継ぐ者~提督物語 (お気楽Y)
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出会い

 初めて小説を書きます
何か書き物をしたいという願望はありましたが、敷居が高くてあきらめていました。
このWEB小説を読んで、自分が書いてもいいんじゃないか?
そう想い、書いてみました。
 頭の中に映像が浮かぶものが書きたかったのですが、
文法等おかしいと思いますが、ご意見いただけると嬉しいです。
主な登場艦娘
叢雲 吹雪型5番艦 腰まである少し青みがかった銀髪、獣耳のような艤装を持つ。
白雪 吹雪型2番艦 茶髪のセミロングを後ろで2つ括りにしている、優等生ぽい。



 

  雨粒が頬に当たり後ろに弾けていく、持ち上げられた体が今度は沈んでいく。

 

 バランスを保つ為に、体を前に倒し体重移動した。

 

 横にいるはずの娘を横目で捜すが、うねりが高くて見通せない

 

 「見えるはずないわね・・・」

 

  つぶやいたとき、視界の隅で持ち上がる波頭に何かが見えた。

 

 気になって少し右に針路を変えてみる。

 

 「生存者を発見したわ」

 

 

 

  叢雲は隊内通信を入れて、発見した浮き輪に近づいて行った。

 

 「生存者は男の子、意識はないが呼吸有り」

 

  男の子は浮き輪にお尻を入れて、両手両足を水面にブラブラさせていた。

 よく引っくり返らなかったものだ。

 

 「叢雲、白雪は生存者を収容し帰投、吹雪、初雪は交代が到着するまで、ここで警戒して」

 

 「了解」

 

 

  旗艦の川内からの通信に返しながら、白雪が近づいてくるのを待った。

 近海では深海凄艦も見られなくなったので久々の出撃だった。

 内地に向かっていたヒ68船団が襲われて救援要請を発信。

 朝から荒れた天候で待機中だった上、船団に一番近くの鎮守府だった私達が応援に出動した、

 すでに深海棲艦は護衛に撃退されて後退していた。

 しかし、何杯か輸送船が食われてしまった。

 

 

 「叢雲~」

 

  白雪が着たので男の子は叢雲が抱いて、白雪が周囲を警戒しながら帰投する。

 

 「・・・ユウちゃん」

 

  叢雲の耳は男の子が小さくそう叫んだ声を聞き逃さなかった。

 顔を見たが青白く眠っているようだった。

 

 「急ぐわよ」

 

  叢雲はそう白雪に言って嵐の中速度を上げた。

 

 

 

  うねりが少し収まって、ところどころに日が射してくる。

 

 「そろそろかな」

 

  やっと右手に沖ノ島が見えてきた、もう少しだ、そのとき、

 

 「左舷で何か光りました」

 

  前にいた白雪が不意に叫んで、取り舵を切って突っ込んで行く。

 

 「叢雲はそのまま宿毛へ行ってください」

 

  鎮守府の目と鼻の先のこんなところにまで深海棲艦が潜んでいるなんて、

 背後から聞こえてきた爆雷の音から、逃げるように叢雲は湾内を目指した。

 

 

  白雪は光った場所のあたりで、白いウエーキが消えていくのを見て、

 爆雷の準備をし近づいた。

 

 「対潜戦闘用意~、半速、爆雷てー」

 

 ウエーキの消えたあたりに爆雷を叩き込んだ。

 

 

  潜水カ級は嵐に紛れて商船を喰ってやろうとフラフラここまで来てしまった。

 推進音が聞こえたので潜望鏡を上げて周囲を一回しする途中に、

 艦娘が向かってくるのが見えた。

 

 「シュー]

 

  小さく唸ってカ級は一瞬、魚雷を撃つか潜水するか迷ってから潜った、

 深く潜らないうちに、後ろから嫌な音が聞こえてきくる。

 後ろを振り返りながら、斜め上を見上げる。

 光の中に黒いものが沈んでくる、それを見たカ級は潜るのを止め

 今度は避けるように浮き上がる

 

  カ級の周りに沈んできた爆雷はカ級を追い越して沈んだ

 

 

  通り過ぎた後の水面が盛り上がるのを見ていた妖精が白雪の肩をたたく、

 

 「砲戦用意、撃ち方はじめ」

 

  盛り上がる水面から、カ級が躍り出るのを見た白雪は、12.7mm砲をカ級に向けて浴びせた。

 至近距離からの砲撃に、カ級は命中弾をもらい沈んでいった。

 

 「お疲れ様~」妖精に声をかける。

 

 「叢雲ちゃんは無事戻れたかな・・・」

 

  嵐が過ぎ、夕日が斜めから白雪の顔をまぶしく照らす中、急いで叢雲の後を追う。

 

 

  湾内まで来ると、警戒の交代で出撃する神通さん達とすれ違った

,

 「叢雲、戻りました、生存者も一緒です。沖に潜水艦らしきものあり,白雪が対応中」

 

 「分かりました、お疲れ様です、小隊、対潜戦闘準備、夜は姉さんの十八番ですけどね」

 

  そう言って神通さん達は沖に向かっていった。

 

  叢雲は埠頭に待っていた心配顔の明石さんと冷静に見える不知火に、男の子を預け、

 すぐに白雪のところへ戻ろうとした。しかし、

 男の子は意識が無いのに、いつの間にか艤装をぎゅっと握っていて離さなかった。

 

 「仕方ないわね」

 

  少し困った顔をしたあと、神通さん達に任せることにし、

 明石さん、不知火と診察所へ走った。

 

 走りながら叢雲は、何故か男の子が必ず助かると感じていた。

 

 

 「提督、大淀です」

 

 「入れ」

 

  提督室のドアを開けると、窓の外を眺める広い肩幅が見え、その姿は少し疲れて見えた

 

 「叢雲、白雪が生存者1名を連れて戻りました、帰投中、潜水カ級1隻を撃沈しました

  三水戦に変わり二水戦が現在、海域警戒に当たっていますが、接敵報告はありません」

 

  突然、サイドボードの上にあるラジオがニュースを流しだした

 

 「政府発表、

  本日南方からの船団が深海凄艦の襲撃を受けたが、これを撃退、損害は軽微

  と官房長官からありました」

 

 「大淀、呉の若造からは」

 

 「ヒ68船団の損害は、コンテナ船2、油槽船1、貨客船1、沈没、それから第102護衛戦隊の

  旗艦の鹿島が大破です。」

 

  深海凄艦が出現してから4年が過ぎていた、後退し続けた人類は艦娘の登場で

 かろうじて海に踏みとどまり、近海の保全と海上輸送を続けていた。

 戦況が膠着し世の中には閉塞感が高まっていた、その中で、

 政府は次第に情報を制限するようになっていた。

  

 「ヒ68船団の航路にについては、事前に横須賀の護衛艦隊司令部から連絡がありませんでした」

 

 「横須賀の茶坊主め」

 

  提督は振り向き机の上の受話器を取り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 初めて書きましたが連載できるか判りません。
ですが、書いているうちに自分で考えて、書いている感じではなく
かってに物語が進んでいく気がしました。
 稚拙な文章ですが御意見いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
 


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別れ

 嵐の中救助した男の子
誰なんでしょう?
叢雲にも怖いことがあるようです。


 小さな窓から見える外はすべて灰色で、窓には雨が打ちつける。

だんだん下がっていくにつれ、突然、地面に激突しないか不安になる。

 

「少し揺れます、掴まって下さい」

 

 通信士はそう言って、操縦室に戻っていった。

 

「なんで、私まで来なきゃいけないのよ」

 

 叢雲は2段ベッドの支柱に掴まりながら大淀に文句を言った。

 

「だって、そこの僕があなたが居ないと泣くから、提督が叢雲に世話係を

 命じたんじゃない」

 

「それは鎮守府での話でしょ」

 

 叢雲の隣にちょこんと座った男の子は、叢雲の片手を握って二人のやり取りを

面白そうに眺めていた。

 

「恵児、怖くないからね」

 

 叢雲は恵児の手をぎゅっと握りながら、窓の外を見るのを止めた。

 

 

 小雨の降る中、根岸湾に97式大艇が降りてくる。

翼の付いたかつお節にも見える機体、操縦席の窓の下には叢雲と書かれていた。

元は日航所属(旧大日本航空)の民間輸送機で横須賀鎮守府に徴用されたものだ。

磯子を低空で通過しきれいに着水した。

 

 大淀は接岸を待ちながら2週間前を思い返していた。

 

「貨客船の乗客名簿に該当する男の子は居ません」

 

「何か身元の判るものを身に着けてなかったのか?」

 

「はい、下着に恵児と書いてありました」

 

「恵児・・・大淀、乗組員名簿を見せろ」

 

 

 男の子の名前は榎本恵児、親は貨客船三池丸のコックだった。

提督の旧知の人だったらしく恵児という名前だけでピンとくるものがあったらしい。

シンガポールから船員家族で乗船記録があり、両親2人と妹の記載がある。

三池丸の生存者は彼一人であった。

身元を海上護衛総司令部へ照会したところ、東京に親戚が居るとのことで、

横須賀鎮守府に提督が手を廻して、97式大艇を途中で宿毛に立ち寄らせた。

 

 

「私は横須賀の司令部に報告書を持っていくから、横浜駅に、いちさんまるまる

 に迎えが来るから恵児君を送っていって」

 

 大淀に言われて、二人は大きな格納庫から出て根岸駅に行き、電車で横浜駅まで移動した

この子は意識が戻ってから、まだ一言も喋っていなかった。叢雲には恵児が

自分の境遇が解かっているのかわからなかった。

 

「恵児、あんたの伯父さんが、迎えに来るからね、お辞儀しなきゃだめよ」

 

 恵児は、ただ叢雲の顔を見ているだけだった。でも、しっかり手を握っていた。

やがて電車は横浜駅に着いた、約束した改札口の横で座って待つことにした。

 

「お腹すいてない恵児?明石さんが作ってくれた、おにぎり食べよ」

 

 明石さんは今朝は大変だった、おにぎりを作りながら泣いてるし、飛行艇に乗るときも

操縦士に無事飛行するようにお願いしたり、飛行艇が岸から離れるときは泣きながら一番手を振ってた。

 

「おにぎり美味しいね」

 

 話しかけると、嬉しそうに頷いてまたおにぎりを頬張った。

食べ終えて、恵児のほっぺたについたご飯粒をつまんで食べてやる。

 

「さあ、しゃきっとしましょ」

 

 叢雲は自分に言い聞かせるように言うと立って前を向いた。

行き交う雑踏の前から厳つい紳士が歩いてきて、二人の前に止まった。

 

「君は艦娘かね」

 

「宿毛鎮守府所属、吹雪型5番艦、叢雲です」

 

 紳士は叢雲を見て、横の恵児に目を移した。

 

「彼が武志の子かね?」

 

「はい、でもまだショックが大きかったのか、話すことができません、恵児ご挨拶」

 

 恵児は小さくお辞儀をしたあと、叢雲の後ろに隠れてしまった。

 

「私は武志の兄の大志だ、弟の子を助けてくれてありがとう、海軍省には礼を言っておいたので

 直ぐに褒賞があるはずだ、この子は私が預かる、ご苦労様だった」

 

 そう言って、恵児の手を取ろうとしたが、恵児は手を振って握らせない

 

「恵児、この人はパパのお兄さんだよ、いい子だから聞き分けてね」

 

 叢雲がしゃがんで恵児の目を見て言うと、恵児は大人しくなった。叢雲は立ち上がり

 

「書類を確認させていただきます」

 

 書類を受け取り確認する、まるで間違いを見つけようとしているみたいに

 

「間違いありせん、では、こちらの書類にサインをお願いします」

 

 書類を受け取り、再びしゃがみ込んで

 

「恵児、叢雲はここでお別れだよ、パパのお兄さんのところで元気にね」

 

 恵児を抱き上げ紳士に渡す。

 

「これ、荷物です」 そして小さな袋を渡す。

 

袋は紺色の布で上が紐で結ばれている、恵児とピンクの糸で刺繍がしてある。

不知火が作ったものだ。

 

 紳士は荷物を片手に受け取ると、「ありがとう」そう言って、後ろを向いて歩きだした。

叢雲はじっと後姿を睨みつけていた。

 

「・・・ムラクモ」

 

 叢雲の耳は、あの嵐の時に聞いた声を聴いた。そして、人ごみに見えなくなるまで見送りながら、昨晩の提督の言葉を思い出していた。

 

 

 恵児のお別れ会は食堂で行われていた。艦娘たちが恵児そっちのけで騒いでいたとき

提督が近づいてきて恵児を抱き上げた。

 

「恵児、名前に負けるなよ、恵まれなかったと恨むな、周りを見ろ、おまえは周りに

恵みを与える子だ、運命に負けるな」

 

 提督はそう言って、恵児に食堂にいる艦娘を見させた。

 

 

「恵みを失った私はどうするのよ!」

 

叢雲はつぶやいてから歩き出した。

 

 

 




 1話が終わって、叢雲なら、どうするか、何を話すか、なんて考えているうちに
すぐに2話目が書けてしまいました。
 97式大艇のことを調べていたら、民家に供与した5機に名前が付けられたことを知り
その中に、叢雲 の名前がありすぐ使わせていただきました。
 これで連載と言う形になったので一安心、これで終わりだったりしてw


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仲間

恵児の背景や時代の状況が判ってきます、
新たな人物も登場します。



 かまぼこのようなドーム型の白い天井に校長の声が響く

 

「・・・君たちは、本年より入校条件が変更された1期生であり・・・」

 

 校長の挨拶をを聞きながら斜め上を見る、大講堂のアーチ型の窓の外には青い空に白い雲が浮かんでいるのが見える、手前には父兄の観覧席、そこに彼を知るものは居なかった。

 

 

 海軍江田島兵学校、海軍士官の教育機関であったが、現れた深海凄艦には人類の兵器が通用しないこと、そして、一部の提督の中に艦娘の能力を増加させる提督が現れたため、あらたに対深海凄艦用の提督を発見、育成するために、入校条件 16~19才を13~19才に引き下げ、術科教育の変わりに艦娘の運用教育が行われる艦娘科が新設された。

 

「・・・以上、諸君が無事卒業してくれることを望む」

 

 校長の挨拶が終わった。今回、入校者は50名で、そのうち艦娘科に入校したのは3名だった。

 

 長期化する深海凄艦との戦いで人的資源も疲弊し、人類の兵器が通用しないため志願する者も減ってしまった。

 

 入校生が大講堂から赤レンガの建物に移動する、3人は一番後ろから追っていく。

 

「私は、勝 鹿鈴よ、あなたが坪井君で、あなたが榎本君ね、よろしくね」

 

 前を行く女の子が振り向いて言った。黒髪をショートボブにし、端正な顔立ちに大きな目が印象的だった。

 

「僕は、坪井 航一 よろしく」

 

 横に並んで歩いていた、背が高く痩せた感じの男の子が答えた。

 

「えのもとけいじ」

 

 ぼそっと言った。

 

 

 恵児は伯父さんに引き取られたが、以前の記憶を失くし、言葉も話せなかった。

亡くなった恵児の父(武志)は榎本武揚の家系に連なっており、武志の父は武志が海軍将官になることが望みだったが、武志は海軍に入ったものの、将官になる前に辞めてコックになってしまい。伯父は恵児を海軍士官にするつもりだった。

 恵児は失語症と診断され、治療が施され何とか発音できるようになったが、人と同じように話せるところまでは回復していなかった。自分の境遇については記憶を失くしており、周りから聞かされたことで理解しており、実感を持てなかった。

 伯父は政府の役職にあったが、海軍とは縁がなかった。恵児を海軍に入れることが無理ではないか? と思い始めたとき、海軍兵学校の入校条件変更を政府内で事前に知り、宿毛の提督に相談した。提督が恵児に、艦娘に特別な影響を及ぼす能力があるという上申書を、海軍省に提出したため政府発表の前に入校が決まっていた。

 

 

「もっと背すじを伸ばして歩けないのかしら」

 

 離れた大きな松の木の下から3人を眺めていた白いワンピースを着た少女がつぶやいた。

 

「大きくなったな、また姿が見られて嬉しいだろ、叢雲」

 

 隣に立っていた体格のいい老人が答える。

 

「あれで卒業できるかしら」

 

 宿毛の提督と叢雲は大講堂へ遅れて入り、父兄席の一番後ろに立ち入校式を見守った、そのあと、ここで3人を見送った。

 

 

「今日は入校式だったな」髭を蓄えた男が言った。

 

「宿毛の、老いぼれ が書いた、でたらめの上申を何故許可したのですか、軍務局長」

 

 海軍省軍務局長室で、軍務局長に横須賀鎮守府の提督がたずねた。

 

「何せ前大戦の英雄だからな、無視はできんよ」

 

「それに、彼にその能力が無い事が判明したら退役することも書いてあったしな、それはそれで好都合だ」

 

 軍務局長はそう言って煙草を吸った。

 

「もう昔の戦いは通用しないんだ、いくら前大戦の戦歴があっても役にたちませんよ」

 

 横須賀の提督は、そう忌々しげに言った。

 

 艦娘の登場で提督が戦場で直接部隊を指揮することは無くなった。最初はそのまま実戦経験者が提督を行っていたが、今は運用、開発ができ艦娘に影響を与えられる者が優遇された。横須賀の提督は豊富な資金力で艦娘を開発し、数を揃え練度を上げ成果を出していた。

 

「しかし、なぜ攻勢に出ないのですか?守ってばかりでは勝てませんよ」

 

「それは貴様が知るところではない、それよりもしっかりシーレーンを守れ」

 

 

 所々、木々の間から陽が射す小道を3人は登っている、他の術科の生徒はとっくに行ってしまった。古鷹山は海軍兵学校の北に位置する標高394mの山で生徒誰もが登る山である。

 

「やっぱりとは思ったけど登るのね、この山」鹿鈴が喋る。

 

「僕達にも手加減なしか~」

 

「恵児、大丈夫」

 

 返事の変わりに頷いてみせる。3人のなかでは恵児が一番年下だったので、鹿鈴も航一も気を使ってくれる。

鹿鈴は恵児を助けてくれた叢雲にどこか似ていてすぐに親しみが持てた。航一はどこかひょうひょうとして捉えどころがなかった。

 頂上が近くなると先に登った生徒が降ってきてすれ違う。3人が頂上に着いたときには誰も頂上には居なかった。3人は南側を望める場所に座った、眼下には海や校舎が見える。

 

「ねえ、航一あんた、なんで海軍兵学校に入ったの?」

 

「人に聞くなら自分から言って欲しいもんだね、僕の爺さんは昔、海軍中将でさ、どのみち海軍兵学校へ入るなら早い方がいいかな~と思ってね」

 

「私も似たようなものね、遠い親戚が 勝 海舟 みたい」

 

「本当かよ」

 

「さぁ、どうかしら」

 

 そして二人が恵児を見ると、「おなじ、かりん、けいいち、とおなじ」と言った、

 

「な~んだ、3人ともコネか~」そう鹿鈴が言うと3人で笑った。

 

 

 

 

 




3話も書いてしまった。ていう感じです。
もう少し長く書けるといいのですが、今はこれが限界です
ご批判、感想お待ちしております。、

 PS 次は、戦闘シーンにしたいなw


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覚醒-1

恵児を取り巻く、背景がまた少し見えてきます。
一応この小説で出てくる言葉を解説しておきます。(独自解釈あり)
回頭 船が方向転換すること。
取り舵 船が左へ回るように舵を切ります
砲雷戦 大砲と魚雷で戦うことです
CI カットインの略、艦娘の特殊攻撃。
宿毛 すくも と読みます。
甲島 かぶとじま と読みます。





 波は穏やかで天候は晴れ、風は南西から吹いている。

 

「いい風吹いてきてる、さあ行こう」 と松風

 

「まだ、待つクマ、相手が岬を回って、甲島を過ぎたら仕掛けるクマ」

 

 島の向こう側の岬を眺めながら球磨が話す。

彼女は球磨型軽巡洋艦の一番艦 球磨、髪の毛は栗色で頭の先からはバネのようなアホ毛が出ている。言葉の最後にクマと言うのが特徴。

 

「はい、落ち着いて待ちましょう」 と春風

 

「飛び出したら、相手が島の右を来たら右、左を来たら左、で砲雷戦を仕掛けるけど、距離がないので魚雷は事前に右で準備するクマ」

 

「私に任せなさい、第5駆逐隊の力見せるわよ」 と朝風

 

 突然、先頭で両手をかざし、岬を見ていた球磨が右手を上げたので3人は黙った。岬を見ると

軽巡1、駆逐3の艦隊が岬を過ぎたところで回頭している。そして、甲島の右横を通り抜ける。

 

「突撃だ、クマ」 そういうと球磨を先頭に4人は島影から飛び出した。

 

 飛び出すと、直ぐに球磨を先頭に単縦陣を組む、もともと距離がないので、あっという間に敵に迫る。

 

「右舷、魚雷発射クマ、そのまま右砲撃開始クマー」

 

 球磨達は一斉に魚雷を発射し砲撃を始める。相手も飛び出した球磨達に撃ち返そうとするが、反航戦で事前に準備していなかったので、砲塔が追い付かない。相手の砲弾は球磨達の後ろに水しぶきを上げる。しかし、こちらの砲弾も至近弾ばかりで命中しない。二つの艦隊はあっという間にすれ違った。

 

「回頭準備、右回頭クマ」

 

 そのとき、相手の艦隊で赤い旗が2本上がった。

 

 

 湯気の向こうに海が見える、球磨は頭の上にタオルを乗せ湯船の中でうっとり目を閉じている。そこへ、体を洗い終えた長良が声をかける。

 彼女は、長良型の軽巡洋艦1番艦 長良、髪を後ろで一つにしている。

 

「今日の演習お見事でした、でも、あの近距離で、どうして魚雷を準備できたんですか?」

 

 球磨が目を開けて横を見ると、6つに割れた見事な腹筋を見せて長良が湯船に入ってくる。

 

「フッフッフッー、どうせ間に合わないから、右か左かどっちかに賭けたクマ」

 

「そういうことですか、まだまだトレーニングしなきゃ」

 

「そういうことじゃない気がするクマ」

 

 

 教室では鹿鈴、航一、恵児の3人が演習について話していた。

 

「航一は単従陣で強いよね~」鹿鈴が言った。

 

「今日は、球磨の判断が良かっただけで陣形は関係ない気がするが、どう思う恵児」

 

「今日は関係ないかも、でも単縦陣で強いのは確か」

 

「じゃ~以外に優秀なクマちゃんの本領発揮ね」

 

 恵児は入学する前は一人でいることがほとんどだった。しかし、ここへ来てからは3人でいることがほとんどで鹿鈴と航一の会話を聞き、自分も話そうとしたことで失語症がかなり回復していた。艦娘科は3人が1期生で学校も教え方は手探りで、基本的な軍事知識と、海軍の礼法は教えた、しかし、提督が出撃した艦娘に指示できるのは進退と陣形だけなので、艦娘の運用は演習中心になり、呉鎮守府から艦娘を貸してもらうことで演習を行っていた。今日は球磨の艦隊の提督を航一が、長良の艦隊の提督をを鹿鈴が担当して演習した。

 

「それじゃ、遠征に行った艦隊が戻るので埠頭に行ってくる」 そう言って鹿鈴は教室を出て行った。

 

 演習、遠征は艦娘を借りて行ったが、出撃と工廠関係の事は提督にならないと行えなかった。埠頭から岬の方を見ていた鹿鈴の目に艦隊が現れたのが見えた。先頭には短めの黒髪と左目に眼帯をした艦娘。

 

「鹿鈴、帰ったぜ」

 

「無事、帰投ごくろうさま、お帰りなさ~い」

 

「今回も大成功だぜ」

 

「本当、すご~い」

 

「レディーとして当然の結果よ」

 

「私たちもがんばったのです」

 

「私にもっと任せればいいのよ」

 

「ハラショー」

 

 天竜と第六駆逐隊を遠征に出していたのだ。そこへ、航一と恵児も見に来た。

 

「お~また大成功かよ、鹿鈴は遠征の大成功多いな~」

 

「航一と違って日頃の行いがいいからよ、そう思うでしょう恵児」

 

「う~ん、どっちもどっちなような・・・」

 

「なに、それ」

 

 

宿毛の工廠施設の前では、大淀と明石が立ち話しをしていた。

 

「呉の長良の話だと、坪井という男の子には単縦陣のときに艦娘のCIが多く発動するらしいんです、勝という女の子は遠征の時に大成功が多いらしいそうです」

 

「恵児には、まだ何も特別な事は起きていないの?」

 

「そういう話は聞いていないそうです」

 

「あ~私が行ってメンテしてきてあげようかしら」

 

 

 横須賀鎮守府の提督室の電話が鳴った。秘書艦の長門が受話器を取った。

 

「少々、お待ちください、提督、江田島の事務長からお電話です」

 

「ん、こちらで取ろう、そうだ、すまないが長門、そろそろ工廠に新造艦ができるころだ、見てきてくれないか」

 

 長門がドアを閉めて足音が遠ざかるのを確認して、

 

「どうだ、特別な能力とやらは・・・そうか二人にはありそうか、それで、宿毛の老いぼれ お気に入りはどうだ・・・まだ特別なことはないか、そうか、ありがとう、また連絡してくれ」

 

 提督はすぐに電話を掛け直した。

 

「軍務局長を頼む・・・例の小僧ですが、特別な能力はなさそうです、このまま、卒業まで何も無ければ小僧も、宿毛の老いぼれ 両方とも海軍から追い出せそうです」

 

 この国の海軍は生い立ちから今に至るまで、上層部は一つの派閥で固められていた、それ以外は、よほどの戦功がないと将官にはなれなかった、しかし、深海凄艦の出現と、長引く戦況に閉鎖的な体制に対する批判も多くなり、それを無視できなくなっていた。

 

「もしもの時のために何か手を打っておくか・・・」

 

 そういうと再び受話器を取った。

 

 

 

 




さあ、これで大体の設定ができましたが、まだ、艦娘を一人にするか、鎮守府に一人にするか悩んでいます。どうすればいいんでしょうw


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覚醒ー2

恵児の能力はなんなのでしょうか?

