GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ (のんびり日和)
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プロローグ

初めての原作なので、間違っているところがあったらごめんなさい。


月明かりの無い新月の夜、荒れ果てた小高い丘の上に不自然に盛り上がった草木が乱雑に生えていた。だがその下からは草木とは別に大きな筒が飛び出ていた。それはただ筒ではなく、戦車の主砲だった。乱雑に生えていたのは塹壕に車体を隠し、上部には草木で隠していたのだ。

そしてその周りには息を殺すように迷彩服を着こんだ兵士達が塹壕に身を隠していた。それぞれの武装は違っており、ある兵士達は緑や赤土色のデジタル迷彩柄を着こみ、装備していた武器は64式と呼ばれる小銃を持っている兵士や、分隊支援火器として導入されているFN ミニミを構えている兵士もいた。

 

 

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そしてもう一方の兵士達はMCCUUと呼ばれる柄の迷彩服を身に纏い、こちらは様々な武器を装備した兵士が多かった。M4SOPMODや、SCAR-Lにグレネードランチャーを取り付けた物、更にM416A5などを構えた兵士がいた。

 

 

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彼らが睨むような視線を向けている方には、松明で明かりを灯す旧時代の武装をした兵士達と、人と同じように二足歩行をしている醜い顔をした化け物達。彼らも同じように鋭い視線を丘の上にいる兵士達へと向けていた。特に彼らが視線を向けていたのは、丘の兵士達の後ろにいる巨大な物だった。顔だと思われるところに光る2つの目が見え、全身からしてごつい巨体をしていることが夜でもはっきりと見えた。

彼らは巨人と戦わないといけない。と言う恐怖で今すぐ逃げ出したいと思うが、自身を奮い立たせ必死にその場に留まっていた。

 

逆に丘の上にいた兵士達は背後にいる巨大なものに信頼を寄せていた。自分達が戦わなくても自分達の後ろにいる物が、目線の先にいる集団を蹴散らしてくれる。それだけの信頼を寄せていた。

 

空に迫撃砲から撃ちだされた照明弾が明かりを照らしたと同時に、丘の下に陣取っていた集団が一斉に攻撃を開始してきた。大声をあげ、剣を掲げ、旗を掲げるなど一切怯まないと言う思いで突撃をしてくるが、丘の上にいた兵士達は一斉射撃を開始し、登ってきた兵士達を次々と撃ち抜いていく。丘の下にいた後続の兵士達も逃げるべきだと思うが、その前に激しい銃撃、戦車から撃ちだされる砲弾、そしてその後ろにいた巨人から撃ちだされる弾丸によって成す術なく撃ち倒されていった。

 

上空から飛来した翼竜も巨人から撃ちだされる弾丸やミサイルによって撃ち落とされて行く。

2発目の照明弾が撃ちだされた時、その巨人の正体が現れた。

巨人の正体は2足歩行型の機動兵器『ヴァンツァー』だった。

 

 

これは突然現れた扉によって始まった戦いの物語である。

 

 

 

 

 

 

設定

世界

ドイツ人のランドルト博士が人型作業機械の開発が始められ、改良が重ねられ世界中にヴァンツァー(WAP)が出回った。

結果、WAPを用いた戦争は起きたが互いにWAPで牽制し合うなどして戦争の火種を抑えている。

O.C.UとU.S.Nはこの世界では存在しません。

 

日本

WAP開発に世界より遅れているが、技術は世界より先に進んでいる。アメリカとは友好国として技術交換をするなど切っても切れないほど仲が良い。

 

アメリカ

日本とは友好国として互いに手を取り合うほど仲が良い。WAP技術は日本より遅れている為、互いに技術交換をしたりして新たなWAPを開発しては日本に幾つか送っている。




フロントミッションの設定が可笑しいかもしれませんが、ご了承下さい。


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2話

2XXX年 午前10時頃 東京 航空自衛隊習志野分屯基地

 

習志野分屯基地に2台の武装したM1151ハンヴィーとそれに挟まれるよう警護された高級車が停車した。車から軍服を身に纏った茶髪の青年と白髪の初老の男性が降りてくると、4人ほどの自衛隊員がやって来た。

 

「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます、ゴドウィン将軍。当駐屯地を案内を任されました、桐谷隼人1等陸佐です」

 

隊員の一人が敬礼しながらそう伝えると、後ろにいた隊員達も同じように敬礼をする、ゴドウィンと呼ばれた老人も同じように敬礼を返す。

 

「うむ。今日はよろしく頼む」

 

そう言い、ゴドウィンは敬礼していた手を前へと差し出すと、桐谷は慌ててゴドウィンの手を握り返す。そしてゴドウィンの後ろにいた青年に目線を向ける。

 

「ところで将軍。そちらの青年はもしや……?」

 

「うむ、今回のプロジェクトのパイロットとして私が連れてきた優秀な者だ。カズヤ大尉、挨拶を」

 

カズヤと呼ばれた青年は前へと出て敬礼し、挨拶を始めた。

 

「カズヤ・ハミルトン大尉です。第42機動部隊に所属しています」

 

「カズヤと言いますと、貴方はもしや?」

 

「はい、日本人とアメリカ人のハーフです」

 

カズヤがそう説明すると桐谷は、あぁなるほどと納得する。

 

「では、時間も押してますしどうぞこちらへ」

 

そう言い、桐谷は2人を格納庫へと案内しする。

 

格納庫へと案内された2人。格納庫内は暗く、前の方には何か大きな物があることが分かった。

 

「これが日米共同開発して出来た機体、『ゼフィール』です」

 

そう桐谷が言うとライトアップされ一機の灰色のヴァンツァーが照らし出された。

 

「ほう、これが」

 

ゴドウィンは顎髭に手を添えながらゼフィールをよく見る。

 

「武装は左手にMGのセメテリー、右手にナックルを装備させています。それと肩にはミサイルランチャーを乗せています。通常のWAP同様、パーツは換装出来ます。違いは中身で、通常のWAPとは違いそちらが開発した新システムを導入しています」

 

「新システムと言うと、E.D.G.E.システムの事だな」

 

ゴドウィンがそう聞くと桐谷は、その通りです。と返す。

 

「まだデータが余り無い為、このシステムは自衛隊のWAPにはまだ導入できませんが、将来的には配備しているWAP全てに導入したい考えでいます」

 

「そうか。このシステムの導入が多くのWAPパイロット達の命を守れるか。カズヤ大尉、その命運は君に掛かっているんだ。頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

ゴドウィンの信頼にこたえるために、カズヤは真剣な表情を浮かべ敬礼する。

 

「では初期起動とパイロットの情報などを入力が必要な為、カズヤ大尉WAPに搭乗してください」

 

「了解しました」

 

カズヤは軍服からWAPパイロット用の戦闘服へと着替えに更衣室へと入りに行く。そして着替え終えたカズヤはゼフィールのコックピットに乗り込み起動シーケンスに入る。

 

『初期起動開始。……パイロット情報の入力を開始。待機中……入力完了。機体データディスプレイ投影開始……完了。システムチェック……オールコンプリート』

 

WAPの機械音声の案内を聞いたカズヤは、機体チェックをしている自衛隊隊員に報告する。

 

「こちらカズヤ。パイロット情報の入力並びに、システムチェック終了」

 

『了解しました。ではそのまま格納庫から出て下さい。実射実験等は此処ではなく別の所で行われますので』

 

「了解した」

 

カズヤはゼフィールを固定している留め具が外れたのを確認し、外へと出る。すると首都の方に大きな煙が立ち昇っているのが見えた。

 

「こちらカズヤ。首都の方で大きな火事が起きているのか、煙が立ち昇っています」

 

そう言われ地上にいた隊員達は双眼鏡などで確認したり、無線で状況を確認していたりしていた。カズヤはモニターを拡大し煙の方を見ていると、煙から人が乗ったドラゴンが出てきた。

 

「!? ど、ドラゴン? ゴドウィン将軍、あの煙只の火事ではないかもしれません!」

 

カズヤの報告を聞いたゴドウィンはどういう意味だと聞き返そうとする前に、一人の自衛隊隊員が大慌てで走ってきた。

 

「ほ、報告します! 東京銀座にて謎の武装勢力が市民を虐殺しているとのことです!」

 

「なんだと!?」

 

桐谷は驚いた表情を浮かべながら、爪を噛む。

 

「クソッ! 出動といっても陸自の地上部隊はいいとして、WAPを送るとなると輸送ヘリを駐屯地に送ってから現場に向かわせても遅すぎるんだぞ!」

 

WAPを輸送するヘリは陸自、そして空自に配備しているが陸自の場合、ヘリを格納する場所が余り無い為ほとんどが演習地に置かれているのだ。

 

桐谷がそう呟いていると、ゴドウィンがある提案を出す。

 

「なら彼を現場に送りましょう」

 

そう言いゴドウィンは目線をゼフィールへと向ける。

 

「し、しかし「しかしと言っている暇なんかない! 今は一刻を争う事態なんだぞ!」……分かりました。カズヤ大尉、我が国の国民を助けてくれないか?」

 

「言われるまでもありません。この国は母の祖国です。だったら守らなければ母に顔向けできませんからね」

 

カズヤの返答を聞いた桐谷は急ぎ外に停められていたヘリのパイロットに目的地を銀座に向かうよう伝える。そしてゼフィールをヘリへと乗せ、ヘリは習志野分屯基地を飛び立った。

 

 

 

銀座 午前11時

銀座にいた市民たちは突然現れたドラゴンや兵士達を只のパレードの催しだと思っていた。だが現実は違った。兵士達は剣や槍で人々に斬りかかり、豚の顔をした化け物たちは逃げる市民達の背後から強襲し殺していく。そして空中にいたドラゴンに乗った兵士も槍で逃げる市民の背後を襲ったりしていた。

 

偶々同人即売会へと来ていた陸上自衛隊隊員、伊丹耀司は走っていた。その訳が

 

「急がないと、同人即売会が中止してしまう!!」

 

と自分の都合を言っているとある光景が見えた。

一人の警官が持っていたニューナンブM60でドラゴンに乗っていた兵士を撃ち落とすが、兵士は撃たれた事に関わらず持っていたナイフで警官を殺そうとしていた。伊丹は咄嗟に兵士が警官を殺そうとする前に真横から飛び込み兵士を拘束する。そして近くに落ちていた兵士が持っていたナイフで喉元を刺し、兵士を殺した。

顔に着いた血を拭い、伊丹は茫然としていた警官をゆする。

 

「おい、今すぐ市民を皇居に避難させるんだ!」

 

そう言うと警官は、我へと帰り伊丹の指示に従い市民を避難させようと他の警官達に無線で呼びかけている中、伊丹は足を挫いたのか苦痛な顔で座り込んでいた女性と、その女性の子供だと思われる少女が泣きながら母親にしがみ付いていた。その背後からドラゴンに乗った兵士が襲い掛かろうとしていた。伊丹は不味い!と思い親子を庇おうと前へと出る瞬間、突如ドラゴンが地面へと落ちる。その背中には大きな穴が出来ていた。そして伊丹達の前にヘリがホバリングして降りてきて、一機のヴァンツァーが降りてきた。

 

「ヴァ、ヴァンツァー?」

 

伊丹はさっきのドラゴンを撃ち落としたのはこいつかと思っていると、降りてきたヴァンツァーから声を掛けられた。

 

『其処の人、無事ですか?』

 

「あ、あぁ。市民を皇居に避難させるから時間を稼いでもらえないか?」

 

伊丹は突然現れたヴァンツァーにそう言うと

 

『分かりました。早い所その人達を連れて行ってください、伊丹さん』

 

そう言われ伊丹はなんで俺の名前を?と疑問に持ちつつも市民を皇居へと避難させていった。

 

「全く声で気付いて下さいよ、伊丹さん」

 

苦笑いを浮かべつつ避難していく伊丹を見つめるカズヤ。そしてカズヤは機体の向きを変える。

 

「さて、覚悟はできたかテロリスト共?」

 

カズヤはそう呟きながらモニター越しで睨む先には、馬に乗った兵士達が居た。全員驚いた表情を浮かべながらも果敢に、ゼファールへと挑もうと剣を掲げ突撃してくるが、その前にカズヤは操縦桿の引き金を引きセメテリーを発砲し、次々と兵士達を挽肉へと変えていった。

 

「そら掛かってこいテロリスト共! 一匹も逃がさないからな!」

 

カズヤの活躍、そして皇居へと市民を避難させた伊丹の活躍によって多くの市民達を助けることが出来た。だがそれでも多くの市民の死傷者が出て、その中には旅行で来ていたアメリカ人も含まれており、アメリカではこのテロに怒りを表した。




次回
日米特地遠征団出撃!





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3話

銀座事件から数日後、首相官邸では総理大臣の本居がアメリカ大統領のディレルとテレビ電話で会議を開いていた。

 

『それで本居よ、その門の向こうに自衛隊を派遣するのか?』

 

「えぇ。その門の先がどのような場所かはまだはっきりしていないが、このような惨劇を生み出した者達を、国際会議に出さなければ国民達は納得しないだろうし、私としてもこのまま黙っている訳にはいかないのでね」

 

そう言い本居は目を瞑る。本居の頭には国民の泣き叫びが何度も響き渡っていた。

実は本居は惨劇の現場となった銀座へと赴き、その場で一体何が起きたのか自分の目で確認したのだ。ビルの入り口や壁、そして路面のアスファルトには夥しい程の血が付いており警察や自衛隊が懸命に亡くなった人の亡骸を丁重に死体袋に納め、近くの体育館に運び遺族に確認をとる作業を行っているのも視察したのだ。

息子か娘を失ったのだろうか年配の夫婦が泣き叫びながら死体を揺すっている所もあれば、赤ん坊を抱いて妻らしき女性に泣きながら、名前を叫んでいる男性もいた。

本居はこのような惨劇を二度と起こさせないために、門の向こうに自衛隊を派遣することを決めたのだ。

 

『……だったら我が国の兵士も派遣したいのだが』

 

ディレルは机の上で組んでいた手を強く握りしめ、本居に頼む。

 

「アメリカ軍を? ……そちらの国民達もか」

 

本居がそう言うとディレルは首を縦に振った。

 

『事件当日に、ツアーで来ていた我が国の国民が事件に巻き込まれて、亡くなった者が多く出たのは知っているな?』

 

「あぁ。ツアーには子供連れの親子が多かったの聞いている」

 

『そうだ。そして死者のほとんどがその子連れの親子だ。それで惨劇を生んだ奴らに鉄槌を!と毎日手紙を送ってくる遺族達が居るんだ』

 

そう言われ本居は、しばし考えた後決意した目をディレルへと向けた。

 

「分かりました。アメリカ軍の派遣を認めます。ですが、多くの戦力は回さないでください。周辺国が警戒する恐れがありますから」

 

『感謝する、本居!』

 

こうして日本の自衛隊、そしてアメリカ軍の派遣が決定した。

 

~在日アメリカ軍司令部 通称キャンプ座間~

 

カズヤはOCPの迷彩服である場所へと向かっていた。そして目的の場所へと到着し扉をノックする。中から入室許可の声が聞こえカズヤは中へと入り、机の前にいる上官に敬礼する。

 

「カズヤ・ハミルトン大尉。只今到着しました」

 

「うむ、ご苦労。まぁ座りたまえ」

 

そう言われカズヤはソファーへと座り用件を聞く。

 

「して、自分を呼ばれた要件をお聞きしても宜しいでしょうか」

 

「うむ、君はアメリカ軍と自衛隊を門の向こうへと派遣されることは知っているな?」

 

カズヤは首を縦に振り同意する。

 

「日本は国土防衛の為、WAPの派遣は少数しかできないらしい。そこで我がアメリカ陸軍WAPを派遣することが決まった」

 

「……まさかその派遣するWAPの中に自分が入ってるのですか?」

 

カズヤがそう聞くと上官は首を縦に振った。

 

「君の実力はゴドウィン将軍からもお墨付きを頂いてるそうじゃないか。なら君の力を向こうで発揮してくれ」

 

そう言われカズヤは、深くは考えずただ与えられた任務を全うするだけだと思いソファーから立ち上がり敬礼する。

 

「任務了解しました!」

 

そう言い部屋から退出していった。

 

 

 

それから数ヶ月後シェルターで覆われた門の前にはOD柄の戦闘服に防弾チョッキ2型、そして88式鉄帽を装備し、その手には64式小銃を携えた自衛隊。そしてMCCUUと呼ばれる柄の戦闘服にPCアーマー、そしてECHヘルメットを身に付けたアメリカ海兵隊。彼らの手には多種多様な銃器を携えていた。そんな彼らの背後には、アメリカから派遣されたWAPと日本のWAPが肩を並べていた。

そんな彼らの前に本居総理大臣とディレル大統領が現れ、全員鉄帽等を脱ぎ直立不動になる。

 

「皆さん、遂にこの日がやって来ました」

 

本居はそう言いながら整列している自衛隊、海兵隊をそれぞれ目を向ける。

 

「この門の先は我々が想像したこともない世界が広がっているかもしれません。ですが皆さんが無事に責務を全うし、此処にもう一度皆さんの顔を見られることをディレル大統領と共に祈っております」

 

そう言い本居は演説台から退くと今度はディレルが演説台へと立ち隊員たちに目を向けて話し始めた。

 

「アメリカ大統領のディレル大統領であります。先ほど本居総理大臣が申した通りこの門の先は君達にとって、そして私達にとって未開の土地となっています。ですが此処に居る君達が無事に戻ってくることを願っています」

 

そう演説した後、2人は演説台から下りると88式鉄帽と防弾チョッキ2型を身に纏った自衛隊員が前へと出た。

 

「私が日米特地派遣団指揮官の狭間浩一郎陸将だ。1ヵ月前から幾度も斥候部隊を送り調査したが実態は未だ不明のままだ。つまり門を潜り抜けた瞬間戦闘になる可能性がある為、各自心構えだけはしっかりしておくように! そしてWAP部隊の諸君もだ。門の先にはWAP以上の敵が存在するかもしれない。WAPの実力に過信しすぎず連携して作戦を遂行してほしい!」

 

その言葉に整列していた隊員達は背筋を伸ばす。

 

「間もなく突入だ‼ 各員速やかに搭乗し、配置につけ‼」

 

その言葉を聞いた隊員達はそれぞれ銃にマガジンを挿し、薬室に弾を込め車両に搭乗していく。WAPのパイロット達もWAPに搭乗し起動する。

 

<サクラ指揮車より各車。状況送れ>

 

<サクラ01及び02。準備よし>

 

<サクラ03及び04。準備よし>

 

<こちらオーバーロード(アメリカ海兵隊指揮車)。準備はいいか?>

 

<こちらトゥームストーン指揮官。準備よし>

 

<こちらミスフィット指揮官。準備よし>

 

<こちらキングマスター(ヴァンツァー指揮車)。各機状況を知らせ>

 

<こちらレイブン指揮官。準備よし>

 

<こちらクォックス指揮官。準備よし>

 

各車の準備状況を聞いた指揮者はサクラ指揮車にいる狭間に準備よしの報告を入れる。

 

「陸将、各部隊準備よしとのことです」

 

「よし」

 

そう言い狭間は無線機を取り門を開けるよう伝える。そして金属の重い音を響かせながらシェルターの扉が開き、門が現れた。

そして狭間は無線越しに突入の合図を出した。

 

<各車、突入開始‼>

 

その号令と共に自衛隊を乗せた高機動車、そして海兵隊を乗せたMRAP(クーガー装甲車)やLAVが門へと突入を開始し、その後にヴァンツァーが一機ずつ門へと潜り始めた。

 

 




次回 
  実戦


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4話

門へと最初に突入した高機動車、そして自衛隊の90式戦車は暫く門の中を走り続けると、外らしき光景が見え門を抜けると、其処は小高い丘だった。辺りは夜の為真っ暗だったが、90式に搭載されているパッシブ式熱線映像装置(サーマルイメージャー)で搭乗してた自衛隊隊員は辺りを警戒していると、丘の下に松明を灯しこちらを見上げている兵士達を確認した。

 

『敵を視認‼』

 

その報告を受けた高機動車に搭乗していた自衛隊隊員、そして到着したLAVやクーガー装甲車から海兵隊隊員が続々と降りてきてそれぞれ窪みへと体を隠す。

 

『こちらサクラ指揮車。各部隊は敵に照準を向けたまま待機。照明弾を2発打ち上げるため、2発目の照明弾と共に攻撃を開始せよ。以上』

 

サクラ指揮車に搭乗している狭間からの指令に、海兵隊や自衛隊はそれぞれの銃の安全装置を解除し、照準を丘の下にいる兵士達へと向ける。

 

「……うじゃうじゃいるな」

 

ゼフィールに搭乗していたカズヤはそう呟きながら、部下達に指示を出す。

 

「レイブン指揮官から各機へ。それぞれ散開し歩兵隊の援護に当たれ。但し、薬莢が下にいる歩兵隊に当たらない位置でだ。あいつ等の頭上に薬莢が落ちてきてもし当たったら怒られるのは俺なんだからな」

 

そう伝えると、ゼニスに搭乗してるレイブン2のロイドが茶化す。

 

『レイブン指揮官、それはやれって言う指示ですか?』

 

「レイブン2、もしそんな指示と思って行動したら、お前の機体だけテンダスに変えるぞ?」

 

そう伝えると、ロイドはうへぇ~と嫌そうな顔で冗談です。と返す。テンダスとは他のヴァンツァーと違いコックピットが強化ガラスで覆われたタイプの物で、ヴァンツァーの攻撃を受ければほぼ一撃で撃破される。言わば歩く棺桶である。

 

『キングマスターからレイブン指揮官へ。各機の配置が済み次第攻撃態勢で待機せよ。地上の歩兵隊の攻撃が開始されたと同時に攻撃を開始せよ』

 

「レイブン指揮官、了解!」

 

カズヤはそう言い、攻撃体勢をとって待機する。そして照明弾が撃ちあげられた。1発目の照明弾は辺りを照らすと、丘の下にいた兵士達は突然明るくなったことに動揺していた。

そして暫くして1発目の照明弾が燃え尽きた後、2発目の照明弾が撃ちあげられた。そして2発目の照明弾が辺りを照らした瞬間

 

『全部隊攻撃開始‼』

 

その無線と共に地上にいた自衛隊員、そして海兵隊員の攻撃が開始された。90式戦車、そしてLAVから発射される弾も、次々と丘の下にいる兵士達に命中し辺りで爆発が上がる。

自衛隊員達の背後にいたヴァンツァーの部隊も、それぞれ持っていたセメテリーやラプターで次々と攻撃を開始する。

 

「レイブン指揮官から各機へ! 奴らを一人たりとも生かして帰すな! 奴らが此処に居たという事はまた日本で虐殺をする気だったかもしれないからな!」

 

「「「了解‼」」」

 

次々と放たれた弾丸の雨に、丘の下にいた兵士達は蜘蛛の子の様に散り逃げていくが追撃とばかりに、一部のヴァンツァーが装備していた肩武装の14型迫撃砲で次々と吹き飛ばされていった。

 

 

自衛隊と海兵隊、そしてヴァンツァーの攻撃によって丘の下にいた兵士達は全滅となった。

 

 

それから2日後、アルヌスの丘から遠く離れた位置にある帝都では、元老院と言われる建物にて玉座に座っている人物に、発言場と思われる場所に立っている男性が質疑をしていた。

 

「大失態でしたな皇帝。帝国が保有する戦力の6割を損失! 皇帝陛下はこの国をどの様に導くおつもりか?」

 

「……カーゼル侯爵、卿の心中は察する。諸外国が反旗を翻し、我が帝国を攻め入ると言う恐怖に夜も眠れぬであろうが、この帝国に危機が訪れるたびに我が帝国は一丸となりこの危機を乗り越えてきた。戦に百戦百勝は存在せん。その為此度の責任は問わぬ」

 

皇帝の言葉にカーゼルは自身の責任を無かったことにする気か。と思いながら皇帝の話を聞いた。すると一人の頭に包帯を巻いた老人、ゴダセン議員が立ち上がり抗議する。彼はアルヌスの丘に進行した兵士の一大隊を指揮していた一人だ。

 

「しかし、どうするおつもりですか? 敵はたった2日にして我が遠征軍を壊滅させたのですぞ!」

 

「敵の方からパパパと音がした瞬間に、兵士達は血を出して倒れて行き、ヒューと音がしたと思えば、気づいた瞬間に辺りに巨大な火の玉が発生し、瞬く間に大勢の兵士達を氷の如く溶かしていきました。あれは私が今まで見たこともない魔法でした! 更に敵の後ろには巨人が大勢おりました。あのような敵とは真正面から戦っても勝ち目何てありませんぞ!」

 

「何をそんなに臆するのだ! 兵士が足りないならば属国から徴兵すればよかろうが!」

 

「そんな事をしても、ゴダセン議員の二の舞となるだけだぞ!」

 

「貴様らはそれでも帝国の人間か!」

 

元老院内の議員達があちらこちらで怒声を浴びせたりしていると玉座に座っている皇帝、モルト皇帝が手を掲げる。すると、騒がしかった議員達が一斉に静かになった。

 

「これ以上此処で討論しても何も始まらん。だが丘にいる者達が敵ならばそれを討たねばならん。周辺諸国に使節を派遣し援軍を求めるのだ。異世界からの賊徒を打ち倒すべく―――」

 

皇帝は立ち上がり高らかに手を掲げた。

 

「我々は連合諸王国軍を編成し、アルヌスの丘を奪還する!」

 

その宣言に、議員達は拍手喝さいをあげる。

 

『帝国万歳‼』

 

『モルト皇帝に勝利を‼』

 

カーネル侯爵は冷や汗を流しつつも、圧倒的カリスマを有する皇帝に、頭を下げる。

 

「陛下、アルヌスの丘は陣馬の骸で埋まりましょうぞ?」

 

そう言うとモルトはニヤリと口角をあげた。




次回
 連合諸王国軍


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5話

アルヌスの丘から数キロ離れた場所からアルヌスの丘を眺める一人の男がいた。その男は鋭い眼光を丘にいる自衛隊そして海兵隊達、特地遠征団に向けているとその傍に兵士が近寄ってくる。

 

「殿下! 2つ向こうの丘に斥候らしき兵士を確認いたしました。いかがいたしますか?」

 

「放っておけ。他の諸王達との会合を急がねばならん」

 

そう言いデュランは馬を走らせ諸王国が建てたテント群へと向かった。集まった諸王国は全部で8ヵ国。兵力はざっと30万程が集まった。

その夜、各国の諸王達が会議用のテントへと集まり、招集要請を出した帝国の現場指揮を任されている司令官を待っていたが。

 

「帝国軍の司令官が来れんだと!」

 

テントで帝国軍の司令官が来るのを待っていたデュランは用件を伝えに来た兵士に立ち上がってそう声を荒げた。

 

「我が帝国は今まさにアルヌスの丘にいる敵と正面で対峙しており、現場を任されている司令官がその場を離れるわけにはいかない為、この場に来れないのです」

 

兵士にそう言われ、デュランは気に食わんと言った表情で座る。

 

「解せんな。丘にいた敵はさほど多くはいなかった。脅威になりそうな巨人は何体か居ったがされど脅威にはならないはずだが」

 

そう言っているとその傍に国同士、そして同じ国を背負う者同士で仲が良いリィグゥが話しかけてきた。

 

「デュラン殿、帝国は我らの代わりに敵を抑えてくれているんだ」

 

「リィグゥ殿」

 

デュランはリィグゥの推論にはどうしても賛同が出来なかった。すると兵士がその言葉を待っていたと言わんばかりに、諸王達に作戦を言い渡す。

 

「諸王国の皆様には明日、夜明けとともに丘にいる敵に攻撃していただきたい」

 

「了解した。先鋒は我が軍が承りましょう」

 

「いや、我が軍こそが先鋒に!」

 

「お待ちくだされ! 此度の戦は我が軍に!」

 

そしてテント内は諸王達が次々に自軍が先鋒に立ち手柄を立てようと躍起になり始めた。デュランは帝国の策的な何かに乗せられた様な気分になり不安が募り始めた。

 

 

「―――それでは、明朝アルヌスの丘にて」

 

そう言い帝国兵はテントから出て待機させていた馬にまたがり、諸王国軍のテント群から足早に立ち去った。

 

「朝が楽しみだ!」

 

「我が軍だけで敵を蹴散らしてやる」

 

先鋒に立つことが出来た諸王達は朝が楽しみだと談笑している中、デュランと先鋒を取り損なったリィグゥがテントの隅にいた。

 

「無念、先鋒はならなんだったか」

 

そう言いながらリィグゥは落ち込む。するとデュランが自身の推論を呟きだした。

 

「異界の敵は1万も満たない人数と巨人が16体程。それに比べ我らは号して30万。武功が欲しくば先鋒以外は有得んとお考えか?」

 

「そうと分かっていて何故先鋒を望まんのだ?」

 

リィグゥはデュランが分かって先鋒を取らなかったのか気になり聞く。

 

「此度の戦はどうも気に入らん」

 

デュランがそう言うと、リィグゥは笑いだす。

 

「ハハハッ、エルベ藩王国の獅子と言われたデュラン殿も寄る年波には勝てないという訳ですか」

 

リィグゥ笑い声は夜の闇に飲み込まれていった。

 

そして翌日、先鋒を承ったアルグナ、モゥドワンそして後続部隊としてリィグゥの軍勢がテントを発った。暫くしてデュランはテントから出てきて先に行く友が戦い始めたかと思っていると、兵士の一人が報告を入れてきた。

 

「報告します。アルグナ、モゥドワン王国軍合わせて1万が丘に向け出発しました。その後にリィグゥ皇国軍も」

 

その報告を聞いたデュランは不審に思った。

 

「帝国はどうした?」

 

「そ、それが……」

 

突然兵士が信じられないと言った表情で報告を再開した。

 

「……丘には一兵も帝国の兵士がおりませんでした」

 

「何だと!?」

 

デュランはその報告に驚き、兵達に急ぎ準備をしろ!と伝え出陣の準備に取り掛かる。

 

その頃、先方に出たアルグナ達は敵と対峙しているはずの帝国と会うこともなく、遠征団が設置した立ち入り禁止の看板を薙ぎ倒し、丘へと迫っていた。既にキルゾーンに入っているのにも気付かずに。

