べるぜバブ 嫉妬の罪の契約者 (all)
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バブ1
昔々、あるところにそれはそれはハンサムで、かっこよくて、モテモテでみんなに尊敬されまくっている、
心優しい若者がおりました。
「全員土下座」
『まてまてまて』
俺、毛利春希と中学から仲良くなった古市の声が重なった。
「む」
「いや、『む』じゃないから。開口一番が『全員土下座』って暴君じゃねーか!!」
「ホントだよ、どこが心優しいんだよ。男鹿の話は突っ込みどころしかないんだよ」
「ばかめ。古市お前ばかめ。お前の母ちゃんでべそ!」
「でべそじゃねーよ。て言うか何で俺だけ?」
同じく中学から仲良くなった男鹿の言葉に呆れつつ、この部屋の外にいるであろう強い魔力を持つ悪魔を気にする。
…どーすんだよ、これ。古市とゲームやってたら急に男鹿がやって来て、一人語りを始めた。しかも部屋の外には男鹿が連れてきたであろう悪魔、しかもかなり上位ときた。まあ、俺と
「まあ、それはいいけど俺はそろそろ帰るから」
「あ?なんかあんのかよ」
「ばっか、男鹿。あれだよ、あの毛利の子供」
「ああ、そういやいたな。なんだっけ?ルビーだっけ?」
「レヴィな。あと子供じゃない。訳あって育ててるだけだ」
「でも、パパって…」
「そう呼ばれてるだけだ」
言える分けないよなあ。あの七大罪の一人、レヴィアタンの娘と契約してるなんて。信じるとも思わないだろうし。ホント、あの時は驚いたよ。ジジイが子供つれてやって来て、「このレヴィ様と契約してくれ」何て言うんだもの。幸い、海外での仕事で親が全く帰ってこない一人暮らしのような生活なので問題はないが。
「じゃあ、またな。アイツに泣かれるとキツイんだ」
凍りついてしまう。
「今の男鹿と二人きりにする気かこの野郎」
「おーう。またなー毛利。ルビーによろしく」
「だからレヴィだっつてんだろアホ」
部屋を出てすぐに、緑色の髪で裸の赤ん坊がいるが、俺はなにも見ていない。
「アダッ」
…俺はなにも見てない。
**
一人暮らしには少しばかり広すぎる我が家につき、扉に手をかけ、軽く深呼吸をする。
「よし、ただいま…ゴフッ」
「おかえりパパーーーー!!」
家のドアをあけると同時に突っ込んで来る水色の長髪の幼女を受け止める。俺の事をパパと呼ぶこの幼女は先程も話した(話してない)悪魔、レヴィアタン二世だ。もっと長いフルネームだったけど、忘れてしまったからこれでいいだろう。
「ただいま、レヴィ。いい子にしてたか?」
「言われた通り物も凍らせてないし水で壊したりもしてないよ!」
「よし、いい子だ。それじゃあ少し早いけど夕飯の支度を始めるか。手伝ってくれるか?」
「うん!」
天真爛漫な俺の契約悪魔を見ながら苦笑いして、外出用の服から部屋着に着替えるために服を脱ぐ。
上半身裸の俺の右胸には、蛇のような模様『蛇王紋』が刻まれていた。
あと、帰る途中に古市の家から何か轟音が聞こえたり猛獣の鳴き声のようなものが聞こえた気がしたけど、やっぱり気のせいだよな。
**
次の日、俺は学校の廊下を歩いていた。
石矢魔高校。それが俺の通っている高校であり、不良率120%という県下有数の不良校である。
当然、こういう奴らもいる。
「よう毛利」
「てめえ調子に乗りすぎなんだよ」
「ちょっと面貸せや」
3人か…さっさと終わらせよう。
俺の顔を覗きこむように睨み付けてくるピアスを着けた男の体に手の側面を密着させる。
「は?」
男が呆けた声をあげると同時に強く踏み込み、掌を押し出す。
「『浸透勁』…」
中国の武術の一つである技を使い、相手に強い衝撃を与える。男は軽く10数メートル吹き飛び、校舎の壁にぶつかってようやく止まる。起き上がってくる様子は…無いな。レヴィの力を使わずにやるんだったらこれぐらいか。
「次、誰が来る?」
『う』
「う?」
『うわあぁぁあああ!!』
ワオ、まさかの全員逃亡かよ。そんなんでよく不良なんてやってんな。
それにしても、男鹿に負けないように色々な中国拳法やってみたけどかなり極めてきたんじゃないか?
