ホグワーツの冷徹管理人 (零崎妖識)
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鬼神、鬼灯
ハリー・ポッターが大広間に入った時、一つだけ気になったことがあった。
先生方の中に一人だけ、黒い、不思議な服を着た人が居たのだ。それに、耳が尖っていて角も生えている。
「あの服は『和服』って言って、日本の服なの。でも、角の生えた人だなんて……いったい、なんなのかしら?」
ご丁寧なハーマイオニーの解説により、服のことはわかった。しかし、なんで角が生えてるのかはわからない。
そうこうしているうちに組分け、そして食事が終わる。そしてダンブルドア校長が話始めた。
「全員、よく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつかお知らせがあるのじゃが、まずはクィディッチ選手の選抜について。二週目に選抜があるので、参加したい人はマダム・フーチに。あとの連絡は鬼灯先生に任せますぞ」
「はい」
角の生えた人が立ち上がる。
「ホグワーツ管理人兼、異界学教授の鬼灯です。まず、構内にある森には立ち入らないようにしてください。新入生の皆さんは知らないと思いますが、森には危険な生き物が多くいます。もし入った場合は……スプラウト先生監修の元臭い植物の手入れ作業、並びにそのことに関する反省文、感想文を原稿用紙五十枚ずつ書いてもらいます。また、授業の合間に廊下で魔法を使った場合も同様です。特に、ジョージ・ウィーズリーとフレッド・ウィーズリー。貴方たちには叩いて聞かせることが校長先生から許可されたので……次違反した場合は
パンッと手のひらに重そうな金棒を叩きつける鬼灯。
「魔法などを作る際は必ず私に声をかけること。実験をする際も同様です。魔法薬の調合はマダム・ポンフリーかスネイプ先生の立会いの元行うこと。
最後に、今年いっぱい四階右側の廊下には入らないように。例え何が起ころうと私は責任を負いません」
ぺこりと頭を下げて席に座る鬼灯。ハリーは気になって、彼についてパーシーに聞いてみた。
「鬼灯先生は鬼神──
そう言って、パーシーはそれ以降口を閉ざしてしまった。
ハリーたちが彼の授業を受けたのは金曜日だった。スリザリンも一緒だ。
運の悪いことに、スリザリンの生徒が一人遅刻してしまった。
「すみません、先生。遅れてしまいました」
「遅い!」
パァンと音がして、遅刻した生徒の額に白い何かが撒き散らされる。どうやら高速で飛来したチョークが砕けたようだ。
「今回は初回の授業なので処罰は軽くします。が、次回からは遅刻、宿題忘れに容赦はしません」
そう言った鬼灯の目は、ハリーには蛇のように見えた。
「私は鬼灯と言います。日本の鬼で、管理人兼異界学教授をしています。身分関係なくビシバシといくつもりなので頑張ってください。
異界学はその名の通り、この世とは違う世界についての学問です。なお、並行世界などは含みません。では……グレンジャーさん、知っている異界を一つ挙げてください」
「冥界です」
「その通り。冥界はハデスによって支配されている死後の世界の一つです。なんでしょうか、マルフォイさん」
マルフォイが手を挙げ、質問した。
「死後の世界の一つ、とはどう言うことでしょうか?僕には、死後の世界がいくつもあるように聞こえるのですが」
「いくつもありますが何か?」
マルフォイが口を開けたまま硬直した。
「死後の世界とはいくつもあります。主に宗教的価値観の違いですね。神道や仏教における『天国』や『地獄』、『六道輪廻』。ヨーロッパにおける魔王サタンのおさめる『地獄』。ゼウスの兄、ハデスがおさめるギリシャの『冥界』。またその最果てにあると言う『
また、おとぎ話などではいつの間にか『死後の世界』に迷い込んで戻ってきたなどの話もあります。
さらに、『
ここから、鬼神鬼灯とハリー・ポッターたちの物語が始まるのだった。
異界学は本作のオリジナル学問です。色々とオリジナル理論が飛び出るかも。
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トロール・イン・ホグワーツ・ハロウィーン(アリス・イン・ワンダーランド風に)
時は流れハロウィーン。
鬼灯は教室に蕪で作ったジャック・オ・ランタンを置き、金魚なのか植物なのかまったくわからない何かを飾り付けていた。
「あの……何ですかそれ」
「どちらのことでしょうか、ポッターさん」
「植物の方です。温室にも植えられてましたけど……」
「これは金魚草と言いまして……金魚なのか植物なのかわかりません。交尾をして受粉し、稚魚と呼ばれる蕾をつけます。年に一度、春に開花して一日でこのような成魚になります。エサも食べますし肥料も摂取します。……一匹いりますか?」
「いりません」
鬼灯が差し出してきた鉢植えを押し返す。一ヶ月程度の付き合いとはいえ、ハリーはこの鬼神が滅多に怒らないことをわかっていた。ハグリッドの飼っているファングがナチュラル無礼をしていて、その上で彼がファングを撫で回しているところを目撃したからだ。
「蕪の方は、ジャック・オ・ランタンの元ネタです。元々、ハロウィーンはケルトの行事で、ランタンが南瓜になったのはハロウィーンがアメリカに伝わってからです。また、ジャック・オ・ランタンはジャックと言う地獄にも天国にも行けない亡者が持っている提灯です。つまり鬼火です。ついでに、
「日本で、ハロウィーンってどんな感じなんですか?」
「もはやただの仮装祭ですね。多分ケンタウルスを連れていっても、『すっごいクオリティ高い人』という認識で済みます。本来の意味で言うなら百鬼夜行。ハロウィーンとは祖霊を迎える行事であり、収穫を祝う日であると共に地獄の釜の蓋が開く日です。それと同時に悪い亡者や
そうこうしているうちに他の生徒が集まり、授業が始まった。今回はハロウィーンにちなんでケルト関係──いわゆる『影の国』についての説明だった。
大広間は綺麗に飾り付けられ、ところどころに藁人形やら不気味な仮面やら金魚草やらが付けられている。確実に鬼灯の仕業だろう。
何かの魔法なのか、わぁいわぁいとはしゃぎながら壁や天井を縦横無尽に走り回る女の子二人が時折見える。
ハリーたちが皮付きポテトを皿によそっていた時、クィレルが勢いよく駆け込んで来て、ダンブルドアの元でこう言った。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って……」
クィレルはそのまま気絶してしまい、大広間は大混乱となった。
大声が飛び交う中、ハリーはダンブルドアが杖を出そうとするのを鬼灯が止めるのを見た。鬼灯はいつもダンブルドアが立っている場所に立つと、金棒を剣のように体の前に突き立て、息をゆっくりと吸い込んだ。
「喝っ!」
ピタッと全員の動きが止まり、静かになる。その視線は、闇のオーラを放っている(ように見える)鬼灯に注がれていた。
「まずは先生方の指示を聞きなさい。騒ぎたいなら安全な場所で、誰にも迷惑がかからないように。いいですね?」
全員が頷くしかなかった。
ダンブルドアの指示で寮へと帰る。その途中で、ハリーとロンはハーマイオニーが居ないことを思い出した。
パーシーや先生方にバレないように、ハッフルパフ生の列に紛れ込んで地下室へ向かう。途中、大広間の方からスパーンと小気味いい音と「起きなさい!それでも教師ですか!」と言う鬼灯の声が聞こえたが、ハリーとロンは無視することに決めた。今は恐怖を味わう必要はない。
ハリーたちが地下室に到着した時、トロールは何かのドアに入ろうとしているところだった。鍵はついたままになっている。
「閉じ込めよう」
「名案だね」
トロールが中に入ったのを見計らって、扉に飛びつき鍵をかけた。
トロールを閉じ込めた、と意気揚々と戻ろうとして、ふと気づいた。あのドアはどこの部屋のものだったのか、と。その答えは、甲高い悲鳴が教えてくれた。
「しまった。あのドアは女子トイレのだ!」
「ハーマイオニーの声だ!」
すぐさま二人はドアへ戻り、鍵を開け、突入した。トロールはハーマイオニーを襲おうとしているところだった。
「引きつけないと!」
「僕がやる!」
ハリーが壊れた蛇口を拾い、投げつける。トロールの興味はハリーに移ったようで、ゆっくりと振り向き、ニタニタしながら寄って来た。そして、棍棒を振り上げたところで動きが止まり、ゆっくりとハリーから視線をあげる。
次の瞬間、トロールは横向きに吹っ飛んだ。
「……え?」
ハリーは今見た光景を信じられなかった。あれだけ恐ろしそうで、重そうなトロールが吹き飛んだだって?
