パーシヴァルの物語 (匿名)
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並行世界の物語 Fate/Cagliostro Order 〜FIRST〜


ふと思い付いたので、番外編として出します。
設定としては、もしパーシヴァルではなく、カリオストロに憑依したら? そこで色々と逸話を残しギルガメッシュやヘラクレス並に有名になったら? という者です。



 燃えている。全てが燃えている。

 まるでこの世に、地獄の一部を召喚したかの様な有様だ。

 黒色の空は、昇る炎で照らされ、果てまで崩壊した街並みが続く。

 その地獄の中で、鼓膜が破れそうなほどの破壊音が轟いた。

 

 「マシュ!」

 

 橙色に近い赤毛をした少女の叫び声。

 少女、藤丸立香の視線の先には、立香と立香の隣で震えている白髪の上司を守ろうと、必死に戦う後輩の姿があった。

 

 「大丈夫です!」

 

 立香達を背に大盾を構え、眼前の敵を見据える。

 溢れる殺気をこちらに向けてくる、全身を靄に包まれた黒い英霊、シャドウサーヴァント。

 そのクラスはアサシン。気配を消し、音も無く人を殺す事に長けた暗殺者の英雄。

 一瞬の気の緩みが己の、延いては後ろの者達の命取りとなる。

 

 「っ!?」

 

 アサシンの投擲が、マシュ目掛けて飛んでくる。

 それを大盾で薙ぐ事によって吹き飛ばすが、その際に数瞬隠れてしまった視界の隙を突き、アサシンが姿を消した。

 幾ら英霊と融合した、デミサーヴァントと言えども戦闘の素人である事に変わりなどなく。しまった! と内心焦る。

 昂る気持ちを抑え、冷静に感覚を研ぎ澄ませた。

 

 「マシュ後ろ!」

 

 立香の声が聞こえると同時、背後に気配を感じ振り向く。

 敵の気配を感じ取る瞬間に、アサシンより僅かに早く動き始めていたマシュは、瞬時に身の丈を超えるその大盾を振り抜いた。

 

 「やああぁぁ!!」

 「グッ!」

 

 遠心力を乗せた一撃が、アサシンの胴に見事な迄に入った。

 マシュの攻撃を受けたアサシンは、その重さに後方の瓦礫に吹き飛ばされ、豪快な音を立てて衝突した。

 どんな鈍器よりも強力な一撃だ、紙装甲のアサシンでは、そのダメージが内臓の隅々にまで行き渡っているだろう。

 幾許かして、感じていた敵意が消えるのを感じると、マシュ・キリエライトは安堵の息を漏らした。

 

 「マシュ無事で良かったよ!」

 

 戦闘を終えた後輩に、走って駆け寄り立香は抱き着いた。

 

 「敵性消滅確認、戦闘終了です先輩」

 「うん! にしても流石はマシュだね!」

 「い、いえ。それほどでも」

 

 マスターに褒められてか、マシュはその綺麗な頬を赤く染め照れた。

 次いで、立香とマシュは近くでヘタレていた自分達の上司の元に行く。

 戦闘による緊張感が一気になくなった事で、足腰を支えていた力が一気に抜け、その場で尻餅をついてレフぅレフぅと虚ろに呟く女性、オルガマリーは辛くも勝利したマシュをキリッと睨みつけた。

 

 「マシュもう少しマシに戦えないの! デミサーヴァントでしょ!? 今の戦い見ててヒヤヒヤしたわよ!?」

 「す、すみません。次は頑張ります」

 

 涙目でマシュを叱るオルガマリーに、マシュは済まなそうにペコペコと頭を下げる。

 その横で立香は苦笑いをした。

 

 「まあまあ、所長。結局は勝ったからいいじゃないですか」

 

 落ち着かせるように、二人の間に入る。

 だが、感情が収まらないオルガマリーは、今度はそんな立香をキッと睨んだ。

 

 「貴方も貴方よ! 仮にもマスターなら、支援魔術の一つでもしなさいよ!! ……もうこんな所嫌ぁぁ……レフぅ、助けてよレフぅ……」

 「ありゃ、所長がまた泣き始めたよマシュ」

 「見てる場合ではありません先輩! 敵はいつ来るか分からないので、早く所長をなんとかしないと」

 

 それから暫く泣きべそをかいて、その場に座るオルガマリーを何とか立ち直らせるのに、一時間程時を要して二人は少しゲンナリした。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「えっと、後はこのキンキラの石を置けばいいんだっけ?」

 「ええ、そうです先輩」

『本来は、召喚の為に長い詠唱が必要になるんだけど、これは特別製でね。そういったややこしい手順を省いて簡略化してくれているんだよ。まあ、その分何が出るかは分からない、縁召喚か完全ランダムになっちゃうけどね』

 

 この辺りで最も良質な霊脈のその上に、マシュの持つ大盾を置き、それを媒体に英霊召喚の魔術を行おうとしていた。

 これから召喚する立香の両手には、掌より少し小さい虹色の金平糖の様なものが抱えてある。

 俗に聖晶石と呼ばれる、簡略召喚に必要となる魔力を秘めた石だ。

 そして、英霊召喚についてドクターロマニから説明を受けた立香は。

 

 「なるほど、つまりガチャか!」

 「……? すみません先輩、生憎とガチャ? というものを私は知りません」

 「ああ、別に知らなくてもいい事だから」

 「そうなのですか?」

 「そうなの!」

 「貴方達何を呑気に話してるのよ、さっさと召喚しなさい!」

 

 戯れる立香とマシュに、オルガマリーは厳しく言い放った。

 ここは一応、敵がいつ来てもおかしくない戦場だ。オルガマリーがピリピリするのも無理は無い。

 立香もそれを分かっていた為、素直に謝り、召喚サークルに向き直った。

 

『所長も御機嫌斜めだし、さっさと済ませよう』

 

 余計な事を言うロマニに、オルガマリーは後で覚えてなさい、とドスの利いた声で呟く。それを聞いたロマニは、ひっと軽く悲鳴を漏らした。

 それを横目に笑いながら、立香は聖晶石をサークルの中心に置いた。

 瞬間、石の中に宿る魔力がサークルを循環し始める。

 すると突然。

 

 「ギャルのパンティーおくれぇぇぇ!!」

 「ドクター大変です! 先輩が壊れてしまいました!」

 

 魔力の輝きが強さを増し、眩くなっていく横で、立香は右手を上に突き上げ声高らかに訳の分からないことを叫び始めた。

 横にいたマシュは極限状態が続くこの状況に、とうとう立香が壊れたのだと思い、本気でロマニにどうにかするように助けを求めるが、ロマニはオルガマリーに先程の事で色々と言われていて聞く余裕が無い。

 

 「私は大丈夫だよマシュ! ただ神龍に願いを言ってるだけ!」

 「すみません先輩、私には神龍とは何か分かりません!」

 「分からなくてもいいのさ! ただ感じてノリを合わせるんだ!」

 

 若干カオスである。

 召喚で謎のテンション上昇により、本人ですら何を言っているのか分からない程、意味不明な事を言い始める。

 己の先輩が壊れたのではなく、精神的攻撃を受けているのではないか、と本気で考えるマシュはどうすればいいのか分からず。

 もうやけくそ気味に、右手を大きく上げ立香の真似をし始めた。

 

 「行くぞマシュ! せーの」

 

 マシュの肩に手を起き、気持ちのいい笑顔で。

 

 「ぎ、ぎゃるのパ、パンティーおく……!?」

 「ギャルのパンティーおくれ……!?」

 

 召喚の煌めきが臨界点に到達。刹那、二人が言い終わる前に二人の頭の間を何がすり抜けた。

 立香とマシュは、すり抜けた物が飛んでいった後方に顔を向けると、そこには額にナイフが刺さったシャドウサーヴァントが居た。

 

 「敵!」

 

 マシュは急いで身構えるが、その必要はなかった。

 何故なら、アサシンと思われるそのシャドウサーヴァントは、既に倒されていたからだ。

 

 「たく、召喚されて出てきてみれば、お前達は何してんだ」

 

 凛とした声が、後ろから聞こえた。

 立香とマシュは、消え逝くシャドウサーヴァントから目を離し後ろへと移す。

 声の発信源と思われる召喚サークルの上には、一房赤髪のメッシュが入った年若い黒髪の男の姿があった。

 

 「生憎と、俺は神龍じゃないんでな」

 

 黒の下地に赤と白の入り交じるロングコート、黒のシャツに白のラインが入った黒いズボン。

 右手にはナイフを三本持っている。

 

 「んじゃ、一応の様式美として……」

 

 そう言って、男はニヤリと笑い。

 

 「サーヴァント、キャスター。真名アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。稀代のペテン師にして錬金術師だぜ」

 

 世界最大のペテン師が、今ここに姿を現した。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

『まさか、カルデアの探知にすら引っかからないアサシンが居たとはね。いや、本当にすまない』

 

 適当に自己紹介を済ませた後に、ロマニは、真剣な面持ちで謝罪した。

 カルデアの探知網すら掻い潜る程の、気配遮断スキルを持った先程のシャドウサーヴァントのアサシン。

 もしあの時カリオストロの召喚が間に合わなかったら、そう考えただけで肝が冷える。

 再三言うが、ここは戦場なのだ。いつ命を落としてもおかしくない世界だ。

 一同は、先程の件でそれを改めて思い知らされた。

 

 「こっちこそ気を抜いてた、ごめんなさい」

 「それを言うなら、私も警戒を解いてしまったことが原因です。すみません、サーヴァント失格です」

 

 ロマニに続いて次々と謝っていく。その中には珍しくオルガマリーの姿もあった。

 沈んでいく空気の中、パンパンと柏手を叩く乾いた音が響いた。

 

 「はいはい、暗くなるのはそこまでだマスター。この先そんなんじゃやってけないぜ? ほら明るく明るく。一度失敗したなら次に活かせばいい」

 

 召喚されたばかりのサーヴァント、カリオストロが人懐っこい笑顔を向ける。

 カリオストロの言葉に立香は、そうだね、と気を取り直し沈んだ空気を元に戻した。

 そんな中、ロマニがふと呟く。

 

『それにしても、カリオストロかぁ』

 「どうかしたのロマン?」

『いや、カリオストロがあんなにも戦えるとは思えなかったからね』

 

 しみじみと言うように、ロマニはカリオストロをモニター越しに見つめる。

 ロマニの言葉に補足するようにマシュが、カリオストロについて語り始める。

 

 「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。本名はジュゼッペ・バルサモという方で、世界的に見ても有名な逸話を数々と持っている英雄ですね」

 「私でもカリオストロの事は知ってるよ!」

 「当然私も知っています。カリオストロと言えば魔術師としても有名ですからね。こんな大英雄を呼び寄せるなんて、立香貴方を褒めてあげるわ」

 「お、そりゃ嬉しいね」

 

 マシュ、立香、オルガマリーの言葉に嬉しそうに笑うカリオストロ。

 アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。

 “本来の世界(原典)のカリオストロ”とは違い、“この世界のカリオストロ”は様々な偉業を残している。

 ただその偉業は怪物を倒したり等の武勇では無く、ペテン師としての逸話が殆どであった。

 

 曰く、一つの国を騙し金を巻き上げその国を滅ぼした。

 曰く、口先一つで戦争を終わらせた。

 曰く、彼は世界すらも欺く最凶最悪のペテン師である。

 

 その他にも錬金術師や魔術師としての偉業、武勇もままあるが、やはり詐欺師としての逸話が多く目立つであろう。

 その事から、ロマニはカリオストロは武闘派では無いと踏んでいたが、先程竜牙兵の群れやシャドウサーヴァントを軽くあしらったのを見て考えを改めた。

 

 「私、あれ好きだよ『詐欺師とお姫様』」

 「カリオストロさんを主人公とした絵本、童話ですね。私も好きです」

 

 カリオストロの偉業や逸話は、マスメディアにも取り上げられており、絵本やアニメの他にも、舞台やドラマのエンタメとなって全世界に知られている。

 数ある話の中でも、更に有名なのが立香の言った『詐欺師とお姫様』なのだ。

 

 「あー、あの話か」

 

 立香の出した話題に、何処か気不味そうに頬を掻くカリオストロ。

 それを見た立香は、どうしたの? と顔をのぞき込む。

 

 「いや、何でもないさマスター」

 「そう。……ところで、所長はどんな話が好き?」

 「そうね。私は、『笑顔の魔法』かしら」

『ああ、カリオストロ作品にしては珍しく魔術師として活躍する本か。……それにしても……』

 

 途中で言葉を切ったロマニは、まじまじとオルガマリーを見つめた。

 変な視線を感じたオルガマリーは、ロマニに対して声を荒らげる。

 

 「何よロマニ!」

『い、いやあ。所長も童話を読むんだなあと』

 「それってどういう意味よ!」

 

 またギャーギャーと騒がしくなり始める一同。

 それを笑顔で見守っていたカリオストロは、その時気配を感じた。

 

 「話はそこまでだ、何か近付いてくる」

 

 カリオストロの真剣味を帯びた声に、一瞬で全員に緊張が走った。

 

『ホントだ! 二時の方向にサーヴァント反応! 僕達(カルデア)より早く探知するって、本当にキャスターか君は!?』

 

 遅れてカルデアで探知したロマニの声で、全員は身構える。

 マシュは盾を構え、立香とオルガマリーはその背に隠れるようにして下がる。

 カリオストロも、腰に付けてあった六つのナイフを両手に構えた。

 来るのは敵か味方か、間近まで迫ってきた気配にカリオストロは身を引き締めた。

 

 「ああ、待て待てお前ら! 俺は敵じゃねえよ」

 

 出て来たのは杖を持った青髪の魔術師だった。

 靄を纏っていないことから、シャドウサーヴァントじゃない対話の可能なサーヴァントだとカリオストロは判断し、構えた武器を下ろす。

 

 「ち、ちょっと!」

 

 まだ敵かどうかも分からない相手を前に、武器を下ろしたカリオストロにオルガマリーは声を震わせた。

 小鹿のようにプルプルと体と声を震わせるオルガマリーに、優しい眼差して大丈夫と声を掛ける。

 言霊で無いただの言葉なのに、何故かそれはオルガマリーの心に浸透しオルガマリーの不安を取り除き落ち着かせた。

 

 「……確かに敵意は感じないな。マシュ、武器を下ろしていいぜ」

 「……はい」

 「そんな不安そうな顔をすんなよ、大丈夫だ。ペテン師()を信じろ」

 

 右三本のナイフを仕舞い、空いた右手でマシュの頭を撫でる。

 マシュは照れくさそうに、はい、と答えた。

 ……因みにその後ろでは、マシュが立香に今の事でからかわれている。

 

 「で、御宅は何者だ?」

 「なに、怪しいもんじゃない。━━俺は、この聖杯戦争に呼ばれたキャスターだ」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 自身を聖杯戦争に呼ばれたキャスターだと自称した男、教えて貰えた真名によればクー・フーリンと、ある程度の情報を交換し、仮契約をしたあと、一先近くにあった学校へ立香達は移動した。

 

 「いやっふいーベッドだぁ!」

 

 保健室に備え付けてある小綺麗なベッドに、立香は頭から飛び込んだ。

 ベッド一つで子供のように喜ぶ立香を置いて、マシュ、オルガマリー、カリオストロ、クーフーリン、ロマニは現状の確認を始める。

 

『では、僕達の目的を改めて確認しよう。まずは冬木の大聖杯に向かう事。そして、そこにいるであろうセイバーを倒す事、この二つだ』

 「道中で必ずアーチャーの野郎が出て来るが、それは俺が何とかするとしてだ。問題はそのセイバーの奴だ」

 「ちょっといい? キャスター」

『何だ?(ん?)』

 

 オルガマリーの言葉に、同じクラスであるカリオストロとクーフーリンは一緒に反応してしまう。オルガマリー本人は、クーフーリンの方を指さし話しかけるが、その前にこのままではややこしいという事で、カリオストロの事はクラスでなく名前で呼ぶようにカリオストロは提案した。

 