「!?」
急に感じた強い魔力にとっさに振り返る。この魔力…昨日の赤ん坊か…。しかし、昨日より断然強い。契約者を見つけたか?つまりそれは…
「やっぱり、お前だよなあ…」
「お、毛利じゃねーか」
「男鹿、お前の背中にくっついてるのって…」
「ああ?ベル坊のことか?そういや昨日途中で帰ったな、お前。俺、魔王の親になったみたいなんだよ…」
「知ってるよ。まさか魔王とまでは思わなかったけど」
「どういうことだよ?」
「つまり、――俺も悪魔と契約してるってことだよ」
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バブ2
「って訳で、俺も悪魔と契約してるんだよ」
「いやいやまてまて」
「なんだよ古市?」
昼休みに、屋上で俺の秘密、悪魔と契約してる事と、その経緯を男鹿と古市に話した。
「なんだよじゃねーよ!いきなり過ぎるだろ!信じられるか!て言うか、男鹿は何でそんな平然としてんだよ!」
「古市、お前やっぱアホだな。魔王がこの世界にいるくらいならいてもおかしくないだろ?」
「男鹿にはアホとか言われたくねーよ!」
「まあ、そういうことだから。これは証拠」
制服を脱いで上半身を露出する。紋章使いの俺は蛇王紋を消せるので基本は消しているため、再出現させる。俺の右胸に蛇のような模様が浮かび上がる。
「これは『コントラクトスペル』っていってだな、悪魔と正式に契約した証だな。いつか男鹿にもでる」
「冗談じゃねえ!」
「うわっ、ビックリした」
「急に大声出すんじゃねーよ」
魔王との契約なんて名誉なことだろうに。それで死んでしまえばもとも子もないけど。
「でも、15m以上離れているじゃん」
「俺とレヴィの場合は範囲広すぎて分からんが、少くとも20km以上だな」
実際、俺の場合は離れるより構ってやらない事の方が危ないんだよな。凍ってしまう。
「これで俺の秘密は明かしたぜ。ちょっとトイレ行ってくる」
男鹿たちに背を向け、屋上から去る。とっさにトイレに行くと嘘をついたが、しょうがない。先程からからずっと殺気を向けてくるやつがいるんだから。
**
「ここでいいか」
やって来たのは校舎の中庭。人気はないから、殺気を向けてくるやつが出てくる筈だが…。
「貴様は、何者だ?」
「あんたか…俺に殺気を向けてきてたのは」
俺の目の前に現れたのは、金髪ゴスロリという格好の女だった。一瞬女だったことに落胆したが、どうやら彼女は悪魔のようだ。
「七大罪の一つ、嫉妬の罪のレヴィアタンと契約したただの一般人だよ。侍女悪魔さん」
「七大罪だと!?坊っちゃまの邪魔をする気か?」
「あ?人類滅亡的なやつの事?別に邪魔はしないよ。
「なるほど、今のところは、か…。ならば今のうちに排除するに限るな!」
女が叫ぶと同時に俺の視界から消え、背後に回り込む。俺はとっさに振り返り構えをとって女がどこからか取り出した剣が制空圏に侵入すると同時に弾いた。
「速いな、レヴィの力を使わないとまずいか?」
「さすが、七大罪の契約者だな。今のを防ぐとは」
「お褒めに預かり光栄です。次はこっちから行くぜ」
自身の最速のスピードで女に近づく。今の俺の全力を試すいい機会だ。レヴィの力に頼らずやってやろうじゃねえか。
「なっ!?」
初手は単純な掌打。意外と速かった事に驚いたのか、俺の掌打は女の腹に当たる。が、いかんせん悪魔相手には効果が薄い。そこまで苦しい様子はない。だから…
「『天王托塔』」
突き出した右手と同じ方の足、つまり右足を強く踏み込んで掌打の威力を底上げする。女は数メートル吹き飛ばされながらも、踏みとどまる。
「やるな…」
「あんたはそうでもないな」
「(武術の心得があるのか…。足運びや先程の掌打、単純なものではあったが完璧だった。あれは達人クラスだぞ。現時点では、悪魔の力を使わない戦闘なら男鹿以上だ)」
そうでもないとはいったがヤバイな。全力でやられるとまずい。さて、どうしようか…。
**
「た、ただいま…」
あの後、女が全力を出してやられそうな時にベル坊、大魔王の子息の雄叫びっぽい叫びが聞こえ、女はそっちに向かった。あのまま続いてたら、どうなっていたことやら。
「おかえりーーー!って、パパどうしたの!?」
「ゴメン、ちょっとケンカで怪我しちまった。けど、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないよ!」
いつもの如く俺に突っ込んできたレヴィに傷について説明する。レヴィは俺がケンカで怪我をするのが珍しいからか、かなり心配している。
「明日から私も一緒に学校行く!」
「え?いや、ちょっと待て!どうしてそうなった!」
「パパが怪我しないように付いていくの!」
頑固なレヴィには何を言っても無駄かな…。今回のは自業自得だし。
ハア…憂鬱だ。
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