鳥居優治は王の器である (マクロなコスモス)
しおりを挟む

設定

設定です!


鳥居優治(とりいゆうじ)

 

性別:男

年齢:11歳(精神年齢は14歳)

趣味:読書 戦艦のプラモデル 剣術の練習

憧れの人:鳥居元忠 高橋紹運

好きな食べ物:五平餅、三河巻き、洋食

嫌いな物:虫とトマト

 

今作の主人公。不良から後輩を助けようとしたところ、背後から金棒で後頭部を強打されて死亡。女神によって、298年後の未来へ転生する。

その際、特典としてもらったのが、マギのジンである「アシュタロス」と「フェニクス」。能力までは知ってるものの、扱いはまだ慣れておらず、まだ全身魔装に到達してない。

全身魔装ができない理由はおいおい。

 

家系としては、徳川家康の家臣である鳥居元忠の子孫である。優治は、鳥居元忠の子孫であること、三河武士の血が流れていることを誇りに思っており、自他ともに認めるほど根性がある。小学3年から剣術の練習を絶やしていない。そのため、近接戦はトップクラス。

 

性格は基本的に優しく、困ってる人がいると助けに行く。こうなったのは、優治に剣術を教えた元軍人である優治の祖父の影響を受けたからである。そして、仲間意識がとても強い。

転生する前は、そのまっすぐな性格から、現部長から部長候補として選ばれていた。

 

そして、かなりの甘党。いつも、コッソリと甘いものを持参して食べている。

 

身体能力は周りの人よりはるかに高いが、神樹の恩恵を受けている鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子より低い。そのため、サポートになることもある。

 

容姿は女の子っぽい顔つきで、小学生の時はそれが原因でよく弄られた経緯がある。転生したこの世界でも弄られている。中には、女装させようとする女子もいる(誰とは言わない)。

 

家族構成としては、父が技術屋で、部品供給をしている中小企業の社長。母は、専業主婦である。

 

 

転生特典での設定

 

アシュタロス

 

優治が転生する際にもらった刀の中にいる「恐怖」と「瞑想」の精霊。優治はマギではないため、まず話に登場することはない。

それに加えて、マギの原作では、アシュタロスは判明してるのは極大魔法のみのため、今作では、極大魔法以外の魔法を出す予定(つまり、オリ魔法)。

 

 

白閃煉獄竜の咆哮(アシュトル・ハディール)

 

刀身に竜の形をした白い炎を纏わせ、敵に向かって剣を突き出して、一直線に焼き尽くす。優治が使うマギの原作にはないオリ魔法。簡単に言えば、まだ全身魔装に至ってない優治にとっての最大の必殺技。バーデックスの関節攻撃を相殺することが可能である。

ただし、マゴイの消費が激しいため、2回までしか使えない。それに加え、直接攻撃には無力である。

全身魔装となると、何回も使えるようになり、2〜3体のバーテックスを焼き尽くすことが可能になる。

 

白閃煉獄竜の牙(アシュトル・ナーブ)

 

刀身に白い炎を纏わせ敵を焼き切る。こちらもマギでは出ていない優治のオリ魔法。こちらは、アシュタルト・ハディールとは対の直接攻撃である。

優治の剣術と組み合わせて使うことが多く、炎の剣の軌道が見える。

 

全身魔装

 

優治が前世の記憶を捨てることにより、魂が統一。全身魔装に至ることが可能になった。

 

優治の全身魔装は、精霊(ジン)のに近い風貌になるため、マギの練紅炎の全身魔装の姿とほぼ同じである。

そして、今まで使っていた魔法がより強力になっている。

また、大技である極大魔法を使うことが可能になる。優治の場合、2回まで使用することができる。

飛行も可能で、魔力がある限り自由に飛ぶことができる。

 

しかし、魔法がより強力になる代わりに、魔力消費が激しく、極大魔法を2回も使ってしまうと、すぐに元の姿に戻ってしまう。

 

上記の設定で、「アシュタロスの咆哮は全身魔装になると何回も使えるようになる」と書いてあるが、追加して言うなら何十回は不可能である。

 

 

白閃煉獄竜翔(アシュトル・インケラード)

 

アシュタロスの極大魔法。

八芒星から、巨大な白い炎の竜を出現させ、対象へと巻きつき燃やし尽くす。

この白い炎は、術者が命じない限り、永遠に消えることなく燃え続ける。

 

アシュタロスの咆哮では飲み込めないほど巨大なバーテックスと戦う時に用いられる。

 

 

フェニクス

 

アシュタロスと同様転生特典としてもらった剣の剣穂の中にいる「慈愛」と「調停」の精霊。こちらも話に出てくることはない。今作では、フェニクスの全身魔装を出る……(かもしれない)

能力は再生。骨折なんかの大怪我も一瞬に治してしまう。

 

 

 

 

鳥居優治の自己紹介(ゆゆゆい風)

 

「えっ……と。もう準備はできてるのか?」

 

「じゃあ、自己紹介。神樹館6年鳥居優治(とりいゆうじ)だ。女の子みたいな顔だが、れっきとした日本男児だ。誕生日は8月29日、身長は156cm、血液型はA型だ」

 

「好きな食べ物は甘い物全般、洋食も好きだ。嫌いな物は虫とトマトだな。カブトムシやクワガタ見たいな甲虫は平気なんだが、他のやつは……到底だが、触ることができないな……」

 

「趣味は戦艦のプラモを作ることと読書だな。歴史小説も読んでいるけど、ラノベや漫画も読んでるぞ」

 

「俺は勇者ではないけど、俺が持ってるこの剣に精霊が宿っているからバーテックスと戦えるんだ。俺は別に神樹様を守るために戦うとかそういうのじゃなくて、ただ俺は大切な人たちがこの街で生きてるからその人たちを守るために戦う……それだけさ。名誉なんていう飾りは俺にはいらないよ」

 

「それと、俺は三人の勇者と一緒に戦っている。ああ、鷲尾須美と三ノ輪銀、乃木園子のことだ。あの三人は俺にとって、とても大切な人なんだ。たとえ命に代えても俺は守ってみせる!」

 

「それと、あの三人、やたらと俺に女物の服を着せようとするんだよな……。マジで勘弁してほしい。銀と園子は調子に乗ってるだけだけど、問題は須美だな。一番やる気を出してくるんだ……。須美はわけわからんが、鼻血を出すし、園子は小説のネタにしようとするし。よし、仕返しに銀と園子と結託して須美の衣類を全て西洋物にするというドッキリをしてやろう。」

 

「ま、こんなもんかな。三人が待ってるから、じゃあな!」

 

その後、優治は宣言通り、銀と園子と一緒に須美の衣類を西洋物にするというドッキリを行なった。

その結果、優治は……。ご想像にお任せします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鷲尾須美は勇者である編
プロローグ


初めまして!マクロなコスモスです!結城友奈は勇者であるを見て突然、書きたくなって書きました。僕の妄想を詰め込んだ感じですが、面白いと思ってくれれば幸いです。


「ここは……」

 

気がつくと、俺は一つの椅子に座ってた。目の前には俺が座っている椅子より上品な椅子があり、それ以外は真っ暗な空間だった。

 

「おい、もしかしてこの展開って、俺は死んだのか!?」

 

待て待て。もしかして、こっからダメな女神が出てきて特典をもらって素晴らしい世界に転生するってやつじゃないのか?

 

「半分正解、半分不正解」

 

後ろから俺の考えに誰かがツッコンだ。それと一緒にカツカツと誰かが歩く音がした。

俺は気になったので、後ろを振り返ると、綺麗な水色の髪でも銀髪でパッドをつけた女神ではなく、綺麗で艶のある長い黒髪の女神?がいた。

 

そう言いながら、椅子に座る女神(多ぶ「本物よ」

 

「あ、はい」

 

「ま、この空間があの作品に似てるというのはわかるわ。私もその小説とアニメ見て、そうしようと思って真似したわけだし」

 

え、マジで。女神もラノベ読んでるの?すごいな日本のラノベ。もはや、神の領域まで広がっていたとは。

 

「あ、ちなみに、私はとあるシリーズが好きよ」

 

「わかります!上条さんかっこいいですよね!」

 

「うーん、私も上条さんも好きだけど、やっぱり一方通行かな」

 

「あちゃー、そうでしたか」

 

「って、こんな話をしてる場合じゃなかった!早く、あなたを転生させなきゃ」

 

女神は少し焦った表情になる。これから、どうなるのかわからない俺は、ただ女神の顔を見るしかなかった。

 

「まず、あなたの個人情報の整理ね。鳥居優治(とりいゆうじ)くん。享年は14歳、誕生日は8月29日。死因は不良に連れ去られた後輩を助けに行こうとしたら、後ろから金棒で後頭部を殴られて死亡……ね」

 

「……その湊のやつはどうなったんでしょうか?」

 

湊は、剣道部の1年マネージャーだ。先輩後輩問わず人気で、気配りが良かった。朝練の時、一人で練習していた俺のところに来てスポーツドリンクをくれた。

 

「無事よ。今、あなたの遺体を抱いて泣き崩れているわ」

 

「こりゃあ、悪いことしたな」

 

多分、これから湊は俺が死んだのを自分のせいだと思って自分を責め続けてしまうのかもしれない。だったら……。

 

「すみません、女神さま。今、湊に話しかけることはできますか?」

 

前に、ドラゴンボールで、界王神経由で悟空がこの世にいる人に話掛けていたというシーンを見て思いついたのだ。

 

「ごめんなさいね、それはできないの。ただ、夢であなたが伝えたいことを伝えることはできるわ」

 

「じゃあ、こう伝えてくれませんか。『別に湊のせいで死んだわけじゃない。おまえが無事ならそれで良い、これからは前を向いて生きてくれ』って」

 

「わかった。そう伝えておこう。それで、話を戻すわけだけど。優治くん、あなたが転生する際に特典を1つ与えようと思うの」

 

「特典ですか?」

 

特典をくれるとか、なんて優しい女神さまなんだ。

 

「前世の行いが良かったからね。それと、あなたとは色々と気が合いそうだし。こっから、好きなこのカードから選んでね」

 

「うーん、どんなカー……。えっ、何これ」

 

俺は女神が出してきたカードを見た。その枚数は数多く、見た目では700枚くらいだと思う。

その中には、「その幻想をぶち殺す」や「こっから先は一方通行だァ!」など、とあるシリーズの有名な台詞があった。他にも「オラ、わくわくすっぞ!」や「海賊王に俺はなる!」など、どこぞの有名な漫画の台詞もあったりした。

 

この女神さま、どんだけ日本のアニメや漫画、ラノベが好きなんだよ。

それ以外にも、「射撃と剣撃の才能」や「ロマンのある物を発明できる能力」みたいにまともなものもあった。そして、俺はあるカードが視界に入った。

 

「炎と不死鳥?」

 

いや、普通、炎の不死鳥だろ。

けど、よく考えてみれば、不死鳥か……。カッコ良さそう。

 

「えーと、『炎と不死鳥』にします」

 

「そういうのチョイスするなんて……君は厨二病なのかな?」

 

「べ、別に良いでしょ!ったく、転生してもらえますか?」

 

俺は女神の痛い指摘に思わずムキになってしまう。さっさと早く転生して欲しい……。

 

「からかって悪かったわよ。じゃあ、この紋章の上に立って。転生させるわ」

 

俺は床に現れた紋章の上に立つ。

 

「女神として、あなたが新しい世界で正しく、そして幸せに生きることを願っております。では、頑張ってください」

 

俺は紋章が激しく光輝いていき、女神さまの姿が薄れてく。そして、俺の視界は真っ白になった。

 

 

 

 




まずはプロローグの方はどうだったでしょうか?字数はこれから増やしていければ、と思っています。感想、アドバイス、疑問に思ったところがあれば、ぜひ教えてください!頑張って修正していこうと思います!これからもよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話転生した世界

プロローグに続けて1話目!原作介入はまだです!文才がアレですが、お付き合いいただけると幸いです!では、どうぞ!


「ここは……」

 

俺は気がつくとベッドに横になってた。すでに日は登っており、多分時計の針は7時に近かった。どうやら転生は完了したらしい。

 

ここは異世界なのだろうか。それとも、日本なのだろうか。カーテンの隙間から差し込んでくる日光だけでは、当然俺には分からなかった。

 

俺は窓を開け、景色を見た。

 

「えぇ〜、日本かよ」

 

よく見る住宅街が俺の視界を埋めていた。どこも何もなさそうな感じだった。

異世界的な要素はどこにもなく、俺はガックリと肩を落とした。

 

「転生特典なんざ意味ないんじゃないか」

 

俺はそう呟いた後、敷きっぱなしになっている布団を片付けようと、少し歩く。すると、寝巻きのズボンから何か違和感を感じた。俺はそのままポケットに手を突っ込み、それを取り出すと、二枚のメモがあった。

 

『このメモを見てるということは転生は成功したようだね。今の君は298年後の日本にいるよ』

 

「298年の後の日本って、何も変わってないじゃないか。あの猫型ロボットみたいなやつも見ないし。どこが298年後の未来だ」

 

しかし、俺は女神さまが言ってることが嘘だとは思えなかった。性格的にも、あまり嘘をつきそうな感じじゃなかったし、嘘なんかつくんだったら、女神なんかやってないだろうし。

 

そして、俺は二枚目のメモ読んだ。

 

『それと、君の特典だけど、マギの「アシュタロス」「フェニクス」のことだよ。じゃあ、頑張ってね』

 

「えっ、マジで!やったー!」

 

俺がいつも読んでいる漫画はいつもサンデー系だ。その中でも、マギは俺の中ではとてもお気に入りのコミックだ。中学1年のはじめまで、よく魔法のセリフを言ったという黒歴史を作ったほどだ。

しかし、俺はあることに気がついた。

 

「うん?待てよ。俺がこれからジンを使うことになるってことは、俺は剣を携帯しなきゃならないってことだよな?銃刀法違反でヤバいことになるんじゃ……」

 

俺は早速問題があることに気がつき、がっくりと項垂れると、俺の指がメモの続きを隠していたことに気がついた。俺はメモの続きを読んだ。

 

『剣を腰に差していたら、銃刀法違反になっちゃうから、剣の方は自分が呼び出したい時に呼び出せるよ』

 

「さすが女神さま。抜かりがないですね」

 

さて、これで俺が心配することはなくなった。そして、これからやることは決まっている。

 

「まずは情報収集しなきゃな」

 

俺は早速、着替えようとした。その時、また俺はあることに気がついた。

 

「あれ?この服小さくないか?」

 

そういえば、少し部屋が広いような気がする。俺は部屋にある鏡を見た。

 

「身長が縮んでる?嘘だろ……」

 

まさか俺、これから探偵の才能に目覚めちゃうのか!?

というか、女神さまからこんなこと言われてないぞ。まさか、間違えてやったのか?

 

「どこか抜けてるとこもあるんだな。あの女神さま」

 

そう呟くと、誰かがくしゃみをしたような気がした。多分、気のせいだろう。この背丈を見るに、小学6年の時の身長だろう。

 

「さっさと着替えて行きますか」

 

俺は服を着替えて、階段を降りた。

 

「優治、あなた何処へ行くの?」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「か、母さん?」

 

振り返ると、俺の母さんがいた。驚いたのは、前世の時の母さんとそっくりだったからだ。まさか、ここまでそっくりとはね。

 

「さ、散歩しに行くだけだから」

 

「何言ってるの!今日から学校でしょ!早くランドセル背負って学校へ行きなさい!」

 

「え、マジか!」

 

俺はすぐさま時間割を見て教科書をランドセルにぶち込んで、学校へ向かった。

当然、通う学校の場所を知らないまま向かったので、遅刻したのは言うまでもない。

 

「これから日本史の授業を始めます」

 

日本史か……。298年間何があったが気になるな。俺にとって未知の歴史。一体どんなことがあったのだろうか……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

今日の日本史の授業を俺なりにまとめると、俺が死んだ後の2〜3年後までは、西暦を使っていたらしい。しかし、いきなり死のウイルスが世界中に蔓延して、人類は滅亡の危機にさらされていた。そこに神樹なるものが四国に現れ、四国に巨大な壁を作った。その結果、四国以外の地球上のものが死滅してしまったという。そして、この時代の人々は、神樹によって守られてることに感謝する習慣がついたということだ。

 

「神樹さま……ね」

 

神樹さまに守られて平和なら、俺は別にそれで構わない。むしろそれが一番だと思っている。転生特典で使えそうなのはフェニクスかな。大怪我をしてる人を助けることができそうだし。

もしも、ブラック・ブレッドみたいな感じだったら、アシュタロスの出番があるけど。

 

俺は帰りの挨拶の時に、クラスメイトと担任の先生と一緒に神樹さまに拝し、自分の家に帰った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……暇だ」

 

家に帰った俺は宿題を3分で終わらせ、ベッドの上をゴロゴロする。何もすることが見つからないのだ。金属器を扱えるように練習をしようとしても、日中だから目立つ。

 

「素振りするか」

 

人目の少ない森で素振りをすることにした。当然、使うのはアシュタロスが入ってる剣だ。今のうちに、剣の重さを知っとかないといけない気がしたからだ。

 

「母さん、ちょっと出かけるね」

 

「はいよ。夕方までには帰って来なさい」

 

「ういー」

 

俺は自転車を出して、人目のない森で練習場所を探した。

 




第1話目、グダグダな感じだったと思います。次の話から原作介入させたいと思っています!それでは、第2話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 交差する二つの力

連続投稿です!字数は前回より多めで、急展開になります。頑張って面白い小説にしたいと思います!応援よろしくお願いします!


「ふっ!はあっ!」

 

転生してからまる1ヶ月が経った。練習できる森を見つけることができ、今は、俺は朝から気合を入れた掛け声を出しながら剣術の練習をしている。練習してる場所が森なので、声が響いても問題はないし、真剣を使っていることもバレない。しかも、その練習場所をまで行くのに坂道を登っていかなきゃならないので、体力トレーニングにはもってこいだ。

 

俺は、朝は森で剣術の練習、夜では、誰にも気づかれないように、海辺で魔法の練習をしている。魔装はできるようになったのだが、残念ながら全身魔装まではいってない。感覚としては、あともう少しだとは思うのだが。

 

「さて、そろそろ時間だし家に戻るか」

 

俺は家に戻り、朝ごはんを食べて家を出た。

 

 

 

 

ここ最近、登校中、俺はある女の子と会うようになってる。なぜ、ここまで会うのかわからないけど。

 

「おい、三ノ輪。今日も人助けか?」

 

「お、優治!ちょうど良かった!一緒に手伝ってくれないか?あたしだけじゃ、どうしてもキツイんだ」

 

お婆ちゃんが背負っていたものを重そうに背負っている女の子は、三ノ輪銀(みのわ ぎん)。いつも、俺と彼女が会う時は、いつも三ノ輪が誰かを助けている時だ。俺も、困ってる人は放っておけないので、いつも彼女と一緒に助けているのだ。

今回は、どうやらお婆ちゃんが重い荷物で、腰を痛めたらしく、それを見た三ノ輪が荷物を背負って運んでいる。

 

「わかった!お婆ちゃん、さあ、背中に乗って」

 

「ごめんね、坊や。迷惑をかけちゃったね……」

 

「気にしないでください。こんなのお安い御用です」

 

俺はお婆ちゃんを背負って、お婆ちゃんの住む家まで送っていた。道まではさほど遠くはないが、腰を痛めているお婆ちゃんのことを考えれると、ゆっくり歩かなくちゃいけない。遅刻にはならないが、三ノ輪の方が遅刻になる可能性がある。

 

「ありがとうね、おかげで助かったよ」

 

お婆ちゃんはにっこりと笑う。お婆ちゃんの笑顔って、何だかほっこりするから気分が良くなる。

 

「良いって良いって!」

 

「困った時はお互いさまですから」

 

俺と三ノ輪は少し照れた雰囲気でお礼の言葉を受けた。

 

「なあ、いつ言おうか迷って、結局、今言うことにしたんだけどよ」

 

「何?」

 

三ノ輪は首傾げる。

 

「このままだと、お前遅刻するんじゃない?」

 

そう言うと、段々、三ノ輪の顔が青ざめた。

 

「あー!そうだった!じゃあな、優治!」

 

三ノ輪は全速力で走って学校へ向かった。

 

「さて、俺も行きますか」

 

俺も駆け足で、学校へ向かった。

俺は、遅刻はしなかったけど、三ノ輪の方はどうだろうか?ふと、俺は思った。

 

 

 

 

「日直、朝の会を始めるよー」

キンコーンカーンとチャイムが鳴った時、担任の先生が日直に呼びかけた。

 

「起立!」

 

ガタッ

 

日直がそう言った後、俺は立ち上がった。しかし、その時、違和感を覚えた。普通、立つ時に生徒達が立つことで生まれる椅子がズレる音が聞こえるはずなのに、出たのは俺が座ってた椅子がズレる音だけだった。

 

「?」

 

俺は周りを見ると、先生を含め、俺以外の教室のみんなが止まっているのだ。立ち上がろうとする時の姿勢で。

 

「おいおい、新手のいじめはよし子ちゃんだぜ」

 

俺はいじめは受けてないが、少々、弄られている。その原因は俺の顔だ。俺の顔は女の子よりな顔つきなので、よく揶揄われている。

 

まあ、それは置いといて。ここから、ピクッとも動かない。まさか、時が止まっているわけじゃ……ないよな。

 

俺は時計の方を見る。すると、予想通り時計の針が止まっていたのだ。

 

「なんだよ、一体何が……うわっ!?」

 

俺は何が起こってるか頭の中で整理しようとしたが、突然、光に包まれた。俺は思わず、目を瞑ってしまう。そして、光が収まっていくと、訳のわからない色鮮やかな幻想的な景色が現れた。

 

「綺麗だ……」

 

俺はゴクリと唾を飲み込み、その景色を見続けた。まるで、神の領域だと言いそうになった。

 

「って、あれ?」

 

俺は何か握ってることに気がついた。別に呼び出してもいないのに、俺の剣が出ていたのだ。その剣の刀身に八芒星の形をした光が出ていた。つまり、俺のジンが何かに反応しているということだ。

 

「マジで一体何が……」

 

俺は景色を見続けていると、その中に何やら変なものがいた。言葉にしにくいが、とにかく大きな水玉が左右についてるのが大きな特徴だ。

 

変なやつの周りをよく見ると、弓を持つ女の子、槍を持つ女の子、2丁の斧を持ってる女の子がいた。特に、俺はその斧を持ってる女の子に見覚えがあった。

 

「あれって……三ノ輪だよな」

 

そう、俺の知り合いである三ノ輪銀がそこにいたのだ。そして、三ノ輪たちはその変なやつに向かって跳んだ。

そして、あのヘンテコなやつは水の弾を発射し、三ノ輪を落とした。

 

俺は今、この状況はどんな状況なのか、わかったような気がする。 この光景を見るに、多分、彼女たちは侵略者からこの世界を守る戦士で、今、それに苦戦している、ということだろう。

 

「ったく、目の前で困ってる人がいたら、助けないといけないでしょ」

 

困った人がいたら、例えどんな人でも助ける。これが俺の師匠にして、祖父の教えだ。

それに、魔法の練習の成果を知ることができるしな。

俺はダッシュで、三ノ輪たちの方へ向かった。

 

 

三人称視点

 

優治が3人の勇者のところまで向かっている間に、バーテックスは水の弾を発射させたり、高水圧の水を放射したりと3人の勇者を苦戦させてた。中でも、乃木園子(のぎそのこ)はバーテックスの強力な攻撃に耐えていた。

 

「台風のすごいのみたい〜!」

 

バーテックスの攻撃が園子に集中している間、鷲尾須美(わしお すみ)は弓の弦を引き狙いを定めて、花びらのゲージが溜まるのを待った。

 

「早く…!」

 

そして、ゲージの花びらが全て光った時、弦を離して矢を放った。しかし、バーテックスの水の弾が矢の勢いを殺して、それを防いだ。

 

「そんな!……えっ、あれは」

 

自分の攻撃を防いだバーテックスを見ていると、優治がバーテックスの方に向かっている姿を見た。服装は勇者服ではなく、普通の洋服。須美から見れば、優治は同じ年くらいで、女の子か男の子かわからない中性的な顔つきである小学生だ。

 

「ダメ!早く逃げて!」

 

普通の小学生の場合、バーテックスの攻撃を受けたら怪我だけじゃ済まされない。それを知っている須美は優治に叫んだ。

しかし、優治は違っていた。手に持つ剣を構え、竜の形をした白い炎を刀身に纏わせた。そして、敵に向かって思いっきり剣を突き出した。

 

白閃煉獄竜の咆哮(アシュトル・ハディール)!」

 

そう優治が叫ぶと、白い炎の竜は一直線にバーテックスの方へ向かい、水の弾を一気に蒸発させ、園子に向けて発射されている水の口を攻撃し、バーテックスの攻撃を中断させた。

 

「あれ?水が……うわわっ!?」

 

園子は全力で押し戻そうとした力の行き場を無くしたことにより、少しバランスを崩し、倒れそうになった。

 

「おっと」

 

バーテックスに攻撃した後、園子が倒れそうになったところを優治は受け止めた。

 

 

優治視点

 

「大丈夫か?」

 

俺は3人の中で一番、髪の長い女の子がバランスを崩して倒れそうなところを受け止めた。

 

「うん、ありがとう〜」

 

ホンワカとした雰囲気を出しているこの女の子。

何この癒し系の生き物、めっちゃ可愛いんですけど。これは人間ではない、人間の姿をした天使だ。守りたいこの笑顔。

 

「えっ、優治!?何でここにいるんだよ!」

 

当然の如く、三ノ輪は俺がいることに疑問を感じた。だが、それは俺も同じ疑問を持っている。

 

「それはこっちも同じだよ。何で三ノ輪がいるんだよ」

 

「あたしは、勇者だからな!」

 

えっへん、と言わんばかりに胸を張る三ノ輪。俺はその言葉に首を傾げる。

 

「なあ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者って何だ?」

 

ズコーッ!

 

俺はそう言うと、三ノ輪と長い髪の女の子は漫画やアニメのように転んだ。こんな綺麗な転び方見たことがない。

 

「何か変なこと言ったか?」

 

勇者とか、そのまんまだとは思うけど、よくわかんないな。日本史でそんな言葉があったような……なかったような……。うん、覚えてない。覚えているのは、縄文から平成くらいだから。

 

「お前、社会の勉強しただろ!」

 

「いや〜、覚えているのは平成までだ。まだ、神世紀は覚えきってない」

 

だって、転生してまだ1ヶ月しか経ってないもん。まだ、把握しきれてないところがあって当然だ。俺は悪くない。

 

「まあ、とにかく、今はあいつを倒すのが先決じゃないのか」

 

無駄話をするわけにはいかない。このヘンテコなやつが髪の長い女の子にした攻撃を見るに、あれは厄介だ。しかし、あの攻撃は大きな隙を作る。だから、ワザとその攻撃をさせて、速攻で片付ける。この戦法が良いだろう。

 

「私も彼と同じ意見です。まずは、話はバーテックスを倒してからにしましょう」

 

後ろにもう一人、さっきの弓を持っている女の子がいた。

 

「えっと……誰?」

 

「初めまして、鷲尾須美といいます」

 

「こちらこそ初めまして。鳥居優治です」

 

「私は乃木園子だよ〜。よろしく、鳥居くん」

 

「よろしく、乃木さん」

 

「それで、俺が思いついた作戦聞いてくれるかな?」

 

「作戦!なになに?」

 

「わあ〜、作戦か〜。ドキドキ」

 

「それで、どんな作戦でしょうか?」

 

「それは……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「みんな、準備は良いかい?」

 

「おうよ!準備万端だ!」

 

「こっちも大丈夫〜」

 

「こっちも準備万端よ」

 

「よし!作戦開始!」

 

俺が作戦の開始を伝えると、鷲尾さんはバーテックスという敵に弓を射る。攻撃を受けたバーテックスの注意がこっちに向いた。

 

「いくぞー!突撃!」

 

俺たちは、バーテックスに向かって走って突撃をした。バーテックスは水の弾を放つが、俺たちには当たらなかった。そして、俺たちは4人で固まり、一直線にバーテックスへ向かう。

バーテックスは、纏まって突撃しているのを好機だと思ったのか、水鉄砲を俺たちに向けて撃とうとする。俺はその瞬間に、

 

「陣形解除!鷲尾さんは後退して俺と三ノ輪と乃木さんを援護射撃!三ノ輪と乃木さんは横に避けて!」

 

「「「了解(〜)!」」」

 

俺は走るスピードを上げて、スライディングをしてバーテックスの水鉄砲を避ける。そして、水鉄砲を撃っている間に、乃木さんと三ノ輪は右の方の大きな水玉を、俺は左の水玉の方へ向かった。

 

バーテックスは水の弾を放って、俺たちの接近を阻もうとするが、鷲尾さんの後ろからの援護射撃で、俺たちは足止めをくらうことなく、バーテックスの真上まで跳んだ。

 

「白閃煉獄竜の咆哮!」

 

俺はゼロ距離で魔法を放ち、一気に大きい水玉を壊した。

 

「三ノ輪、いっけえぇぇぇぇ!」

 

「うおおおおっ!」

 

三ノ輪はバーテックスを切り刻んでいった。

 

「どうだー!」

 

三ノ輪がそう叫んだ後、夜のような景色は昼のような景色に変わった。

 

「……やった…のか?」

 

俺はドッと疲れが来てしまったのか、尻餅をついてしまった。俺はそのまま、上を見上げ、降ってくる桜の花びらのようなものを見る。

 

「あー、これからどうなるんだろうな……」

 

 

 

 

 

 




第2話の方はどうだったでしょうか?できれば感想を書いてくださるととても嬉しいです!それでは、第3話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 転校と祝勝会

おはこんばにちは!マクロなコスモスです!第3話目、投稿です!

これで、ストックがなくなっちゃったな……。
頑張らないと!


バーテックスを倒した後、俺たちは通っている学校から離れた場所にある瀬戸大橋の近くにいた。

 

「……んじゃ、俺は学校に戻るよ」

 

「そっか、優治はあたし達と違う学校だったね」

 

「まあな、早く行かないと先生の痛い拳骨が来そうだし」

 

「それはキツそう〜」

 

「それじゃあ、またな」

 

「あの!」

 

鷲尾さんが俺を呼び止めた。

 

「ありがとうございます。あなたのおかげで、バーテックスを倒すことができました」

 

「いいや、俺のおかげじゃないさ。鷲尾さんの的確な狙撃のおかげで、俺と三ノ輪がバーテックスの懐に飛び込めた。礼を言うのはこっちだったな。ありがとう」

 

俺はそう言った後、全速力で学校へ戻った。幸い、トイレに行ってたことを理由にして何とか誤魔化すことができた。俺自身まさか誤魔化すことができるとは思わなかった。

 

その後、学校の授業が終わり、家に帰った。俺はバーテックスとの戦いの疲れで、眠かったため、シャワーを浴びて晩御飯取らずに寝た。その間、俺の家で何が起こっているのかも知らないで。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あれ?ここは……」

 

俺はどこかの建物の中にいた。その建物は、色々な軍艦、戦闘機の模型がいっぱい置いてあった。

俺は小さい頃、おじいちゃんと一緒に戦艦や零戦の模型がたくさんある展示展に行った覚えがある。しかし、俺が見てるこの光景は俺が小さい頃の時に行った展示展ではなかった。

 

『ひっぐ、ひっぐ……。お父さま、お母さま……』

 

一人の女の子が休憩用のベンチに泣きながら座っていた。両親を呼んでいたということは迷子なのだろう。俺は女の子に話しかけることにした。

 

「君、迷子になったの?」

 

『ひっぐ、ひっぐ……』

 

「大丈夫だよ。さ、一緒にお父さんとお母さんを探そう?」

 

俺はそう言うが、女の子は何も喋らず、泣いていたままだった。俺は何とか泣き止むように頭を撫でようと、手を伸ばした。

 

「あ、あれ?」

 

俺の手は彼女の頭をすり抜けてしまった。

 

「うーん、どういうことだ?」

 

今、俺に何が起こっているのか、手を組んで悩んだ。しかし、答えが出ない。そんな時だ。

 

『ねぇ、君、どうしたの?』

 

一人の少年?少女?どっちだか、分からないが、泣いている女の子に話しかける。しかし、その声をかけている子どもに見覚えがあった。

 

「小さい頃の……俺?」

 

いや、疑問形ではなく、小さい頃のモノホンの俺だ。ということは、俺が見ているこの光景は俺の記憶ということになる。しかし、小さい頃の俺が展示展で迷子に声をかけた覚えはない。これは、一体……。

 

「うぐっ!?」

 

いきなり、頭が痛くなり、俺は思わず頭を抑えつける。それと同時に、様々な記憶が頭の中を駆け巡っていた。しかし、これらは俺の見覚えのない記憶だった。

 

「ぐぅ……痛い。何なんだよ、クソ……!」

 

 

 

 

「何なんだよぉっ!?」

 

 

 

 

 

俺はガバッと勢いよく起きてしまった。ちょうど時刻は、朝の6時を指しており、いつも朝の素振りをする時間をとっくに過ぎていた。枕は汗で濡れており、俺の前髪も汗でべっとりしていた。

俺は布団を畳み、シャワーで汗を流した後、リビングへ向かった。

 

「優治、突然のところ悪いけど、あなた、今日から神樹館に通うことになったの」

 

「……は?」

 

俺は突然のことで、頭がついて行かなかった。いきなり転校通告とか、ある意味で頭が痛くなる……。

 

「あなたが寝た時に、大赦からの使いの人が来てね。あなたの息子を神樹館で預けて欲しいって言ってきたのよ。大赦の指示だったし、仕方なくそうなったのよ。制服は、あそこに掛かっているからね」

 

「わ、わかった」

 

大赦って、今の日本のお偉いさんっていうことしか知らなかったけど、もしかして、俺がバーテックスと戦ったのがまずかったのか?……いや、行ってみなきゃ分からないな。

 

俺は神樹館の制服に着替えた後、車で神樹館まで送ってもらった。

その後、母さんと一緒に職員へに向かい、俺が所属するクラスの担任の先生と挨拶した。そして、これから所属する教室へ行き、教室の扉の前で入る時を待った。

 

「鳥居くん、入ってきて良いわよ」

 

「「「えっ!?」」」

 

俺の苗字を聞いた誰かさんが驚いた声をあげる。その驚いた声は俺が聞いたことのある声だ。

 

「鳥居優治です。これから、神樹館に通うことになりました。よろしくお願いします」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「いーや、驚いたよ!まさか、優治が転校してくるなんて」

 

「私も驚いちゃったよ〜」

 

朝の会が終わると、三ノ輪と乃木さんが俺の席に来てくれた。

 

「俺も驚いたよ。三ノ輪と乃木さんと同じクラスなんて。神樹館に通うことになったのは、何でも、大赦からの指示でさ」

 

「え、大赦の指示?」

 

「まあ、俺がバーテックスと戦ったのが、神樹様にバレちゃったからかな」

 

多分、それが一番の理由だろう。神樹様が勇者と共に戦う姿を見て、大赦に指示をしたのだろう。この世界とは、別の力を使っている俺だ。神樹様がそれを見逃すはずがない。それと、神樹様はどうやら俺は敵ではないと認識してくれているのだろう。

 

「なるほどね」

 

「ねえねえ、ユウさん」

 

「ゆ、ユウさん?」

 

乃木さんがあだ名で呼んできた。

 

「ああ、乃木さんはいつもあだ名をつける癖があるから。あたしも『ミノさん』って呼ばれているから」

 

「ヘェ〜」

 

あだ名か……。前世の時はあだ名なんて呼ばれてなかったからな……。大抵、俺の顔を揶揄ったやつの悪口ばっかだったし。だけど、こういう呼ばれ方は悪くないかな。

 

「うん、『ユウさん』気に入ったよ!」

 

「やった〜!よろしくねユウさん」

 

やばい、乃木さん、ものすごく可愛い。このホンワカした感じが癒される……。乃木さん、マジ天使。異論は認めん。

 

「こ、コホン」

 

話題が盛り上がっていると、鷲尾さんが咳払いをした。

 

「あ、あの、よろしければ放課後、4人一緒に祝勝会をやりませんか?」

 

祝勝会か……3人との仲を深めるためにも良い機会だな。

 

「うん、行くよ!」

 

「私も行きた〜い」

 

「よーし、祝勝会の会場なら任せろ!」

 

授業を受けた後、三ノ輪がイネスというイ○ンみたいなショッピングモールの休憩所で祝勝会することになった。

 

 

 

「えー……本日は大変お日柄もよく……」

 

祝勝会の初めに鷲尾さんが開会の言葉を言っているが、団体とはいえ、たった4人だ。固苦しい……。だけど、授業中に一生懸命に文を書いていた鷲尾さんが見えてしまったのだ。その想いも無駄にしたくないし……。

 

「そんなに固くならなくていいよ。かんぱーい!」

 

三ノ輪が少し気まずそうな雰囲気を破ってくれた。ほんと三ノ輪がいてくれて良かった。

 

「私もね、須美助を誘おうって思ってたから、すごく嬉しいんだよ〜」

 

「うん、鷲尾さんから誘ってくれるなんて初めてじゃない?」

 

「あれ?3人は勇者でしょ?てっきり、すでに行ってたと思ってた」

 

「いや、それがね、個人で勇者の訓練は受けてはいたんだけど、合同練習は受けたことがないから、初陣以外3人一緒になったことが無いんだ」

 

「そう……だったのか」

 

「だけどさ、今回の初陣よくやったんじゃない?まあ、優治が作戦を立ててくれたところもあったけど……」

 

俺はその言葉に顔を横に振る。

 

「ううん、それは違うよ。鷲尾さんと乃木さんは初対面なのに、俺のことを信じてくれた。だから、勝つことができた。お互い信じあったことで生まれた勝利だよ」

 

「お互いに信じあう……。あの、鳥居くん、三ノ輪さん、乃木さん!」

 

「何?」

 

「私、実は最初は三ノ輪さんと乃木さんのことを信じていなかった……。だけど、決して嫌いとかそういうのじゃなくて、ただ、人に頼ることが苦手なだけ。だけど、今回の戦いでわかったの!一人だけじゃ、何もできない。信じあっていかないといけないんだって……。だから!私と仲良くしてくれる?」

 

俺は鷲尾さんの言葉を聞くと、クスッと笑ってしまった。それは、可笑しいとかそんなんじゃない。ただ、そう言ってもらえることがただ純粋に嬉しい。それだけだった。

 

「当たり前だよ!なあ、三ノ輪」

 

「いいや、もう仲良しだよ!」

 

「うん!須美助からそう言ってくれるなんて嬉しい〜。私も友達つくるの苦手だったから……」

 

「俺も転校してきたばっかりだし、これからどうやって友達を作ろうか考えていたんだ」

 

「乃木さん、鳥居くん……」

 

「ユウさんも須美助も同じ気持ちだったんだ〜」

 

「あ、あの、乃木さん」

 

「は〜い」

 

「その、須美助というのは……」

 

あれ?もしかして、教室にいた時の俺と三ノ輪の会話が聞こえてなかったのかな?もしかして、俺たちを誘おうとした時に何て言えば良いのか考えていたのかな?

