『TDD-1建造』相良宗介、軍曹から提督へ (ローファイト)
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第一話、宗介転移

メリダ島決戦からの異世界転移
第一話は宗介がこの世界で生きて行こうとするお話です。




メリダ島最終決戦。世界改変を阻止した宗介だったが、運命は残酷にも彼を絶望の淵に立たせる。

核ミサイルがこの島にもう間もなく到達するのだ。

脱出手段もなく、攻撃手段も防御手段も失い半壊した宗介の愛機レーバテイン、その自立型AIであるアルと共に最後の時を待つばかりだった。

 

すでに、恋人の千鳥かなめ及び戦団長テレサ・テスタロッサ率いるミスリル残党兵団の脱出を確認した。ミッションはすべてクリアされた。幼いころから、戦士として生き、戦場で死ぬと漠然と思っていた。もはや、思い残す事はないはずなのだが……

彼は願ってしまった。まだ生きたいと、あの、光のような穏やかな日常に戻りたいと。自然と涙する。

 

核ミサイル着弾まで、後30秒

アルが宗介に問う。

AIであるはずのアルがこの最期に問うてきた質問がこれである。

「軍曹、私は人なのでしょうか?」

ただのAIではない事は宗介も分かっている。時には、冗談を言い、時には、叱咤激励まで……宗介にとっては、ただの機械ではない、もはや命を預ける事ができる長年の相棒として認識していた。

「自分で考えて見ろ」宗介はアルに対して最後の言葉をかける。

 

 

 

 

そして、彼らは光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西太平洋、硫黄島からさらに南…メリダ島鎮守府

 

「アル、基地の修復は状況はどうなっている」

 

「現状ではメリダ島施設全体の約70パーセントまで回復。あと2週間で完全修復可能です」

 

「そうか……俺たちが、元に戻れる手だては見つかったか?」

 

「不明です」

 

「そうか、致し方ないが生きるためにも今を進むしかない。そういうことだな」

 

「肯定です。相良【提督】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さかのぼる事、1か月前

 

ミスリルのエージェント:ウルズ7相良宗介軍曹とその相棒学習するAIアルは、メリダ島で最後の時を待つばかりであったが、AIであるはずのアルが自身の人格を認識し、ラムダ・ドライバを発動したのだ。

しかし、それがきっかけに、メリダ島ごと別次元に飛ばされる結果となる。

 

 

そこは地理上は元いた地球と全く同じ姿をしていたため、別次元に飛ばされた等とは宗介もアルも最初は思いもしなかった。

アルは半壊したレーバテインの生きているセンサー類により、情報収集を行うが、位置情報や日時を計測するが、正常な計測値が算出されない。

無線は磁気嵐のようなジャミングがかかり、軍事衛星通信などを経由しようとするが、さっきまで在ったはずの軍事衛星はその存在すら見当たらない状況であった。

 

その間、宗介はメリダ島に敵の残党、もしくは味方の生き残りがいないか基地内部及び島全体を捜索したが、誰も見つからなかった。それだけではない、そこに在ったはずの敵味方の死体自体がきれいさっぱり消えていた。目の前で息絶えたはずのレナードやカリーニンの死体すらも。しかし、基地の破壊状況、ASの残骸などは宗介が見てきた通りに激戦の傷跡として残ったままである。

 

基地の生きている通信機器を使って周囲に呼びかけるも反応は皆無。

 

 

宗介とアルは状況が分からないまま、しばらく過ごすことになる。

とりあえずは、アルの体ともいえる半壊したレーバテインを基地のドックにかろうじて動く事が可能なASで運び雨曝しを防ぐ。

 

アルは基地内の生きているコンピュータとリンクし、基地のライフラインの復旧とレ―バテインの修理を試みる。

 

宗介はその間も基地内の状況調査や他の生き残りがいないかを詳細に調査をしていった。

すると宗介は基地内のメイン電源ルームで奇妙な光の柱を見つける。

それは半径50センチ高さ2メートルほどの淡い光の柱だ。

 

宗介が近づくと、その中から人影が現れる。

しかし、驚くことにその人影は明らかに人ではない存在だった。

 

それはかろうじて人の形はしているが身長40㎝ほど、体のバランスは2頭身、ぬいぐるみの様な愛らしい容姿をしていた。

宗介は驚きながらも長年戦士として培ってきたその体はとっさに銃を突きつけた。

 

「何者だ!!」

 

「ん?君がここの王様?」

その存在は宗介に首を傾げながら聞いてきた。

 

そう、彼女らはこの世界で言う妖精という存在であった。

 

これが宗介たちのこの世界で初めて会った知的生命体であった。

 

 

 

 

それから宗介はアルとともにこの妖精なる生命体とコンタクトを取り、情報を得ることになる。

総合して考察した結果、元いた世界によく似ているが、別世界だということが分かる。

この妖精もこの地に初めから存在したわけではなく、別世界から呼ばれてきているらしい。

妖精は、この地の王の補助をするために召喚されてきた。その王とはこの地を守護し、深海にすむ悪鬼と戦う使命をまとったものの事を言うそうなのだが、宗介たちにはイマイチぴんと来ない。

妖精たち曰く、宗介はこの島の王の資格があるらしい。そして彼らは、深海の悪鬼どもと戦う王を提督と呼ぶ。

 

宗介はこの世界の情勢を妖精に聞いてみるが、妖精たちもよくわからないらしい。

結局は別世界だということが分かっただけで、現状は何も変わらないと一緒であった。

 

ちなみに、妖精たちとは、最初に出会った妖精から次々と現れ、今では50人もの妖精が召喚されていた。この地の活性化することにより、土地のエネルギーが充実し。妖精を召喚できる人数が増えるらしい。

さらに、過去に失った人の思いが詰まったある特定の兵器を付喪神として現代に呼び起こすことができるというのだが、何のことか今の宗介たちにはわからなかった。

 

とりあえず、宗介はこの妖精たちから提督と呼ばれ、何かをなしたいと要求してくるのだが、

この地を守護し、深海の悪鬼を倒すなどと言われても、その悪鬼どもがどこにいるのか何者なのかもわからないため。実際に何をしたらよいのかもさっぱりわからない状態だ。

宗介はとりあえず、このメリダ島のライフラインの復旧とレーバテインの修復を手伝うように指示をした。妖精たちは初めて見るだろうメリダ島の施設設備を興味深そうに見て、しばらくすると壊れている個所を直そうと働き出す。最初は失敗ばかりしていたが、アルが映像を使って丁寧に説明すると、みるみる知識と技術を吸収し、今では順調に設備が復旧していくのであった。レーバテインについても同じでアルの指示に従い、着実に修理が進んでいく。

 

 

 

宗介とアルがこの世界に飛ばされて、2週間、そして妖精と出会って10日目にあたる。

レーバテインが完全復旧したのだ。元いた世界では、2か月はかかっただろう修理もわずか10日で復旧したのである。これは妖精たちの働きによるものだった。

 

ちょうどそんな時事態が動いた。

宗介はアルからメリダ島から10キロ離れた沖合で、戦闘行為が行われていると報告を受ける。

 

宗介は早速復旧したレーバテインに乗り込み、レーバテインのセンサーを活かし、その戦闘海域の状況を確認した。

各種センサーでは何やら人サイズのものが海上を高速機動し、高熱源体が飛び交っていた。どうやら、本当に戦闘が行われているらしい事が確認できる。

 

しかし、こんなにも小さなものが、海上を高速でしかも、高威力の火力で撃ち合うことができるのものだろうかと宗介は疑問に思う。

 

宗介は望遠モード直接視認する。

そこには驚きが広がっていた。

 

 

「アル、俺は夢でも見ているのだろうか?」

 

「軍曹、私もそう思わずにいられませんが、これはまぎれもなく現実です」

 

 

そこには、うら若き少女たちが海上を駆け回り、何やら薄気味悪い生物らしき物体と激しく砲撃戦を展開していたのだ。

 

 

「………」

 

宗介はしばらくその情景を唖然と見ていたが我に返る。

 

どう考えても、少女たちの方が物量的に不利な状況なうえ、その中にどうやら小学生ぐらいの子供までいるようだ。

情勢は5:1で少女たちが劣勢……少女たちは必死に抵抗しているが……もはや時間の問題だろう。

 

「アル、やるぞ」

 

「どちらに味方を?」

 

「決まっているだろ!!」

 

「了解、ガンハウザーモードに切り替えます」

 

「デモリッションガン、ガン・ハウザーモード、照準は任す、狙いはあの訳が分からん生物兵器だ!!」

 

「了解(ラジャー)、ラムダ・ドライバ起動」

 

「少女たちには当てるなよ」

 

「了解…照準…3・2・1」

 

「ファイヤー!!」

 

ズガーーーーーーーンン!!

 

レーバテイン最大の武器デモリッションガン、ライフル型の165mm破砕榴弾砲。あまりにも高威力のため、ラムダ・ドライバの補助なしでは発射させることもままならない。

 

レーバテインは次々と165mm破砕榴弾を発射させ、一撃の下にその不気味な生体兵器を粉砕していく。明らかにオーバーキルではあるが、レーバテインが現在標準で携行している武装の中で遠距離攻撃が可能な武器はこれだけである。しかも最大射程30㎞まで精密射撃が可能なのだ。あの戦艦大和の46㎝砲より射程が長く、威力は段違いに高い。

補助ユニットとしてロケット砲や、赤外線追尾対空ミサイルなどがあるが現在装備していない。

 

 

そして、不気味な生体兵器群の4割を粉砕したところで、彼らは撤退を開始し、深海へと帰っていった。

 

「なんだったんだアレは?」

宗介はコクピットでAIのアルに話しかける。

 

「データ無し、詳細不明、但し、妖精らが語っていた『深海に住まう鬼』と推測します」

 

「その可能性が高いな、少女たちの方は?」

 

「全員生存しておりますが、生命反応が弱い者もおります」

 

「こちらからの救助は可能か?」

 

「現在は不可能ですが、不明生体兵器撤退後から、無線通信は可能なようです」

 

「呼びかけてみてくれ」

 

「了解、通信来ます」

 

『こちら、日本国横須賀鎮守府所属、トラック鎮守府、第六偵察部隊、旗艦神通。援護感謝いたします』

若いが凛とした口調の女性の声が無線から響いてきた。

 

『……相良宗介軍曹、所属は機密故、黙秘を行使する』

宗介は相変わらずの高圧的な名乗りをあげる。

横須賀鎮守府なるものは元いた世界にはなく、米軍横須賀基地ならば存在したが……やはり、ここは別世界だと改めて思い知らされた。

 

『日本語………軍曹?貴方は友軍なのですか?』

 

「あなたは今はこのメリダ島の司令です。ミスリル所属の軍曹ではありません。妖精からも言われた通り、提督を名乗るべきです」

アルは宗介にそう進言する。

宗介は、人間は存在しないが、AIのアル、それと異世界の妖精達50人のを率いる曲がりなりにもメリダ島の最上位の責任者なのだ。

 

『コホン、いや、失礼しました。自分は現在どこにも属しておりません。仮ではありますがこの島の責任者をしている身。軍曹は忘れてください』

宗介は態度を改め敬語を使うが、どこか偉そうだ。

 

『そうですか……友軍でもないのに、厚かましいのは重々承知なのですが、すでに退路も、物資も尽き、大破……重傷者も出ており、その、貴殿の島に着寄させていただけないでしょうか?お願いいたします』

神通は悲壮な声で訴えかける。

 

「アル……」

宗介はアルに意見を求める。

 

「この世界の住人から情報を得られるいい機会です。流石に基地ドックからは無理ですが、浜から上がって来てもらいましょう」

 

『了承します。島東部にある浜から着岸してください。貴部隊を歓迎します』

 

『ありがとうございます。本当にありがとうございます。感謝いたします』

 

こうして、彼女らにメリダ島上陸許可を出したのだった。

 

 

 

 

 




次は艦娘達との対談です。
レーバテインとアルに驚く艦娘
艦娘に驚く宗介かな?


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第二話 この世界について

得体のしれない生体兵器らしき禍々しい存在と海上で高速機動での砲撃戦闘を繰り広げていた少女たち。

彼女らは圧倒的物量差に窮地に追い込まれていたが、宗介が搭乗するレーバテインの援護砲撃により、危機を脱し、メリダ島東部浜辺に寄港することになった。

 

 

宗介はレーバテインから降り、野戦服姿で彼女らを出迎える。明らかに負傷者がいたため、妖精達に、救護の受け入れ準備の手配を申しつけていた。

宗介の後方ジャングルでAIアルが操作するレーバテインが森の中に潜み、様子を伺っている。

彼女らを変に怖がらせないための配慮と、もし、害意があるものだった場合と、何者かに付けられていた場合を考えての待機だったのだが、宗介はレーバテインにECS(光学迷彩)を取り付ける事を今度妖精に頼んでみようと考える。

 

彼女らは戦闘海域から20分程でこちらに到着する。

 

「アル、やはりどう見ても少女だな、俺よりも年齢は皆低いように見える」

宗介は耳に直接取り付けている超小型無線機でアルに問いかける。砂浜まで来た彼女ら6人を見て、若干驚きながらアルにそう言った。

 

「はい、ですが、先ほどの戦闘は通常の人間では考えられない様な動き、戦闘力を擁していました。妖精たちの話から、彼女らが付喪神である可能性が高いと判断したします」

確かに彼女らは背中に背負っているバックパックの様な武装群以外は何も持っていないのだが、明らかに、人間の動きでは不可能なスピードと戦闘力を持っている様だった。

 

「アレか、過去の没した艦などが、付喪神として顕現するという奴だな……にしてもなぜ少女の姿なのだ?」

 

「わかりかねますが、船は昔から女方だという風習があります。……来ましたね」

アルが説明している途中だったが、彼女らは浜に上がって来るのが見えた。

 

 

「寄港のお許しを頂きましてありがとうございます。私は日本国横須賀鎮守府所属、トラック鎮守府駐留、第六偵察部隊、旗艦神通と申します」

宗介と年は同じか若干下の凛とした佇まいの白いハチマキが印象的な少女がお礼と自己紹介をしながら深く頭を下げた。

無線で宗介と通話した少女である。

 

「この島……メリダ島の責任者相良宗介。貴官らを歓迎する。早速だが負傷者の手当ての手配をしている。こちらの誘導に従ってほしい」

宗介も簡単な挨拶と負傷者の救護を優先させる。

彼女らは、神通と名乗る少女と同じくらいの年恰好の少女一人とそれより少し若い少女一人、そして、小学生高学年程度の姿がよく似た少女が三人、そのうちの一人が明らかに虫の息で、二人の少女が支えている。

 

「重ね重ねありがとうございます。なんとお礼を申したらよいのか」

 

「では、此方の車に乗ってくれ」

宗介は一般的な軍の大型4輪自動車に彼女らを促す。

 

宗介は負傷した少女を乗せるため手を貸そうとしたのだが

「清霜にさわるな!」

一人の少女が威嚇するような目を宗介に向ける。

 

「朝霜っ!」

神通と同じ年恰好の少女が宗介に威嚇した子を叱る。

 

「わかった。ゆっくり後ろに乗せてあげろ」

宗介は手を下げそう言って運転席に座る。

 

背中に背負った装備を荷台部分に乗せた後、運転席の宗介の横には神通そして、同じ年恰好の少女、川内、後部座席に彼女らより若干年若く見える秋月、荷台部分に負傷した清霜に足枕をしている早霜、そして、手を握る朝霜と小学生高学年に見える少女達だ。

 

「その、助けて頂いてありがとうございます……失礼ですが、あの、あなたは日本国の方ではないのですか?軍の方の様な言葉遣いもされていますし、軍の方ではないのですか?それにしても相当お若いようにお見受けいたしますが……」

 

「一応日本人らしいが、日本国の人間ではない。かと言って他国のスパイなどではない。身の潔白を明かすような物は一切ないが……逆に聞くが君たちは?俺より若いように見えるが」

 

「……そうなんですか、いえ、詮索するような真似をしてすみません。助けて頂いたのに…………その…私たちは『艦娘』です。ご存じないのでしょうか?」

神通は謝りながら下向き、躊躇するように自分たちの存在の名称を話す。

宗介はその単語を知らない。しかしこう話していると普通の少女のように見える彼女らは、アルの予想通り妖精が言う付喪神として、深海の悪鬼と戦う存在なのかもしれないという思いに至っていた。

 

 

「ふむ、艦娘?……取り合えず着いた」

宗介は入口が半地下になっている外来VIP用の施設の前に車を止める。

メリダ島の設備は監視衛星からも、見つからない様に地上の設備はほぼ無い。すべて地下にあるのだ。この施設は基地からも離れており、メリダ島最終決戦でも殆どダメージが無かった施設である。

 

 

「提督~、入渠の準備は済んだ」

すると40㎝程の妖精が2~3人入口で待っていた。

 

「入渠とはなんだ?医療設備ではないのか?」

宗介は治療の準備をするように言いつけていたのだが……

 

「うん、その子たちは専用のお風呂で直す」

 

「え!?入渠施設があるのですか!!ああ、なんて事でしょう、これでこの子も助かります」

神通は妖精達の話を聞いて、手を合わせ神にお祈りをするポーズを取っていた。

車に乗っていた艦娘達は顔が明るくなる。

 

「話が見えん。俺にも分かるように説明してくれ」

宗介は一人だけ会話に付いていけない様だった。

 

「提督、その子たちは付喪神だから、専用のお風呂で傷が治るの、だから、ここの施設に大浴場を作ったの」

 

「うむ、解せないが、君たちはその入渠施設の大浴場とやらでケガが治るんだな?この重傷の子もか?」

宗介は妖精の話を聞き、首を傾げながら神通に聞き直す。

 

「そうです!……という事はまごう事無きあなたは提督なのですね!!……すみませんが早速私共も、入渠施設を利用させてもらってよろしいでしょうか」

 

「了承する。着替えや部屋は適当に使ってくれ、妖精たちが綺麗にしてくれているはずだ」

宗介はそう言って施設に入るように言い、後は妖精達に任せた。

 

 

 

宗介は彼女らが入渠施設、いや風呂に入っている間、この宿泊施設の会議室で待つことにする。その間、妖精から色々と聞くのだが、イマイチ要領が得ない。

 

「アル、この世界は元いた世界とは随分仕組みが違うようだな」

宗介は耳の小型通信機でアルと会話をしていた。

 

「軍曹……いえ、相良提督も、もう少し頭を柔らかくした方がいいのでは」

 

「ほっとけ」

 

「彼女らが背負っていた装備だが……何か分かったか?」

車の荷台に乗せていた彼女らの装備を駐車場施設に置き、簡単に調査をしていた。

 

「はい、艦砲や電探などの装備が満載された、一種の武装ユニットです。コンパクトでありながら、高威力を発揮するようです。妖精達にも調べてもらいましたが……第2次世界大戦時の軍艦装備を模しているようです」

 

「ふむ、彼女らは自らを艦娘と名乗ったが、彼女らは第2次世界大戦の日本の軍艦だったという事か?」

宗介は淡々とアルと会話を進めていく。普通驚くところなのだろうが、既に妖精などという存在が現実として存在し、しかも寝屋を共にしている状況だ。今さらその程度で驚きはしないのだ。

 

「はい、神通、清霜、朝霜と名乗っておりましたが、全て、WW2で稼働し沈んだ艦船の名と符合します」

 

「神通とか言ったか?彼女が入渠施設がある事で、俺が提督だと言った。それは何故か?分からない事だらけだな」

 

「彼女らに直接聞く方が早いですね」

 

「だな」

 

 

 

 

彼女らが大浴場(入渠施設)に入ってから2時間後。

 

少女ら5人が会議室に入って来た。

彼方此方と傷だらけだった体は綺麗になり、着ていた服も新品同様になっていた。

彼女ら専用の戦闘服は、彼女ら同様、入渠施設の洗濯桶に漬けておくだけで直るらしい。

清霜と呼ばれる少女は深手のため、もう少し時間がかかる。

 

宗介は、便利なものだなと思う。普通の人間が彼女らと同様のケガを直すのに1週間程度かかるだろう。2時間程度でこのようには直らない。

 

改めてお互い挨拶と自己紹介をかわす。

「このメリダ島の責任者相良宗介だ。改めて貴官達を歓迎する」

 

「 私は日本国横須賀鎮守府所属、トラック鎮守府駐留、川内型軽巡洋艦2番艦、神通です」

 

「同じく、川内型軽巡洋艦1番艦、川内よ」

 

「秋月型駆逐艦1番艦、秋月です」

 

「夕雲型駆逐艦16番艦、朝霜だ。さっきは怒鳴って悪かったな」

 

「同じく、夕雲型駆逐艦17番艦、早霜です。今、まだ入渠施設に残っているのは、19番艦、清霜

、妹を助けてもらってありがとう」

 

 

「改めて、お礼申し上げます。相良提督」

神通は頭を下げこう言った。

 

 

「いやいい、ところで、君たちは本当に、過去の軍艦の付喪神なのか?」

宗介は確認のため、聞きにくい事もズバリ聞く。

 

「はい……思いや思念が形になったものだそうです。それが私たち艦娘なんです」

神通はそう答える。

 

「ところで、何故俺の事を提督と?」

神通が宗介に提督と言った理由を聞く。

 

そして、神通は語りだす。

「利用可能な入渠施設、そして妖精さん達が活発に活動し続けています。これは私たち艦娘を指揮できる貴重な能力を有している証拠です。そしてここは多分、鎮守府です。相良提督はどこの国にも属していないとおっしゃってますが、まぎれもなく、一個勢力となりえる存在なのです」

 

「うむ」

宗介は色々と新しい事実が出てきそうなため話を打ち切り、彼女らに食事の提案をする。

朝霜が話の途中で「腹減った」と小声で漏らしていたのだ。

どうやら、人間と同じものを食べるとの事だ。

食事と言っても宗介たちが出せるのは、料理ではなく、保存食とレトルト食品なのだが。

 

宗介はその間席を外しアルに一応、彼女らのこれまでの話を吟味し安全かどうかの確認をし、此方の状況を話すことにした。

 

改めて、年長者だろう神通と川内と話し合いの場を設け、他の艦娘達にはこの施設の部屋をあてがい、施設からの外出は禁止と条件はつけるが、施設内は自由に動いてもいいように言う。 一応監視カメラでの監視はアルの方で行ってはいる状況だ。

 

 

そして、宗介、神通、川内は会議室で話し合いを始めた。

アルはこの会議の場を監視カメラ及び盗聴で確認をしている。

 

神通、川内は軍規に関わること以外はほぼ話してくれた。

宗介が、ここに似たよその世界から来たことには、驚きの顔をしていたが、まれに、提督の能力を有する者に、過去や別世界の記憶を持った人間が現れるそうなのだが、丸々、転移したケースは聞いたことが無いそうだ。

 

 

大まかに話す。

現在この世界では深海棲艦と呼ばれる悪鬼が世界中の海域からどこともなく現れ、ほぼ、全世界の海域が支配されているとの事だ。

悪鬼共の目的は分からないが、人間の国、街を焼き払い。壊滅した国は幾つもあるらしいのだ。

 

日本は第2次世界大戦で敗北後、アメリカの管理下で国の運営を余儀なくされていたが、1950年頃それが一変した。

深海棲艦が世界中の海域に現れ出したからだ。

 

最初に確認されたのが、第2次世界大戦後、大凡1950年までにアメリカが頻繁に核実験を行っていたビキニ環礁地帯だった。ここでは多くの艦船が実験のために沈んだ場所でもある。

 

最初はアメリカも抵抗していたのだが、悪鬼共はほぼ人サイズでありながら、機動力も高くとてつもない威力の攻撃を繰り出し、アメリカの太平洋艦隊はほぼ壊滅状態に陥った。

さらに、アメリカ本土周辺にも、深海棲艦が現れ、アメリカは太平洋から撤退を余儀なくされた。

 

そして、世界各国に深海棲艦が現れ、街を焼き、国を崩壊させ、無線妨害を行い各国の孤立を促す。

特に悪鬼共が狙っていたのは、核施設だと言われている。

アメリカが最も力を入れていた事業であった。アメリカの経済はガタガタになる。

 

そんな中、特殊な能力を持つ人間と妖精が現れ。そして、悪鬼共に抵抗できる唯一の手段、艦娘が登場したのだ。それによって、海域を盛り返した国もあった。それが現在の日本国である。

アメリカが事実上日本から手を引き、独立国として発展していったそうだ。艦娘に関する一大軍事プロジェクトを立ち上げ、この10年で各国の応援要請に答える事ができるまで盛り返して来ていたのだ。

 

その最南端基地がインドネシアの北部トラック泊地鎮守府だったのだが、深海棲艦の一斉攻撃により、壊滅状態となった。最後にトラック鎮守府の提督が艦娘達ヘ本国撤退命令を出す。そして基地は自爆したのだ。そして散り散りになった艦娘達は、一路本国に戻らんとしたが、激しい追撃にあい途中で轟沈させられた艦娘もいたそうだ。

神通たちは偵察任務により、出ていた際の出来事で、泊地付近に戻った際には、既に撤退命令が下され、基地は燃え、仲間もやられていたそうだ。

神通達は命からがら本国に撤退していったのだが、何度も敵の追撃をかわしながら、ようやくこの近辺にまで撤退したのだが、そこで敵に大群に襲われていたところを宗介が救援したとの事だった。

 

途中で拾った無線回線ではフィリピンから台湾に向けての日本の基地もほぼ壊滅状態になっていたそうだ。それでこのルートを通って来たのだ。

この状況だと、硫黄島から小笠原諸島に掛けても、深海棲艦の支配下に既に入っているだろう。

 

 

現在は西暦1965年

1950年までの歴史はほぼ宗介が知っている知識と同じであった。

道理で、人工衛星も長距離通信やレーザー通信もできないはずだった。

どうやら、軍事レベルも1950年代に止まっていそうだ。

ほぼ、艦娘に依存している状態なのだ。

 

また、神通達が襲っていた奇怪な生体兵器は深海棲艦でも、下っ端らしく、強力な深海棲艦程、人型、女性の姿を模しているそうだ。

 

そして、2時間もの話合いの最後の方では

「相良提督、この島からの砲撃で、ト級やらハ級の深海棲艦をあっという間に倒していたけど、10キロ以上離れているのにあの精密射撃どうやった?でも、島に来たら、砲台とかないし、戦艦級の艦娘がいるわけでもなさそうだし、そもそも提督って艦娘知らなかったでしょ」

川内はそんな質問をしてきた。

 

「あれは相棒からの精密砲撃だ」

 

「提督の相棒って何?人間じゃないの?」

 

「姉さん!あまり詮索してはいけません。軍事機密は何処にでもあるものです。提督は日本国の人ではないのですから……すみません、相良提督、姉が無礼な事を聞きまして……」

神通は川内を叱りつけ、宗介に謝る。

 

「あっ、つい日本語が通じるし、見た目私と変わんないから、すみませんでした。相良提督」

川内はそう言って宗介に謝った。

 

 

「では、周囲状況が分かるまで、ここに滞在をして行くといい。此処の施設は自由に使ってもらっていい。但し、外出は許可できない。理由は二つ、君たちの素性は信じるに値するが、完全には信用は出来かねる。それと、不意に外に出ると、敵の偵察などにばれる恐れがある。すまないが従ってくれ。だが、なるべく君らの要求は聞くつもりだ。困った事があったらここに居る寮長に知らせてくれ。そのかわり、此方も分からないことだらけだ、色々教えてもらうと助かる」

宗介はそう言って今日の話し合いを終わりを告げる。

寮長とは個々の施設の管理を任せた妖精の事だ。

 

「了解しました。ご好意に感謝します」

「ありがとうございました」

神通と川内はそう言って深くお辞儀をし会議室を後しようと扉を引くと、朝霜と早霜、秋月が扉から崩れる様に顔を出す。

 

「あんたら、聞いてたの?」

 

「てへへっ、川内姉!すげーんだぜここ!ベットフカフカだし、水もうまいし、部屋に冷蔵庫ついてるんだぜ!!」

「清霜も、治ったみたいなんだけど、もう寝たから報告しに」

「あの~、こんなにおいしいお菓子をもらってもいいのでしょうか?」

朝霜、早霜、秋月はそんな事を言っていた。

 

「あなた達、もう部屋に戻りますよ」

神通は皆にそう言った。

 

 

 

その様子を見て宗介は思う。

艦娘といっても、日本の普通の子供たちとそうかわらないじゃないかと……

 

 




まだ、テッサ出ません><


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第三話 艦娘とは

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告本当にありがとうございます。非常に助かります。


神通は宗介との話し合いが終わった後、あてがわれた部屋で、皆に現状を説明した。

清霜は既に寝てしまっているため、改めて明日説明するつもりでいた。

 

「取り合えず、皆無事でよかったです。清霜ちゃんは轟沈寸前でしたが何とか耐えて、ホッとしました。これもここの相良提督のお陰です」

神通は話し出す。

 

「あの援護砲撃が無かったら全滅していたね」

川内は改めて思い返しそう断言する。

 

「ここはメリダ島という島です。地図には名前も載っていない島です。現在、相良宗介さんがここの提督を務めておられますが、彼自身、提督の役割や艦娘についての知識は全くありません。

しかし、口調や時折見せる知識から、軍関係者だと推測しますが、日本軍でも、友軍でもないそうです」

神通はこの島と宗介について軽く、駆逐艦級の秋月、朝霜、早霜に説明する。

 

「えー、でもあの提督、日本語を流暢にしゃべっていたし、顔もそれっぽいし日本人なんだろ?にしても若そうだな」

朝霜は宗介の無表情な顔を思い出しながら、そう言った。

 

「しかし、限定的ですがしばらくの滞在許可は頂きました。この建物内は自由に行動してよいとの事です。ただ、外には出ない様に言われております。確かに私たちは相良提督からすれば、完全によそ者です。しかしながら、そんなよそ者の私たちを助けて頂いたうえ、入渠までさせて頂き、このような豪華な場所で寝泊まりさせていただき、彼個人はとても優しい方なのでしょう。あまり彼の事やこの島の事を詮索するのはよしましょう。」

 

「でも、神通、この照明ってやたら明るいし、蛍光灯じゃないみたい、冷蔵庫もこんなコンパクトで何やら、冷房も自然に効いているし、よくわからない機械が結構あるんだけど、やっぱ似たようなよその世界から来たってのは本当の事なのかな?」

川内は何気なしに部屋全体を見渡しそう言った。

清潔感溢れる洋室で、ベッドルームとリビングルームとで別れており高級ホテルの様相だ。

現在使えない、液晶テレビやブルーレイデッキ、各種リモコン、自動空調にLED照明まで備えている。一応元VIPルームの一室だけの事はある。

 

「姉さん!」

神通は川内を注意を込めて呼び。

他の子には相良の素性で、並行世界から来たことを混乱するから今は話さないでおこうとさっき二人で話していたばかりだったのだ。

 

「やばっ」

川内はハッとしたが後の祭りである。

 

「へ?相良提督は、別世界の人間なんですか?」

秋月はそれを聞いて、目を大きく見開き丸くしてその言葉を聞き返す。

 

神通は諦めた様な顔をし、答える。

「そう本人が言っているわ。島ごと転移したと、でも、私は彼は未来から転移したと思っているの、第2次世界大戦の事も知っている様だったし、深海棲艦や艦娘がいない未来の世界から……」

 

「という事は、この設備は未来の設備なんですね」

早霜は冷静に、部屋を見渡しながらそう言った。

 

「飽く迄も推測だけど……後何か困った事があれば、寮長に言ってくれと言っていたわ、あの入口に座っている妖精さんの事だと思うのだけど」

神通は早霜にそう答えながら、宗介が最後に言っていた事を皆に伝える。

 

「……神通姉、それはいいんだけどよー、……あの妖精さん…デカくね?」

皆思っていたが口にしていなかった事を朝霜が代弁した。

そう、彼女ら普段見ている妖精さんは精々大きくても手の平サイズ、または指位の大きさだ。

それに比べると40㎝もあるメリダ島の妖精は存在感がありすぎる。

 

「……普通にしゃべる」

早霜も頷きながら、さらに妖精についての疑問を口にする。

そう、ここの妖精は普通に会話をするのだ。早霜たちはさっき会議室前で通りかかった妖精に話しかけられたのだ。

彼女らが接している。小さな妖精さんはしゃべらない。手振り身振りやモールス信号などでコミュニケーションを取っているのだ。

 

「………」

皆改めて疑問に思い沈黙する。

 

 

「……取り合えず、しばらくは助かったって事で、この後の事はまた明日考えよう。今日は疲れたし」

そんな沈黙に耐えられなくなり、疑問をよそにして川内はそう締めくくる。

 

 

 

 

 

 

一方宗介は、基地の一室で、アルと妖精3人と話していた。

「大佐、彼女らは艦娘と名乗っていたが、軍艦の付喪神でいいのだな。しかも接していて普通の人間、少女と変わらない」

 

「そうだよ。彼女らは艦娘、軍艦の付喪神。でも、艤装を外したら普通の人間よりちょっと身体能力が高いだけになる」

大佐と呼ばれた妖精は、宗介と初めてコンタクトを取った妖精だ。現在いる妖精の取りまとめをしている。

 

「艤装とは背中などに背負っている装備群か、それが安全装置の役割をしているわけだ。彼女らは食事も普通に取るし、笑う。何せ意思を持っている。自分の妹を触られそうになるだけで、怒るぐらいに。あの戦闘の基本スペックは普段生活する上では障害でしかならない。そうせざるを得ないのだろう」

宗介は艦娘を見てきて思った感想と大佐の言葉を加味して答える。

 

「中尉、その艤装なのだが、どのようなスペックだ?」

宗介に中尉と呼ばれた、頭に鉢巻をした妖精は、この基地において主に兵器軍の整備や管理を取りまとめている。

 

「スペック~?ああ、川内型の二人は、14㎝砲を模したもので~、実際にもその位の威力はあるかも~、あと秋月は防空を意識した装備だね。なんか、独立した意思を持つユニットが付いていたよ。

そのユニットに聞いてみたら~、長10㎝砲ちゃんと呼ばれているらしい」

中尉は間延びした口調で説明する。

要するに、旧日本帝国軍の軍艦と同じ威力の装備があのコンパクトなサイズに凝縮されているという事だ。長10㎝砲については……今は置いておこう。

 

「それは凄まじいな、修理整備は可能か?」

宗介は素直に感心した。艦娘のあの砲は通常の大型のライフルの口径とサイズがほとんど変わらないのに軍艦並みの攻撃力が内包されている事になるからだ。

 

「大丈夫~、でも清霜のは無理~、完全に壊れてるし、もう気が抜けちゃってる~」

中尉はそう答えた。

 

「ふむ、という事は彼女は艦娘としては、機能しないという事か………新しく艤装だけ作る事は出来るのか?」

気とは何かと疑問に思ったが話を進めるために今は無視をする。

 

「うーん?どうだろう~基本的には~彼女が軍艦だった頃の装備しか付けれないはずだから~無理だろうね~」

 

「そうか……では大尉、設備の復旧はどうだ?」

 

「順調です。50%は行っていると思います。それと、艦娘を顕現させるラボと艦娘専用の装備品類を開発するラボを作りたいのですが」

この基地の復旧を取りまとめている大尉と呼ばれる妖精は何故か眼鏡をかけている。

 

「艦娘を…可能なのか?……では大尉進めてくれ」

宗介は深海棲艦と戦わないといけない可能性がある現在において、少しでも味方が欲しい状態である。

今日初めて、あの不気味な生体兵器の様な連中を見て、改めてそう思う。

 

「わかった!」

 

「それと、設備についてはファームユニットの復旧を最優先にしてくれ、艦娘は人と同じで飯を食う。

今までは俺だけだから備蓄で済んだが、そうはいかん状況だ。今後艦娘が増える可能性がある。よろしく頼む」

宗介は基地にある農業生産用の全自動ラボの復旧を最優先させる。メリダ島では元々食料確保のために家畜もいたのだが、大半はあの戦闘で死んだ。農業生産用ラボ、ファームユニットがあれば、野菜などが生産可能なのだ。

 

「わかった!」

 

 

「アル、この島周囲に敵の気配は?」

最後にアルに警備状況を聞く宗介。

 

「ありません。各種望遠カメラを各所に取り付けましたが、反応なしです……相良提督…提督らしくなってきましたね」

現状報告をしながらアルは宗介にこう問うてきた。

 

「お前がやれと言ったのではないのか?」

 

「そうでした」

 

長年の相棒AIで有るはずのアルとの会話は実にスムーズで、しかもユーモアも多分に含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

 

宗介は艦娘とコミュニケーションをとるために、朝食を一緒にしようと、朝早くから宿泊施設に出向いたのだが……

 

「うわーーーん」

少女の泣き声が聞こえてきた。

 

神通が慌てふためきながら廊下を小走りで走っていた所に声を掛ける。

「何事だ?」

 

「相良提督おはようございます。その、あの……」

どうやら神通は混乱している様だ。

 

「落ち着け」

 

「……清霜が目を覚ましたのですが、その服が1日たっても修復できなかったのです」

 

「?」

 

「あ、すみません。私たち艦娘はあの標準戦闘服は艤装と連動しているのです。それが修復できないという事は艤装も装着できなくなり……艦娘としてはその………機能できず、処分されることに」

神通は俯き加減に苦しそうにそう言った。

昨日、妖精の兵器担当中尉との会話を宗介は思い出す。清霜の艤装は修理が不可能だという事はその装着させるための戦闘服も修繕が不可能だという事だ。

 

「!?……処分だと、君らは人ではないか、それを処分などと……」

しかし、宗介は処分という言葉に憤りを感じる。戦闘が出来なくなったとしても無垢な少女が処分される道理が無いのだ。

 

「私たちは人ではなく所詮兵器です。使えない兵器は処分されます」

神通は宗介を見上げ今にも泣きそうな顔でそう言う。

昔の宗介ならば、そう判断した可能性が高い。しかし、AIであるアルと長年相棒として戦場を駆け回るようになり、その考え方は変わり、今は断言できる。

 

