堕ちた彼女が堕とされたいので彼女を堕として堕とさせる話 (原作未読の魔改造フェチ(百合脳))
しおりを挟む

堕ちた彼女が堕とされたいので彼女を堕として堕とさせる話

筆者にしては珍しく原作既読作品。
砂糖吐きそうなほど甘い純愛ものを書いてみたい、という衝動を抑えきれずに。なお文の質は保証できかねます。
多少どころじゃ無く際どい描写はあるけど、直接的な表現は(殆ど)無い筈だし、R-15で大丈夫……だと思う、多分。問題あったらR-18に逃げます。



百合です。ガヴィーネです。
サタラフィ? さっき連れ立ってホテルに入ってったけど?


 ―――ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……

 けたたましく部屋中に鳴り響く電子音。それは枕元のスマホから聞こえる起床を知らせる音(デスアラーム)

 

(ん、もう朝か……ねみー)

 

 まだもう少し眠っていたい、という気持ちを抑えてスマホのアラームを止める。それから大きな欠伸を一つ。伸びをしてからベッドを出て、いざ身支度をして学校へ……と思った矢先、緊急事態発生。

 

(体が……動かないっ!?)

 

 金縛り、ではない。悪魔の仕業という訳でもなさそうだ。というか私が一人で勝手に動けなくなってるだけ。要するに定期的にやってくる『学校に行きたくない周期』―――かと思った瞬間、違和感に気付く。

 『学校に行きたくない周期』とは、余りのだるさに体が動かせなくなる現象の事だ。より分かりやすく言うなら『日曜日のサザエさん症候群』の類似症例と捉えておk。何にしろ、『体を動かす気力が無い』という状態の事である。

 

 然るに、今現在の私の状態はと言うと。

 

(無気力になってる、って訳でも無いな……いや、これはむしろ―――)

 

 『気力はむしろ有り余っている』。それが今の私の包み隠さぬ感想だ。つまりこれは『学校に行きたくない周期』とは別物か。『気力は溢れているけどベッドからは出たくない』……って、それどういう状況だよ!?

 心の中で自分にツッコミを入れるも、やはりそうとしか考えられない。だってそういう気分なんだもん。仕方無いのでそれはそういうものと仮定した上で、その原因を考える。とにかく原因さえ究明できれば安心して二度寝できるからな(この時点で既に私の中から『頑張って学校に行く』という選択肢は消滅している)。

 

 ……んで、更に不思議な事に気付く。私の大好物、三度の飯より大好きなネトゲすらもやる気が起きない。どういうこった。折角学校に行かなくて済む日(自主的に決定)だって言うのに、つーか今イベント開催中だから24時間ログインしっぱなしでも良いくらいなのに……駄目だ、頭ではそう思っても心が動かない。『ネトゲなんて今はどうでもいい』としか思えない。

 すると、この現象の原因には『ネトゲ以上に大切な物・事』が関わってるのか? しかし私にとってネトゲ以上に大事な『何か』っつったら―――

 

 

 

(―――あぁ、なるほど。そういう事か)

 

 その瞬間、全てに納得がいった。確かに『そういう事』ならこういう事になるのも仕方無い。

 いや、未だに原因は分からんのだが。昨日の行動を思い返してみても、朝起きて学校行って帰ったらネトゲして寝る―――いつものサイクルを繰り返してただけで、別に特別な事なんて何一つ無かったんだけどな。

 ……ま、こういうのは何か『特別な事』があったから()()()()、って訳でも無いか。むしろ今までの日常でも少しずつ()()()()()自覚はある。それが偶々今日になって限界を迎えた、ってだけの話。ただそれだけだ。

 

 今までず~っと我慢してきたのが堪えきれなくなった反動で、今はもう()()以外考えられない。()()以外の全てに対しては無気力なのに、()()に関する事なら気力十分、夢中で取り組める……ってのが、今の私が陥っている症状の正体。

 

 とにかく、善は急げだ。手元のスマホから電話をかける。

 

「…………あ、ラフィか? 少し頼みたい事があるんだが―――」

 

