二人に掛けられた魔法のお話 (日々はじめ)
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第一話 魔法のクスリ

氷川姉妹の尊さに脱帽…。七夕イベントとてもよかったです…。10000円課金して氷川姉妹どっちもお迎えできませんでした…。課金上限が憎いッ!?


 私の妹は天才だ。数分速く生まれただけで姉として尊敬されその期待の重みに耐え続ける日々。それはとても、辛かった。何事も一回でこなす妹が、羨ましく、それと同時に憎くもあった。

 

 氷川日菜。彼女のような才能がとても欲しかった。だけど、私は凡人だ。いくら足掻こうが、いくら努力しようが、『天才』に『凡人』は勝てない。それが通りであり決められた定めだから。

 

 「お姉ちゃん?どうしたの、悩み事?」

 

 場所は家のリビング。そこでこのようなことを考えていた氷川紗夜の顔を心配そうに覗き込む一人の女の子。私を悩ましていた元凶氷川日菜の顔だった。

 

 日菜の顔はとても整っている。仮にもアイドルバンドに所属するぐらいの美形に顔を覗き込まれたら姉の私でも少し赤面してしまう。

 

 頬に薄らな赤みを感じとるといつものように強く当たってしまった。

 

 「日菜には関係ないでしょ、ほっといて!」

 

 そこでハッとなる。いつものように怒鳴ってしまった。日菜は私のことを心配してくれた、にも関わらず怒鳴り散らした。これが私なら怒っていたに違いない。

 

 しかし、日菜はバツの悪そうな顔で申し訳なさそうに呟いた。

 

 「そう、だよね…。ごめんね、お姉ちゃん。私、自分の部屋に行ってるから」

 

 そう言って早足で階段を駆け上がっていく。

 

 「あっ…ひ、日菜…」

 

 紗夜の呼び止める声は日菜の耳には届くことはなかった。日菜の姿が消えると同時に罪悪感が体を支配した。胸が締め付けられるようだった。

 

 「――ごめんなさい」

 

 謝罪の声も、決して届くことはなかった。

 

 ■■■

 

 「はぁ~…」

 

 氷川日菜は自室のベッドへ腰かけ溜息を吐いた。理由は先ほど一件だ。ここ最近紗夜の日菜嫌いが顕著に表れてきている。姉に嫌われる、慕っている身としては相当答えるものがある。

 

 「どうしてこうなっちゃったんだろう…」

 

 体をベッドに倒し天井を眺めながら紗夜の顔を思い浮かべる。

 

 昔は仲のいい姉妹だった。何処へ行っても一緒に行って手を取り合い仲良く笑いあっていた。公園で遊んで私が怪我するとお姉ちゃんが心配してくれて泣いてくれた。『ひなぁ…死なないでぇ…』泣きながらそういったことは今でも覚えている。たかが擦り傷で死ぬわけがないのだがそこまで心配してくれた時はとても嬉しかったので今でも鮮明に覚えている。

 

 しかし、中学に上がるころから様子が可笑しくなってきた。鋭い視線、冷たい声音。どれも日菜に強い刺激を与えた。そして、高校に上がってからはそれはより一層ひどくなっていた。声を掛けるだけで怒られ、目もあまり合わせてくれない。

 

 気持ちがとても沈んでいく気がした。

 

 「―――」

 

 ハァと二度目の溜息をつく。このどんよりとした気持ちはドドーンとしてバーンでよくないものだ。

 

 日菜はよしっ!と声に出し両の手で頬を叩く。ちょっと強く叩きだしたのかいったぁ~!と声に出す。

 

 「明日はるんっ♪となるような出来事見つけて気分転換しよう!」

 

 幸い、明日はレッスンがないのでオフだから知人でも誘って町にでも行こうかな。横目で、壁においてあるギターを眺めながら日菜はやっぱりと思う。

 

 「一人で行こうかなぁ…」

 

 ■■■

 

 ザーッという雨の音で日菜は目を覚ました。普通なら雨の日に一人で出かけるのは躊躇うのだが彼女にはソレが一切なく淡々と準備をした。

 

準備を終え、ドアノブを回し扉を開けるそこには姉の紗夜が眠たげに眼を擦りながら立っていた。

 

 「お、お姉ちゃん!?」

 

 時刻は短針が9を少し過ぎたあたりだ。本来この時間はとっくに起きていている紗夜だが今回は眠たげにしていた。

 

 なんで、と思うと手に傷があることに気付いた。

 

 あっ、そうか。夜遅くまでギターの練習をして…。けど、お姉ちゃんが寝坊するなんて。

 

 「お、お姉ちゃん?」

 

