織斑一夏(有里湊) (たぬたぬたぬき)
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1話

 

群れる、目、目、目。

 

全く人前に立たない理由でもないし、姉に似て優れた容姿を授かっている自負はあるものの流石にここまで好奇の目に晒される経験はなかなかない。新しい学校生活だからと柄にもなく真面目に、遅刻をしない以上に余裕を持って登校したせいなのだろうか。

 

あまり人の目を気にしてもしょうがないと意識を切り替えてさてどう時間を過ごそうかと思案する。

 

まだ宿題を貰ってもいないのだからそれを進めておくことも出来ない、春休みの宿題とも言うべき分厚い資料も大方把握してある。何点か分からない部分もあったが、後程聞きでもすれば十分だろう。

 

或いは女子ばかりの学生生活に少しでも溶け込むために周囲とのコミュニケーションに励むのもありだろうか。

 

…………コミュニケーションは自身の特技とも言えるが、あれはあまり大人数との物を想定していない。最低でもクラス中、下手をすると廊下に潜んでいるであろう人数まで行わなければならない可能性を考えると止めておいた方が無難か。

 

あまり褒められたものではないけれど、音楽を聞いて時間をやり過ごそうか。周囲からの、一々自分の動作に対する視線や僅かな囁き声を背に耳に馴染んだイヤホンを着ける。代わりに響き始めたお気に入りの音楽に、無意識に身体を椅子に預け無駄に入っていた力を抜いて行く。

 

たかが大人数の視線に晒されただけだというのに……。自分の勇気もすっかり衰えてしまったと言うことだろうか。世界唯一のIS<インフィニット・ストラトス>男性パイロットとしては良くない体たらくだ。これを機に改めて自分を見つめ直す必要があるかもしれない。

 

決意を新たにしたものの。春休み明けという根本が緩んでしまったことと完全にコントロールされ心地の良い空調、お気に入りの音楽に包まれるという環境にふと眠気が襲って来た。

 

…。

 

……。

 

………。

 

良くないこととは分かっていつつ眠気に身を委ねてしまった。

 

 

 

 

………?

 

なんだろうか、身体を揺らす小さな力に目を覚ます。

 

……そう言えば、自分は今学校にいて。暇を持て余してついつい寝てしまっていたのだった。時間を見るにホームルームは始まっている時間であるし、目の前の女性が涙を浮かべて必死にこちらへ話し掛けている。

 

イヤホンを外すとようやく女性の声が耳に届いた。

 

 

「や、やっと目を覚ましてくれた…。あのぉ、織斑君。先生、流石にホームルーム中に音楽を聞いて寝ちゃうのは良くないかなぁって思うんだけど……ど、どうかな?」

 

 

言葉尻が聞き取るのが困難な大きさではあるが全く以て言われる通りだ。全面的に自分が悪い。だがどうしてこうまで腰が低いのだろうか。

 

容姿から察するに新人教師なのだろうか。IS学園の教員の採用に関して、一般的な学校と一緒なのかは分からないが初めてという瞬間があるのはどうあっても避けられないものだろう。

 

そんな人に対して、ホームルームから居眠りと音楽鑑賞で無視をしてしまっていたとは……どう考えても自分が悪いだろう。

 

イヤホンをプレイヤーごと渡し頭を下げて謝罪する。放課後辺りに返して貰えるだろうか。

 

 

「ほっ……。えっと、じゃあ放課後まで預かっておきますね。後次は織斑君の自己紹介の番なので……お願いしてもいいですか?」

 

 

やはり腰が低い。

 

幼い顔つきに自信の無い言動、自分が高校生までの人生を2回送っていてある程度は精神年齢を重ねたせいかまるで年下の妹を見ているような微笑ましい気分になってしまう。

 

浮ついた気分のまま、恐らく普段よりも愛想良い表情のまま自己紹介を始める。内容は名前と出身校、後は趣味などでいいだろう。

 

 

「初めまして。僕の名前は、あり………織斑一夏です。出身校は―――」






ちょいちょいP3ネタとか絡ませていきたい。

例えば…なんだろう。


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2話

 

無事に自己紹介を終えた。

 

期待をされていたものを超えることは出来ずに多少残念がらせてしまったようだが別にいいだろう。短い人生で色々な人と出会い絆を深めて来たものの生憎と小洒落た話術で笑いを取るような真似をしたことは……なかった筈。

 

それよりも驚いたのは。

 

 

「――驚いた、千冬姉さんが先生をやってたなんっ…!」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 

痛い。

 

相変わらずの腕っ節の強さだ、懐かしいジゴクテンやハヌマーンの力強さを彷彿とさせる。流石にジークフリートやカーリーに例えるのは千冬姉さんにも失礼だろう。普通の人間なのだから超常の現象であるペルソナには及ぶとは思えない。

 

 

「何にせよ安心した、かな。先生は何故か自分の仕事についてとか僕にひた隠しにしてたし……偶にボロが出てたけど」

 

「何?……そんなことはないだろう」

 

「ある時期から教育関係のニュースを見る目が変わったりしてたし」

 

「む」

 

「他にも酔った時に愚痴を零してたよ」

 

「お前は私の……いや、いい。ニュースを見る目とは…全くなんなんだそのマメさは。普段は口癖がどうでもいいの癖して…」

 

 

そこまで言ってある種の罰の悪さから目を逸らした千冬姉さんは気分が家の時に近付いていたことに気付き咳払いをして僕達二人に集まった視線に付随するひそひそ話を断ち切った。

 

世界の最先端技術である『インフィニット・ストラトス』の第1回世界大会において格闘と総合部門の優勝者であるブリュンヒルデの意外な一面に女生徒達は舌が収まりきらないようだ。

 

………どうにも内容が自分の知っている単な噂好きの話好きでなく、どうにも怪しい部分があるのが気にならなくもないが、どうでもいいか。インフィニット・ストラトスの特性からこの界隈は男子禁制である風潮がある。ということは即ち千冬姉さんみたいな綺麗で格好の良い女性が…そういう対象に見られるということだろうから。

 

弟としては姉に妻が出来るのは可能な限り避けて欲しいものの、あれで男性に対して憧れなども持っているのは確認している。なので余程のことがなければ男を捕まえることだろう。

 

大分話が逸れたものの新入生に対する教師としての話は千冬姉さんへの熱を込めた歓声を交えつつつつがなく進行して行った。

 

 

 

 

「久し振りだね」

 

「あ、あぁ……」

 

 

休憩時間にまたしても多数の目に晒されている中久し振りに再会した幼馴染の箒に屋上に誘われた。

 