 

リィグゥは敵と対峙していたと聞いていた帝国と合流出来ないことに不信感が募った。

 

「何故帝国兵が居ないのだ!」

 

「分かりません」

 

隣にいた兵士も何がどうなっているのか分からず、兎に角丘へと向かっていた。

 

丘にいた自衛隊、そして海兵隊達は攻撃準備を整え終えた。

 

先鋒にいたアルグナは突然『ヒュー』と言う音に気が付き空を見上げる。その目線の先には先端の尖った何かが降ってきた。自分達の頭から少し離れた所まで落ちてきたそれは突如爆発し、兵士達を吹き飛ばしていった。兵士達は驚き、我先にと逃げるが爆発は次々と起こり兵士達を吹き飛ばす。それは後続にいたリィグゥにも差し迫った。

 

「殿下!」

 

「なんだこれは!?」

 

そう叫んだと同時にリィグゥのいた場所も爆発で吹き飛ばされた。其処から少し離れた位置では出陣準備を終え、兵士たちと共に丘へと向かっていたデュランがいた。

 

「……まさか、アルヌスの丘が噴火したのか?」

 

そう呟きながら、土煙が立ち昇る中前へと進み先方の軍団がいたであろう場所へと到着したデュラン。だが其処にいたのは物言わぬ死体の山だけだった。

 

「アルグナ王は? モゥドワン王は? リィグゥ候は何処へ行った?」

 

デュランは生き残った負傷者達だけでもと思い、生きている負傷者を部下達に探させ連れて帰った。その最中、部下の一人がリィグゥの兜を発見し持ってきた。そしてデュランは部下達を連れテントへと戻った。

 

この時遠征団は丘に迫って来た者達を敵と判定し、丘の上にある自陣に近付く前に撃退する最終防護射撃、又の名を突撃破砕射撃と言う戦術を行ったのだ。

 

そんな事を知らない諸王国軍はその翌日、2回目の攻撃に繰り出したが結果は同じで激しい攻撃に成す術なく兵士達は討ち死にしていった。

その夜、会議を行うテントでは生き残った諸王達が作戦会議を行っていた。

 

「10万を超えた諸王国軍が既に半数が存在せん。何故こんな事態に」

 

「帝国軍は一体どこで何をしているんだ」

 

「いや、帝国とはいえ勝てる敵ではない。もうここは退くべきではないか?」

 

一人の諸王がそう言うと、デュランが反対した。

 

「このまま逃げ帰るわけにもいかん。せめて一矢報わねば」

 

そう言い、先に逝った友の兜に目を向ける。

 

「し、しかしデュラン殿。我々の力では……」

 

そう言われデュランは案を捻りだそうと考えると、妙案を思いついたのか口に出す。

 

「夜襲ならあるいは」

 

そう言いその日の夜、生き残った諸王国軍は暗い夜の中を物音一つ叩させない様静かに行軍し始めた。

 

「今夜は新月だ。この暗さに乗じて丘に近付けば、敵の中枢に一気に攻め込めるはずだ」

 

そう言いデュランも行軍する軍勢に混じった。

だがその動きも既に丘の上にいる遠征団に気付かれていた。

 

「音を立てるな、静かに進め」

 

部隊長を務めてる兵士がそう注意していると突然周りが昼間と同じくらいの明るさへと変わった。

 

「なんと! この明るさは!?」

 

デュランは驚き辺りを見渡すと、空に2つほどの光る玉が浮かんでいた。それを見たデュランはハッとなり、叫ぶ。

 

「いかん! 全軍突撃! 馬は掛けよ! 人は走れ!」

 

そう叫び、デュランは馬を駆けだした。兵士達は何事だと思いながらもデュランの言う通り走り出すがその前に丘の方から光る何かが飛んできた。そしてそれは兵士達に命中し、爆発した。デュランは馬を走らせながらも兵士達に走るよう命令し続けた。

 

「止まるな! 走り続けろ! 走れ! 走れ!」

 

そしてデュランは丘の中腹辺りまで来た瞬間、突然目の前に鉄で出来た柵があった。有刺鉄線である。

それに馬の脚が引っかかり、デュランは馬から投げ落とされた。それを見ていた部下達は急いでデュランを助けようと駆け寄った。

 

「デュラン様今お助けいたします!」

 

「盾を前へ!」

 

数十人の盾持ちの兵士達が、有刺鉄線を破りデュランを救助した。救助されたデュランは脳震盪で気を失っていたが、直ぐに目を覚まし兵士達が敵の近くまで来ている事に気づき逃げる様叫ぶ

 

「……いかん!? みんな逃げるんだ!」

 

その言葉と同時に丘から激しい銃撃が降り注いだ。楯を持っていた兵士達は防ごうと楯を前に出すが、あっさりと弾丸は楯を貫通してしまい兵士達は次々と撃たれていった。

デュランは激しい銃撃の中、前へと進み落ちていた弓矢を拾い上げる。

 

「おのれぇ……」

 

そう呟きながら矢を放つが、届くはずもない。

 

「……なぜ? 何故こんなことになってしまったんだ?」

 

そしてデュランは“帝国にまんまと嵌められた”と其処で理解し大声で笑い始めた。

 

「ふふふ、……ハハハ、はーはっははは!」

 

そして笑っていたデュランは、空から降ってきた榴弾に吹き飛ばされた。




次回
 第3合同偵察隊






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6話

夜襲してきた敵を撃退し日が昇った頃、伊丹は部下の倉田と共に夜襲を掛けようとして兵士達が居たところをしていると見回っていた。

 

「……敵さんざっと6万人くらいの死傷者が出たらしっすよ」

 

「6万人ねぇ。銀座でも6万、合わせて12万かぁ」

 

伊丹は酷い惨状に思わず息を吐きながら辺りを見渡す。87式自走高射機関砲に撃ち落とされたドラゴンの死体や、ヴァンツァーの銃撃や戦車の砲撃を受けたのか腕や脚が欠損している死体などがゴロゴロと転がっていた。遠征団は流石に死体をこのままにしておく訳にはいかなく人の死体は回収し無名墓地を立てて其処に埋葬していた。ドラゴンは現地サンプルという事でその場に放置されたままだが。

 

「敵の心配ですか?」

 

「だってよぉ、12万だぞ。俺達遠征団の敵って一体どんな奴なんだろうな」

 

そう言いながら伊丹は歩き出した。

それから数日後、門からは後続部隊が続々とやってきた。工兵部隊は陣地をどういった形にするか、中世時代に詳しい専門家と議論した結果星形要塞を建造することが決定し、着々と壁なり施設などが建てられていった。

自衛隊、そしてアメリカ軍の兵達が寝泊まりする建物は親交を深めるために共同部屋の建物が可決され、まずそれが建てられた。

 

そんなある日、伊丹は上官に呼ばれ司令テントの一つにいた。

 

「方針会議でこの地の産業、宗教、人種などどういった物を調査することが決まった」

 

「調査ですか……、そりゃあいいですね」

 

「良いですねじゃない、君が行くんだよ」

 

伊丹の反応に上官は頭を抱えるように、伝えた。

すると

 

「……嫌です」

 

「はぁ?」

 

「まさか一人で行けって言うんじゃないですよね」

 

「そんなことするわけないだろ。6個の日米合同深部情報偵察隊を編成するため、君はその一つを率いて現地の住人から情報を貰ってくること。可能なら友好な関係を結んでくるのが君の任務だ」

 

「はぁ、了解です」

 

頼りなさげな了承に、上官は大丈夫かなと思いながらも任務を再度言い渡す。

 

「伊丹耀司二等陸尉、第3合同偵察隊の指揮を命ずる」

 

そう言われ伊丹はまさか部下を持たされるとはな。と思いながらテントを後にしようとした瞬間、上官から待ったを掛けられた。

 

「言い忘れていたが、偵察隊にはそれぞれヴァンツァーが一機ずつ護衛として付くことになっているから班員と一緒に合流するように」

 

そう言われヴァンツァーの隊員もか。と思いながらテントを後にした。そして伊丹は集合しているだろう班員達の元へと行くと、自衛隊の高機動車の前に数人の自衛隊員と海兵隊のLAV-25A2の前にも同じように数人の海兵隊員が集合していた。

 

「第3合同偵察隊、集合いたしました!!」

 

「おぉ~、おやっさん。それと……」

 

おやっさん事桑原曹長に敬礼に続き周りにいた自衛隊員達も敬礼する。海兵隊員達も伊丹に敬礼する。

伊丹はちゃんと指揮できるかな?と心配しながら挨拶をする。

 

「第3合同偵察隊に上番した……伊丹です。ハハハ」

 

その態度に3隊の中で一番背の低い栗林2等陸曹は大丈夫なのこの人?と怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「えっと、そちらの指揮官は?」

 

「私だ」

 

そう言って一人の白人男性が前へと出てきた。

 

「トゥームストーン指揮官のダンだ。階級は中尉で君と同じだが、指揮は君に任せるよ」

 

「自分としては海兵隊は海兵隊で指揮を分断したいんだけどね」

 

伊丹は苦笑いを浮かべると、ダンはハハハ。と笑い出す。

 

「俺は副班長に抜擢されている。だから何時でもアドバイスくらいは出すから心配しないでくれ」

 

ダンの言葉に伊丹は代わってくれないのね。と思いながら辺りを見渡す。

 

「そう言えば、護衛としてヴァンツァーが一機就くことになってるんだけど見てない?」

 

「いえ、我々が到着した時はまだ見当たりませんでしたよ」

 

桑原そう言うと、ダンも俺もだ。と同意するよう返す。すると一機のヴァンツァーが3班の元へやって来た。そのヴァンツァーを見た伊丹はあの時のヴァンツァーだと思いだす。

 

『すいません、弾の補充で遅くなりました』

 

そう言い、コックピットが開かれ一人の兵士が降りてきた。

 

「第3合同偵察隊の護衛に就くことになったレイブン指揮官事カズヤ・ハミルトン大尉です。よろしくお願いします」

 

そう言い敬礼すると、自衛隊側は全員驚いた表情を浮かべていた。海兵隊側は久しぶりだなと言った感じでフレンドリーに会話を始める。

 

「よぉカズヤ。イスラエルの作戦以来だな」

 

「えぇお久しぶりです、アイリッシュさん。パックさんもレッカーさんもお久しぶりです」

 

「あぁ久しぶりだな」

 

「また同じ部隊になるとはな、今回もよろしく頼む」

 

それぞれ海兵隊挨拶が済んだところで、カズヤは伊丹に敬礼し着任の挨拶をする。

 

「お久しぶりですね、伊丹さん」

 

「あれを操縦していたのはカズヤだったのか?」

 

カズヤは伊丹の驚いた顔を見てくすくすと笑いながら同意する。

 

「えぇ。貴方が銀座で市民を避難させているときにあれを操縦していたのは自分ですよ」

 

「そ、そうだったのかぁ。あの時は本当にありがとうな」

 

「いえいえ、偶々近くにいただけでしたから」

 

カズヤはそう謙虚な雰囲気で伊丹に話していると、近くにいた桑原が伊丹に申し訳なさそうな感じで話しかける。

 

「あの、隊長。一応上官ですからため口とかは不味いのでは」

 

そう耳打ちするが、カズヤはそれを不要だと伝える。

 

「自分、あまり堅苦しいのは苦手なんですよ。ですからため口でも構いませんよ」

 

そう言うと伊丹はこういう奴だから。と言われ、桑原ははぁ。と納得する。

 

「よし、それじゃあそろそろ出発しますか」

 

そう言われ、副班長の桑原とダンは部下達に乗車するよう指示を出す。

 

「よし、全員乗車!!」

 

「お前達も乗車しろ!」

 

その指示に全員乗車し始めた。第3合同偵察班の車両編成は自衛隊は国際仕様の高機動車、軽装甲機動車。海兵隊はLAV-25に、クーガーHで編成されていた。

そして第3合同偵察隊は基地から出発し、担当区域へと向かった。

 

基地を出発して数時間後、高機動車を先頭に道に沿って走っていた。因みにヴァンツァーは一番後ろの米軍が設計した輸送用の車両に載せられていた。

 

そして第3合同偵察隊はコダ村と呼ばれる場所へと着き、問題なく現地の人達の仲良くなり方角と、経済など教えてもらえた。

 

「それにしても青空が広がってるねぇ。流石異世界だぁ」

 

コダ村の村長に教えてもらった近隣の村へと向かっている中、伊丹は頭上に広がる青空を見ながらそう呟く。

 

「こんな光景だったら北海道にだってありますよ。俺はもっと妖精だとかドラゴンが飛んでいたり、スライムがその辺をさまよっている光景を想像したんですけどね」

 

ハンドルを握っている倉田はそう呟きながら道を走っていた。

後方のクーガーH内も同じような会話が広がっていた。

 

「はぁ~、なんか都会の喧騒を聞き続けていた俺としては静かすぎる光景だなぁ」

 

ニューヨーク出身のアイリッシュはそう呟きながら外を見ていた。

 

「ミシガン出身の俺は地元を思い出すから良い所なんだがな」

 

レッカーはそう言い故郷を思い出すように外を眺める。すると無線から何かが聞こえ始めた。

 

「ん? パック何か無線から聞こえるんだが、なんだ?」

 

「これは伊丹隊長の声と、あと倉田っていう奴だと思うが、何を歌っているんだ?」

 

ダンとパックは伊丹が無線を開けたままでで何か歌を歌っている事に気付き、何の曲だ?と頭に疑問符を浮かべながらも、何もない現状ではいい暇潰しになるかと思い特に注意を飛ばさなかった。

その歌は一番後ろにいたヴァンツァーを輸送していた車両でも聞こえていた。

 

「伊丹さん、何故に今メイコンの歌を歌ってるんだ?」

 

カズヤは苦笑いで助手席で伊丹達の歌を聞いていると、隣にいたアステック上級曹長はノリノリでいた。

 

「別にいいんじゃないんでしょうか? 自分としては同じ趣味を持っている人が居て大変喜ばしいです」

 

アステックは日本のアニメなどが好きで、自身の趣味をやっていくだけの給料のいい仕事を探していたのだ。そんな時に大学で出した論文『空輸以外でのヴァンツァーの運び方』が軍上層部の目に留まり、開発部へのスカウトマンがアステックの元へ訪れたのだ。アステックは給料が良いことに目を付け、その話に喰いつきこうして輸送用のトラックを開発し、今回実地テストという事でこの地にやって来ていたのだ。

 

そんな第3合同偵察隊が向かっている方向は、酷いことが起きていた。




次回
 たった一人の生存者


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7話

第3偵察隊は村長に教えてもらった近くの村へと向かって走っていた。

高機動車に乗っていた伊丹は後ろの席にいた桑原に確認の言葉を掛ける。

 

「おやっさん、コダ村の村長が言っていた村ってもうすぐだよね?」

 

「えぇ今小川を曲がりましたし、道を間違えていなければこの先に村があるはずです。それと伊丹隊長、森の近くで野営を意見具申します」

 

「そうだね」

 

「村まで行かないんですか?」

 

倉田はてっきり村まで一気に行くと思っていた為、伊丹にそう聞く。

 

「このまま行っても森つくのは夜になっちゃうし、それに一気に村まで押し掛けたら村の方々にご迷惑を掛けちゃうでしょ。俺達は国民に愛されている自衛隊とアメリカ軍だよ?『伊丹隊長!』! どうした?」

 

突然後方のクーガーに搭乗していたダンの慌てた様子の無線に伊丹は驚きつつも無線に出る。

 

『前方に煙が見える。煙の量からして恐らく火事だ。どうする?』

 

ダンからの報告に伊丹は急いで前方を確認すると、確かに遠くの方に黒い煙がモクモクと上がっていた。

 

「おいおい、これ俺たちが向かっている方向じゃん。仕方ない。ダン中尉、俺達はこのまま進んでコダ村の村長が言っていた丘に向かいましょう」

 

『そうだな。このまま平地を進んで行った場合、火事に巻き込まれる可能性があるからな』

 

「よし、倉田。このまま進んで丘に向かうんだ。」

 

「了解っす!」

 

高機動車を先頭に偵察隊は丘がある場所へと向かって走って行った。

数分後見晴らしのいい丘に到着し、それぞれ車両から下りていき状況を確認する。偵察隊の目の前にある森は激しく燃えており、伊丹達は酷い山火事だと思っていた。

 

「こりゃすげぇな。大自然の脅威ってやつか?ってうぉっ!? 何だよあれ!」

 

アイリッシュは双眼鏡でそう呟きながら辺りを見渡していた。すると炎の中から出てきた物を見て驚いた声を上げる。

 

「どうした? 何かいたのか? おいおい、何の冗談だよあれ……」

 

パックはアイリッシュが見ていた方向を見ると、ドラゴンが火を噴きながら飛んでいるのが見えた。それを確認したLAVのガンナー席に乗っていたネイサン・へイル二等軍曹は照準をドラゴンへと向けいつでも撃てる様にしていた。軽装甲機動車のガンナーもキャリバーに弾を込める。

 

「まさかジャパニーズアニメに登場したキング……」

 

「アステック、それ以上はいけない」

 

アステックにツッコミを入れたカズヤは冷や汗を流しながら、あのドラゴンがこっちに来ない事を祈っていると、ドラゴンは何処かに飛び去って行った。

 

「ドラゴン、何処かに飛んで行きます」

 

「……そうだね。! あのドラゴンってなにも無い森に火をつける習性ってあるのか?」

 

伊丹は飛んで行ったドラゴンに目を向けつつもそう呟くと、近くにいた栗林が冗談染みた事を言う。

 

「ドラゴンの習性に興味があるなら隊長お一人で追いかけては「いや、そんなことを聞いているじゃねぇ。あのドラゴンが何もない森に火をつけるか聞いているんだ。村長の話じゃあこの森の近くに村があるって聞いてただろ」!?」

 

伊丹の言葉に、栗林は戦慄した表情を浮かべ燃えている森に目線を向ける。

 

「やべぇ! まさか!」

 

「おやっさん、ダン中尉野営は後回しだ。此処から下りられる場所を探して鎮火したと同時に確認に向かおう」

 

「了解です!」

 

「了解だ!」

 

伊丹の指令に全員車両に搭乗し火事が鎮火するまで待った。そして翌朝火事は鎮火し第3合同偵察班は丘から下り村が有ったと思われる場所へと向かう。そして到着すると建物の残骸だと思われる物が瓦礫となって建っていた。

伊丹は全員に散開して生存者が居ないか探し始めた。だが崩れ落ちた建物などだけで恐らく生存者はいないと判断せざる負えなかった。

 

「チッ! あのトカゲ擬き、今度見掛たらMk.48でハチの巣にしてやる」

 

「お前のMk.48で如何にかできる相手じゃないだろ」

 

焼死体を見つけたアイリッシュはやるせない気持ちで文句を言い、近くにいたパックがそれをツッコムが、パック自身もこれは酷いとしか思えなかった。

 

あらかた捜索を終えた頃、伊丹は村の中心だと思われる場所に掘られた井戸に腰掛けながら水筒の水を口に含む。だがその量が心許無いなと思っていた。

 

「ふぅ~、酷い有様だな」

 

そう呟くと、栗林がメモ帳を片手にやって来た。

 

「隊長、建物の数を数えた所32棟で、見つかった焼死体は24体です。家の数と照らし合わせても明らかに少ないことから、建物の下敷きもしくはドラゴンに捕食された可能性があります」

 

「一つの家に4人済んでいると考えただけでもザっと100人以上の人が居て、その多くが死んだって事か」

 

「酷い物です。門で遭遇したワイバーンは腹か頭に12.7㎜を撃って漸く貫通するくらいだと聞いています」

 

「もはや空飛ぶ戦車じゃん。……本部にドラゴンの調査と習性を調査するよう頼まないといけないし」

 

そう言いながら伊丹は水筒の水を補充しようと井戸に、ロープの付いた桶を投げ込む。すると其処の方から“コーン”と何かにぶつかる音が響いた。

 

「ん? 何か当たったぞ」

 

「何でしょう?」

 

そう言い栗林はライトで底を照らすと、金髪の少女と思しき人が気を失っているのか浮いていた。

 

「人、人だ!」

 

遂に第3合同偵察隊は唯一の生存者を発見するのであった。




次回
小さな賢者との出会い


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8話

「生存者発見!」

 

その声に付近で生存者の捜索をしていたカズヤ達は直ぐに伊丹の元へと駆け寄る。

 

「伊丹さん、生存者が居たって本当ですか!?」

 

カズヤは驚いた表情を浮かべながら伊丹にそう聞くと、伊丹は首を縦に振って軽装甲機動車を持ってくるよう伝える。そして機動車に備えられているワイヤーを体に巻き井戸の底へと下りていく。

 

「まさかあんな災害があったにもかかわらず生存者が居たとはな」

 

「全くだ。余程運が良かったんだろ」

 

ダンやレッカーはそう言いながら井戸の底に降りていく伊丹が無事に降りていくか覗き込む。

そして底へと着いた伊丹は生存者を背負い、落ちないようにワイヤーを生存者に結び合図を出す。

 

「よし、引き上げてくれ!」

 

「了解! 倉田、ゆっくりと前進させろ!」

 

そう言われ倉田は装甲車のアクセルを軽く踏み込み、ゆっくりと前進させた。

装甲車の引っ張る力によって井戸の底にいた伊丹と生存者は這い上がって来る。

偵察隊のメンバーは伊丹の背中に居た生存者に驚きが隠せなかった。

 

「人命救助! 急げ!」

 

伊丹の指令にすぐに我に返った偵察班のメンバーは了解!と叫び車に積んでいる毛布などを取りに走った。

 

「……人ではなくてエルフなんだが」

 

伊丹の背に居たのは耳の尖ったエルフだった。

その後、伊丹が救助したエルフの少女は低体温症になっていたが、迅速な治療により峠は越え命の危機は脱した。

そして伊丹はダンと桑原、そしてカズヤを集めて相談を始めた。

 

「さて、これからどうします?」

 

「俺としてはあの子をコダ村まで連れて行って保護してもらうのが良いと思う」

 

「私もダン中尉に賛成です」

 

「カズヤは?」

 

伊丹に呼ばれ、カズヤはう~んと頭を捻っていたが、直ぐに答えを出した。

 

「そうですね、ダンさん達の言う通りコダ村の方々に保護してもらいましょう」

 

そう言われ、伊丹は頷きそれじゃあコダ村に行きましょう。と言い偵察班全員に今後の方針を伝え、軽装甲機動車に乗り込んでいきコダ村へと進路を向けた。

 

 

数時間後、コダ村へと着いた伊丹は村長を探しメモ帳を取り出して慣れない現地語で状況を説明を始めた。

 

『大きな鳥いた。火吐いた。村全滅した』

 

そう言うと、村長は驚いた表情を浮かべ本当かと伊丹に聞いた。伊丹は炎を吐いたドラゴンを書き村長へと見せる。

 

『これ、村焼いた』

 

『これは炎龍じゃないか!?』

 

村長の叫びに近くに居た村人達はざわざわと騒ぎ出し大慌てで家へと向かった。伊丹はそんなにヤバいヤツなのかと思いながら、村の生き残りを引き取ってもらおうと村長を車へと連れて行く。

 

『この子、生存者。村で預かってもらえないか?』

 

そう聞くと村長は首を横に振った。

 

『申し訳ないが、エルフと儂ら人種とでは生活がまるっきり違う。それにワシ等も村か出て行かなくては』

 

『村捨てる?』

 

伊丹は神妙な顔で村長に聞くと、村長は悲しそうに頷いた。

 

『一度、人を襲った炎龍はその味をしめて村等を襲うんじゃ。済まぬが儂も荷物を纏めなきゃならんので、これで失礼する』

 

そう言い村長は一礼してから家へと足早に向かった。

困った表情になっている伊丹にカズヤはそっと声を掛ける。

 

「伊丹さん、これからどうするんですか?」

 

「まぁお手伝いできることをしましょうや」

 

そう言い班員の元へと向かう伊丹。カズヤはやれやれと苦笑いで伊丹の後を追う。

 

その頃、村から少し離れた森の奥にある魔導士カトーの家から一人の老人、カトーが足元が見えないほどの高さの本の束を運び出していた。階段を降りている途中、足を踏み外しカトーはそのまま一気に下まで落ち持っていた本をぶちまける。

 

「あぁあぁ、全く! 傍迷惑にも程があるぞ炎龍め! 50年も早く目覚めおって!」

 

そう叫びながら落とした本を集め、荷台へと乗せるカトー。

 

「師匠、早く乗って欲しい」

 

水色の髪の少女がそう言うと、老人ははぁ?と呆れた様な顔になる。

 

「何故儂がお主に乗らねばならんのじゃ。せめてのお主の姉の様な、ボン、キュッ、ボンの女性グホッ!??!」

 

卑猥な発言を始めたカトーに少女は容赦なく水の魔法をぶつけた。

 

「止めんかレレイ! 魔法とは神聖な物でアギャーー!!??」

 

それからしばらくして漸く止んだ後、カトーとレレイと呼ばれた少女は荷台へと乗る。

 

「全く、冗談の通じん娘じゃのう」

 

「師匠の教育の所為かも」

 

そう言われカトーは、うっ!と痛い所を突かれ明後日の方に視線を向ける。レレイはロバに鞭をうって動かそうとしたが、ロバは重すぎる荷台に動くことが出来なかった。

 

「動かんのぉ」

 

「荷物が多すぎて動かないのは予想された事」

 

レレイがそう言うと、カトーは懐から杖を取り出し高らかに叫んだ。

 

「慌てることは無い。ワシ等は魔導士「魔法とは神聖な物。乱用するものじゃない。お師匠のコトバ」……し、しかしのぉ」

 

レレイの言葉にカトーは自身の失言に落ち込むがレレイはこの際仕方がないと呟き自身の杖を振る。すると重かったはずの馬車が宙に浮き、ロバは難なく歩き始めた。

 

「……すまんかったのぉ」

 

「いい。お師匠がそう言う人だって知ってるから」

 

そしてレレイ達は村から出る唯一の大通りへと来ると、其処には馬車の行列が出来ていた。

 

「ん? なんじゃあこの行列は?」

 

カトーはそんな疑問の声をあげていると、2人に気付いた一人の村人が走り寄ってきた。

 

「カトー先生、レレイ! 実は道の真ん中に車軸のおれた馬車が横転して道を塞いでいるんだ」

 

そう言われ、カトーはなんと!と驚いていると、突然2人が聞いた事もない言葉を話す人たちを見つける。

 

「勝本とおやっさんは村の人達に迂回するよう伝えまわってくれ! 黒川は負傷者の治療を!」

 

「「了解!/了解です!」」

 

「し、しかしどうやってですか!! 言葉通じないんですよ!?」

 

「ジェスチャーやら地面に絵を描くなりして何とかしろ! カズヤ、ヴァンツァーで周辺警戒をしてくれ‼」

 

「了解です‼」

 

その言葉を聞いたカトー達は首を傾げる。

 

「聞いた事が無い言葉じゃのぉ」

 

そう言っていると隣にいたレレイが馬車から下り行列の先頭に向かう。

 

「お、おい、レレイ!?」

 

「ちょっと様子を見てくる」

 

そう言いレレイは先頭へと向かって行った。

先頭へ着くと、其処には車軸のおれた馬車が横たわっておりその傍には馬が横たわった状態で興奮し暴れていた。レレイは地面に倒れていた少女に近寄り、症状を見る。

 

(危険な状態)

 

そう観察し、どう治療したらといいかと悩んでいると黒髪の緑や茶色の入った斑模様の服を着た女性が少女に近寄り肩や頭を触って観察を始めた。

 

「この子脳震盪を起こしてます‼ もしかしたら肋骨にヒビがあるかもしれません‼」

 

「……医術師?」

 

「君、危ないから下がって」

 

レレイがそう呟いていると、背後から別の色を着た人に話しかけられた。レレイは立ち上がって下がろうとした瞬間興奮していた馬が突然立ち上がり、レレイを踏みつぶそうとした。レレイは咄嗟の事に動くことが出来ず腕で顔を守ろうと前に出すと、突然大きな音がする。その近くでベチョッと言う音が聞こえレレイはそっと腕をおろすと其処には血の海が出来ており、その近くには馬の残骸と思われる物が家の壁にぶつかっていた。

レレイは音のした方向へと目を向けると、其処には黒い杖の様な物を構えた巨大な人が立っていた。

 

「……巨人が、私を助けた?」

 

レレイはキョトンとしている中、ヴァンツァーに居たカズヤは冷や汗を流していた。

 

「あっぶねぇ~、もう少しズレていたらあの子に当たってかも」

 

カズヤは冷や汗を拭っていると、無線が入りそれに出ると相手はダンだった。

 

『ナイスショットだ、カズヤ。あれを当てるとは流石だな』

 

「まぐれですよ。下手したらあの子にも当たっていた可能性だってありましたし」

 

そう言いながら周辺警戒に戻るカズヤ。

 

レレイはキョトンとしていると肩に手を置かれ我に返る。

 

「貴女、怪我とか無い!?」

 

黒髪の女性にそう言われレレイは何を言われているのか分からなかったが、自分を心配してくれている事はその必死さで分かり、首を縦に振る。

 

そして自衛隊と海兵隊員達は車軸のおれた台車をどかし、村人達と共に村から脱出した。




次回予告
村を脱出した第3偵察隊と村人達。宛ての無い中、伊丹達の前にゴスロリの少女と遭遇。そして成り行きでその子と共に移動を再開。そしてその道中、背後から炎龍が現れた。
次回
エムロイの神官と炎龍


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9話

コダ村から村民達と共に脱出した伊丹は後ろに果てしなく続く村人達の行列を見てため息を吐く。

 

「村から脱出して3日。次から次へと舞い込むトラブル。増え続ける落伍者に傷病者。本当にこっちの世界でも避難する人達は命がけだね」

 

「この村人達行先あるんですか?」

 

倉田は村を捨てて脱出するのだから行く当てがあると思い伊丹に問うが、伊丹はため息を吐き何とも言えないと言った表情で返した。

 

「無いんだと」

 

「えっ!? 無いんすか!?」

 

「村長さんが言うには、炎龍が襲ってこなくなるまでだってさ」

 