 

「あ〜、いつの間にかあだ名で呼んでた〜」

 

「自覚なかったんだな」

 

「嬉しいけど、あまり好きじゃないかな……」

 

「じゃあ、『ワッシーナ』とかは?アイドルっぽくない?」

 

「もっと嫌よ」

 

即答した。だけど、ワッシーナは面白い。思わず、吹き出しそうになった。

 

「乃木さんも園子りんとかは嫌でしょ?」

 

「わ〜、ステキ〜!」

 

「「「え……」」」

 

どうやら、乃木さんの感性は俺たちと少しズレているらしい。

 

「あ!閃いた!じゃあ、『わっしー』は?」

 

「わっしー」か、「ワッシーナ」よりは断然悪くないと思うけど……。それよりも、乃木さんの目が光ってる。これは、男女問わず、断りにくいな……。

 

「うーん、それで良いかな」

 

すると、乃木さんはパァっともっと嬉しそうな表情になった。

 

「よろしくね、わっしー」

 

「それじゃあ、鷲尾さん、優治、あたしのことも『銀』って呼んでよ!苗字だったら、なんだか他人扱いのような感じがするしさ。鷲尾さんのこと、これから『須美』って呼ぶから」

 

「それじゃあ、これからよろしくな銀」

 

「うん、よろしく!」

 

俺と三ノ輪…改め銀と握手をした。なんだろう、これが本当の友情か……。やっと、本当の友達ができたような気がする。前世の時は何だか連んできたような感じがしてならなかったから。

 

「鷲尾さん、俺も『優治』か『ユウさん』って呼んでよ。そっちの方が砕けてて良いでしょ?」

 

「う、うん……」

 

鷲尾さんは少し、恥ずかしそうにモジモジしていた。さすがに馴れ馴れしかったか?

 

「ごめん、呼びにくかったら『鳥居くん』で良いから。それじゃあ、俺は鷲尾さんのことなんて呼べば良いかな?やっぱり、『わっしー』?」

 

「ううん、それよりも名前で呼んでくれた方が嬉しいかな」

 

「わかった。これからよろしく、『須美』」

 

すると、恥ずかしそうにしていた須美は笑顔になり、

 

「ええ、よろしくね。鳥居くん!」

 

と返してくれた。

 

「じゃあじゃあ、ユウさん、私のことも『園子』って呼んでよ〜」

 

「うん、よろしく園子!」

 

「よ〜し、それじゃあ、イネスマニアのあたしがオススメする絶品ジェラート食べよう!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「う〜ん、おいしい」

 

「本当だ!うまいなこれ!」

 

銀が紹介してくれたジェラート屋は二種類のメニューを好きな風に選んで味わうことができる。ちなみに、俺が選んだのは抹茶とキャラメルの組み合わせだ。

 

「美味だわ!ほろにが抹茶の織りなす調和が絶妙!」

 

「あーん……」

 

園子は須美に向けて口を開けた。

 

「えっ……」

 

「そんなにおいしいなら、あーん」

 

「じゃあ、あーん……」

 

須美は自分のジェラートを一口分掬ったスプーンを園子の口に入れた。

 

「おいしいよ!わっしー!」

 

「それは良かったわ」

 

さて、二人がゆるゆりしている間、俺と銀はお互いのジェラートについて話してた。

 

「銀は何を選んだんだ?」

 

「醤油豆ジェラート!」

 

「……独特だな」

 

「いや、これが美味しいんだって!疑うんだったら食べてみなよ!」

 

銀はスプーンで醤油豆ジェラートを掬って俺の前に出した。小学生だから無邪気なだけなのか、ただ、感情的になっただけなのか。このままだと、間接キスになってしまう。……いや、余計なことは考えず食べてしまおう。相手は小学生だ。

 

「い、いただきます」

 

俺はスプーンを口の中に運んだ。

ん?あれ、おいしい。醤油と砂糖が混ざった味、甘醤油、いや、みたらしに近い味だ。

 

「う、うまい……」

 

「だろ!優治のもくれよ!」

 

「えっ……」

 

「ほらほら」

 

銀は口を開けて待っている。そうだよな、俺のもあげないと、不公平だよな……。

俺は一口分スプーンで掬い、銀の口へ入れた。

 

「あーむ……。ううん、うまい!」

 

「そうか、なら良かったよ」

 

これで、何もなく終われる。はぁ……何だか疲れたな。

 

「ああ!ユウさんと三ノさんが食べさせ合いっこしてる」

 

って、園子ぉぉぉぉっ!なんて言うタイミングで言ってくるんだぁ!

 

「食べさせ合いっこ……。はっ///」

 

銀もとうとうことの重大さなら気づいてしまったようだ。

 

「ゆ、優治!誤解するなよ!あたしは別にそんなつもりじゃ……」

 

「わかってる!ただ、純粋に俺たちはジェラートを楽しんでいただけだしな!あは、あはは!」

 

祝勝会は終わり、解散したが、俺と銀にとってあまり心の落ち着きどころがない祝勝会となった。




第3話どうだったでしょうか?これからも、頑張って投稿していきたいので、感想やアドバイスをくれるととても励みになります!それでは、第4話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 優治の不幸な1日

お気に入り件数が11件になりました!ありがとうございます!これからも頑張って書いていきたいと思います!


俺が転入してから半月が経とうとしていた。神樹館にも慣れ、勇者3人以外のクラスメイトとも仲良くなることができ、転入前の時よりも充実した日々を送ることができている。

 

今日も、イネスで須美達とスイーツを一緒に食べることになっている。俺は銀のトラブル体質で待ち合わせ時間より遅い時間に来ることは知っているので、銀が住んでいる家に来ていた。

 

「銀、迎えに来たよ〜」

 

『あ、ちょっと待って!』

 

インターホン越しで銀の忙しそうな声が聞こえてくる。それと、赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。

 

「大丈夫、焦らなくて良いからな」

 

『ごめん!』

 

銀が来るまで時間がありそうなので、俺は空の雲を見ながらバーテックスについて考えることにした。

 

四国以外の日本や世界は死のウイルスが蔓延していて、神樹さまがウイルスから守っていると歴史の教科書に書かれてあった。

しかし、疑問点が一つあった。神樹様の加護を受けてる勇者3人ならともかく、俺は死のウイルスが蔓延している外の世界から来たバーテックスと戦っても今日まで俺の身体にはどこにも症状が出ていないのだ。

 

「おかしいな……」

 

「何がおかしいんだ?」

 

俺の視界にいきなり銀の顔が出てきた。

 

「うわっ!?」

 

「何驚いてるんだよ。何回も優治を呼んだんだぞ」

 

「あ、ああ、ごめん。考えごとをしてた。じゃあ、イネスに行こうか」

 

 

 

 

「そういえば、銀には下の子がいたんだな」

 

「まあね、優治には兄弟がいるのか?」

 

「いや、俺は一人息子だよ。それにしても、銀って本当に面倒見が良いよな。将来は、どんな奥さんになるのか見てみたいな」

 

「お、奥さん!?///な、なに急に変なことを言ってんだよ!」

 

突然、焦りだす銀。何でそんなに焦りだすんだ?

あ、わかった。ラノベでこういうシーンは毎回見たことがある。まさか、現実の女子も同じように感じるんだな。これからは気をつけないと……。

 

「すまん、いきなり変なこと言いだして」

 

「まったく……」

 

そのあと、俺は話題を切り替えて銀と話しながらイネスに向かった。

案の定、銀のトラブル体質が発動するかと思いきや、意外とスムーズにイネスに着くことができた。これなら、大丈夫。

 

「ひっぐ……ひっぐ、パパ、ママ!」

 

だと思ってた時期がありました。しかし、これは不幸中の幸い。カスタマーセンターはすぐそこだから、早く彼女の親を呼ぶことができる。須美に遅刻で怒られずに済みそうだ。

 

俺と銀は迷子になった女の子をカスタマーセンターに届けたあと、スタッフはアナウンスを入れた。すると、女の子の親はすぐに駆けつけてくれた。

 

「よかったな。もう逸れるんじゃないぞ」

 

「うん、ありがとう!二人のお姉ちゃん(・・・・・)!」

 

「えっ!?いや、俺は違っ……」

 

「違う」と言い切ろうとした時には、親子は出口のところまで歩いており、ただ、迷子だった女の子が俺たちに手を振るだけだった。

 

「あは、あはは……。お姉ちゃんか……」

 

俺の乾いた笑い声はイネスにいる人たちによる声や歩く音にかき消される。

 

「……優治」

 

「大丈夫、時々あるから」

 

「ど、どんまい」

 

 

 

待ち合わせ時間まで、間に合うことができた俺と銀は須美達と合流し、いつものジェラート屋に行った。

 

「さて!気持ちを切り替えて、今日でジェラートフルコンプだ!」

 

「ユウさんって本当に甘いものが好きなんだね〜」

 

「おうよ!甘いもの全てが俺のソウルフードだからな!」

 

「そんなに食べて太らないの?」

 

「心配はご無用だよ須美。俺、いつも摂取したカロリー以上の運動量をこなしているから体重は減らないのだよ!それじゃあ、いただきま……ってあれ?」

 

急にイネスに流れている音楽と大勢の人々によって出てくる音がおさまった。まさか……。

 

「来たわね。お役目の時が」

 

「はぁ……、また戦うのか」

 

おい、今から楽しみにしていたジェラートを台無しにしやがって、あのバーテックスはスライスにしてやる。いや、木っ端みじん切りにしてやる……!

 

「おぉ〜、ユウさんが真っ黒いオーラを出している!」

 

「真っ黒い……。何を言ってるんだ。俺はついさっき、女の子と間違われたあげく、楽しみにしていたのをバーテックスに踏みにじられて……。腹いせにバーテックスをみじん切りしたいな〜って思ってただけさ。ふふふ」

 

「なんだか優治が怖いんだけど」

 

「鳥居くん、気持ちを落ち着かせて!訓練通りにしないと!」

 

そうジェラートの恨みをつぶやいていると、樹海化が始まり、あたりがあの時の幻想的な世界へと変わった。

 

俺たちは大橋へ向かい、敵が来るのを待つと、天秤みたいな形をしたバーテックスが姿を現した。

 

「あれって……天秤?」

 

「わあぁ〜、大きいね〜」

 

「乃木さん、関心している場合じゃないでしょ!」

 

「さて……ジェラートの恨みを思い知らせてやる!」

 

俺たちはバーテックスに向かった。すると、俺たちが近づくのと同時にバーテックスは回転を始め、竜巻を起こした。飛ばされないように槍を地面に刺して、踏ん張っている園子に銀、俺、須美の順に掴まっていた。

 

「くそっ、これじゃあ身動きが取れない!」

 

「まずはあの回転をどうにか止めないと!」

 

回転している軸を中心に樹海が枯れていく。このままじゃ、まずい!

何か弱点はないか探している間に須美が、自ら俺の腰から手を離し、竜巻に飛ばされながらもバーテックスに向けて弓を構えた。

 

「南無八幡大菩薩!」

 

須美は風の軌道を利用して放った矢でバーテックスを貫こうとするが、その矢は途中で勢いを殺され、どこかへ飛ばされた。

 

「そんな……!きゃあ!?」

 

須美も竜巻によって、後方へ飛ばされてしまった。バーテックスは回転しながらジリジリと俺たちの方へ近づく。

俺は弱点はないかと観察し続けた。そして、俺はある点に気がついた。

 

「(もしかして、この回転にあの分銅みたいのを利用しているのか?だとしたら、分銅のどちらかを切り離せば、バランスを崩して倒れるはずだ。まったく、こういう賭けは苦手なんだよな!)」

 

俺も銀の腰に掴まってた手を離した後、自分の剣を地面に突き刺し、敵の分銅を使った攻撃を待った。

 

「ユウさん、危ない!」

 

園子は分銅に直接あたりそうになる俺に向かってそう叫ぶ。

俺は分銅が捕まる前に白い炎を地面に向けて放ち、分銅より上に飛び、分銅と本体をつなげているワイヤーらしきものにつかまる。

 

「ぐうっ!?何のこれしき!」

 

俺は何とかワイヤー部分に両手で掴まり、分銅とワイヤーの接続部分へ移動する。

そして、俺は分銅とワイヤーの接続部分に向けて一気に剣で切る用意をする。手を離した後、俺はすぐ飛ばされる。機会は一瞬!

 

白閃煉獄竜の牙(アシュトル・ナーブ)!」

 

白い炎を纏った剣は一気に分銅とワイヤーの接続部分を溶かし切った。すると、俺の予想通り、バーテックスの回転はバランスを崩し、バタリと倒れた。

 

「うわっ!?」

 

俺は分銅が落ちた衝撃を間近に受けてしまったため、飛ばされてしまった。

 

「銀!あとは頼む!」

 

「よーし、任せろ!」

 

その間に銀はバーテックスをスライスしていく。

 

「これでトドメだぁぁぁぁ!」

 

バーテックスが完全にバラバラになると、樹海は綺麗な白の世界へと姿を変えた。

 

「須美、園子、大丈夫か?」

 

「私は大丈夫だよ〜」

 

「私の方も大丈夫だけど、それよりも鳥居くんの方が……」

 

俺は自分の体を見ると、所々切り傷があった。手は皮が剥けたため、血だらけだ。正直、痛い。

 

「俺は別に良い。まずは須美の傷を治さないとな」

 

女の子に戦いの傷は似合わない。俺は剣の矛先を須美に向ける。

 

「癒せ、フェニクス」

 

そう言うと、俺の剣の剣穂から八芒星が光りだし、そこから桃色の鳥が須美を翼で覆うと、須美の顔にある傷は跡も残さずに綺麗な肌へ戻った。

 

「鳥居くん、あなたは一体……」

 

「俺のことは後で話すよ。まずは、傷の手当てだ」

 

俺は園子、銀の順で傷を治した。その後、俺自身にできた傷を治して、剣を鞘へ戻した。

その時には、樹海化は解けて大橋と勇者3人だけが俺の目に映っていた。




第4話どうだったでしょうか?次は合宿回です!ぜひ、アドバイスや感想よろしくお願いします!では、第5話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 支え合う

UAがあともう少しで、800!こんな駄文ですが、読んでくださりありがとうございます!合宿の話は次になります!それと、設定の方に第4話までの設定を加えました。では、第5話どうぞ!


「無理しすぎにもほどがあるわ」

 

「「「「はい……」」」」

 

天秤のようなバーテックスを倒した次の日の放課後、俺たち4人は先生に痛い指摘が来た。

 

「特に鳥居くん。あなたは一歩間違えたら大怪我になっていたのよ」

 

「……すいません」

 

「まあ、現実への被害の方も軽微なもので済んだから、良くやったと言えるわ」

 

先生は一回、息を吸ってからまた口を開いた。

 

「あなた達の弱点は連携不足ね。まずは、4人をまとめるリーダーを決めたいのだけど……」

 

リーダーか。まあ、多分須美か園子だろう。須美の場合、しっかりした性格だから、俺たちをまとめるのに申し分無いだろう。

一方、園子の場合はバーテックスの弱点を素早く見つけることができる。それに、いざとなったら的確な判断をするしな。体育の授業でチームスポーツをする時なんか、的確な判断をしていた。園子の方もリーダーとしての素質が十分ある。

 

「乃木さん、お願いできるかしら?」

 

なるほど。バーテックスとの戦闘の方を先生は重視したのか。まあ、園子自身は自覚は無かったのか、驚いた顔をしていた。一方、須美の納得できてない表情が一瞬俺の目に映った。

 

「わ、私ですか?」

 

「あたしじゃなきゃ別に良いよ。あたしはそんな柄じゃないし」

 

「俺も賛成です」

 

「私も乃木さんが隊長で賛成よ」

 

「決まりね。神託では次のバーテックスの襲来まで割とあるらしいから。あなた達4人には連携を強化するための合宿をしてもらいます」

 

「合宿ですか?」

 

「そう、2泊3日の合宿よ」

 

「あの、そういえば、聞きたかったことが一つ」

 

「何かしら、鳥居くん?」

 

「今さらなのですが、大赦の方々は俺をどのように見ているのでしょうか?」

 

「そうね……。大赦はあなたを鷲尾さん達と同じ勇者として見ているわ。神樹様も鳥居くんを私たちの味方だとおっしゃっていたそうよ」

 

これで、安心した。神樹様と大赦は俺を異分子として扱わず、同じ勇者として見てくれている。ならば、俺は須美達と一緒に勇者としての役目を果たしてこの国を守ろう。

 

「教えてくださりありがとうございます。これで頭の中の不安が晴れました」

 

「じゃあ、明後日の土曜日の8時にに神樹館にあるバスに集合!」

 

こうして、俺たちは解散した。それぞれの家に戻ろうとしている中、俺は須美を呼び止めた。

 

「須美、少し時間空いてる?」

 

「えっ、うん、空いてるけど……」

 

「じゃあ、昨日開店した和菓子の喫茶店に行かないか?話したいことがあるんだ」

 

俺は須美と一緒に神樹館から少し離れた和菓子喫茶店に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、園子がリーダーになること、納得できてないのか?」

 

俺は早速話題を切り出す。須美は見透かされたように感じたのか、とても驚いた表情を見せていた。

 

「ええ……」

 

「確かに、俺は須美がリーダーとして向いてるとも思っているよ」

 

「じゃあ、どうして……!」

 

須美は何故あの時、賛成しなかったのか不満を漏らした。よほどの自信があったのだろう。俺はすぐに園子がリーダーになることを賛成した理由を言った。

 

「それは園子の着眼点だよ。園子の着眼点は、バーテックスをどのように戦えば倒せるのかを瞬時に考えることができる。だから、先生は戦闘での隊長として園子を選んだ」

 

「じゃあ、何で鳥居くんは私がリーダーに向いてると思っているの?」

 

俺は、その質問に対する答えはすぐに出た。俺は、自分で思ったことをありのまま須美に言うことにした。

 

「何もバーテックスが全てじゃない。人には優れているところ、劣っているところがそれぞれある。園子は戦略的にまとめる能力は須美より優れている。それとは逆に、須美は訓練や日頃の時にまとめる能力としては園子より優れている。それは俺や銀にも同じことが言える。だから……」

 

俺は須美の頭を優しく撫でる。須美は頰を少し赤く染めていた。

 

「俺たち4人互いに支え合う。これが俺たち4人の勇者に一番重要なことだと思う。もしも、誰かが困った時は残りの人が支える。それはお互い同じことだ。誰一人欠けてはいけない。もしも、須美が困った時、ダメになりそうな時は俺たちが支えてやる。もう、一人で何でもかんでも抱え込もうとするな」

 

 

須美視点

 

「俺たち4人互いに支え合う。これが俺たち4人の勇者に一番重要なことだと思う。もしも、誰かがダメになった時は残りの人が支える。それはお互い同じことだ。誰一人欠けてはいけない。もしも、須美が困った時、ダメになりそうな時は俺たちが支えてやる。もう、一人で何でもかんでも抱え込もうとするな」

 

「(あ、そっか……。私、鳥居くん達に頼ろうとせずにまた一人で抱え込もうとしていたんだ。鳥居くんはもっと自分達を頼ってほしいんだ。仲間として……。友達として)」

 

そう思った時、私の気持ちがモヤモヤしてきた。

 

「(あれ、友達として?このモヤモヤ感は何だろう。鳥居くんとは友達としてじゃなくて、また、違う関係になりたいってことなのかな……。それって……)///」

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、ううん!何でもない」

 

「そ、そうか。なら良いけど……」

 

そう言った後、鳥居くんはお茶を一口飲んで、頼んだ和菓子を口に入れた。鳥居くん……優治くんが頼んだ和菓子がとても美味しかったのか、優治くんは幸せそうな表情を浮かべた。

 

「ねえ、優治くん」

 

「何?」

 

「私、頑張るわ。優治くん達と一緒に!」

 

優治くんは拳を作り、私の方へ向けた。

 

「須美、よろしく頼むぜ!」

 

「ええ!」

 

そして、どんな時でも優治くんを支えられる存在になりたい。私はそう心に決めた。

 

 

 

 

 

 

優治視点

 

俺は手を引っ込めた後、バッグから一つのDVDを須美に渡した。これは俺の部屋にあったお気に入りの映画のDVDだ。

 

「優治くん、これは?」

 

「『永遠の0』っていう、旧世紀……平成の映画なんだ。須美が太平……大東亜戦争の時代が好きだって、言ってたからね」

 

須美が歴史の教科書で、太平洋戦争を大東亜戦争と書いていないことに対して不満を漏らしていたことを思い出した。

 

さて、DVDを渡すと、須美は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、優治くん!時間が空いたら早速見てみるわ……って、そういえば、優治くんも歴史が好きなの?」

 

須美が色々語りたがっているような顔をしている。

俺は日本の歴史は好きだ。きっかけは俺の祖父だ。祖父は元軍人で、日本の素晴しさ、戦争の悲惨さを教えてくれた。また、戦国時代が好きで、色んな武将の話をしてくれた。これらのおかげで趣味として戦艦のプラモを組み立てている。

 

「ああ、好きだよ。旧世紀の室町や安土桃山、江戸、昭和には詳しいつもりだよ。あと、戦艦のプラモを組み立てるのも趣味だし」

 

「私も戦艦のプラモデルを組み立てるのが好きなの!ねえ、優治くん。良かったら一緒に日本の歴史について話をしてみない?」

 

へぇ、須美も戦艦のプラモデルを組み立てるのが好きなのか……。他の友達に日本史について話しても興味を示してくれなかったから、思う存分話せるなら話してみたい。俺は、そう思った。

 

「わかった。じゃあ、俺の先祖の話からして良いかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もう時間か……」

 

「そうね……。まだ、話したいことがまだまだあるのに」

 

「うん、俺も同じだ」

 

店の時計はすでに5時を過ぎていた。俺と須美にとっては話したくても話せないことを話すことができた。俺にとって、とても幸せに感じる時間だった。

俺は会計を済ませた。

 

「優治くん、また明日、一緒に話したいな

 

「ああ、俺も話したい。じゃあ、また明日、今日の続き一緒に話そう!」

 

俺と須美の家は方向が違うので、すぐに別れた。

太陽は赤くなりながら沈んでいく。俺はその日の光を全身に受けながら帰った。

 

_______________________________________

 

「……」

 

「ミノさん、何だか怖いよ……」

 

銀は会話を楽しんでいる須美と優治の二人……いや、優治だけを睨んでいた。園子からは優治を睨みつける銀の周りに炎が出ているように見えた。

 

「(何か銀からの視線が怖い……)」

 

何故こちらを睨みつけているのか、理由がわからない優治だった。

 

 




第5話はどうだったでしょうか?次こそ合宿です!では、第6話でお会いしましょう!それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 合宿開始!

ここ最近、暑いですね……。エアコンのありがたみがわかってきたマクロなコスモスです。皆さん、熱中症には十分気をつけてくださいね。では、第6話、合宿回です!どうぞ!


俺は合宿の前夜、無料通信アプリを使って銀と合宿について会話していた。

 

優治「明日、日常用品と教科書を持っていくのは当然として、何か持っていくものってある?」

 

銀『あたしは、お菓子を持っていくよー』

 

優治「そうか、じゃあ、俺もお菓子持っていくよ。それと、漫画」

 

銀『その漫画、あたしにも読ませてよ。だけど、あたし達こんなことしてたら、須美に色々と怒られそうだな』

 

優治「怒られる時は一緒さ。練習ばかりだと精神的にキツイはずだから、ある程度の息抜きは必要だよ。あと、俺は甘いものを持っていかないと頭がおかしくなりそう」

 

銀『それはもう病気じゃないのか……』

 

優治「親によく言われてるよww」

 

銀『そっかwあたし、そろそろ寝るわ。おやすみー』

 

優治「おやすみー」

 

俺はボストンバッグにお菓子と漫画を入れた後、電気を消して寝た。

 

 

 

「またか……」

 

俺の目に映っていたのは、記憶にない思い出。この夢を見る時は必ずと言っていいほど、頭に激痛が走る。こんな夢は何回も見ているが、この激痛に慣れることができない。

 

「ぐうっ!ううっ……!!」

 

俺はその痛みに耐え続けるが、さらに、痛みはさらに増し、俺を苦しめる。俺を痛みをこらえながら、前を見てみると、俺の姿をした何かがいた。

 

「お前は一体……。うぐっ!?があっぁぁぁぁぁあ!!?」

 

「……はあ、はあ」

 

俺が起きたときには、激痛はピタリと止んだ。また、何回もあの夢を見せられると思うと、思わず鳥肌がたった。

 

「……とにかく神樹館へ行かないと」

 

俺は寝癖を直して、朝ごはんを食べた後、家を出て合宿へ向かうバスが停まっている神樹館へ向かった。悪夢を見てしまった影響か、いつも通ってる道が遠く感じた。

 

 

「おはよう、須美」

 

「おはよう、優治くん」

 

俺がバスの中に入ると、すでに須美と園子が入っていた。しかし、銀がいなかった。

 

「ふあぁ〜……あ、おはよう〜、ユウさん」

 

「おはよう、マイエンジェ……こほん、園子」

 

いかん、いかん、園子の寝ぼけた顔が可愛かったからつい、本心が漏れかけた。危ない危ない。

 

「あれ〜、ミノさんは?」

 

「銀はまだ来てないよ。俺、銀に連絡入れてみるよ」

 

俺は携帯を取り出し、銀の携帯に電話をかける。

 

プルルルル

 

プルルルル

 

「もしもし、銀?」

 

『ごめん、優治。集合時間に間に合わなそう』

 

安定のトラブルに巻き込まれたのだろう。

 

「わかった。バスの運転手にも伝えておくから」

 

『ありがとう、助かる!』

 

俺は電話を切った。その後、バスの運転手にも伝えた。

 

「優治くん、三ノ輪さんは遅刻なの?」

 

「まあね……」

 

自分で言うのはアレだけど、銀が遅刻しなくなった理由は俺が手伝っているからである。俺はそれを理解しているのに銀を迎えに行かなかった。この遅刻は俺の責任だ。

 

そして、10分後、バスが開く音がした。

 

「悪い悪い、遅れたのは事実だから、ごめんよ須美」

 

「三ノ輪さんは少し気が抜けてると思うわ。勇者として自覚を持ちなさい」

 

「肝に銘じときます」

 

(銀、すまん……)

 

(大丈夫、気にしないで)

 

俺たち四人が集まったことで、バスは出発し、合宿所である旅館へ向かった。

 

 

 

 

旅館に着いた俺たちは訓練場である砂浜に集合した。

 

「お役目が本格化したことにより、大赦は乃木さん達三人の勇者と鳥居くんを全面的にバックアップします。家族のこと、学校のことは心配せず、頑張って!」

 

「「「「はい!!」」」」

 

訓練の内容はこうだ。まず、砂浜に所々にボール発射装置が置いてある。そして、須美と園子は近接戦闘が基本の俺と銀にボールが当たらないようにサポートし、山道にあるバスまで届けることが目的だ。

ちなみに、俺と銀は交代制でやる。最初は銀からだ。

 

「いくよ〜!」

 

「園子、うまく守ってくれよ!」

 

「先生、ここから動いちゃダメなんですか?」

 

「ダメよ!それじゃあ、スタート!」

 

先生の合図とともにボールが次々と発射されるが、園子は的確にボールを弾きながら進む。こちらから見ても今のところ、良いペースだと思う。

 

パァン

 

パァン

 

須美の方もボールを射抜いている。俺はこのまま行くのではないかと思った。しかし……。

 

須美の矢が一つのボールに当たらず、銀に当たってしまった。

 

「ごめんなさい、三ノ輪さん!」

 

「どんまい、わっしー」

 

「それと、苗字で呼ぶのは堅苦しいから『銀』で良いよ」

 

「私のことは『そのっち』で!はい、呼んでみて!」

 

二人はそう言うが、須美は恥ずかしそうに二人から視線を外す。

 

「はい、次、三ノ輪さん、鳥居くんと交代よ!」

 

今度は俺が園子の後ろに付く。

 

「よーし、二人とも頼むぜ!」

 

「「うん!」」

 

俺は園子の後ろに続くように走る。須美の方も、援護射撃ができている。しかし、そう甘くはなかった。

一球のボールが園子の盾の端の部分に当たり、ボールがイレギュラーを起こして俺の顔に直撃した。

 

「へぶっ!?」

 

「優治くん!?」

「ユウさん!?」

 

俺はボールがもろ鼻に当たってしまったため、鼻を押さえる。

 

「ユウさん、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫さ。どうってことないさ」

 

「優治、両方の鼻の穴から鼻血が出てるぞ」

 

「えっ、マジで!?」

 

その後、俺は銀と交代して、その間に両方の鼻の穴にティッシュを詰めて血を止めた。

 

「アウト!次、いくよ!」

 

「ふふっ!優治くん、ヒゲが生えてるみたい」

 

俺は須美に笑われる。

まあ、ティッシュを丸めて鼻血を止めるくらいの時間しかなかったら、仕方ない。

 

「準備は良いわね?よーい、始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、何回鼻血を出したんだろう……」

 

ゴミ箱にある自分の血で染められたティッシュが入ったビニール袋を見る。これだけ出したのに貧血にならないとか、俺の体は一体どうなっているのか調べてみたい。

 

今日の練習を終えた俺たちは浴場で汗を流したあと、晩飯を食べるために客室へ向かった。

 

「お、来た来た!早く食べようぜ!」

 

「さあ、一緒に食べましょ」

 

「私、もうお腹ぺこぺこだよ〜」

 

俺が客室に入ると、すでに三人とも座っていた。どうやら、俺が最後だったようだ。

そして、俺は客室のテーブルに置いてある晩御飯も見て、一瞬、固まった。そこには、大きな蟹に一人一人にアワビが用意されている。それだけではない。色々な海鮮の刺身があったのだ。

 

「こ…これは夢なのか!?夢なのか!?」

 

「いや、これは夢じゃないぜ。鳥居さんちの優治さん!これは現実だぁ!!」

 

俺の興奮に銀も乗っていく。

 

「よっしゃあ!合宿、バンザーイ!」

 

「こら、二人とも騒がない!それじゃあ、頂きましょう」

 

須美は至って冷静さを保ってる。しっかりしているのか、はたまたこの光景に慣れているのか、俺には分からなかった。

 

「それじゃあ、せ〜の」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

まずは、アワビの一切れを俺は醤油につけて、口に運ぶ。

 

「(なんだこれは!?噛んだ食感がコリコリしてて癖になる!噛むたびにこの食感を楽しみたいと本能がそう叫び、思わず噛み続けてしまう!)」

 

俺はゴクリとアワビを呑み込んだ後、次に目をつけたのは蟹だ。蟹の足の一本を専用のハサミで切り取った。

そして、足の身を取り出す。そこから出た足の身は見てるだけでもプリプリとした食感が伝わるほどの美しさを放っていた。

それもまた醤油につけてから頂く。

 

「(この蟹の足のプリプリした食感!予想以上だ……!アワビとは対照的に噛むたびにどんどんと口の中に溶けていく……)」

 

そして、俺は次々と他のおかずやご飯、お吸い物を口の中へ運んでいき、気がつくとすでに俺の分は無くなっていた。

 

「ふぅ……。ごちそうさまでした!」

 

「優治、すっごい食べっぷりだったな」

 

「そういう銀も結構な食べっぷりだったぞ」

 

「ユウさんとミノさん、すごく幸せそうに食べてたよね〜」

 

「住む家が違うと、こんなにも違うなんて思わなかったわ」

 

須美と園子は俺と銀の食べっぷりに感心していた。

 

「そういえば、わっしーの荷物これだけ?」

 

園子が言ったことを聞いて、俺は須美の荷物を見る。そこには、タオルや衣類など、最低限のものしかなかった。

 

「ミノさん、お土産買うの早すぎ」

 

銀の方はこの旅館で売られてた饅頭や煎餅などが銀のボストンバックの周りに置かれてた。

 

「そういう、園子の方も……」

 

「どこからツッコメば良いのか……」

 

プラネタリウムは分かるが、なぜ臼を持ってきたのか分からない……。園子の考えは神のみぞ知るだな。

 

「臼でうどん作るんよ〜」

 

うどんを作るためとか、合宿中にそんな時間が空いてるのか?

 

「そういえば、優治のバッグの中を見てないな〜」

 

俺のバッグも一応、この部屋に置いてある。さすがに寝る時は男女一緒なのはマズイので、別の部屋に移動することになっている。

 

「えっ……」

 

「そうよね。私たちの持ち物だけ見て、自分の持ち物だけを見せないなんて不公平だわ」

 

「ユウさん、覚悟〜」

 

「ええっ!?」

 

三人とも一斉に俺のバッグの中身を見ようとする。その中には、見られてマズイものはない……はず。

 

「わあ!お菓子がいっぱいだ〜」

 

園子は俺のバッグから俺が楽しみにしていたお菓子を取り出した。

 

「優治が持ってきた漫画、あたしがハマっている漫画の最新巻だ!」

 

今度は銀が俺のお気に入りの漫画の最新巻を取り出した。

 

「お、おい、俺のプライバシーは?」

 

これ以上見られるのは嫌なので、お菓子と漫画を取り戻してバッグに仕舞おうとした。すると、須美は一つの雑誌を取り出した。

俺は雑誌なんか入れた覚えはない。あるとしても歴史に関する雑誌しかないはずだ。なのに……なのに……。

 

「優治くん、これは一体何?」

 

須美が俺に見せたのはグラビア雑誌。俺はそんなもの買った覚えなんかないし、拾ったこともない。というより、拾う勇気すらない!

 

「えっ、須美、何を持ってる……おい、優治」

 

「ぎ、銀さん?」

 

俺は思わず銀から湧き出す真っ黒いオーラを感じて思わず「さん」付けをしてしまった。

 

「ユウさん、さすがにそれはないよ〜」

 

「園子!?」

 

「覚悟はできてるよな?」

 

「知らない!無実だ!俺はそんなもの拾ったことも貰った記憶もない!」

 

「じゃあ、何でそんなものがあるのか説明してもらいましょうか?」

 

怖い!二人とも怖い!目がハイライトになってる。

 

「(うん?これは……)」

 

雑誌に一つのメモが貼られていた。そこには……。

 

『いい夢見ろよ!by父』

 

と書かれてあった。

あの、くそ親父ィィ!色んな特許が貰えてるほどすごい技術者だと思っていたら……!あとで、母さんに連絡してやる!