自分は勿論、箒も昔と変わらずあまり口数が多い方ではない。非常に盛り上がり花が咲くとまではいかなくてもぽつぽつと会話を繋げていく。

 

 

「ありがとう、助かった」

 

「気にするな、私が少し話をしたかっただけなんだ………やはりお前でもあの状況は辛いのか」

 

「ほら、僕は軟弱者だからね」

 

「全く…どう見てもそんな風には見えなかったぞ?」

 

「そう?」

 

 

漸く緊張がほぐれたみたいだ。

 

硬さがなくなった表情からは笑顔が覗いてついつい見詰めてしまう。六年前とは違う女性的な魅力が感じられる。あの頃でも群を抜いて容姿が整っていたが今では更に磨きがかかった。

 

 

「あ、あまり見詰めるんじゃない……」

 

「ごめん」

 

「別に謝る必要は……」

 

「じゃあ見てていいよね」

 

「あ、う………そ、そうなるの……か?」

 

 

主に赤くなったまま百面相をする箒を見詰める。途中鳴ってしまった予鈴と授業開始の合図も、折角の再会をしたのだからと箒の手を握り押し留めることで強引に無視し次の授業に合わせて教室に戻った。





あんまり進まないな……。

あと有里湊くんよく喋るな…。


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3話

 

箒と二人仲良く教室に戻った。

 

待っていたのは山田先生と千冬姉さんだった。

 

教師としてのお叱りを受けたのだが、千冬姉さんの説教には慣れているし山田先生にはそもそも迫力が伴っておらず考えていたよりも気力を消耗せずに済んだ。

 

とはいえ授業をサボってしまったのは良くない、今後は出来る限りきちんと出席した方がいいだろう。

 

 

「――以上だ、織斑・篠ノ之は後で反省文を提出するように」

 

「放課後にきちんと出して下さいね? 今度は絶対ですからねっ」

 

 

貴重な自由時間が削られることになった。

 

とはいえ箒との再会も楽しいものに出来たし反省文程度なら安いものだろう。若干気難しい性格をしている箒との久し振りのコミュニケーション、何かが違っていたら気まずい関係から学校生活を始めるはめになっていたかもしれない。

 

だがもう心配する必要は無いだろう。

 

横目で箒の姿を捉えて確信する。目が合うと、恨めしい視線を投げて寄越すも此方が構わず片目を瞑って見せたら呆れた後に表情を緩くして崩し微笑んでいたのだから。

 

 

「説教中に目と目で通じ合うとはいい度胸だ!」

 

 

頭部でなく首が心配になるお仕置きが飛んできた。

 

 

………。

 

……。

 

…。

 

 

 

「はい、確かに反省文を受け取りました」

 

 

放課後、千冬姉さんに強制的に追い散らされ人気の減った教室で箒と二人にで反省文を書いて提出する。流石に教師の、或いはブリュンヒルデの言葉には女子生徒と言えども逆らえないらしい。

 

折角の機会だ、このまま山田先生にISについて分からない部分を聞いてもいいし、少し早いが寮に向かって施設の確認をするのもいいかもしれない。

 

 

「本当にサボりは駄目ですよっ。それも初日からなんて…久し振りに恋人と再会したからって、もう……本当に駄目ですっ」

 

「こ、こい…ち、ちち違います!私と一夏は単なる幼馴染で――」

 

「恋人なんですよね? 」

 

「違います!」

 

「で、でもでも、あんなに目と目で通じあってたのに…」

 

「いえ、一夏の場合昔から割と色々な人と……」

 

「えええ………」

 

 

山田先生の目が此方に向かう。

 

流石に会って間もない人と目でコミュニケーションを取るのは難しい。とはいえ先生はそもそも表情に出やすい性格の様なので一方的になら感情を読み取りやすいといえる。困惑から戸惑い、羞恥。

 

………読めない人はいないのではと思う程に分かりやすい人らしい。

 

後千冬姉さんへと向ける少し危ない目を自分に向けられても困るのだが。こちらは歴とした男であるし、そういう意味合いで女丈夫である姉と重ねられるのは魅力があるとも取れて嬉しさもあるのだが、正直な所複雑な気持ちで一杯になってしまう。

 

 

「はぁぅぅぅ…そっくりで凄い格好いい。けどけど何処かクールな所も少し違ってて織斑君の方がミステリアスでちょっと怖いというかちょっと危険な感じ?織斑先生は格好良くて素敵だけど硬派っていうか…だとしたら織斑君と結婚したらダブルクールでえへえへへへへ。どどどどんな旦那さんになんだろ織斑先生みたいにSっ気があるのかなそれとも甘やかし上手で仕事から帰ったらご飯食べさせてくれて愚痴も聞いてくれてその後はもうドロドロに…」

 

 

ISについての質問はまた明日でもいいだろう。

 

箒は遅くなってしまったものの部活に少しだけでも顔を出すというので途中で別れ、自室についての詳細を聞くために取り敢えず千冬姉さんいるだろう職員室へと向かった。





ごめんね山田先生。

ごめんねセッシー。



感想評価ありがとうございます。

やっぱり見てもらってるって実感があると嬉しいですね。


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4話

箒と別れて職員室の千冬姉さんの元に向かう。

 

パリッとしたスーツに身を包み割り当てられた机に向かって仕事を行う姉の姿を見るのは何となくだが感慨深い気分になる。生活費などはちゃんと入れられていたから細かい職種について聞いてこなかったのだが、立派に社会人をしているのだと安心する気持ちもある。

 

 

「――その目は何だ、織斑」

 

「姉の働いている姿をちゃんと見ておこうかと」

 

「何だそれは……此方に来い」

 

 

後を付いて行くと少し離れた個室に着いた。中にはお茶等もあり来客時の部屋にしては狭いし内装が適当だ、進路指導室か何かだろう。

 

折角だからとお茶を入れる用意を始めて、合間に常備されているであろうお茶菓子でも探しておく。IS学園は一般的な私立や国立よりも高水準の設備を備えている、お茶菓子も良い物を揃えていることだろう。

 

 

「ふぅ……そうだ、返しておくぞ」

 

「うん、机に置いておいて」

 

 

ネクタイを緩めたのか布地が擦れ合う音がして、続けてイヤホンと机が軽くぶつかる音が聞こえる。濃い目にしたお茶を急須から湯呑みに注いでいく。二人分の湯呑みと小山になったお茶菓子をお盆に載せて運ぶ。千冬姉さんはため息を吐いたものの二人きりの今は教師業を休業しているようでお小言はない。

 

 

「ちゃんと仕事をしているようで安心した」

 