 「キャスター、貴方はセイバーの正体(真名)が何か知っているの? 何度か戦った事があるような口ぶりだけど」

 「ああ、知っている。奴の宝具を食らえば、誰だってその正体に突き当たるからな」

 「つまり、それ程有名なサーヴァント、ということでしょうか?」

 「ああ、有名も有名」

 

 語るキャスターの顔には険しさが滲み出ていた。

 ランサーでは無いとは言え、ケルト神話に名高い大英傑クー・フーリン。そんな彼でさえ顔を歪ませるほどの難敵に、カリオストロは直感的にマシュの宝具が切り札になると予感した。

 

 「王を選定する岩の剣のふた振り目、お前さん達の時代に置いて最も有名な聖剣……その名は」

 「約束された勝利の剣(エクスカリバー)か……」

 

 キャスターの言葉に続く様に、カリオストロが口にしたその宝具に、相手が何者かを知った全員が息を飲んだ。

 





主人公は戦闘能力もずば抜けて高いですが、詐欺師と言われている通りどちらかと言うと頭脳派です。口先で敵を惑わします。

それとオリジナル小説を投稿すると言いましたが、近日中には無理そうです。本当にすみません。
再来週迄には投稿しますので、ご容赦下さい。



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Fate/Cagliostro Order 〜SECOND〜

新年明けましておめでとうございます。
お、お久しぶりです……。
本当にお待たせして申し訳ありません。
何故こんなにも遅れたのか、言い訳をさせてもらうとリアルが忙しかった、の一言に尽きます。
そして、漸く投稿したかと思えば番外編……。
本当にすみません。本編は現在筆記中です。
また、お待たせ致す事となりますが、ご了承頂けると嬉しく思います。
では長くなりましたが、どうぞ。


 立香達一行が、仮の休憩地としている校舎の屋上。

 通常であれば、冬木の町が一望出来るであろう場所では、現在見渡す限り地獄が広がっている。

 なんと勿体無い事か、崩壊した景色を眺めながらカリオストロは落胆した。

 後ろからキィーと、錆びた扉が開かれる音がする。

 

 「カリオストロ?」

 

 高い女性の声が聞こえた。

 扉を潜り屋上に来たオルガマリーは、自分を此処に呼んだ人物の名前を呼ぶ。

 

 「どう思うこれ」

 

 然しカリオストロはこちらに振り向かず、如何様にも取れる言葉を紡いだ。

 カリオストロが言っているのは、恐らく壊滅した冬木のことを指すのだと思ったオルガマリーは、その場で思っている事を出した。

 

 「どうも何も、酷い有様としか言えないわ」

 

 カリオストロは鼻で笑うと、その通りだ、とオルガマリーの言葉を肯定した。

 彼が何を言いたいのか、その真意が分からずオルガマリーは首を傾げる。

 

 「それで、なんで私をここに呼んだの?」

 

 埒が明かないとばかりに、疑問に思った事を切り出す。

 そんなオルガマリーに彼は一度だけ笑うと、今度こそオルガマリーの方を向き、笑う顔を元に戻し真剣に彼女の瞳を見つめた。

 

 「オルガマリー。君は()()()()()?」

 「え?」

 

 言葉の意味が分からずに聞き返してしまう。

 生きたい、とは言葉の通りの意味だろうか。まるで今から殺されてしまうような口振りに、聡明なオルガマリーでさえ混乱を禁じ得ない。

 

 「……ち、ちょっとそれってどう言う意味?」

 「意味も何も、言葉通りだ。これから先、君は生きていたいと思っているか?」

 

 カリオストロの紡ぐ一言一言が重く感じる。それは実際にそうなっているのか、将又カリオストロの雰囲気にオルガマリーが錯覚しているだけなのか、オルガマリーには知る事が出来なかった。

 彼の背で街を薪に揺らめく炎が、感じる凄みを増している。

 

 「……生きたいわよ」

 「本当に?」

 

 執拗に聞き返してくるカリオストロ。

 

 「ええ」

 「これから先、死にたくなるような出来事があるかもしれない。生きることを放棄したくなることがあるかもしれない。あの時死んどけば良かったって思うかもれない。それでもか?」

 「あ、貴方は何が言いたいの……!?」

 

 汗が流れているのに寒く感じる。呼吸が荒くなる。体の芯から震えて止まらない。

 ただただ話し合っているだけなのに、背中を死という虫が這いずり回っている気色悪い感覚が強くなる。

 今すぐにこの場を逃げたいが、カリオストロの金色の眼がそれを許してくれず。

 金縛りにあったように固まってしまう。

 

 「いいから、答えるんだ」

 

 ああ、若しかしたら殺されるかもしれない。嫌な考えが頭をよぎる。

 

 ━━ここで死ぬ?

 ━━何も成し遂げられずに?

 ━━何も出来ずに?

 ━━ 誰からも認められずに?

 

 オルガマリーは、己の生に意味が無いと想像した時、死よりも恐ろし絶望に襲われた。

 無意味に、無価値に、このまま死んでいけば、大多数にはオルガマリーと言う人間が居た事が忘れられる(居なくなる)

 そんな事になれば、今迄努力してきた事が意味の無いものになってしまう。後世に残したものも無く、自分が生きていた痕跡すら残らない。いや、記録上には残るだろうが……結局はそれだけ。

 

 「……や……」

 

 気が付けば声が出ていた。

 

 「……いや、よ。……そんな、嫌よ! 何も出来て無い! 何も残せてない! 友達も好きな人も! ……誰からも認められずに死ぬなんて嫌ァ……!」

 

 心の底から出てきた言葉だった。

 アニムスフィアでは無く。オルガマリーと言う一人間の少女の叫び。

 誰かから認められたい、友人を作りたい、生きていた証を残したい、そんな誰にでもあるようなちっぽけで、だけど大切な願い。

 

 「生き……た……い。私は生きたい。どんな困難があろうとも、それ、でも、生きたい……」

 

 涙が溢れていた。

 視界がぼやけ、声が震え、嗚咽が止まらない。

 その時、暖かい何かが体を包んだ。

 

 「そうか。それを聞けただけで充分だ」

 

 視界は黒一面で塞がっている。抱きしめられているのだと、遅れて理解した。

 だがどうして? そんな思いが湧いてくる。

 

 「わ、私を、殺そうとしたんじゃないの?」

 

 震える声で精一杯絞り出す。

 見上げた先には、美しく整ったカリオストロの顔がある。その顔は、先程とは違い優しいもので、その瞳はまるで、努力を怠らず頑張ってきた子供に向けるような、暖かいものだった。

 

 「殺す? なんで? 俺はそんな事を一言も言ってないぞ?」

 「で、でも、さっき」

 「生きたいかどうかを聞いただけだろ?」

 

 その言葉で緊張が一気に抜ける。立てるだけの力が抜けて、崩れ落ちそうになるが、カリオストロが抱きしめいる為何とか持ちこたえている。

 頭に何かが乗っかった。同時に、言葉が聞こえる。

 

 ━━━━今迄頑張ってきたんだな。

 

 「ああ……ァ……」

 

 瞬間、ダムが決壊したかのように涙が溢れ返る。

 限界だった。亡き父の後を継ぎ、その父が非人道的なことを行ってきたことを知り、マスターになれないことを知り、カルデアが爆破された事を知り、心が限界だった。

 誰にも認められない事に、劣等感を抱いて努力もしたが……やはりダメだった。

 ━━━━けど、漸く認めてもらえた。

 オルガマリー・アニムスフィア()を肯定してくれた。オルガマリーと言う少女は救われた。

 

 「ひぐ……っ……嗚呼ァァ━━!」

 「よしよし、泣ける内に泣いとけ」

 

 オルガマリーはカリオストロの胸に顔を埋め、目一杯泣き叫んだ。

 カリオストロは、周囲に音が漏れないように結界を張り、今の今まで人知れず頑張ってきた少女の頭を、泣き止むまで撫で続けた。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「おかえりなさーい」

 

 保健室に戻ると、立香の緊張感のない声が出迎える。

 ただいま、とカリオストロは短く応えた後、何処か落ち込んだ雰囲気のマシュに視線を移した。

 

 「二人とも、お楽しみでしたね」

 

 立香はにやっと笑い、オルガマリーに顔を近づけ肩に手を起きサムズアップをする。

 なっ! とオルガマリーは反応するが、立香はなにかに気付いた様にハッとして、直ぐに揶揄う事を止める。

 オルガマリーの両目が赤く腫れてる事に気付いたのだろう。それを見ていたカリオストロは、気遣いの出来る子だ、と立香への好感度を上げていた。

 

 「ところで立香、マシュはどうしたんだ?」

 「あー、うん。今その事で話してたんだけど……」

 

 立香が言うには、マシュは自身の宝具が使えない事を気にしているらしい。

 ロマニがその事で慰めた様だが、クー・フーリンに宝具がどう言う物かを教えられた時に、どうやっても宝具を発動出来そうにないという事で落ち込んでいるんだとか。

 

 「仕方ねえ。こうなりゃ特訓だ」

 

 クー・フーリンが唐突にそう言った。

 その言葉に立香が、オウム返しに聞き返す。

 

 「そう特訓だ。とりあえず表に出るぞ」

 

 クー・フーリンが校庭に出たのを追うように、全員で外に向かった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 学校の校庭の中心に、マシュとクー・フーリンは相対する様に向き合っている。

 少し離れたところから、オルガマリー、立香、カリオストロの三人は二人を見守っていた。

 

 「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

 マシュを案じる様に、オルガマリーが聞く。

 

 「分からない。こればっかりはマシュの問題だ」

 

 これから行われるのは、特訓という名の死闘。

 クー・フーリンは殺す気で来るだろう。その中で、どれだけマシュの覚悟が形となって出てくるかが、この特訓にかかっている。

 カリオストロの言葉に、オルガマリーの不安は増していく。

 

 「大丈夫だよ。マシュは大丈夫」

 

 然し、マスターの立香は違った。

 立香の目には、確信にも近い自信が宿っていた。己のサーヴァントは負けない、こんな所で躓くような相棒ではないと、確と二人を見据えていた。

 

 「さあ、行くぜ嬢ちゃん。構えな」

 「はい……!」

 

 マシュが構えたと同時に、戦闘が始まった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「はあ……はあ……」

 「こいつは驚いた。なんとか一命だけは取り留めると思ったが、まさかマスター共々無傷とはね」

 

 肩で息をするマシュの後ろで、立香とオルガマリーはカリオストロを盾にするように隠れていた。

 ただ、ビビって背に隠れたオルガマリーと違って、立香は舞い上がった煙等で汚れないように隠れていただけだが。

 カリオストロは貼り付く二人を剥がし、マシュの方へ近づく。

 

 「良くやったな」

 

 それ以上の言葉は不要だと、マシュの頭を撫でた後、幾らマシュの宝具を発動させる為とはいえ、立香達をも巻き込むと言うとんだ無茶をしでかしてくれた冬木のキャスターに、批難めいた視線を向ける。

 

 「やり過ぎだと思うんだが、そこんとこどうなのかねキャスター君?」

 「堅いこと言うなって。確かに派手にやり過ぎたとは思うが、そら宝具を使えたんだ、いいじゃねえか。この島国風に言うなら、終わりよければってやつだ」

 

 反省のはの字も見受けられない、ヘラヘラとした態度にカリオストロは呆れたように息を吐く。

 これがケルト流なのだ、自身を無理矢理納得させさて準備は整った、と疲れるマシュと戯れる立香達に視線を向けた時……星が煌めいた。

 

 「━━っ!」

 

 辺りが衝撃と爆発に震えた。

 舞い上がられた砂塵と身体に襲い来る余波が、立香達に状況の理解をさせてくれない。

 やがて全てが収まると、周囲の姿が露になる。瞳に映ったのは、無惨に破壊されひび割れた校庭と、粉砕された宝具と思わしき剣の様な数本の矢。

 星の煌めきに見えたのは、この矢達が放出した魔力だろう。

 

 「カリオストロ!」

 

 立香の叫ぶ声が聞こえる。

 

 「大丈夫。それよりもマシュ、二人を守れ!」

 

 直後、再び空から無数の光が降り注ぐ。

 マシュはカリオストロの指示通り二人を庇い、クーフーリンはルーン魔術を発動させ自身とマシュの周りに防護結界を展開。

 カリオストロは、いつの間にか抜かれていた禍々しい印象の六本のナイフを使い、飛来する宝具を切り刻み、砕き、破壊する。

 流星の如き速度と量で放たれるそれを、音を超える速さとナイフという小振りで扱い易い武具の手数を持ってして、悉く。その小さき星を殺す。

 

 「いい加減出てこいよ」

 

 最後の矢を弾いて、カリオストロは言った。

 後ろにいた立香達は首を傾げるが、少しもしない内にその疑問は解消される。

 青い粒子を散らしながら、すぅっと姿を晒す黒い弓を持った白髪の英霊。敵を視認した途端、けっとクーフーリンは吐き捨てるようにその英霊を睨んだ。

 

『霊基を確認した、アーチャーの英霊みたいだ。素直に姿を見せた理由は不明だけど、何か隠し玉があるかもしれない。皆気を付けて』

 

 ロマニの口調には不安が混ざっていた。

 

 「は、信奉者がノコノコと姿を表すとはね」

 「……ふん。信奉者になった覚えは無いのだがね。つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

 クー・フーリンの言葉に、アーチャーは淡々と応える。

 目の前にいる英霊が、話に出ていたシャドウサーヴァントだと分かったカリオストロは、常に動ける様にし相手を観察した。

 

 「お前、面白い芸当をするな。投影魔術でありながら、宝具すらも写し出すとは」

 

 消えていく壊された宝具を一瞥した後、警戒を解かず、されど軽い口調で白髪の英霊に話しかける。

 カリオストロは目の前の英霊の使う魔術を一瞬で見抜き、その異端さも直ぐに理解した。

 白髪の英霊は一瞬、むっ? と反応し皮肉気味の笑いを零す。

 

 「面白い、か。貴方程の英霊(じんぶつ)にそう言われるとは、いやはや私にも人を笑わせるだけの才はあるらしい」

 

 笑いに限らず、この言動はカリオストロに対しての皮肉を含んでいた。

 稀代のペテン師カリオストロ、彼の在り方は一部の歴史学科から道化と呼ばれていた。

 道化とはそれ即ち人を笑わせたりする者のこと、誇りある英霊ならば、己の生涯を道化呼ばわりされれば憤慨するであろう、しかし生憎とペテン師である彼は憤る事は無かった。

 が、英霊の言葉に多少なりとも思う所があったのも事実。へぇ、とカリオストロの目はすっと細められ、三日月に口を歪ませた。

 

 「言うじゃん。いいね。……その三流詐欺師の様なふざけた口、今ここで強制的に黙らせてもいいんだぜ?」

 

 空間が歪んで見える程の殺気が放たれた。

 殺気を向けられていない、後ろにいるマシュ達でさえ、重力が何十倍にもなったかのような倦怠感に襲われる。

 そこに恐怖が無かったのは、殺意の対象ではないからだろうか。傍に居たクー・フーリンでさえ汗が流れ出た。

 そして白髪の英霊は、己の生を否定されかのような、心臓でも握り潰されているかのような苦しさに襲われる。

 死んだ方が楽になると脳が訴える中、それでも踏ん張り続けているのは、英霊としての意地だ。

 

 「……なんてな。今ここで相手してやってもいいが、今回は役目が違うんでね。それに、贋作(偽り)のお前さんの方が、詐欺師(ペテン師)より余程面白いぜ?」

 

 途端に、殺意の呪縛から開放された。

 アーチャーは放たれた言葉に眉間をピクリと動かす。

 だが、目の前でヘラヘラ笑うカリオストロを見据える白髪の英霊は、その瞳に畏怖が宿っていた。

 これが世界で最も有名な英傑の力か、と。

 

 「んじゃ、ここ任せたぞ」

 「あいよ」

 

 くるっと身体を回転させ、英霊アーチャーから離れていく。

 そして、マシュ達の傍らにいたクー・フーリンの肩に手を乗せ短いやり取りをした後、カリオストロと立香一行はその場を後にした。

 

 「さてと、弓兵。いい加減、ケリを付けようや!」

 

