護る人 (お月)
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第一話

これも昔書いてみたやつです。
一応、連載の方向で。


新暦68年5月15日。

 

 

 

ミッドチルダ東部・高層ビル街。

 

 

 

 ミッドチルダ東部では最大の都市にある超高層ビル。

 それ全部がデパートであり、数多くの人気店が店を参入させている事で知られるそのデパートの中層部分。

 テロか、はたまた事故か。

 中層部分の一角で起きた大爆発により、平和だったその超高層ビルは地獄絵図と化した。

 一つの爆発はまた別の爆発を呼び起こし、その連鎖は留まる事を知らない。

 駆けつけた管理局の駐屯部隊も爆発と、それに伴う炎のせいで、一番被害が大きい中層部分に近づく事が出来て居なかった。

 上層部分に取り残された人々は航空魔導師隊によって続々と避難させられ、下層部分に居た人々も陸士隊の誘導に従い、慌てずにゆっくり、しかし確実に避難させられていた。

 都市の駐屯部隊の始動は早かったが、中層部分の爆発や炎を掻い潜り、中に閉じ込められている人々を救出出来るエース級の魔導師は、駐屯部隊には存在していなかった。

 首都であるクラナガンには既に応援要請が何度も出されているが、いつまで経っても応援部隊の影すら見えない。

 そんな外の様子を知るよしもなく、中層部分の特に爆発の激しい場所、最初の爆発にほど近い場所で、一人の少年がひたすら助けを待っていた。

 少年の名前はノクト・ベルクライド。

 耳や首筋に掛からない程度に長さを整えられたくすんだ金髪に、灰色の目を持つノクトは、この状況化で自身のこれまでを後悔していた。

 ノクトの母の父。つまりノクトの祖父は若い頃は管理局の魔導師として働いており、その資質をノクトは受け継いでいた。

 母には引き継がれなかった魔法資質をノクトが持っている事に祖父は喜び、どうにかこうにかノクトを管理局の局員にしようとしていた。

 一方、魔法資質がある事に対して、ノクトはそこまで特別な感情を抱いていなかった。せいぜい、無いよりあったほうが便利なモノ程度の認識だった。

 そんなノクトが管理局の局員になる筈もなく、三年前。十二歳の時に、管理局の訓練校を進めてきた祖父の申し出をあっさり断った。

 地元の学校に進学したノクトは、それから夢の無い日々を送っていた。

 多くのモノが夢や現実的な目標を持っている中、ノクトは何も持っていなかった。

 勉強が出来るわけでもなく、運動が出来るわけでもない。祖父から受け継いだ魔法資質も飛び抜けて高い訳じゃない。

 管理局に入った所で、どうせ出世も出来ずに終わる。ノクトはそう考えて進学したが、進学した先の学校で、自分の能力ではどの道を選んでも似たようなモノになると言う現実を知ってしまった。

 その時になって、子供の頃に祖父に言われた言葉を思い出しては後悔するようになっていた。

 知識か力を磨け。知恵は付かなくても、知識は身につく。力を磨いておけば、他者に勝てなくても、自分の身は守れる。

 何かしらを頑張っておけ。という意味で、頻繁に使われたその言葉。

 それを思い出して、昔から何かを磨いておけば、もう少し道があった筈と、ノクトは何度も後悔した。しかし、まだ遅くないと、頑張る事はしなかった。

 どうしてその時、頑張らなかったのか。それを今、この状況でノクトは後悔していた。

 祖父に無理矢理教えこまれた魔法の一つ。プロテクション。単純な防御用の魔法であるそれで、ノクトは今、周りで起きる爆発や炎、そして煙を何とか防いでいた。

 しかし、防いだと言っても僅かに入ってくる煙や、炎の熱、爆発の余波などは完璧には防ぎきれず、長くは持たない事はノクトが一番よく分かっていた。

 

「くっそ! こんな事ならしっかり学んどくべきだったか……」

 

 そう呟いたノクトは、チラリと後ろを見る。

 ノクトのすぐ後ろに、疲れと熱さで座り込んでしまっている小さな少女が居た。

年の頃は七、八歳と言った所か。

 たまたま最初の爆発が起きた時に近くを歩いていた子供で、咄嗟に後ろに庇い、今もこうして不完全ながらも保護していた。

 ノクトの力量から言えば、例え初歩的なプロテクションとは言え、二人分のスペースを防御するのは非常にキツイものだった。

 この非常事態、自分も生きるか死ぬかの状況で他人を助けてる場合じゃない。そうは思っていても、見捨てると言う決断はノクトには出来なかった。

 この中途半端な性格が、中途半端な自分を形作る原因だ。

 自分でそう判断して、ノクトは思わず笑う。

 ここで幼い子供を見捨てる事が出来る、非情な決断力があったら、もしくは絶対に助けると思い、自分を犠牲にする事が出来る、自己犠牲の決断力があったら、もう少し人生が変わっていたかもしれない。

 今となってはもう遅い事だと、ノクトは思う。

 そろそろ魔力が限界だった。その時になってまで、ノクトは何も決断出来なかった。

 

「あー……じいちゃんに謝らなきゃだな……」

 

 先人の言葉に耳を貸さなかったせいで、自分も他人も守れない。

 中途半端になってほしくはなかった祖父の願いを無視して、結局、中途半端になってしまった。

 もしも無事に家に帰れたなら、祖父に謝ろう。

 そう思ったノクトの腕に、尋常ではない衝撃が来た。

 それは近くで起きた大きな爆発の余波であったのだが、ノクトには知るよしもなかった。

 ノクトに出来たのは、プロテクションを維持したまま、衝撃に流される事だけだった。

 横に流されていたのが、ふいに止まったのを感じて、ノクトは恐る恐る目を開けた。

 プロテクションを張っている右手はそのままで、左手でいつの間にか少女を引き寄せていた。

 自分にしがみついている少女の姿を確認したノクトは、そのまま自分の後ろに視線をやって、その咄嗟の行動が正しかった事を知る。

 後ろには何も無い空間が広がっていた。足元を見れば、二歩も下がれば足場は無いような状態だった。

 爆発の余波でビルの端まで飛ばされてしまったのだ。

 壁には大きな穴が空いており、もう一度、先程の爆発が起きれば、自分と少女はビルの外へ放り出されるのは想像に難くなかった。

 拙い。

 そう判断して、移動しようとしたノクトの右手にまた衝撃が来る。

 

「なっ……!?」

 

 そんな馬鹿な。有り得ない。

 そんな言葉がノクトの頭をよぎる。

 タイミングが悪すぎる。

 いる事なんて信じた事の無い神様はどこまで自分の事が嫌いなのか。

 横に吹き飛ばされた体はすぐに落下へと移行し始めた。

 何をすればいいのか。どうすればいいのか。

 初めて訪れた明確な死の感覚にノクトの思考はぐちゃぐちゃになる。

 中層部分とは言え、落ちれば間違いなく死ぬ。

 空を飛べれば別だが、習いもしてないのに飛べる訳がない。

 出来もしない事を考えた一秒ほどで、落下のスピードが上がった。

 一か八かで少女をビルに向かって放り投げればよかったと後悔がよぎる。

 自分に力いっぱいしがみついている少女だけでも助ける事は出来ないだろうか。

 そこまで考えて、すぐにノクトは奇妙な風切り音を聞いて、上を見る。

 そこには自分たちよりも遥かに巨大な瓦礫が幾つもあった。

 先ほどの爆風でノクトたちと同様に外に弾き飛ばされた瓦礫だ。

 みるみる自分たちに迫ってきている瓦礫に、ノクトは大きく右手を突き出した。

 

