魔法科高校の異端児~それは呪いか祝福か~ (のなめん)
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入学編
第1話


作者ののなめんです。今日から魔法科のオリ小説でも投稿して行こうかなと思ってます。作者のきまぐれで始めたのに加え、受験もあるので更新は不定期ですが、お許しください。では1話から、お楽しみください。


魔法、かつて超能力と言われたその異能は、2095年を迎えた現在、体系化され、一つの技術として普及していた。そしてその魔法を扱う魔法師を養成する魔法科高校。今日は東京にあるその魔法科高校の一つ、国立魔法大学付属第一高校、通称一高の入学式だ。

 

ーーーーーーーーー

 

 

朝。彼は朝が好きだ。澄んだ空気、鳥のさえずり、徐々に明るくなる世界、そんな朝が彼は好きだ。

「スー、フゥー。 うん、今日もいい朝だな。」

深く深呼吸をすると、まだ少し冷たい空気が身体を満たし、眠気を吹き飛ばす。彼は1度伸びをすると、シャワーを浴びに浴室へ向かった。

 

浴室から出て、朝食をとった後、彼は着慣れぬ制服に袖を通し、多少ワクワクしながら家を出た。今日は彼の高校入学式、少しばかり、そう、予定のほんの2時間前に家を出ても、問題ないだろう。

 

ーーーーーーーーーー

 

さて、ここで「彼」の紹介をするとしよう。名は八田 黎(はった れい)。第一高校次席合格者だ。両親も兄弟もおらず、東京で一人暮らしをしている。訳あって魔法にはかなり長けているのだが、それは後々語るとしよう。

話を物語へ戻す。

 

ーーーーーーーーーー

「…少し早く来すぎたかな」

やはり早すぎたようだ。まだ入学式まで2時間もある。

「ま、その辺歩きまわって時間潰せばいいか」

そう言うと、黎は高校内の散策を始めた。

技術棟の裏側、普段なら生徒は寄り付かないであろう場所で、黎は立ち止まった。知った顔がいる。向こうがこちらの顔を知っているかは分からないが、黎は彼女を知っていた。七草真由美、一高の生徒会長を務め、魔法に優れた血筋である、数字付き(ナンバーズ)、そして中でも有力な十家が選ばれる、十師族に名を連ねる名家、七草家の娘だ。

「あら、おはようございます」

語尾に音符が付きそうなテンションで最初に口を開いたのは彼女だった。

「八田黎くん…ですよね?」

「はい、まさか生徒会長に知ってもらえているとは思いませんでしたよ」

「あら、あなたは教師の間でもかなり騒がれていますよ?魔法技能だけなら、主席を上回っていたと見る先生もいるようです」

「勘弁してください。自分はそんな大層な魔法師じゃありませんよ」

黎の自嘲を込めた、次席の発言としては少々卑屈な発言に、真由美は不思議な顔をする。黎は更に続けた。

「七草家の魔法師なら、先輩も聞いたことはあるんじゃないですか?《八田の呪い》」

その言葉を聞いた瞬間、真由美の顔色が変わった。

「まさか…八田って…」

黎は淡々と答える

「ええ、『あの』八田ですよ」

「…ごめんなさい、無神経だったわね」

「いえ、気にしてません。先輩が気に病む必要はありませんよ。」

事実、黎は気にしていない。むしろ余計に気を使わせる方が申し訳なく、むず痒かった。

「このことは忘れてくださいもしくは、気にせず接してくれるとありがたいです。」

「…わかったわ。よろしくね、黎くん」

真由美はあえて明るい声でそういった。黎にとってもありがたいことだ。

「はい、よろしくお願いします。七草先輩。」

「入学式は2時間後だけど、遅れないようにしてね」

「わかりました」

真由美と別れ、黎は近くのベンチに腰掛け、少しの間眠ることにした。

 

ーーーーーーーーーー

 

「やっべ、遅れる!」

その後黎が目覚めたのは、入学式の開始3分前だった。真由美に遅れるなと言われたのに、次席が入学式に遅れては示しがつかない。黎は会場まで急いだ。

「はあ、はあ、間に合ったな。」

滑り込みセーフらしい。しかし、開会直前故、空いた席が見つからない。探していると、一席、空いている所を見つけた。

「悪い、ここいいかな?」

男女のグループだろうか、仲が良さそうな所に割り込むのは些か申し訳ないが、空きがないので仕方なかろう。

「ああ、大丈夫だ、どうz「なに?見せつけてるの?」

男子の受け入れる言葉を遮り、ショートの明るい髪、ハッキリとした目鼻立ちをしている少女が、やや不機嫌そうに黎に食ってかかる。

「見せつける?」

見ると、彼女らの制服には刺繍が入ってなかった。二科生と言うことだ。つまり彼女は、黎が自分が一科生であることを自慢しに来たのかと言いたいのだろう。

「まさか、そんなしょうもないことしないさ。今ここに来たところだから一番近い空席に来たんだよ。不快にしたなら申し訳ない。」

「あ、そう?じゃあいいわよ、あたしも突然ごめんなさいね」

「いや、気にしてない」

彼女の尖った態度はすぐに消えた。

「あたし千葉エリカ、よろしくね」

「私、柴田美月といいます。よろしくお願いします」

「司波達也だ、よろしく」

男女3人の名前を聞き、黎も自己紹介を返す。

「俺は八田黎、よろしくな」

一瞬、達也と名乗る男子が目を細めているのに気づいたが、黎はスルーした。

「えっと、千葉さんたちは同じ中学?」

「違うよ、さっきが初対面。あと、千葉さんはなんかむず痒いから、エリカでいいわ」

「わかった」

その後、達也や美月も名前で呼ぶようになり、入学式も順調に進んだ。特に、達也の妹である司波深雪さんの答辞は素晴らしかった。所々際どいワード(平等、とか魔法以外、とか)も混ざってはいたが、上手くオブラートに包んでまとめていた。 入学式は終了し、黎は達也たちと別れてホームルームへ向かった。

 

ーーーーーーーーー

 

ホームルームにて、履修登録などを行っていた黎の前に、数人の男子が歩み寄ってきた。

「おい、お前」

「…ん?どうかしたか?」

「お前、入学式の時ウィードと一緒に座っていただろ」

どうやら黎が達也たちと座ったのが気に食わないらしい。何とも無茶苦茶で理不尽な話ではあるが。

「別に俺が誰と座ろうと、君には関係ないはずだが?」

「お前、次席らしいな。なのにウィードとつるむなんて、ブルームとしてのプライドはないのか、次席がそんなんじゃ、僕たちみんなウィードに舐められちまうじゃないか!」

聞いていられない。おかしい話だ。黎はこの手の自己意識に凝り固まったタイプの人間が嫌いだ。見ていていい気がしない。

「はあ…しょうもない。そもそもウィードって言葉は禁止されてるはずだが?俺は二科生の人たちに、一科生にはこの程度の人間しかいないと思われる方がいやだがな。」

その後も論戦じみたことを続けたが、相手、森崎と名乗る男子の主張はめちゃくちゃで、話にならなかった。

「この、ブルームの恥め!」

「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ、森崎クン」

これを最後に、この言い合いは終わった。少し目立ち過ぎたのか、周囲の視線が痛い。その目の中に、憧れ、感心といったプラスのものが少数ながら混じっていたのに、黎は気づかなかった。




1話ってどれくらい書くのがいいんですかねえ?あと描写はどこまで細かく書けばいいのやら…。話が全然進んで無いのは申し訳ないですが、とりあえず勉強あるので今回はこの位で失礼致します。また近いうちに2話も上げれたらいいですね。


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第2話

作者ののなめんです。第2話執筆開始時点で、UA450!!ありがとうございます!嬉しい限りです! というわけで週末は模試ですがさっさと仕上げちゃいましょう←


入学式の日なので、午前中で放課となった。先ほどの一件で、まだ男子の友達がクラスにできていない、(黎自身も森崎のようなタイプの人間と友達になりたいとも思っていない)かと言っていきなり女の子に絡みに行っては、妙な噂が立ちかねない。少し考えた後、黎は達也たちの所へ向かうことにした。そして教室を出たその時、

「八田黎くん、司波深雪さん、すこしいいかしら?」

聞いたことのある、と言うかさっき聞いた声だ。声のした方を向くと、真由美が立っていた。

「はい、七草先輩、なんでしょうか?」

「あ、黎くん、司波深雪さんいるかな?」

「はい、七草会長、司波深雪です」

「ああ、司波さん、ごめんなさい。2人ともちょっと付いてきて貰えませんか?」

にこやかな顔で真由美は2人に同行を求める。

「構いませんが、どちらに?」

黎が尋ねると、

「生徒会室よ、2人に相談したい事があってね」

生徒会、その言葉を聞いて、黎は逃走を試みる。

「あ、すみません七草先輩、予定を思い出しました。申し訳ありませんが自分は…「大丈夫よ、そんなに時間は取らせないから。」

失敗に終わった。

ーーーーーーーー

生徒会室では、案の定生徒会へ入らないかと勧誘された。どうやら主席は生徒会へ入るという慣例があるらしい。それなら自分はなぜ呼ばれたのだと尋ねると、次席ながらも例年と比べてもかなり優秀な成績だったので、とのこと。とりあえず今日は話だけということで、互いの自己紹介だけ済ませると、黎と深雪は退室した。

「えっと、司波さんって達也の妹なんだよね?」

「お兄様をご存知なんですか?」

深雪が驚いた顔で尋ねてくる。

「ああ、さっき森崎達が言ってた、入学式の時に隣にいた2科生ってのが、達也なんだ。」

「そうだったのですか。あの、できれば、お兄さまとこれからも友達でいてはくれませんか?」

兄を気にかける優しい妹だと思った。

「もちろん、達也がいいなら俺は歓迎するよ」

「はい、ありがとうございます!」

2人とも1-Eに向かうということで、そのまま2人で向かった。

どうやら深雪も黎と同じく、ブルームだウィードだと生徒を区別(差別)することに反対らしい。入学式の答辞からある程度予想は出来たが。

ーーーーーーーー

1-Eに着くと、達也はエリカたちと話をしていた。それを見て深雪の顔が一瞬引きつったのを黎は見逃さなかったが、突っ込むのも野暮だと思いスルーした。

「あ、おーい黎くん」

エリカが最初に気づいて声をかけてきた。

「よっす、エリカ。さっきぶり」

「お待たせしました、お兄様」

「早かったね、深雪」

黎がエリカに挨拶を返し、深雪が達也に駆け寄り、達也がそれに応える。

「お?達也が言ってた一科の男子か?」

ガタイのいい男子生徒が黎を見ながら達也に尋ねる。西城レオンハルトと言うらしいその男子はとてもフレンドリーで仲良くできそうだ。

とりあえずその場の全員の顔合わせが終了した所で、深雪が達也に可愛らしい笑顔で尋ねる。

「ところで、お兄様。さっそくクラスメートとデートですか?」

周りの温度が少し下がった気がするのは気の所為だろうか。黎の中で、薄々感じていた深雪ブラコン疑惑が着々と固まりつつあった。

ーーーーーーーーー

黎たちは、そのまま近くの喫茶店で昼食を取ることにした。オシャレなカフェと言うこともあり、みんなで(主に女子)でお喋りに興じていた。日が傾いてきたところでお開きになり、各々自宅へと向かった。

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その夜、黎は自室のベッドの上で色々考えていた。

(とりあえず友達もできたし、楽しくやっていけそうだな。達也は''あの''事に勘づいてそうだけど、まあ悪いやつじゃなさそうだし、大丈夫だろう。生徒会はまだ分かんねえけど、まあやってもいいか。)

などなど、これからのことに思いを馳せるうちに、自然に眠りについたのだった。

ーーーーーーーーー

翌朝、黎は5時半に目を覚ました。始業は8時なのでまだ寝ていても全く問題ないのだが、せっかく目覚めたのだし、徐々に明るくなる外を見ると、今日もいい朝になりそうだと思い、軽く外を走ってみることにした。

「ん?達也と深雪?」

ジョギング中、見知った2人の顔を見つけた。2人とも魔法で道路を疾走している。先に気づいたのは達也だった。

「おはよう、黎」

「おはようございます、八田くん。」

達也に続いて深雪も挨拶してきた。

「おはよう、2人とも。早いんだな」

「少し行くところがあってな」

「そうか、んじゃまた学校で」

2人の目的地が気にならないでもなかったが、詮索するのは良くないと思い、そのまま2人と別れて家へと向かった。 シャワーを浴び、着替えて朝食を済ませ、自分の昼食を作った(一人暮らしの長い黎にとって珍しいことではない)後、通学のために駅へと向かった。1人用のコミューターに乗り込み、一高前の駅で降りて、そこから歩いて通学する。 途中、先程も見た知り合いを見つけた。

「おっす、達也、深雪。何だか鉢合わせが多いな」

「黎か、そうだな」

「凄い偶然ですね」

そして、偶然とは重なるものだ。

「あら、黎くんに達也くん、それに深雪さんも」

声のした方を向くと(向かずとも誰なのかは分かっていたが)、真由美がニコニコと手を振りながらこちらに近づいてくる。

「会長、お一人ですか?」

「うん、朝は特に待ち合わせはしないから」

達也の付いてくるのか、という言外の問いに、肯定を返す真由美。

「あのね、昨日の生徒会の件でお話したいことがあるんだけど、今日お昼空いてるかしら?」

結局、黎たち3人とも生徒会室で昼食をとることになった。

ーーーーーーーーーー

昼休み、深雪が席を立とうとする前から、彼女の周りに人が集まる。昼食の誘いだ。深雪はやんわりと断っていたが、それでも周りの生徒は食い下がる。

「深雪、いこうぜ、達也も待ってる」

黎の言葉に場は少し静かになった。しかしここで達也、二科生の名前を出すのはまずかったか、周りの目が冷たくなる。

「ごめんなさい、今日は生徒会の皆さんと頂くことになっているので」

群がる生徒に今度はキッパリと断りを入れ、深雪と黎は教室を出る。

黎の背中に怒りのような視線が沢山刺さっていたが、気にしないことにした。その後達也と合流し、生徒会室へ向かった。

ーーーーーーーーー

「失礼します、一年生の八田と司波深雪、司波達也です。」

入室し、昼食をとる。黎が弁当を自分で作ってきたのにはみんな驚いていた。弁当にかこつけて、司波兄妹がイチャついていたが、ここでは割愛しておく。とりあえず2人とも生徒会に入る意思を伝えた。なにやら生徒会に入ると、色々と特権があるらしい。これを利用しない手はないと密かに思う黎だった。

ーーーーーーーーー

時間は進んで放課後、少しばかり面倒ないざこざが起きていた。

「いい加減諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。いったいなんの権利があって2人の仲を引き裂こうというんですか!?」

丁寧ながら、正論を叩きつけて雄弁を振るうのは美月。きっかけは、深雪が達也たちと帰ろうとするのをA組の生徒達が嫌い、一科と二科のけじめだの相応しくないだの散々なことを言ったのに加え、挙句の果てに達也たちを虫でも払うかのように早く帰れと促す。その支離滅裂で理不尽な発言と横暴な態度に、美月たちがキレるのも無理はない。なお、『仲を引き裂く』というワードに達也が困った顔をし、深雪が照れて顔を赤らめたが誰も触れなかった。

「僕達は彼女に相談事があるんだ!」

「そうよ!司波さんには悪いけど、ちょっと時間をとらせてもらうだけなんだから!」

A組の生徒の取ってつけたような理由を、レオとエリカが笑い飛ばす。

「ハッ!そういうのは自活(自治活動)中にやれよ!時間がもうけられてるだろ?」

「相談なら先に深雪の同意を得るのが筋じゃないの?本人の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの、それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

2人の物言いにA組の生徒たちもキレた。

「うるさい!他のクラス、ましてやウィード如きが俺たちブルームに口出しするな!」

見ていられない、というのが黎の感想だった。更に反論しようとした美月を手で制し、口を開いた。

「お前らその辺にしとけよ、今の自分たちを客観的に見てみろ、どれだけ恥ずかしいことしてるか分からねえのか?論理だって話も出来ねえのにプライドだけは一丁前なんだな」

「うるさい!ウィードの味方をするなんて、ブルームの恥さらしが!」

昨日教室で同じようなことを言われた気がする。しかしその後は違った。森崎がCADを操作し始めたのだ。魔法の私的な対人使用は法律違反だが、それを咎める人間はこの場にはほとんどいない。

「見せてやる、これがブルームの力だ!」

そういって魔法を発動させようとした森崎のCADを突如何者かが叩き落とした。

「この間合いなら、身体動かした方が速いのよね」

エリカだった。武装一体型CADと見られる警棒の様なもので、魔法を発動させる前に森崎に近づいて防いだ。しかし、これを皮切りに、逆上したA組の生徒達は一斉にCADを操作し始める。

「なめやがって!」

「ウィードのくせに!」

「みんな、ダメ!」

などと憎まれ口を叩きながら(1人止めようとしている生徒もいたが)、何人もの生徒が魔法を発動させ……ることはなかった。

「いい加減にしろ!」

という黎の言葉と同時に

「やめなさい!」

という声も響く。同時に離れた所からサイオンの塊が飛んでくる。不幸にも、それは暴走する一科生を止めようとした女子生徒に飛んでいく。そこからの黎の対応は早かった。飛んでくるサイオンの塊を自身もサイオンを飛ばして相殺し、女子生徒に当たるのを防いだ後、その場の全員の魔法を無効化(方法については後に語ることにする)、その後攻撃目的で魔法を使おうとした生徒全員のCADをはたき落とした。この間約1秒。

「自衛目的以外の魔法による攻撃は、犯罪行為ですよ!」

少し遅れてきた真由美がいつになく強い口調で生徒を叱咤する。どうやら先ほどのサイオンの塊は、真由美が放ったものらしい。

「風紀委員長の渡辺摩利だ、事情を聞きます。付いてきなさい。」

真由美といっしょに風紀委員長も来ていたらしい。入学早々問題を起こしたとなれば、色々と面倒なことになりそうだが、この状況に助け舟を出したのは達也だった。

「すみません、悪ふざけが過ぎました。」

「悪ふざけだと?」

「はい、学年次席の八田の腕を後学のために見せてもらおうとしたのですが、あまりに真に迫っていたので、ついムキになってしまいました。」

というと、達也は黎に目配せした。なるほど、事を穏便に済ますには、それが1番早いと悟った黎は、達也に調子を合わせる。

「すみません、自分も少しやりすぎました」

「君はその魔法でケガをするかもしれなかった訳だが、それでも悪ふざけで済ますのか?」

更なる追及に、黎は毅然とした態度で答える。

「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、自分はあれくらいなら全て防ぎきれますし、仮に無効化が間に合わなくてもあの程度の魔法でケガをするほどヤワではありません」

黎のこのような言い方は、言外にA組の生徒がまだまだ未熟であることを示していた。自惚れるなと、そう告げていた。

「それに、そこの女子生徒が使用したのは恐らく光系統の魔法で、殺傷性はそこまで高くありません。他の生徒の魔法までは分かりませんが」

そう告げたのは黎。本当は他の生徒の魔法まで読み取れていたが、事が面倒になるだけなので伏せておいた。

「自分も''分析''は得意ですが、確かに閃光魔法だったと断言できます。」

達也が黎の援護射撃を行う。魔法式を読み取るなど、分析の一言で片付けてはいけないものだが。

「兄や八田くんの言う通り、ちょっとした行き違いだったんです。申し訳ありませんでした。」

「摩利、もういいじゃない、達也くん、黎くん、本当に見学だったのよね?」

「ええ」

「はい」

最後に深雪と真由美が宥めてくれたこともあり、今回は不問になったが、今後はこのような事がないように、と注意された。

「生徒同士で教え合うのは良いことではありますが、魔法の使用には細かな制限があります。気をつけてくださいね」

真由美のその言葉を最後に、この騒動は終わりとなった。

「借りだなんて思わないからな」

真由美と摩利の姿が見えなくなった後、森崎が口を開き、黎と達也を睨みつけながら言った。

「貸してるなんて思ってないから安心しろ」

達也が言葉を返す。黎は無言で森崎を見ていた。

「僕はお前達を認めないぞ、司波達也、八田黎、司波さんは僕らと一緒にいるべきなんだ。」

「いきなりフルネームで呼び捨てか」

達也の言葉に背を向けていた森崎の肩が僅かに震えたが、彼は振り返らずにそのまま立ち去った。

「…さて、もう帰ろうぜ」

黎の言葉に達也たちも同意し、そのままその場を離れようとしたその時、

「あ、あの!」

1人の少女の声に呼び止められた。

 

 




はい、第2話ここまでです。描写を少し雑にした所もありますが、ご容赦ください、このままだと話が進まなすぎて困りそうでしたので。
とりあえず第3話で部員勧誘かその先のなんやかんやまで行けたらいいなと勝手に思っております。あと、黎が魔法式を読み取れる理由ですが、彼の過去と関係してます。いずれ書きますので、ご了承くださいませ。それでは、この辺でお別れといきましょう。読んでいただき、ありがとうございました。


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第3話

のなめんです。第3話執筆開始時点でUA900突破しました!ありがとうございます!とても励みになります! さてさて、とりあえず今回で新歓、またはその後まで書きたいものですが、まだ本文を書いてないのでどうなる事か分かりません← 何とか行ける所まで行っちゃおうと思います。では、第3話、お楽しみください。



声のした方を向くと、先ほど閃光魔法を発動させようとしていた女子だった。

「光井ほのかです。先程はすみませんでした。」

達也と黎は面食らい、互いに顔を見合わせた。文句の一つでも言われるかと思ったが、実際はその逆だった。

「庇ってくれて、ありがとうございました。森崎くんはああ言ってましたけど、大事にならなかったのは八田さんとお兄さんのおかげです。」

「どういたしまして、でもお兄さんはやめてくれ。同じ一年生だから」

「俺もできれば名前で読んでくれ、名字で呼ばれるのは苦手なんだ」

''あの事''が関係しているのだが。

「わかりました。…それで、その…」

「なんだ?」

ほのかは隣の女生徒と目を合わせ、遠慮気味にこちらに歩み寄った。

「駅までご一緒してもいいですか?」

思いがけないほのかのセリフに意外感を覚え、黎たちは互いに顔を見合わせた。しかし特に黎たちに断る理由もなかった。

ーーーーーーーーーー

「では、深雪さんのCADを調整しているのは、達也さんなんですか?」

帰り道、ほのかの達也への問いに、深雪が我が事のように得意げに答える。

「ええ、お兄様におまかせするのが一番ですから。」

「少しアレンジしてるだけなんだけどね」

「それだって、デバイスに関する知識があるからこそですよね」

達也の言葉に、美月が返した形だ。

「CADの基礎システムにアクセスするスキルもないとなあ。大したもんだ」

「達也くん、あたしのホウキも見てくれない?」

レオとエリカがさらに続ける。

「無理、あんな特殊な形状のものをいじる自信はないよ。」

「あはっ、やっぱり凄いね、達也君は。」

達也の本音なのか謙遜なのわからない返事に、エリカは裏表のない賞賛を送った。

「何が?」

「これがCADだって分かっちゃうんだ」

エリカが警棒(CAD)をクルクルと回しながら笑う。

「やっぱCADだったのか」

黎が口を挟んだ。

「あ、黎くんも気づいてたんだ。じゃあ構造は分かる?」

「警棒状のものに刻印術式でも埋め込んだのか?」

「んじゃサイオンを注入し続けるのか?よくガス欠にならねえな」

黎の推察を聞き、レオが続けた。

「おお、黎くんすごい。あんたも流石は得意分野。でも残念、もう1歩ね。振り出しと打ち込みの時だけにサイオンを流せばいいだけだから、そんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……ってみんなどしたの?」

エリカの説明を、その場のみんなが食い入るように聞く。

「エリカ…兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だとおもうのだけど…。単にサイオン量が多いよりよっぽど凄いわよ」

深雪が全員を代表して答えた。

「黎さんや達也さん、深雪さんもすごいけど、エリカちゃんもすごい人だったのね…うちの学校って一般人の方が少ないのかな?」

「魔法科高校に一般人はいないと思う。」

美月の天然気味な発言に、それまで押し黙っていた北山雫(ほのかと一緒にいた女生徒)が的確なツッコミを入れて、その場の空気は霧散した。

ーーーーーーーーーー

 

次の日も、黎たちは生徒会室で昼食をとった。

「あの、兄も一緒にという訳にはいきませんか?」

深雪はどうやら達也と一緒に生徒会に入りたいらしい。達也は顔を顰めていたが。

「無理です。生徒会役員は、一科生から選ばれます。これは不文律ではなく規則です。」

鈴音がキッパリと、それでいて申し訳なさそうに答える。

「……申し訳ありませんでした。分をわきまえぬ差し出口、お許しください。」

深雪も深々と頭を下げる。何となく暗くなっていた空気を変えようと、真由美は手を叩いて言う。

「ええと、それでは深雪さんは書記として、黎くんは会計として生徒会に入って貰うということでいいですね?」

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いします」

「出来る範囲で頑張らせて貰います」

2人の返事に、真由美は笑顔で頷いた。

「分からないことがあったら、深雪さんはあーちゃんに、黎くんはリンちゃんに聞いてください。」

「ですから会長、あーちゃんはやめてください!」

書記の中条あずさの抗議も虚しく、真由美はそのまま話を進める。鈴音はもう慣れたようで、何も言わなかった。

「もし差し支えなければ、今日の放課後から来ていただいていいですか?」

「わかりました」

「了解です」

「ああ、昼休みが終わるまでもう少しあるな、ちょっといいか?」

摩利がおもむろに手を挙げて話す。

「風紀委員の生徒会選任枠の内、前年度卒業生の枠がまだ埋まっていない」

「それは今人選中って言ってるじゃない。そんなに急かさないで」

真由美の反論を気にせず、摩利は言葉を続ける。

「たしか、風紀委員の生徒会枠に、ニ科生を選んでも問題ないよな?」

摩利がニヤリと真由美の方を見る。

(…なるほど、達也か)

