仮面ライダーソング (天地優介)
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設定資料
設定資料1・ネタバレ無し


第3話投稿後の方が良いかと思いましたが、第2話あとがきで次は設定資料と書いちゃったので。
ネタバレはないですが、ちょっと短くなるかも?
七月十日、ちょっこと編集。
七月十二日、またまた編集



変身アイテム・レコードライバーについて

 

ハートウェーブの発見者、天城音成の手によって開発された仮面ライダーの変身アイテム。

ハートウェーブの力を最大限引き出す構造になっており、仮面ライダーの精神状態によって戦闘力はおろか、同じライダーズディスクを使っても、変身者によって武器が異なる仕様となっており、まさに心の力を戦う力に変えているといえる。

天城の手によって何重にもプロテクトがかけられており、解析・複製は不可能である。また、適合者でなければレコードライバーは扱えない。

現在五機存在しており、そのうち二機は既に変身者が存在。一機は行方不明であり、残りの二機のうち一つは本編主人公の木村乙音のものとなった。

外見は仮面ライダー3号のベルトを仮面ライダー電王のベルトよりも少し大きいぐらいの大きさにして、風車部分を開くようにして、そこにディスクを入れられるようになったような外見で、風車部分の横に変身者から見て右手側に赤いボタンが、左手側に青いボタンがある。

青いボタンを押して風車部分を開き、ディスクを入れて閉じることによって待機音が流れ、赤いボタンを押して変身する。赤と青のボタンを同時に押して必殺技発動。赤のボタンを一度押すことによって変身を解かずにライダーズディスクをレコードライバーから取り出せる。赤のボタンを2連続で押すことで、特殊能力発動。

作者余談

デザイン的には仮面ライダー3号のベルトと電王のベルトの合体版といった感じ。こういう時玩具にできるかどうかとか、考えなくていいのは2次創作の特権。

 

変身アイテム・ライダーズディスクについて

 

仮面ライダーに変身するためのアイテム。ライダーズディスク内部にはハートウェーブの力を引き出すために『歌』が収録されており、普通の音楽プレーヤーで再生すると、普通にその歌が流れる。

ライダーズレコードは複製可能だが、『歌』はレコードライバーの適合者が精神的に極まった状態で、なにも『歌』が入っていないライダーズディスクを使用することで、初めて『歌』が収録される。このため、たとえ変身者が歌ったことがなくても、ライダーズディスクには変身者の『歌』が収録されることとなる。こうして収録された『歌』は、変身時に変身者が精神的に極まった時に流れ出し、変身者の戦闘力をまるでアニメや特撮で挿入歌が流れた時の様に倍増させる。

また、これ以外にも、とてつもない思いの詰まったハートウェーブを浴びることでも『歌』は収録される。普通の人間にはまず無理だが。

ちなみに、ライダーが『歌』が聞こえる範囲で同時に変身していて、ライダーズディスクから各ライダーの『歌』が流れ出すとどうなるかというと、その場で最も精神的に極まっているライダーの『歌』が優先して流れるようになっている。ただし、ライダー達が目的を一緒としている時はその限りではない。

作者余談

まあ、デュエットはありますよあります。そのための設定ですからね。シンフォギアを想起させる設定ですが、この設定を考えた時はシンフォギアは特に意識してなく、アイドルがライダーやるなら、どんな変身アイテムがいいかと考えた結果です。ちなみに、本編で流れる歌は全部私作詞です。曲はイメージしてください。ちなみに大きさはPSPのソフトぐらいです。

 

用語・ハートウェーブについて

 

天城音成が発見した心の力の具現化、心の力をエネルギーとしたもので、強い思いや感情から生まれる。本作における仮面ライダーはこのハートウェーブを力の源として戦っている。

人類を脅かす敵、ディソナンスはハートウェーブから生まれた存在で、仮面ライダーと同じく、ハートウェーブを力の源とする。

このハートウェーブが最も強く発現するのは『歌』を歌っている時であるが、なぜかはまだ解明されていない。

作者余談

たぶんなんで歌を歌ってる時に一番強く発現するかは解明されないだろう設定。仮面ライダーお約束の敵と味方は同じ力で戦う設定のための設定ですが、割と物語に関わるかもしれない。

 

怪物・ディソナンスについて

ハートウェーブから生まれた怪物であるということ以外はほぼ不明。

作者余談

はい怪物。怪人ですね。実はグリードやファントムみたいにするかそれともアンデッドみたいにするかはまだ決めてなかったり。まあ、ゆっくりと考えていきます。レポートで忙しいしね。

 

変身者・木村乙音について

 

身長160センチ

なんの変哲もない、普通の高校生になったばかりの少女。

レコードライバーの適合者として選ばれた彼女だが、初戦でも見せたようにどんな窮地にも絶望せず立ち向かう強さを持っている。

ライダーのキャラで一番気の合う人は『仮面ライダーウィザード』のハルトマンか、『仮面ライダーブレイド』のケンジャキだろう。逆に気の合わない人は『仮面ライダーエグゼイド』のクロノス社長のような外道だけだろう。

性格は温厚で、天真爛漫という言葉がよく似合う少女なので、男女問わず人気がある。ただし、その分キレた時には鬼となる。普段優しい人ほど起こると怖いものである。

大好物はご飯。嫌いなものは特にない。ゴキブリだって平気。

作者余談

シンフォギアのビッキーに似ていると思う人も多いかもしれませんが、外見的にはマクロスデルタのルンピカちゃんのイメージだったりします。ちなみに、人助けが好きという設定がありますが、これは乙音を仮面ライダーとして戦わせるための設定ですね。こうして書くと、やっぱシンフォギアの設定は秀逸ですね。胸はそれなりにありますね。

 

変身後・仮面ライダーソング・ベーシックスタイル

スペック

パンチ力・40トン

キック力・47トン

ジャンプ力・一飛び50メートル

走力・100メートルを6秒

特殊能力・ジャンプ力強化・キック力強化

木村乙音の変身後の姿。外見は機械的な印象を与えるが、所々に丸みを帯びており、女性的な面もある。カラーは白色。外見を詳細に説明すると、頭部は仮面ライダー響鬼のようなデザインだが、槍のようなツノが生えている。それ以外は仮面ライダーウィザードに近く、腰マントもある。

武装は槍。乙音の『たとえ自分の手の届く所でなくても、助けることのできる力を』というイメージによって槍となった。

必殺技である『full chorus』は槍にライダーズディスクを入れて発動させる『rider spear』とドライバーの赤と青のボタンを押して発動させる『rider shoot』がある。ちなみに『rider shoot』は本来相手に投げつけた槍を蹴って加速させたり、相手の体に刺さる槍をさらに押し込むための技である。

作者余談

外見は、頭部デザインは当初はオーズみたいな複眼の予定だったんですが、致命的にダサいイメージになってしまったので、響鬼やバースのような複眼ではないタイプのライダーフェイスを採用しました。頭部の槍は、そのまんま武器にも使えます。頭部以外のフォルムはウィザードに近いですね。ちなみに、機械的な部分はニューオメガや、超デッドヒートに近い感じですね。正直、主人公ライダーというよりかは、ボスライダーと言われた方が納得できる外見だと思います。




本編とで矛盾点があれば、ご指摘を。
シンフォギアとエグゼイドとジードで、好きなの三連弾とかもう気が狂いそう。レポートで気が狂いそう。シンフォギアについにTSキャラ登場で、もう気が狂った。やったぜ狂い咲きィ!


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設定資料2・ネタバレ無し?

設定資料2です。
投稿強化期間実施中……


仮面ライダーファング/木場真司

 

木場真司

特務対策局所属の仮面ライダーの1人。

正義感が強く、ディソナンスの攻撃から子供を助けようとした所を猛にスカウトされて仮面ライダーとなる。

ミライプロ所属のアイドルでもあり、この時勢には珍しく、グループでの活動ではなく、1人で活動し続けている事から、ファンの間では『一匹狼(ロンリーウルフ)』と呼ばれていたりする。本人はそのあだ名を恥ずかしがっているが、悪い気はしないとのこと。

乙音に対しては、初対面の際には伸び代はあるが、仮面ライダーには向かない性格であると認識していたが、ファル戦での共闘を通じて、その考えを改めている。

ちなみに歌もダンスもできるが、トークだけはできない。それでも仲の良いアイドルや芸能人が多いあたり、人付き合いは上手いようだ。

 

仮面ライダーファング・ベーシックスタイル スペック

パンチ力 右拳60.5t 左拳43t

キック力 38t

走力 100メートルを8秒

特殊能力 パンチ力強化・右拳から牙の生成

真司の変身後の姿。強烈な右拳のパンチ力と鋭い牙で必殺の一撃を放つ事に特化したライダー。仮面ライダーメイジのような巨大な右拳が特徴的で、その右拳から牙を生成する事が可能。

スピードには優れないものの、攻撃力はライダー随一。

外見は仮面ライダーメイジみたいな感じで、色も同じ。顔はソングと同じく響鬼系だが。

作者コメント

実は当初はブレイブのようにツンデレにしようと思ったんですが、いつの間にか序盤から頼れる橘さんみたいなポジションになってしまいました。3号ポジションです。

 

歌解説

 

my song my soul

乙音が仮面ライダーソング・ベーシックスタイルに変身している時に乙音の精神が極まった際に、流れる歌。乙音の信念や仮面ライダーとして戦い続ける覚悟を表した歌である。

 

G fang

真司の曲。アイドルとしての彼は丁寧な歌い方だが、この歌は荒々しい歌となっている。

自らの手に入れた牙で敵を殲滅し、人々を守りきる覚悟を示した歌。G fangのGはgenocideのGであり、guardのGでもあるのだ。

 

ディソナンス・区分

ディソナンスには下級・中級・上級が存在する。

下級はディソナンスにとっては戦闘員のようなポジションだが、まれに中級へ進化しかけている個体など、強力なものもいる。また、下級といえどもハートウェーブの化け物であり、油断すればライダーでもやられてしまう。

下級にはあまり個体差がないが、複数のタイプが確認されており、虫のような外観(というかバッタみたいな見た目)のタイプB、鳥のような外観で、空を飛べるタイプS、堅牢な壁のような表皮と柔らかな中身を持つタイプG、魚のように水中を泳ぎ回るタイプF、機械的な外観でジャンクをかき集めたようなタイプJなどが存在する。

中級は基本的に外観は下級の時のタイプに左右されるが、その強さや能力は下級からは想像もつかないほどの強さであり、仮面ライダーといえども、苦戦は免れない強敵である。

上級は未だ一体のみしか確認されていないが、その強さは圧倒的で、かつての交戦時にはファング、及びもう1人のライダーを一撃で意識不明状態まで追い込んでいる。

また、進化していくほど、力を身につけていくほど人間への擬態能力が上がり、感情や言語も理解できるようになっていく。その上仮面ライダー達と同じく、精神状態によって大幅に強くなる。

これら全てを殲滅するのがライダー達の使命であり、目的である。

作者コメント

さらっと書いてますがディソナンス全員確変時橘さんみたいになる可能性もあったりします。

ましてや上級ともなると精神状態によったらムテキやRXとも互角以上のパワーが出せたりします。もちろん融合係数システムと同じく弱体化する可能性もありますが。

 

 




今回は語ることもなく、短いですね。


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設定資料3・ネタバレなし?

ディソナンス強くしすぎたかなぁ…


ディソナンスの特徴

下級……周辺の環境によってタイプが変化する。

中級……下級のタイプを引き継ぐ。例えば下級時に鳥をモチーフとしたディソナンスの場合、中級に進化すると、鳥としての特性が強化される。

上級……自らモチーフを選ぶ。バラクの場合、中級時には獅子をモチーフとしていたが、上級に進化するにあたり、バラをモチーフとした。名前も変化しているが、これはディソナンスが精神体寄りの存在であり、外見の変化で名前も変化するのが彼らにとっては当たり前であるからだ。

作者追記

ディソナンスのこの特徴に関しては、ライダー側は把握してません。察しはついてますが、確証はない感じです。ちなみに上級のうち、最初から上級だったのは一体だけですが、そいつはかなりヤバイ能力持ちなので、どうしようか迷ってます。

 

仮面ライダーツルギ/心刀奈

 

心 刀奈

 

真司と同期の仮面ライダーにして世界的に有名なアイドル。真司とは仮面ライダーになる前の、幼少期からの付き合いで、いわゆる幼馴染。

日常生活も含めて一見完璧に見える彼女だが、実は割とコミュニケーションを取るのが苦手。アイドルとしてライダーとして活動する中で徐々に解消されてはいったが、今でも何気ない一言で他者を傷つけてしまう事もあり、本人も悩んでいる。また、素のファッションセンスが壊滅的。何を選んでも着こなせてしまうためか、とんでもなくダサイ服の組み合わせを選んでしまう事が多く、マネージャーや真司にその辺りは頼りきりである。しかしその戦闘能力は海外での武者修行の成果もあって、中級ディソナンス複数体相手にも立ち回る事が可能。

 

仮面ライダーツルギ・ベーシックスタイル

パンチ力・40トン

キック力・42トン

走力・100メートルを4秒、特殊能力発動時・マッハ3

特殊能力・速度上昇、武器の強化

 

高速移動に特化したライダー。武器の使用前提で、速度以外のスペックを度外視して作られている。必殺技は武器にエネルギーを集中させる『rider slash』。真司のライダーシステムとはお互いがお互いの欠点を補えるように設計されている。ちなみに乙音のライダーシステムは凡用性重視。

作者追記

刀奈さんはかなり気をつけて書きたいキャラですね。コンセプトとしてはシンフォギアの翼さんみたいな高虎主任です。つまり普通の主任みたいなもんですね。かなりの強キャラです。

 

バラク

パンチ力・素で100トン、最大で500トンまで上昇する。

キック力・素で90トン、最大で400トンまで上昇する。

走力・100メートルを4秒、最大でマッハ4の速度で高速移動可能だが、高速移動時はパワーは落ちる。

特殊能力・破壊特化。感情のパワーによって楽しさを覚えるたびスペックが上昇していく。最大上昇時のパワーを一気に解放すれば東京都を消滅させる事が可能。その余波で日本中に超大規模な地震が発生する。

バラをモチーフとしたディソナンス。上級ディソナンスはある特定の感情によってパワーアップしていくが、彼の場合楽しさを覚えるたびにスペックが上昇、最終的には手がつけられなくなる。

本編ではライダー達の強さを見極めるために手加減していたが、本来ならば乙音などは一瞬でミンチにされてもおかしくはない。また、三年前に真司と刀奈が敗北した相手であるが、その際には2人を一撃で変身解除はおろか、危篤状態まで追い込んでいる。しかし自分の楽しさ優先のため、2人を殺さずその成長を待っていた。

破壊に特化した能力を持ち、絶大な攻撃力を誇る反面、防御力は高くなく、破壊の力を使わなければ必殺技も通る。しかしそれはあくまで他の上級ディソナンスと比べた場合である。また、策略を張り巡らせる頭を持ち、自身の弱点もカバーする方法を考えている。

作者追記

上級ディソナンスはあと複数体いますが、これと同等以上にヤバイやつらばかりだと思っておいてください。ちなみにライダー達も感情のパワーによってどんどんスペックが上昇していくいわゆる融合係数システム持ちなので、なんとか抵抗可能だとは思います。ちなみに、ディソナンスは精神体に近いため実はダクバのモーフィングパワーのようなものとかは効かなかったりします。普通の存在じゃありませんからね。そもそも生物かどうかすら怪しいので。




一応ディソナンスは気合いを入れるというか、俺ならやれる!と思えば重加速にも適応できます。さすがにポーズ相手は無理ですけど。


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設定資料4・ネタバレ無し

新フォームやライダーの設定です。でもネタバレ無しだと書ける事がそんなに……


仮面ライダーソング、D.Sスタイル

スペック・分裂時

パンチ力・53トン

キック力・60トン

スペック・合体時

パンチ力・60トン

キック力・65トン

乙音が新型ライダーズディスクで変身した姿。ベーシックスタイルと比べて飛躍的に戦闘能力が向上しているが、その分ハートウェーブの消費量も大きい危険なフォーム。分裂形態と合体形態を持ち、分裂形態ではとてつもないハートウェーブの消費量だが、完全にシンクロした二人のソングによる攻撃は他を圧倒する。また、合体形態には防御無視機能があり、バラクの破壊のエネルギーによる防御を突破できたのはこの機能のためである。必殺技は分裂形態は槍にエネルギーを集中させる『rider double spear』と、二人のソングの足にエネルギーを集中させる『rider double shoot』の二つが、合体形態にはソングによる両足にエネルギーを集中させる『rider maximum shoot』がある。

ちなみにスタイル名のD.Sはダークネス&シャイン、ダブルソング、デュエットソング……など多くの意味を持つ。

作者コメント

さっそくやられちゃいましたが、本領発揮はまだ先です。中間フォームがロクな出番もなく退場するわけないだろ!(なおオールドラゴン)

 

カナサキ

スペック

パンチ力・90トン

キック力・90トン

最大上昇時はどちらも480トンまで上昇する。

上級ディソナンスの一体であり、『哀しみ』の感情によって力を増すと思われるディソナンス。乙音がゼブラを生み出す事になった一連の出来事の黒幕であり、他の上級ディソナンス達を使って、自らの企みを進めている。

直接戦闘能力ではバラクには劣るものの、それでも激昂して大幅にスペックが上がっているD.Sスタイル相手に余裕を見せるなど、絶大な戦闘能力を誇る。

特殊能力は生命を絶望させる能力。ライダーシステムには精神汚染などに対抗する機能があるが、それでも新型ディスクでも、なんとか戦える程度にしか抑える事が出来ないほどの力を持つ。また、全ての生命を対象とした能力であり、人はもちろん、あらゆる動物や魚、草木ですらも絶望させる事ができる、まさに生命の天敵とも言える能力である。

戦闘中にもペラペラと喋る癖がある。

作者コメント

こいつに関してはとにかく強敵というか、恐敵にしたい、って感じですね。

 

佐倉桜/仮面ライダーダンス

佐倉桜・プロフィール

21歳の新進気鋭のアイドル。デビュー自体は三年前だが、最近まで地下アイドルとして奮闘、そして、本編の二ヶ月前にたまたま出番をもらえたバラエティ番組で、そのトーク力の高さと、歌やダンスといったパフォーマンス力が話題を呼び、今や人気アイドルの一角として名を知られるようになった。

元々アイドルとして大成するという夢を持って、地元の京都から東京へと上京してきており、路上ライブなどを行い、実力を磨いていた。そこを現在所属している芸能プロダクションの社長が目をつけ、地下アイドルとしてデビューする事となった。ちなみに社長との仲は良好で、同じプロダクション所属の他のアイドルともとても仲が良いらしい。

基本的にはアイドルらしいポップで可愛い曲からハードなロック、果ては演歌まで一通り歌う事が可能。また、小遣い稼ぎに正体を隠してダンスバトルをして、「路上フードの悪魔」と呼ばれた事もあり、ダンス、歌共に一級品の腕前。特にダンスの腕には高名なアーティストが目をつけているという噂もある。ちなみにその高名なアーティストとは刀奈の事だったりする。

性格は直情的だが我慢すべき場面では我慢できる人。とはいえストレスは溜まるので、森林浴を趣味としている。もっとも体力が有り余っているせいか、森の深い所まで進む事も多いのだが。

刀奈との共演経験は無かったが、真司との共演経験は何度かある。しかしその時にはいつも恐そうな雰囲気の人だと思って、近寄らなかったらしい。もっとも挨拶などはちゃんとしていたので、真司から悪い印象は持たれていないが。

ファンの事はとても大切にしていて、地下時代はおろか路上時代から自分を支えてくれたファンクラブの人達とは交流があったりする。握手会も頻繁に行っており、ライダーとなった後も欠かしたくはないと思っているようだ。

仮面ライダーダンス、ライブスタイル・スペック

パンチ力・50トン

キック力・53トン

走力・100メートルを3秒

佐倉桜が新型ディスクで変身した姿。ソングのものとは異なり、スペックはやや控えめだが、継戦能力が高い。専用武器「ダンシングポール」を持ち、この棒を使ってポールダンスのような動きで攻撃したりする。

動きの中にダンスの要素を取り入れており、軽快な動きで相手を圧倒する。

必殺技は貯めたエネルギーを一気に放出する『rider over burst』そして、棒を中心に嵐を起こす『rider super storm』と広範囲型のものばかりである。

作者コメント

割とお気に入りのキャラ。元々仮面ライダーシールドという名前のライダーで、変身者も不思議ちゃんの予定だったんですが、ゼブラとキャラ被りするのでツイーンテール勝気娘という私の趣味になりました。話は変わりますが俺ツイいいよね、みんなも読もう!(ダイマ)

 

仮面ライダーボイス・スペック

パンチ力・40トン

キック力・38トン

謎のライダー。変身者の名前はおろか、性別すらも不明である。独自の使命を持つらしいが……?

必殺技はメガホン銃にエネルギーを集中させて放つ『rider cannon』。

作者コメント

………心を鬼して頑張ります。




ボイスの話を考えなくちゃならない、なろうの方も書かなきゃいけない、両方やらなくちゃならないってのが、作者の辛いところだ。


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設定資料5・ライダーをよろしく!

はい、劇場版と各ライダーの強化フォームの設定です。

第2部はかなり間が空くんじゃないかと。一ヶ月以内にはしたいんですが、どうしたもんか…。


仮面ライダーボイス・ブラスタースタイル

スペック

パンチ力・70トン

キック力・72トン

走力・100メートルを4秒

仮面ライダーボイスの強化形態。ボイスの強い怒りに応えたライダーズディスクによって変身した。

ボイスの交戦データによって、ベーシックスタイルには搭載されていなかった歌機能が、ソング達と同じように搭載されている。

専用武器、メガホン銃は拡散弾や狙撃弾などの撃ちわけが可能になり、大きく戦闘能力が向上している。

必殺技は銃にエネルギーを集中させてエネルギー弾を放つ、『rider ultimate cannon』と、大威力の拡散弾を広範囲に放つ、『rider full burst』がある。

作者コメントたぶん一番出すのに苦労した強化フォーム。ちなみにボイスのライダーシステム云々は、ベーシックスタイルで歌わせるのを忘れてた作者の後付けだったりする。

 

仮面ライダーツルギ・シャイニングスタイル

スペック

パンチ力・57トン

キック力・60トン

走力・100メートルを1秒・特殊能力発動時、マッハ5

仮面ライダーツルギの強化形態。過去の後悔を乗り越え、精神的的に刀奈が成長した事により、発現した。

マッハ5以上の速度で走り続けることができるうえ、剣を振るう速度はまさに光速と呼ぶに相応しい速さとなっている。

必殺技は超光速で敵を切り刻む、『rider shining blade』と、剣にエネルギーを込めて敵を両断する『rider omega slash』がある。

作者コメント

割とすんなりやれた強化フォーム。刀奈さんはそれなりに動かしやすいキャラクターです。

 

仮面ライダーファング・ビヨンドスタイル

スペック

パンチ力・100トン

キック力・42トン

走力・100メートルを5秒

仮面ライダーファングの強化形態。きっかけを掴み取り、覚悟を固めた真司の信念に応じて発現した。

強化前は右手に攻撃力が集中していたが、強化後は両腕にパワーが集中し、より攻撃的なスペックとなった。

必殺技は両手を口のように合わせて放つ拳撃、『rider genocide crash』と、右手にエネルギーを集中させ、巨大化した右手で殴り飛ばす、『rider big knuckle』がある。

作者コメント

乙音ちゃん復活前に出そうと思ってたのに、なんでこんなに出すのが遅れてしまったんだろう…真司くんには、謝らなきゃいけませんね。

 

仮面ライダーソング・D.Sスタイルver.Z

スペック・分裂時

パンチ力・60トン

キック力・65トン

スペック・合体時

パンチ力・68トン

キック力・77トン

走力・100メートルを2秒

ソングの強化形態であるD.Sスタイルが、ゼブラとの融合によって、更に強化された形態。version・Z。

以前よりもスペックが向上しているが、必殺技などに変化は無い。

作者コメント

ゼブラちゃんと合体した乙音ちゃんが変身したソング。ゼブラちゃんは元々乙音ちゃんの心の一部だったので、本来ならばこのスペックですね。ゼブラちゃん自身も独立した心を持っているので、グングンスペックが上昇していきます。

 

キキカイ

スペック

パンチ力・80トン

キック力・70トン

四体の上級ディソナンスの一体。「喜び」の感情によってスペックが上昇する。

ディソナンス達の機械系担当であり、その能力はあらゆる機械を支配することも可能。しかし、ソング達のように、ハートウェーブを利用したものは、たとえ機械でも支配できないらしい。

直接戦闘は不得手だが、本編でそうしたように、武器を作ったり戦力を量産したりして活躍する。

作者コメント

割とお気に入りの女幹部。機械系ライダーに対しては無敵と言っていいでしょう。

 

ドキ

スペック

パンチ力・130トン

キック力・145トン

四体の上級ディソナンスの一体。「怒り」の感情によってスペックが上昇する。

最古にして最強のディソナンス。ディソナンスが発生する原因となった事故の際、他の上級ディソナンスに先んじて、一番最初に生まれたディソナンス。自身の存在意義や人が抱く感情に悩み、その真実を突き止めるために動いている。そのため、ディソナンスという種の繁栄のために動く他ディソナンスとは行動原理が大きく異なる。

様々な特殊能力を持ち、髪を伸ばして自由自在に操ることも、腕から刃を生やすことも自由自在である。自らの身体をその構造から作り変えることが可能らしく、火が吐けるようにする事も簡単らしい。

ちなみに本編には出てこなかったが、ドキ用の武器もちゃんとある。ギターを模した武器で、名前は「カン」。音波攻撃を可能にする武器で、正直かなり危険。

作者コメント

実はバーサーカー枠になるはずが、どうしてこうなったな人。第2部でも美希ちゃんと絡むよ!

 

仮面ライダーフューチャーソング

スペック

パンチ力・測定不能(最低でも1,000トン以上)

キック力・測定不能(最低でも1,000トン以上)

走力・測定不能(マッハ5以上ではある)

ジャンプ力・測定不能(スカイツリーをひと跳びで越える事が可能)

破滅の未来世界からやってきたライダー。その正体は木村乙音その人。未来世界で他のライダー達が全滅し、ゼブラも消滅してしまったが、それでも自らの絶望より生まれたゼブラが消滅してしまった事で、二度と絶望できない体になってしまったために、諦めることができず、こうして最強をも越える至高の力を手にしてしまった。

本編ではやってないが、クロニクルに強化されたものでなければ、月も破壊可能らしい。流石に押し返す事は難しいが……。

必殺技は『rider final shoot』と、『rider end spear』の2種類。

作者コメント

好き勝手やってしまえという考えのもと生まれた最強のライダー。正直オールライダーもののラスボスを操ってた黒幕とかそういうレベルの人だと思う。

ちなみにこの乙音ちゃんはハートウェーブで身体を動かしてるような状態なので、頭を潰しても死なないし再生するゾンビみたいなもんと化しています。

 

クロニクル

スペック

パンチ力・取り憑いた対象によって変化

キック力・取り憑いた対象によって変化

走力・取り憑いた対象によって変化

ジャンプ力・取り憑いた対象によって変化

心を持たない物に取り憑く能力を持ったディソナンス。未来世界ではライダー達を一度は全滅させ、地球上の生命の98%を死滅させた。

フューチャーソングの手によって未来世界で倒されたはずが、本編と同じように自身の死を隠蔽し、過去へと飛ぶ。しかし、それを察知したフューチャーソングに追われる。

ちなみに、超能力と一般的に呼称されるものであれば、大抵は使える。

作者コメント

劇場版書いてる途中でいきなり設定が生えた敵。月憑依は本人もヤバイので、最後の手段である(地球に憑依なんてできない)。

 

仮面ライダーソング・フューチャースタイル

スペック

パンチ力・無限

キック力・無限

走力・無限

ジャンプ力・無限

地球に生きる生命の心が一体となって生まれた、最強のソング。その力は文字通り無限であり、月ですら容易く押し返す。

必殺技は『RIDER KICK』。最大出力で放てば、星をも砕く。

作者コメント

実は後半の展開どうしようか悩んだ時に、天啓のようにアイデアが浮かんだライダー。本来3人で押し返すはずが、合体して地球生命総意で押し返すことになりました。

 

 

 

 

 




ライダー達を、これからも宜しく!



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設定資料6 最強! 登場!

正直最近全然感想来なくて悲しみ。モチベーション下がっても頑張るよ。


仮面ライダーソング・O.D.Sスタイル

スペック

ゼブラ分離時(対ゲイル戦闘時)

パンチ力・80トン

キック力・95トン

ゼブラ合体時(対ガイン戦闘時)

パンチ力・130トン

キック力・145トン

走力・100メートルを0.9秒

ジャンプ力・ひととび320メートル

概要

仮面ライダーソング、D.Sスタイルから2基のディスクセッターの力でさらに強化された姿。

D.Sスタイル以上にゼブラの有無によるスペックの幅が大きく、まさにゼブラと乙音、2人がいなければ変身不可能なフォームであると言える。そのため、素のスペックはホープソング以上となっている。

武器は2振りの槍を使う。

必殺技は強烈なキックを食らわせる『Rider Heart Wave』。

作者コメント

実はゼブラちゃん合体時のスペックがドキと一緒。そのドキと同等以上のスペック持ちしかいない7大愛……あいつら普通にライダーラスボス級しかいないからなあ。

なおこのフォームは本編じゃかませである。

 

仮面ライダーデスボイス

スペック

パンチ力・130トン

キック力・135トン

走力・100メートルを0.9秒

ジャンプ力・ひととび280メートル

仮面ライダーデスボイス・オーバーライド

スペック

パンチ力・200トン

キック力・205トン

走力・100メートルを0.2秒

ジャンプ力・ひととび600メートル

概要

ボイスがDレコードライバーで変身した姿。

Dレコードライバーには徐々にディソナンス化していくという副作用があり、それが決定的にボイスの肉体を蝕むことになったのは、オーバーライド機能を始めて使用した時。

あらゆる特殊能力を無効化する能力を持つが、一定以上の相手は、一部しか特殊能力を無効化できないを

デスブレイカー

デスボイスの武器である拳銃。対象を消滅させる。

必殺技は通常時はデスブレイカーから必殺光線を放つ【ライダー インフィニティー シュート】。オーバーライド時には【ライダー アカシック イレイザー】となる。

作者コメント

実は主役の最終フォームより素のスペックは高い。というかホープソングは(ソングの中では)パンチ力とかのスペックは高くなかったりする。

 

仮面ライダーファング・デビルスタイル

スペック

パンチ力・150トン

キック力・75トン

走力・100メートルを1秒

概要

真司がディスクセッターとレコードライバーを用いて変身した姿。

強烈なパンチ力はそのままに、手の部分にあった巨大な牙が無くなり、機動力を増した。

身体中に生えている牙は射出して操ったり、手に持って戦うことも可能。

必殺技は拳に生えた牙で敵に喰らい付き消滅させる『rider devil fang』。

作者コメント

実は強化形態あたりからもう変身音を設定してなかったりする。真司、刀奈、桜! すまない!

 

仮面ライダーツルギ・ゴッドスタイル

スペック

パンチ力・88トン

キック力・92トン

走力・100メートルを0.2秒

特殊能力発動時・光速に到達可能

刀奈がディスクセッターとレコードライバーを用いて変身した姿。真司の悪魔に対し、刀奈は神となっている。

とにかく機動力を高めた結果、時間移動すら可能らしいものの、あくまで理論上であり、それを行えば刀奈は死亡する。

必殺技は超光速で敵を切り刻む『rider God blade』。

作者コメント

多分1番活躍できてないんじゃって人。アメリカ編で唐突に出てきたシキより影が薄いのはまずい気もする。好きなんだけどね……。

 

仮面ライダーダンス・フェニックススタイル

スペック

パンチ力・74トン

キック力・82トン

走力・100メートルを1秒

初変身時

スペック

パンチ力・89トン

キック力・100トン

走力・100メートルを0.9秒

桜がディスクセッターとレコードライバーを用いて変身した姿。

新兵器ストームブレイカーがファイヤーストームブレイカーに変化し、それを用いての飛行のほか、炎の翼による飛行も可能となった。

また、超回復能力を持っており、即死しなければどんな負傷も回復可能である。

必殺技はファイヤーストームブレイカーを利用してのキック技、『rider phoenix strike』と、さらに強烈な竜巻を放つ、『rider over typhoon』。

また、ほかライダーに比べスペックが低いのは、彼女がディスクセッターで使用しているのが通常のライダーズディスクでなく、ビート用のディスクだからである(桜は強化型ライダーズディスクしか自前のライダーズディスクを所持していない。初変身時は真司のライダーズディスクをディスクセッターで使っての変身なので、初変身時のみスペックがほかライダーに迫るものになっている)。

作者コメント

割と読者人気が高い気がする人。私も好きだし動かしやすいしキキカイとは仲良くなるし……これは……コミュ力おばけ……。

 

仮面ライダービート

スペック

パンチ力・53トン

キック力・60トン

走力・100メートルを6秒

概要

アメリカ人の科学者、ショット・バーンとその息子、ロイド・バーンの発明した新兵器、ディスクセッターを用いて変身するライダー。量産型であり、その戦闘能力は個人の技量に大きく左右される。

武器は斧と銃が合体したエルブレイシューター。ちなみにディスクセッターは腕に装着するため、既存のライダーとも互換性がある。また、ディスクセッターには銃としての機能もある。

必殺技はディスクセッターによる強力なエネルギー弾を放つ『beat shoot』とディスク状のエネルギーを飛ばす『beat disk』である。

作者コメント

いいですよね量産型ライダー。乙音ちゃんが変身したのは私の趣味だ。

 

四季・ブラウン/仮面ライダービート・コンダクター

28歳。男性。元軍人であり、ビート開発者のロイド・バーンの親友でもある。その伝手もあるものの、コンダクターの変身者としての立場は自力で手に入れた。

軟派な男であり、趣味はナンパ、女性には目がないなど、一見たよりなさげ。しかし、その心の内には熱いものを秘めており、普段と軍人、戦い守るものとしてのギャップに落とされた女性は数知れない。

現在は乙音に一目惚れし『乙音さん』と呼び慕っているが、女性には基本敬語。彼が敬語を使わない女性は、初対面で刀奈に色目を使っていたら叱られた桜ぐらいであったりする。

真司とは今は友人となっているが、その実『あんな美女軍団に囲まれてただと!? 許せんっ……』となってたりすることもある。特に乙音が真司を先輩呼びした時は凄い顔をする。

 

 

仮面ライダービート・コンダクター

スペック

パンチ力・75トン

キック力・83トン

走力・100メートルを5秒

概要

ビートの指揮官型。アメリカ人と日本人のハーフである軟派な男、四季・ブラウンが変身する。

ディスクセッターとコンダクトドライバーの同時使用により変身する。

エルブレイシューターを武器として使用するが、コンダクトドライバーにはエルブレイシューターとの接続部があり、そこからエルブレイシューターにエネルギーを送り込むことで、エルブレイシューターを用いた必殺技が可能となる。シューターを用いた必殺技は二種類あり、一つ目は斧モードの『over beat Axe』二つ目は銃モードの『over beat gun』となっている。コンダクトドライバーには3つのボタンがあり、向かいからみて右のボタンを長押しで斧モードの必殺技が、向かいからみて真ん中のボタンを長押しで銃モードの必殺技が発動。また、向かいからみて左のボタンを長押しする事で、ディスクセッター第三の必殺技、『over beat burst』が発動できる。また、ディスクセッターによる必殺技も強化されていて、『over beat shoot』と『over beat disk』が発動できる。

変身時はチェンジングカセットをコンダクトドライバーに挿入する事で『ride On?』と電子音声が流れ、右のボタンを押すことで『beat On』の音声と共に変身できる。変身解除は右から順にボタンを押し、最後に左のボタンをもう一度押せば変身解除可能。また、左のボタンから順に押すことでビート自身の肉体を用いた必殺技が発動可能であり、順に押した後、もう一度右のボタンを押せば『over beat tackle』が、真ん中のボタンならば『over beat Punch』が、左のボタンならば『over beat kick』が発動可能である。

作者コメント

実はかなりいろいろできるビート・コンダクター。シキは……うーん。

 

仮面ライダービートコンダクター・フルアーマーカスタム

スペック

パンチ力・98トン

キック力・103トン

走力・100メートル2秒

概要

強力だが扱いの難しい『ビートチューンバスター』を使いこなす為に生まれたビートの更なる強化形態。コンダクトドライバーにある装備拡張用の穴に、フルチューントリガーを挿入し、そのトリガーのボタンを押す事で変身する。この時、ディスクセッターを用いる必要もある。

動きはやや遅くなっているが、ブースターの増設により直線距離のスピードならば速くなり、短時間ではあるが、飛行戦も可能。その他の総合スペックも、7大愛に対抗可能な程にアップしている。

ビートチューンバスター

7大愛のほとんどに有効打を与えられない、ビートのための武器。

銃と剣が一体となったような武器であり、大きさは両手で抱えるが、片手でも扱えそうなほど。持ち手と銃身を繋ぐところにライダーズディスクを挿入できる場所があり、そこにレバーも存在する。レバーを引く事に『ボリュームアップ!』の音声が鳴り、必殺技を発動する。

レバーを1回引けば『消音』。貫通力の高い弾を発射する。狙撃用の必殺技。

レバーを2回引けば『超音』。巨大なエネルギーがチェーンソー状になり、敵を襲う。

レバーを3回引けば『爆音』。エネルギー弾を撃ちだすと、それが爆発して拡散して敵を襲う。

レバーを4回引けば『激音』。強力なエネルギーを放射する。

ディスクを入れた状態でレバーを5回以上引くと『オーバーチューン!』『ボリュームマックス!!』の音声が鳴り、超強力なエネルギー弾が発射される。

必殺技などはコンダクターと共通である。

作者コメント

割と活躍させたいけどなー。

 

 

 

7大愛

天城音成が新たに生み出した新ディソナンス。その中でも特に優れた七体を指す言葉。

最初の七(ファーストセブン)』チューナー。

六閃剣(シックスソード)』エンヴィー。

五指の弾丸(ファイブシューター)』フィン。

堅守の四(ガーディアンフォース)』ガイン。

三閃槍(トライランサー)』ゲイル。

双翼(ツヴァイウイング)』ピューマ。

そして『最後の一(ラストワン)』であり、音成の全てを受け継いだ存在、デューマン。

この七体の脅威こそが、乙音達最大の敵である。

作者コメント

こいつらこそライブ感の塊だよ……と思いつつデューマン以外は予定してた末路を辿りそうではある。

 

仮面ライダーディスパー

スペック

パンチ力・120トン

キック力・130トン

オーバーライド時

スペック

パンチ力・203トン

キック力・230トン

概要

天城音成が変身するライダー。Dレコードライバーを用いて変身する。

カナサキの持っていた他者を絶望させる能力に加え、自らの作った要塞を操る能力、他者の能力を封じる能力などを持つ。

天城音成は愛の探求のため行動を起こしたが、結局のところ彼がわかったことといえば、人類は彼の愛を受け取るに足らない存在だということだった。

だからこそ、彼は無茶な方法でディソナンスの肉体に精神を定着させた今の身体では限界が来ると感じ、デューマンを作ったのだ。

自らの限界を超え、世界を新たに創造するために………

変身音声は

オーバーライド時が

【パーフェクトチューン!】

【デス エンド ソング!!】

【ディスパー!!!】

【オォォォォバァァァァァラァァァァァァイド!!】

必殺音声は

【カーテンコール!!】

【オーバーライド!!!】

【ライダー エンド ソング!!!!】

となっている。

作者コメント

ふー……音成関係はもうガバガバ。

ちなみにDレコードライバーのDにはディソナンスだったりデスだったりディスパーだったり、いろんな意味があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……私達の希望だ!!」

 

【ディスクセェェェット!!】

 

【ドライバー イン ホーープ!!!】

 

 

【オーバー ザ ライド!!】

 

【オーバー ザ フューチャー!!】

 

 

【Yes! ……ソング イズ ホォォォォォプッ!!!】

 

 

仮面ライダーホープソング

パンチ力・120トン〜無限

キック力・135トン〜無限

走力・100メートルを0.8秒〜無限

ジャンプ力・ひととび300メートル〜無限

概要

木村乙音がSレコードライバーによって変身した姿。

白と黒が入り混じった装甲に、足首まである長い腰マントには付箋に乗った音符が描かれている。上半身はそこまで素のソングから変化していないが、肩のアーマーには右肩のものにメガホンの、左肩のものには桜の意匠が盛り込まれており、頭部の形状は通常のソングから大きく変化。丸く大きな両目があり、黒い右目からは牙のようにギザギザとした触覚が、白い左目からは刀のように鋭く反った触覚が伸びている。 そして額には白黒にではなく虹色に輝く宝石がある。

 

ホープソングはどんな状況下においても『希望』であり続ける能力を持つ。そのため、相手に対抗できない場合、対抗可能になる能力が新たにホープソングに生まれる。ただし、それで絶望を打ち倒せるかは変身者である木村乙音次第。この能力の例としては、本編でゲイルの展開していた次元隔絶バリアを無効化した際、この能力が使用されている。

また、Sレコードライバーには乙音が生み出すほかライダー達のライダーズディスクを装入することで、それに応じた武器と必殺技が使用可能。特殊能力に関してはディスク入れ替えなしで使用可能である。

それに加え、ドキ、バラク、キキカイら旧ディソナンスの能力も使用可能であるほか、カナサキの能力も形を変えて使用可能となっている。

まさにこれまでの乙音達の全てが詰まった集大成。希望そのものといえる存在だ。

 

ボディスペック

オーバーボイスライト

右肩のアーマー。ここに描かれているメガホンからはハートウェーブの光線に加え、他者を励まし、癒す効果をもつ音波を発生させることが可能。

 

オーバーダンスレフト

左肩のアーマー。ここの機能により、ホープソングは戦闘時、まるで踊るかのような動きで最適な戦闘行動を取ることができる。

 

クロニクルライドアーム

両腕部。触れた相手の全てを解析可能であるほか、ここから放たれる一撃は脚部の一撃と同じく分子崩壊を引き起こす。

 

オーバーソングプレート

胸部アーマー。ディスクの意匠が盛り込まれている。ここに搭載された機能により、ハートウェーブを他者に希望を与え、その負傷を癒し、さらに邪悪は吹き飛ばし、虚無へと消し去る能力を持った『エモーショナルハートウェーブ』を生成可能。これはゲイルとの戦闘時に生まれた能力である。

エモーショナルハートウェーブは次元干渉に加え、他者からの干渉の一切を防ぐ能力を味方に与えられる。

 

ビートメロディーマント

腰のマント。伸縮自在で、柔らかくも硬くもなれる。これを利用しての防御や攻撃も可能。

 

フューチャーライドブーツ

仮面ライダーフューチャーソングのものに酷似した脚部。そこから放たれるキックの威力もフューチャーソングに迫るものとなる。

 

FTSヘッド

右目には牙の、左目には刀の意匠が盛り込まれた頭部。右目からは相手の防御の隙が、左目からは相手の攻撃の隙が把握可能。

また、額の『クリスタルハートウェーブ』はハートウェーブそのものが固形化したものであり、そのため虹色の輝きを放つ。クリスタルハートウェーブの力により。他者からの干渉の一切を防ぐことが可能で、Dレコードライバーの相手の能力を封じる能力を無効化できる。

 

必殺技

ライダーズディスク交換時音声:【レコード チェンジ!】

 

ボイスディスク

【ボイス アクト!】

【ボイス! ライダー シュート!】

メガホン銃から巨大な光弾を放つ。

 

ボイスディスク(強化型)

【ボイス アクト!】

【ボイス! ライダー ツインシュート!】

ボイスの二丁拳銃『リベリオン』から無数の光弾を放つ。

 

ファングディスク

【ファング アクト!】

【ファング! ライダー パンチ!】

拳に牙を生成し、その牙が相手に喰らい付き、細胞から侵食して破壊する。

 

ファングディスク(強化型)

【ファング アクト!】

【ファング! ライダー オメガパンチ!】

巨大な牙を出現させ、それをパンチで飛ばす。

 

ツルギディスク

【ツルギ アクト!】

【ツルギ! ライダー スラッシュ!】

ツルギの刀で無数の剣撃を重ねて飛ばす。

 

ツルギディスク(強化型)

【ツルギ アクト!】

【ツルギ! ライダー ギガスラッシュ!】

巨大な刀を用いての連続攻撃

 

ダンスディスク

【ダンス アクト!】

【ダンス! ライダー ハリケーン!】

ファイヤーストームブレイカー2基とストームブレイカー1基を用いて巨大な竜巻を発生させる。

 

ビートディスク

【ビート アクト!】

【 ライダー ビート ブレイク!】

ビートチューンバスターを召喚し、そこから光線を放つ。

 

ディソナンス

【フォースメロディー!】

【ユニゾンシュート!】

4体のディソナンスの力を合わせた一撃。

 

ソングディスク

【ソング アクト!】

【ソング! ライダー ストライク!】

ハートウェーブを集中してのキック。

 

ソングディスク(強化型)

【ソング アクト!】

【ソング! ライダー ダブルストライク!】

2人のソングに分身してからのキック。

 

ホープソングディスク

【ホープソング アクト!】

【オーバー ソング!!】

【ソング! ライダー キィィィック!!】

エモーショナルハートウェーブを右脚に集中してのキック。

 

?????

【オール! オール! オール! オール! オール! オール!!】

【オォォォォル! アァァァクトッ!!】

【オォォォォル! ライダァァァァ!! フィニィィィィッシュ!!!】

 

作者コメント

最強のソング。そのポテンシャルはフューチャーソングやフューチャースタイルをも上回るもの!

Sレコードライバーも本編ではソングのルビ振ってたけど、色んな意味があるよ。




感想をくれと言いたい。感想乞食は絶版だぁ……

なおホープソングは設定上ノベルXやビリオンの天敵になれたりする。


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disc1・誕生する音色
My song My soul


そういや女主人公のオリジナルライダーのSSってなかった気がするので初投稿です
多分超不定期更新になると思いますが、やりたい事を全部やりたいと思ってます。
まあ、現段階だとなにもお話を考えてないんですけどね。でもなんとか完結させたいです。
ちなみに、今後劇中で登場する予定の歌は全部オリジナルの歌詞です。

最終話投稿前に、かなり改訂して読みやすくしました。


…かつて、1人の男がいた。

男の名は、天城音成。人が誰しも持つ命の波動…心の力であるエネルギー、『ハートウェーブ』を発見し、世界を揺るがした男だ。

当然、彼は名声を得た、富を得た、人心を得た。しかし、彼の頭脳にも予測できない事があった。

ハートウェーブそのものとも言える、しかし歪んだ存在である怪物『ディソナンス』の出現である。

ハートウェーブから生まれ、ハートウェーブを、人の心を食い物とするこの怪物を危険視した天城は、怪物への対抗手段を生み出す事に成功した。

それが、禁断の扉のカギであることを知らずに。

 

 

 

 

 

 

「…新たな適合者は、まだ見つからんのかね?」

「現在調査中ですが、1人、適合者と思わしき少女がいます。」

「ほう…その少女の名は?」

「はい…その名はーー」

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピピッ!と喧しい電子音が部屋中に響き渡る。

目覚まし時計の音によって目覚めた少女は、時計を見て、一言。

 

「よし!今日も6時に起床!眠気も…無し!」

 

毎朝の習慣を終えた少女は手早く運動着に着替え、日課である朝食前のランニングに出かける。

少女の名は木村乙音。現在16歳で今年の四月に高校に入学したばかりの快活な少女である。

高校生となり両親の教育方針で一人暮らしをする事となった彼女だったが、元々要領がよかったこともあって五月現在、すでに一人暮らしには慣れていた。

一人暮らしに使う部屋としては大きめのマンションの自室を出た彼女は、きちんと鍵を閉めたことを確認してからウォークマンの電源を入れ、朝のランニングへと出かける。

流れる曲はミライプロ所属、実力派の人気アイドル『心 刀奈』の新曲『Destiny change』。一週間前に発売されたばかりの曲だが、変わりゆく運命の中で戦う者を鼓舞するような歌詞と、その歌詞にぴったりと合った力強い刀奈の歌声が乙音の心に響き、すでに彼女は何十回もこの曲を聴いていた。

お気に入りの曲のリズムに乗りながら、すでに走り慣れた近所の公園のランニングコースを走る乙音。そんないつもと変わらない朝に変化が訪れる。

「…お?」

 

乙音の視線の先にうずくまる小学生ぐらいの少女が1人いた。何かを探しているようなその少女を、誰も気にかけてはいない。

しかし、乙音は迷わず少女の元へと駆け寄り「大丈夫?何かあったの?」と優しく声をかける。

彼女の最大の長所であり魅力でもある、彼女の持つ優しさ故の行動である。

うずくまっていた少女は乙音の声に顔を上げると、母親がくれたお気に入りのおもちゃを失くしてしまったと、今にも泣き出しそうな声で話す。

無論、そんな少女を見捨てる乙音ではない。少女を安心させるように柔らかい笑みを浮かべると、少女から失くしたおもちゃの特徴を聞いて一緒に探し始める。

しかし少女と乙音が一緒に10分ほど探しても、おもちゃは見つからない。少女が諦めようしたその時、乙音が言う。

 

「諦めちゃダメ!お母さんがくれた大切なものなんでしょ?なら、絶対に見つけないと!」

 

それでも乙音にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと話す少女に、乙音は笑顔で一言。

「大丈夫!私がやりたくてやってるんだもの!さっ、今度はあっちを探してみよう!」

 

その乙音の言葉に、泣きそうになりがらも頷く少女。そんな彼女たちの様子を見ていた周囲の人々も、徐々におもちゃの捜索に参加する。

そして探し始めてから20分後、ようやく少女のおもちゃを見つけた乙音は少女におもちゃを手渡すと、「もう失くしちゃいけないよ?」と忠告してランニングに戻ろうとする。

しかしーーこの朝に訪れた変化は、これだけではなかった。

 

突如、平和な空気に似合わない爆発音が響く。

その場にいた人々が一斉に爆破音の方を向く中、音のした方向から現れたのは……これまでテレビの中でしか見たことのないような、真っ黒な体の、異形の怪物。

 

「……!?なに…あれ」

あまりに異様な光景に乙音が思わず疑問をつぶやくが、怪物はその疑問に応えず、おもむろに手に持った剣を振り上げると、近くにいた人々を斬りつける。

思わず目をそらしてしまう乙音。しかし、怪物が斬りつけた人々からは、血ではなく黒いエネルギーのようなものが吹き出し、それを怪物が取り込んでゆく。そよ様相を見て、呆けていた人々はやっと状況を理解したのか、悲鳴をあげて逃げ始めた。

乙音が突然の状況についていけず混乱する中、通報によって駆けつけた警官隊が怪物に向かってすぐさま発砲する。

しかし怪物は銃撃を意に介さない。警官隊に向かって怪物が手を振ると衝撃波が発生し、警官隊も乙音達も吹き飛ばされる。

思わず、おもちゃを捜していた少女をかばう乙音。衝撃で少女は気絶してしまっていたが、外傷は少ない事に乙音はほっとする。

だが、怪物はひと息つく間もなく変化を見せる。怪物の真っ黒な体から光が放たれ、その次の瞬間には、怪物は新たな姿となっていた。

これまでの黒一色の体とは異なり、怪物は緑色と黒色が混じり合ったような体色を待つ、バッタと人を融合させたような外見へと変化していた。

その姿に恐れをなし、乙音も少女を抱えて逃げようとするが、衝撃波で吹き飛ばされた時の打ち所が悪かったのか、うまく走ることができない。

そんな乙音の様子に気づかない怪物ではない。乙音に目をつけた怪物は、彼女に向かって飛びかかった。

 

(…………!)

 

ここで、自分の短い人生も終わりか…。

そう思いながらも、少女だけは守ろうとする乙音。しかしその時、一発の弾丸が怪物を吹き飛ばす。

弾丸が飛んできた方向を乙音が見ると、なにやらメガホンのような形状の銃を構えた、黒いスーツにサングラス、そして黒髪の短髪という外見の女性がベルトのようなものを手にとり、こちらへと歩み寄ってきていた。

助けられた礼を乙音が言おうとすると、女性は乙音の発言を制す

る。

ーーそして次の一言が、乙音の運命を変える言葉となった。

 

「…あなた、あの怪物と戦うための力が欲しい?」

「戦うための…力?」

「欲しいのなら、これを…レコードライバーを腰に当てなさい」

 

女性の言葉に戸惑う乙音。しかし、女性のこちらを射抜くような真剣な眼差しに、乙音は思わず女性の言葉に頷いていた。女性の言う通りにレコードライバーというらしい機械を腰に当てると、自動でベルトが展開され、乙音の細く女性らしい腰に巻きつく。

乙音がそれに驚いていると、女性が小型のディスクのようなものを渡してきた。

 

「それを腰のレコードライバーに入れて、青いボタンを押せば入れる所が開くから」

 

乙音がレコードライバーの左側にある青いボタンを押すと、ベルトの中心部が開く。そこには小型のディスクがちょうど入りそうだった。

そこにディスクをはめ込み、蓋を閉じると……

 

『change the Record!』

という声がベルトから響くとともに、レコードライバー内のディスクが風車のように回転を始め、まるで歌のイントロのような音が流れる。

戸惑う乙音に、女性は赤いボタンを押せと言う。

その言葉に従い、赤いボタンを押す乙音。気がつけば、怪物はこちらへ向かって走り出している。

こちらへと走ってくる怪物の姿に覚悟を決める乙音。その時、レコードライバー内のディスクの回転がより激しいものとなり…。

 

『My song My soul!』

 

乙音の頭上にディスク型の光が現れ、乙音の体を通過してゆく。

そして、光が足元まで届いた時……乙音は、自分の体が変化した事に気付いた。

 

「……なんか、不思議な気分………って、うわっ!?」

 

飛びかかってきた怪物に、乙音ら反射的にパンチを繰り出す。すると怪物がかなりの勢いで吹き飛んでゆくので、乙音は目を剥いて驚いた。

 

「これは…この力は!?」

 

力に戸惑う乙音に、黒スーツの女性が告げる。

 

「あなたが今手にしたのは、仮面ライダーの力…。あの怪物……『ディソナンス』と同じくハートウェーブを力の源として戦う、未来を守るための戦士としての力よ」

「え………ええっ!?」

かくして、少女は………乙音は戦うための力を手に入れた。

この先に、どんな運命が待ち受けているかも知らずに…。

 

 




というわけで、次回、初戦闘に初歌です。歌の歌詞を考えなきゃ…。
あ、レコードライバーと、ディスク……ライダーズレコードに関しては、次回で説明します。解説も書きます。多分。


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変身、その力。その歌。

書いてて途中で消えたので初投稿です。


「こ、この姿って…!私、変身したの!?」

 

自分の体が変化した事に困惑していた乙音だったが、改めて自身の状態を確認する事で、まるで、テレビの中のヒーローのように鎧のようなスーツを装着している事に気づく。

スーツは白く、機械的な外見をしている。しかし、所々に丸みを帯びている所もあり、女性的な部分も見受けられるデザインだ。

 

「理解が早いようでなによりだ。ここで自己紹介させてもらうが、私は大地香織という。よろしく」

「あ、よろしくお願いします。……じゃなくってぇ!この姿ってなんですか!まるで、テレビのヒーローのような…」

 

黒スーツの女性…大地香織と名乗った女性のペースに飲まれそうになる乙音。しかし、乙音には女性の名前よりも聞きたい事があった。もちろん、この姿についてだが……。

 

「さっきも言ったが、その姿は仮面ライダー。未来を守る戦士の姿だ。」

「そういう事じゃなくって…!」

「冗談だ。それよりも、説明は後のほうがいいと思うが。ヤツが迫ってきている」

 

香織の言葉に、怪物が吹き飛んだ方向を見ると、先ほどよりも凄まじい勢いで迫って来ている怪物の姿があった。

 

「……後でちゃんと、あの怪物のこととか、この姿のこととか、説明してもらいますからね!とりあえず、危ないから退がっててください!」

「あの怪物の名はディソナンスという。あと、ひとつアドバイスがあるのだが」

「…なんですか?」

「戦いはノリの良い方が勝つ」

「……そういうことなら、私の得意分野だ!」

 

その言葉と共に、ディソナンスと呼ばれる怪物へと駆け出す乙音。怪物が目の前に来た瞬間、怪物を吹き飛ばした時と同じ様に、パンチを繰り出す。

吹き飛ばされるかと思われた怪物だったが、足の筋肉を膨張させて耐えると、そのまま蹴りを繰り出す。

蹴りを受け、たまらず吹き飛ばされる乙音だったが、すぐに立ち上がり「負けるかぁ!」と叫ぶと再び怪物に向かって駆け出そうとする。

その時、レコードライバー内のディスクが、回転とともに輝きを放ち、その輝きが乙音の手の中で収束すると、マイクスタンドほどの長さの槍が乙音の手に握られる。

 

「これって……なんだかよくわからないけど、やってやる!」

 

槍をその手に怪物に近づくと、手にした槍を乙音はがむしゃらにふるう。

素人丸出しの攻撃だったが、乙音による渾身の一撃は怪物を怯ませる。そのまま更に攻撃を加えようとする乙音だったが、再びレコードライバー内のディスクが輝き出す。

 

「今度はなに!?」

 

一旦怪物から距離を取ろうとする乙音だったが、ここで予想外の出来事が起こる。

 

レコードライバー内のディスクから、『曲』が流れ出したのだ。

 

「……え?」

 

突然の事に困惑する乙音。しかし、怪物は空中へと飛び上がると、乙音に蹴りを放ってくる。

槍で迎撃する乙音、しかし、怪物のパワーに押され始める。

「ぐ……うおおおお!」

 

負けじと気合を入れる乙音。その瞬間、『歌』が流れ始める。

 

『私の、魂を歌いあげればーー』

 

「へ?これって、私の声!?」

 

戸惑う乙音。しかし、『歌』を聴いていると、なにやら力が湧いてくる感覚を乙音は覚える。

 

『砕けぬ、敵なんかない。響かぬ、心なんてない』

 

その感覚に身を任せ、思い切り槍を怪物に向かって突き出す乙音。膨張した怪物の足が元のものに戻り、吹き飛ばされる。

 

『私の心の力をーー』

『誰かを救う武器と変えてーー』

 

「今だ!赤いボタンと青いボタンを同時に押せ!」

 

香織の言葉に従い、レコードライバーの、赤と青の二つのボタンを同時に押す乙音。その瞬間「full chorus!」という声がレコードライバーから響くと同時に、乙音の体に力が漲る。

 

『守る、ために戦う、戦士となぁってーー!』

 

力が、乙音の足に収束する。

先ほどの怪物と同じ様に、中へ飛ぶ乙音。しかし、怪物よりもずっと高く、ずっと早く。

 

『繰り出せ!キックを!突きだせ!槍を!』

 

最高度まで乙音が達した時、レコードライバーから「rider shoot!」という声が流れ、その瞬間、乙音の体は怪物へと向かって急降下を始める。

 

『怖くてっても、逃げ出さない。人助けが好きだから!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

咆哮と共に、怪物に飛び蹴りをくらわせる乙音。怪物もとっさに腕をクロスさせてガードするが、あまりの威力に怪物の腕にヒビが入っていく。

 

『歌え!魂を!守れ!自由を!』

 

そして、乙音が更に力を込めた瞬間、ヒビが怪物の身体中に走りーー

 

『それが!それが!それが!それが!それが!』

 

「『仮面ライダーだぁぁぁぁ!』」

 

歌と共に、乙音が叫んだ瞬間。怪物の身体は粉微塵に砕け散る。

 

渾身のキックにより、乙音が勝利したのだ。

 

「やった、の……?」

「ええ…お疲れ様。木村乙音。ナイスな戦いだったわ」

「あ、ありがとうございます。………あれ?なんで、私の名前を?」

 

香織が自分の名前を知っている事に疑問を覚える乙音。しかし、香織は乙音の質問に答えず、一言。

 

「それについては、後で説明するわ。とりあえず……」

 

その香織の言葉と共に、2人のそばに黒塗りの車が止まる。その中から香織と同じ黒スーツの屈強な男達が現れる。

 

「私達に、ついてきてもらえるかしら?私達、特務対策組織に」

「あ、はい……」

 

自分に拒否権がない事に気付いた乙音は。大人しく香織の言葉に従い、車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、このスーツってどうやって脱ぐんです?」

「……それを言うのをうっかりしてたわ」

 

この人たちについて行って大丈夫かな、と色々な意味で心配になる乙音だった。

 

 

 

 

 




はい、挿入歌です。とりあえず『』で囲ってます。
しかし、スマホで書いてるんですが、結構時間かかりますね……。楽しいですけど。
次は、設定資料の予定です。ネタバレはないのでご心配なく。


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ようこそ仮面ライダー

説明回です。
エグゼイド放送短縮させてDBとワンピにぶつけたテレ朝ぜってえ許さねえ!
今作もできるだけ頑張ります。


「…それで、私はどこに連れて行かれるんですか?」

 

謎の怪人を倒した後、大地香織と名乗った黒服の謎の女性に窓まで黒塗りの車に乗せられ、不安になっている乙音。「仮面ライダー」というらしい姿に変身して、元の姿に戻る方法がわからなかったが、今はちゃんと変身解除しており、元の姿に戻って車に乗っている。

車の運転席は見えない作りになっており、窓も黒く塗りつぶされているため、外の光景は見えないようになっている。そして横にはただ者ではない雰囲気を放つ名前以外素性不明の女性。乙音が不安がるのも無理はないことだったが。

 

「いずれわかるわ。それよりお菓子食べる?」

 

この調子である。この女性、かなり天然なようである。

 

「いえ、いいです。それよりも、さっきの質問に答えてくれませんか?」

「どこに連れて行くかという問いには、目的地に着いた時に答えてあげる。あの怪物がどんな存在かという問いになら、今ここで答えてあげる」

「…それじゃあ、あの怪物について教えてください」

 

乙音が今一番知りたいのは自分がこの後どうなるかについてだったが、あの怪物についてのことも知るべきことである。色々言いたいことをぐっと抑えて、怪物についての情報を乙音は得ようとしていた。

 

「あの時言ったように、あの怪物の名はディソナンスというわ。ただし、個体名ではなく、種族名よ」

「種族名?ということは、あの怪物みたいなのが、いっぱいいるんですか?」

 

思わぬ事実に戦慄する乙音。あの怪物だけでも恐ろしかったのに、あんなものが種族単位でいると聞かされ、驚きを隠せていないようだ。

 

「ええ。……あなた、五年前、新宿で起きた爆発事故を知ってる?」

「はい。確か、一時期はテロリストの仕業とも言われた事故で、多数の死傷者を出したっていう…事故のことですよね?」

「そうよ。あの事故でね…ディソナンスは生まれたの」

「…っ、どういうことですか?」

 

五年前ーー新宿で起きた爆破事故。未だテレビでも取り上げられることの多い、その事故がディソナンスが生まれた原因だという香織の言葉に驚く乙音。そんな乙音を気にせず、香織は続きを話す。

 

「ハートウェーブというエネルギーがあってね。人の心の波動…それを元にしたエネルギーであるこれの研究をしていたの、私も研究チームの一人だったわ」

「ハートウェーブ…そんなエネルギーが?それに、研究チームだったって…」

「まさに夢のようなエネルギーだったわ……でも、あの爆破事故で全てが変わってしまった」

「爆破事故で…?」

「新宿にはね、ハートウェーブを研究するための地下施設があったの。あの時はハートウェーブを利用した発電機の起動実験の最中だったわ……。突然、発電機が爆破したかと思うと、次に目覚めたのは病院のベッドの上だったわ…」

「そんな事が…でも、その話とディソナンスにどういう関係が?」

 

今まで驚いてばかりの乙音だったが、肝心のディソナンスについてはいまいちわからない事ばかりで、思わずディソナンスとの関係性を聞く乙音。そんな乙音に「そう急かさないの」と返した香織は、ついにディソナンスの発生について語る。

 

「発電機の爆発は、あまりに強大なハートウェーブが発生したためだと、当初はそう思われていたわ。でも、違った。強大なハートウェーブによって生まれた怪物が原因だったの」

「それがディソナンス…ですか?」

「ええ、ハートウェーブから生まれた奴らは、ハートウェーブ…人の心から生まれたエネルギーで体を構成している。だから、より強いハートウェーブを求める傾向があるの。発電機の爆発は、ハートウェーブを求めて発電機に対して何らかの手を加えただろうディソナンスが原因ね」

「でも、何でそんな事がわかったんですか?」

「後からディソナンスの存在が確認されたのと、監視カメラの映像からよ。幸い、監視カメラの映像は爆破事故が起きた研究所とは別の所に保存してあったから」

 

香織の口から、思わぬ真実が語られる。あの怪物はハートウェーブというエネルギーから生まれた存在であるというのだ。普通なら信じることなど出来ないだろう真実だが、実際に仮面ライダーとしてディソナンスと戦った乙音としては、信じるしかなかった。

 

ここまで語って、全て話したと言わんばかりに口を閉ざす香織。しかし、乙音にはまだ聞きたい事があった。

 

「……じゃあ、あの、仮面ライダーってどんなーー」

「着いたわよ、降りて。……それについては、後で話してあげる。今は合わせたい人がいるの」

 

だが、タイミング悪く、乙音が質問しようとした瞬間に、目的地に着いてしまったようだ。香織に下車を促され、後で話してくれるならと、渋々香織の言う通りにする乙音。車を降りた乙音の目に飛び込んできたのは、山奥にポツンと建つ、巨大な建造物だった。

 

「……ここが目的地。私たち特務対策局の秘密基地よ。さ、中に入って。局長が待ってるわ」

 

特務対策局というらしい組織の、巨大な「秘密基地」の姿に圧倒される乙音。しかし、香織が乙音を置いてさっさと中に入ろうとするのを見て、慌てて後を追う。

 

歩くスピードの早い香織に着いて行くと、三階まで上がり、局長室と書かれた部屋の前で、香織が立ち止まる。香織にぶつかりそうになって、慌てて止まる乙音。そんな乙音を気にせず「局長、適合者をお連れしました」と言うと、返事も待たずに部屋に入っていく香織。乙音も少し躊躇ったものの、後ろには車の前の座席に乗っていた黒服の男二人がいるので、無意味に頭を下げつつ「お邪魔しま〜す……」と一言言ってから部屋に入る。

 

局長室の中は広いが、装飾品の類は少なく、その代わりと言わんばかりに大きな、人が三人は寝転がれそうな机が置いてあり、その机の奥に一人の男性が立っていた。

この人が局長なのだろうと、あたりをつける乙音。香織が「本山局長、この子が以前お話しした適合者です」と話している所を見るに、その予想は当たっていたようだ。

香織の言葉に、ゆっくりと振り向く本山と呼ばれた男性。その身は香織達と同じく黒いスーツに包まれており、その眉間には深いしわが刻まれている。顔からして、四十代前半といった所だろう。

本山は振り向くと、香織に「ご苦労」と一言かけると、乙音の近くまで歩いてくる。

まるでヤクザに詰め寄られているかのような気分になり、思わず怯える乙音。しかし本山は乙音の側まで寄ると、ずいっと乙音の体を観察し始める。

あまりの事に当惑する乙音。本山はひとしきり乙音の体を観察して、一言。

 

「素晴らしい………」

 

「……………………………へ?」

 

「素晴らしいと言ったのだよ!ああ〜よくこんな素晴らしい子を見つけてくれたね香織君!これならばプロデュースのしがいがあるというもの!」

 

「え、あの、「君が木村乙音君だね!?」は、はい!」

 

「ようこそ仮面ライダー!こんにちはアイドルの卵‼︎私は特務対策局局長にしてアイドル事務所ミライプロの社長!本山猛だ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早く他のライダーズと怪人出したい……!正直、まだ1話ぐらいだし!
それはそうと早くエグゼイドの挿入歌発売して。


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アイドルライダー?

まーた説明会だよ!しかも前回の更新から間空いてるし!
でも今回はサプライズ。あります。



「……でも、なんでこんな…秘密組織のトップが、アイドル事務所の所長を?」

 

ここは、日本のどこかの秘密基地。特務対策局という、ディソナンスと日夜戦いを繰り広げている秘密組織の基地である。

その秘密組織のトップ、特務対策局局長、本山猛と乙音は話していた。

いきなりハイテンションの猛に詰め寄られて動揺していた乙音だったが、香織が猛の暴走を制止したのと、猛の性格以上に気になることがあったので、落ち着きを取り戻していた。

猛の性格以上に気になることというのは、猛がアイドル事務所の所長をやっているという事実である。

秘密組織のトップが、アイドル事務所の所長として働いているという事実に、乙音は困惑していた。

 

「その事を聞かれると思ったよ。私がアイドル事務所の所長をやっている訳を話すには、少し長い前置きが必要だが……聞くかね?」

 

猛のその言葉に乙音は頷く。はぐらかされるかもしれないと思っていたので、すんなり話してくれるのは以外だったが、乙音にとっても知りたい事である。

 

「……よし。さて、乙音君。君はディソナンスがハートウェーブ……人の心、そのものともいえるエネルギーから生まれたというのは、聞いているね?」

 

「はい。えっと……確か、五年前の爆発事故で生まれたんでしたっけ?」

 

「そう、その通りだ。ここで重要なのが、奴らの体がハートウェーブで構成されているという事だ」

 

「体がハートウェーブで構成されてる…?あ、つまり、ハートウェーブを吸収したらどんどん強くなるって事ですか?」

 

「やはり、君は聡明だね……。ますます気に入ったよ。どれ、今からでも我が事務所に……」

 

「所長、早く続きをお話ししてください。無駄話をしている時間はありません」

 

「わかったわかった香織君。わかったから、その蛇も仕留められそうな鋭い眼をやめてくれたまえ……!」

 

マイペースな二人の会話においてけぼりになる乙音。その事に気付いた猛は「コホン」と咳払いを挟んでから続きを話し始める。

 

「そう、ハートウェーブを取り込む事により成長していく奴らは、その事に気付き、人を襲い始めた。ハートウェーブを多く持つ人間をだ。ハートウェーブ自体は全ての生命が発するものだが、奴らはより効率的に吸収できる相手を狙う事にした。」

 

「そして、人間の中でももっともハートウェーブを多く持つ者が多い職業が、歌手だ。なぜかわかるかね?」

 

「えっと……ハートウェーブは心の力だから、心に浮かんだ歌詞を歌う人とかは、ハートウェーブを多く持つ…とかですか?」

 

「そう!その通りだよ!君達仮面ライダーが歌を力として戦うのも、それが最もハートウェーブを効率よくエネルギーに変える事ができるからだ。ハートウェーブと歌は密接な関係にある。だからこそ、奴らディソナンスも歌手を狙う事が多い。その対策としての、アイドル事務所だよ。」

 

「……アイドル事務所を使って、ハートウェーブを多く持つ人を保護したり、探したりしているって事ですか?」

 

「そうだ。そして、君の他に二人の仮面ライダーがいるが、彼らにもアイドルとして活動してもらっている。仮面ライダーに変身するためには、変身アイテム……レコードライバーに適合できなくてはならないが、ライダーズレコードを起動させるには、大量のハートウェーブが必要だ。転じて、アイドル活動をライダーの変身者が行う事で、ディソナンスを誘い出すこともできる。そして、私の趣味も満たされるということだ。」

 

アイドル事務所の所長を猛が局長との二足のわらじで勤めていたのは、ディソナンスへの対抗策の一つだったようだ。半分くらい自身の趣味のようだが。

この1日で今までの自分の世界がだいぶ様変わりしてしまったな、と感じる乙音。しかし、乙音の心はすでに仮面ライダーとして戦うことを選択していた。この後猛から仮面ライダーとして戦い続ける覚悟はあるか、アイドル事務所ミライプロのアイドルとして活動してくれるかという問いがあったが

 

「……私は、歌も、戦いも素人ですけど。それでも、あの時ディソナンスに襲われた時に感じた恐怖を、もう誰にも味合わせたくないと、そう思っています。だから!戦います!これは、私がすべき事だと思うので!………アイドルは、ちょっと保留でお願いします。」

 

非常に残念そうな顔をしながらも、乙音の覚悟に対して「ありがとう」と謝辞を述べる猛。今日はもう家に帰ってもいいと、香織に乙音を家まで送らせようとした、その時ーー

 

ビッー!ビッー!ビッー!ビッー!ビッー!

 

突如、基地内の警報が鳴り響く。戸惑う乙音と対照的に、迅速に状況を理解する猛と香織。

 

「……どうやら、ディソナンスに後をつけられていたようです。上級及び中級はおりませんが、下級の群が基地を襲っています。」

 

「ハートウェーブを纏えない通常兵器では奴らには効果はほとんどない……メガホンガンは?」

 

「十二分にありますが、耐久性の高いディソナンスがいるらしく、そのディソナンスに阻まれて他のディソナンスに攻撃できないようです。」

 

「……彼は?」

 

「すでに出撃準備は完了しています。2分後には到着するかと」

 

「そうか。あ、乙音君。心配ないから座って待「私、行ってきます!」………行っちゃった。」

 

「彼女は優秀です。それに、彼もいますから、それこそ心配ないでしょう。」

 

「だと、いいんだけどね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

仮面ライダーへと変身した乙音は、基地の外に飛び出す。すると、そこには初変身の時に戦ったバッタのようなディソナンスに襲われる基地の職員の姿が。

 

「ッ!この!」

 

槍を召喚し、ディソナンスを吹き飛ばす。襲われていた職員の無事を確認すると。「うおおおおおお!」と声をあげて果敢にディソナンスの群に立ち向かう。

敵の数は五体。うち四体はバッタ型のディソナンスだが、一体だけ堅牢な壁を思わせる風貌のディソナンスがいた。

そのディソナンスが指揮官かなにかだろうとあたりをつけて攻撃する乙音。しかし………

 

ガキィーン!

 

「…ッ⁉︎堅い⁉︎……うぁっ⁉︎」

 

槍を弾かれ、驚く乙音。そこにバッタのディソナンスが強烈な蹴りを加えてくる。直撃を受ける乙音。

 

「ぐ……まだまだ!」

 

それでも立ち向かうが、多勢に無勢。相手の連携に徐々に追い詰められていく。

そして、ついに膝をつきかけたその時ーー

 

 

 

 

 

 

「……変………身‼︎」

 

 

 

 

 

その声と共に現れ、ディソナンス達を蹴散らす影。

その影は牙を思わせる刺々しさと、巨大な右手を持っていた。

その、影の名はーー

 

 

「仮面ライダーファング………さあ、俺の牙の餌食となれ!」

 




新ライダー登場!
ノリノリで逝くぜ〜?とはならないので安心してください。
あとウルトラマンジードでキングがそんなにチートじゃないなと思ってしまった。いや、宇宙一つに憑依して復元できるって確かにすごいんですけど、頭の中に虚無戦記トップクラスレベルの奴らがゴロゴロいるせいでチート感が無いというか……


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G FANG

今回のお話を途中まで前書きの方に気づかず書いていて、死ぬほど焦りました。
今回はさっそくの挫折と復活です。超急展開ですが、乙音の成長のためには必要な事。
最近はアクティヴレイドを見てます。また新しい小説書きたくなっちゃう…なろうでも書いてるのに…


「この程度か…やはり、下級は下級か」

 

仮面ライダーファングーーそう名乗る仮面ライダーが現れてからたったの1分で、バッタ型のディソナンスは全滅していた。

名乗りの直後に背後から襲いかかってきたディソナンスを巨大な右手で迎撃、そのまま牙のような鋭さを持つ右手の爪で切り裂くと、残りのディソナンスも同じように切り裂いてゆく。

まるで獣のような荒々しい戦い方。しかし、その一撃はいずれも一撃必殺の威力である。

ファングはソングーー乙音の方をちらりと見ると、「よく見ておけ」というセリフと共に硬い壁を思わせるディソナンスに突撃していき、それと同時に歌が流れ始める。ファングの戦闘スタイルのように荒々しい歌が。

 

『牙を突き立てgenocide』『覚醒する血が煮え滾る』

 

『拳振り上げgardする』『熱き怒りがハート動かす』

 

 

巨大な右手、そこにある牙がディソナンスに襲いかかるが、乙音の時と同じようにディソナンスの硬さに弾かれてしまう。

 

「Gタイプ、それも中級へ進化しかけている個体か。厄介だな!」

 

『stance曲げずに突き抜ける』『牙を用いて我を通す』

 

『fang……奴ら喰らいつくすまで…』

 

そう言いつつも戦い方は変えず、攻撃し続けるファング、すると、あれだけ堅牢だったディソナンスの身体に徐々にヒビが入っていく。

 

「だが、この程度ならばいくらでもいる!」

 

『折れる事は許されない』『己の我と牙研ぎ澄ませ』

 

その言葉と共に、ディソナンスの身体が砕け散る。いや、砕け散ったのは硬い表皮の部分のみのようだ、鎧のような表皮の隙間から、柔らかな体躯が覗く。その事実に気付き、背中を見せて逃げようとするディソナンス、しかしその行動こそが命取りだった。

 

「今だ……!」

 

『full chorus』

 

『それが正義というならば……』

 

『rider crash!』

 

『「俺はそれを貫き通す!」』

 

ファングが必殺技を発動し、彼の右手にエネルギーが収束し、その拳からエネルギー波が発射される。

そして、逃げようとするディソナンスをエネルギー波が捉えーー

 

 

ゴォォォォォォン……

 

という鈍い音と共に爆発した。完全撃破だ。

 

「す、すごい…」

 

感嘆する乙音にファングが変身を解除して近づき、手を差し伸べてくる。

 

「立てるか?」

 

「は、はい。あの、ありがとうございました。」

 

「礼はいい。……それよりも、さっきの戦いを見てどう思った」

 

「……私はまだまだ弱いと思いました。さっきだって、ファングさんは敵に囲まれないように戦っていたのに、私は敵に囲まれて攻撃をいいように受けちゃいましたし……」

 

「木場真司だ」

 

「え?」

 

「俺の名前だ。戦闘時以外はそれで呼べ。呼び方は何でも構わん………二度目でそこまでわかるなら上出来だ。そう自分を責めるな」

 

「せ、責めてなんか…」

 

「ならば、なぜ泣いている」

 

「え……?」

 

その言葉に乙音が自身の頬を触ると、一筋の涙が流れていた。その事に気づき、乙音は涙を拭おうとするが、涙は止まらない。

 

「なん、で……」

 

「今のうちに泣いておけ。…今お前が泣いているのは、お前の実力が足りなかったからだ。しかし、これからは涙を流す事は許されないような戦いに身を投じていく必要があるだろう……。どうしても泣きたい時は、仮面の下で涙を流せ。俺達は仮面ライダー。人類の守護者だ。人に涙は見せられない。……どうしても戦いが怖いのなら、ライダーを辞めろ。それがお前のためだ」

 

「……怖く、ないです」

 

「だといいんだがな。……まあ、これからよろしくな、後輩」

 

「はい……」

 

こうして、乙音と、先輩ライダーである仮面ライダーファング、木場真司との邂逅は果たされた。

しかし、乙音は戦いに確かに恐怖していた。戦闘中は耐えれていたが、気を抜いた瞬間、乙音自身も気がつかないうちに涙を流してしまっていた。

その後、香織に送られて無事家へと帰り着いた乙音だったが、家には乙音以外誰もいない。

 

(……一人が、こんなに寂しかったなんて)

 

それまで孤独など感じた事はなかった乙音だったが、誰もいない部屋は、彼女を世界から遮断する鳥籠のようだ。

 

しかし、仮面ライダーとは孤独を感じて強くなるものである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、ディソナンス発生の報を受け、現場へと変身して急行する乙音。その心には、恐怖と迷い。しかしーー

 

「なに……これ……」

 

乙音の目の前にあったのは……繭。黒い、繭だ。

 

『乙音ちゃん、聞こえる?』

 

「香織さん⁉︎あ、通信機能もあるんだ…」

 

ピシ

 

『便利よ、これ。それよりも、気をつけて。奴ら…ディソナンスが進化するわ』

 

「進化…?」

 

ピシ、ピシ、ピシ

 

『ええ、今までのディソナンスが下級……そこから生まれ出てくるのは、中級のディソナンス…』

 

ピシ、ピシ、ピシ…ピシピシピシピシピシ!

 

「香織さん、繭が…!」

 

『乙音ちゃん…!気をつけて!』

 

繭が、割れる。

 

割れた繭。そこから生まれ出てきたのは……

 

赤の体躯に猛禽類を思わせる爪と翼。

 

まるで鷲のような風貌のディソナンスだった。

 

「人間……それも、仮面ライダーか、面白い……相手をしてやろう!」

 

「っ…喋った⁉︎」

 

『中級以上はより効率的にハートウェーブを摂取するために人語を解するようになるわ!そして、感情も…!』

 

「さあ、我を楽しませてみよ!我が名はファル!大鷲のディソナンスよ!」

 

『感情も、解するようになるわ!そして、奴らはその感情によって強くなる……!注意して!』

 

香織のその言葉と共に、ファルと名乗ったディソナンスが猛スピードで突っ込んできたかと思うと、乙音は空に連れ去られる。

 

「早い……⁉︎」

 

「落ちよ」

 

そして、乙音が連れ去られた事に気付いた次の瞬間、地面に首から叩きつけられる。香織との通信が途切れると同時に、仮面の中で血を吐く乙音。

 

「がっ……あ……」

 

「……この程度か、貴様は楽しませてくれるんだろうな?」

 

動かなくなってしまった乙音に対して興味を失ったファルは、急行してきた真司に興味を移す。真司はファルの質問には答えず。

 

「変……身……‼︎」

 

後輩の危機に間に合わなかった怒りを滲ませながらの、変身。その気迫を肌で感じ、ほくそ笑むファル。

 

「どうやら、貴様は楽しませてくれそうだな……」

 

「貴様……楽しめると思うなよ」

 

そして……激突する両者。猛スピードで空を飛ぶファルに対して、真司はカウンターを狙い、あまり動かず最小限の動きで敵の攻撃をかわす。しかし

 

「ハッハハハハ!そらそらそらそら!どうしたぁ!仮面ライダー!反応が鈍いなぁ⁉︎」

 

「ぐっ…相性が悪すぎる!」

 

重い一撃を叩き込む事を重視したファングに対して、高速で動き回るファルはまさに天敵ともいえる相手だった。翻弄される真司だったが、ここで退くわけにはいかない。仮面ライダーの後ろには、無辜の人々がいるのだ。

 

しかし、ファルのスピードに、なすすべもなく真司ですら追い詰められていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、あ……」

 

自分は、何をしてるんだろう……

 

「ぐ、う」

 

あんなに、あんなに先輩が頑張っているっていうのに。自分はここで寝転がっているだけか?

 

「う、お…」

 

その程度なのか?木村乙音。

 

「おお…」

 

その程度なのか?……仮面ライダー!

 

「うおおおおおお!」

 

「⁉︎なに!?」

 

真司に膝をつかせ、油断していたファルに対して飛び起きた乙音…仮面ライダーソングの、槍による一撃が決まる。

 

とっさに回避しようとするファルだったが、足を真司に掴まれ、そのまま背中の羽根に対してダメージを負ってしまう。

 

「グオオォォォォォ!」

 

痛みに転げるファル。その隙をついて乙音は真司に手を差し伸べる。

 

「大丈夫ですか?先輩」

 

「……起きるのが、遅かった、な。あと少しで、お前の手柄がなくなってしまう所、だったぞ」

 

「それじゃ、今からは……」

 

「ああ、二人でやるぞ」

 

「はい!」

 

肩を並べて敵を見据える乙音と真司、二人の仮面ライダー。その勇姿に、しかしファルは苛立つ。

 

「ぐううううう!黙るがいい!二人になった所で…我のスピードについてこれる訳がない!」

 

再びの飛翔と攻撃、しかし…

 

「そこっ!」

 

「喰らえ!」

 

乙音と真司、二人の連携によって迎撃される。乙音の攻撃によってスピードが落ちているのもそうだが、ファルは明らかに冷静さを欠いてしまっていた。

 

「馬鹿な……この、このファルが!」

 

その言葉と共に今まで以上の高度へ飛び立つファル。高高度からの一撃で一気に勝負を決めるつもりだ。

 

「先輩…!」

 

「……よし、その手でいくか!」

 

しかし、二人は既に迎撃の手を考えついていた。そして、それを実行しようとすると同時に二人の歌が流れ始める。

二人の仮面ライダーによる歌……デュエットだ!

 

『正義ってのは意地悪で、常に正解出してくれない』

『だから足掻くさ仮面ライダー。正義でなくて自由を成すために』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ‼︎」

 

咆哮と共に高高度からエネルギーを纏って急降下してくるファル。そのファルを二人は迎撃する。

 

『貫く信念牙と槍』

 

「先輩!槍を!」

 

『突き立てる力技を、二人の思いで』

 

「応!」

 

『fullchorus』

『rider crash!』

 

乙音が投擲した槍を、真司が必殺技でファルにむけて打ち出す。

凄まじい勢いでファルに衝突する槍。しかし、ファルの纏うエネルギーにヒビを入れたものの弾かれてしまう。

 

『絶望迫ってきたとして』

 

「まずは貴様からだ!」

 

そのまま真司に向かって急降下してくるファル。

 

だが

 

「今だっ!後輩‼︎」

 

『なんて事ないそう言える』 『背中合わせの信頼感』

 

「はい!先輩!」

 

『fullchorus』

『rider shoot!』

 

弾かれた槍を、高く飛び上がった乙音が必殺技でファルめがけて蹴り込む。

 

「なに!?」

 

予想外の方向からの一撃に狼狽えるファル。それでも耐えようとするがーー

 

『力技で切り開く』『未来めがけて飛び上がれ!』

 

「「これで……終わりだぁぁぁぁ!」」

『『fullchorus』』

『『rider twin strike‼︎』』

 

再び必殺技を発動した二人の同時攻撃、キックとパンチの合わせ技であるライダーツインストライクによってーー

 

『二人は戦う、仮面ライダー!』

 

「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

ファルの体躯は爆砕。完全消滅したーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えは、見つかったか?」

 

「はい…私も、戦います!仮面ライダーとして!」

 

「そうか……頼もしいな」

 

「……ありがとうございます!」

 

こうして、乙音は仮面ライダーとなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、家まで送ってくれません?もう一歩も動けないんです……」

 

「……香織さん達がくるまで待ってろ」

 




燃え尽きたぜ


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Voice・Act

いろいろやってみた回。なろうで書いてる小説でもそうなんですが、私はどうにも一度に4人以上のキャラクターを動かせない気がします。勉強しなきゃなぁ。


「………はい、これでもう心配ないわよ。さすが仮面ライダーと言うべきかしら、怪我がそれ程でなくて良かったわ」

 

「ありがとうございます、先生」

 

今乙音は特務対策局の医務室にいた。この前のディソナンスとの戦いで負った傷を検査してもらうためである。既に乙音自身は回復していたのだが、念のためだ。

 

「……今日は結構早く検査、終わりましたね」

 

「ふふふ、そういつまでも検査を続けるわけにはいかないもの、それに、もう回復はしていたのだし、こんなもんよ」

 

「こんなもんですか?」

 

「こんなもんよ」

 

医務室を出た乙音は、これからどうしようかと思案する。乙音は学生だが、今日は休日である。仮面ライダーとして戦い続ける覚悟を決めた乙音であったが、こういう時は女子である。しかし……

 

「うーん、やっぱりお家に帰って寝よっかなーでもなーどうしようかなー」

 

今日は一日中検査のつもりだったためか、本当にやる事がないようだ。と、そこに真司が通りかかる。

 

「どうしたんですか?先輩?」

 

「ああ、ちょうどいい。……この後予定はあるか?」

 

「え?ないですけど」

 

「そうか……良ければつきあってくれないか?」

 

「あ、はい………………。ええええーー⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……買い物につきあってくれって意味だったんですね。いきなりだから驚きましたよ」

 

「あの文脈と雰囲気で誤解……するか?まあ、すまなかった」

 

今2人がいるのは地元で有名なデパート、その一角にある喫茶店だ。ネットでもそこそこ有名な場所である。

乙音は普段と変わらない服装だったが、真司は帽子にサングラスと変装していた。有名人なのでスキャンダルは厳禁なのである。

 

「お前が事務所に入ってくれりゃ、まだ素顔でも言い訳できるんだがな」

 

「あはは…すみません」

 

「冗談だよ。……話ってのは、ディソナンスの事だ」

 

「……はい。」

 

真司の纏う雰囲気が変わり、姿勢を整える乙音。緊張する乙音に、そう身構えなくていいと笑う真司。

 

「……前の戦いでわかったと思うが、奴らは強い。それに、あれでも奴らの中で強い方ってわけでもない」

 

「……どういう事なんですか?」

 

「ディソナンスにはな、下級・中級・上級の三つの階級がある。とはいっても俺たち人間が勝手につけた名称だが、こういうのはわかりやすい方が良い………。でだ、あの時戦かった奴は、中級だ」

 

「……そうだったんですか」

 

「あまり、驚かないんだな」

 

「予想は、してましたから」

 

「………怖気付いたか?」

 

「……正直、戦うのは怖いです。でも、私の力が皆の役に立つのなら、やってみせますよ。……私、人助け好きですから!」

 

「……そうか、忘れるなよ。その恐怖を」

 

「…え?」

 

「その恐怖を忘れちまったら、戦うだけのマシーンになっちまう。そうなるよりかは、恐怖でも人間らしくあった方が良い。ましてや、俺たち仮面ライダーは心の力を武器とするんだからな」

 

「………そうですね!さすが先輩です」

 

「やっと笑ったな」

 

「?」

 

「なんだ、気づいてなかったのか?お前、緊張してたのか難しい顔で固まったままだったぞ」

 

「え、ええーー!す、すみません〜!」

 

「いいんだよ、それぐらい。俺からももう一つ話……というか、頼み事があるしな」

 

その言葉に首を傾げる乙音。短い付き合いの自分に頼み事とはいっても何を頼まれるのかと思う。対する真司はだいぶ言いにくそうではあるが、意を決してそれを言う。

真司の頼み事……それはーー

 

「……実はプレゼントを選んでもらいたいんだ、一緒に」

 

「……そんな事だったんですか?」

 

「そんな事とはなんだ!……俺のガラじゃないってのは分かってるがな、久々に会う相手に贈るものなんだ、俺1人じゃ不安でな」

 

「そうなんですか……でもなんで私?」

 

「贈る相手が同業の女性だからだ、あとお前が一番暇そうだったからだ」

 

「暇って、ひどい……っていうか女性ですか⁉︎」

 

乙音の声に店の他の客が振り向く。真司はそれに気づくと「馬鹿!大声を上げるな!」と言って、慌てて代金を払って店を出て行く。それについて行く乙音。

 

「しかし同業って……アイドル仲間にですか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「そうですか……いつ帰ってくるんですか?」

 

「一か月後の予定らしい。ちょっと早いが、今買いに行かないと仕事とかでな」

 

「わかりました、それじゃあ食べ物系は避けて、何かアクセサリーとか、小物しましょうか!その人の好きな色とかわかります?」

 

「青だったかな……」

 

「わかりました!それじゃ行きましょう!」

 

「……ああ」

 

「先輩の同業者かぁ……どんな人なんだろう」

 

(……ま、確かに同業者だな、いろいろな意味で)

 

こうして2人は買い物に出かけた。プレゼントという事もあって買う物の金額は真司が負担、乙音は真司の財布に相談しつつプレゼントを選んでいたが

 

「俺の事なら大丈夫だ。稼いでいるからな」

 

と分厚い財布を見せてきたので、乙音も気にしない方針でいくことにした。

 

結局、それから1時間ほどかけてプレゼントを選んだ2人。女性相手ということで、青の凜とした雰囲気を引き立てるペンダントを選んだ。

 

「もう少し時間がかかるものだと思ってたが、意外と早く済んだな……」

 

「まだ2時ですね。これからどうしようかなぁ」

 

「今日のお礼だ。好きな所に連れて行ってやるよ、どこが良い?」

 

「え、良いんですか⁉︎どうしようかなぁ……」

 

「……待て、周囲の様子がおかしい」

 

真司の言葉に乙音も周囲を見渡すと、人の気配がほとんどない。そして人の気配のかわりに感じる異様な雰囲気と共に2人に襲いかかる異形。ディソナンスだ。

 

「ディソナンス…!」

 

「こんな時にまで…!」

 

しかし、2人も仮面ライダーである。こんな時のために変身アイテムはきっちりと用意してある。ベルトを腰に巻き、左手側、青のボタンを押してレコードライバーの風車部分を開き、それぞれのディスクを乙音は左手で胸の前に、真司は右手で横に構えた後、風車部分にディスクを挿入、赤のボタンを押して閉じる。

すると、2人の歌のイントロのような待機音声が流れる。それを確認した2人はもう一度赤いボタンを押すと、乙音は上部に、真司は右手側にディスクのような場が現れ、2人の体を通過していく。そしてーー

 

『my song my soul!』

 

『G fang』

 

その声と共に変身を完了する2人。

 

「さあ、俺の牙の餌食となれ!」

 

「心の音……響かせる!」

 

決め台詞と共にディソナンスの群れに突撃する2人。虫型…B型と呼ばれる下級のディソナンスばかりだが、数は8体。しかし、この2人にはものの数ではない。

 

「さっきのセリフ、自分で考えたのか⁉︎だとしたら、悪くないセンスだな!」

 

「ありがとうございます!先輩!」

 

そんな事を話しながら、8体のディソナンスを相手取る2人。乙音が槍のリーチを生かしてディソナンスを翻弄すれば、真司がその攻撃力を生かして大ダメージを与える。完璧なコンビネーションだ。

 

「後輩、これで決めるぞ」

 

「はい!」

 

息を合わせて最後のディソナンスも蹴散らす2人。完勝、だが。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

「「‼︎」」

 

2人の背後から突如としてディソナンスが姿を現わす。背後からの奇襲に対応しきれず吹き飛ばされるが受け身をしっかりと取り、すぐに立つ2人。

 

「俺はカメル……貴様ら仮面ライダーは、この俺が始末してやろう」

 

その言葉と共にカメルの姿が搔き消える。どうやら高度な擬態能力を持っているようで、2人にはカメルがどこにいるか解らない。

 

「ぐぅっ!貴様……!」

 

「姿が見えないなんて……!ええーい!」

 

がむしゃらに槍を振り回す乙音だったが、カメルには当たらない。着実にダメージを負う2人。

 

「ここは一気に……!」

 

「必殺技で……ダメです!周りに物が…!」

 

「ちっ……多すぎるか!」

 

敵の場所を掴めない2人は、必殺技による範囲攻撃で倒そうとする。しかし、周りに物が多いため、周囲の被害を気にして必殺技を発動することができない。

 

「やはり…街中で襲撃して正解だったな」

 

再びカメルがその姿を現した時には、2人とも肩で息をしてしまっていた。

 

「もはや姿を消す必要もないな……終わりだ!」

 

2人に飛びかかるカメル。諦めず迎撃しようとする2人だったが、間に合わないーーそう思われた時。

 

ギュン!

 

という音と共に一発のエネルギー弾がカメルに直撃する。エネルギー弾が来た方向を2人が見ると、そこには彼女たちと同じ戦士が立っていた。

 

「貴様は……何者だ⁉︎」

 

「あなたは……」

 

『あんたらの流儀で言わせてもらうなら……仮面ライダー、ボイスっトコロだなぁ』

 

音声加工された、男とも女とも解らぬ声。

 

「先輩!あの人は……」

 

「わからん!だが、チャンスだ。あいつを被害が出ない場所にまで誘導するぞ」

 

ボイスの一撃によってダメージを負ったカメルを他の場所にまで誘導しようとする2人。しかし、その2人にボイスが持つメガホン型の銃から発射された弾が襲いかかる。

 

「ぐぅぁっ!な、何を…」

 

『オレのデビュー戦だ、あんたらはそこで黙って寝転がってな』

 

そう言うと、再びカメルに対して弾を撃ち込み始める。咄嗟に姿を消すカメルだったが、ボイスはそんな事も気にせず銃弾を撃ち込み続ける。

 

「がっ!あっあっあが」

 

『どうやら能力だけのザコか』

 

ボイスは冷酷にそう言い放つと、必殺技を放つ。

 

『full chorus……』

 

『rider…cannon…!』

 

ボイスが持つメガホン銃にエネルギーが収束していく。

 

『お前の心……撃ち抜く』

 

そのボイスの言葉と共に極大のエネルギー弾が発射される。その直撃を受け、声もあげずに爆散するカメル。

 

『……ま、こんなもんか。』

 

「……待て」

 

『……ファングさんにソング、だっけ?正直オレも疲れたし、あんたらもさっさと帰りなよ』

 

「待て!貴様の正体を……」

 

『だから、さっきも言っただろ?オレは仮面ライダーボイス。あんたらとは違う。…あんたらのようなヤツらとはな』

 

「何を……!」

 

『じゃあな』

 

近くに停めてあったらしいバイクに乗って去るボイス。乙音はその背中をじっと見つめたただ一言

 

「……あれが、私達と同じ……」

 

ボイスが去った後には、破壊の後が残っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 





新ライダー早くも登場です。何号かって?そりゃ言えませんよ。

男か女かはまだ秘密。


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不穏なノイズ


トゥルー・エンディング見に行きました。近々活動報告で感想を書くつもりですが、ここでは一言。

最高でした!

キュウレンジャーも期待以上の面白さでした。正直、視覚的にはエグゼイドよりも楽しめました。

あ、ボイスの外見描写を忘れてました。ボイスは頭にディスク見たいな輪っかが、ドクターマリオの輪っか見たいな感じであります。


「……あのライダーは、いったい誰なんだ」

 

「心当たりとか……ありませんか?」

 

特務対策局、その秘密基地の局長室で、乙音と真司は猛と相対していた。

 

「……レコードライバーが奪われていたのは、知っているね?」

 

「……ああ、知っている」

 

「私が奪われたレコードライバーの捜索に積極的でなかったのは、ディソナンス対策に忙しかったからというのもあるが……ライダーズディスク、あれを製造する技術は、我々しか保有していなかったからというのもある。あれが無ければ、レコードライバーはただのベルトだ。…しかし、それが強行的なライダーを生む結果に繋がってしまうとはね……これはわたしのミスだ」

 

「そういう事を聞いてるんじゃない!」

 

真司が机を叩く。

 

「あのライダーの変身者……それに、ライダーズディスクの製造者に心当たりはあるかと聞いているんだ……!」

 

「ない」

 

「……そうか」

 

そう言うと踵を返す真司。そのままどこかに行く真司の後を乙音も慌てて追う。

 

「先輩!局長さんは嘘をつく人じゃないと思います!」

 

「…俺もそう思っているさ」

 

「なら!」

 

「だがな、あのボイスという仮面ライダーは危険だ、あのディソナンスと戦った時もそうだったが……」

 

『先輩!あっちにディソナンスの反応があるって!』

 

『よし、行くぞ。……待て!』

 

『……あんたらか、今度こそ容赦はしないぜ?』

 

「……顔を合わせるたびに戦闘になる始末。あれでは被害が広がるばかりだ……だからこそ、さっさと正体を突き止めるなりして、ヤツを止めなければならん」

 

「……そう、ですね」

 

「……何か、言いたい事でもあるのか?」

 

「……本当に、協力できないんでしょうか?」

 

乙音のその言葉に立ち止まり、驚きの表情で振り返る真司。対する乙音の表情は本気だ。

 

「なぜ、そう思う?」

 

「あのボイスっていう仮面ライダー、確かにやり方は強引ですけど、あの人がディソナンス相手に暴れていた時って、全部周りに人がいない時だったんです」

 

「だから共闘も可能、だと?」

 

「それだけじゃないです。民間人相手に銃を撃ってたりしましたけど、一発も当ててませんでした……私達と戦ってる時は、かなり的確に狙ってくるのに」

 

「確かに、やり方次第では共闘も可能かもしれんな」

 

「なら!」

 

「だがな、後輩。俺たち仮面ライダーは人々の自由を守るのが使命なんだ。あの様なやり方では、平和は来ても、人々はあのライダーに怯えるだけだ……だからこそ、俺たちはヤツを倒さなくてはいけない。それに……ヤツは、俺たちを目の敵にしている様だからな。」

 

その言葉を最後に、乙音と別れた真司。一人残された乙音は、未だ心に迷いを持っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ〜〜」

 

私立天台高校。乙音が通う高校であるここは、地元ではそれなりに評判の良い高校である。今は昼休み、乙音は教室でお昼を食べているが、あまり箸が進んでいない様だ。

 

「どったの?乙音」

 

「あ、美希……」

 

ため息を吐く乙音に話しかけているのは、乙音の友人である湊美希だ。明るい性格と抜群のスタイルを持つ彼女は、男女問わず人気が高い。

 

「……なんかね、こう…バイトみたいな事をしてるんだけど」

 

「うん」

 

「そこでね、ちょっと先輩とケンカ?しちゃって…」

 

「うん」

 

「考え方の違いからくるものではあるんだけど…なんだかなって…」

 

「うん」

 

「……美希、私の話、聞いてる?」

 

「うん?聞いてるよー。……ま、そういうのは時間が解決してくれる問題だと思うけどなー私は。大抵の問題は、それこそ時間の問題だよ、乙音クン……なーんて」

 

「……あんまり時間はないと思う」

 

「そっかーー。うーーん、だったら、もうストレートに自分の意見をぶつけたら?」

 

「え?」

 

美希の言葉に、呆けた顔をする乙音。

 

「そういう事するのにも力ってのはいるけど、だいじよーぶ!乙音は強い子だって!この頼れる美希サンが言うんだから、間違いない!」

 

「ぷっ…ふふふ…な、なにそれ……」

 

「あー!笑ったなー!……でも、良かった!」

 

「?」

 

「だって乙音。さっきまで難しい顔してたけどさ、やっぱ乙音には笑顔が一番似合うよ!ほら、にんまりー」

 

そう言って乙音の頬を引っ張る美希。

 

「ちょ、やめてよー美希ー」

 

「ほれほれ〜〜」

 

「やーめーてー」

 

口では嫌と言いつつも、晴れ晴れとした顔をした乙音であった。

 

一方、真司はボイスに関しての手がかりを得られず、1人基地の屋上で夕日を眺め、黄昏ていた。

 

「……彼女の帰国予定日だが、早くなる可能性もあるらしい。仕事がひとつ抜けたそうでな」

 

「……そうか」

 

フェンスにもたれかかる真司に話しかけるのは猛だ、真司に缶コーヒーを投げて、同じ様にフェンスにもたれかかる。

 

「……君もよくやるよ、アイドルとライダー、二つの顔を両立させるってのは、なかなかに難しい事だろう?」

 

「苦と思ったことはないな」

 

「仲間がいるからかい?」

 

「そうだ」

 

「……ならさ、もうちょい、他人に頼っても良いんじゃあないかい?」

 

「……それとこれとは別の話だ」

 

「別じゃあないさ。少なくとも、ここには頼れる大人がいるだろう?」

 

そう言って、真司にウインクする猛。両目をつぶっている様に見える下手なウインクだ。

 

「そのウインクが下手じゃなければ、かなりキマってたんだがな」

 

「……君もアイドルとは思えないほど、ウインク下手だよね」

 

「俺はそういうキャラじゃないのさ」

 

そう言って缶コーヒーを飲み干すと、屋上から降りようとする真司。そんな真司に猛は一言

 

「……無理はしないでね?」

 

その言葉に対して、真司は無言で右手を上げて答える。そして真司が屋上から去った後、猛は夕日を見ながら、1人缶コーヒーを飲むのであった。

 

家に帰ってくつろいでいた乙音の携帯に電話がかかる。

 

「はい?……わかりました!」

 

 

ディソナンス出現の報を受け、変身して現場へと向かう乙音。そこではすでに真司が変身して戦っていた。

 

「先輩!」

 

「来たか!……下級ばかりだが、油断するなよ。いつ中級に進化するかわからん……こいつらの繭は、俺たちの攻撃力では、突破できんからな!」

 

「はい!」

 

「いい返事だ!……背中は預けた」

 

「!……任せてください!」

 

背中合わせで死角を無くし、四方八方から襲いくるディソナンスをさばく2人、そうこうするうち、ディソナンスの群れに対して、何者かが銃撃を放つ。

 

「来たか…!」

 

「仮面ライダー……ボイス……!」

 

『おいおい、またあんたらか』

 

銃撃を放ったものの正体は、当然ボイス。

 

『前にも言ったよな?……オレの邪魔をすんなってなぁ!』

 

そう言いつつ、ディソナンスの群れ、そして真司と乙音にまで銃撃を放つボイス。蹴散らされるディソナンスは無視して、銃撃をかわしつつ、ボイスに接近する真司。遅れて乙音が続く。

 

「貴様は、何者だ!」

 

『それを知りたきゃ、倒してみるこったな!』

 

真司の攻撃をかわしつつ、ライダー達とディソナンスに的確に銃撃を放つボイス。真司と乙音もボイスの銃撃をかわし、ディソナンスを蹴散らしながらボイスへと迫る。

 

『おいおいおい、ちょっと前よりも、強くなってねえか⁉︎てめぇら!』

 

「当然だ、俺たちは常に強くなる。より高みを目指してひた走る!」

 

その言葉と共に真司は一気に跳躍。ボイスは反射的に真司を撃ち墜とそうと銃を向けるが、その隙を乙音に突かれる。

 

「そこだぁぁぁぁ!」

 

『っ⁉︎しまっ……』

 

乙音の渾身の一撃を受け、吹き飛ばされるボイス。いつの間にか、周囲のディソナンスは全滅していた。

 

『ちっ……ここまでか』

 

「観念するんだな」

 

「………」

 

しかし、ボイスを追い詰めたというのに乙音は沈黙したままだ。その異様な雰囲気に、気圧される真司とボイス。

 

「……後輩?」

 

「……ねぇ、あなたは何のために戦ってるの?」

 

『あ?そりゃあ、あの怪人どもをぶち倒すためだ』

 

「そのために、あんな被害を出す必要があるの?」

 

『……ちっ、てめぇらは甘いんだよ!躊躇してたら、奴等は次々と現れる……それでもいいってのか⁉︎』

 

「それでも!あそこまで強行手段を取らなくてもいいはずだよ!」

 

『理想論だ!』

 

「理想論で何が悪い!」

 

『⁉︎』

 

「思いを力にするのが、私たち仮面ライダーだ!理想論ぐらい叶えられずに……世界を救える訳ないだろ‼︎」

 

毅然と言い放った乙音に、しかしボイスは呆れたように舌打ちを一つ。そのまま銃を構え、臨戦態勢に移る。その様子を見て、構える真司。しかし、乙音は未だ構えないままだ。

 

「何をしている、後輩!」

 

『……そんなに俺を苛立たせたいなら、まずはお前からっ……⁉︎』

 

しかし、ボイスが乙音を撃とうとした瞬間、黒いもやのようなものが発生し、次第にそれは一つの形を取り始める。

 

「香織さん、これは……⁉︎」

 

『気をつけて、乙音ちゃん。それはディソナンス発生の兆候よ』

 

「来るか……!」

 

『また下級か……いいぜ、相手をしてやる』

 

発生した黒いもやは、ディソナンスが生まれる時の兆候であり、この黒いもやの状態から、周囲の環境に合わせて、下級ディソナンスが生まれる。黒いもやの状態の時には、攻撃は通じないものの、現れるのは所詮下級。しかも生まれたてであり対立してるとはいえ、3人の仮面ライダーがいるこの状況ならば、余裕である。が……

 

「……なんだ?あのディソナンスは……」

 

『おかしいわね……そっちにディソナンスの反応がないわ……』

 

「え⁉︎でも、今、確かにここにディソナンスが……!」

 

現れたディソナンスは、全身が黒のカラーで丸いフォルムをしており、今まで現れた下級、いや中級以上を含めたディソナンスとも全く違うタイプのディソナンスだった。

 

『新しいタイプか……まあいい、所詮は下級だ』

 

そう言ってボイスが黒いディソナンスに銃撃を放つが、確かに弾が命中したはずが、黒いディソナンスはよろけもしない。

 

『なに⁉︎……くそっ!』

 

さらにボイスが銃撃を放つが、全て命中しているのに、黒いディソナンスには全く効いた様子がない。

 

『俺の弾が、効いてないのか……?』

 

「……いや、弾が当たった瞬間に掻き消えている!」

 

異変に気がついたのは真司だ。ボイスから見れば弾が当たっているのに効いていない様に見えるが、実際には弾が当たった瞬間に掻き消え、そのエネルギーを黒いディソナンスが吸収していた。

 

「まさか、攻撃を吸収するディソナンス⁉︎」

 

『っ、なら、許容量以上の攻撃を与えりゃいいだけだろ!』

 

そう言って必殺技を発動するボイス。『rider…cannon…!』の音声と共に、ボイスの必殺技、ライダーキャノンが放たれる。その巨大なエネルギーに飲み込まれる黒いディソナンス。

 

『やったか……⁉︎』

 

……しかし、黒いディソナンスは変わらず無傷である。いや、その体躯には変化が起きていた。丸いフォルムが鋭角的になり、どんどん攻撃的な外見へと変化していく。

 

『……仮面……ライダー……』

 

「喋った⁉︎」

 

今まで無言だった黒いディソナンスが喋った事に、驚く乙音。香織もいきなりディソナンスの反応が現れた事に驚いているらしく、乙音に通信で状況説明を求めてくる。

乙音が香織に状況を説明しようとしたその瞬間、黒いディソナンスが動く。

 

「後輩!」

 

「えっ」

 

猛スピードで乙音に近づいた黒いディソナンスは、腕に生えたブレードで乙音を切り裂こうとする。しかし、寸前で動けた真司によって止められる。そのまま右拳で殴り飛ばそうと攻撃する真司だったが

 

「……⁉︎な、ち、力が、抜けていく……!」

 

黒いディソナンスに触れた瞬間、真司の体から力が抜けていく。香織が真司の状態を確認すると、真司の纏うハートウェーブがどんどん減少していた。

 

『2人とも!あなた達が戦っているディソナンスは、ハートウェーブを吸い取るみたいよ!』

 

「なん、だと……ぐわっ!」

 

しかし、香織の忠告の直後に、真司は黒いディソナンスに弾き飛ばされてしまう。ハートウェーブを吸い尽くされ、変身解除にまで追い込まれる真司。

 

「先輩⁉︎」

 

「余所見を……するな!」

 

ハートウェーブを吸い尽くした真司にはもう興味はないらしく、乙音とボイスに狙いを変える黒いディソナンス。乙音は真司の忠告で身構えるが、黒いディソナンスは猛スピードで動き回り、ボイスと乙音はただ弄ばれるだけだ。

 

『この……!ラチがあかねぇ!』

 

痺れを切らしたボイスが再び必殺技を放とうとするが、それを待っていたかの様に動きを止めた黒いディソナンスを見て、ボイスを制止する乙音。

 

「待って、そのまま撃ち込んでも、また吸収されちゃう……!」

 

『じゃあどうしろってんだよ‼︎』

 

「大丈夫だよ。私を信じて……!」

 

ボイスに秘策を伝えると、ボイスと黒いディソナンスの間。つまりボイスの銃の射線上に入る乙音。黒いディソナンスは乙音の行動に対してやや戸惑うが、より多量のハートウェーブを吸収するため、ボイスが必殺技を撃つのを待つ。

 

『………』

 

(大丈夫だよ。私を信じて……!)

 

『……ふん、乗ってやるか』

 

『full…chorus…』

 

必殺技の発動準備をするボイス。当然狙いは黒いディソナンス。そしてその射線上には乙音の姿がある。

 

「後輩‼︎何を……⁉︎」

 

「大丈夫ですよ、先輩」

 

『full chorus』

 

「……撃って!」

 

『……っ!』

 

『rider…cannon…!』

 

乙音の合図と共に、ボイスの必殺技が発射される。乙音にエネルギー弾が当たる直前ーー

 

『rider shoot!』

 

乙音も必殺技を発動。エネルギー弾を避けると同時に、ボイスのエネルギー弾を蹴り飛ばす。乙音の必殺技のエネルギーも乗せて、さらに威力とスピードを上昇させたエネルギー弾は、黒いディソナンスに凄まじいスピードで直撃する。

 

『……グ…⁉︎』

 

そのあまりのエネルギーに、吸収しきれずよろめく黒いディソナンス。エネルギー弾を押し返し始めるが、そこに更にエネルギーが加わる。

 

「先輩……!」

 

「俺が、寝ているわけにはいかんからな……!」

 

真司の必殺技によって打ち出された拳状のエネルギーが、更にエネルギー弾を大きくする。凄まじい威力。それを受けた黒いディソナンスはーー

 

『グ……オオオオオ⁉︎』

 

爆散ーー大爆発。

 

「よしっ……!」

 

『まさか、本当にうまくいくとはな……』

 

爆発を眺め、達成感を得る2人。しかしーー

 

「待て……まだ、生きている……!」

 

爆炎の中から、黒いディソナンスが現れる。ボロボロになってはいるが、しっかりと二の足で立っていた。

 

「まだ、立ってられるの……⁉︎」

 

すでにライダー達は満身創痍。それでも、諦めずそれぞれの武器を構える。がーー

 

『グオオオオオオオオン‼︎』

 

咆哮と共に翼を広げ、飛び去るディソナンス。それを呆然と見つめる3人だったが、真司が気を失うのと同時にボイスと乙音も動きだす。

 

「先輩‼︎」

 

『大丈夫よ、乙音ちゃん。気を失ってるだけだわ……今、そっちに救護班を向かわせてるから。安心して』

 

「良かった……ボイス……さん」

 

そのまま去ろうとするボイスに語りかける乙音。

 

『……なんだよ』

 

「……ありがとう!」

 

『〜〜〜っ、うるさい!』

 

バイクに乗って去るボイス。その背中を見つめる乙音の顔は、どこか晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あれが、新しい仮面ライダーか、なかなかどうしてやるじゃあないか』

 

乙音達を見つめる影が、一つ。

 

『なかなか楽しませてくれそうだ……頼むから、あの時みたいに簡単にやられてくれるなよ?』

 

その影は、不敵に薄く、笑っていた……

 

 

 

 

 

 

 




ボイスとはあんまり敵対はしない予定です。物語の加速地点も大幅にずれるかもしれません。
更新はこれから強化して行きたいですが、書くことが多くなると、スマホではやっぱり難しいものがありますね。


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blade

さて今回は……秘密です。それはそうと、エグゼイド挿入歌にビルドOPが楽しみですね。とくにビルドの方はフォーゼ以来の女性ボーカルのOPなので、期待しちゃいます。発売はまだ先の、10月あたりでしょうか?

とんでもない誤字を修正。靴紐ってなんだよ……


「……では、開発を続けます」

 

「頼むよ、香織君。ここでは、君以外には、あれを弄くれる者はいないんだからね」

 

「わかっています」

 

特務対策局、局長室。そこでは、香織と猛が、謎の黒いディソナンスに対しての対策を話し合っていた。

最終的に、ライダー達の変身アイテムを改造して対抗することになるという結論がでた話し合いはすでに終了しており、今は帰国予定が早まった、もう1人のライダーについての話が展開されていた。

 

「彼女は、四日後だっけ?帰ってくるの。謎のディソナンスも発生してるし、弱気になってなきゃいいんだけど」

 

「それこそ、無用な心配です、局長。彼女は、三年前の敗北…あの日を境に、戦士として著しい成長をとげましたから」

 

「私としては、アイドルとしても女の子としても成長して貰いたいんだけどねぇ……アイドルとしては海外進出を果たしてるからいいんだけど、女の子の部分がねぇ」

 

「彼女の性格上、致し方ないことかと。……私は、そろそろ失礼します」

 

「あ、うん。それじゃあ四日後の出迎えとか、いろいろよろしくね〜」

 

「わかりました。では……」

 

猛との会話を終え、自身の執務室に移動する香織。その道中で、真司との戦闘訓練を終え、自動販売機の前で何を買うか悩む乙音と出会う。

 

「あ、香織さん。香織さんも飲み物を買いに?」

 

「ええ、ここの自動販売機のラインナップは局長の趣味だけど、なかなか美味しいものが揃っているから、私も愛用してるの。あんな性格ではあるけど、局長は趣味は良いから」

 

「美味しいですよね!ここの自販機の飲み物。私は『メッチャコーラ』が好きです」

 

「私はお汁粉ね」

 

自動販売機で飲み物を買い、近くの椅子に座り、飲み物を飲んで一息つく2人、香織と乙音は他愛ない世間話をしていたが、ふと、香織がある疑問を口にする。

 

「そういえば……あの黒いディソナンスは、いったい何だったんでしょう?あれから目撃情報もありませんし」

 

「……そうね、ディソナンスはハートウェーブを吸収することによって進化する性質を持ってはいるけど……戦闘中にハートウェーブを吸収できるディソナンスは初めて見たわ。その上、進化スピードも以上に早かったし、対策が必要ではあるわね」

 

「何か、手はあるんですか?」

 

「あなた達ライダー向けに、新しい装備を開発中よ。おそらく、ライダーズディスクの改良型になると思うわ」

 

「改良型……ですか?」

 

「ええ、ハートウェーブの許容量を増やすと共に、あの黒いディソナンスにハートウェーブを吸収される事の無いようにディスクに細工をしておく……こういう形になるでしょうね。ディスクは起動させにくくなるでしょうけど、これが一番確実なパワーアップ方法だわ」

 

「より大きな力……ですか」

 

そう言って俯く乙音を見て、迷いがあるのかと心配する香織。

 

「……戦える?」

 

「それは、大丈夫です。でも……」

 

「?」

 

「今でも、私がこんな力を持ってる事が不思議で……」

 

「ふふ、貴女はよくやってくれてるわ。真司も三年前からずっと仮面ライダーとして戦っているけど、貴女が彼を追い抜くのも、もうすぐかもしれないわね」

 

「そ、そんな……さっきの戦闘訓練だって負けちゃいましたし」

 

「謙遜しなくていいのよ。ライダーは想いを力に変える。自信を持たなくちゃ、強敵には勝てないわよ?」

 

「……そうですね!私、もっと頑張ります!」

 

「その意気よ乙音ちゃん。私も、新しいライダーズディスクの開発を頑張らなくちゃ」

 

そう言って立ち上がると、お汁粉の缶をゴミ箱に入れて立ち去る香織。乙音も缶の中身をぐいっと飲み干すと、再び戦闘訓練を行う為、トレーニングルームへと急ぐ。

 

「頑張るぞ〜っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ボイスは都内のどこか、下水道である人物と待ち合わせをしていた。

 

『ちっ……まだかよ』

 

待ち人が来ない事に苛立つボイス。そこに、ガスマスクを被った怪しい男が現れる。

 

『すまない、遅くなってしまったかな?』

 

ボイスと同じく声を変えているようだが、ボイスと異なり、こちらは体系的にも声的にも男とわかる。

 

『オレを待たせるんじゃねぇ。それより、解析結果は出たんだろうな?』

 

『ああ、あの黒いディソナンスは、やはりこれまでとは異なる出現パターンだった。本来ディソナンスが実体化すれば、そのディソナンスは必ずハートウェーブを蓄えている。ごく少量であってもだ』

 

『だが、あのディソナンスはハートウェーブを持たなかった……だろ?』

 

『その通りだよ。そして、あのディソナンスは君の攻撃を受ける時、スポンジのごとくハートウェーブを吸収、それから動き出した。最初棒立ちだったのはこういうカラクリだね』

 

『ヤツはハートウェーブを吸収していた……厄介だな』

 

『君のライダーズディスクを弄れば、対策はできるけど、どうする?少しの間預かることになると思うけど』

 

『いらねぇ。てめぇはあのライダー達よりも信用ならねぇ』

 

『君が今戦っているのは、僕の言葉を信用した結果だろう?それとも……あのソングとかいうライダーにでも、絆されたかい?』

 

『……』

 

(大丈夫だよ。私を信じて……!)