そう言い伊丹はサイドミラーを見て後方を確認する。後ろには永遠と続くキャラバンの列がズラッと続いていた。そしてバックミラーを見る。伊丹が乗っている高機動車にはエルフの村で保護した女の子一人と、妊婦の女性に数人の子供達と老人が乗っていた。子供達の中には村で車軸の折れた馬車から投げ出された女の子もいた。

 

「―――こ、この~‼ 動けぇ~‼」

 

列の後方ではある家族がぬかるんだ地面に馬車の車輪がはまり抜け出せずにいた。

 

「だ、誰か‼ お願い助けておくれ‼」

 

女性は周りにいる人達に助けを求めたが誰もが自分達の事で精一杯の為、他人に手を回すほどの余力はなく、皆見て見ぬふりをして過ぎていく。

 

(やっぱりこの世に神様なんて……)

 

女性は悲しみに満ちた顔で俯いていると、突然聞いた事が無い言葉を話す兵士達がやって来た。

 

「車輪がはまってるだけだ。全員で押すぞ!」

 

「アイリッシュ、お前一人でも何時もの馬鹿力で押し出せるんじゃないのか?」

 

「レッカー、こんな時に冗談言うんじゃねぇよ! ほら、さっさと押すぞ!」

 

「よぉ~し、押せっ‼」

 

緑色の服を着た兵士達と砂の様な色をした兵士達が自分達が押していた馬車の後ろから一斉に押し始め、そしてはまっていた車輪をぬかるみから脱出させた。

 

「よし、次の馬車に行くぞ」

 

「あ、あの!」

 

女性が呼び止めたが兵士達は笑みを浮かべ一礼した後、同じようにぬかるみにはまっている後方の馬車へと向かった。

 

「あの人達は一体?」

 

「何でも炎龍が出たのを知らせに来た異国の兵士だって話だぞ」

 

「兵士にしちゃ優しすぎないかい」

 

女性は夫からの説明に、帝国の兵士とは全く違う事に驚きつつも助けてくれた事を感謝し兵士達が去って行った方向に家族全員で深く頭を下げた。

 

そんな中、ある馬車が車軸が折れ道の端に横たわっていた。ダンから無線を貰った伊丹は村長と共にその場に行く。

 

「えっと、どうですか?」

 

「ダメだ。完全に車軸が折れて治せそうにない」

 

そう言いうと、伊丹は村長にお願いします。と話す。そして村長は馬車の持ち主の元に向かう。

 

「―――そんな!? 荷と財を捨てたらこれからどう暮らせばいいんですか!?」

 

「言いたいことは分かる。だがこのまま此処に居ても死を待つだけじゃぞ? なら持てる分だけの荷物を持って逃げるしかない」

 

そう言われ持ち主は苦渋に満ちた顔で了承した。だがなかなか荷物を捨てることが出来ずにいた。伊丹はダンへと顔を向けると、ダンも静かに頷く。

そして伊丹は持ち主に火を掛けるように伝え、必要な荷物だけを馬へと背負わせ列へと戻した。

高機動車に戻って来た伊丹に黒川が若干怒りを含ませた声で聞く。

 

「なぜ荷物に火を付けさせたんですか?」

 

「だってあぁしないと荷物の前で動かないんだもん。そうするしかないじゃん」

 

「でしたら車両の増援などを頼めないのですか!?」

 

黒川が言いたいことは誰だって分かる。伊丹自身も呼べたらそうしたい。だが

 

『黒川さん、それは出来ません』

 

突然無線機からカズヤの声が響いた。

 

「あ、やべぇ。無線開きっぱなしだったのか」

 

『黒川さん、確かに車両の増援を頼めば今苦しんでいる避難民達は助かるかもしれません』

 

「でしたら‼」

 

『ですがそうなれば、帝国と武力衝突する可能性が飛躍的に上がるんです。そうなった場合一番被害を受けるのはこの世界の住民の方達です。我々みたいに少数なら見逃すかもしれませんが、更に多くの敵がフロントラインを越えたと知れば敵も動かざる負えません。そうなったら偶発的な武力衝突、無計画な兵力の投入、拡大する戦域、巻き込まれる住民達。だから増援は呼べません』

 

カズヤの言葉に黒川は自身の考えが浅かった事を気付かされた。

 

「申し訳ありません。私の考えが甘かったです」

 

『いえ、この状況を打破したいのは誰もが思っている事なんです。ですから我々が出来ることを精一杯やりましょう』

 

「はい‼」

 

黒川の表情を見た伊丹は流石カズヤだなと思い、後方の様子を確認しようとサイドミラーを覗き込んだ瞬間運転していた倉田が前方の異変に気付き伊丹に報告する。

 

「隊長、前方にカラスの群れが居るっす」

 

「は? カラスの群れ?」

 

そう言い双眼鏡でカラスの群れを見る。そしてその下に何かあるのかと思い地面へと双眼鏡を向けると其処には

 

「は? ゴスロリ少女?」

 

「何ですと!?」

 

運転席に居た倉田は伊丹の報告に驚き自身の双眼鏡を取り出し前方を見ると確かにゴスロリの少女が居た。その背中には少女の身長よりも大きな鎌を持っていた。

 

「マジで等身大サイズのゴスロリ少女っす‼」

 

倉田が興奮している中助席に居た伊丹は無線機に手を掛ける。

 

「こちら3-1、トゥームストーン指揮官送れ」

 

『こちらトゥームストーン指揮官』

 

「前方にゴスロリと言うか、銀座事件で誘拐されたかもしれない少女がいて車両を止めて確認に向かう」

 

『了解した。此方は警戒態勢をしく』

 

「勝本、古田。もしかしたら銀座事件で誘拐された女の子かもしれないから確認に向かってくれないか」

 

『了解です』

 

後続の車両に居た勝本と古田は車両から降りて少女の元へと向かう。

 

「なんか家出少女の保護に向かう警官みたいっすね」

 

「止めろよ、それっぽく見えちまうじゃねえか」

 

その頃、勝本と古田は少女の元へと到着し声を掛けようとした瞬間

 

「ねぇ貴方達何処からいらしてぇ、どちらへ行かれるのかしらぁ?」

 

と、突然現地語で話し始めたのだ。2人はその言葉に連れて来られた少女ではなく現地の子だと判断し、どうすべきだと互いに見合っていると伊丹達が乗っている車両から子供達が突然降りた。

 

「神官様だ‼」

 

「神官様?」

 

伊丹は子供達が言った神官様と言う単語に頭に疑問符を浮かべているとぞろぞろと車両に乗っていた老人や妊婦が降りていき少女に祈るような仕草をとる。

 

「貴方達何処から来たのぉ?」

 

「コダ村からだよ! 炎龍が現れて逃げてるところだったの‼」

 

「そう。それでこの人達は?」

 

「僕達を助けてくれた人達‼」

 

子供達がそう言うと少女はそう、無理矢理じゃないのね。と微笑みを浮かべながら呟く。すると少女の目線は次に伊丹達が乗っている車両へと向けられた。

 

「これどういう原理で動いてるの?」

 

「分かんない。けど荷車よりずっと快適なんだ!」

 

そう言うと少女はそぉう。と笑みを浮かべ伊丹の方へと顔を向ける。

 

「私も感じてみたいわぁ、その乗り心地」

 

「へ?」

 

少女の言葉に伊丹は頭に疑問符を浮かべ、変な顔を浮かべる。

その頃後方に居たカズヤは輸送車に乗せられたヴァンツァーに何時でも起動できるようコックピットに乗っていた。

 

「さっきの伊丹さんが言っていた少女、結局連れて来られた少女だったのか?」

 

最初の報告以降、全く報告が来ない事にカズヤは心配しているとまた無線機から声が入って来た。

 

『こら! 小銃に触るなって!』

 

『隊長羨ましいっす!』

 

『ちょ、ちょっとそれを彼女の上に置こうとしないで!?』

 

『お、おい! 何処に座ってんだよ!?』

 

『羨ましすぎます隊長‼』

 

無線から聞こえる声にカズヤはまたトラブルに巻き込まれてるや。と苦笑いを浮かべていると、伊丹がちゃんとした報告をしてきた。

 

『…ダン中尉、カズヤ。現地の少女を保護。これより移動を再開します』

 

『あぁ~、了解だ』

 

「了解です。……伊丹さん、ご愁傷様です」

 

そう言うと伊丹はなんで俺ばっかりと落ち込んだ声で呟き無線を切った。それから少女を拾った第3合同偵察隊は道なりを進み、広い荒野の様な場所へと到着した。太陽からさんさんと降りそそぐ太陽光に歩きながらも、避難を続ける避難民達。多くの避難民は喉の渇きを訴えるも、我慢をし前へと進み続けた。

 

「お母ちゃ~ん、喉乾いたぁ」

 

「御免ねぇ、もう少し我慢しておくれ」

 

子供が水をねだるが、母は我慢するよう言いふらつく足を必死に我慢しながら前へと進む。

 

(この子だけでもあの緑と砂色の服の人達に頼めたら…)

 

そう思っていると、突然足元が暗くなる事に気付き空を見上げると、自分達が村を棄てる原因となった炎龍が其処に居た。

突如現れた炎龍に避難民たちは大慌てで蜘蛛の子の様に散らばって逃げ始めた。炎龍は炎を吐き荷車や人焼き始めた。

 

「二尉‼ 後方に炎龍出現‼ 村人たち襲ってます!?」

 

「全車、炎龍に対し攻撃を開始‼ カズヤ、ヴァンツァーを起動してヤツを抑えろ‼」

 

伊丹は無線機越しにそう叫び、倉田に炎龍に向け車を走らせた。

 

「お母ちゃん、逃げないと!?」

 

「エルザ早く立つんだ!」

 

「あんた。この子を連れて、…先に行っておくれ。私はもう…。」

 

足に力が入らず立つことが出来ず座り込んでいる女性を必死に家族は立たせようとしていると、その背後に炎龍が迫っていた。家族は死を覚悟し目を瞑った瞬間、雷が落ちたような音が数回起きた。そして家族はそっと目を開け顔をあげると炎龍は自分達ではなく別の方へと顔を向けていた。其処には村で見た巨人が鉄の杖の様な物を炎龍へと向けていた。

 

「そら、来いよトカゲ野郎。お前の相手は俺だ!」

 

そう言いカズヤはゼフィールに装備していたセメテリーを炎龍に向け撃つ。だが門付近で遭遇したドラゴンとは違い、炎龍に命中した弾は弾かれるように火花が発つだけだった。

 

「チッ! セメテリーじゃ歯が立たないのかよ!?」

 

カズヤはもっと大きめ銃を持ってこればよかったと思いながらもセメテリーを撃ち続けた。すると自身の攻撃とは違い更に細かい火花が立つのが見え、伊丹達が来たと思い攻撃の方向を見る。

 

『カズヤ、ミサイルランチャーは?』

 

「駄目です! 下にはまだ避難民が居ます。避難民が居ない事を確認できるまでは撃てません‼」

 

カズヤは無線機越しにダンにそう叫ぶと、ダンは舌打ちをしながら作戦を伝える。

 

『分かった! こっちも牽制射撃をして避難民が逃げる時間を稼ぐ。お前は避難民が居なくなったのを確認した後ランチャーを撃て!』

 

「分かりました!」

 

ダンからの指示にカズヤはセメテリーを撃ち続けた。その頃高機動車に乗って同じように伊丹は助席から64式を構え炎龍の気を逸らそうと撃ち続けていた。

 

「撃て、撃て、撃て‼ 撃ち続けろ!」

 

大声をあげながら指示を飛ばす伊丹。すると炎龍が突然口を膨らませる動作を見せ、伊丹は咄嗟に指示を飛ばす。

 

「ブレス来るぞ!? 全車、ドラゴンの射線から退避‼」

 

その指示を聞いたクーガーにLAV、そして軽装甲機動車は横へと急旋回した。そして車両が居たところに炎龍はブレスを吐いた。ブレスが当たった地面は真っ赤に染まっており、それを見た伊丹達は戦慄する。

 

「あんなの当たったらタダじゃすまないっすよ!?」

 

「キャリバーもダメ、ヴァンツァーの武器も歯が立たない。……どうすれば」

 

伊丹は苦渋に満ちた顔で炎龍を睨んでいると、突然眠っていたはずのエルフが起きた。

 

「えっ!? 起きた!」

 

「……! オーノ!」

 

突然少女が現地語で何かを訴えかけ、伊丹は分からずにいるとエルフの少女は自身の目を挿し同じ言葉を繰り返した。その行動に伊丹は何を伝えたいのか理解し、炎龍の顔を見る。炎龍の左目は矢が刺さっており、目が壊死していた。それを見た伊丹はすぐさま無線機を取り叫んだ。

 

「全員目を狙え! 目は柔らかいはずだ!」

 

その指示に全員銃口を炎龍の顔に向け引き金を引いた。攻撃が自身の顔へと向けられた事に気付いた炎龍はまだ見えている右目を守ろうと攻撃を避ける動作をする。伊丹は動きが鈍ったこと、そして周囲に民間人が居ない事を確認し指示を飛ばす。

 

「よし、動きを封じたぞ! 勝本! パンツァーファウストだ!」

 

「レッカー! AT-4準備‼ 奴にデカいのを一発お見舞いしてやれ‼」

 

伊丹、そしてダンの指示を聞いた勝本、そしてレッカーはすぐさま対戦車兵器であるパンツァーファウストⅢ、AT-4CSを構える。レッカーは後方に人が居ない事は明白の為何も言わなかったが、勝本は自衛隊の癖が抜けなかった為か

 

「おっと、後方の安全確認」

 

と、悠長に後方を確認した。

 

「「「「「さっさと撃てっ!!!!」」」」」

 

「「「「「Die you son of a bitch!!」」」」」

 

全員からツッコミを入れられながらも、勝本はパンツァーファウストを構える。レッカーも同じように構え狙いを付ける。それぞれ狙いを付けた後、レッカーと勝本は引き金を引いた。だが勝本のパンツァーファウストは引き金を引く際に悪路によって車体が跳ね上がり照準がズレてしまい、弾頭はあらぬ方向に飛んで行く。

全員外れたと思っていると、突然炎龍の足元にゴスロリの少女が持っていたハルバートが突き刺さり地割れが起こった。それにより炎龍の足がすくわれ外れると思っていたパンツァーファウストの弾頭は左腕に命中し、レッカーが撃った弾頭は脇腹に命中した。抉られた脇腹と撃ち落とされた左腕に炎龍は悲鳴のような咆哮をあげ翼を広げ飛び去ろうとした。

 

「逃がすか‼」

 

カズヤは漸く避難民が居なくなったことを確認し、炎龍に向け無誘導ミサイルを撃ち込もうとした。だが炎龍は攻撃される前にブレスを吐く。ブレス攻撃にカズヤは咄嗟に腕を盾にして防ぎ、その間に炎龍は飛び去って行った。

 

「チッ、逃げられたか」

 

カズヤはそう呟きながら自身の機体を確認する。炎龍が吐いたブレスを防いだ腕は真っ赤になっており中の回路や油圧システムなどが全て破損。それ以外は特に問題はなかった。

 

炎龍が飛び去った後、カズヤは機体を車両に乗せ機体から降りて来て伊丹達と共に炎龍の攻撃に巻き込まれ亡くなった方々を埋葬する手伝いをした。そして村人達と共に黙祷を捧げた後、カズヤは伊丹と副隊長の桑原、そしてダンが集まっているところに向かう。

 

「それで、伊丹さん。彼らはこれからどうすると?」

 

「村長が言うには、残った人々は近くに住んでいる親戚の所に向かうか、大きな街に向かうだと」

 

「街って言っても知り合いでもいるんですか?」

 

カズヤの問いに伊丹は力なく首を横に振る。

 

「まだ街に行けるだけ問題は無いだろ。だがそれよりもっと厄介な問題がある」

 

そう言いダンは顔をクーガーや高機動車の方へと向ける。其処には親や身寄りが居ない子供や老人、そして自力では動けない負傷者達が居た。カズヤは如何にかできないのかと村長に顔を向けるが、村長は顔を横に振る。

 

「薄情と思われるかもしれが、今は自分達の事で精一杯なのじゃ。……だからあの者達の事までは手がまわせんのだ」

 

「……彼らを見捨てるんですか?」

 

「……申し訳ないとは思っておる。それとお主達には心から感謝しておる。本当に……」

 

村長は帽子を脱ぎそう感謝の言葉を送っている中、帽子を握る手がギュッと力強く握りしめられており震えていた。カズヤや伊丹達はこの人も助けてやりたい気持ちは大いにあるんだと思いそれぞれ顔を見合い、頷いた。そして自力で街に行ける避難民達とは其処で別れ、残った避難民たちと共に伊丹達はアルヌスへと帰還した。




次回
避難民達と共にアルヌスへと帰還した第3合同偵察隊。伊丹は上官に、カズヤは整備班長にそれぞれ叱られながらも避難民達の為の住居を用意した。
その頃ある酒場では炎龍を撃退した特地派遣団の話題が広まっていた。

次回
第3合同偵察隊帰還


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10話

避難民達と共に第3合同偵察隊が戻って来た話は瞬く間に基地全体に広まり、伊丹は上官に呼び出されていた。

 

「君は一体何を考えているんだ!?」

 

「え、えっと連れてきちゃ不味かったですか?」

 

その言葉に伊丹の上官、檜垣三佐は頭を抱え込んでしまった。

 

「不味いに決まっているだろう。……陸将に報告してくる」

 

そう言い檜垣は陸将に報告すべく席を立った。そして暫くして檜垣が戻って来て椅子に座りはぁ~と息を吐き、俯きながら口を開く。

 

「人道的考慮から、現地民達を避難民として受け入れを許可する。伊丹二尉は避難民の保護と観察をするように」

 

檜垣は震える体を抑えながらそう言うと、伊丹は頭を掻くような仕草を取りながら了承の言葉を口にする。

 

「は、はぁ了解です」

 

「……分かったら、さっさと行かんかぁ‼」

 

「は、はい!?」

 

そう言い部屋から退出していく伊丹。

その頃カズヤもヴァンツァーの整備場にて年配の整備班長、レナードに怒鳴られていた。

 

「炎龍って言う馬鹿でかいドラゴンと戦ったなら分かる。だが何で腕が破壊寸前までやられたんだ‼」

 

「い、いや~。炎龍が炎を吐いてきたんで、それを防ごうと咄嗟に腕を盾に……」

 

「腕を盾にするくらいなら、最初から肩盾を付けろ‼」

 

その叫びと同時に拳骨がカズヤの頭に落ちてきた。

 

「あぎゃっ!??! す、すいませんでした!」

 

拳骨が落ちてきた所を撫でながら、謝るカズヤ。そしてレナードは積み立てられた木箱の上にドカッと座る。

 

「で? その炎龍っていう奴はそんなに強いのか?」

 

「えぇ。セメテリーの弾丸をはじき返しちゃいましたし、対戦車兵器のパンツァーファウスト、そしてAT-4で漸く退けられたものですから」

 

そう言うとレナードはそうか。と呟き、カズヤの機体ゼフィールを見上げた。

 

「俺達の世界で最強に名高いヴァンツァーをこうも傷物にされちゃあ堪ったもんじゃねぇな。カズヤ、もしまたソイツと会ったら今度は必ず仕留めろよ」

 

「イエッサー」

 

そう言い、整備場を後にしようとするとレナードが何かを思い出し、カズヤを呼び止めた。

 

「そうだ、カズヤ! お前さんの機体は一度全てのパーツを取り外すからな! その間はゼニスに代えておくぞ!」

 

「分かりました!」

 

そう言い今度こそカズヤは整備場を後にした。

 

 

場所は代わりにアルヌスの丘から数十キロ離れた街にある酒場では大勢の客がある話題で持ちきりだった。

 

「「「「「炎龍を撃退した!?」」」」」

 

「あぁそうさ。この目で確かに見たからね!」

 

炎龍に襲われそうになった女性、エルザは自慢するかの様に話す。

 

「炎龍と言えば、古代龍の中でも最強に名高い龍なんだぞ。エルフや魔導士でさえ倒すのは不可能と言われているんだぞ。新生龍や翼竜の見間違いじゃないのか?」

 

「だがその炎龍にコダ村の4分の1の被害で済ませたんだぞ」

 

「一体誰が?」

 

そんな話題が持ち上がっている中、酒場の一角でコップに入った酒を口にする4人の騎士達。茶髪で水色のヘアバンドをした女性騎士ハミルトンは、向かい側に座っている金髪の騎士ノーマに声を掛ける。

 

「緑色の斑服に砂色の斑服を着た正体不明の人種の傭兵団……。騎士ノーマはどう思われますか?」

 

そう聞かれ、ノーマはため息を吐き店の様子を見て口に出さず心の中で悪態をつく。

 

(何でこんな安酒場で、まずい酒を飲まなきゃならねぇんだろうな)

 

そう思いながらハミルトンの問いに返す。

 

「さぁな。だがこれだけの避難民が同じことを口にするんだから噂は本当だろう。だがその炎龍って言うのが信じがたいがな」

 

「ですがこれだけ多くの者が口にしているのですから、信じてみる価値はあるかと……」

 

そう言っているとエルザがノーマ達の元へとやって来た。

 

「本当だよ、騎士の方たち」

 

「ハッハハハハ! 私は騙されんぞ女給」

 

ノーマの言葉にエルザはムッとなると、ハミルトンは懐から金貨一枚を取り出しエルザに差し出す。

 

「私は信じますから、詳しく教えてくれませんか?」

 

そう言われエルザはありがとうね!と言い、金貨を懐に仕舞う。

 

「それじゃあ、とびっきりの情報を教えようかね。私達を助けてくれた傭兵団にはいろんな人が居たんだ。肌が黒い人や白い人とかね。しかもその中には女性も居たんだよ。そして炎龍が現れて私と私の家族が炎龍に襲われてもう駄目だと思った時に、その傭兵団と一緒に居た巨人が助けてくれたんだよ」

 

「「「「きょ、巨人!?」」」」

 

エルザの口から出た巨人と言う言葉に酒場の人間は全員驚いたように口を開く。

 

「そうなんだよ。その巨人はね、白い鎧の様な物を身に包み傭兵団の人達と同じような鉄の杖を持っていたんだ。大きな音がたて続けに起きて、炎龍の気を逸らさせてくれたんだ。そして傭兵団の2人が見たこともない大きな魔法の杖を取り出したんだ。そしてなんだったかしら、『アンゼンカクニン』とか呪文みたいなことを言った後、轟音と共に炎龍の腕と脇腹を吹き飛ばしたんだよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

エルザの話を聞いた酒場の人間は唖然となるような内容に一言もしゃべらなくなり、只本当に炎龍を撃退した傭兵団に大きな関心と興味がわいた。

その一人、ピニャコラーダは一人傭兵団こと、第3合同偵察隊が持っていた鉄の杖について興味が湧いていた。

 

(その傭兵団とは一体? そして鉄の杖に、白い鎧をまとった巨人。一体何者なのだ?)




次回予告
連れてきた避難民達の家やら食事の準備を終え、名前登録の為全員を集めた伊丹達。その日の夜、カトーの元に集まった避難民達は遠征団の負担を少しでも軽くすべく生活費だけは自分達で稼ごうとアイデアを考える。
その頃ピニャはある修道院で治療を受けている人物に会っていた。
次回
久々の平穏


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11話

伊丹は糧食班、施設建設班に出す書類を書き終えテントなどを持って避難民達の元に持って行き全員へと配りテントを立て始めた。

 

「これで全員の住む場所は問題ないな」

 

「そうですね。後、これを皆さんにお配りするだけですね」

 

そう言い黒川が持っていたのは、携帯食料である戦闘食料2型と呼ばれるものだ。中には白飯、チキントマト煮、コーンスープが入っている物だ。

黒川はそれを温め、避難民にそれぞれ配った。

 

それから数日が経ったある日、アルヌスの丘から程近い森林にレレイとカトーは来ていた。目の前ではユンボやブルドーザーが森を開拓していた。

 

「何じゃあこれは?」

 

「私達の家を作るために開拓しているらしい」

 

「ほぉう。そうなったらやっと荷場車から本を降ろせるわい。ワシはちと寝る」

 

そう言いカトーはテントの方へと向かった。レレイは派遣団の事をもっと知ろうと観察していると視界の端にテュカが居る事に気付く。

 

「こんなすごい光景を見逃したってお父さん知ったら、がっかりするだろうな。後で教えなきゃ」

 

そう言い光景を見ていると、自衛隊員とアメリカ陸軍の建設班の人達が近づく。

 

「コラ、君達。危ないから下がってなさい!」

 

そう言われ、2人は下がるとレレイは香ばしい匂いに気付きその方向に目を向けると自衛隊の移動式かまど『野外炊具1号』が置かれていた。

その傍では過去に老舗料亭で腕を磨いていた古田が大根の皮を切っていた。

 

(自店の出店資金を稼ぐために入隊したんだが、まさか此処でも包丁を握るとわな)

 

そう思っているとその傍にレレイが来て、大根を興味深そうに見ていた。

 

「ん? あぁ、大根だよ。だ・い・こ・ん」

 

「ダイコン?」

 

「そうそう。大根」

 

そう言うとレレイはダイコン。と興味深そうに見つめる。

 

(やはり彼らの事を知るには言語を学ばないといけない)

 

そう思っていると

 

「皆さぁ~~ん! 名前登録しますので集まって下さぁい!」

 

そう言われ避難民達と共に黒川の元へと向かう。

 

「儂はカトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子のレレイ・ラ・レレーナ」

 

「私はコアンの森のホドリューが娘、テュカ・ルナ・マルソー」

 

「暗黒の神、エムロイに仕えるロゥリィ・マーキュリー」

 

と、避難民達の名前登録を終え伊丹は名前と年齢を確認する。

 

「老人3人、ケガをした中年が3人、後は19人の子供。…ん?」

 

伊丹は15歳にも拘らず大人と明記された3人に目が留まった。

 

「どうしたんですか伊丹さん?」

 

そう言いカズヤは伊丹が気になった部分に目を向ける。

 

「いや、15歳なのに大人ってどう言う事なのかなと思ってな」

 

そう言い目の前にいるレレイに目を向ける。隣にいた黒川が訳を話した。

 

「この子が言うには15歳で大人だそうです」

 

そう言うとレレイはコクコクと首を縦に振る。

 

「テュカは165歳」

 

そう言うとその場に居たカズヤやダン達は目が点となった。

 

「……本当にエルフだったのかよ」

 

アイリッシュは驚きからそう呟く。

 

「えっと、それでもう一人は?」

 

そう伊丹が聞くと、黒川は半信半疑の様な目線を子供達が遊んでいる方へと向ける。

 

「あの神官少女らしいのです」

 

そう言うと全員疑いの目を向ける。

 

「そんな馬鹿な」

 

パックはそう言うと同意するようにレッカーも頷く。

 

「それじゃあ幾つなんだ?」

 

ダンがレレイにそう聞くとレレイは

 

「私達より年上。年上の年上のもっと年上」

 

そう言うとダン達は疑問符を浮かべカズヤは

 

「それじゃあ幾つなのか聞いてもらってもいいですか?」

 

そう言うとレレイは物凄き勢いで首を横に振る。

 

「……怖くて聞けない」

 

そう言いわれ伊丹はロゥリィに目を向ける。

 

(一体幾つなんだ?)