 ラフィに事情を説明し、ちょっとした協力を仰ぐ。彼女からは快く了承して貰えたばかりか、「頑張ってくださいね」と激励の言葉を頂いてしまった。少し照れる。

 通話を終えると、さっきまで重くて重くて仕方なかった筈の布団を軽々と払い退け、散らかり放題の部屋の片付けを開始。やっぱりゴミだらけの部屋じゃカッコつかないしな。

 片付け終えたら朝飯だけ食って、後は本番のための『下準備』しながら待ってよう。

 

 

(しかし、いよいよこの時が来ちゃったか……思っていたより早かったような、遅かったような。何にしろ想像以上にwktkするのは確かだな)

 

 期待とか焦燥とかその他諸々、自分でもよく分からないくらいごちゃ混ぜになった感情で胸をいっぱいにしながら放課後を待つ。―――あぁ、待ち遠しいなぁ!

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「えっ? ガヴが休み?」

 

「はい、ちょっと緊急事態だそうで~」

 

 朝から学校に姿を見せない(駄)天使の親友の事が気にかかって、同じ天使であるラフィに尋ねてみたら返ってきた答えがこれである。

 

「もう、ガヴったら……どうせまたネトゲのイベントか何かでしょ? 何が緊急事態よ」

 

「あっ、待って下さいヴィーネさん!」

 

 説教して今からでも登校させようとスマホを取り出しかけるが、それを止めたのもまたラフィ。

 

「今回ばかりは本当に緊急事態なんだそうです、何でもネトゲをやる気すら起きないとか」

 

『え……ええぇぇぇぇっ!?』

 

 隣に居たサターニャと声が重なる。でも仕方ないじゃない、()()ネトゲ廃人のガヴリールが「ネトゲをやる気が起きない」なんて! これはもう本当に緊急事態だわ!?

 

「び、病気なの!?」

 

「ええ、まぁ……そのようなものです」

 

「そんな、ガヴが……」

 

 意気消沈する私。親友のガヴが病で苦しんでいる、ってのも確かにショックだったけど。

 実はそれ以上にショックだったのは、ラフィにだけ連絡入れて私には一言も言ってくれなかった事。ガヴは私よりもラフィの方が大事なのかな、なんて思っちゃってちょっと心がチクリ。それは私がガヴの事を只の友達以上に意識しちゃってる証拠。

 いや、確かにガヴは可愛いし嫌いじゃ無いけど……私達は天使と悪魔だし、それ以前に女の子同士だし。そんな言い訳で、自分の想いに気付かないフリ。だってこんな倒錯した想いをガヴに知られちゃったら、今の関係では居られなくなっちゃう。だから今日も心に蓋をして、『いつも通り』の自分を装う。

 日に日に募る一方のこの気持ちを、気の迷いだと自分自身に言い聞かせて。

 

「嘘よっ! あいつが病気になんてなる訳無いわ!!」

 

 私の内なる葛藤も知らずに、隣で声を張り上げるサターニャ。

 

「だって『馬鹿は風邪引かない』のよっ!?」

 

「いえ、それは人間界に伝わる迷信ですから……あっでも、サターニャさんは風邪引いたこと無さそうですし一概に迷信とも言い切れませんかね?」

 

「いや、そこで私に振られても……」

 

「ちょっとそれどういう意味!? 私が風邪引いたこと無いのは、最強無敵の大悪魔こと胡桃沢=サタニキア=マクドウェル様の迸る悪魔的気配(デビルズオーラ)がウィルスを駆逐してるだけなんだからっ!」

 

「風邪引かないのは事実なんかい!?」

 

 ガヴが居なくても私達は概ね平常運転。ラフィが弄ってサターニャがボケて私が突っ込む。……いや、好きでツッコミやってる訳じゃ無いんだけどね? とにかく大丈夫。私達は、……私は、ちゃんと『いつも通り』だ。

 

 

 

「それでですね、実はガヴちゃんがヴィーネさんにお見舞いに来て欲しい、と……」

 

「えっ、私!? てか名指し!?」

 

「はい、ご指名ですよ~」

 