この小説での意味
ブリーフィング 状況説明

主な登場艦娘
叢雲 駆逐艦吹雪型5番艦 腰まである少し青みがかった銀髪、獣耳のような艤装を持つ。
川内 軽巡洋艦川内型1番艦 茶髪のセミロング、夜戦が好き
大淀 軽巡洋艦大淀型    黒い長髪、下縁眼鏡をしている、



夕日に照らされた水面に、5つの影が宿毛湾を港へ進んでいく。

 

「これから調子が出る時間なのに」 先頭の川内が残念そうに言う。

 

「今日も、空振りでしたね、川内さん」 

 

「だよね、最近深海凄艦の目撃情報が多いけど、どう思う吹雪」

 

「こちらを疲れさせるつもりでしょうか?」

 

「そんなこと、奴らができるかな」

 

 埠頭に着くと、大淀が待っていた。

 

「警備任務ご苦労様、帰投したところ悪いけど、川内と叢雲は提督室へ来てください」

 

「なんだろう、なんかやらかしたのか、叢雲?」

 

「何もやってないわよ」

 

 

 提督室に入り直立して言葉を待つ。

 

「警備ご苦労、実は頼みがある、これは強制ではない、断ることは可能だ、明朝から一時的に呉鎮守府の所属になってもらいたい、状況を大淀から説明させる」

 

 二人が大淀を見ると状況を説明してくれた、概要は、今から1時間前に呉鎮守府の提督から電話があった、軍令部から北方海域へ直ちに出撃せよ、との命令で、軽巡と駆逐艦はほとんど出撃する、実は明日、江田島で艦娘科の最後の演習があり、そこへ出す軽巡、駆逐艦が居なくなってしまった、ということである。もし演習が中止になると延期はなく現在までの評価となるのである。

 

「明日は恵児の最後の演習だわ」叢雲が思わず口にした。

 

 恵児は、未だに特別な能力があると証明できていなかった、明日が最後のチャンスだった。

 

「そういうわけで、提督はこの鎮守府から応援を出すことにしたんだけど、ご存知の通り、最近は出撃が多くて、今も出払っていて、明日の朝までに江田島へ行けるのは、11駆逐隊だけなの」

 

「どうだ、行ってくれるか」

 

 叢雲は横の川内を見た。「川内さん」

 

「大丈夫、行くに決まってるだろ、夜は大好きなんだよ、11駆のみんなも行ってくれるよ」

 

「呉の提督も、明日は江田島へ行く、彼には、直接、明日朝までに江田島へ行く、と言っておく、よろしく頼む」

 

「呉鎮守府への派遣命令書です、持って行ってください」 大淀から油紙に包まれた封筒を渡される。

 

 

 教室で待機しながら呼び出しを待つ、もうそろそろ呉から艦娘が到着する頃だ。今日は、最後の演習で、航一と恵児の艦隊が演習を行う予定だ、航一は重巡3、恵児は軽巡1、駆逐3の艦隊を受け持つことになっている。航一は3隻なので陣形が組めず特別な能力を発揮出来ない。恵児は、何が能力か、まだ判っていない。

 

「いつもなら、もう来る頃なのにね、航一」

 

「お前が、イライラしてもしょうがないぞ、鹿鈴」

 

 二人とも今日の最後の演習で、何か結果を見せないと恵児は卒業できないか、卒業しても提督になれないことを知っている。

 

「艦娘科は埠頭の仮設指揮所に集合」放送が入る。

 

「おっ来たか、恵児行くぞ」

 

「恵児君、落ち着いてね」

 

 二人と一緒に教室を出る、仮設指揮所に来ると、呉鎮守府の提督と、重巡艦娘3人は居たが、軽巡艦娘と駆逐艦娘が見当たらない、恵児たちは理由が分からなかったので提督に聞こうとした。すると、呉鎮守府の提督と事務長が話しをしている。

 

「増援の件は認めますが、演習開始時刻を遅れたら演習を中止します、いいですね提督」

 

「ん、構わん」

 

 指揮所の外では、重巡艦娘3人が話をしていた。

 

「もう、中止にしてさ、寝てきちゃだめ~」

 

「なんにも撮らずに帰るのやだな~、衣笠でも撮ろう」

 

「ちょっと、青葉、私を撮らないでよ」

 

「それにしても、宿毛の増援遅いわね~Zzz」

 

「寝るなよ、加古」

 

 事務長が懐から時計を取り出して時間を見る。

 

「残り30分です」

 

 事務長は無表情に残り時間を告げた。

 

 

 岬の方を睨んでいた鹿鈴が、岬を回り込んできた艦娘を見て叫んだ、「来たわよ」

だんだん近づいてくる、艦娘を見ていた恵児が、突然、埠頭の先端に走り出した。皆はあっけにとられて見送った。

 

「叢雲~、叢雲~」恵児は大きく手を振って叫んでいた。

 

 航一も、鹿鈴も、恵児を知る誰もが、彼のそんな大きな声を初めて聞いた。

 

 

 埠頭を誰かが走ってくる、手を振って叫んでいる、叫んでいる言葉が判ると皆が叢雲を見た。

 

「なんで走ってるのよ」 そういうと叢雲は皆の反対側を向いた。

 

 埠頭に着くと、呉鎮守府の提督に到着を告げ、命令書を渡し、指揮下に入った。

 

「それでは、今日の演習を行う、準備するように」

 

 提督の言葉に、それぞれ艦娘とブリーフィングを行う。

 

「初めまして、なのかな、榎本恵児です、今日はありがとうございます」

 

「初めてじゃないわね、あなたは覚えてないかもしれないけど、このメンバーは皆あなたのこと知っているわ」

 

「川内さんですね、旗艦をお願いします、それから、駆逐艦は3人ですので、川内さんが決めてください」

 

 川内がしゃべるより早く初雪が手を挙げた。

 

「私、パス、指揮所で見てる」

 

「じゃ、吹雪、白雪、叢雲、いいわね」

 

「はい」

 

「疲労はどうですか」

 

「大丈夫よ」

 

「川内さん、陣形は単従陣で、大破判定で撤退してください、それと、初雪さんの魚雷を叢雲に装備します」 ブリーフィィングが終わると、恵児は叢雲の前に立った。叢雲は恵児を頼もしそうに見つめた。

 

「恵児、話せるようになったのね、」

 

「叢雲・・・ありがとう、僕を助けてくれて、自分の口からお礼を言いたかったんだ」

 

「あんなの普通よ、お礼を言われることではないわ」

 

「僕は、海軍に入ればいつか叢雲に会えると思って江田島へ入校したんだ」

 

 そう言って恵児が涙目になる、叢雲は見ないようにして、

 

「今日、勝たなきゃ海軍に入れないわよ」 そう言って後ろを向いた。

 

 確かに、重巡艦娘3人に、軽巡艦娘1人、駆逐艦娘3人では勝てる見込みは低かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あっという間に5話まで来ました。
次話は間が空くと思います、  勝利する方法を考えないといけないのでw
批判、感想 お待ちしております。


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覚醒ー3

 重巡艦娘に勝てるのでしょうか?
卒業して海軍にはいれるのでしょうか?
子の小説での意味
狭叉 砲弾の誤差が計算できる状態、当たる確率が高くなる

主な登場艦娘
叢雲 駆逐艦吹雪型5番艦 腰まである少し青みがかった銀髪、獣耳のような艤装を持つ。
川内 軽巡洋艦川内型1番艦 茶髪のセミロング、夜戦が好き。
白雪 吹雪型2番艦 茶髪のセミロングを後ろで2つ括りにしている、優等生ぽい。
吹雪 吹雪型1番艦 髪型は特に特徴無し、正義感の強い元気な艦娘。
衣笠 重巡洋艦青葉型2番艦 明るく気さくでお転婆な性格。一人称は衣笠さん。
青葉 重巡洋艦青葉型1番艦 ソロモンの狼とも呼ばれる。
加古 重巡洋艦古鷹型2番艦 外見通りに明朗快活、サバけた口調のボーイッシュな艦娘。


 浜辺に、小さな波が寄せては返す、風は無風で静かなものだ。

その浜辺に、4人の艦娘の姿、この島は柱島で、演習海域の一番南東になる。演習は、安芸灘のおおよそ20km四方で行われ、北東と南西の角にも島があり、中央の少し北には甲島がある。今回の演習では偵察機と電探は使用禁止である、20kmの距離は重巡の主砲なら、どこにいても射程内だ。

 

「私達の主砲じゃ、重巡の装甲は抜けないわね」 白雪が北を見ながら言う。

 

「こっちが勝つには魚雷を当てるしかないわ」

 

「叢雲ちゃんの言うとおりだけど、どうやってやるの」

 

「夜だったら負けないのに」

 

 全員が目が川内に向くが、理由は聞かない。

 

「夜だったら、一気にガーと近づいて、バンバン撃って勝つのに」

 

 全員が、やっぱりね と言う顔で何事も無かったように会話を続けた。

 

 

 衣笠たちは、北側の島の無い北西の角から演習海域に入るつもりだ。旗艦は衣笠で、青葉、加古と続く、相手は多分、島影に隠れて雷撃してくると考えて島の無いところから入り、中央の甲島付近で主砲の差を活かして、中長距離で闘う作戦だ。

 

「島影に注意して、私は北東、青葉は南東、加古は南西を警戒」

 

「了解、青葉にお任せ」

 

 真っ直ぐ南に向かって進み演習海域に入った、すぐに、

 

「南東に船影、距離20,000」 青葉が警告した。

 

「東に針路を変えて、砲撃するよ、回頭準備、左舷へ回頭」

 

 衣笠たちは取り舵を切り舳先を東に向けて、船腹を南へ向け全門斉射の隊形を取った。

 

「距離15,000、敵艦は単横陣」 川内達は横に4人が広がって北西に進んでくる、青葉の声を聞きながら衣笠は砲撃の合図を出そうとした、そのとき、

 

「あっ、転舵しました」

 

 見ると川内達は、転回しつつある、水雷戦隊が、反転する理由はひとつ、

 

「魚雷だ、各艦、回避行動しつつ、個別に砲撃開始、回頭点を狙え」

 

「敵艦、煙幕展張」 煙幕が川内達の姿を隠す、煙幕に向けて砲弾が飛んでいく。初弾は煙幕付近に飛んだが、川内達は反転して戻ったようだ。煙幕の先に向かって砲撃を続ける、すると、煙幕の中で何かが光った、そして、煙幕より黒い煙が上がった。

 

「命中弾の模様」 青葉が報告する。

 

 その時、衣笠の頭の上で双眼鏡を覗いていた妖精が、衣笠の頭を叩いて右舷の水面を指さす。見ると数本の魚雷が進んでくる。

 

「右舷魚雷、回避~」予測していたことなので、3人はそれぞれ踊るようにステップを踏んで避けた。

 

 煙幕の方を観察していた青葉から報告。

 

「敵艦隊、煙幕から出ました西へ逃げるつもりです」

 

 川内達はこちらに背中を向けて、単従陣で西へ向って離れていく。

 

「追うわよ、一斉回頭準備、艦隊一斉回頭」東へ向いていた衣笠たちは、3人がシンクロしているように一斉に、180度向きを変え、今度は加古、青葉、衣笠の順番で西へ進む。

 

 そして、前部主砲で砲撃しながら追いかける。

 

 

 先頭から、吹雪、白雪、川内の順で西へ逃げる、周りには重巡からの砲弾が水柱を上げ、頭の上から海水が落ちてくる、、撃ち返そうにも吹雪、白雪の主砲では相手まで届かない、川内の後部砲塔だけが撃ち返している。吹雪は何度も後ろを振り返る、

 

「回避運動」川内の命令で3人はジグザグに舵を切る、水柱が川内を挟差する。

 

「まずい、挟叉された」次の砲撃に川内が身構える。

 

 

「よっしゃー、挟叉したよ、次は当てるよ」加古が張り切っている。そのとき

 

「左舷に敵艦」青葉が叫ぶ、見ると左舷の煙幕の中から黒煙を出した叢雲が出てきた。

 

 

 少し前、煙幕の中で叢雲は飛び出したいのを我慢して、川内たちが一方的に撃たれているのを見ていた。

 

「早く近づいてきなさいよ」 衣笠たちが左前方から近づくのを待つ、吹雪から隊内通信が聞こえた、

 

「今です、叢雲ちゃん」

 

 その声を聞いて叢雲は煙幕から飛び出して、

 

「左舷、距離5000、魚雷発射」 3連装魚雷3基から9本の魚雷が衣笠たちに向かっていく。

 

 

 

 川内を水柱が包みこむ、水柱が収まると川内が被弾していた。

 

「川内さん!」

 

 

 同じ頃、「左舷魚雷ー」青葉が叫んだが遅かった、魚雷は衣笠の足元に近づき、衣笠を水柱が包み込んだ、

 

「衣笠!」

 

 水柱が収まり、衣笠を見ると赤い旗が立っていた。「やられちゃったな~」

 

 

 衣笠の赤い旗を見て、叢雲が隊内通信で叫ぶ

 

「やったわよ、そっちは?」

 

「大丈夫、少し貰っちゃったけどね」 黄色い旗を立てた川内が答えた。

 

 

 演習の結果は、恵児の艦隊 大破 川内、中破 吹雪、小破 白雪、叢雲 

        航一の艦隊 撃沈 衣笠、損傷無し 青葉、衣笠、

 

 港に向かって2隊が並んで進んで行く。

 

「上手く嵌められちゃったな~」

 

「こっちは、重巡の皆さんに砲撃されて生きた心地がしませんでした」

 

「今回のMVPは叢雲だな」

 

「そうじゃないと思うわ、撃沈されず時間を稼いだ3人ね」

 

「模擬弾とはいえ当たると痛いね~」

 

「で、なにか思い当たることある?」

 

「・・・」 全員が顔を見合わせた、特別なことは思い当たらなかった。

 

 

 仮設指揮所では、教官、呉の提督、事務長が話をしていた。

 

「この戦果判定は、損害は多いが旗艦を撃破した、恵児君のA勝利で良いですか、提督」教官が聞く。

 

「よろしいのでは」 と事務局長を見る提督。

 

「私は判定に意見する立場ではありません」 と無表情で事務長が答える。

 

 

 

 埠頭で、鹿鈴、航一、恵児の3人が艦隊が戻るのを待っていた。

 

「深追いしたかな~しょうがない」

 

「川内たち頑張ったわね」

 

 二人の声を聞いているのか、いないのか、恵児は岬から目を離さない、そこに現れるであろう艦娘と話したい事が一杯あるのだ。

 

 

 演習の後、校長室に呉の提督と教官は居た、

 

「それで、勝君、坪井君の両名には、特別な能力があるのは判っている、教官、榎本君は?」

 

「それが最終演習で勝利はしましたが、はっきりしたことはありません校長」

 

「・・・」

 

 資料を見ていた提督が訊いた。

 

「重巡の砲撃が川内に2発命中とある、2発も喰らったら撃沈判定ではないか?」

 

「それですか、それは1発は不発弾でした」

 

「今までの演習結果を見せてくれ」

 

 そう言うと資料を再びみる。

 

「撃破率は坪井君が1番、遠征成功率は勝君が1番、損害比率は3人ともあんまり変わらない、しかし、轟沈数が坪井君が2、勝君が1、榎本君が0」

 

「それがどうかしたのかね、たいした差ではないだろう提督」

 

「そうでしょうか、サンプルが少ないのでなんとも言えませんが気になります」

 

「そういえば、他にも轟沈判定が出ても不思議でない状況で、大破判定の演習があります、校長」

 

「その状況をもう少し詳しく艦娘から聞いたほうがよさそうだな、教官」

 

 数日後の教官の報告書、

 特別能力

 勝 鹿鈴 遠征大成功確率UP, 坪井 航一 CI発生率UP、榎本 恵児 不利な状況での運UP

 

 

 

  

 

 

 

 




苦しかったけど、なんとか捻り出しました。
次回はいよいよ提督ですね、

ですが、少し期間を空けさせていただきます。


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始まり

 とりあえず卒業して海軍に入った恵児。しかし特別な能力のデータが少ない為に、提督見習いとしてのスタートになった。


 漁船の上に屋根を乗せたような汽船は、のんびり安芸灘を進んでいく、船べりに座った若い少尉の白い軍装が水面に映える、水面を眺める幼そうな横顔は、のんびりした風景とは似合わず緊張しているように見える。

 柱島泊地、瀬戸内海にある新しくできた鎮守府、そこに提督見習いとして赴任するため、渡船に乗り込んだのは、深海凄艦に対して従来の採用、教育方式を改革して提督見習いになった1期性の1人。やがて柱島水道に汽船は入った。

 

「海軍さん、もう着くよ」 一緒に乗り合わせた行商人から声がかかると、汽船は柱島の埠頭に着いた。

 

 パラパラと降りる乗客に混じって少尉も桟橋に降りる。歩いて行く途中で立ち止まり側の人に尋ねた。

 

「あの~柱島の鎮守府はどっちですか」

 

「ここから右の方に歩いていくと、左側にあるよ海軍さん」 お礼を言ってテクテク歩いて行く。

 

 すぐに右に小さな港があり、左に門がある場所まで来た、門には柱島鎮守府と書かれている、門の前から中を見ると、正面と右手に小さな小屋、左手に工廠らしきもの、新しい鎮守府なので覚悟はしていたがそれ以外は何も無い、とりあえず、中央にある小屋を尋ねてみる。小屋の中は2部屋で、手前は誰もいない、奥の部屋の扉をノックするが何も反応がない。仕方がないので、扉に手をかけて開いた。

 

「榎本恵児、入ります」

 

 部屋は入り口と中央の奥に机があるだけで人気は無かった、入り口の机の上に札が立ててある、「御用の方はこの札を持ち上げて少しお待ちください」そう書いてあるので、札を持ち上げてみる、

 すると、挟んであったのか、糸が窓に向かって伸びて、見ると窓が少し開いていて外へ糸が出ていく、窓を開けて糸の先を見ると、屋根の高さと同じくらいで黄色い風船が浮かんでいた。

 

 

 今日は、よく晴れて風が気持ちいい、このまま後ろに倒れて防波堤で寝てしまいたい気分だ。釣竿から伸びた糸の先にある浮きも波に揺られて気持ちよさそうに浮いている。そのとき、頭の上で双眼鏡を眺めていた妖精が頭を叩いた。

 

「もう来てしまいましたか」 長く青い髪の少女は残念そうに、つぶやくと釣竿を引き上げようとした、そのとき、浮きがグーン、と水面から水中に引き込まれる。慌てて両手で釣竿をしっかり握り引き上げる。

 

 

「申し訳ありません、お待たせしました」 入り口から声がするので表に出る。

 白いセーラー服に長く青い髪、健康的な顔に大きな目、右手に釣竿、左手にバケツを持った艦娘が立っていた。

 

「今日、新しい司令官が着任する連絡をもらったので、お祝いを捕獲しようと出ていました」

 とバケツを前に置く、思わず中を覗くと、25センチくらいの黒鯛が1匹が泳いでいる。顔を上げ彼女を見ると嬉しそうに笑顔で返す、すると急に真顔になり、

 

「白露型6番艦 五月雨です、一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」 そして笑顔に戻った

 

「海軍少尉、榎本恵児です、柱島鎮守府に配属となり着任しました、こちらこそ、よろしくお願いします」 彼女が初期艦になる艦娘なのだろう、

 

「あなたが初期艦でしょうか?」

 

「そうです、司令官のことは叢雲から聞いています、それと、私のことは五月雨と呼んでください」

 

「え~と、では五月雨さん、他の艦娘はどこにいるんですか?」

 

「五月雨と呼び捨てにしてください、それと敬語も不要です、他に艦娘は居ません、私だけです」

 着任報告をどうするか考えようとしたとき、

 

「提督室の机の上に電話がありますので、呉の鎮守府提督に報告してください」 

 

 恵児は、五月雨に言われて奥の部屋に行き電話をする、呉の提督には、すぐに繋がった、分からない事は五月雨に聞くように言われ、これからの活躍を期待しているみたいなことを言われ電話を終えた。さて、これからどうしょう、まずは現状を把握することから始めよう。

 

「五月雨、来てくだ・・・」 呼びかけて言い直そうとする間も無く、

 

「はーい、なんでしょう」 五月雨がドアを開けて返事する。

 

「鎮守府内を案内して欲しいんだ」

 

 鎮守府の正面の小屋に提督室と事務室、右の小屋は学校のような作りで長い廊下が東西に走り、南側に小部屋がいくつかあり、奥から炊事部屋、食堂、それと小部屋が3つ、左には工廠設備とお風呂。とりあえず、正面の小屋を事務棟、右の小屋を住居棟と呼ぶことにした、すぐに案内は終わってしまった。

 

 

「どうしようか・・・」 提督室で想いを巡らせ五月雨を見る。

 

「まずは神様に挨拶しましょ」 五月雨が言ったので、渡船の着いた港まで戻り、そこからさらに賀茂神社まで歩いて行き、二人で神社にお参りして鎮守府へ並んで歩いて帰る途中、

 

「提督は何をお願いしました?」

 

「え~と、まだ見習い提督なので、少尉でいいよ」

 

「少尉?、ん~何か言い難いです、じゃ司令官のほうがいいですね、で何をお願いしたのですか」

 

「挨拶とこれからお守りください、鎮守府が賑やかになりますように、で五月雨は」

 

「秘密です」 そういうと走りだして振り向く、

 

「先に行ってますね~司令官」 手を振って行ってしまった。

 

  

 鎮守府に戻り提督室に入るが五月雨の姿は無い、次に何をするか相談しようと思い探すことにするが、残りは住居棟と工廠しかない、まず住居棟に行くことにする、一番奥の炊事部屋で、まな板に載った黒鯛を包丁を持ち仁王立ちで睨む五月雨が居た。

 

「どうしたんだ五月雨」

 

「あっ、これどうしたら食べられますか、指示をお願いします、司令官」

 

「これ今日、五月雨が釣った魚だよね」

 

「はい、釣るのも、釣ったのも、料理するのも初めてです」

 

 最初の仕事は黒鯛のさばき方になるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 この先も不定期連載となります。生ぬるい目でお願いいたします。
批判、感想お待ちしております。


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実戦

 柱島鎮守府に着任しました、これからどうなるんでしょうか?