「プロテクション!!」

 

 瓦礫はノクトたちに直撃する前にプロテクションに阻まれる。

 しかし、目の前の死を避けた所で、回避不能な死が待っている。

 瓦礫の質量も加えたせいで、落下が早まってしまっていた。

 仮に奇跡が起きて着地できても瓦礫に押しつぶされてしまう。

 そう考えて、ノクトは苦笑する。数秒経っても未だに落ち続けているのを考えれば、着地など不可能だと思い至ったのだ。

 これでおしまい。

 既に自分に出来る事はしてしまった。

 何もせずに生きてきたノクト・ベルクライドの全ては出し切った。

 大した引き出しもなかったが、頑張った方ではないか。

 諦めが思考を支配しようとした瞬間、ノクトの体は更に加速した。

 何かに引っ張られたのだ。

 

「なっ!?」

「そのままで居てください! すぐに安全な所まで送りますから!」

 

 ノクトの右手を掴みながら、白い服を着た少女がそう言った。

 ノクトにはその少女に見覚えがあった。

 半年ほど前にあるニュースで見たのだ。決して良いニュースではなかった。

 十二歳の少女が管理局の任務中に重傷を負ったと言うニュースだ。

 局内ではかなりの有名人らしく、ノクトとしては管理局に入らなくてよかったと思わせる出来事だった。

 

「行くよ! レイジングハート!」

『はい。復帰戦です。派手にいきましょう』

 

 杖に搭載されたAIの言葉に少女は頷くと、ノクトの右手を掴んでいた左手をノクトの脇に通して、両手で杖を構える。

 杖の方向は瓦礫だ。

 何をする気なのか。

 そんな事を思った時に少女から答えが返って来た。

 

「少し我慢してください。あの瓦礫は危ないので」

『破壊します』

「はい?」

「レイジングハート!」

『ディバインバスター・フルバースト』

「ディバイーーーン」

 

 少女の足元に魔法陣が浮かび上がり、複数の環状魔法陣がさながら砲身のように形成される。

 ノクトは少女から発せられる大規模な魔力に顔を引きつらせる。

 ノクトは改めて確信する。

 少女があの時、ニュースで出ていた子なのだと。

 

「バスターーーー!!」

 

 巨大な桜色の砲撃が拡散しながら瓦礫を瞬時に消し去る。

 広範囲に広がり落下して来ていた瓦礫は全て、その一撃で消し去られた。

 

「すげぇ……」

「すぐに安全な所までお連れしますね!」

 

 少女はそう言うと、自分より体の大きなノクトをいとも簡単に抱え直して、飛行を始める。

 ノクトにしがみついていた少女はあまりの事に呆然としている。

 それはノクトも同じであった。

 しかし、ノクトにはそれ以上に不思議な事があった。

 

「あの……」

「はい?」

 

 抱えられてるせいか、顔が近くて、ノクトは目線を逸らしつつ、少女に確認を取る。

 

「高町……なのはさんですよね?」

「はい。高町なのはですけど」

 

 なのはは首を傾げながら、それが何か?と表情で問いかける。

 ノクトは一回、深呼吸してからなのはに質問する。

 

「怖くはなかったんですか?」

 

 ノクトの見たニュースでは一生歩けないかもしれないと言うほどの重傷を負ったと報道していた。

 先程のAIとの会話を考えれば、リハビリを終えての最初の任務だった筈。

 その任務で躊躇せずに危険に踏み込んでいけたのは何故なのか。ノクトにはそれが気になった。

 なのははノクトの質問の意図を明確に理解して、小さく笑いながら答える。

 

「怖かったですよ」

「えっ……?」

「とても怖かったです。爆発の音も炎の熱さも。けど、視界にあなたが入ったら、それも吹っ飛んじゃいました」

「……どういう事ですか?」

「小さな女の子を抱えて、必死になっている人がいるのに、それを助ける立場の私が怖がってる訳にはいかないじゃないですか。あなたに勇気を貰えたんです。ありがとうございます」

 

 満面の笑みを浮かべてお礼を言ってくるなのはに対して、ノクトはどう反応していいか分からずに黙り込む。

 黙り込んだノクトの代わりに、ノクトが抱えている少女がしゃべりだす。

 

「お姉ちゃん! 助けてくれてありがとう!」

「うん。どういたしまして。でも、先にお兄ちゃんに言おうね」

「あっ! そうだ! お兄ちゃん。助けてくれてありがとう!」

 

 少女からもお礼を言われたノクトはどうしていいか分からず、しかし、ある事を忘れていた事に気づく。

 それは。

 

「あの……助けてくれて、ありがとうございます」

「いいえ。これが私の仕事で、私のしたいことですから!」

 

 なのはの生気に満ちたその笑顔と言葉は、安全な地上に降り立ち、病院に搬送された後も、ノクトの頭から離れなかった。

 新暦68年。超高層ビル内での大規模爆発は、偶然、居合わせた本局のエース魔導師、高町なのはの活躍もあり、奇跡的に死者ゼロと言う結果に終わった。

 偶発的ながらも復帰戦を行ったなのははこれより、墜ちた後遺症を感じさせずに活躍していく事になる。

 そして。

 ノクト・ベルクライド。十五歳。

 この年に管理局の陸士訓練校に入学する。

 



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第二話

 新暦72年5月23日。

 

 ミッドチルダ東部。

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ東部の都市にある大規模模擬戦用グラウンド。

 最新鋭のシミュレーターを完備しているそこで、ミッドチルダ東部の陸士隊と首都航空隊による模擬戦が行われていた。

 技術交換が一番のテーマであり、如何に自分自身の向上に繋げられるかが求められる模擬戦だが。

 

「まったく、上から撃ってる奴らからどうやって技術を盗めって言うんだよ……」

 

 陸士隊側として、この模擬戦に参加しているノクト・ベルクライドは半ば呆れたようにそう呟きつつ、走っていた。

 管理局が正式採用しているバリアジャケットを着て、かなりのスピードで走っている姿は、口調ほどには余裕は無かった。

 陸士隊と首都航空隊の戦力比はきっかり二対一。陸士隊は二倍の数というアドバンテージを有していた。

 だが。

 

「開始から十分で同数以下にさせられるとは……向こうは向こうで本気だな」

 

 数の差を埋める為に首都航空隊が使った手は単純で、空からの射撃、砲撃である。

 模擬戦に用意された地形は高層ビルが並ぶ市街地だが、空から見れば、誰がどこにいるかはサーチャーを使わずとも、簡単に分かってしまう。

 居場所がバレれば、待っているのは空から地上への一方的な攻撃である。

 固まって動いていた陸士隊は見事に奇襲を受けてしまっていた。

 戦術上、自分の有利な場所に行ったり、得意な分野を活かすのは当然だが、技術交換の場所で、そこまで露骨に勝ちに来るとは思っておらず、多くの陸士隊の隊員は困惑し、初動が遅れた。

