彼は当たり前のように答える。

そう答えた彼にイッセーは呆れたように笑うと、四人は旧校舎から外に出る。

辺りは暗くなっており月が暗闇を照らしていた。

 

 

 

 

 

リアスと朱乃は共にとある森林へと転移した。

そこには胸元が大きく開いた黒のボディコンスーツを身に纏った大柄な堕天使の女性が降り立つ。

 

「全てはレイナーレ様のために全てはレイナーレ様のために全てはレイナーレ様のために全てはレイナーレ様のために……」

 

生気のないその表情から、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返している堕天使…『カラワーナ』の額には子蜘蛛のような小さい物体が額に引っ付いているのが確認出来る。

彼女は黒い翼を羽ばたかせると光の槍を両手で生成して勢いよく投擲すると二人はそれを躱し、朱乃は巫女服の姿へと変わって対峙する。

見ると、周囲には彼女と同じように生気のない堕天使が取り囲んでおり数では圧倒的にこちらが不利であろう。

しかし、二人は不敵に微笑むと…目の前の敵を迎え撃つべく魔力を練り始めた。

 

 

 

 

 

「イィィィィヤッホーーーーーーーーーーッッ!!!」

『まったく無茶苦茶だな、貴様はっ!!』

【BOOST!】

 

一方、ヴァイアたちは凄まじいスピードで走る改造車に乗って大爆走していた。

曰く「ゴミ山から持ってきた」らしいバギーカーに呪法による改造を施したらしく、赤龍帝の籠手による倍加の力を流し込んでいるらしく、運転手はイッセーとなっている。

爆走するバギーカーで張本人であるヴァイアはハイテンションで叫ぶがそれに対してドライグは文句を口にする。

一方のイッセーもかなりテンションが高くなっており無言でアクセルを全開にしている最中だ。

木場と笑ってこそいるが、冷や汗を流しており小猫に至っては胃の中の物をリバースしないように口を必死に閉じている。

やがて、目的地でもある教会が見えるが彼らは気にせずその扉をぶち破った。

 

「やぁやぁやー…再会だね…」

「「邪魔だヒャッホーーーーーッッ!!!」」

「あんぎゃああああああっっ!!?」

 

フリードが大仰な態度で彼らを出迎えたがそれを遮るようにバギーカーはそのまま彼ごと巻き込む。

それを確認したイッセーたちは素早く車から脱出すると彼らのおかげで更に酷くなった教会の内部を確認する。

フリードは激突して壊れたバギーカーの下敷きになっていたが、恐らく再起不能だろう。

そんな彼を無視してイッセーたちは最深部へと侵入する。

そして、四人が最深部へと進む。

 

「…っ!アーシアッ!!」

「ん…イッセー、さん…?」

 

広い空間に出た彼らを迎えたのは巨大な十字架に張り付けられたアーシアと、学生服を着たレイナーレ。

イッセーは慌てて彼女の元へ行こうとするが、木場がそれを抑える…するとライオットが落ちるように短剣を突き立ててくる。

紙一重でそれを躱した彼らにレイナーレは彼らを嘲笑う。

 

「感動の再会ね?でも、もう儀式は終わったの……彼女の神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を奪うためのね」

 

その言葉と共に、アーシアは苦しそうにする。

そして……。

 

「い、嫌あああああああああああああっっ!!!」

 

まるで、何かを失いそうなことに恐怖するような悲痛なまでの悲鳴が響き渡る。

同時に、アーシアの胸元から優しい緑の光が灯る。

 

「くそっ!」

 

ヴァイアは、指で鉄砲を撃つような形にするとそこから呪法を固めた弾丸を飛ばす。

ライオットたちを掻い潜るように放たれたそれはアーシアを拘束していた手枷を撃ち抜き、ゆっくりと倒れるのを、走ってきたイッセーが優しくキャッチする。

 

「アーシアッ、俺だ。迎えに来たんだっ、しっかりしろっ!」

「……はい…!」

「退けっ、イッセーッ!!」

 

ヴァイアは慌てて彼女の元まで走り、何かの紋様が描かれた紙を彼女の胸元に張り付ける。

すると、少しだけアーシアの表情は和らぐ。

 

「…一時的な応急処置だ。でも、長くはもたないっ」

「方法はっ!?」

「…あいつを倒せば、あるいは」

「させると思っているの?」

 

彼の言葉に、イッセーは活路を見出すがレイナーレは姿を歪めるとスパイダー・ネオストラへと姿を変える。

 

『ようやく優秀なパワー源を手に入れたの、そしてお前たちを始末すれば…私は至高の存在へと高まるのよっ!!』

「…させるかよっ、アーシアの力を…彼女の優しい力をお前なんかに渡さないっ!!」

 

その言葉と共に、イッセーはドラグーンドライバーを腰に巻きつけた。

取り出したローカストバッテリーを装填し、ホルダーを上げる。

 

【WHAT THE CHOICE HEART!? WHAT THE CHOICE BATTERY!?…♪】

「変身っ!!」

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

 

テンションの高い待機音声が鳴り響くのを気にせず、ローカストバッテリーのインジェクタースイッチを押し込んだ。

瞬間、イッセーの身体は赤い龍を思わせるような赤いスーツに装着すると、ズババスラッシャーと酷似した双剣型のエネルギーが交差するように彼の頭部に突き刺さる。

緑色のラインが全身に駆け巡るとその上にイナゴを模したパーカーが装備され、アニメキャラクターを思わせるような獰猛なオレンジの瞳が光る。

 

「ミッション・スタートだっ!!」

『丁度良いわ、私の力を見せてあげるっ!』

 

スパイダーは両腕に備わっている銃口から糸を凝縮した弾丸を発射するが、イッセーはそれを召喚したズババスラッシャーで弾いて距離を詰める。

 

「ラァッ!!」

『このっ、図に乗るなぁっ!!』

 

緑色のオーラを纏ったスパイダーがドラグーンを殴るが双剣を交差して防ぐ。

しかし、あまりの威力にドラグーンは吹き飛ばされてしまい、壁に叩きつけられる。

 

「何だっ、この威力…!!」

『そうかっ、アーシア・アルジェントの神器で力を底上げしているのか』

『ご名答、あなたたちニンゲンの力なんて…ネオストラを進化させるための道具にすぎないのよっ!!』

 

ドライグの考察に、スパイダーは口から糸を吐き出してドラグーンを拘束しようとするが、それを横転して回避する。

しかし。

 

「うぉっ!?」

『バカねっ、むざむざ私の巣に足を踏み入れるだなんて』

 

粘り気のある糸に右腕を捉えられ、続けて放たれた糸に左腕を雁字搦めにされる。

 

「イッセー君っ!」

「今は自分のことに集中しようか、木場君っ!!」

 

ヴァイアのその言葉に、我に返った木場は抜刀してライオットの攻撃を防ぐ。

小猫はライオットたちの銃撃を跳躍して躱すと、自由落下の勢いを利用したナックルを繰り出す。

ヴァイアは応急処置を施しながらも迫りくるライオットを狙撃する。

やがて、ライオットたちが木場を目標に定めたのか物量に任せて彼を押し潰そうとするが、彼にそれに対して、笑った。

 

「『魔剣創造(ソード・バース)』ッ!!」

 

自身の神器の名を叫び、彼は力を解放すると彼の周囲を覆うように無数の刃を出現させてライオットたちを貫いた。

強度こそ本来の過程で製造されたオリジナルにこそ劣るが、あらゆる属性の魔剣を創造出来るという代物だ。

創造した剣だけでなく他にも魔剣を自身の足場にしたり、先ほどのように魔剣のフィルターなどの応用も可能となっている。

そして、自身を狙撃しようとしている最後のライオットを神速の如き速さで踏み込み、すれ違いざまにその個体を切り裂いた。

 

 

 

 

 

そして、リアスと朱乃は……。

 

「『gagagagagagagagagagaッ!!』」

「くっ!」

 

巨大な蜘蛛へと変貌した堕天使の攻撃を躱す。

雷撃と滅びの力で大半の堕天使たちは難なく倒すことが出来たのだが、その途中でカラワーナの頭部が不規則に揺れ始めた瞬間…巨大蜘蛛へと変異したのだ。

その姿は非常に醜くなっており、巨大な蜘蛛の下に堕天使の胴体がぶら下がっていると表現すれば良いのだろうか。

カラワーナだったその巨大蜘蛛は不可解な金切声をあげながら脚を使って攻撃してくる。

やがて、その隙を狙うように堕天使が光の槍を構えて突進しようとした時だった。

 

「……!?」

「人に光る物を向けちゃ……いけないってのっ!!」

 

自身の頭を鷲掴みにされた堕天使は反撃するよりも早く、殴り飛ばされた。

 

「…たく、イッセーの帰りが遅いから来てみれば…何こいつら?」

 

そう言って両手をはたくのはイッセーの伯母である政宗愛奈……その姿はエプロン姿であり食事を作っていたのだろうか妙に似合わない。

 

「せ、先生っ、どうして…!?」

「話は後っ!グレモリーさん、姫島さん…あれ何っ?」

「その、堕天使だと思いますわ」

 

無理やり自分のペースに引き込んだ愛奈の質問に、朱乃は冷静さを隠しながらも説明する。

「ふーん」と彼女は数人の堕天使と巨大蜘蛛を見据える。

 

「見た感じ、ゾンビみたいね……なら、遠慮はしないわ」

 

そのセリフの終わりに、懐から取り出した黒いクナイを逆手で構えると後ろに不意打ちを行おうとした堕天使の頭を貫く。

完全に敵だと認識した堕天使は唸り声をあげながら光の槍を生成しようとするが……。

 

「邪魔」

 

短い言葉と共に、クナイを投擲し、寸分の狂いもなく堕天使の胸元に突き刺さる。

それと同時にくくりつけていた爆弾も起動し、盛大な音と共に爆散する。

 

「政宗先生…もしかして魔法使い?」

「違うわよ、ちょっと変わった術を使えるだけ」

 

リアスの問いに苦笑いして答えると、巨大蜘蛛が襲い掛かろうとする。

しかし、それよりも先に動いたのはリアスだった。

 

「消し飛びなさいっ!!」

「『gagaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!』」

 

赤黒い魔力…滅びの力で巨大蜘蛛を消滅させる。

戦闘が終わったのを確認した愛奈は肩を回し、話しかける。

 

「疲れたー、あなたたちいつもこんな危ないことやってんの?」

「その…」

「良いわよ、ただの独り言だから」

 

事情を説明すべきか迷っているリアスに愛奈は疲れたように話を打ち切ると、話題を変える。

 

「ねぇ、イッセーは?」

「イッセー君は、その…」

 

朱乃がどう説明すべきか考えていた時だった。

 

「「「っ!!?」」」

 

膨大なまでの魔力…正確には呪法と入り混じった魔力がリアスたちに伝わる。

圧倒的なまでのその圧力にリアスたちは驚くことしか出来ない。

 

「今のは魔力?…もしかして」

「イッセー、君…?」

「…何だか分からないけど、あの子……」

 

その魔力に目を細めた愛奈は急いで発生源である教会の方へと向かうと、リアスたちも後を追うように走り出した。

 

 

 

 

 

同時刻、教会ではドラグーンがギプスのようになっている左腕で無理やりインジェクタースイッチを連打する。

 

【MAX BOOST!】

「うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

『んなっ!?私の糸がっ!!』

 

最大倍加を身体に施したドラグーンはその力のまま糸を引きちぎると、膨大な魔力を宿した右腕で顔面を殴り飛ばす。

今度は逆に吹き飛ばされる形となったスパイダーは周囲に設置しておいた蜘蛛の巣で着地し、殴られた箇所を擦る。

 

(まずいっ!このままでは…)

 

流石のスパイダーもバカではない、もしここで撃破されてしまえば今までの苦労が水の泡となる。

それだけは、それだけは絶対に認められない。

だからこそ、彼女は逃げる選択をした。

極めて優秀な判断だった……生物ならば誰もが取るであろう選択だ。

だが、目の前の仮面の戦士はそれを許さない。

 

「逃がすか、よぉっ!!」

『ぐうううううううううううっっ!!』

 

勢いよく跳躍したドラグーンが彼女を殴りつけると、そのままステンドグラスを割って外へと飛び出す。

強烈な敵意と共に、スパイダーは彼に問いかける。

 

『なぜ戦うっ!なぜ抗うっ!!たかがニンゲンがなぜっ!!?』

「友達だからだ…だから戦うんだっ!!やっと覚悟が決まったよっ、お前らみたいな奴らから、絶対に見捨てないために俺は…俺はあの人のように、この力で戦うっ!!」

『お前ぇっ、何者だっ!!』

「ドラグーン…俺は、『仮面ライダードラグーン』だっ!!」

 

その名乗った彼の頭部を、スパイダーは苦しみながらも銃口を向けて撃ち抜こうとするがそれよりも早くドラグーンが解放された左腕で彼女の顔面を殴る。

一瞬の隙が出来たスパイダーを踏み台に更に高く跳躍した彼は、ドライバーのホルダーを下げてインジェクタースイッチを押す。

 

【EXPLOSION! CURSE OF LOCUST!!】

『ふ、ふざけるなぁっ!!私は、私は至高の…』

「ぶっとべぇっ!!ブーステッド・ストライクウウウウウウウウッッ!!」

 

そのまま急降下キックを繰り出した。

スパイダーはそれを躱すことも出来ず、必殺技が胴体へと直撃し…けたたましい音と共に教会の天井を突き破りながら地面へと着地した。

 

『ぐっ、うぅっ…!こんな、はずでは…!!』

 

地面にのたうち回るスパイダー…それと同時にリアスと朱乃、そして愛奈が現れる。

やがて、スパイダーはぶつぶつと彼らには聞こえないほどの声量で呟くと……。

 

「申し訳、ありませ……」

 

一瞬だけレイナーレの姿へと戻って誰かへの謝罪を口にすると、スパイダー・ネオストラへと変化して爆散した。

ハート型のシンボルも砕け、完全に戦闘が終わったのを確認したドラグーンはアーシアの元に駆け寄る。

 

「アーシアッ!!」

「イッセー……さん?」

 

まるで戦士のようなその姿に、アーシアは驚きながらも笑顔を向ける。

そして、ホルダーからハートバッテリーを抜き取ってホルダーを下げると変身を解除する。

自分のために涙を流してくれるイッセーの顔を見たアーシアは安堵するように…それでいて彼を安心させるように。

彼女は、笑顔をイッセーに向けていた。

 

「会いに来てくれて、ありがとう…ございます」

「アーシア?アーシアッ!」

 

そう口にした瞬間、彼女は眠るように瞳を閉じて動かなくなった。

微かに呼吸が聞こえるが、それでもアーシアに死が刻一刻と近づいているのが分かってしまったイッセーは必死に彼女に呼びかけるが反応がない。

 

「先輩…これ」

 

ふと、スパイダーが消滅した場所で何かを見つけたらしい小猫は何かを発見する。

それは、二つの指輪のような形で淡い緑色を灯しており何処か温かさを感じる。

 

「彼女の神器…そうだ、これを彼女に戻せば……!」

「いいえっ、それだけじゃ駄目よ。これも使うわ」

 

珍しく慌てた口調で、ヴァイアが提案するがそれよりも先にリアスは懐から『僧侶』の悪魔の駒を取り出すと、「下がって」とイッセーに指示を出した彼女は神器と悪魔の駒を持ってアーシアに近寄る。

 

「ただ神器を肉体に戻しただけじゃ無理よ。でも、神器とその所有者の息があれば、転生させて甦らせる事が出来る」

 

「それに」と彼女は言葉を続ける。

 

「イッセーの友達を、見捨てるわけにはいかないわ」

「部長…そ、それって……」

「ちょっと規格外だけど、このシスターを転生させる」

 

彼の問いにそう答えたリアスはアーシアの周りに魔方陣を描き、転生の際の呪文を紡ぐ。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず!アーシア・アルジェントよ、悪魔となりて我の元に舞い戻れ!!」

 

紡いだ言葉と共に、魔法陣が光を帯びてくると悪魔の駒と神器が彼女の身体へと吸い込まれた。

やがて、光が収まる。

彼女はゆっくりと眼を開いた。

 

「うぅ、ん……あれ、私…」

「アーシア…?」

 

前に会った時と変わらない穏やかな声を出し、アーシアは目覚めた。

 

「イッセーさん。一体、どうして…それに、私は」

「良かった、本当に良かった…!!」

 

何が起きたのか分からず呆然としている彼女の頭を、イッセーは優しくなでた。

彼女が生きていることを実感出来るように…ようやく彼は、誰かを見捨てずに守ることが出来たのだ。

 

「…ヴァイア君、泣いているのかい?」

「べ、別に…僕は涙腺が緩くないからね!ただ、目にゴミが入っているだけだよ」

 

人知れず泣いていたヴァイアに、木場は優しく尋ねると彼はいつもの言動で流している涙を誤魔化していた。

 

「……」

 

一方の愛奈はこっそりと取り出していたクナイを戻す…実は彼女が来たのはイッセーが悪魔となった原因でもあるグレモリー眷属に見極めるためでもあった。

もしも、彼女たちがイッセーを捨て駒か何かのように利用するものならこの場で始末する予定だったが気が変わった。

彼女たちなら大丈夫だろう、もしかしたら…彼の『傷』も……。

そんな『もしも』を期待しながら、愛奈はイッセーが変身したあの姿について問い詰めようと考えていた。

 

 

 

 

 

イッセーたちがアーシアの復活に喜んでいるころ、教会の外でスパイダーの様子見ていた青年は彼女が敗北したのを確認すると、そのまま森林の奥へと進む。

 

「敗北してしまいましたか」

 

突如聞こえた少女の声に、青年は驚くことなく立ち止まる。

そこに現れたのは、青を基調とした小柄なメイド服の少女であり可愛らしい容姿をしているがその表情は「クール」と呼ぶに相応しい。

その少女は、表情を変えることなく青年に話しかける。

 

「それで、例のもう一人の仮面ライダーの情報は?」

「ここだ」

 

インフェクションドライバーを構えた青年は少女が装備しているインフェクションドライバーと接続する。

そこからスパイダーと戦闘していた様子を確認した彼女は考えるような仕草をする。

しかし、その静寂を破るように笑い声が響き渡る。

 

「なるほどっ!?つまりそれはあれか、オレに治療されるべき患者が現れたというわけかっ!!はっはははははははははははははっ!!!」

 

少し薄汚れた白衣を纏った大柄の男は頭部に器具…所謂『額帯鏡』を装着しており、満面の笑顔で高々と語り掛けると一しきりに笑う。

それに対して青年は口を開いた。

 

「…『ハルピュイア』……こいつがいるということは」

「ええっ、『主』の治療が終わりました。まだ完全ではありませんがね」

「充実したオペだったぞっ!それすなわち、ドクターの本懐だっ!」

「それで。わざわざ俺の元に来た理由は?」

 

高笑いをする大柄の男を無視して青年は少女…ハルピュイアに尋ねる。

仮面ライダーの情報だけならば、自分の元に来る必要はない…無駄なことを嫌う目の前の少女は他の仕事を自分へ私に来たのだろう。

ハルピュイアは淡々と話を始める。

 

「…素体だったネオストラが『リザード』へと覚醒しました。あなたはこれまで通り、培養したネオストラの監視を、そして……」

 

そこで一端、言葉を切るとはっきりと言葉を口にした。

 

「あの仮面ライダーを始末しなさい、『キョンシー』」

「…了解した」

 

青年……キョンシー・ネオストラの人間態はそう命令に了承してはっきりと頷くとその場を後にした。

 

 

 

 

 

「えっと…私はアーシア・アルジェントと申します!日本に来て日が浅いですが、皆さんと仲良くしたいです!」

『おおおおおおおおおおおおっ!!?』

 

翌日の学校、悪魔へと転生したアーシアは愛奈の勧めで辰巳宅へとホームステイすることになり、そこからリアスが彼女を学校に通わせてくれる様に手筈をしたのだ。

最も、イッセー本人は愛奈から話を聞いていたので特に驚いてはいなかったが何も知らないクラスメイト(特に男子)は、喜びと驚愕が入り混じった声をあげる。

 

「おぉ、元浜!金髪の美少女が来たぞっ!!」

「むっふっふ!これはまた…覗きがいがありますねぇ!!」

 

「とりあえず、こいつらは後でお仕置きしておくか」とイッセーは心の中で強く誓うのであった。

そして、時間はあっという間になりオカルト研究部の部室がある旧校舎へと二人は足を進める。

 

「アーシア、本当に良かったのか?その、悪魔になって」

「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫です…だって、イッセーさんがいますからっ!」

 

満面の笑みを見せて答えたアーシアに、イッセーは恥ずかしそうに頷く。

そして、部室のドアを開くとそこには全員が集まっており、リアスはゆっくりと近づくと微笑みながら彼女に紹介を始める。

 

「改めまして、私はリアス・グレモリー。ようこそ、アーシア・アルジェントさん。オカルト研究部に」

「はい!一生懸命部長さんのお役に立ちます!」

 

可愛らしくも、元気の良い挨拶で頭を下げたアーシアに彼女は嬉しそうに笑った。

全員が拍手をして出迎える中…派手な音を立てて入ってきたのはヴァイアだ。

 

「やぁやぁ諸君っ!挨拶は終わったみたいだね!じゃあ、行こうか!!」

「えっ、何処に?」

「アーシアちゃんの入部記念に、近くのファミレスで予約したのさっ!リアスちゃん名義だけどね!」

「ち、ちょっと…それってどういう…」

「さぁさ、レッツゴーッ!!」

 

リアスの問いに耳も貸さず、彼は逃げるようにその場から去るとリアスたちは後を追う。

イッセーも慌てて彼らを追いかけようとしたが、アーシアの方を振り向いて手を差し出す。

 

「行こうぜっ、アーシア!」

「っ///……はい!イッセーさんっ!」

 

最初に少しだけ頬を赤らめたが、やがてそれに答えるように差し出された手を取り元気よく答えた。

その笑顔は人々から崇められた孤独な聖女などではなく、友達や家族と共に笑う……年相応の少女そのものだった。




 原作通りですが、レイナーレたちと絡んでいた青年はネオストラでした。そして、他の連中も登場…彼らを活躍させられるのか不安ですが頑張ります(真顔)
 ヴァイアは神器や悪魔などについては知っていますが、悪魔の駒などの詳しい構造などは分かっていなかったりします…作者のように広く浅くなタイプです。
 さて、次回は第二章!……に入る前にあのお話を始めます。ではでは。ノシ

スパイダー・ネオストラ ICV生天目仁美
ネオストラの幹部である青年が堕天使「レイナーレ」に感染させて誕生した個体が進化した姿。
黄色と黒が基本カラーであり、蜘蛛を模したローブとボンテージを身に纏っている。
両腕に装備した脚を模した銃口から凝縮した糸の弾丸を発射する他、口から糸を吐いて拘束したり蜘蛛の巣を張るなどオールラウンダーな立ち回りをする。また子蜘蛛型の端末を埋め込むことで傀儡にしたり、巨大蜘蛛に変貌させるなどの能力もある。
アーシアの神器を取り込むことで往来以上のスペックを発揮したが覚悟を決めたイッセーことドラグーンに撃破された。


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HEART6 使い魔をGet!

 というわけで、使い魔編です。今回は少し原作の展開とはかなり異なりますのでご注意ください。
 今回は色々と盛りだくさんです。それでは、どうぞ。


「「『使い魔』?」」

 

いつものように、イッセーは悪魔になったアーシアと共にチラシ配りに行こうとしたが制止され、リアスからの聞き慣れない単語に首を傾げた。

見習い中のアーシアはまだ道に詳しくないので、同じくチラシ配りをしているイッセーと共に道を覚える傍ら手伝いをしているのだ。

そんな二人に、リアスは微笑むと話を始める。

 

「本来なら、チラシ配りは使い魔にやらせるものなの。大体の悪魔が持っているわ」

 

そう言って、彼女は掌をかざすと小さな煙と共にマスコットのような蝙蝠が現れる。

イッセーは「へぇ」と興味深そうに見ており、アーシアも目を輝かせている。

 

「私のはこれですわ」

「…『シロ』です」

 

リアスに続いて、朱乃は右手を地面に向けると形状の違う小さな魔法陣と共に緑色の体色をした黄色い角を持った子鬼が現れる。

小猫は、いつの間にか両腕で白い小さな猫を抱えており、木場の左肩には可愛らしい小鳥が乗っかっている。

 

「……とまぁ、悪魔にとって基本的なものよ。主の手伝いから情報伝達、追跡にも使えるわ。イッセーとアーシアも仕事に慣れてきたから、そろそろ使い魔を持たせようと思ったの」

「はぁ…それで、その使い魔さんたちはどうやって手に入れれば……」

「それは…」

 

彼女の話にイッセーも納得したが、おずおずと挙手をしたのはアーシアだ。

その問いかけにリアスが答えようとした時、部室のドアから控えなノックが聞こえる。

 

「はーい」

 

朱乃が返事をすると、ドアはゆっくりと開き…数人の女子生徒と一人の男子生徒が入ってくる。

そこで、イッセーが必死に記憶を手繰り寄せて、彼女たちが駒王学園の『生徒会役員』のメンバーであることを思い出す。

 

(生徒会長の『支取蒼那』か…)

(何でお前が知っているんだよ、ドライグ)

 

そんなやり取りをしながらも、黒いボブヘアーに眼鏡をかけた美少女…蒼那と、その生徒会役員たちを初めて見たアーシアは彼女たちに聞こえないよう、小声で尋ねる。

 

「あの、どちら様ですか?」

「この学校の生徒会長と、その役員たちだよ。先生たちとは別に学校を支えている生徒たちだ」

 

「はぅ」と驚いていたアーシアだったが、リアスは幼馴染であり親友である蒼那…本名『ソーナ・シトリー』に対して、話しかける。

 

「お揃いね、どうしたの?」

「お互い眷属が増えたので、改めてご挨拶をと」

(やっぱり生徒会も悪魔だったのか)

 

その会話を聞きながら、イッセーは入学して数か月たったある日…非常勤の講師となったばかりの愛奈から「生徒会に入るな、近づくな」と釘を刺されていたのを思い出す。

そんなことをいつもの表情で考えていると、蒼那は左側にいた茶髪の…顔色がやや優れない男子生徒の紹介を始める。

 

「彼は生徒会書記で『兵士』、二年C組の『匙元士郎』です。駒を四個分消費しています」

「『兵士』の辰巳一誠、『僧侶』のアーシア・アルジェントよ」

 

蒼那は彼の紹介を手短に始めると、リアスもイッセーとアーシアの紹介を手短にする。

 

「どうも」

「よろしくお願いします!」

 

イッセーは軽く、アーシアは彼に倣うように元気よく頭を下げると匙は彼に対して自慢げな表情を見せる。

 

「まぁ……俺としては、変態三人組である辰巳と同じなんて、酷くプライドが傷つくんだけどな」

(おう、ディスられてるぞ相棒。何か言い返したらどうだ?)

(良いよ別に。事実だし)

 

力を知る人物たちからしたら完全に力量を見誤っているが、互いに干渉しない決まりがあるのでそれも仕方がないだろう。

ドライグの言葉に、イッセーは軽く流す……イッセーは自分への悪口に対してあまり怒ったりしない、自分を畜生以下だと思っているので耐性が強いのだ。

しかし、それで納得しないのはアーシアだ…一言言おうと口を開こうとするが「気にしてない」と彼に言われたため、仕方なく口を紡ぐ。

 

「…ごめんなさい、辰巳君。悪い子ではないのですが、サジは少し調子に乗る部分がありまして」

「良いですよ。あの二人と一緒にいるのは事実ですから」

 

「会長!」とイッセーに頭を下げる蒼那に異議を唱えようとする匙を視線で黙らせ、謝罪の言葉を口にする。

イッセーもいつもと変わらぬ表情で告げると、彼女はリアスに「それと」とあることを告げる。

 

「実は、サジにも使い魔をと思いまして」

「あら、ソーナも?……それなら、二人と一緒に同行させましょ。別に奪い合うわけではないしね」

 

リアスの提案に、蒼那は快く了承する……同行するメンバーはリアスとイッセー、アーシア…そして蒼那と匙の五人で『使い魔の森』へと出発することにした。

 

 

 

 

 

そして今イッセーたちは使い魔の森にへと足を踏み入れる…悪魔が使役する使い魔が多く生息している地域らしいが辺りは薄暗く、何処か不気味な雰囲気を感じる。

ざわざわとしている木々にイッセーとアーシア、匙が身構えていた時だった。

 

「ゲットだぜぃ!!」

「ひゃっ!」

 

突然聞こえた…やや甲高い男性の声に、アーシアは可愛い悲鳴と共にイッセーの後ろに隠れる。

イッセーが声の方向…上を向くと木の枝には一人の男性が立っており、夏休みの少年が虫取りに行くようなタンクトップに半ズボンと派手な格好で青い帽子を逆に被っている。

 

「俺はマザラタウン出身の使い魔マスターの『ザトゥージ』だぜぃ!グレモリーさんよ、その子たちがかい?」

「えぇ、一人増えたのだけれど大丈夫ですか?」

「問題ないぜぃ!俺にかかれば二人だろうと三人だろうと、どんな使い魔もぉ……即日ゲットだぜぃっ!!」

 

リアスのお願いに、ザトゥージはハイテンションで了承すると木から降りてくる。

ドライグは「おい、あいつもしかしてポケッ…」と言いかけていたため、イッセーはそれを遮るように黙らせている間、リアスと蒼那がこちらに向けて話しかける。

 

「イッセー、アーシア。今日は彼のアドバイスを参考にして、使い魔を手に入れなさい。良いわね?」

「サジ、分かりましたね?」

「「「はいっ!」」」

『ザトゥージさーん……!』

 

三人が了承すると、聞き慣れた少年の声が聞こえる。

イッセーは嫌な予感を抱きつつも近づいてくる人物に目を向けた。

 

「ザトゥージさんっ!何だか蛇っぽいような、エロゲとかで良く出てくる触手みたいな奴を捕まえたんだけど…食べられるかな!?」

「おーっ!そいつはショクシュヘビ!食用にもなっている奴だぜぃっ!見た目とは裏腹に串焼きにすると、とっても美味だぜぃ!!」

 

その人物…そう先ほどから部室に顔を出さなかったヴァイアは緑色のうねうね動く触手を納めた網を見せると、ザトゥージは嬉しそうに解説を始めており話が脱線しつつある。

一先ず彼に網を渡した後ヴァイアはイッセーたちに声を掛ける。

 

「ハロー、イッセーとリアスちゃん!そしてマイフレンドのアーシアちゃん。えーと…あぁ生徒会の役員たちだっけ?確か、会長の支取蒼那ちゃんと+αの匙元士郎君だよね」

「えっ、えぇ…あなたは…」

「僕はヴァイア。オカルト研究部で居候をしている身さ」

 

自分たちの名を告げられて完全に動揺している彼女と匙に握手をするが、ふと彼の手を繋いだ瞬間…ヴァイアは顔を近づける。

突然初対面の人間に顔を近づけられた匙は慌てて顔を引くが、彼はある質問をする。

 

「ねぇ、君…ちゃんと寝てる?もしかしてさぁ、悪夢のせいで良く眠れていないんじゃない?」

「はっ!?な、何言って…!?」

 

突然の質問に、匙は動揺をする。

根も葉もないことを言われたからではない……心当たりがあったから動揺しているのだ。

その言葉の意味に気づいたイッセーは、赤龍帝の籠手を装備するとドラゴンショットを近くの木々に向けて発射した。

 

『うわわっ!?ゲホ、ゲッホッ!!何だよ一体っ!?』

 

突然の攻撃に咳き込みながら慌てて姿を見せたのは黒い装甲を身に纏ったネオストラ…何処かトカゲを彷彿させており装甲の隙間から黄色いチューブ状の紐が垂れ下がっている。

トカゲをモチーフにした覚醒態『リザード・ネオストラ』を見たイッセーとリアス、アーシアといったネオストラの存在を知っている者たちは身構えるが、ザトゥージや蒼那、匙といったメンバーは使い魔とも悪魔とも違う異形の怪人に狼狽えてしまう。

 

「ななな、何だぜぃっ!し、新種の使い魔か何かかっ!?」

「はいはーい、ザトゥージさんと生徒会二人…後リアスちゃんたちも避難しようねー」

 

完全にパニクっているザトゥージを引きずりながら避難勧告をする中、イッセーはドラグーンドライバーを腹部に巻きつけてローカストバッテリーをホルダーに装填し、上に傾ける。

 

【WHAT THE CHOICE HEART!? WHAT THE CHOICE BATTERY!?…♪】

「変身っ!!」

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

『か、仮面ライダーッ!?くそっ、よりによってあの辰巳がかよっ!!』

 

変身したドラグーンに、リザードは若い青年の声で吐き捨ててチューブを伸ばす。

しかし彼はズババスラッシャーで斬り裂きながら、前進するとリザードの鳩尾を蹴り飛ばした。

 

『がっ!?この…ブゲッ!!』

「フィニッシュ!」

『あんぎゃああああああああっっ!!』

 

双剣を交差させて再度吹き飛ばされたリザードはチューブを伸ばしてドラグーンの右手を拘束する。

それを引きちぎろうとするがどういうわけか右手が自在に操れない。

 

『どうだよっ!?俺のチューブに拘束された奴は動けなくなるんだよっ!!!』

 

得意気になった彼は、自身の能力を説明をしながらそのまま彼を引っ張り上げようとするが……。

 

【DOUBLE BOOST!】

「せー…のっ!!」

『ちょっ…ぎゃあああああああああああああああああっっ!!!』

 

倍加した力で思い切り右腕を振り上げたことで、リザードは近くの大木に叩きつけられることになってしまう。

叩きつけられた衝撃で身動きが取れないリザード目がけてドラグーンは追撃を行う。

 

「な、何だよありゃあ……」

 

突然のことに匙は理解が追いつかない…変身したのもそうだが、駒一つ分程度の転生悪魔だと思っていた変態三人組のイッセーが未知の怪物を圧倒しているのだ。

殴りかかってくるリザードの一撃を躱してカウンターパンチを叩き込むドラグーンを見ながら蒼那は彼の間違いを訂正する。

 

「サジ…辰巳君は駒を八つ消費しているのよ」

「八つって……全部じゃないですかっ!?だったら何であいつ…」

「恐らく、あなたに気を使ったのでしょう」

 

少しだけ気まずそうに答えた彼女の顔を、匙はただ呆然と見つめる。

そんな会話をしながらも戦闘は一方的に行われており、ドラグーンの左ストレートがリザードの顔面に直撃した。

 

「こいつ…今までの奴らより弱いな」

『推測だが…特殊能力よりだったか、あまり喧嘩の得意じゃない感染者のどちらかだな。何れにせよ、これで決めるぞ』

 

ドライグの言葉に「了解」と必殺技のシークエンスに移行しようとした時だった。

凄まじいほどの殺気が使い魔の森全体に襲い掛かる。

手を止めたドラグーンと、戦いを傍観していたヴァイアたちはその方向を向く。

そこには明治時代を彷彿させる黒いフロックコートを羽織った洋装の青年がゆっくりと歩いてくる。

全員が突然現れた人物に疑問を覚える中、ヴァイアと起き上がったリザードは驚愕に染まる。

 

「あいつ…!!」

『キ、キョンシーッ!お、俺を始末しに来たのかっ!?』

「…お前の監視もあるが、俺は仕事に来ただけだ……薄汚い異形共の味方をする、仮面ライダーの始末をな」

 

彼の言葉に、青年はそう返すと右腕に装着していたインフェクションドライバーを外して自身の腹部のバックルにセットする。

 

【BREAKING HAZARD!? BREAKING HAZARD!?…♪】

「……」

 

低く、重苦しい待機音声を鳴り響かせながら彼はドライバーモードとなったインフェクションドライバーの上部のボタンを右の拳で押した。

瞬間…青年の身体は白と黒のエネルギーに全身を包み込まれると『培養』を開始する。

 

【BUGRIALIZE…! WELCOME THE NEOSTRA…!!】

 

そしてエレキギターのような電子音声が響き渡った瞬間…青年は本来の姿を取り戻した。

遠くから見れば、素体ネオストラがぬいぐるみのパンダを覆っているように見えるだろう、しかし、その上に紫色の中華服と帽子を身に纏っておりほつれ目を補強するように至るところでお札が貼られている。

 

『……貴様は、このキョンシー・ネオストラが叩き潰す』

 

自らをそう名乗ったキョンシーはドラグーンの方へ走り、勢いよく拳を振り上げる。

ドラグーンは咄嗟にズババスラッシャーを交差させて防ぐ。

 

『オラァッ!!』

「ぐっ!?」

 

それを気にすることなくキョンシーは拳を振り下ろすと、途端に凄まじい衝撃が双剣を通してドラグーンを襲う。

だが、キョンシーはそこからストレートを繰り出し、更にフック、アッパーと強烈なパンチが再び迫る。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……オラァッ!!』

「ぐわあああああああああああっっ!!」

 

凄まじいスピードとパワーで放たれる拳のラッシュからの最後の一撃が叩き込まれると、ドラグーンは破壊されたズババスラッシャーと共に吹き飛ばされる。

 

「「イッセー(さんっ)!!」」

 

アーシアとリアスが地面を転がるドラグーンに悲痛な叫びをあげる中、リザードはこの場から立ち去ろうとするがそれに気づいたのは匙だ。

 

「…何逃げてんだよっ!!」

『あぁ?』

 

匙は己の神器であるデフォルメされたトカゲのような形状のガントレットを装備し、そこから伸びるラインでリザードを拘束する。

しかし。

 

『うざってぇんだよっ!!』

「なっ!?」

 

完全吸収能力という共通能力を持つリザードは弱まった拘束を乱暴に引きちぎると、逆にチューブで彼を拘束し引っ張る。

 

『たく、「自分同士」で戦うなんて気味悪いよなぁ…「俺」?』

「かはっ…何、言ってんだよ…!!」

『辰巳はあの様だから、代わりに活躍しようと思ったんだろ?会長に褒めて欲しいもんなぁっ!!気に入った女は、手に入れたい…お前が望んだことだぜ?』

 

不可解が言葉を話すリザードに、匙は睨み返すが気にせず彼は理解者であるかのように話しかける。

その瞬間、彼は気づく…気付いてしまう。

目の前で自分を苦しめているこの異形が何者なのか……。

 

『ぐっ、いってぇなっ!!…グヘッ!?』

「まったく、ドライバーさえ使えればどうにもなるんだけどねぇ」

 

ヴァイアの放った呪弾がリザードに直撃したことで匙は拘束から解放される。

攻撃を受けたリザードは彼に狙いを定めるが続けて放たれた呪弾で地面を転がる。

 

『くっそ…!!これじゃ埒があかねぇっ!』

 

吐き捨てるように、そう叫んだ彼は全身のチューブを操りそこから無数のエネルギー弾を乱射し、その隙を狙って逃走する。

それに気づいたキョンシーは、ドラグーンに止めをさせるチャンスだったが舌打ちをしてその場から離脱した。




 続きます、ちなみにシトリー眷属では匙が好きだったりします。何だかんだで泥臭い熱いキャラが好きだったりします。


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HEART7 Familiarと大爆走!!