 主な登場艦娘 
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘

 この小説での解説
 レーション 海軍から配給される糧食


 開いている窓の向こうの港では、青い空に白い海鳥が何羽も舞い、海面には光が反射して、キラキラいくつも輝いている。

 

 のどかな風景だが、眺めている司令官は悩んでいた。艦娘が絶対的に不足だ。現在、柱島鎮守府には艦娘は1人しか居ない。建造すればいいのだが、国家は資源切迫の状況で、建造には上官の許可が必要で、さらに鎮守府ごとに投入できる資源も制約があり、大型艦建造まで許されているのは横須賀のみ、資源600までが呉、佐世保、資源400までが舞鶴、資源250までがその他鎮守府となっている。海軍が建造を鎮守府任せにしない理由はもうひとつあるが、それは後述とする。

 

 机に座り書類を書き始める、出来たばかりの柱島鎮守府が建造の上申を出すには勇気が居る状況だ。しかし、1人では遠征で資源を得ることも、経験値を上げることも無理だ。せめて警備任務ができる3人は欲しい。悩んだ末に上申書を書き上げ呉への連絡文書と一緒に送ることにした。

 

 

 数日後に返信が来た、上申された案件はすぐには返答できない、という回答だった。がっかりして提督室の椅子から立ち上がり窓から港を眺める、ラジオからはニュースが流れていた。

 

「・・・昨日、本土に向かう深海凄艦の艦隊を警戒中の艦隊が発見したとのことです」

 

 港の防波堤を見ると数人の子供達が海に向かって釣りをしている、その中に麦藁帽子にセーラー服姿の少女。彼女は初めて釣りをして、いきなり釣果を上げて面白くなったらしい、あれから時間があると釣りをしている。

 少女は当鎮守府唯一の艦娘 五月雨 だ。当人によると味気ないレーションばかり司令官に食べさせられないということらしい。でも、釣った魚を料理をするのは司令官だった、神様は五月雨に料理の才能は与えなかったらしい。五月雨がこちらに気づいたのか立ち上がってこちらに向かって大きく手を振ってくる、それに控え目に手を上げながら答えた後、もう一度上申書を書こうと机に座りなおした。

 

 

 夜、提督室から出ようとしたとき、黒電話が鳴った。

「ニュースは聞いていると思うが、今回は複数の深海凄艦の艦隊が活動している、呉にも迎撃艦隊の要請があり明朝出撃させる。他の鎮守府からも出撃する予定だ、今までにない深海凄艦の大規模な侵攻のようだ、一応柱島鎮守府も警戒しておくように」 呉の提督からだった。

 

 近海の制海権は,最近の5~6年は人類が確保している。艦娘が登場してから、瀬戸内海まで進入されたことは無い、だが胸騒を覚えた。

 

 

 翌朝、太陽が水平線に見える前から埠頭では、司令官と五月雨が沖合いの柱島水道を眺めていた。すると、まだ薄暗い北から隊列が近づいてくる、出撃する呉の艦隊だ、司令官には点にしか見えないが、五月雨には2列縦隊で整然と進んでくるのが判る。片方が、名取を先頭に皐月、文月、水無月、長月、もう片方が衣笠を先頭に、古鷹、青葉、球磨、千歳。

 

 ☀ ☁ ☂

 

「新しくできた柱島鎮守府に、江田島の恵君が配属されてるのよ、初期艦は五月雨だって」 右手の柱島を見ながら青葉が後ろから衣笠に声をかける。

 

「青葉、提督に恵君は止めな」 同じく右手を見ながら衣笠が答える。

 

「埠頭に人がいるクマよ」

 

 ☀ ☁ ☂

 

 二つの隊列が目の前の沖合いを通り過ぎ南へ遠ざかるまで二人は帽振れをして見送った。

 

「任務を無事達成して戻りますよ、司令官」 五月雨が自分に言い聞かせるように言う。

 

「一応、今日は五月雨も出撃待機でお願いします」

 

「了解、・・・ですが司令官、お願いは余分です」

 

 損傷した艦娘が帰投中に救援要請や、柱島に寄ることがあるかもしれないので応急修理要員とおにぎりを用意したが、何事も無く夕方になった。提督室のラジオから夕方のニュースが聞こえてきた。

 

「・・・深海凄艦の艦隊はいくつかの方面から本土への接近を試みましたが、わが海軍の艦隊に駆逐されたとの政府発表です」 思わず肩から力が抜ける、知らないうちに緊張していたみたいだ。

 

 

 島の夜は静かだ、島の人々が眠りに着くと波の音しか聞こえない。何か耳障りな音が聞こえてきて目が覚める、どうも外から聞こえてくるようだ、部屋から出て外を見に行こうと廊下に出る、すると五月雨も廊下に出ていた。窓から入る月明かりに浮かぶ五月雨を見ると艤装を装着して、いつもの笑顔は無く緊張した表情だ。

 

「五月雨、あの音は?」

 

「深海凄艦の出す音に似ています、司令官」

 

 二人は廊下から外に走り出て、海のある方角を見る。暗闇の中に遠くで小さな光が沖合いを南から北に移動している、音はそちらから聞こえてくる。

 

「五月雨、確認できるか?」

 

「深海凄艦です、損傷して火災が発生しているものと思われます」

 

「単艦?クラスは」

 

「ここで見る限り単艦です、クラスは中、小型艦、迎撃させてください」

 

「え~と、まずは呉へ連絡を・・・」

 

「そんなことやってる間に港を襲われたらどうします」 五月雨が見つめる。

 

「・・・五月雨、深海凄艦を迎撃せよ、ただし、複数艦、中型艦以上の戦力だったら時間を稼いで、僕は今から呉へ連絡を入れる」

 

「了解、ドジっ子なんて言わせません」 五月雨は返事をしてからニコっと笑い走って行ってしまった。

 

 ☀ ☁ ☂

 

 暗闇の海面を髪をなびかせながら白いセーラー服の五月雨が滑るように炎を目指して進む、こちらにまだ気づいていないようだ。

 シルエットがはっきりしてくると軽巡ホ級だと判った、左の砲塔に火災が発生して、機関も損傷しているのかスピードも出ていない。手負いの軽巡なら十分勝機はあるが、長引いて一発貰ったら、こっちも大きな損害受ける。五月雨は一瞬で判断して相手の後ろに回り込むように針路を変えた、相手の左舷後方から近づくことにした。

 

 ☀ ☁ ☂

 

 ホ級は、戦闘中に被弾して走り回っているうちに艦隊とはぐれてここまで来た。左手の砲塔の火が鎮火せず、機関も時々咳き込んでイライラする、怒りで何かに復讐しなくては気がすまない。左の方に明かりが見えた、あそこに行って暴れよう。そのとき、後ろに何か気配を感じ振り向こうとした。

 

「やぁ~」 声とともに左後ろから体当たりされてバランスを崩す。体勢を立て直しながら、右手の砲塔を体当たりされた方に構える、しかし構えたところには何も無かった。そして突然背後で砲撃音がして後頭部を撃たれ、ホ級にはそこから先のことはもう永久に知ることはできなかった。

 

 ☀ ☁ ☂

 

 五月雨は体当たりしてホ級を減速させた後、体勢を崩している間に背後に回り込み、後ろからホ級を砲撃したあと、魚雷を発射して止めを刺した、そのあと周りを警戒したが他に艦は居なかったので帰投する、埠頭に近づくと司令官が立っているのが見えた。

 

「任務完了しました、司令官」 言った後、笑顔になる五月雨。

 

「お疲れ様、いきなり初めての実戦でなにがなんだか・・・、でもありがとう 五月雨」 同じく笑顔で答える。

握手の手をを差し出すと五月雨もテレながら握手を返してくれた。

 

 

 五月雨は提督室で、司令官の電話が終わるのを待っていた。

 

「・・・はい、ありがとうございます。今後も努力します」 電話が終わった司令官を見る。

 

「褒められたよ五月雨、それと近海の警備の強化が見直され、建造の許可が降りたよ」

 

「本当ですか、よかったですね司令官」 嬉しそうに五月雨が答える。

 

 先日のホ級は迎撃艦隊が撃ち漏らした艦で瀬戸内海まで入り込んだとのことだ。

今回、深海凄艦が今までの個々の艦隊が勝手に行動していたのとは違い、複数の艦隊が同時に侵攻する攻撃をしたことで、深海凄艦が近海に入り込む可能性が出たことを受け、海軍は防御体制の見直しが行われた。

 

「これで艦隊が組める」 うれしそうに司令官が五月雨に言う。

笑顔で返す五月雨、しかし、その表情には少し寂しさも浮かんでいた、それに気付かず司令官は建造可能な一覧表を確認しだした。

 

 

 

 




 どうやら艦隊が組めるようです。
ご批判、ご感想お待ちしております。

*7月26日 お天気マーク追加


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建造

 さあ建造です、どんな艦娘が来るかな?

 登場する主な艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘

 この小説での解説
 多面反転表示機  空港にある出発、到着表示機みたいなやつ
 分魂(ぶんこん) 古(いにしえ)の戦艦(いくさぶね)の魂を分けること
 木札(きふだ)  霊力を封じ込めてある札






 早朝、賀茂神社へ海沿いの道を二人で歩いて向かう、途中にある港には、漁を終えた漁船が戻って忙しそうだ、

忙しい中で司令官達に気がついた顔見知りの出店のおばさんが声を掛けてくる。

 

「海軍さん、おはよう、朝早くお参りかい、帰りに寄っていきなよ」 食材を買いに来ると、いつもおまけしてくれるおばさんだ。

 

「は~い、ありがとうございます」 五月雨が変わりに笑顔で返事をして頭を下げる。

 

 つられて会釈をしてから神社へ向かう、神社に着くと二人で並んでお参りをした。今回は二人がお願いすることは同じ、来た道を戻る途中で、出店のおばさんからアジを4匹買う、おばさんは、さらにアジを8匹もおまけで付けてくれた。歩く途中で、

 

「これはツキがありますよ」 五月雨が言うので、横の五月雨の顔を見る。

 

「おまけは何匹でしたか司令官?」

 

「8匹だった・・・え~と、そういうこと」

 

「そ、八は末広がり、縁起がいいんです」 得意そうに五月雨が言って笑う。

 

 

 鎮守府に戻り工廠設備のある小屋の扉を開いて中に入る。中は何も無くて、奥を見ると薄暗く霧がかかったようにぼんやりして何があるのかわからない。横の五月雨を見るが、何も不思議とは思っていないようだ。

 

「え~と、ここでいいんだよね」

 

「そうですよ、妖精さ~ん、お願いしま~す」 五月雨が返事を返してから奥に向かって呼ぶ。

 

 すると、ぼんやりした中から妖精が現れて、自分の前まで来て手を出す、そこで、海軍省から発行された、建造と書かれた木札を2枚渡す。すると、3桁のダイヤルが4つ付いた機械を2つ渡された。どうやら、これで資源量を決めるようだ。今回許可が下りた全使用可能資源はオール60なので2つともオール30にセットして妖精に返す。建造する艦娘は指定することができない、妖精にお任せだ。

 

 艦娘は古の戦艦の魂が宿った存在だ、元の魂は1つなので同じ艦娘が建造されて分魂されると錬度によって上昇する能力の最大値が下がってしまい、分魂が多くなると能力の最大値が下がった艦娘がたくさん出来ることになる。例外もある、初期艦と呼ばれる5隻(吹雪、叢雲、漣、電、五月雨)は理由は解からないが分魂されても能力が下がらないことが確認されている。

 先に編成している鎮守府では、艦娘の能力が下がることになる。そのために海軍省が、建造される艦娘の量を把握し、制限している。

 海軍省は工廠で、霊力を込めた木札がないと建造できないようにして、分魂数は海軍全体で大型艦以上は2まで、中型艦は3まで、小型艦は4までに制限していて、特に能力に特徴がある艦娘は小型艦であろうと分魂されない場合や、大型艦では先に編成した提督の了解がないといけない、非戦闘艦に関しては制限は無い。

 制限数以上や海軍の許可が取れていない場合は建造しても工廠から出さず工廠内で解体しなければならない。

 

 早朝に神社に二人が願ったのは、建造した艦娘が解体されることのないよう、お参りしたのだった。

 

「どうします司令官、このまま待ちますか」

 

「どのくらいかかるのかな?」

 

「前方に出てますよ」

 

 言われて部屋の奥を見ると、いつのまにか右上の方に多面反転表示機がある。00:19 最初にどこからスタートしたのか見ていなかったが、残りは20分くらいだ。他にすることもないので待つことにした。

 

 待つ間にもう一度編成可能な艦娘の一覧表を見る、ここに載っている艦娘以外は建造しても解体しなければならない。名前がないの中で気がつくのは、雪風、秋月、島風、時雨、綾波、夕立、天津風、照月、霞、大潮、朝潮・・・の名前がない、もし建造されれば解体しなければならない。

 

「どんな娘が来るか楽しみですね」 何も心配してなさそうに五月雨がニコニコしながら言う。

 

「五月雨も1人で寂しかったんじゃないかと思うけど、これで賑やかになるね」

 

「私は司令官と二人だけでも、寂しいとは思わなかったですよ」 

 

「・・・え~と」 なんて答えていいかわからず返答に困る。

 

「仲間が増えて、任務ができれば司令官や、島の人や、みんなが助かりますよね」 五月雨がすぐに言葉をかけてくれた。

 

 そんなことを話しているうちに、00:00 になり、ぼんやりした奥から妖精が出てくる、手には二つの巻物と箱を持っていて、二人の前に巻物だけ置いた、妖精の手に残った箱には解体と書かれている、どうやら解体する艦娘の巻物を入れる箱のようだ。

 横の五月雨を見ると、巻物を開けるように目で促しているので開けることにする。

 

 巻物の紐を解いて開く、一つ目には「初霜」、二つ目には「初雪」と達筆で縦書きしてある、すぐに一覧表と見比べて名前があることを確認しホッとする。それを見ていた妖精は奥に戻っていく、妖精の影が消えた後に、奥から妖精より大きな影が近づいてくる

 

「初霜です、よろしくお願いします」

小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た少女が挨拶する。続けてもうひとつ影が近づき

 

「初雪...です...よろしく」

切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな少女が挨拶した。

 

「二人とも柱島鎮守府へようこそ、僕が提督見習の榎本です、これからよろしくお願いします」

 

 二人は恵児を怪訝そうに見つめる。

 

「初霜、初雪、私は初期艦の五月雨、よろしくね、若い司令官でしょう、でもちゃんと海軍兵学校出身よ、ここはまだ出来たばかりの鎮守府で、あなた達が最初の建造艦なの」 五月雨がフォローしてくれる。

 

「そうですか、よろしくお願いします」 初霜が五月雨に挨拶する。

 

「大丈夫...なの...よろしく」 

 

 二人を居住棟に案内する、部屋は3つあり、奥の一つは提督が使っている、残りの二部屋には、それぞれ3段ベッドが一つ備え付けてあるので、五月雨と二人を同部屋とした。

 次に事務棟に案内していく、事務棟は手前の部屋が多目的室(受付、会議室、待機室、休憩室)で、扉は中央にあり正面に受付の机と椅子、右側に黒板と机と長椅子が二つ、左側に机とソファー、受付の後ろには奥の部屋への扉、奥は提督室だ。全員で右側の長椅子に座り話し合う。

 

「鎮守府の艦娘が3人になったので、ローテーションで遠征、演習、秘書艦を回していこうと思う、二人が艦隊を組み一人が秘書艦兼リザーブでどうだろう」

 

「そうですね、そうなりますね司令官、でも遠征は2艦だと練習航海しかできないですね」 五月雨が言う

 

「演習はどうしますか、提督」 遠慮がちに初霜が言う。

 

「え~と、まだ提督見習いなので司令官と呼んでください、とりあえず、呉の提督に頼もう」

 

「なんか忙しそう...やだ」 初雪の言葉には聞かなかった振りをして、

 

「まずは、五月雨と初霜のペアから、次が五月雨と初雪、そのあと初霜と初雪で練習航海から始めようか」

 

「お任せください」 「はい」 「え~」

 

 埠頭で練習航海に出る二人を見送ってから司令官と初雪は事務棟に戻った。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 目の前の席で訓練計画を立てている司令官はとても若いというか幼い、本当に大丈夫なのだろうか、

 

「呉の鎮守府に行っての演習は、最初は僕も含めて全員で行ったほうがいいよね」

 

「...私に...聞かないで」

 

「・・・」 少し困った顔になり、

 

「僕は海軍兵学校に入るまで満足に話せなかった、学校に入って仲間ができて話せるようになったんだ、ここ柱島鎮守府を五月雨と二人で運営するようになって話しあうことの楽しさをもっと知ったんだ、だから、初雪とも話したい」

 

「...」 うざい と言いたかったが何故か言葉にはならなかった。

 

「ん...分かった」 

 

「ありがとう、できるかぎりでいいので、よろしくお願いします」 

 

 嬉しそうに言う司令官を見て、初雪は眩しそうに目を伏せる。

 

「そろそろ朝確保した捕虜を料理しようか」

 

「?」

 

「初雪も手伝ってくれる」

 

 

 

 




 どの艦娘を出すか悩みましたが、実際にオール30で回して出た艦娘にすることにしました。それで出たのが二人です。今後どうなるんでしょうかw

 不定期連載です、ご批判、感想お待ちしております。


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船団護衛-1

 訓練も進んでいるようです
 
 主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た少女
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな少女

 この小説での解説
 バケツ  高速修復剤の俗称 艦娘の損傷状態が高速回復する
デリック 本体に動力のないクレーンみたいなもの

 加唐島 (かからしま)玄界灘にある島
 加部島 (かべしま) 同じく
 壱岐島 (いきのしま)同じく




 真ん中にデリックが立ち、喫水は海面ギリギリで今にも沈みそうに見えるその船は、石炭を満載した戦時標準貨物船で、他の船3隻とともにゆっくり関門海峡の入り口に近づいた。

 

「それじゃ、僕たちはここまでです、ご無事の航海を」

 そういうと佐世保の時雨は僚艦とともに離れていってしまった。

 

 関門海峡を抜けて周防灘に入ると、すぐに前方から別の艦娘が二人近づいてくる。

 

「こんにちわ~、柱島の五月雨です、ここからは私達が護衛します」

そう言うと両横に付く、船員は内海なのに護衛が付くので、積荷に重要なものがあったか思い出そうとした。

 

 ☀ ☁ ☂

 

 柱島鎮守府として初めての船団護衛、ただし正式ではない、本来は内海に入ると護衛は付かない、今回は練習も兼ねて神戸まで護衛する、五月雨達は初の船団護衛。

 

「お任せください」 司令官にそう言って張り切って出てきた。

 

 しかし、すぐに退屈になり初雪に変われば良かったと後悔する。船団の速度は遅いし、波も穏やかで居眠りしそうだ。

 

「そっちはなにかありますか」 反対側にいる初霜に隊内通信で話しかける。

 

「異常ありません」 初霜は またですか と思いながら答える。

 もう何回も同じことを聞いてくる、まるで何か起きて欲しいみたいだ。 五月雨たちはその後も何事も無く神戸まで護衛して柱島に帰投した。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 数日後、ふたたび船団護衛の練習をするこになり、神戸から関門海峡まで今度は初霜と初雪のペアが護衛し旗艦は初霜が担当する、今回も何事も無く航海が進み。

 

「もうすぐ関門海峡ですね、無事守れて良かったです」 初霜はホッとしつつ隊内通信で話す。

 

「ん...そだね」 のんびりするのは海上より部屋のほうがいい と思う初雪。

 

 そろそろ別れようとしたとき先頭の貨物船から連絡が入った。

 

「そのまま佐世保まで護衛されたし」

 

「どういうこと」 初雪がつぶやく

 

 と同時に通信が司令官より入る。深海凄艦が再び同時侵攻を始めたので、佐世保からの護衛が来られない、ついては柱島で佐世保まで護衛することになったらしい。初霜たちはまだ対馬海峡に出たことは無かった。

 

「針路は私達に従ってください、玄界灘は庭みたいなもんです」 貨物船から通信が入る。

 

「別に...門司港に寄って...待てばいいじゃん」 初雪が提案する。

 

 初霜もその通りと思ったので司令官に意見具申した。司令官からの返信は、同じことを考え司令部に提案したが、積荷にはバケツがあり、それは佐世保はもちろん、そこからブルネイやリンガに輸送されるものなので激しい戦闘が今後予想される状況なので届けたい、ということらしい。司令官からは五月雨を応援に出すので2時間おきに現在地の報告を入れるように言われた。

 

「五月雨さんが来てくれるから」 初雪に知らせる。

 

 戦時標準貨物船は精一杯速度を出している、しかし9ノット(時速17K/mくらい)ほどだ。門司あたりから佐世保港までの海路は210kmほど、今の速度だと13時間はかかる、佐世保に着くのは夜中になり、五月雨が第一戦速以上で追ってきて、追いつくのは加唐島あたりになる。なんとか門司港による方法はないかと考えたが、燃料は佐世保に行って補給できるなら十分あるし思いつかない。

 

「嫌な...予感がする」 初雪がつぶやくので、

 

「変なフラグを立てるのは止めましょう」 泣きそうな声で初霜が答える。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 関門海峡を抜けるのに少し速度を落とした、海峡を抜けると内海と違って波は少し立っていたが、天候は薄曇り、波高は1~2mで、風は北東からの追い風で気象条件は上々だ。貨物船は単縦陣で、その両横に3Kmほど離れて、右舷に初霜、左舷に初雪の隊列は順調に航海して玄界灘を進んでいる。この調子なら、予定通りお昼頃には大島の南側まで行けそうだ。

 

「天候は上々ですね」

 

「・・・もう帰りたい」

 

 初霜たちの装備は、12.7cm連装砲、93式水中聴音機、94式爆雷投射機を初霜が、12.7cm連装砲、61cm三連装魚雷x2、が初雪、対潜と対艦に役割が分かれている。

 

 

 ☁ ☂ ☀

 

 対馬海流に乗って、提督たちにアルバコアと呼ばれ恐れられる深海凄艦の潜水カ級eliteは壱岐島沖の南側まで来た。九州から壱岐や対馬、大陸への航路があるこの場所は絶好の狩場だ。アルバコアは獲物が来るのを待つために壱岐水道の底へ着底した。

 

 

 突然アルバコアは閉じていた目を開けた、何時間も待ってやっと獲物の音を聞き取った、いくつもの推進音が加唐島の北側から近づいてくる、南側から来ると思っていたが、まあいい アルバコアは凶悪な笑みをしながら静かに浮き上がっていく。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 夕日が初霜の顔を照らす、そろそろ加唐島が見えるはずだ、ここまでの本当の護衛任務に、訓練とは全然違う緊張感で、さすがに疲労が隠せない。

 これから夜になる、初霜は不安で一杯な気持ちを出さないように心の底に押し込める、しっかり守ろう、五月雨さんがそろそろ合流する頃だ。

 初霜は加唐島の南側を通るコースを止め北側を通ることにした、南側は加唐島と加部島との間は3Kmもないので、もしものときに艦隊運動ができない。北側の加唐島と壱岐島の間は20Kmほどある。このあたりは深海凄艦の潜水艦が出没する場所だ、そろそろ 之の字運動 を始めよう、

 

「初雪さん、之の字運動 を開始します」 隊内通信で連絡してから貨物船に連絡する。

 

 貨物船からはそこまでする必要があるのか と文句があったが、私達の訓練だからと協力を頼んだ。

 

「対潜運動を開始します、一斉回頭、面舵用意、回頭~」

 

 しかし、回頭する貨物船はいない、

 

「転針してくださ~い」

 

 初霜がやきもきしていると、しばらくしてバラバラに回頭しだした。  初霜がホッとすると、

 

 突然初雪の叫びが聞こえた。

 

「左舷、雷跡~回避~」 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 初雪は海面を見ることに見飽きてやる気がなかったが、初雪の頭の上の妖精は周囲を双眼鏡でちゃんと警戒していた。

 初霜からの 之の字運動 の号令を え~やるの と思いつつ準備に入る。初雪の頭の上で監視する妖精は。夕日に照らされた左舷前方の海面に光るものを発見した、目を凝らしてみる、4本の筋が向かってくるのが見える。魚雷だ。初雪の頭を叩いて指を指して知らせる。初雪は指差す先を見て船団に叫ぶ、そして状況を判断する。

 距離は初雪から6000mほどか、残された自分の時間は4~5分、船団へはさらに2分ほど,艦隊はちょうど 之の字運動 で面舵で転針しようとしていため、2本は艦隊の前を通り過ぎそうだ。初雪は残りの2本のうち自分に近い1本と貨物船の間に割り込む針路を取りスピードを上げた。

 

「砲撃戦用意」

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 初霜は初雪の警告を聞いて、右舷側を警戒し何もないことを確認してから、艦隊の後ろを抜けて左舷側へ向かい始めた。そのとき、大きな水柱が上がるのが見えた。慌てて後ろを抜けて貨物船の左舷側へ出て貨物船を確認する、1,2,3、4隻いる。次に左の海面を見るが初雪が見えない。

 

「初雪~」 叫びながら初雪の居たはずの所へ急ぐ。

 

 

 ☂ ☁ ☀ 

 

 魚雷が貨物船へ進む針路に初雪は割り込み魚雷に正対した、そのとき右手の12.7mm連装砲の砲塔上で妖精が親指を上げた。

 

「少し手前を狙って、砲撃はじめ、て~」 12.7cm連装砲(発射速度10発/分)が砲弾を撃ちだす。

 

 しかし、当たらない、あっという間に近づいてくる。

 

魚雷と初雪の距離はもう500mもない、しかし、初雪は逃げようともせず砲撃を続ける。

 

「当たれ」

 

 

 ズドォーン 爆発音と水柱

 

 

 水柱から少し離れた横をもう1本の魚雷が転進中の貨物船に向かって通り抜ける、貨物船は必死に針路を変えようとしているが、魚雷は貨物船の左舷に・・・船員は爆発に身構えたが何も起こらなかった。

 海面を見ると、貨物船の反対側を魚雷が遠ざかっていく。帰り便で軽い荷しか載って無かったのが良かったのか船底を通り抜けたようだ。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 初霜が水柱の上がった当たりまで来ると、暗くなりつつある海面にぐったり横たわる初雪を見つけた。

 

「初雪~」 慌てて側まで行く、浮力はあるようだが意識が無い、艤装がボロボロで直撃は免れたが至近だったため大きな被害を受けたようだ。初雪をこのままにしてはおけない。しかし、護衛すべき貨物船と、たぶん潜水艦の深海凄艦がいる。

 船団に初雪を背負って付き添うか、しかし初雪を背負ったままでは潜水艦に対応できない、潜水艦を攻撃すれば船団と初雪が無防備になる。初霜は、初雪を助けるか、船団を護衛するか、深海凄艦を攻撃するか、決断を迫られた。

 

 

 

 




 なんだか緊迫した展開です。

 ご批判、ご感想お待ちしております。


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船団護衛-2

 訓練のつもりが本当の船団護衛になってしまった柱島の艦娘、このピンチをどうするのでしょうか。

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘

この小説での解釈
 主缶       メインボイラー 艦娘のエネルギーの源
 九三式水中聴音機 パッシブソナー 音を聞き取る
 三式水中探信儀  アクティブソナー音を出して反射を聞き取る

 平戸瀬戸 ひらどせと 海峡の名称


 夕日が西の海面に沈んでいく、貨物船は北西へ遠ざかりつつある。太陽が沈めば一気に暗くなり暗くなれば潜水艦のほうが有利だ。

 初霜は初雪を背負い船団に追いつき、初雪を貨物船に乗せてもらい、そのまま北北西の壱岐島へ退避しようと考えた、もし追いつく前に攻撃されれば初雪を残して船団を護衛する、決断をして立ち上がろうとした。

 

「初霜、どこ、着たわよ」 五月雨の声が隊内通信から聞こえてきた。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 五月雨が追いついたとき、貨物船は壱岐島のほうへ向いて進んでおり、初霜と初雪の姿が見えなかった。通信から船団が雷撃を受けたことは想像できた。

 

「五月雨さん、こちらです」

 通信とともに発光信号が左舷前方で点滅した。点滅したところへ全速力で近づく、

 

「初霜、初雪」

 