次に彼が見たのは、金棒を振り抜いた姿勢で着地した鬼灯だった。
鬼灯は振り向き、スタスタとハリーに近づく。そして、ゴンッとハリーの頭に重い拳骨を落とした。ロンとハーマイオニーにも。
「まったく。私がすぐに来たからよかったものの、そのままだと死んでいましたよ。友人愛は認めますが、貴方たちがやったことは『勇気ある行動』ではなく、『無謀』と言うものです。ですが、『蛮勇』ではなく、相手が自分よりも強いと認識していながら挑んだことは素晴らしい。今度鍛えてあげましょう」
「いえ、結構です」
「そんなこと言わずに。いずれ役に立つかもしれませんから」
その後到着したマクゴナガル先生から三人は処罰──ハーマイオニーに五点減点、三人それぞれに五点加点──を受け、ついでにハリーは鬼灯から五点もらい、寮に帰っていくのだった。
「──さて、このトロールは誰が入れたのか、調べなければなりませんね」
「お手数をおかけします、鬼灯先生」
「マクゴナガル先生は『石』の防衛の強化をお願いします。調査は座敷童子さんに手伝ってもらうとして……屋敷しもべ妖精にも手伝ってもらいましょう。では、私はこれで」
「鬼灯先生、非力な老婆に、トロールの後片付けをしろと?」
「いえ、本来私は女子トイレに入っちゃいけませんし……今回は緊急事態でしたが、クラスの女子に『変態』と言われてもおかしくありません」
「『クラスの女子』は今の貴方には居ませんよね?」
フィルチさんはちゃんと居ます。掃除と見回り、罰則場所への連行専門。書類仕事や罰則指定などは鬼灯様の担当です。
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掃除と呪いと錬金術と
もう直ぐクリスマスがやって来る。ホグワーツではクリスマスには休暇があり、家に戻る生徒もいれば学校に残る生徒もいる。ハリーとロンは学校に残り、ハーマイオニーは実家に帰る予定だ。
休暇前日、ハリーとロン、ハーマイオニーは鬼灯に声をかけられた。
「休暇初日に、自室の片付けを手伝ってもらえないでしょうか。ここ最近忙しく、整理ができていないのです」
「鬼灯先生が?」
ハーマイオニーが驚いて言葉を返す。
「いくつかのお礼とお小遣いを差し上げるつもりですが」
「ハリー、ロン。貴方たち行って来なさいよ。きっといい経験になるわよ。どんな珍しい物があるか、とっても気になるわ。ああ、でも私は参加できないの。ごめんなさい、鬼灯先生」
「いえ、あくまでも協力してほしいと言うだけですから」
ロンは迷うことなく手伝うことを決めた。お小遣い目当てなのは明白だ。ハリーは少し迷ったが、ロンだけだと心配だと言う理由で手伝うことにした。
鬼灯の自室は散らかっていた。普段の鬼灯からは考えられないほどに。
「色々と用事が立て込んでいたのですが、いつでもできることを後回しにしていたらこんなことに」
「なんか、変な人形が……」
「あ、それクリスタルヒ○シ君です。二つありますし、一つ持って行ってもいいですよ。あとモンゴルの民族衣装もありますがどうしますか?」
「二つもあるんですか……」
「ハリー、クリスタルヒ○シ君ってなんだい?」
「日本のとあるTV番組の景品だよ。週に一度の番組なんだけど、何週かに一回、視聴者のうち四人に賞品が当たるんだよ。その時、一緒に貰えるのがこれ。一つは民族衣装だとしても……もう一つは何が当たったんですか?」
「3泊4日で行くオーストラリア魅惑の旅ですね。前の職場で有休取って行きました。コアラ可愛かったですよ」
「鬼灯先生、動物大好きですよね……」
話しながら、散らばった紙を纏めて仕分ける三人。日本語やよくわからない言語で書かれた物もあるが、挿絵でなんとなく分類できる。
「鬼灯先生、この謎の生き物の絵はどうしましょう」
「ああ、あったんですかそれ……チッ、嫌な奴を思い出した。燃やしておいてください」
すごい人が見れば猫だと看破できる(逆に言えばすごい人じゃなければ看破できない)絵を放り捨て、作業を続ける。
資料には統一性がなく、和漢薬の資料もあれば異界の資料もあり、動物、植物、歴史など、多種多様であった。
「鬼灯先生って、異界学の教授ですよね?なんで別の資料がこんなに多いんですか?」
「私が研究しているもので、ホグワーツの教授席が余っていたのが異界学なんですよ。魔法薬はスネイプ先生の方が上手いですし……私は和漢薬は作れても魔法薬はあまり作れません。と言うか、素材からこだわってしまうために一級品を採りに行くことから始めてしまいますから。植物はスプラウト先生が、動物はハグリッドさんやケトルバーン先生、グラブリー-プランク先生がいますからね」
しばらくして、ようやく掃除が終わった。ハリーとロンにはそれぞれ五ガリオンが渡され、鬼灯製の飴がプレゼントされた。滋養に良い漢方を配合しているそうだ。
落ち着いたハリーは、部屋に入った時から気になっていたことを聞くことにした。
「先生、あの、奥の扉は何ですか?」
教室に繋がる扉とも、廊下に繋がる扉とも違う、閂がかけられた扉。怪しげなオーラが滲み出ている。できることならハリーも放っておきたかったが、ハーマイオニーへのお土産話として聞いておこうと思ったのだ。
「是非入ってください。歓迎しますよ」
「いいんですか?」
「何があるんですか?」
「世界の不思議グッズや呪法に使われたものなどを蒐集……保管している部屋です。あまり触らないようにしてください。脆いものも多いですし、触るとまずいものもあります。
「あ、ごめんなさい結構です」
「オタクはコレクションを見せたがるものなので」
鬼灯は言うと、スタスタと扉まで歩き閂を外した。
重苦しい音を立てて開いた部屋の中には、様々な物が置いてあった。チラリと、見るからにヤバそうな人形を持って遊んでるどこかで見た女の子たちが見えた気がした。
「あの……これは何ですか?」
「呪いの宝石ですね。隣のは一人かくれんぼのぬいぐるみ、上のは呪いの館の壁の一部です。これは開かずの間の扉部分」
「そのドアあるってことはその間開いちゃってますよね」
多くの呪術グッズやらヤバいものやらでごった返している部屋。柱には藁人形が百個以上打ち付けられていて、怪しげな仮面や鏡、ビデオテープなどもある。
「ホムンクルスとかさらっと置いてありそう……」
「あれは呪いの品ではなく、錬金術の技術の結晶ですからね。フラメルさんが作ったことがあるそうなので、教えてもらおうかと思いましたが御高齢のために断念しました。暇を見つけたらリリスさんに腕のいい人を紹介してもらうつもりです」
思わず鬼灯の方を振り返る二人。フラメル。ニコラス・フラメルの名が鬼灯の口から出てきたのだ。
「鬼灯先生、ニコラス・フラメルについて教えてください!」
「嫌です」
ハリー、撃沈。鬼灯の口から、ニコラス・フラメルの詳細が出ることはなさそうだ。
「ヒントはすでに出ています。是非、自力で探してください」
「はい……」
そして、ハリーとロンは気付かなかったが、さらりと
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プライド悪魔
さて、クリスマスも過ぎ年も明け、新学期が始まった。
異界学最初の授業は、何かを学ぶのではなく鬼灯による実験の実演となった。
「異界に関わるのであれば、いつかは
悪魔の召喚。それの危険性がわからないホグワーツ生はいない。一年生を除いて。