 立香達が見えなくなるのを確認し、杖を構えアーチャーを見た。

 

 「いいだろう。私もいい加減、的当てには飽きていた所だ!」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 暗い洞窟を歩いていく。

 ジメジメとした中に不快な思いをするが、我慢をして一同は進む。

 結構歩いた筈なのだが、出口が見当たらず、どこかで道を間違えてしまったのではないかと心配になっていく。

 

『そう言えば、カリオストロの宝具ってなんなんだい?』

 

 唐突にロマニが切り出す。

 そう言えば教えてなかった、とカリオストロは思い出したようにポンと手を叩く。

 

「言われてみれば、まだ聞いてなかったわね」

「あ、確かに聞いてなかった」

「ドクターの言う通り、生き延びるのに必死で、肝心な事が抜けていました」

 

 カルデア三人娘は、それぞれの反応を漏らす。

 

「そうだな。俺も教えるのを忘れてた。俺の宝具は━━━━」

 

 カリオストロの口から説明された宝具、その効果を知った一同は今までに無い程、驚愕に顔を歪めた。反則すぎる、と。

 だが同時に説明されたその恐ろしい迄の燃費の悪さに、ロマニとオルガマリーは、この宝具は本当に窮地に陥った時に切るべきだと瞬時に判断する。

 大体説明し終えカリオストロは話を切り上げ、そして一同はこの特異点最後の戦いに歩みを進めた。

 

 

 

 

 




さすがカリオストロ先輩。所長の事で何か感づいている様子。
あまり深くは考えていないのですが、FCO(この番外編の略称)のヒロインは、強いて言うなら所長ですかね。
もしくは所長含める、マシュ立香のカルデア三人娘です。
そして、今年も作者作品共々宜しく御願いします。


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序章 〜始まりの朱〜 01━誕生

何となく思いついたネタ。続かない可能性が高いです。

※赤ん坊の泣かなかった理由が可笑しいとの事ですので、修正致しました。と言っても一部のセリフを消しただけですが。 2017年7月23日 10︰34


  円卓の騎士が一人『パーシヴァル』

 

 

 

  アーサー王伝説に登場する騎士の一人で、聖杯関連の話では最も有名な一人とされている。

  多くの国で、長い間語り継がれてきた為場所によってはパルジファル、パルツァファルとも呼ばれておりその名の意味は『谷を駆け抜ける者』とされている。

 

  物語によりその出生は異なるが共通して高貴な出生とされ、父にペレノア王あるいはガハムレトをもつ。大抵物語には母の名は出てこないが、重要な役割を担う事が多く、また彼の物語には家族として様々な人物が登場する。

 

  そんな彼パーシヴァルの伝説は簡単に説明すると、15歳迄成長したパーシヴァルは父の死後、母に連れられてウェールズの森に行き。

  パーシヴァルはそこで出会った騎士達に憧れて、自分も騎士になるべくアーサー王の元に向う。

  そして彼は自らを素晴らしい騎士であると証明できた事で、アーサーに騎士爵を授けられ円卓の騎士の会合に誘われて参加し、それによりパーシヴァルは円卓の騎士の一員となった。

  その後の有名な伝説(ストーリー)で、ギャラハッドとボールスと共に聖杯探索をし、色々ありながらも無事成し遂げる、と言う聖杯探索の話がある。

 

  その他にも伝説はあるが、そのどれもが円卓の騎士と、英雄だと呼ぶに相応しいものだ。

 

  しかし、聞く人が聞けば派手さに欠ける、武勇もなく、つまらないと言うだろう。

 

 ━━もし、もしだ。

  もしそんな英雄に武勇が加わったら、派手さがあれば、()()()()()()()()()()が違っていたら?

 

 

  これは本来とは違う世界線の英雄譚。

 

  これは、聖杯探索の英雄(騎士)『パーシヴァル』になった一人の男の物語。

 

 

 

 

 ━━━《誕生》

 

 

 

  人生に不満等無かった、かと言って満足した事も無い。

  ただ後悔なら少しだけあった、それは家族と喧嘩別れをした事だ。

  なら、今すぐに家に帰って謝ればいいと思うかもしれないがそれは出来ない、したくても出来ないんだ。

  もう死んでるから……違うな、もうすぐで死ぬからが正解か。

 

  目の前には赤い血溜まりと力が入らなくて上がらない腕、手の中にはコンビニで買った昼飯─と言ってもサンドイッチ等の軽いものだ─が。

  耳には悲鳴をあげる周りの女性達の甲高い声と、自分に呼びかけてくる低い男性達の声。

  体に痛みはあるが、意識が朦朧としてきたから殆ど感じない。

 

 ━━静かにしてくれ、これじゃ寝られない。

 

  そう言おうとしても、口は碌に動かず出る言葉と言えば「あ」や「う」などの呻き声だけ。

  いっそ笑えてくる、いや笑える程余裕では無いのだが。でも、どちらにせよこのザマじゃ謝るなんて到底出来っこない。

 

 ━━もういいや。

 

  謝りたいけど出来ない、ならもういいや。

  買った飯が食いたいけど出来ない、ならもういいや。

  周りがうるさいけど黙りそうにない、ならもういいやこのまま寝てしまえ。

  重くなった瞼をそのまま閉じて俺は長い眠りに着いた。

 

 

 

 「続いてのニュースです。今日午後12時20分ごろ、〇〇市〇〇町の国道12号十字路交差点で、徒歩で横断していた同市の成人男性、幸村時雨さん(21)が信号を無視してきた乗用車にはねられ、全身を強く打ちその場で死亡しました。また━━」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

  暗い闇の中から引っ張られる感覚がする。

  意識が徐々に覚醒していく感覚が湧き上がってくる。自分はまだ寝ていたいのに、そんな考えとは裏腹に体は段々と目覚めていく。

  仕方なく目を開けてみると目の前にポツンと小さな光があり、それは徐々に強さを増し大きさを広げて近づいてくる。

  光が強くなり過ぎて堪らなくなった『彼』は、目を閉じるとそれと同時に言い知れぬ開放感に包まれた。

  気になって目を開けてみると、目の前には『彼』を抱き上げる老婆とその近くには汗まみれで涙を流す女性がいた。

  なんだこれ、と理解が追い付かず辺りを見ていると老婆と女性は話し始める。

 

 「お(ババ)様この子泣いてないわ!」

 「……不味いさね、泣かない赤子は弱っている証拠さ」

 

  何を言っているのか『彼』にはさっぱりだった。

 それも当然、彼女らが話しているのは日本語ではないからだ。

  では何処の言葉なのか、そう聞かれも答えることは不可能だった。

  『彼』は純日本人で海外にも数回しか出た事が無いような人間だ、そもそも英語も得意ではない。そんな『彼』が女性達の話している言語を理解出来るはずもない。

 

(まて、それ以前に俺は死んだんじゃなかったのか?)

 

  数分して漸く自分の置かれた奇怪な状況を理解し始める。

  自分は確か事故にあって、そのまま救急車も間に合わずに息を引き取ったと思っていたのだが違うのだろうか? そんな疑問が脳内を駆け巡る。

  しかし、どう考えても今の状況に至る様な過程が思い付かない。

 

(あれ、そもそも何故この老婆は俺を抱えていられるんだっ!?)

 

  混乱が混乱を呼ぶ。

  自分は身長もそこそこあり、平均男性より少し筋肉質だ、体重もそれなりになる筈だが何故だかこの老婆は自分を抱き上げている。

 

 「お願いだから泣いて……」

 

  赤ん坊の傍らで、女性が祈る様に手を組み声を絞り出す。

  そんな女性に対して赤ん坊の『彼』は、もはや混乱し過ぎて何が何だか分からなくなっている。

  すると手が目に映った、小さく赤子のような手だ。

  右に動かしてみる、……動いた。左に動かしてみる、……動いた。

 

 「ちっ! こうなりゃ仕方ない、力技だよ!」

 「お(ババ)様何をっ!?」

 

  赤ん坊を挟んで老婆と女性が騒いぎ、何故か老婆は赤子を肩に担ぎ手を振り上げているが『彼』に気にする余裕など無い。

  この小さい手は間違いなく自分の意思で動いている、それが分かった瞬間だった。

  生前は色んなサブカルチャーに手を出していた『彼』はそれだけで自分の状況を理解したのだ。

 

(おいまさか、これって! これって転……!?)

 「フンッ!」

 

  バチーンッ! と大きな音が響いた。

 

 「おっ、オギァァアアッッ(いっ、いってぇぇええっっ)!!!」

 「泣いた!」

 

  先程とは打って変わって大きな声で、オギャアオギャアと泣き続ける赤ん坊を見て女性は涙を流し始める。

 

 「良かったさね、これで泣かなかったらどうしようもなかったけど……。この様子を見るにもう大丈夫さね」

 

  良かったと何処か安堵した様子の老婆は、女性に赤子を渡す。

 

 「うん……うん、ありがとうお(ババ)様……。ありがとう生まれてきてくれて、ありがとう、ありがとう……」

 

  女性は泣きながら、消えてしまいそうな弱い声でありがとうと言い続けた。

  そんな親の気持ちを知ってか知らずか、赤ん坊は泣き続ける。

  女性と老婆からして見れば、まるで自分の存在を主張するようにそれでいて親を励ますかのように。

 

 「オギャア、オギャ、オギャアァア(いてぇ、ケツ痛てぇええ)!!」

 

 まぁ実際は違うのだが……言わぬが花だろう。

 

 「まだ泣き続けて、ホント元気なこさねぇ。所でアンナこの子の名前はもう決めてあるのかい?」

 「ええ、決めているわ」

 「ほう、なんて名だい?」

 

 

 「パーシヴァル。パーシヴァルよ」

 

 

 「フフン、それはいい名だねぇ」

 

 こうして、後に最優にして最強と謳われる伝説の騎士『パーシヴァル』は誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




変な所や誤字脱字がありましたら報告お願いします。


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02━邂逅

駆け足です。
長くなるとやる気がなくなるので……

※ほんの少し加筆しました。7月15日(AM0︰09)



 「ハァ、ハァハァ」

 

 深い森の中を一人の少年が駆け抜ける。

 木々の葉と葉の間から入り込んだ木漏れ日は、その特徴的な薄い赤色の髪を照らす。

 少年の先には、普通より一回り大きな兎が走っている。

 

 「クソッ速い! けど……」

 

 ニヤリと口角をあげる。

 少年はただ追いかけていた訳では無い、ある場所へと誘導しながら走っているのだ。

 

 「━━っ!?」

 「かかった!」

 

 地に足をつけて逃げていた筈の兎は、いきなり視界が反転して体が浮き上がった事に驚きジタバタと暴れている。

 その宙に吊るされジタバタと足掻く兎を見ながら、この罠を仕掛けた少年はヤッター! と手を挙げながら喜んでいた。

 罠に上手く誘導できたのもそうだが、何よりこの後の昼食の品が一つ増える、その事が嬉しくてたまらないのだ。

 

 「はは、母さんも喜ぶぞ」

 

 吊るされた兎を逃げないように下ろし、苦痛なく死ねるよう首の骨を折る。

 こうして手に入れた食料を、母の喜ぶ姿を思い浮かべながら肩に担いで、少年パーシヴァルは自分の母が待つ家に帰った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 「ハッ! ヤッ!」

 

 昼食を終えた昼下がり頃、赤髪の少年パーシヴァルはウェールズの森に来ていた。

 目的は剣の修練をする為、今も手に持つ身の丈より少し大きい剣を上から下へ、右から左へと規則性もなく降っている。

 

 「……ふぅ」

 

 暫くして、一度休息を取って剣を立てかけ木陰に座る。

 

 「色んな事あったな……」

 

 ふと、この世界に来たばかりの頃の出来事を思い出す。

 生まれ変わってから、早いものでもう12年経つ、その間に自分は随分と変わったと言えるだろう。

 生前での後悔故か、まず今の母親に優しくなり最初は渋々手伝っていた狩りや農作業が、今では楽しくなっている。

 

 それだけではない、魔法や人を殺す害獣の事を知ってからは護身術に剣を始めたりもした。

 パーシヴァルの母は護身術とは言え、彼が剣を持つ事に非常に猛反対していたが、それを一週間かけ何とか説得したりもした。

 

 他にも年寄りが多いこの村を豊かにする為に、生前で習った、覚えた知識を絞ったりして大変だけども充実した日々を送っている。

 

 「魔法使いたいなぁ」

 

 ふと、唐突に思った。

 無理な事は分かっている。

 この村には魔法を使えるものなど居らず、教えてもらう事など出来ない。

 いやそれどころか剣もまともに扱える人すら居ない、でなければ自分はこんな所で、一人で寂しく修練等していない。

 だがそれでも、魔法に憧れるのは仕方ないだろう。男とはカッコイイものに惹かれる生き物だ、ましてや魔法のマの字すら存在しないような世界で育ったなら尚更。

 

 「やるか……」

 

 魔法の事は一旦忘れて修練を再開する。

 剣を構え、目の前に敵が居る事をイメージし、そして腕を振り上げ一気に下ろす。

 下ろしきった剣を再び前に持っていき構え直す、これの繰り返しだ。

 そんな事をパーシヴァルは日が暮れるまで、飽きもせず淡々と続けた。

 

 

 その帰りだった。パーシヴァルは剣を肩に担いで家に帰る為に歩いてると、一人うつ伏せになりながら倒れている奇妙な格好をした男性を見つける。

 大変だ! と急いで近寄って頬を軽く叩き大丈夫か、と声を掛けた。

 

 「ん、んん……あいたた、ここは……」

 

 男性は呼び掛けに反応して目を覚ますと、むくりと起き上がり周囲を確認する。

 起き上がった事にパーシヴァルは良かったとホッと安堵した。

 

 「う〜ん、随分と遠くまで飛ばされたなぁ」

 「なぁアンタ大丈夫か?」

 「うん? ああうん。大丈夫だよ。ありがとう」

 「いや、礼はいいよ。それより何で倒れてたんだ?」

 

 話しながらも目の前の男を少し観察する。

 上を白い着物で揃え羽織っているローブも白、下は黒色のズボンだが、髪も白髪でどんだけ白色が好きなんだと言いたくなるような奇妙な服装だ。

 そして、何より気になるのは変な形の杖だ。その格好も相俟ってまるで魔法使いの様だ。

 

 「用事で出掛けた先で揉め事があってね」

 

 どう言う揉め事があれば森で倒れるような事になるんだ、そう言いそうになったが我慢した。

 出会ったばかりの相手にいきなりツッコむと言う失礼な事はしない、それがパーシヴァルだった。

 

 「へぇ……ところでアンタ、この後の当てはあるのか?」

 

 この森で倒れているような奴だ、恐らく寝床に困っている筈、そう考えたパーシヴァル。

 パーシヴァルは男に聞くと、案の定白髪の男は無いよと即答し、いやぁ困ったなぁと、パーシヴァルをチラチラ見ながら実に白々しく言う。

 

 

 「ハァ……まぁいいや、なら俺の家に来ないか?」

 「おや、良いのかい? どこの誰ともしれない私を家に上げても、何か悪い事をするかもしれないよ」

 

 白髪の男は態とらしい顔でニヤリッと笑ってみせる。

 脅しているつもりなのかも知れないが、見た目のヒョロさやその優しい声のせいで全く怖くない。

 

 「本当に悪い事をする奴はそんな事は言わないさ。それに宛のない奴を放置出来るほど堕ちちゃいないんでね」

 「そうか、ありがとう少年君」

 「どういたしまして、あと少年君はやめてくれ。俺にはパーシヴァルって名前があるからそう呼んでくれ」

 「うん分かったよ。改めてありがとう、パーシヴァル」

 

 そう言って先程とは違い今度は、ニッコリと笑って白髪の男は感謝を述べた。

 

 「そうそう、名前を教えてくれ。ずっとアンタ呼びじゃ失礼だからな」

 

 パーシヴァルがそう言うと、白髪の男そう言えばと今気付いたように自己紹介を始める。

 

 「私はマーリン。人呼んで花の魔術師。気さくにマーリンさんとでも呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」

 