 いつまでたっても動く気配がない紗夜に日菜は問いかける。すると、紗夜はボーッとこちらを見つめる。

 

 「日菜…」

 

 久しぶりに怒気を含まれない声で話しかけられたことにドキッとしながら答える。

 

 「な、何…?」

 

 明らかに可笑しい。いつもなら話しかけることなく事が済むのだがそうなってはいない。もしかして、お姉ちゃん寝ぼけているのかな…。

 

 そう思い意識をはっきりさせるため体を揺さぶろうとする、――と束の間紗夜が突然両手を広げ

 

 「ちょ!お姉ちゃん!?」

 

 「日菜ぁ…」

 

 抱き着いてきた。

 

 ちょっと、これ寝ぼけているとかそういうレベルじゃないよ!う、嬉しいんだけどふくらみとか鼓動とか伝わってきて、恥かしい~~~ッ!!!というか、お姉ちゃん体重掛けすぎ――わっ!

 

 日菜は紗夜に抱き着かれると床に尻餅を付いてしまう。紗夜は日菜の胸に顔を埋めて甘えた声を出す。

 

 「日菜ぁ…」

 

 「お姉ちゃん…」

 

互いに赤らめた顔を見つめ合う。紗夜が何か言いだそうとすると半目に開けられていた両目が完璧に開かれた。つまりは、そう目が覚めたのである。

 

 紗夜は最初戸惑いの顔つきなるがすぐに顔を赤く染め上げていき鯉のように口をパクパクし始めた。傍から見ればとても面白いものだろう。

 

 「なっ…なっ…!!」

 

 紗夜が自分の置かれた状況に理解しようも上手く頭が回らなく言葉が思ったように出なかった。

 

 どうするどうする!日菜の頭の中はこの窮地をどう切り抜けるか、それだけに天才的頭脳が今までにないほど働いていた。

 

 事故だと説明する?いや、これだと戸惑っているお姉ちゃんに聞き入れることはないかも。

 

 続ける?って、何を続けるっていうの!落ち着いて、わたし!!

 

 挨拶?うん、そうだこれだ。挨拶は一日のスタートの象徴だもんね。別にもう現実逃避してるわけじゃないよ?

 

 「お、おはよう。お、お姉ちゃん」

 

 

 「――お、おはよう」

 

 

 紗夜がそう言うと駆け足で部屋に戻っていった。これで解決したと言えば楽になるのだが日菜は少しばかりの恐怖心を味わっていた。

 

 お姉ちゃんの目、あれ他言したら承知しないわよって言ってるよぉ~…。

 

 そう思いながら腰を上げ玄関へと向かう。

 

 両親に出掛ける趣旨を伝え玄関の扉の前で小さく行ってきますといった日菜がドアノブを回し外に出ようとしたとき

 

 「い、いってらっしゃい」

 

 小さい。けれども、耳に届いた『羨望』の姉の声。日菜が驚いて振り向くとそこには階段の陰から顔をピョコっと出した紗夜がいた。紗夜は日菜が振りむいて目が合った瞬間すぐに体を引っ込める。日菜はその行動に思わず可愛いと思ってしまった。なんというかこうデレに入ったヒロインを見るかのようで。

 

 日菜は驚きで目を見開きそのあとに扉を開け外にでる。傘を広げ小さな体をすっぽりと入れる。傘で隠れた口元は少しだけ微笑んでいて少しだけ雨が弱くなったような気がした。

 

 ■■■

 

 お、落ち着いて私!一回状況整理をするのよ!!!

 

 妹の日菜を押し倒している姉。これは傍から見れば近親相姦を思わせる。何故なら互いの頬は赤く染まり口元からはいろっぽい息遣いが聞こえているのだから。これが親に見つかりでもしたら一大事だろう。

 

 そうよ、私は夢の中にいた…。いえ、もしかしてあれは現実!?妙にぽわぽわしてて気持ちよくて居るはずのない日菜がいたからてっきり夢かと…。あぁ~~!!本っ当に何してるの私!夢だからって日菜にあ、甘えてしまうなんて!!