「悪魔は非常にずる賢い。虎視眈々と、貴方たちを堕落させようと狙ってきます。己を知り相手を知れば百戦危うからず。何かあってからでは遅いですし、今のうちに慣れておいた方がいいです」
召喚に、いくつかの貴重な材料を使うため、スネイプが補佐として立ち会っている。決して地獄産の珍しい素材が欲しいわけではない。多分。
鬼灯が魔法陣を描き、スネイプが素材を並べていく。部屋の暗さも相まって、
準備が終わり、鬼灯が悪魔を呼び出すための詠唱を始める。ただし、内容はほとんど適当なようだ。
不安になるハリーたちだったが、無事に召喚は成功したようで、魔法陣から煙が噴き出した。その中に、一つの影が見える。
「ククク……俺を呼び出した愚かな人間はお前か。さあ……何を望む?」
「お久しぶりです、ベルゼブブさん」
「お前かよ!久々に誰かが召喚したと思ったらお前かグハァッ!?」
五月蝿い、と鬼灯が最上級悪魔──ベルゼブブを金棒で殴る。その光景に、ハリーたち三人はやっぱりと思い、他の生徒は少し引いていた。また、スネイプはベルゼブブを殴ったことに呆然としていた。
「何でお前が俺を呼び出してんだ!そんな必要ないだろ!」
「いえ、生徒たちに悪魔に慣れてもらおうと思ったので……そうすると、私が知っている悪魔は貴方かサタン王、レディ・リリス程度でして、リリスさんは教育に悪いですし、サタン王を呼び出すのはどうかと思いまして、殴っても問題なさそうな貴方にしました」
「普通殴ってもいい奴だなんていないからな?わかってるか?」
「おや、悪魔の貴方が常識を説くのですか」
「そろそろ黙ってくれ!」
そろそろベルゼブブが可哀想になってきた、と思い始めた生徒たち。スネイプはベルゼブブと共に召喚されていた白山羊スケープに地獄産の薬草、毒草を貰いさっさと帰った。
「それで、召喚自体が目的だったのでもう帰ってもらっても結構なんですが」
「あー……それがな、サタン様が『一度召喚されたら最低でも一時間は召喚者と共にいろ』って言い始めたんだ。しばらくは地獄には戻れない」
「では、奥の部屋にいてください。決して倉庫に入ってはいけませんよ。あの
ベルゼブブは頷くと、鬼灯の自室へと消えていった。彼は無駄に高いプライドを持っているが、さすがに白澤のような目にあうのは嫌なのだ。
「悪魔は万能……とまではいきませんが、非常に高い能力を持ち、召喚者の指示に従います。しかし、契約の対価として大切なもの──例えば、寿命や魂、伴侶や子供など──を求めてきます。悪魔を呼び出すのは最終手段、呼び出した場合は値切り交渉を頑張ってください」
普通悪魔相手に値切りなんてできない、と言う生徒たちのツッコミは届かず、授業は終了した。
「なあ、一ついいか?」
「はい、何でしょうか」
「いやーな感じがするんだよな。悪霊、それもサタン様の僕ではなく、悪意を持って自分からそうなったタイプの気配が……」
「それは、どこから感じますか?さっさと吐け」
「わからねぇよ!何となく感じるってだけだ!」
「お前の触角は何のためにある」
「蠅モチーフだ!チッ……確か、今ここには賢者の石があるんだろ?」
「おや……どこでそれを?」
「リリスがどっからか情報持ってきたんだよ。ちゃんと守っておけよ?じゃないと、この学校がヤバいことになる」
それだけ言うと、ベルゼブブは消えた。地獄へ戻ったようだ。
鬼灯は少し考え込み、校長室へと足を向けた。
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因果応報
ハリーたち三人はニコラス・フラメルについて調べることに成功した。ハリーがネビルから貰った有名魔法使いカードとハーマイオニーが読んでいたとある分厚い本のおかげだ。
また、ハッフルパフ対グリフィンドールのクィディッチ試合が行われたが、鬼灯はその場にいなかった。ハリーが気になって理由を尋ねると、
「私が試合に関わると、どうしてもルールを厳しくしたくなるので、自重しています」
とか言っていた。
しばらくして、ハグリッドの口から鬼灯やスネイプを含む、数人の教師が『賢者の石』を守っていることがわかった。ハリーたちは思った。ハグリッドに重要なことは絶対に話さないようにしよう、と。
ハグリッドは話している最中、チラチラと暖炉の方を見ていた。それに気づいたハリーがそこを見ると、炎の真ん中に黒い大きな卵があった。ロン、ハーマイオニーもその卵に近づくと同時に、ハグリッドの小屋の扉が勢いよく開き──もとい、吹き飛び、ハグリッドに激突した。
「違法行為があったと知らされたので来ました。ハグリッドさん、私は前にも言ったはずです。今度似たようなことをしたら八寒地獄に叩き込む、と」
扉の先には、いつも通り能面のような表情の鬼灯がいた。闇鬼神状態である。
「ドラゴンの卵は国際条約で取引が禁止されています。生徒たちにバレないようであれば私がなんとかしようと思っていましたが……どうやら、ここまでのようですね」
「こ、こんにちは。鬼灯先生」
「こんにちは、ポッターさん。先ほどから外で話を聞いていましたが、フラメルさんについて調べたようで」
「はい。蛙チョコレートについてくるおまけの、ダンブルドアのカードに書かれてました」
「ですが、そこから詳しい経歴を調べるのは大変でしょう。素晴らしい。
さて、ハグリッドさん、私はいくつか見逃すチャンスを与えました。一つ目は、これが生徒にバレないこと。もう一つは、私や校長先生など、他の教師に話すことです。次にこのようなものを手に入れたらちゃんと話してください。私だってドラゴンの誕生の瞬間とか見たいんですよ!」
「とっても私的な理由だった!」
思わずロンが突っ込む。そう言えばこの人、珍しい生き物とかには目がない人だった。
「す、すまん、鬼灯先生。見逃してくれんか」
「無理ですね。バラしてはいけないこともバラしてしまってるようですし……しかし、貴方をホグワーツから離すと森の動物たちが少しまずい。どうしたものか……」
「こいつが孵りそうな時に手紙を送る!これでどうだ?」
「………………」
ハグリッドの提案に、鬼灯が思案顔になる。少しして、結論を出した。
「…………うちの倉庫に一つ、どうしても効能を確かめたいものがあるんです。リリスさんの知り合いが作った魔女の薬なのですが……三つあるのですが、一つ飲め」
「強制!?」
「強制です。一つは『いつかはわからないが、でもいつか必ず突然尿路結石になる呪いの薬』。一つは『いつかはわからないが、でもいつか必ず突然全ての歯が虫歯になる薬』。それと、『こむら返りが定期的に来る呪い薬』。さて、どれがいい」
「どれも嫌だが、選ばないと……それじゃあ、虫歯にさせてもらう。マダム・ポンフリーに診て貰えば治るかもしれん」
「……スネイプ先生にご協力いただいたのですが、魔法では治せないようになっていますので」
ハグリッドは撃沈した。ハリーたちは苦笑いするしかなかった。
薬製作:マジカル・マリン
薬提供:レディ・リリス
薬改造:鬼灯、セブルス・スネイプ
ハリポタって基本真面目だから、鬼灯寄りの話作るとキャラが大変なことになる。
だんだんハグリッドが閻魔大王に見えて来た。
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慣れても怖いものはやっぱり怖い
某日、ハリーたちの元にハグリッドから手紙が届いた。『もう直ぐ孵るぞ』と。