 後編です。今回はドラグーンの専用マシンが登場します。
 ちなみにどのシーンとは言及しませんが初期にゲンムが登場する際に流れていた、てってっててってってっ♪とぅるるるるーるーるーるるるるるー♪…のBGMを脳内で再生しながら作業していました。
 それでは、どうぞ。


リザードとキョンシーが去った後、イッセーたちはザトゥージが利用している小屋でネオストラたちや仮面ライダーについての説明をしていた。

最も、説明を主にしていたのはヴァイアでありイッセー(アーシアの治療を受けている)は蒼那の質問に答えるだけだったが状況を把握した彼女は考える。

 

「あのトカゲだけなら何とかなったけど、あのパンダ擬き…キョンシーはかなり危険だ。あいつはネオストラの中でも幹部に位置しているからね」

『では、どうするつもりだ』

「僕が囮になるよ。イッセーはそのままリザードの撃破を…残りのメンバーはそのまま待機ってことで」

「ちょっと待てよっ!お前と辰巳だけだと…ふざけんなっ、俺たちが役立たずだって言いたいのか!?」

 

ヴァイアの提案に、異議を唱えたのは匙だ。

彼は掴みかからんばかりの勢いで詰め寄りるが、当のヴァイアは涼しい顔でいつもの笑顔を向けている。

 

「そうじゃないさ、あいつらは君たちの能力を吸収出来るからね…レベルの問題じゃない、相性自体が悪いんだ。それに、現時点でネオストラを撃破出来るのはイッセーだけだから彼に頑張ってもらうしかないのさ」

「……ざけんなっ!!なら俺が、俺があいつらをぶっ倒すっ!お前らなんかに任せておけるか!」

「…匙君、あのトカゲが君に感染したからといって別に倒す必要はないんだよ?」

 

その言葉に、匙は絶句するがヴァイアに尋ねたのはイッセーだ。

 

「ヴァイア、もしかしてリザードは…!!」

「あぁ、彼に感染した。自覚がないところを見るに彼が寝ている間に活動していたんだろうね……負の感情を持たないニンゲンなんていないさ」

「俺は、俺は…!!」

 

ヴァイアがそう結論付けた途端、匙はその場から逃げるように小屋から出て行ってしまう。

それに気づいたイッセーは慌てて彼の後を追うように外へ出て行った。

 

 

 

 

 

匙は森林を走っていた。

理由はもちろん、あのネオストラを倒すためである……結論から言えば、彼は冷静ではなかった。

無理もないだろう、あの醜い怪物が自分から生まれたことを認めたくない。

それは当たり前の感情だしそう思いたくなるのも仕方がない。

故に…。

 

「おいおい、随分とみっともないなぁ」

「お前っ…!!」

 

リザードが自分と同じ姿をして対峙した瞬間、絶句する。

そして、否定する。

 

「人をおちょくるのも好い加減にしろよっ!俺の真似を…」

「認めろよ、俺はお前でお前は俺…俺はお前の感情で生まれたんだぜ?女が欲しいっていう負の感情でな」

「違うっ!俺は、俺はそんなこと望んでいない!!」

「自分の物にしたいんだろ?その中でも取り立て欲しいのが会長だ、美人で恩人だしなぁ」

 

リザードのその一言に、匙の頭は完全に真っ白になった。

激情に駆られた彼は勢いのまま殴り飛ばそうとするがリザードは怪人態へと変貌するとその攻撃を受け止める。

そのまま空いた手で匙を殴り、怯んだところで首を締め上げられる。

 

『じゃーな、俺。お前を始末して、そのまま会長を手に入れてや…』

【TRIPLE BOOST!】

「オラァッ!!」

 

リザードが得意気にそう話している最中、電子音声が聞こえたかと思うと続くようにドラグーンのドロップキックが遮った。

直撃を受けたリザードは「ぎゃふっ!」と潰れたような悲鳴をあげて吹き飛ぶ中、リアスとアーシア、そして蒼那が咳き込んでいる匙の元へ駆け寄る。

 

「大丈夫ですか、サジッ!?」

「…すいません。俺…」

 

心配そうに覗き込む彼女に彼は謝罪を口にしようとするが、蒼那は優しく彼を抱き締める。

その光景を見たリザードは憤慨する。

 

『ずりーぞてめぇっ!!会長、俺にもぜひ…』

「余所見すんなっ!!」

 

隙だらけの彼の顔面に倍加したストレートを叩き込むと、ズババスラッシャーで斬撃を浴びせる。

しかし、そこに邪魔をする者が現れる。

 

『やれやれ、逃げたと思ったらまた追いつめられているのか』

 

茂みから、怪人態となっているキョンシーが現れる。

並々ならぬ殺意を放ちながら、彼は、拳を握り締めてドラグーンとの戦いに乱入しようとする。

 

「おっと、君の相手は僕だよ」

 

そこに割って入ったのはヴァイアだ。

彼は、いつもと変わらぬ表情でキョンシーの前で仁王立ちをして現れる。

目の前の現れた裏切者を彼は睨みつける。

 

『久しぶりだな、「リヴァイアサン」。相変わらずの腑抜け面で何よりだ』

「その名前は好きじゃない。僕はヴァイア、それ以上でもそれ以下でもない」

 

お互いが睨み合う中、先手を打ったのはキョンシーだ。

彼は地面に拳を打ち付けてライオットを複数生み出す……そのままライオットたちが襲い掛かるがヴァイアはそれを躱し、呪弾で迎撃を開始する。

 

『そこでしばらく遊んでいろ…』

「やだねっ!」

 

ライオットに任せてキョンシーはドラグーンの元へ向かうが、ヴァイアはライオットの一体を投げ飛ばして彼を妨害する。

その隙に呪弾を発射して攻撃すると、作戦を変更したキョンシーは数体のライオットをドラグーンの方へ向かわせる。

一方、匙は落ち着いた頭でこれまでの今日の自分を振り返っていた。

相手の力量を勝手に測り間違えただけでなく、己の慢心と評判だけで好意的だった彼をバカにしていた。

怪人の苗床にさせられたのがダサくて、彼女に嫌われたくなくて、一人で勝手に突っ走って、結果的に彼女を心配させた。

カッコ悪い…本当に、カッコ悪い……。

これでは…。

 

「弟たちに、顔向け出来ないよなぁ…」

 

そうぼやいた彼は、会長に頭を下げると闘志を宿した瞳で敵を見据えて走り出した。

 

「オラァッ!!」

『っ!?』

 

ドラグーンに不意を突こうとしたライオットを、神器を纏った手で殴り飛ばし、彼に向かって頭を下げる。

 

「すまなかった、辰巳っ!!嫌な思いもさせたし、迷惑を掛けたっ!この通りだっ!!!」

 

勢いよく頭を下げた匙に、ドラグーンは困惑する。

何処までも真っ直ぐな……まるで、あの頃の自分を思い出すような清々しいまでに正直な彼に声を掛ける。

 

「良いよ。その代わりに…この雑魚を片付けるのを一緒に手伝ってくれっ!!」

「あぁっ、会長の『兵士』の力…みせてやるぜっ!」

「ミッション・スタートだっ!」

 

その叫んだ匙はライオットを蹴り飛ばして、宣言するとドラグーンも決め台詞と共にズババスラッシャーで切り裂く。

匙が神器で伸ばしたラインで敵の足に巻きつけて動きを封じるとドラグーンが殴り飛ばす…息の合ったコンビネーションにリアスやアーシア、蒼那は楽しそうに笑う。

 

「何だか、あの二人…」

「イッセーさん、楽しそうです」

「もしかしたら、似た者同士なのかもしれませんね」

 

三人がそんなやり取りをしている中、ドラグーンと匙はライオットの胴体を同時に殴って消滅させる。

最後の個体を破壊したのを見たリザードは怒りで身体を震わせる。

 

『くっ、こうなりゃ…逃げるが勝ちだっ!!』

「あっ、待ちやがれっ!!」

 

リザードは背を見せてそのまま逃走を開始する。

自分を守る戦闘員は全員破壊された上に、キョンシーも役に立たない…そうなると戦闘が得意ではない自分に出来ることは、逃走することだけだ。

身軽な動きで木々に飛び移って移動をすると彼の姿は見えなくなる。

後を追いかけようと両脚に倍加をかけようとした時だった。

 

『ヒヒイイイイイイイイインッッ!!!』

『っ!?』

 

突如聞こえた鳴き声とエンジン音が混ざった音に、空中を飛来する全員が見上げるとそこには赤いラインに黒い馬を模したメカニカルなロボットに乗った仮面の戦士がいた。

紫色のアンダースーツの上にはティラノサウルスをモチーフにした赤くひび割れた鎧を纏った仮面の戦士はドラグーンの前に着陸させて、ドラグーンと酷似したグリーンカラーの瞳を向ける。

その姿には若干の差異はあったが、間違いない…かつて自分を救ってくれた、ドラグーンこと辰巳一誠にとっての目標でもある存在。

 

「…あんたは、もしかして…!」

「……」

 

動揺する彼を手で制して、仮面の戦士はバイクへと変化している『マシンブレイブニル』に視線を向ける。

まるで、ドラグーンに使えと言っているようだ。

指示されるままマシンに触れると、バイクの名前と能力などの情報が流れ込んでくる。

 

「本当に、良いのか?」

「……」

「よし、行くぞブレイブニルッ!!」

『ヒヒイイイイイイイインッ!』

 

恐る恐る尋ねたドラグーンに仮面の戦士は無言で頷くと、自身の愛機となったブレイブニルは新たな主人を迎えるように鳴き声をあげて徐々にスピードが上がっていく。

そして、仮面の戦士は自身に向けられている視線を気にすることなく、ヴァイアと交戦しているキョンシーを見据える。

 

「……」

【ZUBAGA-N SLASHER!!】

 

電子音声共に、仮面の戦士の右手にはリボルバーマグナムの銃身に刀身が合体したような奇妙な形状をしており、刀身の上には銃口が見える。

『ズバガーンスラッシャー』を構えた彼は、地を蹴ってヴァイアに纏わりついたライオットを銃撃して消滅させると、ブレードでキョンシーを襲う。

キョンシーはそれを両腕で防ぎ、鍔迫り合いを始める。

 

『貴様…!』

「……」

 

彼が何かを言うよりも先に、仮面の戦士はキョンシーを弾き飛ばして至近距離での銃撃を行う。

火花と煙を上げながら仰け反ったキョンシーは彼らと距離を取って睨みつける。

 

『…ちっ、ここは退くか』

 

それだけを言うと、キョンシーは地面を叩いたことで生じた土煙に紛れて姿を消した。

いなくなったのを確認したヴァイアは立ち去ろうとする仮面の戦士に話しかける。

 

「ありがと、君がいなかったら僕は死んでいたよ」

「……」

 

彼の言葉に何も言わず、仮面の戦士はヴァイアに向かって三つの物体を投げ渡す。

それをキャッチすると、イッセーが使用しているハートバッテリーと同形状の物だったが金色だったり青だったり橙色だったりとカラーリングに差異がある。

 

「そうか…君は、あれから一人で……」

 

「ごめん」と悲痛な面持ちで告げたヴァイアに、仮面の戦士は何も言わずに立ち去って行った。

 

 

 

 

 

「追いついたぜっ!リザードッ!!」

『ヒヒイイイイイイインッッ!』

『くそっ!バイクなんて反則だろうがっ!!』

 

ブレイブニルで爆走するドラグーンはリザードと隣接する。

あまりのスピードに驚いたリザードは罵倒しながらチューブでブレイブニルのパワーを奪い取ろうとする。

 

『ヒヒイイイイイインッ!!』

『はっ、はああああああああああああっっ!!?』

 

すると、ブレイブニルは嘶き、仮面の戦士を乗せていた時のようなメカニカルな馬の形態『ホースモード』へと切り替わると驚愕しているリザードを蹴り飛ばした。

それを見たドラグーンはホルダーを下げてインジェクタースイッチを押す。

 

【EXPLOSION! CURSE OF LOCUST!!】

 

ドラグーンはブレイブニルと共に空高くジャンプし、倍加したエネルギーの奔流に包まれながらリザードへ必殺の体当たり『ブレイブストライク』を放つ。

 

「行けえええええええええええええええええっっ!!!」

『ぐぎゃああああああああああああああああっっ!!?』

 

けたたましい音と押し潰されたような悲鳴と共に、リザード・ネオストラは爆散しハート型シンボルも粉々に砕け散った。

 

『ヒヒイイイイイイイイイイイインッッ!!!』

 

主との初勝利の余韻を味わうかのように、マシンブレイブニルは誇り高く嘶くのであった。

 

 

 

 

 

「よーしよしよし」

『ヒヒーン♪』

 

その数日後、オカルト研究部の部室でイッセーは使い魔となったブレイブニルの頭を撫でていた。

現在のブレイブニルはぬいぐるみサイズにまで小さくなっており、かなりデフォルメされている。

どうやら戦闘時と非戦闘時では姿を切り替えられるらしく、リザード戦が終わった途端この姿へと変わったのだ。

あの後、仕切り直しとしてザトゥージと共に使い魔を探し匙とアーシアがゲットすることに成功した。

イッセーも、ブレイブニルと契約を交わしたため正式な使い魔へとなった。

ちなみにアーシアがゲットにしたのは『蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)』のオスで彼女に「ラッセー」と名付けられた。

頭に載るくらいの大きさの子竜だが成竜ともなれば見上げるほどの大きさになるらしい。

希少な魔物であり、たとえ運良く出会えても契約など普通は無理な相手であるため、これにはザトゥージも驚いていた。

それは良かったのだが、弊害も少しだけあり……。

 

「そうだ。アーシア、ちょっと良いか…て、ぎゃあああああああっっ!!?」

「イ、イッセーさんっ!?」

 

アーシアに用があって近づいてきたイッセーに対して反応したラッセーは自身能力である雷撃を放つ。

ザトゥージ曰く「ドラゴンのオスは他の生物のオスが大っ嫌い」らしく、ここ数日はこのやんちゃな子竜に木場共々翻弄されているのだ。

そこから更にややこしくなる。

 

『ヒヒイイイイイイイインッ!!』

『ブッ!?キュイイイイイイイイ…!!』

「やめろブレイブニルッ!」

 

主を攻撃して憤慨したブレイブニルがラッセーに突撃し、互いに威嚇をしてそこから雷撃と咆哮が混じった大喧嘩が始まる。

このように、イッセーが攻撃されればブレイブニルはラッセーに体当たりを行い、それに激怒したラッセーが反撃すると言った状況が続いているのだ。

しかも、喧嘩している最中のこの二匹は主の声が聞こえないほどに暴れまわる始末で部室に結界を張らなければ活動すらもままならない始末だ。

 

「お互い、大変だな。アーシア」

「そうですね、イッセーさん」

 

しばらくは使い魔の教育を行おうと、イッセーとアーシアは初めての使い魔に数日間苦戦させられるのであった。




 匙…一人で暴走して一人で鎮静化する…でも、彼って良くも悪くも正直なので自分が悪いと思ったらきちんと謝る度量があると思うんですよね。
 誰かに説得されるよりも、自分で反省して自分で納得する…その方が彼に似合うかなと思ったのでこのような形になりました。
 突如、バイクを持って現れた仮面の戦士……プロローグで登場した人物と酷似していますが果たしてどうなのでしょう?そしてヴァイアに渡したハートバッテリーはどう使われるのか?
 色々なことを詰め込んでしまいました……もうちょっと計画的にやらねば……。
 キャラクターの方でキョンシー・ネオストラとヴァイア、ライダー紹介の方でマシンブレイブニルを更新しました。ではでは。ノシ

リザード・ネオストラ ICV井口祐一
匙元士郎に感染したネオストラで、黒いトカゲを模した装甲を身に纏っている。また体の各部には黄色いチューブ状の紐がある。
身軽な動きを得意とする他、チューブは相手を拘束するだけでなく、相手の動きを止めたりエネルギー弾を乱射したりと多彩だが、接近戦はかなり不得手。
我の強い個体の代表格であったため、幹部たちからは粛清候補として挙げられていた。


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戦闘校舎のPhoenix
HEART8  現れたGrilled chicken


 フェニックス編です。ここからどうするかがかなり悩みどころですが、取りあえず平成二期らしく、それでいて原作の雰囲気を崩さないようにしていきたいです。
 ちなみに、今回はネタ要素が多すぎたなと思います。それでは、どうぞ。


「はぁ……」

 

その日、教室の自分の席でイッセーは深いため息を吐いた。

別に今朝の食事に嫌いな物が入っていたわけでも、朝から愛奈に説教を受けたわけでもブレイブニルが母に懐いて寂しいわけでもない。

昨夜、リアスと自分がウェディング姿とタキシード姿で結婚式をする夢を見たのだ。

おまけにその時の彼女の衣装は胸元を大きく開けたデザインのウェディングドレスを着用しており、非常に扇情的だった。

そんな自分の欲望が入り混じった夢は心臓に悪く、おかげで今日は寝坊をしてしまったのだ。

 

「…おいっ、イッセー!聞いてるのかっ!?」

「そうだっ!お前…アーシアちゃんに起こしてもらっているのかっ!!」

「…何だそんなことか。当然だろ、アーシアは『俺の家』にホームステイしているのだからなっ!!」

 

そんな彼を現実へと引き戻したのは松田と元浜だ、彼らのやかましい言葉にイッセーはわざとらしく強調して自慢げに語る。

やはりと言うべきか、ここ最近はオカルト研究部の仲間たちと行動を共にしていたので友人二人のやり取りがとても楽しい。

そんな彼の態度に後ろの席に座っているアーシアは楽しそうに笑うが、衝撃を受けている男子二人は詰め寄る。

 

「じ、じゃあ…ご飯をよそってもらったりとか…!!」

「『アーシアちゃんはとても気が利くわね』…て、愛奈姉さんも褒めてくれたし母さんも家族が増えて喜んでたぞー」

「そ、そんな…照れますよ///」

 

元浜の問いに自慢げに答えたイッセーの言葉にアーシアは上気した頬を隠すように照れた表情を見せる。

最初こそ、稲妻に打たれたかのように愕然としていた二人だったがやがて涙を流しながら更に詰め寄る。

 

「な、なぁ親友?物は試しなんだが…少女や乙女の一人くらい紹介しても、罰は当たらないと思うんだが……てか、誰か紹介してくださいっ!!何でもするからっ!」

(ん?今何でもするって……)

(何で、そのネタに持っていくんですかねぇ!?)

 

元浜のある言葉に、反応したドライグにツッコミを入れながらもイッセーは考える。

オカルト研究部のメンバーは全員悪魔だし、残念ながら真っ当な普通の女子は自分の周囲にはいないのでどうするかと考えるがある人物が思い当たる。

 

「ちょっと待ってろ」

 

スマートフォンをポケットから取り出し、電話帳から『ある人物』の名前を見つけたイッセーは電話を掛ける。

 

「もしもし、辰巳です…はい、実は…」

 

大体の事情を説明しながら、電話の主からの内容を頭に入れる。

 

「……はい、ありがとうございました。じゃ、失礼します」

「でっ!?どうだった、イッセー!!」

「大丈夫だってさ。それに、今日にでも会いたいって…向こうも友達を連れて来るってさ」

 

鼻息を荒くして訪ねてきた松田にイッセーは電話の主からのメッセージを答えると、二人は嬉しそうにハイタッチをする。

純粋に嬉しそうな反応を見せる彼らに、少しばかりの罪悪感が芽生える。

 

「ち、ちなみに…どんな子なんだっ!?」

「まっ、まぁ…『乙女』だな」

 

それを聞いて再び狂喜乱舞する二人から目を逸らしながら、イッセーは先ほど通話していた人物……ミルたんを思い浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

そして、時間は過ぎて放課後…イッセーとアーシアはオカルト研究部の部室へと向かうべく旧校舎の廊下を歩いていた。

 

「ジャス・ティス、ラララ~ラフフフフフ~ン♪」

(タラララ~ラ、ラララ~ラチャーラララ~ン♪)

「ジャス・ティス、フフフーフ、フフフフフ~ン♪」

(チャラララララ~ラ、ラララ、ラ~ラ~ラ♪)

「『リ・スタート~♪』」

「あの、イッセーさん。その歌は…?」

 

「最近のお気に入り」とアーシアに自分(+ドライグ)が口ずさんでいた鼻歌について答えると、二人は部室のドアを開く。

 

「チーッス」

「こんにちは」

「やぁ、イッセー君。アーシアさん」

 

挨拶をして入ってきたイッセーとアーシアに木場がいつもの柔和な微笑みで返す。

カバンを置いてソファに腰を掛けるが、ふと気になった疑問を彼にぶつける。

 

「木場、ヴァイアは?」

「何か…『僕は正気に戻った』とか良く分からないこと言って外出したよ」

 

苦笑いする彼にイッセーも笑うしかない。

そんな彼と軽く会話しながらも、外の景色を見て黄昏ているリアスの姿が目に入る。

いつもと違う彼女の様子にイッセーは木場に質問する。

 

「なぁ、部長の様子が変だけど……何かあったのか?」

「うん。僕も聞いたんだけど…『大丈夫』って言われたきり何も」

 

心配そうな表情を見せる木場に、イッセーも物憂げな表情を見せるリアスを見つめるのであった。

結局、リアスに何も聞くことが出来ず、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

自宅へと帰り、入浴を終えたイッセーはご近所に迷惑を掛けない程度に放課後で口ずさんでいた歌を熱唱していた。

こういったもやもやしている時は漫画やゲームではなく、歌を歌って発散するに限ると思った彼はコーラスをドライグに任せて歌っている。

ヘッドホンを耳に当てて次の曲へと熱唱しようとした途端……。

 

「えっ?」

 

部屋に見慣れた赤い魔法陣が浮かび上がり、赤い光で部屋が満ちた途端、そこから学生服を着たままのリアスが現れる。

連絡なしに現れた彼女に、慌ててヘッドホンを外したイッセーは尋ねる。

 

「部長っ!?えっと、どうしたんですか?」

「……イッセー」

「ち、ちょっと…!?」

 

驚く彼を気にせず、堅い表情のままリアスは彼に近づいていく。

突然現れて突然自分に近づく彼女に動揺することしか出来ないイッセーはなす術もないまま、彼女に押し倒されてしまう。

 

「今すぐ、私を抱きなさい」

 

馬乗りになったそう言ったリアスに、呆然としてしまうが言葉の意味を理解した彼は慌てて制止する。

 

「ち、ちょちょちょっ!待ってくださいっ、部長っ!?」

「お願い……あなたはこういうことに興味があるでしょう…」

 

何処か目を潤ませながら言ったリアスにイッセーは動揺することしか出来ない。

確かに、興味がないと言えば嘘になる…しかし、自分みたいな駄目野郎に彼女は迫ってくる。

嬉しい気持ちもある反面、そんなことをして良いのかと自問自答する。

そんなことが許されるのだろうか、自分みたいな弱い奴が、こんな悲しい表情を見せている彼女を見捨てるなんて…。

出来ない…!

 

「やめてください、部長」

 

馬乗りになったままブラウスを外そうとした彼女は動きを止める。

驚愕の表情を見せる彼女にイッセーは言葉を続ける。

 

「どうして、どうしてなの、イッセー……?」

「理由は分かりませんけど、そんな勢いだけでこんなことしちゃいけない。部長だって、本当は分かっているんじゃないですか」

「……」

 

彼の言葉に、リアスは目を見開くがイッセーの真っ直ぐな瞳から目を逸らしてしまう。

やがて彼女は、か細く声を震わす。

 

「でも、でも…!」

「部長、役不足かもしれないけど『兵士()』に話してください。俺以外にだって、木場や朱乃さんたちがいます……絶対に、見捨てませんから」

 

その言葉に、リアスは目を見開いた。

しばらくは沈黙していたが、やがて口を開いた。

 

「ごめんなさい、イッセー。私…どうかしていたわ」

「良いんです。それに、迎えも来たようですよ」

 

イッセーがそう言葉にした途端、グレモリー眷属が使用している魔法陣とは違う銀色の魔法陣が出現するとそこからメイド服を着た女性が現れる。

 

「こんなことをして、破談に持ち込もうとしていたのですか?旦那様やサーゼクス様が悲しみますよ」

 

銀髪が特徴の、メイド服越しでも分かる豊満なスタイルを持った女性はリアスに話しかける。

その美貌にイッセーは見惚れそうになるが、彼女から発せられる魔力からただの悪魔ではないと推測する。

 

「そうね。でも、もう大丈夫よ……ごめんなさい、『グレイフィア』」

「あなたはグレモリー家の次期当主なのですから。それと、自分の眷属とは言え殿方に肌を露わにするのはご自重ください」

 

「グレイフィア」と呼ばれた女性は、立ち上がったリアスの元まで近寄りブラウスのボタンを締め直す。

そして、イッセーの方に向き直りお辞儀をする。

 

「始めまして。私はグレモリー家に仕える、グレイフィアと申します。以後お見知りおきを」

「は、はい」

 

頭を下げたグレイフィアにイッセーも慌てて頭を下げる。

その反応に、リアスは自分でも分からず少しだけ不機嫌になりながらも彼に話しかける。

 

「ありがとう、イッセー。話は明日必ず……続きは根城で聞くわ、朱乃も同伴で良いわよね?」

「『雷の巫女』ですか。構いません、上級悪魔たるもの片割れに『女王』を置くのは常ですので」

 

そう会話を終えたリアスは、もう一度イッセーの方に向き直り彼の頬にキスをした。

 

「ぶ、部長っ!?い、今のって…!///」

「ふふ、今夜はこれで許して頂戴…」

 

そう笑ってリアスはグレイフィアと共に魔法陣へ入るとそのまま姿を消す。

イッセーはただただ、夕飯を呼びに来たアーシアが来るまで呆然としているのであった。

 

 

 

 

 

そして、翌日の登校に松田と元浜からミルたんとそのお友達についてクレームを受けながらも、それを適当にいなしながら放課後の旧校舎。

 

「ちわーす」

 

アーシアと、途中で遭遇した木場と共に部室に入るとそこにはリアスと朱乃…そして昨夜のメイドであるグレイフィアがいた。

 

(一目見た時から思っていたが、相棒。東方のあのキャラに似てないか?)

(いきなりどうしたお前は?あれだろ、あのナイフを使う)

(そうそう、PADちょ…)

(それ以上はいけない。その渾名が嫌いな人もいるから)

 

突然話し出したドライグに、返事を返すが続けて口にした禁句にメタ的なツッコミをするイッセー。

そして、リアスは座っていた席からゆっくりと立ち上がる。

 

「全員揃ったわね。部活を始める前に話があるの」

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

グレイフィアからの申し出に、手を出して断ると一歩前に出る。

 

「実はね…」

 

それを遮るように、部室の床に赤…燃え上がるようなオレンジ色の魔法陣が出現する。

グレモリーの魔法陣とは違うそれから熱い炎が広がり熱気が包む中、炎の中心に男の姿が見える。

 

「……『フェニックス』」

 

俺の傍で木場が…多くの人が知っているであろう不死鳥の名を呟く。

魔法陣からは炎が未だ巻き起こっており、やがてそれが消えゆくと中心にいた男が振り返った。

 

「ふぅ、人間界は久々だ……会いに来たぜ、愛しのリアス」

(……誰だ?)

 

その男は赤いスーツを着崩し、胸までシャツを開けたノーネクタイといった格好をしており、イッセーとドライグの第一印象はホスト、もしくはチャラ男といったところだ。

木場の呟いた言葉と男の言動から、彼の正体とリアスの知り合いであることを察することは出来るが結局のところ話が見えない。

警戒をしているイッセーに気づいたのだろう、グレイフィアは彼を紹介する。

 

「この方は『ライザー・フェニックス』様…フェニックス家のご三男でありグレモリー家次期当主の婿殿。すなわち、リアスお嬢様の御婚約者にあらせられます」

「…へっ?こ、婚約ぅっ!?」

 

流石のイッセーも声を出して驚くしかなかった。

 

 

 

 

 

「いやぁ……リアスの『女王』が淹れてくれたお茶は、美味しいものだな」

「痛み入りますわ……」

 

ソファに座りながらそう褒めたライザーに対して朱乃は笑みを保っているが、何処か格式ばっているような…表面上での笑顔であることは誰にでも分かった。

一方、彼の隣に座っているリアスは不機嫌な表情で腕を組んでおり、時折彼女の綺麗な紅髪を触ったりしている。

 

(随分と品がないな。自分が名家の人物ってだけで、特別だと思い込んでいるボンボンの典型だ)

 

ドライグがそんなことを呟いていると、ライザーがリアスの太ももに手を伸ばそうとしたがそれを拒否するように立ち上がりその場から離れる。

 

「いい加減にして頂戴、ライザー。以前にも言ったはずよ、私はあなたと結婚なんてしないわ」

「だがリアス……君のお家事情はそんな我が儘が通用しないほど、切羽詰まってると思うんだが?」

 

彼女の言葉に、ライザーは呆れたように返すがリアスは一歩も引かない。

 

「家を潰すつもりはないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ…でも私は、私が良いと思った者と結婚するわ」

「先の戦争で激減した純潔悪魔の血を絶やさないというのは…悪魔全体の問題でもある。君のお父様もサーゼクス様も、未来を考えてこの縁談を決めたんだ」

「……父も兄も一族の者も、みんな急ぎ過ぎるのよ…!もう二度と言わないわ、ライザー……あなたとは結婚しない!!」

 

強く宣言したリアスに、ライザーの表情は先ほどとは変わらなかったがその瞳には灼熱の炎が渦巻いている。

それに対抗するように彼女も紅い魔力を全身から放出を始めた時だった。

 

「お納めください、リアスお嬢様。ライザー様……私はサーゼクス様の名でこの場におります故、一切の遠慮は致しません」

「…最強の『女王』と称されるあなたにそんなことを言われたら、流石に俺も怖いな」

 

少しばかり声を低くして警告したグレイフィアに肩をすくめたライザーだったがその顔には冷や汗が見える。

それほどまでに、彼女の強さは圧倒的なのだろう。

彼女は言葉を続ける。

 

「旦那様方もこうなることは予想されておりました。よって決裂した場合の最終手段として『レーティングゲーム』で決着をつけるようにと」

「レーティングゲーム?」

「爵位持ちの悪魔が行う、自らの眷属を戦わせて競うチェスに似たゲームだよ」

 

木場の説明を受けたイッセーは「だから悪魔の駒か」と一人納得していると、ライザーは得意気な笑みを浮かべてリアスに声を掛ける。

 

「俺はゲームを何度も経験してるし、勝ち星も多い。君は経験どころか、まだ公式なゲームの資格すらないんだぜ?」

「……本来、レーティングゲームが出来るのは成熟した悪魔だけです」

「こっちはビギナーか……もしかしなくても人数にも差があったり?」

「…先輩の言う通りです」

 

ライザーの言葉に対して、朱乃は細かな説明をイッセーにする。

それを聞いたイッセーは苦虫を噛み潰したように呟くと、小猫がその言葉を肯定する。

そして、ライザーが指を鳴らした。

瞬間、最初に彼が訪れた時と同じように炎のような魔法陣が出現し、そこから十五人の少女たちが現れる。

 

「こちらは十五名…つまり駒はフルに揃っている。リアス、見たところ君の眷属はこの部室にいる全員だろう?」

 

ライザーは自慢げに自らの眷属を語る。

そこには男の姿はなく、全員が美少女や美女と呼べるような女性だけで構成されていた。

 

(おいおい、あいつ昔の相棒が夢見ていたハーレムを構成しているぞ?さぁ、相棒。今の心境を一言どうぞ)

「くたばれ、焼き鳥野郎っ!!」

『っ!?』

 

ドライグに載せられる形で、イッセーは思わず声高々にライザーに対する罵倒を口にしてしまった。

思ったほど、沸点が低いのかはたまたプライドが高いのか彼は先ほど罵倒した下級悪魔に詰め寄らんばかりの勢いで睨みつける。

 

「き、貴様っ!フェニックス家の三男であるこの俺を愚弄するのかっ!?」

「うるせぇよっ!!これ見よがしに美少女たちをはべらかしやがって!罵倒の一つや二つも言いたくなるだろうが、この焼き鳥野郎!」

「そうだそうだっ!!」

 

破れかぶれと言わんばかりにイッセーは今まで溜まっていた鬱憤をライザーに向かって全て吐き出す。

それに対して便乗してきたのは扉を蹴破らんばかりに入ってきたヴァイアだ…秋葉原にでも行ってきたのだろうか彼の服装は青いハッピであまり光らなくなっているサイリウムを右手に持ち、左手にはPS4でも買ったのか大きめの紙袋を携えている。

 