 

『……そんなんじゃないさ。それより、新しいディスクの開発はできるか?できるんならやってくれ』

 

『わかったよ。君も、僕の研究と目的に協力してくれたまえよ?』

 

『……わかってるさ、オレ達はwin-winの関係だからな』

 

そう言ってその場を去るボイス。ボイスが去った後、ガスマスクの男は薄く笑い。

 

『……そうだね、win-winの関係だ』

 

ガスマスクの男はそう言うと、何処かへと立ち去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……帰ってきたか、日本に……」

 

羽田空港。多くの人が利用するここに、一人の女性が立っていた。胸はやや小さめだが、抜群のプロポーションを誇る女性は、誰かと待ち合わせているようだ。

 

「しかしこの暑さ、やはり日本の夏は独特だなーーむ、あれは…」

 

「あ、おーい!こっちこっち!」

 

女性が待ち合わせていたのは、アロハシャツを着て、それに合わないバッグを持った、白髪交じりの男。本山猛その人である。

 

「局長。わざわざ迎えに来なくても、事務所までそう遠くないのですから、私一人でも……」

 

「いや〜それがね……」

 

そう言いながら、猛が手持ちのバッグから取り出したのは、レコードライバーと、ライダーズディスク。ディスクには何も描かれていない。

 

「……これは」

 

「悪いけど、ちょっと緊急事態でね」

 

「君の強さが必要なんだ、仮面ライダー……ツルギ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!大丈夫ですか⁉︎」

 

「自分の心配をしろ!くっ……こいつら!」

 

とある森の中。ディソナンス出現の報を受けた乙音と真司が現場に急行すると、そこには大量のディソナンスが出現していた。下級ばかりだが、その数はざっと数えても50を超えている。

 

「ここは、一気に!」

 

「待て!これだけのディソナンスだ……何か裏があるかもしれん。切札はとっておけ」

 

「でも、この数は…『おいおい情けねぇなあ!』ボイスさん⁉︎」

『まったく、こういうのは一気に蹴散らすモンなんだよ!』

 

『rider…cannon……!』

 

突如現れ、下級ディソナンスの群れに向けて必殺技を放つボイス。ライダーキャノンによって蹴散らされたディソナンス達は、次々と消滅していく。

 

「ボイスさん!なんでここに⁉︎」

 

『オレの方もディソナンスの出現はわかるからな。つっても今回はお前らに先を取られたみたいだが』

 

「なぜ、俺たちを助けた?」

 

『前回の借りだよ。借りたままってのは気持ち悪いからな。あー、それよりも、もうヤツらはいねぇのか?』

 

「そうですね、もうここにはいないみたいですし、一度基地に戻ってーー」

 

 

「いや、帰られちゃ困るなぁ」

 

「「『⁉︎』」」

 

乙音の声を遮って突如響く声に驚く3人。周囲を見渡すと、黒い霧が3人の周辺を渦巻いていた。

 

徐々に一つの形をとる黒い霧。全てが収束した後には、赤と黒のロングコートを着た男が立っていた。

 

「男の……人?」

 

「あーーっと、その発言は訂正してもらおうか」

 

乙音の発言にそう返すと、男の肉体が急激に変化していく。頭はまるでバラの花を思わせるものに、その肉体は極めて力強いものに変化していく。その体色はまるで血のように赤黒い。

 

『悪いが、俺は人じゃあないんでなぁ』

 

『っ……ディソナンスか!』

 

「ヤツは……!」

 

ディソナンスの出現に身構える乙音とボイス。しかし、このような時に真っ先に臨戦態勢に入る真司は、未だディソナンスの姿を見て驚愕したままだ。

 

『ひー、ふー、みー……3人か、うち2人は新顔………んで』

 

「!」

 

『ファング……だったか?あの時のライダーのうちの1人……今度はちゃんと、楽しませてくれよ?』

 

「っ……!う…おおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「先輩⁉︎」

 

謎のディソナンスの発言を受け、咆哮と共に飛びかかる真司。空中でレコードライバーを操作し、必殺技を発動。『rider crash』とシステム音声が流れると同時に、全身全霊の一撃が謎のディソナンスに突き刺さるかと思われたがーー

 

『ゼェァッ‼︎』

 

「……!」

 

突き出された真司の拳に対して、謎のディソナンスは短い掛け声と共に拳を突き出す。全身全霊の一撃に対し、軽いジャブのような一撃。だが、その一撃を受けた真司は必殺技を打ち消されるどころか、自身が跳躍したぶんの距離を一気に吹き飛ばされ、乙音達の立つ地点に落下する。

 

「先輩!」

 

「大丈夫だ……!ぐっ……」

 

『おー、耐えたか。あん時よりも成長しているようでなにより。それでこそ楽しみがいがある』

 

『おいファング、あのディソナンスはなんだ?明らかにやばそうだが』

 

ボイスの質問に真司が答える。

 

「ヤツの名はバラク。上級ディソナンスにして、三年前、俺たちが敗北した存在でもある……!」

 

「上級ディソナンス⁉︎」

 

『おいおいおい、話には聞いていたが、こいつが上級かよ……』

 

バラクを睨むボイスだったが、バラクから発せられるあまりに濃い闘気に、ボイスの目にはまるでバラクが巨人であるかのようにうつる。それほどまでの存在感。それほどまでの実力差。

 

『こいつは、やべぇな……』

 

「だが、俺たちがいつか倒すべき敵だ……!」

 

立ち上がる真司。先ほどの一撃のダメージが抜けきっていないが、それでもふらついてはいない。

 

『そうそう、その意気だ。でも今回はお前らが楽しませてくれるかどうか、実力を計らせてもらうだけだ』

 

「何を……!」

 

『そういうわけで……お前ら、出番だ』

 

バラクの号令と共に木々の影より飛び出してくる数多のディソナンス達。下級中級入り乱れたその群は、ライダー達の周囲に展開する。

 

『俺はここで高みの見物だ。ま、中級下級の混成軍との戦い。せいぜい楽しんでってくれ。……お前ら、やれ』

 

バラクがそう発言した瞬間、一斉に飛びかかってくるディソナンス達。すぐさま迎撃するライダー達だったが、下級ばかりの時とは異なり、中級まで襲いかかってくるため、苦戦を強いられていた。

 

「ぐっ……これでは!」

 

「先輩!今、助けーーぐぅっ⁉︎」

 

誰かがやられるのを助けようと動けば、その隙を突かれてやられる。さらに相手は多人数であり、無数に飛んでくる死角からの攻撃に、対処しきれていない。

 

『これじゃ、撤退路も確保できねぇ!』

 

悪戦苦闘するライダー達を見て、バラクはつまらない光景だと思っていた。所詮自分が戦うべき相手ではないと。しかし、バラクには一つの疑念があった。

 

(確か、あの時はもう1人仮面ライダーがいたような……)

 

バラクがそんな事を考えている間に、集中的に攻撃を受けていたボイスが膝をつく。そこを逃すディソナンス達でなく、一斉攻撃を放とうとした刹那ーー

 

「……変身!」

 

『blade』

 

一閃。光刃が閃き、ディソナンス達を蹴散らす。

 

颯爽と現れた影、それは、まるで抜き身の刀のような鋭さを持っていた。

 

「仮面ライダーツルギ。友と後人のため、参上した」

 

「ツルギ!」

 

「久しぶりだな、真司。そこの2人も、よく耐えてくれた」

 

「あなたは……」

 

「先ほど名乗った通りだよ。私は仮面ライダー。悪を倒す乙女だ」

 

その言葉と共にレコードライバーの赤のボタンを2度連続で押すと、高速でディソナンスの群へと駆けるツルギ。その手に持つ刀で敵の急所を的確に切り裂いていく。そして流れ出す、彼女の全身全霊の歌。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

『劔が如きこの身で、敵を切り裂き闇へと還す』

 

背後から襲いくる敵に、振り向きざまの一撃。そこから、高速の蓮撃を持って敵を切り裂く。

 

『疾風が如き速さで、貴様らを木っ端微塵と切り刻む』

 

さらに上空の敵へと光刃飛ばし、飛行能力を奪うと、落ちてきた所を一気に切断する。

 

『道を切り裂く剣がないと言うのなら、自らの手で切り開け』

 

『迸る情熱に従って、我が敵を割断せん!』

 

中級のディソナンスが一斉に飛びかかる。しかし、それを待っていたかのようにツルギは必殺技を発動する。

 

『いざ行かん!友と共に仲間と共に』

 

『full chorus』

 

『有象無象を切り裂かん‼︎』

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

『rider slash』

 

『歌え、剣の歌をーー』

 

「セェェェェェイヤァツ‼︎」

 

裂帛の気合いと共に、放たれた一撃はディソナンスの群を蹴散らし、バラクの元まで届く。

しかし、その一撃をバラクは手刀によってあっさりと相殺する。

 

『これが、今の実力、か……』

 

「バラク……!」

 

『……いいだろう。ツルギ、お前の成長と活躍に免じて、ここは退散してやろう』

 

そう言い残して去ろうとするバラク。しかし、バラクから発せられるプレッシャーに危険を感じた乙音は、バラクを追撃しようとする。

 

「待てっ…!」

 

乙音の槍がバラクの体躯に突き刺さるーーことはなく、その表皮に食い止められる。

 

「……!」

 

それに乙音が驚くのと同時、鬱陶しそうに放たれたバラクの一撃によって乙音は吹き飛ぶ。

 

「ぐっ…うう……!」

 

『……へぇ、俺の一撃を受けてまだ立とうとするか……それに、さっきのハートウェーブの感覚……面白いな、お前には次までに土産を用意しといてやろう』

 

その言葉と共に黒い霧となってその場を去るバラク。霧が晴れるようにプレッシャーから解放されたライダー達は、一息つく。いつの間にか、ボイスは退散していたが、おそらくバラクが消えるのに合わせて逃げたのだろう。

 

「う、うう…」

 

「まったく、無茶な事を……!」

 

変身解除と同時に倒れこむ乙音を支える真司。無謀な事をした乙音を叱咤する真司だったが、その声色には乙音が無事だったことに対する安心感が滲んでいた。その光景を見ていたツルギは変身解除し、真司も合わせて変身解除する。

 

「久しぶりだな、真司」

 

「ああ、一年ぶりか?」

 

「そうだな……まだそれぐらいなのか、それとももうそんなに経ったと思うべきか」

 

久方ぶりの会話を交わす2人。周囲には特務対策局の実働部隊が展開し、周辺の警戒と、負傷した乙音の搬送準備を進めていた。

担架に乗せられ、朦朧とした目でツルギを見る乙音。しかし乙音の目に飛び込んできたのは、驚きの光景だった。

 

「……あれ、まさか、まさかまさか、もしかしてあの人って……」

 

「ああ、自己紹介が遅れたな。私は仮面ライダーツルギ、本名は心刀奈だ。これからよろしくーー「ほ、本物の刀奈さんだー!ファ、ファンです!サインください!」……真司」

 

「こう見えても、背中を預けられるやつだ。サインぐらい応えてやったらどうだ?」

 

「……そうだな、これも親睦の証という事か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダーソング、か……こりゃ楽しい事になってきそうだ』

 

 

 

 

 

 

 

 




新ライダー登場!シンフォギアのあの人っぽくならないように意識して書いてます。


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新たなる誕生

地味に重要回。今回は乙音が酷い目に遭いまくりますが、この作品はみんなデフォでそんな感じです。


「あれが、上級……」

 

秘密基地の地下、厳重に警備されたそこには、ライダー達のいざという時の生命線となる医務室があった。

先の戦いで怪我を負った乙音だったが、幸いあまり酷くはなく、学校がある月曜日までには回復するとの事だった。

 

「そうだ、まったく、恐ろしい相手だな……ところで、怪我の具合はどうだ?」

 

「あ、刀奈さん。私は元気ですよ!先生も、歩き回っても大丈夫だって言ってましたし」

 

「そうか……。君は、私のファンと言っていたが」

 

「はい!いつも刀奈さんの曲は楽しみです!」

 

「そ、そうか……」

 

真っ直ぐに刀奈を見つめる乙音。しかし刀奈は乙音から目をそらし、眉根を寄せて、なにやら悩んでいるようだ。

 

「あ、あの〜。私、何か失礼を……」

 

「え!あ、いや、そ、そういうのじゃなくてだな、これは、私がこう喋り下手だからというか……その「……なにをやっている?」あ、し、真司!た、助けてくれ!」

 

しどろもどろに喋る刀奈だったが、乙音の様子を見に来た真司の姿を確認した瞬間、真司に駆け寄り、その背に隠れる。その行動に嫌われてしまったのかとショックを受ける乙音だったが、そこにすかさず真司のフォローが入る。

 

「……あー後輩、こいつはな、いわゆる人見知りだ。だから別にお前が嫌われたとかじゃない。むしろ初対面の相手にここまで歩み寄ろうとしているのは初めて見るな」

 

「そ、そんなことないぞ!アメリカで少しは良くなったし、局長と初めて会った時だって……!」

 

「……あの時は、まだこいつの身長が俺より低かった時だったか。こいつはそれを利用して初対面の挨拶を俺の背に隠れて乗り切ろうと…「わーーっ!そ、それを言うな!」……まあ、こういうやつだ。ステージで歌って踊れるくせに、なぜ人と話せないのか……」

 

「それは、アイドルとしての仮面というか、自覚がだな……!」

 

そこまで話して、乙音がついてこれてない事に気がついた真司は話を中断させる。

 

「ストップだ。後輩が話についてこれてない顔をしている……何か質問でもあるか?」

 

「えっ!あ、いえ。意外と親しみやすい人だなって、思いまして。あの戦いの時も、ステージに立ってる時も、まるで刃のような凛々しさでしたから、日常でもそんなイメージだったので」

 

「そ、そうか?まあ、そう言われては嬉しさを隠しきれないな!よし、今度の休みに服を買ってあげよう!」

 

「ほ、ほんとですか⁉︎」

 

「やめておけ、こいつの服装センスは壊滅的だ。何せアメリカ出発前に『アメリカらしい服を買っていく!』なんて言って買おうとした服が、星条旗カラーの全身タイツだぞ?」

 

「……それは、えっと」

 

「真司!そ、そんな事を〜!」

 

「だ、大丈夫ですよ!むしろ…………安心できますから!」

 

「何に⁉︎」

 

こうして喋るうちに打ち解けていった3人。服の代わりに、真司お墨付きの料理の腕を振る舞うと、刀奈が乙音と約束したところで、香織が3人を呼びに医務室に現れる。局長室へと赴いた3人は、猛からある質問を受ける。

 

「3人に聞きたいんだけど……上級ディソナンスと戦った時の感覚は、どんな感じだった?」

 

「……正直、恐ろしかったです。あんな敵と戦わなきゃいけないって思うと、今でも足が竦みます」

 

「……三年前よりも、遥かに強くなっています。今の俺たちではまともに戦えるかどうか、怪しいです」

 

「私も、真司と同じ意見です。私の能力なら足止めは可能でしょうが、決定打は与えられないかと……」

 

「ふむう、うーん。やっぱりそうかぁ……でも、そんな3人に朗報がある!」

 

「朗報…ですか?」

 

「!もしかして……」

 

「香織君!」

 

猛が呼ぶと同時に、局長室のドアから入ってくる香織。どうやら最初から入るタイミングを伺っていたようだ。

 

「……新型ライダーズディスク。完成しました。これで、上級や、ノイズにも対抗可能かと」

 

「ノイズ……?」

 

「あの黒いディソナンスの事よ、ハートウェーブを乱す事によって、即座の吸収を可能にしていると戦闘データを解析する事で判明したから、そこから名付けられたわ」

 

「……それさえあれば、ヤツに対抗できるんだな?」

 

「あなた達次第ではあるけど、理論上はこれを起動させる事ができれば、あのディソナンスに対抗できる力が手に入るはずよ。……もっとも、今の状態じゃ、起動できない可能性が高いけど」

 

「何故だ……⁉︎」

 

「私にもわからないわ、でも、ただハートウェーブが高いだけではこのディスクは起動できないみたい……そもそもディスク自体、製造と改造は可能だけど、謎の部分が多いのよ……音成も、厄介なものを残してくれたものね」

 

「何らかの条件を満たす必要があるのか……」

 

「そういう事よ。とりあえず、いつその条件を満たすかわからないから、このディスクは持っててね」

 

そうして香織から各人に手渡されたディスクには、各ライダーごとに違う絵柄のディスクとなっていた。

 

「起動前に……?」

 

「各人向けに調整したのよ。ただハートウェーブの許容量を増やすだけでは、あの黒いディソナンスの能力には対抗できないから、少し細工をね」

 

「なるほど……ところで、黒いディソナンスとは?」

 

「あ、刀奈ちゃんは知らなかったわね。あとで資料映像を見せるわ、だから……」

 

そう言って香織が席から立ち上がろうとした瞬間、局長室にディソナンス出現、それも黒いディソナンス……ノイズが現れたとの報告が入る。

 

「どうやら、その脅威は自身の目で確かめる事になりそうだ……!」

 

「3人とも、ディスクを忘れないでね!それと壊されないように!何が起きるかわからないから!」

 

「わかりました!」

 

「よし、行くぞ……!」

 

ノイズの発生地点は遠方という事もあり、車での移動となるかと思っていた乙音だったが、先輩2人に連れられてやってきたのは、車ではなくバイクのある車庫だった。バイクの数は3台。

 

「先輩、これは……?」

 

『G fang』

 

『blade』

 

「こちらの方が小回りが利く。お前も変身して乗れ!」

 

「え、でも私免許持ってませんよ⁉︎」

 

「緊急事態の特別措置だ!それに、運転は半自動だ、姿勢制御だけやってればいいし、変身状態なら余裕だ!いいから早く乗れ!」

 

「わ、わかりました!」

 

『my song my soul』

 

3人はバイクーー通称、『メロディライダー』に乗り、走り出す。目的地はあらかじめ設定されており、特務対策局からの支援を受けつつ、現場へと急行する。

そして現場に到着した3人を待っていたのは、ノイズと戦うボイスの姿だった。

 

『こいつ……!前より強くなってやがる!』

 

「ボイスさん!」

 

『っ!来たか……まあいい、せいぜい利用させてもらうぜ!』

 

そう言ってノイズに対して銃弾を撃ち込み続けるボイス。乙音もそれに続き、槍による近接戦闘を仕掛ける。

 

「はっ!せい、やぁ!」

 

『オラオラ!へへっどうした?あん時の威勢はよぉ!』

 

2人の連携攻撃に追い詰められて行くノイズ。しかし真司と刀奈は不穏な気配を感じ取っていた。

 

「真司、この気配は……」

 

「ああ、油断するな」

 

周囲を警戒する2人。いっぽう、乙音とボイスはノイズを追い詰め、必殺技を放とうとしていた。

 

『full chorus』

 

『full…chorus…』

 

「これで決める……!」

 

『へっ、あっけねぇ』

 

 

『おっと、待ってもらおうか』

 

 

しかし、2人が必殺技を放とうとしたその瞬間、バラクが出現し、乙音とボイスの注意を引く。

 

「やはり……!」

 

「上級⁉︎まさか、こんな時に……!」

 

『悪いが、そいつはやらせたら困るヤツがいてね。それに、そこのお前』

 

バラクが乙音を指差す。

 

「え、私⁉︎」

 

『お前には、カナサキからのプレゼントがある……!』

 

そう言うと、突如として拳を振り上げたかと思うと、自らの破壊のエネルギーをノイズに向かって照射するバラク。バラクに対して駆け出していた真司と刀奈、そしてボイスはその行動に呆気にとられている。

 

『グ、グムムムムムムムム!』

 

『ほら、お前が待ってたものだ……俺が来るのを待ってたんだろ?なら、たらふく食いな!』

 

ますます強くなる破壊のエネルギー。不穏な気配を感じ取った乙音は、必殺技をそのままバラクに対して放とうと駆ける。

 

『rider spear』

 

「うおおおおおおおっ!」

 

しかし

 

『ちょうどいい!お前にはこいつをやろう!』

 

バラクが乙音に向かって投げつけた薔薇が、乙音の心臓の位置に突き刺さり、そのまま乙音の体に沈んで行く。

 

「が、あっ……ぐ、あっ」

 

『ソング⁉︎……てめぇ!』

 

苦しみ悶える乙音を見て、真っ先に動いたのは怒りに燃えるボイスだった。しかし、ボイスをファングが制止する。

 

『っ……離せ!アイツが……!』

 

「待て!ノイズをよく見ろ……!」

 

ボイスがノイズに視線を移すと。そこにはその形を常に変化させる、黒い何かが浮かんでいた。

 

「バラク、貴様何を……⁉︎」

 

『さあな、俺もカナサキのヤロウにこうしろと言われただけでなぁ?よくわからんなぁ〜。それより、ほら、かかってこないのか?』

 

「今この状況でお前にかかるほど、私達は愚かではない……!」

 

『そう言って、後ろの3人を即座に庇える位置に立つか……いつでも前に出れるようにしてるファング含めて、やはりお前ら2人は高評価だなぁ。……そこで動かなくなってるソングは、どうなるかな?』

 

「何……⁉︎」

 

3人が後ろを見れば、そこには、ピクリとも動かなくなっている乙音の無残な姿があった。変身も解除されているが、顔は見えない。

 

『………死んだか?』

 

『っ……!てめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

ファングの拘束を振り切り、バラクに向かっていくボイス。しかし、ボイスの体を黒い鞭の様なものが吹き飛ばす。

 

『がぁっ!』

 

『……酷いじゃない、僕を置いてけぼりにして、楽しもうなんてさぁ』

 

その声のする方に真司と刀奈が顔を向けると、そこには黒い、刺々しさと、丸さを兼ね備えたフォルムのディソナンスが立っていた。ーーノイズだ。しかし、その姿はときおりノイズにでもかかったかの様に揺らぐ。どうやら、まだ不完全であるらしい。

 

『おお、そんな姿になるとは……興味深いなぁ?』

 

『ふふふ……』

 

背中から鞭の様な物体を生やすと、それをライダー達に振るうーー事なく、バラクに向けて振るうノイズ。

しかし、バラクはそれを予期していたのか、あっさりと回避する。

 

 

『凄い……凄いよ。もっと僕に感情を教えてよ!』

 

『あらら、こりゃ面倒な』

 

苛烈な攻撃を加えるノイズと、それを避け続けるバラク。ライダー達も介入できない戦いを繰り広げる2体だったが、そのうち、ノイズが攻撃をしてこないバラクに対して不満を覚えてきていた。

 

『……つまんないなぁ。攻撃してこないなら、僕を楽しませれないよ?』

 

『……あ?』

 

その発言をバラクが聞いた瞬間、バラクに向けて背中の鞭を一斉に振るうノイズ。さすがのバラクでも対応しきれないかと思われたがーー

 

『おいおいおい、勘違いするなよ?』

 

『ぐ、あ……な、なんで……』

 

ーーそこには、ノイズの腹部を貫くバラクの姿が、高速戦闘を得意とする刀奈でも、辛うじて視認できるほどのスピードでノイズに詰め寄り、その腹部に拳を振るったのだ。

 

『戦いってのはなぁ、同じレベルでしか起きないんだ……戦いで楽しもうなんざ、お前にはまだ早かったみたいだなぁ?』

 

『ぎゃっ……』

 

ノイズの腹部から拳を引き抜くと、ライダー達に視線を移すバラク。

 

『お前らもだ……お前らが俺を楽しませれるのは、俺がお前らを狩のターゲットとしてしかみなしていないからだ』

 

「何……⁉︎」

 

『だからお前らが、俺を戦いで楽しませれるようになるまで極力手出しは抑えるつもりでいたが、気が変わった。アイツは哀しむだろうが、ここで始末して……⁉︎』

 

しかし、バラクの視線の先には発光する乙音の姿があった。その異様な光景に、言葉を止めるバラク。

 

「後輩……⁉︎」

 

「乙音くん⁉︎」

 

(あいつ、乙音って名前なのか……⁉︎いや、それよりも!)

 

『おい、ありゃなんだよ⁉︎』

 

『わからねぇのか?』

 

『何が⁉︎』

 

『新たなディソナンスの誕生だ……』

 

そしてーー光の爆発。乙音を中心としたそれは、瞬く間にライダー達の視界を埋め尽くしていきーー

 

そこには、黒と白のカラーに包まれた、少女が立っていた。その足元には、乙音の姿が

 

『お、……ソング!大丈夫か!』

 

乙音からの返答は、無い。

 

『っ……てめぇ……』

 

新たに現れた、ディソナンス……少女を睨みつけるボイス。その剣幕にディソナンスはーー

 

 

『新たなディソナンスだかなんだか知らねぇが、テメェを…『ご、こめんなさぃぃぃぃぃっ!』……へ?』

 

『こ、これは僕自身の意思でなくて、その、不可抗力の結果というか……とにかく、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!』

 

凄まじい勢いで謝り倒したかと思うと、即座に逃走する白と黒のディソナンス。その場にいた誰もが呆気にとられる中、乙音が目を覚ます。

 

「う、う〜ん」

 

「!後輩!」

 

「大丈夫か⁉︎」

 

乙音に駆け寄り、その安否を確認する真司と刀奈。どうやら、命に別状はないようだが……

 

「……新型が!」

 

「……仕方ない、後輩の命の方が大切だ……!」

 

乙音の無事を喜ぶ2人だったが、バラクの存在を忘れたわけではない。すぐさま戦闘態勢をとり、バラクを睨む。

 

『……興ざめだな』

 

しかし、バラクはそう言うとすぐさま去っていった。ノイズも、『あ、頭が……痛む、楽しいのに……ハハ、ハハハハハ!』と、高笑いをあげながら去って行く。

 

『……じゃあな!』

 

ボイスもそう言い残すと、バイクで走り去って行く。

 

「私達も、帰るか……」

 

「ああ……」

 

後に乙音が目を覚まし、自身より生まれたディソナンスの事を聞かされた時、彼女はこれまでを超える困難と決断を迫られる事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あわわ……凄いもの、見ちゃった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のセリフは……まだ先ですかね?

次回は早ければ明日です。今免許取得中なので、かなり間が空いてしまうかもしれませんが、ご了承ください。

次回は作者にとってのうっぷんばらし回です。


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full.mp4

今回は燃え尽きました、しばらくかけねぇ……

あ、仮面ライダーツルギの外見は頭部に三日月があって、それが特徴です。戦国武者の兜のイメージ。

だめだーー!《》を新しく歌の歌詞を表す記号にしてたんですが、それがミスでした。応急処置はしましたが、また考えなければ……


「私から、ディソナンスが⁉︎」

 

「そうだ、体に異常はないようだが……新たに現れたディソナンス、厄介だな……」

 

特務対策局の訓練室。その近くに設置された休憩室で、乙音と真司は話していた。

真司から戦いの事を聞いて驚愕する乙音。しかし、自身から生まれた白と黒のディソナンスの事を聞いて、何やら考え込んでいるようだ。

 

(ディソナンス……でも、あの感覚は……)

 

「……どうした?」

 

「いえ、なんでも……って、香織さん?」

 

そこに現れたのは香織だ。乙音に話があるようで、2人きりで話させてほしいと言って、真司を休憩室から追い出す。

 

「それで……話って、なんですか?」

 

「……あなたから発せられるハートウェーブに、ディソナンスのものと酷似したパターンのものがあったわ、おそらく、あの白と黒のディソナンス……『ゼブラ』を生み出した影響によるものね」

 

「ディソナンスと……⁉︎それって、大丈夫なんですか⁉︎」

 

「さっき訓練室で戦ってもらったけど、乙音ちゃんは何か違和感はあった?」

 

「いえ、大きな違和感はありませんでした。でも……」

 

「でも?」

 

「なんだか……あの上級ディソナンス……バラクの事が、怖くなくなったんです。さっきの訓練でもいつもより攻勢に出れましたし……」

 

「……そう。心配はいらないわよ、乙音ちゃん。体にも異常はないし、万が一にでもあなたが怪物になってしまったりとか、そういう深刻な変化はないから。むしろ、話を聞いた限りだと体調が良くなっているみたいだし」

 

「そ、そうですか!良かった〜」

 

その後、香織と別れた乙音は、しばらく休憩室で考え事をしながら過ごしていたが、そこに猛からの連絡が入る。白と黒のディソナンス…ゼブラに対しての作戦会議だ。

会議では泣きながら逃亡したゼブラに対して、同情的な意見もあったが

 

「演技だろう」

 

「奴らには情けなど不要だ」

 

と、真司と刀奈が主張し、他の職員からもゼブラに対して否定的な意見が目立つ。

そんな中、会議はゼブラを生んだ張本人である乙音の判断をまずは尊重するという事になったが……

 

「私が……決着をつけます」

 

そう乙音が言い放った瞬間、会議室にゼブラ補足の報が入る。場所は近く、ライダー達にすぐさま出動の命が下される。

 

「乙音君」

 

「?……はい?」

 

「君の心が正しいと思う事を、したまえ」

 

「……はい!」

 

現場へと急ぐ3人。いっぽう、ボイスもまた、ゼブラを補足し、自前のバイク『クレッシェンダー』で現場へと急行していた。

 

『……ちっ、あの白黒ヤローはどこに……ん?』

 

『む、無我夢中で逃げ回ってたけど……ここどこ〜?』

 

『……いたか!』

 

『ぴっ!あ、あの怖い人だーー!』

 

『待て!……くそっ、なんだよあの逃げ足の速さわよぉ!あれじゃまるで馬だな!』

 

ボイスから逃亡するゼブラ。しかし、森の中に入ったところで力尽きたのか、その場に転がる。

 

『も、もう、動け……』

 

そこに現れたのは、仮面ライダー……ソング。乙音だ。

 

『……ひっ……』

 

乙音の姿を認めたゼブラは逃げようとするが、先ほどの走りで体力を使い切ってしまったためか、それとも恐怖のためか立つことができず、ただ迫り来る乙音の姿を呆然と見つめるだけだ。

 

「……………………………………」

 

『こ、こないで……』

 

ゼブラに向かって歩み続ける乙音。そこに真司と刀奈も駆けつける。

 

「ここにいたか……!」

 

「後輩!加勢を……!」

 

ゼブラに向かって駆け出そうとする2人。しかし、乙音は2人を手で制止し……そして、変身を解除する。

 

「⁉︎」

 

「後輩!何を⁉︎」

 

2人の言葉も無視し、ゼブラに向かって歩み寄る乙音。怯えるゼブラのすぐ前方まで近づくと、しゃがみ、ゼブラを抱きしめる。

 

『え…?え……?』

 

「大丈夫だよ、大丈夫だから……」

 

乙音の行動に戸惑う2人。しかし、ゼブラが何のアクションも起こさず、おとなしく乙音に抱きしめられているのを見て、2人も変身を解除する。

 

「後輩、これは……」

 

「……あの時、この子が生まれた時、私の心の中から何かが剥がれていくような感覚がしたんです」

 

「何……?」

 

「ディソナンスって、感情を学ぶたびに強くなっていくんですよね?」

 

「あ、ああ……」

 

「あの時、私の中から剥がれ落ちたのは、きっと私の中の絶望です。香織さんは、私のハートウェーブの中にディソナンスのものに酷似したのが混ざってるって言ってましたけど……たぶん、絶望っていう感情がなくなってしまったから、だからディソナンスみたいなハートウェーブが私から発せられたんだと思います」

 

「そんな、事が……?」

 

「……確かに、俺との訓練の時、お前の攻撃はいつもより激しかったが……だからといって!」

 

「私も、この考えには半信半疑でした……どうせ、私の勘違いだって。でも、この子を見た瞬間、確信に変わったんです。この子は、私の絶望から生まれたディソナンスなんだって……」

 

そう言うと、自分が立ち上がると同時、ゼブラの手を引いて立ち上がらせる乙音。

 

「あなたの名前……ゼブラっていうの、私の……仲間が名づけてくれたんだよ?」

 

『ゼブラ……ゼブラ……良い、名前です……』

 

「気に入ってくれた?」

 

『はい!えっと……お母さん?』

 

「……さすがに、それはまだ早いかなぁ……よし!私の事は乙音お姉ちゃんと呼んで!」

 

『……はい!わかりました!乙音お姉ちゃん!』

 

『……なるほど、ソングの絶望から生まれたから、あんなにオレ達を怖がってたワケだ』

 

「ボイス……」

 

『意外すぎる展開だが、まぁいいんじゃねぇの?楽できるんならそうした方が、それに……』

 

ボイスの視線の先には、ゼブラの質問に答える乙音の姿があった。2人はまるで姉妹のようであり、親子のようでもある。

 

『あーいうのを見せられちゃあな?』

 

「確かに、な……真司、彼女の事は」

 

「……香織さん達への報告が面倒だが、どうやらあのディソナンスは後輩がものを教えるらしい……逃げ足の速さといい、成長すれば戦力となるかもしれん……こんなところか」

 

『いや、それは却下させてもらうぜ』

 

そこに現れたのは、バラク。見れば傍らには2体の中級ディソナンスを引き連れている。

 

『我が名はタカリ、バラク様の従者』

 

『我が名はトラコ、バラク様の従者』

 

『今回は俺の従者どもも連れてきた、せいぜい楽しませてくれよ?』

 

「バラク……!」

 

「ボイス、手を貸せ!」

 

変身し、バラクたちに向かって突撃する真司と刀奈。ボイスもそれに続き、一歩遅れて乙音も戦列に加わるが

 

「ぐっ!こいつ……早い!」

 

「馬鹿な、私の剣が……通じない⁉︎」

 

『我々には貴様らの攻撃など通じぬ』

 

『そら、絶望するがいい!』

 

タカリがその速さで真司を翻弄し、トラコがその堅牢さで刀奈を封じ込める。ボイスとソングも2人を援護しようとするが、バラクにはばかれ、なすすべがない。

そうこうするうち、ボイス、真司、刀奈の動きが鈍ってくる。タカリの能力で徐々に精神的な負担が増え、体の動きも鈍ってきているのだ、そして、その隙をトラコに突かれ、吹き飛ばされる3人。3人とは離れた所でバラクと戦闘していたためタカリの能力から逃れていた乙音も、バラクの破壊の前になすすべなく吹き飛ばされる。

 

「つ、強い……」

 

「ぐっ……これほどの相手が……」

 

『く、くそっ……!』

 

変身解除までは追い込まれていないものの、精神と肉体、双方のダメージによって立ち上がれない3人。乙音はその3人を庇うように前に出るが、ディソナンス3体相手には立ち向かえず、ゼブラの近くにまで吹き飛ばされ、変身も解除される。

 

『おいおいおい、これまでかよ?……白けた、おいお前ら、トドメを刺せ』

 

『了解致しました』

 

『まずは、そこの。我らの裏切り者から』

 

タカリとトラコはゼブラに向かって迫る。しかし、それを許す乙音ではない。ゼブラを守るため、2体の前に立ちはだかる。

 

『どうやら、自分から死にたいらしい』

 

『ならば、望み通りにしてやるか?』

 

「……たとえ」

 

『……?』

 

「たとえ、失敗し続けたって……諦めるわけにはいかない!」

 

毅然と言い放った乙音の手の中にあったのは……割れた新型ディスクだ。

 

「私は、挑戦し続けてやる……!どんな事にだって!」

 

『ほ〜う?……俺相手でもか?』

 

そう言って前に出てくるバラク。全身から破壊のエネルギーを溢れさせ、殺意を振りまくバラクだったが、乙音は凛と立ち、返答する。

 

「もちろん、あんたなんかに……」

 

ディスクをレコードライバーへと挿入する。

 

「あんたなんかに絶望するようじゃ、世界は……救えない」

 

そう言って変身ボタンを押すが……鳴り響くのは無慈悲な『error』という電子音声のみ。

『error』『error』『error』……そう鳴り続けても、乙音は諦めない。

 

『……もういいいよ、お前。……取り返しのつかない失敗ってやつを、経験させてやろう』

 

バラクの右腕にエネルギーが収束していく。

 

『死ね』

 

放たれたエネルギーは乙音に向かって真っ直ぐ伸びていきーー

 

爆発

 

乙音の体が、爆発の煙で見えなくなる。

 

『……っ!ソングっ!!』

 

「後、輩……‼︎」

 

「なんという事だ……っ!」

 

乙音が爆炎に包まれた事実に、絶望する3人。その3人を見てバラクは……

 

『さ、これで3対3だなぁ』

 

そう無慈悲に言い放つと、3人に向かって歩みを進めーー「いいや」

 

『……何?』

 

「あと2カウント……足りないよ」

 

爆炎の中から、声が響く。

 

『T!』『E!』『T!』『E!』『T!E!T!E!T!E!T!E!』

 

『try & error‼︎』

 

爆炎の中から現れたのはーー『2人の』ソング。

 

『何……⁉︎』

 

『あの、姿は……!』

 

「やったんだな!後輩!」

 

「こっちが私で」 「こっちも私」

 

爆炎の中から現れた2人のソングは、白と黒のカラーと、頭部のツノで分かれていた。白のソングが右側、黒のソングが左側にツノがある。

 

「「光と闇……心の共鳴!響かせる!」」

 

2人のソングがそう言い放った瞬間、歌が流れ出す。

 

《何を寄る辺に立てばいい?》《何を信じて信念にすれば?》

 

《 《広がりゆく絶望の中で……》 》

 

『グ、ググ!舐めるな!』

 

タカリとトラコが2人のソングに向けて突撃する。タカリは白のソング、トラコは黒のソングだ。

 

《見えてくるライト & ダークネス》《相反するダブルスタンダード》

 

《 《2つ渦巻いて心作ってく……》 》

 

タカリが白のソングに対して手をかざす。精神消耗攻撃を仕掛けるが、様子がおかしい。

 

『ば、馬鹿な……!人間が抵抗できるはずは……!』

 

《明るすぎて見えてこない》《見えやしない未来》

 

《 《でもそれくらいがちょうどいいのさ》 》

 

《 《未来なんて元々、見えやしないものだろう?》 》

 

《この手に、光を……》

 

「ごめんね、この私に精神攻撃はそんなに効かないの、あなたのじゃ、弱すぎだね!」

 

『ば、馬鹿な…!馬鹿な…!』

 

動揺して機動力を活かせないタカリに、手に持った手槍で攻撃する白のソング。

 

『ぐわあっ!』

 

《 《let's go! try&error! try&error!》 》《絶対!》《絶命!》

 

《 《そのピンチをチャンスに変えるから……》 》

 

「さあ、いくよ!」

 

《 《wearego!try&error!try&error!》 》《ライト&!》《ダークネス!》

 

《 《2つの想い1つに合わせて……》 》

 

《 《Go……ahead!》 》

 

今度はこちらが攻勢に出る時だと言わんばかりの猛攻を仕掛ける白のソング。一方、黒のソングはトラコと対峙していた。

 

《広がりゆく絶望の中で》《心に残った微かな希望》

 

《 《それに縋って進むしかない……》 》

 

『そ、そんな!俺の攻撃が、通じないなんて!』

 

《掴むのはライト&ダークネス》《相反するD&S》

 

《 《使いこなさなきゃ進めない……》 》

 

「ごめん!この私には、そんなに物理攻撃は効かないんだ。だから、もうちょっと頑張らないと!」

 

『そ、そんな事を……!』

 

《暗すぎて見えてこない》《見えやしない過去》

 

《 《でもそれくらいでちょうどいいのさ》 》

 

《 《過去なんて元々、忘れてしまうものだろう?》 》

 

《この手に、闇を……》

 

ソングの挑発に焦るトラコだったが、そもそも攻撃が大振りになって当てれていない。

 

《 《let's go!try&error!try&error!》 》《失敗!》《成功!》

 

《 《そのどれもが、僕を作るから……》 》

 

「今度はこっちからだ!」

 

《 《wearego!try&error!try&error!》 》《闇と!》《光!》

 

《 《2つの心1つに合わせて……》 》

 

《 《try & Go!》 》

 

タカリとトラコを追い詰めた2人のソングは、必殺技を放つ。

 

『voltage MAX!!』

 

『rider…!double shoot!!!』

 

「「おりゃあああああああ!!!!!!!」」

 

2人のソングから投げられた手槍を、空中でキック。手槍は空中で交差すると、それぞれタカリとトラコに直撃する。

 

『馬鹿な……!馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁっ!』

 

『そんな……!そんなそんなそんなぁぁぁぁっ!』

 

2体のディソナンスを撃破した手槍は、そのままバラクへと向かう。しかし、バラクの持つ破壊のエネルギーによって弾かれてしまう。

巨大なエネルギーのぶつかり合いによって爆ぜる大地、捲き上る土砂。

 

『こんなもので、俺を……!むっ⁉︎』

 

しかし捲き上る土砂の中から出てくるのは黒と白のカラーのソング!2人のソングが合体した姿だ!

 

《 《この手に、この手に……》 》

 

《 《let's go…try&error try&error》 》《希望》《絶望》

 

《 《希望勝たなきゃ、心無いから……!》 》

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

バラクへ向かって突撃するソング。手には武器を持たず、パンチとキックだけでバラクを押し込んでいく。

 

《 《wearego!try&error!try&error!》 》《創造!》《破壊!》

 

《 《創造勝たなきゃ、この世界無いから……!!》 》

 

『ぐ、う、うおおおおおおおおっ⁉︎』

 

怒涛の連続攻撃によって浮き上がるバラクの体。ついに吹き飛ばされたバラクを、乙音は追撃する!

 

《 《Go ahead!try&error!try&error!》 》《try!》《&Go!》

 

《 《何も恐れず、挑戦して行こう…!!!》 》

 

『voltage MAX!!!!!!!』

 

『rider……maximum shoot!!!!!!!』

 

「おおおおおおっ!りゃああああああっ!」

 

《 《try!try!!try!!!》 》

 

『ぐ、あがああああああああああああああああ!!!!!!!』

 

必殺技を受けて木々を折りながら吹き飛んで行き、ついには見えなくなるバラク。対する乙音は華麗に着地し、腰のマントを払う。

 

「……やった!」

 

「よくやった!後輩!」

 

『………っ!』

 

「あれが、新しい……!」

 

「これが、私の力……!」

 

その場でじっと両手を見つめる乙音を包むのは、勝利の余韻だ。勝ち取った証だ!

今は、それを味わう乙音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『く、くく……まさか、あそこまでとは……』

 

『楽しめたか?バラク』

 

『ああ……次はお前が、行くか?』

 

 

『なあ……カナサキ』

 

 




ダブルエックスの挿入歌を聴きながら書きました。歌詞も、かなり影響されてますね。

次回より新たなる力編となります。


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絶望の哀しみ

とりあえず時間を作れたので。今回あんまり話進んでないですね……設定資料は近々更新します。新フォームの名前とかもそこで。

タイトルミスってました


「……なんか、久々に学校に登校した気がする」

 

乙音は現在16歳の高校生である。当然、学校には行かなければならないのだが、乙音は仮面ライダーというもう1つの顔を持っている。幸いこれまでは無理なく学校に通えていたが、先日のバラクとの戦いを初め、激戦続きだったためか久々に学校に来たような気分になっているようだ。

ちなみに、乙音はこれまで一度も学校を休んではいない。ディソナンスに関しての情報は極秘であり、乙音1人のために民間の施設に事情を説明する事など出来ないため、乙音も必死に学業と仮面ライダーを両立させている。もっとも、真司と刀奈の2人の先輩ライダーがいるおかげでなんとかなっている部分もあるのだが。

ちなみに今日は月曜日。先日のバラクとの戦いが土曜の出来事である。乙音の通う天台高校は土曜日曜が休日となっている。

 

「はあ〜なかなか座り心地の良いような悪いようなこの感じが久しぶり……しかし、あそこまで疲れるなんて……」

 

自分の椅子に座り、机の上に上半身を預け、くつろぐ乙音。思い返すのは前回の戦闘の後の事。あの時、新たな力でバラクを撃退した乙音だったが、すぐに気分が悪くなってしまい、しばらく横になっていたのだ。というのも新型ディスクでの変身はハートウェーブの消費が大きいらしく、ましてや2人に分裂する乙音は消費も莫大なので、ハートウェーブの使いすぎで倒れてしまったのだろうという事だった。

そんな事を思い出しながらぼけっーとする、そんな乙音に友人である湊美希が話しかけてくる。

 

「やっほ、乙音。なんか疲れてるけど、大丈夫?」

 

「あー美希、やっほ。ちょっとバイト先で大きな仕事があって、それで……」

 

乙音は仮面ライダーとしての戦いを、美希を初め、友人には『バイト』と説明している。実際、乙音の銀行口座には高校生の一人暮らしには大きすぎるほどの大金が入っている。両親に『バイト』の事が万が一にでもバレないように特務対策局が用意してくれたものだが、口座にはすでにちょっとした豪華客船の旅ぐらいになら行けそうなほどの大金が入っている。

 

「そりゃ大変だったねぇ。私の方はといえば……なんもなかったかなぁ、この土日は」

 

「…ちょっと意外。美希って土日とか、いつも友達とどっか遊びに行ってそうだし」

 

「いやーははは、土曜は家でゴロゴロしてただけだったんだけど、日曜は家の手伝いしてたのよ」

 

「家って……ああ、花屋だっけ?」

 

「そそ、割と繁盛してんのよ?たまーに手伝いに駆り出されるし」

 

やれやれと言いたそうな顔をしてそう言う美希だったが、美希が働いている所を見た事のある乙音にとっては、単なる冗談にしか見えない光景であるし、美希もそこは解って言っていた。

信頼しあえる友人との日常。それのありがたみを噛み締め、学業に励む乙音。昼休みに入り、美希や他の友人と楽しく食卓を囲む乙音。この日常を精一杯楽しむ彼女の携帯に着信が入る。相手は香織だ。

美希たちにはお手洗いに行くと言い残して電話に出る乙音。『今、どこにいるの?』と聞かれたので「学校です」と答える。すると、少しの沈黙の後、強い口調で香織が語りかけてきた。

 

『乙音ちゃん。落ち着いて聞いて』

 

「……はい?」

 

『……あなたの学校、私立天台高校の近くにディソナンスの反応が出たわ。今、向かえる?』

 

「……!わかりました!」

 

電話を切ると、美希たちに「用事ができたから、ちょっとごめん」と、言い残してすぐさまバッグを持って飛び出す乙音。バッグの中にはレコードライバーとライダーズディスクが入っている。

 

(みんなを怖がらせるわけにはいかない!)

 

決意を秘めて駆ける乙音。誰も見ていない物陰に入ると、消費を抑えるためベーシックスタイルへと変身。香織と通信し、ディソナンスが現れた地点へと向かおうとーー「キャアアアアアアッーー!」

 

「っ!?」

 

駆け出そうとしたその時、穏やかな空気を引き裂くような悲鳴が、校舎に響く。

 

『乙音ちゃん!ディソナンスの反応が、校舎内に!』

 

「えっ…!そんな!」

 

香織からの通信と悲鳴を受けた乙音は、声がした方へと走り出す。場所は校門の近く。そこには、逃げ惑う生徒と、全身を水と黒のカラーで包んだ、魚を思わせる鋭利さを持ったディソナンスが立っていた。

 

「………っ!」

 

思わず誰だと叫びそうになる乙音だったが、変身後も声はそのままである事に気づいて、思いとどまる。すると、学校での戦闘という事もあってすぐさま事情を察した香織から、変声機能の起動手順が伝えられる。ライダーシステムの最大の武器である『歌』を封じる変声機能だが、群衆の前で戦う時など、正体を隠したい時には極めて便利である。

 

『……お前は、何者だ⁉︎』

 

相手がディソナンスである事には変わりはないが、悪い予感からそう尋ねる乙音。すると相手はその姿を消す。

 

『……!?』

 

乙音が戸惑うと、また別の所から悲鳴が響く。今度は生徒達が逃げた先、中庭の方だ。

 

『……くそっ!』

 

再びディソナンスと対峙する乙音だったが、周囲に生徒達がいる事に気づく。逃げろと叫ぼうとするが、様子がおかしい。誰も悲鳴を上げようとも、逃げようともしないのだ。

 

『香織さん!』

 

『どうしたの!?乙音ちゃん!』

 

『みんなが……学校のみんなが、まるで幽霊のように生気を無くしてます……!』

 

『何ですって!』

 

そう、周囲の生徒達が悲鳴もあげず、逃げ出そうともしないのは、生気を無くしているからだった。突風が吹けばそれだけで倒れてしまいそうな生徒達の姿を目にした乙音は、煮え滾る怒りと共にディソナンスに殴りかかる。

しかし、突き出した拳はあっさりと受け止められ、乙音は投げ飛ばされる。

 

『ぐぅっ……!』

 

『……バラクを倒した力』

 

『何……!?』

 

『バラクを倒した力はどうした?と、聞いたのだ。木村乙音』

 

乙音は驚愕した。バラクを撃退した力を敵が知っている事に対してではなく、自身の本名が知られていた事に。

 

『お前は、一体……!』

 

『いや、いい。そちらがそのつもりならば、こちらから条件を出そう』

 

思わずディソナンスに問いかける乙音。しかしディソナンスはそれを無視して話を続ける。再び殴りかかる乙音だったが、今度は手すら使われず体捌きだけで避けられてしまう。

『今、ここにはざっと数えて300ほど人間が、君の学友がいるわけだが……』

 

『お前!何をするつもりだ!』

 

乙音は攻撃を続けるが、相手は変わらぬペースで話し続ける。

 

『そうだな……君、真綿で首を絞められた事はあるかね?』

 

『っ……何を言って……!』

 

『無い、か。ならば、今からその気分だけでも味あわせてあげよう』

 

すると、中庭に集まっていた生徒達の中の1人、乙音に最も近かった男子生徒が倒れる。

 

『えっ……!』

 

急いで支える乙音。男子生徒の顔を見ると、まるでこの世の深淵を覗いてきたかのような暗い瞳をして、口からは泡を吐いている。全身は小刻みに痙攣し、瞳孔は死の瞬間のように開ききっている。顔は青く、まるで幽鬼のようだ。そんな普通の人間が見れば恐怖せざるをえないその表情は、バラクを生んだ事により絶望に起因する感情、恐怖や哀しみといったものまで薄くなってしまった乙音ですら、怖れを抱かざるをえないものだった。

 

『こ、これって……!』

 

『ああ、それだけでは足りなかったかな?ならば、これから私がいち、に……と数えていくたびに、より深く絶望へと、より多くの人間を誘ってみせよう』

 

『何が、望みだ……!』

 

乙音がディソナンスにそう尋ねる。するとディソナンスはそれを待ってたと言わんばかりの勢いで喋り出す。

 

『それはもちろん新たな力だよ。あれを見せて欲しいのだ。言ってなかったが、私は上級、名はカナサキ。君の中の絶望を消した細工、あれを生み出したディソナンスだ。これだけでは君がアレに変身する理由にはならぬか?』

 

『……っ!』

 

それを聞いてすぐさま新型ディスクを取り出す乙音。しかし、香織から使ってはいけないと通信が入る。

 

『なんでですか!使わなきゃ……!』

 

『あなたのハートウェーブはまだ回復していないのよ⁉︎そんな状況であの力を使えば、下手を打てば苦しみながら衰弱死する事になるわよ⁉︎それでも……』

 

『それでも!』

 

『⁉︎』

 

『それでも!私はみんなをこれ以上傷つけられない!』

 

そう言い切るとすぐさまドライバー内にディスクを入れて、『変身!』と叫ぶ乙音。『try&error!』という電子音声と共に乙音の上下、頭部と足元に光の輪が出現し、それが乙音の体を通過していくと、その姿が変化していく。

黒と白のカラーに、2つの角。乙音の新たな力である姿だ。

 

『ほう、それが……』

 

『そうだ!……これでいいんだろう⁉︎』

 

『ああ、構わない。』

 

そう言うと指を鳴らすカナサキと名乗ったディソナンス。すると、生徒達の顔に生気が取り戻されていくと共に、誰かが悲鳴をあげ、それを合図に全員が逃走する。

 

『……案外、素直だな』

 

『こういうのは、こうした方が後々まで拘束力を発揮するものだ。それに、今回の私の目的は君の力を計る事にある』

 

『……なら!』

 

先ほどまでよりも圧倒的なパワーとスピードでカナサキに殴りかかる乙音。カナサキはそのパンチに対処しようとするが、乙音の攻撃が激しすぎて対処しきれていない。

 

『むぅっ……!』

 

『今、ここで!倒しきってやる!』

 

そう言うと基本フォームから愛用している槍、『スタンドランサー』を手にして攻撃を仕掛ける乙音。ちなみにこの名称は昨日乙音が考えたものである。

 

『ふむ……ならばこの一手』

 

しかしカナサキはそれを見越していたかのように姿を消す。カナサキの姿を探す乙音は、校舎の屋上にカナサキの姿を確認する。

 

『……待てっ!』

 

カナサキを追って飛び上がる乙音。追い詰められた形のカナサキだが、いまだ余裕の態度は崩していない。

 

『……何を考えているんだ?』

 

乙音がそう呟いた瞬間、狙いすましたかのようなタイミングで香織から通信が入る。

 

『乙音ちゃん!あなたが今戦っている怪人と似た反応が、真司くんや刀奈ちゃんの所にも現れてるわ!それに、街中にも……!』

 

『……!』

 

通信を聞いて、驚愕を隠しきれない顔でカナサキを見る乙音。カナサキは素知らぬ態度で

 

『どうした?まるで、頼れる仲間が、それ以上に恐ろしい敵に襲われたような態度をして……それとも、図星かな?』

 

乙音を挑発するカナサキ。素早く倒そうと乙音は猛攻を仕掛けるが、先ほどとは違い、攻撃を全て捌かれてしまう。仲間達の事を気にかけているため、ハートウェーブが乱れてしまっているからだ。

 

『君のその力には、さらに興味深い機能があるはずだ。それを使えばいいじゃあないか』

 

『……っ!』

 

興味深い機能とは、乙音が2人になる能力の事だろう。ハートウェーブの消費が激しくなるものの、2人のソングによるコンビネーションは強力だ。

しかし、カナサキがここにいる以上。1人は残らなければならない。ベーシックスタイルよりも性能は上がっているとはいえ、片方だけで上級と対峙すれば、ハートウェーブの消費の激しさもあって命も危うくなるだろう。

しかし、乙音に迷っている時間は無い。レコードライバーを操作して2人に分裂した乙音は、カナサキの能力の事を考慮して精神攻撃に対して抵抗力のある白のソングを残し、黒のソングを最も一般人に危険が迫っているであろう街中へと向かわせる。

 

『そうだ。それでいい。……ふむ、どちらが本体というわけでも無い、か』

 

『………』

 

冷静に自身の力を観察される乙音。張り詰める緊張の中、乙音の精神はゆっくりと追い詰められていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いったい、どこに……!……あっ!』

 

街中へと飛び出していった黒のソングは、ディソナンスを探して走り回っていた。ディソナンスを見つけることができず焦る黒のソングだったが、戦闘音を耳にして駆ける。

たどり着いた場所では、カナサキとボイスが戦っていた。

 

『!ボイス!』

 

『ソング⁉︎手を貸せ!』

 

カナサキを蹴り飛ばした黒のソングは、違和感を感じる。しかし今はその違和感を気にしている場合ではないと戦う黒のソング。ボイスはそんなソングを見て、彼女の焦りに気づく。

 

『ソング!お前、何かあったのか⁉︎』

 

『先輩達の所にも、ディソナンスがいるって!』

 

『でも、あいつらの戦闘力なら!』

 

『こいつもそうだけど、上級のディソナンスに近い反応だったんだ!』

 

『何⁉︎』

 

より苛烈に攻撃を続ける黒のソングは、違和感の正体に気づく。それは相手が一切喋らないという所だ。

 

『あいつ、本物じゃない⁉︎』

 

そう直感した黒のソングは必殺技を発動。『rider double spear!』という電子音声と共に振りかぶったスタンドランサーがカナサキ?に直撃。すると、傷口から覗いたのは、機械で構成された体躯だった。

ギ…ギ…と不吉な音を鳴らしながら爆散するカナサキの偽物、それを確認した黒のソングは今いる地点から近い、真司のいる場所へと向かう。

立ち止まっている暇は無いと言わんばかりの勢いで走り出した黒のソングだったが、不意に立ち止まる。黒のソングを追いかけていたボイスが、どうかしたのかと訝しみ、声を掛けようとしたその時ーー

 

『グブッ……!』

 

『⁉︎おい!』

 

健常な人間が零してはいけない声を零してゆっくりと倒れる黒のソング。それを慌てて支えるボイスは、自身の手にに不自然な滑りを感じ、ある予感を感じながらもその正体を確認する。

 

『………!』

 

その正体は、どす黒い大量の血であった。マスクの隙間から次々と流れ出してくる血を、なんとかしようと思うボイス。しかし、ボイスの力ではどうすることもできず、ただ黒のソングに向かって叫び続けるしかない。

 

『おい!しっかりしろ!おい!』

 

『う……あ……』

 

ボイスの声に反応を返す黒のソング。その事実に安堵するボイスだったが、黒のソングは自身の体を伝う血など気にせず立ち上がり、また駆け出そうとするも、体に力が入らず、足を踏ん張ることもできない。立っているのがやっとの状態だ。

 

『……っ!乙音ちゃん!大丈夫⁉︎乙音ちゃん!』

 

香織からの通信も聞こえず、動かない体を引きずり動かす黒のソング。

 

『……っ乙音ちゃん、今確認が取れたわ。真司くんも刀奈ちゃんも、ディソナンスを倒したって。だからーー』

 

しかし、香織が話し終える前に、その連絡を聞いた黒のソングは、糸が切れたように倒れてしまう。

 

『っ!おい!おい!』

 

『乙音ちゃん!気をしっかり持って!今そっちに救護班を…』

 

周囲の雑音も聞こえなくなった黒のソングは、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、天台高校校舎屋上では、カナサキと白のソングが対峙していた。

何も喋らず、ただソングの周囲を歩き回るカナサキの行動に困惑する白のソング。するとカナサキが足を止め、『そろそろか』と呟く。その発言に不穏なものを抱く白のソングは、カナサキに対して問いかける。

 

『何をーー』

 

しかし、喉の奥から込み上げてきた熱によって、その発言は中断される。朦朧とした意識の中、白のソングが目にしたのは自らの血液であった。

 

『あ?え、なん、でーー』

 

四肢に力を入れられなくなり、倒れふす白のソング。そんな白のソングに近づいたカナサキは、白のソングのそばに立ち、種明かしと言わんばかりに喋り出す。

 

『もちろん、ハートウェーブの消費のしすぎだな。ああ、辛いだろう?喋らなくていい。どうせなんでこんなに早く……とか、くだらない事しか喋れぬ口だ。もちろん私は寛大だからその疑問に答えてあげよう。それはな、この私の能力の結果だ』

 

『能、力……?』

 

『そうだ、生命を絶望へと追い込む力……転じて、恐怖や哀しみといった感情を増幅させ、相対者の緊張を高めて、ハートウェーブの消費を早める事もできる。君は私にさっさと殴りかかるべきだったという事だ。もっとも、君程度では私には勝てんがね』

 

一通り喋り尽くしたカナサキは、用が済んだと言わんばかりにその場を立ち去る。その行動を理解しようとする暇もなく、苦しむ白のソング。そして黒のソングが気を失うのと同時に、白のソングも気を失い、変身が解除される。屋上には自ら吐き出した血の中に沈む乙音だけが残されていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ーー都内某所

 

『やらなくて良かったの〜?せっかく楽しめそうな子なのに』

 

『私はああいうので楽しむ趣味はないよ、キキカイ。それに、君は喜びの感情の方が大切なはずだろう?』

 

『その通りだけど〜人間に近づいていくためには、もっと捻くれなきゃ!』

 

『……そうか』

 

『ああ!今度はどんな事をしようかしら!今から喜びで体が震え出すわ!』

 

『フフッ、フフフッ、フフフフフフフフフフ!』

 

夜の街に、悪の笑いが響き渡る。

 

果たして、ライダー達の運命はーー

 

 



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決意と危機

今回あんま話し進んでないかな?


「学校への連絡は⁉︎」

 

「今回は、さすがに誤魔化しきれませんよっ!」

 

「なんでもいい!幸い生徒達の記憶は残っていないんだ、そこらの動物園から逃げ出したライオンがいたとか、適当な理由でもいい!とにかく今はまだ隠すんだ!」

 

特務対策局本部ーー普段は数多の職員達が静かに仕事をこなすそこは、今は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

新たな上級ディソナンス、カナサキの登場に加えてその上級に対抗可能な新型ディスクの、現時点での唯一の起動者である木村乙音が倒れ伏してしまった、しかも、彼女が戦闘を行なった場所は学校と街中である。

街中の方はまだ良い、ネットで情報を拡散されたとしても、ディソナンスとはまともに戦えない代わりに、そちらの方面でライダー達のサポートを行うべく集められた人材達である。ライダー達の情報を抹消する、その程度の情報操作などは決して容易ではないが、不可能ではない。目撃した人々に対しても、それなりの懐柔手段などは用意してある。

しかし、学校の方は別だ。人の記憶を都合よく一部分だけ消せる訳でもなく、情報操作で抑えようにも子供とは恐れを知らないものだ、少なくとも仮面ライダーやディソナンスの存在が都市伝説程度であっても広まってしまうだろう。学校側から抑えようにも、生徒達の中から反発する者が出てくるはずだ。

今回、不幸中の幸いと言えたのは、生徒達を初め、天台高校内にいた人々の記憶からディソナンスやライダーに関しての記憶が無くなっていた事だ。おそらく、あのカナサキと名乗ったディソナンスの仕業だろう。

様々な作業に追われる中、不意に若い職員の1人が疑問を零す。

「いったい、ヤツは何を考えていたんでしょう……」

 

「……さあな、そんな事考える暇があったら、とにかく作業に集中しろ」

 

「しかし……」

 

若い職員の疑問に、また別の壮年の職員が素っ気なく答える。それでも未だ疑問を隠せない若い職員を、しかし叱咤する声。先ほど疑問に答えた、壮年の職員のものだ。

 

「俺たちは!……俺たちは、あの女の子が戦って、戦い抜いて……それでも戦ってるって時に、こういう事しかできないんだ!ああそうさ、俺たちは無力だ。だが、無力なら無力なりにやれる事があるって、そう人類の歴史が証明しているだろう?だから、俺たちは彼女達を支えるんだ。それが俺たちの誰にも譲れない仕事だ……わかったら、さっさとコンピュータに向かえ!」

 

そう言い放つと、コンピュータの画面に向かって作業を続ける壮年の職員。若い職員は、その背中を見て一礼すると、すぐに作業に集中し始める。

ライダー達は、孤独に戦っている訳ではない。仮面の裏で流す涙が尽きようとも、歌を歌い流し、声を張りあげる事が出来るのは、こうして支えてくれる大多数の『誰か』がいるからなのだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッー、ピッー、と断続的に電子音が鳴る部屋、特務対策局の地下にある医務室のベッドで、乙音は眠っていた。

その瞼は重く閉じられ、黒かった髪は一部分が白くなってしまっている。

頬は痩せこけ、息はあるが、しかし胸を微動させる程に微弱に、ゼブラを抱きしめたその両腕は、もはや赤子一人持ち上げることすらかなわないだろう。

新型ディスクの限界を超えた使用による、ハートウェーブの消費。それを無視して、文字通り限界を超えたその先の、哀れな姿であった。

そんな彼女が横たわるベッドの横にある椅子、そこに座る少女。乙音から生まれたディソナンス、ゼブラである。

乙音の持つ絶望から生まれた彼女は、上級に匹敵するほどのハートウェーブを持つが、その大部分を戦闘以外のものにあてているため、乙音の教育もあり、人間に近い思考を獲得できている。

そんな彼女の心に浮かんでいるのは、今ここで乙音がこうして横たわっていることに対しての罪悪感だった。

自分が生まれた事で、乙音の中にある絶望の感情は消滅し、哀しみや恐怖といった絶望の元となる感情も、薄くなってしまった。乙音自身は、『自分は元々臆病なぐらいだったんだから、むしろ今ぐらいがちょうどいい』と自分を慰めてくれてはいたが、その感情達が無くなってしまった事で乙音は無理をしてしまったのではないか、いや、無理をできてしまったのではないかと、そう思いつめていた。

そんなゼブラの背後に立つ影が一人。乙音の見舞いに来た真司のものだ。

 

「……先客か」

 

「……あ、真司……さん」

 

「隣、座ってもいいか?」

 

「あ、はい……」

 

「……発声、上手くなったものだ。俺たち人間と全く変わらん……」

 

「……お姉ちゃんの、お陰です」

 

「そうか……」

 

ゼブラに一言断りを入れると、ゼブラの隣の席に座る真司。怪人能時の、少しくぐもった声ではなく、人間らしい声で真司と話すゼブラ。真司もそれに気づき驚くが、すぐに冷静になる。

沈黙が続く病室内。ゼブラがその沈黙に耐え切れなくなってきたところで、真司が口を開く。

 

「……そう、気に病むな」

 

「え………」

 

「……後輩がこうなったのは、後輩の、覚悟の結果だ。俺たちがそれを自分達の所為だと悔やんでも、後輩は喜ばん……特にお前がそう自分を責めていてはな」

 

「……っ、責めてなんか……」

 

「……ならば、なぜ泣いている」

 

「え……?あ……?」

 

ゼブラの頬を伝う、熱い涙。それを拭おうとするゼブラだったが、拭っても拭っても、次々と涙が溢れでてくる。

 

「なん、で……?」

 

「やはり、似た者同士だな……お前達は」

 

その光景を見て、乙音と初めて会った時の事を思い出し、笑う真司。白いハンカチを取り出すと、ゼブラの頬を伝う涙を拭う。

 

「……このハンカチはお前が持っていろ、そう激しく泣いてしまうのでは、これが手離せなくなるだろうな」

 

「で、でも……」

 

俯くゼブラに、真司は優しく語りかける。

 

「……病は気から、というがな……お前はいわゆる精神生命体、それこそそんな状態では、病んでしまうだろう……そうなってしまっては、後輩も……乙音も悲しむからな」

 

「………!」

 

「だから、まずはこのハンカチが要らなくなるように、強くなれ。それが、お前が乙音のために今できる事だ」

 

ハンカチを手渡されるゼブラ。その頬には、目には、既に涙はなく、顔を上げて真司の瞳を真正面から見据えると、静かに頷き、そのまま医務室を飛び出していく。向かう先はトレーニングルームだろう。

 

「……真司、お前も丸くなったものだな」

 

ゼブラの背を見送る真司の背後から話しかける刀奈。真司は振り返り、刀奈に対して「少し後輩にあてられたのさ」と言い、自らもトレーニングルームへと向かう。おそらくゼブラのトレーニングのサポートをするのだろう。

 

「……君も変わるか……私も、変わらなくてはな……」

 

そう呟く刀奈の手には、新型ディスクが握り締められていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦力増強……ですか?」

 

特務対策局局長室。乙音のダウンから3日経つものの、状況は変わらず、上級ディソナンスもあれきり出現せず、中級は何体か出現したというのに、ボイスも出てこない。

そんな煮え切らない状況の中、朝の6時に局長室に集められた真司、刀奈、ゼブラの3人は、猛からダウンした乙音の穴を埋められる戦力が見つかったと話された。

 

「新進気鋭の若手アイドル、佐倉桜。真司君は何回か彼女と組んで仕事した事もあるはずだ。……残り一つのレコードライバー、その適合者が彼女という事が、3時間前に判明してね。こうして急いで集まってもらったという訳だ。理由はわかるね?」

 

「……確か、今日のスケジュールには、彼女と共演する歌番組の収録がありましたね。なるほど、そこで彼女を見極めてこいと」

 

真司の発言に頷く猛。その目元には遅くまで作業をしていた事を示すクマがある。

 

「そういう事……刀奈ちゃんも、よろしく頼むよ〜?」

 

「え…あ、はい」

 

相変わらず人見知りな刀奈に呆れる猛だったが、すぐに気を取り直す。

 

「……まあいいか!はい!それじゃあゼブラちゃんも、今回は真司君と刀奈ちゃんの2人に付き添っていってもらうよ!」

 

「はい!わかり……えええええええええ⁉︎」

 

しかし、次に猛の口から飛び出してきた発言は、ゼブラを狼狽させるに相応しいものだった。ゼブラだけでなく真司と刀奈も驚いてはいるが、すぐにいつもの事だと冷静になる。1人取り乱すゼブラは、真司に対して質問する。

 

「な、なんで僕が⁉︎なんで僕が2人と一緒に行くんですか!」

 

「まあまあ、落ち着いて。君の事は新しくミライプロに入ってきたアイドル候補生で、今回はその見学って事にしとくから」

 

「そういう問題じゃなくってぇ……!」

 

「まあ、上級が出てきた時に、その足の速さを生かして撹乱してほしいってのもあるんだけどね」

 

猛の言葉を聞いてピタッと落ち着くゼブラ。

 

「う……まあ、そういう事なら……」

 

「うん!よろしい!頼りにしてるよ〜」

 

「た頼りに……?えへへ……」

 

ゼブラの手を握り、激しく握手を交わす猛。初めて人から頼りにされて嬉しそうに惚けるゼブラ、そんなゼブラを見て真司と刀奈は、こう思っていた。

 

((チョロい………チョロ甘………!))

 

こうして、3人の作戦は始まった……の、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた……仮面ライダーでしょ?」

 

「…何を言っている?」

 

……少し時間を戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猛から極秘任務の遂行を任された真司、刀奈、ゼブラの3人は、歌番組の収録現場に来ていた。

ゼブラに関しては、彼女の容姿がアイドル向けの、いわゆる可愛い系の外見だったこともあり、現場のスタッフにも違和感なく受け入れられたのだが、まだプロデューサーへの説明がある。とはいえ猛からも連絡はしているので、そちらは特に問題はない。しかし、肝心の佐倉桜の挙動が怪しかった。

やや吊り目であるが、バランスの整ったその顔はいつも微笑をたたえているが、今はなんだか不安そうな顔で、真司達をチラチラと見ている。

それに目ざとく気づく刀奈だったが、それを真司に伝える前に、真司はプロデューサーの元へ挨拶に行ってしまう。しかも、ゼブラを連れて。

1人残された刀奈は桜から送られてくる視線を感じて緊張に身を固める。そのまま真司の帰りを待つ刀奈だったが、ゼブラに関してのあれこれが難航しているのか、帰りが遅い。

そうこうするうち、桜が身構えたかと思うと、そのまま刀奈の方へと歩いて来た。

いきなりの事に狼狽する刀奈、刀奈の目の前まで歩いて来た桜が口を開く。

 

「少し聞きたい事があるんですけど、ちょっと時間、いい……ですか?」

 

何を聞かれるかと思った刀奈だったが、桜の口から出て来た言葉は割と普通のものだった。

桜は有名になってきているとはいえ、まだ売り出し中のアイドル。同じアイドルであり、世界的に有名な自分にアドバイスを求めてくる事もあるだろう。そう考えた刀奈はやや緊張しつつも、桜の頼み事を快く了承する。

その後、桜の控え室へと移動した2人。桜にお茶を出した桜の口から出た言葉は……

 

「あなた……仮面ライダーでしょ?」

 

「……何を言っている?」

 

果たして、人見知りの刀奈は、この危機を乗り越えられるのだろうか……

 




エグゼイドVシネ楽しみ……楽しみじゃない?


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dance&song!

ホントは日曜に投稿したかったんですが、こんな時間に……ビルド面白いっすねぇ………え?設定資料はどうしたって?……思ったよりかけることが少なかったんで、次回となりました。




「……全く、何を言いだすかと思えば、私が仮面ライダーだと?フッ、気でも迷ったかな?」

 

「……むっちゃ手が震えてるけど、お茶、零さないでよ」

 

佐倉桜の控え室で、刀奈と桜は対峙していた。

桜の入れたお茶を震えながら飲む刀奈。桜もカップの中身を一気に飲み干すと、再び喋り始める。

 

「……ほら、この業界ってさ、嫌な事もあるじゃない?枕とかは私やってないけどさ、憧れてた先輩とかが……とか、さ。あん時もそうだったの。陰口聞いちゃって……」

 

「……嫌な事、か………」

 

桜の話を聞く中で、刀奈はまだアイドルになったばかりの頃……つまりはライダーになったばかりの頃を、思い出していた。

真司と共にアイドルになり、ライダーになったはいいものの、自分の人見知りのせいで真司には随分と迷惑をかけていた。今は修行を積んだものの、後輩に無茶をさせてしまっている……そんな事を思い、難しい顔で黙り込む刀奈。そのまま自分の世界に入り込もうとするが、桜が刀奈の目の前で手を振ると、それに気づいて慌てて話を聞こうとする。

 

「……人が話してる時に自分の世界に入り込もうとするとか、失礼じゃない?」

 

「う……そ、それを言うならきみも先輩たる私に敬語を使ってないじゃないか!みんなの前では使ってたのに!」

 

「そりゃ、先輩アイドルとしては尊敬してるし、他の人の前では敬語を使うわよ。でも、私とあなたって同い年よ?」

 

「え?そうなのか?」

 

ちなみに刀奈は今年で21歳で、五年前からライダーとアイドルを続けている。成人式は日本で迎えてからアメリカに渡っていて、21歳の誕生日は一ヶ月前にアメリカで迎えている。

 

「そ、同い年相手に敬語を使うのも疲れるし、できるだけプライベートと仕事はきっちり分ける事にしてるのよ、私」

 

「そうか……ならば仕方ないな」

 

あっさりと納得する刀奈。桜は心の中で苦笑いするが、顔は自然体のまま、続きを話す。

 

「……続きだけど、私ってそういう時は森とか山とか歩くのが好きなの。こう……癒される気がして。…で、森の中を歩いてたら……」

 

「私達の戦う所を見てしまったと」

 

「……そういう事」

 

そう言うと沈黙する桜。刀奈も難しい顔で黙り込み、2人の間に不穏な空気が流れ始める。

側から見ればすぐさま戦いの始まりそうな、そんな一触即発の雰囲気の中、2人が考えていた事は……

 

(ど、どどどどどーすんの、これ!勢いで言っちゃたけど、口封じとか、そういうのされない⁉︎あーでもあのちょっと怖い雰囲気の人が離れたスキを狙うしかないと思っちゃったし!でもなんでそう思っちゃったのよ!私のバカァーー!)

 

(ど、どどどどどうすれば良いのだ。真司や所長に相談すべきか?いや、戦う所を見られたとなるとこれは失態!私のみならず、真司や乙音くんもアレなるかもしれん!アレなるってなんだ。と、ともかく!なんとかして黙ってもらうようにお願いしなければ!)

 

似たような事を考える2人。年齢と職業だけでなく、思考回路まで同じようだ。

外だけ見れば不穏だが、中身を知れば爆笑の雰囲気の中、2人同時に口を開く。

 

「「あの!」」

 

声が合った事に一瞬驚くが、2人して相手に発言権を譲ろうとする。あなたが先に、いいえあなたが。そんなやりとりを3回ほど繰り返し、しびれを切らした桜が立ち上がり、先に喋り始める。

 

「え、えーと。その、口封じとか、そういうのって大丈夫ですか?なんか、知らない方が良い真実もあるって言いますし……」

 

急に敬語になる桜。いったい彼女の心の中ではどんな思考があったのか見当もつかない。

2人の心の内を知れば笑い話だが、とはいえ桜にとっては笑えない話。完全に縮こまってる桜のこの発言に対して、刀奈はーー

 

「え、いや、黙ってもらいたければどうとか、そういう事なのでは……?」

 

「え?」

 

「え?」

 

突然の事に情報を処理しきれていないようだ。アイドルとしての彼女しか知らない者からすれば以外すぎる光景だが、少なくとも小学四年生ぐらいまでは刀奈と風呂に入っていた事もある真司のように、素の彼女を知る者からすれば、以外でもなんでもない反応である。

桜は立ったまま、刀奈は座ったままの姿勢で硬直する。ロマンスの欠片もなく見つめ合う2人。しかし数秒後、突然桜が笑い始める。

 

「ぷっ……あ、あははははははははは!なーんだ、悩んでたのがバカみたいね」

 

その反応に頭が追いつかない刀奈。そんな刀奈を見てさらに笑う桜だったが、刀奈も2人がすれ違っていたというか、いろいろと勘違いしていた事に気付き、今桜が爆笑している理由にも気づくと、徐々に顔を赤くさせていく。

その赤さが顔全体に広がった瞬間に立ち上がり、涙目になりながらも発言する。

 

「う、うううううう!なんだか騙された気分だ!釈然としない!」

 

「あはははははははは!……あー、私は、スッキリとしたけどね。そっかあ、うん」

笑いすぎて涙目になりながら、スッキリしたと語る桜。刀奈は釈然としていなかったが、桜と顔を合わせると、刀奈も笑い始める。

 

「ふ、ふふふっ!私達、似た者同士だな!良い友人になれそうだよ!」

 

「あははっ!そうね!おんなじアイドルで同い年。こんなに合う人って初めてだわ!」

 

「そうだな、確かに似た者同士だな」

 

第三者の声に2人が扉の方を向くと、そこにはゼブラを横に従えた真司の姿が!

 

「あー…………番組の撮影までまだ時間がある。もう少しゆっくりとしていてもいいぞ?」

 

「え、えーと………お、お二人とものライブ映像を見ましたけど、ギャップがあって、良いと思いますよ!」

 

顔を見合わせる2人。その顔をあっという間に真っ赤に染めると……

 

「「き、記憶から消してくれぇぇぇぇぇぇ!」」

 

その後、真司が2人を宥めた頃には、番組の撮影が始まる時間となっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、私を仮面ライダーに?」

 

「そうだ。………事情をある程度は知っているならば、説明はいいか?」

 

「んー、頼むわ。私も仮面ライダーの名前は都市伝説でしか知らないし」

 

「都市伝説……?」

 

「あるのよ。昔から仮面ライダーの都市伝説が。一番古いのでそれこそ昭和の時代にはもうあったらしいわよ?案外、あなたたちの仮面ライダーって称号はそこからなのかもね」

 

撮影後、桜がプロデューサーとの打ち合わせを済ますのを待ってから、特務対策局の車で、とある喫茶店へと移動した真司達は、桜が仮面ライダーになるかどうかについての話をしていた。

真司達が今いる喫茶店『タチバナ』は特務対策局が、仮面ライダーの基地の一つとして作ったものであり、基本的には特務対策局の者達が主に利用している。

店主を任されている藤岡藤兵衛の淹れるコーヒーは評判が良く、対策局メンバーの中でも最年長である事から、あらゆる局員に『おやっさん』の愛称で親しまれている。

ちなみに乙音も真司に連れられてここを利用した事があり、真司がコーヒーに砂糖を入れまくる横でブラックコーヒーを飲み干していた。

コーヒーを飲みつつ、話を進める真司。桜もライダーとしての活動内容を真剣に聞いている。

数分後、全てを話し終えた真司は確かな手応えを感じていた。あとは実際にどれだけ戦えるかを確かめるだけだと、そう思っている。事実、その手にはドライバーと新型のディスクがあり、いつでも桜にこれらを手渡せる状況となっている。

しかし、真司たちからの仮面ライダーになるかという誘いに対しての返答は、否定だった。

 

「いいえ……私は遠慮しておくわ」

 

「……理由を聞かせてもらっても?」

 

「正直、戦える気がしないのよ。私はアイドルとしては自身はあるけど、誰かのために自分の命を賭ける自信なんてこれっぽっちもないわ。そんな私が、その乙音ちゃんの穴を埋めるなんて、どだい無理ね」

 

「だが!」

 

「だがじゃないわ!……あなたたちの力にはなりたいと思ってるから、もし困った事があれば、私に解決できるものならなんでも相談にのるから……」

 

そう言って席を立とうとする桜。しかしそんな桜の腕を、隣に座っていたゼブラが掴み、立ち上がろうとするのを止める。

 

「……今、あなたの力が必要なんです」

 

「……言ったでしょ?私に解決できるものなら相談に乗るって。これはね、私にはどうすることもできない事なの」

 

「いいえ、できます」

 

強く断言するゼブラに苛立つ桜。思わず声を荒げてしまう。

 

「……っ!無理よ!あなたも聞いてたでしょ⁉︎さっきの話を!私はあなたたちが今までどんな思いで戦ってきたかも知らない!そんな私があんな戦いに参加するなんて、とても……「できます!」……っ!」

 

強く、強く桜を見つめるゼブラ。その視線に思わず、桜は疑問の言葉を零してしまう。

 

「なんで……なんで、あんたはそんなに私の事を信じれるのよ?」

 

「……桜さんの出てるライブ?の映像とか、えーと、番組の映像とか、見させてもらったんです。所長さんに、見ておいた方がいいだろうって言われて」

 

「……それが、どうしたのよ」

 

うつむきながら問いかける桜。

 

「あの時の桜さんは、とても輝いていました。僕が初めて乙音お姉ちゃんと目を合わせた時ーー僕が、心を持つ事が出来たあの時、お姉ちゃんの中に感じたものと、同じ様に輝いていたんです」

 

「……………」

 

「……だから……だから、桜さんならなれるはずです。仮面ライダーに……それに、桜さんはお姉ちゃんの代わりとか、そういうのじゃないんです」

 

その言葉に、桜は顔をあげる。

 

「桜さんは桜さんです。今僕たちが求めているのは、乙音お姉ちゃんの代わりとなる力じゃないんです。桜さんそのものの力なんです。……それに、猛さんから聞きました。桜さんはどんな事にも挑戦し続けて、こうして人気になったんだって……猛さんが桜さんをライダーに選んだのは、桜さんの挑戦心が欲しかったんだと思います。僕だって、そう思いましたから」

 

その場を沈黙が包む。真司と刀奈は、二人の様子を見守っている。

静寂の中、まず口を開いたのは、桜だった。 真司が手に持つドライバーとディスクを指差し、そのまま喋り始める。

 

「……あんたの、それ。確か…レコードライバーとライダーズディスクだっけ?」

 

「!……そうだが」

 

「……少し、少しだけ、確かめて見ても良い?」

 

「……ああ!」

 

こうして桜の手にドライバーとディスクが渡る。この二つを、桜がしっかりと受け取った、次の瞬間ーー

ゴォォォォォォン……という破砕音が店の中に響く。窓から外を見ると、外で下級ディソナンス達が一般市民相手に暴れている。

 

「奴ら、最近動きが少ないと思えば……!」

 

「……桜!少しだけ待っていてくれ!」

 

店の中で変身すると、外へと飛び出して行く二人。ゼブラはいざという時に店主と桜、二人を守れるように移動する。

そして、桜はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつら、いつもとは様子が違う!」

 

「ああ、まるで機械のような無機質さと統一感!正直、不気味だ……!」

 

それぞれファングとツルギの姿へと変身した真司と刀奈は四方を覆うディソナンス達と戦っていた。

しかし、戦いの中で二人が感じていたものは違和感だった。まるで、機械を相手にしているかのような手応えに、戸惑う二人。しかし、二人ともこの感覚には覚えがあった。

 

「真司、この感覚ーー!」

 

「ああ、まるで、先日……後輩が倒れた日に戦ったディソナンスのような……」

 

そう、二人が感じていた違和感は、乙音が倒れた日に彼らがディソナンスと戦った時に感じていたものと同種のものだった。それに二人が気づいた直後、突如として上から砲撃が降り注ぐ。

 

「ぐわっ!」

 

「っ、なんだ⁉︎」

 

砲撃が来た方向を向く二人。すると、ディソナンスの群の向こうに明らかに周りとは違う雰囲気を放つディソナンスが出現していた。

 

『は〜〜い、仮面ライダー。この私キキカイの相手をフフッ!してもらおうかしら?』

 

現れたのは上級ディソナンスのうちの一体。『喜び』の感情を力へと変える機械の女王、キキカイであった。

バラのようなバラクや魚のようなカナサキらとは異なり、生物感を感じさせない、無機質なフォルムを持つ彼女は、格好の研究対象である仮面ライダーと戦える事に無上の喜びを感じていた。

 

『フフフッ!つまんない仕事なら殺してやろうと思ったけど……なかなかどうしてやるじゃない!あいつ!』

 

「仕事……?まさか、何者かに依頼されて⁉︎」

 

「誰だ!誰が貴様に……!」

 

『あら、すぐさまその考えに行き着くなんてやるわねあなた達。まあ、フフッ、教えるわけないけど』

 

キキカイの挑発的な態度に怒る二人。襲いかかってきたディソナンス供を葬り去ると、一気にキキカイとの距離を詰める。

 

「悪いが、貴様の戯言に付き合ってる余裕はない……!」

 

「今の私達は気が立っていてな、貴様ら全員切り捨てる!」

 

ディソナンス達を蹴散らし、キキカイに肉薄する。まずはファングが必殺技を発動。『rider crash!』の音声と共に殴りかかる。これはキキカイに防がれるが、その隙を突いて背後に回った刀奈が必殺技を発動。『rider slash!』を、その身に叩き込む。

ーーしかし、それは叶わず、二人が気がついた時には、地面に転がっていた。

 

『バーリアっ。フフッ、二人とも…おいたはダメよ?』

 

キキカイがツルギの必殺技を受ける直前にバリアを展開。それに弾き飛ばされてしまったのだ。

 

「ぐっ、うっ……」

 

「真、司……!」

 

立ち上がろうとする二人だったが、周辺のディソナンス達に押さえつけられて動けない。そんな二人にまるでモルモットを前にした科学者のように、ゆっくりと近づくキキカイ。

絶対絶命の危機に、店の中ではーー

 

「っ〜〜!なんで、なんで動かないのよ!」

 

桜が必死にディスクを起動させようとしていた。先程から完璧に起動までの手順を踏んでいるはずなのに、どうしても起動しない。

 

(やっぱ、私には無理だったの……?)

 

弱気になる桜。しかし、そんな桜の横を抜けようとする影があった、ゼブラだ。

外へと駆け出そうとするゼブラを、思わず引き止める桜。

 

「待ちなさい!あんた一人が行ってもどうにも……」

 

「そういえば、桜さんには言ってませんでしたね……」

 

立ち止まり、急に語り出すゼブラ。桜はそれを訝しむが、すぐにゼブラの告白に驚くこととなる。

 

「僕は、ディソナンス……あいつらと同じ存在なんです」

 

その言葉に思わず目を見開く桜。そんな桜を見てゼブラは悲しそうに笑うと、「だから僕ならなんとかできるかもしれません」と言って店の外へ出ようとする。

しかし、その肩を桜が掴む。

 

「……待ちなさい」

 

「……桜さん?この手をーー」

 

「待てって言ってんの!ああもう!私がそんな告白でボーゼンとするとでも思ってたの⁉︎言っとくけどね、今日の私は……私は……!」

 

「止まらないわよーー!」

 

そのままゼブラを後方へと押しやると、店の外へと飛び出す桜。変身もせずに店から出てきた桜を見て、真司と刀奈は驚愕する。

 

「はんっ、先輩のくせに、情けない格好になってんじゃないの!二人とも!」

 

「無茶だ!桜!逃げろ!」

 

「そう、だ……俺たちには構わず!」

 

しかし、桜の心は揺るがない。

 

「ふんっ、誰がそんなお願い聞いてやるもんですか。そうよ、ここは私のライブステージ!これだけの観客の注目を浴びてるってのに、逃げ出すわけにはいかないわね!」

 

そう言って、数多のディソナンス達の視線にも怯まず、キキカイを見据える桜。

 

「あんたが、二人を追い詰めたってわけ?」

 

『……ならどうすんの?言っとくけど、研究対象以外には無慈悲なのよ、私』

 

そう言うと、話すことはないと言わんばかりに、腕に備え付けられた大砲の先を桜に向けるキキカイ、しかし、桜はフッと笑うと、キキカイを挑発する。

 

「あら、背中を見せるどころか一回転する余裕すらくれるなんて、随分と寛大ね?これじゃあその研究対象とやらには一流ホテルでVIP待遇でもするのかしら?」

 

『……言いたいことはそれだけ?』

 

「まだあるわよ」

 

『ならもう喋れなくしてやるわ』

 

キキカイの腕の大砲からエネルギー弾が発車される。それは、桜まで真っ直ぐと突き進みーー

 

(……恐れるなっ!私!そう、私はーー!)

 

その光に桜の全身が飲み込まれる。その光景を見て愕然とする真司達。しかも、その光はどんどんと膨れ上がりーー

 

「……?なんだ?様子が……!」

 

『ど、どういう事……?すでに照射は終わってるのに!なんで!』

 

ーーその光は、キキカイがエネルギーの照射を辞めても膨れ上がり続け、やがて一つの形をとる。

頭部にはまるで桜の髪型のような形状ーツインテール型のユニットが、全身は女性らしいフォルムに包まれているが、踵や肘には鋭利なブレードが、さらに腰にはスカートまであり、アイドルの衣装を思わせる出で立ちである。

そう、この姿はーー

 

「変身完了……仮面ライダー、ダンスって所かしら?」

 

その名を仮面ライダーダンス。変身者は佐倉桜。

さあーー

 

「覚悟はいい?私のライブの……始まりよっ!」

 

流れる歌は、『over A』彼女自身の奏でる歌が、この場を支配する。まるで、彼女のライブステージのようにーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裂帛の気合いとともにディソナンスの群の中へと飛び込む仮面ライダーダンスーー佐倉桜、桜は複数のディソナンスを、まるでブレイクダンスのような足技で一気に蹴散らすと、真司と刀奈の両者を助け出そうとする。

 

「さあ、私の踊りについてこれるかしら⁉︎」

 

《 心の中、溢れてたsong形にできず、いつも俯いて、そこで立ち止まってたんだ 》

 

歌と共に流れるような踊りでディソナンス達を翻弄する桜。真司と刀奈の両者を抑えていたディソナンスを打ち倒すと、二人を守れるように前に出る。

 

《 震えてる、唇から溢れ出る、ありふれたvoice。それが私を勇気づけてくれたんだ 》

 

《 だからもっと胸張って、自信溢れさせて、行こうよ! 》

 

「よっ……と!」

 

両サイドから押さえ込まんと迫るディソナンスを身をかがめる事で躱すと、そのままディソナンス達を回転して吹き飛ばし、その勢いのままその手に棒状の武器、『ダンシングポール』を呼び出し、その場にポールを突き刺すと回転。周囲のディソナンス達を一気に消滅させる。

 

《 心の中のこの衝動、動き出すこのemotion、どこまでも熱いこのpassion 》

 

『ダンスとか……うざったいのよ!そもそもダンスと歌とがなんの関係があるってんのよ!』

 

「決まってんじゃない、私は歌って踊れるアイドル!踊りも歌も、私の大事なパフォーマンスの内の一つ!踊りで歌に乗り、歌で体を動かす!それがアイドルの頂点を目指す者の志ってものよ!」

 

キキカイの怒声にも悠々と答える桜。キキカイからの砲撃が激しくなるが、それら全てをすり抜けていく。

 

《 踊りだそう、Live&dance!歌い出そうLive&song! 》

 

《 そうよこのちっぽけな世界という名のステージで 》

 

「いくわよ!」

 

『voltage MAX!!!』

 

キキカイの目の前にまで迫った桜は必殺技を発動!エネルギーが桜の内で凝縮され、それを一気に解き放つ!

 

『rider over burst !!!』

 

《 動きだそう、Live&life!走り出そう!Live&dream! 》

 

《 そうよあの頂を目指して、どこまでも未来へ…… 》

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『こ、こんな力っ!』

 

あまりのエネルギーの奔流に消滅していくディソナンス達、キキカイもこれにはたまらず、バリアすらも破られたのを見て、撤退を選択する。

 

『ぐ、ぐぐ……研究対象が増えたのはいいけど、なんか複雑な気分〜!』

 

捨て台詞を残して搔き消え、逃亡するキキカイ。周囲のディソナンスを全滅させた桜は、地面に膝をつく。それを心配して、変身を解除しながら駆け寄る真司達。ゼブラも店から出て駆け寄る。

 

「桜……!」

 

「無事か!?」

 

「桜さん……!」

 

3人が近寄ると同時、桜は変身を解除、そのまますくっと立つと、肩を上下させながらも振り返り、言葉を放つ。

 

「ど、どうよ……やってやったわよ!」

 

3人は顔を見合わせると、笑みを作る。肩で息をする桜に対して、3人を代表して真司が手を差し出す。

 

「……これから、よろしく頼む。」

 

「フッ……アイドルで仮面ライダーって、最高にアツいわね」

 

その手を握る桜。ガッチリと握手を交わす両名を見て、刀奈とゼブラは任務の達成を確信するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………さて、そろそろあなたにも覚悟を決めてもらわなければなりませんねぇ」

 

「仮面ライダー……ボイス」

 

 

 

 

 

 

 




好きな漫画はからくりサーカスとうしおととらです。ピアノとヒョウは卑怯……あれは卑怯だよ。

さておきそろそろボイスにも覚悟を決めてもらわなきゃなりませんね。



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灼熱の記憶

驚異の9,000字越え。しかも真夜中に何を書いてんだ、私は……。今回はなんか文がいつにも増しておかしくなってますけど、気にしないでください。決して最近読んだからくりサーカスとか月光条例に影響された訳じゃないですよ。人形使いの活躍するライダーとか面白そうとか思ってませんよ。
……次はもっと短くしたいです。さすがにこのペースでこれは疲れる……最初は3,000字で十分だったのに………どうしてこうなった。


(……ぐぅ!う、うう……)

 

熱い……

 

(が、ああ……!)

 

熱い……

 

(あ、ああ……!)

 

熱い…!

 

(なんで、今更……!)

 

今、ボイスは悪夢を見ていた。熱で焼かれる夢、自分の全てが奪われたあの夜の日の夢、そして、炎の中に佇む……『仮面ライダー』の夢。

 

『……………』

 

(やめ、ろ……)

 

そのライダーの手が、夢の中の自分に迫る。

 

(やめろおおおおおおおっ!)

 

「…………っ!」

 

……ボイスの目が覚めた時、そこは何時もの場所だった。ガスマスクの男から与えられた基地、ボイスの居場所だ。ボイスは全身に汗をかき、荒く息を吐いていた。

「……………」

 

『……ようやく悪夢からお目覚めかい?』

 

そこに現れたのはガスマスクの男、いつも通りのらりくらりとした雰囲気だ。しかし、何時もと違い、その手にはアタッシュケースが握られている。そのアタッシュケースを部屋の中の机、その上に置いたガスマスクの男は、そこからあるものを取り出す。

 

『さて……君にも、覚悟を決めてもらおうか』

 

「…………!」

 

荒い息を吐くボイスに差し出されたそれはーー新しいライダーズディスクであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おつかい……ですか?」

 

「そう、今は桜ちゃんのスケジュール調整なんかで忙しくてね。ちょっと買い出しに行ってもらいたいの」

 

特務対策局本部、そこには相変わらずの忙しさがあった。 ディソナンスが学校に現れた事に関しての対応、街中に現れ、目撃された事の情報規制や操作などを終えたところで、新たな上級ディソナンスである『キキカイ』の出現、さらに新たな仮面ライダーである仮面ライダーダンスの対策局への加入などが重なったためだ。

もっとも、ダンスに関してはあまり問題にはなっていない。猛の指示で、彼女がライダーとなる前から準備を進めているからだ。今は彼女のスケジュール調整でごたごたしているが、すぐに解決するだろう。

問題はキキカイの方であった。機械の特性を持つ彼女は、カナサキが学校に現れた日の状況や、今回の戦闘に関しての報告などから、ディソナンスを生み出す能力を持つ事が、ほぼ間違いないからだ。一応、中級クラスまでが彼女が生み出す事のできる限界のようだが、上級クラスを生み出せないという保証はないし、何より中級クラスといえど物量で来られては非常に危険だ。また、明らかに通常のディソナンスと異なる特性を持ったディソナンス、『ノイズ』も彼女が生み出したのではないかところでいう懸念もあった。

そのため、今は貴重なキキカイとの戦闘データなどから、彼女自身の戦闘力やその能力を解析する作業に忙しく、まさに猫の手も借りたい状況となっていた。

先の戦いでは大きな外傷は負っていないとはいえ、乙音の例などから、2度と同じ過ちを繰り返さないように、ハートウェーブの消費をできるだけ抑えられるようにするシステムの開発を進めているのも、忙しさの原因ではあったが。

正直に言って、特務対策局自体はあまり規模の大きくない組織である。そのため、今のような状況、特にライダー達も手が空かないような状況では、買い出しにすら行けなくなってしまう。

そのため、手持ち無沙汰にしていたゼブラに仕事を与えるという目的もあっての、おつかい命令であった。

 

「……というわけで、このメモに書いてあるものをお願いね、ちょっと量が多いけど、大丈夫?」

 

「大丈夫です!力には自信があるので!では、行ってきます!」

 

対策局を飛び出し、街へと向かうゼブラ。その後ろ姿があっという間に見えなくなる。人前では控えるように言っているが、一度ゼブラの本気の速度を計測した時にはマッハ4まで測定可能な特性装置が一瞬で壊れ、ソニックブームで測定場のあらゆるものが吹き飛んでしまったため、最高速度を出すことは禁止されている。正確にはわからないが、おそらく地上で彼女よりも速い物体は存在しないだろう。

ゼブラを見送り、自身の仕事に戻ろうとする職員。だが、ここであることを思い出す。

 

「……しまった、地図を渡してなかったわ……大丈夫、よね?」

 

今さら追おうにも速すぎて追うことはできないし、そんな余裕もない。ゼブラが道に迷わない事を願いながら彼女を見送った職員は、自身の業務に急いで戻るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここ、どこ?」

 

無論、まだ生まれてから一週間ほどしか経っていないというのに、道を覚えられるはずもなく。街には出る事が出来たものの、完全に道に迷ってしまっていた。人に道を聞こうにも、元来臆病なゼブラには、そんな余裕はなかった。

 

「うう……どうしよう」

 

一度本部に戻った方がいいだろうか?そう思い始めたゼブラ。一応自分が来た方向は分かっているので、戻る事は可能だろう。

「やっぱり、一度戻ろうかな……?」

 

しかし、思案しながら歩いていたためか、前から歩いて来た、白い髪の少女にぶつかってしまう。少しよろめくだけのゼブラとは違い、相手は派手に尻をついて倒れてしまい、手に持つアタッシュケースも取り落としてしまう。ディソナンスと人間の、フィジカルの差からくるもの……ではなく、単純に相手の筋力や体力が弱いためだ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

倒れた相手に手を差し伸べるゼブラ。しかし、相手はゼブラの顔を見ると、驚いたように逃げ出してしまう。

 

「えっ!」

 

驚くゼブラだったが、少女がアタッシュケースを忘れていることに気がつくと、すぐさま少女にアタッシュケースを届けるために走り出す。街を熟知しているのか、ゼブラの追跡からしばらくは逃れる少女だったが、やはりゼブラの足の速さからは逃れられず、十分後には捕捉されていた。少女を見つけると、すぐさま肩を掴んで止めるゼブラ。その手を振り払おうとする少女に、ゼブラは慌てて話しかける。

 

「待って!待って!これ、忘れ物!」

 

そう言ってアタッシュケースを突き出すと、少女の動きがピタリと止まる。そのまま辺りを見渡し、顔を真っ赤にさせると、ゼブラの差し出したアタッシュケースを、奪うように受け取る。

 

「……………………」

 

(しゃ、喋らない……どうしよう)

 

アタッシュケースを抱えたまま喋らない少女に困惑するゼブラ。すると少女が何かを思い出したように紙とペンを取り出し、何かを書き始める。

少女は紙に何か書き終わると、それをゼブラに見せてくる。そこには「喋れないので、筆談ですみません。荷物ありがとうございます」と書かれていた。思わずえっと声を出してしまうゼブラだったが、周囲の人の注目を集めていることに気づき、少女と共に慌てて場所を移動。親子連れがちらほらと見える公園に移動し、ベンチへと座る。

 

「あ……いきなり手を引いちゃったけど、大丈夫だった?」

 

ゼブラの質問にこくん、と頷く少女にホッとするゼブラ。その後、ベンチで休憩するゼブラと少女だったが、今度は少女の方から話題をふって来た。もっとも、紙に書いてではあるが。「あなたは大丈夫だった?用事とかなかった?」との事だ。

 

「あ、うん……おつかいを頼まれてはいるけど、大丈夫だよ。……道もわからないから、まずは戻ろうかなって思ってる」

 

ゼブラの言葉に、「メモか何かない?」と返す少女。ゼブラは職員から渡されたメモを少女に手渡すと、少女はそのメモを見つつ、紙に地図を書いていく。ゼブラにメモを返すとともに、その紙も手渡す。紙にはわかりやすく地図が書かれていて、メモにあるものをどこで買えばいいかも書かれている。

 

「え、これ……いいの⁉︎」

 

少女はこくりと頷く。どうやらゼブラに失礼な事をしてしまったお詫びと、アタッシュケースを届けてくれた事に対してのお礼も兼ねているようだ。すぐに地図に書かれた場所へ向かおうとするゼブラだったが、少女の体の事を思い出し、心配する。

 

「……ありがとう。あ、……一人で大丈夫?誰かと待ち合わせしているとかなら、僕も一緒に……」

 

ゼブラのその言葉に、少女は首を振る。どうやら、一人でも大丈夫なようだ。

少し躊躇するゼブラだったが、少女に促された事もあり、少女と別れて先を急ぐ事にしたようだ。ベンチから立ち上がって、公園を出ようとしたその時。

 

「……!これ!」

 

その時、黒いもやのようなものが公園に集まっていた。そのもやに何か悪いものを感じて、少女を庇えるような位置につくゼブラ。

もやは公園の中心点に集まると、一つの形をとっていく。ゼブラはその姿に見覚えがあった。

 

「ノイズ……⁉︎」

 

それはかつてバラクに重傷を負わされ、それ以来姿を消していた謎のディソナンス……ノイズであった。以前よりもさらに禍々しさを増したその外見は、並の精神力の持ち主では、恐ろしさに動けなくなってしまうだろう。現に、同じディソナンスであるゼブラですら、ノイズが纏うあまりに不吉な雰囲気に、震えを感じていた。

 

『………………』

 

ノイズはゆっくりと周囲を見渡すと、ゼブラの方へと歩いてくる。すぐさま動こうとするゼブラだったが、怯えて足が動かない。

 

「………っ!」

 

動けないゼブラの目の前まで近づいて来たノイズだったが、そのままゼブラの横を通ると、少女の方へと歩いて行く。少女の目の前で立ち止まると、ノイズはゆっくりと腕を振り上げーー

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

ーーその腕が振り下ろされる前に、ゼブラのタックルによって止められる。

 

「逃げてっ!」

 

そう叫ぶと、ノイズを抑えようと必死になるゼブラ。しかし、足が速くとも力は下級程度のゼブラに更に進化したノイズを押さえつけられるはずもなく、ノイズの体から伸びてきた棘に左肩を刺され、怯んだ隙を突かれて吹き飛ばされてしまう。公園内の人々は、当初何が起こったのか理解できずに動けていなかったが、その光景を見て誰かが悲鳴をあげると同時に逃げ出してゆく。

 

『……邪魔するなよ。せっかく、凄いハートウェーブを食えるのに……』

 

ゼブラを吹き飛ばしたノイズは少女のハートウェーブを食らうべく迫る。逃げようとする少女だったが、足を絡めて転んでしまう。転んだ勢いで吹き飛んだアタッシュケースを拾おうとする少女だったが、ノイズの伸ばした棘に目の前を塞がれてしまう。

 

『………フフフフ、これで僕は、もっと強く……』

 

そのまま棘て少女を拘束し、持ち上げるノイズ。ノイズの顔がぐらりと歪んだかと思うと、そこから無数の触手が湧き出て、少女の体に巻きついてゆく。

 

「……………!!!」

 

足掻き、逃げ出そうとする少女だったが、ノイズの剛力に敵うはずもなく、なすすべなく食われてしまうかと思われたが……

 

「このおおおおっ!」

 

『何⁉︎』

 

超スピードで駆けてきたゼブラ渾身のタックルによって、その拘束は解かれた。少女は地面に着地すると、すぐさまアタッシュケースを掴む。

 

「僕もそうは持たない!だから早く!」

 

ゼブラが叫ぶ。しかし少女はその場でアタッシュケースを開け始めた。

 

「何を……っ!?」

 

『このっ!邪魔するなよ!』

 

その行動に気を取られたゼブラは、ノイズの一撃を食らってしまう。左腕を折られ、少女の足元まで飛ばされるゼブラ。

 

「ぐ……に、げ……⁉︎」

 

それでも少女に逃走を促すゼブラは、アタッシュケースの中に信じられないものを見る。それは、レコードライバーと……ライダーズディスクだ。

 

(なんで、これが……!?)

 

少女はレコードライバーを装着すると、ライダーズディスクをドライバーにセット。そのまま、変身シーケンスを終える。

 

(僕が知ってるライダー…?真司さん達以外に……まさか⁉︎)

 

少女の目の前に光の輪が出現する。それは少女へと向かっていたノイズを吹き飛ばし、少女の体を通過して行く。

そして、光の輪が通過した後にはーー

 

『……変……身』

 

仮面ライダーボイス……彼女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼブラと同程度であった身長は乙音と同程度まで伸び、その手にはメガホン型の銃が握られている。

 

『テメェ、ノイズったか?……ぶっ倒す』

 

その銃をノイズに向けると、苛烈な銃撃を加える。体制を整えてなかったノイズはその銃撃をまともに喰らってしまう。

 

「ボイス、さん……あなたは……!」

 

『……事情は後だ、お前はそこで寝そべってな!』

 

そのままノイズへと突撃するボイス。銃撃を放ちながら接近し、ノイズに厄介な棘を出させないようにする。しかし、ノイズの右腕が変形していき、まるで銃のような形状へと変化する。そして、その腕からまるでガトリングよようにエネルギー弾を連射するノイズ。まともには喰らわなかったものの、防戦一方となるボイス。

 

『ちっ!なんもかも御構い無しかよ!』

 

『あははっ!ほらほら逃げてると……』

 

いまだ公園内に残っていた母娘に腕の照準を合わせるノイズ。子供が震えて動けなくなってしまっていたようだ。思わず娘をかばう母親。

 

『くそがっ!』

 

親子の前に出てかばうボイス。躊躇なく発射されたエネルギー弾が、その体躯を撃ち抜く。

 

『あはははははははははははははは!』

 

『ぎ………』

 

ボイスの後ろにいる親子は逃げ出そうとするが、ノイズの体躯から伸びる棘に阻まれ、その場を動くことができない。

 

『くそっ……奴らは、まだかよ!』

 

真司達の到着を待って耐えるボイスだったが、ここでノイズから絶望的な情報が送られる。

 

『無駄だよ〜なにせ、カナサキが足止めに向かってるからさぁ……僕に好きにやっていいって、そう言ったんだよ!』

 

『何……⁉︎』

 

あははと笑い、ボイスの背後に棘の檻を作るノイズ。その檻はゆっくりとボイス、そしてその背後の親子に迫り来る。

 

『何をするつもりだ!テメェ!』

 

『何って、楽しいことだよ!棘の檻をどんどん縮めて行って、お前の体と棘の檻で、その親子をぐちゃあって潰してやるんだ!お前は動けないし、倒れちゃったらそのまま蜂の巣!あははははは!楽しいねぇ〜!』

 

『てめえええええええっ!』

 

ゆっくりと、しかし確実に狭まってくる棘の檻、それをなんとかしようと、駆け出そうとするゼブラだったが、背後から伸びてきた手に止められる。

 

「っ!誰だ!」

 

『フフフ……誰だろうね?』

 

振り向いたゼブラの目の前にあったのは、ガスマスクだった。ぎょっとするゼブラだったが、その隙を突かれて完全に捕まえられる。

 

「なんで……!」

 

『フフフ、まずは自己紹介からか。僕は謎の博士。まあボイスの協力者って所かな』

 

唐突な自己紹介に一瞬呆けるゼブラだったが、またすぐに拘束から逃れようとする。しかし見た目以上に力強く、ディソナンスの力でも振りほどけない。

 

『まあ焦らない方がいいよ。彼女には秘策を渡してある……後は彼女次第だ。あと君には何もできないよ』

 

ガスマスクの男の言葉に黙り込んでしまうゼブラ。先ほども自分ではなんとかすることなどできないと、そう自覚していたのに体が勝手に動いてしまっていたのだ。

 

(僕にも、力があれば……)

 

目の前で起こりかけている惨劇を止められない事実に歯噛みするゼブラ。ガスマスクの男はそんなゼブラに怪しい視線を向けている。

ガスマスクの男がゼブラを止めている一方で、ボイスはエネルギー弾を受け止めつつも、その手にあるものを握っていた。新型のディスクだ。

 

『こいつの力さえありゃあ、なんとかできるかも……だが、オレにできるのか?それを……』

 

ボイスが思い出すのはガスマスクの男から伝えられた、新型ディスクの起動条件だった。

 

(死をも超える覚悟を決めた時、起動できるーー)

 

ちらり、と後ろの親子を見る。迫り来る棘の檻に怯える親子だったが、しかしお互いがお互いを守ろうとしている。自らの死に怯えつつも、他者のために覚悟を決める。人間の美しさがそこにあった。

 

「あ、あの!」

 

親子の、母親の方がボイスに語りかけてくる。

 

「わ、私は助からないと、そう思います……でも、せめてこの子は……この子だけは……」

 

怯えきり、涙を流す母親。しかし、ボイスに対してのその願いの声は、しっかりと届いていた。ノイズにまでも。

 

『何言ってんの?そんなの許すわけないじゃん……』

 

イラついたように喋ると、棘の檻の速度を速めるノイズ。娘は母親を守ろうとするが、そんなものは無意味だろう。

 

『ここで死ぬんだよ!あんたらはさ〜!でもこのまま潰すってのも芸がないし、抉るか焼くかしてやろっかなぁ』

 

何の気なしに話すノイズだったが、その発言がボイスの逆鱗に触れた。

 

『おい、てめぇ……今何つった?』

 

『え?何?君も焼き殺されたいの?』

 

『焼き、殺す……だと?』

 

お父さん!お母さん!

 

『そう、ジュージューに焼いてあげるよ?』

 

熱い!熱いよぉ!

 

『やってみろよ……』

 

『え?』

 

ぜひ、ぜひ……おかあ、さん……おとう、さん……

 

『オレの前で親子を焼き殺そうだと……!』

 

ぜひ、ぜひ、ぜ、ひ……

 

『やってみろよぉ!』

 

ノイズのエネルギー弾すら意に介さず新型ディスクをドライバーに挿入すると、『変身!』と叫ぶボイス。圧倒的なエネルギーが、棘の檻を、ノイズを吹き飛ばす。しかし、親子は無事だ。

 

『その瞬間、お前の体をぶち抜いてやる……!』

 

ボイス、その新たな変身。その姿はまるで荒々しい鬼のような角を持ち、ソングの意匠に通じるものがある。

 

「あの姿は……!」

 

『あれが秘策さ……どうやらうまくいったようだ』

 

驚くゼブラと予想通りといったようなガスマスクの男を尻目に、ノイズに向かって駆け出すボイス。ノイズは棘と触手を伸ばして迎撃しようとするが、全てボイスに撃ち落とされる。

 

『てめぇだけは!許さねぇ!』

 

ボイスの歌が、流れ出す。『Heart Voice』、その歌は、ボイスの心を表した歌だ。

 

《 百発百中、オレの弾は、敵を撃ち抜く…… 》

 

『オラオラオラ!』

 

『ぎぎっ……!な、なんてパワー!』

 

《 だけど必ず誰かを守れるってワケじゃない… 》

 

ボイスはノイズに向かって弾を撃ち込み続ける。ボイスのあらゆる感情が詰まったその弾はノイズの体をたやすく撃ち砕く。

 

《 鋼の鎧に身を包んだって、心まで鋼に包めるワケじゃないって?そんなのわかってる…… 》

 

『グギィ……なら!』

 

ノイズは一瞬の隙を突いて、逃げ出していた親子の、娘の方を人質にとる。

 

《 仮面の裏で涙を、流すことさえ許されない 》

 

「響っ!」

 

母親が娘の名前を悲痛な表情で叫ぶ。

 

『どうだ!これで攻撃できないでしょ!』

 

「お姉ちゃん!わたしはいいから!」

 

《 そんな理不尽に身を置くってんなら……》

 

響と呼ばれた娘が叫ぶ。自身ごと、ノイズを攻撃しろと。その怯えた表情を見て、ボイスは覚悟を決める。ノイズに向けて銃を構える。

 

『動くなよ』

 

《 新しい力があるんなら使わなきゃ…… 》

 

『ま、まさか撃つの?』

 

「お姉ちゃん!」

 

《 もったいねえ! 》

 

ギュンと放たれた弾は見当違いの方向に飛ぶ。それを見てあざ笑おうとしたノイズは、直後に背後から穿たれた自身の腹を見て絶叫する。ボイスの弾丸操作能力によるものだ。

 

《 絶望の先に、至る未来に、道がないのなら 》

 

「お姉ちゃん!お母さん!」

 

《 力づくでも作り出すさその先に! 》

 

「響!響ぃ!」

 

《 たとえ、灼熱。それが待とうとも、決してそう…もう、恐れられない 》

 

解放された少女が、母親へと駆け寄る。今度こそ逃げる事ができた親子を背に、ノイズを滅すべく、ボイスは駆ける。

 

『うおおおおおりゃあああああ!』

 

《 Ah…今は、オレの心を弾と変えたなら 》

 

《 最期の時まで放ち続けろ…… 》

 

『ぐううううっ!』

 

すぐさまゼブラ達の方へ触手を伸ばすノイズだったが、それを全てボイスが掴むと、引きちぎる。歌は二番へ、戦いはさらに加熱したステージへと移行していく。

 

《 あいつのソングでオレの心が揺らめく…… 》

 

《 そんな躊躇を抱いてる場合じゃないのに…… 》

 

ノイズの触手を引きちぎると、密着状態で弾を撃ち込み続けるボイス。しかしノイズは全身から棘を出してボイスを引き剥がすと、その身にバリアを纏い始める。

 

『何……!』

 

《 ひりつくような痛みを感じている……心が迷えば、未来はないと、わかってる…… 》

 

『ぼ、僕は進化するディソナンスなんだ……!バリアぐらい!展開してみせる!』

 

ノイズが展開したバリアに苦戦するボイス。至近距離の弾丸ならば貫けるかと思い、接近するが、冷静さを取り戻したノイズの反撃に、近づく事ができない。

 

《 仮面の裏で流す涙、それを全部歌に、変える事ができるんなら…… 》

 

『ほらほらほら!さっきまでの威勢はどうしたぁ!?』

 

《 たとえそれが血涙だとしても……もう止まれない! 》

 

『ぐう、がぁ……!』

 

獣のような咆哮をあげてボイスに迫り来るノイズ、その体はバキバキと音を立てて、禍々しき怪物のように変化していた。

 

《 絶望の先に、至る未来に、希望がないというのなら 》

 

『キシャアアアアッ!』

 

《 力づくでも作り出してその先に! 》

 

『負けるかよっ!』

 

《 何もない、荒野、それが待つのなら 》

 

《 いくらでも、そう……この身焦がして…… 》

 

歌が間奏に入るとともにその身体を大きく変化させるノイズ。辛うじて人型の体裁を保っていたこれまでとは異なり、明らかに人を殺すことに特化した怪物、四肢で立つ、どす黒い獣の姿へと変化した。

 

『お前の悲しみ……感じるぞ、それが俺を一段階上へと押し上げた!』

 

一人称まで変化し、圧倒的戦闘能力を得た相手に、しかしボイスは怯まない。

 

『こいよ犬っころ!どちらが上か、躾けてやるぜ』

 

飛びかかるノイズと、それに応戦するボイス。その戦いを見るガスマスクの男とゼブラ。ガスマスクの男は、ボイスの戦いを見守るゼブラに対して、話しかける。

 

『ゼブラくん、なぜ彼女が喋れないか知ってるかい?』

 

「……いえ………」

 

『彼女はね、焼かれたんだよ、その体を。まだ幼い時期にね。だから乙音くんと同い年なのに身長も君と同程度だし、耐久力も常人より弱い。喉は補助装置付きでなきゃ声を出せず、補助装置付きでも、痛みを感じるだろう。そこまでして彼女が戦う理由がわかるかい?』

 

「……わからないです」

 

『復讐だよ、彼女の声と、両親……全てを奪った相手に対しての。そして僕もそれを望んでいる。だから彼女を戦えるまでに治し、鍛えたのさ。この僕がね』

 

「あなたが……?」

 

『そうさ、乙音くん、今大変なんだろう?僕はあの子の治し方を知っているんだが、聞くかい?条件つきだが』

 

「………………!」

 

男がゼブラに交渉を仕掛けたところで、ボイスの歌が再開する。バリアと身のこなしに翻弄されながらも、ボイスは突破口を見出していた。

 

《 戻らない、時に瞳を濡らして、心、傷ついた日を…… 》

 

(……やるしかねぇ!至近距離でアレを!)

 

《 振り切り、先に進むために……奪い、返す……あの日々、あの声を……! 》

 

『voltage climax!!!』

 

必殺技発動の準備をすると、ノイズに向かって駆け出すボイス。ノイズは全身から棘を出して迎撃する。

 

『うおおおおおおおおおおっ!』

 

《 希望の先に、至る未来に、オレがいなくても 》

 

『馬鹿め!わざわざ突っ込んでくるとは!』

 

《 立ち止まる事なんて、裏切りはそうさできないから! 》

 

(もっとだ!もっと引きつけろ!)

 

《 どこまでも、広がる、絶望の夜を 》

 

『これで終わりだ!』

 

《 声を荒げ、そう……撃ち抜いてゆく 》

 

ノイズの棘に仮面を砕かれるボイス。しかしボイスはギリギリで棘をそらし、その背部へと、銃口に溜まったエネルギーを叩きつける。

 

《 Ah……今は、オレの心を弾に変えたなら 》

 

『終わるのはテメェだああああっ!』

 

《 最期の時まで、放ち続ける 》

 

『 rider ultimate cannon!!!』

 

《 嵐の中でも、叫び続ける 》

 

『うわあああああああああ!ガアアアアアアアア!』

 

《 たとえこの声が、枯れたとしても…… 》

 

至近距離で放たれたエネルギーの奔流はノイズの身体を貫き、四散させる。

 

『グギィ、ィィィ……』

 

しかし完全に滅することはできず、霧となって逃げてしまう。

 

『……アレでダメか。ま、よしと、する、か……』

 

死闘の末、勝利を収めたボイスだったが、その呟きを最後に倒れてしまう。駆け寄り、その身体を支えるゼブラ。ガスマスクの男はガスマスクの下でニヤリと笑うと、ゼブラに語りかける。

 

『協力感謝するよ、ゼブラくん。さすがに今の状態で変身を解かせる訳にはいかないからね。君には乙音くんの治療法を教える代わりに、ボイスを基地まで運んでもらおう』

 

そう言うと、『ついてきて』と促して歩き出すガスマスクの男。ゼブラはその後について行く。

 

(乙音お姉ちゃん……待ってて!)

 

そして、ゼブラも決断を迫られることになる。守るための決断を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそくそくそくそくそくくそ!なんで、なんで、この、俺が……』

 

『どうやら、悲しみの感情を覚えたうえ、怒りまで覚えかけているな。だが、それはまだ早い』

 

『!あ、あんたは……』

 

『私はカナサキ。ノイズ、君には喜びの感情を与えてあげよう……その悲しみを完璧なものとした後に』

 




Q.ボイスって今の身体状況はどうなってんの?
A.補助装置なしで日常生活を送れる程度には回復していますが、全身に火傷とその治療痕が残っており、喉は完全に焼き尽くされていたため、補助装置ありでも叫ぶと激痛が走ります。ライダー状態でもかなり痛いみたいですが、本人は完全に慣れたのか気にしてません。
Q.ファングとツルギの強化いつ?活躍マダー?
A.乙音復活前にやりたいけど、次の次の話で纏めてになりそう……多分。予定は未定よー。

展開は最初決めてある部分以外は割と適当です。あとD.Sスタイル関連に関しては、隠し玉があります。あ、今回出たボイスの新フォームの名前は『ブラスタースタイル』となっております。ファイズの歩くクリムゾンスマッシュが元ネタです。ボイスのイメージカラーも赤なのでね。
ちなみに他ライダーのイメージカラーはソング…白、ファング…茶、ツルギ…青、ダンス…ピンクとなっております。ファングが黄色なら、ものすごく戦隊ヒーローっぽい色の組み合わせ……色的にデカレンかな?


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夜を切り裂くもの……歌翔

なんとか書き上げたぞーー!展開も雑だし急だけど、後半は割と気合い入れたから許してください!何でもしますから!
それはそうともうすぐ前半クライマックスです。話数的にはまだ第2クール序盤なのに、展開的にはもうマキシマムマイティ初登場ぐらいな感じです。本筋だけで休憩なしだからね、しょうがないね。


『さ、入ってくれ。ここが僕のアジトだ』

 

ガスマスクの男に案内されてゼブラが連れてこられたのは、都内に張り巡らされている下水道の一角。そこにはあらゆる科学で巧妙に隠されたドアがあり、その内部には広い居住空間があった。

 

『ここが、治療室だ』

 

その奥には見慣れない器具で埋め尽くされた部屋があった。部屋の中央にはベッドがあり、混沌とした空間の中で清潔さを保っていた。

ガスマスクの男はベッドにボイスを寝かせるようにゼブラに指示すると。何やら器具の用意をし始める。

 

「それは……?」

 

『今からの治療に必要なものさ。乙音くんを救うために必要なものでもある』

 

その器具ーー機械は洗濯機ほどのサイズであり、頭部にはまりそうな円形の機械と繋がっていた。

 

『この機械の名前は……えー、繋がるくん!繋がるくんにしよう。ともかくこれを使えば人と人の心を繋げる事が可能だ。ものすごく簡単に言うと、他人の心の中に入って、その活性化の手助けができたりする。』

 

「そんな事ができるんですか⁉︎」

 

『精神構造が似通っている生物でなければいけないけどね。今ボイスはハートウェーブが枯渇しかけてる状態だから、まずは僕がこれを使って、ボイスを治療してみせよう。見ててね?』

 

そう言ってガスマスクの男はボイスの頭部と自身の頭部に円形の機械を被せると、洗濯機ほどのサイズの機械ーー繋がるくんのボタンを操作する。逐一どんなボタンかゼブラに説明しながらだ。そして、一通りの操作を終えると、ついに『治療』を開始する。

機械が稼働すると共にガスマスクの男の体から力が抜ける。そのまま五分ほど経つと、先程までぐったりとしていたボイスの体がぴくぴくと反応し始める。そして、その反応は激しい痙攣となり、ボイスを体が振動を始める。

 

「何が……!」

 

ゼブラがそう呟いた瞬間。ボイスの体が発光したかと思うと、ボイスが『ゲホッ!ゲホッ!』と咳き込み出す。ボイスが咳き込み出したと同時にガスマスクの男の四肢にも力が戻り、自身とボイスの頭部に被せていた機械をのける。

 

「いったい、何をしたんですか⁉︎」

 

ゼブラの質問に、汗だくとなったガスマスクの男が答える。

 

『……なに、ボイス…彼女の思考、心の中に入り込んで、無理やりにハートウェーブを活性化させたのさ。本来はとても危険な行為だが、この装置ならば可能だ』

 

「これを使えば、お姉ちゃんを救える……!」

 

『……だけど、それって、同じ精神構造のヤツ…同種族じゃなきゃ使えないとか言ってなかったか?まさかお前がおと……ソングの治療をすんのか?』

 

ようやく掴んだ希望に目を輝かせるゼブラ、自らの手で乙音を助ける事ができないのは悔しい事だが、乙音が助かるならばと、期待に満ちた瞳でガスマスクの男わ見つめる。

 

『いいや、僕は治療しないよ』

 

しかし、ガスマスクの男の言葉に、再び失意のうちに入ってしまう。

 

「それじゃあ、なんで…!」

 

『ま、まあ待て。何も機械を貸さないとは言ってないだろう?それに、彼女を救うのは君だ、ゼブラくん』

 

ガスマスクの男のセリフの意味がわからず、訝しむゼブラ。それを見た男が説明を始める。

 

『さっきも言った通り、この機械はかなりデリケートでね、同じ精神構造の者…つまりは同じ種族のもの同士でなければ使用できない。これはいいね?』

 

「……はい」

 

『だが、例外というのは存在する。それが君だ』

 

「……えっ?」

 

『ゼブラくん。君は木村乙音……彼女の心から生まれたディソナンスだ。それならば、この装置を用いて彼女の心の内に入り込み、救う事も可能なはずだ』

 

ゼブラは乙音の心……乙音の絶望から生まれたディソナンスだ。それが、乙音の心を救い、希望を与えるための鍵となると、ガスマスクの男は語る。

 

『……どう?覚悟と納得はできたかい?』

 

「…………………」

 

果たして、ゼブラはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼブラ君の位置はまだわからないか……」

 

「すみません。私がついておくべきでした」

 

ゼブラが「おつかい」を最後に失踪してから3日。特務対策局ではゼブラの捜索が続いていた。

局員達による懸命な捜索でも見つからず、途方にくれる局員達。猛と香織も、ゼブラの位置を捕捉しようと調査を重ねていたが、それらしき影を見たとの情報があっただけで、いっこうに行方を掴めていない。

 

「……真司君達はどうしてる?」

 

「動揺していましたが、今は落ち着いています。とりあえず仕事はこなせていますが……」

 

「……こりゃ参ったね、彼女の存在はどうにも大きいものだったようだ……」

 

ともかく、このままではいけないと考えた猛は真司達に休みを与えようかと思っていた。今までライダーとしての戦いとアイドルとしての活動を両立させていたが、乙音が倒れ、ゼブラも行方不明になってしまっている今、無理に仕事をさせてもうまくはいかないだろうと考えての事だった。

ライダーとしての活動は、ディソナンスという驚異がある以上やめさせる事は出来ないが、それでもアイドルとしての活動を抑え、休んでもらう事で、少しでもリラックスしてもらおうと考えての事だ。

こうしてライダー達に休みを与える事を伝えた猛。休みを与える理由は、ライダー達にはディソナンスの侵攻が激しくなってきた今、少しでも戦いに集中してもらうためと伝えたが、真司と桜はその言葉の裏に猛の真意を感じ取っていた。どうやら、二人はまだ余裕があるようだ。真司は今までライダーとして戦っていた義務感が、桜はアイドルとしての挑戦心が、自身を支えているのだろう。

しかし、刀奈はその二人と比べ、精神的に追い詰められていた。

 

「……っ……わかり、ました」

 

そう言うと、逃げるように局長室を出た刀奈、桜が後を追おうとするが、真司が引き止める。

 

「……あいつも飲み込めてない事が多いんだろう。今は一人にさせてやれ」

 

その後、真司はゼブラを探しに街へと出かけたが、刀奈は対策局本部のトレーニングルームで、一心不乱に剣を振るっていた。

鬼気迫る刀奈の表情に、不安を感じる桜。そんな桜に、香織が話しかけてくる。

 

「桜ちゃん、少しいいかしら?」

 

「え、はい。何ですか?」

 

「私は戦闘時には、あなた達ライダーのオペレートを担当してるの、知ってるでしょ?だから、少しでも親交を深めておこうと思って」

 

香織に連れられ、休憩室で話し合う事となった桜。香織はお汁粉を、桜はピーチベースのプロテインを飲む。

他愛もない事を話す二人だったが、ふと、桜が心の内の疑問を口にする。それは刀奈に関しての事だ。

 

「刀奈は…どうしてあんなに焦ってるんでしょうか?まだ、希望が無くなった訳じゃないのに……どうして……」

 

「……それには、彼女がアメリカに渡った理由から話さなければならないわね」

 

香織がゆっくりと語り始めた刀奈の過去は、桜も知らない事だ。若干の罪悪感を感じながらも、香織の話に聞き入る桜。

 

「彼女……刀奈ちゃんはね、元々臆病な子だったの。今でこそ、戦いの時にはとても勇敢になってくれるけど、ライダーになったばかりの頃は、真司くんの背中に隠れてばかりだったわ」

 

「そうだったの……!?」

 

衝撃の事実に驚く桜。先日カナサキと交戦した際もいの一番にディソナンスへと向かっていった刀奈の姿と、香織の話から想像できる刀奈の姿が桜の中で一致しないからだ。

 

「ふふ、最初はね、まともに戦えてなかったわ。でも、彼女が変わる出来事があったの」

 

「それは……?」

 

「真司くんの負傷よ。……あの子達がライダーになったばかりのころ、まだディソナンスの事も何もわかってなかった時、いきなり現れたディソナンスから刀奈ちゃんを庇って、重傷を負ったの……一週間も目が覚めなかったほどのね」

 

「一週間も……!?」

 

「ええ、そしてあの頃から彼女は変わったわ。まるで真司くんが負傷したという事実から逃げるように修行を重ね、真司くんを倒したディソナンスを圧倒してみせたわ。バラクに敗北した後はアメリカに渡って修行を積んだみたいだけど、もしかしたら、真司くんを失いかけた時と、同じ責任を感じていたのかもね」

 

「責任……」

 

「ええ、罪悪感、そう言ってもいいかもしれないわね………今あの子は、乙音ちゃんに無理をさせてしまった事をとても悔やんでいるはずよ。それでもなんとか自分を保ってこれたんでしょうけど、ゼブラちゃんすら行方不明になってしまった今、もはやその心は折れかけているかもしれないわね……」

 

そこまで話すと、一気にお汁粉を飲み干し、別れの言葉を残して休憩室を去る香織。一人残された桜は、難しい顔で、黙り込んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜ーー乙音の病室。今そこに、一人の影があった。

その影の正体は刀奈だ。対策局の医療チーム、その全力をもってしても、日々やつれていく乙音の顔にそっと触れる。

 

「……すまなかったな、君をこんな事に巻きんでしまって……」

 

乙音に触れていない、もう片方の手にはレコードライバーがあり、服のポケットにはライダーズディスクを忍ばせている。今すぐにでも戦闘体制に入ることが可能だろう。

そんな彼女の背後に、近づいてくる足音。

 

「誰だっ‼︎」

 

瞬時に振り向いた刀奈の視線の先にいたのは、桜だった。友人である桜の姿を見て、驚く刀奈。

 

「本部を出て行った訳でもないのに部屋にいないから、もしかしてと思ったけど……やっぱり気にしてるの?」

 

桜の言葉に、ギリッ…と音を立てて食いしばる刀奈。

 

「当たり前だろう!乙音くんは倒れ、ゼブラくんも行方不明だ!彼女達が戦う事になってしまった原因は、この私の弱さにあるというのに!なのに犠牲になったのは彼女達だ!なぜ私じゃないのだ!なぜ……なぜぇ……!」

 

桜に詰め寄り、その襟首を掴んだ刀奈だったが、襟首を掴んでいた手は、すぐに縋り付くような形となってしまった。

元々乙音が戦う事になってしまったのは、刀奈が抜けた穴を埋めるためだ。もちろん、遅かれ早かれ乙音はライダーとなってしまっていただろうが、経験も詰めぬうちに戦わせる事になってしまったのは、いつまでもアメリカでの修行を終えられない自身の弱さのせいだと、そう刀奈は思っていた。乙音が無理をしなければならなかったのも、自身の弱さのせいだと。

ゼブラや桜が戦う事になってしまったのもそうだ。自身と真司の力不足からくるものだと刀奈はわかっていたが、アメリカで修行を重ねたはずの自分が、今でも真司の背に隠れて怯えていた頃から成長できていないからだと、自分の力不足ゆえと、そう刀奈は思っていた。

アメリカで、世界でアイドルとして活躍し、ライダーとしても、戦闘者としても強くなったはずなのに、実際には何も変われていない。そう刀奈は思っていた。アメリカで修行したという事実と、ライダーとしての今までの出会いと経験が、逆に彼女を苦しめる結果となってしまっていたのだ。

だからこそ、この命を捨ててでも、ディソナンスを倒す。そう決意した刀奈であったが。それを察した桜は、意外な行動を取った。

 

「歯ぁ……食いしばりなさい!」

 

刀奈の苦しみを察した桜は、刀奈を強制的に立ち上がらせると、その頬を思い切り引っ叩いたのだ。ワケもわからず混乱する刀奈に、桜は自身の思いを説く。

 

「あのね!あんたがどう思ってるかなんて知んないけど、私もゼブラも、どちらもあんた達の助けになりたいと思って戦ってんの!多分、あの乙音ちゃんだってそうよ!そうでなきゃ命まで張れないわ!それを、それをあんたが否定しないでよ!誰が否定しようが、あんたと真司が否定するのは許さないわよ!」

 

桜の言葉に、呆然としていた刀奈は不意に泣き出す。今まで堪えてきたものが、溢れ出してしまったようだ。

 

「ぐっ…うっ、うっうっ……」

 

「っ!ああもう!」

 

そんな刀奈を見た桜は、刀奈の泣き顔を隠すように、その身を抱きしめる。

 

「全く……なんもかんも一人で抱え込むんじゃないわよ!誰かに頼るのは弱い事だと思ってんのかも知れないけど、頼れる誰かは、あんたが出会った、あんたの強さの一部なのよ⁉︎とにかく、いつでも頼っていいから!」

 

子供のように泣きじゃくっていた刀奈だったが、その言葉に不意に顔を上げる。

 

「すっきりした?」

 

その刀奈に、桜はニッと笑いかける。刀奈の顔は未だ晴れないが、その瞳には今までのものとは違うものがあった。

 

「……恥ずかしいところを見せてしまって、済まない」

 

「いいのよ、私も初めて会った時、いろいろ話聞いてもらったでしょ?だからお返し!」

 

「……全く、敵わないな」

 

「……このままみっともないままで終わるつもり、ないんでしょ?」

 

「……ああ」

 

「だったら見せてみなさい、あんたの弱さも、その強さも。大丈夫!真司も私もいる!それだけで不安なら対策局のみんなだって、あんたが今まで出会ってきた人たちがみんなついてる!だから突っ走りなさい!私がテレビで見て憧れてたあんたは、立ち止まるよーなヤツには見えなかったわよ!」

 

「……ああ!」

 

すでに迷いは晴れた。この直後、狙いすましたかのようなタイミングで出現したディソナンスの討伐に向かう刀奈の顔に、もはや迷いはない。

自身の中の弱さに向き合い、逃げない事を選択した彼女は今、強さに溢れていた。

駆け出す刀奈の後ろをついて行く桜の横を並走する真司。刀奈に気づかれぬように「すまなかったな」と桜に呟くと、そのまま刀奈の横に並ぶ。

前を並んで走る二人の背中を見ながら、桜は(どちらも素直じゃないわね)と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変身し、バイクに乗って現場へと向かう刀奈達、ディソナンスの反応が現れた地点、コンテナの多い港に到着するが、その姿はない。

 

「逃げたか……?」

 

真司がそう呟いた瞬間、彼の背後に影が忍び寄る。その影が刃を振り上げたその瞬間……!