「五月雨さん、初雪は艤装がボロボロで大破です、意識がありません、船団左舷から雷撃を受けました。船団はこのまま壱岐島へ退避させ、初雪は私が船団とともに壱岐島へ連れて行きます、、五月雨さんは深海凄艦を」 初霜は五月雨を見て泣きつきたい気持ちを必死で抑えて話す。

 

「了解、初雪をお願い」

 

 五月雨は初霜が初雪を背負い船団を追いかけるのを見送った後、海面を見つめて

 

「どこかで見てるんでしょ、今度はこっちの番よ」 暗い水面に宣言する、五月雨の頭の上では妖精が耳を澄ます。

 

 

 ☁ ☂ ☀

 

 アルバコアは魚雷を発射したあと一旦深く潜ると時間を待つ、爆発音が一つあった。発射した場所から少し離れたところに浮き上がり潜望鏡を上げた。遠ざかる船影が見える、戦果を確認しようと潜望鏡を回すと1人の艦娘が船影を追うように動き出し、残った1人がこっちの方を見ている。アルバコアはすぐに、再装填した魚雷を残った1人のほうへ発射して潜る。

 

 

 ☁ ☂ ☀

 

 九三式水中聴音機の妖精は発射音に続いて小さなスクリュー音が近づいてくるのを聴くと五月雨の頭を叩いて方角を知らせ警告する。五月雨は水面を探すが暗くてよく判らない、しかし主機を全開にしてその場を離れ回り込みながら発射した方角に針路を向ける。

 

「対潜戦闘、爆雷用意~」 魚雷をやり過ごすと速度を落としゆっくり近づく。

 

 九三式水中聴音機の妖精は耳を澄ますが何も聞こえない、こんなとき三式水中探信儀妖精が居たならと悔しがる。五月雨は発射音のした辺りに来ると爆雷を落とすか迷った。ここで落としても被害を与える可能性は低く、爆雷が爆発している間に逃げられる可能性が高い。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 推進音が上方をゆっくり近づいてくる、爆雷が落ちてくるのに備えて身構えながら、爆発した瞬間に逃げるように準備する。しかし、何事も無く通り過ぎて行く、そのまま通り過ぎてくれるのを待つが、期待に反して推進器の音が戻ってくる。アルバコアは相手が手ごわいことを覚悟した。

 

 身動きが取れず、じっとして1時間が過ぎた、相手もあきらめることなく上方を不規則に行ったり来たりしている。

 

 さらに1時間が過ぎて、アルバコアは動くことにする、静かに魚雷を準備し推進音が自分から遠ざかるのを待つ、そして推進音に向かって魚雷を発射。

 魚雷は海底に向かって進んでいく。推進音が向きを変え回避しようと動く、しかし魚雷は双方の中間の海底で爆発した。そのときを待っていたアルバコアは爆発と反対側に進んだ。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 九三式水中聴音機妖精は真後ろで魚雷発射の音のあと、小さなスクリュー音を再び聴いた。五月雨に警告して発射音のした方角を教える。それは、目印を浮かせた場所よりも北西にずれた場所だった。五月雨は前と同じように回避運動をしてそこを目指しながら、

 

「潜水艦の推進音は?」 妖精は首を横に振る。

 

「すぐにレシーバを外してください」

 

 

 水中で爆発が起こる。

 

 

 五月雨はすぐに潜水艦が退避運動をしなかったので攻撃の為の魚雷ではないと直感し、さらに海底で爆発が起こったので、ここが潮時だと判断した、今度は相手から離れ壱岐島へ向かう北に針路を取り全速力で離れる。十分に船団が壱岐島に到着する時間は稼いだ、悔しいがこの暗闇の中で潜水艦と戦うのは不利だ。

 

 真っ暗な印通寺港に五月雨は入ってきた。よく目を凝らすと妻ケ島の島影に隠れるように戦時標準貨物船が4隻停泊している。隊内通信で初霜を呼ぶ、貨物船の影から初霜が現れた。

 

「五月雨さん、無事でよかった、船団は無事です、初雪は港湾事務所にいます」

 

「残念だけど深海凄艦は取り逃がしました」 

 

 初霜の話だと港湾事務所に運び、横にして主缶が生きているのを確認し、しばらくすると初雪の目が開き妖精も出てきたので司令官に報告し襲撃を警戒することにしたということだ。初霜に引き続き警戒を頼んで初雪のいる事務所へ急ぐ。

 

 事務所ではソファーの上に初雪が横たわっていた、周りを妖精たちが動き回っている。

 

「初雪」

 

 初雪はゆっくり目を開けるが、横を向いたままだ。床に座り顔を見る。

 

「初雪、五月雨よわかる」 初雪は瞼を動かす、話せないのかも知れない。

 

「私の言う事が解かるなら瞼を1回動かして」 瞼が動く、意識は大丈夫そうなので、後ろ側に回って艤装の主缶を見る、損傷はしているが死んではいない。艦娘は艤装を装着していて主缶が全壊しなければ沈没することはないので大破なら入渠して直せる。

 

 司令官とはここに来る途中で連絡を取り合った。心配そうな声で、初霜たちが印通寺港にいること、初雪は主缶以外はダメージが大きく動かせないこと、明日の朝、佐世保から船団護衛の為の艦娘と佐世保の明石さんが来ること、こちらからは、深海凄艦に逃げられたことを報告した。司令官からは、輸送船は無事だから と言われたが、もう少し早く合流していれば と後悔が頭の中をグルグル回る。

 

「初雪、明日の朝、佐世保の明石さんが来るから安心してください」

 

 初雪の手を握り体をゆっくり擦る、五月雨の目に、見る間に涙が浮かんできて初雪の顔が滲む。しばらくそうしたあと

 

「初霜、交替するから休息して、そのあと初雪に付いてあげてください」 暗闇の海できっと同じ思いでいる初霜に隊内通信をする。

 

 

 翌日、すでに日は高くなっていた、港の沖合いを警戒しつつ

 

「そろそろ見える頃です」 五月雨はつぶやいて時間を確認する。

 

 もう一度沖を見る、すると遠くに船影が見えてくる、佐世保から来た明石、由良、択捉、国後の4隻だ。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 輸送船団護衛司令部から船団が雷撃に遭い壱岐島で足止めになっている、直ちに輸送船を速やかに佐世保へ到着させるように命令があり、佐世保の提督は思案していた、艦隊は作戦を遂行中なので出せるのは由良、択捉、国後あたり、そこへ呉の提督から電話があり、損傷艦がいるので明石を派遣するように要請を受けた。

 今は明石を鎮守府から出したくない、しかも横須賀の提督から呉の提督達には気をつけるように言われている、しかし断れば逆に自分に所属の艦娘に艦娘を見捨てたと反感を持たれる。海軍主流派に目を付けられず、艦娘の反感をうけないように考えないといけない。

 

 

 ☁ ☂ ☀

 

「ありがとうございます、助かります」

 

「申し訳ないけど日没までに佐世保に輸送船と一緒に戻らないといけないの」 佐世保の明石が申し訳なさそうに言う。

 

「私達がここは交代するから五月雨たちは休息を取って」 由良さんに言われて交替し、明石を初雪のところへ案内する。

 

 日没までに佐世保に着くには4時間後にはここを出港しないといけない。4時間でどこまで出来るのだろうか、ソファーで横になっている初雪の足元には初霜が床に座りソファーに頭を持たせてうつ伏せに眠っていた。明石は初雪を見るなり、

 

「かなりやられちゃったな・・・やるしかないか」 そう言って仕事に掛かり出した。

 

 

☀ ☁ ☂

 

 主缶は無事だっったのは良かったが、エネルギーの伝達系が壊れてしまっていた。4時間の応急処置で何とか仮に繋いだが本来の運動性の10パーセントも動けない、当然、急な動作も出来ない。

 

「とりあえずここから動かせることができるようにしたわ」 明石が疲れた顔で五月雨に話す。

 

「ありがとうございます、初雪、どう話せる」 

 

「ありがとう...次は...本気出すから」

 

 初雪を動かすことができるようになったので由良さんと相談し、初雪を貨物船に乗せ全員で佐世保に行くことを司令官に意見具申する。司令官からは、深海凄艦の同時攻撃で佐世保の主力艦は出払っているらしいので対潜哨戒が十分できていないかもしれないから気をつけるように、言われた。

 

 佐世保と柱島の艦娘は貨物船に初雪を乗せ印通寺港を昼頃に出港する。隊列は、貨物船4隻と明石が単縦陣を組み、その前方4Kmに由良、左側3Kmの前後に国後、択捉、右側3Kmの前後に初霜、五月雨。

 ルートは、壱岐島から南南西へ的山大島を目指し、そこから南に転針して平戸瀬戸を抜け佐世保湾に向かう最短ルート、貨物船のスピードで5時間ほど、ただし平戸瀬戸は潮流が早く幅が狭い海の難所だ。

 

 




 五月雨が間に合って良かったですね。
艦娘と妖精は武器や装置のもともとの性能以上のものを引き出せるようです。


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船団護衛-3

 果たして佐世保に無事着けるのでしょうか。

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 
 佐世保鎮守府
 由良  長良型軽巡洋艦4番艦 薄い桃色の髪をポニーテールにし、テール部分を
     リボンでぐるぐる巻きにしているという特徴的な髪型をしている艦娘
 国後  占守型海防艦2番艦 少しクセのあるピンクのボブヘアーに、少し目尻の
     つり上がった気の強そうな琥珀色の瞳が特徴的な艦娘
 択捉  択捉型海防艦1番艦 頭頂部には瑠璃色のリボンを巻いた白い水兵帽を被り、
     若紫色の瞳が特徴的な艦娘
 明石  工作艦 ピンク髪で横髪をおさげ風にまとめ、水色のシャツの上にセーラー服を着て
     腰回りの露出したスカートのようなものを穿いている艦娘

 的山大島 あづちおおしま 平戸島の北7kmにある島
  渡島  たくしま    平戸島の北3kmにある島
 下枯木島 しもかれきじま 五島灘にある島、灯台がある。


 船団は南西に進み、的山大島が見えるところ、だいたい行程の3分の1まで来た、ここで針路を南に向けると40分ほどで平戸瀬戸の入り口だ。

 

「五月雨さん、深海凄艦は襲ってくるでしょうか?」

 

「油断しないでがんばりましょう、初霜」

 

「はい、必ず無事艦隊を守って佐世保に着きましょう」

 

 艦隊の左側では

 

「姉さんが居なくてもちゃんとやるよ」

 

「クナ、力が入りすぎ」

 

 由良は、もし深海凄艦の攻撃を受けるとすれば平戸瀬戸に入る前だと考えていた、攻撃を受ければ艦娘が対応して時間を稼ぎ船団は平戸瀬戸へ逃げ込むことを優先する。

 

「全員、もし攻撃があれば船団は平戸瀬戸へ入ることを優先します」

 

「艦娘は深海凄艦の撃沈よりも船団が西水道に入れるように行動してください」

 

 そこで右側の初霜に先行して的山大島と渡島の付近を警戒するように、五月雨には船団との距離を右横1Kmに、国後と択捉には左横2Kmに詰めるように、そして3式水中探信儀を使用するように指示し、自分も速度を落とし船団が追いついてくるのを待つことする。

 

「了解しました」 初霜が増速して船団の右側前方を的山大島へ向かっていく。

 

「以上ありません」 初霜から連絡がある、由良も船団と2Kmに近づいた。

 

「左舷逐次回頭用意、取り舵」 的山大島を右手に見て、まず由良が回頭して南へ向くと、後ろに的山大島、前方右手に渡島、遠く前方やや右手に平戸島、やや左手に北松浦半島が見える。

 

 続けて貨物船が由良の回頭した辺りで順番に南に舳先を向ける、最後が明石だ。

 

 

 明石が転針を終えたとき、由良の肩の上でレシーバーを耳に当てていた3式水中探信儀妖精は前方に反応あったため由良の肩を叩いて注意するように促した。

 

「艦隊、警戒してください」

 

 由良が前方の海面を注意深く凝視する、前方左舷側の海面に潜望鏡を発見する、と同時に妖精が魚雷の警報を発する。

 

「雷撃、由良から11時方向距離2000、艦隊、取り舵、舳先を左舷前方、魚雷に向けて」 魚雷に艦を垂直にして回避するつもりだ。

 

「9時方向に反応、複数」 国後から報告がある。

 

「国後、択捉は直ちに攻撃してください、魚雷を撃たさないで」 やはり待ち伏せ攻撃だ。由良は転針して魚雷に向く、左前方から魚雷が4本直進してくる、魚雷は由良を狙っており、幸い輸送船に向かうものはなさそうだ。

 

「初霜、左舷前方の深海凄艦を頼みます、船団は前方の魚雷を回避したら平戸瀬戸に突っ込みます、五月雨は右舷を警戒」

 

 初霜は右舷前方から艦隊の前を左舷前方へ横切る。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

「やるしかない、いーい、やるよ」 国後は指示を受けると一気に増速して反応のあった9時方向、東へ向かう。択捉も遅れることなく向かっていく。深海凄艦は艦娘が向かってくるので発射の前に気づかれたことを知り、慌てて魚雷を発射する、しかしタイミングがバラバラになってしまい発射から2隻ということと居場所が知られてしまった。魚雷は船団のほうへ向かうものと、択捉たちへ向かってくるものと4発づつ、

 

「雷撃、船団から9時方向」 国後が船団に警告する。

 

 国後たちは自分達に向かってくる魚雷を落ち着いてスラロームを描いて回避して発射地点の海面付近に来ると目印のブイをそれぞれ落とす。国後の足首に付いている94式爆雷投射機では妖精が発射準備を整え号令を待つ。択捉の腰に付いている95式爆雷投射機の妖精も親指を上げている。

 

「もう一回、探信音打て」 ブイから一度遠ざかりUターンして国後が妖精に指示する。

 

 3式水中探信儀妖精がブイから少し離れた方向を指差す。そちらへ針路を取る。

 

「爆雷、て~」 94式爆雷投射機から95式爆雷が発射される。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 艦隊の前を斜めに横切って初霜は指示されたあたりに近づく、初霜には探信儀は装備されていないので、93式水中聴音機妖精が頼りだ、深海凄艦は魚雷を発射したあと潜行に入ったらしく、推進器の音がしていた。

 

「初霜、敵はそのまま艦隊の下へ潜り込もうとしています」 由良から通信がある。

 

 初霜は由良の舳先から延びる線上と妖精が知らせる方角の交わる点に急ぐ、

 

「爆雷用意~、て~」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 由良は自分に向かってくる魚雷を素早く避けながら、船団の9時方向の魚雷を探した、

 

「お願い」

 

 由良の祈りが通じたのか船団で被雷した艦は無さそうだ。

 

「船団、針路183°へ」 改めて由良から発令する。

 

 隊列の乱れた各艦はそれぞれの位置で南へ転針する。

 

 由良も針路を南に戻し平戸瀬戸の西水道へ向かう。

 

 平戸瀬戸は平戸島の北部と北松浦半島を隔てる海峡で、南北約3.5km、幅は最も狭い所で約500m。水深は最深部で40m、潮流は最大8ノットに達することもある海の難所だ。北側入り口は広瀬と呼ばれる瀬が航路を西と東に分けている。

 

 左舷の初霜を追い越し、由良は西水道へ入る。

 

「艦隊、左舷の広瀬に注意してください」 どちらかというと柱島鎮守府の艦娘の為に注意を促す。

 

「初霜、先に行きます、必ず追ってきてください」 初霜の横を通り過ぎながら五月雨が叫ぶ。

 初霜は返事の変わりに親指を上げて答える。

 

 由良に続いて貨物船、明石が、そして五月雨が水道に入る。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

「船団、水道に入りました」 五月雨からの通信を艦娘たちは、それぞれの場所で聞いた。

 

「クナ、聞いた~、こっちはたぶん撃沈したと思う」 択捉は93式水中聴音機妖精が聴いた音から判断して言う。

 

「こっちは、判んない」

 

「船団に追いつかないと」

 

「・・・しょうがない、もう一度爆雷を落として離れるよ」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 初霜も戦果の判断に迷っていた、推進器の音は無くなったが、他の音も93式水中聴音機妖精には聴き取れなかったので確信できない。ここを国後、択捉が通るまでは離れることはできない。

 

「初霜さん、今行きます」 択捉から通信が入った。北を見ると択捉と国後がこちらへ向かってくる。

 

「二人は、私に構わず水道に入ってください」

 

 そう言ってから、初霜は閃いた。

 

「すいません、なるべく私の近くを通過してください」

 

「わかりました、初霜さん気を付けて」 択捉が答える。

 

 二人は初霜の近くを通るように針路を変更し近づいてきて、通り過ぎる、その後を追うように初霜は二人の後ろを追いかけてすぐに主機を止めた。初霜は惰性でゆっくり進みながら再びUターン、そして行き足が止まり初霜は海上に漂流する。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 潜水カ級は、推進器の音が北から南へ通り過ぎて、自分の上を行ったり来たりしていた推進器の音が無くなり艦娘が諦めて船団を追ったと思った。しばらく待って、海底の岩陰から静かに体を起こしゆっくり北へ向かう。すると、近くで推進器の音が聞こえ、すぐに水面から水中に聞きたくない音が聞こえてきた。

 

 ☀ ☁ ☂

 

 由良は水道に入ると速度を落とし、他の艦娘が追いつくのを待つ、ここから佐世保湾まで約40Km、貨物船の速度で2時間30分くらいか、日没までは3時間ほど、待てるのは20分くらいだ。

 

 ゆっくり水道を抜け五島灘に出る、右手に平戸島、左手に半島を見ながら間を南下する。ここから1時間ほどで島と半島の間を抜ける。五島灘は佐世保鎮守府にとって庭みたいなものだ、最近は深海凄艦の出没は確認されていない。

 

「五月雨は船団の前1Kmに位置してください、私は5Km先を先行します」 そう言うと由良は増速して船団から離れていく。

 

「了解しました」 五月雨は最後尾から、明石、貨物船を抜いて先頭に立つ、

 

 

 由良が下枯木島へ5Kmまで近づいた頃、国後と択捉が最後尾の明石から見えるようになった。

 

「二人とも無事ね、損害は」 明石が話しかける。

 

「当たり前じゃないの」 追いかけながら国後が答える。

 

「ハイ、無事です、損害はありません、初霜さんは自分達の後から来ます」

 

 船団は先頭に由良、5Km後ろに五月雨、1Km後ろに貨物船4隻と明石が単縦陣を組み、さらに3Km後ろに択捉と国後で細長い隊列になった。

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 佐世保湾の入り口から12Kmほど西へ離れた蛎浦島の沖合いの海底、アルバコアは大胆にも夜の間に浮上走行して平戸瀬戸を抜け、夜が明ける前に長距離攻撃になるが佐世保湾への入り口の水道を狙える位置で逃げやすい場所に潜んだ。佐世保湾の出入りは幅850mほどの水道一ヶ所だ、明け方に佐世保湾から出てくる推進音を聞いたが、北へ出て行った、対潜哨戒に出てくる艦娘が無かったので追い払われずにここで潜んで獲物を待っている。

 

 

 




 なんとか運にも助けられて切り抜けてますね。


 さらにPS 皆さん夏イベ進んでますか、毎回思いますけど、このゲームてホントマゾゲームですよねw、思い通りにならないし、心折れそうですw


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決意

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘

佐世保鎮守府
 由良  長良型軽巡洋艦4番艦 薄い桃色の髪をポニーテールにし、テール部分を
     リボンでぐるぐる巻きにしているという特徴的な髪型をしている艦娘
 国後  占守型海防艦2番艦 少しクセのあるピンクのボブヘアーに、少し目尻の
     つり上がった気の強そうな琥珀色の瞳が特徴的な艦娘
 択捉  択捉型海防艦1番艦 頭頂部には瑠璃色のリボンを巻いた白い水兵帽を被り、
     若紫色の瞳が特徴的な艦娘
 明石  工作艦 ピンク髪で横髪をおさげ風にまとめ、水色のシャツの上にセーラー服を着て
     腰回りの露出したスカートのようなものを穿いている艦娘


 エンディングイメージ♪「六等星の夜」by Aimer



 西日に照らされた下枯木島が見える。その手前を由良は南南東にゆるやかに針路変更し、黒島と岬の間を抜け佐世保湾の入り口へ向かう航路をとる。ここから20Km、9ノットで1時間10分くらいか、由良の肩の上では妖精がレシーバーに耳を当て異常がないか警戒している。

 

「妖精さん、あと少しだから頑張りましょ」 

 

「由良より五月雨へ、針路に異状なし、そのまま後続せよ」

 

「五月雨、了解」

 最後尾の明石が針路変更を終える頃、由良は黒島と牛ヶ首岬の間に差し掛かり、前方に佐世保湾の入り口にある岬が見えてきた。あと40~50分ほどで船団が湾に入ることを由良は鎮守府に報告する、そして、増速して湾の入り口にに近づく。

 

 

 ☁ ☂ ☀

 

 五月雨が黒島と牛ヶ首岬の間を通過する頃、由良から通信が入る

 

「湾の入り口まで異状なし、念のため湾の入り口から西側を警戒します、船団はそのまま佐世保湾に入ってください」

 

 先行する由良が西へ転針していく、五月雨は振り返って後方を確認する、船団の最後尾の横に国後と択捉が追いつこうとしている。

 

「国後、択捉、船団を任せてもいい?私は由良さんを手伝いに行きます」

 

「それは、五月雨さんこそ船団と佐世保湾に入ってください、私達が行きます」

 

 

 船団の先頭が黒島と牛ヶ首岬の間を抜けたとき、

 

「魚雷、船団右舷へ、複数」 由良からの警告が響く

 

 五月雨はすぐに自分の右舷を見るが確認できない、振り返り、後ろの船団の右舷を見る、五月雨の見張り妖精は船団から距離5000ほどのところに魚雷を発見し指差す。

 

「雷跡~、船団右舷距離5000」 魚雷は黒島と牛ヶ首岬の間、横幅約3Kmしかないところを目指して進んでいく。ちょうど貨物船の2隻目が通り抜けるところだ。

 

 

 ズゥドォーン 水柱が上がる。

 

 

 2隻目の右舷前部に命中した。

 

 

 

 ☂ ☁ ☀

 

 佐世保鎮守府の提督室で報告を終え、由良と五月雨は無言で廊下を歩く。

 

「元気を出しなさい、五月雨、轟沈はなかったんだから」

 

 雷撃を受けた貨物船はすぐに国後と択捉が支え時間を稼ぎ、明石が追いついてくるのを待って、舳先を支えながら黒島に座礁させた。魚雷を発射した潜水艦はすぐに由良と五月雨が追ったが逃げられてしまった。

 

「多分、10,000m以上先から撃って来たわね、鎮守府の対潜警戒の隙を突かれたわ」 悔しそうに由良が言う。

 

「自分を犠牲にしてまで船団を守った初雪に申し訳ないです」

 

「生き残ればリベンジのチャンスがきっとあるわよ、さぁ、初雪を看にいきましょう」

 

 

 初雪は入渠させて貰え順調に回復していたが、バケツを運んできた手前使ってもらう訳にもいかず、しばらく佐世保鎮守府に足止めになりそうだ。司令官からは 他所の飯を食うのもいいかも なんて暢気なことを言われた。由良からも佐鎮の ぜんざい を食べて行きなさい と言われた。

 初雪の回復を待つ間、少しでも協力しようと初霜と二人で佐世保の対潜哨戒のシフトに加えてもらい、黒島に座礁した貨物船の回収を手伝う。まず、埠頭で積荷を降ろした貨物船にもう一度出航してもらいデリックを使って積荷を移し替え軽くし、クレーン台船を引張ってきて前部を台船に預け、明石が穴がこれ以上大きくならないように補強して佐世保港へ回航した。

 作業中に作業している人から、地元で深夜に平戸瀬戸を航行する深海凄艦を見たと言う人が居て、周辺で噂になって不安が広がっていることを聞いた。

 

 

 しばらくして初雪も回復し初霜と三人で佐鎮の間宮へ行くことにする。初霜、初雪は演習で3回ほど呉鎮に行った事はあるが演習場と食堂しか知らなかった。

 

「間宮の ぜんざい は美味しいよ、初霜、初雪」

 

「そうですか、楽しみです」

 

「...本気出す」

 

 ほとんどの艦娘が出動しているので鎮守府内は閑散として静かだ、佐世保鎮守府は横須賀に続き、呉とともに出来た歴史ある鎮守府だ、いくつもの立派な建物が建っている、由良さんに教えてもらった建物から少し離れた場所に来ると入り口にのぼりがある茶店が木々の間に建っていた。のぼりには 入港ぜんざい とか、特製あんみつ とか書いてある。店に入るとすぐに奥から間宮さんが出てきてくれた。

 

「いらっしゃい、みんな出航してしまって暇だったの、うれしいわ」

 

「柱島の五月雨です」

 

「初霜です」

 

「初雪...です」

 

「まぁ、ご丁寧に、由良さんから聞いています、何でも好きなものを頼んでくださいね」

 

 三人は ぜんざい を食べながら、

 

「美味しいね~」

 

「柱島にも間宮さん来ないかな~」

 

「...」

 

「今回、初霜も初雪も頑張ったね、貨物船が被雷したのは残念だったけど撃沈はされていないし、積荷もほとんど無事だったし」

 

「初雪さんが大破したときは、どうしようか泣きそうでした」

 

「...無事だから」

 

「柱島鎮守府はまだ3人だけだけど、きっといい鎮守府になると信じてます、間宮さんが呼べるようにがんばりましょう」

 

「はい」

 

「...あんみつ も食べる」

 

「賛成ー、間宮さん 特製あんみつ 三つ追加、お願いしま~す」

 