 いつも通りの笑顔でにっこり微笑むラフィだが、私の『いつも通り』は少しだけ揺らぐ。だってあのガヴが、自分の怠惰の為なら人を人とも思わぬあのガヴリールが、いつも私が衣食住の面倒を見てやっても礼の一つも寄越さない、あの天真=ガヴリール=ホワイトが。病気で追い詰められて弱音を吐いた時、真っ先に頼ったのが他ならぬこの私だと言うのだ。嬉しく思わない訳も無い。

 

「そ、そうね! じゃあ放課後、皆でお見舞いに行きましょうか!」

 

 赤みの差した顔を誤魔化すように、少しわざとらしいくらい声を張ってみる。が、しかし。

 

 

「あ、いえ。お見舞いはヴィーネさんだけで行ってください」

 

 ラフィから返ってきたのは予想外の一言だった。

 

「え? ど、どうして……」

 

「ちょっとラフィエルどういう事!? なんでヴィネットだけなのよ! 私もガヴリールの家に遊……お見舞いに行きたい! 昨日、魔界通販で『病気で寝込んだ人を元気付ける用ブブゼラ』っていうのを衝動買いしちゃったから丁度試してみたくて―――」

 

「こういう訳ですので。私は何とかサターニャさんを阻止しますから、どうかガヴちゃんを宜しくお願いしますね、ヴィーネさん」

 

「あ、うん」

 

 いや、サターニャの所為で納得せざるを得なかったけども。

 ガヴの家で、弱ったガヴと二人きり……過ちを犯してしまわないか、それだけが心配だった。

 

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ガヴー? ……お邪魔するわよー?」

 

 放課後、ガヴの住むアパートの一室を一人で訪れる。

 インターホンを押しても返事が無かったので、例によって例の如く合鍵を使って扉を開ける。そして部屋の中は『いつも通り』に散らかって―――?

 

「……なに、これ」

 

 違った。異界だった。綺麗に片付いてる。こんなのガヴの部屋じゃない。

 部屋を間違えたかと思い咄嗟に扉を閉めて部屋番号を確認するも、やっぱりここがガヴの部屋。これが指し示す事実は一つ、『ガヴの部屋が片付けられている』。

 

(……いやいやいや! ありえないでしょ!? あのぐーたらな駄天使のガヴリールが自分から部屋を掃除するなんて、普通じゃ考えられないわ! ……はっ、まさか病気の所為!? 病気で頭がやられてトチ狂って部屋の片付けを……)

 

 いよいよ思考も混乱の極み。それもこれも全部ガヴが悪い、と心の中で責任を押し付けてから深呼吸。いけない、冷静にならなければ。只でさえ『いつも通り』でない事が立て続けに起きているのだ。これで浮ついた精神状態のままガヴと言葉を交わせば、きっと私まで『いつも通り』じゃなくなってボロが出てしまう。そうしたら私は―――

 

「……ヴィーネ、何してんの? 早く入ってきなよ」

 

「ひゃうっ!? い、言われなくても今から上がる所よ!」

 

 突然部屋の中から聞こえてきたガヴの声にびっくり。インターホンを鳴らしても反応しなかった癖に、人が頑張って落ち着こうとしてる時には私の心をかき乱してくる。もうわざとやってるとしか思えない。

 

 

 

 文句の一つも言ってやろうと、靴を脱いで部屋に上がると一直線に声の下へ。

 電気も点いていない部屋の中、どうやらガヴはベッドで布団に包まっているらしい。

 

「ちょっとガヴ! あんた、……?」

 

 勢い込んで話しかけた所で異状に気付く。先ずは鼻、そして耳。私の嗅覚は何かの匂いを捉え、私の聴覚は何かの音を捉える。

 それはツンとした刺激の混じる匂い。普段嗅ぎなれたガヴの部屋の、ガヴの匂いでは無い。……いえ、そう言うと語弊があるわね。嗅ぎ慣れない匂いではあるけど、それはガヴの匂いを何倍にも何十倍にも濃くしたような、それでいてとても甘ったるい、芳しいほど濃密な香り。