 幸い、首都航空隊が先制攻撃を仕掛けた場所からは離れていたノクトは、自分の部下、三名を連れて、比較的見つかりにくいであろう道を通って、首都航空隊の裏に回り込む動きを見せていた。

 

「ベルクライド副隊長。裏に回り込めたとして、どうするんですか?」

 

 ノクトの部下の一人が、行動した後について聞いてくる。

 ノクトは走る速度を緩めずに、短く答える。

 

「味方の損耗次第だ」

 

 現在、空からの攻撃に対して、陸士隊の大部分は防御魔法を張り、ときたま反撃する戦術を取っている。

 最初の攻撃で指揮官がやられた為、その場しのぎの行動に出てしまっているのが現状だった。

 ノクトの狙いは挟撃だったが、味方の損耗が激しく、挟撃が成り立たない場合は、違う方法も考えなければいけない。

 

「分隊長が居てくれれば、また違うんだが……」

 

 ノクトの分隊は元々、ノクトの上官が率いている分隊であったが、その上官が任務中に負傷した為、代わりに副隊長であるノクトが分隊の指揮を取っていた。

 分隊の主力である上官が不在であり、代わりに分隊に入っているのは新人で、戦力としてはあまり期待出来ない。

 このまま首都航空隊にやられてしまえば、東部の陸士隊の評価は大きく落ちてしまう。

 自分だけなら気にはしないが、この模擬戦に参加していない人間たちまで評価を落とされるのは流石に心苦しいと、ノクトは考えていた。

 

「せめて、数人は落としたい所だけれどな」

 

 ノクトは小さく呟きつつ、路地の角を曲がり、首都航空隊が隊列を組んでいる後ろに回り込む。

 未だに陸士隊本隊への攻撃を続けている首都航空隊の姿を認めて、ノクトは部下たちに指示を出す。

 

「砲撃用意! 防御は気にするな!」

 

 ノクトの指示に部下たちは了解と答えて、手に持っている杖型のデバイスを構える。

 多少、距離があったが、あまり近づき過ぎれば気づかれると判断し、ノクトは首都航空隊に近づく事はしなかった。

 更に言えば、近づけば近づくだけ、相手の魔法の威力も上がる。

 その距離はノクト自身の限界でもあった。

 

「各自のタイミングで撃て!」

 

 ノクトは首都航空隊の何人かがこちらに気づき、隊列を変化させ始めたのを見て、そう指示を飛ばす。

 誰も気づいていないのなら、魔法のタイミングを合わせるのは有効だが、気づかれた以上はスピード勝負になる。相手がこちらに対応しきる前に是が非でもノクトは攻撃したかった。

 その意を組んだ部下たちは、威力よりもスピード重視の魔法を選択しており、それなりのスピードで発射までこぎつけていた。

 だが。

 

「流石に首都の空を守ってるだけはあるな」

 

 ノクトたちの奇襲を間一髪ではあるが、防いで見せた首都航空隊にノクトはそう言いつつ、再度、部下たちに砲撃魔法の準備をさせる。

 首都航空隊の魔導師たちが何名かノクトたちの方へ振り向き、砲撃魔法を準備し始める。

 微妙なタイミングではあったが、僅かに首都航空隊の魔法の方が早い。

 それを見て、ノクトは三人の部下の前に出て、杖を自分の正面に構える。

 

「プロテクション・パワード!」

 

 ノクトは通常より大規模なプロテクションを発動させ、分隊全体を覆う。

 魔力の障壁が完成したすぐ後、複数の砲撃がそれに直撃する。

 魔力の障壁と砲撃が衝突して起きた爆風がノクトたちを覆い隠す。

 

「やったか!?」

「馬鹿! 油断するな!」

 

 首都航空隊の隊員が不用意に隊列を崩し、少しだけ前に出る。

 それを見逃さず、三発の直射型の砲撃が爆風を振り払って、発射される。

 

「なっ!?」

 

 前に出てきた首都航空隊の隊員は防御魔法を展開する事も出来ずに、三つの砲撃を食らって、墜ちる。

 

「馬鹿な!? 無傷!?」

「何だ。あのプロテクションは……」

 

 仲間がやられた事と、自分達の砲撃を受けても全くビクともしないノクトのプロテクションを見て、首都航空隊の隊員は焦り始める。

 

「砲撃用意。その内、他の奴らも反撃を開始する。できるだけ、引き付けるぞ」

 

 ノクトは指示を部下に再度、指示を出しつつ、内心では、反対側の部隊が早く反撃に出る事を祈っていた。

 念話をしようにも、指揮官がやられている為、一体、誰に念話を送ればいいか分からず、実質、ノクトたちは本隊との連絡は寸断されていた。

 ここで反撃が遅れれば、首都航空隊は持ち直し、ノクトたちもすぐにやられてしまうだろう。

 急いでいたとは言え、周りに声を掛けるなり、連絡手段を確保するなりすればよかったとノクトは、自分の至らなさに苛立ちつつも、先ほどよりも数が多い相手からの砲撃に対して、プロテクションに魔力を込めることで対応する。

 遠くからの砲撃ならば幾らでも防ぐ自身はあったが、距離を詰められた場合は中々厳しいと、今の砲撃でヒビが入ったプロテクションを見ながらノクトは感じていた。

 しかし、一向に反対側から砲撃なり、射撃なりが増える素振りはない。

 拙いな。

 口から溢れそうになった言葉をノクトは何とか飲み込む。

 仮とは言え、部隊を率いている自分が、部下を不安にさせる事は言えない。

 指揮する者としての意地で、弱音は飲み込んだノクトだが、首都航空隊の行動に思わず舌打ちする。

 

「全員下がれ! 距離を詰められるぞ!」

 

 ノクトはプロテクションを張りつつ、三人の部下たちを下がらせる。

 首都航空隊から二分隊がノクトたちに向かって、高速で接近していた。

 数でも質でも、地の利でも負けている相手に正面からぶつかれば、すぐにやられる。

 今は、二分隊を引き付けられただけ良しと判断し、早々に撤退を決断したノクトだったが、グラウンド全体に響いた模擬戦の終了の合図を聞いて、足を止める。

 

「終わり……?」

 

 まさか事件でも起きたのだろうかと、身構えたノクトの耳に、模擬戦前に挨拶をしていた地上本部の高官の声が届く。

 

『ただいまの模擬戦。陸士隊の損耗が著しい為、これ以上の継続は通常任務に差し支えると判断し、私の一存で首都航空隊の判定勝ちとする』

 

 ノクトはそれを聞いて、後ろに居る部下たちに視線を向ける。

 言っている意味が上手く理解出来なかったのか、はたまた理解したくなかったのか、ポカンとした表情をしている部下に苦笑しつつ、ノクトは空を見上げる。

 ノクトの近くに一人の首都航空隊の魔導師が近づいていた。

 