 こうして人類史に名を残す事になる二人の英雄、花の魔術師(マーリン)未来の円卓の騎士(パーシヴァル)は邂逅した。

 

 

 

 




主人公の宝具は別の伝説から持ってこようかなぁ何て思ってます。
まぁ宝具が出てくるまで続けばの話ですが。

あと、主人公は魔法と魔術の違いがまだ分かっていません。

……評価や感想くると嬉しいなぁなんて……


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03━マーリン

微睡みの中書いたから、何処かおかしいかも。
矛盾誤字脱字等ありましたら報告お願いします。


 「ほらほら、ちゃんと躱さないと直撃しちゃうよ」

 「く、はっ、あ、あっぶね!」

 

 四方八方から迫り来る、マーリンの魔術で出来た光の球。それを避ける避ける、死ぬ気で避ける。

 そんな避けているパーシヴァルを見れば、滝のように流れ出た汗でビッショリと濡れており、吐き出す息も荒くなっている。

 もうかれこれ修行を始めて半日、その間に飯を食う為の休憩しか無く、動き続けていればこうなるのも納得だ。

 

 では、何故このような状況になったか。それを説明するには、今日の早朝に遡る必要がある。

 

 と言っても、語る程の出来事が起きた訳では無く。

 強いて言うなら、パーシヴァルの日課である朝食前の修練にマーリンが面白半分に手を出しただけの事。

 それだけの事なのだが、段々とマーリンのちょっかいはエスカレート。

 初めは横で好き勝手言って邪魔する程度が、意に介さないパーシヴァルを見て、次第に直接邪魔してくるようになった。

 気が付けば、『マーリンと修行』の状態になっていた。

 

 「避けてばっかりじゃ、これは終わらないぞ」

 

 パーシヴァルを狙う光球が数を増やしていき、身体をかすめてくる。

 少しづつパーシヴァルに小さな傷が蓄積されていく。

 

 「ぬあっ!」

 

 必死の形相で光球に当たらぬ様回避をする、がそれでも避けきれぬものは手に持つ剣を盾に使い、僅かなダメージを覚悟で弾く。

 

 「━━ぬぐっ!?」

 

 脇腹に光球が当たる。

 防御で一方を防ぐと同時に、もう一つが横から高速で突っ込んで来たのだ。

 激痛が体を伝う。苦痛によって生じた硬直、それを見逃す程マーリンは甘くは無かった。

 パーシヴァルを囲む様にして、空中で常に動き回っていた光球全てが雨の如く降り注ぐ。

 

 「ア、ガァア”ァッ!!」

 「おや、ここまでのようだね」

 「ぐ、くそったれ……」

 

 地に這いつくばり、笑みを浮かべるマーリンを見上げる。

 次こそは……次こそはその透かした顔を歪ませてやる、そう心に決めて暗闇に身を任せた。

 

 「ふむ、これはなかなか」

 

 剣を握り締めながら、気絶したパーシヴァルを面白そうにマーリンは見ていた。

 今彼の胸中は、新しい玩具を見付けた子供のように舞い上がっていた。

 理由は目の前で倒れているパーシヴァルだ。

 

 最初こそ、暇だからと言う理由で修練の邪魔していたのだが、邪魔する際に垣間見た彼の隠れた才能。

 間違いなく目の前の少年は自分、引いては己が仕えている王に影響を与えるそんな存在に成り得る、理性ではなく『育てる側』の本能が直感が、そう理解した。

 そこからだ、段々とパーシヴァルの修練を手伝っていたのは。

 

 「うんうん、これは面白くなってきたぞぅ!」

 

 どう転ぶかは分からない、マーリンの持つ千里眼は現代を見渡すものであり未来を見るものでは無い。

 しかしだからこそ、胸踊るものがある。願わくばこの出会いが自分の望む『ハッピーエンド』になってくれる事を。

 そう期待しながら、眠る少年を起きるまで眺めていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「うぅ、まだ身体が痛い」

 

 動かす度に身体の節々から鈍い痛みが走り、口を尖らせてごねる。

 対して横にいるマーリンは相変わらずニコニコと、パーシヴァルからしたら腹の立つことこの上ない顔で、まぁまぁと微笑んでいる。

 気絶から覚めたパーシヴァルとマーリンは現在、家に帰って夕食を済ませパーシヴァルの部屋で寛いでいた。

 

 「にしても君は意外と非常識だなぁ。剣で害獣を討伐しようとしているなんて」

 「違うって、飽く迄護身術の為だ」

 「だとしてもだよ、特殊な力がある剣ならまだしも。唯の剣だけで身を守ろうとする事が可笑しい」

 

 マーリンの言葉を聞いてパーシヴァルは少しムッとする、自分のやってる事など無意味だ、そう言われている様に聞こえたからだ。

 事実、マーリンの言い分は正しかった。神代程では無いにしろ、この世界は神秘で溢れている。

 そんな場所には当然普通の害獣など少ない、逆に魔猪等の魔物が多い時代なのだ。

 手練の武人ならまだしも、何の力もない少年が、そんな物相手に剣で何とかしようとする方が間違っている。

 

 「それに普通なら、護身術を覚えようとはしない。そんなもので立ち向かうより、逃げる方が助かる可能性が高いからね」

 

 元々出会うような場所に行かないのが一番だ、と最後に付け加える。

 

 「……えぇ、じゃあ俺のやって来たことは無駄だったって事かよ……。マジかぁ」

 

 マーリンの言葉に気を落とす。

 何年も続けてやってきた修練が、この世界では気休めにもならないと言われたのだ。

 落ち込むのも当然だろう。

 それでも落胆が少ないのは、パーシヴァル自身薄々気付いていたからだろう。

 

 「はぁ……鬱だ。もう寝よう……」

 

 マーリンに言われて、修練を続けるべきかどうか、もし辞めた場合、今後何をするか。

 考えれば考えるほど、悲しくなってくるため思考を振り払って、夜具を用意して睡眠に入ろうとする。

 

 「パーシヴァル」

 「あぁ? なんだよ」

 

 折角微睡んできた所でマーリンが自分の名前を呼び、仕方なしに起き上がる。

 マーリンを見ると真剣な顔をして、こちらを見据えていた。

 

 「これは、提案なんだが。もし、君さえよければ私が鍛えてあげよう」

 

 何を言うかと思えば、パーシヴァルはそう心で言いながらその発言の意図を聞いた。

 

 「なんだよ急に、鍛えるって。それに剣を鍛えたって意味がないって言ったのはお前だろ?」

 「うん、確かに意味が無いよ」

 「じゃ……」

 「けれど」

 

 言いかけたパーシヴァルの言葉を遮りマーリンは続けた。

 

 「けれどそれは、君一人で修練を続けていた場合だ。私が君に手解きをすればその限りではないよ。こう見えても私は、かのアーサー王の剣術の師匠なんだからね」

 

 どうだと言わんばかりに微笑むマーリン。

 それを聞いたパーシヴァルは。

 

 「マジか、……それって凄いの?」

 

 これだった。

 マーリンがあの伝説の魔術師という事には何となく気付いていた、そしてどんな事も出来る凄いやつだと言うことにも。

 アーサー王伝説を読めばマーリンの凄さなんて分かる、分かるが……それは飽く迄も魔術師としてだ。

 剣術を扱えるなんて聞いたことないし、そもそもマーリンの言うアーサー王自体どのぐらい剣達者なのか知らない、なのにそんな事を言われても、どう反応していいのか困るのだ。

 

 「なっ!? ……君もしかしてアーサー王を知らないのか?!」

 「いや、アーサー王は知ってるよ。そしてお前がその王様お付の魔術師って事も。けれどなぁ、魔術師に魔法じゃなくて剣術教えてあげるって言われても」

 

 尤もであった。

 少し考えてみてくれ、もし国語の先生にいきなり「今日は数学の授業をしよう」と言われたら。

 出来ない事は無いだろう……だろうが、数学の教師より上手に授業出来るか、と言われれば首を横に振らざるを得ない。

 そもそも、アンタ国語の教師なんだから国語を教えろよと普通は思う。

 パーシヴァルからすれば、まさにマーリンは国語の時間で数学を教えようとする国語教師そのものだった。

 

 「ああそれは確かに、うん」

 

 パーシヴァルに、言われて自分がどう思われているのかを理解し始める。

 

 「確かに私は魔術師ではあるが、何方かと言えば剣術の方が得意なんだ」

 「は、は? なんだよそれ魔術師が魔術よりも剣が得意だなんて、頭可笑しいだろうが」

 「いやぁ、だってほら詠唱って噛んじゃうだろ? それにそんな事よりも、剣で叩く方が早いじゃないか」

 「じゃあ、何で魔術師やってんだよ」

 

 魔術では無く、剣を使う。

 それは魔術師と言えるのだろうか、それに詠唱を噛むからと言う理由で魔術を使わないとは、世の中の魔術師に中指立てて馬鹿にしている様なものだ。

 パーシヴァルは無性にマーリンの顔面を殴りたくなった。

 

 「まぁまぁ、取り敢えず騙されたと思って明日私の修行を受けてくれ」

 「……分かったよ」

 

 どうあがいても今の自分だけでは成長しない。

 それならばダメで元々、マーリンの言う通り騙されたと思いながら修行を受けてみるのも一つの手だ。

 どうなる事やら、不安に似たけれども違う何かが、胸の中で燻るのを感じながらパーシヴァルは深い眠りについた。

 

 

 




駆け足駆け足


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04━修行

意外と続くなぁ。

感想や評価が作者のモチベーションアップに繋がります。
くれると狂喜乱舞します。
来たら多分、発狂して山葵を友達の穴という穴に突っ込むと思います。



 顔を見せたばかりの陽の光が森を照らし、鳥のさえずりが音楽を奏でる早朝。

 森の中でパーシヴァルとマーリンは、相対するようにして立っていた。

 パーシヴァルの手には既に、鞘から抜かれていた剥き身の剣が握られていた。

 

 「さて、まずは見切りから始めようか」

 「おう、で何を……!?」

 

 言い切る前に高速で何かが飛来してきた。

 咄嗟に反応し、身体を捻る事で何とか避けるがバランスを崩し、尻餅をついてしまう。

 

 「いきなりなんだよ!」

 「不意打ちをしたつもりだったけど……流石、なかなかの反射神経だね」

 

 吠えるパーシヴァルを無視して、純粋にその能力の高さに感心する。

 今飛ばしたのは、昨日使っていた魔力で出来た光球だ。殆ど同じ代物だが、その速度は昨日の比ではなく、状況によっては円卓の騎士達ですら直撃してしまう速さだ。

 パーシヴァルはそれを、己の純粋な能力だけで、不意打ちにも関わらず、避けたのだ。

 偶然では無い、でなれば器用に体を捻って避けるなどという事は出来ない。

 それだけでマーリンが、感心するには十分だった。

 

 「たく、やるならやるって言えよな」

 「ごめんごめん。次からは言うから」

 

 言葉だけの謝罪をし、さっさと修行を行おうとするマーリン。

 お巫山戯も程々に、二人は本格的な修行を開始した。

 

 基礎訓練に始まり、体裁き、歩法、体術、光球を使った見切りや避け、そして剣術。

 マーリンは、全てにおいてパーシヴァルが付いてこれるギリギリを見極め、程よい難しさで教えていた。

 そんな事を続け、気が付けば辺りは暗く影が差し込む日暮れ時だった。

 

 「……ゼっ、ハァ……ハァハァ……うっ……」

 

 バタリっ、とその場に仰向けに倒れる。

 あまりの疲労から、視界は少し霞み呼吸も乱れている。

 その赤色の瞳に映る暁の空は、修行に没頭し忘れてた時間の経過を知らせた。

 

 「お疲れ様、さて帰ろうか」

 「ちょ……ハァ、まっ……て、俺う、動けない……」

 「うん、少しだけね」

 

 それから数分、息を整え二人は家に帰った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 日が昇り、外から光が入ってくる。

 普段ならこの時間には既に、パーシヴァルは起きているのだが現在は寝たっきりだった。

 否正確には、目は覚めている。

 この世界に来てから、規則正しい生活を送っていた為早寝早起きの習慣が身に付いているのだ。では何故起き上がれないのか答えは簡単、筋肉痛だ。

 それも重度の。

 

 「やぁパーシヴァル、おはよう」

 

 そこへマーリンがやって来る。

 手を見れば、朝食であろう食べ物を持ちながら寝ているパーシヴァルの傍らへ座った。

 

 「全身が痛すぎる、魔術で何とかしてくれマーリン」

 

 首すら動かせないパーシヴァルは、視線だけをマーリンに向けて助けを求める。

 

 「うーん、生憎痛みを和らげる事なら出来るけど、それ以上は出来ないよ。回復の呪文、長くて半分忘れちゃったし。それは夢の中でも言っただろう?」

 

 昨晩、就寝したパーシヴァルの夢にマーリンは出てきた。

 寝ている間には武力ではなく、知識を授ける為だ。

 そして昨夜教わったのは魔術や神秘の事、その際にパーシヴァルはマーリンから出来る事出来ない事を教えて貰っていた。

 

 「く、使えない奴め」

 「はは、ホント役立たずでごめん」

 

 パーシヴァルのマーリンに対する態度が段々と辛辣になっていく。

 まぁ修行での疲労と今尚続く痛み、それの原因が笑顔で悪びれる様子もなく、どころか楽しんでいる節があるのを感じればそうなっても可笑しくない。

 

 加えてマーリンは呪文を忘れたと言っていたが、これは恐らく嘘だ。

 目ががそろそろ覚める頃に夢でマーリンは、「痛みを覚え慣れる事も大事だから」、と唐突にそう言っていた事をパーシヴァルは覚えており、その時は意味がわからなかったが今になって理解し、沸沸と怒りが湧いてきたのだ。

 

 「まぁいいや。痛みを和らげる事は出来んだろ? ならそれで十分だ、少しでも和らげば多少は動けんだろ。やってくれ」

 「いいけど……もしかして今日も修行をするつもりなのかい?」

 

 その物言いから、パーシヴァルが修行を行おうとしているように聞こえたマーリンはそう聞いた。

 どうせ筋肉痛で動けないだろうと、そう思い今日だけは休ませようと思っていたマーリンには、まさか痛みの中修行をしようとするとは予想外だった。

 

 「そりゃ、修行なんだから殆ど毎日続けなきゃ意味が無いだろ? ならするさ。それに一昨日は何だかんだ言ってたけど、実際に体験してみて、本当に強くなれる気がしたんだ。だから、今日も頼むぜマーリン」

 

 明るい笑顔を浮かべ、言い切るパーシヴァル。

 マーリンはそんなパーシヴァルに少し、驚きを見せるも答えるようにして頷いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 高速で接近する無数の光球、それを見切り剣でいなし、避け、夢で教わった魔力放出で弾き飛ばす。

 それでも光球は数が減らず、更には変則的な起動を描きながら突っ込んできた。

 

 「ぐっ!」

 

 避けきれず一つが腹に入り、吹き飛ばされる。

 パーシヴァルは動く度に感じる痛みと、今受けた痛みの両方を歯を食いしばり耐え、すぐさま起き上がった。

 

(もう既に、教えたばかりの魔力放出を扱えるようになったのか、本当に凄い才能だ。……いきなり魔術回路を使った痛みもあるだろうに)

 

 パーシヴァルには、もはや痛みなど気になっていなかった。

 耐えられる程度の痛みなど気にするだけ無駄と割り切り、ただ被弾しないように回避行動に集中をする。

 

 見切りと回避の修行は二時間ほど行って終了した。

 その間に僅かな休息を入れ、それが終わるとさっさと次の修行を始める。

 それの繰り返し。

 そして昨日と同じように、気が付けば空は赤く染まっていた。

 

 「あたたた、久々の運動はこたえるねぇ」

 

 剣術の修行で、マーリンは本日から直々にパーシヴァルを相手しており、全く運動してこなかった体に響いていた。

 因みに昨日の剣術では、基礎的な事しか教わっていなく実戦的なのは今日から行っていた。

 

 「……ぜ……ハァハァ……」

 

 自分の手で腰を叩くマーリンの横、パーシヴァルは死にそうな顔をしていた。

 

 「辛そうだね」

 「ば、辛い……ハァ、って、もん……じゃねー」

 「大丈夫大丈夫、いずれ慣れてくるよ」

 

 笑い言うマーリンの顔を見ながら、答える余裕が無いのかパーシヴァルは無言のまま剣を杖に使い、家路に付いた。

 

 

 ━━そんな修行漬けの日々を数ヶ月、パーシヴァルは続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




駆け足駆け足……

次回はパーシヴァルと母親の話。

それにしても、自分で読み返して文に違和感を感じる。気のせいだといいなぁ。

という訳で変な所がありましたら報告お願いします。


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05━母の想い

面白そうな作品を探していたら、何とルーキーの方でランキングに載っていました。

これも皆さんのお陰です。
こんな作者と作品ですが、良くなるよう精進しますので、今後ともよろしくお願い致します。

あと、花笠肴様 サカヤ様 ひまじ〜ん様ご評価ありがとうございます。


パーシヴァルの母親について分からないことがあったから、捏造しちゃったけど、大丈夫だよね! タグにあるもんね!