 それは水音。湧き水が懇々と染み出てくるようなイメージの、だけど明らかに粘っこさを含んだくちゅ、くちゅという音。リズミカルに聞こえてくるそれは、とろみのある液体を何かでかき混ぜているようにも聞こえる。その合間には、くぐもったような、しかし僅かに喜色を孕んだガヴの声と吐息も漏れている。

 音が鳴る度に匂いも強まり、匂う程に音も激しくなる。その発生源は、どちらもベッドの上……布団の中のガヴリールだ。

 

「……ガヴ?」

 

 ……返事は無い。ただ恍惚とした喘ぎ声だけが返ってくる。

 何故だか熱に浮かされたように惚けてしまう。呼気が荒くなる。頭がジンジンと熱を帯びる。

 一歩ずつベッドに近付き、頭まで布団に包まったガヴを見下ろす。この布団を剥いでは駄目だ。きっと何もかもが壊されてしまう……そんな根拠も無い予感を感じながらも、胸の内で暴れまわる衝動を抑えきれずに布団に手をかける。そして一気に―――!

 

 

「ガヴ! あんた一体何―――!?」

 

 

 一気に布団を剥いだ瞬間、中に篭っていた匂いと音がぶわっと部屋中に拡散し、充満する。

 そして目に入ってきた光景……それは心のどこかで予想していた、でもそんな筈は無いと必死になって否定し続けた光景。

 即ち。

 

 

「んっ、あっ、ヴィー、ネぇ……はぅ」

 

 全裸で自らを慰めるガヴリールの姿。

 

 

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 

 

 息を呑む。言葉を失う。絶句する。二の句も継げない。声も出ない。

 なのに目は釘付けになって離せない。親友の痴態を、これでもかと言うくらい見せ付けられる。

 

 

 

 

 

 どれだけ経ったか。数秒か、数分か。或いは数十分か。私など無視するかのように行為を続けるガヴに、とにかく何かを言わなければと思うが、何を言っていいのか分からない。

 

「な、……え? 嘘、ガヴ、なん、で……?」

 

「なんで、って……んンッ、ヴィーネ、を、待ってたから。朝からずっとっ、ずぅっと、ずぅぅーーーーーー…………っと、こうしてたんだぞッ? ……ぁん!」

 

 漸く搾り出した言葉も全く意味を成さない。それに答えるガヴの声も顔も、今まで見たことが無いくらい艶やかで、色っぽくて。私の中で、ずっと封印してきた欲望が、ぞぶりと疼き出す。それを無理矢理抑え込んで、発散させるように叫ぶ。

 

「何、やってるのよガヴ!? なんでこんなっ、私に見せ付けるみたいにっ!! そもそもあんた病気で寝込んでた筈じゃ―――」

「ああ、病気だぞ。『恋の病』って奴だ」

 

 

 

 恋。……恋? ガヴが、恋?

 

 

 

「今だっ!」

 

「えっ、ちょっ、ガヴッ!?」

 

 一瞬だけ呆然となった隙を突かれ、突如ガヴに手を掴まれる。抵抗する間も無く腕を引かれ、あっという間にベッドの上に……ガヴの体に重なるように引き倒される。

 密着するほどの距離。ガヴの息遣いが直接伝わる程の近さで見つめ合う。淫らに火照ったガヴの体温が熱気となって伝わってくる。さっきよりも濃く深い、ガヴの生の匂いが鼻腔をくすぐる。私の体のすぐ真下には、産まれたままの姿のガヴの肉体が無防備に曝け出されている……!

 

 

 

 心の防波堤に、罅が入っていくのを感じる。

 

 

 

「ガ、ヴ……どうして、こんな事……」

 

「ヴィーネ、好きだ。愛してる」

 

 ……はい? 今何と?

