艦これif ~隻眼の鬼神~ (にゃるし~)
しおりを挟む

第1話「はじまりの刻」

はじめまして、読者提督=サン。
作者提督のにゃるし~、デス。

初めてこういったものを書くので、色々おかしい点があるとはおもいます。
誤字脱字もあるんだよ・・・(-_-;)

でも、艦これ好き過ぎて妄想を垂れ流したくなってしまったんです。
後悔なんて、あるわけない(^q^)ホイ

それでは第1話、お読みくださいませm(__)m


2000年台初頭、太平洋に深海から突如として現れた、異形の怪物たち。

これの調査を試みた人類であったが、突然攻撃を開始した怪物により調査船団は消滅。

人類はこれを敵性存在と認識し、最新の兵器をもって排除しようと考えた。

 

調査船団は、砲撃や航空機とおぼしきものによる攻撃で消滅したが、相手は人間サイズの怪物。

対する人類が用いる兵器は何十倍もの大きさを持つ航空機や艦艇のミサイル。

 

誰もが勝利を確信していた。

怪物たちは一瞬で蒸発して跡形もなく消し飛ぶだろうと。

それが、人類の存亡をかけた戦争の始まりになるとは誰も知りようがなかった。

 

 

 

 

 

慢心は禁物である。とは誰の言葉だったか。

 

 

 

 

 

怪物への、人類の叡知を結集した兵器による攻撃は・・・・・・失敗に終わった。

 

誰が想像できただろうか。あらゆる兵器の攻撃は通用しなかったのだ。

そう、禁忌の兵器である核でさえも・・・。

 

この怪物に抗う手段を持たない人類は、瞬く間に全世界の制海権の9割を喪失した。

深海より現れ、人類に対してまるで軍の艦艇が使用するような兵器での攻撃で、侵略と呼ぶべき攻勢を仕掛ける怪物たち。

 

いつしか人類はこれを、「深海棲艦」と呼称するようになった。

 

 

 

開戦から数日。深海棲艦の侵略は留まるところを知らず、その前線は世界各国の陸地目前へと迫っていた。

 

 

 

誰もがあと数日で、全人類が滅亡する瞬間を想像しただろう。

しかし、実際はそうはならなかった。

 

突如、海上に人が現れ、深海棲艦と戦い始めたのだ。

しかもその攻撃は深海棲艦に対して無力ではなく、確実に効果を発揮していた。

そして戦況は膠着状態に陥り、深海棲艦は前線を下げることを余儀なくされた。

 

謎の第3勢力の介入により、偶然にも一先ずの危機を遠ざけられた人類。

だが、新たに現れ深海棲艦を撃退するほどの戦闘能力をもった、人間と酷似した人間ではない何かに、怯えない者は居なかった。

 

 

 

ただ二人を除いては・・・。

 

 

 

ーーーーー日本近海ーーーーー

 

 

 

海上に立つ正体不明の人間のような何かに、近づくボートが1隻あった。

その船上、操舵輪を握る若い男が不安と恐怖の入り交じった声色で訪ねる。

 

「艦長・・・本当にやるんですか・・・?」

 

「ああ、さっき海上に現れた人のような何かの正体はわからんが、我々の危機を救ってくれたことには違いない。」

 

艦長と呼ばれた男は、落ち着いた調子で返し、「それに」と付け加えた。

 

「あちらは我々が付近に居ることを認識していたはずだ。それなのにこちらには見向きもしないで深海棲艦だけを攻撃し、撃退したと見るや攻撃の手を止めた。これには、何か意味があるとは思わないか?」

 

「意味・・・ですか・・・・・・罠という可能性もあるのではないでしょうか。敵の敵は味方なんて、とても思えませんよ・・・・・・・・・・・・はっ!いきなり攻撃してきたらどうするんですか!?」

 

ボートを目標に進めながら更に不安になったのか、若い男は声を震わせて艦長に自身の懸念を話した。

が、最後には最悪の可能性に考えが及び、艦長に半ば叫ぶように問い返した。

しかし艦長は豪快に笑ってこう言った。

 

「ははは!その時はお前が必死こいてボートを走らせて逃げるだけだ!まあ、その前に助けてもらったお礼くらいは言っておかんとな。じゃなきゃ今ごろ俺たちは海のもずくだ!がははは!」

 

「お礼って・・・はぁ、分かりました。もうすぐ着きます、襲ってきたら全速力で逃げますから、振り落とされないでくださいよ?・・・・・・ちなみに、それを言うなら海のも・く・ず!ですよ。」

 

若い男は呆れたようにため息をつき、降参といったように肩をすくめて見せた。

 

いよいよボートが海上に立つ人に近づき、邂逅の時が迫りつつあった。

 

 

 

ーーーーー海上ーーーーー

 

 

 

気がつくと、そこにいた。

 

頬を撫でる風が心地いい。

陽の光を反射してキラキラと輝く穏やかな海。そこに立っていた。

 

(ここは・・・どこでしょうか?)

 

そんな疑問が頭に浮かぶ。

視線を足元に落とす。

 

(でも、海だとわかる・・・海に・・・立っていますね。)

 

立っている。海に。水の上に。足で。

不思議・・・・・・・・・に思わない。

 

(おかしな感覚ですね。けれど、なぜでしょうか・・・何をすべきなのかが何となくわかります。)

 

視線を水面から上げる。

異形のモノと目が合う。

 

(あれを、倒さねばなりませんね・・・。)

 

後方をちらりと見やる。

初めて見る、軍艦が見える。

そう、初めて見るはずなのに、それが軍艦だとわかる。

 

(あの艦を、正面にいるあれから守る・・・。)

 

それが、自らのすべきことだと、わかった。

ではどうやって?

だがそれはさして疑問には思わない。

手には弓が、そして矢がある。

 

そう、わかっている。何ができるのか。どうすべきかも。

 

(風向き・・・よし。)

 

弓に矢をつがえ、構える。

弦を引き絞り、狙いを定め、放つ。

ただ、それだけでいい。

 

「航空部隊、発艦!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




以上、第1話です。
いかがでしたでしょうか。
同じ艦これを題材に、先輩提督様方が沢山のお話を書かれていることはわかっています。
にゃるし~はそれらを一切読んでおりません・・・(-_-;)

なので、もしもパクリやーーー!ってものがあったら、おしえてくださいごめんなさい(;_;)

ノリと勢いとパスタだけで書いてますので・・・
感想等頂けたら、またその内続きを書くかもしれませんので、お手数かと存じていますが感想を・・・
書いていただけるとうれしいですm(__)m

それでは、また(^q^)テッターイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「邂逅」

深海棲艦の脅威にさらされ、滅亡するかと思われた人類。
日本近海に現れ、その窮地を救ったのは・・・。


「航空部隊、発艦!」

 

弓の弦を限界まで引き絞り、矢を放つ。

放たれた矢は空を裂くように飛び、やがて光に包まれその姿を変える。

 

光の中から現れたのは、九九式艦上爆撃機。その数8機。

第2次世界大戦で大日本帝国海軍により開発・運用された、旧型の爆撃機である。

 

「これは、演習ではなくて、実戦よ!」

 

飛び立った艦載機へ向けて、号令を叫ぶ。

 

「目標、敵駆逐艦!直掩(ちょくえん)は無いけれど、お願い!」

 

号令を受けた九九艦爆が縦一列に並び突撃形態を整え、深海棲艦 駆逐イ級へと迫る。

 

「uyQ"3;f?」

 

敵機の接近に気づいた駆逐イ級が、その黒い不気味な身体を震わせる。

そしてその牙の並んだ口を、顎が外れたかのように大きく開き、喉の奥から這い出してきた主砲で敵機へ砲撃を開始する。

 

しかし、録な対空火器を持たないその砲撃は九九艦爆にかすりもしない。

対艦用の主砲では仰角を満足にとれず、対空射撃をあてられるはずもない。

 

「3qoue!?」

 

九九艦爆は1機も撃墜されることなく、駆逐イ級の直上へとたどり着く。

そして1番機が主翼下の制動板を開き機体をロールさせ、反転急降下の体勢に入る。急降下爆撃だ。

後続機も次々と反転急降下していき、ついに1番機が機体の腹に搭載した爆弾を投下する。

 

「やるときは、やるのです!」

 

鳴り響く爆発音。

最初の1発を皮切りに次々と爆弾が投下され、駆逐イ級にシャワーのように降り注ぐ。

 

「G"'3!eqe!?eqe9・・・3・・・」

 

次々と命中する爆弾に断末魔の声をあげながら、駆逐イ級が撃沈する。

爆音が奏でたそれは、まるで沈みゆく深海棲艦への葬送歌のようだった。

 

 

 

ーーーーー数分後ーーーーー

 

 

 

「ふぅ・・・艦載機のみなさん、ありがとう。お疲れさまです。」

 

左上腕に備え付けられた飛行甲板へ、仕事を終えて帰還した九九艦爆を着艦させる。

全機の着艦が完了すると、九九艦爆は再び矢へと姿を変えた。

 

「ゆっくり休んでくださいね。」

 

矢を背負った矢筒へ戻し、艦載機を労う。

やっと一息つけるというものだ。

 

(さて、と・・・それにしてもここは一体どこなのでしょう?)

 

最初に浮かんだ疑問。可愛らしく小首を傾げ、再びそれに思考を巡らせようとして、自身の後方に軍艦がいたことを思い出す。

 

(あの軍艦は、味方・・・・・・かどうかはわからないけれど、守るべきものだというのはわかります。)

 

振り返り、軍艦のいた方角を見る。

すると、小型挺が近づいてきているのが見えた。

 

(大発動挺・・・とは違うようですね・・・。人が乗っていますね、お話を聞くことはできるでしょうか?)

 

小型挺の方に向き直り、弓を左手に持つ。両手はお腹の前へ移動させ、背筋を伸ばして到着を待つ。

何故だか、そうしなければいけないような気がした。

 

 

 

ーーーーーボート上ーーーーー

 

 

 

「もうすぐ着きます、艦長!」

 

ボートの速度を落としながら、若い男が言った。

 

「おう。さて、話の通じる相手だといいが・・・」

 

艦長と呼ばれた男は、先程までの緊張感の無さが嘘のように、声色に不安感を滲ませていた。

不快感を感じて、腕で額を拭うと、冷や汗がべっとりと腕を濡らしていた。

 

それから数分後、ボートは海上に立つ人の元へたどり着き、止まった。

 

「・・・・・・・・・」

 

遠目からは分からなかったが、その人は女性だった。

大和撫子を思わせる長い黒髪。それを頭の後ろで括り、ポニーテールにしている。

小豆色の着物を着て、膝上程の丈のスカート型の袴をはいている、古風な雰囲気を持つ女性だ。

さらには両手をお腹の前に置いて微笑み、背筋を伸ばして立つ様はまるで・・・夫の帰りを出迎える新妻のようだった。

 

しかし、普通の人とは違う部分があった。

海上に立っているというのもそうだが、弓を左手に持ち、背中には矢の入った矢筒を背負っている。

そしてなにより、左腕に装着されたものが一際目を引いた。

空母の飛行甲板のようにも見えるが・・・。

 

「あの・・・少し、大袈裟でしょうか・・・?」

 

二人がそれを凝視していると、女性が恐る恐る、といった様子で話しかけてきた。

 

「「あっ!?いえ、美しい女性だと思ってつい見とれておりました!!」」

 

艦長と若い男は突然のことに驚き、日頃上官にしているように背筋をピンと伸ばし、敬礼をして謝罪した。

行動と言動がピッタリと一致したのは、偶然か、必然か。それは誰にも知る由もない。

 

「ふふ・・・お上手ですね。でも、誉めても何も出ませんよ?」

 

女性は少し照れた様子で頬を薄い朱に染め、敬礼を返した。

 

(綺麗な女性(ひと)だなぁ・・・)

 

その仕草に見とれる若い男を尻目に、敬礼したままの体勢で艦長が女性へと名乗る。

 

「申し遅れました。私は日本海上自衛隊、空母[ほうしょう]の艦長で比良(ひら)という者であります!先程は我々を助けて頂き、感謝致します!こちらは副官の安住(あずみ)です!」

 

(こんな女性(ひと)が嫁さんだったらなぁ・・・)

 

ほんの少しの沈黙、続いて名乗る気配のない副官をちらりと見て、その横腹を小突く。

早く名乗れ!と催促するように。

 

「いでっ!?あ、同じく空母[ほうしょう]の副長を務めております、安住(あずみ)であります!」

 

女性は一瞬驚いた様子で目を見開いたが、直ぐに元の微笑みに戻ると、敬礼し直してこう名乗った。

 

「航空母艦、鳳翔です。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します。」

 

今度は比良と安住が驚きのあまり、目を見開く番だった。

 

 

 

これが、人類と艦娘との初の邂逅となった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第1話を投稿して早々、第2話です。はい。(^q^)ホイ
書き溜め?なにそれ、美味しいの?

第2話、いかがでしたでしょうか?
人類と艦娘との初のコンタクト、伝わるように書けてるかなぁ・・・

更新ペースが早すぎるかな、とは思ったんですが。
一晩寝たら、なんだか妄想が暴走し始めたので書いてしまいました。(^q^)イイレス

第1話でお気づきの方が殆どだったと思います。
日本近海で深海棲艦を撃退したのは我らがお艦、鳳翔さんです。
鳳翔さんに膝枕されながら、優しく耳掻きとかしてもらいたいなぁ・・・

未来の話、ということで、鳳翔さんとコンタクトした二人は、海自の空母[ほうしょう]の乗組員ということにしました。
ああ・・・やってしまった・・・変な所から怒られないよね・・・?(;_;)

深海棲艦の台詞も、解読出来る方は出来ると思いますので、そちらも楽しんで頂けると幸いです。

それでは、また・・・ニゲロー(^q^)テッターイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2.5話「お艦」

邂逅を果たした鳳翔、比良、安住。
これは3人が日本に帰還し、会議室に現れるまでのお話。


ーーーーー日本近海 空母[ほうしょう]ーーーーー

 

 

 

海上で鳳翔と名乗る女性を保護した比良と安住は、空母[ほうしょう]へと戻ってきていた。

 

「艦長!ご無事ですか!?」

 

「艦長たちが戻ったぞー!!」

 

比良と安住の帰還に、艦内が騒がしくなっていく。

 

「皆、今戻った。お客さんも一緒だ。」

 

「艦長、さっきの人影は一体・・・!?動くな!誰だ貴様!!」

 

比良たちを出迎えた士官が二人の後ろにいる人影に気づき、拳銃を抜き構える。

 

「っ!?」

 

今にも発砲しそうな雰囲気に、鳳翔が目を瞑りびくっと身体を強ばらせる。

次の瞬間聞こえてきたのは、銃声ではなく、何かが床へ叩きつけられる音だった。

恐る恐る鳳翔が目を開けると、そこには先程拳銃を向けてきた士官と、それを床へ押さえつけて取り押さえる安住の姿だった。

 

「何をしてるんですか?艦長は「お客さんも一緒」と言ったんです。聞こえていなかったとは言わせませんよ。」

 

底冷えのするような低い声色で、安住が士官へ問う。

 

「ひ・・・も、申し訳ありません・・・。」

 

取り押さえられた士官は、安住の目を見た瞬間、全身をガタガタと震わせて謝罪した。

鳳翔からは見えないが、その目は全てを飲み込む奈落の様な色を宿していた。

 

「答えになっていませんね。お客様に対して何をしているかと聞いているんです。」

 

質問に答えなければ腕を折ると言わんばかりに、ギリギリと腕を締め上げる安住の雰囲気に、士官の震えが大きくなり、目からは涙が溢れ出している。

 

「安住、そのへんにしといてやれ。皆ビビってるぞ。」

 

その言葉に、安住は一瞬比良に目をやると、拳銃を取り上げて士官を解放した。

先程味わった恐怖で腰が抜け立ち上がれずにいる士官の側にいってしゃがみ、比良が忠告する。

 

「お前が俺たちを心配してくれたのは分かるが、もうちょっと落ち着け。知らないやつを見かけた程度ですぐ銃を抜くようでは、この先が思いやられるな。・・・って、聞こえちゃいないか。」

 

「誰か、このオツムの足りない早漏野郎を独房にぶちこんでおいてください。」

 

安住が近くにいた士官を捕まえ、命令する。

いまだに震えている士官は同僚に連れられ、船内へと消えていった。

 

「鳳翔殿、部下がお騒がせして申し訳ない。」

 

「いえ、問題ありませんよ。びっくりしましたけれど。」

 

謝罪する比良に、鳳翔は微笑んで大丈夫だと言った。

気を使わせたなと思って頭をかきながら、比良が安住に注意する。

 

「安住、さっきのはやり過ぎだぞ?それと、下品な言葉使いは控えろと言ってるだろう。」

 

「そうですか?下手をすれば他の乗組員へ誤射する危険もあったので取り押さえただけですが。」

 

対する安住はやりすぎただろうか?と首を傾げている。

それを見た比良はため息をついた。

 

「やり過ぎだって言ってるだろ。お前は、ああいう緊急時には人が変わるから洒落にならないんだ。さっきの奴、数日は悪夢にうなされるぞ・・・。」

 

「・・・・・・善処します。」

 

目を反らしてあさっての方向を向く安住に、比良は片手で頭を抱え、再び大きなため息をつくのだった。

 

 

 

ーーーーー空母[ほうしょう] 食堂ーーーーー

 

 

 

騒動の後、鳳翔と安住は食堂に来ていた。

比良は上への報告の為に艦橋へ行っており、その間にここで待つように言われていたのだ。

沢山ある机の内の1つを選び、向かい合って椅子に座る。

 

「先程は失礼しました。ああいった状況になると、どうしても体が動いてしまって。」

 

椅子に座るとすぐに安住が頭を下げて謝罪した。

突然のことに、鳳翔は驚いた様子で目をぱちくりさせる。

 

「大丈夫ですよ。少し、驚きましたけど。」

 

そう言って微笑む鳳翔に、安住はまた見とれていた。

 

(本当に綺麗に笑う女性だよなぁ・・・)

 

なんてことを考えていると、突然その頭を頭上からの衝撃が襲った。

 

「いでっ!?」

 

「お客さんにお茶もお出しせずに何やってんだ。まーた見とれてたのか?」

 

いつの間にか戻ってきていた比良が、背後から安住の頭に分厚いファイルの背を乗せていた。

 

「比良さん、お帰りなさいませ。」

 

「艦長、痛いじゃないですか。もう少し優しくしてくださいよ・・・。」

 

比良に微笑んで帰りを迎える鳳翔。

それとは対照的に、安住はジト目で抗議するのだった。

 

「はっはっは!すまんすまん。・・・鳳翔殿、粗茶ですがどうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

鳳翔にお茶を出しつつ、比良も椅子に座る。

 

「思ったより早かったですね。・・・で、どうだったんですか?上からの反応は?」

 

「ああ、鳳翔殿を連れて至急帰還せよだとさ。なんでも、鳳翔殿と同じような人が各地で発見、保護されているらしい。」

 

「保護、ですか。上の連中の言葉に翻訳するなら、拘束の間違いでは?」

 

「さあな。とにかく、保護した人たちを集めて事情を聞きたいらしい。そのために政府のお偉いさんが駐屯地まで来るそうだ。」

 

安住が上層部への皮肉を言うが、比良は肩をすくめて見せるだけだった。

そこへ、鳳翔が口を開く。

 

「あの・・・お話の途中で申し訳ありませんが、お聞きしたいことが。」

 

「おお、ほったらかしにして申し訳ない。聞きたいことというのは?」

 

「ここは・・・日本、なのですよね?この軍艦の方々は、私の知っている軍人の皆さんとは随分雰囲気が違うのですが・・・。」

 

一瞬、2人は何をいまさらと思いかけるが、鳳翔と出会った時のことを思い出した。

 

「ここは日本ですよ。・・・たしか、貴女は航空母艦と仰っていましたね。」

 

そう。安住の言う通り、鳳翔はたしかに「航空母艦 鳳翔」と名乗ったのだ。

 

「この艦も[ほうしょう]だが、ふむ・・・。」

 

腕を組んで「うーむ」と唸りながら考える比良。

安住も少し考える素振りを見せていたが、顔を上げて鳳翔に問う。

 

「もしかして、大日本帝国海軍の航空母艦 鳳翔ということですか?」

 

「はい。その通りです。私自身、なぜ人の姿になっているのか分からないのですが、自分が何者なのかだけは分かるんです。・・・・・・不思議ですよね・・・信じがたいですよね・・・。」

 

そう言うと鳳翔は不安げな表情で俯いてしまった。

自分という存在を証明する手段がないのだから、その内心は不安で一杯だろう。

 

「信じるもなにも・・・ねえ。」

 

「深海棲艦と戦う姿を見れば、信じる以外ありえんよなぁ。」

 

「・・・え?」

 

顔を見合わせて苦笑する安住と比良の言葉に、鳳翔は顔をあげた。

その表情から心底驚いていることが分かる。

 

「信じて、いただけるのですか・・・?」

 

「疑う事は簡単です。こんな状況ですし、まずは信じてみますよ。」

 

戸惑う鳳翔に安住が優しく微笑みかける。

頭をかきながら比良が分厚いファイルを机に置く。

 

「ま、何かあったらその時はその時ってな。さて、まずはどこから説明するか・・・。」

 

 

 

ーーーーー数十分後ーーーーー

 

 

 

「なるほど。おおよそ分かりました。」

 

比良と安住からの、終戦から現在までの説明が終わり、鳳翔が目を閉じて頷く。

 

「お二方のご説明、とても分かりやすかったです。ありがとうございます。」

 

そして深々と丁寧にお辞儀をしてみせる。

 

「いやいや、ざっくりとした説明しかできずに申し訳ない。」

 

「そうです。艦長の説明が分かりやすかったなんてお世辞を仰っていただかなくても・・・。」

 

「・・・・・・お前、たまに俺に対して辛辣だよな・・・。たしかに説明するの下手だけども!」

 

「自覚あったんですね。これは驚き!」

 

大袈裟に手を動かしながら、わいわいと騒ぎ出した二人。

その様子が可笑しくて、鳳翔は思わず吹き出してしまう。

 

「・・・ぷっ!ふふふ・・・!」

 

口に手を当ててくすくすと笑う鳳翔に、比良と安住も笑い出す。

 

「くっふふふ・・・!やっと笑っていただけましたね。」

 

「美人さんには自然な笑顔が一番だな!がはは!」

 

「ふふ・・・もう!やっぱりわざとだったんですね!」

 

鳳翔が少し怒ったように頬を膨らませる。

これはずっとどこか固さを含んでいた鳳翔の緊張を解そうとした、二人のちょっとしたおふざけだったのだ。

暫く三人で笑っていると、厨房の中からコック帽をかぶった体格のいい男が何かを持って出てきた。

 

「みなさん、昼食を食べ損ねたでしょう。残り物で作ったんですが、よかったら召し上がってくだせえ。」

 

そう言うと男が机の上に料理を並べていく。

 

「おお!料理長、助かる!」

 

「いつもすみません。今度、いいお酒をお持ちしますよ。」

 

「そちらの美人さんも。お口に合うかわかりやせんが、召し上がってくだせえ。」

 

料理長と呼ばれた男は鳳翔にも比良や安住と同じように接した。

そして二人と同様に料理の盛られた皿を鳳翔の前に置く。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

驚く鳳翔に、安住が声をかける。

 

「彼の作る食事はここの乗組員の料理の中でも1、2を争う程美味しいんですよ。ぜひ食べてみてください。」

 

「は、はい。・・・いただきます。」

 

「相変わらず旨いな!さすが料理長だ!ははは!」

 

比良は既に食べ始めており、ガツガツと食べ進めていた。

手を合わせると箸を手に取り、鳳翔も出された料理へ箸を伸ばす。

残り物と言っていたが、魚の切り身にふわふわの衣がついて汁に浸かった物に加え、白米と味噌汁が付いている。

とても残り物とは思えない。

 

「はむ・・・。」

 

まずは魚料理を口へ運ぶ。

見た目通りのやわらかい衣の中に、白身魚が入っている。

魚は綿のようにふわりと歯を受け入れていく。

噛み締めると衣に染み込んだ、少し酸味のある出汁が白身魚の味を引き立てる。

自然と、箸が白米へと伸びていた。

炊きたてのような湯気をほかほかと立てる白い山の一角を、箸で優しく摘み取る。

そしていまだ出汁の後味が残る口内へと、それを迎え入れる。

 

「はむ、はふ・・・はふ・・・。」

 

噛み締める毎に、白米が本来持つ甘味が出汁の後味と合わさって食欲をそそる。

最後に味噌汁に手を伸ばす。

優しい香りを楽しんで、味噌汁を啜る。

合わせ味噌のようだが、白味噌に近い風味がする。

お昼に食べることを前提にしていたのだろう、濃すぎず薄すぎず、するりとお腹へ入っていく。

 

「ほぅ・・・・・・美味しい・・・。」

 

鳳翔が料理を味わう姿は色っぽく、安住と料理長はみとれてしまっていた。

 

「食べないなら食べちまうぞ~。」

 

そんなことをしているうちに、自分の分を食べてしまった比良が安住の分にまで手をつけようとしていた。

慌てて安住が比良を止める。

 

「ちょっ!?それ私の分ですって!艦長~!!」

 

ぎゃいぎゃい騒ぎ始めた二人を他所に、料理を食べ終えた鳳翔が料理長へ賛辞を贈る。

 

「料理長さん、とても美味しい食事でした。頬が落ちてしまうかと思うほどです。」

 

微笑む鳳翔に、料理長が照れながらもタネ明かしをする。

 

「いや、実はこの料理は人に教わった物でして。自分の実力ではないんでさあ。」

 

「あら、そうなのですか?」

 

鳳翔は片手を頬に当て、目を丸くして問いかけた。

 

「へい。料理長なんてあだ名で呼ばれてはいますが、料理は全部、安住副長の直伝なんですわ。」

 

そう言って、料理を巡る攻防を続ける二人へ視線を移す。

 

「だから食べるっていってるじゃないですか!」

 

「いいだろ一口くらい!」

 

「艦長のは『一口に入る分だけ』の間違いでしょうが!」

 

「固いこと言うなっての!」

 

まるで仲の良い兄弟のような二人の様子に、また自然と笑みが溢れる。

 

「ふふふ・・・。仲が宜しいようで。」

 

「さて、そろそろ夕食の支度に戻りますわ。美人さん、ごゆっくり。」

 

鳳翔に一礼して、料理長が厨房へ戻ろうとする。

そこへ鳳翔が声をかけた。

 

「あの、もし宜しかったら・・・。」

 

 

 

ーーーーー数時間後ーーーーー

 

 

 

食堂は混沌とした雰囲気に包まれていた。

男たちから発せられる熱により陽炎が見えるほどの熱気。

その目は血走り、身体中から汗が滴る、まるで獣のようだ。

彼らの獲物は白いキャンパスへ注がれたモノ。

鼻をつく香りを放つソレををキャンパスに馴染ませ、食らう。

ここに居る誰もが「もっと」とそれを欲し、奪い合う。

そう、食堂は今、カレーライスを求める亡者たちの戦場と化していたのだった!

 

「これは・・・すごいことになったな。」

 

「ええ・・・ここはまさに戦場ですね。」

 

比良と安住が食堂へたどり着いた時には、すでにカレーライスを求める士官たちの巣窟となっていた。

 

「カレーライスのおかわりは、まだまだありますからねー。」

 

厨房の方から女性の声が聞こえたかと思うと、おかわりを貰おうと士官が受け渡し口へ殺到する。

 

「おかわりください!」

 

「おれにもーー!!」

 

「こっちが先だー!」

 

「てめえ何杯目だ!」

 

「かゆい うま」

 

「どけどけー!まだ食ってねえぞー!」

 

「お前らちゃんと並べって!!」

 

「順番を守らない人には、おかわりはありませんよー。」

 

「「「「「「整列!一列縦隊!!」」」」」」

 

我先にと互いを押し退けあっていた士官たちが、再び女性の声が聞こえた途端に整列する。

声の主は鳳翔だ。

なぜ食堂がこのような状況になっているかというと、鳳翔が「ご飯のお礼に」と本日の夕食の手伝いを申し出たことが原因だ。

夕食の時間になり、カレーライスを食べた士官が突然「うますぎるぅぅぅぅうぅぅぅぅ!!」と全艦放送で叫び、それを聞き付けた他の士官たちが半信半疑でカレーライスを食べたことで食欲が爆発して今に至る。

何を隠そうこのカレーライス、鳳翔が作ったものなのだ。

味見した料理長は膝から崩れ落ち、「勝てない・・・ワシの調理技術に、このカレーに勝つ手段は・・・・・・無い・・・。」と言ったきり真っ白に燃え尽きたらしい。

 

「我々の分、残ってますかね・・・。」

 

「残っていることを祈るしかあるまい・・・。」

 

この状況に若干引き笑いを浮かべつつ、カレーライスを待つ行列に二人は並ぶのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

待つこと十数分。

ようやくカレーライスを受け取った二人は近くの席を確保していた。

食堂も混雑のピークを終えて徐々に人が少なくなっていっているようだ。

 

「さて、いただくとするか。」

 

「そうしましょう。」

 

比良と安住はそれぞれ両手を合わせた。

 

「「いただきます。」」

 

そして一口目を食べる。

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

硬直する二人。

すると比良が天を仰ぐようにのけ反り、閉じた目から涙をこぼし始めた。

 

「オカン・・・・・・オカンの味や・・・。」

 

そう言ったきり、比良はしばらくそのまま涙を流し続けた。

一方、安住はというと。

こちらも目を閉じているが、二口目、三口目と食べ進めている。

そしてそのまま完食すると、こちらも天を仰いで呟いた。

 

「母上・・・・・・ああ・・・刻が見える・・・。」

 

この日振る舞われた『鳳翔特製カレーライス』は、『お艦カレー』として語り継がれることになるが、それはまた別のお話。

 

 

 

ーーーーー日本自衛隊駐屯地ーーーーー

 

 

 

日本本土へと帰還した比良たちは、鳳翔を連れて政府高官が居るという部屋へ向かっていた。

 

「もうすぐ到着します。部屋には既に数名が通されていて、事情聴取が始まっているとか。」

 

「らしいな。俺たちの到着を待たずに始めるとは、オツムが足らんようだな。なあ、安住?」

 

「それは忘れて下さい・・・。」

 

二人の後ろを着いてきていた鳳翔が恐る恐る口を開く。

 

「ここでは、どのような話をすることになるのでしょう・・・。それに、私の他には誰が・・・?」

 

「あーたぶん。お前たちは誰だー、とか。目的を言えー、だとか。そんな所だと思うが・・・。」

 

「たしか、航空母艦 赤城と加賀。それから・・・金剛型戦艦4隻だとか。恐らく他にも居るでしょうが、別室で待機させられていると思われます。・・・・・・あなた方の処遇がどうなるのかも話があるかもしれませんね。」

 

そうこう話している内に、事情聴取が行われているという部屋の前へと到着する。

しかし、比良も安住も衛兵が居ないのをいいことに、すぐには部屋へ入ろうとせず聞き耳を立てているようだ。

比良に手招きされ、鳳翔も同じように聞き耳をたてる。

すると、かすかに声が聞こえてきた。

 

『知りたいーーーーー何ーーーうか。』

 

『ーー諸君らは何故、ーーー深海ーーー戦い、勝つーーー?』

 

『諸君ーー目的。何ー望みーーー。ーーーまさか善意ーーーーーなかろう。ーーー狙いーーー?』

 

聞こえてきたのはなんとも答えずらい質問。

そして返答のない沈黙。

 

「そりゃあ沈黙するわな。俺らは鳳翔殿から話を聞いてるから分かるが・・・。」

 

「こんなもの、わざと答えづらくしているじゃありませんか。気に入りませんね。」

 

「おいおい、気持ちは分かるが抑えろよ。俺らが下手を打って彼女らの立場を危うくするわけにはいかんからな。」

 

「分かっていますよ。鳳翔さん、準備は宜しいですか?そろそろ入室します。」

 

安住が顔を向けると、そこには強い意思を持った光を瞳に宿した鳳翔の姿があった。

 

「覚悟はできています。私の娘たちを苦しめることは許しません。」

 

「ど、どうか抑えてくださいね・・・?」

 

「よし、入るぞ。」

 

そう言って比良が立ち上がる。

安住と鳳翔も続いて立ち上がり、身だしなみを軽く整える。

比良が目配せし、二人が頷くと扉をノックする。

 

『誰だ!今は重要な会議をしている所だ!後にしろ!』

 

ノックの音に、過剰な程の怒声で答える政府高官の声が聞こえた。

 

(やはりオツムが足らん奴のようだな。)

 

(器が知れますね。)

 

比良と安住がアイコンタクトで政府高官のオツムと器の無さを馬鹿にしあう。

 

「重要な会議中、失礼します。その会議に関係があると思われる、重要参考人をつれて参りました。」

 

わざとらしく大きな声で言う比良。

少しの間を置いて、『・・・・・・入れ。』と入室の許可が出た。

 

「はっ、比良二佐。以下二名、入ります。」

 

安住が扉を開いて比良を通し、その直ぐ後ろに鳳翔を通す。

そして最後に鳳翔の後ろに付いて自らも入室する。

 

「「鳳翔さん!?」」

 

部屋へ入ると、二人の女性が驚いた様子で声をあげ、鳳翔へと敬礼する姿が目に入った。

比良と安住は『休め』の姿勢で彼女の両側に立ち、あたかも二人を従えているように演出する。

これから政府高官と言葉で切り結ぶのは、自分達ではなく、ここにいる鳳翔だからだ。

二人は横目でちらりと鳳翔の表情を確認する。

凛とした表情の戦乙女の姿がそこにあった。

それを見た二人が内心でニヤリと笑った。

 

((さあ、共同戦線の始まりだ!))

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第2.5話です。

いかがでしたでしょうか。

間話の第1弾となる今回の話。
比良、安住、鳳翔が、どのようにしてあの場に現れたのかを書いてみました。

間話は基本的にはゆるーくいこうかと思ってるんですが、なんだか重いシーンもはいってしましましたね・・・反省です。

次の間話からはゆるくなる・・・はず。

では、また次の間話も本編もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「艦娘」

日本近海で出会った女性は、たしかにこう名乗った。

航空母艦 鳳翔であるとーーーーー。


煙草の臭いが充満する部屋の中、高級なものであろうソファに深く腰を下ろした男が問いかける。

 

「・・・それで、諸君らは一体何者なのだね?」

 

とある自衛隊駐屯地にある応接室で、数名の女性が取り調べを受けていた。

 

「ですから、私たちは軍艦なのです!」

 

紅白の巫女服を着た長髪の女性が、これまで何度も答えてきた返事を返す。

この数十分、同じ問答の繰り返しばかりだ。

 

「ふむ・・・大日本帝国海軍の軍艦、航空母艦 赤城ね・・・にわかに信じられんな・・・。」

 

煙草を吸いながら、男が赤城と名乗る女性に疑わしそうな目を向ける。

 

「まあそれは今はどうでもいい。私が知りたいことは2つだけだ。」

 

男は口から煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消し、次の煙草に火をつけた。

その態度に赤城は自らのこめかみがピクピクと痙攣するのを感じた。

 

(この男・・・これが初対面の人に物を聞く態度なの!?)

 

赤城は拳を強く握ることで苛立ちをなんとか押さえて、男が言う知りたいこととは何かを問おうとした。

だが、隣に立っていた青白の巫女服を着た女性が「代わりに」というような目配せをして男に問う。

 

「知りたいこと、とは何でしょうか。」

 

その言葉に、男は今度は青白の巫女服の女性に視線を向ける。

まるで値踏みでもしているかのような目付きに、女性は嫌悪感を抱く。

 

(下品な視線を向けないで貰いたいところだけれど、赤城さんも我慢の限界が近いから、仕方ないわね。)

 

女性の目付きが鋭くなったことにも気づかない男は、再び煙草の煙を吐き出しながら、口を開いた。

 

「君はたしか、加賀と言ったか・・・。いいだろう、私が知りたいことは、諸君らは何故、奴等・・・深海棲艦と戦い、勝つことができる?というのが1つ。」

 

そしてもう1つ、と続ける。

 

「諸君らの目的。何が望みなのか。ということだ。まさか善意で我々人類を助けました。なんてことはなかろう。何が狙いなのだね?」

 

応接室に沈黙が訪れる。

赤城たちは視線を床に落とし、誰も口を開こうとはしなかった。質問に答えようとしなかった。

 

否、答えられなかったのだ。

 

なぜなら誰も、何故自分達はあの異形の怪物・・・深海棲艦といったか。

それと戦える、いや、戦わねばならないと思ったのか。

何故、自らの攻撃が深海棲艦に効果を発揮すると確信できたのか。

自分たちの目的、望みは何なのか。

疚しいことなんてない、ただただ、守らなければという衝動に突き動かされていただけなのだ。

 

赤城たちは何一つ、目の前の煙草臭い男を納得させるような言葉を持ち合わせていなかった。

 

数十分の沈黙。いや、数分か。実際には数秒だったのかもしれない。

その沈黙を破ったのは、男でも赤城たちの誰でも無かった。

 

応接室の扉をノックする音が聞こえる。

 

「誰だ!今は重要な会議をしている所だ!後にしろ!」

 

男は苛立ちを隠そうともせず、煙草を灰皿に擦りつけながら扉に向かって怒鳴った。

 

「重要な会議中、失礼します。その会議に関係があると思われる、重要参考人をつれて参りました。」

 

「・・・・・・入れ。」

 

扉の外から聞こえてきた言葉に、男は眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔をしたが、「重要参考人」という言葉に興味をもったのか、外の人間に入室を許可した。

 

「はっ、比良二佐。以下2名、入ります。」

 

応接室の扉が開き、女性が1人、男2人に挟まれるようにして部屋に入ってくる。

 

一体、「重要参考人」とは誰なのだろうか。

この状況をどうにかしてくれる人だとでもいうのだろうか。

落としていた視線を上げ、女性の姿を見たとき、赤城と加賀は思わず声をあげていた。

 

「「鳳翔さん!?」」

 

鳳翔と呼ばれた女性は赤城たちの方へ顔を向け、にっこりと微笑むと、新しい煙草を取り出している男に向け敬礼した。

 

「大日本帝国海軍所属 航空母艦 鳳翔と申します。恐れながら、先程仰られていた質問への返答をさせていただきたく。その代わり、私たちのこれからの処遇についてのお考えをお聞かせください。」

 

先程の微笑みからは想像できないような凛とした表情で、鳳翔は男に話しかけた。

男は煙草をふかしながら、ちらりと鳳翔をみた。

 

「今度は鳳翔、だと・・・?・・・・・・いいだろう、答えてもらえるのならばなんでも構わん。話せ。」

 

相も変わらず、人を苛立たせるような態度の男に、赤城は自分の額に青筋が浮かぶのを感じたが、鳳翔の邪魔をしないよう、ぐっと堪えていた。

その様子を横目で見ていた鳳翔は、視線を男に戻し、話し始めた。

 

「まず、1つめの質問に対する答えですが。私たちが深海棲艦と戦えるのは、推測ですが、お互いが対となる存在だからではないかと考えています。」

 

対となる存在。

その言葉に、男の目付きが変わるのを、その場の全員が感じていた。

 

そして鳳翔は自らの推測を語り始めた・・・。

 

 

 

ーーーーー数十分後ーーーーー

 

 

 

「・・・・・・と、いうことになるかと考えています。」

 

鳳翔がひとしきり話終え、一息つくと、鳳翔の左に立っていた中年風の男、比良と言ったか。が話始めた。

 

「ふむ、簡単に纏めると、深海棲艦は大昔の大戦で沈んでいった軍艦の生まれ変わり、のような物で、沈んだ時の無念や怨念といった負の感情の塊のような物だと。」

 

続けて今度は鳳翔の右に立っていた若い男、こちらは安住だったか。が話し出す。

 

「対してあなた方も、同じく大戦で沈んでいった軍艦の生まれ変わりのような物だが、決定的に違うものがあるんですね。」

 

今度は比良が、それはと続ける。

 

「あなた方は無念や怨念といった負の感情に支配されているわけではない。そして共通して、人間を守りたい。という意思がある。大元にある起源が同じ存在だからこそ、お互いに影響を与え合うことができる。」

 

最後になるほどな、と呟き、比良がいまだに煙草を吸っている男に向き直った。

 

「推測の範疇を出ない話ですが、そう考えると辻褄が合う気がします。いかがでしょう、ここは彼女らの話を信じ、共闘してみては。」

 

それを聞いた男の目がつり上がるが、比良は構わず続けた。

 

「得体の知れない者の力に頼ることに危機感を覚えるのはわかります。ですが、我々人類には深海棲艦に対抗する手段が無く、すでに彼女らに一度助けられているのも事実です。全世界の制海権もその殆どを奴等に奪われています。」

 

「・・・・・・。」

 

男は返す言葉に詰まったのか、煙草をくわえ、続きを促した。

 

「であれば、現在のところ唯一、深海棲艦に対抗する力を持つ彼女らに協力を願い、現状を打破するほか無いと思われます。深海棲艦は陸地の目前まで迫ってきているのです。沖合いでは上陸され、占領されている島もあるという話です。今ここで死に物狂いで踏ん張れなければ、人類は・・・・・・滅ぶでしょう。」

 

「・・・・・・たしかに、世界各国で深海棲艦に対抗する力を持つ人が現れたという報告が次々と上がってきている・・・しかしな・・・・・・。」

 

男が煙草の煙を吐き出し、押し黙る。

それをみた比良がさらに口を開こうとした時、応接室の扉が勢いよく開いて、何かが飛び込んできた。

 

「全員伏せろ!」

 

叫んだのは安住だった。

 

安住は叫ぶと同時に腰のホルスターから拳銃を抜き、鳳翔たちの前へ庇うように飛び出していた。

一方で比良は安住が叫んだ瞬間、阿吽の呼吸で安住の隙をフォローしつつ、男の前へ出て床へ伏せさせ、拳銃を構えていた。

 

「き、緊急連絡です!!」

 

飛び込んできたのは伝令の下士官だった。

全力で走ってきたのか、息も絶え絶えといった様子だ。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

比良が安住に目配せする。

すると安住は伝令が飛び込んできた扉の方向を警戒しつつ伝令に近づいていった。

 

「ノックも無しに飛び込んで来るとは何事ですか。今は戦争中です、事と次第によっては・・・。」

 

安住は伝令に拳銃を突きつけて、先程の行動について問い詰めた。

その声色と雰囲気には、先程までの少し頼り無さそうな面影は全くなく、まるで別人のようだ。

伝令は怯えながらも、手に持っていた書簡を差し出した。

 

「こ、これを・・・大至急最優先で何をおいても届けるようにと・・・。」

 

書簡を受け取り、宛先を確認する。

 

「・・・・・・それだけですか?」

 

「は、はい・・・。」

 

安住は一瞬、比良と視線を交錯させ、そして・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・次は無いですよ。気を付けてください・・・ご苦労様です。」

 

「・・・はい・・・申し訳ありませんでした・・・・・・。」

 

役目を果たした伝令を解放し、緊張を解く。

 

「みなさん大丈夫です。ブレーキの効かない慌てん坊の伝令が転がり込んで来ただけでした。」

 

それを聞いて全員がほっとため息をつき、各々が立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?立てますか。」

 

安住は鳳翔の近くに寄り、手を差し出した。

その雰囲気は、再び少し頼りなさげなものへと戻っていた。

 

「あ、はい。大丈夫・・・です。」

 

手をとり鳳翔も立ち上がるが、先程のことへの驚きからか、まだ少し緊張しているようだった。

 

全員が無事なことを確認すると、安住は比良と男の方へ近づいていく。

 

「・・・・・・これを。」

 

そして書簡を宛先である男に差し出す。

男は乱暴に書簡を奪い取ると、内容を読み始めた。

 

「こ、これは・・・・・・!」

 

その顔色がみるみる変わっていくのを、比良と安住は見逃さなかった。

 

「どうかされましたか。」

 

「い、いや、なんでもない!私はこれで失礼させてもらう!その娘たちは一先ず比良君、君に任せる!」

 

すかさず比良が問いかけるが、男は比良に鳳翔たちの処遇を任せると慌てた様子で部屋から出ていってしまった。

 

「了解しました・・・・・・っと、一体どうしたっていうんだ・・・?」

 

「これは、何かキナ臭い事が起こってそうですね・・・。」

 

「そうだな・・・。」

 

この時の書簡が何を意味していたのか、彼等はすぐに知ることになる。

 

 

 

ーーーーー数日後ーーーーー

 

 

 

「あの時の書簡は、こういう事だったのか・・・。」

 

「全く、上は相変わらずやることがエグいですね。」

 

先日の事件から数日、テレビでは同じニュースが繰り返し流れ続けていた。

 

   深海棲艦へ対抗する兵器の開発に成功!

   国連軍の一翼として新日本海軍が設立!

   秘密兵器の名はーーー「艦娘」ーーー!

 

事態は静かに、けれども急速に動き始めていた・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




あああああああ!
難しい!こんなシーン最初は出てくるなんて思ってなかった!!

考えもなしに発車するものじゃないと思った第3話でした。
いかがでしたでしょうか・・・(~_~;)

赤城さんと加賀さんの登場です。
空母ばっかりじゃん・・・出てくるの_(._.)_
ちなみに、発言していないだけで、二人の他にも艦娘は数名いました。
誰がいたかは・・・イメージするんだ・・・(@_@)


どこまで続くのか、どうなっていくのかわかりませんが、ちょこちょこ書いていきます・・・。

では、また(^q^)シュリュウダンヲナゲロ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3.1話「喰う母」

鳳翔たちの処遇を任された比良。
面倒な所は安住に押し付けつつ、一行の滞在先等の手配に奔走する。
これは、会議室が静かになった後のお話。


山のように積み重ねられる白い円盤、もとい大皿。

もくもくと立ち上る煙を吸い込み続ける換気扇。

赤い塊が熱せられた鉄の網へ投入される。

水が蒸発する時のようなじゅーじゅーという音を立てて、塊の色が変わっていく。

そこから漂う、食欲をそそる匂い。

程よく焼かれたそれを、我先にと口へ運び貪る女たち。

 

「・・・・・・一体どうしてこうなった・・・。」

 

「・・・・・・わかりません・・・。」

 

「比良ちゃん・・・こいつは洒落にならんぜ・・・。」

 

比良の友人が経営する焼き肉店。

入り口に『本日貸切』の張り紙のされた店内では、赤城たちによる焼き肉大戦争が勃発していたのだ。

ここで時間は数時間前に遡る。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

政府高官が電文を読んで飛び出していった後、会議室はなんともいえない空気になっていた。

 

「高官殿が飛び出していってしまったわけだが・・・。」

 

「これからどうします?」

 

比良と安住が苦笑いしながら顔を見合わせる。

 

「ふぅむ・・・どうしたもんかねぇ・・・。」

 

腕を組んで比良が悩み始めた所で、女性の声がした。

 

「あの、私たちはこれからどうなるのでしょう・・・?」

 

不安そうな瞳で上目遣いに比良をみるのは、鳳翔だった。

 

「あの無礼な男は、貴方に私たちの処遇を任せると言っていたようだけれど?」

 

加賀が警戒心を隠そうともせず、冷たい視線を比良に向ける。

どうやら、自分達のことを任せても大丈夫な人物かどうか、見定めようとしているようだ。

 

「そうだな、とりあえずは近場で滞在出来る場所を確保するとして・・・。安住、彼女たちの滞在場所の手配を任せていいか?」

 

「了解。いい温泉宿を手配します。領収書の宛名は艦長にしときますからね。」

 

「おう、それでいい。飯の旨いところを取っておけよ?」

 

「勿論です。我々も特務扱いになるでしょうし、温泉を楽しんでやりましょう。」

 

阿吽の呼吸で温泉宿の手配を始める安住。

ちゃっかり自分達も温泉で楽しもうとしている。

 

「え・・・あの、温泉・・・?」

 

その様子に、加賀は着いていけていないようで、困惑した表情をしている。

他の艦娘も状況が飲み込めていないようだ。

 

「あの、比良さん?温泉ってどういう・・・?」

 

鳳翔が困惑しつつもなんとか問いかける。

 

「おっと、皆さんを放置して話を進めて申し訳ない。現状、あなた方の立場については非常に曖昧なものと言わざるを得ない。それは高官殿が任務を放り出して帰ってしまった為、どうしようもない。そこはわかっていただきたい。」

 

淡々と話す比良に普段の豪快さは無く、完全に仕事モードになっている。

真剣な表情を見て、鳳翔たちは背筋を伸ばして聞いている。

 

「暫くすれば、あなた方の処遇は上から通達があると思われる。それまで上や政府としては、目の届く所に置いて監視したい。という所だろう。」

 

加賀たちの表情が曇り、俯く者も出始めた。

 

「そこで、あなた方を客人として扱い、先の戦闘で我々を救って頂いた礼を兼ねて、暫くは温泉街等の行楽施設でゆっくり過ごしていただく。無論、我々も同行する形にはなるが。」

 

「「「は?」」」

 

比良の言葉に、加賀たちは思わず間の抜けた声をあげる。

 

「これならば、監視という目的は果たせる。何より既に報道機関が海上で戦うあなた方の姿を報道しているはず。深海棲艦に対抗して我々人類を救ってくれた存在に対して失礼な対応を取っていると知れれば、政府が国民からの反感を買うことになる。今のところ発表は無いが、あなた方を『保護』した政府としてはそれは絶対に避けたいだろう。」

 

そこまで言ったところで比良は仕事モードを崩して続けた。

 

「とまあそんなわけで、だ。高官殿が失礼な態度を取った謝罪も含めて、暫くはゆっくりと現在の日本を楽しんでもらいたい。戦争を越えて豊かになった、あなた方の祖国をな。なぁに、上には文句は言わせんさ。なにせ、政府高官直々に『任せる』と言われているからな。がっはっはっは!!」

 

豪快に笑う比良を、鳳翔たちは唖然として見つめていた。

そこへ、「ぐぅぅぅ~~~・・・。」という音が聞こえてきた。

音のした方へ全員の視線が集中する。

 

「あ、あはは・・・。お腹、すいちゃいました・・・。」

 

赤城が頬を朱に染めて照れ笑いしながら、お腹を擦っていた。

 

「ならまずは飯にするか!いい焼き肉の店があるんだ。」

 

「では、別室で待機している方々も連れて行きましょうか。あの店ですよね、予約取っておきます。」

 

初対面の女性たちを食事に連れていくというのに、焼き肉はどうかと安住は思ったが、まあいいだろうと予約の為に電話をし始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

というわけで、比良の友人が経営する焼き肉店に来たまではよかった。

想定外だったのは彼女たちの食欲。

店にある食材全てを飲み込む勢いで肉、野菜、白米がどんどん胃袋に吸い込まれていく。

人数が多かった為、貸切にしていたのだけは幸いだった。

 

ひらひゃん(比良さん)おにふおいひいれふ(お肉美味しいです)!」

 

さふがにひぶんがほうようひまふ(流石に気分が高揚します)!」

 

「肉焼けるのおっそーい!」

 

「ほら飛龍、カルビ焼けたよー!」

 

「蒼龍ありがとー!次は何焼こうか!」

 

「お肉美味しいっぽーい!!」

 

「ああもう夕立、ほっぺにタレが付いちゃってるよ。こっち向いて、拭くから。」

 

「気合い!入れて!食べます!!」

 

「榛名は大丈夫です!まだまだ食べられます!」

 

「比叡も榛名も一杯食べるネー!霧島も遠慮せずに食べるデース!!」

 

「私の計算によると、まだまだ食べられます!」

 

「曙ちゃん、お肉焼けてるよ。はい。」

 

「ん、ありがと。潮も焼いてばかりいないで食べなさい。あたしが代わるから。」

 

「ぼのたん、やっさすぃ~!まさにデレぼnムグ!ちょ、お肉もう口に入らなムガムグ!」

 

「ちょっと曙、漣が窒息するって!」

 

「この厚切り肉・・・胸が熱くなるな。」

 

「長門、もうそろそろいいんじゃないかしら。私が切り分けてあげるわね。」

 

「お肉の焼き加減なら、衣笠さんにお任せ!ほら青葉、撮ってばかりいないで食べなさい。」

 

「皆さんいい食べっぷりですねぇ~!はーい、青葉食べちゃいます!」

 

「加古、寝ながら食べると喉に詰まるよ?」

 

「もぐもぐ・・・Zzz」

 

「はわわわ、コゲちゃったのです。」

 

「電、それは私が食べるよ。ほら、このお肉ならコゲてないよ。」

 

「みでぃあむれあで食べるのが、レディーのたちなみ!!」

 

「お肉どんどん焼くわよ!もーっと私に頼っていいのよ!」

 

出された肉が、野菜が、白米が、出たそばから無くなっていく光景を呆然と眺めることしかできない三人。

ぽん、と比良の肩に手が置かれる。

 

「比良ちゃん・・・・・・支払い、大丈夫か?」

 

「・・・・・・・・・・・・つ、ツケでお願いします・・・。」

 

「私も出しますから、ツケはやめときましょう・・・。」

 

「すみません。うちの子たちが・・・。」

 

鳳翔が申し訳なさそうに何度も頭を下げているが、こればっかりはもうどうしようもない。

光を失った目で、変わらず繰り広げられる焼き肉大戦争をみつめる。

 

「これ、滞在費とか食費、経費で落ちないかな・・・・・・?」

 

大分軽くなるであろう財布を思いながら、次からは抑えて食べてもらおうと決心する比良であった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第3.1話です。