黎は摩利の言葉が何を意味するのか瞬時に察した。達也も同様なようで、顔を顰めている。

「ナイスよ!」

「はあ?」

真由美の歓声に、思わず達也は間の抜けた声を出した。

「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない!摩利、生徒会は司波達也君を風紀委員に指名します」

いきなり過ぎる展開に一瞬動揺した達也だが、すぐに反論する。

「ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?大体、風紀委員が何をする仕事なのか、説明を受けてすらいませんよ」

「俺らもまだ生徒会の仕事について説明されてないが?」

黎が悪い笑顔で達也の言葉に答える。完全に面白がっていた。

「そ、それはそうだが…」

「まぁまぁ黎くん、いいじゃない。達也くん、風紀委員は学校の風紀を維持する組織です。」

……………

……………

「…それだけですか?」

数秒の沈黙のあと、達也が当然の反応を示す。

「はい?」

真由美はとぼけているわけではなく、単純に意思の疎通が上手くいっていなかった。達也は1番話を聞き出しやすいと思ったのか、あずさに視線をやった。

「あ、あの!風紀委員の主な任務は、魔法に関する校則違反者の摘発と、魔法を使った争乱行為の取り締まりです。」

(へえ、俺も生徒会より風紀委員が良かったな)

もちろん言葉には出してないが、黎は面白そうだと思った。

「一応確認しますが」

「なんだ?」

達也は摩利へ視線を投げた。

「今の説明だと、風紀委員は喧嘩が起こったらそれを力ずくで止めなければならない、そうですか?」

「ああ」

「そして、魔法が絡んでもそれは同様と」

「そうだ」

「あのですね!俺は魔法実技の成績が悪かったからニ科生なんです!」

とうとう達也は大声を出してしまった。しかし摩利は涼しい顔で返す。

「構わんよ」

「何がです?」

「力比べなら私がいる……おっと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」

「…わかりました」

達也は諦めと共に頷いた。

「ではまたここに来てくれ」

黎たちは生徒会室を出て、各々の教室へ向かった。

ーーーーーーーーーー

そして放課後、黎たち3人は再び生徒会へ向かった。

「失礼します」

生徒会室に、昼休みにはいない人間が1人増えていた。服部刑部少丞範蔵(学校には服部刑部で通っている)、生徒会副会長である。服部が少しずつこちらに近づいてくる。

「副会長の服部刑部です。司波深雪さん、八田黎くん、生徒会へようこそ。」

達也を敢えて無視した発言だった。深雪が一瞬ムッとした表情を見せるが、すぐに隠して黎とともに挨拶を返す。黎も思うところが無いわけでは無かったが、ここで一々波風を立てるのも馬鹿馬鹿しいと思い何も言わなかった。

「ああ、2人とも、来てくれてありがとう。それじゃ、あーちゃん、リンちゃん、お願いね」

真由美の言葉にあずさと鈴音が頷く。

「それじゃ、達也くん、私たちも行こうか」

続けて摩利が達也を連れて風紀委員本部へ行こうとしたその時

「待ってください、渡辺先輩」

服部が口を開いた。

「なんだ?服部刑部少丞範蔵副会長?」

「フルネームで呼ばないでください!」

「じゃあ、服部半蔵副会長」

「服部刑部です!」

「そりゃ名前じゃなくて官職だろ、お前の家の」

「今どき官位なんてありません!学校には服部刑部で届けが受理…いえそんな事が言いたいわけではなく!」

「じゃあなんだ?」

いわゆるマシンガントークというやつだ。しかしそこは大人、すぐに冷静さを取り戻して服部が口を開く。

「その一年生を風紀委員に任命するのには反対です。過去、ウィードが風紀委員を務めた事例はありません。」

「それは禁止用語だぞ。私の前で使うとはいい度胸だ」

「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも、全校生徒の3分の1以上を摘発するつもりですか?…風紀委員は、ルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職だ。実力で劣るウィードには務まらない」

「実力にも色々あってな。力で押さえつけるだけなら、私がいる。彼には、展開中の起動式を読み取り、発動される魔法を予測できる目と頭脳がある。」

「何ですって?」

服部は信じられないという顔で問い返した。

「彼は今まで罪状が確定出来ずに、軽い罰で済まされていた未遂犯への、強力な抑止力になるんだ」

さらに摩利は続ける。

「今まで、一科の生徒がニ科の生徒を取り締まり、その逆はないという構造は、一科とニ科の間の精神的な溝を深めることになっていた。私の指揮する委員会が、差別意識を助長するというのは、私の好むところではない」

服部はそれでも達也を風紀委員に加えたくないらしく、さらに食い下がる。

「しかしやはりニ科生を加えるのは得策ではないと思います。ご再考を「待ってください!」

深雪が我慢出来ないという様子で服部へ言葉を投げた。

「副会長、確かに兄は魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは試験内容と、兄の技術が適合していないからです!実戦なら、兄は誰にも負けません。」

(おお、言うねえ 確かに達也には勝てなそうだな、副会長はもちろん、俺も)

黎も深雪に同意見だ。副会長より自分の方が上だと自認している事になるので、口には出さない。

深雪の言葉を聞き、服部が窘めるように応える。

「司波さん、魔法師は、事象をあるがままに、冷静に捉えなければなりません。身贔屓に目を曇らせるようなことがあってはならないのです。」

案の定、深雪はヒートアップした。

「お言葉ですが、私は目を曇らせてなどいません!」

「深雪、もういい」

達也が深雪を制し、服部へ歩み寄る。

「副会長、俺と模擬戦をしませんか」

ーーーーーーーーーー

「黎くん、本当に見に行かなくていいの?」

模擬戦の観戦のため、黎以外の役員も部屋を出ていき、残った真由美が黎に確認する。

「ええ、勝負は見えてますから」

黎は興味無さそうに答える。

「はんぞーくんの圧勝ってこと?」

「いえ、達也が負けることは無いでしょう。お茶でも用意して待ってますよ、達也の分もね」

「…わかったわ」

真由美は不思議な顔をしていたが、頷いて模擬戦へ向かった。

ーーーーーーーーーー

「あ、おかえりなさい」

服部以外の全員が帰ってきた。それだけでどちらが勝ったのか察しはついたので、黎は何も言わなかった。

帰ってきた役員たちにお茶を振る舞い、その後は鈴音に仕事について教えてもらった後、今日の所は帰ることにした。

ーーーーーーーーーー

次の日の放課後、黎はもちろん生徒会室にいた。

「へえ、じゃあ風紀委員はこの1週間が1番忙しいんですか」

部活動勧誘、部活の成績が直接部費などの待遇に影響するので、各部が新入部員を競うように集め、魔法を使った争いにまで発展するのも珍しくないという。

「そうなんだよ、何とか委員の補充が間に合ってよかった。と言っても人手が十分な訳でもないがな。」

摩利が困ったように答える。なるほど、毎年関わっているのか、その大変さをよく知っているようだ。黎は摩利の方に向き直り、思いがけない提案をした。

「渡辺先輩、その見回り、俺も参加していいですか?」

「え?」




いざこざまで行かんかった…ごめんなさい。
次でさすおにならぬさすれいを見せられるようにします。約束です。
あと、達也の強さを黎がわかっている理由ですが、前回の一科生とニ科生の衝突の時、黎がなにもしなければ達也が事態を収束していた事が分かっていたからです。前回に続き、事後説明が増えみませんが、黎の過去をいずれ書くので、それを読んでもらえば色々納得が行くと思います。では、次回でお会いしましょう。


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第4話

のなめんです。魔法科の映画を見に行きたいのですが、どうにも時間がとれないんですよねえ。それはそうと、UA1500突破ありがとうございます!評価や感想もお待ちしておりますので、宜しければお願いします。モチベに繋がりますし。それでは第4話です。黎の能力の片鱗をお見せしましょう。では、お楽しみください。


「風紀委員の見回りに同行したいのか?別に楽しい仕事ではないと思うぞ」

「部活の勧誘に振り回されるのが嫌でしてね、かと言って下校時刻ギリギリまで生徒会室に篭ってるのも暇ですし、人手が余っている様子でも無かったので」

摩利の疑問に、出来るだけわかりやすく答える。実際これらは黎の本音だ。

「私は構わんが、真由美はいいのか?」

「私より、同じ会計のリンちゃんに聞くべきなんじゃない?」

摩利と真由美が鈴音の方へ顔を向ける。

「問題ありません。この時期はそこまで忙しくありませんし、むしろ風紀委員の方が相当忙しくなるでしょうから、勧誘週間はそちらに行ってもらって構いませんよ。」

鈴音は涼しい顔で答えた。建前などではなく、本当に仕事は多くない。黎もそれが分かっていたから摩利に提案を投げかけたのだ。

「ありがとうございます、市原先輩。」

「そういうことなら、喜んで加勢を頼もう。ちょっと来てくれ。」

その後、専用の通信機や、証拠撮影用のビデオなどを受け取り、黎も見回りに向かった。

ーーーーーーーーーー

「おーおー、こりゃ想像以上だな」

黎は正直、勧誘週間を侮っていた。せいぜいチラシ配りや、ちょっとした口頭での勧誘くらいだと思っていたが、見たところ、完全に部員の取り合いだ。ほぼ本人の意思を無視したような勧誘に見える。これでは争いが起こるのも頷ける。忙しくなりそうだ。

「ねえねえ君、うちの部どうかな?」

「君!ぜひうちの部に!」

「絶対うちの部合ってると思うよ!」

「見学だけでも!」

怒号にもにた声があちこちから聞こえてくる。耳が痛くなるほどだ。

「ちょっと!ふざけないで!」

その中に、癇癪を起こしたような声が聞こえた。

「ふう、早速仕事か」

黎は声のした方に走った。

ーーーーーーーーーー

「その子たちは私たちが先に目をつけたんだから!」

「いいえ、私たちが先よ!」

「あ、あの、すみません、離してください…」

黎の思った通り、本人の意思を無視した勧誘も行われているようだ。止めに入らなければならない。

「ああ、生徒会の者ですが、2人も嫌がってますので、離してあげてもらえませんか…って、雫とほのか?」

「あ、黎さん!」

執拗な勧誘にあっていたのは、雫とほのかだった。助けを求めるような目で黎を見つめる。

「なによあんた!関係ない人はあっち行きなさいよ!」

「ただ勧誘してるだけじゃない!何がいけないの?」

「その勧誘が本人達の迷惑になっているようなので、1度解放してやってくれませんか?その部に興味が沸けばまた自分たちで来ると思いますので。これ以上続けられるようなら、俺にはそれを止める義務があります。」

その言葉を聞き、ほのかたちを囲んでいた生徒達は黎たちを睨みながらも散らばっていった。

「あ、あの、ありがとうございました!」

「助かった、ありがとう」

「仕事だし、気にしなくていいさ。2人とも部活は決めたのか?」

「まだなんです。色々見て回ろうにも、勧誘が…」

ほのかが不安そうに答えた。

「黎さん、一緒に回っていい?」

「え?」

雫の発言に、思わず黎は聞き返した。

「黎さんが横にいたら、しつこい勧誘もなくなると思うし」

「あー、なるほど、俺は別にいいけど、トラブルが起きたらそっちに行かなきゃいけない。それだけ了承してくれ」

「わかった」

「んじゃ、行くか」

黎は2人を連れて見回りを続けた。

ーーーーーーーーーー

「おい!いい加減にしろよ!勝手が過ぎるだろう!」

巡回中、またもや怒号が黎の耳に入った。今度は男子生徒のようだ。

「やれやれ、またか。ほのか、雫、悪いけど俺は行くよ」

「うん、わかった」

「あの、頑張ってくださいね!」

「俺が頑張らなくてもいい状況が望ましいんだがな」

そう言い残し、声のした方へ走った。

ーーーーーーーーーー

現場のグラウンドにつくと、2つの部の生徒が集団で対立していた。

片方が一科、もう片方がニ科生の集団だ。

「まだお前達のデモ時間じゃないじゃないか!大人しく待ってろよ!」

「うるさい!ウィードのくせにブルームに口出しするな!」

「…くだらん、一科生にはガキみてえなやつが多いな」

そう呟き、2つの集団の間に入る。

「生徒会の八田です。何事ですか?」

「こいつらがまだ自分たちのデモ時間じゃないのに、場所を譲れとしつこいんだ!」

「ウィードの多い部活がデモをしても、部員が集まるわけないだろう!時間の無駄だから譲れと言っているだけだ!」

各部には、新入部員勧誘のためのデモンストレーションをする時間が、それぞれに均等に割り当てられている。一科ニ科の区別なく、これは平等であり、私的な理由で時間を変更することは認められていない。譲る側が納得していないなら尚更である。

「はあ、あなた方が何部かは存じませんが、話を聞く限り明らかにそちらに非があります。割り当てられた時間までお待ちください」

一科生の集団を見ながら黎が告げる。

「いや、もっといい方法があるぞ」

一科生の集団の先頭にいる生徒が不敵な笑みを浮かべる。

「はい?」

「今ここでお前も混じえてデモをするんだよ!」

そう叫ぶと、CADを操作して魔法を発動、しようとした。しようとしたが、出来なかった。

「な!?」

黎が自己加速術式を発動、その生徒のCADを叩き落とし、そのまま組み伏せた。

「こちら1-A八田、グラウンドにて逮捕者一名。」

「クソ!こいつ!」

逆上した生徒たちが一斉にCADを操作、黎に魔法を放とうとする。

「やれやれ、大人しくしてくださればこの人の逮捕だけで済んだのに」

そう告げると、黎は右手を上に掲げた。

「あ、あれ?なんでだ?」

直後、発動しかけた全ての魔法が中断された。立ち上がった黎が指を一つ鳴らした。すると、魔法を発動しようとした生徒全員の頭上に魔法陣が出現し、そこから発せられた青い稲妻が彼らを貫いた。そのまま彼らは動けなくなり、地面に倒れ込んだ。意識を刈り取るには至っていないのは、黎が威力を調整したからである。

「こちら1-A八田、さきほどに続いてさらに逮捕者あり、負傷していますので、担架もお願いします。」

風紀委員本部に連絡を入れ、残っている生徒に向かって告げる。

「俺もこれ以上逮捕者を出したくありません。大人しくしていてください。抵抗するようなら容赦はしませんよ」

その言葉は、残りの生徒の抵抗の気を削ぐのに十分だった。

ーーーーーーーーーー

「で、結局7人を逮捕したというわけか」

大量の違反者が出こともあり、黎は1度風紀委員本部に戻って摩利に事情を説明していた。そこには真由美、摩利、達也、そして部活連会頭にして、十師族の一家、十文字家の当主代理、十文字克人も同席していた。

「はい、流石にその後は抵抗する生徒もいませんでした」

「そうか、ご苦労。ところで、君が魔法を封じるのに使った技について聞いてもいいか?」

「あれは俺のオリジナルの妨害魔法、術式飽和(グラム・サチュレーション)です」

摩利の質問に、ニヤリとしながら黎が答える。

「術式飽和?」

「はい、簡単に言うと、自分を中心とした一定の空間内にサイオンの急流を作り出し、起動式の構築を妨害する魔法です。」

「自分が中心の一定空間内ってことは、黎くんもその対象なんじゃないの?何故黎くんはその中で魔法を使えたの?」

黎の説明に、今度は真由美が疑問を呈する。

「起動式を妨害、と言いました。そこがミソです。魔法式の妨害ではありません。」

達也と十文字はなるほどという表情を浮かべたが、あとの2人はイマイチ分かっていないようだ。

「俺は、魔法の発動に起動式を必要としません。自分で魔法式を構築出来ます。そのためCADも基本的に必要ありません」

続いた説明で、2人も理解出来たようだ。

「じゃあ、実質君は普通に魔法が使え、君の周りの人間は使えなくなるということか?」

摩利が驚いた様子で尋ねる。

「ま、そういうことですね。起動式なしで魔法を使える人はそう多くないですし」

「…このまま風紀委員に引き抜きたい人材だな。」

「ダメよ、摩利!黎くんは生徒会の大事なメンバーなの!」

「ほう、大事な、ねえ…」

摩利の冗談に過剰に反応した真由美に冷やかすような視線を送る摩利。

「な、なによ…」

「いや、随分黎くんがお気に入りなのだなと思ってな」

照れてさらに小さくなる真由美に助け舟を出したのは黎だった。

「あの、巡回に戻って宜しいですか?」

狙って出した助け舟ではないが。

「あ、ああ。ご苦労だった。引き続き頼む」

その言葉を聞き、黎は部屋を出た。

「おもしろい奴が入ってきたな。」

次に口を開いたのは十文字だった。

「ああ、達也くんといい、黎くんといい、今年は活きのいい新人ばかりだ。」

不敵な笑みをうかべていたのは、摩利だけではなかった。

ーーーーーーーーーー

巡回に戻った黎だが、その後は特に問題が起きることはなく、巡回を終えるとそのまま帰宅した。何度か口論は見かけたが、黎の姿を見るなりやめていた。後で雫とほのかに話を聞くと、どうやらグラウンドで上級生を大量に捕まえた事実が広まったらしく、黎の前で問題を起こさないように周りが意識していたらしい。黎としても立て続けにトラブルが起きると大変なので、ありがたいことだった。

そしてその夜、黎の自宅にて

「お久しぶりですね、風間さん」

国防軍、独立魔装大隊所属、風間玄信のことだ。

「ああ、久しぶりだな、黎」

お互い旧知の仲らしい。双方笑顔で言葉を交わしている。挨拶や世間話が一段落した後、風間は表情を変えた。

「黎、第一高校内に不穏な空気が流れていることに気づいているか?」

「……不穏な空気、とまではいきませんが、何となく違和感を感じます。遠くから見張られているような、そんな感じです」

「ふむ、藤林に調べさせたところ、一高内に、ブランシュの下位組織、エガリテのメンバーと思われる者がいることがわかった。」

「なるほど、エガリテですか。警戒しておきます。」

「ああ、気をつけろよ」

「ありがとうございます、では失礼します」

そして黎は風間との通信を切った。

 




少し短くなりましたが、ここで切らないとさらに投稿が遅れそうなので、とりあえず今回はここまでにさせていただきます。黎の妨害魔法ですが、もし既出のネタでしたら申し訳ございません。他にも黎のオリジナル魔法は登場させていきたいですね。最後に、宜しければ感想、評価などもお願いします。書いてる身としては、読んでくださるみなさんの声が1番励みになりますので。


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第5話

のなめんです。やっとこさ受験から解放され、時間ができました。もうみなさんこの小説など覚えてないかもしれませんが、とりあえず投稿再開致します。
前回で国防軍と黎の繋がりが見えましたね。さて、どこで知り合ったのやら← あと3~4話くらいで入学編を終えたいという野望を抱いてますが、先行き不透明でございます。行き当たりばったりでやって行こうと思います。 では、第5話です。


翌日も、黎は風紀委員の巡回を手伝っていた。やはり昨日の大盤振る舞いが効いたのか、黎の巡回中に大きな問題はそう起こらなかった。少しの小競り合いはあったが、口で注意すれば収まる程度だった。

(……ん?)

ふと、遠くからの視線を感じた。

(……見つけた)

視線の出どころを探し当てると、そこに向かって走る。

(逃がすかよ………何!?)

逃げた生徒を追いかけようとした瞬間、死角から2本のレーザー状の魔法が迫る。

「クソ!」

避けられなくはない、しかし避ければ恐らく取り逃してしまう。

(しゃーねーか)

黎は回避を選んだ。1本目をサイドステップ、2本目を宙返りで躱した。案の定逃げられてしまったが、1つの手がかりを掴んで黎は生徒会室へ戻った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「それは本当か!?」

生徒会室にて、摩利が驚いた声をあげる。

「ええ、当たりはしませんでしたが、結構殺傷力もありましたし、足止め、あわよくば怪我を狙った明らかな攻撃でしたね。」

「…大丈夫なのか?」

「ええ、当たってはいませんから。ただ…」

黎の表情が固くなる。

「おそらく、ブランシュの下部組織、エガリテによる攻撃です。警戒しておいた方がいいでしょう。」

「な!?黎くん、なぜその名を!?」

真由美が驚いた声をあげる。

「情報の出どころを全て断つのは不可能です。いくら政府が隠しているとはいえ、知ってる人は少なくないかも知れませんよ。というより、この情報は隠すべきじゃない。」

「俺も同感です。この件に関する政府のやり方は、拙劣です」

黎と達也の言葉を聞き、真由美が俯き、表情を曇らせる。

「そうね、2人の言う通りだわ。魔法を敵視する集団があるのは事実なのに、正面から対策することを避け…いいえ、逃げてしまっているわ。」

政府を、というより、自分を責めるような口調だった。

「まあ、それは仕方ないんじゃないですか?」

「え?」

黎の言葉に、きょとんとしたような顔を浮かべる真由美。さらに黎が続ける。

「ここは国立の機関です。その運営に関わる生徒会、しかも会長なら、国の方針に従うのは仕方のないことです。俺が会長の立場でもそうせざるを得ないでしょう。」

口調が柔らかくなったのは、黎が意識してのものだった。

「慰めてくれているの?」

真由美が頬を染めた。

「そうですよ?」

「ほう、黎くんは凄腕のジゴロだな」

「そうですかね?達也には叶わないと思いますが」

摩利のからかいも軽く受け流した。が、

「お兄様…ジゴロというのは、どういうことでしょうか?」

深雪がとても可愛らしい笑顔で達也に尋ねる。深雪は受け流すことが出来なかったらしい。

「深雪、黎が七草先輩の気を引こうとしていたのを誤魔化すための冗談だから。」

達也がお返しとばかりに黎に話題を返す。

「な、ち、ちげーよ!」

黎が焦ったのを見て、真由美も反撃に転ずる。

「え?ちがうの?黎くんは、お姉さんがキライ?」

目を潤ませ、上目遣いで見つめられては強く言い返すことが出来ない。

「い、いや、嫌いとは言ってませんよ?」

「でも好かれたくないんでしょ?」

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないですか!」

「じゃあ、やっぱりお姉さんのこと好き?」

完全に真由美のペースだ。このまま弄ばれるのは黎にとってもおもしろくない。

「…ええ、好きです。最初に会った時から惚れていました。」

「え、な、え!?れ、黎くん!?」

今度は真由美が頬を染めて焦っている。黎の狙い通りだ。

「まあ、冗談ですが」

「え?も、もう!年上をからかうんじゃないの!」

「先にやられたのでお返しですよ。じゃあ、俺は巡回に戻りますね」

笑いながらそう言って、黎は巡回に戻った。

その後、真由美は摩利に散々からかわれることになるのだが、それはまた別の話。

ーーーーーーーーーーーーーーー

勧誘週間も無事終了、結局黎は初日の噂が広まった影響か、特に大きないざこざを仲裁する機会はなかった。そして翌週、黎は昼休みにある人物に呼び出されていた。

「それで、話とは?十文字先輩」

そう、黎を呼び出したのは、十師族に名を連ねる十文字家の当主代理、十文字家克人だった。

「ああ、単刀直入に言う。八田、お前は《あの》八田だな?」

「ええ、お察しの通りです」

「そうか、分かった。」

克人が静かに頷く。

「あの、それだけですか?」

克人の用件がこれだけとは思えない。もしそうならわざわざ呼び出す程のことではないだろう。

「いや、もう一つ、お前はどこでブランシュの名を知った?」

「七草先輩から聞いたんですか」

「ああ、十師族として、国が隠している情報が出回るのは望ましくない。''元''二十八家とはいえ、十師族以外がその情報を持っているなら、出どころを掴んでおきたい」

なるほど、もっともな理由かもしれない。しかし黎も、今ここで国防軍とのコネを簡単にばらしたくはなかった。

「ちょっとしたコネですよ、詳しくは残念ながらお話出来ません」

「しかし情報が情報だ。有耶無耶にしていいことではない。」

「では、俺がそれを教えるかわりに、十文字家の機密やコネの情報を要求すれば、教えてもらえますか?」

克人が顔をわずかにしかめる。

「家の情報を他の家に簡単に教えるわけにはいきません。それはどこも同じです。安心してください、ゆくゆくの八田家当主は俺です。得た情報を悪用はさせません。」

「……わかった」

完全に納得はしていないが、時間的に昼休みも終わりそうだったので二人は別れた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

次の日、校内はざわついていた。

「二科生の地位向上に!」

「差別撤廃を!」

そんな声があちこちから聞こえ、同調する生徒も少なく無かった。

(…動きだしたのか)

恐らくブランシュ、そしてその下部組織が主導しているのだろうと推察する。

(面倒なことになりそうだな…)

他人事のように考えながら、黎は授業へと向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

その日の放課後。

黎が知らせを聞いて駆けつけた時には、放送室の前に人だかりが出来ていた。

「渡辺先輩」

「おお、黎くん」

「何事ですか?」

「ああ、二科生の地位向上を謳う生徒たちが、放送室を占拠してしまってな…」

どうやらとうとう暴挙に出たらしい。

「内側から鍵をかけてたてこもっている。おそらくマスターキーを事前に盗んでの犯行だと思われる」

「完全に犯罪じゃないですか、早く事態を収集すべきなのでは?」

「いえ、下手に動くと彼らを刺激してしまうでしょう。慎重に対応すべきです。」

鈴音の意見も理解できる。どうすべきか、膠着状態が続いている中、達也が電話を取り出した。

「部活連と生徒会は、交渉に応じてもよいという考えですか?」

「ああ、元々根拠の無い言いがかりだ。後顧の憂いを絶つためにも、しっかり反論しておくべきだろう」

「生徒会も同意見です」

克人と鈴音の同意を得て、達也は電話を始めた。

「もしもし、壬生先輩ですか?司波です」

その後達也は、壬生の安全を保障することを約束し、放送室から出てくるよう話を付けた。

「壬生先輩って言うと、こないだ達也が言葉責めにしてたって……いや、なんでもない」

達也の冷ややかな視線にあてられ、黎は口をつぐんだ。

「それよりも、態勢を整えるべきだと思いますが」

達也が摩利たちに次の行動を促す。

「態勢?なんの?」

何を言っているのか分からない、という顔で摩利が聞き返す。

「そりゃ、中にいる連中を確保する態勢でしょう」

摩利の疑問に黎が答えた。

「いや、達也くんはさっき、自由を保障する旨の話をしていたと思うが…」

「俺が自由を保障したのは、壬生先輩1人だけです」

「ついでに、達也は生徒会や風紀委員を代表している、なんて一言も言ってないですよね?」

達也は無表情に、黎はニヤリとして告げた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「どういうことよ!これ!」