「お前は私を何だと思っているんだ」

 

「だって、あんまり詳しいことは教えてくれなかったし」

 

「………」

 

「弟なんだから心配もするよ」

 

「……すまん」

 

「ううん、僕も意地悪言ってごめん」

 

 

千冬姉さんは色々と僕に知って欲しくないことがあるようだ。僕の本当に幼い頃のこと然り、ISのこと然り。だから自分の職場についても僕に話したくなかったのだろう。

 

どんな事情があるのかは分からないが深くは聞かないということにしている。育てて貰っているという恩もあるし、姉が伝えない方が良い・伝えたくないという気持ちを尊重したい。千冬姉さんが僕のことを愛して大切に思っていることは十二分に分かっているというのもある、何も意地悪で教えないということはない。

 

 

「それにしても」

 

「ん?」

 

「お前は変わらないな」

 

「………?」

 

「世界で唯一男としてISを動かせるパイロット、付随して女だらけの学園に入学」

 

「ああ…」

 

「思春期の男子なら舞い上がったり困惑したりするものではないのか」

 

 

言われるように内心では舞い上がっていると思うのだが。

 

自分はあまり内心が表に出る方ではない所謂鉄仮面の気があるのだから仕方ない。だがちゃんと女の子ばかりの環境に戸惑いを覚えている反面、異性だらけのある意味選び放題が出来なくもない学園生活に何処か楽しみを感じているのも確かだ。家族なので大丈夫だろうと千冬姉さんに思ったことをそのまま伝える。

 

 

「またはっきりと言い切ったな……私以外には絶対言うなよ」

 

「独占欲?」

 

「何を………はぁ、そういう奴だったなお前は、何処で覚えてきたのやら…」

 

「さぁ?」

 

 

少しの間、千冬姉さんと楽しく会話をして過ごした。

 

 

………。

 

……。

 

…。

 

 

 

「もうこんな時間か」

 

「そうだね……千冬姉さんの可愛い所も見れたしそろそろ寮に行くよ」

 

「………甘い言葉は私ではなく他の女子生徒に言ってやれ、ほどほどにな」

 

 

すっかり窓から見える夕日も落ち切ってお茶菓子も空になった所で切り上げる。溜息をつく千冬姉さんから鍵を受け取り二言三言注意事項を教えてもらい部屋を出た。

 

 

「ではな、あまり面倒を起こすなよ織斑」

 

「はい、織斑先生」

 

 

別れ際に言葉を交わして別れる。部屋から出た時から既に千冬姉さんは教師で僕は生徒だ、心の中では姉呼びのままだけど。だけど少し位は大丈夫だろうと最後に目を合わせた時に片目を瞑りウィンクをして踵を返した。

 

説教もお仕置きも飛んで来ないということは許容範囲内ということだろう。範囲の程度をしっかりと心に刻みつつ地図を片手に寮を目指した。






格好いい系の姉に可愛いと言って女の子であることも自覚してねと気にかける湊君。

千冬姉はある意味女癖が悪いことは分かっていますが今まで問題を起こしていないし最低限自重はしている湊君を取り敢えず信用しています。
ただ何時か何か起こしはしないかと不安にも思っています。


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5話

寮に着くと館内の地図にて自身に割り当てられた部屋の番号を見比べる。

 

場所を把握した部屋までの道中共学の中学校時代にはなかった女子特有の甘いような匂いを感じつつ女子ばかりの学園に男子が住んでしまっていいのかと思う。流石に自分には個室が与えられているだろうがひとつ屋根の下で一対多だ、多の数も半端ではない。………逆にかけ離れた比率だからこそ問題を起こしはしないと判断されているのだろうか。

 

取り留めのないことを考えていると部屋に着いた。

 

 

 

中へと入ると想像より上の内装にしげしげと目を巡らせる。

 

 

(凄い豪華……流石はIS学園、学校自体にもお金が掛かってそうだったけど寮にもか。ベットなんかも家に置いてあるのよりよっぽどお高い様な気がする)

 

 

基本は二人で一部屋を割り当てられるので二つ並んだベットやモニターを眺めつつ感心しているも途中で目に入った自分の物ではない、竹刀の刺さっている荷物に目を留めると柄にもなく二度見をして動揺する。

 

 

「あれ………」

 

「同室の者か?今日から――」

 

 

何だかつい数時間前にも聞いた気がする声だが、声の主の詳細よりも明らかに響きが女性の者であることで頭の隅に過ぎっていた不安が当たっていたことを確信する。

 

一人部屋を割り当てられてなどおらず、女子と二人であるのだ。

 

基本的には流されることが多いのは自覚しているが流石にこれは如何な物かと受け入れ難く眉間に皺が寄るのを自覚する。百歩譲って世界唯一の男性ISパイロットという点において安全のため自宅通いではなく寮に入れ、寮も女子寮然としているのは仕方ない。だがわざわざ男女混合の部屋割りにする必要は無いと思う。

 

女子だらけの環境の中唯一のプライベート空間をも異性と共有しなければないないのか。一応自分は思春期の、お年頃の男子なのだが。そんな風に文句も内心にではあるが漏らしてしまう。

 

同時に声の後ろで響く音から声の主である人物がシャワーの最中でありこのままだとモロに見えてしまうと目を瞑る。あらぬ誤解を少しでも防ごうと瞼に腕を重ねてがっちりと視界を塞ぐ。

 

声の主が此方を確認してから話をつけて寮長か或いは職員室に戻り千冬姉さんを問い詰めようと考えていると気配が固まり驚いている様子が分かる。

 

 

「割り当てられた部屋に来ただけ」

 

「は…?」

 

「織斑先生に聞いた」

 

「………」

 

「出て行くからちょっと隠れてて」

 

「う、うむ……いや、待て……!」

 

 

静止の声を大人しく聞かずしっかりと視界を隠したまま振り向き手探りで扉を開けて部屋を出る。上手くトラブルにならず切り抜けられた、後で恐らく箒であったろう女子生徒とには謝罪をしなければと思いつつ後ろ手にノブを抑えて開かないようにする。

 

今顔を合わせるのは流石に気まずいし下手をすると彼女は裸か裸に準ずる薄着である筈だから外に出す訳には行かないだろう。如何に同性ばかりだからと言ってはしたないし、折角男子である自分の視界から外したのに元の木阿弥だ。

 

なので幾ら扉を叩いて大声を上げられようとも開ける訳には行かないのである。

 

 

「いちかーっ!ここを開けろ、このっ、この…!」

 

「箒……!まずは自分の格好を…省みて…!」

 

「馬鹿者っ、ちゃんとタオル位巻いている!………何を想像しているこの不埒者め!」

 

「不埒なのは自分の格好でしょ…!」

 

 

興奮しているのか箒の羞恥心の回路が飛んでしまっているようだ。男子の前に出ようとしているのにタオル一枚で大丈夫だと思っているとは。もし此処で大人しく開けたとしてもまともに話し合いになるとは思えず脱出するタイミングを図る。

 

足に力を溜めノブを離した瞬間に走り出せる様にしなければならない。

 

………。

 

(今だ!)