「首都航空隊所属のアベル・デイリー空曹長だ。名前を教えてもらえるか?」

「陸士505部隊所属のノクト・ベルクライド陸曹長だ。要件は?」

「良い防御魔法だと思ってな。コツは?」

「そんな気分じゃないんだが?」

「そう言うなよ。技術交換がメインテーマだろ?」

「なるほど。じゃあまず、降りてこい。オレは高みから見下ろしてくる奴に教えるほど人間は出来てないんだ」

 

 ノクトの言葉にアベルはニヤリと笑うと、静かにノクトの近くに降り立つ。

 

「これで対等だ。教えてくれ。な?」

「お前……本当に首都航空隊か?」

「勿論! これでも努力家でな。吸収出来るもんは吸収するさ」

「オレの防御魔法じゃ参考にならないと思うけどな」

 

 ノクトはそう言いつつ、手のひらサイズのプロテクションを創りだす。

 それを見て、アベルの顔がひきつる。

 

「どうやってんだ……?」

「ピンポイント・プロテクション。さっきのもコレの応用で、着弾する所だけ厚くした」

「おいおい。何だよ。そんなの聞いた事ないぞ?」

「オレも爺さんに教わっただけだから、何だって聞かれても困る」

「へ~、こりゃあ確かに参考にはなんねぇな。しかし、どうしてこれだけの技術があったのに、もっと攻めて来なかったんだ?」

 

 アベルの言葉に、今度はノクトが顔をしかめる。

 ノクトは嫌そうな顔をしつつ、しかし、一度だけ溜息を吐き、片手をひらひらと振りながら言う。

 

「攻撃系統はどうにも使えなくてな。接近しての格闘以外に手はないんだ」

「なるほどなぁ。これで攻撃がそこそこ使えたなら、こんな所には居ないか」

「一言余計だぞ?」

「悪い悪い。まぁ気を悪くすんなよ。控え室で飲み物奢るからよ」

「……何が目的だ?」

 

 軽薄そうな笑顔を浮かべながら肩を組んできたアベルにジト目を向けつつ、ノクトはそう聞く。

 

「陸士側に一人、女の子が居ただろ? ちょっと紹介してくれ」

「嫌だ。自分でどうにかしろ」

「ちょっ! そんな!」

 

 ノクトは呆れたようにそう言うと、アベルの手を肩から外して、控え室へと引き上げた。

 



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第三話

新暦73年1月18日。

 

 ミッドチルダ・首都クラナガン。

 

 

 

 

 

 

 首都クラナガンにある管理局地上本部。

 中央の超高層タワーを中心に、その周囲を囲む数本の高層タワーと言う外観を持つそれは、言うまでもなく、とても広い。

 そんな地上本部内をノクトは、茶色の陸士隊の制服を着て、仏頂面で歩いていた。

 ノクトは今日は休日だった。正しくは休日の筈だった。

 久々の休日で、やりたい事、やらなければ行けない事は沢山あった。にも関わらず、遠い首都クラナガンの地上本部まで来ているのは、呼び出されたからだ。

 

「アベル・デイリー……覚えていろよ~」

 

 事の発端は、首都航空隊との模擬戦で知り合ったアベルから、休日にあって欲しい人が居ると言われた事だった。

 当然、休日返上してまで、見ず知らずの人間に会うのは御免だとノクトは思い、それを断った。

 その二日後に、次の休日に地上本部への出頭を命じる命令書がノクト個人へ届いた。

 あまりにもタイミングが良いため、ノクトは咄嗟にアベルを疑ったが、幾らなんでも出頭命令書を下士官が出せる訳が無い。

 もし可能性があるなら。

 

「アベルが紹介したいと言った人間か……」

 

 アベルの口ぶりから、中々に大物な予感はしていたが、理由すら明確にせずに出頭命令書を出せる人間だとは、流石にノクトには予想出来なかった。

 しかし、地上本部で力を持っている人間ならば、どこの派閥の人間かは予想出来る。

 

「レジアス中将傘下の高官か、強硬派か。どっちにしたって、レジアス中将関連か……」

 

 ノクトは歩きながらそう呟き、溜息を吐く。

 派閥や政治の話にノクトは全くと言って興味は無かった。

 ノクトからすれば、主義主張すらどうでもよく、上に求めるのはただ一つ。有能さだけだった。

 現場で働くノクトにとって、一番の不幸は上層部が無能である事。例え、どれだけ素晴らしい理想を掲げる人物でも、無能であればノクトは支持はしない。

 その点、強硬派として知られるレジアス中将は、ノクトの要求を満たしていた。間違いなく有能な傑物であると。

 個人的な感想で言えば。

 

「もう少し本局と協力してくれれば言う事なしなんだけどな」

「中将のお膝元で恐ろしい事を言う奴だな」

 

 ノクトは後ろから聞こえてきた軽薄そうな声に顔をしかめる。

 休日に地上本部を歩いている原因を作った男の声だ。

 振り向けば、首都航空隊の制服を着たアベル・デイリーが壁に寄りかかっていた。

 

「アベル・デイリー……首はしっかり洗ったか?」

「待て待て! そんなに怒るなよ! 俺も好き好んで、お前さんの休日を潰した訳じゃない」

 

 アベルは両手を体の前で振りながら、今にもセットアップしそうなノクトを諌める。

 カード型の待機状態にあるデバイスをポケットに戻しつつ、ノクトは半眼で睨みを聞かせながら、要件を聞く。

 

「要件は?」

「俺が話す訳にはいかないんだなぁ。こっちだ。ついてこいよ」

 

 アベルはそう言って、エレベーターとは反対方向に向かって歩き出した。

 

「エレベーターを使わないのか? 五十階だろ?」

「そっちは一般局員用だ。今から向かうのは高官の個人的な執務室だから、高官用のエレベーターを使わなきゃいけないんだよ」

 

 予想通り、高官からのお呼び出しだったことに面食らいつつ、ノクトは自分のこれからに不安を覚えて、今日、何度目かの溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

 エレベーターで上がった先にあった部屋は、ノクトの想像の斜め上の人物の執務室だった。

 部屋に書かれていた名前はファーン・ギルダード。

 階級は一等陸佐であるが、階級以上に異色の経歴を持つ人物であった。

 

「レジアス中将のお気に入りじゃないか……」

「まぁ、気に入ってるかどうかはともかく、必要とはされてるな」

 

 ノクトの呟きにアベルはヘラヘラとした軽薄な笑みを浮かべて返す。

 緊張に緊張を浮かべるノクトとは正反対な表情だ。

 

「その余裕はどこから来るんだ?」

「ここから」

 

 アベルは何もない宙空あたりを指差しながらそう答える。

 フザけた返しにノクトは顔を引きつらせるが、ここで大きな声を出すわけにはいかないと自制する。

 ここは将来、地上本部の重要な役職に就くであろう男の執務室前だ。

 緊張するノクトを尻目に、アベルはヘラヘラと笑いながら、執務室前のインターフォンを押す。

 

『ご用件を』

 

 女性の声が返ってくる。

 おそらく副官なのだろうと考えつつ、ノクトはアベルの様子を伺う。

 