 

 

 

「だから、大好きなんだヴィーネ。今まで黙ってたけどな。実は初めて会った時から惹かれてた。今思えば一目惚れってヤツだったんだな。それからずーっと想い続けてた。優等生だった頃の昔の私も、駄天して今の私になった後も、同じくお前に焦がれてた……いや、同じじゃないな。むしろ私の想いは日に日に強く深く重くなり続けたんだ。でも私は必死でそれを抑え込んだ。抑えて抑えて我慢して、壊れそうなくらい恋しくて堪らなくって、それでも心のブレーキが擦り切れるまでずっと耐え続けて、だけど今朝、遂にとうとうやっと堪えきれなくなって。だから今日、漸くお前に告白するよ」

 

 一息に言い切り、一旦言葉を切るガヴ。まだ理解が追いつかない私を意図的に無視して、目の前の親友は最後の、決定的な一言を口にする。

 

「私はお前を、月乃瀬=ヴィネット=エイプリルを、一人の女として、心の底から愛してるんだ。お前が私の事を愛してくれているのと同じくらいに、な」

 

 

 驚愕は当然。困惑も勿論ある。けどそれ以上に、私の心は嬉しさと幸福で満たされる。満たされてしまう。動悸が激しくなり、顔は火が出そうなくらい真っ赤。思考は未だかつて無い勢いで空転を続け、鼻先がくっつきそうな程近くにあるガヴリールの顔以外の全てが視界から抜け落ちる。

 

 ―――駄目だ、認めちゃいけない(認めざるを得ない)

 ―――私もこの子に惹かれてるなんて、そんな事無い(うそつき)

 ―――天使と悪魔だし、女の子同士だ(そんなの関係無い)

 ―――私はガヴの、親友なの(それ以上になりたい)

 ―――ここから先は、もう戻れない(戻る必要なんてあるの?)

 ―――だめだ、そんなの、みとめては……(どうして? それを望んでいるのに)

 

 ―――嗚呼、私は、ガヴの事が……(大好き)

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「私……私、は………私、……も…………」

 

「ゆっくりでいいよヴィーネ、お前の気持ちは分かってる」

 

 言われて初めて、自分が目を逸らし続けてきた自身の気持ちを―――ずっと押し込めてきた本心を曝け出そうとしていた事に気付く。

 

「ちっ、違うの! これは私の、でも……!」

 

 咄嗟に否定の言葉を吐くしかなかった。だって肯定してしまえば、取り返しが付かない事になるという確信があったから。でもきっと時間の問題だ。私は本心では、取り返しが付かなくなる事をこそ望んでいる。そしてもう、私の中のブレーキは壊れてしまった。口では否定していても、心は既に受け入れている―――ガヴの告白と、自分自身の本当の気持ちを。

 

 後はもう、私が勇気を持つだけだ。闇を湛えた底の見えない穴に向かって飛び込むような勇気。今はまだ足が竦んでしまっているが、あとほんの一歩。一歩だけでも踏み出す事ができれば。……きっと、そこには。

 

 そんな私の葛藤や逡巡を知ってか知らずか、見透かしてか。優しげな目でガヴは口を開く。

 

「大丈夫だ、ヴィーネ。もうすぐ楽になれる」

 

「ガヴ……?」

 

「お前の心に広がる()には、私にも覚えがあるからな」

 

 そう言って私を見つめるガヴの瞳は、その金髪によく似合った碧眼のハズなのに。何故か今この瞬間だけは、さっき想像した底無しの闇のように、どこまでも深く(くら)く感じた。

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「私もな、その穴の前でずっと立ち止まってた。その中に飛び込みたい筈なのに、ずっとその場で足踏みしてた」

 

(そう……なんだ。ガヴも、なんだ。この子も私と一緒で、最後の一線を越える勇気が……)

 

 

 

「もっとも、お前と理由は違うけどな」

 

(……へ? 違うの?)

 

「私の場合は、その穴に落ちるのに躊躇いも抵抗も無かったぞ。そもそも下界に来てから駄天使に堕ちた私にとって、『堕ちる』なんてのは今更な話だしな!」

 

(威張って言うような事じゃないと思うけど……)

 

「だからまあ、私の場合は『立ち竦んでた』って言うより『我慢してた』って言う方が正しい。『我慢しきれなく』なる、今日この日を楽しみに待ち望みながらな」

 

(? それって、我慢する意味無くない? 最終的にはこうなる事を待ち望んでたなら、最初から我慢なんてしなければいいじゃない。何だからって自分の心を締め付けるような真似をするのよ)

 

「私が腐っても天使だから、ギリギリまで堕ちるのは拒み続けた……って思うか?」

 

(まさか。自堕落で欲望に忠実なあんたが、そんな殊勝な心掛けなんてする訳無いじゃない)

 

「ま、違うんだけどな。私は自分の欲望に素直に従っただけだよ」

 

(従った? 『堕ちたい』と思ってるのに、それを我慢するのがあんたの『欲望』だったの?)