 

「させんっ!」

 

瞬時に詰め寄った刀奈がその影を切り裂く。月の光に照らされたその影は、以前戦った、キキカイが量産していたディソナンスと同じ姿をしていた。

 

「キキカイか……!?」

 

『いや、今度も私だ』

 

雲に隠れていた月がその姿を表した瞬間、ライダー達の周囲に現れるディソナンス達。それを率いるのは、カナサキだ。

 

『フフフ……』

 

不気味な笑いを浮かべ、周囲のディソナンス達に攻撃命令を出すカナサキ。一斉に襲いかかってくるディソナンス達だったが、まず桜がポールを使っての回転攻撃で数を散らし、散らされず残ったディソナンスを、真司がその攻撃力で粉砕、桜の攻撃によって散り散りに吹き飛ばされたディソナンス達を、空中で身動きが取れないうちに刀奈が切り捨てる。

抜群のコンビネーションを発揮する三人、しかし、ディソナンス達は絶えず猛攻を加えてくる。その対処に追われる中、不意にカナサキがその姿を消す。

 

「くっ……!奴め、何をするつもりだ!?」

 

「わからん!だが、このまま逃す訳には……!」

 

「なら、追って!ここは私と真司で押さえるから!刀奈が一番足早いでしょ⁉︎」

 

溢れるディソナンス達を押さえるために真司と桜をこの場に残し、刀奈はカナサキを追って疾走する。しばらく走り、真司達の戦闘音も聞こえなくなる頃、カナサキの姿を捕捉する。

 

「貴様……!何のつもりだ!?」

 

しかしカナサキはその疑問に答えず、ただ闇の中に佇むのみ。しびれを切らした刀奈はカナサキに斬りかかるが、カナサキの肉体に刃が食い込んだその瞬間、その肉体は泥となり、刀奈に襲いかかる。

 

「なっ……!?」

 

その泥を振り払おうとする刀奈だったが、むしろ泥はますます刀奈の体を蝕んでゆき、ついには完全に飲み込まれる。

 

(いったい何が……⁉︎)

 

状況を理解できぬまま暴れる刀奈であったが、何かを抜き取られるような感覚と共に、泥が刀奈の体から離れていく。大きな疲労感に襲われる刀奈だったが、泥が徐々にある形をとるのを見て、驚愕する。

 

「貴様は……!」

 

泥が変化した姿、それはかつて真司を負傷させたディソナンスと同じものであった。モチーフはモグラだろうか、かつて地中から突如現れたこのディソナンスは、その爪で真司の体を切り裂き、刀奈の心に深い傷跡を残した。

その姿に驚く刀奈の後方、コンテナの上に、カナサキの姿があった。

 

『フフ……』

 

(あのディソナンスはこの私の能力であのライダーの心を読み取り、生み出した幻影……自身の後悔に溺れながら、醜く屍を晒すのだ……)

 

カナサキの視線の先で棒立ちのまま動かない刀奈。モグラのディソナンスの右腕が、そこにある爪が、ゆっくりと上がり、振り下ろされーー

 

 

一瞬にして、切り落とされた。

 

『なに……!?』

 

いや、切り落とされたのはその爪だけではない、ぐらりとその体が風に揺れ、そのまま胴体部がゆっくりとずれていく。一瞬にして刀奈の刃に切り裂かれたのだ。

 

「私は……私は逃げないさ、貴様らからも、己の罪と弱さからも………そこにいるのだろう?カナサキ」

 

『……!』

 

驚愕しながらもそれを表には出さず、刀奈の前に姿を現わすカナサキ。夜の港に、両者の影が交差する。

 

『まずは見事と言っておくが……貴様程度で、この私に勝てるとでも?以前は三人がかりでも手玉に取られたというのに……』

 

「フッ……確かに今までの私ならば、お前程度のヤツにも遅れをとってしまっていただろうな、だが今は違う!」

 

刀奈の手には、新型のライダーズディスクが握られている。しかしカナサキはそれにも怯まず、刀奈を嘲笑する。

 

『貴様にそれが扱えるとでも?そもそも、変身できたところで、私の能力に対抗できるとでも思っているのかね?』

 

カナサキの能力、生命を絶望させるという能力は、まさにライダーにとって天敵とも言える能力だろう。精神汚染に対して抵抗力のあるライダーシステムの防壁ですら容易に突破できるほどだ。しかし、刀奈は怯えない。

 

「言っただろう?今の私は違うと」

 

刀奈は新型ディスクをドライバーに挿入すると、変身シークエンスを手早く終える。しかし、ライダーシステムは反応しない。

 

『フ……やはり貴様はその程度だと……』

 

しかしカナサキがそう発言した瞬間、刀奈のドライバーから光が溢れ出す。

 

『なにいっ!?』

 

その光にカナサキが目を抑えた次の瞬間、すでに変身は完了していた。

 

「さあ……我が歌を聴け!」

 

魂の歌、『歌翔ーーwing song』。その歌と共に駆け出す刀奈には、絶望を切り裂く力がある。

 

「《いつからだろう、心の中、無数の鼓動達がある》」

 

「《その鼓動、かき鳴らす、リズムに乗って…さあ……歌えーーっ!」

 

ドライバーから溢れ出す歌を歌いながら、カナサキに斬りかかる刀奈。素早い連撃で、一気に畳み掛ける。

 

「ハアッーー!!」

 

『ぐうっ!これは!』

 

残像すら常人には認識できぬほどの速さでカナサキを切り刻む刀奈。カナサキも対抗しようとするが、その速さについていけていない。

 

「《自分の中の強さを、信じることができずに》」

 

「《弱さから目をそらし続けて》」「《強さを履き違え……》」

 

『ならば、これでどうだ!』

 

「《どこにも進めずに……》」

 

カナサキが手をかざすと、そこから瘴気が溢れ出る。乙音を蝕んだ時は悟られないよう薄くしていたが、この瘴気こそ海よりも深き絶望に敵を陥れるためのものだった。

 

「《誰かに…何かに…怯え嘆いて、縋り付いていたっ!》」

 

「《背中に隠れた…未熟な…私っ!》」

 

『喰らえっ!』

 

カナサキが瘴気を溢れさせたまま殴りかかるが、風よりも速く、まるで光のように動く刀奈はその動きを完全に見切っているうえ、瘴気ですら捉えられない。

 

「《だけども…けれども…それを受け入れ、前に進むんだっ!》」

 

『き、貴様っ!』

 

「《そうさ!絆束ね上げて、鼓動となしてビートを、鳴らせぇぇぇっ!》」

 

音速をも超える剣、超速の光刃を閃かせて縦横無尽に斬りかかる。その様はまさに強者、彼女が追い求めた背中そのものだ。

 

『あ、ありえん…私の能力を上回るなど!』

 

「《いつからだろう、心の中にっ!ひとすじだけど光がある!》」

 

「《その光が、夜を切り裂いて、絶望砕くツルギとなるっ!》」

 

カナサキを追い詰めた刀奈は一気に勝負を決めんと必殺技を発動する。繰り出される必殺の名は『rider shining brade』光が如き神速で繰り出される剣撃は、夜を裂き、絶望をも切り捨てる。

 

「《どこまで……行けるか?そんなの》」

 

「《やってみなくちゃわからないっ!!》」

 

『voltage MAX!!!』

 

『ま、まさか、この私が……』

 

「《そうさ、歌を、信じ、飛翔する……!》」

 

『rider shining brade!!!』

 

「《この、歌翔、だけは》」

 

『ぬうううううううっ!』

 

「《止まらないいいいいいいっ!》」

 

超光速で切り刻まれたカナサキは咄嗟にその身を爆発させ、自身の核となる部分を切り離し、逃走する。しかし、その傷は深く、ボイスに倒されたノイズのように、長期間は活動不可能だろう。

 

「刀奈っーー!」

 

ついにカナサキを倒した刀奈に、桜と真司が駆け寄る。大切な人達の無事な姿に、心から安堵すると共に、やっと彼らと共に胸を張って戦えると、誇らしい気持ちになる刀奈。

 

「フッ……」

 

「?どうしたの?ってあんた、もしかして新型の起動できたの!?」

 

「そうか……俺もうかうかしてはいられないな」

 

「ああ……そうだな……」

 

こうして激動の一夜は過ぎさる。しかし、事態は確実に脅威へと近づいていく………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……色々とありがとうございます。まさか僕用に調節してもらえるなんて」

 

「ま、3日もかかったし、貴重なディソナンスのデータも取れたからいいよ、それよりも、本当にいいのかい?」

 

「はい、あなた達には、もしもの時のためのサポートをしてもらいたいんです」

 

ーーゼブラは、覚悟した。自身の消滅すらも厭わない覚悟を決めたのだ。

かくして、乙音を目覚めさせるファクターは揃った。果たして、ゼブラ達は彼女を救えるのだろうか?そしてディソナンス達はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カナサキがやれちまったか……』

 

『あら死んでないわよ?一応。それはそうと次はあなたがでるの?バラク』

 

『いや、こいつがどうしてもつーからよ』

 

『………あらあらあら、あの子達……大丈夫かしら?』

 

 

『ドキ……その相手をする事になるなんて、全く絶望的としか言えないわね』

 

 

 




刀奈さんはいつの間にか翼さんよりもマリアさんみたいなキャラとなってた謎。真司が男性版翼さんみたいになった反動なんですかね?

しかしソングの執筆にはまるで絶唱みたいにエネルギーを使いまくります。正直クソ疲れてます。もう直ぐ大学の夏休みも終わりますし、不定期更新にするつもりが週一での定期更新になってましたけど、不定期に戻っちゃうかもしれませんね、これは。でも頑張りますよ!だから応援よろしくお願いします!よければ活動報告の方も見てください!(露骨な宣伝)


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Dramatic Story

次はもっと短くしたい……そうは言ったが、具体的にどれくらいの文字数なのかは言ってない……!つまりっ……一万字でも、短い可能性があるという事……っ!

こんな事を思いながら書きました。正直これに加えて真司覚醒回と決着回も書かなきゃならんとかホント疲れる。しかもさらに増える可能性もあるとか。

でもせっかく考えた歌を台無しにしたくないし……うーん。


「局長!起きてください!局長!」

 

「ん?あ〜……何?」

 

朝、特務対策局局長室。そこには対策局局長である本山猛がいた。 深夜からずっとある仕事を続けていたのもあって、起こしに来た局員の報告にも寝ぼけ眼で答える猛だったが、次の報告を聞いて血相を変えることとなる。

 

「ゼブラちゃんです!ゼブラちゃんが帰って来たんですよ!しかもなんか変な奴らと一緒に!」

 

「………なんだってぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、その装置があれば、乙音君を救えるのかい?」

 

『ええ、この僕の命をかけたって構いませんよ。』

 

局長室。案外簡単に入れるそこには、猛の他に五人存在していた。真司と刀奈に、ゼブラ達三人だ。

二人のライダーが注意深く観察する中、ガスマスクの男と猛が話す。その二人の間に挟まれたゼブラは、見ている方が心配になるほど緊張していた。ボイスは部屋の隅で黙りこくっている。もっとも、彼女は変身を解いているため、喋ろうとしても喋れないのだが。

 

「……すまないが、やはり調査してからーー」

 

『時間がないといっているだろ?奴らはこうする間にもーー』

 

ガスマスクの男と猛は話し合いを続けるが、話し合いは遅々として進んでいない。念には念を入れたい猛と、性急であっても事を進めたいガスマスクの男とで意見が対立しているからだ。

話が進まない事に苛立つガスマスクの男は、切り札を切ろうとする。

 

『……しょうがない。……すまないが、二人だけにしてもらえるかな?』

 

「何を言っている?そんな事がーー」

 

「……僕からもお願いします」

 

「ゼブラ……!?」

 

ガスマスクの男の提案に、当然、いい顔をしないのは刀奈と真司だ、その提案を退けようとする二人に対して、ゼブラが男の提案に賛同する。

 

「……僕もこの3日の間に協力しました。ディソナンスと人間の差ゆえに生じる問題も、大丈夫です。だからーー」

 

話を進めようとするゼブラの言を、しかし遮るものがいる。真司だ。

 

「このまま受け入れてほしい、と?そんな事をーー」

 

「はい、提案します。これはーー僕のやるべきことですから」

 

ゼブラの前に達、威圧する真司。しかし、ゼブラはその視線にも怯まず、自らの意思を貫こうとする。そのゼブラの姿に、真司はある確信を得た。

 

「……局長。大丈夫だ、こいつらの言う通りにしよう」

 

「ホントにかい?」

 

「本当にだ」

 

真司が得た確信は、ゼブラがガスマスクの男に洗脳措置を受けた訳ではなく、騙された訳でもないという確信だった。それを得たならば、もはや話し合いを続ける意味もない。真司の言葉を猛も信じ、至急医務室へ装置を運ばせる。

 

「……やれやれ、すまなかったね。試すような真似をして」

 

ガスマスクの男と猛以外、誰もいなくなった局長室で、猛が男に話しかける。

 

『構いませんよ、その考えは私にもわかりますからね……猛さん』

 

「ん?」

 

『……フッ、わかりませんか?僕ですよ……ほら』

 

ガスマスクの男がマスクを外す、そして、マスクを外した顔に、猛は驚愕する。

 

「………!君は!」

 

「……これから僕は乙音くんの治療に向かいます。彼女のレコードライバーとライダーズディスクを、託してはくれませんか?」

 

マスクを外した男の、その言葉を受けて猛はふっと笑う。

 

「……本当に卑怯なやつだよ、君は。そんな顔でそんな事を言われちゃあ、託すしかないだろう?」

 

「……ありがとうございます。必ず、彼女は救ってみせますよ」

 

そう言って再びガスマスクを被ると、男は医務室へと歩き出す。今頃はボイスとゼブラが設置作業に入っているはずだが、彼女達では細かい調整は無理だろう。

一人局長室に残る猛は、未だ驚いていたが、どこか晴れ晴れしい顔をしていた。

 

「……そうか、彼が……。全く、長くは生きてみるものだね」

 

そこに、香織から通信がくる。ベストタイミングと、それに応える猛。

 

「ああ香織ちゃん?今ね、君にとっても嬉しいニュースが……」

 

『すみません、局長。後にしてくれますか?』

 

「……!何があったんだい?」

 

『新たな上級ディソナンスが現れました。今までにない反応です……!出現場所は……』

 

「……何!?」

 

その報を聞いた猛は、再び驚愕する。

 

「乙音君の……学校の近く!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、ゼブラ。後は任せたぞ」

 

「行くか、真司。桜は?」

 

「連絡している、彼女もすぐに駆けつけるらしい。合流して一気にいくぞ」

 

連絡を受け、戦いに向かおうとする二人。その姿に不吉なものを感じたゼブラは、二人を引き留めようとする。

 

「真司さん!刀奈さん!あの……!」

 

しかし、真司は装置をゼブラの頭に被せると、「心配するな」と言い残し、刀奈と共に走っていってしまう。

 

「あ………」

 

『……ゼブラくん、集中するんだ。……大丈夫さ、彼らならば上級ディソナンス相手でも遅れはとらない』

 

「……はい、そうです、よね」

 

(そうだ!僕が信じないでどうするんだ……!)

 

「どうやら準備はできたみたいだね。それなら、いくよ!」

 

ゼブラの顔を見て、覚悟を感じ取ったガスマスクの男は、ついに装置の電源を入れる。

 

「はい!」

 

ガスマスクの男の言葉に応えたゼブラは、その瞬間、吸い込まれるような感覚を覚える。

 

(来た……!)

 

心の中に入り込んでいく時に覚える感覚……初めて感じるはずのそれだが、ゼブラはこれがそれだとわかっていた。

 

(僕が生まれてきた時に覚えた感覚……それと似てる……)

 

生まれてきた場所へと帰り、乙音を救う。

 

(それが…僕のやるべき事なんだ!)

 

果たして、ゼブラは乙音を救えるのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、天台高校。乙音が通うこの学舎は、今狂乱の元に置かれていた。

 

「……な、なによ、あれぇ!」

 

「か、壁が……一瞬で溶けて……」

 

逃げ惑う生徒達、幾人かは教室で息をひそめる。襲撃してきたディソナンスはただの一体。全力で外へと逃走すれば希望はあると、校外へ逃げ出そうとした生徒達もいた。しかし………

 

「ひっ、ひい!お、俺の体が、糸に!」

 

「あ、あ、助けて!お願い!置いていかないでよぉ!」

 

その全ては、学校と外の空間の狭間に置かれた、金色の『糸』による罠に絡め取られていた。糸に捕まったものは、はじめ抵抗していたものも、自身の体が糸に覆われた後には、ぴくりとも動かなくなる。校舎の中からその光景を見ていたものは、皆、ディソナンスに見つからない事を願いながら隠れていた。

 

「な、何よ、あれ……」

 

乙音の親友である少女、湊美希もその一人であった。不登校が続く乙音を心配してたら、まさか自分が心配される身になろうとは思ってもいなかっただろう。今は教室のロッカーの中に隠れているが、果たしていつまでもつものか。そう思案した時、素人でもわかるほどの、強烈な気配を、美希は感じる。

 

「……あ、足音が近づいてくる……」

 

普段は生徒達の足音がうるさく響く校舎の中で、静かに響く、大きな足音。その音が止まったかと思うと、また別の音が響く。扉を開ける、ガラリとした音だ。

 

(は、入ってきた……)

 

息を殺し、気配を殺す。必死に自身の存在を隠そうとする美希。しかし、侵入してきたディソナンスの行動を見て驚愕する。

 

「………!」

 

そのディソナンスは乙音の机の前に立ったかと思うと、それを無残にも食い散らかしたのだ。人に近いフォルムのディソナンスであるが、大きく口を開けたその姿は、とても正視できぬものであった。

 

『………不味いな……本人も、不味いのだろうか……』

 

その言葉を聞いて美希が抱いた感情は、怒りだった。恐怖もあるが、それ以上に、自らの友人を喰らわんとするものを見て、怒らないはずもないだろう。

しかし、その怒りは、この場においては致命的なものであった。

 

『……誰か、怒っているな?』

 

感情を力の源とするディソナンスには、自身の力を増幅させる感情を察知する能力がある。怒りを力とするディソナンス相手に、怒りを抱くというのは致命的な事だ。

 

『出てこい』

 

「あっ……!」

 

ロッカーから引きずり出される美希。よく見ると、そのディソナンスは帽子を目深に被り、目を隠している。神は金髪だ。

 

『……?ふむ……』

 

「………っ?」

 

自らを捕まえたディソナンスに対し、怯まず睨みつける美希。そんな美希の様子に、ディソナンスは疑問を抱く。

 

『……貴様は、なぜ怒っている?』

 

「え……?」

 

『私はこれでも怒りの感情を、その力の源とするディソナンスだ……だというのに、私はなぜ生命が怒るかわからないのだよ。今こうして貴様らを追い立てているのも、カナサキの指示だ……あいつがあれほど怒り狂うのも、初めてだったな……』

 

「…………」

 

美希は混乱していた。突如現れた、怪物じみた強さと雰囲気を持つ大男に追い立てられたと思えば、その大男に、何やらよくわからないことを言われながら、なぜ怒るかについて質問されているのだ。混乱しないほうがおかしい状況だろう。おかしくない普通のものならば、怯え、嘆き、ただ無残に殺されるだけだろう。

ならば、美希はおかしいほうになるのだろう。

 

パァンッ…………!

 

『……………』

 

無人の教室に、乾いた音が響く。その音を出した張本人である美希は、ディソナンスの頬を叩いた手を振りながら、こう言い放った。

 

「……なんで怒るかって?それはね、許せない事があるからよ!」

 

『……許せない事…?』

 

「そうよ、今の私にとって許せない事は…私の友達を害そうとした、あんた自身よ!」

 

『……そうか……』

 

「……………」

 

(思わず啖呵切っちゃたけど…でも後悔はないわ。……私、このまま死んじゃうのかな……もっと生きたかったな……)

 

ディソナンスの頬を引っ叩いた美希であったが、その内心には何かプランがあるわけでもなかった。あくまで本能的な行動の、その結果であったのだ。

死を覚悟する美希だったが、相手の様子がおかしいことに気づく。

 

『……許せない事か……』

 

(……………?)

 

『………そうか、ならば…』

 

「……あんた、何言って……」

 

『ならば、おまえ……奴らも許せない事があるというのか?』

 

「えっ?」

 

ディソナンスの言葉の意味がわからず、一瞬硬直する美希だったが、ディソナンスの指差す方向を見て、そこにある光景を見て理解した。そこには、仮面を被った謎の三人組によって、糸に絡め取られていた生徒たちが、次々と吸収されていた。

 

(あれって……聞いた事がある……仮面を被って、みんなを助ける戦士がいるって……仮面ライダー…あの人達が?)

 

『奴らも…許せぬ事があるのだろうか?あの怒り……』

 

「……ええ、多分、私と同じだと思うわよ。……あんた自体を、許せないっていう、怒りよ」

 

『そうか……女、名前は?』

 

「………湊美希」

 

『我が名は、ドキ……四体の上級ディソナンスのうちの一体にして、激しき怒りを糧とする者だ。せいぜい……覚えておくといい』

 

そう言うと、窓から飛び出していくドキ。帽子を抑えながら、ライダー達の目の前に降り立つ。

 

「……………」

 

美希には、その光景をただ見ることしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いったい何が起こっている……!?」

 

「なんなのよこの糸〜!取りにくい!」

 

「ええい、糸だけでも切り裂いて……」

 

天台高校へとたどり着いたライダー達だったが、そこにある光景を見て、愕然としていた。校舎と外とを隔てる糸の障壁を突破したかと思えば、そこには繭のようになった糸に絡め取られている人々の姿があったからだ。糸の繭に包まれている人々を助けようとやっきになるライダー達だったが、人々を拘束する糸は頑強であり、なかなか解く事ができない。

それでも牙で引き裂き、刀で切り裂く事で救出できていたが、周囲を見張っていた桜が異変に気づく。

 

「二人共!あ、あそこ……!」

 

そこには、窓から飛び降りる人影があった。中の人が飛び出してきたのかと思い、慌てて助けにいこうとする桜だったが、真司に引き止められる。

 

「何を……!?」

 

「待て、あれは……」

 

ライダー達の目の前に降り立つ人影、普通の人間であるならば死ぬ高度からの降下であったが、砂ぼこりを上げながら着地したそれは、明らかに人ものとは異なる気配を放っていた。

 

「貴様……ディソナンスか…!」

 

『いかにも。我が名はドキ。怒りを力とするディソナンス……』

 

「怒りか……怒りならば、我らも力とする」

 

「ライダーシステムは感情の力…心の力を引き出すものだ。俺達の怒り、受けてみるがいい……!」

 

「ドキだかトキメキだか知らないけど、たとえあんたが上級ディソナンスだったとしても、ここで私たちがぶっ飛ばす!」

 

未だ構えぬドキに対し、三人は一斉に襲いかかる。真司が正面から殴りかかり、桜は頭上から、刀奈はそのスピードを活かして背後に回り、斬撃を与える。

回避不可能なその連携にも、しかしドキは焦ることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『し、しかしバラクさま、キキカイさま……ドキさま一人で、ライダー達に勝てますかね?』

 

『フン、認めたかねぇが、あいつは俺達四人の上級ディソナンスの中で最強だ。いくらあいつら相手でも、遅れはとらねぇよ』

 

『むしろあっさり勝つかもね。ま、作業に集中しなさいな。改造されたくはないでしょう?』

 

『ひ…は、はい〜〜!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これで終わりか?貴様らの怒り……』

 

「ぐ、お……」

 

一斉に襲いかかったライダー達だったが、まず後方の刀奈の斬撃が突如現れた糸によって止められる。ドキの髪から伸びるそれは、ライダーシステムの剛力ですら容易く縫い止める。

次に狙われたのは桜だった、頭上からの攻撃が、深く被られた帽子の下から伸びた髪の束によって止められる。

そして最後に残った真司の攻撃に対しては何もせず、その身で受ける。渾身の一撃が完全に入ったが、ドキは意に介せず、次の一手を打つ。髪の束に拘束された桜を振るい、真司と刀奈を吹き飛ばしたのだ。当然、桜も共に投げ飛ばし、地面に叩きつける。

これらの行動を、ライダー達が攻撃してから、それが当たるまでの一瞬の間に行ったのである。辛うじて刀奈が一連の流れを認識できていたが、完全に拘束されて動けなかった。

「ま、だだ……」

 

「待て、桜……このままでは、お前も……」

 

その後も必殺技の連携攻撃で攻めるが、ドキをその場から一歩も動かせず打ち破られていった。

 

『言っただろう?怒りを力とすると……。貴様らの抱く怒りであっても、我の強さとなる。むしろ、強靭かつ潤沢なハートウェーブを持つライダーが相手だ。私のパワーは今、かつてないほどに上昇しているよ……』

 

「ぐ、くそ……!」

 

ドキの言葉に絶望しかけるライダー達、しかし、人々の命を守るために、ここで寝転がっている暇などない。真っ先に真司は立ち上がるが、唯一強化形態でない彼の肉体に残るダメージは深刻であり、ふらついた状態だ。

 

『…………』

 

そんな状態でも諦めない彼に、しかしドキは非情だった。自らの髪を束ねると、拳の形にし、それを真司に向かって振り下ろす。

 

『………!』

 

『おっと……間に合ったな』

 

しかし、それは突如放たれた弾丸によって阻まれた。ボイスが駆けつけたのだ。

 

「ボイス……後輩は……」

 

『…オレが時間を稼ぐ、お前らは休んでな!』

 

 

 

「患者の体力低下!ゼブラちゃんも……このままでは!」

 

『くっ……やはりこの手を使うしかないのか!』

 

『ゼブラくん……!今一度、持ちこたえてくれ!』

 

 

 

 

 

 

「ぐ……やはりまだ……」

 

『ああ、でも安心していいぜ。あいつが目覚める前に、オレがこいつをぶっ倒してやる……!』

 

『…………こい』

 

『はっ!言われなくても!』

 

ボイスは突撃していくが、その銃撃も怯ませる事はできない。他のライダー達も立ち上がろうとするが、果たしてどこまでもたせられるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、特務対策局でも異変が起こっていた。乙音の体調が悪化し、乙音の心にダイブしているゼブラも痙攣などの異常を起こしていた。

 

「患者のバイタル、低下していきます!」

 

「ゼブラちゃんの体にも痙攣が……!」

 

『やはりこれを使うしかないか……!すまない!』

 

「それは……!?」

 

『我らの希望だよ……!レコードライバー装着、ディスクセット!』

 

『さあ…鬼が出るか蛇が出るか、希望か絶望か、審判の時だ!』

 

ゼブラの体にレコードライバーを装着し、ライダーズディスクをドライバーに挿入する。すると、ドライバーとディスクが光を放ち……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ここは、乙音お姉ちゃんの……中……?』

 

『暗い……怖い……そんな気持ちで満ち溢れている……』

 

『……絶望……かつて僕がいたところ……でも今は別の絶望で埋もれている……』

 

『僕にはどうにもできない……そんな気持ちで溢れてくる……』

 

『でも……なに?この暖かさは……』

 

『これは……希望……歌……心………魂』

 

『お姉ちゃん……乙音お姉ちゃん……僕、歌うよ』

 

『だから、お姉ちゃんも………!』

 

『歌ってぇぇぇぇぇぇっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わりだな……』

 

『化け物、かよ……!オレ達でやっと帽子を飛ばせるぐらいとはな……!』

 

天台高校、そこではライダー達とドキとの戦いに決着がつこうとしていた。

ライダー達は必死に攻撃を加えるが、終ぞ帽子を飛ばす程度のダメージしか与えられていない。

両腕も振るわせる事ができず、今ボイスがトドメを刺されようとしていた。

 

『では……「やめてぇぇぇぇぇぇ!」……む』

 

しかし、振り下ろされようとした髪束の前に立ちはだかる者が一人いた、美希だ。ライダー達の戦いを見ていた彼女だったが、トドメを刺されようとしている彼らを見ていてもたってもいられなくなり、飛び出してきたのだ。

しかし、非力な彼女に、ドキの一撃を止められる術などない。ドキが、美希ごとボイスを叩き潰そうとしたその時ーー

 

ギュン!

 

『………?』

 

ドキの背にエネルギー弾による銃撃が入る。ダメージはないが、ドキの動きを止める事には成功した。

ドキが振り向いたそこにはーー

 

「ありがとうございます。香織さん。ここまで送ってもらって」

 

「間に合ってよかったわ……乙音ちゃん、くれぐれも無理はしないでね」

 

ーーそこには、乙音が立っていた。背後には乗ってきたと思わしき車と、メガホン型の銃を構える香織の姿。

 

「後輩……!」

 

『遅えんだよ!このやろう!』

 

「乙音、くん……!」

 

「あんたが、木村乙音……?」

 

『ほう……その怒り……』

 

「おと、ね……」

 

「すみません、遅くなって。ごめんね、恐い思いをさせて」

 

声に応えるように、足を踏み出す。目を上げる。

「でも、もう大丈夫」

 

その腰にはレコードライバーが、その手にはライダーズディスクが握られている。

 

「今ここには……私達がいるっ!」

 

そう言ってディスクを挿入し、変身する乙音。乙音の四肢を、その体を包むように光の輪が展開し、乙音の体が装甲を纏っていく。

最後に被るものは、仮面。涙を隠し、怯えを隠し、決意を引き出すための、仮面ライダーの証。

 

「さあ……心の音、響かせる!」

 

仮面ライダーソングへと変身した乙音は、その手にスタンドランサーを構え、ドキへと突貫する。

 

「気をつけろ後輩!ヤツの髪は、頑健にして俊敏!一筋縄ではいかん!」

 

その言葉の直後、ボイスと美希に向かって振り下ろされんとしていた髪束を、全て乙音の迎撃へと向けるドキ。乙音はそれを次々と回避していくが、ドキの猛攻に近づく事ができない。

 

「このままじゃ埒があかないな!」

 

そう言ってドライバーに手をかける乙音。必殺技を発動するのだろうか、しかしその隙を見逃すドキではない。

 

『………!』

 

髪束による一撃を乙音の体に直撃させる。ライダー達の怒りによって強化された一撃である。いくらライダーであっても、ひとたまりもない攻撃のはずだが……

 

『……!馬鹿な……!』

 

「黒いソング……!あの一瞬で分離を!?」

 

一瞬のうちに黒と白のソングに分離。物理攻撃に耐性のある黒いソングが髪束による一撃を受け、白のソングが隙をついて奇襲したのだ。

真司達の連携でも一歩も動かす事ができなかったドキの顔面を殴りつけ、よろめかせる。

 

『……なるほど』

 

「しかし、後輩……いつの間にあんな芸当を…」

 

黒のソングに話しかける真司。その疑問に白のソングが答える。

 

「今まではドライバーを操作しないといけなかったんですけど、今はしなくても分離できるようになりましてね。さっきのはブラフですよ」

 

「そうか……」

 

「あ、それと、そっちは私じゃないですよ、私はこっち」

 

「えっ」

 

白のソングの言葉に思わず声を上げる刀奈。真司も何がなんだかわからないという顔をしている。

 

「わからないんですか?僕ですよ、僕!」

 

黒のソングが発した声は、乙音のそれでなく、真司達も聞き覚えのある、あの声だった。

 

『お前……まさか……!?』

 

「こっちが私で」

 

「こっちが僕」

 

そう、黒のソングの中身は、今は乙音ではなく、ゼブラとなっていたのだ。

 

『あいつ……やりやがったな!』

 

「え?ゼブラくんが黒で、乙音ちゃんが白で……!?」

 

「よ、よくわからんが、問題はないのか!?後輩!」

 

「あ、その心配はないですよーー。今までは二人ぶんの負担を一人で抱えた状態だったんですけど、今は二人ぶんのハートウェーブにそれ以上のエネルギー!って感じですから!」

 

「乙音お姉ちゃんは僕が守ります!」

 

ライダー達が混乱する中、悠々と喋る乙音とゼブラ。しかし、そうしてる時間はない。殴られた後、止まっていたドキが、再び動き出す。

 

『……これが、お前の怒りか…ならば』

 

ドキの両腕から刃が飛び出す。その切っ先は拳の横にあり、殴ると同時に敵を切り裂くような配置だ。

 

『私も本気を出そう』

 

人形のような無表情でそういうドキに、しかし二人は怯まない。

 

「絶望させようってんなら、倍は持ってこなくちゃね」

 

「いくよ……お姉ちゃん!」

 

「「心の共鳴……響かせる!」」

 

前奏は終わった。今、心よりの歌が溢れ出す!

 

《 《共鳴……心響かせ……》 》

 

歌と共に駆け出す二人。疾風となってその手に槍を持ち、ドキの体を貫かんとするが、ゼブラの槍はその腕の刃に、乙音の槍は髪の障壁に阻まれる。

 

《白と黒が織りなしてくストーリー……》

 

『ふぅっ!』

 

《僕らの思いはどこへ向かうとゆうのだろう…》

 

《 《旋律よ》 》

 

「わっ、わっ!」

 

「まるで竜巻みたい……」

 

二人の攻撃を防いだドキは、そのまま回転を始める。刃と髪の竜巻においそれと近づく事はできないが、二人はすぐさまコンビネーションを放つ。乙音が空中へと飛び上がった瞬間、二人はすぐさま必殺技を発動する。

 

《心の音が尽きるその時に……》

 

『rider double shoot!』

 

《蝕む思い、その名は何なのか》

 

《 《絶望》 》

 

「お姉ちゃん!いくよ!」

 

「きて!ゼブラ!」

 

ゼブラが必殺技で二つの槍を纏めて蹴り上げる。空中に飛んだ乙音は、その槍を必殺技で蹴り飛ばし、竜巻の中心へ向けて飛ばす。即興での連携技によって威力を増したニ槍は、竜巻を貫く。

 

《運命に、ライドして、紡がれていく思いがそう》

 

『ぐうっ!』

 

《人々を守る強さ紡いでゆく…のさ……》

 

直撃は避けたものの、髪束を消し飛ばされたドキは苦しそうに呻く。その一瞬を逃す二人ではない。

 

《心高らかに!この力、劔のように振るおう》

 

「いくよゼブラ!」

 

《牙のように突き立て、絶唱する!》

 

「ここで一気に……!」

 

《たとえ運命に、踊らされ、この思いが穢れとも》

 

《胸にある希望は、潰えないのさ……》

 

『rider double shoot!』

 

《声を張り上げ何度でも!》

 

「「うおおおおおおっ!」」

 

《 《明日に歌う……!》》

 

《 《Ah………!》 》

 

『ぐうううううっ!』

 

この機を逃さんと必殺技で追撃する二人。しかし、全力で力を振るうドキは、ダブルライダーによる攻撃にも耐え、弾き返す。

 

《喜怒哀楽入り乱れゆく心……》

 

『ぬおおおっ!』

 

《それが生み出すドラマで変わりゆく世界が》

 

《 《あるから》 》

 

「くあっ!そうやすやすとはいかせてくれないか!」

 

「ならこっちも合体して!」

 

ゼブラの言葉に頷く乙音は、ゼブラと手を繋ぐ。すると、黒のソングが白のソングと融合し、より強力なスペックを持つ合体形態となる。ドキもその頭部の角を天高く伸ばし、より鬼のような体躯となって対抗する。

 

《感情というものがあるなら……》

 

『オオオオオッ!』

 

《心だってあるはずと…それを信じて》

 

《 《歌うよ》 》

 

「うおおおお!」

 

ぶつかり合う拳と拳。力と力。今、二人のボルテージは最高潮へと達していた。

 

《渦巻き、紡がれてく思いがそうさ未来という》

 

《希望を紡ぐ力と…なる…のさ……!》

 

『rider maximum spear!』

 

必殺技で強化された槍を振るい、髪を引きちぎってドキの体躯に傷をつける乙音。しかし、ドキもまたその両腕の刃で乙音を切る。

 

《歓喜の声上げて生まれゆく、命をそうさ守ろう》

 

《その憤怒に身をまかせ。討滅する!》

 

「オオオオオオオオオオっ!」

 

『オオオオオオオオオオッ!』

 

《悲哀の涙が!溢れても、一滴すら零さない》

 

《 《明日に見える楽土へ》 》

 

《 《君と向かう……!》 》

 

激突する刃と刃。振るう槍はその身を砕かんとし、振るう腕はその身を捩じ切らんとす。その勝負にも、終わりの時が来る。

 

《仮面の裏に隠した。思いが溢れる……》

 

『ぐう……次が、最後か!』

 

《絶望の中掴んだ、希望守りたい……》

 

「そう、みたいだね……!」

 

『ならば、全力で!』

 

『voltage over!!!』

 

「行くよ!」

 

『rider maximum shoot!!!』

 

乙音の飛び蹴りが炸裂する。全力のハートウェーブ、全力の魂で対抗するドキ。

 

《心燃え尽きてっ!灰になり、そこからまた復活する!》

 

《希望とはそういうものさ。潰えない!》

 

『ぐうおおおおおおおお!』

 

乙音の必殺技を受け止めるドキの刃に、ヒビが入る。

 

《真なる心、桜のよう。儚くても……!》

 

「ああああああああああああああああっ!!」

 

《守りたいという声を、叫び続けて……!》

 

最後の力を振り絞り、ドキの刃を砕く乙音。そのままの勢いで、蹴り飛ばす!

 

《響け歌え、自分の、魂の歌……!》

 

《 《Ah……!》 》

 

「うおおおおおおおおおおりゃああああああっ!」

 

『があああああああああああ!』

 

《 《共鳴…心響かせ……!》 》

 

見事蹴り抜いた乙音は、背後で爆発が起きるのを感じた。

ゆっくりと振り向いたそこには、ボロボロの状態となったドキがいた。強大なハートウェーブどうしのぶつかり合いによって発生した爆発に巻き込まれてもその身の原型を保ててはいたが、すでに戦闘力は無いようだ。

 

『ここまで、か……。次こそは、必ず……!』

 

そう言い残し、粒子となってその場を去るドキ。強敵を撃破した喜びに浸る間も無く変身を解除した乙音は、自分との融合を解いたゼブラとともに、みんなの方を向いて、こう言った。

 

「……ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、本当に一事はどうなる事かと思いましたよ」

 

後日、特務対策局にて改めて精密検査を受けた乙音は、なんら異常はないと診断され、無事明日から学校へと通えるようになった。

親友である美希に正体を知られてしまったものの、乙音も美希自身も全く気にしてはいないらしい。今は今度の日曜日に一緒にでかける場所を検討中だとか。

今は廊下で、真司と話している最中だ。

 

「ああ、本当にな……そういえば、局長が最近、遅くまで仕事をしていたな。案外お前に関しての事じゃないのか?」

 

「えっ、もしそうならお礼を言わないと……」

 

「まあ今はいいさ、ゆっくり休め。局長も忙しいだろうしな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これは、本当なんですか?』

 

「ああ、これが見つかれば、ライダー達の戦力増強に繋がる」

 

『しかし、ディソナンスが嗅ぎつけている可能性もありますね……』

 

「うむ…だから急がねばならない」

 

「この、【保管装置】の捕獲を……」




どんどん書く分量が増えていく。ああ〜疲れる。今度はサクッと書きたいものです。というか最近新フォームラッシュで歌なし回がない!同じ文字数でも歌ありとなしだと労力が違うんだよ!かっこも変えなきゃあかんしぃ……でも書きたいからしょうがないよね。うん。とりあえず私生活に影響が出ない程度には頑張ります。応援の感想、待ってるぜ!(島本和彦風の絵柄で)


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BEYOND

ふーやっと書けた。第1部終了時点で、いったいどれほどの歌を書くことになるのか……でももうすぐ、もうすぐだから頑張る。あと予定される第2部は、歌は少なめでお送りします。フォーム出すごとに歌を出すことになるので、フォームも少なめでお送りします。いやソングだけならともかく、他のライダーまで面倒見切れるかよぉ!


「保管装置……?」

 

『そうだ、この資料にも書いてある事だが……』

 

特務対策局。そこのブリーフィルームで、乙音たちは今映像付きで説明を受けていた。内容は以前より猛が調べていた、ある装置に関しての事。保管装置と呼ばれるそれは、ハートウェーブを保管するための装置だという。

今現在、それについての説明をガスマスクの男がしていた。

 

『ハートウェーブは、極めて保管が難しいものでね。レコードライバーで変身する際に多量のハートウェーブを持つ人間が必要となるのは、今現在の技術ではハートウェーブを貯めておく事ができないからさ。しかし、この保管装置があれば通常の人間でもライダーに変身することすらできるようになる』

 

「そして、当然俺達の戦力強化にも繋がるということか」

 

『その通り。今はこの保管装置がある場所を探している最中だけど、だいたいの場所が分かれば、その周辺へ調査に行ってもらうことになる。これだけの代物、ディソナンスも狙わない手はないからね。君達には調査チームの護衛を頼みたい』

 

「奴らも力の源は我等と同じ、ハートウェーブだからな……此度の任務、気を引き締めてかからねば」

 

『では、これで説明会を終了します。まあそう遅くないうちに見つかるだろうから、今はゆっくりと休んでいてくれ』

 

説明会が終了し、ガスマスクの男は一足先に会議室を出る。向かう先は局長室。おそらく現在の調査の進捗状況を確認しにいくのだろう。乙音達も会議室を出て、休憩室へと向かう。

 

「……ふー、やっと終わったーー!久々に復帰したら、いきなりこんな説明会続きなんて……」

 

「まあそう言うな、保管装置が見つかれば、ディソナンスと決着がつく日も近いだろうしな……」

 

「そうよ乙音ちゃん!でも、何か困った事があればこの桜お姉さんにどんと頼ってもいいのよ!」

 

「……佐倉はどうしたんだ?」

 

「なんでも、どんな子か不安に思ってたら、とてもいい子だったから甘えさせたくなったとか……」

 

「なんだそれは……」

 

そんな他愛もないことを話しながら歩く中、ふと乙音が呟く。それはガスマスクの男の正体についてだ。

 

「でもまさか、あのガスマスクの人が香織さんのお兄さんだとは思いませんでしたねー」

 

「ああ、その話か。なんでも、五年前のハートウェーブの実験による爆発事故……その時に重傷を負い、それから行方をくらませていたらしい」

 

「……でも、なんで行方をくらませるなんて事したのかしら?今はこうして私達の味方になってくれてるのにさ」

 

「……さあな。ほら、行くぞ」

 

会話を中断し、先に歩く真司。それについて行く乙音と桜だったが、真司と刀奈の二人は、彼女達も知らない、ガスマスクの男ーー香織の兄、大地勝についての、ある事実を知っていた。

それは、あの爆発事故があったその日、勝が仮面ライダーを見たという事実だった。

 

(……あの日、俺達はまだ、何も知らない子供だった。という事は、俺と刀奈よりも前に、ライダーとして活動していたものがいるということ……嫌な予感がするな)

 

思考の中に沈む真司。果たして彼の予感は当たってしまうのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、ゼブラとボイスちゃんはどこいったんでしょう?」

 

「あー、あの二人なら、一緒に買い物に行ったわよ。ゼブラが『ボイスさんも女の子らしい格好しなきゃですよ!』とか言って。全く、誰に似たんだか……」

 

「た、たはは……あの子達も、リラックスできてたらいいんですけどね。まだ小さいですし……」

 

「…乙音くん。ボイスくんは君と同い年だぞ」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この服はどうですか!?あ、この服もいいですねー、思い切ってこんなものも!」

 

『落ち着け、それは……オレには可愛すぎる』

 

都内の、あるデパート内部の服飾店。そこには服を持ってはしゃぐゼブラと、それに困惑するボイスの姿があった。

ボイスはその手にタブレットを持っており、そこに文字を打ち込むことでゼブラとコミュニケーションをとっている。以前ゼブラと街中で遭遇した際には持っていなかったものだが、勝がライダー達と共に過ごす事になるのなら、持っていた方がいいだろうと作ってくれたものだ。

 

『だいたい、いきなりなんだ?オレと一緒に出かけたいとか……』

 

「あ……嫌でしたか?」

 

『いやそうでなくてだな……こう、こういうかわ…可愛い服買うんなら、こう、乙音とか桜とかいるだろ?』

 

「僕はボイスさんと一緒に買いたいんです!」

 

『なんじゃそりゃ…』

 

そんな事を話しながらデートを続ける二人。今回ゼブラがボイスを誘った理由は、ボイスと打ち解けたいという意図の他に、もう一つあった。

 

「そ、そういえば、僕ってボイスさんの本名知らないですよね?」

 

『なんで疑問形なんだよ…言っとくが教えねーからな』

 

「え……」

 

『……思い出すと辛くなっちまうからな。後悔なんてのは過去に置いてくるもんだ。未来まで連れて行くべきものじゃあない。それに、今はボイスってのがオレの名だからな』

 

「……すみません、僕……」

 

『いーんだよ。……全部終わった日には、教えてやるから』

 

「あ……や、約束ですよ!?」

 

『おう』

 

道中様々な事があったが、無事絆を深めたボイスとゼブラ。ボイスは乙音達とも親睦を深めるが、後に桜や乙音に着せ替え人形が如き扱いを受けるのは、まだ遠い話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、『保管装置』の場所に見当がついたという連絡を受けた乙音達は、局長室へと急いでいた。

 

「いったい、どこにあるんでしょうか?」

 

「さあな、だが、これから見つけるというのは事実だ。今回は空振りに終わる可能性もある、それを忘れるなよ」

 

「そうだな…む、真司、局長室だ」

 

話をしていると、いつの間にか局長室についたようだ。「失礼します」と一言入れ、入室するライダー達。そこでは、目の下にたっぷりと隈を作った猛と香織、いつも通りガスマスクを被った勝の姿があった。ちなみに勝がガスマスクを被っているのはただの趣味らしいが、今はその下に猛達と同じく疲労の証を刻み込んでいるだろう。

 

「ああ…来たかい…そいじゃ手短に説明するから、勝くん……」

 

『フフフ…任せてください。みっちりと……説明してあげますからね』

 

「お、お手柔らかに…」

 

こうして始まった説明会であったが、思いのほか早く終わった。内容も保管装置があると思われる場所と、向かう人員についての話だった。調査隊と共に向かうライダーは……。

 

「最終的に、私達二人ですか…なんだか懐かしいですね」

 

「そうだな……もう遠い昔のように感じるが、まだ三ヶ月ほども経っていないとはな」

 

「……悔いの残らないよう、頑張りましょう!」

 

「ああ……そうだな」

 

「僕もいますからね!」

 

乙音と真司、先輩と後輩という絆で結ばれた二人とゼブラが選ばれた。居残り組はもしもの時に備え、対策局本部での待機となる。こちらは刀奈が指揮官役となるが、ボイスと桜はその攻撃範囲の広さから、調査隊にも影響…被害が出る可能性が高いと判断されてだ。その点真司と乙音の攻撃は主に点の攻撃であり、いざとなれば多数の敵にも対処可能であるため、この二人が選ばれた。

 

「出発します、お二人とも、準備はよろしいですか?」

 

局員の言葉に頷く二人。調査隊を乗せる車に揺られながら、真司は乙音の発言を思い返す。

 

『悔いの残らないよう、頑張りましょう!』

 

(悔い、か……)

 

(後悔は過去へ置いていくもの、未来へは持っていけない……)

 

(保管装置を見つけ、今まで失われた命…俺の悔い、その全てに清算する)

 

(だが、そのためには……)

 

真司は手の中にある新型ディスクを見つめる。

 

(俺にこれが、扱えるかだな……)

 

迷いと決意を乗せて、車は走る。目的地はかつてハートウェーブを研究していた場所…ディソナンスが現れた、因縁の地だ。

今は周辺の土地含め、閉鎖されたそこで、再び人とディソナンスが相見えようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここか」

 

「はえ〜本当に瓦礫以外何もないんですね……」

 

現場についた乙音の目の前に広がっていたのは、瓦礫の山だった。かつての爆発事故によって閉鎖されてしまったここは、人の手の入っていない雰囲気と、人が作り出した文明の残り香が混じり合い、不可思議な空間を生んでいた。

それにポカンとする乙音に、調査隊メンバーが話しかけてくる。

 

「ここには、かつての爆発事故の影響などが残ってましたからね。今は大丈夫と判断されていますが、念のために防護服を装着しておいてください」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

そう言うと、ソングに変身する乙音。ゼブラも乙音と一体化する。真司はすでに変身して、瓦礫の撤去作業を手伝っているようだ。

 

「あ、せんぱーい!私も手伝いますよぉ!」

 

駆け出す乙音の背を見送る調査隊メンバーは、自身の仕事の準備を始める。彼らもまた、人々を守るために戦う戦士なのだ。

 

 

こうして作業を進める乙音達だったが、不意にディソナンスの気配を感じ、周囲を警戒する。

 

「…先輩!」

 

「どこだ……!?」

 

周囲見渡す二人だったが、いっこうにディソナンスの姿は見つからない。気のせいだったかと警戒を解いた、その時……

 

「なにっ!?うおおおおおっ!」

 

「先輩!?」

 

突如真司の足元に穴が開き、そこから飛び出してきた腕に、真司の体が穴に引きずり込まれていった。真司を追おうとする乙音だったが、この瞬間を待っていたといわんばかりにディソナンス達が攻勢を仕掛けてきたため、思うように動けない。

 

「くっ……ゼブラ!力を貸して!」

 

「うん!さっさと片付けよう!」

 

分裂し、二人のソングとなってディソナンス達に飛びかかる乙音とゼブラ。しかし、ディソナンス達はまるで戦う気がないように、乙音達との距離を取り続ける。

 

「いったい何が狙いなんだ……!?」

 

乙音とゼブラには、戦うしかこの状況を切り抜ける術がない。今は真司の無事を祈り、その槍を振るう二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……!離せ!……うおっ!?」

 

地面の中を引きずられていた真司は必死に抵抗していたが、不意に相手の真司を掴む力が弱まったかと思うと、その次の瞬間には空中へと投げ飛ばされていた。地面の中からは脱出できたものの、地面にその身を強かに打ち、痛みに悶える真司。その真司に、近づく影が一つ。上級ディソナンスの一体であるキキカイだ。手には何らかの装置を持ち、その中にはふよふよと浮かぶ、人魂のようなものが入っている。その人魂の正体はカナサキ。刀奈に倒されたのち、自らの核のみの状態となったカナサキは、キキカイによってとある装置に入れられていた。周囲には瓦礫があり、いくらでも身を潜められそうだ。

 

『これでいいのぉ〜?カナサキ』

 

『ああ…ご苦労だったな』

 

「貴様ら……!」

 

キキカイの存在に気付き、襲いかかろうとする真司だったが、横合いからの攻撃に邪魔される。ここまで真司を連れてきた、モグラ型のディソナンスの攻撃だ。

 

『お二方!このモゲラがやっちまっていいんですねぇ!』

 

『ああ……お前に任せるよ』

 

『了解!けけっ〜!人間、テメェも運がなかったなぁ〜!』

 

両腕に生えた爪で切り刻まんと、真司に迫るモゲラ。地を掘り、宙を飛び回り撹乱するモゲラだったが、当の真司はキキカイとカナサキを見据えたまま動かない。

 

『この……!このモゲラを無視するんじゃあない!』

 

そう言って、真司の目の前に突如飛び出すモゲラ。すぐさま真司を切り刻もうとするが……

 

「どけ、前が見えん」

 

ドゴォ!と鈍い音が響く。一瞬で構えた真司による正拳突きが、モゲラの腹にクリーンヒットしたのだ。

 

『げ、げふ……そんなぁ…』

 

そのまま消滅するモゲラ。真司は変わらず、キキカイとカナサキの動きを警戒する。

 

『……やはりこいつ程度では話にならんか、かと言って…』

 

『やあ〜よ、私は痛いの嫌だもん』

 

『だ、そうだ』

 

「なにがそうだだ……」

 

その瞳に怒りの炎を止まらせながら構える真司。

 

「貴様らディソナンスのうち、上級二体…今ここで仕留めてやる」

 

『あらやだ怖い!でも人間、あなたにそんな事ができるとでも思ってるのぉ〜?新型のディスク…あれをただ一人起動できていないあなたに』

 

「ふん、せめて傷ぐらいは負わせてやるさ」

 

「だが気をつけろよ…俺の牙は、刺されば抜けんぞ」

 

『小揺るぎもせんか……さすがは奴らの精神的支柱だな』

 

カナサキが自らの形を変え、人魂のような姿から、頭部のみの姿となる。

 

「……!」

 

『このような姿で失礼。だが、今の私ではこれが限界でね……』

 

「ならば……」

 

カナサキの声を受けた真司は、右拳を前にして、突撃する。

 

「ここでその装置ごと貴様の頭を、砕き割るのみ!」

 

『だが、これでも貴様相手には十分なのさ!』

 

カナサキが怪しく目を光らせると、真司の動きがぴたりと止まる。そして、突如として変身が解除され、その体が地に伏してしまう。

 

『うまくいったのぉ〜?』

 

『ああ…新型ディスクの精神干渉への抵抗力…あれのせいで、あの時の木村乙音のように、消耗していなければ我が能力も通じぬが……』

 

『こやつのように旧型のディスク相手であるならば、今の私でも十分!術中に嵌められるのだよ』

 

『まったく、恐ろしい能力ねぇ』

 

『今こやつには悪夢を見せている…今までの後悔、その全てが自分のせいだという悪夢を!フフ…奴らの精神的支柱であるこの男が、新型のディスクを起動できていなかったのは、嬉しい誤算だったよ』

 

『私達も保管装置…あれを見つけれたし、今は解析中だけど…きいいっと人間を皆殺しにするのに役立ってくれるわぁ〜!』

 

『フフ…フフフ……フフハハハハハハハハハハ!』

 

『フフフッ!フフフッ、フフフフフフッ!』

 

倒れ臥す真司を見下ろし、高笑いを上げるカナサキとキキカイ。あの時の乙音のように、絶望と後悔の淵に沈む真司に、なすすべはなくーー

 

 

……ギリッ

 

『あら?』

 

『うん?』

 

……ギリギリギリッ

 

『なあに?この音?』

 

『さあな…アレがたててる音じゃないのか?まさかこの人間が……』

 

「その……まさかだ………」

 

『『!?』』

 

カナサキとキキカイが驚愕して見つめるそこには、真司が立っていた。ギリギリという音は、真司が自らの拳を握り締める音……血が出るまで、握り締めていたからこそ響く音であった。

 

 

『ば、馬鹿な……!我が能力から逃れるなど!』

 

「フ……貴様の能力、どうやら弱体化しているようだな。それと、貴重な情報をありがとう」

 

『……!さっきの話!』

 

「お前達が持っているのか……ならばここで貴様らを打ち倒し、保管装置を手に入れるまで!」

 

『それができると思ってるのぉ!?私達だけでなく…こいつもいるのよぉ!』

 

そうキキカイが言った瞬間、彼女の背後、その瓦礫の山から巨大なロボットが登場する。これに加えてキキカイを相手にするのは、今の真司では難しいだろう。

だが、人とは進化と研鑽を、伝統として、歴史として積み重ねていく生き物である。それは、人類の守護者である真司ももちろん例外ではない。

 

「俺は1秒前の俺よりも強くなる……!」

 

そう言い放つ真司の手には新型のディスク。真司がそれをレコードライバーに入れようとした瞬間、巨大ロボットがその質量を用いたパンチを放ってくる。

 

『仕留めなさい!』

 

「そうはいかんさ……!」

 

巨大ロボットのパンチを、自らの右拳で迎え撃つ真司。理論上、真司の力では拮抗するはずもないこの衝突は、しかし真司の方が押していた。

 

『何!?』

 

そして、真司は叫ぶ。

 

「……変身!!」

 

真司の纏う鎧がその形を変化させていく。両拳はより攻撃的に、全身の牙はより鋭く。まるで拳だけでなく、自身の身体そのものを牙とするように変化していくそれは、もはや『進化』と呼ぶべきものであった。

 

「お……おおおおおっ!」

 

『ブリガンティスッ!』

 

真司の倍以上もあるロボットの巨体がその右腕と共に吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突っ込む。その光景を見たキキカイは周囲の瓦礫の山を全て機械兵と変え、巨大ロボットーーブリガンティスをさらに強化する。

 

『これだけの物量…圧倒されるしかないでしょお!?』

 

「ザコが何体来ようと、同じことだ……!」

 

圧倒的物量に、しかし真司は拳と共に歌を放つ。覚悟と決意の歌を。

 

《その身に備える牙が…》

 

「数はざっと百体といったところか…来い」

 

《砕かれ割れたとしても……》

 

百体の機械兵のうち、まずは三十が真司に襲いかかる。それを真司は全身の牙を飛ばして撃墜する。

 

《この拳…そして体そのもの、牙と変え、闘志、敵を食らう》

 

「はぁぁぁぁぁ……はっ!」

 

次に盾を構え、固まって突撃してくる敵が二十、これに真司は、その拳を構え、迎撃する。

 

《正義を語る口は…》

 

「ふんっ!」

 

《今この世には要らぬ……》

 

拳から放たれた衝撃波により、盾ごと蹴散らされる機械兵達。その体には、まるで牙に貫かれたかのような跡がある。

 

《この背に…背負えしものを、守れる真の、強さ、あればいい》

 

「これで半数…今度はこちらから一気に行くぞ!」

 

半数を蹴散らした真司は、敵の集団の中に飛び込んで行く。両腕に鋭き牙を携えた真司を抑えるべく、その四方を囲み、上から抑えようとする機械兵達だったが、全て吹き飛ばされる。

 

《この背の後ろには、守るべき命が》

 

「十…二十…二十五……!」

 

《あるなら幾度も、奮い立とう》

 

凄まじい勢いで敵を蹴散らす真司に焦ったのか、今まで他の機械兵を巻き込まぬようにしていたブリガンティスが動き出す。が…

 

《牙無き者達の、導となるならば》

 

「四十九…貴様で最後!」

 

《幾度もこの背、前に立とう》

 

しかし、その拳が振り下ろされる前に、既に機械兵達は全滅していた。そして、ブリガンティスの一撃に対し、必殺技で対抗する真司。『voltage Max!!!』の声と共に、両手を体の前で合わせ、まるで顎門のように構える。

 

《貴様を砕く……》

 

『rider genocide crash!!』

 

《牙を、構えようーー!》

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

拳と拳が衝突するが、まるで紙をちぎるように、たやすくブリガンティスの巨体は崩壊する。真司はすぐさまキキカイを探すが……

 

「……奴らは…逃げられたか」

 

既にキキカイらは去った後だった。せめてアジトの手がかりでもないかと探索する真司は、巧妙に隠された穴を見つける。

 

「これは……モゲラとかいう怪人が掘っていたものか。俺が連れてこられた時とは違う……これを辿れば、奴らのアジトの位置もわかるか……?」

 

この後、すぐに真司を探しにきた乙音達調査チームと合流した真司は、保管装置のことと穴のことを伝える。すぐさま穴を調べ始める調査チーム。チームメンバーの反応からして、どうやら大当たりのようだ。その様子を変身を解いて見守る真司に、乙音が話しかけてくる。

 

「……せーんぱいっ」

 

「……何だ?後輩」

 

「いえ、やっぱり先輩は…かっこいい先輩なんだなって!」

 

「フ…俺を誰だと思っている?お前の先輩だぞ?」

 

「その俺が、お前の前にいなくてどうするんだ」

 

「…うん!やっぱり先輩は憧れの先輩です!」

 

「あまり言うな、照れる……」

 

 

一時の勝利を収めたライダー達。しかし、次なる戦いは、これまでにない、激しきものとなるだろう……。

 

決戦の舞台は東京タワー地下に作られた大空洞。そこで、ライダー達とディソナンスとの決戦が始まる……。

 

 

 

 




真司くんの必殺技はヘルアンドヘブンよりも、かめはめ波に構えが似てます。

保管装置のヤバさは本文だけだと伝わらないと思うので、補足説明をば。

まずハートウェーブは極めて保管が難しく、その性質から、中級以上のディソナンスに効く兵器は作れないんですね。ライダーシステムも、変身者の消耗が激しいですし。
でも保管装置が見つかれば、そのシステムを解析して、ハートウェーブを用いた強力な機動兵器も作れる。それだけの技術力があるからこその利点ですね。ライダーシステムの量産化も容易になるでしょう(現時点ではライダーシステムを起動できる人間が少なすぎて無理)これが人間側の理由。

ディソナンス側はいたってシンプル。ディソナンスはハートウェーブの塊なわけですから、保管装置にハートウェーブを貯め込めば、より強力な仲間を容易に作れるし、いざという時の保険にもなる。また、解析や複製はキキカイが存在するため、容易に可能であるために、保管装置を狙っています。
ちなみに保管装置内部にはしっかりハートウェーブが今現在もありますが、まだ機械の解析が完了していないので、カナサキの復活に使ったりはしてません。いざという時は使うでしょうけど。

さてと……次回からは巻きでいきますよ。予定だとあと最低二曲は考えなきゃいけないから、ホントしんどいです。一応お気にりの曲聴きながら考えてはいるんですけどね……。


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決戦開始


本来は今回と次の回で勝った!第一部完!する予定が、想定より長くなって戦闘シーン入れられなくなったので、今回は七千字ぐらいです。……いつもこれぐらいでいいんですけどね。ノッちゃうと、一万字超えちゃうんですよね……。


「東京タワー地下の大空洞…そこが奴らの本拠地だよ」

 

「決行日は、いつですか?」

 

「香織君達とも相談して決めたよ、明後日の日曜午前9時。その時、僕ら特務対策局の全力をもって奴らと決戦を行う。目的は保管装置の確保、もしくは破壊。持ち帰ることが困難であるならば、そこで破壊してね?」

 

「了解しました、後輩達にも伝えます」

 

特務対策局局長室。今日も今日とて隈を作る猛は、真司と会話をしていた。内容はディソナンス達との決戦、その決行日についてだ。

それについて話し終えた真司は、さっそく乙音達に猛との会話の内容を伝える。

 

「今回の作戦、残る上級ディソナンスであるバラクやキキカイ、もしかすれば、ドキなども激しく抵抗してくるだろう。だから、俺たちライダーを三班に分け、それぞれ三方向から地下大空洞へと向かう」

 

「まず北側、ここから突入するのは俺とボイスだ」

 

『ま、よろしく頼む』

 

「次に南側、ここは刀奈と佐倉に任せる」

 

「桜…お互い頑張ろう」

 

「ええ!あなたと私のデュエット、見せてあげましょう!」

 

「そして本命、上からは後輩とゼブラに行ってもらう」

 

「はい!頑張ります!」

 

「頑張ろうね!ゼブラちゃん!……って上ですか!?」

 

真司の発言に驚く乙音。上からとはどういうことだろうか?

 

「ああ、敵の本拠地が地下の大空洞にあるならば、中には相当数のディソナンスがいると思われる。だから俺たちが陽動となって敵の目を引きつけ、敵の本拠地の真上から、お前達に突入してもらう。重要な役だ、できるか?」

 

「当然です!私とゼブラちゃんなら……」

 

「はい!どんな困難だって乗り越えられます!」

 

乙音達の答えに満足した真司は、最後に伝えるべきことを伝える。

 

「作戦の決行日は明後日日曜の9時。目的は保管装置の確保。持ち帰ることが困難であるならば破壊だ。それと……」

 

「それと?」

 

「今からデュエットの訓練を行う。全員会議室にゴーだ」

 

「「「……へ?」」」

 

「「「えええええええ!」」」

 

「お前らの気持ちはわかるから、とりあえず落ち着け……!」

 

会議室でまず見せられたものは、以前の乙音と真司、そして乙音とゼブラのデュエットの時のデータだった。

 

「……このように、デュエットによるハートウェーブの相乗効果は絶大は威力を発揮します。上級を含めた、多数のディソナンスとの決戦が予想される今、これを利用しない手はありません……ここまでで、何か質問は?」

 

説明役の職員の言葉に、桜が手を挙げる。

 

「はいはーい!質問!」

 

「はい、どうぞ」

 

「えーと、あの組み合わせ…私と刀奈、真司とボイスちゃん、乙音ちゃんとゼブラってなってるんですけど。これはどういう基準で…」

 

「よくぞ聞いてくれました。その組み合わせにした理由はハートウェーブの相性です」

 

「相性?」

 

職員が手を打つと会議室のスクリーンの映像が移り変わり、乙音達の体を映したものとなる。

 

「ええ、ハートウェーブにも微妙ではありますが個人差がありまして、この組み合わせはデュエットの際、最も力を発揮できる組み合わせ……ハートウェーブが近しいもの同士による組み合わせなのですよ」

 

「ほう…そうなのか」

 

「ええ、ですから。明後日までに、コンビネーションを整えておいてください。奴らディソナンスも、何か対策を打ってくるかもしれませんから」

 

こうして会議室での説明会を終えたライダー達は、思い思いに動き出す。そして次の日、乙音とゼブラは……

 

「…なんにもする事がないね」

 

「僕たちほぼ同一人物みたいなものですからね……」

 

……暇を持て余していた。他のライダー達はさらに絆を深めるための努力をしているが、ほぼ同一人物ともいえる彼女達は、正直なにもしなくても良かったりする。

 

「…先輩達の様子を見に行ってみようか」

 

「…そだね」

 

こうして、乙音とゼブラは真司達の様子を見にいくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!?撃ち込みが甘いぞ!」

 

『ちっ!あんたの牙、当たったら痛そーだなぁ!当たらないけどよ!』

 

まず真司とボイスの様子を見にいった二人は、訓練室で戦い合う二人の姿を見ていた。ほへーとした顔をしながらそれを眺める二人の横に、一人の女性が立つ。香織だ。

 

「あ、香織さん。先輩達…昨日から?」

 

「ええ、ずっとこの中で訓練を重ねているわ……お互いをよく知るには、お互いが慣れ親しんだ方法でと提案してみたら、ずっとああして」

 

「そうなんですか……」

 

再び真司とボイスの戦いに乙音が目を向けると、すでに決着がついていた。膝をつくのはボイス。立っているのは真司だ。

 

「ハァー…これで、ハァ、俺の、10勝目だな……」

 

『へっ…次は、フゥー…俺の、9勝目だぜ……』

 

すでに19回もの戦いを重ねる真司とボイスだが、まだ彼らが止まる気配はない。

 

「明日が決戦日なのに…ホントに大丈夫なのかしら?」

 

香織のその疑問に、乙音が答える。

 

「大丈夫ですよ」

 

「…なぜ?」

 

「だって、二人とも、お互いの事を信頼しながら戦ってますから」

 

その言葉を受けた香織が真司達の戦いを観察する。

 

「お前ならば、ここへ撃ち込むと思っていたぞ!ボイス!」

 

『へっ、あんたなら、そこに走ると思ってたぜ!ファング!』

 

「フ、先輩と呼んでくれても構わんのだぞ!」

 

『へ、ならあんたが後輩って呼びなぁ!』

 

お互いがお互い、どう行動するかがわかる。彼らはすでに、その域に達していた。

 

「……そうね。彼らなら、きっと」

 

香織の言葉を最後に、乙音とゼブラは次の目的地へと向かう。仲間達の絆、それを確かめるために。

 

 

 

 

「…ここ、喫茶店タチバナ…」

 

「刀奈さんと桜さんはここだね」

 

次に乙音達が向かったのは、乙音も真司とともに来たことのある対策局が経営する喫茶店、『タチバナ』だった。

 

「変装してきて良かったね」

 

「職員の人達に事情を話せばなんとかしてくれるかもと思ったけど、まさか短時間でここまでのメイクをしてくれるなんて、思ってなかったね…」

 

今乙音とゼブラは変装をしていた。その姿は、身長差もあってかまるで親子のようである。……ある意味では、親子よりも濃い絆で結ばれているが。

 

「さて、中に入ろうか」

 

「店主の藤兵衛さんには、話を伝えてるみたいだね」

 

店内に入った二人は、喫茶店タチバナの店主である、おやっさんこと藤岡藤兵衛に案内され、刀奈と桜の座る席の、すぐ横に座る。ここならば、二人の様子を伺い見つつも、話の内容を聞くことが可能だ。

聞き耳を立て、横目で刀奈と桜を見やる二人。聞こえてきた会話の内容は、いたって普通の、暇を持て余した女子どうしがするような会話であった。

 

(普通……だね)

 

(二人とも親友どうしだし、リラックスしてるのかな?)

 

その事に驚きながらも、聞き耳を立て続ける二人。すると、刀奈が桜に、ある話を切り出す。

 

「それで、桜。こんな話をしたいわけじゃないだろう?」

 

((………!))

 

「……ええ、そうよ。私がしたいのはね、今まであんたがどんな気持ちで、どんな戦いをしてきたか、それなの」

 

「…そんな事を聞いてどうする?」

 

「……私はあんたの友達気取ってるけど、このままだけじゃ足りない。あんたとの…世界的アイドルとのデュエットを歌うためには、あんたがどんな戦いをしてきたかを知りたいの」

 

「…私は話し下手だ。期待には添えぬぞ?」

 

「いーの、それで。私が頼んでんだから」

 

「そうか…ならば、いつから話そうかな……」

 

そう言って刀奈が話したのは、これまでの戦いの軌跡。ライダーになったばかりの頃の怯えと恐怖、真司が倒れた時に目覚めた使命感、バラクに敗北してから修行のために渡った、アメリカでの日々。そして、アイドルとして歌い、踊り、戦い続けてきた自分……。自身の人生そのものともいえる経験の数々を、桜に語った。横で聞いていた乙音とゼブラは涙と鼻水が止まらず、藤兵衛にティッシュを渡されていた。

 

「…これが、私の中の全てだ」

 

そうして長い話が終わる頃には、外は日が傾き、夕焼けが店内を照らしていた。

 

「……そう………」

 

「…どう…思った?」

 

「……どう、って?」

 

「私を…情け無い女だと思ったか?」

 

少しうつむきながら刀奈が発したその言葉に、ハァー…と深いため息をつく桜。思わず顔を上げた刀奈のの頬を、桜がパンッと軽く押さえる。

 

「あのねぇ、こちとらあの夜、あんたの泣きじゃくる様を見せつけられてんの!今さらあんたの人生聞いたところで、そう思うわけないでしょ!」

 

「あ………」

 

「というか、ん、あー、なんて言えばいいんだろう……とにかく!私はあんたの親友のつもりでいるから!それは忘れないでよ?」

 

「ああ…私もそうさ、親友!」

 

「な、なによ急に…もう、なんか恥ずかしくなってきたじゃない。ほら、行くわよ!」

 

顔を赤くして立ち上がり、勘定を済ませようとする桜に、頬を染めた刀奈が追従する。店を出て歩く二人の後ろ姿を見た乙音とゼブラは、明日の決戦の勝利を確信するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『おおーいキキカイ。渡したいものがあるってんで来たが、どうしたよ?』

 

『あら、バラクにドキ。ちょうど良かったわ〜はいこれ。』

 

『……?なんだこりゃ?』

 

『見てわからないのぉ?あのライダー達の力…侮り難いわ、だから…』

 

『…奴らに対抗するための、武器といったところか』

 

『そうよぉ、さすがドキ!私たちの中でいちばん最初に生まれたディソナンスなだけはあるわね』

 

『……だが、見た所完成はしてないようだな』

 

『ふふ、だからあなた達を呼んだのよぉ』

 

『?そりゃまたなんで』

 

『この武器を…確実にライダー達を仕留められるものにするために、ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日曜日。様々な人が、思い思いの時間を過ごすこの日ーーディソナンスと人類の、その運命を変える決戦が始まろうとしていた。

 

「北側!第一班。抜かりはないな?」

 

「はい、全員防護服を着用。メンバーの体調も良好。装備に抜かりはありません」

 

「南側、第二班も同じく。ライダー達の健康状態も良好なようです」

 

「よし…いいか!我々はあくまでライダー達のサポートに回る。周辺の住民を寄り付かせず。東京タワー内の民間人を、素早く誘導し、戦いの余波に巻き込まれぬようにする。それが我らのミッションだ!」

 

「ライダー達が思い切り戦える環境を作る。それが子供に戦いを任せてしまった我々大人達が行える。最大限の支援だ!」

 

「わかったなら、各員持ち場につけ!今日をディソナンス供が滅びる、そのきっかけを手に入れるための日となるように!我らできっかけを作るのだ!ライダー達が、奴らに勝てるきっかけを!」

 

「「「おおおおおおっーー!」」」

 

特務対策局局員達による、決起の様子。それを見つつ、乙音達は最後の準備を済ませていた。

 

「よいしょ…と、なんか、変な感じですね。この空気…」

 

「ああ、俺も初めて味わうものだ…。まあ、リラックスだリラックス。それが大事だ」

 

「そ、そうだな真司…リラックス…リラックス…」

 

「いやカチカチじゃないあなた。いつものあの柔らかさはどうしたのよ?」

 

『…決算前つーのに、いつもと変わらねーな』

 

「それが大事なんですよ、多分」

 

いつもと変わらない拍子で話すライダー達。しかし、その時は刻一刻と近づいてくる。

 

「みなさん!そろそろ車の方に。すでに東京タワー内の民間人、および周辺の人払いを進めています」

 

「ああ…わかった。……お前達!」

 

「「「!!!」」」

 

「今回の戦いは、これまでにない過酷なものとなるだろう。もしかしたら、2度と歌えなくなるかもしれない。もしかしたら、2度と立ち上がれなくなるかもしれない」

 

「だが……諦めるな、俺たちを支える者は、こんなにもいる!」

 

そう言って、局員達のほうに手を広げる真司。そこには、乙音達のために奮闘する、大人達の姿があった。

 

「彼らのために…勝つぞ!この戦い!」

 

『「「……応!!」」』

 

こうして、決戦の火蓋は切られた。あとは、ただ時の流れのままに、事態が動いていくだけだ。

 

 

 

 

 

 

『見えてきたな…あそこか。…待て、もう始まってるみたいだぜ?』

 

「あくまで俺たちの目的は陽動……せいぜい派手に暴れるか」

 

変身して北側から向かう真司とボイスは、すでに東京タワー周辺に展開しようとしているディソナンス達の姿を確認する。局員達が必死に抑えようとしているが、その勢いはとどまるところを知らない。そのディソナンスの軍勢を前に、真司とボイスを乗せた車の後部ハッチが、開いていく。

 

「バイクの用意はいいか!?」

 

『へっ、任せときな』

 

「良し…では行くぞ!」

 

開いた後部ハッチから飛び出してきたのは、特務対策局特製、ライダー専用バイク『メロディライダー改』だ。勝の作ったボイスが愛用していたバイク、『クレッシェンダー』のデータをもとに、多数のディソナンスの相手を想定して作られたスーパーバイクだ。南側から迫る刀奈達もこれに乗り、真司達と同じく、ディソナンスの群れに突撃していく。

 

「射撃は苦手だが、そうも言ってられんか……!」

 

『突撃だ!一気に行くぜ!』

 

「桜!大丈夫か?」

 

「なんとかいけてるわよーー!」

 

『ディソナンス!全軍、突撃ーー!』

 

『ここで奴らを打ち倒すのだ!』

 

こちらに向けて突撃してくるディソナンスの群れへ向けてメロディライダー改を走らせる二人は、メロディライダー改のハンドル部分に設置されたボタンを操作する。そうすることによって、ボイスの用いる、中級以上にも有効な銃と同じ原理の銃器類が、メロディライダー改のボディーから出てくる。本来ならそんなものは保管装置がなければ、逆立ちしても作れない。しかし、ライダー側から直接エネルギーを供給する事で、バイクに装備できる程度の銃器類であれば、確かな威力を持たせられるのだ。

 

『こいつでどれだけいようが蜂の巣って寸法よぉ!』

 

「どうだ……!」

 

ライダーのハートウェーブを威力と変え、打ち出された無数の弾丸は、すでに局員たちの退避が完了していたこともあり、全弾前方のディソナンス達に命中する。凄まじい勢いでディソナンスの数を減らしつつ、その群れの中に飛び込むライダー達。メロディライダー改を巧みに操り、ディソナンス達をその銃で、爪で、刃で、踊るように打ち倒して行く。

 

『オラオラどうしたぁ!?』

 

「待て……なんだこの振動は?」

 

ディソナンス達を半数は蹴散らしたその時、真司が異変に気付く。地面が揺れているのだ。

 

『あん?…なに「避けろ!」!?』

 

疑問の声を上げるボイスだったが、真司の声に咄嗟にバイクを捨てて回避行動をとる。そこに、黒い波動が打ち込まれる。

 

『くそがっ!』

 

咄嗟に回避できたおかげで直撃はしなかったものの、バイクを失い、ディソナンスの群れの中に吹き飛ばされていくボイス。それを追おうとする真司だったが、黒い波動がそれをさせない。そして、舞い上がる土砂の中から現れたのは……。

 

「この力…まさか!」

 

『そう…久しぶりだなぁファング!久々のお・れ・さ・まだぜぇ!』

 

『お、おおお…バラク様だ!』

 

『さすがディソナンス一の攻撃能力を持つバラク様!凄まじき力よ……!』

 

そう、先程から黒い波動を放っていたのは…バラクだった。その周囲にはまるでドラムのような円形の物体が四つ浮いており、その両手には赤いドラムスティックが握られている。

 

『どーよこれ。お前らもかなり強くなったらしいからよ、キキカイが俺たちに用意してくれたんだ』

 

「そのドラムみたいなものを使って、さっきの黒い波動を出していたのか…!」

 

『そうだ、こいつの名前は『サクリファイス』つーんだ。俺が全力でぶっ叩いても壊れないんだぜぇ?』

 

『んで、こいつの使い方は……こうだ!』

 

バラクがその手のスティックでドラム…『サクリファイス』を叩くと、そこから黒い波動が生まれ、射出される。それをすんでのところで避ける真司だったが、黒い波動が当たった地面が深く抉られるのを見て、背筋を凍らせる。

 

「……化け物め」

 

『そりゃどーも。…おい!お前らは俺の攻撃に当たんなよ』

 

『はっ!我らはバラク様のサポートに回りまする』

 

(くっ…考えなしに突撃してくればいいものを…!)

 

真司とボイスが苦戦を強いられる一方、刀奈と桜も強大な敵に直面していた。

 

『どう?この『ドミノ』のデザイン。かっこいいでしょ?』

 

「けっ…だっさいわね、そのキーボードもどき…」

 

「あれで奏でたメロディーで、さらに強固な機械兵を生み出すか…」

 

刀奈達が相対する敵はキキカイ。彼女の弾くキーボード『ドミノ』には、メロディーを奏でる事によりハートウェーブを活性化させ、キキカイのあらゆる能力を高められる事ができる。

彼女はこの『ドミノ』の能力を使い、どこからか調達してきた大量のスクラップを、さらに強固な機械兵に変えていた。

 

『あたしの機械を操る能力でもぉ…あんたたちライダーのドライバー…ハートウェーブを纏うそれは操れないけど、かわりにこぉんな事もできるのよぉ〜!』

 

キキカイがそう叫ぶと、激しく『ドミノ』を弾き始める。刀奈と桜はそれを阻止しようとするが、周囲の機械兵に阻まれて動く事ができない。

 

『行きなさい、馬鹿でかいタワー!あんたは私の僕よぉ!』

 

そして、キキカイがメロディーを弾き終わったその時…悪夢は、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特務対策局が設置した避難場所。周囲の住民達が避難しているそこに、美希の姿があった。学校が休みになってしまったため、手持ち無沙汰になった彼女は東京タワーへ観光に来ていたのだ。

避難所で怯える老人や子供を、仮面ライダーとディソナンスを知るものの一人として、励ます美希だったが、避難所の一角が騒がしい事に気付く。注意しようとそこに近づいたその時、美希は信じられないものを目にする。

 

「な、なによ…あれ……」

 

それは、美希達の目の前で、東京タワーが巨大なロボットへと変化していく様子だった。

 

 

 

 

 

『おおおお…キキカイのやつ、派手にやるじゃあねえか。…で、お前はもう終わりか?』

 

「ぐ、まだまだ……」

 

『あはははは!どう、この巨大ロボット、『ベヒーモス』は!』

 

「デカけりゃいいってもんじゃないけど……!」

 

「これは…ヤバイな……」

 

そびえ立つその巨人は、東京タワーよりも小さくなってしまっていたが、周囲のスクラップなどを取り込む事により、周辺のビル群の中でも頭一つ抜けた異様を誇っていた。

 

「なに、あれ……」

 

『乙音くん!ゼブラくん!ディソナンスが…』

 

『やはり…他は陽動か』

 

「ドキ……」

 

『木村、乙音……』

 

 

決着に向けて、加速する物語。地下大空洞にある保管装置は、果たしてディソナンスと人間、どちらの手に渡るのか……。

 





大☆暴☆走

これで決着つけるので、とにかくド派手に行きますよ!あ、ベヒーモスくんは巨大ゲムデウスより少し大きいぐらいです。東京タワー素材の割には、あんまし大きくないですね。


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決闘/決戦のデュオソング

いろいろ詰め込み過ぎましたけど、満足……

質問なんですが、設定資料は一つに纏めたほうがいいですかね?設定資料5は次話を投稿した後、今までのソングを振り返る形で書きたいと思ってるので、かなり長くなるんですが、やっぱり部ごとに分けたほうがいいでしょうか……?


『そらそらそらそらぁ!どうしたぁ!?俺を楽しませてくれないのかぁ!?』

 

「お前を楽しませてやる義理など…無い!」

 

元・東京タワーが存在していた地点。そこで、ディソナンスと人間の決戦が行われていた。

最初の衝突から有利に戦局を進めていた人間達だったが、上級ディソナンスであるバラクとキキカイの登場に、戦局は一転、ディソナンス優勢に傾いていた。

刀奈と桜が巨大ロボット『ベヒーモス』の攻略に頭を悩ませている時、真司はバラクの用いるドラム型の武器、『サクリファイス』の攻撃に苦戦していた。

 

(あの黒い波動……掠めただけでもかなりのダメージだ…おまけに、弾速が速い上……)

 

『ライダーを仕留めるのはオラだぁ〜!』

 

『いいや!このタカネスがその首を貰い受けるねっ!』

 

(ここにきてディソナンス供の連携…!くそっ、バラクに近づく事すらできん!)

 

『サクリファイス』による波状攻撃に加え、ここにきて連携しだしたディソナンス達による絶え間ない攻撃。すでに真司の体はボロボロになってしまっていた。ボイスもディソナンスの群れの中に吹き飛ばされてから、姿を見せない。

刀奈と桜も、なんとか東京タワーが変形した巨大ロボット、ベヒーモスの攻略法を探そうとしていたが、その圧倒的なパワーに刃が立たないでいた。

 

「こんなのどうするってのよ!」

 

「それでも…やるしかない!」

 

『フフフッ!このベヒーモスの追撃からは、逃れられないわよぉ〜!』

 

ベヒーモスの巨体が、信じられないスピードで動く。その拳が、刀奈と桜に迫る。あまりの異様に、諦めかけるライダー達。

だが、そこに一発の銃声が響く。

 

ドゴォォォォン……

 

大きな音を立てて、突如膝をつくベヒーモス。その体に、次々に光弾が撃ち込まれる。

 

『へっ…どうした、よ……諦めちまう、のか?』

 

その光弾を放ったのは、ディソナンスの群れにボロボロにされつつも諦めず抵抗を続け、群れの中から脱出したボイスだった。

 

「誰が……!少し準備運動をしていただけだ」

 

そう言ってボイスの背後から迫るディソナンスを叩き殺す真司。ボイスと真司は、ディソナンス達に向かって啖呵をきる。

 

『お前らはこれぐらい揃えれば、オレ達を倒せると思ってるみてぇだけどなぁ……オレ達がそれぐらいでやられっかよ!』

 

「そうだ、オレ達は確かに共に戦った時間は短いかもしれない。だが、お前達よりも、遥かに強固な絆で結ばれている!」

 

「そうだ!真司!」

 

ベヒーモスの巨体の向こうから声が響く。刀奈の声だ。

 

「私と桜はまだ出会って一ヶ月程度も経っていない……だが、まるで長年の友のような絆がある!」

 

「友人関係に時間なんて関係ない!頼れる友達がいれば、心は強くなる。そして、私達は心で強くなる!」

 

『っ…なに!?ライダー達のハートウェーブが増幅している…!?』

 

『へっ…楽しませてくれやがる!』

 

真司がその手を振り上げ、号令を放つ。

 

「今こそ…俺達の力を見せる時だ!」

 

「「「応!!!」」」

 

真司達のレコードライバーが光り輝き、その光がディソナンス達を焼いていく。正しき心の音色が、不協和音にその存在を許さない。

刀奈と桜がまずは周囲の機械兵を片付けていく中、真司とボイスは真っ直ぐにバラクを討とうと駆ける。

 

「おおおおおっ!」

 

『でりゃあああ!』

 

『……!』

 

黒い波動を躱し、邪魔なディソナンスを潰し、バラクに向かって走る。それを繰り返すうち、いつしかバラクと真司、そしてボイスの戦いを邪魔するものはいなくなっていた。真司とバラクが取っ組み合い、ボイスが真司を援護する。

 

『こいつは決闘ってとこか……!ライダー!』

 

「お前との因縁……ここで決着をつける!」

 

『あいつら…乙音やゼブラのためにも、負けらんねぇんだよ!』

 

いつしか歌が流れ出す。だがそれは今までのものとは異なる、ボイスと真司のデュエットだ。

決闘のデュオ・ソング…今、過去を背負い、未来を支えようとする二人と、バラクとの最後の戦いが始まろうとしていた。

 

《たとえ喉が焼き切れようと……》

 

『まずはオレが!』

 

《その先に…見たかったモンがあるってんならオレは歌うさ…》

 

まずはボイスがバラクの周囲で浮かぶ『サクリファイス』に攻撃する。一つは破壊できたが、三つは残る。

 

《たとえ腕が千切れ飛ぼうとも……》

 

「喰らえ!」

 

《この背の後ろの…守りたいもののため、俺は戦う…!》

 

ファングの牙がここぞとばかりに襲いかかる。バラクは咄嗟に『サクリファイス』の一つを盾とするが、あっさりと突き破られ、攻撃を受ける。

 

《 《誰もが、戦い、歌い、後悔、抱いて生きる》 》

 

『ちっ!俺が思わず防御しちまうとは、なんて破壊力だ!』

 

《だが俺達には、後悔などないっ!》

 

「まだ驚くには早いぞ!」

 

ファングが空中に飛び上がると、そこにいたのはすでに必殺技の発動準備を終えたボイス。無機質な電子音声と、熱き咆哮と共に渾身の弾丸が放たれる。

 

《そんなものとっくの過去に、置いてきちまった》

 

『食らいやがれぇぇぇ!』

 

《 《それに、未来には持っていけないものだろう》 》

 

『うおおおおおおっ!?』

 

ボイスの一撃をバラクは破壊のエネルギーを纏わせた『サクリファイス』で防ぐ。強大なパワーをもったボイスの一撃も、増幅された純粋な破壊の力を前に、歯が立たない。

 

《 《過去は、戻らない時計の針はただ無情》 》

 

 

『このまま押し返してやる…!』

 

『まだだ、ファング!』

 

《だから歌う》

 

「させるかぁぁぁぁっ!」

 

《だからそう戦う》

 

真司も必殺技を発動し、そのエネルギーをバラクに向かって照射、ボイスの弾丸はますます勢いと力を増し、バラクの破壊のエネルギーを破ろうとしていた。

 

《 《そうさ、楽園、守るために今》 》

 

『負けるかよぉぉぉぉっ!人間!』

 

《この豪腕をーー》

 

「ぐ…おおおおお!」

 

《弾丸と放ちーー》

 

『最後のダメ押しだぁぁぁぁっ!』

 

ボイスが再び必殺技を発動し、即座に放つ。

 

『rider ultimate cannon!』

 

《 《絶望、破壊するーー!》 》

 

『ぐおっ!?』

 

そして、爆発。周囲の雑魚ディソナンスを蹴散らすほどのそれだったが、バラクはまだそこに立っていた。その体には、戦いの楽しさからくるものなのか、感情のエネルギーが満ちており、今にも解き放たれそうだ。

 

『こいよてめぇら…!まだ間奏に入るぐれぇじゃねえか…!』

 

『へっ、途中でへばんなよ?』

 

「いくぞ、バラク……っ!」

 

二番へと入り、ボルテージアップするバラクとの戦い。真司とバラクの拳が激突し、ボイスの弾丸がその隙を突く。

 

《そうさこの歌は未来に生きる者たちを支えるためーー》

 

『どうしたぁ!?さっきまでの威勢は!』

 

《贈る命からの応援歌なのさ……》

 

『こいつ……!なんて力してやがる!オレの弾が弾かれちまう!』

 

《そうさこの歌は過去に死した者背負うためーー》

 

『俺をもっと楽しませてみろよ!』

 

《贈る魂からの、そうさレクイエムッ!》

 

「こいつ……!際限なくパワーが上昇していっているのか!?」

 

ボイスの弾丸も、真司の牙も、どちらもバラクの纏い振るう、圧倒的な『破壊』の前に、歯が立たない。

だが、こんな状況を打ち破ってきたのが、彼ら仮面ライダーであるのだ。

 

《 《誰もが、何かを、支え、何かを、背負っている》 》

 

「あれでいくぞ……!」

 

『わかった!』

 

《後悔のない、人生はないーー》

 

『何かやるつもりか!?やらせるかよ!』

 

短い言葉を交わし、即座にレコードライバーに手を伸ばす二人だったが、バラクの放つ破壊のエネルギーが、ボイスの仮面に直撃する。

 

《だからそうさせめて、歌を歌おうぜ》

 

『ぎ、いいっ!?』

 

「ボイス!?」

 

『よそ見してんじゃねぇ!』

 

思わずボイスの方を見てしまった真司も、顔面にパンチを受け吹き飛ばされる。ボイスの横まで飛ばされた真司は、自身の仮面が半分砕けているのも気にせず、ボイスの安否を確認する。ボイスも立ち上がろうとしていたが、その仮面は、口元が割れていた。

 

「ボイス、お前……!」

 

絶句する真司に、ボイスはニッと笑うと、再びレコードライバーに手をかける。ボイスの真意を読み取った真司も、レコードライバーに手をかけ、共鳴させる。合体技の発動だ!

 

《 《 そうすれば、重荷もせめて軽くなるっ!》 》

 

『なんだ…!?ハートウェーブの増大!?』

 

「「おおおおおおおおおっ!」」

 

焼けた喉で真司と共に咆哮するボイス。その目には、確かな意思が宿る。ここで決着をつけるという意思が。

 

《 《過去は、戻らない!時計の針はただ進むだけ》

 

『『rider rocket Punch!!』』

 

《だから支える》

 

「「喰らええええええっ!」」

 

《だからそう背負う》

 

『来やがれええええっ!』

 

巨大な拳にも、顎門にも見えるものに変形した真司、をエネルギーの本流と共にボイスが打ち出す。エネルギーの余波で周囲の地面が抉れていく中、バラクは全力の破壊で、真正面から対抗する。

 

《 《共に、この世界、生きる楽しさをーー!》 》

 

『ぬうううううおおおおおおおお!』

 

《大声で叫びーー!》

 

「いけえええええっ!」

 

《この牙に込めてーー!》

 

「トドメ…だぁぁぁぁっ!」

 

 

《未来へと、進もうーー!》

 

『ぐおおおおおおおおおあああああああああああああああああっ!』

 

破壊のエネルギーが僅かに陰りを見せたその瞬間を、獣の牙は見すごさない。

咆哮と共にバラクを喰らいつくさんとした力の奔流は、瞬く間にその体躯を飲み込みーー

 

『へ、へへ……楽しかったぜぇぇぇ!お前らとの勝負…!』

 

その言葉を最後に、バラクの肉体は消滅した。

 

「ゲブッ…やっ…ぐっ…やった、のか?」

 

「辛いんだろう?あまり、喋るな……」

 

こうして、真司とボイスの、バラクとの戦いは、二人の勝利に終わった。

だが、戦いはまだ続く。バラク側のディソナンスは、バラクの死に動転し、地下へと逃げ込もうとして真司達にやられていたが、刀奈と桜は、ようやくキキカイの生み出した機械兵を、全て倒し終えたところだった。

 

「桜……」

 

「……ここまで来たら、やるっきゃないわね。歌姫のデュエット、見せてあげましょう」

 

『何やるつもりかしんないけど…まだまだ兵はいるのよぉ〜!』

 

キキカイが再び機械兵達を生み出す。しかし、刀奈と桜は、すでに巨大ロボット、『ベヒーモス』の攻略法見つけていた。後はそれを実践するだけだ。

 

「危険かつ即興、だがやらねばならない!」

 

「ライブ中の急なアクシデントにも対応する、それが真のプロアイドルってものよ。あんた達は、私達のライブパフォーマンスについてこられるかしらね!?」

 

二人のレコードライバーより、音楽が流れだし、彼女達も歌う。そう、この場は彼女達のライブステージ、歌うのは決戦のデュオ・ソング。ならば、彼女達が歌うのは必然的な流れーー!

 

「《 嵐の中で、叫び続ける》」

 

「《誰かの声が、心に響く》」

 

『歌ってるなんとかなるもの!?理解できないわぁ!』

 

桜と刀奈はキキカイが再び生み出した機械兵を、今度は無視して真っ直ぐにベヒーモスへと向かう。キキカイを狙っても、周囲の機械兵に阻まれるだろうと考え、相手の最高戦力を潰しにかかったのだ。

 

「《桜のように、儚き命》」

 

「《心から贈る、歌声を》」

 

『あんた達!ベヒーモスに近づけるんじゃないわよぉ!』

 

機械兵達に加え、バラク側にいたディソナンスも、一部がキキカイの援護に入る。その矛先はすべて、刀奈と桜に向けられているが、彼女達は止まらない。

 

「《運命、それに踊らされ…嘆いた時もある》」

 

『voltage MAX!!』

 

「《だけど、剣をこの手に…そう…道を切り開くーー》」

 

『rider over burst!!!』

 

前方に展開する敵の中心へと専用武器、『ダンシングポール』を使って一気に跳躍し、飛び込んだ桜は必殺技を発動。周囲の敵を一気に吹き飛ばす。

 

「《 《Live&danceこのステージで、踊り狂う先にーー!》 》」

 

「《 《Live&song歌声を響かせ、世界中で戦うーー!》 》」

 

残った敵を刀奈が蹴散らし、ベヒーモスへと近づく。しかし、ベヒーモス自体も決して黙っているわけではなく、予想以上のパワーとスピードで二人を踏みつけんとする。

 

「ぐぅっ……!」

 

《 一筋だけの、光が瞬く》

 

「刀奈!?大丈夫!?」

 

《そびえ立つような、闇夜の中で》

 

「ああ…だが、これは厄介だな…」

 

『ベヒーモス!そのまま潰しなさぁい!』

 

ベヒーモスの踏みつけ攻撃を避ける2人だったが、あまりの激しい攻撃に、歌も歌えない。そのうえ、周囲のディソナンスもベヒーモスの攻撃を意に介さず襲ってくる。

 

「ぐ…これでは、パワーを出せん…!」

 

《その歌声は、どこへと響く》

 

「ああ、もう!しつこいのよ!アイドルのライブを邪魔すんな!」

 

《虚空に虚しくただ響くだけ》

 

必死にディソナンスの攻撃を裁く2人だったが、ついに桜が捕まってしまう。そこに、ベヒーモスの足が振り下ろされーーなかった。

 

《信じあえる仲間がいれば……》

 

「俺たちには、これぐらいしかできんが!」

 

「頼む、ぜ!ディソナンス、どもは、オレ達で相手を、する!」

 

《何も、恐れないよ……》

 

『なっ…!あいつら、あっちで抑えてたんじゃないのぉ!?』

 

『すみません!逃亡する者が多く、ライダーどもを抑えきれませんでした…!』

 

真司とボイスの必殺技によって放たれた必殺技のエネルギーが、振り下ろされようとしたベヒーモスの足に直撃した。破壊まではできなかったが、足をそらし、桜を救出する事に成功したのだ。

 

「桜…!」

 

「ええ…!歌いましょう!私達の歌を!」

 

そして、二人は再び歌を歌い、同時に必殺技を発動する。合体技で、一気に勝負を決めるつもりだ。

 

「《 《世界中にステージ広げて、旋風を巻き起こせーー!》 》」

 

『rider blade storm!!!』

 

刀奈が桜の巻き起こした竜巻に乗り、ベヒーモスよりもさらに高く高くへと飛翔する。そして、その竜巻はディソナンス達を根こそぎ蹴散らしていく。

 

「《 《世界中のステージで、歌声を響かせーー!》 》」

 

そして、刀奈の持つ剣が巨大なエネルギーを纏い、ベヒーモスの巨体を切り裂いて行く。そして、そな真下にいたキキカイですらもーー

 

『そ、そんな……!こんな事、ありえないわぁぁぁぁ!』

 

刀奈が着地し、一瞬の静寂の後、キキカイの爆発と共にベヒーモスも爆発を起こす。

ちを揺るがす大爆破を起こすが、すでに東京タワー周辺は更地となっており、また、ライダー達にも被害は出ていなかった。

「お、お疲れ〜って言いたいけど…!」

 

「あ、ああ…おと、ね…ゼブラ、は…グフッ」

 

「ボイス、喋るなと言っただろう…?……居ないな、瓦礫に巻き込まれてもない……」

 

「ならば、すでに地下か…急ごう」

 

疲れ切った表情のライダー達だったが、乙音とゼブラが地下へと向かったのならば、その援護に向かわねばならない。痛む体をおして、地下へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狙いは、なに?」

 

いっぽう、乙音達のチームは、広大な地下空間をドキの案内でさまよっていた。道が複雑に分かれており、ドキの案内なしではかなり時間をかけてしまったことだろう。

 

『次は、こっちだ……』

 

なぜわざわざ自分たちに利するような行動をするのか、それがわからないゼブラは、ドキの狙いを探ろうとするが、無視される。

この状況にしびれを切らしたのは、意外にも勝だった。彼にとっては、ディソナンスは自身の人生を大きく変えてしまうものだったからだ。

 

『貴様、いいかげんにーー』

 

だが、乙音がそな発言を制止する。何か言いたそうな勝だったが、香織も勝を引き止めたので、仕方なく引き下がる事にした様だ。しかし、その直後すぐにドキが口を開く。

 

『……理由だ』

 

「え?」

 

『私には理由が無くなったのだ、お前達と敵対する理由が』

 

「…それは、なんで?」

 

優しい声音でドキに尋ねる乙音。

 

『あの人間…美希といったか、あの女になぜ人が怒るか尋ねた時だ…』

 

(…なんで怒るかって?それはね、許せないことがあるからよ!)

 

『あの人間は、私にそう言った…怒りとは力だ、だからこそ、私はなぜそれが生まれるか知りたかった……』

 

「……………」

 

『だから、お前に負けた時、次こそは必ずその理由を解き明かしてみせようと思ったのだ、それが私の理由になると、そう思っていた』

 

『だが、それは理由には…ならなかった』

 

「……なぜ?」

 

『私の根底には、常に怒りがあった。この世に生まれた理由がわからないことへの怒りが。だが、その怒りが無くなってしまっていた。あの女と話してからだ』

 

地下空間に足音が響く。誰もが押し黙る中、ドキは話を続ける。

 

『…許せないからこそ怒る。確かに真理なのだろう…そして、私の戦う理由はいつも根底にある怒りだった……だがそれが無くなってしまっていたのだ』

 

『お前達と相対すれば、怒るだろうと思った。だが、私にとってお前達の存在は、許容できるものだったらしい』

 

「……ドキ…」

 

不意にドキが立ち止まり、体を横に引く。ドキの巨体が退いた先には、今までの枝分かれしていた道とは異なり、一本の、真っ直ぐな道があった。

 

『…保管装置とやらはこの先だ、行くがいい……』

 

そう言って立ち去ろうとするドキに、勝がどこ行くのかと尋ねる。その問いにドキは、旅に出るのだと答えた。

 

『人間とは自分探しの旅をするらしいな……私もそうだ』

 

去りゆくドキの背中に、乙音が言葉を投げかける。

 

「ドキ……ありがとう!」

 

その言葉を受け、一瞬立ち止まるドキだったが、すぐにまた歩きだし、地下迷宮の暗闇の中へ消えていった。それを見送った乙音は、目の前に広がる、真っ直ぐな道の先を見つめる。

 

「皆…行きましょう!」

 

その乙音の号令と共に、ついに保管装置への道を歩き出す乙音達。幾人かはここに残り、外部のライダー達に自分達の居場所と、地下空間のマップを伝える。

歩きだしたその先に待ち構えているのは、保管装置とカナサキ。ついに、ディソナンスとの5年間に渡る戦いも、終わりの時が見えようとしていたーー

 

 

 

 

 

 




Q.歌演出いる?

A.いる……けど、セリフありだとテンポに悩むし、セリフなしだと戦闘の展開に困るという逃げ場なしの表現方法。正直戦闘シーンはみかけ以上にクソ苦労してます。戦闘描写自体が苦に感じるわけじゃないんですけどね……。次回はついにクライマックスです。伏線なんて一ミリも張ってない気がしますが、なんとかなると信じたいです。


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誕生する音色

やっつけ仕事。第一部完にしてこの底クオリティ…底の底までお付き合いいたします。


「……!広い空間が見える…もうすぐです!」

 

地下空間ーーそこを駆け抜ける乙音達突入班は、ついに保管装置の元へとたどり着こうとしていた。

ここまで誰一人欠ける事なく来れた事と、ここまで案内してくれたドキに感謝しつつ、逸る気持ちを抑え、踏み込む乙音。

そこにはかなり広大な空間が広がっており、その中央、乙音達から離れた所に保管装置と、それを操作するノイズ、そしてキキカイが製作した容器に入れられたカナサキの核があった。

 

「あれは……!」

 

『木村乙音……ここまで…!だが一歩遅かったなあ!私の能力でノイズを操り…保管装置の起動は済ませた!後は私が中のハートウェーブを吸収し、より完全な形で復活するまで!』

 

それを聞いた乙音とゼブラは他の突入班のメンバーを置いて、保管装置へと駆ける。

 

「ディソナンスを操るなんて、そんな事が……!?」

 

「あいつの能力は絶望させる能力!ハートウェーブに影響を与える事もできるなら、ハートウェーブで構成されてる、僕らディソナンスも操れるのかも…!」

 

『その通りだ裏切り者!絶望より生まれた貴様は操れぬだろうが……ノイズのように自我が未発達なディソナンスであるならば、十分操れる!』

 

そのカナサキの言葉に応えるように乙音とゼブラに飛びかかるノイズ。そして、それと同時に保管装置が怪しく光りだす。

 

『フハハハハ!保管装置は稼働を開始した!もはや私にも止められるものではない……!』

 

「カナサキィィィィッ!」

 

「お姉ちゃん!こいつは僕に任せて、カナサキを!」

 

「おおおおおおおっ!」

 

ゼブラがノイズを抑える間に、乙音がカナサキを消滅させるべく必殺技を発動、『rider double shoot』を放ち、その上で自身も駆ける。だが、乙音の放った必殺技は、保管装置より溢れるハートウェーブに弾き飛ばされてしまう。

 

「何っ!?」

 

『フハハハハ!素晴らしい!私の中に力が流れ込んでくるぞ!』

 

カナサキの核が保存されていた容器が割れ、カナサキの核が光り輝くと、乙音の体が弾き飛ばされる。

 

「ぐあっ!?」

 

『乙音くん!』

 

「乙音ちゃん!」

 

「お姉ちゃん!?…ぐっ!?」

 

香織や勝達の元まで弾き飛ばれた乙音を心配するゼブラだったが、振り向いた一瞬の隙をノイズにつかれ、自身も乙音達の元へ吹き飛ばされてしまう。そこに、地上から駆けつけてきた真司達が現れる。

 

「後輩!」

 

「先輩達!?」

 

「良かった、無事…って何よあれ!」

 

桜が指差した先にあったのは、かつての肉体を取り戻し、なお進化しようとするカナサキの姿だった。

 

『フハハハハハハハハ!今さら揃ったところで、こな俺のパワーには勝てんぞ!そらっ!』

 

カナサキが手を振ると、乙音達の周囲に爆発が巻き起こる。強大なハートウェーブによる波動が引き起こしたものだ。

 

「うわあっ!」

 

「なんだこのパワーは……」

 

『フハハハハ!待っておれぃ!すぐに殺して……ん!?』

 

乙音達にゆっくりと近づこうとしたカナサキだったが、その体に異変が起こる。彼の心臓部が暗く輝きだし、メキメキと音を立てて変質していく。

 

『馬鹿な!まさかハートウェーブを制御できていないのか!?』

 

自身の体に変化が起きていることを自覚した瞬間、カナサキは滅茶苦茶にエネルギーを放出しだす。勝や香織達を守るために放出されたエネルギーを防ぐ乙音達は、せっかくのチャンスにカナサキに近づくこともできない。

 

『ぐ……だ、だが、ノイズ!お前ならば、このハートウェーブも……!』

 

焦るカナサキは、自らが操るノイズに助けを求める。ノイズの能力ならば、カナサキのハートウェーブを抑える事も可能だろう、だが……

 

『なぜだ!なぜ従わん!ノイズ!』

 

ノイズは微動だにもしない。自身の能力の効力がまさか切れたのかと、再びノイズを操ろうとするカナサキだったが、全くノイズは反応しない。

 

『なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ!俺はこんな所で……!』

 

カナサキが必死に無駄足を踏む間にもその体の変質は進み、それと同時に暗い光もその輝きを増す。

 

『嫌だ!俺はドキやバラク、キキカイすらも従えるディソナンスになって…なって…俺は…誰だ…俺は…』

 

そして、暗い光はカナサキの体を完全に包み込み……

 

『あ…あ…あ…ああああああああああああああああ!』

 

カナサキの絶叫とともに放たれたエネルギーが、地下空間を崩落させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……はっ!大丈夫か!?皆!」

 

地下空間が崩落していく中、咄嗟に勝と香織を庇った真司はダメージこそ受け、意識も朦朧としていたものの、勝や香織達も守りきり、自身も大きい負傷は無く、無事だった。香織達は気絶しているが、すぐに目を覚ますだろう。

意識がはっきりとした真司は、すぐさま周囲を見渡し、仲間達の安否を確かめる。その声にまず応えたのは、真司と同じく突入班を守っていた刀奈だった。

 

「私のほうは無事だ…真司、他の皆は…?」

 

「わから…「おーい!ここよー!」…刀奈!」

 

「桜の声だ…瓦礫の下か!」

 

真司と桜が声のした所の瓦礫を排除すると、その下には無事な桜の姿があった。どうやら咄嗟に必殺技を発動することで、降り注ぐ瓦礫の中に自身の体が入り込めそうな空間を作ったようだ。

 

「いちち…ありがと、乙音ちゃん達は?」

 

「俺達も探している。乙音とゼブラとボイスは、どこだ……?」

 

「……待て、空に何かいるぞ」

 

「何っ!」

 

刀奈の指摘を受け、真司達が見上げたそこには、カナサキの核らしきものを持つノイズの姿があった。地下空間が崩落した際のエネルギーの奔流で、真司達がいた空間の天井部分が綺麗さっぱり吹き飛んでしまっており、ノイズの背後には、夕焼けに沈む空があった。

 

「奴め、生きていたか…!」

 

「降りてくるぞ…やる気か」

 

ゆっくりと降下してくるノイズを警戒する真司達、しかしノイズは何もせず、不気味な光を讃える核を両手に、佇むだけだ。

 

「?何を…」

 

真司がその行動を疑問に思ったその時、背後で音がする。そこには、瓦礫の中から這い出てきた乙音とゼブラ、そしてボイスの姿があった。ボイスはグロッキーになっているが、変身は解除されていないため、すぐに回復するだろう。

 

「後輩、無事だったか…!」

 

「はい…なんとか…」

 

「あの、突入班の方達は……」

 

「全員無事だ、だが、今はノイズが……」

 

その言葉を受け、乙音とゼブラがノイズを見た瞬間、ノイズの持つ核が蠢きだし、ノイズを取り込んでいく。

 

「なんだ…!?」

 

『う…何が…起こって…』

 

「勝さん…!起きたんですか!」

 

「今は後だ、後輩!」

 

警戒する真司達の目の前で、一つの形をとっていく核。そして、その変化が終わった瞬間、真司達はあまりの事実に驚愕することになる。

 

「な、馬鹿な…!」

 

「あれは、資料で見た…!」

 

『……馬鹿な、あれは…あの男は…!』

 

乙音達の目の前に現れた人物、それは、ハートウェーブの発見者であり、ライダーシステムを作り出した存在であるーー

 

『音成……お前が、なぜ…!』

 

天城音成、その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん〜〜久々に体を得たせいかな?妙に気怠いなぁ……」

 

極限状況下においても、のんきに背伸びをする音成に、勝が必死の形相で問いを投げかける。

 

『音成!なぜお前が生きて…!いや、まさか、貴様は!』

 

「おお、勝じゃないか〜あの爆発事故ぶりだなぁ、5年ぶりか?」

 

『答えろ!音成!』

 

「うるさいなぁ…あーそうだよ、お前が思ってる通り、あの保管装置内部にあった大量のハートウェーブは、僕のものさ」

 

その言葉にその場にいた誰もが驚愕する。音成は少しの間をおいて、自分の独壇場と言わんばかりに話し始める。

 

「あの爆発事故で死んだわけじゃないけど、もしもの時の保険にあの保管装置を作っておいてよかったよ。まあまさかディソナンスに吸収されるとは思わなかったけど、逆にこいつ…カナサキって言ったか、その体を僕が乗っ取ってやったのさ、だから復活できた。ハートウェーブはその人物の心…その人物そのものと言ってもいい。だからこいつの体を乗っ取って、僕が復活できたんだ。」

 

「しかし僕の作ったライダーシステムも随分役立っているようだね、僕としても嬉しいよ」

 

自身の復活理由を語った音成は、ライダー達に賞賛の言葉を送る。困惑するライダー達に近づこうとする音成だったが、勝にその行動を止められる。

 

『待て…ならばあのライダーはなんだ?』

 

「あのライダー…?ああ、あれか。あれは僕が変身したものだよ、いわばプロトタイプってやつだね」

 

「何…だと!?」

 

思わずボイスが叫ぶ。ボイスにとって、幼き頃見たライダーは、悪魔と同じだ、自分から全てを奪い去った存在である。

 

『まさか、お前…』

 

「ああ、あの爆発事故に巻き込まれた僕だけど、運良く生き残れてね。もちろん無事じゃ済まなかったから、あの保管装置も作って保険をかけたいとたけど、どうも正解だったみたいだね。まさかディソナンスにやられちまうとは思わなかった」

 

「ディソナンスに…?」

 

「そうさ、君たちよりも前に仮面ライダーとして戦ってたんだよ、僕は。君たちも仮面ライダーの都市伝説は知ってるだろう?あれに僕のも混じってるんだぜ」

 

「じゃあ……あなたは、私たちの先輩なんですか?」

 

「ま、そういうことになるかな」

 

音成の話を聞いた乙音は、思わず音成に駆け寄ると、右手を差し出す。同じライダーとして、まずは握手でも交わしておきたいという気持ちからの行動だ。

薄く笑いながらその手を取ろうとする音成だったが、それを止めるものがいた。ゼブラだ。音成の手首を掴み、その行動を止めている。

 

「おや?どうしたのかな?痛いじゃあないか…離してくれたまえ」

 

「ゼブラちゃん…どうしたの」

 

ゼブラを見下しながら冷静に話す音成と、明らかに狼狽える乙音。乙音の言葉を受けたゼブラは、自身の行動の理由を語り出す。

 

「お姉ちゃん、こいつ…危険だ。少なくとも、なにか悪い事をしようとしてる」

 

「えっ……」

 

「なにを言い出すかと思えば…やはりディソナンスか、君達、こいつがなんだか知らんが、ディソナンスに心はない。奴等を生み出してしまった僕がよ〜く知ってるさ。君達も知ってるだろう?ディソナンスなんて邪悪な奴等しかいないってさぁ……」

 

音成とゼブラの言葉に困惑する乙音達。音成の悪意を確かに感じっているゼブラは乙音達に更に警告しようとするが、その前に乙音が動く。

 

「音成さん…ディソナンスには、心がないん…ですか?」

 

「そうだ、だからさっさと…」

 

「私は、そうは思いません」

 

「………………………」

 

乙音の言葉に一瞬眉根を寄せるものの、すぐに平静になる音成。乙音は構わず喋り続ける。

 

「……ゼブラもそうですけど、ドキにバラク、キキカイ、カナサキ…あいつらはみんな、心を持っていました。その向く方向が私達とは違う方だっただけで……」

 

「後輩……」

 

「……………………」

 

「それに、私のハートウェーブって、ディソナンスのものに近くなっていってるんです。さっき言いましたよね?ハートウェーブはその人物の心…その人物そのものと言ってもいいって。なら、私もディソナンスみたいなもんかもしれませんね……それとも、私にも心がないって言いたいんですか?」

 

「……結局、なにが言いたいんだい?」

 

音成のその言葉に、乙音は強く返す。

 

「私は、ゼブラちゃんを信じるってことです」

 

乙音のその言葉を受け取ったライダー達が、一斉に音成に対して武器を構える。勝や香織達はライダー達に促され、すでに退避を始めている。

 

「全く、相変わらずディソナンスというのはつくづく僕の邪魔になる……」

 

「答えてください、一体、なにが目的ーー「うるさいよ」…っ!?」

 

音成の背から猛スピードで触手が伸び、ライダー達を捕まえようと蠢く。真司達はなんとか回避できたものの、乙音はその触手に捕らえられてしまう。

 

「後輩!今助けーー!」

 

「うるさいなぁ、僕がこれから喋るんだから、黙ってろよ」

 

乙音を助けようとする真司達だったが、音成の触手や、その手から放たれる波動に邪魔されて近づくことができない。

 

「天城音成、貴様はっ!」

 

「ライダーとして戦っていたというのも嘘か!?」

 

「いいや、それは本当さ、ライダーとして僕はディソナンスと戦っていたよ」

 

「なら、どうして!」

 

「決まってるさ、ディソナンスは僕の目的の邪魔になる存在だったけど、そうじゃあ無くなってたから、精々適当に君達に取り入って研究室でも手に入れて、利用してやろうと思ってたけど、そこのクソに僕の本性ってやつを見抜かれたみたいだからね。つくづく忌々しい存在だと確信したよ。おかげでさぁ!」

 

音成が触手を伸ばす。その行動に身構えるライダー達だったが、触手は上へと伸び、どんどんと外に伸びていく。

 

「なにを…!」

 

「ねえ君達、愛ってなんだと思う?」

 

「愛…!?この状況でなに言ってんのよあんた!」

 

「僕はね、それがわからなかったんだ。だから知ろうとした、その為の研究でハートウェーブも見つけたし、ディソナンスも生まれた。そして生命体を殺すディソナンスは僕の研究の邪魔になると思ったのさ、だけど、それが覆る出来事があった」

 

触手はその数を増やし、次々と外へと伸びてゆく。そうする音成の意図もわからず触手に向かって攻撃を続けるライダー達だったが、勝達からの通信で、自体の異常性を理解する。

 

『真司くん達、聞こえるか!?外に触手が伸びてきて、そこら中の人を襲ってる!避難所まで届きそうだ!これは音成がやってる事なのか!?』

 

「なっ……!」

 

「ある日の夜、僕はいつも通りディソナンスと戦っていたんだ。その時に、ディソナンスに人が2人襲われててね。これは助けなきゃいけないと思ったのさ」

 

「貴様ああああっ!」

 

ライダー達を無視して喋る音成に、激昂した真司が殴りかかるが、テレビのようなものにその一撃を防がれたうえ、触手に弾き飛ばされる。

 

「ぐうっ!」

 

「だけど、たぶん…親子だったのかな?大人の女性が小さい子供を守るためにさ、ディソナンスに向かう姿を見て、僕は思ったんだよ。『これは愛だ!』って」

 

音成の周囲にテレビのようなものが浮き上がる。その画面に映像が映るが、そこにあったのは触手が人々を無差別に襲う恐ろしい光景だった。

 

「うっ…非道い…!」

 

「こ、こんな事が…!」

 

「それからディソナンスがなるべく親子とか、恋人とか、そういうのを襲うように仕向けたんだ。そうやって研究を重ねるうち、あることに気づいた。人が愛を最大限に発揮する瞬間は、守ろうとしたときだとね。家を燃やすように誘導した時もあったなぁ……」

 

「……っ!てめぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

音成の言葉を聞いて激昂したボイスが思わず音成を殴り飛ばそうと、銃を撃ちながら接近するが、背後から迫ってきた触手に捕まり、銃を持っていた右腕を折られる。

 

「がっ……あ…」

 

「だけどある時ヘマをしてね。ディソナンスにやられちゃったんだ。しかも、保管装置も奴等に奪われるし。ま、だからこそディソナンスの肉体を得られたんだから、僥倖と見るべきか……」

 

あらかた語り終えた音成に、乙音が触手に締め付けられながらも、震える声で語りかける。

 

「なんで……なんで、そんな事を…愛の研究なんて…」

 

「決まってるさ、僕が誰かを愛せるかどうか…いや、僕の愛を証明するためさ!そのためにディソナンスには利用価値がある」

 

「人を襲わせるの…!?そんな事を続けたら、人は…いや、この地球の生命は…!」

 

「構わないさ。滅んでも。僕が愛を知り、愛を証明できれば、それでいいだろう?これはそういう問題だ。……しかしこの辺りの人間はただ逃げ惑うだけだな…無理もないが、避難所にでもいけば生きのいいのがいるかな?」

 

「……!やめろ!」

 

乙音の制止の言葉にも取り合わず、その触手を避難所にまで向ける音成。触手に襲われる避難所がテレビらしきものに映し出されるが、そこには乙音の、一番の親友である美希の姿があった。

 

「……っ、美希いっ!逃げて!」

 

しかし乙音の言葉は美希には届かない。他の避難民とともに逃げる美希だったが、美希のすぐ後ろを走っていた子供が倒れる。美希はその子供に気付くと、すぐに子供を抱えて走り出す。しかし、その足取りは重い。

 

「ほう…?見ものだなぁ」

 

「美希……っ!」

 

逃げ惑う美希だったが、子供を抱えたままでは満足に走ることもできず、触手が美希との距離をじりじりと縮め、ついに美希は子供と共に袋小路に追い込まれ、その周囲を触手が取り囲む。

 

「さあ…どうする?他の人間と同じ様に情けない姿でも見せるか?」

 

「美希ぃぃぃぃっ!」

 

触手の異様に、恐れをなすかと思われた美希だったが、自らの背後で怯える子供を守るため、震えながらも触手の前に立ちはだかる。

 

『この子は…やらせない!』

 

「……ほう、なかなか興味深い反応だが…」

 

「うおおおおおおおっ!オラァ!」

 

美希を興味深そうに見つめる音成だったが、触手による拘束を力任せに抜け出した乙音の拳に殴り飛ばされる。数メートルは吹っ飛ぶものの、空中で停止し、その余裕を見せつける。

 

「君達の力はこの程度かな?フフフ……」

 

「誰がそんな事を言ったってのよ……!」

 

「俺たちの力を、合わせるぞ!」

 

ライダー達が一斉に必殺技を発動する。ゼブラは乙音と合体し、真司、桜、刀奈、ボイスは、自分達のエネルギーを全て乙音一人に託す。

 

「後輩、お前が最も、力が残っている……!だから…!」

 

「私達の分のハートウェーブも込めて、奴に一撃を!」

 

「食らわしてやんなさい!」

 

「いけ!乙音!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

『voltage over!!!』

 

『rider over Heart kick!!!!』

 

全員分のエネルギー、ハートウェーブを託された乙音が空中へ飛び上がり、音成に向かって必殺の一撃を放つ。

虹の粒子を纏って放たれたその一撃は、音成の展開する触手を次々と食い破っていく。

 

「おおおおおおおりゃああああああああああっ!!」

 

「ぐうううううううっ!このパワーは!」

 

そして、音成の手が、波動を放とうとした瞬間ーー

 

「させるかああああああああっ!」

 

「何っ!?うおわあああああっ!」

 

最後の触手を打ち砕いた乙音達の一撃が、音成の体に直撃した。

虹色の光に包まれながら吹き飛ぶ音成の姿が、爆発の中に紛れて見えなくなる。

 

「やっ、たっ……!うあっ…」

 

「後輩!ぐっ…無事か!?」

 

「なん…とか……フラフラしますけど、大丈夫です…」

 

「ぼ、僕も…です……やったんですね…」

 

先ほどの一撃に全エネルギーを託した乙音は、着地と同時にゼブラとの融合も解け、変身も強制解除される。以前の様にハートウェーブを枯渇させてしまったのではないかと心配になり、駆け寄るライダー達だったが、乙音もゼブラも、意識は朦朧としているが、無事な様だ。

 

「良かった…一時はどうなることかと思ったわよ…」

 

「そうだな…だが、喜んでいる暇はない。先ほどの一撃でこの地下空間が崩落する危険性もある。すぐに退避をーー」

 

しかし、刀奈が次の言葉を紡ぐ前に、瓦礫の下から這い出てくるものがあった。

 

「フ、フフフ…見事だったよ…この僕が、一瞬本気で焦るほどにはね…」

 

「…………!」

 

乙音達が今放てる最高の一撃、その力を持ってしてもなお、その肉体を保つ音成の姿がそこにはあった。しかし、その肉体は彼の本性を現すかのような暗い靄で覆われており、彼自身、実体を保つのにエネルギーを割かねばならないほどのダメージを負っていた。

 

「まだ、生きていたのか…!」

 

「フフフ…この場は、痛み分けといったところかな…?」

 

思わず音成に向かって駆けようとする乙音だったが、あまりの疲労とダメージに、膝をついてしまう。真司達がそんな乙音を心配して駆け寄るのを見た音成は、その隙に音成が指を鳴らしたその瞬間、音成の体から、ノイズが飛び出してくる。そして、その異様な光景に乙音達が驚く間に、音成はノイズに連れられて、空へと逃亡していく。

 

「音成っ!待てえっ!」

 

乙音の叫ぶ声に応えるように、音成はライダー達に語りかける。それは世界への宣戦布告とも言うべきものだった。

 

「フフフ…!いいかい君達、三年だ。この傷を癒し、新たに僕のディソナンスを生み出すのに、三年はかかる。その間、君達もせいぜい強くなっておくといい!そうして強くなった君達が抗う姿を見て、僕の研究は完成するだろうさ!」

 

「音成ぃぃぃぃっ!」

 

「ハハハハハハハハハハハ!ハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!」

 

激戦を乗り越え、疲弊しきった乙音達には、今、音成を止める術はなかった。

かくして、世界は混乱の渦中へと叩き落とされる事となる。仮面ライダーの生みの親にして、今や最悪の怪物と化した、天城音成の手によって……そして、乙音達は、さらなる絶望と相対する事になる…

 

 

 

 

 




劇場版頑張ります。

感想とかで意見があれば、よろしくお願いします…


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disc2・仮面の奥で
Ride the Soul


やっと書けました…お待たせしました、ソング第2部のスタートです。

駄文ですが、新作であるナイト×ナイトの方もよろしくお願いします。


太平洋ーーそこにポツン、と大きな船があった。

 

多数の乗客を乗せた、豪華客船ーー穏やかな波に揺られながら、青白い月の光の下で、賑やかな声が船内に響く。

その声を聞きながら、船長室で、この船の船長と副長が、ワインを飲み交わしていた。

 

「……波は穏やか。いやぁ、今回も快適な旅になりそうですね、船長」

 

「そうだな…ディソナンスの事が公になってから3年……1年は世界中で争いが絶えなかったが、今はこうして船旅を楽しむ事もできる。それもこれも、彼女達のおかげだな」

 

日本、東京タワーでのディソナンスとの決戦から、すでに3年の月日が経過していた。

その3年間の間、天城音成による侵略は起きていなかったが、東京タワーでの決戦から生き延びたディソナンス達による侵略が、世界各地で発生、仮面ライダー達はその対処に追われていた。

1年間はディソナンス達による侵略も途絶えることなく、この機に便乗した国々による戦争も起こってしまったが、ライダー達の懸命な活動によって、どちらも収束。今は、こうして悠々と船旅ができるほど平和になったーーーーはずだった。

 

ゴオオオオオオオン

 

分厚い金属を思い切り叩いたような音が響いた後、船体が激しく揺れ、船内各所の警報機が一斉に作動し始める。混乱しつつも状況を素早く把握しようとする船長と副船長は操舵室へと向かう。

 

「なんだ!?何が起きた!」

 

「せ、船底に穴が!それに、こ、この反応……ディソナンスです!」

 

「なんだと!?」

 

操舵室に到着した船長達は、さっそく船員に状況を伝えるよう指示する。船底に何か当たったかと思っていた船長だったが、船員の報告に、自分の予想が最悪の形で当たっている事を悟った。

 

「総員、戦闘準備!乗客を一人でも多く逃す!」

 

その手にメガホン型の銃を携えた船員達は、船長の指示のもと、船内の乗客達の避難誘導を開始する。

しかし、それを当然邪魔しようと動くものもいた、ディソナンスだ。

タコのような触手を背中から生やしたそのディソナンスは乗客達を見つけると、その命を刈り取るべく走り出す。

 

「今だ、撃て!」

 

「よし、隔壁を下ろせ!持ちこたえられるはずだ!」

 

しかし、それを許す船員達ではない。メガホン型の銃でハートウェーブを撃ち出し、隔壁で通路を遮断する事で、タコ型のディソナンスを仕留める事は出来ないまでも、足止めする事に成功していた。

 

「皆さん落ち着いて!係員の誘導に従ってください!」

 

広い後部甲板へと乗客達を誘導した船員達は、乗客から先に緊急用の避難ボートに乗せようとする。しかし、ディソナンス達はそれを許さなかった。

 

「このボートに……待て、何か海の様子が……うわぁっ!?」

 

『ギャオオオオオオオオオオン!!!』

 

海の様子がおかしい事に気付いた船員が甲板から身を乗り出すと、その瞬間、海から巨大なディソナンスが現れた。タコの様な触手を大量に伸ばすそのディソナンスは、尻餅をついた船員の姿をみると触手を伸ばしてその船員の体を絡め取った。

 

「は、離せ…!うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

「くっ…撃て!あの馬鹿でかい顔に撃ち込んでやれ!」

 

船員達による一斉射撃にも怯まず、次々と乗客や船員達を触手に絡め取る巨大ディソナンス。なんとか囚われた人々を助けようとする船員達だったが、通常のディソナンス相手ならば足止めにはなるメガホン銃も、巨大ディソナンスの前には豆鉄砲でしかなかった。

圧倒的な戦力差にもめげずに巨大ディソナンスに銃撃を続ける船員達だったが、不意に巨大ディソナンスが、その大口を開いた。

 

「な、何をするつもりだ…まさか!」

 

巨大ディソナンスの意図を察知した船長は、船員達に口内に集中放火しろと指示を出す。船員達の狙いは的確だったが、巨大ディソナンスの動きは止まらず、捕らえていた人々を食べようと触手を動かす。

 

「うわ、うわぁぁぁぁぁぁっ!助けてくれぇぇぇぇ!」

 

「嫌だ、まだ死にたくない!」

 

「ひっ……あっ……」

 

「うう…くそ!撃て撃て!」

 

囚われた人々の悲鳴で気力を削がれながらも、懸命に射撃を続ける船員達だったが、流石に鬱陶しくなったのか、巨大ディソナンスの触手の一振りで、全員吹き飛ばされる。

 

「あぐっ!うっ……」

 

さらに、今までタコ型ディソナンスの侵攻を防いでいた隔壁にもヒビが入り、今にも破られようとしていた。

 

「わ、我々には…無理だ……こんな、化け物…」

 

完全に詰みに入った状況に、船員や乗客達の心が折れかけた、その時ーー歌が鳴り響く。

 

 

「諦めないでっ!」

 

《伝説すら、塗り替えるような》

 

《光、衝撃を今ここに》

 

 

ーー天から、一筋の光が巨大ディソナンスめがけて降り注ぎ、その触手の一部を、纏めて切断した。

 

「うわっ…!」

 

「きゃあっ!?」

 

《熱き、心、生きてる証》

 

触手が切り離された事により、触手に囚われていた人々は船の甲板へと落ちるが、触手がクッションとなり、怪我したものは1人もいなかった。

突如天から降ってきた光、甲板の人々がその光が降ってきた方向を見上げると、そこには3つの光が煌めいていた。

 

「星か……?」

 

空を見上げ、誰かが思わず、そう呟く。そして、その誰かの声に応えるようにーー

 

 

「いいやーー」

 

《一人、一人のその胸の中》

 

「これは……」

 

《今だ!》

 

「歌だあっ!!!」

 

《この》

 

《世界に》

 

《 《 《歌、歌エ!!!》 》 》

 

 

天から音が降り注ぎ、その音の激しさが増すと共に、3つの光が降りて来る。光の眩しさに目を細める人々だったが、その光が収まった時、人々は希望を目にした。

 

「仮面…ライダー!!!」

 

「来てくれたのね!!!」

 

「随分と、待たせました…」

 

「あなた達は、私たちが保護します。迎えのボートも来てますから、安心してくださいねっ」

 

「さてーー久々に大暴れの時間だっっ!!」

 

 

仮面ライダーソング、ボイス、ダンス。三者の戦いが、歌と共に、今始まる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《切札、胸の中にあるものさ》

 

「僕は、こいつを叩きます!」

 

「私は海の中のやつらね!」

 

「こっちは船内の雑魚どもの掃除かっ!」

 

《それを、解き放ち戦おう》

 

まずライダー達がとった行動は、乗員の安全確保だった。船内のディソナンスの侵攻をある程度は抑えられていたことから、巨大ディソナンスを倒し、ソングの能力で見つけた、海中に潜むディソナンスを掃討する事で、一応は外部からの船の破壊を防ぎ、態勢を整える事ができるだろう。しかしーー

 

《誰かを守るその為になら》

 

「ちっ!隔壁がもう持たねぇ!」

 

《鬼となって》

 

「こちらも攻めあぐねてます!触手が厄介で…!」

 

《天すらも破壊し、戦おうーー》

 

「こっちはスムーズに倒せてるけど、取りこぼしがあるかも!」

 

ーー船内のタコ型ディソナンスを封じ込めていた隔壁が、あと1分と持たないところまできており、巨大ディソナンスもその触手を巧みに操り、ソングの攻撃を防いでいた。

 

《時の流れの中、進み行くたびに》

 

「まずいーー!隔壁が破られた!》

 

《未来への想い感じ取ってゆく》

 

「……!ダンスさん!」

 

「っ!うん!」

 

《明けない夜なんてないッ!!!》

 

ソングが巨大ディソナンスを仕留めきれないうちに、甲板へと繋がる通路の隔壁が、船内部のディソナンス達によって破られてしまう。しかし、これを黙って見過ごす彼女達ではない。ダンスの持つ新兵器、『ストームブレイカー」1を用いて足止めを行っているうちに、巨大ディソナンスをボイスと共に仕留める作戦にうつる。

 

《太陽、昇る、後に》

 

「いっけええええええっ!!ストームブレイカー!!!」

 

《絶望破壊する!》

 

「触手は気にするなっ!お前は顔面を狙えっ!!」

 

「わかりました!うおおおおおおおっ!!」

 

《 《 《希望生まれるーー》 》 》

 

ダンスの新兵器、ストームブレイカーとは簡単に言えば小規模な竜巻発生装置である。ダンスの武器である『ダンシングポール』の先にストームブレイカーをセットし、コマのように放つのだ。そして竜巻を纏ったコマは、ディソナンス達を容赦なく切り裂いて行く。

《 《 《人の心、星の光を》 》 》

 

『『グウオオオオオオオオオオッ!!!』』

 

「流石の威力ね、これは!」

 

《 《 《全て束ねて歌に変えて》 》 》

 

「ボイスさんっ!アレやります!」

 

《 《 《歌を歌い、力に変える》 》 》

 

「よおおおしっ!いっ、けえええええっ!!」

 

『rider ultimate cannon!!!』

 

ソングの合図で、ボイスが必殺技である特大のエネルギー弾を放つ。それは巨大ディソナンスめがけてではなく、ソングの方へと向かっていく。一見見当違いの方向に撃ったように見えるが、これで良いのだ。

 

《歌が!無限の力に変わる》

 

『voltage Max!!!!!』

 

「うおおおおおおおおおおっ!」

 

《叫べ!》

 

《この》

 

《世界に》

 

「いけええええええええっ!!」

 

『rider double shoot!!!』

 

《 《 《歌、歌エ!!!》 》 》

 

ボイスの必殺技を、ソングが必殺技で巨大ディソナンスめがけて撃ち出す。更に威力を増したエネルギー弾は巨大ディソナンスの触手防御も物ともせず、その全て焼き尽くす勢いのまま、巨大ディソナンスの顔面に直撃する。

 

『ギャオオオオオオオオオン……!!』

 

「よし!まずは一体!」

 

「次は船内の…!っ!空か!」

 

巨大ディソナンスを船から引き剥がしたソングとボイスは、船内のディソナンスを掃討するべくダンスの救援に向かおうとするが、空中から攻めてきたディソナンス達を見てその足を止める。しかも、海中の敵が攻撃しているのか、船よ揺れが激しくなってきていた。

 

「どうします!?あの数!」

 

《相棒、そう呼べる友がいれば》

 

「仕方ねえっ!オレがあいつらを撃ち落とす!お前はダンスの代わりに船内の敵!ダンスには海中の敵を頼むって伝えてくれ!」

 

「わかりましたっ!」

 

《怖いものなんて何一つない》

 

「さて…!新兵器のお披露目だっ!」

 

ボイスはその手に持っていたメガホン銃を消すと、その両手に新たな武器を出現させた。ナノマシンで構成されたそれは二丁拳銃。連射力と近接戦闘能力の両立を目指したボイスが、自身に必要な武器と判断して使い方をマスターした武器だ。名を『リベリオン』という。

 

《誰かを守りたいって欲望さらけ出し》

 

「テメェらみてぇな羽虫!全部撃ち落としてやるぜっ!」

 

《この宇宙すらも》

 

「ダンスさんっ!スイッチですっ!海の方を!」

 

「わかった!!頼んだわよ!」

 

《ブッとぶ程の》

 

「一気に蹴散らす…!」

 

《衝撃ーー!!!》

 

ダンスに代わり、船内のディソナンスを相手取る事になったソングは、四方から襲いくるディソナンスの攻撃を巧みにかわし、的確に槍でダメージを加えていく。一方、海中の敵を倒すダンスは、ストームブレイカーの出す竜巻の上に乗り、海へと飛び降り、海上を進んでいく。

 

《たとえ人でなくなったとしても》

 

「さて……ぶっ飛ばすわよっ!」

 

『rider super storm!!!』

 

《たとえこの体が朽ち果てても》

 

『ギャルオオオオオオッ!?』

 

「行きなさい、竜巻達!海中のディソナンスを打ち上げ!後は……」

 

《極みにある心なら!!》

 

「オレの出番だあああああああッ!!!」

 

『rider full burst!!!』

 

ダンスが必殺技で竜巻を発生させ、その竜巻で空中へと打ち上がったディソナンス達を、ボイスが必殺技で残る飛行型ディソナンスもろとも消滅させて行く。空中を爆炎が覆い、その熱気が甲板にまで届く。

 

《永遠、すらも、超えて》

 

「熱い…!なんてパワー!なんて弾幕…!」

 

「これがライダーの力なのね…!」

 

《運命乗りこなし》

 

《 《 《死をも超えるーー!》 》 》

 

ボイスが空中の敵を一掃した時、船内のディソナンス達と戦っていたソングは、奥から次々と上がってきたディソナンス数十体の群れが途切れたのを見て、一気に勝負に出た。

 

《 《 《究極の救済、それをも為して》 》 》

 

「ここで、決める…!」

 

《 《 《この想いすら創造する》 》 》

 

『voltage Max!!!』

 

『rider double spear!!!』

 

《 《 《我ら、いつも心は一つ》 》 》

 

「更に!!!」

 

『rider double shoot!!!』

 

必殺技を発動したソングは更に必殺技を発動。強大なエネルギーを纏った槍を、強大なエネルギーでもって、ディソナンスの群れへ蹴り飛ばす。

 

「ううおおおおおおおおおりゃあああああああああああっ!!!」

 

《奇跡!成すのはそう心だと》

 

『グウッ!?グウオオオオオオオオオオッ!!!』

 

《吠えろ!!!》

 

《この》

 

《世界に》

 

《 《 《歌、歌エ!!!》 》 》

 

絶大なエネルギーの奔流に飲み込まれたディソナンス達は一気に消滅する。ディソナンス達全てを討伐し、ほっとソングが一息をついた瞬間、船が激しく揺れる。

 

「な、何が…!?」

 

「ソング!大変よ。あの巨大ディソナンス…生きてたのね。船の進路に先回りして、巨岩をぶつけて船を沈没させようとしてるわ!」

 

「何ですって!?」

 

「急ぐぞ!グダグダしてると、岩をぶつけられちまう!」

 

ソング達が後部甲板から前方の甲板に移動し、そこで見たものは、今にも岩を船に向かって投げつけんとする巨大ディソナンスの姿だった。

 

「ボイスさん。ダンスさん。アレ、やりましょう」

 

《例えこの身体が膝をつこうとも》

 

「おう、わかった!」

 

《この牙を悪に突き立てよう》

 

「やるのね…準備はいい!?」

 

《剣支えに立ち上がるっ!!》

 

「ええ、行きましょう!」

 

《嵐、かき消す程の》

 

《声を強く張り上げ!!!》

 

『voltage climax!!!!』

 

《歌を歌うーー》

 

3人がレコードライバーに手をかけ、同時に必殺技を発動する。ダンスが竜巻風を集め、竜巻をソングに纏わせ、ボイスがその竜巻にエネルギーを加えて、赤い竜巻…赤いエネルギーの奔流へと変える。そして、巨大ディソナンスが巨岩を投げつけてきたその時ーーそれは、放たれた。

 

《人の心、星の願いも》

 

「「「いけええええええええっ!!!!」」」

 

《我らの絆もそう共に》

 

『rider cyclone kick!!!!!』

 

《未来彼方、至高を超えて》

 

船へと迫り来る巨岩に、赤い竜巻を纏ったソングの蹴りが炸裂する。その蹴りは巨岩を塵にして、巨大ディソナンスを今度こそ仕留めんと突き進む。

 

《伝説!超えて我ら強くなる!!》

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

《我ら!!》

 

《この》

 

《世界に》

 

《歌、歌ウ!!!》

 

『ギャルグウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

巨大ディソナンスの守りも全て突破したソング達の必殺の合体技は、巨大ディソナンスを今度こそ消滅させた。

こうして、ライダー達は多くの生命と、一隻の船を救ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜今回はなかなか疲れたわね。まさか豪華客船にディソナンスが出現するなんて……海上でのストームブレイカーの試験中ですぐに駆けつけられてよかったわ」

 

「自衛隊の皆さんにも感謝しないといけませんね。ヘリを出してくれなければ、被害が出てしまっていたと思います」

 

「奇跡的に被害者ゼロだったか…ま、あれだけ必死になって助けたんだ。当然だな」

 

帰りの船の中、船内の個室で、変身を解いたライダー達が話し合っていた。いわゆる反省会というやつである。

 

「しかし、コードネーム…というか、ライダーネームで呼びあえーー!なんて、めんどくさいわねぇ…」

 

「仕方ないですよ。一般にバレたら、無用な混乱が起きるでしょうし…」

 

「そうだな…その点、戸籍上じゃ死人扱いのオレは気楽なもんだが」

 

「そういえば…ボイスさん、喉大丈夫ですか?」

 

「ん?あー大丈夫だよ。この3年間の間に定期的に手術を重ねてきたが、最近はもう違和感もねえや」

 

ボイスはもともと幼少期に巻き込まれた火災の影響で、喋ると喉に大きく負担がかかってしまっていたが、3年間治療を続けることにより、今は普通の会話もこなせるようになっていた。

 

「……そういやゼブラ、乙音とはまだ連絡つかねえのか?」

 

「…はい。高校の卒業式に海外…アメリカかエジプトの方へ行ったらしいんですが、足取りは掴めてないみたいで……」

 

「そうか…あいつも、何やってんだか」

 

「きっと、ディソナンスでも倒してるんじゃない?」

 

次に話題に上ったのは、現在行方不明になっている乙音のことだった。高校卒業と同時に旅に出た彼女は、各地で噂を残しつつも特務対策局の情報網にも全く引っかかっていなかった。

心配する3人だったが、結局は無事だろうという結論に落ち着き、すぐに次の話題に移る。次の話題は、激化するディソナンスの攻撃の事だった。

 

「…やっぱり、天城音成が活動を……」

 

「ああ、あの宣戦布告から、もう3年だ……もし奴の言う通りだとすれば、もうすぐ、世界中にディソナンス達が出現するかもな」

 

「……そんな事、させないようにしましょう!頑張りましょう!」

 

「そうだな…まあ心配するな。オレ達ならやれるさ」

 

「彼女がいない隙は、わたし達で埋めないとね」

 

こんな話を続けながら、時間をつぶす3人。しかし、話を続けながらも、ゼブラは何か妙な違和感を感じていた。

 

(……あのディソナンス達…自分の意思というものが、まるで無かったような…下級ですら、自分の意思はあるのに……もしかして、あのディソナンス達は…)

 

「ゼブラちゃん?どうしたの?」

 

「あっ!いえ、なんでもないですよ」

 

(…多分気のせいだろう。そんな悪魔の所業、あの天城音成だって……)

 

悪い予感を感じながらも、ゼブラはその不安を塗りつぶすように、桜、ボイスと話し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ、フフ…完成間近…もうすぐだ……」

 

「僕の、最高傑作達…!7大愛(セブンスラブ)……!」

 

「最強のディソナンス達よ…もうすぐ…もうすぐお前達が目覚める。その時、僕の望みが叶う時が来る…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おお…ついに、ついに成し遂げたぞ!」

 

「博士!ショット博士!ついに成し遂げたのですね!」

 

「うむ、これこそが、奴ら…ディソナンスに対抗するための、新たな力…」

 

「ビートライダーシステム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、流れ星…綺麗だなぁ…」

 

「みんな、どうしてるのかな?私も、そろそろ日本に戻ろうかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界各地で不穏の種が芽吹き、それと同時に希望の花もその蕾を開こうとしている。

仮面ライダー達の、新たな戦いが始まる…。

 

 

 

仮面ライダーソング、第2部・仮面の奥で

 

 

今、戦いの時ーー!