いかがでしたでしょうか。

赤城さんのことだから、お腹がすいていると思うんですよね。
なので、焼き肉回にしてみました。
第3話~第4話でかなり時間が経過している設定なので、ここの間話は第3.9話まで書くつもりです。
ネタがうかんだらちょっとずつですけどね。
今回は短めでしたが、楽しんでいただけたら幸いです。

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話「新海軍」

世界各地に艦娘が出現した日に発表された、新日本海軍の設立。

既に、それから数ヵ月の時が流れていた・・・。


新日本海軍の設立から数ヵ月が経過した。

 

世界各地で艦娘が出現してからというもの、深海棲艦の侵略はほぼ停滞している。

戦闘は散発的で、遭遇戦ばかり。敵が深追いしてくるそぶりもなく、不気味な程静かだ。

テレビ等のメディアでは、深海棲艦は人類の秘密兵器たる艦娘に恐れをなしているといった旨の報道が目につく。

 

深海棲艦は本当に艦娘に恐れをなし、攻勢に出るのを躊躇っているのか。

それとも、隙をうかがい足元をすくうその時を待つ、嵐の前の静けさなのか。

それは誰にもわからない。

 

そのどちらであれ、人類は一時的にだが、戦力を整えるための時間を得たのだった。

 

海自を母体とした新海軍はこれぞ好機と捉え、志願兵を募り、驚異的な早さで巨大組織へと成長した。

しかも、艦娘を運用するための設備も異常とも言える早さで充実していき、新海軍の基地として、鎮守府が建設された。

 

極秘の情報だが、深海棲艦の出現より以前に艦娘の出現は観測されており、日本政府は秘密裏に艦娘を捕獲。

艦娘に対して、聞けば吐き気がするような非人道的な研究もしていたそうだ。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・09:30ーーーーー

 

 

 

「まったく・・・政府の奴等、あんな大事な事を隠してやがったのか・・・。」

 

真新しい制服に身を包み、中年風の男が苛立ちを隠そうともせず毒づいている。

苛立ちの証拠に、先程から足を机の上に投げ出し、非常に行儀の悪い体勢で椅子に座っている。

彼の名は、比良。この鎮守府の提督である。

 

「気持ちはわかります。艦娘の情報を秘匿せず、すぐにでも情報提供をしていれば、いくらかの犠牲は防げたでしょうからね・・・。」

 

少し悲しげな表情でそう言った若い男の名は、安住。提督たる比良の副官である。

こちらも真新しい制服に身を包み、比良の横で背筋を伸ばし「休め」の姿勢で立っている。

 

「ふぅ・・・だが、その研究成果とやらのお陰で、情報提供料を他国からぼったくって海軍の資金を蓄え、こうして艦娘の力を引き出すための設備がこの早さで用意できたと考えると・・・・・・それでも納得はできんがな。」

 

「きっと誰もが思っていることですよ。けれど、抑えてくださいね。貴方はこの鎮守府のトップ、提督なのですからね。比良大佐殿。」

 

大佐と呼ばれ、少し眉間に皺が寄った比良だったが、すぐさまお返しとばかりに嫌味を返す。

 

「わーかってるよ。・・・俺はここを離れられないからな、現場でのことは頼むぞ。前線指揮官たる、安住少佐殿?」

 

「ええ、わかっています。艦娘にも、指揮艦の乗組員にも、犠牲は出させません。」

 

「・・・・・・・・・はぁ・・・。」

 

嫌味を嫌味と受け取らないのか、気づいていないのか。

変な所で真面目な副官にため息をつきつつも、上官として、海自時代からの相棒として、補足してやる。

 

「艦娘も乗組員もそうだが、お前も、だぞ。わかってるか、安住?」

 

すると、安住は「うっ・・・。」と言葉を詰まらせ、咳払いをして誤魔化した。

長年、この相棒と一緒にやってきた比良が、この最高のイジり時を見逃すはずはなかった。

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、早速イジることにする。

 

「もしもお前に何かあれば、泣くのは誰なんだろうな~?」

 

「んなっ!?ほ、鳳翔さんは関係ないでしょう!!?・・・・・・あ。」

 

「俺は一言も、「鳳翔」なんて言ってないんだがなぁ~?ん~?」

 

顔を赤くして反射的に返した安住だが、すぐに失言に気づく。

が、時すでに遅し。比良の満足気な笑みに、安住は頬をヒクヒクさせて笑うしかなかった。

 

「あ、あははは・・・・・・。」

 

つくづくこの人には敵わないな。と思う安住であった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・10:15ーーーーー

 

 

 

「さて、そろそろか。」

 

そう言って、椅子から立ち上がる比良。

 

「そうですね。では、いきましょう。」

 

頷き、提督室の扉を開ける安住。

 

「・・・・・・。」

 

「提督、どうされました?」

 

扉を開けたものの、比良が立ち止まっている。

不審に思った安住が声をかける。

すると比良は少しうつ向いていた顔を上げ、今までに見たことのない程真面目な顔で歩みよった。

そして安住の右肩に自身の左手を乗せながら、こう言った。

 

「安住・・・絶対に、死ぬなよ。生きてこの戦争を終わらせるんだ。お前は前線で、現場で犠牲を減らす所から。俺は上に行って、腐った大本営を変える所から。必ず、生きて、皆で平和を勝ち取るぞ。約束だ。」

 

「はい。必ず、平和な海を取り戻しましょう。約束です。」

 

安住も、これまでに見せたことのない程真面目な顔で、そう言い切った。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・10:30ーーーーー

 

 

 

鎮守府内に備え付けられた、出撃ドッグ。

そこに今、この鎮守府に所属する全艦娘と士官が集まっていた。

 

「あー、テステス。マイクチェック・ワン・ツー。大丈夫です、提督。」

 

よく通る声でマイクテストを行ったのは、金剛型戦艦4番艦である高速戦艦・霧島。

 

「ん、ありがとう。」

 

比良は霧島からマイクを受け取ると指揮壇に登壇し、ひとつ咳払いをして、話し始めた。

 

「諸君、よく集まってくれた。もう知っている者もいると思うが、俺がこの鎮守府の提督の比良だ。」

 

艦娘と士官たちは整列し、比良の挨拶に静かに耳を傾けている。

安住は指揮壇の側で、幹部クラスの艦娘や士官と共に、整列した艦娘や士官を眺めていた。

 

(この短期間でこれだけの艦娘と士官が揃うとは・・・中々壮観ですね・・・。)

 

「ーーー俺からは以上だ。次は艦娘部隊の指揮官からの挨拶だ。安住少佐、頼む。」

 

そんな事を考えていると、比良の挨拶が終わり安住の番が回ってくる。

 

「はっ!」

 

降壇した比良からマイクを受け取り、交代で安住が登壇する。

 

(ラリックスして、しっかりとな。)

 

(それを言うなら、リラックス、ですよ。)

 

すれ違い様、お互いにだけ聞こえる声量で何時もの冗談を言い合う。

あがり性な安住に対する、比良の優しさである。

 

「只今、紹介に預かりました、安住です。出撃の際には指揮艦に乗艦し、艦娘の皆さんと共に戦場へ赴きます。」

 

普段の頼りなさは鳴りを潜め、堂々とした口調で挨拶する安住。

 

「ーーーのため、ーーーーー。」

 

(ふ・・・ちゃんとやれてるじゃないか。もう、余計なお世話だったかね・・・。)

 

部下であり、相棒である男の成長を見て、中年は満足そうに微笑むのだった。

 

「最後に、何があってもこの命令だけは守ってください。」

 

   死ぬな。どんな状況でも絶対に諦めず、生きて帰ることだけを考えろ。

 

「これが、この鎮守府での絶対順守の命令です。以上です。」

 

そう言って最後に敬礼で締め括った安住の挨拶に、艦娘と士官も敬礼で返す。

 

 

 

この日が、人類と艦娘による、深海棲艦との本当の意味での開戦日となった。

 

 

 

ある者は世界の腐敗を正すため。

 

ある者は戦争によるビジネスのため。

 

ある者は信念を貫き通すため。

 

ある者は己の欲を満たすため。

 

ある者は愛する者を守るため。

 

 

 

其々の思惑を胸に、其々の戦いがーーー始まる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第4話です。
今回は比良と安住のコンビにスポットを当ててみました。
男同士の友情、いいですよね~(^_^)

え?お呼びじゃない?
もっと艦娘をだせ?

・・・・・・・・・(^q^)ワカリマシター

なんで一人芝居をやっているのか・・・orz

これから本格的に戦闘が入ってきます。
くるはず・・・くるんじゃない、かな・・・?


これからどうなっていくのか、全然わかりません!
ノープラン!

・・・・・(^q^)テッターイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「抜錨」

鎮守府の本格稼働が始まり、新海軍としての初陣が始まる・・・。


ーーーーー鎮守府・11:00ーーーーー

 

 

 

一通りの幹部艦娘と士官の挨拶が終わり、比良が再び指揮壇へ登壇する。

 

「それではこれより、部隊の編成を発表する。尚、霧島は秘書艦として私の補佐に回ってもらう。」

 

その言葉に、その場の雰囲気が変わる。

正式部隊としての初陣が始まるという事実に、全員の緊張が高まっているのだ。

 

「まずは第1艦隊から。編成はーーー。」

 

   第1艦隊

   ★空母  赤城

    戦艦  伊勢

    軽巡  由良

    軽巡  木曾

    駆逐艦 叢雲

    駆逐艦 響

 

   第2艦隊

   ★空母  加賀

    戦艦  日向

    軽巡  神通

    軽巡  阿武隈

    駆逐艦 時雨

    駆逐艦 夕立

 

   第3艦隊

   ★重巡  利根

    重巡  筑摩

    軽巡  川内

    駆逐艦 吹雪

    駆逐艦 初雪

    軽空母 鳳翔

 

   第4艦隊

   ★重巡  足柄

    重巡  羽黒

    軽巡  那珂

    駆逐艦 綾波

    駆逐艦 敷波

    軽空母 龍鳳

 

   第5艦隊

   ★軽巡  天龍

    軽巡  龍田

    駆逐艦 暁

    駆逐艦 雷

    駆逐艦 電

    駆逐艦 島風

 

   第6艦隊

   ★軽巡  阿賀野

    軽巡  能代

    駆逐艦 睦月

    駆逐艦 如月

    駆逐艦 卯月

    駆逐艦 皐月

 

「敵部隊攻略の主力は第1艦隊と第2艦隊。基本、第2艦隊には第1艦隊の後方支援及び、後詰めの役割をしてもらう。敵の規模によっては、2艦隊を合わせて連合艦隊としても動いてもらうことになるが、その判断は安住少佐に一任する。」

 

「私たちが旗艦・・・一航戦の誇り、見せてやりましょう。(上々ね♪)」

 

「流石に気分が高揚します。(ここは譲れません。)」

 

主力艦隊の旗艦となった赤城と加賀。

二人とも気合い十分のようだ。・・・・・・一人、心の中の台詞と反対になっているようだが・・・。

 

「第3艦隊と第4艦隊は鎮守府周辺海域の警備任務についてもらう。敵を発見した場合は、旗艦の判断で戦闘を許可する。いつ深海棲艦が攻め込んでくるやもしれんからな、重要な任務だ。よろしく頼む。」

 

「我輩が旗艦とな!・・・・・・カタパルトの整備はしっかりせんとな・・・。」

 

「姉さん、私もお手伝いします。」

 

警備という重要な任務に、気を引き締める姉妹がいる一方。

 

「戦場が!私を呼んでいるわ!」

 

「足柄姉さん、あの、落ち着いて・・・。」

 

意気込むあまり、前のめりになる姉と宥めようとする妹もいる。

 

「第5艦隊、第6艦隊には資源確保の為の遠征任務についてもらう。こちらも非常に重要な任務だ。派手な戦闘はないが、気を引き締めてのぞんでもらいたい。」

 

「戦闘に出させろっての・・・ったく。」

 

「うふふ~遠征でも遭遇戦の機会はあるわよ~。」

 

「いよいよ阿賀野の出番ね。うふふ♪」

 

「テキパキと片付けちゃいましょう。」

 

地味な任務に不満を感じる者もいれば、やる気に燃える者もいる。

 

「残りの者は予備隊として、訓練、演習に励んでもらう。が、状況により各艦隊の補充要員として動いてもらうことになるだろう。・・・・・・不満はあるだろうが、これも任務と思ってほしい。」

 

「あたしたちを予備隊に回すなんて・・・やっぱりクソ提督ね。」

 

「あ、曙ちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ。」

 

「・・・・・・・・・ふんっ。」

 

「私たちも予備隊か~。赤城さんたちとまた戦えると思ったんだけどな~。」

 

「まあまあ、蒼龍。提督や少佐も、なにか考えがあるんだよ。」

 

予備隊への配属に、不満を感じる者、割りきる者。

様々な反応を示す艦娘達によって、場が少し騒がしくなる。

 

(艦娘をただの兵器と考える大本営だが、艦娘の身体は人間のそれとなにも変わらない。この、人と変わらない反応をみても、彼女たちを兵器と考えられるのか。・・・・・・腐っているな・・・。)

 

「皆さん、各々思うところはあると思いますが、今は私語は慎んでください。質問や意見等は後程受け付けるように手配しますから。」

 

比良が思考の渦に片足を突っ込んでいると、安住が騒がしくなり始めた艦娘たちに静かにするよう促す。

 

「安住少佐、ありがとう。では早速だが、大本営より海域攻略の指令が来ている。そのため、後程、作戦会議を行う。第1、第2艦隊は14:00に第1会議室へ集合すること。以上、解散。」

 

 

 

ーーーーー第1会議室・14:00ーーーーー

 

 

 

「さて、全員揃っているな?作戦会議を始めよう。安住少佐、頼む。」

 

「はい、提督。」

 

返事と共に、安住がホワイトボードに海図を張り付け、作戦概要を説明する。

 

「今回は、南西諸島方面へ進撃。同防衛線を突破し、南西諸島海域方面への進攻ルートを確保することが目標となります。」

 

続けて海図に丸印をつけ、指示棒を使って詳細を説明していく。

艦娘たちは静かに、時には相槌を打ちながら聞いていた。

 

「ーーー作戦の説明は以上ですが、何か質問や疑問、意見等あればお聞かせください。」

 

一通りの説明を終え、作戦に参加する艦娘たちに発言を求める。

すると、1人の艦娘が手を挙げた。

 

「第1艦隊所属の叢雲よ。1つ聞かせて頂戴。艦隊の編成についてなのだけれど、どうして本隊となる第1艦隊に戦力を集中しないのかしら?第2艦隊は基本的に支援ということになっているわよね。連合艦隊としての艦隊運用も前提にしているのなら、本隊に空母と戦艦を集中させた方がいいんじゃないかしら?」

 

叢雲の発言に、他の艦娘も追従する。

 

「たしかにそれは疑問ね。航空戦力の重要さはわかっていると思う、戦艦の火力もそう。わざわざ2つの艦隊の戦力を等分にしているのはなぜか、教えて貰いたいのだけれど?」

 

「艦隊の編成が下手くそっぽい?」

 

「ちょっと夕立、そんなこと言っちゃだめだよ。きっと何か考えがあるんだよ。」

 

その疑問も、もっともだというように比良と安住は頷く。

 

「たしかに、叢雲と加賀の疑問はもっともだ。通常であれば、本隊に戦力を集中するものだろう。なあ、少佐?」

 

「そうですね。しかし、これには狙いがあります。これまでの間、深海棲艦との戦闘は散発的で、こちらが追撃しようとすれば即座に反転、撤退するといった具合でした。これは単純に戦力差を感じての撤退と上層部は見ているようですが、驚異的な早さで陸地の目前まで侵攻した深海棲艦にしては、この状況は不気味です。私と提督は、この状況は敵の布石ではないかと危惧しているのです。」

 

「布石・・・ですか?・・・提督さん?」

 

由良の反応に比良は頷き、安住に続けるよう促す。

 

「最近の戦闘報告を見ていると、あることに気がつきます。それは・・・。」

 

「敵の深追い、だろう?」

 

安住の言葉を遮ったのは木曾だった。

木曾はすぐに目を伏せ、「すまない、続けてくれ。」と謝罪した。

 

「・・・ええ、その通りです。最近はどの国の戦闘報告を見ても、敵を深追いし過ぎる傾向にあります。もしもこれが、深海棲艦がわざとそうしているとしたらどうなるか。このまま敵を深追いすることが続いた結果、敵の取る戦法は予想できます。こちらをおびき寄せた後の、伏兵による強襲、挟撃。」

 

「・・・・・・まあ、そうなるな。」

 

目を閉じ、腕を組んで話を聞いていた日向が、当然だなというように相槌をうつ。

他の艦娘たちも、ようやくこの編成の意味に気づいてきたらしく、各々頷いている。

 

「伏兵による挟撃をされた場合に備え、それを押さえる保険として戦力を等分している、ということなのね。・・・やだ、結構いいじゃない、これって!」

 

「なるほど、両方に空母がいれば伏兵に空母がいた場合でも十分対処できます。・・・上々ね。」

 

「敵艦隊の編成によっては、水雷戦隊では厳しいことになるかもしれませんからね。」

 

「これなら、こんなあたしでもやればできるかも・・・!」

 

「・・・・・・ハラショー。」

 

ざわつき始めた場を鎮めようと、比良が大きく咳払いをする。

それに気づいた艦娘たちは途端に静かになり、姿勢を正した。

 

「まあ、諸君が気づいた通り、伏兵への保険の意味もある。それに加えて、戦闘で傷を負った者を後方へ下げ、控えている者と交代させるという狙いもある。」

 

それを聞いた艦娘たちは目を丸くした。

なんのためにそんなことを?という疑問が浮かんでいるのがよくわかる。

 

「戦争に犠牲は付き物だということは、よく分かっているがな。諸君は今日聞いた命令をもう忘れたのか?」

 

その言葉を聞いて、艦娘は「あっ・・・!」と声をあげて固まった。

比良の言葉に添えるように、優しい表情で安住も続く。

 

「出来れば誰にも死んでほしくはないと考えているんですよ・・・。提督も、私もね。」

 

静まり返った艦娘たちを少し眺めた後、作戦開始時刻が告げられる。

 

「出撃は明朝08:00。各員、それまでゆっくり休んで鋭気を養ってください。以上、解散。」

 

 

 

ーーーーー翌日、出撃ドッグ・07:50ーーーーー

 

 

 

「では、行って参ります。」

 

指揮艦に乗り込んだ安住が、敬礼する。

 

「おう、行ってこい。無事に戻れよ。」

 

そう言って敬礼を返したのは比良だ。

 

「だーいじょうぶですよ、提督!奴等が近づいてきたら俺たちが機銃や槍で追い返してやりますからね!」

 

「そうだそうだ!最初(ハナ)から艦娘ちゃんたちにケツ拭いて貰おうだなんて思っちゃいませんぜ!」

 

「豆鉄砲だろうが、やりようはあるってことでさあ!」

 

指揮艦内から顔を出した乗組員たちが、口々に言う。

朝から騒がしいが、士気は十分のようだ。

 

「はっはっは!余計な心配だったようだな!っと・・・安住、見送りが来たぞ。」

 

「見送り・・・?」

 

豪快に笑う比良が、目線を出撃ドッグの入り口に向けながら安住に告げた。

安住はなんのことだと思いながら同じ方向に視線を移し、理解した。

 

「ほ、鳳翔さん!?」

 

来訪者に気づいた安住は慌てて指揮艦から降りて鳳翔の元へ向かう。

 

「え、なんで、鳳翔さん?わざわざ、見送り?なんで、え、見送り・・・え?」

 

この状況に動転しているのか、カタコトのようになりながらも安住は浮かんだ疑問を口にした。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・ふぅ。これを、渡したくて・・・。」

 

走ってきたのだろう、鳳翔は両手を膝につき、呼吸を整えている。

鳳翔は息を整えると手に持っていた包みを差し出した。

 

「これは・・・?」

 

「お弁当です。・・・お腹が空いたら、召し上がって下さいね。」

 

そう言って上目使いに安住を見つめる鳳翔。実に色っぽい。

 

(色っぽい・・・。上目使いも可愛い・・・。」

 

「え?///」

 

「あ!?いえ、何でもありません!///」

 

予想もしていなかった事態に加え、上目使いというダブルパンチを喰らった安住。

心の中の声が漏れてしまったようだ。

鳳翔は両手を頬に当てて赤面し、もじもじと恥ずかしさに悶えている。

一方の安住も赤面し、軍帽のつばで目元を隠して目を泳がせている。

そしてあたふたしながらも、鳳翔からお弁当の入った包みを受けとる。

 

「お、お弁当、ありがとうございます。味わっていただきますね・・・///」

 

「はい・・・・・・ふふっ///」

 

お互いに頬を朱に染めて照れあう様は、まるで新婚さん、いや、付き合い始めの恋人といったところか。

その様子を比良は苦笑しながら、乗組員は羨ましそうな表情で、少し離れた所から見ていた。

 

「おーい。二人の世界に入っている所悪いが、そろそろ時間だぞ~。」

 

比良の声に我に帰った二人は、顔を真っ赤にして慌てふためくのだった。

 

 

 

少しして落ち着くと、二人は向き合って敬礼し。

 

「では、鳳翔さん。行って参ります。」

 

「・・・はい、いってらっしゃいませ、安住少佐。お早いお帰りをお待ちしていますね。」

 

別れを惜しむように見つめあっていた二人だが、やがて安住が敬礼を解くと回れ右をして指揮艦へと向かっていった。

その後ろ姿を、今にも泣き出しそうな表情で見つめている鳳翔に気づいたのは、比良だけだった。

 

 

 

「では、今度こそ行って参ります。」

 

「おう、貴艦隊の武運と戦果を期待する!」

 

比良は再度、安住と敬礼を交わし、出撃する艦隊を見送る。

その瞳が少し寂しそうな色を宿していたことに、気づくものは誰もいない・・・。

 

 

 

「全艦、抜錨!これより作戦を開始します!」

 

深海棲艦への反攻作戦が、今、始まるーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第5話であります。

いよいよ艦隊出撃です。ここまで長かった・・・ようで短いんですよね・・・(@_@)
やっと艦娘を沢山出せるところまできました!がんばった!うん!
え?名前しか出てない娘も沢山いるじゃないかって?
それは・・・こ、これから!これからですから!

がんばり・・・ます(@_@)


さて、提督の皆さんならお気づきでしょう。
進撃するのは1-4です。
最初の関門ですね~。
戦闘シーンちゃんとかけるだろうか・・・。


鳳翔さんと安住がいちゃついてます。はい。
時間のとんだ数ヵ月の間に色々あった、ということで・・・。
そこの辺りはおいおい書こうかとは思ってます。
でも今は、先に進ませてくださいいい。


では・・・また・・・(^q^)ニゲロー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「南西諸島防衛線・1」

海域解放の指令を受け、南西諸島方面へと出撃した主力艦隊。
しかし、作戦海域は異様な静けさに包まれていたーーー。


ーーーーー南西諸島沖・11:30 深海棲艦隊防衛線付近ーーーーー

 

 

 

「作戦海域に入って暫く経ちますが、敵の気配がありませんね・・・。赤城さん、索敵機からは何も?」

 

「はい、少佐。索敵機から敵艦隊発見の報告はありません。加賀さんの方は?」

 

「こちらもダメね。収穫はないわ・・・不気味ね。」

 

現在、第2艦隊は第1艦隊のはるか後方に位置して、2段階での索敵を行っている。

道中の海域では小規模な敵部隊との戦闘はあったものの、航空部隊による先制攻撃によって、敵部隊に発見される前にこれを撃破している。

だが、南西諸島沖海域へ入ってからというもの敵の気配が無く、奇妙な静けさが続いていた。

 

(そろそろ敵防衛線だというのに・・・。なんでしょう、この違和感は・・・何か見落としている・・・?)

 

指揮艦で報告をうけた安住は腕を組み、海図を見ながら様々な可能性について考えている。

 

「瑞雲が使えれば、すぐにでも敵艦隊を見つけられるのにな・・・。」

 

「もう、日向さっきからそればっかりじゃない!どんだけ瑞雲好きなのよ・・・。」

 

「敵に気づかずに素通りしちゃったとかっぽい?」

 

「夕立、さすがにそれはないと思うよ・・・。作戦海域に着くまでには戦闘はあったわけだからね。」

 

「「・・・・・・司令官。」」

 

周辺警戒をしている艦娘たちの通信に耳を傾けながら思考を巡らせていると不意に2つの声に呼ばれる。

 

「何でしょう、叢雲さん、響さん。」

 

「響から先にどうぞ。たぶん、同じことを考えてると思うけど。」

 

「叢雲・・・・・・わかった。司令官、ここまで進攻しているのに何もないというのは流石におかしい。これは推測なんだが・・・。」

 

二人の艦娘がたどり着いた推測、その言葉を待つ。

 

「敵の潜水艦にすでに発見されていて、わざと包囲網の奥に誘い込まれている、という可能性はないかい?」

 

それを聞いた瞬間、安住は全身の血が凍るような寒気を感じた。

 

(潜水艦・・・!そうだ、つい最近の報告に深海棲艦の潜水艦が確認されたという情報がありました・・・!)

 

「私も同意見ね。こんな敵陣深くまで、迎撃部隊が出てこないなんて奇妙よ。潜水艦は基本的に単独か少数で動くし、こちらは対空警戒ばかりしていた。装備も対空装備が多いし、敵潜水艦に気づかなかった可能性は高いと思うわ。」

 

「まあ・・・そうなるな。」

 

(日向、その口癖にはまってるのかしら・・・?)

 

叢雲の言う通りだった。偵察部隊からの報告で、敵防衛部隊には空母がいるという情報も入っていたため、航空攻撃を警戒して空ばかり見ていた。

 

(くっ・・・なんということだ。航空攻撃を気にしすぎるあまり、足元への警戒を怠るとは・・・。どうする・・・・・・今から対潜警戒をしたところで、偵察を終えた敵潜水艦は付近にはいないでしょう・・・。既に見つかっているとするならば、挟撃や待ち伏せの可能性も・・・自分が相手側ならどうする・・・?)

 

警戒を怠った失態に下唇を噛みながら、安住が次に取るべき行動を考え始めたその時だった。

 

「赤城航空隊、索敵3番機より入電!敵機動部隊を発見!」

 

「!」

 

敵部隊発見の報に、艦隊全体に緊張がはしる。

 

(よりにもよってこんなときに・・・!)

 

「続いて敵艦隊の編成、来ます!軽空母ヌ級2隻、重巡リ級1隻、駆逐ハ級2隻・・・輪形陣のようです!」

 

(軽空母・・・なるほど、それならば・・・。)

 

赤城からの敵艦隊の詳細報告を受けた安住が艦隊へと指示をだす。

 

「第1艦隊は対空、対水上戦闘用意!赤城さんは直ぐに攻撃隊を上げてください!」

 

「了解!第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

「本当の戦闘ってヤツを教えてやる!」

 

「第2艦隊は警戒体勢のまま待機。追って指示を出します。」

 

安住の号令のもと、各艦が戦闘体勢に入る。

赤城も矢を放ち、攻撃隊が発艦していく。

 

「由良さん、神通さん、阿武隈さん、赤城さん、加賀さん。少しいいですか?」

 

「なに?司令官さん。」

 

「なんでしょう?」

 

「あたしに相談?そうなのね!」

 

「作戦会議でしょうか?」

 

「なにか相談?いいけれど。」

 

「ええ。お願いがあるのですがーーー。」

 

 

 

ーーーーー数分後ーーーーー

 

 

 

「・・・由良のいいところ、見せちゃおうかな?」

 

「・・・神通、やってみますね。」

 

「・・・これならあたしでもやれるかも!」

 

「・・・なるほど。了解です、すぐ妖精たちに準備させますね。」

 

「・・・わかりました。」

 

「妖精さんたちにも苦労をかけますが、宜しくお願いします。」

 

安住の指示で数名の艦娘が慌ただしく動き出す。

 

(私の予測が正しければ、これで・・・。)

 

「まもなく、第一次攻撃隊が敵の攻撃隊と接触します!」

 

いよいよ、赤城航空隊と敵の航空隊との戦闘が始まろうとしていたーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー続く




第6話です。
長くなりそうなので数話に切ることにしました。

まずは航空隊同士のぶつかり合い。
航空戦の様子、書けるかな・・・?
もしかしたら6.X話の形で書くことになるかも・・・(*_*)

ちょこちょこ読んでもらえてるのかな・・・?
読んでもらえてるといいなぁ。

次回はたぶん、航空戦を書く・・・かも?

では、また~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「南西諸島防衛線・2」

赤城から放たれた矢たちは姿を変え、3種類の艦載機となっていた。

航空戦の花形であり、攻撃隊の護衛や制空を担う、大空の覇者、艦戦。
零式艦上戦闘機21型。通称、零戦21型。

魚雷を搭載し、海面スレスレからの雷撃で敵艦を仕留める、低空の騎兵、艦攻。
九七式艦上攻撃機。通称、九七艦攻。

優雅に空を散歩し、高空からの急降下爆撃を得意とする、雲上の鉄槌、艦爆。
九九式艦上爆撃機。通称、九九艦爆。

これらを操る搭乗員妖精たちの熱い戦いの火蓋が、切って落とされようとしていたーーー。


ーーーーー南西諸島沖 上空・11:50ーーーーー

 

 

 

「さあ、そろそろ敵航空隊との接触予想空域だ。久々の実戦で腕がなるな。深海棲艦機はどいつも爆戦みたいなもんだからな、少し逃がしただけでも大変なことになる。分かってるな、ヒヨッ子ども!」

 

零戦隊の隊長機から隊列各機へ通信がとぶ。

 

「わかってるっすよ~隊長~w」

 

「一機たりとも艦隊へは向かわせません!」

 

「この戦闘が終わったら、ご褒美で赤城に膝枕してもらうんだ・・・うひひ♪」

 

「初陣だぁ・・・緊張してきた・・・。」

 

気合い十分といった様子で応える数十機の隊列機たち。

約1名、言動がおかしいのがいるが、気にしないでおこう。

 

「おう最後尾の新入りヒヨッ子、お前はこれが初陣だったな。」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

「肩の力を抜いて、深呼吸しろ。そんなんじゃ一番先に落とされちまうぞ。」

 

「は、はい!すぅー・・・・・・はぁー・・・・・・ちょっと落ち着いてきました。」

 

深呼吸したことで、ガチガチに緊張している新入り妖精は、少し落ち着きを取り戻してきたようだ。

 

「普段の訓練を思い出して、その通りやればいいんだ。わかるな?」

 

「は、はい・・・訓練通り・・・。」

 

「そうだ、いつも訓練で言ってるだろう?零戦は機動性や運動性能がいいが、そのぶん繊細な部分を持っている機体(レディ)だ。だから、扱う時は初めてのオンナを抱く時のように、大胆かつ繊細に、だ。」

 

「大胆かつ繊細に・・・って、抱く時みたいにってなんですかそれ!?今初めて聞きましたよ!?」

 

「はっはっは!この前観たアニメとやらでちょっとな。・・・・・・落ち着いたか?」

 

「!」

 

隊長機からの冗談混じりの言葉に、ようやく新入りの緊張は解れたようだ。

 

「まー、敵機に追いかけ回されたら逃げ回ってろ。直ぐに助けに行ってやる。」

 

「ありがとうございます・・・隊長。」

 

感動して涙ぐむ新入り。

そこへ隊列機からのヤジが飛んだ。

 

「ひゅー!隊長イケメンっすねー!これは惚れるわ~w」

 

「やかましいわ!大体、初めての戦闘で敵に追いかけ回されて半ベソかいてたのは、どこのお調子者だっけな?」

 

「そいつは言わない約束っすよ~w」

 

「逃げ回ってれば、そうそう落とされやしないからね。諦めずに助けを待つんだよ。」

 

「うぅ・・・たいちょお・・・しぇんぱい・・・。」

 

まるで戦闘直前だとは思えない雰囲気で騒ぐ妖精たち。

そこへ、艦攻隊長機と艦爆隊長機から通信が入った。

 

「こちら艦攻隊長機!11時方向、敵攻撃隊とおぼしき編隊を視認!」

 

「艦爆隊長機だ。こちらも確認した。」

 

「おいでなすったか・・・。零戦隊了解。艦攻隊、艦爆隊は所定の高度へ退避。我々が敵機を引き付けてる間に敵艦隊へ向かってくれ!」

 

「「了解!また赤城で会おう!!」」

 

艦攻隊と艦爆隊がそれぞれ低空、高空へ退避していく。

敵もこちらに気づいたらしく、編隊を散開させ戦闘体勢に入ったようだ。

 

「各機散開!パーティーの始まりだ!落とされるなよ!!」

 

「「「「応!!」」」」

 

合図と共に散開し、赤城零戦隊は敵航空隊との戦闘に突入した。

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖 第1艦隊・12:00ーーーーー

 

 

 

「・・・・・・赤城零戦隊、敵攻撃隊との戦闘を開始したようです。」

 

「了解です。頼みましたよ・・・妖精さんたち・・・。」

 

不安そうな顔で航空隊の飛び立った方向を見つめる安住。

声色からそれを察したのか、加賀から通信が入る。

 

「赤城さんの航空隊だもの、優秀な子たちだから心配はいらないわ。それよりも、こちらも行動を開始するわね。」

 

「はい、頼みます。第1艦隊は前進、航空攻撃の終了と同時に敵機動部隊へ砲雷撃戦を開始します!第2艦隊は先程伝えた指示通りに!」

 

「「了解!」」

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖 上空・12:05ーーーーー

 

 

 

敵攻撃隊と接触してから数分、上空では激しい航空戦が繰り広げられていた。

 

「はっはーwまずは1機~w」

 

お調子者の零戦が正面から突撃してきた敵機をすれ違い様に撃ち墜とす。

 

「おれっちと正面反攻なんて早すぎたね~wお次はドイツかな~w」

 

お調子者は機体をクルクルと回転させ、次の敵機を探しに飛んでいった。

 

 

 

「お、編隊から遅れたカモがいるね。突入!」

 

真面目ちゃんの零戦が、艦隊に向かって低空を飛ぶ編隊を見つけた。

そして遅れた敵機を発見し、反転急降下。

機銃を撃ち込み、撃墜する。

 

「真下も危ないけど、真上も危ないって覚えておくといいよ。編隊も崩れたようだし、このまま残りをいただくとしようかな。」

 

真面目ちゃんは編隊の残りの敵機を撃墜しに向かった。

 

 

 

「す、すごい・・・!先輩たちに負けないようにがんばらないと!敵機発見、突入!」

 

新入りの零戦も単独で飛ぶ敵機に狙いを定め、背後から突撃する。

 

「喰らえ!」

 

敵機の背後を捉えて機銃を打ち込む。

だが、敵機は右に左に回避行動をとり、なかなか命中しない。

 

「くっそーー!うろちょろと逃げるんじゃないよ!カトンボみたいに!」

 

新入りが手こずっていると、敵機の横から機銃が掃射され撃墜される。

 

「えっ!?誰が横取りを!」

 

機銃弾の飛んできた方を見る新入り。

その目に飛び込んできたのは・・・。

 

「ウーウーw(^q^)イイレスw」

 

「・・・・・・。」

 

ちょっと発言のおかしかった零戦であった・・・さらにおかしくなっているが、気にしてはだめだ。

新入りが呆然としていると、おかしい妖精はすぐに次の敵機へ向かって飛んでいってしまった。

 

「イケーw(^q^)トツゲキーw」

 

(一応先輩だから何も言えないいいいいい!)

 

「・・・・・・はっ!隊長は?隊長はどこに・・・大丈夫かな・・・?」

 

 

 

「オレが大丈夫かだって・・・?」

 

どこからか聞こえてきた声と共に、敵機が撃墜される。

 

「隊長は一体何機撃墜したんだ!?の間違いじゃないのか?これで7機目!ビッグ7ならぬラッキー7だな!」

 

余裕の隊長である。

 

「さて、お次はどいt「ひぃぃぃぃぃ!助けてぇぇぇぇ!」

 

隊長が次の獲物を探していると、悲鳴が聞こえてきた。

悲鳴のした方を見ると、新入りが敵2機に追い回されていた。

 

「今行く!まってろ!」

 

それを確認した隊長はすぐさま機体を旋回させ、新入りを助けに向かった。

 

 

 

新入りは必死に逃げ続けていた。

 

「ひぇぇぇぇぇ!」

 

真後ろから機銃の弾が次々と飛んでくる。

それをなんとか機体を回転させてかわす。

しかし相手は2機、さすがに多勢に無勢で、少しづつ被弾し始めていた。

 

「ちょま!あたってるあたってる!?翼が穴だらけにぃぃぃ!!」

 

徐々に被弾が増え、機体の各所に穴が空いていく。

 

「もうむりぃぃぃぃぃ!「待たせたな!新入り!!」・・・え?」

 

その声と同時に前方から白い影が猛スピードで迫ってきた。

 

「隊長!?ちょ、ぶつかるーーーーーー!!」

 

隊長機が全速力で突っ込んできていたのだ。

新入りは正面衝突を覚悟し、目を瞑った。

しかし、衝突する寸前で隊長機がきりもみ回転し、衝突を避けた。

それと同時に機銃を撃ち、新入りを追い回していた敵機を2機共撃墜したのだった。

 

「い、生きてる・・・助かった?」

 

何が起こったのか、新入りが目を白黒させていると、いつの間にか隊長機が左側を並走して飛んでいた。

 

「無事か?」

 

「は、はい・・・助かりました、隊長・・・。」

 

「まったく、ヒヨッ子のくせして他人の心配なんぞするから後ろを取られるんだ。まだ飛べるな?」

 

「機体はボロボロですけど、なんとか・・・。」

 

実際、新入りの機体はもう飛んでいるのが不思議な程、穴だらけだった。

 

「ならお前は離脱して赤城に戻れ。残りはオレたちでやっておく。一人で帰れるな?」

 

「・・・・・・はい、了解です。離脱します・・・隊長、どうかご無事で。」

 

「おう。戻ったら赤城に泣きついとけ。」

 

新入りは隊長に敬礼すると機体を旋回させ、艦隊へと戻っていった。

 

 

 

「さて、なんとか艦隊や攻撃隊に向かう敵機は食い止めているが・・・すり抜けていったやつはいないよな?」

 

隊長は新入りが戻っていった、艦隊の方角をチラリとみたが、すぐに激しい空戦を続ける隊列機の援護に向かった。

 

「・・・・・・攻撃隊は上手くやれてるだろうか・・・。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第7話です。

いかがでしたでしょうか?
お楽しみ頂けたなら幸いです。

ついに始まりました、戦闘シーン。
今回は普段の艦これでは一瞬で終わる、航空戦です。
その中でも、制空権の争奪戦にフォーカスしております。
これはちょっとIL-2の動画を参考にしたところがあります・・・(-_-;)

ただ、これを毎回書くのはつらいので、こまごまと書くのはこの南西諸島防衛線だけかもしれないです。
次回は敵艦隊に向かった艦攻隊と艦爆隊の戦闘になります。


次回もお楽しみくださいませ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「南西諸島防衛線・3」

零戦隊の援護を受けて戦闘空域を離脱した艦攻隊と艦爆隊。
敵機動部隊を粉砕すべく、彼らの猛攻が、今始まるーーー。


ーーーーー南西諸島沖・12:15 敵機動部隊付近ーーーーー

 

 

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

高空から敵艦隊を探していた艦爆隊の1機から攻撃隊全機へ報告が上がった。

 

「あれか、索敵機からの報告通りだ。輪形陣でヌ級のカス共を守っていやがる。」

 

「中央列の先頭が重巡リ級、続いて軽空母ヌ級が2隻、両側面に駆逐ハ級が1隻づつか。艦攻隊長、どう攻める?」

 

敵艦隊の個艦ごとの位置を確認し、艦爆隊長が艦攻隊長に相談をもちかけた。

 

「そうだな・・・5隻とはいえ相手は輪形陣で対空戦闘に備えてやがるからな。ここはオイラたち艦攻隊が先に突っ込んで対空砲火を引き付ける。その隙をついて、艦爆隊が突入するのはどうだ?」

 

「ふむ、艦爆隊に華を持たせてくれるのか・・・悪くない。だがそれだと艦攻隊が敵の弾幕にまともに突っ込むことになるが、大丈夫なのか?」

 

深海棲艦の対空砲火は凄まじく、まさに弾幕と形容するに相応しい。

それに身を晒そうという艦攻隊を、艦爆隊長は心配しているようだ。

 

「そりゃあキツくないって言ったら嘘になるけどな。それでも九九艦爆よりも九七艦攻の方が足が早いし、海面スレスレを飛べば敵の対空砲火も当たりづらくなるだろ。それに、魚雷を投下したらさっさとズラかればいい話だ。」

 

艦爆隊長の心配をよそに、艦攻隊長はヘラヘラと笑う。

 

「そういうことですぜ、艦爆のダンナ!オイラたち艦攻乗りは低空での飛行になれていやす。だから心配はご無用でさあ!」

 

「むしろ、敵直上からの急降下なんてする艦爆隊の方が心配になりやすな。」

 

艦攻隊の面々も、自信ありといった様子で、むしろ艦爆隊の心配をしている者もいるようだ。

 

「ふっ・・・ならば先鋒は諸君らに任せよう。頃合いを見て我々も続く。」

 

艦爆隊長は、血気盛んな艦攻隊の様子に観念した様子で作戦を受け入れた。

実際、九九艦爆は固定脚で足が遅い。対空砲火を引き付けてもらえるというのなら、願ったりだ。

 

(しかし、艦攻隊には少なくない犠牲がでるだろうな・・・。仕方のないこととはいえ・・・。)

 

「いよぅし、野郎共!深海棲艦に魚雷のプレゼントを届けるぞ!!ついでに、艦爆隊の露払いと洒落こもうぜ!」

 

「「「「やっちゃるぜ!」」」」

 

作戦が決まり、ついに敵艦隊への攻撃が開始されるーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「艦攻隊全機!突撃体形作れ!!敵艦隊の右翼から接近するぞ!!」

 

隊長の指示に従い、艦攻隊各機が突撃体形を作る。

 

「全機よぅく聞け!我々赤城艦攻隊が、敵艦隊攻撃の一番槍の名誉を戴く!ここまでの戦闘では温存するためとはいえ、加賀航空隊にケツを拭いて貰ってきた!今こそ屈辱と鬱憤を晴らす時!我らの狙いは重巡リ級と駆逐ハ級!野郎共、魚雷の槍を敵さんにブッ刺すぞおおおおお!!」

 

「「「「我らの魚雷は最強の槍ィィィィィィ!!」」」」

 

隊長の鼓舞に燃え上がる艦攻隊が、低空から敵艦隊へ接近していく。

深海棲艦もそれに気づいたようで、すぐさま対空射撃が開始され、視界が弾幕で覆われる。

 

「ふはははは!そんなへなちょこ弾があたるかいな!」

 

しかし、艦攻隊は大笑いしながら低空飛行を続け、弾幕の下を潜っていく。

肝が座っているのか、怖いもの知らずなのか・・・まあそれは今はどうでもいいことだ。

 

「これで弾幕ってか?なめられたもんdうわちぃ!?」

 

「4番機!?くそ!4番機がやられた!」

 

それでも弾幕は弾幕。絶え間なく射撃される機関銃が艦攻隊の行く手を阻む。

そして不運にもつかまった艦攻が空中で爆散する。

弾幕はパワーとは、よくいったものだ。

 

「ビビってるんじゃねぇぞ野郎共!タマぁついてんなら度胸を見せやがれ!」

 

「下品ですぜ隊長っととと!?右翼に被弾した!だがこのくらいで退くと思ったか!進路ヨーソロー!」

 

数十機からなる艦攻隊だが敵艦隊に近づくごとに、被弾し、墜落や爆散する機が増えていく。

 

「ぐはぁっ!・・・・・・赤城・・・オイラの・・・牛缶・・・・・・食うな・・・よ・・・。」

 

「被弾した!?このオイラが!?・・・だがまだいけrぐわあっ!?」

 

だが機体に穴が空き、発動機が黒煙を噴こうとも、彼らは一歩も退かない。

そしてついに、隊長機が魚雷を投下する。

 

「この弾幕を抜ければ・・・!よぅし、投下地点だ!魚雷投下ァ!!たっぷり味わいなぁ!!」

 

「隊長に続きやすぜ!赤城デリバリーから魚雷のお届けでーーす!!投下ァ!」

 

「返品、交換は受け付けておりませーーーん!魚雷投下ァ!!」

 

「クーリングオフ?なにそれ、おいしいの?魚雷投下ァ!!」

 

弾幕を掻い潜った後続機も続いて魚雷を投下していく。

魚雷は水面下を凄まじい速度で敵目掛けて走り続け、そしてーーー。

 

「G")oe!?4G"'33!?」

 

「bbW2・・・dR"]k・・・?」

 

重巡リ級と右翼の駆逐ハ級に魚雷が命中し、悲鳴があがる。

駆逐ハ級にはその後も次々と魚雷が襲いかかり、あっという間に撃沈された。

 

「これで終わりと思うなよ?カス共め!」

 

そう、まだ航空攻撃は終わってはいないーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

敵艦隊のはるか上空、眼下に見える艦攻隊が突撃体形を作るのを確認し、艦爆隊長が口を開く。

 

「・・・・・・始まったようだな。では、こちらも始めよう。全機、突撃体形を作れ。」

 

隊長の静かな指示に従い、艦爆隊が2隊に別れ、縦列の突撃体形を形成する。

 

「我々の目標は2隻の軽空母ヌ級だ。これを爆撃し、敵の発艦能力を奪って第2次航空攻撃を阻止する。」

 

艦爆隊の各機は静かに隊長の言葉を聞いている。

血の気の多い艦攻隊とは対象的に、こちらは落ち着いた雰囲気だ。

 

「敵の対空砲火は艦攻隊が引き付けてくれている。我々にとってこれ以上のお膳立てはない。」

 

隊長は隊列各機へ通信を送りながら、再び眼下の艦攻隊の様子を見る。

作戦通り、敵は艦攻隊に気を取られてこちらには気づいていない。

 

(やはり、全砲火が集中した弾幕を抜けるのは至難の技か・・・。何機か墜とされているな。)

 

「我らが艦爆隊には、急降下に怖じ気づいて操縦悍を引く臆病者はいない。そうだろう?」

 

隊長の静かな鼓舞に、隊列機が応える。

 

「いつでも準備はできています!」

 

「艦攻隊の犠牲、無駄にはしませんよ!」

 

艦爆隊も、艦攻隊に負けず劣らず、士気は高いようだ。

燃え盛る業火が艦攻隊ならば、こちらは静かに燃える炎といったところか。

そして艦爆隊が敵艦隊の直上へと到達する。

 

「敵がようやくこちらに気づいたようだな。だがもう遅い。全機突入!こちらからもプレゼントをお届けしよう!」

 

「「「「了解!」」」」

 

いよいよ始まった対空砲火をものともせず、隊長の合図と共に機体を反転させ、急降下に入る艦爆隊。

敵艦隊を見ると、艦攻隊の魚雷攻撃が成功し、損害を与えているようだった。

 

「駆逐ハ級を1隻葬ったようだな。対空砲火も弱くなっている。」

 

「この程度の対空砲火など恐れるに足らず。ですね。」

 

急降下しつつも状況を分析する艦爆隊。

余裕の落ち着きということだろうか。

 

「高度よし、角度よし、爆弾を投下する。」

 

そんな1コマも束の間、隊長機が爆弾を投下した。

隊列機もそれに続く。

 

「ここだ!爆弾投下!」

 

「爆弾投下ー!離脱しmうわあ!」

 

「くそ!7番機が対空砲火に捕まったぞ!投下!」

 

「誰だ、ビッグ7ならぬラッキー7とか言ったやつは!爆弾投下!」

 

弱くなったとはいえ、さすがの対空砲火だ。

爆弾を投下し、離脱の為に機体を起こした所を狙われて、数機が弾幕につかまる。

 

「やはりこちらにも被害はでるか・・・しかし!」

 

投下された爆弾は目標目掛けてまっすぐに落ちていき、そして・・・。

 

「命中を確認。軽空母ヌ級の撃沈を確認。」

 

「こちらもヌ級の中破を確認しました。これで敵の第2次攻撃はありません。」

 

艦爆隊の爆弾も次々に命中し、敵空母の無力化に成功した。

戦果を確認した攻撃隊は、用は済んだとばかりに空域から離脱していく。

 

「よろしい。では艦攻隊と合流して赤城に帰投しつつ、戦果を報告するとしよう。艦隊はもうそこまできているはずだ。」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第8話です。

いかがでしたでしょうか・・・。
今回は艦攻隊と艦爆隊の連携攻撃でした・・・が。
・・・・・・書いててめっちゃ疲れました・・・(@q@)

今後は省略していくと思われます・・・たぶん。
まあ、艦これでは一瞬の出来事ですが、その中にはこんなドラマがあるんだろうなーって思って楽しんで貰えてたら幸いです。

次回はいよいよ砲雷撃戦に突入していきます。
ちゃんと書けるのか心配になってきました・・・。


では、次もお楽しみくださいませ。また~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「南西諸島防衛線・4」

航空隊の活躍により敵艦隊に大打撃を与えることに成功した。
満身創痍の深海棲艦に引導を渡すべく、砲雷撃戦が開始されようとしていたーーー。


ーーーーー南西諸島沖・12:30 第1艦隊ーーーーー

 

 

 

零戦隊の会敵からおよそ30分、第1艦隊は敵艦隊まであと少しの距離まできていた。

 

「攻撃隊より入電!『我、先制攻撃ニ成功セリ!敵ハ被害甚大ナリ!』とのことです!」

 

「了解です。敵の損害状況はわかりますか?」

 

「はい、重巡リ級が大破、駆逐ハ級を1隻撃沈、軽空母ヌ級は1隻撃沈、1隻中破とのこと。制空権も掌握したし、上々ね♪」

 

攻撃隊の戦果に、赤城は上機嫌のようだ。

慢心、ダメ、ゼッタイ。はどこにいったのだろうか・・・。

 

「では、赤城さんは航空全隊を収容、同時に次の攻撃隊の準備を急がせてください。」

 

「了解しました。・・・え?」

 

安住の指示に従い、次の攻撃へ向けて艦載機の準備を始めた赤城。

しかし、その表情が急に真剣なものへと変わる。

 

「赤城さん?なにかありましたか?」

 

安住が問いかける。すると、赤城が血相を変えて報告する。

 

「被弾帰投中の零戦から入電!こちらに向かう敵攻撃隊を確認!恐らくは零戦隊の迎撃をすり抜けたものと思われます!!」

 

「対空電探に感あり!10時方向、敵編隊を視認!機数は12機、編隊が3つに別れた・・・突っ込んでくるぞ!」

 

赤城の報告とほぼ同時に木曾から敵機発見の報があがる。

瞬間、艦隊に緊張が走る。

 

「全艦、対空戦闘用意!射程に入り次第、撃ち方始め!!敵は空母を狙ってくるはずです!」

 

「くっ・・・まさか零戦隊が取り逃がすだなんて。慢心していたというの・・・?」

 

安住からの号令を待たずに、艦娘たちは対空戦闘の体制を整え、対空射撃を開始していた。

 

「対空機銃撃ち方始め!三式弾装填!主砲、6基12門、一斉射!!」

 

「さて、やりますか。」

 

「よーく狙って・・・ってー!」

 

(さすがですね。こちらが指示をだすまでもなく、やるべきことがわかっている。これは下手に口を挟むよりも、情報整理や周辺警戒をしていたほうがいいかもしれない・・・。)

 

伊勢の主砲が吠え、敵編隊に向けて三式弾が発射される。

三式弾とは、簡単にいうと対航空機迎撃用の散弾といったところだ。

砲弾が炸裂すると、内部に入っていた無数の子弾が炸裂地点周辺にはじけとび、弾幕を形成する。

基本的には対空用であるが、その特性から対地攻撃にも効果を発揮する。

 

「砲弾炸裂まで・・・・・・3、2、1・・・三式弾、予定通り炸裂。・・・先頭の敵編隊、全滅!次の編隊を狙撃するよ、次弾装填急いで!」

 

三式弾は3つに別れた敵編隊の先頭の4機の目前で炸裂し、纏めて敵機を葬った。

その間にも他の艦娘からの対空砲火が着々と効果を発揮していく。

 

「赤城はやらせないわよ!この10cm連装高角砲と提督が引っ張ってきた試作の91式高射装置、その対空射撃を抜けられるものなら、抜けてみなさい!!」

 

「ハラショー。たまには派手に撃ちまくるのも悪くない。」

 

叢雲と響の息のあった圧倒的な弾幕形成により、逃げ場を失った敵機が次々と撃墜される。

そしてあっという間に最後の敵編隊にもその牙を剥く。

 

「この編隊で最後!よく狙って!」

 

「弱すぎるっ!・・・・・・っ!?敵機が魚雷を投下したぞ!あの方向は・・・狙いは指揮艦か!?」

 

「やらせない・・・!!」

 

「響!?・・・・・・あの子まさか・・・!」

 

対空砲火で最後の敵機を撃墜するが、置き土産とばかりに敵機が魚雷を投下した。

その進行方向には指揮艦があり、このままいけば魚雷は指揮艦に命中、撃沈は避けられないだろう。

 

「魚雷接近!かわせかわせ!」

 

「かわすったってこの距離じゃどうしようもないぞ!」

 

「くそっ機銃で爆発させてやる!」

 

指揮艦の乗組員が機銃をとりだし、魚雷に向けて撃ちまくる。

だが、砲弾でもないかぎり水中の物に損傷を与えることは不可能だ。

 

「ちくしょぉぉぉ!ここで終わってたまるかよぉぉぉぉ!!」

 

それでも乗組員は機銃を打ち続けるが、抵抗むなしく魚雷は直撃コースで接近し続ける。

 

(万事休すか・・・!)