「誰だ、貴様はっ!?」

「うっさいっ!!何がフェニックスだっ!僕はてっきりクールな一匹狼で幻魔拳を使うのかと思ったのに…!僕の夢を返せっ!」

「何処の聖○士ッ!?誰だか知らんがフェニックスにどんな夢を持っているんだっ!!」

「フェニックスと聞いたら夢ぐらい持つだろぉっ!?このボボボーボ・ライザー・イボンコッ!!」

 

突如現れて滅茶苦茶かつ理不尽な怒りを一方的に吐き出す不審者にライザーはツッコミを入れるが、最後に放ったヴァイアの一言が突き刺さった。

 

「きっ、貴様ぁ……!!焼き鳥ならまだしも、漬物に対して拒否したり好きな女にバナナをプレゼントするような不名誉な名前をぉ…!!」

(意外とノリ良いなこいつ)

 

どうやら会心の一発だったらしい…ライザーは怒りを通り越して絶句しており身体を怒りやら何やらで震わせている。

ちなみに、ヴァイアの発言は思ったよりもツボだったのかリアスや木場、小猫は噴き出してしまい、グレイフィアや朱乃だけでなくライザーの眷属たちも顔を背け、笑いを堪えている始末。

イッセーも笑いを堪えていたが一々反応する彼に対して評価を変えていた。

 

「ぷっ…コホン。イボ…ライザー様、どうか落ち着いてください」

「おい、『ユーベルーナ』。今イボンコと言いかけなかったか、イボンコと言いかけたな?」

「そんなことは決して…ぶふっ」

「なぜ噴出すっ!?後、残りの連中も笑うな!!泣くぞっ?俺はそろそろ泣くぞっ!?」

 

「ユーベルーナ」と呼ばれた白いローブを羽織った紫色のロングヘアーの女性はライザーを抑えようとするが、イボンコの破壊力に吹き出してしまう始末。

先ほどまでの威圧感は消し飛んでしまっており笑っている眷属たちに彼はすっかり涙目だ。

そして、しばらくしてから数分後……調子を取り戻したライザーはユーベルーナと熱いキスを交わし、一方的に告げる。

 

「…とにかくだ。リアスの眷属諸君、縁談が成立した暁には俺は彼女を愛するつもりだ。無論、俺のハーレム要因としてな」

「……部長を、女を道具か何かのように扱うつもりか…?」

「日本のことわざであるだろ?『英雄色を好む』とな」

「鏡を見てから辞書を引き直してこい、イボンコ野郎」

 

一応婚約者であるリアスの前でありながら、自身の眷属に熱い抱擁をしながら言い放った彼の言動に、イッセーは視線を鋭くしながら問いかける。

そんな視線を気にせず傲慢な態度で反論するが、直後に言われた一言によって表情が憤怒へと変わった。

 

「…っ!『ミラ』ッ!!」

「っ!!」

 

ライザーの指示に「ミラ」と呼ばれた和服の小柄な少女は自身の持っている棍棒を構えながら、イッセーに襲い掛かる。

彼女の放った攻撃は確かに速く、不意を突かれたら流石のイッセーも部室の床に沈んだであろう。

しかし、彼は頭に血こそ上っていたが我を失っていたわけではなかった。

 

「よっと!」

「なっ!?」

 

神器を使わず、イッセーは棍棒を捌く。

驚いたミラはすかさず武器を振るうが彼はそれを全て躱し、受け流す。

やがて自分の攻撃が当たらないことに業を煮やした彼女は最大の一撃を繰り出した時だった。

 

「……!」

「っ!?なっ……!!///」

 

単調で大ぶりとなったその一撃を待っていたイッセーはそれを受け流し、彼女へ一気に肉薄する。

そして、少しだけ笑った彼にミラは動揺してしまう…それが命とりとなった。

 

「はい、終わり」

「ぁいだっ!?」

 

魔力で少しだけ強化したデコピンを彼女の額にすると、ミラは可愛らしい悲鳴と共にその場にひっくり返る。

一部の戦闘を見ていたライザーと、その眷属たちに動揺が走る。

『兵士』であり神器を持たないミラは確かに自分たちの中では弱いが、レーティングゲームに数多く出ているため、実戦経験がある……そんな彼女を目の前の少年はデコピン一発でKOさせたのだ。

額を擦りながら立ち上がったミラだが足元が覚束ない。

やがて、しばらく静観していたグレイフィアが口を開いた。

 

「……どうなさいますか、お嬢様」

「分かったわ。ライザー…レーティングゲームで決着をつけましょう」

 

真っ直ぐと彼を見て宣言したリアスの言葉に、ライザーは自身の眷属の心配をしながらも魔法陣と共にその場を後にする。

それを見届けたグレイフィアは彼女に声を掛ける。

 

「期日は十日後とします。リアス様とライザー様の経験、戦力を鑑みてのハンデです」

「…悔しいけど、認めざるを得ないわね。そのための修業期間としてありがたく受け取らせていただくわ」

 

その言葉と共に、全員の表情が変わった。

こうして、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに向けて…グレモリー眷属の修業が開始された。

 

 

 

 

 

「なるほど、『彼』が現れましたか…そうなるとリヴァイアサンにハートバッテリーを渡した可能性が高いですね」

「だが、あれ以上の騒ぎを起こすわけにもいかん。異形共が俺たちのことを調べるだけではらわたが煮えくり返る…!!」

 

誰も使われておらず、廃屋となっているため一先ずのアジトとして利用している……郊外にある大きな洋館の一室でハルピュイアとキョンシーは今後についての話をしていた。

その時、呪法を施してある黒い電話機が鳴り響くとハルピュイアは受話器を取る。

 

「はい……えぇ、そうですか。分かりました、あなたの好きにしなさい『ピーコック』」

「どうした?」

「『ケンタウロス』が感染させて誕生したネオストラからの報告です。レーティングゲームに参加すると」

「下らないな。異形の娯楽に興じるなど愚の骨頂だ」

 

嫌悪感を露わにしながら、吐き捨てるように言ったキョンシーをハルピュイアが窘めようとした時だ。

 

「はっはははははははは!あっははははははははは!!そうか、動くのか!ピーコックがオペのために動くのかっ!!ならばオレも行かなくてはならない!それがドクターだ、そうだドクターの使命だともっ!」

 

高々と笑いながら室内へと勢いよく入ってきた大柄な医者の男……ケンタウロスに対して、ハルピュイアはため息を吐いた。

 

「あなたも行くつもりですか?」

「当然のことである、なぜならそこに患者がいるからだっ!患者がいるということはオペが必要だということ!オペが必要だということはドクターが存在していなければならないからだっ!!ふははははははははっっ!!」

 

笑顔を浮かべながら語る彼に対して、キョンシーはしばらく無視をしていたがやがてハルピュイアが口を開いた。

 

「分かりました。ピーコックの邪魔とならないよう、気を付けてください」

「もちろんだともっ!!おぉっ、患者よっ!今こそ我が愛をもって、汝らを死と苦痛から解放せんっっ!!!」

 

彼女からの了承をもらったケンタウロスは大きく両腕を広げながら、笑顔でその場から退室する。

それを見たキョンシーは一言呟いた。

 

「…笑っていたな」

「笑っていましたね」

 

幹部となってからも、未だ憤怒や悲哀の表情を見たことがない二人は…常に笑顔を浮かべた彼に対してそう呟くことしか出来なかった。




 ついに来ました、焼き鳥から不死鳥へと成長を続けるチャラ男ライザー。
 そして、次回から修行パートになりますが申し訳ありません。かなり省略化する可能性が高いです。
 色々と挑戦したいことがあるので頑張っていきたいです。
 それと、ケンタウロスですか……書いていて面倒くさいけどかなり楽しいです。
 ではでは。ノシ


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HEART9 Trainingする若者たち

 今回は修行パートですが、あまり描写することもないのであっさりした感じになりました。イッセーに戦闘経験があると他の先駆者様と同じようになってしまって…許してください!何でもしますから!!
 それでは、どうぞ。


当然のことだが、修行をするにはそれだけの場所と設備が必要となる。

そこでリアスはグレモリー家が所有する日本の別荘地で泊まり込みの修行することを提案し、イッセーたちはそこに向かうための山道を歩いていた。

顔を上げて周囲を見渡せば、綺麗な青空と景色があり自然豊かな木々が生い茂っている。

小鳥も囀っている大自然を堪能しながらイッセーは大きめの荷物を背負って足を動かす。

 

「ぜぇ、ぜぇ…ち、ちょっと待って…タイム、タイム…!!」

「またなのかい、ヴァイア君?」

「……これで何度目ですか?」

 

後ろを見れば、一番軽装備であるヴァイアが息を切らしており苦笑いする木場と、大量の荷物を背負っている小猫が彼を急かしているのを確認出来る。

まさか徒歩で行くとは思ってもいなかったのだろう、本人曰く「病み上がり」らしいのだが気にする余裕もないので先を行く。

ちなみに、イッセーはリアスとアーシア…朱乃の分の荷物を全て一人で背負って歩いているが涼しい顔だ。

そして、少し休憩したヴァイアも再度歩き始めると三人はリアスたちが待っている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

そして、数時間後。

 

「ふぁー……素敵ですぅ…!」

 

別荘地に着いて一番初めに口を開いたのはアーシアだった。

白を基調としたサイズのある屋敷であり、湖やプールも完備されておりアーシアやイッセーは驚くしかない。

リアスは「別荘」と言ってはいたが、イッセーのような庶民の感覚からすれば『豪華な屋敷』であり、それと同時に「実家はもしかしてお城かよ」とツッコミそうになってしまう。

 

(中々良い場所だな。別荘自体もそうだが人払いの結界もあるしこれだけ広いなら修行にももってこいだろう)

 

ドライグがそんなことを言う。

しばらく呆然としていたが、リアスが口を開いた。

 

「さっ、中に入ってすぐ修業を始めるわよ」

 

彼女の声に続くようにイッセーたちは別荘へと入って行く。

別荘の中は綺麗に掃除されて埃一つなく、窓に至っては太陽の光で反射しているほどだ。

リアスに一つの部屋へ案内されたイッセーと木場はそこで修行をするのに動きやすい格好へと着替える。

ついでにヴァイアもそのベッドに寝転がりながら、金色・青・オレンジに塗り分けられた三つの四角いガジェットにハートバッテリーを押してから並列にセットをしていく。

 

【並列!BAER!】

【並列!SHARK!】

【並列!SMILODON!】

 

短い電子音声と共にエネルギーをチャージされた四角いガジェット…『ロボックス』はクマ、サメ、スミロドンを模した小さなロボットへと姿を変えてあちこちを動き回る。

 

「おおっ!何だこりゃっ!?」

「ふっふーん、驚いたかな!!これは僕が作り出したスーパーがジェット、ロボックスさっ。ハートバッテリーを注入することで僕たちに忠実な自動操縦ロボになるんだ」

 

自慢げに語るヴァイアだったが、その発言を理解出来たのかロボックスたちは彼に飛び掛かると噛みついたり体当たりを仕掛けてくる。

 

「ちょっ!?痛い痛いっ!調子に乗ってました!すいません勘弁してください!何でもしますからっ!!」

(ん?今何でもって…)

(二度ネタは却下だボケッ!!)

 

ロボックスとじゃれているヴァイアを無視し、前回と同じネタを使おうとしたドライグを黙らせて、木場と共に着替えを終わらせたのであった。

 

 

 

 

 

ジャージへと着替え終えたイッセーと木場はそのままリアスに指定された中庭へと向かい、先にいたアーシアたちと合流する。

イッセーの力量を確かめるのも兼ねて、互いに神器を使わずに最初のレッスンが始まった。

 

 

【レッスンその1 剣術】

「はぁっ!」

「よっと!」

 

真っ直ぐに打ち込んできた木場の攻撃をイッセーは防ぐ。

木場の戦闘スタイルはスピードとテクニックを駆使した剣術で攻め込むがイッセーは木刀を左手に持ってそれを防ぎ、右手に持ち変えて攻撃を仕掛ける。

木場の剣戟を「正統派」と称するなら、イッセーの剣戟は「我流もしくは邪道」と蔑まれるべきものだ。

しかし、木刀を打ち合って行くにつれて変化が起き始める。

 

「くっ!(攻めきれない…!)」

 

攻撃を仕掛けているはずの木場に焦りの色が見え始めたのだ。

攻撃のスピードを徐々に上げて行くが、それでもイッセーは木刀を左右に持ち変えて攻撃を防いでおり疲労の色が見えない。

やがて、イッセーの姿が消えた。

 

「なっ…!?」

「隙だらけだぜっ!」

 

間合いを詰めてしゃがんでいたイッセーが逆手に持った木刀で、木刀を持っていた木場の右手へ打ち付けた。

木刀は弾かれて宙を舞い、地面へ落ちたと同時にイッセーは彼の眼前に木刀を突きつける。

 

「…参りました」

 

宣言と共に、荒い呼吸を繰り返しながら地面へとへたり込む。

決着が着いたのを確認したヴァイアは二人にスポーツドリンクとタオルを投げ渡す。

 

「少しショックだな、スピードと剣には自信があったけど」

「運が良かっただけだ。それに打ち込んでいて分かったけど木場の剣裁きは教科書通りだから俺でも防げる」

「それでも防ぎ切るのはすごいと思うけど…ところでイッセー君は木刀を右手左手と持ち変えていたけど、何か意味はあるのかい?」

「いやっ、ただ左右に間合いとバランスを調整してるだけ…剣を持つ時は二つじゃないと調子が出ないんだ」

 

苦笑いする木場にイッセーは軽く笑って返す。

そこから、軽く打ち合った結果…木場はフェイントと相手の気配を掴む、イッセーは一刀流になった時の対処法などが今後の課題となった。

 

 

【レッスンその2 魔力操作】

木場とのレッスンが終わった後は、朱乃と共に別荘のリビングへと移動し、アーシアと次のレッスンが始まる。

 

「魔力と言うのは身体から溢れるオーラを流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波導を高めるのです」

 

彼女はいつもの調子で微笑みながら、解説を始める。

それをイッセーとアーシアは言われた通りに、意識を高める。

最初に出来たのはアーシアであり歓喜の表情と共に手元には緑の魔力を集中させた小さな球体を出している。

一方のイッセーは何とかイメージを重ねて意識を鋭くさせるが、球体すら出てこない。

 

「あらあら?実践の時は出来ているのにおかしいですわね」

「いつもは、神器を介してやっていたので」

 

普段からイッセーは赤龍帝の籠手から魔力弾を発射しているので自分の力だけで使用するのは不得手なのである。

何とか魔力を出そうと何度も意識を集中させるが結果は同じでしばらくすると、思い切り息を吐いて彼は呼吸を繰り返す。

 

「はぁっ、はぁっ!やっぱりきつい…ちょっと気分転換して良いですか?」

「構いませんわ」

 

朱乃からの許可をもらったイッセーは窓を開けて穏やかな風を感じる。

そして、窓に足を掛けてそのままもう片方の脚を掛けた。

 

「「えっ?」」

 

アーシアと朱乃は目を見開いて驚く。

次の瞬間、イッセーは階段を上るように空中を歩いて行ったのだ。

魔力を固めて空中を足場にする……政宗家が扱っている精霊術の基礎である。

 

「……あれ?どうしました朱乃さん」

「イッセー君は…普段通りに魔力を扱った方が良いかもしれませんわね」

 

空高く下りてきて唖然としている二人に小首を傾げるイッセーに対して、朱乃は困ったように微笑んだ。

 

 

【レッスンその3 格闘技】

そして、再び野外へと向かって小猫との特訓を始める。

先手を切った小猫が放った鋭いストレートをイッセーは躱し、彼の背後にあった大木へと命中する。

すると、大木は嫌な音をたてながらゆっくりと地面へ倒れる。

小さな体躯からは想像出来ないほどのパワーに冷や汗を流すイッセーだが、気にせず彼女は拳を放つ。

 

「当たって、ください…」

「無茶言わないでっ!?」

 

小猫の攻撃は的確に中心を捉えており、抉り込むようにこちらを狙って来る。

イッセーもその攻撃を僅かな動作で躱し、掌底を使って拳を受け流していく。

そして、小猫の放ったストレートを片手で受け止めた。

 

「…とぉっ!!~~~痛ってぇ…!!」

「……」

 

攻撃こそ受け止めたが、衝撃を殺し切れなかったイッセーは痺れた手を振るが、完全に防がれた小猫は呆然と見るだけだ。

 

「…良く止められましたね」

「えぇっ?…まぁ、小猫ちゃんの攻撃は魔力を込めてないから」

「魔力を、込める…」

「そっ。力を一点に集中させれば、『戦車』の特性と相まって凄まじいパワーになると思うよ」

 

その言葉に、再び闘志を宿した小猫はイッセーから距離を取って構える。

 

「絶対に、当てて見せます…!」

「よし、来いっ!!」

 

それから、しばらくイッセーは彼女との組み手を行い…最終的にはイッセーに魔力の籠った一撃を掠めることが出来るようになっていた。

 

 

 

 

 

『食事をしながらで構わないから聞いてくれ。総合的な評価だが、相棒の方が強い』

 

夕方、別荘で食事をしていたグレモリー眷属にドライグが批評を口にした。

食事をしていたヴァイアを除くメンバーはイッセー…正確にはそこに宿っているドライグに視線を集める。

 

『剣術、格闘技、魔力の操作……各々の分野に限ればお前たちの方が一歩勝っているし才能もある。だが、総合的に見れば相棒の方が抜き出ている』

「確かに……それにイボンコは再生能力の持ち主だ。再生が追いつかないほどの攻撃を当てることが出来るのもイッセーしか出来ないだろうね」

 

ドライグの言葉に賛成するように、ヴァイアはアーシアにカレーのお代わりを要求する。

彼の言う通り、ライザーは不死再生の能力を宿しており彼を完全に倒すにはその精神をへし折るか強烈な攻撃を叩き込むしかない。

もちろん、イッセーにもいくつかの欠点が見つかっている…剣術では二刀流でしか真価を発揮出来ず、格闘技に至っては我流のため荒削りだ。

しかしそれを差し引いてでもイッセーのポテンシャルは計り知れないのだ。

 

『しかし、修行は始まったばかりだ。今後の訓練次第ではお前たちも相棒と肩を並べられるぐらいにはなる』

「そうね…それじゃ、食事も済んだしお風呂に入りましょうか」

(何っ、お風呂だと!?相棒っ、すぐにポイントBに向かえっ!四十秒で支度しなっ!)

(カッコ良いこと言ったのに台無しだよ、畜生っ!!)

 

ドライグの言葉に頷いたリアスは話題を変えるように全員に話しかける。

「お風呂」という彼女の言葉に、イッセーの中でテンションを上げる残念なドライグに対して鋭いツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 

 

また、あの声が聞こえる。

 

――――『熱い、誰か…助けて』――――

――――『痛い、痛いよぉ…!』――――

 

聞こえる、子どもや大人…大勢の人間たちの懇願する声と悲痛な悲鳴が聞こえてくる。

助けを求める声に、自分は近づいて無謀にも手を伸ばそうとするが……それよりも先にその人たちは溶けるようにその場から消えて行く。

泣いている人がいるのに、自分には誰かを助けるための力があるのに、誰一人救うことが出来ない。

才能がないから、自分があんなにもバカで無謀だったから、大勢の人が助けられなかったのだ。

だから、目の前で苦しんでいた『彼女たち』も救うことが出来なかった。

助けなきゃ…助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ…!!

自分はどうなったって良い、自分なんかどうなっても構わない。

見捨てちゃ駄目だ、今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ!!

自分の全てを犠牲にしてでもマモラナキャ……。

 

「…はぁっ!はぁ…はぁ……」

 

目を見開いたイッセーの視界に映ったのは天井。

照明が消されているその部屋で、彼は酷い寝汗と共に悪夢から解放された。

 

『相棒……』

 

心配そうに自分に呼びかけるドライグに対して、イッセーは「大丈夫」と短く応える。

乾いた喉を潤すために、キッチンへ向かって水を飲んだが今さら部屋で寝る気にはならない……少し風に当たろうと彼は外へ散歩をしようと扉を開けると、偶然リアスと遭遇する。

 

「部長、どうしたんです?こんな夜中に」

「丁度良いわ。少し、お話しましょうか」

 

そう微笑んだ彼女と共にイッセーはテラスの方へと向かう。

当然だが今の彼女はジャージや制服ではなく、寝巻らしき薄いピンク色のネグリジェを着用しており眼鏡(恐らく伊達)をかけている。

いつもと違う彼女に少しだけドキドキしながらも、テラスに到着したリアスは両手で抱えていたいくつもの本を置く。

 

「それって…作戦、ですか?」

「えぇ。こんなマニュアルでは、正直気休めにしかならないけど」

「そんなことないですよ。こんな遅くまで頑張っているのに、俺は…」

 

自嘲するように笑う彼女に、イッセーはどうにかフォローしようとするが途中からの自分への蔑みになってしまっためそこで言葉を区切る。

悲しそうな目をした彼にリアスは思う、彼は誰にも話したくない何かを隠していると…。

正直、イッセーに何があったのか知りたかったが眷属の言いたくないことを聞く気にはなれない。

そう思った彼女は話題を変えてフェニックスについて問い掛ける。

 

「あなたも、フェニックスは知っているでしょ?」

 

その言葉にイッセーも頷く。

フェニックス…漫画やゲームでも聞く高い知名度を持った聖獣、フェニックス家は悪魔でありながらその不死鳥と同じ名と能力を持っている、72柱にも数えられた公爵家こそがフェニックス家なのだ。

 

「ライザーの戦績は八勝二敗。ただし、この二敗は懇意にしている家系への配慮……フェニックス家は、レーティングゲームが行われるようになって急激に台頭してきた成り上がりみたいなものよ」

「……すいません。俺みたいな下級悪魔があの時、余計なことを言わなきゃ…」

「良いのよ。あの時、私のために怒ってくれたんでしょ?嬉しかったわ」

 

その話を聞いたイッセーは頭を下げて謝罪の言葉を口にするが、リアスは「気にしないで」と笑う。

彼女としても、元々断るつもりだったし何より自分のために行動してくれた彼を見て嬉しいと感じたのだ。

 

「最初から負けるつもりで、お父様たちはこのゲームを仕込んだのよ。チェスで言うところの嵌め手…スウィンドルね」

「…あの。どうして部長は、今回の縁談を拒否しているんですか?」

 

表情を曇らせたリアスにイッセーは尋ねる。

確かに、ライザーには言動に対して問題はあるがフェニックス家の三男…その家と縁談を結ぶことにメリットがあることは彼女でも分かっているはずだ。

しかし、それでも勝負を諦めようとしない彼女にそれ以上の理由があると感じたからこそ彼は改めて尋ねたのだ。

真っ直ぐに自分を見つめるイッセーを見たリアスは、眼鏡をゆっくりと外して語り始める。

 

「……私は、グレモリー家の娘よ。何処まで行っても個人の『リアス』ではなく、あくまでも『リアス・グレモリー』…常に、グレモリーの名前が付き纏ってしまうの」

 

ゆっくりと立ち上がって、暗い夜を優しく照らす満月を見ながらリアスは本音を吐露する。

『グレモリー』と言う名に、誇りを持っている……しかし自分と添い遂げる相手ぐらいは、グレモリー家の娘としてではなく、リアスとして愛してくれる人と一緒になりたい。

「小さな夢だけど」と優しく笑って語り終えた彼女に、イッセーは自然と口を開いていた。

 

「俺、部長のこと好きです」

「えっ」

「グレモリー家のこととか、悪魔の社会とか、さっぱり分かりませんけど…」

 

「それでも」とイッセーは顔を上げて言葉を続けた。

 

「今ここに、目の前にいるリアス先輩が…俺にとって一番ですから…!」

「…っ///」

 

真っ直ぐに、嘘偽りのない本心で言い放った彼の言葉に、リアスは僅かに顔を染めた。

初めてだったからだ、そんな風に言われたのも…正面から『リアス』を見てくれたことも、家族以外からそのように想われたのも……何もかも初めてだったのだ。

彼女の様子に気づいたのだろう、「気障なセリフを言ってしまった」と反省したイッセーは慌てて謝る。

 

「す、すいません…!俺、変なこと言ってしまいました」

「いいえ。ありがとう、イッセー……私の『滅びの力』は、天からではなくグレモリー家が代々培ってきた物の結晶。グレモリー家と私の物、だから負けない…戦う以上は勝つの。勝つしかないの…!!」

 

はっきりと宣言した彼女に、イッセーは拳を強く握る。

そして、顔を上げた彼もまたリアスに対して約束する。

 

「…部長はすごいです。正直、ドライグに言われても俺は自分に自身なんて持てない……何にも出来ない役立たずだって今でも思ってます。でも、何があってもあなたを見捨てないって…約束しますっ!」

「ありがとう。そのためにも、心と体を休めましょ?」

 

真っ直ぐ純粋な瞳を向けて、自分に向かって力強く宣言したイッセーにリアスは再度感謝の言葉と口にすると、笑みを見せる。

 

「お休みなさい、イッセー」

「お休みなさい、部長」

 

そう告げた彼女は、彼に背を向けて別荘へと戻って行く。

彼女が笑ってくれたことに安堵したイッセーはドライグに声を掛ける。

 

「…ドライグ。『あれ』の調子はどうだ?」

『……かなり苦しいな。禁手(バランス・ブレイカー)を使用するにしても、今の相棒では消耗が激しい。仮に発現したとしても、カウント10が精々だ』

 

ドライグの苦言に、彼も考え込んでしまう。

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』……赤龍帝の力を具現化させた赤い鎧であり、全体のスペック増加及び一瞬での倍加や譲渡なども得意とする。

しかし今のイッセーでは諸刃の剣であり、解除後は赤龍帝の籠手も機能しなくなるという弱点も抱えている。

だが、それでも…。

 

「やるしかない。例え一瞬でも、あいつを倒すことが出来るなら……!」

 

自身の拳を見ながら、イッセーは覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

『シャー……』

 

その様子を…ロボックスの一体である『シャークックス』が見つめていた。




 今回はヴァイアが製作したガジェットことロボックスが登場しました。普段はただの四角いボックスですが窪みに対応するハートバッテリーを並列にセットすることで動物の姿へと変形します。
 さて、次回からすぐにレーティングゲームが始まります。どのような結末となるかはお楽しみに。ケンタウロスも登場するよ!
 ではでは。ノシ





ケンタウロス『さぁっ、オレのオペを…愛を受け取りたまえっ!!』


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HEART10 始まるRating Game

 レーティングゲーム編です。さぁ、ピーコック・ネオストラの正体とは!?
 それでは、どうぞ。


ライザー戦に向けて始まった修行から十日後、イッセーたちは目覚ましいほどの成長を遂げた。

イッセーは体力の向上とカウンターからの追撃の流れをスムーズに行えるようになり、木場はフェイントを加えた攻撃を出来るようになっただけでなく気配で相手の攻撃を読めるように、小猫は動きながらも魔力を込めた一撃を繰り出せるようになっていた。

もちろん、彼らだけではない。

アーシアは神器の特性を理解するように努めたり、朱乃は攻撃魔法の出力を上げたり、リアスも作戦の指揮や自身の能力を極力活かしたりするようになっていた。

レーティングゲームは今日の夜…それまでイッセーは自宅に戻って部屋で休んでいた…加奈子と愛奈は少し気まずそうな表情を見せていたが、気にする余裕はない。

部屋にあるフィギュアを見ながらいつでも動けるように柔軟運動を始める。

 

「このフィギュア…こんな出来良かったっけ?」

 

そんなことを呟きながらストレッチを再開した時、控えめなノック音が聞こえる。

 

『イッセーさん、入っても良いですか?』

「どーぞ」

 

イッセーの許可をもらったアーシアは部屋へと入る。

彼女の服は最初に自分と出会った時と同じシスター服を着ており、照れ臭そうに彼女は笑う。

 

「部長さんが、『一番良いと思える格好で来なさい』とおっしゃったものですから…」

「やっぱりアーシアは、その恰好が一番しっくり来るよ」

「あの、傍に行っても…良いですか?」

 

「良いよ」とイッセーの言葉を聞いたアーシアはベッドに腰を掛けていた彼の近くに座ると、彼の腕をそっと抱き締める。

見れば彼女の身体が震えており、密着したことでそれがはっきりと分かる。

 

「…これから怖い戦いが始まるんですよね……でもイッセーさんがいてくれるなら、私は大丈夫です。これからも、あなたの傍にいても良いですか…?」

「あぁ、ずっと一緒だ」

 

優しくそう答えた彼に、アーシアは笑顔を見せるのであった。

 

 

 

 

 

レーティングゲームの開始時間が近づいたころ、イッセーとアーシアを含めたグレモリ―眷属はオカルト研究部の部室に集まっていた。

小猫は両手の拳に猫の肉球が特徴的な皮のオープンフィンガーグローブを装着しており、リアスと朱乃は紅茶を飲んでいる。

木場は腰に帯刀した剣を杖代わりにして瞑想するなど各々の姿勢でリラックスをしていた。

すると扉が開き、蒼那と副会長である『真羅椿姫』、そして匙が入ってくる。

突然の来客に首を傾げるイッセーに対して、リアスは説明を始める。

 

「レーティングゲームは両家の関係者に中継されるの。彼女たちは、その中継係」

「自ら志願したのです…リアスの初めてのゲームですから」

「気張れよ辰巳っ!俺も陰ながら応援するぜ!!」

 

蒼那と匙がエールを送り、リアスとイッセーも笑みを浮かべる。

椿姫は何も言わなかったが気持ちは彼女たちと同じだろう…すると、銀色の魔法陣が展開され、グレイフィアが現れる。

最初の時と同じように、クールな表情のまま彼女は口を開く。

 

「皆様、準備はよろしいですか?」

「ええ。いつでも良いわ」

「開始時間になりましたら、この魔法陣から戦闘フィールドへと転送されます」

 

「戦闘用フィールド?」と呟いたイッセーに対して朱乃が微笑みながら答える。

曰く、戦闘用フィールドは人ゲーム用に作られる異空間であり、使い捨ての空間なので如何に派手な攻撃をしても問題がないのだ。

そう楽しそうに笑う彼女に、イッセーは冷や汗をかく…「何もするつもりなんだろう」と戦々恐々としている間、蒼那は「リアス」と呼びかける。

 

「武運を祈っていますよ」

 

それだけを告げて軽く会話を終えた彼女はそのまま二人を連れて退室する。

…恐らく中継地点に戻ったのだろう、やがて時計の音が響いた。

 

「……そろそろ時間です」

「みんな、行きましょう!」

 

短くそう告げたと同時に、グレイフィアの後ろから巨大な魔法陣が展開される。

リアスは全員にそう呼びかけると魔法陣へと足を踏み入れた途端、イッセーたちは光に包まれながら戦闘用フィールドへと転移していった。

 

 

 

 

 

グレイフィア・ルキフグスは頭を抱えていた。

これから間もなくレーティングゲームが始まる、自分は公平に審判を務めるだけ…正直な話、自分としては夫の妹でもあるグレモリー眷属に勝ってほしいが私情を挟むわけにもいかない。

それ自体は特に問題ではなかったのだが審判席に転移した時だった。

 

「さぁ、紳士淑女と悪魔の皆様、大変長らくお待たせしました!これよりグレモリー眷属とライザー眷属とのレーティングゲームが始まります!実況及び解説はわたくし、ヴァイアと…」

「ゲスト兼解説の『サーゼクス・ルシファー』がお送りします」

 

なぜかパイプ椅子に座っているヴァイア(悪魔か分からない)と、自身の主である美しく赤い長い髪の持ち主である端正な顔立ちの青年、サーゼクス(自分の夫)がいたのだ。

 

「あの、サーゼクス様。何をやっているのですか?」

「気にしないでくれ、グレイフィア。偶然トイレで出会った彼と意気投合してね、こうしてレーティングゲームの実況をしようとここに来たのさ」

 

子どもっぽくそう語る彼に、グレイフィアはため息を吐く。

こうなった以上、どうすることもない…追い出すことも出来るには出来るがもうゲームも始まる。

仕方なく、グレイフィアは二人と共にゲームの進行を見守ることにし…仕事を全うすべくモニターに映っている彼らを見て言葉を発した。

 

「ごほん…この度グレモリー家、フェニックス家の審判を仰せつかった…任せられましたグレモリー家の使用人、グレイフィアでございます。今回のバトルフィールドは、リアス様とライザー様のご意見を参考にし、リアス様が通う人間界の学び舎…駒王学園のレプリカをご用意しました」

 

そう告げてから『兵士』のプロモーションについての説明を終えると、モニターに映っている両者は作戦を練り始めている。

 

「グレモリーチームは作戦を慎重に練っていますねぇ…どう思います?サーゼクスさん」

「流石はリーアたんだ。眷属とのコミュニケーションがしっかりと取れている、特に木場君は堅実に意見を重ねている……が、ライザー君もバカじゃない。あちらだって自分の地形を理解して行動に移すだろう」

「そうなると、やはりリアスちゃんたちには荷が重いと?」

 

意外にもまともな実況をしている二人に、軽く青筋を立てながらもそれを無視してグレイフィアは戦況を見守る。

見ると、リアスは『防衛ラインの確保』として木場と小猫に使い魔を駆使して森にトラップを仕掛けることを指示する。

朱乃も幻術を仕掛けるために一度去った後、リアスがイッセーに膝枕をしながら楽しそうに会話していたがこちらからは何も聞こえず、楽しそうに談笑している彼女を見てサーゼクスは頬を緩ませていた。

 

「…サー君、やっぱり今回の縁談は反対だった?」

「まぁね。魔王としては正しい判断だが…一人の兄としてはどうも、な」

「心配いらないさ、君の妹の眷属たちは最後までやってくれるよ」

 

ヴァイアの言葉に「ありがとう」とサーゼクスが話している間に、戦況は一変していた。

体育館では小猫とイッセーが青いチャイナドレスを来た『戦車』の雪蘭、チェーンソーを構えたTシャツとスパッツ姿の『兵士』の双子姉妹のイル&ネル。

そしてイッセーが一度撃退したミラの四人と対峙しており、激闘が繰り広げられている。

 

「おぉっとっ!体育館では早速激しいバトルが展開されています!!ライザーチームは怒涛の攻撃で繰り出しますが、イッセーと小猫選手はその不利を物ともせずに立ち向かっています!!」

 

すぐに実況モードに戻ったヴァイアが熱く現在の状況を語る中、サーゼクスもノリノリで開設を始めようとする。

その横ではグレイフィアが冷たい表情を見せていたが二人は特に気にしていない。

 

「数としては圧倒的に不利だが、上手いこと分断出来ているね。『戦車』と『戦車』とぶつけ、この中では一番筋が良いイッセー君が数の多い『兵士』の相手をしている」

「心なしか、ミラ選手の顔が赤いですが…風邪でしょうかねー?」

「まぁある意味じゃ、重病かもしれないね」

「お二人とも、真面目にする気がないのでしたらご退場願いますが…?」

 

顔が赤いまま棍棒を振るうミラの様子を見て、ニヤニヤと笑っている二人にグレイフィアが満面の笑みで忠告をすると「ごめんなさい」と謝罪して本題へと入る。

 

「チェーンソー姉妹から逃げ惑っているイッセー選手!中学時代に編み出した技を未だ使っていません!これは余裕の表れでしょうか?」

「『技』って何だい?ヴァイア君」

「ドライグから聞いたんだけど、洋服破壊(ドレス・ブレイク)って技があってね…ぷぷ!女性が身に纏うあらゆる物を崩壊させる必殺技があるんだってさ、あっはっは!!」

「はっはっはっはっ!!面白い技じゃないか!それは是非とも見てみたいっ!!」

 

大爆笑している二人を余所に、フィールドでは小猫のアッパーカットによる重い一撃が雪蘭を吹き飛ばしリタイアしたと同時に、イッセーもドラゴンショットの魔力をチャージした一撃によって『兵士』の三人を一掃した。

ダメージによって動けなくなったのを確認したイッセーと小猫は体育館から抜け出す。

 