 ━━私があの人の子供を宿した時から、何れこうなる事は予感していた。

 

 私の前に座り、真剣な眼差しを向けてくる赤髪の少年。

 私の愛しい子、パーシヴァル。

 

 

 思えばこの子は、言葉を話し始める小さな頃から何処か、遠くを見据えていた。

 走り回れるようになってからは、頻繁に森に行っては遊び。

 危険だから、と諭しても目を離した隙には森にいる。そんな事を1年も続ければ、私も折れざるを得なかった。

 最終的には、条件付きで森に行くことを許可するとパーシヴァルは目に見えて喜んだ。

 

 その翌年、剣を手に森に行くパーシヴァルを私は見かけた。

 慌てて私はその後を追いかけると、ひたすらに剣を振り続ける我が子を見つけた。

 その姿を見た私は、パーシヴァルに一つの影が重なるのを感じた。

 

『ぺリノア』

 

 嘗て私が愛した人。

 あの人は女好きで、私以外にも妻を持っている。

 そんな人を愛しても、向こうから与えられる愛は高が知れている。

 女としての真の喜びを得られない、女の喜びとは愛した男を独占する事。

 それが出来ない事を承知で私は、あの人を愛しその子供を宿した。

 

 でも結局、私があの人と添い遂げる事は不可能だと理解……いえ改めて分かって。

 あの人の元から去り、自分の村に帰ってきた。

 それからパーシヴァルを産むにあたって、ある決意を決めた。

 それは、パーシヴァルを『騎士』にしない事。

 私は如何しても、これから生まれてくる子が、騎士となりその騎士同士の軋轢や因縁に息子が巻き込まれるのが嫌だった。

 

 ……だから、剣を振るうパーシヴァルを見た時は酷く動揺した。

 

 ━━何故? どうして? なんであの子は剣を持っているの?

 

 気付くと私は、パーシヴァルから剣を取り上げ叱っていた。

 聞けばこの剣は、お婆様から貰ったものだと言う。

 全くお婆様も余計な事を、前から私の教育方針は言っておいた筈なのに。孫のように可愛がってるお婆様の事だ、パーシヴァルにおねだりされて、仕舞ってあった剣をあげたに違いない。

 一人でそう納得すると、今後は一切剣に触れないように言い聞かせた。

 

 だけど、そんな事で諦める我が子では無かった。

 次の日には私が隠した剣を探し回って、見つからないと分かると必死に私を説得に掛かった。

 朝昼晩、ご飯時も就寝時も関わずひたすらに説得しにくるパーシヴァル。

 そんな事が暫く続き、またもや私は折れる事となった。

 パーシヴァルの熱意に押されてか、それとも単に私が甘いだけなのか、定かではないが。

 嬉しそうに剣を持つあの子を見て、何処か腑に落ちる自分がいた。

 

 

 

 ━━━━それから数年後、成長したパーシヴァルはあの子の運命を決定付ける、一人の魔術師を連れてきた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 夕焼けの空が一面に広がる見慣れた光景。

 その空の下で、パーシヴァルとマーリンは修行を終え、少し休んでいた。

 

 「ハァ……ハァ……あ“〜辛れぇ」

 

 パーシヴァルの息は上がっているものの、ここ数ヶ月で体力が付き僅かばかりの余裕が感じれる。

 勿論、体力だけでなくそれに比例して戦闘技能や魔術知識も相応のものとなっていた。

 

 「お疲れ様。にしても随分と成長したね。たかだか数ヶ月でそこまでになるなんて、正直に予想外だったよ。」

 

 マーリンの言う通り、パーシヴァルの成長は目を見張るものだった。

 確かな才能があったとは言え、それを抜きにしてもパーシヴァルの今の力は、妥協する事無き、絶え間無い努力の賜物であろう。

 円卓の騎士程ではないが、それに迫る実力がパーシヴァルにはあった。

 

 「……パーシヴァル」

 

 何時に無く、真剣な眼差しでマーリンはパーシヴァルを見ていた。

 その顔は笑っているものの、感じられる雰囲気はそれとは真逆の真面目なものだった。

 

 「なんだよ」

 「私は数ヶ月、ここに滞在し君を鍛えてきた。だけど、それも今日迄だ。いい加減戻らないと、アルトリア……アーサー王にどやされてしまうからね」

 

 実はそんな事は無く。

 キャメロット城にいるアルトリアは逆に、マーリンと言うある意味での疫病神(トラブルメーカー)が居ない事で、少し清々していた。

 と言っても、マーリンがアーサー王付きの宮廷魔術師なのは事実。

 数ヶ月も空けていたのだ、いい加減城に戻らなければ、アーサー王は魔術師マーリンに見放された等と噂を立てられ権威に関わる。

 

 「ふうん、で?」

 「意外と軽いな君は!」

 

 あまりの素っ気ない態度に、マーリンは大声を出してしまう。

 

 「要するに、そろそろ帰らないと王様に怒られちゃうよー、って事だろ?」

 「うん、それであっているよ」

 「で、いつ出るんだよ」

 「明日の朝かな」

 「そりゃまた、随分と急なことで」

 「そう急だ。明日の朝、君が起きた時には私はいないだろう。━━そこで私から君に、言いたい事がある」

 

 パーシヴァルとの会話で緩みかけていた雰囲気を、一息ついて元に戻す。

 

 「言いたい事か……なんだ今更、魔術師らしく予言でもしようってか?」

 「……そうだね、ある意味でこれは予言だ」

 

 マーリンが真面目な空気を解かない事から、その真剣さが伺える。

 それを察したパーシヴァルは、今度こそ黙って花の魔術師(マーリン)言葉(予言)を待った。

 

 「幼き赤髪の剣士パーシヴァルよ、旅に出なさい。陸を歩き、海を渡り、人と関わり、世界を知りなさい。それが君を、高みへと押し上げる」

 

 語るマーリンの顔からは、一切の笑みは無く。

 それはまさに、魔術師と呼ぶべき一面だった。

 

 「……」

 

 パーシヴァルは黙って聞いていた。

 何か考えるでもなく、何か思うでもなく、ただただ黙って聞いていた。

 

 「じゃあ堅苦しいのはこれで終わり、柄でも無い事はするべきじゃないなぁ、……さて帰ろうか」

 「……」

 「ん? どうしたんだいパーシヴァル?」

 

 柄でもない事をしたせいか、少し気疲れしたマーリンはそうそうに帰ろうとするが、黙ったまま動かないパーシヴァルを変に思い立ち止まる。

 

 「我が師、魔術師マーリン」

 

 今度はパーシヴァルが、柄になく真面目にそう言った。

 

 「……なんだい?」

 

 マーリンもそれに答える。

 

 「俺は、貴方に恩を返したい。俺が強くなれたのは貴方のお陰だ。……何か出来る事は無いだろうか?」

 

 驚愕に目を見開く、まさかこの子からこんな事を言い出すとは。

 マーリンからの主観でパーシヴァルと言う少年は、そんなに義理堅い人物ではなかった。

 確かに恩を仇で返す様な子では無い、しかし他人から求められなければ、その恩を返す様な事はしない子の筈だった。

 それだけ、パーシヴァルは強くしてくれたマーリンに恩を感じているという証拠だった。

 

 「どうしたマーリン?」

 

 固まったマーリンに問いかける。

 

 「あ、あぁ。何でもないよ。そうだね、ならば君が旅をして成長した時━━━━我等が、円卓の騎士に入ってくれないかな?」

 

 旅の最中、夢に出ては勧誘に誘おうと思っていたのが、向こうから申し出てくるとは、マーリンに取っては僥倖の極みだった。

 それに、元々はその為にこの子を鍛えて居たんだし、とそう心の中でマーリンは呟く。

 

 「承知した」

 

 そう言ったパーシヴァルを見ながら、マーリンは喜んでいた。

 パーシヴァルがいずれ、円卓の騎士になる事を誓ってくれた事、それが嬉しかった。

 そして使い捨てではあるが、この『歓喜』と言う感情はやはりいいものだと、そう思いながらマーリンはパーシヴァルと家に帰った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 さて、パーシヴァルが旅に出て、騎士になる為にはまず乗り越えなければいけないものがある。

 それが、母親だった。

 その教育方針から、騎士どころかそれに僅かでも関する話をしたがらない母を、パーシヴァルはどうにかしないと行けなかった。

 

 そこで、パーシヴァルは母親を説得する為、早朝マーリンが居なくなった事を確認すると母親の部屋に向かった。

 

 そして話は冒頭に戻る。

 

 

 「頼む母さん!」

 

 パーシヴァルは、目の前に座っている母親に土下座をしていた。

 この時代に土下座何てものは無い為、誰も知らないのだが母のアンナは例外だった。

 

 「もう土下座はやめなさい!」

 「嫌だ! 認めてくれる迄やめねぇよ!」

 

 小さい頃から、アンナを説得する為にパーシヴァルは土下座を行っていた為、アンナも土下座の意味は知らずとも、それがどう言うものであるかは何となく理解していた。

 

 「ぐぬぬぬっ」

 「ぬぐぐぐっ」

 

 唸る母子、その姿は違えど似通ったものがあった。

 

 「大体、アンタは自分が何を言っているのか分かってるの!」

 「分かってるよ! だからこうして土下座迄して、頼んでんだろ!?」

 「く、この頑固息子!」

 「な!? ならアンタは束縛母親だ!」

 

 親子の言い合いは段々とヒートアップ、最早説得の体をなしていなかった。

 

 「不良息子!」

 「この若作りバ……ぶべらァっ!」

 

 言い終わる前に、パーシヴァルは家の外に吹き飛ばされた。

 パーシヴァルは痛む頬を抑え、殴り飛ばしたであろう張本人を見ると。

 

 「何す……っ!?」

 

 泣いていた。

 その姿に、パーシヴァルは胸が痛み困惑した。

 

 「かあさ……」

 「なんで!? なんで貴方は私の気持ちを理解してくれないの!?」

 

 生まれてこの方、自分の母が泣く姿などパーシヴァルは一度たりとも見た事がなかった。

 大声を上げることはあれど泣く事は無かった、怒鳴ることはあれど喚く事はなかった。

 ましてや、自分に訴え掛けるようにその思いをぶちまけるなど初めてだった。

 そしてこの光景には覚えがあった、前世で唯一後悔する事となった家族との喧嘩別れ、その影と重なる。

 

 「いつもいつも危険な事ばかり! 毎日傷だらけになって帰ってくる貴方を見て、私がどんな思いしてたのか分かる? ……お願いよ、パーシヴァル……もう……こんな事……」

 

 吐き出す言葉が弱っていく。

 ボロボロと涙を流す母を、パーシヴァルは胸が締め付けられるような痛みに襲われながら見ていた。

 そして、自問自答を始める。

 

(このまま説得を続けても良いのか? 母さんの気持ちを無視して、俺は……)

 

 揺れ動く心。

 自分を思う母を無視して進む事は容易い、だが進みながらいつかはそれが、罪悪感や後悔となって自分を襲うだろう。

 前世(過去)の自分がそうだったように。

 

 「全くお前達家族は……」

 

 横から、自分やアンナとは違う第三者の声が聞こえた。

 見ればそこには、老婆がいる。

 

 「……婆ちゃんか」

 

 それだけを確認すると、パーシヴァルは空を仰いぐ。

 先程まで晴れていたのに、いつの間にか暗い雲が空を覆い隠す、曇天となっていた。

 

 「なぁに泣きそうなツラしてんだい、ほら家に入んな雨が降るよ。アンナ、アンタも何時迄もメソメソ泣いてんじゃないよ、親ならシャキッとしな!」

 

 彼らの今の気持ちなど知らんとばかりに、ズバスバとものを言うお婆。

 言われた通り、パーシヴァルは家に入るがその足取りには力がない。

 

 「大方の予想はつくけど、話しな。何があった?」

 

 パーシヴァルがお婆に説明をはじめる。

 

 「はぁ……。アンタらは全く。━━それでパーシヴァル、アンナの気持ちを聞いた上で、それでも行く気かい?」

 「っ……俺は」

 

 答えられなかった。

 母親の気持ち、マーリンとの約束、己が力をつけた理由、その目標。

 複雑な思いが、パーシヴァルの中で絡み合う。

 

 「パーシヴァル、明日だ。明日の朝またここに来るよ、その時までに、自分の選択を決めな」

 「……」

 「アンナ、アンタは私の家に行くよ。話したい事があるさね」

 「……はい」

 

 こうして、パーシヴァルは一人家に残された。

 その晩、自室の窓の外から星空をパーシヴァルは眺めていた。

 

(何やってんだろ俺)

 

 振り返ってみれば、母の困る事ばかり。

 駄目と言われたのに行い、もうするなと言われたのに繰り返す。

 ましてや一人息子が危険に突っ込む真似をしているのだ、親ならああなって当たり前であった。

 

(強くなったってのにこれじゃあなぁ。━━そう言えば、なんで俺は強くなりたかったんだっけ?)

 

 答えは単純だ。

 子供が、テレビに出てくる仮面ライダーに憧れるように、自分も英雄譚に語られる強さを持った英雄(ヒーロー)に憧れたのだ。

 その強さが欲しいと。

 

(━━そっか、そういう事か)

 

 自分自身の思いに気が付いたパーシヴァルは、何処か吹っ切れたような顔をして、眠りについた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 草木が眠りから覚め、鳥の囀りと昇る朝日が眩しい早朝。

 パーシヴァルの家で、パーシヴァルは母親と向かい合っていた。

 

 「それでパーシヴァル、アンタ決めたのかい?」

 「あぁ、婆ちゃん」

 

 視線をアンナに向けたまま、声だけで答える。

 向かいに座るアンナも、決意を宿した瞳をしていた。

 昨夜、決意の選択をしたのはパーシヴァルだけではなかったようだ。

 

 「母さん……俺は、やっぱり旅に出たい」

 「そう」

 「初めて剣を持った時は、好奇心とこれで皆を守るんだっていう餓鬼の小さな正義感だけだった。でもさ、よく考えるとそんな正義感よりも、嬉しさの方があって、そっちの方が大きかったんだ」

 「……」

 

 パーシヴァルの独白に、静かに耳を傾ける。

 

 「これで俺も、物語の中の英雄みたいになれるって。カッコイイ主人公みたいにって。だから、辛い修行も耐えられたんだと思う。そして俺はまだまだ強くなりたいって思ってる。━━だからさ、頼む行かせてくれ!」

 

 頭を下げる。

 親の気持ちを無視する行為だと分かっている、それでも自分の目標を取った。

 最低だと罵られてもいい、実際それだけの事をしているのだから。

 

 「そう、それが貴方の選択なのね?」

 「ああ!」

 「━━これも何かの運命なのかしらね。パーシヴァル貴方には話しておくべき事があるわ」

 「……?」

 「貴方の父親の事よ」

 「え!?」

 

 初めて聞く己の父の事。

 パーシヴァルは一度も見た事ない父を疑問に思いながらも、ままならぬ事情があると一人で納得し母に聞かないでいた。

 そして今日、母親から自らの父『ぺリノア』の事を聞かされた。

 

 「━━だから、私は貴方を騎士にしないように決めたのよ」

 「……そう、だったのか……」

 

 母の決意、パーシヴァルを思っての決断を聞かされ驚く。

 それ程迄の覚悟を、自分は無視して進むのだと再度認識させられる。

 

 「それでも俺は!」

 「分かってるわ。ええ分かってる。貴方がどれだけ旅に出たいか」

 

 アンナは目を伏せ、一拍置いて目を見開く。

 

 「━━━━行ってきなさい。貴方の満足する迄」

 「ほ、本当に!?」

 「但し! 無事に帰ってきなさい。それだけが条件よ」

 「勿論! 俺は、絶対に帰ってくる!」

 

 自分が許可を出した途端に、嬉々として支度を始めるパーシヴァルを見て、嬉しい事があると目に見えて喜ぶ所は変わっていないと、嬉しく感じるアンナ。

 パーシヴァルは、その胸中にこれからの旅路への期待を膨らませ、絶対に生きて帰るという覚悟を決めた。

 

 

 

 

 




今回の話は原典でのお話にある、パーシヴァルの母が、騎士になりたいと言うパーシヴァルを母が観念して送り出すと言う話、それをベースに少しこの作品風に変えたお話でした。

どうでした?
ちゃんとアンナの心情とか伝わってるといいんですけど……

と言うか徐々に原典と掛け離れてくなぁ。
まぁ態とですけど……。


駆け足駆け足。

次からは日記形式にて飛ばしていくつもりです。


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06━日記Ⅰ

ランキングを見たらルーキー1位で、一時は日間の方でも1位になってました!