薬草学の授業が終わると同時に、三人はハグリッドの家に向かった……が、そこには既に鬼灯がいた。
「……何でこんなに早く来れてるんですか?」
「午前中は授業がなかったので」
真っ当な理由である。決してどこぞの蝙蝠教師に代わってもらったわけではない。
ハグリッドがテーブルの上に卵を置き、今か今かと待ち構える。直ぐに、卵は割れてドラゴンの子供が出てきた。最初はヨチヨチとハグリッドの方に向かおうとしていたが、鬼灯の姿が目に入った瞬間立ち止まり、そちらに向かった。
「……やっぱり」
「あれ、最初は俺のことをママだと思っとったよな?何で鬼灯先生の方に行くんだ?」
「日頃の行いの差でしょう、ハグリッドさん。このドラゴンは一週間ほどしたらルーマニアに届けます。ウィーズリーさんの兄、チャーリー・ウィーズリーがドラゴンキーパーをしていますから」
そこまで言うと、鬼灯は小石を拾い、窓の外に投げつけた。グエッとうめき声が聞こえた。誰かいたようだ。
「チャーリーさんとの連絡は私の方で行います。また、ハグリッドさんとポッターさん、グレンジャーさん、ウィーズリーさんはおそらく罰則があるでしょう。ドラゴンの卵を隠そうとしていたわけですし」
小屋を出てスタスタと学校に戻っていく鬼灯。彼は金髪オールバックの少年を引きずっていた。
さて、話は飛んで期末試験。罰則の話は特に変わったところはないので割愛させてもらおう。
筆記試験の監督は鬼灯だった。それと、大量の金魚草。隠れてはいたが、座敷童子姉妹も監視していた。もちろん、実技試験の方も。今年は不正を行った者はいなかったようだ。
そして、その日の夜。ハリーたちは石を守るために隠し場所へ向かおうとしていた。寮のために立ちふさがったネビル・ロングボトムを倒して。
寮の外へ出ようとした時、不気味な声が聞こえてきた。
「何処へ行くの……?」
「お散歩ですか……?」
そーっと後ろを振り向くと、そこには何処かで見た白黒の双子が逆さまにこちらを見つめていた。
声にならない叫びを上げた三人はへたり込んでしまった。魔法やらゴーストやらに慣れたといっても、脅かされるのにはいつまでたっても慣れることはない。
「え、えーと……君たちは……?」
「座敷童子、一子」
「二子」
黒い方が一子、白い方が二子のようだ。安直な名前である。当人たちは満足しているようだが。
「鬼灯様に頼まれて見張ってた」
「石のところに行くんだったら案内するのと罠の解説をしろって頼まれた」
「ぶっちゃけ鬼灯様の試練が一番きつい」
「それさえ乗り切ればあとは楽」
スタスタと透明マントを被ってるはずの三人の前を歩き始める双子。ついて行くと、ゴーストにもピーブズにも、フィルチやミセス・ノリスとも会わずに扉の前に着いた。
「それではまた後で」
「鬼灯様の試練の前でお会いしましょう」
スタタタと何処かへ消えていった座敷童子に感謝し、三人は扉を開ける。まずはフラッフィーを何とかしなければ。
「鬼灯様、三人が石に向かった」
「あの人も向かった」
「ご報告ありがとうございます、座敷童子さん。お礼におはぎあげちゃいます」
「わぁい」
「わぁい」
「では、彼らが再現内熱沸処に差し掛かり次第、解説をお願いします。それと、突破したら私の元へ連絡を。今度はお赤飯とお小遣いあげます」
「わかった」
「行ってきます」
フラッフィー→悪魔の罠→鬼灯の試練→鍵鳥→チェス→討伐済みトロール→論理パズル
鬼灯様の試練までは飛ばします。特に変更点ありませんし。
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RPGは役割があって成立する
説明の部分は読み飛ばしてもいいですよ?
フラッフィーを出し抜き、悪魔の罠を退けて先へ進む三人。目の前には扉があるが、前に鬼灯の部屋で見たような、とても重厚な扉だった。
「多分、次は鬼灯先生のだと思う」
「ハリー、僕も同感だよ。この扉、先生の倉庫への扉と同じだ」
意を決して扉を開ける。そこには、
呆然とする三人の前に、スタッと座敷童子が舞い降りてくる。
「そんなわけで」
「解説に来ました」
「ここは内熱沸処と言います」
「日本の地獄の一つです」
「真面目な女性を惑わせて悪い行いをさせた人が堕ちる地獄です」
「五つの山を順番に越える、RPGみたいな地獄です」
「まずは『普焼山』。その名の通り焼ける山。たどり着くまで幻影の森が広がってます」
「次は『極深無底山』。底の無い火口が続く山で、上から落石もあるよ」
「三つ目は『闇火聚觸山』と言い、真っ暗な中で闇の炎が燃える山です」
「毒も吹き出してます」
次々と説明されて、ハリー達は混乱して来た。だが、まだ説明は終わらない。
「四つ目は『割截山』。地面がどんどん割れていきます」
「本来はその先に拷問が待ってるけど、今回は割愛」
「あくまで再現だからね」
「面倒だしね」
「最後は『業証山』。体じゃなくて精神にきます」
「鏡張りで淡々と業の証拠を言われ続けます」
「今回は意味がわかると怖い話に変更されてます」
「生きてる人の業証なんてわからないから」
「裁判してないのに拷問するのもあれだし」
「「以上、鬼灯様の試練の解説でした」」
現れた時と同じように、一瞬でどこかへと姿を消す双子。質問は一切受け付けてくれなかった。
ハリー達は顔を見合わせたあと、覚悟を決めて幻影の森へと足を踏み入れた。
森の中では特に何も起こらなかった。それだけで不気味ではあったのだが。
「鬼灯先生のことだから、森の中に悪魔の罠とかを設置してると思ってた」
「さすがにそれは……ありそうね。あの人ならやりかねないわ」
「金魚草はいたけどね」
ハリー達はため息をつくと、目の前の現実を直視することにした。焼ける山、『普焼山』。
「耐火性能を付与する魔法ってある?」
「防火・防水の魔法があるけど、これ、地獄の炎でしょう?効果あるのかしら」
「やってみなきゃわからないだろ。ほら、早くしてくれよ、ハーマイオニー」
「わかったわよ。〈
防火魔法を纏い、一気に駆け抜ける三人。炎は防げるが、熱さを避けることは不可能であり、さらに一気に山を越えたので、二つ目の山につく頃には汗だくになっていた。
「つ、次は底無しの火口だっけ?」
「上からの石もね」
「今回も、駆け抜ける必要があるかしら」
「……鬼灯先生の試練って、僕たちの体力を削りたいだけの試練なのかな」
ロンの呟きを、ハリーとハーマイオニーは否定することができなかった。
RPG=ロール・プレイング・ゲーム=役割を行う遊び
七話目でようやく魔法を使用。
まだ試練は続きます。
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忿怒よりも怖いのは微笑
第二の山、『極深無底山』。どれだけキツイのか、と覚悟を決めていた三人だったが、意外にも普焼山よりも楽に越えることができた。穴に落ちないようにして、ついでに頭上にも注意すればいいだけだったので。
「それでも、十分キツかったけどね……」
「問題は次の山よ。炎は防火魔法で防げるけど、毒はどうしようもないわ。前に読んだ本に、〈泡頭呪文〉って言う酸素ボンベみたいなのがあったんだけど、一年生には不可能な難易度の呪文なの」
「てことは、また駆け抜けることになるのかぁ……」
防火魔法を使い、第三の山『闇火聚觸山』を駆け抜ける三人。毒が体を蝕み、先ほどよりもさらに熱い炎が皮膚を舐める。フラフラになりながらも、無事、突破することができた。ロンの髪の毛が煤で黒くなって来たが。