 

そんな目を向けるとロゥリィは、ん?と顔を向ける。

 

 

そしてその日の夜。カトーの元に避難民達が集まっていた。

 

「儂らはずっと派遣団の者達に助けてもらってばかりじゃ。せめて生活費くらいは自分達で何とかせんと」

 

そう呟くと全員何か当てはないのかと考え込む。すると何かを思い出したのかレレイが口を開く。

 

「丘に沢山の翼竜が死んでた。あれを貰えれば」

 

「ふむ、明日彼らに頼んでみるか」

 

そう言いその日はお開きとなった。翌日、カトーとレレイは早速伊丹の元へと向かい訳を話す。伊丹は上司の元に行き話をして暫くして戻って来て報告する。

 

「何と、全部採ってもいいと言っておるのか!?」

 

「そう言ってる」

 

カトーはレレイを通して伊丹の言葉を訳してもらい、伊丹が伝えた報告に驚いていた。

 

「別に特に必要って訳でもないし、射撃の的にしか使ってないからご自由にどうぞ」

 

そう言われカトーはポカーンと口を開きっぱなしとなった。その後、避難民達は翼竜の鱗を丁寧に剥がし取り、綺麗に磨き袋に詰める。

 

「―――それでこれ1枚で幾ら位になるの?」

 

ロゥリィは鱗を持ちながらレレイに聞く。

 

「これ1枚でデリラ銀貨30枚から最高で70枚。そしてデリラ銀貨1枚あれば最高で5日は生活できる」

 

そう言うとロゥリィはへぇと笑みを浮かべ後ろを振り向く。其処には鱗の入った袋が2つと牙が2本あった。

 

「それじゃあ私達大金持ちって事ぉ?」

 

そう言うと全員が生唾を飲み込む。

 

「それでこれを何処に卸そう? できたらちゃんとした大店に任せたい」

 

レレイがそう言うとパイプ煙草を吸っていたカトーはそうじゃと妙案を浮かべる。

 

「テッサリア街道の先にイタリカと言う街がある。そこに旧知の友が店をやっておるから其処に頼もう」

 

それから暫くして伊丹達第3合同偵察隊はイタリカへと向けるべく準備をしていた。

 

「俺達は運送係なんすか?」

 

「まぁいいじゃん。避難民達が自活するのは悪い事じゃないんだし」

 

そう言っているとレレイ達がやって来た。

 

(ハケンダン達が居れば安全に行ける)

 

そう思っていると伊丹は視線を向けていたレレイに首を傾げる。

 

「どうかしたか?」

 

「何でもない」

 

そう言い高機動車に乗り込む3人。そして偵察隊はアルヌスを出立した。

 

 

 

その頃、そんなイタリカから程近い修道院にピニャは訪れていた。そして中へと入ると一人の白髪の重症者の老人が居た。

 

「……デュラン殿下」

 

そう呼ぶとデュランは顔をピニャへと向ける。

 

「なんじゃ 姫様か。……まさかわざわざ帝都から…は、敗軍の将を笑いに来られたのか?」

 

そう言うとピニャは慌てた表情で近寄る。

 

「め、滅相もございません‼ この近くで情報を集めておりましたら高貴な方が此処で治療を受けていると聞き参った次第です」

 

そう言うとデュランはそうかとだけ伝え、顔を天井に向ける。そしてピニャにある事を聞く。

 

「姫は何も知らぬか?」

 

「え?」

 

「姫は何も知らされておらぬのか? アルヌスの丘で何があったのか? 我ら諸王国軍に何があったのかを?」

 

そう言いデュランは自身の推論を述べる。

 

「帝国は既に異界からの敵に敗れておったのではないのか? 帝国はそれを知っていて牙を向ける恐れがある我ら諸王国を招集し、我らを敵へと押し付けた」

 

そう言うとピニャは慌ててデュランの横に着く。

 

「た、確かに以前帝国は負けた事は存じております。ですがどの様な敵が待ち構えていたか知らせて―――」

 

「姫よ、我々は大陸を守るべく死力を尽くし最後の1兵になるまで戦った。だが我らの敵は背後に居った」

 

そう言い目に力を入れ睨むような眼をピニャに向けるデュラン。

 

「帝国だ。帝国こそが我らの真の敵だったのだ」

 

「陛下、せめて、せめてどのような敵だったのかお教えください‼」

 

そう言い腕に掴んできたピニャをデュランは振るい掃った。

 

「どの様か敵か、それは姫自らアルヌスに行かれることだ」

 

そう言いデュランは何も話さなくなり、ピニャは悔しさを噛み締めながら扉へと向かう。

 

「これだけは言っておいてやろう姫よ」

 

デュランにそう言われピニャは顔を向ける。

 

「お主達帝国が呼び寄せた軍団は神の如き軍団。呼び寄せた敵にいずれ帝国は敗れるであろう‼」

 

そう言うと体を休める様にベッドに倒れるデュラン。ピニャは手を力強く握りしめ修道院から出てきた。外ではハミルトン、ノーマ、グレイが居た。

 

「姫様、まさか騎士団でアルヌスの丘に突っ込むとかおっしゃらないですよね?」

 

ハミルトンからの冗談にピニャはフッと笑みを浮かべる。

 

「そんな馬鹿な事をするわけが無かろうが。だが一度アルヌスの丘に行かねばならないのは確かだ。ノーマ、本隊に移動の指示を。グレイ、この先は?」

 

「この先、アルヌスに向かう途中にイタリカがあります」

 

グレイの言葉にピニャはイタリカか。と呟く。




次回予告
イタリカに鱗を売りに来た伊丹達第3偵察隊。だがイタリカは絶賛戦闘中だった。伊丹達はイタリカの人々の為その場に留まり戦闘に参加するのだった。そんな中、カズヤは其処で運命の出会いを果たす。
次回
イタリカ攻防戦~前編~


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12話

アルヌスから出発した伊丹達。車内はのどかな雰囲気を出しているが、先日の炎龍がまた現れるかもしれないために警戒していた。

 

「はぁ、なんで子供達を連れて出ないといけないんだ? あのカトーって言う老人一人と俺達で良いんじゃないのか?」

 

アイリッシュはまた戦闘に巻き込まれるかもしれないのにレレイ達を連れて出るのが不安でいたのだ。

 

「カトーはアルヌスにいる他の避難民達の傍に居ないといけない。だから弟子であるレレイに頼んだんだろう。それにあのレレイって言う子、見た目とは裏腹にかなり努力家みたいだぞ。この前も『貴方達の言葉を教えて欲しい』って片言な日本語で言ってきたんだしな」

 

ダンはそう言いアルヌスを中心に描かれた周辺地域の地図を見ながら方角を確かめる。すると

 

《3-1からトゥームストーン指揮官送れ》

 

「こちらトゥームストーン指揮官、送れ」

 

伊丹から突然無線が入り、何かあったのかと思いダンはそれに出た。

 

《前方、恐らくイタリカと思わる街から黒煙を確認。対空警戒を厳にしてこれよりイタリカに接近する。送れ》

 

「黒煙? 火事とかではないのか?」

 

《いや、レレイが言うには火事にしては大きすぎるらしい。それと……ロゥリィが言うには血の匂いがするって言うんだ》

 

「血の匂いだと?」

 

伊丹からの報告にダン達はまたトラブルかと思い、了解と送った。そして第3合同偵察隊はイタリカへと接近する。

 

 

 

イタリカ。広大な穀倉地帯を有した街でテッサリアが街道とアッピア街道の交点にあり交易によって発展した街である。そんな街は現在――

 

「いけぇ‼ 攻め落とせぇ‼」

 

大声をあげながら多くの鎧を纏った者達がイタリカを攻撃していた。この者達はアルヌスにいる派遣団を撃退すべく集った元兵士達。つまり敗残兵たちであった。彼らは国に帰ろうにもそれだけの食料も無ければ資金も無い。ならばどうするか。近くにある街を襲撃し金目の物を略奪し、そのまま居座ろうと考えたのだ。そして目を付けられたのがイタリカである。

 

城壁の上から弓を構え、矢を放つピニャ。矢は兵士の一人に命中し倒された。

 

「クソォ! 退けぇ! 退けぇ‼」

 

そう叫び声が響き、盗賊団となった敗残兵達は退いて行った。その光景を見たピニャは一息つき城内に降りて行く。

 

「ノーマ、ハミルトン! 無事か‼」

 

「……い、生きてま~す!」

 

「……じ、自分も……な、なんとか……」

 

2人は手を挙げながら無事を知らせる。すると大剣を肩に担ぎながらグレイが現れる。

 

「薄情ですなぁ姫様。小官の心配はしてくださらんのか?」

 

「貴様が無事なのは分かり切っている」

 

そう言うとグレイはワッハッハー。と笑う。そしてピニャはノーマとグレイに破壊された門の代わりに馬防柵を作る様に指示し、イタリカを統治しているフォルマル伯爵邸へと向かい軽く食事を終え、客間に置かれているベッドで横になった。

 

何故彼女達が此処に居るのか。それは彼女達の勘違いから始まった。アルヌスの情報を集めていたところ、イタリカが戦闘集団に襲われていると聞き例の傭兵団、つまり特地派遣団と思ったピニャ達がイタリカに急行。だが其処に居たのは連合諸王国軍の敗残兵達で構成された盗賊団であった。ピニャ達は仕方が無く指揮を執り盗賊団達と戦っていたのだ。

 

ピニャは疲れから寝ていると突然顔に水が掛けられた

 

「なっ、何事だ!? 敵か!?」 

 

そう叫び、起き上がるピニャ。目の前にはフォルマル伯爵邸に仕えているメイド長、カイネが水が入っていただろうボウルを持っていた。そして隣ではグレイが困惑した表情で立っていた。

 

「……敵かどうか姫様ご自身で確認してください」

 

そう言われピニャは首を傾げながらも濡れた体を拭き、装備を身に纏い南門へと向かう。

南門に到着するとハミルトンもグレイ同様困惑した表情でいた為、ピニャは声を掛ける。

 

「どうしたハミルトン」

 

「その、外を見てください」

 

そう言われ城門の扉についている覗き窓から外を窺う。外には緑と砂色をした物体……自衛隊の高機動車、軽装甲機動車。そして海兵隊のクーガーHとアメリカ陸軍のヴァンツァー用の輸送車が停まっていた。

そんなことを知らないピニャ達は困惑していた。

 

「何でしょうあれ?……木攻車でしょうか?」

 

「いや、……あれは鉄だ」

 

「な、中に人が見えますな……」

 

覗き窓で外を確認していると、ノーマが城門上で誰何を始めた。

 

「何者だぁ‼ 敵でないなら姿を現せ!」

 

そう大声で叫んだ。

 

 

叫び声は伊丹達の元まで届いており、どうするかと相談していた。

 

「うへぇ、お呼びじゃない感じじゃん」

 

「怪我してまでこの街で売るべきじゃないと思うっす」

 

伊丹と倉田は頬を引きつらせながら城門を見上げる。するとクーガーHに乗っているダンから無線が入った。

 

《こちらトゥームストーン指揮官。伊丹、彼女達の身の安全を考えて別の街に行かないか?》

 

「そうだね。という訳で他の町に「却下」い、いやけど君達の安全を考えたらさぁ」

 

そう言い伊丹はレレイを説得するがレレイは頑なに拒否する。

すると後ろにいたテュカが割って入って来た。

 

「ちょっとレレイ。其処までこの街にこだわる必要があるの? これ以上この人達を危険な目に合わせる必要があるの?」

 

「だからこそ行く。私達が行って敵でない事を伝えれば派遣団の評判を落さない」

 

そう言い車から出て行こうとするレレイ。テュカは何処か納得のいかない雰囲気を出しながらも同じく立ち上がる。

 

「……分かった。私も行くからちょっと待って。矢避けの加護を掛けるから」

 

そう言いテュカは魔法を唱えると、風の様な物が若干吹く。

 

「何だか面白そうだから私も行くわぁ」

 

そう言いロゥリィも戦斧ハルバードを持って車から降りる。

 

「えぇ~。どうしよぉ」

 

伊丹は3人だけで行かすわけに行かないと思っていると無線越しにダンが語る。

 

《伊丹、3人が行くなら俺が護衛で行く。伊丹は車両に「いや、俺も行くよ」分かった》

 

そう言い無線は切れ、伊丹は64式を肩に担ぎ外に出る。

 

桑原曹長(おやっさん)、暫く指揮を任せた」

 

「了解です。お気を付けて」

 

車両から降りた伊丹はダンと合流し、3人の後を追った。城門まで到着し、伊丹は扉をノックする。

だが扉の奥からは反応が無く、ただ時間だけが過ぎていく。

 

「……遅いな」

 

「やはり、警戒しているんだろう。もう諦めて他の街に行った方が良くないか?」

 

ダンはもう諦めた方が良いと言い帰ろうとする。扉の前に立っていた伊丹もレレイ達に帰ろうと伝えようとした瞬間、扉が急に開かれ伊丹の顎にクリーンヒットし倒れ込んだ。

 

「よく来てくれたぁ‼ ……あれ?」

 

そう言いピニャは素っ頓狂な顔を浮かべる。3人とダンは呆れた様な目を向けながら立っていた。そして足元に目を向けると、人が倒れておりピニャは振るえる指で自身を指さす。

 

「も、もしかしてわらわの所為か?」

 

そう言うと4人は息を揃えて頷いた。ピニャが固まっているのを見かねたダンは伸びた伊丹を担ぎ中へと入って行った。

5人が中へと入って行ったのを確認した偵察隊は報告があるまで待機していると、全車に桑原からの無線が入った

 

《各車、隊長から中に入っていいと許可を貰った為城内に入る様に。但しヴァンツァーは城内に入らず城門付近で待機。以上》

 

《【了解】》

 

全員車両を動かし自衛隊、海兵隊の車両は中へと入って行きヴァンツァーと輸送車は城門のからほど近い林に車両等を隠す。

 

「はぁ、やっと中に入れた」

 

カズヤはさっさと売って退散しようと伊丹に言いに城内に入る。

すると

 

「おい、本気で言ってるのか伊丹‼」

 

そう叫び声が聞こえ、カズヤは駆け足で声が響いた元へと向かう。

高機動車とクーガーHが停まっているところではアイリッシュが伊丹に喰ってかかっていた。

 

「俺達は今帝国と言う敵と戦っているんだぞ‼ それなのにその帝国と共闘するだと? ふざけているのか‼」

 

「ふざけてませんよ。第一この戦闘に参加するのはあの姫さんの為じゃない。この街に住んでいる人達の為なんだ」

 

その光景を見ていたカズヤは近くに居たレッカーに訳を聞いた。

 

「レッカーさん、何があったんですか?」

 

「伊丹とダンが城内に入って、この街の現状を聞いてきたらしいんだ。そしたら商取引とかできる状態じゃないらしく、伊丹はだったら自分達も手を貸すと言って戻って来たんだ。そして皆に報告した瞬間、アイリッシュがキレたと言う訳だ」

 

「なるほど。確かに正義感の強いアイリッシュさんは、俺達の世界でテロをした帝国に手を貸すなんて屈辱でしょうね」

 

喧嘩を見守っていたダンもアイリッシュの説得に加わる。

 

「アイリッシュ、お前の気持ちはよぉく分かる。だが俺達が此処で見放して街の人達はどうなる? それにこの街の当主はまだ16歳の少女だ」

 

 

「「「!?」」」

 

ダンからの突然の報告にアイリッシュ達は驚く。

 

「俺達が見放せばあの子はこの街を失う。更にこの街に住んでいる人達も居場所を無くす。お前はそれでもいいのか?」

 

そう言われアイリッシュは振るえる拳を握りしめながら、拳をクーガーHの扉にぶつける。

 

「……そう言われたら手を貸さなきゃならねえじゃねぇか。分かったよ、伊丹。手は貸してやる。だが、帝国が少しでも俺達に武器を向ける様なら容赦はしねぇからな!」

 

そう言いアイリッシュはMk.48を持ち城門上へと向かった。

 

「悪いな伊丹。アイツは根は良いが、正義感が強いんだ」

 

「いや、誰だってあぁ思ってますよ」

 

そう言い丸く収まった様子になった為、カズヤが伊丹に近付く。

 

「伊丹さん、もしかして俺達だけでこの街を防衛するんですか?」

 

「いや、俺達だけじゃあ厳しいかもしれないからアルヌスに応援を頼んだ。応援部隊が来ればあの姫さんも理解するだろうし」

 

「? 何がですか?」

 

「俺達と戦うより、仲良くした方が良いってね」

 

そう言い笑みを浮かべる伊丹。カズヤとダンはその顔を見て、この人はやっぱり何処か凄い人間だと理解した。

 

「さて、それじゃあ姫さんから頼まれたこの南門を守るんだが。カズヤ、お前はヴァンツァーを起動させて待機しておいてくれ。あれが見えていれば、少しは抑止力になるだろうし」

 

「了解です。じゃあ起動【ニャー】おりょ?」

 

カズヤはヴァンツァーを起動しに向かおうとしたが、足元に泥で汚れた子猫が居た。

 

「ん? なんだ野良ネコか?」

 

「いえ、飼い猫みたいですね。ほら、首輪してますし」

 

そう言い拾い上げた猫の首付近を見せる。

 

「どうする? その辺に放置するか?」

 

「いえ、少し街の人達に聞いて来てます。流石にこの時間に襲ってくる可能性は低いとおもいますし」

 

そう言いカズヤは猫を抱きかかえ、輸送車に乗せていたMP7を持って街の人達が集まっているところに向かった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

栗林はカズヤ一人で行動させるのは危ないのではと思い伊丹とダンに意見具申した。

 

「あの、大尉一人で向かわせて良いんですか? 流石に危ないのでは」

 

「ん? 大丈夫大丈夫」

 

「そうだな、アイツだったら大丈夫だろ」

 

そう言いダンと伊丹はそれぞれ南門を防衛すべく準備に取り掛かった。栗林は何処か納得がいかない表情を浮かべながらも暗視装置を取りに向かった。

 

 

「さて、お前の飼い主さんは何処に居るんだろうな?」

 

そう言いながら猫を抱きかかえ街を歩くカズヤ。街の人に聞いても分からないと言うばかりで、本当に捨て猫なのかと思いながらも探していると、街の中心の噴水へと到着した。

 

「ん~。これだけ探しても見つからないとなると、お前の飼い主さんはもう「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」はい?」

 

呼ばれたカズヤは振り向くと、其処には猫耳をした紫の髪をポニーテールに纏めたメイド服の女性が立っていた。

 

「その小猫の首輪を見させてもらっても宜しいでしょうか?」

 

「え、えぇどうぞ」

 

そう言いカズヤは女性に猫を渡す。

 

「あぁ、ミュイ様の猫ですニャ! どうも見つけて下さってありがとうございますニャ‼」

 

「いえいえ。偶々門付近で迷子になっていたもんですから、飼い主が探しているんじゃないのかと思って探していただけですので。では自分はこれで」

 

そう言いカズヤは伊丹達の元に戻ろうとすると

 

「あの!」

 

「ん? 何か?」

 

「お名前を窺っても宜しいでしょうか?」

 

女性に名前を聞かれ、カズヤは体を向け敬礼しながら名を名乗る。

 

「日米特地派遣団、機動中隊レイブン隊指揮官カズヤ・ハミルトン大尉です」

 

「私はペルシアと申しますにゃ!」

 

そう言い互いにそこで別れた。




次回予告
戻ってきたカズヤはヴァンツァーに搭乗し待機した。その頃アルヌスでは伊丹からの応援要請に応えるべく、第4戦闘団が救援に向かいに行くべく準備していた。更に海兵隊にレイブン隊所属の2機が出撃準備を行っていた。

次回
羽を広げるワルキューレ達


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13話

猫をペルシアと名乗ったメイドに渡し、伊丹達の元へと戻って来たカズヤ。

 

「お、戻って来たかカズヤ」

 

城門上にいたパックは見下ろすようにそう言うとカズヤはえぇ。と言い手を挙げる。

 

「無事に飼い主を知っているメイドの人に渡しました」

 

そう言うと城門上にいた伊丹と倉田が物凄い勢いで見下ろしてきた。

 

「「メイドだと‼ 確かかカズヤッ(大尉っ)?」」

 

「うぇっ!? た、確かにメイド服の女性でしたよ」

 

そう言うと倉田はよぉっしゃーー!メイドさんが居る‼と高らかに拳を挙げた。

 

「……この二人は」

 

城門上にいた栗林は白い目を向けながら2人を眺めていた。

 

「えっと、それじゃあヴァンツァーの方起動しに行ってきますね」

 

そう言いカズヤはヴァンツァーの元に向かい、コックピットに乗り込み立ち上がった。

起動し立ち上がって南門の位置から見える穀倉地帯を見渡すと、奥の方に3人の馬に跨った兵士が見えた。

 

「伊丹さん、斥候だと思われる敵影を確認、送れ」

 

『了解。こっちからも見えてる。取り合えず監視のみで。向こうが手を出すまでは待機でよろしく』

 

「了解。レイブン指揮官out」

 

カズヤは報告を終え、斥候の敵影を監視続けた。城門上から斥候を確認した伊丹は隣にいたダンに話しかける。

 

「ダン中尉。敵さん、どう動くと思う?」

 

「ん? そうだなぁ。俺がもしあいつ等と同じ盗賊団だったら、一度負けた相手だとまた負ける可能性がある。だから南門に居る此処に攻めて来る可能性は低いだろうな。そうなると考えられる場所は、北側は川だから無いとすると東西の門のどちらかだな」

 

「だよなぁ。あの姫さん、俺達を囮に使って敵が攻め入って来たら奥の広場で叩くつもりでいるよなぁ多分」

 

「あぁ、伊丹の推測通りだろう。あの姫さん実戦経験が乏しすぎるだろ。敵の思惑にまんまと嵌ってやがる」

 

ダンは良くここまで持ち堪えたもんだ。と思いながら重い息を吐き、双眼鏡で斥候が居る場所から奥にある林を見る。其処には数千は居るであろう兵士達の姿が見て取れた。

 

「まぁ、万が一他の門が襲われたら俺達で救援に向かうか」

 

「……あの姫さん容認しますかねぇ」

 

そう言うとダンが呆れた目で伊丹を見る。

 

「伊丹、悪いが民間人が虐殺されそうになっているのを姫さんからの援軍要請を待つのは俺には出来ないからな。俺も、アイリッシュと同じ不条理な暴力に晒されそうになっている民間人を見過ごす事は出来ない」

 

そう言うと伊丹はそうですか。……はぁ。と息を吐き監視を続けた。

 

 

 

その頃、アルヌスの丘では多用途ヘリコプターUH-1Jヒューイ、対戦車ヘリAH-1Sコブラ、OH-1ニンジャが何時でも飛びたてる様ローターを回しながら待機していた。自衛隊のヘリなどが待機している隣では海兵隊のUH-1Yヴェノム、AH-1Zヴァイパーが自衛隊同様待機していた。

ヘリなどの他にも89式装甲戦闘車ライトタイガー、96式装輪装甲車クーガー、AAV7A1 RAM/RSアムトラック、LAV-25が待機していた。

待機している車両近くにあった格納庫内では第1機動戦闘団、第4戦闘強襲団、第2水陸戦闘団そして海兵隊達が居た。それぞれ緊張した面持ちでいた。

 

「現在第3合同偵察隊がいるイタリカの代表、ピニャ・コラーダ氏から救援要請が入った! 敵は先の陣地に攻撃をして、敗走した集団の一部だと考えられる! イタリカは既に多くの被害を受けており早急に救援に向かわねばならない‼」

 

狭間はそう言い集まった戦闘団の隊長を見渡す。すると第1戦闘団が前に出る。

 

「陸将、ぜひ我が第1機動戦闘団に出撃許可を!」

 

「いえ、我々第2水陸戦闘団に出撃許可を!」

 

そう言い互いに出撃許可を貰おうとすると

 

「ダメだ‼」

 

そう叫ぶ第4戦闘強襲団隊長健軍一等陸佐。

 

「お前達が地上をちんたら走って行っている間にイタリカは陥落しているかもしれん。陸将、我々第4戦闘強襲団が向かいます。我々でしたらスピードがありますので明日の夜明け頃には到着しております」

 

そう言われ陸将は健軍の言っている事に一理あると思い頷く。

 

「良し。イタリカには第4戦闘強襲団に行ってもらう。ディック中佐、健軍一等陸佐すぐさま出撃をするように」

 

「「はっ‼(イエッサー‼)」」

 

そう言い行こうとすると健軍は後ろにいた用賀2佐にある事を聞く。

 

「用賀、例の物は?」

 

「はっ! 大音量スピーカー、コンポ、並びにワグナーのCDは既に準備済みです!」

 

「パーフェクトだ、用賀2佐!」

 

「感謝の極み!」

 

そう言い健軍はディックの方へと目を向けると、ディックはやる気に満ちた笑顔を見せる。

 

「海兵隊がベトナムでどの様に戦ったか、とくとご覧に入れましょう‼」

 

そう言い3人は部下達と共にヘリへと搭乗しようと向かうと、レイブン隊所属のフレデリカ上級曹長、ガウェイン一等准尉が健軍の元へと行く。

 

「カーネル健軍‼ ぜひ我々もご一緒しても宜しいでしょうか?」

 

「先に陸将にも言った通り地上をちんたら「ご心配なく、既にヴァンツァー輸送用のヘリが到着。既にヴァンツァーを搭乗させ何時でも離陸可能です‼」良し、なら急いで行くぞ‼」

 

「「イエッサー‼」」

 

そう言いレイブン隊の2人も急ぎヴァンツァーを搭乗させたヘリに元に向かいヴァンツァーに搭乗する。

そして第4強襲戦闘団が飛び立っていくのを見送る狭間ははぁ~と息を吐き、目頭を押さえる。

 

「あいつ等、キルゴア中佐の霊にでも憑りつかれたのか? しかもあいつ等だけでも敵を殲滅できるのに、ヴァンツァー2機も同伴となったらもはやオーバーキルだと言うのに」

 

そう言い飛び立っていくヘリを見送る狭間




次回予告
夜が更け辺りが漆黒の闇に覆われた時刻に、イタリカは再度の攻撃を受けた。だが攻撃を受けたのはピニャの予想とは真逆の東門だった。南門に居た伊丹達は、悶え苦しむロゥリィをどうすべきだと相談しているとカズヤが指示を出した。
次回
エムロイの使徒


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14話

伊丹達がイタリカに到着してから数時間が経過し、時刻は深夜3時を迎えようとしていた。その頃東門に居た農夫達は度重なる襲撃に疲れがピークに達しており、立ったまま居眠り仕掛けていると突然目の前に矢が降ってきた事に驚いた。

 

「しゅ、襲撃だぁ⁉」

 

そう叫び声が上がり、周りにいた民兵達は直ぐに武器を持ち応戦すべく立ち向かった。東門の指揮を執っていたノーマは、下に居た者達に大声で指示を飛ばしていた。

 

「敵襲‼ ピニャ殿下に伝令‼ 敵は東門から接近‼」

 

その知らせは直ぐにピニャの元に届いた。

 

「東門だと!?」

 

そう叫び、自身が学んできた戦術プランが大きく崩れ去り、すぐさま東門へと向かった。東門は既に悲惨な状態となっていた。多くの民兵達が矢を放ち、架けられた梯子を斧で叩き壊すなどしているが、明らかに戦力の差が出ていた。門の内側には馬防柵を設け、其処では入られた時の為に民兵達を待機させていた。すると端の方で武器を持った女性達が話していた。

 

「み、緑の人と砂の人は一体何処にいるの!?」

 

「わ、分からないわよ!」

 

そう話しており、ピニャはギュッと馬の手綱を握りしめていた。

 

「……あの者達は来ん。わらわが南門に置いてしまったから」

 

そう呟き、自身の頭で練った作戦がこうも簡単に崩れ去ったことに悲観していた。すると近くに居たハミルトンが「あぁぁ……」と声を漏らすのが聞こえ、顔を上げると城門上で民兵達を指示していたノーマが、盗賊団の一人の剣で貫かれていた。

 

「敵将の一人を打ち取ったりぃ!!!」

 

そう叫ぶと門の外から歓声が上がり、そして門がこじ開けられた。そして多くの盗賊達がなだれ込んできた。互いに睨みあう。すると盗賊団の一人が女性の死体を持って来た。

 

「さて、この女の亭主は何処に居るんだぁ?」

 

男はニタニタと笑みを浮かべながら女性の髪を掴み上げ、民兵達によく見える様に持ち上げた。

 

「み、ミシェル!?」

 

民兵の一人がそう叫び、柵をくぐり抜けようとしたが周りの者達が男を行くんじゃないと止めた。

 

「行くんじゃない! 行けば殺されるぞ!」

 

「くっ‼」

 

亭主の男性は死んだ妻殺したかもしれない男を睨んだ。

 

「そうだなぁ、折角だ。返してやるよ」

 

そう言い突然剣を取り出し、女性の首を斬り捨て首だけを亭主の方へと投げた。男性は転がって来た妻の首を拾い上げ、怒号をあげ剣を持って策を抜けて行った。それにつられてか何人もの民兵達も柵を抜け、向かった。

 

「いかん、行くんじゃない!」

 

ピニャの制止も聞かず、民兵達は盗賊団の元へと向かった。

その頃、東門で戦闘が起きているのを確認した伊丹達は動けずにいた。するとロゥリィの様子がおかしい事に気付いた。

 

「…だ、だめぇ。可笑しくなっちゃうぅ!」

 

そう叫びながら体をくねらせるロゥリィ。伊丹達は一体何が、と思いレレイに聞いた。

 

「レレイ、ロゥリィの奴どうしちまったんだ?」

 

「彼女はエムロイの使徒。戦場で散った魂は彼女の体を通ってエムロイの元に召される。その魂が体を通り抜ける際、魔薬的感覚に陥る」

 

「ま、魔薬って媚薬の事か?」

 

ロゥリィの様子に流石に不味いような雰囲気が出ており、ダンは直す方法が無いか聞く。

 

「どうやったら止まる?」

 

「戦場に行けば、自然と解消される」

 

そう言われ、どうする?と伊丹に目線を向ける。伊丹は未だに東門から応援が来ない事に判断を迷っていると

 

『伊丹二等陸尉』

 

突然ヴァンツァーに搭乗しているカズヤが、声を掛けた。その際、普段さん付けなのを自身の階級で呼んだことに何らかの指示を出すと思い顔を向けた。

 

『貴方とダン中尉、そして富田、栗林二等陸曹はロゥリィと共に東門に向かい、味方に敵位置の誘導を。残った者は南門の警備に着いて下さい』

 

そう指示を飛ばした。カズヤが指示を飛ばしたのは、この部隊の中で一番階級が上の為後々問題が起きた際は自身が責任を負うつもりでいる為だった。

 

「了解です」

 

伊丹はカズヤの指示に従い、栗林にロゥリィを立たせるよう指示した。

 

「ロゥリィ、もう少しの辛抱だからね」

 

そう声を掛けた瞬間、栗林の袖を掴みそのままの勢いで門から飛び降り常人では考えられない走りで駆けて行った。

 

「は、はえぇ」

 

桑原曹長そう声を漏らした。

 

「俺達も向かうぞ!」

 

そう言い伊丹達は、高機動車に乗り込み東門へと向かった。伊丹達が向かったのを確認したカズヤは次の指示を飛ばした。

 

『恐らく東門が突破が成功すれば残りの門にも攻撃をすると思います。自分は西門に向かうので、皆さんは此処で警戒態勢を維持していてください』

 

「分かった。……カズヤ、奴らに目に物を見せてやれ」

 

アイリッシュはそう言うと、カズヤはえぇ、分かってます。と返し西門へと向かった。

西門には数分で到着し、カズヤは西門の様子を見るとやはり盗賊団の一部が攻撃をしていた。カズヤはすぐさま安全装置を解除し持ってきたセメテリーを構えた。

 

「お前等が大人しく故郷に帰ってさえいればこんなところで命を散らさずに済んだんだ、悪く思うなよ」

 

そう言い引き金を引いた。セメテリーから装填されていた15㎜砲弾が立続けに放たれ、門を攻撃していた盗賊団達に命中していった。命中した箇所は地面が抉られその場にいた兵士は肉塊になるか、体の一部が消し飛んだ。

 

「きょ、巨人だぁ!!??」

 

「な、な、なんで此処に居るんだよ!? 人間並みの知能があるとでも言うのかよ!」

 

「と、兎に角に、逃げぎゃぁぁ!!?」

 

逃げようとし始めた盗賊団にカズヤは、躊躇なく攻撃を加えた。脅威となりえる芽は早急に摘み取らねばならない。もしまた逃げればこの連中はこの街、もしくは他の街や村をまた襲うかもしれないからだ。西門に迫っていた盗賊団はものの数分で壊滅した。すると西門の城壁上から、大声をあげる女性が居た。

 

「巨人さぁ~ん! ありがとうございますニャ‼」

 

そう言い手を振っていたのは返り血の付いたメイド服を着たペルシアだった。手には小さなナイフが握られていた。カズヤは声を掛けようと思ったが、自身の声をだしたら色々不味いのではと考え、ヴァンツァー用ショットガン『キャッツレイ』を持った手を掲げ上げ東門の方へと向かった。その際に城門上にいたペルシア以外のメイドや民兵達が手を振りながらお礼を言っていた。