 

「ほ、ほら!あのメモ書き!ちゃんと、自分で持って来てない証拠になるじゃん!」

 

須美は雑誌の裏表紙にあるメモを見る。すると、目に光が戻ったように見えた。

 

「……はぁ。無実なのはわかったけど、次からはちゃんと持ち物を確認すること!良いわね!」

 

「は、はい……」

 

「疑ってゴメンよ、優治」

 

「いや、事が進む前に疑いが晴れて良かったよ。さて、この雑誌は捨てるか」

 

こうして、合宿1日目が終わった。1日目からここまで疲れるとは、明日ぶっ倒れてしまうのではないかと俺は心の中で思った。

 




第6話読んでくださり、ありがとうございます!次の回で合宿回は多分終わりになると思います!では、第7話でお会いしましょう!ではでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 それぞれの想い

お気に入り数が20をいきました!
みなさん、ありがとうございます!それでは、合宿回後半です!今回はいつもより長いです!


合宿の二日目が始まった。俺は合宿でも自分の鍛錬を忘れない。朝の砂浜での剣の練習は新鮮だった。海風が心地よく俺にあたり、海の匂いが俺の鼻をくすぐった。

素振りをやってるうちに手に痛みを感じた。

 

「あ、マメが潰れた」

 

マメが潰れたことなんてもう何回もあるから慣れてしまっている。ただ、雑菌が入らないように包帯は巻いているが。

 

それと同時に「ヴー…ヴー」と、俺のスマホがブザー音を出して起床時間がきたことを伝えていた。起床時間となると、須美たちも起きるため、合宿中は早めに切り上げることにした。昨夜の夕食の時もそうだった が、朝食も一緒に食べることになっている。朝食を食べる場所は客室とは違い、一階のフロントの近くにある和風レストランだ。

 

「あ、優治くん。おはよう」

 

「おはよう、須美。早いんだな」

 

「ええ。いつも、5時に起きて水浴びをしてるから」

 

「俺も、だいたい5時前には起きて、剣の練習をしてるからな」

 

だけど、須美が水浴びか……。やばい!思わず濡れた服を着た須美の姿を想像してしまった!え、エロい……。

想像しちゃうじゃん!仕方ないもん、だって、男の子だから!

 

「あ、そうだ。銀と園子は?」

 

「そろそろだとは思うけど……」

 

「ふあぁ〜〜…。いつも起きてる時間より早いから眠い……」

 

「zzz……」

 

銀は安定の眠そうな顔をしているが、園子はまさかの寝ながら歩いていた。一体、どうやったら寝ながら歩けるんだ?

ぶつかってないとはいえ、危険なのは変わらないので、園子を起こすことにした。

 

「おーい、園子。起きろー」

 

「……」

 

「うーん……あ、そうだ!園子!あそこに小説のネタになりそうな人が!」

 

「優治、そんなので園子が起きるなんて「小説のネタ!?どこ?ねえ、ユウさん!どこにあるの?」……起きちゃうんだ」

 

「いや、正直、俺自身も起きるかどうか半信半疑だったよ。おはよう、園子。何寝ぼけてるだ?一緒に朝食を食べよう」

 

「あ、あれ〜?夢だったのかな……」

 

「そうよ、乃木さん。さあ、行きましょう」

 

俺たちは一緒に朝食を食べて、午前の練習の準備をした。

 

 

 

 

「それじゃあ、始めるわよ!」

 

先生がパンッと手を叩き、スタートの合図を伝えた。今日も銀から始まる。

 

今回は昨日とは違い、昨日で失敗してしまったところよりも前に進んでいるのだ。

銀も、これなら行ける!と思ったのだろう。しかし、その確信が油断となったのだろう。飛び出そうと思った瞬間、横からのボールに当たってしまった。

 

「銀、大丈夫か?」

 

「へへ、こんなの平気だよ!ただ、少し油断したかも……」

 

「そっか……。よいっしょっと」

 

俺は銀の手を握り、引き上げる。

 

「次は俺の番だな。よーし!」

 

俺は両頰をパチンと叩き、気合を入れる。

 

「ユウさん、いくよ〜」

 

園子が走り出すと同時にボールが発射される。俺は園子の背後に着いて行く。さっきの銀の失敗を見てわかった。ここは銀が飛び出した時間より、ワンテンポ遅らせて……!

 

俺は飛び出すとボールとすれ違った。そして、俺は高く跳び上がり、まっすぐバスへと向かう。

 

「ふんっ!」

 

高く跳び上がった俺を落とすために、今まで動かなかった発射台が動き出し、俺に向けてボールを発射した。

俺はそれを的確に切り裂く。

 

「(よし、これでゴール!)」

 

パシュン!

 

俺の耳にボールが発射される音が聞こえた。

 

「えっ」

 

ボールは俺の横に向けて発射されており、俺は反応できずに落とされた。

 

「アウト!」

 

「大丈夫か優治?」

 

銀が砂浜で仰向けに倒れた俺に近づく。

 

「銀だけではなかった……甘かったのは!ガクッ……」

 

「何で三百年前の人気アニメのネタなんだよ……」

 

「その後、俺は『メタル優治』となって復活を果たすのだった」

 

「だから、そのネタはもういいよ!」

 

午前の練習はここで切り上げられて、客室で授業を受けることになった。まあ、本職は学生だから当然といえば当然だろう。

 

 

 

 

「(あ、ここ予習してるところじゃん)」

 

社会の時間に受ける内容がすでに予習してあるところで、ノートにすでにまとめてあった。というより、予習復習、これ勉強の基本。精神年齢14歳の俺は小学生レベルの授業を予習なんて容易かった。そのため……。

 

「なるほろ、なるほろ。バーテックスが襲来した後の日本の経済はこんなに変化したのか……」

 

別のところを勉強してた。真面目な須美にも先生にも気づかれていないのだ。

それと……。

 

「すぴー……すぴー……」

 

園子が居眠りをしていた。

寝顔もやっぱり可愛いな……。もう、持ち帰りたいレベル。

 

「乃木さんは答えられる?」

 

先生は寝ている園子に質問する。

やめて!もう少し、寝顔が見たいんじゃあ〜〜!

そして、俺の心の叫びは虚しく、園子は起きてしまう。

 

「はい〜。バーテックスが生まれて私たちの住む四国に攻めてきたんです〜」

 

「正解ね」

 

もう、この人起きてるのか寝ているのかわからないな……。というより、行動が読めない。園子は一体、何者なんだ?

その後、国語、理科と授業を受けた後、昼休みを挟み、連携の訓練があると思えば、つぎは瞑想する時間だった。

俺と須美、園子は瞑想できてるが……。

 

「ぐぬぬっ!」

 

銀の方はジッとしてることが苦手なようで、右へ左へ傾いてることが目を瞑ってても十分わかった。

まあ、1時間も瞑想なんて、鬼だよな……。

 

バタッ

 

あ、倒れた。

 

 

 

 

 

 

連携の訓練が再開された。今の俺と銀には、絶対成功できるっていう自信が出ていた。それに、須美と園子のアシストは完璧だ。今度は俺たちが答える番だ!

 

「準備は良いわね?始め!」

 

俺は三人の様子をみる。園子はできるだけボールを盾の中心に当てるように意識しながら銀を守り、須美は弓の腕が上達したのか、攻撃頻度が高くなっていた。

 

「サンキューな!」

 

銀は跳び上がり、自分を落とそうとするボールを全て割って、豪快にバスを真っ二つにした。

 

「ゴール!!!」

 

よく見ると、銀は派手に竜巻を起こしてバスをバラバラしていた。あいつ、絶対怪我してるな。あとで、治してやろう。

 

「やったわね、『そのっち』!」

 

「……」

 

園子は驚いた表情をしていた。きっと、須美が初めて自分のことをあだ名で呼んでくれたことに驚いてるのだろう。

 

「ねえ、わっしー、もう一回呼んでみて!」

 

「え……。うん、『そのっち』!」

 

「うん!やったよ〜、わっしーに初めてあだ名で呼んでくれたよ〜!」

 

園子はお祭り騒ぎのように嬉しそうにはしゃいでいた。須美は少し恥ずかしそうな顔になったが、それは一時的なもので、はしゃいでいる園子を見て、くすくすと笑っていた。

 

「あとで、三ノ……『銀』って呼ばないとね」

 

「銀も喜ぶよ」

 

「それと、優治くんの番が終わってないよ!」

 

「ああ!三河武士の本領見せてやるぜ!」

 

俺も園子と須美のサポートを受けて、バスがあった場所へと向かう。銀と同様、ボールを全て切り裂いてく。そして……。

 

スタッ

 

バスはないため、道路に着地したが、砂浜とは違う感覚が俺の喜びを掻き立てていた。

 

「よっしゃあーー!!!」

 

俺は思わずガッツポーズを見せる。そして、俺の目の前には、自分で竜巻を起こして傷だらけになった銀がいた。

 

「やったな、優治!」

 

「お前もな銀!」

 

パンッ!

 

お互いのハイタッチをする。ハイタッチした音は山の上へと響いていった。

 

 

その後、俺は銀の傷を治し、山を降りて旅館へ戻った。旅館の入り口に須美と園子、先生が笑顔で迎えてくれた。

 

「やったわね、『銀』!」

 

「……!うん、ありがとう、須美!」

 

須美と銀はハイタッチをする。この瞬間、俺たちの絆が結ばれたのがわかった。

 

「さあ、お風呂に入りなさい!ちゃんと、訓練の疲れを癒すのよ!」

 

 

 

三人称視点

 

「ふう〜……。骨身にしみるわ〜」

 

優治は肩まで浸かり、訓練の疲れを癒していた。旅館は貸切のため、この浴場には優治一人しかいない。

 

「風呂上がった後でも夕食まで時間が残っているからな、何して遊ぼうか……。そういえば、銀がトランプを持ってきてるって言ってたから、それして遊びたいな」

 

この旅館には卓球台があるが、体を相当動かしていたため、動きたくないのが本音だった。

 

 

 

一方、勇者三人も温泉で疲れを癒していた。

 

「バランスのとれた食事。激しい鍛錬。そしてしっかりと睡眠。勇者というか体育会系の合宿と全く同じだわコレ……なんかこう、超必殺技をバーンと授けるようなイベントはないのかね?須美」

 

「今回は連携の特訓だから仕方ないわね……」

 

「なんだか私、さらに筋肉がついてきたかも〜」

 

園子は自分の腕の筋肉を掴んでいた。

 

「やれやれ強くなるのはいいけど、これから成長する女の子がこなすには、いろんな意味で厳しいメニューだよな〜」

 

「ミノさん、竜巻を起こしてできた傷は?」

 

「あ〜、それなら優治に治してもらったよ。治してもらう前に、少し怒られてチョップをくらっちゃったけど……。園子の方は?」

 

「私はこっちが一番沁みるかな……」

 

園子は自分の手のひらを見せてマメができたことを見せた。

 

「あれ持ってると、そうなるよなぁ……」

 

「そういえば、優治くんの手のひらを見たら、結構分厚いマメができていたのよ」

 

「あたし達も努力する量としては、優治と比べるとまだまだ足りないってことか……。それと、鷲尾さんちの須美さんも体を見せなさい」

 

「えっ、なんで!?」

 

「クラスで一番大きい胸を拝もうと……。まるで果物屋だ!親父、その桃をくれー!」

 

銀は須美の胸に向けて手を伸ばす。当然、須美は抵抗しようと、銀の両手を掴んだ。

ちなみに、銀が須美の胸の大きさの一部を分けれるなら分けて欲しいと思ったのは秘密である。

 

「ちょっと、ダメー!」

 

須美は銀を押し返す。

 

「事実を言ったまでだね!それと、大きいくせして照れるなんて贅沢言うな!」

 

今度は銀が須美を押し返す。須美と銀は体格差はあれど、銀の方が筋力が上なので、須美を押し返すのは容易かった。

 

 

 

 

「あー、うるせー……。少しはゆっくり入らせてくれよ……」

 

優治はげんなりした表情で、温泉を後にした。彼自身、温泉に浸かっている時だけは静かでゆっくり休みたいのだ。もしも、温泉のどこかに女湯を覗ける穴があったら話は別になるが。

 

「まあ、時間が空いた時にまた入るか」

 

優治は寝間着を着ている間、浴場からカコーン…カコーンと桶が次々と落ちている音が聞こえたが、気にせず客室へ向かった。

 

 

 

 

「あれ?返事がないぞ」

 

「もしかして、ユウさんもう上がっちゃったのかな?」

 

「また、優治くんのこと疑ってしまったわね……」

 

しょんぼりと項垂れる須美。

須美と銀がはしゃいでいる間、先生が登場して一時休戦となったが、先生が優治がさっきの様子が丸聞こえになっているかもしれないと言われた時、恥ずかしくなった須美は桶を男湯に向けて投げたのだ(先生が特別に許可)。

しかし、そこには優治はいなく、ただ桶が落ちる音しか聞こえなかった。

 

「あたし達も出ようか」

 

「……そうね」

 

 

 

 

優治視点

 

合宿最後の夕食を食べた後、俺は先生に呼ばれた。先生から大事な話があるらしい。

 

コンコン

 

俺は礼儀として、ノックをする。すると、先生が入ってきていいわよ、と返事がきた。俺はガラッとドアを開けて先生のいる客室に入った。

 

「先生、どうしました?」

 

「来たわね鳥居くん。まあ、適当なところに座って」

 

俺は先生に言われるがままに座った。

先生は冷蔵庫からジュースを持ってきて俺に渡してきた。その一方、先生はお酒を出した。

 

「口止め料よ」

 

「あ、なるほど」

 

俺は素直にジュースを受け取った。

 

「早速本題に入るけど、鳥居くんは鷲尾さんと三ノ輪さん、乃木さんの中で気になる人はいるの?」

 

「ブフッ!?」

 

俺は飲んでいたジュースを吹いてしまう。あまりにも、唐突な質問に俺は焦ってしまった。

 

「まあ、そんな反応になるわよね。それで、気になる人はいるの?」

 

「……正直、よくわからないです。俺自身、須美達とは本当の友達だと思っています」

 

「本当の友達?」

 

「はい。神樹館に転校する前は俺はいつも上辺だけの付き合い、つまり、連んで遊ぶことが多かったんです。しかし、所詮は上辺だけの付き合いで、好みが合わなかったらすぐにその関係は終わってしまうものでした」

 

俺は息を吸って話し続けた。

 

「だけど、この神樹館に通うことになってから……いや、三人と一緒に行動するようになってから、心の中からいつも一緒にいたいと思えるようになりました。お互い、好きなところが違うこともあるのに、こんなに楽しくなれるなんて経験したことがありませんでしたからね。だから、須美達は俺にとって本物の友達なんです」

 

そう言うと、先生はお酒を一口飲んだ。そして、先生の口が開いた。

 

「わかったわ。だけどね、そんな関係はいつまでも続くとは限らないわ。今はそういう関係だけど、いずれはまた違う本物の関係になってくるわ」

 

「また、違う本物の関係……ですか?」

 

「そう。だけど、これ以上は言えないわ。これはあなたに対する宿題よ。よく考えて答えを出しなさい」

 

「……わかりました」

 

俺はまだ中身が残っているペットボトルのジュースを持って先生の客室を後にした。

 

「(別の本物?うーん、わからないな……。結構、難しい)」

 

俺は頭を抱えなきゃいけない問題がまた増えてしまったようだ。確かに、先生の言う通り、よく考えて答えを出さなきゃな。

 

 

 

銀視点

 

 

夕食を食べた後、あとは寝るだけとなった。須美や園子は寝ようとしていたが……。

 

「お前ら、簡単に寝られると思うなよ?」

 

「何言ってるの銀、あとは寝るだけでしょ?」

 

「わかってないな須美は……。合宿の最後の夜だからこそ盛り上がらないと!」

 

「それでミノさん、どうやって盛り上げるの〜?」

 

「そうだな〜、好きな人を言い合いっこしよう!」

 

「銀、好きな人って……」

 

「も・ち・ろ・ん。お父さんとか身内で濁した奴は、勇者の称号剥奪な!」

 

「そ、そういう銀はどうなの?」

 

言い出しっぺなんだから、先に言いなさいと言ってそうな顔をする須美。確かに、言い出しっぺのあたしから言わなきゃいけないよな……。

 

あたしは深呼吸する……。

あたしの好きな人……。見た目は女の子っぽいけど、その見た目に反して男らしく、そして優しい。自分のことよりもあたし達を優先してくれる。そんな人の笑顔があたしの頭の中に浮かんだ。

 

「あたしは……優治が好きだ!」

 

い、言っちゃった……。思いっきり言ったけど、やっぱり恥ずかしくなる!あたしは自分が抱きしめている枕をもっと強く抱きしめていた。

 

 

須美視点

 

 

「えっ……、ええっ!?銀も、優治くんのことが好きだなんて……」

 

私は驚いてた。銀の好きな人が優治くんだということに。

 

「『も』って須美も……」

 

銀は私が言ったことに反応した。私も心に決め、二人の前で言うことにした。

 

「私も優治くんのことが好きよ」

 

その気持ちは銀にも負けないつもり、銀が優治くんをどのように想っているのかわからないけど、私だって優治くんを支えたいと心の底から想っている。

だから、私は優治くんのことが好きだという気持ちは誰にも負けない。

 

 

 

園子視点

 

 

ミノさんもわっしーもユウさんのことが好きなのか〜。ユウさん、モテモテだなぁ〜。

 

「最後にそのっちはどうなの?」

 

わっしーは私が好きな人は誰なのか聞かれる。

 

「私も、ユウさんのことが大好きだよ〜」

 

ユウさんはいつも、私に優しくしてくれる。時々、寝ている私を撫でてくれたり、授業中に寝てしまった時は、授業が終わった後にノートを見せてくれた。

 

一つ一つの優しさは優しい人がしそうなことだな〜って思えるかもしれないけど、私はユウさんの一つ一つの優しさが心に響いていた。気がつくと、その優しさを私だけにしてほしいっていう気持ちになったりしていて、ミノさんとわっしーのことを羨ましく思う時があった。

その時、私はユウさんのことが好きだということに気がついた。

 

「ユウさんは渡さないよ〜!」

 

「あたしだって、譲る気はないもんね!」

 

「じゃあ、どちらが優治くんを手に入れるか競争ね!」

 

お互いの宣戦布告をした後、私たちは明かりを消して寝た。明日、ユウさんとまた話したいな〜。




第7話、合宿回はこれで終わりです!次の第八話でお会いしましょう!感想、アドバイス、できればよろしくお願いします!それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 白い炎の絆

お気に入り数が24になりました!ありがとうございます!感謝、感謝です!それと、設定の方に優治の自己紹介をゆゆゆい風に書いてみました!気が向いたらそちらの方も。では、第八話。アニメでいう「ともだち」の部分はこれで終わりです!


「銀、ヤバイぞ!俺たち遅刻するぞ!」

 

俺はいつものように銀と一緒に学校へ行ってた。また、いつものように銀のトラブル体質が発動した。しかし、今日の朝は違っていた。いつもより、今日はトラブルに会う回数がやたらと多かったのだ。そんなことは、俺たち二人は予想していなかったため、今はこのように遅刻しそうかしないかの間にいる。

 

「わかってる!間に合えー!」

 

銀はドアを思いっきり開けた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……、間に合ったか?」

 

「二人とも、間に合ってません」

 

先生に出席簿で叩かれた。俺たち二人はクラスメイトに笑われる。その後、俺は自分の席に座った。

 

「優治くん、合宿が終わって気が楽になったのはわかるけど、気を緩めすぎよ」

 

隣の鷲尾さんちの須美さんに怒られる。まあ、事情を知らないからな須美は……。しょうがないよな。

 

「うん、気をつけるよ」

 

俺は1時間目の授業で使う教科書を出したが、一方、銀の方もランドセルを開けて自分の教科書とノートを出そうとするが……。

 

「にゃー……」

 

(こ、こら!勝手に出ようとするな……!)

 

ランドセルから出てきそうになった子猫を慌ててランドセルに戻した。

そんなところを須美にも見られていた。あ、これ面倒なことが起きる前兆だ……。

 

 

 

 

須美視点

 

土曜日、私はそのっちと一緒に銀の家に向かっていた。昨日の朝の遅刻とあのランドセルから出てきた子猫を見て裏で何かあると思ったのだ。特に、優治くんと銀が遅刻する時も一緒に登校してることも怪しい。

 

「銀の家はこの先ね。そのっち……っていない!?」

 

振り返るとそのっちの姿はなかった。慌ててあたりを見回すと道路の端で座って何かを見ているそのっちを見つけた。

 

「へいへい、アリさん元気〜?」

 

「フラフラしないの!」

 

「ふぇ〜……」

 

私はそのっちを引きずりながら銀の家に向かった。

道なりに進んでいると、住宅街にある家よりも敷地の広い一つの家にたどり着いた。その家の表札には「三ノ輪」と書かれてあった。

 

「ここが銀の家ね……早速様子を」

 

「ピンポンダッシュ?」

 

「そんな恐ろしいことはダメよ!!」

 

私は鞄から小型の潜望鏡を取り出す。

 

「これで様子を見るわよ」

 

「お〜、本格的〜!」

 

私は銀の家の中を覗いた。

 

「おい、泣くな」

 

その声とともに赤ちゃんをあやしている銀が現れた。

 

「お前はこの銀様の弟だろ〜。泣くなって、泣いていいのは母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟った時だけだぞ〜」

 

銀はそう言って赤ちゃんを泣かないようにしているけど、赤ちゃんのぐずり泣きをしてしまった。

そこで、赤ちゃん用のおもちゃを取り出して、赤ちゃんの前でそのおもちゃを鳴らした。すると、ぐずり泣きしていた顔は段々と笑顔になっていった。

 

「お、泣き止んだ!エライぞ、マイブラザー。まったく、甘えん坊なんだから。大きくなったら舎弟にしてこき使おう!」

 

しゃ、舎弟って……。ま、まあ、冗談なんでしょうけど。

 

カシャッ

 

後ろからシャッター音が聞こえた。

私とそのっちは後ろを振り向くと自転車に降りてスマホをこっちに向けている優治くんがいた。

 

「こんな道で勇者が堂々と盗撮または覗きか……。警察に連絡したらどうなるのかな……」

 

「ち、違うの、優治くん!私たちは覗いたわけじゃなくて!」

 

「だけど、この写真見てたら、誰もが人の家を平気で覗いている変態にしか見えないよ?ま、理由があって覗いてるのはわかるけど」

 

そう言って、私たちの前で、優治くんは銀の家の中を覗いてる私たちの写真を消した。私とそのっちはホッとため息を吐いた。

 

「気になるのは良いけど、もう少し周囲の目を気にしなよ。じゃあ、俺はイネスで卵と鶏肉の特売セールに行かなきゃいけないから、また、明日〜!」

 

優治くんは自転車に乗ってイネスの方へ行ってしまった。私としては、優治くんも一緒に居てほしかったけど、優治くんも用事があるのでは仕方がない。私たちは、家を出た銀を追った。

 

 

 

 

 

優治視点

 

俺は卵と鶏肉の特売セールをしているイネスへ向かった。母さん、曰く、「あそこは戦場。たくさんの主婦たちが特売している商品を狙ってくるから気をつけて」とのこと。

 

今日は母さんがご近所さんである山下さんと一緒にご飯を食べる予定だそうだ。そして、無事、無傷で帰ってきた暁には、昼食は俺が好きなオムライスを作って食べても良いそうだ。

 

「よーし、絶対生還してやるぞ!」

 

イネスの自動ドアが開いた瞬間、俺は素早く入り込んで最短距離で特売と書かれてある卵と鶏肉が売られているコーナーへ向かった。

 

「ちょっと、押さないで!」

 

「そっちこそ押さないでよ!」

 

主婦たちはそういういがみ合いをしながら、特売コーナーに群がっていった。確かに、まさにここは戦場だ。普通では突破できない。だったら……!

 

俺は周囲の人が俺を見てないことを確認して、主婦たちの足の間をくぐった。小学生の身長だからこそできる特権だ。俺は主婦たちに気づかれることなく商品棚にたどり着く。

 

俺は素早く卵と鶏肉1パックずつ手に入れ、主婦たちの足の迷路を逆戻りして、戦場から帰還した。

 

「ふぅ……、これでミッションコンプリート」

 

キツかった。母さんって、いつも、こういうのと戦っているんだな……。母さん、マジリスペクトっす。さて、レジに行かなきゃ。

 

そう思ってレジに向かおうとしたが、俺の耳にある会話が聞こえた。

 

「ママ!オムライス、オムライス!」

 

「……ゴメンね。今日は鶏肉と卵が買えないからカレーよ」

 

「えぇ……、今日は作ってる約束してくれたじゃん!」

 

「オムライスはまた今度よ。さ、行きましょう」

 

「なんで!?約束は守るものだって、パパが言ってたよ!」

 

子どもは純粋だ。親の言うことを必死に聞こうとする。そして、大きくなって、やがて親に教えられたことを自分の子どもに教える。

こう言う時に、子どもは約束は守られないこともあると教えられたらどうだろう。その子は人との信頼関係を作ることができなくなるかもしれない……。それと……。

 

「あんなに、必死になってるところを見たら、小さい頃の俺を思い出すじゃないか」

 

俺はその親子の方へ向かった。

 

「あの、よろしければ……」

 

俺は鶏肉と卵をその子の母親に差し出した。

 

「そんな!?良いですよ!気持ちだけで十分よ、ありがとう」

 

当然ながら、その子の母親は遠慮しようとする。それでも、俺は引かない。

 

「あの子との約束守ってあげてください。オムライスなんていつでも食べれますから」

 

「でもね……」

 

母親は戸惑ってしまう。そこで俺は子どもに話しかけることにした。

 

「ぼく、オムライスは好きかな?」

 

「うん!ママが作ってくれるオムライスは世界一美味しいんだ!」

 

子どもは胸を張ってそう言った。

 

「弥……。ごめんなさい、やっぱり、その鶏肉と卵もらっても良いかしら?」

 

「はい、どうぞ!」

 

俺は鶏肉と卵を親子のカートに入れた。今回は、母さんに着いた時には売り切れてたと伝えておこう。

 

「ありがとう!えっ……と、お兄ちゃん?お姉ちゃん?」

 

「お兄ちゃんだよ」

 

「わかった!ありがとう!お兄ちゃん!」

 

子どもは手を振りながら母親と一緒にレジへ向かった。俺は笑顔でその子に手を振り返した。

 

「「「おぉ〜」」」

 

俺は三人のしかも聞いたことのある声が聞こえた。俺が振り向くと、須美と銀、そしてマイぇ……園子がいた。

 

「ユウさん、かっこいい〜!」

 

「優治って、本当に優しいんだな!」

 

「優治くんはとても素晴らしい人だと思うわ」

 

「もしかして、見てたの?」

 

「「「うん」」」

 

「い、いつから?」

 

俺は口を震わせながら、三人に聞いた。

 

「え、『あの子との約束守ってあげてください』あたりかな」

 

銀は俺の声真似をしてそう答えた。

ものすっごく恥ずかしい……!いっそ、死にたい……!

俺は恥ずかしさのあまり、顔を隠してしゃがみこんだ。

 

「もう、嫌だ……。誰か殺して……」

 

その後、俺は須美達と一緒に昼食をとることにした。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それで銀を追っていたのか……」

 

俺と銀は須美から銀を追ってた理由を聞いた。須美は俺と銀が遅刻する理由が気になって、まずは銀の家に行って理由を探ろうとしたらしい。

「まずは」って……俺の家にも行くつもりだったのかよ。

 

「じゃあ、二人とも家の前から見てたの!?あ〜、何だか恥ずかしいな……」

 

「恥ずかしくないよ、えらいよ!」

 

「じゃあ、優治くんは銀の手伝いを?」

 

「そうだね」

 

俺はそう答えた後、注文したハンバーグステーキを一口サイズに切って、口に運んだ。

 

「私達にも言ってくれれば良いのに〜」

 

「それだと、何だか人のせいにしてる見たいで。何があろうと遅れたのは自分の責任だしさ」

 

そう言った銀に対して、須美は不満げな表情を浮かべた。

 

「銀、そんなの人のせいにしてるとは言わないわ。もっと、私達を頼りなさい。友達なんだから」

 

「須美……、そうだったな。ごめんよ、須美、園子」

 

銀はそう言うと、須美と園子は満足気な表情を浮かべた。

 

「そういえば、ミノさんって巻き込まれやすい体質なの?」

 

「いつも、ついてないんだよね。ビンゴなんか1度も当たったことなんかないし、トホホ……」

 

ビンゴか……。いつも、中盤あたりで当たるけど、ビンゴが一度も当たらないとか、ある意味すごいな。

 

「ま、そんなこと気にしないで、昼食を食べよう!お腹いっぱいにして……」

 

俺たち四人は異変に気づいた。周りの人たちはピクリとも動かない。こんな時にバーテックスが来るとは、本当に空気の読めないやつらだ。

 

「いくよ、みんな」

 

「「「うん」」」

 

 

 

 

「ビジュアル系なルックスしているな」

 

「ああ、今まで見て一番気持ち悪いな」

 

そう言ってる間に浮遊したバーテックスは着地した。

 

「まずはこれで様子を……」

 

須美は高い所に移動して弓矢をバーテックスに向けて放とうとした。

しかし、バーテックスは小刻みに振動して、須美の攻撃を妨害した。

それでも須美は何とか弓矢を放とうとする。

 

「須美、無理な攻撃は自分の隙を生むぞ!」

 

「わかったわ!」

 

須美は攻撃をやめて、俺たちと合流した。

その後、バーテックスは俺たちが手を出さないと知ると、振動するのをやめた。そして、一本の前足で俺たちを串刺しにしようとした。

 

「はあっ!」

 

園子が盾でバーテックスの攻撃を防いだ。

 

「よ〜し、敵に近づくよ!」

 

「「「了解!」」」

 

俺たちは園子の号令で、バーテックスに近づいた。すると、バーテックスは上に飛び、今度は上から俺たちを串刺しにしようとした。

俺たちはすかさず後ろに跳び、攻撃を避けた。敵の攻撃によって生まれた隙を須美は逃さず矢を放ったが、バーテックスには当たらなかった。

 

「制空権を取られた!?」

 

くそっ!マズイな。制空権を取られたら、一方的に攻撃される。俺が炎を使って高く飛ぶのは可能だけど、隙が生まれる。その隙を突かれて串刺しになったら、デッドエンドだ。

 

そう考えていると、バーテックスは自分の4本の足を一つにまとめ、ドリル回転を起こした。ドリルとなった足の先には銀がいた。

 

「銀!!!」

 

ドリルは銀を襲った。銀は二つの斧でガードした。

 

「根……性!」

 

「ミノさん!?」

 

「一分は持つ!上の敵をやれぇーー!!!」

 

バーテックスは動けない状態だ。だけど、このまま銀は!畜生!どうしたら……!

 

「私たちで敵を叩くよー!!」

 

園子は槍を使って階段を作った。

何とも便利な槍だ。これなら間に合う!

 

「わっしーは敵を射抜いて!ユウさんはミノさんを助けて!」

 

「「わかった(わ)!!」」

 

俺と須美は階段を駆け上がり、俺は銀を助けに下を跳び、須美は上へ跳んだ。

 

「いくぜ!」

 

俺は剣に白い炎を纏わせ、バーテックスの足を溶かし切った。

 

「サンキュー!優治助かった!」

 

俺はバーテックスの攻撃でできた銀の傷を治した。

 

一方、須美も弓を引きしぼって狙いを定めて、矢を放った。その時、須美の矢に変化が起こった。その矢は俺と同じ白い炎のを纏っていたのだ。そして、矢はバーテックスを貫いた。

貫かれたバーテックスは下へ落下した。

 

「ここから……出て行け〜!」

 

園子は槍を変形させた。

 

「突撃〜!!」

 

園子は落ちていくバーテックスに向かって跳んだ。今度は園子の槍にも変化が起こった。槍は一匹の白い炎の龍となり、バーテックスに大きな風穴を開けた。

 

「ミノさん、ユウさん!」

 

「銀、何倍にして返してやろうぜ!」

 

「ああ!いくぞー!!」

 

俺と銀の方へ落ちてくるバーテックスに、俺たちは真上に跳んでバーテックスを白い炎の刃で切り刻んでいった。その時、銀の斧にもにも俺と同じ白い炎を纏っていた。

 

「これで……」

 

「トドメだーーー!!」

 

銀がそう叫ぶと、夜のような空は明るい昼のような空へと変わった。どうやら、戦いは終わったらしい。

 

「はぁ……はぁ。銀、ナイスファイト!」

 

「優治もな」

 

仰向けになった俺と銀は互いの拳を重ねた。

 

「さて、二人のところへ行くか」

 

「そうだな」

 

現実世界に戻ると、須美と園子が仰向けになっていた。

須美には傷はないが、園子は傷だらけだった。俺はフェニクスで園子の傷を治した。

 

「ありがとう、ユウさん」

 

「どういたしまして。頑張ったな、園子」

 

「えへへ、ユウさんに褒められた〜」

 

園子は嬉しそうな顔で俺を見た。うん、もう持ち帰って良いよね?

 

「優治くん、私は?」

 

須美は少し頰を膨らませていた。須美は三人の勇者中で一番大人っぽいと思ってたけど、こういう子どもっぽいところもあるんだな。

 

「須美のおかげで俺と銀はバーテックスを切ることができたよ。ありがとう、須美」

 

「うん!」

 

俺たちは自分の荷物がイネスにあるので、イネスに戻った。すると、客がいなくなってしまったことで、店員は俺達の昼ごはんを片付けていたので、十分間、頭の中が真っ白になった。




いかがだったでしょうか?
原作キャラ強化は須美と銀と園子のそれぞれの武器が眷属器になるということです!
それでは、次の話からは「たましい」の部分に入ります!それでは、第九話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 休暇のはじまり

やっと夏休みだー!!これで心置き無く書けるぜ!
しかも、お気に入り数が一気に35に!?見た時、驚きました!本当にありがとうございます!
ということで第九話から「たましい」の部分が始まります!


俺はいつも基本的に自主トレで訓練をしていた。しかし、今は大赦が用意している勇者が使っている訓練場で訓練をしている。それは、俺とそして、須美達の強い希望があったからだ。

 

「はあっ!」

 

「そりゃあ!」

 

「えいっ!」

 

俺と銀と園子は気合いを入れた声で素振りをしている。一方、須美は……

 

ズドーン!

 

弓で的を的確に射ぬいていた。こうやって訓練場で須美の弓の威力を見ると凄まじいものだと感じる。

 

「そこまで!」

 

先生の声とともに今日の訓練の時間が終了した。

 

「あー!疲れたぁー!」

 

銀はバタッと仰向けに倒れ、大きな声で言った。

 

「ほれ」

 

俺はスポーツドリンクを銀に投げ渡す。

 

「サンキュー。ゴクゴク……プハッ!生き返るー!」

 

「本当、汗をかいた後のスポーツドリンクは美味しいよな……」

 

俺もスポーツドリンクを飲んだ。

 

「二人とも、先生が呼んでるわよ」

 

「「へいへーい」」

 

「二人ともはいと言いなさい」

 

「「はいはーい」」

 

「はい、は一回!……って二人ともワザとでしょ!?」

 

「「てへぺろ(笑)」」

 

そう答えた後、俺と銀は須美に少し叱られました。

 

 

 

 

「まずは……鳥居くんから聞きたいことがあるのだけど」

 

俺たち四人を集めた先生はまず、俺のついて聞きたいことがあると言った。一体、何を聞きたいんだろうか?