「意思を持った者は兵器だろうが何であろうが人と同じだ。ここでは処分などという決定はない」

 

「……相良提督はお優しいのですね。しかし、本国ではそう判断されるでしょう」

神通は悲しそうにほほ笑む。

 

「……では、こうしよう、清霜は戦死扱いにし、当方で預かる」

 

「それは……」

 

「清霜の意思もあるだろうが、君たちが黙っていてくれれば、清霜は生き永らえる。そして何よりも俺たちの人手不足が解消される」

宗介は最後の一言を入れる事により、これは此方にも利がある取引だという事を暗に言い、神通の心の負担を軽くしたのだ。

 

「わかりました。……提督のご厚意に甘えさせてください。清霜は私が説得します」

神通は先ほどまで沈んでいた心を奮い立たせるように力強く言った。

 

「ふむ、俺も行こう」

 

 

そして、清霜達がいる部屋に入る。

清霜は早霜の膝に縋りつき泣きじゃくっていた。秋月もそんな清霜の背中を撫でていた。

朝霜はその様子を悔しそうに見つめている。

川内は、沈痛な面持ちでその様子を見ているだけしかできなかった様だ。

 

「神通姉……と相良提督!!……それ以上近づくな!!清霜は処分させねーー!!」

朝霜は宗介に食って掛かる。

 

「朝霜ちゃん、相良提督は処分なんかしないわ」

 

「俺には処分する権限がないからな……君らは日本国所属であって、俺にとっては他国の話だ」

 

「何だって!!」

朝霜はさらに宗介に詰め寄る。

 

「清霜は日本国に戻れば処分される対象になるそうだな、艦娘としての機能を失ったからな……しかしあいにく俺は、艦娘ではなく人手が欲しい。この島には、人間は俺一人だ。妖精は多数いるがな、俺の相棒も正確には人間ではない」

 

宗介はそう言って詰め寄る朝霜を優しく、頭を撫でてから、泣きじゃくる清霜に近づいて行き。

 

「清霜、君さえ良ければ、当方は君を受け入れる準備がある。艦娘としてではない。人手としてだ。もしかしたら、艤装は何とか出来るかもしれんが今はなんとも言えん。うちの優秀なスタッフに頼んで見るが、いずれにしろ此方の人員になってもらわなければそれも出来んらしい」

宗介は言い方は無骨だが、優しく清霜に声を掛けた。

 

泣きじゃくっていた清霜は宗介の顔を不思議そうに見て……

「本当?」

 

「ああ、しかしその為に、君ら姉妹は離れ離れになる。それは了承してくれ」

 

 

清霜は朝霜、早霜、そして次に、秋月、川内、神通の顔を見る。

皆はその視線に頷く。

 

そして、清霜は宗介に問いかける。

「私、生きられるの?でも……艦娘じゃなくなっちゃってもいいの?」

 

「ああ、当方は人手が欲しいからな」

 

「私、人じゃなくて艦娘だよ?」

 

「意思があれば人だ。……アル!!」

宗介は清霜を説得しつつアルを大声で呼ぶ。

 

部屋のオーディオスピーカーから無機質な男性の声が響く。

「大声出さなくても聞こえてますよ提督……初めまして、相良提督のサポートを行っているAIのアルです。以後お見知りおきを……」

 

「え?どこから声が」

「なんだ?」

それぞれその声に混乱する。

 

「アルはAI、人工的な知能を持った機械だ。本体は別の所にあるが実際には体が無いに等しい。この基地内の全サポートを行っている。まあ、今に至っては奴の方がここの主らしい。さらに俺の長年の相棒だ」

 

「俺は奴を人として認めている。そんな奴に比べれば清霜は明らかに人間だ」

 

「……うん、ありがとう相良提督、それとアルさん」

清霜は涙を手で拭きながら宗介とアルにそう答える。

 

「また、早とちりしちまった。相良提督、悪かった。清霜の事よろしく頼む」

朝霜はそう言って、宗介に頭を下げた。

早霜も無言で頭を下げる。

秋月はその展開について行けずポカンと口を開けままだった。

 

「相良提督、清霜の事よろしくお願いします」

神通も頭を下げる。

 

「ああ、しかし、艤装の新調する案は一応、検討もしておく。人手だけでなく戦力も欲しいところだからな」

 

「あ!その時は戦艦にして!!」

清霜は元気になったようだ。

 

 

「相良提督……機械の人って何?」

川内はアルにまだ驚いている様だ。

 

「そのうち本体に会わせる。取りあえず朝食だ。その後は、また話を聞きたい、分からない事だらけだ」

 

 

 




まだ、テッサでない><

次は建造にこぎつけます。


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第四話 現状とこれから

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


すみません。テッサまだ出ません。
タイトルも今(仮)となっていますが、なんとつければいいか悩んでいる次第です。
案としては、『相良提督TDD-1建造する』『相良宗介、軍曹から提督へ』とか……








神通達艦娘がメリダ島に寄港してから、10日経っていた。

その間、宗介は神通と毎日、日課のように話し合いの場を持ち、この世界について、提督の役割、艦娘についての知識を教えてもらっていた。

そのおかげもあり、大分と今後の方針とメリダ島の運営方法が見えてきたのだ。

 

そして、分かった事は、深海棲艦はメリダ島を攻撃対象にする可能性が高いという事だ。

 

既に太平洋は深海棲艦の支配下にあると想定している。となると、すでにここら一帯も深海棲艦の勢力圏内に入り、メリダ島は敵中のど真ん中にあると言っていいだろう。

深海棲艦がここを嗅ぎ付け、攻撃対象とするのは時間の問題だ。神通達を援護した段階で、新たな勢力と見なされている可能性が高いからだ。

 

敵にここが知られる前に、此方からも打って出られる体制を整える必要がある。何とかこのメリダ島を少なくとも鎮守府としての最低限の機能を付加させ、艦娘運営が出来る状態までに持って行かなければならない。

やはり、対深海棲艦としては、艦娘に頼るのが妥当だという結論を宗介とアルは出したのだ。

 

現在、ここに滞在している神通達も横須賀鎮守府に戻るにはこの付近の海を深海棲艦から解放しない事には、戻るに戻れないため、宗介たちに協力を惜しまない事を約束した。

 

しかしながら、それだけでは戦力は全く足りない。メリダ島鎮守府も独自に艦娘を顕現させ、装備開発をしなければならないだろう。

メリダ島独自の戦力は、レーバテイン一機だけである。確かに強力な機体ではあるが、所詮一機である。大群で押し寄せられた場合どうすることもできない。さらに、レーバテインは飽く迄も陸上機動兵器である。海上での行動は視野に入っていない。

 

しかも、神通の話によると、上位の深海棲艦特に鬼や姫などのネームが付けられている人型深海棲艦クラスはその一体で、戦艦級や正規空母級の艦娘が数人がかりでやっと倒せるのだと言う代物らしい。そんな化物に今、メリダ島が攻められたら一たまりも無いだろう。

 

メリダ島にある防衛システムの復旧も並行して急務である。

軍事レベル的にはメリダ島の設備はこの世界の何倍も先を行っているため、ある程度迎撃は可能だろうと予想する。

此方に来た当初は防衛システムは優先度は下位であったが、現在では最上位に持ってきている。

人手が足りない今、この防衛システムが復活すれば、アルだけで、メリダ島すべての防衛兵器が操作可能となる。

 

 

 

妖精から深海の悪鬼(深海棲艦)を倒す存在だと言われた宗介だが……今はそれどころではない。

取りあえずは自分達の身を守る事が先決だ。

その為には……

メリダ島に鎮守府機能を付加させ、艦娘運営による迎撃または周辺海域の敵勢力の駆逐

メリダ島の防衛の為、本来ある防衛システムの復旧

 

 

これが宗介とアルが現在勧めている緊急性が高い大きな事案である。

これに向け、各妖精たちは、艦娘顕現装置(建造)や装備品開発、艦娘に関係する施設の増設。そして、基地の修復と勤しんでいる。

 

神通達艦娘達が寄港してから、大きく変化したことがある。妖精の人数が150人と一気に3倍に膨れ上がった。例の妖精達が基地にあるゲート(光の柱)から続々と現れたのだ。

艦娘が来たことにより、宗介の知識が向上したためなのか、艦娘がここにいる事自体で、この鎮守府のキャパ(レベル)が上がったのかは理由は不明だが、現状において非常にありがたい事だった。

今まで進めていた。各種事案が作業量が単純に3倍のスピードで進められるからだ。

 

 

その間、艦娘達は……

神通は話し合いの為宗介と日がな一緒に居る事が多い。艦娘運営の方法や、世界情勢、敵勢力について、神通に色々とアドバイスや知識をもらっている。

川内は、駆逐艦の子たちの面倒を見ながら、自主訓練を行っていた。

秋月は、戦闘用の服が修復できなくなった清霜のために、VIP用の宿泊施設にあった服などを元にサイズや見た目を可愛らしく修繕し各種用途の服を既に何着か繕っていた。

また、この宿泊施設の厨房で何やら色々と下準備をしている。

どうやら、秋月は裁縫や料理が得意なようだ。

 

清霜には宗介が初任務だと言って、生き延びてこの島のどこかに逃げた家畜を捕獲することを命じた。名目は、食料確保、家畜繁殖を行うために生きたまま捕らえろとの事だ。

宗介は、サイレンサー付きのスナイパーライフルと、短銃と麻酔弾を渡し、宗介直伝の罠の有用性を教えていた。見た目は小学生高学年程度だが、そこは艦娘、艤装なしでも、そこらへんの大人よりも身体能力は高いため、ライフルもやすやすと持ち上げる事が出来る。

宗介は清霜が今後艦娘として、生きることが出来ない可能性を考慮し、艤装が使えなくなった彼女に直接自分の手での銃の扱いと動く標的への射撃訓練、そして、フィールドワークにより自身の各種身体能力の確認をさせ、彼女自身生きていくための力を付けさせようとしたのだ。また、気晴らしにも丁度良いと考えた。いくら豪華施設といえども引きこもってばかりでは陰鬱な気分になろう。さらに、今後は清霜にはつらい別れなどもある。

朝霜と早霜はそれに付き合う形で一緒に行動する。

但し、ジャングルで行う様に言われている。上空からの偵察に備えてだ。

 

現在、艦娘達は、外出許可が出るようになっていた。

神通には、基地内への入場許可を出している。

艦娘運営のために、基地の設備改修なども行うため、神通からの意見は重要なのだ。

他の艦娘には今の所、基地内への入場は出来ないが、上空から見えない場所での外への移動は許可している。

基地や宿泊施設から離れている訓練場への出入りも許可が出ている。川内は主にここで射撃や基礎訓練に勤しんでいる。海に出られないため、出来る事は限られているのだが……

 

 

 

そして、この日夜、宿泊施設での夕食を宗介と艦娘たちは一緒に取っていた。

神通と秋月が基地で採れた野菜と備蓄の食料でカレーを作ったのだ。

 

宗介は相変わらずの無表情で食べていたが、どこかうれしそうな雰囲気を醸し出していた。

「うむ、……これはうまいな」

宗介は、感慨深そうにそう言う。

 

その宗介を神通は嬉しそうに見ていた。

「お口に合いましたか?」

 

「まとものな食事をとるのは久々だな……感謝する」

宗介はそう言いながら、少し昔の事を思い出していた。

あの眩しく、楽しい日々を過ごした陣代高校に通学していた頃、当時は恋人ではなく護衛対象であった千鳥かなめに、よく食事を作ってもらっていたのだ。その中でも宗介はカレーが気に入っていた。それまで幼い時から戦士として育った宗介は、食事などエネルギーを摂取するもためだけのものだったが、食べる喜びをこの時に始めて知ったのだ。

 

「うめーー!!やっぱ、食事はこうでなくっちゃな!相良提督のとこの色んなレトルトとかもいいけど、直で作ってもらうのは違うよな!何、愛情ってのがはいってるぜ!」

朝霜はガツガツとカレーを口に掻き込みながらそんな事を言った。

 

「………おいしい」

「うん、おいしいね」

早霜と清霜もそれに続く。

 

「……愛情だなんて」

神通はなぜか顔を赤らめる。

 

「………」

川内はそんな神通を黙って見ていた。

 

 

「清霜、ミッションの遂行状態はどうだ?」

宗介は話題を変え家畜の確保の進行状況を清霜に聞く。

 

「うん!お姉ちゃん達に手伝ってもらってるけど、今日は豚さん3匹、ニワトリさん4羽捕まえたよ!」

清霜はニコニコ顔で答える。

 

「ライフルの扱いは?」

 

「大分慣れてきた」

 

「そうか……清霜の艤装についてだが、もしかしたら、新調できるかもしれん。現在妖精たちがいろいろと試している」

 

「本当!!」

清霜は急に立ち上り嬉しそうに宗介に対し前のめりになる。

 

「という事は、あたい達のも、パワーアップ出来たりするのか!?」

朝霜も立ち上がり、宗介に聞く。

 

「清霜ちゃん、朝霜ちゃん、今は食事中ですよ」

神通はそんな二人に軽く注意をする。

 

「それは今は検討中だ。ようやく艦娘用装備開発ラボが出来上がった……清霜、試験のためにも、明日基地のラボに神通と一緒に来てくれ」

 

「はい」

「うん!!」

 

「えーーあたい達は?」

朝霜は口を尖らせる。

 

「今は我慢してくれ」

 

「ちぇ」

 

 

 

 

 

その晩

神通と川内にあてがわれた部屋。

現在4人からのファミリー向けの部屋には駆逐艦たちが過ごしている。最初は全員同じ部屋で過ごしていたが、安全だと確信し、神通と川内は隣の2人部屋を使用していた。

 

「神通」

 

「何、姉さん?」

 

「あの人、仏頂面で不愛想、出会ってからずっと笑ったところも見たことないし……愛想笑い一つしない。ホント、感情なんてあるのかしらって思っちゃうわよ」

川内は真面目な顔をして神通に宗介を指しているだろう事をワザとこんな言い方をした。

 

「そ…そんな事はないわ、相良提督は表に出さないだけで、その雰囲気で分かるわ」

何故か神通は慌てた様に言った。

 

「私、相良提督って言ってないんだけど………でもね。彼はぶっきら棒な言い方だけど、私たち艦娘に対しても心から人として扱ってくれるし、何より誠実だよ」

そんな神通の様子に川内はクスっと笑った後、宗介をこう評した。

 

「……姉さん」

 

「神通は相良提督の事どう思う?」

 

「不器用だけど、優しい方」

神通は宗介の顔を思い出しながらそう言った。

 

「惚れた?」

 

「ねね、ね、姉さん!?」

神通は恥じらう乙女の様な真っ赤な顔をしていた。

 

「ごめん、ごめん、今の神通みてるとさ、エースとして常に凛として深海棲艦相手に立ち回っていた神通は本当の顔じゃないんだなって思ってさ……、相良提督と話している神通は嬉しそうで自然に笑顔がでるし………」

 

「………」

神通は下を向き茹蛸の様に顔を真っ赤にしている。どうやら、川内が言った惚れたというのはまんざらでもない様子だ。毎日宗介と接しているうちに、どうやらそういう事になってしまった様だ。

 

 

「だからさ、今までの神通は私たちや日本の為に無理してたんじゃないかなって……私たち艦娘は人の思いで顕現した存在だけど、たまには自分の為に動いてもいいんじゃない?神通は今まで十分頑張って来たよ……そのだから、相良提督の下で……」

川内は宗介の下に付くことを言っているのだ。

 

「いいえ、姉さんそれは出来ません。私たち艦娘は、日本の人の大きな思いで生まれてきました」

神通は悲しそうな顔をしながら川内の意見を否定する。

 

「神通は分かっていたよね。トラック泊地鎮守府が崩壊した時に、私たちと鎮守府とを結ぶつながりも消えた事に、たぶん。それは日本も把握しているはず。私たちは本国では轟沈扱いかもしれない。このまま戻れるかどうか分からない横須賀鎮守府に縛られるよりも、ここで心機一転した方がいいんじゃない?相良提督もどうやら、深海棲艦に立ち向かう様だし、私たちの最終目的は深海棲艦から人を守る。それと、深海棲艦の壊滅、この二つなんだから……それと、相良提督も日本人だし、深海棲艦を倒せば、日本の人の思いも成し遂げられる」

川内はこの2、3日思い悩んでいた。楽しそうに宗介と話す神通の顔、今までの神通の顔、さらに、今の状況。とてもじゃないが5人で横浜まで戻る事は出来ないだろう事。

そして宗介の人となりが好ましい人であること……妖精が宗介に付き従って活発に活動している事からも、信じられる人間であることは間違いないと判断できるからだ。

 

「……姉さん、もうちょっと考えさせて…」

 

「わかった。でも、あまり時間があるとは思えない。深海棲艦の奴ら、ここら一帯に私たちが隠れている事を大凡分かっているハズだしね」

宗介の援護で深海棲艦は撃退したが、壊滅させてはいない。

この辺りにいる事はあちらも把握しているはずなのだ。

 

「私たちを助けてしまったために……この島が……相良提督が狙われる……」

神通は沈痛な面持ちで小さな声でそう口にした。

 

 

 




宗介、まずは神通さんフラグが立ちました。


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第五話 建造(顕現)開始

感想ありがとうございます。

ついに建造開始??


神通と清霜はメリダ島の中核を成す地下基地を訪れていた。

そして、妖精に案内され新設された艦娘用の装備開発ラボに着く。

ラボ内は広々として、幾つかに区分けされていたが壁や床に至るまで白一色の清潔感あふれる空間だった。数人の妖精がなにやら画面に向かって、作業をしている。この世界では存在しないコンピュータ(PC)だ。

部屋の真ん中あたりの大きな作業台の前で宗介と鉢巻をしている妖精がなにやら話し合っていた。

「ふむ、出来た艤装はこれか……よりによって、最新装備ではないか、ハープーン(対艦ミサイル)に76mm砲、ファランクス(対空兵装)とRAM(対艦ミサイル防衛用ミサイル)……いや敵にミサイルが無いのにファランクスとRAMはいらないだろう。いや待て、敵艦載機や爆雷防衛に使えるか……」

宗介は作業台の上に置かれている艤装とタブレット端末に目を通し、妖精が提示した兵装ラインナップを見て唸っていた。

 

「うん、清霜の出力だったらこんなもんかな~でも、兵器の情報統合システムを別にしないとあの子のあたまパンクしちゃうよ~」

中尉と呼ばれる兵器担当の妖精は宗介と何やら、聞きなれない言葉を交わしていた。

 

「相良提督、神通、清霜参りました」

神通の宗介を見る顔は若干を赤みをさしていた。

その後ろを歩く清霜は、初めて基地の中に入り、物珍しそうにキョロキョロしている。

 

「ああ、早速、清霜の艤装開発についてなのだが……取り合えずこれを着てくれ」

宗介はそう言って元々清霜が着ていた夕雲型艦娘用の戦闘服によく似た服を渡した。

これは使えなくなった清霜の服を装備開発と顕現(建造)と同じ過程を踏み修復不可能だった服を再構成したものだった。

 

「え!本当に出来たの!?……でもここで?」

清霜は驚き嬉しそうに頷きはしたが、宗介の顔をまじまじと見て困った顔をする。

 

「相良提督……その、ここでは流石に」

神通も困った顔をしていた。

 

「すまない、配慮が足りなかった。あちらに更衣室も用意しているから使ってくれ」

宗介は彼女も女性であることに気が付き、謝る。

 

 

清霜は戦闘服を着替え、喜びをあらわにして戻ってきた。

「前と同じで、力を感じる!……これで艤装が取り付けられる!ありがとう相良提督!!」

 

神通もそんな清霜の様子に頬をほころばせる。

 

「うむ。どうやら、着る事が出来た様だな、取りあえずは良かった。これで、艦娘に戻れる目途が立ったという事だ。しかし、艤装自体はまだだ、現在調整中だ。新型装備群は清霜の体に合わせなければ意味が無い上、ここで開発した装備は俺の居た世界の装備だ。扱いが今までと全く違う可能性が高い。訓練が必要なはずだ」

宗介は清霜が戦闘服を着用出来た事にホッとしたようだ。まだ、艤装自体はかなりの調整が必要であり、装着が可能になってもそれ相応の訓練が必要なのだ。

しかも、宗介の時代の兵器である。駆逐艦という小さな体に合った兵器群だとしても、戦艦並みの攻撃力が兼ね備えられているのだ。特にハープーンなどという、200㎞前後の射程がある対艦ミサイルまで搭載されているのだ。その制御が彼女に出来るかは疑問である。そもそもミサイルの概念が無いのと、制御するための情報管理システムを搭載しているがその意味合いを理解できるかも問題であるからだ。

駆逐艦ではあるが、現代の駆逐艦はミサイル駆逐艦……いわゆるイージス艦ではあるが、排水量や出力は当時の駆逐艦に比べ段違いに高い。巡洋艦レベルなのだ。神通でも最新駆逐艦の装備は搭載できない可能性が高い。

よって、今装備を検討しているのは、アメリカのフリゲート級。所謂、海防艦級の装備なのだ。しかしながら、現代の海防艦は、WW2の駆逐艦クラスまたはそれ以上の大きさがあるのだ。

そして、小さな躯体に限りあるスペースと出力で攻撃力を高めるために、用途に合わせて兵装が自由に交換できるシステムを搭載していた。基本は水上戦を視野に入れた装備ではあるが、対潜装備や防空装備にも変更が可能なのだ。

 

「一気にはいかんが、一つ一つ装備を試し、決めて行くか」

宗介はそう清霜に言う。

 

「うん、本当にありがとう相良提督!」

清霜は涙ぐみながら宗介に再度お礼を言う。

 

そんな二人を神通は嬉しそうに見つめる。

 

 

 

「アル、すまないが清霜のシミュレート訓練に付き合ってくれないか?俺では役にたたん。基地内各種兵器のシミュレータ―の使用を許可する」

宗介は何処と無しにアルに声を掛ける。

 

「了解です……では清霜さん、そこの妖精さんについて行ってください」

基地内のスピーカーから無機質な男性の声でアルが答えた。

 

「アルさん、清霜でいいよ」

 

「そうですか、では私もアルで」

 

一人の妖精が清霜の前まで来て案内しだす。

「こっち」

清霜と妖精は基地内のシミュレート施設に向かって行く。

 

 

 

「神通はすまないが、俺に付き合ってくれ」

 

「へ?……は、はい」

神通は一瞬素っ頓狂な声を上げていた。

 

「艦娘顕現用施設がこの隣で完成した。ついてはレクチャーを頼もうと……大丈夫か?」

宗介はそう言って、隣の部屋へと案内しようとしたのだが、神通が顔を真っ赤にしているため、体調が悪いのかと思い聞いたのだ。

 

「い…いえ、その……大丈夫です」

神通は自分が勘違いしたことに気が付き、恥ずかしそうに答える。

 

「ならいいが……こっちだ」

宗介はそう言って神通の前をスタスタと歩き隣の扉一枚でつながっている施設へと入って行く。

此方も、装備開発ラボ同様、一面白一色で統一された清潔感のある部屋だった。

真中には直径5m程の何やら、術式の様なものが描かれた円台が置かれ、上からはセンサーや電光掲示板、レーザー装置の様なものが多数吊り下がっていた。

どうやらこれが、顕現(建造)装置らしい。

神通が今まで見てきた建造施設とは雰囲気が全く違うものだった。

 

その前に置かれているコンピュータに先ほどの中尉と呼ばれた鉢巻をしている妖精が、後ろから小走りで走ってきて、妖精サイズにしては少々高い椅子にちょこんと座ってカタカタとキーボードを操作しだす。

 

「中尉、首尾はどうだ?」

宗介は中尉と呼ぶ妖精に聞く。

 

「あ~、準備行けてるよ~ いつでもOK~」

中尉は指でOKサインを作りそう言った。

 

「神通、再度建造に必要な事項を教えてくれ」

宗介は神通にそう言う。

 

神通は宗介の横に立ち顕現(建造)装置を見ながら説明をしだす。

「はい、既に建造施設があるので、資源を投入します。各種資源の投入量で、顕現される艦娘は大きく異なります。ボーキサイトが多ければ空母系、鉄鋼系、弾薬が多ければ戦艦などです。

また、投入量が多い程、強力な艦娘が顕現されます。

後は、秘書艦……提督をサポートしている艦娘によっても影響が出るようです。これについては未だ確証には至っていないのですが、間違いなく影響が出る事は分かっております」

 

「なるほど、秘書か……では神通がなってくれないか?」

 

「へ?あ……あの、その、私はその提督麾下の艦娘ではないので、効力はないです」

神通は宗介の不意な言葉にまたしても顔を赤くし、その後残念そうに俯き加減に答えた。

 

「ふむ、では、アルでいいか、清霜はまだ、復帰とはいいがたいからな……」

宗介はそんな神通をよそに、アルに一任することを決めた。

 

「……後、資源投入し、建造開始してから、顕現時間が長い程、優秀な艦が出来ます」

神通は気を取り直し、続きを説明する。

 

「では神通もそうなのか?」

宗介はまたしても不意に、神通の心を揺さぶる様な事を言う。

宗介は川内から、神通が日本国でも屈指の艦娘であることを自慢げに聞かされていた。

 

「いえ……私はその後、実戦経験が長く、改装を数度行えるぐらいの経験を得ましたので」

神通は実戦経験も長く、努力し、改装(進化)を数度行っているため、他の同クラスの艦娘に比べ圧倒的な力を持っていた。

 

「うむ、初期スペックよりも、努力が必要か……神通も今の強さはたゆまぬ努力の結果なのだな」

神通を見やり、宗介は頷き、感心した様にそう言った。

 

「いえ……その私など」

神通はまたしても、顔を真っ赤にして答える。

どうやら、宗介の言葉はいちいち神通の心に心地よく突き刺さる様なのだ。

 

 

 

「ふむ、中尉、資源の方はどうだ?」

宗介は中尉に振り向き資源投入の有無を聞いた。

 

「提督~、なんか良さげなのがあったから投入しといた」

中尉はそう言って、奥にある巨大な炉の様な資源投入設備を指さしそう言った。

 

「まあ、最初だ。任す」

神通から前々から聞いていた話によると、顕現(建造)時間は数十分から半日以内に収まるらしいため、試しに行う程度に思っていた。

 

「じゃあ~ 行くね~、秘書はアルっちで、ポチっと」

中尉はそう言って、コンピューターの前にあるひと際大きなボタンを押す。

 

 

すると、顕現(建造)装置は淡く発光しだした。

 

そして、顕現装置の上部に掲げられた電光掲示板に時間が掲載される。

そこには

 

120時間00分

 

と表示された。

 

それを見た宗介の額に一筋の汗が流れる。

聞いた話では、少なくとも半日で終わるはずなのだが、120時間…5日と表示が出たのだ。

失敗したのではないかと……

 

宗介は横の神通を見やるが

「……120時間……聞いたこともありません。あの超弩級戦艦大和さんでも8時間と聞いております」

神通も驚いた顔をあらわにし、宗介にそう答えた。

 

「う…うむ……気長に待つか……」

宗介は唸る事しかできない。

 

 

「あの、高速建造材があれば、時間を一気にゼロにできます。大型艦でも10個で済むはずです」

神通は宗介にそうアドバイスをしてくれた。

 

「中尉、いけるか?」

 

「うーーん、高速建造材貴重だしね~、あれも滅多に発見できないし~、この島で見つけたのは漸く10個だよ………アレ?、この艦。高速建造材1200個要求するんですけど~~、どっひゃ~何これ?」

中尉はそんな事を言いつつ笑っていた。

 

「……普通に待つか」

宗介は失敗の予感を感じながら、そう言う事しか出来なかった。

 

 

 

 

この後、宗介は神通と共に艦娘の寄港する発着口について、レクチャ―を受ける。

艦娘は発着口に艤装や各種兵装を保管し、緊急発進に耐えれるように、なるべくオートマチックに艤装を装着していく。水面に浮かぶカタパルトの様なものに乗り次々と艤装、装備を取り付け、そして水上を一気に加速し、発進するそうなのだ。

因みに常勤時は常に艦娘専用の戦闘服を着るのは何時でも艤装を取り付けられるようにするためだそうだ。

 

メリダ島には、艦船用の発着場所は洞窟になっており、外からは見えない。

2人はその場所に行き、この場所は丁度適しているとの事で、早速、施設設備を管理している大尉と呼ばれる妖精を呼び、説明する。

大尉からすれば、その程度だと1週間もかからずにこの発着場の一部を艦娘発進施設へと改装出来るそうだ。

 

因みに、航空機用の発着口はジャングルの下にあり、滑走路は地下にあり一部が開口して、発進していく。戻る際には、一見草原に見える場所で、偽装した滑走路になっているのだ。そして、地下へと航空機は戻って行く。

ヘリポートはヘリポート自体が巨大なリフトになっており、地下から上がり、ジャングルの一部が左右に開口し、地表に現れるのだ。ちなみにここからも、垂直発進型の戦闘機は発着可能だ。

 

そして、問題は潜水艦ドックだが、地下洞窟が発着口になっており、地下水路を通り、島の水深100m程の場所から海への出入口となっている。

しかし、メリダ島最終決戦において、ミスリル西太平洋戦隊が誇る、強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナンはこの潜水艦発着口に特攻をかけ見事、兵力をメリダ島に運んだのだが、その後地下水路を塞ぐ形で沈没していったのだ。現在もトゥアハー・デ・ダナンは地下水路に沈んでいるはずだ。

現状では復旧の対象にはなっていない。復旧もかなり困難な上、この施設の利用価値も現状の戦力では見いだせないため、後回しになっているのだ。

 

 

 

 

 

その日の夜、駆逐艦たちの部屋では……

「おい、清霜大丈夫か?」

朝霜は顔が熱っぽく赤くなっている清霜に声を掛ける。

 

「目が回る~、うーん、あんなに覚える事が多いなんて……」

清霜は頭を押さえて、蹲る。どうやら頭を使いすぎて、脳がパンク状態の様だ。

 

「清霜は、新しい艤装を作ってもらってその為の訓練をしているの」

早霜は清霜の代わりに朝霜に説明する。

 

「うーん、覚える事が沢山あるし、なんか訳が分からない兵器とセンサーが一杯なんだ……頭が割れそう」

清霜もそう返答する。

 

「でも、清霜ちゃんのその戦闘服、前より素敵になったね」

秋月は清霜の新しい戦闘服を見て、素直に感想を言う。

 

「良かったな清霜!これで艦娘に戻れる!あたい達も一緒に居れるってもんだ」

朝霜は嬉しそうに清霜の方をパンパンと叩く。

 

「朝霜お姉ちゃん、私ね、ずっと一緒に居られない。相良提督の艦娘になったから……」

清霜は俯き小さな声でそう言った。

 

「そうか……でも、よかったぜ、艦娘にもどれて」

朝霜は、悔しそうな顔をするが、笑顔に戻しそう言った。

 

「まだ、しばらくは、一緒にいられる」

早霜はそう言って清霜を慰める。

 

「そうだ!!艤装見せてくれよ!あたい達も訓練付き合うしさ」

 

「うん、相良提督に聞いてみる。でも、実際に体動かすわけじゃないの、なんていうか仮想の映像で訓練するの」

 

「??……なんだそりゃ?わけがわからん、まあいいや、早霜も秋月も行くだろ?」

朝霜は何のことかわからないが、とりあえず清霜の訓練を手伝いたいようだ。

 

「相良提督の許可が無いと基地には……」

秋月はそう言って諫めようとする。

 

「なんとかなるだろ!」

相変わらず大雑把な朝霜である。

 

 

 

 

 

しかしこの頃から、深海棲艦の偵察機がメリダ島周辺に飛び交う様になるが、艦娘達には知らされていない。

宗介は、此方もまだ準備が十分でない以上、余計な手出しをせず、じっくり息を潜ませるつもりでいた。




ようやく建造開始~、
資材は何を使ったかは……アレです。


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第六話 深海棲艦現れる。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

すみません。
まだテッサ(偽)でません><
この調子だと2話後かな?


メリダ島で初の艦娘顕現(建造)は波乱と失敗の予感が漂う。

通常では考えられない120時間、5日という期間が提示されたのだ。流石の神通も驚きを隠せないでいた。

顕現(建造)開始して、3日が経ち完了まで後2日。

 

宗介は顕現(建造)以外でも憂慮すべき事態が起こっていた。

メリダ島周辺やその近隣の島々に、深海棲艦の物と思われる超小型偵察機が飛び回り、神通達艦娘、そして援護砲撃を行った謎の部隊(宗介)を探し回っているのだ。

艦娘達には不安がらせないためにも、この情報は伏せ、取りあえずは戦力が整うまで息をひそめやり過ごす事にしている。

 

 

 

そして、宗介とアルがこの世界に飛ばされて丁度1ヶ月が経過していた。

 

「アル、基地の修復は状況はどうなっている」

 

「現状ではメリダ島施設全体の約70パーセントまで回復。あと2週間で完全修復可能です」

 

「そうか……俺たちが、元に戻れる手だては見つかったか?」

 

「不明です」

 

「そうか、致し方ないが生きるためにも今を進むしかない。そういうことだな」

 

「肯定です。相良提督」

アルは宗介の事をすでに軍曹とは呼ばなくなっていた。

 

 

「此方の戦力が整うまで、この周辺を嗅ぎまわっている深海棲艦をやり過ごせればいいのだが……」

 

「……最悪の事態は常に考えておく必要があります。いざ、この地が敵に察知された場合、我々としては防衛しか手が無いのですが……」

 

「援軍のない籠城戦か……厳しい状況だが、やってやれんことは無い」

 

現在宗介達が保有している戦力はレーバテイン1機。それ以外にも、基地に残っていたUCAV(無人ステルス爆撃機)を4機復旧させ、開発試験中であったECM搭載無人爆撃機及び攻撃機を各1機をどうにか使えるようにしているが、現状、軍事衛星や成層圏プラットホームなどが無い現在において、無人機はその行動範囲は、直接電波を発信しているメリダ島周辺にどうしても限られる。

肝心のレーバテインも、海上を航行できず、飛行能力も緊急展開ブースターでその場所までミサイルの様に飛んで行くだけしかない片道切符、実質戦力にはならないときている。

 

そして、友軍として、神通達艦娘5人。

清霜は現在新しい艤装の訓練中にて実戦投入は困難な状態であるため戦力外。

此方からの攻撃手段はこれだけなのだ。

メリダ島からの各種巡航ミサイルは有るが、防衛システムを優先しているため復旧はまだ先であり現行使用できない。

 

ようするに現状では此方から打って出る事はほぼ不可能だという事だ。

 

 

防衛という意味では、現在メリダ島の防衛システムはほぼ、全回復している。宗介やアルが優先的に復旧してきただけの事はある。この異常なスピードでの復旧は妖精のお陰ではあるが……これで深海棲艦の攻撃もある程度防ぐことが出来るだろう。

防衛においてはレーバテインも無人機も機能するだろう。向こうから直接乗り込んできた場合は、此方から向かうよりもずっと有利に展開することができるだろう。

 

しかし悪い話だけではない、現在色々と復旧に開発にと活躍している妖精達も、顕現(建造)施設や装備開発施設、そして、艦娘の顕現を行った事で宗介の提督としてのキャパ又は鎮守府としてのキャパが上がったのためだろうか、更に100人ほど増え、現在250人程度この地で働いている。今後さらに復旧スピードは上がるだろうことは想像に易い。

 

 

「取りあえずは、ここがばれるまで、基地の復旧と、巡航ミサイル及び中距離ミサイル発射施設の復旧を第一に、装備開発、人手が足りんため無人機の生産を優先にだ。さらに衛星の代わりに高高度偵察ドローンのまとまった数が欲しいな。せめて、高度2万以上を取れるものだ。そのうち成層圏プラットホームの代わりになるようにできれば言う事は無いのだが、それは後の課題だ。艦娘装備について後は清霜の訓練しだいか……問題は今顕現(建造)中の艦娘なのだが……よりによってあれ程時間がかかるとは……」

宗介は基地に復旧と無人機の生産を第一に指示する。

本来、艦娘顕現(建造)装置が完成した時点で、数日中に一部隊(6人)は編成し訓練に取り掛かりたいところだったのだが……アテがはずれたための無人機生産なのだ。

 

「相良提督、ひとまず顕現中の艦娘の事は忘れましょう。失敗の恐れもあるため、戦力とカウントは出来ないでしょう。それよりも、レーバテインも対深海棲艦用に何かしらの改修が必要でしょう」

アルはレーバテインが現行ではあまり役に立たない事を分かっているため、前々から水上移動手段を検討していた。

 

「ああ、そうだな、レーバテインについては任せた」

 

 

 

 

しばらくし、日課となりつつある神通と清霜の基地への来訪の知らせを受ける。

清霜は、装備開発施設に行き、艤装の調整を行い、その後アルとシミュレーターによる訓練。

神通は宗介の元に来て、相談役となる。

彼女らもこの島に来て、2週間が経過していた。

 

 

神通は宗介に仕事の合間に前から気になっていた事を何気なしに聞いてみた。

「相良提督は、その失礼とは思うのですが、随分お若いようにお見受けします。お幾つなのでしょうか?」

 

「ああ、たぶん18だ」

 

「……たぶん?」

神通は不思議そうに宗介の顔を見る。

 

 

そんな時である。

ズンという地響きと共に基地自体に軽い揺れを神通と宗介も感じた。

 

 

「アル、どうした?」

宗介はアルに呼びかける。

 

アルは、基地のスピーカーではなく宗介だけに伝えるため、宗介の耳にしている小型通信機ごしに話す。

「敵、深海棲艦が、この島の周囲を回っていましたが、遂に砲撃を開始しました。しかし、的を絞らず散発的にあちらこちらに砲撃をしております。近隣の島でも同じ様な行動をとっている事を望遠カメラで確認がとれております。要は我々をあぶり出す算段の様です」