 

ノブの開けようと音を立てている時間の合間を狙って離し走り出す。数メートルもしない内にけたたましく扉が開け放たれる音がするも気にせず走る。ちらほらとやけに肌色の多い寝巻きを着た女子がいる合間を縫って寮の外に向かって駆け抜ける。

 

幾らか走ったところで出会い頭に衝突しそうになってしまった。慌てて身体を捻って避けようとするも遅い。ならばと首の後ろや背中に腕を回して相手の身体を支え回転で勢いを消費することで衝突事故を避ける。

 

ダンスの決めポーズみたいになってしまい、薄着のせいで色々と際どいことになってしまった。掌と背中の間の布地もほぼないに等しく感じる。

 

 

「大丈夫?」

 

「………へ、平気ですわっ」

 

「ごめん。ちょっと急いでるから……」

 

 

離れていた距離がまた縮まっている気がする。一言の謝罪しか出来ていないがこれ以上時間を使えば追いつかれてしまう。まだ何か言いたそうな衝突相手に軽く頭も下げてから再度走り出す。

 

………。

 

……。

 

…。

 

 

実は寮長であった千冬姉さんが寮に帰ってきた所に丁度出くわし、追い付いてきた箒も交えて話をすることでようやく落ち着いた。追い付いてきた箒に千冬姉さんを盾にする第三者から見るととても情けない姿を晒してしまった訳だが……どうでもいいことか。

 

女子と同室なのはおかしいと訴えても千冬姉さんには現状のままだと押し切られてしまった。同室なのが変えられなかった箒が何故か不機嫌だったのだが……妙な疲労感と若干の不満で、着替えとシャワーをそこそこに不貞寝のように眠りについた。





やったねセッシー、出番があったよ!
セッシーは果たしてどんな格好だったのか…イラストのスケスケネグリジェしか頭に残ってない。

あと原作だと同居人は箒→シャル→一人部屋→会長だったと思うんだけど、シャルの後で一人部屋に出来る余裕があったなら、何故最初から一人部屋にしなかったんだろうか、学園側。ちゃんとした設定あったっけ?
それともラブコメだからだろうか。

一人部屋の設定とセッシーの寝巻きの設定(或いはこんなのな筈という妄想)があったら教えてください。


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6話

 

翌朝。

 

朝起きると丁度箒と同じタイミングで目が覚めた様だ。とは言っても既に向かうは支度を済ませている状態だが……。

 

少し待ってくれるかと言うと返事はないものの椅子に腰を下ろしてニュースを見始めた。どうやら待ってくれはするみたいなので手早く着替えて食事に向かうとしよう。

 

………。

 

……。

 

…。

 

 

昨夜千冬姉さんを交えた会話の後でろくに話をせずに眠ってしまったのでどうにも気まずい。少しでも会話をしておけば箒が今の機嫌にまで落ち込むこともなかったのだろうか。

 

 

「あれが織斑先生の……」

 

「確かに似てるねー」

 

「うわー、本当に男子がいる」

 

 

周囲の視線はどうでもいいとして。生来の自分の口の少なさも相まって中々会話の糸口が掴めないままに食事も半ばまで進めてしまう。

 

 

「織斑くん、ここ座ってもいい?」

 

「……どうぞ」

 

「ありがとー」

 

「よっし、織斑くんの隣ゲット!」

 

「あーっ、ずるーい」

 

 

ちらりと女子達とは反対隣に座る箒の様子を伺うと、どうにも眉間の皺が深くなっている気がする。同席を許可するのは悪手だったろうか。

 

 

「うわ……凄いね。朝からそんなに食べるんだ」

 

「本当、二人前はあるかなこれ」

 

「おりむー細いのに大食いだー」

 

「昨日は結局食べなかったし、その分もあるから」

 

「あー…篠ノ之さんと追いかけっこ?してたよね」

 

「私も聞いた!痴情のもつれで篠ノ之さんが病んじゃったとか…」

 

「駄目だよおりむー、悪い男になっちゃー」

 

「ごめん」

 

「違うだろう一夏!? お前か悪い男だとか私が病んだなどというデタラメを…!」

 

 

箒の扱いを考えつつ雑談している最中に突然大きな声で突っ込んだ箒に自分は兎も角他の三人や周りの生徒が何事かと目を丸くする。当の本人はしまったと座るも一旦集まった視線からは中々逃れるのは難しい。

 

 

「う、く……さ、先に失礼する!」

 

「箒!!」

 

「一夏! お前は悪い男…ある意味悪い男だが……悪い奴ではないからな!そこを勘違いするな!」

 

「分かった!」

 

「ならば良い!」

 

 

混乱しているものの幾らか機嫌の治った箒を見送る。また教室ででも話をすれば仲を回復することが出来るだろうと安心して箸を進める。

 

 

「な、仲が良いんだね……二人共」

 

「幼馴染だから」

 

「納得、なのかな」

 

「おりむーすけこまし?」

 

「惚れると火傷するかも」

 

 

微妙な顔の二人と楽しげな一人と食事を再開する。きちんと箒に関してのアフターケアも忘れず硬い所があるが仲良くして欲しいと頼んでおく。三人共良い子のようだし、まだ箒の姉のことなどもあるが取り敢えず悪い印象にはなっていないだろう。

 

千冬姉さんが現れてから慌てて食べ切り食事をしたメンバーで一緒に教室へと向かった。

 

 

 






今回は短め。

セッシーとのデュエル申し込みまで行きたかったんだけど……。
ごめんねセッシー。

次回は湊くんのどうでもいいが炸裂します。


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7話

 

「ではクラス対抗戦の代表を決める」

 

 

教室に着くと千冬姉さんが話し始める。

 

各種集まりがある場合代表として出席したりする通常の学校でもある仕事に加えて、運動会のクラス対抗なんちゃらと言った風な具合でクラスの代表として戦闘を行わなければならない。

 

 

「自薦他薦は問わんぞ」

 

「だったら織斑君がいいと思います!」

 

「私も織斑君に一票!」

 

 

………。

 

学園唯一の男子生徒としての物珍しさから推薦されているだけのような気がする。

 