 

「あなたの剣について、そろそろ教えてもらえないかしら?」

 

「別に構いませんよ」

 

「話にくい気持ちもわから……って、え、良いの?」

 

珍しく先生が戸惑っている。これは案外貴重なシーンを見たかも。

あと、いずれ、聞かれることだし、それに……。

 

「三人に隠し事はしないと決めてるんで」

 

「わかったわ。じゃあ、話してもらえる?」

 

先生に言われると俺はコクリと頷き、剣を出す。

 

「俺の剣と剣穂に二つの精霊が宿っています」

 

「精霊?」

 

「はい。でも、みんながイメージしている普通の精霊ではないです。もっと強い力を持った……それこそ土地神様を超えてしまうほど」

 

この表現で間違いはないだろう。ジンのモデルになったのはソロモン72柱だ。それと、元を辿れば、そのソロモン72柱は神として崇められてたし。

 

「そんな力が秘められていたのね……」

 

「それと、須美達の武器に俺の白い炎が宿っているのを、『眷属器』と呼んでいます。簡単に言えば、精霊と同じ力の一部を使えるようになります」

 

「ということは、つまり、あたし達に必殺技が使えるってことか?」

 

銀は目をキラキラさせながら、俺に聞いて来た。そういえば、合宿の時に必殺技が欲しいとか何とか……覚えてないな。

 

「まあ、捉え方によってはそうだな。今、須美達の武器に俺と同じ力が宿っている。だけど、あくまで武器強化と考えてくれ」

 

そう言うと、三人はうなずいた。

 

「それと、注意がある。力を使いすぎると、しばらく動けなくなるから、中盤辺りに使うのが一番だ」

 

「つまり、一気にたたみかける時が一番ということね」

 

「そういうこと。説明できるのはこれくらいかな。なんでこの剣を持ってるのかは聞かないでくれ。俺もなんで持ってるかわからないから」

 

「わかったわ。説明してくれてありがとう。それと、もう一つあなた達に次の任務を与えるわ」

 

そう言った後、先生の顔は俺たちに微笑んだ顔で口を開いた。

 

「しばらくの間、しっかりと休むこと」

 

「「「「えっ」」」」

 

「精神状態が安定してないと、変身できないからね。張り詰めっぱなしだと、最後までもたないから」

 

「やったー!休むことなら任せてください!」

 

「私も私も」

 

「俺も!」

 

「「「イェイ、イェイ!イエーイ!」」」

 

俺たちは三人で息ぴったりにハイタッチした。須美は俺たちのノリについていけなかったらしく、少し寂しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

「行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃい、あなた」

 

父さんが出勤するのを母さんは玄関で見送った。最近、父さんは革新的な医療用のものを作るのに忙しいらしい。確か、神経科のものを作るとか言っていた。

 

俺は父さんを見送ると、寝る準備をする。こういう何も予定が入ってない土日の日は寝るのが一番だ。

 

「母さん、俺、もう少し寝るわ」

 

「昼ごはんの時までには起きて来なさい」

 

「ういー」

 

俺は二階の自分の部屋に入り、二度寝した。

 

 

 

銀視点

 

「ミノさん、ユウさんから返信来てる?」

 

「ううん、全然。既読になってないから、メッセージをまだ見てないかも」

 

あたしは園子の家の車に乗っている。今、優治にメッセージを送っているが、返信が来ていない。今朝、あたし達はLI○Eのグループ会話で一緒に遊ぶ話をしていたのだが、既読している数が2で、優治だけが会話を見てないことがわかった。

 

「銀、優治くんに電話をかけたら?」

 

「そうだな」

 

「だけど、ミノさん。もうユウさんの家に着くよ」

 

園子の声を聞いて前を見ると、一つの和風な家が見えた。その家はあたしが住んでいる家より少し小さいが、物静かな雰囲気があってとても魅力的な家だった。

そんな和風が大好きな須美は優治の家をキラキラとした眼差しで見ていた。

優治から聞いたけど、これは優治のお爺ちゃんの希望でこういう家になったとか。

 

車はドアの前に玄関の入り口の位置が重なるようにして止まった。あたしと須美、園子は車から降りてインターホンを押した。

 

『はーい』

 

すると、一人の大人の女性の声が聞こえた。多分、この声の主は優治のお母さんなのかな?

 

「あの、優治くんの友達の鷲尾須美なのですが、優治くんはいますか?」

 

『あ!優治が言ってた須美ちゃんね!遠慮せずに家の中に入っちゃって!』

 

あたし達は優治の家も見てみたかったので、言葉に甘えて優治の家に入った。

 

「いらっしゃい。みんな可愛いわね〜。まったく、優治ったら隅に置けないわね」

 

そう言われ、あたしは少し恥ずかしい気持ちになった。それは須美も園子も同じなようで、少し顔を赤らめていた。

 

「私が起こしにくるのも良いけど……あなた達が起こしに行った方が優治にとって嬉しいんじゃないかしら?」

 

「ユウさんのお部屋に入っても良いんですか〜?」

 

「良いのよ、良いのよ。さあ、行ってちょうだい!」

 

あたし達は二階に登り、優治の部屋に入った。

 

 

 

須美視点

 

私は優治くんの部屋の前に立っていた。やっぱり、異性の部屋に入るとなると緊張しちゃうわね……。

 

「須美、どうしたの?早く入ろうぜ」

 

気がつくと銀がすでに扉を開けていて、そのっちはもう優治くんの部屋に入っていった。さすがは銀ね……。

 

優治くんの部屋に入ると、真ん中に布団が敷いてあって、そこに優治くんは寝ていた。寝息は、「スー……スー」としていて、とても静かだった。

 

「わぁ、ユウさんの寝顔だ〜」

 

そのっちは優治くんの寝顔を見ていた。私もそのっちと並んで優治くんの寝顔を見た。

 

「か、かわいい」

 

私は思ったことをそのまま口にしてしまう。あんなに男らしい性格しているのに、見た目は女の子みたいな顔をしている。私はスマホで優治くんの寝顔を撮った。これは待ち受けにした方が良いのかな?

 

「優治……」

 

銀はいたずらにツンツンと優治くんの頰を人差し指でつついた。優治くんはそれに反応して……。

 

はむっ

 

「うわっ!?」

 

なんと、つついていた銀の指を優しく噛んだのだ。銀はすぐに手を引っ込めたが、優治くんは「むにゃむにゃ」と言った後……。

 

「このスティック飴、くっそまずい……」

 

「ふんっ!」

 

優治くんが言ったことにムカついた銀は勢いよく優治くんのお腹に向けてチョップをした。

 

「ごふっ!?な、なんだなんだ!?」

 

「わっしー、これが本当の『叩き起こす』って言うんだね〜」

 

「うん、間違ってないと思う」

 

その後、優治くんは着替えた後に車に乗って、私たちと一緒にそのっちの家に向かった。

 

 

 

 

 

優治視点

 

銀に叩き起こされた俺は今、園子の家の中にいる。須美が言っていたことだが、園子の家は大赦の家の中で一番力のある存在らしい。そのため、園子が住んでいる家はめちゃくちゃデカかった。

そして、今、園子が自分の服を銀に着せてるので、俺は別の部屋で待機している。

 

「ユウさん、もう開けて良いよ〜」

 

俺は扉を開けて部屋に入った。そこには……。

 

「こ、これは……やっぱりあたしには……似合わないんじゃないか……?」

 

「わっしーはどう……。うわぁ、こんな鼻血の出し方見たことないよ〜」

 

園子は須美に銀があの服を着た感想を聞こうとしたら、須美が鼻血の噴水をしていた。こいつ貧血になるんじゃないか?

 

「ユウさん、どう思う?」

 

「そうだな……」

 

やはり、元が可愛いからこんな服を着ても違和感なんて微塵も感じない。それよりも、もっと可愛いくなっていると感じた。というか待ち受けにしたいほど可愛い」

 

「なっ!?///」

 

銀の顔はりんごのように真っ赤かに染まっていた。

 

「おーい、銀?……もしかして、本音が出てた?」

 

「思いっきり!」

 

「ユウさんって時々、恥ずかしいことを平気で言っちゃうよね〜」

 

「さあ銀。今日は色んな美容服に挑戦よ!」

 

「ええっ!?」

 

その後、銀は色々な服を着た。中にはアニメのキャラのコスプレまであった。なぜ、園子はああいう服を持ってるのかよくわからん。

ちなみに、俺もスマホで撮っていました。

 

「むぅー」

 

やはり、着せ替え人形みたいにされたように感じたのか、銀はいじけて座りこんだ。その時には須美も満足気な表情を見せてた。

 

「はぁ……、良かったわ」

 

「何がだよ!」

 

「じゃあ、次はわっしーの番ね」

 

「ええっ!?」

 

園子はクローゼットから煌びやかな服を取り出した。

 

「これなんかすっごく似合うと思うな〜」

 

確かに、これはまさにお嬢様的な服。須美でも十分似合いそうだ。

 

「そんなダメよ!そんな非国民な格好!」

 

「いやー!須美に似合うと思うな!」

 

「反撃だ!」とでも言いたげに銀も流れに乗る。須美の逃げ場がなくなってしまった。

 

「ゆ、優治くんなんか似合うと私は思うな〜」

 

何を言うんだか。男の俺にそんな服を着せても意味ない「わぁ〜、ユウさんにも似合いそう〜」えっ?

 

「確かに、優治に似合いそうだな」

 

嫌な予感……。ここはまず、事が起きる前に。

 

「逃げるんだよ!」

 

俺は部屋を出ようと扉へ向かおうとした。

 

「おおっと!ここは通さないよ!」

 

「なにっ!?」

 

銀が素早く、俺の前に立ちふさがった。後ろを振り返ると須美と園子が俺を逃さないように両手を広げてた。

くそっ、囲まれた。

 

しかも、ここは人の家だ。ここで暴れたら、当然迷惑をかけることになるので、俺は潔く降参した。

 

 

 

「くそっ、何で俺が……」

 

「ユウさん、可愛い〜!!」

 

「似合うじゃん、優治!」

 

褒めているつもりだろうけど、俺は全然嬉しくない。というか恥ずかしい。そして、死にたい。

 

「どうしたの?須美」

 

銀が須美がリアクションを起こしていないことに気がついた。

 

「ブハッ!!」

 

須美が鼻血を出しやがった!?しかも、上を向いているのに的確にカメラで俺を撮っていた。

 

「良いわ、優治くん!さあ、どんどん着るわよ!」

 

「勘弁してくれぇ〜〜!!」

 

俺はその後、銀と同じように色んな女物の服を着せられた。こうして、転生人生に一つの黒歴史が誕生した。




いかがだったでしょうか?少しの間はオリジナルを混ぜ込んだ日常話を入れるのもありかな……と思っています。誤字脱字等ありましたら、遠慮なく教えてくれると嬉しいです!
では、第十話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 見参!国防仮面!

8月になりましたね。この夏ももう一層暑くなりそうですね。この暑い中スポーツをやってる方は本当にすごいと思ってます!

第十話、ついにあの正義の味方が見参します!


「あれ?三人とも何描いてるんだ?」

 

俺が昼休みでトイレから教室へ帰った後、勇者三人組は黒板で絵を描いていた。銀は小さな子供を描いていた。

 

「銀、その子ってお前の弟か?」

 

「よく分かったな!あたし、不器用だからあんまり絵には自信がなかったから、分かるかどうか不安だったんだ……」

 

「本当に弟が好きなんだな。何だか俺も弟か妹が欲しくなるな……」

 

「渡さないよ」

 

「わかってる」

 

「須美の方は……瑞鶴か」

 

戦艦のプラモを作っているから、一目でわかった。というか、絵がとてつもなくうまい。

 

「すげぇ、リアル!?」

 

銀も須美の絵のうまさに驚いている。

 

「でしょ?旧世紀、昭和の時代に数々の戦いで主戦力となった我が国の空母よ。囮になって最後の最後まで頑張ったのよ……!」

 

須美が涙を流しながら、敬礼している。

 

「須美ってやたらと歴史に詳しいよな」

 

「夢は歴史学者さんだから!」

 

「じゃあ、優治は?歴史には詳しいでしょ?」

 

「まあ、そうだけど、俺は歴史学者さんじゃなくて歴史小説を書きたいなって思ってる。只今、園子の弟子になってます」

 

そう言うと、園子はえっへんと言わんばかりに胸を張った。

 

「ヘぇ〜、じゃあ園子って、小説家になるのが夢なんだな。なんか納得」

 

「独特の感性だものね」

 

俺たちは園子の絵を見て言った。猫の絵なのはわかるが、なぜか、人型の猫が猫を飼ってるという何て言えば良いのかわからない絵もあり、リアクションに困ってしまう。

 

「時々、サイトに投稿してるんだよ。あ、そうだ!三人にも私の小説の登場人物として出演してほしいな。優しくて頼れるミノさんに、真面目で時々面白いわっしー。そして、見た目とは逆に男らしいユウさん」

 

「時々、面白いって……」

 

「見た目はほっといてくれ……」

 

「えっ、須美はつまらないより良いじゃん。優治は見た目が男らしいとそのまんまのイメージでつまらないし。見た目とのギャップが良いんだよ」

 

ギャップね……。まあ、それはそれで特徴がないよりマシだから、別にそれでも良いか。

そう感じた俺は銀の言うことに頷いたが、

 

「そうなのだけど、もう少し私にも頼って欲しいわ」

 

須美の方は不満がまだ残ってるようだ。

 

「あたし、そうやっていじける須美の顔が好きだな」

 

「ええっ!?」

 

銀にそう言われて困った顔をする須美。

 

「ま、俺も須美の困る顔は好きだよ」

 

俺は須美の右肩に手を置く。

 

「好きって///ゆ、優治くんまで……」

 

「おおっ!なんか良いよ!三人のこの空気、とっても良いよ!」

 

「そういう銀の夢は?」

 

恥ずかしくなってきた須美は自分の話をズラして銀の夢について聞いた。

 

「あたしは幼稚園の頃は家族やみんなを守る美少女戦士になりたかったな」

 

「わかるわ!御国のために戦う正義の味方、それは少女の憧れよ!」

 

まあ、確かにあるよな。俺が思いつく正義の味方の美少女戦士のイメージは、セーラー○ーンや○リキュアくらいか。

 

「今は?」

 

園子にそう聞かれた銀は照れた顔になる。

 

「いや〜、家族を持つのも良いものだから……でも、それだと将来の夢が……お嫁さん」

 

そう言って、銀は俺の方を一瞬、チラリと見た。なんでこっちを見るんだよ。銀のこと意識しちゃうじゃないか……。

 

「ミノさんならすぐ叶うよ〜!」

 

「白無垢が楽しみだわ!」

 

「何だよ園子。つつくなよ〜」

 

「小説のネタにするね」

 

「それはヤーメーロー!」

 

銀は園子の両頰をつねった。

 

「優治くん、何で顔が赤くなってるの?」

 

「えっ、き、気のせいだよ!あは、あはは!」

 

言えない!銀と付き合ってることを想像してしまったなんて、恥ずかしくて言えない!

 

 

 

須美視点

 

学校の授業が終わって家に帰った後、私はパソコンを開いてそのっちが投稿している小説のサイトを見た。

 

「これがそのっちの小説ね……」

 

私はそのっちが書いた小説は「スペース・サンチョ」という小説だった。評価のページを見ると、その評価のほとんどが高評価で、中には「学校に行けるようになりました」という感想があった。

 

「それと、優治くんのは……これね。『旧世紀武人列伝』」

 

優治くんが書いた小説には、旧世紀の室町〜江戸時代、そして、昭和の時代の人についての話を中心に、物語として書かれてあった。感想には、「初めてこの国に生まれたことに誇りを持てるようになった」という感想や、「日本の歴史に興味はなかったけど、この小説を読んで日本の歴史が好きになりました!」など愛国心が芽生えた感想がいっぱいあった。

 

だったら、私も歴史小説を書いて読者を護国思想に染めあげてみせるわ!

 

私はユーザーの新規登録をして、執筆を始めた。

 

 

 

 

優治視点

 

ピロン♪

 

「ん、誰だろ?」

 

俺はLI○Eにメッセージが来たので、スマホを手に取った。送り主は須美だった。

 

須美『私も歴史小説を書いてみたわ!自信作だから、優治くんの感想が欲しいんだけど……』

 

優治『わかった。読んだら感想書くよ』

 

そうメッセージを送った後、俺は小説投稿サイトで須美のアカウント名を検索して、須美が書いた小説を読んだ。

 

 

1時間後……

 

 

「何この小説。マジで怖いんだけど……」

 

俺はそう思わず自分の感想を口にしてしまう。数えたけど、「愛国」が453回も出てたし、そもそも書いてるのは歴史小説じゃなくて、ほぼコラムだし。

 

「須美の思惑は大体想像したけど、俺は愛国心で書いたわけじゃないんだよな……」

 

俺は確かに日本の歴史が好きだ。特に好きなのは、昔の時代の人の生き方で、俺はそこに心が惹かれたのだ。決して愛国心で書いてたりしているわけではない。

 

ピンポーン……

 

「ん?誰だろ?」

 

両親は今日一日中、この家にはいない。俺は自分の部屋から出て、玄関のドアを開けた。

 

「どちらさま……って須美か、どうしたんだ?」

 

「優治くん、私を弟子に「弟子は募集してません」……」

 

俺はその後、必死にお願いする須美を帰らせるのに1時間くらいかかった。だって、あんなクマができてる顔を見たら、体調を崩す前に帰らせるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、わっしーの夢を見たんだ〜」

 

「へぇ〜、どんな夢だ?」

 

俺たちはイネスに行って、いつものジェラートを食べていた。ちなみに、俺はジェラートのすべての組み合わせを食べて、今は2周目だ。

 

「それはね……」

 

 

 

園子の夢

 

『ねえ、わっしー。こっち向いて〜?」

 

『いいえ。私は「わっしー」ではないわ。その正体は……富国強兵!正義の味方、全員気をつけ!私が「国防仮面」だ!』

 

 

 

「っていう夢なんだ〜」

 

園子は夢で見た国防仮面の格好を描いた。仮面をつけているのはもちろん、昭和の当時の兵隊が被っていたのを彷彿させる帽子を被っており、軍服を着ていた。

 

「あら、オシャレな格好ね」

 

「……これ、出し物に使えそうだな」

 

「出し物?そんなのはあったっけ?」

 

「1年生とのオリエンテーションがあるって、予定表を見たんだ」

 

「なるほどね。そのオリエンテーションでまだ何も知らない一年生に護国思想を広めよう、ということね!」

 

いや、全然そんなつもりじゃないんだけど。

 

「まあ、こういう格好は一年生の子たちにとってカッコよく感じるんじゃないかなって」

 

「確かに、あたしの弟もこういうのは好きそうだな」

 

銀もふむふむとうなずく。

 

「じゃあ、計画を立てようよ〜」

 

こうして俺たちは、少し早いが、一年生のオリエンテーションの計画に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

数日後、一年生とのオリエンテーションが行う日が来た。

紙芝居役は銀、国防仮面は俺と須美と園子がやることになった。

 

「さあ、海の外から悪い怪獣がやってくるぞー!大変だ、大変だ!」

 

銀は小太鼓で音を鳴らし、一年生の視線をこっちに引き寄せた。さすがは銀。小さい子どもの扱い方に慣れている。

 

「ずしーん……ずしーん……。『なんて綺麗な場所なんだ!この土地をよこせー!』図々しい怪獣はこんなことを言ってるぞ!君ならどうする?」

 

銀はおとなしそうな雰囲気を出してる男の子を指差す。当然、突然、指さされた彼は焦った表情になる。

 

「に、逃げる!」

 

と答えた。

 

「それだと、怪獣にここが取られちゃうぞ〜」

 

「ど、どうしよう……」

 

「戦う!」

 

うつむく彼の横にいた活発そうな男の子は強くそう言った。

 

「そう、戦う!あたし達には神樹様がついている。勇気を出して戦いましょう!『国防仮面』と一緒に!」

 

そろそろ出番か……。

 

「優治くん、そのっち、準備は良い?」

 

俺と一緒に一年生達の様子を見ていた須美が聞いてきた。

 

「もちろん!準備オッケーだよ〜」

 

「俺もだ……おっと、そろそろだぜ!」

 

 

「「「「国防仮面ー!」」」」

 

 

一年生達が大声を出して呼んできた。

 

ガラッ!

 

「国を守れと人が呼ぶ!」

 

 

「愛を守れと叫んでる!」

 

 

「御国の土を穢すものは許さない!」

 

 

「「「全員、気をつけ!憂国の戦士!国防仮面、見参!」」」

 

 

「きゃああ、カッコいい!」

 

「めちゃ、カッケェ!」

 

など、一年生達の声が聞こえる。どうやら、銀の予想通り、一年生達はこういうのは好きだったようだ。

 

「さあ、今日は楽しく体操しながら国防の仕方を学んでいきましょう!」

 

「さあ、立って立って〜」

 

そう言うと、一年生達は立ち上がる。

 

「友達とぶつからないように気をつけろよ!いくぞー!」

 

マントを後ろに投げて、国防体操を始めた。作詞と作曲すべて、須美が考えたものだ。これをまた一日で完成してくるんだこれが。

 

「「「「富国強兵!」」」」

 

体操が終わると一年生達はそう叫ぶ。多分、これが一年生になって初めて覚える四字熟語じゃないかな……。

その後、何故か握手会が開かれたり、オリエンテーションの題材にした学校のお便りを作るために職員が写真を撮りに来るなど、色々と大変だった。

 

その結果……。

 

 

「やり過ぎよ!4人とも!」

 

「「「「す、すいません……」」」」

 

このように、先生に叱られています。一年生達を楽しませるとはいえ、他のクラスメイトの出番を失くしてしまったので、オリエンテーションの作文の題材がすべて国防仮面の人気さについてのものだった。

 

「これらは卒業まで没収します!」

 

「そ、そんな〜〜!!」

 

須美が先生にそう叫んだ。一番、やる気出して頑張ったもんな。だけど、こうなってしまったからには仕方ない。卒業まで待つか。

 

「須美、後で打ち上げをやろう?先生に叱られるほどの大盛況だぜ。一年生に護国思想は十分広まったよ。とりあえず大成功ってことで良いんじゃないのか?」

 

「優治くん……」

 

「それに、私達も楽しかったよ〜!だよね、ミノさん?」

 

「ああ!あたしも本当に楽しかった!」

 

「銀、そのっち……」

 

「それじゃあ、そうと決まればイネスで打ち上げだ!イネスマニアの銀さん、今日打ち上げするのにオススメの店の案内よろしくな!」

 

「よし、任された!」

 

結末はどうであれ、俺たちにとって、とても良い思い出になった。このまま、楽しい思い出が積み重なっていけば良いのに……。そう思いながら須美達と一緒にイネスへ向かった。

 

 

 

 




第十話、いかがだったでしょうか?
感想があれば是非よろしくお願いします!

では、第十一話でお会いしましょう!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 意地

休暇も終わり、俺たちの訓練は再開。いつも通りの日常に戻った。

そして、6月に入って遠足の時期がやってきた。俺は仲の良い男友達である榊原に同じ班に入れてもらうように頼んだら、「優治は鷲尾さんのところへ行きなよ。多分、お前がいないと勇者三人組は始まんないと思うぜ」と言われた。

 

ちなみに、榊原は俺が転校した次の日に話しかけてくれた最初の男子だ。結構、漫画についてウマが合うので、仲良くしていたのだ。

 

しかし、俺が須美達の方へ向かおうとしたときに榊原が、「危ねぇ……。危うく目覚めてしまうところだった」と言っていた。何に目覚めてしまうのだろうか、俺にはよくわからないし、わかりたくもない。

とにかく、須美達の班に入れてもらうことになった。もしかしたら、須美達と同じ班でよかったかもな……。

 

 

 

 

 

「ああ、手のマメがチクチク痛い〜。今日の鍛錬、大変だな……」

 

次の日、俺は園子の席に行くと、園子が痛そうに両手の手のひらを開いたり閉じたりしていた。

 

「チクチク痛くなってるってことは、努力してる証拠だよ」

 

「そうだけど……」

 

「槍の握り方を変えたら?」

 

「先生が握り方を変えてもどうにもならないって……」

 

「よしよし、痛いの痛いの消えてけ〜」

 

銀はそう言いながら、園子の頭を撫でた。園子は気持ち良さそうな顔になる。こちらから見れば、とてもほっこりする光景だ。しかし、その光景を壊すように三冊の分厚いじゃ言い足りないほどの厚さのある本が置かれた。

 

「三人にはこれを渡しておくわ」

 

「な、なんだ!この広○苑よりも厚い本は!?」

 

俺は思わず声をあげてしまう。

 

「見ての通り遠足のしおりよ。データ版も三人の端末に送っといたから」

 

あ、だから俺のスマホの容量減ってたのか。開いてみたけど、あまりものデータ量で表示されなかったから、しおりのデータということも分からなかったし。せめて、分割して送って欲しかった。

 

「見ての通り遠足のしおりって、この厚さしおりの域を超えてるから!?」

 

 

「そこまで分厚いしおりを作るのは○せんせーだけで良いよ!!」

 

銀も須美が作ったしおりにツッコミを入れた。

 

「ミノさん、その『○せんせー』というのは?」

 

「優治が貸してくれた旧世紀に連載されていた暗殺○室ていう漫画に出てくるキャラクターだよ。ものすごく、面白いから園子も読んでみなよ!」

 

「へぇ、私も読んでみた〜い。ユウさん、貸してほしいな〜」

 

「遠足の後でならいいよ。それで、須美。こういうのを作るのは良いけど、俺たちが持っていく物やバッグのことも考えてこれを作ったのか?」

 

ギクッ

 

須美が少し焦っている顔になった。

 

「「「(あ、考えてなかったんだ)」」」

 

須美は意外なところでポンコツな部分が出てくるな。それが逆に可愛く見えてしまう。何故だろう。俺の中の七不思議の一つしよう。

 

「わっしーって、のめり込んでいくタイプだよね」

 

「須美の旦那は幸せだけど、大変そうだ」

 

あ、それは俺も思う。幸せだけど、大変。これって、結構楽しいってことじゃないのかな?

 

「なんで、そんな話が出るのよ!?と、とにかく、このしおりを使って遠足の準備をしましょう?持って行くことはできないけど……」

 

こうして俺たちは遠足についての打ち合わせを始めた。と言っても、どこを周るかの話だけで、すぐに終わってしまった。打ち合わせを終わらせた後、須美が渡してくれたしおりを持って帰ったのだが、ランドセルに入りきらないため、職員室に行って紙袋をもらって帰った。

 

 

 

 

 

 

鍛練が終わった後、俺は明日の遠足の準備をしていた。

 

「えーと……。タオルに水筒、学校の方のしおりに筆記用具、昼食はバーベキューだから弁当は必要なし。あとは何だろう?」

 

俺は須美達に何が必要か聞くことにした。

 

優治『基本的な物は用意できたけど、あとは何が必要かな?』

 

俺は画像を送信して須美達に聞いてみた。

 

銀『あたしも基本的な物は用意をしましたわ』

 

園子『まあ奥様、私もですわ\(・ω・)』

 

須美『ビニール袋も要りましてよ』

 

何かお嬢様的な感じになっている。だったら俺も流れに乗るか。

 

優治『承知しましたわ』

 

銀『優治がお嬢様言葉を使っても違和感がすごいんだけどw』

 

優治『さすがに気持ち悪かったか?』

 

須美『そうね、別に流れに乗らなくてもよかったわね。優治くんがそんなこと言ってることなんて想像つかないし』

 

園子『ユウさん、男らしいからね』

 

園子のメッセージを見た俺は感動した。いつも見た目で女の子っぽいと言われてた俺が「男らしい」と言われたのだ。

園子マジ天使!結婚したい……!

 

銀『見た目以外は』

 

そして、俺の感動を壊すかのように銀が痛いところを突いてくる。

 

優治『見た目は大きなお世話だ!そろそろ時間だから上がるね。明日、良い遠足にしようぜ!おやすみ〜』

 

アプリを閉じてビニール袋をバッグの中に入れた後、俺は寝た。

 

 

 

 

 

 

遠足当日、俺たちが選んだコースはアスレチックコースだった。これは銀が「勇者なんだから、体を動かすところを周ろう!」ということで決まった。勇者だからって別に体を動かすというわけではないと思うのだが……。

 

「じゃあ、まずはどのアスレチックにしようか?」

 

「それじゃあ、あのアスレチックにしよう!」

 

銀が指差した先にはいくつものタイヤを吊るしていて、そのタイヤの輪の中を潜って行くアスレチックだった。

そこには、体育系の女子があのアスレチックをやっていた。須美達といつも行動していたせいか他の女子がいても緊張しなくなった。慣れって怖いな……。

 

そのアスレチックを銀と須美は軽々と攻略したが、何故か園子がそのアスレチックに苦戦していた。

 

「どうした?園子?落ちても大丈夫だから心配するなよ」

 

「落ちたら奈落の底だと考えるとと、結構なスリルに感じるだよ」

 

相変わらずの想像力だな……。

 

「5本目のタイヤは決して踏んではいけません……」

 

「「えっ?」」

 

何故か須美は声の音程を低くして喋ってきた。

 

「触ったら最後、落ち武者の霊が夜な夜な枕元に立って、田んぼを返せ、と」

 

落ち武者が何で田んぼを返せと言うのよくわからないけど、須美の顔が怖すぎ!!夜にそんな顔をされたら絶対眠れなくなって、トイレも行けなくなる自信があるほどだ!

 

「何で怖がらせるんだよ……」

 

「スリルを求めてるのなら、提供しようと……」

 

いやいや!こっちまでスリルを提供しなくて良いから……!提供するのは園子だけでお願いします!

 

「ほら!勇者は気合いと根性!!」

 

銀は手を少し広げ、園子を受け止める姿勢をとった。

 

「勇者は気合いと根性〜!」

 

園子は一気にタイヤから飛び出した。銀はそんな園子を受け止める。

 

「よしよし、よく頑張りました」

 

銀は園子を撫でる。すると、須美は何だか羨ましそうな表情になり、二人の間に入りこんだ。

 

「どうしたんだ?」

 

「二人が仲良くしてるから私も、って……」

 

「何だか犬みたいだな……。よし、須美」

 

俺は須美の腕を引っ張り、須美の頭を抱きしめながら撫でた。まあ、こんな須美を見たら撫でたくなるでしょ。普通。

 

「よしよし……」

 

「ふぁ……///」

 

「「あっ!?」」

 

俺はこのまま10秒間須美を撫で続けた。須美の髪はとてもしっとりしていて、撫でているこっちも気持ちよかった。

 

「もう良いかな?」

 

「うん……」

 

須美は顔を少し赤くしながら俺から離れた。

 

「じゃあ、次は……」

 

俺はどこのアスレチックに行こうか、銀と園子に聞こうとしたが、銀と園子は頰を少し膨らませて不満気な表情を出してた。

 

「次は銀と園子もやる?」

 

このまま俺は銀と園子を撫でた。撫で終わると二人は満足気な表情になった。

二人とも須美とはまた違った髪の質感で、撫でてる俺も心地よかった。

 

 

 

「さて、これが終われば昼食か……」

 

俺たちが選んだのはロープを掴んで登っていくアスレチックだ。ソコソコの高さもある。

 

「よーし!」

 

銀が先にロープを片手で掴んで登った。これは勇者がやるとしても危険な登り方だ。

 

「おい、銀!調子乗った登り方してると、落ちるぞ!」

 

「平気平気!こんなの余ゆ……マメが!」

 

銀はロープから右手を離してしまい、背中から落下した。俺はすぐさま銀の落下地点に移動し、銀を受け止めた。

 

「言ったそばから……。呆れるぜまったく」

 

「すまん、優治……」

 

「俺だけじゃなくて、心配かけた須美と園子にも謝れ」

 

「ごめん、須美、園子」

 

「ミノさんが無事でよかったよ〜」

 

「もう、次から気をつけなさい」

 

「反省します……」

 

その後、気を取り直してアスレチックをクリアした後、昼食の時間になった。今回の遠足では、バーベキューもあるが、焼きそばもある。焼きそばは誰かが先生と一緒に作らなければならなかったので、俺と銀がやることになった。

 

「三ノ輪さん、鳥居くん、上手ね」

 

「時々、手伝うことがありますから」

 

「俺も、時々家の中が俺だけになることもあるんで」

 

「それにしても、良い匂いだ!これ絶対うまいやつだ!だって、あたしが作ったんだもん!」

 

本当に良い匂いだ。肉が焼かれることによって出てくる匂いもそうだが、ソースのスパイシーな匂いが鼻を通して頭の中まで届いてるようだ……。

 

「腕白だよね〜」

 

肩にカブトムシをつけながら園子は銀にそう言った。

 

「そのっちも十分腕白だと思うけど……」

 

須美は園子……いや、カブトムシから引きながら言う。

 

「わっしー、虫苦手なんだっけ?大丈夫だよ、仲良くなれるから」

 

園子がそう言ってるうちに一匹、また一匹とカブトムシが園子の体に着いていく。そして、一つの大きなカブトムシが完成した。俺はカメラで巨大なカブトムシと化した園子を写真に収めた。

 

「そ、そう……って!キャぁぁぁぁ!ゴキブリにしか見えない〜〜!!」

 

須美はそう叫びながら、どこかへ逃げてしまった。いや、形は完全にゴキブリじゃなくてカブトムシだろ。

 

「優治も虫は苦手じゃなかった?」

 

「虫は苦手だけど、カブトムシやクワガタみたいな甲虫は平気だよ」

 

バッタとかになると……無理だな。顔に張り付かれただけで気絶するかもしれない。

 

 

 

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

俺たちは作った焼きそばを自分の口に運ぶ。

 

「うまい!最高!カブト味だな!」

 

「「うぷっ!?」」

 

俺と須美は銀の変な発言で思わず、口から焼きそばが出そうになった。

 

「焼いてないから!」

 

「美味しいよ〜!」

 

一方、園子は焼きそばを堪能していた。しかし、俺には一つの疑問があった。

 

「園子はもっと良い肉を食ってるでしょ?」

 

俺は園子にそう聞いた。だって、園子の家がアレだからな……。そう思っちまうんだよ。

 

「うーん?こっちの肉が美味しいよ?」

 

「みんなで食べてるからじゃない?」

 

須美は俺と園子の疑問にそう答えた。

 

「「なるほど」」

 

「お、二人ともハモったね」

 

「ハモったな」

 

俺たち四人は笑い合う。

 

「ところで先生、ピーマン残してない?」

 

銀は先生にそう言った。そういえば、先生がピーマンが苦手なのは榊原から聞いてるな。

 

「ギクッ!?苦手だけど、ちゃんと食べるわよ!」

 

「だけど、そんな子供っぽいところがあるから彼氏ができないんじゃ……」

 

その時、俺がそう呟くと、目の前には一つの拳が見えていた。

 

「グボァ!!?」

 

先生のアッパーカットを受けて、顔が空を向いていた。俺はしばらくとても低く、そして短い空中旅行をした後、地面に落ちた。

 

「「優治(くん)!?」」

「ユウさん!?」

 

三人は俺のところへ駆けつけてくれる。

 

「あんな力があったら、バーテックスも敵じゃなくね?」

 

「「「(確かに!!)」」」

 

俺はそう言った後、意識を手放した。

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「あ、気がついた!」

 

俺は気がつくとバスの中にいて、銀が俺の顔を覗いていた。どうやら、俺は……。

 

「何で寝てたんだっけ?」

 

「えっ、覚えてないの?」

 

「まったく」

 

「ま、そこまで気にする必要はないよ」

 

「そうか……」

 

「ユウさんが寝てる間に遠足終わっちゃったよ〜」

 

「優治くん、先生に変なこと言うから……」

 

変なこと?何を言ったんだろう……。覚えてないや。そう思ってるうちにバスは止まり、バスを降りて一緒に帰る。

 

「次の遠足あるかな〜?」

 

「あると良いよな!なんなら、毎日が遠足だったらな〜!」

 

「それ賛成〜!」

 

「そうだな。次は最後まで楽しみたいね!」

 

俺が余計なことを言ったらしく、最後まで楽しめなかった。うん、気をつけよう。

 

「四人と一緒にね!」

 

「「「うん!」」」

 

須美が言ったことにそう答えた。その後、俺は違和感を感じた。それは他の勇者三人も感じていた。ということは……。

 

「ったく、ここで来るのかよ」

 

樹海化が始まり、夜のような空が夕方の茜色の空を包み込んだ。

 

「でも遠足が終わった後に来た分、まだマシじゃない?」

 

「家に帰るまでか遠足なのよ」

 

「先生か!」

 

銀が須美にそう返す。

 

須美達は変身し、バーテックスを迎え討つために大橋へ向かった。

 

 

 

 

「だんだん、この光景も見慣れてきたな」

 

銀は準備体操をしながら、そう言った。

 

「気をつけて銀、そういう時が……」

 

「一番危ない、でしょ?大丈夫!あたしの服は接近戦用で丈夫に作られてるから」

 

「だからって、油断はダメよ。アスレチックで怪我しそうになったんだから」

 

「なんだかミノさん、最近わっしーに注意されるようなことを、わざとしてるみたい〜」

 

「アハハ、なんだかクセになってさ」

 

「勘弁して欲しいわ」

 

「!?来たようだよ」

 

俺がそう言うと三人は警戒し、戦闘態勢に入った。

大きな影が二つ。今回はいつもと違う。二体のバーテックスが現れた。

 

「えぇっ!?二体!?」

 

園子が焦った表情になる。

 

「誰も、二体同時に来ないと言ってないよな。これからは二体以上を相手をする訓練しないとな!」

 

「大丈夫よ!連携して冷静に対処しましょう!」

 

「私とユウさんが尻尾の先が針になってる方をやるから、ミノさんはもう一体の方をお願い!わっしーは後ろから援護してね」

 

「「「了解!」」」

 

園子は一旦前に出て槍を盾に変形して尻尾を鞭のように使うバーテックスの攻撃を防いだ。警戒すべきは、あの針で良いだろう。他のところは柔らかそうだ。

 

「はあっ!!」

 

俺は2回目の攻撃を掻い潜り、炎の剣で尻尾を切り裂いた。これで園子も攻撃できるようになる!そして、後ろから須美の矢が飛んできた。俺は一旦下がって、攻撃の機会を園子に譲る。

 

「そこっ!」

 

園子は矢が刺さった場所を槍で突いて、バーテックスに大きなダメージを与えた。そんな時、無数の矢が俺たちに向けて飛んできた。

 

「やばい!」

 

「みんな!こっち!」

 

俺たちは傘のように立てた園子の盾の中に入り、攻撃を防いだ。すると、無防備になった横を尻尾のバーテックスが攻撃してきた。それだけじゃない。その尻尾はさっきの矢が付いており、殺傷能力が飛躍的に高くなっていた。

俺は思わず、下に炎を出して高く跳び上がり、攻撃を避けたが、園子と須美は攻撃を受けてしまっていた。また、攻撃を受けた二人を追い討ちするかのようにバーテックスは二人を叩きつけた。

 

「かはっ!」

 

「こふっ!」

 

二人は血を吐いて、動けなくなっていた。

 

「須美、園子!」

 

俺と銀は二人のところへ駆け寄る。

 

「あいつが矢を……」

 

須美がそう言うと、俺は後ろへ振り返る。二体だけじゃない。もう一体、別のバーテックスがいたのだ。そのバーテックスは俺たちに向けて巨大な矢を放った。

 

「園子!借りるぞ!」

 

俺は園子の槍を持って、その槍を盾に変形させ、攻撃を防いだ。

 

「銀!一旦ここは安全な場所に行くぞ!」

 

「わかった!」

 

俺は須美を、銀は園子を抱えて安全な場所に向かった。園子は気絶していて、意識がなかった。

 

「はぁ……はぁ……。銀……優治くん……」

 

須美は俺と銀を呼んだ後、意識を失ってしまった。

 

「須美!」

 

銀は声を荒げる。

 

「大丈夫、気絶してるだけだ」

 

俺はフェニクスで二人の傷を完治させる。

 

「なあ、須美と園子が回復するまで待つか?」

 

「いや、だめだ。いつ起きるのかわからない。それと、これ以上近づけさせるのは危険だ」

 

かと言ってあっちは三体、こっちは二人。明らかに形勢はこっちが不利だ。どうすればいい……。

 

わからない……。だけど、やるしかない!やらないと、世界が終わる!