深海棲艦が、潜んでいる神通達艦娘と謎の援護部隊(宗介)をあぶり出すためにこの海域にある島々に砲撃を開始したようだ。

 

「了解だ。念のため、基地に居ない艦娘達には宿泊施設の下のシェルターに避難するように指示してくれ。俺は発令所に行く」

宗介はアルの報告を受け、艦娘達の避難誘導をアルに指示し、自身は発令所に行き、指揮を執るようだ。

 

「相良提督、何事ですか?」

神通は宗介に地響きの事と避難命令を出している事について聞く。

 

「うむ、深海棲艦があぶり出しのために、この島にも艦砲射撃を散発的に行っている。問題ない」

宗介は、淡々と神通に説明する。最後は安心させるためだろう言葉を出している。しかし、彼の『問題ない』発言は確証がない場合に使われることが多いのだ。

 

「私もご一緒させてもらえないでしょうか?」

神通はそんな宗介を見て、半分部外者であるのだが、ついて行く事を言葉にしてしまう。

 

「……いいだろう。但しここで見た事は、日本では他言無用だ」

宗介は少し考えるしぐさをして、神通に条件付きで、同行を許す。

 

「もちろんです」

神通はそう言って、宗介の後に続く。

 

 

宗介は発令所内に入り、中央の司令官(提督)の席に立つ。

発令所は広々とした薄暗い空間に、真正面、壁一面の大型ディスプレイから、段々に机と席が作られそこでは妖精が何やら作業をしている。この発令所は要するに正面ディスプレイを中心にすり鉢状となっている構造だ。その中段に宗介は今立っており、横には神通が控えている。

神通はこの異様な空間と機械設備、さらに映画スクリーン大のカラーで写る画面に驚きを隠せないでいた。

 

真正面のディスプレイには各方面の超望遠で捉えられている深海棲艦の姿が見える。

「この島周囲には18体確認されている。南に大凡100㎞離れた小さな島にも、18体。

東に大凡160㎞離れたこの島より少し大きめの島にも18体確認されている。中には人型の深海棲艦も多数みられるな」

宗介は各島に映し出されている深海棲艦を指しながら神通に説明する。

宗介は敵の戦力情報を教えてもらうために、神通を発令所に入る事を許可したのだ。

 

神通は宗介がメリダ島周辺の映像として示した画像に映るひと際異彩放つ深海棲艦を見て、顔を顰める。

「……重巡棲姫」

 

「うむ、確か姫や鬼と呼ばれる上位の深海棲艦だったな、あれ一体がいるだけで、戦艦級艦娘が複数人相手をしなければならないという」

 

「……はいそうです。……しかも、残りの17体のうち正規空母ヲ級が2体、戦艦級が3体、軽空母級が3体……私たちの戦力ではまともに戦う事も……困難です」

神通の顔色が明らかに悪くなる。

 

「問題ない、戦わず、このままやり過ごす。元々そのつもりだ」

宗介は慌てることなく淡々と神通にそう言った。

 

「………」

神通は、この戦力は明らかに、強行偵察だけでなく、確実に神通達と宗介たちを一人残らず塵にする為の戦力であると確信していた。

そんな宗介の顔を見上げ、表情を伺うがこの危機的状況下で動揺や焦りは全く無いように見える。しかし、神通にはそれが逆に、神通達に気を使い冷静なふりをしているのではないかと勘ぐってしまっていた。

神通は宗介と過ごしたこの半月あまり、無骨だがその優しさに触れ大いに心が救われた。そして、彼に好意を寄せている事も今は自覚している。

しかし、戦いになればどうなのだろうか?優しさだけでは敵には勝てない、時には非常な判断もしなければならないのだ。深海棲艦との戦いにも不慣れなうえ、戦力は圧倒的に不利、相手にはあの姫級までいるのだ。

 

神通は宗介の顔を見てある決意をする。

 

神通はそんな宗介に静かに一礼して、発令所を後し、そして歩んでいく、その姿は断固たる決意がみなぎっている様であった。

「みんなは、相良提督はやらせない……」

 

 

 

……しかし、神通は知らない、相良宗介という男の本当の力を……表面には見えずとも、地中奥深くでふつふつと燃え盛るマグマのような激しい闘志、そして何にも決して屈しない鉄の意志で世界をも救った事を………

 

 

 

 

その後も一時間ほど深海棲艦から散発的な砲撃をメリダ島は受けていた。

宗介は、その様子を発令所の大型ディスプレーを見ながら、ダメージコントロールの指示を出す予定であったが、幸いにも基地、その他の施設はほぼ地下にあるため、被害は皆無であった。

 

「敵も地下に堅牢な基地が作られていようとは思ってはいないだろう。徹甲弾を使われると流石に被害がでる可能性はあるだろうが……」

宗介はメリダ島基地が堅牢に出来ている事を知っている。メリダ島最終決戦時にも完全破壊は免れこうして復旧出来たのだから……

 

「相良提督、緊急事態です」

アルが宗介の耳に取り付けている小型通信機にそう告げた。

しかし、宗介がこの発令所から見る限り、メリダ島内施設には被害もなく、深海棲艦の一団は現在西側に回り、散発的な砲撃を行っているのみで、現状特に問題がないはずだった。

 

「何だ?」

宗介はアルに疑問を返す。

 

「神通が艤装を装着し、メリダ島の東部からそのまま海上を東に、かなりのスピードで進んでいます」

アルは宗介にそう報告した。

神通は発令所から退出し、宿泊施設に艤装を取りに行きそのまま、島を出た様だ。

このタイミングで島を出れば、普通に考えれば深海棲艦に恐れをなして逃亡したと思われても仕方がない行為だ。

 

「なっ!………バカな!」

宗介はアルのその報告を聞いて、何故?と疑問を言い掛けたのだが、宗介は神通が進むルートを正面の大型ディスプレーを見、神通の考えが朧げに見えたのだ。

 

「予想だと東の160㎞先にある島に向かっているようです」

アルは宗介が考えている事を先読みした様に答えた。

 

「やはりか!!神通は東の島に向かって、敵を全部引き付けるつもりだ!そして、東の島に他の仲間も潜んでいると相手に思わせる偽装………自分の身を挺して時間稼ぎをするつもりだ!!……くそ!!」

宗介がその考えに至ったのは千鳥かなめと会うまでの自分で有れば任務のために同じような行動をとっていただろうからだ。

 

「既に緊急展開ブースター装着準備を行っております」

アルは宗介の次の行動を先読みしレーバテインに緊急展開ブースターと各種武装装着の準備を始めていた。

 

「良し!アル出るぞ!!」

そう言って宗介は足早に発令所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

少し前……

神通は宿泊施設に戻り、倉庫に保管している艤装を取り出し一つ一つ装着していた。

 

「神通………」

その後ろから不意に声が掛かった。

 

「姉さん……」

神通は振り返り声の主に返事をする。

声を掛けたのは宿泊施設の下にあるシェルターに避難しているハズの川内だった。

 

「私も行くよ」

 

「姉さんは残って……あの子たちの事を導いて……そして、相良提督の麾下に入って、優しい彼を支えてあげて……」

神通は首を横に振り、川内に残るようにお願いをし、そして笑顔を向ける。

 

「あんたバカだよ……」

川内は目に涙をため神通を抱き寄せ耳元でそうささやく……

川内には何となくだが、神通がこれからやろうとしている事が分かっていた。やはり姉妹艦なのだろう。

 

「ごめんなさい姉さん、……では行ってまいります」

神通は川内を優しく引きはがし、笑顔でこう言った。

 

 

 

凛とした佇まいの中、強い意志が全面に顔に現れ、見るものすべてを魅了するその美しい姿、日本屈指の艦娘、歴戦の勇士神通はメリダ島から東の島に向け海上を風を切り猛然と進んでいく。

「姉さんたちを……この島を、相良提督を守ります」

 

 

 







すみません。
テッサまだ出なくて、もっと早くだしたかったんですが……なぜかこうなってしまいました。


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第七話 レーバテイン出撃

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。



またしても、テッサ(偽)出ません><
次こそは!!


色々訂正してますので、初期投稿時と若干違います。


神通は覚悟を決めた表情をし、メリダ島から東大凡160㎞に位置する島の方向へ高速で海上を進んでいく。

 

メリダ島西側に位置していた重巡棲姫は海上を東に航行する神通に気が付き、追撃を開始した。それと同時に、東の島を砲撃していた深海棲艦の一部も神通に向かい移動しだす。

このまま行くと、何れは挟み撃ちとなるだろう。

 

しかし、神通はそれに気が付くもお構いなしに、そのまま東へ東へと進む。

 

しばらくし、メリダ島側の重巡棲姫率いる深海棲艦から、多数の艦載機が神通に迫る。

神通は後ろ向きに航行し、艦載機を正確な砲撃で次々と落として行くが、神通一人では対処できる数ではない。ついに神通に追いつき、爆撃を開始しだしす。

それでも神通は後ろ向きのままスピードを緩めず爆撃を避け、艦載機を次々と落としていくのであった。

並みの艦娘では出来る芸当ではない。日本屈指の艦娘である神通であるからこそなしえるのだ。

 

しかし、正面を向き、真っすぐ進むよりスピードが鈍るのは必然である。敵艦載機による爆撃が一時的に収まり艦載機が引き出した頃、ついに先行追走してきた重巡棲姫率いる船足が早い水雷部隊が追いついてきたのだ。

 

追走する重巡棲姫を一瞥した後、神通は東の島へ向き直り、スピードを上げ突き進む。その間敵魚雷攻撃及び重巡棲姫からの砲撃が襲ってくるも、避けつつそのまま東に向かう。

しかし、このまま進んでも東の島からの追撃部隊が迫ってくるのも時間の問題なのは神通も分かっているはずである。

 

神通はしばらく砲撃を避け続けていたが、急に反転し、重巡棲姫が率いる足の速い部隊に反撃を開始したのだ。

「この時を待っていました。覚悟してください」

 

メリダ島からの追撃部隊18体3部隊は部隊間が間延びし、各部隊が追走中に足の速い部隊順に部隊間距離が離れていったのだ。

重巡棲姫、率いる足の速い部隊は、他の戦艦級率いる水上砲撃部隊と空母級率いる機動部隊と距離が大分と離れ、神通を追ってしまっていたのだ。

 

神通の狙いは、東の島への敵誘導ではなく、この海域に現れた深海棲艦の司令塔である重巡棲姫の単独撃破だったのだ。

重巡棲姫を撃破出来れば、部隊は撤退、再編にも時間がかかるだろうと考えたのだ。

その為に、出来るだけ、敵兵力を分散させ、重巡棲姫と直接対決にもちこんだのだ。

 

重巡棲姫は神通のその言葉でようやく自分が罠にはまった事に気が付いたのだが、重巡棲姫の有利は変わらない。

「……フフッ、アジナマネヲ、カエリウチニシテクレル。シズメ!!」

 

そして、神通と重巡棲姫、軽巡級2、駆逐級3の正面戦闘が始まる。

神通は敵砲撃をかわしながら猛然と重巡棲姫率いる部隊に迫り近距離戦を展開してい行く。

 

神通は敵の部隊の真中突っ込み、超近距離砲撃を開始していく、敵部隊は同士討ちを避けるために、どうしても砲撃を躊躇してしまう。その隙に、神通は次々と駆逐級、軽巡級を撃沈させていく。

 

神通も無傷では居られなかったが小破状態で重巡棲姫と1対1で対峙するまでに持って行き、14㎝砲を構える。

「お覚悟を!」

 

「フン、ナマイキナ……オシカッタナ、ジカンギレダ」

重巡棲姫は決死の表情をする神通に向かって、余裕の笑みを浮かべそう言った。

 

すると、神通に魚雷が迫り、近くで爆破する。

神通は何とか避ける事が出来たが、その余波を受け、後退し、海上に膝を付く。

 

すると敵艦載機が上空で神通を囲む様に飛来してきたのだ。

そして、追撃部隊の戦艦級率いる水上部隊、そして、東の島から向かっていた、足の速い水雷部隊が到着した。

 

神通は敗北を悟る。

元々、重巡棲姫と対峙する時間は限られていたのだ。追撃部隊や、艦載機の第二次攻撃、そして、東の島からの部隊が来るが直ぐに迫ってくるからだ。

そのわずかの時間で決着を付けなければ、勝機は無かったのだ。

 

神通は周りを見渡し

「そうですか、残念です。しかし、貴方だけでも!!」

 

神通は重巡棲姫に向かい玉砕覚悟で突き進み砲撃を加えようとするが、艦載機、その他部隊から砲撃、爆撃が飛んでくる。

神通は、猛然と進むが、数が違いすぎる。

 

吹っ飛び、水上に倒れる。

 

しかし、神通はゆらゆらと立ち上がり、重巡棲姫を見据える。

 

神通は体中を赤く染め、戦闘服はどこもかしこもボロボロとなり、艤装も14㎝砲一砲塔を残して、破損、脱着し、左腕はだらんと垂れ下がり、呼吸も荒く、いつ轟沈してもおかしくない状況であったが、目の光は失わず、闘志を切らしていなかった。

「……みんなを、……相良提督はやらせない」

 

 

「フフッ、アトデソイツラモ、ナカヨクオクッテヤルヨ!!オトナシクシズンデシマエ!!」

重巡棲姫はそう言って手を上げ、攻撃の合図をする。

 

 

 

その時だった。

神通と神通を取り囲む深海棲艦頭上に巨大な影が下りてきたのだ。

それと同時に上空から弾丸が雨あられと、神通を取り囲む深海棲艦に降り注ぐ。

深海棲艦達は溜まらず、退避行動をとり、神通から離れて行った。

 

 

そして、その巨大な影は神通の真上に降り立ったのだ。

 

神通はその様子を目を丸くし、深海棲艦が退避する様を見た後、頭上の影を見上げる。

そこには10m弱の人の形をした何かが水面に立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

宗介は何時もの野戦服のまま、ジャングルの下にある航空機発着場で緊急展開ブースター装着したレーバテインに乗り込んだ。

「アル!!発進はまだか!!」

 

「緊急展開ブースターに燃料注入中です」

 

「急げ!」

 

「了解………昔の軍曹のようですな」

 

「ああ、そうだな、これ(レーバテイン)に乗っている間は前に戻れる」

 

「準備完了、いつでも発進可能、基地発進口開口します」

 

「行くぞ!」

レーバテインをAS用カタパルトに足をロックさせ、発進準備を完了させる。

 

「了解」

緊急展開ブースターのエンジンが点火し、激しくバーニアが吹き荒れる。

 

 

そして、地下滑走路から一気に地上に出て、勢いよく空へと向かって飛びだした。

 

 

 

 

宗介は上空から神通を囲む深海棲艦の姿を捉えた。

「アル!!」

 

緊急展開ブースターに装着していた巨大なガトリング砲2丁をサブアームの補助を受け両手で持ち、深海棲艦に頭上から無数の弾丸の雨を降らす。

 

 

 

レーバテインの後頭部から放熱用の髪の毛の様な放熱索を放出させ、ラムダ・ドライバを起動させ、そして、神通が立っている、水面へと静かに降り立ったのだ!!

 

ラムダ・ドライバにより、レーバテインが降り立った海上に力場が発生し、水面は波紋の様な波を打っている。

 

 

 

宗介は降り立つと同時にアルに叫ぶ。

「アルまかせた!!」

 

「了解」

するとレーバテイン(アル)はその意図が分かったかのように、立ったまま頭部がズレ、ハッチが解放する。宗介は素早くコクピットから出て、ワイヤーロープを片手に、飛び降りる。

 

 

重巡棲姫はその様子を驚きながらも、攻撃を指示する。

「ナ……ナンナンダ!!……シズメ!!」

 

深海棲艦はガトリング砲による砲撃からようやく立ち直り、無数の砲撃を艦載機及び砲身から巨大な人型兵器、レーバテインに浴びせるが、全て、途中で砲弾や爆雷は爆破または消滅する。

まるで見えない壁があるかのように……

 

アルがラムダ・ドライバでレーバテインの周りに障壁力場を張ったのだ!!

そして、レーバテインはその場で回転しながら、ガトリング砲を深海棲艦に浴びせる。

 

 

宗介は、ワイヤーロープ片手にレーバテインのコクピットから飛び降り、海上で此方を驚きの顔で見上げフラフラと立っている神通を抱き寄せ、レーバテインが回転する勢いを使いつつ、ロープを巻き上げ、コクピットの頭上へと上手く着地。

 

 

「……あの、その」

神通はここに居るはずがないと思って居た宗介に抱き上げられ混乱していた。

 

「済まない」

宗介は片手で抱き上げているボロボロの神通を見てそう言って、残っている手で神通の残っている艤装を取り外した。

 

「きゃぁ」

神通はますます混乱する。

 

そんな神通をよそに宗介は神通をお姫様抱っこの様な抱き方をして、後ろからコクピットに体を預ける。

「しっかり首に掴まれ」

 

ASのコクピットは極端に狭い。人がやっと一人はいれる程度だ。幸いにもレーバテインはM9系に比べ、多少コクピットに余裕があるが人2人が入るスペースは厳しい。

 

宗介はコクピットに座り、神通を膝の上に横に座らせ、腕を首に巻きつけさせ密着させ、コクピットのマスター・スレイブ操縦系に手と足を通す。膝には神通がいるため胸部ロックは締まらない。

 

「提督、胸部ロックが出来ず安全機能が低下しますが」

アルの声がコクピット内に響く。

 

「ハッチが閉まればいい!!」

宗介はそう叫ぶと胸部ロックがされないまま、ハッチが閉まっていく。

 

神通はさっきまで必死の形相で戦っていた自分が今、宗介と密着し抱き着いている状態で狭い空間に押し込まれている。頬が宗介の頬に密着し宗介の息づかいと心臓の鼓動がモロに伝わってくる状態に、何が何だか分からない混乱の坩堝に陥る。もしかして、これは夢で自分は既に轟沈してしまっているのではないかと神通は思ってしまっていた。そもそも宗介がここに居ること自体が神通にとっては予想外もいいところなのだ。神通は声を出すこともできずジッと宗介に密着したままになっていた。

 

「アル!!行くぞ」

 

「了解」

 

 

 

 

レーバテインによる先制のガトリング砲で敵勢力は駆逐級が2艦轟沈したのみで、ほとんどが防御態勢で耐えていた。小さくとも艦船級の耐久力はあるという事だ。

 

 

宗介はレーバテインのガトリング砲を緊急展開ブースターに戻し、76mmボクサー散弾砲に持ち変え、アルはレーバテインのサブアームズを展開し、40mmアサルトライフルを2丁構える。

 

そして、海面をジャンプし、散弾砲とアサルトライフルそして、頭部12.7mmチェーンガンで上空で飛び回っている敵艦載機を次々と一気に撃墜させ数を減らす。そして、ジャンプから降下する際、レーバテインは回転しながら、ラムダ・ドライバにより貫通イメージを乗せた散弾砲を戦艦級に放つ。

戦艦級は一撃で穴だらけになり轟沈。水面に着地する際、重巡級を蹴り飛ばし、粉砕。

そのまま、残った戦艦級を散弾砲で轟沈させていく。

その間アルは、アサルトライフルで、軽巡級などを集中砲火させ撃破させていく。

 

あっという間に、深海棲艦は戦力を半減させていった。

 

 

深海棲艦は反撃をするも、レーバテインの動きについて行けず、砲撃の殆どが空を切っていた。

 

 

再度レーバテインは大きなジャンプをし、自動追尾対空ミサイルを遠方で控える空母率いる機動部隊に6発発射させ、全弾命中させる。

 

軽空母級はそれで撃破、正規空母級ヲ級は小、中破したようだ。そして、落下する際に、重巡棲姫に向け腕部に仕込んであるワイヤーガンを放ち、しっぽの様な長い砲台に突き刺し、落下する勢いを使い重巡棲姫をワイヤーで引き寄せ……

 

「ナンナンダ?キサマハ!!」

 

「ゴミ係兼提督らしいぞ」

宗介は、対戦車ダガーを抜き、ラムダ・ドライバですべてを切り裂くイメージで投げつける。

 

 

「ヴェアアアアアーーーーー!!」

対戦車ダガーは重巡棲姫を真っ二つに切り裂いた。

 

 

重巡棲姫が轟沈すると正規空母ヲ級率いる機動部隊は撤退。その他の島を砲撃していた深海棲艦の部隊も撤退していった。

 

 

宗介はその様子を見てホッと一息ついて

「アル、戻るぞ」

 

「ゴミ係……懐かしいですね」

 

レーバテインは大きくジャンプをし、緊急展開ブースターを再点火させ、メリダ島へ戻って行く。

神通はその間も黙ったまま、宗介に抱き着いた状態であった。

 

 

 

 

宗介はレーバテインを直接、宿泊施設の前に着地させるつもりでいる。

大破状態の神通を直ぐに、入渠施設に行かすためだ。

 

 

宿泊施設の入口には川内や朝霜、早霜、秋月に清霜がいた。

アルは先に川内達に神通が重症(大破)状態である事を伝え、出迎えてくれるように頼んであった。

 

 

レーバテインをラムダ・ドライバの力でゆっくりと宿泊施設の前に着地させ、膝を付いた体勢になる。

胸部ハッチが空き、宗介は神通をお姫様抱っこの様に抱き上げ、そのまま、レーバテインのフレームに飛び移りながら、地上に降りる。

 

川内や駆逐艦たちは、レーバテインの姿を見て唖然と見上げていたが、宗介がボロボロの神通を抱き上げ下りてきたのを見て、まずは川内が駆けつける。

 

神通は宗介の腕の中で黙って顔を真っ赤にしたままだったが無事そうだ。

 

川内はその様子を見て、涙ぐみ宗介にお礼を言う。

「良かった……、相良提督ありがとう」

 

宗介は神通を下ろし、川内に託すが、その時になって、どうやらようやく気付いたらしい。

神通は顔を真っ赤にして宗介に目を合わせない様にしていたのと、戦闘服がボロボロになり、肌があらわになって、ほぼ半裸状態であった事に……

 

宗介は、急に顔中汗の玉びっしりになり……90度で頭を下げる。

「す、すまない、いや、すみませんでした!」

 

神通はずっと黙りこんで顔を真っ赤にしたまんまだったが川内はそんな宗介の様子におかしくなり。

「フフフフッ大丈夫だよ相良提督、神通も嫌がってないから……それより、入渠させるね」

そう言って、神通に肩を貸して、秋月と共に宿泊施設に入って行く。

 

 

そんな中、朝霜は、レーバテインを見上げて叫んでいた。

「すげーーーーーーーーーーーー!!何これ!!かっけえぇーーーーーーーーー!!」

 

早霜と清霜はその姿をまじまじと見て、まだ驚いている様だ。

 

朝霜は宗介を見上げて目をキラキラさせて質問する。

「相良提督!!これなんだ!!」

 

「うむ、レーバテインだ。ちなみにアルの体でもある」

 

「アルの!!アルかっこいいーーーーー!!あたいも乗ってみたいぞ!!」

 

「それほどでも……今からメンテナンスに入るので、後ほど」

アルは外部スピーカーでそう答えて、レーバテインは基地の方に歩き出す。

 

「アル、かっこいいかも」

「アル、かっこいいね!」

早霜も清霜もどうやら、朝霜と同意見らしい。

レーバテインは夕雲型三姉妹には大好評の様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、長時間の入渠(お風呂)を済ませた神通は自室で川内と話している。

 

川内や駆逐艦たちには宗介から既に、深海棲艦との戦闘があった事や重巡棲姫を撃破したことなど大凡のあらましを伝えてあるが、神通も川内に今日起こった事を話した。

 

「姉さん……私、相良提督の麾下に入る……」

 

「そう、なら私も一緒にね。今度は一人で行かせないから」

 

「……でも駆逐艦の子たちは……」

 

「多分、大丈夫よ。みんな相良提督やアルの事好きだし、明日話してみたらいいよ」

 

「姉さん、相良提督は……その、戦闘慣れをしてました……。戦闘中の相良提督は何時もと違い……雰囲気が歴戦の勇士と同じでした」

 

「そう……何者なんだろうね……相良宗介。でも、相良提督ってかなり、鈍い上に初心そうだよ。神通の半裸見て、めちゃくちゃ焦って、こんなんなって謝ってたし」

川内は神通の話を聞いて、宗介の姿を思い出すも、焦って謝っている姿を思い出し、ジェスチャーを加えながら笑う。

 

「ねね、姉さん!」

神通はまたしても顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

 

その夜ベッドの中で神通は今日の出来事を思い出す。

戦闘中の宗介の精悍な顔つき、息づかいと鼓動、そして抱きしめられた時の体温が体に記憶に残り、結局一晩中寝付くことが出来なかった。

 




ようやく、テッサ(偽)次回出せそうですw
タイトル通りになかなかいかないものです><


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第八話 建造完了 TDD-1顕現

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

やっとです。やっとテッサ登場(偽)ですが……




宗介たちがレーバテインで重巡棲姫を轟沈させた翌日の朝

 

神通は朝食の前に会議室となっている部屋に駆逐艦たちを呼び、話し始めた。

 

「みんなに聞いてほしい事があります」

神通は会議室の壇上正面に立ち、すぐ前の席に朝霜、早霜、秋月、そして今は宗介の麾下となった清霜が横一列に席に座る。

川内はその後ろで座っていた。

 

「私と川内姉さんは相良提督の麾下に加わろうと考えております。……皆には無理強いはしません」

 

「それが出来るんなら、あたい達も相良提督の麾下に移るぜ、なっ早霜っ!」

朝霜は即答でそう答えた。

 

「これでまた姉妹3人一緒に居られる」

早霜も朝霜に同意する。

 

「……お姉ちゃん」

清霜は嬉しそうに朝霜、早霜の二人の姉を見る。

 

「あんた達、そんな簡単に決めて大丈夫?……理由は?」

川内は後ろから朝霜達に呆れた様に聞く。

 

「はぁ?たぶん神通姉とか川内姉と一緒だぜ、相良提督気に入ってるしさ!それよりも、3姉妹一緒に居られるんだぜ!!」

朝霜は何言ってんだこの人みたいな目で、後ろを振り返り川内を見る。

 

「アル、かっこいいし」

早霜はレーバテインの事も気に入っている様だ。

 

「秋月ちゃんはどう?」

神通はまだ意見を言っていない秋月に話を振る。

 

「その、所属を変える事が簡単に出来るのでしょうか?私たちは日本の艦娘です」

秋月は率直な疑問を口にする。

 

「その事は、多分大丈夫なはずです。トラック泊地鎮守府が壊滅したと同時に、私たちは鎮守府とのリンクが切れてしまいました。相良提督さえ、認証していただければ、私たちはそのまま相良提督麾下の艦娘になる事が出来るでしょう。どちらにしろ私たちはこのまま、横須賀に戻れなければ、鎮守府の恩恵を受けられず、徐々に力を失っていきます。また、横須賀に戻れる保証は全くありません。ならば、心機一転し、相良提督の元で働く事で、志半ばで散って行った同胞に報いる事ができます。

秋月ちゃんが言った通り、私たちは日本の艦娘です。日本人の思いにより誕生したと言っても過言ではありません。しかしどうやら相良提督は日本国の人間ではないですが、彼は日本人の様です。これで日本人の思いも継ぐことが出来ます。しかも、深海棲艦と戦う強い意思を持っております。私たち艦娘の存在意義である深海棲艦から人々を守る事、そして深海棲艦の壊滅です。相良提督の元で、十分に私たちの役割を果たすことが出来るでしょう」

神通は皆の顔を見ながら、先日、川内と話し合っていた内容をそのまま伝えたのだ。

 

「そうですか……そう言う事なら私も相良提督の麾下に入ります。相良提督は今まで出会った人たちの中で最も私たちを理解してくれる人だと思いました。……それだけじゃなく、いい人だし、お菓子おいしいですしね」

秋月は神通の話を聞いて意を決した様に宗介の麾下に入る事を了承した。

 

「秋月、難しく考えすぎなんだよ。相良提督はいい奴で、しかも強い。それでいいんじゃね?」

朝霜は相変わらず大雑把である。

 

「満場一致のようね。神通、早速朝食後、相良提督に伝えないとね」

川内はそう言って席を立つ。

 

「今までの様に甘えているわけにはいかないわ、皆気を引き締めて行きましょう」

神通はそう言って締めくくる。

 

早霜はそんな中ボソっと言う。

「そうなると、私たちは宿泊施設つかえなくなるのかな?」

 

「うげっ、それは嫌だな!」

朝霜は間髪入れずほんと嫌そうな顔をして言ったが……それは全員思っている事でもあった。

この宿泊施設は各部屋が広く清潔感もあり、シャンプーやらコスメも揃っているのだ。

 

 

 

 

 

宿泊施設の食堂、宗介は此方の宿泊施設に顔を出し、一緒に朝食をとる。

 

神通は宗介の顔を見て顔を真っ赤にしながらも、深々と頭を下げている。

昨日ちゃんとお礼が言えなかったためだ。

「先日は、助けて頂きありがとうございました。おかげで命拾いをいたしました。また勝手な行動を起こし、ご迷惑おかけしたことお詫びいたします。……どのような罰も受ける所存です」

 

「うむ、今後はあのような先走った行動は控えてくれ、それよりも大事なさそうでよかった……艤装を捨ててしまい済まなかった。こちらで新調するように手配はさせてもらう」

宗介はそう言うにとどめ、艤装を捨ててしまった事を詫びる。

 

神通は今何時もの戦闘服ではなく、部屋に会った純白のドレスを着ている。その為もあって、その姿を宗介に見られるのが恥ずかしいようだったが、当の本人はそんなところはとことん鈍いため、意に返していない様だ。

宗介が神通の艤装をすべて剥ぎ取って、あの戦闘海域で捨ててしまったため、清霜同様に戦闘服が使い物にならなくなったようなのだ。

 

「そんな……命を助けて頂いただけでも………」

神通はそれ以上言葉にならなかった。宗介に救ってもらい、レーバテインの中で体を密着していた事を思い出し、気恥ずかしさで一杯一杯になっていた。

 

 

そして、いつも通り朝食を済ませた後、神通は宗介に会議室に来てもらう様に言う。

 

宗介に会議室の正面に立ってもらい。

神通以下艦娘はその正面に直立不動の体制で立ち頭を下げ、艦娘を代表して神通は宗介にお願いという名の交渉をする。

 

「相良提督、私たちの部隊全員、相良提督の麾下に転属させていただきたくお願い申し上げます」

 

「ん?どういうことだ、横須賀に戻らなくていいのか?」

 

「現状では横須賀に戻る事は叶わない可能性が高いと判断いたしました。また、私たち艦娘は鎮守府とのリンクが切れ、しばらくすると徐々に艦娘としての能力が低下していきます。ならば相良提督の元、深海棲艦と戦っていく道が最善であると愚考いたします。また、提督は私たち艦娘を理解していただける方と信じております」

 

「ふむ、日本国から鞍替えすることになる。いわば亡命とさほどかわらん。裏切り者の扱いをされかねん。若しくは国家反逆罪になる可能性もあるぞ」

 

「心配ご無用です。既に日本の鎮守府とのリンクが切れ、時が立てば轟沈扱いにされているでしょう。是非に麾下に加えて下さい。お願いいたします」

そう言って再び神通以下艦娘達は宗介に頭を下げた。

 

「……分かった。正直言ってその申し出は助かる。当方は戦力はほぼ昨日見たアルが搭載されているロボットのレーバテインのみだ。今後日本国に接触があった場合、向こうと交渉し希望者は日本国に戻すようにする」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

「ただし、神通……昨日のようなことは二度とやめてくれ、方針としては全員で生き残る……1パーセントでも全員が生き残れる可能性があれば、それを全員で考え、可能性を上げ実行する。

誰かを犠牲にするような作戦は立てない」

宗介はそう宣言した。

これは昔、ハンカ自治州で自分自身がかなめに言われた事でもあった。「みんなで生きて帰ろう」

宗介は今まで、数々の犠牲者の上に生きている事を実感している。

その間にも大事な仲間も何度も失ってきたのだ。全員で生き残れる事の難しさも十分知っている。しかし、自分が上に立つならば、あえて最上の理想論であるこの事を掲げたかったのだ。

 

神通は宗介の宣言を聞いて思う。

この人の為だったら自分は滅んでもいいと、もし彼に何かあれば自分が盾になればいいと……

「了解いたしました」

 

そして、全員が宗介に敬礼をする。

 

こうして、神通、川内、朝霜、早霜、秋月も相良提督、宗介の麾下に入ったのだ。

 

 

 

 

宗介は午後から、艦娘達全員を基地に呼び、洞窟となっている広々とした空間の艦船発着所に案内する。

現在、急ピッチで艦娘の発着施設を妖精たちが建設していた。

 

そこで宗介は艦娘達に取り合えずの任務を言い渡す。

「まずはここをメリダ島基地をメリダ島鎮守府と改める。貴官らにはまず、この基地設備について知ってもらい、学んでくれ。神通は艤装を新調するまで艦娘としては動けないため、俺に付き添って鎮守府で言うところの秘書艦の役割をしてもらう。それと並行して、新調する艤装の調整と訓練だ」

 

「はい、承りました」

 

「川内、それと、朝霜、早霜、秋月には今後、兵装を新調しようと計画している。それぞれの個性や出力などを後で、開発室で教えてくれ、それと皆にはアルから今後使用する兵器についてのレクチャーを毎日アルから学んでくれ、今、清霜が受けているプログラムなのだが、兵器の扱い、考え方が今までと異なるからだ」

 

「分かったわ」

「よっしゃーー!!」

「了解」

「分かりました」

 

「川内は、副長として、これまで通り、朝霜、早霜、清霜、秋月の面倒を見てやってくれ、それと今までの様な水雷戦隊とは異なるため、それは留意してくれ、それ以外にも細々とやってもらう事があるがそれは個別にだ」

 

「分かったわ」

 

「朝霜、早霜、清霜、秋月はそれ以外には、家畜の確保と、現在復旧した農業プラントの生産補助を言い渡す。まあ、交代制で行ってくれ、休暇も必要だ。……それと宿泊施設についてはあそこは艦娘用の寮とする。入渠施設や食堂もあり丁度いい、但し、妖精は食事がつくれないらしいから、食事については今まで通り当番制で作ってくれ」

 

艦娘達は宿泊施設がそのまま使用できることにホッとする。

 

 

その後は、宗介は艦娘達に基地についてとこの島の概要を説明し、各施設をアルと共に案内し今日の予定を消化していった。

 

そして、秘書艦となった神通の最初の仕事は、宗介に広々とした司令官室を作る事とその横にちゃんとした個人スペースとなる個室を作る事の進言から始まった。

神通は妖精に渡されたミスリルの女性尉官が着用する濃紺のスーツと白のブラウスを渡され、濃紺のスカートに上は白のブラウスといういで立ちになっている。

 

宗介が今まで寝泊まりしていた部屋は、ミスリル時代に使用していた狭い個室だった。SRT要員であった宗介は、一応基地でも個室を与えられていたが何せ狭いのだ。

さらに、提督としての仕事は歩きながらアルと相談、指示を出し合い、ほぼすべて口頭ですませてきており、各種許可サインやら細かい予算編成やらは今まで何もしてこなかったため、書類として残っていないのだ。ただアルがすべて記憶しているため、データとしてアルがすべて管理はしていたので問題は無かったのだが……。宗介はこの世界に来て司令官としての書類仕事を今までしたことが無い上に、そのような仕事をする部屋にも入る必要性を感じていなかった。そんな現状に神通は宗介に体裁だけでも整える様に進言したのだ。細かな仕事は秘書艦である自分が行うため、宗介には今まで通りで良いと……。そして元司令官室であったミスリル西太平洋戦隊の司令官テレサ・テスタロッサ大佐の部屋を使う様にと進言したが、なぜか宗介は入る事を躊躇を覚え、頑なに拒否したため、新たに司令官室をつくる事にしたのだ。

神通は妖精に基地内にある個人スペースやらはすべて現在ほぼすべて空いている状態なため、そこに広々とした司令官室を。その隣に宗介個人スペース専用に広めの風呂やらトイレそして、広めのリビングルームとキッチンに寝室、プライベートルームまで完備を作るようにお願いしたのだ。

宗介は最初は拒否したが、神通が粘りづよく宗介を説き伏せたのだ。

 

そして、妖精達は司令官室及び宗介の個人スペースを最新設備投入してわずか一日で建設してしまったのである。

 

 

 

 

 

 

そして翌日、ついに120時間を経て、メリダ島鎮守府初の艦娘が誕生せんとしていた。

 

宗介と神通、川内は艦娘顕現(建造)施設でその誕生を待つ。

朝霜などは、立ち会いたいと言っていたが、……失敗の可能性も大いにあるため、駆逐艦たちには今回、遠慮してもらっている。

 

 

 

 

「提督、そろそろだよ」

中尉と呼ばれる妖精が顕現装置の操作を行うPC前にちょこんと座り、宗介に知らせる。

 

直径5mある円形台の顕現装置は淡い光に包まれ中心部分が見えない状況になっていた。装置の上部に掲げてある電光掲示板の時間が0になった途端、顕現装置はプラズマが発生し激しくスパークし光がその場を包み込む。

 

「くっ」

宗介は思わず目を塞ぐ。

 

そして、光が収まると、顕現装置は白い煙を上げ、まだ所々静電気の様なものがパチパチとスパークする中、顕現装置の円形台の上には人ではなく、医療検査機器の様な人が入れるくらいの大きな白いカプセルが現れた。

 

「な?」

宗介は一瞬失敗かと頭をよぎったが……

カプセル上部が駆動音と共に横開きに開き、人影が出てきたのだ。

 

 

その人影を見た宗介は…………最大限の驚愕の表情を浮かべ

 

「たたたたたたたたたたたた、大佐殿!?」

焦りやら驚きやらのないまぜた様な大きな声でその人影に声を掛けた。

 

 

人影はカプセルから出て、装置の円形台の上に立ち、宗介を見てニコッと微笑む。

 

「違いますよ~、TDD-1トゥアハー・デ・ダナン、艤装名はダーナ。提督は~、テッサって呼んでくださいね♡」

 

アッシュブランドの髪を後ろで濃紺のリボンで括り、大きな三つ編みにしている。肌の色は雪の様に白く、大きくつぶらな愛らしい目に、髪の色と同じ長いまつ毛と瞳、鼻筋が通り、可愛らしい唇がその下にちょこんとついている。そして、綺麗な人差し指を上立て、首を傾げながら微笑む姿。

絵にかいたような絶世の美少女がそこに立っていた。

 

艦娘を顕現させたはずなのに、宗介は自分がよく知っている人物が目の前に現れ、余りの驚きで開いた口が閉じないでいた。

 

「どうやら成功の様ですが、どうなさいましたか?」

そんな宗介の様子にスーツ姿の神通は心配そうに声を掛ける。

 

「うーん、この子潜水艦だね。でも明らかにヨーロッパ人だよね。しかもなんで120時間もかかったんだろう?」

川内は顕現した艦娘を見てそう答えた。

 

そう、彼女は昭和の時代の紺色のスクール水着を着用していたのだ。

しかも、ご丁寧に胸の下あたりから大きな白い布が縫い付けてあり、ひらがなで『てっさ』と大きくマジックで書かれているのである。

スクール水着は日本の潜水艦の艦娘の戦闘服なのだ。しかし彼女はどう見ても日本人には見えない。

 

 

口を大きく開けたまま固まっている宗介に、その少女は正面まで来て、目をウルウルさせながら上目使いで心配そうに見上げる。

「どうしたんですか?相良さん……いえ、提督」

 

宗介は顔一杯に玉のような汗を掻き、滝の様に流す。

「あわわ……失礼しました!!マム!!」

慌てて叫んで真正面を見据え敬礼した。

 

「違いますよ~、テッサって呼んでくれないと嫌です~」

そう言ってその少女は宗介の敬礼をしていない方の腕を取り自分の体を密着させる。

少女の体形は小柄だが、女性らしいボディーラインをしており、胸もそこそこあるようだ。

 

その様子を見て、神通は、

「トゥアハー・デ・ダナンさん?それともテッサさんとお呼びすれば?とりあえず相良提督から離れて下さい!!」

珍しく少し声が上ずってその少女を注意する。

 

 

「いやです~~、あなたに言われる筋合いはありません~」

その少女は宗介の腕を取ったまま、頬を可愛らしく膨らませ、神通にそう言った。

 

「離れて下さい!」

神通は語気を強くする。

 

 

そんなやり取りを宗介の目の前で行われていたが、

(なぜ彼女が?メリダ島最終決戦時に戦隊を率いて撤退したはずなのに……しかもスクール水着、何故いつも俺を困らせる?いやなんであの時からずっと困っていた?なぜ今も困っているのだ?もう解決したはずでは?どうすれば?いや、しかし)

宗介は疑問と混乱とが頭をグルグルと廻り、とうとうオーバーヒートをおこす。

 

宗介は顔を真っ青にして、顔面中汗が流れ、その場で倒れてしまった。

この世界に来て、気を張っていたのも確かだが……それ以上に女性関係にトコトン疎い宗介のキャパは、これ系には耐性が全くなく、過去のトラウマも呼び起こし、早くも心が考える事を拒否してしまった様だ。

 

「提督さん~大丈夫ですか?相良さ~~ん!!」

 

「相良提督!!相良提督!!しっかりしてください!!姉さん提督をベッドに!!衛生兵!!」




ようやくテッサ登場です!!