放送室から出てきた生徒達は、案の定すぐさま確保され、黎がCADを没収した。

「司波くん、私たちをだましたのね!」

「司波はお前をだましてなどいない」

紗耶香の達也への詰りに、克人が答えた。

「お前達の言い分は聞こう、交渉も応じる。しかし、そのこととその為にとった手段を認めることとは別問題だ。」

克人の正論に、紗耶香は反論できない。

「それはその通りなんだけど、彼らをはなしてあげてくれないかしら」

その言葉と共に、真由美が歩いてきた。

「七草?」

克人が訝しげな声を発し

「しかしな、真由美」

摩利が抗議の声をあげる。しかし真由美はそれを遮り、

「言いたいことは理解しているつもりよ、でも壬生さん1人では、交渉の段取りも打ち合わせもできないでしょう?生活主任の先生と話し合った結果、鍵の濫用と放送設備の無断使用への措置は、生徒会に委ねられました。」

遅れてきた理由と、紗耶香たちが現在置かれている立場についてのさりげない説明。

「じゃあ壬生さん、打ち合わせをしたいので、ついてきてもらえるかしら」

「…ええ、構いません」

「じゃあ、お先に失礼するわね。黎くん、達也くん、深雪さん、今日はもう帰ってもらっていいわ」

「では、失礼いたします」

そう言って、達也と深雪はその場を後にした。しかし黎はそうはせず、

「七草先輩、俺も立ち会ってもいいですか?」

ーーーーーーーーーーーーーーー

「黎くん、どうして打ち合わせに立ち会おうと思ったの?」

交渉の日時などの打ち合わせが済み、帰宅しようとしたところ、真由美に呼び止められた。

「彼らがブランシュやエガリテと繋がっているなら、交渉の時間に何かが起きてもおかしくない。だから詳しい内容を把握したかったんですよ」

「え?…いや、ただの交渉よ?話し合うだけなのよ?」

少し動揺しながら真由美が黎の懸念を否定する。

「交渉、それ自体に意味はありません。要は学校中の注目が1箇所に集まるタイミングを狙われる可能性があるってことですよ」

「……そう、確かに、その可能性を完全に捨てきることはできないわね」

「風紀委員とも連携をとって、警備にあたったほうがいいかも知れません」

「そうね、摩利にも伝えておくわ」

「助かります。それでは、俺はこれで」

「ええ、お疲れ様」

そして黎も帰路についた。

 




とりあえず今回はここまで。リハビリがてら書いてみましたが、思ったより量が少ないですね。次回からはもう少し増やそうと思います。
そして、次回からは戦闘シーンがたくさん書けそうなので、戦闘シーンが好きな皆さんは楽しみにしていてくださいね。それでは、また近いうちに。


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第6話

のなめんです。無事高校を卒業しまして、晴れて自由の身でございます。春から大学なので、春休み中にできるだけ投稿しときたいですね。では、第6話、お楽しみください。


討論会当日、全校生徒の半数以上が、講堂に集まった。

「意外に集まりましたね」

「予想外だな」

「警備が大変になりそうだ」

順に深雪、達也、黎の言葉だ。

3人に摩利、鈴音を加えた5人は、舞台袖で控えている。真由美は少し離れて、服部とふたりで登壇の準備をしている。(実際に討論を行うのは真由美1人だ。)反対の袖には、同盟の3年が4人、風紀委員に監視されながら控えている。その中に、紗耶香の姿はない。

「実力行使の部隊が別にいるのかな…?」

「でしょうね」

「同感です」

摩利の呟きに、黎と達也が反応する。

「何をするつもりかは分からんが、こちらからは手出しできんからな…」

「そうですね…あ、始まりますよ」

黎の言葉で、五人の視線が舞台へと移った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

討論会は、次第に真由美の演説の趣を呈し始めた。それもそのはず、同盟側の主張に根拠はなく、真由美の具体的なデータを元にした反論に、返す言葉が見つからない様子だった。

「生徒のあいだに、同盟の皆さんが指摘するような差別の意識が存在するのは否定しません。ただしそれは、固定化された優越感と劣等感によるものです。問題は意識なのです。」

会場の誰もが、真由美の言葉に耳を傾ける。

「私は生徒会長として、この現状に満足していません。差別を助長する意識の壁を、なんとか取り除きたいと考えていました。ですがそれは、新たな差別を作り出すことによる解決であってはならないのです。当校の生徒にとって、ここで過ごす期間は、唯一無二の3年間なのですから。」

場内から拍手が湧き上がる。満場のではないが、一科二科の区別なく、手を鳴らしていた。しかし、真由美が『生徒会役員は一科の生徒から選出する』という規則を変えることを公約とし、さらなる拍手が湧き始めたその時、突如、講堂に轟音が鳴り響いた。動員されていた風紀委員、そして黎たちが一斉に動く。たちまち同盟のメンバーは拘束された。窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んでくる。それを見た黎は、すぐさま落下地点に移動、物体を蹴り返し、入ってきた窓から出した。

「おそらくスモークグレネードでしょう。なかなか周到な連中ですね。俺はこのまま実技棟の様子を見に行きます。」

そう言い、出口へ走る。

「俺も行こう」

「お供します!」

達也と深雪も黎のあとに続いて駆け出した。

「気をつけろよ!」

摩利の言葉に送り出され、3人は実技棟へ急ぐ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「乱戦模様だな」

講堂の外は、黎の言う通り文字通り乱戦だった。侵入したテロリストと、一校生徒、教師達が、至る場所で戦っている。そこへ、レオとエリカが合流した。

「物騒なことになってんな」

「退屈せずに済みそうね」

二人とも好戦的な性格ゆえか、不敵な笑みを浮かべている。

「さて、これからどうする?」

「取りうる選択肢は3つ。このまま実技棟へ向かうか、図書館へ向かうか、それとも2手に分かれるか」

黎の言葉に達也が答えた。

「じゃあ3つ目で。俺は実技棟へ行くから、みんなは図書館へ向かってくれ」

「いいのか?黎?」

レオが心配そうに尋ねる。

「敵の狙いはおそらく図書館のデータだ。なら戦力は図書館に厚めに割くべきだろう。実技棟は任せな」

という言葉を残し、黎は1人実技棟へ向かう。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「誰か!助けて!!!」

実技棟につくと、知っている声で助けを求めているのが聞こえた。

「ほのか…?」

声のした方へ向かうと、A組の女子たちがテロリストの集団に囲まれていた。

「あ、黎さん!」

「誰だお前は!?」

ほのかの縋るような声と、テロリストの怒号が同時に聞こえた。前者に応えるように優しく笑いかけ、後者に冷ややかな声で答える。

「この子達のクラスメイトだ。早く解放しろ」

「へ!知るかよ!こいつらの命が惜しけりゃ、お前も大人しく捕まりな」

「最後の警告だ。武器を捨てて、彼女らを解放しろ。次はない」

「お前、状況がわかってねえようだな、今有利なのはこっちなんだよ。わかったらCADを外して両手をあげろ」

「生憎CADは持ち歩いてなくてな、それよりも…」

「なんだ?」

「上見てみな」

その言葉につられ、テロリストが上を見た瞬間、黎が動いた。自己加速術式で一気にテロリスト達との距離を詰め、硬化魔法をかけた蹴りを急所に打ち込む。相手が倒れるのを確認する暇もなく、次の相手に蹴りを入れる。相手が異変に気づいた時には、8人いたテロリストのうち、立っているのは3人だけだった。

「この、クソガキ!」

残った3人が黎に向かって発砲するが、黎には当たらない。

次の瞬間、3人も意識を手放した。

「ふぅ、みんな大丈夫だったか?」

「は、はい…あ、あの…」

ほのかの声は震えている。余程怖かったのだろう。見ると、他の女子達も身体を震わせていた。

「怖かったな、もう大丈夫だ。安心していいぞ」

できるだけ優しく声をかける。少しずつみんな落ち着きを取り戻したようだ。

「本当にありがとうございます。黎さんが来てくれなかったら、今頃どうなってたか…」

「助かった、ありがとう」

ほのか、雫をはじめ、A組の女子達が口々に感謝を述べる。

「気にしなくていいさ。それより、どうして捕まったんだ?」

「実技棟にこの人達が入っていくのが見えたから、私たちで捕まえようと思ったら…」

「逆に捕まっちまったってことか。今回は俺が間に合ったから良かったけど、もう危ないことするなよ?」

「はい、すみません…」

「いや、何とかしようとするのはいいことだ。もう戻ろうか」

拘束や連行は他の風紀委員を呼んで任せることにし、黎たちは外へ出た。

ーーーーーーーーーーーーーーー

外へ出ると、あらかたの戦闘は終わっていた。これならもう襲われることはなさそうだ。

「さて、もう襲われることはないと思うが…一応駅まで送っていこうか?」

「え?いいんですか?」

「さっきのこともあるしな、俺は構わないよ」

「じゃあ、お願いします!」

「わかった」

そう言って、ほのか達を連れて駅に向かおうとしたその時、黎の携帯が鳴った。

「もしもし…ああ、達也か。どうかしたか?…そっか、壬生先輩が保健室に…おう、りょうかい、じゃあな」

「達也さんから?」

電話を切り、雫の問いかけに答える。

「ああ、今回の騒動に加担してた先輩が保健室にいるらしい。それで、事情聴取をしなきゃいけなくなっちまってな。…悪い、早めに済ますから、保健室の外で待っててくれないか?何かあったら大声で呼んでくれればすぐ行くから」

そう申し訳なさそうに告げると、快く返事が返ってきた。

「大丈夫です、送ってもらえるだけありがたいですし、黎さんの都合に合わせます」

「ありがとな、じゃあ保健室に行こう」

というわけで、全員で保健室へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

紗耶香の事情聴取は、静かに進んでいた。ちなみに、参加しているのは、黎、達也、深雪、レオ、エリカ、真由美、摩利、克人である。あらかたの情報を聞き出した後、紗耶香の口から驚くべき言葉が発せられた。

「入学してすぐの頃、渡辺先輩に手合わせを頼んだら、すげなくあしらわれてしまって、あたし、すごくショックで…それってきっと、あたしが二科生だから、そう思うと、悔しくて…」

「ちょっと、ちょっと待ってくれ。その時のことは覚えている。あの時、あたしはこう言った。ーーすまないが、あたしの腕では到底お前の相手は務まらない。自分の腕に見合う相手と稽古してくれ…と」

「ちょっと待って、摩利。じゃああなたは、自分の腕では壬生さんにかなわないから、稽古の相手は辞退する、と言ったの?」

「その通りだ、そりゃあ、魔法を絡めればあたしの方が上かもしれんが、純粋な剣の勝負で、あたしが壬生にかなう道理がない。」

「じゃあ…あたしの勘違い…だったんですか…?」

居心地の悪い空気が保健室内に流れる。

「あたし…バカみたい…勝手に先輩のこと誤解して…逆恨みで1年間も無駄にして…」

それは違う、と黎は思った。きっかけはどうあれ、紗耶香が己を磨き、強くなったこの1年間は、決して無駄の一言で片付けていいものではないはずだと、そう声をかけようとしたその時

「無駄ではないと思います」

達也が同じことを言ってくれた。それを聞いた紗耶香は、達也に寄りかかり、涙を流すのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

落ち着きを取り戻した紗耶香から、背後にブランシュの存在があることが語られた。

「予想通りですね」

「本命過ぎて拍子抜けだがな」

黎の呟きに摩利が反応する。

「さて、問題は奴らがどこにいるのか、ということですが」

「ああ、俺はパスね、エスコートしないといけない人がいるんだ。後始末は達也に任せた」

ブランシュを潰しに行く話が出かけたので、黎はその場を後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「あの、今日はありがとうございました。助けていただいた上に、駅まで送っていただいて」

「いいよ、全然。ここからは自分たちで帰れそうか?」

「大丈夫、ありがとう。今度お礼させてね」

ほのかや雫たちを駅まで送るあいだ、当然何事もなかった。みんなを見送り、雫に今度お礼をしてもらう約束をして、黎も帰路についた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

その夜、黎は自宅である人物と通話していた。

「そう、ブランシュが」

「ああ、まあもう潰されてるだろうけどな」

「黎がやったの?」

「いや、俺は別の用事があってな」

「テロリストを倒すより大事な用事があったの?」

「一校の戦力を考えれば、俺1人行かなくても問題ないと思ったんだよ」

「ふうん、で、用事ってなんだったの?」

「友達を駅まで送ってたのさ」

「…女の子でしょ?」

「そうだけど」

「やっぱり!黎は私以外の女の子には甘いんだから!」

「いや、色々ワケがあったんだよ」

「知らないもん!ふんだ!私をエスコートしてくれたことなんてないのに!」

「そりゃそんな機会なかっただろ」

「じゃあ機会があればしてくれるのね!?」

「ま、まあ機会があればな」

「よし!約束!それじゃ、また今度ね!」

「ああ、またな、"姉さん"」

そう言って、通話を切った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

そして週末、黎は北山邸にお呼ばれしていた。

「お、お邪魔します」

黎は面食らっていた。雫の家は大のつく豪邸だったのだ。

「おお、君が八田黎くんか、すこしこっちに来てくれ」

そう言って黎を招いたのは北山潮、雫の父だ。招かれるまま、潮の部屋に入る。

「聞けば、雫をテロリストから助けてもらったそうで、どうもありがとう」

「いえ、お気になさらず。雫さんたちが無事でなによりです」

「何かお礼をしたいのだが…」

「いえそんな、自分はできることをしただけですので。お気持ちだけ受け取らせていただきます」

「む、そうか。では今日は夕飯を食べていくといい。ご馳走しようじゃないか」

これも断っては逆に失礼だと思い、この提案にありがたくあやかることにして、潮の部屋を出た。

「…八田黎…か…」

部屋に1人残った潮の呟きは、誰に聞こえることもなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「黎さん、お父さんと何を話してたの?」

雫の部屋に入ると、雫に尋ねられた。

「いや、なんでもないよ。夕飯をご馳走になる約束をしてきただけさ」

「じゃあ、家でたべていくの?」

「ああ、いただいていくよ」

「そっか」

心做しか、雫は嬉しそうだった。その後、あとから来たほのかも交え、談笑していた時、九校戦の話題が出た。

「黎さんは、今年の九校戦に出る予定はあるんですか?」

「ん?いや、まだ何も聞いてないけど」

「黎さんは絶対出るべき。何に出てもよさそうだけど、やっぱりモノリス・コードに出てもらいたい」

九校戦の話になると、雫がいつもより雄弁になった。どうやら雫は九校戦のファンらしい。今年は自分も出場したいと、意気込んでいた。

その後は主に九校戦の話(種目、見どころ、ライバル校などなど)に花を咲かせ、ほのかも一緒に夕食をいただいて帰った。さすがと言うべきか、北山家の料理は絶品だった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「九校戦、か…姉さんや"あいつ"もでてくるんだろうな」

帰宅後、そんなことを考えながら、黎は眠りについた。

 

 




とりあえず今回はここまで。今回で入学編が終わりましたので、次回から九校戦編です。なるべく早く投稿するようにします。最後に、UA4000突破ありがとうございます!これからも頑張っていきます!


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九校戦編
第7話


のなめんです。今回から九校戦編に入ります。頑張って書いていきます。それでは、第7話です、どうぞ。


七月中旬、第一回定期試験も終わり、夏の九校戦に向けての準備が活発化し始めた。

生徒会室にて

「で、俺は結局なんの競技に出ればいいんですか?」

「そうねえ・・・正直どれに出ても黎くんなら大丈夫だと思うんだけど・・・」

「やはりモノリス・コードじゃないか?得点の高い種目に出てもらって確実に点を稼いでもらえばいいと思うんだが」

黎の質問に真由美が唸り、摩利が一つ提案する。

「新人戦のモノリスのメンバーには、森崎がいるんですよね?」

「あ、ああ、そうだが」

「じゃあ出来れば遠慮したいんですが・・・」

「何故だ?」

「仲がいいとは言えないからですよ。チームワークが大切なモノリスで、仲違いしている奴とチームを組むわけにはいかないでしょう」

「じゃあ森崎を外そう」

摩利がきっぱりと言い切った。

「・・・そんな簡単に決めて大丈夫なんですか?」

「なに、森崎と黎くん、戦力を考えればどちらを優先すべきかは考えるまでもないだろう」

「七草先輩は良いんですか?」

「摩利の意見に賛成よ。じゃあ黎くんはモノリス・コードに出てもらっていいかしら?」

「・・・さすがにガキみたいな理由でメンバー編成を変えさせるわけにはいかないので、森崎も一緒で構いませんよ」

「そ、そう?じゃあ1人2競技まで出られるから、もう一つ出てもらいたいんだけど」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ戦力的に不安のある競技に出てもらいましょう。そう考えると・・・」

結局、もう一つの競技はバトルボードとなった。

「選手の方はいいとして、問題はエンジニアよ」

「そんなに人材不足なんですか?」

「ええ、2年生のほうは、あーちゃんや五十里君がいてくれるからまだいいんだけど、3年生は実技の方に人材が偏ってしまっててね・・・」

会話が途切れたところで、達也が部屋を出ようとする。

「では、俺はこれで」

その背中をみて、あずさが声をあげる。

「あの、だったら司波くんがいいんじゃないでしょうか」

「ほえ?」

それを聞いて、真由美が奇妙な声を上げた。そして

「盲点だったわ!」

と叫び、目をらんらんと輝かせた。

「そうか!あたしとしたことがうっかりしていた」

その言葉に摩利も続く。

「過去、1年生が技術スタッフになった例はないのでは?」

達也がささやかな、おそらく無駄な抵抗を試みる。

「なんでも最初は初めてよ!」

「前例は覆すためにあるんだ」

案の定、無駄に終わりそうだ。しかし一応粘ってみる。

「進歩的なお二人はそうお考えかもしれませんが、1年生の、しかも二科生、加えて俺は、色々悪目立ちしているようですし」

「それは・・・」

「CADの調整は、ユーザーとの信頼関係が重要です。選手の反発を買うような人選は、避けるべきかと」

この状況に援護射撃を打ち込んだのは、黎と深雪だった。

「達也を支持する奴だけ担当すればいいんじゃね?そんだけでも負担はかなり減るんじゃないか?」

「私は、九校戦でもお兄さまに担当してもらいたいんですが、駄目でしょうか?」

結局、達也は逃げ切れなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

その日の夜、黎の自宅にて

「どうも、入学したとき以来ですか、久しぶりですね、風間さん」

「そうだな、黎。そろそろ九校戦だが、もちろん黎も出場するんだろ?」

「ええ、まあ一応」

「出る以上は頑張りたまえ、期待しているよ」

「ありがとうございます、それで、ほかに用件があるんですよね?」

「ああ、九校戦がらみなんだが、会場の富士演習場南東エリア、この近くで不審な動きがあるらしい。国際犯罪シンジケートの構成員と思われるアジア人も目撃された」

「軍の施設に侵入者ですか?」

「実に嘆かわしいことなんだがな。おそらく、無頭竜(ノーヘッドドラゴン)だと思われる」

「なるほど、警戒しておきます」

「詳細が入り次第連絡しよう。それでは、期待しているよ」

「はい、失礼します」

そう言って通信を切った。

するとすかさず別の通信が入る。

「なんだよ、姉さん」

「出るの遅い!誰と話してたのよ!」

「風間さんだけど」

「ふうん、じゃあいいわ。それより、黎も九校戦でるんでしょ?」

「ああ、姉さんは?」

「私はエンジニアとしてだけどね。期待してるから頑張ってね!」

「いや姉さん三校だろ?俺とは敵同士なんだが」

「だって黎に勝てる人なんていないし、ほかの人応援するだけ無駄ってやつ?」

「そりゃとんだ過大評価だ」

「そんなことないよ、本気でそう思ってるから」

「まあ、やるだけやるさ。あいつも見に来るんだろ?」

「うん、兄さんの雄姿を見るの楽しみにしてます、だって」

「そりゃ負けられんな、頑張るって伝えといてくれ」

「わかったわ、じゃあおやすみ」

「ああ、おやすみ」

通信を切り、そのまま眠った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「なんでお前がいるんだ!」

九校戦の発足式が終了し、出場競技ごとに顔合わせや打ち合わせをしている時、大きな声を上げたのは森崎だった。

「そりゃ、選ばれたからに決まってるだろう」

黎は涼しい顔で答える。黎も思うところはあるが、事前に知っていたのですでに割り切っていた。

「文句言ってももう遅いんだ、九校戦には一校の威信がかかってんだから、余計な私情は持ち込まずに頑張ろうぜ」

もうお互いに高校生。その後は着々と打ち合わせを進めた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

8月1日、いよいよ九校戦へ向け出発の日だ。真由美が家の用事で集合に遅れたが、その他には特に何もなく順調にバス移動は進んでいた。しかし

「危ない!」

そう叫んだのは2年の千代田花音。彼女の見つめる先で、対向車線の大型車が、路面に火花を散らしながら横転した状態で滑っている。すると突然、その車がガードレールを飛び越え、こちらに向かってきた。バスは急停車し、横向きに止まった。直撃は避けた。しかし車は、炎上しながらなおもこちらへ向かってくる。

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

パニックを起こさず、車を止めるべく行動を起こしたことは、本来ならば褒められるべきことだ。しかしこの場合、事態を悪化させることになる。同時に複数の魔法が同じ対象へ発動されれば、すべての魔法が相克を起こして、逆に解決が難しくなる。

「バカ、やめろ!」

摩利がすぐに気づき、制止を試みるが、魔法を発動させようとしている生徒にその声は届かない。

(この状況で頼れるのは・・・十文字!!!)

摩利が視線をやると、克人も珍しく焦ったような表情を浮かべている。摩利の頭に最悪の可能性がよぎる。

「俺がやります!」

そう叫んだのは黎。すぐさま術式飽和を発動、発動前の他の魔法を無効化し、その後加重系魔法を車にかけ、車を止める。車が重力に耐えかねて潰れたが、それを気にする余裕はない。車が止まったのを確認し、今度は気流操作の魔法を発動、車の周りの空気を全て遮断すると、じきに火は消えた。

「ふう、なんとかなったか。」

「すごかったわ!ありがとう、黎くん」

真由美が称賛の声を送る。

「いえ、出来ることをしただけです」

「黎くんのおかげで、バスは止まりました、もう大丈夫です。」

車内から驚きと羨望のまなざしが黎に向けられる。

「それに比べてお前は!」

真っ先に魔法を発動した花音は、摩利にこってり絞られていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

その後は何事もなく、宿舎に到着した。

入口に意外な人物がいた。

「え?エリカ?」

「こんにちは、黎くん」

「どうしてここに?」

「もちろん応援よ」

「競技は明後日からのはずだが」

「今晩懇親会でしょ?」

「関係者以外は参加できないと聞いたが」

「それは大丈夫、あたしたち、関係者だから」

黎には、エリカの言葉の意味が分からなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

懇親会は、黎の思った以上に盛大なものだった。立食式なので、自分の料理を取り、人ごみから逃れると、背後から知った声がした。

「お飲み物はいかがですか?」

見ると、ウェイトレス姿のエリカと、ウェイター服を着た知らない男が立っていた。

「おっすエリカ、関係者ってこういう事だったのか。えっと、そっちの彼は?」

「僕は1-Eの吉田幹比古、幹比古と呼んでくれ、八田君の噂は、こっちまで届いてるよ。」

「八田黎だ、よろしく。俺の事も名前で呼んでくれ」

「わかったよ」

「あ、ミキ、そこのお皿空いてるわよー」

「僕の名前は幹比古だ!」

「りょーかいりょーかい」

幹比古は文句を言いながら、エリカは軽い足取りで去っていった。

「黎さん、ここにいたの」

「雫、ほのかも一緒か」

「はい、黎さんはお一人ですか?」

「人ごみが苦手でな、逃げてきたんだ」

「ご一緒してもいいですか?」

「ああ、かまわないよ」

というわけで、雫たちとの談笑に花を咲かせながら食事を行った。

来賓の挨拶が始まり、中でも一番注目される人物、十師族の長老、九島烈。彼の順番となった

(この国で一番の魔法師か・・・)

まず広がったのは、ざわめき。壇上に登ったのは、九島ではなかった。若い、美しい女性の姿しかなかったのだ。

(トラブル・・・?いや、違う?精神干渉魔法か・・・)

どういうつもりなのかは分からないが、小さな魔法で大きな会場を覆いつくし、自分の存在を知覚させないようにした芸当は、称賛に値すると思った。黎の視線に気づいたのか、九島はニヤリと笑った。

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪しよう」

女性が下がり、九島が姿を見せる。

「今のはちょっとした手品のようなものだ。しかし、そのちょっとした手品に気づいたのは、私の見た所6人だけだった。」

会場からどよめきが起こる。

「魔法を学ぶ若人諸君、使い方を工夫した小魔法は、使い方を誤った大魔法に勝るのだ。私は諸君らの工夫を楽しみにしている」

会場から拍手が沸き起こった。

「黎さん、気づいた?」

「あ、ああ、一応」

「さすがですね!」

周りの視線が黎に集まる。褒められて悪い気はしないが、あまり目立ちたくはなかった。そこへ

「れーーーい!!」

良く知った女の子の声がする。

振り返る間もなく、後ろから抱き着かれてしまった。

「黎!久しぶり!」

「姉さん、久しぶりだな、でもとりあえず離れてくれ」

一旦引きはがし、落ち着かせる。

「黎さん、お知り合いですか?」

「ああ、紹介するよ、八谷沙織(はちや さおり)。姉さんって呼んでるけど、本当の姉弟じゃない。九校戦には、三校のエンジニアとして参加してる。俺たちの一つ上だ」

「八谷沙織です、よろしくね」

「よろしくお願いします。あ、あの…」

「なに?」

「お二人は付き合ってらっしゃるんですか?」

「いや、それはないよ、ほのか。血は繋がってないとはいえ、俺たちは姉弟だからな」

「そうよ、もちろん黎のことは好きだけど、それは弟としてよ」

「そ、そうですか」

「なになに?黎のことねらってるの?」

「え!?いや、そういう訳では!!」

「姉さん、あんまり2人をからかわないでくれよ」

「あはは、ごめんごめん。じゃ、私は行くね。」

「ああ、また」

沙織は軽やかな足取りで去っていった。

「ごめんな、ああいう性格だから。気にしないでくれ」

「は、はい…」

少し空気が気まずくなったが、新たな知り合いの登場でその空気は霧散する。

「よう、相変わらず賑やかにやってんな」

「陸、ご無沙汰」

「知り合い?」

「ああ、三校の八島 陸(やじま りく)。1年生だ。陸、こっちは一校1年の光井ほのかと北山雫」

「よろしくな」

「こちらこそ」

「聞いたぜ、黎。モノリスに出るんだって?」

「ああ、まあ一応な」

「俺も出るから、お互い頑張ろうぜ」

「……一条、吉祥寺に合わせて、お前まで相手しなきゃならんとは、相当厳しいな」

「ま、こっちも優勝取りに来てるからな。あたったら手加減しないぜ?」

「おう、楽しみにしてる」

一度拳を合わせ、陸もその場を離れた。

「…黎さん、あの人強いの?」

「ああ、かなりやる奴だ.