 

死ぬかもしれない。このことの恐怖が俺を震わせる。しかし、一番怖いのは一番大切な人達を失うことだ。俺は須美も園子も銀も誰一人失いたくない!

 

「銀」

 

「何?」

 

「俺は行く。銀は須美と園子を見ててくれ」

 

俺はバーテックスのところへ向かおうとした。しかし、俺の右手を銀は強く掴んだ。

 

「いかせない。いかせるもんか!優治を一人にはさせない!」

 

「!!……わかった」

 

俺と銀はバーテックスを再び迎え討つために、全力で走った。バーテックスの移動は随分と遅いため、すぐに追いついたが、かなり前に進んでいた。

そして、俺たちはバーテックスの前に立ちはだかる。

 

「悪いな……。ここからは絶対不可侵領域でな」

 

俺は剣で一本の線を引いた。

 

「ここからは先は……」

 

「「通さない!」」

 

俺と銀は防御なしで敵に突っ込んだ。銀とは違って軽い剣を持ってる俺は銀より早くバーテックスに突っ込んだ。矢を放った青いバーテックスは俺たちに向けて矢を放つ。それでも、俺たちはところどころ矢が掠って血が出ていたが怯まずに前へ進んだ。

 

「うおぉぉぉ!」

 

俺は刀身に竜の形をした白い炎を纏わせる。出し惜しみなんて必要ねぇ!

 

白閃煉獄竜の咆哮(アシュトル・ハディール)!!」

 

俺はさっき、銀が攻撃していた赤いバーテックスに向けて放った。バーテックスは俺の攻撃を受けて倒れる。そうしてるうちに、銀は俺が攻撃していた尻尾のついた黄色いバーテックスを踏み台にし、青いバーテックスのところまで跳んだ。

 

「何、上から見てんだ!」

 

銀は斧で思いっきりバーテックスを叩き込ませた。最も面倒なヤツはあの青いのだ!あいつを仕留めれば!

俺もまた黄色いヤツを踏み台にし、一気に高く飛び上がる。

 

「いっけぇぇぇぇっ!」

 

俺は白炎を刀身纏わせて何回もバーテックスに向けて叩き込む。このままいける!

 

「優治!横だ!」

 

「なっ!?」

 

横から赤いヤツが攻撃してきた。くっそ!まだ動けないと思ったのに!防ぎようの無い俺はこのまま地面に叩き込まれた。

 

「かはっ!」

 

肺の空気が全部出てしまったように感じた。俺は胸を叩いて大丈夫だと言い聞かせて立ち上がる。

 

「まだだ!まだいける!」

 

俺は無我夢中で敵に突っ込む。青いやつは俺をロックオンしていたらしく、俺に向けて矢を放った。矢は俺の腕や太ももに刺さるが、何故か痛みは感じなかった。アドレナリンが出ているのか、痛覚が麻痺しているのか……いや、そんなのはどうでもいい!

 

まだ、動く!まだ走れる!俺の心はそう叫んでいた。

俺は銀と合流し、尻尾のバーテックスの攻撃をかわしながら、赤いヤツに叩き込んでいく。

 

「ここから出て行け!化け物ぉぉぉぉ!」

 

グサッ

 

俺が攻撃している時に矢が俺の腹に刺さった。そこから血が噴き出し始めている。

 

「優治!うぐっ!?」

 

銀も青いヤツの攻撃を受け、痛みを堪えていた。堪えてる隙を狙って黄色いヤツが銀に追いうちをかけた。

 

「銀!」

 

俺はすぐさま銀のところへ向かう。

 

「しっかりしろ!銀!」

 

俺はフェニクスを使い、銀の傷を癒す。

 

「悪い、助かった」

 

「そうか……。!?」

 

突然、俺は血を吐き出しそうになる。口の中から鉄の臭いを感じた。俺は吐き出さずに飲み込む。

 

「優治、傷は?」

 

「……大丈夫だ。まだ、浅い」

 

俺にフェニクスを使っていては、あの三体を退かせることができない!根性だ!根性で押し通せ!

 

「いくぞ、銀!」

 

「ああ!」

 

 

「「うおぉぉぉ!」」

 

 

この先、俺は何も考えることができなかった。わかってたのは、敵の攻撃で血を出しながらも、敵を少しずつ退かせていたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、俺は仰向けに倒れていた。敵の姿はもう無く、戦いは終わっていたことはわかった。

 

「うぐっ!?があっ!!」

 

戦いが終わったおかげで、痛覚が元に戻り、痛みが全身を襲った。しかし、俺は痛みを何とか我慢し、俺はうつ伏せになった。すると、目の前には傷だらけの銀が倒れていた。

 

「ぎ、ぎ…ん!」

 

俺は動かせる右腕だけを動かして銀に近づいた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

銀は呼吸が荒くなっている。だけど、フェニクスを使えば、どうにかなる。

そして、俺は剣を銀に向けた時、あることに気がついた。

 

「魔力が足りない……」

 

正確に言えば、俺と銀を回復するための魔力が足らないのだ。俺か銀。どちらかしか助からない、ということだ。

しかし、考えるまでもなかった。戸惑うことなんてなかった。

 

俺は剣を銀に向けた。

 

「フェニクス」

 

桃色の光の鳥は銀を包み込み、銀の傷を癒す。

 

悪いな、須美、銀、園子。遠足があったら、一緒に行きたかったな……。

 

そして、銀の傷が完治したことを確認した俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

須美視点

 

「わっしー!わっしー、起きて!」

 

「う、ううん……」

 

私はそのっちに体を揺らされて起こされた。

確かわたしは優治くんにここで寝かされた後、気を失って……。

 

「優治くんと銀は!?」

 

まだ、鎮花の儀は始まっていなかった。だけど、バーテックスの姿はない。今、戦いが終わったばかりなのだろうか。

 

「わからないけど、行こう。わっしー!」

 

「ええ!」

 

わたしとそのっちは全力で走って大橋の方へ向かった。そこには倒れている銀と優治くんがいた。

 

「銀!」

 

銀は服に所々穴が空いているが、傷はなかった。これは優治くんが治してくれたからだろう。

 

「銀、起きて!銀!」

 

「ん……。あれ…あたしは……。そうだ、優治は!」

 

そのっちは倒れている優治くんを揺らした。

中々起きないため、そのっちは優治くんの体をを触れた後、すぐに手を引いた。そして、何かを確認するかのように手を強く握った。

 

「どうしたの、そのっち?」

 

「わっしー、ミノさん……。ユウさんの体が冷たいよぉ……」

 

そのっちは泣きだしそうな声で私たちに伝えた。

私にはそのっちが言ってることについていけなかった。理解できなかった。理解したくもなかった。

 

「な、何言ってるんだよ園子……。何の嘘だよ!?起きろよ優治!」

 

銀は今でも泣き出しそうな顔で優治くんの体を揺らした。しかし、彼の返事はなかった。

 

「そうよ!遠足行くって約束どうするのよ!だから……だから、ひっぐ、起きてよ……優治くん!」

 

私の叫びは優治くんに届くことはなかった。まるで、優治くんがどこか遠いところへ行ってしまったかのようなそんな感覚だった。そして、私は……いや、私達はこの時、優治くんが死んでしまったことをわからざるを得なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 全・身・魔・装!!

最近、駄作ばっかり書いてるな……。そんなことを感じ始めたマクロなコスモスです。
最近、大学でのサークルの学祭に向けての活動が活発になり、色々と忙しくなってきてます!
ここまで、忙しくなるとは……。更新ペースが遅くなってますが、それでも見てくれている方に感謝です!とても、励みになってます!

それでは、第十二話!どうぞ!


「ここは……?」

 

知らない空間にいた。今回は真っ暗い空間とは、真逆の、一面が明るい空間だった。しかし、女神様が座っていた椅子と同じ椅子が置かれていたことでここは転生した(あの)時と同じ空間だということがわかった。

 

この時、俺は死んだことを認識した。

 

「ごめん……みんな」

 

何が「一人も欠けちゃいけない」だ!俺は須美にカッコつけて言って、俺が死んでるじゃねえか!俺は口だけの人だったのかよ……。

 

「はぁ……。あなたは、自分の命を大事にする、ということを知らないのかしら?」

 

俺の目の前に俺を転生させてくれた女神様が少し呆れた表情になって言った。

 

「返す言葉もございません……」

 

女神様にも申し訳が立たない……。せっかく、転生させてくれたのに……!

 

自分に対する自己嫌悪がさらに大きくなった。

 

「さて、時間もないし。本題に入るけど、今ここにあなたを呼んだことには理由があるの。転生の件についてね」

 

女神様に転生について話す?どういうことだろうか……。

 

「あなたを赤ん坊の姿で転生させてなかったことが、今の状況を生み出した原因なの」

 

「赤ん坊の姿で、ですか?」

 

「そう。赤ん坊の姿から始めていたら、前世の記憶を持ったまま、その後の人生を安全に歩めるはずだった」

 

女神様は続けて話す。

 

「だけど、あなたを小学6年生から人生を再開させてしまったことで、あの世界の『鳥居優治』の小学6年生までの記憶が混ざり合ってしまい、記憶が混乱してしまったわ。私は、その記憶を無くしてから、あなたを転生させようとしたのだけど、ちょっとしたミスで、記憶が消えなかったのよ」

 

「俺が転生した後に、それを行うことはできないのですか?」

 

「その場合だと、今のあなた自身の記憶も消えてしまうわ。無難の方を選ばなかった私の責任ね。それと、寝ている時にひどい頭痛が起きたことはある?」

 

「!?……はい」

 

あの頭痛はすごかった。頭が割れるのでは、と思うほどだ。

 

「まさにそれが、記憶が混ざり合ってどっちが正しい自分なのかわからなくなっている証拠。そして、そのせいで今、人格が二つに分かれようとしている」

 

「あの、もしかしてそれが全身魔装に至らない原因、ということですか?」

 

「察しが良いわね。その通りよ。二つの人格が造られようとしていることで、あなたの(ルフ)は二つに分かれようとしている。そのせいで、君の魔力(マゴイ)が不安定になり、全身魔装に至らない。あの時も、君は自分の命を捨ててまで、あの女の子を助けたけど、本来なら、あなたも助かるはずだった。理由は理解できた?」

 

「はい。よくわかりました」

 

「それと、あなたをこのまま死なせたままにしないわ」

 

「……どういうことですか?」

 

「そのまんまよ。あなたがここに来る前に、あなたの体を修復した後、仮死状態にしてるわ。あなたが戻れば、生き返るはずよ」

 

「それって、医学でバレるんじゃ……」

 

「神の力となると、限りなく死に近い仮死状態にできるのよ」

 

神の力はやはりスゴイ……が、俺は一つの不安があった。

 

「あの、俺の体を修復してくれたのはありがたいですけど。俺が生き返ったとして、須美達に会う資格はあるのでしょうか?銀を助けるためだとはいえ、俺は自分で言ったことを守れない俺は、彼女達に会う資格があるのかわからないんです」

 

 

 

そう言うと、女神様は「はぁ……」とため息を吐いた。

 

 

 

「バカじゃないの?」

 

「えっ……」

 

「言ったことを守れなかったとしても、あなたには守るべき者があるでしょ!それと、言ったこと一つ守れなかったことで無くなる関係だと言うのなら、それは所詮その程度の関係よ!だけど、そうじゃないでしょ?今、彼女達はあなたを必要としてるの!」

 

「!?」

 

いつも、穏やかそうな表情をしている女神様が俺に怒鳴った。俺は驚いて体が少しの間、固まってしまった。

 

「それと、あなたは困った人を見過ごせないんでしょ?今、困っている彼女達を助けないでどうするのよ?」

 

ドクン……

 

女神様の言葉に俺の心の中に一つの決心が生まれた。

 

 

そうだよ……。そうだったよ。今、俺を必要としてるのなら……、困った人がいるなら……助けないでどうするんだよ!

 

 

俺は右手に握りこぶしを作る。女神様は、クスッと笑った。

 

「ふふっ。大丈夫そうね。それで、あなたに選択肢を与えるわ」

 

俺は女神様が言うことに息を飲んだ。

 

「前世の記憶を捨てて、魂を元の完全な一つの状態にするか、あるいはこのまま二つの人格ができて飲み込まれるか、飲み込むか」

 

「何で前世の記憶の方なんですか?」

 

「あなたはもう転生する前の世界の人間ではない。すでにあの世界に生きる人間なのよ。前世の記憶の方を捨てるのは当然のことよ」

 

女神様はそう告げた。この時、何かを得るためには、何かを捨てなければならない。そういう意味で俺に伝えてるとも感じた。

それを聞いた俺は女神様に一つ聞きたいことができた。

 

「前世の記憶を無くすと、俺の人格はどうなるんですか?」

 

「記憶はなくなったとしても、君の人格はそのままだよ。安心して。それと、捨てるのはエピソード記憶だから、知識を捨てることはないよ」

 

女神様の返答で俺の決心は固まった。

 

「……決めました。俺は前世の記憶を捨てます」

 

例え、前世の記憶を捨てても俺が『鳥居優治』だということは変わらない。

 

「良いのね?」

 

「はい」

 

俺は目を瞑り、前世でお世話になった人たちの顔を浮かべて、「今までありがとうございました」と心の中で言った。

 

「わかったわ。それと……あの世界の真実を知りたければ、壁の向こう側へ一度足を運んでみなさい。それをあなたはどう捉えるか。それはあなた次第よ」

 

「わかりました」

 

そう答えると、女神様は笑顔になる。

 

「大丈夫、あなたなら彼女たちを守れるわ」

 

そう言った後、俺の足下に紋章が現れた。

 

「応援してるわ、優治くん!」

 

俺の視界が前みたいに紋章が激しく光輝いていき、女神さまの姿が薄れてく。そして、俺の視界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

女神視点

 

私は現世へ戻る優治くんを見送った。

 

「まっすぐな人ね……。私、思わず優治くんを怒鳴ちゃった」

 

私はまっすぐな性格の人間は好きだ。こういう、まっすぐな人間が私の前で不安を漏らした時、一生懸命その不安を取り除こうとしたくなる。優治くんの時も思わず怒鳴ってしまった。

だって、そのまっすぐさを曲げないでほしいから……!

 

それと、彼が転生する時にマギの金属器を選んだ。私の趣味で漫画やラノベの能力や武器を用意していた。偶然なのか運命なのかはわからない。だけど、わかったことは彼は人を惹きつける力を持った人間だ。

 

「あれが『王の器』を持つ人間なのね……」

 

「どうだ。俺の孫は?」

 

後ろから男性の声が聞こえた。

 

「あら、来ていたのね。直人(なおと)さん」

 

後ろを振り返ると、ヒゲをたくわえた一人のお年寄り。お年寄りでありながらも、ガチッとした体つきをしている。

彼は優治くんの祖父。鳥居直人だ。若い頃は軍人であったが、今では、あの世で結構腕の立つ棋士でもある。時々、将棋の先生として足を運んでくれている。キッカケは言うまでもなくあの将棋アニメの影響だ。

今回は優治くんが死んだとのことで一目見にくると言っていたのだ。

 

「そうですね……。あなたに十分似ていますよ。特にまっすぐなところが」

 

すると、直人さんはガハハ!と笑う。

 

「そうか!俺に似てるか!成長したな優治は。さすが、自慢の孫だ!」

 

「優治くんに会わなくて良かったんですか?」

 

「良いんだ。余計な心配は無用ってやつだ。……まあ、確かに、久しぶりにゆっくり話したかったのは本音だがな」

 

「しばらく、ここでゆっくりします?」

 

そう聞くと、直人さんは頭を横に振った。

 

「いや、俺は天国に帰って、あいつの行く末を見るとする。近くで優治を一目見れただけでも十分だったしな」

 

そう言って、直人さんは天国へ帰っていった。

 

「さて、私も見届けさせてもらうわ!あなたの……『鳥居優治』の生き様を!」

 

 

 

 

 

 

 

優治視点

 

 

「ん……。ここは……」

 

俺の視界には幻想的な世界が映っていた。ということは……。

 

「目覚めたら樹海化してるって、どんなハードモードだってんだ……」

 

とは、言うものの、心が何だか軽い。頭の中もスッキリした気分だ。あ、別に脳内サプリとか見たというわけじゃ……って、読者さんはもう読んじゃってるから、そもそもそんなボケいらないのか。

 

さて、そんなメタな考えは置いといて、須美達はすでに戦っているはずだ。すぐに追いつかないと!

 

「さて、いくぜ!アシュタロス!」

 

俺は剣を呼び出す……。

 

「……来い!アシュタロス!」

 

………

 

………

 

………

 

あれ?剣が出てこない?これって、もしかして……。

 

 

 

「(アシュタロスが、ストライキを起こしたー!?)」

 

って、そんなことあるはずがない。誰かが俺の剣を持って行ったとしか思えない。

樹海化で行動できるのは、勇者くらいしかいないから……。

 

「三人の中の誰かが持って行きやがったな……」

 

多分、俺の形見ということで持って行ったのだろう。

 

「とりあえず、大橋に向かうか……」

 

俺は大橋に向かって全速力で走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

大橋に向かって走ると、爆発音が聞こえてきた。敵は爆弾を使ってるということか……。あの三人だったら、俺なしでも倒せるだろう。

園子が盾で二人を守り、須美は飛んでくる爆弾を矢で射抜いて落とす、隙ができたところを銀が切り刻む。もっとも、相性の良い相手だと考えても良いだろう。

 

「ん?」

 

俺の視界の中に光った何かが俺に向かって飛んできた。俺は目を凝らしてよく見てみると……。

 

「あれ、俺の剣じゃん!」

 

剣は縦回転しながら下へ落ち、地面に突き刺さった。

俺はすぐに剣を抜く。

 

「……苦戦してるってことか」

 

 

 

 

俺は「すぅ……」っと息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

「恐怖と瞑想の精霊よ……」

 

 

 

 

 

 

 

「汝と汝の眷属に命ずる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が身に纏え!我が身に宿れ!我が身を大いなる魔神と化せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アシュタロス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそう言った瞬間、白い炎の柱が俺を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで、解説。女神がなぜ、優治を小学6年生の状態で転生させたのか……。

女神は優治が小学6年生から再開させることによって、中学の時に学んだことを忘れさせないように微調整したため。
また、小学6年生から始めることで、298年後の未来の日本の現状を把握させ、これからの人生に恥をかかせないようにするためです。


アドバイスや、誤字脱字がありましたら、報告してくれると幸いです。

感想も募集しております。では、第十三話でお会いしましょう。それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 帰るべきところへ

おはこんばにちは!マクロなコスモスです!
園子、誕生日おめでとう〜〜!!
できれば、誕生日の話を書きたかったけど、合宿と重なってしまって書けなかった……。無念。

追記:全身魔装についての設定を追加しました。


「我が身を大いなる魔神と化せ!アシュタロス!!」

 

俺がそう言うと剣の刀身に刻まれている八芒星が光だし、白い炎の柱が現れ、俺を包み込んだ。

 

俺は自分の体を見る。

上半身は所々に竜の鱗が付き、両足はまるで竜の足のように変化していた。黒髪で短髪だった俺の髪はオレンジ色のロングになっていた。そして、その髪も鱗状になっている。

 

「これが俺の全身魔装……!」

 

これらの変化は全身魔装の特徴らしく、精霊(ジン)に似た風貌になっていた。

 

「少し背が高くなってるような気がするが……、そんなことはどうでも良いか。とにかく、三人を助けないとな」

 

俺は魔力(マゴイ)で空を飛び、一気に須美達の方へ向かった。距離が近かったためか、空を飛んですぐにバーテックスを見つけることができた。

そして、もう少し下の方を見ると、傷だらけの姿になっている須美と銀と園子がいた。

 

バーテックスは布のような触手を伸ばして三人を攻撃した。二人は何とか避けるが、近接戦闘専門の銀は、最も傷が多く、体がよろけていたため、斧で攻撃を防ぐことしかできなかった。

 

「ぐうっ!?」

 

「銀!」

「ミノさん!」

 

敵の攻撃の威力は高く、銀は空高く飛ばされる。そして、追撃するかのようにバーテックスは空中の的となってしまった銀を触手で叩こうとした。

 

「させるかぁぁぁぁぁっ!!」

 

俺は剣に白い炎を集約させ、触手を一気に切り裂き、落ちていく銀を抱き抱えた。

 

 

 

 

 

銀視点

 

 

「(……あれ?あたし、誰かに抱っこされてる)」

 

あたしは確か、バーテックスの追撃を受けそうになったはずだけど……。須美か園子に助けられたのかな?でも、二人は地上にいる。一体誰が……。

 

「大丈夫か?銀」

 

あたしは声に反応して、声の主を見た。あたしはその声の主を見て、目を丸くした。

 

「優……治?」

 

「ああ、俺だよ。銀!」

 

死んだはずの優治がこちらに笑いかけながらあたしを抱っこしていた。優治の姿はいつもと違い、上半身が露出していて、その上半身に所々に鱗がついていた。黒色だった髪はオレンジ色に変化してて、長くなっていた。

 

優治がゆっくりと降りてる中、あたしは自分の周囲を確認する。あたしは今、背中を抱えられて、膝を抱えられてる……って!?

 

「(お、お、お、お姫様抱っこされてる!!?)」

 

こういうことをされて嬉しい自分がいれば、恥ずかしい自分もいる。複雑な気分だった。そんな複雑な気分のままあたしは降ろされた。

 

「立てるか?」

 

「うん、大丈夫。立てる……」

 

あたしは自分で立とうとするが、足が言うことを聞かず、よろけてしまった。そこをまた優治に支えられる。

 

「フラフラじゃないか……。ったく、無茶な戦い方しやがったな。三人とも」

 

優治は元の姿に戻り、あたしに剣を向けた。

 

「フェニクス」

 

優治がそう言うと、桃色の鳥が羽であたしを包み、傷を治していった。気のせいか、傷の治りがいつもより早くなっているように感じた。

 

 

 

優治視点

 

 

俺は銀の傷が治ることを確認すると、俺はまた全身魔装をして、バーテックスの目の前まで飛んだ。

 

「さてと……。一瞬で終わらせてやる……!」

 

俺は剣に白い炎の竜を纏わせる。その纏わせた竜はいつもと違い、強い火力になっていた。そして、バーテックスに向けて剣を突き出した。

 

白閃煉獄竜の咆哮(アシュトル・ハディール)!!」

 

すると、巨大な白い炎の竜は一気にバーテックスを飲み込んだ。白い炎の竜が消えた時は、バーテックスは跡形もなく消えていた。やはり、全身魔装になると、今まで使っていた技がより強力になっている。

 

「(これなら、三人を守れる!)」

 

他のバーテックスがいないことを確認すると、魔装を解き、剣をしまった。その後、三人の方に振り返った。

 

「須美、銀、園子……」

 

俺は三人に謝らなければならない。俺は頭を下げて謝ろうとした、その時だ。

 

「ごめん!俺は……「ユウさん!」うわっ!?」

 

突然、園子が俺にヘッドスライディングをかましてきた。

俺は園子の勢いに押されて尻餅をついた。

 

「イタタタ……。園子?」

 

「ユウさんの……ユウさんの体があったかいよ〜!!う…う…うわあぁぁぁん!!」

 

園子は泣きながら俺に抱きついてきた。まるで、必死で堪えていたのを一気に解き放つように。

突然、一つの衝撃が俺を襲った。今度は須美が抱きついてきたのだ。そして、銀も俺の腕に掴まっていた。

 

「優治くん……優治くん……!」

 

須美は何回も涙声で俺を呼ぶ。

この時、俺は、三人が俺を必要としているんだと感じた。そして、もう二度と彼女達を泣かせるようなことはしない。そう……心の中で誓った。

 

 

「と、とりあえず、離れてくれ!」

 

俺は二人に離れてくれるように頼む。女子三人が一人の男子にくっつくところを見られるのはマズイと思う。樹海化が解けようとしてるし!特に須美。あの柔らかくてたわわな何かが俺の腕に当たっているのですが!?

 

 

「「いやだ(〜)!!」」

「いやよ!!」

 

即答で拒否かよ……。

はぁ……、と俺はため息を吐いて上を見ると、樹海化は解け、雨が降っていたのか雨雲から日光さしてきた。暗い色の空が段々明るい空へ変わっていく。それは彼女達の気持ちを表しているようにも見えた。

 

その後、面倒なことが俺を待っていた。大赦の車が来て、そこから先生が出て来た。当然、先生は俺を見て驚いた顔をしていた。先生は、冷静に俺に俺の告別式をしていたことを話した。

 

式場へ行き、気まずい中、俺はみんなの前に現れてとにかく謝った。父さんと母さん、友人、式を執り行っていた大赦の方々に。

許してもらえるはずがない、そう思っていたが、誰かが笑い始めて式場に笑いが溢れた。その人には本当に助かった。家に帰った後、両親に抱きしめられ、「帰ってきてくれて良かった!」と言われた。

 

その後、病院で精密検査を受けた。俺の死亡を確認した医者からは、「信じられん……!こんなことがあるとは……」と驚かれた。まあ、当然だよな。医者から血液の提供をお願いされたので、血液を提供した。まあ、どうやったって分からないだろうけどな。

 

それと、鳥居家は大赦から名誉をもらうことになったが、次期当主の俺は「名誉を貰うために戦っているわけではなく、あくまで自分にとって大切なものを守っているだけに過ぎません」と言って、拒否した。それは、あまり、持て囃されるのが苦手な両親も同じ意見だったらしく、「よく言った」と褒められた。

 

 

 

そして、須美と銀と園子のことはというと……。

 

 

 

 

 

 

「優治くん!笑顔、笑顔!!」

 

「こ、こうか?」

 

「優治、顔が引きつってるぞ!ほら!こう、もっと柔らかく」

 

「おぉ〜!ユウさんのその笑顔!とっても良いよ〜!」

 

「優治くん、そのままよ!」

 

「(ま、まさか、こんなことを頼まれるとは……)」

 

俺は病院の精密検査を受けた後日、俺は三人に謝った。三人とも、すぐに許してくれたが、俺の気は収まらず、「せめて、何かさせてくれ。何でも言うこと聞く」と言ったら、須美から「じゃあ、そのっちの部屋でまた色んな服を着てもらいましょう!」と、目をキラッと光らせながら言った。

 

さすがに男としてのプライドがある俺は何とか違う方向に持って行こうしたが、銀に「何でもするって言ったよな?それと、もう自分の言ったことに嘘つかないと言ったのは優治じゃん」と言われ、逃げ場を完全に塞がれたので、今にいたる。

 

「じゃあ、ユウさん!今度はこれを着てみよう!」

 

園子はクローゼットからメイド服を取りだす。もうこれで10着目。さすがにもう限界なので、中止をしてくれるように頼むことにした。

 

「そ、そろそろ、やめにしないか?」

 

「「「ダメだよ(〜)」」」

 

「……」

 

こうして、しばらく俺は着せ替え人形になった。まさか、こんなことをされるとは思ってなかった……。

「口は災いのもと」と言うが、まさにこういうことだと感じざるを得なかった。

だけど、俺は三人のところへ帰ってきたとも感じた。

 

 

 

 

 

 




優治の全身魔装での設定は後に追加する予定なので、良ければ見ていってください!
それと、少しオリジナルの話も混ぜてみたいと思っています!それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 真実が惨酷だとしても

最近涼しくて、風邪をひいてしまったマクロなコスモスです。寒暖差には気をつけてくださいね!
そして、気づいたらお気に入り数が50を超えて、UA数が5000を超えました!本当にありがとうございます!



7月の下旬。優治が生き返ったことによる騒動は落ち着き、神樹館の生徒たちは近づいていく夏休みに心を弾ませていた。しかし、心を弾ませてない者が一人いた。

 

「ユウさん。何だか様子がおかしいね〜」

 

「これから夏休みだって言うのに、どうしたんだろうな」

 

「聞いてみたけど、話してくれなかったわ」

 

三人の勇者は考えている優治を見る。三人から見たら優治の様子は明らかにおかしかった。

私達のことをちゃんと頼ってほしい、そう思ってる三人は苛立ちを覚えていた。

 

対して、優治は……。

 

「(俺は一体、この事を伝えて良いのだろうか……)」

 

あることが優治を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

時は遡って一週間前。

 

 

優治視点

 

 

俺が復活して2日経った日の夕方、俺は女神様が言っていたことを思い出した。

 

 

「あの世界の真実を知りたければ、壁の向こう側へ一度足を運んでみなさい」

 

 

この世界の真実……。それは、俺が知りたかったことの一つだ。外の世界では死のウィルスで蔓延していて、そこから来たバーテックスと接触しても、神樹様に勇者として選ばれなかった俺は症状を何一つ出すことはなかった。

 

おかしい……。絶対に何かある、そう思ったのだ。しかし、その時は全身魔装が使えず、壁の向こうへ行けなかったため、一度忘れることにしていた。

 

だが、今は全身魔装が使えるようになったことで壁の向こう側へ行けるようになったのだ。女神様が行っても大丈夫と言ってるということは、確実に死のウィルスなんてのはない、ということだろう。

 

俺は全身魔装で空を飛び、壁の向こう側へ向かった。

 

「(内側から見たら、別に何ともないように見えるけど……)」

 

俺はそのまま真っ直ぐ進み、神樹様の結界から出た。そこに待っていたのは俺の想像を絶するほどの光景だった。

 

「何だよこれ……」

 

結界の中から見た世界とは真逆の紅蓮の炎しかない地獄の世界。結界から少し離れたところにプロミネンスがいたるところから出ている。まるで、太陽の表面にいるかのように感じた。そして……。

 

「あれは……一体」

 

何やら全体が白くて口がバカでかい芋虫のような奴がいた。そいつらは、炎をもろともせずに無数に飛んでいる。

その中の一匹が俺の方を見た。目はどこにあるのかわからない。しかし、見られた、というのを直感的に感じたのだ。

 

すると、その奇妙な生物は口を大きく開け、俺に襲いかかって来た。それに反応してか、次々と別のヤツが俺に襲いかかる。俺は全身魔装のままだったので、すぐに斬り伏せた。どうやら、単体だけではかなり弱いようだ。

 

その後、俺は襲いかかるやつだけを全て切った。襲いかかるヤツなら、全て倒して良いというわけではない。それはまだ、こいつらの正体をわかってないからだ。俺はその生物を観察した。

 

「(あいつら、一箇所に集まり始めた。一体何が……)なっ!?」

 

その生物は一箇所に集まり始めたので、どこに集まるのかを目で追っていたら信じられない光景を目にした。俺は思わず声が出てしまう。

 

何と、あの白い生物達が集合してバーテックスを作り始めていたのだ。そして、そのバーテックスは俺と須美達が始めて一緒に倒した、左右に大きな水玉を持ったバーテックスだったのだ。

まだ、完成していないが、特徴のである大きな左右の水玉できかけていた。

 

この光景を目にした瞬間、俺はある答えに行き着いた。

 

バーテックスは周期的に四国に襲いかかる。それは、勇者に倒されたバーテックスが修復、または、復活するのにかなりの時間がかかるからだ。

そして、また勇者がバーテックスを撃退、倒されたバーテックスは結界の外側で修復される……。

 

「人類は永遠とバーテックスと戦わなきゃいけねえのかよ……。その度に須美と園子と銀のような女の子達が命を懸けで戦わされて……」

 

知った。知ってしまった。俺はこのことを知って、彼女達にどう話せば良いんだ。こんなことを隠されて……。

 

「あいつらはまるで盾みたいじゃねえか……。くそっ!」

 

俺はイラつきで壁を蹴って八つ当たりをする。このまま、俺が見たことを放っておいてはいけない。俺は家に帰った後、彼女達に話すべきか考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「(だけど、答えが出せてない……)」

 

まず、このことを言って信じてくれるのだろうか。信じてくれたとしても、それを受け入れきれないというのもあるはずだ。

 

俺の色々な考えが頭の中を行き来する。気づけば学校の授業は終わっていた。

 

「ただいまー」

 

「あ、優治!ちょうど良かったわ!」

 

「どうしたの母さん?」

 

「今日ね、福引で温泉旅行が当たったのよ!」

 

「え、マジで」

 

「だけど、それが2名までなの。結婚記念日も近いことだし、できれば二人だけで行きたいの。お留守番、お願いしても良いかしら?」

 

「わかった。その代わり、お土産の方を頼むよ!」

 

「ありがとうね。じゃあ、明日の土曜日と日曜日はよろしくね!」

 

「えっ、早くないか?」

 

「うーん、商店街の福引だから、ギリギリのもあるのでしょう」

 

「わかった。楽しんで行って!」

 

 

次の日、母さんと父さんは温泉旅行へ行った。親が朝から家にいないというのは、少し寂しいものだ。

 

「さて、宿題もあったし、終わらせるか」

 

俺がこれから宿題に取り掛かろうとした、その時だ。

 

ピンポーン

 

インターホンの音が鳴り響いた。

 

「……誰だろう」

 

俺の家の場合、モニターがない。家を建てる際、モニターを付けようという話もあったが、お爺ちゃんが景観を損ねるから反対だ、と言ってつけなかったそうだ。

そういうことは、置いといて。俺は扉を開けた。

 

「おっす!」

 

「優治くん、こんにちは」

 

「ユウさん、泊まりに来たよ〜!」

 

扉を開けると勇者三人組がいた。そして、最後の園子の言葉、聞き間違いではないだろうか……。

 

「どちら様ですか?」

 

カクッ

 

あえて俺はボケたことを言う。俺がそう言ったら、三人は力が抜けた。俺はその隙を逃さなかった。

俺は家の中に戻り、扉を閉めようとした。今回はあまり三人とはいたくない。

 

「銀!」

 

「了解!」

 

銀は須美の合図で、俺の家の扉を掴んで、こじ開けようとした。

 

「どうしたんだよ、銀。人ん家の扉だぞ、離せ!」

 

「離すもんか!優治、あたし達に隠しごとしてるだろ!」

 

「!?」

 

「やっぱりそうだ!それと、隠しごとしてないなら、何も言わずに扉を閉めようとしないからな!」

 

銀のやつ、鋭いな……。女の勘、というやつだろうか。それでも、譲る気はなかった。

 

「優治がこのまま抵抗する気がなら……。園子!須美!」

 

「「任せて(〜)!」」

 

今度は須美と園子が参戦した。俺の家はいつの間に大乱闘と化したんだよ!?