「アベル・デイリー空曹長。ノクト・ベルクライド陸曹長をお連れしました」

 

 先ほどとは見違えるほどの変わり身を見せたアベルは、綺麗な敬礼を見せたまま直立不動で、返事を待つ。

 返事はすぐ返ってきて、どうぞと言う言葉と共にドアが開く。

 

「アベル・デイリー空曹長、失礼します!」

「……ノクト・ベルクライド陸曹長、失礼します!」

 

 先に一歩入ったアベルに習いつつ、ノクトは大きめの執務机に座る男性を見る。

 光沢のある茶色の髪に茶色の瞳。精悍な顔つきに柔和な笑みを浮かべている男。

 ファーン・ギルダード。

 魔導師では無いにも関わらず、三十代前半で一等陸佐の地位に居るやり手ではあるが、それ以上に、本局嫌いで有名なレジアス中将が本局側から引き抜いた人材だと言う事。

 そして、本局での栄達を約束されながら、本局からの引き止めを断り、地上本部に流れてきた男である。

 地上から本局に行く事はあれど、左遷以外で本局から地上に流れる事は殆どない。

 逆パターンでも有り得ないのに、それを本局のエリートが行った事に、異動してきたばかりの二年前は色々な噂が飛び交った。

 そんな男が、目の前に居る事にノクトは自然と体に力を入れてしまう。

 それに気づいたのか、ファーンはくすりと笑って言葉を発する。

 

「力を抜いてくれて構わないよ」

「はっ!」

 

 アベルが敬礼を解いたのを見て、ノクトも敬礼を解く。しかし、姿勢は直立不動を保つ。

 そんなノクトの様子に苦笑しつつ、ファーンは立ち上がり、執務室に備え付けられている高級そうなソファーへと移動する。

 

「向かい側に掛けてくれるかな?」

 

 ファーンにそう促されたノクトは向かい側に移動するが、アベルはファーンの後ろに立つ。

 

「アベルも座って構わないよ」

「自分は大丈夫です」

「まぁそう言うなら構わないけれどね。さて、もうすぐ飲み物が来るから、それまでの間に、君を呼んだ理由を話しておこうかな」

 

 ファーンはそう言うと、ソファーに予め置かれていた紙を一枚、ノクトの前に差し出す。

 ノクトは失礼します、と言って、その紙に目を通す。

 紙には警護三課設立概要と書かれており、それが新設部隊の設立に関わるモノだと、ノクトはすぐに察した。

 提案者、および課長の欄にはファーンの名前があり、この部隊がファーンのものである事が見て取れる。

 ノクトはゆっくり顔をあげる。

 

「事情は分かったかな?」

「自惚れでなければ、スカウトでしょうか?」

「その通りだ。私が課長を勤め、今年の四月から本格始動する警備部警護三課は、現在、計七人の魔導師をスカウトしている。アベルもその一人だよ」

 

 ノクトはファーンの後ろに立っているアベルに視線を移す。

 アベルが小さく頷いたのを見て、すぐにファーンへと視線を戻す。

 

「二分隊分の戦力を確保するおつもりですか?」

「四人は実績の無い低ランク魔導師で、主力はアベルを含めた三人。そして、そこに君も加えたいと私は考えている」

 

 そこまでファーンが言い終えると、背の高い女性の副官が飲み物を用意してきて、無言でファーンとノクトの前に置く。

 ファーンは一つ頷くと、目の前に出された白いカップの取手を持って、優雅に中の液体を飲む。

 

「紅茶が好きでね。ミッドチルダで取れる紅茶の中では一番美味しいと思っているものだ」

 

 ファーンはノクトに目線で飲むように促す。

 ノクトは失礼します。と言うと、カップを持って、少し赤み掛かった液体を口に含む。

 さぞや高級なものだとノクトは思ったが、意外にもそれはノクトが飲んだ事のあるものだった。

 

「これは……」

「ミッド東部でしか取れない茶葉で作られたものだよ。君は飲んだ事があるんじゃないかい?」

「何度か口にした事があります。ですが、そこまで高級なものではなかったかと……」

「値段が高ければ良いと言うものじゃない。私は確かにミッドでは一番美味しいと思っているが、他の人は違うかもしれない。君は東部出身であるし、下士官だ。値段だけ高く、あまり美味しくはないものを出しても喜びはしないだろ? それで喜ぶ人も居るから、私はその手の茶葉も持っているけれどね」

 

 暗にノクトに合わせたと言っているファーンに対して、ノクトは思考を巡らせる。

 ファーンが何を言わんしているのかを探ろうとしたのだ。

 しかし、考える間もなくファーンは自分で説明し始める。

 

「任務でも同じさ。目的にあった人選をしなければいけない。値段の高いもの……高ランクの魔導師を注ぎ込んでれば良い訳じゃない」

「任務に合わせる必要があると?」

「その通りだ。そしてもう一つ。値段の高いモノは希少だから高いんだ。安易に使っていいものじゃないんだよ」

 

 ファーンはカップを静かに置くと、ソファーに体を沈める。

 

「エース・オブ・エースを知っているかな?」

「高町二尉の称号ですね」

 

 ファーンはノクトの答えに頷くと、悲しげに笑いながら話す。

 

「彼女が一度墜ちた時、私が率いていた部隊は彼女と行動を共にしていた。衝撃だった。入局前から圧倒的な結果を出していた彼女が一瞬で墜ちたのだからね。そして、後に結果を聞いてみれば、無理の積み重ねによる体への負担がとんでもないものだったらしい。彼女なら大丈夫と言う周りの慢心が招いた必然の結果だった。そして、私は後悔した。私には気づくチャンスがあった。止める権限もあった。彼女が異世界に行った理由は、私が企画した演習の為だったからだ」

「ですが、結果的には誰も気付けなかった。それは一佐の責任ではないかと……」

 

 ノクトの言葉にファーンはゆっくり頭を振る。

 その顔に浮かべる表情は自嘲だった。

 

「私は、気付けなかった私を許せない。だが、後悔してばかりもいられない。なにせ、エース依存は管理局に根強くてね。地上本部も貴重な高ランク魔導師の負担は尋常ではない。だから私に出来る断罪は、この状況を打破する事だと気づいた。あの日の後悔を繰り返さない為にも……私はエース、ストライカーと呼ばれる高ランク魔導師を守れる部隊を作る。それが警護三課だ」

 

 ファーンはいつの間にかノクトの方へ身を乗り出していた。

 尋常ではないほどの目の力にノクトは自然と体を強ばらせる。

 

「五月の模擬戦は見ていた。君のデータも見た。君は私が求める最高の人材だ。私の断罪に力を貸して欲しい。その代わり、私は君に様々な道を用意する。攻撃系の魔法が使えない事を理由に、君は高高度飛行適性がありながら、航空隊への転属を断られている。おそらく、それのせいで多くの道が潰えているだろう。私は君の道を開くのに手を貸そう。だから君も手を貸して欲しい」

 

 強い言葉と意思に、ノクトは怯む。

 正直な話を言えば、ファーン・ギルダードの部隊に異動すること自体、ノクトにとってはメリットであった。それに加えて、一等陸佐にして、地上本部で影響力のあるファーン・ギルダードの全面協力が得られるならば、断る理由はない。