 

 深海凄艦の同時攻撃も収束に向かいつつあった、佐世保鎮守府にも艦娘が徐々に戻ってくる。司令官から命令が届いた。新たな南方からの船団が佐世保に到着するので、神戸まで護衛して、その後柱島に帰投せよ ということだ。

 明日の朝、佐世保を出航する夜、広々とした食堂で佐世保の由良、国後、択捉、明石とささやかな会を行った。

 

「いろいろお世話になりました」

 

「また会えるといいですね」

 

「皆さんもどうかご無事で」

 

 別れを惜しんだ後、帰り際に由良さんが、

 

「苦労するわね、柱島の提督さんは上からよく思われてないらしいから」

 

「それでも私達が司令官を全力でお助けしますから大丈夫です」 五月雨が元気よく答える。

 

「余計なお節介でした、大丈夫、あなた達がいれば、それでも困ったことがあったら相談してね」 由良さんのやさしい言葉に感謝して佐世保を後にした。

 

 

 神戸へ向かう船団は石炭や鉄鉱石を積んだ貨物船6隻、五月雨が先頭に立ち両横に初霜、初雪で佐世保港を出航した。佐世保湾から平戸瀬戸までは、国後と択捉が先行して対潜哨戒してくれている。深海凄艦は大方撤退していて攻撃される可能性は低い戦況になっていた。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 埠頭で白い軍装を着た司令官が柱島水道の水平線を眺める、幼さが残った横顔だが、今までより沖を見つめる瞳には強い意志がある。

 恵児は幼いとき深海凄艦に襲われ、襲われる前の記憶を無くしたため家族のことは覚えていない。助けられた後で写真などで教えられたが実感が無かった。伯父さんに預けられ育てられたが喋ることができないので孤独の日々を過ごした、艦娘に助けられてからの記憶しかない彼には最初に優しくされたのが艦娘で、実感の持てる家族らしい存在は艦娘なのだ。

 

 暗闇の中に見つけた唯一の光、

 

 そして助けてくれた艦娘に遭いたくて海軍兵学校に入った。卒業して提督見習いとして柱島鎮守府に着たが何かをする目的があるわけでもなく職業として選んだと言う感じだった。

 

 急遽護衛任務が発生したときも任務を遂行する、そういう気持ちしかなかった。深海凄艦による船団への襲撃を聞いたときの不安と焦燥、初雪に被害があって轟沈しそうだったこと、助かってホッとしたこと。

 今回のことで恵児は自分の目的を自覚した、 もちろん国を守ることは当たり前だが、自分は、艦娘を護る、護りたいのだ、人間は艦娘に深海凄艦から護られているが、艦娘達を護ることができるのも人間だ、今度は自分が助ける。

 

 水平線に黒い点が見えてきた、たった3人しか居ない柱島鎮守府だが、先の見えない深海凄艦との戦いを終わらせる、その先に光があることを信じて闘う。そして彼にとっての家族が、また無事ここに戻って来れるように。

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪

 

 ジリリーン、宿毛鎮守府の出撃待機室の壁に掛かっている電話が鳴り、白雪が受話器を取る。

 

「全員、特設監視艇から深海凄艦の警報が入りました、第11駆逐隊、出撃」

 

 叢雲は座ってフォトフレームを眺めていた、二つ折りのフレームの左側には、江田島兵学校と書かれた門の前で恵児と叢雲と第11駆逐隊が写った写真、右側には柱島鎮守と書かれた門の前で恵児と五月雨、初霜、初雪が写った写真、右の写真の恵児の笑顔が男らしくなった気がする。

 叢雲は二つ折りのフォトフレームを閉じると私物入れにしまい、皆の後を追って部屋を出た。

 

 

 

 




 本人の自覚のないまま時代に流されるように生きる、何をするのか判らないまま時を過ごすことも多い世の中です・・・なんとなく一区切りです。(次回からは本当に不定期です)

 拙い文章を読んでくださった皆様ありがとうございます。
 アドバイスしてくださった方々ありがとうございました。


 さらにPS Aimerの歌声て、いいですね


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出撃-1

 深海凄艦の行動が変わったことにより膠着状態は変化せざるえないようです。



主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘






 東京は朝から雨が降っていた、麹町の雨に煙る建物の一室、海軍省軍務局の軍務局長室で、格子状の窓から灰色の空を見上げながら軍務局長は思案していた。

 深海凄艦との戦いは膠着状態が続いて、国の予算は海軍省につぎ込まれ、海軍省の政府での発言力は強くなり権勢をふるっていた。しかし、最近深海凄艦が侵攻方法を変え日本近海に侵入されることが増え海軍の現状に疑問を持つ者、深海凄艦に不安を増す国民世論、軍令部からの攻勢計画の意見等、周りがうるさくなってきた。

 困るのは現状に疑問を持たれ、何かと調べられることになった場合だ。ここは軍令部からの攻勢計画に乗って目先を逸らすのがいいだろう。軍務局長は軍令部次長に会うために窓際を離れた。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 頬に当たる塩風が気持ちよい、ほとんど波の無い海面を3人で横陣を組んで進む。3式水中探信儀妖精が肩を叩いて前方の海面を指差す。五月雨がその場所にブイを投げ入れると初霜、初雪がブイに近づいてきて

 

「爆雷用意、て~」 爆雷をブイの周囲に落とす。

 

 海面を見ていると、しばらくして何かが浮き上がってくる、

 

「いい感じ、でち」 海面に顔を出したのはゴーヤ(伊58)だ。

 

「妖精さん、お疲れ様です」 五月雨は声をかけた、この前の船団護衛任務で佐世保に滞在している間のこと、佐世保の明石さんから内緒で譲り受けたのが3式水中探信儀の明石スペシャル、明石さんが故障したり、壊れた装備を寄せ集めて作ったらしい。柱島鎮守府に水中探信儀が無いことを知り譲ってくれた。今日は呉にお願いして、呉まで来て水中探信儀の習熟訓練を行っている。

 

「午前中の訓練は終了しましょう、ゴーヤさんありがとうございました」

 

「どういたしまして、でち」

 

 訓練の後、呉鎮守府の食堂で肉じゃが定食を食べ終え、お茶を飲んでいると

 

「申し訳ないけど午後からの訓練は参加できない、でち」 ゴーヤさんが来て言う、

 

「何かあったんですか」

 

「今後の出撃に備えて待機命令が出た、でち」 ゴーヤさんはまた今度ね と手を振って行ってしまった。

 

「ありがとうございました、お気をつけて」 皆が後姿に声をかける。

 

「また深海凄艦の侵攻でしょうか」

 

「どうかな・・・午後からどうしようか」

 

「...間宮でいい」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 柱島鎮守府の提督室では、司令官が五月雨たちが呉から持ち帰った鞄に造船許可書と木札が3枚あるのを見つけ喜んでいた。6人になれば1艦隊が組めるようになる。3隻づつにして任務と休息をローテーションすることになるだろう、今より一人一人の負荷が減らせられる。

 

「明日の朝ご飯は、おかずを1品増やしてアジを焼くよ」 今日の秘書官の初雪に声をかける。

 

「え~...」

 

 

 翌朝、神社にお参りしおばちゃんからアジを買い、工廠に4人揃って入る。

 

「木札は3枚、資源はオール120です、どう振り分けますか、司令官」

 

「今回もオール30にして、残った分は備蓄して次に残そうと思うんだ、五月雨」

 

「それもいいですね」

 

 工廠の妖精に木札を渡し、機械に資源数をセットし返す。しばらく待つと妖精が3人の名前の書いた巻物を持ってきた。すぐに建造可能か照合する、3人とも建造可能だ、そして妖精は戻っていった。靄の中から艦娘が現れ

 

「あたし文月ていうのよろしく~」 長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の少女、続いて

 

「あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします」セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の少女、さらに

 

「名取といいます。ご迷惑をおかけしないように、が、頑張ります!」 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、目は髪と同じ茶色の少女

 

「文月、三日月、名取、始めまして、僕が柱島鎮守府の司令官の榎本恵児です、よろしくお願いします」

 

「そして名取さん、あなたが柱島鎮守府最初の軽巡、これで水雷戦隊が組めます」

 

「柱島鎮守府へようこそ、私は、五月雨よろしくね」

 

「初霜です、よろしくお願いします」

 

「初雪...です」

 

 早速3人を住居棟に案内する。

 

「名取さんには悪いが暫く駆逐艦の娘と一緒にお願いします」 空いている3人部屋の前で話す。

 

「私は構いません」 そう言って文月と三日月を見る。

 

「あたし達も大丈夫です」 文月が答える。

 

「これから艦娘が増えることを考えると増築しないと・・・」 

 

「そうですね司令官、ちゃんとした司令官の住居も必要です」

 

「ここはまだ小さな鎮守府なんだ、今後も訓練、遠征、秘書艦、食事、どれもローテーションで回すのでお願いします」

 

 管理棟に戻り話し合い、最初は二人をペアにしてローテーションすることにし、その後3人づつに分けることにする、まずは五月雨と名取、初霜と文月、初雪と三日月のペアにして行うことにした。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 名取たちが加わって2週間が過ぎ、少しづつ慣れてきた頃、呉の提督から連絡があった。詳細は洩らせないが、軍令部の作戦案が実行されることになり、横須賀、呉、佐世保の鎮守府が主力となり、他の鎮守府も補助する大掛かかりなものになる とだけ教えてくれた。そして、増築の件はすぐに許可されるだろうとも言われた。

 さらに1週間が過ぎた頃、突然、司令部より、明後日、小笠原諸島近海まで進出し、深海凄艦、潜水艦、艦載機を発見したらただちに撤退せよ という命令があった。小笠原諸島は東京から南南東に約1,000Km離れた場所で、今は深海凄艦の勢力範囲だ。まだ日の浅い柱島鎮守府には荷が重い気がしたが仕方ない、ただちに全員を呼集する。

 

 

「なにそれ、発見したら攻撃せずに逃げろ てこと」 五月雨が不満そうに言う、

 

「あの、私達だけですか、航空支援もなしに」 名取がおどおどしながらも聞いてくる、

 

「宿毛から祥鳳さんと速水を含んだ艦隊が四国から400Kmほど南下して支援します、それから宿毛からも同じように水雷戦隊が進出します、宿毛のほうは父島の北東50Km、柱島は父島から南西50Kmを目標とする、ただし到達する必要なし てことです」

 

「探りを入れるんですね」 

 

「そんな感じだね初霜、なので無理せず深海凄艦を発見したら撤収、特に航空機に発見されたら直に反転してください」

 

 五月雨を旗艦として明日の朝4:00に出撃して明後日の15:00に目標地点到達を目指すこととし、途中で祥鳳さんの艦隊と会合して補給を受ける計画だ。その後、航路や詳細は五月雨達に任せ。司令官は皆を残して管理棟を出る。

 

 

「明日は柱島鎮守府の初出撃、たくさん食べて、今晩は早めに寝てください」 司令官は戻ってくるとそう言って全員を住居棟の食堂へ誘う。テーブルの上には食事が並び、ラムネまで置いてある。

 

「なんですか、司令官~」

 

「文月は初めてかな、ラムネだよ、さぁ、全員が無事帰還することを願って乾杯するよ、五月雨お願い」

 

「ハイ、必ず全員で無事柱島に帰ってきましょう」 

 

 

 夜、戸締りを確認するため部屋を出た司令官に、廊下の先にある玄関の方から話し声が聞こえてくる。

 

「初めての出撃、緊張します」 玄関前の上がり階段に座って港の灯りを見ながら三日月が話す、

 

「あたしも、みんなの足を引張らないか心配です」 並んで座っている文月、

 

「行って帰ってくるだけです、大丈夫・・・なはずです」 二人の前に立つ名取が安心させようとする。

 

 司令官が扉の取っ手を掴もうと手を伸ばしたとき、いつの間に来ていたのか、先に取っ手を掴んで五月雨を先頭に初霜、初雪が表へ、そして初雪が扉を閉めながら頷いて合図する。恵児は後を任せ静かに部屋へ戻った。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 見上げるとまだ星の残る薄暗い空の下、港に司令官と艦娘は居た、全員が整列して司令官を向く、

 

「天候は曇、明日は雨が予想されています、風は北北東で風速4から5、ゆっくりですが南から低気圧が近づいています、会合地点は北緯30度東経136度40分付近」

 

「付近て」 五月雨が聞き返す、

 

「近くに行けば相手が見つけてくれるそうです」 

 

 五月雨は、やれやれという顔をしてから真剣な顔になり、

 

「柱島鎮守府、第一艦隊出撃します」 五月雨の言葉で全員が敬礼してから海に飛び込んでいく。

 

 柱島唯一の艦隊、6人の艦娘が東の水平線から明るくなり始めた海を南に出撃していく、司令官は無言で答礼して見送る。

 

「必ず全員無事に戻れ~」 小さくなる後姿に思わず恵児は叫んでいた。

 

 

 

 

 




 今回も実際にオール30で3回、回してみましたw



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出撃-2

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、目は髪と同じ茶色の艦娘


 月光に照らされて明るかった海面が、所々に浮かんだ雲によって月が隠され暗闇に黒くなる。再び月明かりが射した雲と雲の間を黒い点が横切っていく。

 

「こちら川内機、異常なし、天候は曇り、雲量4、雲底1,000」 複葉で上翼の真ん中にプロペラをつけた98式水上偵察機が雲の下を時速130kmで滑るように飛んでいく。軽快なエンジン音と風きり音を聞きながら偵察員の妖精が左側に双眼鏡を向けると彼方に白波を発見する。98式水偵は緩やかに左旋回して高度を下げる。

 

「川内、お客さんを発見した、軽巡1、駆逐5、これから誘導する」

 

 

 ☽ ☁ ☂

 

 名取の頭の上の見張り妖精が左舷から向かってくる航空機を発見し名取の頭を叩く、

 

「左舷、航空機が来ます」

 

 五月雨はエンジンの音が聞こえる夜空を見上げた、航空機が近づいてくる。

 

「対空戦闘用意~」 機銃を航空機に向けると、相手から発光信号が発せられた。

 

「夜偵ですね」 機銃を下ろしながら初霜、

 柱島鎮守府の艦娘達は柱島から16時間、四国から400Km程沖合いまで来ていた。

 

「会えてよかったです」 文月もホッとしながら機銃を下ろす。

 

「疲れた...帰りたい」

 

 五月雨たちは98式水偵が誘導する方角に針路を向け後を追う、2時間ほどで祥鳳さんたちと会合できた。

 

 22:00

 

「柱島の方々、ご苦労様です、補給と休息をとって下さい」 祥鳳さんから言われ、名取から順番に補給を受ける、宿毛の川内と第11駆逐隊は、五月雨たちが着く少し前に補給を終え目的ポイントに向け出発したとのことだ。補給艦で、補給と仮眠を少し取った後、ブリーフィングする。

 

「文月、起きてる」 眠そうな文月に声をかける

 

「あ・・・はい」

 

「初霜は」

 

「はい、準備万端です」

 

「では、文月と三日月は予定通り、ここで祥鳳さんの護衛をしながらリザーブ、もしもの時はよろしくね」

 

「はい」

 

「残りの4人で目的ポイントに向かいます、天候は曇り、午後から雨の予報です、風は北西の風5M、波2M、視程10Km、小笠原諸島父島の南西50Kmが目的ポイントです、ここから約550Km、第2戦速で250Km進み、残り300Kmを第3戦速で、15:00到着、反転帰投、会敵した場合は直ちに反転します」

 

「他に情報あるんですか」

 

「まだ、会敵した艦隊はありませんが、小笠原諸島付近には深海凄艦の艦隊が常に2~3の艦隊がいると思われます」

 

 ブリーフィングを終え海上へ出る。

 

「柱島の皆さん、天候は悪そうですが、航空支援任せてください」 祥鳳さんが言葉をくれた。

 

 01:30 

 

「艦隊、第二戦速、行きます」 五月雨を先頭に初霜、初雪、名取の順で出発する。

 

 離れていく4人を文月と三日月は手を振って見送り、自分の配置に付く。

 

 04:00

 

 雲に覆われた東の水平線はまだ暗く明るくなる気配が無い、進行方向の南南東は真っ暗で海と空の境も見分けられない。前を行く艦娘の船尾灯の白い光を頼りについて行く。

 やっと東の空から明るくなってくる、しかし空は雲に覆われて今にも雨が降り出しそうな気配だ。

 

 09:30 

 

「艦隊、第3戦速、見張りを厳重に」 雨が少し降り始める、雲量8、雲底1000、視程10kmほどか、

 

「名取さん、水偵の発進をお願いします」

 

「は、はい」

 

 名取は準備していた水偵を射出するため隊列を離れ風上に向かい 

 

「妖精さん、お願いします」

 

 呉式2号3型改一カタパルトから ポンという音とともに98式水偵を射出した。水偵は飛び出したあとゆっくり高度を上げ艦隊の上を一回りする。

 

「頼んだよ~」 初霜が手を振るなか南へ飛んでいった。

 

 14:30

 

「あと20kmで目標地点です」 敵を発見することもなく到着するのかな そんな考えも五月雨に浮かぶ

 

 名取に水偵から通信が入る。

 

「す、水偵からです、敵艦見ゆ、艦隊から南へ30km、父島から西南西60km、深海凄艦艦隊、ル級1、リ級1、ト級2、ハ級2、東北東へ進んでいます」 

 

 ル級が居るという事は、すでにル級の主砲の射程圏内、五月雨は前方を遠望するが雨で灰色に霞んで何も見えない、すぐに決断する。

 

「艦隊、左16点一斉回頭、用意~、回頭」 4人の艦娘はUターンし、先頭から名取、初雪、初霜、五月雨の順になり北北西に進む、

 

「...何しに...来たのか...」 雨に打たれ始めて不機嫌な初雪が洩らす、

 

「もともとそういう計画ですから」 初霜が返事する。

 

「名取さん、水偵を収容する時間はないので、祥鳳さんたちのところへ向かわせてください、艦隊第5戦速」

 

「水偵より、深海凄艦が転針、こ、こちらに気がついたようです」 深海凄艦もレーダーを積んでいると聞いている、しかも、性能は艦娘の電探より上らしい。

 

 14:50

 

「水偵より、ル級発砲開始、艦隊との距離28.000、」 五月雨は思わず後ろを振り返る、しかし何も確認できなかった。かなり、近弾だったようだ。この天候では着弾確認が出来ないと思われるので当たる確立は低い、

 

「水偵より、敵艦隊分かれました、ル級とリ級を残して軽巡と駆逐艦が追ってきます」

 

「艦隊、最大戦速、各艦は個別に不規則に針路を変更し回避運動、方位3-1-5」

 

 艦娘たちは、それぞれの最大戦速で進む、自然と隊列が解ける、五月雨が一番最後だ。ル級は速度が遅い、たぶん、ル級の有効射程を抜けるのに、ほぼ10分、その間に15斉射60発ほど浴びるだろう、まぐれ当たりが無いことを祈るばかりだ。五月雨の頭の上の見張り妖精が頭の左後ろを叩き注意を促す、振り返って左舷後ろを見ると、800mほどのところに水柱が上がる。

 

「ひ~実戦~」 名取が叫ぶ

 

「面舵、針路、3-2-5」 五月雨が指示する、

 

 次は、左舷後方400mほどに水柱が数本上がる、初霜を真ん中にすると前を行く名取に初雪が近づき離れていく、後ろの五月雨は初霜から遅れつつ離れていく。10分が長く感じる、生きた心地がしない、水柱が五月雨の左舷200mほどのところに上がる、

 

「面舵、針路 0-0-0」 初霜は五月雨の隊内通信の声を聞き針路を変更し終えると、初霜の頭の上の見張り妖精が頭の後ろを叩くので思わず身構える、

 

 ボゥウオーン

 

 思わず振り返ると初霜の後ろに水柱が立ち並んでいる。

 

「五月雨さ~ん」

 

 

 

 五月雨の前方200m、初霜と五月雨の間で水柱の壁が出来る、 

 

「取り舵、針路、 2-5-5」 五月雨の顔は水柱からの飛沫と雨と汗でぐっしょり濡れている。

 

 ボゥウオーン

 

 今度は、五月雨の右舷前方に水柱が数本立ち上がる。ル級は艦娘達の進路方向とクロスするように砲撃してゆき弾着修正を省き、まぐれ当たりを狙ったようだ。もう修正して撃つには間に合わないだろう。五月雨は少しホッとする。

 

 15:05

 

「水偵より、南から北へ向かう編隊見ゆ」 名取から隊内通信が入る、5分ほどで敵機がくる、

 

「艦隊、第5戦速、輪陣形へ、針路2-7-0、対空戦闘用意~」

 

「航空支援は...どこ」

 

「初雪、煙幕展張準備を」 先頭の初雪に五月雨が指示する。

 

「祥鳳さ~ん」

 

 五月雨たちの後ろ、南の空、灰色の雲の下側に黒い点がいくつか現れ、みるみる近づいてくる。

 

 15:10

 

「煙幕展張~、対空戦闘~、高度は上げられないから」

 

 深海凄艦の航空機が五月雨たちに低空から襲い掛かる。

 

 

 

 




 ル級はコロラド級を想定して書いています。
 夏イベも終わりですね、長かったな~


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出撃-3

 さあ反撃です。

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、目は髪と同じ茶色の艦娘


 灰色の空、雨雲の下、高度600~800m付近から下半角の翼に魚雷をぶら下げた深海凄艦の艦載機が20機ほど南から五月雨たちに向かってくる、艦娘達は、先頭に初雪、右側少し前方に名取、左側少し後方に初霜、後方に五月雨、少しいびつな輪陣形で北西に進みながら機銃を構える。距離は5000mほど、さらに、その後方に黒い粒が現れた、別の編隊だ。

 

「もう...やだ」

 

「撃ち方はじめ」

 

「当たってくださ~い」

 

 名取は8cm単装高角砲を撃ちだす。

 

 雲底が1000mあたりなので急降下爆撃、水平爆撃は難しいはず、雷撃か機銃による攻撃になるだろう、厳しい状況に五月雨も覚悟する。

 

「魚雷を放棄してください」

 

 深海凄艦の艦載機は弾幕を気にすることもなく高度を下げ始め、投擲コースに入る、

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

「間に合いましたね、分隊士」

 

 通信機から2番機の妖精が声をかけてくる、祥鳳戦闘機隊の零戦21型6機は深海凄艦の艦載機の左舷側後方上空から全速で近づき突入するところだ、

 

「投擲させるな、全機突撃ー」

 

 1番機の20mm機銃弾が先頭の艦載機に吸い込まれ、あっという間に吹き飛んだ。深海凄艦艦載機の半分は投擲をあきらめすぐに回避行動を始め、残りの半分はそのまま直進する。残りの機に分隊が機銃が浴びせ、さらに2機が撃墜されると、残った艦載機は、あきらめて回避するもの、魚雷を投擲して回避するものと、ちりじりになった。祥鳳戦闘機隊1番機は高度を下げないように気をつけながら魚雷を抱いたまま逃げていく深海凄艦の艦載機を追った。

 

「高度に気をつけろ、深追いせず投擲位置に付かせないようにしろ、撃墜にこだわるな」 

 

「魚雷を抱いたものを優先しろ」

 

 分隊士の妖精は追っかけた艦載機を撃墜すると雲の下ぎりぎりまで高度をとり、全体を見下ろす、追いかけられた敵機はさらに撃墜された、残った機は諦めて上昇し雲の中に逃げ込んだ、零戦隊の損害は0だ。さらに周囲を見回すと、南東方向で最初にあきらめて回避した艦載機が集合して編隊を再編し、東と南の二手に分かれて旋回しているのが見える。

 

「2番機、居るか」

 

「ちゃんと後ろに居ますよ」

 

「2番機、南側を殺れ、東側を片付ける」 

 

「祥鳳戦闘機隊がここは通さん!」 2番機が後ろを離れ敵に向かって行く、

 

 2番機は南側から近づく艦載機に正面から機銃弾を浴びせると直ぐに上昇して宙返りからロールしてすれ違う、たちまち先頭の艦載機が火を吹き落ちていく、敵編隊後方の上方につくと編隊はバラバラになり逃げていく。

 

「魚雷を捨てないと逃げきれないよ と」 次の艦載機を射撃する。

 

 1番機は東側から近づく編隊へ斜め横から編隊の上へ駆けあがりロールして旋回し、後ろ側上方に付くと追い越さないようにしながら射撃する。1機、2機と撃ち落すと残りの艦載機は魚雷を捨て逃げていく。

 

「深追いするな、雲の下に留まり警戒する」 燃料は十分ある、

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 名取が撃ちだした時には、後ろに見えていた編隊が、あっという間に近づいて、先頭の敵機を射撃をして撃ち落してしまい、さらに攻撃を続け、深海凄艦の編隊はバラバラになってしまった。

 

「味方です、祥鳳さんの零戦です」

 

 それでも数機が魚雷を投擲してから回避した、しかし、慌てて落としたので、まともに走行しているのは1本だけで、それが初霜に向かっていく。初霜は慌てることもなく避け、回避行動をとる艦載機に機銃弾を撃ち込む。艦載機は機銃弾を受け胴体から煙を出しながら逃げていく。

 

「零戦の皆さん、ありがとう~」 初霜は上空に向かって手を振る、

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 乱層雲のぎりぎり上、高度7000m付近を6機の97式艦攻が雲海に自機の影を映しながら南へ飛ぶ、

 

「水偵からの報告からすると、あと70Kmほどです」 通信士妖精が声をかける.