次回予告
伊丹からの報告を受け、既に攻撃を受けていると報告を受けた第4戦闘強襲団。そしてイタリカに接近し、攻撃を開始した。
次回
戦場を蹂躙するヴァルキュリーと巨人


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15話

アルヌスの丘から飛び立った第4戦闘強襲団と海兵隊、そして2機のヴァンツァー。彼らはイタリカを襲っている盗賊団を撃滅すべく向かっていた。

 

第4戦闘強襲団を指揮している健軍の後ろでは用賀が伊丹達と無線をとっていた。

 

『401。此方3Rec、送れ』

 

「此方401、コールサイン<ワルキューレリーダー>、送れ」

 

『報告する、既にイタリカの東門付近で戦闘が開始された模様。繰り返す、敵は東門。目標は発色信号で知らせる。送れ』

 

「了解。我々は朝日を背に突入する。到着まであと5分、交信終了」

 

通信を終えた用賀は前に居た健軍に報告をする。

 

「一佐、伊丹から報告です。既に東門にて戦闘が開始されている模様です」

 

「うむ。全機10時の方向、攻撃態勢に入れ! 朝日を背に突入する!」

 

その指示が出されると、ヘリは機首を曲げ朝日を背に飛行する。

 

「後は用賀に任せる。音楽を鳴らせ!」

 

健軍の指示の元、コンポに電源が流れ音楽が流れ始めた。流れ出したのは【ワルキューレの騎行】映画で一躍有名となりヘリボーンとなれば定番となった曲である。

その音楽のリズムに乗る様に隊員達は鉄帽を下に敷き急所を守ったり、64式を軽く振ったりとリズムに乗る。

海兵隊側も同様にリズムをとったりと、今から始まる作戦を今か今かと待っていた。

 

『ワルキューレリーダー、こちらレイブン3。お楽しみ中ごめんなさい、意見具申があるのですが宜しいでしょうか?』

 

後方を飛行していたレイブン3ことフレデリカはそう聞く。

 

「此方ワルキューレリーダー、内容は?」

 

『現在レイブン3は遠距離攻撃用のライフル<ウィニー>を装備しています。その為今から送る座標から援護、及び逃走を開始した盗賊団の対処に当たりたいと考えています』

 

フレデリカから送られてきた座標を確認する用賀。其処はイタリカの東門から離れた位置にある雑木林だった。

 

「……如何なさいますか、一佐?」

 

「よし、許可する」

 

健軍の許可が下り、用賀はフレデリカに許可すると送った。そしてフレデリカが指したポイント付近へと到着する。

 

『では、ワルキューレリーダー。いい狩りを』

 

「そちらも。ワルキューレリーダー、交信終了」

 

そしてポイントに着くとレイブン3のヘリは降下し、レイブン3を下ろした。

 

『レイブン3、いい狩りを!』

 

「ありがとうね」

 

輸送してくれたヘリのパイロットにフレデリカはそう言い、イーゲルに装備した遠距離攻撃用ライフル<ウィニー>を構える。

 

「さて、獲物は沢山いるみたいだし選び放題ね」

 

そう言いワルキューレ達の攻撃の合図を待った。

そして先頭をを飛んでいたコブラ、ヴァイパーはヘルファイヤーⅡを発射。ミサイルは城壁へと命中し、瓦礫などが落下していく。

盗賊団達は突然聞いた事が無い歌が響いたと思えば、突然自分達のうえにあった城壁が爆発し瓦礫が落下し仲間達が次々と潰されていった。

コブラとヴァイパーの攻撃に続くように、ヒューイやヴェノムに乗った自衛隊員や海兵隊達は攻撃を開始した。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「ひ、人が見えたぞ!!?」

 

「よ、翼竜でもないのに空を飛んでいるというのか?!」

 

そんな驚きを上げている中、一部の盗賊達は遠くから飛んでくる影に恐怖し、腰を抜かした。

 

「お、おい! こんなところで死ぬ気か!」

 

そう叫び腰を抜かした兵士を立ち上がらせようと、腕を掴む盗賊。

 

「む、無理だぁ。お、俺達はもう死ぬ運命だあぁぁぁ!?!!?」

 

そう泣き叫ぶ男。立たせようとした盗賊はそう叫んだ理由が分からず、叫んだ男の目線を辿った瞬間、その盗賊も理解した。もう自分達は此処で死ぬ運命だと。

 

飛んできたのは輸送用ヘリに吊り下げられたレイブン4ことガウェインが搭乗したヴァンツァー【ルナール】だ。ルナールは脚部がキャタピラタイプになっており、悪路だろうと何だろうと問題なく走破できる。そして装備している武器はアサルトマシンガンのラプターを2丁装備し、肩には重火力制圧を目的に装備したグレネード<ヴィルトGGR>が有った。

ガウェインは地面に居る盗賊団を確認し、武器の安全装置を解除した。そして下りるのに最適な位置を確認しパイロットに指示を出す。

 

「この辺で降ろしてくれ」

 

『此処にか?』

 

「ジェントルマン達が降りる場所を少しでも綺麗にしておかなきゃいけないだろ」

 

ガウェインがそう言うと、パイロットは確かにな。と笑いながら降下していく。

 

『それじゃあ掃除は頼むぜ。だが程々にな。ジェントルマン達もパーティーを楽しみにしているんだからな』

 

そう言いながらヘリのパイロットはガウェインを下ろし上空に退避した。

 

「レイブン4からミスフィット指揮官、パーティーに参加するなら早く下りてこい。じゃないと早々に終わらせるぞ」

 

『ミスフィット指揮官からレイブン4へ、それは困る。部下達は早く参加したくてうずうずしているんだ。すぐに行く』

 

そう通信が送られ、ガウェインはヘリが着陸できるよう周辺に居る盗賊団達に攻撃を開始した。

 

 

 

地上にヴァンツァーが下り、更に上空ではヘリが縦横無尽に飛び、地面に居る盗賊団達を攻撃していた。

すると上空から戦況を確認していたOH-1ニンジャが城壁上にあるバリスタに槍を装填しようとしている光景を目撃した。

 

『こちらオスカー1。城壁上に対空兵器が2門。どちらもまだ装填前です』

 

『こちらレイブン3、此方も確認した。狙撃で潰す』

 

フレデリカからの通信の後、片方の対空兵器のバリスタはフレデリカの狙撃によって吹き飛んだ。

 

『ハンター1、もう一門の対空兵器を潰せ』

 

健軍の指示によりコブラはもう片方のバリスタへと飛び、ハイドラロケットを撃ち込んだ。

 

『よくやった! 戻ったらビールをおごってやる!』

 

その頃ガウェインは周囲に居た盗賊団をあらかた片付け終えた所で、後ろから海兵隊を乗せたシーナイトがやって来た。

 

「よぉし、お前等任務の内容は理解しているか!」

 

「「「ウーラァ!!」」」

 

「覚悟はいいか!」

 

「「「ウーラァ!!」」」

 

「よしブラックバーン、カンポ。お前達が先陣だ! 行けっ! 行けっ! 行けぇ!」

 

シーナイトが着陸すると同時に後部ハッチを開き、次々と海兵隊は降りていきガウェインのルナ―ルの後ろに着く。

 

「ミスフィット指揮官からレイブン4。待たせて済まない。エスコート任せたぞ」

 

『全く待たせすぎだぞ。まぁ良い、しっかりと付いてこいよ』

 

ガウェインはそう言い機体を前進しだすと、その後ろから海兵隊達が付いて行く。盗賊団達はジッとしながら鉄の杖で攻撃していた巨人が、突然空飛ぶ箱舟が降りて来て兵士を降ろした後、前進を始めてきた事に恐怖し蜘蛛の子を散らすように盗賊団達は逃げ出す。海兵達はそんな盗賊団を逃がすはずもなく、逃げ出す盗賊団達に攻撃を始めた。

 

「ヴァンツァーの影から攻撃しろ! 下手に出て矢に撃たれたくないだろ!」

 

「タンゴダウン!」

 

「逃げる奴は盗賊だ! 逃げずに向かってくる奴はよく訓練された盗賊だ!」

 

「上からの援護もある! このまま畳み掛けるぞ!」

 

地上には前進してくるヴァンツァー、上空には攻撃ヘリ等。既に城外に居た者達に退路など存在していなかった。

そして城内に居た盗賊団達も決着がつきようとしていた。




次回予告
城外で攻撃が開始された頃、東門にロゥリィが突如現れた。そして伊丹達も到着し盗賊団に攻撃を開始した

次回
エムロイの神官


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16話

門の外で激しい派遣団の攻撃が行われている中、東門の中では緊張状態が続いていた。その訳が

 

「……」

 

突如して出現したエムロイの神官、ロゥリィだ。彼女が突如空から降って来て地面に降りたつと同時に城門の外で攻撃が起きたのだ。

盗賊団達は突如現れたロゥリィに緊張で動けずにいたが、一人が体を無理矢理動かそうと大声をあげ、ロゥリィに斬りかかった。

 

「相手は小娘一人だ!」

 

「やっちまえ!」

 

そう叫びながら盗賊達はつられるように持っていた剣や槍などでロゥリィに向かった。ロゥリィは笑みを浮かべながら向かってくる盗賊達を次々に斬り捨てていった。

そして伊丹達も到着し車両から降りていき、太ももに付けている銃剣を取り出す。

 

「着け剣! ロゥリィを援護「でぇええい!!」あ、馬鹿野郎!」

 

伊丹は前線へと走りだしていった栗林にそう怒鳴るも、栗林は前線へと向かって行った。

 

「あの馬鹿!」

 

「仕方ない、2人を援護する! 突撃にぃ、前へ!」

 

そう言い伊丹と富田、そしてダンは突撃していった栗林とロゥリィを援護するように攻撃を開始した。

 

ロゥリィは攻撃してくる盗賊団達を薙ぎ払う様にハルバードを振るい、敵を次々に薙ぎ払って行った。すると巨体の兵士がロゥリィを握りつぶそうとしてきたが、その脇腹を栗林が銃剣を突き刺した。

 

「でぇぇぇえい!!」

 

そう叫び銃剣を刺した後、止めに引き金を引き7.62㎜弾を放ち銃剣を兵士から抜く。するとロゥリィを襲っていた兵士の何人かが栗林の方へと標的を替えた。

 

「どっせぇえい!」

 

栗林は斬りかかって来た兵士を斬り捨てると、背後から襲ってきた兵士の攻撃を64式のハンドガード部分で受け止め銃床で頭を殴った。すると64式のハンドガード部分についていた2脚がボロッと取れた。

 

「あ! やばい、武器陸曹にどやされる」

 

そう呟いていると背後から数人の盗賊団が襲い掛かってくるが、ロゥリィがハルバードを振って栗林の背後から迫ってくる敵を斬り伏せた。そのロゥリィの後ろから迫っていた敵を栗林はサイドアームで撃っていく。

 

「あの2人。完全に戦場の空気に呑まれている。不味いぞ」

 

ダンは周りに居る敵は把握できても、味方の指示などが耳に届いているのか疑問を持つ。

 

「えぇ。出来るだけあの2人の背後に敵が回らない様に援護するぞ!」

 

「了解!」

 

伊丹はそう指示し、栗林とロゥリィの背後に敵が回らない様に援護射撃を継続する。

 

部下達が次々に蹂躙されていく姿を城門上で見下ろす盗賊団の首領は悔しそうに顔を歪める。

 

「何を手間取っている! 相手はたった2人だぞ!」

 

そう叫んでいると背後からヒューと言う音が聞こえ振り向くと同時に爆発が起き首領は左腕と左足を失い、そのまま下へと落ちた。落ちた所は丁度ロゥリィの前で、ロゥリィは落ちてきた首領に何の興味も無い様な目で見ていた。

首領は残った手をロゥリィへと伸ばしながら口を開く。

 

「こ、こんなのは戦いではない。そ、そうは思わんかエムロイの神官?」

 

そう問うもロゥリィは何も言わず、ただ持っていたハルバードを振り下ろし首領に止めを刺した。

 

「しゅ、首領が!?」

 

「お、落ち着け! 隊列を立て直すんだ!」

 

兵士達は首領が死んだことに、どよめきが走りながらも楯を構える。伊丹はその光景に呆れているとコブラが飛来し門内が見える位置へと移動すると、伊丹の携帯無線機に無線が入った。

 

『ハンター1から3Rec。これより門内を掃討する。10秒以内に至急退避しろ。繰り返す至急退避しろ! 10…9…』

 

ハンター1からのカウントダウンに伊丹と富田は顔を見合い、すぐさまロゥリィと栗林の元へと向かい回収に向かった。

 

「ダン中尉! 援護を!」

 

「分かっているから、急いで行け!」

 

そう叫び、ダンは伊丹と富田に気付いた盗賊団に向け持っていたM416A5を向け引き金を引く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そしてダンの援護を受けた伊丹と富田はロゥリィと栗林を回収し馬防柵の内側へと戻ってくる。

 

『3…2…1…ファイヤッ‼』

 

そう無線が入ると同時にコブラのM197三砲身ガトリング砲が火を噴き、門内で楯を構えていた盗賊団達は次々と蜂の巣にされていった。突然のコブラの攻撃に馬防柵の内側に居た民兵達は唖然とその光景を見ていた。そして暫くしてコブラの攻撃が止み、土煙が晴れると其処には血の海が広がっており生きている盗賊団はほぼ皆無だった。

 

「ば、化け物……」

 

高い位置に移動し指揮を出そうとしていたピニャの横に居たハミルトンはそう呟いた。

 

「全てを叩かれていく。……何者にも抗えない絶対的力。誇りも名誉も全てを一瞬で否定する。……こ、これは女神の嘲笑なのか?」

 

ピニャは茫然とその光景を見ていた。

その頃、城門の外ではレイブン4に守られながらイタリカ城門まで到着したミスフィット隊とヒューイに搭乗していた自衛隊員達が降りて来て、降伏した盗賊団達を一か所に集め始めていた。

 

「こちら用賀。敵集団の殲滅を確認。送れ」

 

『了解した。レイブン3、他に敵はいるか?』

 

『こちらレイブン3。ほぼ殲滅されているようです。逃亡を始めていた敵も上空からの攻撃、更にレイブン4の攻撃によって殲滅されているようです』

 

その報告を聞き健軍は『了解だ』と返し、自身が搭乗しているヘリを地表に着陸させた。

外の制圧がほぼ終わり始めた所、東門にはレレイや黒川達が居た。彼女達が居るのはレレイが派遣団の事をもっと詳しく見たいと南門からやって来たのだ。テュカや黒川はそのお供だ。だが既に戦闘は終わっていた。

 

「ん? サージェント黒川。何故ここに居る?」

 

ダンはテュカやレレイ達を連れ前線に来ている事に少し怒った顔を浮かべていた。黒川はすぐに姿勢を正しを訳を話す。

 

「レレイが近くで見ると言い、一人で此処に向かった為慌てて追いかけてきたのです」

 

「レレイが?」

 

そう言いダンは目線をレレイに向けると、レレイはコクコクと首を縦に振った。ダンははぁーー。と呆れたため息を吐き分かった。と言い黒川に顔を戻す。

 

「……確かサージェント黒川は医療資格を持っていたな?」

 

「は、はい」

 

「彼女達の護衛は俺が代わるから、負傷者達の手当てを頼む」

 

そう言い顔を馬防柵付近にいる市民達へと向けた。其処には斬りつけられ血を出している者達が大勢居た。

 

「了解しました」

 

そう言い黒川は急いで負傷者達の元へ向かう。するとその傍に富田と栗林がやって来た。

 

「ダン中尉、援護感謝します」

 

「あぁ、お疲れ。……それと」

 

そう言いながらダンは栗林の元へ向かい、頭頂部に向け思いっ切り拳を落した。

 

「いだっ!!?!?」

 

「敵に突撃しに行って死ぬ気か、お前は!」

 

ダンは怒った表情を浮かべそう怒鳴った。栗林は本気で怒られた事にしょんぼりとなり「す、すいませんでした」と謝った。隣にいた富田は何とも言えない表情を浮かべ、何も言わなかった。

 

「お前が万が一死んだら、悲しむのは俺達だけじゃない。お前の家族や友人達も辛い思いをする。二度と突撃するような真似はするなよ?」

 

「……了解しました」

 

そう返事が返され、ダンは宜しい。と言い体を返す。

 

「……だが格闘の腕は良かったぞ」

 

そう言ってレレイ達と共にその場を離れて行った。栗林は怒鳴られた後に突然褒められた事に少しきょとんとした表情を浮かべた。

すると隣にいた富田が声を掛けた。

 

「栗林、もうやるなよ?」

 

そう声を掛けられ、直ぐ苦笑いを浮かべ答えた。

 

「うん……。あそこまで中尉に怒鳴られたもん。やったらまた怒鳴られるからね」

 

そう言い手元にある銃に目線を向けると、自身の64式が2脚の破損以外にもバレルが曲がっている事に気付いた。

 

「……とみちゃん」

 

「どうした?」

 

「私、ダン中尉以外にも確実に怒られる人が出来ちゃった」

 

そう言い銃を富田に見せる栗林。それを見た富田は呆れた表情を浮かべた。

 

「……まぁ、こってり絞られろ」

 

そう言われ栗林は、やってしまったぁ!と頭を抱え空を見上げた。富田は呆れた様なため息を吐いていると、その背後に市民達がやって来た。

富田は体の向きを変え、市民の方へと向く。

 

「貴方方のお陰で街は救われました。貴方方は何処の軍隊なのですか?」

 

「我々は連合特地遠征団です」

 

そう言うと市民達は「エンセイダン……」と街を救った軍隊の名を呟く。

 

「―――エンセイダンとは一体何者なのだ」

 

ピニャはそう疑問を零しながら、派遣団達を見下ろしていた。




次回予告
戦闘が終わり、カズヤは機体から降りてフォルマル伯爵邸へと伊丹達と向かう。そこで今回の捕虜についての相談が行われた。

次回
協定


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17話~Re~

前回のあらすじを変更しました。
そして此方も内容を変更しました。


盗賊団の討伐が終わり、カズヤは到着した東門に居る同じレイブン隊の2人に声を掛けた。

 

「お疲れさん」

 

『あ、隊長。お疲れ様です』

 

『災難でしたね』

 

「全くだよ。さて、俺は第3偵察隊の所に戻るからここは任せる」

 

『『了解!』』

 

カズヤは2人に捕らえられた生き残った盗賊団達の監視を任せ、輸送トラックがある南門へと向かう。

その機体の背を見送る2人は少し安堵の表情を浮かべながら見送っていた。

 

『何とも無そうで良かったですね』

 

『そうね。今回はたまたま良かっただけかもしれないけど、今後は分からないわ。だから私達で支えるわよ』

 

『えぇ、分かってます』

 

そう言い2人は監視をすべく海兵隊と自衛隊が捕らえた盗賊団の元へ向かった。

 

輸送トラックに機体を固定させ、カズヤはMP7を手に機体から降りる。

 

「カズヤ大尉、丁度戻って来たか」

 

そう声を掛けられ顔を向けると健軍が其処に居り、その隣には何故か目にタンコブの跡がある伊丹が居た。

 

「カーネル健軍。伊丹さんの身に一体何が?」

 

「さぁ? 俺がヘリから降りてきた時にはその状態だったぞ」

 

そう言われカズヤは首を傾げながら伊丹達の後ろの方を見ると、ロゥリィはそっぽを向きながら不機嫌な雰囲気を出していた。

 

「……なにしたんですか、伊丹さん?」

 

「……ただロゥリィをお姫様抱っこして避難しただけだ」

 

伊丹はそう言うと、カズヤと健軍はそれでか。と呆れた様な溜息を吐く。そして伊丹、健軍、ロゥリィ、ダン、そして通訳のレレイと東門に伊丹達を向かうよう指示したカズヤはフォルマル邸に向かった。

 

そしてフォルマル伯爵邸に着いた6人は謁見の間へと通されると、フォルマル伯爵領の当主、ミュイとメイド長。そして帝国のピニャとハミルトンが居た。そして派遣団と帝国との交渉が始まった。

そんな中、ピニャは心此処にあらずといった表情だった。

 

(戦いに勝てたのに、なぜこうも高揚感がわかん? ……あぁ、そうか。我々が勝ったのではない。エンセイダン、そして使徒ロゥリィが勝ったんだ)

 

そして次に遠征団達の戦い方にギュッと奥歯を噛み締めた。盗賊団をあっと言う間に掃討した力を恐怖した。

 

(この地はエンセイダンの物となる。それを民は喜んで向かえ入れるだろう。そうなれば……)

 

自身の今後の行方に思い詰めている中、ハミルトンは健軍と請願の事を交渉し合っていた。

 

「では、捕虜の権利は我が方に有ると心得ていただきたい」

 

「無論それで構いません。しかし情報収集の為3~5人程確保できればいい。それと、そちらの慣習に干渉する気はないが、できたら捕虜を人道的に扱って欲しい」

 

「ジンドウテキ? なんだそれは?」

 

ハミルトンは聞いた事が無い言葉に首を傾げると、通訳であるレレイが説明する。

 

「友人、知人の様に無下に扱わないと言う事」

 

「……友人、知人が町や村を襲い、略奪などするものか!」

 

「それが遠征団のルール」

 

レレイは若干強気に言うと、ハミルトンは勝利者は向こうだ。大人しく従おうと思い了承した。するとピニャはハミルトンの大声で意識が現実に戻っていた。

 

「すまん、ハミルトン。何処までいった?」

 

「あぁ、良かった。心此処にあらずといった表情でしたから心配しておりました」

 

そう言いながらハミルトンは遠征団が提示した条件を書いた羊皮紙をピニャに見せる。其処には捕虜から3~5人を連れて帰る事。帝国と遠征団との仲介をピニャ、そしてフォルマル伯爵家がその往来の保障を確約すること。フォルマル伯爵領及び、イタリカ市内でのアルヌス協同生活組合との交易に掛かる関税、売上、金銭の両替などに発生する負荷される各種の租税一切を免除することが書かれており、そして遠征団はすぐに此処を立ち去ることも書かれていた。

その文面を見たピニャは驚かざる負えなかった。

 

(勝利者の権利を放棄している。どう言う事なんだ?)

 

そう思いながら書面に自身のサインをし、ミュイのサインがされた後健軍のサインがされその場での話し合いは終わった。健軍達は帰ろうと一礼して去ろうとした瞬間

 

「待って欲しい」

 

そうピニャに呼び止められた。4人は体をピニャの方に向ける。

 

「なにか?」

 

「そちらの者はそなた達とは鎧が全く違うが、一体どういう事なのか教えてくれんか?」

 

レレイの通訳を聞いた4人は顔を見合う。ピニャが指しているのは恐らくカズヤであると。

ピニャはこの謁見の間に入って来た時から気になっていたのだ。2人は緑の斑模様の服を着ているのに対し、もう2人は砂色の服装に鎧。3人は装備が所々違うが恐らく同じと思えたが、一人だけ鎧が違う物で左肩の肩当にはナイフが装備されている。

 

「どうします?」

 

「別にやましい事などは無いから、言っても構わんだろう」

 

「分かりました。レレイ、通訳を頼めるか?」

 

カズヤはそう言うとレレイは分かった。と返す。

 

「自分は連合特地遠征団、機動中隊レイブン隊所属のカズヤ・ハミルトンと言います」

 

「……それで、何故そなただけ装備が違うんだ?」

 

「どう言ったらいいんでしょうか。簡単に言うならばあなた方が見たあの巨人を操縦する者です」

 

そう言うとレレイは、操縦=調教して使役と考えカズヤを調教師と言った。するとピニャ、そしてハミルトンの顔が真っ青に染まり始めた。

 

「……レレイ、あの人に何て言ったんだ?」

 

「ん? カズヤはあの巨人の調教師だと言った」

 

そう言われえぇ~。と困った表情を浮かべる。

 

「まぁ、あながち間違ってないだろ」

 

健軍はそう言いピニャに声を掛ける。

 

「では、そろそろ退室しても宜しいでしょうか?」

 

そう聞くと、ピニャは首を縦に激しく振る。そして6人は謁見の間を退室して行く。

するとメイド長のカイネはカズヤの名前を聞き、ある事を思い出しミュイに顔を近づける。

 

「ミュイ様、先ほどのカズヤ・ハミルトン様の事なのですが」

 

「何ですか?」

 

「実はペルシアがシャナを連れて帰ってきた際に何処に居たのか聞いたところ、そのシャナを見つけたのが先程のカズヤ様らしいのです」

 

そう言うと、ミュイは驚いた表情を浮かべた後、笑みを浮かべる。シャナはカズヤが南門で偶然保護した猫の名で、ミュイにとっては大切な家族なのだ。父が亡くなり、自分ではなく土地と財産にしか興味がわかなかった姉達とは違い自分に寄り添ってくれる数少ない家族なのだ。

 

「そうなのですか。またこのイタリカに来られましたらお礼をしないといけませんね」

 

「はい」

 

カイネは朗らかな笑みを浮かべながら、頷く。そんな中隣のピニャ達はと言うと

 

「ひ、ひ姫様。あ、あの者があの巨人を使役してる者だとすると……」

 

「う、うむ。絶対にあの者を怒らしてはいかん。わ、我々が滅ぶぞ」

 

そう言い、顔を真っ青に染めながら派遣団、特にヴァンツァーを操縦している者達は危害を加えてはいけないと心に決めたそうだ。

 

 




次回予告
協定の取り決めが終わり伊丹達はレレイ達が商談が終わるまで待っていた。そして商談を終えたレレイ達を車へと乗せ帰ろうとした時、事件が起きた。

次回
事件


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18話

謁見の間から退室した6人はそのままフォルマル伯爵邸を後にしようと歩き出す。

 

「さて捕虜は伊丹、お前が見て決めてくれ」

 

「了解です。あ、ダン中尉。皆の所に戻ってもらったらレレイ達の商談する店に一緒に付いて行ってあげてくれませんか?」

 

「分かった」

 

「伊丹さん、俺は?」

 

「カズヤは必要ないかもしれないけど、機体のチェックだけしておいてくれ。帰り道に何があるか分からないからな」

 

「了解です」

 

そしてそれぞれ分かれ、伊丹、健軍は捕虜が集められている場所へと向かい、ダンはレレイとロゥリィ、そしてテュカと共にカトーの友人が営んでる商店へと向かい、カズヤは自身のヴァンツァーのチェックへと向かった。

 

 

 

「―――あの子と、あの子かな」

 

伊丹と健軍は捕虜が集められている場所に到着すると、捕虜の怪我の具合を見ていた黒川と栗林を見つけた。そして伊丹は連れて行く捕虜を選ぶが、全員女性であり頭に羽の生えた亜人も中にいた。

それには流石に黒川と栗林はジーと伊丹に視線をぶつける。

 

「女の子ばかりですね」

 

「偶然だよ、偶然」

 

「そうは思えないんですが」

 

「偶然だって」

 

「偶然、ですか……」

 

「そっ。偶然」

 

偶然と言って押し通す伊丹に2人は呆れた顔を浮かべるも、直ぐに顔付を替えた。

 

「まぁ、女の子をこのまま此処に残して行く訳にはいかないと言うのは分かりますが…」

 

黒川はそう言いながら自分を納得させる。隣にいた栗林は隣で羊皮紙と睨み合いをしているハミルトンに目を向け、何を悩んでいるんだろうと。首を傾げていた。

そして伊丹が選んだ捕虜たちは健軍達のヘリへと乗せられアルヌスへと連行されて行く。そのヘリを城壁の上から街の人々は手を振りながら礼を述べていた。

 

「ありがとう!」

 

「あんた達にエムロイの加護が有らんことを!」

 

人々に見送られながらヘリは飛び立っていった。

 

「漸く終わったな」

 

「あれ、そう言えばお嬢さん方は?」

 

城壁下で捕虜の輸送を手伝っていた倉田と富田達。倉田は付近にレレイ達が居ない事に気付き辺りを見渡す。

 

「今ダン中尉と共に商人の所に行ってる」

 

「あ、そう言えばそれが目的でしたね」

 

倉田は思い出したような顔を浮かべた。

 

 

その頃ダン達はカトーの友人の商人、リュドーの元に来ており交渉していた。

 

「ふむ、見事な翼竜の鱗。それに牙も」

 

リュドーは手に取った鱗の状態を確認し、綺麗に光り輝く鱗と牙の値段を割り出した。

 

「そうですね、鱗と牙を合わせましてシンク金貨400枚、デリラ銀貨4,000枚といった所なのですが…」

 

リュドーは少し口をつぐんだ後、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ここの所の情勢で貨幣不足でしてね、シンク金貨はご用意できるのですが、デリラ銀貨の方が1,000枚はすぐにご用意できます。そして残り3,000枚の内2,000枚は為替でご用意できますが、残りの1,000枚の方がどうしても……」

 

「分かった。それじゃあ、その残りの1,000枚分で仕事を依頼したい」

 

「仕事? どのような依頼でしょうか?」

 

リュドーは首を傾げながらレレイの方を見つめる。

 

「各地の市場相場の情報、それとできる限り広範囲で、多品目を詳細に」

 

リュドーはレレイの口から出た依頼に一瞬茫然となるも、直ぐに我に返り聞き直す。

 

「情報を買うという事ですか?」

 

「そう、1,000枚分」

 

そう言われリュドーは暫く考えた後、頷いた。

 

「分かりました。カトーの愛弟子でおられる貴女からの依頼です。それで、調べた情報はどちらに?」

 

「アルヌスの丘、南の森にあるアルヌス共同生活組合宛で」

 

そして3人はダンの護衛の元、伊丹達の元に戻っていく。その後姿を窓から眺めるリュドーの部下。

 

「リュドー様、何故仕事をお引き受けしたのですか?」

 

「商人と言うのは売れる物は何だって売る。それが情報であろうとでだ。それにあちらに送る情報で向こうが利益を得れば、此方にも利益が回ってくるかもしれないからな」

 

そう言いながらリュドーはきらびやかに輝く鱗を眺めた。

 

 

 

レレイ達が戻って来たのを確認した伊丹は車両へと乗り込み、第3合同偵察隊はイタリカを出立した。

 

「ふわぁ~、漸く終わったなぁ」

 

伊丹は大きな欠伸を零しながらそう呟くと、運転席に居た倉田もそうっすね。と返す。そしてバックミラーで後部座席を見るとレレイとロゥリィ、テュカはスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「よっぽどお疲れみたいだった様です」

 

「そりゃあ徹夜だったからなぁ。俺達も帰ったらやる事やって休ませてもらおう」

 

伊丹はそう言い、また大きな欠伸を零した瞬間倉田が突然急ブレーキを掛けた。突然のブレーキは後方の車両も驚き同じくブレーキを踏み込んだ。車両の後部座席に居たレレイ達は突然の急ブレーキで慣性の法則で進行方向に向かって倒れ込んだ。

 

「おい、倉田いきなり何だよ?」

 

「前方に煙を確認!」

 

運転席に居た倉田はそう報告すると、伊丹はまたかよと言った嫌そうな顔を浮かべる。

 

「まったくまた煙って、あれって土煙か? よく見えないなぁ」

 

「待って下さい。……見えました!?」

 

倉田は双眼鏡を取り出し土煙がする方をすると、あるモノを発見した。

 

「ティアラです!」

 

「あぁティアラねぇ……ティアラ!?」

 

「金髪です‼」

 

「金髪!?」

 

「縦ロールです‼」

 

「縦ロール!?」

 

倉田の報告を復唱するように言った伊丹は倉田の方に近寄り双眼鏡を覗く。

 

「目標、金髪縦ロール1! 男装麗人1! 後方に美人多数です!」

 

「ッ!? 薔薇だな‼」

 

「薔薇です!」

 

2人はそう叫びながら接近してくる者が何者か見当がついたのか無線機を取る。

 

「こちら3-1、接近してくる目標は恐らく例の姫さんの騎士団かもしれない。各車警戒態勢を維持しつつ待機。但し発砲は厳とせよ。協定違反になりかねないからな」

 

『トゥームストーン指揮官、了解』

 

『レイブン1、了解』

 

そう言い車両を停車させると、騎士団は車両群の近くへと来た。先頭に居た金髪縦ロールの女性と男装麗人の2人は明らかな敵意を向けながら。

そして金髪縦ロールは先頭車両の運転席に居た富田に顔を向ける。

 

「お前達何処から来た?」

 

「えっと……我々、イタリカから帰る」

 

「何処へ?」

 

「あ、アルヌス…ヌルゥ!」

 

富田は現地語でアルヌスの丘と言った瞬間騎士団は馬を降り武器を手にし、スティレットを抜く者やランスを向ける者が現れた。金髪縦ロールの女性は富田の胸倉を掴み上げる。

 

「アルヌスの丘だと! 貴様ら異世界の蛮族か!」

 

「総員反撃用意‼」

 

「レッカー、M2用意!」

 

「総員待て! 手を先に出させないでよ!」

 

そう言いながら伊丹は車両から降りゆっくり歩きながら騎士団の元へ向かった。

 

「えっと、部下が何か致しましたか?」

 

そう言いながら近付いた伊丹に軍馬に乗った男性麗人はランスを向ける。

 

「降伏なさい!」

 

「ま、まぁ落ち着いて「お黙りなさい!」グヘッ」

 

金髪縦ロールの女性に伊丹はビンタを貰い、その行為を見た隊員達はそれぞれ銃の安全装置を解除した。後方では古田達が車両から降り64式小銃を構えていた。伊丹は咄嗟に大声で叫んだ!