 ただ一つ。ノクトが自分自身に抱く不安を除いて。

 

「少し、考えさせて頂けませんか……。自分には……一佐の期待に応える自信がないんです……」

「そうか……。一週間以内に返事を貰いたい」

「分かりました。受けるにしても、断るにしても、一週間以内にご連絡します」

 

 ノクトはそう言うと、立ち上がって敬礼をした。

 



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第四話

 ファーンから異動の話を受けてから六日後。

 ノクトは未だに答えを出せていなかった。

 決断が出来ない自分に苛立ちと嫌悪感を抱きつつも、ファーンのあの目と意思の強さを思い出す度に、自分では無理なのではないか。押しつぶされてしまうのではないかと思ってしまっていた。

 そうは言っても、気持ちは異動する事に傾いており、後ひと押し、何かが欲しかったノクトは、ミッドチルダ東部で一番大きな病院に来ていた。

 設備の充実しているこの病院に、去年の十一月から、ノクトの祖父が入院していた。

 管理局内部の話な為、祖父に全てを話す事は出来ないが、話をすれば決断出来るんじゃないかと、ノクトは思っていた。

 お見舞い品の果物の詰め合わせを片手に、受付で面会である事を告げ、広い病院内を歩き、エレベータを使い、無駄に大きな病院に対して不満を述べつつ、ようやくついた祖父の病室に着いたノクトは、ドアをノックする。

 元気そうな声で返事が返って来たのを確認すると、ドアを開けて病室へ入る。

 

「ノクトか。どうした?」

「お見舞いだよ」

 

 左手に持っている果物の詰め合わせを見せて、それを棚の上に置く。

 病室を見れば至る所に果物のお見舞い品がある。

 交友関係が広い祖父らしいと思いつつも、ここまで多いと食べるのにも苦労する。

 

「お前も果物か」

「次からは別なのにするよ。食べる?」

「さっき食べたばかりだ。それより、いきなりモニターが消えて、付かなくなったんだ。見てくれないか?」

 

 そう言われて、ノクトは部屋に備え付けられてるモニターに近づく。

 見た限りでは配線に異常はなく、内部の異常かとも思ったが、試しにリモコンを使ってつけてみる。

 モニターに光りがつき、初期設定画面が出る。

 

「リセットしちゃったのかな? まぁいいや」

 

 ノクトは手早く最初の設定を済ませると、祖父にリモコンを渡す。

 

「これで見れるよ」

「おお。悪いな。録画したのを見てて、良い所だったんだ」

 

 ノクトの祖父は嬉しそうに笑いながら、リモコンをゆっくり操作して、お目当てのモノを再生する。

 

「管理局の特集? こんなのどこが楽しいの?」

「最初の方は面白くないが、途中からエースの紹介があるんだ! これが面白いんだ!」

 

 興奮したように話す祖父を見ながら、ノクトは溜息を吐く。

 未だに魔法の原理説明やデバイスの技術紹介などが好きな祖父は、エースの高度な魔法を見るだけでも楽しいらしい。

 そんな事を思いつつ、することも無い為、ノクトもそれを見ていると、知っている顔が映る。知っていると言っても、知り合いではないが。

 

「高町なのは……」

「エースオブエースだなんて格好良いなぁ。お前はこの子に助けてもらったんだろ?」

「まぁね」

「お礼を言わなくちゃだなぁ。管理局に入ったのもこの子が一番の理由だろ? 惚れたか?」

「勘弁してよ。要因の一つではあるけど、管理局に入ったのは、自分でも誰かの役に立つんじゃないかって思えたからだし、オレが会った時、この子、十二歳だよ?」

 

 大人になってからの三歳の差はそこまで大きな差ではないが、十代の三歳は非常に大きい。

 あの時、その強さと人としてのあり方に憧れはしたが、決して恋愛感情を抱きはしなかった。ノクトは心の中で断言する。

 

「今は十七歳だぞ?」

「オレは二十だよ?」

「いいじゃないか。それくらいなら許容範囲だ」

「そんなんじゃないし、何より、知り合いですらない相手を候補に出さないでよ。オレからすれば、画面の向こう側の人だよ」

 

 ノクトは呆れたように言うが、ノクトの祖父はそれでも諦めず、モニターで紹介されているなのはを見ながら言う。

 

「こんなに強い子を孫にしてみたいんだが……」

「そこかよ……。ごめんね、弱くて」

 

 祖父の叶いそうもない願望を聞かされ、ノクトは一言、謝罪を口にした後、肩を落として溜息を吐く。

 そんなノクトに目もくれず、モニターの中で激しく動き回るなのはの様子にテンションを上げるノクトの祖父は、なのはの戦闘映像が終わった瞬間、意気消沈する。

 

「もう終わりかぁ……」

「いやいや、まだ高町一尉の紹介は終わってないよ?」

「戦闘映像が見たいんだ。この子がいい子なのは、目を見ればわかる」

「別にいい子かどうかを紹介したいわけじゃないと思うけど……」

 

 ノクトはそう言いつつ、なのはの映像がリハビリしているモノに変わったのを見て、映像をしっかり見始める。

 痛々しいほど包帯を巻かれ、しかし、手すりに掴まり、必死に歩こうとしている。

 新暦68年に任務中に撃墜され、一時は飛ぶ所か、一生歩けないかもしれないと言われた怪我を負うが、懸命なリハビリで僅か半年で戦線復帰した不屈のエース。

 そういうのは簡単だが、それがどれほど大変だったかは、安易に想像するのすら失礼になるのではないと、ノクトはファーンの言葉を思い出しながら思う。

 私は後悔した。

 ファーンですらあれなのだ。高町なのはと言う人間に近しかった人間はもっと後悔し、消えないトラウマとなっている事だろう。

 なのはの次はまた別のエースに視点が当てられる。

 出てくる人々はどれも名前の聞いた事のある局内の有名人ばかりで、一緒の任務に付ければ、話す機会が持てれば、かなり自慢できるだろう。

 正にノクトにとっては画面の向こう側の人々だ。

 けれど、ファーンはそんな人たちを守ろうとしている。

 多くの市民を、多くの局員を守るエースを。

自分が守る。

それはノクトにとって、とても魅力的に映った。

エースを守ると言う事は、エースが守る人々を、エースが救う人々を間接的に、守り、救う事に繋がる。

自分では多くの人々を救えない、守れないノクトにとって、それは憧れに近いモノだった。けれど、やはり、一番の問題は、これほど強く、大きなエースたちを守る事が出来るのだろうかと言う点だった。

 

「ねぇ、祖父さん。祖父さんは現役時代、エースを守った事はある?」

「ないな。エースと共に任務をこなした事はあるが、少なくとも戦闘中に守ったり、助けた事は一度もない」

「そっか……。やっぱり、普通の魔導師がエースを守るなんて無理だよね……」

「そうとも限らんだろ。俺は経験ないが、俺の友人で、エースの背中を守ったって奴は何人も居るし、そいつらはしょっちゅう、俺たち普通の魔導師が居るからエースは戦えるって豪語してたしな。エースも人間だ。人間なら生きてれば色々ある。体調が悪かったり、気分が乗らなかったりな。そういう時には、いつも助けてもらってるお礼をしなくちゃいけない」