でも、早くも波乱の予感。
大丈夫か宗介!!耐えろ宗介!!


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第九話 艦娘強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

陸の上のテッサ(偽)は、短編のテッサと同じ性格です。


宗介は目が覚めると、知らない天井が見えていた。

頭はボーっとしていたが、多分これは、神通が妖精に作らせた自分の為の新たな部屋なのだろうと考えに至る。

宗介は何故自分がここで、しかもベッドの上で寝ているのかが思い出せないでいた。

昨日は何やら酷くストレスがたまる様な体験をした気がしている。

(……うむ、確か艦娘の顕現に立ち会っていたはずだが………)

左手のひらには何か柔らかい物を触っている感触がする。手のひらを動かしそれを掴む仕草をする。何やら素敵な感触であった。

しかも何故か、甘い良い香りまでする。

左手の平の感触をしばらく確かめていると……

 

胸元あたりで声がする。

「あっ、うん♡、いけません~♡、むにゃ~」

しかも悩まし気な高い声の女性の声だ。

 

宗介はバッと自分にかぶさっているシーツを剥がす。

すると、アッシュブロンドの小柄な少女がほほを染めながら気持ちよさそうに寝息を立てていた!!

しかも、シャツははだけ、上下の下着が見えている!!さらに自分の左手は彼女の胸を掴んでいたのだ!!

 

宗介は顔面に玉のような汗を掻き

「うゎあああああああああーーーーーー!!」

大声で叫び、吹っ飛ぶようにその場から離れ壁を背に座り込む。

 

 

「失礼します!!どうされましたか相良提督!!」

スーツ姿の神通がトントンとノックした後、慌てた様に寝室の扉を開け見た光景は……

 

壁に張り付いて、驚愕の表情でプルプルと首を左右に振りながら顔面一杯に汗を掻く宗介、悪夢でも見ているかのようなその視線の先にあるベッドの上には

「……ダナンさん!!何をやっているのですか!!」

ミスリル西太平洋戦隊司令官テレサ・テスタロッサ大佐、いや、テッサと名乗るテレサ・テスタロッサ大佐そっくりな艦娘トゥアハー・デ・ダナンが宗介のベッドであられもない姿で気持ちよさそうに寝ていたのだ!!

 

「ダナンさん!!起きて下さい!!」

神通は語気を強くしてベッドの上に寝ている艦娘トゥアハー・デ・ダナンを揺すって起こすのだが……

 

「むにゃー、違いますよ~テッサって呼んでください♡」

こんな寝言を言って一向に起きないのだ。

 

 

 

「神通居るーー?」

このタイミングで司令官室の方から神通を呼ぶ川内の声が聞こえてきた。

 

「姉さん!!こちらに来てください!!」

神通は部屋二つ離れた司令官室の方へ大声で叫ぶ。

 

そして川内は開けっ放しになっている寝室に一応ノックして入ってくる。

「神通、ダナン見なかった?起こしに行こうとしたら、もぬけの殻だったんだ……って、なんでダナンがこんなところで寝ているの?まさか、相良提督が?」

そう言って、汗だくで壁に張り付くプルプルと首を左右に振る宗介を見るが……それはあり得ないことだと悟った。

 

「姉さん、いつの間にかダナンさんが相良提督のベッドに……しかも起きないんです」

神通は困った顔を川内に向ける。

 

「こら、ダナン!!起きなさい!!なんでいつの間にこんな所に!!起きなさいって!!」

川内は最初は揺すって起こすだけだったが、痺れを切らし、首根っこを掴んでベッドから引きずり下ろしたのだ。

 

「イタッ、アレ?相良さんは?提督は?」

ベッドから引きずり降ろされようやく目が覚めたダナンはキョロキョロとあたりを見渡す。

そして、壁に張り付いている宗介を見つけ

「相良さ~ん♡」

宗介に飛びつこうとするが……

 

「あんたはこっち!」

川内に首根っこ掴まれたまま、寝室から引きずり出され、

 

「なにするんですか~~~、提督~~助けて下さい~~」

ダナンはジタバタと抵抗するが川内によって強制的に艦娘専用宿泊施設に戻される。

 

 

宗介はその様子を見てホッと一息つく。

 

神通はそんな宗介に冷たい水が入ったコップを差し出す。

「大丈夫ですか?」

 

「……あ、ああ、助かる」

宗介は一気に水を飲みほした。

 

 

 

 

そしてしばらくして、新設した司令官室に併設している応接室で宗介と神通、そして、宿泊施設の部屋にダナンを閉じ込めてきた川内がダナンについて話し合いを始めていた。

 

「あの少女は、艦娘でトゥアハー・デ・ダナンの顕現した姿で間違いないんだな」

 

「はい、本人もそう言ってますし、中尉の妖精さんとアルさんもそう言ってますので間違いありません」

宗介の質問に神通は答える。

神通は昨日宗介が倒れた後、川内と共にアルに大まかな事情やトゥアハー・デ・ダナンの顕現する前の状況と、姿がそっくりなテレサ・テスタロッサ大佐について、話せる範囲で伝えていた。

 

「そうか……」

 

「相良提督の驚き様が尋常じゃなかったんだけど、どうして?」

 

「……それは、彼女が、俺があっちの世界で所属していた傭兵部隊の司令官にそっくりなためだ」

 

「随分若い司令官だったんだね。でもそれだけじゃ、そんな驚かないでしょ?なんか怯えていたし」

 

「いや、それには色々と事情が……」

宗介は言いにくそうにする。

 

実はその辺の事はアルに聞いていた。

ダナンの姿がある女性を模している事を……

ミスリル西太平洋戦隊司令官にして、強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナンを設計し艦長も務めたテレサ・テスタロッサ大佐という若いが優秀な女傑について……そのテレサ・テスタロッサ大佐は部下である相良宗介軍曹に恋をし、アタックし続けたのだが、やることなすことが、宗介にとって裏目にでて、宗介にとってはトラウマになるぐらい、いい迷惑になっていた。しかも、宗介自身は最後まで一人の女性としては見ず、尊敬できる上官として、また、一応は友人とまではいかなくとも、同年代の人間としても接していた事を話していた。

最終的にはテレサ・テスタロッサ大佐の告白は受け入れられず宗介に振られてしまったのだ。

 

「姉さん、その辺で」

神通は川内を止めるのだが……

 

「いや、聞いてくれ、当時の俺の司令官テレサ・テスタロッサ大佐はとても優秀な方だったのだ。戦団を最後まで取りまとめ、天才的な手腕で数々の困難な作戦を乗り越え俺たちを導いてくれていたのだ。

しかし、個人的にはどうやら相性が良くなかったらしく、迷惑をかけっぱなしで有った様なのだ」

宗介は簡単にだがテッサと宗介の関係について話す。最後の相性云々については宗介の一方的な勘違いなのだが……

神通と川内はアルに話を聞いているだけに、この鈍い相良宗介にアタックし続けたテッサに同情せざるをえなかった。

 

宗介は続けて

「強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、俺もほぼ、戦団で過ごす半分の時間はこの艦に乗って作戦行動を行っていた。非常に世話になった艦と言っていいだろう。この艦はテレサ・テスタロッサ大佐が設計し、自らが艦長として、運営していた艦だったのだ。最終的には、役目を果たし轟沈し、この島の水路に今もその船体は沈んでいるだろう。

今思うに、俺とこの島にゆかりがある艦だったため、顕現された。さらにあの姿は、設計者と艦長として携わったテレサ・テスタロッサ大佐の思いがこめられていたため、具現化したのだろう」

自分の考えと思いを神通と川内に伝える。

しかし、宗介が困惑するのは、艦娘ダナンは姿だけでなく、宗介が知っているテッサの仕草や宗介に対する行動までそっくりであるからだ。

 

「……お話して頂きまして、ありがとうござます」

神通はそう言って宗介にお礼を言う。

宗介にとって元の世界の話しである。元に戻れない望郷の思いもあるかもしれず。話すのもつらいのではないかと神通はそう思ったからだ。

 

 

「潜水艦の艦娘は日本にも存在していたのか?」

 

「はい、数は少ないですが」

 

「そうか……」

 

「よりによって潜水艦か、奇襲や偵察には優れているけど、戦力としては、ちょっと期待はずれかもね」

川内は率直な意見を言う。

確かにこの時代の艦娘の潜水艦は真正面からの戦いには向いていない。しかも敵に優秀な水中探知機などが存在すれば、奇襲も難しくなる。

 

「いや……あのトゥアハー・デ・ダナンと同スペックなら凄まじい戦力だ。なまじこの時代の戦艦よりずっと戦力は上だ……アル説明してくれ……」

 

無機質な男性の声が応接間に響く。

「了解です。……流石にあのトゥアハー・デ・ダナンが艦娘になるとは驚きです。しかも大佐と同じお姿とは……」

アルもどうやらダナンの姿に面を喰らった様だ。

 

「そうだな」

 

そしてアルは説明しだす。

「 強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、設計者はテレサ・テスタロッサ及びバニ・モラウタ、パラジウムリアクター3基搭載、最大航行時間250日、通常推進30ノット、最高速50ノット以上計測しております」

 

「はぁ?潜水艦で50ノット?私たちより速いじゃない!」

 

「当時で世界最速の潜水艦です。全長218m 横幅44m、常にAS搭載9~10 攻撃ヘリ8、輸送ヘリ、3~4、その他揚陸小型船や水陸両用車両、通常車両なども搭載されております。格納庫だけでなく、上部甲板も使用すれば理論上、ヘリだけでも50以上は搭載可能です」

 

「あの~大きさは大戦艦並みで、艦載機ですか?それも空母並みに搭載できるのですか?」

 

「兵器は魚雷53.3㎝魚雷発射管6門、現行では通常魚雷が搭載されてましたが、予定では60ノット~120ノットの速力がでる追尾型高速魚雷が開発搭載されるハズでした」

 

「……その魚雷避けれる気がしないわ」

 

「多目的垂直ミサイル発射管10門、弾道ミサイル発射管2門、機雷発射管4門その他兵装もありますが、主にはこんなものです。特にミサイルはアド・ハープーンとトマホークを積んでおりました」

 

「ミサイル発射管?アド・ハープーン?トマホーク?」

 

「長距離ミサイル発射管の総称です。アド・ハープーンやトマホークは巡航ミサイルです。アド・ハープーンは大凡、射程は300㎞前後、トマホークが2500㎞、弾道ミサイルは7500㎞です。その他のミサイルも運用可能です」

 

「……………その、ダナンさんだけで戦略兵器ですね……」

 

「防空兵器として、対空ミサイル各種を……」

 

「まだあるの!?」

 

「アル……それくらいでいい、どれだけスペックが高いかこれでわかってもらえただろう」

宗介は驚きっぱなしの神通と川内を見て、アルの説明を止める。

 

 

「でも相良提督、ダナン……どう見ても艤装持っていなかったよ?」

川内が衝撃の事実を宗介に伝える。

 

「なに!……アルどうなんだ?」

 

「確かに、艦娘トゥアハー・デ・ダナンは艤装を持っているように見えませんでした」

 

「……トゥアハー・デ・ダナンと中尉を呼んでくれ」

宗介はダナンと兵器開発、艦娘顕現(建造)担当の妖精を呼ぶようにアルに言う。

宗介は額に汗を一筋流す。艤装の無いダナンは、陸に上がったテスタロッサ大佐同様、戦闘にはとても役に立たないただの美少女、しかも周りに厄介ごとをまき散らすドジっ子美少女と同じなのだ。

 

宗介がそう言ったのと同時に応接室の扉が開く。

「はいっ!!私はここです~相良提督~~でも、私の事はテッサって呼んでください♡」

笑顔でテッサ、いや、ダナンが現れたのだ。

 

「なんで……部屋に閉じ込めたのに……」

川内は驚きの顔でダナンを見る。

 

「私にあんなセキュリティ甘々の電子錠なんて、相良提督との愛の前では通用しません」

ダナンはスクール水着姿で胸を張って、自慢げな顔でそう言い切った。

 

「………まあ、いい、ダナン。聞きたい事があるのだが、艤装はないのか?」

宗介はダナンの顔を見て何か言いたそうだったが、諦め、本来の話題に戻す。

 

ダナンは宗介が座っている横にちょこんと座り、ワザとらしくこんな言い方をする。

「嫌です~。テッサって呼んでくれないと教えてあげません」

 

「…………分かった、テ、テッサ、君の艤装はどうした?」

 

「あはっ、やっと呼んでくれました!相良提督~」

ダナンは嬉しそうに宗介の右腕にすり寄る。

 

「あっ、ダナンさん提督から離れて下さい!」

神通はそんなダナンを注意する。

 

「ふんだ。……艤装は有りません。だって邪魔じゃないですか?提督とこうやってくっつけなくなっちゃうからです~」

神通を一瞥してから、宗介の腕さらにギュッと抱きしめてそう答えた。

神通は恨めしそうに宗介の腕とダナンを見る。

 

「……ちゃんと答えてほしい、艤装は必須ではないのか?」

宗介は溜息を一つ付いてから、諦めたような表情をしダナンに質問する。

 

「それは~、今、妖精さん達に作ってもらってるからです~」

ニコッとした笑顔を宗介に向けダナンは答えた。

 

「?」

宗介はその答えに疑問を持つ、神通に事前に聞いていた話では、顕現(建造)時に初期スペックの艤装と共に顕現されると聞いていたからだ。

 

そこに先ほどアルからこちらに来るように連絡を受けていた装備開発担当の中尉と呼ばれている妖精が応接室に入って来ながら答える。

「いや~、なんかその艦娘と一緒に顕現された棺桶みたいなカプセルに、設計図が入ってたんだよね~、しかもあのカプセルがキーになるそうなんだ~、で、提督その子の艤装なんだけど、作成?に一週間はかかるからよろしく~」

宗介は艤装が出来ると聞いて一応はホッとする。

 

中尉はそう言って、用事が済んだとばかりに、直ぐ応接室を出ようとしたのだが宗介は呼び止めて質問をする。

「了解した。例外続きの艦娘だ。偽装と本体と別々になっている事は致し方がない。しかし、中尉、俺はあの時、顕現(建造)に必要な資源を、君は良さげなもの使ったと言ったが何を投入したのだ?」

 

「あ~、それね~、この島の水路に沈んでいる大きな潜水艦を調査した時に拾ってきた奴で……そう言えば、あの棺桶見たいなカプセルと同じもんだったかな?そんで、この基地にあった、司令官室にある小物類~あれは人の思いが詰まっていていい素材になると思ったんだ~、後は色々入れたけど忘れた~。もう忙しいから行くね~、あと提督~、新人がまた50人増えたんだけど、全部艤装作成班に回したから~」

中尉はそんな事を言ってさっさと応接室を後にした。

 

そう、艦娘トゥアハー・デ・ダナンを顕現(建造)させるために使った棺桶のようなカプセルとは、今は沈んでしまったトゥアハー・デ・ダナン本体に搭載されていたTAROSというシステムを動かすための装置である。操作できるのはウィスパードと呼ばれるテレサ・テスタロッサ大佐を含む一部の特殊能力者だけなのだ。そして、TAROSを使用することで、一人でトゥアハー・デ・ダナンを制御することも可能なしろものである。(但し、TAROS本来の使用目的ではない)トゥアハー・デ・ダナンの根幹システムとも言うべき物を、図らずも資源として使用したのだ。さらに、司令官室にある小物とは、もちろんテレサ・テスタロッサ大佐の私物だ。もちろんその中には宗介との思い出の品(写真)なども入っていたのだろう。

まさしく、トゥアハー・デ・ダナンとテレサ・テスタロッサ大佐の思いが詰まったものを資源にしてできたのが、艦娘トゥアハー・デ・ダナン。その姿がテレサ・テスタロッサ大佐と瓜二つなのも宗介への執着も必然なのだろう。

 

 

宗介は深くため息を付きながら立ち上がり、ダナンを腕から引きはがして真正面で向き、改めて挨拶をする。

「メリダ島鎮守府提督相良宗介だ。改めて、トゥアハー・デ・ダナン……いや、テッサ、メリダ島鎮守府は君を歓迎する。まだ、出来たばかりの鎮守府だ。色々と足りないものは山ほどある。貴官の活躍に期待する」

 

「はいぃ!相良提督の為に頑張ります!」

ダナンは嬉しそうに元気よく返事をする。

 

「神通、川内。ちょっと変わった艦娘なんだが、すまないが宿泊施設やここでの事を色々と教えてやってくれ」

 

「了解しました」

「わかったわ」

 

「私が変わった艦娘ってなんですか~?」

 

「ふむ、テ、テッサも神通と川内の言う事をちゃんと聞くように……それと、基地内で水着姿でうろつくのもどうかと思う……何か上に着てくれ」

 

「え~、これが正式な戦闘服なのに~」

 

「相良提督のおっしゃることは至極もっともな事です。後で何か手ごろなものを用意しますので……着て下さい」

神通はそんなダナンに軽く注意をする。

 

「う~~」

 

 

こうして、この島初めての顕現(建造)で生まれたTDD-1強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン……艦娘テッサは、宗介との挨拶を済ませ、正式にメリダ島鎮守府所属の艦娘となった。

 

 

 

 

しかし……翌日の朝

 

 

「うゎああああああああーーーーーーー!!」

 

「ダナンさん!!提督の寝所に潜り込んだらいけません!!」

 

「むにゃ、相良さん~もう食べれません~」

 

提督の寝所では宗介の叫び声と神通の叱り声が響いていた。




宗介の悩みの種が増えただけの気がしてきた。

神通さんも気が気で仕方がないでしょう。


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第十話 神通の艤装と深海棲艦の目的

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


今回は物凄くつなぎ要素が高いお話です。
飛ばしてもいいのではと思います。
ただ、神通にこんな兵器を取り付けたいだけの願望をそのまま載せてるだけです。




艦娘、強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、通称テッサが顕現してから3日が立っていた。

 

艦娘宿泊施設では食事当番のテッサと朝霜二人が食堂厨房に立ち夕食の準備をしている。

 

「フフフン、フフフン、フン~」

テッサは鼻歌を歌いながらパスタを茹で、ボロネーゼのパスタソースを作っていた。

 

その横で、料理が苦手な朝霜は調理器具などを洗っている。

「おおっ、うまそうだ!!テッサって料理できるのかよ!しかもイタリアン、食事の幅が広がっていいぜ。まともに料理できるのは神通姉と秋月だけだからな、そういえば早霜もこの頃美味しくなってきたな、川内姉は相変わらず全然ダメだし、あたいと清霜もなぜか上手くならないぜ」

 

「料理は愛です~!…出来た!これで相良さんの胃袋もハートもゲットです!」

テッサは満面の笑みをこぼしていた。

 

「テッサって本当に相良提督が好きだよな」

 

「はいっ!愛してます!!」

 

「うへ~、よくそんな事恥ずかしげも無くいえるぜ。まあ、あたいも提督は気に入ってはいるけどよ~好きとか正直良くわからねー、テッサはどういうところが好きなんだ?」

 

「うーん、可愛いところですかね」

 

「かわいい?相良提督が?いっつも仏頂面だぜ」

 

「フフフーーン、意外と可愛いところがあるんですよ。それは私だけの秘密ですっ!」

 

艦娘トゥアハー・デ・ダナンは通称名であるテッサの名を通し、その名前で呼ばれるようになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃宗介は、神通と共に、艦娘顕現(建造)施設に出向いていた。

「中尉、新たな艦娘の顕現がまだできないのか?」

 

「うーん、あの子(テッサ)を顕現させたときにオーバーヒート起こしちゃったみたいだし、なんか霊的なエネルギーが集まらないって言うか……全部あの子に吸い取られちゃったみたいなんだ。だからしばらく使えないね」

中尉と呼ばれる妖精は宗介に顕現装置が現状使えない理由を説明する。

 

「うむ、ではこの装置をもう一つ作ってもダメなのか?」

 

「そうだね~この場に漂う霊的エネルギーが枯渇しているからね~」

 

「なるほど、しばらくすれば復活するのだな」

 

「たぶんね~」

 

「了解した」

宗介はテッサの顕現による弊害に頭を悩ませていた。

本来なら、6体の艦娘を顕現させ、訓練に入っていたはずだったのだ。

 

 

「中尉、すまないが神通の艤装開発状況を確認させてくれ」

宗介はそう言って、神通と中尉(妖精)と一緒に隣の装備開発施設に向かう。

 

中尉は装備開発室の作業台に向かって行き踏み台に登り、作業台にある艤装と戦闘服を指さす。

「艤装の試作品は出来ているし、神通の戦闘用服はさっき完成したから、着てみる?」

 

「神通、着てもらっていいか?」

 

「はい、では更衣室をおかりします」

神通はそう言って戦闘用服を中尉から受け取って、更衣室に向かった。

 

その間宗介はタブレット端末で神通の艤装スペックをしばらく確認していた。

「む……中尉これは、最新のイージス艦ではないか?」

 

「そうだよ~」

 

「WW2時代の軽巡級では出力や排水量などが足りないのではなかったのか?」

 

「いや、神通ね。軽巡級なんだけど、彼女の戦闘能力は重巡のそれを超え、高速戦艦に迫る力をもっているんだ。武器さえ整えれば、戦艦を凌駕するかもだよ。だから、イージス艦の装備を載せても問題ないはずだよ~」

 

「さすが神通と言ったところか……」

宗介が感心した様に頷いていると、神通は着替えて戻って来た。

今までの服と形状は似ていたが、前は橙色をメインに白色を基調とした服だったのだが、その逆で、白色がメインに橙色とを基調にした服に仕上がっていた。

最大の特徴は艤装と共にステルス性を重視したものとなっている。

 

「どうでしょうか?」

神通は宗介に恥ずかしそうに戦闘服全体を見せる。

 

「うむ、いい感じではないか……」

 

「そうですか?」

神通は顔を赤らめ宗介の答えに嬉しそうにする。

 

「艤装を装着してくれ」

 

「了解です」

 

今までの神通の艤装と違い。背中にバックパックを装着するタイプだ。形状は鋭角の船尾が4つ並んだような形のランドセルタイプとなっている。それぞれの船尾状のバックパックが独立して上から90度に開き、垂直にミサイルが発射できるようになっていた。多目的垂直ミサイル発射装置合計で20セル1基×4が搭載、それぞれの船尾に20セル1基搭載されている。巡航ミサイルや対空ミサイル、対艦ミサイル、対潜水艦ミサイルなどが搭載可能ではあるが、現在は対空ミサイルと中距離対艦ミサイルと近距離対艦ミサイル、そして対潜水艦ミサイル(アスロック)を搭載し、トマホークなどの巡航ミサイルは積んでいない。軍事衛星や成層圏プラットホームなどが無い現状では、巡航ミサイルや弾道ミサイルなどの運用は困難なためだ。また、神通の持ち味である防御力と近中距離砲撃力を生かすためにも、このような装備となっている。

そして、メイン兵装である最新型の155mm単装砲2門を両腕の前腕部に装着、非戦闘時は砲身は格納される。射程は通常弾で44㎞、ロケット推進弾で144㎞ さらに水上、対空共に攻撃可能な最新バージョンの57mm単装砲を2門搭載、右腕上腕部に装着、此方も非戦闘時には砲身は格納される。兵装もかなりステルス性を意識した作りとなっているのだ。

 

そして、3機の無人航空機、現在は偵察機及び観測機を搭載している。

 

これだけの兵装が詰まった最新鋭の軍艦は、最早戦艦と言っていいのではなかろうか。

また、これほどの装備は神通以外では扱えないだろう。

 

宗介は艤装を装着した神通と、タブレット端末に映し出されるとんでもないスペックを見ながら唸る。

「むむ……」

 

「相良提督……私にこれだけのものを扱えるでしょうか?……特にミサイル?群と、情報統合システム?など、今まで聞いたことが無い兵装が多数搭載されております」

 

「直ぐにとは言わない……しかし、軽巡級という比較的、軽装な艦でありながら努力で、戦艦にも負けない力を手に入れた神通なら、必ずこの兵装も扱う事ができるだろう」

 

「!!……ありがとうございます!!期待に応え、必ず扱えるようになります」

神通は宗介のこの言葉に歓喜を覚え、力づよく答えた。

 

 

「うむ」

宗介は額一筋の汗を垂らしながら頷く。

この艤装を取り付け使いこなす神通……メリダ島にこの前襲撃してきた重巡棲姫率いる深海棲艦部隊群を一人で殲滅できるのでは無いか………と……

 

 

「中尉……それにあたって、他の艦娘についても、艤装の新調をよろしく頼む」

 

「うん、この前、聞いた彼女達の特性に合わせた設計は既におわっているよ~、後で提督見てね~」

 

「ところで中尉、ダナン……いや、テッサの艤装はどうなっている?」

宗介は中尉から、ダナンの艤装完成まで1週間掛かると聞いていた。

 

「うん、それはもうちょっと早まるかな~、仲間がまた増えたし~ この基地の修復ももうそろそろ終わるしね~、まあ、出来てからのお楽しみってころで~」

 

「うむ、任せる」

宗介はまだ知らない、ダナン、いや、テッサの艤装がどのようなものなのか……そしてそれは……

 

 

 

 

 

 

宗介は新しい戦闘服(艤装用)を手に入れた神通と共に、司令官室に戻る。

 

「相良提督に進言します。先ほどの重巡棲姫を倒した今、付近の島の制圧を行うことをお勧めいたします。現在この海域には脅威となる深海棲艦はいないものと推測します。時間を空けると新たな、深海棲艦の部隊が派遣される恐れがあるため、そうなる前に制圧し、海域を解放いたしましょう」

神通は司令官の席に座る宗介に早速、このような提案をした。

 

「ふむ……それはいいのだが、現状では人手が足りん。もし他の島を制圧しても管理が出来ん。さらに制圧したところで、そこに防衛網を引かなければ、敵に再度制圧されるだけだ」

 

「現状の戦力規模では防衛は困難ではありますが、制圧することにより、此方にも有利な事もあります。提督が制圧された島またはその海域は、メリダ島鎮守府の海域となり、妖精さん達がその地域では独立して活動可能となり、メリダ島鎮守府自身も鎮守府としてのレベルが上がるでしょう。深海棲艦が島を制圧、中継点や泊地化していない事から、それほど重要な場所ではないのでしょう。

但し、この鎮守府の様に重要拠点となりうる場所は、泊地棲姫など陸上型の強力な深海棲艦が管理し、そこが深海棲艦の泊地、陸上基地等となってしまいます。

確定情報ではないですが、少なくとも日本では、深海棲艦泊地または陸上基地は、艦娘を擁する鎮守府と同じ機能を持っていると考えております。新たな深海棲艦等もそこで生まれるとの事」

 

「なるほど、深海棲艦も基地や泊地などが存在し、そこで補給なども行っている可能性が高いということだな……我々が最初に接触してから、次に重巡棲姫率いる深海棲艦部隊がこの海域に現れるまで、10日以上の時間差があった。となると、最低でも最初に撃退した部隊が撤退し、敵泊地に戻り新たな部隊を編成此方に着た事を考えると……最大で片道5日はかかっているという事か、補給などの状況から察すると少なくとも片道3日の距離……意外と敵泊地は近いのかもしれないな」

 

「はい、しかしこのあたりの地域で泊地になりそうな場所は限られております。また、泊地となっているとしても小・中規模と想定します。3日の距離であれば、メリダ島東の島および南の島海域を収めたとしても、問題は少ないと考えております」

 

「分かった……警戒水域を広げるには島を傘下に収めるのが手っ取り早い事は分かっていたが、そう言事ならば、対応可能か……」

 

「はい」

 

「では神通はその深海棲艦の泊地を奪還した事は在るのか?」

 

「はい、私が参加した作戦では、3カ所解放いたしました」

 

「解放した深海棲艦の泊地はその後どうなる?」

 

「はい、3カ所の内、2カ所は鎮守府の機能を満たしておりました。そのままでは使用できないため基地を一度更地にし、鎮守府を建て新たに提督として資質のある人材を派遣しておりました」

 

「……では逆はあるのか?こちらが鎮守府としていたものが制圧された場合だ」

 

「はい、そのまま深海棲艦の泊地として利用されるケースが多いですね。完全に破棄されることもありますが……」

 

「……ふむ」

宗介はその話を聞いて一つの疑問を持つ、深海棲艦側の基地または泊地も鎮守府の機能があるとすれば、深海棲艦側にも提督に相当する人間がいるのではないかと……

 

「どうされましたか?」

 

「……深海棲艦側に協力している。俺のような立場の人間はいるのか?」

 

「!……それは……聞いたことはありません。深海棲艦の基地を制圧した際にはそのような人は居なかったと思いますが……」

そうは言ってはいたが、どうやらその事に神通も疑問を持っている様だ。

 

「ふむ、大佐に聞いてみるか……」

宗介はメリダ島の妖精達を統括している大佐と呼んでいる最初に出会った妖精を呼ぶ。

 

 

 

 

しばらくし、司令官室に訪れた大佐に、宗介は先ほどの疑問を聞いた。

「深海棲艦側に提督のような立場の人間はいるのか?」

 

「居ないはずだよ。悪意などのマイナス感情から生まれるのが悪鬼の正体。その目的は、この世界に住む人間又は世界そのものを滅ぼす事。でも、そんな悪意に惹かれる人間はいるかもしれないね。協力者という意味では存在するかもしれない。君の様に、悪鬼と戦うための資格を持つ人間が、全て善性の心を持った人間とも限らない。仮に悪鬼と戦うための能力を有しながら、深海棲艦側に付く人間が居たとしたらそれは厄介だね。ただ、その人はかわいそうだね。悪鬼に付くという事は、同族を滅ぼす事に加担することだから……」

 

「そうか……人間が直接深海棲艦を生み出すことはできないという認識でいいのだな」

 

「うん、あってるよ」

 

「……ではそもそも、どうすれば、深海棲艦をすべて駆逐することが出来るのだ?」

 

「最初に生まれた場所があるはず、そこを叩く、そうすれば、新たな深海棲艦はこの世界に生まれてこなくなるハズだよ」

 

「ふむ………神通、その事は知っていたのか?」

 

「いえ……私も初めて知りました」

神通はその事実に驚きを隠せないでいる。

 

「では、艦娘には情報開示されていなかったのだな」

 

「……いえ、そうではないと思います。日本政府、いえ世界中で今も躍起になってその答えを探しているはずです……」

神通は驚きの表情のまま、宗介に答える。

 

「なぜだ?妖精に聞けば答えてくれるはずではないのか?」

 

「いくら提督と言えども、直接、妖精さんとこのようにコミュニケーションできる方は私の記憶、いえ、記録にもありません。その……相良提督とここの妖精さん達だけです」

 

「ふむ……大佐、そうなのか?」

 

「うーん、分からないね。君は私が出会った最初の人間だからね」

 

「……まあいい、取りあえずの指針は分かった。深海棲艦を駆逐し、大元を叩けば勝利というわけだな」

 

「そうだね。君だったらできる気がするよ」

大佐と呼ばれる妖精はそう言ってそのつぶらな瞳を宗介に向ける。

 

「そうなのですが……」

神通は唖然と宗介と大佐の会話を聞くばかりで、この展開に付いていけてない様だ。

 

 

 

「メリダ島に比較的近いとされる深海棲艦の泊地を発見し解放することが当分の目標だな……では、手始めに、神通の提案通り、現兵力で東の島および南の島を速やかに制圧し、メリダ島鎮守府の制圧海域を広げる」

宗介は神通と大佐に向かってそう宣言した。

 

 

 

 





神通の兵装参照はアメリカのズムウォルト級ミサイル駆逐艦です。
因みに清霜はオリバー・ハザード・ペリー級フリゲート艦です。


建造について……既に一人の艦娘は決定しているんです。
それ以外に3人登場候補は上がってます。

あと二人は欲しいのですが……誰にしようか迷ってます。


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第十一話 メリダ島制圧海域拡大作戦

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

お待たせしました。



宗介たちは制圧海域拡大のため手始めに、メリダ島から南100㎞に位置する島を制圧することを決定する。

 

編成は川内を旗艦として、秋月、朝霜、早霜、そして、新艤装を装着後実戦は初となる清霜が参加、神通は今回は待機を命じている。新しい艤装は今までの艤装とは全く別物なため、海上を航行するのにも訓練が必要な代物だ。

テッサは……勿論待機だ。艤装も無いためだ。

 

そして宗介はぺイブ・メア輸送ヘリでレーバテインを吊り下げ(ドッキング)輸送し、川内達のバックアップに回る。

ぺイブ・メア輸送機にはECSが搭載されているため、不可視化し、川内達の後ろ5㎞に付け飛行する。

ぺイブ・メアのコクピットは勿論、妖精が操縦できるよう改造済みだ。さらに、電波塔や最低限の防衛ラインを築くための監視機器などを設置するための設備と作業員(妖精)を載せている。

 

南島まで、深海棲艦に遭遇せずに難なく到着し上陸。電波塔や監視機器などの機材を下ろしていく。

妖精たちが行う電波塔、監視機器設置作業は丸1日、島で一晩野営し艦娘達は交代で警戒態勢を取る。

その間、宗介は島内を足で見て回り状況確認をする予定だ。

 

宗介はレーバテインから地面に降り立つ‥‥

 

その瞬間

 

不意に視界を塞がれたのだ。

(くっ、しまった伏兵か……全く気配を感じなかった)

あまたの戦場を駆けずり回って来た宗介の戦士としての鋭い嗅覚と感、そして敵を察知する能力は超一流の領域なのだが……視界を塞いだその人間はその宗介の後ろを取ったのだ!背中には冷や汗が流れでていた。

 

しかし、後ろから視界を塞いだ何者かは、銃や刃物を突き付けることはしなかった。

「相良てーーーーとく、だーーーれだ♡」

 

その声を聴いて、敵ではないと安堵するも、思わず素っ頓狂な声を上げる宗介。

「………テッサ??」

 

「はーーい、提督の~テッサです!!直ぐに私って分かってくれたんですね!!愛の力です~」

そう、メリダ島基地で待機していたはずのダナン……いや、視界を塞いだ主はテッサだったのだ!