さて、新ライダーの詳細も詰めなければ……


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ビートアップ・ライダー

流石に一週間を超えるとヤバイなと思ったので、投稿。質問なんですが、どれくらいのペースで投稿するのがいいんでしょうか…?新作の方はモチベの関係で投稿間隔は開くんですけど、こちらの方はあまり開けたくないんですよねー……短編集も書きたいですし、ホント連載を3本以上持てる人は尊敬します。


アメリカ、とある地方ーーそこに、無人の荒野を走る、一台のバイクに乗った、1人の人間の姿があった。

 

「ふう…暑い。もう1時かぁ……そろそろ、街に着く筈なんだけどなぁ……」

 

人間の名は、木村乙音。高校を卒業してすぐに、修行と称して世界放浪の旅に出た彼女は、まずインドに渡り、次にアメリカ、その後はヨーロッパや中東でディソナンスを退治して回っていたが、今はとある人物に呼び出されて、アメリカにいた。

そのとある人物とはーー

 

「でもまさか、ショット博士から声をかけられるなんて……アメリカで一度会った時に、連絡先を交換しておいて良かった」

 

かつて、未来世界より来た最悪のディソナンス、クロニクルを倒す戦いの際、乙音達ライダーに協力した人物である、ショット・バーン博士。以前、一度アメリカに渡った際、ショット博士の伝手を頼る事になった乙音は、その時にショット博士と連絡先を交換していた。

活用する機会もそう無いだろうと思っていたのだが、連絡先を交換して2ヶ月、まさかこんなにも早く呼び出されるとは、乙音も思っていなかった。

 

「しかし、サプライズって電話では言ってたけど……いったい…て、おっ、街だ…あれがショット博士の言ってた場所かな?」

 

物思いにふけながら、荒野をバイクで走っていると、乙音の視界に、街が見えてきた。

街といっても、今アメリカの田舎にありふれてしまっている、ディソナンスの攻撃によって廃墟と化してしまった街だが、ショット博士はディソナンスの目を眩ませるために、わざわざ地下鉄を作り、この廃墟と化した街の地下に研究所を作っていた。

 

「しかし発想がダイナミックというか……本当によく考えたなあ…街の地下に研究所なんて」

 

街に着いた乙音はバイクを降り、スマホの写真フォルダに保存されている、ショット博士から送られてきた、研究所入り口の目印となる建物の写真を見ながら、街を散策する。バイクは右手で押し、左手でスマホを持つ。

 

「え〜と、場所は…あそこかな?」

 

写真と実際の景色を見比べながら街を散策していると、3分程度で目的地と思わしき場所を発見、さっそくその建物へ向かう乙音。乙音の目指す建物はかつて3階建ての飲食店だったところで、写真ではそこまでには見えなかったが、実物を間近で見るとかなり荒れ果てており、かつてこの街を襲ったであろうディソナンスの脅威と残虐性が伺えた。

 

「こんなところに…え〜と、地下へのい・り・ぐ・ちは……っ、とと、あれかな?」

 

飲食店廃墟内部をキョロキョロと歩き回っていた乙音だったが、厨房の冷蔵庫が妙に埃を被っていない事に気付き、冷蔵庫を開けて見ると、その中には地下への入り口が存在した。入り口が冷蔵庫なのでかなり狭そうに思えるが、大の大人2人程度ならば、冷蔵庫の中に入れそうではある。

 

「おおっ、秘密基地……とりあえず、お邪魔します…でいいのかな?」

 

冷蔵庫の中に入り、地下への階段を降りる乙音。少し降りると、そこにはエレベーターがあった。行き先は下のみ。どうやらこのエレベーターで地下研究所へと降りるようだ。

 

「階数は…ここと地下の2つだけか。それじゃあ、ポチリと」

 

エレベーターのボタンを押すと、ガコン!という音が鳴り、そのままかなりのスピードで下へとエレベーターが降りて行く。

 

「おおっ!?」

 

乙音が驚いている間にも猛スピードで地下へと降りていくエレベーターは、たった10秒程度で最深部へと到達した。かなりの猛スピードで降りていたため急ブレーキがかかる…かと思いきや、そんな事はなく、むしろ普通のエレベーターよりも静かに止まった。

 

「あれ、もう着いたの?……誰もいない。こんなものがあって動いてるんだから、もっと奥にいるのかな?」

 

エレベーターがかなり早く最深部に着いたことに驚く乙音だったが、すぐに誰の気配も感じない事を不審に思い、警戒する。周囲に気を配りつつ、奥へと進んでいく。

慎重に歩いていると、歌のような音が乙音の耳に届く。

 

「……?なんでラジオが…」

 

音の方へ歩いていくと、そこには一台のラジオがあった。ラジオからの音声は乙音が近づくと消えてしまう。

 

「………?」

 

乙音がラジオに手を伸ばすと、その瞬間、乙音は背後に気配を感じた。すぐさま振り返り、変身しようとレコードライバーに乙音が手を伸ばした、その時ーー

 

「「「ようこそ!人類の最前線へ!!!」」」

 

パパパパーーン!!!とクラッカーの音が鳴り響き、紙吹雪だったり紙テープだったりが乙音の頭上に降り注ぐ。「……ふえ?」という声を漏らして放心する乙音の前に、ショット博士が歩み寄ってくる。

 

「オオ〜!オトネ君!ヨク来てくれマシタ〜!これはカンゲーカイの代わりデース!ケーキも用意出来ませんデシタガ、せめてというコトデ!」

 

「あ、あはは…びっくりしちゃいましたよ〜ショット博士。あ、英語で大丈夫ですよ、最近それなりに話せるようになったので…」

 

「ソウデスカ?……では、英語で喋らせてもらうわい。いやー、ニッポンゴは難しいのう!」

 

「相変わらず、英語だと雰囲気変わりますね…ショット博士。ところで、私を呼んだのは…」

 

「フム…とりあえず、来てくれるかの」

 

歓迎の挨拶を終え、さっそくショット博士になぜ自分を呼んだのかを尋ねる乙音。ショット博士は乙音の質問に今すぐには答えない。どうやら見せたいものがあるようだ。

 

「…ここじゃ、この中に、君に見せたいものがある」

 

ショット博士はある一室の前で立ち止まると、壁のコンソールにパスワードを打ち込み、扉を開ける。乙音も慌ててショット博士の後をついて中に入ると、そこにあったのは、奇妙なアイテムだった。

どうやら腕に装着するもののようだが、銃口の様なものがついているうえ、ライダーズディスクと同じぐらいの大きさのディスクを入れられる様な部分がある。

 

「博士、これは……?」

 

「フフ…それが、人類の新たな希望となり得るもの…ワシらがここで全身全霊をもって開発した、新たなるライダーシステム!」

 

 

「その名も…ビートライダーシステムじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビートライダーシステム…ですか?」

 

「ウム、簡単に言えば、君達ソングライダーの様に、強力なハートウェーブを生成する事が出来ずとも、仮面ライダーになれるというものじゃ。あれはビートライダーに変身するためのアイテム、ディスクセッターじゃな。あれにこの量産型ライダーズディスク……マイナーチューンディスクをセットして変身する」

 

ショット博士の言葉に驚く乙音。仮面ライダーの力は強大なもの、そのライダーに誰でも変身できるアイテムができたというなら、それは世紀の大発明だろう。

 

「凄いですね!……って、ソングライダーってなんなんですか?」

ショット博士の説明に感心する乙音だったが、博士が漏らしたソングライダーという耳慣れない言葉に反応する。すると博士は少し驚いた様な表情を見せて喋り出した。

 

「なんじゃ、知らなかったのか?巷ではお主らはそう呼ばれておるんじゃよ。歌を歌い、ディソナンスを蹴散らしておるんじゃ、それぐらいのアダ名はつくじゃろうて。むしろ知らなかったんかい」

 

博士の言葉に、ビートライダーシステムの事を知った時よりも明らかに驚いた表情を見せる乙音。どうやら自身がそんな有名人になってるなど思いもしなかったようである。

 

「いやいやいや!知りませんでしたよ、そんなアダ名!ま、まさか、私のこともバレてたりとか…」

 

「それはないわい!全く、彼方此方でディソナンス相手に大暴れしおってからに……ネットは見んのか?少し探せば、お主が戦ってる時の様子を映した動画なんぞ、幾らでも転がっとるぞ?」

 

「あ、あわわ……ワシントン…インカ…いや、パリでのかな?あ、ロンドンでも…あーー!心当たりが多すぎるーー!」

 

(確か全部あったはずじゃがのう…派手に暴れすぎじゃよ…)

 

戦闘時の様子を撮影されていた事にパニクる乙音を尻目に、ショット博士はディスクセッターを手に取ると、乙音の元へ歩み寄る。

 

「それで、君を呼んだのは他でもない、これの…「ああああ…どうしよう…流石に恥ずかしいし…」……ゴホン!少し、話を聞いてもらえるかの?」

 

「あ、はい……」

 

「よろしい。まあ、今回君を呼んだのはこれのテストをしてもらいたいからじゃな」

 

ショット博士よ言葉に、怪訝な顔をする乙音。

 

「私がですか?でも、ビートライダーシステムって、ふつうライダーになれない人でもライダーになれる…ってものなんですよね?私がテストしても、意味がないんじゃ…」

 

「フフフ…このディスクセッターはの、君達ソングライダーのサポートアイテムとしても使える。つまりは変身後の戦闘能力をある程度強化してくれるのじゃ。まあ、強大なハートウェーブを持つもののデータが欲しいというのもあるが……協力してくれるかの?」

 

「やりますやります!協力させてください!」

 

ショット博士の頼みに快く応える乙音。乙音のその言葉に博士はにっこりと微笑むと、ディスクセッターの装着手順を教えた後、データ計測用の部屋へ乙音を案内、さっそく実験を始めようとする。

 

「さて、準備はーー」

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

ーーしかし、実験が始まろうとした瞬間、研究所内に警報が鳴り響く。

 

「警報…!?何があった!?」

 

「ディソナンスです!どうも奴ら、研究所を探してるみたいで…!バレるのも、時間の問題かと…!」

 

研究員の言葉に焦るショット博士。この地下研究所は厳重に隠されているが、この街を徹底的に探索されてしまうと、もう後がなくなるだろう。

 

「くっ、なんという事だ…!すまんが、乙音君、実験は中止して、ディソナンスの迎撃をーー」

 

ショット博士のその提案に、乙音はーー

 

「……いえ、このまま私を、上に出してください、ショット博士」

 

「乙音君!?何をーー!」

 

「ーーちょうどいいです。実戦でのデータ、取ってみたくはありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー探せ!この街にあるはずだ!』

 

寂れた街に、複数の影があった。しかし、その影はおよそ人の形をしてはいない。亀のような怪物に、虎のような怪物、蛇のような怪物もいれば、鳥のような怪物まで、様々な怪物たちが街中を蹂躙し、地下研究所への入り口を探していた。

 

『ーーくそ!巧妙に隠したな…』

 

『音成様の命令だ、くまなく探せ。なあに、この人数だ、すぐにーーン?』

 

ディソナンス達が街中に散開し、地下研究所への入り口を探していると、街の外から人が歩いてきたーー女性だ。

 

『…ちょうどいい、あいつで腹ごしらえでもするか』

 

『ああ、悪くなさそうな…女だ』

 

下卑た笑い声をあげながら女性に近く二体のディソナンスを尻目に、その女性は左腕を掲げる。その左腕にはーーディスクセッターが装着されていた。

 

『なんだ、あれは…?』

 

 

「……変身」

 

女性がディスクセッターのレバーを引くと、女性の眼前に円盤型の光が現れる。その光が女性の身体を通過すると、女性の姿はたちまち変化しーーー

 

「参上、仮面ライダービート…ってところかな?」

 

ーー新たなる希望、仮面ライダービートへとその姿を変えた。

 

『…乙音君、通信は聞こえるかね?』

 

「はい、聞こえますよ」

 

『よし、ではまずは…格闘戦のテストから、始めるとしようか』

 

「はい、わかりました」

 

女性ーー乙音は拳を構えると、二体のディソナンスに向かって走る。虎と牛を模した姿のディソナンス達は、その突進力を活かして乙音に襲いかかる。

 

『ガアアアアアッ!!!』

 

『グルルルルル…!!』

 

牛の角と虎の牙が乙音を襲う、がーー

 

「甘い……!」

 

二体のディソナンスが気がついた時、既にその身体は宙にあった。訳もわからず投げ飛ばされたディソナンス達は受け身も取れず、着地のショックを諸に受ける。

 

『グエ…!』

 

『ガッ…!』

 

倒れ伏した虎のディソナンスの背を踏みつけ、背骨を折って息の根を止めると、牛のディソナンスの角を掴み、更に投げ飛ばす。牛の角は折れ、その痛みでまともに立ち上がれないようだ。そこに乙音は歩み寄ると、牛の頭を踏み潰し、街へと入っていく。

 

「博士、格闘戦に関しては問題ないみたいですね?」

 

『ウム、では次ー武器にいってみよう』

 

「わかりました。それでは、行きます…!」

 

街中のディソナンスを倒す為、乙音の戦いが始まるーー




3年ちょっとの月日が経ち、少しだけ過激になった乙音ちゃん。第2部からは、ビートライダーシステムが活躍するぞ!もちろん今までのライダー達もね!

とりあえず次回も引き続き乙音ちゃん編です。日本のライダー達については、その後ですね。


追記・書き忘れてたんですが、仮面ライダービートの変身は、キュウレンジャーの変身と似たようなもんだと思っておいてください。あんな感じの変身をイメージしてます。というかディスクセッターってほぼないセイザブラスターみたいなもんなのでは…?用途もサイズ感もほぼない同じだし。


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song beat

最近キン肉マンにハマってしまったので、もしかしたら表現がそれっぽくなってるかもしれません。というかフライングレッグラリアートを出そうかと思いましたが、流石に自重しました。

やっぱゆでたまごは天才だわ。

今回のサブタイはえらく苦労しました。


「乙音君、ビートにはもう一つ武器がある。それがーー」

 

「この、エルブレイシューターですね……斧と銃が合体した武器って、だいぶヘンですねぇ」

 

「君らも人の事は言えんじゃろうて…」

 

ディソナンスの襲撃によって、元々廃墟と化していた街が、更に荒れ果てしまった。その街中に、乙音は足を踏み入れる。ーーと、その瞬間、乙音の足元に殺気が現れる。

 

「……っ!」

 

咄嗟にジャンプした乙音が先程まで立っていた場所を、モグラ型の、顔面がドリルになっているディソナンスが削り取る。回避行動が遅れていれば、あのドリルで乙音の身は削られていただろう。着地して戦闘態勢を整える乙音だったがーー

 

『おっと、こちらからもだ』

 

「おおっ!?」

 

背後から猛烈に回転しながら突っ込んできた亀のディソナンスの一撃を背中に受け、吹き飛ばされてしまう。残骸と化した家屋に頭から突っ込み、木片の中に埋もれる乙音を、ディソナンス達は更に追撃する。

 

『これで仕留めてやろう!』

 

『カメエーーッ!!』

 

しかし、黙ってやられる乙音ではなかった。ディスクセッターのレバーを握る事で、エネルギー弾が飛び出す。それを使って二体のディソナンスの突進のスピードを落とし、間一髪敵の攻撃をかわすことに成功する。

 

『チッ…避けたか。だがその手傷で、我らを倒せるかな?』

 

「…手傷?何勘違いしてるかわかんないけど、私は平気だよ?」

 

確かに背後からの奇襲を受けた筈の乙音だったが、本人の申告通り、その身体は未だダメージを負っていないように見えた。

 

『何…?』

 

「…さて、今度は、こっちの番かな?」

 

『グググ…あまり調子にのるなよ』

 

『そうだ…我ら無敵の盾と矛のコンビ、その連携を受けるがいい!』

 

右手にエルブレイシューターを持ち、左手のディスクセッターの銃口を二体のディソナンスに向ける乙音。乙音のアクションに対して、二体のディソナンスは再びの攻撃で応える。モグラ型は顔のドリルを回転させながら、その跳躍力を生かして地中から空中から変幻自在に乙音を攻める。モグラ型のディソナンスに対処しようと乙音が動けば、その隙をすかさず亀型のディソナンスが突いてくる。かといって亀の方に対応すれば、飛んでくるのはモグラによる強烈な一撃だ。

相手を休ませず、自分達はフォローし合う二体のディソナンス。並の戦士であれば、ひとたまりもなくやられてしまうであろうその連携を前にしても、しかし木村乙音は揺るがなかった。

 

「よっと…」

 

『な、なにー!こいつっ、俺の背中に!』

 

『の、乗りやがったーー!』

 

猛烈な回転を続ける亀型の甲羅の上に飛び乗った乙音は、振り落とそうとする亀型にも怯まず、ディスクセッターによる銃撃やエルブレイシューターによる攻撃をその甲羅に加えていく。亀型の甲羅は強靭なものだったが、自身の背に乗られたというショックもあり、『振り落としてくれーーっ!』と叫び、パニックになる亀型。モグラ型は亀を助けようと乙音に向かって突撃するが、乙音を振り落とそうと飛び回る亀型のせいでうまく捉えられない。

 

『ぐっ…一瞬だけでも止まれ!』

 

『ウウウウ…ハッ!わかった!』

 

モグラ型の突撃に合わせて、空中で静止する亀型。モグラ型のドリルがこのまま乙音の体を貫くかと思われた、その時ーー

 

『死ねええええええええっ!!』

 

「さて、死ぬのは…どっちかな?」

 

亀型が静止し、モグラ型のドリルが迫ってきた瞬間、乙音はそれを待っていたと言わんばかりに素早く動き、亀型の背から飛び降りると、亀の腹を軽く蹴って、モグラ型の方へと打ち出す。

 

『ゲゲエエエエエッ!!』

 

『ギイヤアアアアアアアアアアア!!!』

 

「……あなた達が知ってるかどうか知らないけど、矛盾って言葉があってね…さて、無敵の盾と矛に自分達を例えてたけど、いざぶつかってみれば…死ぬのは、どちらかな」

 

慌てて進路を変更しようとするモグラ型だったが、時既に遅し。頑強な亀型の甲羅にモグラ型のドリルが深々と刺さる。肉と骨を抉りながらも止まらないドリルだったが、ついにバキリという嫌な音とともにその回転が止まった。地上へ落下した二体のディソナンスは完全にグロッキーで、特に亀型は既に虫の息となっていた。

 

『ウゲ…ゲゲ…』

 

『ギ…ギヤ……』

 

「…………」

 

倒れ臥す二体のディソナンスに対し、ディスクセッターの銃口を向ける乙音。そのままエネルギー弾を発射するが、モグラ型は咄嗟に亀型を盾としてその銃撃を防ぎ、その爪で乙音に襲いかかる。それを乙音はエルブレイシューターで弾き、折れたドリルにエルブレイシューターを突き立てる。

 

『フ…折れたとはいえ、我がドリルは未だ堅し!このまま、押し切って…!』

 

「残念だけど、それは無理だね」

 

乙音がエルブレイシューターのトリガーを引くことで、エネルギー弾が発射される。しかし、今はモグラ型のドリル、そこにできた傷口にエルブレイシューターの刃を突き立てているのだ。そしてエルブレイシューターの銃口は刃と一体になっている。斧と銃が組み合わさった武器がエルブレイシューターなのである。つまり……

 

『ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!アアアアアアアアアアアア!アアアアアア……』

 

「少しむごいけど……確かに、低スペックを補うにはいい武器ですね」

 

『……流石に、そこまで躊躇なくやるとは思わんかったがの…ワシも』

 

さて、乙音が二体のディソナンスを蹂躙している時、その様子を見ていたディソナンスもいた。鳥型のディソナンスと蛇型のディソナンスは乙音の戦いを見て、ビートシステムのことを音成に報告しようと動く。しかし、その様子をショット博士を通じて確認した乙音は、ビートの必殺技を発動する。

ディスクセッターの赤のボタンを押してから、レバーを引き、エネルギーを溜める。目標は鳥型だ。

 

『beat up』

 

「少し遠いけど…いける」

 

『beat shoot』

 

『なっ…ああっ!?』

 

強大な乙音のハートウェーブをエネルギー弾として放ったその一撃は、まさに必殺。鳥型ディソナンスを飲み込み、焼き尽くし、空の彼方で消える。

そして、もう一方の蛇型も逃す乙音ではない。さらに必殺技を発動する。こちらはディスク状のエネルギーを放ち、相手を拘束する。そして…

 

「はあああああああっ!りゃああああああああ!!」

 

『グエーーッ!!』

 

飛び蹴りを放ち、蛇型の喉を掻っ切る乙音。蛇型は甲高い悲鳴を上げた後、自身を拘束していたエネルギーに包まれ、爆発四散した。ディソナンス達を片付けた事をショット博士に報告する乙音。

 

「ふう……これで、全部ですか?」

 

『うむ、いいデータが取れたわい…なんか悪の科学者みたいじゃの、ワシ』

 

「あはははは…まあ私の戦い方も、正義の味方とはいえませんよねえ…」

 

『……そういえば、君がネット上でどう呼ばれとるか知っとるか?』

 

「?いえ…あ、6人目の仮面ライダーとか、そんな感じですか?多分、知名度は先輩達の方がありますよね?」

 

『……血みどろの逆転ファイターじゃぞ。あと、少なくともネット上では君の方が真司君たちよりも知名度は上にじゃぞ』

 

「なんでそんなアダ名っ!?」

 

最後の最後に何かに負けたような気分になりながら、地下研究所へと戻る乙音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……博士ーー!これはこっちで?」

 

「ああ、ウム……それはあっちじゃな」

 

ディソナンス襲来から一週間後、地下研究所は放棄されようとしていた。

ディソナンス達を一度は撃退したとはいえ、このままでは居場所がバレるのも時間の問題と考えたショット博士達は、協議の結果、予定を前倒して地下基地を放棄し、ワシントン地下に作られたより大きな研究所に移動する事にしたのだ。

本来この地下基地もワシントン地下の研究所ができるまでの時間稼ぎの為に作られたようなものであり、前々からビートシステムの最終調整の為にもっと大きな設備が必要であると言われていたのも、今回予定を前倒しでワシントン地下研究所へ移動する事になった原因だった。

 

「しかし、ワシントンまで地下鉄が繋がってるなんて…大丈夫なんですか?ディソナンスに見つかった時とか…」

 

乙音のその疑問に、眼鏡をかけた青年が答える。ここの研究員の1人で、名をロイド・バーンという。ショット博士の息子だ。

 

「心配はいりませんよ。地下鉄はとても複雑に作られていて、迷宮のような構造になっていますし。なんなら遠隔自爆もできますからね、ここは」

 

「そうなんですか…あ、ロイドさん、出発っていつでしたっけ?」

 

「え?あー…今日の夜8時ですよ。到着は明日の朝7時でしたか。まあまだ時間はありますから、作業もゆっくりと…」

 

「何言っとるんじゃロイドーー!時間はギリギリと言ったじゃろうが!わかったらさっさと作業を進めんかーー!」

 

「はいはい……」

 

その3時間後、研究所内の荷物を運び終えた乙音達は、早速鉄道に乗り込む。目的地はワシントン。乙音がショット博士に聞いた話では、そこでビートシステムの量産体制を整え、さらに乙音の戦いの中で浮かんできた、ビートシステムの欠点を改善する為の強化案を練るらしい。乙音は引き続き、データ取得をはじめとした、様々な面からビートシステムの完成をサポートする。

 

 

「父さん、準備できました」

 

「よし…!ワシントンに向け、発進!」

 

「…ワシントンか……」

 

(日本のみんなは……どうしてるんだろう…)

 

 

こうして、乙音はワシントンへと向かう事になった。しかしそれと時を同じくして、ゼブラ達のいる日本に、新たなるディソナンスの脅威が迫ろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ゼイ…ゼイ…ギ、ギリギリ…甲羅は破られたが…生き延びる…事は…できた…』

 

乙音達がワシントンに向かった直後、亀型のディソナンスは息を吹き返していた。乙音達の目から隠れるようにして、廃墟の街に潜んでいた亀型は、音成へ新たな脅威を報告しようとしていた。そんな時、フードを被り、顔を隠した男が、廃墟の街にやってきていた。

 

『ム、あれは…人間か!ちょうどいい…あいつのハートウェーブでも…食って…この傷を、癒してくれる…』

 

亀型は荒野をこの街に向かって歩いてくるフードの男を見ると、すかさず物陰に隠れる。そしてフードの男が街に入ってきた瞬間、素早い動きで姿を現し、奇襲をかける。しかし、亀型が食ったという確信を抱いたその瞬間に、その身体は無残にも消滅していた。

 

『……木村、乙音…』

 

亀型を容易く消滅させたフードの男は、一言だけ呟くと地面に手を置き、そのまましばらく動かないでいたが、不意に顔を上げると、今度はワシントンの方へと歩き始めた。

 

『………伝えなければ…』

 

そう呟いたフードの男、そのフードの中からは、陽の光を浴びて輝く、金髪が見え隠れしていた……。




ソングの方はいいんですが、新作として書き始めたナイト×ナイトが思ったようにかけず、私の目から見ても、かなり駄目な作品になってしまっていて、非常に悩む。果たしてこのまま書き続けていいのかと。

読者に対しては、その数がどれだけ少なくても誠実でありたい。でも自分の文章力では書きたいものが書けないというジレンマ。どうすればいいんでしょう…?せめて第1章は書き上げたいんですが…うーん。

それはそうともしかすると息抜用の短編集でも作るかもしれません。とにかくやりたいことをやったり、思いついたアイデアを処理するための場所として。まあ、今はソングとナイト優先ですが。

さて、次からは日本に舞台が移ります。それと同時に第2部以降からの強敵も登場しますので、お楽しみに。からくりサーカスからだいぶ強い影響を受けたキャラクター達です。


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デス・トレイン運行中


新敵幹部登場の巻。今回はがっつり戦闘回です。…日常回?そんなものは俺の管轄外だ。


「……そうですか、ビートライダーシステムは、無事…」

 

『ウム、完成したぞい。後はこれを煮詰めて、量産するだけといった所じゃの。まあ改良案ももうすでに出してはおるが…どれもいまいちでのぉ』

 

「今は当面の戦力確保さえ出来れば十分ですよ。しかしよくやってくれました…」

 

特務対策局本部ーー東京スカイツリー跡地に新たに作られたそこの三階、局長室に、特務対策局局長、本山猛の姿があった。今彼はビートライダーシステム完成の報を聞き、ショット博士に連絡を取っているところだ。

 

「…乙音君もそちらに!?……そうですか、そちらでシステムの調整に……はい、わかりました。…乙音君のことを、よろしくお願いしますね」

 

通話を終えて、フーッと一息つく猛。最近ディソナンスの攻撃が以前よりも激しくなってきており、ついに来たる戦争の気配に、彼をはじめとした特務対策局のものは戦々恐々としつつも、激務をこなしていた。もちろん疲れはあるが、それを表に出せる訳でもない。身体を襲う疲労に耐えながら、ライダー達のサポートを行っていた。

 

「……乙音君の所在は掴めた。後は、彼らを呼び寄せるだけだ」

 

猛がそう呟いた時、局長室の扉が開く。

 

「そうだろうと思って、既に準備はしておきました。明日には到着するかと」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのは、猛の秘書としてライダー達の活動をサポートしている女性、大地香織だ。以前はライダー達のオペレーターであった彼女だったが、戦いの場が世界に移った事もあり、より多くの面からライダー達を支えるため、猛の秘書として各地を飛び回りつつ、ライダー達の支援を行っていた。

 

「刀奈ちゃんは日本に戻るのは、2週間ぶりでしたね…真司くんは、もう少し時間がかかりそうです」

 

「刀奈君にはディソナンスの被害にあった土地での慰安ライブ、真司君にはドイツでの極秘任務を任せていたが、2人とも、そうか……無事に戻れそうか…」

 

「はい、良かったですね……ところで、ゼブラちゃん達はどこに?探しても見つからなくて……」

 

香織が局長室にやってきたのは刀奈と真司の事もそうだが、ゼブラ達が今どこにいるか探しているためだった。

 

「……ん?彼女達がどうかしたのかい?」

 

「いえ、少し気になる事があったので、話をしておこうかと…まあ、いないならいいです。では……」

 

一礼すると局長室を出て行く香織。彼の兄である大地勝もそうだが、今はビートライダーシステムの量産体制を出来るだけ整えたり、各地に潜むディソナンスの炙り出しで忙しいのだ。ライダー達も世界各地での戦いに疲弊してきており、ビートライダーシステムは数で押し潰される前に数を揃える必要があるからこそ、出来たものであった。

 

「今は、彼女達には十二分に休んでもらわなければ……いつその力が必要になるかわからないからね…さて、仕事再開といくかぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猛達が激務に勤しむ中、ゼブラとボイスは2人で久々の休日を楽しんでいた。ゼブラもボイスも戸籍上は存在しないため、彼女達は他ライダー達よりも軽いフットワークを活かして活動していた。その為戦いに駆り出される事が多く。このような平和な休日は本当に久しぶりだった。そんな彼女達は今、特務対策局近くのデパートに来ていた。ボイスは適当に過ごすつもりだったが、それではいけないと感じたゼブラがボイスを誘ったのだ。現在は朝9時、2人はデパート内の服飾店で買い物をしていた。ちなみに桜はアイドルとしての仕事で来れなかった。

 

「ボイスさん、次はこれを……わぁ〜!似合いますよ!それ!やっぱりボイスさんには女の子らしい服です!」

 

「う、うるせー……お、オレに、こんな服…!」

 

ぷるぷると恥ずかしさに震えるボイスと、キラキラした瞳でその様子を見つめるゼブラ。デパートに私服を買いに来たはいいものの、男物の正直言って、似合わない服しか買おうとしなかったボイスを見かねて、ゼブラが似合う服を選ぶと言い出したのだ。ちなみにこの時ゼブラに「服を選ぶセンスが無い」とはっきり言われたボイスはかなり落ち込んでいたが、今のゼブラに容赦は無かった。ボイスが口を挟む間も無く次々と服を持ってきては、まるで着せ替え人形のようにボイスに服を着させていく。ボイスが気づいた時には、買い物カゴいっぱいに福が詰め込まれていた。しかもゼブラはもっと買おうとしている。流石に焦り、ゼブラを止めようとするボイス。

 

「ま、待て待てゼブラ。そんなに買ったら金が無くなるだろ?だから……」

 

「大丈夫です!ライダーのお仕事のお陰でお金だけはたんまりたまってますから!だから……逃げられませんよ?」

 

「……か」

 

「か?」

 

「勘弁してくれーー!!」

 

その後ボイスが解放されたのは、12時を少し過ぎた頃だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これが、日本か……音成様の生地、どんな場所かと思えば、ただの平和ボケ共ばかりの国…この程度のハートウェーブでは、腹の足しにもならんな…』

 

とある路地裏、そこに、黒いフードを目深に被り、全身を覆い隠した男がひっそりと佇んでいた。

男の背後にはそこら辺のサラリーマンと思しき死骸が転がっているが、そのサラリーマンの死骸には顔が無い。まるで何かに吸われたかのように面の皮が剥がされてしまっており、皮が剥がされた事により露出した筋肉や骨は、ズタズタに捻れてしまっている。

 

『…やはり、人が多く集まる場所……この国で、効率的にハートウェーブを回収できる場所は…』

 

フードの男が駅の方角に目を向ける。現在の日本で最も多くの人間が利用する施設の内の一つである駅に。

 

『いや……まだ早いか…やるのは…』

 

『乗ってから…止められなくなって……からだ』

 

『だが…ライダーが厄介…だな……まずは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ディソナンスが!?…はい…はい…わかりました。ボイスさん!」

 

「ああ、オレは駅の方に行く。そっちは頼んだぞ!」

 

「はい!無事で!」

 

午後、食事を終えて町中を散策していた2人は、ディソナンス発生の報を受け取り、路地裏で変身。そのままディソナンス発生地点まで走り出した。発生地点は2つ。どちらも離れた場所なので、オペレーターによる遠隔操作でやってきたバイクーーメロディライダーに乗って急行する。

 

「それで、ディソナンスは!?」

 

『駅の近くで反応があったのですが…今は移動中の様です』

 

メロディライダーで町中を駆け抜けるボイス。駅で反応が現れたらしいが、その反応は高速で線路上を移動しているらしい。オペレーターの指示どおりには進むと、駅を過ぎ、線路沿いの道路に入る。ボイスの目の前で電車が走る。

「……!あれは!」

 

その電車の中に、ボイスは見た。黒いフードを被った謎の男が、電車内の乗客達に詰め寄る姿を、その足元に倒れる、顔を剥がされた無残な乗客の姿を。

 

「……ディソナンスは電車の中だ!オペレーター!ちょっと無茶する、細かいのは…任せたあっ!!」

 

『ぼ、ボイスさん!?何を…!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やだ…なに、あれ」

 

「う、嘘だろ……?人が、人が…」

 

黒フードの男ーー謎のディソナンスさ路地裏でハートウェーブを吸収した後、駅で電車に乗り、その中で乗客を路地裏の時と同じように殺害。あまりの喧騒に様子を見にきた車掌を脅し、電車を通常通りに走らせていた。今現在は他の乗客を電車の前方に押し込み、自分は悠々と座席に座っている。

 

(……こうやって電車を走らせている中でハートウェーブを放出すれば、ライダー達も気づきはすれど手を出しにくいだろう……ましてや此方には多数の人質。いざという時にはこいつらからハートウェーブを吸収すればいい。フフ……ライダーめ、来るならば早く来る事だな。さもなければ……)

 

黒フードのディソナンスが思考する姿を隙と見たのか、乗客の内の1人、まだ若い男がディソナンスに襲いかかる。背負っていたバッグを武器のようにしてディソナンスに叩きつけようとするが、そのバッグを突き破ってきたディソナンスの手に顔面を掴まれる。

 

『さもなければ、こうなる……さて、その勇気に免じて、少し生き長らえさせてやろう』

 

圧倒的なディソナンスの握力に抗えない若い男は、不意に息苦しさを感じた。その息苦しさはどんどん大きくなり、徐々に顔が青くなっていく。

 

『クク……真綿で首を絞められるように死んでいく感覚はどうだ?自分の息が、徐々に途切れていく……恐怖だろう?だが幸運だったな…本来ならばそこに転がっている男の様に、顔の皮を剥がされてお前は即死していたのだ。それがこうして少しでも長く生存できる…この私の前で、それは幸せな事だと思うがいい』

 

「ゴ……かヒュッ、ひゅ……あ……エ…」

 

若い男の顔面が青く染まり、ディソナンスの手を引き剥がそうとしていたその手は、ダランと垂れ下がる。もはやあまりの恐怖に、乗客達が悲鳴すらあげられなくなった、その時ーー

 

ガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

『!?』

 

細かいが大きい破裂音が鳴り響き、ディソナンスにエネルギー弾が襲いかかる。慌てて男を放して銃撃から逃れようとするディソナンスだったが、それは既に読まれていた。

 

『……馬鹿な』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

メロディライダーごと走る電車に突っ込んできたボイスが、銃撃によって脆くなった電車の壁に突っ込んで、車内に侵入する。メロディライダーに乗ったままの状態でだ。仮面ライダーの強靭な肉体と、メロディライダーの耐久力があってこそ通る無茶であり、この考えを実行できる様にメロディライダーを遠隔操作したオペレーターの手腕も見事である。

 

「ギリギリ避けられたか!」

 

『ぐっ……』

 

ボイスはメロディライダーでディソナンスを押しつぶし、そこに銃撃で追い討ちをかけるつもりだったが、メロディライダーによる攻撃を避けられたのならば仕方ないと、2丁拳銃『リベリオン』による銃撃でディソナンスの動きを押さえ込みにかかる。

 

「そこのお前!早く後ろに!他の乗客達ももっと退がれ!」

 

「ぜっ…ぜっ…は、はい!」

 

「み、みんな、運転室の方に!」

 

他の乗客達をさらに奥へと逃したボイスは、メロディライダーから降りると、ディソナンスに銃撃を加えながら近づく。ディソナンスをできるだけ乗客から引き離すための行動だが、ディソナンスがボイスに手の平を向けた瞬間、ボイスの体に衝撃が走る。

 

「ぐっ……!?」

 

衝撃で止まった瞬間、次の衝撃が襲ってくる。嵐の様に襲いくる衝撃の中、ボイスはディソナンスの手に、穴が空いているのを見た。その穴は指先と手の平の合計6つ。今は片手だけしか見えないが、もう一方の手にも同じように6つの穴が空いていた。

 

「……ぐっ…穴!?…そういう…ことか!」

 

見えない衝撃の種に気づいたボイスは、リベリオンを消して、ガードを固めてディソナンスに近づく。ガードで守られているのは上半身だけで下半身はガラ空き。当然、ディソナンスはボイスの足を狙う。ボイスの足に衝撃が走り、崩れ落ちそうになるがーーこれこそが、ボイスの狙いだった。

 

(今だ……!)

 

足に銃撃を食らったボイスは、崩れ落ちそうになったその瞬間、その手にメガホン銃を出現させる。ボイスの下半身の方に注意を逸らされていたディソナンスはそれに気づくが、反応が遅い。態勢を崩しながらの銃撃をボイスに向けていた方、左腕にくらう。すかさず右手をボイスに向けるが、そちらは片方だけ出現させたリベリオンによる早撃ちで撃ち抜かれる。一時的とはいえディソナンスが怯んだこの瞬間を逃さず、ボイスは武器をメガホン銃から2丁のリベリオンに持ち替え、ディソナンスに一気に近づく。

 

「空気を圧縮して、見えない弾を撃ち込むって仕掛けだったんだろうが…ちょっとばかし、威力が足りなかったなぁ!?」

 

『……やはり、その程度はものともしないか…!』

 

「その程度で、止められると思うなよ!」

 

ディソナンスの両腕を2丁拳銃で封じ込めつつ、蹴りを食らわしていくボイス。右手をこちらに向けようとすれば右の拳銃で撃ち抜き、左手を後ろの乗客に向ければ左腕で抑える。両手でこちらの頭を掴もうとしてくれば、銃撃を両腕に撃ち込み、ガラ空きになった頭に頭突きを食らわせる。

 

『グ……ググ…』

 

「おおおおおおらあああああっ!!」

 

ディソナンスが怯んだ隙に回し蹴りを放つボイス。強烈な蹴りをくらい吹っ飛ぶディソナンスの姿を見て、乗客達から歓声が上がる。しかし、ボイスは手応えを感じていなかった。

 

(あのやろー、ワザと吹っ飛んだな?チッ…距離が開いちまった…)

 

ボイスの予想通り、直ぐに起き上がるディソナンス。しかし、ディソナンスに行動を許すボイスでもない。空気弾も対処は可能と、走り出そうとしてーー視界が、赤色に塗り潰される。そして、次の瞬間、今度はボイスが吹き飛んでいた。

 

「がっ……!?」

 

『……なかなかやるな、ライダー……ならば敬意を表して、名乗ってやろう。我が名はフィン、音成様によって直接創造された7体のディソナンス……七大愛(セブンラブ)が一体、「五指の弾丸(ファイブシューター)」フィンだ』

 

呻き声を上げながら立ち上がったボイスを、再び赤いエネルギー弾が襲う。あまりのスピードで飛来するそれを避ける術もなく、ボイスは膝をつく。先程から連射されているエネルギー弾は、そのどれもがボイスの渾身の一撃と同等の威力だった。

 

『あの空気弾で打ち止めと思ったか?まさか、自分の渾身の一撃と同じ威力の弾を、連射できる敵などいないと思っていたか?残念だが、これでもこの電車を壊さないように手加減しているのだよ。ほんの30パーセント程か…さっきのは』

 

「ハ……七大愛だかなんだか知らねえが、そんなダサい名前の奴に…『黙るがいい』……がっ…!?」

 

『君の命は私の手の中にある…それを忘れない事だ』

 

膝をつきながらも、折れずに悪態をつくボイス。しかし、それがフィンの怒りに触れたのか、目にも止まらないスピードで近づいてきたフィンに、ボイスは首を締め上げられる。

 

『このまま窒息させてやろうか…?』

 

「……かは…あ……」

 

(まず、い……くそ、オペレーター…に…)

 

オペレーターに、秘密回線で通信を行うボイス。ライダー達の共通機能ではあるが、使用する機会は少ない。オペレーターに状況を簡潔に説明すると、ある頼み事を行う。今にも窒息してしまいそうな状況で、あくまで冷静に物事をこなすボイス。しかし、フィンはあまり焦らないボイスに苛立ったのか、不意に首を締めていない方の手で、ボイスの顔面を掴もうとする。

 

『……まずは、この仮面を砕いてやろう…』

 

ゆっくりと、威圧感を伴ってボイスに迫るフィンの手。しかし、ボイスにとってこれは千載一遇のチャンスだった。

 

(さっそくチャンスが来やがった…!まだだ、もう少し引き付けろ…!)

 

『ククク……』

 

フィンの手を見つめたまま動かないボイスに、怯えていると思ったフィンはほくそ笑みながら、ゆっくりと手を顔に近づけていく。そして、手がボイスの仮面に触れるか触れないかというところまで来た時ーー

 

「……っ、今だあっ!!」

 

『なに…!?』

 

ボイスがフィンに向かって蹴りを放つと同時に、オペレーターに合図を叫ぶ。咄嗟にボイスの蹴りを掴むフィンだったが、両腕が塞がった事によりボイスの至近距離からの銃撃に対応できず、もろに食らったところをボイスに蹴りを放たれる。

 

『ぐっ……!?』

 

ボイスを逃すまいとするフィンだったが、フィンの体を踏み台に空中に逃げたボイスと入れ替わりに、オペレーターの遠隔操作でメロディライダーがフィンに向かって突っ込む。フィンもこれには堪らず、メロディライダーに車両の後部まで押されていく。

 

『グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』

 

メロディライダーの車輪に足を巻き込まれながら押し込まれていくフィンを見据え、ボイスはメガホン銃を構える。地面に着地して膝立ちになり、エネルギーをチャージ、必殺技の準備をする。

 

『voltage climax!!!』

 

『グウアッ!?』

 

「…喰らいやがれっ!!」

 

そして、後部の運転席にまで到達し、フィンの体が壁に激突したところで、ボイスは必殺技を発動する。

 

『rider ultimate Canon!!!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

咆哮と共に放たれた弾丸はメロディライダーごとフィンを貫きーー後部車両を吹き飛ばす大爆発が起こる。

 

「きゃあああああああああっ!?」

 

「ゆ、揺れる…!」

 

「おおわあああああああ!?」

 

激しく車両が揺れるが、それでも脱線はしなかった。爆破自体がそこまで大きくはなかったからだろう。

 

「だいぶ、無茶したが……やったか…」

 

線路に転がる、車両の残骸を見ながらそう呟くボイス。とりあえず事の解決を伝える為に車掌に話をつけようと振り返った、その時。

 

ズギュン!!

 

「……あ?」

 

空気を切り裂く男共に、鋭い痛みがボイスの背に走る。そして次の瞬間、ボイスは自らが血を吹き出しているのを、赤く染まり行く目で知覚した。

 

「……くそ」

 

立っていられず、倒れふすボイス。薄れ行く意識の中で最後に思った事は、他のディソナンス討伐に向かったゼブラの安否だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手こずらせて、くれる……』

 

後部車両の爆発に巻き込まれたフィンだったが、黒フードが焼け焦げた以外は、体に大きな損傷は見当たらなかった。その体はフード無しでも全身黒ずくめの細身であり、顔には仮面を被っている。しかし、その仮面にはヒビが入っていた。

 

『私の仮面に、ヒビを……貴様』

 

フィンのエネルギー弾を喰らい、倒れふすボイスの頭を掴むと、乗客に見せつけるようにして掲げる、そしてボイスの仮面を掴み、思い切り力を込める。するとボイスの仮面に、フィンの仮面と同じようにヒビが入っていく。

 

『貴様の仮面を壊し、その上で顔面を捻り取ってやろう……!』

 

凄惨な光景を見せ付けられようとしている乗客達は、不死身の怪物の存在と、血を吐きぐったりとするヒーローの無惨な姿に、もはや声も出ない。

 

『フフフ……ハハ……クハッ、ハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

車両内に、怪物の笑い声がこだまする。上空を飛ぶヘリの音すらもかき消すその声は、人々に絶望を植え付ける………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれか、後部車両の吹っ飛んだ電車」

 

「間に合えば、いいのだが…!」





作業の手間とネタの関係で、第2部以降は挿入歌演出は控えめでいきます。第1部ではほぼ1話ごとに挿入歌の歌詞書いてたんですよ!勘弁してつかあさい!

あ、劇中での電車に関してですが、特務対策局がディソナンスの存在を感知した時点で運行は停止させています。なので爆破で被害は出てません。特務対策局からもお金は出るので。

さて、ボイスちゃんの運命は……?


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七大愛の脅威


毎度毎度、更新も遅ければクオリティーも低くてすいません。前に始めた新作の方も、文章力と話の練りこみ不足で、半ば黒歴史化しかけている始末……完全オリジナル作品を書ける人は、本当に尊敬します。

さて、今回は2人目の七大愛が登場します。七大愛ではだいたい中間ぐらいの強さです。今の設定では。


ーー東京都、上空

 

「では、行って参ります」

 

「…本当に大丈夫なんですか?せめてパラシュートだけでも…」

 

「必要ありません。では…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クク……もう少しだ…もう少しで砕ける……』

 

電車内部、大勢の乗客達の前でディソナンスであるフィンに敗北したボイスは、今まさにその仮面を砕かれようとしていた。

もはやボイスには指一本動かす力すら残されておらず、車内の乗客達がディソナンス相手に何をできるというわけでもない。

 

『クク……クククク……』

 

ボイスの仮面に深々とヒビが入る。ボロボロになり、その上で正体を暴かれようとしているボイスの姿は、とても痛々しいものだった。

 

『おおっと……中身が見えてきたぞ…?』

 

そしてついに、仮面の一部が砕け、ボイスの白い髪が露出してしまう。まだ正体を特定するには足りないが、仮面ライダーの仮面が砕かれてしまったという事実に、驚きを隠せない乗客達。

そして、このままフィンはボイスの仮面を一気に砕こうとーー

 

 

「待てーーーーいっ!!!」

 

 

ーー砕こうとして、できなかった。上空から飛び降りてきた影が、電車の車両ごとフィンの片腕、ボイスの顔面を抑えていた方を切り飛ばしたのだ。

 

『……何者!?』

 

車両が切り離された事で、乗客達が乗っている前方の車両は遠ざかっていく。そして、ボイスは空から飛び降りてきた影に助けられ、今は車両の座席に横たわっている。

目にも留まらぬスピードで現れた影、その正体はーー

 

 

「仮面ライダーツルギ……いざ参る!!」

 

日本に帰国した世界的アイドルにして仮面ライダーの一人、仮面ライダーツルギこと、心刀奈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボイスとフィンが戦い始めた頃、ちょうど空港に到着していた刀奈だったが、特務対策局に一度戻ろうとしたところで、ボイスが強敵と戦っていると聞いて、直接ヘリで救援に向かう事にしたのだ。

地理的にはやや遠かったが、ボイスの粘りもあって、ギリギリ間に合ったのである。

 

「…よくも私の仲間をここまで痛めつけてくれたものだ……次はその首をもらう!」

 

『ツルギ……!ちっ、流石にこの状態では分が悪い…!』

 

フィンに斬りかかろうとする刀奈だったが、その時切り飛ばしたはずのフィンの腕が動き出し、刀奈に向かってエネルギー弾を放つ。しかし、刀奈のスピードはそれ以上だ、フィンの不意打ちをかわしながらも、その走りを止める事はない。

 

「もらった!」

 

『ちっ、ならば左腕はくれてやる!』

 

刀奈の剣がフィンの首を捉えようとした瞬間、剣を振るう腕を、フィンの左腕が抑える。切り飛ばされたフィンの左腕だが、そうとは思えないほどの、信じられない握力で刀奈の腕を抑えてきたため、流石にまずいとフィンの左腕を外しにかかる刀奈。フィンはその隙をついて、車両の窓から飛び出していく。

 

「あっ!」

 

『この左腕の借りは返す……!仮面のヒビもだ!ボイスと共にいつか葬り去ってくれる!』

 

捨て台詞を残して、線路の下へと消えていくフィン。それと同時に、フィンの左腕による拘束も緩んだため、慌ててその後を追おうとする刀奈だったが、ボロボロのボイスを残してはいけないと、追撃を断念する。

 

「……仕方ない。ボイスを助けられただけでも、良しだ」

 

その後、他のディソナンスを倒して駆けつけてきたゼブラと合流した刀奈は、ボイスを抱え、特務対策局の医療班と合流。久々に特務対策局に戻る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

「……目が覚めたか?今、ゼブラを呼んでこよう」

 

フィンとの戦いから3日後、特務対策局の医務室で、ボイスは目を覚ました。

フィンの弾丸による傷は深く、身体に傷跡が残ってしまったが、命に別状はなく、後遺症も残らなかった。

 

「ボイスさん〜〜うう、良かったです〜!」

 

「わ、こら……あまりくっつくな!傷にさわる…」

 

「あ、すみません…でも、心配したんですよ?だから、もう少し…」

 

「……手ぐらいは握ってていいから!はぁ…あー、先輩も、ありがとうな、助けてくれて」

 

「フ……礼はいい、私は局長に会ってくるよ」

 

ボイスが無事目を覚ました事に泣きながら喜ぶゼブラと、ゼブラの涙に困惑しつつも照れるボイスと別れ、刀奈は猛に会うために医務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうか、解析は順調に進んでいるんだね?」

 

「はい、左腕だけとはいえ、多くの情報を得られました。これでビートライダーシステムの方も…」

 

「うん……しかし、七大愛…か。全く、ふざけた名前のーー」

 

「…失礼します、ボイスが目をーー話の途中でしたか」

 

ノックしても返事がなかったものの、ドアは開いていたので局長室に入室した刀奈だったが、中では猛と勝が話し合いをしており、一旦退室しようとするものの、2人に引き止められる。

引き止められた刀奈は、2人にボイスの目が覚めた事と、現在の容体を報告する。ボイスの育ての親とも言える勝は刀奈の報告に安堵し、猛はボイスが無事だった事に、様々な意味で安心する。

 

「……そうか、ボイスは無事、目を覚ましてくれたか……」

 

「ボイス君には、後遺症も残らないと聞いたよ。これで色々な意味で一安心といったところだね」

 

「……は、といいますと…?」

 

「……刀奈君には先に話しておこう。勝君」

 

「そうですね……刀奈君、ビートライダーシステムの事については、聞いているね?」

 

「?はい…こちらに帰還した時に簡単に聞いてはいますが…」

 

勝の言葉に怪訝な顔をする刀装がを尻目に、勝は何らかの端末を操作して、あるデータを刀奈に見せる。基本的に脳筋である刀奈にはそのデータの意味は分からなかったが、すぐに勝による解説が入る。

 

「それはビートライダーシステム…ディスクセッターを装着した時の、君たちライダーの想定スペックだ。それは真司君のものだが、パンチ力、キック力、走力…あらゆるスペックが上昇しているのが、わかりやすいだろう?」

 

「…これは、真司のデータだったんですか。あの特徴的な巨拳が無かったので、わかりませんでした……」

 

「それがディスクセッターを装着する事による変化の一つだよ。真司君の場合、強力なパンチ力はそのままに、格段に戦い易くなっている」

 

勝の説明を受けながら、各ライダーの想定スペックを閲覧する刀奈。あくまで予想ではあるものの、ディスクセッターを装着する事による劇的なスペックの向上とフォームの変化に、流石に驚きを隠せないようだ。

 

「これは…凄いですね……」

 

「これも乙音君がショット博士に協力してくれたおかげだよ」

 

「乙音くんが!?……そうですか…元気にやっているようで良かった…。今はどうしてるんですか?」

 

刀奈の質問に、まずい事を聞かれたと言い淀む勝。その様子を不審に思った刀奈は、さらに追求する。

 

「あーー、今は……」

 

「……正直に答えてください。何か、あったのですか?」

 

何とか誤魔化そうとした勝だったが、刀奈の鋭い目線に流石に誤魔化しきれないと思い、正直に話す事にした。

 

「……実は今、ソングに変身できないんだよ、彼女」

 

「……!?何故ですか!いったい乙音くんの身に何が…!」

 

「……あー、少し長くなるけれど……局長」

 

「構わないよ。遅かれ早かれ話す必要がある」

 

局長からも許可を取った勝は、刀奈に先程まで猛と勝の会話の中心となっていた、ある存在について言及する。それは、乙音を変身不能にまで追い込んだ相手でもある。

 

「ボイスの戦闘データから解析した事だけど…天城音成が作り上げた最強のディソナンス達…七大愛。その一体が、乙音君達を襲ったんだ。3日前の事だよ」

 

「……なんですって!?」

 

「……まず、順を追って話そう。乙音君達は地下鉄でワシントンへ向かっていたんだけどーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー3日前、ワシントンへ向かう途中の地下鉄。屋根のない貨物車両で、乙音とショット博士は荷物の点検をしていた。

 

 

 

「ーーそうだ、ショット博士。局長達への連絡、ありがとうございました。積み込み作業で時間も無かったのに……」

 

「ん?ああ、構わんよ。むしろ君にはワシらは随分と助けられとるからのう、むしろもっとお礼したいぐらいじゃ」

 

当初は移動を察知したディソナンスの襲撃を警戒していた乙音達だったが、出発から2時間。追撃対策として作られた地下迷宮地帯も間近に迫り、すっかりリラックスモードである。しかし、悩める者もいた。それは、原因不明の水漏れに頭を痛めるロイドだった。

 

「?うーん」

 

「どうしたんです?ロイドさん」

 

「ああ、いや。ここの付近に水漏れがあるみたいでさ、地下水脈が近いのかな……?そんな事は無いような設計にはなってるはずなのに…」

 

端末を覗きながら、水漏れの原因を探るロイドだったが、この辺りの地形を調べたり地下鉄の整備過程を調べてみても、さっぱり原因を究明できない。

 

「……ふむ、少し見せてみい」

 

見かねたショット博士が、ロイドの端末を横から奪い、代わりに原因を調べる。すると、だんだんワシントンに近づくにつれ、水漏れの量が増えている事がわかった。もっといえば、地下鉄のスピードが上がるほどであるが。

 

「なんじゃ、これは…?まるで、この地下鉄を追っているようなーー」

 

「追って……?まさかっ!」

 

乙音が勘付いた瞬間、その頭上に水が落ちてくる。咄嗟に乙音が飛び退いた瞬間、さっきまで乙音が立っていた場所に、地下鉄車両の硬い壁や床すらも貫通する程の、鋭い水流……ウォーターカッターが飛んできた。

 

「……っ!2人とも!私の後ろに!」

 

「な、なんじゃあ!?」

 

「わ、わかりました!」

 

乙音の背後に博士とロイドが隠れた瞬間、天井からの水漏れが激しくなり、まるで地下鉄を覆うように水のドームが出来上がっていく。

 

「2人とも、車両の中に。みんなにディソナンスが現れたと伝えてください」

 

「ディソナンス!?しかしハートウェーブの反応は…!」

 

「それ以外に考えられません、とにかく早く!」

 

「…わかりました!行きましょう父さん!」

 

博士の手を引いて、ロイドが急いで車両の中に投げ込んでいく。それを確認した乙音は、腰にレコードライバーを巻き、ライダーズディスクをドライバーに挿入。そのまま仮面ライダーソング・D.Sスタイルに変身する。

 

「どこから来る……?」

 

槍を手に持ち、ディソナンスの襲来に備える乙音。その間にも水の勢いは増していき、ついに乙音のいる貨物車両も水浸しになる。それでも現れないディソナンスに、他の車両に、自分に気づかれないように襲撃を仕掛けたのかと心配になった乙音は、他の車両に、一瞬ではあるが、注意を向けてしまう。

しかし、その隙を見逃すディソナンスではなかった。

 

「…!?これ……っ!?」

 

乙音の体に、水が絡みついてくる。その水は乙音が振り払おうとしても、万力のような強さで乙音を締め上げ、徐々にその全身を拘束していく。現れたのは、黒と銀の鎧に身を包んだ、どこか魚を思わせる形状のディソナンスだった。

 

『やれやれ、手間取らせてくれて……隙をなかなか晒さないから、他の車両の奴らを殺してからにしようかと思ったが、案外我慢できないんだな』

 

「…お前は……!?」

 

『俺か?俺はディソナンス7幹部…少々ダサいが、七大愛の三、「三閃槍(トライデント)」、ゲイル。よろしくするのは、ここだけにしておいてくれ』

 

そう言うと、ゲイルはその手に水を集める。その水は槍の形状になり、ゲイルが水を打ち払うように振ると、その手には鋭い穂先の三叉槍が握られていた。

 

『さっそくだが、ここで死ね』

 

ゲイルはその槍を乙音に向かって投げつける。人間1人、いやライダーでさえも直撃すれば消滅は免れないと思わせる程の威圧感が乙音を襲う。しかし、拘束された今の状況でも、乙音は諦めない。

 

「乙女…は……ど根性ーー!!!」

 

気合いを入れ、咆哮を上げる。すると、乙音の体から大量のハートウェーブが放出され、水の拘束を弾き飛ばす。

 

「危なっ!」

 

拘束から抜け出し間一髪、ゲイルの槍を顔面スレスレで避ける。もし当たって入れば、顔に3つの穴が空くか、もしくは顔そのものが消滅していただろう。

 

『……やるじゃないか。こりゃ、俺も本気を出すしかないかな?』

 

「侮ってると、痛い目を見ると思うけど……っ!」

 

わざとらしく大仰な態度で隙を晒すゲイルに、乙音は容赦なく攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃のいずれもが、ゲイルの体をすり抜けてしまう。まるで水を攻撃するかの様な手応えに、乙音は驚愕する。そうして一瞬動きが止まった隙を突かれ、ゲイルに蹴りとばされ、車両の壁にぶつけられる。そこにゲイルが槍を投げつけてきたのを見た乙音は、咄嗟に横に回転してその攻撃をかわす。

 

『で?誰が痛い目を見るって?』

 

「……こりゃ、覚悟しといた方がいいかも……」

 

日本でボイスがフィンと戦っているのと時を同じくして、乙音もフィンと同じ七大愛であるディソナンス、ゲイルと戦う事となった。

地下鉄のワシントン到着まで、あと3時間。果たして、乙音はその時間までに、ゲイルを撃退できるのだろうか……。

 

「っ……くっ」

 

『フン……』

 

七大愛の脅威が、人類に迫ろうとしている……。





冒頭で刀奈に腕を切り飛ばされたフィンくんですが、正直片腕だけでも刀奈に勝てばします。行動不能のボイスもいますし。しかし、結局仕留めきれないうえ、下手したらゼブラが救援に来てしまうという可能性も考慮して、左手を犠牲にしてでも撤退したわけです。

これからどんどん強力な敵幹部が登場します。彼等にどう乙音たちが立ち向かっていくかは、次の回で。多分、きっと、メイビー。


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over the song


ふー、なんとか挿入歌も加えて書き上げたぜ。

今回はあまり話が進みませんが、次回以降からだんだん加速させたいですね。


ボイスがディソナンス幹部、七大愛・フィンと戦っていた頃、それに前後して、乙音も七大愛であるゲイルと戦っていた。

両者とも列車での戦いだが、ボイスが車両内での戦いであるのに対し、ソングは屋根のない貨物車両での戦いとなる。しかし、ソングの装備やスペックでは、走る車両での戦いはかなりやりにくいものとなる。その上、ゲイルは水を操り、地下鉄に追いつけるほどのスピードで水に乗って宙を飛び回り、ソングを四方から攻撃してくるのだ。当然……

 

『やりにくいよなぁ!ハハハ…!どうした?他の車両に逃げ込んでもいいんだぜ?そっちの方がやりやすいだろ?』

 

「わかってて、言ってるでしょ…!?このっ…!」

 

ゲイルの言う通り、乙音…ソングとしては、ゲイルは車両内の方が戦いやすい相手である。液状化は厄介だが、その能力を除けば、接近戦ならば、乙音の方がほんの僅かに上。狭い車両内ならば、接近戦にも持ち込みやすい。格段に戦いやすくはなるのだが、乙音にはそうできない理由があった。

 

(ショット博士…ロイドさん…研究員さん達……ここで私が車両内に行けば、こいつは必ず彼等を狙う……やりにくい!)

 

今はゲイルと乙音の戦いに巻き込まれないよう、車両内にショット博士達が逃げ込んでいる。乙音が車両内に投げ込めば、ゲイルは彼等を積極的に狙うだろう。そうなれば乙音の動きも極端に制限されるうえ、万が一にでも博士達がやられれば、ディソナンスに対抗するための切り札ともいえるビートライダーシステム完成に、大きく遠ざかってしまう。ゲイルと乙音はパワー自体は互角だが、乙音自身、やろうと思えば、この地下鉄を吹っ飛ばす事も可能ではあるというのも、車両内に乙音が逃げ込めない理由の1つだ。もしも車両内に乙音が逃げ込めば、中の乙音や博士達ごと、車両をゲイルが吹っ飛ばすかもしれない。そうなると、博士達はもちろん、乙音も無事ではすまない。乙音に残された選択肢は、突破口が開く事を信じて、不利な戦況のまま、ゲイルと戦い続ける事だけだ。

 

(このままじゃ、ジリ貧……!かといって、退くも押すもできない…!)

 

実質的に嬲り殺されているような状況に焦り、乙音は水に乗って宙を飛び回るゲイルを叩き落とそうと、無茶な攻撃を繰り返す。

 

『おっと、懸命に槍を振るってはいるが、そんなノロマじゃあ、俺は捉えられない。逆に……』

 

しかし、ゲイル相手にそれは悪手にしかならない。逆に今まで防げていたはずの攻撃を喰らい、地面に叩き落される。

 

「!?くっ……」

 

『オラオラオラッ!』

 

地面に伏せた乙音を狙って、ゲイルは容赦なく水の弾を放つ。鉄板すら撃ち抜くそれを、乙音は床を転がりながら回避、すぐさま飛び起きて槍を回転させて小さい弾を弾くが、直後に飛んできた巨大な弾の直撃を喰らい、車両感の間にあるドアに叩きつけられる。槍は線路に落ち、鈍い音と共に、車輪に砕かれる。

 

「ぐっ…はっ……っ…」

 

背のドアを支えに立ち上がろうとする乙音だったが、足が震え、うまく立つ事ができない。そんな乙音を嘲笑うように、ゲイルは地に降り立ち、ゆっくりと乙音に近づいていく。

 

『ハハハハハハハハハハハハ……』

 

「ぐっ……」

 

正に絶体絶命の窮地に晒されている乙音の様子を、ショット博士達は、今乙音がもたれかかっているドアの反対側の車両から、ゲイルの背中越しに乙音の様子を見て、青ざめていた。

 

「ど、どどどどどどうします!?乙音さんがやられれば、次は…!」

 

「は、博士!ここはやはり、誰かが…」

 

焦りながらも、自分達のすべき事を話し合う博士達。しかし、結局は誰かが危険な目にあわなければいけないという結論に達し、さらに焦り始める。しかし、この状況でショット博士は霊性だった。

 

「うむ……ピンチはチャンス、今が好機かもしれんのう……」

 

「ならば、父さん。僕が行きます」

 

「ロイドさん!?」

 

ロイドの発言に騒めく研究員達を尻目に、ショット博士は、ロイドを静かに見つめる。

 

「……やれるんじゃな?」

 

「……はい、行けます」

 

「……そうか……頼んだぞ」

 

ロイドの手にディスクセッターを渡すショット博士。ロイドは静かに頷くと、飛び出すタイミングを計らうため、窓に張り付く。窓の向こうでは、乙音にゆっくりと近づいていくゲイルの姿があった。

 

『これで、終わりにしてやる……』

 

ゲイルが槍を振り上げる。そして、その瞬間ーー

 

「今だ……!乙音さん!跳んで!」

 

「!?ロイドさん!?」

 

『なんだ…!?』

 

ドアを開け、乙音に向かって叫ぶと共に、ディスクセッターを宙に放り投げるロイド。ロイドの声に反応した乙音は、同じくロイドに反応して隙をさらしたいゲイルを踏み台に宙に跳び、ディスクセッターをキャッチ、見事に着地する。

 

「乙音さん!ディスクセッターを装着して、あなたの持つ、もう一つのライダーズディスクを挿入してください!」

 

「もう一つの……!?アレか!」

 

ロイドのアドバイスに従い、自身が所有するもう一つのライダーズディスクーー初めてソングに変身した時に生まれたディスクを、ディスクセッターに挿入し、ディスクセッターを装着する。

 

『何をするつもりだ……!?』

 

「乙音さん、ディスクセッターのボタンを押して!それで準備は完了します!」

 

「……っ…わかり、ましたっ!」

 

乙音の行動を警戒したゲイルは、乙音に向かって槍を叩きつけるように攻撃する。それを間一髪で避けながら、ロイドの言葉に従い、ディスクセッターを操作する乙音。

 

「乙音さん、ビートに変身した時のように、レバーを引いて…!危険な賭けですが、それで!」

 

『くそっ、さっきから鬱陶しい!』

 

「……!?」

 

「ロイドさん!?」

 

ロイドの指示に従って、ディスクセッターのレバーを引いた乙音だったが、それとほぼ同時に、ロイドは向かって、ゲイルが特大の水弾を放った。スピードは遅いため避ける事はできるかもしれないが、それをやってしまえば、ロイドの背後ある車両に乗っているショット博士達は、全滅してしまうだろう。そして避けなければ、ロイド・バーンという一個人が、跡形もなく消滅してしまう。そして、そのどちらも許す乙音ではなかった。

 

「ロイドさん!」

 

「…乙音さん!?」

 

ディスクセッターから輝きを放ちながら、ロイドを庇おうとする乙音。そして、乙音がロイドの前にも躍り出た瞬間ーー

 

『……じゃあな』

 

 

チュドーーーン……

 

巨大な水弾が破裂し、爆発。乙音達の体が煙に完全に隠れる。炸裂時の衝撃波で車両が揺れ、ショット博士達も思わずこけてしまう。これだけの威力、乙音とロイドは、その肉片すらこの世には残っていないだろう。

 

『はっ…つまらねぇ。ここの奴らをいたぶって、憂さ晴らしでもするか……』

 

ゲイルが気だるげに、ショット博士達のいる車両に向けて歩き出す。未だに晴れない煙を、鬱陶しそうに槍で払いーー

 

『……なに?』

 

しかし、その槍は煙から出てきた手に、止められる。さっと飛びずさり、油断せずやりを構える。その目前で、煙が晴れていく。そこにあったのはーー無事な乙音と、ロイドの姿だった。

 

『ーー馬鹿な』

 

思わずそうもらしたゲイルだったが、驚くのはここからだった。乙音が掲げたディスクセッターから光の輪が飛び出し、それが乙音の体を通過していく。

 

『何だ……!?』

 

すぐさま乙音に向けて水弾を連射するゲイルだったが、乙音は避けようともせず、それを身に纏うオーラで全て弾き飛ばす。そして、光の輪が乙音の体を通過しきったその時ーー乙音の変身は、完了する。

 

「仮面ライダーソング、オーバービート……!!」

 

背のマントを翻し、変化した装甲を身に纏って、乙音は言う。ゲイル達に向けた、宣戦布告の一言を。レコードライバーから奏でられる歌と共に。

 

「心のビート……私の歌で、ぶっ倒す!!」

 

『やってみろっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《幾千の、試練を越えて》

 

まず仕掛けたのは、乙音だ。その身に纏うマントでゲイルの視界を遮り、的確にパンチとキックの連撃を放つ。さっきまでは乙音の攻撃をものともしなかったゲイルだったが、今は違う。乙音の拳を受け止めようと、ガードを固めたはずが、強い衝撃とともに、吹き飛ばされてしまう。

 

《心からの、この歌で、強くなる》

 

『ぐっ……この野郎!』

 

空中で態勢を整え、さっきまでと同じように、水に乗り、空中から乙音を攻めるゲイル。四方から水弾を放つが、乙音はマントを広げると、回転。明らかに巨大化したマントで水弾を受け止め、自らのハートウェーブを乗せて、弾き返す。

 

《幾億の、思いを乗せて》

 

『おおっ!?がっ……!』

 

乙音の反撃に驚いたゲイルは床に落下。すぐさま乙音はゲイルに近づき、ストンピングで追撃するが、ゲイルもそれを許すほど甘くはない。咄嗟に床を転がると槍を使って乙音に攻撃する。

 

『オラアッ!!』

 

《叩き込む、この歌を》

 

しかし、その槍を、乙音は素早く受け止め、ゲイルの腹をぶち抜く勢いで殴打する。吹き飛ばされ、別の車両の屋根に乗るゲイル。

 

《溢れる思いをーー!》

 

『グアアッ!?』

 

吹き飛ばされたゲイルを追って、乙音は跳ぶ。しかし、屋根に着地する瞬間を狙って、ゲイルが槍を突き出してくる。

 

『ハアッ!!』

 

《例え赤い血潮が、枯れ果ててもーー》

 

「……!ぐっ…」

 

咄嗟に左手を突き出して防御する乙音だったが、ゲイルの槍に装甲ごと貫かれ、左手の肉を抉られる。再び攻撃するため、槍を引き抜こうとするゲイルだったが、乙音は逃がさないとばかりに左手を握りしめると、槍がますます深く突き刺さるのも気にせず、右拳でありますゲイルの顔面を殴りつける。

 

《心のーー底からーー湧き出る思いが》

 

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

《熱く(熱く)》

 

『こいつ…バケモノかっ!?』

 

《身体(身体)》

 

《立ち上がらせるーー!》

 

咆哮と共にゲイルの槍を引き抜き、それを投擲、ゲイルの足に命中させ、逃げられないようにする乙音。そしてマントを変化させ、槍の様な形状にして、ゲイルを貫く。

 

『残念……だったな…!』

 

「……!」

 

しかし、ゲイルは液状化を発動し、乙音の攻撃を防ぐ。そして、液状化して体を動かし、四方から乙音に襲いかからんとするがーー

 

《歌え!(歌え!)》

 

「はあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

《愛を!(愛を!)》

 

『な……なにっ!?』

 

《叫べ!(叫べ!)》

 

《全開でっ!》

 

槍状のドリルが猛烈に回転し、液状となったゲイルを巻き込んでゆく。このままではドリルに消し飛ばされてしまうとでも思ったのか、液状化を解き、空中へと逃げるゲイル。しかし、乙音はそれを待っていた。

 

《思い貫くこの力……》

 

『over the song!!!』

 

必殺技を発動し、空中へ飛び上がる乙音。ゲイルが防御する間も与えず、空中に逃げ、地下鉄から離れたゲイルを仕留めにかかる。

 

《集え!(集え!)》

 

《放て!(放て!)》

 

『rider kick!!!』

 

《歌え!(歌え!)》

 

『う、うおおおおおおああああああああっ!?』

 

ライダーキック。必殺の一撃がゲイルを捉え、地下の壁に、その体を擦り付け、削り取ってゆく。

 

《響く残響、それが残るなら……!》

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

《戦おうーー!》

 

『ぐあがあああああああああああああああああっ!!!』

 

ドゴン!と大きな爆発音と共に、地下の一部が崩壊する。地下鉄はその崩落による落石を危ういところで避け、目的地であるワシントンへ向けて進む。乙音はゲイルを落石で生き埋めにした後、爆発の衝撃に、半ば吹き飛ばされる形で、車両へと戻ってきた。落下地点は貨物車両。変身が解除され、仰向けに倒れる乙音に、ロイドとショット博士をはじめ、地下鉄に乗っていた研究員達が駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?乙音さん!」

 

「大丈夫、です……でも、レコード…ライバー…が…」

 

乙音の言葉に、ロイドがレコードライバーを見ると、落下の衝撃か、あるいはディスクセッターとの無茶な運用のためか、レコードライバーにはヒビが入っていた。変身を維持できなくなったのもそのためだ。

 

「ふうむ……ディスクセッターと組み合わせての運用は、やはりレコードライバーに多大な負荷がかかるようじゃのう…すまんかったの、乙音君……」

 

「いえ、大丈夫、です……それよりも、さっきの、力は…」

 

「……それは、ワシントンについてから説明します。とりあえず、今は休んでいてください」

 

「……わかり、まし、た…」

 

そう呟くと、糸が切れたように眠る乙音。どうやら、無茶な運用は、乙音自身にも相当な負荷をかけていたようだ。

 

「…とりあえず、乙音君を休ませるぞい。猛君にも連絡を」

 

「連絡は僕の方でやっておきます」

 

「よし。さあ、ワシントンまでもうすぐじゃ!それまで気を抜くでないぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「さて、どう説明したものですかね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけさ。今はもう大丈夫らしいが、まだレコードライバーの修復作業は終わってないらしい」

 

「そう、だったんですか………貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました」

 

日本、特務対策局。3日前に起きたゲイルと乙音の戦いの顛末を、勝と猛の口から伝えられた刀奈は、話を聞き終わると、一礼して、局長室を去っていく。おそらく、トレーニングルームに向かうのだろう。

 

「……局長、やはりあの力は…」

 

「……まだ早いかもしれない。しかし七大愛は強い。まだ被害が大きくならないうちに彼等を倒すには、あの力が必要…それは刀奈君もわかっているだろうさ」

 

乙音が使った力は、正に禁断の力とも呼べるものだった。意図的にハートウェーブを限界まで高めるそれは、かつてバラクとキキカイを倒した時のように、2つのライダーズディスクを、ディスクセッターとレコードライバーを用いることで共鳴させ、デュエット状態を単体で擬似再現するシステムだった。その名もーー

 

「オーバーライドシステム…ビートライダーシステムと並行して開発と研究が進められていた、禁断の力…彼女達が、あの力を使いこなせるようになる事を、祈りましょう」

 

「そうだね……いつだって無力な大人には、それぐらいしかできないのだろうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球のどこかーー

 

「……くそっ、まだ傷が痛みやがる。まさか生き埋めにしてくるとは…お陰で任務は果たせないわ、深手は負うわ、散々だったぜ」

 

「私など左手をもっていかれたのだぞ。新しく調整してもらったが、まだ馴染まん」

 

「仮面ライダー……やはり、音成様の計画には、危険な存在だな」

 

「…今度はお前がいくか?」

 

「いや、俺の出番はまだ先だ。それよりも、今はチューナーの調整を優先したい。どうも一度実戦に出されるつもりのようだ」

 

「おおっ、マジか!じゃあ、旧ディソナンスの奴らもくっつけてやったらどうだ?抑え役程度には働くだろう」

 

「そうだな…音成様に反する思想を持った奴らには、狂犬の世話が似合いの仕事だろう」

 

「違いねぇな。で、チューナーの犠牲になるのは、どこだ?」

「……日本、東京都だ」

 

 

 

 

 

 

 

 





旧ディソナンス…一体どいつらなんでしょうかねぇ?(笑)余談ですが、七大愛はもともと影も形もなかった奴らでした。バラクやキキカイ、カナサキ、ドキの4人では最後まで話を持たせられないと思った故の判断です。

……オーバーライドシステム?…強化案はあったんですが、ここで出すつもりはなかったです。ゲイルが強すぎたんや……


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phoenix song

超☆難☆産今回は過去最高に悩まみました。正直ラストの戦闘シーンに全力を注ぎ込みましたが、あとはもう適当というか、本当に黒歴史レベルです。やっぱり小説を書く前には奈須きのこの文体を見て投影するのが一番ですね。はい、今回の戦闘シーンはきのこ節に影響受けてます。Fateの二次創作でも書きたいっすね。ライダーヘクトールとか、ローランとか、アイデアは色々とあるので、短編でもいつかはカタチにしたいです。


「はっ、せい、せりゃあ!」

 

「甘い!足の動き!そこで止まっては、いいようにやられてしまうぞ!」

 

特務対策局、訓練室。以前のものと比べてだだっ広くなったそこで、刀奈とゼブラは特訓を重ねていた。

ボイスが重症で戦闘不能になり、真司が極秘任務で不在、乙音がアメリカにいて、しかもソングに変身できない今、まともに戦えるのは、刀奈とゼブラ、そして桜の3人だけだ。

今桜は別室で体力作りに励んでいる。アイドルとして活動してきただけはあり、相当なタフネスを持つ桜だが、激化するディソナンスとの戦いには、他のライダー達よりも、僅かだがスペックで劣る彼女は更に鍛える必要があった。

とはいえ、鍛える必要があるのは桜だけではない。刀奈とゼブラもまた、このままでは七大愛の脅威には対抗できない。だからこそ、こうして訓練を積んでいるのだが……

 

「はっ…はっ…もう、一回……」

 

「いや…私も……限界だ…そろそろ、休もう……くっ…」

 

ーーはっきりいって、全くと言っていいほど強くはなれていなかった。既に数多の激戦を乗り越えてきた彼女達だったが、今更激しい特訓を積み重ねても、伸び代は殆どない。その上、今の彼女達は乙音の事やボイスの事、七大愛に対しての恐れや警戒心もあり、訓練に集中できないでいた。これでは身につくものも身に付かないだろう。

 

「……2人とも、頑張りすぎよ。もう少し力を抜きなさいって、焦ってもしょうがないし」

 

2人がヘトヘトになって訓練室の床に寝転んでいるところに、トレーニングを終えた桜がやってきた。2人と異なりあまり無茶をしているわけではないので、かなり余裕がある。

 

「いや…桜…そうは…いっても、だな…」

 

「疲れてるんだから、無理に喋ろうとしないの。はいこれ、スポーツドリンク。置いとくから、一息ついたら飲みなさいよー」

 

「ありがとう…ございます……」

 

「それじゃね、私はこれからちょっと仕事行くから」

 

そう言うと、足早に訓練室を出て、更衣室で仕事用の服に着替える桜。最近はディソナンスの活動の活発化もあって、桜や刀奈などアイドルとして活動している者は、ディソナンス被害にあった各地への復興支援活動等で、ディソナンスの活発化以前よりも仕事が増えていた。

 

(アイドルとライダーの二足のわらじも、大変ね……)

 

桜も近年有名になったアイドルなので、復興支援ライブを開いたり、精力的に活動はしているのだが、ディソナンスの動きが活発化するということは、ライダーとしての仕事も増えるということ。アイドルとライダーの二足のわらじを3年以上履き続けてきた彼女だったが、そろそろ限界が近づいてきてはいた。同じアイドルでライダーである刀奈は、その辺りは割り切ってライダーの方を優先しているが、3年間戦いを続けてきたとはいえ、元々彼女は、ディソナンスの目を集めるためにアイドルとなった刀奈と違い、トップアイドルを目指してアイドルになった身である。ライダーとしての仕事に専念した方が良いとわかってはいたが、それでも自身の夢を諦めることもできなかった。

 

(…身勝手だな、私……どうせなら、ライダーってことを、公表できればいいのに…)

 

ライダー達は、その正体を世間に公表していない。公表してしまえば楽になることもあるのだが、それ以上に要らぬしがらみが増えてしまう。何より世間には仮面ライダーのことを快く思わない者も多い。頭の固い、一部の政治家もそうだが、人々の中には、仮面ライダーがディソナンスを呼び込んでいるのではないかと唱える者もいる。中には、ディソナンスは仮面ライダーが生み出した怪物だという者もいるのだ。ライダーシステムの生みの親が敵の首魁である事といい、ライダー達には面倒な事実があるのも、彼女達の正体を公表できない理由の一つだ。

 

(……いけない、今日はライブの打ち合わせがあるんだから、ちゃんとしないと)

 

沈む気持ちを抑えて、表面上は笑顔で仕事に挑む桜。しかしライダー達の中でもムードメーカーといえる明るさを持つ彼女も、その内心には不安と、微かな恐怖があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……やはり、チューナーを暴れさせるならば、ここだな』

 

『ここか……確かに、こいつの威力を計るにはちょうどいいかもな』

 

『……どこへ行く?』

 

『なに、少しアメリカに、観光にでも。じゃな』

 

『……分からん男だ。まあいい、日本へ向かう支度をしようかーーキキカイ殿?』

 

『……このクソ男』

 

『何か?』

 

『……いえ、何も(こんな時に、バラクはどこいったのよ……!)』

 

『まあいい、ではーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、今日はライブに来てくれて、あっりがとーー!!」

 

ウオオオオオオオオオオ!!!

 

「桜ちゃーん!」

 

「こっち向いて!こっち!」

 

「はあああ……お姉さまぁん……!」

 

2日後、ライブ当日。この日に向けて準備を重ねてきた甲斐もあり、客席は満員。ドームでのライブイベントという事もあり、桜の目の前には人の群が広がっているが、桜も伊達に3年以上アイドルを続けてきたわけではない。歓声の爆発にも負けず、声を張り上げ、歌を歌う。華麗なステップを踏み、観客を魅了する。

 

オオオオオオオオオオオオオオ!

 

歓声は更に大きいものとなっていき、ドーム内の熱気は最高潮を迎える。その盛り上がりはドーム外にまで伝播し、若干の人だかりが出来上がっていた。

 

「ふう……今日のライブは大成功ね!」

 

今現在、桜は休憩をとっている。桜のライブは激しいダンスによるパフォーマンスが特徴だが、歌いながらのダンスというのはかなり疲労する。正直、ライダーとしての戦いよりも体力面できつくなる事が多いほどだ。なので、彼女はこういう休める時は思い切り休む事にしている。

 

「あー……お水持ってきて、水。そう、ありがとー…」

 

「肩揉んでー…足揉んでー…腰揉んでー…あーそこ、そこそこ」

 

スタッフの世話を受けながら、全力で休む桜。こうしておかないと、ライブの後半でばててしまう。

 

「……よし、頑張りますか」

 

休憩時間も終わり、再びステージに上がる時がきた。このまま順調にいけば、3時間後にはライブも終了するだろう。

だが、ライダーの運命とは過酷なものなのである。

 

ドォォォォォン……

 

「なに!?」

 

桜が再びステージに上がろうとした瞬間、ライブ会場であるドームが、爆発音と共に激しく揺れる。困惑するスタッフを尻目に、悪い予感を抱いた桜は、急いでステージ上に上がりーーそこで、悪夢を見る。

 

「ディソナン…ス……」

 

ドームの天井に開いた穴から、一体のディソナンスが降下してきていた。そのディソナンスは、まるで複数のディソナンスを融合させたかのような奇妙かつ歪な体型であり、その容貌からは、正気を感じられない。

そして、桜はそのディソナンスの顔に見覚えがあった。

 

「……あれ、ノイズ!?」

 

桜自身が直接相対したのは、音成と初めて顔を合わせた時の一回だけだが、要注意すべき相手として、音成と共にマークされていたディソナンスであるノイズが、どうやら眼前のキメラの核となっているようだった。

 

『さて、チューナー……暴れなさい。…なんでわたしがこんな役回りなんだか……』

 

「あれ…キキカイ!?」

 

桜の目に、もう一体ディソナンスが映る。チューナーの影から現れたのは、かつて桜が刀奈と共に打ち倒したはずのディソナンス、キキカイだった。

 

「あいつ……復活したの!?それとも、やられてなかったとか…」

 

『チューナー、ここには大勢の人間がいるわ…暴れなさい』

 

『グオオオオオアオオオオオアガガガガガガガ』

 

桜がキキカイの復活に困惑する間にも、耳障りな、まるでノイズのような咆哮を上げながら、チューナーはライブの観客達に襲いかかろうとする。それを見逃す桜ではなかったがーー

 

(ここで変身すれば、私がライダーだって事がバレる…でも変身しても見つからない場所を探してたら、みんなが危ない…だったら!)

 

ステージに立つ桜は、どこからともなくレコードライバーを取り出すと、装着。そして、チューナーの注意を引くために、大きく声を張る。

 

「こっちよ!化け物!ーー私の変身、よーく見ておきなさい!」

 

『グ……?』

 

『ん?……げっ、ま、まさか…』

 

「桜ちゃん…?」

 

「なにを……」

 

「ーー変身!!」

 

ステージの上で、桜はいつものように観客の視線を浴びながら、いつものように変身を行う。

ーーレコードライバーから光の輪が飛び出し、桜の頭上に展開する。そして、光の輪が桜の身体を包みーー

 

「仮面ライダーダンス、参上……さて、私のライブをめちゃくちゃしてくれたお返し…たっぷりさせたらもらうわよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きなさい!ストームブレイカー!」

 

変身した桜は、まずストームブレイカーをチューナーとキキカイに向けて放ち、その周囲に嵐の結界を作り出すことだった。この2体相手では桜の起こす嵐もすぐに打ち破られたしまうだろうが、観客達が逃げ出すまでの時間は稼げるはずだ。

 

「みんな!早く逃げて!スタッフも、みんなを誘導して、早く!」

 

「さ、桜ちゃん……わかった!」

 

「おい!すぐに非常口に!一気に押しかけるなよ!」

 

「パニックを起こさないで!早く!」

 

ディソナンスの登場によって混乱の渦にあったドームだったが、桜が変身したことで、あまりの驚きに観客もスタッフも逆に落ち着き、桜の叱咤ですぐに出口に向かって移動し始める。それを見た桜は、観客達やスタッフを逃がすため、全力でディソナンスの足止めを行う。

 

(ストームブレイカーだけじゃ、足止めは難しいわね……なら!)

 

「いきなり全力でいくわよ!」

 

『voltage max!!!』

 

『rider super storm!!!』

 

ストームブレイカーだけでは威力が足りないと感じた桜は、さらに必殺技で嵐を発生させる。二重の嵐によってチューナーとキキカイを閉じ込めることに、成功したかに見えたが……

 

『グーー■■■■■■■■■■■■!!!!!!』

 

「何がっ……」

 

嵐の中から、世にもおぞましき咆哮と共に閃光が走り、桜の視界を覆い尽くす。完全に不意を突かれた桜に、それを防ぐ術はない。

 

「う……あ……」

 

光線に焼かれ、倒れ伏す桜だったが、未だ変身解除はしていない。しかし、チューナーはそんな事に関係なく追撃してくる。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!』

 

「あっ……」

 

桜の身体を無造作に掴むと、骨が砕けそうなほどの力で握りしめ、そのまま床に叩きつける。

 

「がっ…」

 

痛みと衝撃で意識が朦朧とする桜に対し、チューナーは一切の容赦なく攻撃を加える。それでも意地でも意識を保つ桜であったが、変身もギリギリ保っていられるような状態である。

 

『……ホント、悪趣味な兵器を作り出したものね、音成サマも。ま、私には関係ないけど…』

 

冷酷にチューナーと桜を見るキキカイを尻目に、チューナーは桜を無造作にステージ上へと投げ飛ばす。ろくに受け身も取れずにステージの床に叩きつけられた事で、遂に変身が解除されてしまう。

 

「あ……ぐっ…」

 

『オオ…オオ…■■■■■■■■■■!!』

 

チューナーの身体が変形し、巨大な砲台と化す。その砲口が向くのは桜だ。自身の眼前で、エネルギーのチャージをチューナーが始めるのを見る桜だったが、重傷を負った桜に、逃れる術などありはしなかった。

 

(……ここで死ぬんだ…私……ごめんね、刀奈、ゼブラちゃん。2人の到着まで、保たせられなくて…)

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■!!』

 

耳障りなノイズと共に、その時が迫ってくる。死を覚悟した桜は、ゆっくりと目を閉じーー

 

 

 

「待てええええええええええっ!!!」

 

 

ーーだが、それを許さぬ者がいた。その男はバイクを駆り、桜に迫っていたノイズを急襲。その背にバイクをぶつけ、自身は桜のいるステージ上へ飛び移る。

 

『■■■■■■■■■■■■■■ーー!?』

 

『え、なに!?なんなのよ!』

 

突然の衝撃に驚くノイズとキキカイを尻目に、突如乱入してきた男は、桜に前に降り立つ。桜を助けた男の正体はーー

 

「…真、司……?」

 

今は海外で極秘任務についている筈の、的場真司…仮面ライダーファングその人である。

 

「遅くなったがーー大丈夫じゃなさそうだな」

 

「……っ、遅すぎ…よ…」

 

ボロボロの体で立ち上がろうとする桜を、真司は制止する。彼の左腕には、ディスクセッターが装着されていた。

 

「…さあ、ここからは俺が相手だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『voltage Max!!!』

 

『rider genocide knuckle!!!』

 

真司はまず必殺技を発動し、強大な破壊のエネルギーをチューナーとキキカイにぶつける。チューナーを盾に回避するキキカイだったが、強大なエネルギーに、チューナーもろとも吹き飛ばされる。

 

『■■■■■■■■■■■■■■!?』

 

『な、なんで…このドームの外は、私の機械兵ちゃん達が封鎖している筈……』

 

キキカイの言う通り、ドームの外には大量の機械兵達が配備されていた。観客を逃さず、ライダー達がやってくるのを防ぐことが目的で配備していたのだが、まさかこの短時間で全滅させられてしまったのかーーキキカイの考えを見透かすように、真司が答える。

 

「確かに、俺1人だけでは突破はできない。刀奈とゼブラの協力があっても、時間がかかる。ーーだが、なにも戦う者は、俺達仮面ライダーだけではない」

 

『………!』

 

 

 

 

 

「そっちの戦況は!?」

 

「大丈夫です!あなた達は、我々が守ります!」

 

「ディソナンス相手にゃともかく、こいつらなら通常兵器も通じる!」

 

「こっちにはライダーもいるんだ!負けられるか!」

 

「特務対策局戦闘班の意地を見せろーー!」

 

「真司、頼んだぞ…!」

 

「桜さん……無事で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……フフ、あなた達人間を、甘く見過ぎたってところね……』

 

自嘲するキキカイに、真司は警戒しながら近づいていく。

 

「お前の手駒は、その怪物だけーー勝てると思うか?」

 

真司の言葉に、キキカイは諦めたように笑う。ノイズは倒れたまま、自身は復活したはいいが、戦闘能力は落ちてしまっている。まさに絶望的な状況である。

 

『無理ね、大人しく撤退ーーしたいんだけど』

 

「……?」

 

『どうにも無理みたいねーーこれは』

 

ーー突然、真司の体に衝撃が走る。痛みに驚く間もなく、その体は吹き飛ばされる。

 

「…がっ……!?」

 

『確かに、あんだけ達は強くなった。今の私じゃ、勝てないでしょうね…でも』

 

 

『そいつをーー甘くみない方がいいわ』

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!■■!』

 

ーー空中に吹き飛んだ真司の足を、手が掴む。その手は、真司の必殺技によってできたチューナーの傷口から伸びており、自身の体の中に真司を取り込もうと、引き摺り込もうとする。

 

「うっ……うおおおおおおおおおおおお!?」

 

拳の巨大な牙でその手を引き千切る真司だが、チューナーの体はギチギチと音を立てながら変異を始めていた。今までは辛うじて人型と判別できたその体躯が、徐々におぞましき肉塊か、あるいは泥かーー明らかにこの世界に存在する、およそ生命体と呼べるものがとってはいけない形へと、チューナーの体は変容していた。

 

『■■■■■■■ーー■■ーー■■■■■■■■■!!!!!』

 

『……だから無理だって言ったのよ、こんな怪物を制御するなんてーーとにかく、私は逃げさせてもらうわ』

 

「…!待ちな、さいよ…!」

 

ドームの天井に空いた穴から逃げようとするキキカイを、桜は引き止めようとする。しかし、今の桜では、キキカイを食い止める事は出来ない。

 

『ーー自分の体を気にかけた方がいいわよ。あと、お仲間さんの方も。…そろそろ限界みたいね?』

 

「えっ……」

 

キキカイの言葉に桜が振り向くと、そこにはチューナー…であったものから伸びる触手に囚われた真司がいた。必死に抵抗しているが、触手はなおも真司の体に絡みついていく。

 

「真司……!」

 

『まあ頑張んなさい。上手くやれば、命だけは助かるかもね…』

 

ジェット噴射で飛び去っていくキキカイだったが、今の桜と真司には、それに反応する余裕もない。なんとかして真司に絡みつく触手を引き千切ろうとする桜だったが、今の桜に、そんな事が出来るはずもない。触手に軽く弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ…負担が…だが仕方ない……これを…!」

 

左腕のディスクセッターに手を伸ばす真司。右手には彼のライダーズディスクが握られている。しかし、チューナーにも知性は無くとも、野生の勘の様なものはある。無意識に警戒心を抱いたチューナーは、真司の左腕を、無数の触手で攻撃する。咄嗟に左腕のディスクセッターを守ろうとするさんだったが、触手に体を絡め取られている今、そんな事が出来るはずもなく、あっさりとディスクセッターは、真司が手に持っていたライダーズディスクと共に、弾き飛ばされてしまう。

 

「くそっ……これでは…!」

 

ディスクセッターを弾き飛ばされても諦めず、抵抗を続ける真司だったが、チューナーとの膂力の差は歴然であり、精々一気に引き込まれないようにするのが精一杯だった。

徐々にチューナーに取り込まれようとしている真司の後ろには、倒れる桜がいる。真司がこのまま引き摺り込まれれば、次は桜の番だろう。

 

「ーーっ、うっーー」

 

桜にとって何よりも恐ろしいのは、自分が仲間の足を引っ張る事だった。無理無茶をしてでも強くなろうとは思わない。そんな事をすれば、桜の体は壊れてしまうだろうーー刀奈やゼブラほど、彼女の体は頑丈ではない。だからこそ、彼女は無茶をしない。常に冷静に動き、考え、仲間を支える。ステージの上では主役でも、戦いの上では脇役であるのが、彼女の今までだった。

ーーしかし、状況は彼女にそれを許さない。目の前には飲み込まれようとしている仲間。ほかの仲間達は敵の足止めがあるのか、まだやってこない。そもそも今の状況で乱入してこようものなら、むざむざ無残な死体になりにくるのと同じ事だろう。

 

 

ーーつまり、今動けるのも、なんとかできるのも、私だけ

 

 

だから、彼女は手に取ったーー今の体では保たないかもしれない、それでも、「かもしれない」ならば、彼女にとっては最良の選択肢だった。

 

 

「真司、あんたのこれ、使わせてもらうわよ」

 

「桜ーー!?」

 

 

チューナーによって吹き飛ばされた真司のライダーズディスクを手に持ち、ディスクセッターを左腕に装着する。使用方法は、既に前知識として学んでいた。

「ーー悪いわね。私、このままじゃ終われないのよ」

 

チューナーの触手が伸びてくる。防衛意識から伸ばされたそれよりも早く、桜はディスクセッターを起動する。本来ならば真司のライダーズディスクを使っての二段変身など正気の沙汰ではないが、今の桜は頭に血が上りきった状態だ。

 

「教えてやるわ、バケモノーー」

 

ディスクセッターから飛び出した光の輪が、チューナーの触手を防ぐ。真司の抵抗もあり、触手では仕留めきれないと判断したチューナーは、その泥のような肉体の一部を変化させ、凶悪な顎門を形成。そこから大出力の熱線を放つ準備を行う。

 

「桜……!ぐっ…!逃げろ!桜!」

 

桜を助けたくても、むしろ今は真司が助けられる側である。ヒリヒリと感じる熱に危機感を覚えた真司は、桜に叫ぶ、お前だけでも助かってくれ、と。

その真司の言葉に対して、桜はーー

 

 

「ーー勝負ってのはね、諦めの悪い方が勝つのよ」

 

 

ーー熱線が放たれる。それは、床をドロドロに溶かし、空気を歪ませながら桜に迫る。桜は、動こうとしない。

 

「桜ーー!!」

 

真司が叫んだ瞬間、桜に熱線が着弾し、爆発が起きる。ドームを揺るがす轟音と振動、そして光のが、真司の視界を覆い尽くし、その身を震わせる。

 

「ぐっ……桜……」

 

爆炎に包まれた桜を見て、怒りに震える真司。せめて、この怪物には一矢報いる。そう、覚悟を決めた時ーー

 

 

 

「ーー知ってたかしら?」

 

 

ーー音が、響く。ドームの中に、小さく、しかし凛とした声とーー歌という音が。

 

 

『■■■■■■■■■■■!?』

 

「桜……?」

 

爆炎の中から、桜がその姿を現わす。その背には炎のように赤い翼があり、展開されたそれは、周囲の爆炎を吸収していた。その姿は、まるでーー不死鳥のようだ。

 

 

「不死鳥はねーー灰になっても、燃え尽きないのよ」

 

今、炎の歌が鳴り響くーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!』

 

まず仕掛けたのは、チューナーの方だった。桜に向けて無数の触手を伸ばし、熱線の発射準備を行う。今度は、触手も剣や槍のような形状をとってきたがーー

 

《心の情熱が、私の身を焦がす》

 

『ファイヤーストームブレイカー!』

 

電子音声と共に、桜の振るう武器、フェニクックスランスの先端から、ストームブレイカーの強化版、ファイヤーストームブレイカーが発射される。

 

《それがどうにも抑えられないーー》

 

(まずは、真司を助ける!)

 

ファイヤーストームブレイカーは触手を蹴散らし、真司の体を拘束から解放する。すぐさまチューナーから離れる真司に向け、チューナーが熱線を放つが、桜はそれを受け止める。

 

「桜!」

 

《ステージの上じゃ無敵、だ・け・れ・ど・もーー》

 

「心配ない!」

 

桜の身を案じる真司だったが、桜は熱線を吸収する。今の彼女には、炎による攻撃、熱による攻撃は逆効果だ。

それを察知したのか、チューナーは冷凍光線を今度は放ってくる。完全に理不尽なほどの攻撃に、しかし桜は対応する。

 

《ホン、トは、か弱い乙女なのーー》

 

「ファイヤーストームブレイカー!」

 

ファイヤーストームブレイカーを「もう一つ」呼び出し、冷凍光線を防御する。触れたものを一瞬にして凍りつかせる攻撃も、嵐のような炎の前にはなすすべもない。自身の攻撃が失敗に終わった事をチューナーが理解する前に、桜は動く。

 

《嵐の中ーー響いてくる声援(コール)がある》

 

「行くわよ!」

 

『■■■■■■■■■!?』

 

泥と化したチューナーの体を二機のファイヤーストームブレイカーで巻き上げ、自身も背の翼から炎を繰り出し、チューナーを焼き尽くさんとする。

 

《だからーー負けない》

 

『■■■■■■■■■■!!!』

 

「っ……!」

 

チューナーの体が、泥状から徐々に人型へと変化していく。自身を襲う炎の嵐を、全身からビームを放つ事で打ち消したチューナーは、人型を保ったまま、桜に飛びかかる。

 

《炎すらも輝きに変えてーー!》

 

「空中戦?いいわ!ついてきなさいっ!」

 

『■■■■■ッーーグゥルルルルルルルルルルルルル!!!』

 

炎の翼で宙に舞う桜を、チューナーは悍ましき叫び声をあげながら、背に生やした翼で捕まえんとする。しかし、まるで踊るように空を飛ぶ桜に、チューナーは追いつけない。

 

《今ーー歌おうこの歌を》

 

「焦ってきた?理性のないアンタでも、流石にケリをつけたくなってきたころかしらっ!?」

 

『■■■■ーー!』

 

チューナーの動きが段々と大雑把になっていく。その姿はより早くなるために形状を変え、装甲は薄くなり、薄くなった分は攻撃に回される。既にドームの天井には、無数の大穴が空いている。

 

《そして響かせよう》

 

「ーーそろそろ決めるわ」

 

《私のこの気持ちーー!》

 

『Over the song!!!』

 

空中で一旦静止した桜は、下から迫ってくるチューナーめがけて、必殺技を放つ準備をする。二機のファイヤーストームブレイカーのうち、一機を推進力に、もう一機を足裏に装着し、攻撃に回す。

 

《世界ーー中がライブ、ステージ!》

 

『rider phoenix strike!!!』

 

「はあああああああああああああああああっ!!!」

 

桜が狙うのは、チューナーの核となる部分だ。泥のようになっても、その体を構成する核はあるはず。ならば、相手が人型にならざるをえないようにすれば、核も貫きやすいだろう。そう考えての、ファイヤーストームブレイカー二機による同時攻撃だった。

 

《そうつまり》

 

「ど真ん中ーーもらった!!」

 

チューナーの核があると思われる場所、人間でいえば、心臓がある場所に桜のキックが命中する。足裏のファイヤーストームブレイカーが、チューナーの体を貫く。しかし、チューナーの動きは止まらないーーニヤリ、と口元を歪めたように見えた次の瞬間、チューナーの顔が裂ける。裂け目からは、チューナーの核とーー桜に向けて放たれようとしている光線が、はっきりと確認できた。

 

「ーーーー!」

 

目を見開いた桜に、チューナーは光線を放とうとしーー頭部を襲った衝撃に、その行為を中断した。

チューナーの頭部に突き刺さったモノーーそれは、桜がチューナーの体に打ち込んだ、ファイヤーストームブレイカーだった。もしもの保険に、足裏に装着していたファイヤーストームブレイカーに、頭を狙わせていたのだ。

 

《私は無敵ってコト》

 

「ーーバケモノを倒すのは、いつだって人の知恵ってコトーー」

 

理解した?(Do you understand?)

 

 

『オーーー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

チューナーの体が、ゆっくりと溶け落ちていく。その一部は砕け散った核と共に何処かへと飛ばされていくが、今の桜にそんな事に気づく余裕はない。

 

 

「ぐっーーはっーー」

 

「桜!ーー無茶をするな、全く」

 

地面に降りた瞬間、変身が強制的による解除され、倒れた桜に真司が駆け寄る。桜は息も絶え絶えな状態だが、命に別状はないらしく、レコードライバーも無事だった。

 

「ーー真司」

 

「なんだ?」

 

「ーー最高の、ステージだった、でしょ?」

 

「ああーーだから、今はゆっくり休め」

 

「そう、させて、もらう、わ……」

 

ーー力尽き、深い眠りに落ちる桜を抱えて、真司は久々に特務対策局の面々に会うため、桜を病院に送るために歩き出す。

 

(俺もボロボロなんだがな……まあ、刀奈達への説明の方が面倒だな……)

 

ドームの外では、真司と桜を、特務対策の面々が待っていた。

 

「ーーおかえり、真司」

 

「ーーああ、それはそうと、桜を頼む…あと、俺もーー」

 

刀奈に会うと、緊張の糸が途切れたのか、変身を解除しながらふらっと倒れる真司。慌てて桜と一緒に真司を抱きとめ、微笑む刀奈。

 

「……無事で良かった、本当に」

 

真司が目覚めるのは、これからまた数日後の事ーーその時まで、視点をアメリカの乙音に移そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ナニモイウコトハナイ…一言、とりあえず2週間は超えなくてよかった。


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コンダクター・コンタクト


新キャラ登場。グリスかっこいいですね。私好みだ。


「ビートライダーシステムの強化ーーですか?」

 

「ウム、現時点の戦力では、ディソナンスに襲撃されれば流石にまずいからのう。真司君に渡したディスクセッターのデータも取れたことじゃし、そろそろ取りかかろうかと思っての」

 

アメリカ、ワシントンD.C.ーーディスクセッターとの無茶な運用でレコードライバーが故障した乙音は、ここの地下研究所で、ビートライダーシステムの開発に関わっていた。

もっとも、関わっているといってもライダーとしての戦闘経験を活かしてのデータ収集が主であり、彼女自身がビートライダーシステムの理論的な部分に関わっているわけでもない。

つまりーー

「ーーということは、またビートに?いつからですか?」

 

「ウム、今日の1時からじゃ、予定は……」

 

「ないですよ、それじゃあ、ランニングに行ってきます」

 

ーーここ最近の乙音は、毎日のようにディスクセッターを使って、仮面ライダービートへと変身していた。

日課であるランニングは毎日欠かさず行っているが、それ以外ではあまり研究所の外に出る事もなく、日々を過ごしていた。

もっとも、乙音自身はそれを苦に思ってはいないのだがーー

 

「先輩達……大丈夫かな。ディスクセッターは渡したけど、それ以降音沙汰がないし…」

 

ーー乙音の心中は、日本にいる真司達の事いっぱいだった。真司とはつい先日再開したが、他の仲間達とは、ずっと会っていない。

 

「ビートライダーシステムの事、私のレコードライバーの事……ひと段落したら、会いに行きたいけどなぁ……」

 

そう乙音が思案していると、考え事をしながら走っていたせいだろうか、人とぶつかってしまう。

 

「わっ!?」

 

「うおっ」

 

急な衝撃に驚き、転ぶ乙音。すぐに人にぶつかったのだと理解すると、慌てて立ち上がり、ぶつかった相手に謝ろうとする。

 

「あ、す、すみませーー」

 

「いや、いいよ。それよりも…怪我はないかい?レディー?」

 

立ち上がろうとした乙音に手を伸ばしてきたのは、さっき乙音がぶつかった男性だった。見ればその服には汚れ一つついていない。どうやら、ぶつかって転んだのは乙音だけらしい。男は乙音の手を掴み立ち上がらせると、すっと乙音に顔を近づける。茶色い髪に、黒目。日本人か、あるいはハーフか日系人か、顔の整った、いわゆるイケメンである男は、優しい口調で、困惑する乙音に語りかける。

 

「いや、ええと…」

 

「ああ、ぶつかった事なら気にしなくていい。それよりもレディー、お茶でも一緒にどうだい?」

 

「え、あー……遠慮しておきます。この後用事があるので……すみません」

 

乙音が男の誘いを断ると、男は天を仰ぎ、大仰なリアクションで落胆する。しかしすぐに顔を上げる。男の動きに困惑する乙音に、男はにっこりと笑いかける。

 

「用事があるなら仕方ない。それでは美しいレディー、また会いましょう」

 

そう言うと、男はすぐにその場を立ち去ってしまう。終始困惑しっぱなしの乙音だったが、このままここにいても仕方ないと、すぐにランニングを再開した。

その後、研究所に戻った乙音は、ビートへの変身とシュミレーションによるデータ採取を行った、そして、そんな日が何日か続いた後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビートの強化アイテムが、完成したんですか!?」

 

「はい、乙音さんの協力と、アメリカ政府からの後押しもありまして、現在調整中です」

 

乙音がワシントンの研究所に来てから1週間と少し経った頃、いつも通りランニングから帰ってきた乙音は、待ち構えていたロイドから、ビートシステムの強化アイテムが完成した事を聞かされた。アイテムの名は……

 

「コンダクトドライバー……と、言います。今日の午後は、それの最終調整用のデータ採取になるかと」

 

「コンダクト……指揮者、ですか」

 

「ええ、現在志願者を募っているビート部隊……強化アイテムは、その指揮官が使う事を想定していますから」

 

その言葉を聞いて、乙音は少し焦る。もしかすれば、自分がそのビート部隊とやらの指揮官をすることになるのではないかと。

だが、その考えはあっさりロイドが否定する。

 

「……乙音さんのレコードライバーは今修理中です。天城音成が作ったもの故、まだ解析には時間がかかりそうですが…コンダクトドライバーは、他の人が使用する予定ですよ」

 

ロイドの言葉を聞いて、乙音は胸を撫で下ろす。人を率いることに、あまり向いていないと自覚があったからだ。実際、乙音は性格的にも能力的にも切り込み役として運用した方がいい人物である。そもそも乙音達ソングライダーズの中でそういうリーダーの資質があるのは、真司くらいのものだろう。

しかし、ここで乙音の内にある疑問が生じた。それは、誰がコンダクトドライバーを扱うのかということと、午後のデータ採取に自分は参加するのかどうかという疑問も。

 

「あの、どんな人がコンダクトドライバーを?というか、私は午後のデータ採取に…」

 

「乙音さんには、一応何らかの問題が発生した時のために、データ採取の時はディスクセッターを用意した状態で待機しておいてもらいます。午後のデータ採取は、コンダクトドライバーの正式装着者にやってもらう予定ですよ。名前は……」

 

 

「四季・ブラウン。シキと呼んでくれ」

 

 

背後からの声に、驚き、振り返る乙音。目の前にいたのは、いつぞや出会ったあの男。ランニング中にぶつかってしまった、いきなり乙音を口説いてきた、あの男だった。

 

「あ、あなたは……!」

 

「また会いましたね、美しいレディー。あなたのような人と再会できたうえ、私のことを覚えていられるとは!この四季・ブラウン、光栄のーー」

 

「えーと、誰でしたっけ?」

 

乙音の発言に、すっ転びそうになるシキとロイド。当の乙音は、なぜ男2人がすっ転びそうになっているかも理解できず、ぽかんとした表情を浮かべている。具体的に言うと、「なんですっ転びそうになってるんだろう?そんな事より、お昼はどうしようかなーー」などと考えているような顔。

 

「ま、まあ。覚えてないなら覚えてないで、これからあなたに覚えてもらうよう、努力しましょう、美しいレディー。いえ、木村乙音さん」

 

「あ、乙音で良いですよ。こんな時だからこそ、気楽にいきましょう、気楽に」

 

乙音の様子に苦笑いを浮かべつつも、すぐに身を整え、乙音に話を振るシキと、そのシキの事を若干面白くなさそうに見据えるロイド。男2人の修羅場発生ーーとはならず、シキの方から、話題を変えてくる。

 

「そう言うなら、これからは乙音さんと呼ばせてもらいましょうーーしかし、先程は話を遮ってしまってすみませんでした。なにせ、私の話題をしている場面に遭遇したもので。そういうの、気になるタイプなのですよ」

 

「へー、そうなんですねー……って、ということは、もしかしてコンダクトドライバーの装着者って……」

 

「そう、私、四季・ブラウンなのです!いやはや、あの時道端でぶつかったあなたが、あの有名な仮面ライダーだったとは!これも、運命。どうです、今度一緒にお茶でもーー」

 

乙音にずずいと詰め寄りながらヒートアップするシキを、ロイドが乙音との間に入ることで止める。その表情は、若干呆れているような表情だった。

 

「はいはい、そこまでーー全く、変わらないな、君は」

 

「そういうお前こそ、堅物なのは変わらないなーーモテないぞ?」

 

「うるさいよ。乙音さん、こんなやつだけど、悪いやつではないんだ。これから一緒に戦う仲間だし……まあ、よろしくしてやってくれませんか?」

 

「そうです!これからも末永くよろしくお願いしたいものでーー」

 

「はい、予定が詰まってんだからそこまでにしようか。それでは乙音さん、また後で」

 

シキの不穏な発言を遮り、ロイドがシキの身体を引きずってでもその場を立ち去ろうとする。シキはそれでも乙音を口説こうとするが、ロイドに「廊下で寝たいなら、好きにしたらどうだい?」と言われ、流石に大人しくなり、彼にしぶしぶといった様子でついていった。

乙音はその様子をポカンと見ていたが、すぐに食堂へとその足と思考を向けるーー食欲は人間の三大欲求の一つ、ちょっとした出来事など、すぐにどうでもよくなるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディー……乙音さん、また会いましたね。これから初変身!不安で胸が張り裂けそうですが、この四季・ブラウン、あなたのために張り切らせていただきます。しかし勇気が足りない。なので、まずは勇気のキスをーー「はい、そこまで。時間がないんだから、さっさと変身する」ーーロイド、だからお前はモテないんだ」

 

いつものように乙音が実験室に到着すると、いつものようにシキが口説いてくる。そして、ロイドがいつものようにシキの暴走を止める。この日出会ったばかりのシキと乙音だったが、既に乙音の中では、シキが口説いてくるのはいつもの事のように処理されていた。つまり、シキは全く乙音に相手にされていないのである。乙音自身は無自覚だが、これを意図的にやっているとしたら、今頃シキは盛大に凹み、コンダクトドライバーの実験どころではないだろう。

その後も乙音にちょくちょく話しかけていたシキだったが、コンダクトドライバーの準備ができた頃には、既に戦士の顔となって待機していた。さすがにおお、と反応する乙音だったが、シキは単純に乙音にカッコつけたいからこうしているのである。

 

「さて、それじゃ……」

 

しかし、カッコよくコンダクトドライバーを装着しようとした矢先、研究所の警報が鳴る。

一瞬騒つくが、すぐに侵入者が現れたのか、それとも研究所のすぐ近くーー例えば、真上などにディソナンスが現れたのか、それを確認するべく研究員達が動く。

 

「ーー研究所の、すぐ近くに三体のディソナンス反応あり!どうやら、ここを探しているようです」

 

「ううむ……地下鉄で遭遇した、あのディソナンス…生きておったか、それとも何か仕込みでもあったか……ともかく、ワシントンに研究所があるとあたりをつけて、攻め込んできおったか!」

 

「父さん、ここは……」

 

「うむ、いきなりの実践じゃが……行ってくれるな?シキ君」

 

コンダクトドライバーを持ったままのシキに、ショット博士が問いかける。今すぐに戦えるか、その力でと。

 

「待ってください、シキさんはーー」

 

シキが言葉を発する前に、乙音が立つ。今乙音はビートにしか変身できないが、ぶっつけ本番で三体のディソナンスをいきなり相手にするのは厳しい、ならば、自分が時間を稼いでーーそう、思ったのだろう。

しかし、乙音が基本止まらない女性であるように、シキも似たようなタチである。

 

「いえ、レディー……乙音さん、私が行きましょう。なに、すぐに片付けてきますよ」

 

そう言うシキを、乙音は厳しい表情で見据える。乙音の視線に、シキは何も言わない。ただ、油断も驕りもなく、視線を返すだけだ。

 

「……わかりました、私も無茶はまだできませんし……ですが、危なくなったらすぐに飛び出しますからね」

 

「肝に命じておきましょう、乙音さん。貴女が傷つかないように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に、ここに奴等の研究所があるのか……?』

 

『さあな。だが、これで尻尾を掴めれば、音成様により強く改造を施してもらえる』

 

『そうなれば、オレ達もより上に…7大愛にまで……』

 

『……待て、どうやら客人のようだ』

 

ディソナンス達が、軽い会話を交わしながら人々を蹂躙する。そんな場面に、単身現れる男が1人ーーもちろん、シキである。

 

「……おー、好き勝手やってくれちゃって、まあ」

 

『不満か?人間。弱き種族が……』

 

『そうだ、音成様のように人を超えたならばともかくとして、お前達のように弱い奴等が、オレ達に逆らっていいと……』

 

二体のディソナンスーー百足型と蝶型が驕る。しかしそれも当然の事、ライダー相手ならばともかく、ただの人間に、ディソナンスが遅れをとるはずがない。いかに強くとも、いかに鍛えていようとも、人間である限り、その身のみでは限界があるーーそして、ディソナンスとはこの世界の法則(ルール)を無視した不協和音、世界の法則を気取る人間にとって、ディソナンスとは天敵に等しい存在である。

だがーー

 

『……!油断するな、2人とも。奴はーー』

 

「ほう、そこのクモ型……目敏い奴がいるじゃねえか」

 

ーーここに立ち、三体のディソナンスに相対するシキ、彼もまた、ディソナンスの天敵である「仮面ライダー」なのだ。

 

「変身……!」

 

コートを翻し、隠し持っていたディスクセッターを左腕に装着。コンダクトドライバーのスイッチを自身から見て右から順に押す。そして、ディスクセッターのレバーを引き、左腕をディソナンス達に向けて、静かに叫ぶ、変身、と。

 

 

ーー三体のディソナンスが身構えると同時、シキは光の輪に包まれながら、突き出した左手をクイ、と曲げて、挑発する。

 

「ーーこいよ、虫ども」

 

『行くぞ、虫けらっ!!』

 

ーー変身が完了する。その瞬間、三体のディソナンスがすぐさま攻撃を仕掛ける。

百足型は自身の耐久力の高さを活かして、他のディソナンスを守るように、蝶型は分身、その分身のそれぞれが、空中からシキに襲いかかる。そしてクモ型は、6本の腕に刃を形成、6刀の刀でシキを切り裂かんとする。

 

「……まずは!」

 

シキはまず、蝶型とその分身に対して、ディスクセッターからエネルギー弾を連射する。蝶型は特殊なバリヤーのようなものでそれを防ぐが、それを見たシキは、エルブレイシューターを投擲、斧と銃が一体となったこの武器は、見事に蝶型の本体に突き刺さる。

 

『な、なぜ私がーー』

 

「バーカ、本体必死になって守り過ぎたんだよ、お前は」

 

バリヤーの展開速度、及びその強度で早々に蝶型の本体を発見したシキは、動きの遅い百足型を踏み台に空中に飛び上がり、蝶型に突き刺さったエルブレイシューターを強引に引き抜き、蝶型を地面に叩き落とす。そして、エルブレイシューターをコンダクトドライバーに接続し、ドライバーのボタンを押して、空中で必殺技を発動する。

 

「まずは一匹……!」

 

『over beat Axe!!』

 

地に叩き落とされた蝶型に、着地と同時に必殺技を叩き込む。その威力に蝶型は断末魔もあげれず、爆散する。

 

『シャアアアアアアアアアアアッ!』

 

『ぬぅ……!』

 

「仲間」をやられたディソナンス二体が怒る。百足型は更に執拗になり、蜘蛛型の攻撃は加速する。ーーしかし、やられた「仲間」、同胞の数ならばーー確かに人間の方が勝っているのだ。そして、死んでいく者の思いを受け取る覚悟も、精神も、そこはディソナンスが人間に唯一敵わないところでありーー

 

「怒っているのか?ーー俺もだよ、この外道どもが」

 

ーー人間が、最も頼みとするところでもある。

 

『over beat Disk!!』

 

ディスクセッターより放たれた光の輪が、蜘蛛型ディソナンスを縛り付ける。強固な精神の元に放たれたそれは、7大愛でもない、ただのディソナンスに破れるものではないだろう。

そして、動きの速い蜘蛛型を縫い止めたという事はーー

 

『ガアアアアアッ!?』

 

「遅いよお前、必殺技を悠長に使えるぐらいにはっ!」

 

『over beat Punch!!!』

 

百足型の身体が、必殺技によるパンチ、それによるクロスカウンターを受けて爆散する。それと同時に、蜘蛛型も拘束を解き、一心不乱にシキを切り裂こうとする。

 

『貴様ーー!!』

 

だが、シキはそれも()()()()だーー既に蜘蛛型を仕留める為の道筋は立っている。

 

「ーー決める」

 

『オオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

蜘蛛型の、6刀による斬撃を間一髪で避ける、そしてその時、シキの手からエルブレイシューターが溢れ落ちる。ーー強大なエネルギーによって、バチバチと音をたてている足の前に。

 

『over beat kick!!!』

 

「喰らいやがれ!!!」

 

『ぬぅオオオオオオオオオオッ!!!』

 

必殺技の蹴りによって加速したエルブレイシューターが、蜘蛛型に迫る。蜘蛛型はそれに、必死に反応しようとしてーー

 

『ーーガ』

 

「……あばよ、お前は中々、早かったぜ」

 

ーーその腕ごと、その刀ごと、自身の身体を抉られ、爆散した。

エルブレイシューターは、蜘蛛型の身体に大きな風穴を開けて、地面に突き刺さっている。

シキはディソナンスの全滅を確認すると、フッと息を吐いて、通信で一言。

 

 

「ーー乙音さん、惚れ直しました?この後お茶でもーー」

 

『ーー君はほんっ…とーにブレないね、ホントに』

 

 

後日、研究所近くのカフェ。そこでは山盛りのケーキを頼む日本人の少女と、自身の財布の中身をしきりに確認する、残念なイケメンの姿があったという……。




やはりもう少し戦闘描写を長くしたいきもち。まあ挿入歌演出を入れれば、すぐに一万字近くいくんだけどな!今回は6,000字ぐらい。

新キャラに対する皆さんの反応が怖い。このキャラは女性全てを愛してるとか、そういうやつなので、刀奈やボイスちゃん、桜を見ても乙音に対してと同じように接するでしょう。いい奴ではありますよ?ただ股が緩……いや、カタいだけで。

愛されるキャラのなる事を願っています。……次の投稿は、下手したら来月かもしれません。


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GOD SPEED

すいませんでしたあああああああああああっ!!まさかここまで忙しくなるとは……明日から実家に帰って春休みに入るので、投稿頻度は一月前のものに戻ると思います。永遠想もあるからわかんないけど。
ともかく、今後も仮面ライダーソングをお願いします。コラボ回とか大歓迎なんですよ?