 

 紗夜が、本来の自分で接してしまったことに酷い後悔を覚えた。紗夜は日菜を嫌っている。これは日菜の中での考えだが実際は違う。

 

 紗夜は、日菜を愛している。

 

 無論、家族愛でという意味である。天才と凡人だろうが家族は家族、私を悩ませ、私を困らせ、私を愛してくれる、氷川日菜は氷川紗夜の家族である。これらすべてをくくって氷川日菜だ、だからこそ表面上は強く当たってしまうが内心は昔のようにまっすぐ日菜のことを見つめて話をしたいと思っている。だが、心が勝手に嘘をつき上手くいかずにいつも空回りしていた。

 

 だからこその甘えるという行動に出てしまったのだろう。

 

 すると、救いの手が予想だに出来ないところから差し伸べられた。

 

 「お、おはよう。お、お姉ちゃん」

 

 日菜が朝の挨拶をしてきたのだ。そこで紗夜は理解した。日菜の、天才の言いたいことが。凡人であり天才に憧れ続けた自分だからこそこの結論に至ることが出来た。

 

 そう、いうことなのね。日菜、貴方はこれらを一切何もなかった。ここで挨拶をしてそれで仕舞い、そういうことにさせる訳ね…。まさか、日菜に救われるわけになるなんて…。(※ただの紗夜の勘違いで日菜のこれはただの現実逃避です)

 

 なら、私がすることはただ一つ。

 

 「――おはよう」

 

 挨拶を返す、これに限る。あと、目線で一応感謝の意を伝えておかなきゃ…、ふ、不本意ですけど!!

 

 そう言って、紗夜は駆け足で自分の部屋に駆け込み扉に背を向けてずるずると腰を下ろす。

 

 「――ハァ」

 

 もうこの溜息は何度ついたかもわからない。日菜との関係が爛れてから溜息は良くつくようになった。

 

 「一体私はどうしたいのかしら…。いえ、それはもう知っているわね。日菜の前で素直でいたい、一緒に笑って、たまには喧嘩して、そういう普通の姉妹になりたいのよね…」

 

 まぁ、それは無理な話だけど、と。付け加える紗夜の眼には悲しみが宿っていた。私にはまだ日菜と向き合うだけの勇気がない。切っ掛けもない。

 

 ただ最愛の妹の名前を言うぐらいしか…。――でも、立ち止まって後ろだけを見ることはとても良くないことだ。立ち止まるのはたまにでいい、後ろを振り返るのは失敗したときだけでいい。いつだって前を向かなきゃ進めない。それを私は今所属するバンドRoseliaから教わった。

 

 ――少しぐらい素直になってみようかしら。

 

 紗夜が少しの踏ん切りをすると玄関のほうから声が聞こえた。日菜の声だ。

 

 日菜…。出かけるのかしら?

 

 そう思うと次の行動は早かった。扉を開け階段の陰に体を隠し少しだけ顔を出して――

 

 「い、いってらっしゃい」

 

 小さな一歩を踏み出した。

 

 

 ■■■

 

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 傘をくるくる回しながら日菜は気分よく人混みを歩いていた。傍から見ればなんだあいつと思われるが日菜はアイドルだ、ひそひそ声でもしかしてという声しか上がってこない。

 

 どうしよ、お姉ちゃんにいってらっしゃいって言われちゃった!!――久しぶりだったなぁ…。ああいうの。

 

 日菜は嬉し気に微笑む。

 

 「せっかくだし、お姉ちゃんに何か買ってあげようかなぁ…」

 

 日菜がそう思い何かを買おうと考えるとふと路地のほうに一つの店があるのを発見した。

 

 あれ…?あんなところにお店なんてあったっけ?けどあれって俗にいう隠れた名店っていう奴だよね!入ってみよう!!

 

 好奇心の塊の日菜は何も疑うことせずその店の扉を開ける。

 

 「こんにちわ~」

 

 店内はこざっぱりとしたものだった。あまり物がないあたりそこそこ有名な店かも知れない。

 

 日菜が声を上げると店の奥からフードを奥深くまでかぶった老婆と思しき女性が出てきた。

 

 「いらっしゃい」

 

 老婆独特の声音でそう答えた。

 

 日菜は店内を見渡す。

 

 う~ん。こうピピッと来る奴あるかなぁ~。

 

 「ん?ねぇ、おばあちゃん。これって??」

 

 日菜が手に掴み尋ねたそれは瓶に入った粉末のようなものだった。老婆は一瞥すると答える。

 

 「それかい。それはな、魔法の薬と言われておるものさ」

 

 「魔法の薬?」

 

 天才である日菜は今までにいろんな本を読んできたが魔法の薬というのは初めて聞いたものだった。

 

 「この粉を食べ物を混ざて相手に食べさすとその子の本音を聞き出せるのじゃ」

 

 日菜はその話を聞いての第一印象は胡散臭いというものだった。確かに魅力的なものであるがそのような薬が何故この場にあるかが不思議だ。

 

 というか語尾にのじゃという時点で胡散臭さが倍増されているわけだが。

 

 う~ん、おばあちゃんの話が本当だったらこれって自白剤の類の奴だよね?もしかして私危ないお店に入っちゃったかなぁ…。

 

 「疑っておるのかい?」

 

 「う、ううん!全然、あっそうだこの首飾りとこれください!!」

 