 

「な……なぜ、ここに、基地に待機するように言ったはずだが……」

宗介は、冷静さを取り戻し、テッサに詰問する。

 

「えーーだって、相良提督は、この島でお泊りなんですよね。だったら一緒に寝れないじゃないですか~」

 

「テッサ……誤解を招くような言い方はしないでくれ、一緒に寝た覚えはないのだが………どうやってここまで来た」

宗介はそう言うが、ここ5日で3回は早朝に私室のベッドにもぐりこまれているのだ。ちなみに後2回は神通が阻止していた。

しかし、宗介の感と気配察知能力は非常に高い。何故かこの少女の気配だけはまるで感じられないのだ。

いや、例外はあった……このテッサ、いやダナンのモデルとなっているテレサ・テスタロッサ大佐も宗介のベッドに何度かいつの間にか潜り込んでいた事があった。寝ている間も人の気配があれば目を覚まし鋭敏に動くことが出来る宗介だが……テレサ・テスタロッサ大佐には殺気や敵意がまるでないため、全く反応できないようなのだ。それ以外の要因もありそうだが……

 

しかし、作戦中である宗介は、普段の何倍もの鋭敏に周囲を警戒していたはずだ。

もしかすると……これがテッサの……世界最強の強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナンのステレス能力なのだろうか?

 

「普通に~輸送ヘリに便乗させて頂きました~」

にこやかに答えるテッサ。

 

「………アル、聞こえるか、妖精達はヘリにテッサが乗っていた事を知っていたのか?」

 

「……今、ヘリに同乗していた妖精に確認しましたが……気が付かなかったそうです」

 

「………」

宗介は目を大きく見開きテッサを見る。

 

「どうしました?そうだ!野営のテントは私と相良さんで~一緒に床に就きましょう!」

相変わらずマイペースなテッサ。

 

「…………川内来てくれるか?………テッサが輸送ヘリに忍び込んでいた様だ。すまんが面倒見てやってくれ……」

宗介は無線を取り出し状況説明をし川内を呼ぶ。

 

川内は直ぐに宗介たちの元に現れる。

「テッサ!あんた基地で待機のハズでしょ!まったく!!……あんたは直ぐ提督の邪魔をするからこっち!」

テッサの首根っこを掴んで引っ張り、連れて行く……

 

「やーーん、提督ーー!!助けて下さい!!」

川内に引きずられながら、宗介に助けを求めるテッサ。

 

宗介は額に手を当て、ため息をつく。

 

 

そんなトラブルはあったものの、電波塔、監視設備の設置は予定通り翌朝には完成させ、メリダ島へ帰還、その間も敵深海棲艦に遭遇することは無かった。

宗介も当初の予定通り島内を1日かけて散策し、人が居ないかを確認するが、無人島の様だった。

川内率いる艦娘達は交代で警戒態勢をとっていた。

その間テッサはと言うと、ペナルティだという事で、食事の用意や雑用をやらされていた……

 

1日挟み……

 

同じ編成でメリダ島東160㎞に位置する東島を制圧の為に出撃準備を進める。

宗介は出発前に妖精達にテッサが乗り込んでいないか確認するように伝える。

神通には出発までテッサを見てほしいと頼んでいた。

 

しかし……

 

宗介はレーバテインに乗り込むためにコクピットハッチを開ける。

 

「さーーが……」

コクピットのシートから何者かが笑顔を宗介に向ける

 

そして……静かにハッチを閉める宗介。

 

「…………アル!なぜテッサがレーバのコクピットに乗っている!!」

宗介は少し間を置いてから、レーバテインの顔に向かって叫ぶ。

 

「いえ、そんな……全く気が付きませんでした」

レーバテインの外部スピーカーでアルは答えるが少し混乱している様だ。どうやらアルも気が付いていなかった様だ。

 

レーバテインのハッチを開けスクール水着姿のテッサが顔を出し

「提督!!酷いです~なんで閉めるんですか!!」

プンスカと宗介に抗議する。

 

「……テッサ…一応理由を聞こう……」

 

「だって、また相良提督が1日お泊りで出掛けちゃうじゃないですか……でも、向こうで会うと川内さんとかが私をいじめるから、こうして、移動中は相良さんと一緒に乗って行くんです♡」

 

「テッサ……遊びに行くわけではない。作戦だ。……しかも、レーバテインは一人乗りだ」

 

「でも~」

 

「……神通来てくれ、テッサがレーバテインのコクピットに居座っている。すまんが面倒見てやってくれ」

宗介は無線を取り出し発令所にいる神通に状況を説明し、こちらに来るようにたのんだ。

 

神通はものすごいスピ―ドで地下発着場に現れる。

「テッサさん!!提督の邪魔をしてはいけないと何度言ったら分かるんですか!!」

 

「ぶーーぶーー、私も提督と密着してレーバテインに乗りたいです~。誰かさんは裸同然で相良さんと抱き合って乗ってたって言うじゃないですか~~~!!自分だけズルいです!!」

 

神通は反論するが

「テッサさん!!あれは緊急事態だったのです。それに裸ではないです!!……その、提督には優しく抱き留めて頂きましたけど………」

最後は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「やっぱりーーーー!!ズルいです!!私も密着したいです!!ASの中で相良さんと密着したいです!!」

テッサは訳が分からない抗議を神通にする。

 

「とにかく!!テッサさんは私と基地で待機です!!」

神通はそう言って、テッサの腕を取り関節を極め、ズルズルと引っ張って行く。

 

「いたーーい!相良提督ーー!!助けて下さい!!」

 

宗介は額に手を当て、深くため息をつくのであった。

 

 

出撃前にまたもやテッサがらみのトラブルが起ったが、東島制圧自体は順調に行き、敵深海棲艦に遭遇することなく、作戦は終了した。

 

 

これによって、メリダ島周囲海域の制圧は完了し、メリダ島鎮守府としての機能が上昇し、新たに妖精達が100人が召喚され、メリダ島鎮守府に所属する妖精はこれで450人となった。

 

 

 

 

宗介は神通、川内と大佐(妖精)、そしてアルとが基地会議室で会議を行っている。

「うむ、予定通り、南島と東島の制圧は完了した。深海棲艦に遭遇することなく、上手く事が運び上々だ」

宗介は今回の作戦を評する。

 

「なんか拍子抜けよね」

川内はつまらなそうに言う。

 

「重巡棲姫を撃破しましたから、一時的にこちらの方は手薄になっているだろう事は、想定してましたので、これも予定通りです」

神通は川内にそう答える。

 

「ここからが問題だな、この海域を支配している深海棲艦の泊地の捜索だ」

 

「相良提督、このメリダ島を中心に敵泊地があると予想される島は南にトラック泊地、西に硫黄島、南西にはマリアナ諸島、1000㎞~1500㎞圏内、東は大分離れミッドウェーにハワイとあります。硫黄島、マリアナ諸島、トラック泊地は片道3~5日で大規模行軍は可能な距離となります。

トラック泊地は先の自爆により、復旧はまだできていないはずですので候補からはずれます。

マリアナ諸島及び硫黄島に敵泊地がある可能性が高いと判断いたします」

神通は敵の泊地候補を報告して行く。

 

「但し、それより近隣に規模が小さな泊地がある可能性もあるわよ」

川内は神通の説明に補足する。

 

「うむ、取りあえずは無人偵察機を飛ばし、敵の動向を探りつつ、敵泊地を捜索する。流石に1000㎞以上の範囲は電波の関係上の捜索は困難ではあるが、近隣に小規模泊地の有無を確認できるだけでも次の布石を打つ事は可能だろう。それまではメリダ島周囲200~300㎞を防衛ラインの完備を優先する」

宗介が無人機による偵察が完了するまでは、周囲警戒と防衛ラインの構築に専念することを命令した。

 

「了解です」

「了解」

「了解」

神通、川内、大佐(妖精)は了承の返事をする。

 

 

「……相良提督、微弱電波キャッチし、無人偵察機を送ったところ、人影を発見いたしました」

アルが会議室のスピーカーを通じて報告する。

 

「発令所に行く」

早速敵泊地を発見した可能性がある。宗介はそう言って、神通、川内を引き連れ発令所に向かった。

 

発令所では妖精たちが慌ただしく動き、正確な位置確認や電波状況、及び敵妨害電波への対処をしている様だ。

 

「アル、状況は?」

 

「南島から南南東に大凡300㎞海域にある半径2㎞もない小島海域から微弱電波が出ておりました。しかし、特に電信でも救難信号でもありません。無人偵察機で撮影した上空からの映像です。さらに赤外線センサーでも確かに熱源確認しておりますが……泊地などの基地ではないようです。映像をだします」

 

上空から島全体が鬱蒼と木々に覆われている島が映し出されている。そこには、1人の女性が映し出されており、どうやら釣りをしている様子が映し出されている。

 

「……鳥海さん?」

神通はその女性を見て名前を呼ぶ。

 

「うん、鳥海さんだよ!相良提督、トラック泊地で散り散りになった仲間の一人、重巡鳥海です。生きていたんだ……」

川内はその映像を見て嬉しそうに宗介にそう伝えた。

 

「相良提督、赤外線センサー、熱感知センサーでは森の中にもう一人感知しておりますが、一向に動いておりません。センサーの反応から生きてはいるようですが……」

アルはもう一人の存在について報告する。

 

「ケガをして動けない可能性があるという事か……」

その後を宗介が答える。

 

「相良提督、早速救助に行かないと」

川内は急かす様に宗介に言う。

 

「了解した……しかし微弱電波は何なのか解析はできたか?」

 

「はい、無線装置の故障で電波が流れっぱなしになっている様な反応です」

 

「……罠の可能性が高いな……しかし、実際に救助対象者はいる……」

宗介は長年の感と状況判断で罠の可能性があると踏んでいる。通常、敵の勢力範囲内で救難信号などを出すことはないからだ。しかし、実際に救助対象者はそこにいる。

宗介は少し考え込んだ後指示を出した。

 

「無人偵察機は周囲の調査を徹底させ、救助は俺とアルとで行く。ぺイブ・メア輸送ヘリにレーバテインをドッキング、無人攻撃機を一機随伴、艦娘の艦隊は待機または周囲警戒を強化」

 

「相良提督!!自ら単独出撃など考え直してください!……もし提督に何かあったら……」

神通は宗介の指示に悲痛な声で意を唱え、留めようとする。

 

「ふむ、輸送ヘリ、無人攻撃機はECS不可視モードが搭載されている。レーバテインもこのほどECSが取り付けられた。敵の目を掻い潜っていけるだろう。もし、何か問題があっても、一機だけなら対処しやすい。十中八九罠だろう、部隊をあちらに引き付け、留守中のここ(メリダ島)が狙われる可能性が高い。

神通も作戦行動が出来ない今、艦娘の部隊をここで待機警戒した方が良いだろう。これが最善と思うがどうだ?」

宗介は神通に諭す様に説得する。

 

「……了解いたしました……提督、無茶だけはしないでください」

宗介の采配は理にかなっていたため、神通は心情的には留まってほしいがしぶしぶ了承する。

 

「もし、ここに、敵が押し寄せてきたら、神通が指揮をとってくれ、サポートは大佐とアルがしてくれる。川内は旗艦として迎撃体勢を念のため整えてくれ……大佐(妖精)基地を任せた」

 

「はい……」

「了解」

「了解」

 

「では、アル準備を進めてくれ……俺は着替え次第、レーバテインで待機する」

そう言って宗介は発令所を出て司令官室に戻り、AS用の戦闘服に着替える。

 

「ご武運を……」

神通は心配そうに宗介を見送った。

 

 

 

 

レーバテインと(吊り下げ)ドッキングしたぺイブ・メア輸送ヘリと無人攻撃機は、ECM不可視モードを発動させながら、メリダ島を発進する。

ぺイブ・メア輸送ヘリには小島に設置するための簡易的な電波装置と、ケガ人がいる事を考え、ストレッチャーなどの傷病人の搬送設備などを搭載し、妖精達も数人同乗している。

 

今回幸いにもテッサが邪魔することは無かった。

ただ、発進準備中のレーバテインコクピット映像に割り込みこんな約束をしてきた。

「今回は、流石にご一緒できませんけど、早く帰って私とその分お話してくださいね」

宗介は「ああ」とだけ生返事をするにとどめる。

 

 

鳥海ともう一人が遭難していると思われる小島には、道中何事もなく到着するが、木々に覆われているためヘリが発着するスペースが全くない。輸送ヘリは海岸縁に空中でホバリングさせ、宗介だけが、島に降り立つった。

 

宗介は携帯端末で、ケガ人が居るだろう場所を確認し進む。

そして、木々で簡単に作られた。テントのような物に、一人の女性が横たわっていた。

しかし、息はあるようだが、見るも無残な姿であった。

宗介はそっと近づく。それに気が付いたのか、その女性は首だけ動かし弱弱しく

「……お前誰だ……なんでもいい……あたしを殺してくれ……もうあいつに迷惑かけるわけには……」

 

「安心しろ、救助に……」

宗介はその女性に静かな声色で話しだしたが……

 

「離れて下さい!!摩耶から離れて!!」

宗介は後方から怒声を浴びせられた。

 

宗介はゆっくりと振り返り、宗介に艤装の砲身を構えている眼鏡をかけた女性に話しかけた。

「うむ、貴官が鳥海だな。川内と神通から聞いている」

 

「深海棲艦じゃない?男の人?川内、神通…え?あなたはその、友軍の方ですか?」

鳥海は黒ずくめのAS用戦闘服を着た宗介を上から下へと見て、問いかける。

 

「まあ、そうだ、君たちを救助しに来た」

正確には違うのだが、警戒心を上げないためのにも、宗介は頷く。

 

「助かる……摩耶助かるわよ!もう少しの辛抱だから!」

鳥海はホッとした表情をし、砲身を納め、横たわっているうれしそうに摩耶のそばに行く。

 

「でも……どうやってここまで?貴方はいったい?」

鳥海は振り返り宗介を見据える。

 

 

しかし……

「相良提督、やはり罠だったようです。南方80㎞東方70㎞海域に敵深海棲艦らしき艦影を複数確認。こちらに向かっている模様、どうやら、ヘリホバリングの轟音が敵音響センサーに引っかかったようです。だからこのタイミングなのでしょう。目視確認ならば、もっと早く動いていたと想定します」

無線越しにアルから敵襲撃の知らせが入る。

 

「それならば、十分、先に離脱できるな」

 

「いえ、敵艦載機多数接近、急いでください」

 

「了解した……一人はかなりの重症だ、ストレッチャーを降下させろ」

 

「了解」

無線を切る。

 

「すまんが敵襲だ。急いで離脱する」

 

「でも、摩耶が……」

 

「……あたしを置いていけ」

 

「痛みは我慢してくれ……」

宗介はそう言って、摩耶を抱き上げる。摩耶は重症しかも両足が欠損している状態なのだ。

しかも、ろくな治療も受けていない状態、痛みは激しいだろう。

 

「ぐっ」

 

 

 

「相良提督、さらに、西方100㎞に敵影多数、部隊を分け、北進路を取っております。我々の退路を断つようです。………さらに北東100㎞から敵影多数、こちらも部隊を分け、北に進路を取っております。予想では15分以内に離脱しないと、包囲網が完成し先制離脱ができません」

アルはさらに敵が出現したことを知らせるが、かなりの大部隊が包囲網を形成しつつあるようだ。

 

「了解だ!予想以上に大々的だな……それだけこちらを脅威と思っているらしいな……アル、敵西方と北東の部隊は艦載機の状況は?」

宗介は摩耶を抱えながら、鳥海を連れ、ペイブ・メア輸送ヘリが待機している場所に向かう。

 

「……艦載機多数……先制離脱は困難になりました」

 

「くっ、この海域近くに大規模な泊地でもあるのか?……要救助者を乗せ次第、離脱だ!」

宗介はそう言って一度無線を切る。

 

「……もしかして、私たちは囮にさせられたのでは…」

鳥海は宗介の後を走りながら、申し訳なさそうにする。

 

「いや、罠であると想定したうえで救出にきている……ただ想像以上に大規模であったことは否めない」

 

「……すみません」

 

「……大丈夫だ」

 

 

宗介たちは、ペイブ・メアが待機している場所まで到着。

何やら轟音はするが鳥海には何も見えない。

しかし実際には上空で不可視モードのぺイブ・メア輸送ヘリが待機しているのだ。

「え?船ではないのですか?」

 

「いいや、とりあえず、鳥海はこのロープにつかまっていろ、手を離すなよ……引き上げろ」

 

「へ?きゃーーーー」

鳥海は悲鳴を上げながら、掴まっていたロープと共に一気に輸送ヘリへと引き上げられて行く。

 

「うう……」

 

「摩耶、よく耐えた。もう少し我慢してくれ」

そう言って、ストレッチャーに摩耶を固定し、自動ウインチで引き上げられる。

 

宗介もロープを掴み、引き上げられレーバテインのコクピットに搭乗する。

 

「アル!ドッキング解除だ……レーバテインで殿と囮をやる。その間に不可視モードのままペイブ・メアは離脱、無人攻撃機はペイブ・メアに追従しろ。バレるまでこちらから攻撃するな……ECSと言えども、バレる可能性がある。特にヘリは音響センサーに弱い、いくら敵が旧式だからといってもな……レーバテインが敵を引き付けた後、空域を離脱しろ。それまでは東に進み敵艦載機との距離を保て!」

 

「了解……ドッキング解除、レーバテインECS解除」

 

ペイブ・メア輸送ヘリと無人攻撃機はECS不可視状態のまま島を離脱。

 

レーバテインはECSを解除し、しばらく島に待機する。南と東から飛来する敵艦載機を目視で確認し引き付けてから北に向かって島を離脱した。

「アル、行くぞ、精々踊ってやるとするか」

 

「敵が驚くぐらい派手に行きましょう。レーバテイン水上航行モードに移行」

 




次は戦闘シーンに移ります。


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第十二話 TDD-1 トゥアハー・デ・ダナン抜錨

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かります。

ついに……ついに来た!!
これが書きたくて書き出したのに何故か十二話もかかりました><


宗介は微弱信号をキャッチし、小島に取り残されていた艦娘の存在を確認。救出すべく向かったのだが、予想通り、敵の罠であった。

予想以上の物量で包囲網を築かれつつある中、レーバテインを囮とし、要救助者である摩耶と鳥海を載せたペイブ・メア輸送ヘリをこの海域から離脱させる算段をする。

 

レーバテインは南から迫る艦載機を十分に引き付けてから、島から北へ海上に飛び出す。

「アル行くぞ、精々踊るとするか」

 

「敵が驚くぐらい派手に行きましょう」

 

 

 

200機程の艦載機が追い付いてくる。

レーバテインはボクサー散弾砲を構え、アルが動かすサブアームは小型のガトリング砲を構える。

「行くぞ!」

 

「了解」

 

レーバテインは北に進路を取りながら、次々と、艦載機を落としていくが、しばらくすると南西からも艦載機が迫り、そして、東、北からも、無数の蟻が餌を見つけ、たかるかのように……レーバテインに集まってくる。

 

それでもレーバテインは艦載機の爆雷や魚雷を避けながら、次々と撃墜していく。

 

「提督悪い知らせです」

 

「なんだ?」

 

「敵に完全に囲まれました。編成は空母を主体とする機動部隊の様です。目的は艦載機による攻撃により、我々の疲弊を待つ作戦だと思われます。向こうは補給艦まで用意しているようです」

 

「問題ない」

 

「まだ、あります。敵包囲網、数は228隻……さらに、別に潜水級までいるようです。我々を足元から崩しにかかりました」

 

「問題ない」

 

「何隻だろうが、我々のやる事は一緒です。しかし、要救助者を乗せたぺイブ・メアの脱出ルートが確保出来るまで……ですね」

 

「肯定だ。アル、分かって来たじゃないか……」

 

「何を今さら、もう組んでどのくらい経つと思っているのですか?今はあえてそう呼びましょう『軍曹』口調が昔に戻ってますよ」

 

「肯定だ。やはり、俺にはこれが一番しっくりくる様だ」

 

「口調ですか?それとも最前線で戦う事ですか?提督など柄でもないことこの上ないですね相良軍曹」

 

「両方だ!お前がやれといったのではないか………下の潜水級は任せた」

 

「了解、上空に強力な艦載機がきます、なんて禍々しい姿なんでしょう。上は任せました」

 

「了解だ!」

 

ピンチな状態だが、この二人は軽口を叩きながら、的確に艦載機、さらに迫る魚雷と潜水級を処理していった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻メリダ島鎮守府発令所では……

通信兵の妖精が報告する。

「相良提督は現地にて、鳥海、摩耶、要救助者を確保。但し摩耶は重傷、自力での行動は出来ないとの事」

 

「鳥海さんともう一人は摩耶さんだったんですね」

神通は妖精の報告を聞いていた。

 

「敵艦影複数確認……しかし、現状では、先制離脱可能だということです」

 

「やはり、相良提督の見立て通りでしたね。伏兵がいたようです」

神通は先制離脱可能と知り、ホッとする。

 

 

 

しかし……次に来た報告は

「現地小島から確認し西、北東に大規模艦隊が出現、現地小島を中心に包囲網を築きつつあるということです」

 

「………大規模!」

 

「敵空母機動艦隊の大編成を確認、正規空母だけでも、36隻確認。内空母棲鬼6確認、軽空母、54、空母合計90隻、戦艦級12 重巡級12、軽巡級42、駆逐級42、補給級24隻、姫、鬼内4隻、全部で確認228隻、機動部隊を編制しております」

 

「………て、提督は!」

 

「相良提督はレーバテインで囮を敢行、ペイブ・メア輸送ヘリと要救助者の離脱を図るとの事、さらに援軍無用と、メリダ島防衛を厳守せよとの事です」

 

「ああ!何てこと!姉さん……どうしたら……このままだと提督が……」

神通は宗介が自ら危険に飛び込む真似をしていることを知り、また、敵の数が尋常でない事に動揺していた。

 

 

「神通落ち着いて、相良提督が援軍無用って言っているのだから何とか切り抜けてくるわ……こちらもきな臭いわよ。メリダ島周囲200㎞に敵艦隊が集まりだしている。提督が帰ってくるところを守らないと……」

川内は神通を落ち着かせようとさせる。

 

「………はい」

 

通信兵がさらにメリダ島周囲に展開する敵情報を報告する。

「敵はメリダ島周囲を200㎞付近囲む様相 こちらは戦艦級30、重巡級30、雷巡級30、軽巡級30、駆逐級30、空母級12、軽空母級24、うち姫・鬼級8隻確認。186隻打撃部隊を編成しております。

 

 

「姉さん……こ……これは、トラック泊地を襲撃した敵の超大規模編成と同じ……」

 

「くっ……合計414隻…………やばいってもんじゃない」

 

神通達がトラック泊地から逃れ、メリダ島にたどり着くまえの話だ。

太平洋南部の敵深海棲艦の反抗作戦を阻止するため、日本軍は、トラック泊地に日本に所属する艦娘の3分の1にあたる66隻を派遣し、防衛網を築こうとしたのだが、トラック泊地が防衛網を築く前に、この超大規模編成がトラック泊地に波状攻撃を掛けてきたのだ。

実に6倍差の戦力の差で押し切られ、トラック泊地は自爆へと追いやられたのだ。

その後、深海棲艦は414隻の超大規模編成を分散させ、日本の南海域の拠点を一気に叩き、日本近郊まで迫ったのだ。

 

「…………」

神通は無言で発令所を出て行こうとする。

 

「神通あんた、まさか考え無しにまた一人で出撃するつもりじゃないよね」

川内は、神通の腕を掴む。

 

「……私の新艤装なら!!何とかなるかもしれない!!このままだと、ここが…みんなが……相良提督が!!」

神通は涙ぐみながらそう叫ぶ。

 

 

 

突如として発令所のスピーカーから澄み切った落ち着いた女性の声が響く。

 

「……司令官代行、どこに行かれるのですか?」

発令所の大画面が急に切り替わり人影を映しだす。

 

神通と川内はそれに気づき画面のその人物を見るが、誰だかわからない。

 

その女性は金属で出来た椅子に両足を右向きにそろえ座り、落ち着いた雰囲気を漂わしていた。

カーキ色のミスリル女性将校用の制服を着こなし、金属で出来た手すりに、両腕を乗せ、大きな目は強い意思に満ち、そしてアッシュブロンドの髪を後ろで束ね大きく三つ編みは右肩から前に垂らし藍色のリボンで結んでいる。

 

「え?………テッサ?……テッサなの?」

川内はその女性がテッサ(ダナン)だと気が付くのに数秒を要した。

余りにも雰囲気が違うからだ。

 

テッサは軽く頷き

「……私が出撃します。司令官代行、許可を……」

神通に向かって出撃許可を求める。

 

「テ…テッサさん……何を……艤装もなしに危険です!それにそこは何処ですか?」

神通も川内同様、テッサの豹変ぶりに驚きながらも、テッサの発言に注意をする。

 

「ダーナの内部です。私の艤装です……出撃の許可を……」

 

「艤装が完成したの?でも内部って?」

川内はテッサの発言に混乱する。

 

「テッサさん、訓練もなしに、実戦など……轟沈されに行くようなものです!こちらに(発令所)戻って来てください」

 

「訓練?実戦?……私とダーナは、数々の実践を経験してきました。今さら訓練など不要……私とダーナなら……この島を包囲している敵をすべて駆逐し、提督の援助に向かえましょう」

テッサはそう断言した。その目は強い意志を宿し、自信に満ちていた。

 

「テッサ!!何言ってるの……たった一隻で何が出来るの、しかも奇襲専門の潜水艦で!!やめなさい!!」

川内は無謀にもたった一隻で出撃しようとするテッサを止めるために、あえて厳しく叱責する。

 

しかし……テッサの目をじっと見た神通は……

「分かりました……許可します……但し、危険と思ったら直ちに引き返してください。少しでも被弾した場合もおなじです。これが条件です」

 

「神通!!何言ってるの!!やめさせて!!」

 

「司令官代行、許可に感謝します」

テッサはそう言って、座ったままお辞儀をし通信を切断した。

 

「姉さん……テッサさんの豹変もそうなのですが……あの目は……間違いなく歴戦の艦長の目です。危なくなったら戻ってきてもらうだけです。それに、アルさんと相良提督が言ってたではありませんか、一隻で戦場を一変させる程の強力な潜水艦だと……」

 

「わかったわ……危なくなったら、首根っこひっ捕まえてでも、戻させるんだから」

川内はテッサの事が心配なのだ。だからああいう物言いをしたのだ。

 

 

 

 

メリダ島地下潜水艦ドックでは……全長218mに及ぶ巨大な潜水艦が占拠していた。

 

その潜水艦の薄暗い発令所内で一人の少女は金属で出来た椅子に座り、前方の大きなディスプレイを見据える。

「ダーナ、出撃許可が下りました。さあ、行きましょうか」

 

「イエス・マム」

発令所内のスピーカーから無機質な女性の声が響く。

そう、テッサいやTDD-1艦娘のトゥアハー・デ・ダナンの艤装であるダーナが答えたのだ。

この巨大な潜水艦こそがテッサの艤装ダーナ、そして姿、形至る所まで、全てあのTDD-1トゥアハー・デ・ダナンと同じサイズに同じデザインとなっている。

 

そして、カーキ色の女性将校用の制服を纏い落ち着い雰囲気で指示を出すダナン(テッサ)の姿、常に戦場に勝利し続けた歴戦の勇士テレサ・テスタロッサ大佐の、これこそが真の姿なのだ。

 

「TDD-1、トゥアハー・デ・ダナン抜錨します」

 

「イエス・マム」

 

そして、その巨大な躯体は海の中へと消えていく……





敵多すぎたかな><


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第十三話 トゥアハー・デ・ダナン真の実力

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
ご指摘ありがとうございます。
改善を徐々に行っていきますのででよろしくお願いいたします。


……では


メリダ島周囲200㎞に包囲するかのように展開している深海棲艦186隻の艦隊は徐々にその包囲の輪を縮めて行った。

 

 

「ダーナ、メリダ島周囲の敵深海棲艦の正確な位置を」

 

「イエス・マム、186隻戦艦級を主体とした打撃部隊です。その内強力な姫・鬼級が8隻を確認。包囲網を築き、徐々にメリダ島に近づいてきております。マップデータを出します」

 

トゥアハー・デ・ダナンは現在メリダ島の地下水路からでて水深100mを航行中である。

 

 

「では、敵殲滅の為、垂直発射管からアド・ハープーン対艦ミサイルを発射後、急速浮上」

カーキ色のミスリル女性将校服に身を包んだアッシュブロンドの髪を持つ少女は艦娘トゥアハー・デ・ダナン、テッサは冷静に目の前の大型スクリーンに映し出される敵情報を見据え、自らの艤装ダーナに命令を下す。

 

「イエス・マム、全ターゲットロック、アド・ハープーンセット、1番から4番連続発射」

無機質な女性の声が艦発令所スピーカーを通し響き、ミサイル発射の報告をする。

この声の主が、トゥアハー・デ・ダナン、テッサの艤装にして、この艦自体の意思(AI)であるダーナである。

 

艦娘のタイプとしては初めてだろう。艦娘トゥアハー・デ・ダナン、テッサは、元となった潜水艦(本来のトゥアハー・デ・ダナン)と同じ大きさの躯体を艤装とし乗り込んでいる。さらにその艤装自身もダーナと言う意思を持っているのだ。

 

 

 

 

そして、スクリーンには発射された対艦ミサイル8発がこの艦を中心に八方に飛翔し、包囲している深海棲艦に向かって進んでいる様子が映し出される。

 

「………急速浮上後、上部甲板を展開し、無人偵察機及び、艦上攻撃機を発進」

 

「イエス・マム」

 

 

 

 

メリダ島を包囲している深海棲艦は姫・鬼級を中心とした大きく8艦隊に分かれ、接近していた。

しかし、突如として、空中から多数の小さなミサイルが降って来たのである。

 

 

トゥアハー・デ・ダナンから垂直発射された対艦ミサイルは、それぞれ深海棲艦を包囲する8艦隊に向かい飛翔する。

発射された対艦ミサイルはただの対艦ミサイルではない。艦娘が深海棲艦と戦うための兵装である。艦娘の兵装は実際に存在した兵器を威力をそのままにし8~16分の1サイズに縮小を実現し運用可能としている。

この艦娘トゥアハー・デ・ダナン…テッサもその例に漏れない。

発射されたミサイルは通常の対艦ミサイルと同じ大きさではあった。しかし、上空へと打ち上げられた対艦ミサイルは、深海棲艦部隊から40㎞と迫ると、空中で分解し、中から、約12分の1サイズの対艦ミサイル(40㎝程)144発が点火し各深海棲艦に向かって行き、次々と襲い掛かった。

 

 

小型の対艦ミサイルの雨が深海棲艦の8艦隊に襲い掛かる。

気が付いた者は退避行動をとる。または、迎撃を行うなどしたが、敵艦載機よりも高速の上、追尾型のミサイル、さらにはダーナとリンクしているため、敵の攻撃の回避行動までとるような代物だ。

殆どの深海棲艦は対処しきれずにまともにミサイルをその身に受け粉砕する。

 

姫・鬼級など耐久力や回避能力の高い深海棲艦は何とか生き延びている様だが、全て中破以上の被害を受けていた。

 

壊滅的なダメージを受けた深海棲艦の部隊は、息つく暇もなく次の攻撃を受けることになる。

超音速で迫る何かに、先ほど同様のミサイル攻撃により追撃を受け全滅したのだ。

 

 

対艦ミサイル発射後、急速浮上したトゥアハー・デ・ダナンは躯体の上部外殻を開口し、上部甲板が現れる。

しかし、本来のトゥアハー・デ・ダナンには無いものが現れる。上部甲板3分の1が下からせり上がり3層の小型の飛行甲板へと変貌したのだ。そこから次々と、最新鋭の戦闘機F―35ライトニングⅡが次々と発艦していくのだ。但し、サイズは実物の8分の1となっているのだが………

さらに言うと、隊長機には妖精が乗っていたが、その他はすべて無人機となっている。

 

F-35の部隊が48機、追撃として、対艦ミサイルなどで生き残った深海棲艦を次々と襲い全滅させたのだ。

 

 

 

「メリダ島周囲深海棲艦全滅を確認いたしました。次のご命令を」

ダーナはテッサに淡々と報告をする。

 

「上々ですね。アド・ハープーン対艦ミサイルを相良提督包囲網の北側及び、西側部隊に発射。

さらにF‐22を発進し空域を支配しなさい。

誰にケンカを売ったのか、誰に牙を向けたのかを海の底で後悔させてあげましょう」

 

 

「イエス・マム」

 

「F‐22発進と同時に無人偵察機も周囲2000㎞圏内に展開。一部はハワイ、そしてF‐35回収後、全速で相良提督の元に……」

 

 

 

 

一方宗介とアルのレーバテインは、包囲され敵の空母機動大規模艦隊の航空戦力と対峙していた。

レーバテインの武装も中尉(妖精)のチューニングにより、対深海棲艦用の弾薬に耐えうるように改良されている。

艦娘の兵装とまでとは行かないが、今までとは、武装の大きさは同じだが命中精度、威力、推進力及び榴弾の細かさなどが圧倒的に上昇していたため、敵航空戦力と対峙出来たと言ってもよいだろう。

 

「軍曹、予備弾倉はすべて使い切り、残弾2割を切りました」

 

「問題ない。ぺイブ・メア輸送ヘリは離脱したか?」

 

「もうまもなく、離脱可能空域に達します」

 

「了解だ。では此方も、撤退するか……」

 

「この場合、撤退ではなく、中央突破でしょう」

 

「そうだな」

攻防のさなか、この二人の会話は余裕すらあるように聞こえる。

 

「軍曹、通信妨害が弱まり、メリダ島周囲の深海棲艦部隊の反応がありません……はて」

アルは宗介にそう報告したのだが、アル自身その状況の正確な情報を手に入れていないため、なぜ、急に反応が無くなったのかについて判断がついていない様だ。

 

 

するとレーバテインに若い女性の声で音声通信が割り込んでくる。

「相良提督、ラムダ・ドライバで防御願います」

 

「誰だ?」

宗介はその女性の声に聞き覚えがあるが誰か分からなかった。

 

「軍曹、ミサイル群が接近、さらに音速飛行体接近します。防御体勢を」

アルは上空からのミサイルと飛行物体の接近を宗介に警告する。

 

「なに!」

宗介はアルの声でラムダ・ドライバを起動し、防御力場を展開する。

宗介は状況を把握できないでいた。ミサイル群が来る等という事は在りえないからだ。敵深海棲艦は所詮WW2時の兵器、またはそれの強化版に過ぎないためミサイルという概念が無い、よって、ミサイルが迫るなどという事態は想定していなかったのだ。

 

小さなミサイルは防御力場を展開しているレーバテインには命中することなく、敵深海棲艦の艦載機に命中し次々と撃墜していき、周囲の敵艦載機は一機残らず駆逐された。そして、最新鋭の戦闘機を模した小型の戦闘機が上空を通過していくのも確認でき、遠方で爆発による発光などが確認される。

 

「アル!!あれは!?」

 

「……F‐22の様ですが、サイズが小さすぎます……」

 

「なぜ、F‐22が?」

 

「周囲の敵深海棲艦も次々と轟沈していってます」

 

「アル、なにが起こっている?」

そんな疑問の声を上げる宗介とアルに先ほど防御体勢を取るように通信してきた女性が再び通信を送って来たのだが、今度は音声だけでなく、映像も映し出される。

 

通信映像にはカーキ色のミスリル女性将校用制服を着こなし、落ち着いた雰囲気の女性が映し出されていた。

「相良提督、お怪我はありませんか?」

 

「??…………た…た大佐殿!?……いえ!!自分は大丈夫であります!!」

そこに映し出されていた女性は、カーキ色の女性将校服を纏い、その落ち着いた物腰に、強い意志を持った瞳、まぎれもなく宗介の元上司、女傑テレサ・テスタロッサ大佐の姿だった。

実際には宗介も将校服姿のテスタロッサ大佐と会う事は少なかった。階級が違う上、基地内でもめったに会う事もなく、トゥアハー・デ・ダナンの作戦中も言うに及ばず、現場の一兵士である宗介と軍の司令官であるテスタロッサ大佐では、直接的な用事が無い限り、まず会う事は無い。

基地内で個人的に会ったとしても、その……この姿のテスタロッサ大佐ではないのだ。

 

それでも宗介は、この姿のミスリル西太平洋戦隊司令官であるテスタロッサ大佐と出会うと、自然と畏怖の念を抱かざるをえないのだ。

 

「大佐ではありません。艦娘トゥアハー・デ・ダナンです。提督にはテッサの愛称で呼んでいただきたいと何度も申しましたのに」

 

「大佐殿ではない?……テッサ?……なぜ、その恰好を?」

 

「提督ご安心を、この海域の深海棲艦をすべて排除いたしました」

 

「全て排除だと!!あの数を!!テッサ!!どういうことだ?」

宗介は状況が分からず、テッサに問いただす。

 

「そちらにお迎えに参ります」

そう言って通信が遮断される

 

「アル!!深海棲艦の状況は!?迎えとはどういうことだ!?……アル!」

 

「………相良提督、この海域での深海棲艦の反応はありません。オールクリアです……」

 

「…………な…」

 

 

 

しばらくすると、レーバテインの目の前に、激しい水しぶきと共に大きな物体が海面に急速浮上し現れる。

宗介が知っているTDD-1トゥアハー・デ・ダナンその物が目の前に現れたのだ。

「なに!!…………アルどういうことだ!!トゥアハー・デ・ダナンは確かにメリダ島決戦の際に沈んだはずだ!!」

 

「相良提督、確認しました。あの船体自体が艦娘テッサの艤装だという事です……」

 

「……艤装だと!?」

 

トゥアハー・デ・ダナンの上部外殻が開き、甲板が現れる。

「相良提督、着艦をお願いします」

 