だがしかし、考えようによっては通常よりもISの操縦経験を濃厚に積めるといった良い機会でもある。専門用語を始めとした知識を取り敢えず詰め込んではあるもののやはり実際に触れてみて操縦しなければ分からないこともあるだろう。

 

今の状況は以上のことを踏まえて悪くないものと言える。推薦される原因を考えると微妙な気分になってしまうのだが……あまり気にせずいた方が精神衛生上都合が良い。寧ろ此処で自薦してみると言ったアピールの仕方もありかもしれない。

 

なすがままに自分にきまりそうな流れに乗っている所に待ったが掛かる。

 

 

「納得がいきませんわ!」

 

 

最前列の自分の耳にもはっきりと聞こえる否定の声。

 

今までほぼ女子校であるという特殊な環境にのみ注目していたが、同時にIS学園はエリートが集まっていることを思い出す。ISは使われている技術が全てにおいて最先端だと言われている、乗るにしろ弄るにしろある程度はそれらを理解する必要があるのだ。当然求められる知力も高水準となる。

 

純然たる事実として男子であるだけで入学したぽっと出の自分ではエリートの代表として不十分だと言いたいのだろう。

 

 

「―――聞いてますの?」

 

 

後ろから聞こえて来る言葉を聞き流しながら考えていると言葉が止まる。

 

自薦のスピーチとして此方への攻撃を行っていると思ったのだが……反応を期待してのことだったのか。もしかすると自分も何か抱負を発表してから多数決だろうかと考え事をしていた。

 

千冬姉さんも特に止めるつもりもないみたいなので、自分が応えなければ話しは進まないのだろう。

 

 

「うん、一応」

 

「いちっ――! 馬鹿にしてますの!?」

 

 

立ち上がり顔を合わせると何処かで見覚えのある顔だ。確か昨日箒との鬼ごっこの時にぶつかりそうになった子か。あの時よりも遥かに目を釣り上げて怒りを顕にしている姿を見て思い出す。

 

 

「してないよ」

 

「ではその無気力ぶりは元からですのね。全くこれだから男というのは――」

 

 

またしても流れ出てくる罵倒の嵐。

 

日本人であること。男であること。庶民であること。僕のあらゆる要素が気に入らないらしい。あまり舌を回さない側の人間からするといっそ清々しい程の口数だ。

 

 

「つまり私がクラス―――」

 

「代表候補生を勝ち取るまで―――」

 

「華々しい―――」

 

 

…………。

 

……。

 

…。

 

 

「―――以上のことから私に相応しいのがクラス代表という立場なのですわ」

 

「貴方はどう思って?」

 

 

…はぁ。

 

 

「どうでもいい」






これで漸くアニメ一話分。


リアクションが(基本)良くない湊君だとマジンガートークになってしまう初期セッシー。


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8話

「なっ……!?」

 

 

そう、どうでもいい。

 

オルコットさんが貴族尚且つイギリスの代表候補生であってどれだけ自分に自信を持っていようと。誇りの高さから男であり元一般人だった僕を下に見て馬鹿にしようと。専用機を携えてクラス代表となり勝利を重ねて行くのが彼女の中で決定事項なのだとしても。

 

僕には関係ないだろう。

 

 

「決闘ですわ!!」

 

「………」

 

「あら? 代表候補生との戦闘が怖くて声も出ないのかしら」

 

 

はぁ。

 

 

「………分かった」

 

 

挑発する様な返事を促す言葉に気怠い口を開いて承る。

 

だというのに何が気に入らないのか、さらに機嫌を損ねまだ上がるのかと言う程に眉を釣り上げて怒りを露わにするオルコットさん。一体何がそんなに癪に障るのだろう。

 

 

「人を駄々っ子みたいに扱って……!! 下男にしてその態度を改めさせてやりますわ!!」

 

「………」

 

「その目をやめなさい!!」

 

 

いつの間に決闘の勝敗に身分が賭けられたのか。

 

言葉のドッジボールを振り返ってみても全く身に覚えがない、訂正をしようにも既に決まったこととして言い切るセシリアさんにとてもじゃないが質問など出来そうにない。意見を翻させるのにも大変な苦労が伴いそうだ。

 

 

「話は決まったな。勝負は次の月曜日に、第三アリーナで行なう」

 

「はい」

 

「宜しいでしょうか、織斑先生」

 

「何だ?」

 

「決闘について、条件をつけておかなければなりませんわ」

 

「……好きにしろ」

 

 

オルコットさんに無理矢理指名され相手をして早十数分、ようやく開放されると思った所だったのだが。まさか此処で今更身分を賭けたことについて確認をするのだろうか。

 

 

「さて、私も鬼ではありませんわ。代表候補生としてハンデを差し上げるつもりです」

 

 

なるほど。

 

自分はISに乗った機会は偶々起動させてしまった時たったの1回であるのに対して、向こうは代表候補生。専用機持ちだ。日常的に訓練で乗るのに加えて候補生になるまでやなった後の他者との戦闘等々、詳しく彼女の経歴は知らないが長い経験があるに違いない。

 

そこで現れる差というものを、先人として少しでもなくそうと言っているのだろう。もっとも大分好意的に解釈したらこうだろうと僕が思っただけで、実際は優位な条件を得た僕を叩き潰したいだけなんだろう。

 

 

「いらない」

 

「…正気ですの?」

 

 

折角個人用に作られた高性能な専用機と戦う経験が得られるんだ。自分が乗ることになる打鉄か、ラファール・リヴァイヴか、もしかすると相手と同じ僕の為に作られる専用機か、分からないがまともにぶつかり合って直接体感するのが一番だ。

 

 

「ええ……」

 

「いや、普通に無理だよね?」

 

「うん、無理だよ……」

 

 

周囲がざわつく。

 

だがしかし既にいらないと言ってしまったのだからしょうがない。やっぱり今のはなしでハンデをとは……何とかなるかもしれないが、する気はない。

 

 

「では決まりだな、両者とも試合までに充分準備をしておくように」

 

 

千冬姉さんが話をまとめに入る。

 

 

「はい。……私は優しいので少しこき使ったらすぐに解放して差し上げますわ」

 

「はい。……どうでもいい…」

 

「貴方は…! またそうやって…!」

 

 

またしても怒りに震える気配が伝わって来るもののこれ以上はとさっさと前を向いて視線を切る。まだ授業に入ってすらなかったのですぐに始まった。なのでオルコットさんからの追撃はなく疲労を重ねなくて済むと安堵し、怒りはこの後か試合当日まで持ち越されるだろうことには目を背けた。

 

 