 「…2000円だよ」

 

 このおばあちゃん鋭いなぁ~…。いきなりだったから咄嗟にこの近くにあった首飾りと一緒にくださいって言っちゃったよ…。

 

 お金を払いながら少しばかり後悔する日菜は店から出る。

 

 「はぁ~…。これどうしよ。この首飾りはお姉ちゃんに似合いそうだからよしとしよう…。うぅ…、捨てるに捨てれないし持って帰るだけにしようっと…」

 

 

 

 ■■■

 

 「ただいま~…」

 

日菜が玄関で靴を脱ぎリビングに向かう。時間帯はもう昼ご飯でもおかしくないものだった。お腹の空腹感を感じながら鼻をくんくんとする。

 

 この匂いってミートスパゲッティかな?

 

 日菜がそう考えてリビングに入ると長い髪を一つにまとめ、俗にいうポニーテールで可愛らしいエプロンを付けて台所に立っている氷川紗夜の姿がそこにあった。

 

 「お帰りなさい、日菜」

 

 紗夜がそう言うと日菜は持っていた荷物を置き、その袋から例の小瓶が落ちたことに気が付かずに姉のほうへと向かった。

 

 「お姉ちゃんがご飯作ってるの?」

 

 「えぇ、お母さんたちは出かけたから私がね。ほら、もうすぐで出来上がるから手を洗ってきていらっしゃい」

 

 「はぁ~い!!」

 

 まるでお母さんだなぁと日菜が思い、駆け足で洗面所へ向かう。それを見た紗夜は出来上がった料理を皿に盛り付けてテーブルへと運ぶ。

 

 そこで紗夜はテーブルに一つの小瓶が置かれているのに気が付いた。皿を置きソレを手に取り眺める。

 

 「なにかしらこれ?日菜が買ってきたものかしら?まったく買ったらしっかりと片付けておきなさいよ…」

 

 「あれ、お姉ちゃん?何してるの?」

 

 「あら、日菜。これ片付けておきなさい」

 

 「うん、わかった!」

 

 紗夜が日菜に小瓶を渡そうとすると手から小瓶が滑り落ちた。

 

 「「あ」」

 

 二人の声が重なる。重力に逆らえないまま小瓶がテーブルに叩きつけられ中身がばらまかれる。

 

 「ッ!ごめんなさい!!」

 

 紗夜がばらまいたことについて謝る。幸い、料理に入ったそうに見えていない。

 

 「ううん、大丈夫だよ。元から使う予定もなかったし」

 

 「…そう。本当にごめんなさい」

 

 「だから、大丈夫だよ!!あっ、これお姉ちゃんに!!」

 

 そう言って日菜は袋から翡翠色のペンダントを取り出す。あの店で買った唯一ピピッと来たものだ。紗夜はそれを見ると驚きの声を上げる。

 

 ありがとうと言って受け取った紗夜を日菜は微笑んで眺める。紗夜がその視線に気が付くと頬を赤らめてそっぽを向いた。

 

 えへへ~。お姉ちゃん照れてるってことは喜んでくれたってことだよねっ!買ってよかったぁ~。

 

 日菜が心の中で満足して粉を片付け始めた。それを見た紗夜も手伝い姉妹らしい光景がそこには広がっていた。

 

 十分だなと感じ始めるころには料理の煙が少しばかり小さくなっていた。

 

 二人がそれに気が付くと顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。どうやら二人はあの時間がとても愛おしく長い時間が経っていないものだと感じていたのだ。

 

 無論、紗夜はそのことを言わないし日菜を口には出さない。

 

 「じゃあ、食べましょうか」

 

 「うん!」

 

 二人が席についてフォークを手にする。さて、ここで話を戻すが粉は二人からして入ったようには見えなかった。二人からしてである。実際はどうだろうか。

 

 粉が数粒入ったとしてもそれは気付けるものではない。

 

 料理を口に運んだ二人。数口のあと日菜が話題を切り出した。

 

 「お姉ちゃん、今日はなんか…わ、私とお話してくれるんだね…」

 

 言いにくそうに紡がれた言葉。だが、それは今までのことを振り返るとしょうがないことである。紗夜はその発言に目を見開いた。

 

 まぁ、そういう日もあるわよ。と紗夜はそう言おうとした。だが、実際に放たれた言葉は驚きのものだった。

 

 「まぁ、私は日菜を好きだから」

 

 

 

 

 

 

 「「え?」」

 

 二人の声がまた重なった瞬間だった。 

 



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第二話 姉の秘密、妹の秘密

ガルパンの中に、氷川姉妹が、いる。百合をみたいぞぉ!
アッ この百合、「尊い」ッッボボボボボボボボボッボ!
たずけで!染まっ、ちゃボボボボボボ!
たすけて!かすみちゃん!た す けドボボボボボ!ボゥホ!
たすけてぇ!僕はまだッ死にたくないッ!