たった一人の抵抗は虚しく終わり、彼女達を家に上がらせることにした。

 

「ったく、無理矢理上がり込んで来やがって……。泊まらせるにしても、こっちは何も用意なんかしてないぞ」

 

「大丈夫よ。昨日、優治くんのご両親に確認したら、お泊まり会の用意はしてる、って言ってたわ」

 

「それで、お泊まり会という名の俺に対する質疑応答だろ?」

 

「そうとも言うわね」

 

「さて、ユウさん。何で私達を頼ってくれなかったの〜?」

 

いつも、ホンワカとした雰囲気を出している園子だが、今は少し怒気の入っていたように感じた。

 

「わかった、話すよ。だけど、俺がこれから話すことは、そんな生易しいものじゃない!今までにない惨酷なことだ!それでも、聞くのか?」

 

俺がそう言うと、彼女達は気を引き締めたように感じた。そして……。

 

「それでも聞く」

 

銀はそう答えた。

 

「どんな怖いことの中でも、ずっと一緒にいてるのに、隠しごとをされる方が一番あたしは怖い。だって、あたし、信頼されてないように感じるから。それは、須美も園子も同じだよ」

 

銀が言うことに須美と園子はコクリと頷く。

 

「……わかった。話すよ」

 

俺は壁の向こう側へ行ったことを話した。バーテックスのことも。俺が見たこと全てを彼女達に話した。

その事を言ってる間、俺は怖かった。彼女達が絶望してしまう姿を見たくなかった。

 

俺が見たことを言い終わった後、俺は彼女達の顔を見た。しかし、俺は予想は外れていて、彼女達は一切表情を崩さなかった。

 

「予想以上に惨酷なことだけど……」

 

「私達はそれでも」

 

「「「戦うよ」」」

 

三人は口を揃えて俺にそう言った。

 

「えっ……」

 

「前の私だったら、きっと、『私達がやってることは無駄だったの!?』って絶望していたかな〜。だけどね、ユウさん。私には、とっても大切なものができたんだよ〜。わっしーとミノさん、そして、ユウさん。私にとって掛け替えのない人たち。私はみんなと一緒に戦えるのなら、私は何度だって戦えるよ〜!」

 

「あたしも園子と同じだよ。それと、あたし達の大切な思い出の場所がこの町にはある。思い出が残っている場所をあんなヤツらに壊させるわけにはいかないしね!」

 

「私達が戦わないと、絶対明日なんて来ない。私達は明日につなげることで、未来を作っていく。人類が復興していく未来に繋げられるのかもしれない。そう思うと、決して無駄な戦いとは思わないわ!」

 

彼女達の答えを聞いた時、俺は自分自身を恥じた。ずっと、一緒にいたのに、全然三人のことをわかっていなかった。

 

「ほんと、バカだよな……」

 

「なっ、バカってなんだよ!」

 

「銀たちのことじゃない。俺のこと。……三人と一緒にいたのに、ちゃんと三人のことをわかってなかった。俺は彼女達を決めつけていた。本当に俺はバカだ。ごめん、三人とも」

 

そう言うと、三人は笑顔になった。

 

「大丈夫、これからわかっていけば良いから。それじゃあ、お泊まり会を始めよう!まずは、優治の部屋に向かおう!」

 

「「おー!」」

 

須美と園子は銀に続いて俺の部屋へ向かった。俺は自然と笑みがこぼれる。

 

「さて、お菓子とお茶を持っていくとしますか」

 

俺は母さんが用意してくれたであろうお菓子とジュースを冷蔵庫から取り出して自分の部屋に向かった。

 

 

 

 




ということで次回はお泊まり会の話です!お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 王様ゲームはあまりやるものではない

あと、もう少しでゆゆゆ2期が来ますね!とても楽しみです!

では、お泊まり会1日目の話です!


お泊まり会1日目。俺の部屋にいる須美たちにお菓子とジュースを持って行った。

 

「おーい、お菓子持ってきたぞ」

 

「待ってました〜!」

 

「須美、和菓子もあるからな」

 

「ありがとう、優治くん。じゃあ、さて……」

 

「宿題をしましょう」

「遊ぼう」

 

勇者二人の意見が割れる。まあ、須美と銀なのは言うまでもないだろう。

 

「せっかくのお泊まり会なんだから遊ぼうぜ、須美!宿題は後でで良いでしょ?」

 

「そうやって先延ばしにすると、後で時間が無くなって余計、遊ぶ時間ぎなくなるでしょ!」

 

どうやら、三人とも宿題を持ってきてたようだ。まあ、三人が来る前は、宿題やろうと思ってたから好都合なのだが。

 

「園子はどう思う?」

 

銀は園子に意見を求める。さすがの園子も困った表情になっていた。

 

「それはユウさんに聞いたら良いと思うな〜」

 

「それで、優治は遊びたいよな?」

 

「まあ、遊びたいけど、長く遊びたいと考えるなら宿題をした方が良いな」

 

「ということで、銀。宿題するわよ」

 

「は、はーい……」

 

 

 

 

 

 

 

スラスラ

 

「はい、終わりっと」

 

俺はノートを閉じた。

 

「はやっ!?」

 

「すごいユウさん。まだ、10分しか経ってないよ〜」

 

そう園子に言われるが、お前もあともう少しで終わりそうじゃないか。

 

それと、俺は前世の記憶を捨てたとはいえ、知識はそのまんまなのだ(あ、漫画やラノベの知識もね)。さすがにこれは、チートである。極論を言えば、ズルをしてるということだ。

 

あまりにも三人に申し訳がないので、宿題でわからないところがあったら教えることにした。

 

「わからないところがあったら、教えるよ」

 

「じゃあ、優治くん。コレなんだけど」

 

須美が俺に宿題を見せてきた。須美は優等生だから、俺に見せるような宿題はないと思うのだが……。

 

「(あ、なるほどね)」

 

須美が見せたのは英語の宿題。

 

「横文字を見続けていたら、何だか目眩がしてきて……」

 

「多分、それは拒否反応だね。だけど、日本以外の国は滅んでいるのに、何で英語やらなきゃいけないだろうな」

 

「そうよね。私だったら、我が国の素晴らしさを教える時間にするわ!」

 

いや、本当にそれはやめてください。須美が授業の先生になったら、失礼だけど、洗脳になるから!

 

「まあ、文法は簡単だから、パズルのように考えた方が良いと思うよ。英語という言語としてじゃなくて、英語というパズルとして見るんだ」

 

「パズルとして見る……。うん、これなら平気で解けそう。ありがとう、優治くん」

 

「優治。この問題は?」

 

「あ、この面積の求め方は、こうやって他の図形に分けて、それぞれの面積を足せば、答えは出るよ」

 

「なるほど。ありがとう!」

 

こうして、しばらく俺は須美と銀が進める宿題を見た。

 

 

 

 

宿題を終わらせ、俺たちは休憩をしていた。

 

「そういえば、あともう少しで夏休みだけど、鍛錬以外で何かする予定とかあるの?」

 

突然だが、俺は三人に聞いた。

 

「そうね……。私、あまり考えてなかったわ」

 

「私も〜」

 

「どうしたの?突然、そんなこと聞いて」

 

「いや、たまたまこういうのを持っていたからさ」

 

俺は一つのチラシを三人に見せる。

 

「夏祭りのチラシ?」

 

「まだ、先の話だけど、できれば一緒に行きたいなって……ダメか?」

 

そう聞くと、彼女たちは笑いをこらえてた。

 

「なんで笑うんだよ……」

 

「ふふっ。こんなこともあるんだなって」

 

須美がバッグから一枚のチラシを取り出し、俺に見せた。

 

「同じチラシ……」

 

「あたし達も優治をこの夏祭りに誘おうって、思っていたんだ」

 

「すごいよね〜!四人全員同じこと考えていたなんて〜」

 

「……そうだな」

 

俺は自然と笑顔になる。

それと、同時に時刻が12時になることを伝えるチャイムが聞こえてきた。

 

「もう、12時か……。これから昼ごはん作るけど、何か要望があったら言えよ」

 

「私は、遠足の時のようにみんなで作りたいな〜」

 

「お、良いね!賛成!」

 

「じゃあ、カブト味の料理を作るか!」

 

「やめて!?」

 

俺の冗談に本気で青ざめた顔になる須美。

 

「冗談冗談。さて、作るか」

 

 

 

 

 

俺たちが話し合った結果。前々から園子に料理を教える話があったので、唐揚げの作り方を教えるのと、うどんをメインにした料理にすることにした。

 

「まずは、鶏肉の余計な部分を切り取った後、1個35gくらいに切り分ける」

 

「う〜ん……。これくらいかな〜?」

 

園子は慎重に鶏肉を切り分ける。

 

「そうそう、大体大きさこんな感じで良いよ。皮目を下にしてバットに並べた後にまんべんなく塩をふりかけて、ポリ袋に入れて粘りが出るまでしっかり揉み込む」

 

「その間にタレを少しずつ入れながら揉む」

 

園子は「よいしょ、よいしょ」と言いながら鶏肉を揉んでいる。その仕草が物凄く可愛い!その勢いで告ってフラれるまである。って、俺フラれるのかよ……。

 

などと考えていたら、鶏肉にタレが行き渡っていた。

 

「よし、こんなもので良いかな。その後、冷蔵庫に1日漬け込む」

 

「えっ、1日〜?」

 

「そう、1日。そんで、1日漬け込んだ鶏肉がこれな」

 

俺は冷蔵庫から漬け込んでおいた鶏肉を取り出した。

 

「まるで、料理番組だな」

 

「まあ、この作品のタグに『ご都合主義』とあるからね」

 

「何だか最近、メタな台詞が多いような気がするわ」

 

お分かりいただけただろうか。須美がツッコムこの台詞もメタい台詞だということに……って言うまでもないな。

 

「まあ、そんなことは置いといて。油を加熱して、その間に鶏肉を片栗粉で塗す。あとは、片栗粉で塗した鶏肉を揚げて、油を切れば完成だ」

 

「時間はかかるけど、簡単だね〜」

 

「唐揚げはな。まあ、まずは簡単な料理から始めた方が良いから。次は、自分の家でやってみなよ」

 

「う〜ん……。それはちょっと難しいかな〜」

 

「えっ、なんで?」

 

「私の場合だと、料理はシェフさんに任せちゃってるから〜」

 

「あ、そっか……。じゃあ、練習したくなったら、うちにおいでよ。できるだけ時間は空けとくから」

 

「うん!」

 

「だけど、和食はあまり作ったことはないから、そこんところはあまり期待しないでくれ」

 

「じゃあ、私が優治くんに和食の作り方を教えてあげるわ」

 

「お、それなら、助かるな!」

 

「じゃあ、あたしは味見役だな!」

 

「銀、お前はただ美味しい思いをしたいだけだろ?」

 

「あれ?バレちゃった?」

 

「バレバレだ」

 

その後、うどんも完成。一緒に食べた。冷やしうどん、めっちゃ美味い。こりゃあ、ラーメン派からうどん派になるなこれ。

 

 

 

 

 

「さて、飯も食ったことだし、何して遊ぼうか」

 

「優治が持ってるゲームって、須美が好きそうなゲームばっかだよね」

 

「うっ……」

 

銀に痛いところを突かれる。実は俺が持ってるゲームの中に複数人用のゲームはないのだ。

 

「ということで、あたしはこれを作ってきたんだ〜」

 

銀が取り出したのは、一面だけ穴が空いている一つの箱だった。

 

「銀、これは一体……?」

 

「見ての通り、王様ゲームだ!」

 

「王様ゲーム〜?」

 

「どんなゲームなのかしら?」

 

「まずは、1〜3の番号と王様と書かれている紙があって、王様を引いた人は番号の人に命令ができる。そして、王様の命令は絶対!」

 

「わぁ〜!面白そう〜!」

 

「いいわね、そのゲーム」

 

「じゃあ、始めようか」

 

「それじゃあ」

 

「「「「王様だーれだ!」」」

 

「「「「……」」」」

 

「あ、私だ」

 

須美か。一体どんな命令を出すんだろうか……。

 

「じゃあ、全員はこれから横文字を使った発言は無し!」

 

須美さん!なんという面倒くさい命令を!?

 

「わっしーらしい命令だね〜」

 

「じゃあ、次行くよー!」

 

「「「「王様だーれだ?」」」」

 

俺は自分が引いた紙を見る。引いたのは「1」の番号だった。

 

「あたしか……」

 

今度は銀が王様になったようだ。

 

「じゃあ、1番の人」

 

「俺だけど?」

 

「ここに座って」

 

銀は自分のすぐそこにポンポンと床を叩いた。つまり、銀の隣に座れ、ということだ。

 

「はいよ」

 

俺はすぐに銀の隣に座る。すると、銀は立ち上がった。

 

「よいしょ」

 

そして、俺が座っているところ銀が座ってきた。

 

「「えっ!?」」

 

「優治はこのまま。それと、次からの王様の命令でも、ここから立ち上がっちゃいけないよ」

 

「マジか……」

 

銀の顔が物凄く近い!それと、どんなシャンプーを使っているのかわからないけど、銀の髪からいい匂いがする。

 

ジロッ

 

「!?」

 

一瞬、寒気が走った。俺は周囲を見る。すると、俺の方を睨んでる須美と園子がいた。

すいません、単なる出来心だったんです!ごめんなさい!

 

「さあ、始めるわよ」

 

「せーの」

 

「「「「王様だーれだ?」」」」

 

「あ、わたしだ〜」

 

次は園子か。いい感じに周ってるな。次は俺が王様になるかもな。

 

「じゃあ、2番」

 

「あたしだよ」

 

「じゃあ、ミノさんはさっきユウさんが座っていたところに座って〜」

 

「うっ……。わかったよ」

 

銀は立ち上がって、俺が座っていたところに座った。

 

「じゃあ、今度は私が座るね〜」

 

今度は園子が俺のところに座った。

 

「3番は私の頭を撫でて〜」

 

3番……俺だな。俺は園子の頭を撫でる。

 

「こんなもんで良いか?」

 

「うん!気持ち良いな〜」

 

もういっそのこと、ウチに住んでくれないかな……。そう思ってしまうくらい可愛いだけど!

 

「俺も撫で心地が良いよ。園子」

 

「えへへ〜」

 

「「むぅ……」」

 

そして、流れ的に次は俺が王様になる……はずだった。

 

 

 

3時間後

「(なぜだ!?何故一度も王様を引けないんだ!!)」

 

順番はバラバラになっているが、王様になったのは須美と銀と園子の三人の勇者だけだ。しかも、命令は全て同じ!

 

わけがわからないよ……。

 

 

「これで……最後にしよう!」

 

「ええ、望むところよ!」

 

「この席は誰にも譲らないよ〜!」

 

「「「勝つのは私だ〜!!」」」

 

もはや、ここで「王様だーれだ?」とは言うものは誰もいなかった。

 

「「「「……」」」」

 

俺は紙を開く。そこには、1や2などの数字の番号ではない!「王」という文字が書かれてあった。

 

「よっしゃあ!」

 

俺はガッツポーズをかます。その後、すぐさま、命令を出した。

 

「じゃあ、1〜3の番号全員に命令だ。俺の女装写真、および、全てのデータの消去を命ずる!期限は二日間!」

 

これが王様ゲームをやるときに決めてた命令だ!フハハハッ!これで黒歴史が無くなる!

 

「なんですって!?」

 

須美が悲鳴をあげる。だが、これは決定事項だァ!慈悲などない!

 

「ヒャッハァ!まずはスマホの消去からだ!」

 

どこぞの梨の妖精並みのハイテンションで、命令の実行を促す。

 

「残念だけど、優治。その命令は無効だよ」

 

「「えっ……?」」

 

「銀、それはどういうことだ?」

 

「須美が最初に横文字の発言を禁止するって命令したでしょ?だから、その命令を出すんだったら、横文字以外の言葉を使った命令を出さないと」

 

「そうだった……!」

 

データを日本語で何と言うんだっけ?ええーと……。

 

「わ、わからねえ……」

 

俺は四つん這いになって下を向いた。

負けた。完敗だ……。ち、ちくしょう……。

 

こうして、王様ゲームは幕を下ろした

 

 

 

 

王様ゲームが終わった後、俺は夕食の準備をすることにした。今、須美が手伝ってくれている。銀と園子は疲れていたのか、いつの間にか寝てしまっていた。

 

「夕飯ができるまでは、寝かしといてやるか」

 

「それが一番良いと思うわ」

 

「須美も疲れてるだろ。無理しなくていいんだぞ」

 

「こんなの大丈夫よ。伊達にクラス委員長を務めないわよ」

 

「そっか……。さて、今日は肉じゃがを作ろうかな」

 

俺は人参やジャガイモを切る。須美にはご飯を炊いてもらうことにした。それともう一つ。須美に聞きたいことがあった。

 

「なあ、一つ。変なことだけど、聞いて良いか?」

 

「変なこと?」

 

「小さい頃、俺と会ったことある?」

 

「えっ……」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 出会いは偶然ではない

気づけば、お気に入り数が60を超えて、UA数も6500を超えました!本当にありがとうございます!
追記:優治の魔法の技名を変更しました。


須美視点

 

「小さい頃、俺と会ったことある?」

 

「えっ……」

 

「零戦と戦艦の展示展で会ったことがあると思うのだけど……」

 

優治くんは私にそう言う。確かに小さい頃に零戦と戦艦の展示展に私は連れてってもらったことがあった。

 

 

 

6年前

 

 

 

これは私が6歳の時、まだ「東郷美森(とうごう みもり)」という名前だった時、零戦と戦艦の展示展に行った。この時、初めて私が実際にそれらに関する史料に触れた。

 

模型ではあるけど、その迫力に魅せられた私は夢中に史料を見てしまい、気づけば両親とはぐれてしまっていた。

 

あの時、私は休憩用の椅子に座って両親を待っていたが、一人ぼっちの私は寂しさのあまりに泣いてしまった。

 

「ひっぐ、ひっぐ……。お父さま、お母さま……」

 

そう呼んでも親が来ることはなかった。

 

「ねぇ、君、どうしたの?」

 

一人の女の子が私に話しかけてきた。

 

「ひっぐ……。えっ?」

 

女の子はストンと私の隣にある椅子に座った。

 

「ひっぐ……。お父さまとお母さまを待っている……」

 

そう言うと、彼女はうんうんと頷いた。

 

「なるほど、迷子になったと」

 

「なっ!?ち、違います!」

 

図星を突かれた私は、反射的に否定してしまった。

 

「泣いて親を呼んでいたのに?」

 

「うぐっ……。あ、あなたも同じのではないのですか?」

 

「いや、別にオレはトイレに行ってる爺ちゃんを待ってるだけだよ。座れる場所を探していたら、泣いてる君がいたわけ」

 

自分のことを「オレ」という女の子なんて初めて見た。それが私の一番強い印象だった。

 

「ねぇ、君は何ていう名前なの?」

 

「私は東郷美森よ」

 

「オレは○○○○。よろしくな、東郷!」

 

その時の名前をはっきりと覚えているわけではないけど、男の子にありそうな名前だったことは覚えている。

当時の私は、もしかしてこの女の子はもしかして男の子かもしれないそう思った。

 

「ねぇ、○○くんは男の子なの?」

 

「もしかして、オレのこと女の子だと思ってたの!?」

 

○○くんはそう答える。

 

「だって、○○くんの顔が女の子みたいで男の子のわりには可愛いかったから」

 

「可愛いってなんだよー!」

 

○○くんは頰を膨らまして私を睨みつけた。その顔が男の子なのに何だか可愛い。そう思ってしまう。

 

「それにしても、『東郷』か……。カッコイイ苗字だな〜!」

 

私は初めて自分の苗字がカッコいいと言われた。だけど、私はその意味がわからなかった。

 

「カッコイイ?」

 

「うん!だって、旧世紀の明治時代の時、世界最強と言われたバルチック艦隊を巧みな戦略で勝利に導いた『東郷平八郎』と同じ苗字だよ!カッコイイに決まってるじゃないか!」

 

彼は私に憧れているような目で見た。この時は、彼ほど歴史には詳しくなかったため、「東郷平八郎」についてわからなかった。もしも、あの時、彼と同じほど歴史に詳しかったら、どれだけ話が盛り上がっていただろう、と思う。

 

「おーい、○○。行くぞー!」

 

「爺ちゃん来ちまったか……」

 

「もう大丈夫よ」

 

「本当か?」

 

「ええ、今、お父さまとお母さまが見えたから」

 

「そっか……。短い間だったけど、楽しかったよ!じゃあな!」

 

○○くんは彼の祖父と一緒にこの場を後にした。その後、私は両親のところに戻った。当然、こっ酷く怒られたけど、私にとって我が国の歴史をもっと知りたいきっかけにもなった。

 

 

 

 

 

 

優治視点

 

「もしかして、あの時、泣いてた私に話しかけた男の子は優治くんだったの?」

 

須美にそう言われる。ここで、俺の記憶と須美の記憶が一致した。ということは、俺と須美はあの展示展で会ったことがあるのだ。

 

「ということは、迷子になって泣いていた女の子が須美だったのか……」

 

そう言うと、須美はクスクスと笑う。

 

「ふふっ。まさか、こんな偶然があるんだなんてね」

 

須美は偶然と言うが、俺はそうは思わなかった。

 

「いや、俺は偶然ではないと思う」

 

「?」

 

「戦艦や零戦の展示展が開かれるのだとしたら、それらが大好きな俺と須美は絶対に行くはずだ。だから、会うことができた。そう思う…って。須美、なんでニヤニヤしてるんだ?」

 

ニヤニヤする須美なんて珍しい。

 

「えっ!?ニヤニヤなんてしてないわよ!」

 

須美は自分の両頬をパチンと叩く。

 

「そろそろご飯ができるから、二人を起こさないと!」

 

「そ、そうか」

 

須美は寝ている銀と園子を起こしに行く。

俺も肉じゃがを作り終わっているので、起こしに行く。すると、良い感じに寝ている銀と園子がいた。特に銀はお腹を出して寝ている。

 

「まったく、銀ったら……」

 

須美は銀のはしたない姿を見てそう呟く。まず、銀から起こそうとするが、俺はそれを止めた。

 

「優治くん。どうしたの?」

 

「いやー、こうやってお腹を出して寝ていると、何だかいたずらしたくなっちゃって」

 

俺は水性のマジックペンを取り出して、銀のお腹に絵を描く。おへそを丸出しにしてる、と言うわけでぽんぽこたぬきを描いてみた。

 

「後で銀に怒られても知らないわよ」

 

「ま、その時はその時だな」

 

「ん……。あたし、寝てた?」

 

銀は目をこすりながら起きた。

 

「まあな、ほら座って。晩御飯だよ」

 

「わかった……」

 

銀は大きな欠伸をした後、置いてある座布団に座った。次に園子を起こし、晩御飯を食べた。さすが、須美。今まで食べてたご飯の中で一番美味しかった。

 

 

 

 

 

晩御飯を食べ終わって、食器を片付けた後、風呂を沸かす。レディーファーストということで先に三人に入ってもらうことにした。俺の風呂は意外と広く、三人なら余裕で入れる。

 

「風呂沸いたから、三人とも入れるよ」

 

「「「はーい」」」

 

三人は風呂へ向かう。

 

「優治、覗くなよ」

 

銀の少し色っぽい声で俺に言う。

 

「覗かねえよ」

 

そう返すと、銀はつまんなそうな顔になった後、すぐに風呂の方へ向かった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「はぁ……。本当は覗ければ覗きたかったなぁ……ちくしょぉ!」

 

などと嘆いていたら、ドタドタと足音が聞こえてきた。

 

「ゆ〜う〜じ〜!!」

 

「どしたの、銀」

 

銀がバスタオルを巻いた姿で現れた。髪はぐっしょりと濡れていて、腕や足に水滴が付いていた。おかげで床が濡れている。

 

「あたしのお腹に落書きしたな〜!」

 

「あ、ぽんぽこたぬき可愛かっただろ?まあ、ちょっとしたいたずら心で、やってしまった。すまん」

 

俺は頭を下げて銀に謝った。

 

「あ、うん……」

 

あれ?もしかして、このまま何も起こらずに終わるんじゃないの?ラッキー!

 

「と、思っているでしょ」

 

ギクッ

 

「やっぱりな……」

 

銀、お前は一体何者なの?俺、何だか怖くなってきたよ……。

 

「すいません……」

 

俺はもう一度頭を下げて謝る。

 

「はぁ……。じゃあ、今夜私たちと一緒に寝ること!これで許す!」

 

「マジか……」

 

ここで、ご褒美だと思われる一言だが、よく考えてみてほしい。初恋もしたことのない俺だ。女の子と一緒に寝るだなんてメンタルじわじわ削られて寝不足エンドになりかねない。

 

「条件変更は……」

 

「無い」

 

「わかったよ……」

 

銀が風呂へ戻った後、俺は濡れた床を拭いた。

 

 

 

 

銀視点

 

あたしは優治にあたし達と一緒に寝ることを約束させた後、風呂へ戻る。

 

「二人とも、優治に約束させたよ」

 

「やったわね、銀」

 

「これでユウさんと寝れるね〜」

 

須美と園子があたしにそう言う。実は、あたしは優治にお腹を落書きされたことについては、あまり怒っていない。ただ、あたしがそのことを利用したのだ。まあ、この作戦を思いついたのは園子だけど。

 

あたしは湯船に肩まで浸かり、疲れを癒した。

 

 

 

優治視点

 

 

「まいったな……」

 

俺は布団を敷き終わった後、思わず本音を漏らす。彼女達が寝る予定の部屋に俺の布団を敷くスペースがないのだ。

このままだと、誰かと同じ布団で一緒に寝なくてはならない。

 

「三人が風呂から上がったら言うか」

 

俺は三人が風呂から上がるまで、適当に時間を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

「ってなわけで、このままだと誰か一人、同じ布団で寝なきゃいけなくなるんだ」

 

俺は三人に寝室に四人分の布団が入らないことについて話した。

 

「「「……」」」

 

「まあ、嫌なら別々の部屋にしても良いんだけど」

 

「「「大丈夫!むしろ、問題ないから(〜)!」」」

 

「なんでやねん」

 

俺のツッコミは無視され、三人はこそこそと話してる。

 

「「「最初はグー!じゃんけんポイッ!」」」

 

今度はじゃんけんをし始めたよ。何が何だかわからない。説明してほしいのだけど……。

 

「(しばらくあいこが続きそうだし、もう風呂に入ろう)」

 

俺は置き手紙を彼女達の近くに置き、俺は風呂に入ることにした。

 

 

 

30分後

 

 

お風呂から上がった俺は寝室に戻った。

 

「優治くん。右か左か、それとも中央の布団、どっちの布団で寝る?」

 

須美が俺に突然そう聞いて来た。

 

「俺が風呂入る前にじゃんけんしてただろ。決着つけなかったのかよ」

 

「というより、つかなかった方が正しいわね」

 

30分も経ってるのに、何でじゃんけんの決着がつかないんだよ。

 

「それで、俺に選択肢を与えることにしたと」

 

「そういうこと。それで優治くんはどの布団で寝るの?」

 

「(さて、どうしたものか……)」

 

▶︎右

 

中央

 

 

って、何でゲームの選択肢画面のような感じになってるんだよ!?

まあ、良いや。適当に中央にしよう。その方が、三人と一緒に寝れるから、それが良いな。

 

 

「中央にするよ。三人と一緒に寝たいわけで、一人に限定するなんということは俺にはできない。それと、平等性があって良いからね」

 

そう言うと、なぜか須美は少し残念そうな顔になった。

 

「そっか……。そっちの方が確かに良いわね。銀、そのっち、それで良いかな?」

 

「私も構わないよ〜」

 

「あたしもね」

 

後ろから銀と園子が現れて、そう答える。

 

「それじゃあ、時間も時間だし、そろそろ寝るか」

 

俺は中央の布団に入り、眠りについた。

 

 

 

 

 

「……寝れない」

 

俺はそう本音を漏らす。何でかって?一つの布団に俺を含めて四人いることだよ!人口密度高いだろ!しかも、みんな俺に密着してるし!

 

ふにゅう

 

「!?」

 

俺の腕に須美のこの上なく柔らかい物がくっつく。

 

(くそっ、離れろ!)

 

俺はもがいて自分の腕を自由にしようとするが、その度に俺に抱きつく力が強くなって、逆に状況が悪化してしまった。その間にも、俺のメンタルはジリジリと削られていく。

 

「どうすれば良いんだ。これ……」

 

俺は良い策が思いつかず、朝が来ることを待つしかなかったのは言うまでもない。

 

 

 

___________________

 

 

「お泊まり会楽しかったね〜」

 

「ええ。また、やりたいわね」

 

「そうだな!なあ、優治!」

 

「あ、ああ……。(これからはできるだけお泊まり会に行かないようにしよう)」

 

俺はそう心の中に誓った。

 

 

 

 

 




お泊まり会の話はどうだったでしょうか?一応、優治は恋愛については鈍感な感じですが、これは初恋がしたことがないので、「恋」という感情をまだ理解できていないが主な理由です。
さて、次は夏祭りの話です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 夏の空に輝く花

寒暖差が激しくて風邪をひきそうになったマクロなコスモスです。今回は夏祭り回です!鷲尾須美は勇者である編もあともう少し終わりそうです!そこから、本編のゆゆゆ編とゆゆゆいの方も書けたらなと思っています!

追記:銀の弟の名前を修正しました!ちゃんと、銀の弟の名前がありましたね……。本当にすみませんでした!


夏休みに入り、俺たちは訓練の毎日を送っていた。周りの同い年の人たちとは程遠い日常だ。しかし、その日常がさらに俺たちを確実に強くしていき、絆を深めていった。

 

 

「そういえば、今、先生から聞いたけど、あたし達の勇者システムがアップグレードされるんだって」

 

銀が話を切り出す。

 

「それじゃあ、そのシステムについていけるように頑張らないとね」

 

「うん!ユウさんに任せっきりというわけにはいかないからね〜」

 

「俺に任せっきりって……。俺だって、園子や須美、銀のうち一人でもいなかったら、今はどうなっていたか……」

 

本当にこれはハッキリと言える。天秤、あのイカのようなバーテックスや、三体のバーテックスが同時に来た時も、彼女たちに支えられた。だからこそ、今の自分がいる。

 

「改めてありがとうな。みんな」

 

「それはこっちのセリフだよ、優治」

 

「それじゃあ、お互いさまってことになるわね」

 

俺は須美の言葉に納得した。ここまで、お互いが支え合っているのだと。そう感じた。

 

「さて、今日は待ちに待った夏祭りの日だね〜」

 

「そうだな!先生から許可は出たし。待ち合わせ時間は何時にしようか?」

 

「そうね……。まだ、人が集まってない時間帯が良いわね」

 

「じゃあ、5時くらいがベストじゃないか?」

 

「よし!じゃあ、5時に神社の入り口付近に集合!」

 

こうして、俺たちは待ち合わせる約束をして、それぞれの家に帰った。

 

 

 

 

 

 

「うーん、こんな感じかな?」

 

俺は今日のお祭りのために買った着流しを着て、乱れがないかを確認をしていた。

 

「(着流しなんて初めて着たな。大和撫子の須美におかしいとは、言われないだろうか……。いや、ネットの画像を真似てるから大丈夫か)」

 

「さて、時間も時間だし、銀の家に行くか」

 

俺は持ち物を確認した後、いつものように、銀を迎えに行った。

 

 

 

 

「銀、迎えに来たぞ〜」

 

俺はインターホンを鳴らした後、銀を呼んだ。

 

『ゆ、優治!?も、もうちょっとだけ待ってて!』

 

銀は焦ったような声で、俺に言う。別に銀の小さい方の弟が泣いてるわけではないから、何で焦っているのだろうか……。

 

「何で焦ってるかわからないけど、とりあえず、焦らなくて良いんだぞ。俺も少し早めに来ちまったからな……」

 

『わかった!』

 

銀はそう言ってインターホンの通話を切った。しばらく、待ってると、玄関から銀の弟が出てきた。名前は確か……鉄男だったかな。

 

「あ、優治のにいちゃん!」

 

「よお、来たぜ」

 

「姉ちゃんなら、浴衣を着てる途中だよ」

 

「銀のやつ、浴衣着るのか……。楽しみだな」

 

やはり、銀だと赤色の浴衣が似合いそうだよな……。勇者になった時の格好も赤だよな……。

 

「俺もお母さんと一緒に行くんだ〜」

 

「へぇ、迷子になるなよ」

 

「大丈夫、大丈夫!金太郎に兄ちゃんらしいところを見せるから!」

 

「そっか!金太郎にとってはとても頼もしい兄だな」

 

そう言うと、「ヘヘッ!」と言って少し照れた。俺にもこんな兄弟か、姉妹がいたらと思ってしまう。

 

「なあ、優治のにいちゃん」

 

「なんだ?」

 

「姉ちゃんを頼むよ!」

 

「ああ、任せとけ!」

 

そう言うと、ちょうどガラッと扉が開く音がした。そこから、銀が出てきた。

 

「ごめん、優治!待たせた?」

 

「いや、大丈夫だ。じゃあ、行こうぜ」

 

俺は銀と一緒に待ち合わせ場所である神社へ向かった。

 

「な、なあ、優治」

 

「どうしたの銀」

 

「どうかな?あたしの浴衣姿」

 

銀は俺に自分の浴衣姿を見せる。銀の浴衣は明るい赤をベースに色々な花の模様がついてた。まさに「可憐」という言葉が似合ってる。

 

思わず目を背けてしまう。これ以上見てしまったら、心臓の鼓動が早まっちまう。

 

「と、とても、似合っている。めっちゃ可愛い」

 

「(ってあれ?俺、なんでめっちゃ緊張してんだ?なんで、銀から目を逸らそうとしているんだ?くそっ、なんだか調子が狂うな……)」

 

「ふんっ!」

 

俺は拳を作り、自分の顔を殴った。

 

「優治!?」

 

「だ、大丈夫。少し、眠かっただけだから」

 

「そ、そうか……。それより、優治」

 

「?」

 

銀は俺に手を出してきた。

 

「その……、手を繋がないか?」

 

「別に良いぞ。離れずに済むからな」

 

俺と銀は手を繋いでそのまま歩いた。

 

 

銀視点

 

あたしは今、優治と手を繋いで歩いている。夏なのに、とても暖かく、心地がいい気分だ。

 

「そういえば、銀はどんな店に寄りたいんだ?」

 

「そうだな……。あたしはりんご飴とかチョコバナナとか売ってる店に寄りたいかな。優治は?」

 

「俺は射的かな」

 

「意外とベタだな」

 

「りんご飴やチョコバナナを食べたいと言ってる銀に言われたくないな。あんまり、周ったことがないんだよ、祭りの屋台」

 

りんご飴とチョコバナナは祭りではベタなのかもしれない。しかし、美味しいものは美味しい。確かに、優治は祭りの屋台を周ってなさそうだ。

 

「そっか。じゃあ、この三ノ輪銀がこの祭りを案内してやろう!」

 

「ああ。頼むよ」

 

しばらく、歩いていると、神社の鳥居が見えた。その下には、須美と園子が待っていた。

 

「やっと、来たわね」

 

「あ、ユウさん!ミノさん!こっちこっち〜!」

 

「急ぐよ、銀」

 

「ちょっと、待って!あっ……」

 

早歩きで二人の方へ向かう。そして、自然とあたしと優治の手は離れていった。しかし、右手に繋いだ感触はまだ残っていた。あたしは、右手を優しくギュッと掴みながら、優治のあとを追った。

 

 

 

優治視点

 

 

「お待たせ。須美と園子も浴衣姿なんだな。似合ってるよ、二人とも」

 

「ありがとう〜!」

 

「ありがとう、優治くん!」

 

二人とも嬉しそうな顔になる。俺は思わずドキッとなる。というより、改めて思うと、俺の周りの女の子は全員可愛いのはなぜだろうか……。

 

また、俺の心臓の鼓動が早まるばかりだ。

 

「そういえば、今になって気づいたけど、優治もいつもの服装と違うな」

 

銀さん、今さらですか?まあ、気づいてもらえないよりはマシだけど。

 

「やっぱり、優治くんは『和』がとても似合うと思うわ」

 

須美もおかしいどころか、似合ってると言ってくれた。どうやら、着流しの着方は間違っていなかったようだ。

 

「ありがとな。そろそろ、人が来そうな時間帯だし、行こうか」

 

 

 

 

 

 

まずは、銀の要望により、りんご飴とチョコバナナを売ってる屋台に行った。園子もりんご飴とチョコバナナを食べたかったから、一石二鳥だった。

 

「銀も園子もノリノリだな」

 

「当たり前よ!だって、1年に一回しかないお祭りだからな!」

 

「こうやって4人で行くんだもん、楽しくて仕方ないよ〜!あ、いけてる匂い!」

 

園子は横にあった串焼き屋に走って向かった。

 

「大将、4本くださいな!」

 

「ちょっと、そのっち!私はそこまで食べれないわよ!」

 

「そう?じゃあ、もう一本は私が食べれるね!」

 

「すごい食欲ね」

 

須美は苦笑いをする。

 

「お、誰かと思えば、鳥居の坊主じゃねえか!」

 

俺はその声に反応して、串焼き屋の大将の顔を見た。

 

「あれ、よく見たら、商店街の鶏肉屋の店長さん!屋台を出していたんですね」

 

「まあな!それに嬢ちゃんを3人も連れてくるとは、見せてくれるじゃねぇか!ほら、もう一本。オマケでつけといてやる」

 

店長さんは俺に二本の串焼きをくれた。

 

「ありがとうございます!」

 

「それじゃあ、楽しんでこいよ!」

 

そして、俺たちは串焼き屋をあとにした。

 

 

 

 

 

何となく歩いていると、一つの屋台が目に入った。

 

「お、優治!ここ、射的じゃないか?」

 

「本当だ!よし、やってみるか!」

 

「私もやるよ〜」

 

俺と園子はお金を払い、それぞれ自分が狙っている景品に的を絞った。ちなみに、俺は戦艦長門のプラモを狙っている。

 

「いざ……参る!」

 

俺はすぐに銃口をプラモに向けた後、引き金を引いた。

すると、見事命中してコルク弾が弾く時に出る特有の音が店内に響く。プラモはユラユラと動き、そして、棚の後ろへ落ちた。

 

「こりゃあ、たまげたな。たった一発で撃ち落とすとは……」

 

店の大将が驚いた顔になる。俺も驚きだ。遊び半分のつもりでカッコつけたのに、成功させてしまった。

 

「じゃあ、私も負けないよ〜」

 

園子も狙いを定める。園子が狙っているのはニワトリのぬいぐるみだ。これは、撃ち落とすのは難しい。これは俺でもわかった。

 

園子は引き金を引き、コルク弾を撃つ。コルク弾は見事、ニワトリのぬいぐるみに命中するが、いとも簡単にコルク弾を弾き、ビクともしなかった。

 

「(これって、元々、コルク弾で落ちる物ではないのでは?)」

 

「今度こそ……!」

 

また、園子は狙いを定めて撃つが、やはり、ビクともしなかった。

 

「もぅ〜、ちょこざいな〜!」

 

園子は財布からありったけの千円の札束を取り出す。

 

 

30分後

 

 

「なんで、落ちないの〜!」

 

園子は泣きながら悲鳴をあげる。弾はもう1発しかない。

それを見かねた須美は園子に近づく。

 

「わっしー?」

 

「落ち着いて。呼吸を正して」

 

「ライフルの癖は見たわ。調整は任せて」

 

「吸気」

 

「すー…」

 

「呼気」

 

「はー…」

 

「照準集中」

 

「集中……」

 

「力を入れずに指を絞るように」

 

「今!」

 

パンッ

 

コルク弾はニワトリのぬいぐるみのど真ん中に命中し、ぬいぐるみは今まで以上に傾いた。

 

「あとは気合い!」

 

「気合い〜!」

 

須美と園子は手を前に出して回した。俺と銀も二人と同じように手を前に出して回した。そして……。

 

バサッ

 

ニワトリのぬいぐるみは見事、棚の後ろへ落ちた。

 

「やった〜!やった、やった〜!!鳥さんゲット〜!」

 

「なんてこった!こんなのコルク弾じゃ倒せないのに……」

 

店の大……おっさんの本音が漏れる。

 

「それはどういう意味?」

 

その本音を聞いた須美はおっさんに詰め寄る。

 

「あ、いや!なんでもない!ほら、持ってけ嬢ちゃん」

 

「やったな!園子」

 

「スゲェな!俺、こんなの倒せないかと思ってたよ」

 

「ありがとう、わっしー!」

 

「得意分野だもの。だけど、引き金を引いたのはあなたよ。それはあなたの物!」

 

「うっひょお!やったぜ!」

 

俺と園子の射的は見事成功に終わった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、園子。お金、全部射的に使ったけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ。ありがとう、ユウさん!」

 

「なら、良いけど……。それじゃあ、本命のところへ行きますか!」

 

「そうね。じゃあ、私について来て」

 

須美は俺たちの前を歩き、俺たちを誘導する。須美について歩くと、小さな道の土手の上に着いた。人はあまり集まっておらず、

 

「ここからなら、花火をゆっくり見られるわ。穴場よ」

 

「すごいな須美!」

 

「過去のブログで特定したの」

 

「そういうの得意やね〜」

 

「おっ、始まったみたいだぞ」

 

俺は空へ打ち上げられる一つの花火を指さした。

 

ヒュルルルル〜

 

どおっん!

