モンスターハンター大全 短編ネタ集 (葛城 大河)
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短編1 貧弱なモス

反省はしてるが後悔はしてない‼︎ 書きたかった事を書いただけだ‼︎


みなさん、どうかこの悪ふざけにお付き合いください。


クック「え?ボク、暇潰しで狩られるの?」


────森丘。

 

 

アリコリス地方にある場所であり、それぞれシルクォーレの森とシルトン丘陵と呼ばれているそこは狩猟者、つまり───ハンターが狩りをする為によく来る狩猟地だ。

 

 

総じて丘は非常にのどかな雰囲気に満ちているが、一度(ひとたび)奥に登れば危険度が増していく。それは奥には危険な肉食竜などが生息しているからだ。その中で最も危険であり、この森丘によく姿が現れる肉食竜と言えば、『空の王』と称されるリオレウスだろう。故に、新米のハンターたちが好奇心で森丘の奥に進み、()の空の王者と邂逅し、死にかける事も少なくはない。

 

 

幾らのどかとはいえ、紛れもなくこの地はモンスターが闊歩する自然の地、油断は禁物だ。そんか森丘に一つの影が歩いていた。ガチャガチャと音を鳴らして、足を進める影。

 

 

「………この辺りに居ると思うんだがなぁ」

 

 

影の正体は人間だった。とはいえ、ここに普通の一般人が居る訳がない。彼はモンスターを狩る者───ハンター。個体数が増えたモンスターや、モンスターの脅威を撤廃(てっぱい)する為にモンスターを狩り、人間という生物の繁栄を目指し、共に自然との調和を図ったりする専門職。それがモンスターハンターと呼ばれる者たちだ。

 

 

森丘を歩く彼も、そんなハンターの中の一人であり、ギルドのクエストによってここに来ていた。

 

 

「……おかしい。本当ならアイツはここらへんに現れてる筈なんだがな」

 

 

ポツリと男は言葉を漏らす。討伐対象である、あのモンスターは本来なら今、彼が居る場所に来る筈だ。しかし、肝心のモンスターが居ないこの状況に、おかしいと彼は口にした。今まで何百回も討伐してきた経験上、あのモンスターはここを通る筈だ。それに間違いはない。なのに来ない。それどころか、ここまで来るのに一回も眼にしないのは余りにもおかしい。

 

 

「はぁ、本当に何処に行ったんだぁ? イャンクックは」

 

 

髪をガリガリと掻きながら、彼は探しているモンスターの名を口にした。大怪鳥と呼ばれるモンスター『イャンクック』。ハンターたちの界隈では一人前になる為の登竜門として扱われるモンスターであり、一部のハンターたちやギルドの人間から『先生』という愛称をつけられるモンスターである。だが、彼は新人ではなく紛れもなく一人前のハンターだ。そんな彼が何故、イャンクックのクエストを受注したかというと、他にクエストがなく、暇潰しとして受けたのだ。

 

 

しかし、肝心のイャンクックの姿などなく、皆無と言って良いほど。それに、男は一つの答えに辿り着く。イャンクックが居る場所に居なく、行きそうな場所を探し回っても見つからない。そんな事がもしもあるのなら、それは別の場所に飛び立った事に他ならない。では、なにが原因(・・)で飛びたったのか?

 

 

そう考えを巡らせた時、彼の姿が影に覆われた。冷や汗が頬を伝う。この影は雲では断じてない。そう影の正体は────

 

 

「は、はは。マジかよ────リオレウス」

 

『───■■■■■■■■■■ッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

『空の王者』、『飛竜の王』などと二つ名で呼ばれる怪物(モンスター)がこちらを睥睨して、空を飛んでいた。次の瞬間。大空の王は口に火炎を覗かせた。

 

 

「ッ!? ま、まずいっ‼︎」

 

 

ソレを目撃した彼は、半ば反射的に行動を移した。前方に転がる事によって王者から放たれる火球を辛うじて躱す。背中に感じる異常な熱量に眉を寄せる。しかし、ここで安堵するにはまだ早い。何故なら、空の王者が居る限り、命の危険があるのだから。

 

 

「くそったれっ‼︎ こんな事、俺は聞いてねぇぞ」

 

 

逃げる。脱兎の如く足を休ませずに、只管に動かして逃げる。足を止めれば火竜の餌食になる。だからこそ、一心不乱に動かすのだ。後ろから迫る熱気に、全身から汗が噴き出し、本能が早くここから離れろと警報を鳴らす。彼は一人前のハンターだ。しかし、それでも火竜リオレウス相手では余りにも力の差が存在した。

 

 

「……はぁはぁ……はぁはぁ…………」

 

 