「コンダクトドライバー?なんだそりゃ」

 

「前にも話した、ビートライダーシステム……その強化案の事ですよ。確か今日、最終調整があった筈です」

 

都内某所の病院ーーその一角に存在する、個人用の病室。そこにはボイスとゼブラがいた。

7大愛との戦闘で深手を負ったボイスは、すぐにでも戦線に復帰しようとしたものの、ドクターストップがかかり、現在は怪我の治療のため、この病院に入院していた。

当初は心配するものも多く、ディソナンスの話題は避けられていたが、怪我が予想外に浅く、早期に治りそうだとわかるとすぐに刀奈などがボイスがいない間のディソナンスとの戦いのことを話したりしていた。

 

「乙音はどうしてんだ?あと、桜は……」

 

「桜さんは問題ないみたいですよ。いつのまにか怪我が完治していて、お医者さんも不思議がっていました」

 

当然、刀奈やゼブラは先日、桜のライブをディソナンスが襲撃した事も伝えている。あの時、桜と真司は大怪我を負ったが、真司は持ち前の生命力と精神力で医者の想定よりも、数倍早く完治。桜は病院に運ばれる頃には、既に傷が完治していた。ここのように特務対策局の息がかかった病院は複数存在するが、そこに勤める医師の誰も、桜の身に起こった事を説明できないでいた。ゼブラ達は、桜があの日手に入れた新しい力の能力なのだろうとあたりをつけてはいるが。

 

「ふーん、そっか……あ、そろそろリハビリの時間だな」

 

「あ、そうですね。それじゃあまた来ます」

 

「おう、ま、次来るときには退院してるかもしれないけどな!」

 

ゼブラが病室から退室し、ボイスは一人残される。看護師が来るまでの間、彼女は一人だ。

 

 

「…………くそ」

 

 

いま、彼女の胸の内を支配しているのは、焦りだった。人類にとって天城音成はまさに天敵、どこいるかも定かでない存在だったが、ボイスは日に日に音成の気配が強まっていくのを感じていた。

それが幻想であるか、事実であるかは彼女にも定かではない。しかし、彼女の両親が黒く燃え尽きたあの日から、彼女の内には拭えぬモノがあった。

絶望ーー戦っても、戦っても、戦っても、それでもなお、戦いが終わらない事への恐怖心。勇気の対極にあるもの。

他のライダー達はまだ戦えている。あの7大愛とかいう、あらゆる意味でふざけたディソナンス達相手にも対抗できる力をつけている。なのに自分はなんだ、初戦で敗北を喫し、重傷を負い、今はこうして人知れず、孤独感と強迫観念じみた悪い予感に怯える日々。

 

 

「………………やっぱ、駄目かなぁ、()()()

 

今、少女の心は確かに、そして静かに限界を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ…はぁ……」

 

「……今日はここまで、経過は順調よ、ええと……ボイスちゃん?」

 

病院内のリハビリステーション。ここでボイスは毎日リハビリを受けていた。怪我が怪我であったため、最初はリハビリもろくにできなかったが、今では以前の感覚も多少は戻ってきていた。

 

「……病室に、戻らせてもらいます」

 

「わかったわ、そこまで送るわね」

 

仮面ライダーである、つまりは貴重な戦力であるボイスには、専属の医師がつけられていた。実績も十分にあり、様々な患者を経験してきた彼女だったが、ボイスには手を焼いていた。

何も、ボイスの素行が悪いという訳では無い。普通すぎるのだ。ふつう、怪我をすればある程度は落ち込んだり、逆に躍起になって早く治そうとするものだが、ボイスは表面上は、何処までもいつも通りに見えた。それこそ、怪我をしていない時のように。

 

「これは……少し、苦労するかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ボイスが病院でリハビリを受ける中、刀奈たちも何もしていなかった訳では無い。あの7大愛というディソナンスの幹部がいつ襲来してきてもいいように、警戒と訓練を続けていた。が、少々面倒な事態に巻き込まれていた。

 

「『衝撃!仮面ライダーはアイドルだった!』……で、桜…」

 

「しょ、しょうがないでしょーー!あそこで私が変身してなかったら、みんな死んでたっつーの!」

 

「ふ、2人とも落ち着いて……あうう、こんな時、真司さんがいてくれたら」

 

面倒な事態とは、あのドームでの戦いで桜がライダーとバレてしまったことだ。今までは猛をはじめ、特務対策局の者の努力によって情報は漏れていなかったのだが、ある記者が独断で記事を公表、それに続けたばかりに一斉に各新聞社などがこの特ダネにかじりついていた。

 

「まあ、取り敢えず芸能活動は自粛。ライダーとしての仕事も、あくまで人目につかない場所でする事になったわ」

 

「妥当なところだな。このままライダーとして戦えば、民間人を巻き込むリスクも大きくなってしまうだろう」

 

「そうですね……確か、局長が対策案を考えてるみたいですけど」

 

「局長が?……なーんか、ヤな予感がするわねぇ」

 

「…………ああ、何故だか……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はっ?いま、なんと?」

 

「ふふふ、ではもう一度言うよ?香織くん。そう!刀奈の正体も世間に公表するのさ!これでいい!」

 

特務対策局局長室、そこで猛と香織は今後の方針について相談を重ねていた。

香織としては、このまま沈静化を待つつもりだった。そもそもライダー達が何か民間人に被害を及ぼした事もなく、特務対策局自体クリーンな組織ではある。局員の勤務時間は現在平均30時間だが、ディソナンスとの戦闘をビートライダー量産体制が整いかけている現在まで、ほぼ一手に引き受けていた組織である。本来なら現在特務対策局に所属している人材の倍以上あってもまだ足りないのだ。それを1日と6時間程度の勤務時間で世界平和を守っているのだから、彼等の働きぶりは世の人々の賞賛を受けてもいいレベルと言えるだろう。

だからこそ、香織は世の中が落ち着くのを待った。そもそもディソナンスとの戦いだけでも全身湿布でなんとか動けているのに、これ以上マスコミなどへの対応もできないというのが現状である。

だというのに、この男……特務対策局局長、つまりは世界平和の最前線にいる男は、さらに厄介ごとを抱え込もうというのである。香織が呆けた声を出すのも無理はないだろう。

 

「えっ……正気ですか?」

 

「君も大概失礼だね!?まあ考えなしという訳ではないよ。刀奈くんほどの世界的知名度があれば、『仮面ライダー』の名も受け入れやすいだろうと思ってね」

 

猛の提案に、香織は思わず納得しかけてしまう。事実、桜も最近は日本を代表するアイドルの一人という扱いにはなっているが、所詮アイドル。されどアイドルといえど、世界的知名度には程遠い。だが刀奈は最近でも海外ツアーをこの世界で敢行可能な程に、アーティストとしての知名度を得ている。さらに、彼女と桜がプライベートでも仲が良いというのは、いまや公然の事実だ。刀奈もライダーであると知れれば、一部の人間が唱える『仮面ライダー不要論』も鳴りを潜めるだろう。

「刀奈に、もう話してるなんて事はーー」

 

「いや、それはまだしてないから」

 

「……それでは、私から話します。確かに、この状況では有効な策かもしれませんしね」

 

そう言うと、香織は一礼をしてささっと局長室から出て行く。おそらく早速刀奈の元へと向かったのだろう。その足取りは、いやに重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………それで、何故こんな事になっているのですか?」

 

「局長のせいよ……私はなにも悪くないわ……」

 

三日後ーー都内某所。多くの観衆が刀奈の特別ライブを楽しみに集まるなか、刀奈と香織は頭を抱えていた。

香織から、自身の正体を公表すると刀奈が聞き、それを承認してから数時間後、トレーニング中の刀奈に、ある知らせが届いた。

 

 

 

「ごっめ〜ん☆実は香織君にも黙ってさ、刀奈君の正体を公表するための準備、イベントの計画をもう進めちゃってたんだよネ!いやーらまさかあんなミスしてたなんてなーー。かーっ!つれーわ!後始末が大変だなぁ〜刀奈君が万が一心変わりとかしちゃえばまずいなぁ〜!」

 

 

その後、猛は仕事の量が三倍に増えたが、もともと優秀な男である。苦もなくこの日までには片付け、ちゃっかりとライブ会場の席を確保していた。

ちなみに、今回のライブは現場の混乱を抑える目的もあり、緊急特別ライブという事にして、会場に来る人数を制限している。これは、先日のディソナンスの襲撃もあっての対策で、警備員に扮した特務対策局戦闘班が会場のあちこちに待機している。また、先日真司がビートシステム開発を進めるためアメリカに渡った時、桜に預けたディスクセッターとは別のものを、既に手配済みである。ディソナンスの襲撃など、有事には咄嗟に動けるゼブラがこれを使用する手筈となっている。

 

「まあ、あなたなら大丈夫よ。……たぶん、きっと、メイビー」

 

「妙に不安になってきますね……ですが、仕事はきっちりとこなしてきます。私が完璧なパフォーマンスを魅せれば、仮面ライダーに対しての、世の人達の反応も良くなるでしょう」

 

現在の仮面ライダーに対しての世間の認識は、『人の世界を守るヒーロー』というものだった。しかし、仮面ライダーの行くところディソナンスあり。数ある人々の中には、ライダーがディソナンスを招き寄せている、現在の状況は一種のマッチポンプだと主張するものもいた。

故に、今回の特別ライブには、世間のライダーに対しての評価を改めるという目的もある。というよりも、そちらの方がどちらかといえばメインである。さすがに、いつまでも正体を隠したままではだんだんと心象も悪くなるというもの。その点、世界的な知名度を誇り、公私共に世間で評判のいい刀奈が、このタイミングで正体を明かすのは、桜の件を抜きにしても確かに効果的である。だからこそ、猛もテレビ局関係者へのコネを最大限駆使して、今日のライブの特別中継をも実現してみせたのだ。

 

 

「……それでは、行ってきます」

 

「ええ、頼んだわよ」

 

いつもステージに上がる時のような、まるで剣のようにスッとした表情となり、大勢の観客の前に飛び出す刀奈。観客達の歓声が爆音となって轟くなか、刀奈は声を張り、背筋を伸ばして雄々しく立つ。

 

 

「皆!今日はいきなりの特別ライブだというのに、これだけの数が来てくれた事、わたしは誇りに思う!いまここに集まる皆も!何処かの地でこの瞬間を見る皆も!全てが等しく私の誇りだっ!!」

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッーー!!!」」」

 

観客達が歓声を上げる。その熱が収まらないうちに、刀奈は次々と畳み掛ける。

 

 

「今日のライブの最後には重大発表もある!だが案ずるな!私が君たちの期待を裏切る事は一切無いだろう!!今日のライブ、全力で楽しんでいってくれ!」

 

「では行くぞ!一曲目ーー」

 

 

刀奈の歌が流れるに合わせて、会場全体が揺れ、震え、弾ける。その圧倒的なパフォーマンスに、観客達も、関係者達も、全てが等しく魅了される。これが世界的アーティストたる刀奈の力であり、その力強さは、見守るものに等しく成功を予感させるものだった。

 

「凄い……凄いライブですね」

 

「そうね……さすが私の目標、といったとこかしらね」

 

「……ボイスさん、これなくて残念でしたね」

 

「多分、中継で観れるわよ……少しでも元気になってくれれば、いいんだけど」

 

桜やゼブラも見守るなか、ライブはつつがなく進行して行く。そして、ライブの最終盤、ついにその時がやってきた。刀奈が観客達の目の前で変身し、変身した姿のまま歌い、踊る。突拍子もない作戦ではあるが、仮面ライダーに対しての認識を改めさせるという意味では、効果的といえる。

 

「皆……ここまで付き合ってくれてありがとう。さて、ライブ冒頭で言ったことを覚えているだろうか?今日は、重大発表があるとーー」

 

観客には向かって語りかける刀奈の腰には、既にレコードライバーがある。その存在に気づいていたファンも、気づいていなかったファンも、皆等しく騒めき出す。まさか、そんな訳がない、いや、もしかしたら……と。

 

 

「見ててくれ、私のーー」

 

 

ーーしかし、ここまでつつがなく進んできたライブにも、ここでトラブルが起こった。最大級のトラブル、それはーー

 

 

『ーー私の剣技を、見てもらうとしよう』

 

 

ーー会場の照明が一瞬落ちる。観客が騒然となるなか、再び点灯したスポットライトに照らされたのはーー

 

『フフ……初めまして、というべきかな?私はディソナンスが幹部、七大愛(セブンスラブ)が一人……我が名は『六閃剣(シックスソード)!』エンヴィー!愚かな人間達よ、我が姿を、その目に!その記憶に!焼き付ける前に死んで行くがいい!』

 

ーー派手に登場したディソナンスが、会場がパニックに陥るその前に、高速をもって動き出す。まずは手始めに、そこで呆けているだろう歌手だ。エンヴィーは、そう狙いを定めるーーが。

 

 

「速度と剣技には自信があるか、それは私も同じだ……!」

 

 

その剣は、仮面ライダーツルギとなった刀奈の剣によって、止められていた。自身の速度に、追いつくほどの反応速度ーー好敵手を見つけたエンヴィーがニヤリとほくそ笑むと同時に、会場内でやっとパニックが起こり始める。しかし、特務対策局のものは冷静だった。我先にと逃げる観客たちを制御し、ある程度の整然さをもって逃す。その間に、ゼブラと桜もひっそりと変身、エンヴィーの対処にあたる。

 

「おっと、私達も忘れてもらっちゃ困るわね」

 

「ディスクセッターの力、見せてやる!」

 

ゼブラがディスクセッターにライダーズディスクを装填し、そのトリガーを引く。ゼブラの眼前に現れた光の輪が、ゼブラの身体を通ろうとするがーー

 

「ぐあっ!?」

 

「ゼブラちゃん!?」

 

光の輪に、ゼブラの身体が弾き飛ばされる。ゼブラでは、ディスクセッターを用いた強化形態には、変身できないーー!

 

「そん、な……」

 

「……っ、ええい!こうなれば私が!」

 

ゼブラの変身失敗を受け、桜がディスクセッターを使い、強化形態へと変身する。溢れんばかりの力、それを解き放つように、エンヴィーを炎の嵐で攻撃する。炎に包まれ、焼け落ちていくエンヴィー。

 

「……なんだ、あの化け物みたいに強いかと思えば、大したことなかったわね」

 

「……いや、桜っ!!」

 

刀奈の叫びに桜が振り向いた瞬間、その身を、剣が貫く。

 

「…………あ?」

 

ゆっくりと、崩れ落ちる桜。その身を支えようと刀奈とゼブラが動く前に、彼女達は信じられない光景を目にする。

 

「な、なんだっ……!?」

 

「エンヴィーが……二体!?」

 

彼女達の目の前に立っていたもの、桜の身を貫いたのは、紛れもなく、先ほど焼け死んだ筈のエンヴィーだった。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば、ここに立つエンヴィーは何者だ?そう二人が思考する前に、さらに信じられない自体が起こる。

 

『いやいや、案外四つ子かもしれぬぞ?』

 

『ハハハ!そこの焼死体も合わせて5体目!いや、既にそれは死しているのだから……』

 

『遅くなったな!これで6体目よ!ハハハハハハハハハハハハハハハ!これが、我が名の由来!これが、我が能力!』

 

『『『我等は常に6体……これぞ我が!我等が六閃剣と呼ばれる所以よ!フーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』』』

 

刀奈達を囲み、高笑いをする6体のエンヴィー。神経を逆撫でするような声に激昂し、エンヴィーに斬りかかった刀奈の剣は、6体のうちの一体を切り裂く。ーーが、またすぐに『6体目』が現れ、逆に刀奈に斬りかかる。

 

「がっ……!?ぐっ、貴様……」

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!我等は常に6体と言ったろう!ほれーー我が剣速に、ついてこれるか!?』

 

6体のエンヴィーが、一斉に動き出す。一体一体のスピードは刀奈よりも僅かに速い程度だが、それが6体。はっきり言って、勝負にならない戦力差である。それはゼブラがいても同様であり、桜も変身解除はされてないとはいえ、強化形態となることで治癒能力と生命力が大幅に増していなければ、明らかに致命傷となる傷である。意識は微かにあるが、心の臓の近くを抉られたのだ、立てもしなければ、声を上げることもできない。

 

『そぉらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらっ!!!』

 

「ぐっ……こっちか!?……がっ……」

 

「っく!いったい、どうすればっ……!」

 

エンヴィーの猛攻に、打開策を見出せない二人。辛うじて刀奈はまだ対応できていたが、スピードで劣るゼブラは防戦一方、ついに、その左腕に装着していたディスクセッターを弾き飛ばされてしまう。

 

「あっ……!」

 

「……!ゼブラ、頼む!」

 

弾かれたディスクセッターを見て、刀奈が走り出す。刀奈の意図を瞬時に理解したゼブラは、必殺技を発動、エンヴィー達の足止めを行う!

 

 

『voltage Max!!!』

 

「刀奈さん!」

 

『rider maximum shoot!!!』

 

『ぬうっ!?』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっーー!!!」

 

刀奈が走り、必死に手を伸ばす。今、彼女の脳裏によぎるのは、かつての日々。

かつて、真司とともにライダーとなった日のこと、かつて、バラクに敗れ、涙を流した日のこと、かつて、アイドルとして、アーティストとして栄光を掴んだ日のこと、かつて、乙音と出会った日のこと、かつて、かつて…………

まるで走馬灯のように駆け巡るそれを、刀奈は振り切る。彼女が求めるのは過去ではない、彼女の仲間と、誇り達、それと共に歩む未来こそ、彼女が真に求めるものなのだ!

 

「とっ……たぁーー!」

 

中を飛ぶディスクセッターを掴み、すぐさま左手に装着する。目前には、ゼブラを叩き伏せ、こちらに迫るエンヴィーの姿。しかし、刀奈は焦らず、動じず、静かにその言葉を紡ぐ。

 

「変身……!」

 

ディスクセッターより出現した光の輪が、迫るエンヴィーの身体を弾き飛ばす。そして、その光は刀奈の身体を優しく包みーー

 

 

「音速もーー光速もーー神速すらも、通過点にする!」

 

『な、なんだその姿はーー』

 

「刀奈さん……!」

 

 

「これが、私のーー覚悟と、誇りだっ!!」

 

 

戦場に、歌が鳴り響く。少女の決意と、覚悟を示すようにーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《追いてかれる感覚、追いついていく感覚》

 

『舐めるなぁっ!!』

 

「はあっ!!!」

 

《どれも生きるうちに……慣れてくもの》

 

 

刀奈が剣を構えた瞬間、エンヴィーが疾走する。エンヴィーの数は全6体。それも、6体全てを同時に倒さなければ、エンヴィーを打倒した事にはならないというおまけ付きだ。だからこそ、彼は油断した。最高速でなくてもいいだろうと、刀奈に反応させる余裕を与えてしまったのだ。だからこそーー彼は、なぜ刀奈が目の前から消えたのか、理解できなかった。

 

《重力すらも振り切って》

 

「ゼブラ、桜を頼む。ここから動くなよ」

 

「は、はい!」

 

《その思いも振り切って》

 

エンヴィーが、刀奈が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という行為を行ったのに気づいたのは、既に刀奈による剣戟が迫り来る中だった。

 

《ただひたすらに強さを、求めたdays……》

 

『がっ!?馬鹿な……!』

 

「まだ終わりではないぞ!」

 

刀奈が左手を剣から外し、背後から刀奈を斬りつけようとしていたエンヴィーに向けて振るう。すると、刀奈の左手に2本目の剣が出現し、逆に不意をつかれたエンヴィーの身体を切り裂く。

 

《だけど、そう……仲間たち……》

 

『ぐっ、だが6体同時に倒せるわけがっ!!』

 

「確かに、厄介な能力だ……!」

 

《そして、増え続けている……誇りが》

 

しかし、エンヴィーも七大愛が一体。6体いるというアドバンテージを生かして、複数体で刀奈の動きを抑え、残りの一、二体で桜やゼブラを狙う。それを防ぐ刀奈だったが、傍目には、エンヴィーに徐々に追い詰められているようにも見える。

 

《私へと……教えてくれた》

 

「刀奈さん……!」

 

「心配はいらない、ゼブラくん!」

 

《思いの強さを……》

 

刀奈が二振りの剣を振るい、エンヴィーの妨害を突破する。観客席を背に立つその姿は、ファンのことを自らの誇りと呼ぶアーティスト、心刀奈でもあり、平和と自由のため、仲間と共に戦い続ける仮面ライダー、ツルギの姿でもあった。

 

 

「今の私になら……できる!」

 

《それを背負い戦う事を!!》

 

『ほざけええええええええっ!!』

 

 

刀奈の姿が消える。それと同時に、エンヴィーは信じられないものを見た。何故ならば、刀奈が()()()()()6()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

《音速よりも早く!この歌を伝えよう》

 

『ば、馬鹿な!私と同じ能力を………!?!?』

 

「そう思うならば、貴様の目は節穴だな!」

 

《光超える思いは……心へのdirect song!》

 

そう、刀奈が今行っているのは、なんて事はない、()()()()()()()()()()()()()()()。エンヴィーもスピードには自信があるが、しかし今刀奈が行なっている()()ができないからこその、6体同時という能力なのだ。だからこそ、エンヴィーは信じられない。だからこそ、今エンヴィーに、勝機はなかった。隙を晒したエンヴィーの身体を刀奈が次々と切り裂き、徐々に追い詰めていく。いつの間にか、エンヴィー達は一箇所にまとめられていた。

 

《神速すらも通過点、思いを叫ぶままに!》

 

「勝負を……決める!!!」

 

『over the song!!!』

 

『『『馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な』』』

 

《これが私のーー》

 

刀奈が持つ二振りの剣に、エネルギーが集中していく。それと同時に、刀奈がエンヴィー達の周囲を高速で移動し、竜巻を生み出す。その竜巻のうちに飲み込まれたエンヴィー達に、もはやなすすべはなかった。

 

 

『rider God blade!!!』

 

《誇りと覚悟、示す歌ーー!》

 

「おおおおおおおおおおおお……はぁっーー!!!」

 

『『ぐう……ぶるああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?』』

 

 

刀奈が振るう光の剣が、竜巻と共にエンヴィー達を切り裂いてゆく。竜巻の中のエンヴィー達は爆散していき、ステージを、会場を揺らす。

エンヴィー達の爆散を見届けた刀奈は、変身を解除する。それと同時に刀奈の身体を凄まじい倦怠感が襲うが、地面に倒れる瞬間、その身体をやっと復活した桜と、ゼブラが支える。

 

 

「刀奈さん……見事でした!」

 

「やったわね……刀奈」

 

「ああ……仕留めきれたかは怪しいが、かなりの深手は負わせた、当分は、襲来してくる事もないだろう……はあ、とても疲れた。今日明日はゆっくり寝ていたい……」

 

「……多分、記者会見とかインタビューで休めないと思うわよ」

 

「そんなー……しょぼーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー特報です。噂の仮面ライダーの正体が、またも判明しました。以前より話題になっていた剣を振るう青い仮面ライダーですが、その正体はなんと人気アイドルの心刀奈さんでーー』

 

 

ーー都内某所の病院、そこでは、新たな仮面ライダーの正体のことが話題になっていた。

いや、話題になっているのは世間全体ではあるがーーこの病院は、特務対策局の息がかかっているという事もあり、入院患者の中には仮面ライダーにその命を救われた人も多い。その仮面ライダーの正体が世界的アーティストである心刀奈であったのだから、話題にならない方がおかしいだろう。

病院内が喧騒に包まれる中ーーボイスが入院する個室、そこは、不気味なほどに、静かだった。

 

「………………………………」

 

(我が名はフィン……)

 

(君の運命は私の手の中にある……)

 

(このまま窒息させてやろうか……?)

 

「…………くそっ」

 

ボイスの心の中にあるのはーー焦りと恐怖。あの日の傷は、とっくに治っている。それはボイスにもわかっていた。だが、あの時植えつけられた恐怖がーー刀奈が間に合わなければ死んでいたという事実がーー彼女の心を蝕んでいく。

 

「オレは……っ!」

 

 

 

 

「力が、ほしいかい?」

 

 

 

 

一人呟くボイスの耳に、悪魔の囁きが、聞こえる。慌てて声の方を向けば、そこに立っていたのは、信じられない人物だった。

 

「あ……あ……お前は……!」

 

「いやぁ……あまり苦労しなかったよ!ここに潜入するのは……ふふ、特務対策局もまだまだ甘い」

 

ボイスの目の前に立っていた男、それは、全ての元凶であり、ライダー達、そしてディソナンス達の生みの親とも言える存在ーーその名はーー

 

 

「天城……音成……っ!?」

 

 

「やあ、ボイスくん。君にこれを届けにきた」

 

 

音成が手に持つもの、それは黒いレコードライバーだった。音成が差し出してきたそれに、思わず視線が吸い寄せられるボイス。音成は微笑み、ボイスへと語りかける。それは、まるで悪魔が人を貶めるように、天使が、人を地獄へ導くように。

 

 

 

 

 

「Dレコードライバー……君が求める力が、ここにある」

 

 

 

 

 

 

 




Q.あの、Dレコードライバーって……

A.ガタガタゴットンズッタンタン!ヤベェェーイ!!!

私はね、ソングとは関係ないけどハザードトリガーとかプトティラとかデッドヒートとか大好きなんだ、関係ないけど。
あと、関係ないけど、関係ないけど、アマゾンズ映画楽しみですね。ソングとは関係ないけど!



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デス・ボイス

今回このまま投稿するか非常に悩みましたが、このままいきます。今回はボイスちゃん回!彼女が新たな力を手にします、とても強くなるぞ!


「……………………」

 

 

『……何が狙いだ!?』

 

『まあまあ、落ち着きなよ。とりあえず、こいつを受け取ってくれないかな?』

 

『テメェ……!オレがそんなものを求めると、本気で……!』

 

『思うさ、これは君に必要な力だ』

 

『…………っ!?』

 

『信じるも信じないも君しだ〜い♪チャオ♪』

 

『あっ!……消えた……』

 

 

天城音成がボイスの病室を尋ね、彼女に『Dレコードライバー』を渡してから数日、ボイスは、病室で一人悩んでいた。

 

(……弄ってみてわかった。こいつは黒いレコードライバーで、たぶんオレがいま使えるライダーズディスクじゃ、起動できないって事も)

 

この数日、ボイスは暇さえあればDレコードライバーを弄っていた。しかし、わかったのは今の自分では使用不可能という事実だけ、仲間に相談してもよかったはずなのに、何故かそれもできなかった。

 

(……刀奈、真司、桜、ゼブラ、乙音……みんないいやつだ、そらは間違いねぇ…でも、だったらなんで……)

 

そう思考する間に、瞬く間に時間は過ぎ、いつも通りのリハビリの時間になってしまう。その顔にも色濃く悩みを浮かべながら、しかし本人はそれに気づかず、いつものようにリハビリへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なにか、悩みでもあるの?」

 

「え……」

 

今日のリハビリを終え、いつものように病室へと戻ろうとしたボイスだったが、不意に、自分のリハビリを担当する女医に止められる。何事かと思うボイスだったが、女医の一言に、その心は激しく揺らいでいた。

(なんでだ?バレた?でも、どうして……)

 

ボイスが自身の言葉に混乱していることを悟った女医は、ボイスの肩に手を置き、優しく語りかける。

 

「大丈夫、私達はあなたの味方よ。だから、まずは何があったのか、ゆっくりと話して?」

 

「あ、お、オレは……」

 

「大丈夫だから……ね?」

 

それから数分の間、顔をうつむかせて沈黙し、逡巡するボイスだったが、それでも自身の手を取り離さず、辛抱強く待ち続ける女医の姿に折れたのか、先日、天城音成が自身の元に現れたことについて、ポツリポツリと話し始める。

 

「それで、オレ、これを渡されて……」

 

「そう……でも安心して。それは特務対策局に渡して、きっちり調査してもらうから。病院も移しましょう、いいところを紹介してあげるわ」

 

ボイスはただ、女医の言葉に頷くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、アレが必要かな」

 

『どちらへ?未だエンヴィーも直っておりませぬが』

 

「ああ……いやなに、少し仕込みさ。それよりもガイン、君はピューレと共にアメリカへと向かってくれないかな?仮面ライダーのひとり、的場真司があちらへ渡ったようだからね」

 

『わかりました。デューマンはどうしますか?』

 

「そんなもの、君らが旧ディソナンスと呼ぶ奴等に任せればいいだろう。今はバラクは行方不明、ドキはアメリカにいること以外にわからないが、あの湊美希とかいう人間をダシに使えば済む話だ。キキカイひとりでも、十分デューマンの調整はできるさ。もちろん、ゲイルあたりにでも見張らせておくんだよ?」

 

『わかりました、では気をつけて行ってらっしゃいませ…………音成様』

 

「ああうん、留守はよろしくね……さて、ボイスちゃんにプレゼントを渡してあげなきゃ。そのためには…………」

 

 

「よし……アイツにしよう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お父さん……お母さん……?』

 

『どこ……熱い、熱いよ……』

 

『助けて……助けて……』

 

「ああ……う、うわあああああああああああああああああああ!?」

 

女医にDレコードライバーのことを相談した翌日から、ボイスは酷い悪夢に悩まされていた。

それは、かつて克服したはずの悪夢。自身が一度声を失い、家族を永遠に失う原因となった、忌まわしき惨劇の記憶。

 

(まただ……他の病院に移るのは明日……そうなれば、いやそれでも……いや、治ると信じるんだ……もう悪夢は見ないと……)

 

一度克服しはずの悪夢、他の病院に移ればすぐに見なくなるだろうとボイスは思っていた。しかし、ボイスが見る悪夢には、今までとは異なる点があった。それは、ボイスが夢の最後には、死んでしまうということ、そしてもう一つは……

 

「……とりあえず、トイレにでも……(死にたくない……)っ!?誰だ!?」

もう一つは、夢の中で、自身と家族の他にも、大量の死者がいるということ。そして、その悪夢を見るようになってから、ボイスはたびたび『死にたくない』『助けてくれ』という声を聞くようになった。これが幻聴であると確信できれば、ボイスにとっては楽だった。だが、その声はあまりにもリアルすぎたのだ。ボイスは日に日にやつれていき、今では何もないところでも、支えがなければ転び、倒れてしまうようになっていた。

そして、それは身体だけでなく心もそうだった。

 

(今日は、確かゼブラが来るって言ってたな……アイツに、相談すれば……)

 

そんな事を考えながらトイレを済ませ、病室へと戻るボイス。しかし、その道中あることに気づく。病院が()()()()()のだ。

多くの病人や怪我人が入院する病院であるのだから、確かに普段から静かではある。しかし、それでも廊下には人気が朝方とはいえあるはずだ。四六時中看護師や医師が病院内にいるし、ボイス以外の患者もいるはずだ。自分と同じように、トイレに行くものもいるはずである。

そこまで考えて、ボイスはある事に気がついた。それは、血の匂い。数多の戦場に出たボイスだからこそわかる、誰かが血を流している時の匂いだ。

 

「なにが……!?」

 

血の匂いが濃い方へと、ボイスは歩く。ボイスは気づいていなかったが、病院の窓から見える景色は、とても朝方とは思えないほどに暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「局長!病院の様子は……!?」

 

「変わらないよ。今朝方、あの暗いオーラに包まれてから、なんの音沙汰もない。それよりも、新たなディソナンス発生の情報だ、誰かひとり、現場へと向かってくれ」

 

「……私が行くわ。あんたら2人は、病院の方に注意を向けときなさい」

 

「桜!?……行ってしまったか。くそっ、いったいあの中で何が起きているんだ……!?」

 

「ボイスさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよこれ」

 

病院内の、5階。ボイスの病室がある階だが、そこには多くの人、患者や看護師、見舞いの人などがひしめく交流所があった。ボイスはあまり利用しなかったが、それでも他の患者は、たまに顔を出すボイスを見つけては、可愛がってくれていた。

 

その交流所が、血の海に沈んでいた。初めは原型も残っていない肉片に、それとは気づかなかったが、色濃く残る死臭に、やっと()()が、人の身体を構成するパーツ、その残骸であると認識した瞬間、ボイスは吐いた。

 

「うっ……ゲエッ!ゲフッ……ゲエッ……ゲッ…………ハッ……ハッ……なに、が…………」

 

胃の中のものをすべて吐き出したボイスは、それでもまだ冷静さを完全には失わず、自体の把握に努めようとする。そこでようやく、外の様子がおかしい事にボイスは気づくが、それと同時に、ボイスはある事にも気づいた。それは、足音だ。カツン……カツン……と廊下に足跡が響く。

 

「…………!?」

 

思わず戦闘態勢をとり、音の方を向くボイス。廊下の角からゆっくりと現れたのは、ボイスのリハビリを担当していた女医の顔だった。

 

「……!あんた、なに、が…………」

 

女医の顔を見て、思わずそちらに駆け寄りそうになるボイス。しかし、その後の光景を見て、絶句し、その足は恐怖で縫いとめられた。何故なら、女医の身体は、頭以外存在しなかったからだ。いや、それでは語弊がある。正確にいえば、彼女の頭部と、そこから伸びる、奇妙にぶらんぶらんと垂れ下がっている脊髄以外のパーツは、最早残されていなかった。

 

「あ、あ……」

 

女医の顔も、よく見れば穴だらけで、まるで()()()()()()()()()()()()()()()傷ばかりだ。それでもその表情は判別可能で、その顔は、今のボイスと同じく、恐怖と絶望に歪んでいた。

 

(あ…………死にたくない……嫌……いや……イヤ……)

 

「っ!また、あの幻聴……いや、これはあの人の声……そんな……でも……」

 

不意の幻聴に、顔をしかめるボイス。しかし、その幻聴は、彼女にとって聞き覚えのある声。今まさに、頭だけになって死んでいるはずの、女医の声だった。

 

「死者の……声……それじゃあ、まさか、この病院の人達は……!」

 

(ああ……熱い……熱いよ……)

 

(おかあさん、ぼくいたいよ)

 

(ああ……お腹だけはやめて!お願いお腹だけは……)

 

(ハヒフヘロヒフレヒハラヒハフヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ)

 

(やめろ!やめてくれ!ああ!頭掴まないで!あ……)

 

()()をボイスが自覚した瞬間、押し寄せてきたのは苦しみと怨嗟と、絶望にまみれた声。死者達のボイスだった。

『…………ほう、あの病室の人間は最後に残せと言われたが……お前だったか、音成様も粋な事をしてくださる』

 

「あ、おまえ、は……」

 

廊下の角から、その姿をボイスの目の前に表した存在。それは、かつてボイスと戦ったディソナンスである、7大愛の一体、フィンであった。

 

「あ、あ…………」

 

『ん?こいつか……そういえば、お前の名を叫んでたいたか、必死だったぞ?助けてくれとな。ほら、頭だけだが、返してやろう』

 

ごろん、と無造作に投げられた女医の頭は地面を転がり、ボイスの足元に辿り着く。その絶望にまみれた瞳は、ボイスを睨みつけているかのような暗さを持っていた。

 

「あ、う、うあああああああああああああああああ!!」

 

恐怖に耐えきれなくなったボイスは、その場を這いずりながら逃げていく。その情けない姿に、しかしフィンは笑おうともしなかった。かつてボイスにやられた恨みはこんなものではない、あの女を捕え、嬲り、犯し、その身に自分との差を徹底的に叩き込んでから潰すように殺さなければいけないと、そうフィンは思考していた。そして、そのための方法を、フィンは音成から教えられていた。

 

『火、か……クク、よくもまあ、幼い頃のトラウマをここまで引きずれるものだな、その情けなさは、評価しておいてやろう……!』

 

フィンがその手を広げ、指先から光弾を放つ。すると、人の血と油で塗れた病院内に、あっという間に火の手が回り始めた。

 

『フハハ……!燃えろ!ええい、人間どもの死骸は鬱陶しい。だが、よく燃えるものだ……!フハハハハハハハハハハハハ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(痛い……痛い!)

 

「……うるさい」

 

(熱い……熱い……!)

 

「…………うるさい」

 

(助けてよ!助けて!)

 

「………………うるさい!」

 

自分でもなにがなんだかわからないほどに無我夢中で病院内を駆けずり回るボイスは、度重なる幻聴に、怒号で答える。今はナースセンターに隠れているが、先程から火の手があちこちに回っている。もはやここも無事では済まないだろう。そう思考したところで、カツン、カツンと足音が響く。その音を聞いた瞬間、ボイスはさらに身を縮こませ、その音から逃れるように耳を塞ぐ。最早、この病院内で動く存在は、自分とフィンだけだと、ボイスは悟っていた。ここまでくるのに、まるで前衛芸術かのように惨たらしい殺され方をした人々を見たからだ。中には、お腹のなかの赤ん坊を引きずり出され、母体は失血死、赤ん坊の方はまだ息はあったが、あの様子ではもはや数十分と経たず死亡するだろう。そして、今のボイスにはそれを見ることしかできない。いや、見ることすらできないのだ。

 

(Dレコードライバー……あれさえあれば……)

 

ふと、ボイスは既に特務対策局の手に渡っているだろう、あのDレコードライバーのことを思い出した。あれさえあれば、もしかすれば戦えたかもしれない。だが、そもそも自身のライダーズディスクでは、あれでは変身できないという事実と、今の自身の状態を見て、その考えはすぐになくなった。

 

 

カツン…………カツン…………

 

 

ボイスが思考する間にも、足音は響く。徐々に近づいてくるその音に、ボイスは怯える。

 

 

カツン……カツン……

 

 

徐々に近づいてくる。ボイスは息を潜め、声を潜め、ただ暴威が過ぎ去るのを待つ。

 

 

カツン……カツン

 

 

……止まった。近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……見つけた』

 

 

「……っ!!!」

 

その声を聞いた瞬間、ボイスは弾けるように駆け出した。火事場の馬鹿力、というやつだろうか。そのスピードは、むしろ健常ないつもよりも早かった。

 

 

だが、フィン相手には、無意味だった。

 

 

ズガン!という破裂音がボイスの耳に届くと同時、その身体が倒れる。なにが起きたかわからないボイスだったが、簡単なことだ。()()()()()()()()()()()()無論、下手人はフィンである。

 

「あ、ぐ、ううううううううう……!!」

 

遅れてきた痛みに、悶えるボイス。彼女の瞳に映るものは、自身の腹から滲み出る血の赤と、自身の身体を再び燃やし尽くそうとする炎の赤。二つの赤に、彼女の思考は絶望と暗黒の海に沈んで行く。

 

『フハハ……そこで焼け死ぬがいい』

 

フィンの弾丸が、さらに火の勢いを加速させる。無慈悲な言葉に、ボイスは足掻くこともできない。

 

(……ここで死ぬのか、オレ……)

 

ボイスの脳裏によぎるのは、かつての日々。仲間達と共に駆け抜けた戦場、幼くして両親を亡くした自分の親代わりに、自分を育ててくれた人の姿、微かにしか残っていない、両親の笑顔と、まだ『わたし』であった頃の自分………

 

 

(オレ……わたし…………みんな、ごめん、ごめんね……)

 

 

そして、その思考を最後に、ボイスの身体は完全に炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ここは?)

 

(なんだろう……聞こえる……)

 

(誰かの声……ああ、これはあいつに殺された……いや、それだけじゃない…)

 

(みんな、怒ったり苦しんだり……でも、みんな泣いてる)

 

(誰だ?誰が泣かせた?こんなにも多くの人を……)

 

(わたしは……許せるのか?)

 

(いや……許せない、そうじゃないだろう)

 

 

ーー身体が熱い

 

 

(そうだ、今背負えるのはわたしだけなんだ)

 

 

ーー絶望と死が装甲となり、力となり、仮面となる

 

 

(ーー戦うしか、ないんだ!)

 

 

ーーその、名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、フィンは完全に油断していた、だからこそだろう、彼がそのことに気づいたのは、既に全てが終わった後だった。

 

『馬鹿な……!』

 

火に飲まれた筈のボイスの身体が、立ち上がる。その手には、見たこともないドライバーが握られていた。

 

【Dレコードライバー!】

 

ボイスの腰に装着されたドライバー…Dレコードライバーが叫ぶ。

 

【レディー、オゥケイ!?】

 

ドライバーが問う、それは、ボイスになのかフィンになのか、それはわからなかったが、フィンは咄嗟に指先をーー銃口をボイスに向ける。だが、遅かった。

 

 

「…………変身』

 

【仮面ライダーァ…………デス!ボォォォイス!!!】

 

 

ボイスが()()を呟いた瞬間、ボイスの顔が苦悶に歪む。そして、ボイスの()()()()、光の輪が飛び出し、彼女の身体を黒く覆っていく。咄嗟にフィンは銃撃をするが、ボイスには効かなかった。

 

『なに!?』

 

ボイスの身体を装甲が覆い、その顔を仮面が覆う。変身は完了したーーボイスの手に、禍々しい拳銃が握られる。その拳銃の名は『デスブレイカー』、あらゆるものを壊し、あらゆるものを殺すための武器。

 

 

『……おい』

 

 

ボイスが呟く、とても小さな筈のその声は、しかし確かにフィンの耳朶と、その身を震わしていた。

 

 

 

『……お前の心、壊してやる』

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、フィンは逃げ出した。早くここから逃げなければ!そうしなければ本当に殺されーー『おい』

 

 

 

 

『壊すって……言っただろ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に病院を覆う闇が晴れ、特務対策局と仮面ライダーが中に押し入った時、既に惨劇は終わった後だった。

残されたのは、凄惨な死体と、それが燃えた悪臭。そして、唯一生き残っていた赤子と、()()()()()したと思わしき、一部の破壊跡だった。

ボイスーー仮面ライダーであった少女は、その日を境に行方不明となる。




仮面ライダーデスボイス
パンチ力・130トン
キック力・135トン
あらゆる特殊能力を無効化する。一定以上の相手は、一部しか特殊能力を無効化できない。例えばハイパームテキならば無敵能力と強化能力だけ、バイオライダーならゲル化能力だけが無効化される。
デスブレイカー
デスボイスの武器。対象を消滅させる。


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Devil fang


今回の終わり方が雑なのは、ゴ魔乙の時間が迫ってたから。
真司くん覚醒回!


ボイスが失踪する少し前ーーいまアメリカでは、真司の歓迎会が行われていた。

日本から渡ってきた仮面ライダーということもあり、歓迎会は盛大に……行われなかった。

あくまで今回の渡米は量産化に成功したディスクセッターの受け渡しについてなどのためのもの、しばらくはアメリカに滞在するが、ディソナンス側に気取られるわけにもいかないので、歓迎会はあくまでひっそりと行われることになった。

 

「しかし、レコードライバーが壊れるとは……災難だったな、後輩」

 

「いえいえ、もうすぐ直りますから大丈夫ですよ!あ、先輩もっとお肉食べます?」

 

ひっそりとといっても、この歓迎会はいつも研究所に働き詰めな職員達の慰安も兼ねてのものだ。主賓であるはずの真司を放って、皆思い思いにはしゃいでいる。真司の相手をしているのは、乙音とロイドぐらいなものだった。……いや、もう1人いるが。

 

「それでおたく、乙音さんとはどういう関係なワケよ?ん?随分懐かれてんじゃないの」

 

「後輩、ロイド、こいつは?」

 

「こ、こらシキ!そんな絡むんじゃない!たくっ、お前そんな酒に弱くないだろうに!」

 

真司の相手をしている……いや真司に絡んでいるのは、仲よさそうに話す真司と乙音のことが気になりすぎて、思わず酒をいつもより多くの呑んでしまった仮面ライダービート・コンダクターの変身者、四季・ブラウンだった。普段は酒を呑んでも人に絡むような性格をしていないのだが、今のシキは、真司の返答によっては変身でもしそうな雰囲気を漂わせている。

真司も最初はスルーしていたが、流石に堪忍袋の尾が切れかけているのか、乙音とロイドに向ける顔は一見してにこやかだが、目は全く笑っていなかった。

 

(ど、どうしましょうロイドさん!このままじゃ2人が喧嘩始めちゃいますよ!?)

 

(ど、どうしよう乙音さん。このままでは2人が喧嘩を始めてしまう……!)

 

一触即発の雰囲気、触れれば弾け飛びそうなそこに飛び込んで来たのは、意外にすぎる人物だった。

 

「あれ?乙音じゃん。やっほー、元気?」

 

「元気じゃ……あ、あれ?美希?」

 

睨み合う真司とシキの間に割り込み、乙音に話しかけてきたのは、乙音の高校時代の親友であり、今でも交友がある女性、港美希だった。遠い異国の地での思わぬ人との再会に乙音は驚くと同時、真司とシキの間に美希が割り込んでいるのを見て慌てる。

 

「み、美希!早くこっち来て!」

 

「へ?」

 

「……誰だ?」

 

「あん?大事な話を邪魔すん、じゃ……」

 

ここで美希の容姿について描写しよう。乙音は亜麻色の髪に人懐っこそうな容貌をしているが、美希は乙音と同じく亜麻色の髪に、やや鋭い容貌の、乙音とは真逆だが、負けず劣らずの美女である。

割と特徴的はその顔は忘れにくく、それ故に真司はすぐに目の前の美女が後輩の親友であると気づき、怒りを収めた。後輩の前でもそうだが、後輩の友人にみっともないところを見せるわけにはいかなかったからだ。

そして、シキが美女に食いつかない筈がない。なにせ道端で出会った乙音を、いきなり口説こうとするやつである。普段はそこら辺の節度なりあるので流石に他の女性が見てる前では自重するが、今は酒が入っている状態である。つまりは自重しない。

 

「……まあ、抑えるとしよ「ヘイそこのお嬢さん!このわたくしと一緒に愛を語り合いましょう。いつでもいいですよ、いつでも……」…………抑えるとしよう」

 

いきなり美希を口説き始めたシキを、真司が引きずってゆく。向かう先はトレーニングルーム。どうやらシキに特訓をつけてやるつもりのようだ。流石にシキも抵抗し、まだ美希を口説こうとする。

 

「お嬢さん!この顔を覚えてください。私はいつでも大歓迎ですよ〜!」

 

「すいません、私もう気になる人がいるんです」

 

「「えっ」」

 

美希の思わぬ返答に、シキと乙音は驚きの声を漏らす。うな垂れたシキは、そのままトレーニングルームに引きずられていく。2、3時間は帰ってこないだろう。そんなシキのことは気にせず、乙音は美希の思わぬ発言に驚き、年頃の女性らしく、美希を質問攻めにする。

 

「えっ、ええー!?どんな人!?どんな人!?惚れてるの?付き合ってるの?きゃー!美希にそんな恋バナが出来るなんて!想像もしてなかった!」

 

「ちょ、うっさい!あんたもそーいう浮ついた話なんてないでしょ!?」

 

「そ、それで相手はどんな人!?私も知ってる人!?」

 

「あー……知ってるといえば知ってるけど……聞きたい?」

 

「うんうん!」

 

乙音のキラキラとした瞳に見つめられ覚悟を決めたのか、美希はゆっくりと思い人の名を語る。

 

 

「えっとね……実は……」

 

「うん」

 

「ドキ……っていたでしょ?あのディソナンス……私、あいつの事……好きになっちゃったかもしれない……」

 

「うん……うん?………………ええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー数日前、アメリカ某所にて。

 

「くっ!こんなにディソナンスがいるなんて……」

 

「日本からの人員支援……情報が漏れていたか!?」

 

「このままではまずい!何処かへ逃げなくては!」

 

乙音がビートライダーシステムの装着実験、及び実戦でのデータ取りに協力していた頃(つまりは今の研究所に移動する前)美希をはじめ、日本から多くの人員がアメリカに渡っていた。目的は当然、ディスクセッターの開発協力とその受け取りである。

しかし、その動きが察知されていたのか、それとも偶然か、アメリカに渡った時点で大量のディソナンスに美希達は襲われていた。

 

「……私が囮になります、その隙に皆さんは逃げてください!」

 

「美希君無茶だ!」

 

「無茶でも……誰かがやらなければ全滅ですよ!」

 

混乱の中、美希はより多くが生き残れるよう、自らが囮になり、ディソナンス達を引きつけることを決める。周囲の反対も押し切り、他の人員を乗せたトラックに先んじて、それなりに大きな、大勢が乗っていそうな車を乗り回し、なんとかディソナンスの目を引きつけようとする。

 

(今の装備なら、大半を引きつければなんとかできるはず……!)

 

そう信じ、囮としてディソナンス達をめいいっぱい引きつける美希。その甲斐あって多くのディソナンスをこちらに向かわせることはできたが、しかし予想よりも数が多い。このままでは自分が 捕まってしまう。だが、今捕まれば囮の意味がなくなってしまう、そう思った時ーー

 

『なんだ貴様は……!?ぐおっ!』

 

「へ……?」

 

ディソナンスの群れの一部が、文字通り爆発する。その爆発の中心地にいたのは、金色の髪をたなびかす、忘れもしない、あのディソナンスの姿。

 

 

「ど、ドキ……?」

 

『久しぶりだな、人間……美希、といったか』

 

 

ドキと美希の再会もつかの間、ドキには敵わないと悟ったのか、ディソナンス達が他の人間達の方へ向かい始める。

 

「あ、ドキ……!」

 

『わかっている、少々手荒になるが……』

 

「へ?きゃっ!」

 

美希は無意識にドキの名を呼ぶ。かつて自分を恐怖させたディソナンスだというのに、今の美希にはドキが悪者には見えなかった。ドキもその美希の声に応え、美希をお姫様抱っこの要領で抱え、走り出す。

 

『お前を放置するのは危険だ、こうさせてもらう…………舌を噛むなよ』

 

「う、うん……」

 

こうして美希が惚けている間にドキは圧倒的な戦力差でディソナンス達を殲滅。そのままドキは去っていったが、その後も美希達が危機に陥るとどこからともなく現れては助けに来てくれていた。

 

「それで、そのうち惚れてしまったと……」

 

「へ?いやいやだから好きかもしれないというだけでそんなべつにあいつが好きってわけじゃさっきのもただの方便で「でも、気になるんだ?」……うん」

 

かあっと顔を赤くして俯く美希の顔を、乙音はニマニマとした顔で眺める。久しぶりに会った友人が、こんなに可愛い反応をしているのだ。戦い続きで、碌に浮いた話もなければ聞くこともなかった乙音が思わず意地悪な反応をしてしまうのは、無理のないことだろう。

 

「それで、ドキとは手を繋いだりしたの?あ、もしかしてキーー」

 

「わーっ!イってるわけないでしょ!イきたいけど!そもそも相手ディソナンスなんだし!」

 

「いや、ディソナンスが相手でも話を聞く限りは良いと思うけど……」

 

「あーもう!ここでこの話終わり!はい!」

 

そう言うと、美希は顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

 

「ありゃ……少し言い過ぎたかな?」

 

この主人公、天然でSなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先輩!こっちは終わりました!』

 

「よし、ディスクセッターを使うまでもなかったか、いいリハビリになったな」

 

「……お前ら、いつもこうなのか?戦い終わったあとぐらい少しは肩の力を抜けよ」

 

歓迎会の翌日、さっそくと言わんばかりにディソナンスの襲撃が来て以来、それから五日間もの間、絶え間なくアメリカ各地でディソナンスの目撃情報が多発し、実際の襲撃事件も増加していた。今は真司とシキが共に出撃し、乙音は経験を積ませる意味もあって、ようやく揃い始めたビート部隊を率いて、他のディソナンスの討伐に向かっていた。真司はディスクセッターを装備しているが、ディスクセッターによる強化形態はレコードライバーにかける負担も、変身者本人の体にかける負担も大きい。あくまで一武器として使うのがベストな選択なのだ。今は変身も解除し、特製の装甲車に乗って研究所への帰路についていた。

 

「……日本との連絡も取れないままか。アメリカの戦力もビートライダーシステムのおかげで整ってはきた、これは俺たちも日本に渡る時が来るかもしれんな……」

 

「軍の上の方じゃ、近いうち日本かアメリカのどちらかに大きなアクションがあるだろうという結論が出たらしい。衛星による観測では、日本は逆にあまりディソナンスの襲撃が来てないらしいが……相手は天城音成、稀代の天才科学者サマだ。なにかあってからじゃ遅いだろうな」

 

研究所への帰路の最中、2人は今後の活動について予測を立てていた。今現在、アメリカにはディソナンスによる情報封鎖が敷かれてしまっており、ネットからも海外の情報を入手する事は出来なくなっていた。そのため、近々政府主導で大規模な日本への渡航隊が結成されることになっている。当然、その中にはライダー達も含まれるだろう。

 

「ま、渡るとしても日本にはライダーが三人いるんだ、あんたか乙音さんのどちらかだけになるだろうがな」

 

「……そうだな、どちらかだけで済むことであればいいんだが」

 

その後は他愛もないことを話していた2人だったが、装甲車が突然ストップする。2人はすぐさま変身し、周囲を警戒すると同時、運転席にシキがひっそりと近づき、運転手の無事を確認しようとする。

 

「おい、大丈夫か?なにがあった?」

 

「わ、わかりません、ですが……」

 

「……なんだ?」

 

言葉を途切れさせ、ぷるぷると震える運転手に不審なものを感じたシキは、不用意にも接近し、その肩を掴む。掴んだ肩は、そのままぼとりと落ちていった。

 

「……は?」

 

「シキ!離れろ!」

 

「キモチ……きも、気持ちイイんですよォォォォ!』

 

振り向いた運転手の顔は、触手に侵食され、見るに耐えない異形と化していた。その顔にシキがぎょつとした隙に、今度はシキに取り憑こうとしたのか、その異形と化した顔を運転手ーーいやディソナンスは花弁のようにぱっくりと開き、そこに生えた鋭い牙を突き立てんとする。しかし、真司の咄嗟のディスクセッターによる射撃によって、ディソナンスの顔は吹き飛び、その活動を停止する。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

「こっちもか!?くそっ!」

 

運転席の仲間が倒れたとみるや、助手席の人間を侵食している最中だったろうディソナンスもシキに襲いかかる。しかし、そこは軍人。素早く反応し、真司と同じくディスクセッターによる射撃で怪物を灰に返す。

 

「い、いったいなんなんだ!?物体Xにでもディソナンスどもは変化したのか!?」

 

「後輩!そっちは大丈夫か!?」

 

混乱しつつも、2人は最善と思える行動をとる。真司は乙音に即座に通信、シキは運転席に何か仕掛けられていないか調べる。

 

『先輩、そっちは何があったんです!?こっちは大変なんですよ!』

 

「落ち着け、俺とシキが乗っていた車両の人員が、俺たち以外全滅した。そっちは何があった?」

 

『全滅……!?こっちは帰り道の途中にあった街の人達がいきなり襲ってきて……!今は立てこもり中です、車両は放棄せざるを得ませんでした!』

 

「何……!?」

 

乙音の通信に、真司は愕然とする。乙音の言うこととこちらでの事を合わせて考えると、最悪の可能性しか浮かばなかったからだ。

 

「まさか……!」

 

「真司!車両の外に逃げろ!」

 

真司が思考の海に入りかけたその瞬間、シキが真司の思考にストップをかける。シキの声に反応して、真司が車両の外に飛び出すと、2人が飛び出したその瞬間、突如と車両が爆発する。

 

「くあ………!」

 

「くそ、何が……」

 

『おやおや、反応速度はなかなかいいみたいですね……』

 

上空からの声に、2人が空を見上げる。するとそこには、美しい顔をした、女とも男ともつかないーーしかし、その背に生えた羽と、禍々しい感情を宿す瞳から、異形だとはっきり認識できる生物がいた。

 

『僕はピューマ。では、さようなら』

 

「っ!」

 

(まずい!)

 

ピューマと名乗ったディソナンスが両手を広げると、そこに弓と矢が出現する。咄嗟にその狙いから逃れる2人だが、地面に撃ち込まれた矢は爆発し、2人を吹き飛ばす。

 

「がっ!」

 

(ぐ……!ディスクセッターを……)

 

『させないよ』

 

吹き飛ばされつつも、ディスクセッターを用いて強化形態へと変身しようとする真司。しかし、ピューマの矢は真司を逃さない。その矢の爆発は真司の身体を容赦なく弄び、ディスクセッターを操作する暇を与えない。

 

「テメェ!」

 

『おっと、危ない』

 

(外れた!?)

 

シキが真司を助けようとピューマに向かって射撃を放つが、その何れもが命中しない。さらに射撃を加えても、ピューマはシキの方も見ずに避け続ける。

 

『はははっ!僕にはそんなんじゃ当てられないよ!それに……そらっ!』

 

「!?……ディスクセッターがっ!」

 

「真司!?ぐおっ!?」

 

シキが真司の装備するディスクセッターに矢を命中させ、的確に破壊する。その瞬間、思わず真司の方に気を取られてしまったシキを、ピューマの矢による爆風が吹き飛ばす。これによって、離れていた真司とシキは、一纏めにされてしまった。

 

『さて……そろそろ決めるか』

 

(まずい!あれを撃たれたら……)

 

「……………」

 

ピューマは矢に、これまでにないほどのエネルギーを込め始める。もしもあれを撃たれれば、ひとたまりもない。そう考えたシキがは思わず諦めかけるが、真司は既に策を練っていた。

 

「シキ…………」

 

「なんだ?…………おい、本気か!?」

 

「ああ、危険だがやるしかない。頼めるか?」

 

この時、ピューマの失策があるとすれば、それはこの2人をさっさと仕留めなかったこと、この2人を一箇所にまとめてしまったこと。

そして、この2人の正面に位置してしまったこと……!

 

『じゃーね!』

 

ピューマが矢を放とうとする、その瞬間。2人は飛び退くと同時、必殺技を発動させる。

 

『over beat disk!!』

 

『rider big knuckle !!!』

 

シキのディスクセッターから射出された光の輪、ディスクセッターが向くのはピューマの方ーーではなく、シキの足元!

 

「やれっ!」

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

シキの足裏を光の輪が覆い、そこを真司が巨大なエネルギーの拳で叩く、すると、シキの身体は弾丸のように加速!矢を放つ直前で回避行動をとれないピューマにシキは迫り、エルブレイシューターで一閃、ピューマのバランスを崩し、その手から矢を溢れさせる。

 

『しまっーー』

 

「自分の矢で火傷しな!」

 

ディスクセッターによる銃撃を、シキは落ちながら放つ。放たれたエネルギー弾はピューマの矢に見事命中し、爆破させる。

 

『うおおおおおおおおっ!?』

 

ピューマの身体が爆炎に包まれる。その光景を見た2人は、視線を合わせる。

 

「やったな……」

 

「ああ……」

 

達成感に包まれる。2人、しかし、その2人を、再び爆発が襲う。

 

「うおあっ!?」

 

「何だ!?」

 

『お前ら……この僕に傷を………!』

 

爆風に包まれたピューマはボロボロになっていたが、その身体には先程以上のエネルギーが満ちていた。憎悪の視線がまず向くのは、真司は方だった。

 

『まずはお前から消えろオオオオオオオッ!!!』

 

「…………!」

 

「まずい。真司!」

 

ピューマが矢を放とうとするのを見たシキは、咄嗟に真司に自身のディスクセッターを投げる。その瞬間にシキの変身は解除されるが、ディスクセッターは、真司の手にしっかりと握られた。

 

「二段…………変身っ!!」

 

『死ねエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』

 

矢が迫る中、真司の身体を光の輪が包んでいく。そして、その光が全身を覆うその直前に、爆炎が真司の身体を包んだ。

 

 

「真司ーーッ!!!」

 

『ハァ…次は……ハァ…………』

 

 

シキの絶叫が響き、ピューマの無慈悲な眼光が降り注ぐ。絶望が荒野を支配しようとしたその時、声が響き渡る。

 

「おい…………」

 

『!?まさか……』

 

「あいつ……やりやがった」

 

シキとピューマの視線、その先に立っていたのは、これまでのように巨大な牙ではなく、小さくも鋭い牙を拳に、そして全身に備えた仮面ライダーの姿。新たな力に覚醒した、的場真司の姿だった。

 

 

「お前の相手は……俺だ!」

 

今、ディソナンスにとっての悪魔が目覚めたーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《煮え滾る、この思い、それを怒りと呼ぼう》

 

『当たれ!当たれよ!』

 

《この衝動、そのままに、牙を……振るう》

 

 

ピューマが真司に向かって次々に矢を放つが、その全てが避けられる。爆風には当たっている筈なのに、それすらものともしない。いつの間にか、ポジションの上では有利に立っているというのに、ピューマは追い詰められていた。

 

 

《ただ命、奪う者。それを悪魔と言うのならーー》

 

「仕掛ける……!」

 

《奴等視点の悪魔に、俺はなってやろうーー》

 

 

ピューマの矢を、真司は全身から飛ばず牙で次々に撃ち落とす。その光景を、シキは呆然と見つめ、ピューマは愕然とする。

 

 

《このソウルと、心の炎が》

 

『ヒッーーなんなんだ、なんなんだよぉ!』

 

《打ち鳴らす……ビートのままに、この牙を振るおうーー》

 

「さあな……何に見える?」

 

 

真司が爆風に乗り、怯えるピューマに迫る。ピューマはギリギリでその拳を避けるが、腕から伸びた牙にすれ違いざまに切られ、地面に墜落する。

 

 

《その想いすら込めて、放つ拳はDevil fang》

 

「終わらせる……!」

 

《誰もが心に抱く絶ーーー望に》

 

真司がピューマの身体にこぶしを打ち込むたび、その威力は高まる。そしてそれが最大限に高まった瞬間、真司は必殺技を発動する。

 

 

《牙を突き立て続ける、心燃やし続ける》

 

『over the song!!!』

 

『うあ、ああ……ああっーー!』

 

《そして……》

 

 

真司の全身にみなぎるエネルギーの奔流が、その拳に集まる。そして、真司はそのエネルギーを牙の形にして、ピューマに向け放つ!

 

 

《再び希望、灯してーー》

 

『rider devil fang!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 

真司の咆哮が、大地を震わせる。牙はピューマの身体を打ち砕き、その身体を粉々に砕いた。

 

「はっ……ぐっ……」

 

「真司!」

 

必殺技を放った直後、変身解除した真司の身体は崩れ落ちる。慌てて真司の身体を支えるシキは、寝息を真司が立てていることに気づき、思わずため息をついた。

 

『先輩ーー!こっちは終わりましたよ!そっちはどうですか!?絶望感ーー!?』

 

「乙音ちゃんからの通信か……まったく、無茶しやがるぜ、彼女もあんたも」

 

その後、車両の運転手の死体を解剖し、新たなディソナンスが潜んでいることを知ったアメリカ政府は、国民に対しての秘密調査を実施すると同時、同盟国である日本に、仮面ライダーを送り返すことを決める。

決戦の日は、近い…………。

 

 





やっと投稿頻度を以前に戻せました。これからも1週間以内で頑張りますよ!


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ソング・バース

第2部、完!第3部前に短編集を書いて投稿するつもりです。Fateネタとか大正ウルトラマンとか他にリクエストがあればソングでなんかネタとか小話もやるよ。


「え?私が……日本に?」

 

「ああ、レコードライバーの修理も完了した。未だ状況が掴めない日本に行くなら、ゼブラもいることだし、お前の方が適任と判断してのことだ」

 

真司が乙音にレコードライバーを手渡す。先日7大愛との戦いを乗り越え、真司も成長したものの、未だ傷は完全には癒えていない。兵は拙速を尊ぶというが、拙速に動けるのが乙音のみというのあり、数日後には日本に渡れるよう準備をしておくようにと、真司の口から乙音に伝えられた。

 

「そうですか……少し寂しいですね。やっとこちらの人達と打ち解けたというか……仲良くなれてきたので」

 

「まあ、何も問題なければゼブラと共にこちらに舞い戻ってくることになるだろうな。確か、お前の強化形態は……」

 

「はい、理論上可能ってことらしいんですけど、まだ感覚も掴めなくて」

 

以前乙音は7大愛の1体であるゲイルとの戦闘で、他のライダーに先んじて強化フォームへと変身していた。しかし、その際の反動でレコードライバーが壊れてしまっていたのだが、壊れてから修理されるまでの解析、そして強化フォームの戦闘データの蓄積もあり、どうやらゼブラと非融合状態で変身を行なったのがまずかったという結論が生まれた。要は、以前乙音がD.Sスタイルに変身した時と似たような現象が起きたのである。

そのため、現在の乙音では危険すぎて強化形態に試しにでも変身することはできない。今通信のとれない日本にゼブラがいるのなら、乙音を送ればついでに戦力強化も見込めるという目論見もあった。

 

「ともかく、後の事はあった渡ってから考えるといい。なに、心配するな。衛星からの映像ではあちらは平和そのものだ。休暇だとでも思えばいい」

 

「はい!それでは、荷物を纏めて……その後、皆さんの挨拶回りに行ってきます!」

 

数日後の日本への渡航、それを知った乙音の行動は早く、その日のうちに荷物を(もともと少なかったが)纏め、研究所のお世話になった人々への挨拶回りを行なった。

 

ショット博士は

「……ふむ、レコードライバーの調整も完璧じゃ、ディスクセッターももう一つ持っていくといい。なに、気にする事ではないぞい、彼方でもビートの運用データを集めてくれれば助かるからのう」

と言って乙音に二つディスクセッターを渡し

 

ロイドは

「……そうですか、日本へ……いえ、大丈夫ですよ。寂しくなりますけど、いつか戻ってきてくれると信じてますから。餞別に渡せるものもありませんが、あなたの無事を、祈っています…………いえほんとに大丈夫ですから、だから下から覗き込まないでください見上げないでください無防備にならないでください反応しますから!」

と何故か泣きそうな、でもほんのりと赤い顔で言い

 

シキは

「おおおおおおおおおおおおレディー……!まだ私の思いも伝えきれていないというのに!運命は2人を引き裂く……でも心配しないでくださいレディー。あなたの危機にはすぐに駆けつけます!そう、まるで姫を守る騎士のように!この四季・ブラウンあなたに忠誠を(ry」

……話が長過ぎて、途中からスルーされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、久しぶりに帰ってきたけど……なにも変わってない……かな?」

 

通常の移動手段は日本の状況がわからないこともあって使えなかったので、アメリカ国家が用意してくれた専用の飛行機に乗って空港に降り立った乙音はまず、ゼブラ達に電話をかける事にした。電波妨害のせいで、衛星からの映像以外はほぼアメリカに日本の情報は入って来てはいなかったので、早く彼女達の無事を確かめたかったからだ。

 

「えーと……もしもしゼブラ?今どこ?」

 

『えっ、お姉ちゃん!?あー……今日本にいるの!?』

 

「うんそうだけど?そっちは何かあっ……『良かったあ〜!全然連絡がつかないから、どうしちゃったのかと!』ちょ、ゼブラ、落ち着いて……」

 

その後、空港まで迎えに来たゼブラ達と久々の再会を果たした乙音は、ボイスが姿を消してしまったこと、日本から海外の情報が入手できなくなっており、現在はほぼ海外への渡航も禁止されてしまっていること、刀奈や桜の2人が「仮面ライダー」であり「アイドル」である事を活かして抑えてはいるが、人々の不安や不満が溜まってきてしまっている事などを彼女達から聞いた。どれもが問題視すべき情報だったが、その中でも特に乙音か驚いたのは、ボイスが行方不明であるという事実だった。

 

「ボイスちゃん、そんな……」

 

「……ボイス…………どこへ行ってしまったんだ…」

 

「……あんたが気に病むことじゃないわよ、刀奈。それよりも、乙音の歓迎会でも開きましょう!こういう時はパーっとやってガーッとやって、そしたら大丈夫よ!」

 

「……そうですね、せっかく乙音お姉ちゃんが帰ってきたんだし、何かパーティーでも……」

 

そうゼブラが発言した瞬間、彼女達の乗る車、その後方で爆発音が響く。すぐさま後方を確認すると、彼女達が先程までいた空港、そこから大きな黒煙が上がっていた。

 

 

「「「「…………!?」」」」

 

すぐさま四人は車を反転させ、再び空港へと向かう。今は一般には開放されていないとはいえ、あそこには多くの人々がいる。仮面ライダーである彼女達が、見捨てる道理などなかった。

 

「「「「変身!」」」」

 

四人は一斉に変身すると、車が止まると同時に飛び出し、爆発によって半壊した空港内部へと突入していく。

 

「私が嵐で瓦礫を巻き上げる!刀奈は生存者の救助を最優先して!二人は……!」

 

「僕らは周囲の警戒と、生存者の救助を!」

 

「ゼブラちゃん……!気をつけてみんな!来るよ!」

 

桜が支持を出し、中心となって生存者の救助に当たるライダー達。生存者はみな気を失ってはいるものの、命に別状のあるものは今のところおらず、ほっとするライダー達。しかし、当然の権利のように、救助活動を邪魔するものが現れた。

 

「!?……そんな、あいつは!」

 

「乙音ちゃん、あいつのこと知ってんの!?」

 

「はい!でもあいつはアメリカで先輩が倒したはず……!」

 

『初めましてだね、ライダー諸君』

 

「貴様、何者だ!?」

 

 

『僕かい?僕の名はピューマ。最も美しきディソナンスにして、君達に滅びを運ぶものだ……!』

 

 

乙音達の前に現れたディソナンス……それは、つい先日、アメリカで真司が倒したはずの7大愛が一体、ピューマそのものだった。

 

「あなたが、なぜ……!」

 

『うん?ああ、アメリカでやられた『僕』の話か。なに、不思議なことじゃあないだろう?エンヴィーだって6体いたんだ……』

 

ピューマが翼を広げ、指笛を吹く。すると、どこに隠れていたのだろうか?ピューマと全く同じ容姿をしたディソナンスの軍勢が、周辺に現れ始めた。その数は優に百を超えており、その姿はまるで世界の終わりの日、黙字録の日に現れると言われている、地上を焼き尽くす天使達のようにも見えた。

 

「なんて数………!?」

 

「これは、少々骨が折れそうだな……!」

 

「ゼブラちゃん!合体!」

 

「うん!しなきゃヤバい……!」

 

『『『さて、オリジナルよりは性能も落ちるが……この数相手に、どこまで持ちこたえられるかな?』』』

 

乙音達に向かって矢を放とうとするピューマに対し、乙音達は強化形態へと変身する事で対抗する。ライダー達を更なる次元へと押し上げるオーバーライドシステム。その力は強大だが、それを扱うにはそれ相応の覚悟ときっかけが必要だ。

 

「いくぞ!」

 

「「「はい!(ええ!)」」」

 

仮面ライダーツルギ、ゴッドスタイルにフォームチェンジした刀奈は、その速度を生かし、残像を残しながら敵の弾幕の雨を防ぎつつ、既に発見されていた生存者の救助を最優先に行動。続いて仮面ライダーダンス、フェニックススタイルへとフォームチェンジした桜は、その攻撃範囲の広さと高い空戦能力を生かし、ピューマの軍勢を次々と叩き落としていた。

 

「ゼブラちゃん!私達も!」

 

『わかった!乙音お姉ちゃん!』

 

ゼブラと融合した乙音も、仮面ライダーソングO.D.Sスタイルとなって、刀奈でもカバーしきれない攻撃を防ぎ、その突破力の高さで、生存者のために道を切り開いていた。

一見して完璧な連携に、流石のピューマ達も焦り気味となってくる。しかし、その時は突然やってきた。

 

「…………っ!?変身が……!」

 

『融合状態が、維持、できない……!?』

 

戦い始めてからしばらく経った頃、不意にソングが苦しみだしたかと思うと、次の瞬間には非融合状態に戻っており、さらに乙音とゼブラの変身まで解除されてしまった。

 

「レコードライバーには異常がないのに……!」

 

「やっぱり、無理なんだ……!」

 

無論、そんな隙を見逃す相手ではない。ピューマは2人を焼き尽くそうと矢を構える。が、しかし、この場にいるのは最速のライダーと、最大のライダーの2人なのだ。

 

『rider god blade!!!』

 

『rider over typhoon!!!』

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

桜が竜巻を起こしてピューマ達の動きを阻害し、刀奈がその竜巻に乗って次々にピューマ達を切り裂いてゆく。さらに桜はファイヤーストームブレイカーまで繰り出し、それを足場として刀奈は空中を華麗に駆け回る。

 

『ぐ、クソおおおおおおおおおおおっ!!』

 

「これで……」

 

「終わりよっ!!」

 

遂に最後の一体を刀奈の剣が捉え、その身体を切り裂く。生存者達の無事を確認した桜と刀奈は、乙音とゼブラの元に駆け寄る。

 

「大丈夫か、2人とも!?」

 

「何があったの?」

 

「私達も強化形態に変身しようとしたんですけど……何故か、変身できなくて。そのまま変身が解除されました」

 

「……僕のせいだ」

 

「え?」

 

「……以前、強化形態に変身しようとした時も……変身できなかった。だから、多分僕のせいなんだ」

 

何があったのか問う2人に対し、冷静に説明する乙音に対し、ゼブラは俯いたまま呟いた。その顔は暗く、自分の無力さに絶望しているかのようだった。

 

「……あー、とにかく!この場はどうにかなったんだから、そう落ち込まないの!」

 

「う、うむ。桜の言う通りだ。今は本部に戻って、何が原因か探った方がいい」

 

「そうだよ、ゼブラちゃん……行こう?」

 

「うん……」

 

いつも通りの敬語ではなく、まるで子供のようにか細い声で返答するゼブラの姿に、これは一筋縄ではいかないと思う桜と刀奈、そして乙音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……差し向けたピューマがやられたか、予想以上だな』

 

『どうする?次は俺が行ってもいいが』

 

『いや、ここは私が行こう……なに、アメリカのついでだ』

 

『はいはい、そんじゃー行ってらっしゃい………………たく、仮面ライダー達も運が無いなあ』

 

 

『よりにもよって、ガインのヤロウをキレさせるとは……しかもありゃあ、相当キてるな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特務対策局本部に久々に戻った乙音を待ち受けていたのは、歓迎会……ではなく、精密検査に次ぐ精密検査だった。

ゼブラと融合時の強化形態への変身失敗もそうだが、アメリカでの激闘の爪痕が残っていないかなど、アメリカと連絡がつかないあいだ、確認できなかったことを検査していた。

結果的には、身体に異常はなし。強化形態への変身失敗も、ハートウェーブの問題というわけでもなく、以前乙音が一人でO.D.Sに変身した時はレコードライバーが破損してしまったという事実もあって、なにが原因なのか、さっぱりわからない状態が続いていた。

 

「やっぱり、僕のせいなんじゃ……」

 

強化形態に変身できない理由が不明ということもあって、ゼブラはますます自分が原因なのではないかと落ち込んでしまう。そんなゼブラを、乙音たちはなんとか励ましていた。

 

「だからそんなことないって言ってるでしょ!もう、気晴らしに外にでも出かけましょう?最近はディソナンスの出現報告も目撃情報もないし、ボイスだって行方がわからないままだし、息抜きが必要よ」

 

「ああ、そう根を詰めてばかりでもしょうがない。今は身体を休める時だ」

 

「そうだよ、ゼブラちゃん。一緒にお出かけしよう?」

 

「……そうです、ね。くよくよしても、しょうがないですもんね……わかりました!今日は思い切り遊びましょう!」

 

そう言って顔を上げたゼブラに対し、待ってましたと言わんばかりの表情でテーマパークのチケットを取り出したのは桜だった。

 

「そういうと思って、割と近場のテーマパークのチケット、取っといたわよ。ちゃんと四人分あるわ」

 

「おお、用意がいいですね!さっそく行きましょう!」

 

その後、テーマパークに移動した乙音達は、思い切り遊んだ。ボイスの問題、日本の問題、ディソナンス達の襲撃、その全てを忘れたように、振り切るように、思い切り。

それは、つかの間の……本当に一瞬だけの、平和な時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディソナンス発生!?場所は!」

 

『そこから北西の地点です!ビートライダーを向かわせます、それを使ってください!』

 

「了解した!」

 

後日、乙音とゼブラが未だ変身への糸口を掴めていないうちに、新たなディソナンス発生の報が入る。

外に出かけていた刀奈と乙音はすぐさま人目につかない場所で変身、遠隔操作でやってきたビートライダーに飛び乗り、そのままゼブラ達と合流する。

 

「見たこともないディソナンスらしい、気をつけてかかるぞ……!」

 

「なに、任せておきなさいって、乙音、ゼブラ、あんたらも変に気負わないようにね」

 

「はい!わかってます」

 

「………………はい!」

 

現在はゼブラも調子を取り戻しているが、乙音には不安と疑念があった。自分達の考えでは、結局ハートウェーブの量が足りないから強化形態の変身状態を保てないのではないかという結論が出たが、理論上は計測されたハートウェーブの量に問題はないはずだった。事実、乙音自身は単体で変身が可能だったのだ。では、ゼブラが原因なのだろうか?これも違うだろう。ゼブラは乙音の分身ともいえる存在であり、彼女に問題がないことは、乙音も、そしてゼブラ本人も理解はしていることだった。ならば、強化形態に変身できないのは……

 

「もうすぐ到着よ……気を引き締めていくわよ!」

 

桜の声に、乙音ははっとなって思考を中断する。そうだ、今は自身のことについて考えている暇はない。これから相対する相手の事を考えなければ。乙音は一旦自身の考えを頭の隅に追いやり、ビートライダーを走らせる。

 

「!……居たぞ!」

 

そして走ること数分。オペレーターが伝えた出現場所から殆ど離れていない地点に、一体のディソナンスが立って……いや、聳えていた。

まるで城壁のように巨大なその体躯は、銀色に輝き、その頑健さと威圧感をこれでとかと強調してきている。

腕と思わしきパーツも巨大な盾のようなものがついており、その威容は、見るものに恐怖を与えるには十分なほどの迫力を伴い、そこに佇んでいた。

 

『……来たか』

 

「刀奈……」

 

「わかっている、速攻を仕掛けるぞ!」

 

そのディソナンスの姿を確認したふたりは、すぐさま強化形態へと変身。桜が派手な嵐を起こし、それに紛れて刀奈がディソナンスにせまる。

 

(この、ディソナンス……硬そうね、なら!)

 

(ああ!装甲の隙間から狙い斬る!)

 

ふたりの作戦は至極単純。桜が陽動を仕掛けている間に、刀奈が速攻で仕留めるというものだった。だが、単純故に効果は絶大、新たなディソナンスは名乗りをあげる間も無く消滅する、はずだったが……

 

ガキィン!

 

「な……!馬鹿な!」

 

「刀奈の斬撃が……止められた!?」

 

『確かに早い……だが、この俺の防御を突破できるほどではないぞ!』

 

ディソナンスが咆哮を上げ、自身に剣を突き立てようとしていた刀奈を弾き飛ばす。強化形態のライダーを容易く吹き飛ばすそのパワーにもそうだが、刀奈は隙間すら存在しないその防御力に戦慄した。

 

「こうなれば、必殺の技で!」

 

「それしかないみたいね!」

 

『rider god braid!!!』

 

『rider Phoenix strike!!!』

 

桜と刀奈はその防御を突破するために、全霊を込めた必殺技を発動する。刀奈の剣は光となって振り下ろされ、桜はその身に炎の嵐を纏って突撃する。

 

「「でいやあああああああああああああああああああっ!!」」

 

7大愛級のディソナンスでもひとたまりもないであろう攻撃が、巨大なディソナンスに降り注ぐ。この時、刀奈と桜はこれで倒せると確信していた。乙音達が強化形態に変身できないいま、自分達が出せる最大の火力を叩き込んだからだ。

だが…………

 

「う……嘘っ!?」

 

「無傷だと!」

 

『この俺の防御を……正面から貫けると思わぬことだ!』

 

2人の必殺技を喰らった筈のディソナンスは、無傷でそこに立っていた。その銀色の体躯にはかすり傷一つついておらず、その威容は絶望感すら刀奈達に与えていた。

 

『それ……返すぞっ!』

 

「……!これはっ!?」

 

「なに……きゃあっ!」

 

「桜さん、刀奈さん!」

 

「先輩達っ!」

 

ディソナンスがその体躯を一瞬だけ縮めたかと思った瞬間、刀奈と桜に向けて凄まじいまでのエネルギーが放出される。そのエネルギーの奔流に吹き飛ばされた刀奈達を受け止める乙音とゼブラだったが、受け止めた彼女ですらその勢いを止めきれず、共に地面に転がってしまう。直撃を受けた刀奈達に至っては、変身まで解除してしまっていた。

 

「まさか、さっきの必殺技のエネルギーを吸収して!?」

 

『そうだ……防御と、吸収。単純にして最硬の能力こそが俺の真価!』

 

「きさ、まは……」

 

『俺の名はガイン!7大愛が一体堅守の四(ガーディアンフォース)、ガインよ!』

 

ガイン、そう名乗ったディソナンスは、乙音達に向けて、一歩、また一歩と歩みを進めてくる。その様子に、思わずたじろぐ刀奈と桜。

今まで戦ったディソナンス達も、確かに強敵だった。しかし、このディソナンスは自分達の必殺技すらも真正面から跳ね返してみせた。

圧倒的な、種族そのものとしての差、格の違い。それを認識させられたようで、2人の心には若干の怯えが芽生えていた。

しかしーー

 

「先輩達、下がっていてください」

 

「あいつは、僕とお姉ちゃんで倒します……!」

 

2人は、違った。

強化形態にも変身できない現状で、勝てるわけがない。だが、2人の目には迷いも恐れもなかった。

あるのはただ、大事な人たちを傷つけられたことと、これから傷つけようとすることに対しての、怒りだけだった。

 

「乙音くん!ゼブラくん!無茶だ!」

 

「そうよ、一旦、引きましょう!」

 

「すみません、それをしてしまえば……大きな被害が出る」

 

「それに、敵は逃がすつもりはないみたいです……!」

 

ゼブラがそう言葉を発した瞬間、ガインが巨体に似合わぬ速度で走り迫ってくる。

まさに、城壁がそのまま迫ってくるかのような威圧感。それを乙音とゼブラはディスクセッターによる射撃で迎撃するが、その銃弾は分厚い鎧に阻まれるだけ。

『その程度なら、俺の相手ではない!』

 

『『rider double strike!!!』』

 

ぐおっ、と迫り来る巨体を、2人は必殺技で阻もうとする。同時に同じ地点に蹴りを叩き込む、見事な必殺のコンビネーション。しかし、そのエネルギーすらも、ガインは吸収してしまう。

 

『このまま貴様らの力を吸収し尽くしてくれるわ!』

 

「2人とも、離れろ!奴に力を与えるだけだ!」

 

「いいえ……いつかはパンクするはず、なら!」

 

「2人分のハートウェーブでええええええええっ!!」

 

刀奈の忠告にも耳を貸さず、ますますそのハートウェーブを高める2人。その2人の様子に、刀奈と桜は目を見張り、ガインは予想外の事態に驚く。

 

『ぐぅ!これは……まさか!俺が、ハートウェーブを吸収しきれていないだと!』

 

ガインのハートウェーブ吸収能力は、そもそもが土地と、そこに住む人を枯れ尽くすためのものだ。だから、例え100人分のハートウェーブを一度に叩き込まれようとも、吸収しきれないなんてことはない。それは、常人の数倍、いや数十倍のハートウェーブを持つ今のライダー達相手でも言えることだった。

ーーガインはライダー相手にほぼ無敵である。そもそも音成に絶対の服従を彼が誓っているのも、その能力の危険性ゆえ、音成から他のディソナンスよりも強く自身に服従するようプログラミングされているからだ。

 

ーー俺が、たった2人のハートウェーブに……!

 

 

認めるわけにはいかなかった。天城音成の第一の配下として、7大愛のリーダー役として、たった2人に押されるなどあってはならないことだった。しかし現実は非情にも、ガインの鉄壁の守護を、その無慈悲な鉄槌で打ち砕いた。

 

「「いけええええええええっ!!」」

 

『ぐぅおおおっ!!』

 

乙音とゼブラによる、渾身の一撃。それが遂に、ガインのその巨躯を弾き飛ばす。2人の攻撃を受け止めていたガインの腕部分には、真っ黒な焦げ跡が付いていた。

 

「馬鹿な……!本当に!」

 

「やってみせるなんて……さすがね!」

 

「ゼブラちゃん、今の感覚……」

 

「うん、これなら……いけるかもしれない!」

 

刀奈と桜が喜ぶのもつかの間、ガインはすぐさま立ち上がる。その視線は乙音達を射殺さんばかりのものであり、激しい憎悪がそこには宿っていた。

そして、その視線を受け止める乙音達は不可解な行動をとる。強化形態に変身できないいま、ガインの特性上二人掛かりでかかった方が得策だというのに、一つに融合したのだ。しかめその両腕には、ディスクセッターが装着されていた。

 

『貴様ら……貴様らは俺の手で殺す!』

 

「ゼブラ……いくよ!」

 

「うん……!」

 

ガインか乙音達を押しつぶさんと迫る中、乙音とゼブラ……ソングは両腕に装着したディスクセッターのレバーを、腕をクロスして、その手で押し上げる。本来は片手で引くような構造なのだが、両腕に装着したディスクセッターを同時に稼働させるには、こうしてレバーを押すしかない。

すると、ソングの両側に光の輪が出現する。その現象に驚く刀奈と桜だったが、彼女達にはもう、乙音とゼブラが何をしようとしているのか、そして、2人が強化形態に変身できなかった理由もわかっていた。

2人が強化形態に変身できなかった訳ーーそれは、2人のハートウェーブの量が多すぎるために、一つのディスクセッターではその力を制御しきれず、結果的に、ドライバーの破損などが起こってしまっていたのだ。

だが、今のソングにはディスクセッターが二つ装着されている、これが意味するものはーー

 

 

「変、身……!」

 

 

ーーその言葉とともに、辺りが極光に包まれる。まばゆいまでの光に、誰もがその目を閉じる。

そして、目を開けた時、そこに響くのは歌。繋がるのは魂と肉体、そして心。そこに立っているのは、いま生まれたのものはーー

 

 

『仮面ライダー……ソングッ!!』

 

 

高らかにソングの声が響く。そう、いま立っているのは乙音でもゼブラでもない、2人が融合し昇華した、全く新しい仮面ライダー!

その名を……ソングという!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《言葉じゃ……どうにもならない、事ばかり》

 

『うおおおおおおっ!』

 

《涙と……一緒にこの世に、溢れてる》

 

ソングが駆ける、走る、跳ぶ。ガインの巨体を飛び越え、その背後をとる。

 

《それでも……人は繋がると、信じてる》

 

『くっ……!させるか!』

 

だがガインも流石で、ソングの速攻にも対応し、その拳を腕の盾で受け止める。止まるソングの攻撃。しかし次の瞬間、爆発的なセカンドインパクトがガインの身体を襲い、その身体を吹き飛ばす。

 

《それは……私も一緒さ》

 

 

「すごい……」

 

「あれが、ソングの力……強化形態、オーバーライドシステムの真価……!」

 

 

ソングの手に、二つの槍が握られる。不揃いのその槍は、しかしそうあるのが当たり前のようにセットとなって、ソングに振るわれる。

 

『はあああああああっ!!』

 

 

《繋がる…………》

 

 

『馬鹿な、この力……!』

 

 

二つの槍が、ガインの装甲を削り、剥ぎ取ってゆく。その様はまるで、鎌で草を刈り取るかのようだった。

 

《song is hope そうさ僕らは》

 

『でいやあああああっ!!』

 

《誰もがみんなおんなじ命で》

 

ソングの蹴りが、ガインの身体を宙に押し上げる。ガインは必死で抵抗するが、ハートウェーブの爆発になすすべもなく打ち上げられる。

 

《song is hope そうさ私達》

 

『グウウウウウウウウああああああ』

 

《誰もがホントは通じ合えるから》

 

 

ソングの連続パンチによって、どんどんと空中へと押し上げられていくガイン。そして雲の上まで到達した時、ソングは必殺技を発動する。

 

《手と手を合わせ》

 

『Over the Over!!!』

 

《目と目で通じて》

 

『うおおおおおおおおおおおおああああああああああああああっ!!!!』

 

《心と心、触れ合い伝わる》

 

『Rider Heart Wave!!!!!』

 

ハートウェーブそのものと言える程の一撃、それがガインの身体に叩き込まれる。

 

《song is hope そうさ歌おう》

 

『があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

《想いよ》

 

 

《響けと……!》

 

 

ソングの一撃、それを受けたガインが、ソングとともに地面に落ちてくる。

華麗に着地したソングとは対照的に、ボロボロの状態で地面に這い蹲るガイン。その姿を見たソングは、変身を解除する。すると、その姿は元の乙音とゼブラに戻った。

 

「戻った……」

 

「やったね!お姉ちゃん!」

 

「すごいじゃない、ホントすごいじゃない!」

 

「ああ、よくぞあそこまでライダーとして強くなったものだ……」

 

『クック……呑気なものだ』

 

倒れ伏すガインを前にはしゃぐ乙音達を見て、突然ガインが笑い出す。嘲りを込めたその笑いに、ムッと反応する乙音達。しかし、次のガインの言葉を聞いて、その顔には焦りと驚きが浮かぶ。

 

『アメリカは、もう既に我らの手に落ちたというのに……!』

 

「何!?」

 

「えっ……!」

 

「そんな!?」

 

 

「…………先輩達!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカーーニューヨーク上空、巨大浮遊要塞

 

 

「さて、アメリカはほぼほぼ制圧……残党の抵抗は激しいが、残る拠点はワシントンD.C.のみ……と」

 

「ボイスは目覚め、ソングは覚醒した……さあ、次は君の番だ」

 

 

 

「最強のディソナンス、デューマン……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2部・仮面の奥で

第3部へと続く……




第3部……次回予告

制圧されたアメリカ合衆国

「巨大な空中要塞だ」

「ビート部隊、通信途絶!」

「あんな化け物、どうやって戦えってんだよ!」

奪還に向け動き出すライダー達

「私が行きます」

「俺は逃げるわけにはいかない!」

「ここでカッコつけなきゃ、男に生まれた意味がないんでね……!」

ボイスを襲う不穏な影

「君はどちらを選択する?」

「涙は……もう流させない」

「心を……全てを壊す!」

そして、絶望……

「馬鹿な!」

「ライダーの反応、途絶しました……っ!」

「最強のディソナンスだ!」


「ゼブラちゃんっーー!!」

「大丈夫だよ、乙音お姉ちゃん……」

仮面ライダーソングdisc3・絶対なる望いの中で 近日執筆開始予定


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Bounstrack・いわゆる劇場版や番外編
劇場版 仮面ライダーソング ザ・フューチャーソング 前編


最初は1話に纏めるつもりだったんですが、思った以上に時間がかかりそうだったので、とりあえず前編をあげます。
…最近新しい連載を始めようと思い、執筆も続けてるんですが、書いてると新しい作品をどんどん書きたくなってくるんですよね…こういう現象って何か名前とかないんだろうか。
あ、設定資料5は劇場版投稿後に纏めて書きます。刀奈や真司の強化フォームに、ドキのスペックなどを書く予定です。後は今の乙音ちゃんのスペックもかな…。

時系列的にはdisc1終了後ぐらいです。


「……では、行ってくる」

 

荒廃した大地に、一人の女性が立っていた。

その女性は、先程まで円形の、とある装置の内部で作業をしていたが、それも終わったようだ。後は、その装置の起動を、待つばかりである。

 

「……希望…か……」

 

自らそう名付けた円形の装置の内部で、その女性は嘆息する。

 

「…そうさ、全ては…」

 

 

「我らの、未来の為にーー」

 

そして、荒廃した大地から、その女性の存在が、円形の装置と共に消えた。

その女性の目的地は、遥か過去ーー2017年、乙音達の時代ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん美希!待ったー!?」

 

「ううん、私も今来たとこだよ、乙音」

 

あの東京タワーでの決戦から三ヶ月。もうすぐ待ち受けるクリスマスにむけ、賑わう街で、仮面ライダーソングである木村乙音は、友人である湊美希との休日を楽しんでいた。

東京タワーの戦いの後、天城音成による宣戦布告は世界中へと広まり、一時期は世界中が混乱の渦に巻き込まれていた。

しかし、今は乙音の周辺はすっかりとその日常を取り戻していた。ただ一つ、今までと異なる点といえばーー

 

「聞いたよ…また、新兵器のテスト?」

 

「うん…今の所、私達しかディソナンスに対抗できないから…」

 

ーー物騒な人との、物騒な仕事が増えたところだろうか。

 

「何か辛い事があれば言ってね?私が力になるから!」

 

「あはは…ありがと、美希」

 

そんな日常を送る乙音にとって、自身の正体ーー仮面ライダーであることーーを知りながら、それを気にせず、今までどうりに友人として接してくれる美希との休日は、数少ない心休まる時だった。対して、美希の方もまた、人のために戦う乙音の事を、好ましく思っている。

そんな二人は、今日共に映画を観に行く約束をしていた。映画のタイトルは、『マイ・フューチャー』。時間を渡る能力を身につけた男が、些細なこと、例えばかつて自分が落とした100円玉だとかを拾うために自身の能力を使うが、そうするうちに現代で自身の恋人が死んでしまい、その死の運命を変えるために奔走する話だ。過去を変えるための男の葛藤が魅力の映画で、ネットでの評価も高い。

 

「しっかし乙音がこういう映画好きなんて、意外だったな〜」

 

「あはは、こういう映画は、何回見ても飽きないからね」

 

意外なことに、この映画を観に行こうと誘ったのは、乙音の方だった。仮面ライダーとしての戦いのために、あまり学校へ行けていない乙音だったが、それでも授業やテストを悠々とこなせるあたり、頭のデキは悪くない方である。

 

「ポップコーンは何味を買おっかな〜」

 

「私はキャラメルかなぁ、乙音はどうするの?」

 

「私?私は……やっぱりキャラメルにしよっかな」

 

「じゃあ大きいの一つ買って、それを二人で分けあおっか」

 

「うん!」

 

そんな他愛のない事を話しながら映画館に無事到着した二人は、件の映画が始まる、30分前にはチケットを購入し、上映時間まで二人で談笑していた。その話の中で、乙音が、ふと気になっていた事を話す。

 

「そういえば、最近新しい兵器が特務対策局に配備させるらしいんだ」

 

「えっ…それ、私に教えて大丈夫?」

 

乙音の言葉に思わず動揺する美希。しかし、乙音は平然とした顔で美希の疑問に答える。

 

「うん、特務対策局の存在も世間に公表されたし、配備されたらすぐに世間に向けて発表するから、問題ないみたい」

 

「そうなの…それの、名前は?」

 

「グリモルド…だって、でも、なんだかな〜」

 

「どうしたの?」

 

「いや……なんだか、悪い予感がするの。なんというか…すごく」

 

そう言う乙音の表情は、あの決戦以来、ときおり見せるようになった、後悔や罪悪感の入り混じった暗いものとなっていた。その表情を見た美希は、すかさず「ていっ」と乙音の額を軽く叩く。

 

「あうっ……み、美希…?」

 

痛みはないが、思わず声を出してしまった乙音が恐る恐る美希の顔を伺うと、美希は少し悲しそうな表情を見せていた。それにますます暗い顔になる乙音を、美希が叱咤する。

 

「もう、そんな表情しない!乙音には頼れる人がいるでしょ?」

 

「あ、でも……みんなに迷惑は…」

 

「迷惑なんかじゃないよ。それに、誰かに頼ることは弱さじゃない、誰かに頼ることができるほど、その人は出会いを重ねてきたって事なんだから。だから、私達との出会いを否定しないで?」

 

「…美希ぃ……」

 

親友の言葉に、思わず涙ぐむ乙音。それに思わず焦る美希だったが、そうこうしてるうちに映画の上映時間が近づき、二人は慌てて上映スクリーンに移動する。

 

「はひぃ〜間に合ったあ〜」

 

「…乙音、元気になったね」

 

「え、あ……うん、ありがとう。美希」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

こうして絆を深める二人、仮面ライダーとは人の自由を守る戦士。その戦いは辛く厳しいものだが、どの仮面ライダーもたった一人では戦い抜けていない。多くの人との出会いや支えがあってこそ、彼らは無敵のヒーローでいられるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、特務対策局。ここでは、午前中のトレーニングを終えたライダー達が羽を休めていた。

 

「ふぅ…だいぶやるようになったな、二人とも」

 

シャワー上がりの髪をタオルで拭きながら話す女性の名は、心刀奈。世界的に有名なアイドルであり、仮面ライダーツルギでもある。そのアイドルとしての活動はもはや一流のアーティストと呼べるほどの規模となっている。

そんな彼女だが、ディソナンスと、それに対抗する組織である特務対策局、そしてそこに属する仮面ライダーの存在が公になった現在でも、自身の正体は明かしていない。無用な混乱を避けるためーーというのももちろんだが、彼女自身は割とシャイな性格で、アイドルも自身の性格をなんとかしたいと始めた側面もある。そんな彼女が正体を明かせば、色々な意味で大変な事になるだろう。

 

「ああ……だが、まだ連携が不十分だな。いざという時に備えて、俺達は誰とでも連携できるようにしなければ…」

 

そんな刀奈の言葉に続くように発言するのは、刀奈と同じくアイドルであり、仮面ライダーファングの変身者の的場真司。ライダー達のまとめ役とでもいうべき人物で、強靭な精神力の持ち主である。そんな彼は今現在、シャワーを上がったばかりの美少女三人に囲まれているにも関わらず、眉一つ動かしていない。こいつ本当に二十歳前後の男なのだろうか?

 

「……そうね、いろいろ言いたい事はあるけど、真司の言う通りね…」

そんな真司に対していろいろと複雑なものを含んだ表情を見せるのは、二人と同じくアイドルであり、仮面ライダーダンスの変身者である佐倉桜。先程の訓練では真司や刀奈と、残る一人であるボイスと組んで戦ったが、結果は惜敗。そして、訓練後の反省会でも、なぜか敗北感を感じていた。真司の鍛えられた肉体に少しどきりとしてしまうあたり、他のライダー達と比べても常識的かつ普通の人であるが、美少女達に囲まれても心の底から平然としている真司を見て複雑になるあたり、激しく乙女でもあるようだ。

 

「ん……」

 

勝手に悶々と悩む桜の言葉に同意するのは、仮面ライダーボイス。故あって変身時以外は喋るのを控えている彼女だったが、変身時には男勝りな、荒々しい口調となる。普段は筆談などの手段でコミュニケーションをとる彼女だが、今は他のライダー達と一緒に一息ついていた。

彼等は今、トレーニングの後のミーティングをしていた。つい先程のトレーニングの内容を振り返り、自分達に欠けているものを探すライダー達。現在の技術では、システム面からの強化はこれ以上できないため、ライダーシステムを纏い、操る彼等自身が強くなる必要があった。

 

「よし、それでは午後からの訓練でーーむ、通信だ」

 

ミーティングを終え、午後の訓練に備えて休憩をとろうとした矢先、彼等をサポートする人物の一人である、大地香織から通信が入る。その内容はディソナンスが出現したというものだった。

 

「真司……」

 

「ああ…ちょうどいい、実戦で訓練の成果を確かめるぞ!」

 

「よーし!そんじゃ行きますか!」

 

「……ん」

 

かくして、ライダー達は出撃準備を始める。東京タワーでの決戦でその数を大きく減らしたものの、未だ多くのディソナンスが残っている。天城音成の件といい、彼等に休むことが許される日はない。そして、今は友人との日常を楽しむ乙音も、例外ではない。

 

「えっ……ディソナンスが…?わかりました。すぐに向かいます」

 

「……また?」

 

「うん…でも、映画見終わった後で良かったよ」

 

「……気をつけてね?」

 

「まかせて!」

 

美希と別れた乙音を、特務対策局の車が迎えに来る。その車に乗った乙音を、美希は不安げな表情で見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか…!性懲りも無く、ワラワラと!」

 

「皆、行くぞ!」

 

「「「変身!!!」」」

 

乙音よりも一足早く現場に到着した真司達が、一斉に変身する。レコードライバーにライダーズディスクを挿入し、一斉に変身ボタンを押すと、光の輪が現れて真司達の体を包む。

 

「さあ…俺の牙の餌食となれ!」

 

右手側に出現した光の輪が真司の体を通過すると、ライダー達の中でも随一の攻撃能力を誇る仮面ライダーファング・バスタースタイルに真司が変身する。ファングへと変身した真司は、その両腕に備わった牙で、ディソナンスの群れを切り裂いてゆく。

 

「私も続くぞ!真司!」

 

真司に続いてディソナンス達を切り裂いてゆくのは、左手側から現れた光の輪に包まれて、仮面ライダーツルギ・シャイニングスタイルへと変身した刀奈だ。その手に持つ刃で、次々とディソナンスを切り散らす。

 

「集団戦なら!」

 

真司と刀奈のコンビに負けじと変身するのは桜だ。桜の背後に現れた光の輪が彼女の体を通過し、彼女を仮面ライダーダンス・ライブスタイルへと変身させる。竜巻発生させ、多数の敵を巻き込める彼女は、このような集団戦に向いている。早速竜巻を発生させ、敵に突っ込ませる桜。

 

『そうすると思ってたぜ!オラァッ!』

 

桜の発生させた竜巻にエネルギー弾を撃ち込み、より強力なものへと変化させたのは、仮面ライダーボイス・ブラスタースタイルの仕業だ。ボイスと桜は、先程のトレーニングの続きと言わんばかりの勢いとコンビネーションで、ディソナンスを次々と撃破していく。

 

「凄まじい勢い…だが!」

 

「ああ、先輩として、あいつらにまだコンビネーションで負ける訳にはいかんな!」

 

桜とボイスに負けじと、真司と刀奈も熟練のコンビネーションを見せる。

 

『おいおい大人げねぇ!…でもな!』

 

「私達だって、強くなってるのよ!」

 

お互いに競い合い、高め合うライダー達。四人が気づいた時には、すでにその場にいたディソナンス達は全滅していた。

 

『なんだ、もう終わりか』

 

「被害ゼロ…上出来だな」

 

一息つく真司達の元に、ようやく乙音が到着する。車を降りる乙音は既にレコードライバーにライダーズディスクを入れていたが、既にディソナンスがいないとわかると、驚いた顔をする。

 

「せ、先輩!ディソナンスは…?」

 

「もう全滅させたさ…遅かったな?後輩」

 

「うっ…す、すみません…」

 

「フ、まあいい。俺達が張り切りすぎた結果だ」

 

『へっ、あの美希ってやつとイチャイチャしてて遅くなったんじゃねーの〜?』

 

「ボ、ボイスちゃん!」

 

『ハッ!冗談だよ、じょーだん』

 

「も、もう!」

 

戦いの直後だというのに、緩んだ雰囲気にその場が包まれる。ライダー達全員の切り替えの早さもそうだが、乙音の明るさも彼等が辛い戦いを乗り越えてこれた一因と言えるだろう。

 

「そう言えば、ゼブラはどうしたんだ?」

 

ふと、刀奈がある事に気付く。それは、いつも乙音と共に行動しているはずのディソナンス、ゼブラの事だ。乙音の絶望から生まれたゼブラは、ディソナンスでありながら、人類の味方として戦っていた。

 

「あ、ゼブラちゃんなら、私が今日美希と一緒に出かけるって話すと、お留守番するって言ってくれたので、たぶん家にいるんじゃないですかね?」

 

普段は乙音と常に共に行動しているゼブラだったが、今日は乙音が美希と一緒に出かける予定があったため、家で留守番をしていた。

 

「ゼブラちゃんなら、ディソナンス発生の連絡がいってるはずだから、もうすぐこちらに来るかもしれないわね」

 

「あ、そうなんですか。じゃあーー」

 

「待て、……何かおかしい」

 

その異変に初めに気がついたのは、真司だった。先程までライダー達とディソナンスが戦っていた戦場に、嫌な空気が立ち込める。

 

「……これは…」

 

「乙音ちゃん、いつでも…」

 

「はい、変身できるように…」

 

その嫌な空気は邪気へと変化し、その邪気が集まり、空間を歪ませていく。

 

『チッ、何が起こってやがる!?』

 

そして、その空間の歪みは、光となってライダー達の視界を覆いーー

 

 

 

「……ふむ……ここが、『過去の世界』…か」

 

 

その光の後に、 現れた影があった。それは、巨大な装置を背に、立っていた。

そして、ライダー達は全員、その影の姿を見て、驚愕する。なぜなら、その影の正体はーー

 

「仮面、ライダー…!」

 

そう、彼等と同じ、仮面ライダーであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、お前達は…」

 

周囲を一瞥する謎の仮面ライダーは、一言何かを呟くと、乙音達に向かって歩き出す。その殺気を隠そうともせずに。

 

『……っ!よくわからねぇが、向かってくるぞ!』

 

「なんて、威圧感……!」

 

「……先手はこちらから!」

 

「……っ!変身!」

 

他ライダー達に続き、乙音も変身して謎のライダーに襲い掛かる。光の輪が乙音の頭上に現れ、それが乙音の全身を包み込むと、手に槍を持つライダー、仮面ライダーソングへと変身する。

 

「「『おおおおおおおっーー!』」」

 

「邪魔だ」

 

だが、ライダー達による一斉攻撃に目もくれず、謎のライダーは、背のマントをばさりと広げると、そのマントがまるで意思を持つかのようにライダー達を迎撃する。

 

「ぐあっ!?なんだ!このパワーは!」

 

「うっ…負けるかぁぁぁぁぁっ!」

 

地に伏すライダー達だったが、この程度で諦める彼等ではない。まずは乙音が立ち上がり、謎のライダーの無防備な背中へと槍を突き出す、がーー

 

ギインッ!

 

「あ…槍!?」

 

「そうだ、私もお前と同じく、槍を使うの…そして、槍とはこう突き出すものだ」

 

「なっ……あっ!?」

 

乙音の渾身の一撃は、謎のライダーがすぐさま生成した槍によって受け止められる。その槍の突きを受けた乙音は、腹が貫通しなかったのが不思議なほどの衝撃を感じ、その直後、穴が空いたような痛みを腹部に感じながら、自身が地面に倒れ伏していることを知った。

 

「が、あっ……!」

 

「後輩!…くっ、何者なんだ!?お前は!」

 

「私か、私の名はフューチャーソング。仮面ライダーフューチャーソング!未来から過去へと渡りしもの。時空の改変者…」

「っ…なに!?」

 

「諦めろ、この時代の仮面ライダー。お前達では、私には勝てぬ」

 

「……やってみなくちゃ、わかんないでしょ…!」

 

『フューチャーだかなんだか知らねぇが、ここまでやられといて、諦めろってのは、ないよなぁ!?』

 

「……わたし、も、まだ、戦えるっ!」

 

謎のライダーーーフューチャーソングと名乗ったそのライダーは、立ち上がる乙音達を見て、「やはりな」と呟くと、先程よりも濃い殺気を叩きつけてくる。あまりの気迫に思わず怯むライダー達だったが、ここで退くわけにはいかないと、心を確かにして、フューチャーソングを睨む。

 

「……ならば、次はこちらからーー「お姉ちゃん達、大丈夫!?」ーーっ!?」

 

しかし、乙音達に襲い掛かろうとするフューチャーソングがその身体の動きを止める。フューチャーソングがゆっくりと振り向いた先には、先程駆けつけてきたゼブラの姿があった。

 

「……っ!ゼブラちゃん、逃げて!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

状況があまり掴めておらず、困惑するゼブラ。思わず逃げろと叫ぶ乙音だったが、等のフューチャーソングの様子がおかしい。ゼブラの登場でライダー達が隙だらけとなったのに、一向に攻撃してくる気配がない。それどころか、殺気を沈めているようだ。

 

「なぜ…いや、いい。私にはここでこんな事をしている暇はない……」

 

そう呟くとフューチャーソングはライダー達に背を向け、いずこかへと歩き出す。その背に「待て!」と声を上げる真司、律儀に立ち止まるフューチャーソングに、真司はある疑問をぶつける。

 

「お前の目的は、なんだ……!?」

 

「…私の目的は、この時代で作られたある兵器の破壊だ」

 

「ある兵器…!?」

 

「グリモルド……あの兵器は、私達の未来にとって邪魔となる存在……我が目的を邪魔しようというなら、お前達にも容赦はしない。さっきのようにな」

 

「なに!?」

 

「先程の攻撃は『警告』だ。お前達ライダーは、私には勝てない」

 

そう言うと、唐突にフューチャーソングの姿が消える。どうやら空間に歪みを作り、そこからワープしたようだ。

 

「ぐ…いったい、なんだったんだ…」

 

「さあな…だが、これでひとつはっきりした」

 

「え?」

 

「あいつの言ってた兵器…グリモルド……そいつを調べるのね?真司」

 

「ああ、ヤツに関しての情報は少ない。それに、グリモルドはディソナンスに抗するための貴重な兵器という話だ。俺達も知っておかねばな」

 

すぐさま次の行動方針を決めると、早速特務対策局からグリモルドの製造者にコンタクトをとれないかと打診する真司。その真司を横目に、乙音は嫌な予感を感じていた。

 

「グリモルド…か……」

 

「…お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「あ、ゼブラ……ううん、なんでもない」

 

その後、特務対策局に戻ったライダー達は、5日後にグリモルドの製造者と会えるという話を聞いて、その日は解散することとなった。

家に戻った乙音は、ゼブラが現れた時のフューチャーソングの反応を思い返していた。まるで、自分が見てはいけないものを見たかのような反応だった。

(……それに、あの攻撃の時感じた、ハートウェーブの感覚…私は、あのライダーを知っている……?)

 

多くの謎と予感を抱えたまま、時間は過ぎてゆくのだった……。




Q.フューチャーソングってどれくらい強いんですか?

A.ぶっちゃけまだ最強フォームも出てない時機の劇場版に出てくるやつじゃない。というか最強フォーム登場後でも作品単体での映画に出てきちゃダメなやつ。せめてオールライダー+劇場版限定フォームや新ライダーの援護が欲しいところである。

ちなみにフューチャーソングのスペックも設定資料5に掲載予定ですが、先にキック力のスペックだけ言っとくと、『測定不能』となります。

しかし本編ほ最後らへん、完全になに書いてるか自分でもわからなくなってますね。戦闘描写が苦ではないのに苦手というか、なんというか……。


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劇場版仮面ライダーソング ザ・フューチャーソング 中編

いえね、これで後編にするつもりだったんです。
一万字近くなったんだから後編にできるわけないだろ!

今回はついにフューチャーソングの正体が暴かれます。割とオーソドックスにいかせてもらいました。


「…では、もう既に来ていたのですね」

 

フューチャーソングと名乗ったライダーとの邂逅から5日後、特務対策局に集められたライダー達は、対ディソナンス用の新兵器、グリモルドの製造者であるショット・バーン博士の護衛のため、とあるホテルに向かっていた。

当初はアメリカからショット博士を呼ぶ予定だったが、ショット博士本人が既にグリモルドと共に日本に来ていたため、彼が宿泊しているホテルに向かい、特務対策局まで護衛することとなったのだ。今は香織の運転する車に乗って、ライダー達はホテルへと向かっているが、ホテルに着く頃には、特務対策局の特殊車両も到着する手筈となっている。

 

「しかし、ショット博士って人も、フットワークが軽いですね〜まさか内密で日本に来てたなんて」

 

「まあ、ディソナンスに対抗できる戦力を持つのは、今のところ日本だけだからねぇ…ディソナンスに対抗するための兵器をより完璧なものにしたいって事らしいわ」

 

「…なんか変な人ですね」

 

「科学者なんてみんなそうよ。兄さんも…あっ、ホテルに着いたわよ」

 

ライダー達が着いたホテルは、かなり大きな、都内でも有数の知名度を誇るホテルだった。さっそくホテル内に入ろうとするライダー達だったが、その前に白髪の白衣を着た老人が飛び出してきた。背後にはボディーガードらしき、フードを目深に被った人物を従えている。

 

「オオ〜ドウモドウモ!ヨロシク、仮面ライダーの皆さん!」

 

「オオ、腰に巻いてあるそれは…それがレコードライバーデスカ!?イヤ〜こりゃエエモンですなぁ〜」

 

老人の言動と行動に、目を白黒させるライダー達、レコードライバーをまじまじと観察する老人と、手に持つショット博士の写真を見比べる香織。どうやらこの老人がショット博士のようだ。行動力のある人だとは聞いていたが、なるほど、これは単身日本まで来るような人だと香織は思った。

 

「か、香織さん〜もしかして、このおじいさんが……」

 

「ええ、初めまして、ショット博士。通訳は…必要なさそうですね」

 

「オー!これはシツレイ!イヤイヤ、科学者として、血がサワギましてな!ガッハッハ!」

 

「……それで、あなたのグリモルドはどこに…」

 

ショット博士のハイテンションに呆れつつも、話を進める香織。香織の質問に、ショット博士は、まるでいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべて答える。

 

「フフフ…もうすでにイマスよ」

「へ?…まさか!」

 

「オー!そこなジョシコウセイさん、ナイスリアクション!そう!ワタシの背後に立つこのフードヤローこそが〜」

 

ショット博士の背後に立っていたフードの人間が、そのフードを脱ぐ、そこにあったのは、仮面ライダーのような顔をした、ロボットだった。

 

「グリモルドッ!ジコショーカイ、ジコショーカイ!」

 

「皆さん、初めまして。私は対ディソナンス用人型特別兵器。またの名をグリモルドと言います。よろしくお願いします」

 

「オー!ヨロシク!」

 

フードの中の素顔に一瞬驚くライダー達だったが、それ以上にグリモルドの礼儀正しい言動に驚いていた。

 

「……作った本人よりも、ロボットの方がちゃんとしてますね」

 

「まさかロボットだとは思わなかったが、それ以上にショット博士がこんなキャラだとは……思わなかったな」

 

「…まあ……変人というのは分かりきってた事だ。とにかく、特殊車両ももうじき到着する。来たらそちらに乗り込むぞ」

 

「博士、グリモルドは…」

 

ショット博士やグリモルドの言動に驚きつつも、切り替えるライダー達。もうすぐ到着する特殊車両に、グリモルドをどう乗せるかという疑問を刀奈が口にするが、ショット博士は「もちろんワタシとイッショの車両!」と譲らず、リスク分散のためにも別々の車両に乗り込んでもらうのがいいのだが、仕方なく同じ車両に乗り込む事となった。

それから数分待つと、特務対策局の特殊車両がホテル前に到着。博士とグリモルド、乙音とゼブラ、刀奈は一号車に。真司とボイスは二号車に、桜は香織と共に三号車に乗り込む事になった。特殊車両の大きさはそれなりのもので、一台が大型のトラックよりも少し大きめだ。

 

「このまま、何事もなければいいんですが…」

 

「いつでも変身できるように、心構えだけはしておこう。常在戦場、この考えで損は無いだろう」

 

「そうですね…頑張ろうね!お姉ちゃん!」

 

「いや私達が頑張る状況になったらダメなんじゃ…?あ、そろそろ出発するみたいですね」

 

全員が特殊車両に乗り込んだところで、車両が動き始める。フューチャーソングによる襲撃を警戒するライダー達だったが、高速道路までの一般道ではトラブルもなく、高速に入ってからも妨害はなく、順調に車両は進んでいた。

 

「このまま、何事もなければ良いんですけどね〜」

 

「そうデスネーグリモルドはとてもツヨーイ!ですが、そのフューチャーソングとかいうののスペックがワカリマセンカラネー。シンチョーシンチョー」

ショット博士の言葉に再び気を引き締めるライダー達、その時、沈黙を保っていたグリモルドが、不意に口を開く。

 

「…そうですね、慎重にいくべきです」

 

「…どうか、したのか?」

 

「近づいてきます、足音…追跡音です。車やバイクの音ではないので、『走って』この車両に追いついてきています今は1キロメートル後方」

 

「…走って!?」

 

グリモルドの言葉に驚愕する乙音達。特に刀奈の驚きは大きかった。なにせ、特務対策局の特殊車両の最高速度は時速500キロ。ライダー達の中で最も早い刀奈ですら、車両と競争など不可能である。ましてやここは高速、今も全力で車両を走らせているのだ。それに走って追いつくフューチャーソングのスペックに、乙音達は戦慄していた。

 

「乙音くん、ゼブラくん!変身だ!それと、真司達にもこの事を連絡するぞ!」

 

「運転手さんにも伝えますね!」

 

「ムームムムム……コリャまずいナ」

車両の中から外の様子は見えないが、運転手によると今走っている道路の下は海。しかしバックミラーにその姿が見えてこないことから、高速を走る他の車の影に隠れているのだろうと推測したライダー達は、車内で変身。フューチャーソングの襲来に備える。車両の運転手もバックミラーを注視し、後方に注意する。

 

「さあこい……!」

 

「標的は700メートル後方にいます」

 

「まだ、見えないのか…!?」

 

「500メートル」

 

「ムウ…これは……」

 

「300メートル」

 

「み、見えません!フューチャーソングの姿が、一向にバックミラーに!」

 

「100メートル」

 

「どこから、くる…!?上!?」

 

「1メートル」

 

「……やはり!ライダークン達!ヤツはーー」

 

「ゼロ、標的との距離はゼロです」

 

「ーー下ダ!」

 

ショット博士の叫びと同時、グリモルドがその場から急に飛び退いた瞬間、特殊車両が下から両断される。

 

「……御名答。だが、一手遅かったな」

 

「まさか、海を…!?」

 

「な、なんてパワー…!」

 

「まさか一発目で当たるとはな……おっと、車が転ぶ…」

 

両断された車両は横転。運転手はインパクトの瞬間に刀奈に助けられたため無事、ショット博士はグリモルドに抱えられ、乙音とゼブラはーー

 

「やらせるかぁぁぁぁっ!」

 

「………」

 

ーー横転の瞬間、グリモルドに攻撃しようとしたフューチャーソングを、咄嗟に2人が融合して必殺技、『rider maximum spear』を発動することでなんとか食い止めていた。

 

「……………………」

 

「ぐ……!」

 

(な、なんてパワー…!これは…!)