 

「きれい……」

 

「私、こうやって友達と一緒に楽しみながら花火を見るのは初めてかも〜」

 

「ああ。俺もだ」

 

「これからは、毎年楽しめるな!」

 

「「「うん!」」」

 

銀が言ったことに、俺たちは頷いた。しばらく、俺たちは何も言わずに最後まで花火を見続けた。

 

ヒュルルルル〜

 

どおおっん!

 

今までよりも大きい花火が打ち上げられた。そして、その花火は消えていった。花火も花も咲く時間は一瞬(・・・・・・・)なのだ。

 

「終わっちゃったな」

 

「ああ」

 

「終わっちゃったね〜」

 

「一瞬だったわね……」

 

「はい、みんな」

 

俺は三人に小さな猫のストラップを渡した。これは、射的の景品で、園子がニワトリのぬいぐるみに集中している間に当てたものだ。ちなみに、一つ一つのストラップのマフラーの色が三人のそれぞれの勇者服と同じ色だったのが、このぬいぐるみを取ろうとしたきっかけだ。

 

「ああ、可愛い〜!」

 

「良いの?優治くん」

 

「ああ、一緒に祭りに行ってくれたお礼だよ」

 

「ありがとう、優治!一生大切にするよ!」

 

「一生って、大げさだな……」

 

「それでもだよ。だよな、二人とも」

 

「「うん」」

 

「ふっ、そっか……。じゃあ、大切に持っておいてくれよ」

 

俺たちはこの後、神社で解散した。この祭りは俺が今まで行った祭りの中で一番楽しかった祭りになったのは、三人には内緒である。

 

 

 




どうでもいい余談その1

放送時期が同じであるのと、お祭りと言えば金魚掬いという単純な理由で、この話に鬼灯の冷徹に出てくる金魚草を出そうかなと考えていましたが、ボツにしました。他にも、ゆゆゆい編で歌野に金魚草の畑を見せたらどんなカオスな場面になるのかな、と考えていましたw

以上、どうでもいい余談コーナーでした!
それでは、次の話でお会いしましょう!それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 たった一つの約束

久しぶりの投稿です!大学生になって初めてのアルバイトをしたら、執筆する時間があまりなくなってしまい、書き終えるのが遅くなってしまいました。

気づいたらUA数は8500を超え、お気に入り数が70を超しました!本当にありがとうございます!自分自身、ここまでいくとは思っていませんでしたw

それでは第十九話、わすゆ編はこれにて終了です!


夏休みが終わり、秋になった。まだ青々しかった木々の葉は、9月から10月に変わるとすっかり秋の紅葉に変わっていた。それと、その間に須美たちは勇者システムのパワーアップを終えたらしい。

 

10月11日。俺たちはいつも通りに学校から家に帰っていた。そんなとき、銀は立ち止まった。

 

「もう、十月か……。そういえば、そろそろ半年経つんだな」

 

「半年?何から半年が経つんだ?」

 

「優治が転校してきて半年ってことだよ」

 

「あ、そっか。俺が神樹館に転入してもう半年か……」

 

「確かにそうね……。あっという間に感じたわ」

 

「この半年、色々なことがあったね〜」

 

須美と園子が口を揃えてそう言った。

 

「って、それを言うのはせめて1年後だろう。半年経って言う話じゃないでしょ」

 

「まあ、そうだけどね。だけど、あたしにとって、とても内容が濃い半年だと思えたから……」

 

「確かに……」

 

確かに内容が濃かったな。バーテックスと戦ったり、そのバーテックスとの戦いのために合宿したり、遠足したり。まあ、あと死んだりしたな。他には……あまり思い出したくないけど、女装されたな。

 

「それに俺たち、みんなから横断幕をもらったしな。あれはガチで泣きそうだった」

 

そう。これは9月の中旬の時に、6年1組のみんなが俺たちの応援のために横断幕を作ってくれたのだ。俺はみんなから応援してくれるだなんて初めてだったので、感動のあまり泣きそうだったのだ。

 

「優治くん、涙目になっていたよね。あんな優治くん、初めて見た」

 

「は、恥ずかしいから、忘れたくれ……」

 

ちなみに、その横断幕は俺の部屋に保管してある。勇者のことについて触れるのは本当はいけないことらしく、大赦の家柄である乃木家、鷲尾家、三ノ輪家に持って帰るのはNGなのだ。そこで、一般家庭である鳥居家に持って帰ることにしたのだ。

 

「お役目のある私たちは幸せものだ」

 

「そうだな」

 

俺たちはまた歩き出そうとする。そんな時だ。違和感のある風が吹いた。周りにいる人たちはいつも吹いている風のように感じているようだが、俺たちはそうは感じなかった。

 

「……来るの?」

 

「うん、来る」

 

「なんだか……分かってきちゃったな」

 

銀はそう言って苦笑いをする。

 

「まあ、良いんじゃないの?心の準備ができるから」

 

「前向きに考えようってこと〜?」

 

「そういうことだ」

 

俺がそう答えると、三人のスマホから何かを知らせる音が聞こえてきた。三人のスマホの画面には「樹海化警報」とあった。

 

そして、樹海化警報が鳴って数秒後、俺たちの視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

樹海化が完了した後、三人の周りに何かが浮かんでいた。

 

「おい、三人とも。周りに何かが浮かんでいるけど……」

 

「あ、優治くんはまだ見たことがなかったんだよね。これが勇者システムの新機能の『精霊』よ」

 

「精霊?」

 

俺は改めて三人の精霊たちを見る。まず、園子は烏かな?烏っぽい精霊。須美は卵みたいな精霊。最後に銀の精霊は、剣を持った女の鬼だ。

 

「なんだかユニークな精霊だな。名前とかあるのか?」

 

「私のは『烏天狗』だよ〜。名前はセバスチャン」

 

セバスチャンと名付けられた烏天狗。執事服でもないのになんでセバスチャンなんだ?不思議でならない。

 

「私のは『青坊主』よ。見た目は卵みたいだけど……」

 

卵の殻と殻の間に目だけを見せている青坊主。一体、中身はどんな姿をしているのかが気になってしまう。

 

「それと、銀の精霊は人型か……」

 

「すごいだろ!あたしの精霊は『鈴鹿御前』っていうんだ」

 

鈴鹿御前……。名前の通り昔の日本の時、姫に付けられていた名前だ。一体、誰の姫なのだろうか……。いや、見た目が鬼だから、実在していないのか。

 

「そういえば、ユウさんの剣に精霊が宿っているって言ってたけど、その精霊は出すことはできないの〜?」

 

「すまん、その精霊は出すことができないんだ」

 

それに、精霊(ジン)が出たら少しの間パニックになるだろう。バーテックスほどではないけど、ものすごく大きいから。

 

「そっか……」

 

「この話は一旦ここで終わりにしましょう。敵が来るわ」

 

須美の声で俺たちは頭の中のスイッチを切り替え、俺たちは迫って来る敵を見た。

そこには、海を泳いでいるバーテックスと空を飛んでいるバーテックス。そして、その奥にいる今までで一番大きいバーテックスがいた。

 

「バーテックスが3体!?」

 

「そういうことか……」

 

「須美、どうしたんだ?『そういうことか』って」

 

銀は須美に聞く。

 

「ううん、なんでもない。みんな、気を引き締めていくわよ!」

 

「当たり前だ!あの時の借りを返させてもらうぜ!我が身に宿れ『アシュタロス』!」

 

俺はすぐに全身魔装をする。三人も勇者になる。この時、彼女たちの勇者の姿がいつもと違っていた。特に須美は武器が弓から銃に変わっている。それと、銀の武器も斧から刀になっていた。

 

「みんなの装備が色々と変わってないか?」

 

「変わってなかったら、パワーアップじゃないでしょ?」

 

「まあ、そうだな」

 

俺は銀の言うことに納得した。

 

「じゃあ、行くよ〜!私とミノさん、ユウさんはフォワードでいくよ!」

 

「「「了解!」」」

 

その後、俺と銀は空を飛んでいるバーテックスを、園子と須美は水中にいるバーテックスを相手にすることにした。というのも、俺が使っている精霊は水に弱く、水中戦には無力だからだ。

 

「てやあぁぁぁ!」

 

先に銀が空を飛んでいるバーテックスに攻撃を仕掛ける。バーテックスはあっけなく銀によって真っ二つに斬られた。確かにアップデートのおかげで銀の武器は今までよりも強力になっていたが、バーテックスのあまりものあっけなさで、逆に俺は警戒心を覚えた。

 

「よし!優治、一緒に園子の援護をしよう!」

 

「いや、まだだよ。銀」

 

「えっ」

 

銀は振り返り、自分が倒したはずのバーテックスを見る。バーテックスは体を再生させて、復活をしようとしていた。区別するためにこいつのことは「ナメック・バーテックス」と名付けておこう。

 

「斬られたところが再生してる!?」

 

しかし、それだけでは済まなかった。

 

「そうじゃない……。斬られたところから新しい体ができている!?」

 

ちくしょう!こいつはナメックじゃなくて、切ったら増殖するプラナリアだったのかよ!?

 

1体から2体になったナメック改めプラナリア・バーテックスは、俺たちに向けて電撃を放った。俺と銀は思わず、後ろへ下がってしまう。

 

「あいつ、電撃まで使えるのか!」

 

「いや、電撃のことよりも、あの切っても増殖して再生することだ!」

 

俺は追撃に備えるが、バーテックスは追撃をしてこなかった。まるで、何かを待っているかのように。

 

「銀、優治くん!すぐそこにガスが来ているわよ!」

 

「「ガス!?」」

 

俺は須美の声で目線を地上に向けると、黒い霧状のものが俺たちに迫っていた。よく見てみると、海で泳いでいたバーテックスが出しているものだった。

 

「しまった!?上だけを集中していた!」

 

俺と銀はガスに飲み込まれた。俺はすぐに口を手で抑えるが、すでにガスを吸ってしまった。

 

「ゲホッゲホッ!」

 

「優治!」

 

銀は俺の方に近づいて、不思議な空間に入れてくれた。よく見てみると、銀の精霊がバリアを張って守っていたのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「スー…ハー…。ああ、助かった!」

 

「どういたしまして!それよりも、優治。あれ!」

 

銀は上空にいるバーテックスを指差した。あのプラナリア・バーテックスが電気を溜めて放とうとしているのだ。

 

「銀!俺の後ろに隠れて!」

 

「わかった!」

 

銀が俺の後ろへ下がった。その瞬間、電撃が放たれ、ガスを一気に炎の嵐へと変えた。俺は迫ってくる炎を自分の炎で相殺した。

 

「銀。怪我はないか?」

 

「大丈夫!ありがとう、優治!」

 

「よし!今度はこっちの反撃だ!」

 

「待って!」

 

俺がバーテックスに向かって飛ぼうするが、須美に止められた。

 

「ここは私たちに任せて、ユウさんとミノさんは休んで!」

 

俺と銀にそう言ってくる園子。何か秘策でもあるのだろうか……。

 

「いくよ〜!」

 

「「満開!」」

 

二人は大きく声で言い放つ。すると、二人に何か不思議な光が集まってきた。そして、二つの大輪の花が咲き誇った。

 

そこには、砲座を束ねている須美と箱舟のようなものに乗っている園子がいた。その箱舟の両側には、複数の刃がついてあった。

これが勇者の切り札の「満開」というものらしい。

 

バーテックスは須美と園子に攻撃を仕掛ける。しかし、バリアで二人に攻撃は届かなかった。

 

「お前たちの攻撃はもう通らない!」

 

須美は手を前にだすと、それぞれの砲口から出てくる光線を一箇所に集め始めた。そして、それは巨大な光線へと変わり、2体になっていたプラナリア・バーテックスを一気に殲滅した。須美の攻撃はどこぞの宇宙戦艦の砲撃に似ていたが、それは敢えてつっこまないことにした。

 

「おぉ〜。潰しにきた〜!」

 

一方、園子は箱舟の両側についていた複数の刃を伸ばして近づいてくる海を泳いでいたバーテックスを突き刺して、距離を取らせた。

そして、刃を飛ばして、バーテックスを四方八方から突き刺して、倒した。

 

「え、えげつないな……」

 

2体のバーテックスを倒し終えると、二人の満開は解除され、二人とも仰向けのまま落ちようとした。俺はすかさず、須美と園子を抱き抱え、ゆっくりと地上に下ろした。

 

「大丈夫か、二人とも」

 

「ありがとう〜」

 

「どういたしまして。でも、どうしたんだ?いきなり、満開が解除されてたけど」

 

「わからない……。バーテックスを倒したら、目眩がして、それと同時に満開が解除されていたの」

 

「園子もか?」

 

「うん」

 

「そうか……」

 

満開は使える時間が限られているのか……。そして、体の負担も大きい。あまり、何度も使うのは得策ではないだろう。

 

俺がそう考えていると、園子は自分の右目をパチパチと開けたり閉じたりを繰り返したり、目を擦っていてた。

 

「あれ?なんでだろう……右目が見えない!?」

 

「……!?私も足が動かない!?」

 

園子の右目がいきなり見えなくなったり、須美の両足が動かなくなったり、とても偶然とは思えない。これも満開の影響だろうか……。

 

俺は魔装をアシュタロスからフェニクスに変えて、二人の治療を始めようとしたが、敵はそんな暇を与えるほど、甘くはなかった。

 

一番大きいバーテックスが俺たちに攻撃を仕掛けてきたのだ。あのバーテックスは、壁の外にいたバーテックスの素のヤツに炎を纏わせた状態で射出してきた。

 

「くそっ!」

 

俺はまた魔装を切り替え、俺は敵を迎え討とうとした。

 

「優治、ここはあたしがやる!その間に、須美の足と園子の目を治して!」

 

銀は満開を使い、敵の攻撃に備えた。

 

「わかった!治したらすぐに援護する!頼むぞ、フェニクス!」

 

俺は二人に剣を向けてフェニクスを使う。桃色の鳥が二人を包み込む。そして、桃色の鳥は自然と消えていった。これで治療は完了した。

 

「園子、目は見えるか?」

 

園子は目を開けて、右目が見えるようになったのかを確認する。

 

「ユウさん。右目、まだ見えてない……」

 

「!?まさか、須美も!」

 

「私もまだ足が動かない!?」

 

「(フェニクスで治らない!?どういうことだ?フェニクスで治せない例としては、体の機能が完全に失われることぐらいしか……まさか!?)」

 

俺の頭の中にある結論が出てきた。考えたくもない。だけど、この結論しかなかった。

 

「(満開は……体の機能を代償にすることで、強力な力を発揮する)」

 

俺は体の向きをバーテックスの方へ向ける。銀はすでに満開を使い、今、敵の攻撃を防いでいる。今なら……今なら、間に合うかもしれない!

 

「ユウさん?」

 

「須美、園子。二人は休んでて。今から銀を連れ戻す」

 

 

 

 

 

 

銀視点

 

あたしは満開を使い、一番大きいバーテックスの攻撃を防いでいた。あたしの満開は、4本の大きな刀を装備しており、敵からある程度距離があっても、刀を振ることで斬撃を飛ばすことができる。

 

「そりゃぁぁ!」

 

あたしはバーテックスが射出したヤツらを薙ぎ払う。最初は数が多かったものの、相手の攻撃に限りが見えてきた。

 

「このままなら、いける!」

 

あたしはこのまま突っ込んで畳み掛ける。しかし、その時、敵の攻撃が止んだ。

 

「なんで敵の攻撃止んだんだ……。あっ!?」

 

バーテックスは巨大な火球を作り出していた。そして、その火球が神樹様に向けて発射された。

 

「ぐうぅぅぅぅっ!!」

 

あたしは巨大な火球を受け止める。しかし、あまりにもの威力に押されてしまう。

 

「があっ!?」

 

あたしは何とか火球の軌道を変えるが、その代わり跳ね飛ばされてしまった。それと、同時に満開が解けてしまった。

 

「銀!」

 

ガシッ

 

落ちてしまうところを優治に抱き抱えられて、須美と園子が休んでいるところに降ろされた。

 

「銀、大丈夫か?」

 

「あたしは大丈夫。それよりも、あいつがまた!」

 

あたしはバーテックスを睨みつける。あのバーテックスはまた、射出してあたし達を攻撃しようとしていた。

 

 

 

優治視点

 

 

「くっ!」

 

間に合わなかった!このままじゃあ、三人とも自分の体を犠牲にしながら、戦い続けてしまう!そんなのはだめだ!

 

「須美、園子、銀」

 

「どうしたの、優治くん」

 

「満開を使ったあと、須美は足が動かなくなって、園子は右目が見えなくなったなんだよな?」

 

「え、ええ」

 

「銀は満開を使ったあと、どこか動かなくなったりしなかったか?」

 

「あたしは左腕が……」

 

「わかった。ありがとう」

 

フェニクスは、体で失われたものは治すことができない。だけど、誰かの体を代償にすることで、体の失われたところを元に戻すことができる。

 

つまり、俺の右目、両足、左腕の機能と引き換えにして、三人の動かなくなったところ、見えなくなったところを治す、ということだ。

 

「フェニクス」

 

俺はフェニクスを再び使う。俺の体から桃色のオーラみたいなものが出てきて、それが三人に注がれた。

 

「……これで、満開の代償は治ったはずだよ」

 

「ほんとだ!右目が見える〜!」

 

「私も両足が動く!」

 

「あたしの左腕も!ありがとう、優治!一体、どうやって」

 

「そんなことは後で話す。三人は早く遠くのところで避難して。あとは俺一人でやる」

 

「えっ、それはどういうことだよ……。何言ってんだよ、優治!あたしも戦うよ!」

 

「そうだよ!ユウさんらしくないよ!ユウさんのおかげで右目が見えるようになったし!」

 

「四人で戦えば、絶対勝てるわよ!だから…「ダメだ!!!」!?」

 

俺の声で三人を驚かせてしまう。しかし、こう言うしかなかった。

 

「三人とも満開を使って、今度は自分の体のどこを失う?視力か、聴力か、味覚か、心臓の機能か、肺の機能か、どこを失うかわからない!もしも……もしも、記憶まで失われるのだとしたら、俺は……俺は耐えられない!」

 

「優治……」

 

俺は無我夢中で、三人を説得しようとする。正直、俺には勝算がある。相手が炎を使うなら、俺にとって一番有利なはずだ。

 

「……はぁ。わかったよ、優治」

 

「銀!?」

「ミノさん!?」

 

「こうなった優治は須美でも手がつけられないほど頑固ものなのはわかってるでしょ?」

 

「そ、そうだけど……」

 

須美と園子は納得していない表情だ。当然と言えば、当然だ。

 

「その代わり、こっちから交わして欲しい約束がある」

 

「約束?」

 

「どんなに時間をかけてもいいから、必ず生きて帰ってきて。それが約束」

 

「ああ、当たり前だ!約束する!」

 

「それと、帰る時間をかけた分、説教する時間を増やすからね」

 

須美が約束の付け足しをする。

 

「それはマジでキツイっす!」

 

「ふふっ。じゃあ、なおさら早く帰らなきゃいけないわね」

 

「まったく、こういう時に言うものかよ……」

 

「こういう時だからだよ、優治。緊張もほぐれたでしょ?」

 

「ったく、おかげ様でな」

 

「優治、絶対に帰ってこいよ!もし、また死んだら、『この人でなし!』って言ってやるからな!」

 

「俺はラ○サーか、サウ○○ークか!?」

 

「私は帰ってくるって信じてるからね。ユウさん」

 

「ああ、行ってくる」

 

俺はバーテックスに向かって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴー……

ヴー……

 

俺がバーテックスを倒すために飛んでいると、携帯の着信音が鳴っていた。

 

「女神様。」

 

着信画面には、そう表示してあった。アドレス交換なんてした覚えがないぞ。

 

ピッ

 

「もしもし?」

 

『優治くん、しばらくぶりだね』

 

電話をかけてきたのはやはり、女神様だった。

 

「すいません、今、忙しいんです」

 

『わかってるわよ。だからかけたの。優治くん、今戦おうとしている敵との相性が良いからと言っても、右腕一本だと、次の戦いがキツくなるでしょ?』

 

「次の戦い?」

 

『あの大きなバーテックスを倒した後、バーテックスは総攻撃を仕掛けてくるわよ』

 

「マジか……。とんだクソゲーですね」

 

『だからね。あなたが戦っている間だけ、右目と両足、左腕を動かせるようにしてあげる』

 

「良いんですか?」

 

『私が勝手に助けるから良いの!あと、同じ人を二回も生き返らせたり、転生させるのはごめんだから!』

 

本当、この女神様には頭が上がらないな……。

 

「ごめんなさい……」

 

『わかってるなら、良し!それと、あなたと話したい人がいるわ』

 

「俺とですか?」

 

『久しぶりだな、優治。大きくなったな』

 

この渋い声。間違えることがない。俺をここまで育ててくれた人の声だ。

 

「爺ちゃん……」

 

『もう時間がないから、短く伝えるぞ。交わした約束を守ってこい(・・・・・・・・・・・・)!』

 

「は、はい!」

 

『良い返事だ。これからも見守っているからな』

 

爺ちゃんはそう言ったとの同時に、通話が切れた。自然と爺ちゃんが笑顔になっている姿が思い浮かんでいた。

気がつくと、右目は見えるようになり、左腕も両足も動くようになった。

 

 

 

「さて、いくか……。鳥居優治、これが最後の大喧嘩だ!」

 

 

 




解釈とこの話での設定

マギでは、フェニクスは欠損状態の体を自身の体を代償にして欠損状態のところを蘇生させることができる能力を持っています。
ということは、満開による体の機能が欠損した場合でも、フェニクスで自身の体を代償にして、失った体の機能を復活させることができるのでは、と考えています。

そして、アシュタロスの能力。アシュタロスの能力の性質は炎と熱。よって、魚座と山羊座の連携攻撃による炎の嵐、そして獅子座の火球や星屑を炎に纏わせて射出する攻撃から魔力を得ることができるため、優治にとっては無力です。なので、獅子座に対して勝算があったのです。
また、逆に魚座単体ならば、優治は苦戦すると思っています。
設定と解釈はこんな感じですかね。

ではわすゆ編は終了と前書きではありますが、まだエピローグが残っております。エピローグでは、大橋跡地の合戦後の話になります。

ここまで読んでくださった方々に改めて感謝です!わすゆ編の次は、本編の本編「結城友奈は勇者である」編に入ります!
また、ゆゆゆい編も書いていけたらと思っております!お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

やっと、エピローグが書き終わって投稿しようとしたら、お気に入り数が90を超えていて驚いてしまったマクロなコスモスです。本当にありがとうございます!
今回はとても短いです。


あの一番大きかったバーテックス……。優治くんは獅子座のバーテックスを倒した後に樹海化が解けた。勇者である私たちは大橋の近くの祠に戻ったけど、そこには優治くんの姿はいなかった。

 

本来は獅子座が倒された後、バーテックスの総攻撃が来るはずだったけど、壁の外で優治くんがそれをくい止めてくれたことを先生は話してくれた。

 

10体以上のバーテックスとバーテックスの素になる「星屑」というものを優治くんはたった一人で相手にしていたことも……。

 

それから1年間。色々なことがあった。鷲尾家の養子になっていた私は東郷家に戻され、名前も「東郷美森」に戻った。

勇者システムは大赦によって回収され、私たちのお役目は終わった。お役目を終えた私たちをクラスメイトや先生は祝ってくれていたけど、みんな、優治くんが帰ってこなかったことを悲しんでいた。

 

そして、私たちは神樹館を卒業して、四月に讃州中学に入学した。これは、大赦による指示で、そのっちも銀も同様だった。

 

また、大橋の方に実家があるそのっちと銀は大赦が経営しているマンションに住むことになり、私は元いた家に住むことになった。

始めはそのっちと銀が同じ部屋で住むことになっていたけど、そのっちが

 

「ユウさんやミノさん、わっしーから、お料理を習ったから大丈夫〜!」

 

と言って、別々の部屋になったらしい。

 

一方、私の方はお役目を果たしたおかげか、私の家は改装され、とても大きくなっていた。生活の形式も変わり、慣れないことが多々あったけど、十月になったら、すっかり慣れてしまっていた。

 

それから、半年。四月八日に私の誕生日を祝いにそのっちと銀が来てくれた。そして……。

 

 

 

 

ピンポーン……。

 

 

呼び鈴が鳴ったので、私は扉を開ける。実は、銀とそのっちの他に私の誕生日に来てくれる人たちがいるのだ。

 

「東郷、来たわよ!」

 

長い髪を左右に分けて両側に結い垂らした髪が特徴の彼女は、風先輩。私や銀、そのっちが所属している部活、「勇者部」の部長である。

 

「東郷さん、お邪魔します!」

 

銀に負けないくらいの元気な女の子は友奈ちゃん。私のお隣さんで、同じ勇者部の部員で、クラスメイトでもある。私とは、中学生になって初めてできた友達でもある。

 

「今日は来てくれてありがとうございます。風先輩、友奈ちゃん」

 

「良いって良いって。勇者部部員の誕生日なんだから、祝いに行くに決まってるじゃん!」

 

「そうだよ、東郷さん!今日は楽しい誕生日会にしよう!」

 

「風先輩、友奈ちゃん……」

 

私は風先輩と友奈ちゃんを私の部屋に入れる。そこには、銀とそのっちが待っていた。

 

「あ、きたきた!」

 

「フーミン先輩、ゆーゆ。いらっしゃい〜」

 

「銀ちゃん、園ちゃん。もう来ていたんだ!」

 

「まあな!親友として当然さ!」

 

銀は胸を張ってそう言った。

 

「それに、去年とは違ってフーミン先輩やゆーゆもいるから、今日の誕生日パーティーは賑やかになるね〜!」

 

「ええ、そうね」

 

私は自然と笑みがこぼれる。しかし、時々、こう思ってしまう。ここに優治くんもいたら……と。

 

ピンポーン……

 

「私、行ってくるね」

 

私はまた玄関へ向かい、扉を開ける。そこには、配達員がいて、お届け物を渡してくれた。そのお届け物の配達先に私の名前が書かれてあって、誕生日プレゼントと書かれてあった。

 

「一体誰が……あら?」

 

しかし、一体誰が送ってくれたのかを確認しようとしたら、送り主の名前が書かれてなかった。このまま、みんなを待たせるわけにはいかなかったので、とりあえず、私は部屋に戻った。

 

「あれ?須美、その箱は?」

 

「おぉ〜!わっしーの誕生日プレゼント?」

 

「そうなんだけど……」

 

「だけど?」

 

「送り主が書かれてなかったの」

 

「送り主がわからない?それは不自然ね」

 

風先輩は腕を組んで考える。

 

「結局、開けてみないとわからないなら、開けた方が良いんじゃない?」

 

銀は私にそう言った。確かに銀の言うことに一理ある。

 

「……そうね。開けてみるわ」

 

私はゆっくりと箱を開けて中身を見る。銀たちもその箱の中身を見ていた。

 

「えーっと、戦艦のプラモデル?」

 

友奈ちゃんが箱の中身の正体を言う。

 

「しかも、このプラモデル。小学生の時、須美が書いてた戦艦とそっくりのやつだな。えーと、確か名前が……」

 

銀は瑞鶴のことを思い出そうとしていたが、中々思い出しくれなかったので、仕方なく教えることにした。

 

「瑞鶴よ」

 

「そう!それそれ!」

 

私は箱から瑞鶴の模型を取り出す。すると、箱の一番下に封筒があった。

 

「今度は手紙だね〜」

 

私は封筒を開けて手紙を取り出した。

 

「銀、そのっち。これ……」

 

私は手紙を開いた後、すぐさま銀とそのっちに見せる。手紙をすぐ読んだ、というわけではない。ただ、この手紙の文字の形に見覚えがあったのだ。

 

「須美、どうしたん……これって!?」

 

「うん、間違いないよ〜!」

 

「優治くん……」

 

優治くんの手紙の内容は、私の誕生日のお祝いと自分が生きていること、連絡を取れなかった理由だった。最後に「説教は勘弁してください!」とあったけど、容赦無く私は優治くんに説教するつもりだ。

一年半も待たせたことがどれだけの罪なのかをしっかり教えなくてはならない。

 

それよりも、優治くんに会える。その気持ちが私の胸の中をいっぱいにしていた。

 

「待ってるからね。優治くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今ごろ須美の方に届いているころかな」

 

俺は病室に差し込んでくる月の光を浴びながら、外の景色を見る。

俺は獅子座のバーテックスを倒した後、バーテックスの総攻撃を壁の外で食い止めた。おかげで、体の負担をかけすぎたせいで一年も眠っていた。

 

体全体の筋力は衰え、小学生の頃までの筋力を取り戻すのにちょうど半年もかかった。確かに、満開の代償を両足、左腕を動かせない状態だったのだが、親父が経営している鳥居製作所が脳波を感知し、動かせないところに微弱な電気信号を直接神経に送ることでその部分動かせるようになる、というものを開発した。

 

おかげで一人で歩けることができる。この開発は実はあと資金的に半年かかる予定だったのだが、大赦の家柄である乃木家と鷲尾家、三ノ輪家が支援してくれたことが大きかった。

 

それと、大赦によれば、今は満開の代償で機能を失っているが、時間はかかるが治るだろうと言われた。まあ、この先がわからない以上、大赦の言葉を信じるしかない。

 

「さて、片付けないとな」

 

俺は荷物の整理をする。明日、俺は退院して学校に行く。俺も須美たちと同様、讃州中学に通うのだ。このことは、手紙には書いていない。ちょっとしたサプライズだ。それと、園子、銀と同じマンションに住む。荷物は学校から帰っている頃には届いてるそうだ。

 

一人暮らしは初めてだが、掃除、洗濯、炊事はできるから、何とかなるだろう。それと余談だが、両親はなぜか独り立ちに感動して泣いていた。

 

「よし、こんなところかな」

 

俺は病室にある私物を段ボールに詰め終わる。この1年半もお世話になった病室から離れると思うと、少し寂しい気持ちになる。

だけど、俺を待ってくれている大切な人たちがいる。俺はその人たちを一年半も待たせてしまった。もう、これ以上待たせてはいけないのだ。

 

「さて、寝るとしますか」

 

俺は学校に遅刻しないため、早めに寝る……というのは嘘だ。本当は早く三人に会いたくて仕方なかったので、早めに寝るのだ。

 

そして、俺はこれからまた一緒に歩んでいく。明日へ……未来へ。

 




これにて、わすゆ編は本当の終了です!次からゆゆゆ編に突入します!それと同時進行でゆゆゆい編も投稿するので、お楽しみに!
それでは、次のゆゆゆ編でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結城友奈は勇者である編
第1話 再会


お久しぶりです。前の投稿から結構時間が経ってますね(^_^;)さて、ここからは結城友奈は勇者である編になります。

優治「おい、待て。何で長い間投稿しなかったのかを言えよ」

マクコス「第1話スタートです!(言えない、FGOが楽しすぎて投稿することを長い間忘れてたなんてとても言えない)」

優治「おい!」


「ここが讃州中学……」

 

俺が小学生の時に通っていた神樹館とは違い、ごく一般な公立の中学校だった。俺はそのことにホッとする。お前は一体何を求めてるんだ、と言われそうだが、俺が求めていたのはこの通りごく普通の中学校だ。神樹館みたいな、あの高級感溢れたあの雰囲気は一般庶民である俺に合っていなかったのだ。

 

まあ、それは置いといて。今日から俺は讃州中学の生徒として通う。1年間入院していたが、見事編入試験を通過。中学1年以上の学力があると判断され、中学2年生からの中学生デビューとなった。

病院で毎日、少しずつだが、コツコツと勉強したことが合格につながってくれた。積み重ねた努力がこうして結果を出してくれるのは、とても嬉しい。

 

 

「さて、元気にしてるかな。あいつら」

 

俺はそう呟き、あの三人のことを思い出す。この中学校を選んだのは他でもない。あの時の約束を果たすためにここを選んだのだ。長い間待たせたからな、最悪、磔になるか吊されるかもしれない……。一応、手紙で許してほしいと書いたから多分大丈夫……大丈夫なはず!

 

「さあて、行くとしますか!」

 

俺は昇降口に……ではなく、職員用の玄関に入る。まあ、神樹館に転入する時と同様、これからお世話になる先生に挨拶するためだ。職員室に入り、これから入るクラスの担任の先生に挨拶をする。その後、SHRが始まるまで待機するように先生から言われた。しかし、SHRまで30分。とても、暇だ……。

 

「あの、待つ間暇なので、お茶とあの棚にある饅頭一ついただいてもいいですか?」

 

ダメ元で頼んでみると、笑顔で1個だけでなく2個も饅頭をくれた。この先生、めっちゃ優しいぞ!

 

「ありがとうございます!」

 

俺は饅頭を頬張り、SHRの時間になるまで職員室で待機した。饅頭うめぇ〜。

 

 

 

 

 

 

 

SHRの時間が近くなったため、担任の先生が教室へ向かう。俺も先生の後に着いて行った。俺は廊下で待機する。そして……。

 

「鳥居くん、入りなさい」

 

「はい」

 

俺はドアを開け、教室の中に入った。黒板に自分の名前を書いて、新しいクラスメイト達を見る。

 

「鳥居優治です。よろしくお願いします!」

 

出だしは悪くない筈だ。大丈夫、俺の顔について誰も触れる人はいないだろう。

 

(この子、男子にしては可愛くない?)