「…………」

宗介は無言であった。次々と起こる事象に、深海棲艦大規模包囲網の時よりも驚きが大きいのだ。

そして、レーバテインを水上からジャンプし上部甲板に着地し、元の世界で行っていたように帰還時のルーティン通りに、中部機動エレベータにロックさせ、格納庫へと下りて行く。

 

「お帰りなさい提督。そして、ようこそ、私の艤装ダーナに」

レーバテインのコクピット内にテッサの声が響き渡る。

 

「……ああ」

宗介は驚きの表情を隠せないでいた。

 

格納庫にはASは無く、輸送ヘリが数機見られるのみ。その代わり以前にはない数段に分かれた格納スペースが半分を占拠し、小型化の最新鋭戦闘機や無人機が所狭しと収納されている。一体何機あるのかも分からない位である。

しかも、幾人かの妖精が働いているのも見える。

 

宗介はその光景を唖然と見ながら、レーバテインを所定の位置にロックさせ、格納庫に降り立つ。

 

「相良提督。改めて、ようこそダーナへ。歓迎いたします」

カーキ色の女性将校服を着こなし、美しい立ち振る舞いをするテスタロッサ大佐……いやテッサが宗介に優しく微笑みかけるその姿は宗介に纏わりつき、問題行動ばかりとる、あの迷惑娘テッサの姿など微塵も感じさせない。

 

「……大佐殿ではなく……本当にテッサ…なのか?」

 

「はい、私はあなたの艦娘のテッサです」

そう言って優しい笑みを見せる彼女を見れば、誰もがその姿に、その笑顔に心が奪われるだろう。

 

宗介も例外ではない。

宗介も気恥ずかしく、顔を少し赤らめ斜め下を向く。

 

「提督、では発令所にご案内いたします……アルさんはダーナとの情報リンクを許可いたします」

テッサはそう言って、宗介の前を歩みだす。

 

「これが君の艤装……トゥアハー・デ・ダナンそのものではないか」

 

「はい、この艤装は私の元の体と言っていいのでしょうか……メリダ島地下水路に沈んでいたトゥアハー・デ・ダナンそのものを利用し改修したものです」

 

「なるほど……敵を殲滅したのも君なのか?」

 

「はい、メリダ島や提督に仇名す不逞の輩はすべて排除いたしました」

テッサは当然の如くそう言い切る。

 

「…………」

 

「要救助者が乗っているぺイブ・メア輸送ヘリは、途中で回収いたしまして、鳥海さんと摩耶さんは現在入渠施設です。重傷者の摩耶さんは入渠施設の特別カプセル内で欠損した体の復元を行っております」

テッサは沈黙している宗介に続けて報告をするが、これも驚くべき内容が含まれていた。

この艤装内に艦娘専用の入渠施設があったのだ。

 

「そうか、助かる……艤装内に入渠施設……何でもありだな」

 

「はい、弾薬補給施設も備え、移動要塞の体を成しております」

 

「………」

宗介はもう、何を言っていいのやら分からない状況だった。

 

「あっ……」

テッサが起伏も何もない発令所へと続く通路で急に躓いたかのように倒れる。

これも、テスタロッサ大佐の能力?を引き継いでいるのだろうか?極度の運動音痴とドジっ子特性を……

 

宗介はすかさず抱き留める。

 

「…あの…ありがとうございます。提督」

宗介の胸に抱き留められたテッサは顔を赤らめながら弱弱しく、宗介にお礼を言う。

 

「も…問題ない」

そんなテッサの仕草に、宗介も何故か顔を赤らめ、サッとテッサを抱き起し、素早く離れる。

 

その後、お互い一言も話さず、顔を赤らめながら、発令所に黙々と向かう。

 

 

そして発令所扉を開く。

全面には大きなスクリーンと潜水艦にしては広い空間がひろがっている。

宗介はトゥアハー・デ・ダナンの発令所にまともに踏み込むのは初めてだった。一介の軍曹に過ぎない宗介には発令所に入る資格がないためだ。

 

テッサは宗介に中央後方に二つ並んでいる金属性のシートの右手に座るように促し、自分は左手のシートに腰を鎮める。

「相良提督、此方が提督の席になります。今後、私の艤装ダーナを運用し作戦行動をとる際はここにお座りください……それと、提督、あまり自分の身を切るような作戦や行動をとるのはやめて下さい、あなたは私達の司令官で部隊のトップなのですから」

テッサはそう言って宗介に軽く注意をする。

 

「出来るだけ留意をする」

宗介はそう言うにとどめる。宗介の性格上最前線で自分が戦う事を前提に作戦を練る事が多いからだ。

 

「さて、早速ですが提督にここにお越しいただいたのは、今から提案する作戦を即決していただきたいためです」

テッサはそう言って全面スクリーンに大きなマップを映し出す。

 

「作戦?すでに救出作戦は済んだはずだが?」

 

「いえ、私は既に、この海域に集まって来た敵艦隊が出港した敵泊地と思われる場所を、無人偵察機で確認いたしました。ハワイとサイパン大規模泊地、硫黄島には中規模泊地が、その他小規模泊地をメリダ島1500㎞範囲内に2カ所確認いたしました。

巡航ミサイルによりこの太平洋と一番大規模な泊地と思われるハワイに大打撃を与えます。続いてサイパン、そして硫黄島と小規模泊地は敵の資材採掘及び保管を行っているようですので、設備だけを破壊します。これにより、相良提督とメリダ島を付け狙う不逞の輩、深海棲艦共はしばらく手を出せないでしょう。硫黄島と小規模泊地は後日、資源を回収に向かいましょう。

それとハワイ・サイパンは占拠は出来ませんのでご留意を。こちらの人員が圧倒的に足りてません。攻撃手段があったとしても占拠できなければ、今後の展開に大きく支障がでるのは明白です。

硫黄島も占拠したいのですが、やはり、人員が足りません。せめて一艦隊を編成できれば可能なのですが……人員確保は提督には最優先に行っていただきたくお願いいたします」

テッサは何事もないよに、このような作戦を一気に立案した。

 

「ま……まて……それを一気に行うのか?可能なのか?」

 

「はい、今がチャンスです。この機を逃せば、しばらくすれば、敵は戦力を回復するでしょう」

 

「しかし、ハワイとサイパンには人間がいるのではないか?」

 

「人の反応はありませんでした。深海棲艦にやられたのでしょう」

 

「……うむ……了解だ……」

 

「ダーナ、聞いていましたね。提督の許可が下りました。早速トマホーク巡航ミサイルの用意を、

5番・6番から発射……5番はハワイ、6番は1500㎞圏内海域にあるサイパン・硫黄島・その他小規模泊地に照準し上空で分離し攻撃を」

どうやらトマホークも艦娘仕様となっている様だ。

 

「イエス・マム 既に5番・6番発射準備は終了しております……発射」

 

「提督、私たちも戻りましょう、メリダ島へ……どうしましたか相良提督?」

テッサはまるで何もなかったかのようにそう言う。隣でなにやら様子がおかしい宗介に気が付き尋ねた。

 

「……うむ……問題ない」

宗介は顔面全体に汗を浮き上がらせ、滝の様に流していた。

陸のテッサの突拍子もない行動は個人的にとんでもなくはた迷惑ではあったが、今の海の中のテッサは敵に対して全くの容赦が無い上に、この攻撃力に戦略眼。彼女一人で世界を覆す力を持っている。どう扱ったらよいのかわからないような、凄まじい存在だったのだ。

 

 

 

そして、メリダ島地下潜水艦発着場に到着したころには、ハワイ・サイパンの壊滅、硫黄島と小規模泊地の設備及び敵深海棲艦の全滅の報告を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 




…………トゥアハー・デ・ダナンやり過ぎか?
始めた当初はこの話で終了するつもりでしたが……しばらく続く予定です。


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第十四話 トゥアハー・デ・ダナン出撃の裏では

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


13話の裏話が今回のお話です。
まあ、ちょっとした番外みたいな感じです。
ストーリー的には飛ばしても問題ないお話です。



テッサがメリダ島を抜錨した頃

 

 

「川内姉!!テッサが居ないんだ」

朝霜は待機中のブリーフィングルームから、発令所の川内に通信で慌てた様に知らせた。

秋月、朝霜、早霜、清霜、そしてテッサは、宗介が鳥海達の救出作戦に出撃後、メリダ島周囲でも雲行きが怪しくなってきた頃、神通から、現状況と警戒態勢を維持するための説明を行うためブリーフィングルームに招集を受けていた。

 

しかし、途中まで食事当番だった朝霜と一緒にブリーフィングルームに向かっていたテッサが、いなくなり、ブリーフィングルームにも一向に来なかったのだ。

 

「……テッサは出撃した」

川内は何時もより低い声でそう答えた。

 

「どういうことだよ川内姉!!テッサが出撃って」

朝霜は川内に声を荒げて、聞き返す。

 

「そっちに行く、説明するから」

川内はそう言って通信を切る。

 

「神通、私はブリーフィングルームに向かうから、現在のメリダ島周囲と提督とテッサの動向映像を送って」

川内は情報解析担当の妖精を一人連れ、発令所からほど近いブリーフィングルームに向かう。

 

「分かったわ、姉さん」

 

 

 

ブリーフィングルームに現れた川内に早速、朝霜が食って掛かる。

「どういうことだよテッサが出撃って!」

 

川内はそんな朝霜に手を振り、席に付くようさせる。前方画面斜め前に立ち、その横で妖精がコンピュータを操作し現在のメリダ島の状況を出す。

「現在、このメリダ島は186隻の深海棲艦に囲まれている」

 

「186隻……相良提督は!?」

秋月は目を大きくして質問をする。

他の駆逐艦たちも驚きの声を上げていた。

それだけの危機なのだ。

 

「提督は先に知らせた通り現在、重巡鳥海及びもう一人の救出に向かったのだけど、やはり罠だった。228隻の空母機動艦隊に取り囲まれているわ」

川内は淡々と説明する。

「なっ、なんだそれ!!なんだそれ!!提督もここも……」

「その数、トラック泊地の敵大規模艦隊と同じ……」

「……もう、逃げ場は……せっかく助かったのに」

朝霜、早霜、清霜三姉妹はそれぞれ、その圧倒的な不利な状況に絶望する。

 

 

「提督は重巡鳥海、そして重巡摩耶の救出を最優先にし、現在孤軍奮闘してるの……そして、テッサは先ほど出撃した。自分から志願したの……それを神通が許可した」

 

「提督もまた無茶を……それに、テッサさんはとても戦闘が出来るようには見えません」

「提督も単独?テッサも潜水艦で単独で?」

「……どう考えても無理だよ」

秋月、早霜、清霜は口々に川内に愚痴ともいえるような事を言う。

普段のテッサは戦闘とは無縁に思えるような性格をしており、自分から志願など考えられない様な行動だったからだ。

 

「自分からって!川内姉は止めなかったのかよ!」

その中で朝霜は語気を強くし、川内を責める。

 

「私だって止めたわよ!!……でもね。何時ものテッサと全く違ったの、その意志が強い目をしてた……神通も言っていた。歴戦の艦長の目をしていたって、それで許可を出した。いざとなったら私が首根っこひっ捕まえて、連れ戻す……でもね。アルと相良提督が前にテッサの事を言っていたの……テッサ、トゥアハー・デ・ダナンは一隻で戦場を覆す程の能力を持っているって……そしてこう言って、出撃したわ。『この島を包囲している敵をすべて駆逐し、提督の援助に向かえる』って」

 

「提督はアルとのコンビで、何とか脱出してくるかもしれない!!でも、テッサは艤装を持っていないんだ!!死にに行くようなもんだ!!」

朝霜はそう川内に反論する。

 

「テッサの艤装は完成していたみたい……でもそれがどんなものか分からない『艤装に乗っている』と言っていた」

川内はそう言いながらも自身でもその意味が分かっていない様だ。

 

「艤装に乗る?」

清霜はその意味が分からず呟く。

他の駆逐艦娘もその意味が分からないでいた。

 

 

そして真正面スクリーンには8分割に区分けされ、メリダ島周囲から深海棲艦8艦隊が迫ってきている様子が映し出されている。さらに、8艦隊はそれぞれ、姫・鬼級に率いられているのだ。

そんな死の宣告に似た絶望的な映像を見せつけられる。

 

「くっ」

「「「……」」」

その情景を無念そうに見ることしかできない。艦娘達

 

 

しかし、スクリーンに映し出されていた迫る深海棲艦の大部隊が突如として激しい光と爆炎で包まれたのだ。

 

「「な??」」

ここに居る5人全員が立ち上がりスクリーンを食い入る様にみるが何が起きたのか分からない。

 

光が収まると深海棲艦が粉砕・轟沈していく様が見える。

 

そして、再び、激しい爆炎が深海棲艦に降り注ぐ、今度は何が起こったか見えた。何かが、魚雷のような物が空から飛び、深海棲艦を追尾して命中、そして大爆発を起こしたのだ。

 

全てのモニターから、深海棲艦がすべて消えたのだ。

 

モニターに映像を流していた情報担当官の妖精が

「メリダ島周囲敵深海棲艦、全て轟沈、オールクリア」

淡々と報告する。

 

「「「「…………」」」」

その光景にこの場に居る誰もが絶句する。

186隻の深海棲艦すべて、一隻でも厄介な姫、鬼級すら一瞬で粉砕したのだ。

姫、鬼級は一隻でもエース級を6隻以上集めても勝てるかどうかわからない相手なのだ。

 

 

「……テッサがやったの?」

川内がようやく口に出す。

 

「トゥアハー・デ・ダナンからの、攻撃です。第一波は、対艦ミサイルアド・ハープーン1152発による波状攻撃、第二波は、最新鋭攻撃機48機による、対艦ミサイル及び爆撃による殲滅攻撃です。トゥアハー・デ・ダナン無傷、艦載機も全機無傷です」

情報担当官の妖精が答える。

 

「「「「…………」」」」

最早声も出ない。呆然とするしかない様相だ。

 

 

そして、全員、ストンと椅子に座る。

 

「「「「…………」」」」

誰も何も声を出さない。今だもって理解が追い付いていない。

10分、いや有に30分は経っているのかもしれない。

 

 

「……私達助かったの?」

清霜が最初に声を上がる。

 

「そ、そうみたいね」

川内もそれに答えるのがやっとだ。

 

「……本当にあのテッサが?」

朝霜はもはや何が何だかわからない様だ。

 

「…て、相良提督は!?」

秋月は思い出したようにもう一つの戦場で孤軍奮闘している宗介の状況を聞く。

 

「現在も提督は孤軍奮闘中です。予想では、救出した艦娘が脱出するまで囮をしているものと思われます。南島からの望遠映像をだします……それと、トゥアハー・デ・ダナンから、無人偵察機の映像が来ています」

情報担当官の妖精が淡々と報告する。

 

 

すると、レーバテインが艦載機相手に立ちまわっているのが見える。損傷も今の所なさそうだ。また、魚雷攻撃を受けている事から敵潜水艦級もいるようだ。

 

「アル、提督……」

早霜が呻くようにそう漏らす。

 

 

しかしそれも一瞬、何かが高速に横切ったと思った瞬間、レーバテインの周囲を飛び回っていた、敵艦載機がすべて爆発したのだ。

 

 

そして、他の映像でも、先ほど同様、ミサイル攻撃と攻撃機の攻撃により、228隻の深海棲艦の空母機動艦隊すべてが轟沈、粉砕したのだった。

 

 

「相良提督を包囲していた、空母機動艦隊すべて、沈黙、轟沈及び粉砕したと判断します。こちらもオールクリアです。対艦ミサイルアド・ハープーン576発による空母への攻撃、第二波は、最新鋭攻撃機62機による、対空ミサイル一部機銃による敵艦載機殲滅後、対艦ミサイル及び対艦魚雷による敵艦殲滅攻撃です」

 

 

「「「「…………」」」」

またもや艦娘達は呆然とその報告を聞いていた。

 

 

 

すると神通が勢いよくブリーフィングルームに入って来た。

「姉さん!!みんな!!助かりました!!相良提督も、救助対象者鳥海さん摩耶さんも無事です。

テッサさんがやってくれました!!相良提督も回収し、戻ってくるそうです!!」

 

 

神通が入って来ても振り返るだけで声が出ないでいた。

「「「「…………」」」」

 

 

神通は興奮した様にそう言ったきり直ぐに部屋から出て行き、発令所に戻って行った。

 

そして、真正面のスクリーンにレーバテインの近くに巨大な何かが浮上してくるのが見えた。そして、上の装甲が開き、レーバテインを乗せ、そのレーバテインの20倍以上ある大きな何かは直ぐに海中に潜っていった。

 

 

「……あれ?なに?」

川内はその謎の物体を見てもごもごと誰と無しに問いかける。

 

「クジラ?」

早霜はそう言う。

 

「……アル、クジラさんに飲まれちゃったね」

清霜である。

 

「……さっき、神通さんが来て言ってたような、相良提督をテッサさんが回収するとか何とか……」

秋月は何気なしにそう言った。

 

 

 

「「「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」

 

 

 

 

「あれ!?あれ?てててててててテッサ?????何アレ、めちゃデカいんだけど?めちゃデカいんだけど?何アレ?川内姉ーーーーーーーーーーーーー!!なんだアレ!!」

朝霜は混乱しまくり、手をあちゃこっちゃに振りながら川内に叫ぶように問いかける。

 

「わたしにも分からないわよ!!何アレ?潜水艦って!!普通の潜水艦よりもデカいってもんじゃないわよ!!何よアレ、タンカー??形もおかしいわよ!!乗るって!!あれが艤装なの??」

川内も、腕をブンブン振りながら、叫ぶ。大分混乱している様だ。

 

「クジラさんだ!!テッサさんってクジラさんだったんだ!!」

清霜もクジラの真似事をしながら叫ぶ。相当混乱している様だ。

 

「……………あの、それよりも、本当に潜水艦一隻で敵深海棲艦414隻すべて轟沈させてましたよね…………あり得ない……たった一隻で……日本国の艦娘すべての力を結集してもかなうかどうかわからない戦力を……一瞬で」

秋月は呆然自失のようなていを成していた。

 

「…………テッサさん…一人で世界滅ぼせそうね」

早霜は恐ろしい事をボソっと言っていた。

 

ブリーフィングルームはしばらく、変なテンションでの叫び声やら何やらで、カオスと化していたのだが……

 

急に真正面のスクリーンの映像が切り替わり

「皆さん、要救助者をそちらにお連れします。重巡摩耶さんが重傷です。直ぐに入渠の準備を、また、鳥海さんの案内もよろしくお願いいたします」

カーキ色のミスリル女性将校服を着た、アッシュブロンドの清楚でいかにも淑女といった美少女が画面に映る。

 

喧騒としていたブリーフィングルームは静まり返る。

 

そして

「……あんた誰だ?」

朝霜がポカンとした顔でぶっきら棒に画面の少女に問いかける。

 

「……あの子ね。テッサらしい」

画面の少女の代わりに川内が答えるが、自信がなさそうだ。

 

「「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」

駆逐艦娘たちは全員絶叫のような驚きの声を上げるが……

 

そんな事を気にも留めず画面の向こうの美少女、テッサはニコッと笑顔を見せ

「では、よろしくお願いいたします」

そう言って通信を切った。

 

 

「ぶふぉーーーーー!!うそだーーーーー!!変わりすぎだろ!!なに、あいつ変身できるのか!?」

またしても朝霜は大声で叫ぶ。

 

「…………し…信じられません」

秋月は目を大きくしたまま、驚いている。

 

「きっと、何か憑いているの……歴戦の提督の霊とか」

早霜はニヤっとしながら、わけがわからない事を呟く。

 

「……これってもしかしてドラマとかである二重人格ってやつなのかな」

清霜が一番冷静なのかもしれない。

 

「と、とりあえず迎えに行くよ。摩耶さん重傷だって言うし………テッサの事も分かるわよ」

川内は皆に、テッサ達を出迎える様に指示を出す。

 

「おお、おう」

「……はい」

「分かりました」

「本当にクジラさんなのかな」

駆逐艦娘たちはそれぞれ返事をし、ブリーフィングルームを出るのであった。

 

 

 

そして……テッサ、いや、トゥアハー・デ・ダナンは凱旋を果たしたのだった。

後で飛んでもない事実を聞かされるのだ。

 

ハワイ・サイパン・硫黄島という深海棲艦の重要拠点、そして、周囲小規模泊地2か所を帰還する際に粉砕した事を………

 

 

それを聞いた駆逐艦娘達は……

「て……テッサをからかうのやめた方がいいな………」

「あの、一隻でって無敵じゃないでしょうか?」

「きっと憑いている……過去の英霊とかそう言うのが」

「……テッサさん…テッサさんって……」

朝霜、秋月、早霜、清霜はそれぞれ疲れた様に口にしていた。

 





テッサ強し!!
朝霜だったらこれぐらい驚いてくれるだろう!!
早霜だったらこう言ってくれるだろう!!
清霜だったらと、
結構楽しかったです。


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第十五話 摩耶と鳥海

感想・ご指摘ありがとうございます。







深海棲艦超大規模部隊によるメリダ島包囲網は、覚醒したテッサ(将官服バージョン)とテッサの艤装ダーナの活躍で全ての敵を轟沈させ、大勝利に終わった。

神通をはじめメリダ島の艦娘達は絶体絶命のピンチから解放され、緊張の糸が解け、誰もがホッと胸を撫でおろす。

 

 

その翌日、神通は油断していた。

 

「うわあああああああ!」

提督の寝室から叫び声が響く。

 

「むにゃ~、さ~がらさ~ん。そこは魚雷発射管です~、上部装甲甲板を撫でてください~」

宗介のベッドにまたしても潜り込み、上下の下着に薄手のシャツ一枚とあられもない姿で気持ちよさそうに寝息を立てながら、わけわからない寝言を言っていた。

 

「完全に油断してました。すみません相良提督!テッサさん、何度も何度も口酸っぱく言っておりますが、提督の寝所に潜り込んではいけません!」

大きな足音が近づくと同時に、扉が勢いよく開く。神通が肩を上下させ、息も荒い。どうやら全力疾走でここまで来たようだ。まずは、壁を背に多量の汗を顔面から噴き出している宗介に謝り、そして、ベッドの上のテッサに手を掛け揺すり起こすのだが、いつも通り一向に起きない。

 

ベッドの上で気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てているテッサの姿は、昨日、敵深海棲艦を一方的に蹂躙しつくした凛々しい姿は、もはやそこには無かった。

 

遅れて川内が寝室に入り、いきなり寝ているテッサの首根っこを掴み、無理矢理ベッドから引きずりおろす。

「はいはい、毎度懲りないわね。この子は……提督もいい加減になれたら?」

 

「慣れてもらったら困ります!」

神通は川内に抗議する。

 

「イタッ……あれ?相良提督は?……あっ、また川内さんがいじわるする~」

テッサは漸く目が覚める。

 

「はいはい、帰ろうかテッサ」

川内は慣れた手つきでテッサを引きずって行く。

 

「いや!離して下さい!提督~相良さん~助けて下さい」

こうしてテッサはいつも通り、寝室から退場して行く。

 

「相良提督……申し訳ございません」

神通は再度宗介に謝る。

 

「う……うむ、何か対策を取らねば……」

汗を掻きながら呻くようにそう言う宗介。

 

どうやら、昨日の凛々しいテッサはもういない様だ。何時ものテッサに戻ってしまっていた。

 

 

 

 

午前、宗介は司令官室兼執務室で、早速昨日の戦闘結果の報告を神通から受けていた。

「先日の敵深海棲艦、414隻、別動隊の潜水艦隊、24隻合計、438隻轟沈。すべて、テッサさんの功績です。さらに、ハワイ、サイパンを壊滅、硫黄島及び小規模泊地2の資材集積所以外をすべて破壊を確認いたしました。これもテッサさんの功績です。これほどの功績は世界を見ても類を見ません。一隻の艦娘が、10年費やしても難しい戦績をわずか半日もかからずに成し遂げました」

 

「うむ、此方の損害は?」

 

「皆無です」

 

「重巡摩耶と鳥海の様子は?」

 

「重巡鳥海は既に回復しておりますが、リンク切れが原因で艦娘本来の力が出せないようです。また、重巡摩耶は現在も尚、入渠施設で回復を行っており、本日中には回復するそうです。両足欠損も、この鎮守府の入渠施設は回復させることが可能なようです。これはひとえに相良提督が提督としての資質が高い事が影響しているものと判断いたします」

 

「そうか……では回復を待って、二人には正式に会おう」

 

「……提督、ただ喜んでばかりはいられません」

 

「何か問題でも?」

 

「昨日の戦闘でテッサさんの資材補給を行った結果、メリダ島の備蓄3分の1が消費されました」

 

「なっ……メリダ島は元々資材が豊富にあるはずだ。それでもか……昨日の戦闘を確認し、ある程度予想はしていたが……」

 

「はい、テッサさん本人の燃料は殆ど消費しておりません。何でも、半年補給が無くとも連続稼働が可能だとか……問題は艤装兵装の弾薬・鉱物資源と次に艦載機の燃料です」

 

「……やはりか…ダナンはパラジウムリアクターが搭載され燃料補給は殆ど必要ない。ダナン用のパラジウムやAS発電用のパラジウムの備蓄は有に3年はある。問題はミサイル群だな……」

 

「はい、昨日の戦闘ではミサイル群の消費は艤装ダーナに搭載されている全量の四分の1にも満たないそうです。もしすべて消費した場合、メリダ島の備蓄量では追いつきません。兵装の性質は全く異なるため一概には言えませんが、資源価値として大凡大和型の100倍は消費するようです」

 

「……そうか、しかしそれだけの戦果に見合う、いや、それ以上の圧倒的な戦果を上げられるのだから、仕方がないか……」

 

「これからのテッサさんの運用には細心の注意が必要ですね」

 

「ふむ、それを見越して、硫黄島及び小規模泊地にある敵資材集積場を破壊せずに残したのだろう……。早速だが、資材を頂きに行くか……テッサの艤装ダーナならば多量に資材を積めるだろう、攻撃さえしなければ、運行のみだと資材もほぼ消費しない」

 

「テッサ及び川内と早霜、清霜を呼んでくれ」

 

「了解しました」

 

 

 

しばらくし、川内、そして早霜、清霜が司令官室に来る。

テッサはなぜか提督机の下から這い出てきて、宗介にくっ付こうとするが、川内にむんずと襟首を掴まれ横に整列させられる。

「うむ……テッサ、硫黄島及び小規模泊地2箇所の、敵資材集積場の資材を早速取りに行こうと思うのだが、どれくらいの時間がかかるだろうか?」

 

「嫌です~」

 

「…何が不満なのだ」

 

「だって、相良さんが一緒に来てくれないからに決まってます~、絶対嫌です~」

テッサは両頬を膨らませ、わがままを言う。

 

「テッサさん、提督はお忙しいんです」

「ぶーぶー、私が出ている間、神通さんが相良提督を独り占めです~、自分ばっかりずるいです~」

神通はテッサに注意をするが、テッサは不満たらたらである。

 

「独り占めなどいたしません。それに私の役目は提督のサポートです」

神通は若干顔を赤らめながらテッサに抗議する。

 

「テッサ、聞き分けてくれ。次の機会には同行する」

 

「ムムムム、絶対ですよ!!嘘ついたら、ダーナに閉じ込めちゃいますよ!!」

宗介のこの言葉で、テッサはしぶしぶだが、資源回収輸送任務に川内達と就いてくれるようだ。

 

「話を戻す。テッサ、ダーナの運行能力であれば、硫黄島を含む、三島すべての資源回収にどのくらいの時間を要するのか?」

 

「うーん、艦載機や輸送ヘリを半分おろして、上部甲板にも、資源を積めば、1回の輸送ですべて回収できますが……それでも2日ですね」

 

「そんな短期間で可能なのか?流石だな」

 

「エッヘン!」

テッサは自慢げに胸を張る。

 

 

 

 

 

そして、テッサ、川内、早霜、清霜は、早速、資源回収任務のため硫黄島に向け出発した。

テッサの艤装ダーナに乗っているため、川内達に疲労はない。

 

ダーナの発令所では……

カーキ色の女性用将校服をまとっているテッサが艦長席に座り、川内がその横で立っていた。

「……あんた、本当にテッサなの、まるで別人ね」

 

「そうでしょうか?わたくしはわたくしなのですが」

 

「ふ~、まあいいわ、深海棲艦に出くわしてもテッサは戦闘しなくていいから、戦闘はこっちで受け持つわ。もっとも、出くわしても艦隊から外れた野良だろうしね」

川内は淑女然としたテッサの様子を見ながら、ため息を付く。まだ、この姿のテッサになれていない様だ。

テッサは今資源回収任務では戦闘行為の一切を禁止されている。もちろん資源消費を避けるためだ。偵察機の発艦のみ許可されている。もし、深海棲艦に出くわしても、川内達にまかせるか、振り切るようにとの事だ。

ただ、この海域の敵艦隊は先日、テッサが徹底的に壊滅させたため、出くわすとは到底思えない、もっとも、スーパー潜水艦であるテッサに追いつける深海棲艦など居ようもないが……

 

 

硫黄島についてから、資源回収に、川内達の役目はほとんどなかった。

着岸したダーナから、次々と人サイズ(5分の1)のASが12機と妖精が運転するトラックが資源回収、運搬に出て行き、川内達がいるとかえって邪魔なだけだったのだ。

「ウルズ2・6・7は、北側弾薬庫、デーポ1とウルズ3・4・9・10は南側資材を運搬」

こんな感じでテッサがダーナから指示し、あっという間に回収作業が終わる。

 

川内達は、それをただ見ているだけしかできないでいた。

 

そんなこんなで、残りの小規模泊地の資源も滞りなく資源を回収していった。

 

 

 

その頃、メリダ島では、

「高雄型3番艦重巡摩耶様だ!助かったぜ!ありがとな!」

「同じく、高雄型4番艦鳥海です。助けていただいてありがとうございます」

回復した摩耶と鳥海が司令官室に訪れていた。

 

「改めて自己紹介をする。メリダ島鎮守府提督相良宗介だ。君たちを歓迎する」

 

「うわ、お前が提督だったのか、しっかし若い提督だな~」

摩耶はまじまじと宗介の顔を見る。

 

「摩耶、提督に失礼よ……あの相良提督、神通さんからは大凡の事は聞いておりまが、ここは日本直轄地でも同盟国でもなく、本当に独立した勢力なのですか?」

 

「うむ、確かに独立した勢力ではあるが……このメリダ島鎮守府はつい3か月前に出来上がった生れたばかりの勢力だ。独立も何も、他国との接触が無い上、地球上のどの国からもここを勢力として認識されていないだろう」

 

「……で、なんでそんな新米勢力の秘書艦を日本国の大エース様がやっているんだ?」

摩耶は神通に対し皮肉じみた言い方で質問をする。

 

「私達、元第六偵察艦隊は、現在、相良提督率いるメリダ島鎮守府に所属しております」

 

「なっ!おまえ、裏切ったのか!?何故だ神通!」

 

「……私達は、日本国から亡命しました」

 

「お前!!神通達に何をした!!」

摩耶は宗介の胸倉を掴む勢いで詰め寄るが、さっと神通がそれを遮る。

 

「摩耶さん、勘違いしないでください。私達は自分たちの意思で提督の麾下にはいり、艦娘としての使命を全うすべく働いております。

私達はトラック泊地自爆後、本土に帰還すべく深海棲艦の追撃を逃れておりましたが、弾薬、燃料もつき、風前の灯火だったところを相良提督にお救い頂いたのです。その後、帰還の目途が立つまで滞在を許可して頂いておりましたが、相良提督の人柄や行動力に胸を打たれ、末席に加えて頂き、今にいたっております」

 

「お前、日本に帰るつもりはないのか?」

 

「はい」

 

「摩耶、冷静になって……相良提督にお尋ねします。なぜ私達を助けにきてくれたのですか?」

鳥海は摩耶を元の位置まで連れ戻し、改めて宗介に問うた。

 

「うむ、神通達の元同僚であったのでな、純粋な感情の下救助したのもある。ただそれだけではない。正直な話、このメリダ島鎮守府は人手不足だ。あわよくばスカウトしようと思っている」

 

「ふん!もう化けの皮がはがれたか」

 

「私達が拒否したらどうするつもりですか?」

 

「日本国に返す。ただ、現在、日本国と国交がないため、しばらくは時間がかかると思う。現在硫黄島までの航路は開けている。そのまま返すだけならば、小笠原まで返す事が出来るだろう」

 

「なぜ、そこまでの事をしていただけるのですか?」

 

「単純に他国と事を構える気が無い、飽く迄も敵は深海棲艦だからだ。無理矢理残ってもらっても士気にかかわるならば、同じく深海棲艦を敵にしている国に帰す事は此方としても有益だからだ」

 

「なるほど分かりました。では、私達に何を欲しますか?」

鳥海は顎に手をやり、何か考えた後、宗介にこんな質問をする。

 

「一緒に深海棲艦と戦ってほしい」

宗介はその一言だけを言う。

 

「鳥海!何を言っている?」

鳥海の問いは明らかに、宗介との交渉のテーブルに乗った意味を示していたため、摩耶は鳥海を止めようとするが……

 

「摩耶は黙っていて……提督、その見返りは?」

鳥海に制され、交渉が続く。

 

「君たちに、それなりの待遇を用意する。詳しくは神通……」

 

「はい、メリダ島の艦娘宿舎は一流ホテルよりも設備が整っております。高級感あふれる部屋をご用意しております。ただ、食事は当番制となっております。お給金はでますが、使えるところは皆無な上、使う用途は今の所有りません。基本的な生活必需品は無償で用意されております。

福利厚生も充実しており、簡単なスポーツなどが出来る施設も存在。ゲームなどが多数存在しております。屋内プールなども設計されております。

シフト制で休日は設定されておりますが何せ人手不足なため、休日返上しているのが現状です」

神通は淡々と説明をする。

 

「……まるで、人と同じ扱いですね。しかも、本国の尉官よりも待遇が良いようです」

鳥海は目を丸くしその内容に驚きを隠せないでいた。

 

「鳥海!騙されるな!!そんな事があるはずがない!!」

摩耶は憤る。通常ではあり得ない待遇だからだ。

 

「相良提督は艦娘を特別視しません。それは妖精さんに対してもです。だからなのでしょうか、待遇はすべて同じです」

神通は憤る摩耶に冷静に話す。

 

「そんな事があるはずがない!あたしたちは兵器だ!」

 

「また、当鎮守府は艤装のみを一から作成することが出来ます。私の戦闘服もそうです」

 

「なに!!それは……失った艤装を再度作る事が出来るという事か?」

 

「はい、性能は段違いに良くなります」

 

「摩耶、貴方は艤装を失い。そして足も失っていたの……仮にその状態で本国に戻ったところで、処分されるだけよ。この鎮守府で足も修復してもらったでしょ?それに艤装も新たに作ってもらえるかもしれないのよ?私達は既に、日本国とはリンクが切れ、艦娘としての能力が全く発揮できない。まさしく人間の女性とかわらないわ。あの大エースで真面目一直線の神通が全幅の信頼を寄せている提督よ。悪い人間なわけがないと思わない?まあ、神通はそれだけじゃなさそうだけど……それと、ここの妖精さんの数は尋常じゃないわ。しかも大きい。提督としての素質も凄まじい物を感じるわ。どう摩耶?私達もここに所属しない?」

鳥海は摩耶を理路整然と説得にかかりだす。

 

「だってよ~、日本国を裏切ることになるんだぜ。あたしはどうせ処分される身だからいいかもしれないけど、鳥海がわざわざそんなリスクを負うなんてよ」

 

「私は提督が初めに言った言葉で決めたの。『一緒に深海棲艦と戦ってほしい』って言葉に。そんな事を言った提督は今まで居なかったわ。実際、提督自ら危険を顧みずに私たちの救助にきてくれたでしょ?あと、摩耶は前の鎮守府で愚痴ばっかり言ってたじゃない、あのエロ提督だとか、ハゲ提督とか」

 

「だってよ~、あのエロおやじ、私や鳥海の胸ばっかり見てくるんだぜ?まあ、この戦闘服自体が露出が高いから仕方がないけどよ~だからってわざわざエロい目で見るこたーねーだろ」

 

「だったら問題ないじゃない」

 

「でもよー」

摩耶はまだぐずっている様だ。

 

「摩耶は眠っていて分からなかった様だけど、ここの鎮守府の艦娘だけで、あのトラック泊地を自滅に追い込んだ深海棲艦の超大艦隊を一瞬で壊滅させたのよ」

鳥海はさらに摩耶の説得を続ける。

 

「げっ!!まじかよ」

 

そして、神通は摩耶にとどめを刺す。

自らの新艤装を装着し、説明しだしたのだ。

 

「すげーーーーーー!!対空ミサイルってなんだ!155mm砲!しかも、最大射程144㎞って!!おい神通これはなんだ!?」

摩耶のテンションは一気に上がる。

 

「摩耶さん、私も艤装を失って、これを新装して頂きました。摩耶さんにもきっと気に入っていただける艤装を作っていただけますよ」

 

「鳥海!!あたしは決めた!!……提督、あたしにも新艤装作ってくれるんだよな!!」

摩耶は高いテンションのまま、そんな事でメリダ島入りを決定した。

 

「……肯定だ」

 

そんな摩耶にも文句も言わず対応する宗介に鳥海は申し訳なさそうに目くばせをし、黙ってお辞儀をする。

こうして、摩耶と鳥海はメリダ島鎮守府にめでたく所属することになった。

 

 

 

 

 

その頃、テッサ達は、順調に資源を回収をしていたのだった。

妖精達による電波塔や防衛設備の設置。

ダーナ搭載の5分の1ASと輸送トラックとヘリが資源を次々と回収する。

川内達もようやく自分たちの役割を見つけ、島内の状況調査を行っていた。

 