「おや、グレモリーチームの二人が体育館から出ました。止めを指していない様子ですが…まだ洋服破壊を見せていないぞ!!」

「個人的に気になるんだがなぁ…しかし、ただ体育館から出たわけではない」

 

そう言って、サーゼクスは別のモニターを指してヴァイアに見せる。

見れば、そこには朱乃が上空高くに浮き上がっており魔力によって黒雲を形成させていく。

そして魔法陣と共に巨大な雷が体育館を破壊した。

巨大な爆風と共に一瞬で瓦礫となった体育館の残骸を見下ろしながら朱乃は恍惚とした表情で見下ろしていた。

 

「ライザー様の『兵士』三名、『戦車』一名…戦闘不能」

「相変わらずだね、『雷の巫女』と言われるだけはある」

「何それカッコ良い。ちなみにリアスちゃんにもあるの?」

「もちろん。あの子は確か…『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』だったかな?」

 

リタイアしたチームの連絡をする中、ヴァイアとサーゼクスは軽い会話を続ける。

グレイフィアは睨むが、それに気づいたヴァイアたちは颯爽と席に座り直して実況と解説を始める。

モニターには激しい爆発音と光に包まれており、イッセーが小猫を担いで辛うじて避けたことが分かる。

ライザーの『女王』、ユーベルーナだ。

 

「驚いた、不意打ちとはいえあの攻撃を察知して躱すとは…!」

「狩りを終えて油断した獲物は一番狩りやすい…イッセーはそれを頭に入れていたからこそ、避けることが出来たんだろうね」

 

そう語りながらも、モニターではユーベルーナと朱乃が激しい魔法対決を繰り広げておりその中をイッセーと小猫が走る。

やがて運動場の隅にある体育倉庫に入ると、森にあるトラップの解除途中だった『兵士』三人を倒した木場と合流している。

 

「さて、リアス選手。どうやら前線に出るみたいですね、『王』としては前代未聞ですがどうなのでしょう?」

「リスクは大きいが、逆にそこが狙いとも言える。リアスの力なら何の問題もなく行けるだろうね」

 

「しかし」とサーゼクスは言葉を続ける。

 

「恐らく向こうには切り札とも言える『フェニックスの涙』がある。如何なる傷もその場で癒すことが可能なアイテム…あれがある限り、かなり厳しい」

「そうなると、イッセー選手もその場にいることが前提となりますね」

 

彼の解説にヴァイアは納得したように何度も頷くと、イッセーがある提案をする。

要約すると「自分もリアスと合流してライザーを叩く」と言っており、その案に木場たちも賛同している様子だった。

そして、彼らは倉庫から出て運動場に向かうとイッセーが声高々に挑発する。

その声が聞こえたのか頭にバンダナ、西洋風の鎧を身にまとった少女剣士、『騎士』のカーラマインが現れた途端…モニターにノイズが走った。

 

「っ!?どうしたグレイフィア」

「分かりません、運動場の映像だけにジャミングが…!!」

 

突然の出来事に、サーゼクスはグレイフィアに問い掛けるが彼女も原因が分からないのか必死に中継地点の生徒会室に連絡を取るが原因が分かっていない。

しかし、ヴァイアだけは気づいたのだ…この胸の奥が不快になるような感覚、自分が使用している呪法のそれだと。

 

「まさか…!!」

 

彼は、冷や汗を流しながらシャークックスをフィールドへと転送させた。

 

 

 

 

 

その男は、医者(ドクター)であった。

粒子となって一度インフェクションドライバーに潜み、フィールドに転移を成功させたピーコックが人気のない場所でドライバーを捨てた瞬間…彼は行動を開始した。

ここにいるであろう患者たちを探すために走り始める。

 

「ふふ…ふはははは…ははははははははっ!」

 

医者とは常に笑顔でなければならない…なぜなら人を救うことが出来る立場であり、助ける資格を得た崇高な存在だからこそストレスを与えないために笑顔を浮かべる必要があるからだ。

だからこそ彼はどんな苦境に立たされてもなお、白衣を翻して走り続ける。

そして右脚で地面を踏んだ途端、周囲に赤い魔法陣が浮かぶと周囲が爆発し、その爆風で彼を包み込む。

しかし…。

 

【BUGRIALIZE…! WELCOME THE NEOSTRA…!!】

『あぁいっ!!』

 

腹部にインフェクションドライバーを装着した彼の姿は白い重厚な装甲を身に纏った無骨な戦士へと変わった。

頭部の兜には赤い十字架がペイントされており、右肩には白い馬のシンボル、胴体には薬棚のような甲冑の彼は巨大なランスで黒煙を掛け声と共に払う。

逆境など苦にならない、傷害など些細なことだ…『ケンタウロス・ネオストラ』は医者としての本分を全うすべく下半身を馬のような半身へと変化させる。

 

『ふはははははっ!ふふふ、ははははははははははっ!!』

 

そうして、彼は苦痛に苛まれている患者を救うためのオペを開始すべく…最高の愛を込めて地面を蹴った。

 

 

 

 

 

「そう言うバカは嫌いじゃないが、勝利を邪魔する奴らを私は嫌悪する……私は手段を選ばないからな」

 

イッセーの挑発に対してそう吐き捨てた『カーラマイン』の身体が歪み、青い西洋甲冑に極彩色の尾を持った怪人『ピーコック・ネオストラ』へと変化する。

ネオストラの登場にイッセーは驚き、流石の木場と小猫も戸惑いを隠せない。

覚醒態となったネオストラは感染者の姿と記憶、更には心臓の鼓動などをコピーする完全な擬態能力を有している…ヴァイアからその話は聞いていたがまさかライザーの眷属の中に紛れ込んでいるとは気づかなかった。

しかし、彼女がネオストラだったのならあの場にいたヴァイアが気付くはず……。

 

『ふん。あそこに裏切者がいることは知っていたからな、私が入れ替わったのはレーティングゲームが始まる直前だ』

 

応え合わせをするかのように、語ったピーコックは炎を纏った大剣を構える。

それだけでは終わらない。

 

『はーっはははは!!ここにいたか、患者よっ!これよりオペを開始するっ!!』

 

ケンタウロス・ネオストラが半身を元の姿に戻しランスを派手に振り回す。

幹部各ネオストラと覚醒態ネオストラ、更に周囲を取り囲むようにライオットたちが地面から這い出てくる。

周囲には結界らしき物が張り巡らされており、運動場から脱出ことは不可能になっている。

 

「くそっ!木場、小猫ちゃん!ライオットたちを頼むっ、変身っ!!」

【CURSE OF CHARGE!…L・O・C・U・S・T! LOCUST~!!♪】

 

変身したドラグーンは召喚したズババスラッシャーを構えながら立ち向かう。

ピーコックは勇ましい態度で大剣を構えて突進して振りかぶる。

ドラグーンはそれを右手の剣で防ぎ、左手の剣で斬撃を浴びせるが大した致命傷には見られない。

一方の木場と小猫は群がるライオットの攻撃を躱して斬撃と拳を叩き込んでおり、突発的なアクシデントに陥っても冷静さを保って対処している。

特に木場はライオットの僅かな殺気を読んで背後からの攻撃を避けて、振り向きざまに斬り捨て、小猫はボクシングのようなスウェイで躱してからフックを殴り飛ばす。

 

『さぁさぁ、患者よっ!病巣を切除し、死の恐怖から解放される時が来たぞっ!!ふははははははははっっ!!!』

 

ケンタウロスが笑いながらこちらを突進するとランスを思い切り振りかぶる。

二人は辛うじてその攻撃を躱すが、周囲にいたライオットたちが巻き添えを食ってしまう。

その破壊力に木場たちは絶句しながらも応戦しようとする。

 

「二人とも!」

『おっと、貴様の相手は私だ』

 

加勢しようとドラグーンは走り出すが、それを邪魔するようにピーコックが羽根を矢のように飛ばして牽制する。

ピーコックの剣術は木場と同じで正統派だがライオットたちの邪魔を入るため、非常に躱しにくい状況となっている。

ケンタウロスはランスを使った派手な攻撃で二人に襲い掛かる。

 

『ふはははははっ!!このメスは「愛」っ!さぁ愛を、受け取りたまえぇっ!!』

 

ランスを思い切り地面に叩きつけて土煙を発生させて、視界を奪うとケンタウロスは咳き込んでいた小猫に狙いを定めた。

 

「小猫ちゃんっ!!」

 

木場は彼女を突き飛ばすが、思い切り振り下ろされたランスを躱すことが出来ず…。

 

「ぐああああああああああああっっ!!」

 

凄まじい衝撃を受けた彼は、地面を削りながら吹き飛ばされると魔法陣の中へと消えて行く。

恐らく、戦闘不能となったので強制送還となったのだろう…システムが正常に機能していたことに安堵しながらもネオストラたちの攻撃に備えるべく構える。

しかし…ケンタウロスはインフェクションドライバーに吸収され、それを持ったピーコックは人間態に戻って結界を解除する。

彼女はほくそ笑むと同時にグレイフィアのアナウンスが鳴り響いた。

 

『リアス様の「王」、リタイア…よってこのゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利となります』

「……なっ」

「言っただろ?『私は手段を選ばない』とな」

 

その言葉に、人目を気にして予め変身を解除したイッセーはようやく理解したのだ。

全てはピーコックが仕掛けた罠だったのだ……イッセーがライザーと対峙したならば、十中八九勝利する。

「ならばどうするべきか」と彼女は考えた時、ケンタウロスがここに来ることを確認して思考を張り巡らせた。

そのために、呪法による結界を作ってこちらの連絡手段を潰した後で正体を現してわざわざ戦陣へと出向いたのだ。

 

「ではな、『ライザー様』が待っているので私は帰還するとしよう」

『また会おう、患者よっ!!』

 

悪意のある笑みを向けながら、ピーコックはケンタウロスが入っているインフェクションドライバーを懐に入れて転移用の魔法陣に足を踏み入れる。

小猫は呆然としているイッセーに声を掛けようとするが、目に涙を溜めて血が出るほど拳を握り締める彼に、何も言えなかった……。

 

「くそ…くそ、くそ…!!畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

自分への失望感、作戦に気づけなかったことへの落ち度、そしてリアスを助けられなかった悔恨と憎悪に……イッセーは雄叫びをあげることしか出来なかった。




 ケンタウロス推参!!バイオモンとスパルタクスを足して二で割ったキャラだったのにスパさんの要素が強くなってしまった…本当に申し訳ない。
 次回はライザーへのボコボコタイムと新フォームが登場します、お楽しみに!
 ではでは。ノシ


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HEART11 水を司るShark!!

 ライザー編決着&新フォームの誕生です!
 それでは、どうぞ。


頭に響く鈍痛が、イッセーの意識を急激に呼び覚ました。

周囲を見渡すとそこは自分の部屋であり、辺りは暗くなっている。

 

「目覚めたようですね」

 

そう聞こえた瞬間、銀色の魔法陣が展開されてグレイフィアが現れる。

 

「グレイフィアさん!勝負は…」

「……」

 

イッセーの質問に、彼女は黙って首を横に振る。

しかし、彼はそれだけで分かったのだ…自分たちは負けたのだと、グレモリー眷属は…ライザー・フェニックスに敗北したのだ。

具体的には異なるが、勝負に敗れたことに変わりはない…ベッドを思い切り殴るイッセーに声を掛ける存在が現れる。

 

「イッセー…シャークックスが記録した映像がある。見てくれ」

 

そう告げて、ヴァイアが差し出したボックス形態になっているシャークックスに触れた途端、映像が映し出された。

リアスとライザーが激戦を繰り広げており、滅びの力はライザーに命中することなく炎で体中がボロボロになっている。

アーシアが必死に回復を図るが、そうはさせまいとライザーは容赦なく責め立てる…それでもリアスは何度も立ち向かうが彼の炎で吹き飛ばされる。

そして、ライザーが最後に放った鳥を模した炎が…一筋の涙を零したリアスを包み込み、そこで映像が終了した。

 

「…勝敗は、ライザーの炎だった。残りのメンバーは冥界にいるよ、リアスちゃんの結婚式のためにね」

「……っ!!」

 

淡々と語るヴァイアの言葉にイッセーは強く拳を握り、涙を流す。

あれだけ大見得を切っておきながら、結局自分は彼女を助けられなかった……映像に移ったリアスの表情を見て、彼の表情は歪む。

勝負は勝負、家柄の事情なのも頭では分かっている……だけど。

 

「それでも俺は、部長が嫌がっていることを認めるなんて…親同士で決めたことに嫌々従う部長なんて…見たくない…!!」

 

そう口にした一誠をグレイフィアとヴァイアは黙って見ていたが、やがてヴァイアが口を開いた。

 

「だってさ、グーちゃん。どうしよっか?」

「自分の思ったことを正直に出せる方は…今まで初めてです。サーゼクス様も、あなたを面白いとおっしゃっていました」

 

そう微笑んだグレイフィアは、ライザーとリアスがいる婚約パーティ会場へ転移するための魔法陣ともう一つ別の魔法陣が書かれた紙を手渡す。

彼女はイッセーに向けて話しかける。

 

「『妹を取り戻したいなら殴り込んできなさい』…これを私に託したサーゼクス様からのお言葉です。そちらは、お嬢様を奪還した時にお役に立つと思います」

 

優しくそう告げたグレイフィアは、銀色の魔法陣を展開してそのまま姿を消した。

彼女の言葉を何度も反復したイッセーは涙を拭い決意を新たにする。

 

「考える必要なんて、ない…!!」

「イッセー、さん…?」

 

ドアの開いた音と共に、アーシアの声が聞こえる。

彼女は、立っているイッセーを見て涙を流しながらその身体を強く抱き締める…どうやら丸二日眠っていたらしく、ずっと看病をしていたらしい。

「ありがとう」と感謝の言葉を口にしたイッセーは、アーシアの目を見て口を開く。

 

「アーシア、聞いてくれ。俺は…部長を取り戻しに行く」

「なら、私も行きます!私だって一緒に戦えます!守られるだけじゃ、嫌ですっ!!」

「俺のことなら、心配しなくても…」

「大丈夫なんかじゃありません!イッセーさんを見た時、怖かったんです…あんな血だらけになって、ボロボロになって…いっぱい痛い思いをするイッセーさんは、見たくありません…!!」

 

また、アーシアの瞳から涙が零れてくる。

彼女は誰よりも心優しい…だからこそ、誰かが痛い思いをすることを、自分のことのように悲しめる。

それを分かっても、イッセーは彼女に語りかける。

 

「俺もアーシアと同じで、誰かが目の前で傷つくのが一番辛い。それに、俺は死なない…絶対にだ…!!」

「……それなら、約束してください。必ず、部長さんと帰ってきてください!!」

 

涙を拭って、しっかりと見つめたアーシアにイッセーは「もちろん」と彼女の頭を撫でる。

その様子をヴァイアと、シャークックスにセットされているハートバッテリーが輝くとイッセーのいる方へと遊泳する。

 

「…イッセー。ライザー戦の時、そいつのバッテリーを持っていくんだ。アーシアちゃん。用意してほしい物がある」

「えっ?」

 

小首を傾げるアーシアを横目に、ヴァイアは口元を吊り上げた。

 

 

 

 

 

冥界にあるパーティ会場にて、グレモリー眷属たちは正装で訪れていた。

会場には上級悪魔の面々が会場におり、談笑をしたり、御馳走を食べていたりする人たちもいる。

その中でも一際目立つのは金髪をツインにし、縦にロールした少女が扇を持って来客者と談笑をしている。

ライザーの眷属にもいた『僧侶』であり、彼の妹である『レイヴェル・フェニックス』は口を開く。

 

「お兄様ったら、レーティングゲームでお嫁さんを手に入れましたのよ!…」

 

そこからは兄の武勇伝を自分のことのように語っており、話の内容はともかく誇らしいのだろう。

その話が聞こえていた木場は苦笑いするが、蒼那が挨拶に来たためそちらに挨拶をする。

 

「拝見していましたが、勝負は拮抗…いえっ、それ以上であったのは誰が見ても明らかでした」

「ありがとうございます。でも、お気遣いは無用ですわ」

「多分、まだ終わってない…僕らは、そう思ってますから」

「終わってません…」

 

黒い和服に身を包んだ朱乃は感謝を口にして微笑み、木場も笑みを見せるとドレスを着ている小猫もそう呟いて飲み物を飲む。

すると、ライザーは炎に包まれながら会場に姿を現す。

派手な演出に来客たちが視線を向ける中、彼は朗々と言葉を紡ぎ始める。

 

「冥界に名立たる貴族の皆様!御参集くださり、フェニックス家代表として御礼申し上げます……本日皆様においで願ったのは、このわたくしライザー・フェニックスと名門グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの婚約という、歴史的瞬間を共有していただきたく願ったからでございます」

 

ライザーの話に対してグレモリー眷属はやや彼を睨むように、レイヴェルは嬉しそうに目を閉じてスピーチを聞く。

やがて、ライザーが両腕を再度広げた。

 

「それでは!ご紹介致します!我が妃、リアス・グレモリーッ!!」

 

グレモリーの魔法陣がライザー・フェニックスの隣に浮かび上がると、少ししてからウエディングドレスを身に纏ったリアスが現れる。

しかし表情は硬く、その瞳も閉じられており、いつもの活発な印象を持つ彼女とはまるで別人だった。

その表情はすぐに変わることになる。

なぜなら……式場の扉がけたたましい音と共に破られたからだ。

 

「な、何だっ!?」

『ヒヒイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!!』

 

嘶く声が混ざり合ったエンジン音と共に…侵入者、バイクモードとなっているブレイブニルは警備をしていた悪魔たちを吹き飛ばしながら爆走するがやがて停止する。

そしてブレイブニルに乗っていた少年はヘルメットを外してその素顔を見せた。

 

「よぉっ、色男」

「き、貴様は…!?」

「イッセー!?」

 

少年…辰巳一誠は瞳に闘志を宿しながらライザーを睨みつけた。

当然、式を邪魔しに来たこと乱入者に残りの警備も集まって彼を追い出そうとするが、木場たちがそれを妨害する。

手助けをしてくれた仲間たちに感謝しながらも、イッセーはライザーたちの元へとゆっくり近づいていく。

 

「これは一体!?」

「リアス殿!一体どうなっているのだ!!」

「私が用意した余興です」

 

周りいる来客がざわつく中、サーゼクスは公然と言い放つ。

イッセーは初対面であったが彼がリアスの兄であることが分かる……貴族の一人が彼の名前を呼んで驚く中、サーゼクスはライザーに話しかける。

 

「サーゼクス様!余興とは…」

「ライザー君、レーティングゲーム…興味深く拝見させてもらったよ。しかしながら、ゲーム経験もなく、戦力も半分に満たない妹相手ではね……」

「…あのゲームに、御不満でも…!?」

 

問い詰めようとする彼を手で制したサーゼクスは穏やかな口調で話すが、ライザーは彼を睨む。

 

「いやいや。何分、モニターの事故で満足にゲームを見られなかったのでね…可愛い妹の婚約パーティー、派手な趣向も欲しい物だ……そこの少年!」

 

彼はイッセーを真っ直ぐに見つめる。

魔王の視線をもろともせず、彼も視線を向ける。

 

「君が有するドラゴンの力…この目で直接見たいと思ってね、グレイフィアに少々段取ってもらったのだよ。ドラゴンVSフェニックス…伝説の力を宿す者同士で会場を盛り上げると言うのはどうかね?」

「…はい!」

「このライザー…身を固める前の、最後の炎をお見せしましょう!」

 

サーゼクスからの提案にイッセーとライザーは了承する。

二人の言葉に満足した彼は、イッセーに対してある質問をする。

 

「さて、少年…勝利の対価は何が良い?」

「サ、サーゼクス様!下級悪魔などに対価などど…!!」

「下級であろうと上級であろうと、彼も悪魔だ。こちらから願い出た以上、それ相応の対価を払わねばならない」

 

周りにいた来客たちが、苦言を呈するが彼はそれを一括して黙らせる。

会場が沈黙したのを確認したサーゼクスはもう一度イッセーを見る。

 

「何を希望する、爵位かい?それとも絶世の美女かな?」

「部長を…いえっ、リアス・グレモリー様を……返してください!!」

 

彼からの問い掛けに、イッセーは深く息を吸い込み今の自分の願いを…対価を口にするとサーゼクスは満足そうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

イッセーは今、戦闘用のフィールドに立っている…目の前にいるのはライザーであり、彼は忌々しそうに睨み付けている。

サーゼクスの言葉と同時に始まった赤龍帝の籠手を装備したイッセーは、深く息を吸い込んで力強く宣言した。

 

「部長!十秒でケリを付けます!!」

『お兄様を十秒ですって!?正気で言ってるのかしら!』

「ふん。ならば俺は、その減らず口を五秒で封じてやる……二度と開かぬようになっ!!」

 

レイヴェルの言葉を聞きながら、鼻を鳴らしたライザーは炎の翼を生やして飛翔する。

 

「行くぞドライグッ!!」

『おうっ!!派手に暴れて来い、相棒っ!!』

「『禁手(バランス・ブレイク)』ッッ!!!」

【WELSH DRAGON BALANCE BRAEKER!!】

 

イッセーの掛け声と、神器から流れる音声と同時に彼の身体には赤い鎧が次々に装着されていく。

やがて、そこに立っていたのは一匹のドラゴン……。

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)……前回のレーティングゲームで出せなかったイッセーの切り札である。

 

『禁手ッ!禁じ手ってこと…!?』

 

外の会場で驚くリアスを気にせず、彼は各部に備わったブースターで飛行しライザーへと突っ込む。

 

「見せてやるよ、ライザー!!最強のドラゴンの力をっ!!」

【BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST! BOOST!…】

 

連続して鳴り響く倍加の音を聞きながら、イッセーは一瞬で距離を詰めてライザーを殴り飛ばす。

凄まじい衝撃で吹き飛ばされたライザーを追撃するように、ドラゴンショットを連続して発射する。

ライザーも応戦して炎を放つが、打ち落とせなかったエネルギー弾を受けてしまう。

 

「ぐぅっ!?舐めるなよくそガキッ!!火の鳥と鳳凰…不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火!その身で受け燃え尽きろおおおおおおおおっっ!!!」

「そんなちんけな炎で、やられるわけねぇだろうがあああああああああああっっ!!」

 

全身に炎を纏ったライザーがイッセーを焼き払わんはかりに勢いで突進するが、彼は左手に力を込めて思い切り振り下ろす。

力のぶつかり合いを行い、互いに拮抗していたが競り勝ったのはイッセーの方だった。

 

「何っ!?ぐぼあぁっ!!!」

 

弾かれて隙だらけとなったライザーの鳩尾目掛けて殴り、地面へと叩き落とす。

地面が砕ける音と共に、叩きつけられた彼目掛けてブースターの勢いを利用した突進で再度叩きつける。

このまま行けば、イッセーの勝利は間違いない…しかし、今の彼ではカウント10が精々であり残り時間は後八秒。

果たして決着が着くかと思われた時、青いハートバッテリーが輝く。

 

『その勢いと覚悟…気に入りました!私の力、存分に使ってください♪』

 

その言葉が、誰なのか分からない…だが自分の力を貸してくれる存在であり、シャークックスであることを直感的に理解したイッセーはバッテリーのインジェクタースイッチを押した。

 

【CHANGE SPLASH FANG!】

 

その音声と共に赤い鎧には水を思わせるような青いラインが全身に広がり、緑色の宝玉も青く変化する。

龍鮫の牙(ウェルシュ・ファング・シャーク)』……水属性の力を宿したイッセーの新たな力である。

 

「火を消すには、水だよなぁっ!!」

 

そう叫んだイッセーが取り出したのは『聖水』の入った瓶…アーシアの所持していた物を彼女から譲り受けたのである。

もちろん、それだけではライザーを倒すことは不可能だろう…しかしイッセーはそれを可能にさせる。

瓶のふたを開けて躊躇いなく突き出した左腕に中身を浴びせる。

 

【ICE FANG!】

【BOOST!】

「いっけえええええええええええええっっ!!!」

 

音声と共に聖水の雫は刺々しい氷柱へと変わると、呆然としているライザーの顔面に思い切り倍加した拳を叩き込んだ。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああっっ!!!」

 

弱点+凶悪な一撃を受けたライザーは顔を抑える。

その攻撃は体力と精神を著しく消耗させ、再生が追いついていないのだ。

悶える彼を横目に制限時間が切れたイッセーは倍加した力を集中させると同時に十字架を赤龍帝の籠手に装備し、残った全ての聖水を浴びせる。

 

「これで、終いだ。ライザー!!」

「ま、待てっ!分かっているのか!?この婚約は、悪魔の未来のために必要で!大事な事なんだぞっ!?お前のような何も知らないガキが、どうこうするような問題じゃないんだっっ!!」

 

命乞いをするように、早口でライザーは言葉をまくし立てる。

確かに種族の安寧と未来のことを考えたらこの婚約は必要不可欠であり、それを邪魔する下級悪魔のイッセーに問題がある。

それが大事なことであるのはイッセーにも分かる。それでも彼は…。

 

「そんなこと知るかよっ!!でもな…もう一人の相棒が見せてくれた映像で、はっきりと分かったことがある!」

 

左腕を真っ直ぐに突き出し、映像に映っていたリアスのことを思い出す。

まるで助けを求めるように、流したあの涙を……。

 

「部長が、泣いてたんだよ!!俺がお前を殴る理由はっ、それだけで十分だああああああああああああああああああっっ!!!」

 

駆け出したイッセーはライザーが最後の抵抗で放った攻撃を躱し、中心線を狙って抉り込むように最後の一撃を打ち込んだ。

それを受けたライザーは、言葉にならない声を呻きながらその場で崩れ落ちる。

すると、外にいたレイヴェルが兄の危機にフィールドへ入り込むと両手を広げて庇おうとする。

それを見たイッセーは、赤龍帝の籠手を彼女に突きつけて強く宣言する。

 

「文句があるなら俺のところに来いっ!!いつでも相手になってやる!」

「……ぁっ///」

 

真っ直ぐに、自身の想いを叫び自分を見つめる綺麗な彼の瞳にレイヴェルは場違いにも頬を赤らめてしまった。

そして彼の行動に胸を撃たれたのは彼女だけではなかった。

 

「イッセー…あなたって、あなたって…!」

 

リアスもまた、自分を見てくれた心優しい彼に喜びの涙を一筋流す。

だが…その空気を台無しする存在がいる。

 

「ふっざけるなあああああああああああああああああっっ!!!」

 

人間態でライザー眷属に紛れ込んでいたピーコックが、頭を掻きむしって憤怒の形相で叫ぶ。

眷属たちが突然の豹変に動揺する中、一人の少年の鋭い声が響き渡る。

 

「ついに化けの皮が剥がれたね!偽物ちゃん!!」

 

ヴァイアはある人物…ライザーの屋敷で軟禁されていたカーラマインに肩を貸しながら、意地の悪い笑みを見せる。

 

「君は『勝利』に対して異常なまでの執着心を見せていた。だからイッセーが邪魔しに来た時は逃げるに逃げられなかっただろ?何せ、自分が作り上げた勝利が粉々に砕けたんだからね!!」

「黙れええええええええええええええええっっ!!!」

 

叫びと共に、ピーコックは怪人態へと変化すると大剣を振り回して手上がり次第に暴れ始める。

突然の出来事に理解の追いつかない来客者たちはパニックになるが、事態を素早く判断したサーゼクスとグレイフィア、木場たちが避難誘導をする。

ピーコックはフィールドへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

イッセーたちがいるフィールドへと降り立ったピーコックは、イッセーを睨みつける。

 

『良くも私の完全な勝利を汚してくれたなぁ…そこにいる焼き鳥ごと叩き切ってやる!!』

「それはこっちのセリフだ。前回のリベンジをしてやる!」

 

宣言したイッセーはレイヴェルがフィールドから避難したのを確認した後、ドラグーンドライバーを巻きつけて青いハートバッテリー…『シャークバッテリー』を装填し、ホルダーを下げてインジェクタースイッチを押した。

 

「変身!」

【CURSE OF CHARGE!…水と氷の魔法でGO! SAHRK BISHOP~!!♪】

 

ローカストバッテリーとは違う軽快な電子音声が鳴り響くと、イッセーの身体は赤いスーツに包まれる。

そして、何処からともなく響いた銃声と共に銃弾が額を撃ち抜く…すると僧侶を思わせる刺々しいデザインを施された青いローブに全身を覆ったことでドラグーンは新たな形態へと変身した。

 

「さぁ、アクアミッションのスタートです!十秒で片付けてあげます!!」

『ほざけっ!!姿を変えた程度で私に勝てるかぁっ!!』

 

『仮面ライダードラグーン シャークハート』の宣言に、ピーコックは羽根型の矢を弾幕のように発射するが、彼はそれを躱すと同時に専用武器を召喚する。

 

【BAKKYU-N RIFLE!!】

「ふっ!」

 

『バッキューンライフル』から水属性の魔力を帯びた弾丸を乱射し、精密な命中精度で弾幕を相殺する。

「何っ!?」と動揺するピーコックを無視してドラグーンはインジェクタースイッチを押す。

 

【ZABU-N SPLASH!】

「そらっ!」

『ぎぎゃああああああああああああっっ!!?』

 

銃口を上空へと向けて放った途端、豪雨のように高圧水流が降り注いだことで避けられないほどの量が浴びたピーコックは火花を散らす。

溜まった水を駆使して氷のフィールドへと変化させて、今度はインジェクタースイッチを連打する。

 

【KACHIKOCHI FROST!】

「これでも喰らえっ!!」

『グガガガガガガガガッ!?』

 

足元を凍りついたピーコックに向けて集中砲火する。

ドラグーンの激しい銃撃から逃げようにも、足元が凍り付いているため身動きが取れない。

全ての銃弾を受けきったピーコックの身体からは煙が上がっており、ドラグーンはバッキューンライフルにシャークバッテリーを装填してインジェクタースイッチを押した。

 

【FULL ACTION! CURSE OF SAHRK!!】

「吹き飛びなさい!『ファングブラスター』ッ!!」

『私が敗北するっ!?嘘だ、こんな…こんなあああああああああああっっ!!!』

 

激流と氷弾が混じった集中砲火を受けたピーコック・ネオストラはシンボルごと爆散し、勝利の雨の中をドラグーンは立ち尽くすのであった。

 

 

 

 

 

ライザーとネオストラ、連続して激闘を終えたイッセーはリアスの元へと歩き優しく笑う。

 

「…迎えに来ました、部長」

「イッセー…!」

 

涙を溜めて笑う彼女に安堵した彼は倒れそうになるが、リアスがそれを支える。

優しく抱き締める彼女を見て、笑みを見せたサーゼクスはこちらへと近づく。

 

「見事だった…約束通り、リアスは君に返そう。先ほどの怪物とフェニックス家の方々については私に任せてくれ」

 

今回のレーティングゲームやイッセーとライザーとの戦いを通して、両家は互いに反省し破談となるだろう。

それを二人に伝えた彼は穏やかに微笑む。

 

「ありがとうございます」

「これからも、君の活躍を期待しているよ」

 

イッセーは頭を下げるとリアスと共に会場から外に出る。

外には木場や小猫に朱乃、ヴァイアとブレイブニルも集まっており、それを横目にイッセーはグレイフィアに渡された魔法陣が書かれている紙を掲げる。

そこから、頭部はワシ、身体はライオンのような動物…グリフォンが現れる。

 

「あらあら、うふふ。ではイッセー君が部長をお送りして差し上げたら?」

「えぇっ!?」

「そうね……じゃあ、お願い出来るかしら?イッセー」

 

楽しそうに微笑みながら言った朱乃の言葉にイッセーは驚くが、リアスは彼の目を見て手を差し伸べる。

驚きながらも、イッセーはそれに「俺で良ければ」と緊張しながらも手を差し伸べる。

手袋越しでも分かる彼女の手に鼓動を跳ねながらも彼は、リアスと共にグリフォンに跨って空へと飛ぶ。

 

「先に部室で待ってるぜーっ!!」

 

夜空を高く飛翔するグリフォン…本来なら、逃走用として用意していた幻想動物なのだが、帰宅用として使用されたことに遠くから見ていたサーゼクスとグレイフィアは微笑む。

そんな事情を知る由もなく、イッセーとリアスは夜空を眺める。

ふと、リアスが口を開いた。

 

「バカね、こんなことをして…私なんかのために……」

「そんなことありませんよ、こうして部長を助けることが出来たんですから…むしろ得したと思ってます」

 

そう言って笑うイッセーだが、対照的に彼女は寂しげな表情のままだ。

リアスは続ける。

 

「今回は破談になったかもしれない…でも、また婚約の話が来るかもしれないのよ」

「その時が来たら…あなたが助けを呼ぶなら、何度でも何度でも助けに来ますよ。だって俺は…」

 

そこで小さく息を吸った後、イッセーはリアスの顔を見てはっきりと宣言した。

 

「リアス・グレモリーの…『兵士』ですから」

「……っ!///」

 

その言葉に、リアスは顔を染めた。

まるでその表情は今まで見せていた年長者のそれではなく、年相応の少女のそれであった。

次にイッセーの視界に入ったのは、近距離でのリアスの顔と唇に当たる柔らかい感触。

突然のことに理解出来なかったが、一秒二秒経ってようやく理解する。

……自分は、リアス・グレモリーにキスをされたのだと。

 

「…ふふ、ファーストキスよ。日本では、女の子が大切にするものよね?」

「え、えぇ…そうですけど…じゃなくて!!良いんですか、俺みたいな奴に…」

「あなたはそれだけ価値のあることをしてくれたのだから、ご褒美よ」

(おめでたいな相棒、ヒューヒュー!!)