 

無事な他の車両が止まり、真司達も乙音を援護しようとする。しかし……

 

「博士とグリモルドを連れて、急いで!」

 

「むっ…しかし!」

 

 

「こいつ…強い!ここで私が食い止めますから!」

 

『お前……!』

 

「…真司……!」

 

「…わかった!必ず無事で!さあ博士、早く!」

 

「お、オウ!グリモルド!」

 

「了解しました」

 

博士を抱えて真司達の車両へと急ぐグリモルドを追撃しようとするフューチャーソング。しかし、その凄まじきパワーを乙音とゼブラが必死で食い止める。だが、フューチャーソングの勢いは止められず、その槍がグリモルドを貫かんとする。

 

「博士、手荒くなります!」

 

「オワ?…オワワワワッ!?」

 

その槍を受け止めるため、グリモルドは博士を真司に向かって放り投げる。綺麗な放物線を描いた博士を真司がキャッチすると同時、フューチャーソングの一撃を受け止めるグリモルド。

 

「…………!なにっ!?」

 

「フンンンンンンンン、フンっ!」

 

フューチャーソングの一撃を弾いたグリモルドは、その手に心を持った存在しか生み出せないはずのハートウェーブを纏い、フューチャーソングに一撃を放つ。フューチャーソングにダメージは入らないが、彼女が思わぬことで驚いた隙を突いて吹き飛ばすことに成功する。吹き飛ばした先は橋の下、つまりは海だ。

 

「皆さん、今のうちに!」

 

「グリモルドも早く乗って!」

 

『早くしねーとまたアイツが来るぞっ!』

 

一号車の乗員を全員二号車と三号車に移し、なりふり構わず高速を走らせる。フューチャーソングの襲撃に備えて変身を解かずに警戒するライダー達だったが、その後は何もなく、無事に特務対策局にたどり着くことができた。

 

『や、やっと着いたか……疲れた…』

 

「そ、そだね……ゼブラちゃんも、大丈夫?」

 

「うん…お姉ちゃんは…?」

 

「私は、大丈夫……気が張り詰めっぱなしだったから、精神的に疲れたけど」

 

「それはいかんな…少し休んでくるといい、後は私達でやっておこう」

 

「そーよ、ゼブラちゃんもあんまし疲れてないみたいだけど、乙音ちゃんとボイスちゃんについていてあげるといいわ」

 

「うう…そうします」

 

『すまねぇ…後は任せた』

 

「わ、わかりました。後はお願いしますね」

 

 

移動中ずっとフューチャーソングの襲撃を警戒していたためか、精神的な疲れを感じる乙音達に、刀奈が休むよう勧める。刀奈もそうだが、桜や真司も疲れを見せてはいなかった。なぜなのかと思った乙音だったが、とにかく疲労していたため、変身を解いてシャワー室へとボイスと共に直行する。ゼブラはそこまで疲れていないが、桜に勧められて乙音とボイスについていった。

三人の後ろ姿を見送った真司達は、ショット博士と話し合い、グリモルドをどこに置いておくかについて決める。最終的には地下の倉庫室の一角を改装し、そこにいてもらうことになった。

 

「すまないな…部屋を用意できればいいのだが」

 

「構いませんよ。目立つ場所にいるわけにはいきませんから」

 

「オーウ!グリモルド、いいコ!サスガワタシのサイコーケッサク!」

 

「……やっぱグリモルドのほうがれーぎ正しいわね」

 

「……………」

 

倉庫室の改装を手伝うためにグリモルドと桜、刀奈が地下へと降りるのを確認してから、真司はショット博士に、「夜に屋上で会えますか?」と尋ねる。その誘いに不思議な顔をしつつもショット博士が承諾したのを確認した真司は、自身も改装を手伝うため、ショット博士と共に地下へと降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、屋上で真司とショット博士が話し込んでいた。内容はグリモルドがハートウェーブを扱ってみせたことだ。

 

「……では、あれはハートウェーブを生み出せるほどの高性能AIが生まれた結果などではなく…」

 

「……そうデス。もともとはアットーテキな力で、ディソナンスを抑え、ライダークン達を援護するためのロボットを作るハズでした……シカシ、自律行動のタメのAIを作り、搭載した次の日にハ、グリモルドに心が芽生えていたのデス」

 

「…なんですって?では……」

 

「そうデス。グリモルドに心が生まれたのは偶然…ワタシにもカレの心の内はワカリマセン」

 

「なぜそんなものを…!?」

 

「必要だと…思ったからデス。ディソナンス、いや、天城音成の脅威は大きい……だからコソ、グリモルドがハートウェーブを生み出せた時には、喜びマシタ。これで、君達にも楽をさせられるト……」

 

「博士……」

 

そう話すショット博士の顔には、深い後悔の跡が刻まれていた。それを見た真司は、何も言えなくなってしまう。

 

「……日本にやってきたのは、グリモルドが暴走した時、抑えるコトのできる戦力が、君達だけというのもあります」

 

「では………」

 

「そうデス、今はマダダイジョーブですが、もしもグリモルドが不穏な動きを見せたら…」

 

「わかっています。この手で、破壊します」

 

「アリガトウ……ワタシはもう寝ます。……開けたのがパンドラの箱でないコトを、祈りマス」

 

「パンドラの箱の底には、希望があります」

 

「もしもワタシが開けたのが本当にパンドラの箱ナラバ…その希望とは、きっと君達なのでしょうネ」

 

ショット博士の背を見送った真司は、次にその足で地下へと向かう。なにができるというわけでもないが、不穏な動きがないか、一応調べる必要があるからだ。懐に隠していたレコードライバーにライダーズディスクをセットしておき、いつでも変身できる状態で地下の倉庫室の扉を開く。

 

倉庫室は広いが、グリモルドのいる場所は真司にはわかっている。自身も改装を手伝った場所、倉庫室の端へと歩く真司。グリモルドのいるはずの場所に真司が近づくと、グリモルドらしき影が蹲っていた。

 

「……………!」

 

その影に駆け寄り、素早く表情を確認した真司の視界に映ったのは、のっぺりとした顔をしたマネキンだった。

 

「……っ!」

 

マネキンを見た瞬間、咄嗟に横へと飛ぶ真司。すると、真司がもといた場所に、機械の拳が突き刺さる。

 

「……避けられたか、フゥゥゥゥ〜」

 

「変身!」

 

下手人はもちろんグリモルドだ。しかし、昼間のように丁寧な口調ではなく、乱雑な口調となっている。変身して対応しようとする真司だったが、変身はできたもののグリモルドの苛烈な連続攻撃に防戦一方となってしまう。

 

「ぐ…!どうした、口調が随分とっ!乱暴に、なってるじゃないか!」

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハ!そっちこそどうしたよぉ〜!?そのチンケな攻撃力だけがあんたの取り柄だろ〜!?そらっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

グリモルドの拳をもろに顔面に受け、倉庫室の壁に叩きつけられる真司。すぐさま体制を整えようとするが、瞬時に距離を詰めてきたグリモルドに首を締め上げられる。

 

「ぐ…が……かはっ…」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ冥土の土産に良いこと教えてやるよ。俺はな、あのフューチャーソングと同じ時代から来たディソナンスなんだよ」

 

「…な、に……!?」

 

「未来世界でもこいつの体を乗っ取って好き放題やってやったが…まさかアイツ1人に全てひっくり返されるとは思わなかったぜぇ?おかげでこんな時代に来てまでお前らを殺すっつー面倒な仕事を、音成サマに押し付けられちまった…」

 

「きさ、ま……!」

 

 

真司の変身後の姿である仮面ライダーファングの全身には、鋭い牙が生えている。足の牙を伸ばすことで、グリモルドの体を貫こうとする真司だったが、間一髪避けられてしまう。

 

「おおっと!危ない危ない…」

 

「ぐっ…ゲホッ……くっ、貴様、なぜ俺達に近づいた!?」

 

「なぜって…そりゃあのフューチャーソングが怖かったからだよ。未来世界ではあいつにコテンパンにのされちまったからなぁ…だけど、このグリモルドのボディーは俺様が協力してやっただけあっても未来世界のものよりもはるかに強力!あの高速道路で確信したぜ…このボディーならばヤツをぶっ殺せるってなぁ!」

 

台詞とともに真司の牙を折り砕きにかかるグリモルドーーいや、謎のディソナンス。全身の牙を伸ばして身を守る真司だったが、ディソナンスの猛攻の前に、次々と牙が砕かれていく。

 

「ぐ…!」

 

「お前らを利用して、機を見てフューチャーソングを殺すつもりだったが…そこにお前だ!未来でも厄介だったが、まさか俺様に不信感をこんなに早く覚えるとはな!仕方ないからここでぶっ殺してやるぜ、仮面ライダーファング。このグリモルド…いや、クロニクル様がな!」

 

クロニクルと名乗ったディソナンスの手刀が、真司の心臓を貫かんと迫る。

 

「やらせるかぁぁぁぁっ!」

 

しかし、それを許さない者がいた。クロニクルの横っ腹に強烈な蹴りを入れ、吹き飛ばしたその人物は桜だった。夜中にトイレに行こうとした彼女は、倉庫室へと入っていく真司を目撃。自分も倉庫室に入ろうとしたが、いくら力を込めても扉が開かない事に異常を感じ、変身して無理矢理ドアをこじ開けたところで、間一髪真司を助けることができたのだ。

ライダー達は後に知ることだが、この時ドアはクロニクルの能力によって押さえつけられていた。

 

「大丈夫!?真司!」

 

「ああ……油断するなよ、桜。こいつ、かなりの強さだ」

 

「あんたがそこまでボロボロになってるんだもん、嫌でもこいつの強さはわかるわ……」

 

今の真司は仮面の一部が割れているうえ、全身の牙が余すことなくへし折られていた。彼がここまでダメージを負ったのは、かつてのバラクとの戦いの時以来だろう。

 

「1人増えたところで同じ!纏めて消し飛ばしてやるよ!」

 

吹き飛ばされたものの、倉庫内の荷物を蹴散らしながら2人に迫るクロニクル。桜は自身の武器であるダンシングポールを使って攻撃を防ぐが、クロニクルの蹴りを受け、ダンシングポールが真っ二つに折れてしまう。

 

「折れたぁ!?このっ!」

 

「ヒャハハハハハハ!そらそら、こっちだよーん」

 

「おちょくるな!こなくそぉっ!」

 

「冷静になれ、桜!」

 

「そうはいっても…きゃあっ!」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

まるでサーカスのピエロのようなクロニクルの変則的な動きに、次第に追い詰められる2人。助けを呼ぼうにも、倉庫室内の騒音はクロニクルの能力で外へと漏れることはなく、倉庫室からの脱出はクロニクルが許さなかった。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒやっぱ同じだったなぁ…1人増えても」

 

「さく、ら…お前だけでも……」

 

「なに、いってんのよ…あんたを置いて、逃げれないわよ…」

 

「んんーー美しきかな絆。しかし悲しいかな、その絆がお前達2人のーー死因となる!」

 

クロニクルの蹴りが2人の首をへし折ろうとする。避ける体力も気力も尽きた2人は、そのまま蹴りを受けーー

 

 

「1人増えても同じ…だが、私が増えてもそうと言えるかな?」

 

 

ーーることはなかった。2人は気がつくと、ある者の腕に抱えられていた。漆黒のマントを翻すその者の名は。

 

「フューチャー……ソング」

 

地下から直接倉庫室へと進入したフューチャーソングは、その腕に抱えていた2人を退がらせると、凄まじい速度でクロニクルに肉薄、クロニクルの首を掴むと、倉庫室の天井へ向けて投げ飛ばす。

 

「うおおおおおおお!?」

 

「逃さん…!」

 

天井へ投げつけられたクロニクルは、そのまま倉庫室の天井を破り、クロニクルが気づいた時には、特務対策局の上空にいた。空中で体制を整えようともがくクロニクルだったが、いつの間にか背後にいたフューチャーソングに地面へと叩きつけられる。

 

「な、なんだ!?なんの騒ぎだ!?」

 

「フューチャーソングの襲撃か!?」

 

「お姉ちゃん、あの人!」

 

「フューチャーソング…!?」

 

フューチャーソングの鳴らす破砕音に混乱する特務対策局の局員達。そんな中、真司と桜以外のライダー達は、フューチャーソングの姿を確認すると、変身して外へと飛び出していく。

 

『テメェ、どうやってここに…!』

 

「待って、ボイスちゃん!あれ……!」

 

「ウ…ウググ……」

 

事態を把握できていない乙音達が見たのは、その全身から禍々しいハートウェーブを撒き散らすクロニクルの姿だった。グリモルドの元の仮面ライダーのような容姿はそのままに、ただ純粋に禍々しさだけが増していた。

 

「あれは…グリモルド!?」

 

「いえ、あれは…ディソナンスです!僕と同じ!」

 

『なにぃ!?』

 

あまりの事態に混乱する乙音達をよそに、クロニクルに対してフューチャーソングが語りかける。

 

「…グリモルド……いや、クロニクル。やっとだ…やっと、貴様を追い詰めるコトができた……」

 

「へ、へ……俺様を、倒して、未来が変わるとでも?それとも復讐か?……ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!俺様をこの時代で倒せば未来が変わるとでも思ってんなら、大間違いだぜ!確定してしまった未来はもう変えられない!お前の未来は…絶望に包まれたままだ」

 

「そうだな…私の未来は変えられないし、お前に復讐してもなににもならん。私の目的は、別にある」

 

「なに…っ!?」

 

クロニクルの言葉にも動揺せず、冷静にその発言に返答するフューチャーソング、彼女の発言に逆にクロニクルが取り乱す中、彼女は毅然と自らの目的を言い放つ。

 

「私の目的は、過去の、いや、この世界の私達の救済。そのために、貴様を滅する……!!」

 

「な……!」

 

「この世界…!?」

 

乙音達も混乱する中、ただ1人冷静に見えるフューチャーソングのレコードライバーから、歌が流れ出す。

 

「我が無双……受けてみろ!」

 

歌のイントロとともに槍を構え、クロニクルに向かって突撃するフューチャーソング。これにクロニクルは奥の手で対応する。

 

「ちっ…お前ら!」

 

「ディソナンス!?」

 

「あんなに多くの…!」

 

クロニクルの奥の手とは、彼の能力で複製したディソナンス達の召喚だった。自身の意思は持たないものの、一体一体が強力だ。しかし、フューチャーソングの前には、塵芥に等しかった。

 

《絶望に染まりし、我が未来の灯》

 

「失せろ」

 

《希望の光も届かない、底の底まで》

 

「す、すごい…入り込めない…!」

 

「下手に手を出せば、奴らとともに消滅させられるな…」

 

フューチャーソングがその槍を振るい、そのマントを翻すたびに、召喚されたディソナンス達が消滅していく。

 

《たとえ、悪にこの身が、落ちようとも》

 

「ヤベェ…!逃げなければ…!」

 

《信じる正義のためなら、邪道すら進む…!》

 

「逃すか…!」

 

クロニクルを追おうとするフューチャーソング、しかし、クロニクルが指を鳴らすと、特務対策局の内部から悲鳴が響く。

 

《空に煌めく星は…》

 

「なに!?」

 

「俺様がなにも考えてないと思ったかぁ!?仕込んでたんだよぉ!内部に!」

 

《その全てが敵……》

 

「まずい…!乙音くん、行くぞ!」

 

「おっと、やらせるかぁ!」

 

特務対策局内部のディソナンスを倒すために動こうとする乙音達だったが、クロニクルが生み出したディソナンスが乙音達を妨害しようと迫る。しかし、そのディソナンス達をフューチャーソングが、乙音達を庇うように貫く。

 

《激情の、そのビート》

 

「やっぱお前はそうするよなぁ!それじゃあな!」

 

《心の波紋……》

 

『お前……!』

 

「いいから、早く助けに行け!」

 

フューチャーソングの言葉に頷き、対策局内に駆けていく乙音達、いっぽうフューチャーソングは外に残る大量のディソナンス相手に、1人で立ち向かう。

 

《絶対に譲れない…望みがあるから…!》

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

《奇跡を望む…!明日を願う…!》

 

フューチャーソングの手に持つ槍が回転し、竜巻を起こすと同時に四方に剣のような鋭さと切れ味の牙を飛ばす。そして、回転する槍の先端から、目の前を焼き尽くすレーザーを撃ち放つ。

 

《最強…究極…!その全てを超える…!》

 

「これで終わりだ」

 

『Override!!!』

 

《至高の力を持って》

 

『rider final spear!!!!』

 

「おおおおおおおおおおおっ!」

 

《無双を…振るえ!》

 

フューチャーソングが必殺技を発動した瞬間、その槍の穂先から閃光が走り、次の瞬間、ディソナンス達は全て消滅していた。

 

「…ふう……逃した、か…」

 

クロニクルが去った方向を見据え、呟くフューチャーソング。クロニクルを追おうとする彼女だったが、その背に「待って!」と声をかけるものがいた、乙音だ。その後ろには、ライダー達全員が揃っていた。

 

「フューチャーソング、あなたは、あなたは…!」

 

「…………!」

 

 

 

 

「あなたは、私なんでしょ…!?」

 

 

 

「なにっ!?」

 

「え、えっ?どゆこと?」

 

『オイオイオイオイ、なに言ってんだ…?』

 

「お姉ちゃん……」

 

「……やはり、か……」

 

乙音の思わぬ発言に驚くライダー達。いっぼうフューチャーソングは観念したかのように一瞬俯くと、その変身を解く。 それを見たライダー達は、再び驚愕する。それは乙音ですら例外ではなかった。

 

 

「……確かに、そうだ。私はお前で、お前は私……」

 

「後輩…!」

 

「いったい、未来で何があったってのよ…!」

 

フューチャーソングが変身を解いたそこには、髪と身長の伸びた乙音がいた。だが、その顔には斜めに切り裂かれたような傷跡があり、腕や首には、深い深い傷跡が残り、とても痛々しい。

 

「絶望に包まれた未来から来た…木村、乙音だよ」

 

彼女の口から、5年後の未来での戦い、それが語られる時が来た……。

 

 

 

 

 

 





5年後の未来についてはフューチャーソング…未来乙音ちゃんから語られますが、かなり厳しい状況です。

後編は初手回想からの戦闘シーン増し増しでいきます。本編で東京都を巨大ロボットにしましたが、あれを超えるスケールのバカをやります。二次創作は公式と違って予算気にしないでいいので楽ですね。


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劇場版仮面ライダーソング ザ・フューチャーソング後編

なに?文章がしっちゃかめっちゃかで駄文だって?

逆に考えるんだ、作者がズタボロでこれ以上書くのほ無理だったと考えるんだ。

今回は本当に難産でした。それはまるで長く続いた便秘の後のトイレのような……

でも書きたいことは書きました。この劇場版にキャッチコピーをつけるなら、

「ライダー史上最大スケールで送る、最強のアクション!」

になるってぐらい好き勝手には。

では、後編、お楽しみください。次の更新は各ライダーの強化フォームについてと、残りのディソナンスや劇場版ライダーであるフューチャーソングのスペックについて記載した設定資料5です。


……5年後の未来。天城音成が人類に攻撃を始めてから、2年の月日が経過していた。

その戦いの中で、何度も命を落としかけたよ。親しい人の死に、涙することもあった…それでも戦えてきたんだ、ゼブラ、先輩、桜さん、刀奈さん、ボイスちゃん……それに、特務対策局のみんな…みんながいたから戦えてこれた。

 

でも、ある日突然私達は絶望の淵に落とされたんだ。今まで共に戦ってきた、グリモルド…そう、あれだ。あのグリモルドが突然敵になった。

 

それだけなら良かったよ。私達は強かった。自慢じゃないが、音成ですら焦るほどに。でも、グリモルド…いや、グリモルドを乗っ取ったクロニクルの真の恐ろしさは、力なんかじゃなかったんだ。

 

ハートウェーブを自在に生み出し、操る…それがヤツの能力の一つだ。そして、その力を使って、人を操ることができるんだ。 効果範囲も小さく、人を操るにしても制限がかかる能力で、クロニクルの能力の中でも警戒すべきものではなかった。ヤツがやっていた念動力まがいの能力のほうが、よほど恐ろしかったはずだった。

だが、ある日突然状況は一変した。東京タワーとスカイツリーをクロニクルが占拠し…そこから、洗脳電波を流したんだ。グリモルドの機能の一つ…電波ジャック能力が裏目にでた。強力過ぎたんだ。

 

結果は、ハートウェーブを利用した精神保護機能を持つ私達ライダーや、特務対策局のみんな、一部の政府要人なんかは無事で済んだ。でも、それ以外の人類は、いや、地球上に生きる生命の全てがヤツに洗脳されてしまったんだ。ショット博士も抹殺されてしまったから、もう止めようがなかった。

 

ヤツは音成にすら反旗を翻した。私達ライダーは音成のディソナンスと、クロニクルの洗脳兵両方と戦う事になった。でも…私達には倒せなかった。いや、先輩達には倒せなかったんだ。今まで自分が守ってきたものを、自分の手で壊す事なんて、彼等にはできなかった。ましてや命だ。たとえそれが顔も見たことのない他人のものだったとしても…それでも、奪えなかった。

 

だから、私が殺したんだ、奪ったんだ、その命達を。クロニクルに洗脳されたものは心を完全に破壊されてしまっている、もう元には戻れない……友人と呼べた人達も、みんな殺したよ。大よりも小の命を優先すべき事態だったんだ。

 

当然、先輩達にはバレないように工夫したよ。返り血を極力浴びないようにして、血を浴びれば自分の血で上書きをした。ディソナンスは血を流さないからな……なんでそんなことをしたかって?……今となっては推測だが、たぶん先輩達との繋がりが切れてしまうのではないかと、恐れたのだろうな、私は。随分と身勝手なものだ……結局、私の行為はバレた。でも、先輩達はそんな私と変わらず接してくれた。でも、世界は悪い方向へと変わっていった。特務対策局のみんなも死んで、私達は誰からの支援も受け取れなくなった。

 

そうして、みんな死んでいった。ディスクを砕かれ、その尊厳を侵され、誇りを踏みにじられた。私とて例外でなく、みんなが死んでいくのをただ、見送るしかなかった。

 

だが、私は諦めることだけはできなかった。私が奪った命、先輩達のように死んでいったものの命、その全てを、背負わなければならないと思ったからだ。

 

だから、奇跡が起きた。砕かれたはずのディスクの破片が集まり、一つのディスクとなったんだ。それを使って、私はあの姿…フューチャーソングへと変身した。

 

そして、私はフューチャーソングの力を使って、過去の世界へと来た。過去は変えられないが、未来は変えられるはずだと、そう信じて。

 

クロニクルの能力は絶大だが、あの洗脳能力はグリモルドのボディーあってこそのものだ。だから、グリモルドを破壊しにここに来た。まさか、クロニクルも来ているとは思わなかったがな…。

 

未来で生きる人類の数は、この時代のものと比較して、約2パーセントほどでしかない。そんな絶望を、私はあなた達に味合わせたくない。

だから、頼む。私に協力してくれないか?

 

「私に話せる事は全て話した。この身体も好きに使ってくれて構わない、だからーー!」

 

「…何を言っているんだ、後輩」

 

「え……?」

 

「私が私を助けるのは当然、そして、今ここにいる人達はみんな、あなたの力になりたいと思ってる」

 

「なんて呼べばいいかわからないけど…でも、お姉ちゃんのためならなんだって頑張れるよ…!」

 

「そうだ、お前が頼まずとも、勝手に俺達は協力する」

 

「全く、ちょっとは信頼しなさいよね!私達があんたを見捨てるワケないでしょ?」

 

「そうだな、桜の言う通りだ。私達は必ずお前の力になる」

 

『ま、そーいうことだ………こいつらのお人好し度は、お前の予想以上だぜ?ま、そりゃオレもそうなんだがな』

 

「あ……なみ、だ………」

 

「みんな…みん、な……ありがとう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー未来の乙音、フューチャーソングによって真実が語られた次の日、さっそく特務対策局局長である本山猛は、フューチャーソング含むライダー達とショット博士、そして香織の兄である大地勝を交えた、クロニクル討伐のためのブリフィーングを行う事になった。

 

「…えーと、フューチャーソング…ちゃん、あんたはこの呼び方でいいの?」

 

「ええ、私はこれで構いませんよ。本名だと極めてわかりにくいですし…」

 

「確かに、乙音という名はあまり耳にしないな」

 

「でしょう?」

 

フューチャーソングの話の直後、フューチャーソングのことをどう呼ぶかで話し合っていたライダー達だったが、フューチャーソングが今まで通りフューチャーソングと呼んでくれた方がいいと言ったので、そう呼ぶことにしたようだ。

「ヤレヤレ、マタセマシタ…」

 

「みんな揃ってるかな?では、作戦会議を始めようか」

 

ライダー達が雑談をしていると、ヤットショット博士と勝が会議室にやってきた。会議のためにグリモルドの性能を纏めていた2人だったが、クロニクルによってグリモルドの情報にプロテクトがかけられていたため、それを解除するのに苦戦してしまったようだ。

ちなみに勝は東京タワーでの決戦以降、ガスマスクを着用していない。もともと顔の火傷跡を隠すためのものだったが、特務対策局の局員全員が火傷跡など気にしない性格だったため、地味に着脱が面倒な作りのガスマスクは外すことにしたらしい。

 

「では、博士」

 

「ウム…サッソクだけど本題ニ入らせてモライマス。今君達が手に持つタブレットに、グリモルドのスペックデータを転送してオキマシタ。それを見ながら、ハナシを聞いてくださいネ」

 

さっそくショット博士がグリモルドの性能解説を行う。クロニクルがグリモルドのボディーを乗っ取っている以上、グリモルドの素よりも性能は上がっていると思われるが、なにもデータがないよりはマシであるし、クロニクルの大規模洗脳能力はグリモルドのボディーあってのものだ。作戦を立てるのには役立つ情報であるし、そこにフューチャーソングの証言から推測できる情報を加えることで、クロニクルの現在の戦闘能力がだんだんとわかってきていた。

 

「…では、やはりフューチャーソング以外ではクロニクルと戦うのは厳しいと」

 

「ウム…グリモルドのボディーを乗っ取ったアイツの強さは異常デス。今までのどのディソナンスよりも強い…ソレニ、クロニクルはディソナンス召喚能力を持っているとキキマシタ。ナノデ、2人の…いえ、3人のソング以外のライダー君達には、クロニクルと相対するソング達の援護をお願いシマス」

 

「はい…って私とゼブラちゃんも行くんですか?」

 

「フューチャーソングは強い。だが、もしもの可能性もある。だから、フューチャーソングとその同一人物である乙音君と、乙音君から生まれた、ほぼ乙音君そのものと言ってもいいゼブラ君。この3人のハートウェーブの相性は最高だ。だから、この3人でクロニクルの元に向かってもらう。東京タワーでの決戦の時、真司君達がやったように、君達3人の歌を合わせてハートウェーブを極限まで高めるんだ」

 

「はい!」

 

「2人のお姉ちゃんと一緒に…!頑張ります!」

 

「……私は、異論はない」

 

その後も作戦会議を続けていたライダー達だったが、クロニクルの居場所がわからないことには動けないということもあり、一旦解散して休息を取ろうとした。しかし、彼らがそう思った矢先、会議室に香織が飛び込んでくる。どうやら、クロニクルの居所が判明したらしい。場所はスカイタワー最上階。急がねばならないようだ。

 

「…みんな、行きましょう!」

 

乙音が言う。彼女の瞳には、絶望の未来へ立ち向かうための、闘志の炎がある。

 

『やれやれ…一世一代の大勝負ってやつだな』

 

その手に持つタブレットに、ボイスが書き込む。彼女の心には、絶望に立ち向かうための希望がある。

 

「フッ……後輩のためにも、先輩が頑張らなければな」

 

真司が呟く。彼の拳は、歪んだ未来を打ち砕くためにある。

 

(敵は歴史…いや、未来そのものか。切りがいのある敵だ…!)

 

刀奈が思う。彼女の剣は、闇に光をもたらすためのものだ。

 

「よぉぉぉっし!頑張るわよ!みんな!」

 

桜が吠える。彼女の心の中には、常に仲間達との未来がある。

 

「皆さん……!」

 

フューチャーソングが応える。

 

 

「行きましょう!世界を…未来を救う為に!」

 

「『「「「応‼︎」』」」」

 

彼女達の力は、今この時を救う為にーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来やがったか、ライダーども………」

 

「ちいとばかし厄介だ…ソングの相手は俺がする、後はお前達に任せたぜ…?」

 

「「「「お任せを、クロニクル様」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特務対策局を出撃したライダー達は、謎の霧に包まれた、スカイツリーのもとにいた。特務対策局の者はいない。クロニクルは狡猾だ。特務対策局の局員を連れて行けば、人質として利用される可能性もある。だからこその、ライダー達のみでの決死の作戦だった。

 

「なんだ、この霧は。やけに深い…」

 

「……待て!誰か、いる!」

 

深い霧に困惑しつつも、スカイツリー内部に侵入しようとしたライダー達の前に、謎の影が現れる。そして霧の中から謎の影が姿を現した時、ライダー達は驚愕した。なぜならその影の正体は………!

 

「俺か………!?」

 

「ちょ、なによあれ!私じゃない!」

 

「いや、よく見れば少し違うな…しかし非常に精巧な偽物だ」

 

『趣味悪いなぁ』

 

その影の正体とは、ソング達を除いたライダー達の姿を模した、黒いライダー達だった。その黒いライダー達は3人のソングを無視して、残りのライダー達に向かう。武器と武器とが火花を散らす。ライダー達の姿だけでなく、武器とその力までも黒いライダー達はコピーしていた。

 

「先輩達!」

 

「いいから先に行け!こいつらは…俺達に任せろ!」

 

「そもそも私達は露払いでしょ!?なら、振り返らないで!」

 

「…わかりました!行くぞ!」

 

黒いライダー達と戦う真司達に加勢しようとするソング達だったが、真司達に先を急ぐよう促された彼女達は、スカイツリー内部へと急ぐ。目指すはクロニクルのいる最上階だ。

 

「さぁ〜て、行ったわね…」

 

「ああ、俺達はこいつらを叩くぞ!」

 

黒いライダー達と戦い始める真司達、しかし、黒いライダー達は真司達の動きを完全にコピーしており、まるで鏡のように技を返してくる。しかも、パワーは黒いライダー達の方が上だった。当然、真司達は……

 

「ぐうっ!」

 

「真司!?きゃっ!」

 

『まずい!余所見してたら、やられるぞ!』

 

「こいつら…強い!」

 

黒いライダー達に真司達が苦戦する中、スカイツリー内部に突入したソング達も、押し寄せるディソナンス達をさばくのに苦戦していた。

フューチャーソングの破壊力で一気に殲滅もできるのだが、それではスカイツリーが崩壊してしまい、フューチャーソング以外が全滅してしまう可能性もあった。

しかしこのままでは埒があかない。そう思ったフューチャーソングは奇策に出る。乙音とゼブラに融合してもらうと、左腕で乙音を抱え上げ、そのまま足に力を込めて、一気に跳躍する。いや、それはもはや飛翔と言ってもいいほどの勢いだった。

 

「うわっ、うわわわわ!」

 

「あまり口を開くな、舌を噛むぞ」

 

フューチャーソングの跳躍はクロニクルの居るスカイツリーの最上階、その手前の階まで届いていた。下の階に詰めていたのか、半分を超えたあたりでディソナンスの姿は見えなくなった。もっとも、いたところでフューチャーソングの振るう槍によって途中の壁ごと刺し貫かれていただろうが。

 

「この上に…いるんだね」

 

「僕達で、倒せるのかな…」

 

「…心配するな、私達は未来を変えるためにここにいる。それだけを考えるんだ」

 

乙音とゼブラも分離し、フューチャーソングと共に最上階への階段を駆け上がる。そして辿り着いた最上階には、クロニクル一体だけが立っていた。乙音達の姿を確認して一瞬驚くが、すぐに真司と桜を追い詰めた時のような、悪魔の笑いを浮かべる。

 

「ようこそ、ここへ。まずは拍手でも…」

 

「いらん。せめて大人しくこの槍に貫かれることだ、クロニクル…!」

 

「おいおいそんなカッカすんな、お互いクレバーにいこうぜ?そう、クレバーにさ」

 

クロニクルが指を鳴らすと、彼の背後に映像が浮かび上がる。そこに映っていたのは、黒いライダー達に追い詰められた真司達の姿だった。

 

「なっ…!」

 

「先輩達!?」

 

「まさか…!」

 

「お前達もバカだよなぁ〜俺様が勝てない刺客を送ると思うかぁ〜?一度はライダー達をソング以外抹殺した俺様が」

 

激昂してクロニクルに飛びかかろうとするフューチャーソングだったが、それよりも早く映像の中で黒いライダーに捕まっているボイスの首が締め上げられるのを見て、動きを止める。それと同時にボイスの首も解放された。

 

「人質、か…!」

 

「そうそう、よくわかってんじゃない。だから大人しく見とけよ?お前達の目の前で、無残に世界中の人間達が俺様の言いなりになるところをよぉ!ギャハハハハハハハハ!」

 

醜く顔を歪めて高笑いするクロニクルを前にして、ソング達はその身を震わせる事しかできない。それに気を良くしたクロニクルがさらに笑い、フューチャーソング挑発する。それにも耐えるフューチャーソングだったが、すでに刻限は間近だった。

 

「さ〜て。機は熟した。今こそ!俺様の力が解放される時だぁぁっ!」

 

ソング達が止める間もなく、クロニクルの力が解放される。グリモルドほボディーに搭載された電波ジャック機能によって、スカイツリーから発せられる、強化された電波に乗って世界中へと、クロニクルの洗脳電波が広がっていくーーはずだった。

 

「な、なんでだ!?で、電波ジャックがブツ切れた!」

 

クロニクルが力を解放した瞬間、確かにジャックされていたはずの電波が正常なものへと変化する。それに驚くクロニクルを尻目に、堪え切れないとばかりにソング達は笑い始める。先ほどの震えは怒りからくるものでもなく、恐怖からくるものでもなく、単純に笑いを堪えていただけだった。

 

「て、テメェら!何がおかしい!」

 

「アハハハハハハハ!いや、なに、お前のそのボディーの設計者が健在だというのに、こんな作戦を本気で実行しようとしたお前があまりにバカバカしくてな」

 

「な……あ…あ…まさか!」

 

「そうだ!洗脳能力はお前の自前だが、それはグリモルドの電波ジャック能力あってこそのもの。そのグリモルドを作り上げたショット博士が万全の体制で手ぐすね引いて待ってたんだよ!お前が力を解放して、無力になるその瞬間を!」

 

「クロニクル、あなたの力は強い。フューチャーソングさんでも、僕達を守りながら戦えないぐらいには」

 

「でも、それもお前が万全の状態で、力を溜め込んでいる時だけ。今のお前は、私達の前には無力だ!」

 

「ば、馬鹿な…こっちは人質をとっているんだぞ!こんな!」

 

ソング達の言葉に動揺を隠せないクロニクルだったが、自身が人質を盾にしていることを思い出し、その盾で身を守ろうとする。しかし、その盾はすでに崩壊していた。

 

『…残念だったな。俺達なら無事だ』

 

「なにぃ!?」

 

クロニクルが背後の映像に目を向けると、そこには黒いライダー達の拘束から抜け出した真司達の姿があった。全く同じ動きをするうえ、パワーも真司達より強いはずの黒ライダー達からどうしてと混乱するクロニクルだったが、映像の中の真司達がその疑問に答える。

 

「どうやら、俺達のライダーシステム…その根底までは理解できなかったようだな」

 

「あんた達ディソナンスもそうだってのに、感情の力を無くしたやつらに!」

 

「私達は…負けない!」

 

『兵器としての安定感を求めたのかなんなのか知らねぇが、こいつらから感情を排除したテメェの負けだ』

 

黒ライダー達は確かに強い。そのパワーも常に真司達の上をいくように調整されているはずだった。しかし、感情の力のない黒ライダー達では、真司達の一瞬の爆発力には及ばない。普通ならば、いくら際限なくスペックが上昇するとしても、限度があるものだが……クロニクルに対しての怒りが、彼らに限界を超えさせていた。

相手が常に自分達よりも上のスペックになるのならば、対処方は簡単だ。相手が追いつけないほど凄まじい勢いで、強くなり続ければいい。そして、真司達が纏うライダーシステムはそれを実現できる力だ。

 

「クロニクル…貴様の、負けだ」

 

「だっ…黙れ!俺様は…!俺様は…!」

 

ライダー達のレコードライバーから歌が流れ始める。誰も聞いたことのない声で、誰も聞いたことがない歌が。

 

「私のこの心は、鼓動は、全て未来の人達からもらったものだ……その全てを、お前にぶつける!」

 

今、未来を越えるための決戦の幕が上がるーー!

 

《遥か流れている》

 

「はあああああっ!」

 

「ゼブラちゃん!」

 

「合わせる!」

 

《切ない時の中で》

 

スカイツリー最上階でソング達がクロニクルと戦う中、黒ライダー達と真司達は同時に必殺技を発動させていた。

この一撃で決着をつけるつもりだ。

 

《確かな真実がそこにある…》

 

『『『voltage MAX!!』』』

 

『『voltage Over!!』』

 

真司の右拳にエネルギーが集約され、刀奈の剣が何者をも切断する刃を纏う。

桜の全身に力がみなぎり、ボイスの銃に力が満ちていく。

 

《その真実こそが》

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「はあああああああああっ!」

 

「くらえええええええええっ!」

 

『いけええええええ!』

 

《心にヒビを入れ》

 

『rider genocide crash!!!』

 

『rider shining blade!!!』

 

『rider super storm!!!』

 

『rider ultimate Canon!!!』

 

《鼓動の音々(おとね)を止める》

 

それぞれの必殺技がぶつかり合う。真司は拳を衝突させ、刀奈は剣速を競い、桜は竜巻をぶつけ、ボイスはエネルギーを放ち続ける。

 

《桜のように儚い…!》

 

「おおおおおおおおおおああああああああ!」

 

「早く、早く、早くーー!」

 

「負けてたまるかああああああああっ!!」

 

『これで…終わりだっ!』

 

《命だとしても、そうさもう躊躇わない!》

 

ライダー達の必殺技が、黒ライダー達を討ち滅ぼしてゆく。真司のコピーは粉々に砕かれ、刀奈のコピーは光速で切り刻まれ、桜のコピーは竜巻に呑まれバラバラになり、ボイスのコピーは圧倒的なエネルギー差で消滅した。

 

「後輩達は…!」

 

ライダー達がスカイツリーを見上げる。ボロボロの彼等には決着までにスカイツリーを駆け上がる体力など残されていない。地上でソング達の無事を祈るしかないのだ。

そして、ソング達は今まさにクロニクルを追い詰めていた。フューチャーソングの槍がクロニクルの腕を抉り、ゼブラと合体した乙音の槍がクロニクルの腹を貫く。

 

《思い掲げ槍を掲げ希望を今掴む!》

 

「まさか、俺様が、こんな奴らに!」

 

『voltage Over!!』

 

「クロニクル…!」

 

『Over the Power!!!』

 

「これで終わりだ!」

 

《明日を願い夢を願いそして…未来!》

 

ソング達が必殺技をを発動する。それを防ごうと障壁を展開するクロニクル。今、思いがぶつかり合う。

 

《奇跡願い空に散らばった心をかき集め!》

 

『rider double shoot!!!』

 

『rider final shoot!!!!』

 

《行くべき道を照らし続ける…》

 

「「おおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

《未来を越えて、自分を超えて……》

 

「グオワァァァァァァァバァァァァァァァ!!!」

 

ダブルソングの必殺の蹴りがクロニクルの身体に直撃する。荒れ狂うハートウェーブの奔流をその身に受けたクロニクルは、苦しみ悶えるが、未だ消滅してはおらず、這ってでも逃げようとする。

 

「これで…終わりだ」

 

しかし、それを許すフューチャーソングではなかった。その槍がクロニクルのボディーを貫くと、ピクリとも動かなくなる。

 

「……終わったね」

 

「…ああ、先輩達が待ってる…いこう」

 

クロニクルが取り憑いていたグリモルドのボディーは完全に破壊された。それを確認したソング達はスカイツリーを降りようとするが、その瞬間、スカイツリーが揺れ始める。

 

「な、なんだ!?」

 

「まさか、戦いの影響…!?」

 

戦いの影響で揺れているのかと思った乙音だったが、その声に応える者がいた。

 

『いや…俺様が…この電波塔と融合したのさ…』

 

「!?クロニクル…!?」

 

『その、ボディーは、もともと俺様が乗っ取っていたものだ…お前に貫かれる瞬間、なんとか逃れる事が…できた…そして、こいつと融合したのさ…』

 

「まさか、そんなことが…!」

 

『俺様がどうしてあのボディーを乗っ取れたと思う…?俺様はな、心を持たないものなら何にでも融合できるのさ、そう、この電波塔にもなぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムム……」

 

「どうされましたか?ショット博士」

 

「イヤ…キノセイだといいんデスガ……クロニクルの能力…もしかすると、これハ…」

 

「…かなり、マズイ状況かもしれまセンネ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイツリーが一際揺れたかと思うと、その形をまるでシャトルのように変質させながら、地面から離れていく。

 

「何が起こって…!?スカイツリーが!」

 

「貴様…まさか!」

 

『感づいたようだなぁ!フューチャーソング!もう洗脳はできない…なら、この星の生命をみんなブチ殺す!月を堕としてなぁ!ギャハハハハハハハハ!お前達には特等席で見ててもらうぜ!』

 

シャトルと化したスカイツリーが加速する。その衝撃に、乙音は立っていられなくなる。

 

「ぐっ…つかまれ!」

 

「なんて、加速…!」

 

そして、唐突にやってきた衝撃に、乙音の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

「な、なにが起こったってんのよ…!」

 

「スカイツリーが…!?」

 

『あいつら…!』

 

「後輩達……!俺達には、祈る事しか出来ないのか!?」

 

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫!?大丈夫!?」

 

 

 

「……う、あ……ここ、は……」

 

「あ…良かった…無事だったか…」

 

「う…あ…ゼブラちゃんは!?」

 

「僕は無事だよ〜…なんとか、だけど…」

 

月とスカイツリーロケットの衝突時の衝撃で気絶してしまった乙音だったが、幸運にも変身は解除されず、衝突のショックで分離してしまったゼブラも無事だった。その事実に安心しつつ、立ち上がって周囲を見渡す乙音だったが、眼前に広がるのは無人の月面のみである。

 

「クロニクルは、どこに…」

 

「…ここだ」

 

「え?」

 

「今さっき探知してみたが、クロニクルはこの月と完全に融合している。奴の核と呼べる部分は月の中心にあるが、私でもそこへ到達できるかどうか…それに、月の落下はもう始まってしまった」

 

「そんな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月の落下速度を計算しろ!」

 

「あと10分もありません!それ以上を経過すれば、危険域に突入して地球が重力で狂います!」

 

「なにぃ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は…止めに行く。たとえ不可能だったとしても、やれる事はしたいから……あなたは…」

 

「…あなたは私、でしょ?なら、私の考えだってわかるんじゃない?」

 

「僕も…僕も、同じ気持ちです」

 

「そうか…なら、行こう。月を止めに」

 

月が地球へと落下して行くのを感じているソング達は、月を止めるために動き出す。フューチャーソングの力で宇宙空間へと飛び出したソング達は、月の中心部のクロニクルを目指して槍を月面に打ち込み、月を掘り進めようとする。

ーーしかし、月を削る事は出来なかった。むしろ月自体の質量に加え、クロニクルの融合による強化によって、槍のほうが軋みをあげている。今にも折れてしまいそうだ。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!ち、力を…もっとハートウェーブを同調させるんだ!」

 

「く、そぉぉぉぉっ!」

 

「止まれ、止まれ、止まれ!」

 

少女達の願いも虚しく、月は止まらない。ハートウェーブを限界まで振り絞ろうが、いくら声を上げようが、彼女達の力だけでは止まらないのだ。

 

「くそぉ…!」

 

「駄目、なのか…!?」

 

「諦めちゃダメっ!でも、これは…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危険域まで、あと5分!」

 

「ショット博士…!準備は出来ました!地上のライダー達にも、伝えてあります!」

 

「ヨシ……!人の総力、見せる時がキマシタ!作戦を発動シテクダサイ!」

 

「了解!全世界に呼びかけます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「もっと…踏ん張れぇぇぇぇっ!」

 

「これでもぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

『無駄、だ…もはや月は止められん。残念だったな…ここまで俺様を追い詰めておきながら、最後の最後に完膚なきまでに敗北するのだ!お前達は!』

 

月、正面ーーそこでは、ソング達が必死に月を止めようとしていた。しかし、その力は及ばない。危険域まであと1分を切り、ソング達の力も限界まできていた。

 

『あと1分だ…1分で全てが終わる!』

 

「そんなこと、やらせるもんかぁぁぁっ!」

 

「だが、私達、では…!」

 

「だめ、なの……?」

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

不屈の心を持つ、彼女達ですら、諦めかけた、その時ーー。

 

 

「諦めるな!」

 

 

 

 

宇宙に、声が響く。

 

 

「!?なんだ…?声!?」

 

「通信機能…!僕達の声だけじゃなく、真司さん達の声まで!」

 

「これは…!それだけじゃない!みんな…特務対策局のみんなも!」

 

 

『頑張りやがれ!応援した甲斐が無かったなんて、思わせんなよ!』

 

「あんた達ならできる!私達のハートウェーブも使って!」

 

「私達だけじゃないさ、今、世界の人々が君達の背を押してくれている!」

 

「月を押し返そうとしているのは君達だけではない!僕達の心も共に!」

 

「私はライダーシステムに希望を見た!だからボイスのドライバーを…!頼む!その希望を見せてくれ!」

 

「あなた達ならできるわ!あなた達の戦いを見てきた私が言うんだから、間違いないわよ!」

 

「ライダークン達!世界中の心を!君達に!」

 

 

 

地球から、世界中からハートウェーブの光が昇ってくる。月の落下ーーそれを目の当たりにした人類に、地上のライダー達が必死に呼びかけた結果、それがこの「祈り」だった。

ハートウェーブとは心の力……人類の総力による純粋な祈りは、ライダー達に力を与えるーー!

 

「この光…!お姉ちゃん!」

 

「ああ…!乙音…私よっ!歌を…!歌って!」

 

「うん!歌で束ねて!この思いを!この力を!そしてぇぇぇぇっ!」

 

 

「「「今こそ、一つになるーー!」」」

 

 

 

『な、なんだ!?この光はぁぁぁぉぁっ!?』

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に昇る心の光…それがソング達と一つになる。ソング達が一つになる。

 

そして、光が収まった後、そこに歌とともに現れたのは…!

 

 

「「「仮面ライダーソング、フューチャースタイル!」」」

 

 

乙音、ゼブラ、そして、フューチャーソング…規格外のハートウェーブの光が、3人のソングの融合という奇跡を起こしたのだ!

 

 

宇宙に、世界に!未来へ送る、星の歌が響くーー!

 

 

《待ってても未だに来ない》

 

「おおおおおおああああああっ!」

 

《世界へと、足を踏み出そう》

 

ソングが槍を月面に叩きつけるように投げる。先程まで表面すら削れなかったその槍が、深々と突き刺さる。

 

《そうやって、未来へ進む》

 

「押し返せぇぇぇぇぇぇっ!」

 

《そう!ここから始まる…》

 

《そう!ここから伝える…》

 

月面に突き刺さった槍の柄めがけて、ソングが蹴りを撃ち放つ。その衝撃は宇宙すらも震わし、月をゆっくりと地球から引き離して行く。

 

《止めどなく》

 

「見て!月が離れていくわ…!」

 

「やったか、後輩!」

 

《溢れ出す》

 

「乙音くん達…!」

 

『あいつら…やりやがった!』

 

《この涙》

 

 

《それを仮面で覆い隠し》

 

 

 

《そうしたら》

 

「月が…動く…!」

 

「希望…やったんだな!」

 

《笑顔まで》

 

「すごい……あれが、乙音ちゃん達の力…!」

 

「コレが…人の心の力!」

 

《隠れちゃう》

 

 

 

 

《だから仮面》

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

《脱ぎ捨てて》

 

『ぬああああああああああああああっ!』

 

《ありのまま》

 

 

《歌を、歌おうーー》

 

 

《響け、希望の歌》

 

『curtain call!!!!!!』

 

《誰だってそう1人では》

 

《生まれ、生きて行けない》

 

《だから手を取って…》

 

月が押し戻されて行く。そして、槍をも砕いて、今、必殺が放たれる!

 

《何度でも》

 

《何度でも》

 

《何度でも》

 

《絶対に!》

 

《歴史は紡がれてく!》

 

『RIDER KICK!!!!!!』

 

《だからそう》

 

《繋がった》

 

《未来を願って!》

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおらあああああああああああああああっ!」

 

《紡いできた絆を》

 

《信じて》

 

《ありのままの思いを》

 

《唄って!》

 

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアガアアアアアアアアアアアア!』

 

《響け音々(おとね)!》

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

《世界の空へーー!》

 

 

 

ーー月が、ゆっくりと元の軌道へと戻って行く。

 

ソングの発動した必殺技によって、月の中心部は穿たれ、そこにいたクロニクルはハートウェーブの放出とともに消滅した。

 

宇宙のハートウェーブが地球へと降り注ぎ、まるで宝石のような輝きを放ちながら、人々に降り注ぐ。

 

そして、ソングもーー

 

「…あっ!あれ!」

 

「後輩…!」

 

「ゆっくりと降りてきてるな、受け止めに行こう!」

 

『ホント無茶苦茶だな、お前は!』

 

 

クロニクルを倒したソングは、ゆっくりと地上に落下。地上に残っていたライダー達によって受け止められた。

なぜゆっくりとした落下だったのかはーーハートウェーブの成す奇跡だったのだろう。

 

 

 

こうして、クロニクルによって引き起こされた。未曾有の大事件は大惨事となる前に終わった。

そして、事件の収束から3日ーー時間移動の制限によって1週間程度しかこの時代にいられないフューチャーソングが、未来へと帰る時がきた。

 

 

「これで、お別れか…寂しくなっちゃうわね」

 

「そうだな…だが、未来も変わった筈だ。後輩、お前も…」

 

「あ、それが…私の生きる未来は、変わらないんです。変わるのはあくまでこの時代の未来だけ。パラレルワールド…って言うんですかね?クロニクルを倒すまでは確かに私の時代とこの時代は繋がってましたけど、クロニクルを倒したことで、分岐しているんです」

 

フューチャーソングの思わぬ告白に驚く乙音達。特に乙音とゼブラの驚きは大きかった。

 

「何っ!?」

 

『…ちょっと待て、お前、それを承知で…?』

 

「さあ、どうでしょう?でも、私は今とっても幸せですよ」

 

「それは、どうして?」

 

「あなた達から、いっぱい勇気をもらったから…だから、今の私なら、ほんのちょっとだけ、未来を良い方向へ向かわせることができると思います」

 

そう言うフューチャーソングの表情は、少し寂しそうにしつつも、今の乙音が見せるような、とても軽やかな笑顔だった。

 

「そうか……元気でな」

 

「ええ、そちらこそ」

 

「お姉ちゃん…!また来る事を、待ってるからね!」

 

「うん…!」

 

「……ありがとう、2人とも。それじゃあ、元気で」

 

タイムマシンに乗り込み、内部で機器を操作するフューチャーソング。そして、タイムマシンが一瞬発光したかと思うと、その姿はなくなっていた。元の時代に帰ったのだ。

 

「…別れは、随分とあっさりね……」

 

「そちらの方が寂しくはないだろうさ、俺達も、後輩も…」

 

そう言う真司の顔には、一筋の涙があった。それを目ざとく見つけたのはボイスだ。

 

『…泣いてんのか?』

 

「…………泣いてなどない」

 

「先輩、本当ですか〜?」

 

「なっ…!ええい、やめろ!俺はこういうのには弱いんだ!」

 

「全く、真司は昔からこうだからな…私が小学2年の時も」

 

「それ以上言うな!やめろー!」

 

「フフッアハハハハ!」

 

「笑うな、後輩!」

 

「すみません、先輩のそう言う顔見た事無かったから、つい…フフッ」

 

「そ、そうだね…フフフ!」

 

「ゼブラまで…笑うなと言っているだろう!?」

 

仲間と笑い合える幸せを噛み締めつつ、乙音は今回の事件を振り返る。とても短い間だったが、未来から来た、とてもお節介焼きな自分のことを。

 

(……わかってる。この幸せを、守り抜くよ)

 

(だから、さよならは言わないよ)

 

(いつか、また遥かな未来でーー)

 

 

乙音が見上げる空、彼女達が守り抜いたその空には、どこまでも続く、深い青が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版、仮面ライダーソング ザ・フューチャーソング

 

 

 

 




ナニモイウコトハナイ

燃え尽きました。設定資料5の後は、暫く新作の方に労力を割こうかと思ってます。第2部は正直話を考えてな……ゲフンゲフン………難しいですからね。それほど時間を開けるつもりは無いですが。

あ、乙音ちゃんはおとねちゃんって読みます。今更なんですが、一応言っとこうかなと。


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disc3.絶対なる想いの中で
不協和音の奏でる開幕


はい、第三部ついにスタートです。第2部よりは早めにお出しできて一安心。
最近お話作りのクオリティーが落ちてきてるので、ここらで踏ん張りたいですね。まあ、いつもの駄文ですけど。
今回はいろいろ状況の説明回。来週から事態が動き出します。
あと一言。

私はハッピーエンド主義者ですが、アマゾンズ二期のようなエンドもあれはあれでハッピーエンドだと思います。少なくとも千翼が辿りつける結末で最良のものだったでしょう。



アメリカ・ワシントンーーホワイトハウス・地下極秘司令部

 

「戦況はどうなっている!?」

 

「第三部隊応答無し!国外へ向かっていた秘密部隊も、定期連絡が途絶えて3日です!」

 

「第五部隊撤退!ニューヨーク方面の戦線を維持できません!」

 

「ぐっーー天城め、ここまで……!」

 

現在アメリカ合衆国は、建国以来未曾有の危機に晒されていた。

天才科学者にして、ライダーシステムの生みの親にして、人類の天敵である天城音成による、突如の侵攻ーー空中要塞と無数のディソナンスによるそれは、瞬く間にアメリカ全土を蹂躙した。

もはや軍はまともに機能しておらず、ワシントン以外の地域は陥落したか、抵抗を続けているが、時間の問題という地域ばかりであった。

一切の希望を見出せない状況。合衆国大統領ですらも冷や汗を垂れ流す戦況において、それでも希望と呼べるものは、確かにあった。

 

「大統領!ビート部隊から伝令……『ホワイトハウス周辺の敵は排除完了。これより他部隊の救援に向かう!』」

 

「第五部隊の救援に向かわせろ!今は彼らだけが頼りだ……!」

 

アメリカの希望を背負って立つ戦士、その名は仮面ライダー。

いま、彼等は地獄にいた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、真司とシキはギリギリで量産化に成功したディスクセッターを使い変身した、『仮面ライダービート』による部隊を率い、ワシントンを駆け回っていた。

今迄海中でステルスしていたと思われる、天城音成の空中要塞。ニューヨークの方面に浮かぶそれから湧き出てくるディソナンスの群れに対応できるはずもなく、真司の変身する仮面ライダーファングやシキの変身する仮面ライダービート・コンダクターの奮闘も虚しく、一時期はホワイトハウス周辺まで侵攻されていた。しかし、ギリギリ量産化に成功したビートライダー・システムもあり、有志によって結成された特殊危険部隊ビート・ライダーズによって、ワシントンは取り返されつつあった。

 

「よしお前ら、ここは二手に分かれるぞ」

 

「A班は俺、B班は四季が率いる」

 

そして、ビート・ライダーズの指揮官として抜擢されたのは、当然真司とシキの2人だった。

「突撃!」

 

「こいつの威力を確かめてやるぜ……」

 

真司はファングの突破性能の高さを生かして、自ら危険な先陣を務める。そしてシキは、強力なディソナンスに有効打を与えられないコンダクター用に新たに開発された新装備、『ビートチューンバスター』を用いて真司が開けた突破口を開く役目を背負っていた。

しかし……

 

「確かにこの威力が必要だってのはわかるが……反動制御が出来ないってのは厳しいな!」

 

「四季!撤退だ!」

 

アメリカを襲うディソナンスの群れに対し、素で突破力を持つのが真司しかいないこと、ビートチューンバスターが威力を重視しすぎた結果、極端に使いづらいこと、そしてビート部隊の練度が足りていないこと、この三つの要素が重なり、ワシントン周辺は奪取できたが、アメリカ侵攻から1週間が経った今も、未だワシントン以外の地域には手を出さないでいた。

 

「くそっ!やっぱなんもかんも足らねえ!」

 

「落ち着け四季!今は国外にも連絡が取れないんだ。ロイドが新しいビートの装備を開発してくれるのと、後輩達がやってくるのを待つしかないだろう」

 

「それはわかってるけどよ……俺は悔しいんだよ!」

 

「…………それは俺も同じだ」

 

「ちくしょう……!」

 

アメリカ国民の希望を背負い戦い続ける真司とシキ、そしてビート・ライダーズだったが、彼等を慰めることができる者も、守ることができる者もこのアメリカにはいない。

人々からの期待という重圧に耐える彼等を助けることができるのは、日本にいる乙音達だけだが、彼女達との連絡は取れず、アメリカがほぼ制圧されかけているいま、救出がいつになるかもわからなかった。

だが、彼等にも光明はあった。それは、いまワシントンにあるライダー達の拠点となっている研究所に日本からして協力している少女、湊美希。正確にいうと、彼女を助けようと動いているというかつての旧ディソナンスの一体、ドキだった。

ドキは現在、キキカイと共に生存が確認されている旧ディソナンスの一体だが、その戦闘能力は天城音成が自ら作り出した新ディソナンスはおろか、その中でも特に強大な力を持つ『7大愛』と比べても遜色ない。ドキと一度交戦したこともある真司は、ドキが自分達にとっての希望の一つとなっていることに不甲斐なさを感じながらも、頼るしかないという現状に苛立っていた。

 

「……俺は、結局なにも守れないままか……?」

 

思い悩む真司。しかし、救いの手は意外な者から差し伸べられた。

 

「次はあっちだ!」

 

「おい真司、俺はあっちに行って様子を見てくる。お前はそっちの方を見てくれ。他のやつらはここで待機させておこう」

 

「わかった。この先はまだディソナンスが潜んでいる可能性があるからな……慎重に行こう」

 

この時、真司とシキはビート部隊を率いてワシントン内の警戒任務に当たっていた。目的は、ワシントン内に残るディソナンスの掃討だった。

ビート部隊を念のため警戒要員として残し、真司とシキは二手に分かれ、この先にあった廃墟の確認に向かっていた。その時である。

 

『ライダーが来たぞ!手筈通りにやれ!』

 

「ディソナンス!?待てっ!」

 

真司の前にディソナンスが姿を現し、廃墟の中へと消えていく。本来ならばビート部隊とシキに連絡を入れ、その到着を待つ真司であったが、この時の彼は未だ姿を見せない7大愛をはじめとした凶悪なディソナンス達や、未だに何も解決できていない現状に焦ってしまっていた。その結果、自ら罠に飛び込んでしまう。

 

『よし来たな……やれっ!』

 

「ぐっ……!なんだこれは!」

 

そこに待ち受けていたのは、粘着性の高い蜘蛛の糸のトラップ。蜘蛛型のディソナンスによる罠に、真司は捕らえられてしまう。

すぐに全身の牙で蜘蛛の糸を引きちぎろうとする真司だったが、蜘蛛型のディソナンスが次々に糸を飛ばしてくるため切断が追いつかず、他のディソナンス達の行動を許してしまう。

 

『焦るな……じっくり狙いをつけろ……』

 

(し……しまった!これでは、攻撃の直撃を……!)

 

いつのまにか周囲に展開したディソナンス達が、真司に向けて一斉にエネルギー砲のチャージを始める。新ディソナンスに共通した装備だが、チャージにかかる時間が長いために、今までライダー相手には発射できていなかったものだが、その威力は、たとえ強化形態になったライダー相手でも大ダメージを与えることができるほどだ。

直撃を受ければ、死ぬーーそんな状況になっても諦めない真司だったが、その瞬間は確実に迫っていた。

 

『よしーー撃てっ!!』

 

「…………!」

 

エネルギーが最大限に高まり、今にも真司に向けて発射されようという時、()()は起きた。

 

ドォォォォォォン……!!

 

『な、なんだ……うぎゃっ!!』

 

『て、敵……ライダーか……!?』

 

「な、なんだ……?」

 

突然の爆発音。その場にいた誰もがそれに驚くなか、赤いエネルギーの奔流がディソナンス達を襲い、破壊する。

あまりの事態に無事なディソナンス達も困惑するなか、再び赤いエネルギーがディソナンス達を破壊していく。そして、最後に生き残った一体も、飛び込んで来た謎の影の強襲にあい、破壊された。

はじめはシキの救援かと思った真司だったが、彼にはこのような芸当はできない。ならば、誰がーーそう思った時点で、真司にはこんな事が可能な存在に、心当たりが一つだけあった。

 

「まさか、お前は……!」

 

『よう、久しぶりだな……あの東京での決戦以来か』

 

そう、真司達に差し伸べられた救いの手とは、かつて真司達ソングライダーズと死闘を繰り広げ、その末に消滅していったはずのあのディソナンスーー

 

「バラク……!」

 

『……俺が、お前らの助けになってやるよ』

 

こうして、かつての宿敵と真司が共闘するようになっていた時、日本でもある事態が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「衛星が乗っ取られた!?」

 

「はい、今まではなんとか防げていたらしいですが、ディソナンス側に……衛星からの映像でも、アメリカの様子は確認できなくなりました」

 

日本、東京の特務対策局本部。そこでは日夜、人類の希望を守る為に特務対策局局長、本山猛と、その部下たちが奮闘している。

そこの局長室で、猛は秘書の大地 香織から考えうる限り最悪の報せを受けていた。現在アメリカはディソナンスに攻められており、その情報はほぼ入手できない状態になっている。しかし、衛星写真など、衛星からの映像ならば入手可能となっていたが、その衛星がディソナンスからのハッキングを受け、乗っ取られてしまったらしい。

その報せに驚く猛だったが、それにはまだ早かった。

局長室のドアが、ノックもなしに開かれる。入ってきたのは、香織の兄であり、特務対策局の技術部長でもある大地 勝だ。

 

「香織、猛さん。お話中すみません。緊急事態です」

 

「どうしたんだ?勝くん」

 

「ディソナンス……キキカイが、部下を率いてこの特務対策局に侵攻を……!」

 

「なんだと!?」

 

飛び込んできたのは、最悪の想定を超えた報せ。かつて撃破したはずのディソナンス、キキカイが、その能力で生み出した機械兵達を引き連れて、特務対策局まで侵攻してきているという。

 

「乙音君達……ライダー達を緊急招集ッ!周囲の住民の避難を進めろ!」

 

「了解しました!」

 

その日、乙音達は連戦の疲れやアメリカへの突入作戦の準備もあり、久々の休暇をもらっていた。まだ朝早くというのもあるが、ベッドでぐっすりと眠っていた乙音の耳に、緊急招集のアラームが鳴り響く。

 

「うひゃ!なになになに!?」

 

けたたましいアラーム音に慌てて飛び起きる乙音だったが、なんのアラームか確認すると、すぐさま服を着替え、家を飛び出す。そして裏路地に飛び込むと、すぐさま変身する。

 

『乙音ちゃん、そちらにメロディライダーを向かわせてるわ。それに乗って!』

 

「はい!わかりました!」

 

遠隔操作でやってきたメロディライダーに飛び乗ると、乙音は特務対策局へと向かう。そこでは既に、刀奈と桜とゼブラの三人、そして特務対策局の実動部隊が待っていた。三人は既に変身しており、部隊も銃を構え、臨戦体制である。

 

「あ!乙音お姉ちゃん、来ましたよ!」

 

「すみません、遅れました!」

 

「いや、問題はない。キキカイはまだ来ていないようだが……」

 

「……!来たわよ」

 

桜の言葉を受け、刀奈と乙音が振り向くと、そこに現れたのは、多数の機械兵を引き連れ、進軍するキキカイの姿だった。

 

「キキカイ……あのライブの日以来ね」

 

「しかし、なぜ復活しているのだ……?あいつは、私と桜のコンビネーションで確かに倒したはず…」

 

「わかりませんけど…でも、倒さなくちゃならないのは同じです」

 

4人のライダーがそれぞれに武器を構える。負担が多いためまだ使ってはいないが、必要とあらばすぐにでもディスクセッターを用いた強化形態に変身できるような体勢だ。

7大愛ならばまだしも、キキカイであればこの戦力であれば負けはしない。もしや、なにか隠し球を持っているのかーーそうライダー達が思ったところで、キキカイが口を開いた。

 

『仮面ライダー……これで戦力は全部!?』

 

「…答える義理はないな」

 

『はあ……まあそうよね、うーん』

 

目の前に自分達がいるというのに、突如腕を組んで何か考え事を始めたキキカイ。なにかの作戦かと刀奈と乙音が警戒を深める一方、桜とゼブラは、なにか違和感を感じていた。

 

(……そういや、なんでこいつ機械兵しか連れてきてないのかしら?ディソナンス達を引き連れてきた方が戦力になるはずなのに……)

 

(……?何か、違和感を感じる……なんだろう?今までのあの人とは違う…)

 

『……よし、決めたわ』

 

キキカイが腕組みを解き、改めてライダー達に向き直る。その仕草に思わず構えなおすライダー達だったが、こな後のキキカイの行動は、予想外にすぎるものだった。

 

『よっ……と』

 

「へ?」

 

「なに!?」

 

「……あんた何考えてんの?」

 

「えええ、どういう……」

 

ライダー達の目の前でキキカイの身体が赤い霧を纏ったかと思うと、次の瞬間、そこには赤色の長い髪とコートを着た、妖艶な美女が立っていた。キキカイの、人間態である。

 

「あら、この姿を見せるのは初めてだったかしら?バラクも見せてたと思うけど、どう?私の人間態」

 

「いやそういう問題ではない!もっとこう……えーと……」

 

「あ、あの、僕たちと戦いに来たんじゃ……?」

「ん?やーね違うわよ。まあ、予想よりも戦力が低かったらそのまま帰るつもりだったけど、これならいけそうね、アメリカ奪還」

 

「は?あんた何言って………………まさか」

 

「あら勘がいいじゃない仮面ライダーダンス!そうよ、この『旧』ディソナンスが一人、キキカイさまがあんた達人間の味方をやってやるってんのよ」

 

「「「え……ええええええええええええ!?」」」

 

「……こりゃ苦労しそうだわ」

 

かつての宿敵との共闘。アメリカでバラクと真司達による共同戦線が張られたのと同じく、この日本でも、天城音成に対しての、ディソナンスと人による共闘が始まろうとしていた。

嵐のように激しく悪化し続ける事態の中にあって、それでも失われない希望。しかし、その希望を見出せないものが一人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ、何処かの街でーー

 

【Dレコードライバー!!】

 

【レディー、オゥケイ!?】

 

「………………」

 

【仮面ライダーァ…………デス!ボォォイス!!】

 

『ひっ、ま、またアイツだ!』

 

『フォーメーションを取れ!ディソナンスでも頭脳戦が出来ると教えてやれ』

 

「あれは、仮面ライダー……?」

 

「おいどうした逃げるぞ!」

 

「え、で、でも……」

 

「いいから早く!アイツはヤバイ!」

 

現在、ボイスは仮面ライダーデスボイスとして、あの病院での戦闘以降、アメリカに渡っていた。

デスボイスの飛行能力を使い、アメリカに渡ったボイスが見たのは、あの病院以上の地獄だった。

男や女がディソナンスの犠牲になるのは当然で、たとえ子供の死体を見たとしても受け入れられはした。だが、混乱の最中に飛び込んでいくなか、彼女は絶望と死の連鎖を見続けた。

彼女はこの直前に、人が人を殺す場面を見ている。狂った男が、自分の妻をお腹の中の子供ごと殺したのだ。ディソナンスに殺さられるならば、自分の手で殺したほうがマシだと。

狂っていた、吐き気がした、だが、これ以上の事などごまんとあった。

アメリカは広く、もともと治安の悪い地域も多い。そんな場所では、治安はおろか、最低限の人間としてのモラルすらディソナンスによって破壊されていた。

家畜として彼等のいいなりになっているならマシなほうで、もはや人を殺す機械と化した人間も、ヤケになって女を犯そうとしていたものもたくさんいた。

ボイスはそれでも助けた。だが、人としての尊厳を失った彼等は、ボイスすら魔の手にかけようとした。

殺しはしなかった。だが、それと引き換えに、ボイスは人々の声援すらも失ってしまった。

 

「………………」

 

【カーテンコォォォル!!】

 

『ギ……ガ…………ギ……』

 

『や、やめてくれ……』

 

【デスエンドブレイク!!】

 

『『ギャ……ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!』』

 

「ひっ……に、人間のやる事じゃない…」

 

「た、助けてもらってなんだけど、アイツは化け物だ!ディソナンスと同じ……」

 

結局のところ、ボイスに残された選択肢は一つしかなかった。

この身を焼き続ける死の恐怖と怨嗟の哀しみを拭うために、目の前の人間をとにかく助け、そしてーー

 

「おい」

 

「ひっ、な、なに……」

 

「ニューヨークは……どっちだ?」

 

「え、あ……あっち…」

 

「そうか……ありがとよ」

 

(天城、音成…………)

 

ーーそして、天城音成を殺す事。それだけが、今の彼女を突き動かす意思だった。

 

(もう…みんなの所には戻れない…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……ふふふ、ゲームのピースは揃った…」

 

「後は……デューマンの起動と…ボイスの覚醒を待つだけだ……」

 

 

 

仮面ライダーソング・第三部

 

『絶対なる望いの中で』

 

開幕の時ーー

 

 

 





ボイスちゃんだけアマゾンズみたいなことになってますけど、状況的にはまあ二期終盤のフクさんレベルでキツイというか……人間を守りたかったのに、その信念すらバッキバキに折られるとか吐き気がするってレベルじゃないですね。こんなお話考えたの誰だろうね〜?

御察しの通り、第三部は三視点で進みます。挿入歌描写は二部に比べて控えめになるので、私には一安心。でもボリュームが減っちゃうの!(挿入歌のせいで戦闘が長くなるので、3,000字は最低でもいったりする)
ちなみに次の仮面ライダーの構想は既にあったりします。短編集と東方の次話を投稿したら、読者参加企画かそっちのどちらかをやるつもりです。仮面ライダーの名は、仮面ライダーシンデレラとなります。たぶん考えたようなお話にはならない。着地点すら作ってないしね!

それでは、長くなりましたが第三部からも乙音達をよろしくお願いします。アメリカ編は男濃度マシマシ、日本編は漢女要素マシマシ、ボイス編はアマゾンズ要素マシマシでお送りいたします。


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ビートライダーズ

1週間から少し遅れての投稿。今後は読者参加企画をメインにやるので、少し不定期更新になるかもしれません。
読者参加企画はロボットものです。ぜひご参加を。

タイトル間違えてた、モアイ!


『オラオラオラ!行くぜ!』

 

「あいつ……すごいパワーだな」

 

「ああ、かつてあいつと戦っていた時はそのパワーに恐怖を感じていたものだが……今は頼もしいな」

 

「……お前、恐怖って感情があったんだな」

 

「そんなもの、人間なら誰だってあるだろう」

 

現在、アメリカのワシントンでは奇妙な光景が繰り広げられていた。

人間とディソナンスーー仮面ライダーとディソナンスの共闘。それも、共闘しているのはかつて宿敵として拳を交え、お互いの生命も賭けたことだってある、バラクと真司の両者だった。

 

「バラク、あまり突っ込みすぎるな!」

 

『はっ、怖気付いたか真司!』

 

「す、すげえ……」

 

「ぼさっとしてんな!俺達も続くぞ!」

 

「ディソナンスの野郎なんかに、全部任せられるか!」

 

バラクを加えたビート部隊の突破力は凄まじく、瞬く間にワシントンの奪還はなされた。ディソナンスの力を借りたとはいえ、これならばいけるかもしれないーーそう思う人々の裏で、ディソナンスの存在を快く思わないものもいた。

確かな不安も孕みつつ、真司達はニューヨークの空中要塞突入へ向けて、各地の解放を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワシントンーービート部隊拠点、ハートウェーブ研究所

 

「……それじゃあバラク、君の持つ情報を教えてもらってもいいかい?」

 

「ああ、いいぜ。俺も音成のヤツは気に食わないんでな」

 

バラクが真司を助けたその日、ビート部隊の拠点であるハートウェーブ研究所では、バラクに対しての詰問が行われていた。

真司は信用してもいいとは言っていたものの、それでもディソナンスを招き入れるというのは、不安要素の方が大きい。念のためにシキと真司を引き連れたうえで、ロイドは現在ビートの新装備を開発中の父ショットに代わり、この研究所の代表として、バラクと面する。目的は、バラクから天城音成についての情報を引き出すことである。

この時ロイドにとって予想外だったのは、バラクが持っている情報の大きさだった。裏切ってきたということは、組織での、音成からの扱いに不満があったということで、バラクの言動からもそれは見て取れた。

しかし、バラクは予想以上に多くの情報を持っていたのだ。

 

「それでは一つ目の質問なんだが……ニューヨークのあの空中要塞について、何か知っていることは?」

 

「逆に聞くが、お前らはどれぐらいアレについて知ってる?」

 

「……巨大な空中要塞だ」

 

「つまりなにも知らないってことか。まあいい、じゃあ教えてやる」

 

 

「あの空中要塞はな……いってみれば、そうだな。『思念発信装置』だ。色々防衛機構だとか、大量破壊兵器だとかもあるが、それらはあくまで余剰分のハートウェーブを利用した兵器に過ぎない。あの空中要塞はな、ハートウェーブを利用した巨大な電波塔みたいなもんなんだ」

 

バラクからもたらされた情報は、とんでもないものだった。

ニューヨークに浮かぶ空中要塞ーー真司達はあれを、単なる基地程度にしか考えてはいなかった。無理もないことである。なにせ、あの基地からはディソナンスが続々と出現しているが、逆に言えばそれ以外の動きはなかったのだから。

ハートウェーブを利用した、巨大な電波塔ーー真司とシキの二人にはピンとこなかったが、研究者であるロイドには、それがどれほど恐ろしいことかが直ぐに理解できた。

 

「ハートウェーブを利用………?まさか!」

 

「そう、そのまさかだ。あれはな、単純に言えば個人の意思を全世界に発信する装置みたいなもんだ。ハートウェーブの性質……それを利用して、全世界に音成の意思を送信するってわけだ」

 

「?……待て、それがどう脅威となる?」

 

ここで口を挟んだのは真司だ。彼には、音成の意思が全世界に送信されるという事実に、ロイドがなぜ戦慄しているかわからなかった。仕方のないことである。真司は技術者ではなく、音成本人の思想もわからないからだ。

 

「真司……ハートウェーブの性質ってなにか、わかるかい?」

 

「む?……人の想いの具現化と、その伝達…………まさか!?」

 

「そう、そのまさかだ。戦闘記録を見たが、お前ら、俺たちを倒してからすぐに、クロニクルとかいうディソナンスと戦ってるらしいが……あいつの能力と同じだ。あれは、巨大な洗脳装置みたいなもんだ。全世界を対象にした、な……」

 

バラクの言葉に、今度は真司とシキとが愕然となる。特に、真司が受けたショックは大きいものだった。

クロニクルーーかつて真司達ライダーが、未来から来た乙音、フューチャーソングとともに打倒した強敵。未来から来た、ディソナンス。

その脅威的な能力は現代で発揮されることはなかったが、フューチャーソングの情報が確かならば、クロニクルは東京タワーという巨大な電波塔を利用して、全世界の生命の殆どを洗脳してしまったという。

フューチャーソングの世界は、それから地獄と化してしまった。そのことを思い出した真司は思わず戦慄し、つい荒い口調でバラクに詰め寄ってしまう。

 

「おいバラク……確かなんだろうな、その情報」

 

「……ああ、確かだぜ。だが心配するな、完成まではだいぶ時間がーー「安心などしていられるか!」あ、おい!」

 

「……悪いが俺は訓練に向かう。後は任せた」

 

「お、おい真司!」

シキの言葉にも応えず、真司は詰問室を足早に出て行く。突然のことに驚くロイドとシキだったが、彼らにも真司の気持ちは痛いほどわかった。

そもそも、真司はこの世界で最もディソナンスとの交戦経験の多い人間である。そんな彼が、果たしていかに強力な戦力といっても、ディソナンスとの共闘を受け入れられるのか?

複雑な心理状態に、バラクからもたらされた、最悪の情報。真司が焦りや不安で思わず飛び出してしまうのも、仕方のないことだと思えた。

 

「…すまない、話を続けようか」

 

「ああ……………ふーん」

 

その後もバラクとの話し合いを続けるロイドとシキだったが、バラクは真司の去っていった方向をチラチラと見て、なにか考えているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ……!はっ……!」

 

「おうおう、随分と精が出てるじゃねえか」

 

「……バラクか」

 

研究所内、職員の健康管理のために設置されたトレーニングルーム。そこで一心不乱にサンドバッグを叩いていた真司に、バラクが話しかけてくる。それを一瞥して、またすぐにサンドバッグに向かう真司に、バラクはある提案を持ちかけた。

 

「戦わねえか?」

 

「……なに?」

 

「訓練だよ。ほら、こっちこい」

 

バラクについていって、実験用の部屋へと向かう真司。ここでは、新兵器の実験などのために床や壁が頑丈に設計されており、ライダーが暴れても大丈夫なようになっている。

そこで、真司は仮面ライダーファングに、バラクは怪人能へと変身し、ぶつかり合う。

 

『おらっ!どうした?あの時より弱くなったんじゃないか!?』

 

「それは、こっちの、セリフだ…!」

 

バラクと真司の拳が交差し、蹴りがぶつかり合い、その身体どうしがせめぎ合う。とても訓練とは思えないレベルの、一進一退の攻防。だが、徐々にその内容は、戦士どうしの戦いから、悪友どうしの喧嘩のやうなものに変わっていく。

 

「そもそも、お前達ディソナンスは……!なぜ生まれた!?」

 

『そんなこと、俺達の方が知りたいね!お前ら人間の発明と発見から生み出されて……!』

 

一発、真司の拳がバラクの顔面を捉えると、また一発、バラクが真司の顔面を殴り返す。お互いガードなど考えていない、激しい殴り合いだ。

 

「なぜ今になって共闘を考えた!」

 

『音成が気に食わなかったからだ!これ以上は言わねえ!』

 

「なんだと!?」

 

ファングの牙が、バラクの身体を抉る。だが、バラクは破壊のエネルギーをもって、真司の身体を吹き飛ばす。

 

「ハァ……お前達は、ハァ…何者だ!」

 

『そんなの……ハァ…俺達にも、わかんねえよ!』

 

お互いの胸を、渾身の一撃が叩く。両者ともその場に仰向けになって倒れ、真司は変身を解き、バラクは再び人間能に戻る。

訓練室の床に寝っ転がり、息を切らす両者。先に口を開いたのは、真司の方だった。

 

「ハァ………俺は、お前達が恐かったのかもしれないな」

 

「あん?……ハァ…フー、どういうことだよ、そりゃ」

 

「……なんというかな、お前達と戦ったのは一度や二度ではないし、お前達のようなディソナンスに、目の前で命を奪われたこともある……誰かを守れなかった事もある」

 

「…………そうか」

 

「ああ、だがーー」

 

 

「お前達と共に戦うのも……悪くはないと、そう思ったよ」

 

 

「……そうか」

 

 

その日、バラクはビート部隊の一員として歓迎された。

ディソナンスである彼を歓迎せぬ者もいたが、もっともディソナンスとの交戦経験のあるはずの真司が彼を受け入れたという事もあり、派閥が生まれるほどに大きな不満は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュドオオオオン……!

 

爆音が響く。

吹き上がる炎に、あがる黒煙。

熱気で大気が揺らめき、爆炎が次々とあがる。

 

「オラオラオラオラあっ!!」

 

「行くぞっ!!」

 

「気合い入れろテメェらっ!!」

 

その爆炎の中から飛び出してきたのは、バイクに乗ったビート部隊の面々であった。

機動力確保のため、サンフランシスコ内にあったバイクを掻き集め、ロイド達研究班が無茶な仕様にも耐え得るように改造しなおした、特性のバイク、『ビートライダー』。これに乗って、真司達はディソナンスの前線基地を襲撃した。

サンフランシスコは既に解放されたが、未だディソナンスの脅威は迫ってきている。だが、ディソナンス達といえど疲れないわけでも、不死身の怪物というわけでもなく、サンフランシスコを攻めるのに、いくつか前線基地があった。

バイクを用意したのは、それを迅速に叩くためだ。現状だと、軍によるゲリラ戦法もできないならば、ビート部隊が行って叩くしかない。 人間ならば乗りこなせないようなモンスター・マシンであっても、変身して身体性能が大きく上昇しているビート部隊ならば乗りこなせる。真司やシキ、そしてバラクはビートライダーを巧みに操り、ディソナンス達を蹴散らして行く。

 

「次はどの地点だ!?」

 

「ここから南西10キロのところに、ディソナンス達の溜まり場があるらしいです!」

 

「そうか……よしお前ら!何人かはここに残って警戒!後はこのままそこに向かうぞ!」

 

「「「おお!!」」」

 

ガオン、とバイクのエンジン音が鳴り響く。

その音に反応したディソナンス達が気づいた頃には、既にバイクの車輪か、強烈な一撃が迫っている。

『こ、こいつら……!ええい!奴らに連絡を入れろ!』

 

『ハハッ!新ディソナンスども!旧式の俺に蹂躙される気分はどうだハッハー!!』

 

「シキ……」

 

「ああ、次の基地は俺とお前、後はバラクだけで向かうか」

 

迅速に本日二つ目の基地を制圧した真司達だったが、ディソナンス達の不穏な動きを察知し、戦力の低下も考えて、次の基地の制圧には真司、バラク、シキのビート部隊上位3名で向かうことになった。

次の基地への道をビートライダーで走る3人。3人ともが周囲を警戒し、敵の襲撃に備えるーーが、敵は予想外のところから来た。

 

ドドドドドドドドドドドド……

 

「なんだ、この振動!」

 

『……っ!真司、シキ!!飛べ!』

 

「わかった!」

 

突如自分達を襲った振動にバランスを崩すも、バラクの声に従い、すかさずビートライダーのエンジンをフル回転させ、目の前の坂から跳躍する3人。そして、3人が跳躍した瞬間、ひときわ大きく地面が揺れたかと思うと、地中から、巨大なモンスター・マシンが現れる。

 

「なんだあれは!?」

 

『ライダーども!そして裏切り者の旧ディソナンス!このドリルマシンの餌食になりやがれ!』

 

「直球だな……!」

 

『ちっ…逃げるぞ!』

 

地中から飛び出してきたのは、この周辺のディソナンスの移動にも使われている巨大マシン、ドリルマシン。モグラのような体型のそれの先端は顔がペイントされているが、その鼻の部分が巨大なドリルとなっている。もしあれに捉えられれば、いかにこの3人でも一巻の終わりだろう。

 

『いけドリルマシン!奴等を粉々にしろ!』

 

「また厄介なのが……」

 

「基地まではもうすぐだ、流石に奴等も自分達の基地を壊してまで追ってはこないだろう!」

 

『オラアッ!こいつならどうだ!』

 

ドリルマシンに乗るディソナンスからの追撃をかわしつつ、真司達はビートライダーを巧みに操り次のディソナンス基地を目指す。

バラクの破壊のエネルギーによる足止めもあり、なんとか次のディソナンス基地が見えてくるところまでは到達した真司達。しかし、このままでは確実に突っ込むことになるのに、ドリルマシンはスピードを緩めない。

 

「おい真司!このまま突っ込む気か!?」

 

「少し無茶をするぞ!」

 

『over the song!!』

 

『rider maximum drive!!』

 

『うげっ!お前まさか!』

 

「そのまさかだ!!」

 

真司は必殺技を発動し、エネルギーをその身とバイクに纏った状態で、ディソナンスが群れている基地の方へと突っ込んでいく。それにシキもバラクも真司の後ろについて、猛スピードで破壊のエネルギーを撒き散らしながら突き進む。

 

『な、なんじゃあ!?』

 

『て、敵襲ーー!』

 

「このまま駆け抜けるぞ!」

 

「どうするつもりだよ!」

 

『……そういうことかっ!おいシキ、衝撃に備えておけ!』

 

真司の考えが解らず戸惑うシキとバラクだったが、バラクがすぐさまそれを察知する。そして、まさに悪魔のようなその発想に戦慄しながらも、シキに注意を促す。

 

「この基地を吹っ飛ばして、全部ぶっ壊すぞ!」

 

『rider devil fang!!!』

 

「真司!お前過激になったなあ!?」

 

『Over beat kick!!!』

 

『ハッ!それでこそ俺のライバルってもんよ!』

 

真司とシキが必殺技を発動し、バラクが破壊のエネルギーをその足に纏う。

三人はバイクを反転させると、基地の中のディソナンスを蹴散らしてまで、なおも追ってきていたドリルマシンに突っ込んでいく。

そして、ドリルマシンの下敷きになるというところでバイクから跳躍、ドリルマシンに向けて、必殺技を叩き込む!

 

「「『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』」」

 

三人の同時キックが、ドリルマシンを粉々に吹き飛ばす。そして、放出された破壊のオーラが、ディソナンスの基地を跡形もなく吹き飛ばす。

ドゴオオオオオオオン……という音とともに、上がる黒煙。そこから這い出てきたのは、なんとか生き残った真司達だった。

 

「ミッション……完了か」

 

「………やっぱお前、人としてなにか欠けてるわ」

 

『ハハハッ! 違いねえ!』

 

こうして、反撃の狼煙は上がった。アメリカでは真司達ビート部隊の動きを知った人々が次々に武器を手に取り、通常兵器が効かないまでも、様々な策を凝らして、ディソナンスの侵攻を防ごうと動き出していた。

そして、日本でも新たな動きがーー

 

 

 

 

 

「それじゃあ、準備はいい?」

 

「ああ、ボイスの残したレコードライバー……そして、Dレコードライバーのデータ」

 

「これを用いた新たなるレコードライバー、Sレコードライバーの開発の時だ……!」

 

 

 

 




次回、日本編。
たぶん最後の日常回?


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機械の心

やっつけ仕事。オメガ・ワールドと大学で更新遅くなるけど、すみませんなんでもしますから!


「親睦会……ですか?」

 

「ああ、キキカイくんの協力を得られたいま、彼女といつまでも敵対していた時の気分で接するわけにもいかないからね。親睦会というか、アメリカに乗り込む前の勝利祈願パーティーでも開こうかと思ってね」

 

特務対策局、局長室。キキカイの協力を受けた乙音達。その後日、乙音猛に呼びだされていた。

要件は、キキカイとの親睦会を開こうというものだった。

 

「でも………」

 

「確かに、君たちが彼女に対して不信感を抱いているのは理解できる。だが敵は強大だ。そのような不信感を抱いたままでは、勝ち目はないだろう……というわけで、決戦前に一度ぱっーとやろっか!」

 

「……は?何をですか?」

 

「だからパーティーだよパーティー!ほらいったいった!」

 

結局いつもの猛の勢いに押され、パーティーを開く事になった乙音。名目上は決戦前の決起会ではあるが、実際にはキキカイを受け入れるための催しである。

そして、このパーティーの前準備、というかライダー達への事情説明や説得に、キキカイのことを正直どう思っているか聞く係は乙音となった。

その理由は、ゼブラの存在である。乙音の感情より生まれたディソナンスであるゼブラの存在があるからこそ、乙音はキキカイを受け入れるのに他メンバーよりも抵抗感はなかった。

そのため、他のライダー達の説得やキキカイの真意を知る役は乙音に任されたのだ。

 

「でも……うーん。ゼブラちゃんに相談しようかなあ」

 

「む、乙音くんではないか。どうした?」

 

ぶつぶつと呟きながら乙音が廊下を歩いていると、早速ばったりと刀奈に遭遇してしまった。

 

「あ、刀奈さん、実は……」

 

(……って、まてまて私。ここで刀奈さんに話していいのか?)

 

「いえ、なんでもないです。ただ少し局長に呼ばれて」

 

「そうか?それならいいが。無理はするなよ、キキカイも協力して……決戦の時が近づいてくるからな」

 

「は、はい」

 

「……?まあいいか」

 

刀奈に不審がられつつも、なんとかやり過ごすことに成功した乙音。しかし、このままではパーティーまでに猛からの指令をこなせなくなってしまう。ゼブラに相談しようかとも思ったが、よく考えるとゼブラも自分から生まれた存在なわけで、多分この問題を解決するのは難しいだろう。

 

「……やっぱり、あの人かなあ」

 

来た道を戻る乙音。こんか時に頼れそうな人を、乙音は一人だけ知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけなんですが桜先輩、なんとかなりませんか!?」

 

「いやなんとかっていってもねえ」

 

頼れそうな相手というのは、桜のことだった。彼女がキキカイに対しても普段通りに接する姿を乙音は見たことがあるため、それなら相談相手として適切なのではないかと思ったからだ。

 

「というか、説得といっても私は別にキキカイに対して思うところが……ないわけでもないけど、あいつ倒したの私と刀奈のコンビだし。でも、説得するなら刀奈だけじゃないの?あの子がキキカイに対して話しかけようとするところなんて見たことないわよ」

 

「……確かにそうですね!」

 

「いや気づいてなかったんかい!」

 

ここで乙音は気づいてなかったのだが、乙音がキキカイのことを受け入れようとしている以上、ゼブラもまたそれは同じである。そして桜も初戦がキキカイ相手だったり、数年前の決戦ももキキカイ相手だったりと彼女と因縁があるようにしか見えないが、正直桜自体にキキカイへ思うところがあるわけではない。

……というわけで、乙音はひとつ妙案を思いついた。

 

「そうだ! それじゃあ私が刀奈さんを説得しますから、桜さんはキキカイ…さん?を説得してくださいよ!」

 

「え?」

 

「それじゃあ、よろしく頼みますね!」

 

「ちょ、ちょい待ち……あーもう。話聞かないんだから」

 

行ってしまった乙音を見て、ため息をこぼす桜。というのも、乙音は知らないことだったが、桜はキキカイについてある事情を知っていたからだ。

 

「……説得しなけりゃならないのは、キキカイの方なんだけどなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?じゃあ……」

 

「ああ、私は別にキキカイに対して思うところは……無いといえば嘘にはなるが、まあコミュニケーション自体はとろうとしているつもりだぞ?」

 

刀奈のところへ行った乙音が聞いたのは、彼女の意外な言葉だった。なんと、刀奈はキキカイに対して複雑な感情がないわけでは無いが、それでも共に戦う者として認めようとはしているらしい。だが、乙音ば刀奈がキキカイと話しているところどころか、近くにいる場面すら見た事がない。

 

「あー…じゃあまさか」

 

「まあ、こだわっているのはキキカイのほうだよ。私としても、なんとかしたくはあるんだが……」

 

「あ、じゃあ桜さん……」

 

「なんだ、桜がどうかしたのか?」

 

刀奈の話を聞いて、乙音は桜に面倒なことを意図せずとはいえ押し付けてしまったことを悟った乙音は、少し思案する。このまま桜に任せてしまうのが話がこじれない気もするが、乙音の気質的にそういうのはできない。

ここで乙音はあることを思いつく。それは……

 

「そうだ! 刀奈さんもキキカイさんのところへ行きましょうよ! ゼブラちゃんも誘って!」

 

「え? いや私は」

 

「いいですから! ほら行きましょう!」

 

「ちょ、乙音くん……」

 

乙音に引っ張られ、キキカイのところへ向かう刀奈。いっぽう、桜とキキカイはというと……

 

「あんたね……またこんなところに引きこもってんの?」

 

「いいじゃない、好きなんだから」

 

「ふーん……」

 

 

特務対策局本部、地下の倉庫室。そこを改造したキキカイの研究室に、桜とキキカイはいた。桜は壁にもたれかかり、キキカイはキーボードを叩いている。

桜が部屋に入ってきても終始お互いに無言だったが、ふと、桜の方から口を開いた。

 

「……いったいどういう風の吹きまわしよ」

 

「……なにが?」

 

「あんたが私達に協力するなんて、絶対無いと思ってたわ」

 

桜の言葉に、キキカイの動きが一瞬止まる。しかし、またすぐにキーボードを叩く作業に戻る。

 

「なんとなくよ」

 

「なんとなく?」

 

「そうよ……」

 

「ふ〜ん」

 

その返答を聞くと、桜はキキカイの肩を叩く。その手をうっとおしそうに振り払うキキカイだったが、桜の手は力強く離れない。

 

「……なによ、ダンス」

 

「来なさい」

 

有無を言わさず、キキカイを連れ出す桜。許可を取ってメロディライダーを引っ張り出すとキキカイを後ろに乗せ、少しメロディライダーを走らせる。

数分後、桜はキキカイとともに広い空地にいた。まるで、ここなら全力で暴れても問題ないと言わんばかりに。

 

「……なんのつもりよ?」

 

「なに、女どうし……」

 

桜がその腰にレコードライバーを巻く。腕にはディスクセッターがあり、彼女が本気である事を示していた。

 

「腹を割って、話そうと思って」

 

桜を光の輪が包み、彼女を変身させる。仮面ライダーダンスへと変身した桜の表情を、キキカイは伺いしる事はできない。

 

「……ふん」

 

キキカイも桜に応えるように、怪人態へと変身する。あの人桜と刀奈の二人にやられた時のように、その周囲にはキキカイの能力によって機械兵が次々に生み出されていく。

 

「……いくわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?桜さんとキキカイ…さんは?」

 

「二人ならメロディライダーで出かけましたが……どうしました?」

 

「乙音……」

 

「そうですね…私たちも行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日の威勢はどうしたっ!?」

 

『うるさいわね! このっ……!』

 

桜とキキカイの戦いは熾烈を極めていた。

桜はまず、ファイヤーストームブレイカーによる機械兵達の掃討を狙うとともに、自らもその空戦能力を活かして、キキカイ本体を空中から狙う戦法をとった。

これに対してキキカイは機械兵達の数を単純に増やし、なおかつ機械兵による自爆戦法をとることで対応した。ファイヤーストームブレイカーは確かに強力だが、強力な武器相手にも戦いようというものはある。桜自身も、四方から襲ってくる機械兵達の弾幕に押され気味だ。

 

『こんなことじゃ、7大愛も倒せないわよ! あの日倒したやつだって……』

 

「わかってるわよ! 見てなさい!」

 

この時桜はキキカイの予想に反し、必殺技を使わなかった。代わりに彼女は機械兵も気にせず、キキカイに突撃していく。

キキカイはそれを待ってましたと言わんばかりに機械兵達の自爆で迎撃する。桜の四方を囲む機械兵の自爆は、桜の身体を瞬く間に包み込んだ。

 

『これで……っ!?』

 

「残念、あれじゃ無理だわ」

 

ーーしかし、桜の纏う仮面は桜が倒れる事を許さない。

仮面ライダーダンス・フェニックススタイル。その能力は、炎の力を吸収し、その痛みも何もかも、全てを自らの力と為すというもの。

「これで……終わりね」

 

『っ………!』

 

炎を纏う乙音が、キキカイへ向けて急降下する。その一撃はキキカイの身体を確かにとらえ、その頑健な身体を倒れさす。

怪人態から人間態へと姿を変え、草原に寝転ぶキキカイ。そのキキカイを見て、桜も変身を解除し、仰向けに倒れたままのキキカイの身体の上に覆い被さる。

 

「……どう? これが人間の力よ」

 

「……そんなのわかってるわよ、あの日だって……天城音成の所にいた時だって……「違うわ」……っ」

 

「あんたが今まで目にしてたのは、人間の力じゃない。天城音成っていう化け物の力で、私達があんた達と決着をつけた日もそう。あの日の私達は、なにも知らずにこの力をふるってたわ」

 

「………………」

 

「…怖いの?」

 

桜の問いに、キキカイの目が開く。

キキカイの人間態は、見た目だけでいうならば桜とそう年の変わらない女性ーーいや、それよりも年下の少女に見える外見である。

しかし、キキカイの実年齢は、その外見よりも更に下であるのだ。そもそも、ディソナンスがこの世界に生まれ落ちてから10年と時は経っていない。

 

「ーー10年で人間がどこまで育つ? まだ自意識の形成も済んでなくて、反抗期すら迎えてない、ただの子供よ。……あんたは、ううん、あんた達はただの子供と同じ」

 

「そんなっ……」

 

「……大丈夫よ」

 

反論しようとしたキキカイの身体を、桜が優しく抱きとめる。そのぬくもりは、キキカイがかつて味わったこともないものだった。

 

「あんた達のやった事はもう取り戻せないけど、これから償えるわ」

 

「………っ」

 

今のキキカイには、なぜあの時ドキが自分たちの元を去ったのか理解できるような気がした。そうか、この感情を知ってしまったからなのかと。

立ち上がった桜の差し伸べた手を握り、立ち上がるキキカイ。その頬にある涙の後は、彼女の今の心を如実に表していた。

 

『……ほだされたか、キキカイ』

 

「……! あんたは!」

 

ーーと、この場に闖入者が現れる。

それは、7大愛が一体であり、ディソナンスの中でも特に音成に対して強い忠誠を誓う怪物、堅守の四(ガーディアンフォース)、ガイン。

巨大な体躯をもつその存在の目的は、自分達を裏切ったキキカイの粛清だった。

 

『まさか旧ディソナンスである貴様が……我等を裏切って生き残る事ができるとは思っていないだろうな?』

 

「…ガイン、私は」

 

「だいじょーぶよ、キキカイ」

 

ガインに対して明らかに怯えた様子のキキカイを庇うように、桜が前に出る。その瞳に宿るのは、前に敗れた敵に対しての怯えでもなく、空元気でもなく、自らの背後にいる、ちっぽけな存在を守ろうとする意思だ。

 

「変身!」

 

桜が再度、この場で変身する。その身体には炎が宿り、それが羽となって彼女を支えている。

 

「悪いけど負けるわけにはいかないのよ!」

 

『かかってこい』

 

桜はファイヤーストームブレイカーによる速攻を仕掛ける。自分は空中を飛んでガインの動きを観察しつつ、ファイヤーストームブレイカーを生まれた隙に的確に叩き込むという戦法だ。

 

『ちょこまかと!』

 

「捕まるわけないでしょ!」

 

ガインの猛スピードでの突進をなんとかかわしつつ、着実に攻撃を加えていく桜だったが、ガインのびくともしない様子に焦りを見せ始める。

 

「こいつ……!」

 

『以前の戦いで無駄だとわかっただろうに!』

 

焦った桜は自分も攻撃を加えようとするが、ガインは溜め込んでいたエネルギーを一気に開放する。

衝撃の爆発、そうとでも形容すべき一撃が桜を襲い、その身体を転がす。

 

「ぐっ!」

 

「……あ、ダンス!」

 

『もう終わりか』

普通ならば瀕死の一撃、しかし桜の纏う仮面は、その傷を癒し、彼女を再び立ち上がらせる。

 

「もういいわよ! 逃げましょう!」

 

「そんな事できるかっ!」

 

「……っ!?」

 

「いいから、見ときなさい!」

 

キキカイの制止も振り切り、桜は再びガインに立ち向かっていく。何度となく倒れながらも、絶対に折れることはなく。ーー桜を見るキキカイの心が、折れないように。

 

「……くっ!()! 一歩下がりなさい!」

 

「わかった! わっ、危な……」

 

『何……?』

 

キキカイの叫びに桜が応え、ガインの攻撃が空を切る。完全に入っていたはずの一撃を外されたことに、流石のガインも驚きを隠せないでいた。

 

「桜……あんただけじゃダメね。全然ダメ。やっぱり…私の協力がなくちゃ』

 

「キキカイ……行くわよ!」

 

キキカイが再び怪人態となり、機械兵達を展開する。ガインでは機械兵達を一気に掃討できず、桜を攻撃圏内から逃がしてしまう。

 

「桜、あいつはソングにやられた傷跡が残ってる。そこを狙いなさい!』

 

「オッケー! ポイントの指定は任せた!」

 

機械兵達がペイント弾を吐き、そのペイント弾が付着した場所に桜がファイヤーストームブレイカーによる攻撃を次々に加えていく。すると、余裕を保っていたガインが、見るからに焦りだす。

 

『貴様ら! 音成様より賜りし装甲を……! ぐわっ!?』

 

「一気に決めるわよ!」

 

『今よ、桜!』

 

炎の翼を広げ、桜が天へと飛ぶ。最高高度に達した彼女は、必殺技をぶちかます!

 

『Over the song!!!』

 

『rider phoenix strike!!!』

 

「いっけえええええええっ!!」

不死鳥の爪がガインをとらえ、その装甲を打ち砕き、吹き飛ばす。

ガインは絶命こそしなかったものの、自身の砕かれた装甲を見て、ひどく取り乱していた。

 

『貴様ら……この借り、必ず返すぞ!』

 

衝撃波で一瞬桜たちの目をくらましたガインは、そのまま逃亡する。

しかし、桜もキキカイも疲労が激しく、ガインを追う気力はなかった。

 

「ーーっ、はあ! 疲れた〜」

 

「あー、桜?」

 

「うん? なに?」

 

桜達の姿を見つけた乙音達が走ってくる。その笑顔は、桜にとって守るべきものでありーーそれは、いま隣に立つものの笑顔も、きっとそうなのだろう。

 

「……ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、ライダー名で呼んでたくせに急に本名で……」

 

「あー! 聞こえないわ! ほら事故りたくなかったら黙るのよ!」

 

「いや運転してんの私じゃないし……」

 

「ともかく恥ずかしい話は禁止よー!」

 

「はいはい……」







最近ロボットものの歌詞考えすぎてソングの歌詞忘れそう。


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風に叫び続けろ

今回は短めだけど新規挿入歌あるから許して♡
2号ライダーはどれだけいじめ抜いても良い。1号も同様だ。



『……くそ』

 

  アメリカーーどこかの街。

  そこでボイスは、足止めを食らっていた。

  きっかけは、街の者の懇願だった。

 

「ディソナンスを倒した……あんた仮面ライダーか!?」

 

『……だといったら?』

 

「頼む! 俺達を助けてくれないか!」

 

  初めは見捨てるつもりだった……といえば嘘になる。

  結局のところボイスは甘く、たとえ請われてなくとも何かしらの手助けはしただろう。

  決定的となったのは、街を襲ったディソナンスの横暴を目にした時だった。

  彼女ーーボイスの目の前で、誰かの命を奪おうとする行為は、それこそ自殺行為と呼べる。

  街を襲ったディソナンス達を皆殺しにしたボイスは、そのまま立ち去ろうとした。しかし、そこに先程の提案が持ち込まれたのだ。

  曰く、この街の近くにはディソナンスの基地の一つがあって、そこで大量のディソナンスが生み出されているらしい。ボイスには、その基地を潰してほしいとの事だった。

 

「頼む。報酬なら幾らでも用意する、だからーー!」

 

  その言葉を聞いた時点で、ボイスは変身を解除した。何日間も憎悪の炎に焼かれて彷徨いながらも、Dレコードライバーの力によるものなのか、その白い髪も、その肢体も美しさを失ってはいなかった。

 

「お、女の……人……?」

 

「基地の場所を教えろ……叩き潰してくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  最終的に一悶着はあったが、街の人間はボイスの足手まといになるので……もとい、街の防衛のために待機してもらい、ボイスが単身で敵基地に乗り込む事になった。

  敵基地まではやや距離がある。街の中にあった車かバイクを街人は用意しようとしたが、ボイスはそれを拒否した。今のボイスならば、変身して走った方が早い。

 

【Dレコードライバー!!】

 

【レディーオゥケイ!?】

 

「……変身」

 

【仮面ライダー……デス!ボォォイス!!】

 

  夜陰に紛れ、月明かりから逃れるように、地を蹴り、大地を疾駆する。

  その速度は、もはやメロディライダーすらも超えて、600キロを超えようとしていた。

  ーーだが、たとえいかなる速度でも、ディソナンスの防衛網を掻い潜るのは不可能である。

 

『ライダーが来たか……罠を起動しろ!』

 

  走るボイスの眼中に、地面から飛び出してきた銃座が入る。一発一発が戦車の装甲を撃ち抜くほどの弾が、ボイスの肢体に襲いかかる。

  だが、ボイスとてこの程度でやられはしない。空中へと飛び上がると、手に持つ銃で銃座を全て撃ち抜く。

  しかし、ボイスの身体を衝撃が襲う。上から降ってきたのは、自身の重量を操作する能力を持ったディソナンスであった。

  ディソナンスの能力は多岐にわたり、幹部級でなくとも使い方次第ではライダーすら追い詰める力を持った者もいる。

  空中で超重量を背負った事により、凄まじい速度でボイスは地面に叩きつけられる。

 

『これで終わりか……』

 

  確かに、量産型のビート程度ならば、この一撃で変身者ごと、変身システムすら砕け散っていただろう。

  だが、ボイスの能力はディソナンス達の想定を上回っていた。

 

『う、うおおおおおお!? なぜこの重量の俺を……』

 

『能力……無効……』

 

  のしかかるディソナンスを投げ飛ばしたボイスから出た黒い波動が、ディソナンス達の持つ特殊能力を無効化し、彼等を無力にさせていく。ーー特殊能力のないディソナンスなど、ボイスにとっては塵芥に過ぎない。

 

『…これで終わりか』

 

  結局、ものの1分ほどで全滅した大量のディソナンスの残骸を踏み越えて、ボイスは敵基地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここか………』

 

  敵基地内へと踏み込んだボイスだったが、どうにも様子がおかしいことに気づく。侵入者、それも仮面ライダーが来たというのに、誰も現れないどころか、何らかの気配すらないからだ。

 

『……‥?』

 

  不審に思いつつも、基地内部へと踏み込むボイス。そこから広い基地のあちこちを歩いても、目にするのはーー倒れ伏した、ディソナンスの群れだけだった。無論、ボイスがやったのではない。

 

『……いったい何が』

 

  ディソナンス達の死体の山を踏み込え、ボイスは基地の中庭と思わしき場所に出た。その中庭の中央にはうず高き山のようなものがありーー

 

『!?』

 

  ーーいや、それは山などではない。

  空に浮かぶ満月の光がその山の正体を、ボイスの眼前に明確に映しだす。

  ……その山の正体こそが、本当に山のように積まれたディソナンス達の死体であった。いや、正確に言うと死体ではない。ディソナンスはその残骸は残るものの、本体は死ねば消滅する。しかしその山を構成するディソナンスは何れもが苦悶の表情を浮かべており、それは逆説的に彼等が死ねてないことの証明にもなる。

 

『どういうことだ……』

 

  そう呟いて一歩を踏み込んだ瞬間、ボイスの足元に銃弾が発射される。その銃弾は山の頂上から発射されたもので、ボイスは咄嗟に上を向く。

 

『来たか……』

 

  そこに居たのはーー

 

『仮面、ライダー……?』

 

  ーー謎の仮面ライダーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐあっ!』

 

『その程度か……』

 

  謎の仮面ライダーとボイスの邂逅か6分後ーーボイスは襲いかかってきた謎のライダーを迎撃していた。

  迎撃といっても、いきなり襲いかかってきたライダーに対してボイスは困惑するしかない。なぜ仮面ライダーが? まさか自分を追って? そう考えた瞬間、ボイスは相手がつけているベルトの正体に気づく。

 

『Dレコードライバー……俺と同じ!』

 

  そう、謎のライダーが装着しているのは、ボイスが装着しているのと同じDレコードライバーだった。

 

『テメェ……天城の部下か!?』

 

『部下? 違うな………』

 

 

『俺は悪魔……絶望をもたらす仮面ライダー、ディスパーだ』

 

 

『ディスパー!? ぐあっ!』

 

  謎のライダー……ディスパーは名乗りをあげるとボイスを殴り飛ばし、必殺技を容赦なく地面を転がるボイスに向けて発動する。

 

【カーテンコール……】

 

『死ね』

 

【ライダー エンド ブレイク!!】

 

  無慈悲な黒いオーラに包まれ、ディスパーがボイスに迫る。ボイスはゆっくりと立ち上がるが、その攻撃を避ける手段はない。

  ーーだが、避けられないなら受け止めればいいだけの話だ。

 

 バヂイイイイイイ!!!

 

  凄まじい音が響くと同時、ディスパーが吹き飛ばされる。理解不能とでも言いたげな視線の先には、赤黒いオーラをその身に纏い、パンチを繰り出した体勢の仮面ライダーデスボイスの姿があった。

 

『馬鹿な……必殺技を、ただのパンチで!』

 

『死ね……だと……?』

 

  ボイスがその拳を握り、祈るように掲げると、赤黒いオーラはどんどんと増幅していく。

 

『この数日でそんな言葉は聞き慣れちまったな……だけど、もういい』

 

『馬鹿な……Dレコードライバーを制御したというのか!? それには制御装置を仕込んでいないというのに!』

 

『テメェが乙音達の関係者じゃねえんなら……思い切りぶちのめしていいってことだよなあ!?』

 

  ボイスの耳に届くのは、怨念の声。消えることない悲鳴がその耳には響き、この世界の死をその目は見つめ、その指はただ銃口を引くためだけにある。

  不協和音(ディソナンス)を許さぬ怨念の戦士ーーそれこそが、天城音成の想定していた()()ボイスだった。

  だが、ボイスはその思考の上を行く。天よりも上に、もっと上のステージへと、その両足で踏み出す。

  その背に翼が無くともーーボイスは飛べるのだ!

 

『俺の死力を……つき尽くす!!』

 

【仮面ライダーデスボイス!!!!】

 

【オォォォォバァァァァァラァイドォォォォォォォォッ!!!!】

 

  絶望と相対するのはどちらなのかーーー歌が流れる戦場で、それが証明される時が来た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《なぜこの目は付いてる?》

 

『おおおおおおおおお!!』

 

 《なぜこの耳は付いてる?》

 

『なんだこの力は! ぐあっ!』

 

 《誰かの死とーー悲鳴を、受け止めるだけのためなのか》

 

  ボイスの拳がディスパーにガードの上から突き刺さる。ボイスが纏う赤黒いオーラは物理的な熱量を持ってディスパーを襲い、その装甲の表面を溶かす。

 

 《なぜこの指は付いてる?》

 

『ディソナンスども! 襲え!』

 

 《なぜこの背には翼がない?》

 

『ディソナンスの死体……いや正確には死体じゃねえな。身体を操るか!』

 

 《トリガーをーー引くだけ、これじゃどこへも行けない》

 

  ディスパーの声に反応さて、山高く積まれたディソナンス達が呻き声すら上げず飛び出し、ボイスに襲いかかってくる。その数は500、いや千はあろうか。現在真司達が解放したワシントンを襲っていたディソナンスですらその数は200に届かない。ヘタすれば、ここにいるディソナンスは空中要塞のあるニューヨークよりも多いかもしれなかった。

 

 《孤独…それにただ包まれる》

 

『これだけの数ならば、能力の無効化もできないだろう……!』

 

  ディソナンス達が一斉に能力を発動し、ボイスに襲いかかる。デスボイスは相手の能力を無効化するという能力を持ち、これは絶対的な強制権を持つが、ボイスの精神力次第で効果は変わる。ディスパーは既存のデータから、今のボイスではこの数は無効化できないと判断したのだ。

  だが、ボイスが赤黒いオーラを放出すると、全てのディソナンスの能力が発動しなくなる。

 

 《叫び続けて動くしかないのなら》

 

『データを超えている……!?』

 

 《全力で生き抜いたら》

 

『当たり前だろうが!』

 

 《そこに死が待ってるぜ》

 

  ディソナンス達が能力による拘束を諦め、それぞれが殴りかかってくる。四方からの攻撃、乙音達ですら、仲間と共でも捌けはしないだろう。

  だが、当たらない。いや、正確に言えば当たっても効かないのに当たらないのである。ボイスはまるで違う時間の流れにでも乗っているかのようなスピードで、動き続ける。

 

 《その叫び消える前に》

 

『めんどくせぇ…… 一気に決めるか』

 

 《……欲望のまま動き出してる》

 

  ボイスの姿がブレたかと思うと、その瞬間、彼女が数十人、いや数百人にまで増えて、大量のディソナンス達を取り囲むように銃を構える。

 

 《絶対的な欲望の中煌く鼓動が》

 

『これは……』

 

 《力に変わっていく最強になれ》

 

『うおおおおおおおっ!』

 

 《ボイス!!》

 

  ボイスの持つ銃から放たれたエネルギーがディソナンス達を消滅させていく。残ったのは内側にいた数体のディソナンス達のだが、銃を放ち終わったボイスの放つ拳に、一撃で消滅させられていく。

 

 《この世界のレコードにも刻まれてない強さを》

 

『……決める』

 

 《激しく見せてやる》

 

【カーテンコール!!】

 

【オーバーライド!!!】

 

 《心から叫べ今》

 

『このプレッシャー……!』

 

『はあああああああああっ! でやあああああっ!!』

 

 《デス・ボォォォイス!!!》

 

【ライダー アカシック イレイザー!!!】

 

  並みの強さならばこの宇宙から存在ごとかき消えてしまうだろう一撃が、ディスパーを吹き飛ばす。

  流石にダメージが大きすぎるのか、その変身は解除され、ディスパーの変身者は片膝をつく。しかしその正体は、ボイスにとって予想外にすぎるものだった。

 

『お前は……!』

 

「これは予想外だ……でも僕の演技も、なかなかだったかな?」

 

  その変身者とは、Dレコードライバーの開発者である天城音成その人であった。

  このことにボイスは驚くが、丁度いい、ここで捕まえてやろうと思う。しかし、そのボイスの思考は音成には予想済みだった。

 

『……ここで捕まえて、乙音達の前に引きずり出してやる。そうすりゃ全部……』

 

「終わらないさ。最強のディソナンス……デューマンがいる限りね」

 

『なに…………?』

 

「ま、僕から教えられるのは次が最後だ………」

 

 

「そのドライバー……使い続けると、君が憎むディソナンスとおんなじ身体になっちゃうよ?」

 

 

『なっ…………』

 

 

  その音成の言葉に気を取られたボイスの視界は次の瞬間、爆炎に包まれた。7大愛の一人、ピューマによる爆撃での目くらましだ。

 

『音成様! ディスパーもまだ完成してないというのに……』

 

「ははっ! それじゃあねボイスくん。君も気をつけた方が良い」

 

  そう言って悠々と去っていく音成を撃ち抜こうとするボイスだったが、足元がふらついたかと思うと、次の瞬間には地面に倒れていた。どうやら、力を使い果たしてしまったらしい。変身も解除されてしまっている。

 

「く、そ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあ………」

 

「起きましたか!?」

 

「ここは……」

 

「街ですよ。……まさか本当に一人でどうにかしてくれるとは思ってませんでした」

 

  ボイスが次に目を覚ましたのは、あの基地に突撃する前に依頼を受けた街でだった。どうやらディソナンス達がいなくなったのを確認した街の者が基地内に踏み込み、そこでボイスを発見したらしい。

 

「そうか……」

 

「あ、ダメですよ! 倒れてたんだから寝てないと……」

 

「大丈夫だよ、もう…………感謝するよ」

 

  結局、制止の声も聞かずに街を出て行ってしまったボイス。しかしその顔には、この街に来る前までにはなかった笑みがあった。

 

「ありがとう、か…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああいっちゃった……まだお礼も全然出来てないのに」

 

「でも……なんであの人の手、あんなに冷たかったんだろう?」

 

 

 





Q.デスボイスってどれくらい強いの?

A.今はまだ常時発動はできないけど、オーバライド状態ならムテキとバイオライダーとビリオンとハイパーカブトとアルティメットを一度に相手しても能力の関係上勝機があるとかいうクソ仕様です。まず素のスペックが低いと……

次話から話を一気に動かしたいですね。


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天へと挑む者たち

最後がちょっとぶつ切りかも。
第3章は短めでいきたい。


「それで、空中要塞への突入手段は考えついたのか?」

 

アメリカ、ワシントンの研究所。そこでは、ニューヨークへの道を確保した真司とシキ、そしてバラクたちビートライダーズによるミーティングが行われていた。

その内容は、空中要塞への突入をどうするかというもの。ただ単純にニューヨークに侵攻したのでは、空中要塞の兵器とそこから出てくるディソナンスに圧殺されるだけだろう。

ならば、どうすべきか。ここに来て、真司達には妙案というものが足りなかった。

だが、考えるのは真司達の仕事ではない。ロイドをはじめとした研究員達は、既に空中要塞突入のための構想を練っていた。

 

「ブースター機能?」

 

「ああ、ビートライダーを改造して、空を一度だけ飛べるようにする。……正直、危険にすぎる賭けだけど、こうでもしなきゃ奴らの予想は超えられない」

 

「問題は誰が行くか……か」

 

「……ビートライダーの数はどれほど揃えられる?」

 

真司の質問に、ロイドは少し困ったような表情で答える。

 

「……二台だ」

 

二台、これは空中要塞に突入するには、想像以上に少ない戦力と言わざるを得ない。しかし、現在のアメリカの状況で、単独で空中要塞のある高度まで飛べるガジェットを作り出すのには、人手も資材も、なにもかも足りない。その中で、ビート・コンダクターの新装備を作りつつ、二台も用意できる開発班はよくやっている。

 

「……突入班は、俺とバラクだ。シキは地上で敵の相手をしてくれ」

 

「……そりゃまたどうして」

 

「空中要塞の破壊がひとまずの勝利条件だ。ならば、俺とバラクが最もその勝利条件を満たしやすい組み合わせといえる」

 

真司とシキが睨み合う。沈黙が数分ほど続くが、先に折れたのは、シキの方だった。

 

「……わーったよ。こっちは任せろ。なに、雑魚ディソナンスどもをせいぜい引きつけてやるさ」

 

「……すまん」

 

「謝んな」

 

敵の本拠地に突入せず、地上での敵の相手と聞けば聞こえはいいが、その実、シキを含めたビートライダーズ達は、出来るだけ7大愛をはじめとしたディソナンス達を引きつける囮役なのだ。その生存確率は、ある意味真司達よりも低くなるだろう。

だが、この場にいる者の中に、自身の役割に疑問を唱えようとするものはいなかった。

 

「よし……全員、作戦決行日まで、自分の役割を忘れるなよ!」

 

「「「応!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本、特務対策局ーー

 

「んで、実際どーやってアメリカ行くかって話よ。絶対迎撃あるでしょ?」

 

「そこが問題だな……やはり、ディソナンスの戦略に対して、対応が難しいのがネックだ」

 

「それに、キキカイさんの話だと、空中要塞もあるらしいですし……」

 

こちらでもアメリカと同じく、空中要塞突入の算段をつけようと、ライダー達が頭を悩ませていた。とはいっても、考えるのは彼女達でなくキキカイや特務対策局の者の役割であるので、彼女達が立てているのは単純に『自分たちは何をするのか』という予想に過ぎないのだが。

 

「まあ、会議の結果を待つしか……って言ってたら、来ましたね」

 

「ふ、ふはは……遂に、遂に承認が取れたわ……喜びなさい、あんた達」

 

ーーと、話していると、キキカイが会議室の扉を開き、ずかずかと乙音達の方に歩いてきた。その足取りは重いのに軽いといえばいいのか、徹夜明けのテンションでハイになっているかのようだった。実際徹夜である。

 

「それで、いったい私達はなにすりゃあいいのよ」

 

「度肝を抜いてあげるわ……そうっ! あなた達が乗り込むのはっ!」

 

キキカイがその手に持っていた設計図をばさりと広げる。そこに書かれているのは、一見して『船』とわかるデザインのものだった。だが、なにやら平面的というか、空でも飛びそうというか……

 

「ーー空中戦艦! こいつを作るわよ!」

 

「……あんたなに言ってんの?」

 

「ついに……壊れたか」

 

「大丈夫ですか?」

 

「げ、元気出してください」

 

「私は本気よ! 私の能力使えば作れるっての!」

 

ふと、桜は東京タワーでの決戦の時を思い出す。あの時は確か、キキカイが東京タワーを巨大な化け物と化していたはずだ。機械を操る能力が、キキカイの能力なのだ。

さて、機械を操れるというキキカイの能力だが、あの決戦の時のように、なんらかのアイテムのブーストがあれば、機械そのものを『組み替える』ことも可能なのだ。

 

「……というわけで、あんた達! そう、あんた達の力を借りるわよ!」

 

「……マジで?」

 

「マジ」

 

 

 

ーー二日後

 

 

『アハハハハハハハハハハハハハ! いいわよぉ! もっとハートウェーブを〜!! あんた達の歌声を私に聞かせてえ!』

 

「う、うぷ……桜、代わって……」

 

「刀奈! あーもう! こんなんで本当に空中戦艦!? 作れんの!」

 

『……やべっ、ちょっと小さく……あ、なんでもないわよ? うん』

 

「あと一日で仕上げるって話でしょーが! さっさと仕事進めるわよおおおお!」

 

ーー結局、ライダー達は三日間の徹夜を敢行する羽目になった。

なお、乙音とゼブラは『なんか歌声が気に入らない』とのキキカイの要望で、作業中はサポートに回る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー三日後

 

「変身」

 

【仮面ライダーデスボォォォイス!!】

 

アメリカ、ニューヨーク。この、今はディソナンスの巣窟と化した大都市の入り口に、ボイスはいた。

 

(そのドライバー……使い続けると、君が憎むディソナンスとおんなじ身体になっちゃうよ?)

 

『知るかよ……』

 

頭の中に言葉と共によぎる恐れを振り払うように、ボイスはその歩みを進める。

その周囲を取り囲むのは無数のディソナンス。あの時ディスパーに変身してもボイスに勝てなかったために警戒したのか、音成はニューヨークのそこら中にディソナンス達を配置していた。

 

『邪魔だ…!』

 

だが、ボイスの目的地は元よりただ1つ。天に浮かぶ空中要塞。ただそれだけである。

だが、ボイスに飛行手段はない。ならば、どうやってあそこまでいくかが問題だったが……

 

『あのビル……ちょうどいい高さだな』

 

ボイスが目をつけたのは、実に500メートル以上の高さを誇る高層ビル、ワールドトレードセンター。そこまでいけば、後は気合で空中要塞まで跳べるだろうというのがボイスの考えだった。妙に甘さを捨てきれていない。

 

『なら、こいつらを片付けてからいくか』

 

【カーテンコール!】

 

【ライダー インフィニティー シュート!!】

 

ディソナンスの攻撃をさばき、飛び上がって必殺技を発動。空中で薙ぎ払うように一回転し、周囲のディソナンスを纏めて消し去ったボイスは、そのま駆け出す。

 

ボイスに遅れること2時間後、次に現れたのは真司達ビートライダーズである。

 

「この破壊後……誰が?」

 

『まさかドキの野郎か? あいつ、最近姿見ねえしなぁ……』

 

「とにかくコンダクター用の新装備も出来たんだ。お前らは俺たちの後ろにいてくれ」

 

ボイスによる大破壊の後を踏み越えるように、真司達は空中要塞の真下へと向かう。飛行型のディソナンスをはじめとした敵の迎撃を想定して、最短距離で突入するしかないという判断だった。

 

「ここが正念場だ!」

 

「ああ、負けるんじゃねえぞ!」

 

「俺達が絶対に守ってやる!」

 

流石にボイスが通ったルートから外れ始めると、ディソナンス達の姿が続々と出現してくるようになる。

鈍足のディソナンスなどは適当に攻撃すればビートライダーの速さに追いつけず取り残されていくのだが、ディソナンスの中には高速機動を得意とするものもある。

 

「ぐあっ!」

 

「俺に構わず先に行けぇぇぇぇ!!」

 

『……わかった!』

 

ディソナンスの攻撃に、続々とビートライダーズがバイクから叩き落とされ、その場に残されてゆく。だが彼らにもライダーとしての意地がある。矜持がある。たとえその先に悲劇しか待っていなくとも、彼らが今できるのは戦うことだけなのだ。

 

「頼みましたよ! みんなの事!」

 

「おいバラク! 負けたら承知しねえからな!」

 

「シキ! また酒でも飲もうや!」

 

「真司さん! みんなあなたに託しましたよ!」

 

空中要塞の真下へと到着した頃には、既にビートライダーズの数は真司、シキ、バラクの他には数名ほどとなっていた。

 

「手筈通りいけ、ここは俺達で援護する」

 

「……頼んだぞ」

 

真司とバラクの乗るビートライダーが飛行モードへと変形し、徐々に宙に浮いていく。その様子を確認して頷くシキ達の眼前に、ディソナンス達が現れる。

 

「…お前らあっ! ここが正念場! やってやるぞぉぉぉっ!!」

 

「「「応!!」」」

 

ディソナンスの群れの中に飛び込むシキ達。その乱戦の最中、ビートの1人をあっさりと切り裂くディソナンスが一体。

 

『さて、久々に大暴れできるんだ……楽しませてくれるんだよなぁ!?』

 

「7大愛!? 乙音さんの報告にもあったゲイルって野郎か!」

 

現れたのは7大愛のひとり。かつて乙音と交戦したゲイルだ。

あれから傷を癒すために戦いの場には出れていなかったゲイルだったが、今回のニューヨーク決戦において、遂にその姿を現した。

 

『おらおらおらっ!』

 

「ぐっ! がっ……」

 

『はっ! そのデカイ武器、使いこなせてねえなあ!?』

 

「くっ……うがあっ!?」

 

「シキ!? うおっ!」

 

「コンダクターが……!」

 

ゲイルの言う通り、今のシキとビートではビートチューンバスターという強力な手札を扱いきれてはいない。そのため、ゲイルにとってはシキなど取るに足らない相手。薙ぎ払うように変身解除させ、そのまま真司達を追おうとする。

だが、シキは諦めてはいない。周囲をディソナンスに囲まれながらも立ち上がる。それを興味なさげに見るゲイルだったが、真司は逆転の切り札を残していた。

 

「へっ、ロイドにまた借りができちまったか……」

 

『あん? なんだそりゃあ』

 

「…お前達をぶっ飛ばすための力だ」

 

手に持つのは、鍵のような形状のアイテム。それをコンダクトドライバーの横にある、機能拡張用の穴に差し込む。

 

『コンダクター・コンタクト!!』

 

「フルチューントリガー…試させてもらうぜ」

 

 

 

鍵のようなアイテム……フルチューントリガーのボタンを押し、ディスクセッターの引き金を引く。

 

「変身!」

 

『フルチューンビート! コンダクターフルアーマー!!』

 

ビート・コンダクターの素体に、次々と重装甲が装着されていく。

まるで騎士の鎧を着込んだかのような外見に、ビートチューンバスターを構える。その姿には安定感があり、これまでのように武器に振り回されることはないだろうという安心感がある。

 

「いくぞ!」

 

『ボリュームアップ!』

 

『なに!?』

 

『消音』

 

ビートチューンバスターのレバーを一度引くと、貫通力の高い弾丸が発射される。それをゲイルに向けて放ち、複数のディソナンスを撃滅するとともに、彼にダメージを与える。

 

『ボリュームアップ!!』

 

『超音!』

 

接近してきたディソナンス達に対しては、レバーを二度引いてビートチューンバスターの刀身にチェーンソー状のエネルギーを纏わせて切り裂く。

 

『くそっ! 調子に乗るなよ!』

 

『ボリュームアップ!!!』

 

「ビートに乗らせてもらうさ!」

 

『爆音!!』

 

レバーを三度引くと、ビートチューンバスターがエネルギーのチャージを開始する。そのエネルギーを上空に向かって放つシキを、ゲイルは見当違いの方向に撃ったと嘲笑うが、拡散されたエネルギー弾が雨のように降り注ぎ、ディソナンス達を一掃。ゲイルにも大ダメージを与える。

 

『ぐあっ!』

 

『ボリュームアップ!!!!』

 

『激音!!!』

 

「こいつで決める……!」

 

レバーを四度引くと、ビートチューンバスターにとてつもない量のエネルギーが溜まってゆく。究極の一撃、今のビートチューンバスター単体での最高火力を叩き込む。

 

「おおらぁぁぁぁぁっ!」

 

『がっ! うおおおおおっ!?』

 

ゲイルがエネルギー砲の直撃を受け、空中要塞まで吹き飛んだいく。その様を見届けたシキは真司達の援護に回ろうとするが、その時、頭上で爆発音が響く。

 

「な、なんだぁ?」

 

シキが空を見上げると、そこにあったのはーー

 

「ふ、船が……要塞に突き刺さってやがる」

 

空中要塞に突入した、空中戦艦の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乙音達か、あれは!」

 

『へっ! こりゃ勝機! 一気にいくぜ!』

 

空中戦艦の突入によって動揺するディソナンス達の間をすり抜け、真司とバラクは破壊のエネルギーをもって空中要塞下部に大穴を開け、そこから内部に突入する。その際ビートライダーは壊れてしまったが、当初の想定通りなので問題ない。

 

「まずはこの要塞を叩き落として機能を停止させる。中枢を目指すぞ!」

 

『ワラワラと……雑魚共! 邪魔するなあっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

『……相変わらず無茶をする奴らだ』

 

ボイスはワールドトレードセンターの壁を駆け上がると、そこから跳躍。7大愛の一体であるピューマの量産型を蹴散らしながら、ライダーキックで要塞内部に突入する。真司達よりは離れているが、乙音達には近い。

 

『‥音成を探すか』

 

『その前に……デューマン……最強のディソナンス………気になるな』

 

 

 

 

 

 

 

「もっと良い方法はなかったのか!?」

 

『ないに決まってんでしょ! ともかくこれは頑丈でまだ動く! 脱出時には戻ってきなさいよ!』

 

空中戦艦では、現在空中要塞から湧き出てくるディソナンスの相手をしつつ、内部への突入タイミングを刀奈と桜が計っていた。

乙音とゼブラは突入前に戦艦上部でディソナンス達の相手をしていたが、突入時の衝撃で投げ飛ばされたらしく、レーダーの反応からして空中要塞内部にはいるらしいが、行方がわからなくなっていた。

 

「天城音成と空中要塞、どちらも仕留める!」

 

「キキカイ! あんたはここで留守番してて! 誰も入れるんじゃないわよ!」

 

『わかってるわよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『う、うーんここは……』

 

『乙音お姉ちゃん、大丈夫!?』

 

『……誰だ…………』

 

『へうわっ!? ……って、ドキ、なんでここに!?』

 

『……木村、乙音か』

 

『いったい、ここでは何が………』

 

 

 







テレビだとだいたい35話とかそんなところかな?