 

「全機、降下するぞ、雲底は1000m、高度計に気をつけろ、雲を抜けてからもたもたしてたら2分ほどで海面だぞ」

 

「降下開始」

 

 分隊士妖精からの命令で6機は次々と雲海の中へ吸い込まれていく。風防に雨粒がつく、僚機が見えるので少し安心する。降下すること15分ほどで雲の下へ出た。分隊士妖精は周囲を見回す。

 

「水偵は見えるか」

 

「見えません、左舷後方、深海凄艦、距離10Km」 偵察員妖精が報告する、

 

「方位、0-9-0 左旋回」 艦攻6機は一旦東を向いて敵艦隊の後ろに回りこむ、

 

「敵、ル級1、リ級1、針路 2-7-0、周囲に艦載機は見えず」

 

「方位、2-7-0 左旋回」

 

 高度800~900、低い高度のまま祥鳳攻撃隊は続けて左旋回し、深海凄艦を追う形になる。

 

「トツレ」 

 

 分隊士からの合図で6機は1番機を先頭に単縦陣になり、ル級に背後から迫る。ル級とり級から12.7cm高角砲を撃ってくる。空に黒い煙が所々に浮かび機体が揺れ腹の底に響く、分隊士妖精は平然と操縦しているが、偵察員妖精の額には汗が落ちる、そのまま対空砲火を受けながら、深海凄艦の右舷側を追い越していき、先頭から左旋回してル級を取り囲む。

 

「トトト」 

 

 攻撃機はそれぞれ包囲したところからル級に機首を向け突撃する、ル級の対空射撃は分散され散発だ、1番機は高度を下げル級の左舷から1000mの距離で投擲し、ル級の前方をかすめて通り過ぎる、偵察員妖精が後ろを振り向くとル級に向かって様々な角度から4本の筋が向かっていくのが見えた。ル級に2本の水柱が上がる。

 

「命中」 偵察員妖精から声が上がる。

 

「集まれ」

 

 高度を上げル級から離れながら僚機が集まるのを待つ、4番機と6番機が居ない。

 

「ル級停止しました、沈み始めています」

 

「帰投」 命令したあと分隊士は海に向かって敬礼し、機を上昇させた。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

「そうか、作戦の成功を期待する」 

 

 軍務局長は受話器を置き、ソファーに深く座り、煙草を取り出し火をつける。

 

「軍令部次長から今回の偵察で深海凄艦の動性が判ったそうだ、父島には泊地姫も飛行場姫も居なかった」 

 

 反対側のソファーに座る横須賀鎮守府提督に話しかける。

 

「やはりですか、今までの報告からそうではないかと思っていました」

 

「深海凄艦の艦載機が柱島の艦隊に南から飛来したことを受け、硫黄島を偵察したところ飛行場姫が居た、とのことだ」

 

「柱島も少しは役に立ちましたか」

 

「複数の偵察艦隊で牽制し、隙をついて敵泊地を偵察する今回の作戦は成功だ、軍令部は硫黄島攻略の作戦を発動する」

 

「やっと出番というわけですね」

 

「小笠原諸島近海を奪還すれば哨戒線を押し上げることができ、本土に襲来する深海凄艦が減るだろう、頼むぞ」

 

「やっと攻勢に出られる、横須賀鎮守府の力、見せますよ」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 昨日の夕方から降る雨は、今日の夕方になってもまだ降り続いている。朝方、宿毛の祥鳳艦隊に合流した五月雨たちは疲れきっていたため、補給艦に乗り込むと死んだように眠った。五月雨が起きたとき外はもう夕方で周りを見ると初霜、初雪が寝ているが、名取が居ない、起き上がり甲板に上がると名取は舷側の手すりから空を見ていた。

 

「帰って来ないんですか」

 

 こちら振り返る名取。

 

「今回のMVPは名取さんの水偵だと思います」

 

「頑張りすぎたみたいです」

 

 名取の横に並んで立つ、補給艦からは周囲を警戒している文月と三日月が遠くに見える、五月雨は二人に向かって手を振るが気がつかないみたいだ。

 

「皆、自分達の任務を全うすることに努めます、それが仲間を助けることになるから」

 

 二人して灰色の空を黙って見つめる。

 

 

 休息と補給を取った後、五月雨たちは補給艦から海上に出る、

 

「祥鳳さん、ありがとうございました」

 

「柱島の皆さん、お疲れさまでした」

 

 祥鳳さんに挨拶したあと柱島に向けて帰投する。

 

 

 

 四国の山々が遠くに見えてきた頃、司令官から通信が入る、

 

「さっき呉の提督から連絡が入りました、名取の水偵を父島の沿岸で呉のゴーヤ(イ58)が発見し救助した、とのことです、名取さん良かったね、皆無事に戻って来てください」

 

 通信を聞いた五月雨はガッツポーズで名取を見る。

 

「やりました・・・良かった」 名取も嬉しそうに笑顔を見せる。

 

 司令官によると、名取の水偵は祥鳳艦攻隊を誘導中、ちょうど艦攻隊が雲の中を降下しているときに深海凄艦艦隊に合流しようとする深海凄艦の艦載機を発見し、これを深海凄艦艦隊から引き離すために囮になって誘引して撃墜される寸前で雲の中に逃げ込んだ、しかし燃料の残りが祥鳳さんたちまで戻るには不足してしまったので、父島向かうことにし、水面を選んで父島近くに不時着水する、それを父島を監視していたゴーヤに発見され助けられたらしい。

 

 

「さあ、司令官のところへ帰りましょう」

 

 




名取の着物姿、結構美人さんだと思います。
だいぶ涼しくなりましたね。



 さらにPS 申し訳ありません、リアルが忙しくなると止まります
 




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鎮守府~艦娘寮

 


主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、目は髪と同じ茶色の艦娘


 空気が涼やかで気持ちい秋の日、青く高い空、所々には白い雲が浮かぶ、柱島鎮守府の住居棟の前には紅白の幕が張られ、幕の前には白いテントが作られており、テント内の机に艦娘達が炊事場で作った料理を運んでは器に盛り付けをしている。

 

「何人でしたっけ、文月」

 

「網元さん、神主さん、設計士さん、大工の棟梁さん、呉の提督さん、軍務局施設部の人、・・・魚屋のおばちゃん」

 

「魚屋のおばちゃんも呼んだの」 初霜が盛り付けの手を止めて振り返る。

 

「司令官が縁起がいいから て呼んだらしいですよ~」

 

 住居棟の奥に木造2階建ての白いペンキで塗られた建物が新しく建っている、中では関係者が参加して竣工式が行われている。

 新しく建てられた艦娘寮は真ん中が吹き抜けでエントランスになっておりエントランスの左奥に2階に上がる螺旋階段があり2階の左側と右側は廊下でつながっている、1階はエントランスの左右に3人部屋が各4部屋、2階は2人部屋が8部屋の構造で、そのエントランスで、今行われている式が終わると、祝賀会が始まる予定だ。

 

 式が終わり、艦娘達は関係者が中を見学してる間にテーブルを運び込み準備を始める。

 

「初雪、料理はテーブルの真ん中に置いて」

 

「テーブルクロスはしなくていいんですか、五月雨さん」 

 

 振り返るとテーブルクロスを持った三日月が後ろに立っている

 

「あ~、初雪テーブルクロスを敷くから少し待って、ありがとう三日月」

 

 五月雨は三日月を手伝ってテーブルクロスを敷いて整える。

 

「...重い」 初雪は鯛が乗った大皿を置く。

 

「うわぁ~、おばちゃん、立派な鯛を差し入れてくれたんですね」

 

 鯛を見て三日月が感心する。

 

「名取さん、お花と名札お願いします」

 

「はい」

 

 テントから文月と初霜が料理を運び込む。テーブルの上は妖精達が食器を並べる。

 

「なんで、こんなことしなきゃならないんだ」

 

 フォークを抱えた98式水偵の飛曹長妖精がぼやく、

 

「命令違反の罰らしいですよ」

 

 皿を並べる偵察妖精が あんたのせいだ と言いたいのを抑えて言う、

 

「結果オーライじゃん」

 

 そう言って仰向けに飛曹長妖精は寝転ぶ、すると突然、足首を掴まれた。

 

「うわ~」

 

 飛曹長妖精は足首を摘まれて逆さ宙吊りのままで空中に持ち上げられると、目の前に初雪の顔が、

 

「...やるよね」

 

 逆さに持ち上げられたまま初雪にジーと見られて思わず何度も頷く飛曹長妖精、

 

 

 自分の役割が終わった艦娘からエントランスの後方に一列に並び、最後に五月雨がテーブルの上を確認してから、皆の前に立ち服装を確認してから自分も列の端に並ぶ、隣の初雪がゆっくりとこちらを見てから、

 

「...エプロン」 

 

「あっ・・・」

 

 言われて慌ててエプロンを外し初雪に渡す、初雪から隣の初霜へ、そして順送りに渡されてゆき、最後の名取が壁際の隅の死角に放り込む、と螺旋階段から司令官を先頭に関係者が降りてくる。

 

「感謝の気持ちをこめて席を設けておりますのでお座りください」

 

 司令官の言葉にそれぞれ来賓が着席する。

 

「艦娘寮の新設ありがとうございます、感謝の気持ちを表したい艦娘からの心ばかりの宴ですがお楽しみください」

 

 司令官が挨拶して五月雨を見る。

 

「皆様、こんなにも立派な艦娘寮を建てて頂き感謝いたします、今後も任務に勤め、皆様をお守りいたします」 

 

 五月雨に合わせて全員で敬礼をするとエントランスホールは拍手で包まれた。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

「はい、ありがとうございます、今後もご期待下さい、軍令部長」 

 

 横須賀鎮守府提督は受話器を置く、

 

 硫黄島攻略作戦は偵察作戦後、1ヶ月の準備期間を経て発動され、呉、佐世保鎮守府の2週間ほどの前段作戦のあと、横須賀鎮守府が1ヶ月の本攻略で被害を出しながらも攻略に成功した。各鎮守府は被害が大きく再編を行っているところだ。

 

「当分は建造、演習、遠征になりそうだな、提督」

 

「そうだ、特に資源の回復が優先だ、遠征を優先してくれ、回復するまで海域の警戒は、他の鎮守府が担当するので当直を組み直してくれ 長門」

 

「いいのか、提督」

 

「そのために予算が認められ設備を拡充させているはずだ」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 偵察作戦の成果もあって、柱島鎮守府の設備拡充と艦娘増強は許可され設備工事は始まった、だが硫黄島攻略作戦には呼ばれず、攻略中の柱島鎮守府は近海の海域警備と海上輸送護衛に明け暮れた。

 新しく艦娘寮が完成すると、艦娘達は住居棟から艦娘寮1階に引っ越しを行い、司令官は一時的に艦娘寮の2階に引っ越す、次は住居棟の内装を改造、提督用の住居の建築、事務棟と食堂と艦娘寮ををつなぐ回廊の工事が始まるからだ、旧住居棟は部屋の間仕切りを無くし食堂にする予定だ。

 

「本日の業務修了、引越しも終わったから、明日にでも建造をしようと思う」

 

 机の上を片付けながら司令官は今日の秘書艦の名取に話しかける。

 

「はい・・・お願いします・・・私はこれで」

 

 硫黄島攻略は成功したものの各鎮守府の損害は大きく、小笠原諸島への輸送、警戒に戦力不足が深刻で海上護送総司令部からは戦力を拡充して参加するように催促がたびたび来ている。他にも他の鎮守府から海域警戒の応援依頼も頻繁だ。艦娘寮が竣工したのでやっと建造できる、それに明日の秘書艦は初雪だ。

 

 

 翌朝、司令官は初雪を連れて神社へ向かう、五月雨、初霜は海域警戒の応援へ、名取、文月、三日月は遠征に行っている。

 

「新しい寮、部屋が少し広くなったね」

 

「...うん」

 

 いつものようにお参りして帰りに魚屋のおばちゃんからアジを買って帰る。

 

「...今は...秋刀魚が旬」

 

「今日はアジを食べる日」

 

「これ...ずっと続けるの」

 

「建造不可が出たら考えるけど、それまでは止められないよね」

 

 初雪は不可が出なくても止めれないいいのに と思った。

 

 工廠に入ると、新たに支給された建造の木札6枚を妖精に渡し、資源ダイヤルをオール30でセットする。一度奥に入っていった妖精が巻物を6個持って出てくる、少し緊張して巻物を順番に広げる。那珂、涼風、初雪、霞、多摩、満潮だ、那珂は建造不可、初雪は2隻目だ。司令官は申し訳なさそうに那珂と初雪と書かれた巻物を解体と書かれた箱の中に入れ、4つの巻物だけ妖精に手渡す、2度あることは3度は無かった。妖精が奥に消えると、ぼんやりした奥から艦娘が現れた。

 

「ちわ!涼風だよ。私が艦隊に加われば百人力さ!」

 

 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで二つ結びにしている艦娘

 

「霞よ。ガンガン行くわよ。ついてらっしゃい。」

 

 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った勝ち気な目つきの艦娘

 

「軽巡、多摩です。 猫じゃないにゃ。」

 

 短めのピンクぽい紫髪に猫目のショートパンツの艦娘

 

「満潮よ。私、なんでこんな部隊に配属されたのかしら。」

 

 セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘

 

「ようこそ、柱島鎮守府へ、司令官の榎本です」 

 

 気押され気味に返事する、今回は、個性的な艦娘が多いようだ。

 

 4人が加わったので、艦娘寮の部屋割りは、1階の左側奥101から五月雨と涼風、102が初霜と初雪、103が三日月と文月、105が霞と満潮、1階の右側奥109に名取と多摩の二人。3人部屋は少し広くなったがレイアウトは変わらず右側のドアを開けると左側壁際に机、奥に3段ベット、正面窓側に一段高く共有スペースが畳3畳ほど、二人部屋はドアが中央にあり1段ベッドが左右に分かれて置いてある。

 柱島鎮守府は、軽巡2、駆逐艦8となった、まだまだ艦娘が必要だ。

 

 涼風達が訓練と演習の日々を過ごして、3週間ほどしたとき司令部から柱島鎮守府に北方海域への出撃命令が届く。

 

 

 




 秋刀魚なかなか出ませんねw



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北方海域へ

 仲間も増えて新たな任務です


主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦 長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦 セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
               目は髪と同じ茶色の艦娘
 多摩  球磨型軽巡洋艦2番艦 短めのピンクぽい紫髪に猫目のショートパンツの艦娘
 満潮  朝潮型駆逐艦3番艦  セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、
               襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘
  霞  朝潮型駆逐艦10番艦 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った
      勝ち気な目つきの艦娘。
 涼風  白露型駆逐艦10番艦 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで
二つ結びにしている艦娘

 幌筵(ほろむしろ)泊地  千島列島北東部にある国土の最北端の泊地 





 窓の外はすっかり暗くなり、聞こえてくるのは波の音と艦娘寮から時々聞こえてくる楽しげな笑い声くらい、提督室では司令官が編成表を作るのに思案していた。

 

 司令部からの命令は北方海域への強行偵察。

 呉の提督からの情報では、北方で深海凄艦が警戒線で発見されることが頻繁になり、北方海域の偵察強化が必要になったが、北方海域は常に天候が悪く航空偵察が十分できない、そこで水上部隊による偵察を行う計画が軍令部より提案され春を待って発令された、幌筵と単冠の鎮守府は警戒で手一杯なので大湊鎮守府から艦隊が出撃したが、羅針盤に嫌われて目標地点まで到達できず偵察できない事が続いた。さらに司令部は潜水艦による偵察も試みたが、やはり天候と羅針盤それと深海凄艦の警戒艦隊に阻まれて近づけなかった。

 そこで前回偵察作戦を行い成果を上げた柱島鎮守府にお鉢が回ってきたらしい。しかし本当は柱島鎮守府司令官の運の良さに司令部は期待したんじゃないか、と呉の提督は言っていた。

 柱島から北方海域までは5,000Km程もある、1度で成功する可能性は少ないので反復出撃になるだろう。であれば近くの鎮守府をベースにして偵察を行うのが良い、偵察は1艦隊だが、リザーブも考えると柱島鎮守府全艦娘で移動したほうがいいだろう、司令官は自身もベースとなる鎮守府へ移動しようと決めた。

 

 

 翌日、管理棟のブリーフィングルーム(待機室)に全員が集合した。

 

「北方海域の強行偵察が今回の任務です」

 

「...寒そう」

 

「まだ、作戦開始には時間がありますので、準備を十分行ってから柱島を全員で出発し、単冠湾泊地を経由して幌筵泊地へ向かいます、幌筵で訓練をしたあと天候を見て偵察作戦を行います」

 

「幌筵には間宮さん居るかな」

 

「私も飛行艇で後から向かいますので、単冠湾で合流します」

 

「司令官も行かれるのですか」

 

「北方海域とここは離れすぎていますし、他所の世話になるのですから、何かあるといけないので」

 

「何か んなこと起きないよ~」 涼風が言うと皆が疑わしそうに涼風を見る。

 

「で、誰が偵察するの」 霞が聞いてくる、

 

「錬度からいって名取、初霜、初雪、文月、三日月、五月雨にしようと思う」

 

「ばっかじゃないの、北方といえば霞でしょ」 

 

「錬度が同じなら考えるけど、今回はまだ早いよ」

 

「早いも何もないわ、偵察に行かないなら幌筵に行ってもしょうがないわ、ここに残る」

 

 司令官は困った顔になり助けを求めるように皆を見回す、

 

「じゃ...私が外れる...寒いの苦手だし」 初雪がぼそっと言う、

 

「しかし・・・」

 

「さっさと決めなさいよ」

    ・

    ・

    ・

 

「それじゃー、幌筵の訓練期間で決めればいいじゃねえか」 涼風が簡単に言う、

 

「どうやってよ」 満潮が聞く

 

「1対1とかよ、そこで涼風のいいとこ見せたげるぅー」

 

「何それ、意味わかんない」

 

 少し険悪なムードが漂い始め、初霜、文月、三日月が心配そうに顔を見合わせ、多摩は鳥でも来ているのか窓の外が気にるのかそっちを見ている、名取は俯いて目を合わせないようにしている。

 

「方法は別として、幌筵で司令官に決めていただければいいと思います」 

 五月雨が皆を見ながら話す。

 

「ん、がんばる」 初雪がすかさず相槌する

 

「今回の偵察は一回で遂行できるとは限りません、何度も出撃となれば交替も必要で、作戦期間も長くなります、なので全員で幌筵へ行きます、そして私も行きます」 

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 1週間後、出撃準備を整えた柱島泊地は、第一艦隊を名取、初霜、五月雨、涼風、満潮、霞、第2艦隊を多摩、初雪、文月、三日月、戦時標準輸送船1隻、戦時標準油槽船1隻、として柱島鎮守府から抜錨する、司令官は埠頭から出航する艦隊を見送った。

 

 艦隊を見送ってからさらに1週間後、司令官は呉で97式飛行艇に乗るため柱島を出発した、呉へ着くと提督に挨拶しようと思ったが海軍省に呼ばれて東京へ行っていたため会えなかった、発着場へ行く途中で酒保に寄り道し様々なものを買ってから急いで港へ向かう、97式飛行艇はすでに出発準備を終え待っていた、搭乗口から飛行艇に乗り込むと司令官は立ち止まった、

 

「どうかされましたか」 搭乗口に居た乗員から声がかかる、

 

「なんでもないです」 

 着席すると司令官は懐かしそうに機内を見回してから窓の外へ顔を向けた。

 

 ドアが閉まると飛行艇はガタガタ揺れながら斜面を下って海に入っていく。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 艦隊は、大湊鎮守府、単冠湾泊地、を経由して10日かけて幌筵泊地のある港に着いた。単冠泊地で司令官は合流し輸送船に乗船した。

 

 遠くに幌筵島がみえてくる。

 

「なにも無さそうですね」 初霜が見えるままを口にする。

 

「なんで幌筵なの、大湊のほうが設備は充実してるのに」 満潮が聞く

 

「さぁ~なんででしょう」

 

 埠頭があるだけの港、奥には千島硫黄山があるはずだが灰色の雲に覆われて見えない、港から続くなだらかな部分に建物が建っているが閑散として活気がない感じだ。埠頭に着き輸送船が係留し、艦娘達が埠頭に上がる頃、フェートン型の軍用車とボンネットトラックが近くに止まった。

 

「皆さんお疲れ様」 フェートン型の車から紺色の軍装の司令官が降りてきて声をかける。

 

「柱島泊地第1艦隊、第2艦隊、幌筵泊地に到着しました」 五月雨が敬礼をする。

 

「幌筵泊地司令官の勝です、柱島泊地の皆さん、ようこそ幌筵へ」 

 そういって答礼した司令官は黒髪を後ろで束ねた女性、

 

「司令官は輸送船に乗船しておられます」 

 

「まだ下船するには時間がかかりそうだから、司令官は私が乗せていくから、あなたたちは先に鎮守府へどうぞ」

 

 勝司令官の横に眼帯をした艦娘が立って

 

「秘書艦の木曽だ、よろしくな」

 木曽は事務的に挨拶し艦娘達を見回すと少し慌てて正面に顔を戻す、

 

「木曽ちゃんだにゃ~」 後ろに居た多摩が木曽に気がつき嬉しそうに手を振る

 

「ト、トラックに乗ってくれ」 

 そう言って木曽はトラックの助手席に戻る、

 言われて五月雨たちはボンネットトラックの後ろに周り荷台へ上がろうとする。

 

「にゃー」 多摩がジャンプして荷台に飛び乗る、それを見て涼風が少し助走をつけて飛び乗る、

 

「ばっかじゃないの」 霞が満潮に助けてもらいながら上がる、

 

 名取がどうしようか思案していると、

 

「掴まるにゃ~」 多摩が荷台から手を伸ばしてくれる、全員が荷台にあがると、

 

「全員乗ったな、行くぞ」 木曽の声とともにボンネットトラックは動き出した。

 

 ボンネットトラックはゆるやかな上り坂をガタゴトゆっくり上って行き、やがて止った。艦娘達が荷台から降り周囲を見ると丘の斜面にケーキを切り取ったような凹みの中に平屋の建物が建っている、まるで地面の中に隠れているようで建物の壁と斜面の断面の間には雪が残っている。

 

「陽当たり悪くてジメジメしてそう~」

 

「何これ、意味わかんない」 

 

「今日は風が弱いが、冬はとくに風が強いんだ、まぁ、防衛にも都合がいいしな」 

 助手席から降りた木曽が説明して建物のドアを開ける、

 

「だから沖合いから何も無いように見えるのね」

 

 艦娘達はぶつぶつ言いながら宿舎に指定された建物に入っていく。

 

 

 

 翌日から訓練を開始し、今、灰色の雲の下を艦娘が幌筵の沖合いを単縦陣で進んでいく。

 

「霧中浮標、投下してください」 

 名取の合図で各艦娘は艦尾より浮標をを投げ入れワイヤーで浮標を曳航する

 

「浮標に近づいて距離を一定に保ってください」 

 

「あわわ」 

 涼風が浮標を追い越してしまい慌てて減速すると、後続の満潮も慌てて減速し隊列が団子になってしまった。

 

「ちょっとォー、何やってんのよ、涼風」 

 

「いやーかっじけなねぇ~」

 

「隊列を戻してくださ~い、速度を上げます」

 

「艦隊、強速~」

 

 柱島の第一艦隊の艦娘は名取を先頭に単縦陣を組み、霧中での航海を想定して艦隊運動を繰り返す。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 沖合いの艦隊を埠頭から双眼鏡で眺めている柱島の司令官に後ろから声が掛けられる、

 

「早速訓練、張り切ってるわね」 振り向くと幌筵の司令官が来ていた。

 

「訓練してこその運だから」 

 

「ちゃんと自覚してるね、恵くん」 鹿鈴がお姉さんぶって褒める、

 

「歳は上でも同期なんだから、恵くんは・・・」

 

「私の中では同期でも榎本君は恵くんよ、お互い元気でなにより」

 

「・・・」

 

「イク(伊19)からの報告ではキスカ島から東は深海凄艦がうようよ居て近づけない状態らしいわ」

    ・

    ・

    ・

 

「・・・陽動作戦」「陽動作戦が必要ね」

 

 二人で同時に口に出して顔を見合わせる。

 

「ほとんどの艦娘は出払って居ないけど、そっちは任せて恵くん」

 

「ありがとう、お願いします、鹿鈴さん」 

 

 恵児は笑顔で手を差し出し鹿鈴と握手した。

 

 

 

 




 
 つたない文を読んでいただいてありがとうございます
 ずっと読んで下さっている方は判りますよね


 さらにPS 今まで、柱島鎮守府と書いてきましたが、今回から柱島泊地に変更させていただきます


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海霧

 偵察作戦開始です

主な登場艦娘
柱島泊地
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
                目は髪と同じ茶色の艦娘
 多摩  球磨型軽巡洋艦2番艦 短めのピンクぽい紫髪に猫目のショートパンツの艦娘

幌筵泊地
 木曽  球磨型軽巡洋艦5番艦 右目に眼帯をして黒いマントを肩から羽織り、
     軍刀を手に持つ艦娘
 まるゆ 大日本帝国陸軍所属の潜水艦、三式潜航輸送艇,最弱の艦娘、



 海上は一面に乳白色の海霧に包まれている、海面は穏やかで静かだ、ここはキスカ島から100㎞ほど北西にある長さ7㎞、幅4㎞ほどの無人島で、島の北側にある浜辺の沖合い、