 チクタク、とその場の音を奏でていたのは時計の針の音だけだった。二人とも動きがなくあるのはただの頬の赤みだけ。

 

 「お、お姉ちゃん――?」

 

 日菜は口に出しながらも内心はかなり戸惑っていた。何故いきなりそのような発言をしたのか。

 

 紗夜もまたそうだった。口に出してしまったことを今更後悔はしないが何故好きという言葉を口に出したのか不思議だった。

 

 「何かしら?」

 

 「今、『好き』って」

 

 「ええ、そうね」

 

 紗夜によって肯定されたその言葉は日菜を喜びへと導いた――はずはなく疑惑へと

なった。

 

 何故いきなりそのようなことを紗夜が言ってきたのか。紗夜が日菜に対して抱いている思いは日菜が一番知っているつもりだ。だからこそ、好きという言葉に不穏なものだと感じ取ってしまった。

 

だが、そこは天才である日菜が数少ない情報から最も有力な情報を叩き出す。

 

もしかしてあの薬のせい?ううん、入ったように見えなかった…。いや、見えなかっただけで実際は数粒入ってた?しかも、お姉ちゃんの料理だけに入ってこうなったと…。

 

 「私も冗談を言うわよ」

 

 紗夜が突然、そう言った。冗談と、好きという言葉に嘘という仮面を被せたと。そう断言したのだ。紗夜の顔は平然としている。

 

 一気に薬の事は頭から吹き飛んだ。綿毛が風に吹かれて知らない異郷の地へと旅立つ感傷と同じ思いに浸された。

 

 日菜はその言葉で少し舞い上がっていた自分の羽を引き千切られた気分へと陥った。

 

 嘘という言葉を反芻させる。

 

 「そう…なんだ…」

 

 日菜の悲しい声音に反応したのは無情にも鳴り響く時計の音だけだった。

 

 ■■■

 

 氷川紗夜は自問と自答を繰り返していた。

 

 わ、私は何を言ってるの!?

 

 ただそれだけをずっと考えていた。しかし、紗夜は気付いていた。口が勝手に動いたと、ただし原因はすぐには分からなかった。首を傾げても一向に答えには辿り着く気配はない。

 

 しかし、やはり何故かあの小瓶が頭をチラつかせてくる。あれが元凶だと、答えだと、紗夜の直感がそう訴えてくる。

 

 ―――瓶の中の粉でこうなったとは言い切れないわね。いいえ、それどころかその可能性は最も低い。そのような薬を日菜が手に入れれるはずがないもの。ということは、疲労かしら?昨日は夜遅くまでギターの練習をしていましたし。

 

 紗夜が結論を出した。――疲労のせいだと、それで口走ってしまったと。

 

 しかし、どういえばいいかしら。日菜の手前、疲労という弱音を吐きたくないし、ということは誤魔化す?確かに、それが一番手っ取り早く確実ですね…。けれど、タイミングが――いえ、あるわ。日菜のことだもの、絶対このことについて追及してくる。

 

 紗夜の考えはすぐに正しいと証明された。

 

 「お、お姉ちゃん――?」

 

 来た。

 

 「何かしら?」

 

 「今、『好き』って」

 

 「ええ、そうね」

 

 紗夜は肯定しがらも内心かなりドキドキしてしまっていた。

 

 うぅ…。私の落ち度とは言え日菜に好きって言ってしまったわ…。前々から冷たい態度で接していた分かなり恥ずかしいですわね。今井さんには絶対に知られたくないですね。

 

 Roseliaのメンバーの一人である今井リサの顔を紗夜は思い浮かべた。あの人はこういう面白そうなことが好きというのが紗夜の感想であったからだ。

 

 だからこそ、このタイミングしか好機はない。

 

 「私も冗談を言うわよ」

 

 紗夜は淡々とそう告げる。その言葉にあからさまに顔色を悪くした日菜をみて自責の念に少しばかりか襲われたがしょうがないと腹を括った。

 

 紗夜はこの状況を切り抜けるため何一つ気付けなかった。誤魔化すためにその時の本音を言ってしまい口が勝手に動いていたことを。

 

 そして、自分から冗談と口にしたときその時は勝手に動いていなかったことを。

 

 ■■■

 

 「ごちそうさま」

 

 紗夜がフォークを皿に置きそう言った。日菜はそれを見ると続いて皿の中の食べ物を口に運ぶ。

 

 「お姉ちゃん、これ私が洗っておくから」

 

 日菜がそう言うと紗夜は少し考えるそぶりからいつもの表情に戻りじゃあ、お願いとだけ言って部屋に戻っていた。

 

 ――やっぱり、お姉ちゃん。何か隠し事をしてる?