 

「そう、『欲望』だ。堕ちるんならとことん堕ちて、もう二度と這い上がってこれないような深い闇の中に堕ちたかった。知ってるか? 我慢すればするほど、お前の目の前に見えるその『闇』は深く濃くなるんだぞ? 我慢して我慢して、底が抜けるまでその闇を増長させて。闇が零れ出して足元すら覚束なくなったら、一気に飛び込むんだ。自分の心の一番濃くて深いところに、底無しの底を突き抜けて永遠に堕ち続けるんだ……きっと、すごく気持ち良いんだろうなぁ! すごく満たされて、幸せなんだろうなぁ……!」

 

(……気持ち、良かったの? 実際に堕ちてみて、今、幸せなの……?)

 

 

 

「実際の所どうなのか、って聞かれたら……さぁ? 私はまだ、()()()()()()()()()からな。ただ一つだけ言えるのは、私達の想像するより万倍も『スゴイ』だろうって事だけだ」

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「堕ちきって……いない?」

 

 口から言葉が零れる。俄かには信じられない。だって目の前で淫欲に溺れる全裸の痴女は、だらしない顔で快楽に耽っている。これが堕ちていないって言うなら何だというのよ。

 

「だって私、まだイって無いし」

 

「ちょ、え? は!?」

 

 突然の宣言に面食らって、元から真っ赤だった顔色は更に茹でダコ状態に。

 って言うかいきなり何言い出すのこの子!?

 

 

「これまでも『こういう事(オナニー)』は経験あるんだけどな。全部寸止めで止めてきたよ。初めて達するのは堕ちる時、って決めてたから。……あ、勿論オカズはいつもヴィーネだったから安心してくれ」

 

 にひひ、と可愛らしく微笑みながら説明するガヴ。けどそれはウィンクしながら言う事じゃないと思う。つか本人に向かってオカズにしました発言はどうなのよ。何をどう安心しろっての!? ……いや事実として私の心は喜んでるっていうか凄く嬉しいけど! 何これ恥ずかしい!

 

 

「今日も朝からずっとシてるけど、イかないように加減してたんだ。お前が来る前に堕ちちゃったら本末転倒だからな、心と体を昂めてただけだよ」

 

「わっ、私の目の前でその、い、イっ……さ、最後を、迎えたい、の?」

 

 すごくドキドキしながら、問いかければ。

 

 

 

「いや、お前の手でイかされるんだ。最終的に私をあの精神(こころ)の奥底にある奈落に突き落とすのはヴィーネ、お前の仕事だよ」

 

「……はい?」

 

 なんかとんでもないこと仰ってる!?

 

 

「私は最初から、自分で堕ちようなんて欠片も思ってない。堕ちる時は最愛の悪魔(ヒト)の手で堕とされたかった。そう決めてた。……ヴィーネの手で、ヴィーネ自身の意思で、私を二度と戻れない暗闇の底まで突き堕として欲しいんだ」

 

「そん、な事……!」

 

 今の私にとって、余りに魅力的な提言。悪魔の私が、自らの意志で手を下し、天使であるガヴを我が物にする。それは悪魔として、とかは関係無く。ガヴリールを愛する只のヴィネットとして、抗いきれないほど甘美な誘惑。

 

「けどヴィーネは真面目過ぎるからな。『いつも通り』のお前には絶対断られるって分かってた。だからこんな不意打ちみたいな真似までして、理性の鎖からお前の本心を解き放って、ただお互いの欲望に正直になれるような、全てを曝け出せる『場』を準備したんだ。―――ヴィーネが本能のままに私の事を堕としたくなるほど、『いつも通り』から堕ちてきてくれるように」

 

 硬直する私の手をとり、そっと自分の秘所へと導くガヴ。私はただ為されるがまま。

 