 

悪戯が成功したように微笑むリアスに、イッセーはただ驚くことしか出来ないが、彼女は気にせず笑う。

ドライグが茶化していたが、それすらも気にならなかった。

「それから」とリアスは付け足す。

 

「私もあなたの家に住むことに決めたわ」

 

満面の笑顔でそう告げた彼女の爆弾発言に、イッセーはしばらくの間呆然としていたがやがて言葉の意味を理解すると……。

 

「えっ、えええええええええええええええええええええええええっっ!!?」

 

夜空に、今代の赤龍帝の混乱に満ちた悲鳴が木霊するのであった。

辰巳一誠の青春と戦い、そして彼を送る悪魔ライフはこれからである。




 新フォーム、シャークハートは水属性を司る形態となっています!魔力で生成した水ならば凍らせたり水流を操るなど万能です。その気になれば聖水も生成して操ることが出来ます。
 リアスにフラグをたてられました、メインヒロインなのでこれからしっかりと活躍させたいです。ではでは。ノシ

ピーコック・ネオストラ ICV原田ひとみ
ライザーの『騎士』であるカーラマインの心の中に僅かに潜んでいた『勝利への執着』を糧に培養して進化した。
青い西洋甲冑に極彩色の尾を持った騎士のような姿をしており、大剣を武器とする他羽根型の矢を弾幕にして放つ。また、炎を纏わせることも可能だが水が弱点。


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HERAT11,5  I'm a 仮面ライダー

 新章への前に、幕間のお話です。
 イッセーが婚約会場で殴りこんでリアスにキスをされているころ、出番のなかったネオストラサイドは何をしていたのかが分かります。
 そして、三人目の仮面ライダーが登場します。それでは、どうぞ。

(※)ハーデス戦があまりにも一方的過ぎたので少しばかり編集しました、大変申し訳ありません。


イッセーが婚約会場に乗り込んだ同時刻、『冥府』には招かれざる客の存在によって蹂躙されていた。

ここは冥界の地下深く…謂わば下層に位置するそこは死者の魂が選別される最も平等な場所でありギリシャ勢力の神ある神が統治する世界である。

本来ならば、誰も踏み入れない危険な地域に踏み込む者がいた。

 

『く、くそ…!!』

『邪魔じゃ』

 

人々から「死神」と飛ばれる存在(グリム・リッパー)は目の前の侵入者を撃退しようと武器を振り下ろし、ダークグリーンに白い骸骨の装飾が施された異形…『マンティス・ネオストラ』の身体を切り裂くがその攻撃は吸収されてしまう。

面倒そうにマンティスは自身の得物である大鎌を振るって死神の胴体を真っ二つにして消滅させる。

同時に彼の振るった斬撃は衝撃波となり、周囲にいた死神たちも一掃する。

自分たちの攻撃が通用せず、難なく道を進む一人とマンティスに彼らにも動揺が走る。

しかし、行く手を阻むように今までの死神よりも装飾が多い上級死神が現れる。

 

『ここから先へは…』

「どいてくれ」

 

何かを言うよりも早く、黒いロングコートに黒髪をオールバックにした長身の青年が上級死神を一瞬で地面に叩きつける。

子どものように下した目の前の青年に流石の死神たちも戦慄し、後ずさってしまう。

そんな彼らの様子に気にすることもなく青年はマンティスを連れて神殿の最奥へと進む。

そして、扉が開かれた。

 

『貴様か?私の領地に土足で踏み込んだ人間は…』

 

そこにいたのは司祭の着るような祭服に身を包み、頭部にミトラを被っている骸骨…ギリシアの三大神の一柱で、死を司る神『ハーデス』は不気味な眼光を放ちながら、青年を睨みつける。

ギリシア勢力中最強の神である彼が放つ殺気は、並みの者はおろか相当の実力者であってもその殺気に推されてしまうだろう。

 

「初めまして、冥府の神。俺はホッパー……こっちはマンティス」

『かか。数こそ違うが同じ年寄り同士、今後ともよろしく頼むぞ』

 

しかしそれを気にすることなく青年…『ホッパー』は穏やかに微笑んで恭しく自己紹介をすると、隣にいたマンティスは楽しそうに笑う。

 

『それで、こんなところに何用だ。生憎と私は貴様らを相手にするほど暇ではないのでな』

「簡単な話だ。ここを俺たちの支配下に置く」

『…どういう意味じゃ?』

「聞こえなかったのか?俺たちは、ここを、支配しに来た」

 

目を細めて問い掛けるハーデスに、ホッパーは淡々と事実を語る。

その言葉の意味が分かったのか周囲にいた死神たちは嘲笑い、ハーデスは興味深そうに彼らを見る。

 

『ファファファ…中々面白いことを口にする。ここを支配下に置くだと?とんだ大ボラを吹く人間もいたものだ』

『思い上がるのも大概にせい、ニンゲン。我が王がわざわざ出向いたにも関わらず茶の一つすら出さない…傲慢にも程があるのう」

 

楽しそうに笑うハーデスに対し、冷たい言葉を浴びせたのはマンティスだ。

鋭い視線と殺気を死神たちにぶつけて彼らの嘲笑を黙らせる。

しかしそれでも目の前にいる冥府の神の余裕は変わらない。

 

『やれやれ。こちらは穏便に済ませるつもりだったが…致し方ない、「プルート」』

 

彼の言葉と共に現れたのは装飾が施されたローブに身を包み、道化師が被るような仮面を装着した死神…ハーデスの腹心であり伝説の最上級死神のプルートだ。

敵対姿勢を取るプルートと死神たちにため息を吐いたホッパーはコートからある物を取り出した。

 

「そこまで言うなら、遊んでやる」

 

そう言ってホッパーはインフェクションドライバー腹部に軽く当てると、そこから伸びたベルトが完全に固定する。

 

【BREAKING HAZARD!? BREAKING HAZARD!?…♪】

 

低く重苦しい待機音声を鳴り響かせながら彼はドライバーモードとなったインフェクションドライバーの下部にあるホルダーに…ダークグリーンの『ハートバッテリー』をセットしてインジェクタースイッチを押した。

 

「変身」

【BUGRIALIZE…! WIND KICK! WIND PUNCHI! GUREEN HOPPER~!!♪】

 

音声の後、軽快な音楽と歌が鳴り響くとホッパーの身体に紫色のラインが入った黒いスーツが覆われ、銃声と共に紫色のエネルギー弾が胴体を撃ち抜いた途端…ダークグリーンの装甲が彼を覆い、赤いマフラーが出現した。

その姿はイッセーのドラグーンとは姿こそ違ったがアニメキャラのような凶悪な赤い瞳で周囲を睨む姿はまさに……。

 

「『仮面ライダーオルタ グリーンホッパーハート』……バトル・スタートだ!」

 

宣言したオルタはバッタの跳躍力でプルートの間合いに入り、一瞬で距離を詰めた彼は思い切り殴る。

 

「せいっ!はっ!!」

『これしきの攻撃で…!!』

 

突然姿を変えた彼に、動揺するも冷静さを取り戻したプルートは黒い色の刀身の鎌で応戦し引き裂こうとするがオルタはそれを掌底で捌き、逆に殴り飛ばす。

 

【BYU・BYU-N…!!】

「ふんっ!!」

 

インジェクタースイッチを再度押し込んで右の拳に紫色の暴風を纏ったオルタはプルートの鳩尾目掛けて拳を打ち込む。

凄まじいほどの一撃を受けたプルートは防御すらも出来ずにそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

【ZU・BYU-N…!】

『この…ぐはっ!?』

 

追撃するようにインフェクションドライバーを右腕にセットしてブレスモードにしたオルタはその右腕で連続パンチと同時に零距離射撃を行う。

そこから更に渾身の一撃を受けたプルートは数十メートルぐらい吹っ飛び、地面を転がり続けた。

その一方でマンティスは迫りくる下級・上級の死神たちを大鎌で斬り裂いて消滅させており戦況は完全にオルタたちの方へと傾いていた。

 

「まず一人…」

【CURSE OF DEATH! GREEN HOPPER…!!】

『う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』

 

再度インフェクションドライバーを腹部にセットした彼は上部のボタンを押してからインジェクタースイッチを押す。

満身創痍となりながらも、立ち上がったプルートは雄叫びと共に鎌を振るうが胴体目掛けて鋭いキックを叩き込んだ。

カウンターと強烈な一撃を叩き込まれたプルートはそのまま宙に吹き飛び、地面へと落ちた彼はそのまま立ち上がろうとするが……。

 

『ぐっ、ああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

オルタがマフラーを翻しながら後ろを向いた途端、彼は悲鳴と紫色の爆風と共に爆散する。

伝説の最上級死神が難なく倒されたことにマンティスと交戦していた周囲の死神たちがざわめく。

無理もない、彼の変身した姿にこそ驚いたがこけおどしだと思っていた彼らにとってこの結果は到底信じられることではない。

その結果を黙って見つめていたハーデスをオルタが睨む。

 

「次は貴様だ、愚かしいニンゲン」

 

ドライバーを腹部にセットし底冷えするほどの冷たい声で呟いたオルタは、黒いハートバッテリーをグリーンホッパーバッテリーと入れ替えるようにホルダーへセットする。

 

【BREAKING HAZARD!? BREAKING HAZARD!?…♪】

「ハザードレベルB…」

 

待機音声が鳴り響く中、オルタはブラックホッパーバッテリーのインジェクタースイッチを押した。

 

【BUGRIALIZE…! WARNING WARNING! DEADLY WEAPON! BLACK HOPPER!!♪】

 

ダークグリーンの装甲が外れ、アンダースーツとなったオルタの額にソードが突き刺さると黒く重厚な甲冑が纏わりつく。

『仮面ライダーオルタ ブラックホッパーハート』となった瞬間、左腕に装備を変えたインフェクションドライバーでハーデスへと殴りかかる。

 

『ファファファ…いくら姿を変えようと…』

【GYU・IN SWORD!!】

『っ!?』

 

間合いを詰めたオルタがチェーンソーと西洋剣を組み合わせた武器…『ギュインソード』を召喚したと同時に振るう。

袈裟切りにされたハーデスは黒い煙を放出しながらも自身の力を振るおうとするが…。

 

『…っ!?なぜだ、なぜ力が発揮出来んっ!!』

「当然だ、俺たち『ネオストラ』は貴様らニンゲンの全てを吸収す……ぐっ!!」

 

動揺するハーデスにオルタがそう言い捨てようとした瞬間、身体中から火花を散らしてその場に膝をつく。

 

「はぁっ!はぁっ!!……くっ(曲がりなりにも神…完全には吸収出来ないか…!!)」

 

身体に走る激痛にオルタは荒い息を吐く。

ネオストラには異能を吸収する能力がある…それは神の力すらも吸収することが出来るのだが当然、限界値が存在する。

ハーデスはギリシアの三大神の一柱…その力は強大であると同時にネオストラにとっての毒でもある。

膝をついた彼を見て余裕を取り戻したのかハーデスは最後の警告をする。

 

『どうやら、貴様の力も万能ではないようだな…面白い物を見せてくれた褒美として、今なら見逃してやる』

 

興味もなくなったのか彼はオルタに背中を見せて玉座へ座ろうとするが…。

 

「ふざ、けるな…」

 

オルタがギュインソードを杖代わりにして立ち上がったのだ。

しかし、その身体は震えておりもう一撃を受けたら倒れてしまいなほどの姿を見て「やれやれ」と言わんばかりにため息を吐いた。

 

「ぐっ、あぁっ…!!?」

『頑張ったが…ここで終わりだ、未知の生命体』

 

そう冷たく宣告したハーデスは距離を詰めてオルタの首を掴み締め上げる。

地に足がつかないほど吊るされた彼はどうにか逃れようとするがハーデスの力に抵抗することも出来ない…。

やがて、オルタは手足を投げ出して動かなくなった。

完全に意識がなくなったのを確信したハーデスが力を緩めた時だった。

 

【ZU・BYU-N…!】

『ぐがあああああああああああああっっ!!?』

 

左腕に装備したインフェクションドライバーを骸骨の頭部目掛けて発砲したのだ。

急所を突然攻撃されたハーデスは手を離してしまい、解放されたオルタは何度も咳き込む。

 

『目が、私の目がぁぁぁぁぁ…!!』

「ゲホッ!神を名乗るなら、きちんと敵を仕留めるんだな…!!」

 

視力を潰され、煙を上げる頭部を抑えながら呻くハーデスに対してオルタがゆっくりと立ち上がった。

そして、地面に落ちていたギュインソードを手に取って構える。

 

「さぁ、反撃開始だ…!」

 

力を発揮出来なくなったハーデスの顔面を左拳で何度も殴り、ギュインソードで斬り裂きダメージを蓄積させる。

プルート戦で見せた手数とインフェクションドライバーの射撃を主体にしたグレーンホッパーハートと違い、武器によるパワーファイトによって確実に相手に強烈なダメージを与えるのがブラックホッパーハートの特徴なのだ。

オルタの放った零距離射撃と高速振動する斬撃がハーデスを吹き飛ばした。

 

『おのれ、おのれおのれおのれおのれええええええええええええっっ!!!』

【FULL ACTION! CURSE OF BLACK HOPPER!!】

 

憎悪の籠った眼差しで怨嗟の言葉をぶつける中、オルタはブラックホッパーバッテリーをギュイーンソードに装填してインジェクタースイッチを押して必殺技を起動する。

そして、力を武器に集中させた彼は高く跳躍して上段に構えたギュインソードを思い切り振り下ろした。

 

『ギ、ギイイイイイイイイイイイイッッ!!』

「終わりだ…ニンゲン」

『がああああああああああああああああああああああっっ!!!』

 

その攻撃をハーデスは全ての力を持って耐え切ろうとするが、高速振動するギュインソードに力を込めて振り抜いた。

激痛の悲鳴と共にハーデスは黒い爆発に包まれる。

煙が晴れ、彼が倒れていたのを確認したオルタはゆっくりと息を吐いた。

運が良かった……今回の戦闘は完全に天が自分に味方をしてくれた。

ハーデスの慢心と、急所を突いた攻撃の命中、そしてほんの少しだが彼の力を吸収出来たことも大きい。

改めて自分が危ない橋を渡っていたことを認識した彼は思わず乾いた笑いを仮面の下で漏らしていた。

しかし、ハーデスが呻いたのを見てすぐに自分の役目を思い出す。

 

『がっ、あぁ…』

「安心しろ、お前は死なせない。その代わり…」

 

地面に這い蹲るハーデスに近寄りながら語りかけるオルタ。

そして骨格で構成された杯のような物体を取り出す。

 

「お前には、冥府を司る『システム』として働いてもらう…肉体と精神を抹消してな」

『ぐっ、貴様ぁ…!!』

「さらばだ、ハーデス。そして…」

 

恨み言を言うこともなく、冥府の神ハーデスは身体を粒子となって杯へと吸い込まれると窪みの部分からアメジストの宝石が埋め込まれる。

 

「これからよろしく頼むぞ、『ハーデス』」

 

そうして、冥府で行われる死のシステムは変わることなく…ハーデスは自我と引き換えに永遠に生き続けるようになった。

ハーデスの『消滅』に死神たちは動揺する中、変身を解除したホッパーはマンティスに視線を向けると、杯『ハーデスの器』を受け取った彼はハーデスのいた玉座へと座る。

 

『かかっ。これからこの冥府はワシが収めることになった…これからもしっかり働けよ、下僕ども……!』

 

恐怖の視線を受け止めて嘲笑するように見下ろしながら宣言したマンティスに、死神たちはどうすることも出来ずにその場から崩れ落ちた。

その様子に、楽しそうに見ていたホッパーは右手にセットしたインフェクションドライバーで『ある人物』へと連絡する。

 

「ハルピュイア。冥府の支配は終わった…後はマンティスがハーデスの代わりを務める、そっちの方は任せたぞ」

 

 

 

 

 

「お任せください、我が王よ。必ず…」

 

主であるホッパーからの連絡を終えたハルピュイアは振り向いてキョンシーと、先ほど帰ってきて熟睡しているケンタウロスに視線を向ける。

 

「主が冥府を支配しました。これに続いて我々も同胞を増やすだけです」

「士気を下げるような発言をするようで恐縮だが、先ほどピーコックが撃破されたぞ」

 

「異形の娯楽に興じるからだ」と文句を零しながらも、報告したキョンシーにハルピュイアに焦りの色は見えない。

 

「構いませんよ。『モール』の計画を悟られずに済みましたからね」

「何だと?」

「最初から、ピーコックには派手に暴れてもらう予定だったのですよ。私が感染させたネオストラを成長させる時間稼ぎとしてね」

 

そう言ってハルピュイアは笑う。

元々彼女はピーコックの成長に対して期待などしていなかった…ピーコックが暴れてそちらに仮面ライダーたちが集中していれば御の字、進化すればそれでラッキー程度にしか考えていなかったのだ。

計画通りに事が運んでいることに笑みを零しながらもハルピュイアはキョンシーに話しかける。

 

「モールの計画に、問題はありません。しかし、念には念を入れたい…キョンシー、あなたの部下を貸してくれませんか?」

「構わん。『オクトパス』、仕事だ」

 

その言葉に了承したキョンシーが自身の部下であるネオストラの名前を呼ぶと「御意っ!」の掛け声と共にこの場に姿を見せる。

茹ダコのような赤い武者甲冑に赤い鎖が身体中に垂れ下がっており、左肩には棘付きの鉄球が装備された異形『オクトパス・ネオストラ』が現れる。

 

『キョンシー様、ハルピュイア様っ!!!このオクトパスにお任せあれっ!!』

 

老僧のごとき威厳と貫禄を感じさせる口調で膝をついて頭を垂れた彼にハルピュイアは優しく微笑み、この場にいない同胞に語りかける。

 

「さぁ、モール…自分の心に従って行動なさい」

 

「そして」と一拍置いて彼女は『ある単語』を口にした。

 

「Excaliburを、その手で完成させるのです」

 

悪意は、ウィルスのように侵食する……。




 新たな仮面ライダー、オルタです。イメージとしては初期の仮面ライダーゲンムやパラドクスのような立ち位置となっています。怪人のイメージとしてはハート。
 続々とネオストラが登場しましたがマンティスとオクトパスは一番、幹部格に近しい存在となっており、あと少しで進化できるレベルになっています。
 ではでは。ノシ


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月光校庭のExcalibur
HEART12 少年たちのEveryday


 新章突入です。さーて、書いている自分が言うのもなんですがこの先どんな風にネオストラが介入するのか分かりません。
 早くドラグーンの新フォームを出したいです。それでは、どうぞ。


カーテンの隙間から差し込む日の光、そして小鳥たちのさえずりといった目覚めの朝には最適なシチュエーションでイッセーの意識は覚醒した。

頭に残るほんの少しの微睡を残しながらも、身支度を整えようと身体を動かそうとする。

しかし……。

 

「おはよう、イッセー」

「…おはようございます///」

 

少し顔を上げればリアスの顔があり、視線が合う。

Tシャツと短パンを寝巻代わりにしているイッセーに対して彼女は全裸だった。

もう一度言おう、全裸だった。

おまけに彼を抱き枕のように優しく抱き締めているのもあって身動きが出来ない状態となっているのだ。

一糸纏わぬ彼女の姿にイッセーは顔を赤らめて挨拶をすることしか出来ない。

ドライグがテンションを上げていたが、一先ず無視をすることにしたイッセーはリアスに問い掛ける。

 

「あの、えっと…それでこの状況は……?///」

「ごめんなさい。あなたが就寝していたから、お邪魔させてもらったの」

 

さも当たり前のように話す彼女にイッセーは「そうじゃない」と頭を抱えそうになる。

ライザーとの決戦後、リアスは辰巳宅で暮らすようになったのだがとにかく彼女は無防備なのだ。

普段は自粛しているイッセーだがそれでも根本的な部分…性欲に関しては断絶しているわけではない。

顔を反らそうとしても彼女の胸囲にどうしても視線を向けてしまい、それによって顔を赤らめてしまうというある種のサイクルに陥ってしまう。

すると、彼女が態勢を変えて彼を押し倒すような形となる。

 

「まだ、時間があるし…もう少し、このまま…」

『イッセーさーん?』

 

リアスの言葉を遮るように、アーシアの声と控えめなノック音が聞こえた。

早朝のトレーニングのために呼びに来たのだろう…扉の向こうからアーシアが呼びかける。

 

『イッセーさん、まだお休みですかー?』

「あっ、いやっ!もう起きて…」

「アーシア?もう少し待ってなさい、私もイッセーも準備しなければならないから」

 

彼が何か言い訳をするよりも先に、リアスが声を掛ける。

聞き覚えのあるその声を聞いたと同時にアーシアは部屋のドアを開いた。

 

「や、やぁ。アーシア…えと、おはよう」

「おはよう、アーシア」

 

彼女の瞳にはイッセーとなぜか彼の隣にいる全裸のリアスがベッドにいる。

とりあえず誤魔化そうとイッセーは笑って手を挙げ、天然なのか彼女は微笑んで挨拶をしている。

アーシアはしばらくの間何も言わずにぼうっとしていたがやがて身体を震わせる。

 

「わ、私も脱ぎます!仲間外れは嫌ですぅっ!!///」

「ち、ちょっと待ってアーシアッ!!」

『相棒っ!男を見せろ!』

「お前ちょっと、黙れっ!」

 

顔を赤らめて目に涙を溜めた彼女は、体操着の上着に手を掛けようとするのをイッセーが慌てて止めようとするが余計なことを言うドライグにツッコミを入れる。

その後は暴走するアーシアを止めたり、全裸のままでいるリアスに服を用意しようと慌ただしかったが……。

 

「朝から、うるさああああああああああああああいっっっ!!!」

 

騒がしかったイッセーの部屋に来た愛奈の怒声で今朝の喧騒は治まるのであった。

 

 

 

 

 

そして、時間は少し過ぎて朝食……。

 

「…美味しい。てっきり洋食を作るのかと思ったけど、上手ね」

「日本での生活が長かったものですから」

「……」

 

愛奈がリアスの作った味噌汁を飲んで頬を綻ばせると、彼女は少しだけ得意気な表情を見せる。

加奈子が黙々と食事をする中でイッセーも味噌汁を一口飲む。

 

「でも本当に美味しいですよ、部長!」

「ふふ、ありがとう。イッセー」

「むー……」

 

そんな彼とリアスとの会話を黙って聞いていたアーシアが頬を膨らませて拗ねた表情を見せると、二の腕を抓る。

イッセーがそんな痛みに耐えている中、加奈子が口を開く。

 

「本物のお嬢様が下宿したいって聞いた時は驚いたけど、リアスちゃんのおかげで家事の手伝いが楽になったし、アーシアちゃんもお掃除やお洗濯も手伝ってくれるし…本当に助かるなー」

「当然のことですわ、お母様」

「っ。お…お世話になっているんですし、当然のことです///」

 

彼女の言葉を聞いたリアスは当たり前のように、アーシアは機嫌が良くなったのか照れ臭そうに微笑んでから返事をする。

一安心したイッセーが胸を撫で下ろす中、リアスは加奈子と愛奈にあることを尋ねる。

 

「お二人とも。今日の放課後、部員たちをこちらに呼んでもよろしいでしょうか?」

「良いよ。ねぇ、お姉ちゃん?」

「構わないわよ。でも、どうしてまた」

「旧校舎が年に一度の大掃除でね。オカルト研究部の定例会議が出来ないのよ」

 

彼女の言葉を聞いたアーシアは「お家で部活なんて楽しそうです」と楽しそうに話すのであった。

 

 

 

 

 

下宿してからのリアスのコミュニケーションと、それによって機嫌が悪くなるアーシアの二人に午前の授業を終えたイッセーは机に頭を突っ伏す。

その間にも松田と元浜のいつもの二人と絡んで話している…その際に、フィギュアがどうとか言っていたが適当に流す。

そんな話をしながらも、普段来るはずのない女子生徒がアーシアを連れて三人の前に出る。

 

「相変わらずの発情ぶりね、三バカトリオ」

「お、お前は…!」

「『桐生藍華』!」

 

彼らに話しかけてきたのは三つ編みの眼鏡女子…桐生はイッセーのクラスメイトであり、アーシアが初めて出来た同年代の女子の友人である。

眼鏡を通して男性の尊厳に関わる物を数値化する極めてどうでも良い能力を持つことから一部から「匠」と呼ばれていたりもする。

 

「アーシアも難儀ねぇ。男の尊厳に大小あるように、良い男なんて選り取り見取りよ?」

 

下ネタを織り交ぜる彼女の言葉にアーシアは「そんなことありません」とイッセーを称えるような発言をしたため、彼がストップをかけたと同時に懐に入っていたシャークックスがネオストラを知らせる震動を送る。

それに気づいた彼は「保健室に行ってくる」と一言言って教室へと飛び出した。

 

「でもさ、アーシアってあいつのこと好…」

「桐生さんやめてくださいいいいいっ///」

 

必死に桐生の口を塞ぐアーシアを見た、松田と元浜が悔し涙を流していたことをイッセーが知る由もないのであった。

 

 

 

 

 

ヌメヌメしたゴムのような暗青緑色棘の装甲を纏った異形『シーキュキャンバー・ネオストラ』は全速力で走っていた。

覚醒態となったことで自由の身となった彼は適当に暴れようとしていたが、オクトパスとモールに偶然出会ったことで嫌々ながら彼らの計画に参加することになってしまったのだ。

「その辺の人間でも襲ってれば良いだろ」と短絡的に考えたシーキュキャンバーが怪人の姿へと変えた時だった。

獣の鳴き声が混じったエンジン音が聞こえた途端、目の前に殺意の籠ったバイク…ブレイブニルが現れたのだ。

そして、彼はそれに巻き込まれないよう全速力で走っている最中なのである。

 

『はぁっ、はぁっ!畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!はぁっ!何でっ、俺がっ!こんな目にっ!きゃああああああああああああっっ!!』

「ぐだぐだ言わずに、さっさと止まりなさいっ!!」

 

シャークハートへと変身していたドラグーンは、ブレイブニルのスピードを更に上げると、その車体で思い切り当てた。

背後からの強烈な衝撃によってシーキュキャンバーは甲高い声と共に地面へと投げ出される。

強烈なダメージで地面に悶えるネオストラに対して、ブレイブニルから降りたドラグーンは宣言する。

 

「アクア・ミッション、スタートです!」

『ふざけんなっ!!誰が好き好んで仮面ライダーの相手なんかするかよっ!!』

 

地団太を踏んだシーキュキャンバーは彼に背中を見せて逃げようとするが、目の前に起こった突然の現象に驚く。

雷で生成された簡易的な壁のような物体が逃走路を遮っていたのだ。

 

「あらあら、うふふ。せっかくイッセー君が相手してくださるんですよ?ご褒美はしっかりと受け取らないと」

 

見れば、上空には朱乃がおり人払い用の結界の張っているのだろう…いつもと変わらぬ微笑みを浮かべながらシーキュキャンバーを見つめる。

 

『だったら何だ!所詮はニンゲンの攻撃、吸収しちまえば…』

「あらあら。そんな時間があって?」

『あっ?…ぎゃあああああああああああっっ!!?』

 

しかし、すぐに威勢を取り戻した彼は雷の壁に近づいて手を触れようとするが彼女の言葉に後ろを振り向いた途端、氷の弾丸が顔面に直撃した。

見ればバッキューンライフルを構えたドラグーンがおり、そこでようやくシーキュキャンバーが気付く。

仮面ライダーに勝てるわけがない、逃げるためには朱乃が設置した雷の壁を吸収する必要がある。

しかし雷の壁を吸収するためには仮面ライダーをどうにかしなければならない、ライオットを召喚しようにも集中砲火を受けている状態ではそれをする時間もない。

シーキュキャンバーが逃げ出せる確率は、ゼロだった。

 

「止めです」

【FULL ACTION! CURSE OF SAHRK!!】

「ファングブラスター!!」

『もっと出番が欲しかったあああああああああっっ!!!』

 

切実な叫びを行ったシーキュキャンバー・ネオストラは氷のレーザーが直撃し、凍結と同時に粉砕される。

戦闘が終わったのを確認したドラグーンが変身を解除すると、朱乃が地面へと降り立つ。

 

「助かりました、朱乃さん。でもどうして…」

「アーシアちゃんから受け取ったメッセージを読んで現場に来ましたの…余計なお世話だったかしら?」

「いえっ!そんなことは……むしろ助かりました」

 

慌ててそう言ったイッセーは彼女にお礼の言葉を口にすると、朱乃は「どういたしまして」と微笑む。

結界が解除したのを確認している彼に、朱乃が口を開く。

 

「婚約会場での時、自分の気持ちを口に出して戦うイッセー君は…本当に男らしかった。戦いに勝って、部長を救うなんて」

「うっ、あの時はテンションが上がっていたと言うべきか…見苦しいところを見せました」

「そんなことありませんわ。あんなあなたを見てしまったら……恋しちゃう、かもしれませんわね?」

 

ライザー戦での戦闘を彼女の口から語られたことにイッセーは苦い顔をすることしか出来ない。

あの時は素の自分がかなり出ていた…続けて謝罪の言葉を言おうとする彼よりも先に、朱乃が近寄り密着する形となる。

そして、潤んだ瞳で見つめながら彼の身体に指を這わせる。

 

「あの、朱乃さ…///」

 

彼女の動作に頬を赤らめるイッセーだったが、朱乃の使い魔である子鬼が午後の授業の開始時間を告げる。

彼女は彼からすぐに離れると、いつもの笑みを見せる。

 

「うふふ、またご一緒しましょうね」

 

そう言ってその場を後にした朱乃に、イッセーは心臓をドギマギさせることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

時間は過ぎて放課後。

今朝言ったリアスの言葉通り、オカルト研究部の全員+ヴァイアはイッセーの部屋に集まっていた。

定例会議としてイッセーのベッドに腰を掛けているリアスが今月の契約件数を報告する。

朱乃は十一件に小猫が十件、木場が八軒で特にアーシアは三件も契約を取っており、そのことについて木場や朱乃から褒められている。

報告を聞いたヴァイアはハンカチで目元を拭った後、鼻をかんでいたが気にすることではないだろう。

そのことに対して、我が子のように何処か誇らしく思っていると今度はイッセーの契約件数をリアスが口にする。

 

「イッセーは、最初の二件だけね」

「あはは…面目ないです」

「評価は多いけど、もう少し頑張ってね」

(そうだぞ、相棒。来月にはもう少し契約を取って行く行くはハーレム王に…)

「はい。部長やみんなの顔に泥を塗らないように、精進します」

 

出しゃばるドライグを遮るように、向上心があるのかないか微妙な宣言を力強くした彼に全員が苦笑いする。

すると、ノックの後に「お邪魔しますよー」と扉を開けたエプロン姿の加奈子が現れる。

両手には多くのお菓子を乗せたお盆を持っており、それを見たアーシアが慌てて頭を下げる。

 

「あっ。すみません、お母様」

「大丈夫、今週の仕事は一昨日と昨日に終わらせたから。それに今日はイッセーちゃんの新しい友達がいるから、『とっておき』も持ってきた」

「とっておき?」

 

アーシアがお盆を持つと、加奈子が『ある物』を取り出す。

オレンジ色を背景にデフォルメの象が拍子の「PHOTO」と書かれており、それを見たイッセーが絶句する。

 

「ま、まさか…!?」

 

止めようとするころには既に遅かった。

ある物……イッセーの成長記録を載せたアルバム集を躊躇いもなく全員に見せるように開いた。

 

「これが小学生のころのイッセーちゃんで、確か…真希奈ちゃんが撮ってくれたのかな?」

「あらあら全裸で」

「最悪だー……」

 

牛乳を飲んでいる小学生時代の写真を見た朱乃は楽しそうに笑っており、リアスに至っては目を輝かせている。

イッセーが頭を抱えながらも、加奈子は気にせずアルバムを開いていく。

 

「これは幼稚園の時。このころから女の子のお尻ばっかり、追い掛けてて…」

「…こっちの方は?」

「それは検査でドライグを見つけた時で、そっちの方は初めて赤龍帝の籠手を出した時。決めポーズを取ってもらってからお父さんが撮ったの」

『正直びっくりした』

 

別のアルバムを開いていた小猫に説明をしながらも、上機嫌な様子で加奈子はアルバムを広げることをやめない。

その中でヴァイアがある疑問を口にする。

 

「あり?心なしか中学生時代が抜けているような…」

「間違って捨てた」

「小さいイッセー、小さいイッセー…!///」

「部長さんの気持ち、私にも分かります!」

(いっそ、一思いにやってくれ…!)

 

目を輝かせて頬を赤らめるリアスに対してアーシアが何度も頷いて賛同している様子に、遠い景色を見るように現実逃避をしているイッセーを見た木場が笑う。

 

「はは、良いお母さんじゃないか」

「人の黒歴史を嬉々として暴く親なんて非常識にも程があるだろ」

「家族がいるって、良いよね……っ。イッセー君、この写真」

 

イッセーの返した言葉に返しながらアルバムをめくっていた木場の手が止まった。

その表情はいつもの柔和な笑みではなく、真剣な表情で一枚の写真を凝視している。

写真にはゲーム機で一緒に遊んでいるイッセーと子どもの写真であり、後ろにはRPGで登場するような盾と西洋剣が飾ってある。

 

「んっ?あぁ、近所の子で一緒にヒーローごっことかして遊んでたんだ。親の転勤とかで外国に行っちまったけど、名前は確か……」

『「紫藤イリナ」だろう。相棒と漫画やゲームの趣味が合った友人の一人だな』

 

ドライグの言葉で幼少時代の記憶を思い出した彼は「懐かしいなー」と楽しそうに笑う。

写真に写っている子どもとは一緒に遊んでおりゲームや漫画はもちろん、ヒーローごっこなどをしていたのだ。

そんな彼に気にせず、木場は独り言のように尋ねる。

 

「ねぇ、イッセー君。この剣に見覚えはある…?」

「いや、何しろガキのころだし…あんまり気にしてなかったな」

「……これは、『聖剣』だよ」

 

そのキーワードにイッセーが小首を傾げたが、彼はいつものように微笑むと開いていたアルバムを閉じて「ありがとう」と彼に手渡す。

こうして辰巳宅での部活活動はイッセーに一筋の不安を残したまま、終了したのであった。

 

 

 

 

 

その日の夜、悪魔としての依頼が入ったイッセーはブレイブニルを走らせてから木場について考えていた。

今まで見たことのない表情と、写真にある剣を見た時の反応……。

気のせいだとは思いたいがどうしても拭いきれない不安を振り払うように、イッセーは目的地までブレイブニルを走らせて到達すると、依頼人のいる高級マンションの部屋のインターフォンを鳴らす。

それから間もなく、依頼人の男性が扉を開けて現れる…黒髪の前が金髪で顎ヒゲを生やした、所謂『ちょい悪親父』な外見をしており、着流しを着ている。

 

「えっと、悪魔を召喚した方ですよね?信じられないかも知れないんですけど、ちょっと諸事情で」

「まぁ、入ってくれよ…悪魔君」

 

楽しそうに笑った男性に促されるように、イッセーは部屋へと上がる。

広い部屋で高級そうなソファや机があり、窓からは町が一望出来るほどの夜景がすごく綺麗だ。

「適当に掛けてくれ」と言われたイッセーは緊張しながらも、座り心地の良いソファに座っていると、それからしばらくして男性がグラスとワインを持ってくる。

 

「すいません、俺は未成年で…」

「そうか?そりゃしくったな。まっ、氷水でも良いなら…構わないかい?」

「はい」

 

彼の言葉に満足した男性は、グラスに氷を入れてからミネラルウォーターを注ぐ。

その後、ここに来てから三十分は経っていたが男性とイッセーは他愛もない話をしていた。

 

「…ははははは。魔力が不得手だから、転移魔法を使わずにバイクでご出勤か」

「でも、中々楽しいですよ。バイクにはバイクの良さがありますし」

「そうか?…けど、一理あるかもな」

 

話している内容こそ、イッセー自身の普段の生活や友人の話といった何気ない日常の話だったが、目の前の男性は心底楽しそうに笑っているのだ。

楽しそうに笑っていたが、何気なく視線を向けた男性が時計を見る。

 

「んじゃ、この辺でお開きだな。久々に楽しかったよ…んで、対価は何が良いんだい?悪魔だから魂、とか…」

「まさか、酒の相手ぐらいじゃ契約と釣り合いませんって」

 

その言葉に、イッセーは困ったように笑う。

『対価に命』というのは昔にはあったらしいが、最近では色々と問題があるのでそれ相応の対価で十分なのだ。

男性は感心したように笑う。

 

「おっ、意外に控えめなんだな」

「うちの主は明朗会計がモットーなんで」

「んじゃ、あれでどうだ…複製品じゃないぞ」

 

イッセーの言った言葉に、男性は壁に掛けられた大きな絵画であり素人が見ても高額な品に見える。

他に手持ちもないらしく、「駄目なら魂で」と苦しそうな表情をした彼にイッセーは慌てて承諾したのであった。

 

 

 

 

 

工場跡地の外で乾いた音が響いた。

それは頬を叩かれる音……リアスが木場に対してしたものだ。

対価である絵画を身体にくくりつけたイッセーはブレイブニルと共に帰ろうとしたが、急きょ入った連絡からはぐれ悪魔の討伐に向かった。

普段なら何てことのない相手…しかし、木場は考えごとをしていたのか集中力が散漫となっており、何とか小猫とイッセーが外へと投げ飛ばした後に朱乃とリアスが止めを指したのだ。

アーシアが小猫の治癒を、はぐれ悪魔に対してイッセーが黙とうをしている間に、外にいたリアスは帰ろうとした木場を呼び止めたのだ。

 

「今ので目が覚めたかしら?一つ間違えば、誰かが危なかったのよ」

「……すみませんでした」

「一体どうしたの?あなたらしくもない…」

「調子が悪かっただけです。今日はこれで失礼します」

 

厳しい口調で彼女は叱責するが、木場は何の表情も浮かべないまま謝罪の言葉を口にする。

誰が見ても様子のおかしい彼に心配したリアスは尋ねるが、淡々と彼は語るだけだ。

そのまま帰ろうとする木場に対してイッセーは慌てて呼び止める。

 