 

 普通の人には見分けられない変化、しかし日菜だからこそ気付けた変化。長い間、憧れて追いかけてきた背中だったからこその答え。

 

 「ふぅ~」

 

 日菜はため息をつく。

 

 隠し事は一体何なのかなぁ…。――あれ?

 

 あれ?と日菜は突然何か大きな見落としをしていることに気付いた。

 

 なんだ、なんだ。何か、会話でとても重要な――――。

 

 あ。

 

 日菜はハッとした顔になる。その思い出した先は老婆とのあの小瓶との会話だった。

 

 『この粉を食べ物を混ざて相手に食べさすとその子の本音を聞き出せるのじゃ』

 

 聞き出せる。――。つまりは、そういうことなのだろうか。あの薬は相手からの質問に対して本音を答えるだけで話しかけられなければ嘘も付ける。そういう代物なのか、という点。それが日菜に与えた答え。

 

 紗夜は日菜の質問に対して冗談という偽りを持たせて答えていたと最終的に証明させた。けど、紗夜が冗談といったのは日菜が追及しなかったとき。紗夜が一度答えて、その次の答えた言葉。

 

 つまり、あの薬は一度本音を出した後次に連続で話す場合それは嘘でも構わない。

 

 しかし、それを紗夜が知る由もない。つまり、ほかの何らかの理由をつけて何故か誤魔化し、その場を凌いだのが妥当なのではないだろうか?

 

 じゃあ、あの薬は本物?たしか、小瓶には適量で一ヶ月の継続だったかな?勿論そんな説明書きのシールはすぐにはがしたけど、警察とかにばれたら面倒くさいことになるしね…。お姉ちゃんが誤魔化した理由、多分私に弱音をみせたくなかったとかそういうのかな?じゃあ、昨日は夜遅くまでギターの練習していたから疲労だと結論付けた。多分、そこらへんかなぁ。

 

 そこらへんどころかまったくもってその通りだというのは流石の日菜でも気付かなかった。

 

 「え。じゃあ――」

 

 

 

 『まぁ、私は日菜を好きだから』

 

 

 

 

あの言葉は本当、ということだ。

 

 

 

 

 

 いつもなら難問の答えに気付けただけで大声を上げていたが今回だけは違った。姉が妹を愛してくれていた。

 

 その事実に身を焦がすほどの熱と涙に襲われる。嫌われていなかった、嫌がられていなかった。愛してくれていた、好きでいてくれた。

 

 雲が晴れたその先の太陽の光が窓から差し込み日菜を照らす。後ろからは階段から降りてくる音。

 

 「日菜、そういえば」

 

 リビングに入ってきた紗夜が何かを伝えようとしたがすぐにその口を閉じることとなった。ゆっくりと振り返った日菜の頬を伝っているものを見てしまったから。それが私のせいかもという考えが頭に過ぎってしまったから。

 

 日菜は口を開き、

 

 「――私もだよ、お姉ちゃん」

 

 涙ながらの笑顔でそう言った。

 



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第三話 交差する想い

単発で短冊日菜を当てた僕に敵などいない。

 そう思っていた。けどそいつはいた。背後に居たんだ。

 ずっと機をうかがっていた。

 課金上限という悪魔が。


 小鳥が囀り、朝日が窓から差し込む。その眩しさに氷川日菜は目を覚ました。ベッドから上半身を上げると気持ちよさそうに伸びをする。

 

 「ん~♪」

 

 う~ん!よく寝たぁ!!――昨日はいろんなことがあったなぁ…。

 

 昨日起きたあの薬の一連で日菜と紗夜の関係は少しばかり進展?といったほうがいいのかわからないがよくなった気がする。

 

 そうだ、リサちーに電話しとかなきゃ。バンドの誰か一人でも事情知っとかなきゃ面倒くさいことになるしね~。()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう思いながら日菜は携帯のコールボタンを押す。プルプルと軽快な音を立てるとわずか数コールで目的の人物が出る。

 

 「ん…日菜…どうしたの…?」

 

 「あ、おはようリサちー!朝からごめんね?」

 

 「ほんとよ…、今何時だと思って…」

 

 「朝の6時!!」

 

 「そこまで清々しいと逆に怒りづらいよ…」

 

 いやぁ、やっぱりこの時間はリサちー寝てたかぁ。

 まぁ、今は夏休みだし別にいいよね?早寝早起きは体にいいし。けど、どう切り出そうか…。ん~、よし!