 突然、海面に棒のようなものが突き出てきた、しばらくすると海中から海面に艦娘が現れた、顔を出した艦娘は周囲を見回し少し困った顔をしたあと、遠くから聞こえてくる波が打ち寄せる音を聞きつけると、ホッとした様子で、そちらへ向かって泳ぎ始めた、浜辺に近づいた艦娘が海から上がって波打ち際まで来る、頼りなさそうな艦娘は水中眼鏡を頭の上に載せて、お腹には○の中に ゆ と書いてあり、そして手にはロープを持っていた。

 

「なんとか着きました」

 

 少し息を整えてから海に向き直りロープを引張って手繰り寄せ、運貨筒を浜辺に上げる。

 

  運貨筒

  動力を持たないため、自走能力がなく、搭乗員もいない無人の舟艇。

  潜水艦に曳航されて目的地まで運ばれ、到着後に切り離される

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 海上一面の乳白色の濃い霧の中、目の前にある霧中浮標を見失わないように艦娘が進んでいく、最初の出撃からすでに1ヶ月、1回目は羅針盤に嫌われて逸れてしまった、2回目は警戒中の深海凄艦の艦隊に序盤で遭遇して撤退した。

 

「そろそろ突入ポイントのはずだにゃ、減速するにゃ~」 

 

「羅針盤があってたらですけど」 隊内通信で三日月が答える、

 

「艦隊、半速」 減速して多摩は時計を見る、

 

「発信にゃー」 多摩の頭の上で妖精さんが大湊鎮守府へ発信する、海域の天候報告しているような電文だ、艦隊の位置が合っていれば まるゆ からの電波を受信できるはずだ。羅針盤に嫌われた1回目は受信できず引き返し、2回目は突入ポイントに着く前に深海棲艦の前衛艦隊に遭遇してしまった、1時間ほど時間が過ぎる、

 

「また、だめでしょうか」 三日月がため息をつく、

    ・

    ・

    ・

「どうかにゃ~」 頭の上の妖精が多摩の頭を叩く、

 

「受信したにゃ、船位測定だにゃ」 まるゆ からと船橋電波送信所からの電波で三角測定を行い方位測定する。

 

  海軍無線電信所船橋送信所

  海軍の無線電信施設で艦船へ向けて「短波」「中波」を送信した施設。

 

「突入ポイントから10㎞ほど東南にずれてるけどOK、到達したにゃ」 

 

 この位置は、キスカ島の西80㎞ほど、まるゆ がいる島の南50㎞ほどのところ、多摩が先頭で、三日月、文月、油槽船、初雪と隊列を組んで東へ進んでいる、艦隊は減速して互いの距離を詰める、

 

「突入ポイントにゃ、作戦開始にゃ」 隊内通信で多摩が発令する。

 

「出てやるか」

 

 油槽船から片目に眼帯をしマントを纏った艦娘が出撃する。

 

「柱島第一艦隊出撃します」 

 

「出撃します」

 

「出るわ」

 

「出番かい」

 

「いよいよ出番ですね」

 

 それに続いて名取、初霜、霞、満潮、涼風、五月雨が出てくる。

 

 先頭の名取は多摩を追い越す時、多摩に向いて敬礼して行く、その背中はすぐに濃い霧の中へ消えてしまう、それに続いて次々と艦娘が現れては濃い霧の中へ消えていく、

 

「必ず、戻ってくるにゃ~」 背中に向かって多摩が叫ぶ、

 

 油槽船から出撃した木曽は、まるゆ が居る島の方、北へ向かい濃い霧の中へ消えた、全員が出撃すると、

 

「発信にゃ」 

 

 多摩が命令すると、再び通信機妖精が大湊へ偽の気象電文を発信する、これで司令官に艦隊が突撃ポイントに到達して作戦を開始したことが判るはずだ。

 

「後退するにゃ」 多摩の合図で柱島の第2艦隊は転回して西へ針路を変え、待機地点へ後退する。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 1ヶ月ほど前に浜辺に到着し上陸した まるゆ は浜辺から3㎞ほど離れた島の最高地点656メートルに濃い霧の中で苦労して数回往復する、通信距離が50㎞ほどの通信機材とレーダーを運び上げ、風を避けたところに設置しカモフラージュを施す、そして自分も少し下った離れた所に風を避け穴を掘る。

 

「もぐらじゃないのに」 穴を掘り終わるとそこで待機する、

 

 風の音と鳥の声、それに時々遠くで聞こえる深海凄艦の吼える声、あとは静寂に包まれた島だ、着いてから1ヶ月の間に2回呼び出しがあり通信機を使ったが何も反応は無く、本当に作戦は上手くいっているのか、と不安になるが撤収命令が出るまでは作戦が継続していると考えなければ仕方が無い、最初は緊張して聞いていた依佐美電波送信所からの電波も今はなんとなく聞いている、・・・!

 

  依佐美送信所

  対長波の性質として海面下のある程度まで到達できるため、

  潜水艦との交信には(超)長波が使用され、潜水艦向けの超長波を送信する施設。

 

   ・

   ・

   ・

   ⁉

「わたしの符丁だ」 

 

 慌てて穴から抜け出すと頂上の通信機に駆けつけ、3回目になる送信の準備にかかり送信する。

 

「今回も空振りでしょうか・・・」

 

「お願い、受信してください」

 

 まるゆ の祈りが通じたのか依佐美送信所から作戦開始の符丁が聞こえてきた。

 

「やりました」 霧の中、1人で喜んだあと

 

「ワレ、ザショウス、キュウエン、モトム、U800」 

 

 別の通信機を使って平文で連続送信してからレーダーを起動する、

 

「深海凄艦さん、聞いてくださいよ」 

 

 レーダーには南から島に近づく反応がひとつある、、

 

 30分ほどすると東と東南にひと固まりづつ反応が現れた、

 

「釣れました」 隊内通信で深海凄艦艦隊の方角を連絡し救援送信とレーダーを切り浜辺へ向かう。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 救援要請の通信を聞きつけたのはキスカ島の北に居た前衛艦隊ロ級eliteの駆逐艦で、すぐに旗艦の軽巡ヘ級flagshipへ報告し仲間を呼び寄せ西へ移動する、

 さらにキスカ島の南側に居た深海凄艦は重巡リ級eliteを含む前衛艦隊で、これも北西へ向かう、二つの深海凄艦の艦隊が まるゆ の居る島へ移動する。

 濃い霧の中で進む深海凄艦は時々叫び声を上げながら艦隊内のお互いの位置を確認しているようだ。島までは20㎞ほどまで近づいた、四方は乳白色の濃い霧で包まれていて前後の艦は見えない、南側の北西へ進んでいる前衛艦隊の先頭は軽巡ヘ級flagshipで、何か前方に気配を感じたが島の反応と重なって判断しかねた。

 

 突然、濃い霧の中から腰に鞘刀を差した艦娘が飛び出てくる、ヘ級flagshipは砲塔を構える間もなかった、低い姿勢で突っ込んできた艦娘はあっという間に近づき抜刀して袈裟掛けに切りつけた。

 ヘ級flagshipは首を切られ、穴が一つ開いた仮面をしたような頭が胴体から切り落とされて離れていく、艦娘は後ろを振り返りもせず、そのまま前進し、すぐに霧の壁に消えた。

 次の重巡リ級eliteは前方で水しぶきの音がしたので砲撃されたのかと思い砲撃準備に入る、ふいに前方の濃い霧の中から艦娘が飛び出してきて、同じくすれ違い様に抜刀する、重巡リ級eliteはかろうじて砲塔の付いた腕で防いだ、しかし刃を受けた腕は切られ跳ね上げられて飛んでいく。

 

「チッ」 艦娘は舌打ちして、180度転回して肩の砲塔を構え斉射した。重巡リ級eliteは上半身に近距離から直撃を受け上半身が吹き飛び燃え上がる。

 

 木曽は重巡リ級eliteを砲撃したあと抜刀していた微塵丸を鞘に収め砲塔を構えた。

 

  木曽の使った刀は、古の艦 とは違い人型をした艦娘のために海軍技術研究所が

  艦娘の明石、夕張とともに近接戦闘用に開発した武装の一種。

  木曽は名前には興味は無かったが勝司令官が 微塵丸 と名付けた。

 

 木曽は今度は10㎞ほど北にいるはずの深海凄艦の艦隊に向けて砲撃し、再び濃い霧の中へ紛れ深海凄艦の艦隊から南へ離れていく、後ろの方で吼える声がした後、水柱の音と砲撃音が響いてきた。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 後続の軽巡ト級eliteは砲撃音がしたので、前を行く重巡リ級eliteが発砲したと思い自分も砲撃準備をする、さらに、もう一度、砲撃音がした。濃い霧の中をそのまま前進すると霧の壁が明るくなり、目の前に炎上する重巡リ級eliteを発見する、軽巡ト級eliteは咆哮し相手を探そうとしたとき、周囲に水柱が上がり慌てて応戦する。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 遠くで砲撃音がし始めた頃、まるゆ は浜辺にたどり着いた、息を整え時計を確認してから海に入り沖へ泳いでいく、浜辺の沖合いまで来ると島の山頂の方角から爆発音が聞こえてきた。それを確認すると まるゆ は泳ぐのを止め潜り始めた。

 




 
 読んでくださってありがとうございます。
 
 木曽さん、イケメンですね、相棒はやはり まるゆ です、
 なんだかこの小説、ゲストの方が活躍してる気が・・・、

 
 
 
 


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偵察

 幌筵の木曽とまるゆの活躍で哨戒線を突破した五月雨たち


主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
               目は髪と同じ茶色の艦娘
 満潮  朝潮型駆逐艦3番艦  セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、
               襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘
  霞  朝潮型駆逐艦10番艦 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った
                勝ち気な目つきの艦娘。
 涼風  白露型駆逐艦10番艦 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで
               二つ結びにしている艦娘


 濃い霧に覆われた空、さらに波頭には時々白波が見える状況の中で、名取は射出カタパルトを風上に向ける、偵察員妖精は体をシートに押し付け衝撃に備える。

 

「何でこんな天候なのに出撃ですかね、飛曹長」

 

「時間が無いからだろ、ぐたぐた言っても仕方ない、任務は重く、わが身は軽い だ」

 

 ボン 火薬が炸裂して98式水上偵察機が名取から打ち出される。打ち出された水偵はすぐに霧の中に消えて見えなくなる。飛曹長妖精はゆっくりと上昇して行き霧の上に出る、

 

「よし、星があるな、天測開始、機位を測定しろ」

 

「機位測定しました、北緯52度4分西経169度10分、ダッチハーバーまで250㎞です」

 

「名取に報告しろ、行くぞ」

 

 98式水上偵察機は艦隊の上空を離れ北へ飛行する。

 

 深海凄艦の哨戒線を抜けた名取たち柱島第一艦隊は1日半ほどで、ダッチハーバーの南西へ進出し水偵を発進させた。98式水偵の夜間飛行能力と航続距離を活かしてダッチハーバーを偵察する。偵察が成功すれば艦隊は反転し帰投し、水偵は偵察を終えたあと1200㎞ほど西へ飛行してアッツ島の近くの島で乗員が潜水艦に回収される。もし偵察が上手くいかなかった場合、水偵は艦隊に戻り名取が回収し再度発進させる計画だが、敵地に長居すれば発見される可能性が高くなる。

 

  98式水上偵察機

  飛行艇型の艦載夜間偵察機、

  最高速度: 217km/h、巡航速度: 130km/h (高度1000m)、航続距離: 1,945km / 15h

 

 水偵発進後に南へ転進した名取たちは水偵からの報告を待つ。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 40分ほど飛行すると前方に雲海に浮かぶブセビドフ山(標高2149m)の山頂が見えてきた。まるで海に浮かぶ島のように見える。

 

「ウムナック島です」 偵察員妖精が報告しチャートに記入する。水偵は北東に針路を変える。

 

 1時間ほど雲海の上を飛行する。

 

「そろそろです、地上見えませんね、飛曹長」 偵察員妖精はそういうとカメラの確認を行う。

 

「うちの司令官は運が良いのが取り柄だ、大丈夫だよ」

 

「まったく気楽なんだから飛曹長は」

 

「それより、見張り、しっかりしろよ、地上に気を取られて怠るな」

 

 水偵がダッチハーバーの上空に差し掛かるが眼下は雲海で何も見えない、ダッチハーバー上空を横切り水偵は左旋回してダッチハーバーの淵に沿って飛ぶ、

 

「どうします、長居すると気づかれますよ」

 

 飛曹長妖精が判断に迫られたとき、左舷の雲海に少し切れ間を発見した、すぐに旋回して切れ間の上を飛行する。通り過ぎて反転するとすでに一面の雲海に戻っていた。

 

「撮ったか」

 

「撮りました、直視でも確認しました、バッチリです、飛曹長」 

 

「名取にテ連送だ」 水偵が南西に針路を変えたとき、後方の雲海から深海凄艦の艦載機が飛び出してきた。

 

「敵、六時方向」 後ろで偵察員妖精が叫ぶ、水偵は高度を下げ、深海凄艦の艦載機が機銃を撃つ前に雲海に突入した。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

「成功です、脱出します」 名取はテ連送を受信すると艦隊の針路を西に取った。

 

「何で西なの、南へ行けばいいじゃねえか」 涼風が言う、

 

「はぁ~あんた、ばかなの、霧が無かったら艦載機にボコられるだけよ」 霞が答える、

 

「おおぉ~そっか~」 

 

「水偵が見つかったようです、皆さん周囲の警戒お願いします」 名取が注意を促す。

 

「名取さん、水偵さんは大丈夫でしょうか」

 

「簡単に落とされるような子では無い筈です、初霜さん・・・多分」

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 霧の中に逃げ込んだが、機位を見失わないように方位は変えず再び1時間ほど西南へ飛行する。。

 

「そろそろウムナック島です、飛曹長」

 

「よし、上昇する」 飛曹長妖精が操縦かんを引き水偵は雲海の上へ出るため上昇する。

 

「周囲に敵は居ません、あきらめたようです」 偵察員妖精は周囲を警戒したあと山頂を探す、予定では右側に山頂が見えるはずだ。

 

「山が見えません」 偵察員妖精が右舷を見ながら報告する、

 

「前だ~!」 

 

 飛曹長妖精が叫び、操縦かんを右に倒し水偵をロールさせ操縦かんを引き衝突を回避する、

 

「ぅおお~」

 

 水偵は右の翼を下げ、フロートが山肌に沿うように飛ぶ、間一髪で衝突を回避し、ブセビドフ山から離れると水平飛行に戻た。

 

「やれやれ、周囲警戒、機位測定」 

 

 水偵はアダック島の北東にあるグレートスキン火山(標高1740m)を目指して転針した。雲海の上ギリギリを4時間ほど飛ぶと前方にグレートスキン火山が見えてきた。

 

「目視したところではダッチハーバーの戦力は事前情報とあまり変わっていませんでしたよ、飛曹長」 目標が見えて安心したのか偵察員妖精が話しかける。

 

「そうか」

 

「こんなに準備して偵察したのに以前と変わり無しじゃ、名取がっかりしますね」

 

「・・・」

「帰り道ついでだ、アダックの上を通過するぞ、念のためカメラの用意をしろよ」

 

「え~、何にもありませんよ、真っ直ぐ帰りましょうよ」 

 

 ぶつぶつ言う偵察員妖精を無視して飛曹長妖精は水偵をアダックに向ける。グレートスキン火山の北を通り過ぎ南西に向かう。

 アダックまで30㎞のところで前方上方に黒い粒が見えた。

 

「11時、深海凄艦艦載機」

 

「降下する」 水偵は発見されるより早く高度を下げ雲海の中へ沈んだ。

 

「艦載機が居るということは母艦がどこかに居るということだ」 水偵はアダック上空に到達したと思われるが霧で周囲は何も見えない。

 

「?」

 

「何か聞こえなかったか?」

 

 

 ・・・ゼロ オイテケ

 

 

「はい、ゼロ オイテケ と聞こえました、飛曹長」 

 

 水偵は霧の中を低空でアダック上空を通過した。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 98式水偵がアダックを通過してから数時間後、名取達はアダック島の南100㎞ほどを西へ向けて進んでいた。

 

「なんか前方が明るくない、霞?」 満潮がをかける。

 

「まずいわね」

 

 艦隊の進行方向が明るくなって、前後の艦が見えるようになり、艦隊は霧の晴れ間に出てしまった。名取が周囲を見回すと西の雲までは50㎞、北の雲までは20kmほどか、

 

「出来るだけ早く霧の中に入りましょ」 五月雨が隊内通信で名取に提案する、

 

「そうですね、艦隊、増速します」

 

「艦隊第4戦速、輪陣形に移行、対空警戒お願いします」 名取の足元の波が盛り上がり風に前髪がなびく、先頭は初霜で右舷に満潮と霞、左舷に名取と涼風、最後尾に五月雨で六角形を作る。

 

「あと20分くらいで霧へ入れそうですね」 前方を見ながら初霜が話す、

 

 突然、北側の雲から深海凄艦の丸い艦載機1機が飛び出してきて、あっという間に前方の上空を横切り南側の雲の中に消えていく、

 

「見つかったわ」 霞が叫ぶ、

 

 最後尾の五月雨の頭の上で警戒していた見張り妖精が後方、東の雲から出てきた深海凄艦艦載機を見つけ五月雨に警告する、通過してから回り込んできたようだ。五月雨は振り返りながら機銃を構えるが、深海凄艦艦載機はすでに直上だ。丸い艦載機から機銃で射撃されるのと同時に五月雨が発砲する。深海凄艦艦載機へは左舷側と右舷側からも射線が伸び十字砲火を浴びせる。慌てて深海凄艦艦載機は銃撃をやめて回避する。

 

「さみ姉~大丈夫」 左舷側から涼風が声をかける。

 

「大丈夫」 五月雨は銃弾が掠った片腕を押さえ答える。

 

「急いで、5時に新手よ」

 

 霞の声で5時方向を見ると丸い塊がいくつも見える。初霜、満潮、名取はもうすぐ霧の中に入りそうだ、少し離れて霞、涼風、五月雨が続く、

 

「最大戦速~」 名取が大声で叫ぶ、

 

 もうすぐ五月雨たちも霧の中へ入れる、深海凄艦艦載機は五月雨たちに迫ると高度を下げる、霞、涼風、五月雨が先頭に対空射撃を集中すると、先頭の機体は高度が落ち海面に突っ込んだ、

 

「おとといきやがれ」 涼風が手を突き出す。

 

 霞と涼風が霧の中に入る頃、2番目、3番目の機体から五月雨に向けて爆弾が放たれる、

 

「魚雷?」

 

 爆弾は海中に沈まず、海面で跳躍して五月雨に真っ直ぐ迫ってくる。五月雨の体が霧の中に吸い込まれると、それを追うように跳躍爆弾も霧に吸い込まれる。

 

 

  跳躍爆弾

   航空機から投下され水面を跳ねるように進む爆弾

 

 

 

 

 




 読んでいただいてありがとうございます

 秋イベ始まりましたね、資材が沢山必要そうで早くも前途多難です。


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脱出

 あとは帰還をするだけですが・・・

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
               目は髪と同じ茶色の艦娘
 満潮  朝潮型駆逐艦3番艦  セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、
               襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘
  霞  朝潮型駆逐艦10番艦 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った
                勝ち気な目つきの艦娘。
 涼風  白露型駆逐艦10番艦 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで
               二つ結びにしている艦娘


 霧の中へ入るとすぐ背中から腰に衝撃を受け、そのまま五月雨は前方に突き飛ばされ近くで爆発が起きる。五月雨に命中した跳躍爆弾は五月雨に当たって爆発せず、五月雨を跳ね飛ばしてから爆発したようだ。

 

「あいたたた・・・」 海面にうつ伏せに倒れていた五月雨は爆発で上部装甲に損傷を受けている、手をついて体を支え上半身を起こし横座りになり体の後ろに手を当ててみる、どこか内部構造が折れているようだが、幸い浮力は失っていない。

 

「さみ姉~、さみ姉~返事して」 隊内通信から涼風の声が聞こえる。周りを見回すが周囲は霧に覆われて灰色の壁だ。

 

「涼ちゃん・・・」 体が痛くて大きな声が出せない。なんとか声を出して隊内通信で呼ぶが、どこか故障したのか発信できない。

 

 艦隊は輪陣形のまま霧に入ったので艦娘達はお互いの位置が把握できずいる、

 

「艦隊、速度を落としてください、艦隊微速、私が霧笛を鳴らします、各艦衝突に注意して集合してください」 

 

「五月雨の居た方で爆発音があったわ」 

 

「さみ姉が通信に出ない」

 

「五月雨さん、応答願います・・・五月雨さん」

     ・

     ・

     ・

「集合を中止します」

 

 名取がどうするか悩んでいると

 

「私が残って探す、名取たちは先に脱出して」 霞が提案する。

 

「あたいも残るよ」 すぐに涼風が言う。艦隊を分割したほうがいいのか悩む名取、

 

「時間が無いわよ、どうするのよ、名取」 

 

「仲間を置いてはいけないよ」 満潮が隊内通信に割り込む、

 

 その言葉に覚悟を決めた。

 

「全員で捜索します。各艦、自分の位置から衝突に注意して右回りに反転し東へ微速で進んでください、捜索時間は1時間とします、それから霧の外へ出ないように気をつけてください、探照灯使用許可します」

 

 各艦は慎重に反転し捜索を始める。

 

 隊内通信を受信していた五月雨は立ち上がりかけたが強い痛みを感じて座り込む、

 

「五月雨さん、もし聞こえていたら、霧笛か探照灯の点滅か空砲で位置を知らせてください」

 

 隊内通信で名取が話す。

 

 五月雨は霧笛を鳴らそうと、

 

「霧笛お願いします」

 

 しかし、妖精が指差したのは切れた紐で、吹き飛ばされたときに無くなったのか霧笛が無かった。

 

「探照灯用意してください」 肩に探照灯妖精が現われて霧に向けて照射する。

 

「空砲撃ちます」 12.7mm砲塔の上の妖精に指示し、

 

「砲撃」 空砲を撃つと衝撃で痛みが体を突き抜ける。

 

 北東から砲撃音が聞こえたので涼風は急いで向かう、すると霧の中で点滅する光を見つけた。

 

「さみ姉~」 涼風が光に近寄ると海面に漂う五月雨を見つけた、

 

「涼ちゃん」 

 

「名取さん、見つけた」 

 

 涼風は霧笛を鳴らして居場所を知らせてから五月雨に手を貸して立ち上がらせると、全員が五月雨と涼風の周りに集まった。

 

「五月雨さん、動けますか」

 

「どうも内部構造が、どこか折れたようです」

 

「あたいが、付き添うよ」

 

「涼風さんお願いします、まずは敵の水上艦艇が来る前に少しでもここを離れましょう」

 

「すいません」

 

 五月雨に涼風が肩を貸し、五月雨の速度に合わせて名取、五月雨、涼風、満潮、霞、初霜の順で南西に移動する。深海凄艦の哨戒線から出るには西へ残り350㎞、第4戦速なら7時間だが、今の速度だと丸一日かかるだろう、

 

「司令官に状況を連絡しないとだね」

 

「でも無線は使いたくないですね」

 

「誰かが先行するしかないわ」

 

「初霜さん、お願いできますか、深海凄艦の哨戒線を抜けたら司令官へ状況を報告お願いします」

 

「了解しました」 初霜は最後尾から離れ、皆を追い越して霧の中へ消えていった。

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 アダック島から西へ650㎞にあるニア諸島アッツ島の東南の湾に98式水偵は着水し回収を待っていた。

 

「遅いな~、深海凄艦に見つかったらどうすんだよ~」

 

「この霧の中でこんな小さな水偵を見つけられるはずがない、ここは深海凄艦の哨戒線の外で、奴らは滅多に現われないよ」

 

「世の中には想定外、て事が多いんですよ、飛曹長」

 

「それより、持っていく物の準備はいいか」

 

「準備万端整ってますよ」

 

 返事して偵察員妖精が右舷を見ると海面に泡が現われ、潜望鏡が突き出てきた。

 

「飛曹長、右舷~」 偵察員妖精が海面を指差しながら叫ぶ、

 

 潜望鏡のあと艦娘が海面に顔を出す、

 

「まるゆ だよ~」

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 名取たちはアムトチカ島の南50㎞の位置を西に進んでいた、幸い周囲は霧に包まれている、哨戒線を抜けるのに、残りはおよそ西へ150㎞、時間にすると今の速度だと10時間ほどかかる。

 

「ここからは深海凄艦の艦隊が遊弋している可能性が高い海域です、もし遭遇したら涼風さんは五月雨さんを敵艦と反対側へ誘導してください、満潮さんと霞さんは私と敵を惹きつけます」

 

「わかったわ」

 

「任して」

 

「艦隊がバラバラになり連絡がとれないときは、出発前に打ち合わせた熱田地点を再集合地点とします」

 

「了解」

 

「涼風、心配しないで、私達がバッチリ惹きつけるから」

 

「ありがてーお願いするぜ、満潮」

 

 

 それから数時間たち、霧はところどころで濃淡が出始め、前後の艦娘が見えたり時々遠くまで見通すことが出来るようなこともあった、名取のカチューシャに腰掛けて双眼鏡を覗いていた妖精が右舷に船影を発見し名取に知らせる。影への距離およそ5,000mで同方向に進んでいるように見えたがすぐに見えなくなった。

 

「右舷、敵発見、距離5,000 合戦準備、第1戦速へ」

 

 涼風は打ち合わせした通り取り舵を取り、五月雨を連れて艦隊から離れる、名取たちと敵艦隊は同じ方向に進んでいるので同航戦の形になるが相手のほうが速度が速いのでこのままだと前を押さえられる形になりそうだ、じわじわ影が近づき見えるようになってきた。先頭は軽巡へ級flagshipで軽巡3隻、駆逐艦3隻の艦隊、戦力的には2倍以上だ。