 

(え、まじで。転校生、まさかの男の娘かよ)

 

と、思っていた自分が懐かしい……。あと、小言聞こえてるからな。

 

「(俺だって、好きでそんな顔になったわけじゃないんだけどな……)」

 

どうやら、中学生になっても周りからの女顔に対する反応は変わらないようだ。

 

 

SHRが終わり、休み時間になると、当然と言うべきか、俺に興味本位で質問しに来る人が俺の席の周りに来たので、色々と質問を受け答えしていた。そんな中、ある女子三人組が近づいてきた。

 

「鳥居くんは彼女いるの?」

 

「いや、いないぞ。一年くらい入院してたからな。そういうのに、縁が無かったんだ」

 

俺がそう答えると、彼女は「ふむふむ、これはあるかもしれないよ……」と言った。あまり、この人の意図がよくわからない。もしかして、モテ期到来か!?(←一年半前からとっくに来ています。by作者)

 

「じゃあ、彼氏(・・)は?」

 

別の女子が俺に問いかける。

 

「……え?」

 

(何を言ってんだこの人。彼氏がいるという質問とか普通おかしいだろ。そういえば、この人たちは、俺が自己紹介してる時に、一緒に話してたな)

 

「ちょっと、待て。男の俺がなんで彼氏持ってるかを聞かれるんだ?おかしいだろ、普通」

 

「じゃあ、この教室で好印象を持った男子は?」

 

今度は三人目の女の子が問いかける。この質問の瞬間、俺は理解した。

 

「(こいつら……腐ってやがる!下手に答えると、変なことに巻き込まれかねない!転校早々ホモ認定されてたまるか!まずは……)」

 

「いや、転校初日だから、まだよくわからないや。その質問については、また今度な」

 

そう答えると、「そっか……」と言って少し残念そうに自分の席へ戻り、また三人で話し始めた。どうやら、なんとか俺の楽しい中学校生活は守られたようだ。転校して早々から変な連中に絡まれるとは……。俺は、「はぁ……」とため息を吐いた。すると今度は一人の男子が俺に近づいてきた。しかも、イケメンで男らしい顔だ。くそっ、見せつけてるのか。

 

「お前さん、大変だっただろ。もう感づいているだろうが、あいつら腐っててな。俺も巻き込まれそうになったことがあるんだ」

 

と同情したような表情で俺に話しかけてきた。どうやら、彼はあの女子三人組の被害者らしい。

 

「マジか、それはヤベェな。もしかして、文化祭に薄い本とか出したんじゃないのか?」

 

「お、感がいいな。その通り、彼女たちは漫研でな。いや、漫研と言う名の『腐女子部』だな。それと自己紹介がまだだったな。俺の名前は本田正樹。このクラスの委員長だ。よろしくな、鳥居」

 

「ああ、よろしく。本田」

 

ここから話を盛り上げていくところなのだろうが、そうはいかなかった。さっき、本田が言ったように、あの三人組が俺たちを見ている。そうだ。そんなことより、聞きたいことがあった!

 

「本田、一つ聞きたいことがあるんだが」

 

「なんだ?」

 

「この同じ学年に、『三ノ輪銀』と『乃木園子』、『東郷美森』っていう名前の女の子を探しているんだ」

 

そう聞くと、本田は目を丸めた。

 

「お前、乃木さん達の知り合いなのか?」

 

「まあな。園子達とは小六の時に同じクラスで、大切な友達なんだよ。って、そういえば、俺の質問に少し驚いていたけど」

 

「いや、あの三人、結構人気だからな。知り合いということに驚いていたんだ」

 

まぁ、あの三人は可愛いからな。人気が出るのは当然と言えば当然だよな。

 

「そっか……。実は園子達とは約束事があってな。それで用があったんだ」

 

「なるほどな。あの三人は放課後に勇者部という部活にいるぞ」

 

「『勇者』部?」

 

「勇者」という言葉に俺は反応してしまう。しかし、俺は須美達のお役目を終えたことを知っている。気にすることではないな、とそう自分に言った。

 

「まあ、部の名前をピンと来ないのも無理もないか。簡単に言えば、ボランティア活動をしている部らしいぜ。たまに、他の部活の助っ人に行ったりとかしてるな」

 

そんな活動をする部があるんだな。世話焼きな銀や須美に合っていそうな部だな。園子もそういうことは喜んでやってくれるし。楽しそうに部活動している姿が目に浮かんだ。

 

「できれば、部室とか教えてもらえないか?」

 

「もちろん」

 

すると、本田は何か紙は持ってるか?と聞いてきた。俺は1枚のルーズリーフを取り出して本田に渡した。すると、本田は教室から勇者部の部室までのルートを書いて教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

放課後

 

「ここが勇者部の部室」

 

俺は本田が教えてくれた家庭科準備室が勇者部の部室らしい。別に本田からもう一つ勇者部について教えてくれた。勇者部は部員が全員女子だということだ。普通の男子にとってハードルが高いだろう、しかし……。

 

(……まあ、女子三人に囲まれた生活を送っていたから緊張はしないんだよな。まったく、「慣れ」というのは怖いな)

 

だが、違う意味で緊張することが一つある。1年半近く待たせてしまった俺に彼女達はどう思っているのか……。いや、そんなところで緊張しても仕方ないだろう。覚悟を決めろ鳥居優治!

 

「よし」

 

俺は扉をノックしようとした瞬間。

 

「どうしたの?私たちに何か用?」

 

「うえわぁっ!?」

 

今からノックしてみようと思った矢先、後ろから声をかけられ、驚いてしまう。俺が余程緊張しているのかということをわかった瞬間でもあった。

 

後ろを振り向くと、茶髪のツインテールをした女子が。もしかして、勇者部の部員だろうか?

 

「な、何よ……それ。その『うえわぁっ!?』って、驚きすぎにも程があるわよ」

 

彼女はプルプルと震えながら笑いをこらえる。恥ずかしくなった俺は顔を俯く。多分、結構顔が赤くなってると思う。

 

「わ、忘れてください!」

 

「ごめんごめん!それで、勇者部に何か用?」

 

「えっと……実は」

 

俺は須美達に約束事があることを話した。すると、ふむふむと頷きながら話を聴いてくれた。

 

「東郷達が1人の男子に約束事があるなんて珍しいわね……。ちょっと待っててね」

 

そう言うと、部室である家庭科準備室に入ろうとするが、一旦立ち止まり、俺の方に体を向けた。

 

「それと、私は犬吠埼風(いぬぼうざき ふう)。勇者部の部長をやってるわ」

 

あ、この人勇者部の部長さんだったのか。

 

「鳥居優治です」

 

そう自分の名前を言うと、犬吠埼先輩は一瞬驚いた顔をした。そんな珍しい名前でもないはずだけど、俺には先輩が驚く理由がわからなかった。

 

 

 

 

東郷side

 

放課後になり、私たち二年生組は風先輩より早く部室に入り、飾り付けを行なっていた。明日、入学式があり、風先輩の妹の樹ちゃんが入学してくるので、そのお祝いのパーティーを行うのだ。

 

「ねぇ、東郷さん。この輪飾りここら辺で良いかな?」

 

「もう少し右ね。そのっちは少し下にズラして」

 

「「はーい」」

 

『うえわぁっ!?』

 

「ん?なんだろう、今の声」

 

「誰かが驚いた声でしょ?銀、ちゃんと手を動かしなさい。今日の下校時間早いんだから」

 

ガラッと扉が開く音が聞こえた。風先輩だ。

 

「あ、もう飾り付け始まってるのね!」

 

「はい。樹ちゃんにとって楽しい入学式にしたいですから」

 

「ありがとうね、みんな。あ、それと東郷、銀、園子」

 

「「「?」」」

 

「三人に何か用があるって、一人の男子が待ってるわよ。飾り付けは私と友奈でやるから」

 

私と銀、そのっちは互いに見つめ合う。一体、誰なんだろうか、私達にはわからなかった。

私は恐る恐る扉を開けた。

 

「えっ……」

 

壁に寄りかかっている一人の男の子の姿が目に入った。あの日、1年半前に交わした約束を果たそうとしようとする男の子の姿が。背も高くなっているけど、相変わらずの女の子っぽい顔つき。間違いない。間違えるはずがない。

 

「久しぶり、須美、銀、園子」

 

「優…治くん!」

 

私の想い人がそこに立っていた。

 

 

 

________________________________________

 

そこまで重要じゃないオリキャラ設定

 

本田正樹 (ほんだ まさき)

 

優治のクラスメイトで、クラスの委員長をやっている。勉強もスポーツも両立でき、尚且つイケメン。女子からも人気を集めているが、小学1年生からの幼馴染と付き合っている。腐女子三人組にネタとして巻き込まれそうになったのを止めることができたのはその幼馴染のおかげだったりする。

 

 

次回予告

 

「優治死す!(メンタル的なところで)」デュエルスタ

 

優治「言わせねぇよ!」




第1話どうだったでしょうか?時間軸としては樹ちゃんはまだ入学する前となっています。
それと、設定にFate要素も入れていきたいと考えています。感想など書いてくれると嬉しいです!では、次の話でお会いしましょう。それでは!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 入部とそして……。

お久しぶりです……。まだ、何とか生きてます。

追記:風の優治に対する呼び名を「鳥居」→「優治」に変更しました。


「須美、銀、園子!」

 

(ああ、やっとだ。やっと会えた。やっと約束を守ることができた。かなりの時間をかけたけど、また帰ってこれたんだ)

 

俺はそう感じた。俺たちの関係はまったく変わることはない。そう確信した俺は須美達に向かって走っていく。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「正座」」」

 

 

 

 

 

 

 

と三人にそう告げられた。

 

「……へ?」

 

俺は彼女達に言われたことがよくわからなかった。いや、わかろうとしなかったというのが正しいか。

 

「ごめんもう一度」

 

「正座だよ〜」

 

園子が笑って答える。その笑みには、少し怒気が混じっていた気がした。それと目が笑ってない。

 

「え、あの。なんで正座なの?」

 

「それは優治が一番知ってるはずだよ」

 

「…………はい」

 

どうやら手紙の謝罪ではダメらしく、須美に説教されることが確定。そして、長い長い説教の時間が始まった。

 

 

 

 

「はぁ……。説教は一旦ここまでにしましょう」

 

須美の説教は30分に及んだ。だが、1年半も待たせたのに説教はたった30分間。最悪、最終下校時間まで説教されると思っていたのだが……。

 

「優治くん、手伝ってくれる?」

 

「え、何を?」

 

「部室の飾り付けよ」

 

「あの、それは良いんだけど、足が痺れて動けないのですが」

 

足を強制的に動かしているとはいえ、足が痺れていると、中々言うことを聞いてくれないのだ。

 

「しょうがないな。ほら、優治」

 

「ありがとうな、銀」

 

銀が俺に手を伸ばしてくれる。俺は銀の手を掴むと、俺を引っ張ってくれた。しかし、その後だ。

 

「あ、やべ……」

 

バタッ

 

立ち上がろうとした時、自分の右足を左足で引っ掛けてしまい、前へ倒れてしまった。銀も俺に巻き込まれてしまい、後ろへ倒れてしまった。つまり、どういう状況か。俺が銀を押し倒しているのだ。

 

「すまん、銀。っ!!?」

 

俺は銀の顔を見てドキッと感じてしまった。何故だか、わからない。ただ、小学生の頃より背が高くなっており、園子より2〜3cm低いくらいだが、小学生の時と比べれば一目瞭然だ。髪も伸ばしてポニーテールにしている。とても女の子らしくなっていた。

 

「いたた……。まったく、気をつけろよな」

 

「あ、ああ。すまん」

 

く、くそっ。誰だよ女の子達に囲まれることに耐性を持ってるって言ったやつ。まあ、俺なんですけど。

 

俺はすぐに銀から離れて制服についてる埃を払うフリをした後、今度は俺が銀に手を伸ばし、引き上げる。さっきとは逆のパターンだ。

 

そして、須美達に付いて行き、勇者部の部室に入る。すると、犬吠埼先輩ともう一人赤毛の女の子が飾り付けを行なっていた。

 

「風先輩。優治くんも手伝わせてもいいですか?」

 

「別にいいけど、もう用事は済んだの?」

 

「はい、もう大丈夫です。今はそれよりも明日の樹ちゃんの入学祝いパーティーの方が大事ですし」

 

「『樹ちゃん』って?」

 

「風先輩の妹だよ。明日、入学式だからここで入学祝いのパーティーをやるんだ」

 

元気な赤毛の女の子が飾り付けをしてる理由を話してくれた。というか、明日、入学式なのか。知らなかった。それと、犬吠埼先輩の妹さんの入学祝いか。

 

「そうなのか……。えっと、名前は?」

 

そう言うと、ハッと気がついた顔になった。どうやら、自分の自己紹介を忘れていたらしい。

 

「ごめん、ごめん!自己紹介がまだだったね!私は結城友奈(ゆうきゆうな)!2年生だよ」

 

「鳥居優治だ。同じく2年生。気軽に呼び捨てで『優治』って呼んでも構わないよ」

 

「うん!よろしくね、優治くん!私のことも『友奈』って呼んでもいいから!」

 

「わかった、よろしく。友奈」

 

俺と友奈は握手する。この結城以外の『友奈』という名前を持ってる人達と不思議な巡り会いがあるのだが、またそれは別のお話。

 

「じゃあ、手伝いますね!これでも立派な男ですから、力仕事も任せてください!」

 

これで勇者部の部員全員と自己紹介した後、俺は飾り付けを手伝った。ほぼ、飾り付けを終えていたので、パーティーで邪魔な重いものを移動させるのを主に手伝った。

 

「ふぅ、これでいいわね。ありがとう、優治!おかげで早く終わることができたわ」

 

そう、風先輩にお礼を言われる。それと、犬吠埼先輩に名前で呼んでもらっていることだが、単に俺が苗字より名前で呼んでもらう方が好きだからだ。

 

「それと、あんたどこかの部活に入ろうとか決めてる?」

 

「えっ」

 

「決めてないんだったら、勇者部(うち)に入らない?」

 

部活の勧誘。初めて部活の勧誘を受けた。まあ、剣道部とかに興味があるけど、もう決めてるというわけではない。

 

「そうだよ、一緒にやろうよ勇者部!結構、楽しいぞ!」

 

「いや、ちょっと。待って」

 

銀も入るよう勧めてくる。確かに嬉しい。しかしだ。男子1人に対して女子5人。しかも、明日に犬吠埼先輩の妹さんが入るのは確実だろうから、6人だ。異性に囲まれた環境にいられる自信が……。

 

「勇者部に入ると、甘味物が食べれるようになる「ぜひ、入らせてください!」……」

 

「「「「(……ちょろい)」」」」

 

ん?友奈以外の四人からなんか聞こえたけど、ま、いっか!スイーツが食べれるんならそれで。

 

「ようこそ、勇者部!これから、よろしくね!」

 

友奈が笑顔で俺にそう言ってきた。この子程、笑顔が似合う女の子はいないだろう、そう感じた。

 

「おう、よろしく」

 

こうして、俺の勇者部の入部が決定した。

 

 

 

 

 

退院と同時に讃州入学した俺は、当然ながら病院には戻らずにこれから住む大赦が経営しているマンションへ向かった。まあ、そこまでは良いんだが……。

 

「ユウさんの部屋か……」

 

「同じマンションだとは思ってたけど、同じ階までとは思わなかったな!」

 

「須美は良いのか?暗くなってからじゃ、遅いだろ」

 

「大丈夫よ。両親には友達の家でお泊りするって、伝えたから」

 

しかし、須美が言ったことに疑問が浮かんだ。

 

「だけどよ、須美。直接、学校からこっちに来てるよな。着替えとかあるのか?」

 

「ええ。銀の部屋に私の着替えがあるわ。私の家にも、銀やそのっちの着替えがあるの」

 

「ということは、お互い、泊まれる時になっても良いようになってるのか」

 

「そうだよ〜。宿題やテスト勉強する時は、一緒にお泊まり会をやってたんだ〜」

 

なるほど。じゃあ、須美は銀の部屋で寝るということか。

 

「それにしても、本当に久しぶりだな。優治ん家で四人のお泊り会なんてさ」

 

ん?ちょっと、待て。なんで、また俺ん家で泊まろうってなってるんですか!?

 

「いやいや、おかしいだろ。男子と女子が同じ屋根の下で一夜を過ごすなんて!」

 

「うーん?小学生の時、一緒に寝泊まりしたし。別に減るもんじゃないよな」

 

銀の言うことにうんうんと頷く須美と園子。いや、減りますよ。主に精神的な部分で!

 

「それとね、今はユウさんと一緒にいたいな〜。私たち、もう1年半も会ってないんだよ?勇者部に入って、新しい友達もできたけど、ユウさんがいなかったから、結構寂しかったんだから」

 

「……。」

 

寂しげな顔をする園子の言うことに対して何も言えなかった。寂しい思いを園子だけでなく、須美や銀にもさせたんだったら、悪いことをしたとも感じた。

 

(まあ、前回は寝るところが一箇所しかなかったことが悪かったから、布団で寝る感じで良いか。布団はいくつかあるし、大丈夫か)

 

「しょうがない、今日はうちで泊まって良いよ。着替えとタオル。あと、枕もちゃんと持ってこいよ」

 

そう言った後、三人が泊まれるように、荷物の整理をするため、俺は自分の部屋に戻った。

 

「……あれ?」

 

玄関のドアを開け、中に入ると、荷物も荷物を出す時に出てくるダンボールも無くなっていた。というか、部屋がすっきりと片付いていた。

 

「小さい家具とダンボールの整理くらいは自分でやるって言ったのになぁ……」

 

まあ、手間が省けたので、それはそれで良いのだが……。

 

「いくら、大赦でもここまでする必要はないのに」

 

だが、おかげですぐに銀達を呼べる。取り敢えず、三人を迎え入れる用意ができたので、銀にメッセージを送る。その5分後に俺の部屋に来た。

 

「お邪魔しまーす!って、なんだよ結構片付いてるじゃん!」

 

「大赦の人たちがやってくれたらしい。手間が省けてよかったよ。さあ、上がって」

 

俺は三人をリビングに入れる。そしたら、三人はなぜか俺に正座で座るよう、俺に促した。嫌な予感しかしない。

 

「さあ、お説教の再開よ」

 

「……んんっ!?ちょっと、待て。お説教の時間はあの時、廊下でやって終わったんじゃなかったけ?」

 

「ええ。『一旦』、終わりにしたわ」

 

ニッコリと笑う須美。こうして再開された説教は約2時間半も行われた。

 

「……(終わった……。めっちゃ、長く正座したから、足の感覚がない)」

 

「優治くん。もう二度とあんな無茶をしないって、誓う?」

 

「ま、まあ、善処は……」

 

「「「……」」」

 

「はい、誓います……」

 

三人の無言の圧力で誓いを立ててしまった。無茶をするかどうかは、状況次第だけど、あの大橋での戦いのような無茶はもうやりたくない。

 

「それじゃあ、須美の説教も終わったことだし、晩御飯を食べようぜ!もう、あたしお腹ぺこぺこだ」

 

とお腹を抑える銀。時間はもう7時。晩御飯を食べても良い時間帯だ。

 

「よし、今日は引っ越し祝いでもらったうどんだ!今回は俺が全部作るからな!」

 

 

 

 

 

 

「「「ご馳走さまでした!」」」

 

「お粗末さまでした」

 

俺が作ったうどんは味噌煮込みうどん。三河名物「八丁味噌」を使った自慢の一品だ。なんで、八丁味噌があるかって?それは味噌の作り方を先祖代々受け継いだからだ。八丁味噌は最強の調味料だ。そこは譲れない。

 

その後、俺を含む全員が風呂や洗濯を済ませた。時間はもう寝ても良い時間になっていた。

 

 

「さて、そろそろ寝ますかね」

 

園子はもうウトウトし始めている。須美も少し眠そうだ。

 

「んー、もう少し起きていたいけどな……」

 

銀はそう言うが、健康的に良くない。

 

「起きるのは別に構わねえけど、夜更かししたら、背が高くならないぞ」

 

「やっぱ寝る」

 

「よろしい」

 

そう言った後、ベッドに布団を敷き、三人の枕を置いた。このベッド、自分は寝返りがひどいため、広めにしている。三人を寝るには十分の広さだ。

 

ガサゴソ

ガサゴソ

 

「おい、銀。何してる」

 

「え、エロ本を探してる」

 

アニメじゃないんだから。だけど、エロ本探してどうするんだろうな。

 

「あったら、どうするんだよ」

 

「燃やして、優治を吊るす」

 

「怖えこと言うなよ。あと、ここには無いからな」

 

「うん、無かった」

 

「ほら、もう寝るぞ」

 

残りの二人にも寝室で寝てもらうように、リビングに戻った。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「園子。すっかり、寝ちゃってるな」

 

「ふふ、そうね」

 

俺と須美は寝ている園子を見ていた。なんだか和んでしまうな。

 

「さて、起こしてまた寝かせるのも酷だな。……よいしょっと」

 

園子を抱きかかえ、寝室へ運んだ。その時、それを見た銀が頬を膨らましていた。そして、またリビングに戻ると……。

 

「すぅ……すぅ……」

 

起きていた須美が寝ていた。

 

「ったく、仕方ないな……」

 

俺はまた園子と同様、須美を抱き抱えて寝室まで運んだ。

 

「銀、おやすみ」

 

「……おやすみ」

 

銀はなぜか不機嫌そうに言った。なぜだ?

俺はそれがわからないまま、別の部屋で布団を敷き、寝た。

 

 

 

 

 

 

銀side

 

 

 

「ん……」

 

あたしは突然、目が覚めた。優治のベッドで須美や園子が寝ている。一度、寝直そうと考えたが、せっかく起きたので、優治の部屋を探索することにした。

 

二人を起こさないように、寝室を出て、足音をできるだけ立てないように歩く。リビングに入るが、そこには誰もいない。しかし、リビングの隣には和室がある。

 

恐る恐る、襖を開けると、寝ている優治がいた。

 

「ん……。すぅ…すぅ…」

 

「……。」

 

あたしはゴクリと唾を飲み、ゆっくりと優治に近づいた。

 

「優治、起きてる?」

 

当然ながら、返事はない。優治の顔を見ると、少しイラッときた。それは、須美と園子のことだ。すでに寝かけてた園子はともかく、須美は優治にお姫様抱っこされてる時、嬉しそうに笑っていた。

 

あたしだけやってもらってない。たしかに、小学生の頃、一度優治にされたことはあった。だけど……。

 

やっぱり、ずるい。

 

そう思った。言ってることが理不尽だと言われそうだけど、そんなことはどうでも良い。それでも、抑えられない気持ちというのがある。

 

「優治が悪いんだからな」

 

そう言って、あたしは優治の布団の中へ潜った。

 

「ん、んん……」

 

「!?」

 

あたしが入ったことへの違和感か、優治がそのことに反応して、思わずビクッとした。それでも、彼は起きなかった。

 

少しずつ、優治に近づく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

近づくたびに周りから優治の匂いがして、息を荒げて、体が熱くなる。小学生の時はあまり意識してなかったけど、これが彼の匂いなんだと、初めて認識した。もっと嗅ぎたい。もっと優治を感じたい。

 

「優治優治……」

 

我慢できない。何度も何度も彼の名を連呼する。その度に、彼に近づいているように感じがしているからだ。

 

ギュッ

 

思わず、抱きしめてしまった。それも強く。

 

ダメ、起きてしまう。

 

終わった。優治が起きたら、あたしはどんな目で見られるのだろうか。軽蔑した目で見られちゃうのか?そんなのイヤだ!

 

「(お願い、起きないでくれ!)」

 

そう願ってたあたしに待っていたのは意外なことだった。優治はあたしの方へ向き、右腕をあたしの肩の上に乗せた。

 

「……優治」

 

彼の胸元まで近づく。すると、軽く抱きしめられた状態になっていた。安心したあたしはこのまま、再びきた眠気で目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「朝か……。ん?」

 

携帯のアラームが起床時間を知らせる。俺は首につけてるチョーカーに電源を入れ、動かない体の部分を動かせるようにする。

 

そういえば、なんだか暖かく、気持ちよく寝れたな。不思議と頭の中がスッキリした感じだ。

 

「って、なんでお前が俺の布団の中で寝てるんだよ。銀」

 

静かに寝息を立てながら、いつのまにか俺の布団の中で寝ている銀。ここは怒りたいところだが、怒るに怒れなかった。多分、あの温もりは彼女のだろう。おかげで気持ちよく寝ることができた。

 

「ありがとな銀」

 

俺はまだ寝ている銀の頭を撫でた。彼女が少し嬉しい表情になっているように感じた。

 

銀はその後、俺が朝食の作ってる途中、銀がいないことに慌てて起きた須美に怒られたのは言うまでもない。

 

___________________________

 

 

優治と銀の設定(ゆゆゆ編)

 

《鳥居優治》

 

優治が付けている左腕、両足を動かすための装置の形は『とある』シリーズの一方通行が首に付けているチョーカーのようなもの。ちなみに、右目は視力は失ったままである。

 

 

《三ノ輪銀》

 

身長は園子より低いがそれでも、小学生の時と比べると背は高くなっている。髪は後ろ髪を伸ばしているが、髪型はさほど変わっていない。胸の方は……おっと、誰かきたようだな。

 

勇者時の設定は後ほどやります!

 

 




嫉妬した銀、うまく書けたかな……。あと、2〜3話で本編に入れたらなと思います。いつ、投稿できるかな……。ゆゆゆ編(1期)の終わりをどんな展開に次につなげるのか、というのは思いついているのですが、頑張って繋げたいと思います。

それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 て、天使や……!

最新の投稿からかなり時間が経ってますね。ゆゆゆ編第3話です。


久しぶりのお泊まり会と言う名の説教が終わり、朝を迎える。起きた後はそれぞれの家に(須美は家が離れているので銀の部屋へ)戻った。

 

まあ、その後に案の定「果物屋だー!そのメロンをよこせー!」という声が聞こえたが、気にしないのが吉だろう。というより近所迷惑だろうし、怒られても俺はしらない。

 

登校している途中、ふと思ったことがある。俺は美少女三人と一緒に仲良く登校している。もしかして、このまま登校したら……。

 

俺、他の男子とかに嫉妬の目で見られるんじゃね?

 

と思ったが、なぜかいやな視線を感じない。大丈夫……なのか?

 

このまま、学校に着き、教室へ入った。

 

「鳥居優治だ!ひっ捕らえよ!」

 

黒いローブを着た謎の集団が教室で待ち構えていた。

 

「え、は、ちょっと!?」

 

突然の出来事に俺は何も抵抗できずに謎のローブ集団に捕まり、貼り付けにされる。

 

「では、異端審問会を始める」

 

「い、異端審問会!?」

 

え、なんだ!?俺は何かの宗教に入信していたのか!?俺はそんな覚えないぞ!

 

「被告、鳥居優治。貴様は2年の乃木園子様、東郷美森、三ノ輪銀と一緒に登校したことで間違いないか?」

 

「「「「「間違いなし!」」」」」

 

あ、これわかった。こいつら、男子のクラスメイトだ。俺が入ったクラスは何か可笑しいと思っていたが、ここまでとは……。

 

「被告よ、この後に全クラスの異端審問会が始まる。覚悟せよ……!」

 

訂正。この2年の全クラスだった。

 

「さて、鳥居被告。貴様は園子様、三ノ輪、東郷とはどのような関係なのだ?」

 

ん?何で園子に様付けなんだ?いや、気持ちはわかるぞ。大赦のトップである乃木家のご息女。しかも、可愛い!そして、天使だからな!

 

……さて、ここは正直に答えたほうが良いだろう。まあ、嘘ついても本当のことを言っても死ぬのは確定しているのか。

 

俺は正直に園子達との関係性を話した。

 

「な…んだと……」

 

「言えることは言ったから早く解いてくれ」

 

「貴様の存在そのものが重罪(ギルティ)!よって、貴様には火あぶりの刑だ!」

 

「はぁっ!?というか、どこから持ってきたんだその松明は!」

 

燃える松明。そして、その下には藁が敷いてあった。

 

「おい待て!燃えてる!燃えてるーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

何とか異端審問会から生き延びることができた。精神的に疲れたせいか、ボーッとしてしまい、いつのまにか入学式は終わっていた。うちのクラスが入学式の後片付けをすることになっている。

 

 

「おい、後輩。あとは俺たちがやるから、先に帰って良いぞ」

 

「良いんすか?」

 

「良いも何もここからは委員の仕事だからな。ありがとな、おかげで早くおわりそうだしな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。お疲れ様でした」

 

「おう、お疲れさん!犬吠埼にもよろしく言ってくれ」

 

あれ?意外と知られているんだな。俺が勇者部に入ったこと。

 

SHRは今日はないため、このまま部室へ向かう。

 

「ちわーす」

 

「あ、優治くん、ちわーす!」

 

友奈が俺に元気よく挨拶をする。須美達もすでに来ており、ケーキは均等に切って皿に置かれている。そして、ジュースも置かれていた。もうすでに歓迎会の準備はすでに済んでいるようだ。

 

え、あれ?ちょっと待って……もしかして、遅刻したか!?

 

「俺、もしかして遅刻した?」

 

「全然、大丈夫だぞ。そこまで時間がかかったわけじゃないしな。たった、5分程度だったし」

 

だから心配すんなと言う銀。どうやら、本当にそこまで時間はかかってないようだった。

 

「そうか、なら良かった」

 

ホッと安心する俺。だけど、パーティーの片づけの時はできるだけ多く片づけるか。

 

「みんな集まったわね?じゃあ、あたしは樹を迎えにいくから、それまで待機しててね!」

 

そう言って犬吠埼先輩は樹ちゃんを迎えに行った。

 

「よし、じゃあ、迎え入れる準備をしよう」

 

俺たちはクラッカーを1ずつ持って先輩が戻るのを待つ。この家庭科準備室から1年生の教室まではそう離れていなかったはずだから、すぐに来るはずだ。

 

しばらくすると、扉が開き、先輩が部室に戻った。

 

「待たせたわね!それじゃあ、あたしの愛しき妹を紹介しよう!」

 

うーむ……。何だか先輩からシスコンの匂いがするな。え、そんなの匂いを嗅いだことがあるのかって?いや、ないですよ。そんな感じがしただけです。はい。

 

ガラガラ

 

扉がゆっくりと開く。

 

パンッ!

 

「きゃっ!?」

 

余程緊張していたのか、クラッカーの音で樹ちゃんは驚き、後ろへ倒れようとした。

 

「おっと」

 

咄嗟に手を伸ばし、樹ちゃんの手を掴む。何とか後頭部を床にぶつけずに済んだようだ。

 

「……ふぅ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「いや、別に気にしな……っ!?」

 

俺はこの時、樹ちゃんの顔を初めて見た。小動物のような可愛らしさを感じ、おどおどとした感じが、俺の保護欲を刺激する。つまりだ……。

 

「(ちょ、超可愛いじゃねぇか!)」

 

て、天使や!天使が現れた!園子に続く天使が……!どうすれば良いんだ!?俺をそんなに尊死させたいのか、この部は!?

 

「あ、あのどうしたんですか?」

 

おそるおそる俺の様子を伺う樹ちゃん。よし、ここは冷静に……。

 

「俺と結婚しあばぁっ!?」

 

俺の腹に強力な蹴りが入った。

 

「優治くん今何を言おうとしたのかな?」

「人の妹に堂々と手を出そうだなんて良い度胸してるわね……」

 

俺の目の前には物凄いオーラを出している須美と犬吠埼先輩がいた。

 

「あ、あのすみません。すごく可愛かったものでつい……」

 

「ほーう……」

 

銀が俺を睨みつける。

 

「風先輩。ちょっと、優治くんとちょっとお話ししてきますね」

 

「え、待て!引きずらないでー!俺を地獄へ連れて行こうとしないでくれー!」

 

 

 

 

 

 

友奈side

 

東郷さんに襟を掴まれて引きずられる優治くんを見送った後……。

 

『ぎゃあぁぁっ!?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさーい!』

 

『捥ぐ!?一体何を捥ぐつもりなんだよ!?や、やめろー!!』

 

その叫び声を最後に優治くんの声が聞こえなくなった。しばらくすると、優治くんは東郷さんに部室の中に放り出された。ピクリとも動く様子がなかった。だけど、このポーズどこかで見たことがあった気がした。

 

とある有名なアニメのシーンで、野菜みたいな名前をした宇宙人が種を植えることで生まれる緑色の小さな生き物を使って地球人を爆死させるというのがあった。

 

今の優治くんはその時に死んだ地球人と同じポーズになっていた。

 

「と、東郷さん。優治くんは大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ」

 

円満の笑みで私を見る東郷さん。表情こそ明るいが、周りから溢れ出る黒いオーラがその明るさをかき消していた。

 

「本当に「大丈夫よ」……」

 

こ、怖い!こんな怖い東郷さん、初めて見たよ〜!

 

そんな震える私に銀ちゃんが私の肩にポンと手を置いた。

 

「大丈夫。気にする必要はないから」

 

「う、うん……」

 

カバッ

 

「はっ、俺は一体何を?」

 

優治くんが起き上がる。

 

「ユウさん、おはよう」

 

「ああ、おはよう。って、あれ?なんか、ちょっと前までの記憶が飛んでるような……。園子、何か知ってるか?」

 

「うーん?気のせいじゃないかな〜」

 

「そ、そうか。なら、いいんだけどよ」

 

やっぱり、怒った東郷さんはとても怖いです!

 

友奈sideout

 

 

「「「「「「樹(ちゃん)入学おめでとー!!」」」」」」

 

ようやく、樹ちゃんの歓迎会が始まる。

 

「樹ちゃん。なんか、さっき俺が変なことを言いかけたらしいな。悪いな」

 

「い、いえ、大丈夫です!気にしてませんから」

 

「はぁ〜……良かった……」

 

「(ええ子や、この子はとてもええ子や)」

 

ホロリと涙が出る。絶対守ろう。

 

 

 

 

 

 

樹ちゃんの歓迎会が終わり、片付けをする。片付けが終わった後、「かめや」といううどん屋で二次会をやるらしい。

 

「『かめや』?行ったことないな……」

 

「かめやに行ったことないなんて、あんた1年いや10年分の損をしてるわよ!」

 

風先輩に驚いた表情で俺に話した。どうやら、一押しのお店らしく。とても美味しいらしい。それと、学生でも手軽に食べれる値段という理由で人気なんだとか。

 

「じゃあ、みんなは何を食べる?」

 

風先輩からメニューを渡される。どれも美味しそうなうどんばかりだ。さて……何にするべきか。

 

「じゃあ、私、肉うどん!」

 

「あたしはぶっかけうどんかな」

 

「私は月見うどんにします!」

 

他のみんながどんどん決まっていく。早く決めないとな。

 

「ん?」

 

メニューの中の一つのうどんが目に留まった。それは真っ赤で豆腐が入ったいかにも辛そうなうどん。いや、もはやうどんと呼べるものなのか疑問になるほど、真っ赤なうどんだった。だけど、それがまた唆られる。

 

『超激辛麻婆うどん!30分以内で全てたべきれた方にはお連れ様も含めてタダにします!』

 

「じゃあ、俺、超激辛麻婆うどんで」

 

「「「「「「……え?」」」」」」

 

 

 

 

「はいよ。『超激辛麻婆うどん』ね」

 

おばちゃんが真っ赤なうどんを持ってくる。

 

「な、なあ、優治。本気なのか?」

 

銀が心配そうにこちらを見つめる。

 

「ああ。別に俺甘いもの好きだけど、辛いのも好きだし」

 

「ほ、本当に食べるんですか?」

 

樹ちゃんも俺のことを心配してくれている。大丈夫だ。これがどんな辛さだろうと俺は、君の笑顔になるなら喜んで食べるよ。

 

「それじゃあ、30分間計測するよ。よーい、スタート!」

 

おばちゃんがストップウォッチを押した瞬間、俺は箸を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「ふぅ……。ご馳走様でした」

 

「ほ、本当に食べちゃった。30分以内に」

 

「お、おめでとう。じゃあ、この子達の分を含めたうどんはタダだよ」

 

真っ赤なうどんは優治の胃袋の中へと姿を消し、そこにあるのは空のお椀だった。

 

「ア、アタシ、今日はここまでにしよう」

 

「「「「「あ、あの風(フーミン)先輩(お姉ちゃん)が一杯で終わるなんて!?」」」」」

 

「?俺はまだまだいけるぞ。そうだな。あと、二杯くら……どうしたんだ須美」

 

須美が俺の両肩を掴んだ。

 

「優治くん。ここまでにしよう?」

 

「……そうだな」

 

俺以外のみんなは顔が青ざめていたため、店を出た。

2回もあの地獄のようなうどんを見たくなかったと、後で銀が俺に話してくれた。それと、あの日以来、超激辛麻婆うどんはメニューから姿を消し、幻のうどんとなった。




まさかの優治が愉悦部に所属していたことが発覚!?何とか投稿日が3のつく日にできたので良かったです!さて、次話からはアニメ本編に突入したいと思います!



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。