 

 「リサちー!」

 

 「ちょ!?いきなり大声出さないでよ!!で、何?」

 

 「お姉ちゃんと喧嘩した!!」

 

 「あぁー、はいはい。―――はい?」

 

 「喧嘩した…」

 

 「いや、言い方とかよく聞こえなかったとかそういう問題じゃないかなぁ…。何があったの?」

 

 流石はリサちー。すぐに相談乗ってくれる当たり流石は皆のお姉さん。

 

 「実は――」

 

 そして、日菜は全てを話した。昨日、変な店で変な薬見つけてそれで起こった変な出来事すべてを。

 

 「つまり、今紗夜は本音を口に出しちゃうってこと?けど、なんでそれで喧嘩に?日菜の事だから上手く誤魔化しただろうし」

 

 「あはは~、それがお姉ちゃんにバレちゃって」

 

 「――あぁ、なんかもう頭痛くなってきた…」

 

 「そう、あれはね今から大体17時間ぐらい前のことなんだけど」

 

 「長くなる?」

 

 「ちょっとだけ」

 

 あれ、リサちーが携帯の画面越しにため息ついたのかな?雰囲気が明らかに気怠い感じが漂って…。

 まぁ、そんなことは関係なしに喋るんだけどね。

 

 

 ■■■

 

 「――どうしたの、日菜。何が私もなの?」

 

 両親から預かった伝言を日菜に伝えようと戻ってみたら日菜が泣いていたわ。流石にあの冗談という嘘はやりすぎちゃったかしら…。

 

 「お姉ちゃん、私もお姉ちゃんが大好きだよ」

 

 「ッ!?」

 

 日菜は何を言っているの?私は好きといったことは誤魔化した。いえ、疲労で間違って口走ってしまったことを隠そうとして…。

 日菜は、何か知っている――?私の口走りは人為的に起こされたと知りうる何かを。

 

 

 待ちなさい、氷川紗夜。考えて、あの時吟味した可能性全てを。0に近く切り捨てた可能性も。わかりきった可能性を。

 

 そこでハッとなる。一つだけ。

 ありえないかもしれない、だから即刻切り捨てた可能性。

 

 「あの、瓶の粉なの…?」

 

 「うん…。あ」

 「ううん!お姉ちゃんいきなりどうしたの?瓶の粉?私、ちょっとよくわからな」

 

 「誤魔化さないで」

 

 日菜は誤魔化そうとしたけどもう明らかに遅いわよ。そう、あの粉に何か秘密があるのね。

 

 「んとね―――」

 

 日菜はポツリポツリとその時の状況を紗夜に話していった。

 

 「つまり今の私は制限があるけれども本音を喋ってしまうってこと?」

 

 私が訊いた話は信じられないことだった。○○駅の近くにある店?そんなものは断じてない。その駅に私たちRoseliaの練習場所があるからあそこの店は大体理解している。だからこそ断言できる。あと、その粉の作用も。まるで自白剤じゃない。

 

 

 「まったく過ぎてしまったことはしょうがないわね…」

 

 そう、日菜の話を聞く限り非はない。寧ろ零してしまった私のほうが悪いかも知れない。

 

 「許してくれるの!?」

 

 「えぇ、けど次からはそんな怪しい店に入らないで頂戴。ただでさえ貴方は可愛いのだから変な店に入って恐ろしいことに手を出されたら嫌だもの」

 

 「か、かわっ!?」

 

 ――なるほど、こういうことね。勝手に口が動くというのがこんなにも嫌だとは思ってもみなかったわ。

 え、じゃあちょっと待って。

 

 

 『私は日菜のことが好きだから』

 

 

 あっ、あれが私の『本音』だと日菜は気付いて――ッ!?

 

 なら、言うしかないわね。私の想いを。

 

 「日菜なら気付いているかもしれないけど確かに私は貴方を嫌っていないわ。寧ろ、好きと言っても過言ではない」

 

 

 「―――」

 

 

 「けど、私は貴方が好きであるから、天才である貴方にどう接していいかわからない…。不器用で平凡で、そんな私は日菜に劣等感を抱いて当たってしまっていた。情けないわよね、私は貴方のお姉ちゃんのなのに」

 

 

 「そんなことない!お姉ちゃんは情けなくないよ!!誰よりも努力して、誰よりも強くて、誰よりも優しくて…。そんなお姉ちゃんが情けないなんて絶対ない!私はお姉ちゃんがいたからここまで来れたの!」

 

 「日菜…」

 

 「だから、お姉ちゃん。自分を情けないだなんて言わないで…」

 

 日菜がまさかここまで私を思ってくれていたなんて…。いけないわね、涙が出そう。

 想いがあるならそれに答えなくちゃいけない。

 