息が切れそうになるが構わない。スタミナがなくなり心臓が張り裂けそうになるがそれが如何した。肺が空気を欲するが関係ない。止まれば待っているのは死である。ならば、足を動かすしかない。死にたくないならあの火竜の視線から逃れる他にないのだ。

 

 

ガチャガチャと激しく緑色の騎士甲冑が音を響かせる。後ろから轟く咆哮に、心臓が止まりそうだ。そんな思考回路で冷静でいられる筈もなく、彼は立ち止まる。目の前には壁。行き止まりだった。

 

 

「はぁはぁ……嘘だろ……くそっ………‼︎」

 

 

逃げられないという絶望に、彼は毒付く。辺りを見渡しても、後ろから来た道以外は壁が広がっているのみ。この縦に広い空間は、勢い良く立ち回れない程に狭く、あるものといえばキノコと一匹だけ(・・・・)のモスだけだ。終わった、と絶望が彼を襲う。背後から徐々に聞こえてくる羽ばたきと竜の咆哮。それが迫ってくるにつれ背筋が凍り付く。

 

 

だが、それでも彼は、曲がりにもハンターである。強大なモンスターに逃げる事もあるだろう。意地汚く走るだろう。それでも、モンスターを目の前にして泣き喚く事など絶対にしない。もう逃げれないのならば、やる事は決まっていた。

 

 

「は、ははは。いいぜ。やってやるよこの野郎‼︎」

 

 

背中から大剣を引き抜く。長年愛用してきた大剣ヴァルキリーブレイドだ。素材となったモンスターの色である緑色が主張されている大剣。その切っ先をリオレウスにへと向けた。

 

 

「どうせやられるなら、テメェに一矢報いてからやられてやる」

 

 

気炎を吐き、男は大剣を構えた。相手は空を自由自在に飛び回る王者だ。立ち止まっていたらやられるだけだ。力を溜める。大剣の柄を両手で握り締め、力の限り溜めていく。そして───

 

 

「うぉおぉぉおおぉぉぉおぉおぉおおおぉッッッ‼︎」

 

 

雄叫びを上げてリオレウスに突っ込み、大上段からヴァルキリーブレイドを振り下ろした。ブオンッと凄まじい風切り音を鳴らすが、空を飛ぶリオレウスには(かす)る事もなく躱され、転瞬、お返しと言わんばかりに両足の鉤爪で男を襲撃した。が、それを大剣の面で受ける事によってなんとか耐えた。とはいえ、それでも衝撃は強力で、体を支える事が出来ずに吹き飛ばされて壁に背中を強打した。

 

 

「がっ───!? ごほっ、ごほっ‼︎」

 

 

激しく打ち付けたからか、酷く咳き込み、頭が朦朧とする。力が入らない。先ほどの一撃を受けただけで、体力がごっそりと持って行かれた。

 

 

(これが『空の王者』リオレウスか。勝てねぇ)

 

 

いよいよ持って男は、自分の命の終わりを自覚した。それはリオレウスも感じ取ったのか、トドメと言わんばかりに再度飛び上がり勢いを付けて急降下し始める。ここで命が散る。そう彼は自分の未来を予測して、視界の端に風圧で転ぶ(・・)モスを見ながら眼を閉じようとしていた────瞬間だった。

 

 

────赤き暴風が周囲に奔った。ソレは全てを呑み込むかのような覇気。突然の暴威に、急降下してきたリオレウスは動きを止め、視線の向きを変えて威嚇の咆哮を上げる。彼もまた、突如として出現した威圧感に、また新たな大型モンスターが現れたのかと深く絶望を抱き、視線を向けて全身が硬直した。

 

 

「……………………は?」

 

 

呆気に取られた声を漏らす。何度も瞬きをしても目の前の現実が変わる事なく、眼を擦ってもなんら変化などない。つまり、視線の先の光景はまごう事なく現実の事であるという事だ。だからこそ、尚、信じられない。

 

 

「…………うっそだろ、おい」

 

 

彼の視線の先。そこには────モスが居た。赤い覇気を身に纏い、圧倒的な威圧感を出しているモスが。なんだアレ? なんだよアレはッ!? と、声を大にして叫びたい衝動に駆られるが、そんな事をすればリオレウスの標的がまたこっちに向くかもしれない。だからグッと出かかった言葉を飲み込み、なんとか耐えてみせる。しかし、やはり何度見ても眼を疑う光景である。

 

 

覇気を纏うモスは、キノコを食べてた邪魔をしたのが気に入らなく、前足を何度も地面を叩き突進の準備をしていた。リオレウスとモス。弱肉強食のこの世界に於いて、戦力差を比べる事すら烏滸がましく、戦えばどちらが勝利するのかは誰の目にも明らかだ。一方は『空の王者』と呼ばれる飛竜種リオレウス。片や、草食種偶蹄目(ぐうていもく)モス。最早、馬鹿馬鹿しい。弱者であるモスに睨み付かれたからか、リオレウスも苛立ちの咆哮を上げ、口内に炎が覗く。