セッシー、原作より怒りましまし。

クラスの皆、原作よりフレンドリーでない。

千冬姉、原作よりやや受け。

箒さん、原作と同じ。


大変なことに気付いた。
今回でアニメ一話分だ。



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9話

クラス代表の如何を決める戦いの詳細が決まった。

 

続けて千冬姉さんから僕に対して専用機が提供されることが決まった。事情が事情、ということは唯一の男性パイロットという点を研究する為のデータ収集や有り得ないだろうが何らかの危険な目に会った場合に対処出来るようにだろうか。

 

つまりエリートである代表候補生よりも希少な文字通りオンリーワンな僕に持たせずにどうする、と言ったことだろう。実際には初心者以前の僕だがそれでも、何かしらあった時に専用機を持たせもせずなどといった余計な言葉を付けられる隙間を残しておく必要もない。

 

学園長か何処かの偉い政治家の先生かは知らないが大変なんだろうと思う。

 

 

「私はあの人とは関係ない!!!」

 

 

そして箒も箒で大変なんだろう。

 

篠ノ之という苗字から関係性が疑われ千冬姉さんから隠すでもなく姉妹であることを暴露された箒が嫌悪はたまた怒りを露わにして周囲を黙らせたのを聞きながら内心を予想する。

 

何せ今現在世界の中心とも言えるISの開発者の妹だ。見様によってはオンリーワンの自分と同じ位の価値があるのではなかろうか。

 

篠ノ之博士、束さんの妹であるという価値が付いた期間はつい先日発覚した自分よりも遥かに長い。幼い時分から今まで、多感な時期をある意味…いや、そのままの意味で姉に振り回されて来たのだ。寧ろ身内だからこそ恨み辛みが溜まっているのかもしれない。

 

箒本人の性格もどちらかと言えば武士寄りの融通が効かない。良く言うと意地っ張りな所も可愛らしくはあるのだが、姉妹関係に至っては良くない方向に作用してしまっているのだろう。

 

なので昼食を誘い、朝に許しを得たものの機嫌取りもクラスメートに怒鳴ってしまったことについてアフターケアを行なう。クラスメートも様子を伺う目を少し向けていてくれたので視線で任せてくれと合図を送っておく。

 

 

「……」

 

「……」

 

「その………」

 

「ん?」

 

「礼を言う、つい……あの人のこととなるとカッとなってしまって…」

 

「うん」

 

「今も私を気遣って食事に誘ってくれたのだろう?」

 

 

箒も僕が食事に誘った目的を何となく察していたらしい。否定することもなく箒の思っている通りだと示す。簡単にどうしてあの様に怒りを露わにしてしまったのかを話し始めた。小学生の頃から束さんがISを開発したせいで、家族は離れ離れになり、箒自身も転校に転校を重ねさせられて時には執拗に束さんに関しての事情聴取もあったようだ。

 

事情を聞くと確かに思う所があっても仕方ないと頷くしかない。束さんが自由な人なのは幼い頃の付き合いと千冬姉さんからの伝聞、今の現状を顧みて分かるがだからといって箒や僕が何も思わないという事にはならない。

 

今度会う時には何か一言言いたくもなる。

 

 

「――と言う訳だ」

 

「今度会うことがあれば一言言っておくね」

 

「ふふ…頼む、あの人は千冬さんとは別の意味で一夏に弱いからな」

 

「千冬姉さんにはあんなにフレンドリーなのに」

 

「フレンドリー…まぁフレンドリーではあるか」

 

「僕、何かしたかな?」

 

「してないと思うが…だが何かないとああはならないだろうな」

 

 

束さんは千冬姉さんや箒に対してはちゃんと言葉自体を聞いて対応する。他の人に対してはおおよそ無視や話し掛けるなと言った対応をする。僕に関しては途中までは箒等と一緒、ただ責めたりだとかに弱い気がする。

 

理由は不明だが、そもそも束さんが気に入る人間の基準というのもいまいち分かっていないのだ。僕に責められるのが弱いというのも今考えた所で答えには行き着かないだろうし、束さんがいないので検証も出来ない。

 

 

「話は変わるのだが、オルコットとの試合は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば大丈夫じゃないけど…」

 

「何を弱気なことを……」

 

「専用機はすぐに準備は出来ないから練習可能かも分からない」

 

「ふむ」

 

「貸し出しの打鉄やラファールリヴァイヴも既に予約が一杯」

 

「確認したのか……」

 

「うん、千冬姉さんにも特別扱い出来ないって言われた」

 

「……ISに乗ったの経験は何回なんだ?」

 

「試験の時、何故か起動出来た時だけ」

 

 

箒が見る見る落ち込んでいくのが分かる。親身になってくれてるのがとても嬉しいが、改めて現状を口にすると勝算が低いのが確認出来るので思わず溜息をつきたくなる。

 

既にISの知識はある程度あるので、基礎の部分を実際に動かして確かめつつオルコットさん対策を練って行こうと考えていたのだが。まさかぶっつけ本番まで机上の空論でやって行かなければならないのだろうか。

 

いや、実際にはそうしかならないし、今考えると千冬姉さんに話を聞きに行った時やけに面白そうな顔をしていた気がする。まさか2回目のIS起動が代表決定戦になるのを見越していたのか。

 

 

「だとすると……」

 

「ん?」

 

「久し振りの手合わせをするしかないな」

 

 

……なるほど、その手があったか。





消えてしまったモブ先輩。

箒が原作よりも攻撃力が低いのは湊くんがIS原作よりもニブチン度が低くイケメン度は変わらないため。

束さんとの関係の変化は湊くんの問題。



アニメだとイメージは箒>>>千冬>>>>>>>>一夏>越えられない壁>>モブとかなイメージなんだけどどうなんだろうか。


一応セッシー戦までは
・予約してるモブ子に押し掛ける(モブ子考えるのが面倒いので没、のほほんさんってことにしたら書けるかもだけど)
・簪ちゃんの所に押し掛ける(元が嫌われてるのに無理じゃね?と思った、一夏がいて湊くんもとかなら出来そうなんだけど、他にも教えてもらえるまで好感度上げや理由付けが必要そう)ISも動かして飛ぶ位までなら完成してるってことにしてとか
とかなら差し込んでもいいかなーと考えてる。


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10話

流れる汗が心地好い。

 

始めは通常通りの剣道で箒と竹刀を交えていたのだが段々と残心も気にせず打ち合う乱打戦となり、既に蹴りでも投げでも有りな攻防戦となっている。面も投げ捨て隙を見ては、隙がなくとも竹刀を打ち込む瞬間を作り出す。

 