森崎たちじゃ相手にならんと思う」

「そんなに…大丈夫ですか?」

「相当気ぃ引き締めていかねーとな」

「頑張ってね、応援してる」

「ああ、2人も頑張れよ」




とりあえずここまで。オリキャラを新たに2人出しましたので、簡単に紹介を
・八谷 沙織(はちや さおり)
三校2年のエンジニアとして九校戦に出場。血は繋がってないが、黎とは姉弟という関係(詳細は過去編で)。中3の妹がいる(次回辺りに登場させます)。エンジニアとしての腕は折り紙付き。

・八島 陸(やじま りく)
三校1年で、モノリス・コードとピラーズ・ブレイクに出場。黎とは互いに認め合うライバル関係であり、魔法にはかなり長けている(これも詳細は過去編で)。

これからも少しですがオリキャラ出していこうと思ってます(あまり増やすと収集つかなくなりそうなので)。分かりにくい設定などありましたら、感想などで教えて貰えるとありがたいです。最後になりましたが、UA5000とお気に入り50突破ありがとうございます!これからも頑張っていきます!それでは、また近いうちに。


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第8話

のなめんです。九校戦編第2話目です。どうぞ、お楽しみください。

注意:新人戦に比重を置きたいので、本戦の描写を大幅にカットしております。本戦まできっちり書くと、物語が進まなくなるので、ご了承ください。


「失礼します、八田黎です。」

「入れ」

次の日、黎は風間に呼び出されていた。

「来たか、まあ座れ」

「では、失礼します」

入室し、促されて席に着く。

「どうだ?調子は?」

「悪くはないですね」

「黎くんは確か、新人戦のモノリス・コードとバトルボードに出場するんでしたよね?」

「ええ、藤林さん。バトルボードは良いとして、モノリスの方は優勝は厳しそうですけどね」

「一条の次期当主に、カーディナルジョージ、加えて陸くんまで相手にしないといけないとなると・・・確かに一筋縄ではいかないでしょうね。でも"あれ"を使えば勝てるんじゃない?」

「あれは・・・まあいい勝負は出来そうですが、衆人環視の場で使うものではないですよ」

「それもそうね」

「術式飽和を使えばいいんじゃないのか?」

「術式飽和は、陸には通用しませんよ、山中さん。固まって戦えば他の選手に使えても、離れての一対一に持ち込まれれば使い物になりません」

「そうか」

「俺の競技の話は置いとくとして、今日俺を呼んだ用件は?」

「ああ、九校戦にちょっかいを掛けようとしてる賊の正体だが、おそらく無頭竜で確定だ。気をつけろよ、黎」

「なるほど、警戒しておきます」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「兄さん!お久しぶりです!」

「ああ、久しぶり、朱莉」

九校戦初日、観客席にて、黎に引っ付く女子が1人。

「見に来たんだな」

「もちろん!兄さんの雄姿を、この目に焼き付けておきますからね!」

「あ、ああ。じゃあ、俺はもう行くよ」

「何を言ってるんですか?私も兄さんと観戦しますよ?」

「・・・え?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「と言うわけで、こいつは八谷 朱莉(はちや あかり)。沙織姉さんの実妹で、俺の妹分だ」

「よろしくお願いします。いつも兄がお世話になってます」

結局、達也や深雪たちと一緒に黎と朱莉は観戦することになった。

「朱莉、七草先輩の魔法、しっかり見とくんだぞ」

「はい、兄さん」

朱莉の魔法特性は、真由美のものに似ているため、真由美の試合を見学する事は、朱莉にとっても良い刺激だ。真由美は順当に勝ち進んでいく。

「さすがはエルフィン・スナイパー、と言ったところか。優勝は確実だろうな」

黎の言葉に異議を唱える者はいなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

真由美はスピード・シューティング優勝、摩利もバトルボード予選を突破し、他の選手の戦果も上々、予定通りと言ったところだ。

「七草先輩、優勝おめでとうございます」

「ありがと、黎くん」

「渡辺先輩も、ひとまず予選突破おめでとうございます」

「ありがとう。とりあえずは予定通りだな」

「翌日以降も頑張ってくださいね」

「ああ」

「ええ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

2日目も目立ったトラブルはなく、順調に九校戦は進んだ。真由美がクラウド・ボールでも優勝。花音もピラーズ・ブレイクの予選を突破し、概ね計算通りの結果となった。

「このままいけば、一校の三連覇も射程圏内ですね」

「ええ、でも油断せずいきましょう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

3日目、女子バトルボード決勝。先頭に躍り出た摩利と七校選手。差がほとんどつかないまま、鋭角のカーブに差し掛かった時、

(あれは・・・?)

小さな異常に気を取られ、その瞬間を見逃してしまう。観客席から悲鳴が上がり、それを聞いて視線を戻した先で、七校選手がバランスを崩していた。

「オーバースピード!?」

そう叫んだのは誰だったであろうか、このままでは七校の選手が壁に激突してしまう。しかし、そこからの摩利の反応は、見事というほかなかった。ボードを反転させ、突っ込んでくる七校選手を受け止めるべく、新たに2つの魔法をマルチキャストする。このままいけば受け止められる。誰もがそう思ったその時、

(水面が!!)

突如水面が不自然に陥没し、摩利が体勢を崩す。そのまま摩利と七校の選手は衝突し、もつれあいながらフェンスへ飛ばされる。大きな悲鳴があがった。あの体勢で摩利が受け身をとれたようには思えない。

「先輩!!」

黎はすぐさま観客席を飛び出し、摩利のもとへ急ぐ。

「行ってくる、お前たちは待て」

その後、達也が友人たちを制止し、黎の後に続く。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

どれくらいの時間がたっただろうか。

「ここは・・・?」

「あ、先輩、気が付きましたか?」

「摩利っ、私がだれかわかる?」

「何を言っている、そんなことは聞くまでも・・・っつ」

後から襲ってくる鈍痛で、自分の状況に気づく。

「まだ起きちゃダメ」

真由美が起きようとする摩利を制し、ベッドに押し戻す。

「・・・完治までどれくらいかかる?」

「全治1週間ってとこですね」

「おい!じゃあ!!」

「・・・ミラージ・バットは棄権せざるを得ませんね」

「そうか・・・。レースの方はどうなった?」

「続行中よ。七校の選手は危険走行で失格、決勝は三校と九校よ。」

「幸い、七校側のけがはそれほど大きくないようです。渡辺先輩のおかげですね」

「自分が大怪我をしていては世話はない」

「それでも、渡辺先輩は1人の魔法師生命を救いました」

「黎くんの言う通りよ」

「棄権の分の穴はみんなで取り返しますから、先輩は回復に努めて下さい」

「ああ、そうさせてもらうよ」

「・・・それで、摩利、あの時、第三者から妨害を受けた可能性はない?」

「・・・確かに、足元に不自然な揺らぎを感じたが、それが魔法によるものかはわからない」

「・・・俺は精霊魔法だとみてます」

「精霊魔法?」

「ええ、これについては、達也たちと解析してみます。それでは、俺はこれで失礼します」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで、なにかわかったか?達也」

一校ブース内、黎と達也がモニターを見ながら話しこんでいる。

「一通り検証したが、やはりお前の言う通り、精霊魔法の線が一番濃厚だろう」

「やはりか、こっちでも色々調べておくよ。何かわかったら教えてくれ」

一旦切り上げ、黎はある場所へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「姉さん、ちょっと聞きたいんだけど」

黎がむかったのは沙織の所。事前に用件を伝えていたため、すぐに本題に入る。

「うん、やっぱりあれは第三者の妨害と考えるのが妥当だと思う」

「俺は精霊魔法が使われたとみてるんだが」

「その可能性が高いと思うわ。これで終わりじゃないかもしれないから、気を付けてね」

「ああ、姉さんもな。CADの管理、さらに厳重にした方がいいかもな」

「うん、じゃあね。明日のバトルボード、頑張ってね」

「ああ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

四日目、ついに新人戦の開幕だ。昨日の事故(事件)の詳細はまだわかっていないが、何よりも自分の試合で確実に結果を残し、一校の優勝に貢献することを優先することにした。

「黎さん、がんばってくださいね!」

「ありがとう、ほのか。ほのかも今日試合だろ?お互い頑張ろうな」

「はい!」

「黎くん、頼むわね」

「ええ、あんなこと言った以上、予選落ちなんてしようものなら渡辺先輩に顔向けできませんから」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

スタート直前、ボードの上に立つ黎は、あたりを見回し、観客席にいる沙織や朱莉、一校の友人たちを見つけられるほどには落ち着いていた。静かにスタートの合図を待つ。

そして、ついにスタート。

「行くぜ・・・!」

スタートの合図とほぼ同時に、黎はフルスロットルで走り出した。そのままトップへ躍り出るが、ほかの選手も負けてはいない。なんとか黎について行っている。

(やるな、なかなか、でも、1位を譲る気はないぜ)

最初のコーナーを曲がり切ったあたりで、黎は自分の真後ろの水を爆発させた。それによって得た推進力を利用してスピードを上げるとともに、後続の選手の妨害を行う。これでほとんどの選手は大きく引き離したが、直撃を避けた二校の選手が、黎と同様に爆発を利用してスピードを上げ、黎に肉薄する。

(へえ・・・やるじゃん)

2人の距離はしばらくあまり変わらなかったが、コースの後半、大ジャンプにてその均衡が崩れる。黎は自信に加重魔法をかけ、落下速度を大幅にアップさせ着水後も、その勢いのままスピードに乗り、一気に引き離した。そしてその距離を保ったまま、黎は無事に1位でゴールインした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「黎くん、予選突破おめでとう」

「ありがとうございます、七草先輩」

レース終了後、黎は本部にてねぎらいを受けていた。

「スピード・シューティングでは女子が3人とも予選突破したし、順調ね」

「二校の選手と競り合っていた時はひやひやしたぞ」

「正直俺も少し驚きました。まあ、策はあれだけではなかったので、焦るほどの事ではありませんでしたが」

摩利の指摘に、苦笑しながら答える。

「まあ君なら大丈夫だろうが、決勝も頼むぞ」

「はい、お任せを」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「雫、スピード・シューティング優勝、おめでとう」

「ありがとう、黎さんも予選突破だね」

「ああ、ほのかも予選突破だな」

「はい、黎さんの考えてくれた作戦のおかげです!」

黎とほのかが同じ競技に出場するということもあり、ほのかの作戦を考えるのを手伝っていた。

「いや、ほのかがちゃんとやるべきことをやったからだよ」

「本戦も頑張りましょうね!」

「ああ、だが俺の場合、問題はモノリスの方だ」

「三校がかなりの強敵だね」

「ああ、あの3人を同時に相手にするのは厳しい。総合優勝を取るには、負けられないんだがな・・・」

「黎さんなら大丈夫。応援してるから」

「ま、やるだけやってみるさ。それでほのか、次の作戦なんだが・・・」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

新人戦男子ピラーズ・ブレイク予選にて、陸が見る者に衝撃を与えていた。

「これは・・・ラグナロクか・・・?」

広範囲焼却魔法であり、限られた魔法師にしか、使用はおろか術式の公開もされていない魔法。

「陸、使えたのか」

「私も使えるとは聞いてたけど、実際に見るのは初めてよ」

黎の驚きに、沙織が同調する。

「兄さんにも使えないんですか?」

「分からない。使えなくはないだろうが、あれだけ緻密に威力と範囲を調整して使える自信はないな」

そう、陸はただ使えるだけでなく、それを完璧に操ってみせた。相手陣の氷柱は瞬く間に融解、爆散し、自陣の氷柱は多少溶けているだけの、完膚なきまでの圧勝だった。この日、陸はラグナロクのみで予選を通過して見せた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お疲れ、やってくれたな」

試合を終えた陸のもとへ赴き、ねぎらいの声をかける。

「黎、ちょっと本気だしてみたぜ」

「お前のそれが、モノリスで使えないのが救いだな」

「そりゃこっちのセリフだ。お前の"あれ"も使えないんだから」

互いにニヤリと笑い、軽口をたたき合う。

「この調子なら、優勝は確実だろうな。お前が取りこぼすとは思えんし」

「お前もな。おそらく新人戦の優勝は、モノリスの結果がかなり大きく影響してくるだろうな」

「ああ、同感だ。・・・それと」

「ん?どうした?」

「ウチの渡辺先輩のように、妨害を受けることがないとも言い切れん。気をつけとけよ」

「ああ、わかってる」

気を引き締めた表情を最後に交わし、2人は別れた。

 

 

 

 




バトルボードに出すんじゃなかった・・・。描写が難しくてうまく書けませんでした。陸のラグナロクですが、リーナのムスペルヘイムに似た物です。(原作を読み返すまで、ムスペルヘイムをリーナが使えるのを忘れてまして、陸に使わせようとさせていました。)
今回ですが、シーン切り替えを多用&シーン一つが短い文章となってしまい、読みにくかったかもしれません。申し訳ないです。下書きなどをしないで、思うがままに書いているので、今後もこの様な文章になる事があるかも入れませんが、よろしければお付き合いください。また、今回、シーンの切り替え時に行間を開けてみました。おそらく多少読みやすくなったと思います。今後はこの形式で行こうと思います。前回までのもいずれ編集いたします。最後になりますが、UA6000突破、ありがとうございます!お気に入りや、しおり登録をしてくれる方も増えて、うれしい限りです。今後ともよろしくお願いいたします。さて、かなり長いあとがきとなってしまいました。この辺で失礼しようと思います。


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第9話

のなめんです。春休みで暇なので、どんどん書いていきます。九校戦編も佳境を迎え、黎の活躍の場面も増やしていきたいと思ってます。それでは第9話、どうぞ。


新人戦バトルボード準決勝、黎の出番となった。予選での黎のレースの影響か、対戦相手の三校選手両方が黎を見て、いや、睨んでいる。

(ずいぶんと嫌われたもんだな・・・。ま、そんだけ警戒されてるってことか。)

静かに開始を待つ。観客席の同級生たちや朱莉、本部の真由美たちも同様だ。スタートの合図が鳴る。予選と同様、開幕フルスロットルで走り出そうとするが、突然目の前の水面が窪んだ。

(妨害か? いや、単純に邪魔されただけか)

隣の選手が、スタートせずに黎の妨害に努めていた。

「黎と心中する気か」

「なんですかそれ!汚いです!」

達也のつぶやきに、朱莉が反応する。同じような反応が、本部でも起こっていた。

「汚い!あれじゃレースどころではないぞ」

「三校はもう1人レースに参加している。片方を犠牲にしてもう片方を生かす作戦だろう。フェアとはいえんが、理にかなった戦術だ。」

摩利が叫び、克人が冷静に状況を分析する。

「黎くんは、初めから優勝してくれるものとして計算を立てていたけど、決勝にも出られないとなると厳しいわね・・・」

真由美が心配そうにつぶやく。実際、現在黎は最下位。先頭のもう1人の三校選手はかなり遠くまで行ってしまっている。進めてはいるが、このままでは取り返しのつかない差がついてしまう。

「先に喧嘩売ったのはそっちだ。反撃されても文句言えないよな?」

そう告げると、黎は魔法を発動した。すると、黎の前方の水面に向かうはずだった三校選手の魔法は、自信の真下に発動された。自身の魔法によってバランスを崩した三校選手の顔が驚愕にそまる。そこへ追い打ちでさらに魔法を打ち込むと、三校選手は転覆した。

「さあて、追っかけるぜ」

黎の追い上げが始まった。摩利の戦術と同様に、硬化魔法で自分とボードの相対位置を固定。さらに気流操作で追い風を吹かせる。加えて自分の後ろの水面を爆発させることで、さらに推進力を得る。さすがに準決勝まで残っている選手なので、一度ついた差はすぐには縮まらない。しかし黎はみるみる距離を詰め、3周ある内の2周目の半ばで追いついて見せた。妨害の魔法が飛んでくるが全て返り討ちにし、3周目に入るころにはトップに躍り出る。そのまま加速を続け、準決勝も1位でゴールした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すごかったわ!黎くん!」

本部に戻ると、真由美が黎を称賛とともに迎える。

「ありがとうございます。さすがにヒヤッとしましたけどね」

「だが終わってみれば君の圧勝だ。素晴らしいレースだったよ。ところで、なぜ敵の妨害魔法がことごとく敵に跳ね返ったんだ?」

摩利の疑問はもっともなものだが、他人の魔法について深く詮索するのはマナー違反でもある。

「摩利、それは聞かない方がいいんじゃない?」

「構いませんよ。俺は、相手の魔法式に記述された座標を読み取って、それを書きかえたんです。」

「なんだって!?」

摩利が驚くのも無理はない。真由美や、克人までもが驚愕の表情を浮かべている。

「そんなことができるの!?」

「ええ、まあ」

そんなことが無制限にできるとしたら、黎に魔法は通用しないという事になる。

「もちろん、無制限に、とはいきません。細かい制限については伏せさせてください」

「あ、ああ」

「決勝も期待しているぞ、八田」

「はい、ご期待に添えるよう頑張ります」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「すごかったです!兄さん!」

「さすがだな、黎」

観客席についた黎を、嬉しそうな朱莉と、感心した様子の達也が迎える。

「最初は面食らっちまったが、まあなんとかなったよ」

「兄さんが負けるわけありません!決勝も頑張ってくださいね!」

「ああ、ありがと」

「ところで黎、あの魔法について聞いてもいいか?」

「ああ、俺は相手の魔法式に記述された座標を書きかえたんだよ。魔法の名称は特に決めてないんだが、さしずめ再定義、リディフィニションと言ったところかな」

「な、黎、そんなことができるのかい!?」

幹比古が全員を代表して驚きを述べる。

「ま、まあな。細かな制限があるから、いつでもどこでもってわけにはいかんが」

「それでもすごいことですよ!」

「うん、誰にでもできる事じゃない」

「そうです!兄さんはすごいんです!!」

「なんで朱莉が偉そうなんだよ」

「兄さまは私の自慢の兄さんですから!!」

「答えになってない気もするが・・・まあいいか。俺は決勝の準備があるから、もう行くよ」

「頑張ってください、兄さん!」

「ああ、じゃあ行ってくる。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

新人戦男子バトルボード決勝は、黎と、七校の選手の試合となった。

先ほどのレースを見ていた観客が、黎に大きな声援を送る。その中に少なからず黄色い声援が混じっていたのを聞き、朱莉と沙織(沙織はCADの調整があるため、観客席にはいない)が頬を膨らませる。そんなことに気づくことのない黎は、淡々と開始の合図を待つ。

3、2、1、ついに決勝の火蓋が切って落とされた。お互いにスタートは好調、どちらも譲らないデッドヒートとなっている。

(追い風も爆発も接戦じゃ効果は薄い。単純なスピード勝負だと、海の七校に大差をつけるのは難しいか)

コース後半、予選で差をつけたジャンプに差し掛かっても、2人の差はそれほど広がっていない。

(やむを得んな・・・)

着水後、黎は水面に術式飽和を発動。相手の加速魔法は着水後に使用できず、黎はそのまま加速する。両者の実力が拮抗している場合、一度大きな差がつくと、取り返すことは困難である。黎はリードを保ったまま、決勝戦も1位でゴールした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

黎は、本部に嬉々として迎え入れられた。

「おめでとう、黎くん。そしてありがとう。期待通りに結果を残してくれて」

「いえ、たまたまですよ」

真由美の言葉に、謙遜を示す。が、摩利にはお気に召さなかったらしい。

「謙遜も度が過ぎると嫌味だぞ。」

「いえ、そんなつもりは。まあ、渡辺先輩の穴を埋めると豪語しましたので、負けてるわけにはいきませんからね」

「ほう、頼もしい。では、モノリスコードも期待していいのかな?」

「優勝を確約はできませんが、できることはやります」

「ああ、期待している」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後、黎は雫に連れられ、控室にほのかの応援に来ていた。

「黎さんも優勝されましたし、私も頑張ります!」

「ああ、でも無理に気負う必要はないよ。今までやってきたことを出せれば間違いなく勝てる。作戦も確認してるし、大丈夫。頑張ってきな」

「は、は、はい!が、がが、頑張ります!!」

「ほのか緊張しすぎ。黎さんの言う通り、今までの成果を出せれば大丈夫」

「う、うん」

「さあ、もう時間だ。思う存分やってこい」

「はい!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

大方の予想通り、ほのかはバトルボードに優勝した。黎は雫とレースを脇で見ていた。

「やっぱ大丈夫だったな」

「うん、ほのかは緊張しすぎ。普通にやれば勝てる実力は持ってるのに」

「まあそういってやるな。はじめての九校戦だ。緊張するなっていう方が難しい話だ」

「まあそうだけど」

「雫もこれから決勝だろ?深雪との戦いは難しいだろうが、頑張れよ」

「うん、深雪と戦える機会なんてめったにないから、頑張ってくる」

「ああ」

雫は、ほのかの帰りを待たずに、自身の準備のため控室へ向かった。

「黎さん!」

雫が去った後、ほのかが涙目になって駆け寄ってくる。

「黎さん!勝てました!私やりました!!」

「ああ、見てたよ。おめでとう。よくやったな」

「はい!ありがとうございます!」

「言っただろ?練習通りやれば負けないって。もっと自信をもっていいんだよ」

「はい!」

「今度は雫の試合だ。行こうぜ」

「はい。あ、あの・・・」

ほのかの表情が真剣になる。

「ん?」

「・・・黎さんは、雫は勝てると思いますか?」

「・・・」

いくばくかの逡巡の後、自分の考え、と言うより、客観的事実を述べる。

「・・・正直、厳しいと思う。雫の能力はとても高いものだけど、やはり深雪の魔法力は新人戦のレベルから数段とびぬけてる」

「そう、ですか・・・」

ほのかが少し悲しそうな表情を浮かべる。

「でも、完敗するとは思えない。さあ、観戦にいこうぜ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

観戦へ向かう途中、陸と遭遇した

「おつかれ、黎。派手にやってくれたな」

「派手さで言えばお前の方が上だ、陸。決勝、楽しみにしてるぜ」

「ああ、まあ馬鹿の一つ覚えだけどな。そちらは光井さん、だよな。バトルボード優勝、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあな、黎。準備もあるし、もう行くよ」

「ああ、じゃあな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

女子ピラーズ・ブレイク決勝は、結果だけ見れば圧倒的だった。はじめは拮抗しているように見えたが、試合中盤、雫がフォノン・メーザーを使用したことにひるまず、ニブルヘイムを発動したことによって、形勢は一気に深雪有利となり、そのまま一気に勝負はついた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

控室、1人でいる雫のもとに、黎とほのかが向かう。

「雫、お疲れ様」

「ほのか、黎さん」

「ひとまず、準優勝おめでとう。そして、お疲れ」

「うん・・・」

普段無表情の雫だが、今は明らかに落ち込んで見える。

「・・・最初から・・・勝てるとは思ってなかった」

「ああ」

「でも、手も足も出なかった・・・」

雫の声がだんだん嗚咽を混じらせる。黎はそっと雫に近づく。雫は黎の袖をぎゅっと握り、ぽつぽつと泣き始めた。

「・・・悔しいよ・・・」

「・・・残念だったな」

よくやった、とか、惜しかった、などと言う慰めは無意味だ。それがわかっているから、黎もほのかも何も言わない。一度だけ黎は雫の頭に手をのせた。そして、いくばくかの時が過ぎた。

「・・・ありがとう、もう大丈夫」

そういって、袖から手を放す。その目に、もう涙の跡は残っていなかった。

「・・・ね、お茶行かない?少しおなかがすいちゃったの」

「・・・うん」

努めて明るく振る舞うほのかに、雫は少しはにかんだ目でうなずいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

会場備え付けのカフェにて、3人は大会中継のモニターを見ている。ちょうど陸のピラーズ・ブレイク決勝が始まるところだった。

「八島君は、黎さんのお友達なんですよね?」

「ああ、腐れ縁だけどな」

「モノリス・コードにも出場するんだよね」

「ああ、今年の三校のモノリスチームは、反則級に強い。ほら、モニター見てみな」

ちょうど、陸のラグナロクが発動されるところだった。相手の防御を無意味に蹂躙し、氷柱を溶かし、倒し、爆発させる。相手は成すすべもなく、そのまま陸の優勝となった。

「はあ、あんなの反則だろ」

「す、すごい・・・」

「圧倒的だね・・・」

3人が3人とも、それぞれ率直なコメントを述べる。

「あの人と戦うんだね・・・」

「まあ、勝ち進めばそうなるな」

「・・・頑張ってね」

「ああ、ベストを尽くすさ」

 

明日はいよいよ、新人戦モノリス・コードの開幕だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。次回はついにモノリスに入ります。バトルボードよりは描写がしやすいと思います。頑張って書きたいと思います。


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第10話

今回はモノリス回となります。それでは、どうぞ。



新人戦モノリス・コード予選第一試合、一校対六校の試合は、平原フィールドにて行われていた。

「作戦通り、僕がアタックだ。八田はディフェンスに専念しろ」

「はいはい、りょーかい」

森崎が黎を睨みつけながら言った言葉に、けだるそうに応答する。

「見てろ、ブルームの力を見せてやる・・・!」

開始の合図が鳴る。遮蔽物の無い平原フィールドでは、相手に悟られずにモノリスを開き、コードを端末に打ち込むのは難しい。したがって、最も手っ取り早いのは相手を全員無力化する事である。森崎が一気に駆け出す。

(無鉄砲と言うか、無謀と言うか)

作戦があっての突撃だとは思えない。相手チームからは2人飛び出してくる。

「森崎!俺も行ったほうがいいんじゃないか!?」

「うるさい!僕に任せておけばいいんだ!」

もう1人のチームメイト、西村が森崎を心配しての言葉に食い気味に拒絶を返し、さらにスピードを上げる。

「まあほっとけよ。どうせすぐ出番は来る」

そう言うと黎は座り込み、周りの草をむしり始めた。

「何やってるんだ、八田!」

「そう怒るなよ。どうせまだ仕事はないんだ」

「でも二対一だぞ!」

「だから言ってんだろ?どうせすぐに出番は来る」

森崎家は、クイックドロウ、つまり早撃ちが得意な家である。実力も決して弱いわけではないが、二対一では分が悪い。しばらく粘ったが、森崎は倒されてしまった。

「はあ、まあ粘った方じゃないか?じゃあそろそろ出るか」

森崎を倒し、数で有利になった六校が得意げに進んでくる。

「八田!」

「まあ任せろ」

そう言うと、むしっていた草を宙に放り投げる。それらすべてに硬化魔法をかけ、銃弾のように飛ばす。それらは走ってきている相手2人に命中し、動きを止める。

「うわあ!」

「なんだ!?」

その隙を突いて黎は一気に2人に肉薄し、ゼロ距離で圧縮した空気弾をみぞおちに放つ。

2人は声を出す暇もなく宙を舞い、落ちたのち気絶した。

「あと1人。行くぜ」

もう1人も問題なく片付け、第一試合は一校の勝利となった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「森崎、あの動きはなんだ?」

試合後、本部にて森崎は摩利に絞られていた。

「・・・申し訳ありません」

「まったく・・・チーム戦なのだから、もう少し連携を取れ。黎くんがいたから何とかなったが、早々に1人落とされ数の不利を作るのがどれだけ危険かわかるだろう」

「・・・はい」

「まあまあ摩利、勝ったのだし、次に生かしてもらえばいいじゃない。森崎くん、次は頼むわね?」

「は、はい!」

そこへ、鈴音が次の試合の情報を持ってくる。

「次の試合は四校と、ステージは市街地です」

「市街地か・・・」

「建物を上手に使うことが求められますね」

「黎くん、がんばってね!」

「ええ。じゃあ森崎、西村、行こう。次の作戦をたてる」

「あ、ああ」

「・・・」

西村は慌て気味に、森崎は無言でふてぶてしくついてきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

予選第二戦、市街地エリアのとある建物にて

「敵の位置が分からんことには始まらない。とりあえず索敵だな。西村、ディフェンスは任せた」

「おう」

そう言って、黎と森崎が索敵を始めようとしたその時

(魔法・・・?)