「日本のテレビに、こんな番組なかったっけ……?」
「……『S○SUKE』……かしら?」
「わお、ニンジャみたいな名前だね!ところでテレビって面白いのかい?」
あまりマグルに関わることのなかったロンには、一般人出身のハリーとハーマイオニーの会話についていくことができなかったようだ。
休憩を終え、四つ目の山『割截山』に突入する三人。小細工なしに、反射神経だけで抜けなくてはならない。
「きゃあ!」
「ハーマイオニー、危ない!」
割れ目に落ちかけるハーマイオニーをハリーがすぐに引っ張り上げる。この山はハリーにとっては楽勝だったようだ。最年少シーカーの名は伊達ではない。
「さすが。ハリー、その反射神経を僕に分けてくれないかい?」
「やだね。ロンのお兄さんもシーカーだったんだろう?なら、ロンも持ってるんじゃないかい?」
「……私、この山だと役立たずね……」
五つ目の山『業証山』に辿り着いた三人。此処から入れと言うように、鏡張りの道が口を開いている。
中に入ると、すぐに分かれ道が。道の先を見ると、更に分かれ道が。
「…………迷路?」
〜試練設置の時の話〜
「さて、業証山はどうするか……浄玻璃の鏡を地獄から借りてくるわけにもいかないし……精神を削るようにはしたい」
「鬼灯様、悩み事?」
「私達でよければ手伝います」
「ありがとうございます、座敷童子さん。では、鏡張りの道で精神に来るようにしたいのですが……」
「迷路とかいいと思う」
「怖い話もいいと思う」
「あと、突き当たりで、なるべく怖い演出でイラッとくる言葉を」
「ホラー系のフリーゲームみたいな感じで」
「……なるほど、その手があったか」
〜そんな感じのやり取りがあり、今に至る〜
「……迷路の必勝法って、何かある?」
「日本の漫画に出て来たのだと、無意識に左を選びやすいから、右を選んだ方が安全って理論があったわ」
某鎖使い理論を元に、右へと進む三人。曲がり道の先には……行き止まり。
「……ほら、確率的には二分の一だから」
ハーマイオニーが苦笑いし、くるりと後ろを向く。その時、ベシャッという音が行き止まりの鏡から聴こえた。
ゆっくりと、ハーマイオニーが鏡を振り向く。行き止まりの鏡が映っている目の前の鏡には、何の変化もないが、確実に、何かが起こっていると直感が告げていた。
『ねぇねぇ、私達が某鎖使い理論を逆手に取らないと思った?あはははは』
真っ赤な絵の具で、イラッとくる言葉が書かれていた。
ハーマイオニーの周りの気温が急激に下がっていく。恐怖、そしておちょくられた怒りで。
(あー、赤絵の具の言葉ってゲームにあったなー。ダドリーが前にやってたフリーゲームに。結局、ダドリーは怖いって理由で最後までやらなかったけど)
ハリーは現実逃避した。
そして、ゆっくりと、ハーマイオニーが振り返る。もしもスタンド的な何かが見えるとしたら、ハーマイオニーの背後には般若、もしくは死神か何かが見えていたことだろう。
「さぁ、やるわよ二人とも。この迷路最速でクリアしなくちゃ。そんであの座敷童子にドヤ顔しなくちゃね?」
その時のハーマイオニーの顔を、十年以上後にロン・ウィーズリーはこう語る。
「いや、ハーマイオニーはいつも、怒ると怖いんですけどね。夫婦喧嘩の時のハーマイオニーが
参考:クラピカ理論、Ib
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蛮勇と勇気は紙一重
『業証山』の迷路を彷徨うこと十五分。どんな道を通っても、壁伝いに歩いてみても、出口が見つからない。
壁に隠し扉が有るんじゃないか、とハリー達は思案したが、それも見当たらない。
「ねぇ……」
「まさか、とは思うけど……」
「それは迷路にとって邪道よ……」
ハリー達に思い浮かぶ出口はあと一つ。それをハーマイオニーは否定したいが、否定できる要素がない。ついでに、怖い話が鬱陶しいため早く逃げ出したいのだ。
入り口へ戻った三人は、その周りを調べ始めた。すぐに、細い道が見つかった。
「…………やっぱり」
「鬼灯先生、性格悪い………」
ベチャッと、ハーマイオニーの目の前の壁に赤いインクの文字が現れる。
『見つかっちゃった。けど、遅かったね』
『次はもっと難しいの作ろうか』
ついでに、青いインクの文字も現れた。
ハーマイオニーは文字を無視して、通路を進み始めた。ロンがその横顔を見たとき、彼女の表情は『無』だった。ロンはハーマイオニーには逆らわないようにしておこう、と心に誓った。
ハリー達は進み、さらにいくつかの部屋を突破した。その途中でロンが脱落し、最後の部屋でハーマイオニーはハリーを先に進めるために、前の部屋へと戻って行った。
そして、鏡が置かれた部屋で、ハリーは一人の男と対面していた。
クィリナス・クィレル。
ハリーが予想していなかった人物だ。
「手短にしよう、ハリー・ポッター。彼に見つかる訳にはいかないからな。さあ、『みぞの鏡』の前に立て。何処に『石』があるんだ!」
何処からともなく現れた縄が、ハリーを拘束する。鏡の前に引きずり出され、そして──ハリーは賢者の石を手に入れてしまった。
一瞬、驚いた顔をするハリー。それを、クィレルは見逃さなかった。
「ほう、手に入れたようだな。何処に持っているのかはわからんが、石を渡してもらおうか……その前に、ご主人様がお前とお話しになってくれるそうだ。感謝するがいい」
クィレルは歪んだ笑みを浮かべながら、ターバンを解いていく。そして、後ろを向いた。彼の後頭部があらわになった。
そこには、もう一つの顔があった。
蛇のような、青白い顔だ。眼は真っ赤に染まっている。
「俺様が誰かは、言わなくてもわかるだろう……?ハリー・ポッター……俺様に石を渡せ。そうすれば、命乞いする時間ぐらいはやろう……そのポケットにある石をよこしたなら」
ハリーは後ずさりしながら、ポケットの上から賢者の石を掴んだ。そして、クィレルに──彼に取り憑いたヴォルデモートに言い放った。
「これは『蛮勇』だ。『無謀』な行動だ。だけど、今はそれで構わない。僕は──お前に──この石を──渡すつもりはない!」
ニタリ、とヴォルデモートが笑う。
「俺様は勇気を称える……確かに、お前の行動は『蛮勇』だろう。だが、それも一つの『勇気』だ。その勇気を称え、この身体で出せる全力で戦わせてもらおう……捕まえろ!」
バッとクィレルが襲いかかってくる。捕まる、とハリーが思ったその瞬間、
「どうもこんにちはそしてさようなら」
クィレルの顔面に太く黒く、硬い金属の棒がクリーンヒットした。
「ウグォッ!?」
金棒がぶつかった反動で、後頭部を地面に強打するクィレル。哀れ、ヴォルデモートは石の床とキスするはめになってしまった。
ハリーは後ろを振り向き、金棒をぶん投げた人物を見つめた。
「お疲れ様です、ポッターさん。説教などは無事に帰ってからにしましょう」
その言葉に、「ああ、結局説教はされるんだな」と思いながらハリーは意識を手放した。
入れ違いに、起き上がったクィレル/ヴォルデモートが血走った目を向ける。
「また……また貴様が邪魔をするのか、『鬼神』鬼灯ィィィィッ!」
「うわ、キモ」
怒り狂うヴォルデモートとは対照的に、鬼灯はヴォルデモートの見た目の感想を端的に述べただけだった。しかも冷ややかな目で。
次回、鬼灯様の貴重な戦闘シーンが!?