繰り返しになりますが、これも皆様のお陰です。
本当にありがとうございます!

そして、感想、評価を下さった皆様誠に感謝致します。
それを糧に、何とか続けられればと思います。
何卒これからも、『パーシヴァルの物語』を宜しく御願い致します。
……なんて、堅いですかね? でも本当にありがとうございます。

それと、誤字脱字を報告してくださいました皆様、お手数お掛けして申し訳ありません。
自分が気付かないだけで、あんなにも誤字脱字があるとは思いませんでした。
重ねてお詫びします、誠に申し訳ありません。
そして報告ありがとうございました。

※修正しました。
感想欄でご指摘頂いた箇所を、直しました。7月25日 14︰21


 〇月〇日

 

 

 今日から日記を書く事にする。

 野営が多い旅の間は、鍛錬しかやる事が無いからな。

 それだと味気ないなぁ、と思って書くことにした。

 

 さて、村を出てから1ヶ月経った。

 その間に起きた事を話そう。

 

 まず村から出て、真っ直ぐに歩いた。すると一週間後ぐらいには、俺の所より少し大きい村に着いた。

 だけど、なんかその村の雰囲気が変だった。具体的に言うと、村全体が静かで誰もいないように思えてならなかった。

 気になった俺は、たまたま見つけた痩せこけた老人に話を聞いてみる。

 

 聞く限り、どうも魔猪に畑や作物を荒らされているらしい。

 酷い時は、人間も食い殺してるんだとか。

 

 ここで俺は、ピンッ!と閃いた。

 これ、実力を試すいい機会じゃね? と。なんだかんだ言って、今までマーリンしか相手にした事がない。

 更に言えば、それは修行でしかなく、俺は命のやり取りをした事が無い。

 そこで老人に、俺がその魔猪を倒す事を宣言、約束し魔猪が現れるまで一晩泊めてもらった。

 

 夜明け、魔猪が姿を表した。

 寝ながらも何となく気配を感知した俺は、すぐ起き上がり剣を持って外に出る。

 気配を感じる方向に目をやれば、こちらに向かってくる()()()()が見えた。

 

 …………っえ? 嘘? えっ? 一匹だけじゃないの?

 直前になってビビる俺氏。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ、死ぬ死ぬ死ぬ、無理だってこれ! 初めての戦いが多対一なんて無理ゲーすぎ!

 光の速度で目が腐っていくのを感じながら、その後、無茶苦茶斬り殺した。

 

 あの時は本当に死ぬかと思ったけど、結局は無事──多少の傷はある──だったので良しとする。

 村の人達からは、凄く感謝された上、何と俺が旅人だと知っているあの、痩せこけた老人から馬を貰った。

 実はあの痩せこけた老人がこの村の長老らしく、泣いてありがとうと繰り返していた。

 

 馬の餌等を貰って、準備を整えた次の日にその村を出た。

 

 

 次の町に着くのに、2週間かかった。

 食料も尽き、我が愛馬スレイプニル──野営中に付けた──通称スレイも歩き疲れ、倒れそうになった時、目の前にそこそこ大きい町を発見。

 最後の力を振り絞り、そこに行ったところで力尽きて俺は倒れた。

 

 目を覚ますと、見慣れない天井だった。

 此処は何処、私は誰、とでも言えば良いのだろうか。

 そんな下らない事を考えていると、一人の幼女が入ってきた。俺と目が合うと幼女は慌てて部屋を出ていった。

 俺の顔が怖かったのか、だとしたらショックだぞ。

 何て思っていると再び幼女入室、奥には恰幅の良い女性がいる、親の様だ。

 その女性に、何故俺はこんな所で寝ているのか聞いてみると、町の入口あたりで倒れている俺を幼女が見かけ、家で介抱してくれたのだとか。

 

 幼女──リリアと言うらしい──に御礼をすると、「どういたしまして!」と花が咲いた様な明るい笑顔で言われた。

 うむ、可愛いなぁ……はっ! いや俺は断じてロリコンではないぞ! って何書いてんだろ俺……。

 

 スレイの方も、町の馬小屋で面倒を見てくれていると言うので、改めて女性に感謝した。

 このまま世話になりっぱなしは嫌なので、何かを返したい。そう言うと、気にするなと言われた。

 だが俺の気が済まないので、しつこく聞いてみると、なら店の手伝いをしてくれと頼まれた。

 手伝うのはいいが何の店か聞いてみると、食事処だと言う。

 ……この時代に食事処なんてあったのか。

 

 少し驚きつつ、腹に入れるもん入れた後、下に降りて準備をする。

 ……しかし、何時迄経っても客が来る気配がしない。何故だろうと考えていると、「大体こんなもんだ」と奥の方から野太い声が聞こえ、振り向くと偉丈夫と言う言葉がぴったりなオッサンが立っていた。

 リリアの父ちゃん兼店の店主らしい。

 

 客が少ない理由を訊ねてみる。

 オッサン曰く、食事処と言っても料理より酒がメインなので、どちらかと言うと酒場に近いんだと。

 だから、夜は多いが昼間は皆働いている為、こんな時間に来る客は大体が働かない碌でなしか、俺のような旅人だけだと言う。

 

 なるほどと納得するが、それではやる事が無いなぁなんて考えていると、リリアが遊ぼうとせがむので、オッサンに許可をもらい店を後にする。

 

 遊んでいると時間を忘れ、なんやかんやで夜となり、リリアを連れて急いで店に戻る。

 戻るとオッサンが丁度良かったと、準備も出来ぬまま酒を持たされ、テーブルに運ぶ。

 とにかく忙しかった、昼間とは打って変わって客が多く、騒がしい。

 何とか余裕が出来、休んでいると。

 

 「酒に合う食べ物は無いかねぇ」

 「ある訳ねえだろんなもん」

 

 と言う会話が聞こえたので、オッサンに厨房を借りると言って、肴を作る準備を始める。

 今は戦時中だから、材料も調味料も少ない。しかし文句は言ってられない、これでも前世での趣味が料理だったんだ、限られた食材でも美味しく作ってみせる。

 そう意気込んで、ジャガイモ2つ、塩少量、水、油を用意して、ハッシュポテトを作った。

 昇る湯気が食欲を刺激する、そんな一品になった。

 

 出来た肴をさっき話していた人達の所に持っていくと、驚かれたが俺が取り敢えず食べてみ、と言って黙って食ってもらうと、大声で絶賛された。

 それで気持ちが良くなった俺は、調子に乗って店にあった限りある食材で教えれば誰にでも作れる、簡単な料理や肴をバンバン作り、お陰でバンバン注文が殺到。

 死ぬ程忙しくなった。

 それに合わせるかのように、客も騒ぎ出すので軽い宴状態。

 だが、楽しい時間と忙しい時間はあっという間に過ぎていき店仕舞いになる。

 オッサンには、大儲け出来たので感謝されたが……正直もうやりたくない。戦いとは別の体力を使いグッタリとする。

 その日は部屋にもどり、倒れるように眠った。

 

 似たような生活を一週間この町で送ると、町全体は俺の料理の話で持ち切り。

 店も過去に無いぐらい、忙しくなったという。

 俺も、最初はよそよそしかった町の人達と仲良くなれた。

 そして今日も今日とて、料理を振る舞い一日を終えると俺はオッサンの所に向かった。

 そろそろこの町を出る為、その話をしに行くのだ。

 

 やはりと言うかなんというか、俺がその事を話すと悲しそうに、そうか、とだけ言われた。

 最後に明日の早朝には出ますとだけ言って、その場をあとに部屋に戻った。

 すると戻った部屋には、何故かリリアがいてどうしたと聞くと「明日出て行っちゃうの?」と涙目で聞かれた。

 

 胸が苦しいが、俺の目標の為には此処に居座るなんて出来ない為、そうだよと返すと、分かったとだけ言って部屋を出ていった。

 嫌われたかなぁ、なんて思っているとすぐにリリアは戻ってきて一緒に寝ようとせがんできた。

 最後なのだし別にいいだろうと思い、了承した。

 

 その晩、リリアと沢山話をした。

 俺の覚えている限りで、昔話を聞かせたり俺について聞かせたり。

 気付くとリリアは寝ていたので、俺も就寝。

 

 その翌朝、リリアを起さないように荷物を纏め町の入口に行く。

 リリアの母ちゃんがスレイを連れて、待っている筈だ。

 案の定、入口に行くとスレイがいた。御礼をし、スレイに跨って、出発だと意気込んでいると少し大きい荷物を渡された。

 

 中身は数週間分の食料だった、旅には必要だろうと渡してくれた。

 本当に感謝してもし足りない、せめてもの僅かな恩返しに料理のレシピをその場で書いて渡した。

 最後にもう一度御礼を言って、遅くなったが俺は町をスレイと共に出た。

 

 歩いていると後ろから声が聞こえるので、少し振り向いてみるとリリアが「お兄ちゃんまた来てねえー!」と大声で叫びながら手を振っていた。

 俺は何も言わなかったが、大きく手を振り返して我が愛馬と共に歩き続けた。

 

 これがこの1ヶ月の出来事。

 実際書いてみると、色々とあった事が分かるな……。

 眠くなってきた、今日はここまでにして寝るとしよう。

 

 

 

 ◇月◇日

 

 

 

 旅から半年、村や町を転々として傭兵や料理人、果てには何処かのお偉いさんの所で執事紛いの事もした。

 本当に半年で色々あった。様々な魔獣やグール、死徒を斬り殺してきたお陰で、最初の頃は魔猪の群だけで一杯一杯だった戦闘も、今では余裕を持てる程に慣れた。

 

 そしてこの半年、成長したのは俺だけではない。

 我が相棒、スレイ。

 此奴もスゲー成長した、と言うか進化と呼んでもいいかもしれない。

 食いもんが無い時、倒した魔猪やグールを食べさせたせいか、スレイの体格は普通の馬の一二回り大きくなり、走る速度が尋常じゃなく早くなった。

 しかも、戦闘になるや俺と共に戦ってくれる程、強くなっている。

 ……ぶっちゃけ、なんかスゲー申し訳ない。人外ならぬ馬外になり掛けている事に、僅かなやっちゃった感を感じ始めている……。

 やっちゃったもんは仕方ない、今は置いておこう。

 

 あ、そうそう。

 旅の途中、変な本を手に入れた。

 どんな物かと言うと、黒色で所々紫があしらってあって、蔦にも血管にも見える絵が本の中心に向かっている。

 中身を見てみたけど、おかしい事に読めなかった……。

 読もうとすると、文字がボヤけて何て書いてあるのか分からなくなるのだ。

 読解阻害の魔術でもかかっているのだろうか。

 本自体に膨大な魔力を感じるから、多分魔導書だと思うのだが……読めないのでは仕方ない。

 今は読む事を諦め、袋にしまって持ち歩いている。

 

 そして話は変わるが現在、俺は海を渡ろうとしている。

 先程書いた、お偉いさんの家で執事紛いをしていた時に褒美として小型船を貰っている、スレイも何とか乗れる大きさだ。

 設備もこの時代にしちゃあ上等な部類だ。

 食料も積み、道具も積んだ、後は夜明けを待って出発するのみ……なのだが、嫌な予感がしてならない。

 

 この航海中、何か起きそうな気がする……あれ、フラグかなこれ。

 ……気にしても仕方ない、もし何か起きたらその時に何とかすればいい。

 という訳で、自分で自分の武運を祈りながらそろそろ寝ようと思う。

 

 頼むから何も起きないでくれよ……。

 

 

 

 

 

 




急いで書き上げたから荒いです、お粗末です。
後で、書き直すかも知れません。
日記形式って案外難しいんですね……。

さて今日のお話は、パーシヴァルくんはじめてのたたかい、それと食べ物が世紀末なこの時代に、『美味しい料理』を広めた、ちょっとした偉業? のお話でした。
……旅扁はあと、二三話で終わらせます。

次回は皆大好き、おっぱいタイツが出るかもしれないよ!


駆け足駆け足。


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07━日記Ⅱ

徐々に徐々にペースを落ち着かせて行きます。
なので、次の投稿も結構遅れると思います。
ああ、でも気分が乗ったら別です。

という訳で、お待たせして申し訳ありませんでした。
続きをどうぞ。

※修正しました。8月3日 22︰34
〈退けた〉と言う表現から〈生き残った〉と言う風に変更しました。








 ▽月▽日時

 

 

 

 気付いたら、見知らぬ場所で寝ていた……。

 何を書いているか分からねぇと思うが、俺も何が起きたかさっぱり分からねぇ。

 

 ……少し深呼吸をし落ち着いて、ゆっくりと何があったか、日記を書きながら思い出してみる。

 ━━━━……あ、思い出した。

 そうだ、確か出航から半月ぐらい経ち、減っていく食料を心配しながら、のほほんと一日過ごしてたら、突如として大きい嵐に襲われたんだ。

 風は強く、波は大荒れ、船のあちこちから嫌な音が響き、慌てて何とかしようとしたけど、結局は沈んだんだった。

 

 ……てことは、現状を見るに俺は何処かに流れ着いたって事か。

 あ! そうだスレイ! アイツどうなった!? ……もしかして溺れた? 嘘だろ……。

 いやいや、待て待て。俺がこうして陸に流れ着いてんだ、アイツも何処かに流れ着いている筈、きっとそうだ。そう信じよう。

 

 それよりも先ずは、現状をどうにかしないと。

 持ち物は無い、剣も食料も道具も。勿論日記も。

 でも不思議な事に何故か、あの魔導書()はあった。

 日記が無い為、魔導書の後ろの空白のページに魔力で日記を書いている状態だ。

 

 ……取り敢えず、食料と寝床の確保をしようと思う。

 

 

 

 ☆月☆日

 

 

 

 化物にあったでござる……。

 流れ着いて1週間、食料と言える食料は満足に取れず、寝床と言える寝床も無く、今日まで何とか持ち堪えた1週間。

 諦め半分で今日も食料を探しに行ったら、……化物にあったでござる。

 ……死にかけたで候……。いや、本当はふざける余裕なんて無いが、無理矢理にでもふざけないとやってられない。

 

 その化物は妙に刺々しく、龍とも猪とも取れる容姿をしていた。丈は俺の何倍何十倍もあった。

 剣も何も無い状態で、そんな化物を相手にする様な俺じゃない。

 そいつが何処か行くまで身を隠してたけど、見つかった。

 その瞬間だった、今迄感じた事の無い威圧感に襲われた。

 逃げなきゃ、とは思うものの身体は言う事を聞かなく、息は上がり、尻餅を付いていた。

 

 明確に迫り来る━━死。

 戦いの中で死ぬ危険を感じた事はあれど、『殺される』と言う危機感は初めて感じた。

 今思えば、抗う事すら許されぬ『死』あれが真の意味での恐怖を体感した時だと思う。

 

 けれど、窮鼠猫を噛む──俺の場合は少し違うが──とはよく言ったものだ。

 何を思ったか、今になってはよく覚えてないが、その化物(抗えぬ死)に追い詰められた俺は、攻撃に出た。

 いやぁ本当にね、何考えてんだか自分の事ながらよく理解出来ないわ、ははは……。

 ホント理解出来ない。

 

 当然勝てる訳もなく、ボロボロにやられた。

 俺もやれるだけはやったと思うけど、あれは強すぎた。全力の魔力放出を浴びせても無傷とか頭可笑しいだろ。

 対して俺は腕のたった一振りで、身体中傷だらけの血だらけで瀕死、片腕はひしゃげ皮だけで繋がっている状態、その中で意識の持つ限り応戦し続けた。

 暫くそんな事を続けてたら、そいつは飽きたのか、何処かに向かって去って行った。

 傷一つ負わせられず、退けたと言うよりは興味をなくし移動した化物、その事実に湧き上がる悔しさと惨めさ。

 しかし反面、死から免れた開放感と脱力感に包まれながら安堵した、生き残れたと。

 気を失う前に魔術で最低限の治療してから、俺は意識を手放した。

 

 そして、起きてからこうやって日記を書いてる訳だが……全身が痛い。

 何とか魔術で痛みを抑えているが、それでも激痛だ。

 寝る所無いし食べ物もないし、スレイも居ない……もう嫌だ、お家帰りたい。

 鬱だ寝よう。

 

 

 

 □月□日

 

 

 

 やぁ、諸君! 久しぶりだね!