 

安住と乗組員たちは直撃を覚悟し、周囲の物につかまり衝撃に備えた。

その時、安住たちの目に思わぬ光景が飛び込んできた。

 

「・・・・・・!あれは・・・!?」

 

Ура(ウラー)ーーー!!」

 

響が魚雷に向けて砲撃しながら猛スピードで指揮艦の方へ向かってきていたのだ。

しかし、砲撃はなかなか魚雷に命中しない。

響に徐々に焦りが見え始める。

 

(くそ・・・あたれ・・・あたれっ!このままじゃ・・・また私は・・・!)

 

砲撃が魚雷の至近で炸裂するが、信管をギチギチに絞めてあるのか魚雷は爆発しない。

そうしている間にも魚雷はどんどん指揮艦との距離をつめていく。

 

「響さん!もうこれ以上は無理です!離れてください!!」

 

「響ちゃん!離れて!巻き込まれちゃう!」

 

「何をしてるのっ!早く離れなさい!」

 

(これ以上は砲撃が指揮艦にあたる・・・・・・それならっ・・・!!)

 

全員が響に離れるよう叫ぶ。

それとほぼ同時に響が()()した。

響はそのまま魚雷を追い抜き指揮艦と魚雷の間に割り込むと、その場で急停止して艤装に装備された盾を構える。

 

「響さん!なにを・・・・・・まさか!?」

 

(もう二度と・・・私の前で仲間をやらせない!)

 

そう、響は自分の身を持って指揮艦の盾になるつもりだった。

 

「響の嬢ちゃん!そこはあぶねえ!!逃げろぉ!!」

 

「何考えてるの!そこから離れて!響!!」

 

指揮艦の乗組員や他の艦娘たちが叫ぶ声が遠く聞こえる。

ついに魚雷が目前に迫る。

 

「不死鳥の名は、伊達じゃない。」

 

響は腰を低くし、衝撃に備える。

魚雷が命中する寸前、響はぎゅっと強く眼を瞑った。

 

(暁、雷、電ーーー!)

 

そしてーーーーー。

 

ーーーーー爆発音が、響き渡った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第9話です。

砲雷撃戦をすると言ったな?あれは嘘だ(^_^;)

いかがでしたでしょうか。
零戦隊長の懸念が的中してしまいました。
乱戦になると迎撃をすり抜けていく敵もいるってことですね。
艦これの航空戦で敵機が生き残って攻撃してくるのも、こういうことかと思います。

慢心、ダメ、ゼッタイ。
連・相・報も徹底しないとですね。

魚雷から指揮艦を庇った響の運命はいかに・・・。



では、また次回をお楽しみに。

ちなみに第1艦隊の輪形陣は、下記のようになっています。

   進行方向
     ↑
     伊勢

     木曾
  響      叢雲
     赤城 

     由良



    指揮艦



ちなみに今日が作者の誕生日なんですよね。
あ、関係ないですね、はい(+_+)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話「南西諸島防衛線・5」

零戦隊が取り逃がした敵攻撃隊の生き残りを迎撃した艦娘たち。
しかし、置き土産の魚雷が指揮艦に迫る。
迎撃が間に合わないと悟った響は、自らが指揮艦の盾となる道を選んだのだったーーー。


魚雷の爆発で水飛沫があがり、それによって大きな水柱ができあがる。

 

響と指揮艦は水柱に飲まれ姿が見えなくなっていた。

 

「魚雷が爆発した・・・・・・はっ!?指揮艦は・・・響は無事なの・・・?」

 

叢雲は呆然とその光景をみていたが、はっと我にかえって響たちの姿を探す。

他の艦娘も、未だ水飛沫が晴れない水柱付近を眼を凝らして観察する。

 

「・・・・・・!あれは!」

 

少しして視界が晴れてくると、1つの影が見えた。

 

「指揮艦・・・無事だったのね・・・。」

 

現れたのはほぼ無傷の指揮艦の姿だった。

それを見て伊勢がほっと胸を撫で下ろす。

至近距離での爆発だったため、所々に細かい傷がついているが、特に問題ははなさそうだ。

 

「う・・・ど、どうなったんですか・・・被害状況は・・・?」

 

激しい衝撃でふらつく頭を左右に振りながら、安住が状況報告を求める。

 

「そ、損害軽微・・・衝撃の影響で船尾が押されたのか、先程と比べて船体が少し半時計回りに回転ましたが、計器上は航行に支障はありません・・・。」

 

他の乗組員も、それぞれ体勢を建て直しながら状況を確認して報告した。

 

「そう、ですか、目視による損傷確認を急いでください。・・・・・・響さんは!?無事なんですか!?」

 

ようやく立ち上がった安住は、顔色を真っ青にして先程まで響がいた場所に眼を凝らす。

水柱の影響で未だに視界は悪いが、必死にその姿を探す。

艦娘たちも近づいてきており、響を探そうとしているようだ。

 

(まさか・・・・・・我々を守って犠牲に・・・。)

 

嫌な想像が頭をよぎる。

それを振り払うように頭を振り、再び響を探す。

ようやく水飛沫もおさまり、視界が開けてくる。

水柱の中心点、魚雷が炸裂した場所。

そこにはーーー。

 

 

 

 

 

何も、無かった。

 

 

 

 

 

艤装の残骸も、衣服の切れ端も、響の痕跡は何も無かった。

ただ、魚雷の破片と思われる金属片が水面を漂っているだけだった。

 

「そん、な・・・跡形も・・・なく・・・・・・?」

 

それ以上、安住の喉からは声がでなかった。

 

「嘘・・・・・・。」

 

信じられない光景に、叢雲は膝の力が抜けたようにへたりとその場に座り込む。

この状況を見れば、一撃で轟沈したとしか考えられない。

その場の全員が、ほんの数十秒前まで響がいたその場所をただ見つめることしか出来なかった。

 

・・・・・・3人を除いて。

 

「帰艦中の全機に告ぐ!燃料に余裕のある者は、上空から響さんを探して!」

 

「響ちゃん、どこにいったの・・・返事をして!」

 

「由良は指揮艦の左舷側を!俺は右舷側を探す!」

 

赤城は丁度、艦隊上空に戻ってきた航空隊に響の捜索を命じ、由良と木曾は指揮艦を中心としてその周囲を探し始めていた。

3人は響を諦めてはいなかったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・!司令官さん!」

 

指揮艦の左舷側を捜索していた由良が、何かを見つけたようで、安住へ叫ぶ。

 

「由良さん!?何か見つかったんですか!?」

 

安住は慌てて指揮艦左舷へ行き、海上の由良を見る。

すると由良は指揮艦の左舷後方に近づいていき、全員へ通信を送った。

 

「由良より全艦へ。響ちゃんを発見しました!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

頭が痛い。

ズキズキする。

昨夜ウォッカを飲み過ぎたかな。

 

ーーきーーん

 

なんだろう、声?

 

ーーーけてーびーーーー

 

誰かが呼んでる?誰を?

 

ーきてひびーーーーひびきちゃん

 

ひび、き?

ああ、そうか。私の名だ。

もう朝なのかい、電。

わかったよ、起きればいいんだろう?

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「目をあけて!起きて!響ちゃん!!」

 

「う・・・・・・。」

 

誰かに身体を揺さぶられているのを感じて、響が目を開く。。

 

「・・・起きるから・・・・・・電・・・そんなに揺さぶらないで・・・・・・あれ・・・?」

 

「響ちゃん!大丈夫!?しっかりして!」

 

響は意識が朦朧としているようで、目の焦点が定まっていない。

 

「響ちゃん、私のことわかる?」

 

「・・・・・・由良、さん・・・。私は・・・。」

 

響は指揮艦の左舷後方で、指揮艦に背中を預けるようにして気を失っていた。

由良に揺り起こされ、ようやく意識がはっきりしてきたようで、響は由良の問いかけに答えた。

 

「ん・・・もう、大丈夫。身体中が痛いけど、問題ないよ。」

 

「よかった・・・ごめんね・・・。」

 

響の言葉に安堵したのか、由良は響を強く抱き締めた。

由良の肩が小刻みに震えているところを見ると、泣いているようだった。

 

「由良さん・・・・・・少し、苦しいかな・・・。」

 

「本当に無事でよかった・・・。なんであんな無茶したの・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

泣きながら由良が問うが、響は言いづらそうに押し黙ってしまった。

そこへ他の艦娘たちも集まってくる。

 

「響ちゃん!無事だったのね。よかった・・・。」

 

「大丈夫?響さん、怪我は?」

 

「この馬鹿!どうしてあんな無茶するのよ!・・・でも、無事でよかったわ・・・。」

 

「なんて無茶をしやがる・・・まったく。」

 

心配そうに響の顔を覗きこむ伊勢と赤城。

無茶をしたことに泣きながら怒り、無事なことに安堵する叢雲。

悪態をつきつつも響へ手を差しのべる木曾。

由良の強烈なハグから解放された響はその手をとり立ち上がる。

そして、ある違和感を覚える。

 

「あ・・・。帽子・・・・・・。」

 

頭に手をやり、いつもかぶっている帽子が無くなっていることに気がつく響。

魚雷が爆発したときにどこかに吹き飛ばされていったのだろう。

他の者にとってはただの帽子。しかしそれは響にとっては大切な物だ。

響の瞳にわずかだが悲しみの色がさす。

 

(あの帽子・・・こいつにとっては大事なものだったか。)

 

木曾がその様子に気づいて目を細めて周囲を見渡すが、どこに飛ばされていったかも分からない以上、なにも出来なかった。

そこへ、艦娘たちの頭上から声が掛けられる。

 

「響さん!無事ですか!?怪我は!?身体に異常はありませんか!?」

 

声のした方を見上げると、顔を真っ青にした安住が艦上から身を乗り出し、心配そうに響を見つめていた。

 

「大丈夫、艤装の盾が少しへこんだくらいだ。怪我もかすり傷だし問題ないよ、司令官。作戦続行に支障はない。」

 

響の言う通り、艤装に装備されていた盾が損傷しているが、とても「少しへこんだ」とは言えない具合だ。

小破、といったところだろうか。

だがもはや、それは盾としての役割を果たさないだろう。

 

「・・・本当に大丈夫なんですね?」

 

不安そうに訪ねる安住に、響は首を縦に振ってみせた。

 

「無茶な真似をしてすまなかった。いくらでも罰は受けるよ。」

 

「司令官さん、響ちゃんを責めないでください。あれは・・・。」

 

響を庇おうとする由良を手で制止する安住。

 

「あれは運が悪かっただけです。おかげで我々は命を救われたのですから責めるつもりはありませんよ・・・・・・一応、話は戻ってから聞かせてもらうつもりです。・・・作戦を続行しましょう。」

 

そう言うと、安住は指揮艦の中へと戻っていった。

 

「由良さん、おかげで助かったよ。・・・Спасибо(スパスィーバ)。」

 

「響ちゃん・・・。」

 

響はそう言って、由良にふわりと笑うのだった。

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖・12:55ーーーーー

 

 

 

「さすがに、敵艦隊には逃げられましたね。」

 

陣形を組み直し、敵艦隊のいるであろう場所まで進軍した第1艦隊だったが、すでに敵の姿は無かった。

 

「すまない司令官。私が損傷で速度を落としていなければ・・・。」

 

「いえ、むしろよかったのかもしれません。」

 

響が申し訳なさそうに言うが、安住は叱責するどころか、よかったという。

 

「どういうことかな?」

 

「それはすぐにわかると思いますよ。」

 

そう言って安住は微笑む。

敵艦隊はたしかに取り逃がした。

だが、たしかにここに敵艦隊がいた証拠に、深海棲艦の艤装や赤城艦載機の残骸が周囲に散乱していた。

敵の痕跡を眺めていた安住に、赤城が報告する。

 

「撃墜された機から脱出していた妖精たちの救助は完了しました。」

 

「了解です。救助した妖精さんたちはゆっくり休ませてあげてください。・・・加賀さんから連絡は?」

 

「はい、少佐の予想通りだったと先程連絡がありました。予定通り行動するとのことです。」

 

「わかりました。・・・・・・だとすれば、こちらもそろそろでしょうね。」

 

赤城から加賀たち第2艦隊の動向についての報告を聞いた安住は、自身の予想を確信に変えつつあった。

そこへ、安住の予想を確信に変える決め手となる通信が入る。

 

「由良搭載の水偵より入電!取り逃がしたものとは別の、空母機動部隊を発見!おそらくこちらが敵防衛主力艦隊と思われます!!」

 

それを聞いた安住の表情が変わる。

獲物を見つけた狩人のような、ギラギラした目付きだ。

 

「全艦戦闘準備!ここからが本番です!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第10話です。

いかがでしたでしょうか。
響は無事でしたね。不死鳥の名は伊達ではなかったです。
初戦から轟沈かとヒヤヒヤさせて申し訳ないです。

しかし、気づけばもう10話なんですね。
南西諸島防衛線で引っ張りすぎやろ・・・(-_-;)

次はきっと砲雷撃戦にはいります。
・・・・・・・・・たぶん。


では、次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話「南西諸島防衛線・6」

ついに敵防衛主力艦隊を発見した第1艦隊。
南西諸島沖海域への進軍ルートを確保するための最後の戦いが始まるーーー。


ーーーーー南西諸島沖・13:15 第1艦隊ーーーーー

 

 

 

「先発した航空隊より入電!『我ガ方優勢ナレド敵攻撃隊最低24機ガ艦隊ヘ向カウ、警戒サレタシ』!!」

 

「やはり空母ヲ級が相手となると抜けてくる敵機も多いですね・・・。全艦、対空戦闘用意!第2戦速で敵艦隊へと接近しつつ、敵機を迎撃します!」

 

「主砲、三式弾装填!指示を待て!」

 

「来なさい!何機来ようと撃ち落としてやるわ!!」

 

赤城航空隊からの警戒要請を受けて、艦隊は対空戦闘へ備え始める。

今回の相手は、空母ヲ級を2隻擁する強力な機動部隊だ。

敵艦載機の数も、ヌ級とは比べ物にならない程多く、空母1隻の戦力では敵攻撃隊が抜けてくるのは必然だった。

 

「少佐、俺たちから離れないように気をつけろよ。」

 

「ええ、分かっています。操舵手、艦娘の皆さんとの距離に注意してくださいね。」

 

「合点でさぁ!」

 

先程の反省を踏まえ指揮艦は今、輪形陣の中央へ位置し、艦娘に護られている。

輪形陣内にいれば、敵機の攻撃に晒される危険も少しは抑えられるだろうという木曾の具申を受け入れたのだ。

 

「・・・・・・対空電探に感あり!2時方向より敵影18、さらに9時方向からも敵影16!!来るぞ!!」

 

そうこうしているうちに、敵攻撃隊がすぐ近くまで迫っていたようだ。

敵機発見の報があがる。

 

「攻撃隊より入電!『我、此ヨリ攻撃ヲ開始ス』!」

 

ほぼ同時に、赤城攻撃隊が敵艦隊への攻撃を開始したとの連絡が入る。

 

「・・・・・・数が多いけど、やりますか。」

 

「やはり報告よりも数が多い・・・!対空射撃開始!!まずは一番近い2時方向の敵編隊を迎撃してください!」

 

安住の号令と共に対空戦闘が開始される。

 

「三式弾、撃てーー!!」

 

「敵機を近づけさせるな!機銃、撃ち方始め!!」

 

伊勢の主砲が三式弾を発射し、赤城も自衛のために装備していた対空機銃を撃ち始めた。

敵機の数が多い分、各艦が機銃弾をばら蒔くようにして密度の濃い弾幕を形成する。

 

「機銃弾の炸裂が遅い!時限信管の調整急いで!!低空の敵機には砲弾で対応してください!伊勢さん!!」

 

「りょーかい少佐!副砲、低空の敵機を狙って!水柱に引っ掛けて墜落させるよ!!」

 

「響さんと木曾さんは9時方向の敵機へ標的を変更、迎撃してください!」

 

「いいだろう、やってやる!」

 

Ура(ウラー)ーーー!」

 

安住の鋭い指示に従い、次々と敵機を撃墜する艦娘たち。

そこへ由良が更なる敵機の来襲を叫ぶ。

 

「さらに5時方向から敵編隊を確認!数は20!!」

 

「5時方向の敵機には赤城さんと由良さんで対処してください!」

 

「了解!ってーー!!」

 

「2時方向からの敵機全滅したわ!」

 

「伊勢さんは9時方向、叢雲さんは5時方向の敵機へ対応を!!通信手、更なる敵の増援を警戒!」

 

「あいあいさ!」

 

目まぐるしく変わる戦況、その度に安住の指示が行き渡る。

 

 

 

ーーーーー十数分後ーーーーー

 

 

 

「後続の敵機確認できず!」

 

「各艦、被害状況を報告してください!」

 

最後の敵機が撃墜され、対空砲火が止む。

空襲は突然始まり、突然終わるというが、まさにその通りだった。

 

「伊勢、無事だよ。」

 

「由良も無傷です。」

 

「響、問題ない。」

 

「叢雲、損傷無しよ。」

 

「木曾だ、俺も特に被害はない。」

 

「赤城、被弾無しです。」

 

航空隊の報告よりもかなり多い敵機の襲撃だったにも関わらず、艦隊への被害は全くなかった。

被害報告が終わると、赤城へ攻撃隊からの報告が入った。

 

「少佐、攻撃隊から入電です。『我、敵艦隊ヘノ攻撃ニ成功セリ。第2次攻撃ノ要ヲ認ム』とのことです。」

 

「分かりました。赤城さんは帰艦する航空隊を収容次第、第2次攻撃隊の準備を。ですが追って指示があるまで発艦はせず、待機させてください。」

 

「了解しました。上々ね。」

 

第2次攻撃の指示を出すと、安住は艦隊へ更なる指示をだす。

 

「では、敵艦隊への砲雷撃戦へ移行します。陣形を単縦陣へ変更。単縦陣が完結次第、機関増速。第4戦速にて敵艦隊へ突撃します!」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

安住の指示に、艦娘たちは力強く応えた。

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖・13:35 敵艦隊付近上空ーーーーー

 

 

 

「艦隊への打電完了。全機帰艦するぞ。」

 

「野郎共、引き上げだ!」

 

開幕航空攻撃を終えた艦攻隊と艦爆隊は艦隊へ戦果を打電し、帰艦しようとしていた。

 

「本機はこのまま触接を継続し、弾着観測に移ります。」

 

「了解した。」

 

「おう。水偵のあんちゃん、気を付けてな。」

 

由良の水偵はこの空域に残り、砲雷撃戦の弾着観測をするようだ。

 

「はい。皆さんもお気を付けて。」

 

水偵に通信を送ると、攻撃隊は赤城へと帰艦するため艦隊へ向かって飛び去っていった。

 

「よし、じきに艦隊がくるはずだが・・・。ん、先にあちらのご到着か。さすが、絶妙なタイミングだ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

赤城隊が飛び去った直後、敵艦隊上空に接近する編隊があった。

 

「敵艦隊を視認。赤城隊はうまくやったようだ。」

 

「やれやれ、司令官殿も妖精使いもとい、艦娘使いが荒いですなぁ。」

 

「まったくだ。我らが女神、加賀をこき使いよって・・・。」

 

「これは後で一発、ビシッと言ってやらんとなりませんな。」

 

「まあ、敵艦隊は空母健在なれど、随伴艦は虫の息。我ら加賀攻撃隊が、第1艦隊の到着を待たずして引導を渡してやりましょう!」

 

そう、第2艦隊旗艦・加賀の航空隊の支援攻撃が始まろうとしていたのだった。

 

「って、もしかしてオイラたちの出番ってこれだけ!?」

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖・13:45ーーーーー

 

 

 

加賀航空隊が攻撃を開始して間もなく、第1艦隊が敵艦隊を捉えた。

 

「敵艦隊を視認!司令官さん、水偵からの報告通り、加賀航空隊が敵艦隊を攻撃中です!」

 

「さすがは加賀さん、絶妙のタイミングです。」

 

「現時点での敵艦隊の被害状況は分かりますか?」

 

「はい。水偵から報告が上がっています。」

 

由良が水偵からの報告を安住へ伝える。

 

「空母ヲ級は2隻とも大破。重巡リ級は1隻中破、1隻撃沈。軽巡ホ級が大破。駆逐ニ級が撃沈です。」

 

「あと一息と言ったところですね。・・・加賀航空隊には待避命令。ケリをつけましょう。」

 

待避命令を受けた加賀航空隊は、戦闘空域から離れて加賀へと帰艦するため飛び去っていく。

敵空母は無力化され、もはや航空部隊からの反撃は無い。

 

「ここで艦隊を2つに分けます。赤城さんは指揮艦と共に後方へ待避、伊勢さんも護衛を兼ねて我々と共に下がって貰いますが、長距離からの艦砲射撃をお願いします。」

 

「少佐!?この赤城、第2次攻撃隊の準備は整っています!機銃も副砲もあります!砲雷撃戦も可能です!」

 

「ダメです。こちらが圧倒的有利とはいえ、まだ伏兵が潜んでいるかもしれません。ですから赤城さんには直掩機を出して上空掩護と周辺警戒をお願いします。これは命令です。」

 

待避の指示に赤城が食いつくが、有無を言わさぬ安住の威圧に、引き下がるしかなかった。

 

「・・・・・・わかりました。直掩機を上げます。」

 

「では、由良さん以下4隻の水雷戦隊で突入。敵艦隊へ肉薄し、これを撃滅します!水雷戦隊の指揮は由良さんに一任します。」

 

「了解。水雷戦隊、お預かりしますね。」

 

「それでは・・・行動開始!」

 

その言葉を合図に、単縦陣最後尾の指揮艦が減速、赤城と伊勢も左右に別れて道を開ける。

そして残った4隻が敵艦隊へ引導を渡すべく突撃していく。

 

「水雷戦隊、突撃します!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第11話です。

いかがでしたでしょうか。
本当は今回で南西諸島防衛線は終わる予定だったんですが、長くなりそうだったので切りました(+_+)

ようやく登場した加賀航空隊ですが、出番はとりあえずあれだけです。
ごめんよ・・・間話で活躍を書くからね・・・。

次回は水雷戦隊の砲雷撃戦の予定です。
今回書いたのは結局対空戦闘だけやんか・・・。

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話「南西諸島防衛線・7」

敵機動部隊へトドメをさすため、突撃していく水雷戦隊。
手負いとはいえ、深海棲艦の抵抗は熾烈を極めるーーー。


「水偵、弾着観測の用意はいい?伊勢さんの砲撃もあるから間違いに気を付けてね。」

 

敵艦隊上空を旋回しながら触接を続けていた水偵へ由良が問う。

 

「いつでもいいよ、由良!戦艦の砲撃くらい、間違えないから心配ご無用!」

 

水偵は準備万端といった様子で、機体を左右に振って応えた。

 

「これより弾着観測射撃を実施します。由良と叢雲ちゃんは軽巡ホ級を、木曾さんと響ちゃんは左側の空母ヲ級を狙って!各艦、第1射用意!・・・・・・ってーーー!!」

 

「やるさ!」

 

「邪魔よっ!」

 

「水上機?いらねえなぁ、そんなモンは!」

 

由良の合図で敵艦隊へ向け、4隻が一斉に砲撃を行う。

 

「次弾装填、水偵からの修正を待ちます。」

 

「各艦の発砲を確認。着弾まで・・・・・・3、2、1・・・着弾!」

 

その着弾を水偵が観測し、各艦へ射撃緒元の修正を指示する。

 

「由良は左寄せ2、下げ1。響は右寄せ3、上げ2。叢雲は右寄せ1。木曾は至近弾、射撃緒元そのまま!流石だな・・・水上機をいらないと言うだけある・・・。」

 

「射撃緒元修正、第2射、よく狙って・・・ってーーー!!」

 

弾着観測が効果を発揮し、軽巡ホ級と空母ヲ級がたちまち撃沈する。

 

「nucbi・・・dR"]k,・・・」

 

「ejejdety]rS"m/・・・」

 

「次!重巡リ級をねらっtきゃあ!?」

 

残りの深海棲艦へと狙いを変えようとした由良を砲撃が襲った。

重巡リ級からの反撃だ。

 

「由良!?大丈夫か!」

 

「・・・負けないから!」

 

敵艦隊も残すは大破した空母ヲ級に中破した重巡リ級のみ。

しかし、最後の足掻きとばかりに重巡リ級が主砲を撃ちまくる。

 

「7o;wqj.t!」

 

「何よこいつ!中破してるはずなのに!」

 

「・・・敵ながら、ハラショーだ。」

 

その砲火は、とても中破しているとは思えないほど激しく、由良たちは回避するのに精一杯だ。

 

(中破でこの火力・・・このまま反撃の隙を掴めなければ、こちらが危険になる。・・・・・・なら!)

 

由良は数秒の思考の後、後ろに続く仲間に一瞬目をやり、覚悟を決めて指示をだす。

 

「残りは手負いのリ級とヲ級です。これより敵に肉薄し、至近からの魚雷で仕留めます!」

 

「いいねぇ、アリだな。」

 

「酸素魚雷を喰らわせてやるわ!」

 

「了解。派手にいこう。」

 

「伊勢さんに砲撃の中止要請を打電!牽制を加えつつ突撃します!主砲!ってーーー!」

 

艦娘たちはお互いに頷き合うと速度を上げて敵へと突き進む。

近付くにつれ、敵の砲火も激しさを増し、先頭を行く由良に襲いかかる。

砲弾が頬を掠め、艤装に傷を付けていくがそれでも足を止めることはしない。

 

(・・・予想よりも砲撃の精度がいいわね。このままだと由良が・・・。)

 

「・・・・・・由良、考えがあるのだけど。」

 

少しずつ傷ついていく由良の様子を見て、叢雲がある作戦を提案する。

 

「叢雲ちゃん・・・?」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

叢雲の作戦が伝えられ、木曾が頷く。

 

「危険だが、やってみる価値はあるだろうな。」

 

「でも・・・それじゃあ叢雲ちゃんが!」

 

「私なら大丈夫よ。一体誰だと思ってるのかしら?」

 

「大丈夫、私たちならやれるさ。」

 

由良が抗議の声をあげるが、叢雲も響も、自分たちを信じろと言う。

再び何かを言おうとした由良だが、覚悟を決める。

 

(これ以上迷っている時間もない・・・やるしかない。)

 

そして真剣な表情で声を張り上げ、号令する。

 

「これより『焼き鳥作戦』を開始します!皆の命、由良が預かったよ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「全艦、取り舵!敵の側面へ回り込みます!」

 

由良の号令で艦隊が左へ転舵する。

 

「iT"rt!」

 

転舵する瞬間には必ず隙が生まれる。

その隙を逃さず、リ級からの砲撃が集中する。

 

「くっ!ちっとばかし涼しくなったぜ!」

 

砲撃が木曾を捉えるが、木曾にとってはかすり傷のようだ。

 

「全砲門、連続撃ち方!当てなくていい、敵の視界を奪って!」

 

由良たちも負けじと砲撃する。

敵艦隊の周囲に無数の水柱がたち、視界を遮る。

 

「hc!bd'hu!」

 

水柱に視界を遮られ、リ級がこちらの姿を見失った。

その隙をついて艦隊が再び転舵する。

 

「ここよ!面舵!ここからならヲ級が邪魔になって敵の射線は通らない!」

 

「S"big5q!?」

 

ヲ級を盾にして全力で突撃しながら、由良は次の指示をだした。

 

「砲撃しつつ陣形を単横陣へ変更!各艦、魚雷発射管へ酸素魚雷装填!!叢雲ちゃん、タイミングは任せるね!」

 

「了解よ!見てなさい!!」

 

陣形を変更したことで、再び由良たちの姿がリ級に捕捉される。

だが、リ級はそこで違和感を覚えた。

ヲ級の影から飛び出してきた艦娘の数がさっきより少ないのだ。

 

「vslg5qQ"s!?eZqeS"bi!?」

 

狼狽えた様子を見せるリ級、そこへどこからか声が聞こえた。

 

「あら、深海棲艦も狼狽えたりするのね。でも、その隙が命取りよ!!」

 

その声は恐ろしい勢いで()()()()()ヲ級から聞こえてきていた。

何が起こっているのか、リ級が理解したときには、それはリ級の目前にまで迫っていた。

 

「纏めて串刺しになりなさい!!」

 

「4G"'####!!」

 

そして、ヲ級はリ級へ衝突した。

その腹は槍で串刺しにされ、まるで串焼きのようだ。

深海棲艦2隻を串刺しにした叢雲は、ヲ級を蹴り飛ばす反動を使って後方宙返りをしてその場から離れる。

そしてーーー。

 

「今よ!酸素魚雷を味わいなさい!!」

 

「全艦、魚雷発射!!」

 

空中にいる叢雲と、いつの間にか2隻を包囲していた全艦から、魚雷が発射される。

串刺しにされて身動きできないリ級とヲ級は酸素魚雷をまともにくらい、悲鳴を上げる間もなく撃沈する。

リ級が最後に見たのは、叢雲の勝ち誇ったような笑みだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

敵の全滅を確認し終えると、由良が叢雲に抱きついた。

 

「叢雲ちゃん、すごい!かっこよかったよ!!」

 

興奮しているのか、頬擦りもしている。

 

「ま、当然の結果ね!・・・ってちょっと!頬擦りしないで!」

 

顔を真っ赤にした叢雲が抜け出そうともがく。

 

「顔、赤くなってるよ。叢雲。」

 

「なんだ叢雲、照れてるのか?」

 

叢雲が由良の頬擦りハグを受けていると、響たちが茶化してくる。

 

「そんなわけないでしょ!早く助けなさいよ!っていうかさっさと司令官に報告しなさいよおおお!!」

 

それに対してさらに顔を真っ赤にして叫ぶ叢雲であった。

 

 

 

ーーーーー南西諸島沖・14:05ーーーーー

 

 

 

「そうですか、分かりました。」

 

由良たちからの報告を聞いた安住が大きく溜め息をつく。

そして顔を上げると、第1、第2艦隊の全艦へ向けて宣言した。

 

「敵防衛主力艦隊の撃滅を確認。現時刻をもって作戦を終了、鎮守府へ帰投します。お疲れ様でした、作戦成功です!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第12話です。

いかがでしたでしょうか。

今回で南西諸島防衛線は終了となります。
次回は・・・どうしよう?w
何を書こうか、どれから書こうか、迷いますねw

とりあえず、次回をお楽しみに。





ちなみに、焼き鳥作戦の概要はこうです。

ヲ級の影に隠れた叢雲が、艤装の槍で串刺しにしたヲ級を盾にしながら全速で突撃。
リ級共々串刺しにして、最後に魚雷を撃ち込んで仕上げ。

というものでした。
作戦名は・・・焼き鳥みたいだなって思っただけですw
悪意は無いですが、加賀さんが聞いたら起こりそうですね(^_^;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「真相」

無事に任務を達成し、鎮守府へと帰還した艦娘たち。
入渠(おふろ)や夕食を終えた第1、第2艦隊の面々は会議室に集められていた。



※注意
 今回は台詞が多目になるかもしれません。
 あと、長くなるかも?


ーーーーー鎮守府・20:00 第1会議室ーーーーー

 

 

 

「諸君、ご苦労だった。安住少佐から報告は聞いているが、初任務は大成功だったようだな。ああ、全員楽にしてくれて構わない。堅苦しい会議というわけじゃあないんでな。」

 

そう言って、比良が満足そうにニカッと笑う。

久々の登場でお忘れの方もいるだろうが、彼こそがこの鎮守府の提督である。

 

「赤城さんと私が出たのだから、当然の結果よ。」

 

「楽勝だったっぽい!」

 

「あたしも頑張りました!」

 

比良の労いの言葉に、艦娘たちに笑顔があふれる。

 

「ところで提督、この机の上にあるものは・・・もしや。」

 

さっきからうずうずしていた赤城が机の上に置かれた物を指差しながら比良に問う。

 

「おお、忘れる所だった。初任務成功のお祝いというわけではないが、スイーツを用意させて貰った。皆、食後のデザートだと思って遠慮せずに食べてくれ。食べきれないお菓子は持ち帰ってもいいからな。」

 

艦娘たちが座る椅子の前には、ケーキやお菓子といったスイーツが、机に所狭しと並べられていたのだ。

比良の言葉を聞いた艦娘たちは各々目を輝かせ、我先にとスイーツに手を伸ばしていった。

 

「はむ。ほのケーキおいひいれふ!ほうほう(上々)ね♪」

 

「さふがにきぶんがほうよう(高揚)します。」

 

「ほら日向、こっちの羊羮も美味しいよ!」

 

「うん、悪くない。」

 

「こっちのも美味しそう♪提督さんも食べてみて?ねっ♪」

 

「提督、ありがとう。とっても美味しいよ。」

 

「おいしいっぽい!夕立もっと食べるっぽいー!」

 

「たまには甘いものも悪くないな。」

 

「美味しい・・・!まあ、あれだけ頑張ったんだから当然ね♪」

 

「この羊羮は姉さんと那珂ちゃんに持ってかえってあげましょう。」

 

「提督、ホントにありがとう!」

 

「・・・・・・Спасибо(スパスィーバ)・・・。」

 

その様子を比良は微笑みながら見つめるのだった。

 

(こうしてスイーツにはしゃぐ姿は年頃の乙女そのものだな。)

 

艦娘たちがスイーツに群がって暫くして、比良が口を開いた。

 

「皆、そのままでいいから聞かせてくれ。」

 

比良の言葉に反応し、なんだろうといった様子の艦娘たち。

自身もあんみつを頬張りつつ、比良が問いかける。

 

「実践での安住の指揮はどうだった?ん、美味いなこれ。」

 

少し考える素振りを見せる艦娘たち。

今日の作戦を思い返しているのだろう。

その中で、一番最初に口を開いたのは叢雲だった。

 

「そうね・・・潜水艦への警戒を怠ったという点を除けば、まあまあといったところね。対空戦闘の指揮も悪くはなかったわ。」

 

「たしかにね~。迎撃の優先順位も的確だったし、次の目標の選定もよかったよ。でもまさかあの状況の中で機銃の時限信管にまで気づいたのには驚いたよ。よく見えてたと思う。」

 

叢雲に続いて伊勢も感想を口にした。

 

「ふぉふへんふぉはんふぇいふぉふふひ・・・。」

 

「赤城、口の中の物を飲み込んでから話してくれ・・・。」

 

比良が苦笑しながら言うと、赤城は口いっぱいに頬張ったスイーツをごくんと飲み込んで話し始める。

 

「直前の戦闘での反省をすぐ次に活かしていたのも、機転がきくという点でよかったですよ。」

 

「あー輪形陣の外にいて、流れ魚雷にあわや撃沈されそうになった時のことね。」

 

「あの時は響が指揮艦を庇ってなければ、今ごろ司令官たちは海の藻屑になってたはずよ。」

 

赤城も加わり、比良を放り出して第1艦隊の面々がわいわいと騒ぎ始める。

そこへ今度は神通が口を開いた。

 

「潜水艦への警戒不足はたしかによくなかったですが、その後の指示には驚きました。」

 

「そうだね。まさか司令官の予想が的中するなんてね。」

 

「ほう、その予想とはあれのことかな?」

 

神通と時雨の言葉で何かを察した比良は先を促す。

 

「はい。敵の伏兵のことですね。まさか、司令官の予想した地点に敵の支援艦隊がいるだなんて・・・。」

 

「半信半疑で水偵を飛ばしてたけど、びっくりしました!まるで千里眼みたい!」

 

「あのまま索敵機を出していなかったら、戦艦ル級を擁する敵艦隊に挟撃されていたでしょうね。赤城さん、頬にクリームが付いているわ。」

 

「ル級と言えば、頭に爆弾喰らっても沈まなかったもんね。しぶとすぎだよ。」

 

「次に見つけたら、夕立が沈めてあげるっぽい!」

 

「瑞雲があれば、仕留めてやったのだがな。提督、瑞雲の開発・・・期待しているぞ?」

 

「第1艦隊への支援攻撃の為に、ル級を取り逃がしたのは残念だけれど・・・全体の指揮としては悪くはなかったし、それなりに期待はしているわ。」

 

「ほほお・・・伏兵の位置をピンポイントでねぇ・・・。まあ、あいつなら別に不思議ではないな。・・・・・・瑞雲はきっとその内にな・・・。」

 

何気なく口にした言葉に反応し、艦娘全員が比良を見る。

 

「不思議じゃない、ってどういうこと?提督さん?」

 

「ん?ああ言ってなかったか。安住はな、艦隊演習でも陸戦演習でもそうなんだが、罠や伏兵といったものをことごとく見破るんだよ。まるで戦場の全てが見えているみたいにな。そんなもんだから、付いたあだ名が『慧眼の軍神』ってな。」

 

軍神と言われても普段のあの頼りなさからは想像できないよな、と笑う比良が顔を上げると、艦娘たちは目をぱちくりさせて驚いていたのだった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・同時刻 工厰ーーーーー

 

 

 

「皆さん、お疲れ様です。差し入れを持ってきましたよ。少し休憩してください。」

 

作業服に身を包んだ安住が、工厰で艤装や指揮艦の修理・整備をしている妖精と整備員に声をかける。

 

「おっ!少佐は人間にしちゃあ気が利くじゃないか!」

 

「丁度腹がへってた所だ。ありがてえ。」

 

「夕飯くってねえしな。少佐、ゴチになりやす。」

 

「沢山ありますから、しっかり食べてくださいね。」

 

妖精と整備員たちは作業の手を止め、安住の持ってきた差し入れに群がり始めた。

 

「いっただきまーす!はむ。もぐもぐ。んまい!!」

 

「このおにぎり旨いなオイ!」

 

「卵焼きもふわふわでめちゃウマやーー!」

 

「唐揚げ!唐揚げはあるか?」

 

遅めの夕食をとりながら、整備員の一人がふと聞く。

 

「少佐、これ手作りみたいだけど、一体誰が?」

 

「ああ、これは鳳翔さんからですよ。」

 

「「「「「ダニィ!?」」」」」

 

安住の言葉に一同は騒然とし、全員の目付きが変わる。

 

「テメーさっきも卵焼き食ってただろ!食い過ぎだぞ!!」

 

「早いもん勝ちだー!食ったもん勝ちだー!!」

 

「この唐揚げは誰にも渡さんぞー!」

 

「ちょ!オイラの分がなくなるって!!まだ食べてないやつもいるってば!!」

 

鳳翔の手料理と聞いた瞬間、壮絶なる争奪戦が始まっていた。

その様は、まさに戦場。

今、工厰は飢えた整備員たちの最前線と化したのであった。

 

(鳳翔さんの手料理は絶品ですからね、皆さんの気持ちもわかります。)

 

その様子を横目に見ながら、安住は整備のために工厰へ移されていた指揮艦へ近づく。

 

「今日はよく頑張ってくれましたね・・・。」

 

船体へ触れて撫でながら、安住は優しい表情で指揮艦へ労いの言葉をかけた。

その表面には、魚雷の破片でついたのだろう細かい傷があちこちについており、あの魚雷の威力を物語っていた。

 

(そうだった、後で第1艦隊の面々を集めてあの時の話を聞かないといけないですね。)

 

うっかり忘れていたことを思いだしつつ、指揮艦のどこから磨いていこうかと上を見た時だった。

 

(ん・・・・・・?あれは・・・。)

 

安住は何かを見つけ、指揮艦の中へ入っていった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・08:00 工厰ーーーーー

 

 

 

翌朝、工厰内にある整備中の指揮艦の前に第1艦隊の面々が集められていた。

安住が指揮艦を背にして「休め」の状態で立ち、その正面に艦娘たちが横一列で整列している。

 

「朝早くからすみません。全員集まっていますね。」

 

「ここに第1艦隊を召集したってことは、やっぱり昨日の件?」

 

伊勢の言葉に安住は頷いて応える。

 

「ええ。響さんが指揮艦を庇った時の話です。」

 

途端に響の表情が曇り目を伏せる。

それに気づいた叢雲が、安住を睨み付ける。

 

「アンタ、どういうつもり?響を責めようっての?」

 

叢雲の、鋭利な槍の切っ先のような視線に鳥肌がたつのを感じた安住だが、なんとか平静を装う。

 

「いえ、責めるつもりはありません。ただ、いくつか不明な点があるのでそれを知りたいんですよ。」

 

変わらず叢雲の視線が突き刺さるが、安住は続ける。

 

「叢雲さんも気づいているでしょう?あの時の状況からすると、響さんが無事だったことは不思議だと。」

 

「・・・・・・。」

 

叢雲は沈黙をもって応えた。

 

「いくつか聞きたいことはありますが、その前に私の話を聞いてください。まずはいくつかの不明点ですが・・・。」

 

そう言うと安住は、艦娘たちの前を往復するように歩き始めた。

 

「なぜ、響さんは無事だったのか。なぜ、指揮艦は左方向に回転したのか。なぜ、あの状況で由良さんたちが、いち早く響さんの捜索に動き出したのか。なぜ、響さんは指揮艦の左舷後方で発見されたのか。」

 

静かに語る安住の言葉に、艦娘たちは黙って耳を傾けている。

 

「これらの疑問と指揮艦の損傷具合から、私は1つの推測に辿りつきました。それはーーー。」

 

 

 

「魚雷は命中していなかった。」

 

 

 

「なぜそう思ったか。それは、指揮艦と響さんの艤装の損傷具合が、魚雷の威力と釣り合わないからです。」

 

「立ち上った水柱の規模からして、魚雷の炸薬量はかなりのものでした。あれが命中していたら、いくら防御姿勢を取っていたとしても駆逐艦娘や指揮艦程度なら確実に轟沈していたでしょう。」

 

「しかし、指揮艦の損傷は破片によるものと、吹き飛ばされた響さんが衝突したと思われる箇所の凹みだけ。響さんの艤装も魚雷が命中したにしては、盾が大きく損傷した程度で、身体の怪我も軽傷だった。」

 

「魚雷は確かに爆発した。でも命中はしていない。なら魚雷はどうなったのか。」

 

そこで安住は一旦言葉を切り、立ち止まって指揮艦の方を向いて言った。

 

「魚雷は命中する前に狙撃され爆発した。その時、衝撃で響さんは爆風と破片を浴びながら吹き飛ばされた。そしてそれを目撃していたからこそ、響さんの捜索に動き出すことができた。」

 

「だから、響さんは指揮艦の後方で気を失った状態で発見された。指揮艦の凹みは、響さんが衝突したときにできたものでしょうね。指揮艦が左へ回転したのもそのためでしょう。」

 

「あの時、魚雷を狙撃できたのは3人。しかし木曾さんは位置からして不可能なので除外。残りは2人ですが、小口径の主砲弾では直撃させなければ魚雷を迎撃できないため、叢雲さんも除外。となると、残るは1人。中口径主砲を装備し、一番狙撃しやすい位置にいた者・・・。」

 

そこまで言ってから安住は1つ深呼吸して振り向き、続けた。

 

「魚雷を狙撃したのは、由良さんですね。そして、赤城さんと木曾さんがそれを目撃していた。・・・・・・違いますか?」

 

由良は俯いており、返事はない。

当然だろう。認めれば、味方に向けて発砲した、ということになる。これは普通であれば銃殺刑もあり得る話だ。

しかし否定しようにも、安住は全て分かっていて話しているのだろう。

 

「・・・・・・沈黙は肯定と受け取られますよ。」

 

「っ!!アンタねえ!!」

 

叢雲が声を荒げる。今にも掴みかかりそうな剣幕だ。

だが安住は目を閉じ、静かにこう続けた。

 

「まあ、だからと言って誰も、責めるつもりも罰するつもりもないんですけどね。」

 

「「「「「・・・・・・は?」」」」」

 

艦娘たちはその言葉に思わず間抜けな声を出していた。

 

「魚雷の狙撃は響さんを助けるため。そしてそれを黙っていたのは由良さんを守るため。そうでしょう?なら何も問題ないじゃないですか。むしろ、責任があるとしたら私ですよ。最初から輪形陣の中に入っていれば防げた事なんですからね。・・・後で提督に何言われるか・・・・・・はぁ。」

 

後半は片手で頭を抱えつつそう言う安住。

目を丸くして言葉もでない様子の艦娘たち。

 

「責任の在処はともかく、司令官の推測通りだよ。」

 

口を開いたのは由良でも木曾でも赤城でもなく、響だった。

 

「響ちゃん・・・気づいてたの・・・。」

 

「当たり前さ。あれが命中すれば無事で済まないのはわかってた。それに、由良さんが言ったんじゃないか。『ごめんね』って。」

 

「あっ・・・。」

 

響の言葉に、両手で口を押さえる由良。

由良を見つめて、響は微笑んで言った。

 

「私にはあれで全部わかったよ。由良さん、すぱ・・・ありがとう。」

 

「響ちゃん・・・痛い思いさせちゃってごめんね・・・。」

 

響に抱きついて由良は泣き出した。

両手をその背中に回し、響はぎゅっと由良を抱き締め返すのだった。

その様子をじっと見つめていた安住に、声がかけられる。

 

「少佐よ。誰も罰するつもりがないのは分かったが、なんの為にこんな推理ショー紛いのことをしたんだ?」

 

「そうだよ。それなら黙ってても問題なかったんじゃないの?」

 

声の主は、木曾と伊勢だった。

その問いに、安住は気まずそうに頭をかく。

 

「ただ、確認したかっただけです。損傷箇所の報告書も書かないといけませんから。」

 

(というのは建前で、この目で確認したかったんですよ。あなたたち艦娘の、仲間を想う心。仲間を支え助け合う絆を・・・なんてね。・・・・・・我ながら、悪趣味ですね・・・これっきりにしよう・・・。)

 

「・・・・・・ふーん。じゃあ、そういうことにしといてあげるかな。」

 

伊勢の反応に、また心の声が漏れていやしないかと不安になる安住だった。

 

「さあ、この話はこれでお仕舞いです。皆さん、朝食はまだですよね。一緒に食堂にいきましょう。」

 

「いいわね、それ。もちろん、司令官の奢りなのよね?」

 

「えっ?」

 

食堂へ行こうと言う安住に、叢雲がいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。

 

「今回のことはそもそも、指揮艦が輪形陣内にいれば起きなかったのよね?それに責任があるとしたら、アンタなんでしょう?なら、お詫びってことで奢ってくれるわよね?」

 

叢雲のわざとらしい声量の提案に、艦娘たちがここぞとばかりにのっかる。

 

「少佐の奢りか。悪くないな。」

 

「由良、デザートには間宮アイスがいいな~♪」

 

「やったね!ついでに日向も呼ぶから奢ってね、少佐♪」

 

хорошо(ハラショー)。」

 

「えっ?ちょっ?」

 

盛り上がる艦娘たちにたじろぐ安住。

背後に凄まじい気配を感じて振り返るとそこには・・・。

 

「一航戦、赤城!食べます!!」

 

鎮守府きっての大食らい、喰う母空母 赤城の姿があった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

朝食を終えた響は、部屋へ戻ろうと廊下を歩いていた。

 

「響さーーーん!」

 

すると背後から誰かに呼ばれる。

 

「?」

 

振り返るとそこには息をきらして走ってくる安住がいた。

 

「司令官、どうしたんだい。そんなに慌てて。」

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・これを渡すのを、忘れていました・・・。」

 

そう言って安住が差し出したそれは・・・。

 

「・・・!!これ!一体どこで!?」

 

響が南西諸島沖で無くした帽子だった。

 

「昨夜、指揮艦のマストに引っ掛かってるのを見つけたんですよ。大事な物でしょう?さすがにちょっと破れたり汚れたりしてましたけど、手伝って貰ってなんとか直してみました。」

 

安住から帽子を受けとり、帽子に付いているバッジを愛おしそうに撫でる響。

 

「ああ・・・大切なのは帽子と言うより、この暁型駆逐艦お揃いのバッジだけれどね。これは私と姉妹とを繋ぐ絆・・・・・・宝物なんだ。」

 

帽子をかぶると、響は満面の笑みでこう言った。

 

 

 

Спасибо(スパスィーバ)、司令官。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第13話です。

いかがでしたでしょうか。

長い。長くなった。
普段の長さからいくと、2話分のボリュームありますよ・・・。
実際、どのくらいのボリュームがいいんでしょうね?

今回のタイトル「真相」ですが、2つの意味にかけたつもりです。
そのあたりがうまく伝えられているか心配です(-_-;)

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「朝稽古」

鎮守府には出撃ドッグや工厰を始め、様々な施設が備え付けられている。
これは、その1つである剣道場での1コマである。


ーーーーー鎮守府・06:10 剣道場ーーーーー

 

 

 

よく晴れた日の早朝、剣道場に素振りの音が響く。

鎮守府内にある訓練施設の1つである剣道場で、1人の艦娘が木刀で素振りをしていた。

 

「ふっ!はっ!せいっ!」

 

「朝早くから精が出るな。天龍。」

 

天龍と呼ばれた艦娘は素振りを中断し、声のした方へ振り向く。

 

「・・・木曾か。なんだよこんな時間に。今日は非番だろ?」

 

声の主は木曾。この鎮守府の主力である第1艦隊に所属する艦娘だ。

 

「それはお前もだろう。非番の日まで朝稽古とは恐れ入るよ。」

 

そう言って天龍に水の入ったペットボトルを投げ渡す木曾。

 

「言ってろ。オレは早く前線で戦いたいんだよ。」

 

天龍はそれをキャッチし、剣道場の壁際へ移動して胡座をかいて座る。

そして首に掛けていたタオルで汗を拭うと、ペットボトルの蓋を開けて水を飲み始めた。

 

「くぅ~!よく冷えてて身体に染み渡るぜ!!木曾、サンキュな。」

 

「・・・・・・なあ天龍。」

 

木曾は天龍の隣へ来て同じように座り、ごくごくと美味しそうに水を飲む天龍に問いかける。

 

「んあ?なんだよ。」

 

「お前はどうして前線に行きたいんだ?」

 

「・・・・・・別に、どーでもいいだろ。」

 

罰が悪そうに顔を背ける天龍。

言いたくない理由でもあるのだろうかと、木曾が思案していると剣道場の入り口から声が聞こえた。

 

「それは私たちも知りたいところですね。」

 

声のした方をみる二人。

そこにいたのは剣道衣に身を包んだ安住と比良だった。

 

「少佐に提督かよ。盗み聞きとは、趣味が悪いんじゃないか?」

 

「ここに何しに来たんだ?というのは愚問か。その格好を見れば分かる。」

 

悪態をつく天龍と、何かを察する木曾。

 

「偶然聞こえてしまったんだ。そう怒らんでくれ。」

 

「我々も、朝の稽古と言ったところですよ。」

 

道具置き場に無造作に置かれている木刀を取りながら、二人が道場の奥へ入ってくる。

天龍は少々不機嫌そうな顔をしているが、比良も安住もさして気にしていないようで、各々素振りをはじめる。

 

(ふーん、まあまあ様になってるじゃないか。)

 

(剣術のことはよくわからんが、そうなのか?)

 

天龍と木曾はそれを暫く眺めていた。

やがて素振りを終えた比良が、天龍へ話しかける。

 

「どうした、天龍?なんなら俺たちの相手をしてみるか?」

 

「んあ?提督たちが、オレと?」

 

比良の突拍子もない提案に、天龍は何を言っているんだと肩を竦めてみせる。

 

「普通の人間のあんたらが、オレたち艦娘とやりあえる訳ないだろ?」

 

「おい天龍、少し提督たちに失礼じゃないか?」

 

木曾が天龍を咎めるが、比良は構わないというように手を振って見せる。

 

「たしかに、俺みたいなオッサンじゃ相手にならないだろうけどな。安住はどうだ?なかなか出来る方だと思うぞ。」

 

いまだ素振りを続ける安住に目をやる天龍。

 

(少佐ねぇ・・・身体つきはひょろっちいが、素振りからすると少しは出来そうだが・・・。)

 

見定めるような視線で安住を見つめていた天龍に、比良がさらに声をかける。

 

「安住に勝ったら、前衛艦隊への編成も考えてみるって条件ならどうだ?」

 

「提督、それはいくらなんでも・・・。」

 

比良の提案に木曾が呆れた様子をみせるが、それに天龍が反応した。

 

「提督、その話マジだな?」

 

「もちろんだ。安住が勝ったら、かわりにお前が前線に行きたい理由を教えてもらおうかね。」

 

天龍の目が一瞬細くなるが、前線に出られるまたとないチャンスだ。

 

「いいぜ!やってやろうじゃねぇか!」

 

比良の条件をのみ、天龍と安住の試合が決まったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

素振りを終えた安住は今、剣道場の中央で天龍と向かい合っていた。

比良が審判としてルールの説明を始める。

 

「ルールは特になし!どんな手を使ってでも、最終的に相手を制圧した方が勝ちだ!」

 

「いいのか提督?そんな無茶苦茶なこと言って。」

 

さっそく木曾が苦言を呈する。

 

「実戦じゃあルールも糞もないからな。なんでもありだ。」

 

「実戦、ねぇ・・・。」

 

何か問題があるか?と付け加え、比良は説明を続ける。

 

「武器は妖精さん謹製の『当たっても痛くない!訓練用木刀!(定価6,980円 税別)』を使ってもらう。何か質問はあるか?」

 

「いえ、ありません。強いて言うなら、勝手に試合を決めないで貰いたいですね。」

 

「オレも特にないぜ。提督、さっきの約束忘れんなよ?」

 

安住が少しばかり嫌味を言ったが、二人とも準備は万端のようだ。

比良は二人の顔を見て「構え。」と指示する。

天龍と安住が腰に持っていた木刀を仮想の鞘から引き抜くようにして抜き、天龍は下段、安住は中段で構える。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

構えた姿勢のまま、暫くの時間が流れ、剣道場が静寂に包まれる。

剣道場の窓辺に留まっていた小鳥が飛び立つ音を合図に、試合が始まった。

 

「始め!!」

 

「でやああああああ!!」

 

先に仕掛けたのは天龍だった。

艦娘の身体能力を遺憾なく発揮し、瞬く間に安住との距離を詰める。

 

(ーーー速い!)

