魔法使いと黒猫のウィズ 八百万外伝 黄泉の戦神 (烏零)
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黄泉に堕ちた神
「……フン」
一人、薄暗い川のほとりに立つ男がいた。男は、石が敷き詰められた川岸から対岸を見て、また鼻で笑う。
「向こうに行きゃ俺も死ぬのかね?……なあ、お前ら」
男の後ろに、無数の鎧武者が立っていた。それらに生気は無く――――いや、兜からのぞく顔は髑髏、鎧の隙間から見えるものは骨と、まさしく死んだものであった。鎧武者は、男に怪しく光る刀を向ける。
「貴様が……貴様が邪魔をしなければ!」
剣を構える鎧武者たちの殺気が膨れ上がる。男は、笑みを崩さぬまま剣を構える。
「恨んでるのか?……なら、かかってこいよ」
「貴様ァァァァァァ!」
襲い掛かる十体ほどの武者たち。それを、男は一瞬で斬り伏せた。まだ多くの鎧武者たちが残っていたが、男の実力を見てすこし引き下がる。
「どうした?……お前らの覚悟はそんなもんか」
「う……うぁぁぁぁぁぁ!」
襲い掛かる鎧武者。そのすべてを、男は狩りゆく。その顔から、終始笑みは消えない。まるで戦いを楽しむかのように。無数にいたと思われた鎧武者も、既に数えるほどしかいない。
「な……なぜ、なぜだ!なぜこの数で……」
「お前らが弱いからだよ」
一人、二人、三人。確実に斬り、のこりはもう一体となっていた。残された鎧武者は、髑髏の無表情からでもわかるくらい怯え、恐怖していた。
「なんだ……貴様は、何なんだ!」
「くっ……何なんだ、か、いいさ。冥土の土産に教えてやるよ。……ああ、ここが冥土だったか」
刀を抜き、切っ先を鎧武者に――――向けず、後ろから不意打ちを狙おうとしていた鎧武者目がけ、振り返らずに剣を抜く。鎧武者の頭が飛び、がらんと鎧だけが残る。
「この古い刀でも案外斬れるもんだな。さて、名乗ってやるか」
剣を振り上げ、そのままおろす。最後の鎧武者は、頭から真っ二つに斬り割かれ、川の向こうへと消えていった。
「元戦神三十六柱頭領。カタバ・フツガリ。黄泉の大王どもを従えに来た……もう、聞いちゃいねえか」
そう言い残すと、カタバは目的地も定めず歩き始める。もはや八百万の神ではなくなったが、体はまだ戦を求めていた。
――――黄泉の祟り神との決戦は確かに今までで最も大きな戦だった。だが、満足はしていない。
神格を奪われ、黄泉の国へと追放されたカタバ。しかし、まだその闘志は満たされていなかった。
「向こうにはまだセイ、スオウ、サクト……残された戦神もいる」
サクトに預けたものとはまた別の、使い古された刀を撫でカタバは笑う。
――――次は、俺から仕掛けてやる
――――お前らと本気で殺しあったら。どれだけ楽しいのだろうな?
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