黎たちのいる建物に魔法が放たれた。

(まさか・・・破城槌!?まずい、崩れる!)

「逃げろ!2人とも!!」

そう叫ぶが、2人は意味が分からないといった顔で黎を見るだけ。直後、建物が崩れ落ちた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「森崎たちの容態は?」

「重症よ・・・。でも命に別状はないわ。黎くんのおかげでね」

「・・・そうですか」

現在、黎は松葉杖をついている。建物が崩れた後、落ちてくる瓦礫を魔法で受け止め、森崎たちの離脱する時間を稼いでいた黎だったが、死角から飛んできた瓦礫が太ももに刺さり、ダメージを負ったことで魔法は中断。その後黎は痛みに耐えながら自分の身を守るのに精一杯で、森崎たちを助ける余裕がなかった。直撃は避けたが、2人とも瓦礫の下敷きになった。

「では、モノリスは・・・」

「十文字くんが交渉中よ。場合によっては棄権することになるかもしれない」

「・・・試合には、1人でも出られますか?」

黎の質問に、真由美が慌てて答える。

「な、なにを言ってるの黎くん!?君もけがを負ったのよ!?」

「2人よりは軽いですし、大丈夫です」

「危険だわ!一校のリーダーとして、そんなことを許すわけにはいかない」

そこへ、交渉を終えたであろう克人が帰ってきた。

「残りの試合は明日へ延期。四校は失格となった」

「それで、メンバーの件は?十文字くん」

「ああ、このような非常事態だ。代役を立てられるよう、許可をもらってきた」

「・・・必要ありません」

「黎くん!」

「おそらく四校の破城槌は、四校だけの責任ではありません。狙われてるんですよ、新人戦モノリス・コードは。ほかの無関係な人を巻き込むわけにはいかない」

「では、お前が一人で出ると?」

「そのつもりです」

次の瞬間、克人の表情が、佇まいが変わった。

「・・・あまり調子に乗るな、八田。お前が出たいというなら好きにすればいい。だが1人で敵全てを相手にするなどと言う無謀なことをぬかすな。それは自惚れと言うだけではない。他校の選手を、そして当校の選手を愚弄する発言だ」

「そのような意図があったわけではありません」

「だとしてもだ。俺も七草も、お前が1人で出ることなど認めない。何があってもだ」

「そうよ、黎くん。いったん落ち着いて、ね?」

「・・・申し訳ありません」

一度頭を下げ、本部を後にする。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「兄さん!足は、足は大丈夫ですか!?」

朱莉を始め、深雪や達也たちが駆け寄ってくる。

「ああ、一日休めば問題ない。試合は明日に延期されたしな」

「え、黎さん、出るつもりなの?」

雫が驚いて尋ねる。ほかの面々も、驚きを隠せなかった。

「ああ、体は動くんだ。出ない理由がない」

「無茶です!兄さん!」

「大げさだな、今すぐ出るわけじゃないんだ。大丈夫だって」

「でも!」

「俺の雄姿を見に来たんだろ?かわいい妹の期待には、応えないとな」

そして、達也がいつも深雪にしているように朱莉の頭を撫でてやる。

「・・・仕方ありません。こうなった兄さんは何を言っても聞きませんから」

朱莉が頬を赤らめて言う。

「よくわかってるじゃないか」

「では約束です。必ず優勝してくださいね」

「ああ」

少し場の空気が和んだところで

「八田、ちょっとこい」

黎は克人に呼ばれた。

「はい。じゃあ、ちょっと行ってくる」

「黎、肩をかそう」

「お、助かるわ達也。よろしく頼む」

そのまま達也の肩を借りながら、克人の後に続いた。

「良かったの?朱莉ちゃん。黎さんが出ることを認めて」

黎が去った後、ほのかが心配そうに尋ねる。

「ああなった兄さんに何言っても無駄です。覚悟を決めた目をしてましたから。私は兄さんを信じます」

「そっか・・・。そうよね」

「黎さんなら大丈夫」

「そうね、なにかやってくれそう」

「あのままで終わるやつじゃないだろうしな」

「そうですね、八田君を信じましょう」

朱莉の言葉に、ほのか、雫、エリカ、レオが同調し、最後の深雪の言葉に全員がうなずいた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

再び本部へ戻ってきた。そこには真由美をはじめ、摩利、鈴音、服部など、一校の中心的人物がそろっていた。

「それで、八田。お前は明日の試合に出るつもりか?」

「ええ、もちろん」

克人の問いに、しっかりと目を見て答える。

「そうか、わかった。メンバー補充はだれにするんだ?」

この期に及んで、補充を拒否したりはしない。

「俺が決めていいんですか?」

「ああ、好きに選べ」

「・・・誰でもいいんですか?」

「ああ、構わん」

「・・・では、まず1人目は司波達也を」

少しニヤリとして答える。

「お、おい、黎」

「わかった。七草、お前はどう思う?」

「賛成よ、適任だと思うわ」

「そう言う事だ、司波。モノリス・コードのチームに加わってもらう」

「ちょっと待ってください!自分は選手ではありませんし、代役を立てるなら、1競技にしか出場していない選手が多数いるはずです。一科生としてのプライドはこの際無視するとしても、代えの『選手』がいるのに『スタッフ』から代役を選ぶのは、後々精神的なしこりを残すことになると思いますが」

達也の正論に、真由美たちは反論できない。そこへ

「そんなことどうでもいいんだよ」

唐突に黎が口を開いた。

「黎?」

「各校の威信と名誉をかけて争う九校戦、さらに今年は史上初の3連覇がかかってる。そのために必要な人材をその競技に出ている選手が吟味し、ほかのだれでもないお前を選んだ。それにチームリーダーが同意し、ほかの補佐役も異を唱えない。もう腹くくるしかねえんだよ、達也」

「八田の言う通りだ。我々以外に、異議を唱えることは許されない。お前は1年生200人の中から選ばれた代表チームの一員だ。選手であるとかないとか、そんなことは関係ない。チームの一員である以上、その勤めを果たせ」

若干理不尽にも聞こえるその言葉は、裏を返せば、責任は全て自分たちがとる、と言っているに等しかった。ここまで言われて、達也も逃げるつもりはない。

「わかりました。義務を果たします」

場の雰囲気が若干弛緩した。

「それで黎、もう1人はどうするんだ?」

「ああ、達也に任すわ」

「は?」

「達也が合わせやすいやつを選んでくれってことだ。実力さえあれば、俺は誰でも構わない」

「わかった。・・・会頭、メンバーは誰でもいいんですか?チームメンバー以外からでも?」

「達也くん、ちょっとそれは・・・」

「構わん。この件には例外に例外を重ねている。あと1つ2つ増えても今更だ」

真由美がやんわり否定しようとしたが、克人は顔色一つ変えずに了承する。

「では、1-Eの吉田幹比古を」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「達也、黎、冗談だよね?」

「会頭を巻き込んで嘘なんかつかんよ」

「・・・わかった。どうせ拒否はできないだろうしね」

「わかってるじゃねえか」

「話が早くて助かる。じゃあ作戦を立てよう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

新人戦モノリス・コード、三校対五校の試合は、圧倒的だった。

ほぼ一条の独壇場。一度三校陣地まで迫った選手がいたが、その選手は陸が瞬殺。まったく相手を寄せ付けなかった。

「さすがだね」

「ああ、一条もそうだが、あの八島と言う選手も要注意だ」

「吉祥寺の手の内が全く見えなかったのもつらいな。おそらく狙って隠してたんだろ」

「吉祥寺選手は、おそらくインビジブルブリッドだろう」

「ま、カーディナルジョージだし、妥当なとこか」

「黎さん、勝てそう?」

一緒に観戦していた雫が尋ねる。

「・・・確信をもって断言はできない。勝つイメージもあるし、負けるイメージもある」

「兄さん!負けたらだめですからね!」

「わかってるって。にしても朱莉、お前三校に進学するんだろ?三校の応援してもいいんだぜ?姉さんもいるし」

「まだ三校は関係ありません!今年は兄さんの応援に来たんです!」

「そ、そうか」

「だからぜったい勝って下さいよ!」

「はいはい、まあ頑張るよ」

「黎、幹比古、そろそろ行こう」

「わかったよ」

「りょーかい」

みんなに送り出され、3人は試合へと向かう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一校対八校の試合は、偶然か、それとも作為的か、八校有利な森林ステージで行われた。

「じゃあ、手はず通り。幹比古、頼むぜ」

「うん」

「では、俺と黎は先に行く」

八校の布陣はオフェンス2ディフェンス1。ディフェンスが手薄なので、幹比古に視覚同調を使ってもらい、早めにコードを打ち込む作戦だ。

「俺はこっち、達也はむこうから頼む」

「ああ」

森林ステージは少々入り組んでいる。しかし、黎と達也は木の枝から枝へ、すいすいと進んでいく。

(おっと、敵か)

いち早く敵を捕捉し、死角に移動する。後ろから高速で近づき、背後から圧縮空気弾を放つ。瞬く間に1人を無力化し、すぐさま敵陣へ向かって進もうとするが、黎に向かって魔法が飛んでくる。

「っと、もう1人もこっちにいたのか」

いち早く気づき、余裕をもって躱すと、反撃に打って出る。自己加速術式で彼我の距離を一気に詰め、他校の選手に新たな情報を与えない為、先ほども使った圧縮空気弾で無力化する。その後、敵陣のモノリスへ向かった。

「あれ、もう開いてんじゃん」

黎がモノリスにたどり着いた時、すでにモノリスは開いていた。

(じゃあもうすぐ勝負はつくな)

黎がそう思ったのとほぼ同時に試合終了のブザーが鳴り、一校の勝利となった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どう見る?ジョージ」

「やはり一番警戒すべきは八田だろうね」

「そうか、司波はどうだ?」

「彼は、相当戦いなれていると思う。魔法力よりも、戦闘技術に警戒すべきだと思うよ」

「なるほど。八島、八田を任せていいか?」

「ああ、一条は司波を、吉祥寺は吉田を相手にする方針でいいと思う。地力ではこっちが勝ってるから、正面からの打ち合いに持ち込むのが得策だろう」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キリがあまりよろしくないですが、今回はここまで。次回は三校と戦えるかもしれませんね、勝ち進めば←
森崎たちには申し訳ないですが、あのメンバーで勝ち進むビジョンが見えませんでしたので、原作通りにさせてもらいました。
次回も早めに投稿いたします。


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第11話

のなめんです。今回で新人戦モノリス決勝まで終わらせます。それでは、どうぞ。


一校の予選最終試合、二校との試合は、市街地フィールドとなった。建物などが入り組んでいるので、幹比古の古式魔法によって相手に気づかれずにコードを打ち込めそうだ。達也と幹比古がオフェンス、黎がディフェンスとなった。

「来たか」

開始から5分ほど経ったころ、相手のオフェンスが攻め入ってきた。

敵を捕捉できても、建物内も物で入り組んでいるため、簡単に仕留めることはできない。遮蔽物を利用して、少しづつ敵が近づいてくる。

(めんどくせえな・・・やるか)

しびれを切らした黎が、遮蔽物ごと魔法で吹き飛ばす。

「あ、やりすぎた」

相手が建物の外へ吹っ飛ぶ。規定違反にはならないが、少々オーバーアタックだった。

「ま、いいか」

大怪我をすることはなさそうなので気にしないことにした。

それから二分ほど経つと試合終了のサイレンが鳴り、一校の勝利が決定した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

決勝トーナメントは、準決勝第一試合が三校対八校、第二試合が一校対九校となった。

黎たちは現在、控室にて三校の試合を観戦している。ステージは岩場、平原に次いで遮蔽物の無い平坦なステージである。試合は、決勝リーグとは思えないほど一方的な展開となっていた。将暉と陸が文字通り進軍している。岩陰に隠れたりすることなく、姿をさらしてゆっくりと歩みを進める。八校選手も黙って見ているわけではなく、3人がかりで攻撃しているが、2人には届かない。

「干渉装甲・・・か」

「ああ。陸が使えるのは知ってたが、一条もか」

「・・・魔法演算領域だけによるものじゃないな。よほど使い方がうまいんだろう」

周辺の岩石、サイオン弾、身体に直接かける加重系魔法や移動魔法、そのすべてが2人には効いていない。八校の3人は攻撃の手を止め、三校陣地へと走り出す。2人を倒せないなら、一早くモノリスを開けてしまおうと思ったのだろう。だが、戦場で敵に背中をさらすのは愚行でしかない。将暉が爆風で3人を吹き飛ばし、陸が岩石を空中の3人にぶつけて撃ち落とす。そのまま3人は戦闘不能となり、三校の勝利となった。

「・・・挑発だなこりゃ」

「ああ、俺たちを正面からの撃ち合いに誘ってるんだろう」

「そして、それに乗るしかないと」

「ああ、そうだな。黎には八島選手を頼めるか?」

「OK 任せな」

「そ、その前に準決勝だよ、2人とも」

「そうだな、そろそろ行くか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

準決勝は、幹比古の独壇場となった。ステージは渓谷。水の多いこのステージで、幹比古の精霊魔法が猛威を振るう。霧で視界が極端に制限され、九校選手は満足にモノリスに近づくことができない。まったく気づかれることなく達也がモノリスを開き、幹比古がコードを打ち込む。結局一戦も交えることなく、一校の勝利となった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

三位決定戦の最中、黎たちは別れて行動していた。黎は1人でカフェに来ていた。

「黎、ここにいたの」

「姉さん。どうかした?」

そこへ沙織が朱莉を連れて現れた。

「次決勝でしょ?激励しに来てあげたのよ」

「決勝は三校とだってご存知で?

皮肉っぽく告げた黎に、沙織がにこやかに答える。

「私はそっちの調整は担当してないし、かわいい弟に頑張ってもらいたいじゃない!」

「そうですよ!兄さんのかっこいいとこ、私たちに見せて下さい!」

「相変わらず仲がいいんだな」

そこへ、にやにやしながら陸があらわれる。

「陸さん。お久しぶりです」

「ああ久しぶり、朱莉」

「りっくんじゃん、調整はいいいの?」

「ええ、もう終わりました。あとは本番を待つだけです」

「それで、敵情視察に来たのか?」

「ああ。でも来てみたら敵のエースが姉妹に囲まれていちゃついてんだから、びっくりだよ」

陸がからかうように笑う。

「今更慌ててもどうこうなる話じゃないしな。それと、別にいちゃついてはない」

「はいはい。・・・お前と戦うの、久しぶりだな」

「・・・ああ。"あのとき"以来か」

2人の言葉に、沙織と朱莉の表情が暗くなる。

「黎・・・」

「気にしないでくれ、姉さん。俺たちはもう引きずっちゃいない」

「そうですよ、もう昔のことです」

「2人は、俺らの勝負を楽しみにしててくれ。そもそもあのことに2人の責任は全くないんだから」

「・・・うん、頑張ってね」

「2人とも頑張ってください!・・・でも勝つのは兄さんですけど!」

「っはは、手厳しいな」

「ま、頑張ってくるさ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ついに決勝の開幕。フィールドは平原となった。遮蔽物の少ないフィールド故、正面からの真っ向勝負になりそうだ。観客席で深雪や沙織たちが、本部で真由美たちが固唾をのんで見守る。

「・・・とうとうここまで来たね」

「そうだな、これに勝てば優勝だ」

「サクッと勝って、勝利の美酒といこうぜ」

「黎、未成年飲酒は禁止されているぞ」

「・・・言葉の綾だって」

達也の冷静な突っ込みに苦笑を返す。決勝前だが、3人は落ち着いているようだ。

三校サイドはというと

「・・・乗ってくるかな、誘いに」

「彼らは間違いなく乗ってくるよ、将暉」

「ああ、それが一番向こうにとっても確率が高いからな」

「うん。・・・そろそろだね」

一校サイドより幾分か空気は引き締まっているが、こちらも落ち着いているようだ。

3,2,1,開始の合図が響く。直後、黎と陸が一気に飛び出す。

達也と将暉はその場を動かず、600m離れた両陣営へ砲撃を交わす。

2人の疾走と2人の撃ち合いに、観客席から大きな歓声が上がる。そして達也と将暉は魔法を撃ち合いながら少しずつ前進し始めた。2人の攻撃はどちらにも届いていない。否、届いてはいるが、互いが防御して防いでいる。一見すると互角に見えるが、達也は押されている。単純な魔法力勝負では、達也は将暉に敵わない。達也の手数が減ってきたころ、黎と陸も勝負を始めていた。黎が予選でもたびたび使用した圧縮空気弾を続けざまに放つ。陸はそれらの一部を回避、一部を相殺してすべて防ぎ、反撃に出る。ドライブリザード。空気中の二酸化炭素をドライアイスにし、黎に向けて飛ばす。黎は周囲の空気中の酸素と水素を集めて反応させることで爆発を起こし、それらを防御する。爆風に乗って陸に肉薄する。至近距離から空気弾を放つが、陸も空気弾で応戦する。押し切れないと見た黎は、陸の立つ地面を陥没させる魔法を使用。足元から崩すことを試みるが、地盤が崩れる前に気流操作で空中へ逃げられる。ならばと次は黎がドライブリザードで空中の陸を狙うと、陸は火球で応戦。着地時を狙ってさらに地盤沈下の魔法を放つが、これも避けられてしまう。どちらも決定打に欠ける戦いが続く。

(・・・埒が明かねえな)

黎が次の魔法を発動。黎の背後に小さな無数の魔法陣が出現し、それらすべてから空気弾、火球、氷柱が飛びだし、陸へ襲い掛かる。陸は自分の前の地面を大きく隆起させ、それを盾にして攻撃を防ぐ。

(さすがは陸。こんなんじゃ崩せないか)

黎は一度達也と幹比古の方を見た。達也は将暉の魔法を、術式解体(グラム・デモリッション)で無効化しながら戦っており、幹比古も古式魔法を駆使し、吉祥寺と互角に渡り合っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

観客席は、興奮の渦に包まれていた。達也が将暉と、黎が陸と一歩も譲らぬ戦いを繰りひろげ、吉祥寺対幹比古の戦いも始まっている。

「すごい・・・」

ほのかが感嘆の声を漏らし、雫がさらに続ける。

「黎さんも達也さんもすごいとは思ってたけど、ここまでやるなんて」

「息つく暇もないわね」

2人の言葉に、エリカも同意を示した。と言うより、異議を唱える者はいない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一瞬だった。将暉が吉祥寺の援護をするため、達也から視線をそむけたわずかな時間で、達也は将暉との距離を一気に詰める。驚いた将暉は、とっさに規定違反の威力の魔法を、一度に16発も放ってしまう。

(おいおい、あれじゃただのけがじゃ済まねえぞ・・・!)

横目で見ていた黎にもわかる。

実際達也の術式解体は間に合わず、2発の直撃を受ける。

(達也・・・!)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

本部から、

「達也君!!」

観客席から、

「達也さん!!」

「達也!!」

達也の身を案じる悲鳴にも似た叫びが響く。しかし深雪は、達也の方を険しい目つきで見つめるだけで、声を上げていない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

何が起きたのか、一瞬黎にも分からなかった。

将暉の魔法の直撃を受け大怪我を負ったはずの達也が、何もなかったかのように立ち上がり、将暉を倒したのだ。

(達也・・・まさか・・・?)