テッサは資源回収という任務だけでは済ませなかった。

この、将校服を着こんだ(真?)テッサは、次の一手を考えていた。

偵察機を出し、ここら一帯を再捜索していたのだ。

それで分かった事は、摩耶や鳥海達以外に島で孤立している艦娘が複数生存している事が判明。連れて帰る事を画策していた。

取り合えず計画書をメリダ島に送るのであった。

 

また、発令所のスクリーンに映し出されている地形とソナー反応と海図を見ながら、資源対策を考案していた。

奇しくも、宗介が前々から資源対策として一考していた事と同じであったが、現戦力ではどうにもならないため、お蔵入りになっている事案であった。




摩耶と朝霜って結構気が合うような気がしてきました。


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第十六話 番外編IFショートショート

思いっきり本編とは関係ありません。
飛ばしても全然問題有りません。(ギャグ要素が高いのでギャグ嫌いな方は飛ばし推奨)

3話短い話が入ってますが。1話目と2・3話目は全くの無関係です。
2と3話は連動しております。




 

番外ifその1

1話から『妖精さんとファーストコンタクト……そして…』

 

 

宗介とアルはメリダ島ごと平行世界に飛ばされたとはまだ思ってもみなかった時期。

アルはメリダ島のライフライン復旧に、宗介は島内の生き残り捜索及び状況調査を行い、初めて妖精達と出会った時の事である。

 

 

宗介は基地内のメイン電源ルームに立ち寄ると、半径50㎝、高さ2m程の不可思議な光の柱が地面から立ち上っていた。

宗介は警戒しながらもその光の柱に近づくと、中から人影が現れる。

しかし、驚くことにその人影は明らかに人ではない存在だった。

 

それは辛うじて人の形はしているが身長40センチ程で体のバランスは2頭身、ヌイグルミの様な愛らしい姿をしていた。

 

宗介は警戒をしながらも、この生命体とコンタクトを取る。

 

彼女はこの世界でいう妖精という存在だった。

 

理性では警戒を解くことが出来ようも無かったが、宗介の勘では、彼女らが危険な存在ではないと訴えていた。

 

最初にコンタクトを取った妖精としばらく、情報交換をしていたが、その内に、光の柱から次々と妖精が現れたのだ。

最初の妖精曰く、宗介がここの提督であると認識されたため、妖精が送り込まれたとの事だ。驚くことに、50人現れる予定だという事だ。

 

宗介は警戒しつつも、光の柱から次々と現れる妖精の光景を唖然としてみることしかできないでいた。

そこで分かった事は、現れる妖精すべてが若い女性の格好をしており、それぞれ愛嬌のある顔をし、髪型や服装なども皆違っていた。妖精とはそもそも女性しかいない種族なのかもしれないと宗介は考えを巡らせていた。

 

そして、彼女らは一人ずつ、光の柱から現れ、トコトコと歩き最初の妖精の後ろに集まる。47人…48人…49人………そして最後。

 

…………

 

ポムポムポム

 

大きなつぶらな瞳に大きな丸い耳、そしてネズミだかイヌなのか分からない格好の寸胴シルエット、体は茶色に薄茶色のブチが入り、何故だか頭には緑色の帽子をかぶっている。体型こそ他の妖精と同じ2頭身だが………明らかに他の妖精とは違う。いや、そもそも人の体をなしていない。

 

「なっ!!!!」

宗介はそんなわけが分からない生物を目の当たりにし、今日一番の驚きの表情をする。

 

その生物は、ポムポムと歩き、驚愕の表情で打ち震えている宗介に近づき見上げ、その短い腕を上げて挨拶をする。

 

 

 

「ふもっふ!」

 

 

 

 

 

「ボ……ボン太くんだとーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

番外ifその2

4話から『新艤装完成!!』

 

 

艤装を失った清霜に、メリダ島で開発した新艤装を本人に渡す。そして、メリダ島初の艦娘顕現(建造)を行ったが、120時間と言う膨大な時間が表示され、誰もが失敗したのではないかと思っていた。

 

そんな日の夜更け、開発担当妖精、中尉に宗介は呼ばれていた。

 

「なにか問題でもあったのか中尉?休むことも大切だ」

 

「まあまあ~、そんな事よりもこっち来てあれを見てよ~」

 

「ん?なんだ?」

 

「清霜の艤装とか作っていたら何故か閃いちゃってさーー提督用の新艤装!?」

 

「俺は艦娘ではないのだが」

 

「いいからいいから、こっちこっち~」

中尉はそう言って宗介を開発室の奥に向かわせると、円台の上に青いビニールシートがかぶされている2m程の何かがあった。

 

「ジャーン」

そう言って、ビニールシートを外すと同時にその物体にスポットライトが照らせれる。

 

 

「なっ!!!!」

 

 

大きなつぶらな瞳に大きな丸い耳、そしてネズミだかイヌなのか分からない格好のシルエット、体は茶色に薄茶色のブチが入り、何故だか頭には緑色の帽子をかぶっている。体は2頭で触り心地のよさそうな毛並みをしており、帽子までの身長約2mどこかの遊園地のマスコット瓜二つの着ぐるみが立っていた。

 

 

「これがメリダ島の技術の粋を集めて開発した。提督戦用艤装、最終決戦艤装『ボン太くん』

!!すっごいよーーー!!」

 

 

 

「ボ……ボン太くんだと――――――!!」

 

 

 

「フフフフフっ、気に入ってくれたようだね。提督!ただ姿が素晴らしいだけじゃないんだ!!」

 

「提督がこれを装着(着る)事によって、高いパフォーマンスを発揮できる~。水上を大凡時速80㌔(40ノット)で走ることができるんだ。

この寸胴で丸みを帯びたボディで、なんと46㎝砲にも耐えうることが出来る!!体を覆っている茶色の毛は、耐熱機能だけでなく、もし転んでも沈まない様に浮力もあるんだ。

武装は艦娘用と同じ仕様だけど、提督が扱いやすい物を用意してるよ。

対深海棲艦用バズーカー、ショットガン、サブマシンガン。

C4に各種手榴弾。電磁警棒に特殊加工したハリセン。

これなら、違和感なく、艦娘達と一緒に戦えるよ~」

 

宗介は中尉に手を差し伸べる。

「中尉!素晴らしい物だ!!」

珍しく興奮気味だ。

 

「提督ならわかってくれると思ったよ~」

 

そうして宗介と中尉はガッシリ握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

番外ifその2-2

3話~5話『メリダ島に住まう謎の生命体』

 

 

艦娘用寮で皆で夕食を取っていた。

 

「みんな、家畜の確保はどうだったの?」

川内は清霜、朝霜、早霜に尋ねる。

清霜には日課として、逃げ出した家畜の確保を言い渡されており、ライフルと麻酔弾も用意されていた。それに、朝霜、早霜姉妹が一緒に参加していたのだ。

 

「うん、今日は、豚さんを1匹、ニワトリさんを3羽」

清霜は元気よく答える

 

「ふふん、あたいは豚を3匹だ!しかも黒い奴な!」

朝霜は自慢そうに答える。

 

「私は、鳥を4羽……何か不吉な数字ね」

早霜はニヤリとそう答えた。

 

「みんなやるわね。まだ、家畜はいそう?」

 

「「「…………」」」

川内のその問いに3人は考え込む様なしぐさをし黙り込む。

 

「どうしたの?」

 

「川内姉、あたい見たんだよ……」

「私も見た……」

朝霜と早霜がこんな事を言う。

 

「何を?」

 

「なんかでっかいネズミさん!!」

清霜は目をキラキラさせて言う。

 

「はあ?ネズミぐらいいるんじゃない?」

 

「2m位あって、立って歩いてた。あれはネズミじゃないわ。クマよ」

早霜は川内に説明する。

 

「早霜!クマじゃねーよ!!どう見てもイヌだろう!!」

朝霜は強く主張する。

 

「お姉ちゃん達!!あれはぜーーーったいネズミさんだって!!耳が丸くて大きかったもん!!」

 

「ネズミと犬は二足で走らないわ……クマよ」

 

「クマは立つこと出来るけどよ~、あんなに素早く走れないだろ!!」

 

「なら何なのかしら?」

早霜がそう言うと、朝霜と清霜も腕を組んで考え込む。

 

「ちょーーっとまった。あんたたち何の話をしているの?」

川内は3人姉妹の会話についていけてなかった。

 

「だから見たんだって、2mの立って走る茶色い犬を」

「クマよ」

「ネズミさんだって!」

 

「はあ?そんなもの存在するわけないじゃない?あんた達幻覚でも見たんじゃない?」

川内はそんな3人を呆れたような顔で見る。

 

「だってよー、ここメリダ島だぜ?機械の人だっているんだったら、立って走るデッカイイヌが居たっておかしくないんじゃね?」

朝霜が川内に拗ねたような口調でそう反論する。

それに残りの姉妹は頷きながらも、「クマよ」「ネズミちゃんだけどね」と付け加える。

 

「はいはい、わかったって、相良提督に聞いたら分かるんじゃない?」

川内は、そう言って隣のテーブルで神通の横で無表情の中でも嬉しそうにカレーを食べる宗介を指す。

 

朝霜達が立ち上がり宗介の前まで来る。

神通はそれを食事中にはしたないですよと諫めようとしたが、宗介がそれを制す。

「提督!!ジャングルのなかで、こーーーーーんなにでっかい茶色い可愛いネズミちゃんを見たの!!」

清霜は腕を大きく広げ回しながら、宗介にそんな事を言った。

 

「2mはあった。あれは顔のデッカイイヌだ!!」

「頭に緑の帽子を被っていたわ。あれはクマよ」

朝霜と早霜も続く。

 

神通がそれを横で聞いて

「朝霜ちゃん達、現実にそんな生物はいないわ。ましてこの規模の島に生息していると思えないわ。相良提督そうですよね」

神通は朝霜達にそう諭しながら宗介に確認を取る。

 

しかし……

「う…うむ」

何故か宗介は顔面中脂汗で一杯だ。

 

「えーーー、絶対居るって、今度とっ捕まえてやるよ!!そうすれば、川内姉も神通姉も信じてくれるだろ?」

朝霜がそう主張し、残りの二人も頷いていた。

 

「……ジャングルの生態系を崩すわけにも行かない。そのような生物に出くわしても、静観するように、……決してむやみに捕獲しようなどとは思わない事だ」

宗介は脂汗を流しながら諭すように言う。

 

「えーーー」

朝霜達は不満そうにする。

 

「みんな、まだ食事中ですよ。さあ、席にもどりましょう」

神通はそう言って、3人を元の席に戻す。

 

 

 

 

 

宗介は食事の後、基地に戻り、自室の隣にある同僚だったクルツ・ウエーバー軍曹の部屋をかちゃりと開ける。

するとそこには、2m位の犬なのかネズミなのかよくわからない茶色い着ぐるみが立っていた。

提督専用艤装、最終決戦艤装『ボン太くん』が。

 

「ふむ……しばらくはこれは使えないな。ほとほりが覚めた後は夜中に行わければならない…か………ネズミでも、犬でも、クマでもない……ボン太くんだ」

そう言って宗介は溜息を付きながら扉を閉めるのだった。

 

 

 

 

 





すみません。魔が差したという事でお許しを><

次回はちゃんと本編です。
艦娘増えます。
久々の建造も予定。


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第十七話 第六駆逐隊、摩耶と鳥海の艤装

あけましておめでとうございます。

さらにご無沙汰しております。
漸く、続きが書けそうです。




「相良提督。まもなく、帰還いたします」

 

「資源回収任務ご苦労だった。テッサ」

 

「ありがとうございます。先般お送りした報告書通り回収任務は滞りなく完了いたしております。また、周囲捜索にて発見いたしました遭難していたと思われる艦娘達の救助の件も完了しております。救助いたしました艦娘のリストを今から送信いたします。対応は如何いたしましょうか?」

 

「うむ、救出した艦娘たちの健康状態は?」

 

「健康状態はいいようです。ダーナを見て少々混乱しているようですが……」

 

「了解した。ダーナ内で会おう」

 

「了解いたしました……提督が来て下さるのは光栄です。常に私は提督のためにシートを温めております。次の任務の際は是非にご同行していただきますよう切に願います」

 

「……うむ」

 

「では、お待ちしております」

凛とした将校服姿のテッサはそう言って通信を切る。

宗介は改めて思う。陸に上がった陽気で明るい迷惑娘テッサとダーナで将校服に身を包み凛としたテッサは、こうして見ると全くの別人の様なのだが…両方の顔のテッサの会話内容がリンクしていることで…やはり同一人物なのだと……

次の任務には流石にテッサと同行しなければならないのではと思ってしまう。

 

 

宗介はテッサから送られてきた救助した艦娘リストをタブレットで確認しながら、神通と共にダーナに向かう。

「彼女らはこう見えても輸送任務のプロフェッショナルです。輸送任務中に、トラック泊地の深海棲艦大侵攻の際に巻き込まれ、身動きが取れなくなったと思われます」

神通が救助した艦娘達の説明を行う。

 

「うむ、それはいいのだが……どう見ても、朝霜達よりも幼い……いや、若く見えるのだが」

 

「提督、艦娘は見た目で判断はできません。基本的には、ありし頃の軍艦の大きさや排水量で見た目がある程度決まる様なのですが、それでもそのカテゴリーから外れている艦娘たちも多々見られます。彼女らは、朝霜達よりも二世代前の歴とした駆逐艦です。朝霜達より幼く見えますが、彼女らは朝霜達よりも経験の長い艦娘です」

 

「……うむ」

宗介はそれでも、タブレットに写るあまりにも幼い容姿の艦娘たちの姿に唸らずにはいられなかった。

 

 

 

「相良提督ようこそ、お越しいただきました」

テッサは艦橋から出迎えていた。

 

「テッサ任務ご苦労だった。よくやってくれた」

 

「お褒めに預かり光栄です……こちらの会議室で彼女らを待機させています。すでにある程度の説明は済ませております」

 

「助かるテッサ」

 

「相良提督のためならば、喜んで」

テッサは眩しいばかりの笑顔を宗介に向ける。

宗介はその笑顔に、無表情だが照れているように見える。

 

その横で神通は、そんな宗介とテッサをみて一瞬眉をひそめ、若干早口で宗介を促す。

「では参りましょう。相良提督」

 

 

 

 

 

「あなたがここの司令官ね。暁型駆逐艦3番艦の雷よ。佐世保鎮守府第六駆逐隊のエースとは私の事よ!そこのところはよろしく頼むわね!」

会議室に入ってきた宗介に、快活そうな少女が指をビシッとさして、自己紹介をする。

 

「なんで雷が先に自己紹介するのよー。お姉ちゃんである私が先にするべきなのよ。佐世保鎮守府第六駆逐隊。暁型駆逐艦1番艦の暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね」

その横の黒髪の少女は、その快活そうな雷と名乗った少女にプンプンと怒りながら、自らをレディーと扱えという自己紹介をする。

 

「響だよ」

アッシュブロンドの髪の少女は眠そうな目をしながら自己紹介を一言ですます。

 

「はわわわわ、響ちゃん。自己紹介をちゃんとしないといけないのです。暁型駆逐艦4番艦の電なのです」

最後の大人しそうな少女は、そんな姉を可愛らしいしぐさで慌てふためきながら注意をし、どこか言葉足らずな自己紹介をする。

 

 

「………メリダ島鎮守府提督の相良宗介だ」

 

 

「相良司令官。助けてくれてありがとね」

雷は屈託の無い笑顔で宗介に助けてくれた事にお礼を言う。

 

「だーかーらー!何で雷が先に言うのよ!」

暁はまたもや、雷に先に言われプンスカと抗議する。

 

「暁がとっととお礼を言わないからよ!」

 

「お、お礼ぐらい言えるし、あ、ありがとう」

暁は上ずった声で宗介にお礼を言う。

 

「助かったよ。スパスィーバ」

響もロシア語混じりでお礼を言う。

 

「あ、ありがとうなのです…なのです」

電は恥ずかしそうにお礼を言う。

 

この4人の艦娘たちからは、まったくもって、戦場や戦争をにおわすような雰囲気は感じられない。

この場はテッサの艤装の中ではあるが、一応軍事施設の一部であり、それ相応の雰囲気を醸し出しているのだが、今はほんわかした空間がこの4人の空気感から広がっている。

 

「うむ、たいしたことはしていない。テッサが君たちを見つけ救出したのだ。ところで、君たちはなぜあのような場所で遭難をしていたのだ?やはり先のトラック泊地鎮守府の襲撃の影響なのか?」

宗介は内心微笑ましいものを見るような感覚で彼女らに宗介流に優しく問いかける。

 

「補給物資をトラック泊地に運ぶ任務で、安全海域だったハズの硫黄島南方航行中に、なぜか深海棲艦が沢山現れて、びっくりして、小さな島に隠れていたら。硫黄島が襲撃されて…」

 

「ぜんぜん、どっか行かないんだもん。出るに出れなくなって……」

 

「ずっと身を隠してた」

 

「トラック泊地が陥落したのを知らなかったのです」

 

雷、暁、響、電は息の合った説明をする。

どうやら、彼女らは深海棲艦の大規模艦隊がトラック泊地を襲撃した後の各所侵攻制圧に巻き込まれた様だ。

 

「そうか、大変な目にあったな、今日はゆっくりと休むといい。ただし、ここは日本国ではないため、君たちの行動は後で案内する宿泊施設内に制限させてもらうことになる」

 

「テッサさんに聞いたのだけど。本当に日本じゃないの?でもなんでここに神通さんが?川内さんも早霜も清霜もいたし……」

雷が宗介と横にいる神通に尋ねる。

 

「暁ちゃん達、私達はメリダ島鎮守府に所属しているの、今は相良提督の艦娘として……」

 

「ええー!」

「驚きだ」

「なのです!」

 

「トラック泊地から命からがら撤退していたところを相良提督に助けていただいて、その後色々あったの……それで、私達からお願いして、提督の麾下に入ったの……あと、朝霜ちゃん、秋月ちゃん。摩耶さんに鳥海さんも居るわ」

 

「ええ!!摩耶さんが?」

「うーん意外だ」

暁と響は摩耶がいる事が意外であったようだ。

 

「し、司令官さん。私たちはどうすれば……その日本に帰してもらえるのでしょうか?」

電は心配そうに宗介に聞く。

 

「ああ、それは心配しなくてもいい。スカウトはするが無理強いするつもりはさらさらない。ただ、この鎮守府はできたばかりで、人手不足は否めない。ゆっくり滞在中に考えてもらえれば助かる」

 

「とりあえずは、お風呂にゆっくり入りたいわ。電、そんな事後でいいじゃない」

暁はこんなことを言ってしまう。

 

「暁はもうちょっとちゃんと考えた方がいいな」

流石に響が暁に注意を入れる。

 

「これはもう私が旗艦になるしかないわね」

雷はうんうんと頷きながら響に同意する。

 

「だって、3か月もお風呂に入っていないのよ!レディーにあるまじき行為よ!」

 

「レディー、レディーって、暁ってそればっかりね」

 

「女の子なんだから当然のたちゅなみ…嗜みよ」

 

(((かんだ)))

 

「はわわわわわ、ケンカはダメなのです」

 

 

 

「……後は川内に頼んでおいた方がいいな」

「はい、姉さんには任務帰還後で申し訳ないですが、適任ですね。伝えておきます」

話がどんどん脱線して行く第六駆逐隊の4人を宗介は川内に任せる事にした。

川内は何だかんだと面倒見がとてもいい。あの、陸のテッサを毎度面倒見てくれるぐらいなのだから……

 

こうして、第六駆逐隊の暁、響、雷、電はテッサに救出され、メリダ島に上陸することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗介は第六駆逐隊の4人を川内に任せ、テッサには再度労を労った後、継続してダーナからの資材搬入を任せる。同行していた早霜、清霜には休憩を言い渡した。

 

 

宗介と神通は開発室へとそのまま赴く。

「提督、摩耶さんの艤装新調案の打ち合わせの件ですね」

 

「ああ、中尉(開発関係統括の妖精)がひらめいたとか何とか言っていた」

 

「それと、建造装置の復旧が完了したとも報告を受けております」

 

「うむ、資材投入と秘書官については、今度は慎重に行ったほうがよさそうだ」

 

 

 

宗介はそのまま開発室の扉を開き中に入る。

 

「……………」

宗介は何気なし2歩3歩と歩むが、その場で脂汗を一杯にかいて、何故か固まる。

 

 

開発室では丁度、摩耶が何かの検査を中尉と他の妖精たちに受けており、上半身裸の状態だったのだ。

 

「おい、こらっ!デバガメかよ!」

摩耶は固まっている宗介に気がつき、そのままつかつかと近づき、殴りかかろうとする。

 

「摩耶!上、上を隠して!」

立ち会っていた鳥海は上半身を隠さず、見事なバストをさらしたまま宗介に近づく摩耶に、慌ててタオルケットを手に駆け寄ろうとする。

 

「相良提督!見てはいけません」

神通も宗介の後に続き室内に入り、漸く状況がつかめたようで、固まっている宗介の後ろから手を伸ばし目を覆う。

 

「おい!何か言え!おまえもエロ親父か!!」

殴りかかろうとする摩耶を寸でで鳥海が止め、摩耶の上半身にタオルケットを巻くが、摩耶は勢いにまかせ、宗介に詰め寄る。

 

 

神通の手で目隠しされている肝心の宗介はまったく反応が無い。

固まったままのようだ……

 

 

 

 

 

「す…すみませんでした!!」

ようやくフリーズ状態から復帰した宗介は短パンTシャツ姿の摩耶に玉のような汗を顔中に浮かびあがらせ90度直角の見事なお辞儀をする。

昔の宗介ならば、言い訳じみたことをつらつらと語っていただろうが、日本の学校に通う様になってからは、それは逆効果である事を学習している。

 

「摩耶さんすみません。私もうっかりしておりました」

神通もその横で、摩耶にお詫びをする。

神通は宗介がフリーズ中に摩耶と鳥海にここに来たあらましは説明をしていた。

 

「たくっ、わざとじゃ無かったことはわかった。今後、気をつけろよな!」

摩耶は腕を組み若干顔を赤らめながらも、そう言っただけに留めてくれるようだ。

 

「うーん。ここは男の方が司令官さん一人ですし……ノックを必ずしてくださいね」

鳥海は宗介にやんわりと注意した。

 

 

 

 

落ち着いたところで、摩耶の艤装新調について打ち合わせを始める。

 

「せっかく、艤装を新調するんだったら躯体も大きいしエネルギー供給方法も変えようと思ってね。電力を多量に使用できるように。それで全身くまなく見せてもらってたんだ」

開発担当の妖精、中尉は摩耶を裸にして検査していた件を説明をする

 

「エネルギー供給方法?今までも電力は使っていたぞ…たぶん」

摩耶は自分の事なのに何故か自信がなさそうだ。

 

「いや~多量に必要なんだ。今までだと、火薬を使った兵器しかなかったでしょ?じゃなくて、電力そのものを兵器にしちゃうプラン。神通や清霜も、ミサイル制御などで、エネルギー変換を大分いじったけど、今回は根本的にしちゃおうかな~って」

 

「具体的にどういうことだ中尉?」

 

「摩耶って普通の重巡洋艦と違って、防空巡洋艦って呼ばれてたぐらい防空に特化していたからね。対空レーザー兵器を積もうかなと、弾薬の消費もよくなるし、エネルギー供給方法変更によって燃費も良くなるだろうしね……将来的にはレールガンは乗せたいよね。あれって多量に電力消費するし……摩耶ぐらいの躯体じゃないとね」

 

「対空レーザー兵器とレールガンだと!?アル!聞いているか?俺が知る限りでは開発途中だと聞いていたが、レールガンについては、失敗の連続だとか……」

宗介は驚きながら、このことを聞いているだろうAIのアルに確認をとる。

 

「提督、メリダ島でも、レールガンと対空レーザー兵器の開発及び試験を行っておりました。それ以外でもプラズマ兵器やビーム兵器のプランも存在しており、プラズマ兵器は着手にかかっていた状況です。また、対空レーザー兵器については実用レベルまで昇華されておりました」

突如、開発室内のスピーカーから、無機質な男性の声が響く。もちろんAIのアルだ。

 

摩耶と鳥海は1、2度アルと会話しているが、まだ、慣れないようで一瞬驚いたような表情をする。

 

「アルっち、説明ありがとう。そう、この島に残っていたデータを元に開発したんだ」

 

「……さすがだな中尉」

 

「司令官さん、何の話をしているのですか?」

「さっぱりわからん!」

鳥海と摩耶は中尉やアル、宗介の話にまったく理解が及んでいなかった。

 

神通は実際艤装にイージスシステムを搭載し、ミサイル兵器なども積んでおり、電力供給については理解しているようだ。

 

「電力をエネルギーに変換し放射する兵器。または、弾丸の推進力を火薬ではなく電力で行う兵器について話あっている」

宗介は二人にもわかりやすく、簡単に説明する。

 

「なんだ、それ?そんなんでパワーアップするのか?」

 

「対空レーザー兵器については、コストが非常に安価だ。その上、電力供給さえ整えば、弾薬消費なしで、撃ち放題だ」

 

「まじか!?打ち放題!?」

摩耶は打ち放題という言葉に驚きながらも喜びをあらわにする。

 

「既に、レーザー照射一発で、艦載機を落とせるレベルまでになってるよ。しかも自動ロックオンも搭載しているし、何よりスピードが桁違いだよね。なにせ実弾がないんだから。あと、大型ミサイルや弾道ミサイルの迎撃用大型レーザー砲も開発中で一応目処は立ったよ。これに関しては摩耶にも試験してもらおうかなと思ってる」

 

「中尉、さすがにそれはオーバースペックではないか?敵にミサイルは無いぞ」

 

「ロマンだね!……うまくいけば、実弾兵器をまったく所持しない艤装も完成するかもしれないし」

この中尉と呼ばれる妖精は、そう言い切った。

 

「……まあ、いい。では摩耶は対空レーザー兵器などの対空特化型の装備を乗せ防空巡洋艦としながらも、大型レーザー砲及びレールガンなどの試験艦となるのだな」

 

「そう言うこと、緊急時には神通と同じ155mm砲を2門乗せ代えれる様にユニット化しているから大丈夫。レールガンの開発はかなり進んでいるから、そっちになるかもね。あと、摩耶には対空ミサイルはおろかミサイル関連は装備させてないよ。ミサイル関係の制御が摩耶の頭で出来るとは思えないしね」

 

「……なんか、馬鹿にしてねーか?」

 

「そんな事しなくても強いんでしょ?防空巡洋艦って?」

 

「あったりめーだ!なんつったって、あたしは摩耶様だからな!」

摩耶は完全に中尉にいい様に丸め込まれているようだが、本人は気分よさそうに笑っている。

 

「鳥海の艤装改良はどうするのだ?俺の希望としては、今の編成を見るに中遠距離がほしいところだが」

 

「うん、そのつもり。この子は頭よさそうだし、ミサイルユニットを搭載したイージス艦にしようと思う。神通は中距離から近距離を得意としているけど。この子は遠距離、超遠距離に特化するのも良いかなって、だから、艤装を改良ではなくて、最初から作成しようと思ってる」

 

「うむ、確かにな……その件に付随して中尉、川内達の改装も順次行っている所に悪いが、一部変更してもらうかも知れん」

 

「なんで?」

 

「艦娘は基本艦船と同じくし、6隻での運用を念頭においているが、俺としてはどちらかというとASの運用と変わらないのではないかと思っている。ようするにだスリーマンセル、3人での運用を基本とするのがベストではないかと、神通には相談していたが、概ね了解を得ている。他の皆にも所感を後で聞こうと思っているのだがどうだ?」

 

「私も相良提督の計画に賛成です。細かい所は修正が必要ですが新兵装もその方が運用しやすいと思います」

神通も宗介の意見を後押しする。

 

「なるほど……いいんじゃない。という事は、艤装もそれにあわせて、チーム分けによっては遠距離、中距離、近距離、防空、対潜、指揮系の変更をしなくっちゃならないんだね」

 

「さすがだ。理解が早くて助かる」

 

「いっそう、川内達の艤装は改装ではなくて、最初から作成して、ある程度ユニット化し、武装変更できるようにしたほうが良いかもね」

 

「ああ、深海棲艦がおとなしいうちにやってもらえると助かる」

 

 

「あいつら、何言っているのかわかるか鳥海?」

「私も半分くらいは……やはり、かなり進んでいるわね。ここの技術や戦術思想は」

「半分もわかるのか……あたしはちんぷんかんぷんだ」

「摩耶はそれでいいんじゃない?」

「微妙に馬鹿にしてるだろ?」

「いいえ、褒めてるのよ」

摩耶と鳥海は3人の技術的な話や戦術論を聞きながら、この鎮守府に所属した事は正解だったようだと感じていた。




次回、建造!!絶対建造!!
新しい艦ムス登場!!

感想ありがとうございました。
徐々にお返事をさせていただきたくお願いします。


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第十八話 新たなる建造

感想ありがとうございます。

漸く建造までいけました。
ちょい短めです。


摩耶の艤装開発プランについて打合せを終え、いよいよ建造(顕現)の話に入る。

隣の建造室に宗介は中尉(妖精)と神通と共に移るが、摩耶と鳥海も流れでそのまま後について来ていた。

 

「ようやく、建造装置も復帰だね。前のことがあったから、耐久性をパワーアップさせておいたよ」

中尉は建造装置の前にある専用コンピュータのディスクにちょこんと腰を掛ける。

 

「うむ、いよいよだな。今回は普通にいきたいものだ」

前回は120時間という膨大な時間を要し、テッサを顕現させたのだが、成功だったのか、失敗だったのか……一応成功なのだろう。

 

「で、提督、どんなタイプの艦娘を顕現させたいの?」

中尉は首をかしげながら宗介に聞く。

 

「うむ、空母系だな。この鎮守府には航空戦力はテッサしかいないからな」

 

「秘書官を誰にする?空母系なら、空母系の艦娘を本来秘書官にしないといけないけど」

 

「現在は空母系はいないからな……神通、どうすれば良いと思う?」

 

「はい、空母系はいませんが、テッサさんが妥当かと。艦載機を空母並み……いえそれ以上に搭載できるテッサさんなら……遺憾ながら空母系の艦娘を顕現できると想定します」

神通は至極全うな意見だが、テッサには思う所があるようだ。

 

「そ…そうか」

宗介もテッサと聞き、ためらうかの様な返事となる。

 

「おい、テッサって潜水艦じゃないのか?何で艦載機を空母以上に搭載できるんだよ」

摩耶はテッサが航空戦力を有している事を知らないでいた。

 

「…………摩耶さん。テッサさんはお分かりのように艤装がそのまま本来の艦の姿をしているという常識で考えられないような艦娘です。摩耶さんは見られていないのでその疑問は当然ですが艦載機の数は優に100は超えています……」

 

「はぁ?」

 

「……テッサさんはここで建造された艦娘とお聞きしてます。それと、ここの技術水準は明らかに現代より相当先に進んでいます。それが要因だと推測しますが……ではなぜこんなに進んでいるのでしょうか?」

 

「摩耶と鳥海には説明をこの基地を案内がてらするつもりであったが、俺とアルはこの世界の人間ではない。俺とアルはこの島ごとこの世界とよく似た未来から何らかの要因で転移してきたからだ……テッサ……トゥアハー・デ・ダナンは元々俺が所属していた組織の旗艦だった」

 

「まじかよ……ということは宇宙人か?やるな提督!」

何故か摩耶は目をキラキラさせて宗介を見る。

 

「違うわよ摩耶……未来人でいいのかしら……それでこの技術水準。司令官さんのいた世界とは?」

鳥海はあきれたように摩耶を見やってから、宗介に向き直る。

 

「それは私から、相良提督とアルさんのお話から、深海棲艦がこの世界に現れる前までの歴史は聞く限りはすべて一致しておりました。なので、推測ですが、提督は深海棲艦が現れないという分岐した世界。要するに平行世界の未来から来られたと考えております」

宗介の代わりに神通が答える。

 

「その見解には賛同いたします」

突如スピーカーからアルが声を出し神通の推測に同意する。

 

「そうなんですね。……でもどうやって転移を?」

 

「わからん」

「不明」

宗介とアルは同時に答える。

 

「……わかりました。話しにくいことを私達に聞かせていただいてありがとうございます」

鳥海はそんな宗介とアルを苦笑しながら、軽く頭を下げる。

 

「これからは共に戦う仲間だからな、知ってもらいたかった」

 

鳥海はその宗介の言葉を聞き、やはり、ここに所属してよかったと思う。

 

 

「提督~、どうするの?」

ほったらかしにされていた中尉から催促の声がかかる。

 

「うむ、テッサを呼んでくれ」

宗介は神通にテッサを呼ぶように告げ、イヤホン式の無線装置でテッサに連絡をしようとするが……

 

「相良さ~ん、提督のテッサはここですよ~」

何故か大きめなTシャツにスパッツとラフな格好をしているテッサが顕現装置(建造)の裏側から現れる。

 

「いつの間に?」

鳥海は突然現れたテッサに驚く。

宗介と神通、中尉はいつもの事なので、そのまま話を続ける。

 

「テッサ、建造を行うに当たって、秘書艦を務めてくれ」

 

「相良さん!漸く私を第一夫人に……正妻に!!」

 

「テッサさん!提督に抱きつかないでください」

 

「ふふんだ。私が今後正妻だから、貴方の言う事なんて聞きませんよーだ」

 

「何を言っている?テッサ」

宗介は不穏な空気にさらされ、一歩下がる。

 

「一時的な処置です!私が秘書官で一番なんです」

神通は何故か負けじとテッサに対抗する。

 

「おい、提督、これはどういうことだ?正妻ってなんだ?おい、場合によっちゃあ、殴るだけでは済まさないぞ」

摩耶が宗介を怒りの形相で睨みつけている。

 

「司令官さん?説明をしてくださいますか?」

鳥海もにっこりした笑顔だが何故か怖い。

 

「……俺も何がなんだか分からない」

宗介も分からないようだが、良くない雰囲気だと言う事だけは感じているようだ。

 

「ああ、そういうのいいから、早くしてくれない?」

中尉はめんどくさそうに、催促する。

 

「そうです。建造です。すみません提督、テッサさんの妄想に巻き込まれる所でした。テッサさんは建造時に一時的に秘書艦になるだけですから、勘違いしないでください」

神通は中尉のその言葉で我に返り、宗介に謝り、テッサに注意をする。

 

「ぶーぶー、……相良提督!私がずっと秘書艦で良いんですよ?」

 

「ほっ、冗談なんですね」

「冗談か……迷惑なやつだな……本当にこんな奴が、秘書艦で大丈夫なのか?」

鳥海も摩耶もどうやら誤解が解けたようだ。

 

「実際に秘書艦変更しなくていいから、便宜上そう言ってるだけだから、このコンピュータ上の話だけだよ」

中尉は呆れたように、神通とテッサに言う。

 

「………中尉、すまんな、続けてくれ」

 

 

「秘書艦はテッサで…資材は一般的な空母に対応させておいたよ。……じゃあ行くよ。ポチっとな」

中尉はそう言って建造と書かれた一際大きなボタンを身体全体を使って押す。

 

顕現装置(建造)上部の電光掲示板に16時間と表示される。

 

「………うむ。前よりましか」

「は、はい」

宗介と神通は顔をしかめながら頷く。

大和型の倍の時間が表示され、一瞬失敗かと思ったのだが……テッサの時に比べると随分ましなほうだ。

 

「ははははっ、参ったねこりゃ、どうやら提督は特殊な艦娘を呼ぶ体質のようだよね」

中尉は苦笑気味にそんなことを言う。

 

「俺の問題か?」

 

「いえ、これは相良さんと私のいわば共同作業!この子は相良さんと私の子です!」

テッサは宗介の腕を取り、また、訳が分からない事を言い出した。

 

「テッサさん提督から離れてください。しかも、それで言いますと貴方は、アルさんと提督の子供になるという事ですよ」

神通はすかさずテッサを注意しつつ、テッサが言ったことの言動をそのまま自分に当てはめて返す。

 

「ええ?まさか?そんな……わたしが相良さんの子供?しかもお母さんがアル?」

何故かその神通の言動でショックを受けるテッサ。

 

「16時間って聞いた事無いわね摩耶?」

鳥海は電光掲示板の表示時間に驚き、摩耶に同意を求めようとしたのだが……

 

「……うう、なにか?あたしは前のあのエロ親父提督の娘という事か?」

摩耶はテッサと神通の会話を聞いてショックを受けていた。

 

「摩耶……あなた……」

鳥海は摩耶をかわいそうな子を見るような目で見ていた。

 

 

 

「……とりあえず明日の朝には顕現される。丁度9時ぐらいか……」

 

「そうだね。そのときに集合だね」

中尉はそう言ってこの場を締めくくった。

 

 

 

 

翌朝、宗介は皆と朝食を取るために艦娘寮の食堂に向かったのだが……

 

「いやだーー!わたしはここに残る~~~!」

 

「何言ってるのよ!暁!昨日日本に帰ることを皆で決めたじゃない」

「そうだぞ」

「暁ちゃん子供みたいなのです」

どうやら第六駆逐隊のメンバーが言い争っているようだ。

 

「だって、ここのベットはフカフカだしゴージャスだし!各部屋に浴槽つきのシャワールームがあるのよ!しかもコスメまで充実してるし!広いし、冷蔵庫もあるのよ!!」

暁は涙目で他のメンバーに訴えかける。

 

「確かに凄かった」

「まあ、それは認めるわ」

「なのです」

響、雷、電は設備については暁と同じ意見のようだ。

 

「だって、帰ってもこんな所にもう泊まれないし~~、誰もレディーみたいに扱ってくれないし~~、ここだったら、レディー気分が味わえるし~~」

暁は口を尖らせて、こんな事言っていた。

 

「だからといって、これとそれとは話は別だ」

響は暁に言い聞かせようとする。

 

「いやだーー、わたし、帰らない!」

 

「帰らないって、日本はどうするのよ」

雷はそんな姉の態度にあきれているようだ。

 