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希望のカーテンコール

終わりが見えてきたけど相変わらず雑う! ちなみに今はエボル登場回ちょっと後ぐらいって感じの話数ですね。
さて……


「……それで、ここで何があったの?」

 

「見たところ、実験室のようらしいですが……」

 

  乙音とゼブラは空中要塞に突入した際、要塞内の実験室へと突入し、そこに捕らえられていたドキを発見した。

  ドキは見るからにボロボロだったが、乙音とゼブラに救出されると、ふらつきもせずに立ち上がり、首や腕を回して自身の調子を確認すると、そのまま事情を説明し始めた。

 

『……湊 美希。あの人間を助けようと動いていたのだが、その途中で7大愛の襲撃にあってな……どう見ても私自身を狙っていた』

 

「7大愛の!?」

 

『ああ、ガインとピューマ……後はエンヴィーだな。流石に3人相手ではどうにもできなかった』

 

「そうだったんですか……」

 

「しかし、なんでドキを……」

 

  乙音の疑問に、ドキはある仮説を立てた。

 

『……恐らくは、最強のディソナンスとやらを作るため……』

 

「最強のディソナンス?」

 

『ああ』

 

「でも、なんでドキさんを?」

 

 

「それは僕の口から説明しよう」

 

 

「えっ!?」

 

「ああっ!」

 

『お前は……! 天城、音成!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  空中要塞へと突入した真司とバラクは、迫り来るディソナンス達を撃破しつつ、要塞内にあるはずの動力部。この要塞を天に浮かべる要因を探して、探索を続けていた。

 

「ディソナンスどもが鬱陶しいな……」

 

『だが、ここまで敵の迎撃が激しいってことは、俺たちが確信に近づいているって事でもあるだろうなっ!』

 

  要塞内を走る2人に迫るディソナンス達を真っ向から迎撃しつつ、要塞の中心へと進む2人。乙音達の突入を確認しているいま、下手に要塞の壁を破壊するわけにもいかなかったが、それでもその足取りは順調だった。

  しかし、足取りは順調でも順調なだけである。現在、2人は地味に道に迷っていた。

 

「おい、ここはさっき通ったんじゃないか?」

 

『あ? そうだったか? くそ、あちこち崩れてわからねえ』

 

  2人の力は強く、破壊力という点ならば現在のボイスに次いでトップクラスである。そのため、ただ戦闘を繰り返すだけでそれは破壊活動となってしまうのだ。

 

『面倒くせえな……一気にやるか?』

 

「仕方ないな」

 

『ああ、仕方ねえ』

 

  空中要塞の第一層が吹き飛ぶまで、残り数秒ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

「うへ、なによこの音と揺れ」

 

「乙音くん……達ではないな。彼女達ならばここまでしない。となると……」

 

「真司の仕業かしらね? あいつもこの要塞内に来てるとか?」

 

「あり得るな」

 

  視点は変わり、刀奈と桜ーーこの2人は、現在乙音とゼブラとの合流を目指して要塞内を探索していた。

  しかし要塞内は桁違いに広大とはいえ、範囲攻撃を得意とする桜と、スピードを肝とする刀奈には、通路などはやや狭く感じる。特に大型のディソナンスが詰め寄って来た時などは面倒で、迎撃のために、あちこちに破壊跡が残っていた。

 

「どうも空中戦艦の方にはディソナンスはいってないみたいね……そっちは?」

 

「私も同意見だ。おそらく真司達の方に向かってるんじゃないか?」

 

  時折ディソナンスの集団を2人が発見した際に隠れてその動きを観察すると、どうも突っ込んできた空中戦艦の方には既にライダーがいないとわかったのか、それともキキカイがうまくやっているのかはわからないが、そちらの方面には向かわず、下の方へと降りていく者が多いようだった。

 

「……二手に分かれる?」

 

「危険だが、それが得策だろうな……通信は?」

 

「乙音ちゃん達のはいかれて出来ないみたいだけど、キキカイに渡された私達用の通信機はふつうに作動するわね」

 

「そうか……死ぬなよ」

 

「そっちこそ、ね」

 

  2人は拳を一度合わせると、そのまま背を向けて、振り返らずに走っていく。刀奈はさっきのディソナンス達の後をつけて下へと。桜は乙音とゼブラを探して、上へと向かう。

 

「待ってなさいよ……!」

 

「待っていてくれ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……どういうつもりだ。我等の前に、丸腰で現れるなど…』

 

「ん? ふふ、知りたいかい? でももうじき分かるさ、スペシャルゲストが来るからね」

 

「スペシャルゲスト……?」

 

  乙音達の疑問にも構わず、音成はあるものを取り出す。それはボイスと同じDレコードライバー。乙音達は初めて目にするものだが、3人はそれから湧き出す異様な雰囲気に、思わす身構える。

 

【Dレコードライバー!!】

 

「変身」

 

【仮面ライダー……ディスパアァァァァ!!】

 

  音成がDレコードライバーを用いて変身した仮面ライダー、ディスパー。その漆黒の体躯が醸し出す暗いオーラに周囲の空間が歪むが、それに今更怯む3人でもない。

 

「「変身!」」

 

『貴様……!』

 

  乙音とゼブラも変身し、それに先んじてドキが音成に向かって攻撃を行う。普段から冷静なドキだが、今この時は激昂して音成に襲いかかる。

 

『その身体……! 貴様、カナサキの身体を、自分のものに……!』

 

『出来るだけ悲しまないように、外道を選んであげたんだけどなあ………それともなにかな? 同族がいいように利用されるというのは、やはり我慢ならないかな?』

 

「お前っ!!」

 

  音成の言葉に、ゼブラも怒りをあらわにして殴りかかる。現在この場にはゼブラと乙音、ドキ、そして音成の四名がいる。やや狭い空間のここでは、乙音達は1つに固まって動くことになる。

 

『ははは……その程度で、ディスパーを打倒できると?』

 

『……! 攻撃は通じるはずだ!』

 

「でも、この空間じゃ!」

 

「戦いにくいっ! くっ……!」

 

  狭い空間ということもあるが、ディスパーはこの要塞の構造を完全に理解している。その地の利を生かしての立ち回りに、乙音達は対処できていない。

 

『さて、そろそろ決めるかぁ……』

 

【カーテンコール!!】

 

「!」

 

『来るぞ!』

 

【ライダーエンドブレイク!!!】

 

  壁際に追い込まれた乙音達はまともにディスパーの必殺の蹴りを喰らってしまい、背後の壁ごと吹き飛ばされ、地面を転がる。

  変身は解除されてしまい、ドキも立ち上がるのでやっとのようだ。

 

『ふふふ……君達の命は奪わないであげるよ。そろそろ特別ゲストも来る頃だしね?』

 

「なん……だと………」

 

  倒れる乙音に、ゆっくりと歩み寄ってくる音成。身体を動かしてなんとか逃げようとするが、起き上がることもままならない。

  乙音の髪を、音成が掴もうとしたその時ーー

 

【仮面ライダー……デス、ボォォォイス!!】

 

『テメェ!』

 

『ははっ! やっぱり来たか!』

 

  ーー壁を破壊し、数多のディソナンスの残骸を踏み越えて現れたのはボイスだった。乙音の髪を掴もうとしていた音成の手を掴み、そのまま彼を投げ飛ばす。しかし音成は体勢を立て直し、あっさりと着地する。

 

『………くそ、あー、大丈夫か?』

 

「ボイス、ちゃん……? ………心配、してたんだよ?」

 

『……悪かったな。ほら、立てるか?』

 

  ボイスの手を取り、立ち上がる乙音。ゼブラとドキも互いを支えあい、立ち上がっている。

 

『……っ、ドキ………!』

 

「ボイスちゃん、彼は……」

 

『そうさ、ボイスくん。今現在、この要塞内には君が憎むディソナンスの幹部級がほぼ全て揃っている。ドキにキキカイ、バラクだっている』

 

『なに……?』

 

  音成の言葉に、ボイスの動きが止まる。その様子を心配そうに見る乙音だったが、音成の言葉は更に畳み掛けてくる。

 

『君が憎いのは僕なのかな? ディソナンス? それとも両方? 君はいいのかい? ディソナンスの力を借りるのは』

 

『そんなの……っ!』

 

『そこのゼブラくんだってそうじゃないか。ディソナンスは気まぐれだ! 僕が言うんだから間違いない。また人類の敵に、いま味方に回っているようになるかもしれないよ?』

 

「そんなこと……っ! ボイスちゃん、気を確かに持って!」

 

『わかってる……! お前達は動力部を探してくれ。あいつは俺が叩きのめす!』

 

『今の君に……出来るかな?』

 

  ボイスがディスパーに向けて銃撃を放って牽制する。しかしあの基地での戦いのように、ボイスの攻撃にディスパーは怯まない。

 

『ふふふ……ははははは………』

 

『早く行け』

 

「……わかった!」

 

『すまない、任せた』

 

「ボイスさん……また会いましょう! 必ず!」

 

  その場から離れていく乙音達。乙音はボイスの背中を一瞬だけ振り返り見つめるが、すぐに走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄い破壊跡だな。これは、真司だけではない……か?」

 

  要塞下層へと降りた刀奈が目にしたものは、数多のディソナンスの残骸に、あちこち穴の開いた壁と床。床からは、何故か最下層のはずでないのに、地面が見える。

 

「何をやっているんだあいつは……」

 

  穴に落ちないよう慎重に進む刀奈の耳に、硬い何かを叩き壊すような音が響く。その音はどんどん大きくなり、刀奈の方へと迫って来ているようだった。

 

「………はあっ!」

 

『rider God braid!!!』

 

  必殺技を発動し、一閃。切断された壁の向こうにいたのは、空中でパンチの体勢になっていた真司とバラクに、不意打ちで大ダメージを負って転がるエンヴィーの姿だった。

 

「なっ!?」

 

『うわちょちょ!』

 

「…何をしている真司……って、バラク!?」

 

「いや、こいつは味方だ。今はな」

 

『そういうことだから、まあよろしくな』

 

  パンチが不発に終わり、床に転がる真司を呆れたように眺める刀奈だったが、そこにバラクもいることに驚く。しかし真司の言葉にキキカイのことを思い出したのか、妙に納得したようだ。

 

「そうか……私達もキキカイの助けでここまできた」

 

「キキカイが!? ……そうか」

 

『そういやこいつと会う前に……あー、ボイス、だったか? あいつっぽい姿を見つけたが、もしかしてライダー全員ここにいんのか?』

 

  真司と刀奈は顔を見合わせると、それぞれ拳と刀を構える。ボイスもこの場にいるというのなら、彼女も連れ帰って行くまでのこと。

  そのためには、まず目の前にいるディソナンスを倒すのが先決だ。

 

『おのれ! このエンヴィーを無視して話をーー』

 

「やれやれ、お前と一緒に戦うのは久しぶりだが……コンビネーションを忘れたとは言わさないぞ?」

 

「ふん、俺が忘れる訳ないだろう」

 

『え? なに、お前らそういう関係?』

 

  エンヴィーが高速移動に加え、複数の彼による包囲を受けても、刀装達の余裕が崩れることは無い。むしろ、会えた嬉しさがあるのか、いつもよりも会話は弾んでいるようだ。

 

『私を……苛つかせるなぁーー!』

 

『rider God braid!!!』

 

『rider devil fang!!!』

 

  全方位を取り囲まれての高速の斬撃を、刀奈が必殺技を発動して全てを光速で防ぎ、バラクが破壊のエネルギーで一纏めにする。そして集められたエンヴィー達を、真司が必殺技の一撃で破壊する。

 

「さて、そうなるとどうするか」

 

「乙音くん達も動力部を目指すはずだし、まずはそこに向かうか」

 

『ま、そうするのが一番だな。さて、どこかねえ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、乙音ちゃん達はっと………!」

 

  刀奈と別れた桜は要塞内で数多のディソナンスを相手に乙音達を探していたが、流石に相手の数が多く、1人では限界が近づいていた。

  そんな時、桜が見つけたのは要塞の壁に開いた穴だった。

  要塞は中からも外からも様子が伺える構造になっている。ならばの桜は飛行能力を活かし、外から要塞内を伺う事にした。

 

「うわ、随分ボロボロ……こりゃ今にも落ちそう」

 

  外へと出た桜が目撃したのは、穴だらけとなり、あちこちから爆煙を上げる要塞の姿。だが飛行戦艦が突き刺さっているというのに、未だに水平を保って浮いている。

 

「やっぱ動力部を潰さなきゃ駄目ね……刀奈達がなんとかしてくれることを願うしかないか」

 

  下を見れば、未だに爆発音と光が微かに伺える。どうやら、ディソナンスに対しての抵抗勢力はまだ健在のようで、眼下に広がる街のあちこちで光や爆煙が見える。

 

「でも急がなきゃヤバいわね……ん、あれは」

 

  そこで桜は、要塞上部で、走るディソナンス達の姿を見つける。視線をその先に向ければ、そこにはドキに抱えられ、逃げる乙音達の姿があった。

 

「うそ……早く助けないと!」

 

  桜はファイヤーストームブレイカーを先に突入させて壁を破壊すると、転がるように突入。そのままもう一基のファイヤーストームブレイカーで追ってきていたディソナンス達を全滅させる。

 

「あ、桜さん!」

 

「はあ……ドキ、あんた、味方?」

 

『……ああ、少なくとも、俺はあの人間がいる限り、お前達の敵にはならない』

 

「はー……まーた。味方が増えたのね、なら歓迎」

 

  そう言うと、桜は乙音達の前に出る。どうやら、彼女達を戦艦へと案内するようだ。

 

「さっき全体を見て場所は把握してる。今は一旦、戦艦に戻って……」

 

『おや、どうしたのかな?』

 

「「「!?」」」

 

  だが、彼女達の前に音成が現れる。彼の装甲には傷が付いているが、その動きからは疲れは見受けられない。

 

「……っ、ボイスちゃんは!?」

 

『ん? さて、どうなったのかな………』

 

「なっ…………お前ぇぇぇっ!!」

 

  激昂した乙音はソングに変身して挑みかかるが、その拳はあっさりと受け止められてしまう。

 

『軽い拳だ……とても薄っぺらい………』

 

「なにを……!」

 

『全ての準備は整った……カーテンコールの舞台裏に、君達を招待しよう!』

 

  音成が乙音の右腕をへし折り、更に腹に膝蹴りを加えて吹き飛ばす。それでも気力で変身を解除することだけはしない乙音だったが、ゼブラは彼女がいまどれほどの痛みを負っているか、痛いほどにわかっていた。

 

「乙音お姉ちゃんっ!」

 

「……私の仲間になにしてくれてんのあんた」

 

『おや、そんな怖い顔で見ないでくれよ………』

 

  桜が一歩を踏み出した瞬間、その足元がガコン、と音を立てて変形する。その瞬間、この空中要塞自体が組み替わってゆく。

 

「え、ちょ、なに!?」

 

『天城音成……貴様!!』

 

『さあ……ついに目覚めの時だ!』

 

 

『ふは、はは……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 

  終焉の調べが、悪魔の目覚めの歌が、今奏でられようとしていた………

 

 





次回予告

音成の目的が判明!?

『知りたかっただけさ……僕はね』

ボイス死す!?

『ぐっ……あ、が……』

そしてーー

『ついに閉幕だ……!』

目覚めるのはーー?

【パーフェクトチューン!】

【デス エンド ソング!!】

【ディスパー!!!】


「あ……あ?」

「乙音ぇぇぇっ!!」

次回
『絶望のオープニング』


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絶望のオープニング

最後がぶつ切りだけど許して。
大学の課題と中間テストでそろそろ忙しくなりそうだけど週一更新は徹底していくから許して。


「く、うう……」

 

「乙音ちゃん! ……良かった、生きてる」

 

「あ……桜さん、ここは?」

 

「さあ……要塞が変化して、今は私と乙音ちゃん以外には……って、乙音ちゃん、腕大丈夫!?」

 

「へ? あ、はい。大丈夫……ですけど………」

 

((……なんで?))

 

空中要塞が組み変わってから小一時間ーー桜と乙音は、周囲様子がわからない、マンションの一室程度の広さの部屋へと押し込められていた。

桜は直前に乙音がディスパーに腕を折られていた事を覚えていたため、彼女の身を真っ先に案じたが、乙音はその桜の問いに、大丈夫だと返す。

それはやせ我慢などではなく、本当に腕は治っており、乙音自身も不思議に思っていた。

しかし、その疑問が解消される暇もなく、再び2人の周囲の空間が変化していく。四方系の窓もない部屋が組み換わり、目の前に扉が出現する。

 

「……誘ってるのかしら?」

 

「行くしかないですね」

 

警戒する桜に、迷わず一歩を踏み出す乙音。桜は乙音の行動に一瞬焦るが、彼女の顔を見て、すっと冷静になる。

 

(……乙音ちゃんの顔、やせ我慢とかじゃない……本当に、何も恐れてないし、痛みも感じてない)

 

さっきから折れた右腕をさすったりはしているのだが、疑問符は浮かんでいても、自身の状態にも、この状況にも恐れは感じていないようだ。

その事が、桜には何よりも恐ろしかった。

 

「乙音ちゃん……」

 

「どうしたんですか? 桜さん」

 

「…ううん、なんでもない。それより、変身しといた方がいいわよ」

 

「あ、そうですね」

 

桜の指摘に、乙音は再度変身を行い、ソングとなる。桜もこれまでにないほどの長時間の変身で流石に息苦しさを感じていたが、変身解除はしない。ここは敵の本拠地であり、その上構造を音成が自由に組み替えられるとわかっているのだから、警戒してのことだ。

 

「それじゃ、いくわよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ、あ゛ー……お前ら、いったい何人生き残ってる?」

 

「……もうここにいるやつらぐらいじゃねえか?」

 

「だな……あー、死ぬ。もう死ぬぜ」

 

地上ーー空中要塞の真下から離れ、シキたちは数多のディソナンスとの死闘を繰り広げていた。

現在は廃ビルの中に潜伏し休息をとっているが、いつまた襲われるかもしれない。極限の緊張感の中、彼らがすることといえば、くだらないことを喋るだけ。

 

「空中要塞も動きはないか……」

 

「爆発音が響いてましたけど、止まっちまったな……」

 

「うむ……大丈夫か?」

 

「乙音さん舐めてると承知しねえぞ……」

 

足元から足音が聞こえてくる。足音はバラバラで統一感がなく、それが故に不協和音を奏でるそれの主人は、ディソナンスであるとわかった。

 

「さて、いきますか」

 

「ああ、行くか」

 

「いくか……生き抜くぜ、俺たちは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

「……行き止まりね」

 

乙音と桜がしばらく歩くと、たどり着いたのは、最初の地点のような、窓もない部屋だった。そこに2人が警戒しつつも入ると、予想通り、入ってきた扉が閉まる。

 

「ま、予想通りね………無駄な労力を使いたくはないんだけど」

 

「ん? 振動?」

 

乙音が微弱な揺れを感じた瞬間、ガコン! という音と共に部屋が動き、エレベーターのように降下していく。まさか地上に落とすつもりかと一瞬思考する2人だったが、すぐに降下は止まり、目の前の壁が開いていく。

「……桜さん」

 

「行くわよ」

 

エレベーターから出て、目の前の部屋の中に入る2人。すると左右の壁が開き、そこから乙音達と同じように真司、刀奈、ゼブラ、ドキ、バラクの5人が現れる。

 

「いったい何が……むっ、後輩!?」

 

「えっ先輩! 生きてたんですか、良かったあ……」

 

「ドキ……? いや、真司の話からすると、お前は敵ではないか」

 

『よう、久々だなドキ。あとゼブラ、お前も』

 

『ああ。だが、今はそんな話をしている場合では……』

 

つかの間の再開を喜ぶ暇もなく、乙音達のいる部屋の床が下がり、そのままさっきのエレベーターのように降下していく。

 

「……芸がないな。またこれか」

 

「いったい、何が起きてるんでしょう……」

 

またすぐに降下は止まるが、乙音達の周囲の壁が開いていき、部屋がどんどん広大になっていく。それを警戒しながら眺める乙音達だったが、部屋の拡大が終わった時、奥に転がる人物に気づき、乙音は驚く。

 

「ボイスちゃん!?」

 

「なにっ!?」

 

「ボイス……!」

 

部屋の奥の階段、そこの手前に、うつ伏せに倒れているのは、ボイスだった。その身体はピクリとも動かず、生きているのか死んでいるのかもわからない。

 

「ボイスちゃん!」

 

「待て後輩!」

 

思わず駆け出そうとする乙音を真司が阻止する。その視線の先には、階段の奥、暗がりから歩いてくるディスパー……音成がいた。

 

「天城……音成!」

 

「……ボイスをどうしたのよ、アンタ」

 

『まあ落ち着きたまえ、彼女のことなんて、どうでもいいだろう?』

 

その発言の直後、刀奈が一瞬で音成の背後に回り、その剣を首元に向けて振るう。

しかし、神速のその剣は、音成にあっさりと防がれてしまう。

 

「なにっ!?」

 

『うおおおおおおっ!!』

 

『……!』

 

次に駆け出したのはバラクとドキ。バラクは破壊のエネルギーを拳に集中させて音成へと跳躍し殴りかかり、ドキは天井へと跳躍。その髪束を操り伸ばして、音成へ襲いかかる。

 

『悪いが、君たちはおよびでない』

 

『!?』

 

『なにっ!』

 

「それなならこれで……」

 

しかし、そのバラクの拳は音成に当たる直前にエネルギーが消失。ダメージを与えることはできず、ドキの髪もその勢いを失ってしまう。

それを見た桜がファイヤーストームブレイカーを発射しようとするが、射出された直後、勢いを失って墜落してしまう。

 

「嘘……!」

 

『ふっ!』

 

「ぐっ!?」

 

『なんだと……』

 

音成は刀奈を裏拳で適当に転がすと、バラクを蹴りで吹き飛ばし、天井のドキは跳躍からのパンチで叩き落とす。そして桜は、転がした刀奈を投げ飛ばし、諸共に壁に激突させる。

 

「ぐあっ……」

 

『なんて野郎だ……』

 

「…次は僕たちが!」

 

「うん!」

 

「っ、待て!」

 

真司の制止を振り切り、音成へと襲いかかる2人。しかし2人が攻撃しようとすると、その身体に異常が起こる。

 

「ぐっ! ……っ!?」

 

「なに、この、感覚……!」

 

奇妙な吐き気に襲われた2人は膝をつき、そのまま変身を解除してしまう。解除した瞬間に吐き気は治るが、体力をだいぶ消費したのか、立ち上がることはできない。

 

『成る程、やはりそうか』

 

「……貴様」

 

1人立つ真司は、ゆっくりと構えを取る。それを見て小首を傾げて鼻で笑う音成は、真司に向けて手招きをして挑発する。

 

「……はあっ!」

 

走り殴りかかる真司の拳を、腕でガードする音成。しかし、真司の拳を受け止めた瞬間、音成の身体は僅かに後ろに下がる。

 

『なに……?』

 

「妙な力を持っているようだが……基本的な攻撃スペックならば、俺が一番高い!」

 

この場にいるライダーの中で、ディスパーを除いてもっとも総合スペックが高いのは乙音が変身するソングだ。しかし、こと攻撃力という点においては、真司のファング、それが最も秀でている。

 

「ふっ! であっ!」

 

『ちいっ……』

 

ファングの拳をかわしつつ反撃の機会を伺う音成だったが、真司の戦闘経験はライダー達の中でも群を抜いて高い。同期の刀奈ですら、アイドルとしての仕事もあって、真司には及ばない。

 

「はあっ!」

 

『それはいけないな!』

 

だが、真司がファングの足の牙を伸ばして攻撃しようとすると、音成が手をかざした瞬間、形成されていたオーラは消えてしまう。

 

「な!?」

 

『ふんっ!』

 

隙だらけとなった真司は、音成の蹴りをまともに食らって吹き飛んでしまう。

 

「真司っ!!」

 

「まだ大丈夫だ……しかしこの力、そのドライバーのせいか、それとも……」

 

『目敏いね? そうさ、こいつはDレコードライバー。そこのボイスくんもつけてるけど、僕が開発した最強のライダーシステム……ってところかな?』

 

「最強……?」

 

『そうさ。……試しに、なんでもいいからさっきみたいにしてみなよ』

 

音成の挑発を受けて、刀奈が高速移動で一気に詰め寄る。しかし音成に近づいた瞬間、その動きは途端に遅くなる。

 

「なあっ……!」

 

『こういうこと……さっ!』

 

音成の拳を喰らい、壁に吹き飛ばされる刀奈。先程と違って腹にもろに食らったその一撃は、刀奈ですら変身が解除され、腹を抱えて悶絶してしまう。

 

『このDレコードライバーには相手の能力を無効化する機能がついていてね。流石に変身機能までは阻害できないけど、君たちなら、これがどれほど絶望的なことかわかるだろう?』

 

「………………!」

 

『そこのボイスくんもバカだよねえ。Dレコードライバーどうしならこの能力を打ち消しあえて、スペック的にも勝機はあったのに、僕の言葉で動揺して……ま、事実だしね』

 

「なにを…言ってんのよ」

 

『このディスパーにはね、素晴らしい機能がある。それは……』

 

音成が、バラクとドキに向けて手を向ける。すると、2人の瞳が赤く輝き、次の瞬間、その身体に電撃を浴びたかのような痛みが走る。

 

『がっ、ああっ!?』

 

『ぐうっ……』

 

()()()()()()()()()()()()()()……触れずして、ディソナンスを殺すことも可能な機能さ』

 

「……まさか」

 

真司は乙音とゼブラの方を見る。先ほど、変身解除の時、ゼブラは苦しんでいた。ディスパーの機能を使われたからだ。……では、乙音は?

 

『やっと飲み込めたか。そうさ、木村乙音。君はディソナンスになりかけているんだよ』

 

「……私、が?」

 

『うん。たぶん、君から生まれたゼブラくんのせいだろうね。君、絶望と、それに関する感情が欠落してるでしょ?』

 

「……っ!」

 

音成の言葉を否定したかった桜だが、思い当たるふしはあった。

 

「……まさか、そんな」

 

『事実さ。……そこのボイスくんも、Dレコードライバーを使い続ければディソナンス化するという事実には耐え切れたのに、君がディソナンスと化しかけているという事には耐えられなかったみたいだね。いやあ、美しい友情だねえ』

「きさ、ま……」

 

『さて、彼女も憎かろう……ディソナンスは、殺しておかないとね?』

 

音成が、乙音とゼブラに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。まず狙いはゼブラなのか、彼女の方へと足を向けると、乙音が即座に殴りかかってくる。

 

『……あ?』

 

「…私が、ディソナンスとか、そういうのは知らない……でも、あなたは許しておけない!」

 

乙音の頬を、音成が殴りつける。鈍い音が響き、乙音が倒れる。

 

「後輩!」

 

『つまらないな……ふむ、死ね』

 

音成の足が、乙音の頭を踏みつける。そのままザクロを潰すように、音成は足に力を込めーー

 

『やらせる……かあっ!!』

 

【仮面ライダー……デス、ボォォォイス!!】

 

ーーだが、その足が地面へと着く前に、目を覚ましたボイスが、音成の身体を突き飛ばす。

 

『大丈夫か!? 乙音!』

 

「あ……ボイス、ちゃん………」

 

頭から血を流し、自身に微笑みかける乙音を見て、ボイスは頭が一瞬真っ白になり、そしてすぐに激昂する。

 

『……テメエ!!』

 

『ぐっ!? いいのかい? そいつはーー』

 

『黙れ! もう……もう、惑わされねえ!』

 

ボイスの拳が、音成の身体に突き刺さり、初めて彼にダメージらしいダメージが通る。続けざまに追撃を続けるボイスだったが、音成は対抗策を用意していた。

 

『しつこい……なっ!』

 

『うあっ!?』

 

ボイスの足元の床がせり上がり、彼女と天井を挟み潰す。突然のことに対応できず、ボイスはもろにそれを食らってしまう。

 

『がっ……』

 

『少し転がっていろ』

 

【カーテンコール!!】

 

【ライダー エンド ブレイク!!】

 

落ちてきたボイスを、音成は必殺技で蹴り飛ばす。まともに喰らったボイスは変身解除され、地面を転がる。

 

「ぐっ……あ、が………?」

 

『おや、まだ意識があるのかい』

 

「あなたは……いったい、何が目的なんですか!」

 

『……僕はね、ただ知りたかっただけなんだ』

 

「知りたかった、だけ……?」

 

 

 

『そうさ、自分自身の限界……どこまでやれるのか、どこまで人は進化できるのか? どこまで僕は僕自身とこの世界を愛する事ができるのか? それを知りたかった』

 

『まあ、結局のところ人間のままじゃ限界があることを知った。だからこそ、もっと強靭な身体を手に入れるためにレコードライバーを作り、ディソナンスを解析し、Dレコードライバーを作り上げた』

 

『でも、どちらも僕の望むものじゃなかった。だからその時は絶望したよ、ここで終わりかと』

 

『でもね、そうじゃなかった。素晴らしいアイデアが浮かんだんだ』

 

『全知全能の神は矛盾した存在だ。全知全能ならば自分より強大な存在は生み出せない。だけど生み出せなきゃおかしいし、生み出したその存在を倒せないのはもっとおかしい。なんたって全知全能だからね。よくフィクションとかで全知全能とかを見るけど、どんな理屈をつけても、あれは僕に言わせれば矛盾しかないダメダメな存在だ』

 

『でも、僕は全知全能じゃない。だから……生み出せたんだ』

 

 

音成が指を鳴らすと、彼の背後の地面が開き、そこからせり上がってくるものがある。

それは、人ひとりが入れそうなカプセル。そのカプセルの中には、真っ黒な人間のようなものがあった。

そのカプセルの蓋が開き、真っ黒なヒトガタが出てくる。その足取りは生まれたての赤ん坊のように拙く、しかし程なくしてその両足で地面に立つ。

 

『紹介しよう。彼が最強にして最後のディソナンス……』

 

『デューマンだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最強の、ディソナンス……!?」

 

『そんなひょろっちいやつがか!?』

 

『ひょろっちいとは失礼な。まあ聞きたまえよ』

 

音成は倒れ、膝をつく乙音達を眺めながら、自身はせり上がってきた椅子に座って、悠々と語りだす。

 

『ここで君達にひとつ質問だ。完璧な同一人物って作れると思うかい?』

 

「……無理に決まっている。全く同じ人間を作るなど、あり得ない」

 

『正解。クローンなんて作っても、結局人は環境次第さ……でも、自分以上の存在は生み出せる。その証拠が僕さ。僕は間違いなく、僕を生んだ両親よりかは優れているからね』

 

「何が、言いたい!!」

 

『つまりは、こういうことさ』

 

音成がデューマンの肩に触れると、次の瞬間ーー

 

『………なに?』

 

「は?」

 

「なにを……」

 

音成の腹は、デューマンの手に貫かれていた。

 

『ついに閉幕だ……!』

 

音成の腹から手を引き抜くと、デューマンの腰にあるものが生成される。それはDレコードライバーだった。

いや、それだけではない。音成の身体が崩壊していき、それに応じてデューマンの体躯に装甲が装着されていく。

そして、その黒塗りの顔に、不気味な笑みが浮かんだ瞬間ーー

 

『変…………身』

 

【パーフェクトチューン!】

 

【デス エンド ソング!!】

 

【ディスパー!!!】

 

【オォォォォバァァァァァラァァァァァァイド!!】

 

ーーその変身は完了した。

 

 

「お前は、誰だ……?」

 

『私の名は、デューマン……そして、天城音成そのものでありながら、それ以上でもあるもの』

 

(わたし)は人間の限界を悟った……だからこそ、私を作り、そしていまそれは完成した』

 

『私こそが……全てを超えるもの。オーバーライド……!』

 

その言葉とともに、デューマンがその手を乙音達に向ける。誰もが動けないなか、真っ先に動いたのはーー

 

「…………っ、変身!」

 

乙音だった。ディソナンス化しつつある身体の、驚異的な精神力と絶望を抱かない心に裏打ちされた回復力。いや再生力が彼女の身体を不幸にも、戦えるまでの状態にまで修復する。

 

「ああああああああああああああああああっ!!!」

 

『Over the Over!!』

 

『Rider Heart Wave!!!』

 

『邪魔だ』

 

【カーテンコール!!】

 

【オーバーライド!!!】

 

【ライダー エンド ソング!!!!】

 

グチャッ……

 

乙音の渾身の一撃をあっさりと打ち砕き、カウンターでデューマンの拳が、乙音の腹を貫く。

その生々しい音が、乙音の腹から鳴ったものだと理解するのに、見るものは数秒の時間を必要とした。

 

「あ……あ?」

 

「乙音ぇぇぇっ!!」

 

 

 

 

 





最近面白くない気がする。でも途中でやめることだけはしたくないなあ……


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きっとまた、必ず

ちょっと後半は面倒になって端折った部分もあるけど、まあ遅れるし仕方ないね。
今回で第3部は完結。……予告のシーン出せてない! まあいいや。
インフィニティ・ウォーの完全敗北感いいよね……アベンジが楽しみだよ。


「あ……あ?」

 

「乙音ぇぇぇっ!!」

 

「後輩!!」

 

「乙音……く、ん!」

 

「乙音ちゃんっ!!」

 

『マジかよ……!』

 

『……‥ぐっ!!』

 

デューマンの一撃に腹を貫かれ、そのまま倒れ伏す乙音。彼女のレコードライバーも破壊され、その目には、一筋の光すら宿っていない。

乙音がゆっくりと地に伏せていくのを、その場にいた者は、デューマン以外、絶望的な表情でそれを見つめる。

木村乙音ーー本来、レコードライバーを扱えるというだけで仮面ライダーになった彼女だが、その明るさと様々な意味での強さは、ライダー達に希望を与え続けてきた。

その彼女の身体が、地に伏す。その光景を絶望と言わずして、なんと呼ぶだろう。

真司は、拳を握りしめて立ち上がる。その瞳には怒り以外に、深い悲しみが宿っている。

それは他のライダー達も同様であり、誰一人としてその闘志は尽きていないが、全員変身は解けてしまっており、その身体ももはやボロボロ、誰一人として無事なものはいない。

真司の左腕からは異臭が漂う。彼の肉が焼けているからだ。

刀奈は剣を支えに立っている。彼女の両足は殆ど言うことを聞いてくれない。

桜は声もでない。デューマンの攻撃によるものだ。

バラクは身体が崩れかかっている。破壊の力を扱うことは出来ないだろう。

ドキも同様に崩れかかっており、美麗な長髪はその黄金の輝きを失ってしまっている。

乙音が倒れた後、一斉にデューマンに襲いかかった彼らだがーーレコードライバーが破損していないのが不思議なほどの状態であった。

 

『ちょっと、返事しなさいよ! いったい何が起こってるのよ!?』

 

「ぬ、う……あ………」

 

『なんて、力だ……』

 

『キキカイか…もはや用済み。この要塞と私さえあれば、我等が悲願を達成するのも可能……!』

 

キキカイからの通信にも、答えることの出来る者はいないーーだが、デューマンに抗う者はまだ残っている。

 

『だがそのためには、お前達を倒さなければ……』

 

「よくも…お姉ちゃんを!」

『お前だけは……許さない!!!』

 

ゼブラが変身したソングと、ボイスが変身したデスボイス。両者が左右からデューマンに襲いかかる。しかしデューマンはその攻撃をあっさりと受け止めると、少し手に力を入れる。すると二人の身体が浮かび上がり、そのまま壁に激突し、要塞の外へと放り出される。

『ぐあっ!!』

 

「っ、ああっ!」

 

放り出された二人の身体はグン! と直角に上へと曲がり、要塞の上まで来たところでそのまま叩き落とされ、元の部屋へと戻ってくる。

 

『ぐ、あ………』

 

「………………」

 

『さて…』

デューマンは乙音の頭を掴むと、そのまま彼女を浮かせる。すると乙音の身体が震えだし、その肉体が修復されていく。

 

『なんと……やはり人間からディソナンスへと変化しかけている………素晴らしい……興味深い……この人間は、全てを超えようとしている』

 

『なにを……乙音を離「ボイスさん、待ってください」ゼブラ!?』

 

「今アイツは乙音お姉ちゃんに注意が向いてる……僕に考えがあります。キキカイ、秘匿回線で通信できる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはもっと詳細な研究が必要だな…』

 

デューマンが意識のない乙音の身体を操作し、要塞内の研究室へと連れて行こうとする。その時に周囲からライダー達がいなくなっていることに気づくが、最強となった今、そんなものは取るに足らないことだ。今は乙音の身体を研究するのが先決である。

そのために要塞内の構造を組み替えつつ、自身の研究室へと向かうデューマン。しかし彼がその一歩を踏み出した瞬間、その足元が開く。

 

『何?』

 

その穴から底へと落ちていくデューマン。落下途中、乙音の身体が穴の横から飛び出してきた手にさらわれる。その手の主人は、変身したボイスの手だ。

 

『貴様……!』

 

穴の底へと落ちていくデューマンは手を伸ばすが、その手は飛び出してきた壁に阻まれ、デューマンの肉体自体も飛び出してきた壁に吹き飛ばされる。

 

『ぐっ、何が……』

 

『よし、うまくいったか。……あー…真司、さん、達は?』

 

『船内にいるわよぉ?……まさか、この要塞の制御権を握れって言われるとは思わなかったわ』

 

ゼブラとボイスの作戦は単純明快。機会を掌握する力を持つキキカイに、この空中要塞の制御権を握ってもらうことだった。

デューマンの注意が乙音の方に向いているのを利用して、徐々に要塞の制御権を奪い取る。そして真司達は一旦さっきのように開けた『穴』の中に逃げ込ませ、ボイス達は直に乙音を回収、すぐにキキカイの元まで戻るというのがゼブラの考えたプランだった。

 

『すぐに逃げるぞ。キキカイ、通路をーー』

 

『……っ、待って! どんどん制御権が………』

 

「ボイスさん! 危ない!」

 

3人の真上の床を突き破って、デューマンが落下してくる。その眼光は怒りに染まっており、一度でも出し抜かれたのが相当に堪えたようだ。

 

『貴様等……許さんぞ!』

 

襲いかかってくるデューマンだが、その足元が少しだけ崩れる。ゼブラのライダーシステムにゼブラの許可を得て侵入し、現場の視界を共有しているキキカイのサポートによるもので、それに気を取られたデューマンの顎をゼブラが叩く。

 

『ゼブラ……貴様は殺して………』

 

「ボイスさん、今です!!」

 

『意外と精神的に……もろい、なっ!』

 

【ライダー インフィニティ シュート!!】

 

ボイスが必殺技を発動し、デューマンに向けてエネルギーの本流を叩きつける。デューマンはゼブラに気を取られていたためその奇襲に気づけず、吹き飛ばされてしまう。

 

『グアアアアアアアアアアアア!!』

 

「ボイスさん、行きましょう!」

 

『いや、お前は乙音を連れて行け』

 

「でも……!」

 

ボイスの言葉に反論しようとするゼブラだったが、ボイスがデューマンを吹き飛ばした方向からバキバキバキ、と次々に破砕音が鳴り響いてくるのを聞いて、息を呑む。

 

『……行け』

 

「……必ず、必ず一緒に帰りましょう!」

 

『ああ、必ずだ』

 

ボイスがデューマンの気をそらしたおかげで制御権を再び奪取したキキカイが、ゼブラを空中要塞に突き刺さっている空中戦艦まで誘導するように、要塞の床や壁を操作していく。

そうしてゼブラの姿が見えなくなってボイスは銃を構え、改めてデューマンを吹き飛ばした方向を見据える。

 

バキッ……ドン!ドンドンドンドンドンドン!!!

 

『……来るか』

 

数多の壁を粉砕して現れたデューマンの姿は黒い瘴気を纏っており、その怒りのほどを感じさせている。

だが、その怒りにもボイスは怯まない。なぜならーー

 

『……1つ、お前に教えてやる』

 

『……何をだ?』

 

『この俺が抱く……怒りだっ!!』

 

ボイスが雷と炎を纏い、デューマンに殴りかかる。その一撃はあまりに早く、あまりに予想外であり、デューマンはそれをもろに顔に喰らう。

 

『があっ!』

 

『あの日のようなパワーは出ないが……お前を足止めするには十二分だ!』

 

ボイスがデューマンを地面に叩きつけ、その顔面をマウントを取って殴る、殴る、殴る。その一撃ごとにデューマンの身体は地面に沈み、その首はとてつもない勢いで左右に揺れるが、しかしこの程度では最強のディソナンスは止められない。

デューマンはボイスの両手を掴むと、その腹を蹴り飛ばす。宙に浮くボイスの両手を離さず、起き上がったデューマンはボイスを地面に叩きつけ、蹴り飛ばす。

 

『お前が……勝てると? この私に』

 

『一人じゃ無理かもな……だけどっ!』

 

ボイスがそう言った瞬間、デューマンの頭上から四角にくり抜かれた天井が落ちてくる。それを粉砕しようと拳を構えるデューマンだが、その瞬間にデューマンの足元の床も天井と同じように四角にくり抜かれて射出され、デューマンは床と天井に挟まれる。

 

『キキカイか……!』

 

『はーい、呼んだ? ま、これぐらいはやらせてもらうわよ』

 

『ぶちのめしてやる。このクソ野郎!!』

 

デューマンは床と天井を粉砕すると、自ら要塞内の構造を組み替え、まるで闘技場のような型にする。

 

『やってみろ』

 

『やってやる』

 

ボイスが駆け出すと、その足元が崩れる……のをキキカイが土壇場で防ぎ、彼女の疾走をサポートする。

 

『はあっ!』

 

『ちいっ!』

 

ボイスからの銃撃を自身の腕によるガードではなく、要塞の壁を重ねての盾で防ぐデューマン。その一瞬、ボイスを見失った隙にボイスは床に空いた穴に飛び込む。

 

『ぐっ、どこにーー』

 

バシィッ!

 

『ぐあっ! ーー背後!?』

 

ボイスが姿を消した瞬間、要塞内をくまなく調べようと集中するデューマンだったが、自身の背後から撃ち込まれた銃弾に、その集中は途切れてしまう。

すぐさま背後へと振り返るデューマンだが、そこには誰もいない。それでも警戒を強めると、今度もまた、背後から一発。それに反応して振り向く前に、正面からの一発がデューマンの顔面をとらえる。

 

『ぐっ、これは……』

 

『銃弾操作能力……三年前、ノイズを撃退した時以来か、これを使うのは』

 

キキカイが開けた通路と穴から、ボイスが銃弾を操作して叩き込む。デューマンの位置はキキカイが把握しているので、彼女の指示に従って銃弾を撃ち込んでいるのだ。

 

『このままやればーー』

 

『ーー私をあまり、怒らせるなよ』

 

ーーだが、ボイスたちの目論見は外れる。デューマンが足を踏み鳴らすとキキカイからの通信が途絶え、その次の瞬間、ボイスは超スピードでせり上がってきた床に激突し、数多の壁を粉砕して、デューマンの前に放り出される。

 

『がっ……はっ……あ…………』

 

『私が、全てだ』

 

【オーバーライド!】

 

【ライダー エンド ソング!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキカイさん、どうなってるんです!?」

 

『わからないわよぉ! ボイスとの通信がいきなり途切れて……要塞の制御権も奪われたわ!』

 

空中戦艦へとたどり着いたゼブラは乙音を介抱しつつ、キキカイにボイスの様子を聞く。しかし、ゼブラが戦艦にたどり着いたあたりからボイスとの通信と要塞へのアクセスが途切れた。

ボイスが帰ってくるまでキキカイは待つつもりでいたが、時間は一刻の猶予もない。

 

(……仕方ない、わね)

 

ギュイイイイイ……

 

「艦が……!? キキカイさん、何を!?」

 

『恨むなら、恨みなさい』

 

恨まれてもいい、憎まれてもいい。だが、ボイスの命を救えなくとも、この場にいるライダー達だけでも逃がそうとキキカイは考えた。

しかし、その目論見が上手くいくはずもなくーー発進しようとした空中戦艦は、上下から迫ってきた要塞の壁に拘束されてしまう。

 

「な、何が……」

 

『逃がさんぞ……』

 

『! デューマ……ン』

 

キキカイ達の前に現れたデューマンは、意識を失い全身から血を流したボイスを引きずりながら、戦艦へとゆっくりと歩んでくる。

 

『貴様等は私が殺してやろう……』

 

「……っ」

 

『ゼブラちゃん!?』

 

デューマンの姿を見たゼブラはすぐさま戦艦の外へと出て戦おうとするが、駆け出す足を真司に掴まれる。刀奈と桜は未だ気絶したままだが、真司はなんとか目を覚ましていた。

 

「ゼブラ……行くな。俺が……」

 

ゼブラを引き止めようとする真司だったが、ゼブラは既に力の入らない真司の手をそっと握り振りほどくと、何も言わずに駆け出していく。

 

「ゼブラ……ッ」

 

「……………………」

 

ゼブラの背へ向けて手を伸ばす真司の背後で、乙音の指がピクリと動く。

しかし、ゼブラはそれを知ることもなく、戦艦から飛び出し、デューマンの眼前へと躍り出る。

 

『……ゼブラ、お前に何ができる? ボイスですら、私の力の前まで屈服した。次は貴様の番か?』

 

「……ボイスさんを、離せ」

 

『……いいだろう。こいつにもはや価値はない。期待したようにはならなかったからな』

デューマンがボイスをゼブラに向けて投げ、それを慌ててゼブラはキャッチする。ゼブラが抱えるボイスの身体はとても細く、弱々しく感じられた。

 

『ちょっとゼブラ! 何をーー』

 

「キキカイさん、ボイスさんを頼みます」

 

『え、ちょーー』

 

「……頼みます」

 

『……っ、わかったわ』

 

キキカイがボイスを回収していくのを確認してから、ゼブラはレコードライバーを装着。変身するのを一瞬躊躇するが、すぐに覚悟を決めてーー

 

「………っ、変身!!」

 

変身し、その身に仮面と装甲を纏い、デューマンに向けて殴りかかるゼブラ。しかしその一撃は、当たり前のように効かない。その体躯に、かすり傷ひとつつけることも出来ない。

 

『終わりだな。悪あがきを……』

 

「……油断、したな」

 

『何………?』

 

デューマンが拳を振り上げようとしたその瞬間、ゼブラの拳が、デューマンの胸の中へと沈んでいくーーのではなく、デューマンとゼブラの身体が、どんどん融合していく。

 

『な、何をーー』

 

「お前が音成を取り込んだのを見たとき……確信した。お前が最強のディソナンスである所以は、ほかのディソナンスを取り込むことができるからだって」

 

『音成は人間だ!』

 

「彼の身体はカナサキのものを使っていたはずだ。だからこそ、Dレコードライバーのデメリットも気にしなかったんだ」

 

『……よく見抜いたものだが、だからといってどうにもーー!?』

 

ゼブラの身体が融合していくにつれ、デューマンの思考にノイズが走る。

デューマンの肉体と精神は一つで構成されたものではない。肉体も精神も、多くのディソナンスーーそれもバラクやドキと同じような、天然で生まれた旧ディソナンス達のものが融合している。

ゼブラの狙いは、それだった。ゼブラは乙音から生まれた、特殊なディソナンスだ。旧ディソナンスと同じような存在でありながら、カナサキによって、半ば人為的に生み出された存在。

だからこそーー

 

「僕とこうなった時点で、お前の負けだ…! 一緒に、消えてなくなれ!」

 

『馬鹿な……!』

 

ゼブラの半身がデューマンと融合したところで、空中戦艦の拘束が解ける。いや、既に空中要塞そのものの崩落が始まっていた。どうやら、デューマンの力によってなんとか保たれていたのが、ここに来て限界が来たらしい。

 

『ゼブラ! あなたもーー』

 

「キキカイさん、ボイスさんに伝えておいてください。約束、守れなくてごめんなさいって』

 

『ゼブラ……!』

 

『あと、乙音お姉ちゃん達にも……いままでありがとうって』

 

『あなたが自分で伝えなさいよ……!』

 

『ごめんなさい、押し付けてしまって。……ごめんなさい』

 

『……っ』

 

キキカイが空中戦艦を操作し、空中要塞から離れていく。地上のシキ達は、その様子を街のはずれから見ていた。

 

「……やったのか?」

 

「要塞が崩れていく…ディソナンス達も倒した……アメリカは、世界は救われたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

『崩れていく……私の理想が、私達の、僕達の夢が……』

 

『お前、は……ここ、で………僕、が………』

 

『いや、まだだ……まだ終わるわけにはいかない』

 

『僕達こそが……生き残るべきなんだァァァァァァァァツ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその後、空中戦艦でシキ達を回収し、アメリカ、ワシントンへと戻ったライダー達は、ボロボロの体を治療することに専念していた。

特にヒドイのが乙音で、治療の後も、一向に目を覚ますと気配がない。

だが、ゼブラという犠牲によって世界は救われたーーそう信じるライダー達に、ある報せが届けられる。

それは、彼等に絶望と悪夢は終わらないことを、突きつけるものだった。

 

「なんだと……!? 本当なのか、シキ!!」

 

「冗談でこんなこと、言うわけねえだろ……!」

 

「要塞の跡地からは、デューマンの死体も、Dレコードライバーも! その破片すら見つからなかった……」

 

 

「間違いねえ……あいつは、まだ生きてやがる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………僕が、まさか、ここまで追い詰められらとはね……感服するよ、ゼブラ…いや、『僕』よ』

 

『7大愛もまだ残っている……ガイン!』

 

『はっ、音成……いえ、デューマン様。用意はできております』

 

『保険をかけておいてよかったよ……ああそれと、デューマンじゃないって言ったろう?』

 

『そうでしたね、今のあなたはーー』

 

 

『デューマン・ゼブラ……ゼブラの肉体に、天城音成とデューマンの精神が宿ったもの』

 

 

『僕に、限界はない……!』

 

 

この世界の何処かで、彼ーーいや、彼女の笑いが響き渡る。

それはあまりにも邪悪で、醜悪で……世界の終わりを予見させるものだった。

 

仮面ライダーソング第3部

 

絶対なる思いの中で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4部

 

希望を胸に

 

へと続く……




第4部 予告

目を覚まさない乙音

「もう一ヶ月になるか……」

デューマンからの宣戦布告

「期限は3ヶ月。その間の平和を楽しみたまえ」

立ち上がるライダー達

「こんな事で、諦めるわけにはいかない!」

「相手がどれだけ強くても、私達は戦ってきた!」

迫る7大愛の脅威

『俺の身体は、無敵になった!』

『デューマン様の御心のままに……』

絶望ーー

「変身」

「やあ、この姿で会うのは初めてだね」

希望ーー

「Sレコードライバー?」

「オレのレコードライバーをベースに、Dレコードライバーのデータも加えての改造品……」

いま、ソングこそが希望になるーー!

「後輩!」

「乙音くん!」

「乙音ちゃん!」

「乙音さん!」

「乙音!」

「木村……乙音!」

「………変身!!」

仮面ライダーソング第4部、完結編

希望を胸に

乞うご期待!


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disk4.希望を胸に
絶望の底に在るもの


一ヶ月以上、お待たせしました。仮面ライダーソング、再開です!

でも申し訳ないことに今回は総集編というか、まとめ回です。話は次回から動き出します。
そして次回は……エグゼイド終了直後、8月あたりから温めてた歌とネタ大放出でございます。



大きすぎる力には、大きすぎる代償が伴うーーそれは、誰が言った言葉だったか。

彼女達が得た力は、世界の命運を左右するほどに大きなものだった。

仮面ライダーとしての力……使命………だが、彼女達は実質的な敗北を喫した。

その敗北の代償はーー彼女達にとって、あまりにも辛いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はあ」

 

ペシャン、とドアが閉められる。医務室のドアの音だ。

ここは、特務対策局に協力する病院のひとつ。病室から出てきたのは、あの戦いから一ヶ月たち、傷が治りかけているボイスだった。

自身の身体がどんどん人ではない、ナニカに変化しているのを感じとりながらも、ボイスにとってそれは些細なことだった。

 

「ボイス」

「……ファング。いや、真司か。なんだよ?」

「後輩は……まだ、目を覚まさないか」

「……ああ。今は刀奈と美希が様子を見てる」

 

あの戦いの後、すぐに乙音は病院に運び込まれ、そこで治療を受けた。

荒廃したアメリカにおいて、首都ワシントンでまだその機能を保っていた病院であり、ビート部隊や真司もアメリカ奪還作戦を進行していた時は非常に世話になったところだ。

そこで1日かけて治療を受けた乙音は、現在眠っている。……一ヶ月以上経った現在でも。

あの戦いからずっと、乙音は意識不明のままだ。身体は元に戻っているし、ボイスのほうが重傷だったぐらいなのだがーー

 

「……やはり、ゼブラか」

「…だろうな。ゼブラはあいつの半身だった……それが死んじまったんだ。無理もねえさ」

 

アメリカ、ニューヨーク……その空中に浮かんでいたディソナンスの巨大要塞。それを攻略し、天城音成を倒すという作戦において、乙音達はゼブラというかけがえのない仲間を失った。

ディソナンスであるドキ、キキカイ、バラクと同じように乙音からある意味人工的に生み出されたディソナンスといえるゼブラだが、それ故にゼブラは乙音のまさに半身。身を分けた存在であった。

ゼブラが死亡したそのショックは、乙音の精神にも肉体にも大きな傷跡を残した。

 

「……くそ、天城…いや、デューマンも何処にいるかわかんねえ」

「ああ……気は抜けないな」

 

あの戦いでディソナンスーーいや、天城の空中要塞を落としたライダー達だったが、その跡には天城が自身の思考や知能をコピーした存在であるディソナンス、デューマンの死体も、デューマンが変身に使用していたDレコードライバーも見つからなかった。

崩落によって、あるいはゼブラの道連れによって消滅したーーそう政府の者や、特務対策局の香織や猛などの人員は思っている。

だが、実際にデューマンと相対したライダー達…特にボイスには、デューマンが生きているという確信があった。

 

「ゼブラは犬死に……だったのかな………」

「……ボイス、次そんなことを言ってみろ。俺が後輩に代わって、お前を殴る」

「……悪かったよ」

 

彼女達がここまで意気消沈しているのには理由があった。

1つは乙音が目覚めないこと。

1つはデューマンが生存しているだろうこと。

そして最後の1つは7大愛の撃破も確認できていないことだった。

 

 

 

7大愛は、音成が生み出した新ディソナンスの中でも特に強大な7体を指す。

 

旧ディソナンスの一体であるカナサキが生み出したディソナンス、ノイズの改造体であり、桜が撃破した『最初の七(ファーストセブン)』チューナー。

空中要塞内で真司、刀奈、バラクの3人に一蹴されてから姿の見えない『六閃剣(シックスソード)』エンヴィー。

ボイスが初めてDレコードライバーを用いて倒した相手である『五指の弾丸(ファイブシューター)』フィン。

日本でソングに撃退されてから姿を見せない『|堅守の四《ガーディアンフォース』ガイン。

ニューヨークの決戦において、フルチューンカスタムへと更なる変身を見せた仮面ライダービート、シキ・ブラウンに倒された『三閃槍(トライランサー)』ゲイル。

量産型は数多く倒されているが、それを統制しているはずの本体は未だ姿を見せない『双翼(ツヴァイウイング)』ピューマ。

そして『最後の一(ラストワン)』であり、音成の全てを受け継いだ存在、デューマン。

 

全7体のうち2体が倒されてはいるが、残りの5体はいずれも一筋縄ではいかない相手である。

現在はライダー側も旧ディソナンスの三体であるバラク、キキカイ、ドキの協力を受けているが、この5体と他のディソナンスに一斉にかかってこられれば、ジリ貧となってしまう。それだけの物量差をライダー達は思い知っていた。

それに………

 

「正直……ディスパーに勝てるか?」

「……全員で、かつ誰かの犠牲を前提にしたうえで有利なフィールドで戦えば、いけるだろうな。だが……」

「無理、だよな……」

「………ああ」

 

仮面ライダーディスパーに変身したデューマンの戦力は圧倒的だった。デスボイスですら敵わず、他ライダー達は一蹴され、バラク達も太刀打ちできない。

正直なところ、ライダー達だってこのままデューマンが死に、残りの7大愛も要塞陥落時に巻き添えとなっていると信じたかった。しかし、彼女等の経験則こそが、ライダー達から希望を奪っていた。

 

「……ま、いま考えても仕方ねえや。………乙音の様子でも見に行くか」

「そうだな……「2人とも! 早く病室に来てくれ!」……どうした!?」

 

2人が暗い雰囲気になる前に話を切り上げようとしたその時、刀奈が病室から駆けてくる。もしや乙音の身になにかあったのかと焦る2人だったが、そうではないようだ。

 

「いいから早く来てくれ。大変な事になるぞ……!」

「なんだと………?」

「いったいなにがあったってんだ……」

 

すぐ近くの乙音の病室の中へと駆け込む3人。そこではベッドに変わらず横たわる乙音と、その側に立ってテレビを凝視する美希の姿があった。

 

「おい、なにがあった!?」

「て、テレビを見てください……!」

「テレビ……?」

 

真司とボイスがテレビを覗き込むと、そこには信じがたいものが映っていた。

 

「なっ……ゼブラ!?」

「ゼブラが、どうしてテレビに……!?」

 

そう、テレビに映っていたのはゼブラだった。黒かった髪は白黒が入り混じるようになっていたが、確かにゼブラの肉体が画面には映っていた。

しかし、2人は即座に違和感に気づく。画面に映っているゼブラは笑みを浮かべているがーーこんなに邪悪な笑みを浮かべることは、絶対になかった。

 

「……まさか、こいつは!」

 

ボイスと真司が同時にある答えに行き着いた瞬間、画面の中のゼブラ………いや、デューマンも語りだす。

 

『お早う諸君。私の名はデューマン。デューマン・ゼブラ………先日仮面ライダーによって落とされた空中要塞の主人だった者だ』

 

「……やはり、生きていたか…」

「だが……くっ、ゼブラの肉体を乗っ取るとは!」

 

『今日このような放送をするのはほかでも無い、宣戦布告だ。私は私の計画を台無しにしてくれライダー達……ひいてはこの肉体の元となったディソナンス、ゼブラを生み出した者である木村乙音に対して、正直に言おう。殺意を抱いている』

 

「………!」

「乙音を狙ってるの……?」

 

『……三ヶ月だ。三ヶ月間だけ時間をやろう。その間私は侵攻しないことを約束しよう。だが………その三ヶ月の間に、この放送を聞く全世界の君達には、仮面ライダーソングである木村乙音をはじめとした仮面ライダー達。彼等を私に差し出すかどうかを決めてもらう』

 

「なっ………!?」

 

『安心したまえ。仮面ライダーを差し出せば私も、私の作ったディソナンスも君達には手を出さないようにしてあげよう………もっとも、私はこれから自身の傷を癒やすことに専念する。だからこの三ヶ月の間は、ディソナンス達の動きを抑えられないかもしれない』

 

デューマンの言葉に合わせて、その背後の暗闇から7大愛が現れる。その中には倒したはずのフィンやチューナーもいた。

 

「復活している!? まさか………」

「元は天城音成によって作られた存在。そのクローンであるデューマンに作れないはずもないか……!」

 

『再三言うが、期限は三ヶ月。その間の平和を楽しみたまえ。…………もっとも、本当に平和と呼べる時は、君達が早く決断しなければ来ないかもしれないな』

 

 

その言葉を最後にして、画面は暗転し、ニュース番組へと切り替わる。画面の中ではキャスターが困惑し、スタッフと思わしき人物が駆け回っている。

 

「……真司さん、刀奈さん、ボイス……私は…」

「わかっている。………特務対策局の皆も、アメリカで共に戦った君達も、私たちは信頼している」

「だが、問題は…」

「……この放送を聞いた奴らが、オレたちを狙ってくるかもしれない、ってことだな……」

 

デューマンの策略はライダー達とその関係者に衝撃をもたらした。7大愛が万全の状態で揃っていることもそうだが、画面の中のデューマンはどう見てもピンピンしており、傷の療養など必要ないように見えた。

つまりは、単に遊びなのだ。人間の醜さを見せつけ、自身を追い詰めたライダー達を絶望させようということだった。

 

「陰湿な手を使って……!」

 

病院ということもあって表には出さないが、静かに怒るライダー達。美希も不安そうに眉をひそめるなか、彼女のポケットから電話の音が鳴る。

 

「すみません、少し電話に出てきます」

「ああ……」

美希は病室から出て、廊下で通話に応じる。電話をかけてきたのは仮面ライダービートの変身者であるシキ・ブラウンだ。乙音に近づこうとしたシキが本命を落とすならまずは周りからと美希と電話番号を交換したのだ。美希自身シキは割と優良物件だと思っているので、浮ついた話のない乙音には丁度いいのではと考えている。

 

「はい、美希です。シキさんですか?」

「繋がったか……さっきの放送は見たか?」

「はい、見ましたけど……」

「そうか、なら話は早い………そっちに真司達もいるんだろ? 今から言う場所に寄越してくれ」

「え? どうして………まさか」

「ああ………やつら、さっそく来やがった」

 

 

 

 

 

 

「……どうだった?」

「乙音さんはまだ目覚める様子は無し。放送は見てた。真司達の到着はあと最低30分はかかる……とさ」

「……キキカイ達はどこいったのかしら」

「ディソナンスどもは研究所でなんかやってるみたいだな。バラクとキキカイも協力してるんだとさ。……こっちには間に合わないだろうな」

 

現在、シキと桜はアメリカ西海岸へと来ていた。ここに来ていた理由はアメリカに残るディソナンスの掃討のためだが、先の放送の後、軍のレーダーがディソナンスの飛来を感知したため、彼女達はビート部隊と共に街に残り、迎え撃つ体勢を整えていた。

街の住人の避難を完了させたタイミングで、空の向こうに影が見え始める。ディソナンスの大群の影だ。

 

「……まるでこの世の終わりね」

「まだ速えだろ、そう言うのは」

 

2人はそれぞれの変身アイテムを構える。2人の後方にいるビート部隊もディスクセッターを装着する。

 

「……いくわよ」

「ああ」

 

『コンダクター・コンタクト!』

 

「「変身!!」」

 

『フルチューンビート! コンダクターフルアーマー!』

 

2人に装甲と仮面が装着されていき、仮面ライダーダンスと仮面ライダービートがアメリカの大地に立つ。背後にはビート部隊と守るべき人々。襲来するのはディソナンスの群。

 

「……全員、生還するぞ!」

「ビートは私とシキの援護! 無理はしないこと!」

「「「了解!!」」」

 

桜は炎の翼を放出し、シキはブースターの出力を全開にして宙へと飛び、空中より迫るディソナンスに突っ込んでいく。ビート部隊は海中から上陸してくるディソナンスの相手だ。

「うおおおおおお!!」

「いっけえええ!」

 

ビートはビートチューンバスターから拡散エネルギー弾を放ってディソナンス達を海中のものごと倒していき、桜は2基のファイヤーストームブレイカーを巧みに操り、炎の翼で敵を焼きながら飛行する。

 

「真司達の到着まで持ちこたえるぞ!」

「流石に、数が多いわね……! でも、これぐらいの修羅場は抜けてきてんのよ!」

 

『オーバーチューン! ボリュームマックス!』

 

『Over the song!!!』

 

『rider over typhoon!!!』

 

「「はあああああああああっ!!」」

 

2人の必殺の一撃が炸裂し、ディソナンス達を蹴散らしていく。

この戦闘は、結局真司達3人が駆けつけるころにはほとんどのディソナンスが殲滅されていた。

しかし戦いの場となった街は荒れ、再びの襲撃の可能性もあり、そこに住んでいた人々は他への移動を余儀なくされる。

キキカイの能力もあって復興が急ピッチで進んでいたところにこれである。人々は既に限界に近づいていた……。

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ……放送を見る暇もなく、キキカイと特務対策局からアメリカの研究所へと出向してきた勝や香織はバラクやドキをこき使いながら、何日も研究室に引きこもっていた。

彼女達が生み出そうとしているもの、それはーー最後の希望。

 

「キキカイ! このデータはここだな!」

「そう! それでも〜っと素晴らしくなるわっ!」

「ようやく完成が見えてきた……私達の希望………ボイスちゃんのレコードライバーを素体にした、新たなレコードライバー………」

 

 

「Sレコードライバー……待っていて、乙音ちゃん!」

 

 

 

パンドラの匣は既に開かれた……絶望は解き放たれ、世界は未曾有の危機に晒されている。

だが、その絶望の底にあるものはーー

 

仮面ライダーソング 第4部

 

希望を胸に

 

開幕ーー!





次回予告はもうなしで。完結までは極力前書きも省いていきたいです。
今後ソングは週一更新を目指しますが、代わりにオメガとGOEは更新がだいぶ遅くなります。特にGOEはソング完結まで更新ありません。
ですが、ソングも今回入れてあと6〜7回で終わる予定です。
えーと今回で1回、次回アレで2回、次は侵攻3回、次は防衛4回、次は3人5回、次は白黒6回、最後に決着と後日談で7回か。
……うん! いけるいける! 多分! あ、あと大学でいま忙しいから、週一更新も少し遅れるかもしれません! 事前に予防線!

それでは、ソングを再びお楽しみに!


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希望を胸に立ち上がる

実は今回で最強を出すつもりが、次回に持ち越し。まあどう考えても2万字越してたし、多少はね?
その代わり次回は今日明日には出します! たぶん! 大学で死ぬほど忙しいけどっ!!


「……次はどこだ!」

「ここからそう遠くない位置だ! 私が行こう!」

 

デューマンの宣戦布告から2週間が経過した現在、ライダー達は水際でディソナンスの侵攻を食い止めることができていた。

あれから特務対策局とアメリカ政府はライダー達に関連した情報の一切を秘匿した。それは民衆の暴徒化を防ぐためだ。

現在でも()()()抑えられてはいるがーーライダー達を差し出せば平和を保証するというデューマンの誘いは明らかに罠であり、しかしそれをわかっていてもなお飛びつかんとする政治家が現れる程度には魅力的だった。

もし、今の状況でライダー達の居場所が知られれば、一部の民衆だけでなく、各国の政府機関が何か手を打ってくる可能性もある。そうなると、もはやライダー達は人々を守ることだけに専念するわけにはいかなくなる。

それをわかっているのだろう。ライダー達を嘲笑うかのようにディソナンスは次々と戦力を投入してきた。

本来、戦力の逐次投入は悪手である。だがこの状況、無限とも思えるレベルのディソナンスを用意できるデューマンにとっては、逐次投入によってライダー達の精神と肉体を擦り減らしていくのが、もっとも望む展開だった。

 

 

 

 

 

 

ライダー達はいつディソナンスが襲来してきてもいいように、今は基本的にアメリカ、ワシントンにある研究所ーーアメリカ奪還の際に真司やシキがビート部隊と共に拠点としていた研究所に常駐していた。いま彼女達がやっていることといえば、今後のディソナンス対策についてや、自分達のコンディションチェック。とりとめもない話に花を咲かせることだった。

 

「デューマン………ホント、陰湿な奴ね………でも、悔しいけど私達じゃアイツには勝てない」

「…そういえば、ボイスはどうした?」

「キキカイや香織さんたちに呼ばれて検査中だ。……最近は苦しそうな様子が続いていたからな、俺たちが踏ん張らなければ」

「正直、今の状況じゃボイスさんが必要不可欠だしな……休めるときに休んでもらいたいぜ」

 

現在、ボイスは他のライダー達と比較しても驚くべき速度でディソナンスを駆逐していた。

しかし、Dレコードライバーを使い続ければ、いずれは今のデューマンのようなディソナンスの肉体へと徐々に変貌する。肉体が全く別のものに置き換わる苦しみは、想像を絶するものがあるだろう。

しかし、いまボイスがディソナンスの迎撃から外れれば、必ず犠牲者が出る。そうでなくとも、街や都市を破壊されるのは確実だ。

 

「……そういえば、新型レコードライバーはどうなんだ?」

「新型?」

「レコードライバーだと?」

 

暗い空気を塗り替えるために、真司が話題を逸らす。話題に出したのは、勝とキキカイ、そして香織をはじめ特務対策局の研究班とショット博士やロイドが協力して制作しているという新型レコードライバーのことだった。

 

「ショット博士とロイドは最近までビート関係で忙しかったらしいが、もう次の研究を進めてんのか?」

「ディスクセッターが安定して量産可能になったらしい。キキカイの協力のおかげだ」

 

ショット博士とロイドはごく最近までディスクセッターの量産体制を整えることに注力していた。ビート部隊は7大愛でないディソナンスに対してならば十二分に戦力となるからだ。その量産体制もキキカイの協力によって驚くべきスピードで整ったため、2人は新型レコードライバーの開発に協力していた。

 

「相変わらず、機械方面に関しちゃ敵わないわね……それで、新型ってどんなのなのよ?」

「それは……………わからない」

「わからない?」

「ああ。局長から聞いた限りでは、対ディスパー用に製作しているらしいが……」

 

ビーッ! ビーッ!ビーッ!

 

『ディソナンスが発生しました。ライダー達は速やかに現場に……』

 

「……行くか」

「ああ。新型の開発まで頑張ろうぜ」

「そうだな……希望を賭けてみるか」

「よし! ………やってやろうじゃない」

 

警報の音に背を押され、再びディソナンスの殲滅に向かう4人。

その警報音を聞きながら、ボイスは研究所の一室でベッドに横たわっていた。

 

「警報……? ディソナンスか! オレも………ぐっ!」

「あ、こらダメじゃない。安静にしておかないと……」

 

ほかの4人はボイスが一切そんな素振りを見せないこともあり、そう重大には考えていなかったが、検査の結果、ボイスは既に次にレコードライバーを使えば人間に戻るとことはできないというレベルまでディソナンス化が進行していた。

そのうえ、現在はディソナンス化による肉体組織の変容がボイスの身体を襲っており、立っているのもやっとな状態である。

いまは香織がボイスの側についているが、誰かいなければ勝手に出撃しようとするのは、ボイスの状態を知る者からすれば驚くべきことだった。

 

「大丈夫よ。今度も7大愛は観測されてない。……何を狙ってるのかしらね」

「それよりも………ぐっ、新型は、どうなってんだよ?」

「大丈夫よ。あなたの協力でDレコードライバーのデータは集まったし、完成には向かってるわ」

 

ボイスが検査を受けていたのはディソナンス化の進行具合を確かめるためでもあるが、それに加えて新型レコードライバーの開発にそのデータを使うためでもあった。

Dレコードライバーで変身したライダーはディスパーもデスボイスも、どちらも非常に強力なライダーである。

ディスパーはマトモな交戦データがデスボイスとの戦闘時と空中要塞での戦闘時以外にないが、そのどちらでも数値の上では信じられないほど高い値を示していた。

デスボイスも、複製とはいえ7大愛の一体であるピューレを蹴散らすほどのパワーを持っている。

さらにボイスのDレコードライバーを解析した結果、変身後の戦闘能力を飛躍的に高める『オーバーライド機能』が搭載されていることも判明した。おそらくディスパーのものには、より強力なこれが搭載されているだろうと香織達は考えていた。

しかし、香織にはある疑念があった。

 

「ボイスちゃん、その……身体がディソナンス化し始めたというか、身体の調子がおかしくなりはじめたのはいつ?」

「へ? あー……確か、ディスパーと戦闘した時……だったか?」

「ちょっと待ってて……………やっぱりそうか」

「? どうしたんだ?」

「オーバーライド機能…ディスパーとの初戦の時、使ってたみたいね」

「へ? そうなのか?」

 

ボイスは無自覚だったが、ディスパーと初めて戦った時、彼女はオーバーライド機能を使用していた。

「多分、オーバーライド機能はディソナンス化しなければ使えないでしょうね……だからこそ、天城音成も自身の全てをデューマンに移したんだわ」

「ディソナンス化すれば、か………」

「……変な気は起こさないでよ? 確定してるわけでもないんだし……」

ボイスのつぶやきに、思わずそう返す香織。それに対し、ボイスは少しバツが悪そうな顔を見せる。

 

「わかってるよ、心配すんな」

「そう? なら……「香織ー!」……どうしたの、キキカイ!」

 

ーーと、場の空気を引き裂くように部屋のドアを勢いよく開けてキキカイが乱入してくる。キキカイの今の姿はディソナンス時のものではなく人間態だが、深いクマやボサボサになった髪に、ボイスはぎょっとする。

 

「な、なにがあった?」

「あらボイス。あなたにも礼を言うわ………完成したのよ、レコードライバー! 新型が!」

「ホント!?」

「ええ! ボイスのレコードライバーをベースに、ソングのレコードライバーのデータをもとに製作したレコードライバー……名付けてSレコードライバーが!」

 

この報せに、ボイスと香織は喜びの色をあらわにする。キキカイがここまで自身たっぷりに完成を告げるのだ。ならばディスパーにも対抗できるに違いない、と。

 

「ただ……ひとつ、問題があってね」

「問題? なんだ、そりゃ」

「……このレコードライバーで変身可能なのは…………仮面ライダーソングこと木村乙音。彼女だけなのよ」

「……なんですって?」

 

このキキカイの言葉に、香織は眉をひそめる。乙音はあの戦いから未だに目を覚まさないままだ。肉体的には問題ないのに、原因は一切不明のまま眠っている。

その彼女しか扱えないのならーーそれは、未完成と同じことだ。

だが、そんなものの完成をこうと自身満々でキキカイが告げてくるだろうか? そう思った香織は、ある考えに辿り着く。

 

「……まさか、わかったの!?」

「ええ。ソング……あの眠り姫を目覚めさせる方法が、ね」

「それはホントか!? ……って」

「ああもう、あんたは眠っときなさい」

 

思わず飛び起きたボイスを抑えつつ、キキカイは話を続ける。

 

「ともかく、その方法は病院で話すわ。さっそく行きましょう」

「わかったわ。車を回しておくから、少し待って………それにしても、早かったわね?」

「ま、こいつらの協力のおかげよ」

「こいつら?」

「ふふ……入って来なさい!」

 

キキカイが手を叩き、外で待機していた者達に対し入室を促す。入ってきたのは、病院で乙音についていた美希と、ドキ、そしてバラクだった。

 

「美希ちゃん!?」

「四六時中ソングに張り付いてたでしょ? 彼女。あれは彼女のデータを取ってもらってたの。バラクとドキにはちょっと証言をもらったわ。ま、治療の時にも活躍してもらう予定なんだけど」

「乙音ちゃんを助けるためと聞いて、少し慣れない機器とかもあったんですけど、頑張りました!」

「……まあ、俺もあいつには思うところがないわけでもねえからな。協力するぜ、治療に」

「……私がいまこうしているのは、彼女のおかげでもある」

「あなたたち……!」

 

感極まって少し涙を流す香織。しかし彼女はすぐにその涙を拭うと、携帯を確認して、車の用意ができたことを確認する。

 

「車の用意はできたわ。行きましょう」

「待て、オレも……」

「だめだよ、ボイスちゃん。……香織さん達は行ってください。ボイスちゃんの様子は、私が見ておきますから」

「頼んだわよ!」

「吉報を待って帰ってくるわ〜!」

 

慌ただしく部屋を出ていくキキカイ達の背中を見送りながら、ボイスはひっそりとその拳を握りしめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー乙音の入院する病院、病室。

キキカイ達が扉を開けたそこはそれなりに広い個室で、窓際に設置されたベッドの上で、乙音は眠っていた。

知らない人が見れば、まるで死んでいるのではないかと思えるほどに、静かだった。

 

「それじゃあ、始めるわよ」

「わかった」

「了解した」

「……それで、どうやって乙音ちゃんを治すの?」

 

乙音に被されていた布団を剥いで準備を進めるキキカイ達に対し、香織もキキカイの指示に従って機器を設置しながら、どうやるのか、と質問する。

 

「んー……彼女のデータを見る限り、昏睡状態に陥ったのはある事が原因よ。そして、あなた達もこの子がこうなった時があったことは知ってるはずよ。データで見たし」

「こうなったことが? …………まさか、カナサキの時の!」

 

そう、乙音はかつてこの時と同じような昏睡状態に陥ったことがある。バラクやドキ、キキカイと同じく旧ディソナンス達のまとめ役であり、今は音成に吸収されていなくなってしまったディソナンスであるカナサキ。彼の力によってハートウェーブが枯渇してしまった時にも、乙音はしばらく目を覚まさなかった。

 

「あの時は、兄さんの作った装置でゼブラちゃんが………まさか!」

「そう。私達3人が、ゼブラの代わりになるわ」

「でも、そんなことをしたら……!」

「大丈夫よ。ゼブラだってそうだったでしょう? ………私達を、信じなさい」

「……!」

 

キキカイの言葉に合わせ、ゆっくりと頷くドキと、サムズアップするバラク。3人の顔には笑みが浮かび、不安など一欠片もない。

 

「……わかったわ。準備はいいわね?」

「いつでも?」

「まあすぐだ。ここで待ってな」

「……任せろ」

「それじゃあ、いくわよ……!」

 

香織が装置のスイッチを入れると同時、キキカイ達3人は手を重ね合わさる。緑の光が彼女達を包んでいき、その光が乙音の体に移ると同時に、キキカイ達の瞼が落ちる。いま、彼女達は乙音の心の中に入ったのだ。

 

「頼んだわよ、3人とも……!」

 

 

 

 

 

 

一方、その頃ーー太平洋海底。ディソナンス達の基地。

そこでは多数のディソナンスが生産されており、その様子を7大愛の一体、ガインが眺めていた。

 

『よう、ガイン』

『……ゲイルか、何用だ』

 

その巨軀に背後から声をかけたのは、同じく7大愛であるゲイルだ。空中要塞攻略時の決戦でシキの変身したビートコンダクター・フルアーマーカスタムに吹き飛ばされ、空中要塞の崩落に巻き込まれた彼だったが、その後デューマンに拾われ、強化改造を施されてここにいる。

彼の目的は1つ。自身をコケにしたビートとソングを辱めた上で殺害することである。そして、創造主である音成から授かった肉体を傷つけられたガインも、仮面ライダーソングである乙音に対して静かに激怒していた。

 

『貴様と俺の利害は一致している………貴様のようなバカと足並みを合わせるのは癪だが、俺に手を貸せ』

『いいのかあ? 音成……いや、デューマンサマの許可を得なくても』

『………………』

 

ゲイルのわざとらしい言葉にもガインは応えない。それにつまらなそうにため息を吐くゲイルだったが、ガインはそれにも、ただこう答えるだけだった。

 

『全てはデューマン様の御心のままに………今の我等の創造主は、あのお方だ』

『まったく……お前も難儀な性格してるねえ』

『黙れ。…………出撃の準備をしろ、目標は……』

『木村乙音の眠る病院………だな』

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫なのかしら………」

 

キキカイ達による乙音の『治療』が始まってから既に1時間近く経っていたが、一向に乙音は目を覚まさず、キキカイ達にも新たな動きはなかった。機器からの情報にも変化は認められず、香織は彼女達のそばでずっと回復の時を待っていた。

その彼女の携帯からアラーム音が鳴る。設定された音は、緊急時のもの。普段は絶対にかからない。それこそライダー達の命が危機に晒されている時でもなければーー

 

「……どうしたの!?」

 

慌てて通話に応える香織。相手はいま研究所に居る美希だ。

 

『香織さん! 良かった…まだ無事だったんですね!』

「まだ? どういう………」

『いまそちらにディソナンスの大群が向かってます! 私もさっきトイレから出た時に聞いたばかりで、今はボイスちゃんのところに向かって……』

「ディソナンスが!?」

『はい、だから早く乙音を連れて逃げてください!』

「乙音ちゃんを……」

 

香織が伺うのは、乙音とキキカイ達の様子。しかし依然先ほどと変わりはない。

一瞬、香織の心に迷いが生まれる。しかし、彼女はそれを振り払って美希に応える。

 

「……いえ。ここで待機するわ。もう真司君達はこっちに向かってるんでしょう?」

『でも………!』

「乙音ちゃんを治せるかどうか……いまこの時を失えば、もうわからないわ。それに、正直私じゃ彼女達を安全に連れ出すのは無理よ」

『………香織さん』

「それより………ボイスはどうしたの?」

『ボイスなら部屋の中に………いない!? まさか!』

「……あの子。………無事で、帰ってきて…………」

 

 

 

 

 

 

 

『ここか………』

『ふん………ちっぽけな所だな…………』

「でぃ、ディソナンスだー!! 逃げろー!」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

『周囲が五月蝿いな……』

『ま、目的はあの建物だ。さっさと中の奴らごとソングをぶっ殺そうぜ』

 

ガインとゲイルは既に大量のディソナンスを引き連れ、乙音の眠る病院前まで来ていた。

大量のディソナンス達はライダーが来た時の足止め用として用意しておいたものだったが、今ここに真司達はいない。乙音が眠り続けていることまでは彼らは知らないが、デューマンによる強化改造を受けた際、乙音のハートウェーブを探知する機能を2人は搭載されていた。

今までは乙音の居場所が把握できなかったが、急に乙音のハートウェーブが活発化し感知できたため、厄介なことになる前に叩き潰そうとしたわけである。

 

『さて、それじゃあ………』

『………待て。何者かが近づいてくる』

『あん?』

ガインに言われ、ゲイルはエンジンの駆動音が聞こえていることに気づく。その音は徐々に大きくなり、二体のディソナンスに向かっていた。

 

『ちっ、ライダーか……どいつだ。ビートか? アイツにも借りがあるんでな……』

『いや、あれは………』

 

バイクに跨りやって来たのは、ボイスだった。服装は適当に着たのかジーンズに白のシャツと黒いコートと普段の彼女は着ないような服装でラフな格好だが、その肌には冷汗が浮いている。体調の不良を押してまで来たせいだろう。

 

「テメェら……乙音の、眠ってる病院を、どうするつもりだっ!」

『ソングが眠ってる? こりゃ都合が良い。遠慮なくあの建物ごとぶっ殺せるってもんだ』

「……っ、テメェ!!」

【Dレコードライバー!!】

 

ボイスはDレコードライバーを掲げ、腰に装着。ライダーズディスクをドライバーにセットして変身しようとするが、ドライバーのスイッチを押そうとした指が、止まる。

 

『どうした? 変身しないのか?』

『やはりな………破壊された同族達から得たデータで、貴様のディソナンス化が進行しているのはわかっている』

「…………!!」

『そう驚いた顔をするな。それぐらい、デューマン様ならば仕掛けて当然………私達がここにいるのは、この戦力で貴様等を倒せると理解しているからだ』

「……どの口で言いやがる!」

『ならば、お前自身が確かめてみるがいい』

「………………」

 

ボイスは再び変身しようとするがーーやはり、ドライバーの変身スイッチを押そうとした直前で、その指が止まる。彼女の指は小刻みに震え、彼女の恐れをあらわにしていた。

7大愛はただでさえ強力だ。ゲイルは乙音に撃退され、シキに吹き飛ばされたものの、その水を操る能力と純粋な闘争心からくる戦闘力は脅威だ。

そしてガインはそもそも、刀奈や桜の強化形態、オーバーライド形態でも歯が立たないほどの防御能力を持っていた相手だ。

この難敵に加え、大量のディソナンス。たとえ真司達が間に合っていたとしても、蹂躙されて終わってしまう可能性を、ボイスは脳裏から捨てきれなかった。

 

「………っ!」

【レディー、オゥケイ!?】

『お?』

『む……』

「…………変身っ!!』

 

【仮面ライダーァ……デス! ボォォォイスッ!!】

 

デスボイスへと変身し、銃口をディソナンス達に向けて構えるボイス。しかしその時、彼女の身体に電流が流れたかのような感覚とともに、強烈な痛みが走る。

 

『がっ……あっ……!』

『おいおい、無理はしないほうがいいんじゃあないか?』

『黙、れぇ……!』

 

ボイスはその痛みを意地で堪えながら立ち上がる。彼女の周囲には誰もいない。自分で立ち上がるしかない。

だが、彼女は1人ではない。多くの人が彼女の背の背後にいるから、彼女は立ち上がる。

 

『オレが………お前達の心、壊してやるっ! うおおおおああああっ!!』

『いけ、あいつを仕留めろ』

『しっかりやれよ!』

 

銃撃を放ちながら、突撃するボイス。ゲイルとガインは後方のディソナンス達にボイスの迎撃を命じるが、ボイスはそれをものともせず、力を振るって蹴散らしていく。

 

『らあっ! くそっ、数ばかり用意してきやがって!』

『やはりあの程度では話にならんか』

『んじゃ、コイツを出すか………ほれ、行ってこい』

『なにをごちゃごちゃと…ぐあっ!?』

 

無数のディソナンスを蹴散らしながら走るボイスだったが、突如として高速で飛来してきた何かに攻撃され、地面に倒れる。

その隙を狙って群がってきたディソナンスを回転蹴りで立ち上がりながら吹き飛ばしつつ、周囲を見回して自分に攻撃してきた相手をボイスは探す。

 

『……そこか!』

『ガァッ!!』

ボイスは神経を張り詰めて周囲を警戒し、自身の死角、後方頭上からの奇襲を察知して振り向き、弾丸を放つ。

放たれた弾丸は見事に奇襲を仕掛けてきたディソナンスに命中し、そのディソナンスはそのまま地面に墜落した。しかし、ほかのディソナンスと異なりボイスの弾丸を受けても爆発しない。

 

『……テメェは………チューナーか』

『グ……ガギィ………ガッ、グウウウアアアッ!!』

『…桜の戦闘データで見た以上のバケモンだな、こりゃ!』

 

地面に落ちたチューナーが呻き声を上げて無茶苦茶に伸ばしてきた棘のような触手を迎撃しながら、ほかのディソナンスが乙音の眠る病院に近づかないように気を張って射撃を続けるボイス。

しかし、彼女が強力な力を持っていても、その体力と精神には限界がある。

 

『はぁ……はぁっ……』

『どうした? 息が切れてんぜ?』

『……っ。はっ、さっさと倒れてほしくて、錯覚でも起こしたかよ!』

(……このままじゃ、ヤベェ………早く、来てくれ………)

 

ディソナンスへと肉体が変異する苦痛と無意識の恐怖により、ボイスの肉体と集中力は限界が近くなっていた。その証拠に、ジリジリとディソナンス達に病院へと近づかれてしまっている。

その焦りが、ボイスに無茶な行動を起こさせる。埒が明かないと直感した彼女は、必殺技で一気に敵を蹴散らそうと考えた。

 

『この野郎………! 一気に……っ!』

『ガァッ!!』

『!? ………がっ、あ………』

 

しかし、必殺技を使うにはドライバーを操作する隙がある。それをチューナーは見逃さず、理性もないというのに、的確にボイスの身体に触手を突き刺した。

それだけならば今のボイスの肉体なら耐え切れたが、そこから何かが吸い取られるような感覚とともにボイスは意識が遠くなり、そのまま変身も解除されて倒れてしまう。

 

『がぅ……あっ、はっ………なに、が……』

『チューナーは自己進化するディソナンスだ。こいつは前の敗戦から学んだようでな、ハートウェーブを吸い取る能力を手に入れたんだよ。……ディソナンスになりかけてる。いや、なった身体には効くだろ? なにせ、ディソナンスってのはハートウェーブの塊だ! それを吸い取られるってのは、人間に例えれば生命力を吸い取られるのと同じことだからなあ!』

『くそ、が………』

 

ボイスの意識は朦朧とし、それでも彼女は地面に落ちるDレコードライバーへと手を伸ばそうとする。しかし、ハートウェーブを吸い取られた影響で、彼女の身体は動きが鈍い。手を伸ばす前に、ゲイルが彼女の腕を踏みつけて抑える。

 

『がっ……あぐぅ………っ!』

『さて……どうするガイン? ソングの見せしめに、殺すか?』

『いや……そいつにはフィンが恨みを持っていたはずだ。連れ帰って実験台にするのもいいだろう。それに……』

 

「なにこの大量のディソナンス……! 病院は………っ、ボイスちゃん!?」

「ボイス………! 全員、行くぞ!」

「ああ……!」

「無茶しやがって……っ!」

 

「「「「変身っ!!」」」」

 

『……見せしめにするなら、()()()()()()()()奴らの方がいいだろう』

『成る程、そりゃそうだ』

 

駆けつけた真司達が、ボイスを助け、乙音を守ろうとゲイルとガインに向かい走る。

その姿を靄がかかった視界でとらえたボイスは、意識を失った……。

 






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Song is Hope




  外で戦いが繰り広げられる一方、乙音の病室では、香織が時おり響いてくる爆発音も気にせず、乙音とキキカイ達の様子を見つめていた。

  様子に変わりはなく、用意された機器にも動きはない。この状態のままで、既に数時間か経過している。

 

「乙音ちゃん………」

 

  この機を逃せば、乙音は二度と目が覚めない。そう直感し、病院に残った香織。しかし乙音は目を覚まさず、戦闘による破壊音は徐々に病院へと迫っているように感じた。

  早く、早く戻ってきてほしい。せめて戦えなくてもいいから、乙音の目が覚めてくれれば。そう願い、思わず祈る香織。

  その願いが届いたのかどうなのか、彼女の目の前で動きがあった。ハートウェーブの輝きを放っていたキキカイ達だが、その輝きがひときわ大きくなると同時、機器に表示された大量の数字が、一斉に上昇を始めた。

 

「これは……!?」

 

  香織が慌ててこの状況に対応している中、乙音の心の中ではキキカイ、ドキ、バラクの三名が荒野の中を彷徨い歩いていた。

  そう、荒野だ。空は赤く染まり、地面も赤茶色に変色した荒野。

  心というものは様々なもので言い表される。例えば鉄、例えば海、例えば花、例えば空。

  だがーー草木はおろか、命の存在すらも感じない荒野など、およそ常人が内に秘めるべき心ではない。

  この凄惨な光景は、乙音の心が死にかかっているという証拠だった。

 

『……ゼブラが死んだことが、そこまでショックだったのか?』

『それもあるんでしょうけど、なにか変ね。というか、この状態はカナサキの時に似てるワケだから……』

『……天城音成はカナサキの肉体を取り込んで復活した。その天城音成の精神と力を継いだデューマンもカナサキと同じディソナンスだ。ならば、カナサキの能力を使えるのではないか?』

『……なるほど。もしかしたら、Dレコードライバーの力で更に強力になってるかも………たく、面倒なことね』

 

  3人は疲れた様子もなく、なんともなさそうにそんな事を話しながら荒野を歩く。だが、ここは心の中の領域。いかにディソナンスと言えど……いや、むしろハートウェーブを生命力とし、精神に寄った知的生命体であるディソナンスだからこそ、こんな心の中で下手に隙を晒せば、侵食を受けて絶望に染まってしまうだろう。

  だが、焦ってはいけない。焦りは心に伝播し、逆に自体の解決が遠のいてしまう。いくら時間がかかったとしても、今は歩くしかなかった。

 

  …………そうして、3人の体感で数十日が経過したころ、彼等の視界の中に、ようやく赤と茶色以外の色が入る。

 

  それは、緑だった。

  まだ種の状態ではあるが、植物が持つ天然の優しい緑。それが輝きを放ち、荒野の中に色彩を与えていた。

 

『あれが……』

『木村乙音………ソングの、心に残った希望』

 

  キキカイ達が近づいて観察するが、その種は小さく、更に周囲の赤色に侵食されてしまっていた。バラクが触ろうと手を伸ばすが、その瞬間にバラク自体にも赤色の侵食が迫り、慌てて手を引っ込める。

 

『……やるしかないか。覚悟は出来てるな?』

『当然よ』

『……よし、いくぞ』

 

  3人は顔を見合わせると、深呼吸の後にタイミングを合わせ、3人同時に種に手を伸ばす。

  すると、種の周囲の土から赤色のオーラが噴き出し、3人を侵食してきた! おそらく、取り込んで養分にでもするつもりだろう。デューマンが施した罠であった。

  しかし、それでも3人は手を伸ばすことをやめない。乙音を助けるために。

 

『私達が、これっ、ぐらいで……っ!』

『あん時、真司とボイスからもらった一撃の方が、キツイぜ……!』

『………おおおおおおおおお!!』

 

 

  赤色のオーラの侵食が顔にまで到達しても、3人は決して諦めないし、元からそのつもりもない。1人でも種に触れ、乙音の心を救い出す……!

 

『『『うおおおおおおおおおっ!!!』』』

 

  そして、種に触れたのはーー3人同時。そして3人が種に触れたのと同時に、赤色のオーラが緑と()()オーラによって駆逐されていく。

 

『今の色……まさかカナサキの……?』

『おい! 見ろ!』

 

  ドキがすぐに霧散してしまった青色を追うように空へと視線を移すが、バラクに促されてすぐに種に視線を戻す。すると、種からは強烈な緑の光が発せられていた。

 

『………!』

『これは…………』

『……凄え…………暖かい…………』

 

  その光は、優しく3人を包み込んでいき………

 

 

 

 

 

 ギィン!

 

「がはっ…! ぐっ、く……」

「刀奈! があっ!?」

『余所見とは余裕だな?』

『どうだ?俺達の力は』

「強い……!」

「明らかに、前より強くなってやがる…!」

 

 真司達4人が駆けつけて来ても、状況はディソナンスに有利に動いていた。

 そもそもが大量のディソナンスを病院に近づかせないようにするだけでも大変だというのに、それに加えて7大愛のうち3体が連携をとって襲いかかってくるのだ。ボイスを助け、後方に下がらせることはできたが、それもゲイルとガインが彼女に執着していなかったからだ。

 

「はあっ! ぐっ……うおおっ!」

「攻撃が、通じねえ……っ! テメェら、なにを仕込んでやがる!」

 

 真司がファングの強烈なパンチ力でガインにラッシュを仕掛けるが、逆に彼自身の拳がひび割れそうなほどの衝撃が返ってきたというのに、ガインは全く動じていない。

 ゲイルも同様で、シキがビートチューンバスターをどれだけ撃ち込もうと、全く気にした様子もなく突っ込んでくる。

 

『ハッハァ! スゲェなぁ、こいつは! 俺の身体は無敵になった! テメェらに倒せるわけねえだろうがあっ!』

「ぐああああああああっ!!?」

「シキ! 大丈……がっ!!」

「うああああああああっ!?」

「きゃあああああああ!!」

『俺の攻撃能力も上昇している……貴様等に遅れはもうとらん』

 

 ゲイルの周囲には次元を隔絶するバリアが張られている。そのため、次元を撃ち抜くほどの攻撃でなければゲイルにダメージを与えることはできない。それの攻略に手間取ったシキの身体を、水と槍を操るゲイルの一撃が貫いた。

 ガインは逆に攻撃能力を高めた。防御能力に関しては単純な強化改造で補えるほど元から高かったため、エネルギーの吸収とその放出による攻撃に、更なる指向性と収束性をもたせたのだ。それによって放たれた光線は、シキの悲鳴に反応してしまった真司を焼き、その背後でチューナーと戦っていた刀奈と桜をも吹き飛ばす。

 

「がっ、は……はぁっ……はぁっ……」

『……まだ立ち上がるか』

『チッ! 面倒くせえやつらだ…………おい、チューナー。構わん、喰っちまえ』

『グウルルルルルアアア……』

 

 焼かれても貫かれても立ち上がり続けるライダー達。その姿に面倒になったのか、それとも飽きたのか。ゲイルはチューナーに捕食命令を出す。ハートウェーブだけではなく、その肉体を喰らえ、と。

 泥のようになっていたチューナーの巨体が変化し、人型をとる。しかし黒塗りの体躯であるのは変わらず、全身に無数の口と目が生えたことで、生理的嫌悪感はますます増大した。

 しかし、恐ろしい怪物となったチューナーの姿を見ても、ライダー達の闘志は衰えない。

 

「こんな事で、諦めるわけにはいかない!」

「そうよ……相手がどれだけ強くても、私達は戦ってきた!」

「今まで守ってきたモンを、テメェらみてえな外道にっ! 否定されてたまるかよ……っ!」

「……そうだな。その通りだ」

(……本当はわかっている。今の俺達では、普通のディソナンスの相手すら困難……)

(だが、この内に眠るハートウェーブが尽きない限り……諦めるわけにはいかない!)

 

 よろめく身体を支え合いながら、ライダー達は立ち、武器を構える。装甲はひび割れ、仮面が壊れて素顔が見えかけているが、それでも再び立ち上がる。

『グウ……ガアアアアアアッ!!』

「……っ、来い!」

 

 チューナーが咆哮を上げ、歪な人型の足で大地を揺らしながら迫ってくる。それに対しライダー達は各々の武器を構えーー

 

 バキュウウン!!

 

『ガァッ!?』

「銃声!?」

「ディスクセッターの……まさか!」

 

 銃声が響き、警戒していなかったチューナーの目に銃撃は命中。チューナーは怯み、後退する。チューナーの目を射抜いた銃撃の音は、ディスクセッターから発せられるものだった。

 ボイスはディスクセッターを装着しておらず、今は後方にいるはず。まさかと思い、銃声の鳴った方角へ一斉に振り向くライダー達。

 

「ああっ……!」

「そうか……ようやく………」

「帰って、きたか……!」

「乙音ちゃん!」

 

 

「はい……久しぶりですね、先輩達」

 

 

 手足は細くなっていた。当然だ、眠り続けていたのだから。

 服装も病院服のままだ。慌てて駆けつけたのだから仕方ないが。

 長い……長くなった髪にも白いものが混じり、とても健康体には見えない。

 しかしーーその目に宿る闘志こそが、彼女の復活を告げていた。

 

「……変身!」

 

『Change the Record!』

 

『My song My soul!』

 

 乙音は腰に巻かれたレコードライバーにライダーズディスクを装填し、変身する。

 変身するのは仮面ライダーソング・ベーシックスタイル。乙音のライダーとしての、始まりの姿。

 

「後輩! そんな姿では無茶だ!」

「いや…ゼブラがいないのだから、強化形態にはなれない…………新型レコードライバーはどうした!?」

 

 乙音がベーシックスタイルへ変身したことに驚く真司達。その疑問に答えたのは、乙音の後から来た香織だった。

 

「みんな! 新型レコードライバーの起動には、今の乙音ちゃんのハートウェーブだけでは足りないわ!」

「なんですって!?」

「ディスクセッター! そこから乙音ちゃんにハートウェーブを送り込んで! あなた達のハートウェーブも、乙音ちゃんに託すのよ!」

「先輩達……お願いします!」

 

 そう、新型レコードライバーの起動には、今のゼブラがいなくなってしった乙音1人ではハートウェーブの量が足りない。だからこそ、香織はそう分かると即座に起動のために必要なハートウェーブをまかなうための策を考えた。

 それが、真司達ライダー全員で、乙音にハートウェーブを送り込むという策だ。乙音が変身したのは、ハートウェーブ送り込まれる時の反動と衝撃、そして想定される敵の妨害に対応するために、いま変身できる唯一の姿であるベーシックスタイルとなったのだ。

『ハ……ハハハハハハハハ!! 笑わせやがる! ちっぽけな人間が、他の人間のハートウェーブを取り込むだって!? そんなもん、うまくいくわきゃねえだろ!』

『ゲイルの言う通りだな。貴様等がそこまで愚かだったとは……他者のハートウェーブを取り込む機能をもたせ、実際に取り込んだチューナーは進化を遂げた。だがその末路がこれだ』

 

 ガインとゲイルの言うとおり、心の力であるハートウェーブを吸収するということは、他者の純粋な思念の塊をぶつけられるということに等しい。それを複数人で行おうというのだ、正気の沙汰ではないように映るだろう。多くのハートウェーブを取り込んだが故に理性を失い、ディソナンスとすら呼べない単なる怪物と化したチューナーを知っている両者からすれば、乙音が今からやろうとしているのは盛大な自殺に等しかった。

 

『木村乙音.貴様がそこまで愚かだったとは……せめて俺の手で引導を渡してやろう』

「…………!」

『させるかっ!』

 

 ガインが、溜め込んだハートウェーブをビームとして一気に放出するために、チャージを開始する。それに対応するために構えた乙音の真横を、一発の銃撃が通り抜けた。

 

『うおっ!?』

 

 銃撃はチャージ中のガインに命中し、チャージを中断されたガインはよろめき転がる。銃撃を放ったのは、さっきまで後方にいたはずのボイスだった。肉体はとうに限界を超えているが、デスボイスに変身している。

 

「……ボイスちゃん」

『遅えんだよ、乙音。………オレのハートウェーブも、受け取ってくれ』

「うん……!」

 

 乙音はボイスに自分のディスクセッターを渡し、ボイスもそれを装着する。そして乙音もボイスのレコードライバーをベースに、そのフレーム段階から改造と改修を加えた新型レコードライバーを装着する。

 

『貴様等……正気かっ!?』

「……行きます!」

「全員、一斉にハートウェーブを照射しろ!」

 

 乙音の合図に合わせ、ボイス、真司、刀奈、桜、シキがディスクセッターからハートウェーブを照射する。

 ハートウェーブの光が合わさり、虹色に輝く。その光景は美しいものだが、中心にいる乙音は変身状態であるにもかかわらず胸を押さえ、苦しみ出していた。

 

「ぐっ!? あっ、ぐっ……うううううっ!!」

「乙音ちゃん!」

「止めるな! ……後輩を、信じるんだ!」

『乙音ぇ! 踏ん張れえ!』

「ぐっ……ううううああああああああああっ!!!」

 

 5人から放出されるハートウェーブ。その奔流を乙音は耐えていたが、問題は5人の方にもあった。

 

「くっ……!」

「刀奈さん!?」

「大丈夫だ! ……耐えてくれ、乙音くん!」

(……くそ、やっぱ足りねえか! オレも、限界が近い……)

 

 そう、5人は既に戦闘によって消耗しており、放出可能なハートウェーブの量も少なくなっていた。このままでは、新型を起動させるには少し足りない。

 

『それでも……!』

「あぐうううああああああああああ!!!」

「俺達のハートウェーブ…全てを託す!」

 

 ライダー達が乙音にハートウェーブを送る光景を、ディソナンス達は冷めた目で見ていた。

 偶然で誕生した旧ディソナンスと異なり、ガイン達新ディソナンスは音成の手によって意図的に作られた存在。奇跡を信じる『心』など、持つはずもない。そんな彼等にとって、今の乙音達はつまらない茶番劇を演じているようにしか思えない。

 ゲイルはしびれを切らし、静かに自身の周囲に乙音達を貫くための水流を集め始めた。

 

『……チッ、つまらねえな………やっぱ仕留めるか?』

『そうだな……そう…………いや、待て』

『あ? ………おいおい、こりゃどうしたんだ?』

 

 しかし、ゲイルのその行為は中断される。それはガインが止めたからではない。純粋に、自分が今見ているものに驚いたからだ。

 

「ライダー! 頑張れーっ!!」

「俺達を、守ってきてくれただろー!?」

「ディソナンスなんて、ぶっ飛ばしちまえ!」

「負けるなー!」

「やっちまえぇぇ!!」

 

  いつのまに集まったのだろうか。大量のディソナンスがいるにもかかわらず、多くの人がライダー達に向けて声援を送っていた。

  建物の中から声を送っている人がほとんどであるため、逃げ遅れてしまった人達なのだろう。しかし、黙っていれば少なくとも生存の可能性は僅かにでも上がったはずだ。

  それでも、彼等が声援を送っている理由。それを理解できず、ディソナンス達、特にゲイルとガインは戸惑う。

 

『なんだあいつら……!? ソング達になにを期待しているってんだよ!!』

『なんだ……なんだ、この状況は!』

 

「これは……!」

「みんなが、応援してくれてる…!」

「後輩! 聞こえるかっ!? 俺達の背中を押す声が! お前を支える声がっ!!」

「乙音さん……! 俺達のハートウェーブを、全て!」

『もっていきやがれぇぇぇっ!!』

 

 

「う、ぐ、う………ああああああああああああああああっ!!」

 

 

『なんだっ!?』

 

  その時、乙音の身体に向けて放たれているハートウェーブの光が量を増す。そのハートウェーブの出所は、なんと周囲の人々からのもの。

  彼らのライダー達を応援する声が、思いが、光となって乙音へ集まっていく。

 

「これならっ……! 変身維持分のハートウェーブも回せ!」

「うおおおおおおっ!!」

 

  これに真司達も奮起し、自身の中のハートウェーブを搾り尽くす勢いで放出する。変身維持分までも回しているため、徐々に手足の装甲が解除されていく。最初にダウンしたのは刀奈、その次に桜の変身が解け、シキ、真司、そして最後にボイスの変身が解除される。

 

「どうだ……?」

「うっ、うう……うう、うおおおおおおおおおお!!」

 

  乙音が咆哮を上げる。それは苦しみ故のものではない。みなぎる力を抑え、自分のものとするための叫び!

 

『馬鹿な! 人間にあれだけのハートウェーブを制御できるわけがねぇっ!』

『むうっ!!』

 

  ここに至って、ようやく乙音が大量のハートウェーブを制御しつつあることに気づいたゲイルは驚愕し、ガインは即座に乙音に向けて光線を放つ。それを食い止めることができる者は、真司達の変身が解けたいまおらず、光輝いている乙音の身体が、ドォォォォォン! という強烈な爆発音と共に爆炎に包まれる。

 

「……っ、後輩!」

 

「乙音くん!」

 

「乙音ちゃん!」

 

「乙音さん!」

 

『乙音っ!!』

 

『これで終わりだな……木村……乙音!』

 

  炎に包まれた乙音を見て、愕然とする真司達。しかしその時、何処からか声が響いた。

 

「いいや……まだ、終わってない!」

 

『……なんだと?』

 

「……フ、前にも、こんなことがあったな」

「ああ……あれは、バラクと戦った時だったか」

 

  爆炎が晴れていくと共に、その炎に焼かれたはずの乙音の姿もあらわになる。

  彼女は五体満足でそこに立っていた。変身は解除されているが傷ひとつ彼女にはなく、代わりにあるのは、その目に宿る闘志!

  乙音は新型レコードライバー…… S(ソング)レコードライバーの彼女から向かって右側のレバーを弾き、ドライバーを開く。

  そこにセットするライダーズディスクは、既存のものではない。彼女の身体から虹色のハートウェーブが放出されると、それがひとつの形をとり、新たなライダーズディスクへと変化する。

 

『なんだ、そのディスクは!?』

 

「これが……私達の希望だ!!」

 

【ディスクセェェェット!!】

 

【ドライバー イン ホーープ!!!】

 

  ライダーズディスクがドライバーに装入され、待機音が鳴り響く。そして……乙音は叫ぶ。

 

「…………変身!」

 

 

【オーバー ザ ライド!!】

 

【オーバー ザ フューチャー!!】

 

 

【Yes! ……ソング イズ ホォォォォォプッ!!!】

 

 

  Sレコードライバーから放たれる声と共に、ソングへと変身した乙音の身体より、コォォォン……という音と合わせてハートウェーブの輪が放たれる。

 

『ぐあっ!?』

『おおっ!?』

『グギャアッ!』

「これは……傷が、癒されていく」

『……っ、この、感覚……まさか、オレ……?」

 

  虹色の輪はディソナンス達を吹き飛ばし、ライダー達に癒しを与える。特にボイスは完全にディソナンスとなってしまっていた身体が、人間のものに戻っていくことを感じていた。それも、痛みもなく。

 

「凄え……」

「まだまだ、ここからです」

 

  今の乙音の姿は、白と黒が入り混じった装甲に、足首まである長い腰マントには付箋に乗った音符が描かれている。上半身はそこまで素のソングから変化していないが、肩のアーマーには右肩のものにメガホンの、左肩のものには桜の意匠が盛り込まれており、頭部の形状は通常のソングから大きく変化。丸く大きな両目があり、黒い右目からは牙のようにギザギザとした触覚が、白い左目からは刀のように鋭く反った触覚が伸びている。

  そして額には白黒にではなく虹色に輝く宝石があり、それが日の光を浴びて、神々しい光を放っていた。

 

「仮面ライダー……ホープソング。それが、今の私」

「ホープ、ソング……」

「まさに希望か……!」

 

  Sレコードライバーから、歌が流れ出す。確かに力強い乙音の歌声で、優しさをも感じさせるような歌が。

 

「さあ……希望の歌、響かせる!」

 

 《名も知らぬ誰かが、私の背を強く押す》

 

「ソングーー!」

「頑張れー! いけーっ!」

 

 《だから強く立ち上がれる……前を向いて》

 

『いけっ! テメェら!』

 

  ゲイルの命令に応え、空から陸から無数のディソナンスが乙音に襲いかかる。真司達が数を減らしたとはいえ、その数はやはり多い。

 

 《誰かを失う恐怖。それに……震えても》

 

「後輩! 気をつけろ!」

「乙音ちゃん、必殺技よ!」

「乙音くん、ここは突っ込め!」

 

 《支えてくれる人達がいるから……もう大丈夫》

 

「はあっ!」

 

  乙音が気合を入れて一歩を踏み出すと、変身時と同じく虹色の輪が放出され、それが無数のディソナンスを押し返していく。

 

『なんだと……!』

 

 《最高のソングを、世界に歌ったら》

 

【レコード チェンジ!!】

【ボイス アクト!】

 

「オレの武器!?」

「あれはボイスのライダーズディスク!? 生み出せるのか!」

 

 《心の荒野に、希望の種が……芽生えて》

 

  乙音がSレコードライバーにボイスが使用していたライダーズディスクを装入すると、その手にボイスの武器だったメガホン銃が現れる。

  ライダー達のハートウェーブを受け誕生したホープソングは彼らの使うライダーズディスクを生み出し、それをSレコードライバーに装入する事でライダー達の武器を扱えるのだ。

 

 《闘いのその先に!》

 

【ボイス! ライダー シュート!】

「はあっ!」

 

 《希望がないのなら》

 

  乙音が彼女から向かって左にあるSレコードライバーのレバーを弾き、必殺技を発動。メガホン銃から放たれた巨大な弾丸はディソナンス達だけを傷つけ、爆散させていく。

 

 《自分が希望となって!》

 

 《その先へ進め!》

 

『……ちいっ! 調子に乗るなよ!』

「……!」

 

  ゲイルが乙音に向けて槍を突き出し、乙音はそれを避け、カウンターで蹴りを当てる。しかしゲイルの次元バリアに阻まれ、ダメージを与えられない。

 

「だったら!」

 

【レコード チェンジ!!】

 

 《牙とは研ぎ澄ますもの!》

 

【ファング アクト!】

【ファング! ライダー パンチ!!】

 

『う、うおおおおおお!?』

 

 《信念だってそうなのさ》

 

  乙音がファングの力を使い、ゲイルに拳を叩き込む。手に生えた牙がゲイルの身体に喰らい付き、ハートウェーブを叩き込んで彼の身体を吹き飛ばす。

 

 《さあ最後のその時まで!》

 

『ぐ……あ、くそっ…くそがっ!』

「はあっ!」

『無駄……があっ!!』

 

  吹き飛ばされたゲイルはまたすぐに乙音に向けて駆け、猛スピードで槍を突き出す。しかし乙音はさきほどの攻撃で次元バリアを無効化した。今度は蹴りがクリーンヒットし、建物の壁に激突する。

 

「今だ!」

 

 《声を張り上げ……》

 

【ボイス アクト!】

 

「炎の翼! 私が最近習得した技も…!」

「いけっ! 乙音ぇぇぇぇっ!!」

 

【ボイス! ライダー ツインシュート!】

「うおおおおおおおお!!!」

 

 《Song for you!!》

 

  ダンスが使う炎の翼を広げ、両手にボイスの二丁拳銃『リベリオン』を持ちながら、空へと舞い上がった乙音は、必殺技によって空のディソナンス達を撃ち抜いていく。

  必殺技が終わるころには、空も地上も、7大愛の三体以外のディソナンスは全滅していた。

 

『グギャアガアアッ!!』

 

 《喜怒哀楽の感情が、自分の心作ってく》

 

「キキカイ、バラク、ドキ! あなた達の力も!」

『預けるわぁ! 乙音ちゃん!』

『存分に使え』

『破壊の力で、守ってみやがれ!』

『ガァッ!?』

 

 《たとえそう不協和音(ディソナンス)としても……必要さ》

 

  突進してきたチューナーに対し、乙音はSレコードライバー中央にあるボタンを押す。するとキキカイ、ドキ、バラクの声が響き、3人の力を合わせた波動がチューナーの動きを止める。

 

 《心の中にノイズが……走るなら》

 

「キキカイ!? それにバラクにドキも!」

「良かった……乙音ちゃんの中にいるの!?」

『うふふ、あの後消えるかと思ってたけど……』

『こいつが俺たちを受け入れてくれたおかげでな、今は融合して力を貸してる!』

『私達のハートウェーブも乗せて…行け! ソング!』

「うん!」

【フォースメロディー!】

【ユニゾンシュート!】

 

 《確かな愛をもってさあそれを……砕こう》

 

  乙音がSレコードライバー中央のボタンを押し、それならレバーを弾いて必殺技を発動。乙音の手に出現した槍を宙に放り投げ、オーバーヘッドキックでチューナーへ向けて蹴り飛ばす。

 

 《誰だって心に、絶望抱えてるけど》

 

『ガアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 《それを超える、希望の花が……咲くのさ》

 

  チューナーに槍は命中。その巨体が浮き、建物の壁に縫い止まられる。それを見たガインは、光線を放ちながら乙音に向かい突撃する。その背には新たに追加されたブースターがあり、猛スピードでガインの巨体が突進してくる。

 

 《闘いのその先に!》

 

『ぬああああああ!!』

「………ふうっ!」

 

  《虚無しかないのなら》

 

  ガインの大質量による突進は純粋に脅威である。ボイスや真司でも受け止めるには苦労するであろうその一撃を、乙音は少し息を吐くと、片手で受け止める。

 

『なにっ! なんだと!?』

 

 《自分という歴史を!》

 

 《未来へ重ねて!》

 

【ツルギ アクト!】

 

  乙音は片手で止めていたガインを弾くと、刀奈ーー仮面ライダーツルギの使う刀をその手に召喚する。

 

 《剣とは研ぎ澄ますもの!》

 

【ツルギ! ライダー スラッシュ!!】

「はああああああああああっ!!」

 

 《青空のように澄み渡り》

 

『なっ! うおおおおおお!!』

 

  乙音はツルギの持つ力である高速移動能力を用いて分身し、四方から重ねた剣撃を飛ばしてガインを打ち上げる。

 

 《さあ最後のその時まで!》

 

【ダンス アクト!】

【ダンス! ライダー ハリケーン!!】

「てあやああああっ!」

 

 《踊り続けよう……》

 

『ぐおおおおおお!!』

 

  乙音がダンスの武器を召喚し、必殺技を発動。ストームブレイカーに加え、二基のファイヤーストームブレイカーが3つの竜巻を起こし、それがガインの巨体を呑み込み、傷つける。

 

 《Song go Fight!》

 

『ぐがっ…ぬううう』

「決着をつける……!」

 

  傷だらけになり、地面へ転がるガイン。その姿を見て、ついに最大の必殺技を発動しようとする乙音だが、その時彼女の身体に黒い触手が絡みつく。地面から生えたそれは、建物に突き刺さっていたはずのチューナーから伸びていた。

 

『フシュル……グウルルルルルアア……』

「くっ! これは……!」

「乙音!」

『よくやったぞ、チューナー! …ゲイル!』

『こいつはここで殺してやる……!』

 

  チューナーも槍を抜き、自由になった身でゲイル、ガインと並ぶ。拘束にはゲイルの操る水も加わり、容易には解けそうにない。

  そして捕らえられた乙音に向かって、7大愛三体による一斉攻撃が放たれる。

 

『死ね!』

『ぬおおおおお!!』

『ガァァッアッアァァァアァァ!!』

 

「うわあーっ!」

「乙音さん!」

「後輩ーっ!!」

 

  3つの光線が乙音に着弾し、大爆発が起こる。その衝撃に思わず防御姿勢をとってしまう真司達。そして、爆炎を見てガイン達は勝利を確信する。

 

『ハハ……! なんてこと、ねえじゃねえか』

『これでわかっただろう。貴様達の未来には、絶望しかないと!』

 

 

 《最強のビートで、世界を繋いだら》

 

【ビート アクト!】

【ライダー ビート ブレイク!】

 

 《想 い 巡 る》

 

『!?』

『なっ!』

『!!!!』

 

 《心の音を、響かせ……》

 

  しかし、爆炎の中から再び歌が流れ出すとともに、乙音の召喚したビートチューンバスターから放たれた一撃が、三体のディソナンスを弾き飛ばす。

  響く音は、声は、歌は、途切れることはない。何故なら、この歌は希望という願いを乗せて歌われているもの。この程度で止まりはしない……!

 

「《闘いのその先に》」

 

「《絶望しかないなんて》」

 

「へっ、心配させんじゃねえよ」

「お決まりのパターンだ。最後には希望が勝つ」

「いきなさい! 乙音ちゃん!」

 

「《そんなこと有り得ない》」

 

『グ…グウルルルルルアアアアアアアア!!!!』

『ぬうがあああっ!!』

 

「私達は……」

 《僕等は……》

 

「《必ず!》」

 

  乙音の身体からハートウェーブが放たれ、彼女が虹色の光に包まれる。そのエネルギーは全て右脚に収束していく。そして乙音はドライバーに自身のライダーズディスクを装入し、ついに必殺の一撃を放つ。

 

 《希望のその先に!》

 

【レコード チェンジ!】

 

 《明るい未来が待っている!》

 

【ホープソング アクト! 】

 

 《だからもう恐れない!》

 《みんなと共に!!》

 

【オーバー ソング!!】

 

  乙音の背に虹色の翼が生え、その身体がゆっくりと宙に浮いていく。それに攻撃を重ねて阻止しようとする三体のディソナンスだが、全て乙音の展開するフィールドの前にかき消されている。

 

 《希望とは心より!》

 

「はあああああああ………!」

 

 《願いを込めて歌うこと》

 

『ば、馬鹿な……』

『有り得ない…こんなもの、認めんぞ俺はぁぁっ!!』

『グウアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 《さあその最後を超えて!!》

 

 《歌い続けよう………!》

 

【ソング! ライダー キィィィック!!】

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 《Song is hope!》

 

 

 

  乙音の放つ一撃が、三体のディソナンスを捉える。ガインとゲイルは咄嗟にチューナーを盾にして防ぐが、チューナーはあっさりと無へと分解され、ガインとゲイルも空の彼方へと吹き飛ばされた。消滅してはいないが、しばらくは行動不能になるだろう。

 

「……終わった」

 

「す………「スッゲェェェェッ!! さっすが乙音さん! なー見たか!? 今の見た!?」……うるせえ! このナンパ男!」

「あんだと!? ……あっ、ボイスさん! すみません! でもすごかったすね!」

「……まあな!」

「そうだな……最初の時は、頼りなかったものだが」

「ああ……強く、なったものだ………」

「乙音ちゃん、お帰りなさい」

 

「はい……ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ホープソング、だと?』

『……は、も、申し訳ありません……このような状態で、おめおめと……』

『いや、いい……次は、私自らが出なければならんか』

 





次は久々に設定資料と、オメガの方をそろそろ更新したいと思います。最強フォームも出たしね。
ちなホープソングの簡易なスペック

仮面ライダーホープソング
パンチ力・120トン〜無限
キック力・135トン〜無限
走力・100メートルを0.8秒〜無限
ジャンプ力・ひととび300メートル〜無限
ホープソングはどんな状況下においても『希望』あり続ける能力を持つ。そのため、相手に対抗できない場合、対抗可能になる能力が新たにホープソングに生まれる。ただし、それで絶望を打ち倒せるかは変身者である木村乙音次第。
例:ハイパームテキが敵だ!→ムテキに攻撃を通せるようになる。
RXが無数に!?→こっちは無限のホープソングだ!
が可能。
要は理不尽なチート能力に対して、相手を直接倒さない範囲で理不尽なメタ能力を生やすというものなので、ビリオンやノベルXなどは最悪特殊能力を全て封じられたりする。そしてそもそもホープソングには干渉系能力は効かない設定なので、ノベルXみたいなのは実質勝利不可能ではある。
なお、素のスペック自体はデスボイスより低い。デスボイスというかDレコードライバー系の武器と能力も使えなかったりする。


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希望 VS 絶望

ちょっと書き方を変えました。遅くなって申し訳ない。
夏休みにやっと入ったので、バリバリいきたいですね!(希望)


  あの後、乙音達はてんやわんやだった。

  強大な力を持つディソナンスだと、一般にも知られていた7大愛。そのうちの三体のうち、二体を撃退し、一体は完全に消滅させたのだ。それも、余裕を残した状態で。

  建物から歓声とともに、わっと押し寄せてきた人々をなんとかなだめながら、乙音達はそのまま病院の中へと戻った。……今度は、真司達の怪我の治療である。

  真司達は変身維持分のハートウェーブまでもを乙音に渡したこと、そしてディソナンス相手に粘っていたこともあって疲弊しきっていた。怪我はホープソングの力によって治ったものの、ハートウェーブまでは回復していない。十二分な休息が必要だ。

 

「すまないな後輩、任せてしまって大丈夫か?」

「任せてください! 私こそ、寝てた分を取り戻さないと!」

「ありがとね、乙音ちゃん……」

「いえ。みなさんこそ、ゆっくり休んでてください」

「ああっ……乙音さんにそんなこと言われたら、全力で休むしかねえな……!」

「………おい、誰かオレとこいつを別の部屋にしてくれ」

「まあまあ、仕方ないわよ…ディソナンスのせいで部屋数も足りないらしいし」

「あはは……それじゃあ、私はこれで。またお見舞いに来ますね」

「ああ、すまんな」

 

  真司達のいる病室から見舞いを済ませ、出てくる乙音。いまの彼女は唯一戦えるライダーなので、この後はすぐにワシントンの研究所に戻り、ディソナンスとの戦いに備えるために待機する予定だ。

  ーーと、そんな彼女に通信が入る。相手は………。

 

「……ゼブラ、ちゃん…?」

 

  彼女の携帯に電話をかけてきた相手ーーそれは、死んだはずのゼブラだった。

  乙音は思わず周囲を確認し、人のいる病院内ではこの電話に出るのはマズイと直感。この病院の屋上は開放されていたことを思い出し、そこまで急ぐ。その間、携帯にはずっとゼブラから連続して電話がかかってきていた。

  屋上には真っ白なシーツがいくつも干されていたが、人の姿は見当たらなかった。今は昼だから、おそらく食事で人がいないのだろうと乙音はあたりをつける。彼女自身は既に簡単に食事を済ませていた。

 

「………もしもし」

 

  出てきた声は、乙音自身ですら驚くほどに冷静で、平坦な声だった。その声にどこか人ごとのように感じながら、乙音は相手の発言を待つ。

 

「………………ゼブラちゃん?」

『………確か、こうだったかな? んん……乙音、お姉ちゃん?』

「…………!」

 

  ミシッ、と乙音の携帯が軋む。今彼女の周囲に誰もいないのは幸運だろう。乙女としても人としても、他人には見せられないような表情を浮かべているのだから。

 

「……………なんのつもりだ」

『…もっと取り乱すかと思ったのだが………流石、仮面ライダーソング、とでも言っておこうか』

「…………」

 

  デューマンの挑発に、乙音はなんの反応も返さない。口を開いてしまえば、怨念が湧きだすとわかっているからだ。

 

『……ふ、まあ手短に要件だけ話そう。なんのことはない。攻撃宣言だ』

「………!」

『次は、私自ら襲来しよう。クク………この前のようにいくとは思わないことだ』

 

  そう言うと、デューマンは一方的に通話を切る。彼にはわかっていたのだ。乙音にハートウェーブを託した真司達が、今は行動不能になっているということを。

  ハートウェーブを発見し、ライダーシステムを作り上げた音成の全てを受け継いだデューマンだからこそ、今の乙音達の状況が苦しいものであることは、誰よりも理解していた。

 

「…………ゼブラちゃん」

 

  屋上のフェンスに寄りかかって、乙音は空を見上げる。見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  後日、ワシントンの研究所で、乙音は久々にロイドやショット博士、こちらに来ていた勝など、懐かしい顔ぶれと再会していた。

  各人の反応はさまざまで、勝やショット博士などは静かに乙音の帰還を喜んでいたが、ロイドは涙を流してしまい、珍しく乙音が慌てるという一幕もあった。

  そしていま、乙音は部屋で一人佇んでいた。……いや、正確には一人ではないが。

 

『……なーにしけたツラしてんだよ』

「バラク……ごめんね。私の中にいるあなた達には、苦労をかけてしまって……」

『気にするな。俺達の望んだことだ』

『そうよお〜』

 

  あの戦いの時、乙音を助けるために彼女の心の中へと入ったキキカイ、バラク、ドキの3人のディソナンスは、今も彼女の心の中にいた。

  というのも、彼女の中のハートウェーブはまだだいぶ不安定であり、それを制御するためには彼等の力を借りる必要があるからだ。

  当然、デューマンと乙音の通話も彼等は聞いていたが、あの時は怒りで乱れた乙音の心を鎮めていたため、彼女に声をかけることはできなかった。

 

『それで、どうするつもりだ? あのデューマンって野郎、さっそく攻めてきやがるぜ』

「……大丈夫」

『ふむ?』

「あいつは……私達には勝てないよ」

 

  いくら心の中にいるとはいえ、キキカイ達も乙音の心中を把握しているわけではない。というよりも、プライバシーもあるので、わざと深いところまでは把握していないのだ。

  だから、3人は乙音がなぜデューマンが自分達に勝てないと断言したのかはわからなかった。しかし、それについてはこの3人がとやかく言うことでもない。

 

「……今は休もう。戦いに備えて」

『そうね。そうしましょう』

 

  いま乙音達に出来るのは、戦いに備えて休む事だけだった。

 

 

 

 

 

 

「……乙音さん!」

「ん? むう〜……ロイドさん? ……まさか!」

「はい! デューマンが出現しました!」

 

  あれから少しの間眠っていた乙音だが、ロイドの声に目を覚ます。寝ぼけた頭を頬を叩いて目覚めさせた乙音は、すぐさまデューマン迎撃のために走り出す。

 

「バイク、準備できています!」

「乙音さん、レコードライバーは?」

「もう着けてる。……行ってきます」

 

  デューマンからの宣戦布告は当然、乙音経由で関係者総員に伝わっていた。そのため、今回の出動も準備は既に行われており、乙音がすぐさま万全の状態で出動可能な体勢が整えられていた。

 

『乙音くん、デューマンの出現場所は復興途中のCブロックだ。すぐに向かってくれ!』

「了解……!」

 

  ショット博士をはじめとするサポート陣からの誘導を受けて、乙音は街の中へと向かう。バイクで走ってくる乙音の前方には逃げ惑う群衆の姿があるが、群衆は乙音の姿を認めた瞬間、彼女に道を開く。

 

「ら、ライダーだ!」

「あっちよ! あっちで暴れてる!」

「俺達を助けてくれー!」

「………! ありがとうございます!」

 

  群衆の中を掻き分け、駆ける乙音。そして、ついに彼女の眼前に敵が現れた。

  だが、その敵の正体はデューマンではない。かつて戦闘記録で見たことのある7大愛のひとり、『五指の弾丸(ファイブシューター)』フィンだった。

 

「……!? デューマンじゃない!」

『木村乙音か……! ボイスの前に、貴様を嬲り殺しにしてくれるわ!』

 

  あいも変わらずの残忍さだが、以前デスボイスにやられた時のことが、デューマンによって修復を受けた今でも尾を引いているのか、その声色に以前のような落ち着きはない。

  必死さを声に滲ませながらその指から光弾を放ってくるフィン。乙音はその光弾をかわしつつ、変身を行う。

 

「行くよ……!」

【オーバー ザ ライド!!】

【オーバー ザ フューチャー!!】

【Yes! ……ソング イズ ホォォォォォプッ!!!】

 

  バイクに乗ったまま変身した乙音は、その上に立って後方へ宙返り。その瞬間、バイクを蹴ってフィンへと飛ばす。量産型だからいいだろうという発想である。

 

『ナメるな!』

 

  もちろん、7大愛であり、しかも射撃型のフィンにこの攻撃は通じない。彼の光弾を受け、爆発するバイク。その爆炎に紛れて、ホープソングへと変身した乙音の高速キックかフィンに放たれる。

 

『ぐおっ!?』

「7大愛の1人、フィン。……お前の戦闘記録はボイスちゃんと電車で戦った時のを見たけど、今の私なら、1人でも倒せる!」

『くっ………やってみるがいい!』

 

  フィンがその両手の指から、容赦なしに光弾を連続して放つ。ガトリングのように発射されるそれは、明らかに以前、ボイスと戦闘した時よりも強力なものになっているが、乙音は慌てることはないとばかりに悠然と構えると、ホープソングの腰のマントを操り、それでフィンの光弾をガード。隙を見て、右肩のアーマーからハートウェーブの光線を放ち、光弾を打ち消してフィンにダメージを与える。

 

【レコード チェンジ!】

「はあっ!」

『かっ! ぐおっ!?ぐああっ!!』

【ツルギ アクト!】

 

  乙音はツルギの持つ刀を呼び出すと、高速移動で一気に近づき、連続でフィンの身体を切り刻む。

  たまらず吹き飛ばされて転がるフィンに対し、乙音は一切の容赦を見せず、追撃の一撃を放つ。

 

【ツルギ! ライダー ギガスラッシュ!】

「くらえええっ!」

 

  巨大化したツルギの刀を振り下ろす乙音。フィンは咄嗟に防御体勢をとるが、その時、フィンと刀の間に何者かが滑り込む。

 

「フンッ!」

「………っ!?」

「ほう……これがホープソングの力か」

「その姿………!!」

「やあ、この姿で会うのは初めてだね……木村乙音」

 

  滑り込んできたのは、ゼブラの身体をしたデューマンだった。デューマンはフィンの手をとり立たせると、乙音に向かって拍手を送る。

 

 パチパチパチパチ

 

「いや、まさかここまでとは思わなかったよ……。この私でも、弾くのに苦労するとはね」

「……戯言を」

『デューマン様………』

「………変身」

【パーフェクトチューン!】

【デス エンド ソング!!】

【ディスパー!!!】

【オォォォォバァァァァァラァァァァァァイド!!】

 

  仮面ライダー・ディスパーへと変身したデューマンがフィンに向け手をかざすと、彼の肉体がみるみるうちに修復されていく。

  その力に警戒を強める乙音。その彼女を見つめるデューマンの姿が一瞬陽炎のように揺らめいたかと思うと、次の瞬間には乙音の背後へと回っていた。

  デューマンの能力の一つである、テレポートだ。短距離を連続して一瞬で移動可能なそれは、人間大のモノどうしの戦いにおいては、かなりの脅威となる。

 

『まずは、一発』

「……っ!?」

 

  ツルギの能力である高速移動をもってしても反応できず、乙音はデューマンのキックをマトモに頭部にくらい、軽々と吹き飛ばされる。ビルを貫通しながら吹き飛ぶ乙音の頭上に今度は転移し、再びキックをくらって、乙音は地上に叩き落とされた。

 

『……もう終わりか? ホープソングといっても、期待ハズレだったかな?』

「……ぐ」

 

  うめき声を上げ、立ち上がろうとする乙音。その光景を見たデューマンは肩をすくめ、その直後、彼女の背後に右足を高く振り上げた状態で出現する。

 

【カーテンコール!】

『……死ね』

【ライダー エンド ソング!!】

 

  断頭台のギロチンの如き鋭さと勢いをもって、乙音の頭部に向けて振り下ろされる必殺の一撃。確実に彼女の命を奪うことだけを目的とした、殺意の塊のような攻撃を前に、乙音はーー

 

「ナメ………るなあああっ!!!」

【フォースメロディー!】

【ユニゾンシュート!!】

 

  乙音は即座に自身の中に眠るディソナンス達の力を集め、混ぜ合わせると、それをそのままデューマンの放つ一撃に向けて叩き付ける。

  乙音の拳とデューマンの蹴りが衝突する。弾かれたのはーー

 

『……馬鹿な!』

「ううおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

  乙音の拳がデューマンの足を弾き、そのまま彼の胴体部に直撃。乙音の叫びとともに発せられた力によってデューマンの肉体は浮き上がり、今度は彼がビルを貫通しながら吹き飛んでいく。

 

『があっ!!』

『デューマン様!』

『な、何故だ……何故、こんな力が、あんなモノに!!』

 

  必殺技を弾かれ、動揺するデューマンにフィンが駆け寄るが。彼を起こそうと伸ばされた手を払うと、そのまま立ち上がる。一見ダメージはなさそうに見えるが、その精神的動揺は大きいようだ。

 

『馬鹿な………『僕』のディスパーは最強のはず……そもそも、あのソングは特殊能力を使えないはずだ!』

「まだ……わかってないみたいだな」

『!!!』

 

  穴の開いたビルの中から、瓦礫を一歩歩くごとに避けさせながら、乙音が現れる。彼女の表情は仮面に包まれて伺いしれないが、デューマンにはわかった。彼女の視線に宿る強さが、微塵も揺らいでいないということが。

 

「お前のそのレコードライバーの能力……特殊な能力を封じるみたいだけど、残念ながら私には効かない」

『馬鹿な……何故だ!』

『ふふん、それはね〜』

『俺達がいるからだよ!』

『その声………貴様ら、裏切り者どもか!』

 

  乙音の身体の中から響くキキカイ達の声。デューマンは一瞬、なぜ人間の心の中にディソナンスがいるのか理解できずフリーズするが、すぐに思考を切り替える。そして、なぜ自分のDレコードライバーの能力が相手に効かないのか、理解した。

 

『……ディソナンスの力か!』

『そうだ。……私達3人と……カナサキの力。これによって、お前のDレコードライバーの能力によるSレコードライバーへの干渉を防いでいる』

『ならば、貴様等をその小娘の身体から叩き出せば……』

『おっと、意味ないぜ? そもそも、お前のDレコードライバーがほかの特殊能力を封じれるのは、レコードライバーもディソナンスも、音成が作ったものだからだ』

 

  そう、Dレコードライバーが他のライダーやディソナンスの能力を封じることが可能なのは、そもそもが他のレコードライバーやディソナンス自体、ほぼ全てDレコードライバー開発者である天城音成自身の手によって作られたか、解析されたものであるからだ。

  ーーSレコードライバーは、音成以外の人類の知恵と科学。その総力をもってして作られたものである。そもそもが能力の効きも少なく、その僅かな妨害すら、キキカイ達3人の力で防がれていた。

 

『ならばっ!!』

 

  デューマンが乙音に向けて手をかざす。Dレコードライバーの機能の一つである、ディソナンスを痛めつける能力を使用するつもりだろう。だが、なにも起きることはない。

 

『………なんだと!』

「…希望は、折れない。私が前に体験したことだ。このホープソングの力で、その能力は既に対策済みだ!」

 

  ホープソングの能力により、ディソナンスを痛めつける能力は完全に対策されている。もうその能力を使っても、乙音自身はおろか、デューマン自身が生み出したディソナンスすら痛めつけることはできないだろう。

 

『……貴様!』

「邪魔だあっ!!」

 

  乙音に自身の主人を愚弄されたとでも思ったか、フィンが光弾を放ちながら突貫する。しかし乙音はエモーショナルハートウェーブを生成して拳に纏わせると、突っ込んできたフィンにカウンターパンチを浴びせ、吹っ飛ばす。

  自身の横を吹っ飛んでいくフィンを気にも止めずーーいや、気にする余裕すらないデューマンは、乙音に向かって駆け出す。

 

『ぬうううううあああっ!!』

「……っ、はあ!」

 

  転移からの高速パンチに、しかし乙音は対応する。それを避けたうえでデューマンの腹に拳で一撃。少し下がった彼の頭部にキックを一撃。最後にサマーソルトキックを顎に浴びせ、大きく後退させる。

 

『ぐっ………』

「デューマン、お前は恐れている!」

『なんだと!? この、ぼ……私が、なにを恐れているというんだ!』

 

  乙音の放つ連続攻撃をなんとか捌くデューマンだったが、先ほどまでと比べ明らかに反応が遅れており、既に数瞬の攻防で明確に押されてしまっていた。

  その後退は焦りを生み、焦りはさらに後退と隙を生む。

 

「お前は、私達を始末するために7大愛を送り込んできた……いくら強化されているからとはいえ、お前自身が来た方が確実だったのに」

『それは………』

 

  乙音が言葉と共に殴りかかる。それをデューマンは腕を交差して防御するが、一撃を防いでも、大きく後退してしまう。

 

「お前が3年という猶予を人類に与えたのも!」

『ぐうっ!?』

 

  一撃。乙音のパンチでデューマンのガードが解かれる。

 

「私達の始末を7大愛に押し付けたのも!」

『があっ!?』

 

  二撃。乙音のキックでデューマンの体勢が大きく揺らぐ。

 

「ゼブラちゃんの肉体を使い続けるのも!」

『ううおっ!?』

 

  三撃。乙音が生み出した槍が、デューマンの肉体を切り刻む。

 

「そもそも、その身体になったのも……!」

『………!』

 

  四撃。乙音のキックによって、デューマンの身体が大きく吹っ飛ばされる。

 

「全ては、恐れていたからだ! 私達という……希望を! そして……仮面ライダーを!」

【ソング アクト!】

【ソング! ライダー ダブルストライク!】

『ぐうああああああああああ!!』

 

  2人に分身した乙音が、デューマンにライダーキックを放つ。

  左右からのキックに対応できず、デューマンはその攻撃をモロに喰らって吹っ飛び、ビルの壁に衝突する。

 

『がっ……』

「そして………もうわかってる。お前の正体は」

  『わ、私の……正体?』

 

  乙音の言葉に、地面に膝をつきながら戸惑うデューマン。それは乙音の中のディソナンス達も同じだぞ。

 

『デューマンの正体? 乙音ちゃん、何を……』

『……まさか!』

「そう……デューマンなんて名前を変えても、お前の全ては天城音成から受け継いだもの……いや、違うな。お前の中の意識は全て、天城音成のもの! お前こそが天城音成なんだ!」

『…………!』

 

  乙音の指摘に、膝をついていたデューマンーーいや、『天城音成』はピクリ、と肩を震わせる。

  ぷるぷると震えていた彼だが、やがて堪えきれないとばかりにバッ、と起き上がると、その口から悍ましいまでの爆笑、笑い声を発した。

 

『フ……フハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ!! …ハー………答えろ、いつから気づいていた?』

「電話の時だ。……お前は、私の心を苦しめようと、ホープソングを弱体化させようとゼブラちゃんの声色で電話をかけて来た。……でも、それが仇となったな。急に声を変えたのは慣れなかっただろう? ……すぐに、話し方が音成そっくりだと気づいたよ」

『……そんなことからバレるとはね。……くそっ、今日は僕の負けかな』

 

  そう言う音成の声色は、デューマンのものとも、ゼブラのものとも違う。彼本来の持つ声だった。

 

『……木村乙音』

「…………」

 

  その声のまま、彼は乙音の名を呼び、彼女を見据える。いまこの瞬間、天城音成はようやくはっきりと認めたのだ。木村乙音こそ、自身の目的の前に立ちはだかる、最大の敵だと。

 

『…僕の目的は、自身の限界を突き詰めること。だが、そのためにはお前と……この惑星そのものが邪魔なんだ。僕は、こんなちっぽけな星に収まる器じゃない』

「……だから、滅ぼすのか!」

『そうさ。理解できないかい? フフ……ハハハ、それが君の『限界』だよ』

「……お前は…」

『……悪いが、今日は疲れたんでね。ここまでにさせてもらおうか!』

 

  音成がパチン、と指を鳴らすと。彼の後方から巨大なエネルギー弾が連続して乙音に放たれる。フィンによる攻撃なのだろうそれを咄嗟に後方に避ける乙音だったが、着弾時の衝撃で吹き上がった煙幕によって、音成を見失ってしまう。

 

『もうすぐだ……もうすぐこの星を滅ぼすほどの兵器が完成する! その時……君達と決着をつけよう! 仮面ライダー!』

「ぐっ……待て!」

 

  煙幕を振り払う乙音だったが、その時には既に音成は消えていた。

 

『……逃げられたか』

『チッ、卑怯な野郎だな。相変わらず』

『それで乙音ちゃん、どうするのお?』

「……先輩達ももうすぐ復帰できる。多分、その時が……」

 

「私達仮面ライダーと、天城音成の…決着の時になる」

 

  瓦礫の街の中で、音成がいた場所をじっと見つめる乙音。

 

  ーー決戦の時は、近い。





もうガバガバじゃねーかお前ん家の展開ぃ!
次回からついに決戦となります。本当に長かった……


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シンフォニー・アタック

戦闘ほぼなしってウソだろお前!
その代わり次回は場合によっちゃ前後編だぁぁぁ!