 

「逃げろ! 逃げるんだ!」

 

「た、隊長、しかし!」

 

「いいから逃げるんだ!」

 

そう言われ桑原とダンはバックだ!と同時に命令した。車両やトラックは急バックしてその場から逃げ出した。遠ざかっていく第3合同偵察隊に伊丹は一息入れるも、後ろを振り向いた瞬間スティレットやランスを向けられた。伊丹は降伏と意思表示すべく両手を掲げた。




次回予告
フォルマル伯爵邸にボロボロの伊丹が連れて来られた瞬間、ピニャは連れてきた2人を叱責した。そして治療の為連れていかれて行く。そんな中第3偵察隊のダン達は伊丹奪還のために動いた。

次回
イタリカ再び


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19話

「この、愚か者共がぁ‼」

 

フォルマル伯爵邸の謁見の間にて、ピニャの怒号と共に騎士団の一人の額に装飾された器が投げられ鈍い音が鳴り響いた。

 

「え?」

 

突然の怒号と額に器を投げつけられ、血が流れだす女性騎士ボーゼス。茫然と言った表情を浮かべたボーゼスはそのまま膝から崩れ落ちると、隣にいたもう一人の騎士パナッシュが慌ててハンカチを取り出しボーゼスの額に出来た傷に押し当て、顔をピニャへと向けた。

 

「ひ、姫様何をなされるのですか!? 戦に遅れたとはいえ敵将の一人を捉えたのですよ!」

 

そう言われピニャは椅子にもたれ、重いため息を吐いた。そしてその捕虜の方へと目を向けると其処には、ズタボロの伊丹が目を開けたまま気絶していた。

 

「……メイド長、彼に治療を」

 

「畏まりました」

 

そう言いメイド長のカイネは、部屋にいたメイドたちに命令し伊丹を別室へと運んで行った。

メイド長達が出て行ったのを確認したピニャはゆらりと立ち上がる。

 

「お前達…、一体何をした!」

 

低い声でピニャがそう怒鳴ると、恐怖から震えあがる二人。

そして二人は震えながらも、伊丹に何をしたのか白状した。

 

「――――つまり、お前達は捕虜となったイタミ殿を馬で引き摺ったり、蹴り飛ばした。そう言う訳か?」

 

「「は、はい」」

 

二人の説明を聞いたピニャははぁ~。と二回目の重いため息を吐き、椅子にまたドカッと座り込んだ。

 

「あ、あの姫様。一つお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

パナッシュは恐る恐ると言った感じ、ピニャに質問の許しを請うと「何だ?」とぶっきらぼうに返す。

 

「その、先程から隅の方で震えておられるハミルトン殿は一体どうされたのでしょうか?」

 

そう言われピニャは顔をハミルトンの方へと向けると、部屋の隅で縮こまりガタガタと震えていた。

 

「あぁ、ガリウス。先に逝く私をどうか許して…」

 

そう呟いていた。

2人は何故あぁなっているのか疑問一杯の顔を浮かべ、ピニャがその訳を説明した。

 

「イタミ殿はこのイタリカを襲っていた盗賊団を撃退した者達の一人だ。そして妾は協定でこのイタリカとの往来の自由を認めたのだ」

 

「そ、そんな私達は協定の事など……」

 

「……そうだろうな。そしてハミルトンが恐れているのは、伊丹殿の仲間に巨人を使役する者がいるからだ」

 

そう言われ2人は顔を青染めた。自分達は知らなかったとはいえ、とてつもない事をしてしまったと。

2人が顔を真っ青に染めている中、ピニャは冷や汗を流しながら最悪なシナリオが頭をよぎる。

 

(帝国なら協定破りを口実に、真っ先に戦端を開く。もし、ハケンダンが同じ事をすれば滅ぶのは…)

 

最悪なシナリオを想像したピニャに焦りの表情を浮かべていると、傍に居たグレイが話しかけた。

 

「あの、姫様。此度は死人が出ておりません。此方の不手際と言う事で素直に謝罪をされてはいかがでしょうか?」

 

「な!? 妾に頭を下げて許しを請えと言うのか!」

 

そうピニャが言うと、グレイは真剣な表情を浮かべる。

 

「では、戦いますか? エンセイダンの者達と巨人、そして死神ロゥリィと。……小官は御免被りますが、最終的にはイタミ殿のご機嫌次第なんでしょうが…」

 

そう言いグレイは口を閉ざし、ピニャ達は苦悩に満ちた表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

その頃、第3合同偵察班はイタリカから少し離れた小高い丘の上からイタリカの様子を伺っていた。

 

「隊長、もう死んでたりして? あれだけボコボコにされてたらさぁ」

 

栗林は丘から見えた伊丹の様子に、そう呟くと隣で双眼鏡を覗いていた富田とカズヤが口を開く。

 

「隊長だったら大丈夫だろ、多分」

 

「自分もそう思います」

 

2人が伊丹は無事だろと言うのに、首を傾げる栗林に倉田がその訳を話した。

 

「そりゃあ、あのベルばら団たちは隊長の趣味じゃないからっす」

 

「あほか」

 

倉田の言葉を聞いた、富田は呆れて倉田の頭にチョップをかます。

 

「はぁ~。で、カズヤ。伊丹が無事な理由って何だ?」

 

「実は伊丹さん、あぁ見えて()()()()()持ちなんですよ」

 

「マジかよ。全然見えねぇな」

 

ダンの問いにカズヤがそう説明すると、栗林は持っていた双眼鏡をボトッと落とす。

 

「か、カズヤ大尉。…誰が?」

 

「だから伊丹さん」

 

「じょ、冗談ですよね?」

 

「マジマジ」

 

信じられないと言った表情でカズヤに聞く栗林。そしてプルプルと震え出し、そして

 

「うそよぉ~! ありえない~! 勘弁してぇ~!」

 

と、顔を手で覆いながらゴロゴロ転がり出した。

 

「イタミがレンジャーと言う物を持っていたらいけない?」

 

レレイは転がっていた栗林にそう聞く。

 

「んー、キャラじゃないんだものぉ」

 

栗林はそう返す。

 

「レンジャーってのは血反吐も吐くほどの厳しい訓練乗り越え、重さ数十㎏の装備を担ぎ少数で敵地奥深くに潜入しあらゆる任務をこなす。それがレンジャーなのよ」

 

栗林からレンジャーについて説明を受けたレレイはクスッと笑みを浮かべた。普段木の下で薄い本を読んでいたり姿をよく見かけている為、精強な戦士とは思えなかったからだ。テュカやロゥリィは我慢できなかったのか、大笑いを上げた。

 

「イタミが精強な戦士?」

 

2人が可笑しそうに笑っていると、ダンは腕の時計を確認する。時刻は1時を指そうとしていた。

 

「さて、そろそろ行くか。サージェント桑原、此処を頼む」

 

「了解しました、お気を付けて」

 

ダン、カズヤ、パック、レッカー、富田、古田、栗林、勝本、そしてレレイ達はイタリカに侵入すべく丘を降りていく。

 




次回予告
その頃伊丹はメイド長のカイネとそのメイドたちに手厚く看病されていた。そして伊丹を救出すべくイタリカへと侵入を始めたダン達。
次回
伊丹救出作戦前編


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20話

「いっつつぅ……、あれ、此処は」

 

体中から襲い掛かってくる痛みに気付いた伊丹は目を開けると、其処は知らない天井でベッドで寝かされていた事に気付く。起き上がろうとすると体を優しく抑える腕が出てきて伊丹は腕の伸びた方を見ると其処には黒髪のメイド服の女性が立っていた。

 

「お気付きになられましたか、ご主人様?」

 

「えっ? メイド? って、うぇっ!?」

 

伊丹は目の前にいた女性以外にも3人のメイドが自分が寝ているベッドの周りを囲っていた事に驚きながらそっと横になる。

状況が整理出来ず、伊丹は記憶が途切れる前に有った出来事を思い出す。

 

(た、確か姫さんの部下の薔薇騎士団の人達に絡まれて、それで咄嗟に部下達を逃がしてそれで捕まってボコボコにされて……。とすると此処は)

「あの、此処ってもしかしてイタリカの…」

 

「はい、フォルマル伯爵邸です」

 

やっぱりか。と納得した表情を浮かべ、伊丹は部下達は無事に逃げられただろうかと思い顔を黒髪の女性へと向ける。

 

「あの、状況は? 俺の部下は「ご心配ありません。伊丹様のお仲間は無事逃げられたそうです」 そ、そうですか」

 

伊丹の問いに部屋に入ってきたカイネが答えながら、伊丹の寝ているベッドの傍へと歩む。

 

「フォルマル伯爵邸でメイド長をしております、カイネと申します。伊丹様がこの街に連れて来られた後騎士団の方々は領内の警護に向かわれました。そして騎士団の隊長方をピニャ様は激怒され黄隊の隊長であるボーゼス様ががお怪我を」

 

「そ、そうですか」(あの縦ロール、ボーゼスって言うんだ)

 

カイネの説明を受けながら考え事をしていると、突如カイネ達は深々と伊丹に向かって頭を下げた。

 

「この度はこのイタリカを救っていただきありがとうございます‼ 伊丹様、そしてそのお仲間の方々によってこのイタリカをお救い頂いた事、感謝の仕様がございません。此度の一件、もしこのイタリカを焦土とかすのであるならば我々は手を貸す所存です。ですが、ミュイ様だけは何卒矛先を「あ、いや。俺達そう言う事はしませんから!」

 

伊丹は突然焦土にするなら手を貸すと言ってきたカイネに遮る様にしないことを叫ぶと、カイネとその周りにいたメイド達はホッと胸を撫で下ろした。

 

「それでは伊丹様、明朝お仲間の方々がお迎えに上がられるまで此処に居る者達が伊丹様の身の回りのお世話をさせます。どうかごゆるりとお寛ぎ下さい」

 

「「「「宜しくお願い致します、ご主人様」」」」

 

「よ、よろしくお願いしまぁす」

 

メイド達の丁寧で綺麗なお辞儀に伊丹は終始照れ顔であった。

 

 

 

その頃ダン達はと言うと、イタリカの門前に広がる林の中で身を潜めていた。

 

「さて、此処まで気付かれることなく近づけたがどう侵入するか。篝火があぁも照らされていちゃあすぐにバレてしまう」

 

門前にメラメラと燃えながら辺りを照らす篝火にダンは口を尖らせながらカズヤ達に意見を求めた。

 

「下に居るのは、民兵の人達ですね。上に居るのが民兵か帝国兵かどっちか判れば、入れるんですけどね」

 

「此処からでは何とも言えませんからね。運悪く帝国兵だったら、即座に戦闘になる恐れがありますし」

 

「こういうお城みたいな街ってどっかに排水路とかがあるんじゃないの? そっから入れば中に潜入できるんじゃない?」

 

「恐らくあると思うが、立派な鉄格子で守られてるだろな。排水路は街に潜入する時によく使われるルートだから対策がされていても可笑しくないぞ」

 

それぞれ案を出すも、どれも危険を伴うモノばかりであった。それぞれ案を出しているとテュカが栗林の肩を叩く。

 

「ねぇ、だったら私に任せてくれない」

 

「え、テュカに?」

 

「何か案でもあるのか?」

 

ダンはテュカに顔を向けると自信ありげな表情で頷く。

 

「うん、眠りの精霊に力を貸してもらうの」

 

「眠りの精霊?」

 

「私達人種とは違ってテュカの様なエルフ族は精霊に力を借りて魔法を使う」

 

「なるほど。それだったら誰も傷付けることなく潜入できるな」

 

レレイの説明を聞きダンはテュカの案で行くと決め、テュカ、レレイそしてロゥリィは林からではなく少し暗い所から道へと出て真っ直ぐ門の中へと入って行った。

 

 

 

「――ったくよぉ、何にもしてない帝国兵の奴らめ。あれこれ指示しやがって」

 

「おい、上に居る帝国兵に聞こえるだろ」

 

門内には敷かれた防馬柵の近くで文句を垂れ流す民兵とそれを咎める民兵が居た。彼等は遅れてやって来た帝国兵にあまり良い顔をしていなかった。

 

「構う事ねぇよ。…あれ? あれ使徒様達じゃねぇか?」

 

文句を垂れ流していた民兵が指さす方に咎めていた民兵が顔を向けると其処には顔にペイントが施されたレレイ達が居た。

 

「どうしてこんな時間に此処に?」

 

「さぁな。何か忘れ物でもされたんじゃないか?」

 

そう言っているとテュカが二人の元へやって来た。

 

「こんばんわ。ちょっといいですか?」

 

「えっ!? へぇ、何でしょうか?」

 

「城壁に居る人達って帝国の兵士達なんですか?」

 

「そ、そうですが、それが何か?」

 

「いえ、ちょっと。教えてくれてありがとうございます」

 

そう言ってテュカは手を振りながら去って行く。

 

「なんで、帝国兵達の事を聞いてきたんだ?」

 

「さ、さぁ? 何かあるんだろう。俺達はこれから起きることに何も見ていないし、聞いていない事にしよう」

 

「だな。あの人達はハケンダンの方々と共に行動されているんだ。何かあるんだろう」

 

そう言い2人はレレイ達が通った事、そしてこの後何が起きようと自分達は何も見ていないし聞いていないと決めた。

 

テュカが二人の元に戻って来た後、城壁上に上る階段を上がり確認すると数人の帝国兵達が眠い目を必死に開けながら警備していた。

 

የመተኛት መንፈስ…(眠りの精霊よ…)

 

そう呪文を唱えると、門上に居た帝国兵達は強い眠気に襲われバタバタと倒れ眠り始めてしまった。そして手を高い位置から振るい門の外に居たダン達に合図を送る。

 

「合図を確認。これより中に入るぞ」

 

「了解。サージェント桑原、これより街に侵入します」

 

『了解です。お気を付けて』

 

街へと侵入しダン達は伊丹が居ると思われるフォルマル伯爵邸へと向かった。




次回予告
街へと侵入したダン達。帝国兵達を掻い潜りながらファルマル伯爵邸へと到着し、建物内へと侵入するが伊丹の傍に居たメイドにその動きを感づかれてしまう。

次回
伊丹救出作戦後編~建物内に侵入者です~


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21話

僅かな月明かりの中、帝国の兵士達はイタリカの警備に当たっていた。

 

「こうも暗いとゾッとするな」

 

「おいおい、ゴーストでも出るとか考えているのか?」

 

「だってよ、この街でどれだけの人間が死んだと思ってるんだよ。そう考えたらゴーストでも出てきて可笑しくないだろ」

 

「はぁ~、妄想のし過ぎだ。ほら、警備に戻るぞ」

 

そう言って兵士の一人は相棒を放置してさっさと進む。

 

「お、おい待ってくれよ!」

 

放置された兵士は慌てて後を追いかけていく。その様子を建物の影から覗いている者達に気付かずに。

 

 

 

「―――よし、行ったな。前進」

 

そう言い建物の影からダン達が出てきて向かいの建物の影に向かって音を立てないよう走り抜き建物の影に入り息を潜める。

 

「此処までは順調だな」

 

「えぇ。それでダン中尉、此処からはどう動くのですか?」

 

「そうだな。恐らく伊丹が連れていかれたのはフォルマル伯爵邸だろ。あいつ等の(ピニャ)はあそこに居るからな。富田たちは東から建物に侵入してくれ。俺達は西から入る。それと衝突防止回避の合言葉は《スター・テキサス》だ。忘れるなよ」

 

「了解です、お気を付けて」

 

「そちらもな。……サージェント栗林、分かっていると思うが」

 

「うっ、分かってます! 無茶はしません!」

 

「よろしい」

 

ダンの念を押す睨みに栗林はまた無茶をすれば拳骨を喰らわされると恐怖し大人しく首を縦に振り富田達と共にフォルマル伯爵邸の東側に向かった。

残ったダン達も西側に向かって歩き出した。

 

帝国兵達の目を掻い潜りながらダン達は漸くフォルマル伯爵邸へと到着した。ダン達は素早く窓際の元に行き窓を確認すると、窓には木製の鎧戸がつけられていた。

 

「よし、パック頼むぞ」

 

「了解、直ぐに開ける」

 

「こちらトゥームストーン指揮官、富田そちらは?」

 

『こちらも到着、現在解除中です』

 

「了解、こちらは「解除成功」今解除できた。中に侵入する」

 

『此方も解除完了です。中に入ります』

 

鎧戸をコンバットナイフでこじ開け、中へと侵入したダン達。だがその動きを察知した者が居た。

 

 

 

ピクッ「何者かが鎧戸をこじ開け中に侵入した者が居ます」

 

伊丹の部屋に居たメイドの一人、うさ耳の女性が耳をピンと立て鋭い視線を浮かべていた。

 

「恐らく伊丹様のお仲間でしょう。此処にお連れしなさい。但し他の者なら何時も通りに」

 

「「畏まりました」」

 

カイネの指示に紫髪の猫耳女性、ペルシアとウサミミ女性のメイドは一礼し部屋から退出していった。

 

「あの、彼女たちは?」

 

「ご存知ありませんか? マミーナは首狩りウサギ(ヴォーリアバニー)、ペルシアはキャットピープルでございます。そしてそちらに居るアウレアはメデューサで、モームは人です」

 

「い、いろいろな種族が居るんですね」

 

「亡き先代は開明的なお方でして帝国では迫害の対象であった亜人種も積極的に保護、雇用をされておりました。まぁ『趣味』といった所でしたでしょうか」

 

「そ、そうですか」(なんか、生きていたらその人とうまい酒が飲めた気がする)

 

伊丹はそんな考えを思っていると、近くに居たアウレアがそっと近づく。

 

「伊丹様、先代と同じ匂いがする」

 

そう言うと頭に居る蛇たちがするすると伊丹に近付こうとする

 

「こらっ!」

 

そう怒声が響きアウレアにチョップを繰り出すモーム。

 

「ご主人様への失礼は許しませんよ!」

 

「あうぅぅう」

 

「申し訳ありません、アウレアはメデューサ、つまり吸精種と呼ばれるモノで人の精気を糧に生きております。十分躾はしておりますが、ご注意を」

 

「は、はぁ」

 

突然の出来事に頭が追い付いていた伊丹は、ただ自分の身が危うかったという事だけは理解できたのだった。




次回予告
フォルマル伯爵邸内に侵入したカズヤ達。奥へと進むとペルシア達と遭遇してしまう。
そしてそのまま伊丹の部屋まで案内された。
その頃ピニャは、ボーゼス達を部屋へと呼び此度の一件をどう対処するのか語り出した。

次回
伊丹救出作戦 完了?~おう、お疲れ~


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22話

フォルマル伯爵邸に侵入したカズヤ達は、足音を殺しつつ前進し伊丹が居るであろう部屋を探していた。

 

「右の部屋は?」

 

「人の気配及び灯り無し」

 

「……そうか。次に行くぞ」

 

そう言い前進すると曲がり角があり、カズヤは曲がり角の端まで行く途中人の気配を感じ取る。

 

(富田さん達、では無いな。1人だけだが、気配からしてかなりの手練れか?)

 

この場で万が一帝国兵と遭遇した場合交戦となる。そうなれば現在人質となっている伊丹が危険に晒される。カズヤは騒がれる前に無力化するしかないと考え後ろに居るダンに手信号で合図をした。

 

(曲がり角 先 コンタクト)

 

カズヤの手信号にダンは頷きそっとカズヤの背後に着く。カズヤはダンの射線が通りやすい様に身をかがめ待機。そして2人は一斉に飛び出し曲がり角に居る者に銃を向けると、其処には

 

「お待ちしておりましたニャ、カズヤ様。そしてイタミ様のお仲間の皆様方」

 

そう言いながらお辞儀をするペルシアが其処に居た。

 

「ぺ、ペルシアさん?」

 

「お久しぶりでございますニャ、カズヤ様」

 

「何で俺たちが此処に居ると分かった?」

 

「皆様が鎧戸を破壊されて中に入られた時からですニャ」

 

ペルシアの説明にダン達は、マジかよと言った驚いた表情を浮かべていた。

すると

 

『こちら富田。その、フォルマル伯爵邸のメイドと遭遇。これより隊長の元に案内してもらいます』

 

「あ~、了解。こちらも此処のメイドと遭遇した。こっちも案内してもらう」

 

無線の富田にそう告げ、ダンはペルシアの方に顔を向ける。

 

「それじゃあ悪いが、伊丹の所に案内してもらえるか? 他から入った者達は既にほかのメイドと共に向かっているようだから」

 

「畏まりましたニャ。どうぞ、此方へ」

 

ペルシアの案内の元、カズヤ達は伊丹の部屋へと向かう。2階のとある部屋の前に到着すると富田達とも合流し部屋の中へと入る。

すると其処には

 

「よぉ、お前等」

 

と、頭や体に包帯を巻かれた状態にも拘らず軽い感じに出迎える伊丹と数人のメイドが其処にいた。

予想の斜め上の待遇を受けている伊丹に全員茫然と言った表情を浮かべ、しばしその場を動けなかった。

 

カズヤ達が伊丹の部屋に到着している頃、屋鋪奥にあるピニャの部屋にはボーゼスとパニッシュが呼び出され悲痛な面持ちで立っていた。

 

「……此度の一件は此方の不手際であるのは明白だ。その為、何としても伊丹殿には向こうの王達に此度の一件を知られるわけにはいかん。……ボーゼス、どうすべきか分かっているな?」

 

そう問われ、ボーゼスは肩を跳ね上げ暗い面持ちで頷く。隣にいたパナッシュは何もしてやられない事に対して憤りを感じているのか、血が出そうなくらい手を握りしめていた。

 

「わ、私とて帝国にお仕えしている貴族の一人です。その手の作法は、その有しております」

 

「……分かった」

 

そう言いボーゼスとパナッシュは一礼し、部屋から出て行った。彼女達が取った行動は、此度の暴行事件を引き起こしたボーゼスの身を伊丹に差し出し、無かったことにしようとするものだった。

ボーゼスは、自身がやった行動によって帝国を危機に陥れてしまった事に責任を感じ今回の件に反対は無かった。だが、それでも愛してもいない者に自身の体を差し出すのは抵抗があった。

 

「……ボーゼス、済まない。何もしてやれな「いいえ、これは私が招いた事。責任は私が取ります」……本当に、済まないっ」

 

拳を握りしめるパナッシュにボーゼスはポケットからハンカチを取り出し、パナッシュの手を取り拳を広げハンカチを渡す。ハンカチには小さな赤い点が点々と浮かぶ。

 

「大丈夫です、貴方は隊の者達の所に行ってください」

 

そう言いボーゼスは歩き出す。パナッシュは遠ざかっていくボーゼスの背に悲観と申し訳ないといった感情を浮かべた顔を向ける事しか出来なかった。




次回予告
伊丹が無事だったことに安堵したカズヤ達。文化交流という事で色々交流をしている中、カズヤはペルシアと談笑をしていた。
そんな中、伊丹達が居る部屋の扉の前にはボーゼスが立っており自分に帝国の為だと言い聞かせていた。

次回
異文化交流


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23話

~フォルマル伯爵邸・客室~

伊丹救出のために屋敷に侵入したダン達だったが、今は伊丹のいる部屋でメイド達と交流を図っていた。

 

「これ、どうやって脱皮を?」

 

「秘密です」

 

レレイはアウレアの蛇に興味津々に聞いていたり

 

「その服、見た事が無いです」

 

「これ? すっごく着やすくて伸び縮みするの」

 

テュカの来ているTシャツに興味を示すモーム。

 

「今朝の戦い拝見しましたが、栗林様の格闘技は鮮やかで素晴らしかったです!」

 

「そ、そう? いやぁ、それほどでもぉ」

 

マミーナに今朝の戦闘で栗林の動きを褒められ、栗林は終始顔を真っ赤に染め照れていた。

そんな中一際賑わっていたのは、メイド長のカイネとロゥリィの所だった。

 

「まさかこのような所で聖下にお会いできたこと、まさにエムロイの思し召しに感謝の仕様が――」

 

「もう、いいわよぉ。そんなに言わなくてもぉ」

 

と、カイネの長々しいエムロイ神教の話をするのに流石のロゥリィもタジタジだった。

 

「何だか、和んでしまいましたね」

 

「みたいだな。まぁ文化交流という事でいいでしょ」

 

伊丹の傍に居た古田達はそう言いながら出された軽食に手を付けながら和んでいた。

各々和んでいる中、カズヤも部屋に置かれていたソファに腰掛けながらその様子を見守っていると

 

「カズヤ様、どうぞですニャ」

 

そう声を掛けらそちらに顔を向けると、湯気が立っているマグカップを持ったペルシアが其処に居た。

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

マグカップを受け取りそっと口に付ける。コップに注がれていたのは紅茶で、口の中にほのかに広がる苦みとうま味にカズヤは頬を緩ませる。

 

「美味しいですね、この紅茶」

 

「お口にあって良かったですニャ」

 

カズヤの傍でそう笑みをこぼすペルシア。

 

「立っていたら辛いと思いますし、どうぞ」

 

そう言いカズヤは横の空いている部分に案内する。

 

「それではお隣失礼しますニャ」

 

ペルシアはそう言いカズヤの隣に座る。

 

「カイネ様からお聞きしましたが、あの巨人はカズヤ様がご使役されているとお伺いしましたが、真実ですかニャ?」

 

「ん~使役と言いますかぁ、まぁそれに似たようなものですね」

 

カズヤは苦笑いを浮かべながら、そう答える。

 

「そうなのですね! 西門に駆け付けつくださってありがとうございましたニャ」

 

そう言いカズヤの手を握締め頭を下げるペルシア。突然手を握られお礼を言われ、カズヤは頬を染める。

 

「あ、いや。自分は当然の事をしたまでですから、その、あの、手を…」

 

「へ? っ!? も、申し訳ありませんニャ! い、いきなり手を握ってしまい!」

 

まるで真っ赤なトマトの様に顔を染めるペルシア。突然大声をあげるペルシアに周囲はなんだなんだ?と顔を向ける。そんな中カイネだけ眼鏡の淵をキランと光らせる。

 

「ペルシア、今は夜中です。それに帝国の方々もいるのですから、声を幾分か抑えなさい」

 

「も、申し訳ありません」

 

カイネに叱られシュンとなるペルシア。その姿にそれぞれ苦笑いを浮かべた。

 

 

部屋の中で文化交流が行われている中、その部屋の扉の前で一人の女性が佇んでいた。

部屋の前に佇んでいたのは、ボーゼスでその姿はネグリジェを身に纏っていた。

 

(此度の責任は私が取らなければならない事。これは帝国の、そしてピニャ殿下の名誉の為でもある。失敗は許されない)

 

そう、彼女が伊丹の部屋の前に居るのは伊丹に自身を差し出し無かったことにしようとしていたのだ。

 

(何時までも、此処に佇んでいても仕方がありませんわ。さぁ行きますわよ!)