「知らない~、帰らない帰らない帰らない帰らない!!」

暁は食堂の床に仰向けに寝転がって、手足をぶんぶんと振り出して、小さい子供のようにダダをこね始めた。

 

「はわわわわわっ、暁ちゃん子供になっちゃったのです」

 

 

収拾がつかない事態に陥るが、川内が間に入り、手をパンパンと2回叩く。

「はい、はい、あんた達、その件は後よ。先に朝ごはんにしましょ」

 

「そうですね。まだ、暁ちゃん達にはメリダ島鎮守府の雇用条件とか、日本に帰る場合の件について説明もしないといけませんしね」

神通は川内に続き、暁たちに説明する。

 

「わかったわ、暁も子供みたいな真似しないで、後にしましょ」

雷は素直に返事をし暁にそう言う。

 

「帰らないから!」

 

「わかったから、先に朝食にしよう」

響も呆れたようにしながらも、寝転がっている姉に手を差し伸べて起こす。

 

 

 

「………とても、あたいたちの先輩には見えないな」

「………そうね」

「でも、暁ちゃんたちとなら、仲良くなれそう」

朝霜、早霜は呆れたように、清霜は好意的に、そんな第六駆逐隊を見ていた。

 

 

 

 

朝食後、予定通り艦娘の誕生の時間に合わせ建造室に宗介と神通、それに建造の旗艦をしていたテッサ、隣の開発室に用事があった摩耶と鳥海、今回は夕雲型駆逐艦の3人娘が立会っていた。

川内は第六駆逐隊の面倒を見ているため、今回は立ち会うことができないでいた。

 

 

宗介は新たな艦娘の誕生に期待と緊張したような表情で顕現装置をじっと見守る。

 

そして、顕現(建造)装置の電光掲示板の時間が0になる。

 

顕現装置に白い煙が立ちこめだす。

 

 

………徐々に煙が薄れていき、人影が見えてきた。

女性にしては高身長の影が……

 

 

長そうな黒髪をアップでまとめ、切れ長の目にフレームの細いメガネ、顔立ちはキツメだが色白の美人。スレンダーな身体に全身ネイビー色のウエットスーツに身を包み、上からは同色のライフジャケットを羽織っている。腰にはウエストポーチと、両サイドには後腰からアームが伸び、ミサイル発射管を内蔵搭載していると見られる船体の一部が装着されている。

 

ウエットスーツにシンプルな艤装とその顔立ち……どうやら、期待していた空母とは違い外国籍の潜水艦のようだ。

 

 

彼女はスッと顕現装置から足を踏み出すと……

 

 

「私の名はTrafalgar class submarine HMS Turbulent(トラファルガー級原子力潜水艦二番艦タービュレント)貴方がAdmiralですか……なんと可憐な……女王陛下に感謝を」

 

どこかの大企業の敏腕美人秘書のような雰囲気をかもし出す彼女は、なぜかテッサに向かって、片膝を付き、自己紹介を行いだしていた。

 




……ついにやってしまった。
ニュー艦むす登場です。


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第十九話 タービュレント

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

タービュレントさんの正体はこれです。



「私の名はTrafalgar class submarine HMS Turbulent(トラファルガー級原子力潜水艦二番艦タービュレント)貴方がAdmiralですか……なんと可憐な……女王陛下に感謝を」

 

20台半ば頃の敏腕秘書風の風体をしているウエットスーツ姿メガネ美女は、顕現装置から降り立ち、何故かテッサに向かって片膝を付き、自己紹介を行いだした。

 

「あの~、私は提督じゃないですよ……」

テッサはタービュレントに誤解を解こうと声を発するが……

 

そんな声など聞こえていないかのようにタービュレントは振り向き、同席している艦娘達を見渡し、

「可憐だ。まるで英国王室庭園に咲き誇るバラのようだ!」

興奮気味にこんな事を言う。

宗介もその視界の中に居るハズなのだが、彼女の目には映ってないようだ。

 

「あの~、私は提督じゃないですよ~提督はこちらの相良さんです♪」

テッサはそういいながらタービュレントの視界の目の前まで来て宗介の腕を取り思いっきり抱き付く。

 

「なっ!」

テッサのその行動にタービュレントは驚きと共にテッサに腕を抱き寄せられた宗介をキッと睨みつける。

 

「メリダ島鎮守府提督相良宗介だ」

宗介は若干の違和感を感じつつ、自己紹介をする。

 

「君が提督だと!?こんな若造が……」

女性としては身長が高いタービュレントは同じ目線で宗介を睨み付けたまま、こんな事を言う。

 

「タービュレントさん!提督に失礼ですよ!」

すかさず神通は宗介とタービュレントの間に入り注意をする。

 

「いや、すまない。つい……しかし、あなた方はこんなあやしげな若造、いや提督になぜ付き従っている?」

 

「相良さんはやさしいからです」

「相良提督はやさしい方です」

「相良提督は良い奴だぜ!」

「司令官さんは良い人ですよ」

「提督は結構おもしろい奴だって」

「提督さんは良い人です」

「提督は、皆にやさしいです」

ここにいる皆は口々にそう言った。

 

「提督というのは、やさしさや人が良いだけではやっていけないと思うのだが……そのうち可憐な貴方達がそこの若造のせいで危険に晒されてしまう」

 

「そんなことはありません!」

「なんで、相良さんに意地悪言うんですか!」

神通はかなり怒りをあらわにする。

テッサはプンプンしていた。

 

「いや、君達を怒らすつもりはなかった」

そんな二人を見て、一歩下がり謝罪をするタービュレント。

 

「ふむ、君とはどこかで会ったことが……」

宗介はそんなタービュレントの態度に疑問をもちつつ、何故かそんな気がして仕方が無かった。

 

「……なんだ君は、いきなり初対面の人間にナンパなどと軽薄な行為を行うとはどういう了見だ」

タービュラントは不機嫌そうに宗介を睨みつける。

 

「提督はナンパなどいたしません!」

「そうです~相良さんはわたしだけの提督なんです!相良さんに意地悪言う人は嫌いです!」

 

「…嫌い…………すまない。私の勘違いだったようだ。謝罪する……君にも悪かった」

タービュレントはそんな彼女らの言い分にショックを受け肩をガクッと落とした後、宗介を一睨みしてから、フッと息を吐き宗介に近づき深々と頭を下げ謝罪をするのだが……

 

頭を上げ際にメガネの真ん中のフレームを右手で押さえ、キラリとレンズを光らせながら宗介の耳元で、なにやら宗介だけに聞こえるボリュームで早口で恐ろしげな事を伝えた。

 

「君が提督である事をいいことに、彼女らになんらかの破廉恥な行為に及んでいたとしたら、私は神と女王陛下に誓って、君を八つ裂きにしてやる。魚雷発射管に君を詰めて、三〇〇キロの爆薬と一緒に射出する」

 

宗介は額から玉のような汗が吹き出るのを感じる……

 

「……忠告は聞いておこう」

何とか其れだけを、同じく小声で伝え、面目を保つ。

 

そして、宗介は彼女を見たときから感じていた違和感の正体を……そのタービュレントの口調と言い回しで思い出したのだ。

宗介が転移前に所属していたミスリル西太平洋戦隊の副司令官を………

その名は、リチャード・ヘンリー・マデューカス中佐。宗介に対し、幾度と無くいじめとも取れる態度を示しており、宗介がミスリルで苦手としていた人物のトップを争う人物だ。

因みにそのトップを争っていたのはテスタロッサ大佐だったのだが……

 

それには理由があった。当時の司令官テレサ・テスタロッサ大佐が宗介に明らかに片思いをしていたからだ。

マデューカス中佐はテスタロッサ大佐の亡くなった父親の友人であり、テスタロッサ大佐を実の娘のように公私共に気に掛けていた。

それで愛娘のような感覚で見守っているテスタロッサ大佐の恋の相手が素性も定かでない宗介であったため、自然と宗介に対し、かなりキツイ扱いになっていたのだ。

 

「提督?どうしたのですか、顔色がすぐれないようですが」

「相良さん?あの人に何か言われたんですか?」

神通とテッサは心配そうに宗介を見る。

 

 

 

「……問題無い…少し席を外す」

宗介はそう言って、足早に建造室を出ていく。

 

宗介は通路を足早に歩み。建造室から随分離れてから携帯端末を取り出し、アルを呼び出す。

「アル……どういうことだ?中佐と同じ口調に同じ言い回しをあのタービュレントがしていたのだ」

 

「私も聞きました。タービュレントはイギリス海軍で1980年代から2010年まで稼動していた原子力潜水艦です。その初代艦長は……ミスリルに在籍する前のリチャード・ヘンリー・マデューカス中佐でした。当時もその天才的な手腕で数々の武功を上げていたようです。淡々と勝利を重ねる姿に付いたあだ名がデューク(公爵)……やはりその影響が彼女にも多分にあるのだと思われます」

 

「や、やはり…そうか………」

宗介は若干のめまいを覚える。

先が思いやられる気がして仕方が無かった。

 

「しかし、相良提督、今はあなたのほうが立場が上なのです。ここはビシッと態度で示したほうがよいのではないでしょうか」

 

「うむ。そうなのだが……どうしたものか……彼女は飽く迄もタービュレントを顕現された存在、中佐とは違う人物だ。確かにその思いを引きずっているようだが……」

 

「相良提督……わかりました。私が何とかしてみましょう」

 

「アル?できるのか?」

 

「任せてください」

アルはそう言い切った。

 

 

 

建造室に残したタービュレントは艦娘達に接する態度は、はなはだ良好であった。

というよりも、過剰にもてはやしたり、褒めちぎるのだ。

テッサには、もはや姫に騎士が忠誠を誓うの如く態度なのだ。

 

 

 

そして、司令官室で正式にタービュレントに対し辞令を行うため、そのまま司令官室に呼びだした。

宗介の横には神通が控えている。

 

タービュレントは宗介にキッと睨みつけるような態度を一瞬するが……その後は淡々とした態度を取る。

 

宗介はタービュレントにアルを紹介し、アルから話があることを伝える。

アルの声がスピーカーから聞こえた時は流石に驚きを隠せないで居た。

 

 

宗介と神通はアルとタービュレントを残し、司令官室を出て、そのまま司令官室横にある控え室で話し合いが終わるのを待つ事にする。

 

「相良提督、アルさんがタービュレントさんに話とは…何かあるのでしょうか?」

 

「ああ、神通には話しておかないといけないな、実はあのタービュレントはどうやら……」

宗介は神通にタービュレントの元艦長と宗介の間柄について説明をする。

 

 

「そんなことが……それで、提督にあんな態度を……でも、相良提督は何も悪く無いではないですか、一方的にその上司の方が……」

驚きと共に憤りを感じる神通。

 

「人の思いが顕現する……それが艦娘なのだろう?」

 

「そうなのですが……」

 

「タービュレント自身が悪いわけではない。たまたま、俺との相性が悪い中佐の思いが残ってしまったための事だ。俺ではどういう風に誤解を解くのかが見当も付かない……そこでアルが自分に任せろと言ってくれたのだ」

 

「そうだったのですね」

 

 

30分程たち、司令官室の扉が開き、タービュレントは不機嫌極まりない顔で出てきたのだ。

控え室に居る宗介を見つけると、ものすごい形相で睨みつつ、その場を過ぎ去ろうとする。

 

「待って下さい。タービュレントさん、貴方にはこの鎮守府の規律などをお話しないといけません」

神通はそう言ってタービュレントを追いかける。

 

 

「…………アル?何を言った?」

 

「いえ、相良提督がどれだけ有能で艦娘にとって有益なのかを説き、少し話したに過ぎませんが分かってくれたでしょう」

 

「悪化している気がするのだが……どんな説明をした」

 

「そうでしょうか?端的に説明しますと、『提督は、艦娘を差別しない。人同様に扱う。艦娘と寝食を共にしている。三食皆と共にするのは当然。朝は2日1回はテッサと共に同じベットで起床している』」

確かに事実なのだが何かが間違っている。

 

「………」

 

「さらに、『提督は艦娘に非常に尊敬されている。裸同然で抱きつかれようが、着替えを覗かれようが、艦娘からのお咎めはない』」

そんな事もあったが、別に宗介は抱きつきたくて抱きついたわけでも、覗きたくて覗いたわけでもない。偶然が重なった事故だ。しかも、尊敬されているから、お咎めが無かったわけでもない。

 

「………」

 

「そして『提督は真の博愛主義者だ。タービュレントがどれだけ提督を罵ろうと蔑もうと、提督は喜んで受け入れるだろう』と、話しておきました」

これは別に意味に聞こえるだろう。ただの変態に……もはやアルも昔の宗介と同じくらいの語彙力しかないようだ。

 

「………アル…その言い方は誤解を招く恐れは無いか?」

 

「いえ、すべて完璧です」

さらに悪化したのは、間違いないようだ。

 

「………うむ、これは相談する相手を間違えたな……昔の俺のようだ」

 

「………………間違いらしい事はなんとなく分かっておりましたが……やはりそうですか」

 

「アル……お前は俺と一緒で、女性の心を読むのは難しいらしい」

 

「…………」

 

メリダ島鎮守府所属の男共?はどうやら、女性に関する機微にはかなり疎いようだ。

 

 

「まあいい、別に好かれなくともいい、任務や規則や役割さえ、真面目に遂行してもらえば良

いだけだ。個人的には嫌われていたようではあったが、マデューカス中佐も俺の任務遂行能力には疑問を持っていなかったはずだ」

宗介はそう言って、再度タービュレントを司令官室に呼び戻した。

 

 

「提督、何の御用でしょうか、神通殿に各設備の説明を受けていたのですが……」

口調は先ほどに比べ、上官に対する礼節を守っているが明らかに不機嫌な態度をとる。

マデューカス中佐もそうだが、タービュレントも規律については守る意思が強いらしい。

 

「うむ、君に少し話しておこうと思ってな。君がどういう理由で俺を嫌っているのかは分からんが、それは個人の問題だ。それはそれでかまわない。ただ、ここで過ごすために円滑なコミュニケーションだけは心がけてもらいたい。

そこで、君をテッサと同室にする。同じ潜水艦どうし仲たがいせずに寝食を共にしてくれ。さらに、テッサはここでは君の先輩となる。しばらくは四六時中彼女についてここについて学んでくれ。ここでは神通が副官…いや、秘書艦だ。彼女の言う事も十分聞いてくれ。以上だ」

 

「な、なんですと!……テッサ殿と同室…寝食を共に!?それが命令なんですか?」

 

「命令でもあり、お願いでもある。それ以外の任務などもあるが基本、神通から伝えることになるだろう。人数も少ない鎮守府だ。艦娘同士は仲良くやってほしい物だ」

 

「貴方はすばらしい提督だ!誤解をしていたようだ………」

タービュレントは先ほどとは打って変わって、美人だが神経質そうな顔つきをしていたのが、喜色満面と言った表情に変わっていた。

 

そして、嬉しそうにしてお辞儀をし、司令官室を出て行った。

 

 

「アル……なんだったのだろうか?あんなに喜んでいたが……俺は何か特別に彼女が喜ぶような事を言ったか?」

宗介はそんな様子のタービュレントを呆然と見送って、アルに話しかける。

 

「いえ……さっぱり分かりません」

 

 

 

宗介は神通と川内、それと鳥海に司令官室でタービュレントについて話し合う。

川内と鳥海にはマデューカス中佐とタービュレントの関係については先に説明をした。

 

「ああ、アレね。ただの男嫌いね。どうも男が嫌いなだけみたい」

すると川内がこんな事を言い出す。

 

「なんだそれは?」

 

「うーん、私も良くわからないけど、艦娘になる前になんか合ったんじゃない?」

 

「なるほど……丁度タービュレントが就航する頃、海軍にもに女性隊員が採用され始めたのですが、トイレの問題とセクハラ等が横行していたと聞きます」

アルが納得するかのように話をする。

 

「……それで男嫌いか」

 

「それと、あのタービュレント、テッサの事が好きみたいよ。あの子を見る目が尋常じゃないもの」

鳥海はそんなことを言う。

 

「艦娘同士、仲が言い事は良いとは思うのだが……」

 

「そうじゃないのよ提督、たまに居るのよ。前の鎮守府にも居たわ大井とか……女性が女性を好きな奴よ」

川内はうんざりした表情で説明を付け足す。

 

「なんだそれは……」

 

「提督はお分かりにならなくても大丈夫です。それはこちらで対処いたします」

神通は真面目顔で宗介にそう言った。

 

「もしかして、テッサと寮室を同じにしたのは不味かったのか?」

 

「不味くは無いけどね……もしかしたら良いかも…今あの子一人で部屋使っているから、同室の子が出来たら、提督の寝込みに部屋に侵入する事が出来なくなるかも」

 

「それはありがたいが……」

 

「まあ、なんにしても様子見ね。……提督が建造する艦娘ってなんでこう、変な子が多いのかしら?」

川内はそう言って締めくくる。

 

 

 

翌日夜明け前

宗介は寝ていたのだが、司令官室の方から言い争いの声が聞こえる。

司令官室と宗介のプライベートルームはドア一枚を隔ててつながっているのだ。

 

「ああっもう!なんで貴方までついてくるんですか!これじゃ提督のベットに潜り込めないじゃないですか!」

 

「テッサ殿いけません。私は提督に四六時中貴方に付いていろといわれました!」

 

「それが邪魔なんです!」

どうやら言い争いをしているのはテッサとタービュレントのようだ。

 

ガチャ

「はぁ、はぁ、テッサさん!提督の寝室に潜り込もうとしましたね!」

神通の声が聞こえる。

 

「もう!神通さんに見つかっちゃったじゃないですか!!」

 

「タービュレントさん良くやってくれました。テッサさんを部屋に連れ戻してください」

 

「了解しました副官殿。さあ、テッサ殿戻りましょう」

 

「ぶーぶー、次こそは!」

 

「次もありません!!」

 

 

どうやら、タービュレントをテッサの同室にしたのは正解だったと宗介は思うのであった。




トラファルガー級原子力潜水艦二番艦タービュレント
フルメタの原作では、タービュラントと表記されてましたが、マデューカス中佐がミスリルに入る前に乗っていたイギリス海軍の潜水艦です。

核兵器は積んでいなかったようですが……トマホークやハープーンは乗せていました。

このお話のタービュレントは、性格はマデューカス中佐に似ておりますが、まるっきりというわけではありません。
唯、男嫌いのテッサ好きという設定です。ヘタをすると百合の人なのかもしれません。
宗介を初見で嫌った言動をしていたのは男だという事と、テッサとくっ付いていたからですね。まあ、多少宗介を毛嫌いしている記憶はあるのかも知れませんが……
長身、黒色の長い髪をアップでまとめピンで留めてます。
ドラマとか映画とかに出てくる。きつめのやり手美人秘書風です。
スレンダーな体格(胸は清霜並み)に手足が長いという設定です。
服装はイギリス海軍風………艤装は某イタリア潜水艦と現代風ミサイル発射官をミックスした感じです。



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第二十話 日本国の情勢 前

ご無沙汰しております。
復帰第一号です。
感想を返信させていただいてない方々申し訳ないです。
徐々に返信させていただきます。


長くなりすぎたので、前後編となっております。
タイトルが思いつかなくて……こんな感じに、なにか良いものがあれば、変更します。


ミスリル時代の宗介の上司にして、ミスリル西太平洋戦隊のナンバー2だったマデューカス中佐がイギリス海軍時代に艦長を務めていた原子力潜水艦タービュレント。

宗介の建造によって、その思いを受け継ぎ、この世に顕現した艦娘タービュレントは、マデューカス中佐の思いの残滓により、宗介に反抗的な態度を取っていたが、紆余曲折の結果、宗介を提督と認め。メリダ島鎮守府相良宗介提督の指揮下に正式に就いたのだった。

 

それから4日後、メリダ島鎮守府基地内でとある会議を行っていた。

参加者は提督である宗介と秘書官の神通に、駆逐艦のまとめ役の川内。そして鳥海。メリダ島鎮守府に所属するすべての妖精たちのまとめ役である大佐と呼ばれる妖精。そして宗介の長年の相棒であるAIのアルだ。

 

「相良提督、第六駆逐隊の子達から、正式に日本国への帰還願いを受理したわ」

川内は会議の開口一番に宗介にそう報告する。

 

「うむ」

宗介はそれに頷く。

会議の前には既にその報告は受けていた。

この会議は、先般テッサが救助した暁、響、電、雷第六駆逐隊の日本への帰還について、打ち合わせを行う場であった。

 

「それとなしに、ここに残らないかとは勧誘したんだけどね」

川内はため息を付きながら話す。

 

「第六駆逐隊の意思は固いようです」

神通もどうやら暁達に確認したようだ。

 

「まあ、暁だけはごねてたけどね」

川内は半笑いをしながら、疲れたような表情をしていた。

確かに、暁はこのメリダ島の艦娘専用の宿泊施設がいたく気に入っていたようだった。

一人だけここに残ると駄々をこねる一幕もあったぐらいだ。

 

「うむ、前から彼女らは帰還を望んでいたからな。致し方が無いだろう」

 

「で、実際のところどうするんだい提督?」

大佐は自分の体格にあった小さな座椅子にチョコンと座り、円らな瞳を宗介に向ける。

 

「本来なら、遭難救助し帰還を望む兵士に対して、国際法に則って帰すべきだが、メリダ島鎮守府は日本国との国交もなければ、存在すら知られていない。帰すにも、日本国とも交渉を行う必要があるだろう。かなりの困難が予想されるがな」

 

「さすがに、私たちの事を黙ってもらって、そのまま帰すわけにもいかないですしね」

鳥海も交渉が困難である事をふまえ、第六駆逐隊を黙って日本へ帰すという代替えの安易な方法を思い浮かぶが直ぐに自ら否定する。

 

「そもそも第六駆逐隊の皆は既に自力では帰還することが出来ません。日本国の鎮守府とリンクが切れ艦娘としての能力を失効してるようです。

ただ、リンク切れの理由はわかりません。

第六駆逐隊は私達や鳥海さん達のように壊滅したトラック泊地とのリンクとは異なり、横須賀鎮守府隷下の木更津基地にリンクしてるはずですが、彼女らは早々に鎮守府とのリンクは切れておりました。

リンク切れを起こしてる理由としては、横須賀鎮守府隷下の木更津基地がすでに深海棲艦に攻撃され落とされた可能性、木更津基地の提督が亡くなられた又は、木更津基地を別の提督が引き継いだ可能性です」

神通は第六駆逐隊が早々にリンク切れしていた事について言及し、その説明を宗介に行う。

 

「ふむ。所属している鎮守府が壊滅した場合はわかる。そして鎮守府を統括する提督が亡くなった場合も何となく理解が出来る。艦娘は提督とその鎮座する鎮守府と契約のようなものを結ぶようだからな。ただ、別の提督が引き継いだ場合はどうなるのだ?」

 

「私たちが相良提督の麾下に入らせていただいた時と同じく、引き継ぐ提督と所属する鎮守府にて直接互いの意思表明を行わなくてはなりません」

神通は宗介の質問に端的に答える。

 

「なるほど、第六駆逐隊が未帰還中に提督が変更された場合はリンクが切れると言う事か……」

 

「はい、作戦行動中にそのような事態となるケースはありますが、事前通達され、艦娘が力を失う前に帰還又は、近隣鎮守府と再リンクする慣わしです」

 

「何れにしろ、暁達はこちらで日本に帰還させる手配を行う必要があるな……黙って小笠原あたりに置いてくるわけにも行かないだろう」

宗介も鳥海と同じく、第六駆逐隊をそのまま黙って日本に帰す代替え案を想定していたようだ。

 

「そうね。それで無事本国に帰れたとしても、この3か月間の事を報告しなければならないし、暁達が私たちの事を隠し通せるとは思えないしね」

川内は暁達のここでの生活の様子をみて、自分たちの事を隠し通せるとはとても思えなかった。

 

「日本国の情報を集める必要があるな。以前に神通達からある程度情勢は聞いていたが、トラック泊地の敗北からはどう変化したかは現状では不明だ。そのため既に先行してテッサを日本近海へと派遣し情報収集を行わせてはいるが……」

 

「テッサさんなら有益な情報を得てくれるでしょう。既に把握してる情報は、トラック泊地壊滅以降、深海棲艦は、私達が敗走中で得た情報でも、フィリピン、台湾を落としたと……第六駆逐隊の情報では硫黄島を早い段階から占拠し、拠点としていたようです。その状況から、日本本土の太平洋側は深海棲艦の脅威にさらされていたと推測します」

神通は現在把握してる情報を報告する。

 

「うむ」

 

神通はさらに続ける。

「トラック泊地には日本国の艦娘の三分の一が集結しておりました。さらに北方勢力に対抗するために、舞鶴、大湊を拠点とする北方艦隊と日本海防衛に三分の一。九州から本土までの太平洋側防衛を三分の一、70隻弱の艦娘で防衛していることになります。トラック泊地を急襲した超大規模艦隊が太平洋沿岸にすべて現れたとしたら、とても抑えることができたとは思えません。いくつかの鎮守府や離島、沖縄、もしかすると九州や四国まで壊滅してる可能性があります。最悪は……」

 

「……下手をすると要の横須賀鎮守府もという事か」

 

「……はい」

神通は沈痛な面持ちで返事をする。

もし、横須賀鎮守府が壊滅したとなれば、日本全土は無防備に深海棲艦の脅威にさらされ、日本壊滅もあり得るのだ。そして日本本土の艦娘もほぼ生きてはいないだろうと……

 

「………」

「………」

川内も鳥海も神通と同じ気持ちなのだろう。

 

「まあ、あの超大規模艦隊を壊滅させたから、今は大丈夫だろうけどね。既にやられちゃってたらどうしようもない」

大佐は軽い感じでこんなことを言う。

 

「………」

しばらく沈黙がこの場を支配する。

 

「予定ではまもなくテッサが情報を送ってくるだろう」

宗介は一息つき、話を続ける。

この会議はテッサが現地で収集した情報をこちらに報告する時間帯に設定していた。

 

「……はい」

「……」

 

「ダーナから通信が来ております」

会議室にスピーカーから無機質な男性の声が響く。AIのアルだ。

 

「ベストタイミングだな。つないでくれ」

 

「了解(ラジャー)」

アルが答えるのと同時に会議室正面の壁に設置されてる大きなスクリーンが灯る。

 

『こちらトゥアハー・デ・ダナンです。相良提督、皆さん、ご機嫌麗しく』

アッシュブロンドの髪に意思の強い瞳、カーキ色のミスリルの女性用将官服を着こなし、落ち着いた雰囲気の美少女が鋼鉄の椅子に座り、挨拶する姿が映し出される。自らの艤装ダーナに乗り込んだ際のトゥアハー・デ・ダナン。テッサの姿だ。

 

「うむ。テッサも任務ご苦労だ」

宗介が挨拶を返すと、会議室の皆も軽く会釈をする。

 

『先に報告書をデータ送信いたします』

すると宗介の前に置いてあるタブレットに報告書が届く。

 

「早速だが報告を聞こう」

 

『はい、現在日本国太平洋沿岸、紀伊半島沖を深度100、24ノットで航行中です。日本国沿岸に到着し、この3日間で太平洋沿岸主要都市の状況を確認してまいりました。無人機(ドローン)にて得た映像を流します』

 

スクリーンに次々と都市の映像が流し出される。

 

『残念ながら深海棲艦によって沖縄、那覇基地は壊滅いたしました。住民にもかなりの被害が出ており、沖縄南部はほぼ壊滅状態です』

 

「……」

 

『九州では佐世保鎮守府は半壊、その他の港や基地は何とか機能してる状況です。四国ではやはり港を要する都市が攻撃の対象となり、被害が出ております。瀬戸内海まで進出はしていないようで、呉鎮守府、神戸港基地は被害なし。東海地方は港を要する都市が散発的な攻撃がありましたが被害は軽度です。横須賀鎮守府を始め、横須賀管轄基地群は攻撃を受けた跡はありますが、威力偵察を行った程度と想定されます』

 

「ふむ。想定していた最悪の事態は免れている。いや、かなり状況はましな方だ。日本国の防衛指揮した指揮官は相当優秀のようだ」

 

「……うーん」

「……どうかしら?」

「………」

川内、鳥海、神通は宗介の指揮官が相当優秀だという意見に首を傾げていた。

 

『但し、幅広い情報や詳しい情報は通信網が発達していないこの時代の社会では、得ることができません。無人偵察機による空撮と通信傍受などで得た情報のみです。その通信もほぼ、軍事関連のみで、日本国政府内部情勢をつぶさに知ることはできませんでした』

 

「いや、十分過ぎる成果だ。ネットもなく、有線での電話通信網がようやく普及しだした頃の時代だ。致し方が無いだろう」

 

『先ほどの日本の防衛の司令官の話ですが、通信傍受で判明したことですが、日本国太平洋側の防衛指揮を執っていたのが大隅大将だと。北方艦隊の司令官だった彼は、トラック泊地壊滅の報を受け、大半の艦娘を北方から引き連れ横須賀鎮守府に戻り日本太平洋側海域防衛に指揮を任されたそうです』

 

「まあ、そうなるわね。トラック泊地に移動した田中大将の後の横須賀の司令官になったのはアレだしね」

川内はテッサの報告に納得していた。

 

「なんだ。横須賀鎮守府の先の司令官は無能なのか?」

 

「まあ、田中大将と違って、後任の川地中将は提督の素養はあるんだけど……軍将校というよりも政治屋ね。周りにゴマ擦ってのし上がった。指揮官としての能力はたいしたことなさそうね。最低限の事が出来るってことぐらいかしら。しかも私たちの事を兵器としか見てないしね。田中大将が存命ならば、あの政治屋をも使いこなせただろうけど、トップがあの政治屋じゃねー」

川内の評によると、田中大将の次に横須賀の司令官になった川地中将なる人物は、軍将校としては、不適切な人物に聞こえる。

 

「ならば大隅大将は有能な人物なのだな」

 

「はい、ただ堅実な方ではあるのです」

神通は大隅大将の能力に対して肯定はするが、ただ疑問も残っているようだ。

 

「いや、北方にわずかな手勢しか残さずに、太平洋防衛など、かなり大胆な作戦を敢行したように思うが、北方防衛を手薄にする危険性があると言うのにだ」

 

『相良提督、通信傍受で得た情報によると、大隅大将は北方に副司令官であり、参謀である林水大佐を残しているようです。今回の太平洋防衛プランはその林水参謀が立てたプランだと……かなり優秀な将官だと判断いたします』

 

「……林水………」

 

「聞いたことがあるわ。元々中央のエリートだったんだけど、上官と衝突して北方に飛ばされたとか……その北方で、廃墟同然だった大湊鎮守府を立て直し、大湊鎮守府を舞鶴鎮守府と同等かそれ以上の一大拠点へとし、北方防衛網を盤石のものにしたとか……数々の功績を積みあっという間に大隅大将の右腕にまでのし上がったと……ただ、残念なことに彼も提督の素質には恵まれなかったようです」

鳥海は思い出したように林水中将の実績を語りだす。

 

「……まさか……いやそんなはずはな」

テッサと鳥海の話を聞いて、宗介はどうしてもとある敬意を持つ人物と林水大佐を重ねてしまう。

 

『その他にテレビやラジオなどから情報解析を行っております。今回のトラック泊地の壊滅は報道は規制されているようで、行っていないようです。しかし第二次世界大戦の敗戦の影響でしょうか、敗戦を悟り、雰囲気は陰鬱としております。国民は戦争に疲れております』

 

「流石だテッサ、そこまで調べたか……確かに戦争は人心を疲弊させる。そして人の心までも荒廃させて行く」

 

『ただ、先ほど申し上げた通り、日本政府上層部の勢力構成や軍内部の情勢は測りかねます』

 

「うむ。ご苦労だったテッサ、そのことについては一考している。……ところでタービュレントの様子はどうだ?」

 

『はい、試験運行も問題ありません。単独での遠洋偵察にも耐えれるものと判断いたします』

テッサの偵察任務にタービュレントを同行させていた。タービュレントの性能評価も同時に行わせていたのだ。

 

「うむ上々だな……了解だ。テッサ。一度帰港してくれ」

 

『了解いたしました。……相良提督。お会いするのを楽しみにしてます』

テッサは先ほどまでの真剣な表情とはうって変わり、にこやかな笑顔を宗介に見せる。

 

「う、うむ」

宗介は曖昧な返事をし、そこで通信が終了する。

 

 

 

「テッサさんからもたらされた情報から、日本は壊滅的なダメージを負わずに済んだようです」

そんなテッサと宗介の様子を見て、神通は少々声を大きくし、話を続ける。

 

「しかし、トラック泊地は壊滅的被害のようだ。トラック泊地から日本へ逃れた艦娘は、テッサが先ほど送ってきた報告書によると駆逐艦雪風のみが通信傍受で判明したとあるが……」

 

「トラック泊地で防衛任務に就いていた艦娘に田中大将は日本本国への撤退命令を下しました。しかし、敵の数に攻勢があまりにも激しく、私と摩耶は逃げるのに精いっぱいでした。私が目撃しただけで、空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍の轟沈を目の当たりに……超ド級戦艦武蔵も……生き残って脱出したものは数少ないでしょう。もしかすると無事に本国にたどり着いたのは雪風だけということも……」

鳥海はトラック泊地での惨状を回想するかのようにゆっくり語る。最後には苦しそうに、目を瞑っていた。

 

「私達、第六偵察隊は外の任務でトラック泊地から離れていたから、逃れてここまで来られたけど……それでもこのありさまだった」

川内も俯きながら答える。

 

「すまない……」

宗介は安易な質問をした事に、詫びの言葉を一言述べる。

 

「いえ、司令官さん。これは重要な事です。日本国の歴戦の主力正規空母の半分が消失したことになります。日本の航空戦力は半減したと言っても過言ではありません。今後しばらくは日本は防衛で精いっぱいだと言うことです」

鳥海はあえて語気を強くする。

つらい記憶ではあるが、今は目の前の問題を解決させようとする意志が強いようだ。

 

「それだけではありません。先ほど話題に上がりましたが、トラック泊地には、太平洋方面軍田中大将が自ら手綱を執り、その下に艦娘を指揮する3名の提督がいらっしゃいました……あの状況ですと、全員お亡くなりに……となると、日本軍内では、艦娘に対する風当たりが厳しい状況下にあると判断します」

そう言う神通は厳しい表情を浮かべていた。

 

「日本軍内では君たち艦娘の人格を擁護する勢力と単なる兵器として見る勢力があると聞いていたが……」

 

「はい、その通りです。田中大将は人格擁護派、そして横須賀の現司令官の川地中将は兵器派です」

 

「では、北方方面軍司令官であり、現太平洋防衛の指揮を行ってる大隅大将はどうだ?」

宗介は神通が示したその二人だけでは現在問題視している横須賀鎮守府の艦娘に対する勢力状況を判断しかね。もう一人の人物の名を出す。

 

「大隅大将は中立と聞き及んでおります。噂程度でしかありませんが……」

 

「ふむ、兵器派が台頭していた状況で第六駆逐隊の暁達が所属する横須賀に単独で無事帰還した場合どのような扱いを受けると予想されるか」

宗介はその答えで、横須賀が兵器派が台頭している可能性が高いとし、この質問をした。

 

「帰還に時間をかなり要してますから、あらぬ疑いを掛けられるかもしれませんね」

鳥海は憮然と答える。

 

「……わかりません。ただ、人道的な扱いを願うばかりです」

神通は心苦しそうに答えた。

 

「ならば、ますます日本国と正式に交渉し、暁達の立場を守らなければならないな」

宗介は改めて言葉に力を入れてこう皆に言った。

 

「相良提督……なぜそこまで」

川内は宗介がそこまで、暁達を守ろうとするのか疑問であった。

暁達は他国の艦娘であり、他勢力である宗介達がそこまでする必要が無いからだ。

 

「俺自身は平和とは縁遠い世界で生きてきた……しかし一時的にだが、平和というものを日本国で知り、そこで生きている人々を見てきた。……誰もが笑って過ごせる日常というものを……だが俺は、その掛け替えのない日常を………壊してしまった。俺は俺の目的のために………だからか、暁達を見てると彼女らを何とかしたくなる。罪滅ぼしのつもりなのかもしれん」

宗介は昔の口調に戻し、自分の言葉で皆に語る。

宗介が壊した日常とは、アマルガムいや、レナード・テスタロッサが千鳥かなめを奪うために、宗介とかなめが過ごした街を学校を戦場と化し、街や人々を傷つけたのだ。宗介はその際、かなめを守る事に精いっぱいで、街や人々を二の次にしたのだ。

そう語る宗介の表情は無表情ながら、どこか寂しげであった。

宗介は、あの平和な街で、笑い、楽しく遊ぶ子供たちと暁達の姿が重なったのだろう。

 

「軍曹、今はそう呼ばせてください。あれはあなたのせいではありません。断言します。あれはあなたのせいではありません」

会議室のスピーカーから無機質な男性の声でアルは宗介にそう言った。

 

「…………司令官さん、あなたは」

鳥海はその二人の言葉で、相良宗介という人物がただ優しいだけの人間ではないとは思っていたが……その過去に何か大きな重荷を背負っているのではと……そしてその語る言葉があまりにも重く、そして尊い様に聞こえた。

 

「相良提督、やっぱり……」

川内も宗介が未来から来た軍人だとしても、普通に日本で過ごしてきた人間ではない事に気が付いていた。もしかすると自分たちと同じような立場の人間だったのではと……

 

「提督……」

神通は沈痛な面持ちで宗介を見ていた。

神通は宗介が歴戦の戦士で生死の間を生き抜いてきた人間だと感じていた。

そんな宗介自身の過去の心情を一切今迄語らなかったが……今の言葉だけでも宗介の過去は凄惨なものだったのではないかと……胸が苦しくなる思いをしていた。




堅苦しい話がもう一話あります。


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