黎の頭に一瞬ある考えがよぎったが、すぐに振り払い意識を試合へ向けなおす。自己加速で間合いを詰め、自分の手足を障壁で覆い、体術を繰り出す。モノリス・コードでは直接の物理攻撃は禁じられているが、直接触れなければ問題ない。常人なら視認するのがやっとの速さで繰り出される体術を、陸は必要最小限の動きでかわす。連続攻撃を止めないまま、黎はさらに背後に魔法陣を出現させ、ドライブリザードを放つ。しかし、少し深追いしすぎた。自分の真下の地面に魔法が使われたのに気付くのが一歩遅れてしまった。地面が大きく隆起し、黎は空中へ投げ出される。会場の誰もが、陸までもが自身の勝ちを確信し、さらに追い打ちをかけようとしたその時、空中の黎の身体が突如輝かしく光った。一瞬視界を奪われた陸が再び前を向くと、黎が体勢を崩して着地に失敗している。これを好機と見た陸が加重系魔法を発動。黎をその場に留めようとする。が、それが黎の罠だった。再定義で加重系魔法を陸に跳ね返し、今度は陸が身動きできなくなる。自身にかけられた魔法の無効化に気を取られている陸は、頭上の魔法陣に気づかない。次の瞬間、雷が陸の身体を襲い、陸は意識を手放した。

「はあ・・・はあ・・・。終わったか・・・」

見ると、吉祥寺もすでに倒れていた。そして試合終了。一校の優勝が決まり、観客席に割れるような歓声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 




書くのに夢中になってたらもう朝の5時前ですやん・・・。とりあえず今回はここまで。幹比古の戦闘描写はカットさせていただきました。幹比古ファンの皆様、申し訳ございません。また、一度手違いで執筆途中のものをアップしてしまいました。詳細は活動報告に記載してあります。お騒がせ致しました。さて、今作始まって初めての大掛かりな戦闘シーンでしたが、お楽しみいただけていればうれしいです。



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第12話

お久しぶりです、のなめんです。約1年ぶりに投稿再開させていただきます。リハビリということで少し短いかも知れません。


モノリス・コード優勝により、一校の新人戦優勝が決まった。新人戦優勝のパーティーは、総合優勝のパーティーまで延期となった。理由としては、優勝に大きく貢献したモノリスのメンバーがバカ騒ぎ出来るほど元気がないのが大きい。よって、何もすることがなく暇になった黎は、ある人物のもとへ足を運んだ。

「風間さん、失礼します」

「黎、どうした?」

「いえ、一つ確認したいことがありまして」

「なんだ?」

一呼吸おいて、風間の目をしっかり見て告げる。

「・・・ディヴァイン・レフト。いえ、マヘーシュヴァラ」

風間のわずかな表情の変化を、黎は見逃さなかった。

「まさかと思ったんですよ。あいつが一条のあの攻撃を受けた時、あれはどう考えても立ち上がって反撃などできないほどのダメージだったはず。だとしたら「黎」

黎の言葉は、風間に遮られた。

「・・・今更隠しても無駄だろう。お前の推測に間違いはない。だが、解ってると思うが・・・」

「ええ、わかってますよ。達也や軍と事を構えるつもりはありません」

「・・・わかっているならいい。用件はそれだけか?」

「ええ、これだけです。失礼します」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一校全体でのパーティは延期となったが、黎たちは恒例のメンバーに引きずられ、内輪で優勝祝いをしていた。

「「「カンパ~イ!!!」」」

「お兄さま、八田君、吉田君、優勝おめでとうございます!」

「ありがとう、深雪」

「ありがとうございます」

「サンキュ、深雪もミラージ・バット頑張れよ」

「ええ、ベストを尽くします」

「いやーそれにしても、黎くんが着地に失敗して倒れてた時は負けたと思ったなー」

「だとしたら、うまくだませれてたってことだな」

エリカが笑って言った言葉に黎も笑って続ける。

「じゃああれは演技だったの?」

雫が驚いた顔で問う。

「ああ。あのままじゃ埒が明かなかったから、変化をつけて流れを変えてみようと思ってな」

「そ、そこまで考えて・・・」

黎の返答を聞き、ほのかも驚いていた。

「まあ引っかかってくれる確信はなかったけど、埒が明かないと思ってたのは向こうも同じだったろうし、戦場で敵が崩れたら追い打ちに来るのが普通だしな、勝つ確率の高い掛けだったよ」

「うわあ…黎くんは実戦じゃ絶対敵に回したくないタイプだな」

「ん?敵対する予定があるのか?」

エリカのつぶやきに、悪い笑顔で返すと、エリカはブンブンと首を横に振った。

「黎、ひとついいかい?」

幹比古が話題を変える意味も込めて黎に質問を投げかける。

「ん?どうした幹比古?」

「この前聞いた時から引っかかってたんだけど、君の再定義の魔法って、魔法の原則に照らすと不可能なんじゃないのかい?魔法式は魔法式には作用できないはずだ。相手の魔法式を、魔法で書き換えるなんてことがどうして出来るのかと思って。」

「あー……」

幹比古の考察は当たっている。魔法式は魔法式に作用できないため、普通に考えれば再定義は不可能な芸当のはずなのだ。もちろんこれには理由があるのだが、今みんなに知られると色々と面倒になりそうだ。

「再定義は、正確に言えば魔法じゃないんだ。だから相手の魔法式を書き換えられる。原理を説明しても多分混乱するだろうから、とりあえず俺の再定義は例外って理解してくれればいい。」

黎の説明でほとんどの人は納得したようだが、達也だけは怪訝そうな表情を少しの間崩さなかったのを黎は見逃さなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「黎、ちょっといいか」

ミニ祝勝会がお開きになったあと、達也は黎を呼び出した。

「なんだ達也?といってもまあ、用件に察しはついてるが」

「お前の再定義という能力についてだ」

『魔法』ではなく、『能力』と呼んだ。黎の再定義が魔法ではないことをちゃんと理解してあえて区別したのだ。

「……2人になれるところに行こうか」

そう言って2人は人目のつかない場所に移動した。

その後、最初に口を開いたのは黎だった。

「それで?どこまで勘づいてんだ?」

今さら達也相手にとぼけても意味が無いと思い、単刀直入に聞く。

「八田の呪い」

達也が短く呟く。

(やっぱり気づかれてたのか)

「先ほど幹比古と黎が言った通り、魔法式は魔法式に作用できない。しかしお前は再定義という能力が使える。そして八田という苗字。それなら考えられるのはひとつだけだ。」

確信を持って達也は告げる。

「黎、お前は「達也」」

さらに続けようとした達也を制し、黎が口を開く。

「お前の言う通りだ。俺は元二十八家、そして『あの事件』によってその称号を剥奪された八田家の人間、さらに言えば『八田の呪い』を施された人間だ。達也は初めてあった時から勘づいていたみたいだが」

「ああ、そして九校戦でのお前の戦いを見て確信を持った。」

「なるほど、さすが、マヘーシュヴァラ、そしてあの四葉ってわけだ」

その言葉を聞いた途端、達也の目が驚愕に染まり、その後殺気が宿った。そして持っていたCADをまっすぐ黎に向け、友人と話す時ではないような声色で問う。

「どういうことだ?なぜお前がそれを知っている?」

今にも黎を攻撃するかのような空気だ。しかし黎は怯まない。

「別に、どうでもいいだろって言いたいとこだが、まあそうもいかないだろう。説明してやる。先の大亜連合の沖縄侵攻、あの戦いに俺も参加してたんだ。そこでマヘーシュヴァラを、お前を見たんだ、達也。」

達也はCADを構えたまま黙って続きを促す。

「といっても、その時はその正体なんて知らなかった。でも、モノリス決勝での一条との戦い。あの時見た光景は、マヘーシュヴァラを見た時によく似ていた。だからある人物に確認したんだ。」

「ある人物?」

「ああ、風間さんだ。」

達也の顔が驚愕にそまる。

「なぜ、お前が風間さんと?」

「別に、八田の人間なんだから国防軍と知り合いでもおかしくはないだろ。風間さんにマヘーシュヴァラの言葉を投げかけた時、僅かだが動揺の色が見えた。それで確信したのさ。四葉の方は、まあ推測の域を出なかったが、お前が俺に似ているから、かな」

「なるほど、よくわかった」

それだけ告げ、達也はCADの引き金を引き、雲散霧消(ミストディスパージョン)を黎に放った。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「黎くんがマヘーシュヴァラの正体に気づいた!?」

藤林が驚愕の声をあげる。風間から告げられた事実は、あまりに驚くべきことなのだ。真田や柳といった面々も、声には出さずとも驚きを隠せないという表情を浮かべている。

「ああ、達也が一条家の次期当主と戦った際の自己修復術式。あれに気づいたらしい。」

「自分も戦っている中で、遠くにいた達也くんのあの速さの自己修復術式を…?」

藤林が驚くのも無理はない。それほどまでに達也の自己修復術式は早い。

「黎ならわからなくはない。しかし、黎はこの情報を握りつぶすと言っている。今我々や達也と事を構えることは避けたいだろうしな。」

風間が全員を安心させるために告げる。それと被せるように真田が若干焦ったように言う。

「あの、先ほど特尉と黎くんが2人でどこかに行くのを見かけたのですが」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「おいおい、いきなり殺人魔法ぶっぱなすことはないだろ」

達也の雲散霧消を再定義で対象を近くの木に書き換えて避けたあと若干の嘲りと共に非難する。

「 おい!待てって!」

達也は黎の言葉を無視し、雲散霧消が効かないと見るや今度は体術を仕掛けてくる。あの九重八雲の教えを受けている達也の体術だ。黎とはいえ簡単にさばけるものではなく、蹴りを1発もらって後に飛ばされる。なおを攻撃をやめようとはせず、更に黎に肉薄してくる達也をかわしながら、先程より大きな声で達也に告げる。

「待て!俺はこれを知ったからってどうこうするつもりは無い!」

「関係ない、お前は少し知りすぎている。それだけで俺達の脅威になり得る存在だ。」

しかし達也は止まらない。なおも黎に向けて攻撃を繰り返す。そこへ

「お兄様!!!」

「達也!!!」

新たな声が割り込んでくる。

「っっっ!!深雪!?」

「と、風間さん??」

達也が驚いた声で、黎が冷静に、現れた人に声をかける。

「お兄様、やめてください!」

「達也、少し落ち着け。」

深雪と風間に諭され、達也も落ち着きを取り戻したようだ。

「……すまない、黎。冷静さを失ってしまっていた。」

黎の方に向き直り、深々と頭を下げる。

「大丈夫だ、俺はあれくらいじゃ死なん」

「八田くん、本当に申し訳ありません。」

「私からも謝罪させてくれ、黎、本当に申し訳なかった。」

深雪と風間からも謝罪の言葉をかけられる。

「いえ、もともと達也にこの話をした時点でこういうこともあると思ってましたし。」

「本当にすまない、黎」

「大丈夫だって。まぁとりあえず、俺はこの情報をどうこうするつもりは無い。達也も俺も互いの秘密を握りあってる訳だが、これからも変わらず付き合ってくれ、達也」

「あ、ああ…」

「風間さん、さっきも言った通り、俺は国防軍や達也と争いたくありません。この件は口外するつもりもありませんのでご安心ください」

「感謝するよ、黎」

再度、黎は自分の立場を明確に示した。

「ところで、どうして深雪と風間さんはここへ?」

「真田から黎と達也が2人でこちらの方へ向かったと聞いて、嫌な予感がしてな」

「私も、何となく嫌な予感がしたので」

「…2人の直感は恐ろしいですね」

黎は苦笑しながら2人の言葉に反応する。

「黎、本当に悪かった。俺はなんてことを」

「あーもう気にすんなって、そんなに言うなら今度なんか奢れ!それでチャラ!これからもよろしく!」

強引に達也の右手を掴んでブンブンと振る。

「今後この事気にしてたらさらに奢らすもの増やす。深雪も気にしないでくれよ、これからも友達として仲良くして欲しい」

「わかりました、今後ともよろしくお願いします」

「さあ、もう戻ろうぜ。明日から本戦再開だし、応援しなきゃな。」

その言葉で、各々自分の部屋に帰るのだった。




大学に入って気がつけば1年…気がつけば最新話を投稿してから1年たとうとしてました。今後とも亀更新ですがちょっとずつ続けていこうと思います。


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第13話

お世話になっております。のなめんです。九校戦編って案外長いんですね。原作があれだけ分厚いのもうなずけます。早いとこ終わらせたいですね。


黎たちが部屋に戻った頃、別の場所で焦りに焦っている集団もいた。

「第一高校の優勝はもはや確定的・・・」

「馬鹿な!あきらめるというのか?それは座して死を待つのと同義だぞ!」

「このまま一高が優勝した場合、我々の損失は一億ドルを超えるぞ・・・」

「これだけの損失、楽には死ねんぞ。よくて生殺しのジェネレーターか、もしくはブースターか」

「こうなってはもはや手段を選んでいる場合ではないと思うが、どうだろう?」

「協力者に使いを出そう。明日のミラージバットでは一高選手全員に棄権してもらおう。」

「運が良ければ死ぬことはない。さもなくば、運が悪かったというだけだ」

狂気を含んだ笑いが、乾いた室内に響いた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ミラージバット本戦の日は、ミラージバットにとっては都合のいい曇天だった。

「どうも波乱の前触れに見えるな」

「言いたいことはわかるが、こちらからできることはないからな。警戒だけは怠らないようにしねえとだが」

達也のつぶやきに黎が返す。昨夜の一件もあり、少し気まずくなった関係を修復するため、黎は努めて達也の近くにいるようにしていた。

「まだ何か起こるのでしょうか・・・?」

「狙いがわからないからな、だがまあ、深雪が心配することは何もないよ。何があろうとも、お前だけは俺が守ってやるから」

「・・・お熱いことで」

黎など初めからいなかったかのように2人だけの世界に入り込む達也と深雪。黎はもう慣れっことばかりにスルーを決め込んだ。

「深雪、そろそろ準備をしておいで」

達也が深雪をこの場から離す。深雪が本部へ向かった後、黎から口を開く。

「無頭竜を潰す算段はできたのか?」

「いや、まだだ。奴らの居場所がつかめていない。」

「わかったら教えてくれよ」

「ああ」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

深雪の試合は第二試合となった。第一試合に出場するのは三年の小早川だ。深雪曰く、ずいぶんと気合が入っているらしい。深雪の試合は一高のみんなと応援するので、第一試合は朱莉と沙織と観戦することにした。

「改めて、優勝おめでとうございます、兄さん」

「おめでと、黎」

「ありがと、2人とも」

「これでうちの優勝はほぼなくなったかなー」

「まあ確かに安全圏と言えなくもないが、妨害がないとも言い切れないからな。その辺の警戒だけはしとかないと」

試合は小早川有利に運び、第一ピリオドが終了した時点で小早川が1位。このままいけば第一試合は小早川がとるだろう。

(このまま何も起きないといいんだが・・・)

黎の思いとは裏腹に、第二ピリオドが始まってすぐにそれは起こった。

空中から元の足場に戻ろうと魔法を発動しようとした小早川の顔が驚愕と恐怖に染まり、彼女の体が重力に従って垂直に落下していく。大会委員が小早川の体を魔法で減速し、安全に着地させる。

「・・・魔法が使われたな」

「まさか、妨害!?」

「その線が濃厚だな。ちょっと一高のみんなのところに行ってくるよ」

「ええ、そうしたほうがいいわね」

2人を残し、黎は一高の本部へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「会長、さっきのは魔法による妨害です」

本部についてすぐ、真由美に自分が視たことを伝える。

「黎くん、でも、そうだとしてもどうやって妨害したというの?」

競技中は、妨害に備えて大会委員が対抗魔法を準備しており、外側から介入するのはほぼ不可能だ。

「CADに細工をされたのでしょう、大会委員に工作員が紛れ込んでいると考えて間違いなさそうです」

「達也くんに知らせないと」

「不要でしょう」

真由美の言葉を黎が否定する。

「達也が深雪のCADに細工をされて見逃すはずがありません。どっちかというと工作員をその場で始末しないかのほうが心配です」

「確かにそうね」

黎の冗談交じりの言葉に、真由美も同意を示した。

「会長!!大会本部から、当校の生徒が暴れているとの連絡が!!」

「「・・・・・・」」

真由美と黎は顔を見合わせ、苦笑を漏らした。

「俺が行ってきます。会長は本部で待機していてください」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「達也、見つけたのか?」

「ああ、こいつが深雪のCADに細工をしたやつだ」

「やっぱレギュレーションチェックのときにやられてたのか」

達也は怒り狂った目で工作員を組み伏せ、今にも振り下ろさんと手刀を構えている。そこへ、意外な人物が現れた。

「何事かね」

「九島閣下」

九島の登場により、達也の殺気は収まり、九島のほうへ向き直った。

「お見苦しいところをお見せし、申し訳ありません」

黎が達也に代わって謝辞を述べる。

「第一高校の司波君と八田君だな。昨日の試合は見事だった。それで、いったい何事かね」

「はい、当校選手が使用するCADに不正工作が行われましたので、その犯人を取り押さえ、背後関係を尋問しようとしていました。」

「おそらく、先ほどのミラージバット第一試合において当校の選手が事故にあったのも、同様の細工がなされたことが原因だと思われます」

達也の説明に黎が付け加える。

「不正工作が行われたのはこのCADかね?」

「はい」

かつて『最高にして最巧』と呼ばれた老魔法師は、深雪のCADを手に取って見つめた。

「・・・確かに異物が紛れ込んでおるな。これは見覚えがある。私が現役だった頃、東シナ海諸島部戦域で広東軍の魔法師が使っておった電子金蚕だ。電子機器に侵入し、動作を狂わせる遅延発動術式。知っているかね?」

「名前だけなら聞いたことはありましたが、どのようなものかは存じ上げませんでした」

「自分は電子金蚕という言葉は初めてうかがいましたが、自分がくみ上げたシステム領域に、ウイルスに似た何かが侵入したのはすぐにわかりました」

「そうか」

二人の返答に、九島は満足げに頷いた。

「さて、司波君に八田君、もう戻ったほうがいいだろう。CADは予備のものを使うといい。二人には、いずれじっくり話を聞かせてもらいたい」

「はい、機会がございましたら是非」

黎が二人を代表して応えた。これが達也と黎がはじめて九島と直接接触した機会だった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

第二試合、第二ピリオド終了時点で、深雪はトップに立っていた。しかしその差は決して大きくなく、いくら深雪とはいえ、やはり一筋縄ではいかないようだ。

「さすがに手ごわいな」

「深雪さんを相手にここまで・・・」

レオと美月がそれぞれ意外そうに呟く。

「ま、達也のことだ。なんか用意してるんだろうぜ」

黎がその場の不安げな空気を払拭するように言い放った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

第三ピリオド開始から、会場は凍り付いたように静かになった。深雪が宙に浮いたまま、連続でポイントを奪取していく。7つを数えたところで、凍り付いていた会場で誰かが呟く。

「飛行魔法・・・?」

それは徐々に広がっていく

「トーラス・シルバーの??」

「馬鹿な!先月発表されたばかりだぞ!!」

「でも・・・飛んでる・・・」

結局、予選第二試合は深雪が大差をつけて1位で通過した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「第二試合のターゲットが予選を通過した」

「もはや手段を選んでいる場合ではないと思うが」

「しかしどうするのだ?」

「大会そのものを中止させる。ジェネレーターを使って無差別に100人ほど殺させれば十分だろう」

「客が騒がないか?兵器ブローカーどもは厄介だぞ」

「客に対する言い訳はどうにでもなる。今我々が懸念すべきは何よりも組織の制裁だ」

「実行は17号だけで大丈夫か?」

「念のため、18号も使っておこう」

「よし、ではリミッターを解除する」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

会場の興奮も収まり、観客が席を立ち始める中、男もゆっくりと立ち上がる。すぐに自己加速術式を発動。目の前の男に襲い掛かった。そして、この事件はスタンドの外へと舞台を移す。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

その男、18号が気づいた時には、自分の体は地面へと落下していた。すぐさま自身に減速魔法をかけ、安全に着地する。

「いきなり穏やかじゃないことやってくれるじゃねえか」

遅れて着地したのは陸。先ほどジェネレーターの攻撃をいなし、会場の外へ飛ばしたのは陸だ。

「しっかし、黎からある程度情報は聞いていたが、まさか強化人間まで使ってくるとは。あちらさんもずいぶん必死なんだな」

苦笑しながら独り言のように呟く。ジェネレーターは姿勢を低くし、高速で陸に突進する。陸はそれをかわし、ジェネレーターに向かって魔法を放った。直後、ジェネレーターの全身を炎が覆う。陸はジェネレーターが高速で突進してくる際の空気との摩擦で発生した熱を増幅し、炎を発生させたのだ。炎によるダメージを確実に受けながらも、感情を持たぬジェネレーターは攻撃をやめない。陸は攻撃を確実にかわしながら、さらに炎を大きくしていく。ここでジェネレーターは大きく跳躍した。陸に勝てないと踏み、せめて会場内の人間を何人かでも殺そうという判断なのだろう。陸もとっさに追いかけようとしたが、別の魔法の兆候を察知して動くのをやめた。直後、空中にいるジェネレーターを電撃が襲い、地面に墜落してくる。電撃を放った人物は追い打ちとばかりに地面に伏しているジェネレーターに空気弾を放った。結局これが決定打となり、ジェネレーターは完全に動きを止めた。

「おいしいとこもってきやがって、黎」

「加勢しに来てやったんだからその言い方はねえんじゃねえか?陸」

「俺がこいつを打ち漏らすと思われてんだったら心外だぜ」

「万が一ってのがあるだろ?」

二人は笑って会話していたが、顔を険しくして話を仕切りなおす。

「こいつだけか?黎」

暴れようとしたジェネレーターは目の前のものだけかという陸の問いに答えたのは、黎ではなかった。

「もう一体いたわ。そっちのほうは柳大尉と真田大尉が相手をしてるから、心配はいらないわよ」

「藤林さん」

「こっちのほうを止めてくれたのは二人だったのね、ありがとう」

「いえ、通りかかっただけですから」

藤林の感謝を、謙遜とともに陸が受け取る。

「俺は用事があるので、これで失礼します」

「ええ、ありがとうね」

陸が去ったあと、黎が口を開く。

「本当になりふり構ってませんね、無頭竜は」

「そうね、ジェネレーターまで使ってくるなんて」

「敵の所在はわかってるんですか?」

「いいえ、まだよ」

「わかったら教えてもらえますか?」

「ええ、情報が入ったら連絡するわね」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

決勝戦は、午前中と打って変わって晴天の夜空となった。

「飛行魔法!?他校もですか!?」

ほのかが驚いた声を上げる。驚くのも無理はない。飛行魔法は一朝一夕で身につくものではない。ぶっつけ本番でやるには無理があるだろう。それ以前に、一高以外は飛行魔法の術式を持っていないはずだ。

「予選の後、各校から不正の疑いをかけられたらしい。その問い合わせに対する答えとして、大会委員が術式を公開したらしいな。でもまあ、あの魔法は必要なサイオン量が多い。深雪よりちゃんと使いこなせる選手はあの中にはいないんじゃないかな」

黎の言葉通り、深雪以外の選手は途中で息切れを起こし、深雪は順調に得点を伸ばしていく。結局決勝も深雪はほかの選手と大差をつけて優勝した。これで一高の総合優勝も決まったため、一高本部では大きな歓声であふれていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

一高優勝が決まったが、パーティーはまたしても延期となった。しかし、真由美をはじめとしたなじみのメンバーが中心となって、小さな祝賀会が催された。だが、その会に達也の姿はなかった。深雪曰く、さすがに疲れたと自室で休んでいるらしい。祝賀会の最中、黎は藤林からの連絡を受け、指定された場所に向かった。

「黎?」

「達也か、お前も行くのか?」

「それはこっちのセリフだ」

「ま、俺は直接ケガさせられてるし、ジェネレーターと一戦交えてるしな。色々鬱憤もたまってんだよ」

「黎くん、早く乗って。行くわよ」

「藤林さんが付き添ってくれるんですか」

「ええ、こんな時間だし、私もバイト代をもらおうかしら」

「それがいいと思いますよ。それで、奴らの潜伏先は?」

「横浜の中華街よ。出発するわね」

2人の化け物を乗せた車は、東に向けて走り出した。

 




今回はここまでにします。次回もなるべく早く投稿できるよう頑張ります。最後になりますが、お気に入りが100件超えてました。自分でもびっくりです。ありがとうございます。それでは次回まで、さよならです。


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第14話

お久しぶりです、世間はコロナで混乱中ですが、みなさんかがお過ごしでしょうか。
ずいぶん間隔が空いてしまいましたが、14話投稿いたします。お楽しみください。


横浜グランドホテルの最上階の一室、無頭竜の東日本総支部にて、初老の男性たちが引っ越し、というより夜逃げに近い準備を行なっている。

「おのれ…このままでは済まさんぞ」

1人が歯軋りしながら呪詛を漏らす。

「それにしても、ジェネレーターが戦果なしとはな…」

「日本の特殊部隊はともかく、一介の高校生に負けるなど、ありえないだろう」

「日帝軍への報復はいずれ必ず果たすとして、今優先すべきはあの餓鬼2人の始末だ

「司波達也と八田黎か、八田の方は‘’あの忌み子‘’だろうが、司波の方は何者なんだ…」

その時、新しい声が室内に響いた。

「忌み子の登場だ。復讐の機会がやってきたぜ」

「「「!?!?!?!?」」」

振り向くと、黎の姿がそこにあった。

「な!?貴様は!!」

「お前らのいうところの忌み子だ。さあ復讐のチャンスだぜ?」

「……や、やれ!!」

1人の合図で、黎に向かってジェネレーターが3体同時に襲いかかる。1人は足元から、1人は側面から、1人は少し遅らせて正面からの波状攻撃。多数対1の戦いは、1人の方が圧倒的に不利だ。

 

常識的には

 

「3体で足りると思ってんのか?」

黎は自分の周囲に障壁を展開。全員を接近不可能にする。障壁を破ろうとジェネレーターが体当たりを繰り返すが、障壁はびくともしない。

「なに!?」

「この、餓鬼が!!」

驚いた男たちが黎に向かって銃を発砲。しかしこれも黎には届かない。弾倉の弾を全て使い切り、新しい弾倉に取り替えようとしたところで、男の1人が呻き声を上げてその場から消えた。

「な…!?!?」

その頃黎も反撃に出る。身の回りの障壁をジェネレーターたちにぶつけ、壁に叩きつける。その後、3体にかかる重力を急激に増幅。耐えかねたジェネレーターの体は何箇所も陥没し、動きを完全に止めた。その光景を驚愕と恐怖の目で見ていた男たちが声を発する前に、室内の電話から声が響く。

『ハロー、無頭竜東日本総支部の諸君。富士では世話になったな、ついてはその返礼に来た。』

 

そこから達也の、返礼という名の虐殺が始まった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

九校戦も最終日を迎えた。今日行われる競技はモノリス・コードのみ。出場するのは十文字、辰巳、服部の3人。3人はエンジニアを含め最終確認をしており、真由美たちはブースに集まっている。が、その中に達也と黎はいなかった。

「応援に行かなくていいの?」

「開始までまだ余裕がありますから」

「てか、呼び出したのはそちらじゃないですか」

藤林の問いかけに、達也が真面目に、黎が冗談まじりに答える。

黎と達也は風間に呼び出されていたが、風間はまだ来ていなかった。5分ほどたった後、風間が真田と柳を連れてやってきた。

「昨夜はご苦労だったな」

挨拶もそこそこに風間は切り出した。

「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」

「私事にお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」

「私事ではないさ、貴重な戦闘データが取れたんだ。上も満足しているよ」

達也の謝罪に真田が応える。

「ただの犯罪シンジケートではないのですか?」

「達也くん、それに黎くん、『ソーサリー・ブースター』というものを知っているかな?」

黎の疑問に真田が質問で返す。

「名前だけなら」

「自分もです。犯罪集団に広がっている魔法増幅装置だとか。眉唾物だと思っていましたが。」

黎と達也の返答を聞き、真田が続ける

「実在するよ、そして無頭竜はその供給源なんだ。あれはこの世界に存在していいものではない。」

「というと?」

「ソーサリー・ブースターの中枢が何でできているか知っているかい?」

「いえ」

「人間の脳だよ」

「な!?」

達也は絶句し、黎は神妙な面持ちになる。

「より正確には、魔法師の大脳だ」

「なるほど、俺と同類ってわけか」

「「「………」」」

黎の呟きに一同は沈黙する。

「黎、ブースターの作りは君とは全く違う。自分をそこまで卑下することはない」

沈黙を破って風間が黎の呟きを否定する。

「また、そのような感情面を抜きにしても、魔法を増幅するブースターは軍事的にも脅威だ。そういうわけで、上も満足しているということだ」

そう付け加えて、この話は終わりとなった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

黎と達也は、モノリス・コードの開始前には観客席についていた。深雪やエリカたちと並んで開始を待つ。

程なくして、克人たちが入場してくる。

「…なんか、俺らとは安心感というか、風格が違うっつうか」

「そんなことないですよ!黎さんたちも堂々としていて、不安はありませんでした!」

「お、おう、ありがとうほのか」

黎の苦笑まじりの呟きにすかさず反応が返ってきたことで少し面食らってしまう。そうこうしている間に試合が開始された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