「木場っ、どうしたんだよ!?今日は本当に変だぞっ!!」

「君には関係ない」

「心配してるんだよ!もしかして…」

「聖剣、だろ?」

 

呼びかけに対してもそっけない態度を取る彼に対して、イッセーが放とうとした言葉を遮るように、ヴァイアが現れる。

目の色を変えた木場は、彼の方を振り向く。

 

「分かったのかい?」

「写真を見て何となくね。それが君を変えた…いやっ、むしろ思い出したって言うべきなのかな?」

「ふふ、確かにそうだ。僕が戦う最も根本的なこと…それは部長のためじゃない、『復讐』さ」

 

ヴァイアの言葉に、木場は軽く笑った後に言った短くも重い言葉にイッセーは愕然とするしかない。

そうして木場は復讐の対象…世界でも有名な『あの名称』を口にした。

 

「『聖剣エクスカリバー』……それを破壊するのが、僕の生きる意味だ」

 

冷たい表情のまま、彼はイッセーとヴァイアに背を向けて立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

帰宅後、夕飯と入浴を終えたイッセーは部屋に行くとアーシアとリアスがおり、漫画を読んでいた。

入り浸っている二人に苦笑いするが、「丁度良い」と判断した彼はリアスに聖剣のことを尋ねる。

漫画を閉じて元の棚に戻した彼女は真剣な表情で、聖剣の説明を始める。

 

「聖剣は悪魔にとって最悪の武器よ。悪魔は触れるだけで身を焦がし…斬られれば、即消滅だってあるわ」

「ゲームや漫画みたいに、強力な武器なんですね」

 

イッセーの例えに、「そうね」と答えたリアスは説明を続ける。

聖剣は強力な分、扱える人間が極端に限られているが難点……だからこそ教会は、聖剣の一種であるエクスカリバーを扱える人間を人工的に育てようと考えた。

それが…。

 

「『聖剣計画』……」

「私が教会にいたころは、そんなお話は聞いたことも…」

「でしょうね。もう随分前の話よ」

 

リアスの口から出てきた聞き慣れぬ単語に、イッセーとアーシアが疑問符を浮かべる。

計画自体は完全に失敗したらしく、それ自体はどの陣営でも話題になっていたらしい。

彼女は話を続ける。

 

「祐斗は、その生き残りなの」

「えぇっ!?」

「失敗の原因はあの子を含む全員が適応出来なかったから…それを知った教会は被験者を不良品のレッテルを張り付けて、処分に至った」

「そんな…!」

 

残酷なまでのその言葉に、アーシアは両手を口に当てて戦慄している。

無理もない、自分がかつていた場所で…しかも人の命を消耗品のように扱う非人道的な実験を行っていたことに瞳を潤ませることしか出来ない。

だがイッセーは知っている、経験したことがあるからだ。

人の持つ悪意の被害、そこから生み出される復讐と報復の連鎖……それを嫌というほど知ってしまっているのだ。

施設を逃げ出した木場は処分するための毒ガスを吸っていたため、リアスが発見したころには既に瀕死の状態だったらしく、それを彼女が悪魔として転生させたのだ。

復讐のためじゃない、悪魔としての生を全うしてほしかったから……だが、かつての仲間を失った彼は聖剣を忘れることが出来なかった。

木場の壮絶な過去を知ったアーシアとイッセーは何も言えなかったが、ふと思い出したようにリビングから持ち出したアルバムの写真を見せる。

 

「木場が聖剣のことを思い出したのって…多分、これだと思います」

「…エクスカリバーほど強力な物ではないけれど、間違いないわ。これは聖剣よ」

「イッセーさんの、こんな身近にあったなんて」

『思い出したぞ。相棒はこの子の家族に誘われて、何度か教会に訪れていたな』

 

アーシアが写真を見て驚く中、ドライグが思い出したように言葉を発する。

それを聞いたリアスは合点が行ったように写真に写っている聖剣を注視していた。

その際、「でも先任者は確か」と呟いていたのをイッセーが聞き返そうとした時、彼女が顔を上げて時計を見る。

 

「もう、こんな時間。そろそろ寝ましょうか」

 

普段通りの調子を戻したリアスは、ごく自然な動作で衣服を脱ぎ始める。

当然、それに対してアーシアが驚いており、イッセーは慌てて口を開く。

 

「まま、待ってください!部長が裸じゃないと寝れないのは知ってますけど、なぜに俺の部屋でっ!?///」

「っ?あなたと一緒に寝るからに決まっているじゃない」

 

さも当たり前のように言い放った彼女に、アーシアは顔を真っ赤にしながらも「私も寝ます!」と対抗意識を露わにする。

それを見たイッセーは慌てて二人を止める…自分としては天国に限りなく近い展開であり、ドライグも狂喜乱舞しているのだが流石にまずい。

 

「ちょっと二人とも!一端落ち着いて…いだだだだだっ!?」

「私の方がイッセーさんと暮らした時間が長いんですっ!」

「私はイッセーと一緒に寝たことあるわ!」

「でもでも、私の方が…」

 

途中から子どもの喧嘩へとなってしまい、イッセーの右腕をアーシアが…左腕をリアスが引っ張る形になる。

どうにか止めようとするも、熱が入ってしまった二人が制止するはずもない。

ドライグは完全に「はは、修羅場乙♪」と傍観者に徹しているため役に立たない、諦めの感情が浮かび上がった瞬間…。

 

「あんたら、いつまで起きてんだああああああああああああっっ!!!」

 

怒鳴り込んできた愛奈によって、事は治まったが三人(ついでにドライグ)は彼女の説教を受ける結果になり、イッセーに謝罪した後に各自割り当てられた部屋へと戻るのであった。




 ドライグが全然喋っていない…だと…!?うーむ、やはりキャラが増えると全員分回すのにかなり苦労します。
 そう言えば、wikiなどで知ったのですがアニメ三期のBD/DVD初回生産書き下ろし小説でイッセーの子供たちが登場したらしいです……劇場版のネタに使えるな(ボソ) 
 ではでは。ノシ

シーキュキャンバー・ネオストラ ICVクロちゃん(安田大サーカス)
そこら辺にいたリーマンの負の感情を糧に培養して進化した。
ヌメヌメしたゴムのような暗青緑色棘の装甲を纏っており、打撃攻撃の無効化や水流を放つことが出来るが特殊攻撃の耐性が低い。
成り行きでモールの計画に協力していたが、ドラグーンの駆るブレイブニルに追い回された挙句、朱乃とのコンビネーションを発揮した彼に倒された。
ぶっちゃけ特に設定とかは考えていない。


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HEART13 忍び寄るVirus

 すんげー待たせてしまってすいません。体調が回復し始めたのでドラグーンの投稿です。初期のゼノヴィアの扱い辛さは以上……。
 それでは、どうぞ。


雨の中、一人の端正な顔立ちの少年が手に持った剣を見つめる。

激しい雨音と暗い空は、まるで彼のただならぬ心情を表しており、つい今しがた敵対していた男の持っていた剣のことを思い出す。

許してはいけない、許せるわけがない……そんな暗い感情を占めている彼は雨に濡れたまま目的もなく歩く。

 

「……ごめんっ」

 

そう呟いた言葉が、心配を掛けている今の仲間に向けられたものだったのか。

それとも、かつての同士たちに向けられたものだったのか……

少年……木場祐斗にも分からなかった。

 

 

 

 

 

時間は飛んで翌日の放課後……学校の授業を終え、蒼那からの要請を受け取ったリアスの都合でイッセーとアーシア、珍しく小猫の三人と一緒に下校していた。

綺麗になっている旧校舎の廊下や窓に嬉しそうに喜ぶなどアーシアや反射する廊下でスカートを覗こうとするドライグに無言のプレッシャーをかけたり、旧校舎にあるテープや鎖やらで厳重に封印されている『開かずの間』についてなど色々あったが、肝心のイッセーは今朝ドライグに言われたことを思い出す。

白い龍……「白龍皇」と呼ばれる『ヴァニシング・ドラゴン』の存在だ。

ウェールズの古の伝承に登場する赤い龍と白い龍の二匹は「二天龍」と呼ばれ、かつては覇を競っていたが、三大勢力が争う戦場の中心で戦い続けたために結束を強くした三大勢力全てを相手取る戦いに敗れたことで魂を神器に封印された現在に至っているのだ。

ドライグ曰く「俺たちは戦う運命にある」らしく歴代の所有者は戦いの果てに壮絶な最期を遂げている。

最も、イッセーにとってはあまり実感の湧かない話であったが一先ず頭の片隅に入れると学校にも来なかった木場のことを思い出す。

 

「……俺たちにも何か出来ないかな?」

「先輩?」

「そりゃあ、事情を聞いただけの奴の助けなんてたかが知れてるけどさ。でも、友達を見捨てるようなことはしたくないっていうかさ…」

 

そこまで言ったところで、「やっぱ余計なお世話かな」と表情を暗くするイッセーに小猫は首を横に振る。

 

「……イッセー先輩は、優しいですね」

「そう、かな?」

 

肯定するように彼女は頷くと、青に変わった信号を見て横断歩道を渡る。

「さようなら」と顔を向いて手を振った彼女に、二人も手を振り返すと自宅へと歩を進める。

やがて、二人が自宅に目前となった瞬間だった。

 

「っ!?」

「アーシア?」

「ごめんなさいっ、なぜか体が震えて……!」

 

突如、アーシアがイッセーの袖に掴まる。

か細く震えている彼女には悪寒を感じているらしく、本人は困惑している様子だったが微弱ながらも感じているイッセーにはその感覚に心当たりがあった。

初めてアーシアと出会った際に訪れた教会の感覚……。

 

「少し急ごうっ、アーシア」

「はいっ」

 

歩く速度を上げて、二人は自宅へと向かう。

イッセーが冷静でいられたのは母親と伯母の魔力がまだ感じられていたからだ。

そこらの連中に負けるどころか返り討ちにするであろう彼女たちの身を案じながらも、慌てて玄関の扉を開けた。

 

「母さんっ、愛奈姉さんっ!!」

 

焦りの混じったイッセーの声に返ってきたのは、談笑の声。

開いていたリビングの戸の隙間からゆっくりと覗くと、首に十字架を掛けていた白いローブを羽織った二人の女性がソファに座っており、向かいにはアルバムを開いて話している加奈子と隣に愛奈が座っている。

 

(この二人が……)

「久しぶりだね、イッセー君」

 

少し身構えたイッセーとアーシアに気にすることなく栗色の明るい長い髪をツインテールに結んだ活発な印象の少女が、笑顔で挨拶をする。

だが、当のイッセーは目の前の少女に見覚えがない。

すると、加奈子がアルバムを開いてリアスにも見せた写真を見せる。

 

「この子、紫藤イリナちゃん。昔は男の子みたいだったのにこんな可愛くなったんだよ」

「時間の流れって、すごいわよねー」

「……えっ、ええっ!!?」

 

写真と実物を何度も見比べたイッセーはただ驚くことしか出来ない。

当時のイッセーは本当に男だと思っていたからだ。

驚いている彼にドライグが口を挟む。

 

(えっ?相棒、お前本当に気づいてなかったのか)

(ドライグも知ってのかよっ!)

(友人の性別ぐらい、把握していると思っていたが……お前やっぱバカだろっ)

(笑いを堪えながら言うんじゃねーよっ!!)

 

内に宿る赤い龍とのコントをしている間にも、加奈子と愛奈が呆れた目で見る。

流石に女子と男子と間違えるのは失礼にも程があるからだ。

居た堪れなくなった彼は「すいません」と頭を軽く下げながらもイリナは「仕方ないよ」と笑う。

 

「あの頃はやんちゃだったし。それに……お互いしばらく見ない内に色々あったみたいだしね」

「……」

 

彼女の含みのある言葉に、隣に座っていた緑のメッシュが入った青いショートヘアの少女が様子を伺うように見つめる。

 

「おばさん、私たちは仕事があるからこれで」

「そう?また遊びに来てね」

 

少し残念な表情を見せるも、席を立った二人を玄関まで送り迎えをするために加奈子も席を立つ。

その後は、入れ違いで帰ってきたリアスにアーシアと共に抱擁されながらも、彼女に家で起きたことを伝えるのであった。

 

 

 

 

 

その次の日の放課後、オカルト研究部の部室は重い空気に包まれていた。

ソファに座ったリアスは両腕と脚を組んでおり、イッセーら眷属は彼女の後ろで待機している状態だ。

ちなみにヴァイアもいるにはいるが、空気を読んでいるのか済ました表情で黙っている。

木場も来ていたが、その雰囲気は殺伐としており目の前の二人に敵意を隠しきれていない。

そして昨日、イリナと共に辰巳宅へと訪れていた少女が白い布で何重にも巻いた身の丈もある物体を持ちながら口を開いた。

 

「会談を受けていただき、感謝する。私は『ゼノヴィア』」

「紫藤イリナよ」

「リアス・グレモリーよ。神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、一体どういうことかしら?」

 

口元には笑みを浮かべているが、公然とした態度で尋ねる彼女の問いにイリナが答える。

 

「簡単に言うと、私たち教会が所有しているエクスカリバーが盗まれたの」

『っ!?』

 

その言葉に全員が驚くが、イリナは説明を続ける。

大昔の戦争で四散してしまったエクスカリバー……その破片を教会が回収し、錬金術を用いて七つの特性を持つ七本の聖剣に分けて作り直されたらしい。

行方不明となっている一本を除いた全てを三つの派閥が二本ずつ管理していたのだが、その半分を堕天使に強奪されたというのだ。

その続きをゼノヴィアが話す。

 

「私たちが持っているのは、残ったエクスカリバーの内……破壊の特性を持つ『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)と…』

「擬態の特性を持つ『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の二本だけ」

 

両手に持った白い布の物体と、腕に巻かれているアクセサリーのような白い紐をゼノヴィアとイリナが見せる。

思い描く聖剣のイメージとは程遠いイリナの紐のような物体にイッセーは首を傾げるが、ドライグが補足説明をする。

 

(紫藤イリナの聖剣はその名の通り、使い手のイメージ次第で自由自在に形を変えられる応用力の高さを持つ。あのように糸状などの目立たない形に変えることも可能だ)

(へー)

 

納得しながらも、リアスは事務的な対応で話を進める。

 

「……で、私たちにどうして欲しいの?」

「今回の件は、我々と堕天使の問題だ。この町に住む悪魔に、いらぬ介入をされては困る」

「随分な物言いね」

 

ゼノヴィアの言葉に、彼女は表面上こそ冷静であったが「聞き捨てならない」と言わんばかりだ。

今の言葉を要約するならば「悪魔が堕天使と組んで聖剣を利用するだろう」ということであり、「可能性の一つだ」と言っていたがゼノヴィアの目には警戒と敵意の色がある。

悪魔にとって聖剣は忌むべき物、教会側がそのように考えていてもおかしい話ではない。

 

「……だが、魔王の妹がそこまで愚かだと思っていないさ。あなたはこの町で起こることに、一切の不介入を約束してくれれば良い」

「了解したわ。お茶でもどう?」

 

ゆっくり息を吐いて彼女らの要求に頷いたリアスは続けて尋ねるが、ゼノヴィアは「結構」とソファから立ち上がる、悪魔と打ち解ける気はないということだろう。

だが、帰る直前にアーシアの顔を見た彼女は動きを止める。

 

「君は……アーシア・アルジェントか。昨日訪れた時はまさかと思っていたが、こんな極東の地で『魔女』に会おうとはな」

「っ」

 

そのキーワードに、彼女は表情を曇らせる。

辛い思い出である言葉はアーシアに、イリナは「ああ」と思い出したように彼女の顔を見る。

 

「悪魔や堕天使を癒す力を持っていたために、追放されたとは聞いていたけど悪魔になっていたとはね」

「イリナッ」

(……んっ?)

 

咎めるようなイッセーの言葉に、彼女は慌てて「ごめん」と口にする。

一方でヴァイアはイリナの言葉に違和感を覚えるが、顔色を変えたアーシアにゼノヴィアは無情にも言葉を続ける。

 

「しかし聖女とは呼ばれていた者が悪魔とはな。堕ちれば堕ちる者…っ!?」

 

その言葉を遮るように突如、ゼノヴィアに流水が降り掛かり、完全に不意を突かれた彼女は直撃したその水に思わず顔を覆う。

いや、それはただの水ではない。

重苦しい空気へと再び変わった部室に広がるのは場違いなほどに鼻に来る磯と潮の匂い……。

 

「ヴァイア、さん……?」

 

海水を放出した人物、ヴァイアは今まで見せたこともない冷たい目で彼女を睨む。

 

「……好い加減にしなよ」

「君は何だ?」

「聞こえなかったの?好い加減にしろって言ったんだよ僕は」

 

その声は冷たく、熱くなりかけていたイッセーの頭を冷やすのに充分な声だった。

彼はゼノヴィアに近づくと今度は至近距離で海水を浴びせる。

 

「神様に選ばれただけの人間が偉そうに言わないでくれ。彼女は僕の友達だ、アーシア・アルジェントは僕の大切な友達だ。これ以上の侮辱は許さない」

 

有無を言わさぬ口調にゼノヴィアが彼を睨む中、イッセーが口を開く。

 

「お前らがアーシアをどう思おうと勝手だっ。だけど……彼女は俺の家族だっ!!これ以上、お前らが俺の家族に手を出すようならそれ相応の覚悟を持ってもらうぜ」

「イッセーさんっ」

 

赤龍帝としての膨大な魔力を放ちながら、アーシアをかばうようにゼノヴィアと正面から向かい合う。

リアスが彼を制止しようとした時、先ほどまで黙っていた木場が剣を構えて間に割って入る。

 

「丁度良い。僕が相手になろう」

「誰だ君は?」

「君たちの『先輩』だよ」

 

冷たい表情でそう名乗った彼は「こっち」だと言わんばかりに旧校舎の前にある広場へと移動する。

イッセーと木場、そしてイリナとゼノヴィアは互いに睨む。

あくまでも形式は非公式の手合せだが、恐らく上層部が知ったらただでは済まないだろう。

ローブを脱ぎ捨てて拘束具のような黒い戦闘服を露わにすると、姿を現した聖剣を構える。

 

「壊したくて仕方なかった物が、目の前にあるなんてね……」

 

嬉しくて仕方がない……。

その言葉と同時に、自らの神器で召喚された魔剣が地面に突き刺さった状態で現れる。

 

「魔剣創造……思い出したよ。聖剣計画の被験者で、処分を免れた者がいたとね」

 

破壊の聖剣を肩に担ぎながら、油断も慢心もないゼノヴィアと改めて対峙する。

シリアスな空気の中でそれを中和するようにイッセーサイドの空気は極めておかしかった。

 

「辰巳一誠君っ!再会したら、幼馴染の男の子が悪魔になっていただなんてっ……何て残酷な運命の悪戯っ!!」

「イリナー?おーい……」

 

日本刀のように変形させた擬態の聖剣を抱き締めるように大仰な動作で喋り続けるイリナに、イッセーは彼女の名前を呼ぶ。

どうやら自分の世界に入っているようで、目を輝かせた彼女は天を仰ぐ。

 

「聖剣の適正を認められ、遥か海外を渡り、晴れて主のお役に立てると思ったのにっ!ああっ、これも主の使命っ!でも、この試練を乗り越えることで、私はまた一歩真の信仰に近づけるんだわっ!!」

((あかん。これ完全に自分に酔っちゃてるよこの娘))

 

ドライグとツッコミをシンクロさせたイッセーは「子供の時もこんなんだったなー」と思い出しながらも、赤龍帝の籠手を装備した左腕を構える。

 

「さぁ、イッセー君っ!私のこのエクスカリバーであなたの罪を裁いてあげるわ!アーメンッ!!」

「『アーメンッ!』、じゃないよっ!!」

 

一直線に向かってくるイリナの斬撃を躱しながらも、しっかりとツッコミを入れる。

だが勢いは止まることなく跳躍した彼女は擬態の聖剣をイッセー目掛けて振り下ろした。

もしもイリナが少しでも戦況を見極めることが出来たのなら、間合いを取るなり聖剣の特性を活かして攻撃することも出来ただろう。

 

「よっと」

 

大振りの攻撃を左に避けて躱すと、着地したイリナに足払いを仕掛けて転ばせる。

「ぎゃぷっ」と可愛らしい悲鳴と共に前に倒れたことで聖剣を手放してしまった彼女に苦笑いしながら、擬態の聖剣を手の届かないところまで蹴り飛ばす。

 

「お終い、と」

(相棒っ!洋服破壊をっ、早く俺に若くてピチピチな女子の裸体をっ!!)

(こんな時に発情すんなマダオッ!!)

 

自重しないドライグを黙らせたイッセーは上体を起こしたイリナにデコピンをして軽く頭を撫でた後、少し離れた場所で見守っていたリアスたちのところへ向かう。

 

「終わりました」

「何ていうか、あっさり終わったわね」

「イリナが冷静だったら、多分苦戦していましたよ」

 

苦笑いでリアスの言葉にそう返したイッセーだったが、木場の方は違った。

様々な属性の魔剣を創造して攻撃に迫るも破壊の聖剣で周囲にあった魔剣ごと、破壊の聖剣で突き立てた地面ごと破壊する。

 

「エクスカリバー……破壊の聖剣は伊達じゃない!」

「くそっ!!」

 

完全に冷静さを失った木場は身の丈以上の魔剣を創造して直進する。

ゼノヴィアも彼を迎え打つべく、破壊の聖剣を構えた瞬間だった。

 

「喝ぁーーーーーーーーーーーつっ!!」

 

野太い男性の大声と同時に再び地面が揺れる。

見れば先ほどとは異なるクレーターが出来上がっており、衝撃による土煙が発生している。

煙が晴れたクレーターの中心にいたのは、袈裟と巨大な数珠を身に着けた屈強な体形の老人で、宛ら破戒僧を彷彿とさせる。

勝負に水を差されたゼノヴィアはその男性を睨む。

 

「貴様、何者だ?」

「拙僧の名はオクトパス……我らが計画のために二つの聖剣を頂きに参った!!」

「「っ!?」」

 

そう名乗った彼は、黒い素体の上に赤い鎖が身体中に垂れ下がった茹ダコのような赤い武者甲冑を纏い、左肩には棘付きの鉄球が装備された異形へと姿を変える。

初めてみる怪人に、イリナはおろかゼノヴィアでさえも目を見開くが我に返ると破壊の聖剣を構えて距離を詰める。

 

「はぁっ!!」

 

臆することなく両手に構えた聖剣を振り下ろし、オクトパス・ネオストラへと斬撃を浴びせる。

しかし…。

 

『その程度か?』

「なっ!?」

 

攻撃が命中しているにも関わらず、破壊の特性を宿した聖剣の一撃を受けて傷一つない……正確には聖剣の輝きと威力を凄まじい速度で吸収している様子に流石のゼノヴィアも驚きの様子を隠せない。

その隙をオクトパスが逃すはずもなく、左手に持った鉄球で思い切り彼女の腹部を殴打する。

強烈な一撃によって苦しげな悲鳴と共に吹き飛び、地面を転がる結果となってしまう。

 

『ふんっ、そんな弱き剣で拙僧に挑むなど笑止千万っ!消えろっ!!』

「っ!駄目ですっ!!」

 

事前に得ていた情報とはあまりにも力に差があるゼノヴィア目掛けて、落胆と怒りの混じった声と共に左腕に巻いた鎖を伸ばして鉄球を凄まじい勢いで飛ばす。

未だ起き上がることが出来ない彼女の射線上に入ってくる。

身を挺して自身を庇うアーシアが後に来るであろう激痛に備えて目を強く瞑った。

だが……。

 

「ぐぅっ!!」

 

その攻撃を防いだ戦士がいた……イッセーが変身するドラグーンだ。

倍加したズババスラッシャーで鉄球を弾き飛ばすと、鉄球を戻したオクトパスと距離を詰めて双剣による斬撃を浴びせようとするが頑強な装甲に防がれてしまう。

 

『貴様が新しい仮面ライダーかっ!!ならば拙僧が直々に叩きのめしてやろう!』

「やれるならやってみろっ!」

【MAX BOOST!】

 

更に倍加したキックでオクトパスを怯ませると、そのまま連続攻撃を仕掛ける。

だがオクトパスは鉄球でそれを防いで逆にカウンターを仕掛けるが、紙一重でそれを躱す。

 

「こっちだ!」

『ふんっ!』

 

互いに獲物をぶつけ合いながら、ドラグーンとオクトパスはそのまま森林の方へと進む。

その様子をイリナとゼノヴィアは呆然と見ていることしか出来なかった。

見たこともない怪人と形態になった赤龍帝、幼馴染に二人の思考は追いつかなかったが腹部への激痛にゼノヴィアは表情を歪めるが、アーシアが神器を用いてその傷を癒す。

 

「……何の真似だ?」

「怪我をしているのですから、治さないと」

 

打算や利益とは無縁の笑みを見せて治療を行う彼女に、黙って身を委ねる。

傷の痛みが引いてきたゼノヴィアは立ち上がると、何も言わずにイリナと共にこの場から立ち去ろうとする。

だがイリナがアーシアの元まで近づき、「ありがとね」と代わりに感謝の言葉を小声で言うと、今度こそ立ち去って行った。

 

 

 

 

 

一方、森林の中ではドラグーンとオクトパスが鍔迫り合いをしながら激突する。

鎖に繋がれた鉄球を伸ばした彼は、思い切り振り回すと周りの木々をなぎ倒しながらドラグーンに攻撃する。

だが大振りなその攻撃を躱したドラグーンはホルダーにシャークバッテリーを装填してインジェクタースイッチを押す。

 

「ランクアップ!」

【CURSE OF CHARGE!……水と氷の魔法でGO! SAHRK BISHOP~!!♪】

 

シャークハートへと姿を変えたドラグーンはバキューンライフルで狙撃して、オクトパスにダメージを蓄積させていく。

負けじと鉄球を構えるオクトパスだったが、ネオストラたちが使っている連絡用の呪法に耳を傾ける。

 

『……了解した。仮面ライダーッ!!次こそは貴様の首を貰い受けるっ!!』

 

そう叫ぶと、身体中から黒い煙幕を発生させて目くらましを行う。

煙が晴れたころにはオクトパスの姿は消えており、イッセーは変身を解除してリアスたちの元へと向かった。

 

 

 

 

 

旧校舎の部室では木場とリアスが言い争っており、その様子を朱乃やアーシアたちが心配に見ている。

事情を尋ねた彼にヴァイアは簡潔に説明する。

どうやら「眷属から抜ける」と宣言した彼に、リアスが怒っているのだ。

自分の眷属を何よりも大切にする彼女が身を危険にするような行為を許せるはずがないのだ。

それでも、部室を出て行こうとする木場に言う。

 

「待ちなさい祐斗!あなたが私から離れることは許さないわ。あなたは私の大切な『騎士』なのよっ!!」

「部長……すみません」

 

その一言だけを言って、彼は部室を去ってしまった。

重くなったオカルト研究部の様子をヴァイアの手元にあったスミロックスが装填されたハートバッテリーを輝かせるのであった。




 何ていうか、アーシアへの冷たい態度って仕方ないと思うんですよ。状況だけ見れば「魔女」と呼ばれても仕方ない行為ですし……今回は何を言われても傷ついた人を癒すアーシアの描写を入れてみました。
 ではでは。ノシ

オクトパス・ネオストラ ICV土田大(ニンジャブルーの人)
キョンシーの忠実な部下であり、負の権化とも言える果てなき闘争心から進化した。
茹ダコのような赤い武者甲冑に赤い鎖が身体中に垂れ下がっており、左肩には棘付きの鉄球とそれに繋がるように左腕に巻かれた長い鎖が装備されている。
鉄球を軽々と振り回して敵を薙ぎ払う他、ロケットのように思い切り発射することが可能で、身体中から黒い煙幕を発生させる能力を持つ。
老僧のごとき威厳と貫禄を感じさせる戦士で好戦的だが、任務を優先するなど忠誠心も高い。近い内に「クラーケン」の名と姿を持った個体に覚醒する模様。


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HEART14 起こったMiracle

 続けて14話です。ようやく筆と気分が乗ってきたような気がします。今回の話は色々なことがカミングアウトされます。


気が付けば、イッセーは見知らぬ場所で立ち尽くしていた。

そこはサバンナを彷彿するような荒野で夕焼けが眩しいほどに美しい……状況を飲み込めない彼は周囲を見渡すと、少し離れた岩場にネオストラがいた。

オレンジ色の獣を思わせるような軽鎧に両腕に鋭い牙のようなクローを生やした異形『スミロドン・ネオストラ』にイッセーはゆっくりと近づく。

やがて、岩に腰を掛けていた彼の元まで向かうとスミロドンが口を開く。

 

『……戦わねぇのか?』

「あんたからは敵意を感じない」

『俺は化け物だぜ?油断させている可能性だってあんだろ』

「だったら俺が来た時点で首を獲っているだろ」

 

その言葉に、ため息を吐いた彼は岩場から降りると改めてイッセーと向かい合う。

 

『てめーは、あの色男をどうしたいんだ。復讐をやめさせたいのか?』

「助けになりたいんだ」

『はぁっ?』

「見捨てることが出来ないから、目の前で苦しんでいる人を助けたいんだ」

 

スミロドンは目を丸くする。

イッセーの言葉だけなら上っ面に聞こえるだろう、ありふれたセリフだ。

だが平然と言う彼のまっすぐな瞳からそれが本当であることが嫌でも分かってしまう。

同時に、その歪なまでの自己犠牲精神を見える。

 

『……そうかよ。だったら、好きにしな』

 

すると、視界が白く染まっていく。

訳も分からぬまま正体を訪ねようとするイッセーに、「そうだ」とスミロドンはゆっくりと振り返る。

 

『その他人優先の考え、少しは治せよ。じゃねーと……死ぬぞ』

 

忠告とも捉えることが出来る言葉を最後にイッセーの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

「……ぃっ、おいっ!起きろ辰巳っ!!」

「んあっ!?」

 

自分の身体を揺さぶられた感覚と、呼び掛ける声にイッセーの意識は途端に覚醒する。

見れば時々訪れる学校の近くにある喫茶店で自分を起こした人物の顔を見上げる。

 

「ああ、悪いな匙」

「急に呼ばれたと思ったら眠りこけやがって……ちゃんと寝てんのか?」

 

そんなことを言いながらも、匙は同じ席にある椅子に腰を下ろす。

確か匙と待ち合わせをしていたのだが、いつの間にか眠っていたらしい。

右手は見ればスミロックスのハートバッテリーを持っており、下手人である隣に座っているヴァイアは何食わぬ顔で漫画を読んでいる。

「さっきの夢はこれのせいか」と思いながらも、ボックス状態でテーブルに置いてあるスミロックスにセットしてヴァイアに噛みつかせると、本題へと入る。

 

「実はさ……部長たちに内緒で聖剣を破壊しようかなーって」

「ぶっふ!?お、おまっ、正気かお前っ!!」

 

とんでもない発言に思わず噴き出した匙が席を立つが、人目に気づいた彼は咳払いをして座り直す。

知り合いがいないのを確認してから口を開く。

「この通りっ」と頭を下げる彼に困った表情を見せる。

 

「聖剣なんて関わっただけでも会長からどんなお仕置きされるか分からないってのにっ!!」

「大丈夫だって。良く言うでしょ?我々の業界では…」

「ご褒美にならないんだよ!最悪死ぬわっ!!」

 

スミロックスに頭から噛まれているヴァイアのフォロー(?)にも匙は怯えた表情で叫ぶ。

どうやら主である生徒会長は本当に恐ろしいらしく、嫌な汗を大量に流している。

 

「とにかく断るっ!!このことは誰にも言わないからっ、お前もバカな真似はするんじゃないぞ!」

 

それだけを言うと匙は素早くこの場を去ろうとするが何かにぶつかったのか立ち止まってしまう。

茂みで見えなかったイッセーが覗き込むとそこにはイチゴパフェを食べている最中の小猫がおり、匙の裾を『戦車』の力で掴んでいた。

逃げられないことを悟ったのか目から大量に流れてくる涙を拭う匙を強制的に座らせながら、小猫はイッセーに策があるのか尋ねる。

 

「……それで、何か策はあるんですか?」

「ああ、教会側に協力を申し出ようと思って」

「そっ。あの二人は奪われた聖剣の消滅もしくは破壊してでも回収するのが目的。そして木場君は憎きエクスカリバーに打ち勝って復讐したい……違う目的でも結果は同じだからね」

 

一見すると目的は別だが、ヴァイアの言う通りエクスカリバーを破壊すること自体は共通しているのだ。

問題はゼノヴィアとイリナがその申し出に頷いてくれるかだが……。

 

「行動しないことには始まらないだろ?当たって砕けろだ」

 

小猫にそうイッセーは力強く言い放つと、一同はまず商店街へと向かう。

ちなみに匙はまだ泣いておりヴァイアに「どうどう」と慰められている状態だ。

 

「なぁ、俺のいる意味あるのか?どう考えても場違いだよ」

「戦力は多い方が良いだろ。しっかし流石に見つからな…」

 

文句を零す匙に返事を返しながら、商店街の道を歩いてた時だった。

見覚えのあるローブ……イリナとゼノヴィアだ。

その肝心の二人は、あろうことか路頭で祈っていた。

「愛の手を」と日本語で書かれた看板を手に何やら喋っている。

 

「迷える子羊にお恵みをー」

「天の父に代わって、哀れな私たちにご慈悲をー」

(……話し掛けたくねぇ)

 

率直に言えばイッセーは今の二人に声を掛けるべきか迷った。

明らかに怪しい二人に……子どもに指をさされた挙句母親に「見ちゃいけませんっ」と足早に我が子を担いで離れていくような胡散臭い二人組の知り合いと思われたいだろうか。

否、思われたくない。

ちらり、と匙に助けを求めるがまだ泣いていたし小猫に目を向けると「言いだしっぺですよね」と逆に睨み返されたことで流石に折れるしかなかった。

 

「えーっと……神の手じゃなくて悪魔の手なら差し伸べるけど、どうする?」

 

 

 

 

 

そして、近くのファミレスにて。

二人のローブの少女が大量に運ばれた食事に手を付ける。

余程空腹だったのか凄まじい速度で料理を消費していくその姿にイッセーは自分の財布を確認する。

 

「美味いっ、美味いぞイリナッ!この国の食事は、美味いぞっ!!」

「ああっ!これよこれっ!!ファミレスのセットメニューこそ私のソウルフードッ!!」

「すいませーん、デザートのプリンパフェお願いしまーす」

「何でお前まで食べてんだっ!!」

 

人目を憚らずただの目の前の食事に感動するゼノヴィアと久しぶりの日本の味にソウルフード宣言するイリナ。

見た目美少女の二人がひたすらに食べる姿に匙は呆れ、どさくさ紛れに注文しているヴァイアにイッセーがツッコミを入れていたが、ようやく二人は食事を終える。

律儀に「御馳走様」と声を揃えた後、ゼノヴィアは複雑な表情を見せる。

 

「まさか、信仰のためとはいえ悪魔に救われるとは世も末だ……!!」

「私たちは悪魔に魂を売ってしまったのよ……!」

「ほほう、流石に信心深いなイリナ。なら勘定は自分たちの手で…」

「空腹だったところを助けていただいてありがとうございましたっ!!」

 

奢ってもらった身分にしてはあんまりな言い草に流石のイッセーも青筋を浮かばせながら笑顔で言い掛けた言葉に、慌ててイリナはゼノヴィアの頭を掴んで共にテーブルに叩きつけんばかりの勢いで頭を下げる。

その態度にため息を吐いたイッセーは口を開く。

 

「どうせ滞在費の全部を胡散臭い絵に使ったんだろ」

「な、なぜそれをっ!?」

「幼馴染舐めんな」

 

図星だったのか、オーバーなアクションを取るイリナを一刀両断すると話題を逸らそうと十字を刻む。

 