ただし更新日未定。
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傲慢な態度の敵が奥の手とか使ってもあんまり役に立ってない気がする
苦々しげな表情を鬼灯に向けるヴォルデモートだったが、一度息をつくと、落ち着いた声で鬼灯に語りかけた。
「鬼灯よ、貴様はあの世の住人、闇のモノだ。ならば光溢れる現世は生きにくいだろう?昔の問いの答えを聞かせてもらおうか。俺様とともに、マグルを、純血を裏切った魔法族を始末し、世界を闇に染め上げようではないか。さあ、答えるがいい、地獄の鬼神よ」
傲慢な態度で鬼灯に語りかけるヴォルデモート(ただし、向けている顔はクィレルの方)。
それに対し、鬼灯は袖の中をゴソゴソと探り、何かを取り出したと同時にそれをクィレルにぶん投げた。
「う○こ召し上がれ」
「ブベラッ!?」
投げられたガラス瓶は見事クィレルの口の中へ入り、割れた。そして、毒々しい色で粘性の液体が溢れ出した。
「ゴブッ……………」
「ウグゥッ!?な、なんだこの匂いは!おい、クィレル、どうした、返事をしろクィレル!!」
辺り一帯に名状しがたい匂いが立ち込め、クィレルは泡を吹いて失神した。今、クィレルの体が立ったままなのは、ヴォルデモートが体の操作権を乗っ取ったからだ。
「貴様…………一体何をしたァァァッ!!」
「丁寧に『クソくらえ』と言って、有言実行しただけです。最近とある漫画で、『クソくらえ』を丁寧に言ったら『う○こ召し上がれ』になると見たもので……一度言ってみたかったんです。ちなみに、投げつけたのは日本地獄の閻魔庁フンコロガシ
ヴォルデモートは怒りの表情を浮かべながらも、冷静に〈泡頭呪文〉を使う。周りの空気をシャットアウトする呪文だ。だが、
「な、なぜまだ臭い!?なぜだ!」
「ガラス瓶が割れた所から匂いを発するように、瓶に魔法をかけてもらったから、でしょうね。座標ではなく当たった場所なので、そこから動いても意味はないと思いますよ」
ヴォルデモートは激怒した。この暴虐な鬼神を排除せねば、と怒り狂った。懐から一つの巻物を取り出し広げる。そこには、ヘブライ語の呪文と精巧な魔法陣が描かれていた。
「まさか、これを使う羽目になるとはな……貴様も無事ではすまないはずだ……俺様の奥の手、もしもの時のために用意していた秘中の秘……魔王サタンの召喚陣を……!」
ちょこっと解説、召喚魔法
FFなどでおなじみの召喚魔法。強大な力を借り受けることができる優れものではあるが、ものによってはそれ相応のリスクがあったりする。
例えば、悪魔を召喚するのであれば、『○○月の○○日だけ』『火曜日だけ』など、とても細かい条件が決まっている。さらに、それに加えて対価も払わなくてはいけない。
条件が無くとも、召喚したモノが納得しなければ使役できない場合もある。自分よりも強い者にしか従わない、知恵を示さなければ従わないなど。おそらく、そんなことを全く気にせず召喚できるのは植物や炎ぐらいだろう。
また、召喚時に交わした契約は絶対であり、違えることがあれば対価を支払うことになる。
今回、ヴォルデモートがサタンに対して交わした契約は、
『一度限り、サタンはトム・マールヴォロ・リドルに力を貸す。トム・マールヴォロ・リドルは死後、その魂をサタンへと引き渡す。
トム・マールヴォロ・リドルが契約を破った時は、サタンは軍勢を用いてトム・マールヴォロ・リドルを滅ぼす。
サタンが契約を破った時は、以上全ての契約を破棄する。
以上を、ステュクスの河に誓い契約とする』
実名で無ければ契約が成立しないため、ヴォルデモートは本名を使用し、契約を絶対とするために、わざわざハデスの冥界にある、ステュクスの河に誓った。
ヴォルデモートはいずれ、とある秘宝を集め死を遠ざけ、サタンを返り討ちにするつもりであるため、この契約に同意した。
サタンは、魂は確実に欲しいがとある存在と戦うことは避けたいため、この契約にしたようだ。
それが収まった時、そこには、これぞ悪魔と言うようないでたちをしたサタンの姿が──
無かった。
「…………………………………は?」
ヒラヒラと一枚の手紙が、ヴォルデモートの目の前に舞い落ちてくる。ヴォルデモートは呆然と、手紙をキャッチして読み始めた。実に簡潔な手紙だった。
『すまん、
役目を終えた巻物が燃え尽きていく。それもわからないまま、ヴォルデモートは意識を手放した。理由は、『絶望』だった。
戦闘回(と言う名のヴォルデモート卿絶望回)でした。
作中の召喚魔法の理論についてはオリジナル気味なので注意。
う○こ召し上がれ…『銀の匙 SllverSpoon』14巻より
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一年の終わり
約百年前に、十王、並びに各補佐官の署名により臨時休暇を取ることに。
イギリス・魔女の谷の観光中、たまたま谷に来ていた当時のホグワーツ校長にスカウトされる。
ホグワーツに勤め始めたが、補佐官業務もあるため、天国から不死鳥を借りることに。不死鳥はフォークスの親。
地獄とホグワーツを行き来していたが、五十年前、大王以下、閻魔庁の勧めによりホグワーツの方に専念することに。この時、補佐官は伊邪那美命に譲渡している。また、このような場合どうすればいい、と言うマニュアルも作成し渡している。
現在は数年に一度、地獄に帰り大王をどついている。
ここで年表を確認して見ると、鬼灯様がホグワーツに来たのは1891年頃。ダンブルドアがホグワーツに入学したのは1892年。
と言うことで、ダンブルドア先生も鬼灯様の生徒だったと言うことが発覚した。
「それで、今年の夏はどうするのかね、鬼灯先生」
「いくつか用事を済ませて、あとは里帰り……ですかね。ああ、その前に、シュメール地獄のエレシュキガルさんからお茶会の誘いが来てましたからそっちが先ですね」
「エレシュキガル……メソポタミアの冥界神じゃのう」
「ペルセポネさんなども来るそうですので、参加しないと色々大変なんですよ。ティアマトさんも参加するかどうか迷ってると言うので…………」
「とんでもない名前が聞こえた気がするんじゃが。ペルセポネ神はともかく、ティアマト神?あの神は死んだのでは?」
「実際には封印に近いですからね。あの世であればある程度の行動は可能だそうですよ」
医務室、とあるベッドの横で、鬼灯とダンブルドアは話をしていた。ベッドにはハリーが眠っている。見舞いに来たものの、まだ起きそうにないので暇つぶしに話をしていたのだ。
「しかし……わしが校長になってから常々思っているんじゃが、君の上司になるとは……どうかね?今からでも校長になってみたら」
「大王にも話したことがありますが、私は副官ポジションとかが一番好きなんですよ。人に何かを教えるのも苦手ですし……それを考えると、一教師が性に合っている」
ハリーが身じろぎし、眼を覚ます。彼が最初に浮かべた表情は、安堵だった。
「鬼灯、先生……よかった、無事だったんですね」
「貴方に心配されるほど私は弱くないですよ。今回は説教はなしにしておきます。お大事に」
鬼灯は立ち上がり、医務室を出て行く。が、一度立ち止まった。
「金魚草サプリがありますので、是非使ってみて感想をお願いしたいのですが」
「遠慮しておきます」
今度こそ、鬼灯は医務室から出て行った。
ダンブルドアの後にはハーマイオニーとロンが来て、翌日にはハグリッドが見舞いに来た。ただし、ハグリッドは大きなタンコブをこさえていた。
「鬼灯先生に怒られちまった。俺が余計なこと言わなければ、お前さんが危険にさらされることはなかったんだってな。どっちかって言うと、機密情報を部外者や生徒に話しちまったことの方を怒られたんだが」
ハグリッドはタンコブを押さえながら、ハリーに一冊の本を手渡した。中には、ハリーの両親の写真が詰まっていた。
「お前さんの両親の学友から譲ってもらった写真だ。鬼灯先生も一枚持っててなあ。あの人が生徒の写真を持ってるだなんて、珍しいことだ。普段は廃墟や心霊スポットの写真ばっかりなのに」
鬼灯先生らしい、とハリーは笑った。そして、鬼灯はなぜ、ホグワーツにいるのだろうかと、少し気になった。
年度末パーティは盛大に終わった。グリフィンドールの一位が決まった途端、どこかでクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞った。姿は見えなかったけれど、あれは座敷童子の仕業だったのだろう。
プラットホームに着いた時、ふらりと、鬼灯がハリーの前に現れた。
「ポッターさん」