だけど疲労で甘くなっていたのだろう一撃を軽く受けられ、いつの間にか竹刀を手放していた箒に投げられてしまった。気付いた時には足の裏に床を踏みしめる感覚はなく浮遊感の後に背中へと衝撃が襲って来た。

 

ようやく取り戻せて来た感覚に従い素早く跳ね起きようとするも、数瞬隙が生まれてしまっていたのだろう、竹刀を手の内に戻した箒に喉元へと竹刀の切っ先を突き付けられ諦める。

 

 

「……参った」

 

「ああ、私の、勝ちだ」

 

 

互いに肌に汗を滴らせ髪を濡らし蒸気を立ち登らせるまでになっている。呼吸も乱れ、剣道…剣道?を終わってしまった今では手足が床にへばりついたかのような疲労感を自覚する。

 

シャドウと戦っていた頃の所謂最盛期とは比べ物にならない位劣っているが、幼い頃に箒と共に剣道を習っていただけにしてはよく動けた方ではないだろうか。

 

短期間での筋力や持久力のアップは微々たるものであり勘を取り戻すのがあくまで主な目的だ。筋肉痛とも相談しつつ箒にオルコットさんとの決闘の日まで付き合って貰えばいいだろう。

 

本日の特訓の成果を把握して満足しては差し出された箒の手を取る。

 

 

「っとと」

 

「わっ、わ!」

 

 

多少とかなり、慌てた二つの声が発せられた後に小さくない衝撃音が響く。

 

自分はほぼ仰向けに寝転がっていた状態だから問題ない。軽くしゃがんでいた箒は大丈夫だろうかと、綺麗に胸元へと顔を収めた幼馴染に声を掛ける。上から身体に押し付けられる大きな二つの塊の柔らかさを感じながら。

 

 

「大丈夫?」

 

「だ、だだだ大丈夫だ!」

 

「わー、バトルから一転ラブコメ!」

 

「べったべただねぇ」

 

「ひゃー……篠ノ之さんすけべ!」

 

「ちょっと待て!? 何で私が……」

 

「彼女は己の武器である豊満な乳房を下にいる男に押し付けた。かぐわしい雄の匂いに衣服の下では突k」

 

「止めろぉ!!」

 

 

惚れ惚れする動きで自分の上から退いた箒は見学していた一人に竹刀で斬りかかった。流石に不味いだろうと慌てるも太刀筋を読み切った上で真剣――否、竹刀白刃取りを披露していた。箒相手に凄まじい見切りだ。明日以降は彼女にも相手をお願いするのもいいかもしれない。

 

 

「大人しくっ、斬られろぉ……!」

 

「ふふふ……図星を当てられちゃって照れてるのかな?」

 

「ち、違うぞ!」

 

「そんなこと言ってその爆乳の先っp」

 

「だ、か、ら、止めろぉぉ…!」

 

「ぬぉぉぉ…ちょ、マジでたんまたんま…!!」

 

 

仲良くしている二人を眺めつつ渡された飲み物にお礼を述べてから口をつける。少々変わった形ではあるが箒にも友達が出来たようで安心する。

 

自分も先程の箒との試合を話題に、箒とその友達のじゃれ合いが終わるまで剣道部員との交友を深めた。






細かく描写しようとすると話が進まず文字数が嵩む。


原作よりも激しいバトルでした。

所で原作で、束さんは自称細胞単位で天才らしいけど、千冬姉も身体能力的に同じ感じなんだろうか。
あとそこら辺は箒とか一夏は兄弟で似てないんだろうか。

あとP3の主人公とかって、影時間はシャドウとバトってるけど素の身体能力とかってどうなんだろう。
対シャドウとか影時間にだけパワーアップしてたのかな。


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11話

 

「ISについては、今更説明しなくていいな」

 

「うん」

 

 

目の前にあるのが、僕の為に用意されたIS。名前を白式というらしい。主な色は鋼と紺、しかし一次移行を済ませたら多少は変化するのだろう。乗り始めて一時間も経たない内に済ませるのだから、外見や武装に劇的な変化は起こらない筈だが。

 

 

「アリーナの使用時間のこともある、最適化と初期化は試合中にやれ」

 

「………」

 

「文句は聞かんぞ」

 

「はぁ…」

 

「では……私の弟らしく、勝って来い」

 

 

格好のいい表情に格好のいいセリフで激励を送ってくる千冬姉さん。白式を身に付けつつも掛けられた言葉に苦笑が漏れる。勝ってくる様に姉に言われたのだから、弟としては絶対に勝たなければならない。

 

 

「うん……勝てたらお祝い、してね」

 

「ああ、美味い店を予約しておいてやる」

 

「……居酒屋?」

 

「お前は私を……もっとちゃんとした所だ未成年」

 

「ならよかった」

 

「お二人の食事……わ、私m」

 

 

最後に山田先生が意気込んで声を上げた途端に音声と映像が切れた。何かあったのだろうか、特に放送が続く訳でもない。単純な通信トラブルか何かだろう。

 

途切れる直前に千冬姉さんが恐ろしい顔になっていたような気もするが。

 

 

「相変わらず仲が良いのだな…」

 

「まぁね」

 

 

途切れたきり回復しない通信にどうしたものかと首を捻るも、映像でREADYの文字が送られてくる。行っていいのなら行こう、人をあまり待たせるのも良くない。

 

 

「じゃあ…行ってくる」

 

「………勝ったら!」

 

「?」

 

「わ、私とも!食事にだな…」

 

「うん」

 

「い、かない……か?」

 

 

どれだけ気合を入れたのだろうか。いっそ恐ろしいとも取れる表情で話し始めた箒だったが段々と消沈していき最後には眉尻が下がり八の字になってしまった。顔の色は最初から今まで真っ赤だというのに。

 

千冬姉さんに加えて箒。負けられない理由が二つも増えてしまった。肯定の意味も含め、ISを纏った状態では気軽に握手もしにくいので、頷き了承する。

 

さて、行こう。

 

 

「箒も、千冬姉さんみたいにお店宜しくね」

 

「なっ」

 

「箒のエスコート期待してるから」

 

 

カタパルトに乗って青空の元に飛び出していく。驚いて追い縋ろうと手を伸ばすも当然届かず途方に暮れているであろう箒を想像して小さく笑う。

 

後でさっきのはなしだと怒るだろうか。それとも自分に任せておけと見栄を張るだろうか。小さく笑みを零しつつ宙へと身を投げ出す。浮遊感はありながらも跳躍とは違う、意思による空中機動を確かめる。

 