 

 それは確かにその通りだとノクトは思った。そんな単純な事にすら気付かなかった自分に、思わず笑いそうになる。

 

「なら、俺も守れるかな? それこそ、高町一尉みたいなエースを」

「守れるんじゃないか? それにお前は一度、命を助けられてる。男なら意地でも借りは返してこい」

 

 ノクトは祖父の力強い言葉に頷いた。

 その目にファーンに負けないような強い意思を宿して。

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 ノクトは管理局地上本部にあるファーンの執務室を訪ねていた。

 執務机に居るファーンと向き合う形で立っているノクトは、前ほどには緊張せずに居られた。

 

「直接来てくれたと言うのは、期待してもいいのかな?」

「はい。一佐のスカウトを受ける事に決めました」

 

 ノクトの言葉を聞いたファーンは笑みを深めて、何度か頷き、ノクトに質問する。

 

「決断した理由は何かな? 勿論、言いたくなければ言わなくていい」

「祖父が言ってくれた言葉に勇気をもらいました。エースも人間だと。簡単で、単純な事かもしれません。けれど、その事実に自分は言われるまで気づきませんでした」

「私も高町くんが墜ちるまでは気付かなかった。無意識に、エースは自分とは違う何かだと考えていたんだ」

 

 ファーンの言葉にノクトは頷く。

 管理局に所属する多くの魔導師にとって、エースとは憧れであり、頼れる存在であり、別格の存在である。

 それは不可侵の存在であり、自分たちの枠で捉えてはいけないものなのだと。

 力に差がありすぎる為、同格に捉える事ができず、故に些細な変化に気づく事はない。

 ファーンはその現状を変えたいと願っていた。

 そして、それにノクトも共感していた。

 

「非才の身ではありますが、全身全霊を掛けて、全力を尽くします。どうかよろしくお願い致します」

 

 ノクトは直立不動の姿勢で敬礼を行う。

 そんなノクトにファーンも椅子から立ち上がり、敬礼を行う。

 

「こちらこそよろしく。険しく、辛い道かもしれないが、私は決してブレない事を約束しよう。だから、君もついてきて欲しい。道は私が示す。君なら必ず私について来てくれると信じているよ」

「了解しました。一佐の背中を追わせていただきます」

 

 ノクトは敬礼を崩さずにそう言うと、前はひるんでしまったファーンの強い目を見返す。

 決断は自信になり、ノクトに強い意思を与えていた。

 決して、何者にも怯まない事を誓いながら、ノクトは敬礼に力を込めた。

 



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第五話

  新暦73年4月20日。

 

 

 

 

 

 

 首都クラナガンの地上本部の一室。

 警備部警護三課本部と書かれた大きな部屋がある。

 そこに警護三課に配属される局員たちが勢ぞろいしていた。

 当然、その中にはノクトも居り、前にある壇上に上がったファーンの課長挨拶を聞いていた。

 

『ノクト。ノクト』

 

 直立不動の姿勢を崩さずに聞いていたノクトに、横にいるアベルが念話で話しかけてくる。

 よりにもよって、課長と言う、この警護三課で最も偉い人間の挨拶中に話しかけてきたアベルに苛立ちつつも、ここで反応しなければ、反応するまで声を掛けてくる事を、短い付き合いの中で知っていたノクトは、仕方なく、アベルに対して反応する。

 

『何だ?』

『前に居る女の人。見たことあるか?』

 

 ノクトはアベルにそう聞かれて、前に並んでいる部隊の幹部たちに視線を向ける。

 幹部の中に女性は一人しか居ない。

 鋭利な刃物をとっさに想像してしまうほど、鋭い視線と冷たい表情の女性だった。

 

『美人だよな?』

 

 漆黒と言ってもいいほどの黒い髪に、同色の瞳を持つ女性は、確かに美人ではあった。

女性にしては背が高く、百七十ほどあるノクトよりも少し背が高い。その身長の高さと相まって、女性らしさよりも男性らしさの方が先に来る。

少なくとも、ノクトから見て、アベルのように鼻の下を伸ばす対象ではなかった。

 

『階級章を見ろ。多分、あの人が部隊長だ』

『いいねぇ。美人な上司が居るなら、俺は頑張っちゃうよ~』

 

 あくまでいつもと調子の変わらないアベルに思わず溜息を吐きそうになって、ノクトは何とか堪える。

 課長の挨拶中に溜息を吐けば、あとが大変である事は言うまでもない。

 

「これで私の挨拶は終わります。次に、部隊長となられるラケルタ・キャリオス三佐から挨拶をして頂きます」

 

 ファーンはそう言って、壇上から下がり、先ほどの女性と交代する。

 ラケルタはキビキビとした動きでファーンに敬礼し、ファーンと入れ替わりで壇上に上がる。

 ラケルタは壇上から部隊の人間たちを一通り見渡すと、静かな声で話し始める。

 

「ラケルタ・キャリオス三佐だ。今日から諸君らの部隊長になる。よろしく」

 

 短くそう言ったラケルタの視線が、いきなり自分に来た事に対して、ノクトは嫌な予感を覚える。

 この手の事に緊張感の欠けるアベルは、ラケルタに見られた事にテンションが上がり、念話で、俺を見てる。俺を見てる。と繰り返し続ける。

 しかし、ラケルタの鋭い目を見たノクトは、全くそんな風には喜べなかった。

 

「ノクト・ベルクライド陸曹長、及び、アベル・デイリー空曹長」

「はっ!」

「はっ!」

「課長の挨拶中に念話でおしゃべりとは良い度胸だ。後で私の所へ来るように。その不抜けた根性を叩き直してやる!」

 

 まるで敵に向けるかのような鋭い眼光に晒され、蛇に睨まれた蛙のような状況に陥ったノクトとアベルは、敬礼したまま固まってしまい、形式的になんとか、了解と言う事だけで精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

 

 

 どうしてオレが。

 そんな事を思いつつ、ノクトは部隊長室で時折、ラケルタの冷たく鋭い眼光に晒されながら、直立不動の体勢を保っていた。

 アベルも同様だが、彼此、三十分以上、無言で直立不動を続けている為、沈黙が嫌いなアベルは、体以上に精神が限界に近づいていた。

 アベルとノクトを部隊長室まで呼び出したラケルタは、ただ一言、立っていろ。とだけ告げて、自分はアベルとノクトの前で仕事を始めていた。

 沈黙はノクトも苦手ではあったが、ノクトはラケルタの仕事ぶりを見て、ラケルタを出来る人と評価した為、この状況には罰以外の何かがあると感じ、それを探す事に集中していた為、ここまではそれほど苦痛ではなかった。

 とは言っても、ラケルタがここでアベルとノクトを立たせる事に、罰以外の理由は見つけられなかったが。

 このまま今日一日が終わってもおかしくはない。と、ノクトが覚悟を決めた時、ラケルタがふと目を通していた書類から視線を外す。

 

「ノクト・ベルクライド陸曹長。貴様の長所は何だ?」

 