 

下段からの鋭い切り上げが安住を襲う。

しかし、それは木刀によって阻まれる。

そのまま数回打ち合った後、鍔迫り合いとなった。

 

「さすが、艦娘の身体能力ですね。一瞬姿を見失いましたよ。」

 

「少しはできるようだが・・・これはどうだ?」

 

天龍が後ろに飛び退き、鍔迫り合いが終わる。

しかし次の瞬間、目にも留まらぬ速さで天龍が飛び込んでくる。

突進突きといったところか。

 

「くっ・・・・・・!?」

 

身体を右に逸らし、突きをかわす安住。

だが、天龍の攻撃はそこで終わっていなかった。

突き出された木刀が向きを変え、胴を切り裂くように襲ってきていた。

天龍は突きが回避されたと判断するや、足を踏ん張り急ブレーキで突進を止め、木刀の刃の側が相手を向くように寝かせて凪ぎ払っていたのだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

「今のをかわすとは思わなかったぜ。・・・フフ、怖いか。」

 

木刀があたる寸前、天龍の後方に向かって飛び込み前転の要領で逃げ、事なきを得た安住。

片膝をついて息を乱すその頬を冷や汗が伝い、一瞬小さく身震いする。

 

(い、今のは危なかった・・・・・・・・・フフ、怖い・・・。)

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「ほお。天龍はさすが遠征艦隊の旗艦だけあるな。あの安住に膝をつかせるとは。」

 

比良が感心したように言う。

 

「まあ、天龍は刀を装備する艦娘の中でも1、2を争う腕前だって評判だからな。」

 

木曾がなぜか誇らしそうに言う。

それを聞いた比良は目を丸くしていた。

 

「それ・・・マジか・・・?」

 

木曾は比良に得意気な笑みをしてみせると、試合を見るように促す。

 

「どうだかな。ほら、そろそろ決着がつきそうだぞ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

何度も打ち合っている内に、安住は徐々に追い詰められていた。

 

「オラオラ!どうした、そろそろお手上げか?」

 

「はぁ、はぁ・・・くっ!」

 

休みなく繰り出される斬撃を、安住はなんとか捌いている。

防戦一方となった安住へ天龍が畳み掛けるように連続攻撃をしかける。

 

「そろそろ終いにしようぜ!少佐ァ!」

 

これまで以上に素早く、重い斬撃が次々と襲う。

連撃に耐えかね、ついに安住が体勢を崩してその背中を天龍に晒す。

その隙を逃さず、天龍が木刀を振りかぶる。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「これは、決まったな。提督よ。」

 

「・・・ああ。」

 

天龍の勝利を確信し、木曾が比良に勝ち誇る。

だが、比良の次の言葉に木曾は目を見開く。

 

「安住の・・・・・・勝ちだ。」

 

剣道場に木刀が床へ叩きつけられた音が鳴り響く。

それは天龍と安住の試合に決着がついたことを意味していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

何が起こったのかわからなかった。

手からは木刀が無くなっており、首筋に突きつけられた木刀が、もしも実戦なら命は無かったことを思い知らせる。

理解できたのは、自分が負けたということだけだ。

 

「オレが・・・負けた・・・?」

 

信じられないというように目を見開く天龍。

 

「・・・勝負あり、ですね。」

 

そう言って天龍の首筋から木刀を離す安住。

そして刃に着いた血を払うように一度だけ木刀を振り、手の中でくるくるとそれを回転させて逆手に持ち変え、鞘へ納めるように腰へ挿す動作をする。

それはまるでーーー。

 

「居合い・・・か?剣筋がまったく見えなかったぜ・・・。」

 

「ええ、抜刀術です。まさかこれを使うことになるとは思いませんでした。」

 

 

 

ここで時間は少し遡る。

安住は体勢を崩し、天龍に背中を晒した。

しかし実際には体勢を崩したフリをして右回転し腰を低く落として、抜刀術の構えを取っていた。

それは天龍から見れば、よろめいて背中を晒した状態でしゃがみこんだようにしか見えない。

天龍が木刀を振り下ろし、斬撃が安住を捉える瞬間、安住の木刀が仮想の鞘から抜かれた。

弾けるように抜き放たれたそれは相手の斬撃を受け流し、かつ、その手から木刀を弾き飛ばした。

そして天龍の手から木刀を弾き飛ばした安住は、返す刃で上段から木刀を振り下ろし、首筋に触れる寸前でその斬撃を止めたのであった。

 

 

 

「は・・・はは。オレの完敗だ。見直したぜ、少佐。」

 

「いえ、正直に言ってかなり危なかったです。あの演技に引っ掛かってくれなかったら、私が負けていました。」

 

清々しい表情でお互いを称え合う二人。

そこへ沢山の拍手が鳴り響いた。

 

「うおっ!?なんだ!?」

 

驚いて周囲を見渡す二人。

気がつくと剣道場の周囲には起床してきた艦娘や士官たちが集まっており、大勢の観客となっていた。

 

「いい勝負だったぞー!」

 

「天龍さんかっこよかった~!」

 

「まさか少佐が勝つなんてなぁ~大損だ・・・ガックリ。」

 

「大穴の少佐に賭けて大正解だー!ウッヒョー!」

 

早朝の鎮守府に観客からの賛辞が響き渡る。

その中から、数人の艦娘が飛び出してくる。

 

「天龍さん、すごくかっこよかったわ!」

 

「かっこいいのです!」

 

「さすが天龍さん、かっこいい系のレディーね!」

 

「天龍さんの動き、はっやーい!」

 

天龍率いる第5艦隊の駆逐艦娘たちだった。

かわいい妹分たちに抱きつかれて戸惑う天龍だが、その表情は満更でもなさそうだった。

 

 

 

「安住、おつかれさん。」

 

比良が安住に水の入ったペットボトルとタオルを差し出す。

それを受け取り、タオルで汗を拭う安住。

 

「ありがとうございます、提督。」

 

「どうだ、天龍との試合は。」

 

「とても有意義でしたよ。それに、天龍さんの気持ちは刀を通じてよく分かりました。」

 

安住は目を閉じ、天龍との試合を思い返す。

 

「ほう。で、どうだったんだ?」

 

「ふふっそれは言わないでおきましょう。前線に出るばかりが、彼女の目的を果たす手段ではないと気づくでしょうから。」

 

「そうか。なら自分で気づいてくれるのを気長に待つかね。」

 

「ええ。さ、汗を流して朝食を食べにいきましょうか。」

 

 

 

「あーもう、分かったから離れろよー!暑いっての!」

 

駆逐艦娘たちに囲まれていた天龍に、木曾が話しかける。

 

「天龍、提督から伝言だ。自分の手が届く範囲で守ってやれ。だとさ。」

 

「!!・・・やれやれ、お見通しだったってか。」

 

比良の伝言の意味に気づき、頭をかく天龍。

 

「ああそれと、少佐からも伝言だ。また今度、手合わせしよう。だと。」

 

「フフ、それは楽しみだな。次は絶対負けねえ!」

 

天龍は安住との再戦の日を思い、闘志を燃やすのだった。

 

(俺も剣を教えてもらおうかね・・・。)

 

その後、早朝の剣道場で安住に教えを乞う木曾の姿が、度々見られるようになったとか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第14話です。

いかがでしたでしょうか。

今回は鎮守府の遠征番長こと、天龍にスポットをあてています。
天龍が戦闘にでたがる理由、それを考えていたら思い浮かびました。
遠征艦隊の妹分たちを守りたくて、自分が戦闘にでて敵を多く倒すことが、守ることに繋がる。
そう考えている天龍、かっこよくないですか?
ということで書きました。


今回、執筆が完了して保存を押したタイミングで一度データが吹っ飛びました。
自動バックアップから手直ししている最中にこれまた画面が固まり、なぜか投稿されてしまいました。

まあ、残りは前書きと後書き書いて、最後に一度読み返すだけだったからよかった・・・。
データが吹っ飛ぶと焦りますね。・・・フフ、怖い。
頭が真っ白になりましたよ・・・。


では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話「艦隊防衛戦・1」

南西諸島海域への進攻ルートを確保してから数日たったある日のこと。
利根率いる第3艦隊はいつも通りの哨戒任務に就いていた。


ーーーーー鎮守府近海・13:30ーーーーー

 

 

 

第3艦隊の主な任務は、鎮守府近海の哨戒任務である。

本日の哨戒任務はあと少しで終了となり、今は引き継ぎの第4艦隊との合流地点へ向かっているところだ。

 

「うむ、今日も何事もなく終わりそうじゃの。吾輩は腹が減ったぞ・・・。」

 

先頭を行く旗艦の利根が「ぎゅるるる」とお腹を鳴らせている。

 

「姉さん、あと少しですから頑張りましょう。深海棲艦の気配がないからといって、油断は禁物です。」

 

そう注意するのは、利根の妹の筑摩である。

よく気がつく、世話上手なできた妹だ。

 

「暑い・・・。吹雪、あとでアイス奢って。」

 

「えぇー?この前も奢ったよね・・・。初雪ちゃん、今日は自分で買ってよ。」

 

「ケチ・・・。ゲームとマンガ買いすぎてお財布もう空っぽ・・・。」

 

「それは自業自得じゃ・・・。はぁ・・・まあいいよ。私もアイス食べたかったし。」

 

「・・・・・・やったぜ。」

 

まだ任務中ということを忘れているのか、甘味の話をしているのは初雪。

そしてたかられているのは姉の吹雪だ。

 

「昼で交代だから、お弁当持ってこなかったしねー。・・・・・・ふああ・・・眠い。」

 

「川内さん、また夜更かししてたんですか?」

 

「んーまぁねー・・・ふわぁ。・・・吹雪も今度、夜戦演習する?」

 

「い、いえ、遠慮しておきます。あはは・・・。」

 

昼間だというのに眠たそうに瞼をこすって欠伸をするのは川内。

川内は「超」が付くほどの夜戦好きで、よく夜更かしをしているためか日中は眠たそうにしていることが多い。

 

「お弁当と言えば、鳳翔よ。感想はどうだったんじゃ?」

 

それを聞いて思い出したと、利根が鳳翔に訪ねる。

その顔は面白いネタを見つけたというようにニヤニヤしている。

 

「えっ?///な、なんで少佐にお弁当を作ったことを知ってるんですか///」

 

「鎮守府の殆どの者が知っておるし、最近はその噂でもちきりじゃからな。」

 

わずかに頬を朱に染めて慌てる鳳翔。

それを見て、利根の表情がにんまりとイタズラっぽい笑みへと変わる。

 

「それに鳳翔よ。吾輩はただ感想はどうだったかと聞いただけじゃぞ?」

 

「あっ・・・///」

 

自分の失言に気づいた鳳翔は頬を顔を両手で覆ってしまった。

耳がリンゴのように真っ赤に染まっていることから、相当恥ずかしがっているのがわかる。

 

「もう、姉さん!鳳翔さんをいじめちゃだめじゃないですか!」

 

「すまぬすまぬ。じゃが、皆気になるじゃろう?」

 

一応謝りつつも、利根は後方に続く仲間達へ顔だけ振り向かせる。

 

「・・・気になる。」

 

「最近、皆その噂してますよね。私も気になります。」

 

「それは、気になりますけど・・・。」

 

「ねむーいー・・・。」

 

その返事は様々だが、やはり鳳翔と安住の関係については気になるようだ。

約一名、眠たそうなのがいるが、こちらは気にしないでおこう。

 

「で、どうなんじゃ?少佐はなんて言っておった?」

 

「え、ええと・・・『とても美味しかった』と・・・///」

 

「ほうほう、それから?」

 

「ま、『毎日でも食べたいくらいです』って///」

 

赤く染めた頬に手をやり、もじもじしながらも鳳翔は律儀に質問へ答えている。

 

「そ、それから『お礼に今度は私がお弁当作ってきますから、食べてみてくださいね』なんて・・・///」

 

「おぉぉ・・・もう聞いてもいないのに、のろけ出したぞ・・・。」

 

恥ずかしさからか混乱している様子の鳳翔はとうとう自分から語りだした。

 

「鳳翔さん・・・ラブラブですね。私も姉さんにお弁当作ってみましょうか・・・。」

 

「なに、こののろけ話・・・。」

 

その様子をみて若干呆れ始めた艦娘たち。

そこへ、思いもよらぬ爆弾が投下される。

 

「鳳翔さんと少佐って、お付き合いしてるんですよね?もう、したんですか?」

 

瞬間、その場の空気が変わり、静寂が訪れる。

鳳翔は顔を茹でタコのようにし、再び顔を覆って俯いてしまう。

そして全員の視線が、たった今爆弾を投下した艦娘ーーー吹雪へと注がれる。

 

「あれ?私、何かおかしいこと言いました?」

 

自分が何をしたのか全く分かっていない様子の吹雪に、ある者は呆れ、ある者は笑顔でーーー目が笑っていないのだがーーー詰め寄る。

 

「吹雪、ちゃん・・・?ナニを聞いちゃってるんですか・・・?」

 

「・・・・・・ないわー。」

 

「お主、後で工厰裏じゃ。」

 

「・・・・・・Zzz・・・。」

 

「えっ。ちょ、何なんですか!?」

 

状況が飲み込めず困惑する吹雪。

 

「私はただ、もうキスしたんですか?って聞いただけなんですけど!?」

 

再びの静寂。

今度は全員が肩をがっくりと落とし、吹雪の肩に手をやりながら頷く。

 

「うむ、言葉が足りなかったのじゃな。うむ。」

 

「・・・Zzz・・・・・・。」

 

「吹雪・・・アホの子?」

 

「きちんと整理してから話しましょうね。吹雪ちゃん。」

 

仲間たちの対応の変化に、吹雪は戸惑っている。

一方、鳳翔はまだ再起不能のようで、時折顔を左右に振っては悶えていた。

そうして騒いでいた艦娘たちの談笑を1つの声が遮った。

 

「皆!静かに!!」

 

その声に、その場の全員が静まり返った。

声の主は先程まで目を瞑って半分寝ていた川内だった。

 

「なんじゃ川内、なにk「黙って。」

 

利根の言葉を遮り、黙らせる。

皆、何事かと川内に注目している。

すると、目を瞑って上を向いていた川内が口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・敵がいる。割りと近くに。」

 

その言葉に一同は驚愕する。

ゆっくりと目を開いた川内がこう続けた。

 

「波と風の音に混ざって砲撃の音が聞こえる。あとこれは・・・艦載機の機銃の音?・・・・・・何かが襲われてる・・・?」

 

そんなまさか、と全員が思ったその時だった。

第3艦隊の全員に緊急通信が入った。

 

『こちら第5艦隊、島風!帰還途中で深海棲艦の大部隊と遭遇!!救援を要請します!!雷と電が大破!現在、天龍と龍田が応戦中!!繰り返しますーーー。』

 

艦隊が緊張感に包まれる。

それは、遠征に出ていた第5艦隊からの救援要請だった。

なんでこんなところに深海棲艦の大部隊が?という考えが一瞬頭をよぎる。

しかし考えている時間はない。

 

「全艦!最大戦速!第5艦隊の救援に向かうのじゃ!!鳳翔!」

 

「はい!上空の直掩機を先行して向かわせます!続いて緊急発艦急がせます!!」

 

「司令部への打電完了!第4艦隊も近くまで来ているはず・・・姉さん、そちらにも連絡をとりますね!」

 

「任せたぞ、筑摩よ!」

 

利根の指示のもと、各員が一斉に動き出す。

哨戒任務にあたる艦隊には、司令部の指示を待たず、旗艦の判断による交戦許可が与えられている。

これは逼迫した状況にある戦場において、現場にいる者の判断を尊重し、少しでも迅速に対処できるようにするためだ。

それにいちいち司令部の判断を待っていては、その間にいらぬ犠牲が出るかもしれない。

そんな状況になることを危惧した、比良と安住の両名からの指示である。

 

「ここからだと、到着まで15分ってとこだね。」

 

「先発した直掩隊はあと7分程で到着するはず・・・。川内さんの言う通り、敵の艦載機がいるとしたら・・・。」

 

後続の艦載機の発艦準備を急ぎつつ、鳳翔が心配そうな表情で呟いた。

その呟きに続いて吹雪も口を開く。

 

「空母もいるはず・・・ですね。利根さん、もしかして先日、主力艦隊が取り逃がしたっていう軽空母ヌ級じゃ・・・。」

 

「その可能性はあるじゃろうな、吹雪よ。じゃが今は全速力で第5艦隊へ合流するのみじゃ!」

 

「やって・・・やりますよ・・・今日は。アイスも待ってるし。」

 

初雪も珍しく気合いは十分のようだ。・・・アイスが待っているからなのだろうが・・・。

 

「姉さん、第4艦隊はあと20分で救援に到着すると。」

 

第4艦隊との通信を終えた筑摩が利根に報告する。

報告を聞いた利根は、少し眉間に皺を寄せて険しい表情になった。

 

「あちらの方が少し遠かったか。しかし到着時間はそう変わらぬ・・・鳳翔の航空隊が頼みじゃな・・・。」

 

鳳翔航空隊が飛び去った空を見つめ、利根は自分の頬を両手でパシンと叩いて気合いを入れ直すのだった。

 

「待っておれよ・・・すぐに吾輩たちが往くからの!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第15話です。

いかがでしたでしょうか。

更新遅くなってすみません。
体調崩して執筆が止まっていました。
季節の変わり目は怖いですね。
皆さんも体調にはお気をつけくださいませ。

今回からまた少し戦闘回になります。
うまく書けるか不安しかないです・・・。
いつも通り生暖かく見守ってくださいm(__)m


それでは、また次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話「艦隊防衛戦・2」

時間は、第3艦隊が島風からの救援要請を受けたところから少し遡る。

海上輸送路が確保されたことにより、遠征艦隊は今日も補給物資の輸送任務に就いていた。
安全なはずの帰り道、深海棲艦の魔の手が迫りつつあることなど、誰も知るよしもなかった。


ーーーーー鎮守府近海・13:00ーーーーー

 

 

 

少しずつ暑くなってきた今日この頃、巷では梅雨入りしたというニュースが流れている。

ジリジリと照りつける太陽もあり、夏の気配を間近に感じるようになってきた。

今日も遠征任務を遂行した後は、いつも通りお風呂で汗を流し第5艦隊の皆で間宮に行く予定だ。

 

「皆おっそーい!早く早くー!!」

 

「おーい、あんまり先に行きすぎるなよー!・・・島風のやつは今日も相変わらずだなぁ。」

 

単縦陣の先頭を行く天龍を追い抜いて、島風が元気よく進んでいく。

 

「うふふ、間宮アイスが待ち遠しいのかしらね~。」

 

「まったくもう!レディならちょっとは我慢できないとダメよ!」

 

その姿を見守る龍田と、レディには忍耐も必要だと呆れる暁。

 

「そういう暁も早く戻ってアイスが食べたいんじゃないの?」

 

「そ、そんなことないし!ぷんすか!」

 

「はわわ、け、喧嘩はダメなのですー!」

 

若干そわそわしていたのを雷が指摘し、食いつく暁を電が宥める。

とても任務中とは思えない雰囲気だ。

 

「元気だなーこいつらも。」

 

「見た目相応ってかんじね~。」

 

その様子を微笑ましく眺めつつも、天龍と龍田は周囲への警戒を怠らない。

この2人の存在が、ゆるい雰囲気でも無事に遠征をこなしてこられた所以である。

 

(しかし今日は天気がいいが、雲が多いな・・・。お陰で多少涼しいのは助かるんだが・・・。)

 

日差しを片手で遮りながら、天龍が空を見上げる。

 

(・・・・・・雲上から奇襲攻撃、なんてないよな・・・?対空電探が無いから敵艦載機に奇襲されたらたまらないぜ。)

 

大小様々な大きさの雲の隙間を見続けていたその時、雲間から太陽が顔を覗かせ、一瞬目が眩む。

 

(っ・・・!眩し・・・!?)

 

目が眩んだ瞬間、一瞬だが太陽の中に複数の小さな黒点が見えた。

全身を悪寒が走り、鳥肌が立つのがわかる。

主砲と機銃を上空に向けると同時に叫ぶ。

 

「敵機直上!!対空戦闘用意!!」

 

天龍の指示に、弾かれたように動き出す艦娘たち。

陣形を即座に輪形陣へ変更する。幼い容姿をしていても、そこは艦娘。無駄のない動きで艦隊運動に移る。

第5艦隊の輪形陣は他とは違い、天龍と龍田が前後を守り、駆逐艦娘たちが内側に入る形になっている。

 

「敵機は太陽の中からくるぞ!雲間からの襲撃にも注意しろよ!対空射撃、撃ち方始め!!」

 

「てぇー!」

 

「なのです!」

 

対空射撃が開始され、弾幕が敵艦載機に襲いかかる。

遠征部隊とはいえ、その射撃精度はなかなかのもので、敵機を次々と撃ち落としていく。

 

「これくらい、レディには朝飯前なんだから!」

 

「4時方向の雲間から別の編隊が来るわ~!」

 

「敵の展開がはっやーい!続けて1時と10時からも来るよ!」

 

敵の編隊が雲を隠れ蓑にして何波も襲来する。

 

(これだけの量の艦載機・・・確実に空母が居るな・・・。でも何処に?)

 

敵機の迎撃を続けながら、天龍は周囲を見渡す。

短時間に大量の艦載機を投入してこられるのなら、見える範囲に空母が居るはずだ。

 

(・・・・・・見つけた!ってオイ!?そんなのアリかよ!?)

 

確かに空母がいた。護衛の多数の深海棲艦に守られて、ヌ級が1隻にヲ級が3隻、計4隻。

だが、それよりも重大なものを見つけてしまった。

 

(戦艦ル級が5隻だと!?しかもなんだ、あの先頭のやつは!右目が無い・・・主力艦隊が取り逃がしたっていうやつか!!)

 

そして不意に聞こえてくる風切り音。

砲弾が飛来する時の音だ。

対空迎撃に気を取られて、まだ誰も気づいていない。

 

「砲撃が来る!防御姿勢とれ!!」

 

「ど、どこから!?きゃあっ!?」

 

「雷ちゃん!?ふあっ!?」

 

防御するように叫ぶも、間に合わずに戦艦の砲撃が艦隊を襲った。

砲弾が次々と着弾し、無数の水柱が立ち上る。

 

「雷!電!無事!?」

 

姉妹の悲鳴を聞いた暁から悲痛な叫びがあがる。

 

「うぅ・・・雷は大丈夫なんだからっ!」

 

「はぅぅ・・・恥ずかしいよぉ。」

 

被弾したものの、雷と電は中破といった様子だ。

 

「もう!敵の数が多いよ!これじゃ身動きとれない!」

 

敵艦載機からの爆撃や機銃掃射に加え、敵艦隊からの砲撃も加わったことで島風も自慢のスピードを発揮することができないでいる。

 

「天龍ちゃん、流石にこれはマズイわ~。物資を投棄してでも撤退すべきよ。」

 

「ああ・・・わかってる。全艦、ただちに物資を投棄!逃げるぞ!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

撤退の為に、ここまで運んで来ていたドラム缶を投棄して少しでも身軽になり、速度を上げやすくする。

鎮守府まで後少しなのだが、致し方ない。

物資の投棄が完了し、撤退の為に転舵しようとした時だった。

 

「雷跡多数!皆避けて!!」

 

「「「「え?」」」」

 

「くそっ!」

 

龍田の悲鳴の様な声。

激しい攻撃の最中、ひっそりと目前まで迫っていた無数の魚雷に駆逐艦娘たちの反応が遅れる。

 

「あぁぁぁっ!?」

 

「電!?ーーーっ!?」

 

魚雷をかわすことは叶わず、多数の水柱と悲鳴があがる。

天龍と龍田が咄嗟に駆逐艦娘たちの前に出て盾となったが、魚雷の数が多すぎた。

 

「ぐうっ!?クッソが!」

 

「はぅう!?痛いってばぁ!」

 

「・・・・・・ぅ・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「このくらい、へっちゃらだし・・・。」

 

「・・・・・・痛いじゃない。」

 

全員が被弾し、盾となった二人は中破していた。

 

「雷!?電!?目を開けて!!」

 

暁の悲鳴に天龍が背後を見ると、雷と電が倒れて意識を失っていた。

轟沈してはいないようだが大破しているようで、目を覚ます気配がない。

 

(クソ、どうする・・・意識を失ってる二人を曳航して撤退なんて、この状況じゃ不可能だ・・・。)

 

艦隊はいまだ敵の激しい攻撃にさらされている。

曳航して撤退しようとすれば、速度は出せず敵に狙い撃ちにされ、全滅する。

 

「く・・・天龍ちゃん、逃げないと!」

 

ならばどうするべきか。

天龍には旗艦として採るべき行動は分かっていた。

そう、雷と電を見捨て、無事な者だけでも逃がすべきだ。

 

「連装砲ちゃん!頑張って!私も頑張るから!」

 

だが天龍にはそんなことは出来なかった。

かわいい妹分たちを見捨てて逃げ帰るなど、出来ない。

 

「よくも雷と電を!許さない、許さないんだから!!」

 

しかし、このままでは全滅する。

天龍の心拍数があがる。鼓動がどんどん激しくなる。

 

(どうするどうするどうするどうするどうするどうする!?)

 

「ーーちゃん!ーんーーうちーー!」

 

思考がショートし、何も考えられなくなる。

 

(どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!?)

 

「ーーーーー!天龍ちゃん!!」

 

突然、頬を襲った衝撃に、天龍は我に返る。

目の前には、龍田が立っていた。

 

「天龍ちゃん、しっかりして!」

 

「龍田・・・。」

 

龍田に頬を叩かれたのだと、漸く理解する。

普段は妖しい光を宿している眼に、今は強い意思を込めた龍田が、天龍を叱咤する。

 

「まずは落ち着いて!天龍ちゃんが皆を守るんでしょう?ならまずは何をすべきかわかるでしょ!!」

 

龍田に言われ、はっとする天龍。

一度深呼吸し、心を落ち着かせる。

 

「ああ、わかってる。」

 

まずは状況整理だ。

こちらの被害は甚大で、とてもここから離脱できる状態ではない。

敵には空母に戦艦、重巡や雷巡の姿も見られ、正面からぶつかっても勝ち目は無い。

さらにはすでに敵艦隊に半包囲されており、完全に包囲されるのも時間の問題だ。

ならばどうする?

幸い、現在地は鎮守府に程近い。

この時間、第3艦隊と第4艦隊が交代の為にこの海域にいるはずだ。

なら、採るべき道は一つだ。

 

「島風!」

 

「おうっ!?」

 

天龍が島風を呼び、命令する。

 

「オレたちが突破口を作る!その隙に全速力でここから離脱、鎮守府へ先行して救援を要請しろ!」

 

「え!?でも!」

 

島風が抗議の声をあげるが、お構いなしに続ける。

 

「付近に第3艦隊と第4艦隊が来ているはずだ!全周囲でいい!救援要請を叫びまくれ!」

 

「私たちのことなら大丈夫よ~。この程度、救援がくるまで持ちこたえてあげる。だから島風ちゃん、お願い。」

 

今自分がここから抜ければ防衛能力が落ちる。

それを心配する島風に、龍田がウインクして大丈夫だと言う。

 

「・・・・・・わかった。救援を呼んだらすぐに戻るから!!皆まってて!!」

 

「島風ちゃん、お願い!」

 

「頼むぜ島風!!暁は雷と電を守れ!・・・龍田!!」

 

「はぁ~い!」

 

天龍の号令で砲撃が開始される。

 

「連装砲ちゃんたちはここで皆を守ってあげて!暁ちゃん、この子たちをお願いね!」

 

「暁に任せなさい!」

 

「キュイ!」

 

連装砲ちゃんたちは島風のお願いに元気よく応えた。

 

「今だ!行け!島風!!」

 

「私には誰も追い付けないよ!」

 

艦隊を包囲しつつあった敵の間をすり抜け、島風は全速力で離脱していく。

その背中を重巡リ級が追撃しようとするが砲撃を喰らい、阻止される。

リ級はゆらりと砲撃のあった方へ顔を向ける。

そこには刀を抜いて突撃してくる天龍の姿があった。

 

「お前らの相手はオレたちだ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第16話です。

いかがでしたでしょうか。

本家の艦これではあり得ない、遠征艦隊への襲撃です。
安全なはずの航路、そこへの襲撃、怖いですね。
まあ、遠征で弾薬を消費するってのは、襲撃に応戦しつつも逃げてるんですかね。

大破した雷と電の運命は!?
救援は間に合うのか!?
天龍たちは持ちこたえられるのか!?

では、また次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話「艦隊防衛戦・3」

戦闘海域からの離脱に成功した島風は鎮守府への緊急回線で救援要請をしていた。
緊急回線は作戦司令部への直通通信だ。
この日、その作戦司令部には司令部要員の他にも人影があった。


ーーーーー鎮守府・13:10 作戦司令部ーーーーー

 

 

 

鎮守府にある作戦司令部、普段は安住が前線で指揮を執る為あまり使われない場所だ。

だからといって機能していないわけではなく、各所との通信や出撃中の艦隊の現在地を追跡したり、様々な情報の処理等が行われている。

そんな司令部に、珍しく比良と安住が来ていた。

 

「各地の泊地も少しずつ完成して、徐々にですが戦果をあげてきているようですね。」

 

「ああ。大本営所属の艦娘たちも各地へ配属され始めているらしいな。」

 

「その内、うちから出向、引き抜かれる艦娘もでてくるでしょうね。なるべくそうならないで貰いたいものですが。」

 

「そうだな・・・他所の泊地に提督として就任予定の士官の中には、良くない噂をきく者もいるからな・・・。」

 

二人はどうも各泊地の完成状況や戦果、これからのことについて話し合っているようだ。

このような話なら執務室ですればいいのだが。

なぜ司令部で話し合っているかというと・・・。

 

「しっかし、このくそ暑いのに執務室の冷房が故障するとはなぁ・・・。卯月のやつめ。」

 

「そうですね・・・まあ、こどものイタズラと思いましょう。彼女も壊したと分かって謝っていましたし。」

 

そう、比良が休憩で席を外している間に卯月がエアコンの温度を上げ下げしまくったことで、執務室のエアコンが壊れてしまったのだ。

 

「まあ、たまには司令部で執務するのも悪くはないか。」

 

司令部には、提督用の簡易執務室も用意されており、大規模作戦等で司令部を離れられない場合に臨時の執務室としても機能するようになっている。

 

「気分転換と思いましょう。もうそろそろ遠征に出ていた第5艦隊が帰還する頃ですね。」

 

「もうそんな時間か。よし、たまには間宮券でもやって働きを労うとするか。」

 

比良が制服の胸ポケットから間宮券の束を取りだして枚数を数えていると、扉からノックの音が聞こえた。

 

「駆逐艦 響です。」

 

「同じく、叢雲よ。」

 

「どうぞ、入ってください。」

 

「「失礼します。」」

 

入室の許可を貰い、部屋に入ってきたのは響と叢雲だった。

その手にはビニール袋がぶら下がっている。

 

「こんにちは、今日も暑いわね。ん、この部屋は冷房が効いていて涼しいわね。」

 

「提督、司令官、こんにちは。差し入れだよ。」

 

そう言うと、二人がビニール袋から何かを取り出す。

 

「ありがたく受け取りなさい。」

 

差し出されたそれは、鎮守府内の酒保で販売されている1日数量限定の『大和ラムネ』だった。

それを受け取った比良は艦娘がするように眼を輝かせる。

 

「おおお!!これが噂の『大和ラムネ』か!酒保に行くといつも売り切れなんだが、よく手に入れたな!」

 

「叢雲さん、響さん、お気遣いありがとうございます。」

 

お礼を言うのも忘れてこどものようにはしゃぐ比良に替わって、安住が二人へ礼を言う。

 

「『大和ラムネ』!美味いじゃないかーーー!!」

 

「別にアンタたちの為じゃないわ。たまたま残ってたから買ってきただけよ。」

 

比良がさっそくラムネを飲んで感動しているが、叢雲は無視してたまたまだと言う。

 

「叢雲はこう言ってるけど、さっきは『執務室の冷房が壊れて暑がっているだろうから、いつも頑張ってくれている二人に、これでも差し入れして涼んで貰おうかしら』・・・って言ってたよ。」

 

「ちょっと響!?アンタ何ばらしてくれてるの!?って・・・あ///」

 

クールに決めようとした叢雲だったが、響によって阻止される。

顔を赤くした叢雲が頭から煙を出して両手で顔を覆ってしまった。

 

「では、私もありがたく戴きますね。・・・・・・ん、ぷはっ。これは・・・!美味しい!!」

 

ラムネの美味しさに、安住は眼を丸くして驚いている。

 

「こんなに美味しいラムネは飲んだことありませんよ!」

 

「ふふ・・・それはよかった。ね、叢雲。」

 

「そ、そうね。私たちに感謝しなさい。」

 

そんな他愛もない会話で和んでいる時だった。

扉が激しくノックされる。

 

「て、提督、少佐!緊急入電です!」

 

「入れ!」

 

比良の許可で司令部の通信士が慌てて入室し、素早く敬礼して報告する。

 

「報告!第5艦隊の島風から入電!深海棲艦の大部隊に襲撃された模様!救援要請が来ています!」

 

「なんだと!?」

 

「被害状況は、雷、電が大破して意識不明。現在は天龍、龍田、暁が敵艦隊と交戦中とのことです!」

 

「ーーーっ!!」

 

その言葉を聞いた響は、島風も凌駕するほどの勢いで部屋を飛び出していってしまった。

 

「響!?ちょっとどこいくの!」

 

慌てて叢雲が響を追いかけて部屋からでていく。

 

「分かった。貴様は引き続き情報を集めろ。恐らく第3、第4艦隊からも救援に向かう旨の通信が来る筈だ。そちらと情報を共有出来るようにしておけ。俺もすぐに行く。」

 

「ハッ!」

 

比良からの指示を受けた通信士は敬礼をすると急いで司令部へと戻っていった。

部屋に残ったのは比良と安住だけとなった。

 

「安住、すぐに動ける艦娘は?」

 

「非番や艤装が修理中の艦娘を除けば、主力からは由良と阿武隈。あとは演習に出ている予備隊の艦娘たちですね。」

 

「了解だ。直ちに艦隊を編成して救援に向かってくれ。あと、たぶん響と叢雲が飛び出していこうとするだろうな。」

 

「でしょうね。そちらは工厰に話を通して『アレ』を準備してもらっておきます。」

 

「頼む。」

 

「ハッ!」

 

比良と手短に戦力の確認と方針の決定を済ませると、安住は全体放送で艦娘たちに呼び掛けるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

響は出撃ドックへと走っていた。

この鎮守府の出撃ドックは工厰と併設されており、帰投後の整備や修理をスムーズに行えるようになっている。

 

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・。」

 

出撃ドックが見えてきたところで、後ろから肩を掴まれる。

 

「ちょっと響!!アンタどうするつもりよ!」

 

追いかけてきた叢雲が響に追い付いたのだ。

 

「止めないでくれ・・・私は行かなきゃならないんだ!」

 

「アンタ一人で行ってどうするってのよ!!」

 

「暁を、雷を、電を・・・守るんだ!」

 

響は叢雲を引きずってでも出撃ドックへ向かおうともがく。

叢雲はそれを必死に引き留める。

 

「だからって!駆逐艦1隻じゃどうにもならないでしょ!!」

 

「私はもう、一人だけ生き残るなんて嫌なんだ!!離してくれ叢雲!!」

 

「いい加減、落ち着きなさいって言ってんのよ!!」

 

そう言い放つと、叢雲は響を強引に振り向かせて思いきり平手打ちを喰らわせた。

 

「っ!?」

 

その衝撃で響がよろめいて尻餅をつく。

 

「はあっ!はあっ!・・・いつもの冷静さはどうしたのよ!こういう時こそ冷静にならなきゃいけないんでしょうが!!」

 

眼を見開き、ぶたれた頬に手を当て、呆然とした様子で響は叢雲を見上げていた。

 

「提督と司令官のことだから、すぐにここから救援部隊を寄越すはずよ!それに今は第3艦隊と第4艦隊が哨戒の為に出ているでしょう?きっと彼女たちもすぐに救援に向かうわ!」

 

「でも!」

 

「話は最後まで聞きなさい!!」

 

反論しようとした響を、ぴしゃりと叢雲が黙らせる。

 

「ここからだと間に合うか五分五分。だったら闇雲に出撃するんじゃなくて、間に合わせるにはどうすればいいかを考えなさい!」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ひとしきり叫ぶと、叢雲は息を切らせて響に手を差し出す。

 

「行くなら私も一緒に行くわ。それに、私たちには『慧眼の軍神』なんていうあだ名のついた司令官がいるじゃない。絶対に間に合う方法を考えついてくれるわ。」

 

「ああ・・・そうだね。叢雲の言う通りだ。取り乱してすまない。」

 

その手を取り、響が立ち上がる。

そこへ警報が鳴り、全体放送が聞こえてきた。

 

『緊急事態発生!現在、第5艦隊が敵の大部隊の襲撃を受けている!直ちに救援部隊を編成し、これを差し向ける!』

 

聞こえてきたのは安住の声だった。

 

『蒼龍、飛龍、由良、阿武隈、古鷹、加古、朧、曙、漣、潮は至急、出撃ドックへ集合せよ!』

 

「救援部隊の編成のようね。」

 

「・・・・・・。」

 

救援部隊の編成に、自分が含まれていないことに憤りを覚える響。

ぎゅっと力強く握られた拳が小刻みに震えている。

 

(大丈夫だ、落ち着くんだ私・・・。)

 

深呼吸をして、再び頭に血がのぼりそうになる心を落ち着ける。

 

『それから響と叢雲の両名は出撃ドックで艤装を装備後、第3格納庫へ行き、明石と夕張の指示に従うように。』

 

第3格納庫、主に装備のテストが行われている場所だ。

なぜそんな場所へ向かえと?

そんな疑問が浮かぶが、今はとにかく時間が惜しい。

今は自分達の司令官を信じて行くだけだ。

 

「行くわよ、響!」

 

「了解!」

 

 

 

ーーーーー鎮守府・13:20 第3格納庫ーーーーー

 

 

 

出撃ドックで艤装を装備した二人は、格納庫の扉を開けて中へ入った。

すると、大声で明石に呼ばれる。

 

「響ちゃん!叢雲ちゃん!こっちこっち!!」

 

「明石さん!」

 

二人は急いで明石のもとへ駆け寄る。

 

「ちゃんと艤装は装備してるね。」

 

「ええ。だけど、なんでまた第3格納庫に?秘密兵器でもあるのかしら?」

 

叢雲が腕を組んで疑問を口にする。

その疑問に答えたのは明石ではなかった。

 

「さすが叢雲ちゃん。その通りだよー!」

 

だが、声の主の姿が見えない。

 

「夕張さん?どこにいるんだい?」

 

響が辺りをきょろきょろと見回すが、どこにもその姿がない。

 

「ちょっと待ってねー。今そっちに行くから。」

 

その声を合図に、明石の背後の床がスライドして開いていく。

そしてその下から何かがせりあがってくる。

 

「これは・・・。」

 

「一体何だってのよ。」

 

格納庫の地下から夕張と共に姿を現したのは、2基の大型の機械だった。

艤装のようにも見えるが、それにしては大きい。

 

「これが、秘密兵器よ!」

 

夕張が腰に手をあて、さほど無い胸を張って「えへん!」と誇らしそうにしている。

そこへ明石からの説明が入る。

 

「これは艤装の追加パーツの試作品。名付けて『試製噴式機動推進装置 』!!通称『追加ブースター』!!」

 

「長ったらしい名前ね。単にブースターでいいじゃない。」

 

「う・・・、まあそう言わずに。装備の説明をするね。」

 

「うん、お願いするよ。」

 

叢雲の厳しい指摘に一瞬言葉を詰まらせるが、気を取り直して装備の説明に入る。

 

「これは艤装の上から装着するタイプの追加装備で、主に機動力の向上を目的としているの。」

 

「といっても目的は今回のような緊急時に、艦娘を素早く現場へ派遣すること。」

 

「今回はこれを二人に装備してもらって、救援部隊の先鋒として戦闘海域に向かって貰うことになるわ。」

 

明石の説明を真剣に聞く二人。

その表情に、これなら救援が間に合うという希望が見えはじめる。

 

「でも、注意してもらいたいんだけど、この装備は本来、重巡や戦艦が使用することを前提に設計されているの。」

 

「だから、駆逐艦である貴女たちが使用することで、身体にどんな影響があるかは分からない。」

 

「場合によっては生命に関わるかもしれない・・・。それでも、これを使う覚悟はある・・・?」

 

言い終えると、明石は不安そうな表情で二人を見る。

だが、それは愚問だ。

間に合うのなら、仲間を、姉妹を助けられるのなら、そんなことはどうでもいい。

 

「当たり前よ。私を誰だと思っているのかしら?」

 

「私も覚悟は出来てる。必ず、皆を守ってみせるよ。」

 

叢雲と響、二人の決意と覚悟を感じて明石が頷く。

 

「うん、ならこれを二人に託すね。夕張、調整お願い。」

 

「りょーかい!二人とも、3分頂戴。出来るだけ負担が少なくなるように調整してみるから!」

 

そうして、二人の艤装に追加ブースターが装着され、夕張と明石による調整が開始される。

叢雲に装備されたのは『乙型一式』と呼ばれる、ブースター側面に可動式制動装置が増設された、突進力と旋回性能が向上されたタイプ。

響に装備されたのは『乙型二式』と呼ばれる、ブースター側面に増設されたサブアームに大型の盾が装備され、強硬突撃を想定したタイプだ。

そして共通の装備として、ブースター上部には小型の対空対艦ミサイルが片側80発格納され、下部には対潜爆雷を満載。

ミサイルは現用兵器の為、深海棲艦に対しての効果は期待できない。

だが艤装の一部としてなら効果を発揮するのではないかという考察のもと、試験的に装備されている。

 

「よし、これで今できる調整はやれるだけやったよ。」

 

「二人とも、扱い方は身体で覚えて貰うしかないけど、いけそう?」

 

ブースターの調整を終えた明石と夕張が、これから出撃する二人に問う。

 

「うん、大体わかったよ。問題なさそうだ。」

 

「こっちも、いつでも行けるわ。」

 

艤装とのマッチングはうまくいっているようで、二人の意思に合わせてブースター各部の試製制御用のスラスターが小刻みに動く。

 

「よし、じゃあ出撃ゲートを開くよ!」

 

夕張が近くのコンソールを操作すると、先程あがってきた床が再び下がり始める。

それと連動して格納庫の地下隔壁が開いていき、やがて海水が響たちの足元へ侵入する。

 

「二人とも、最後の注意事項。もしも途中で異変を感じたり、警告音が鳴ったら直ぐにブースターを切り離すこと。最悪、安全装置が作動して強制的に分離するとは思うけど、くれぐれも無理はしないで。」

 

「分かったわ。」

 

「了解。」

 

いまだに不安そうに見つめる明石に、二人は心配いらないというように頷いてみせた。

そして最後の隔壁が開くと、外の光が差し込んでくる。

ブースターに火が入り、艤装を通じて徐々に大きくなる振動を感じる。

二人は深呼吸し、その時を待つ。

そしてーーー。

 

「叢雲、出撃するわ!」

 

「響、出撃する!」

 

緑色のランプが点灯して『出撃』の合図が出ると同時に、二人はブレーキを解除し、勢いよく飛び出していった。

守るべき仲間と姉妹が待つ戦場へーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第17話です。

いかがでしたでしょうか。

島風の救援要請は、まずは鎮守府に届いていました。
こんな状況なら、響は飛び出していこうとすると思うんです。
そこで、ちょっとオリジナル装備を出した次第です。
二次創作だし、アリですよね・・・?
あんまりなチートにはならない予定です。
試作機ですし・・・。

では、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話「艦隊防衛戦・4」

救援要請を受けて動き出した各部隊。
いつ来るとも知れぬ救援を待ちながら、天龍たちは敵の猛攻をなんとか凌いでいた。


ーーーーー鎮守府近海ーーーーー

 

 

 

砲撃が頬を掠めて背後の海面に着弾する。

派手な水柱があがり、全身を海水が濡らす。

戦闘が始まってからどれだけの時間が経ったのだろう。

既に周囲は深海棲艦に包囲されており、四方八方から攻撃を受け続けている。

 

「死にたい(ふね)は、あなたのようね~。」

 

襲い来る砲撃をかわしながら、構えた薙刀で突撃してきた駆逐ハ級を切り捨てる。

龍田は続けて迫ってくる軽巡ヘ級を主砲で牽制しつつ、すぐさま暁たちの居る場所へと後退した。

 

「も~、次から次へと忙しいわねぇ~。どんどん増えてるみたいよね~。」

 

「まったくだぜ。倒しても倒しても湧いてきやがる。・・・しかし奴等、楽しんでるな。」

 

完全に包囲されてからというもの、敵の攻撃の手が明らかに緩んでいた。

砲撃は相変わらず続いているが精度は低く、敵機は上空を旋回し続けている。

 

「オレたちを少しずつ擂り潰すつもりらしい。・・・悪趣味だぜ。」

 

「暁ちゃん、二人の様子はどう?」

 

敵への警戒は緩めず、龍田は背後に居る暁に向け顔を振り向かせた。

 

「ずっと目を覚まさないの・・・。このままじゃ雷と電が・・・・・・ぐすっ・・・。」

 

ここまで気丈に振る舞っていた暁だが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

島風が護衛に置いていった連装砲ちゃんたちも、心配そうにしている。

 

(息はあるみたいだが、早いとこ入渠させないとやべえな・・・救援はまだか!クソが!!)

 

雷と電は不意打ちの魚雷をまともに喰らって大破しており、いまだに意識が戻らないのだ。

もはや轟沈寸前と言っても過言ではない。

そんな二人を守りながら戦い続けていた天龍と龍田にも疲れが見え始めていた。

 

「天龍ちゃ~ん、そろそろ弾薬が尽きるわ~。」

 

「ふぅ・・・そうなったらコイツで叩き斬るだけだ!」

 

自慢の愛刀を構え直し、腰を落とす。

どうやら天龍は一歩も退く気はないようだ。

もっとも、それは龍田とて同じことだが。

 

「そうね~微塵切りにするだけよね~♪」

 

(とは言うものの、いつ敵の爆撃が再開されるかわからないのは辛いわねぇ~。)

 

ちらりと上空を闊歩する敵機を見上げる。

それよりも上空にある雲の切れ目から、小さな黒点が姿をちらりと覗かせた。

 

(うふふ♪でも心配はいらなかったみたいね~♪)

 

「天龍ちゃ~ん、お待ちかねの救援が来たみたいね♪」

 

「ああ?」

 

いつもの調子で笑う龍田に天龍が首を傾げる。

だが聞こえ始めた音に気付き、その表情は不敵な笑みへと変わる。

 

「ようやく到着か。」

 

次第に大きくなるプロペラ音。

そう、それは味方の航空隊の到来を告げるものだった。

 

「龍田さん、天龍さん!あ、あれって!」

 

暁が上空を指差し叫ぶのと同時に、頭上を旋回していた敵編隊の内の1機が突然爆発する。

それを皮切りに、白い翼が直上から敵編隊へと突撃し、すれ違う。

その後には、火を噴いて海へと墜落していく敵機の姿があった。

 

「航空隊のお出ましね~。どこの隊かしら?」

 

現れたのは白い翼を持った艦載機。零戦21型だ。

その隊長機の垂直尾翼には、羽ばたく白いカラスのエンブレムが描かれていた。

 

「白カラスのエンブレム・・・鳳翔航空隊か!!」

 

鳳翔航空隊は瞬く間に頭上の敵機を全滅させ、制空権を奪い返した。

そのタイミングで、隊長機から通信が入った。

 

『我ら鳳翔航空隊。此より貴艦隊を掩護する。安心されたし。』

 

「さすが、音に聞こえた鳳翔航空隊だ!助かるぜ!」

 

『本隊は到着まで時間が掛かるが、他の艦隊も向かっている。もう少しの辛抱だ。』

 

「了解!上空の掩護は任せたぜ!」

 

通信を終えると、新たに出撃してくる敵機を叩くため、鳳翔航空隊は敵空母へと攻撃を開始した。

隊長機と交信している間に後続の航空隊も到着したようで、そちらは周囲の敵への機銃掃射で掩護してくれている。

 

「さぁて・・・オレたちも行くかぁ!」

 

「小間切れにしちゃうから~♪」

 

鳳翔航空隊の活躍に目を奪われていたが、今度は自分達の番だ。

増援の出現で焦ったのだろうか、包囲網から突出してきた敵を迎え撃つべく、二人が動き出す。

今度の相手は重巡リ級、その装甲は厚く、軽巡には分の悪い相手だ。

 

「6S";6S";!!」

 

予想に反してリ級はさほど焦った様子はなく、自慢の主砲で連続砲撃を仕掛けながら突撃してくる。

天龍たちが感じた通り、いまだ深海棲艦に圧倒的有利なこの状況を楽しんでいるようだ。

 

「はっ!そうやって笑っていられるのも、あと少しだ!!」

 

襲いくる砲撃をジグザグに動いてかわし、避けられないものは刀で弾きながら天龍がリ級との距離を急速に詰める。

 

「フフフ、怖いか?」

 

「f7e!?」

 

たちまち目の前にまで接近した天龍に驚き、右腕の主砲を向けるリ級。

 

「遅えよ!!」

 

リ級の主砲が砲弾を放つ瞬間、右腕が下から刀に弾かれて砲弾は空高く撃ち上げられる。

その隙を逃さず、天龍が反撃を加える。

 

「受けてみな!秘剣・・・『瞬天』 !!」

 

瞬間、天龍の姿がリ級の視界から()()()()

 

「S"bieZq!?」

 

天龍を見失ったリ級が左右を見渡すが、何処にも姿はない。

 

「どこを見てる?」

 

「!?」

 

その声は背後から聞こえた。

驚いて振り返ると、そこには天龍が立っていた。

 

「bez!!」

 

リ級が再び右腕の主砲を構える。

しかし、主砲から弾が発射されない。

 

「その腕で何をしようってんだ?」

 

天龍の嘲笑にリ級は自分の腕を見やる。

その目に映ったのは、上腕の半ばから先が消失した自らの右腕だった。

 

「hcT"#!」

 

今度は左腕の主砲で攻撃しようとするリ級。

 

「私を忘れてないかしら~?」

 

その腕も背後から現れた龍田によって斬り落とされる。

 

「H"G"'33#3##!?」

 

両腕が切断されたことに、リ級が泣き叫ぶ。

そこへ仲間の危機を察知した深海棲艦たち数十体が駆けつけ、天龍たちに飛びかかる。

 

「やるぜ龍田!」

 

「はぁ~い♪」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

天龍と龍田の戦う姿を、暁は呆然として見ていた。

 

「・・・・・・すごい・・・。」

 

次々と襲いかかる深海棲艦を、二人の龍が斬り刻んでいく。

刀が爪の如く装甲を引き裂き、薙刀が牙の如く肉を貫き抉る。

 

「天龍さんと龍田さん、まるで踊っているみたい・・・。」

 

その様はまるで、龍が天に舞い昇る姿を模した演舞のようだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「これで~!」

 

「決めるぜ!」

 

肉塊へと変わっていく深海棲艦たち。

二人は残った2体を蹴り飛ばし、互いに衝突させる。

そのまま挟み込むように突撃しーーー。

 

「「天昇双龍舞!!」」

 

すれ違い様、掛け声と共に斬り刻み、残りの敵を肉塊へと変え葬った。

 

「・・・カッコつけてみたけど、少し恥ずかしいな、これ。」

 

「あら~私は楽しいわよ~?それに天龍ちゃんが考えたんじゃない~♪」

 

少し照れ臭そうに頬をかく天龍に対して、龍田は若干ご機嫌でにっこり笑っていた。

 

「うっせえよ!一旦、暁たちの所に戻るか。」

 

「そうね~。」

 

再び体勢を整えようと二人が転舵した時だった。

 

「天龍さん!後ろ!!」

 

「あ?」

 

「天龍ちゃん!!」

 

暁の叫びが聞こえた次の瞬間、天龍を激しい衝撃が襲った。

あまりの衝撃に、暁たちの所まで吹き飛ばされて転がる。

 

「ぐあっ!?・・・・・・クソ、何が・・・っ!!」

 

すぐに上半身を起こし、ふらつく頭を左右に振って目を開ける。

 

(・・・ん?なんだこれ?)