上下左右に広がる視界、ISによる360°移動が可能な機動。相手は眼上に佇む国家代表。初めてだらけの此方に比べて、ISによる恩恵を全てをあって当然の行動として昇華しているだろう。

 

だけど、負ける気はしない。

 

何か言われているが気にもしない。

 

ISによる習熟度が負けているとしても、手足は動く。身体も動かせる。頭は回る。だったら不利は覆して打倒してみせる。何も千冬姉さんを相手にしろと言われている訳じゃないんだから。相手にない経験だって、こちらにもある。

 

 

「――さぁ、始めよう」

 

 

一切返答せず戦意を高め言葉を発してからISの掌に雪平を呼び出した。相手が喋るのを止めアラートが鳴り響く。

 

どうやって相手を打倒しようかと道筋を考え、同時に発射されたエネルギー弾を雪片で迎撃した。





やけに湊くんが好戦的になった気がする。

何だがんだでISバトルに乗り気で、久し振りに血が騒ぎよるってことにしておいて下さい。


山田先生が段々とネタになっていくのはなんでだろう。

あんなにエロいおっぱい先生なのに…。


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12話

「このっ、くっ……!」

 

 

何故か近接武器である剣しか装備していない白式でオルコットさんの攻撃を切り払い、避ける。きっちりと守り切れていないせいでシールドエネルギーが少しずつ減っていく。

 

今の調子だと、恐らくと頭に付くが、最適化と初期化は間に合うだろう。乗り手である僕に合わせた設定を終えて、初めて専用機という機体になるのだ。

 

勝負を仕掛けるのはそこから。それまでは守りに徹してISの動かし方を逐一記憶して慣れ、オルコットさんの情報を収集する。普段の言動や表情から試合を開始時、そこからどういう状況でどんな態度を見せるか。

 

手段がなくて追い詰められているのか、まだ隠し球を持っているのか、などと言った所まで予想する手段になりうる。

 

 

「避けるばかりで……攻撃も出来ませんの? 臆病者!」

 

「………」

 

「これだから男は…!」

 

 

挑発の言葉に努めて表情を変えず、何の情報も相手に与えない様に心掛ける。激してしまえば動きに荒さが出て現状只でさえ減らすしか選択肢がないシールドエネルギーが加速して減少してしまう。

 

逆にオルコットさんは随分と分かりやすい。試合開始時は常と同じ自信がたっぷりと乗った嘲笑。数瞬は感心した風な表情をするも時間の経過と共に焦りが出て来た。内容としては此方が逃げ回っていて向こうは手傷を全く負っていない完全にオルコットさんの有利の筈なのにだ。

 

恐らくはもっと余裕を持っていたぶる様に有利になっている予想をしていたのだろう。だが実際は、少なくとも相手が気持ちよくなるような一撃は一発も受けていない。必ず雪片で受けるか、少しでもダメージが減るようにしている。

 

その辺りのギャップのせいで焦りが挑発の言葉となって滲み出ているのだろう。個人的に相手の調子を崩す為に舌戦を仕掛けるのはいいが、せめて余裕を持たなければ逆効果だと思う。

 

 

「………そろそろ、か」

 

「えっ」

 

 

事前に調べておいた専用機の最適化と初期化の終了時間が近付いてきた。そろそろ距離を詰めていく心構えをしていた所で、機体が変化した。

 

予想よりも結構早い。……試合中だから情報が早めに集まったとかだろうか、初期化と最適化をわざわざ試合で済ませるような人が自分より以前にいたとは思えない。単純に偶々の場合もあるが。

 

初期設定だけで戦っていた事実に呆然としているオルコットさんからの攻撃が止んでいる。

 

折角なので白式の変化を確認してみる。鋼の色が剥き出しだった初期設定から、濃い青を基調とした青と白の装甲。スラスターも性能が大きくアップしていてより接近戦重視の仕様へとなっている。攻撃を掻い潜り……何故か発現している単一仕様能力、零落白夜で切って落とすといった所だろう。

 

まるで、というか世界を制した千冬姉さんの戦い方そのままを求める機体だ。

 

だがしかし僕は姉さんではないしあそこまで神憑った動きは出来ない。

 

 

「オルコットさん?」

 

「………はっ、な、何ですの?」

 

「行くよ」

 

「何を……!」

 

 

まだ意識が戦闘に戻っていないオルコットさんに声を掛けてから加速する。

 

先程よりも早い速度もなんとかコントロールして動きを制御、レーザービットをまずは落とすことにする。幾つか此方を狙い撃つパターンを読み接近、意図を悟られる前に数度の試みでレーザービットを破壊する。

 

動揺しているのを見逃さず更に一機、残ったレーザービットも距離を取ろうとしている。ならばと敢えて無視、レーザービットへの指示で動きが疎かになっているオルコットさん本体へと風を切って接近する。

 

オルコットさん自身かレーザービットでの攻撃。既に二機しか残っていないレーザービットの攻撃は諦めたようだ。レーザーライフルを構えて正面から迎え撃ってきた。

 

刹那の攻防。

 

もはやダメージも最低限しか弾かず零落白夜を叩き込むために一秒でも早く懐に潜り込もうとする。

 

そしてあと少しといった所で。

 

 

「掛かりましたわね!」

 

 

ミサイルでの中距離攻撃。

 

既に加速して一直線にオルコットさんの元に向っている現状では避けようがない。逆にミサイルへと突っ込んでしまっている。けれど。

 

分かっている。

 

遠距離型の機体なのだから、近付かれた際の対処として中距離、もしくは近距離での攻撃手段はあるだろうと考えていた。だから常に警戒し処理できる程度には余裕を持たせていた。

 

慌てず、二機のミサイルも機体を捻るようにしてすれ違い一閃。背後に爆発を感じつつ爆風に乗り更に加速してオルコットさんの懐へと潜り込んだ。

 

レーザーライフルで攻防に出るでもなく近距離用の武器を呼び出すでもなく、恐らく判断に気を取られ生まれた硬直の隙に零落白夜を発動。

 

実態剣からエネルギー刃へと変わる雪片でシールドバリアーを切り裂き絶対防御を強制的に発動させる。すると一気にシールドエネルギーは底を尽き、終わりだ。

 

 

「勝者、織斑一夏」

 

 

性能は分かっていたつもりだったものの、あまりに凄まじい攻撃能力を持つ雪片に舌を巻きつつ今後はもっと気を付けて使おうと心に決めた。





どうしても戦闘になると行動とかに意識がいってしまって疎かになってしまう部分ががが。
精進したい。

白式は原作よりも濃い青に白色添え。
まさかのセッシーとのイメージカラー被りとは駄目ですね湊くん。



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