「ああ、主よ!この心優しき悪魔たちにご慈悲をっ!!」

「「~~~~~っ!?」」

 

祈りによるダメージに頭を抑える匙と小猫に、イッセーは「忘れてた」と彼女に注意する。

 

「イリナ、俺たち一応悪魔だから」

「あっ、ごめんなさい」

 

「つい癖で」と謝るイリナの横で水を飲み終えたゼノヴィアが本題へと切り出す。

その目は先ほどとは違っており、真剣そのものだ。

イッセーも注文したガムシロ入りミルクを一口飲んで出てくる言葉を待つ。

 

「……で?私たちに接触した理由は」

「エクスカリバーを破壊することに、協力したい」

「何っ?」

 

その言葉にゼノヴィアは理由を尋ねる……彼の行動が独断であることは明白でなぜ眷属の悪魔が自分たちに協力したがるのかだ。

イッセーも木場の事情を話し、その理由を聞いた彼女はしばらく思案するが……。

 

「まぁ、一本ぐらいなら構わない」

「ちょっとゼノヴィアッ!?悪魔の手は借りないって…」

「そう上手くいくかな?」

 

彼女の言葉に反論しようとしたイリナの言葉を遮るようにヴァイアが話を始める。

というよりも、今回の交渉を成功させるべく彼を呼んだのだ。

 

「事は堕天使や教会だけの問題じゃない……向こうはネオストラが協力している可能性が高い」

「……あの怪人のことか」

「聖剣の力でさえも吸収する奴に君たちが勝てるとは思えない……というよりも、君たちは本来来るべきだった人たちの代理じゃないのかな?」

 

その言葉にゼノヴィアの目つきが鋭くなるが、気にすることなくヴァイアは話を続ける。

 

「やっぱりね。君たちの戦闘を見ていたけど、聖剣の力に頼りすぎている傾向があった。一応聞いておくけど、奪った堕天使の目星はついているのかい?」

神を見張る者(グリゴリ)の幹部『コカビエル』だ」

「「っ!!」」

 

その名前に小猫と匙が絶句する。

事情を呑み込めないイッセーにドライグが説明をする。

 

(彼方より存在する堕天使の中枢組織でコカビエルはそこの幹部だ。かつての大戦を生き残った強者でもあり、聖書にも記されている存在だ。その力は最上級悪魔を越えている)

 

その言葉にようやくイッセーも事の重大さを知り、驚いていたがヴァイアは「なるほど」と何処か納得したように何度も頷く。

 

「なら、なおさら僕たちと組むことを勧めるよ。イッセーは今代の赤龍帝でネオストラと唯一戦うことが出来る仮面ライダーだ。悪魔じゃなくてドラゴンの力を借りるのなら、何の問題もないんじゃないかな?」

「……でも、私たちは自己犠牲覚悟で…」

「堕天使と挑みたいなら勝手にしな。でも聖剣奪取の失敗こそ神様の顔に泥を塗る行為だと思うけどねー」

 

イリナの声を遮るようにヴァイアは小バカにしたような口調で言う。

自分たちは主のためなら命は惜しまない、だが任務の失敗は決して許されてはいけないのだ。

しばらく逡巡したが了承を飲むように頷くとヴァイアは満足そうに頷き、時計を見る。

 

「さてと!交渉も纏まったことだし、主役に登場してもらおうかな?」

 

上機嫌に窓の方を向く。

そこには今朝から姿を見せなかった木場が立っていた。

 

 

 

 

 

そして、場所を変えて広場にある噴水で先ほどのファミレスでの話を木場に話す。

 

「……なるほど。正直エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは、遺憾だね」

「まーまー。木場君、これは千載一遇のチャンスだよ?経緯はどうあれ目的が達成出来るなら、それに乗るべきだと僕は思うけどね」

 

何処となく悪い顔をしたヴァイアに宥められている彼を見たゼノヴィアが、息を吐く。

実際のところ、彼女やイリナにとっても聖剣計画は忌むべき出来事だからだ。

 

「君の憎む気持ちは、理解が出来るつもりだ。あの計画の責任者は異端の烙印を押され、追放された」

「『バルパー・ガリレイ』……皆殺しの大司教と呼ばれた男よ」

「その男が……」

 

真に打つべき仇とも言える存在に、木場の視線は一層鋭くなる。

同時に彼も自分の情報を共有する。

 

「少し前に、手先とも言えるはぐれ神父と出会って戦った。イッセー君も知っている人物だ」

「フリードか……!!」

「しぶとい奴だね」

 

人間に躊躇なく手を掛ける怪物のような男の名前に、イッセーとヴァイアは嫌悪感を露わにする。

ゼノヴィアも納得したのか「なるほど」と零す。

 

「教会から追放された者同士が結託するのは珍しくない」

 

そうなると首謀者は間違いなくバルパーに違いない。

だが、同時に三本の聖剣を奪った堕天使の中でも上位に相当するコカビエルと聖剣を狙いに来たネオストラ……段々ときな臭い話になってきた。

一先ず互いの情報を共有したゼノヴィアは「食事と治療の礼は必ず返す」と、明るく手を振るイリナと共にその場から去る。

完全に協力する形になってしまった匙は青ざめた顔でイッセーの肩をゆすっていたが、当のイッセーは自分の名を呼び掛ける木場の方を見る。

 

「申し訳ないが、手を引いてくれ。僕の個人的な復讐に君たちを巻き込むわけには……」

「俺たち眷属だろっ!!仲間で友達じゃねーかっ!そうだろっ!?」

 

自分だけで解決しようとする彼の態度にイッセーは叫ぶ。

裏表もないその言葉に木場は視線を下げる。

 

「……そうだよ。でも…」

「はぐれになんて絶対にさせないっ、それで一番悲しむのは部長だっ!それで良いのかよっ!!」

 

両肩を掴んで真っ直ぐ見る彼の言葉に木場はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。

 

「リアス部長と出会ったのも、聖剣計画が切っ掛けだった」

 

思い出すのは、あの辛く寒い日の出来事……。

来る日も来る日も実験の毎日で、自由を奪われたどころか人間としてさえも扱われない。

それでも、全員が神に選ばれた者だと……いつか特別な存在になれると信じ、願っていたからこそどんな非人道的なこともにも耐えてきた。

だが、あの場にいた自分を含めた子どもたちは皆、聖剣に適合することは出来なかった。

その失敗への答えが、毒ガスによる殺処分だった……。

計画の隠匿も兼ねたその行為になお、神に救いを求めながらも同志たちの手で自分はあの場から逃げた。

追っ手から必死に自分を庇いながら「逃げろっ」と言ってくれた彼らのために、ここが何処なのかすら分からないまま雪の降る夜をただひたすらに走った。

しかし、体力の消耗とガスによって人間としての身体は限界に達しており、命が消えようとしたところでリアスに助けられたのだ。

 

「『私のために生きなさい』……そう言って眷属に迎え入れてくれた部長には心から感謝しているよ。でも、僕は同志たちのおかげで逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めてエクスカリバーを破壊しなくちゃならない」

 

それが、一人だけ生き延びた自分にしか出来ない唯一の贖罪であり義務なのだから……。

そう語り終えた途端、一人だけ大量の涙を流す人物がいた……匙だ。

先ほどの怯えは何処へやら、感銘を受けたのか叫んでいる。

ヴァイアも感動しているのか泣きながらティッシュで鼻をかんでいる

 

「くぅっ!木場っ、お前にそんな辛い過去があっただなんてっ!ただの澄ましたイケメン野郎と思っていたのと、さっきまで震えていた自分が情けないぜっ!!」

 

「辰巳っ」と彼は涙を流したままイッセーの手を掴む。

 

「俺も協力するぜっ!会長のお仕置きがなんだっ、全面的に協力してやるっ!!」

「お、おうっ……サンキュ」

 

メーターが振り切れたようなテンションにやや押されながらも、ようやく重い腰を上げてくれた彼に一先ず感謝の言葉を言う。

小猫も最初から協力するつもりだったのか、木場を見上げたまま口を開く。

 

「私もお手伝いします。先輩がいなくなるのは、寂しいですから……」

「……はは。小猫ちゃんにまでそう言われちゃ、もう無茶なことは出来ないじゃないか」

「っ、じゃあっ!」

 

彼の言葉にイッセーの表情が明るくなる。

それはつまり、木場が自分たちの同行を認めたのと同義であること。

 

「本当の敵も分かったことだし……みんなの厚意に甘えさせてもらうよ」

 

憎しみに飲まれていた顔とは違う、いつもの落ち着いた微笑みで共にバルパーを打倒することを誓うのであった。

 

 

 

 

 

一方、廃墟となっている教会で人間態となっているオクトパスは一体のネオストラに掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄っていた。

理由はもちろん、撤退を指示した理由である。

 

「モールッ!なぜあそこで撤退命令を出した!?まさかあんなニンゲンに尻尾を振る気ではないだろうなっ!!」

『落ち着いてくれ、オクトパス。ボクは別にあいつらの仲間になったつもりはない、それは君だって分かっているだろ?』

 

そんな彼を落ち着かせているネオストラは、銀色のドリルを生やした土汚れのあるブラウンの装甲を纏った剣士のような風貌の『モール・ネオストラ』だ。

青年のような落ち着いた声色で、彼の問い掛けに答える。

 

『あそこで君が暴れていれば確実にあの仮面ライダーとの長期戦になっていた。でも、そうなると当然警戒することが出てくる』

「……『ダイナス』のことか」

『そう。かつて僕たちネオストラの一斉蜂起の際、四体のネオストラと共に反逆を起こしたティーレックスの仮面ライダー。もしあいつがボクたちの存在に気づいたら、赤龍帝の仮面ライダーと協力する可能性だってある』

 

実際、彼らのせいでネオストラは事実上の敗北を迎え、こうして新たな同胞の進化や増殖を目的として暗躍を開始しているのだ。

最悪のケースを考えておくに越したことはない。

 

「では、しばらくは奴らの言いなりになるということか?」

『そうなるね。だけどエクスカリバーは揃いつつある、ボクはあの子たちの犠牲に釣り合うほどの結果を出さなければならないんだ』

 

そう話すモールの声は何処か執念と義務が混じった不気味なものだ。

精神を病んでしまった聖剣計画の関係者に感染したモールもまたその負の感情を受け継いでいるのだ。

落ち着きを取り戻したオクトパスが教会から出ていくと、モールもまた協力関係を結んでいるニンゲンと合流すべく、外へ出て地面へと潜り込んだ。




 モールの感染者は聖剣計画の関係者ですが、騙される形で協力してしまった人物です。そのため、ガスによる口封じに最後まで反対していたけど……といった感じです。
 ここでネタ晴らししても良いのかって?語るスペースがないなと思ったのと特に物語に死支障がないと思ったので。
 ではでは。ノシ


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HEART15 堕天使の名はKokabiel

 さぁ、モールが動き出しますよ。


町の少し離れた廃教会……以前アーシアを助けたことのある場所に少しばかりの因縁を感じながらもイッセーたちはイリナとゼノヴィアの二人と合流していた。

ちなみに二人はここを根城にしていたらしいがスルーしておいた、流石にそこで野暮を言うほど失礼ではないからだ。

そんなことをイッセーが考えながらも、自分たちの格好を見た匙がぼやく。

 

「しっかし、悪魔が神父の格好をするなんてなー」

「抵抗はあると思うけど……」

「いや……目的のためなら、何でもするさ」

 

今回の作戦の発案者であるイリナの言葉に着替えを終えた木場は答える。

リアスと蒼那に気づかれないように集まった彼らは現在、黒い神父服を身に纏っている。

木場の情報によればエクスカリバーを所持しているフリードは神父を狙っているらしく、このような格好をしておけば仕掛けてくるだろうと考えてのことだ。

全員の準備が出来たのを確認したゼノヴィアが口を開く。

 

「全員で動くのは非効率だ。二手に分かれよう」

「なら僕たちは東の方に向かう」

 

その提案にイッセーが答えるよりも先に木場が答える。

態度からまだ危うさは残っているが、最初と比べれば幾分か冷静さを取り戻している。

何か異変を感じたらイリナのスマホに連絡するということで廃教会から出て行動を開始した。

 

 

 

 

 

悪魔サイドのメンバーは暗くなった道を歩く。

外に出る際、ゼノヴィアから「白い龍が目覚めている」と告げられたことで意識しないでいた、近い内に起こる白い龍との戦いを嫌でも意識してしまう。

 

「……どうかしましたか?」

「あっ、いや。次は何処に行こうかなって」

 

小猫の言葉で今は聖剣のことだと思考を切り替えたイッセーの言葉に木場が返す。

どうやら心当たりがあるらしく一行は彼に先頭を任せてその場所へと向かう。

向かった場所はかつてイッセーがヴァイアに連れられて来た場所であり、フリードとの最悪の対面を果たした因縁の場所である。

木場が敷地内に入ろうと足を踏み入れた瞬間、イリナたちから感じた気配と殺気が全員を支配する。

 

「……上っ」

 

小猫の言葉に全員が空を見上げた時だった。

 

「ヒィヤーヤッハッハッハッハッハーーーーッッ!!!」

 

奇声と共に頭上から奇襲を始めた神父……フリードの攻撃に焦ることなく木場は剣を取り出して防ぐ。

火花を散らしていたが、やがて攻撃の続行が不可能だと判断したフリードが宙返りをして住宅の屋根にへばりつく。

 

「耳障りな笑い声をするね、君は」

「おんやぁ?いつぞやのくそ悪魔君に、くそったれのネオストラ君じゃありませんかー???」

 

ヴァイアの顔とイッセーの顔を見てフリードは狂気じみた笑みを見せて喋る。

一方のヴァイアは自分の種族を当たり前のように話したことで、確信へと変わる。

バルパー一派もネオストラと絡んでいるということに……。

 

「今夜も楽しく神父狩りって思ってたっつーのにっ、くそ悪魔とくそネオストラのコスプレかよ……!!」

 

言動こそ以前と変わらず、ふざけているが最後には憎悪の入り混じった声色へと変化しており木場たちを見る目も並々ならぬ執着心がある。

「ペローン」と彼らに見せつけるように舐めている変わった形状の剣は間違いなく奪われた聖剣の内の一本……。

 

(なるほど、天閃の特性……『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』か。厄介だな)

(天閃?)

(簡単に言えば、使用者のスピードを底上げする聖剣だ。使い手によっては光並の速度にもなれる)

 

確かにドライグの言葉通り、フリードは切り掛かってくる木場のスピードと互角だ。

赤龍帝の籠手の能力の一つ『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』を使えば勝機もあるが、あの状況で割り込んだら足を引っ張る可能性がある。

 

「どうすれば……!」

「辰巳。良く分かんねぇけど、あいつの足を止めれば良いんだろ?」

 

イッセーの様子から察した匙は超スピードでの剣戟を繰り返す二人を見上げながら一歩前に出る。

そして左手に装着されたのは使い魔の森で見せたトカゲがデフォルメされたような黒い神器『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』……。

 

「行け、ラインッ!!」

「こいつもおまけだ!」

「あっ?……て、どわっ!!?」

 

神器の口から青白いラインが射出されると、それは木場と空中戦を行っていたフリードの左足首に絡まって拘束する。

ついでにヴァイアの放った高圧の水球が顔面に命中したことでスピードを完全に殺された彼は屋根へと身体を叩きつける結果となる。

 

「小猫ちゃんっ!!」

「っ!」

 

赤龍帝の籠手を召喚したイッセーの呼び掛けにスマホでの連絡を終えた小猫が彼の身体を持ち上げる。

何とかしてバランスを整えた彼は木場に合図を送り……。

 

「今だっ!!」

「……えいっ」

 

投擲した勢いを利用して上へと向かい、そのすれ違いざまに自分の神器を発動する。

 

【Transfer!】

 

木場の右肩に触れて増加させたドラゴンの力を譲渡することに成功したイッセーは背中から着地しながらも、彼に向って叫ぶ。

 

「…痛ててっ。木場っ!」

「ありがたく使わせもらうよっ!!魔剣創造!」

 

真下に剣を突き立てた瞬間、フリードの行動を制限するように様々な魔剣が襲い掛かる。

「くそっ!」と毒づきながらも聖剣の特性を活かした剣捌きで迫りくる魔剣を破壊するが。倒されるのは時間の問題だろう。

勝った……この場にいた誰もがそう思っただろう。

しかし。

 

「フリード、身体に流れる因子を刀身に込めろ」

 

彼の名を呼ぶ老人の声に反応したフリードは「流れる因子よっ!」とふざけた口調で天閃の聖剣を両手で構えると、聖なる力が身体と聖剣を覆う。

そのまま振るって魔剣ごとラインを破壊した彼は上機嫌で声の方向に振り返る。

 

「ナイスっすよ!『バルパー』の爺さんっ、あんたいつからいたのよんっ!!悪い人だねんっ!」

「……まだ聖剣の使い方が十分ではないようだな」

 

彼から「バルパー」と呼ばれた老人の姿は司教の服装に身を包み、メガネを掛けた人相から温厚な人物を思わせるが僅かに空いているその瞳は執着が見える。

 

「お前が、バルパー・ガリレイッ!!」

「……だとしたら?」

 

フリードの持つ聖剣に視線を向けながらも、木場の憎悪の籠った声に返す。

だが彼が剣を構えるよりも先に調子を取り戻したフリードが跳躍して天閃の聖剣を振り下ろそうとするが、その攻撃は防がれる。

 

「アイーン?」

 

その攻撃は乱入者……ゼノヴィアの持つ破壊の聖剣に防がれており、ローブを脱ぎ捨てたイリナも合流する。

「お待たせ!」と元気良く手を振る彼女に苦笑いしながらもイッセーは鍔迫り合いを始めているゼノヴィアとフリードの方に視線を向ける。

 

「反逆の徒、フリード・ゼルセン。そしてバルパー・ガリレイッ、神の名の元に断罪してくれるっ!!」

「ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイッ!!!俺様の前でその憎たらしい名前を出すんじゃねーよぉっ!!こんのワカメ女っ!」

「……はぁっ!!」

 

聖剣を弾いて怯ませたフリードの隙を狙うように、入れ替わりで木場が魔剣を振るうがその攻撃は宙返りによって躱されてしまう。

自分の隣に着地した彼に声を掛ける。

 

「フリード。お前の任務は潜入してきた教会の者を消すこと、流石に聖剣を持った者が二人では分が悪い」

「一端引けって?合点承知の助!!」

 

バルパーの言わんとしていることを察したフリードは懐から取り出した道具で強烈な閃光で目くらましを起こすと、そのまま姿を消す。

 

「逃がすかっ!」

「っ!」

 

表情を鋭くしたゼノヴィアと木場は彼らの後を追い、イリナも慌てて後を追う。

イッセーたちも彼女たちに続こうとしたのだが見覚えのある紅と白の二つの魔法陣が目の前に現れる。

 

「ふふ、これはどういうことなのかしら?」

 

笑顔でそう尋ねるのはイッセーと小猫の『王』であるリアスで隣には朱乃も笑顔でいる。

一方の白い魔法陣には生徒会長の蒼那と副会長の真羅がおり、こちらは無表情だ。

 

「えっと、その……」

 

両者から発せられる圧倒な怒りのオーラに、イッセーと匙は顔を引きつらせるしかなかった。

 

 

 

 

 

場所を移してオカルト研究部の部室。

そこには互いの主の前で正座をする眷属たちの姿があり、匙に至っては土下座に近い体勢をしている。

どうやら事態の把握だけでもと朱乃が監視をしていたらしい。

 

「サジッ」

「ひぃっ!?は、はいっ」

「あなたはこんなにも勝手なことをしていたのですね、本当に困った子です」

 

淡々と、低い声色で話す蒼那に匙は増々顔色が悪くなり、最終的に「すんませんすんません」と床に頭を擦り付けて謝罪する。

イッセーから一先ずの事情を聞いたリアスはため息を吐くと、ソファから離れてイッセーと小猫の視線に合わせるように屈む。

 

「過ぎたことはあれこれ言わない。ただ、あなたたちがやったことは悪魔の世界にも影響を与えたかもしれない……それは分かるわね?」

「はい、すいませんでした。部長っ」

「すいません……」

 

結局、リアスに迷惑を掛けただけでなく小猫や他の人にも迷惑を掛けていた……。

それ以上に木場のためを思っての共同戦線も余計なことだったのかもしれない。

自分への憎悪を滾らせる彼だったが、リアスは優しく小猫共々抱き締める。

 

「もう心配を掛けさせないで……!!」

(……)

 

彼女の様子に少しだけイッセーの心は軽くなったような、そんな気がした。

 

「良い話だなー」

「会長っ、あっちは何か良い感じに…ひぐぅっ!?」

「余所は余所、うちはうちです」

 

ヴァイアは美しき主従愛に感動し、ハンカチを目に当てる。

そんな彼の後ろで匙は蒼那からの尻叩き(魔力を込めた)千回に涙を流すのであった。

ちなみに、その後イッセーと小猫もしっかり千回味わったのは全くの余談だし、裸エプロンをしようとしていたアーシアとリアスに愛奈が説教していたのも些細なことである。

 

 

 

 

 

そして翌日、学校が休日でもあったグレモリー眷属は木場の捜索を始めるべくそれぞれの使い魔とロボックスを使っていたが、公園で何かの反応をキャッチしたシャークックスの合図を受けたことで現場へと向かう。

 

「イリナッ!」

 

身体に傷を負い気を失っていた彼女に、イッセーはアーシアに頼んで怪我の治癒を頼む。

アーシアも神器の力を使うが体力の回復までは不可能なので連絡を受けてきた生徒会に、気を失っている彼女を任せる。

しかし。

 

「これはこれは、餌を嗅ぎつけて集まってきましたねー!ご機嫌麗しゅうっ!!」

『ふんっ!』

 

ふざけた言動で一礼するのは聖剣を構えたフリードと厳格な態度を取る怪人態のオクトパス。

そして……。

 

「初めましてかな、グレモリー眷属」

 

黒い衣装に背中から生やした十対の翼を持つウェーブのかかった長い黒髪の男性。

彼の放つオーラと翼の数から圧倒的な数から全員が理解する。

 

「『コカビエル』……!」

「御機嫌よう、堕ちた天使さん。私はリアス・グレモリー……どうぞお見知りおきを」

「その鮮やかな紅髪、お前の兄サーゼクスにそっくりだ。忌々しくて反吐が出そうだよ」

 

吐き捨てるようにリアスに言い放った堕天使『コカビエル』は自身の目的を語る。

それは、駒王学園を中心に破壊活動を起こして魔王であるサーゼクスを呼び出すこと。

聖剣をわざわざ盗んだのも教会側の連中を呼び出すためであり、バルパーたちを追跡していたイリナとゼノヴィアたちを襲ったのも彼の仕業である。

 

「目的は最初から三つ巴の戦争を起こすこと」

「そうだっ、そうだともっ!!俺は戦争が終わってから退屈で退屈で仕方がなかったっ、総督と副総督のアザゼルとシェムハザも次の戦争には消極的でなっ!!」

 

特にアザゼルに至っては神器を集め出して研究に没頭する始末……。

一応古い付き合いでもあるコレクター趣味に辟易しながらも、言葉を続ける。

 

「俺は戦争をするっ!!今ある均衡を壊し、この手で戦争を引き起こしてやればどいつもこいつも目の色変えて動き出すだろうさっ!!」

 

その語るコカビエルの目は本気で戦争を求めている。

刺激が欲しい、壊れる玩具が欲しい、自分を追い詰めるだけの道具が欲しい、仲間と敵の殺気が入り混じったあの高揚感が欲しい……完全なる戦争狂に全員が戦慄する中、一人だけ笑う男がいる。

 

「あひゃひゃひゃひゃっ!!どうよっ!?うちのボスのイカレ具合っ、何とも素敵で最高でしょっ?こんなご褒美まで頂いちゃってさーっ!!」

『……ふんっ!』

 

長い舌を出しながら狂ったように笑うフリードは自身のコートの前を開けて奪い取った聖剣を見せびらかすが、一方のオクトパスは破壊することしか考えていない彼の言動に鼻を鳴らす。

 

「やれやれ、ここまで繋がっていたとはね」

 

そう一人ごちるヴァイアに気にすることなく、コカビエルは宣言する。

 

「戦争をしようっ。魔王の妹……リアス・グレモリーよっ!!」

『っ!!』

 

挨拶代りに放たれた無数の光の槍にリアスたちは防御用の魔法陣で防ぎ、イッセーも赤龍帝の籠手で槍を粉砕するが、コカビエルたちは既に姿を消しており恐らく駒王学園へと向かったのだろう。

全員の安否を確認したリアスは蒼那たちと共に自身の学び舎へと向かう。

 

「……ふざけんなよっ、腐れ堕天使っ」

 

他人をも巻き込むその蛮行に、イッセーの瞳にも闘志が宿るのであった。



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HEART16 Crossする二つの力

 モールがいよいよイッセーたちの前に顔を見せます。
 本音を言えば怒られないか心配です。


空が暗くなり始めた時刻、駒王学園を覆うように巨大な結界が張られる。

生徒会ことシトリー眷属が一同に結界を張っており、蒼那曰く「外への被害は一先ず問題ない」とのこと。

 

「ありがとう。助かるわソーナ」

「ただし、現状が維持されていればの話です」

 

感謝の言葉を告げるリアスに彼女は言葉を付け加える。

あくまでも結界は一時しのぎ、その元凶であるコカビエルらを倒さなければ意味がないのだ。

その前にサーゼクスに連絡すべきかどうか悩んでいたが、兄にこれ以上の迷惑を掛けられないリアスはしぶっていたが、朱乃の説得により一先ずは納得してくれた。

 

「辰巳、木場との連絡は取れたのか?」

「いや、まだだ。イリナが言うにはコカビエルに襲われた時に二人を見失ったらしい」

 

結界を張っている匙の問い掛けにイッセーは首を振る。

イリナは一先ず安全な場所に避難させており、その際に意識が回復した彼女から二人の行方が分からないことを告げられていた。

 

「……信じましょう。イッセー先輩」

「ああ」

 

小猫の言葉に頷く。

ここで自分が悩んでも、彼は帰ってこない。

だったら彼女の言う通り木場が戻ってくれることを信じるしかない。

 

「それよりイッセー。君の家は大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。母さんと姉さんがいるし……それに、今日は祖母ちゃん家からポチを連れてきたから」

 

並の敵だったら一口で簡単に噛み砕ける……。

そう語るイッセーの言葉に小猫とヴァイア、話を聞いていたアーシアは「ポチ」なる存在の正体に想像を膨らませるが、リアスからの呼び声に気を引き締める。

 

「ヴァイアはサポート、イッセーもネオストラが来るまではサポートに徹してもらうわ」

 

今回はライザー戦とは違い、自身の命を懸けた本当の戦い。

そして既に行動を起こしているであろうコカビエルとバルパーを止めることが目的だ。

 

「みんなで生きて帰って、必ずこの学園に通いましょう!」

『はいっ!』

「りょーかい」

 

明日ある日常を守るために、リアスからの命を受けたグレモリー眷属とヴァイアは返事をするとコカビエルたちのいる運動場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

駒王学園の運動場へと向かうと、地面に書き込まれている術式に聖剣を一定の位置に突き立てて何かの準備を進めているバルパーと上空にいるコカビエルをリアスは見据える。

 

「待たせたわね、コカビエル」

「ふん。その様子ではサーゼクスもセラフォルーも来ないようだな……なら」

 

「こいつらと遊んでろ」と指を鳴らした瞬間、地中から身の丈以上もある獣が現れる。

本来一つあるはずの首は三つ存在し、赤い瞳をギラギラさせながら口から炎を漏らす。

 

「ケルベロス……!!」

「「グオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」

 

冥界に続く門に生息する猛獣……一般では『地獄の番犬』の異名を持つ有名な魔物は空気を震わせるほどの咆哮を三つ首からあげる。

それが戦闘の合図だった。

手筈通り攻撃はリアスと朱乃、小猫に任せイッセーとヴァイアは回復担当であるアーシアの護衛兼サポートに徹する。

魔法を駆使してケルベロスの吐く炎を凍らせ、小猫の小柄ながらも強烈な踵落としが炸裂する。

攻撃に怒りを覚えた個体が前足の鋭い爪で彼女に襲い掛かる。

 

「っ!」

 

左腕を掠るが致命傷には至っていない。

だがケルベロスの右側にある首が口を開けて炎を吐き出そうとする。

 

「口閉じろぉっ!!」

「グブゥッ!!?」

 

倍加した力の強烈なアッパーカットでイッセーが無理やり口を閉ざすと、炎が暴発して燃え上がる。

怯んでいる間にアーシアが小猫の怪我を治癒し、ヴァイアが高圧水流で牽制する。

水を嫌がったケルベロスは狙いを変えてアーシアと自分に攻撃したイッセーを睨む。

ケルベロスが咆哮と共にアーシアとイッセーに襲い掛かろうとした瞬間……。

 

「グオルッ!?」

 

巨体から生えていた三つの首の内の一つが切り落とされた。

その近くにいたのは見覚えのある緑のメッシュがあるボーイッシュな少女。

 

「ゼノヴィアッ!?」

「借りはこれで返したぞ。辰巳一誠、アーシア・アルジェント」

 

その言葉と同時に笑みを作ったゼノヴィアは剣を振るってケルベロスを粉砕する。

新たな乱入者に気づいたもう一体も口に炎を溜めて周囲を焼き尽くそうとするが地中から出現した無数の魔剣に胴体を貫かれる。

そこに現れたのはグレモリー眷属の『騎士』……木場祐斗だ。

 

「祐斗っ!」

「イッセー君、今だっ!」

「ああっ!赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)ッ!」

 

驚くリアスの方を一瞬だけ向くと、すぐに彼はイッセーに呼び掛ける。

イッセーは勢い良く跳躍してリアスと朱乃の背中に触れる。

譲渡で倍加された力を受け取った朱乃は最大の雷でケルベロスを吹き飛ばして消滅させる。

 

「遅刻だよ。イケメン王子」

「はは、ごめん」

 

木場の元まで来たイッセーは軽く会話をする。

そして一瞬だけ視線を合わせると、何も言うことなく二人は行動を開始する。

その一方でリアスも譲渡された力をプラスした滅びの力をコカビエルにぶつける。

軽くいなされてしまったが彼の顔に掠ったことでその表情が変わる。

 

「ほぉ、赤龍帝の力を使えばここまで戦えるのか」

 

興味深そうに笑うコカビエルは「なら」と言葉を続ける。

 

「『あれ』とは互角に戦えるかな?」

「完成だ…!ついに完成したぞっ」

 

それは嬉々としたバルパーの声色とほぼ同時った。

地面が振動すると同時に彼の周囲にあるエクスカリバーが輝いており、それが更に眩く光る。

やがて光が収まるころには術式の中央に一本のエクスカリバーが誕生していた。

 

「大地崩壊の術式を掛けた。後に十分もしない内にここは消し飛ぶ」

 

バルパーの言葉に続くようにフリードとオクトパスも現れる。

「どうする?」と挑発するコカビエルが席を立ったと同時にリアスと朱乃は当然と言わんばかりに、翼を広げた彼に攻撃を仕掛ける。

だが、彼女たちの放った攻撃はコカビエルに防がれただけでなく逆に跳ね返されてしまう。

 

「「ああっ!!?」」

 

どうにか致命傷は免れたが、バランスを崩した朱乃が地面へと落ちていく。

それを見たイッセーが自分を下敷きにすることで衝撃を殺すことに成功する。

 

「ぐっ!?」

「イッセー君っ!ごめんなさい、私…」

「俺は大丈夫です。それよりも…」

 

起き上がったイッセーはコカビエルを見据え、赤龍帝の籠手を突き付けて叫ぶ。

 

「良くも朱乃さんをっ!お前らは絶対に倒すっ!!」

『ならば来いっ!仮面ライダーッ!!』

「変身っ!!」

 

宣言した彼と正面から迎え撃つように現れたオクトパスに走りながら、イッセーはドラグーンドライバーにローカストバッテリーをセットしてドラグーンに変身すると、戦闘を開始する。

その様子に、朱乃は少しだけ頬を染める。

 

「やっぱり、男の子ですわね///」

 

闘志を燃やす彼の姿にしばし見惚れていたがアーシアとヴァイアが来たことで我に返り、リアスから少し尖った視線を向けられていた。

一方の木場はバルパーとフリードの元まで歩き、対峙する。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残り……いやっ、正確にはあなたに人生を壊された」

「……そうか、あの計画の」

「こうして悪魔に転生して生き永らえたのも、全ては無念のままに散っていった同志たちの敵を討つためだっ!」

 

思い出したように呟く彼に、言葉を続けながら木場は剣を突き付ける。

この状況に興味を持ったコカビエルがバルパーとフリードに指示を出す。

 

「せっかくの余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで纏めて始末してみせろ」

「イエッサー!超素敵仕様になったエクスなカリバーちゃんっ、確かに配慮しましたでございまするっ!」

 

手に取ったフリードはその狂気染みた笑みを木場へと向ける。

木場は臆することなく剣を構えるが、フリードはエクスカリバーを振り回しながら口を開く。

 

「いやいやっ!感謝してるよ色男君よぉっ!おかげで超絶スペシャル仕様の俺様を除いた聖剣の使い手ちゃんは、必要な因子の不足分を補えるってわけだからよぉっ!!」

「だが、ミカエル様は命を奪っていないっ!」

 

叫んだゼノヴィアが振り下ろした攻撃をフリードは難なく躱す。

確かに因子を抜き取ること自体は生きたままでも可能であり、教会側も両者に後遺症を残すことなく結晶化した因子の譲渡に成功している。

「それなら」と木場は苦しげな声を漏らす。

 

「死ぬ必要がないのなら、どうして僕たちを毒ガスで始末した?」

「あったま悪いですねー?用済みの被験者は廃棄するのが当然でしょーよ!そっすよねバルパーの爺さん」

 

バルパーの代わりに応えたのはゼノヴィアと剣戟を繰り広げている、これ以上にない狂喜に染まった笑みを浮かべるフリードだ。

対してバルパーは何も言わずに木場の前に青く光る因子の結晶を投げ捨てた。

 

 

 

 

その事実に、地面に膝をついた木場は愕然とするしかなかった。

廃棄……その言葉は憎悪を通り越して、強大な悲哀が彼を支配する。

先ほどバルパーが投げ捨てた因子を両手で拾い、目を瞑ってそれを胸の前に持っていく。

涙を流すも、それでも彼は立ち上がる。

閉じた瞳から涙を流しながらも、彼は両手に持った因子の結晶……否、同志たちの魂に意識を集中する。

同時に、彼の周囲は優しく青い光を放ちながら周囲へと広がっていく。

すると木場の周りに人の形をした青い光がぽつぽつと現れる。

 

「結晶から魂を解き放っているのですわ……」

 

そう呟く朱乃の言葉通り、やがてそれは人の形を成していく。

同志たちの姿を見た木場が口を開く。

 

「ずっと、ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きて良いのかって……!」

 

自分よりも夢を持った子がいた。

自分よりも生きたかった子がいた。

そんな彼らよりも……。

 

「僕だけがっ、平和な暮らしをして良いのかって!」

 

それはずっと秘めていた想い。

自分だけが生き残ってしまったことへの悔恨と懺悔。

だが、その悲痛な叫びから返ってきたのは歌だった。

 

「……聖歌」

 

聞き覚えのあるその歌にアーシアが呟く。

魂だけとなった彼らは一人の同志のために歌う。

そしてその青い光は木場を優しく包み込んでいく。

 

『大丈夫』

『みんな集まれば』

『受け入れて、僕たちを』

『怖くない。例え神様がいなくても』

『神様が見てなくても』

『僕たちの心はいつだって……』

「一つだ」

 

優しい声が、懐かしくも悲しい声が自分に呼び掛けてくる。

生きる希望を、自分の為すべきことを思い出させてくれる。

生きてくれることを願ってくれた同志たちの声にそう呟いた瞬間、光は完全に木場を包み込んだ。

 