 

手にぬるりとした感触を感じて視線を下に向けると、そこにはーーー。

 

「ーーーーーっ!!龍田!?おい、しっかりしろよ!!」

 

天龍に覆い被さるようにしてぐったりする龍田の姿があった。

その身体は返り血ではない血で濡れており、状況から天龍を庇ったのだと理解する。

 

「・・・・・・天龍ちゃん・・・無事ね~。」

 

気だるそうに身体を起こした龍田は、天龍が無事な事を確認して安堵したようだ。

笑顔を見せるが、それは弱々しいものだった。

 

「オレのことはいい!!なんでこんなことをしたんだ!!」

 

「うふふ~・・・・・・今度は、先には・・・逝かせないから~。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

艦娘としての生を受ける前、天龍は龍田を残して沈んでいる。

龍田はそのことをずっと引き摺っていたのだ。

 

「暁、龍田を頼むわ。」

 

「えっ?う、うん。暁に任せて!」

 

龍田を暁に預け、静かに立ち上がる。

そして先ほどの砲撃を行った深海棲艦を睨む。

もうどの艦が撃ったのかは分かっていた。

 

「てめえ・・・落とし前はつけさせてもらうぜ。」

 

刀を強く握り、ありったけの殺気を込めてその切っ先を敵へ向ける。

ーーー戦艦ル級。

右目を失い隻眼となったそれこそが、龍田を大破へと追い込んだ憎き敵だった。

 

「qZqvslW"tw.sW"m?」

 

隻眼のル級が嘲笑うようにニヤリと口角をあげる。

 

「・・・・・・・・・。」

 

何かを喋っているようだが、元々何を言っているのか分からないため、天龍は無視する。

 

「・・・eeQ"\4、dR"/!!」

 

隻眼のル級が周囲のル級4隻と共に天龍目掛けて一斉砲撃する。

無数の砲弾が天龍に向かって飛んでいく。

 

「・・・・・・チッ。」

 

天龍は一瞬後ろを見ると舌打ちした。

そう、天龍が避ければ、後ろにいる暁たちに砲撃があたる。

だから、この砲撃を避けるわけにはいかなかった。

戦艦5隻からの砲撃、これを喰らえば中破している天龍などひとたまりもないだろう。

 

「・・・・・・222・・・d,。」

 

勝利を確信し、隻眼のル級が笑う。

だがーーー。

 

 

 

 

 

「面白そうなことをしているじゃないか。私たちも混ぜてくれないかい?」

 

 

 

 

 

謎の声が聞こえると同時に、砲撃が天龍へ直撃する。

爆煙が晴れたそこには、ボロ雑巾のようになった天龍が倒れ伏しているーーーはずだった。

しかし、その中から姿を現したのは、巨大な壁。

 

「待ちくたびれたぜ・・・・・・響。」

 

「そう言わないでほしいな。これでも全速力で来たんだ。」

 

ブースターに装備された盾を前面に構えた響が立ちふさがり、天龍への砲撃を防いでいた。

 

「・・・響?・・・・・・来てくれたのね・・・ぐすっ。」

 

暁の目から涙がこぼれ落ちる。

 

「もう大丈夫だよ、暁。私が守るから。」

 

響が顔だけ暁に振り向き、微笑む。

 

「uyQ"gxjf!?」

 

驚いた様子のル級が再び砲撃しようとするが、そこへ大量のミサイルが降り注ぎ、動きを阻害する。

 

 

 

 

 

「響が私()()って言ったのが聞こえなかったのかしら?」

 

 

 

 

 

その声と共に、深海棲艦の包囲網の半分が消し飛ぶ。

とてつもない速さの物体が激突したことによって、ボーリングのピンのように弾き飛ばされていたのだ。

 

「まさか、お前も来るとはな・・・。」

 

敵を蹴散らした叢雲が、天龍の隣へ並び立つ。

愛用の槍には、数体の深海棲艦がまるでバーベキューの串焼きのように突き刺さっていた。

 

「・・・ふん。やっぱりミサイルじゃ目眩まし程度にしかならないわね。」

 

「遅かったじゃないか、叢雲。」

 

響の皮肉に、叢雲はその長い髪を手で後ろへ流しながら返す。

 

「荷物を引っ張って来たのよ。ほら。」

 

後ろを見ろと言うように首を動かす。

ちらりと後ろを見ると、島風が暁たちへ駆け寄っていく姿が見えた。

 

「龍田さん!?すごい怪我・・・大丈夫?」

 

「島風ちゃん・・・間に合ったのね・・・。よかった~・・・・・・ありがとう~。」

 

龍田の前で膝をついて涙目になる島風と、その頭を撫でる龍田。

 

「大分酷くやられたようね。響は龍田たちの護衛をお願い。」

 

「・・・わかった。」

 

叢雲の言葉に素直に頷き、響は後方へ下がった。

響が龍田たちの護衛についたのを確認すると、叢雲は天龍へ問いかける。

 

「まだやれるわよね?天龍?」

 

「へっ!たりめーだ!」

 

天龍は不敵に笑って刀を構える。

 

「そう、ならいいわ。精々足手まといにならないことね。」

 

そう言って槍をひと振りして、刺さっていた死骸を捨てた叢雲。

槍の切っ先を隻眼のル級へ向け、言い放つ。

 

「さあ、第2ラウンドの始まりよ!!沈みたい奴から掛かってきなさい!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第18話です。

いかがでしたでしょうか。

鳳翔航空隊が間に合いましたね。
ちなみに、零戦21型(熟練)ですw
白カラス(アルビノ)って、縁起がいいものらしいですね。
カラスは賢く、天敵も少ないということで、鳳翔航空隊の隊長機のエンブレムにしました。

天龍が使った技は、安住との稽古で得た抜刀術というイメージです。
艦娘の身体能力を使って無拍子で飛び、相手の横を通過しながら切り抜ける。
みたいなかんじです。ゲームとかアニメでよく見るやつを想像してもらえるとわかりやすいかも。
ちょっとカッコつけさせようとしたら、中2要素入ってしまいました・・・。
表現力の乏しさが悔しいであります・・・。

そして響たちも到着です。
ここから反撃ですね!

次回はBGMをかけながら読んで貰えるといいかもです。
ガンダム00ファーストシーズンの、トランザム発動のときのアレです。
「FIGHT!」だったかな・・・?


では、次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話「艦隊防衛戦・5」

天龍の危機を救ったのは、響と叢雲だった。
今、反撃の狼煙があがるーーー。

※注意
 今回は残酷な描写、グロテスクな表現が含まれます。
 以上の点に十分ご注意してご覧ください。

今回はBGMを聴きながら読んでいただけると、楽しめるかもです。
下記は書いてる時に思い浮かべてたBGMなので、あくまで推奨です。

推奨BMG:Fight → DECISIVE BATTLE → 運命の先へ
BGMを開始、停止、変更するタイミングで、印を書いておきます。
 BGM開始→★
 BGM停止→☆


今回のBGMはガンダム系です。
前の2曲が、ガンダムOO。
後の1曲が、ガンダムAGE。
となっております。


★BGM開始:Fight★

 

 

 

「行くわよ!天龍!」

 

「おう!」

 

掛け声と共に二人が隻眼のル級目掛けて全速で動き出す。

天龍を先頭にして、後ろに叢雲が続く形だ。

 

「まずはこれでも喰らいなさいな!」

 

叢雲の意思に反応し、ブースターのミサイル発射管の蓋が一斉に開く。

 

「全弾発射!!」

 

目標と周囲の取り巻きへ向け、残っていたミサイルを全て発射する。

艤装から発射されたとはいえ、ミサイルは現用兵器。

深海棲艦たちへ命中するも、大きな損傷を与えるには至らない。

せいぜい、かすり傷をつける程度だ。

 

「bX"tde!」

 

しかし、その爆煙で視界を遮り足止めするには十分で、敵は叢雲たちの姿を見失う。

だがそれは叢雲たちも同じことで、下手に砲撃すればそれで位置がばれてしまう。

そのことが分かっているからこそ、叢雲も天龍も、隻眼のル級でさえも無闇に砲撃はしない。

 

「・・・!そこね!」

 

「オレは左をやる!」

 

そんな状況がわかっていない下級の深海棲艦が、やぶれかぶれに砲撃を始めた。

砲撃の出所から敵の位置をつかんだ二人が左右に別れ、いまだ漂う爆煙の中へと突入する。

 

 

 

叢雲は天龍と別れると槍を構え、ブースターの出力を上げて爆煙の中へ突進する。

敵の大体の場所は分かっている。

こちらの場所を悟られずに敵を始末するには、近接武器での接近戦しかない。

煙の壁を抜けると、予想通りの位置に軽巡ヘ級を発見する。

 

「アタリね!」

 

ブースターの出力をさらに上げ、突撃する。

その速度は高速艦の島風の比ではない。

ヘ級が叢雲に気づいたのは、槍の切っ先がその頭部を刺し貫く寸前であった。

 

「H"G"'!?」

 

身動きすることすらできず、ヘ級が頭部を貫かれて即死する。

叢雲はその勢いのまま、後ろに控えていた敵も貫いていく。

瞬く間に4体仕留めたところで、ブースターの制動装置を操作して速度を落とさないまま急旋回する。

 

「うっ・・・く!」

 

高速度のままの急旋回によって叢雲の身体に凄まじいGがかかる。

身体のあちこちが悲鳴をあげるが、お構い無しでさらに加速していく。

 

「纏めて沈んでいきなさい!!」

 

ブースターの生み出す速度を十分に発揮し、叢雲は深海棲艦の群れを駆逐していった。

 

 

 

「だらあああああ!!」

 

「!?」

 

爆煙の中から突然姿を現した天龍に驚くのは軽巡ホ級。

咄嗟に砲撃しようとするが間に合わない。

 

「おらぁ!」

 

すれ違い様に横一閃。

ホ級を両断し、その勢いのまま周囲の敵へと斬りかかっていく。

 

「uiT"6bZw・・・G"'3!?」

 

想定していなかった奇襲に深海棲艦たちは動揺し、天龍を全く捉えられない。

この絶好のチャンスを天龍が逃すはずもなく、次々と為す術無く沈められていく。

 

「フッ・・・フフフ・・・怖いか?恐怖をその身に刻んで、沈んじまいな!!」

 

立ちはだかる者に恐怖を与えながら、天龍は嵐の如き勢いで敵を殲滅していった。

 

 

 

☆BGM終了:Fight☆

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

叢雲と天龍が戦闘を開始した頃、響は未だ意識が戻らない二人の妹の容態を確認していた。

 

「島風。雷と電の容態を診ている間、周囲の警戒を頼めるかい?」

 

「おうっ!任せて!」

 

連装砲ちゃんを引き連れた島風は響の指示に従って周囲の警戒に向かった。

叢雲と天龍が暴れまわっているとはいえ、いつ敵がこちらに攻撃を仕掛けてくるかわからない。

手負いの仲間がいてこの場を動けない以上、ここを防衛地点とする他ないのだ。

 

「・・・さて。」

 

海上で倒れ伏し、ぐったりしている雷と電の前で響がひざまづき、持ってきていた物を取り出す。

 

「妖精さんたち、よろしく。」

 

響が取り出したのは、応急修理妖精が待機していた妖精輸送用コンテナだった。

コンテナの中から妖精たちが出てきて雷と電の身体によじ登っていく。

戦場での応急修理や応急処置に長けたこの妖精たちは、その力によって艦娘を轟沈の危機から救うことができる。

通信で二人の意識がないことを聞いていた響が独断で連れてきたのだった。

 

「・・・・・・これは後で始末書かな・・・。」

 

そんな呑気なことを呟いていても、響は内心では取り乱してた。

妖精たちが身体や艤装を調べているが、雷と電からの反応が全くないのだ。

呼吸はしているから、生きてはいる、というのは分かる。

 

(あたりどころが悪かった?それとも脳になにか・・・?)

 

響が色々と考えを巡らせていると、妖精から声がかかる。

 

「どうだい?二人の容態は・・・?」

 

声が震えるのをなんとか抑えて、妖精へ問う。

そしてその言葉に耳を傾ける。

 

「・・・・・・・・・そう、か。ありがとう、妖精さんたち。」

 

妖精からの報告を聞いた響がほっと胸を撫で下ろす。

 

(気を失っているだけだけど、怪我が酷い。すぐに命に関わることにはならないけど、あまり放ってはおけない、か。)

 

十分に助かる見込みがあることが分かり安堵したのも束の間、暁の叫び声が聞こえた。

 

「響!!こっちへきて!龍田さんが!」

 

暁の声色からよくない事態だと悟った響が妖精たちを連れて駆け寄る。

 

「龍田さんの出血が酷くて、止血しても全然止まらないの!」

 

龍田の身体は全身血まみれで、どこから出血しているのか分からない状態だ。

 

「龍田さん!聞こえるかい?傷の具合を診るよ!」

 

響が呼び掛けるが、聞こえていないのか虚ろな目で遠くを見ている。

 

「・・・天龍、ちゃんの・・・戦う、姿が見え、る・・・・・・よかっ、たぁ~・・・。」

 

(マズイ・・・!!)

 

うわ言を口にし始めた龍田に危険を感じて響が叫ぶ。

 

「妖精さんたち、すぐに応急処置を!!」

 

慌てて妖精たちが龍田の身体によじ登り、応急処置を始める。

 

「お願い、妖精さん・・・龍田さんを助けて・・・!」

 

暁が祈るように両手で龍田の手を握る。

その目には涙が浮かんでいた。

 

(天龍さん、叢雲・・・がんばってくれ。本隊が到着するまで耐えられれば・・・!)

 

天龍と叢雲が遠くで戦う姿を、響は眺めているしかなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「これで、雑魚はあらかた片付いたか。」

 

刀を一振りして刃に付いた血を払い、天龍が呟いた。

最初の叢雲の突撃で半壊していた敵の包囲網、その右翼は崩壊していた。

天龍の気迫に恐れをなして、途中から下級の深海棲艦たちが逃げ出したからだ。

 

「叢雲の方はどうなって・・・って、あいつ本当に駆逐艦かよ。」

 

叢雲が向かった左翼を見ると、あちらの包囲網も崩壊していた。

これを1隻の駆逐艦がやったというのだから、すごいものだ。

 

『天龍、そっちも終わったようね。なら、このまま一気に戦艦を潰すわよ!』

 

叢雲から通信が入り、戦艦を殲滅すると言う。

 

「了解だ。空母は鳳翔の航空隊が押さえてくれているし、あのル級を沈めればこの戦いは終わる。」

 

『そういうことよ。さあ、私に着いてらっしゃい!』

 

そう言い残して通信が切られ、叢雲が戦艦5隻の集団へ突っ込んでいくのが見えた。

 

「オイオイ、一人でやる気かよ・・・。まったく、援護くらい待てっての!」

 

合流を待たずに戦闘を開始した叢雲を援護すべく、天龍は速度を上げてル級の群れに向かっていった。

 

 

 

「はあっ!」

 

全速で手頃な位置に居たル級へ接近し、その頭を槍で斬り飛ばす。

速度を落とさないまま、一度敵艦隊から急速に離れる。

一撃離脱。

それが、機動力に特化したブースター『乙型一式』の理想的な戦い方だ。

後ろからル級たちの砲撃が襲いかかるが、速度の次元が違う的に掠りもしない。

 

「ちょろいものね!もう一撃!」

 

制動装置と姿勢制御スラスターを駆使して鋭角にターンする。

相変わらず身体が悲鳴をあげ、艤装が軋む音が聞こえるがそんなことに構っている余裕はない。

叢雲は龍田の様子を見て、かなり危険な状態だということに気づいていた。

そのため、一刻も早く敵の主力を無力化して安全に退避できる状態を作り出さなければならないのだ。

 

「纏めて貫いてあげるわ!」

 

角度を合わせ、ル級2隻の頭を貫き、もぎ取る。

さらにすれ違い様に魚雷を射出し、追撃を加えておく。

 

「G")oe!?」

 

魚雷は見事に命中し、ル級を大破させる。

 

(これで残りは右目の無いアイツだけ!)

 

後ろを振り返り、最後の敵の姿を捉える。

隻眼のル級と目が合った瞬間、その口がニヤリと笑った。

 

 

 

★BGM開始:DECISIVE BATTLE★

 

 

 

「ーーーーーっ!?」

 

その瞬間、叢雲は寒気を覚え、全身の鳥肌が立つのを感じる。

 

(何?この寒気は・・・何か嫌な予感が・・・。いや、気のせいよ!)

 

頭を左右に振って嫌な考えを追い出す。

十分に距離を稼ぎ、一撃必殺の速度で攻撃する準備は整った。

 

「・・・行くわよ!!」

 

そう叫ぶと叢雲は今度は緩やかに旋回し、加速を始める。

隻眼のル級へ狙いを定めようとした叢雲の目に、信じられない光景がとびこんできた。

 

「・・・なに、あれは・・・。」

 

先程魚雷で大破させたル級、それを隻眼のル級が()()()()()

それだけではない、首の無くなったル級3隻をも喰らっていたのだ。

 

「う・・・・・・。」

 

おぞましい光景に吐き気を催す。

追い詰められたからといって共食いをしてどうしようというのか。

だが、今さら何をしようと次の一撃で仕留めればいいことだ。

 

「気持ち悪い奴ね!」

 

槍を構え、さらに速度を上げる。

前方には共食いを終えた隻眼のル級がこちらを見て佇んでいる。

観念したのだろうか、砲撃すらしてくる気配がない。

そしてその口が再びニヤリと笑った時、それは起こった。

 

「!?」

 

隻眼のル級の身体がぐにゃぐにゃと不規則に蠢いたかと思うと、次の瞬間、脱皮するかのように()()()()()()()

その姿は今まで一度も見たことがないものへと変貌を遂げていた。

髪の色は肌と同じ白色へと変わり、衣服はセーラー服にマントを羽織ったような物になっている。

さらに一際目を引くのは、翡翠のような色を宿したその隻眼から迸る光だった。

 

「一体何だってのよ!!」

 

あまりに異様な状況に、思わず叢雲が叫ぶ。

そこへ天龍からの通信が入った。

 

『叢雲、あいつ何かおかしいぞ!一旦下がれ!』

 

「冗談でしょ!脱皮したのか知らないけど、叩くなら隙だらけの今しかない!」

 

『おい!待てって!!』

 

天龍の制止を無視し、叢雲が隻眼の敵へと突撃する。

そしてその咽に槍を突き立てーーーられなかった。

 

「なっ!?」

 

ソレは槍が届く寸前、身体をひらりと翻して叢雲の突進をかわした。

驚きに目を見開く叢雲を凄まじい衝撃が襲う。

 

「しまっ!きゃああああああああっ!?」

 

すれ違う瞬間、敵のマントの中から姿を現した全主砲による一斉砲撃を至近距離で喰らったのだ。

至近距離から戦艦の主砲全弾をまともに受けた叢雲は体勢を崩して海面を跳ねながら転がっていく。

海面に身体が叩きつけられる度に、ブースターや艤装が砕け、時には爆発を起こしながら吹き飛んでいく。

加速で限界をはるかに超えた速度に達していた叢雲は、そのまま70メートルほど転がり続けて止まった。

海面にうつ伏せになって転がっている叢雲はピクリとも動かない。

 

「叢雲!!クソったれが!!」

 

ちょうどその場にたどり着いた天龍が隻眼の敵へ斬りかかる。

その斬撃も、ひらりとかわされる。

敵が先程と同じように攻撃をかわし、すれ違う瞬間に主砲を向けるが、それを読んでいた天龍は主砲を刀で弾いて砲撃をかわす。

そして天龍も敵の体勢が崩れたのを見計らって攻撃をしかける。

 

「秘剣『瞬天』!」

 

必殺の抜刀術が炸裂する。

しかし、天龍の表情は苦いものになっていた。

 

「クソ・・・化け物め・・・。」

 

天龍の刀にヒビが入り、刀身の半ばから折れる。

危険を感じた天龍はすぐに距離をとって、狙いを定められないようにジグザグに移動し、敵へ砲撃を加える。

 

(こんなのとどうやって戦えばいんだよ!)

 

今の天龍に出来ることは、この敵を足止めしつつ逃げ回ることだけだった。

 

 

 

☆BGM終了:DECISIVE BATTLE☆

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

悲鳴が聞こえたような気がして目を覚ます。

 

「・・・・・・・・・うっ・・・。」

 

起き上がろうとして、全身を駆け巡る激痛で何が起こったのかを思い出した。

 

「・・・どう、なった・・・・・・の。」

 

なんとか顔を上げると、隻眼の敵の砲撃を喰らい、吹き飛ばされていく天龍の姿が目に入る。

かなり遠く、響たちの近くまで飛ばされていったようで、響が駆け寄るのが見える。

 

「ぐ・・・・・・。」

 

このままでは響たちが危ない。

激痛に悲鳴をあげる身体をなんとか動かして立ち上がろうとする。

しかし、うまく力が入らない。

全身を強く打ち付けたようで、右腕の感覚がなく、左足もおかしな方向に曲がっている気がする。

 

「・・・・・・はぁ、はぁ・・・ぅ、げほっ!がはっ!」

 

なんとか四つん這いになったところで強烈な吐き気に襲われる。

吐き出した物が海面に、海中に、黒い染みのように広がっていく・・・吐いたのは血だろうか。

視界が真っ赤に染まっていてよく分からない。

頭が割れるように痛み、意識も朦朧として、平衡感覚もおかしくて息もしづらい・・・あと耳鳴りがうるさい。

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・。」

 

目の前に槍が浮かんでいるのを見つけ、なんとか左手でそれを掴む。

再び視線を上げると、誰かが目の前に立っていた。

 

「・・・・・・・・・このっ、ばけ・・・ものめ・・・。」

 

隻眼の敵がこちらを見下ろし、そこに立っていた。

血を吐きながらなんとか声を絞り出す。

独り言のようなもので、返事は求めていない。

 

「・・・無様ネ。艦娘。」

 

今、何を言った?コイツは何て言った?

無様?艦娘?

なんでこいつは言葉を発している?

なんでこいつはーーー艦娘という言葉を知ってる?

分からない。わからない。ワカラナイ。

 

「・・・ア、ンtげほっ!・・・・・・なに、を、ぐぅっ!いっ、て・・・。」

 

「ワカラナイ?アナタノコトヨ。無様ナ艦娘。」

 

深海棲艦が人語を理解するなんて、ましてや話すだなんて。

今起こっていることは到底信じられるものじゃない。

でも、注意をこちらに向けてくれているのなら、それは好都合。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・はなし、を・・・し、た・・・いの、かし、ら・・・?」

 

「フフフ、ソウネ。ココマデ私タチニ楯突イタゴ褒美ニ、ヒトツダケ質問ニ答エテアゲルワ。ナニヲ聞キタイ?」

 

余裕の態度で質問に答えてやると言う。

いいわ、なら少しでも情報を聞き出してやるわ。

 

「さっき・・・の、アレ・・・は・・・がはっ!・・・・・・はぁ、な、にを・・・したの・・・。」

 

「サッキノアレ?・・・・・・アア、ソンナコトデイイノ?オバカサンナノネ。」

 

いちいち人をイラつかせるやつめ。

苛立ちを表すように精一杯睨み付ける。

 

「ヤダ、コワイカオ。イイワ、教エテアゲル。私タチハネ、使エナクナッタ下僕ノ核ヲ摂取スルコトデ、進化スルノヨ。フフ、ウラヤマシイ?」

 

「だ、れがっ!ぐっ!!げほっげほっ!!」

 

思わず声を荒げかけて咳き込む。

共食いして進化・・・?ヘドが出る。

やはり深海棲艦は倒すべき敵だ。そう、倒さなければ・・・。

 

 

 

★BGM開始:運命の先へ★

 

 

 

「モウスコシ遊ンデアゲタイケド、ドウシヨウカシラ。」

 

「・・・な、ら・・・・・・。」

 

「ナァニ?」

 

「この・・・音の、しょうたいは、わかる、かし、ら・・・?」

 

「!?」

 

正直、私には音なんてほとんど聞こえていない。

それでも、響たちに背を向けているコイツは気づいていないことがある。

 

「ちょうどいい・・・じかん、かせぎが・・・・・・でき、たわ。・・・おばかさんね。」

 

ようやく到着した救援部隊ーーー総勢4艦隊からなる大部隊が、このうるさい敵へ向けて砲撃をしたのが、私には見えていた。

長距離からの砲撃、威嚇射撃だろう。

砲弾が空を切り飛来する、その風切り音が徐々に大きくなっていく。

その砲弾が敵の周囲に着弾して水飛沫をあげる。

砲撃の激しさに、敵が腕で顔を守るような仕草をした。

 

「ーーーーーっ!!」

 

(こいつはここで殺す!殺さないといけない!!)

 

この時を待っていた。

大きな隙を晒すこの瞬間を。

残った力を振り絞って身体を動かす。

右足の力だけで立ち上がり、そのまま踏み切って飛ぶ。

そしてありったけの力で左手に握った槍を敵の頭に向けて突き出す。

 

「うああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「コイツ!?」

 

時間が止まったように感じる。

1秒が10秒になったかの如く、世界がゆっくりと動く。

最後の力を振り絞った捨て身の攻撃はーーー失敗に終わった。

槍は敵の右頬を掠め、小さな傷を作っただけだった。

 

(ちくしょう・・・!)

 

敵の右手が私の左腕を掴み、握りつぶす。

メキメキと骨が砕ける不快な音をたてて腕がひしゃげる。

力を失った手から槍がこぼれ落ちていくその光景すら、ゆっくり動いていく。

 

(ちくしょう・・・!!)

 

敵のマントの中から主砲が現れる。

この距離、しかも腕を捕まっている状態では避けようがない。

悔しさで自分の目に涙が浮かぶのがわかる。

目の前の敵が、愉快そうにニタリと笑う。

 

(ちくしょう・・・!!!)

 

 

 

☆BGM終了:運命の先へ☆

 

 

 

そして主砲が私の身体に密着しーーー。

 

「サヨウナラ。オバカサン。」

 

砲弾が、私を貫いたーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第19話です。

いかがでしたでしょうか。

かなり長くなってしまいました・・・。
まあ、戦闘回だし、仕方ないですよね。

初めてBGM推奨で書いてみました。
あくまで推奨なので、皆さんのお好みのBGMをあてていただくほうがいいかもですね。

隻眼のル級は、隻眼のタ級へと変貌しました。
共食いして進化とかありそうだなと思ってやりました。
後悔は・・・・・・・・・ちょっとあるかも。

叢雲の右腕は動かせないだけで、ちゃんとくっついてます。
火傷とか打撲とかが酷くて感覚がなくなってるだけです。
書いてて自分で泣きそうになったのは内緒です。

というわけで、グロ回になりましたが、今回で艦隊防衛戦は終了の予定です。
次回からの展開がどうなっていくのか、ご期待?ください。

では、また次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話「傾月の先」

深夜の鎮守府。
その幾つもの建物の一室、灯りのついたそこには2つの影があったーーー。


ーーーーー鎮守府・02:05(マルフタマルゴー) 執務室ーーーーー

 

 

 

「ーーー以上が、各艦隊からの報告の概要です。続いて急遽投入した試製艤装の件ですが・・・。」

 

中年の男が、夜空を見ながら部下からの報告に耳を傾けている。

窓から入り込んだ夜風が頬を撫で、口の端でくわえた煙草の先から漂う煙を拐っていく。

 

「乙型ニ式は中破していますが修復可能。また、乙型一式が大破。殆どの残骸は回収できましたが、修復はほぼ不可能につき、新たに建造する必要があります。回収したブラックボックスを解析した明石と夕張の話では、今後の正式採用および実戦投入を視野に入れるなら、最低限の改良として出力リミッターの搭載と装甲の強化が必須とのことです。詳しくは報告書をご覧ください。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

頼りなさげな若い男が上官への報告を終え、資料から目を離して顔をあげる。

彼の上官は報告を始めた時と同じく、窓の外を眺めているようだった。

 

「・・・・・・・・・比良提督?」

 

「ん?ああ、すまん。報告ありがとう、安住少佐。」

 

安住に呼び掛けられて、はっとして比良が振り向く。

考え事でもしていたのだろうか。

 

「煙草、短くなってますよ。」

 

そう言うと安住は比良に近づき、灰皿に手を伸ばす。

窓際に置かれていたそれを差し出すと「あちち。」と言いながら、かなり短くなっていた煙草の火を灰皿に擦り付けて消す。

 

「・・・・・・煙草を吸うなんて、随分久しぶりですね。」

 

真新しい灰皿に捨てられた数本の煙草を見ながら安住が比良の横へ並ぶ。

 

「・・・・・・。」

 

灰皿が再び窓辺に置かれたのを確認すると、比良が無言で煙草の入った小箱を差し出す。

安住は一言「戴きます。」と言って箱から飛び出していた1本の煙草を抜き取る。

そして、比良が差し出したライターの火へ口にくわえたそれを近づけた。

かすかにジリジリという音がし、やがて煙草の先から煙が出始める。

 

「・・・・・・・・・ふぅー・・・。」

 

煙を軽く吸い込むと、指で挟んだ煙草を口から離し、目の前の夜空へ向けて吐き出す。

ふわりと広がったそれは、流れゆく薄雲がそうしたように、刃物のような月を覆い隠した。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

隣をちらりと見る。

箱から新しい煙草を抜き取った比良が、火を着けているのが目に入る。

カキン、というライターの蓋が閉じる音を聞きながら、比良が煙を吐き出すのを待つ。

 

「・・・ふぅー・・・・・・。」

 

目を閉じた比良が煙をたっぷり吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

こうして比良が煙草を吸う時は、決まって『何か』があったときだ。

安住も煙草は吸わないが、こういう時だけは付き合うことにしている。

そのためだけに、煙草を吸う練習をしたのはいい思い出だ。

煙草を吸う要因となる『何か』は、その時によって悩み、不安、苛立ち、怒りなど正体は違う。

だが、今回ばかりは大体察することができている。

 

「・・・・・・先日の遠征艦隊への襲撃の件、ですか。」

 

「・・・・・・・・・・・・ああ。」

 

顔を向けて口を開いた安住と視線を合わせず、比良は先ほどのように夜空を眺め続けている。

そんな比良の態度を全く気にせず、安住が再び口を開く。

 

「あれからもう3日ですか・・・・・・。」

 

「・・・・・・そう、だな。」

 

天龍率いる遠征艦隊が深海棲艦による奇襲を受けた事件からすでに3日が経過していた。

結果から言えば、救援はギリギリ間に合った。

到着した総勢4艦隊からなる救援部隊の介入により、未知の敵は残存していた敵艦隊と共に撤退。

第5艦隊は暁と島風を除いて全員が大破し、鎮守府へ帰還すると直ぐに、救護棟のICUへ搬送された。

雷と電はその日の内に意識を取り戻し、現在は病室へ移されて怪我の治療を受けている。

天龍も昨日の昼過ぎに目を覚ましているが、現在もICUからでられていない。

龍田も長く意識不明の状態だったが、夕方に一度意識を取り戻している。。

 

「・・・まだ、目を覚まさないのか。」

 

比良が言っている意味が安住には分かっていた。

安住の表情が曇り、苦い顔で視線を下に落とす。

 

「・・・・・・・・・・・・ええ。・・・叢雲さんは今も・・・・・・。」

 

未知の敵から至近距離で砲撃を受けたらしい叢雲は、轟沈寸前の状態で運ばれてきた。

それは重傷という表現が不相応に思えるほどの、そうと言われなければ生きていると分からないような悲惨な有り様だった。

身体の至る所に打撲痕や火傷があり、裂傷による出血で全身血塗れの状態、右腕は酷い火傷を負っていた。

左足は脛の辺りからおかしな方向に折れ曲がっていて骨が飛び出し、左腕も肘から手首までの間が潰れた状態。

一番酷かったのは、腹部からの出血だ。

戦艦級の砲弾が貫通したそこからは鮮血が止まることなく流れ続け、海上に赤い帯を作り出していた。

 

「とても・・・・・・生きているとは、思えない状態でしたからね・・・。」

 

「もし・・・響が無茶をしてでも助けていなかったら・・・。」

 

そこまで口にして、二人の背筋に寒気が走る。

救援が到着して直ぐに、響は全速力で叢雲の救出に向かっていた。

腹部への零距離砲撃で意識を失った叢雲に敵がトドメの砲撃を放つ瞬間、猛スピードで急接近した響が、敵に拘束されていた叢雲を奪いさったのだ。

しかし砲撃を完全に回避することは叶わず、砲撃が掠めたブースター右舷の盾がアームごと吹き飛ぶ程の被害を受けた。

だが、盾で砲撃を逸らすことには成功したため、救援艦隊の援護砲撃を受けつつ、自身もミサイルや魚雷で牽制し、最後はブースターの速度を活かしてその場から離脱することに成功したのだった。

 

「・・・あと少しでも遅かったら・・・・・・。」

 

「・・・・・・あの場で轟沈していただろうな・・・。」

 

叢雲は現在もICUで集中治療を受けており、生死の境をさ迷い続けている。

幾度も心停止になりかけるも、精鋭揃いである人と妖精の医療チームの懸命な処置によって、なんとか命を繋ぎ止めている状態だ。

艦娘の身体は人間のそれと何も変わらない。

そのため、人間の医療が通用するのだ。

人間と違う点を挙げるとすれば、艦娘は妖精の力による治療も受けられる所だろう。

妖精の不思議な力によって、人間の医療では到底不可能な怪我であっても治療ができる。

人間と妖精の力を合わせた治療で、叢雲はギリギリの所で踏みとどまっているのだ。

 

「くそ・・・情けない。普段偉そうなことを言ってあいつらを戦場に送り出すくせに、俺は安全な場所から見ているだけだ・・・。」

 

握りこぶしを震わせて苦しそうに言う比良。

 

「・・・・・・だからこそ、私が彼女たちと共に戦場へ行くんです。提督の想いも背負って。それに・・・。」

 

宥めるように紡いでいた言葉を一旦そこで切り、一度深呼吸してから続けた。

 

「きっと皆分かっていますよ。だから、誰も不満なんて言わない。自分に今出来ることを精一杯やればいいんですよ。・・・誰かさんがいつか言ったみたいにね。」

 

「・・・・・・・・・・・・言うようになったじゃないか。」

 

「それはどうも。誉め言葉として受け取っておきますね。」

 

口の端に笑みを浮かべる安住。

釣られて比良も笑みを浮かべた。

この二人は軽口を叩きあうくらいが丁度いいのだ。

緩んだ頬を真剣なものに直し、月を見上げた比良が呟く。

 

「とにかく、早く容態が安定して目を覚ましてほしいもんだな・・・。」

 

「そうですね・・・。」

 

それで会話が途切れた二人は再び煙草を吸い始め、今度は月に向けて煙を吐き出していく。

夜空に開いた切り口のように輝く月が、彼らの大切な仲間を拐っていけないよう、邪魔するように。

そのまま暫く無言で煙を吐き出していた二人。

どれほどの時間が過ぎただろうか、灰皿に3本目の煙草をすり付けた安住が思い出したように話す。

 

「そういえば、あの新種の深海棲艦。大本営は『戦艦 タ級』と呼称することにしたようです。」

 

「味方を喰って進化する、だったか・・・。戦闘映像を観て、俺たちはとんでもないものを相手にしているんだと、改めて思ったよ。」

 

苦い顔をした比良がくわえた煙草を噛み締める。

それが悔しさからくるものか、怒りからくるものか、本人にしかわからない。

 

「明日は大本営へ行って、15:00(ヒトゴーマルマル)から対策会議だったか。」

 

「そのはずです。あんな規格外の敵が現れたんです。大本営も焦っているんでしょうか・・・。」

 

「わからん。が、何を対策するっていうんだか・・・。まだ敵の情報もほとんどないってのに。・・・・・・留守の間のことは任せるぞ。」

 

「はい。戻ってこられる頃には、目を覚ましていますよ。きっと。」

 

比良がいつもの調子を取り戻してきているのを見て、安住が腕時計をちらりと確認する。

そしてまだ少し残っていた煙草を一気に吸い終えると、灰皿に煙草を擦り付けた。

 

「では、私はそろそろ行きます。提督はそろそろお休みになってくださいね。」

 

「おう。あと1本吸ったら寝るさ。」

 

部屋を出ていく安住に、後ろ手に手を振りながら、口にくわえた最後の煙草に火を着ける。

扉が閉まり執務室に一人残された比良は、遠ざかっていく足音を聞きながら、煙を吐き出して呟いた。

 

「提督『は』、ねぇ・・・。お前こそ、ちっとは休んどけよ・・・。」

 

 

 

ーーーーー鎮守府・03:50(マルサンゴーマル) 調理室ーーーーー

 

 

 

鎮守府では、自炊をしたい者たちの為に調理室がある。

その扉の隙間から、廊下へ灯りが漏れていた。

 

「・・・・・・。」

 

調理室の前を通りかかった人影が扉をそっと開ける。

そこには、調理台でせっせと何かを作っている鳳翔の姿があった。

 

「何をなさっているんですか?」

 

「ひゃっ!?」

 

声を掛けられた鳳翔が驚いて思わず飛び上がる。

後ろを振り返ると、安住が調理室へ入ってくる所だった。

 

「もう、驚いたじゃないですか!」

 

「あはは。すみません。」

 

頬を膨らませて抗議の声をあげる鳳翔。

対して安住は悪びれた様子もなく笑っている。

 

「これは、夜食ですか?」

 

「はい。響ちゃんたちにもっていこうかと。ついでに交代で夜警に出る皆にも軽食をと思って。」

 

調理台の上にはおにぎりや玉子焼きが入った弁当箱がいくつも並んでいた。

まだ中身の詰められていない物もあるようだ。

 

「私も手伝いますよ。鳳翔さん、何をすればいいですか?」

 

「ええっ!?そんな、安住少佐に手伝っていただくわけには!」

 

軍服の袖を捲り、調理を手伝うべく手を洗う安住に、鳳翔は両手を振り慌てた様子で断ろうとする。

 

「遠慮しないでください。これでも料理が趣味なんですよ。あと、二人きりの時は『少佐』は無しですよ?鳳翔さん。」

 

「あう・・・。でも、安住さんも、もう数日間ほとんど寝ておられないのでしょう?お疲れでしょうし、私の手伝いはいいですから早くお休みになってください。」

 

鳳翔は心配そうに安住へ休むように言う。

安住も比良も、ここ数日殆ど眠っていないのだ。

大本営への新種の報告や事務処理、警備体制の見直し等、仕事に追われていたのはたしかだ。

しかし、二人が睡眠時間を削ってでも仕事を片付けて、時間の許す限り重傷を負った艦娘たちの様子を見に行っていることを、鳳翔はもちろん鎮守府の全員が知っている。

だからこそ、少しでも休んで貰うために手伝って貰うわけにはいかないのだ。

いかないのだが・・・。

 

「・・・ご迷惑なら、そう言って頂ければやめますが・・・・・・。」

 

しゅんとして悲しそうな顔でそんなことを言われてしまうと、鳳翔は断れない。

 

(そんな捨てられた子犬の様な顔で見ないでくださいー!///)

 

鳳翔は両手で頬を覆って、赤くなってしまっているだろう顔を隠す。

ただでさえ安住の前では心臓の鼓動が聞こえやしないかと思うほどドキドキしているのだ。

普段は中々見ることが出来ない表情に、鳳翔の胸はいつも以上に激しく高鳴っている。

なんとか顔が赤くなっているのは見られずに済んだ。

後は緊張が態度や、声色に出ないようにすれば完璧だ。

 

「・・・わかりました。では、玉子焼きを作ってくださいますか?私は他のおかずを作りますから。」

 

「はい。お任せあれ!」

 

観念したように手伝いをお願いする。

それを安住はニコッと笑って快諾した。

なんとか、この察しのいい人に内心の緊張はバレなかったようだ。

 

「~♪~~♪」

 

鼻唄を歌いながら玉子焼きを焼いていく安住。

料理が趣味というほどあり、慣れた手つきで丸めていく。

楽しそうに作る姿を見ると本当に料理が好きなんだというのが伝わってくる。

その姿に思わず頬が緩む。

 

(本当に楽しそう・・・。こうして並んで料理をしていると、まるで・・・。)

 

「夫婦みたいですね。」

 

「えっ!?」

 

「え?」

 

鳳翔が驚いて隣を見ると、安住も驚いたように顔を向けた。

お互いに目を丸くして見つめ合う形になる。

 

「え、あの・・・今、なんて?///」

 

顔を真っ赤にした鳳翔が口をぱくぱくとさせながらなんとか言葉を紡ぐ。

その様子を見て安住は自分が何かしでかしたことに気づく。

 

「あの、ええと、もしかして・・・声漏れてましたか?」

 

「は、はい///」

 

「いやぁ・・・あ、あははは・・・///」

 

安住も顔を赤くして、ぽりぽりと頬をかいた。

時々、心の声が漏れてしまうのは安住の悪い癖だ。

 

「えーと、玉子焼きが焼けたので、味見してみてください。」

 

恥ずかしさをまぎらわすように安住がお皿に載った出来立ての玉子焼きを差し出す。

その玉子焼きは肉厚でほかほかと美味しそうな湯気を出している。

 

「じ、じゃあ、1ついただきますね。」

 

「どうぞ、召し上がれ。」

 

鳳翔も気をまぎらわすいい機会を得たと思って、玉子焼きをひと切れ箸でつまみ、口へ運ぶ。

 

「はむ・・・。」

 

肉厚の玉子焼きは噛むと抵抗も少なくふわりと歯を受け入れる。

1回、2回と噛み締めると出汁の香りが口の中一杯に広がり、中心部の少しとろけた玉子が溢れ出す。

 

「はふはふ・・・・・・美味しい!安住さん、とても美味しいです!」

 

「お口に合ったようでよかったです。さ、お弁当箱に詰めましょうか。」

 

「そうしましょう♪」

 

こうして二人のお弁当作りは続いていった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・04:35(マルヨンサンゴー) ICU前ーーーーー

 

 

 

叢雲たちが24時間体制で看護を受けているICU。

月も西へ傾き始めた頃、ICUの前にある待合室に、吹雪、初雪、響の姿があった。

待ち合い室にはICU内が見える窓がついており、窓越しでの面会も可能となっている。

叢雲たちがICUへと運ばれてからというもの、吹雪と初雪はずっと待合室に寝泊まりしていた。

今は備え付けられている宿泊用の簡易ベッドで姉妹仲良く眠っている。

 

「すぅ・・・・・・すぅ・・・。」

 

「・・・あいす・・・・・・むにゃむにゃ。」

 

吹雪も初雪も可愛らしい寝息をたてている。

妹の叢雲が心配で中々眠れない状態が続いていたが、さすがに疲れたのか、眠ってしまったようだ。

かすかに廊下から足音が聞こえ、その足音が入り口の前で止まる。

すると扉が静かに開き、誰かが入ってくる。

その気配を感じて、ソファで眠っていた響が目を開けた。

 

「あ、起こしちゃったかな?」

 

「ん・・・・・・川内さん?」

 

響が目を擦りながらソファから上半身を起こす。

その拍子に、身体にかけられていたブランケットが床に落ちた。

 

「ふわぁ・・・眠ってしまっていたみたいだ・・・今何時だい?」

 

「ん~、04:40(マルヨンヨンマル)ってとこかな?はい、落ちたよ。」

 

静かに待合室へ入ってきた川内が、床に落ちたブランケットを拾って響へ手渡す。

それを受け取りながら、響がソファから立ち上がる。

 

Спасибо(スパスィーバ)・・・。川内さんは夜警の帰りかい?」

 

「うん。もう引き継いできたところだよ。」

 

「いつも夜警ありがとう、お疲れさま。」

 

「ん、別にお礼なんていいよ。私にできるのはこれくらいだからさ。」

 

いつもなら夜警が終わると「朝だ~・・・ねむぅい・・・。」と言ってさっさと汗を流して昼まで眠っている川内。

だが、今回の事件があってからというもの、吹雪たちの替わりに毎日夜警に参加しては、寝る前にここへ立ち寄っている。

 

「響こそ、あんまり無理しちゃだめだよ。」

 

「・・・うん。川内さんもね。」

 

響も、暫定で持ち回りとなっている哨戒任務が無いときは殆ど待合室へ来ている。

第1艦隊での相棒のことが心配で気が気じゃないと、昨日理由を聞いたときに恥ずかしげも無く言っていた。

 

「それで・・・・・・どう?叢雲たちの容態は。」

 

窓から見えるICUの中、沢山の医療機器に繋がれた叢雲が寝かされているベッドを眺めながら川内が問う。

 

「龍田さんは夕方に意識を取り戻したけど、それからずっと眠ってるよ。」

 

「そっか。龍田さん意識戻ったんだね。・・・よかった。」

 

龍田の無事を確認し、安堵する川内。

しかし、響の表情は曇ってしまう。

 

「でも叢雲はまだ・・・・・・。」

 

「・・・・・・大丈夫、叢雲はきっと助かるよ。」

 

響の頭を優しく撫でながら、川内が続ける。

 

「こんなに手のかかる相棒を残して、先に逝くなんてできる奴じゃないよ。」

 

そう言ってニコッと笑う川内に、響はジト目を向けるのだった。

 

「それ、慰めているつもりなのかい・・・?」

 

「さあね~♪・・・・・・ん、誰かくるね。」

 

ケラケラと笑っていた川内が突然真剣な表情になり、待ち合い室の入り口に目を向ける。

 

「・・・・・・何か聞こえるのかい?私には何も聞こえないけど・・・。」

 

「足音が二人分、近づいてくるね。廊下の角を曲がった・・・あと20秒でここにくる。」

 

川内は艦娘の中でも異様に耳が良い。

その聴力で先日の襲撃事件の折、救援要請が入る前に敵の存在に気づいている。

また、夜戦が得意というだけあって夜間視力も非常に良く、数キロ先で跳ねた魚の姿すらくっきりと見えるという。

 

「ん・・・・・・ああ。誰かわかった。」

 

「え?足音でわかったのかい!?」

 

「まあね。ほら、到着のようだよ。」

 

その言葉の直後に待合室の扉がゆっくりと開いていく。

扉の外にいた二人を、川内は背を向けたまま迎えた。

 

「こんな時間にどうしたのさ。安住少佐に、鳳翔さん。」

 

川内の後ろには、何かの入った包みを持った安住と鳳翔が立っていた。

 

「相変わらず、いい耳をしていますね。」

 

「川内さん、響ちゃん。こんばんは。」

 

「ふふっ。誉めても何もでないよー?」

 

振り返ってウインクしてみせた川内は、唇に人差し指を当てて静かにするように促す。

一瞬何のことか分からず、安住たちが首を傾げる。

 

「吹雪たちが寝ているんだ。だから、あまり騒がしくしない方がいい。」

 

そこへ、カーテンで仕切られたベッドの方を指差しながら響が補足した。

響の指差す先を見た安住がなるほどといった様子で頷く。

 

「たしかに、少し声量を押さえた方がよさそうですね。」

 

「とりあえず、座りましょうか。」

 

鳳翔が皆にソファの方へ座るように促し、それに従って部屋の中央に置かれたソファへと各々腰をおろす。

待合室の中央には背の低い長机がICU内が見える窓に対して垂直になるように置かれており、それを挟む形で長いソファが2つ対面で置かれている。

 

「んっ・・・このソファの座り心地はすごいね~。油断すると眠っちゃいそうだよ。」

 

「たしかに・・・実にхорошо(ハラショー)だ。」

 

ソファへ深く腰かけた川内が、気持ち良さそうに伸びをしている。

ふかふかと柔らかい感触が身体を包み込むように受け止めてくれるこのソファは、座る者を眠りの世界へ誘う。

その魔力のせいで、響は先ほどまで眠っていたのだ。

 

「川内さんは夜警帰りだから余計に眠くなるのかもしれませんね。いつも夜警の旗艦、ご苦労様です。」

 

安住が対面に座った川内へ頭を下げ、労いの言葉をかける。

だが川内は手をひらひらと振って、響の時と同じように対応する。

 

「だから別にお礼とかはいいんだって。それよりさ、鳳翔さん。その包みはなんなの?」

 

仄かに漂う香りで察しはついているのだろう。

鼻をひくひくさせた川内が前のめりになって、机に置かれた包みを見ている。

 

「それは私も気になってる。司令官も包みを持ってきたけど、何なのかな?」

 

響も気になっているようで、少しそわそわしている。

鳳翔は安住と顔を見合わせて微笑むと、包みをほどいて中から弁当箱を取り出した。

 

「ふふふ。こんな時間ですけど、お夜食ですよ。引き継ぎで夜警にでた皆さんのお弁当と同じものですけど、よかったら召し上がってください。」

 

差し出された弁当箱の蓋を開く川内たち。

塞ぐ物の無くなったそこからは、美味しそうな匂いが溢れ出している。

 

「美味しそう~!夜戦には補給も必要だよね♪」

 

хорошо(ハラショー)♪少し早い朝食と洒落こもう。」

 

両手を合わせて「いただきます!」と言うと二人はお弁当に食らいついた。

 

「お茶は私がいれますね。」

 

安住は机の端に置かれていた紙コップを取り、持ってきていた水筒からお茶を注いで響たちの前へ置いていく。

 

「もぐもぐ、ごくごく・・・ぷはっ!おにぎりも玉子焼きも美味しい!さすが鳳翔さんだね!!」

 

夢中になって食べている川内たちへ、鳳翔が微笑む。

 

「ふふ、玉子焼きは少佐の手作りですよ。」

 

「え!?」

 

「それは本当かい!?」

 

「これ司令官が作ったんですか!?」

 

「・・・・・・夫婦の合作!?」

 

「うわぉ!?いつの間に!?」

 

驚いて目を見開く川内と響。

いつの間にか起きてきてお弁当を摘まんでいた吹雪と初雪も声をあげて驚いている。

 

「これでも料理が趣味なんですよ。あはは・・・。」

 

「夫婦って・・・・・・///」

 

それぞれ違う理由で照れる二人。

にわかに騒がしくなった待合室に、外が見える窓から朝日が差し込み始める。

微かに聞こえてくるその騒がしさに釣られてなのか、ICUのベッドで眠り続けている叢雲の顔が僅かに微笑む。

ゆっくりと目を開いた叢雲は、ゆっくりと数回まばたきをして小さく呟いた。

 

「まったく・・・騒がしいわね・・・・・・ゆっくり寝られないじゃないの・・・。」

 

「・・・・・・!!」

 

その声を敏感に聞き取った川内が突然、ICU内が見える窓に駆け寄り、他の皆も何事かと後に続く。

目を覚ました叢雲の姿を見て泣き出す者、慌てて医療スタッフの待機している部屋へ連絡する者、号泣して抱き合う者。

様々な反応を見せる皆の中で、響と叢雲の目が合った。

いつもの自信満々な様子で微笑む叢雲に、響は止まることなく溢れ続ける涙を拭うことも忘れ、震える声で相棒の帰還を出迎えた。

 

「・・・・・・おかえり、叢雲・・・!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第20話です。

いかがでしたでしょうか。
長い・・・今までで一番長い・・・。
このまま長くなっていくのだろうか・・・。

最近、お気に入りの登録数が減ってきて少し寂しいにゃるし~です(@q@)
まあそんなことは気にせず、自分の書きたいことを書いていきますよ!
そもそも、自分の妄想を形にして残したくて始まったこのお話ですしね。

ICUは集中治療室のことですね。
色々種類があるみたいですけど、まあそこはざっくりとでいいやって思いました。
商業作品じゃないですし・・・。

煙草を吸うと目が覚めるとか落ち着くとか聞くことありますが、どうなんでしょうね。
私は煙草吸わないので分からないです。
でも、仕草とかはかっこいいな~って思うんですよね。
というのも、昔の上司が煙草の似合う人でした。
あんなに煙草を吸う様がカッコいい人は中々いないと思います。

『卵』と『玉子』の違いってなんでしょうね?
昔、調理されていないものは『卵』で、調理されたものは『玉子』と聞いたことがある気がしまあすが・・・。
よくわかりませぬ・・・また調べておこう。

タグに『轟沈表現あり』と書いてありますが、あれは念のためというか、なんというか。
今はちょっと色々手探りなんですが、2部では間違いなくめちゃくちゃ死ぬことになるかも・・・?
でも轟沈させるだなんて怖くてできないかも・・・。
全てはこれから次第ですね・・・。

感想頂けるとモチベーションあっぷになるので、ちょっとしたことでもいいのでコメントして頂けると助かります(>_<)
感想こじきとかいわないで・・・。

では、また次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話「梅の雫」

叢雲が目覚めてから数日、他の艦娘たちも快方に向かっていた。
これは日を追うごとに徐々に暑くなっていく、梅雨の終わり頃の1日である。

※今回は台詞少な目、文章多目かもです。


ーーーーー鎮守府・06:00(マルロクマルマル)ーーーーー

 

 

 

遠くに聞こえる、何かを叩くような音で目を覚ます。

重い瞼を軽く擦りながら上半身を起こして伸びをした。

油断すると再び夢の世界へ旅立とうとする、寝起きの体を目覚めさせるのには丁度いい刺激だ。

 

「んん~~・・・・・・ふぅ。」

 

枕元に置かれた目覚まし時計を見る。

どうやらセットした時間よりも、かなり早く起きてしまったらしい。

 

「・・・ん。」

 

丸い本体の上側にあるスイッチを軽く押して、目覚まし時計のアラームを止めておく。

布団を静かに畳んで、シャワーで寝汗を流すべく支度を始める。

 

(着替えにタオル・・・そうだ、せっかくだから大浴場に行って、湯上がりに牛乳でも飲もう。)

 

この鎮守府の大浴場は基本的に24時間開いている。

というのも徹夜で修理や整備をする者や、夜警に出る艦娘もいるためである。

部屋にも小さいお風呂はあるのだが、あまり使われておらず、殆どの者が大浴場を使う。

その理由は脱衣場に設置されている自販機で、入浴後に牛乳を1杯飲むのが流行となっているためだ。

 

(準備よし。・・・さて、行こう。)

 

入浴の準備や着替えを入れた、持ち手のついた籠を手に提げて部屋を出る。

早朝であるためか、寮の廊下は薄暗い。

一定の間隔で点在するフットライトの灯りを頼りに、寮から大浴場へと続く渡り廊下へと進んでいく。

フットライトから発せられた光が、木で作られた床板に柔らかく反射していて、どことなく高級感を感じさせる。

 

(というか、ここの設備ってそこらの高級旅館並みなんじゃ・・・?)