圧倒的というほかない。一校チーム、というより克人に誰も敵わない。他を寄せ付けない圧倒的な実力を見せ、モノリス・コードは一校が優勝した。

「達也が一条に勝ったからってのもあるだろうな。十師族のものがそうでないものに負けたとあっては、メンツが潰れかねない。十師族の実力を示せ、とでも言われたんだろ」

「ああ、そうだな」

達也が四葉であることを周りに伏せての雑談、黎の知っていることを周りに漏らすことはないという先日の言葉の実践。そんな2人を、克人がフィールドから見ていた。自分の力を誇示しているようにも見えた。その時の克人には、王者の風格があった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

九校戦の全試合が終了。ダンスパーティーを兼ねた後夜祭合同パーティーが始まった。緊張状態から解放され、会場内はフレンドリーな雰囲気が漂っている。この後夜祭で、毎年遠距離カップルが誕生するほどらしい。深雪や将輝は引っ張りだこであった。黎もある程度知らない人からダンスを申し込まれたが、2人ほどではない。

「あ、あの、れ、黎さ「黎!次は私と!」」

「お、おい姉さん」

ほのかが黎に話しかけようとしたのだが、なかなか黎と踊れずにストレスがたまっていたのか、ほのかに気づかなかった沙織が黎を引っ張っていってしまった。

「あ…」

「大丈夫、まだ時間はあるよ」

しょんぼりしたほのかを雫が慰める。しかし黎は人混みで見えなくなってしまった。パーティー終了までにもう一度見つけるのは難しいかもしれない。

しかしその15分後

「あ、ほのか見つけた」

「え、黎さん!?」

「いやー探したよ、さっきは悪かったな」

「え?」

「話しかけようとしてくれてただろ?姉さんに引っ張られて有耶無耶になっちまったからな」

説明をした後、ひと呼吸おいて腰を折って手を差し出しながらほのかに言う。

「俺と踊ってくれませんか?」

ほのかの顔がパッと明るくなった。

「喜んで!!」

ほのかと踊った後、雫や真由美とも連続で踊り、少し疲れてしまった黎は会場の隅で少し休むことにした。そこに

「八田、少し付き合え」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「会頭、どうしましたか?まさかダンスのお誘いでもないでしょうし」

人気のない場所に移動し、黎の冗談もスルーして克人が口を開く。

「八田、お前は十師族になる気はあるか」

唐突に予想外の問いを投げかけられる。

「十師族、ですか。まず俺がなれるわけないと思いますが、それを抜きにしてもなる気はないですね」

「なぜだ?」

「八田の人間は、それだけで負い目があるのと同じです。十師族同士でもある程度力関係などがある中で、目に見えたアキレス腱のある八田がそこに入っていけば食い物にされるのがオチでしょう。あの事件以降、八田は日陰で生きていくしかなくなったんです」

「八田としてならな」

「……」

「例えば、七草はどうだ」

このどうだというのは、結婚相手にどうだという意味だ。克人は、八田として十師族入りが難しいなら、ほかの家に婿入りする形でならどうだと言いたいのだろう。

「自分はもう二十八家でもありませんから、今の段階で結婚とか婿入りとかはまだ考えもしていません。それに、それこそ難しいのでは?八田の血を引くものを、わざわざ自分の家に迎えたいと思う家の方が少ないと思いますが」

「そうでもないかもしれんぞ。お前は完全に巻き込まれた身、そして魔法力も突出している。八田家としてのリスクより、八田黎としてのリターンの方が大きければ、可能性は十分にあるだろう。お前も、あまりうかうかはしていられないぞ」

あまり遅くなるなよと続け、克人はその場を後にした。

「…………十師族、うかうかしてられない…か。でも…もううんざりなんだ、家のゴタゴタも、それで人が離れていくのも…」

1人になった黎の呟きは、夏の夜風に消えた。




今回短かったですがこれにて九校戦編終了になります!次はまた短めになると思いますが夏休み編を挟み、横浜騒乱編へと進む予定です。黎の過去も少しづつ明らかにしていくつもりですので、そちらもお楽しみに。ではまたいつか、皆さん体にはお気をつけくださいね、それでは!


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夏休み編
第15話


「海に行かない?」

そう雫に誘われ、黎は達也、深雪、雫、ほのか、レオ、エリカ、美月、幹比古と一緒に、雫の家が保有するプライベートビーチに行くことになった。ビーチへ向かうクルーザーにて

「おお、八田くん、久しぶりだね。九校戦での活躍は聞いているよ。」

陽気な声で黎に声をかけたのは北山潮。雫の父で、大物実業家だ。

「ええ、お久しぶりです。今回はお世話になります。」

「ああ、自分の家だと思ってくつろいで行ってくれ」

そう言って差し出された右手に、黎も右手を差し出して応える。

「…うん、やはり見込んだ通りだ。少しいいかね?」

そう言うと、潮は黎を船内のある一室へ通す。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで北山さん、お話というのは?」

「うむ、単刀直入に聞こう。君は今婚約者はいるかね?」

突拍子もない質問に、思わず間抜けな声を漏らしそうになるが、なんとか堪えて冷静に答える。

「いえ、自分にそのような相手はおりません」

「そうか、ならうちの雫はどうだね?」

「……」

言われることの予想は先の質問からついていたが、いざ言われると反応に困ってしまう

「あ、あの、自分はまだ高校生ですので、そのようなことは…

「しかしそうも言っていられないだろう、君ほどの魔法の腕、そして言いづらいが、君の家のこともある。早いうちから決めておくに越したことはない。そして、私の家は君の気にするようなしがらみには捕われない。雫とも仲良くしているようだし、悪くない選択肢だと思うのだが」

「お言葉ですが北山さん、確かに雫さんとは仲良くさせていただいています。しかしそれは友達の域を出るものではありませんし、雫さんもそう思っていると思います」

「もちろん、ただの男ならこのような話はしないさ。大事な娘を託すわけだからね。しかし、私の見たところ、君は雫からただの友達以上に信頼されているように見える。まあ、今日のところは話だけだ。頭の片隅にでもおいておいてくれ」

「は、はい」

「それでは、バカンスを楽しんでいってくれ、失礼する」

そう言い残し、潮は部屋を後にした。

「……うかうかしてられない、ね」

黎は先日克人に言われた言葉を思い出していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

途中大きなトラブルもなく、一行はビーチに到着した。

「うーん、いいねえ」

眼福な光景である。集まっている女子メンバーは全員美少女と言えるレベルであり、そんな美少女たちが集まって水着ではしゃいでいるとなれば、健康的な男子高校生であればテンションが上がるのは必至であろう。レオと幹比古は沖の方で競泳しており黎は砂浜で達也とくつろいでいる。

「エデンはここにあったんだな」

「黎、言い方がなんだかおっさん臭いぞ」

と言いながらも、達也も否定はしなかった。そこへ

「2人とも、泳がないの?」

件の美少女たちが黎たちを誘いにやってきた。雫が代表して声をかける。

「そうだな、泳ぐか」

「せっかく海にきたんだしな」

2人とも誘いに乗って泳ぐことにした水に入るため、上着を脱ぐ。その瞬間、その場の空気が変わった。しまった、と思った時には遅かった。

「達也くん、黎くん、それって…」

上着を脱いだ2人の身体は、鍛え上げられてよく引き締まっていているが、みんなが驚いたのはそれが原因ではない。達也の身体には無数の切り傷と刺し傷。そして少量の火傷の跡。黎の身体には達也ほどの傷はないが、達也よりも大きく、凄惨な火傷の跡があった。

「すまない、あまり見ていて気持ちのいいものではないな」

「悪い、びっくりさせちまったな」
そう言って2人は脱いだ上着を着直そうとする。が、

「大丈夫ですよ、お兄様。私はお兄さまの身体が見苦しいだなんて思いません」

達也の腕に深雪が抱きついていた。ピッタリと密着した身体は布一枚隔ただけだが、それを気にする様子はない。

「わ、私も、黎さんの身体をそんなふうに思うことはありません」

と言って黎の手を取ったのはほのか。こちらは流石に恥ずかしかったのか、深雪のように抱きつくことはしなかったが、黎の右手を両の手でしっかりと握って、まっすぐ黎を見つめている。気にならないはずがない。深雪はともかく、ほかのメンバーがこの身体を見て何も思わないわけがないのだ。しかしそれでもみんな気にしないと言ってくれている。

「ありがとな、じゃあ泳ぐか」

みんなの心遣いに感謝し、それ以上その話題に触れずに泳ぎに行くことにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕食はバーベキューだった。海を見ながら食べる肉は、いつもより美味しく感じた。そして夕食も終わり、現在各々くつろいでいる。そんな時だった。

「少し外に出ませんか?」

ほのかが黎に声をかけたのは。

「ん?ああ、構わないよ」

黎は二つ返事でこれを承諾。2人で砂浜に出て行く。周りのみんなも空気を読んで、ついてくることはなかった。

 

数分ほど並んで砂浜を歩いた。そして、ほのかから切り出す。

「黎さん、その…」

少しのためらいの後、勢い良く口に出す。

「い、今、付き合っている人いらっしゃいますか!?」

顔を真っ赤に染めたほのかが黎をまっすぐ見つめて尋ねる。

「い、いや、いない、けど」

「じゃあ、す、す、好きな人は…?」

歯切れの悪い黎の回答に不安になったのか、先程の勢いがなくなっている。

「いや、それもいない、な」

「そ、そうですか。…あ、あの私「俺はな、ほのか」」

さらに続けようとするほのかにかぶせるように黎が話し始める。ほのかの言葉を最後まで聞いてやるべきか迷ったが、迷った末に先に伝えることにした。

「俺に、誰かを愛する資格なんてないんだよ」

「……え?」

理解できないというほのかに黎は続ける。

「俺の家は、元々二十八家の一角だったんだ。でも、あることがきっかけで、その地位を剥奪され、今も肩身の狭い家だ。そしてそのあることに俺は関わっていた、というより、俺がそのあることの引き金だったんだ。それに関わってた人間の大半が死んで、いや、俺が殺したようなもんだな。大半を殺し、その生き残りが俺だ。‘‘八田の忌み子‘‘って言われてる。俺にはだれかを愛する資格も、愛される資格もないんだ」

理解できない、という顔のほのか。当然だろう。いきなりこんな話をされて理解できるわけがない。

「だから付き合ってる人もいないし、好きな人もいないよ」

笑ってそう続ける黎。その答え自体は確かにほのかの望んでいたものだったろう。しかし、あんな話をされた後で自分の思いを伝えるなど、そうそうできることではない。

「それでも。私は黎さんが好きです」

「ほのか…?」

しかしほのかは言葉を振り絞る。

「黎さんの過去は、私が想像できないほど辛いものだったんだと思います。その責任を感じているのもわかります。でも、今の黎さんはすごく素敵な人だって、私は知ってます。過去に何があったとしても、私は今の黎さんが好きです」

「ほのか…」

「それに、今好きな人や付き合っている人がいないなら、私が黎さんを好きでいても問題ないですよね?」

「あ、ああ」

「じゃあ私は黎さんを好きでいます。他に好きな人ができるまで、ですけど!」

そう言って先に戻るほのか。しかし黎は気づいてしまった。ほのかの両頬を涙が伝っていたことに。

「俺に愛し愛される資格なんて…」

その後もしばらく黎は砂浜に1人立ち尽くした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

バカンスから戻ってしばらくしたある日、黎は達也から「2人で会えないか」という連絡を受けていた。

「珍しいな、どうした?達也」

黎の家に達也を呼び、お茶とお菓子で一通りもてなした後、黎から尋ねる。

「ああ、ある人物から伝言を預かってきた」

「ほう、誰からだ?」

達也は思いもよらない人の名前を口にする。

「四葉真夜、四葉家現当主からだ」

「………は?」

「会って話がしたいらしい。都合のつく日を教えてくれとのことだ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

数日後、指定された場所に向かうと、四葉の迎えの車が来ていた窓を完全に閉ざし、外を見えなくしており、本家の正確な位置を隠すためであろうことが窺える。しかし、それならそもそも黎を呼び出す必要すらないのではないか。と思った黎だったが、もちろん口には出さない。しばらくして、本家に到着した。案内されるまま家の中を進み、応接室のような部屋で待つ。数分後、四葉真夜が執事を連れて現れた。

「はじめまして、八田黎さん。四葉家当主、四葉真夜でございますわ。ご足労いただきごめんなさいね」

「八田黎です。とんでもありません。してどのようなご用件で?」

「うふふ、分かっているのでしょう?達也さんのことよ」




今回はここまでにします。お察しの通り、今作のヒロインはほのかで進める予定です。理由ですか?作者の趣味です() あくまで予定なので、変更する可能性もなきにしもあらず…? 黎の過去ですが、横浜騒乱編の後まとめて書こうと思っっております。それまでいままでのように小出しにして行くことはあると思いますが。
一話ごとの文字数を少なくしているので、次も早めにあげられるよう頑張ります。また、誤字報告をいただきました、ありがとうございます。かなり細かいところまで読んでいただいているのが分かって、うれしかったです。今後ともよろしくお願いします。それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第16話

こんにちは、みなさんお元気でしょうか。夏休み編第2話です。お楽しみください。


「達也が四葉であることについて、ですか」

「ええ」

緊張の中での問答。

「それでしたら、先日達也にも言った通り自分が他人に言いふらすことはありません。八田が四葉と事を構えることができる家でないことはお分かりでしょう?」

「自爆覚悟での特攻、というのもあり得ない話ではなくてよ?そうやって失墜した家でしょう?」

真夜が微笑を崩さずに告げる。黎を挑発しながらの言葉だ。

「それで懲りた、とはお考えにならないのですか?」

「人間そう簡単に変わるものではないもの、悪い癖は特にね」

「その悪い癖が出た人間たちは、ほとんどバチが当たって死んだんですが?」

「その血を引いているあなたがまだ生きているのだけれど」

「四葉殿は、私の始末を望んでいらっしゃるのですか?」

場に緊張が迸る。

「ふふふ、事を構える気はないと言ったのに、ずいぶん好戦的な目をしているのね」

「自分から仕掛けることはなくても、降りかかる火の粉を払うことくらいはしますよ」

真夜は微笑を浮かべたまま、あたりが闇に包まれ、周囲に光球が浮かぶ。真夜の魔法『流星群』、通称『夜』。有機、無機を問わず、対象物を「光が通り抜けられる状態」にすることで穴を空ける、ひとたび発動すればほぼ防御不可能な魔法だ。しかしその光が黎を貫くことはなかった。闇に包まれていた空間を、突如光が満たす。

「へえ、そんな魔法も使えたのね」

「ええ、さしずめ『朝』と言ったところでしょうか」

『流星群』は、光の偏りを強制的に作り出すことで効果を発揮する魔法だ。黎はあたりを光で満たし、光の偏りをなくすことで「流星群」を無効化した。発動させてしまうと、『流星群』を防ぎ切るのは不可能に近い。そのため、一定の空間内に光の偏りがあるという魔法の発動条件を満たせないようにしたのだ。

「ますます厄介な子だこと」

「手加減しておいてそれは言いっこなしですよ」

本気の真夜に勝てるとは黎にも言い切れない。この魔法の応酬がお互いを試すものであることは、本人たちが一番よく分かっていた。

「確かにうちは四葉にどうやっても敵わない。ただもしやる気なら、相応の傷を負う事を覚悟していただきたい。達也や深雪は俺の大切な友人です。2人とは今後とも仲良くやってきたいと思っていますよ。八田としてでなく、達也と深雪の友人として信頼していただきたい」

「そうね、今はその言葉を信用してあげましょう。今後とも達也さんと深雪さんと仲良くね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

四葉家に招かれたさらに数日後、黎は八谷家を訪ねていた。

「兄さん!いらっしゃい!」

「黎!よく来たわね!」

沙織と朱莉に迎えられ、やや激し目のスキンシップを受ける。

「あっつい!2人とも少し落ち着け!」

引き剥がしてリビングへ向かい、2人の母親に挨拶する。

「こんにちは美樹さん、お邪魔します」

「あら黎くんいらっしゃい、ゆっくりしていってね」

夕食を食べ、入浴を済ませてくつろいでいいると、2人の父親である八谷修一が帰ってきた。

「お帰りなさい、修一さん」

「おお、黎、よく来たな。こっちで話そうか」

黎が八谷家に来たのは、修一と話すためであった。修一の書斎に通される。

「四葉のことか?」

「話が来てましたか」

「ああ、黎と今後敵対するつもりはない。しかしもし万が一があれば、八谷家共々相応の報いを受けてもらう、だそうだ」

「………」

もう手を回されていた。

「すみません、巻き込む形になってしまって」

「なに、お前を引き取ってから、こういうこともあると思っていたよ。それに、黎が万が一を起こさなければいい話だろう?」

ニヤリと笑って修一は答える。

「ええ、もちろん」

真夜は八谷家を人質にしてきた。黎が真夜との約束を違えれば、大事になるのは黎だけでは済まないと脅してきたのだ。確かに黎の口を固めるのにとても効果的な方法である。

(さすが四葉、非情ながら効果的な手をうってくるな。そんなことしなくてもバラすわけないってのに)

修一の部屋を出ると、沙織と朱莉が枕を持って待ち構えていた。

「兄さん!一緒に寝ましょう!」

「この暑い時に固まって寝なくてもいいと思うんだが」

「いいから、こっちこっち!」

結局3人並んで川の字で寝ることとなり、寝苦しい夜となってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあ、またな」

「兄さん、お気をつけて」

「黎、またね」

「ああ、姉さんは論文コンペに出場するんだろ?またその時にな」

当然一緒に寝ることで間違いが起きるはずもなく、翌朝黎は八谷家を後にした。夏休みももうじき終わる。休み明けからは生徒会の再編や論文コンペの準備等、また忙しくなるだろう。

(忙しいだけで済めばいいがな)

1学期のことを思い出しながら、キナ臭いことにならないことを祈る黎であった。




短い…今回はここまでです。黎の『朝』ですが、『夜』と対極の名前をしているのにも理由があります。また防御以外にも用途がありますので、また登場することになると思います。次回からは横浜騒乱編に入ります。オリジナル展開を作るのが難しいんですが、頑張って描こうと思います。
ではまた次回で、ここまで読んでくださりありがとうございました!


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横浜騒乱編
第17話


こんにちは、コロナが割とやばい感じになってきてますね。皆さんもあまり外に出ないようにして、十分気をつけてくださいね。それでは第17話です。今回から横浜騒乱編に入ります。


『五号物揚場に接岸した小型貨物船より不法入国者が上陸しました。千葉警部、稲垣警部補は至急急行してください』

無線で届いた指令を聞き、2人の刑事が疾走する。

「やれやれ、やはりあそこか」

「ぼやいている場合じゃありませんよ警部!」

「しかしだね稲垣くん」

「つべこべ言わずに走る!」

「俺は君の上司なんだが?」

「年は自分の方が上です」

緊急の任務が入ったとは思えないやりとりを繰り返しながらも、2人は魔法によってどんどん加速、一気に密入国者たちとの距離を詰める。逃げきれないと判断した入国者たちは振り返り迎撃の態勢を取った。しかし千葉の魔法によるトリッキーな動きと見事な剣さばき、稲垣の的確な援護射撃によってたちまち制圧されてしまう。

「警部、船を抑えましょう!」

「じゃあ稲垣くん、船を止めてくれ」

「自分では沈めることになるかもしれませんが」

「構わないよ、責任は課長が取るだろう」

自分が取る、とは言わないのかと肩をすくめながらも、稲垣が魔法を小型船舶に向けて放つ。それは的確に船を貫いた。

「お見事」

称賛を口にしながら千葉が跳躍。船へ飛び移り、着地と同時に船室扉を真っ二つに切り捨てる。しかしそこはもぬけの殻、乗組員たちはすでにハッチから脱出していた。

「チッ、空振りか」

昇り始めた朝日を背に、千葉寿和は西に目を向けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

千葉が見据えていた先、横浜の有名な繁華街の、裏路地にある飲食店の裏庭の井戸から、続々と男が這い出す。

「まずは皆さま、着替えておくつろぎを。朝食を用意してあります。」

長髪の、貴公子という言葉が似合う青年が笑みを浮かべて男たちを迎えた。

「周先生、ご協力感謝します」

中年の男性が、ぞんざいな口調で形式だけの謝辞を述べる。そのまま周と呼ばれる青年に連れられ、建物の中に入って行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

第一高校の新生徒会発足から一週間が過ぎた。現在は昼休みであり、黎は達也たちE組のメンバーと学食で固まって座っている。

「お待たせいたしました」

そこへ深雪、ほのか、雫がやってくる。新学期が始まって以降、このメンバーで昼食を食べるのが日常となっていた。今日は3人が生徒会の仕事で遅れるとあらかじめ連絡されていたので、それを咎める者はいない。

「ご苦労さん」

黎が達也たちを代表して労う。待ったといっても時間は10分ほど。生徒会の仕事という理由なのだし、気にする必要はない。

「すみません黎さん、私のせいで遅くなっちゃって」

夏休みのあの告白以降、ほのかは黎のちょっとした言葉や表情に過剰に反応するようになっていた。ポジティブな過剰反応ならいいのだが、ネガティブな方はなんだか自分が女の子をいじめているような気になっていたたまれない。

「いや気にしなくていいよ、始まったばっかだし慣れないだろ?」

「そーそー、気にすることないって」

「まだ一週間だからな」

黎の言葉にエリカとレオも気を利かせて追従する。ほのかはほっとしたように腰を下ろした。

「でも八田君、今日のは本当にほのかのせいではないんですよ。職員室からいきなり『一昨年の記録を出せ』と仰せつかりまして、生徒会室でずっとデータベースを検索していたんです。雫にも手伝ってもらって」

「でも、深雪はすぐに見つけたのに、私の手際が悪かったから……」

深雪の言葉を聞き、ほのかはますます縮こまってしまう。

「深雪はあのシステムを4月から使ってるからな。ほのかは入ったばっかだし、あのシステムは分かりづらいからな。俺も最初は結構手間取った」

黎が自身の経験も踏まえてほのかを慰める。ところで、今のやり取りの通り、ほのかは新生徒会役員に任命された。新生徒会の顔ぶれは、会長・中城あずさ、副会長・司波深雪、書記・光井ほのか、会計・五十里啓である。黎は生徒会から退き、風紀委員に任命されていた。理由は、新風紀委員長である千代田花音が引き抜いたからだ。摩利が抜けた穴は大きく、戦力の補充という意味で新歓期間にも活躍した黎に白羽の矢が立ったというわけだ。

「ところで達也、論文コンペのメンバーに選ばれたんだって?」

昼食中、黎が口を開く。

「ああ、代理だがな」

深雪は聞かされていたから別として、他の面々は驚きを隠せない。

「論文コンペの代表って、全校で3人だけじゃありませんでした?」

「まあね」

「まあねって…達也くん感動薄すぎ」

「達也にしてみりゃ、そのくらいは当然ってこったろ」

「いや、やっぱりすごいよ!」

エリカ、レオの言葉の後、幹比古が興奮気味に続ける。しかし続けて心配そうに達也に尋ねる。

「だけど、もう日がないんじゃなかったかい?」

「学校への提出まで、正味9日だな」

「そんな!もうすぐじゃないですか!」

「大丈夫だよ、俺はあくまでサブだし、市原先輩の取り組んでいたテーマが俺の全く知らないテーマというわけでもなかったからね」

「なるほどな、重力制御魔法式熱核融合炉だっけか」

「ああ」

「黎くんどうして知ってたの?」

「風紀委員は論文コンペの執筆者の警備に当たることになってるからな。内容をちょっと聞かされてるんだよ」

エリカの疑問に答え、達也の方を向いて続ける

「で、市原先輩と五十里先輩はもう護衛が決まったからいいとして、問題はお前をどうするかなんだが」

「必要ないぞ」

「ま、そう言うと思ったけどな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の夜、黎は風間から連絡を受けていた。

「こんばんは、風間さん。九校戦以来ですね」

「そうだな、変わりないようで何よりだ」

「お陰さまで。それで、今日はどのようなご用件で?」

「ああ、先ほど、大黒竜也特尉が襲撃にあった」

風間から告げられた言葉に、黎は驚きを示した。

「ほう?相手の正体はわかってるんですか?」

「うむ、夜間、光学スコープのみで1000メートル級の狙撃を成功させるほどのスナイパーを遣わしてきたらしい」

「それほどの腕のやつを雇えるほどの組織ってなると…あ、まさか…風間さん、先日密入国事件がありましたよね?」

聞いた情報と知っていた情報が繋がる。風間は満足そうに頷いた。

「ああ、無関係とは言えんかもしれんな」

「大亜連合…?」

「の、可能性もある。万が一の時は、大黒特尉だけでなくお前にも協力してもらうかも知れん」

「分かりました、こちらでも警戒しておきます」

「ああ、くれぐれも気をつけてな」

「ありがとうございます、失礼します」

通話を切った後、続けて別の所に電話をかける。

「もしもし」

「ああ、深雪?悪いな夜分に。達也いるか?」

「お兄様ですか?少々お待ちを」

パタパタという足音が聞こえ、少しの間沈黙。その後しばらくすると達也がモニターの前に現れた。

「待たせたな」

「いや、悪いな突然」

「構わないさ、用件にも察しは付いている」

どうやら黎が連絡してくることは想定済みだったらしい。

「なら話が早い。俺は大亜連合だと思ってるんだが」

単刀直入に切り出す。達也も頷いて答えた。

「ああ、その可能性が高いかもな。先ほどうちのホームサーバーがクラッキングにあった。手並から見て、素人のものではなかったし、どこか大きい組織が絡んでいると見て間違いない」

「まじか…大丈夫だったのか?」

「ああ、だが途中で接続を切られてしまってな。攻撃元は掴めなかった」

「へえ…で、狙われる心当たりはあるのか?」

「ああ、ちょっと珍しいものを預かった」

そう言って達也が取り出したのは、勾玉のような形をしたものだった。

「それは…レリックか?」

「ああ、ひょんなことから預かることになってな」

「ふーん、ま、深くは聞かねえけどよ。気をつけとけよ。なんかあれば力貸すからな」

「ああ、ありがとう」

もう夜も遅かったので、挨拶もそこそこにそのまま通話を切った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっぱ、達也にも一応護衛をつけておいた方が良くないですか?」

次の日、摩利と花音を交えて鈴音と啓に達也が昨夜のクラッキングの件について共有したところで、黎が摩利に提案する

「しかし、達也くんが不要だと言ったからな」

「ホームサーバーのクラックを仕掛けられるなんて前代未聞でしょう?相手がわかってない上に、何をしてくるかもわからない。念には念をってやつですよ」

そう言って達也に目配せする。達也もその意図を理解する。

「確かに黎の言うことも一理ある。じゃあ黎に頼んでもいいか?」

「ああ、引き受けた。渡辺先輩、構いませんよね?」

「あ、ああ、達也くんと黎くんがそれでいいなら」

黎の意図はもちろんただの護衛ではない。達也と近くにいる方が、敵や諸々の情報共有がしやすいと考えたからだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の放課後、達也と黎は、啓と花音と論文コンペで使用する道具を買うため、駅前の文房具屋に来ていた。

一通り買うものを揃え、黎と達也が先に店を出る。

「…達也」

「ああ、あの木の裏だな」

「こりゃ素人だな。昨日のハッカー連中とは別口じゃねえのか?」

どうしようか悩んでいると、会計を済ませた啓と花音が店から出てきた。

「お待たせ、どうしたんだい?」

「いえ、監視されているようなので、どうしようかと」

「監視!?スパイなの!?」

達也の言葉を聞き終わる前に、花音は黎と達也が見ている方向へ走り出す。しかし、そんな大声をあげれば相手に「逃げろ」と言っているのと同じだ。案の定気配が遠ざかる。しかし花音は陸上部のスプリンターだ。見る見るうちに距離を縮め、視界に自分たちと同じ制服をとらえる。驚いた花音だが、追う足は止まらない。女子生徒は逃げきれないと判断したのか、振り返って小さなカプセルを放つ。一瞬反応が遅れた花音は、直撃は避けたものの激しい閃光に襲われる。次に花音が目を開けた時、少女はスクーターにまたがって逃走しようとしていた。花音は反射的に『地雷源』でスクーターを止めようとする。しかしその魔法は達也によって防がれる。

「司波くん!何をするの!?」

「花音!だめだ!」

啓は叫ぶと同時に、タイヤの摩擦力をゼロにする魔法で足止めしていた。続けて黎も魔法を発動。黎の手から1本の光が伸び、スクーターの後輪を焼き切った。

終わった。誰もがそう思った。しかし、追い詰められた人間は何をするかわからない。少女はハンドルの左にあるボタンを押し込んだ。すると途端にマフラーの様子がおかしくなる。

「おいおい、まさか…」

そのまさかだった。突如2本のロケットエンジンが出現し、爆発。啓の魔法に抗って、後輪を引きずる形でスクーターは急発進した。

「…ずいぶんと無茶すんだな」

4人はスクーターを唖然として見送った。




今回はここまで。話があまり進まず、申し訳ありません。コロナで家から出ない生活が続いているので、次も早く投稿できるよう頑張ります。ご意見ご感想ありましたらお気軽にお寄せください。それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!