 

 なら、もう一歩踏み出してみようかしら。階段を上がるようにゆっくりと。

 

 「――ごめんなさい、私は今まで通りにしかこれからも接することは出来ない。一種の戒めなのかしらね、ギターを上手くなるためには何故か不可欠なことだと私が認識してしまっている。優しくなってしまったらここで止まってしまうかもしれない。そんな気がするの」

 

 「うん、大丈夫。わかってる」

 

 日菜が悲しそうな顔をする。本当にごめんなさい。まだしっかりと向き合えるほど私は強くないの。

 けれど、『切っ掛け』は得た。

 

 紗夜はゆっくりと歩き日菜の前に立つ。そして、ゆっくりと顔を近づけた。

 

 コツン。

 

 額と額が重なった音がした。

 

 

 

 「だから、待っていて日菜。私は絶対貴方に追いついて見せる。そうしたら心から語り合いましょう。そして一緒に笑って、たまには喧嘩して、そういう普通の姉妹に――日菜?」

 

 

 紗夜が最後まで言い終わる前に日菜が抱き着いた。

 

 「うん!うん!!」

 

 日菜、そこまで嬉しそうな声を出さないで頂戴…。私の決心が揺らいでしまうわ…。

 けど、こうやって日菜の頭を撫でていると昔を思い出すわね。

 ふふっ、まったく日菜は昔から

 

 「甘えん坊さんなんだから」

 

 

 ■■■

 

 「――ということが合ってね!」

 

 「それ本当に紗夜?話を聞く限り別人じゃん。というか喧嘩してないよね??」

 

 

 

 

 「――ほんとだ!!」

 

 「お休み、日菜」

 

 ちょ!リサちー電話切ろうとしているよね今!!

 

 「ちょっと待ってリサちー!!」

 

 「朝からノロケ話聞かされてるこっちの身にもなってよ!――あっ、ごめん友希那。起こしちゃった?」

 

 ちょっと待って。今リサちーお泊り会しているの?というか、もしかしてこれって…

 

 「ちょ、ちょっと日菜!」

 

 あ、あれいきなりリサちーが慌て始めた!?

 何かあったのかな?

 

 「どうしたの?」

 

 「ゆ、友希那が寝ぼけてにゃーんって言いながら私の胸元に!!ねぇ、どうすればいいの!?」

 

 「じゃあ、リサちー。そういうことだからよろしくねー」

 

 ピッ。と日菜は躊躇なく通話終了ボタンを押す。伝えたいことは伝えておいたし案の定リサちーも壊れたし。

 

 「はぁ、全く。こっちは真剣な話しているのにノロケ話聞く羽目になりそうだったよ…」

 

 

 

 ナレーションがいたらこういうだろう。

 

 『それをお前が言うな』と。

 

 ■■■

 

 拝啓、お父さん、お母さん、私氷川紗夜は絶賛悶えております。ベッドの上で。それはもう激しく。

 

 なぜあんなことをしてしまったのかしら…。額を合わせる必要なんてどこにもなかったじゃない!!!

 羞恥心で死んでしまいそうです…。

 あのあと話し合って今井さんだけには教えることになったけど本当に大丈夫かしら。

 

 ちなみに。

 

湊さん→「練習に影響が出そうね…しばらく休みにするわ」

 あの人ならやりかねい。私のせいでバンド全体に迷惑をかけるなんて絶対いやだわ。

 

あこさん→「紗夜さんって今本音を言っちゃうんですか?―――あ」

 あこさんはすぐに口に出しそうね。

 

白金さん→「ぁ…あの…」

 せめて何かを喋ってください。

 

 ということで消去法で一番まともな今井さんになったのだけれど…。日菜は上手く伝えてくれたかしら。

 はぁ…。日菜と顔を合わせづらいわね…。

 

 今日はバンドの練習もありますしそろそろ準備しましょうか――あら、これは?

 

 紗夜が準備しようと立ち上がるとギターケースからはみ出したチラシに気が付いた。

 

 「そういえばこの前ここでライブがあるから勧められたわね…」

 

 チラシにはバンドのライブ情報。小さい規模だがそこそこ有名な、知人も所属するバンドも出ている。Roseliaはその日は別の場所でのライブがあるため辞退したが。

 

 出演バンド名を眺めていくと下のほうに無視できないバンド名があった。

 

 ―――ィ―タイム ⑩Pastel Palettes ⑪リヤン・ド・ファ―――

 

 日菜の所属するバンドの名前がそこにあった。

 

 

 

 

 

 




パスパレ前後のバンド名?あぁ、元ネタアリだよこんちくしょう!!!!!!!!


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