 いきなり話かけられて、ノクトは一瞬、反応が遅れるが、すぐに自分の長所について説明し始める。

 

「はっ! 自分の長所は防御魔法と、それを使ったチーム戦にあると自負しています」

「ふむ。では、アベル・デイリー空曹長。貴様の長所は?」

 

 聞かれたアベルはようやく喋れるとばかりに、無駄に大きな声でしゃべり始める。

 

「はっ! 自分の長所は汎用性にあると思っています! それと」

「二人とも不正解だ。貴様らの言った長所など、ある程度、上のレベルになれば長所にはなりはしない」

 

 まさか不正解を言い渡されるとは思っていなかったノクトは思わず、ラケルタを見たまま固まってしまう。

 アベルも似たような状態だったが、アベルの場合はどちらかと言うと、まだまだ喋りたかったのを中断された事の方が大きいようだった。

 ラケルタはアベルとノクトの様子を見て、小さく溜息を吐くと、違う質問を投げかける。

 

「それでは別の質問にしてやろう。アベル・デイリー空曹長。この警備部警護三課の長所は何だ?」

 

 今度の質問にアベルはすぐには答えられない。

 当たり前だ。この警護三課は今日、はじまったばかりの新設部隊だ。

 長所なんてすぐには思い浮かばない上に、下手な答えを返せばどうなるか分かっているな。と、ラケルタの目が脅しを掛けている。

 

「えー、長所は……課長の名声でしょうか」

「あながち間違ってはいないが、それが役に立つのは現場の外だ。一度、事件が起きてしまえば、課長の名声に相手が怯むことはないだろう。ノクト・ベルクライド陸曹長」

「はっ!」

「この部隊の短所はなんだ?」

 

 長所ばかりを探っていたノクトは小さく顔を引きつらせながら、考える。

 咄嗟に幾つか思いついたが、どうにもピンとは来ない。

 ラケルタの視線が徐々に強くなるのを感じつつ、仕方なしに、ノクトは思った事を言う。

 

「自分の主観ではありますが、部隊の現在の実力と、課長が掲げる目的に必要な実力。この差があまりにも大きい事だと思います!」

「……まぁ三十点と言った所か。この部隊の欠点は、全てだ。ファーン課長が集めた部隊員は優秀だが、各部隊の主力と言う訳でも、本局のエリートと言う訳でもない。この部隊は、現状、局員の質、物、経験、実績、考えられる全てに不足している」

「……では、長所は一体、何でしょうか?」

 

 ノクトはラケルタの言葉に納得しつつも、それではアベルに投げかけた質問に答えがない事になってしまう。と考え、そう質問する。

 

「この部隊の長所は、イコール、貴様たちの長所でもある」

「自分達の長所は……わかりません」

「そうだ。貴様たちは未知数だ。その未知数さがこの部隊の長所だ」

 

 ラケルタはそう言うと、幾つかの資料をアベルとノクトへ放り投げる。

 咄嗟の反応だった為、落とさないようにするのが精一杯で、アベルとノクトは不格好な形で受け止める。

 

「この部隊のメンバーの資料だ。どいつもこいつも一癖も二癖もある奴らだ。特に一芸に秀でたものばかりを集めているから、どうやって部隊を纏めていこうか迷っている所だ」

「は、はぁ……」

 

 ノクトは、ラケルタにまとめられない部隊があるのかと思ったが、決して口には出さずに、受け答えをしつつ、資料に目を通す。

 資料は部隊のメンバーの能力を細かく分類し、数値化したものを、グラフで示したもので、非常に分かりやすかった。

 それは見やすいと言う意味と、部隊の特徴を捉えるのに分かりやすいという意味で、見ていけば見ていくほど、極端に偏ったグラフのオンパレードだった。

 

「この部隊は一芸特化の若者を集めている。それは将来を見据えたもので、その潜在能力がこの部隊の唯一の長所だ。勿論、貴様ら二人も潜在能力に期待して、この部隊にスカウトされた。秀でた部分を伸ばし、その一点に置いては本局のエリートすら上回る者たちを育成していくつもりなんだ。ファーン課長はな」

「そうだったんですか……。どうして自分たちにそれを?」

「お前たちが一番、命令を聞きそうだったからだ。何も言わずに三十分ほど直立不動で居る奴なら、これから使いやすい。問題児ばかりだからな、この部隊は」

「試していたんですか……。てっきり罰かと……」

 

 アベルが力なくそう言うと、ラケルタは椅子の背もたれに体重を預けながら大きく溜息を吐く。

 

「貴様ら二人はマシな方だ。念話に探知防止用の魔法を掛けていなかったからな。何人かは探知防止用の魔法やら、デバイス経由での会話やら、色々工夫していた。正直、注意するのも面倒だったから、警戒していなかった貴様らを生贄にしたまでだ」

「探知防止って……どんだけ用心深いんだよ……」

「そういう奴らが今日からお前たちの同僚だ。気をつけておけ。お前たちのように任意で異動したのは少ないからな。多くの奴らが、前居た部隊を追い出された口だ。トラブルは覚悟しておけ」

 

 ラケルタの今日一番の脅しを受けて、アベルとノクトは盛大に顔を引きつらせる。

 ラケルタの話を総括すれば、ラケルタはアベルとノクトを自分の駒にすると決めたようだった。

 それを察したノクトは肩を落とすが、そんなノクトにラケルタは追い討ちを掛ける。

 

「さて、おしゃべりはおしまいだ。部隊のメンバーの把握も済んだ事だし、今から前線メンバーで訓練に入る。当然、貴様らもだぞ」

「はい! 了解しました!」

「私の訓練は辛いから、覚悟しておけ。私の訓練が嫌で、管理局をやめた奴らが沢山居るからな」

 

 訓練と聞いて、張り切ってした敬礼から力が抜ける。

 訓練がキツくて管理局をやめた魔導師など聞いた事はない。せいぜい、部隊の訓練がキツイから転属届けを出した人間の噂話しか、二人は聞いた事は無かった。

 

「ど、努力します……」

「その意気だ。初めての任務だ。地上本部の訓練室に前線部隊の奴らを整列させておけ」

「部隊長……。気になってはいたんですが、質問してもいいですか?」

 

 ノクトがずっと気になってた事をラケルタに意を決して質問する。

 

「何だ?」

「その……そう言うのは分隊の隊長がする事なんじゃないでしょうか?」

「言っていなかったな。貴様ら二人が最上位者だ。訓練校で派手にやっていた新人が四名。当面はこの四人は訓練付けで、貴様ら二人と組むのはあとの二人。その二人は陸曹と空曹だ。引っ張ってこれる尉官級の魔導師に優秀なのが居なくてな。そこでだ。ノクト・ベルクライド陸曹長。貴様は分隊指揮の資格を持っていたな?」

「仮ではありますが……」

「では、当面は貴様が分隊長だ。分かったら、さっさと部下たちを集めろ」

「了解しました! ……あっ」

 

 いきなり命じられた事に対して、思わずノクトは敬礼して、了解と言ってしまう。

 ノクトが初めて、自分の反射的行動を恨んだ時だった。

 



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