 

建物の外観はともかく、24時間開放の大浴場といい寮の各部屋の内装といい、とても軍施設とは思えないほど生活感に溢れている。

一体どれだけの予算をつぎ込んで建築したのだろうか。

今度、その辺りの話を聞いてみるのも、話のネタが増えていいかもしれない。

そんな事を考えている内に渡り廊下までもうすぐの所まで来ていた。

 

(気づいたらもうこんな所まで・・・・・・ん?)

 

考え事をしていたから気づかなかったが、何かの音が聞こえるのに気がつく。

どうやら渡り廊下の方から聞こえてきているようだった。

寮と大浴場のある建物を繋ぐ渡り廊下は、1階とその上階で違うタイプの物になっている。

2階から上の廊下には窓が付いていて、換気を怠ると夏場は蒸し暑くなりそうだ。

だが、今使おうとしている1階部分は窓どころか壁も無い。

つまり、上階の渡り廊下の真下を通る、ただの屋外通路といったところだ。

 

(扉が開いてる・・・誰かが閉め忘れた?)

 

渡り廊下へ出るための、窓ガラスの付いた扉が片方、僅かに開いていた。

どうやら音はここから漏れてきていたらしい。

きっと誰かが開けて、キチンと閉めるのを忘れたのだろうと結論付け、扉を開けて屋外へ出る。

 

(あ・・・音の正体はこれだったのか。)

 

部屋も廊下も薄暗かったせいか、渡り廊下へ出て初めて気づく。

空は雲で覆われており、そこから数えきれない程の滴が降ってきていた。

 

(雨・・・・・・。そうか、梅雨入りが遅かったと新聞で読んだ気がする・・・。)

 

遅い梅雨入りだった為、6月後半に入った今でも連日雨降りになることが珍しくない。

それでもここ数日は晴れていたので梅雨は明けたものと思っていた。

この雨は明け方に降り始めたのだろうか・・・・・・晴れが続くようになってきたし、そろそろ梅雨明けが近いのかもしれない。

 

(静かな雨音・・・ずっと聴いていたくなる・・・。)

 

雨が作り出した水溜まりに雨水が跳ねる音が心地良くて、つい聴き入ってしまいそうになる。

だが、今は雨音に浸ることよりも、本来の目的であるシャワーを浴びに行くのが優先だ。

横目で雨で水が弾ける水溜まりを見ながら、名残惜しさを振り切るように、足早に大浴場のある建物へと入っていった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・06:10(マルロクヒトマル) 大浴場ーーーーー

 

 

 

脱衣場には他に誰かが入浴に来ている気配はなかった。

そんな日もあるか、と手早く寝間着と下着を脱ぎ、綺麗に畳んで荷物と一緒に脱衣場の籠にしまう。

浴室内用のハンドタオルを、綺麗に畳んで積み上げられた山から1つ、手にとって浴室内に入る。

 

「ここはいつ来ても広いな・・・。」

 

大浴場というだけあり、内部はかなり広々としている。

シャワーに立ち湯、サウナ、水風呂、さらには露天風呂に打たせ湯など、充実したラインナップだ。

一部の者たちは露天風呂でお酒を飲むのが最近の楽しみらしい。

かかり湯を足元から順に体にかけ、徐々にかける場所を上へと移動させる。

 

「ふぅ・・・少し温いかな?・・・・・・かかり湯だし、あまり熱くても困るか・・・。」

 

胸元までかかり湯をかけたところで、手頃な場所を探し、腰掛けに座る。

ハンドルを捻ると、お湯が蛇口から流れ出し、真下に置かれた風呂桶に溜まっていく。

 

(少し熱い・・・温度調節のハンドルは・・・・・・よし、丁度いい温度になった。)

 

お湯の温度を調節し終え、今度はハンドルをシャワーに切り替える。

すると蛇口からのお湯が止まり、代わりにシャワーヘッドからお湯が雨のように溢れ出す。

軽くシャワーを浴びてから、石鹸を泡立てて体の隅々まで綺麗にする。

髪もシャンプーとリンスを使って丁寧に洗う。

仕事上、潮風と海水に晒される機会が多い為、身だしなみを整えるためにも念入りに洗い流すようにしている。

しかし早朝に浴びるシャワーの、なんと気持ちのいいことか。

寝汗を流して眠気も覚めて、一石二鳥とはこのことか。

 

(さっぱりした。・・・・・・ついでにちょっと露天風呂に・・・いや、雨降りだしやめておこう。)

 

夜に来ると大抵、飲兵衛たちが居るおかげで、あまり露天風呂には入ったことがなかった。

自分以外に利用者のいない今はまたとないチャンスであったが、雨に濡れるとまた洗い流さなければならなくなるため、断念した。

タオルでしっかりと水滴を拭い取ってから浴室から出る。

脱衣場に置いてある畳まれたバスタオルの山から1枚抜き取り、体を拭いていく。

一通り拭いてから、自販機でコーヒー牛乳を購入する。

ウィーンという小さな駆動音を響かせ、ロボットアームが器用に瓶を1つ抜き取り、取り出し口へと運ぶ。

 

「♪~♪~~♪」

 

コーヒー牛乳の瓶を手に取ると、慣れた手つきで蓋を剥がしてゴミ箱に捨てる。

思わず鼻歌を歌ってしまったことに気づいて、少し恥ずかしくなった。

恥ずかしさを誤魔化すように、コーヒー牛乳を一気に飲み干す。

 

「んくっ・・・んくっ・・・んくっ・・・・・・・・・けぷっ。」

 

一気飲みすれば誰だって大なり小なりゲップは出る。

そう、これは仕方のないことなのだ。

でも誰にも聞かれていなくてよかったと思う。

 

「さ、髪も乾かして一度戻らないと。」

 

空になった瓶を回収用の箱に入れる。

そしてドライヤーでしっかりと髪を乾かす。

自然乾燥など、もっての他。

生乾きの嫌な臭いはダメ、ゼッタイ。

 

「これで、よし。」

 

髪を乾かし終え、着替えも済ませて大浴場を後にする。

丁度徹夜で作業してきた者たちと入れ違いになり、軽く挨拶を交わした。

再び心地よい雨音を聴きながら、渡り廊下を通って部屋へ戻る。

雨は先程よりも少し強くなっているようだった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・07:45(マルナナヨンゴー) 食堂ーーーーー

 

 

 

まだ時間があるからと、部屋で読書をしていたら、朝食の時間に少し遅れてしまった。

食堂の中はすでに混雑していて、朝食を食べる艦娘や士官の姿が至るところで見られる。

これは持ち帰りできるサンドイッチにした方がよかったかと考え始めた所で、遠くから名前を呼ばれた気がした。

 

(誰だろう・・・たしかあっちの方から・・・。)

 

声の聞こえた方に目を凝らすと、一人の艦娘ーーー夕立が手を振っていた。

こちらが夕立に気づいて手を降り返すとそれに気づいて、今度は手招きをし始める。

どうやら、こちらへ来て一緒に食べないかということらしい。

この込み合った状況の中でそれは願ってもないことだ。

朝食の載ったトレーを傾けないように気を付けながら、人混みの間を縫って夕立の待つ席へと向かう。

 

「おはようっぽいー!席取っておいたっぽい!ほめてほめて~♪」

 

元気よく挨拶をする夕立に挨拶を返しながら隣の席へ腰かける。

ほめてとせがむその頭を優しく撫でてあげる。

指が艶やかな髪をなぞる感触が、撫でる側に心地いい感覚を与える。

撫でられたのが気持ちよかったのか、夕立は笑顔になって朝食を食べ始めた。

 

「いただきます。」

 

自分も手を合わせて朝食をいただくことにする。

今日の朝食は、食堂で大人気の『お艦の焼き鮭定食』だ。

ほかほかの白米に、塩味の効いた銀鮭、赤味噌の味噌汁にきゅうりの浅漬け。

さらに大根おろしの載った、ふわふわの玉子焼きまで付いている。

この50食限定の『お艦』シリーズの定食が出る日には、決まって食堂には長蛇の列が発生する。

 

(鳳翔さんの料理は美味しいから、皆食べたくもなる・・・か。)

 

そう、この定食は鳳翔が食堂の手伝いに出る時にしか食べられないのだ。

一度食べたらやみつきにならない人はいないとの評判だが、自分もその内の一人なので何も言えない。

出遅れたとはいえ、この定食にありつけたことは幸運だった。

 

「美味しいっぽーい!ぽいじゃないっぽいー!」

 

夕立も同じ定食にありつけていたようで、勢いよくもぐもぐと食べ進めている。

顔をこちらに向けさせ、その頬についたご飯粒やら何やらをティッシュで拭き取ってあげる。

ご飯は逃げないから、落ち着いて食べればいいと思うのだが・・・。

ふと食堂の入り口に目をやると、焼き鮭定食の食品サンプルが入ったガラスケースに張られた、『完売御礼』の張り紙を見つめて立ち尽くす赤城と加賀の姿が見えた。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・08:50(マルハチゴーマル) 出撃ドックーーーーー

 

 

 

全体朝礼を終えた士官や艦娘たちがぞろぞろと出撃ドックを後にする。

今週は提督たる比良が留守にしているため出撃はあまり無く、せいぜい周辺海域の哨戒程度だ。

本日の哨戒任務にあたる艦娘も、つい先日、航空戦艦への改装を終えた伊勢と日向が艤装のテストを兼ねて、空母の替わりとして出撃する以外は特に変わった様子はない。

雨天では艦載機の発着艦が困難となり、空母は置物と化してしまう。

そのため、たとえ悪天候であろうと砲撃戦が行えて、いざ天候が回復した時には水上機による航空攻撃も可能な航空戦艦が抜擢されたのだ。

 

(航空戦艦か・・・。水上機とはいえ航空機を運用できるのはすごいな。)

 

『これからは航空火力艦の時代』とは、日向の弁である。

今度機会があれば、『特別な瑞雲』というのを見せてもらいたいものだ。

とにかく、今日は大多数の艦娘や士官と同じように、自分もさほど忙しくない。

やることをさっさと片付けてゆっくり読書でもしていようか。

息抜きに休憩用の和室から見える、紫陽花が満開の庭園を散歩するのもいいかもしれない。

間宮へ行って甘味を食べるのもいい・・・・・・いや、きっと今ごろ間宮は空母の急襲で地獄絵図になっているとみた。

さすがに巻き込まれたくはない、やめておこう。

 

「何をするにしても、まずはやることを片付けないと・・・。」

 

そうと決まれば、報告書の作成に取りかかるため自室へと向かった。

今から始めれば昼前には終わるだろう。

 

 

 

ーーーーー鎮守府・14:20(ヒトヨンフタマル) 庭園ーーーーー

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

ぺらり。

本のページを捲る。

雨の日のここは好きだ。

無駄に広大な鎮守府の敷地、その陸地側の奥に木造2階建ての日本家屋がある。

艦娘や士官を問わず大人気の甘味処『間宮』である。

その裏手には広い庭園があり、晴れた日には散歩を楽しむ艦娘の姿がよく見られる。

紫陽花の咲き乱れる小道を進むと、庭園の中ほどにある鯉の泳ぐ池が見えてくる。

その中心に小島があり、池に架かる小さな橋を通り小島へと渡った先に、様々な木に囲まれた小さな東屋(あずまや)がある。

東屋は、四角錐の屋根を支える4本の柱、その間の2面を腰くらいの高さまで木の板で覆っている。

そこに木で出来た椅子を取り付け、L字型の長椅子としている。

 

【挿絵表示】

 

今はその長椅子に座り、読書に勤しんでいるというわけだ。

 

(やっぱり雨の日はここで読書するに限る・・・。)

 

雨降りでも間宮に客は来るが、わざわざ傘をさしてまでここまで来ようとする者は滅多にいない。

せいぜい、池の周りの小道をぐるりと一周していく程度だ。

そういった周囲の雑音を雨がかき消してくれるため、読書に集中するのにはうってつけなのだ。

だから非番の時や、今日のように暇な雨の日はよくここに来る。

誰にも邪魔されず、本の世界に浸る。

 

 

 

ぺらり。

 

 

 

ぺらり。

 

 

 

ぺらり。

 

 

 

長時間、本に集中していると目の疲れと眠気を感じる。

そんな時は顔をあげて、藤掛から垂れ下がる、見事に咲いた藤を眺める。

いつもならそれで目の疲れが忘れられるのだが、日頃の疲れのせいなのか、昼食で満腹になったお腹がそうさせたのか。

雨音の子守唄もあって、眠気に誘われるまま瞼をとじた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

何かを叩くような音で目を覚ます。

視界に入ってきたのは、雨粒が木の葉を叩く様だった。

どうやら東屋で座ったまま眠っていたらしい。

 

「ん・・・・・・?」

 

横になっていた体を起こそうとして、違和感に気づく。

なんで横になって寝ているのだろうか。

それよりも、今、自分は何に頭を乗せている?

ぺらり。

 

「っ!?」

 

真横から聞こえた音に、反射的に体を起こす。

 

「ん、起きましたか。」

 

半袖の白い制服に軍帽、そして聞きなれた声。

自分が頭を置いていたのはーーー。

 

「・・・司令官。こんな所で何をしているんだい?」

 

主力艦隊の指揮を執る安住だった。

その手にあるものを見れば、何をしているのかは一目瞭然なのだが。

内心の動揺を悟られないように、あえて聞く。

 

「読書ですよ。最近は中原中也にハマっているんです。時雨さんもよかったら読んでみますか?」

 

「いや、そうじゃなくて。こんな雨の日に、なんでこんな所にいるのかな?そしてなんで、僕の頭を膝に乗せて座っていたのかな?」

 

自分の聞き方が悪かったと、笑顔(目は笑っていない)で言葉を変えて質問をし直す。

その怒気を感じさせる問いに安住は、気まずそうに目を泳がせながら頬をかいて答えた。

 

「ええと、静かに読書できる場所はないかと庭園を散策していたら、ここで眠っている時雨さんを見つけて。」

 

「ふーん、それで?」

 

ジト目が安住に突き刺さり、より一層気まずそうに続ける。

 

「最初は向こう側に座ったんですが、時雨さんの体がどんどん傾いていったので、そっと直そうとしたんですが・・・。」

 

「うん・・・・・・うん?」

 

なぜだろうか、嫌な予感しかしないのは。

止めるべきだと脳が警鐘を鳴らすが、既に遅かった。

 

「寝ぼけた時雨さんが、すごい力で私の膝を押さえ込んで枕にしてしまったんですよ・・・あはは・・・。」

 

(自分で招いた状況だったーーー!!何をしているんだい僕は!?)

 

安住から語られた真相に、顔が瞬く間に熱くなるのを感じる。

心臓の鼓動がこれまでにないほど激しくなっていく。

何か、とにかく何か言わなければ。

そう思って口をついて出た言葉はーーー。

 

「な、なんで、すぐに起こさなかったんだい?」

 

(僕はどうしてそこでそんなことを聞いてしまうんだい!?)

 

混乱した頭からまともな判断がなされるはずもなく、掘った墓穴をさらに掘り下げてしまった。

 

「時雨さんがあまりにも気持ち良さそうに眠っていたので、起こすのも悪いかなと・・・。」

 

(ああああああーーー!!僕のバカバカバカ!!何やっているんだい!?失望したよ!?)

 

心の中で頭を抱えて、ぶんぶんと首を左右に振りまくる。

恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

 

「それに・・・。」

 

(うわああああーーー!!・・・それに?)

 

「時雨さんの寝顔が可愛らしくて・・・ついそのままに・・・。」

 

「~~~~~///」

 

安住の思わぬ追撃で、沸騰した頭がパンクする。

声がでない口をぱくぱくさせながら、何か言おうとした体勢で動けなくなる。

分かっていてやっているのか、この男は。

 

「・・・・・・私の顔に、何か付いていますか?」

 

「ぁ、ぅ・・・。」

 

言われて気づく。

安住の顔を見つめる状態になっていたことに。

なんでもいいから誤魔化そうと、回らない頭で必死に言葉を探す。

 

(ーーー!!)

 

安住の背後の、ある物が目に留まる。

 

「う、梅の実を見ていたんだよ。ほら、司令官の後ろ。」

 

「ん?・・・ああ、本当だ。よく熟れていますね。」

 

指差したそれを見て、安住が感動しているように目を細める。

その視線の先には、雨露に濡れた梅の実が雫を垂らしながら静かに揺れていた。

どうにか気をそらすことが出来たようだ。

安心してほっと胸を撫で下ろす。

 

「これだけ熟れているなら、今度いくつか収穫して、梅干しにしてもいいかもしれません。」

 

「そういえば、提督が結構前に幾つか収穫して、梅酒を作るとか言ってたよ。」

 

「梅酒好きですからねぇ。しかも、あの人の作る梅酒はすごく美味しいので、いつも取り合いになるんですよね。」

 

そう言って楽しそうに笑う安住の横顔に思わず見とれてしまう。

また頬が少し熱くなる。

なんて無邪気に笑うのだろう。

 

(意外と子どもっぽく笑うんだね・・・。)

 

「さて、そろそろ夕食の時間です。戻りましょうか、時雨さん。」

 

立ち上がって安住が手を差しのべてくる。

その手に自分の手ではなく、傘を握らせて自分も椅子から腰をあげた。

 

「傘、忘れると濡れるよ。司令官?」

 

「あはは。忘れていく所でした。」

 

それぞれ傘をさして庭園の出口へと向かう。

池に架かる小さな橋を渡り、池の外へと出る。

そして紫陽花の咲く小道をゆっくりと歩いていく。

 

「・・・・・・ふふっ。」

 

「司令官、どうかしたのかい?」

 

安住が突然、微笑んだのを不思議に思って問いかける。

何か面白い物でもあったのだろうか。

 

「いや、時雨さんと一緒にいると、いつまででも聴いていたくなるくらい、雨音が気持ちよかったものですから・・・ふふ。」

 

心臓の鼓動が一瞬、大きくなる。

 

「・・・・・・おだてても、何も出ないよ?」

 

「それは残念ですねぇ。」

 

たいして残念そうでないように笑う安住。

この小道が狭くてよかったと、思う。

後ろを歩いていなければ、見られてしまっていたかもしれない。

熟れた梅の実のように、朱に染まった頬を。

 

「・・・・・・そういうところに、惹かれたのかもしれないね・・・。」

 

「ん、何か言いましたか?」

 

「なんでもないさ。それより、早く行こう。急がないと夕食の限定50食の定食が無くなっちゃうよ。」

 

庭園を抜けた所で、小走りで安住を追い抜いていく。

慌てて追い付いた安住と、今度は並んで食堂へ向かって歩く。

急ぎ足で、けれど雨が奏でる音楽をゆっくりと楽しみながら。

 

(止まない雨はない。でも今だけは、このままで・・・。)

 

この鳴り止まない雨音が、隣を歩くこの人に、高鳴る鼓動を聞かせないでいてくれるから・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第21話です。

いかがでしたでしょうか。

今回は終盤までメインの登場人物が誰なのか、明記しないでやってみました。
夕立が出てきた時点で察した方も多いかも?

渡り廊下は、学校とかでよくみられるアレをイメージしていただけるといいかと。
東屋は、伝わりづらいと思ったので、無い絵心を絞り出して写真から模写した挿し絵をいれてみました。
縮尺とか色々おかしいですが、どんなものか伝わったなら幸いです。

この話を思い付いたのは、丁度台風が来てて雨がすごかったからですね。
結構雨音とか好きなんです。

そしてまたお前か、安住。
第1部のメインは安住なのです・・・。
暫くはほのぼのとした日常風景を書いていこうかと思います。
まあ、また後書き詐欺みたいになるかもですけど・・・。

よろしければこれからも読んで頂けるとうれしいです。
では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話「瑞き雲の目指すもの」

水上爆撃機の傑作機、瑞雲。
それを運用する艦娘と妖精たちとの小さなお話。


ーーーーー鎮守府・11:30(ヒトヒトサンマル) 工厰ーーーーー

 

 

 

カーン、カーン、カーン。

バチバチッ、ジジジジーーー。

工厰では、日夜開発や整備が行われている。

今日も艦娘の艤装の整備や新兵装の開発がされており、各所から響く音でかなりうるさい。

その工厰の入り口に、二人の艦娘の姿があった。

 

「ここはいつ来てもスゴい音だねー。」

 

工厰の中を見渡しながら、髪を短めのポニーテールにした女性が感嘆の声をあげる。

明るい声が活発な印象をあたえる彼女の名は、伊勢。

 

「工厰から灯りが消えたことがないと噂があるくらいだし、まさに不夜城だな。」

 

伊勢の隣に立つ、落ち着いた声のショートヘアの女性が頷きながら同じように工厰を眺めている。

ポニーテールを取った伊勢といった容姿の彼女の名は、日向。

この二人が鎮守府の主力艦隊、その中核を担う戦艦娘だ。

 

「さて、夕張たちはどこにいるのだろうね。」

 

「うーん・・・これだけごちゃごちゃしてると、どこにいるか分かんないね。」

 

二人は今日、明石と夕張に呼ばれて演習後そのまま工厰へと来ていたのだ。

その証拠に彼女らの身体の至るところに艤装が取り付けられている。

自分たちを呼び出した人物を探していると、「おーい。」という声が聞こえてきた。

 

「伊勢さーん、日向さーん、こっちこっちー!」

 

声のした方を見ると、ツナギの作業服の上半身を脱いでタンクトップ姿となっている夕張が手招きしていた。

夕張と合流した二人は明石のもとへ向かうべく工厰の奥へと進んでいった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「演習お疲れさまです。どうでしたか、瑞雲は?」

 

妖精と一緒に瑞雲の整備を始めながら、明石が問いかける。

 

「悪くないね~。発艦にはまだ慣れが必要だけど。」

 

「先制爆撃も中々だった。さすが瑞雲だな。」

 

伊勢と日向がそれぞれの感想を述べる。

念願の瑞雲に満足感を得られているようだ。

 

「ご満足頂けたようでなにより。提督から瑞雲の開発と整備を、随分と()かされましたからねぇ・・・。」

 

「あ、あはは・・・ごめんね明石さん。」

 

「は~い、じゃあ飛行甲板を預かりますね~。」

 

げんなりした表情をする明石をよそに、夕張が二人から飛行甲板を受け取って整備台へと持っていく。

 

「あ、他の艤装も下ろしてもらって大丈夫ですよ。整備し終えたら出撃ドックに運んでおくので。」

 

「いいの?・・・ならご厚意に甘えて、お願いしようかな。よいしょっと。・・・・・・ん?」

 

夕張の厚意に甘え、艤装を外していく伊勢。

隣にいる日向が艤装を外さないのを見て、声をかける。

 

「日向?どーしたのよ。艤装外さないの?」

 

「ん?ああ、今外すよ。」

 

何やら考え事をしていた様子の日向も艤装を外していく。

そして全てを外し終えたところで、疑問を口にした。

 

「今日の演習で思ったのだが。瑞雲の妖精たち、今日が初の空戦だったはず。それなのに中々いい戦いをしていたのは、なぜだろうね?」

 

「え?あー・・・言われてみれば、そうかも。二航戦が相手だったとはいえ、かなり食い下がってたね。おかげで制空権喪失はしなかったから助かったよ~。・・・でもなんでだろ?」

 

伊勢も日向の感じた疑問には同感らしく、首を傾げている。

 

「あれ?聞いてないんですか?」

 

意外そうな夕張の声に二人揃って首を傾げる。

聞いていない?何を?

 

「この子たち、完熟訓練の間に鳳翔さんの航空隊にしごかれまくりだったんですよ。」

 

「「はあああ!?」」

 

衝撃の事実に、伊勢だけでなく日向までもが声をあげて驚いた。

鳳翔の航空隊といえば、一航戦の航空隊をも凌ぐ程と噂される練度と実力を誇る、鎮守府の最高戦力の一翼だ。

そんな存在に空戦の師事をしていたことに、驚きを隠せる者はいない。

 

「君たち、なぜそれを私たちに言ってくれなかったのかな?」

 

「そうだよー。水くさいじゃないのさ~。」

 

瑞雲の整備を手伝っていた搭乗員妖精たちに二人が詰め寄る。

自分たちの主人に詰め寄られ、瑞雲妖精たちは怒られるのかと震え上がっている。

 

「皆なんでそんなに震えてんの?」

 

図らずも瑞雲妖精たちを問い詰める形になっていることに、二人は気づいていない。

実際には、鳳翔航空隊にしごかれたと聞いて、心配と興奮で詰め寄ってしまっているだけなのだが。

 

「ちょちょちょ!この子たちを責めないでください!!」

 

慌てて明石が二人と瑞雲妖精たちの間に割って入る。

 

「この子たちがそんな無茶したのは、日向さんのためなんですから!」

 

「私のため?それはどういう・・・?」

 

心当たりが無いと、日向が首を傾げる。

 

「ほら、日向さんが完成間近の瑞雲を見に来たとき。言ってたじゃないですか!」

 

「あっ!日向、もしかしてあれじゃない?」

 

 

 

ーーーーー数日前 工厰ーーーーー

 

 

 

「ほう。瑞雲もようやく完成か。」

 

「待ちに待った瑞雲だね~。」

 

ズラリと並んだ瑞雲を見て、日向と伊勢が嬉しそうに話している。

 

「急造だったんで、予備機があまり用意できてなくて・・・すみません。」

 

「明石さん!そんな、これだけの機数を用意してもらっただけでも十分ですよ!」

 

申し訳なさそうに頭を下げる明石を伊勢が宥める。

 

「この瑞雲があれば・・・。」

 

「日向?」

 

明石と伊勢のやり取りに気づいていないのか、日向が興奮した様子で拳を握る。

 

「そうだ。艦載機を放って突撃。これだ!!」

 

日向はその拳をあげて震わせながら、工厰に響き渡る程の声量で力強く叫んだのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「ああ・・・そんな事を言ったような・・・。」

 

ようやく思い出したようで、日向が頷いている。

 

「それで、日向さんの期待に応えようとして、この子たちが安住少佐に泣きついたんですよ。」

 

「ふぇ?なんで少佐に?」

 

伊勢が分からないといった風に首を傾げる。

 

「訓練メニューとか決めてるのって安住少佐じゃないですか。それでですよ。」

 

「ああ~そういうことね。」

 

明石の一言で伊勢は納得したようだ。

笑顔で瑞雲妖精たちの頭を優しく撫でている。

 

「空戦や爆撃は鳳翔さんの航空隊に。索敵と弾着観測は由良さんの水偵妖精に。それぞれ指導して貰ったんです。」

 

「そうだったのだね・・・。私たちが艤装との同調率を調整している間に、そんなにも頑張ってくれて、ありがとう。」

 

感謝の気持ちを伝えて日向が優しく微笑み、伊勢と同じように瑞雲妖精たちの頭を撫でる。

自分達の努力が報われたと知って、瑞雲妖精たちは嬉し泣きする者や飛び上がって喜ぶ者など、様々な反応を見せた。

 

「よし!共に航空戦艦の時代を切り開こう!!」

 

「「「「オー!!」」」」

 

「うぇ!ちょっと!ひゃああああ!?」

 

日向の叫びに、瑞雲妖精たちが日向に駆け寄って雄叫びをあげる。

瑞雲妖精の波に飲まれる明石。

それを見ていた夕張が興奮した様子で日向に駆け寄る。

 

「次の演習、私も一緒に出てデータを集めていいかしら!」

 

「いいとも!瑞雲の素晴らしさをしっかり記録するといい!」

 

瑞雲妖精たちに混ざって騒ぎだした夕張に日向。

その様子を伊勢は微笑ましく眺めていた。

 

「日向ったら、あんなにはしゃいじゃって・・・。ふふ、私も嬉しいや!」

 

そして伊勢も日向たちの輪の中へ飛び込んで行ったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第22話です。

いかがでしたでしょうか。

土曜日あたりから熱を出していました・・・。
40℃ってきついですね・・・・・・。
熱が下がって病院いったら、手足口病だそうで・・・。
最近、大人でかかる人が多いらしいので、皆さんお気をつけください。

そんなわけで今回は短めでしたが、伊勢姉妹のお話でした。
師匠の期待に応えようと、妖精たちが影で頑張る。
微笑ましいとおもいます。

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1部 登場人物設定紹介 その1

そろそろチマチマとキャラの紹介をはさんでいこうかと思います。

今回は安住の設定紹介になります。


安住(あずみ) (まもる)

 第1部の主人公。24歳。男性。身長174cm。体重57kg。割と体型は細身。

 階級は海自→新海軍の順に一等海尉→海軍少佐。

 

 冷静で落ち着いた性格。礼儀正しく細かいところによく気がつく。

 事務仕事もよくできるため、海自時代は副官としてよく比良の手伝いをしていた。

 意外と照れ屋で、目線を泳がせたり軍帽のつばで目元を隠そうとするなど、わかりやすい。

 女性関連の心の声が口にでることがあり、これまでに何人も女性を勘違いさせたらしい。

 

 抜刀術の道場の家系であり、祖父や父親から抜刀術を始めとする様々な武術の指南を受けた。

 そのため体術にも優れており素手でもそこそこの強さを発揮するが流石に艦娘には敵わない。

 銃器の扱いも問題なく、CQBが得意で射撃の腕も悪くない。

 

 人対人の戦闘になると、人が変わったように冷酷になるが、これは幼少期の事件の影響。

 13歳の時の海外旅行中に、テロ絡みの事件で歳の離れた姉を目の前で亡くしている。

 そのトラウマから死の気配に敏感になり、また敵と認識した者には情けも容赦も無くなる。

 この時に言葉使いが悪くなるのは、心の底では怖がり震えそうな自分を奮い立たせるため。

 

 料理が趣味で和食や洋食、和菓子に洋菓子も作れる。

 中でも玉子焼きには定評があり、わざわざ材料を持ち込んで作ってもらおうとする者も多い。

 好物はおにぎり。味はシンプルに塩を好むが、梅や鮭なども好んで食べる。

 苦手な食べ物は納豆とあんこ。納豆はネバネバ感が、あんこは種類を問わず食感が苦手。

 でも和菓子は好きで、あんこも我慢して食べる。好きな和菓子は栗納豆、おはぎ。

 

 戦局や戦場の空気を感じとることに長けており、罠や伏兵といったものを悉く見抜く。

 その能力で海自時代は訓練や演習では不敗を誇り、ついたあだ名が『慧眼』。

 新海軍発足直後のとある演習を観戦していた海軍中将の一言「まるで軍神だな。」により、

 最終的に『慧眼の軍神』や『慧眼の安住』と呼ばれるようになる。

 

 比良とは海自入隊以来の腐れ縁でよくツッコミに回る。

 何かと冗談めかして大げさに話す比良に対して、冗談にツッコミつつ補足するといった具合。

 性格は正反対の二人だが、なぜか奇妙なほど馬が合う。

 暇があると二人でいる所が多く見られ、一緒に将棋をしたりお酒を楽しんだりしている。

 二人をよく知る人は、まるで兄弟のようだと口を揃えて言う程。

 

 作者の中での声のイメージは、あの最強のお兄様とア○トくんを足して2で割った感じ。




設定紹介の第1弾、いかがでしたでしょうか。

んなもんいらねぇ、はやく本編書けや!
なんて思われたでしょうか・・・?
か、書いてますとも!
息抜きに設定をキチンと纏めてるだけです、はい。

次回は比良の設定の予定です。
いつになるかわかりませんがw

では、もうしばらく本編をお待ちくださいませ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話「愛は惜しみなく奪うもの」

対策会議のため大本営に赴いた比良。
連日続けられる会議、その休憩時間の1コマである。


ーーーーー大本営・15:00(ヒトゴーマルマル) 会議室ーーーーー

 

 

 

「では、ここで一時休憩とし、続きは16:00(ヒトロクマルマル)より開始とします。」

 

はりつめた空気が解かれ、会議室から士官たちがぞろぞろと出ていく。

それを横目に見ながら広げていた資料を手元に集めて整える。

 

「ふぅーーー・・・。」

 

連日に渡る長時間の会議で凝り固まってしまった肩や首をコキコキと鳴らし、ため息をつく。

ぽん。とその肩に手が置かれる。

 

「お疲れのようだね、比良君。」

 

秋山(あきやま)中将・・・。いえ、私は大丈夫です。」

 

比良に声をかけたのは、海自時代からの恩師である、海軍中将の秋山だった。

姿勢を正して敬礼をする。

 

「楽にしてくれたまえ。そちらの艦娘は君の所の?」

 

秋山が比良の後ろに立っている艦娘について問う。

 

「はい。私の秘書官をして貰っています、霧島です。霧島、こちら恩師の秋山中将だ。」

 

「はじめまして。金剛型戦艦4番艦、霧島です。秋山中将、お噂はかねがね。」

 

霧島が姿勢を正し、秋山に敬礼する。

秋山も敬礼を返してそれを解くと、ふっと微笑んだ。

 

「中々の美人さんじゃないか。比良君もすみにおけないな。ええ?」

 

「よ、よしてください。そんなつもりは微塵も・・・。」

 

微笑みをイタズラっぽい笑みに変え、秋山が肘で比良の横腹をつついている。

そのやり取りそのやり取りを見ていた霧島はどこか既視感を覚えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

秋山と別れて会議室を出た後、比良と霧島は休憩にお茶でもしようと喫茶店が併設されているテラスへ向かっていた。

 

(あのやり取りどこかで・・・・・・ああ、そういうこと。)

 

既視感の正体に思い至った霧島がくすくすと笑う。

それに気づいた比良が不思議そうに問いかける。

 

「霧島・・・?どうした・・・何か可笑しかったか?」

 

「いえ、お二人がとても仲良さそうにしてみえて・・・ふふっ。まるで提督と少佐を見ているようで。」

 

「そうか?・・・霧島が言うならそうなのかもしれんな。」

 

照れ臭かったのか、軍帽の上からボリボリと頭をかく。

 

・・・・・・・・・ゥゥゥゥ・・・。

 

「ん?」

 

前を歩いていた比良が突然立ち止まる。

比良の3歩後ろを歩いていた霧島も立ち止まった。

 

「どうかされましたか。提督?」

 

「なんか聞こえなかったか?」

 

「いいえ?」

 

・・・・・・ォォォォォォォ・・・クゥゥゥゥゥゥゥ・・・。

 

「ほらまた。声みたいな。」

 

・・・・・・ィィィィィトォォォォォォォォォクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・。

 

「どんどん大きくなって・・・・・・ってまさか・・・!」

 

「ああ・・・なるほど。」

 

徐々に大きくなる声の正体に気づいた比良が身構える。

霧島も気づいたようで、壁際にそっと寄った。

 

「テェェェェェェェイィィィィィィィトォォォォォォクゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

「来たか!!」

 

声が背後から聞こえてくることに気づいた比良が身体ごと振り向き、構える。

その時には声の主は比良の目前に迫っていた。

 

「バァァァァァァァァァニングゥゥゥゥゥ!!ラァァァァァァァァァァァァヴ!!!」

 

「ごっっっっっっふぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

猛スピードで飛び込んできたそれを、比良は身体をくの字に曲げながらも受け止める。

そしてそのまま15メートル程押されていき、廊下の突き当たりの壁にぶつかる寸前で止まった。

 

「テートクゥーーー!逢いたかったデース!チュッチュッ♪」

 

「ひ、久しぶりだな金剛・・・。ちょ、待っ、んむっ、やめ、たすけ、霧島ぁ!」

 

比良にダイビングハグしたのは、金剛型戦艦の1番艦であり霧島の姉の金剛だった。

金剛は比良に好意を寄せているらしく、会うたびに抱きついてはキスの嵐を浴びせている。

襲いくる唇をかわし、時には直撃しながらも霧島に助けを求めるが・・・。

 

「無理です。」

 

にっこりと笑った霧島から、無情にも救助を拒否された。

 

「チュチュチュ~♪テートクゥ~♪」

 

「ぬわあああ・・・。」

 

それから数分、比良は金剛からのキスに蹂躙されるのだった。

 

 

 

ーーーーー大本営・15:20(ヒトゴーフタマル) カフェテラスーーーーー

 

 

 

大本営の本館、その中庭にあたる箇所の2階にそれはある。

広い中庭を一望できるテラスに円卓と椅子がいくつも設置されており、休憩時間やお昼時には士官や艦娘の姿がよく見られる。

その円卓の内の1つを囲んで座る、5人の姿があった。

 

「テートク、紅茶が入ったネー♪」

 

「おお、ありがとう。」

 

比良の前に金剛が入れた紅茶が差し出される。

ティーカップから立ち上る湯気に乗って、紅茶のいい香りが鼻腔をくすぐる。

 

「いい香りだ・・・これは、ダージリンだな。」

 

「イエース!さっすがテートク、もう紅茶の銘を当てられるようになったデスね♪」

 

「いやぁ偶々だ。分からんなりにあてずっぽうで言ってみるもんだな!がっはっは!」

 

「ぶー・・・まぐれだったデスカー・・・。」

 

紅茶の銘柄を言い当てたことに喜んだ金剛だったが、すぐに頬を膨らませてしまった。

その様子を見ていた比叡が比良に詰め寄る。

 

「提督!お姉さまの入れた紅茶の銘柄くらい、まぐれじゃなく当てられないとダメじゃないですか!」

 

「お、おう。・・・・・・そういう比叡はわかるのか?」

 

比叡の前に置かれたティーカップを指差しながら問う比良。

それに視線を移した比叡は、ふふんと鼻を鳴らして答えた。

 

「当然です!気合い!入れて!当てます!!・・・・・・これは・・・アッサムですね!!」

 

自信満々に言い切った比叡。

果たして合っているのか・・・榛名が判定を下す。

 

「比叡お姉さま・・・・・・・・・正解です!」

 

「さっすが比叡ネ!ご褒美にスコーン多目にしてあげるデース!」

 

「やったーー!!」

 

思わぬご褒美に比叡は小躍りしそうな程喜んだ。

差し出されたスコーンを美味しそうに頬張っている。

 

「マジか・・・。香りと色で分かるもんなのか・・・。」

 

「比叡お姉さまくらいになろうと思ったら、かなりの慣れが必要ですね。」

 

ダージリンを飲みながら金剛たちのやり取りを見ていた比良の隣に、いつの間にか榛名が来ていた。

その手には小さな包みが握られている。

 

「うぅむ・・・難しそうだ。」

 

「大丈夫です。榛名が手取り足取り、お手伝いします。」

 

にっこりと笑って比良との距離を詰める榛名。

身体というより、顔同士を近づけようとしているようだ。

 

「い、いやしかし、榛名の手を煩わせてしまうのもな・・・。」

 

「榛名は大丈夫です!」

 

身の危険を感じ始めた比良はなんとか話題を逸らそうと目線を泳がせる。

その目にある物が留まった。

 

「は、榛名!その手に持っているものはなんだ?」

 

「ふぇ?・・・あ。」

 

言われて思い出したのか、榛名が手に持っていた包みを差し出す。

 

「あの、榛名、クッキーを焼いてみたので・・・宜しければ召し上がってください。」

 

「榛名の手作りか!ほお・・・これは美味そうだ。」

 

受け取った包みからクッキーを1つ取りだして眺める。

そして一口かじった。

サクッ。という音を出してクッキーが割れ、口の中に香ばしい香りが広がる。

 

「うん・・・美味い。榛名はお菓子作りが上手なんだな。」

 

「いえ、榛名は金剛お姉さまに教わって作っただけですから。」

 

比良が素直に感想を述べると、手をもじもじさせながら榛名が目を剃らす。

 

「それでも、上手なのにはかわりないさ。んー美味い!小さい頃から好きだったんだよ、ジンジャークッキー。」

 

上機嫌で比良はクッキーを次々と食べていく。

まるでお菓子にはしゃぐ子どものようだと、榛名は思った。

 

「榛名はいいお嫁さんになるだろうなぁ。」

 

「ふぇっ///そそそそれはつまり///」

 

比良は無意識で言ったのだが、それに気づくよしもない榛名は顔を真っ赤にしてしまった。

それに気づいた金剛が比良にダイブしてくる。

 

「テェーートクゥーー!!榛名に何してるデース!!」

 

「ぐえっ!」

 

横腹に思いきり体当たりハグされて、倒れはしなかったものの比良はお腹を抱えて踞る。

身体が小刻みに震えていることから、相当の衝撃だったのだろう。

 

「ワタシから目を離しちゃ、ノーなんだからね!!」

 

「ゴホッゴホッ・・・わかったから・・・ちょっと離れて・・・・・・苦しい。」

 

抱きついて頬擦りする金剛をなんとか引き剥がす。

決して金剛を嫌っているわけではない。

むしろ好意を寄せて貰えるのは素直に嬉しい。

ただ所構わず抱きついてくるのと、色々と当たっているのと、周囲の目もある。

ましてここは大本営だ。

あまり目立たないでおきたいというのが比良の本心である。

 

「金剛お姉さま、提督が困っています。それに、そろそろ会議室に戻らないといけない時間です。」

 

「お?もうこんな時間か。」

 

これまで黙って姉妹と比良のやり取りを見守ってきた霧島が助け船をだした。

開始5分前には会議室に戻っておかなければならない。

 

「時間が経つの早すぎデース・・・。」

 

「仕方ないですよ、お姉さま。」

 

「榛名、大丈夫じゃないです・・・。」

 

分かりやすくがっかりする金剛たち。

それを見ると、なぜか悪いことをした気分にさせられる。

 

「あー・・・なんだ、その。」

 

「テートク・・・?」

 

軍帽の上からボリボリと頭をかいて、比良が口を開いた。

 

「秋山中将には話は通しておくから、明日は皆で昼飯でも食べに行くか・・・?」

 

願ってもない提案に、金剛たちの表情が花が咲いたように明るくなる。

 

「テェートクゥゥーー!大好きデース!!」

 

「こら、すぐ抱きつこうとするな。」

 

また抱きつこうとする金剛の頭を掴んで阻止する。

そのまま格闘を続けていると、榛名と比叡が真剣な表情で見つめているのに気づく。

 

「提督、榛名たちは明日は元々休暇ですから、私たちが手料理をご馳走します!」

 

「気合い!入れて!作ります!!」

 

「おお!それはいいな!楽しみにしてるぞ!」

 

料理上手の榛名の手料理を食べられるとあって、比良は二つ返事で提案を受け入れた。

自信ありげな比叡もきっと料理上手なのだろうと思うと、期待が膨らむというものだ。

 

「それじゃあ、また後で連絡を入れるからな。紅茶、美味しかったぞ。またご馳走してくれると嬉しい。」

 

残っていたダージリンを飲み干し、席を立つ。

 

「ハイ!会議頑張ってくださいネー!」

 

手を振る金剛たちと別れ、比良と霧島は再び会議室へと向かっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

コツコツと廊下に靴音が響く。

休憩で会議室から出た後と同じように、比良の3歩後ろを霧島がついていく。

 

「いやぁ助かった。ありがとな、霧島。」

 

「提督は甘やかしすぎです。お姉さまたちも、鎮守府の皆も。」

 

戻る時間を教えてくれた霧島にお礼を言った筈が、返ってきたのは予想外の言葉だった。

少し気まずい空気になる。

 

「甘やかしてる・・・かねぇ?」

 

霧島に言われたことを反芻してみるが、いまいちぴんとこない。

 

「提督・・・私たちは、艦娘です。」

 

「おう、知ってるが?といっても、俺たち人間が勝手に付けた総称だけどな。」

 

「・・・・・・。」

 

「霧島?」

 

後ろをついてきていた足音が止まったのに気づいて振り返る。

そこには霧島が俯いて立ち止まっていた。

 

「私は・・・私たちは。・・・兵器、なんですよ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

霧島は圧し殺した声を絞り出すように言う。

 

「なんで・・・あなた方にとって兵器でしかない私たちに、優しくしてくれるのですか。」

 

「私たちは、深海棲艦と戦うために存在しているんです。」

 

「いつ、どこで、どうやって生まれたのかもわからない。」

 

「そんな私たちに、私に・・・どうして・・・提督は、少佐は・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

俯いたまま、震える声で霧島は自分の気持ちを語った。

出会って共に戦うようになってから、初めてのことかもしれない。

霧島のこれほど不安そうな声を聞くのは。

 

(金剛たちとのティータイムでずっと黙ってた原因は、それか・・・。ま、あんな艦娘を人と思わない連中がいる会議に参加していれば、そうなるか。)

 

海軍の中には、艦娘をただの兵器としてしか考えていない連中もいる。

彼らは無思慮にも、会議中にその考えを隠そうともしていなかった。

そんな艦娘からしたら悪意の塊とも思えるものに間近で晒されていれば、不安になっても不思議ではなかった。

他の泊地の提督に付き添っていた艦娘たちの顔色も、いいものではなかったなと今さら気づく。

こんな時、安住ならすぐに何か手を打っていただろうかと思うと、比良は自分が情けなく思えた。

 

「どうして・・・ですか・・・。」

 

だが今は、そんなことを考えている場合ではない。

目の前にいる艦娘の、普段から秘書官として自分を支えてくれている娘の不安を少しでも拭ってやらねばならない。

それが鎮守府の提督たる自分の役割でもあるだろう。

 

「どうして、ねぇ・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

深呼吸をひとつ。

なぜか緊張しているのが自分でわかる。

 

「んなもん、お前らが可愛いからだろうが。」

 

「・・・はい?」

 

霧島が顔をあげて間の抜けた声をあげる。

よく頭の回る霧島のことだ、色々と返ってくる言葉を予想していたのだろう。

目を丸くしている表情で、予想していた言葉にかすりもしなかったことが分かった。

 

「可愛いやつに優しくするのは当然だろ。まして、それが女の子なら尚更な。」

 

比良が霧島に1歩近づく。

 

「いつ、どこで、どうやって生まれたのかもわからん。それでもな、そんな可愛い姿で生まれてきたんだ。」

 

さらに1歩近づく。

 

「それは、お前らの『愛されたい』、『優しくされたい』っていう根底の本能ってやつの表れだろうよ。」

 

もう1歩近づく。

 

「そんな甘えん坊たちに優しくしたい、愛したい。人の姿で生まれ変わったお前らの人生を、笑顔で一杯にしたい。」

 

比良と霧島の距離は目の前になっていた。

 

「そう、俺たちが思ってしまうのは、当たり前のことだろうよ。」

 

霧島の頭に手を置き、その綺麗な髪を乱してしまわないように撫でる。

 

「人間全員を信用しろなんて言わない。けどな、鎮守府の皆や俺たちだけでもいい。」

 

泣きじゃくる子どもをあやすように、ゆっくりと何度も撫でる。

 

「お前らを大切に思う人たちの事、俺だけでもいいから、信じてやってはくれないか。」

 

「てい、とく・・・。」

 

いつの間にか、霧島は比良の胸に顔を埋めて静かに泣いていた。

 

「すまんな・・・霧島の不安に気づけなくて・・・。」

 

「もっと・・・。」

 

ぽつりと言って霧島が比良の背中に腕をまわす。

 

「ん?」

 

「もっと、撫でてください。」

 

「・・・・・・はいよ。」

 

やっぱりクサい台詞は似合わないなと思いつつ、そのまましばらくの間、比良は霧島の頭を撫で続けていた。

 

 

 

ーーーーー大本営・20:10(フタマルヒトマル) 会議室ーーーーー

 

 

 

「ふぃー・・・やっと終わったな・・・。」

 

ため息をついた比良が伸びをすると、背骨がボキボキを音を立てる。

人の殆ど残っていない会議室にその音はよく響いた。

 

「お疲れさまです、提督。」

 

資料を纏めながら霧島が労いの言葉をかけた。

その表情には数時間前の不安そうな気配は微塵も見られない。

 

「おう、お疲れさん。霧島もありがとうな、色々手伝ってもらって。」

 

「いえ、私を大切に思ってくれる提督を支えたいだけですから。何も問題ありません。」

 

にっこりと笑う霧島。

 

「・・・・・・ん?今の何かおかしくなかったか?」

 

「いいえ。どこもおかしい所はありませんよ。」

 

変わらず、にっこりと笑う霧島。

 

「いや、でm「何もおかしくないですよ?」アッハイ。」

 

霧島の笑顔の圧力に屈し、比良がそれ以上追求することはできなかった。

するとそこへ誰かが近づいてきた。

 

「いや~お熱いねぇ~、比良君?」

 

「あ、秋山中将・・・。」

 

ニヤニヤしながらからかうのは、秋山だった。

ずっと見ていたのだろう、面白いからかいネタを見つけた時の比良と同じような顔をしている。

 

「よせやい、今日の業務は終了してるんだ。堅苦しいのはなしにしようや。」

 

「・・・・・・了解です、秋山さん。ずっと見てたんですかい・・・。」

 

「おう、いいもん見させてもらったわ。ははは!」

 

げんなりした様子の比良と、昼に会話したときとは別人のように気さくな秋山。

その様子をみて、またしても霧島は安住と比良の姿を重ねて、くすくすと笑っていた。

 

「で、会議もようやっと終わったことだし・・・どうだ今夜。」

 

そう言って秋山が、手でくいっと合図をする。

久しぶりに一杯やろうと言いたいのだろう。

 

「お付き合いしましょう。去年作った、いい梅酒も持ってきてますから、期待しといてくださいな!」

 

「流石、比良君はわかってるねぇ!いや~楽しみだ!」

 

サムズアップしてニヤリと笑う比良と心底嬉しそうに笑う秋山。

秋山は中々の酒豪で、比良の梅酒のファンでもある。

そのため、比良と秋山が会う時には秘蔵の梅酒を持ってきて飲み明かすのが恒例なのだ。

 

「ま、飲みながら明日からの休暇の予定でも組んでやろうや。なあ?」

 

「・・・お耳の早いことで。」

 

秋山が言っているのは、カフェテラスで約束した金剛たちとのことだろう。

金剛、比叡、榛名は現在、秋山の下で秘書艦の練習をしている。

比良たちと別れたあと、金剛がさっそく連絡したのだろう。

こういう融通を聞かせてくれるところは、秋山のいいところだ。

 

「ほれ、霧島君。迎えがきているぞ。」

 

「え?・・・あっ。」

 

秋山が指差す先、会議室の入り口には金剛たちの姿があった。

 

「霧島~!早くディナーにいくデスよー!」

 

金剛が元気よく霧島を呼んでいる。

霧島は一瞬、行っていいものかと比良の顔をみた。

 

「こんな早い時間に会議が終わったんだ、姉妹と一緒に夕食でもいってきな。」

 

「・・・はい!では、行って参りますね!」

 

比良の許可も降りたところで、霧島は金剛たちの所へ小走りで向かっていった。

その姿を見届けて、比良たちも飲みに向かうことにした。

 

「さて、つもる話もあるし、行くか。」

 

「お手柔らかに頼みます・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

金剛たちと一緒に会議室を後にする際、霧島は振り返って比良を見た。

 

(私は知ってますよ。金剛お姉さまが入れた紅茶の銘柄を当てたのが、まぐれじゃないということ。)

 

霧島は知っていた。

金剛のために隠れて紅茶についての勉強をしていたことを。

 

(比叡お姉さまの精一杯のじゃれ合いに付き合ってくれていること。)

 

比叡が甘え下手でつい突っかかってしまうのに気づいていることを。

 

(榛名に以前好物を聞かれたのを忘れたフリをしていること。)

 

榛名にジンジャークッキーが好きだと話していたことを。

 

(本当に、見ていないようで見てくれているんですよね。提督は。)

 

自分が久しぶりに姉妹と会えるからそのための時間を作ろうとしてくれていたことを。

 

(そんな貴方なら、私は信じられます。)

 

「霧島?置いていかれちゃうよ?」

 

「今行くわ。榛名。」

 

榛名に呼ばれて小走りで金剛たちを追いかける。

 

(私『たち』からの好意に気づいていることも、ね。)

 

「霧島~、何かイイコトでもあったデスか~?」

 

「ふふ・・・そうかも知れませんね。」

 

「もぉ~!霧島が可愛いネー!!」

 

金剛に思いきり抱きつかれる。

 

「霧島ずるい!金剛お姉さま!比叡は羨ましいです!」

 

比叡が羨ましがって金剛に抱きつく。

 

「榛名も羨ましいです!」

 

榛名が反対方向から霧島に抱きつく。

そうやって姉妹ではしゃいでいると、不意に金剛から耳打ちされ、霧島は目を見開いた。

金剛を見ると、不敵な笑顔をしていた。

 

(やっぱり、金剛お姉さまにはお見通しってわけね。)

 

一番の強敵はやはり金剛なのだと、霧島は改めて思った。

なぜならーーー。

 

 

 

 

 

『テートクのハートをつかむのは、ワタシデース!比叡にも榛名にも霧島にも、負けないからネ!』

 

 

 

 

 

長女たる金剛には、全てお見通しなのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第23話です。

いかがでしたでしょうか。

体調崩してたのと、艦これ夏イベもあって、かなり更新遅れましたm(__)m

今回は比良と、金剛姉妹のお話です。
一瞬だけ出てきて以降、出番がなくてごめんよ霧島さん・・・。
霧島さんは不在がちな安住の代わりに、比良の事務仕事をサポートしてます。
作戦立案にも参加してますので、今後の活躍にご期待ください。

それはそうと、皆様、夏イベの調子はいかがでしょうか。
自分はまだ始めて9ヶ月弱なので、E3からは丙でやっております(-_-;)
それでもE4のラスダンが突破できないです・・・。
妖怪「2足りない」とか「13足りない」に悩まされています。
いい編成はないものでしょうか・・・。
皆さんの夏イベ突破をお祈りしています。
終了日まで諦めずにがんばりましょー!