 

「雷撃します、雷撃準備」 この近距離なら当たる可能性が高い。

 

「先制するなら早く」

 

「待ってください」

 

 名取は涼風達が艦隊から十分離れるまで仕掛けるのを我慢する、距離が4,000mを切ったとき相手から砲撃が始まった。

 

「艦隊第4戦速、司令部に通信、ワレコウセンス」 名取の周りに水柱が上がる。

 

「右砲雷戦開始」 名取が14cm砲を構え砲撃して、片舷魚雷2基4門を発射、続けて満潮、霞も2基8門づつを発射、20本の魚雷が深海凄艦艦隊の前方へ航跡を伸ばしていく。

 

「取り舵」 魚雷を発射すると敵艦隊から離れるように回避運動を始める。

 

 ズゥドゥオーン 

 

 先頭の軽巡へ級flagshipから水柱が上がり、続けて2番目の軽巡ホ級eliteからも水柱が上がる、残りの艦は名取たちを追うように取り舵を切って転針する。残りは3番目の艦が軽巡ホ級eliteで、駆逐艦のロ級elite、イ級elite2隻が続いている。転針したので二つの艦隊はほぼ平行に並び南へ進みながら砲撃戦になるが、時々霧が濃くなりお互いに見えなくなる、そして有効弾はないまま進む、しかし、どちらかに何れ命中弾が出るのは時間の問題だ。

 

「艦隊減速、第一戦速へ、左180度一斉回頭用意」 名取は速度が落ちるのを確認して

 

「回頭~」 名取、満潮、霞がシンクロしてUターンする。

 

「雷跡~」 霞が警告する、魚雷は名取たちが進んでいたであろう場所へ進んでいった。このまま速度を上げれば振り切れそうだが、名取は速度を上げず敵が回頭して追ってくるのを待つ、

 

「追ってきないよ」 満潮が12.7mm砲で盛んに砲撃し続ける、

 

 そして深海凄艦艦隊が方向転換し追ってくるのを見て名取達は速度を上げ北西へ逃げる。30分ほど追撃されつつ砲撃を受け最後尾の名取は被害を受けていた、しかし次第に距離は離れつつある。

 

「そろそろ、いいんじゃない」 霞の言葉に名取は頷き、

 

「煙幕、展張します」 名取の足首に掴まった妖精が丸い缶を海水につけてから空へ向けると缶から白い煙が湧き上がり、後ろから追ってくる深海凄艦から名取たちの姿を隠した。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 砲撃音が次第に北へ遠ざかると涼風と五月雨は針路を南西から西に変え進む、体を涼風に支えられた五月雨は苦しそうだ。

 

「二人だけになっちゃったね、さみ姉、大丈夫」

 

「大丈夫・・・涼ちゃん、もし深海凄艦が現ても私は私で何とかするから自分のことを考えてね」

 

「そんなこと・・・あたいに任せて」 返事する涼風は前方の霧を睨んでいた。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 幌筵の提督室で恵児は思案していた。

 

「どうする恵児君」

 

 まるゆ から98式水偵妖精の回収成功の報告があったので作戦自体は成功だと考えられるが、撤収中に通信で交戦を伝えてきたということは状況が良くないということだ。次報が無いのは、する間もないほど切羽詰っているか、切り抜けて隠密性が必要なのか、しかし、かなり哨戒線の近くまで来ているはずだ。

 

「長距離偵察ができれば」 恵児が呟く

 

「この霧では無駄になるだけね」 

 

「第2艦隊を合流地点から動かすくらいしか手が無いけど、闇雲に動かしても・・・」

 

 恵児と鹿鈴は次の連絡を待つしかなかった。

 

 

 

 




 読んでくださってありがとうございます。
 
 年末で慌しく、次号は間が空くかもしれませんがよろしくお願いします。


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苦い勝利

 柱島艦隊全力出撃です

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦 長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦 セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
               目は髪と同じ茶色の艦娘
 多摩  球磨型軽巡洋艦2番艦 短めのピンクぽい紫髪に猫目のショートパンツの艦娘
 満潮  朝潮型駆逐艦3番艦  セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、
               襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘
  霞  朝潮型駆逐艦10番艦 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った
                勝ち気な目つきの艦娘。
 涼風  白露型駆逐艦10番艦 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで
               二つ結びにしている艦娘


 海上の霧は濃くなって、前にある霧中浮標さえ見失いそうだ。満潮、霞、名取の3人は北西へ向かって進んでいく、五月雨たちと合流することも考えたが、夜の霧の中で再合流するのは至難と考えて事前に打ち合わせた熱田ポイントへ向かうことにした。そろそろキスカ島の南を通過する頃で、この辺りまでが深海凄艦の哨戒ラインだ。

 

「本当に良かったのかしら」

 

「五月雨はきっと大丈夫よ」

 

 名取も前を行く二人の話を聞きながら、本当に正しかったのか自問自答を繰り返す。

 

  これが最善策だから仲間を信じましょう、いいえ、本当は自分が助かりたいだけじゃないの、

  軽巡ということで旗艦を努めているけど本当に自分で良かったのかしら、

  名取の考えは堂々巡りしていく、

 

「・・・」

 

「名取、通信よ」 霞の声に我に返った名取は通信を確認する、

 

 フタ・フタ・マル・マルに発信があるので各艦は自艦の船位を測定した後で発信方位に変針せよ、司令官からの命令だった。

 

「はぁ、何考えてんの、敵に察知されたらどうすんのよ」

 

 

 ☀ ☁ ☂ 

 

 名取たちから40㎞ほど遅れたところを五月雨を支えた涼風は北西にのろのろ進んでいく、砲撃音もしなくなり、周りは闇と霧に包まれている、彼女達も船橋送信所からの通信を傍受し発信を待つ、そして受信した通信は例の気象情報で涼風の妖精が早速方位を測定して針路を示す、

 

「熱田地点よりも南ね」

 

 暗い夜の霧の中で取り残された二人には通信に元気付けられた気がした、

 

「さみ姉、いくぜ」

 

 涼風は自分を奮い立たせるように大きな声を出す、深海凄艦の哨戒ラインを抜けるのにまだ2時間ほどかかりそうだ。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 熱田地点よりも南でアガツ島の南東50㎞ほどのところで初霜は30分おきに気象情報を発信していた。

 深海凄艦の哨戒ラインを抜けた頃、初霜も名取の交戦開始の通信を傍受していた、さらに哨戒ラインから距離を取ったあと司令官に通信し五月雨が被弾し艦隊速度が落ちたことを報告してから、自分も熱田地点に向かって移動する、40分ほどすると司令官から熱田地点への移動を中止し、この地点で電波を出すように命令を受けた。

 

 最初に発信してからすでに5時間が経っていた、あまり嬉しくない状況だがが霧は少し薄くなり5㎞ほど見通せる もや に変わった、初霜の耳の上に腰掛けていた通信妖精が突然に耳を引張る、初霜が耳を澄ますと雑音の中で微かに聞こえてくる。

 

「ザぁー・・・って・・・よ、ザぁー」

 

「だ・・・ザぁー・・・さい・・・ガぁー」

 

 雑音の中に隊内通信が聞こえてきた。

 

「こちら初霜、名取さんどうぞ」 隊内通信で呼びかけながら缶の温度を上げ戦闘準備をする、

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 バシャーン! 

 

 名取たちの周囲に突然水柱が上がる音がする、

 

「なんなのよぉ~」

 

「どこから」

 

「艦隊、取り舵~」

 

 北西へ進んでいた名取たちは突然砲撃を受け西へ針路を変える、

 

「て、敵艦? 艦隊、増速、第4戦速~衝突に気をつけてください」

 

「そんなの構ってられないわよ」

 

 大きな水柱が見える位置に上がる、

 

「16インチ砲じゃないの」

 

「戦艦・・・電探射撃ね」

 

「だから言ったじゃない、ったく…どんな采配してんのよ…本っ当に迷惑だわ!」

 

「は、初霜さんから通信です、近くに居ます」

 

「この霧じゃ、連携は無理ね、衝突するのが関の山よ」

 

「照明弾を打ちましょう」

 

「敵にも判っちゃうじゃないの」

 

「もう射撃受けてるわよ」

 

 名取は照明弾を後方に向かって打ち上げる、

 

「初霜さん、わ、わたし達はここです、回避運動しながら西へ進んでいます、敵には戦艦が居ます」 名取たちが回避運動しながら西へ進む、

 

「右舷前方、東南東に発見です、霧はもうすぐ もや に変わるはずです」

 初霜から通信が入る、

 

 初霜の言った通り名取たちはお互いが見えるようになってきた、見通し距離は5000メートルほどか、このまま速度を上げれば逃げ切れそうだが、戦艦がこのあたりに居ては五月雨たちが危ない、勝負するならここだ。

 

「名取」 

 

前方の霞がこちっを振り返り、後ろを指差して手で喉を切る仕草をする、同じことを考えていたようだ、

 

「初霜さん合流してください、深海凄艦が もや の海域に入ったら仕掛けましょう」

 

 また付近に水柱が上がる、しかし数は多くない、戦艦は1隻だけかもしれない、

 

 初霜はすぐに反転して西へ向かいながら速度を調整して名取たちが追いついてくるのを待って満潮の前方に位置する。そろそろ良い頃か

 

「艦隊一斉回頭用意~、回と・」

 

「待つにゃ~」 

 

 艦隊が反転しようと思ったとき、緊張感の無い声に妨げられた、

 

「そのまま西進して引き付けるにゃ、第2艦隊が突っ込むにゃ」

 

 名取たちの西10㎞ほどから東へ向かって多摩たち第2艦隊が進む、

 

 

 天空から神様が霧を見通して俯瞰するなら、1番西に多摩たち第2艦隊が東へ進んでいる、そこから南に少しずれて多摩たちから東に10㎞ほどのところに名取たち第一艦隊が西へ進んでいる、さらに名取たちから東へ30㎞ほどを深海凄艦艦隊が西へ進んでいるのが見えるだろう。

 

「なんなの、また逃げるだけ」 満潮が口を出す

 

「わたし達も後からすぐに突っ込みましょう」

 

 

 

 多摩たち第2艦隊はすでに戦闘準備を整え、多摩、文月、三日月、初雪の順に進む、

 

「艦隊、第4戦速へ、砲雷戦用意にゃ」  10分ほどで右舷前方5000メートルに初霜を確認する、双方が27ノット(およそ時速50㎞)で近づくので3分ほどですれ違う、すれ違い様に満潮は手を振って親指を立てる、

 

「私達の出番にゃー」

 

 10分ほどで右舷前方に深海凄艦の影が もや の中に見えた

 

「右舷、砲雷戦にゃ」

 

 もや から戦艦ル級flagship、重巡リ級elite、重巡リ級elite、軽巡ホ級flagship、軽巡ロ級flagship、駆逐ハ級eliteが梯子陣形で出てくる、名取たちを追いかけることに夢中になっていたのか反応が鈍かった、すぐに距離が縮まり、

 

「距離3000、魚雷、撃つにゃ」 多摩の合図で4人から25本の魚雷が放たれた、

 

「これでもくらぇ~」

「え~い」

「当たれ」

 

 魚雷は48ノット(およそ時速90㎞弱)で進む、2分ほどで深海凄艦の艦隊に到達した。砲塔を構え直そうとしていた重巡達に水柱が上がる。

 

「しまったにゃ」 計算したつもりだったが、思ったよりも相対速度が出ていたようで魚雷は先頭のル級より後ろに流れてしまった。あっという間に二つの艦隊はすれ違った、すれ違い様にお互いに小火器も含めて砲撃し離れていく、殿の初雪が戦果を確認する、

 

「ル級2隻、駆逐ハ級、撃沈、軽巡1炎上」

 

 多摩たちは霧の中へ入っていく

 

「損害はどうかにゃ」

 

「文月、大丈夫です」

 

「三日月、少し貰いました、服が台無しです」

 

「痛い...帰りたい...魚雷発射不能」 殿の初雪に砲撃が集中したようで中破だ、

 

「もう少しがんばるにゃ、減速、反転用意にゃ」

 

 

 多摩たちの襲撃で深海凄艦の艦隊が混乱している間に名取たちは一斉回頭する、、

 

「ご馳走を残してくれたようね」

 

「艦隊第4戦速、二手に分かれます、私と霞さんは右舷へ、満潮さんと初霜さんは左舷へ両側から雷撃します」

 

 名取と霞は右舷へ45度、満潮と初霜は左舷へ45度に分かれる、すぐにル級が見えてきた、

 

「魚雷発射用意、て~」 名取の合図で射出された魚雷が左右からル級に迫っていく、ル級は回避運動しながら名取に砲撃を集中する、

 

 ズッドゥオーン、ズッドゥオーン

 

 水柱が2本上がる

 

 ル級は名取側からの12本の魚雷は避けたが満潮側からの17本の魚雷のうち2発が命中し速度が落ちる、名取もル級の副砲から命中弾をもらい上部装甲に被弾し大破する、さらに、離脱する名取を軽巡ホ級が追ってくる、

 

「ひぇ~燃えてる~」

 

「あんたの相手は私よ」 霞がホ級を名取に近づかせないようにけん制する、

 

 

 多摩たちは一斉回頭し初雪を除いて次発装填を済ませ再び霧の中から もや の海域に戻ってきた、前方のル級は速度が低下し右舷に傾いている、多分主砲を今は撃てないだろう、傍に居た軽巡は炎上した名取を追いかけて左舷側に離れている、

 

「初雪は艦隊から離脱するにゃ」 初雪は右側に外れ速度を落とし三日月が先頭に変わる

 

「止めを指すにゃ、面舵45度」 三日月、文月、多摩はル級の右舷側から雷撃するように針路をとる、

 

「左舷砲雷戦、魚雷発射用意にゃ」

 

 小火器に撃たれながらじりじり追いついていき射点に到達する、

 

「魚雷発射にゃ」 瀕死のル級と炎上した軽巡ロ級に射出した。

 

 

、☀ ☁ ☂

 

 霧に包まれた幌筵の丘は何もないように見えるが切り込まれた傾斜地に隠れた建物がある、その中の司令官室で鹿鈴と恵児が話している、

 

「損害は、駆逐艦五月雨、名取が大破、駆逐艦初雪、三日月が中破、軽巡多摩、駆逐艦霞、満潮が小破ね」

 

「・・・」

 

 深海凄艦の艦隊を撃破した名取と多摩たちは、無事木曽の護衛する油槽船と合流できた、数時間後には涼風達も回収し、無傷の艦が油槽船を護衛して現在帰投中だ、

 多摩たちの第2艦隊が間に合って深海凄艦艦隊の意表を突いたので何とかなったが、もし間に合わなければもっと大きな損害が出ていただろう。

 

「偵察は成功して戦果もあったけど、バックアップの不足は問題ね」

 

 自分の見通しが甘くて艦娘に損害を出してしまった、

 

「轟沈が出なくて良かったけど、もっと戦力を増やさないといつか・・・」 窓からは斜面と霧で見えない北東に恵児は心の中で謝った、

 

 

 

 後日、偵察の結果を分析した軍令部第三部は、ダッチハーバーの航空写真には居たはずの北方凄姫が写っていないこと、そしてアダック島の近くでの空襲があったこと、妖精が聞いた声、それらから北方凄姫はアダック島に前進して来ているのが確実と判断した、深海凄艦は中央では後退したが北で前進してきていた。

 

 

 




 読んでいただいてありがとうございます。

 多摩改2おめでとう~

 次回は年明けになります、皆様良いお年を~


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温かい場所

 戦力の充実が急務です

主な登場艦娘
 五月雨 白露型駆逐艦6番艦 不思議な青色の長い髪、がんばり屋で少しドジな艦娘
 初霜  初春型駆逐艦4番艦 小柄で長い黒髪に桃色の瞳、紺のブレザーを着た艦娘
 初雪  吹雪型駆逐艦3番艦 切り揃えられた前髪、白いセーラー服の眠たげな艦娘
 文月  睦月型駆逐艦7番艦 長い茶髪をポニーテールにした茶色の瞳の艦娘
 三日月 睦月型駆逐艦10番艦 セミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳の艦娘
 名取  長良型軽巡洋艦3番艦 茶色のショートボブに白のカチューシャをつけ、
               目は髪と同じ茶色の艦娘
 多摩  球磨型軽巡洋艦2番艦 短めのピンクぽい紫髪に猫目のショートパンツの艦娘
 満潮  朝潮型駆逐艦3番艦  セミショートの髪をお団子付きのツインテールにし、
               襟には大きな緑のリボンをつけている艦娘
  霞  朝潮型駆逐艦10番艦 銀髪を緑色のリボンでサイドテールに結った
                勝ち気な目つきの艦娘。
 涼風  白露型駆逐艦10番艦 濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで
               二つ結びにしている艦娘

 艦政本部 海軍大臣に隷属し造艦に関係する事務を司った官庁


 瀬戸内海に太陽が昇ってくる、東に向いた窓から見える海面は陽が反射してキラキラ光って眩しい、部屋の窓際に作られた赤い格子柄の布団が掛かった炬燵では、二人の艦娘は気持ちよさそうに眠っている。ここは柱島泊地の艦娘寮の軽巡部屋、炬燵の傍で気持ちよさそうに陽を浴びながら丸くなっているのが多摩で、多摩の向かい側で半纏を羽織って炬燵にうつ伏せになっているのが初雪、二人とも幸せそうに居眠りしている、

 

「初雪居る~」 ドアが開いて涼風が顔を出す、

 

「さみ姉が、みんなで初詣に行くからって呼んでるぜ」

 

「え~...パス」 頭を起こした初雪は眩しそうに目をこすりながら返事する、

 

 北方海域で、そのまま深海凄艦の攻勢をを警戒をしたあと、氷に閉ざされる前に艦隊は柱島に帰ってきた、数ヶ月ぶりに戻った柱島は食堂の改修、提督用の住居、回廊が完成していて、大破した名取と五月雨も元気になり、警戒、遠征や訓練の日々に戻っている、

 そんな日課もお休み、今日は1月1日で、朝に遙拝式を行い記念写真を撮り万歳三唱をして今は夕方まで自由時間、

 

「越年準備...疲れたから」 初雪は再び炬燵の天板に顔を横向きにうつ伏せになる。

 

「初詣の後、そのまま呉の間宮へ外出するらしいけど、じゃあな」 そう言って涼風は顔を引っ込めた、

 

 ドアが閉まると初雪は

 

「間宮...寒い...炬燵...」 つぶやきながら目が次第に閉じていった。

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 正門の前に集まったのは、五月雨、涼風、初霜、文月、三日月の5人、司令官は呉の提督と海軍省へ行っている、名取は今週の秘書艦で待機、満潮は なんで私も行くのよ と文句を言う霞を連れて第8駆逐隊の集まりがあるとかで佐世保へ行き、多摩と初雪は炬燵で寝正月を満喫している。

 

「じゃ、行きましょうか」 五月雨の声で、振袖姿の艦娘5人は柱島の賀茂神社へ歩き出す、

 

「サッサッとお参りして呉に行こうぜ」 涼風が元気よく歩き出す、

 

「涼風さん、裾、お着物ですよ」 三日月が大股で歩こうとする涼風に慌てて注意する、

 

「なんか歩きづれぇ~な」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 シ~ンとした事務棟で補給物資の書類を確認していた名取が顔を上げ柱時計を見る、

 

「もうお昼ですね」 立ち上がり事務棟を出て、まだ木の匂いがする新築の回廊を通って、左手にある食堂のドアを開ける、すると食堂のテーブルの上に七輪が置いてあり、多摩と初雪が餅を焼いて食べている、

 

「あら、初詣行かなかったの」 

 

「お疲れ様にゃ」 指に付いたきな粉を舐めつつ多摩が答える、

 

「多摩さん、お箸使ってください」 

 

 朝作った、おにぎりを載せた皿を目で探すと、テーブルの上に空になった皿とおにぎりに掛けておいた布巾が残っていた・・・

 

「餅...食べる?」 

 

「ありがとう初雪さん、頂きます」

 

「司令官は何しに行ったにゃ」

 

「海軍省へ建造許可を陳情しに行ったみたいです」

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 ひと気の少ない廊下を進み、第4部:造船部 と書かれた看板のある部屋の前で立ち止まり、深呼吸をひとつしてからドアをノックする。

 

 ・・・ しかし、なんの返事もない、

 

「失礼します」 恵児は思い切ってドアを開ける、

 

「柱島泊地、提督見習い、榎本少尉入ります」 

 

 部屋に入ると誰も居なかった、正面にある机は書類や本がうず高く積まれており、書棚とソファーがあるだけだ・・・

 

「ドア閉めて」 

 

 声のした正面の机を見ると本と書類の上からペンを持った手が突き出てドアを差している、

 

 ・・・

 

「だから、寒いからドア閉めて」

 

「は、はい」 

 

 慌てて返事をしてドアを閉め、振り返ると机の横から白衣を着た金髪のメガネを掛けた少女がソファーへ座った、

 

「用件は聞いているわ、私は主設計官の平賀よ」 

 

 足を組んでソファーに座り恵児を値踏みするように見上げる、

 

「空母、水上機母艦、重巡の造船許可申請・・・無理ね」 

 

 書類を見ながら話す彼女をポカーンと見つめる、

 

「今は鎮守府への配備が最優先されてるの」

 

 目の前にいる少女の存在と話の内容についていけないでいると

 

「じゃ、そういうことで、ご苦労様でした、帰るときはドアをちゃんと閉めて帰ってね」 

 

 立ち上がって机に戻ろうとする、

 

「待ってください」 自分でもびっくりするくらいの声が出た、

 

「戦力の拡充がないと今後の作戦で艦娘が沈む可能性が大きいんです、それが判っていて何もせずにいられません」 平賀の目を真っ直ぐ見て訴える、

 

 ・・・

 

「一番に任務の為とか国の為とか、言わないんだ」 

 

 そういうと平賀は机へ戻り積まれた束から書類の一部を出して読む、

 

「任務はいくつか実行してるわね、現在まで轟沈無し、・・・特殊能力の可能性ね、じゃ、大丈夫じゃない」 

 

 そう言って書類から目を離しこちらを見る、

 

「特殊能力がこの先も続く保障はないと思っています、運に任せて出きる事を放置するのは慢心です」

 

「ふむ」 少し考えてから別の書類を捜して検討する、

 

「いいわ、建造許可が出せない代わりに第4部で預かっている艦を出すわ、ただし、軍令部第2部の許可が必要よ」

 

「大丈夫、きっと大丈夫です」 恵児は軍令部へ交渉に赴いてくれた呉の提督を信じて返事をした。

 

「へぇ~、そっちも手を打ってるの、若いのに用意周到ね」 

 

 少女に 若いのに と言われて、平賀はまじまじと少女を見てしまう、

 

「あーあたし、あたしは艦娘よ、お爺さんの養女になって平賀を名乗っているの」

 

「そ、そうですか」

 

「松の内から熱心ね、あっ、あたしもか」

 

 あとから聞いた話では、彼女は海外の技術に関して艦政本部と検討したことがあり、そのとき対応したのが艦政本部嘱託の平賀だった、平賀は彼女を気に入り、自分が教授を勤める大学への入学を進め、さらに勉強をさせるため養女にして前線を引退させ、大学では造船学科で勉強させ、大学を卒業後は艦政本部に入れた、彼女は設計者として天才的な能力を発揮し艦娘を建造することに貢献し現在に至っている、

 

「艦娘達をよろしくね、でも情に流されて判断を誤らないで、任務を遂行するのが艦娘の矜持よ、それじゃ忙しいので、次にくる時はお土産持ってきてね、シュトーレンがいいな中尉さん」 

 

 そう言って平賀にウインクされて部屋を出た、

 

 

 ☀ ☁ ☂

 

 夕日が山陰に遮られ薄暗くなり始めた海岸沿いの道を歩く、海軍省のあちこちを廻って柱島に帰ってきた3日の夕方、左手に見える艦娘寮に灯りが点いた、それを見た恵児は心が温かくなる気がして少し急ぎ足になった。

 門松の飾られた門を通り、しめ縄が飾られた事務棟の扉を開けると名取が書類から顔を上げ

 

「お帰りなさい、司令官、あけましておめでとうございます」

 

「こちらこそ、あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします、留守中大丈夫でしたでしょうか」

 

「はい、海域は平穏でした、満潮と霞も帰隊してます、みんな食堂で司令官を待っています、それから留守の間に司令部から連絡が来ています」 名取が油紙に包まれた書類の束を差し出す

 

 受け取った中に辞令と書かれた封筒があった、重要でない書類を名取に渡し提督室に入る、

 

 提督室の机の上には 九十九島せんべい と書かれた箱が置いてあった、机の引き出しからペーパーナイフを取り出し封筒を開ける、中には1月1日付けで中尉に任ずると書かれていた、

 

 ・・・

 

 辞令を見ながら、理由を考えようとしていたらドアがノックされ名取が顔を出す、

 

「全員、し、食堂で待ってます」 名取は何故か、泣き笑い顔だった、

 

 荷物を置くとすぐに名取と食堂に移動する、灯りの洩れる食堂からは誰かの笑い声が聞こえてくる、後ろを歩く名取の手には先ほどの書類の中にあった官報が握られていた。

 

 

 

 




 あけましておめでとうございます

 本年が皆様にとって良い年でありますように

 さらに追伸 8ちゃんのXmasグラ いろっぽいですねw
          4回目で武蔵来ましたヽ(^。^)ノ


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