 

 

それはリオレウスにとって、火竜と言われる所以であるブレスを放つ動作だ。開かれた口から放たれる火炎球。ソレをモスはただ前足で地面を引っ掻くだけで避ける素振りすら見せず、火炎球が直撃して爆発を起こした。終わった。やはり、戦う事など無駄だったのだ。そう思って視線を外そうとした彼は、視界の端に映ったソレを見て唖然とする。

 

 

爆発によって巻き起こった砂塵が晴れ、放たれた火炎球の場所に、直撃した筈のモスが傷一つ追わずに存在していた。

 

 

「…………はぁ〜?」

 

 

全く意味が分からない。彼の表情がそう物語っている。何故、あれ程の熱量を誇る火球がぶつかって肉が焼ける事なく存命しているのかが分からない。文字通り、意味不明であった。対して火球を直撃したモスは鼻息を荒くして、ガッガッとより強く地面を引っ掻き、次の瞬間───リオレウスに向けて突進した。その時もまた、信じられない光景を目の当たりにした。通常のモスとは比べる筈もない速度で加速し、衝撃波を撒き散らしながら空を飛ぶ火竜に向けて、跳び上がりその胸部をドゴンッッッという音と共に打ち上げた。

 

 

体格差がある筈の両者であったが、その一撃にリオレウスは大きく怯み、自身の制空権であった空から落とされた。地面に墜落したリオレウスは立ち上がろうと()がくが上手く立ち上がる事が出来ない。そんな決定的なチャンスをモス(強者)が見逃す筈がない。再度、前足で地面を引っ掻き力を溜めてから突撃した。次いで辺りに響く、なにか硬いものが当たったかのような音が鳴る。

 

 

リオレウスの頭蓋に激突し、鮮血が舞い散る。その血の持ち主は『空の王者』のもの。新たに感じた激痛に火竜は絶叫を上げる。だが、そんなものは関係ないとモスは突進を繰り返して、火竜を攻め立てた。

 

 

「ハハハハ、なんだよ………コレ」

 

 

余りにも現実離れした光景に乾いた笑みを浮かべる。王の威厳に満ちたリオレウスが、モスに追い詰められている光景は、いっその事、夢なんじゃないかとすら思える。そして、唐突に終わりを迎えた。幾度となく放たれる突進に、遂にリオレウスが力尽きたのである。モスがリオレウスに勝利した。誰に言っても信じてはくれないだろう。そう考えていた彼は、唐突に威圧感がこちらに向けられた事に気付き、視線を投げる。

 

 

 

そこには────こちらに頭を向けて前足で地面を引っ掻くモスの姿が在った。脳裏に過るのは、頭突きによって撲殺されたリオレウスの光景。顔面が蒼白する。全身が小刻みに震え出す。

 

 

「ひっ、うわぁあぁぁあぁぁぁぁあああッ────!?」

 

 

背を向けて我武者羅に足を動かし逃げ出した。もう後ろの道を塞ぐ火竜は居ない。逃げる事が出来る。あの怪物(モス)から。走る走る、モスが追いかけない事は知っていても赤い覇気を思い出し森丘から抜け出そうと走り抜ける。そして森丘から離れた距離で立ち止まり、ポタポタと汗を流しながら、後ろにある森丘に振り返り、モスの姿を思い出して身震いをした。

 

 

「逃げれた……みたいだな」

 

 

安堵の息を漏らした彼であったが、すぐにこの事をギルド本部に伝えなければと判断し、自身が住む村。ココット村にへと帰路に経った。

 

 

 

 

 

 

ギルド本部に報告した『リオレウスを撲殺するモス』は、到底信じられる筈もなく、ギルドの上層部はそれを確証もない戯言だと受け取り、本気になどしなかった。だがそれでも、彼は覚えている。覇気を身に纏う常軌を逸したモスの姿を。

 

 

今でも彼はハンター仲間や友人から、『最強のモンスター』はなんだと思う? という質問に対してこう答えるという。

 

 

────赤いモスだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モス「人が美味しくキノコを食ってるのを邪魔すんじゃねぇぞ小僧‼︎」
レウス「がはっ!? す、すいません(ガクッ」
男「マジパネェ」

大体、こんな話だった。んでは、次回。というか、次回あるのか? ま、もしも次回があるのなら、タイトルは────


────『全盛期の大怪鳥』


い、一体、なにクックなんだ?

では、また次回?


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