 いきなりだが、好きな食べ物は何かな? 俺はやっぱり肉かな。

 贅沢を言えば黒毛和牛とかいいが、でも俺はどちらかと言うと質より量、その辺のスーパーとかで売っている安い肉を買って沢山食べられれば満足だ。

 あとはそうだな、甘い物も好きだ。パフェとかクレープとか、美味しいよね!

 逆に嫌いなものは野菜かな、食べられない事は無いけど、野菜って苦いじゃん? いや、なかには甘いものもあるのだろうが、それは野菜好きが勝手に言ってる事だ。野菜嫌いからしたら、甘い物も含めて全て不味いのだ。

 ん? なになに? 何でこんな事を書いてるかって?

 

 ━━━━現実逃避だよクソったれ!

 

 事は、化物を退けた翌日の朝ぐらいに戻る、だから一ヶ月ぐらい前か。

 その日は、空腹や昨日の出来事からやる気が起きなく大人しくしていた。

 ボーッと空を眺めて一日を過ごそうとしていたら、現れたのだ彼奴が、あのババアが。

 いきなり殺気を感じて、慌ててその場を跳び退く。見れば先程まで俺の居た場所には、朱い槍が無数に突き刺さっていた。

 

 「ほぅ、今のを避けるか」

 

 そんな凛とした声と共に、俺の前には突き刺さっている槍と同じ物を手に持った長髪の女が現れた。

 長い黒髪に、槍と同等に紅い瞳、女らしいその体は男の欲情を駆り立てるものだ。

 だが、その前に何よりも気になる事が俺にはあった。

 

 ……お、おっぱいタイツだとゥゥ!?

 

 そう、タイツなのだ全身が。

 その格好から体のラインがハッキリと出て、激痛が無かったら俺の俺も元気になっていたかもしれない。

 いややっぱり、激痛無くても槍をいきなり投げてくる奴に対しては勃たないわ、うん。

 

 くだらない考えは隅に置き、何者か聞いてみるとあっさりと教えてくれた。

 名前はスカサハ、このすぐ近くにある影の国の女王だと言う。

 ……それって、ケルト神話のスカアハの事じゃね?

 微妙に名前が違う事に、ツッコミたい衝動に駆られたが、何とか我慢して、スカサハ程の人物が自分に何の用なのか改めて聞いてみる。

 

 曰く、先日の化物──クリードと言うらしい──との戦闘を見ており、ギリギリではあるが何とかクリードを相手に生き残った、俺の実力を確かめたくなったのだとか。

 しかし見ての通り俺は重傷を負っている、その事を伝えると近付いて来たので身構えるが、そんな必要はなかった。

 なんと、ルーン魔術と言うので俺の傷を直してくれたのだ。

 重傷だった身体が幾許かの時間で、あっという間に治った。

 

 これで存分に戦えるなと言うスカサハに、俺は再び、悪いが得物が無いと伝える。

 すると今度は手持ちの槍を貸してくれた、……槍は扱ったことは無いんだけどなぁ。

 四の五の言ってられない、ここまでしてくれたんだ恩返しだと思って戦ってやろうじゃないか。

 

 こうして、スカサハと俺は戦ったのだが━━負けた。

 当然だ、相手は易々と神殺しを成す怪物スカサハ。

 昔読んだケルト神話の本にも、その怪物っぷりが載っていた事から強い事は知っているつもりだったが、あれは強すぎた。

 けれど、ただやられる俺では無い。

 慣れない得物ながらも、何とか応戦。

 串刺し覚悟に、カウンターを入れる形で向こうに大きい傷を追わせることに成功した。

 ……それが地獄の始まりだった。

 

 スカサハは俺の一撃に大変驚き、そして気に入られた。

 俺の傷を治すやいなや、俺を弟子にすると言いやがった。

 有難いが、俺はそれを断った。師匠には既にマーリンが居たからだ。

 それを伝えるが、知った事かと俺を弟子にしようとするスカサハ。

 面倒くさくなった俺は、頷いてしまった。

 ……思い出すだけで、あの時の自分を殴りたくなる……。

 

 そこから一ヶ月、日記を書く暇もなく修行、修行、修行、修行漬けの日々だ。

 しかも、マーリンより辛く厳しい超スパルタ方針。

 意味わかんねぇよ、なんで丸腰で魔獣とフルマラソンしなきゃいけねーんだよ。

 

 あと、そうそう今の俺って半分魂の状態らしい。

 スカサハ師匠に教えてもらったのだが、普通ならばこの影の国に辿り着くことは難しいらしく、俺がここに居れるのは、この『本』が俺の魂をここに飛ばしているからだとか。

 スカサハ師匠が、何故魂が飛ばされるような状況に陥ったのか不思議がっていた。

 あれだよね、あの嵐の航海が原因だよね多分……。

 でもあれ? そう考えると、俺の『肉体』どうなっているのだろうか。

 まさか海の上でプカプカ浮いている状態なのか、と嫌な想像が頭をよぎる。

 怖くなった俺は、考えを遮るようにしてこの本の事についてスカサハ師匠に聞いてみた。

 

 するとどうだろう、スカサハ師匠は険しい顔をするではないか。

 そんな変な代物()なのかこれ。

 そう言うと、スカサハ師匠は「変と言うよりは、禍々しくて危険過ぎる代物」だと言う。

 え、何それ怖い。この本そんなに危ない物なのか。

 

 スカサハ師匠曰く、この本の名は━━━━ネクロノミコンだと言う。

 

 俺は軽く気絶した。

 

 

 

 

 

 




感想欄でネクロノミコンの事を書かれてドキッとしてしまいました。
魔導書は他のでも良かったのですが、パーシヴァルにヤバさを入れたかったのでネクロノミコンにしました。

なんでそんな物があんだよとか、雑設定は見逃してくれるとありがたいですが、納得出来ない人がいれば頑張って理由を考えたいと思います。

にしても、クリードを丸腰で退けるパーシヴァル君、何気にすごくない? ボロボロですけど……。


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08━日記Ⅲ

この前の特異点ピックアップ、アルトリア〈ランサー〉を狙って一回だけ、10連を引いたら。

ホームズとアルトリア〈ランサー〉が二枚抜きで我がカルデアに来てくれました。

その嬉しさから、気分が乗り書き上げました。
けど……荒いかもです。



 △月△日

 

 

 

 久しぶりに日記を書く、何ヶ月ぶりだろうか。

 ……前の日付を見たら、約10ヶ月ぶりだった。

 随分と間を空けたなぁ。

 

 ……久しぶりだから、どう書けばいいか忘れてしまった。

 うーん、取り敢えず日記を書いていなかった間の事を記すとしよう。

 

 前回の日記を書いてから、数日後には本格的に槍術や対人戦の修行、そしてルーン魔術を習い始めた。

 剣を主に扱っている為、リーチの長い槍は扱いづらくなかなかに苦戦した。

 スカサハ師匠もダメ出しばっかだったが、投擲、投槍の方はなかなかだと褒めてくれた。

 

 まぁ、それで調子に乗ってしまえばボコボコにされてしまうので、余り喜べないが、それでもその時は珍しく褒めてくれたので嬉しかった。

 因みにだが、前は調子に乗ってしまい「いつか、俺が師匠(アンタ)超えて(殺して)見せる」と豪語してしまい、スカサハ師匠からは「出来ぬ戯言は、吐かぬ事だ」とボコボコにされた。

 ……でも、あの時の師匠は何処か嬉しそうだった。

 

 とと、閑話休題。

 対人戦の方は、死徒や人形の魔物と戦った経験が多少あるので、それを生かし何とか及第点を貰えた。

 ルーン魔術の授業では、その多彩さと応用の高さから驚かされた。

 今では慣れたが、その万能さは他の魔術基盤と比べても頭一つ抜けていると思う。

 

 それと、〈原初のルーン〉こちらも何とか習得した。これの習得には時間が掛かった。

 本来なら、習得するには10ヶ月は短い時間であり、習得は到底無理だ。

 しかし、それでも覚えられたのは〈ネクロノミコン〉の助けが大きい。少しばかり寿命を縮める結果となったが、魔導書(これ)が無ければ、原初のルーンは覚えられなかっただろう。

 

 ネクロノミコンについても触れようか。

 この魔導書(ネクロノミコン)は、名前が分かった次の日に読める様になっていた。

 恐らくだが、読解阻害の魔術、それの解除条件は名前を知る事だったのだろう。

 読める様になってからは、暇を見つければページを読み進めて行くという本の虫と化していた。

 前世でも、読書は趣味だったので別段苦という訳ではなかった。

 

 そして中身は面白い事に、あらゆる魔術とその効果、使用法が記されており。

 中には『魔法』と呼ぶべき物も多数記されていた、流石は魔道の奥義が記されているとされた書物なだけあると、すごく感心した。

 ただ厄介な事に、どうやら魔導書(こいつ)には意思があり、時折俺に悪夢を見せるようになった。

 

 悪夢は酷いものばかりだ。

 人々が無惨に殺される夢、吐き気を催す程の悪虐の夢、絶え間なく溢れ出てくる憎悪の夢、どれもが俺の精神を侵そうとしてくる。

 何とか夢による精神汚染を耐えていた俺だが、何事にも限界はある。

 

 ……一度、たった一度だけ俺はネクロノミコンの邪悪に飲まれた事がある。

 

 あの時は酷かった。

 と言っても、俺自身は余り記憶に無いのだが、スカサハ師匠の話によると。

 邪悪に染まった俺は、暴走して目に映るものを破壊し始めたとか、スカサハ師匠が止めようとしてくれたが、修行のせいもあってか、なまじ力が付いてしまい更には魔導書(ネクロノミコン)のブーストもあり、結構手こずったと言う。

 

 俺も目が覚めた時、大きい傷こそ無いものの、目の前に多かれ少なかれ傷があちこちに付いているボロボロの師匠を見た時は酷く動揺した。

 

 そんな事もあってか、精神修行も行うようになった。

 お陰で、今では魔導書(ネクロノミコン)の精神汚染にも耐えられるようになった。

 

 それから俺の『肉体』をこちらに召喚、呼び寄せた。

 前に、スカサハ師匠は俺が半分魂の状態だと言っていた、という事は残り半分の魂は肉体に宿っているという事。

 ふと俺は、ネクロノミコンに召喚魔術の方法が記されている事を思い出した。

 師匠に一日だけ休日を貰い、早朝に術式と陣を完成させて自分自身を媒体に、半分の魂が残った肉体を召喚した。

 

 結果は成功、いや大成功と言うべきものだった。

 何故なら『肉体』だけでなく我が相棒、スレイも一緒に召喚されたからだ。

 多分だけど、召喚される際に近くにいた生命体を巻き込んだのだと思う。あと、道具一式と剣も。

 

 自分の体の隣に、凄く大きい馬が居た時は少し驚いたが、それがスレイだとすぐに分かってほんの少し涙してしまった。

 スレイが何か言いたそうに唸っていたので、どうしたのか聞いてみると、どうやら今の今迄スレイが俺の『肉体』を守ってくれていたのだと言う。

 言葉は分からないが、そう言っているのがわかった。

 

 流石は俺の相棒だと、感心した。

 さて感動も程々に、予め用意していた魂の、今の俺を肉体に入れる魔術式が組まれた陣の上に肉体を起き、術式を起動。

 無事に半魂と肉体は定着、元に戻った。

 

 …………あれ? 今思えばこれって魔法の領域ではないのだろうか?

 親和性が高い自分自身とは言え、魂を扱った神秘の行使。それも、外界にある『魂』から『肉体』の内側への定着を難なく成功させた。

 ……これって、やばくないか? いや、まてそもそも魂の話をするなら、今迄何故、魂の状態それも半分だけという欠陥の中、様々な物に干渉できたんだ?

 

 視線は自然と机の上に置かれた魔導書(ネクロノミコン)へ向かうが……いや、よそう。

 考えても分からないなら、考えない方がいい。

 

 そうそう、召喚した肉体だが、筋肉の低下等で痩せ細っていてまともに動けなかったので、死にものぐるいで筋トレをした。

 ……辛かったなぁ。

 

 後は、スレイの事でも書いておくか。

 先程書いたと思うが、スレイはまた大きくなっていた。

 影の国に来る前は、普通の馬より一二回り大きいぐらいだったのが、召喚時はそれの1.5倍位になっていた。

 予想だけど、多分残されたスレイは肉体を守る傍ら俺から離れられない為、食事は近寄ってきた魔物とかだけだったのだろう。

 それも、飛び切りに危ないヤツを。

 

 そしてこの影の国に来てからも、修行で俺が倒した魔獣を食っている為、更に成長。

 今では、ワゴン車より大きいぐらいだ。

 

 これ以上はもう成長しないと思うが、スレイは魔獣を未だに食べ続けてるしどうなる事やら……。

 

 

 

 ♡月♡日

 

 

 

 早いもので、影の国に来てから1年が経った。

 ホントに早いな、昨日の事のようにここへ来た……送られた時の事を覚えている。

 人は慣れる生き物だ、辛かった修行も少し楽しくなっている。

 ランナーズハイと似たようなものだろうか。

 

 それはそうと、この間オイフェと名乗る女性が来た。

 俺の記憶が確かならば、オイフェと言えば確かスカサハの姉妹に当たる人物だ。

 俺が見た時は、姉妹と言うだけあって容姿はスカサハに瓜二つだった。

 

 オイフェが来てから直ぐにスカサハ師匠が来たが……何故か死闘を始めやがった。

 正確に言えば、オイフェが師匠に襲い掛かったのだ。

 

 何が何だか分からずに、けれど巻き込まれてたまるかと、俺は迅速に二人から距離を取った。

 遠巻きに二人の戦いを見るが、人間業じゃ無いぜあれは。

 

 今更かもしれないが物理法則に唾吐きながら、中指立てて、馬鹿にしているようなもんだぞあれ。

 俺も人間辞めてる自覚はあるけど、あの二人は別格だな。

 

 けれど、それを見て尚俺は凄いと感じなかった……いや、感じたには感じたが。

 自分もあのレベルに付いていける自信があった。

 これが自惚れでなければ、修行の成果で俺が師匠に近付いて来た証拠になるのだろう。

 

 その後も暫く戦闘は続いたが、オイフェが引く形で幕を閉じた。

 オイフェが帰る際、少しだが俺は会話した。

 話している分には、悪い人じゃないのだが、気になった俺は何故いきなり襲ってきたのか聞いてみると。

 