「鬼灯先生?どうしたんですか?」
「夏に、一度家庭訪問に向かわせていただきます」
ハリーが何か言う前に、鬼灯はその場を去ってしまった。少なくとも、今年の夏は、ダーズリー一家にとっては試練の夏になることだけは、ハリーにもわかったのだった。
エレシュキガルとティアマトはちょっとふざけました。
今作において、神の死亡=神が冥界(もしくはそれに相当する場所)の住人になる、と言うことです。ティアマトは殺されて封印されましたが、あの世であれば自由に行動できます。最近はアルテミスとともにスイーツにはまっているそうな。ちなみにエレシュキガルは花を育てるのにはまっています。
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鬼灯の面談 その一
七月某日──より正確に言うなら、ハリー・ポッターの誕生日の一週間前。
バーノン・ダーズリーは顔を真っ赤に染めて叫んでいた。
「だから、お前が言ってるその先生とやらは本当に来るのか!?ええ!?そもそもまともなんだろうな!」
「少なくとも、普通の魔法使いよりもマグルの知識には詳しいよ」
「この家でその言葉を使うんじゃないと何度言ったらわかるんだ!やはり、お前はストーンウォール校に通うべきだった!」
「僕に怒る前に、鬼灯先生を出迎える準備をしないと!あの人は礼儀とかに厳しいんだ!もし失礼な態度をとったら、大変なことになる……」
「…………ふん、いいだろう。で?その鬼灯先生とやらはどんなものが好きなんだ?言ってみろ」
「………………金魚?……ごめんなさい、あの人が好きな食べ物とか全くわからない。あ、おにぎりは?日本人だから」
「チッ、使えんな」
ドスドスと音を立ててリビングへと向かうバーノン。連れ添うハリーの手には、昨日届いた手紙が握られていた。鬼灯からの手紙だ。
この日のお昼頃に、ダーズリー家に向かう、と書かれた手紙。
ペチュニアが微かに震えていたが大丈夫だ、と判断したバーノンは、鬼灯と言う教師を、どうせ頭のおかしい奴だろう、と考えた。
しかし、それを聞いたハリーは、これまでこの家で過ごしてきた中で、見せたことのないぐらいに焦ったのだ。まずい、このままではバーノンおじさんが鬼灯に殺される……まではいかないだろうが、その一歩手前までは逝きかねない、と。
彼は必死に説得した。何度怒鳴られても言い続けた。それがようやく報われたのだ。
ハリーとペチュニアの手で、多くのおにぎりが作られる。同時に、ダーズリー家では誰も飲まない緑茶と麦茶も作られた。
「お前、鬼灯って人に何をしたんだい?」
ふと、ペチュニアから話しかけられた。
「助けてもらった。二回も」
「そう……一つだけ、話してあげる。リリーはね、いっつも楽しそうだった……学校から帰ってきたら、いつも変なことをしていたよ。けどね、学校での思い出話とやらを、私は一度だけちゃーんと聞いたの。それが、鬼灯って人の話。普段はとても厳しくて、絶対に怒らせてはいけない存在……人外の鬼神ってね」
それきり、ペチュニアは黙り込んでしまった。
お昼頃、ダーズリー宅のチャイムが鳴らされた。
誰もドアを開けに行かない中、一人だけ、動いた者がいた──ハリーだ。
ハリーは玄関の前で深呼吸をして、ドアを開けて鬼灯を迎え入れ──とても驚いた。
「角が……無い……!それに、耳も尖ってない」
「ある薬を飲んだので。あとで説明します」
今の鬼灯は普通の人間に見えた。少なくとも、人外には見えないし、魔法使いにも見えない。角の無い額、尖っていない耳、黒いスーツ。どこから見ても、マグル社会で働くサラリーマンだ。
「ダーズリーさんは……リビングですか。では、お邪魔いたします」
こうして、ダーズリー一家にとっての地獄が、始まるのだった。
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鬼灯の面談 その二
「初めまして。ホグワーツ教員の鬼灯と申します」
「バーノン・ダーズリーです。こちらは妻のペチュニア。そして息子のダドリーです」
二人──いや、一人と三人の邂逅は、この一言から始まった。
「ペチュニアさん……ああ、リリーさんのお姉さんですか」
「ええ、そうです。妹からあなたのことは聞いていますが……人間ではなく、鬼である、とも聞いているんですが」
鬼灯に茶を出しながら、ペチュニアが質問する。それに対し、鬼灯は懐中時計を取り出し、時間を確認した。
「?どうなされました?」
「いえ……あと一分、と言ったところでしょうか」
ダーズリー一家とハリーが首を傾げた途端、鬼灯のの耳が動き出し、尖り始めた。同時に、角も生えてくる。
「なっ…………」
「ホモサピエンス擬態薬、と言う薬がありまして……一口で一時間ほど人間に擬態できる薬です」
鬼灯がバッグからその薬を取り出すが……その瓶は、致命的にキモかった。なんとも言えない顔が瓶のコルクに描いてあった。
「私が家庭訪問に来た理由ですが……ハグリッドさんからの報告で、彼が迎えに来た時のポッターさんがとても痩せていて、貴方方に色々と言われていた、と……まあ、ハグリッドさんが魔法を使ったことは厳重に注意しておきましたので」
「できれば、この家の中でその言葉を──『魔法』と言う言葉を使わないでいただきたいのですがな。わしやペチュニアは、そのような非科学的なものが嫌いなもので」
「そうですか。では、本題に入らせていただきますが……ポッターさんの待遇改善を求めます。これまで貴方方が彼に対し
「人の家の教育に口出しするのは、いい事とは言えないとおもうのですがな?」
「ええ、それはわかっています。現世の者に対して色々と言うのは、立場上やるべきではない行為で…………あ、その仕事辞めてホグワーツにいるんだった」
話の合間合間におにぎりを食べる鬼灯。話に加わらずに横から見ていたハリーは、おにぎりの消費スピードが早いことに気がついて、追加を作ると言う名目でキッチンに避難した。
「それに、ダドリーさんについても二つほど。肥満は死にやすくなります。暴飲暴食は寿命を縮め、
「うぐっ……しかし、それを言えるほどお前は偉いのか?それを経験していない者に言われたくはない!どうせ、まともな教育を受けていないだろう!」
「ええ、みなしごですから人だった時に教育は受けてませんね。そもそも神代の山奥の村ですし、まともな教育機関がありません」
「ほうら、見ろ!さあ、さっき言ったことを撤回しろ!」
「まあ、生贄にされて死んで、鬼として復活したんですけどね。会社でもよくあることでしょう。上司の不正の身代わりとして末端の人間が切り捨てられる……そうなった時、彼は絶望しないでいられるでしょうか。努力して入った会社だろうと、親のコネで入った会社だろうと」
「お前に常識はあるのか!ええ?あったら人の息子をボロクソに言うことなどないだろうがな」
「ありませんよ。私は今、貴方方の今までの教育態度をへし折ることだけに尽力してますので」
言いたいことを言ってスッキリしたのか、鬼灯が立ち上がる。
「では、これで失礼しますが、最後に一つ」
「ふん……一体なんだ」
頭を下げた鬼灯に、バーノンが傲慢な態度で問う。その途端、鬼灯から闇としか形容できないオーラが溢れ出た。
「もし、待遇が改善されなかった場合についてですが……私は昔、日本の地獄で獄卒をしていましたが、閻魔大王──こちらで言うサタン王やハデス王のような人に、弧地獄の使用許可を貰っています。本来なら生者を刑場に連れて行くような真似はしませんが、私の生徒に手を出すようなら話は別。弧地獄は人によって刑が変わる地獄でして……その人にとって一番辛い仕様になります。貴方方に使用することになったら、私が直々に監督させていただきます。納得がいかないようなら、私個人に対して果たし状でもお送りください。その時には喜んで、貴方方を金魚草のエサにしてあげますので」
頭を上げた鬼灯は、ホモサピエンス擬態薬を飲むと玄関へ向かった。
その後ろから、ハリーが包みを持ってついてくる。
「どうしましたか、ポッターさん」
「いえ、その……ありがとうございました。これ、おにぎりです」
「ああ、ありがとうございます」
こうして、ダーズリーへの地獄は終わった。しばらくの間、ハリーは平和に過ごし、バーノンやダドリーはハリーへの嫌がらせを控えるようになるのだった。
うむ……出来栄えに納得がいかない。鬼灯様ならもっとシンプルかつより心を抉るようにするはずだ。これでは生温い。
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職員会議
決してエタった訳じゃないからね!