 

そう自分に言い聞かせボーゼスは扉を開けた。

だが開けた先に広がっていたのは

 

「はい、ちーず!」

 

古田がそう言いながらカメラのシャッターを押す。その先には伊丹を中心に集まったダン達とメイド達が集合写真を撮っていた。

 

「いい感じです」

 

「えっと、どのようになっているのですか?」

 

「私も気になります!」

 

そう言い古田の元にマミーナやモームが集まり他は談笑し合ったりと和気藹々だった。だが誰一人ボーゼスの存在に気付いていなかった。

 

「……わ、私の事を無視ですの」

 

肩をプルプルと心の奥底から沸き起こる怒りに震えるボーゼス。そしてカツカツと足に力を入れながら伊丹の元に向かう。

談笑していて周囲はボーゼスが伊丹の元に着いた時に気付く。

 

「お、おい!」

 

そう誰かが叫ぶと同時に伊丹の顔目掛け、平手が飛んで行った。




次回予告
突如現れたボーゼスを捕らえ、ピニャの元に連れて行くカズヤ達。そしてどう言う訳かピニャはアルヌスへと同行し、直接指揮官に謝罪しに行くと言い出したのだ。
無論困る伊丹達に更に追い打ちをかける様にカイネがある事を言い出した。

次回
アルヌスへの帰還


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24話

投稿期間があいてしまい申し訳ありません。
失踪とかはするつもりは毛頭ありませんで、ご心配なく。

では本編をどうぞ


伊丹に向かって盛大なビンタをお見舞いしたボーゼス。伊丹の顔にはデカデカと真っ赤に腫れた手形が出来ていた。

無論そのような行為が許されるはずもなく、カズヤ達は拳銃を抜きボーゼスへと向ける。

 

「動くな!」

 

「両手を頭に付けて、膝をつけ!」

 

「なぁっ!? 私は「栗林、拘束しろ!」「りょ、了解!」お、お待ちなさい! ちょっと!」

 

栗林にボーゼスを拘束するよう指示したダンはカイネの方へと顔を向ける。

 

「申し訳ない、メイド長。今すぐにピニャ殿下とお目通りできるよう手配していただきたい」

 

「畏まりました。すぐに起こして参ります」

 

一礼をしたカイネは足早に部屋から出てピニャが寝ている寝室へと向かった。

 

~フォルマル伯爵邸・応接間~

 

応接間の椅子に腰を下ろすピニャは、現在の状況が悪い夢だと思いたかった。突然部屋にカイネが現れ、ボーゼスが伊丹に対し暴力を振るったと報告を受けた瞬間、頭の中が真っ白になってしまったからだ。

 

(わ、私はい、一体何を間違えたのだ!?)

 

頭を抱えていると、扉が開く音が響きピニャは伊丹とメイド達が来たと思い顔を上げた。

 

「ッ!?」

 

だが、その視線の先には信じられないものが映っていた。それはぞろぞろと伊丹の仲間達が入って来たからだ。

 

(い、一体何時この屋敷に入ったのだ? それどころか、どうやってこのイタリカに入ったのだ!?)

 

ピニャは到着した騎士団が民兵の代わりに警備についていたはずなのに、遠征団がイタリカに入った報告など一度も聞いていない。つまり彼らは厳重な警備の中、それを掻い潜ってこの屋敷に侵入したことになる。

ピニャはそれだけ彼等の戦闘力が高いと考え、恐怖した。

その為、出来るだけ穏便に事を進めようと、ピニャは低姿勢から話を始めた。

 

「そ、そのメイド長からは大体の話は聞いた。此方の部下が伊丹殿に暴力を振るったと…」

 

「えぇ、まぁ。その通りなんですがぁ…」

 

カズヤは若干困惑の表情を浮かべており、伊丹の方に視線を向ける。伊丹の顔にはでかでかと真っ赤に腫れた手形が出来ており、栗林とレッカーに拘束されているボーゼスは申し訳なさそうな表情で俯いていた。

 

「……そ、それで何か報復など考えておられるのか?」

 

「は、はい? いえ、今回の一件は単なる事故だと此方は考えておりますので、何か彼女に罰とかあるのでしたら、そちらでお願いします」

 

カズヤもピニャ同様に低姿勢でレレイに翻訳してもらいつつ伝えた。

レレイの通訳を聞いたピニャは酷く慌てた表情を浮かべた。

 

(此方が協定違反の一件を無かったことしようとした上に、暴力を働いたのだぞ。それを単なる事故で済ませる!? ぜ、絶対何か裏があるはずだ)

「で、では一緒に朝食をとらんか? それと騎士団と歓談の場も……」

 

「その申し出は有難いのですが、俺達急いで戻らないといけないので。伊丹は国会に参考人招致として呼ばれているから、早く戻らないといけないんです」

 

ダンの説明を聞き、レレイは国会を此方の世界風に翻訳した言葉で訳した。

 

《元老院に報告しないといけないことがある為、伊丹隊長は今日にも帰らないといけない》

 

レレイの通訳にピニャは顔が真っ青に染まった。

 

(元老院!? ま、まさかあの者は、それほど地位の高い武官なのか!?)

 

ピニャはもはや小細工などして無かったことにする事は出来ないような状況だと考えつき、悩みに悩んだ末にある決断をした。

 

「分かった。なら、わらわもアルヌスの丘に同行したい! 此度の一件は此方に非がある故、上位の指揮官に正式に謝罪を行いたい」

 

そう言われ伊丹達は驚愕の顔を浮かべた。

 

「あの姫さん、本気で来る気なんですかね?」

 

「顔がマジみたいだな。さて、どうする伊丹?」

 

「うぅ~ん。どうしたものかぁ」

 

突然の申し出に伊丹は勿論、ダンやカズヤは早く戻りたいと考えていると、突然部屋の隅に居たカイネが伊丹に声を掛けた。

 

「伊丹様、失礼を承知でお伺いしたいのですが、元老院では一体どのような報告をされるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「えっとぉ、恐らく自分達がこの世界でどの様な活動をしているのかを報告するくらいですが…」

 

「なるほど。……では、無理を承知で一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「は、はい?」

 

「うちのメイドの一人をアルヌスへとお連れして頂けませんでしょうか?」

 

「「「はいぃ?」」」

 

カイネの突然の願いにはカズヤとダンも思わず聞き返してしまった。

 

「えっと、それはまた何故?」

 

「はい。此度のイタリカでの襲撃を守って下さった皆様に少しでも恩が返せればと思いウチのメイドの一人連れて行って欲しいのです」

 

「は、はぁ、なるほど」

 

カイネの説明に伊丹達は納得の表情を浮かべるも、少し困惑の様子を醸し出す伊丹。

そして暫し考えた後に、伊丹は申し訳なさそうな顔でピニャの方に顔を向けた。

 

「えっとぉ、何と言いますか。車両に乗れる人員なんですが、カイネさんの方から一人出されるので、あと一人「伊丹さん、だったらこっちのトラックに一人乗ってもらうのはどうでしょうか? そうすればあと二人は乗せられると思いますよ」輸送トラックにか?」

 

「はい。後部座席でしたら、空いているので一人くらいなら問題ありませんがどうします?」

 

カズヤはそう言いながら伊丹の耳元に口を近づける。

 

「それに、下手に殿下一人をアルヌスに連れて行った場合誘拐だなんだと騒がれるより、彼女の護衛人が一人就いていた方が何かとトラブルを避けられるのでは?」

 

カズヤの提案に伊丹は更に悩んだ表情を浮かべた後、諦めた様なため息を吐きピニャの方に顔を向ける。

 

「では殿下、殿下とあと護衛の方一人でしたら乗せる事は可能です」

 

「そ、そうか。了承、感謝する!」

 

そう言いピニャは急ぎハミルトンやパナッシュに指示を出していく。

 

「よろしいんですか、隊長?」

 

「此処で断ったところで、無理にでも付いてくる恐れがあるからね」

 

そう言いため息を吐く伊丹であった。

 

その後ピニャの護衛に就いたのは、自身の失態を挽回するチャンスを頂いたボーゼス。そしてフォルマル伯爵邸のメイドからはペルシアがともに来ることとなった。

 

それから暫くして自衛隊の高機動車両、軽装甲車両に海兵隊のMRAP、そして輸送トラックが到着した。

 

「隊長、無線で聞きましたけど本当に帝国のお姫様アルヌスに連れて行くんすか?」

 

「おう。向こうさんも何か必死って感じだったし、断っても無理にでも付いて行こうとする感じだったからぁ」

 

伊丹は後方から乗り込む険しい表情を浮かべるピニャ達を眺める。

すると後方に居た富田が無線機を片手に、伊丹に報告する。

 

「伊丹隊長。檜垣三佐から通達。『受け入れOK。丁重にご案内しろ』とのことです」

 

「了解、到着予定時刻伝えておいて。カズヤ、そちらのメイドさんは無事に乗られたか?」

 

『こちらカズヤ。はい、無事に乗られました』

 

「了解。よし、各車前へ!」

 

伊丹の号令と共に車両は出発し、イタリカからアルヌスへと向け走り出した。




次回予告
イタリカを出発してからの間、初めて乗るトラックに驚くペルシアと談笑をするカズヤ。
そしてアルヌスが見えて来ると、ピニャは派遣団の力に圧倒するのだった。
多くの謎が生まれる中、ピニャは派遣団指揮官である狭間と交渉するのであった。

次回
ようこそ、アルヌス駐屯地へ


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25話

イタリカから出発し、見渡す限りの平原の中に作られた道を暫し走り続けている第3合同偵察隊。

伊丹やダン達は行きと変わらない光景を眺めつつ走っているが、ヴァンツァー用の輸送トラックに居たカズヤ達は別だった。

 

「す、凄いですニャ。馬車よりも早く、その上この様な快適な椅子に座れるなど思ってもいなかったですニャ」

 

「そうですか? このトラックよりも前を走っている車の方が快適だと思いますよ」

 

「そうなのですかニャ? このトラック、という乗り物が一番快適だと思いましたニャ」

 

「いやいや。見た目通りのデカ物ですから、快適とは若干程遠いですよ」

 

異世界の乗り物に初めて乗ったペルシアは馬車以上に快適な事に驚きが隠せず若干興奮した様子で話しており、カズヤとアステックはその姿に笑みを零しながら応対を続けた。

談笑を続けていたカズヤはふと外の光景を見てそろそろか。と思いペルシアの方に顔を向ける。

 

「ペルシアさん、そろそろアルヌスに到着しますよ」

 

「えっ!? もうなのですかニャ? まだ、半日も経っておりませんニャ」

 

そう言いながらペルシアは窓に顔を近づけ外を眺めると、其処は確かにアルヌスの丘ではあったが、地面は掘り起こされ、岩などでデコボコだった丘が開けた平地になっており、その奥には巨大な建造物が建てられていた。

 

「た、確かにアルヌスの丘ですニャ。ですが、あの要塞は何ですニャ?」

 

「あれが俺達遠征団の駐屯地です」

 

カズヤの説明にピニャは息を呑むような光景に驚いた。遠征団がやってきてまだ1年も経っていないにも拘らず、其処には頑丈な壁や物見櫓の様な物が出来ていた。

自分達の世界ではここまで立派な要塞を立てるには到底不可能だと思ったからだ。

ペルシアのみならず、伊丹が乗っている高機動車に乗っていたピニャ達も驚きの顔を浮かべていた。

 

「こ、この様な要塞を何時の間に…」

 

「それほど、彼等の技術は上だというのか?」

 

ピニャ達は驚きの表情で外を見ていると、ある光景が目に留まった。

それは海兵隊員と自衛隊員がそれぞれライフルを構え射撃訓練などを行っている光景だった。音が鳴ったと同時にその先にあった人型の的に穴が開く。

その光景に思わず向かいに座っていたレレイの方に顔を向ける。

 

「え、エンセイダンの者達は皆、魔導士なのか?」

 

「違う。彼等が持っているのは銃。又は小銃と呼んでいる武器」

 

「ぶ、武器だと?」

 

「そう。原理は簡単、炸裂の魔法を筒に封じ鉛の塊をハジキ飛ばす。エンセイダンはジュウを使った戦い方を工夫し、今に至っている。だから帝国軍も連合諸王国軍も敗戦した」

 

レレイの説明にピニャは難しい顔を浮かべるも、頭では別の事を考えていた。

 

(…武器であるならば、我々も扱える。強大な敵(遠征団)と同等の戦いに持ち込むには、やはりジュウとやらを…)

 

遠征団が有している銃を何とか手に入れることが出来ないか。そんな考えを浮かべていたピニャであったが、それを見透かしていたのか、レレイが口を開く。

 

「ちなみに、ショウジュウのショウとは小さいと言う意味。つまり大も存在する」

 

レレイが言ったと同時突然地響きのような音が鳴り響き、ピニャ達は再度窓へと慌てて向けると其処には

 

「て、鉄の…象」

 

昔、帝国で行われたある催し物で現れた像と言われる巨大な生物に似ていると思い、ピニャは思わず口からそう零した。

ピニャが鉄の像と零したもの。それは自衛隊の90式戦車とアメリカのM1A2エイブラムスが共に丘から登り出てきて行進していたのだ。

ピニャ達は驚き固まっていると、更に驚愕な物が目に飛び込んできた。

それはピニャ達にとっては巨人と呼ばれるもので、カズヤ達からはヴァンツァーと呼ばれる機体だった。

ズシン、ズシンと一定のリズムの地響きを起こしつつ、ヴァンツァーは伊丹達の車両とすれ違って行く。

 

「きょ、巨人…」

 

「エンセイダンが使役している巨人達も皆、同じようにジュウを持っている。ジュウ以外にもメイスの様な殴打武器も使用している」

 

レレイの説明にピニャとボーゼスの顔色は悪かった。

巨人を使役する調教師は育成には時間を要する。誰彼構わずなれるようなモノではないからだ。

だが、遠征団には巨人を使役する調教師が大勢いる。それだけで帝国と派遣団の間には埋まらない程の戦力の差があった。

 

「な、何故このような者達が攻めてきたんだ」

 

悔しそうな顔で零すピニャ。するとレレイが

 

「帝国はグリフォンの尾を踏んだ」

 

「ッ! 帝国が危機に瀕しているというのに何という言い方ですの!」

 

レレイの言い方にボーゼスは食って掛かった。帝国の危機は自業自得といういい方に怒ったのだ。

 

「私は流浪の民、ルルドの一族だから帝国とは何の関係はない」

 

「私はエルフでーす!」

 

「ふふん♪」

 

3人の態度にピニャは俯き、ボーゼスは苦渋に満ちた顔を浮かべる。

 

(例え帝国領として支配しても、人心までは無理か…)

 

そんな事を浮かべながら俯く中、車両は駐屯地内へと入って行った。

ピニャとボーゼスは降りるよう言われ2人は降り、辺りを見渡す。帝都で見た様なレンガ造りではない建物や巨大なドームなどが見えた。

 

「それじゃあ、後はあそこにおられる女性士官が案内致しますので…」

 

「ちょ、ちょっと待って欲しい伊丹殿! 少し話が「では、失礼いたします~!」あ、ちょっ!?」

 

伊丹はピニャの声を遮る様に叫び、何処かに走り去っていった。その姿にトラックに乗っていたカズヤ達は苦笑いを浮かべていた。

 

「逃げたな、あの人」

 

「逃げましたね」

 

「逃げましたニャ」

 

伊丹が走り去っていった方向を眺めていると、アステックが思い出したような顔でカズヤの方に顔を向ける。

 

「そうだ大尉。イタリカでの騒動で報告をし忘れていたのですが、ゼフィールの修理が終わったらしいですよ」

 

「そうか。それじゃあ格納庫に、と言いたいところだけどペルシアさんを先に降ろさないと」

 

そう言いペルシアの方に顔を向けるカズヤ。

 

「えっと、今から避難民達が住んでいる居住区にご案内しますね。ペルシアさんのこれから住んでもらう部屋もそちらにありますので」

 

「畏まりましたニャ」

 

そう言いペルシアとカズヤはトラックから降り、避難民の居住区に向かう車両を探し一緒に乗せてもらい住居に向かった。

 

 

その頃ピニャ達は女性士官に案内され連れて来られた部屋でソファーに座りながら固まっていた。

此処で選択を間違えれば帝国は滅ぶ。そんな考えがピニャの頭を占めていた。すると扉をノックする音が鳴り響き、2人はソファーから立ち上がる。そして3人の男性とレレイが入室してきた。

 

「遅れて申し訳ない。私が遠征団の全権を任せられております、狭間と言います」

 

「アメリカ軍特別任務群指揮官、レイモンドと言います」

 

「遠征団幕僚、そちらで言う参謀をしております、柳田です」

 

レレイの翻訳の元、挨拶が行われた。

こうしてピニャの戦いが始まった。




次回予告
ペルシアを部屋へと案内したカズヤ。その後格納庫で修理されて帰って来たゼフィールの組み立てを眺めていると、その傍に一人の女性士官が現れた。

次回
元上司参上~ほぉ、こんなところに居たか愚弟~


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26話

「えっと、教えてもらった部屋は…、っと此処ですね」

 

そう言いカズヤは避難民達が暮らしている仮設住宅の一つの前で止まる。

 

「此方がペルシアさんのお部屋になります。何分仮設住宅なので、十分とは言えませんがどうぞ」

 

「はい、失礼したしますニャ」

 

そう言い二人は中へと入る。

避難民達が暮らす仮設住宅はどの住宅も2DKタイプで広々とした間取りとなっている。

ペルシアが暮らす部屋も一人で生活するには十分すぎる広さであった。

 

「あ、あのカズヤ様。この部屋は誰かと共同なのですかニャ?」

 

「いえ、この部屋はペルシアさんだけです」

 

カズヤの言葉にペルシアは驚きの表情を浮かべ部屋の間取りをきょろきょろと見渡す。

キッチンの備わった広々とした部屋。更に奥にも広い部屋が2つもあった。

 

「この住宅にはお風呂やトイレも完備しています。それと外の方に遠征団と避難民の皆さんとの共同風呂がありますので、ご自由にどうぞ」

 

「は、はぁ。それにしてもこの様な広々としたお部屋をご用意してくださるとは、ありがとうございますニャ」

 

「あぁ~、いや。他の避難民の皆さんと同じくらいですよ。しかも一家族、この部屋ですし」

 

「ほ、他の方々もこのお部屋と同じくらいのお部屋!? しかも一家族にですかニャ!?」

 

カズヤの言葉に驚きの余り、大声をあげてしまい慌てて口を手で覆う。

 

「えっと、其処まで驚くほどなんですか? 最初に来られた避難民の皆さんも結構驚かれましたけど…」

 

「は、はい。これほど広々とした部屋を有している家は、金銭的に余裕のある家しかありませんニャ。普通の平民で此処まで広い部屋は村長など位の高い家にしかありませんニャ」

 

「そうだったんですか」

 

この世界での生活水準の違いに驚きながらも、カズヤはペルシアに部屋の説明などを行っていく。

 

「――以上で部屋の説明は終わりですが、何か不明点などありますか?」

 

「いえ、大丈夫です。むしろ十分すぎるお部屋で驚きですニャ」

 

「アッハハハ、そうですか。それじゃあ私は向こうに戻らなければなりませんで、此処で失礼します」

 

「はい、ありがとうございますニャ」

 

カズヤは一礼し、住宅を出た後駐屯地に戻ろうとしている車両に乗せてもらい基地へと戻っていく。

 

 

 

一方ペルシアは持ってきた鞄の中から着替えやら何やらをタンスの中へと仕舞って行く。

すると扉をノックする音が鳴り響き、ペルシアは誰だろうと首を傾げつつ扉を開けに向かう。すると其処には

 

「はぁ~い、ペルシア」

 

「これはロゥリィ様。どうかされましたかニャ?」

 

扉の前にはハルバードを持ったロゥリィが立っていた。

 

「今日から暫く此処で暮らすんでしょ?」

 

「はい。暫くの間は此方で派遣団の皆さんのお手伝いをするよう仰せつかっておりますニャ」

 

「そう。それじゃあ此処の皆の挨拶回り、一緒に行かないかしら?」

 

「聖下とご一緒にですかニャ? それは光栄でございますニャ」

 

そう言い身形を急ぎ整え、ペルシアはロゥリィと共に他の避難民の元に挨拶をしに向かった。

 

 

 

基地へと戻って来たカズヤはヴァンツァーの格納庫へと向かい中へと入って行く。

そして自身が乗っていたゼニスからパーツが外されていき、ゼフィールのパーツが付けられていくのを見上げていた。

 

「修理から戻って来たのはいいけど、暫く乗る予定が無いんだよなぁ」

 

カズヤはそう零しながら見上げる。カズヤがそう零したのは、伊丹と同様にカズヤも参考人として国会に呼ばれているからだ。

 

(絶対に呼ばれた理由って銀座の事か、避難民の事かな。あぁ~、憂鬱だなぁ)

 

そんな事を思いながら立っていると、背後から

 

「ほぉ~、こんなところに居たか愚弟」

 

と言われ、カズヤは肩を跳ね上げ背中に嫌な汗が流れだす。

 

(い、いや、そんなまさか。な、なんで? い、今海の上のはずだ。だ、だから声がするはずがぁ)

 

カズヤはそんな事を思い、背後を振り向けずにいると

 

「人が話しかけているのに、無視とはいい度胸だな大尉ぃ」

 

と、今度は階級で呼ばれ流石に振り向かなければならないと感じカズヤは恐る恐る振り向くと、其処には銀髪のショーヘアで白い軍服を着た女性が立っていた。

 

「な、何で此処にいるんですか、姉「はぁ?」 し、失礼しました、リン中佐」

 

そう言い敬礼するカズヤ。カズヤの背後に居た女性、リンは鋭い目を向けながらカズヤの元に近付く。

 

「お前、今仕事中だ。公私混同は避ける様に、いいな?」

 

「い、YES,ma'am」

 

「よろしい、休んでいいぞ」

 

そう言い肩の力を抜くカズヤ。

 

「それで、何故此処に中佐が?」

 

「上層部からこいつの討伐作戦が立案され、ウチの部隊の何人かを此方に派遣することが決まった。だから私はその現地視察だ」

 

そう言いながらリンはある資料をカズヤへと手渡す。カズヤは怪訝そうな顔を浮かべながら資料を見て、眉間にしわを寄せる。

 

「これって、炎龍じゃないですか。まさかストライクワイバーンズ隊で、討伐すると?」

 

「私達だけではない、自衛隊の中からも何人か選抜することが決まった。お前、こいつに腕を破壊されたらしいじゃないか。……どうなんだ?」

 

「どう、って言われましても「お前の見解でいい。言え」……了解しました。私の見解では奴に勝てる確率は五分といった所です」

 

「ほぉ、その訳は?」

 

カズヤの言葉にリンはジッと見つめる。

 

「奴の皮膚は他のドラゴンよりも厚く、セメテリーの弾丸を簡単に弾きました。逆にAT-4やパンツァーファウストなど、火薬の入った弾頭は奴にダメージを与えました。ですが、それでも奴は生きていました。数で押せば勝てると思いますが、何分奴は空を飛べるし火を吐きます。耐熱装甲を施されたヴァンツァーでも対処できるかどうか」

 

「なるほど、お前の見解はよくわかった。今後の作戦の意見として取り入れていこう」

 

「は、はぁ」

 

そう言いカズヤはリンから目線を外し、ゼフィールの方へと戻す。ほとんどのパーツが付けられたのか、最後の調整作業に移っていた。

 

「所でカズヤ」

 

「なんでしょうか?」

 

「ストライクワイバーンズには何時戻ってくるつもりだ?」

 

「……」

 

リンの言葉にカズヤの顔が強張り、見られまいと顔を上げる。

 

「…申し訳ありませんが、自分は既にレイブン隊の隊長をしておりますので、戻る予定はありません」

 

「……そうか」

 

カズヤの返答を聞いたリンはそれ以降何も言わず、ただカズヤの隣に立ってゼフィールの組み立て作業を眺め続けた。




仮設住宅の間取り何ですが、ネットで探してきた物を参考にしております。

次回予告
国会に参考人として呼ばれた伊丹とカズヤ。
そして当日、レレイやペルシア達と伊丹達は門の向こうの日本へと行くことに。

次回
参考人招致part1~「奇跡」起こすわよ?~


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27話

放置していてすいませんでした! 




第3合同偵察隊がイタリカから戻って来た夕方頃、伊丹は避難民達が住んでいる仮設住宅へと来ていた。

辺りをきょろきょろと見渡しつつ、通りすがる避難民達に会釈をしながら歩む伊丹。そして目的の人物を見つけたのか、手を挙げながら声を掛ける。

 

「テュカ、ちょっといいか?」

 

「あ、伊丹。どうかしたの?」

 

洗濯ものを入れた籠を持ったテュカ。テュカは近くにあったベンチに伊丹と共に座る。

 

 

「実は明日、門の向こうに行くことになってな」

 

「門の向こうって、確か伊丹達が住んでいるニホンと言う国だっけ?」

 

「そうそう。それでテュカが良いなら日本に来て欲しいんだ」

 

「ニホンに? どうして?」

 

「国会って言う、まぁ、この世界で言う元老院に報告しに行くんだけど、ヒト以外が住んでいる事や、この世界の文化とかは伝えて欲しいと思ってな」

 

「行くのは私だけなの?」

 

「いや、通訳としてレレイも一緒に行くぞ」

 

「そっかぁ。お父さんなんて言うかな?

 

「どうかしたのか?」

 

「うぅん、それに行ったら伊丹は嬉しい?」

 

「俺、というか遠征団皆が喜ぶかな」

 

そう言われテュカは笑みを浮かべコクリと頷く。

 

「分かった。皆が喜ぶなら行く」

 

「そっか。それじゃあ「ちょっとぉ~」えっ?」

 

突如近くの仮設住宅の扉が開きロゥリィがひょっこりと顔を出す。

その顔は不満げな表情であった。

 

「なぁに楽しそうな事を、私抜きで話してるのかしらぁ?」

 

「ロ、ロゥリィ…」

 

ロゥリィの登場に伊丹は顔を強張らせる。その訳はロゥリィを連れて行こうものなら何をしでかすか分からないからだ。その為伊丹は大人しいテュカとレレイだけを連れて門に行こうと考えていたが、あっさりと計画はパァとなってしまった。更に運が悪いのか

 

「儂も、行きたい」

 

「はぁ?」

 

別の仮設住宅の扉が開き今度はカトーまで現れたのだ。

 

その後2人を何とか特地に残そうとしたが、ロゥリィが「奇跡、使うわよ?」とハルバート片手に伊丹に交渉[物理]をして一緒に行くことになり、カトーは避難民達の傍に居ないといけないと伊丹の説得で何とか特地に残って貰えることになった。

 

 

 

 

 

その頃カズヤはパーツ交換を終えたゼフィールに乗り込み、前回のイタリカ防衛線での戦闘記録を纏めたり、システムメンテナンスを行っていた。

 

「ゲイツさん、このシステムこれでOKですか?」

 

「ちょっとお待ちください。……はい、これでOKです」

 

「それじゃあシステムメンテナンスはこれでOKですね。後は「おぉ~い、カズヤ!」ん? レナード整備長、なにか?」

 

「お前さんにお客さんだぁ!」

 

機体の足元付近から大声でカズヤを呼んだレナードに、カズヤは「お客さん?」と首を傾げつつ格納庫の入口へと顔を向けると其処には

 

「あれ、ペルシアさん?」

 

気付いて貰えたからか、手を振りるペルシアにカズヤは一体どうして此処に?と疑問が浮かぶも、兎に角向かうかと思い機体から降り、タラップを使って地面へと下りペルシアの元へと向かう。

 

「ペルシアさん、どうして此処に?」

 

「はい、実はロゥリィ様からお聞きしたのですが、伊丹様とレレイ様達が門の向こうへ行くとお聞きして、もしかしてカズヤ様も門の向こうに行かれるのかと思い此方に伺いに参った次第ですニャ」

 

「あぁ、なるほど」(伊丹さん、レレイとテュカは連れて行くだろうなと思ってたけど、まさかロゥリィも連れて行くのか。……何も起こらなきゃいいけど)

 

ペルシアの話を聞き、カズヤは心の中で無事に日本から帰って来れるかな?と不安な気持ちになりつつも、頷く。

 

「えぇ、実は俺も日本に行くことになっています。日本の国会って言う場所で色々と話をしに行かないといけないので」

 

「そうですか。あの、その事で実はお願いがありますニャ」

 

「お願い、ですか?」

 

「はい。その二ホンと言う場所に私もお供させていただきたいのです」

 

「日本にですか?」

 

カズヤの問いにペルシアはコクンと頷く。

 

「理由をお聞きしても?」

 

「はい。遠征団の皆様には多大な恩がございますニャ。ですので、イタリカでの事など皆様のご勇姿をしっかりとニホンの元老院の皆様にお伝えしたいからですニャ」

 

「なるほど。……ちょっと待って下さいね、伊丹さんに聞いてみるので」

 

ペルシアの真剣な表情でのお願いにカズヤは少し悩んだ表情を浮かべた後、伊丹に指示を仰ごうと思い伊丹に連絡を入れる。

 

「あ、もしもし伊丹さん? 実は明日の日本に戻る件なんですが、ペルシアさんも連れて行ってもいいですか? はい、彼女も遠征団の活躍を伝えたいと言ってまして。はい。…了解です、伝えておきます。では失礼します」

 

伊丹との電話を終え、スマホを仕舞いペルシアの方に顔を向ける。ペルシアの表情は先程までとは変わり少し不安そうな表情を浮かべていた。

 

「伊丹様はなんと?」

 

「伊丹さんからは大丈夫とのことです」

 

「そうですかニャ。良かったです」

 

伊丹から許可が下りたと聞き、安堵の表情を浮かべるペルシア。

 

「それじゃあ明日昼前に出発なので、3日分の衣類の準備をお願いします。それと当日富田さんと栗林さん、ダン中尉がレレイ達を迎えに行くので一緒に来て下さい」

 

「畏まりましたニャ。それとご無理なお願いを突然して申し訳ありませんニャ」

 

「別に構いませんよ。それじゃあ、自分はまだ仕事が「おい、カズヤ」レナード整備長、何か?」

 