「同志たちは、復讐を望んでいなかった」

 

光を吸収した木場は魔剣を召喚してバルパーに一歩近づく。

彼らは自分たちの敵を討つことを願っていなかった。

それでも、目の前の男を許すことは出来ない。

 

「だが僕は目の前の邪悪を討つ。第二第三の僕たちを生み出さないためにっ!!」

 

その瞬間、木場の魔剣に変化が起こる。

シンプルな造形ながらも、刀身の中央には赤い文字が刻まれておりそこから発せられるのは魔と……聖なる力。

彼は至ったのだ。

聖魔融合の剣『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』……世界の均衡を崩すことさえ可能とする領域、禁手(バランス・ブレイカー)へと。

 

「聖魔剣……だとっ!?」

 

突然の事態にバルパーの表情が変わった。

そう、本来ならば二つの反発する要素が混じり合うなど起こりえない事象なのだ。

だが現実として聖魔剣は実在している。

動揺する彼に気にすることなく歩く木場の隣にゼノヴィアが並ぶ。

 

「リアス・グレモリーの『騎士』よ。まだ共同戦線は生きているか?」

「だと思いたいね」

「なら共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」

 

彼女の言葉に木場は驚くも、ゼノヴィアは言う。

あれは聖剣であって聖剣ではない物……異形の剣だ。

そう言い放った彼女は破壊の聖剣を地面に突き立て、口を開く。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

そう告げた詠唱と同時に空間が歪むと、そこから鎖に厳重で繋がれた青い刀身を持つ一本の聖剣が出現する。

その剣の柄を掴みながら彼女は言葉を続ける。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する……『聖剣デュランダル』ッ!!」

 

鎖を砕きながら聖剣……デュランダルを引き抜いた彼女は構える。

これに対してバルパーはまたも驚く。

 

「この世の全てを切り刻むと言われている聖剣……でも研究では…」

「私はイリナたちとは違って、天然ものだ」

「ちゅーことは真の聖剣使いですとぉっ!?んですかその超展開はよぉっ!!?」

 

突然のイレギュラーに完全に冷静さを失ったフリードはエクスカリバーを振るうが、それをデュランダルによって逆に吹き飛ばされてしまう。

デュランダルは触れたものは何でも斬り刻む暴君、だからこそ異空間へと封じていたのだ。

 

「気をつけろ、こいつは私の言うことも碌に聞かない」

「んにゃろぉっ!!」

 

擬態の特性による分裂した刀身を振るうが、それすらも砕かれてしまう。

フリードが一歩足を引いた時だ。

 

「僕を忘れてもらっては困るっ!!」

「ちぃっ!!」

 

木場の攻撃を防いだフリードだが威力があまりにも違う。

地面を蹴って土による目潰した行うが、それを読んでいていた木場は上体を軽く動かして回避すると再び攻撃を開始する。

統合させた擬態と夢幻の特性を組み合わせた分身する多方向から迫る刀身による攻撃を仕掛けるも、全て防がれてしまう。

 

「こんな半端もんの剣が俺様のエクスカリバーちゃんに…ぐぅっ!!」

 

頭に血が上ったフリードの懐に入った木場の一撃が胴体を掠める。

そのまま天閃の特性と『騎士』の特性による高速移動での剣戟が始まるが戦況は圧倒的だった。

途中で透明の特性で目に見えない高速の斬撃を浴びせようにも、攻撃パターンを既に見切っていた木場の前では児戯に等しい。

やがて、木場の剣が透明化していたフリードを捉えた。

 

「そんな剣でっ!」

「くそがぁっ!!」

 

一撃を捌き、フリードの斬撃を躱した木場は蹴り飛ばして怯ませる。

それが致命的だった。

 

「僕たちの想いには、勝てないっ!!」

「がぁっ!お、折れ…ぶぎゃあああああああああああっっ!!!」

 

想いを込めた木場の聖魔剣が歪んだ聖剣ごと、所有者である歪んだ男を斬り伏せる。

地面へと叩きつけられる形になったフリードはそのまま気絶。

荒い息を吐きながらも、エクスカリバーを砕いた木場は口を開いた。

 

「見ていてくれたかい。僕らの想いは……エクスカリバーを超えたよ」

 

それは木場の完全なる、本当の意味での勝利だった。

 

 

 

 

 

「バカな、エクスカリバーがっ……」

 

目の前でフリードが敗北し、完成させた聖剣が折れたことにバルパーは驚きを隠せない。

そんな彼にリアスは叫ぶ。

 

「当然よバルパー・ガリレイ。私の『騎士』は、欲に歪んだエクスカリバー如きに負けないわっ!!」

「信じていましたわ」

「……冷や冷やしましたけど」

「良かったです、本当に……!!」

 

グレモリー眷属が強い結束を見せる中、ドラグーンも木場が勝ったことに「しゃあ!」とガッツポーズしながらも背後から鉄球を振り下ろすオクトパスの攻撃をズババスラッシャー防ぐ。

一方のヴァイアは聖魔剣について考える仕草を見せていたが……。

フリードの戦闘不能を確認した木場とゼノヴィアは愕然とするバルパーは睨む。

 

「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう……っ!?」

 

だがバルパーは光の槍に身体を貫かれ、そのまま倒れてしまう。

攻撃の主はもちろんコカビエル。

物言わぬ存在になった老人を見下ろしながら、彼は口を開く。

 

「充分楽しませてもらったぞ、バルパー。だが余興にも飽きた、好い加減邪魔な連中にはご退場願おうかっ!!」

「そうですね。邪魔者はさっさと消えてくださいね」

 

翼を広げたコカビエルがそう告げた瞬間、幼い少女の落ち着いた声が響く。

大きくないにも関わらず、周囲に聞こえるような聞きなれない声に全員が驚きを露わにする。

しかし。

 

「がっ、ああ……!?」

 

コカビエルの胴体は何かによって貫かれた。

状況が理解出来ないまま、コカビエルは自分の胴体から伸びる物体を見る。

いや、あれは腕だ。

まるで大熊のような白黒の腕にドラグーンとヴァイアは目を見開く。

表情を歪ませながらも、コカビエルは後ろを振り向いた。

 

『……』

 

そこにいたのはキョンシー・ネオストラ、そして小柄なメイド服を着た少女。

宙に浮いていることから恐らくネオストラで風を操って身体を浮かせているのだろう。

 

「キョンシー様っ、ハルピュイア様っ!!」

 

オクトパスは二人に頭を垂れる。

彼の様子から上級のネオストラであることを理解したリアスとドラグーン、そして突然の乱入者に全員が警戒を忘れずにいるが気にすることなく少女はドラグーンのバックルを観る。

 

「なるほど。奪った主の力をハートバッテリーに改造したのですか」

 

そう独り言ちながら、彼女は『この場にいるネオストラ』の名前を呼ぶ。

 

「『モール』、起きなさい。いつまで寝ているのですか」

 

そう彼女は既に絶命しているバルパーの亡骸へと語り掛ける。

本来なら返ってくることはないのだが、『それ』はゆっくりと微動する。

 

「『人使いが荒いなぁ……マジで痛かったんだよ』」

 

老人の声と、青年の声が重なったまま完全に起き上がると、それはバルパーの身体からゆっくりと這い出てくる。

現れたのは全身に銀色のドリルを生やした土汚れのあるブラウンカラーの西洋甲冑を纏ったネオストラ……モール・ネオストラだ。

首をごきり、と鳴らしながら彼は塵になったバルパーの亡骸を見下ろす。

 

「何、だっ……これは、何が……!」

「あなたもご苦労様でした。モールの成長を促す良い道具となってくれました」

 

「どういうことだっ」と必死に言葉を紡ぎながら問い掛ける彼に、ハルピュイアは見下ろしながら「最期の手向け」と言わんばかりに説明を始める。

モールは元々、聖剣計画に関わっていた人間の一人で精神を病んで自害する前に彼女が感染させて誕生した。

 

『あの実験で、多くの子供たちが犠牲になった。だからバランスを取る必要がある』

「ですが、このまま計画を勧めれば何ればれる可能性がある。なので、皮を被ってもらうことにしたのです」

 

「知識の蓄えも兼ねて」とハルピュイアが言葉を続ける。

元々駒王町を犠牲にするほどの行動を起こす予定だったバルパーの知識には利用価値がある、そう判断した彼女は彼を殺害してその亡骸にモールを潜り込ませたのだ。

おかげで手を組んでいたコカビエルの動きによってスムーズに進化させることが可能となったのだ。

 

「あなたは実に優秀でした。モールの計画を手伝って下さり、誠にありがとうございます」

 

恭しく一礼する彼女に、コカビエルの傲慢とも言える誇りは粉々になっていた。

聖書に名を記され、戦争においても数々の勝利を重ねた自分が訳も分からぬ生命体に利用されていた……。

道化のような扱いに怒りを覚えぬほど、彼は底辺ではなかった。

 

「ふざけるなあああああああああああっっ!!!俺がっ、貴様らのような化け物にいいいいいいいっっ!!がっ!?」

『異形が汚い声で喚くな』

 

キョンシーが喉の器官を粉砕すると、今度は憤怒と憎悪の混じった形相で睨む。

それに何の感情も抱かない彼に殺意を昂らせながらも、一方のキョンシーはボロボロになったコカビエルを雑に地面へと投げ捨てる。

その一部始終に動揺する一同に気にすることなく、地面へと降り立った彼女は頭を下げる。

 

「改めまして……私の名前はハルピュイア。ネオストラたちの管理を仰せつかっております」

 

それだけを言うと、彼女はインフェクションドライバーを腰にセットして上部のボタンを押す。

 

【BUGRIALIZE…! WELCOME THE NEOSTRA…!!】

 

自身の遺伝子とも言える薄い水色のウィルスが増殖し、培養されると彼女は戦闘時の姿を取り戻す。

羽根を散らしながら現れたのは水色の猛禽類を思わせるような装甲を纏った黒い人型……何処となく戦士を思わせるような見た目の彼女は自身の腰に手を回すと、巨大な翼を模した二つの剣を召喚する。

 

『申し訳ありませんが、ここで消えていただきます』

「それはこっちのセリフだ。神の名の元に断罪してやる」

 

目の前の怪人にゼノヴィアはデュランダルを構える。

その言葉に反応したのはキョンシーだ。

「やれやれ」と呆れたように言葉を続ける。

 

『「神」だと?そうか、お前も異形を生み出しておきながらその責任を押し付ける無責任な汚物以下の屑に騙されていたのか』

「貴様……!!」

 

冒涜に等しいその言葉にアーシアは両手で口を覆い、ゼノヴィアが怒りを露わにする。

だが次に放った一言がそれを一変させた。

 

『神などいない。俺が殺したのだからな』

「……は?」

 

その言葉に、ゼノヴィアが……いや全員が驚く。

唖然とする彼らに対してキョンシーは言葉を続ける。

 

『正確には俺が感染したオリジナルだがな』

 

キョンシーの感染者は真なる平和のために神をこの手で始末し、永遠の牢獄に囚われた。

その後、戦争によって多大な犠牲を払った三大勢力は人間に頼らなければ種の存続が出来ないほど追い詰められた。

だからこそ、三大勢力のトップは神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽した。

 

「嘘、だっ。神が死んだなんて、貴様に殺されたなんて……!!」

『ならば、なぜ聖魔剣が生まれた?なぜ異形に生まれ変わったそのシスターの神器は異形を治癒出来た?ミカエルは愚かだが実に良くやっている』

 

『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもどうとでもなるからな……。

そう吐き捨てた彼に対して、ヴァイアも納得したように頷く。

あり得ない事象である聖と魔の融合、本来ならば相反する力が一つになるということは神の作り出したシステムに欠陥があったか……その管理を行っていた者がいないかの二択だ。

キョンシーの言葉が事実なら、恐らく本来の管理者がいないからこそ起きた奇跡でありイレギュラー。

 

「そんな……神が、死んでいるだなんて」

「では、私たちに与えられる愛は……」

 

その存在が死んでいたということに動揺が隠し切れていない。

衝撃の真実にゼノヴィアはデュランダルから手を離してしまい、地面に膝を付けて力なく俯く。

アーシアも呆然とその場をふらつき、足元が覚束ない状態だ。

鼻を鳴らしたキョンシーは散らばった聖剣の欠片を集めていたモールに声を掛ける。

 

『モール、最後の仕上げだ』

『アイアイ、サーッ!!』

「っ、何を…!?」

 

我に返ったリアスがモールの行動を止めようとした瞬間、彼は聖剣の欠片を食らう。

バリバリ、と噛み砕きながら全てがモールに入ったと同時に身体が輝き始める。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』

 

圧倒的なまでのオーラを発しながら、モールはその姿を変える。

身体に生えているドリルはそのままに、銀の装飾が入った煌く金の鎧を纏った彼は恍惚とした声色で話す。

 

『ボクは聖剣っ、エクスカリバーその物になったっ!!これでバランスが整えられるっ、あの計画で犠牲となった子どもたちと釣り合うほどの街の破壊が出来るっ!!』

 

『モール・ネオストラ聖剣態』となった彼は、召喚した聖剣……子どもたちが思い描くような西洋剣を召喚して破壊活動を始めようとする。

しかし、それを止める存在がいた。

 

「ふざけんなっ!!」

 

彼……辰巳一誠ことドラグーンは勝手な言い分を語るネオストラたちに対して怒りを覚える。

信仰が深いゼノヴィアとアーシアのことを考えずに真実を伝え、勝手な言い分で街や何の関係もない人々……そして自分の友や恩人を傷つけるその行動にイッセーの心に火が付く。

 

「俺には何もないっ!誰かの盾になることでしか役に立たない薄っぺらい奴さっ……だけどっ、俺には目標があるっ!かつて俺を救ってくれたっ、俺を見捨ててくれなかったあのヒーローのようにっ!」

 

心火を燃やすように叫ぶドラグーンの傍に現れたのはスミロックス……内部からハートバッテリーを排出すると、それをキャッチしてローカストバッテリーと入れ替わるようにセット、インジェクタースイッチを押した。

 

「俺はお前たちと戦うっ、ランクアップ!」

【CURSE OF CHARGE!…燃えるBEAT! メラBEAT! SMILODON KNIGHT!!♪】

 

瞬間、ドラグーンドライバーからバッドでビートな電子音声が鳴り響いた。




 前回で『バルパー』は一度も自分のことを「バルパー・ガリレイ」だと言っていません。現に彼はフリードたちから呼ばれた時は特に肯定するようなことを言っていませんでした。フリードが「いつからそこにいた」と質問していたのも伏線(のつもり)です。
 次回、最高にバッドなビートでお送ります。ではでは。ノシ


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HEART17 燃えるメラBeat!!&白い龍とのChance meeting

 これで第三章は終了です。


周囲にスミロドンバッテリーによる変身を告げる音声が響き渡る。

 

【CURSE OF CHARGE!…燃えるBEAT! メラBEAT! SMILODON KNIGHT!!♪】

 

炎を連想させる電子音声と共に獣の頭部を模したグローブ型のエネルギーが五本の指でドラグーンの頭部を掴むと、スーツだけとなったドラグーンの身体に新たな橙色のメカニカルなアーマーへと装着される。

身体の各部にはブースターが設置されており、頭部はスミロドロンの牙を模したマスクへと変形する。

両腕には炎と獣の頭部を思わせる手袋型グローブ『メラメラグローブ』が装備されると、衝動に任せるように両の拳を打ち付ける。

騎士の特性とスミロドンの獰猛さを併せ持った格闘形態『仮面ライダードラグーン スミロドンハート』である。

 

「グルルッ……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

『っ!?』

 

内に宿る荒々しい闘志に従うようにドラグーンは雄叫びを上げる。

すると、その叫びは周囲を眩いほどの閃光で照らし、身体中のブースターから燃え盛る橙色のビームとなって放射される。

 

『『ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!?』』

『ちっ!』

『この力は……スミロドンのっ』

 

不意を突かれたオクトパスとモールの二体は、ドラグーンの雄叫び『バーニングシャウト』のダメージを受けるが幹部格のネオストラはその攻撃を回避する。

両腕を前に突き出して獣のように構えた途端、目にもとまらぬ高速移動でモールとの距離を詰めて鳩尾に火炎を纏った拳を叩き込む。

 

「バッドミッション・スタートッ!!グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

『なっ、速…ぐあっ!?』

『おのれっ、がはっ!!』

 

徒手空拳でありながら、自身に纏う炎と高熱の光を駆使しながら二人掛かりで襲い掛かるモールとオクトパス相手に互角に渡り合う。

モールには拳の連撃を、オクトパスには蹴りによるコンボを浴びせながら徐々に追い詰める。

だが、敵は二人ではない。

 

『調子に乗るのも好い加減になさいっ!』

『ふんっ』

 

乱入してきたハルピュイアとキョンシーが攻撃を叩き込もうとするが、インジェクタースイッチを押してブースターを倍加させると背後を取ったドラグーンが強烈な一撃を叩き込む。

 

『くっ、ネオストラの力をここまで使いこなすとは……!!』

『このっ!』

 

辛うじて致命傷を避けた彼女だが、ドラグーンの異常な成長速度と適正に驚きを隠せない。

モールは再び聖剣のオーラを斬撃のように飛ばすがメラメラグローブを纏ったドラグーンの拳で弾かれてしまう。

更に一瞬で距離を詰められたと思ったら軽いジャブからのフック、そしてローのフェイントを混ぜたハイキックの流れるコンボによって地面を転がった彼は自身の不利を悟る。

そうなると、行動は一つだった。

 

『ハルピュイアッ!』

『っ!』

 

モールは自身の持っていた首元にセットされていたヒスイに輝く宝玉を取り外して、ハルピュイアへと投げ渡す。

キャッチした彼女を追跡しようとするが、それを邪魔するようにモールとオクトパスが立ち塞がるが炎を纏った拳のラッシュを叩き込まれたと同時に吹き飛ばされてしまう。

 

「終焉っ!殲滅っ!!必殺っ!!!止めをくれてやるっ!」

【EXPLOSION! CURSE OF SMILODON!!】

 

満身創痍となった二体に、ドラグーンはホルダーを下げてスミロドンバッテリーのインジェクタースイッチをもう一度押す。

そして、光と炎をその身に纏った彼は高く跳躍するとスミロドンの幻影を浮かべた状態で両脚蹴りの態勢のまま、ネオストラ目掛けて急降下を始めた。

 

「燃えろぉっ!業火っ!!豪炎っ!!!ビーストバーニングッ!!」

『聖剣がっ、バランスが…ぎゃあああああああああああああっっ!!!』

『ネオストラに栄光あれええええええええええええええええっっ!!!』

 

結界が振動するほど衝撃を持った高熱の光と火炎の必殺キックを直撃したモール・ネオストラとオクトパス・ネオストラはシンボルごと爆散、取り込んだエクスカリバーの破片が地面に散らばる。

部下を撃破されたハルピュイアは「くそっ」と歯噛みしながらも状況の悪化を考えた結果、隣にいたキョンシーに指示を下す。

 

『退きますよっ!』

 

それだけだったが、冷静さを取り戻していたキョンシーはハルピュイアの元まで寄ると彼女が巻き起こした竜巻でその場から退散する。

戦闘が終了したのを確認したドラグーンは変身を解除すると、ふらつく身体で必死にリアスたちの元まで歩く。

 

「ははっ、何とか……勝ちましたよっ、部長」

 

笑顔を見せる彼にリアスと木場たち眷属も笑みを見せる中、ゼノヴィアは彼の雄姿を見ていた。

強い心と正義、それが自身に巣食っていた暗い感情を照らしているような気がしたからだ。

 

「なるほど、これが今代の赤龍帝の力か」

 

突如、若い青年の声と共に聞こえたのは窓ガラスが割れるような音……学園全体を覆っていた結界が砕ける音だ。

イッセーたちが空を見上げるとそこにいたのは『白』。

満月を背に輝く青い宝玉が埋め込まれた白い鎧を全身に纏い、背中から広がる青く光る美しい翼からはドラゴンを彷彿とさせる。

まるで赤龍帝の鎧と非常に酷似しているその姿に、イッセーはただ見ることしか出来なかった。

見覚えはない、だけど分かる。

待ち望んでいたかのような高揚感と寒気……ドライグとゼノヴィアから言われた言葉を思い出す。

 

「白い龍……!!」

「……」

 

イッセーの呟きに気にすることなく、白い龍は森の方を見下ろすと一瞬で姿を消す。

 

「あああああああああああああああああああああっっ!!?」

『っ!?』

 

低い男性の声……先ほどキョンシーに投げ捨てられたコカビエルの悲鳴だ。

全員が慌てて振り向くとコカビエルが運動場に叩きつけられている。

見れば背中の翼が引き千切られており、黒い羽根が周囲に散らばる。

 

「まるで薄汚いカラスの羽だ。アザゼルの羽はもっと薄暗く、常闇のようだぞ?」

「あっ、あああああああああああああっっ!!!」

 

声帯を潰された彼は擦れた声で叫びながら、コカビエルが巨大な光の槍で攻撃しようとするのに対して、白い龍はただ左手を突き出す。

そして……。

 

【Divide!】

「あっ、ああ……!?」

 

男性の声が響いた瞬間、コカビエルの放とうとした光の槍は縮小化しやがて消滅する。

『アルビオン』の魂を宿した彼の持つ神器、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』は触れた者の力を十秒ごとに半減させていき、その力を吸収して自分のものにすることが可能となる。

下手をすれば上級に位置する存在が下級にすら負ける存在にさせることも出来る。

 

「あれが、白い龍の力……!!」

「赤龍帝は倍加した力を誰かに譲渡し、白い龍……『白龍皇』は相手の力を半減させ、持ち主の糧とする……」

 

「伝説の通りね」とリアスは朱乃と共に白い龍を見上げる。

一方の彼は落ちぶれたコカビエルの姿に幻滅したか、一瞬で勝負をつけるべく翼を広げると一瞬で距離を詰めてがら空きとなった腹部に拳を叩き込む。

 

「ぐがっ、あっ!!」

「あんたは少しばかり勝手が過ぎた。事情はどうあれ、ネオストラとも共謀したことで流石のアザゼルもコキュートス行きを決定した」

「ああああああああああああああああああっっ!!!」

 

白い龍のその言葉に、コカビエルは恨みがましく叫ぶがすさまじい勢いで地面に叩きつけられたことで、完全に意識を奪われる。

同時に魔法陣も消滅するが、気にすることなく倒れているフリードの方へと顔を向ける。

 

「あのはぐれ神父にも、聞き出さなければならないことがある」

 

そう言って、フリードの方まで近づいて首根っこを掴む。

その時、ドラグーンドライバーへと変化しているドライグが口を開いた。

 

『無視か、白いの?』

 

挑発するように放ったその言葉に白い龍が振り向き、対峙する。

一方のイッセーと、今まで自分たちと会話をしなかったドライグが喋ったことにリアスたちは驚きを隠せない。

すると白い龍の翼が点滅すると、その言葉を返す。

 

『生きていたか、赤いの。しかし、まさかネオストラと手を組んでいたとはな』

 

その格好、お似合いだぞ……。

嘲るように放った言葉にドライグは「はっ」と息を漏らす。

 

『結構快適だぞ。俺はお前のように派手好きではないからな』

『例え姿を変えても、俺たちは何れ戦う運命にある』

 

赤龍帝『ドライグ』と白龍皇『アルビオン』の会話にリアスは目を見開く。

「話は終わりだ」と言わんばかりに白い龍はフリードとコカビエルを抱えて飛行を開始しようとするが、その前にイッセーの方を振り向く。

 

『また会おう。ドライグ』

「今度は赤龍帝の本当の力を見せてもらうとするよ。何れ戦う俺のライバル君」

 

それだけを言うと、今度こそ白い龍は青白い軌跡を描きながら空へと飛び去る。

全員が空を見上げる中、ただ一人だけヴァイアは彼の言ってた言葉を考える。

 

(あいつ、どうしてネオストラのことを……)

 

まるで自分たちの存在を知っているかのような言動に、彼はただ渋い顔をするが一先ず頭の片隅に追いやって木場の方を見る。

見れば彼は片膝をついて頭を下げており、今回の件について謝罪の言葉を口にしていた。

 

「部長っ、僕は部員のみんなを……何よりも、一度僕を救ってこれたあなたを裏切ってしまいました!お詫びする言葉が見つかりません……!!」

「でも、あなたは帰ってきてくれた。それだけで十分」

 

そう言って彼女は朱乃やアーシア、イッセーたちの方を見渡す。

みんなの想いも無駄にしてはいけない……それを理解した木場は改めてリアスに誓う。

 

「っ、改めてここに誓います。僕、木場祐斗は……リアス・グレモリーの眷属『騎士』として、あなたと仲間たちの終生をお守りします」

 

それは紛れもない騎士の誓い……己の魂を掛けた信頼すべき者たちへの、決して破られることのない約束にリアスはゆっくり頷き、その場で屈んで木場の視線と合わせる。

 

「ありがとう、祐斗」

 

そう微笑んだリアスに、彼はもう一度深く頭を下げる。

ようやく目の前の事件が終わったことに安心したイッセーは木場の背中を叩く。

 

「やったな、イケメンッ!!」

「イッセー君?でも僕は…」

「あー良いって、細かいことはさ。まずは一端終了っ!難しいことはその後で考えようぜ」

 

笑顔を見せる彼に、何も言うことが出来なくなった木場は呆然とする。

「それに」とイッセーは意地の悪い笑みを見せる。

 

「きちんと、お仕置きを受けないとな」

「えっ?」

 

彼の言葉に疑問符を浮かべながらも、リアスの方を見ると魔力を込めた右手で何やら素振りをしている。

一瞬何をしているのか分からなかったがイッセーの言葉から何をしているのか理解する。

 

「お尻叩き、千回ね♪」

「頑張って耐えろよ、『騎士』様』

「……ファイト」

「が、頑張ってください」

「あらあら」

「湿布は用意した、安心してお尻を突き出しなイケメン」

 

満面の笑みを浮かべるリアス、茶化すイッセー、エールを送る小猫とアーシアに笑う朱乃、そして湿布の箱を用意しているヴァイア。

いつもと変わらずに接してくれるメンバーに木場はようやく笑うのであった。

 

 

 

 

 

一方、無事に帰還したキョンシーとハルピュイアは紫色の布で覆われている棺の隣にいたケンタウロスにモールから渡された宝玉を渡す。

 

「頼みましたよ」

「任されたっ!!」

 

満面の笑みを絶やさずにケンタウロスはその宝玉を棺の上に置くと、怪人態に使用するランスを召喚して棺ごと翡翠色の宝玉を破壊する。

途端に凄まじいほどのエネルギーが放出され、それをケンタウロスは外見とは不釣り合いなほどの手先で適量のエネルギーを送り込む。

モールから渡された宝玉は彼自身のウィルスを結晶化した物、聖剣によって膨れ上がったウィルスを棺に収まっている『ネオストラ』に適合するように変換して必要な個所に注ぎ込んでいるのだ。

ケンタウロスのオペを待つ最中で、黒いコートの青年が現れる。

 

「オクトパスとモールはもう一つの目的を達成してくれたみたいだな」

「ホッパー……!!」

「随分と調子が良くなったみたいだな」

 

ハルピュイアとキョンシーの言葉に「ああ」と彼は穏やかな笑みを見せる。

そして、仮面ライダーとの戦いで勇敢に散っていった二人の同胞に対して黙とうを捧げると、近くのソファに腰を下ろした彼は近況を報告する。

 

「マンティスは上手くやっている。『アルビオン』の方は好き勝手にやっているようだがな」

「奴は危険です、今もテロリスト共に改造実験用のウィルスを提供しているのですよ……!!」

「分かっている。だからこそ俺たちも奴らと手を組むことにした」

 

その言葉に過剰に反応したのはキョンシーだ。

僅かな怒気を膨らませた彼はホッパーに詰め寄る。

 

「どういうつもりだ……!?」

「アルビオンの奴を確実に始末するには奴らと手を組むしかない。いざというときには切り捨てれば良い」

 

無茶苦茶な意見をぶつけるホッパーにキョンシーはしばらく睨んでいたが、付き合いの短くない彼を信用することにしたキョンシーは息を吐く。

 

「……勝手にしろ」

「助かる。ただ、作戦に支障のないニンゲンなら別にお前の好きにして構わない」

 

そんな会話をしていた二人に、ハルピュイアは新たな仮面ライダーに対して口を開く。

 

「報告にあった赤龍帝の仮面ライダーのことですが、如何なさいますか?変身前を狙って彼を倒すというのもありますが」

「それは駄目だ」

 

彼女の提案にホッパーは却下する。

同胞の行動を重んじる彼だが、王道を好む彼にとっては非道を最も嫌う。

ハルピュイアもそんなホッパーのことを分かっているのか、ため息を吐いただけで何も言及せずに光が収まったケンタウロスの方を見る。

 

「成功だっ!オペは成功したぞっ!!はははははははははっ!!」

 

その声と共に棺を破って起き上がったネオストラは紫の布を取っ払う。

カブトムシを彷彿させる禍々しい紫色の西洋甲冑を纏い、赤いマントを羽織った騎士のようなネオストラの腰にはインフェクションドライバーがセットされており、紛れもなく幹部クラスであることが分かる。

 

「良く眠れたかい?『エリゴール』」

『ああ、随分とな』

 

かつて72柱序列十五位として名を連ねた上級悪魔の名を持つ『エリゴール・ネオストラ』は、微笑むホッパーに対してそう返すのであった。

 

 

 

 

 

数日後のオカルト研究部の部室にて。

コカビエルとネオストラの戦闘によって運動場などが焼け焦げたりクレーターが出来上がったりと使い物にならなくなっていたが、生徒会が一般生徒たちの登校時間までに校内の修復を行ったため翌日の朝には問題なく授業が開始されていた。

部室にはいつものようにリアスたちとヴァイアがいたが、そこからもう一人……。

 

「やぁ、赤龍帝。私も悪魔になった」

 

両腕を組み、悪魔の翼を広げて何処か自信のあるドヤ顔を見せるのは聖剣の使い手であるゼノヴィア。

学園の制服を着て目の前にいる彼女にイッセーは驚き、アーシアも可愛らしい声で驚きの声をあげる。

木場と小猫も、このことを知ったのはついさっきのことらしい。

 

「『騎士』として新しく眷属になったのよ」

「仲良くしてあげてくださいね」

 

リアスと朱乃は笑ってそう言ったが、イッセーは一先ず状況を理解しようと悪魔になった理由を尋ねる。

 

「……何でまた?」

「神がいないと知ってしまったんでね、破れ被れで頼み込んだんだ」

「ア、ハイ」

 

あまりにもあっさりとした理由にイッセーはもう考えるのをやめていた。

リアスがデュランダル使いが仲間になったことで『剣士の両翼』が誕生としたと喜んでいる表情を見て毒気を抜かれたのもある。

ちなみに職員室にいた愛奈のセンサーがその中二チックなネーミングに反応したらしいが、まぁ別に支障はないので割愛することにしよう。

 

「今日からこの学園の二年に編入させてもらった……『よろしくね、イッセー君♪』」

「真顔で可愛い声を出すな!!」

 

真顔でボケる彼女にイッセーは条件反射の勢いでツッコミを入れる。

指摘されたゼノヴィアは「イリナを真似したんだが」と真剣な表情で考えている。

 

「だけど、本当に良かったのか?」

「主がいない以上、もはや私の人生は破綻したに等しいからな。だが、敵だった者の軍門に下るのは如何なものだろうか?いくら魔王の妹だとはいえ……私の判断に間違いはなかったのか?」

 

途中で自分の選択について何やら思案を始めるゼノヴィア……やがて結論の出ない考えに迷い込んだ彼女は両手を組んで目を閉じる。

 

「お教えください、主よ…あぐぅっ!!?」

「ゼノヴィア、自分が悪魔になったことを忘れんなよ」

 

思った以上に抜けている様子に、最初に感じたゼノヴィアのイメージ像が良い意味で砕けたことでイッセーは苦笑いする。

頭を抑えて地面にへたり込んでいる彼女に、一つ疑問に思ったことを尋ねる。

 

「なぁ、イリナは?」

「……彼女は本部に戻ったよ」

 

少し寂しげな様子で彼女は窓から見える外の景色を見る。

あの時傷の治療を受けていたイリナは神の不在を知らずに済んだため、事件が終わった後は悪魔になったゼノヴィアから渡された聖剣と奪還した聖剣の破片を手に帰国したらしい。

信仰の深い彼女がその事実を知ったら心の均衡が保てるか分からない。

対して自分は最も知ってはならない真実を知ってしまった厄介者、すなわち異端の徒……。

 

「だから、悪魔に……」

「君に謝ろう、アーシア・アルジェント」

 

悲しそうに見るアーシアに、ゼノヴィアは彼女の元まで近づく。

 

「主がいないのなら、救いも愛もなかったのだからな。酷いことを言ったにも関わらず、君は私の傷を癒してくれた……本当に、すまなかった」

 

そして彼女はアーシアの前で深く頭を下げる。

『神の不在』を知らなかったとはいえ、周囲への話だけで彼女を一方的に追い詰めてしまったことを謝罪する。

あの時身を挺てして庇ったこともあってか知らない内に罪悪感が湧いていたのだ。

 

「君の気が済むなら、殴ってくれても構わない」

 

尊敬されるべき聖剣使いから禁忌を犯した異端の徒……それを知った時の周りの目を、彼女は今も忘れられない。

きっと、彼女もあのような目を向けられ避難されたのだろう……。

心から頭を下げる彼女にアーシアは少しだけ困惑するが、彼女の瞳に映る悲しみを理解する。

自然と、彼女は言葉を紡いでいた。

 

「ゼノヴィアさん、私はこの生活に満足しています。悪魔ですけど……大切な人や友達、大切な方々に出会えたのですから。本当に、幸せなんです」

 

純粋な笑顔を向けるアーシアに、ゼノヴィアは「そうか」と微笑む。

神の不在を聞いた彼女も辛いはず……なのに自分を傷つけた相手に笑顔を見せるアーシアと改めて視線を合わせる。

 

「それなら今度、この学園を案内してくれないかな?友達として……どうかな」

「はいっ!」

 

確かな友情が芽生えた二人にヴァイアは「良かった」と何度も頷きながら涙を流しており、見かねた木場がハンカチを渡したが、鼻をかんだため苦笑いする。

アーシアと握手をした後、ゼノヴィアは木場の方を向くと手合わせの約束する。

 

「さっ、新入部員も入ったことだし……オカルト研究部も活動再開よ!」

『はいっ!』

 

立ち上がったリアスの言葉に、新たな仲間を含めたイッセーたちとヴァイアも元気良く返すのであった。




 くぅ疲。これにて第三章は終了です。コカビエルとかもっと活躍させたかったのですが、モールを活躍させようとした結果、何だか道化みたいな役割になってしまいました……こんな話になってしまった非力な私を許してくれ。
 今回のスミロドンハートですが、とにかく炎と光で相手を焼き尽くすマジでバッドなビートダウン系フォームです。ちなみにバッドは「ブレイズ(B)・アクション(A)・ダイナマイト(D)」の略です。スミロドンハートになると漢字二文字の言葉や造語を使うようになります。何処ぞのカシラのような感じです。
 ではでは。ノシ

モール・ネオストラ ICV宮本充
聖剣計画に騙される形で参加してしまった関係者が自害する寸前にハルピュイアが感染させる形で誕生した。
銀色のドリルを生やした土汚れのあるブラウンの装甲を纏った剣士の風貌だったが、エクスカリバーの欠片を取り込んだことで銀の装飾が入った金の甲冑『聖剣態』へと進化を遂げた。
能力は地面を掘って自在に潜ったり、召喚した剣で相手を圧倒することで特に後者の能力は聖剣態となったことで強力になっている。
目的は犠牲の釣り合いを保つことだったが、もう一つは仮死状態だったエリゴール・ネオストラの復活に必要なウィルス(エネルギー)を集めることだった。


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