「ん、……入れる場所は分かるか? そう、そこだ。そこが私の、まだ何も知らない無垢で純白な場所。つまり未来永劫ヴィーネ専用の聖域だ。後はお前の指をその『穴』に少し押し込むだけで、それだけで私は堕ちる。お前に堕とされる。……そしてその瞬間が、お前が堕ちる時だ。ヴィーネが、私に堕とされる瞬間なんだ」

 

 知らず生唾を飲み込む。さっきまで空回りしていた筈の思考も、頭どころか体中を蝕んでいた熱も、一つの指向性を持って私を駆り立てる。即ち、―――ガヴを、(おと)したい。後先なんて考えず、ただ内から生じる衝動のままに、光の届かぬ深奥へと堕としたい。ガヴの望むがままに、二度と戻ってはこれない、戻る必要すら無い深淵へと堕とされたい……!

 

 ―――彼女(ガヴ)と一緒に、ずっとずっと、二人っきりの闇黒に包まれていたいっ……!!

 

 

 

「もう、決心は付いただろ? ヴィーネ」

 

「……ええ、ありがとう」

 

 気付けば、私の心は不気味なほど落ち着いていた。荒れ狂う熱はそのままに、表面上は細波一つ立たない平静な精神状態。或いはそれは、この後に待つ愛欲の狂宴という名の嵐の前の静けさか。

 ……そうよ、何を迷う事があったのよ。私の心は既に決まっていた。覚悟もできた。不安なんて無い。ただ期待だけが胸の内に広がる。もう止められない。その必要も無い。後はただ、思い描いた黒い妄想を実行に移すだけ。

 

 

 目の前に広がる、目も眩むような果てしない闇。一度嵌まれば堕ちるだけの、逃れる術など無い無限の暗闇に。もはや臆する事も無く、私はただ、ガヴと見つめ合い。飲まれそうなほど純粋な、私だけを覗き込むその綺麗な瞳を、同じように覗き込みながら。清々しいほど明るい笑顔で微笑み合って。互いに互いの手を取り合って。固く重ねたその手はそのままに。

 

 

「愛してるわ、ガヴリール。堕として堕とされたい程に大好きよ」

「愛してるぞ、ヴィネット。堕とされて堕としたい程に大好きだ」

 

 

 私達は、遂に、その『穴』の中へと―――

 

 

 

 

 

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 翌朝。ヴィーネに後ろから抱きつかれながら、私はネトゲのイベクエを消化中だった。

 ……ああ、服は面倒なので着ていない。ヴィーネも一糸纏わぬ姿だ。

 

「ガヴ、そろそろ終わりにしなさいよー。そろそろ学校行かなきゃ間に合わなくなっちゃう」

 

「いいよ、今日は休みって事で」

 

「もう、またそんな事言って。学業も大事にしないと卒業させて貰えないわよ?」

 

 相変わらず手厳しい。昨日、というか先刻日が昇る頃まで、いつものヴィーネじゃ考えられないくらい乱れてたってのに、朝食(当然のようにヴィーネが作ってくれた)食べてちょっと休憩したらもう普段の自分を取り戻してる。暫くはゆっくりネトゲに専念できると思ったのに。

 

 とはいえ、完全に『いつも通り』のヴィーネに戻りきった訳でもない。今私を抱きしめている事からも分かるように、今までより距離感も近くなったし、シャワーを浴びてまだ少し湿り気の残る私の髪を左手でわしゃわしゃ掻き梳かしながら、鼻を後頭部に埋めてその匂いを堪能している。更に反対の手は私の股間に伸び、一番敏感な突起を撫で擦っているし、背中にはヴィーネ自身の存外大きな二つの果実が、その『ヘタ』の部分を重点的に刺激する形で押し付けられている。

 要は昨日までのヴィーネでは考えられないほど欲望に忠実になっている。まあ私と二人の時限定だろうし、一歩でも部屋の外に出れば『いつも通り』のヴィーネに戻るのだろうが、それはそれでちょっと嬉しい。『私だけが知ってるヴィーネの一面』って感じで、独占欲が満たされる気分だ。