それでは、次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話「彼方より来る」

比良が大本営への出張から戻って数週間が経った。
季節はすっかり夏になり、蒸し暑い日が続いていた。


ーーーーー鎮守府・14:00(ヒトヨンマルマル) 執務室ーーーーー

 

 

 

静かな執務室に、キーボードを叩くカタカタという音が響いている。

パソコンの画面に写し出された書類には、次々と文字が打ち込まれていく。

暫くしてキーボードを打つ手が止まった。

 

「ふぃー・・・こいつはこれで終わりっとな。」

 

ため息を吐き出し、のけ反るようにして椅子の背もたれに男が体を預ける。

目が疲れたのか両目を瞑って片手で目頭を押さえている。

 

「お疲れさまです、提督。少し休憩にしましょう。お茶、入れますね。」

 

「ん、おお。すまん霧島、頼むわ。」

 

男の名は比良。この鎮守府の提督である。

そして比良を労ってお茶を入れているのが、彼の秘書官である霧島だ。

先日の大本営への出張以降、霧島との距離が物理的に近くなっているのは、気のせいではないだろう。

 

(たらしは安住の専売特許だってのになぁ・・・俺は何をやってるんだか。)

 

頭をボリボリとかいて自己嫌悪に陥っていると、机に湯呑みが置かれる。

顔をあげると、いつのまにかニコニコした霧島が戻ってきていた。

 

「お茶が入りましたよ。」

 

「おう、ありがとう。いただくとするか。」

 

湯呑みを手に取り、口に近づけたところで止まる。

 

「おお・・・茶柱が・・・。」

 

「ふふっ。良いことがあるかもしれませんね。」

 

「新しく配属になる艦娘が、美人さんだったりしてな。がはは!」

 

人によっては、意図的に茶柱を立てることができるらしいが、果たして霧島はどうなのか。

気になった比良だが、聞くのはやめておいた。

 

「提督は夏だというのに熱いお茶がお好きなんですね。」

 

湯飲みに口をつけ、緑茶の味を堪能しているとふいにそんなことを聞かれた。

 

「ん?まあな。冷えた麦茶もいいんだが、やはり茶は熱い物の方が気合いが入る気がして好きなんだ。」

 

「なんですか、それ・・・うふふ。」

 

二人で他愛ない会話をしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。

誰なのか確認するため、霧島が口を開こうとするのと同時に扉が勢いよく開いた。

 

「てーとくー!お手紙だっぴょーーん!!」

 

扉の向こうから現れたのは、睦月型駆逐艦の4番艦 卯月だった。

 

「卯月ちゃん!ちゃんと許可を貰ってから入室しなさいって言ってるでしょう!!」

 

「ぷっぷくぷぅ~☆ちゃんとノックはしたぴょーん♪」

 

霧島から注意されるが卯月は気にした様子もなく、てとてとと可愛らしく走って比良の膝の上にダイブした。

飛び付かれた比良は椅子から転げ落ちそうになりつつも、卯月をしっかりと受け止める。

 

「うおぅっととと!こらこら卯月、危ないじゃあないか。」

 

「すんすん。提督の匂いは安心するぴょん~♪」

 

飛び付かれるのにも慣れてしまった比良も注意するが、やはり卯月は気にしていないらしい。

比良の胸板に抱きつき、顔を擦り付けて匂いまで嗅いでいる。

その頭にお盆がぽん、と軽く置かれた。

 

「ぴょん!?・・・霧島さん何するぴょん!」

 

「まったく・・・いつも元気一杯なのが卯月ちゃんの良い所だから、私はこれで許しますけど・・・少佐がいたらこれじゃ済まないわよ?」

 

それを聞いた卯月の表情が固まる。

以前、クーラーを壊して安住に怒られた時を思い出したのか、顔が青ざめていく。

 

「うゅ・・・しれーかんは起こると怖いぴょん・・・。顔は笑ってても目が笑ってなかったぴょん・・・・・・。」

 

しゅんとして俯いてしまった卯月の頭を、大きな手が優しく撫でる。

顔を上げると苦笑した比良の顔が目に入った。

 

「あいつの顔が笑ってる内は対して怒っちゃいねえさ。ちょいと不器用なだけだ。」

 

「・・・・・・本当?」

 

「本当だとも。ちゃんと謝ったら許して貰えただろう?」

 

「・・・うん。次からは気を付けなさいって、頭撫でてくれたぴょん!」

 

涙目だった卯月の表情にいつもの明るさが戻ってくる。

 

「なんだか今日の提督は一段とステキだっぴょん~♪すりすり~♪」

 

「あっはっは!こら卯月、くすぐったいぞ!」

 

「ぷっぷくぷぅ~♪」

 

元気を取り戻した卯月とじゃれ合っていると、霧島が何かを思い出したように卯月に問いかける。

 

「そういえば卯月ちゃん。提督に何か用があったのではないかしら?」

 

「あっ!そうだったぴょん!!うびゃ!?」

 

「おごぅ!?」

 

勢いよく頭をあげた為、卯月の頭は比良の顎を下から突き上げる形で衝突した。

二人はぶつけた箇所を押さえながらぷるぷると震えている。

 

「こ、これを急いで提督に持っていくように、士官さんから預かってたぴょん・・・。」

 

「霧島・・・すまんが代わりに読んでくれ・・・うぐごご・・・。」

 

卯月から手紙を受け取り、内容を見た霧島の表情が険しくなる。

 

「提督・・・これは指令書のようです。」

 

「指令書?」

 

やっと顎に受けたダメージから回復した比良が、霧島から差し出された指令書を受けとる。

指令書に目を落としたその表情もまた、険しいものとなった。

 

「どんな指令だったぴょん?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

声が聞こえていないのか、二人は黙ったままだった。

首を傾げる卯月の頭に比良の大きな手が置かれ、撫でられる。

 

「うゅ・・・?」

 

暫くそのまま撫でられ続けていると、比良が静かに口を開いた。

 

「緊急作戦会議を行う。霧島、至急艦娘全員を会議室に集めてくれ。卯月も手伝ってくれるか?」

 

「了解しました。」

 

「了解だぴょん!」

 

霧島はビシッと、卯月はびしっと。

それぞれ敬礼して作戦会議の準備に取りかかった。

執務室を慌ただしく出ていく後ろ姿を見送りながら、もう一度、指令書を見る。

そこには、こう書かれていた。

 

 

 

『我が国へ向かっていた同盟国船団が消息を断った。艦隊を派遣し、此の捜索及び救助を敢行されたし。』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第24話です。

いかがでしたでしょうか。

艦これ夏イベに集中していたので、執筆止まっていました。
この作品を読んで頂いている方々には申し訳ありませんでした。m(__)m
夏イベも終わったので、ちょこちょこ執筆を再開していきます。

日常の話をもう少し書こうかと思ったんですが、ちょっと話を進めないと書きづらかったので時間を進めていきます。
うーちゃん、可愛いですよね!
でも、うちの艦隊にはまだ来てくれないです・・・。
早く来てほしいです・・・。

同盟国船団ですが・・・海外艦娘が出てくる予感・・・?
出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない。
この先の展開を楽しみにしていてくださいませ。

え?夏イベの戦果はどうだったかって?
初めての大規模作戦でしたが、新規艦娘を4人保護しました!
リシュリューさん、加入早々攻略に参加させてしまって、正直すまんかった・・・。
でもそのお陰でE7までいけました・・・本当にありがとう。
ただ・・・夏イベ最終日前日に、スマホが粉砕する事故にみまわれ、E7丙のラスダンで断念しました。(;_;)
アークロイヤルさんをお迎えしたかった・・・。
皆様の戦果はいかがでしたでしょうか?
よい結果であったなら、自分のことのように嬉しいです。

さて、これからもちょこちょこ書いていきますので、今後ともよろしくお願いします。
では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話「海の彼方から・1」

卯月によってもたらされた手紙。
それは緊急事態を知らせる物だった。


ーーーーー沖ノ島海域・16:43(ヒトロクヨンサン)ーーーーー

 

 

 

指令書が届いてから2日。

船団の捜索は難航していた。

 

「第12次捜索隊、発艦始め!」

 

「着艦した機から整備と補給!妖精さんも交代で休んで!!」

 

蒼龍と飛龍が交代で捜索隊を発着艦させている。

二人とその妖精には疲労の色が見え、かなりの無理をしているようだ。

捜索に派遣された艦隊の旗艦を勤める霧島が、別れて捜索している足柄に通信を送る。

 

「足柄、そっちはどう?」

 

『ダメね・・・曙と潮に散開して貰って探してるけど、痕跡すら発見できてないわ。霧島の方はどう?』

 

「こちらも成果なしよ。船団が消息を断ってからもう3日・・・。最後に救難信号が確認されたのがこの海域だけれど・・・。」

 

腕を組んで霧島が考え込む。

救難信号が発信されていたということは、敵の襲撃に遭っていたはずだ。

ならば、戦闘の痕跡すら発見できないというのもおかしい。

 

(何かを見落としている・・・?一体何を?)

 

『あまり長居も出来ないわよ・・・敵に発見されるリスクもあるし、もうじき日が暮れるわ。』

 

足柄がそろそろ撤収も考えなければならないと話しかけるが、霧島からの返事はない。

考え事でもしているのだろうかと思いつつ、構わず話し続ける。

 

『ま、発見されたらされたで、近海の小島群におびき寄せて返り討ちにしてやるだけだけど。』

 

そう続けた足柄の言葉に反応して、はっとしたように霧島が顔をあげた。

 

「足柄!今なんて言った!?」

 

『な、なによいきなり。』

 

「いいから!今なんて言ったの!?」

 

霧島の語気にたじろぎつつも、足柄は自分の言ったことを思い返す。

 

『ええと・・・もうじき日が暮れる・・・?』

 

「その後!」

 

『小島群におびき寄せて返り討ち?』

 

「それよ!!」

 

何かに思い至ったらしい霧島。

足柄は状況が飲み込めず、不審そうに問いかける。

 

『一体どういうこと?今ので何か分かったの?』

 

その問いに不適な笑みをした霧島が、眼鏡をくいっと上げた。

 

「ええ。船団は周辺の小島群に逃げ込んだのかも知れないわ。」

 

『なるほどね・・・ならこの近辺で戦闘の痕跡が発見できないのも頷けるわね。』

 

ようやく霧島の考えが分かってきた足柄も同意するが、疑問が残る。

 

『船団が小島群に逃げ込んでいるとして、どこに向かったのかが問題ね。』

 

「このあたりの海流とここ数日の風の状況からすると、恐らく・・・。」

 

海流から推測される船団の行方を霧島が弾き出そうとした時だった。

 

「霧島さん!捜索隊から入電です!」

 

慌てた様子で蒼龍が霧島の元へ近づいてくる。

 

「どうしたの、蒼龍さん?まさか、船団を見つけたの!?」

 

「船団はまだ発見出来てませんけど・・・ってそれどころじゃないんです!」

 

『蒼龍ちゃん・・・もしかして、悪い知らせ?』

 

嫌な予感を感じたのだろう、足柄の声のトーンが低くなる。

 

「は、はい!うちの子たちが、こちらに向かう深海棲艦の部隊を発見したんです!」

 

『タイミングが悪いわね・・・まあ、派手に艦載機を飛ばしまくってたから当然かしら。』

 

通信機から足柄がため息をつくのが聞こえる。

蒼龍と飛龍は軽くパニックになっているのか、慌ただしく艦載機の発艦準備を始めている。

 

「捜索隊は離脱しようとしたけど捕捉されて、艦載機の追撃を受けてるみたい!」

 

「蒼龍、私の直掩機を先行して敵艦載機の迎撃に向かわせるね!霧島さん!!」

 

仲間の様子を眺めていた霧島が、軽く深呼吸をした。

そして電探眼鏡をくいっと上げると表情を引き締めて号令する。

 

「飛龍さんと蒼龍さんは制空隊を直ちに発艦、攻撃隊の準備をしつつ転進。時間を稼ぐわよ!」

 

「「了解!」」

 

「足柄、分かってるわね?」

 

『もちろんよ、二人と合流してすぐに向かうわ!』

 

指示を出し終え、自らも戦闘準備を整えながら敵艦隊が迫ってくるであろう方角を見つめた。

 

(空母を擁する敵艦隊の存在・・・これで、この付近に船団がいることが確定したわね。)

 

艤装の主砲、第一砲塔と第四砲塔に三式弾を装填する。

 

(こちらに向かってきているということは、深海棲艦も船団を探していたということ・・・。)

 

副砲や対空機銃の確認も怠らない。

 

(指令書に記載されていた、船団の護衛についている艦娘の人数に合わせるために、艦隊を分けたのは正解だったわね。)

 

「先行した直掩隊、敵艦載機との交戦を開始しました!」

 

(敵艦隊を誘引できたなら、隠れている船団も戦闘に気づいて離脱を図るはず。)

 

「蒼龍制空隊、発艦始め!」

 

(足柄たちと合流でき次第、敵艦隊を殲滅。あとは船団を見つけて護衛しつつ帰還する。)

 

様々な思考を巡らせていた霧島が、もう一度深呼吸する。

今度は深く深く、ゆっくりと大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。

 

(大丈夫、きっとうまくいく。)

 

「全艦、機関増速!合流を急ぐわよ!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第25話です。

いかがでしたでしょうか。

同盟国船団を発見する前に、敵に発見されてしまいましたね。
足柄たちとの合流は間に合うのか、敵の襲撃を乗りきって無事に船団を発見・救助できるのか。
初の見せ場、頑張れ霧島さん!

ちなみに、うーちゃんはお留守番です。
うーちゃんの秋刀魚バージョンのグラ、可愛いですが、うちにはまだいないのです・・・。
秋刀魚漁、皆様はもう終わりましたでしょうか?
こちらはあと10尾です。がんばります。
しかし、報酬をどれにしようか悩む・・・ぐぬぬ。



前回からの更新が遅くなってすみません。
今回は短めとなりました。
というのも、先日ちょっと病気した後の検査の結果が悪く、病院通ったりしていたもので・・・。
あと、色々と忙しかったのもあって、中々書ける時間がとれなかったです・・・。
あまり期間を空けるといけないので(手遅れな気もしますが)、とりあえずここまでで投稿になりました。m(__)m
次回はもうちょっと量書けるように頑張りたいです。

それでは、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話「海の彼方から・2」

敵艦隊に発見された霧島たち。
捜索のため分散していた足柄たちは、迎撃のため合流を急いでいた。


ーーーーー沖ノ島海域・17:16(ヒトナナヒトロク)ーーーーー

 

 

 

波を掻き分けて進んでいると、頬を撫でる潮風が髪を乱していく。

先頭を進む足柄が髪を軽く押さえながら、顔を振り向かせて後続に問いかける。

 

「二人ともちゃんと付いてきてる?」

 

振り向いた先に、二人の仲間の姿が見えた。

 

「当たり前よ。」

 

強気の口調で返したのは、綾波型駆逐艦の8番艦 曙。

その性格を表すようなツリ目と、膝まで届く長い髪を花飾りのヘアゴムで右耳の後ろ辺りで束ねているのが特徴だ。

 

「な、なんとか・・・。」

 

自信の無さげな口調で答えたのは、同じく綾波型駆逐艦の10番艦 潮。

こちらは弱気な性格を表してか、縮こまるように背中を丸めていて、くりっとした目も不安そうな色をしている。

 

「大丈夫そうね、もう少し速度を上げるわよ!しっかり付いてきなさい!」

 

二人の様子を確認した足柄が速度を上げた。

それに曙と潮が追従する。

曙は難なく速度を合わせて足柄の後方にぴったりと付いていく。

だが潮の方は手間取っているようで、ふらふらと酔っぱらい運転のようになっている。

 

「ひゃあああ!?は、はやいぃ!?」

 

「・・・・・・・・・はぁ。」

 

放っておくといずれ波に躓いて転びそうな様子を見て、曙がため息をついた。

 

「・・・潮。」

 

「ふぇ?」

 

名前を呼ばれて潮が顔を上げると、前を行く曙がこちらを向いていた。

曙は器用にも進行方向に背を向けて、後ろ向きに航行している。

 

「ど、どうしたの曙ちゃひゃわっ!?」

 

その姿に一瞬見とれた為に、波に足を取られて躓いた。

慌てて腕をバタバタと振り回してバランスを取ろうとするも、体は前のめりに倒れていく。

 

(こ、転んじゃう!)

 

迫る海面を見て、反射的にぎゅっと目を瞑る。

しかし、潮が海面に顔を打ち付けることはなかった。

 

「何やってるのよ、まったく。」

 

「あ、あれ?」

 

目を開けると、潮はいつの間にか曙に抱き止められていた。

 

「曙ちゃん、ありがひゃぁ!?」

 

お礼を言おうとした所で、おでこに軽い衝撃を受ける。

曙にデコピンされたのだ。

涙目になって抗議の視線を向けるが、ふん、と鼻を鳴らされて一蹴されてしまった。

 

「言いたいことは有るけど、潮、まずは深呼吸して少し落ち着きなさい。」

 

「う、うん。・・・・・・すぅー・・・・・・はぁー・・・・・・。」

 

潮は素直に、言われた通り深呼吸をする。

深く息を吸って、ゆっくり吐き出す。

何度かそうしていると次第に落ち着いてきたようだ。

 

「・・・・・・落ち着いた?」

 

「うん・・・ありひゃああ!?」

 

またしても、お礼を言いかけたところでデコピンされた。

 

「もぅ~!何するの!」

 

両手をぶんぶんと振り回して抗議の声をあげる潮。

 

「言い返す元気があるなら、もう大丈夫よね。」

 

曙はぶっきらぼうにそう言うと、潮に背を向けて前を進んでいく。

 

(曙ちゃん、怒ってるのかな・・・私が鈍くさいから・・・。)

 

「・・・・・・潮。」

 

しょんぼりして俯いていると再び名前を呼ばれた。

今度はデコピンを警戒しながら、潮が恐る恐る顔を上げる。

しかし、曙は潮に背を向けたままで、デコピンをする気配もなかった。

 

「潮はやれば出来る子なんだから、もっと自信を持ちなさい。」

 

「ふぇっ!?」

 

怒っているのだと思っていた曙からそんな言葉を投げ掛けられ、潮は少し戸惑った。

それに気づいているのか、いないのか、曙は言葉を続ける。

 

「落ち着いて、訓練を思い出してやればいいのよ。七駆の中で一番成績いいじゃない。」

 

「・・・・・・。」

 

曙の紡ぐ言葉を、潮は黙って聞いていた。

戸惑って声がうまく出なかったというのもあるが、曙からこんな事を言われるとは思ってもみなかったからだ。

 

「それに、今はあたし達がついてるんだから。不安なら頼りなさい。」

 

「ふーん?曙にしては素直じゃない。」

 

そこまで言ったところで、今まで黙って聞いていた足柄が二人の会話に割って入ってきた。

 

「な、何よ。文句あるわけ?」

 

思わぬ乱入者の登場に一瞬驚く。

そのため、つい強気の口調で返してしまった。

 

「全然。むしろ良いことだと思うわよ?でも、一体誰のお陰なのかしらね?」

 

だが、足柄は気にした様子もなく意地悪な笑みを浮かべて曙を見ている。

 

「べっ、別にクソ提督は関係ないでしょ!」

 

「誰も提督とは言っていないと思うんだけど~?」

 

曙がムキになって噛みつく。

しかし、無意識の失言を指摘されて頬がみるみる内に紅くなっていった。

 

「ととととにかく!潮はもっと自信をもつこと!いいわね!」

 

恥ずかしくなった曙はそっぽを向いて早口に捲し立てる。

 

「うん・・・曙ちゃん、頼りにしてるね。」

 

曙の不器用なりの素直な励ましに、潮は笑顔で返した。

 

「あら潮ちゃん、私には頼ってくれないのかしら?」

 

「あ、足柄さんも頼りにしてます!!」

 

よよよ、と涙を拭うそぶりをして見せる足柄。

それを見た潮は、両手を慌ただしく動かして焦った様子で答えるのだった。

 

「ふふっありがと♪私も二人のこと頼りにしてるわ。」

 

「はい!」

 

「ふんっ///」

 

足柄のウインクに潮は元気に、曙は未だ残る恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いたまま答えた。

曙はそのまま何気なく、遠くに浮かぶ入道雲を眺めていた。

 

「ん・・・?あれって・・・。」

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域 小島群・17:22(ヒトナナフタフタ)ーーーーー

 

 

 

この海域には小島がいくつも密集している箇所がある。

その小島の1つにある洞窟に、輸送船と護衛の艦娘が隠れていた。

 

「怪我の具合はどう?」

 

「これくらい・・・痛っ!?」

 

「無理しないで・・・。」

 

二人の艦娘が会話していると、輸送船の上から声を掛けられる。

 

「救助部隊はどうなっているのだ。偵察機からは何か連絡はあったのか?」

 

声の主である士官は明らかに苛ついており、言葉にも怒気を孕んでいた。

 

「いえ・・・数十分前に、遠方に味方の物と思われる機影を視認し、確認の為に接近するという旨の通信を最後に連絡が途絶えました・・・。恐らくは通信圏内から外に出たのかと。」

 

艦娘の一人が申し訳なさそうに告げると、士官は積み荷のコンテナの1つを蹴りつけた。

 

「偵察も満足にできんとは!まったく使えん連中だ!!お陰で3日もここに足止めだ!!」

 

「大佐、どうか静かになさってください。もし潜水艦が近くに居れば気付かれてしまいます。」

 

艦娘が士官を宥めるが、頭に血の上っている相手には逆効果だったのか、顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。

 

「ええい五月蝿い!!味方機だったのかも知れんのだろう?いや、味方機に違いない!直ぐにでもここを出て救助部隊に発見して貰いやすくするべきだ!違うか!?」

 

「ですが艦隊の損耗も激しく、次に襲撃された時に守りきれる保証が「黙れっ!!」

 

洞窟内に響く程の声で怒鳴られ、艦娘は一瞬体を跳ねさせて言葉を詰まらせてしまった。

それを隙とみたのか、士官はさらに大声で怒鳴り散らす。

 

「電探も通信機も壊れて!精々、近距離無線が限界と聞いた時にも失望したが!」

 

「何故海を横断する程度のことができんのだ!」

 

「沈んでいった艦娘共も!もう少しは盾として使えるかと思ったが、役立たず共め!!」

 

「ーーーッ!!それは!!」

 

沈んでいった仲間たちを愚弄する言葉に、艦娘が反論しようとする。

しかし、横から出された手によって制止されてしまった。

 

「二人とも落ち着いて。」

 

怒鳴り合いに発展しかねなかった状況に割って入ったのは、先程怪我の具合を看て貰っていた艦娘だ。

まだ何かを言いたそうにしている士官も手で制止し、傷ついた艦娘は話し始めた。

 

「敵に発見されるリスクがあるし、何時までもここには居られない。」

 

「だから、味方の救援が来ている可能性があるならそれに賭ける価値はある。」

 

「このチャンスを逃せばどうなるかわからない・・・ということを大佐は仰っているのよ。」

 

最後に「そうよね?」と言って輸送船の上から見下ろす士官に笑顔を向ける。

士官は一瞬言葉に詰まったようだった。

 

「私も大佐と同意見だし、外の様子を見てくるから出発の準備進めておいてね。」

 

沈黙を肯定と受け取り、傷ついた艦娘は洞窟の外へ出ていこうとする。

すれ違い様、艦娘にだけ聞こえるように「私がついてるから大丈夫よ。」と言い残していった。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

傷ついた艦娘が出ていった後に残されたのは、静寂。

そして、気まずそうに軍帽をかぶり直す士官と、悔しそうに下唇を噛み締める艦娘だった。

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・大佐。」

 

しばしの沈黙を破ったのは艦娘だった。

 

「・・・今からでも考え直して頂けませんか。彼女は大破しているんですよ。」

 

「もう決まった事だろう。お前も早く準備を始めろ。」

 

「でも!このままじゃ彼女も轟沈していしまいます!」

 

「くどい!!」

 

士官の怒声で再び沈黙が訪れる。

艦娘を忌々しそうに一瞥すると、士官は舌打ちをした。

 

「・・・お前じゃなく、アイツのように聞き分けのいい姉の方が残っていればよかったのにな!!」

 

最後にそう吐き捨てて、士官は輸送船の中へと入っていく。

艦娘はそれを聞いて表情を暗くして俯いた。

 

「レックスが沈んだのは、貴方のせいじゃない・・・。」

 

両目から涙を溢しながらぽつりと言ったその言葉は、輸送船の機関が始動する音にかき消され、届くことはなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第26話です。

いかがでしたでしょうか。

早く合流しないといけないのに、のほほんと会話してていいのか・・・。
イインダヨ、グリーンダヨー!

はい、ということで足柄、曙、潮サイドのお話でした。
曙はツンツンしているように見えて、優しい娘なんですよね。
捻くねてる所はあるけど、ただ不器用なだけだと思うんです。
ぼのたん可愛い、好きです。

同盟国船団ということで、予想はついているかと思いますが。
艦娘は海外艦の娘たちです。
次回くらいに正体をちゃんと明かせたらと思っています。
一応、本編中にヒントだけ入れておきました。
鋭い方はもう分かってるかもですね。

さて、三人は霧島たちといつ合流できるのでしょうか。
そして曙が見つけた物とは・・・。
船団の判断は吉と出るか凶と出るか・・・。



長くなりましたが、今後もゆったりと更新していくので、よろしくお願いします。
それでは、次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話「海の彼方から・3」

合流の道中にある足柄たち。
動き出した同盟国船団。
敵機迎撃のため先行した飛龍制空隊と蒼龍制空隊は激しい空戦の中にあった。


ーーーーー沖ノ島海域・17:39(ヒトナナサンキュウ)ーーーーー

 

 

 

紅く染まった夕焼けの空で、白と黒の影が舞い躍り交錯する。

 

「堕ちろ!」

 

胴体に青い一本帯の描かれた零戦二一型の両翼から20mm機関砲が火を吹いた。

撃ち出された弾丸が黒い異形の機体に次々と命中し、目標を爆散させる。

 

「よし!次!!蒼龍の所へはいかせるかよ!!」

 

敵機の撃墜を確認すると、すぐに次の敵機を見つけ攻撃にかかった。

そこから少し離れた場所では、同じく青い一本帯の零戦が敵機に追い回されていた。

 

「くっそコイツ、いつまでもしつこい!」

 

機体を左右へ小刻みに振ることで、真後ろからの銃撃をなんとか回避する。

 

「上昇しろ蒼龍の!今助けに行く!!」

 

「飛龍の五番機!?了解!!」

 

味方からの通信を聞いて、零戦が急上昇を始める。

敵機もそれに続き、上昇している間も銃撃を止める気配がない。

 

「唸れ発動機!もうちょっとだ!」

 

新人の搭乗員妖精に対して、耳にタコができるほどいい聞かせられる言葉が存在する。

それは『上に逃げる敵を追うな。追われた時も上には逃げるな。』である。

深海棲艦機には発動機が無く、機動の限界がないように思える。

これとの空戦において、発動機があり機動の限界もあるこちらが急上昇しようものなら、いつか機体が失速してしまう。

そうなると、後方から迫る敵機からは空中に制止しているように見え、いい的になるからだ。

搭乗員妖精なら誰でも知っている『御法度』を指示したのはなぜか。

 

「待たせたな!」

 

いよいよ機体が失速しようかという所で、上空から急降下してきた五番機がすれ違うように通り過ぎる。

射撃に夢中になっていた敵機は新手の奇襲に対応出来ず、なすすべなく撃墜された。

急降下による一撃離脱、そのために蒼龍の零戦に敵機を引き付けさせたのだ。

 

「すまん、助かった!」

 

「いいってことよ!同じ五番機同士、持ちつ持たれつでいこうや!」

 

「しかし20mm・・・威力はあるが片側60発、両翼で合わせて120発は少なすぎるぞ・・・。」

 

「そうだな・・・噂では大本営で100発入り弾巣が開発中だとか。」

 

「提督には是非ともそれを入手してもらわないとな。」

 

蒼龍と飛龍の五番機はそんな事を言い合いながら次の敵機へ向かって行った。

その後も、深海棲艦機との空戦は暫く続いた。

 

【挿絵表示】

 

「よーしよし、制空権は握った。飛龍にいい土産ができたな。・・・こちらも大分堕とされたが・・・・・・。」

 

船団捜索の疲労もあったのだろうか、動きに精彩を欠いた機も多かった。

制空権確保には成功したものの、少なくない犠牲が出る結果となった。

 

(しかし思ったよりも敵機の数が少なかった・・・ヲ級じゃないのか?)

 

飛龍の五番機は疑問を抱くが、戦況を報告すべく通信機に手を伸ばした。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・17:50(ヒトナナゴーマル)ーーーーー

 

 

 

「制空隊五番機より入電。『我、制空権ヲ確保セリ。』!」

 

「やった!これで攻撃隊も安心してだせるね!」

 

飛龍の報告を聞いて、興奮気味の蒼龍がグッと拳を握る。

捜索任務とはいえ、久々の実戦で戦果をあげられたのだから、無理もないだろう。

後は攻撃隊で先制攻撃を加えて、合流した味方と共に残敵を掃討するだけだ。

 

「二人の制空隊はよくやってくれたわ。でも・・・。」

 

眼鏡をくいっとあげた霧島が振り返ると第一砲塔と第四砲塔を空に向けて発砲した。

装填されていた三式弾が雲を突き抜けて飛翔していき、やがて炸裂する。

 

「・・・撃ち漏らした敵機の報告が無かったから、70点かしらね。」

 

飛び散った子弾が何かに命中したのだろう、爆発音の後に雲の上から落下してくる複数の物体が見えた。

 

「て、敵の艦載機・・・!?」

 

「まさかすり抜けてきたのがいたなんて・・・!」

 

飛龍と蒼龍の顔がみるみる青ざめていく。

もしも霧島が気づいて迎撃していなかったら、今ごろどうなっていたかは想像に難くない。

 

「「ご、ごめんなさいぃ!」」

 

顔面蒼白の状態で謝罪する二航戦の二人。

 

「気にしないで・・・とは言えないけど、次は対空見張りも厳として、頼むわね。」

 

すり抜けた敵機を見落とす程、激しい空戦だったのだろうと想像して霧島はあまり強く咎めなかった。

 

「あわわわ・・・ど、どうしよう蒼龍!?」

 

「わ、私に聞かれても・・・!?」

 

しかし、飛龍と蒼龍は青ざめた顔のまま何やら揉めているようだ。

 

(どうしたのかしら、キツい言い方はしなかった筈だけど・・・ああ。)

 

顎に手をやって首を傾げて考える。

だが考えるまでもなく、聞こえてくる会話から、ものの数秒で二人の心配事に思い至る。

 

(空母の教導艦は鳳翔さんだったわね。指導が厳しいらしいけど、見かけによらないもの、か・・・。)

 

『霧島、ちょっといい?』

 

そんなことを考えていると足柄からの通信が入る。

時間的に、もう少しで合流できそうな頃合いだ。

 

「何?足柄、そろそろ合流出来そう?」

 

『ええっと・・・。』

 

足柄にしては歯切れが悪い返答に疑問を抱く。

 

「どうしたの?」

 

『いや、それがね・・・ちょっと問題が・・・。』

 

「問題?」

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・17:52(ヒトナナゴーフタ)ーーーーー

 

 

 

小島群から出発した船団は、輸送船を最後尾とした単縦陣で航行していた。

輸送船を先導する艦娘が振り返り、笑顔を見せて後ろにいる仲間に話しかける。

 

「周囲に敵影なし。ここまでは順調ね。」

 

長い金髪に健康的な白い肌、澄んだ青い瞳に整った顔立ち。

中でも一際目を引くのは、その豊満なバストだ。

女性から見ても魅力的な彼女の笑顔を見れば、どんな男性でも一瞬で彼女の虜になってしまうだろう。

大きな艤装を装備した彼女の名は、Iowa(アイオワ)

16inch三連装砲をはじめとする強力な火力を持つ、米海軍所属の艦娘だ。

 

「ええ、このまま敵に見つからずに味方と出会えればいいけれど・・・。」

 

不安そうな表情で返事をしたのは、Saratoga(サラトガ)

大人しそうな顔と明るい茶色の髪、煙突を模した帽子をかぶってその先端から髪を一房出しているのが特徴だ。

そしてアイオワに負けず劣らずのバストを持つこちらも、米海軍所属の艦娘である。

 

「サラは心配性ね~。きっと味方が近くに来てくれているから大丈夫よ。」

 

「・・・・・・貴女はいつも楽観的すぎると思います。」

 

いつでも楽観主義なアイオワに呆れて、サラトガは右手を頬に当ててため息をついた。

敵の攻撃を掻い潜って逃げおおせてはいるものの、いつまた発見され襲撃されるかわからない。

それに加えてこれまでの度重なる襲撃で船団は輸送船1隻を残して壊滅。

祖国から旅立った時には12隻居た護衛の艦娘も、残るはサラトガとアイオワのみ。

しかも、アイオワは大破していて残る武装は主砲1基と対空火器だけ。

サラトガの艦載機も損耗が激しく、とても襲撃を凌ぐだけの防衛力はないのだ。

 

(こんな時に・・・・・・レックス・・・貴女が居てくれたなら・・・。)

 

今はもう居ない姉の事を思って、サラトガの目に涙が浮かぶ。

だが、そんな感傷に浸る間も与えてくれないのが現実だ。

 

「え、遠方より飛来する機影を発見!!」

 

その声を聞いて、はっと我に返るサラトガ。

叫んだのは輸送船で対空見張りをしていた船員の声だった。

 

「方角と機数は!?」

 

すかさず旗艦であるアイオワが足りない情報を求める。

 

「2時方向、距離はおよそ27キロ!機数は・・・お、多すぎて正確な数は不明ですが、少なくとも80機以上!!」

 

「くっ・・・近いうえに多いわね、間違いなく敵機・・・・・・対空戦闘用意!サラ!迎撃機を!!」

 

「ええ!航空隊、スクランブル!!」

 

一瞬、苦い顔をしてアイオワが指示をだす。

サラトガも言われるより先に艦載機の発艦準備を始めていた。

 

「艦隊は迎撃機の発艦終了後、直ちに取り舵!現状出せる最大速度で離脱!!」

 

「サラの子たち、お願いします!」

 

サラトガの艤装、飛行甲板の下のマシンガンを模したレシーバー部にマガジンがセットされ、敵機の迫る方角へ飛行甲板が向けられる。

そして引き金を引くと、ガガガガガッという激しい発砲音と共に凄まじい速さで艦載機が発艦していく。

 

(艦載機の皆・・・1機でも多く無事に帰ってね。)

 

発艦した機は後続の合流を待たずに敵機を迎え撃つべく飛翔していく。

戦いの空へ赴くその機数はわずか19機。

 

(レックス・・・どうか皆を守って・・・。)

 

不安な気持ちを顔に出さないように、サラトガは紅く染まる空へと飛んで行く戦友たちの姿を見送った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第27話です。

いかがでしたでしょうか。

今回は無い絵心をまた絞り出して挿し絵を描いてみました。
下手くそな絵ですが、今後も描かないと伝えづらい時とか、必要に応じて頑張って描くかもです。
もっと文章力ほちい。

制空隊の失態に焦るにっこにこ二航戦、可愛いと思うのは自分だけでしょうか。
顔を青くするほど、帰還した後の事を考えて絶望したんでしょう。
二航戦コンビも鳳翔お艦の艦載機たちには敵わないということですね。
なんてったって熟練ですもの!
まあ、敵機をみすみす見逃がした(見落としたともいう)制空隊はきっと大目玉でしょう・・・。

ここで同盟国艦娘の正体が判明しましたね。
こんなまだ海域も録に奪還できていない状態で海を渡るなんて無茶をできるのは、やはり米国だと思うんですよね。
物量もすごいんで艦娘も大勢いると仮定して、連合艦隊を組んでの強硬突破ってことですね。
アイオワが普通に会話してるのは、英語で話しているからと思って頂ければ・・・(^_^;)
サラトガはレキシントン級の二番艦で、飛行甲板にそれぞれ『LEX』と『SARA』と書かれていたそうで。
そしてそれがそのまま愛称だったらしいので、姉の名前(愛称)はレックスということですね。



この作品をちょこちょこ読んで頂けているみたいで嬉しいです。
やっぱり読んで貰っているというだけで励みになります。
もっとコメント書いてくれてもいいのyうわビス子さん・・・すみまs・・・アーーッ!!
コレカラモ読ンデ頂ケルト嬉シイデス。

さて、後書きが長くなってしまいました。
また次回も、お楽しみにお待ちくださいませ。



P.S.
先日、やっとうちの艦隊にもビスマルクさんが着任しました。
うれしみ(^_^)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話「海の彼方から・4」

敵に捕捉された船団は迎撃隊を出しつつ離脱を図るが・・・。


耳をつんざく爆発音。

直後に聞こえてくる幾人もの叫び声。

 

「船尾に被弾!機関部に火災発生!!」

 

「消化いそげー!!」

 

「レイモンドが負傷した!メディックを寄越してくれ!」

 

被弾箇所から上がった火の手は瞬く間に広がり、真っ黒な煙をごうごうと立ち上らせる。

 

「Shit!敵機の数が多すぎるわ!」

 

憎々しげに見上げた先には、夕焼けの空を埋め尽くす敵機の群れ。

せめてもの抵抗と、僅かに残った機銃で弾幕にもならない対空砲火を撃ち続ける。

 

「く・・・狙いが・・・。」

 

頭から流れ出る血が右目に入って視界が赤く染まっていく。

それによる視界の悪化で機銃の狙いがつけられなくなる。

 

「何も見えない!敵機はどこ!」

 

手で擦ってみても、一度血が入り込んだ視界は目を洗い流さなければ治らない。

 

「敵機直上!!逃げてアイオワ!!」

 

「ッ!?」

 

半ば悲鳴になった叫びを聞き、反射的に顔を上げる。

その目に映ったのは、必殺の距離で爆弾を投下しようとする敵機の姿だった。

 

「私の強運も、これまで・・・ね・・・。」

 

瞳を閉じて呟いた声をかき消すように、爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・17:58(ヒトナナゴーハチ)ーーーーー

 

 

 

サラトガから発艦した迎撃隊は、敵の大部隊の間近まで迫っていた。

 

「イーグル1ー1より全機へ。眼前に見える敵部隊と間もなく接触する。」

 

隊列を組んで飛行する艦載機、その先頭を行く機から後続機へと通信が入る。

 

「向こうは元気一杯の大部隊。対するこちらは疲弊し、予備機をかき集めた、たった19機の迎撃隊。」

 

迎撃隊の指揮を執るのは、F6F(ヘルキャット)を駆るパイロット妖精だ。

その声は緊張しており、自分達の置かれている状況をよく理解していることがわかる。

 

「まともに戦っていたら数的不利な此方に勝ち目はない。だが、勝つ必要は無い。」

 

F6Fが3機にF4U(コルセア)が16機しかいない、敗北しかないこの状況で、勝つ必要は無いとはどういうことだろうか。

 

「敵機は多い、だから撃墜に固執するな。撃破でいい。抱えた爆弾を投棄させる程度に痛め付ければ上出来だ。」

 

指揮官機の言葉を聞きながら、F6Fの3番機がくるりと機体を横転(ロール)させ、下方警戒のために背面飛行の状態になる。

言葉を交わさずともやるべきことが分かっているのだろう。

つまり数は少ないが、F6Fのイーグル隊はかなりの手練れだということだ。

 

「簡単に言えば、お相手を選ばず取っ替え引っ替えのパーティーってことだ。ホーク隊の諸君、理解できたな?」

 

「こちらホーク1ー1、了解しました。腕がなります。」

 

「3ー2了解。乱○パーティーってことですね。」

 

「4ー3了解です。3ー2、それを言うなら大○交パーティーだろ。」

 

「2ー2了解だっぜ。今回は楽しくなりそうだっぜぇ。」

 

F6F妖精がオブラートに包んで説明した作戦に、F4U妖精たちは様々な反応を示した。

この絶望的な状況でも軽口を言えるのは、自信の表れだろうか。

 

「フッ・・・相変わらず威勢のいい奴らだ。そろそろ始めるぞ。」

 

一瞬だけ口元に笑みを浮かべて、F6F妖精が機体を左右に少し横転させる。

主翼を振るようなその動作が、戦闘開始の合図。

 

「皆の幸運を祈る。全機、ブレイク!!」

 

号令と共に迎撃隊の全機が編隊を崩して上下左右に散り、決死の航空戦が始まった。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・18:01(ヒトハチマルヒト)ーーーーー

 

 

 

「・・・航空隊は戦闘を開始したようです。」

 

「あの子たちが心配?」

 

報告を終えて遠くに見える空戦を眺めるサラトガの肩に、アイオワが手を置く。

 

「ええ。・・・みんな無事に戻ってほしいけど・・・・・・。」

 

「気持ちは分かるわ。でも、今はそんな心配をしている状況じゃ・・・なさそうよ!!」

 

アイオワがそう強く言い放つと同時に振り返り、主砲を撃つ。

放たれた砲弾は真っ直ぐに飛んでいき、やがて着弾して2つの水柱を作り出した。

水飛沫の中から姿を現したのは・・・。

 

「戦艦・・・ル級!」

 

サラトガが驚きに目を見開く。

いつのまにか、お互いを視認できる距離まで敵艦隊に接近されていたのだ。

 

「戦艦ル級が2隻に重巡リ級も2隻か・・・手厚いお出迎えね。」

 

接近に気づかれたのを察した敵艦隊が、先程のお返しとばかりに砲撃を開始した。

大きな的である輸送船の周囲に着弾の水柱がいくつも立ち上る。

 

「あちらも撃ち出したわね。応戦するわ!」

 

遠距離砲撃の命中率など知れている。

それでも繰り返す内に少しづつ狙いは合ってくるもので、砲撃が命中するのも時間の問題だ。

弾着観測されていないことだけは、不幸中の幸いか。

 

「輸送船は全速で離脱を!急いでください!」

 

『ダメだ!機関の調子が悪くて13ノットしか出せない!とても逃げ切れないぞ!!』

 

「そんな・・・!?」

 

サラトガは輸送船だけでも逃がそうとするも、返ってきた通信がそれが不可能であると告げる。

何か策はないかと思考を巡らせるが、小島群から出たため周囲に遮蔽物に出来そうな物はなかった。

あの時にもっと反対しておけばよかったと、後悔から下唇を噛み締める。

 

「・・・・・・旗艦権限をサラトガに移譲。」

 

「え・・・?」

 

後悔の渦からサラトガを現実へと引き戻したのは、敵艦隊との砲戦を続けているアイオワだった。

 

「私が突撃して囮になる。こんな状態でも、肉薄されれば16inch砲は驚異のはず。」

 

『貴様ッ!?何を勝手なことを!!』

 

通信機から士官の怒鳴り声が聞こえるが、アイオワは構わず続ける。

 

「そうなれば、敵も狙いを変えざるを得ない。大丈夫、逃げる時間くらいは稼いでみせるわ。」

 

「ダメです!ここまで来て貴女まで失うわけには!」

 

「これしか方法がないのよ!私たちの任務は輸送船を無事に日本へ送り届けること!そうでしょ!」

 

自分を犠牲にしてでも任務を全うしようとするアイオワと、これ以上の犠牲を出したくないサラトガ。

2人の意見がぶつかり、戦闘中にも関わらず口論へと発展する。

ヒートアップしていく2人の会話に口を挟める者は、士官を含めその場には居なかった。

 

「サラ!いい加減聞き分けなさい!」

 

「く・・・私に旗艦を移譲したというなら、そんな作戦は認めません!」

 

『そうね。そんな作戦はいらないわ。』

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第28話です。

いかがでしたでしょうか。

あまり長くすると読むのが大変と思ったので、今回も短めで刻むことにします。
はい、言い訳です(*_*)

実はちょっと展開をどうしようか行き詰まって筆がとまっておりました。
でも、ある程度展開が固まったので、次の話はそう更新遅くならないかもです。

筆が進まないときは間話のネタとか考えています。
そちらの方が先に仕上がれば、続きではなく間話が投稿されるかもしれないです。
その時は、また行き詰まったんやなぁと思ってくださいませ。

さて、艦これ最後の秋イベが近づいていますね。
秋冬で前後編に分けてレイテ海戦だそうなので、楽しみです。
提督の皆様、資源の備蓄は十分か・・・?

それでは、また次回もおたのしみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話「海の彼方から・5」

意見の違いから言い争うアイオワとサラトガを止めたのは・・・。


ーーー沖ノ島海域・18:13(ヒトハチヒトサン)ーーー

 

 

 

「そうね。そんな作戦はいらないわ。」

 

『『えっ?』』

 

通信機から女性2人の驚いた声がする。

口論をしている所に知らない声が割り込んだのだから、当然の反応だろう。

 

「こちら日本海軍所属、重巡洋艦 足柄。これより貴艦隊を援護するわ!」

 

「同じく駆逐艦 曙、救援にきたわよ。」

 

「駆逐艦 潮です。あの・・・無事ですか?」

 

『米海軍所属、空母 サラトガです。私の艦載機はすでに全機発艦して敵機迎撃中です。』

 

『戦艦 アイオワよ。こちらは13ノットしかSpeedが出せないの・・・あまり無事とは言えないわね。』

 

軽く自己紹介しながら、米軍の艦娘から状況が伝えられる。

足柄はほんの少しの思案の後、今後の方針を決めた。

 

「貴艦隊はこのままの進路を維持して。敵艦隊は私たちが対処する。」

 

『わかりました。救援に感謝します。』

 

視線を船団から敵艦隊へと移す。

まだこちらの存在に気づいていないのか、船団への砲撃を続けている。

 

「まったく、全周囲の無線で話してあげたっていうのに・・・。」

 

両手を腰に当てて、足柄がため息をつく。

無線の電波に気づいて狙いをこちらに変えてくれればよかったのだが、そう上手くはいかないらしい。

 

「砲撃するのに夢中でこっちに気づいてないとか?」

 

「私たちを無視してでも、船団を攻撃する理由があるのかも・・・?」

 

「どっちの可能性もあるけど、考えるのは後。やるわよ2人とも!」

 

主砲に砲弾を、魚雷発射管には酸素魚雷を装填して装備の最終確認を行う。

 

「まずは敵艦隊の5時方向から接近。一度背後を抜けてから同航戦に持ち込むわ。作戦通り頼むわよ。」

 

「はいっ!」

 

「やってやろうじゃないの!」

 

足柄、潮、曙の3人が敵艦隊へ向けて進路を取り、加速する。

距離が縮まるなか、主砲を構えてその時を待つ。

 

「まだよ・・・まだ、まだ・・・。」

 

すでに奇襲の準備は整った。

後は仕掛けるタイミングを間違えなければいい。

緊張で鼓動が早く脈打ち、額から汗が流れ落ちる。

そして、その時は来た。

 

「機関一杯!砲雷撃、用意、撃てぇー!!」

 

足柄の号令の下、全艦一斉砲撃が開始された。

激しい爆音が鳴り響き、敵艦隊へと砲弾が降り注ぐ。

しかし速度を上げながらの砲撃は、命中することなく何もない海面に水柱を作った。

 

「潮!撃ちまくるのよ!!」

 

「うん!!」

 

曙と潮が連携して交互に主砲を撃ち、敵へ襲いかかる砲撃を絶やさない。

夾叉(きょうさ)して命中するのも時間の問題だろう。

敵はこちらに気づいていなかったようで、一瞬驚いた様子を見せる。

そして2人の連続砲撃を驚異と認識したのか、殿(しんがり)のリ級が牽制の砲撃をしつつ敵艦隊が面舵を切り始めた。

後方からの奇襲には成功したが、このままではT字有利を取られてしまう。

 

「まあ、この角度から攻められたら、そうするわよねぇ。」

 

だが、それはこちらの『予定通り』。

足柄の口角が僅かに上がり、ニヤリと笑う。

 

「でもそこは・・・キルゾーンよ!!」

 

言い終わると同時に、爆発音がして先頭のル級が水柱に包まれた。

それを皮切りに次々と大きな水柱が立ち上って敵艦隊を覆う。

 

「や、やったぁ!」

 

潮が歓喜の声をあげる。

その大腿部に装着された三連装魚雷発射管からは、左右合わせて4本の魚雷が無くなっていた。

曙と足柄の魚雷も同数が無くなっている。

 

「自分達が有利な位置につけたと思った?残念、誘い込んだのよ。」

 

ドヤ顔をした曙が胸を張って鼻を鳴らす。

やった後に薄い胸を思い出して少し自己嫌悪したのは内緒だ。

 

「上出来ね。でも、まだこれからよ!」

 

気の緩みかけた2人を足柄が叱咤して気を引き締めさせる。

水柱の水飛沫が収まっていき、やがて再び敵の姿が見えてくる。

 

「流石に撃沈とはいかないか・・・。」

 

姿を見せた敵は健在だった。

それでも、たしかに損傷は与えられたようで、リ級2隻が中破、ル級1隻が小破しているのが確認できる。

 

「足柄さん、敵艦隊の動きが!」

 

「はぁ・・・見上げた根性ねぇ。」

 

雷撃を受けた敵は取り舵で転舵したかと思うと、陣形を複縦陣に変えて再び船団へと向かい始めた。

リ級を左列にして盾替わりにするあたり、船団への執着心が見てとれる。

 

「船団に行かせるわけにはいかないわ!ここで仕留めるわよ!」

 

「当然でしょ!」

 

再度攻撃体勢を整えるために足柄たちも取り舵を切った。

手負いのリ級さえ沈めれば、後は肉薄して雷撃で決着をつけるだけだ。

一度後ろを振り返り、2人と視線を交錯させ、頷き合う。

 

「右砲戦、用意!撃てぇー!!」

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・18:22(ヒトハチフタフタ)ーーーーー

 

 

 

足柄たちが船団と接触した頃、霧島は単独で敵艦隊と戦闘を繰り広げていた。

 

「主砲、敵を追尾して!・・・撃て!!」

 

霧島の放った砲弾は命中こそしなかったものの、確実に夾叉(きょうさ)している。

そして至近弾の作り出した波がヘ級を横から襲い、僅かに動きを鈍らせた。

 

「そこ!副砲撃て!」

 

その隙を霧島が見逃すはずはなく、即座に追撃を加える。

ヘ級は体勢を崩していたために、回避行動をすることも出来ないまま波間へと消えていった。

 

「軽巡へ級を撃沈!さあ、お次は誰かしら?」

 

リ級やロ級からの反撃を回避しつつ、次の目標に狙いを定める。

主砲を斉射したところで、通信機から声がした。

 

『霧島さん。第2次攻撃隊、発艦させます!』

 

後方に待避させている飛龍からの第2次攻撃の連絡だった。

 

『友永隊なら誤射はしないと思いますけど、ちゃんと待避してくださいね。』

 

「了解よ。攻撃隊の到着まで敵の注意を引き付けておくわ。」

 

すでに蒼龍と飛龍の第1次攻撃隊による先制攻撃で、イ級とホ級が葬られている。

先程撃沈したヘ級も除けば、残りはヌ級とリ級、ロ級を残すのみだ。

 

(これで、この敵艦隊が船団に向かうことは阻止できたはず。足柄はうまくやっているかしらね。)

 

主砲と副砲を交互に撃ちながら、船団へと向かわせた足柄たちに思いを巡らせた。

 

 

 

ーーーーー数十分前ーーーーー

 

 

 

「問題?何かあったの?」

 

歯切れの悪い足柄の言葉に、違和感を覚えて問う。

 

『曙が、損傷した偵察機を見つけたのよ。』

 

「偵察機?」

 

『ええ。既に保護したけれど、たぶん、探してる船団のだと思う。』

 

「なら、その偵察機の妖精に聞けば船団の位置は特定できそうね。でも問題というのは・・・。」

 

偵察機を保護したのなら、もう船団を見つけたも同然だ。

ならば何が問題なのだろうか。

 

『妖精から教えられた船団の位置が、霧島たちと真逆の方向なのよ。』

 

「・・・たしかに問題ね。でも、それだけじゃ無いんでしょう?」

 

『そういうこと。妖精が言うには、船団へ向かう敵機動部隊を見たらしいの。その危機を知らせる前に敵機に攻撃されて、命からがら逃げて今に至るって状況よ。』

 

「・・・・・・・・・。」

 

『・・・どうする、霧島?』

 

足柄の言いたいことはわかる。

船団に足柄たちを向かわせれば、数的不利な状態で背後の敵艦隊と戦わなければならない。

かと言ってこちらとの合流を優先すれば、船団に敵機動部隊が牙を剥く。

どちらを選んでも、被害・・・犠牲が出る可能性がある。

それが分かっているから、足柄もどうすべきか決めかねているのだろう。

 

『どうするもないでしょ。』

 

「曙さん・・・?」

 

どうすべきか考えていると、曙が口を開いた。

 

『私たちは船団の救援に向かうべきよ。』

 

『曙ちゃんの言う通りです。ここで船団を見捨てるなんてできません!』

 

「私と蒼龍の攻撃隊で反復攻撃すれば、きっと大丈夫だよ!」

 

「二航戦の力、見せる時だね!」

 

曙の意見に、潮だけでなく飛龍に蒼龍も賛同している。

血の気が多いというか、なんというか。

自分でもどうすべきか、どうしたいかは分かっていた。

きっと足柄もそうだろう。

事実上の満場一致、深呼吸して覚悟を決める。

 

「わかったわ。足柄、そっちは船団へ向かって。」

 

『・・・いいのね?』

 

「敵艦隊はなんとかするわ。危なくなったら逃げに徹するから大丈夫よ。」

 

『了解、また後で会いましょ。・・・気を付けて。』

 

「そっちもね。さあ、行動開始よ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「うあぁっ!?」

 

激しい衝撃で霧島は現実に引き戻された。

思考に集中力を割いたことで、動きが鈍り攻撃を受けてしまったようだ。

 

(第三砲塔が損傷か・・・戦闘中に考え事に没頭するものではないわね・・・。)

 

「この霧島を沈めたいのなら、今の30倍は撃ち込むことね!」

 

命中弾がでたことで勢いづいたらしく、敵は砲撃を繰り返している。

だがその散布界は広く、命中する気配がない。

 

「まぐれはそう続かないってことよ!」

 

狙いをつけ、主砲で反撃しようとした時、目が合ったリ級が笑ったように見えた。

その瞬間、言い知れない悪寒が霧島の背筋を駆け巡る。

嫌な予感がする、と思った時には遅かった。

爆発音と共に水柱が霧島を包んだ。

霧雨のように広がる水飛沫の中から這い出ると、立っていることが出来ずに膝をつく。

 

「うぐ、足が・・・・・・なにが・・・どうなって・・・。」

 

リ級の主砲といえど、戦艦である霧島にはそうそう有効打にはならない。

それは些細な、ほんの少しの慢心。

砲弾で装甲を抜けないならば、どうするか。

艦娘であれ深海棲艦であれ、取るべき手段はひとつ。

 

「雷、撃・・・・・・!!」

 

艦隊戦における切り札ともいうべき雷撃だ。

たとえ相手が堅牢な装甲を持つ戦艦だろうと、魚雷ならば関係ない。

 

(乱れ撃ちの砲撃は囮・・・・・・雷跡が見えなかった上に、この威力・・・酸素魚雷?・・・・・・深海棲艦が?)