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第18話

こんにちは、自宅警備中ですので、サクサク書いていきたいです。それでは第18話です、どうぞ!


スクーターで逃走した少女は、協力者の遣わしたワゴンに救出されていた。

「あの小娘は大丈夫なのか?」

都内某所の建物の一室、たくさんのモニターが置かれた部屋で、男たちが食い入るように画面を見つめる。ここでいう大丈夫、とは少女の身を案じているのではなく、少女から自分たちの尻尾を掴まれるのではという意味だ。

「あのワゴンのメンバーを手配したのは周先生ですので、何かあっても我わrの存在を知られることはないかと」

「あの若造の仲介か…どこまで信用していいものやら」

気に入らないが、信用するしかない。現地協力者は不可欠だ。

「レリックの方はどうなってる」

「フォアリーブステクノロジー社から持ち出された形跡はありません」

「司波小百合が昨日訪れた家のことは何かわかったか」

「夫の連れ子である兄妹が住んでいるようです」

「素性は?」

「両名とも、魔法大学附属第一高校の1年生です。兄が司波達也、妹が司波深雪です」

「なるほど…好都合かもな。第一高校を活動対象に追加。他から人員を割いても構わん。それから小娘への支援を強化。武器も持たせておけ。呂上尉」

「是」

「現地で指揮をとれ。よその犬が嗅ぎ回っているようなら排除しろ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

朝黎が自分のクラスに行くと、深雪、ほのか、雫が黎の席の周りに集まっていた。

「おはよう、どうしたんだ?」

「おはようございます、八田くん。実は、最近ほのかが視線を感じるらしくて」

「視線?ストーカーのような類か?」

「い、いえ、私個人と言うより、もっと大きなものを狙っているような…」

「学校全体とか、多くの生徒とかを狙ってるのかも。私も違和感を覚えてる。」

ほのかの言葉を補完するように雫も続ける。

「なるほどな、精霊も少し騒がしい。美月や幹比古に確認してみるか」

昼食時にE組のメンバーと合流し、その際に確認することにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「多分誰かが式を打ってるんだと思うけど、我が国の術式じゃないと思う」

(やはり大亜連合…)

幹比古の言葉で確信する。達也と目が合い、軽く頷く。達也も当たりをつけたようだ。

「へえ、他国のスパイか。面白いことになりそうね」

「ああ、退屈しなさそうだぜ」

好戦的なエリカとレオはニヤリと笑みを浮かべている。

「はあ、平和が一番だと思うんだがなあ。そういや達也、コンペの準備は進んでんのか?」

苦笑いしながら、さりげなく黎が話題を変える。

「一段落、と言ったところかな。細々とした作業は残っているが」

「大変そうねえ、美月のところで模型作りを手伝ってるんだっけ?」

「あ、うん。2年の先輩が。私は何もしてないけど…」

「模型作りは五十里先輩に任せっきりだから、同じ2年の方が都合がいいんだろう」

「ふーん、じゃあ達也は何をしてるんだ?」

さりげなく美月のフォローを入れた達也に、レオが疑問を投げかける。

「デモ用術式の調整だ」

「普通、逆だと思う」

雫が静かにツッコミを入れる。

「そうか?物を作ることにかけては、五十里先輩は俺の数段上をいってると思うんだが」

「まあ確かに啓先輩は『魔法使い』ってより『錬金術師』のイメージが強いかもね」

「錬金術師?RPG?」

エリカの言葉に雫が首を傾げる。

「その例えでいくと達也さんは何になるのかな?」

美月が続けると、一気に話が盛りあがる。

「そりゃマッドサイエンティストでしょ」(エリカ)

「それRPGじゃなくねえか?」(黎)

「じゃあ山奥で秘術を教えてくれる世捨て人の賢者」(エリカ)

「賢者っつーには武闘派だけどな」(レオ)

「密かに世界征服を企む悪の魔法使い?」(エリカ)

「そこは素直に魔王とか」(幹比古)

「いやいや、一緒に魔王を倒した後で、実は俺が黒幕だぜ〜と主人公の前に立ち塞がるラスボスとか似合いそうじゃね?」(レオ)

「みなさん、どうして勇者という結論にたどり着かないのかしら」(深雪)

「達也が勇者…いやあないな。深雪のためなら世界すら滅しかねないだろうからやっぱ魔王だろ。シスコン設定付きの」(黎)

「そう言う黎はどうなんだ?」(達也)

「うーん、魔王の側近?」(エリカ)

「俺は達也の手下なのか」(黎)

「じゃあ成り行きで仲間になる強力な第三陣営とか」(幹比古)

「それ魔王との戦いで死ぬやつじゃね?」(黎)

「ゆ、勇者…はダメかな?」(ほのか)

「うーん、世界を救うってタイプじゃなさそうねえ」(エリカ)

「クリア後に戦えて、倒すと仲間になる裏ボス的な?」(雫)

「「「それだ!!!!」」」

と、このように大盛り上がりだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の放課後は、久しぶりに9人揃って帰る機会となった。久々の大所帯に会話も盛り上がる。しかし周囲への警戒は怠らない。黎と達也は背後から自分たちを尾けてくる存在に気づいていた。

「ちょっとよって行かないか?」

「ああ、そうだ「賛成!」」

「達也は明日からまた忙しくなりそうだしな」

尾行をやり過ごすための達也の誘いに、エリカ、レオ、幹比古が食い気味に同意した。それには触れず、喫茶店「アイネブリーゼ」の扉を開ける。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「へえ、論文コンペに参加するんだ、すごいね。今年は横浜で開催される番だよね?会場はいつも通り国際会議場?だったら実家のすぐ近くだ」

「横浜のどちらなんですか?」

美月が全員を代表して尋ねる。

「山手の丘の中程にある、『ロッテルバルト』って言う喫茶店だよ」

「ご実家も喫茶店だったんですね」

「そうなんだ、時間があれば寄ってみてよ。僕と親父のどっちのコーヒーが美味いか、忌憚のない意見を聞かせてもらいたいな」

「商売上手っすね」

黎のツッコミでその場に笑い声が上がる。そしてそろそろコーヒーを飲み終わろうかと言うところで

「ちょっとお花摘みに行ってくる」

「おっと、わりい、電話だわ」

エリカとレオが席を立つ。幹比古も何やら熱心に筆ペンを動かしている。

「幹比古、何をしているんだ?」

「うん、ちょっと忘れないうちにメモっとこうと思って」

「……派手にやると見つかるぞ。程々にしておけよ」

そう言って達也はコーヒーに手を伸ばす。

(はあ…しゃあねえ見張っとくか)

達也が手を出すつもりがないのを見て、万が一の時は対処しようと黎は警戒範囲を広げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おじさん、あたしとイイコトして遊ばない?」

「何を言ってるんだ?もっと自分を大切にしなさい」

男は焦りを隠しながら答える。

「アレ?あたしは『イイコト』って言っただけなのに、どう言う意味にとったんだろ?」

 

(接触したか…)

尾行の男にエリカとレオが接触したのを確認して、黎も席を立つ。

「黎さん?」

「風紀委員からの業務連絡だ、わりいちょっと外すぜ」

ほのかの呼びかけにこう応え、店の外へ出る。

(2人なら負けないわな)

物陰に隠れ、エリカとレオの様子を伺う。

 

「ジロー・マーシャルだ。詳しい身分は言えないが、どこの国の政府機関にも所属していない」

「つまり、イリーガルってことね」

「それで?何が目的でどういう状況になってるのか聞かせろよ」

「私の仕事は、魔法科高校生を通じて、先端魔法技術が東側に盗み出されないよう監視し、軍事的な脅威となり得る技術が東側に漏洩した場合はこれに対処することだ」

「東側?ってことは、あんたは西側ってことか?」

「この国の平和ボケは治ったと思っていたんだが…。動くな!」

男の銃口はしっかりエリカに固定されていた。

「な!?」

「テメエ!!」

(やれやれ、行くか)

隠れていた黎が背後から男に迫り、完全に背後をとった。

「動くな、銃を捨てろ」

男の頭上に発動前の魔法を待機させる。

「こちらを振り向く必要はない、黙って銃を捨ててこっちに蹴れ」

「黎!?」

「黎くん!?」

男は頭上の魔法を確認して、勝ち目がないと悟ったのか黙って黎の指示に従う。

「レイ・ハッタか」

「よくご存じで。随分派手なちょっかいかけてくれたな」

「く…世界の軍事バランスは、一国の問題ではない。USNAでも、西ヨーロッパ諸国でも東側のスパイが急増している。君たちの学校も、東側のターゲットになっているんだぞ!」

「ああ、忠告どうも。もちろん警戒してるさ。現にあんたの尾行にも気づいたし、銃だってこっちにある」

「では、お仲間にも身の回りに気をつけるようよく言っておいてくれ。学校の中だからと言って油断はしないようにと」

「言われなくてもそうするさ。あんたみたいなのもうろついてるしな」

「私は君たちの敵ではない。そろそろ解放していただきたいのだが?」

「いいだろう、もう危害を加えられることはないだろうしな。幹比古」

結界を張っている幹比古に合図を送り、解除させる。

「じゃあな、もうこそこそ嗅ぎ回んなよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「アイネブリーゼ」に戻ってしばらくした頃

「!?」

黎は驚いた様子で顔を上げた。

「黎さん、どうしました?」

「ああいや、大丈夫。なんでもないよ」

心配そうに覗き込んでくるほのかに笑って応え、平静を装う。その後、携帯で一通のメールを送った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の夜、黎はまた司波家に電話をかけていた。

「悪いな、何日も」

「構わないさ、夕方の件だろう?」

そう、黎がメールを送っていたのは達也。先ほどの件で夜話す時間をとってほしいと言う内容だった。

「ああ、俺らを尾行してたおっさんが…消された」

「何?」

達也が驚いた声をあげる。

「やつと別れた後、式に後を追わせていたんだが、その式も一緒に誰かに消された」

「誰か?」

「式の死角から一発でドカンだ。おかげで顔も姿もわからなかった。相当なやり手だろうな。あいつの言うところの『東側』なんだろう。みんなの前で言っても、悪戯に不安を煽るだけだと思ったからお前にだけ伝えとくわ」

「なるほどな、わかった」

「どうやら、警戒のレベルを引き上げた方がいいみたいだぜ。割とお大掛かりに動いてるっぽい」

「そうだな、一層注意しておこう」

達也のこの言葉を最後に、通話は終わった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「式を打っていた奴の正体は分かったか」

「ええ、第一高校1年、八田黎です。」

「八田…まさか『あの』八田か…?呂上尉」

「是」

「式に姿は見られていないのだな?」

「死角から一撃で消しましたので、その心配はありません」

「うむ…しかし万が一ということもある…」

少し考えたのち、男は新たな指示を出す。

「八田黎をターゲットに追加。チャンスがあれば拉致を狙え。無理なら殺しても構わん。」

「「「是」」」

「また、ターゲットの戦闘能力は突出している。かかる際には必ず4人以上で当たること」




やっぱりあんまり話が進んでいないような…というより横浜騒乱編の前半がこんな感じなんですかね。
最近UAやお気に入りが少しずつ伸びていて、嬉しいです。見てくださっている方、ありがとうございます。ご意見ご感想ありましたら、お気軽にお寄せいただけるとより嬉しいです。次回もなるべく早く投稿します。それでは!!


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第19話

こっちも書かなきゃなーということで書きました。実は半分くらいはかなり前に書いていたので、文の雰囲気等違和感あったら申し訳ございません。


翌日、第一高校では論文コンペに向けて屋外実験を行なっていた。達也、啓、鈴音の3名に加え、手伝いや警備、そして見学の生徒で校庭は溢れかえっている。その中で、不審な機械を操作している女子生徒が1人。

 

「あの子…」

 

紗耶香がその女子生徒を追って駆け出す。

 

「さーや、どうしたの!?」

 

「おい、壬生!?」

 

駆け出した紗耶香を追ってエリカと桐原が駆け出し、一歩遅れてレオがそれを追う。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「待ちなさい!」

 

女子生徒は足の速さでは敵わないと判断したのか、立ちどまって振り返る。

 

「なんですか?」

 

「あなた、一年生ね。私は2年E組の壬生紗耶香。あなたと同じニ科生よ」

 

「…1年G組、平河千秋です」

 

ふてぶてしい声で名乗った千秋に、紗耶香が詰め寄る。

 

「平河さん、あなたが手に持ってるそれ、無線式のパスワードブレイカーでしょ?」

 

紗耶香の指摘に千秋は大きく目を見開いて慌てて手に持つ端末を背中に隠した。

 

「隠してもわかるわ。あたしも…スパイの手先になったことがあるから」

 

紗耶香は顔を辛そうに歪めながら続ける。

 

「でも、だからこそ忠告するわ。どんな連中か知らないけど、今すぐ手を切りなさい」

しかし千秋には届かない。

 

「先輩には関係のないことです」

 

「放っておけるわけないでしょう!相手はあなたのことをただ利用して使い捨てるだけよ!」

 

「そんなの当然じゃないですか!私は別に、何かが欲しくてあいつらと手を組んだんじゃないんですから!」

 

説得に応じる気配はない。こうなれば多少手荒になっても仕方ないと、紗耶香は判断した。

 

「桐原くん」

 

「ああ」

 

桐原もその意図を理解し、2人はゆっくりと千秋に詰め寄る。その瞬間

 

「伏せて!!」

 

エリカの声とともに、千秋の手から小さなカプセルが放たれる。閃光弾だった。紗耶香はエリカに庇われ光の直撃は避けたが、桐原はまともに食らってしまう。千秋が右手を紗耶香へ向けると、袖口からダーツが飛び出す。光の遮断に成功したエリカがダーツを払った。割れたダーツから煙が上がる。

 

「神経ガス!?」

 

相手は予想以上に周到だった。そのまま右手をこちらに向けながら後ずさる千秋。これでは迂闊な真似はできない。

 

「うおおおおお!!!」

 

はずだった。芝生に伏せていたレオが、千秋に向けて突進する。慌てて袖口をレオの方に向けるが、間に合わなかった。レオのタックルが間に合い、千秋は地面に倒れ意識を失った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はあ…市原先輩の護衛をほっぽってどっか行ったと思ったら…あんたたちやりすぎよ」

 

花音がため息をつきながら言う。騒ぎを聞きつけて、花音と黎が保健室に来ていた。桐原と紗耶香はバツの悪そうな顔をしている。

 

「行こうぜ、またな、黎」

 

「ああ、気をつけてな」

 

エリカとレオは花音が来たことで自分たちの役目は終わったとその場を後にした。

 

「それで、この生徒の容態はどうなんですか?安宿先生」

 

「心配ないわ、ちょっと頭を打ってるだけだから、じきに目を覚ますわよ」

 

黎の問いかけにおっとりした声で安宿は答えた。

 

「じゃあお手数ですけど、この子が目を覚ましたら連絡をいただけませんか?

「いいわよ。あ、でも逃げられても文句は言わないでね。私は戦闘能力皆無なんだから」

 

「先生が怪我人を逃すわけないじゃないですか」

 

安宿の言葉に、花音は苦笑しながら頷き、黎と紗耶香と桐原を連れて保健室を後にした。

 

 

 

「ちょろすぎると思いませんか?」

 

「何が?」

 

紗耶香と桐原と別れた後、中庭へ向かう途中の黎の質問に、花音が質問で返す

「どこかしらの使いにしては手際が悪すぎる。聞けば、ハッキングツールをそのまま手に持っていたとか。そんな素人に全てを任せるはずがない。間違いなく他に本命がいる」

 

「…一理あるわね」

 

「まあでもこちらは基本受け身になるしかありません。警戒を強める、しかできることがないので、護衛の俺たちの仕事も重要になってきますね」

 

「ええ、そうね」

 

黎の言葉を聞き、花音は一層気を引き締めた。

 

 

 

 

 

「なら、あたしが教えてあげる。秘剣・薄羽蜻蛉、あんたにぴったりの技をね」

 

帰り道、エリカはレオに本気で関わる覚悟、つまり相手を殺す覚悟を問い、レオが肯定で返した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「一昨日も無茶したわね」

 

安宿から連絡を受け、花音、黎、五十里が千秋を訪ねて保健室に来ていた。

 

「なんでデータを盗み出そうとしたの?」

 

問いかける花音の口調は優しく、責めるような印象を与えないものだった。それが奏功したのか、うつむいていた千秋がぽつぽつと口を開く。

 

「あたしの目的は、プレゼン用の魔法プログラムのデータを書き換えて、使えなくすることです」

 

直後、花音の身体がピクリと震えた。怒りをこらえているのだろう。花音の最愛の人である五十里の晴れ舞台を失敗させようというなら、怒るのも無理はないだろう。それを察して黎が口を開こうとした花音を

制し、代わりに口を開く。

 

「うちのプレゼンを失敗させたかったのか?」

 

「違います!悔しいけど、あいつはきっとリカバリーしてしまう。でも、ちょっとくらい慌てるに違いないって思ったんです!」

 

「嫌がらせでやったのか?ことと次第によっちゃ退学もんだぞ」

 

「構いません!あいつに・・・一泡吹かせられるなら・・・」

 

嗚咽交じりに話す千秋を見て、黎は考えを巡らせる。

 

(何かおかしい・・・逆恨みだけでここまで大掛かりなことをするか・・・?)

 

「平河千秋くん、君は、平河小春先輩の妹さんだね?お姉さんがああなっちゃったのは、司波くんのせいだって思ってる?」

 

五十里が千秋に声をかける。平河小春は、九校戦でのアクシデントに責任を感じ、退学まで思い詰めていた。

 

「だってそうじゃないですか。あいつが小早川先輩を見殺しにして、そのせいで姉さんは責任を感じて・・・!」

 

(試してみるか)

 

「要は逆恨みってことだろ?あの事故の責任が達也にあるってんなら、それは技術スタッフ全員の責任だろ、あんたの姉さんも、ここにいる五十里先輩も含めてな。達也個人を恨むのは御門違いなのが分からねえのか?」

 

「姉さんに気づけないものを、他のスタッフが気づけるわけないじゃない!あいつだから気づくことができたの!あの人だってそういってたわ!!」

 

(あの人・・・か。おそらく精神干渉魔法だな。勘違いや恨みを増幅させ、操ってるのか)

 

「ハイハイそこまで、続きは明日にして頂戴。彼女の身柄は一晩魔法大学附属病院で預かります」

 

安宿がストップをかけ、黎たちは保健室を後にした。

 

 

「八田君、ああいう追い詰めるような言い方しなくてもよかったんじゃないの?」

 

保健室を出た後、黎は花音に先の言動をとがめられていた。

 

「すいません、どうしても確かめたいことがありまして」

 

「確かめたいこと?」

 

「ええ、ま、収穫はなかったんですけどね」

 

千秋が操られていると花音が知れば、花音の性格上単独で動くかもしれない。そうなったとき、別行動している黎に守り切れるといいきれない。余計な情報を与えることは避けた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その日の帰り道、一人で路地を歩く黎は、何者かに後をつけられていた。迂回、回り道をして撒くことを試みるが、しつこくついてきている。

 

(面倒だな・・・人目のつかないとこに行くか)

 

黎が向かったのは人通りのほとんどない裏路地。それも袋小路だ。チャンスと見たのか、男たちが一気に詰め寄ってくる。

 

(3、4、5・・・5人か)

 

詰め寄ってきた男たちと向き合う黎。そこに焦りや恐怖は全くなかった。

 

「何の用だ?一介の男子高校生1人に大の大人5人で後つけてきやがって」

 

「抵抗しないなら命は助けてやる」

 

「会話ができねえ奴だな、何の用だって聞いてんだけど」

 

「おとなしくしてろ」

 

どうやら有無を言わさないつもりらしい。

 

「ふう、元気なうちはこっちの話を聞く気はねえか。いいぜ、来いよ」

 

男たちは5人で一斉にキャストジャミングを放った。通常の魔法師ならとても戦闘できるような状況ではない。しかし相手が悪かった。

 

「それ、俺には効かねえから」

 

黎にキャストジャミングは通じない。サイオン波を一人の男に向けて放つ。何か魔法を使ったわけではない。ただサイオン波を打ち込んだだけで、男は倒れて動けなくなってしまった。

 

「な?お前らじゃ無理だ。おとなしく用件とだれの指示で動いてんのかを言えよ」

 

しかし男たちは何も言わず、今度は一斉に銃を発砲した。銃は魔法師にも等しく有効で、殺傷性も十分だ。

 

 

命中すれば

 

「だから無理だって。お前らじゃ、俺に傷一つつけらんねえよ」

 

黎は発射された弾丸すべてに加重魔法を発動。重力に耐えかねた弾丸はその場でつぶれ、地面に次々に落ちた。さすがにこれには動揺したのか、数瞬のためらいがあったが、先ほど倒れた1人以外の4人はナイフを片手に体術勝負に出る気のようだ。

 

「学習しねえな。もういいや」

 

黎は「朝」を発動。周囲をまばゆい光が満たし、男たちは視界を奪われる。視界の回復した男たちが次に見たのはーー

 

 

 

 

腹に穴の開いた自身の身体だった。顔が痛みと驚愕によって歪み、声にならない叫びをあげて男たちは意識を手放した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「では、何かわかったら教えてください、藤林さん」

 

「ええ、黎くんにけががなかったのが何よりだわ。気を付けてね」

 

その後、101に連絡を取り、男たちの身柄を拘束しに来た藤林達に引き渡して黎はその場を後にした。

 

(一応達也に知らせておくか)

 

携帯を取り出し、達也に先ほど起こったことをメールで報告する。情報が分かり次第共有するということも書き添えておいた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「八田黎の確保は失敗したのか」

 

「ええ、向かった5人全員返り討ちにあい、身柄を拘束されました」

 

薄暗い作戦室の中、男が不機嫌そうに副官に尋ね、副官が淡々と事実を述べる。

 

「・・・八田についてはいったん放置だ。何よりもまず魔法に関するデータの奪取が最優先だからな。人員はそちらに当てろ。呂上尉」

 

「是」

 

「八田の始末はお前に任せる。手段は問わんし埒も狙わなくていい、とにかく消せ」

 

「是」

 

静かな返事を返す声とは裏腹に、一匹の虎は薄暗い部屋の中で獰猛な笑みを浮かべていた。




自分の書いたものを見てくれる人がいて、感想をくれるってのはそれだけでモチベになるんですね。今後ともマイペースにですが書いていこうと思ってます。


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