 

 その時、私のスマホが震えた。

 

「ん、メール……ラフィからか。なになに、『昨日はお楽しみでしたか? 寝不足かもしれませんが、授業にはちゃんと出てくださいね。私とサターニャさんも今ホテルを出たところですが、距離的にちょっと間に合わないかも知れませんので、先生には上手く誤魔化しておいてくれると助かります』……だとさ」

 

「……そういえば昨日、ラフィから一人でガヴに会いに行くよう仕向けられたけど……もしかして、ラフィはあんたが私と一緒に堕ちようとしてるって事、知ってたの?」

 

「ん、まあな。ラフィには前々から根回ししておいたし、昨日も電話でヴィーネを一人で来させるように伝えたから、私に都合の良いように立ち回ってくれた筈だ」

 

「じゃあ、サターニャも? 今思えば妙に都合良く立ち振る舞ってた気がするけど」

 

「いや、サターニャは知らん。ただあいつはあいつで意外と鋭いし、何よりラフィの事は誰よりもよく見てるからな。恋人(ラフィ)の様子から何かを悟っててもおかしくはないんじゃないか?」

 

「へー……って言うかやっぱりあの二人、付き合ってたのね。薄々そんな気はしてたけど」

 

 納得するようにこくこくと頷くヴィーネ。ちなみに後で聞いた話によると、サターニャも私がヴィーネに告白しようとしてる事には感付いていたらしい。それでヴィーネを一人で送り出すために、ラフィと一芝居打ったんだとか。

 事前の打ち合わせも無く、その場のアイコンタクトだけで互いにアドリブで自然な演技ができるのは流石だと思うし、芝居とか演技とか関係なく魔界通販で怪しいブブゼラを買ったのは事実だと言うサターニャのアホさもある意味流石だと思う。

 

「ま、確かにそろそろ学校行かなきゃ遅刻だしな。面倒だが仕方ないか」

 

「ちょっとガヴ、服着るの忘れてる!」

 

 玄関へ向かおうとした私をヴィーネが引き止め、下着と制服を渡された。そういえば着てなかったな。というかヴィーネはいつの間に制服姿になったんだ、どんだけ早着替えなんだ。

 

 

 

 

 

 

「忘れ物は無いわね? それじゃ行きましょうか」

 

「ああ、ヴィーネも外ではちゃんと『いつも通り』に戻れよ」

 

「そりゃ外面取り繕うのは事実だけど……さっきまでの私が『いつも通り』じゃ無かったみたいな言い方は心外ね」

 

 私の言葉に反応して、玄関先でヴィーネが振り返る。

 

「昨日までの私も昨晩の私も、そしてこれからの私も。『いつも通り』である事は違いないわよ。ただちょっとだけ、『いつも通り』の中身が変わっただけ。これからの私にとっては、ガヴの恋人として隣に寄り添う事が『いつも通り』になったってだけの話なんだから」

 

「……お、おう……改めて言われると、何か照れ臭いなっ……!? ん……」

 

 満面の笑顔でそんな事を宣うヴィーネに赤面していたら、唐突に唇を奪われた。最初の一瞬だけびっくりして硬直してしまったが、すぐに気を取り直し私もそれに応える。二人の舌が絡み合い、唾液を交換し合い、そして数秒後、離された二人の唇の間には透明なアーチが掛かっていた。

 

 

「これからも宜しくね、ガヴリール」

 

 朝日をバッグに、ヴィーネが幸せそうな笑顔で手を差し出す。

 

「ああ、これからも宜しくな、ヴィネット」

 

 差し出された手を恋人繋ぎで握りながら、私も微笑んで答える。

 

 

 そうして私達は、手を取り合って新しい日常へと足を踏み出していくのだった。




ガヴィーネって共依存百合が似合うよね。
傍目から見るとヴィーネの方が重症だけど実はガヴの方が病んでいて……ってパターンも大好き。
ガヴィーネは本当にドロドロのずぶずぶな二人きりの世界に陥り易い、あまあまな純愛だと思う。
同志諸君ももっと需要に応えて供給増やして、ほら(神の見えざる手)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。