仕事に戻ろうとしたカズヤにレナードが不機嫌な顔で声を掛ける。

 

「お前さんの仕事はもう終わりだ。機体整備は俺達整備班の仕事だ。さっさと帰れ」

 

「いや、しかし「さっさとそのお嬢さんと一緒に飯でも食いに行け」ですが「うだうだ言ってねぇで、さっさと行け! スパナでしばくぞ!」 い、イエッサーー!」

 

何処からともなく取り出し大きなスパナで脅され、カズヤは冷や汗を流しながら、大声で返事を返しながら敬礼し、ペルシアと共に格納庫を後にし食堂へと向かうのであった。




次回予告
参考人招致に呼ばれている伊丹とカズヤは、レレイやテュカ、そしてロォリィとペルシア。そして護衛の富田と栗林、ダンと共に門の前で集合していた。
すると其処にピニャ達を連れた柳田が。
そして12人は遂に門の向こうへと渡る。

次回
参考人招致part2


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28話

参考人招致当日、伊丹とカズヤは門前でテュカ達の到着を待っていた。

2人の格好はスーツ姿で、腕には厚手のコートを抱えていた。

伊丹は何度目か分からない携帯の時刻を確認する。集合時刻は11時なのだが、既に11時10分になろうとしていた。

 

「彼女達、遅いですね」

 

「そうだねぇ。もしかして時間にルーズなのかね、この世界の人達って」

 

「いや、単に時計が無いから、大雑把な時間しか分からないんじゃないですか?」

 

「だよねぇ」

 

そう言い伊丹は携帯をポケットに仕舞うと同時に高機動車が到着し、冬着の富田達とテュカ達が降りてきた。

 

「遅いぞぉ、お前等ぁ」

 

「すいません、支度に手間取りました」

 

富田の謝罪の言葉を聞きつつ、伊丹は到着したテュカ達の様子に目を向ける。

テュカは栗林に着るよう言われたのか、ハイネックのカーディガンを着込み若干暑がっていた。

レレイは何時もと変わらない服装。そしてロゥリィも何時ものゴスロリであるが、神官の象徴と言っていたハルバードには布で覆い巻かれていた。

 

「ねぇ栗林ぃ、これ取っていいぃ?」

 

「駄ぁ目! 向こうで刃物むき出しの状態は完全にアウトなの! 置いて行くのが無理って言うからそうしたんだから、絶対に外しちゃ駄目!」

 

そう強く言われ頬を膨らませふてくするロゥリィ。

そしてペルシアは何時ものメイド服に上からコートを羽織っていた。

 

「ペルシアさん、そのコートで大丈夫ですか? 向こうはこっちより寒いですよ?」

 

「お気遣い感謝いたしますニャ、カズヤ様。ですが、問題ありませんニャ」

 

「そうですか。もし寒かったら言って下さいね、厚手のコート借りて来ますから」

 

そう言いペルシアを気遣うカズヤ。

 

全員揃ったのを確認した伊丹はそれじゃあ出発しようかと声を掛けようとした瞬間、漆黒のセダンが伊丹達の前で停まった。

 

「すまん、すまん。遅くなった」

 

「ん? なんだ?」

 

降りてきた柳田に伊丹やカズヤ達は怪訝そうな顔を浮かべている中、柳田は車両の後部扉を開ける。すると降りてきたのは

 

「こちらのピニャ・コ・ラーダ殿下とボーゼス・コ・パレスティー侯爵公女閣下のお二人がお忍びで同行される。よろしくな」

 

とピニャとボーゼスが緊張した面持ちで降りてきたのだ。

柳田の軽い説明に伊丹は茫然とした表情を浮かべた後、柳田に詰め寄る。

 

「なんでこのお二人も何だよ」

 

「殿下は帝国との仲介役を買って出てもらうんだ。我が国やアメリカなど俺達の世界について知って貰うにはいい機会だ」

 

「だからってなんで俺達と一緒なんだよ」

 

「通訳出来る奴が極端に少ないからだよ」

 

そう言いながら柳田はポケットから分厚い茶色の封筒を伊丹に差し出す。

 

「狭間陸将からだ。娘っ子達の慰労に使えだとよ」

 

そう言われ何とも言えない表情を浮かべる伊丹。そして封筒を受け取ると、柳田はじゃあな。と言って車に乗って去って行った。

 

「伊丹さん、大丈夫ですか?」

 

「全然、大丈夫じゃねぇ」

 

「…ですよねぇ」

 

ずぅ~んと落ち込む伊丹に苦笑いを浮かべるカズヤ。

その後伊丹は気持ちを切り替え、テュカ達を連れて門へと向かう。

 

荷物検査を受ける傍ら、ピニャはそびえ立つ門の前で緊張した面持ちを浮かべていた。

 

(この門の向こうに、二ホンとアメリカと言う国があるのか)

 

そう思い、自らの気持ちの紐を再度引き締めるのであった。




次回予告
門の向こう、日本にやって来たテュカ達は自分達の国とは違う光景に目を奪われる。
そんな中、伊丹の傍にスーツ姿の男性がやって来た。

次回
参考人招致part3





短い小説になって申し訳ありません。


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29話

伊丹達連合遠征団の事を知るべく、二ホンに行く伊丹達に同行したピニャ。そして門を抜け、その先にある光景にピニャは小さく「摩天楼か?」と零す。

隣にいたボーゼスは言葉が出ないのか口を開け驚いていた。

 

レレイ達も自分達の世界では見た事ない程、背の高い建物に見上げていた。

 

「レレイ達、驚いてますね」

 

「そりゃあ中世の時代から未来に来たんだ。驚くでしょそりゃあ」

 

カズヤの言葉にそう言いながら伊丹は門近くにある警備所にて手続きをしに向かう。すると

 

「伊丹二尉?」

 

そう声を掛けられ、伊丹とカズヤ、そしてダンがそちらに顔を向ける。

其処にはスーツ姿でジャケットを羽織った男性が居た。その男性の顔を見た伊丹は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「情報本部から参りました、駒門です。皆さんのエスコートと案内を仰せつかりました」

 

そう言って来る男性に伊丹のみならずカズヤとダンも怪訝そうな顔を浮かべる。

そして伊丹が最初に口を開く。

 

「お宅、公安の人?」

 

「おや、分かりますか? 流石、英雄ですなぁ」

 

「たまたまだよ」

 

「たまたま、ですか」

 

そう言いながら駒門は懐から手帳を取り出し開く。

 

「あなたには悪いが、少し調べさせてもらいました」

 

「面白い物なんか無かったでしょ」

 

「いやいや、なかなか興味深い物でしたよ。一般幹部候補生過程の成績は同期にけが人が出たおかげでブービー。三尉任官後の勤務成績は不可にならない程度に可。業を煮やした上官から幹部レンジャーに放り込まれて何とか修了して、その後なぜか習志野に異動。やんわりと三尉に留め置かれていたが例の事件で二尉に昇進した」

 

「良くお調べで」

 

「伊丹、お前中々の軍歴だな」

 

「ははは、本当改めて聞くと伊丹さんの経歴凄いですね」

 

「同期等からは“月給泥棒”“オタク”などコテンパンに言われている。……だが、そんな奴が何故“S”に選ばれたんだ?」

 

駒門の口から出たSと言う言葉にカズヤ達は目を見開く。当の伊丹はそこまで知ってんのかよ。と面倒そうな表所を浮かべていた。

S、正式名称はSpecial Force Group.日本語訳で特殊作戦群と呼ばれる部隊で、特戦群、SFGpとも呼ばれる。

その実力は、アメリカ陸軍特殊部隊『グリーンベレー』、アメリカ海軍特殊部隊『SEALs』と互角もしくはそれ以上の実力を有した日本唯一の特殊部隊なのである。

 

駒門の説明に栗林は目を真ん丸にし、口をあんぐりと開ける。

 

「え? うそ、ええええ?」

 

「た、隊長が元特戦群!?」

 

「伊丹さん、特戦群だったんですか?」

 

「お前、本当にすごい軍歴だな」

 

「……たまたま上官に叱られた時に屁理屈でこう言ったんだ。『蟻たちがせっせと働いているが、中には怠けている者が居ます。そいつを取り除いたら今度は別の奴が怠けるんです』とな」

 

「怠けている奴が必要と?」

 

「あぁ。そしたら特戦群に放り込まれたんだよ」

 

「クックック、なるほど。あぁ、そうだ。実はハミルトン大尉の事も調べさせてもらいました」

 

「…俺もかよ」

 

「アメリカ陸軍入隊後、新兵教育課程でそれまでの最高成績を塗り替えた。特にWAPの操縦技術が他よりも群を抜いており、その腕を買われアメリカ海軍第11特殊機甲強襲連隊“ストライク・ワイバーンズ”に参加。テロ組織殲滅から要人救出など様々な戦闘経験を積み、大尉に任官。その後、日米共同開発のWAPプロジェクトに引き抜かれた」

 

「……どうやって調べたんです、そんな個人的なことまで」

 

「フッフフフ、ソースは内緒です」

 

そう言われげんなりとした表情を浮かべるカズヤ。そして溜息を吐きそっと口を開く。

 

「大方姉上だったりして」

 

「私がそんなに口が軽い人間と思っていたのか、貴様」

 

「っ!?」

 

突然背後から掛けられた言葉にカズヤは背筋をピンッと伸ばし、背中から流れる冷や汗を感じながら、ギチギチと錆びた歯車の様に首を後ろへと向けると、鋭い眼光で睨みつけるリンが其処にいた。

 

「な、なんで中佐が此方に」

 

「向こうでの調査等が終わったから、送る隊員を選抜する為戻るところだ。ところでカズヤ」

 

「ヒッ!?」

 

「ちょっと向こうで話をしようか」

 

「え? あ、いや。バスの時間が「なぁに、数分で済ませる。伊丹二尉、少し愚弟を借りる」い、伊丹さん時間無い「あ~、まだ時間があるぞ」そ、そんな訳が「行くぞ」いやぁ~~~~!!??!」

 

リンに首根っこを掴まれそのまま引き摺られる形で近くに停まっていたトラック裏に連れて行かれるカズヤ。

暫くドカッ、バキッと言う音が鳴った後またカズヤを引き摺りながら戻ってくるリン。

 

「済まんな」

 

そう言って足と脛を抑えるカズヤを放り投げるリン。そしてリンは迎えに来ていた車両に乗り込み去って行った。

 

「だ、大丈夫かカズヤ?」

 

「な、何とか」

 

そう言いながら痛みをこらえながら立ち上がるカズヤ。

 

「さっきのがカズヤの姉、リン・ハミルトン中佐。ストライク・ワイバーンズ隊の隊長だ」

 

「カズヤ大尉のお姉さん!?」

 

「しかも強襲連隊の隊長!?」

 

ダンの説明に富田と栗林が驚きの声を上げる。

色々な衝撃事実に栗林は頭を抱え、奇声を上げ始めた。

その光景に皆、何とも言えない表情を浮かべる。

 

「クックック。やっぱりあんたは只者じゃない。働き蟻の中で怠け者を演じる精神を俺は尊敬するよ」

 

そう言い駒門が敬礼をすると、伊丹とカズヤは反射的に敬礼を返す。

そして公安の警護を受けながらバスへと乗り込む伊丹達。

因みに一番後ろの座席では

 

「……ううぅぅうぅ、嘘よぉ。カズヤ大尉は納得できるとして、なんであんな人がレンジャーの上に、特戦群なのよぉ。世の中不条理よぉ」

 

と頭を抱えながらめそめそとなく栗林が座っていた。

その様子に誰も声を掛けることなくバスは走り出した。

 

 

バスの中では窓の外から見える街の景色に、レレイ達は興味津々であった。

 

「凄い賑わってるわねぇ、もしかして此処って市場?」

 

「なんか装飾されているけど、お祭りでもあるのかな?」

 

「あら、あのドレス素敵ですわ」

 

そんな街の景色に見ているレレイ達をよそに伊丹達は次の事を話し合っていた。

 

「それで隊長、次はどうするんですか?」

 

「とりあえず飯にしよう」

 

「飯、ですか? この辺にありましたか?」

 

富田は首を傾げつつも伊丹の行動を見守る。そしてバスはある店の前で停まった。そこは

 

「え? 伊丹さん、此処って、牛丼屋?」

 

そう、バスが停まった先にあったのは庶民に慕われている牛丼屋であった。

茫然とした表情を浮かべながらも、伊丹の後に続くカズヤ達。中へと入りそれぞれ席に着き注文する。

注文した牛丼が来るとそれぞれ割り箸を手に取る。そして富田が口を開く。

 

「それで、隊長。どうして牛丼屋に?」

 

「……参考人招致の間は出張扱いで、食費は500円までなんだよ」

 

「そ、そう言う事でしたか」

 

「世知辛いっすねぇ」

 

伊丹の言葉に、富田と栗林はそう返したのち、牛丼を食べ始めた。

隣の席ではカズヤとダンが牛丼に舌鼓を打っていた。

 

「ん~、やっぱり日本の牛丼は美味い」

 

「初めて食うが、本当にうまいな。嫁にも食わせてやりたいな」

 

「確か此処の店、冷凍の牛丼が通販で販売してたはずですよ」

 

「そうなのか? じゃあ今度注文しておくか」

 

そう言いながら牛丼を食べるダン。

 

レレイやペルシア達も向こうで、一度出された事がある牛丼に箸を上手に使って食べていた。

そんな中、ピニャとボーゼスは初めて見た牛丼にどう食べればいいのか、分からず目をきょろきょろさせながら辺りを見渡す。

 

「殿下、大丈夫ですか?」

 

「う、うむ。兎に角、食べるぞ」

 

そう言いピニャとボーゼスは意を決してレンゲを手に取り、牛丼をすくい口へと運ぶ。

 

 

「「っ!? お、美味しい!」」

 

初めて食べた牛丼に2人はその美味さに感極まり、黙々と牛丼を食べるのであった。

 

食事を終え次に伊丹達が来たのは、礼服などが売られているスーツ店であった。

 

「すいません、この子に合う一番安いスーツをお願いします」

 

「えっと、あ、はい」

 

店に入るなり、伊丹はテュカを店員の前に連れて行き、スーツを注文した。

暫くして試着室からスーツ姿のティカが現れた。

 

「おぉ、似合って似合ってる」

 

「そう? でも少し動きづらいかな?」

 

「まぁ、スーツだし仕方ないわ。そう言えばレレイ達は良いの?」

 

「私のはこれが神官の正装よぉ」

 

「不要」

 

「私もメイド服が正装ですので、不要でございますニャ」

 

3人の言葉に栗林はそっか。と返す。

その頃ピニャ達はと言うと、売り場に置かれているスーツに驚きの表情を浮かべていた。

 

「こ、この生地と仕立て、妾達の物より数段上だ。相当高価な物だぞ」

 

「そ、それをこれ程まで並べるとは…。余程の豪商でしょうか?」

 

そんな会話をするピニャ達。その姿にカズヤと富田は苦笑いを浮かべていた。

 

「姫様達が見ておられる個所って…」

 

「…はい、一番安いスーツの所です」

 

「ま、まぁ向こうとこっちとじゃ技術に差がありますからね」

 

「そ、そうですね」

 

 

スーツを買い終え、伊丹達はバスへと乗り込みまた走り出した。暫くして遂に日本の国会へと到着した。




次回予告
国会に到着した伊丹達。
正装に着替え、参考人招致へと向かった。

次回
参考人招致part4


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30話

国会に到着した伊丹達のバスは裏手へと回され停車した。

 

「それじゃあ富田、お姫様達の事頼むな」

 

「分かりました」

 

そう言いピニャとボーゼス以外の特地メンバーと富田と栗林以外はバスからぞろぞろと降りて行く。

降りて行く伊丹達にピニャは近くに居た富田に口を開く。

 

「妾達は降りないのか?」

 

「殿下は此処とは違う場所へとお連れします。殿下は今日本に来日していないことになっておりますので」

 

そう言われピニャはそうか。と言い椅子に深々と座り直す。

 

 

バスから降りた伊丹達は国会の警備隊、衛視たちの護衛と案内の元それぞれ待合室へと連れられて行く。

部屋に連れて来られると、伊丹とカズヤは更衣室へと入り伊丹は常装冬服を纏い、カズヤはアーミーグリーン・サービスユニフォームと呼ばれる冬季勤務服を身に纏い、頭にグリーンのベレー帽を被った。

因みにダンは護衛として来ている為、正装はせず何時もの戦闘服に腕に『要人警護』と書かれた腕章を付けた格好で、そして腰にはSIG M18をホルスターに挿していた。

服を着替え終え更衣室から出てくると、待機室の扉が開きスタッフが現れた。

 

「お待たせしました。どうぞご案内いたします」

 

そう言われ伊丹とカズヤを先頭に部屋から退出する。

スタッフの案内の元参考人招致が行われる議事堂の扉前へと連れて来られた伊丹達。

部屋の前に到着したスタッフは無線機で到着したことを報告すると返信があったのか、それに耳を傾けた後了承の言葉を口にし伊丹達の方へと体を向ける。

 

「それではお入りください」

 

そう言い扉が開かれた。

開かれた扉に伊丹が先頭に立って歩き、その後カズヤ達が続いて入っていく。議事堂の中には多くの議員が座っており、二階にはカメラを持った多くの記者がカメラを入って来た伊丹達やレレイ達の写真を撮っていた。

そして6人は席へと座り、ダンは議事堂の入り口付近で休めの姿勢で立つ。

6人が席へと座ると、委員長が口を開く。

 

「これより参考人招致を行います。幸原議員」

 

「はい」

 

そう言いこじわが若干目立つ女性議員が立ち、フリップをもって演説台へと立ちばッとフリップを見せてきた。

其処にはコダ村の死者数と元々いた村人の人数が書かれていた。

 

「単刀直入にお尋ねします。避難民に150人もの犠牲が出たのは何故でしょうか?」

 

「伊丹耀司参考人」

 

呼ばれた伊丹は椅子から立つと応答する演説台へと立つ。

 

「はい。え~それはドラゴンが強かったからです」

 

その答えに幸原は、は?と唖然とした声を漏らす。

 

「な、何を他人事のように返すのです‼ 自衛隊の対応、そして政府の方針について聞いているのですよ⁉ 貴方は現場指揮を執ったにもかかわらず犠牲者が出たという事にどう受け止めているのですか! そんな事も分からないのですか! だから大勢の犠牲者を出したんじゃないんですか!」

 

そう伊丹を馬鹿にする様な言い方をする幸原。流石の伊丹も少しイラっとしたが、心の中で我慢する。

 

「……イラ大勢の方が亡くなった事は本当に残念に思います。あと力不足も感じましたね」

 

そう言うと、幸原は伊丹が自衛隊に非があると言ったと思いそのまま圧を加えようとした。が

 

「―――銃の威力に」

 

「「「「は?」」」」

 

最後に伊丹の口から出た言葉に幸原のみならずその後ろにいた野党議員達も、一瞬唖然とした表情を浮かべた。

 

「7.62㎜や5.56㎜といったライフル弾や、重機関銃の12.7㎜がまるで豆鉄砲の様に弾き返されましたしね。おまけに護衛に付いていてくれたWAPが装備していた武器の15㎜砲弾も同様でした。あの時レーザー銃だとか粒子咆とかそういったものがあればよかったと感じました」

 

そう言うと野党側からは、不謹慎だ。ふざけた答弁をするな。等怒号が飛んできた。

するとスッと与党側の議員が手を挙げ発言許可を求めると、委員長がそれを了承した。

 

「委員長、伊丹二等陸尉が提出した特定害獣 通称【ドラゴン】の鱗はタングステン並かそれ以上の強度を有する事が判明しました。モース硬度で言うと硬度は9。これはダイヤモンドの次に硬い強度を誇っております。その上ダイヤモンドの7分の1程度の重さです。このような鱗を持ったドラゴンはもはや空飛ぶ戦車と言って過言ではなく、そんな生物と戦って犠牲者無しでという事自体不可能であると思います。したがって伊丹二等陸尉に対する幸原議員の発言は問題あると進言いたします」

 

そう言うと今度は与党側の議員はうんうんと頷き伊丹を擁護した。議員の報告に野党側は何も言えなくなり不機嫌そうな顔を浮かべ、幸原も顔を歪める。

 

「幸原議員、発言には注意して行ってください」

 

「……はい。では次はアメリカ陸軍の方を」

 

「カズヤ・ハミルトン参考人」

 

「はい」

 

そう言いカズヤは席を立ち、伊丹と入れ替わる様に答弁の演説台へと立つ。

 

「まず所属と名前をお願いします」

 

「アメリカ陸軍第42機動中隊第2小隊所属、レイブン隊指揮官カズヤ・ハミルトン大尉です」

 

「ではお尋ねします。避難民が襲われていた際、貴方は最後尾とお聞きしてますが、どうお考えなのでしょうか?」

 

「どう、とはどういう事でしょうか?」

 

「米軍と自衛隊が民間人を盾にして自分達だけ助かろうとしなかったかと聞いているんです」

 

「我々はその様な事は決してありません。現場にいた自衛隊と海兵隊、そして自分は一人でも多くの民間人を救うべく奮戦しました」

 

「では、何故民間人に被害が出たのですか」

 

「先程伊丹さんがご説明されました通り、ドラゴン襲撃時に自分が搭乗していたWAPに装備されていたアサルトマシンガンではドラゴンの鱗を貫通することはできませんでした。ですので相手の気を逸らし注意をこちらに向ける事しか出来ませんでした」

 

「此方の調べによりますと、貴方が搭乗されておりましたWAPの装備にアサルトマシンガン以外に、肩にミサイルを発射する装置があるとありましたがどうして撃たなかったのですか? 撃てば此処に書いてある数よりも多くの民間人が救われたはずなんですよ!」

 

「…」

 

そう叫んぶ幸原に口を閉ざすカズヤ。幸原は内心伊丹では無理だったが、カズヤから自衛隊や米軍の非を追及してやろうと考えていた。だが

 

「あの、逆に質問良いですか?」

 

「なんですか?」

 

「襲撃してきたドラゴンに向かってミサイルを撃て、というのは分かります。しかし「しかしもへったくりもありません! 撃つのを躊躇ったばかりに、多くの民間人に犠牲者が出たのですよ! それを何も考えてないんですか貴方は!」いや、此方の質問がまだ途中なんですが」

 

「……では早くしてください」

 

「……ハァ。襲撃してきたドラゴンにミサイルを撃てば確かにもっと早くドラゴンを撃退できたかもしれません。ですが、その被害は考えられたのですか?」

 

「何を言っているんですか!? 被害など此処に書かれている人数よりも少なく済んだに決まっているでしょう! 何を分かり切っている事を言っているのですか!」

 

「…えぇ、ドラゴンによる被害者数は。ですが、其処に()()()()()()()()()()()()()()()を足せばそれ以上に増えますが」

 

そう言われ幸原はなっ!?。と言葉を詰まらせる中、カズヤは反論させまいと怒気を含めながら説明し始めた。

 

「確かにミサイルをドラゴンに撃てばもっと早く撃退できたかもしれません。ですが、ドラゴンが襲撃してきたところは、丁度民間人達が居る場所でしかも未だに襲撃の混乱であちこちに民間人がいる状態でした。

そんなところにミサイルなんて爆風や破片などが飛び散る物を撃ち込めば貴女が提示されている被害者数よりももっと多くの被害者が出たかもしれなかったんです。その為私はドラゴンの周囲に民間人が居ない事を確認できるまでは、ミサイルの発射を行わなかったのです」

 

若干怒気を込めながら言い終えたカズヤはもう受け付けんと言わんばかりに席へと戻って行った。

席に戻ったカズヤはふぅー。と肺に入っていた重い空気を吐き出す。

 

「お疲れ」

 

「あの阿保議員、よく議員になれましたね」

 

「あんまり大声で言うなよ。めんどい事になるから」

 

「あんな奴と二度と関わり合いたくないですから言いませんよ」

 

そう言い次に呼ばれたレレイの質疑応答を見守るカズヤと伊丹。

演説台に立ったレレイに幸原は質問をする。

 

「では日本語は話せますか?」

 

「はい、少しだけなら」

 

「今お住まいはどちらでしょうか」

 

「今は避難民達と避難キャンプで共同生活をしている」

 

「では何か不自由な事はありますか?」

 

「不自由の定義が理解不明。自由ではないという意味合いならばそれは当たり前。ヒトは生まれながらにして自由ではない」

 

「では言い方を変えましょう。生活する際に何か不足しているものはありますか?」

 

「衣・食・住・職・礼。全てにおいて必要は満たされている。質を求めたらキリがない」

 

「…………結構です」

 

そう言い幸原はレレイから自分が求めている回答が求められず内心募らせた苛立ちをまた積み上げつつも次の参考人を呼んだ。

 

「次、テュカ・ルナ・マルソー参考人前へ」

 

「はい」

 

そう言い次はテュカが席を立つ幸原の前に立った。幸原はエルフとか言っているが、明らかに人の様に見えるテュカに疑念を浮かべていた為、ある質問をする事に。

 

「ではまず自己紹介をお願いします」

 

「私はエルフ。ロドの森部族マルソー氏族。ホドリュー・レイの娘、テュカ・ルナ・マルソーです」

 

「…失礼を承知で聞きますが、その耳は自前ですか?」

 

そう幸原が聞くと、通訳のレレイがテュカに質問を翻訳して伝えると耳付近の髪をかき上げ見せた。其処には長く尖った人とは違う形の耳があった。

 

「はい、自前です。触ってみますか」

 

そう言いピコピコと動く耳に報道陣のカメラが一斉にフラッシュを焚き、更に野党与党問わず多くの議員が手持ちの携帯カメラなどでとり始めた。騒乱とする議会に委員長が大声をあげる。

 

「静粛に! 静粛にぃ‼」

 

委員長の声に少しずつ鎮静化する議会。

 

「で、ではテュカさん。貴女がドラゴンに襲われた際の事をお話しいただけますか?」

 

「よく……覚えてない。その時気を失ってたから…」

 

「……結構です」

 

テュカの返答に自分の思っていた答えじゃなかったと思い、言葉遣いが雑になる幸原。

 

「ペルシア・ティ・ホーリン参考人」

 

そう言われ次はペルシアが前へと立つ。エルフのテュカに続いて今度は猫耳をし、更にはメイド服を着た女性が現れた事にまたしても浮き間つ議内。

 

「……お名前をお願いします」

 

「私はペルシア・ティ・ホーリン。フォルマル伯爵領イタリカの当主、ミュイ様にお仕えしているキャットピープルのメイドでございますにゃ」

 

そう言い綺麗にお辞儀するペルシア。その際に腰下付近に揺らめく尻尾に幸原が口を開く。

 

「し、失礼ですが、その腰付近から出ている尻尾は飾りですか?」

 

「飾りではございませんよ」

 

そう言いペルシアは頭から生えている耳をピコピコと動かし、腰の尻尾をゆらゆらと動かした。

その動きにまたしても議内がフラッシュで一杯となった。

 

「……やっぱり騒ぎになりますね」

 

「……だな。おまけにペルシアさんはメイド服。誰だって騒ぐだろ」

 

後ろの席で見守っていたカズヤと伊丹は騒然とする議内でそんな事を零していると

 

「静粛にぃ! 静粛にぃ‼」

 

とまたも大声をあげ鎮静化させる委員長。何とか鎮静化した後、幸原が質問を投げる。

 

「ではペルシアさん、質問ですが自衛隊や米軍が貴女に対して不当な扱いや、非人道的な事をされましたか?」

 

「私はまだ難民キャンプに来て日は浅い方ですが、自衛隊や海兵隊の方々は避難民が困っている事があれば親身になって助けて下さったり、危険な事に対しても己の身を顧みないで手を差し伸べて下さいますにゃ」

 

「……それは自衛隊や米軍から言えと強要されておられるのではないですか?」

 

「申し訳ありませんが、全て私の本心からの発言でございますにゃ。逆に一体何も持って私が自衛隊や海兵隊の方々から強要されているように見えるのか理解しがたいですにゃ。貴女がされる質問全てカズヤ様や皆様の不利になるような発言を強要している様に感じますので、此処で打ち切らせていただきますニャ」

 

そう言い不機嫌そうな顔で質問を打ち切り席へと戻って行った。

此処まで何一つ自分の求める答えが無い事に内に溜めていた苛立ちが溢れんばかりになっていた幸原。次に立ったのはロゥリィだった。

彼女は黒服に黒のベールで顔を覆い隠しながら演説台に立った。その姿に幸原は内心笑みを浮かべた。

 

(黒服に、黒のベール……。喪服ね。大方、被害に遭った中に身内が死体にでもなったのね。自衛隊や米軍に非がある様に適当に誘導すればこっちのものよ)

 

そう思いながら口を開く。

 

「それでは名前からお願いします」

 

「ロゥリィ・マーキュリー」

 

「では、キャンプでの生活についてお聞かせください」

 

「簡単よ。朝、目を覚ましたら生きる。祈る。命を頂く。祈る。そして夜になったら眠る。エムロイに使える使徒として信仰に従った生活よぉ」

 

「い、命を頂く?」

 

「そう。食べる事、生き物を殺す事、エムロイの供儀とかねぇ」

 

「な、なるほど。……ではあなたは見たところ大事な人を失ったようですが、その原因に自衛隊や米軍の対応に問題があったのではないでしょうか?」

 

幸原の質問に通訳のレレイは首を傾げながらロォリィに伝える。ロォリィは質問の意味が分からないとレレイを通じて伝えると、幸原は口早に口を開く。

 

「避難民には150名もの犠牲者が出たにも関わらず、身を挺して戦わなければならない自衛官や米軍側には死者どころか怪我人すら出ていません。これは自身の命を最優先にし、その結果として民間人を見捨てたのではないのですか?」

 

そう言うと、ロォリィが僅かばかり驚いた様な動作を取る。その行動に幸原はやはり。と確信を得たと感じ声を上げる。

 

「さぁ話して下さい‼︎ あなたの大事な人を死へ導いた無能で臆病な自衛隊や米軍の悪行を‼︎」

 

もはや隠す気も無いのかあくどい笑みを浮かべながら告げる幸原にロォリィはそっとマイクを手に取ると

 

 

 

「貴女、おバカぁ?」




次回
常識の違い


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