前回のあらすじ
鬼灯様による言葉責めの数々!くっ、作者にもっとドS力があれば鬼灯様の言動を再現できたのに!!
どうなる、ダーズリー家!どうなる、バーノン!商談は成功するのか!?(*原作通りドビーがケーキぽいっ)
「………………これは」
休暇旅行から帰ってきた鬼灯の机の上には、書類がいくつか置かれていた。手に取り確認してみると、新任教師の確認や予算案、その他、本来なら校長が確認すべき書類だった。
「………確認はしますが、あの爺一ヶ月おやつ抜き」
故郷、日本地獄のお土産である黒縄地獄の岩から作った絵の具(提供:茄子)を机に置き、書類を確認し始める。が、そのスピードは早かった。ほとんど迷わずに、色々と決めて行った。
「給料……ちゃんと均等かつそれぞれの仕事量にあった給金になってますね。良し。マンドレイクの追加……良し。絶命日パーティを開きたい?……本人負担とするならいいでしょう。新任教師の書類まで私に回すな……おや、彼は」
手に取った書類には、『ギルデロイ・ロックハート』と書かれていた。
九月一日。ホグワーツ魔法魔術学校では緊急の職員会議が行われていた。ホグワーツ特急に乗り遅れた生徒が居たのだ。
五年に三人ほどは居るが、一度に二人も乗り遅れることは少ない。
「迎えに行くべきではありませんかな。無論我輩は毛頭行く気がありませんが。どうせハリー・ポッターは問題を起こすでしょう」
と、セブルス・スネイプ。
「ええ、私もそれには賛成です。けれど、彼らを信用してあげてはどうです、セブルス」
と答えたのはミネルバ・マクゴナガル。
「彼らも目立ちたい盛りなんでしょう、ええ、私にはわかりますとも!ははははは!!」
と笑うのはギルデロイ・ロックハート。
『全部鬼灯先生に任せる』
とプラカードを置き、「わしのおやつ…………」と項垂れるのは
そして、それらを腕を組んで見るのは鬼灯。
静かになったタイミングを見計らって、口を開く。
「話し合いもいいですが、前例があるでしょう。ポッターさんが乗り遅れたからといって変えることはありません。彼らがどのような手段を取るか待ちましょう。
マクゴナガル先生はふくろう便が届いた時に行動出来るように待機していてください。スネイプ先生はフリットウィック先生と共に大広間の飾り付けを。スプラウト先生は幼マンドレイクのお世話。爺は項垂れてないで仕事しろ」
以上、とばかりに立ち上がり、会議室を出て行く鬼灯。いつものことだ、と言わんばかりに、他の先生たちも立ち上がり、各々の持ち場へと戻って行った。
「あれ、私に対しては?鬼灯先生?ほーおーずーきーせーんーせーいー?」
ロックハートを除いて。
校庭の『暴れ柳』に中古の空飛ぶフォード・アングリアが激突するまで、あと数時間──。
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激突後
ハリーとロンは正座していた。
より正確には、すっごく特徴的かつ恐怖を感じる顔の人形やらお面やらに囲まれて正座していた。そして、膝の上には教科書などでの重し多数。
なぜ、彼らはこんな目にあっているのか。その理由は、つい三十分ほど前にさかのぼる。
ホグワーツ特急に乗り遅れ、空飛ぶフォード・アングリアによりホグワーツ城へと向かっていた二人は、エンジントラブルにより太い木に──『暴れ柳』に激突し、車はそのまま逃走、二人は息絶え絶えにそこから逃げ切れた。そして、窓からこっそりと大広間を覗く。
「──スネイプが居ない」
「それ本当?とうとうクビになったんじゃないか!?」
「静かに!鬼灯先生に見つかったらマズいよ。一体どんな罰則を宣言されるか…………でも、スネイプが居なくなったのは嬉しい──」
「もしかしたら、その人は君たちを待ち構えているのかもしれませんなぁ」
背後から声がした。
バッと振り向いたその先には、ギラギラと眼を輝かせたスネイプが立っていた。
「我輩は君たち二人が汽車に乗っていなかった理由をお伺いしようとここに来た。やはり、問題を起こしてくれましたな、ウィーズリー、そしてポッター!ついてきなさい!」
マントを翻し歩き出すスネイプ。彼が向かったのは地下牢にある、研究室だった。
「有名かつ尊大かつ自惚れているハリー・ポッター殿とその忠実なるご学友ロン・ウィーズリーのお二人は、あの汽車ではご不満であり、もっと皆を驚かせるとんでもない方法でご到着になりたく、ついには実行してしまった。そういう事ですかな?」
ハリーは抗議したが、スネイプは聞く耳を持たず、『夕刊予言者新聞』を投げ渡した。そこには、彼らが乗ってきた車のことが書かれていた。
「行ったことがいかに愚かなことかわかったかね?
もう一つ、君たちが絶望するであろうことを申し上げよう。君たちが傷つけた『暴れ柳』は非常に貴重であり、かつ────鬼灯先生のお気に入りの一つでもある」
途端に、ハリーたちは固まった。そして、青い顔で震えだし、それを見たスネイプはニィ……と顔を歪ませた。
「至極残念なことに、我輩にはお前たちを退校処分にする権利はない──ゆえに、権利を持つ人物を連れてきてやろう。二人とも、ここで待つように。でなければ………あとは、おわかりですな?」
スネイプが出て行ったあと、二人は──特にハリーは──走馬灯を見ていた。これならヴォルデモートに路地裏の曲がり角で激突した方がマシだ、と。
この先のことについて、ハリーもロンも詳しくは覚えていない。ただ、退学にはなっていないこと、そしていつのまにかジャパニーズホラーな部屋で一時間正座させられ、終わった後に座敷童子に足をつつかれたこと、そして、1週間の間の全ての男子便所掃除手伝いとその他いくつかの罰則で済んだことだけは、頭に残っていた。
すっごく特徴的かつ恐怖を感じる顔→何かに使えるかも、と鬼灯様が一年に一度、日本地獄からもらってる。作っているのは孤地獄の契約デザイナー。
二人がどんな目にあったかはご想像にお任せします。
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