「天城音成……やはり、最後まで立ちはだかるのはヤツか」

「はい。……もう大丈夫なんですか?」

「へっ、それをお前に言われたくはねーよ。……安心しろ。無茶してない」

 

  先ほどの戦いの後……三日後、回復した真司達にさっそくデューマンの正体を伝えたい乙音は、現在ワシントンの研究所でライダーで集まって会議をしていた。

 

  会議といってもそうかしこまったものではなく、ただ単純にお互いの近況について話し合ったり、お互いの様子を確認しあっている程度だ。もちろん、音成の襲撃がいつあるかもわからない現状、攻めて来た場合どう迎撃するかという作戦会議は行なってはいたが、それ以外にすることもなくーーー決戦前の僅かな時間でライダー達が選んだことは、最期に後悔しないようにすることだった。

 

「先輩って好きな人、いるんですか?」

「んなっ!? な、なにを……ま、まあいるには……「誰ですか!?」うおぅ!」

「それは……気になるな」

「か、刀奈まで……」

「そうだそうだ。たく、なんでこんな朴念仁ばかり……俺の方がイイ男だろうに……」

「……そういうとこじゃない?」

 

  ーー例えば、下らない恋愛話だとか。

 

「刀奈。この戦いが終わったらショッピングに行かない? ーーあんたの服装センス、どうにかしないと……」

「!? わ、私はいいだろう! それよりもボイスの方が……」

「いや、オレとお前を一緒にするな。……ゼブラに服選んでやったりもしてたからな? オレ」

「なん、だと……!?」

「ーーはあ。とにかく、決定ね」

 

  ーー例えば、この戦いに『生き残った後』の話だとか。

 

「みんな、ご飯作ってきたわよ〜。今回は私達特務対策局特設料理班が腕によりをかけて作ったーー和食よ!」

「和食か……味が薄くて俺は「わー! 私、和食好きなんです!」好きだぜ! アメリカ料理の味の濃さに飽きてきてまして!」

『いいなあ……私達も食べてみたいわね』

『……出来ればの話だがな』

『ーーま、そうだな』

 

  ーー例えば、とりとめもない……本当に着地点もない会話を楽しんだりだとか。

 

  ……これまで、乙音達は僅かな時間を精一杯生きようとした。

  戦ってきてばかりの彼女達ではあったが……乙音は3年前まで、普通の女子高校生だった。

  今は特務対策局に属し、ドキとも交流のある湊美希との友情も、『仮面ライダー』としてではなく、素の『木村乙音』という少女の繋がりから生まれたものだ。

 

  ……だが、真司とは、刀奈とは、桜とは、シキとは、ボイスとはーーーそして、ゼブラとは……いや、香織や勝に猛といった特務対策局の人達とも、そしてショット博士やロイドのようなアメリカの研究者達とも……心の中にいる、キキカイにバラク、ドキ達との奇妙な縁もーーその全ては、『仮面ライダー』として戦わなければ……仮面ライダーになっていなければ、手に入れることの出来なかった、ものだ。

 

「……卑怯、だよね」

 

  ーーその夜、乙音は独りだった。

 

  キキカイ達は、いない。彼女達が自分に黙って何かの準備を進めているらしいのに、乙音は感づいていた。なんたって既に自分の一部なのだ。一部が全体を把握出来なくても、乙音という全体はキキカイ達という一部の全てを知る事が出来る。もっとも、彼女達が何を考えているかまでは、『他人の心』の領域だ。……乙音に推し量ることは出来ない。

 

「………………」

 

  乙音の悪いクセとして、独りになると考え過ぎてしまう、というものがある。……ゼブラもそうだったし、いつか出会った未来の乙音だってそうだった。要は、1人で抱え込んでしまうのだ。

 

  乙音にとって、いや世界にとって、天城音成とは憎むべき敵だ。……だが、彼の作ったライダーシステムと、彼の実験によって偶発的に、あるいは意図的に生まれたディソナンスという脅威がいなければーー乙音は今の乙音にはなれなかった。

 

「…………寝よ」

 

  余計な事を考える前に、乙音は眠りについた。

 

 

 

 

 

  翌日。相変わらず音成側から動きはなく、いつも通り警戒しつつも、ゆっくりと時間が過ぎていた頃……

 

 

 ーー星が、揺れた。

 

 

「な、なんだ!?」

「揺れ……!? それも大きい!」

 

  轟という音ともに、激しい揺れが乙音達をーーいや、アメリカはおろか、日本や中国といった世界中を襲った。

 

  すぐさま音成の仕業と感づいた乙音達は部屋から飛び出し、研究所内の一室、衛星からの映像や写真を受け取る部屋へと向かう。

 

  元々は研究に必要なデータを受け取るための部屋だが、アメリカがディソナンス達の占領下にあった時、ディソナンス達の詰める基地などを特定するために使われていたのがこの部屋だ。もっとも、相手側の妨害でほぼ使い物にならなかったが……。

 

「香織さん! やっぱりここでしたか!」

「乙音ちゃん達………まずはこれを見て」

 

  揺れが激しくなる中、香織が乙音達に見せたのは撮影衛星からの写真だった。

 

  その写真には太平洋ーー地球のど真ん中とも言える位置の海に円形の『穴』が開き、その穴の中から巨大な兵器がせり出してくる様子が、連続した写真の中に写っていた。

 

 ドォォォォォ……

 

「うっ! …揺れでどこかの建物が崩壊したわね」

「香織さん、あれは……!?」

「待ちなさい真司君。今、ショット博士達が解析しているよ」

「局長!? ……こちらに来ていたのですか」

 

  部屋の影からのっそりと現れた特務対策局局長、本山猛。彼の背後に控える香織の兄、大地勝は冷静に謎の兵器について考察する。

 

「……あれが恐らく、天城音成の兵器であるというのは全員が予測出来ている事だと思う。………問題は、あれがなにを目指して作られたものなのか、だ」

 

  そう呟く彼の後ろから、ドタドタという音と共に駆け足で部屋に飛び込んできたのはショットとロイドの博士親子だ。彼等が手に持つファイルには何やら難解そうな数式が乱雑に書き込まれているが、それを一瞥もせず息を整える間も無くショットは喋りだす。ロイドはまだ息を整えているようだ。

 

「た、大変じゃ…あ、あの兵器、を……あのままにしておけば………っ、ち、地球が滅びる!」

「な………」

 

「「「「なんだってーー!?!?!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーその日の深夜。ワシントン軍基地。

 

「ライダー達の搭乗は?」

「完了しました。ビート部隊は、もしもの時のために都市部で避難所を守っています」

「よし…あと一時間で出発だ! これが最後の戦いになるぞ……」

 

  音成の最終兵器の発動に対して、アメリカと特務対策局の対応は迅速なものだった。

 

  まず世間には音成達の情報は隠し、激しい揺れについては未曾有の大災害と発表。それでも世間は混乱するものだが、これはホープソングに変身した乙音が、少しだけではあるが『揺れ』を止める場面を見せることである程度収まり、その間に対ディソナンス用に作られた『災害』シェルターへと人々を収容した。

 

  そして、ライダー達は研究所から素早く移動すると、すぐに出撃準備を整えた。……急な出撃で、少し数を集めるのが遅れたが。なにせ目標となる兵器にはディソナンスの大群が防衛のため詰め掛けているとい予測されており、少し前に攻撃を仕掛けた戦闘機部隊はあっさりと迎撃されて全滅した。

 

「……全員、準備はいいな?」

『バッチリです! みんな乗り込みましたよ!』

『ああ。…迎撃範囲ギリギリで変身して、()()()()()()()()……そういうプランだったな?』

「ああ。……これが、最後の戦いになるだろう」

 

  ライダー達は乙音から、音成が『もうすぐこの星が滅ぶほどの兵器が完成する』……と捨てゼリフを吐いて撤退していたのを、事前に聞いていた。

 

  ショット博士達による解析研究の結果、あの巨大兵器は星のコアまで到達した後、何らかの手段を用いて()()を刺激してーー星を爆発させるようなものだということが判明した。

  もう既にあの兵器は深くまで掘り進んでいるようだ。この作戦が失敗すれば……後はないだろう。

 

『おい、作戦名はどうする?』

『作戦名? ……んー…ヘブンズドア作戦とか?』

『適当に言っただろ。……軍じゃあこういう時、気合いを入れるために作戦名をつけるもんだ』

『それこそ適当言ってない?』

『うっせ。……で、どうする? 最後の決戦だ。作戦名ナシ、ってのも味気ねえだろ』

 

  シキからの提案に、真司はそうだな、と返して頭を悩ます。そうは言っても、刀奈も真司もそういうものには慣れていない。さて、どうするかーーそう思った矢先、通信機越しに乙音の声が聞こえた。

 

『……あ、それじゃあ』

『何だ? なんか案浮かんだのか? 乙音』

『……うん。作戦名はーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこれより、作戦名『シンフォニー・アタック』を開始する!」

 

  太平洋上空。無数の戦闘機が編隊を組む中、全体の指揮を担当する戦艦艦長が、通信機越しにそう号令を飛ばした。

 

「今回の作戦における我等の役目はただ1つ!『仮面ライダーを無事、敵の元まで送り届けること』だ! ーー全員、死ぬ気で行くぞ!」

 

  世界に名だたる軍事国家であるアメリカ選りすぐりの兵士たち。彼等が操る兵器群が、太平洋上で星を侵食しようとする敵巨大兵器へ向けて攻撃を開始した。

 

 キィィィィ……

 

「艦長! 敵巨大兵器より巨大な熱源を感知! ビーム兵器による迎撃です!」

「なんだと!?」

 

  しかし、アメリカ軍の兵器群ですら話にならないとばかりに、稀代の天才が作り上げた巨大兵器は牙を剥く。その全身に備えた対空砲で戦闘機群を撃ち落とし、ビーム砲で戦艦達をことごとく蹴散らしていく。

 

「うっ……す、凄まじい………」

「ディソナンスの迎撃は?」

「ありません。内部で待ち構えているのでしょうか……」

「……いや、ないなら好都合だ」

 

  ライダー達はいま、上空の戦闘機にも、海上の戦艦の中にもいない。ならばどこにいるのか? 上空にも海上にもいないなら、答えはただ一つーー

 

「ーーミサイル、発射されました!」

「よしっ!」

 

  海中の潜水艦から、敵巨大兵器へ向けてミサイルが発射される。しかし敵巨大兵器はそのミサイルに対して()()()姿()()()()()()()。何故ならば、ミサイル程度ならば容易く防いでしまうバリアが張られているからである。本来ならば敵への迎撃機能も不要だが、それは仮面ライダーへの対策と、人的被害を増やし、乙音達ライダーに無力さを覚えさせようという天城音成の浅はかな狙いによるものだった。

 

  『ミサイルにリソースを割くならば、敵の効率的な殲滅を行う』。そうするよう自動迎撃プログラムを組まれた巨大兵器だったが、それこそが仇となった。

 

「……情報通りか!」

 

  アメリカ軍はこの情報を、先の戦闘機部隊による攻撃で、部隊の全滅と引き換えに得ていた。ーーライダー達の力もあるならば、取る策は一つしかない。

 

「ミサイルの外装、パージします!」

 

  潜水艦より発射されたミサイルの数は3本。そのミサイルは天高く打ち上がり、巨大兵器上空まで到達してーーそこで、その真の姿をあらわにする。

 

「武運をーー祈る!」

 

  その願いの言葉とともに、全体の指揮を執っていた艦長の乗る戦艦は爆発した。沈みゆくその残骸を月光が照らし出すその時、彼等の姿も現れる。

 

 

『『『Over the Song!!』』』

 

【カーテンコール!!!】

 

【オーバー ザ ソング!!!】

 

 

『【ライダー! シンフォニーアタァァァァック!!!!!】』

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」」

 

 

  バッ!とその身を翻してミサイルの中から現れたライダー達の一撃が、巨大兵器を包む次元隔絶障壁ーーバリアにヒットする。

 

  本来ならばあらゆる兵器、あらゆる存在の干渉を許さないはずのその障壁が、ホープソングを中心としてライダー達より広がる虹色のハートウェーブに侵食されていき、ギャギャギャギャギャという音を立て、ついに砕け散る。

 

「おおっ!」

「やった! 作戦の第1段階は成功だ!」

「後は……彼女達に賭けるしかない………」

 

 

「行きましょう! この中に天城音成がいるはずです!」

「よし……!」

 

  ライダー達の中で単独で飛行可能なのはダンスとホープソングのみだが、幸いダンス、そしてソングが射出可能な武器であるファイヤーストームブレイカーとストームブレイカーを用いることによって他ライダー達も飛行が可能となる。

 

  コマのように激しく回転するその上に乗って、ライダー達は上空より敵の弾幕を抜けて巨大兵器内部に突入していく。

 

  その様子を見つめながら、アメリカ軍は徐々に後退していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「内部は相当深いな……もうかなり潜っているはずだが」

「地球の中心まで届く兵器だって話だろ? そりゃ……相当なもんでしょうね」

 

  内部に突入してから30分が経過したが、未だ迎撃のディソナンスはおろか、底すらもまだまだ見えてこない。

 

  巨大兵器内部は薄暗く、壁には不可思議な紋様が描かれている。古代遺跡のようなその雰囲気が、ライダー達に薄気味悪さを感じさせていた。

 

「ディソナンスが敷き詰められてるもんだと思ってたけど……そうでもないわね」

「油断するなよ。足元から砲撃が来るかもしれん」

 

  真司が警戒を促した矢先、彼の足元から高速で砲撃が飛来し、彼の乗っていたストームブレイカーに直撃する。

 

「うおっ!? うおおああああああああ…………」

「先輩!? うわっ!」

 

  次に狙われたのは乙音で、彼女の乗っていたストームブレイカーが真横からの突然の砲撃によって破壊される。

 

「くっ、でも………おおっ!?」

 

  飛行して落ちるのを避けようとした乙音だったが、上空から落ちて来た何かに捕まえられ、そのままその何かと共に落ちていく。高速で落ちたその物体を捉えられたのは刀奈とボイスだけだった。

 

「あれは……ディスパー!? 天城音成か!」

「なんだってアイツが!」

「……まさか!」

 

  ここで桜はあることを思い出す。それは、以前突入した音成の空中要塞についてのことだ。

 

  あの空中要塞は音成自身の意思によって自在に操作され、その構造すらも変化していた。もし、あの要塞が進化したならばーー

 

「……危ない!」

「へ? おおっ!!?」

 

  桜は咄嗟に、手に持つ武器をシキの頭上に向けて振るう。いきなりの行動に仰け反るシキだが、桜の武器に弾かれたものを見て今度は顔をーー見えないがーー青くした。

 

『ハハッ、やるなあ……』

「! お前は……」

「7大愛の1人、ピューマ!」

 

  桜に弾かれたのは無数のクローンとその飛行能力でライダー達を苦しめてきた7大愛の一体、ピューマだった。頭上からシキを襲った彼だが、奇襲を防がれたことに驚いた様子だった。

 

『成る程………音成様がホープソング以外にも警戒しろと言ったのも頷ける強さだ』

「……まだ手が痺れてる………あんた、これまでのピューマとは違うわね。オリジナル、ってやつ?」

『ハハッ、そうさ……僕自身がこうして戦うのは初めてだけど、僕の兄弟達はお世話になったみたいだね………お礼がしたいってさ!』

 

  ピューマがその翼から白い羽を撒き散らし、ライダー達の視界を塞ぐ。それを武器の一撃で払う彼女達だが、その瞬間、大勢のピューマのクローン達に襲われてしまう。

 

『『『『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』』』』

 

「うわっ」

「おおおお!? な、なんだこりゃ!」

「ええい! 鬱陶しい!」

「………チッ!」

 

  四方から空中戦を得意とするピューマのクローンに襲われてはたまったものではない。シキは真司と同じく落とされ、その最中に姿を消し、刀奈は壁に押し付けられてそのまま中へと消えた。

 

『意外と粘るなあ!』

「こなくそー!」

「………ふっ!」

 

  桜はなんとか姿勢を保てていたが、彼女にはピューマ本人が襲いかかり、ボイスはピューマの群を蹴散らすと、自ら壁の中へと刀奈を追うように飛び込んでいった。

 

「あ!? ちょっと!」

『隙あり!』

「きゃあっ!」

 

  ボイスの方に意識をとられた隙を突かれ、桜はファイヤーストームブレイカーの上から叩き落される。しかし彼女は背から炎の翼を出すと、その翼を振るってピューマのクローン達を焼く。

 

『隠し玉?』

「みんなどっか行っちゃったもの………これぐらいハデにやっても、迷惑はかからないってものよ!」

 

  気合一閃。桜は炎の翼をめいいっぱいに広げると、上に乗る者がいなくなって自由になったファイヤーストームブレイカーを両足に装着する。

 

「さてーー私のライブに付き合ってもらおうかしら!」

『そっちこそ、この僕の輝きに酔いしれるといい………来い! お前達!』

 

  ピューマはクローン達を呼び寄せる。その動きに警戒して何体かを焼く桜だが、その焼かれたクローンも含め、全てのピューマ・クローンが彼の中に取り込まれていく。

 

「あんた……それは……」

『フフフ……強化形態となった君たちを各個撃破するにあたって、音成様は素晴らしい機能を用意してくれてね』

 

 

 

 

 

 

 

 ーー巨大兵器内部、深層

 

「ここは……」

『待ちかねたぞ……ライダー。貴様は……ファングか』

「お前は……!」

 

 

 

 

 ーー巨大兵器内部、上層外周

 

「うぐっ! 壁からここに……???」

『フハハハハハハハ! 私の相手は貴様か!』

「……面倒な相手が来たな!」

 

 

 

 

 ーー巨大兵器内部、下層

 

「くそっ、あいつら……乙音さん達とはぐれちまったな」

『テメェか……ニューヨーク以来じゃねえか!』

「……! 成る程。各個撃破のつもりかよ!」

 

 

 

 

 

 ーー巨大兵器内部、中間地点

 

「ここは……やっぱヘンなとこに出たか」

『ボ、イス……オオオオオオオオオオオオオ!!!』

「……おいおい、正気を失ったか!」

『グオオオオオオオッ!』

「いや……こいつは!」

 

 

 

 

 ーー巨大兵器内部、最下層

 

「ぐっ…どこ? ここ……」

『やあ……待っていたよ』

「! ……お前は」

 

 

 

 

 そしてーー巨大兵器内部、上層

 

()()()()()()()()()()()()()()()……少しばかり自我が薄れるのが欠点だけど、これで僕等は際限なく強くなれる!』

「……イかれた機能ね!」

 

 

  6人のライダー達と対するは、5体の怪人と、1人の狂気。

 

 

「ーーガイン!」

『速さをと力を!手に入れた俺の……俺の一撃を受けてみるがいい! ファング!』

 

 

「エンヴィー! お前の速度では、私は捉えられない!」

『フハハハハハハハ! それはどうかなぁ!?』

 

 

「ゲイル……ここでお前をぶっ倒して、アメリカの人民の恨みを晴らしてやるぜ!」

『やってみやがれええええええっ!』

 

 

「……フィン。テメェ、チューナークラスのディソナンスと一体化しやがったのか……!?」

『ボ、イ、スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

 

 

「……………………」

『そう睨まないでくれたないかい? 君の中のディソナンス達も……』

『天城、音成……』

『ライダーとディソナンスにまつわる、全ての……』

『全ての、元凶!』

「……私は、あなたを許さない!」

『……僕がなぜ、君に許しを請わなければならない?』

 

 

「いくよみんな! ……希望の歌、響かせる!」

 

『閉幕の時だ……絶望の音を響かせようか!』

 

 

  今、決戦の時ーー

 

 



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OVER THE WIND

今回の戦闘描写。挿入歌演出がなければ一週間早く仕上げれました(半ギレ)。
そのぶん、たぶん熱くなってると思います。
……挿入歌の歌詞、後書きに書いといた方がいいかな?


【レコード チェンジ!】

【ファング アクト!】

 

「うおおおおおおっ!!」

 

【ファング! ライダー オメガパンチ!】

 

  ホープソングに変身する乙音の拳から、巨大な拳状のエネルギーが、仮面ライダーディスパーに変身する天城音成へ向けて放たれる。

 

『はっ! そんな攻撃で!』

 

  しかし音成はその一撃を自身の足元の地面を操作して巨大な壁を出現させ、自分はその上に乗って高く飛び上がった。

 

『はあっ!』

「くっ!」

 

【ソング アクト!】

【ソング! ライダー ストライク!】

 

  高低差を利用しての急降下キックに、乙音は必殺技のひとつを咄嗟に発動して対応する。乙音の身体が飛び上がり、空中で音成のキックと乙音のキックが激突する。

 

「ぐううううっ!」

『はああああああ……』

 

  バヂィッ!!という音と共に両者とも弾かれ、音成は天井へ、乙音は地面へと叩きつけられる。

 

  ……が、音成の方は天井の壁をゴムのように柔らかくし、激突の衝撃を和らげるとともに弾かれるように勢いづけ、地面に埋まる乙音を襲う。

 

『乙音ちゃん!』

「わかってる!」

【ツルギ! ライダー スラッシュ!】

 

  キキカイに言われるまでもなく、乙音は必殺技を用いて音成を迎撃する。無数の斬撃を音成に向けて飛ばすと、高速移動を用いて飛び上がり、新たに必殺技を発動する。

 

【ダンス アクト!】

【ダンス! ライダー ハリケーン!】

 

「はあああああああっ!!!」

『ぐっ!』

 

  巨大な竜巻を3本発生させた乙音は、先に飛ばした斬撃を竜巻の中に巻き込み、更に勢いづけて音成を襲わせる。そしてこれで終わりではない。ここで仕留めるつもりで、乙音は更に畳み掛ける。

 

【ボイス アクト!】

【ボイス! ライダー ツインシュート!】

「くらえっ!!」

『………!』

 

  乙音が手に持つ二丁の拳銃から放たれる無数の光弾が、斬撃の竜巻に呑まれる音成に向けて飛んでゆく。

 

  並みのディソナンスはおろか、7大愛クラスでも消し飛ぶであろう連撃を放ち、地面に降り立つ乙音。だが……

 

『はあっ!!』

「…………っ」

 

  音成の身体から緑色の閃光が放たれ、竜巻が吹き飛ばされる。ゆっくりと降り立ってくる音成に対し、乙音は怯む身体を動かし、拳を振るう。

 

【ファング! ライダー パンチ!】

「でやあっ!!」

『ちいっ』

 

  ツルギの高速移動と、ファングの強烈な拳撃。それを組み合わせた一撃が音成に向けて放たれるが、彼はそれを真っ向から迎撃する。拳と拳が激突し、エネルギーが火花を散らす。

 

『はあっ!!』

「ぐっ!? ううううう……」

『……ソングが、パワー負けをしている……!?』

『マジかよ……!』

『フハハ……僕はこの兵器を通して、この星そのものから力を吸い上げている! お前達ライダー如きが……敵うはずが……なぁい!』

「があっ!!??」

 

  音成の力が倍増し、ぶつかり合っていた力の均衡が崩れた。拳を弾かれた乙音は音成の拳をまともに胸に受け、その場で片膝をつく。

 

「がはっ……ぐ、うう………」

『乙音ちゃん!! くっ、やっぱり……』

『ふふふ………君に、いや君達に良いものを見せてあげよう』

 

  音成はそういうと乙音の身体を適当に放り投げ、壁に向かって手をかざす。すると鈍い音と光とともに壁が四角形にせり出し、それが巨大なスクリーンとなって、ある映像を映した。

 

「……はっ、つ、先輩!?」

『桜! 』

『刀奈! テメェ何やってんだ!』

『シキ・ブラウン……』

 

  巨大なスクリーンと化した壁に映し出されたのは、この巨大兵器内で戦うライダー達の姿だった。……だが、彼等は乙音と同じように苦戦していた。

 

「ぐっ、か、硬い……!」

『貴様如きの牙が! この私に通るものか……』

 

  真司は強化態となったガインの更なる頑強さと、強烈なパワーに苦戦し。

 

「がっ! ぐっ!? ……っ、わ、私よりも……速い!?」

『アハハハハハ!!そらそらそらそらそら!』

 

  刀奈は自分よりも速くなったエンヴィーの剣撃に対応しきれず、その身体を徐々に切り刻まれ。

 

「この! 鬱陶しい……わねっ!」

『おやおや? 何処を向いているのかな?』

「えっ……うあっ!?」

 

  桜はピューマの飛行速度を捉えきれず、四方から嬲り殺しにされ。

 

  『オラオラオラオラ!! どうしたぁ!? あぁ? 俺をぶっ飛ばした時の威勢は……よおっ!!』

「がっ……ぐ。……へっ、今から、逆転しようと、思ってたところだよ…!」

(こりゃ…まずいな)

 

  シキはゲイルの喧嘩殺法に叩きのめされていた。

 

「くっ、なんで………強化形態なら、7大愛とも互角以上に渡り合えるはず!」

『ましてや一対一……確かにそうだが、そんな事をこの僕が理解していないとでも?』

「…やはりお前か! 天城音成!」

 

  激昂して立ち上がる乙音に対し、音成はあくまで余裕さを崩さず、その指を鳴らしてスクリーンに映る映像を切り替える。

 

  そこに映し出されていたのは、ディソナンスがディソナンスを喰らい、その力を増し、姿を醜く変質させていくという凄惨な現場だった。

 

  しかも酷いのは、ディソナンスはおろか、人から見ても残酷に過ぎるその行いを、画面の中の新ディソナンスーー音成によって作られたディソナンス達は、吸収される側も、吸収している7大愛達も、皆一様に『笑顔』を浮かべているのだ。

 

『す、すべて、は……音成様の、ために……』

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

『これで……僕はもっと美しい身体を!』

 

 

『うっ……!』

『テメェ! 俺達を…ディソナンスをなんだと思っていやがる!』

『僕がいなければ存在しなかった哀れな命にして、都合のいい駒……といったところかな? ま、君達は僕に肉体を提供してくれたゼブラ君と違って、単なる邪魔者に過ぎないけど』

『………外道!』

 

  ディソナンスという存在を、いや、生命そのものを極限まで冒涜し、貶めるような音成の行いと、それを喜んで享受する7大愛に、キキカイ、バラク、ドキの旧ディソナンス生き残りの3体は怒る。……だが、今ここで最も怒っているのはーーー

 

「貴様ァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

  ーー乙音が、槍を構えて斬りかかる。

  我を忘れるほどに怒る乙音。咄嗟にドキがその感情を抑えようとするが、音成に対しての乙音の怒りはとどまるところを知らなかった。

 

「うわあああああああああああああっ!!!」

『はっ! 甘い甘い! ……なあ? 乙音お姉ちゃあん?』

『……乙音! あんた冷静に………』

「ここで……殺す!」

 

  ゼブラの声色すら使って挑発してくる音成に対し、乙音はキキカイの制止も聞かず、ただ槍をがむしゃらに振り回す。

  その攻撃はどれも振るだけで地面を抉り、遠くの壁をも切り裂くほどの威力を持っていたが、音成に対しそんな攻撃は通用しない。

 

『ハハッ! では君にもうひとつ、素敵なプレゼントだぁ!』

「何を…「があああああっ!!?」……っ、ボイスちゃん!?」

 

  音成に攻撃しようとした瞬間、ボイスの悲鳴を聞いた乙音は動きを止めてしまう。そして声の方向へ向いた乙音が見たものは、不定形のドロドロとした形状の化け物に捕らわれ、電撃を浴びせかけられるボイスの姿だった。

 

「ボイスちゃん!!」

『前回あまりにも役立たずだったからね………彼、フィンにはチューナーを参考に特別な処置を加えたんだ。ま、代わりに自我が完全に崩壊してしまったけどね。いいんじゃないかな?』

「……お前」

 

  もはや乙音の怒りは限界に達している。しかし、映像内で化け物に苦しめられているボイスの悲鳴か耳に届くせいで、集中できていない。

 

『グウアア……アアアアアアァァァァァァァァ!!!』

「ああっ! うあ! ああああああああああああ!!!」

『ハハッ、ボイスもあんな女らしい悲鳴を上げられたんだねえ! 天才である僕でも知らなかったよ』

「黙れぇぇぇぇ!!」

【ソング! ライダー ストライク!】

 

  ここで焦った乙音は必殺技を発動し、音成を仕留めようとする。しかし、音成はその動きを完全に予測していた。

 

『ハハハハ……甘いって言っただろう?』

【カーテンコール!!】

【オーバーライド!!!】

【ライダー エンド ソング!!!!】

 

 

  乙音の放つ必殺の蹴りに合わせ、音成も必殺技を発動。白と緑の光が衝突するが、白の光は緑の光にあっさりと押し負け、吹き飛ばされてしまう。

 

「ああっーー!!」

 

 ドゴォォッ……!!

 

  壁へと吹き飛ばされた乙音は、そのまま凄まじい勢いで衝突。変身も解除され、地面へと倒れ伏した。

 

「あっ、ぐ、うう……」

『乙音ちゃん! ……くっ、でも、今は……!』

『どうすんだよ、おい!』

『くっ…………』

 

  うめき声をあげる乙音も、動揺し焦るするキキカイ達も、その全てが眼中に無いかのように……音成は壁に映し出されたモニターから響く破壊音とライダー達の痛烈な悲鳴をバックコーラスに、まるで歌うように喋る。

 

『そもそも、君たちライダーの変身システムは僕が作ったものだ』

 

『どうしたファング! その程度かハッハア!』

「がっ…ぐ、うおおおっ!」

 

『その僕が作り上げ、強化したディソナンス達と……』

 

「意識が……血を、失い、過ぎたか……?」

『どんな気持ちだぁ〜? んん? ツルギ! 私は気持ちがいい!』

 

『この星を破壊し、宇宙へと飛び立つための巨大兵器の中で戦う』

 

『いい加減堕ちなよ!』

「誰が……あんたなんかにっ!」

 

『しかも、僕がその兵器を思いのままに動かせる状態で!』

 

「攻撃が、通用しねえ……!」

『ビートチューンバスターを撃たせるかよ!』

 

『来るしかなかったとはいえ……こんな状況で勝てると思うなんて、まさに絶望的に君達は、愚かだぁぁぁっ!!』

 

  その叫びに呼応するかのように、巨大兵器内部を緑のエネルギーが駆け巡っていく。……この星を構成する核へと到達しようとしているこの兵器は、既に惑星一つを消滅させるのに必要なほどのエネルギーを吸い取っており、今、地上では砂漠化現象の急速な促進に加え、森林の草木が異常な速度で枯れ果てるなど、多くの異常現象が発生していた。

 

  この惑星が消滅していない理由はただ一つ。ライダー達を圧倒し、絶望させるためだけに、音成が自身とディソナンスへと吸収したエネルギーを優先的に回しているに過ぎない。

 

  Dレコードライバーを身につけていないディソナンス達は、いかに7大愛の強靱な耐久力をもってしてもいつかパンクするだろうが、それならそれで構わないと音成は考えていた。

 

  彼は倒れ伏す乙音の髪を引っ掴んで無理やり顔を上げさせ、言う。

 

『木村乙音。以前君が言ったように、確かに僕は恐れていた! 仮面ライダーを、君達人類の中にある希望を!』

「ぐ………う………」

『……!!』

 

  痛みに顔を歪める乙音が、それでも自身の手首を掴み力を込めるのを見て、音成は彼女を乱雑に転がすと、見事なバックステップで離れる。

 

『おっと、危ない危ない。君達は何を起こすかわからないからね……こうして封じ込めさせてもらうよ!』

 

  音成が乙音に向け手をかざした瞬間、乙音が倒れている地面が隆起し、そこから現れた触手に乙音の身体は捕らえられる。そして、彼女の背後からせり出てきた十字架に、触手によって乙音は縛り付けられた。

 

『な! ヘンタイ……!』

『テメェ!』

『身動きがとれなきゃ、関係ない……! ハハ、ハハハハハハハハハハ!! これで僕の勝利は、揺るぎないものになる!』

 

  縛り付けられた乙音の腰、そこにあるSレコードライバーへ手を伸ばす音成。いくらライダー達の闘志が不滅のものであっても、音成の変身するディスパーに対抗できるのは、乙音が変身するホープソングを除けば、ボイスが変身するデスボイスのみだ。……Sレコードライバーを失ってしまえば、乙音達には万に1つも勝機はなくなるだろう。

 

「………っ! く!」

 

  乙音もそれはわかっていて、だから生身でも必死に体を動かし、音成の顔を蹴ってそれを防ごうとする。もちろん効果はなく、むしろ音成の優越感を高めるだけだ。

 

『フフ……ついに、ついに!』

 

  そして、ついに音成の手がSレコードライバーへとかかった時……。

 

 

「なに、やってんだよ……!」

『………あ?』

「乙音……!」

 

 

  ーー声が響いた。

  その声の持ち主は、さっきまで苦しんでいたはずの…いや、今も映像の中で理性なき獣と化したフィンに捕らえられ、苦しみ続けているボイスだった。

 

  彼女も、いや、ライダー達全員が、音成と7大愛によって互いが苦しむ様を今の乙音のように目撃させられていた。

  ……しかしその様を見てもなお、ボイスの声色からは確かな闘志が滲み出ていた。

 

「お前、ゼブラを助けたくねえのかよ……! 香織やロイド……残してきたアイツらの願いに応えたくねえのかよっ!」

「ボイス、ちゃん………」

「お前はその程度じゃねえだろ、乙音! お前は……!」

『……黙らせろ、フィン!!』

 

  何故だろうか。ボイスの言葉に言いようのない不快感と嫌悪感を感じた音成は、フィンにボイスをさらに苦しめるように指示する。その指示を受け、更に多量の電撃を流されたボイスは『ああっ、うぐっ!』という声を上げて苦しむが、すぐにまた喋り始める。

 

「お前は……! オレの………私のっ! 心も…この身体だって、救って、くれたじゃねえか!」

『フィン! ……どうしたっ!? 早く黙らせろ!』

『グウウウウウウウウ……』

「がっ! あぐっ! ぐ、うう………オレ、は………オレは、負けないっ!!」

 

  フィンの身体から湧き出る触手に首、胴体、腕、脚……身体の部位ほぼ全てを絡め取られ、さらに電撃を流し込まれるボイス。それでも彼女は止まらず、宙吊りの状態でも抵抗を続ける。

 

「だから、乙音………お前も、お前も負けるな!」

 

  ボイスはその手の中に専用の拳銃『デスブレイカー』を出現させると、触手に向かってがむしゃらに撃ち込む。そして思い切り触手を叩くとたまらずフィンは苦しみ、彼女を拘束から解放した。

 

「ボイス、ちゃん……」

『………フィィィンッ!!』

『グウルルオオオオアアアアアアアッ!!!』

「うあっ!?」

 

  音成の叫びに応えるようにフィンはその身体を徐々に人型に変化させ、その過程で生まれた腕と拳を用いてボイスを攻撃。不意をつかれた彼女は吹き飛ばされ、変身も解除されてしまう。

 

『よし……! 他の7大愛は、どうだ!?』

『ハハハ!! 音成様、ご期待には応えておりますよ! 今! 現在!』

「みんな!」

 

  ボイス以外のライダー達も、乙音達と音成のいる広い空間の壁に、それぞれ7大愛と戦う映像が映し出されている。その映像の中でライダー達は、全員が窮地を迎えていた。

 

  真司はガインの装甲を攻撃し続けていたが、拳から生えている牙が折れてしまっているのに、ガインの身体にはかすり傷程度しか攻撃を食らった跡がない。そのうえ、彼自身は強烈な拳を喰らい続けている。

 

  刀奈はもっとも酷い状態で、変身した状態だというのに、足元に血だまりができてしまっていた。今も手に持つ剣を支えに膝で立つような状態だ。

 

  桜は奮戦してはいるものの、背の炎の翼は明らかに小さくなり、三基のブレイカーもいつのまにか宙を飛ばなくなっていた。

 

  シキは装甲を着込んでいるために6人のライダーの中でもまだ動ける方だが、ゲイルが甚振っているような状態で、いつ彼の槍が心臓を貫くかもわからない。

 

「……俺だけの力では、無理か。しかし……」

 

「参ったな……奴のスピードには、対応しきれない。だが…」

 

「…一瞬のチャンスも、くれないなんてね………!けど…」

 

「チッ……一か八か、かよ。でもよ……」

 

  圧倒的な力に、なすすべもなくやられるしかないように見えるライダー達。だが……

 

 

「「「「ここで、諦めてたまるか……!」」」」

 

 

  ーー彼ら、彼女らの顔に浮かぶのはただ1つ。『絶対に諦めない』という意思のみである。

 

『……馬鹿な、どうして、諦めない?』

『そうそう。切り札の木村乙音は音成様に打ちのめされ、君達も僕らに散々にやられてるっていうのに……さあっ!』

『グウウウウウウウオオオオオオ!!』

 

  その意思に対し、困惑や嘲笑、敵意といったさまざまな反応を返す7大愛。しかし、彼らの中にその意思を理解できた者はいなかったーーーそして、それが彼らの限界なのだと叫ぶように、ボイスは再び立ち上がった。

 

「わかんねえなら、テメェらの、負けだな……!」

 

【Dレコードライバー!!】

【レディー、オゥケイ!?】

 

  変身解除の時、共に外れてしまっていたDレコードライバーを装着し直すボイス。音成の趣味によってつけられたシステム音は、以前のーーホープソングの力で助けられる前の彼女には、自らディソナンスに……忌み嫌っていたはずのバケモノになろうとする自分を、嘲笑っているかのように聞こえていた。

 

  しかし、今は違う。乙音の中にいるキキカイ達との交流もあるが、彼女はやっと認めることが出来たのだ。

 

  ボイスはライダー達の中でも、特に乙音と、ゼブラと親しかった。……というよりも、彼女達の方からボイスに積極的に構っていった、というのが正しいが。

 

  だからこそボイスはある事実から目を背け続けていた。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という簡単な事実である。

 

  カナサキによって人為的に生み出されたディソナンスであるゼブラは、普通のディソナンスと違う。そう考えていたボイスだったが、同じく人為的に生み出された新型ディソナンス、特に7大愛の残虐さと悪辣さとーー乙音を助けたキキカイ、バラク、シキの乙音や真司、桜達との、一度戦った相手との絆を見て、こう思った。

 

「ーー生命は、違うんだ」

『? 何を、言って……』

「オレ達生命はーー違うんだ。親とか、生まれた理由とか………環境とか、育った経緯とか、仲間や他の種族との交流とか…そういう、ひとつひとつは単純な組み合わせで、築いてきた歴史と、紡いできた絆で…変わるんだ。………変えられるんだっ!」

 

  そう叫ぶと、彼女はDレコードライバーを起動する。しかし、ダメージがまだ残る身体にはドライバーから流れ込む力は毒なのか、バヂバヂィッ!!という音とともに身体に電流が流れ、ボイスは苦しみ、その美しい顔を歪める。

 

「ぐっ……! ううっ! あっ!」

『そんな体で! ……Dレコードライバーを用いた変身に耐えられるわけがない! ましてや、7大愛最強となった、フィンに勝つなど! 彼はいま、オーバライド時の今の僕と同等の戦闘能力を有しているんだぞ!』

 

  音成は心の中の不安を払うように、映像越しにボイスに向かって叫ぶ。彼の言う通り今のフィンは単純なスペックもそうだが、その変異能力などもあり、オーバライド時のディスパーと等しい戦闘能力を有している。今は基地の中で、音成のみがこの基地を操れるようにしてあるため、戦えば音成が勝つだろうが、何もない平原での戦いならば、フィンの方が有利に立つだろう。

 

  そして、ボイスだけでなく、桜以外のライダー達は柱など身を隠す場所のない、ただ広いだけの部屋に転移されている。桜も空中戦を最も得意とするピューマと空中戦を強いられているため、全員が地形的に大きく不利な状態だ。

 

  そんな状況で、変身もマトモにできない状態で、勝てるわけがない。そう音成が考えてしまうのも、しょうがないかもしれない。

 

  しかし……

 

 

「ううっ、うっ………うう、おおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

  ボイスが雄叫びを上げ、その身体から赤黒いオーラが爆発的に放出される。そのオーラはボイスを狙っていたフィンを吹き飛ばし、人型を取ろうとしていたその身体を、下半身のみではあるが再び不定形の怪物へと変化させる。

 

『グウウウ……!!』

『なん、だと……!?』

 

「…………変身!!」

 

【仮面ライダーデスボイス!!】

【オーバーライド!!!】

 

  Dレコードライバーからまばゆい閃光とともに、強大なエネルギーが放たれる。その光は輪となってボイスを包み、その姿を変化させていく。

 

『……馬鹿な。以前オーバライドした時、通常のデスボイスから姿は変化しなかったはず……だというのに、なんなんだっ!? その……姿は!』

 

  ……以前、一度だけボイスがデスボイスに変化した時、そのパワーは通常時と歴然の差があったものの、装甲の形状などに変化はなかった。

  しかし、今のデスボイスは違った。ボイスの意思にDレコードライバーが応えた結果……今の彼女は、普段のデスボイスの赤黒く禍々しい姿でなく、銀と赤の入り混じった装甲に丸い複眼を仮面に備えた、ホープソングにも似たような姿となった。

 

  神秘性すら感じさせるその美しき姿は、変身前の白く長い髪を備えた少女を彷彿とさせるようなものだった。

 

【ブレイクリミットッ!!!】

 

「そんなもん、オレが知るかよ……」

 

『……僕は、そんなシステム音声を鳴らせるような構造に…こんな奇跡が起こるはずが………ないっ!』

 

「ディソナンスが生まれたのだって、奇跡みたいなモンだろ………おい! 真司、刀奈、桜、シキ!!」

 

「なん、だ……」

 

「……もういっちょ、『奇跡』ってやつをこいつらに……見せてやろうぜっ!!」

 

  ボイスのその咆哮に、真司達はフッと笑って応える。彼女から見て、そこまで言われなければ立ち上がれないように自分達は見えているのかと、そう思いーーそれが無性に、可笑しく思えたからだ。

 

「そうね……こんなヤツらに、これ以上好き勝手させる道理はない!」

『…!! いきなり、パワーが増した……』

 

「悪いが、俺は今も逆転への布石を打っていてな! ……だが、そうだな……『生き残る』という奇跡に、賭けてみるか」

『なにを言っている? ……貴様らは、なんなんだ!』

 

「…一瞬の、その閃光に賭ける!」

『スピードを上げていくぞ! これで万が一もない!』

 

「ハッ、無茶苦茶言ってくれるけどよ………美人さんの頼みを、断るわけにゃいかねーよなぁ!?」

『なにがだぁぁっ! さっさと死ねや!!』

 

  目に見えてライダー達の放出する力が、ハートウェーブが上昇していくのを見て、音成だけでなく7大愛も焦りだす。そして、その光景を見る乙音もまた、静かに奇跡を起こそうとしていた。

 

『なんだ………この事態は僕の想定と理解の範疇を超えている!』

「くっ、うう……」

(!……乙音ちゃんのハートウェーブが………ホープソングの力無しで、変異している!)

(これは、ガインの纏っていた障壁を打ち破った時と同じ……)

(…音成は気づいていないようだ。これならば!)

 

  そして、乙音のハートウェーブの高まりに合わせるように、ボイスはその鼓動を高鳴らせる。

 

 

  高鳴る鼓動は力となり、歌となり、鳴り響く歌は奇跡を起こす鍵となる!

 

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

『グウルルオオオオアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

  咆哮を上げ、拳を握り激突する両者。フィンは黒く赤く……まるで以前までのボイスのような人型の形状になっているが、その複眼は真っ黒に染まり、その姿も邪悪で歪んだ意識を表しているかのように醜いものとなってしまっている。

 

  その湧き出るパワーは強大の一言だが、ボイスは怯まない。鳴り響く歌と自身の衝動に従い、真っ向からフィンを迎え撃つ!!

 

 《地獄のような町で 荒野のような心》

 

「うおっ!! らあっ!!」

『グアアア!!!』

 

  フィンと取っ組み合って殴り続けるボイス。そして真司もまた同じく、装甲が圧縮された結果、身軽さとさらなる硬さを手に入れたガインを崩すべくその牙を突き立て続けていた。

 

 《涙ひとつ、流れて……》

 

「うおおっ!!」

『脚の牙まで使うか! どうやら、貴様の終わりは近いな!』

「………どうかな」

 

 《これじゃ君を守れないよ》

 

  反対に防戦一方なのはシキだ。これまでの戦闘で、彼が相対するゲイルを覆っていたバリアは、他ディソナンスとの融合の結果消失したことは把握できていた。しかし、ビートの武装ではビートチューンバスター以外、ゲイルに決定打を与えることはできない。

 

 《壊れかけた世界 壊れていた心》

 

『おらどうした!? そのデカい武装、使わねえのかぁ!?』

「はっ! 使わせてくれないくせによお………うおおっ!!」

『over beat shoot』

 

  ビートの左腕に装着されたディスクセッターから、ハートウェーブの光が放出される。しかし、今のゲイルにはそんな攻撃は通用しない。それでもビートチューンバスターを構え攻撃しようとするが、突っ込んできたゲイルに攻撃され、操作を中断させられてしまう。

 

 《哀しみすら枯れ果て……》

 

「…やるしかねえかっ!!」

『はっ! 何を企んでるか知らんが、終わりにしてやる!』

 

 《その時優しさに救われた》

 

  ふらふらと立ち上がり、あえてノーガードでゲイルの攻撃を待つシキ。

 

  対して、ボイスはパンチをフィンに連続で打ち込むが、フィンは徐々に怯まなくなっていく。

 

 《だけど…優しさに包まれる》

 

「こなくそぉぉっ!!」

『グウオオオオ!!!』

 

 《それだけでは、前には進めない》

 

  フィンがボイスの手首をつかみ、片手で彼女を乱暴に振り回して投げ飛ばす。それでボイスが呻くなか、真司はある一点のみを狙ってガインを攻撃し続けていた。

 

「これで、どうだあっ!?」

『そんな牙で、俺の装甲を貫けるかぁーっ!!』

 

 《この力でその意思の 代弁者になってやる》

 

  真司はガインの猛烈な勢いで放たれたパンチを避け、カウンターでその胸部に拳を叩きつける。

 

  既に牙は折れている。だが、その心はーー

 

「う……らあっ!」

 

 《そうオレの名は『ボイス』》

 

  投げ飛ばされたボイスは咄嗟にデスブレイカーを出現させ、フィンに銃弾を撃ち込む。その銃弾がヒットした瞬間と時を同じくして、真司の拳が、ガインの胸部装甲についにヒビを入れる。

 

『馬鹿なーー』

「うおおおおおおああああ!!!」

 

 《声を上げ続けていく!》

 

  真司の咆哮とともに放たれたキックがガインの身体を吹き飛ばす。そしてその時、ゲイルの繰り出す槍を弾いたシキの腹に、ゲイルの腕が抉り込まれるようにして突き立てられた。

 

 《高鳴りゆくこの鼓動込めて》

 

「ぐあっ……!」

『終わりだぁぁぁ……!』

「そいつは、どうかな……!」

 

 《一撃! 必殺! ぶっ放せ!》

 

  ゲイルの唸り声にも痛みにも怯まず、シキは突き立てられたゲイルの腕を掴むと、ビートチューンバスターのレバーを口元の装甲に引っ掛けて操作し、必殺技を発動する。

 

 《どんな敵だって 打ち砕くのさ》

 

『ボリュームアップ!』

『超音!』

「うおらあああああっ!!!」

『ぐうっ!? がああああああ!!!』

 

 《Destroy!!》

 

  ビートチューンバスターから形成されたチェーンソー状のエネルギーがゲイルの肉を抉り、その身体シキが振り抜くのに合わせ吹き飛ばし、転がす。そしてその隙を見逃さず、シキはビートチューンバスターにディスクをセットする。

 

『オーバーチューン!』

「ビート部隊、全員の思いの込もった特別製ディスクだ……!」

『ボリュームマックス!!』

 

 《そうさ相対的に絶対的な》

 

『over the song!!!』

「これで決める……!」

『rider devil fang!!!!』

 

  そして、同時に真司も吹っ飛ぶガインを追って、必殺技を発動していた。それはボイスも同じで、フィンの攻撃に対処するべく必殺技を出す。

 

 《『強さ』と『思い』で立ち向かう》

 

【カーテンコール!!】

「くらえ!!」

『がアッ!!!!』

【ライダー アカシック イレイザー!!!】

 

 《そう今仮面纏って》

 

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」

 

  咆哮を上げ、必殺技をそれぞれ放つ3人。シキはゲイルに砲撃を撃ち込みながら突進し、真司は自分自身を巨大な牙と化して、ガインに激突。ボイスはフィンの放つエネルギー砲と必殺技が拮抗した。

 

 《希望を胸に さあ……》

 

『馬鹿な……! 馬鹿な!! こんな! 音成っ……』

『嘘だろ! クソがあああああああああああああああっ!!!』

 

  壁を突き破り、底の見えない空洞へと飛び出るシキとゲイル、真司とガイン。必殺技を喰らったゲイルとガインは、それを喰らいながら、それぞれ真司とシキの下敷となって落下していった。

 

 《OVER THE WIND!》

 

 バゴオッ!!

 

「ぐうっ!?」

『ゴアッ!!』

 

  拮抗していたエネルギーが弾け、爆発音と共に吹き飛ばされるボイスとフィン。

  爆発の衝撃に彼女達のいた場所の地面が崩落し、身動きのできない空中へと放り出される2人。それでも壁に捕まったボイスとフィンは、その壁を走り降りながら戦闘を続行する。

 

  そして、桜と刀奈の戦いもまた変化を迎えていた。

 

 《夢の中でもがく 夢のようにあがく》

 

「……スゥーー……」

『どうした? 死ぬ覚悟を決めたか!』

 

 《夢のために生きても……》

 

「……このタイミングで!」

『翼を消した? 死にたくなったのかい!』

 

 《キャンバスは真っ白なままで》

 

  刀奈は目を閉じて座り込み、桜は自ら炎の翼を消した。刀奈は広い空間の中央部での行動で、桜は位置的にピューマの下での行動だ。どちらの行動も、対峙するエンヴィーとピューマは正気のものとは思えな買った。

 

『だが、油断なく切り刻んでやろう!』

 

 《途切れない痛みと 途切れたくない熱さ》

 

『油断はしないよ! 僕の弓で一気に仕留めてやる!』

 

  これは自分を誘う罠だと結論づけた2体は、それぞれ得意の獲物を構えて得意の戦法をとる。これまでも散々2人に浴びせかけてきその戦法は、エンヴィーは単純な超スピードによる剣撃。ピューマは高所からの爆撃と、単純だが強力なものである。

 

  しかしーー

 

 《築いてきた歴史が》

 

(………まだだ。まだ、『遅い』)

(まだ、引きつけて……!)

 

 《自分の『今』を創ってる》

 

  2人の行動は、確かにピューマとエンヴィーを誘う罠だった。だが、彼等がとった行動は完全に2人の予想通り。

 

  彼女達は待っていたのだ。2体の注意が、自分だけに向く時ーーつまり、最後の一撃を決めようとする瞬間を。

 

 《君が……紡いできた絆が》

 

『グオオオオオオオッ!オオッ!!アアッ!!』

「翼……!? 改めて、厄介なのを相手にしたもんだ!」

 

 《世界の明日に、奇跡起こす鍵》

 

  フィンはボイスと共に穴を駆け下りながら、互いに互いへ銃撃を撃ち込んでいた。しかし、フィンはこの状況でボイスの優位に立つために、翼を生やし、自由な飛行手段を手にしてみせた。

 

  ボイスが追い込まれるなか、刀奈と桜は、ついに最後の一撃を受けようとしていた。

 

『ハハハハハハハハハハハハ!!!! 終わりだあ!』

(……!!)

 

 《戦うと決めた時 真実が始まる》

 

『堕ちなよぉぉぉっ!!!』

「……かかった!」

 

  ーーだが、彼女達はそのピンチをチャンスにする。

  渾身の力を込めた必殺の一撃には、必ず隙が生まれるーー彼女達はそこを突く!

 

「………ここだ!!」

「穿ちなさい! ストームブレイカー達!!」

 

 《この思いで終わらせる……》

 

『『!?』』

 

  桜が戦いの中で気づかれぬよう壁の中に埋め込み、今まで機を待っていた三基のブレイカー達が飛び出し、背後からピューマの翼と腹を貫いた。

 

『ば、馬鹿な……僕が翼を失うなんて!』

 

 そして時を同じくして、刀奈は最高速度に達したエンヴィーが避けられないタイミングで居合を放ち、手に持つ剣を、深々と相手の心臓に突き刺した。

 

『ぐふっ………な、なに………』

 

 《絶望の連鎖ここで!》

 

「「ああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

  刀奈と桜、2人の咆哮が重なり合う。刀奈は必殺技を発動しながら、剣をエンヴィーに突き刺したまま、壁へ向け猛ダッシュ。桜は背から炎の翼を再び展開し、ピューマの伸ばす手を避け、彼の上をとった。

 

 《重なりゆく鼓動赤に染めて》

 

『『over the song!!!』』

「「これで……終わりだっ!」」

 

『rider God blade!!』

 

『rider phoenix strike!!』

 

 《百発! 百中! ぶっ放す!》

 

  刀奈の必殺技は壁を打ち壊し、深淵へ続く深い穴へ、刀奈はエンヴィーと共に落ちていく。その間、彼女は光輝く剣を両手で掴み、渾身の力で押し込んでいた。

 

『馬鹿なァァァァァァァァァァァァ!!!』

「眠れ! 地の底で!」

 

 《どんな状況でだって 叶えるのさ》

 

『僕が……終わるっ!?』

「砕け散れぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 《Dream!!》

 

  桜の一撃はピューマの顔面を完全に捉え、徐々にその表面を削り取り、醜い本性を暴いていく。

 

 《絶望的なほどに希望なくらい》

 

『ぼ、僕の顔が…ウギャアァァァァァァァァ!!』

「永遠に眠りなさい! この変態!!」

 

 《強い『絆』で、立ち上がる》

 

  2人が勝負を決めたその時、ボイスは翼を用いて強襲を仕掛けてくるフィンの攻撃を間一髪でかわし、そのまま壁を蹴って跳躍。上空へと跳び上がる。

 

 《響けよ 最期の歌》

 

『ガアッ!!』

「くらえっ!!」

【ライダー アカシック イレイザー!!】

 

 《天をも砕き さあ………》

 

  咄嗟に急上昇することでボイスの狙いから逃げようとしたフィンを、白と黒の奔流が呑み込む。しかし、それに呑まれてなお、フィンはその翼を失っただけだった。

 

「なっ!?」

『オオッ!!』

 

 《OVER THE WIND!》

 

  足裏と背中から管を生やしたフィンは、そこから放出したエネルギーで急加速し、その顔を不気味かつ無機質な笑顔に変化させてボイスを殴り飛ばし、壁に高速で押し付ける。

 

「ううっ!?」

 

  消耗していたボイスは気を失い、フィンの手が彼女の身体から離されると、そのまま落ちていってしまう。

 

『……やっと終わりか! フィン、次は………』

「ボイス、ちゃん……!」

『………! ハートウェーブが増大している? この僕の目を欺けると思ったのか!』

 

  ついに乙音が拘束から抜け出そうとしているのに気づいた音成は、フィンの勝利を確信したのか、不安げに見つめていた映像から目をそらす。

  それに対し、乙音は自身が危機の中にあるのにも構わず、ボイスに語りかけていた。

 

「ボイスちゃん! ……ボイスッ! 私も、頑張るから……」

『!? ドライバーから光が…』

「ボイスも、頑張れぇぇぇぇっ!!」

 

  ……その叫びをボイスに届かせまいと、音成は自分でも無意識のうちに、こちら側からの音声を遮断した。

  だが、乙音の叫びはーー確かに届いていた。

 

「たく、よお……」

『!!!!!!』

「お前のおかげで……目が覚めたぜ!!」

 

  ボイスは目を覚ますが、飛行手段のないボイスではこの状況から脱することはできない。しかし、彼女は祈るように手を合わせると、集中する

 

  脳裏に浮かぶのは、これまでの日々。

 

 《喜びも》

「絆さえ…」

 

  3年以上にも及ぶ長い戦いの中で、乙音やゼブラ、仲間達と過ごした時。

 

 《怒りだって》

「憎しみも…」

 

  ただディソナンスを憎み、次は音成を憎み、怒りと憎しみのまま戦っていた時。

 

 《楽しさも》

「あの日々も!」

 

  すっかり多くなってしまった友人とーーゼブラ達と、女の子らしく買い物を楽しんだりした時。

 

 《哀しみも》

「喪失も!」

 

  ゼブラを失った時。

 

 《絶望も》

「絶望も!!」

 

  絶望のまま、音成の思惑通りデスボイスに変身した時。

 

 《希望さえ》

「希望さえ!!」

 

  そしてーーあの日、乙音に救われた時。

 

「《全部心から生まれた……》」

 

  その全てが……

 

「《感情の一部でしかない!》」

 

  彼女に翼を授ける!!

 

 

 

 

 

 

『……なんだ、あれは』

 

「…………綺麗」

 

『グアアアアアアア!!』

 

 

「さあ! 終わりにしようぜ!」

 

 

 

 《昂ぶりゆく鼓動希望に変え》

 

【オーバーライド!】

【ブレイクリミット!!】

 

『……グ、グオオオオオオオッ!』

 

 《百発! 百殺! ぶちかませ!》

 

  再びその背から醜い翼を生やし、美しい翼を纏うボイスへ向け、上昇していくフィン。その様は、まるで決して手にできないものへ手を伸ば者のように、哀れだった。

 

 《どんな世界でだって 振り払うのさ》

 

『……こうなればこのドライバーを! ……うわっ!?』

「ボイスちゃんが頑張ったんだ……私も、あなたには負けない!」

 

 《Disper!!》

 

  そして音成もまた乙音のSレコードライバーへ手を伸ばし、触れる直前で虹色のハートウェーブに弾き飛ばされた。崩壊していく、乙音を縛っていた触手。

 

 《オレのボイスで そう! 君のソング》

 

【ライダー ボイス フィニッシュ!!!】

「こいつでトドメだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

『アグオオオオオオ!!!』

 

 《歌う時『世界』変わるから》

 

  フィンが突き出した腕とボイスのキックがーー必殺技が衝突したその瞬間、フィンの身体は音を立てて崩壊を始める。

 

 《そう今涙拭って》

 

「ああああああああああああああああっ!!」

『グ…ググ……ボイ、ス………グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 《未来を見つめ さあ……》

 

  フィンの身体が虹色の輝きを放って崩壊していき、そしてまた、乙音を縛っていた触手も完全に崩壊。ついに彼女は拘束から解き放たれた。

 

 《OVER THE WIND》

 

『なんて、ことだ……!』

「天城、音成…!」

 

 《OVER THE SONG!!》

 

  音成は動揺し、ボイスとフィンを映す映像を消す。いつのまにか他のライダー達の様子を映した映像も消えていたが、乙音はもう揺るがなかった。

 

『……そうだ! さっきの触手で、お前のハートウェーブは吸い取った!! もう、ソングに変身できないはず!』

 

  音成は乙音を指差し、思いついたようにそう語る。確かに乙音はハートウェーブを大量に吸い取られていたが、彼女の中のディソナンス3人の協力を得れば、ホープソングへ変身は可能だった。

 

「3人とも……!」

『キキカイ、今だ!』

『ええ……この時を待っていたわ!』

 

  しかし3人は乙音の身体から粒子状の光になって飛び出し、元の、ディソナンスとしての肉体で出現する。

  そして、3人の中央に立つキキカイの腰にはーーレコードライバーが巻かれていた。

 

「……っ!? どうして………」

『ごめんね乙音ちゃん……でも、頼られて嬉しかったわ!』

『ああ。楽しい毎日だったぜ?』

『そうだ。だからこそ、我等の怒りを……奴にぶつけることができる』

 

  乙音の問いにも答えず、3人は音成に対し構える。

 

『……わからないな。なにをしようというんだい? いまさら、君達がさ………』

 

  乙音がホープソングに変身できない状況であることに安堵したのか、いくらか余裕を取り戻した声で、そう呆れたように言う音成。その音成に対し3人は何も言わない。

 

  キキカイの肩にバラクとドキが手を置き、キキカイが腰のレコードライバーに無地のディスクを挿入する。ここまでしてやっと、音成は3人がなにをしようとしているか理解したようだ。

 

『……馬鹿な! ありえない。ディソナンスが………』

 

『ひとつ良いことを教えてあげるわ、腐れ外道』

 

『この世にはね、不可能なんてないのよ』

 

『『『………変身!!』』』

 

  3人の声が重なり、キキカイの装着したレコードライバーに粒子となってその身体が吸収されていく。そして跡に残ったレコードライバーから、新たに1つの肉体が構成されていく。

 

  それはまるで、いくつもの感情を混ぜ合わせたような、歪な形をしていた。しかし、後ろでこの変身を見ていた乙音は、醜いとは思わなかった。

 

『…仮面ライダー、ディソナンス……参上』

 

  果たして、キキカイ達……いや、仮面ライダーディソナンスの狙いとは………。




次回、挿入歌2つです。もしかしたら増えるかもしれません。
このネタはずっと使いたかったんです。具体的には旧ディソナンスとの最終決戦から。


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託された希望を胸に

今回で全てを終わらせるはずだった。最終回は四千字程度の後日談で…………
ああああああああああああ!!文が散らかってるうえ、まとまんねえ!
すみませんでした……。でも今回はここで切るのが一番だと思いました。


「仮面ライダー……ディソナンス?」

『ふん……いまさらお前達旧ディソナンスが、なにができるっていうんだ!』

 

  仮面ライダーディソナンスへと変身したキキカイ達3人を前にして、音成はそう言う。確かに、音成のDレコードライバーにはディソナンスを苦しめる機能がある。ゼブラと共に一度その苦しみを受けたことのある乙音にも、3人が音成の相手が出来るとは思えなかった。

 

「3人とも! 私を心配してくれるならいいから、身体に戻って!」

 

  そう言う乙音だったが、3人……ディソナンスは何も答えない。音成は呆れたように息を漏らすと、ディソナンスに向けて手をかざした。

 

『もういいよ……苦しみたいなら、お望み通り味あわせてあげよう!』

 

  そう言う音成ーーだが、ディソナンス達はなんのリアクションもしない。その動きに驚愕を露わにし、もう一度手を突き出し、ディソナンスに向けてかざす。それでも何も起きず、思わずベルトを持つ音成。

 

『どういうことだ? ホープソングとの戦いで、故障したのか!?』

『いや、そうじゃない』

 

  そう言う音成だったが、ここでディソナンスが喋った。その声は男とも女ともつかないもので、動きも声の調子も、3人が混ざっているかのようだった。

 

『このレコードライバーは、一度壊れた乙音のものを再利用して()()の能力に合わせ、調整したものだ……』

『調整……!?』

『そうだ。このレコードライバーによって、我等はもうお前の支配から脱したんだ!』

 

  音成とフィンとの戦闘の後、キキカイはあの戦闘で得たDレコードライバーのディソナンスを苦しめる能力のデータを解析し、いま装着しているレコードライバーにその対抗策をインプットしたのだ。

  3人は前々からとある目的のために勝や香織、ロイドにショット博士まで巻き込んで乙音のものをベースにレコードライバーを用意していたが、問題点が2つあった。

  ひとつは、ディスパーの能力への対抗策。これに関しては、先述の通りホープソングの戦闘データを解析・導入することで解決した。

  そして、もう一つはーー

 

『だが、ディソナンスの統合! あまつさえライダーへの変身などっ……! 耐えられるわけがない!』

『……ああ。この変身が最後だ』

「まさか!」

『これを最後に、我等は消滅する。それが、我等の選択だ』

 

  もう一つの問題点。それはらディソナンス3人の統合とライダーへの変身の負荷による、3人の消滅。

  音成が作り上げた新ディソナンスならば、音成自身の調整によって他のディソナンスとの融合にも耐えられる。しかし、本来単なるハートウェーブの塊であるキキカイ達旧ディソナンスでは、融合に意志が耐えられない。

 

  精神生命体であるディソナンスにとって、意志の消失は死に等しい。そしてこの変身を行った時点で、3人の意志は『仮面ライダーディソナンス』として統合されている。つまり、もう死んでいるに等しい状態なのだ。

 

『我等はある仮説を立てた。それはゼブラが生きているという前提に成り立つものだが……』

「えっ!?」

『……彼女なら、もう僕に吸収されたはずだ!』

 

 そう、キキカイたちが同じディソナンス相手の融合でも消滅してしまうのならば、今はディソナンスの身体である音成に吸収されたゼブラも消滅してしまっているはずだ。しかし、ゼブラは生きていると、仮面ライダーディソナンスは言った。

 

『我等は乙音と融合した時、同じ心の中にいたにも関わらず、消滅はしなかった…我等はそれも覚悟していたというのに』

『…!!まさか、ありえない!』

『いいや、その通りだよ天城音成。…ディソナンスは精神生命体だ。しかし、お前の心は人間のもの……!』

「えっ、どういうこと!?」

 

 音音の疑問に、ディソナンスが答える。

 

『ディソナンスは、自身と似て非なる存在である人間の『心』にならば、消滅せず融合が可能、というわけだ。そして、ゼブラは今、天城音成の人としての『心』と融合している』

「……!それってつまり!」

『ああ。ゼブラは未だ眠る状態…我等がこのレコードライバーに残るお前の思いと、我等三人…いや、四人の力で目を覚ましてやる!』

 

 そういうと、全身に力をみなぎらせながらディソナンスは音成に向けて駆け出す。猛烈な勢いで迫り来る相手に、音成は動じず正面から迎え撃つ。

 

『お前たちごときが、一つになったところで、僕に叶うと思っているのか!』

『……!』

 

 瞬時にディソナンスの目の前まで移動した音成は渾身の力を込めてパンチを繰り出し、咄嗟のガードの上からディソナンスを吹っ飛ばそうとする。

 しかしディソナンスはその拳を受け大きく後退はするものの、乙音の目の前で踏みとどまる。

 

『ほう……?』

『……乙音』

「なに………?』

『……お前に、全てを託す』

「えっ…」

『行くぞ!天城音成!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音成とディソナンスの戦闘は、悲しいまでに一方的だった。

 

『だから言っただろう……お前たちが今更僕に歯向かったところで、もう手遅れなんだよ!』

『ぐうっ!が、はあっ……!』

 

  音成は一切の容赦なくディソナンスに攻撃を重ね、殴り、蹴り、踏み、投げ飛ばしといった基本的な暴力手段から、周囲の地形を操作しての攻撃など、特殊なものまで。ありとあらゆる暴力をもって、ディソナンスを甚振っていた。

 

『ハ、ハ、ハァ………いい加減、理解したらどうだい?』

『ぐ、う……ま、まだ………』

 

  しかし、ディソナンスは倒れない。何度膝をつかされようとも、何度叩き伏せられようとも、必ず立ち上がって音成に向け攻撃を放つ。その攻撃の勢いは落ちていたが、音成言い様のない圧迫感のようなものを感じていた。

 

(………なんだ?この感覚………)

 

 ドゴォッ!

 

『グボッ!? ぐ、が……』

 

  音成の拳が、ディソナンスの腹部に突き刺さる。その時音成はディソナンスでなく乙音の様子をちらりと伺ったが、乙音はその頬に涙の跡を残しながらも、強い意志を感じさせる瞳で音成達を見据えていた。

 

(……あの目だ)

 

 グシャッ!!

 

『があっ!!』

 

  音成を蹴り上げようとしたディソナンスの動きを、音成はつま先を先んじて潰すことで止める。その攻撃を喰らうディソナンスの姿はあまりにも痛々しいものだったが、それでも乙音は目を逸らさない。

 

(……あの目だ!)

 

 メキャアッ!!!

 

『ぐ…うおおっ!!』

 

  音成が繰り出した拳が、ディソナンスの胸部装甲を砕く。しかしディソナンスは一瞬ひるんだ後、すぐにまた拳を繰り出した。

 

 バチィ

 

『……ええい!鬱陶しい!』

 

  力なく叩きつけられる拳に、音成は雑に反撃する。明らかに適当に繰り出された一撃も、ディソナンスにとっては強烈なもの。地面を転がり倒れ伏すが、また立ち上がる。

 

『……まだ、だ。まだ…………』

『……もういいよ、お前』

 

【カーテンコール!!】

 

  ディソナンスの姿にしびれを切らしたのか、それとも何か別の理由か。音成は瀕死の相手に対しついに必殺技を発動する。それに対し、ディソナンスも必殺技を発動しようとベルトに手を伸ばすが………。

 

【Dissonance……エラー】

 

「…………!」

『……?フフ、ハハッ!ハハハハハ!!ついにベルトからも見放されたか!まあ、当然だね。そもそもレコードライバーで変身できたことがーーいくら改造品だとしても、既に無理矢理なことなんだからねえ!』

 

【オーバーライド!!!】

 

  音成の身体に、緑色のオーラが纏われていく。それは星から吸い上げた、殺戮と破壊のためのエネルギー。たった三体の怪物の融合など問題にならないその力。いま、ディソナンスは星そのものと相対しているに等しいのだ。

 

『おとなしくホープソングになっていればまだ望みはあったものを………何を企んでいたか知らないけど、これで終わりだ』

「…………」

 

  俯いたまま、動く様子のないディソナンスを見て気をよくしたのか、乙音から向けられる視線にも余裕を保つ音成。莫大なエネルギーをわざと彼女達の肌に感じさせる。

 

『ーーああ、この醜い怪物を始末した後は、君に屈辱の限りを味合わせながら、まずはライダー達を最も残酷な方法で始末してあげよう。今度は映像越しでも、塵ほどにも役に立たないディソナンス任せでもない。この僕自身の手で!君の眼の前で!……その後は、湊美希に、大地香織……ショット・バーンにその息子。他にも君が関わってきた人間どもを、丁寧に殺していこう。ああ、楽しみだよ。彼等がどんな悲鳴の歌を上げるのかがねぇ!ハハッ、ハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ハッ、ハハハハハハハハハ!!!』

 

  身振り手振りを加えながら、そう歌うように語る音成。

  だが、彼はひとつ思い違いをしている。それは、ディソナンスはこの状況においても、カケラも諦めていないということだ。

 

『死ね……!』

 

【ライダー エンド ソング!!!】

 

  音成の身体に集まっていたエネルギーがその右脚に集約していき、その身が跳躍する。

 

『ハァァァッ!!』

 

  明確に死という名の脅威が迫る中、ディソナンスは乙音の方をひっそりと伺いーーそして、笑みをこぼした。

 

『フッ………』

 

(やはり…………間違いではなかった)

 

  ディソナンスは覚悟を決める。決して諦めない彼女とーー彼女から生まれた同胞のために、その命を使う覚悟を。

 

『う……オオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

  咆哮を上げ、上空から蹴りかかってくる音成へ拳を繰り出すディソナンス。

  その身体からは白と黒のオーラが噴き出し、音成の纏う緑色のオーラに干渉・拮抗する。

 

『まさか…………!』

『ウアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

  しかし、ディソナンスの身体は徐々に崩れていく。

  その身体から粒子のようなものが零れだすと同時、力も、意思も、その心ですら……全てが奪われていく。

  ボロボロと、まるで砂糖菓子を砕くかのような容易さと残酷さで、ディソナンスは崩壊していく。粒子となって、散らばり、空へと還っていく。

  ーーだが、乙音は目を逸らさない。涙で視界を遮るようなこともしない。ただ、ただ、ディソナンスの姿をーーその勇姿を見続ける。

 

『終われ……終われええええっ!!』

『まだだあああああああああっ!!』

 

  ディソナンスの半身は既に崩れ去った。彼/彼女はそれでも、全霊の力と思いを込めて、抗う。

 

『……うおおおおおおおおおっ!!!』

 

  一瞬の閃光とともに、エネルギーどうしの干渉による爆発が起きる。

 

『がああああああああああああっ!!??』

「……!」

 

  光とともに広がった爆煙の中から、音成が吹き飛ばされ、飛び出してくる。

  その身体には粒子が纏わり付いており、それを見た乙音はすぐに走り出し、爆煙の中へ突っ込んでいく。

 

「くっ!ゲホッ、ゲホッ………」

 

  爆煙にやられ、咳き込みつつもディソナンスを探す乙音。だが、探しても探しても、ディソナンスの姿は見えない。

 

「爆煙で見えないの……!?」

 

  煙で見えないだけ。まだ生きている……そんな一縷の望みにかけて探す乙音だが、煙が晴れた後には、彼らの放っていた粒子しか残っていなかった。

 

「…………!」

 

  その粒子を掴み、目を見開く乙音。そんな彼女の耳に、耳障りな声が聞こえてくる。

 

『あんな力が残っていたとはね……!だが、もう遅い!』

 

  吹き飛ばされた音成が瓦礫を吹っ飛ばし、這い出てくる。

  確かにダメージは喰らっているようだが、その身体を包む緑色のオーラによってすぐに回復してしまうようだ。

 

「……天城、音成!」

 

  未だに、毅然とした態度で音成を睨め付ける乙音。しかし音成にとって、もはや乙音は変身すら出来ない小娘に過ぎない。

 

『木村乙音………君にはさんざん苦しめられたが、もう終わりだな。仲間も死んではいないだろうが、あの戦いだ!1人残らず、この星と共に死ぬがいい!!』

 

  音成がそう高らかに宣言すると共に、強烈な揺れが乙音を襲う。この星ーー地球の核に到達したこの巨大兵器が、ついに惑星の崩壊へ向けたカウントダウンを始めたのだ。

 

「………あなたは、どうするつもりなの?」

『僕は最早この星程度には収まりきらない……!この宇宙を!無限の闇を!全てを手にして……そして、僕だけが創り出すことの出来る命を新たに生み出す!今度は失敗作の人工ディソナンスでも、偶発的に生まれた天然のディソナンスでも、人間でも、あらゆる動物でもない!!僕だけの……忠実な駒となる生命をねえ!』

 

『ハッ……ハハ………!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 

  今まで、決してーー自ら作った新ディソナンス達にすら明かさなかった真の野望を、乙音に明かす音成。自身にとって乙音がーーソングがもう何の障害にもならないと確信した今、これは単なる乙音への挑発と嘲りでしかない。

 

  もう、お前には何も出来ない。

 

  そこで、指をくわえて滅びを待て。

 

 

『そうーーなんなら、僕自身の手でこの星が滅びる前に、君を殺してやってもいい。なに、心配はない。痛みすら感じ取れないさ………生まれ育った故郷も、友人も、守ってきたものも、全てが崩壊していくのをこの兵器の中から眺めるってのは、君にはこれ以上無く絶望的だろうからねえ!』

 

 

 

 

 

「ーー黙れ」

 

 

 

 

『……は?』

 

「黙れってーーそう、言ったんだ」

 

『……君、状況を解って言っているのかい?ここまで愚かだとはーー「わからないの?」……なんだと?』

 

「お前の……その、『心』の中に潜むものが………なんなのかっ!!」

 

  ーー乙音の叫びが、心の波が、音成の中に潜み、機を伺っていた者達を呼び覚ます。

 

『……グ!?馬鹿な、なんだ、これ、はぁ………!』

『乙音ちゃん!今よ!』

『一発、こいつにぶち込んでやれっ!!』

『行け!木村乙音っ!!!』

『この声は…………まさか!!』

 

  音成の中から響いてくる声に導かれるように、乙音は走る。

 

「うおおおおっ!!」

『な、何故……身体がっ!お前達は……!』

 

  自分の身体が制御権を失っているという事実に、音成は戦慄すると同時、彼の頭脳は原因を探り始める。この事態を引き起こしたのはキキカイ達が合体した『ディソナンス』で間違いないが、何故そのディソナンスが、いや……キキカイ達の意識がまだ存在しているのかーー

 

『……まさかっ!』

『そうだ!我等はお前の中に進入するために………ゼブラを救うために、この賭けに出た』

『力比べで勝利して、一瞬出来る隙を突いて、粒子となってお前の心に進入する……だいぶ無茶やったが、この通り成功した!』

『敵を騙すには味方からーー乙音ちゃんにも相談しなかったけど、さすがね。私達の残りカス……粒子を手にした瞬間、私達の存在を感知したんだもの』

 

  そう、キキカイ達ディソナンスは、乙音にも秘密にして音成の中ーー心へと進入する計画を立てていた。

  そして、その目的は…………

 

『乙音ちゃん!ゼブラちゃんはまだ、まだ無事よ!後はーーあなた次第!』

「………!!」

 

  キキカイの言葉を受け、乙音の速度が増す。キキカイ達が音成の心の中へと進入しているという事実を乙音が知った時、脳裏によぎったのは、音成に吸収されたというゼブラのことだった。

 

『音成ーーお前、おかしいと思わなかったのか?どうして、自分が【天城音成】としてそこに存在しているかーー!』

『なに、が……いいたい!!』

『お前は、ディソナンスの肉体を得る時に人の心を捨てたーーいや、そんなもの、お前には初めから存在していなかっただろうが……精神生命体であるディソナンスとなるためには、人の精神構造を捨てる必要があったはずだ』

 

  そう、今の音成の肉体は7大愛の最後の一体にである、デューマンのものだ。元々、デューマンは音成自身の知能や精神をコピーされた存在であり、オリジナルの『天城音成』をその手で殺すことで、デューマンは進化を遂げた。

 

  だが、ディソナンスは精神生命体である。音成によって生み出された人工ディソナンスも、それは変わらない。当然、デューマンは『デューマン』であり、『天城音成』の全てを受け継ぎながら、確かに違う存在のハズである。

 

『だが、傷を癒すのと、乙音への精神攻撃のためにゼブラを吸収してしまったのがアダとなったな』

『アイツは人間ーー乙音から直接生まれてきた『ディソナンス』だからな。たく、カナサキの野郎には感謝しねえとな……アイツがゼブラを生んでいなけりゃ、世界は終わってた』

『馬鹿、な……ゼブラに、人間としての『要素』がっ!……そんなものが、残っていただと!?』

『ええ、そうよ』

 

  そもそも、ディソナンスであるのなら、膨大なハートウェーブを生み出すゼブラならば、変身しなくともライダー達と同等の戦闘能力を有していてもおかしくはない。

  だが、彼女は人間より遥かに優れた走力など、一部の身体的スペック以外は、人間の少女とそう変わらないものだ。

  それは、彼女がーー『人間から生まれたディソナンス』であり、すなわち『人間の心を持つディソナンス』であるからだ。

 

『私達も、ゼブラが生きているって確信は無かった。でも、可能性の高さに賭けた!ーー天城音成、アンタの愚かさもここに極まれりねっ!』

『こ、このクソ共……っ!僕がハートウェーブさえ発見していなければ、貴様等など生まれてはこなかったんだぞっ!!歪な、生命体はーー排除されるべきだっ!!』

『ああ、そうだなーー俺達も、そう思うぜ。だけど、いいのか?』

『ーーなにが、だ!』

『……我等に気を取られていては、『小娘』1人の拳すら避けられんぞ?』

 

『…………っ!?』

 

 

「う、お、おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

  ーー渾身の叫びと共に、乙音の細身だが、しなやかな筋肉で包まれた肉体が躍動する。

  拳を握りしめ、ありったけの力を込める少女を見て、音成は思った、恐ろしい、と。

  だが、ディソナンス達は違った。かつては宿敵どうしとして争い、今は共闘する間柄となったこの人間の少女を見てーーこう思った。

 

 ……ああ

 

 

 

 

 信じて、良かった

 

 

 

 

 

 

 

「とぉ、どぉ、けええええええええええええええええっ!!!」

 

  変身もしていないというのに、乙音の持つあらゆる感情が彼女のハートウェーブを増大させ、その拳に虹色の光を纏わせる。

  そして、それを見た音成は直感的に悟るーー『アレ』をくらったらマズイ!と。

 

  だが、その足も、手も、顔さえも動かない。音成のDレコードライバーの力によって、もうほとんど消えかけているキキカイ、ドキ、バラクが、それでも、それでも音成の身体を縫い止める。

 

「ゼブラァァァァァァァァァァッ!!!」

 

  自らの半身の名を叫びながら、乙音の拳が音成の心臓部へと当たり、そしてーー

 

『ぐっ……なんだ、この感覚はーーっ!?』

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

  ぞぶり、と乙音の拳が音成の中へ沈んでいく。乙音の放つ大量のハートウェーブと、キキカイ達が開いた道が合わさり、音成の心の中へ乙音が進入しているのだ。

 

  全身を作り変えられるような、奇妙だが、地獄のようなーーまるで、全身の肉と骨を同時に引きちぎられ、砕かれるような苦痛を伴う感覚を覚える音成。

  Dレコードライバーの副作用から逃れるため、早々にデューマンに知能を移した音成は知らないことだったが、その感覚と苦痛は、かつてボイスがDレコードライバーの副作用によってディソナンスになりかけたいた時、常に感じていたものと同じだった。

 

『ぐ、おお……!』

 

  今、乙音の意識は音成の心の中へと進入している。そのため、音成に拳を突き立てている乙音の肉体は完全に無防備である。だが、激しい苦痛とキキカイ達の抵抗によって、音成は絶好の機会を目の前にしながら、指一本動かすことはできない。

 

『ちくしょオオオオオオオオ!!』

 

(ゼブラ……!)

 

  音成の怨嗟の絶叫も聞かず、ただ必死になってゼブラを探し求める乙音。荒野を、あるいは深海を1人彷徨うかのような感覚を覚えながら、しかし彼女は不安を抱くことは無かった。

 

(……わかる。キキカイも、バラクも、ドキも………それだけじゃない。あの日託された全ての願いが、私を守ってくれてる)

 

  音成の心の中という、宇宙の深淵より深き暗黒を進む乙音。しかし、ホープソングへと変身したあの日のように。あるいは、ディソナンス達に後を頼まれた時のように。彼女に託された全ての願いと祈りと希望が、彼女を絶望から守っていた。

 

  ーーそして、彼女は光を見る。

 

(ゼブラちゃん……!!)

 

  心の深淵の中でさえ、なお小さく星のように輝く光を、乙音は見つけた。

  彼女にはわかった。あれは、ゼブラだと。自分の半身であり、家族でもあり、共に戦う相棒でもある存在だと。

 

(この手よ……届けええええええっ!!)

 

  乙音の手が、か細い光を掴む。彼女の小さな手に収まるほどの、更に小さな光が、その手に包まれた瞬間……確かな意思をもって光を放ち始める。

 

 

「はああああああああああああああっ!!!」

 

 

  乙音は、思い切り思いを込めてその光を引き戻す。力は必要ない。必要なのは、ありったけの彼女を思う心。

 

「ゼブラちゃんっ!!戻ってこぉーいっ!!!」

 

  裂帛の気合いの込もる叫びが、光を更に強くする。

  暖かな光は音成の身を焼き、彼の心すら希望で染上げようとする。

 

『こ、こんな…こんなものぉぉぉぉっ!!』

 

  当然、音成は拒絶した。もはや彼にとって希望とは救いではなく、倒すべき怨敵なのだから。

 

  束縛から解き放たれた音成の拳が、乙音の顔面を捉える。常人であるはずの乙音ならば、頭が粉微塵となって死んでいただろう。

 

「「それでも……私/僕はっ!!」」

『なん…………ぐわっ!?』

 

  だが、ダメージを受けたのは音成の方だった。彼は乙音『達』の発するハートウェーブに怯み、咄嗟に飛び退いた。ーーもう、彼は束縛されていなかった。

 

『ハァ……ハァ………一体、何が……』

 

  困惑する音成。彼を尻目に、乙音は音成の拳が当たる瞬間、自分を包んだ光を見つめていた。どこか暖かく、覚えのある光……

 

「まさか………!ゼブラちゃん!」

 

  光が彼女の身体から離れ、その横に徐々に人の形をとりながら集まっていく。

  そして……

 

「……お姉ちゃん」

「ゼブラ、ちゃん……」

 

 

「………ただいまっ!」

 

 

 

  その言葉を聞いた瞬間、乙音は無意識にゼブラを抱き締めていた。

  もう二度と会えないかと思っていた、半身であり妹のような存在。彼女を前にして我慢ができるほど、乙音は大人ではなかった。

  ゼブラも乙音の行動に驚きもせず、そっと彼女を抱き返す。泣いてこそいなかったが、その表情には彼女のありったけの安堵と喜びが浮かんでいた。

 

「……少し、痩せた?」

「心配で」

「ごめんね?」

「ううん。それより、ゼブラちゃん」

「うん」

 

  音成には、今の状況が理解できなかった。

  ゼブラの復活も、自分がディソナンス達に出し抜かれたことも、全てが自分の望む方向とは真逆に進んでいるこの状況の理解を拒んでしまったのだ。

  そして、彼が正気に戻った時には既に遅かった。

 

「……いくよ、これが私達の!」

「うん………!」

 

【ディスクセェェェット!!】

 

【ドライバー イン ホーープ!!!】

 

  乙音がSレコードライバーにディスクを挿入し、ゼブラは乙音と手を合わせて彼女と再び1つになる。

 

  そして2人は叫ぶ、今まで彼女達が唱えてきた、あの言葉を。

 

「「………変身!!」」

 

【オーバー ザ ライド!!】

 

【オーバー ザ フューチャー!!】

 

【Yes! ……ソング イズ ホォォォォォプッ!!!】

 

 

「「さあ………私/僕達の音、響かせるっ!!」

 

 

  仮面ライダーソング、復活ーー!

 

 





次回仮面ライダーソングは!

絶望とーー

希望の戦いーー

ついに、決着の時!

「私が響かせる音はーー希望だ!!私が、この宇宙全てに希望を響かせてやる!!!」
『貴様!ただの……ただの小娘が!!』

「これで……最後だああああっ!!!」


最終話
『The Heart Song』

10月前半中までには公開予定


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The Heart Song

  ホープソングへと変身した乙音とゼブラ。彼女達を前にして、音成は必死に策を練っていた。

 

(マズい……マズいマズいマズいマズい!!この状況を切り抜くにはどうすればいい……!?どうすれば……)

 

 しかし今の彼では策を考えるどころか、どう動くのが正解なのか…今のホープソングはどれほどの強さなのか……そんなことすら、まともに把握出来ないでいた。

 

 それほどに、彼にとってホープソングとは恐ろしい存在だった。当然だ、今のディスパーを唯一撃退した存在なのだから。

 しかしこれまでは乙音一人での変身であったのだ。だから音成も地球から吸い上げたエネルギーを用い、さらに乙音を精神的に痛めつけることで一度は変身解除まで追い込んだ。

 

 だがーー全ては、音成が侮ったディソナンスがために狂った。

 

 音成はあえて、今の自分が先ほどの融合のために、完全にキキカイたち旧ディソナンスと同じ精神生命体へと変化しているという事実を無視した。もしそれを意識してしまうと、あまりの憎悪と嫌悪のために自身の肉体が保てなくなるであろうことを理解していたからだ。

 しかし、乙音とゼブラは音成という邪悪に対してもはや一切の容赦を捨てている。……まだ音成が人間であるなら、彼女たちも躊躇っただろう。

 

「天城音成!ーー確かに、あなたは人間だったかもしれない」

『でも、あなたは人であることも、ディソナンスであることも拒否した!』

『…それがなんだ!?もはやこの惑星の命運も尽きる!この基地内部にあるお前らの仲間だって、僕がやろうと思えば……!』

「いいや!…私たちをホープソングに変身させてしまったのが、不幸だったね!」

『なにっ!?』

 

 乙音が音成に対して啖呵を切ると同時、その体から虹色の波動が放たれ、音成の視界を塗りつぶすと同時に、ホープソングの真の力が解放される。

 

『ぐっ、な、なにが……?』

「ホープソングは、人々の祈りと意思を受けて誕生した!」

『そして、ディソナンスの…あの人たちの希望も託されたんだ!!』

 

「『それが……お前程度の理不尽に、負けるかあっ!!!』」

 

 

 ホープソングの真骨頂。それは、あらゆる理不尽、あらゆる絶望に対し、抗う力を発現させること。

  理不尽を超える理不尽。絶望を超える希望。その体現たる存在がホープソングであり………ゼブラが戻った今、その力は宇宙にまで届く!!

 

『「ううおおおおおおおーーっ………!!」』

 

『な、なんだ、この振動は……!うわっ!?』

 

  周囲が一瞬、激しく揺れ動いたかと思った次の瞬間、その揺れは止まり、音成は奇妙な浮遊感覚に襲われた。

  音成はその感覚に覚えがあった。その感覚は、いずれ星の海へと漕ぎ出す時のために、今いる巨大兵器に搭載しておいた重力調整システム……そのテストの時、感じた感覚と同じものである。

  その事に音成は気づくと同時、驚愕した。ホープソングはあの一瞬で、この巨大兵器を宇宙空間へと転移させたのだ!

 

『!………内部の生命反応は、僕と……奴だけ。ま、まさか!』

「…その慌てぶり。どうやら、うまくいったみたい」

『うん、僕も感じたよ。ボイスさん達はみんな、アメリカのあの研究所に転移してる』

 

 

 

 

  地球ーーアメリカ、ワシントンの研究所。

 

「こっちだ!早く……!」

「ライダー達が……一命はとりとめているが、全員重傷だ!」

「……父さん」

「うむ………乙音くん。その力は………君は……」

 

 

 

 

『貴様等は………馬鹿な!神にでも、成ろうというのか!?』

 

  音成がついに声を荒げ、絶叫するように怒る。その叫びには憤怒と憎悪だけで無く、困惑め混じっていたが、それも無理もない。彼からみればたかが小娘であったはずの……ついさっきまではその程度だったはずの乙音達が、まさに神の技……奇跡としか言いようのない事を起こしたのだから。

 

「……みんなが、それを望むなら」

『!』

『でも、僕達はそんなものにはならない。何故なら、大切な人達が…待っててくれている人達がいるから!』

 

  ゼブラがそう宣言すると同時、彼女達が居る広い空間のそこら中に、突如として映像が浮かび上がってくる。

  先程の乙音達の力の残滓が繋いだそれに映し出されるのは、彼女達の無事の帰還を祈る者達の姿だった。

 

(……無事に帰って来て、乙音……!)

(残るは乙音くんのみ、か。……無事に戻って来る。それだけが希望だ………)

(乙音ちゃん。ゼブラちゃんと一緒に、ちゃんと戻って来るのよ)

 

『う、グ、グウウウウウウ………』

 

  美希や猛、香織だけではない。今や乙音達の戦いを知る全ての者が、懸命に彼女達の無事を祈っていた。

  そこにあるのは、神に対しての祈りでは無く、ただ純粋に、戦う事を選んだ少女の身を案じる祈り。

  この声をダイレクトに受け取ってしまった音成は、にわかに苦しみだす。もはや絶望を糧とするディソナンスと化した音成にとって、希望に満ちたこの祈りは、到底耐えられるものではなかった。

 

『……僕達はこの星を………光を守る守護者だ!』

「そして……私達こそが、未来へ繋がっていく光でもある!」

『だが……だがぁ!お前という強い光がある限り、影は!「違う!」!?』

「光があるから影がある?違う。光があるから闇がある?違う!」

『光は!闇の中でもがく、命を支えるためのものだ!!』

 

  『光があるから、影も生まれる』。音成が吐く、そんなおきまりのセリフを遮って、乙音とゼブラが高らかに宣言する。

 

「例えこの宇宙の闇全てが悪意に満ちていたとしてもーー私も、私達が紡いできた希望も!託された未来も負けはしない!」

「お前のような悪意が絶望を生みーー絶望が理不尽を生みーー理不尽が後悔と挫折を生もうとも!私達の描いてきた歴史も!思いも!そんなものに負けはしない!」

『僕等が響かせる音はーー希望だ!!』

 

『「私/僕達が、この宇宙全てに希望を響かせてやる!!!」』

 

『貴様!ーーちっぽけな、ちっぽけな星に生きる、矮小な生命体がっ!!この僕の言葉を遮って言う言葉が……それかっ!!』

 

  あまりの憎悪と絶望によって放出された莫大なエネルギーが、乙音とゼブラの力の残滓を吹き飛ばす。自身の孤独を否定するかのようなその感情の本流は、乙音達のハートウェーブにも匹敵する力だ。

 

「ゼブラちゃん……歌を!」

『うん。歌を!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

  音成の咆哮が空間を揺るがす。この正念場にきて、ついに自らの獣性を解き放ったその声は誰しもの心胆を揺るがせるものであったが、乙音とゼブラの歌声が、響き、伝わり、波のように音成の咆哮と力を打ち消していく。

 

『これが、最後の戦い!』

「さあ……心の音、響かせる!!」

 

  歌がーー流れる。

  力と力がぶつかり合う最中で、宇宙にも響く歌が。

 

『もう全てがどうでもいい。だが、お前は絶対に殺すっ!!』

 

「『来い!元凶!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 《Break the heaven》

 

『オオオオオオオオッ!!』

 

 《Connect you heart 》

 

「『だああっ!!』」

 

 《僕等が歌い守ってく未来《あす》……》

 

  最後の歌が溢れ、流れるように響く中で。駆け出したディスパーとホープ。両者の拳が空中で衝突する。

  ぶつかり合い、行き場を失ったエネルギーが爆発するが、その中心に存在する両者は全く退かず、そのまま飛行しながらの格闘戦を始めた。

 

 《あの日生まれた音色が》

 

『ディソナンスも人の想いも!どちらも僕が切り捨てたモノだ!』

「そうだ!だから、お前は私達に勝てない!」

 

 《世界を闇に包むと 思っていたよ》

 

『なんだと!このっ……』

『やらせない!融合したホープソングの威力なら、止められる!』

 

  もつれ合い、殴り合い、言葉をぶつけ合いながら飛び続ける両者。ときおり音成がエネルギーを一点に集中しようとするが、それはゼブラがホープソングの機能を使うことで阻止する。これによって乙音は攻撃に専念でき、互角以上のスペックであるディスパーを、なお押していた。

 

(でも、このままじゃ押し切れない…っ)

『それならっ!』

 

 《だけれどそれはまやかし》

 

  しかし、このままでは音成を倒せない。そう悟った乙音と繋がるゼブラが、音成を討ち果たすための行動に備え、ハートウェーブのチャージを行う。

 

『何を……するつもりだっ!?』

 

 《歪みきった愛の裏に》

 

  それを察知した音成は、即座に自身のハートウェーブをぶつけて相殺しようとする。しかし、まるで踊るような手さばきで乙音がそれを阻止。すぐさまチャージを終えたホープソングの右肩より、ハートウェーブの光線が放たれた。

  ビカッ!という音と輝きと共に放たれた赤色の閃光は、音成を巻き込んで地面へと伸びていく。

 

『グウウウウウウっ!?』

 

 《 《真実はあった》 》

 

「ゼブラちゃん!追撃!」

『ディスク交換っ!』

 

  落下する音成を追い、ホープソングが急降下する。そしてこの隙に、ゼブラがドライバーを開くことなく、ライダーズディスクを入れ替えた。これも、2人が融合したことにより生まれた、新たな力だ。

 

 《何回?何千回だって》

 

【ソングディスク!】

「強化型ならっ!」

『2人になってえええっ!!』

 

 《傷ついても構いやしない》

 

『ちっ……2人になったところで、構うものか!』

 

  強化型のソングディスクの力により、ホープソングが2体に分裂する。一方には乙音、一方にはゼブラの意識が宿っており、乙音の方はそのまま音成を追撃。ゼブラの方は新たなディスクを構え、音成の隙を伺う。

 

 《立ち上がる》

 

【ツルギ アクト!】

「ナメないでくれるかなっ!!」

『高速移動!ツルギの力か……だが!』

 

  乙音はツルギの高速移動能力を用い、一気に降下。その勢いのまま音成へパンチを放つが、力を増した彼に防がれてしまう。

 

「なっ!?」

『分離状態なら、俄然こちらが有利なんだよお!』

 

 《走り出す》

 

  音成はそのまま乙音の腕を掴み、地面は投げ落とす。奇妙な浮遊感覚を感じ、一瞬朦朧となった乙音を狙い、音成はキックを放つ。だが、有利な状況に、音成は忘れていた。ゼブラの存在を。

 

『隙ありっ!!』

【ソング!ライダーストライク!】

『ぐっ!?馬鹿な!』

 

 《 《信じているから!》 》

 

  背後からの、強烈な一撃。ゼブラの蹴りをマトモに受け、吹き飛ばされる音成を、黙って見逃す乙音ではない。

 

 《Break the heaven》

 

「私もっ!!」

 

 《Coneect your heart 》

 

【フォースメロディー!】

【ユニゾンシュート!!】

『なっ!ぬぐあっ!?』

 

 《不協和音(ディソナンス)でも命を歌い切れる》

 

  ディソナンス4人の力が結集した拳。自分の頭上を飛びこそうとする音成に対しそれを打ち込み、高く上空へと飛ばす。

 

 《Heart the wave》

 

「ゼブラちゃんっ!」

『うんっ!!』

 

  2人が手を繋ぎ合わせると、再び融合してソングが1人に戻る。そして上空でもがく音成めがけ、容赦なく必殺の一撃を放つ!

 

【ホープソング アクト!】

『【オーバー ソング!!】

 

 《流れてる》

 

「はあっ!!」

【ソング! ライダー キィィィィック!!!】

『いっけえええええっ!!』

 

 《風は力で 歌は鼓動》

 

  ホープソング最大の一撃。虹色のエモーショナルハートウェーブを纏い放つ、必殺キック。

  眼下に迫り来るその脅威に対し、音成は絶望する。しかし、忘れてはいけない。彼は絶望を糧とするディソナンスであり……

 

 《僕らがいる世界も》

 

『この……クソがっ!!』

【カーテンコール!!】

【オーバーライドッ!!!】

「……!」

『この力はっ!?』

 

 《紡い来た絆も》

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!』

 

  ……ライダーシステムそのものを作り上げた。恐るべき心の持ち主であることを。

 

 《 《もう汚させない!》 》

 

『「ぐうっ!?ううあああああああああっ!!」』

『グウオオオオオオオオオアアアアアアアアアッ!!!』

 

 《 《Don't stop go!》 》

 

  空中で衝突するディスパーのパンチと、ホープソングのキック。ギャリギャリッ!!というまるで鋼鉄が削り落とされるような激しい音を立てて、両者が衝突する。

  そして、そのぶつかり合いを制したのはーー

 

 《Sing a song……》

 

『フンッ!!』

「『うっ!?うわあああああああ!!』」

 

  ーー音成の、深く淀んだ執念。そこから生まれたハートウェーブと、地球から吸収した力が合わさり、ホープソングを叩き落してしまう。

  しかし、音成もただではすんでいない。地上へと降り立った瞬間、膝をつきかけたのがその証拠だ。

  落下の衝撃で舞い上がった煙の中から、ホープソングがすぐさま飛び出す。ギシギシと軋みを立てる肉体を無理やり動かし、ディスパーに向けてその槍による一撃を放つ。

 

 《喜びから生まれた》

 

「……はあ、はあ………くっ、はっ!」

『まだ立つか!? ぐっ……だが、そろそろ、息が上がってきたなあ!』

「そっち、こそっ!……っはあ!」

 

 《心が怒りに染まって》

 

『しかし、ゼブラはどうした!?また奇襲か?』

「さあ………ねっ!」

 

 《哀しみ広げ》

 

  乙音の槍を腕に纏うパワーのみで防ぐ音成。それを見た乙音は膝蹴りで音成の腹部を打ち、瞬時に離れようとする。しかし、飛んだ脚を音成にガシィッと握られてしまった。

 

 《だけれど楽しい気持ち》

 

『捕まえたぞっ!!』

「今!ゼブラちゃん!!」

【ツルギ アクト!】

 

  しかし、乙音はこれを想定していた。乙音を投げとばそうと音成が力を込めた瞬間に、乙音の身体のうちからゼブラが吐き出され、手に持つ刀で斬りつけた。

 

 《いつか美しい希が》

 

『ぐあっ!?くっ、何故だ!?さっきは、あのディスクの力で……!』

「もう慣れたんだ……よっ!」

【ファング アクト!】

『うっ!』

 

 《思い出させるよ》

 

  乙音はファングのディスクの力で牙を脚から生やし、音成の手から逃れる。その隙にゼブラはツルギの刀と特殊能力を駆使し、音成を滅多斬りにする。

 

「ゼブラちゃんっ!合わせて!!」

【ファング! ライダー オメガパンチ!】

 

 《信じる力いつか》

 

【ツルギ! ライダー スラッシュ!】

『うおおおおっ!!』

 

 《刀になり道を開く》

 

  乙音の放つ巨大な拳撃が、ゼブラの放つ無数の斬撃によって彩られ、さらにその鋭さと勢いを増して音成を呑み込む。

  たまらず膝をつく音成に向け、乙音とゼブラは次なる必殺の技を撃つ。

 

【【ボイス アクト!】】

 

 《鳴り響く》

 

【ボイス!ライダー シュート!】

【ボイス! ライダー ツインシュート!】

 

 《ボイス&ソング》

 

  赤く鈍く輝くエネルギー。濃縮された怒りのような荒れ狂うそれを制御し、音成に向けて2人は放つ。

 

『「いっ……けええええっ!!」』

 

 《 《邪悪を撃ち抜く!》 》

 

『うっ……うおおおおおっ!?!?!?』

 

  放たれる無数の光弾と、それを吸収し巨大化しながら迫る光弾に対し、音成は咄嗟にバリアを展開して防ぐ。ハートウェーブが凝縮したような光弾は、さしものディスパーでも容易くは受け止めれない。ディスパーが手間取る間に乙音達は再融合する。

 

 《Break the heaven》

 

『乙音お姉ちゃん、次いくよ!』

「オーケー!みんなの感情も乗せて、全部ぶつける!」

 

 《Connect your heart》

 

【ダンス アクト!】

【ダンス!ライダー ハリケーン!】

 

 《桜のように 儚くても構わない》

 

  ホープソングが竜巻を巻き起こし、それがディスパーを呑み込む。切り裂くような突風と、光弾の重ね合わさった威力に、ディスパーも耐えきれず揺らぐ。

 

『くっ………このまま、では………』

「たたみかけるっ!!」

 

 《Heart the wave》

 

【ビート アクト!】

『ビートチューンバスター、来いっ!』

 

 《忘れない》

 

「ハートウェーブ…充填完了!!」

【ライダー ビート ブレイク!】

 

  出現したビートチューンバスターに全てを込めて、乙音ディスパーへと狙いを定める。そこにこもるのは、あらゆる人の思いを背負うという覚悟だ。

 

 《みんなと過ごした》

 

『まずっ……!!』

「『くらえええええええええっ!!!』」

 

 《四季の強さ》

 

  ギュウッ!!空間が歪む奇妙な音とともに、虹色の極光がディスパーに直撃する。先に放たれた全てを喰らった上でのこの一撃に、身体が徐々に粒子分解していく感覚を音成は覚えていた。

 

『ぐ、ギ……ギ、グ、ガ、グウウウウウウッ!!』

 

 《これまでの勝利も》

 

『まだまだあっ!!』

「私達の全てをっ!!」

 

 《踏みしめた大地も》

 

  尋常でない苦しみ方をするディスパーに勝機を確信した2人。さらに放たれる光の勢いを増して、自らも反動で吹き飛びそうになるのを抑えつけながら、決して狙いを外すことは無く止まり続ける。

 

 《 《支えられてきたから!》 》

 

「『ううおおおおおっ!!』」

『グ、ウ……ここ、で………ここでえええええええっ!!』

 

 《 《This is the bonds!》 》

 

 ギュイイイイイイ……

「っ!?なに、この音!」

『空間が…!うわっ!?』

 

 《Sing a song……》

 

  音成を包む竜巻、放たれた光弾。そして虹色の光が全て一点に収束し………空間を引き裂くと同時、崩壊した調和が大爆発を引き起こす。

 

「うわあああああああっ!?」

『乙音お姉ちゃんっ!』

 

  爆発の勢いにやられ、たまらず地を転がるホープソング。それでも変身が解除されないのは流石といったところだが、すぐに立つことは出来ないようで、爆発の跡地を確認しようとして、少し時間がかかってしまった。

 

「っ、やった……!?」

『………!』

 

  倒せただろう。いや、倒せたはずであってくれ。そう願う乙音だったが、ゼブラは微かに音成の気配を感じていた。

  爆煙が晴れ、抉り飛ばされた地面の跡が乙音達の視界に映る。その瞬間、ゼブラは圧倒的な殺意を察知した。

 

『ーー乙音お姉ちゃんっ!上っ!!』

「…………っ!」

 

  ゼブラの声を受け、乙音は上を見上げることもせずに咄嗟に前へと飛ぼうとする。

  しかし、消耗のためか足が十分に動かず、急降下してきたディスパーの一撃から逃げ切れなかった。

 

「うっ!?」

『うわっ!』

 

  轟!という音と共に浴びせかけられた衝撃に、再び地面を転がるホープソング。それでも来るとわかっていた衝撃ならば、受け身は取れる。すぐさま立ち上がろうとするが……

 

『死ねえーっ!!』

「がっ!?」

 

 その前に、駆け寄ってきたディスパーのつま先が、ホープソングの顔面を捉えた。

 

『立て!』

「ぐっ!う、うう…………っ!?」

『な、なに…………』

 

  ディスパーに胸ぐらを掴まれ、強制的に立たされて呻き声を上げる乙音。彼女の目の前にはディスパーの顔面があったが、乙音も、そしてゼブラも()()を見て困惑する。

 

『貴様ら……貴様らのせいだ!この、僕が……こんなバケモノにっ!!』

 

  ーーディスパーの仮面は割れていた。本来ならば、顔の半分は露出していただろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

  ただ、黒いだけの虚無ーーそれが仮面を被り、人のカタチをとって話しているというおぞましい事実を、誰よりも強く理解していたのはディスパーだった。

  自身がディソナンスよりも、人間よりも、遥かに醜いバケモノとなってしまったーーその事に耐え切れないディスパーは、乙音に自らの罪と業をなすりつけるように、執拗にその顔面を殴り続ける。

 

『貴様!……そうだ、貴様だって、ゼブラと融合している!ならば、ライダーとして変身している間は………っ!』

「な、ぐっ、何を……言って!」

『黙れっ!!』

『「がっ!?………っは………」』

『お前もおおおおおっ!!』

 

  もはやディスパーの目的は1つだった。乙音も、ゼブラも、自身と対になる存在が、自身と同じ醜く浅ましくおぞましいバケモノであると、そう証明することだけが、彼の存在理由となってしまっていた。

  振り払うように浴びせかけられる拳に、次第に仮面はひび割れ、砕け、身体は沈んでいく。そして、乙音が膝をついたその時ーー

 

『砕けろおーっ!!』

「………………!」

『うっ…………!』

 

  ーーついに、ホープソングの、乙音達の仮面が砕け散った。

 

『ハァ、ハァ………クソッ!』

 

  殴られた衝撃で、うつ伏せに倒れ伏したホープソングの頭を掴んで、ディスパーは無理やり顔を覗き込もうとする。そこには、自身と同じものが広がっていると信じて。

 

 

  ーーその手を、ホープソングが掴んだ。

 

 

『…………あ?』

 

「《膝をついて》」

 

「《倒れ伏して》」

 

  ホープソングが、歌う。乙音とゼブラの入り混じった、不思議と心に響く声で。

  そしてーー

 

「《それでも諦めない》」

 

『………な、あ…………!』

 

「《瞳!》」

 

  砕け散った仮面の中に輝くのは、確かに煌めく、人の瞳。ーーそして、決して諦めない希望の光。

 

「《託された希望(もの)……輝く!》」

 

  驚愕するディスパーの手を握り潰して、ホープソングは振り払う。絶望の意思を、度重なる苦痛を!

 

「《心が波のようになってーー》」

 

「《歌になるーー》」

 

  ホープソングが虹色に輝く。歌は佳境に。物語は終幕へ。

  絶望を終らせる一撃が、今放たれる!

 

 

 《Break the heaven!》

 

「ライダーァァ………」

 

 《Connect your song!!》

 

『「パァァンチッ!!』」

 

  虹色の光を纏った拳が、ディスパーの纏う鎧にヒビを入れる。

 

 《心の音々(おとね) どこまでも響かせて!》

 

【ホープソング アクト!】

【オーバー ソング!】

【ソング! ライダー キィィィック!】

 

  間髪入れず、ホープソングが必殺技を発動。ディスパーの鎧を完全に砕き、その身体を宙にまで打ち上げる。そして自分は更なる高みへと飛び上がり、ディスパーの遥か上へと到達する!

 

「天城音成……いや、ディスパー!」

 

 《Heart the song!》

 

『これで……終わりだっ!』

 

 《溢れてる!!》

 

【オール! オール! オール! オール! オール! オール!!】

 

 《風は無限で 歌は希望!!!》

 

  ホープソングの……乙音とゼブラの身体に、ハートウェーブが集まってくる。そのハートウェーブは彼女達のものだけではない。今もまだ、無事と勝利を祈る人々の心が、彼女達の力となっているのだ。

 

【オォォォォル! アァァァクトッ!!】

 

 《私達の紡いだ!》

 

『馬鹿な……僕が、僕が滅びるわけがァァァァ……!』

 

 《強い絆があるから!》

 

【オォォォォル! ライダァァァァ!! フィニィィィィッシュ!!!】

 

「『いっけええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!』」

 

 《 《もう僕らは負けない!》 》

 

 《 《Song is hope!!!》 》

 

  乙音達の全身全霊、全ての心を込めた集大成となる一撃が、ディスパーの虚無を消滅させていく。

 

 《Forever song!》

 

『ぐっ……くそっ、クソッ、クソガアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

「『ううおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』」

 

  歌が終わり、声が途切れると同時に、これまでで最大規模の爆発がーー乙音とゼブラを包み込んだ。

  その爆発は地球からでもはっきりと見えるものであり、その光を見た人間は皆確信した。

 

  全て…終わったのだ、と……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーそして、一年と少しの月日が流れた

  この一年の間に、また新たな厄介ごとも起こったものの、新たな力を持つ者達や、ボイスや勝、ショット博士達のように残った者達の尽力もあって、今世界は急速に復興へと進んでいた。

 

  ーーだが、乙音とゼブラは、帰ってこなかった。

 

  今の季節は冬。寒空の下、あの戦いの日々を思い出しながら、ボイスはある場所へと向かっていた。

  この一年の間に取った免許と車を走らせ、ボイスが向かう先は小高い丘の上だ。かつて特務対策局本部があったこの場所は、この一年で本部の移転などもあって、すっかり人気の無い公園と化していた。

  クリスマスの夜ということもあってか、道が混んでいたので少し遅れてしまった。ボイスは車を止めると、適当に荷物をひっつかんで、小走りで丘の上へ走る。

  するとそこには、既にバーベキューの準備を始めている仲間達の姿があった。

 

「……やっと、着いたか」

「あ!ボイスちゃーん!こっちこっち!」

「遅かったな」

「すまねえな。どうも道が混んでて……」

「あ、ボイスちゃん。はいあったかいコーヒー」

「あ………すまねえな、美希」

「ううん。私達もさっき着いたばかりだし」

 

  あの戦いの後、最も取り乱したのはボイスだった。

  美希はドキ達ディソナンスの死を悲しみこそしたが、どこかで彼等が死に場所を求めていたのを悟っていたのか、涙以上のものを吐露する事はなかった。しかし、ボイスは乙音が帰ってこないことに愕然とし、一時は変身してまでもあてのない捜索に向かおうとしていた。

  そんなボイスを止めたのが、美希だった。

「乙音達は、必ず戻ってくる」……この言葉を受けたボイスは、何日か一人で過ごした後、いつも通りの少しがさつな少女の姿に戻っていた。

 

「ボイス、やっと来たのか!もう食べ始める頃だぞ。まったく、みんなお前を待っててーー」

「………刀奈、食べかすついてる」

「はっ!取れたか桜?………あ」

「刀奈………」

「うっ………て、テレビで腹が減ってたんだ!仕方ないだろう!?というか真司はなんでそんな……」

「…まーた始まったよ。ケッ」

「いつもの痴話喧嘩だな……」

「まったくですよ。たく、真司のヤローよお……ハァ………」

 

  あれから一年経ち、当然ライダー達の関係にも変化が生じていた。特に、真司と刀奈の仲は急激に接近する事になっていった。

  今はまだお互い自覚を持っていないがーー連日テレビで人気歌手カップルのように画面に映るのを見ていると、時間の問題だろうな、とボイスは思っていた。

 

「………なによ、そんなため息ついて」

「いや……こんだけの美女が揃ってですよ?一人はアレだし、一人は操を立ててるから口説けないし、一人は乙音さんとゼブラさんに首ったけだし………」

「なっ!…シキ!お前な………」

「………私は?」

「え?……いやあちょっと」

「なんでよー!!」

 

  桜は単身渡米し、特に被害を受けたアメリカでアイドル兼仮面ライダーとして戦い始めた。治安の悪化を抑えるためだ。

  当然、シキ率いるビート部隊と共闘する機会も増えていた。今後どうなるかはわからないが、彼女達の間にもまた、1つの可能性があるという事だろう。

 

「あーはいはい。そこまでそこまで。じゃあ、ボイスちゃんも来たんだし始めましょ!」

「……そうだな」

 

  彼女達が集まったのは他でもない、乙音とゼブラの帰還を願ってのことだ。とはいっても、そう暗いわけではない。むしろ辛気臭いのは2人も嫌がるだろうと、こうやって定期的に明るく集まる事で、2人がいつ帰ってきてもいいようにしているのだ。

  今回はライダー達と美希達で集まっているが、都合があえば勝や香織、ショット博士やロイドまで来ることもある。

 

「それで……このまえシキが………」

「ちょ、おい!それは言わない約束……」

「マジで……?そんなことが……」

「ふっ……」

「あー!お前、真司!今鼻で笑いやがったな!」

 

  時に騒ぎつつ、時に笑い合いつつ、共に時を過ごす。その輪の中から抜け出して、ボイスは街を眺めながら、1人コーヒーを飲んでいた。

 

「隣、いい?」

「おう」

 

  と、美希がボイスの隣に座り、同じようにコーヒーを飲み始める。喧騒を背後に感じながら、2人して街を眺め、星を眺める。

 

  ……と、そこでボイスが違和感を覚えた。この丘からは星がよく見えるが、その星が今夜は……一段と輝いているような………

 

「……こっちに来る!?」

「え、ちょーー」

 

  星の輝きがどんどん大きくなってきたかと思うと、ボイスと美希の眼前に強い光を伴って降りて来た。それを見て、真司達もなんだなんだと駆け寄ってくる。

 

「大丈夫か!?」

「また宇宙からの侵略者!?銀河族はとっくにぶっ飛ばしたでしょ!」

「チッ……またヴォルトみてーな野郎か!?」

「いや、あの組織が復活したのかも……」

 

  ドライバーを構え、口々に喋るライダー達。しかし美希とボイスが気づく。光からは敵意を感じないことに。いや、むしろこれはーー

 

「ーーまさか」

「……乙音………ゼブラッ!」

 

 

 

「……ちょっと、恥ずかしいけど」

「乙音お姉ちゃん?」

「あ…うん……!」

 

 

  ボイスの声に反応して、光から声が響く。懐かしい声に、思わず驚く真司達と、既に少し涙ぐんでいるボイスと美希。よく見ると人間2人程度の大きさはありそうな光が薄れていき、その中から現れたのはーー

 

 

 

「「ーーただいまっ!みんな!」」

「……ああ、お帰り乙音!」

 

 

 

  …かつて、1人の男がいた。

  男の名は、天城音成。人が誰しも持つ命の波動…心の力であるエネルギー、『ハートウェーブ』を発見し、世界を揺るがした男だ。

  当然、彼は名声を得た、富を得た、人心を得た。しかし、彼の頭脳にも予測できない事があった。

 

 

 

 

それはーー人の心が起こす、奇跡だ。

 

 

 

 

 

 仮面ライダーソング

 完




ほんっとー……にお待たせしました。これにて、乙音達の物語はおしまいです。
この後も苦難はあるでしょう。悩むことも、苦しむこともあるでしょう。
ですが、彼女達は負けないでしょう。もう作者の私でさえ、本編後の彼女達を負けさせることは出来ないです。それだけ強くなってくれました。

思えば役一年前、この物語を始めた時は、まさか評価欄に色がつくとは思っていませんでしたし、こんなに多くの方に読んでいただけるとは思えませんでした。もしも感想や評価がなかったとしたら、私は途中で辞めてしまっていたことでしょう。
改めて、感謝を。

さて、活動報告では『ソング』最後の人気投票を実施したいと思います。それと同時に、次回作についてのアレコレも。是非覗いて、参加していただければ嬉しいです。


それでは!皆さんも良き創作を!

君が諦めないと思う限り、その道は途切れていないーー



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