 

雷撃の可能性を考慮していなかったわけではなかった。

だが、敵は巧みに霧島を罠にはめた。

火力と装甲、共に自身の方が(まさ)っている。

砲撃も外ればかりで、状況は自分が優勢であると。

 

(足に力が入らない・・・ここから逃げることは不可能、か。)

 

飛龍たちの第2次攻撃隊が到着するまではまだ時間がかかる。

味方からの援護は期待できない。

顔を上げると、ニタニタと笑うリ級と目が合う。

どうやら楽には沈ませないつもりらしい。

 

「万事休すね・・・。」

 

リ級とロ級の主砲がゆっくりと動き、動けない霧島に照準が合わされた。

 

(ごめんなさい、お姉さま・・・提督。)

 

 

 

   ーーー『何があっても諦めるなよ。必ず無事に帰ってこい。』ーーー

 

   ーーー『分かっています。それに今回は捜索ですから、心配いりません。』ーーー

 

 

 

「ーーーッ!?」

 

全てを諦めかけた時だった。

出撃ドックでの比良との会話が頭をよぎる。

 

(そうだ・・・。諦めるな、無事に帰れ。これは命令だったわね。)

 

なんてことはない、ありふれた言葉。

普通なら建前として掲げるだけで、何の意味も成さない。

でも、それを出撃の度に大真面目に言う人たちがいる。

 

「まったく。あんな大真面目に言い聞かせるんだから・・・。」

 

震える足で立ち上がる。

このまま何もせずに終わる訳にはいかない。

 

「諦めるわけにはいかないでしょう!」

 

力強く叫んだ霧島の主砲が、雄叫びの如く轟いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第29話です。

いかがでしたでしょうか。

次回で船団救出編は終わる予定です。
では、短いですがまた次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話「海の彼方から・6」

長いです、すみませんm(__)m


ーーーーー沖ノ島海域・18:27(ヒトハチフタナナ)ーーーーー

 

 

 

足柄たちと敵艦隊が戦闘している地点から約13キロ程離れた空。

血の色に染まった戦場ではどれが敵で、どれが味方か分からないほどの乱戦となっていた。

 

「こちらホーク4ー4!被弾した!被弾した!!」

 

被弾し、エンジンから黒煙を吹き出しているF4U(コルセア)から悲鳴があがる。

敵機に真後ろを取られており、今なお機関砲の雨に襲われているのだ。

その後方から別のF4Uが援護に駆けつける。

 

「こちら4ー3、援護するぞ!」

 

瞬く間に敵機の背後を取ると、両翼の機銃6丁を掃射し始めた。

 

「助かる!・・・って4ー4、後ろ上方に敵機!」

 

「何!?このくそったrぇがぅぁ!?」

 

機銃を撃つことに夢中になっていた4ー3、その上方から新たな敵機が奇襲をかけたのだ。

4ー4が気づいて叫ぶが時既に遅く、コクピットを蜂の巣にされたF4Uがコントロールを失う。

 

「4ー3!?なんてこった!ぐぁ!?」

 

撃墜された味方機に気を取られた隙に、正面下方から現れた3機目の敵機の機関砲を浴びせられる。

銃弾が機首を撃ち抜いてプロペラが破壊され、エンジンが爆発して内側からコクピットの風防(キャノピー)が吹き飛ぶ。

2機のF4Uは黒い帯を引きながら下へ下へと落ちていき、やがて海面に激突した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「くそ!あいつら寄って集ってヒヨッ子を!」

 

F4Uが撃墜されるのを見て、6機目となる敵機を撃墜したF6F(ヘルキャット)妖精が毒づく。

そもそもの数が違いすぎることで、必然的に一対多の状況を強いられているのだ。

周囲への警戒を怠ればたちまち包囲され、なぶり殺しにされる。

その為、熟練妖精の駆るF6Fですら、満足に攻撃をできないでいた。

 

『1ー3!そっちへ1機行ったぞ!』

 

「んなろぉ!そんな弾があたるか!」

 

正面からの射撃をエルロンとラダーを駆使した横転機動でかわす。

そして背面飛行となり照準が合った一瞬、機銃と機関砲を斉射して敵機の上をすれ違った。

 

「このイーグル隊のエースを相手にするには、腕が足りないぜ!」

 

奇襲を退けた1ー3の機体には、死神をモチーフにしたエンブレムと共に撃墜マークが輝いている。

一瞬の反撃を受けた敵機はすれ違った半秒後には爆発し、火に包まれながら海へと落ちていった。

 

「・・・・・・汚ねぇ花火だぜ・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

『誰かたすkぎゃぁ!?』

 

『コ、コントロールが!?うああぁぁあぁあ!!』

 

1機、また1機と墜ちていく。

今まさに味方を撃墜した敵機目掛けて、1機のF4Uが迫る。

 

「後輩たちの仇だ!墜ちろ!」

 

後ろ上方からの奇襲であったが、読まれていたのか銃撃は右旋回でかわされてしまう。

だが、みすみす逃がすまいと追従しながら攻撃を続ける。

 

「後方敵機なし!逃がすものか!」

 

照準にたしかに捉えているはずなのに、弾は一向に敵機に命中しない。

F4U妖精に焦りが見え始める。

 

「これがいつものF4F(ワイルドキャット)ならなぁ!とっくに墜とせてるんだよぉっ!!」

 

今操っているのは予備機として用意されていた機体であり、普段乗っているF4Fは修理中なのだ。

操縦感覚も違えば機銃の位置も違う。

微妙な感覚のズレから、射撃の精度が落ちていることに気づきつつも、おいそれとは修正できない歯がゆさ。

その苛立ちと焦りが、反応を鈍らせた。

 

「コブラだと!?ふざけろ!!」

 

追われていた敵機が突如機体を90度引き起こし、空気抵抗を受けて減速したのだ。

そのままの姿勢でF4Uの真上を通過して、背後へ抜けたところで姿勢を元に戻した。

所謂『コブラ』という空戦機動、カウンターマニューバだ。

ふいをつかれた結果として追う立場から一転、追われる立場となってしまった。

 

「深海棲艦機は何でもアリか!こっちにはできないことをやってのける!」

 

必殺の距離で背後を取られた状況の意味するところは、ヒヨッ子妖精にも分かるだろう。

機体の下部に装備された機関砲が小刻みに動いて狙いをつけている。

照準を合わせられるのも時間の問題だ。

 

(ピッタリくっついて離れない・・・撃ってきた瞬間に左に横滑りさせて、避けるしかないか・・・!)

 

機関砲の動きが止まり、射撃が開始されたと同時に、敵機が爆散する。

寸前で放たれた1発の弾丸が、F4Uの右主翼を掠めていった。

 

「うおおっ!?た、助かった・・・?」

 

突然の出来事に驚きながらも、敵機を葬った銃弾が飛んできた方を見る。

そこには沈みつつある夕日を背にしたF4Uの姿があった。

 

『いい囮だったぜ1ー1、貸し一つにしとくんだっぜw』

 

「2ー2か。ありがとう、助かった。けど、後ろから撃つなら声をかけてほしいな。」

 

『はっはーw結果オーライってことだっぜw』

 

いつもの調子に乗った軽口を言いながら、2ー2が追い付く。

そのまま右後方についた所を見るに、分隊最後の生き残りのようだ。

 

「うちも自分しか残っていないか・・・。2ー2、できるだけやろう。」

 

「りょーかいだっぜ!」

 

違う分隊同士の即席コンビは、いまだ続く戦闘へと飛び込んでいくのだった。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・18:36(ヒトハチサンロク)ーーーーー

 

 

 

日本海軍の救援部隊による援護を受けた船団は、戦闘海域から離脱しつつあった。

後方で繰り広げられる砲戦を尻目にアイオワがほっと息をつく。

 

「あのタイミングで来てくれるなんて、Luckyだったわね。」

 

「えぇ・・・アイオワ、さっきの戦闘で受けた傷は大丈夫?」

 

頭から流れ出る血を腕で拭っている様子を見て、サラトガが心配そうにしている。

 

「ちょっと掠っただけ。血が大袈裟に出てるだけよ。」

 

「そう・・・ならいいけど・・・。」

 

救援も来てもうすぐ逃げ切れるというのに、サラトガは浮かない顔だ。

 

「サラ?」

 

「救援部隊に空母らしき艦娘はいなかった。あの子たちからの連絡もないし・・・。」

 

「ここまで空襲がないことを考えると案外、敵機を全滅させる調子でやりあってるのかもね。」

 

「だといいけど、あの戦力差では・・・ッ!?」

 

言いかけた言葉を止めて、はっとした様子でサラトガが空を見上げる。

一瞬遅れて空を見たアイオワも表情を強ばらせた。

 

「イーグル1ー1より入電!敵攻撃隊の一部が艦隊へ向かう!!対空警戒を厳とされたし!!」

 

「く・・・そうそう上手くはいかないのね。対空戦闘用意!」

 

見上げた先にあったのは、数えるのも嫌になるほどの黒点。

数十機の敵機が迎撃をすり抜けて至近にまで迫っていたのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

サラトガたちが敵の接近に気づいた頃、深海棲艦機の攻撃隊もまた船団を捉えていた。

綺麗に隊列を組み、爆撃の最終行程に入ろうとしている。

そのやや後ろ上方、薄い雲の中から一つの影が飛び出すと深海棲艦機の編隊へと降下していく。

 

「すり抜けたつもりだろうが、こそこそと小賢しいんだよ!」

 

怒声と同時に最後尾の隊列、その2番機に次々と穴が空いて炎に包まれる。

影はそのまま編隊の下方へとすり抜け、降下の速度を活かして上昇する。

 

「どうだこの野郎!そう簡単に艦隊はやらせないぜ!」

 

強襲をしかけたのは、死神のエンブレムが描かれたF6Fだった。

上昇して高度を取り戻し、再度攻撃を仕掛けていく。

 

「チッ・・・空いた場所をもう列機が埋めてやがる。練度は高いってか。」

 

F6F妖精が舌打ちして苦い表情になる。

先程の攻撃で隊列に穴を空けた筈なのだが、上昇する間に別の機がカバーに入って隊列の崩壊を防いでいた。

 

「もう艦隊は目の前だ、なんとかして隊列をくずさねえと・・・!」

 

2度、3度と攻撃を繰り返す。

しかし何度銃弾のシャワーを浴びせても、隊列が完全に崩れる気配はなかった。

何とか爆撃に入れないよう邪魔するので精一杯なのが歯痒い。

そうこうしている内に、隊列の1つが急降下を始める。

 

「ま、マズイ!」

 

慌ててF6F妖精も追従し、後ろから狙いを定めて撃ちまくった。

降下によって加速し続ける機体がガタガタと震え出して限界が近いことを知らせる。

それでも構わず射撃を続けて1機、2機と敵を捉えていく。

だが、最後の1機がなかなか撃墜できない。

 

「くそ、くそ!バリアーでも張ってるのかよコイツは!!」

 

もうすでに数十発も被弾しているというのに、抱えた爆弾を投棄すらしないようだ。

 

「機体を撃ってダメなら・・・ここだ!」

 

深海棲艦機が2つ抱える黒い塊、爆弾に照準を合わせる。

ここにきて機体の震えが一層激しくなり、強烈なGで視界がブラックアウトし始める。

そんな状態で放たれた銃弾は何発か狙いから逸れながらも、左に搭載された爆弾を射抜いた。

F6F妖精は機体を引き起こしながら、片手でガッツポーズをする。

 

「いよし!・・・・・・って、あ、あああ!?」

 

爆弾の誘爆に巻き込まれた敵機が爆散する瞬間、残された右側の爆弾が『投下』されたのが見えた。

進路、高度共に爆弾を投下するのに最適な所まで来ていたのだ。

ただ爆弾が外れただけと思いたいが、最期まで爆撃を諦めなかった敵機のことだ。

狙いをつけての投下だろうことは容易に想像できた。

 

「頼む、外れてくれ・・・避けてくれぇ!」

 

もはやF6F妖精には爆弾の行く末を見守ることしかできない。

次々と降下していく敵機を迎撃することも忘れて、敵機の執念の塊を見つめていた。

そして、爆弾は艦隊へと吸い込まれていき、やがて橙の華を咲かせた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

耳をつんざく爆発音。

直後に聞こえてくる幾人もの叫び声。

 

「船尾に被弾!機関部に火災発生!!」

 

「消化いそげー!!」

 

「レイモンドが負傷した!メディックを寄越してくれ!」

 

被弾箇所から上がった火の手は瞬く間に広がり、真っ黒な煙をごうごうと立ち上らせる。

 

「Shit!敵機の数が多すぎるわ!」

 

憎々しげに見上げた先には、夕焼けの空を埋め尽くす敵機の群れ。

せめてもの抵抗と、僅かに残った機銃で弾幕にもならない対空砲火を撃ち続ける。

 

「く・・・狙いが・・・。」

 

頭から流れ出る血が右目に入って視界が赤く染まっていく。

それによる視界の悪化で機銃の狙いがつけられなくなる。

 

「何も見えない!敵機はどこ!」

 

手で擦ってみても、一度血が入り込んだ視界は目を洗い流さなければ治らない。

 

「敵機直上!!逃げてアイオワ!!」

 

「ッ!?」

 

半ば悲鳴になった叫びを聞き、反射的に顔を上げる。

その目に映ったのは、必殺の距離で爆弾を投下しようとする敵機の姿だった。

 

「私の強運も、これまで・・・ね・・・。」

 

瞳を閉じて呟いた声をかき消すように、爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・・・・。」

 

痛くない。

敵機の爆弾が命中したはずなのに、痛くない。

人の体を得ても、沈む時は無機質なものなのかしらね?

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

いや、おかしい。

これまで被弾した時には痛みがあった。

一瞬で蒸発でもしたのなら別・・・かしら。

それなら今こうして感じている風は何なの?

 

「ん・・・?風・・・?」

 

そういえば目を閉じていたわ。

目を開けないと何も見えないのは、当たり前ね。

 

「・・・・・・ん。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

アイオワが目を開いた先に広がっていたのは、敵機が墜落していく様だった。

 

「え・・・何、これは・・・どうなってるの?」

 

周りを見るとサラトガや輸送船の乗組員たちも空を見て呆然としていた。

誰もが何が起こっているのかわからない、といった様子だ。

爆撃をしようと接近してきた敵機がまた1機、弾幕によって撃ち落とされる。

 

「この弾幕って・・・サラでも私でもない、ということは・・・。」

 

今この艦隊には弾幕を張れる艦娘は存在しない。

1つの可能性に至った全員が、自らの後ろ、進行方向、対空射撃が飛んできた方を見た。

そこには、全速で接近する3つの人影と1つの艦影があった。

 

「こちら日本海軍所属、軽空母 鳳翔!これより貴艦隊の護衛につきます!!」

 

「ボクは駆逐艦 皐月!対空戦闘はボクたちにまっかせてよ!秋月、行くよ!!」

 

「はい!皐月さん!防空駆逐艦 秋月、推参です!!」

 

『そこの艦載機、よく頑張った!後は我々、鳳翔制空隊が引き継ぐ!』

 

皐月と秋月が船団の最後尾にいたアイオワの左右に展開して、再び対空射撃を開始する。

まるでハリネズミのような弾幕を前に、敵機は中々近づくことができなくなっているようだ。

 

「助かった・・・のね。」

 

「艦載機の上空掩護まで・・・。」

 

サラトガの見上げた先では、白い艦載機が弾幕で追い返された敵機に襲いかかっていた。

そこへ鳳翔が近づいてきて敬礼する。

 

「もう大丈夫です。うちの子たちが空を守ってくれますから、安心してください。」

 

「米海軍所属、空母 サラトガです。救援に感謝します・・・・・・本当に、ありがとう。」

 

鳳翔たちの後方から近づいてきていた指揮艦も、輸送船に横付けして消化作業を手伝っている。

 

「消化が終わり次第、曳航の準備に移ります。手の空いている者は負傷者の手当てを、私もすぐにいきます。」

 

「いや少佐はここで指揮とらなきゃダメでしょ!」

 

「力仕事は俺たちに任せて、少佐は自分のやることやっててくだせえ!」

 

「ひょろっちいのは邪魔だ!」

 

「アッ、ハイ・・・。」

 

自らも手伝おうとした安住だが、指揮艦の屈強な乗組員たちに却下されてしまった。

その様子をぼんやりと見つめていたサラトガと、気まずそうに頭を掻く安住の目が合う。

 

「もう大丈夫ですよ。我々が必ず貴女を守り抜きますから。」

 

そう言って優しく笑った安住は、指揮を執るべく艦橋へと戻っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「これで9機目。かなり数が多いが、敵機は爆撃できていないな。秋月の弾幕のお陰か。」

 

敵機を撃墜した後の索敵を兼ねた横転機動をして、鳳翔制空隊の隊長が呟く。

眼下では新顔となる秋月の作り出す対空砲火が、敵機を艦隊へ寄せ付けない様が見てとれる。

 

『秋月より上空の制空隊へ。弾幕による味方撃ちの危険があるため、なるべく対空砲火圏内から離れて戦闘をしてください。』

 

噂をすれば影、ということか。

制空隊への注意を促す通信が聞こえてきた。

 

「鳳翔制空隊、隊長機より秋月へ。慣れない機体とはいえ、ここにいる誰も味方の弾にあたるようなヒヨッ子はいない。好きに撃ちたまえ。」

 

「そうだそうだ!俺たちがそんなヘマするわけないぞ、秋月の嬢ちゃん。慢心じゃないからな!」

 

「私もヘマはしないですが、ここは譲れませんね。」

 

『えっ?えっ?』

 

想像していた返答と180度違う内容に、秋月が困惑している。

今現在上空を守っているのは鳳翔制空隊第1小隊の他に、赤城と加賀それぞれの第1小隊だ。

化け物とも称される腕前の彼らからすれば、秋月の弾幕も止まって見えるらしい。

 

『これ!調子に乗るのもいい加減にしなさい。秋月さんが困っているでしょう。』

 

穏やかだがしっかりとした調子で、ぴしゃりと制空隊を叱ったのは鳳翔だった。

 

「鳳翔お艦か・・・我々の腕なら問題n『言うことを聞かない悪い子には、今夜のご飯はありませんからね。』

 

鳳翔制空隊の隊長が何か言おうとするも、途中で『ご飯抜き』と言われて黙る。

普段から鳳翔の手作りご飯を食べている鳳翔の妖精はもちろん、赤城と加賀の妖精も黙る。

この数日、鳳翔の手料理を味わっていたために、この言葉の破壊力は凄まじかった。

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

『制空隊は弾幕の外で敵機の迎撃をすること!・・・分かりましたね?』

 

「「「了解であります!」」」

 

くせ者揃いの制空隊たちの手綱をいとも簡単に握ってしまった鳳翔。

さすがは、お艦といったところか。

 

『それから、サラトガさんの戦闘機隊が付近で敵機の迎撃をしています。赤城さんと加賀さんの小隊は、そちらの援護に向かってくださいね。』

 

「新型機の試験飛行と受領にかこつけて、無理言ってついてきたんだ。しっかり働いてこい。」

 

「言われんでもやりますわい!鳳翔お艦、帰ったら赤城にも夕飯をたのむ!」

 

「我らが加賀もご相伴に預からせて下さい。きっと気分が高揚するでしょう。」

 

艦載機妖精は母艦に似ると言うが・・・・・・言うのだろうか。

ちゃっかりご褒美をねだって、艦隊上空から8機の白い艦載機が離れる。

 

『戦闘空域までは俺が先導する。日本のサムライたち、宜しく頼むぜ!』

 

赤城と加賀の制空隊はF6Fに先導され、黄昏の空へ飛び去っていった。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・18:55(ヒトハチゴーゴー)ーーーーー

 

 

 

太陽が水平線に沈んでいく。

もう3分の1程しか顔を覗かせておらず、あと数分後には夜の闇が訪れるだろう。

戦闘はつい数分前に終わり、鳳翔は艦載機を収容していた。

 

「艦載機の皆さん、お疲れさま。赤城さんと加賀さんの子たちも、ありがとう。」

 

飛行甲板に着艦し、矢の姿へと変わった艦載機たちを労い、背負った矢筒へと戻す。

一瞬、少し離れた所で収容作業をしていたサラトガに目をやるが、安住から呼ばれて意識をそちらへ移した。

 

「こちらは曳航準備完了しました。足柄さんたちも直ぐに合流できると。鳳翔さん、そちらはどうですか。」

 

「私たちも収容は先程終わりました。いつでも出発できます。」

 

「了解です。霧島さんたちの方へ向かった龍鳳さんたちと合流した後、鎮守府へ帰投します。」

 

「はい、了解致しました。」

 

鳳翔とサラトガの準備が完了していることを確認した安住が、サラトガの方へ視線を向ける。

 

「それで、彼女は・・・。」

 

「・・・・・・少し、そっとしておいてあげましょう・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

収容作業を終えたサラトガは俯いていた。

その肩には1人の妖精が乗っている。

 

「結局、無事に帰艦できたのは3機だけ・・・。」

 

「すまねえ、サラ・・・俺たちが戻った時ホーク隊は5機、生き残っていたんだが・・・。イーグル隊は、俺だけになっちまった・・・。」

 

肩を震わせるサラトガをF6F妖精が慰める。

だが、自分も隊の仲間を失ったせいか、上手く慰められてはいなかった。

そんな暗い雰囲気を壊すように、反対側のサラトガの肩に手が置かれる。

 

「サ~ラ、もうすぐ出発するわよ。」

 

サラトガが顔を向けた先に居たのは、アイオワだった。

全身ボロボロで酷い状態だったが、いつものように笑顔を見せている。

 

「サラ・・・気持ちは分かるわ。でも、また任務は終わっていない、そうでしょ?」

 

「分かってる・・・分かって、る・・・けど・・・。」

 

今にも泣き出しそうな顔を見られないように、サラトガが顔を背ける。

その震える肩を、アイオワが後ろから抱き締めた。

 

「泣きたい時には泣きなさい。今なら私の超弩級バストを使い放題よ。」

 

「・・・・・・汗くさいです。」

 

「なら、シャワーを浴びた後に、ね。」

 

「遠慮します。・・・・・・でも、ありがとう。」

 

暫くして鳳翔から呼ばれるまで、アイオワはサラトガを抱き締めていたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第30話です。

いかがでしたでしょうか。

なんだかまた長くなっちゃいました(^_^;)
ともあれ、これで船団救出編は終わりとなります。
一応、今回の戦況推移を書き出してるので、宜しければ見てください。


【挿絵表示】


皆様、秋イベの調子はいかがですか?
私はE4丙の1本目のラスダンで沼っています。
妖怪26足りないがまた悪さを・・・。
あと一週間、秋イベ頑張りましょう!

それでは今回はこのあたりで。
また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話「芽生え」

ーーーーー沖ノ島海域・21:24(フタヒトフタヨン)ーーーーー

 

 

 

陽が落ち、闇に包まれた海。

ここは数時間前まで激しい戦闘が行われていた場所だ。

その証拠に、艦娘か深海棲艦のものであろう艤装の残骸が散乱して水面(みなも)に浮いている。

いまだ燃え盛り周囲を淡く照らすそれを見つめる、大小二つの人影があった。

 

「アノ子タチハ失敗シタノネ。」

 

小さい方の人影が、漂う残骸を蹴飛ばしながら言った。

鉄色の着物にスカート型をした黒の袴、その裾から覗くこれまた黒いハイヒールのブーツ。

頭の右側で束ねられた艶やかな黒髪は、ドリルのようなカールがかかっている。

大正浪漫を体現したような出で立ちの少女はしかし、普通の人間ではない。

夜風で荒れる海面に立っていることもだが、なによりも死人のような青白い肌が、特異な存在であると教えている。

 

「ソウネ、ドウデモイイケド。」

 

素っ気ない態度で返したのは大きい人影だ。

こちらは白いセーラー服にマントを羽織り、白い長髪で顔の右側を隠している。

少女と対照的な白い女性もまた、青白い肌をしていた。

 

「自分ノ下僕ガヤラレタノニ、味気無イ子ネェ。」

 

「本来ノ目的ハトモカク、収穫ハアッタノダカラ、ソレデイイデショウ。」

 

態度の変わらない女性に対し、少女は呆れた様子で肩をすくめてみせる。

 

「タシカニ面白イ玩具ハ手ニ入ッタワネ。アレガドウヤッテ壊レテイクカ、今カラ楽シミダワ。」

 

何かを想像した少女が頬を紅く染め、恍惚とした表情で体をくねらせた。

指を口にくわえて息も荒く、股間の辺りを押さえて下半身をもじもじとさせている。

 

「・・・・・・・・・。」

 

その様子を、女性は興味無さげに見つめるだけだった。

 

「・・・ン・・・・・・ンゥッ!!」

 

数分間それを続けた少女の体が、数回ビクンビクンと跳ねる。

しゃぶっていた指を離すと唾が銀の糸を引き、突き出した舌との間に橋を架けた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 

汚れた口元へ舌を這わせ、唾を舐め取りながら、乱れた息を整える。

 

「ソレニシテモ・・・。」

 

指に絡んだものまで飲み込むと、横目で品定めをするような視線を向ける。

そして女性の前に躍り出て、前屈みになって顔を覗き込んだ。

 

「ナンデ加勢シナカッタノサ。アナタガ介入スレバ、アノ戦艦クライハ殺レタノニ。」

 

「・・・・・・別ニ、気ガ乗ラナカッタダケヨ。」

 

女性は相変わらず無表情で返すのみだった。

だが、妙な間があったことに少女が不信感を覚えたようで、さらに問い詰める。

 

「ジャアナンデ空母ヲ率イテマデ、アイツラノ拠点近クデ輸送部隊ヲ襲ッタノサ?」

 

「私ガ進化スルタメ。下僕ヲ抵抗ナク喰エルヨウニスルタメヨ。」

 

表情こそ変わらなかったが、女性の眉が僅かに動いたのを少女は見逃さなかった。

 

「フゥーン。マァイイワ、アナタハ私タチ『オリジナル』ト違ッテ下僕カラノ進化組ダシ、マダ感情ガ不安定ナノカモネ。」

 

尖らせた唇に人差し指を当てて考えるような素振りをし、左右に子首をかしげ始めた少女。

3回ほど頭を往復させた後、ニヤニヤとイタズラを思い付いた子どものように表情を歪ませる。

そしてゆっくりと口を開くと、唾が糸を引く(なまめ)かしい唇を震わせて言った。

 

「モシカシテ戦闘ニ参加シナカッタノハ、アノ空母ガ居ナカッタカラ・・・トカ?ウフフッ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、あの日を思い出して女性は胸がざわつくのを感じた。

なんだろう、心の奥底から沸き上がってくる、このドス黒い感情は。

歪んだ感情のままに女性が少女を睨む。

 

「五月蝿イ、ババアニハ関係ノナイコトヨ。」

 

一際強い夜風で髪が靡き、隠されていた顔の右側が露になる。

 

「ババア呼バワリスルノハ結構ダケド。・・・アナタノ顔ハ、ババアヨリモ酷イ有リ様ジャナイノサ。」

 

口元を押さえてクスクスと笑う少女に言われ、醜くヒビ割れた顔を手でなぞる。

失ったモノを思い、自然と指がそこへ触れた。

その瞬間、本能的に『ソレ』を理解する。

 

「アア・・・ソウカ、コレガ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

          コレガ『憎悪』カ。

 

 

 

 

 

女性の翡翠色の瞳に妖しい輝きが宿るのを見て、舌舐めずりした少女の口が満足そうに歪む。

それは雲間から覗く三日月と同じ、鋭利な刃物のようだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第31話です。

いかがでしたでしょうか。

今回はちょっと前回書こうと思ってて忘れてた場面の補完になります。
間話にしようと思ったんですが・・・。
まあ、長くなりそうだったんで一つの話にしちゃいました。
相手側の話を書くのって中々難しいですね。
女性については既にお分かりと思いますが、少女は・・・バレバレですねw

まだまだ続きますが、物語がこれからどう動いていくのか、楽しみにしていてくださいませ。

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話「朝霧の幻想」

ーーーーー鎮守府近海・06:17(マルロクヒトナナ)ーーーーー

 

 

 

所々に薄い朝霧のたちこめる、穏やかに波打つ海を進む。

空は晴れ渡り、雲一つない快晴。

静かに目を閉じて、頬を撫でる風に集中する。

 

「・・・・・・良い風ですね。」

 

背負った矢筒へ手を伸ばすと、白い矢羽の矢を抜き取って弓につがえる。

 

「風向き・・・良し。」

 

弓を構えて弦を限界まで引き絞る。

ギリ・・・ギリ・・・という弓のしなる音が不思議と心を落ち着ける。

 

「航空部隊、発艦!」

 

放たれた矢は光に包まれると白い戦闘機へと姿を変え、暁の空へと飛び立った。

 

「鳳翔隊直掩機、全機発艦致しました。龍鳳さん。」

 

「は、はい!龍鳳隊は順次着艦に移ってください!」

 

上空を旋回していた零戦ニ一型が飛行甲板へと着艦していく。

速度を殺しきれず、甲板でひと跳ねする機体もあったが、大きな問題もなく全機を収容した。

ほっと胸を撫で下ろす龍鳳を眺めていた鳳翔が、優しく訪ねる。

 

「まだ、着艦作業には慣れませんか?」

 

「ひゃいっ!?」

 

話しかけられるとは思っていなかったのだろう。

驚いた龍鳳は思わず飛び上がり、弓を手から落としそうになっていた。

 

「ひゃわわわ!?」

 

なんというドジッ娘。

だが、それがいい。

 

「Oops!大丈夫ですか?」

 

足をもつれさせて転びかけた所を、誰かに後ろから支えられる。

何とか事なきを得た龍鳳。

 

「あ、ありがとうございま・・・お、大きい!?」

 

お礼を言おうと振り向いたその目に飛び込んできたのは、白い二つの塊だった。

驚異的な大きさのそれから目を離せなくなった龍鳳は、口をぱくぱくとさせたまま固まってしまった。

 

「あら、サラトガさん。おはようございます。」

 

鳳翔が龍鳳の後ろにいる人物に気づいて微笑む。

 

「おはよう、ございます。ええっと・・・。」

 

龍鳳から手を離し、微笑み返して朝の挨拶を交わしたサラトガ。

視線を泳がせて何やら落ち着かない様子だ。

 

「どうかされましたか?」

 

見かねた鳳翔が聞くと、困った表情をして頭を下げた。

 

「ごめんなさい、まだ名前を覚えられていなくて。」

 

「ああ、そういうことですか。改めまして、私は鳳翔といいます。そちらは龍鳳さんです。」

 

「よ、よろしくおねがひします!」

 

微笑む鳳翔と緊張した様子の龍鳳を交互に見直す。

サラトガはそれを何度か繰り返すと、こくりと頷いた。

 

「ホーショーにリューホー・・・うん、覚えました。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

三人は暫く話に花を咲かせていた。

自己紹介を交えてのものだったが、お互いのことを知るいいきっかけだった。

話が一区切りついたところで、そういえばと鳳翔が話題を変える。

 

「お身体は問題ないのですか?まだ指揮艦の中で休まれていたほうが・・・。」

 

「私はアイオワや他の娘が庇ってくれたおかげで小破ですから。大丈夫です。」

 

「無理はしないでくださいね。私たちがちゃんと、お守りしますから!」

 

胸の前で両手を握りこぶしにして、龍鳳が鼻をフンスと鳴らして意気込んだ。

 

「お三方、お話中すみません。」

 

「ひゃ!?だ、だれですか!?」

 

突然頭上から声をかけられ、龍鳳はまたも飛び上がった。

驚きすぎて心臓が破裂しないか、心配ものである。

 

「この声、あなた方の指揮官では?」

 

流石に落ち着いた雰囲気のサラトガは、驚くことも飛び上がることもなかった。

冷静に声の主の検討をつけている。

 

「なんでしょうか、安住少佐。」

 

聞こえてきたのは、指揮艦の上から双眼鏡を使って周囲を見渡していた安住の声だった。

すぐ近くに三人がいたため、無線を使うまでもないと判断したのだろう。

 

「水を差して申し訳ありません・・・鳳翔さん。大丈夫とは思いますが念のため、対潜哨戒をお願いします。」

 

「そうですね、もう一度出しておきましょうか。」

 

慎重な安住の要請を受諾した鳳翔が風上へ移動し、澄み渡った青空を見上げる。

そして大きく深呼吸をして、三人が見つめる中、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

瞳を瞼で覆い空を仰いでいた彼女が、自然な仕草で矢筒から矢を抜き、弓へつがえる。

 

弓を上段へ掲げるゆっくりとした、それでいて優雅な動作に目を奪われる。

 

弦を引き絞った今も、目は閉じたままだ。

 

どれほど深く集中しているのだろうか。

 

睫毛の微かな震えすらも無いその横顔は、精巧に作られた剥製のようで。

 

けれど風に靡く1つに束ねられた髪が、否定するように揺れている。

 

眩しい朝の光を受けたその姿を、一瞬見失う。

 

次の瞬間には、既に矢は解き放たれていて。

 

空を裂いて飛ぶそれが(まこと)(かたち)を成した時。

 

ようやく開かれた瞳に深緑の翼を写して、愛おしそうに目を細めた彼女を。

 

ただただ『美しい』と、思った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第32話です。

いかがでしたでしょうか。

今回は短めです。
鎮守府への帰還途中での一幕でした。
今後も長かったり短かったり、ばらつくと思いますが、よろしくお願いします。

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話「会談」

ーーーーー鎮守府・08:21(マルハチフタヒト)ーーーーー

 

 

 

鎮守府の港に1隻の輸送船が到着した。

船体の各所に見られる損傷から、道中の戦闘の激しさが窺える。

その船上では船員が慌ただしく動き回っていた。

 

「とりあえず桟橋に船をつけるぞ!負傷者の移送準備いいか!」

 

「受け入れて貰えるんだろうな!?」

 

「大佐たちが話をつけてくれているはずだ!心配するな!」

 

やがて輸送船が桟橋に接舷すると、タラップが掛けられた。

担架に乗せられた負傷者が慎重に船から下ろされていく。

 

「医療棟はこっちだ、手伝うぞ!」

 

桟橋の反対側に接舷した指揮艦や工厰からも続々と人が集まってきている。

負傷者が搬送される様子を横目に、軍服に身を包んだ将校らしき人物が2人、別のタラップから桟橋に降り立った。

中年くらいの将校が、走り回っている士官を呼び止める。

 

「君、ちょっといいかね。」

 

「何でしょうか。」

 

呼び止められた士官は息を切らせながらも背筋を伸ばし、中年の将校に敬礼した。

 

「ここの責任者と話がしたいのだが。」

 

「そのお話は私が引き受けます。伍長は負傷者に手を貸してあげてください。」

 

「はっ!」

 

士官が言葉を返そうとするよりも早く、会話に割り込んだのは安住だった。

指示を受けた士官が、負傷者を運び出す人の中に走っていく。

その姿を見届けると安住が将校たちに向き直って敬礼した。

 

「安住 護 少佐です。」

 

「アルバート・S・マッケンジー大佐だ。」

 

「ルーカス・ウィナー少佐です。」

 

将校たちも敬礼を返し、それぞれ名乗った。

中年で風格のある方がアルバート、若年で安住よりも体格のいい方がルーカスというらしい。

 

「そうか、君が艦娘の指揮を執っていたアズミか。」

 

「危ない所を救っていただき、感謝します。」

 

「いえ、救援が遅くなってしまい申し訳ありません。」

 

「こうして無事に着けたのだ。誰も文句は言うまいよ。」

 

「お気遣い、感謝致します。」

 

挨拶もそこそこに、安住が話を戻そうとする。

 

「責任者との面会の件ですg「霧島あぁあああぁぁぁああぁぁ!!!」

 

背後から聞こえてきた大声に、安住の声がかき消される。

アルバートたちが声のした方を見ると、傷ついた艦娘に駆け寄る男の姿が見えた。

 

「テイトク!?ナンデココニ!?」

 

「ヒドイケガジャナイカ!!ハヤクニュウキョ・・・イヤ、サキニテアテカ!!」

 

「チョッ!!ユックリナラアルケマスカラ!!ハズカシイカラヤメテクダサイ!!マッテ・・・ヒ、ヒエー!!」

 

将校であろう男は艦娘をお姫様だっこすると、建物の方へと走り去っていった。

 

「・・・ハリケーンのような男だったな。」

 

「・・・一体何だったんでしょうか。」

 

一連の出来事に唖然とする2人。

 

「・・・・・・あれが、ここの責任者です・・・。」

 

そう言って片手で顔を覆った安住を見て、アルバートとルーカスは再び唖然とするのだった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府 応接室・09:05(マルキュウマルゴー)ーーーーー

 

 

 

アルバートたちは鎮守府本庁舎の応接室に通されていた。

上等なソファに腰を下ろした2人と向き合う形で、中年の大柄な男が対面のソファに座っている。

 

「いやぁ先程はお見苦しい所をお見せしてしまったようで。」

 

男は苦笑いを浮かべて頭の後ろをボリボリと掻いた。

そして咳払いを1つして、真剣な表情を作り、敬礼する。

 

「申し遅れましたが、私がこの横須賀鎮守府を任されている比良 源治郎 大佐であります。」

 

2人も敬礼を返し、お互いの自己紹介が終わった頃、応接室の扉をコンコンと叩く音がした。

 

「安住です。お茶をお持ちしました。・・・っとと。」

 

「おお、入ってくれ・・・っと、手が塞がってるかな。今開ける。」

 

扉越しに聞こえた安住の声に反応して、比良が立ち上がって扉を開けた。

 

「失礼致します。ありがとうございます、提督。」

 

部屋の中へ入ると、安住は応接机に持ってきた物を置いていく。

 

「マッケンジー大佐、アイスコーヒーです。」

 

「うむ。」

 

「ウィナー少佐は、アイスティーでしたね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「提督は緑茶で良かったですよね。」

 

「ああ、熱いやつな。」

 

各々に配られた飲み物に口をつける。

そして一息ついたところで、アルバートが話を切り出した。

 

「早速で申し訳ないが、話をさせてほしい。」

 

「まずは我々の救援要請に応じてくれたことに感謝の意を示したい。」

 

「本当にありがとう。おかげで乗組員たちや残った艦娘を犠牲にせずに済んだ。」

 

「私からも感謝します。」

 

米軍の将校が揃って頭を下げる光景に、比良と安住は言葉がでなかった。

顔を上げたアルバートが再び話し始める。

 

「さて、ここからが本題・・・いや、いくつかの要求になるか。聞いてもらいたい。」

 

「まず艦娘と船員たちの治療に食事。輸送船および艦娘の艤装の修理、補給。」

 

「艤装の修理に必要なデータは後でお渡しする。データはそちらの好きに扱って貰って構わない。」

 

「最後に、輸送船の修理完了後、ここから我々の目的地までの護衛をつけて貰いたい。」

 

「不躾な頼みであると分かっているが、どうか聞き入れてはくれないだろうか。」

 

話を聞き終えて、比良は顎に手をやり目を閉じた。

どうすべきか思案しているのだろうか。

 

(・・・・・・中々に無茶な要求だが、どうだ・・・。)

 

(最悪、治療と食事だけでも約束してくれないでしょうか・・・。)

 

応接室に沈黙が続く。

アルバートとルーカスの顔に汗が浮かび、頬を滑り落ちていく。

やがて比良が顎から手を離し、目を開いた。

 

「・・・・・・1つ、お聞かせ願いたいことが。」

 

「何だろうか?」

 

「あの輸送船の積み荷は、一体何ですか。」

 

「在日米軍基地への機材や武器弾薬、食料等だ。」

 

受け入れる側としての当然の質問に即答で返すアルバート。

積み荷について聞かれることは予測済みだったのだろう。

しかし、比良は首を傾げて不思議そうな顔をした。

 

「・・・それだけですか?」

 

「どういう意味だね?」

 

「物資の輸送にしろ艦娘の移送にしろ、いまだ生きている空路を使えばいい話なわけで。」

 

怪訝な顔をしたアルバートの眉がピクリと動く。

 

「わざわざ危険を冒してまで海路で輸送する必要が・・・いや、しなければならなかった物があるのでは、と思いましてね。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「そう睨まないでください。外部からの来訪者を受け入れる以上、聞いておかなければならないことなのですから。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「補給物資だと思っていた物が、実は深海棲艦の生体サンプルで、ちょっと目を離した隙に脱走されて基地が全滅しました。・・・なんて事態が起きても困りますからな。」

 

そう言った比良は表情と声色こそ冗談めいていたが、目だけは笑っていなかった。

射殺(いころ)さんばかりの視線に耐えられなくなったのか、アルバートが目を逸らした。

 

「・・・情けない話だが、我々も今積んでいる物資の全てを把握しているわけではないのだ。」

 

「度重なる襲撃で海中に投げ出されてしまった物も多い。」

 

「なにより、船団の責任者を乗せた船が沈んでしまっている。」

 

「私より上の階級の者も全員、道半ばで戦死した。」

 

「そんな状態だから搭載品リストとの照合もままならんが、たしか気圧の変化に弱い精密機器を多く積んでいたはずだ。」

 

「言い訳ばかりだが、代官の私では君の疑問に満足いく答えを返せない・・・。」

 

「本当にすまないと思う。だからどうか、部下や艦娘たちのことだけでも・・・。」

 

話していてこれまでの事を思い出したのだろう。

悔しげにアルバートは顔を歪めて俯いた。

 

「・・・・・・顔を上げてください、大佐殿。」

 

視線を上げると、先程までの厳しい表情を崩した比良の姿が見えた。

 

「あなた方の要求、聞き届けました。修理、補給、治療に食事。護衛の件もお任せください。」

 

「い、いいのかね?」

 

要求を快諾されるという予想外の返答に驚き、アルバートは思わず聞き返した。

 

「勿論です。上からは最大限、力になるよう言われています。」

 

そう言った比良は笑みを浮かべ「それに」と付け足す。

 

「上からの命令がなくとも、できる限り力になるつもりでしたよ。我々は敵ではないのですから。」

 

そして、事後報告はお家芸だと冗談めかして比良は豪快に笑ってみせた。

 

「・・・助かるよ。無茶な要求を快諾して戴き、感謝する。」

 

アルバートたちがほっと胸を撫で下ろし、場の空気が和んだ所で比良が申し訳なさそうに切り出す。

 

「先程は無礼な質問をしてすみませんでした。」

 

深々と頭を下げる比良をアルバートが手で制した。

 

「いいんだ。『ご挨拶』といったところだろう?ああいうのはこちらもよくある。」

 

「そう仰っていただけると、こちらも助かります。」

 

「さて・・・。」

 

残っていたコーヒーをぐいっと飲み干し、アルバートが席を立った。

軍棒をかぶり直して扉へと歩いていく。

 

「皆に受け入れて貰える旨を伝えに行くとするよ。」

 

「それならば私が行きます。大佐はお休みになってください。」

 

やり取りを静かに聞いていたルーカスが慌てて立ち上がり、制止させようとする。

 

「負傷者の手当てや移送も、人が足りていないだろう。私だけ休むわけにはいかないさ。」

 

「しかし・・・!」

 

小言は後で聞く。今は見習おうじゃないか、なぁルーク。」

 

「!!・・・わかりました。私も同行します。」

 

ルーカスが諦めたのを見て、アルバートは軍帽のつばをつまむと僅かに顔を振り向かせた。

 

「ヒラ大佐、アズミ少佐。我々はこれで失礼するよ。」

 

「はい。後程、皆さんに冷たい飲み物をお届けします。」

 

「ありがとう、アズミ少佐。」

 

敬礼する安住に微笑みを返し、ルーカスが開けた扉を出ようとする。

 

「マッケンジー大佐、もうひとつだけお聞きしても?」

 

「何かな?」

 

比良の問いに再び立ち止まる。

 

「護衛先の目的地は、一体?」

 

「ああ、伝え忘れていたな。」

 

アルバートは、ひとつ大きなため息をついて静かに言った。

 

「・・・・・・佐世保だ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第33話です。

いかがでしたでしょうか。

色々あって更新が滞ってしまいました(;_;)
またちびちびと書いていこうと思いますので、よろしくおねがいします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話「ドッグファイト」

同盟国船団を無事に救出し、鎮守府へ迎え入れて数日。
よく晴れたその日、空には朝から発動機の駆動音が響いていた。


ーーーーー鎮守府湾内・05:00(マルゴーマルマル)ーーーーー

 

 

 

鎮守府の広い湾内。

薄く白みだした空に、白い機体が4つの編隊を組んで飛行していた。

先頭を行く編隊は零式艦上戦闘機二一型で構成されている。

隊長機の垂直尾翼には、白カラスのエンブレムが描かれており、鳳翔制空隊の機体だとわかる。

 

残りの編隊を構成するのは零式艦上戦闘機三二型。

先日の船団への上空援護の際、鳳翔、赤城、加賀の制空隊が駆っていた機体だ。

二一型との外見的な違いは主翼端を切り落とし角形翼端としたことで、横転(ロール)性能などの向上を図った機体である。

主翼に内蔵された20mm機関砲の装弾数も増加しており、二一型の性能向上型といったところだ。

ただ、主翼長が短くなった影響か航続距離が短くなってしまったのが難点か。

 

先導して飛んでいる二一型の隊長機から、三二型の編隊にいる機へと通信が入る。

 

「どうだ、飛龍の。三二型の乗り心地は?」

 

「操縦席の座り心地は二一型とあまり変わらないです。でも、かなり素直に横転してくれるから気持ちいいですね。」

 

そう言うと飛龍の妖精は機体をくるりと横転させ、背面飛行をしてみせる。

まだそんなに飛んでいないのに機体を自在に操るあたり、二航戦は伊達ではないということか。

 

「まさか、100発入り弾巣どころか、新型機まで持ってきてくれるとは、流石は提督ですね。」

 

「うんうん、二一型では20mmの弾切れに悩まされることもあったけど、こいつならイライラせずにすみそうです。」

 

「そうか。だが弾数が多いからといって無駄撃ちはするんじゃないぞ、蒼龍の。」

 

「了解であります、教官殿。」

 

蒼龍の妖精とも話していると、一番後ろの編隊の機が恐る恐るといった声色で話しかけてくる。

 

「あの、でもよろしかったんでしょうか・・・。」

 

「何がだ?龍鳳の。」

 

「教官殿や一航戦の先輩方を差し置いて、我々が新型を頂いてしまって・・・。」

 

龍鳳の妖精が不安そうに聞くが、鳳翔の妖精はそんなことかと思った。

しかし、その疑問ももっともなので教えてやることにする。

 

「俺たちも三二型の試作機に乗ってみたが、二一型よりも素直に動く分、ヒヨッ子のお前らを乗せた方が逃げ回って生き残りやすくなるだろうって結論になってな。提督と少佐に具申したんだ。」

 

「そ、そういうことだったんですね・・・。」

 

第一線で活躍する先輩妖精たちでなく、自分達に新型機が配備された理由が分かって龍鳳の妖精は安堵したようだ。

 

『皆さん、談笑されている所失礼しますが、そろそろ始めましょう。』

 

会話に割り込んできた安住の声で、本来の目的を思い出した妖精たち。

鳳翔の妖精が準備はすでに整っていることを伝える。

 

「もうそんな時間か。少佐、こちらの準備は整っている。いつでもいいぞ。」

 

『了解しました。それでは、模擬空戦を始めます。まずは蒼龍隊からお願いします。』

 

「承知した。飛龍と龍鳳のは指定空域へ向かい、高高度へ退避せよ。」

 

鳳翔の妖精の指示に従い、編隊が2つ離れて高度を上げていく。

 

「蒼龍隊の先輩方、ご武運を!」

 

「二航戦の意地をみせてやれ!教官たちに下克上するんだぞー!」

 

龍鳳と飛龍の妖精からのエールを受けて、蒼龍の妖精たちに気合いが入ったようだ。

 

「よっしゃあ!やっちゃるぞ!」

 

蒼龍隊が左旋回して編隊から離れていく。

それと同時に鳳翔隊は右旋回を行い、距離をとる。

 

『それでは一度離れた後、お互いの編隊がすれ違ったところで模擬空戦を開始します。』

 

「「了解。」」

 

十分に離れた2つの編隊が、先ほどとは逆方向に旋回して向き合う。

その距離は徐々に縮まっていき、戦闘開始の時が迫る。

離れた距離が近づく程に緊張感が高まっていく。

遠くに見える山の間から朝日が顔を覗かせはじめた。

 

『模擬空戦、開始!』

 

安住の声と同時に双方の機体がエンジンを噴かして速度を上げる。

 

「「各機散開!」」

 

お互いがすれ違ったところで、編隊飛行を崩して機体が上下左右に散っていく。

空戦が始まり翼を翻す度に、白い機体が朝の光を反射してキラキラと美しく輝いていた。

 

 

 

ーーーーー鎮守府湾内・11:38(ヒトヒトサンハチ) 上空ーーーーー

 

 

 

太陽が天高く昇り、そろそろお昼時にさしかかる頃。

数度の休憩と補給を繰り返しながら、いまだに模擬空戦は続けられていた。

 

「うおおお!ふ、ふりきれない!?」

 

三二型が白カラスの二一型に追いかけ回されていた。

その機体にはいくつもの塗料が付着し、ペイント弾によって被弾したことを意味していた。

一方、二一型には塗料は一切付着しておらず、かすりもしていないようだ。

 

「どうした飛龍の。二航戦の意地とやらはその程度か?」

 

「くそぉぉぉ!」

 

機体を左右に旋回させて逃げようとするも、二一型がぴったりと後ろに食いついて離れない。

まるでこちらがどう動くのかが分かっているかのように、どこへ逃げてもふりきることができないでいた。

 

「まだまだヒヨッ子だな。あとはお前だけ・・・そろそろ終わりだ。」

 

「飛龍のためにも、何度もあっさりやられてやるわけにいくかぁ!!」

 

照準に捉えられて撃たれる寸前、飛龍の妖精は機体を左へ45度程横転させて左斜め宙返りに入った。

二一型もそれを追って宙返りを始める。

 

(かかった!今だ!!)

 

自身の機体が180度方向を変えた時。

つまり、宙返りの頂点に達した所で飛龍の妖精がかすかに右へ機体を傾け、ラダーを右へ切った。

すると機体は海面に対して垂直に90度傾いた姿勢となり、その姿勢のまま緩やかな軌道で緩降下しながら宙返りを続けていく。

これで、追ってきていた相手はこちらの姿を見失い、宙返りの開始点に戻るころには前後が入れ替わり、相手は一転して追われる側になる・・・はずだった。

 

「これで後ろをとれ・・・てない!?」

 

ぞっとして後ろを振り返ると、そこには二一型がぴったりとついてきていた。

 

「そんな見え見えの捻り込み()()()に、誰が引っ掛かると思ったんだ?」

 

「くそっ!まだだ!」

 

飛龍の妖精は三二型の横転性能を活かして、今度は右へ急旋回して離脱を図った。

逃がすまいと後を追う鳳翔の妖精は、ここで違和感に気づく。

三二型の速度が急に落ちたのだ。

 

(ほう・・・発動機の出力を絞るだけでなく、フラップを使って速度を落としたか。)

 

教え子の成長を実感し噛み締めながらも、手を抜いてやる程甘くないのが、この妖精だ。

自機の速度が相手よりも速くなったとみるや、上昇して速度を落とし、あくまで背後から離れない。

 

「よく頑張ったが、ここまでだ。」

 

その言葉と共に、二一型の機首の7.7mm機銃からペイント弾が掃射され、三二型に新たな被弾跡となる塗料を付着させていく。

 

「うっそだろぉぉぉ!?」

 

『三二型、飛龍制空隊隊長機の被弾を確認。撃墜です。』

 

飛龍の妖精の絶叫がこだまする中、安住による撃墜判定が下された。

どうやら、下克上は叶わぬ夢と消えたようだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第34話です。

いかがでしたでしょうか。

船団の援護に駆けつけた際の、鳳翔隊の妖精が言った台詞を覚えていますでしょうか。
『慣れない機体』と言っていたのが、三ニ型です。
第30話の中でも、『白い艦載機』としか書かなかったのは、わざとです。
気になった方は是非読み返してみてください。

あと、話ごとに数字や英語が半角だったり全角だったりバラついているのはすみません。
その時の気分で変えてたりするので・・・。
この話だけは28話くらいと同時に書いてたりしたので特にぶれてるかも(-_-;)

では、また次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。