 曰く、スカサハとは和解しているが時折こうして腕の試しの戦いをしているのだとか。

 

 分かります、戦闘狂ですねはい。

 見た目がそっくりなら、中身もそっくりだったようだ。

 姉妹なんだなぁ、と俺はつくづく思った。

 

 それと、……俺は明後日、影の国を出ようと思う。

 これはスカサハ師匠にも話してある事だ。

 強くなる事は、俺の望みでもある。

 けど、俺はもう一人の師匠、マーリンから世界を見て回れと言われた、ならば長くここに居るべきでは無い。

 幸い、スカサハ師匠からの教えは殆ど身につけた、後はそれを伸ばす段階にいる。しかし、それは影の国でなくとも出来る。

 1年もいた奴が何をって、言われれば痛いがそれでも俺は直ぐにでもここを出たかった。

 

 それを、2ヶ月前スカサハ師匠に伝えた。

 すると師匠から条件を出された、その条件が師匠に認めさせる事。

 簡単に言えば卒業試験だ。

 

 俺は悩んだ。

 どうすれば、師匠に認めさせる事が出来るのか。

 その時、頭をよぎったのはあの化物の姿だった。

 

 ━━━━波濤の獣(クリード)

 

 この身に恐怖を刻んだ、魔獣或いは神獣。

 アレを倒す事が出来れば……。

 そう思った俺は、1ヶ月の間準備に取り掛かった。

 

 ……そして遂にその日は来た。

 師匠を呼び出し、俺はクリードに挑む事を言った。

 驚いていたが、黙って頷いてくれた。

 丸一日、俺がクリードと戦った時間だ。

 クリードとの戦闘は、苛烈に苛烈を極める物となった。

 あの時は無我夢中で覚えてなかったが、酷く辛いものだったのは記憶している。

 

 そして結果的に、俺は━━━━クリードを殺しきれなかった。

 覚えているのは、クリードの半身を超弩級の大魔術で吹き飛ばした事と、それでも倒れぬ化物の姿。

 そこから、俺の記憶は途切れている。

 

 次に、部屋で目覚めた時は悔しさから、手から血が出る程に拳を握った。

 悔しかった。唯々悔しかった。たった1年だが、短い期間の間に死ぬ程の修行をした。

 なのに勝てなかった。

 

 泣きそうになると、師匠がやって来た。

 慰めでもしてくれるのか、と思ったが有り得ないと考えを振り払う。

 

 案の定、師匠は先の戦いでのダメ出しを濁流の如く伝えてきた。

 でも、まだ1年でこれ程ならば伸び代はあるとも言ってくれた。

 俺は、涙を堪えまた修行を頑張りますと伝えると師匠は小首をかしげる。

 

 どうしたのかと思っていると、師匠は「直ぐにここを出るのだろう?」と言ってくれた。

 言ってる意味が理解できなかったが、遅れて分かった。

 認めてくれたのだ、師匠が。

 

 嬉しかったが、クリードは倒せなかった、なのに何故だろうと思い聞いてみると。

 1年でクリードの半身を吹き飛ばせれば十分だと言う。

 その日は俺は、嬉しさの中眠りについた。

 

 ……まぁ、こうして色々あって明後日漸く影の国を出る準備を整えた訳だ。

 さて、今日はここまでにしよう。

 

 

 

 ♪月♪日

 

 

 

 明日はいよいよ、出発の日だ。

 昨日と今日は色々あった。

 

 昨日は師匠と俺でお別れ会みたいなの開いた。

 まぁ内容はただ酒を飲んで俺が作った摘みを食べるだけなのだが。

 初めてこの世界の酒という物を飲んだが、なかなかに美味かった。

 これが前世の世界なら未成年飲酒で犯罪なのだが。

 ここは過去の世界、法なんてもんは存在しない。

 なので、俺は気負いせずに飲み続けた。

 

 それと、話題作りに俺の身の上話と目標を伝えた。

 師匠は珍しく褒めてくれたりした、と言うか笑顔可愛いなあの人、惚れそうだった。

 何故、普段はあの顔が出来ないのか不思議だ。

 

 あと、酒の席の勢いで師匠に性的な意味で襲われたが何とか回避した。

 いや、俺も男ですよ? そりゃヤリたいけどさ、ほらそう言うのって責任取らないと行けないじゃん?

 今の世じゃ、そんなもん取らなくてもいいかもしれないが、そこはそれほら俺って元日本人としての感性がまだ残ってるからさ。

 コラそこ、ヘタレって言わないの! 俺はチキンじゃねぇ慎重なだけなの!

 

 

 そういう事で、師匠には『丁寧』にお断りしたつもりなのだが……「ほぅ」といって鋭い眼光を、獲物を狙う時のような目をされた。何故だろうか。

 でも、その日は何事も無く終わった。

 

 それから翌日、昨日の事だ。

 早朝からスレイと共に来い、と師匠に呼び出されたので、向かってみると何とプレゼントを用意してくていた。

 ビックリした、まさか師匠からプレゼントを貰えるとは。

 くれたのは戦車(チャリオット)朱槍(ゲイ・ボルグ)

チャリオットはスレイを有効活用できるようにと、朱槍の方は初めは渡す気がなかったが気が変わったからと、その両方共師匠自らが作ってくれた物だと言う。

 

 「初めてチャリオットというものを作ったから出来は何とも言えんが、耐久力は一級だ。……そしてゲイ・ボルク。本来なら〈波濤の獣(クリード)〉を倒してから渡すつもりだったが、僅か1年で半身を消し飛ばすに至ったのだ、その資格はあるだろう」

 

 とは師匠の弁だ。

 このチャリオットにもルーンが使われており、師匠はなんやかんや言っていたが性能も十分過ぎる程にいいものだ。まぁ、船とか作っちゃう人だしね。

 

 隣のスレイも目に見えて喜んでいた、師匠に感謝を伝えながら、いよいよ明日影の国を出る事をしみじみ実感した。

 

 ……1年で師匠を超える(殺す)事は出来なかった、当然といえば当然だ、出来る方が可笑しい。

 けれど、いつかは宣言通り師匠を……。

 そんな事を今は思っている。

 

 さて、明日に備えるとするか。

 

 

 

 




少し補足を。
朱槍(ゲイ・ボルク)は兄貴やスカサハ程の出鱈目性能はありません。少し劣ります。

さて、もうすぐでアルトリア達の登場です。
やっとだァ……。
お待たせして申し訳ありませんでした。

誤字脱字矛盾等がありましたら、御手数ですが報告お願いします。


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09━帰還

アルトリアの口調が難しい。
可笑しなところがありましたら、御報告お願いします。

─追記─ PM8︰41
今、思ったんだけどこれ亀更新詐欺だよなぁ。



 天を雲が覆い激しい雷が轟く。

 遮る雲のせいで陽の光は無く、薄暗い世界が何処までも続く。

 その中、天を駆ける影があった。

 

 結われた赤い髪を靡かせながら、岩のような体格と浅黒い肌をした馬が戦車(チャリオット)を引き空を走る。

 その速さは、天に響く雷よりも速く肉眼で見る事は困難である。

 

 「……天気わりぃ。雨が降る前に此処を出なきゃな」

 

 戦車(チャリオット)に乗った青年、パーシヴァル。

 影の国より出て数年。

 背と髪は伸び、その顔は僅かな幼さだけを残し整った顔付きへと変わった。

 少し低くなった声も、顔と相俟って男らしく然し男にしては美しいものとなった。

 

 「行くぞスレイ……!」

 

 握る手網に力を入れ、長年共にしてきた相棒と暗き天を駆け抜ける。

 師と交わした約束を果たす為に。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 場所は変わり、ブリテン島。

 平原に張られた無数のテントの一つ、その中で一人の王とそれに仕える騎士達が話し合っていた。

 

 「アグラヴェイン、現在の状況はどうなっている?」

 「はっ、現在最前線にてガへリス卿率いる騎士達が応戦中、向こうの地の利と敵数の多さに苦戦しておりますがこちらが押しているとの事」

 「そうか、他は」

 「特には。左右からの敵はガウェイン卿並びにトリスタン卿が向かい壊滅、念のため現地に少数の騎士を残し状況を見ておりますが、攻めてくる様子は無いとのこと。残る敵は正面の……」

 

 アグラヴェインと呼ばれた黒き鎧を纏う騎士が、青き鎧を纏った美しき金髪の王、アーサー(アルトリア)に戦況報告をしていると、それを遮るようにして一人の騎士がテントに入ってきた。

 

 「大変です! 至急王に御報告が……!」

 

 テントに入ってきた名も知らぬ一人の騎士、その様子を見れば焦燥しきっており、その場にいた者達全員がただ事でない事を感じた。

 

 「何事だ!」

 

 王の傍ら、一歩引い場所に佇んでいたアグラヴェインが問う。

 

 「はっ! ……後方より敵の軍勢が攻めて来たと、戦場より一人の騎士が知らせてきました!」

 「……そうか、戦況の方はどうなっている?」

 

 再度、アグラヴェインが問い質す。

 

 「それが……」

 「どうした?」

 「その……後方部隊がほぼ壊滅状態との事です!」

 「なんだと!?」

 

 告げられた戦況に、テント内では騎士達が息を呑み、緊張を張り巡らせ、アグラヴェインは王の前だということを忘れ大声をあげる。

 仕方の無いことだ、後方には攻められないようかなりの戦力を回していた。部隊は武勇や戦に優れた騎士で固められており、それを率いるのは円卓でも最強に名高いランスロット。

 その部隊が壊滅状態という事は、それ程迄に敵が手練ばかりと言う事。

 「ほぼ」と言っているあたりランスロットが孤軍奮闘の戦いをしているのだろう、しかし多勢に無勢。

 あのランスロット卿と言えども限界は来る。

 

 「……そうか、では私が出よう」

 

 それ迄、沈黙を貫き聞いていたアーサー王が口を開きそう言った。

 

 「なっ!? 王よお言葉ですが、王自身が向かわれる必要は……」

 「アグラヴェイン卿、何か問題でも? 後方部隊には力を入れ、手練た騎士達とランスロット卿を配備した。しかし、その部隊がランスロットを残し壊滅した、と報告があったのだ。それはつまりそれ程迄に敵は強敵だという事だ」

 「し、しかしガウェイン卿やトリスタン卿がこちらに向かっております、彼らを向かわせれば……」

 

 アグラヴェインはアーサー王を止める。

 アーサー王自身が向かう、その必要性が無いと思っているからだ。

 実際、アーサーが自ら出ずともこちらに向かっているガウェインやトリスタン、ラモラック等に任せればいい。

 それに此処は戦場、アグラヴェインはアーサーのその強さを理解しているが万が一が起こり得無いとも限らない。

 王に仕えている身では、その万が一を無くしたかった。

 

 「では、それまで待てと? アグラヴェイン卿、貴公が最悪を想定している事は重々承知だ。しかしガウェイン卿達を待っている間にランスロット卿が倒され、瞬く間に攻められないとも限らん。ならばランスロット卿一人で食い止めている間に私が率いる増援を向かわせ、敵を叩くべきだ」

 「……」

 

 アーサーに言われ、アグラヴェインは黙り込む。

 王の言う通り敵の強さを考えると、ガウェイン達は間に合わないかもしれない、それで円卓最強のランスロット卿がやられれば大きい損害だ。

 ならば、増援を出し迅速に敵を叩いた方がいい。

 

 「では、増援部隊を即刻準備させよ」

 「……はっ」

 

 そう言って、アーサーは戦の準備を始める。

 そんな暗い雰囲気の中、一人の魔術師がテントに入ってきた。

 

 「おや、アーサー王よ戦場にお向かいに?」

 「マーリンか……」

 

 数年前、何処かで遊び呆けていた宮廷魔術師マーリンだ。

 

 「貴様! 今まで何処に!」

 

 突然現れたマーリンに、アグラヴェインは吠える。

 数年前の事もそうだが、このロクでなし魔術師はどこかしらフラフラと居なくなっては突然現れる。

 ましてや此処は戦場の真っ只中だ、王に仕えている魔術師ならば王の傍らで助言なりなんなりするのが普通であり、マーリンの様に場所も告げず何処かへ行くと言うのは論外だった。

 

 「まぁまぁ、アグラヴェイン落ち着いてくれ。少し確認をしていただけだよ」

 「……確認だと?」

 「そうだよ。……どうやら約束は忘れていなかったみたいだね。うんうん」

 「……?」

 

 マーリンの言う事が理解出来ないアグラヴェインはイライラを募らせていく。

 

 「と、アル……アーサー王よ。ランスロット卿が戦う戦地に向かうのなら、どうかこの私を同伴させてもらえないだろうか?」

 「何?」

 

 アグラヴェインが声を漏らし、元々威圧感のあった顔は強張り、更なる重圧を生んでいる。

 アーサーも声を出さずとも、マーリンの言葉を不審に思ってか少し眉間に皺を寄せた。

 

 「……理由を聞こう」

 「あー、うん、ほら。偶には身体を動かさないと、それと黙ってどっか行っちゃっただろ? そのお詫びとしてさ」

 

 絶対嘘だ! この場にいる者全ての心が揃った瞬間だった。

 この男が身体を動かす? お詫び? それが本当なら明日は隕石が降ってくるに違いない。

 それかもしくは凄い厄介事の前兆だ。

 

 「兎に角、行くなら早くしないと」

 

 皆の不審そうな顔を察して、マーリンは話題を切り替える。

 そして、色々思いながらもアーサー達は準備を整えてランスロット卿が居る戦場に赴いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 無数の雄叫びが響き渡る。

 剣と剣が打ち合い、甲高い音を鳴らしながら、火花を散らす。

 紫の鎧を纏う騎士、ランスロット。

 たった一人でこの場を防衛しながら、無数の敵をなぎ倒し、その闘志は枯れることなく剣を振り続けた。

 だが、彼の騎士は焦っていた。

 

(くっ! 何とか持たせてはいるが、それも時間の問題……)

 

 身体中に傷を負い、四肢を動かす度に血が流れ激痛が走る。

 突きそうになる膝を踏ん張り、それでも倒れぬのは、己が仕えている騎士王の為。

 星の聖剣、その姉妹剣たるアロンダイトを握りしめ迫り来る敵を切り伏せる。

 

 「……ここまでか……」

 

 そうして一時間、耐え抜いた。

 自陣には既に状況は伝わっている筈、後は……。

 諦め掛けた、刹那。

 

 「風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 荒れ狂う暴風が、鋭き一撃となり敵を吹き飛ばした。

 

 「良くぞ持ち堪えたランスロット卿」

 「王!」

 

 ランスロットは喜び、先の一撃、その主の方に視線を移す。

 そこには、星の剣を携え騎士達を従えた騎士王が君臨していた。

 

 「やれるか?」

 「無論です。王の命とあらば、例え四肢を失おうと立ち塞がる敵を切り伏せましょう!」

 

 痛みの残る身体に力と熱が再び注ぎ込まれる。

 ランスロットの言葉を聞いたアーサー王は、剣の切っ先を敵軍に向け。

 

 「行くぞォ!!」

『オォォ!!!』

 

 後方の戦場、その2ラウンド目の幕が切って落とされた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 地上より遥か上空。

 轟音を響かせながら、黒き戦車は雷より早く、天を駆ける。

 

 「見えた……」

 

 目的地を肉眼で確認すると、その口角は自然と釣り上がっていった。

 懐かしき故郷、己が始まった場所、始点にして終点。

 気分が向上するのを感じながら、パーシヴァルはその島を見据え瞳を輝かせた。

 

 「さぁ向かうはログレスの都!」

 

 マーリンが居るであろう場所を目指し、手綱を打つ。

 それに呼応するように、スレイはヒヒィーンと一際大きく鳴いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「はぁ! ヤァア“ッ!」

 

 流れる様な剣戟が敵を切り刻む。

 火山の噴火の様に荒々しく、されど的確に急所目掛けて伸びる繊細や剣筋はさながら風の様だ。

 黄金の光と圧倒的な存在感を放つ聖剣で、敵陣を殲滅する。

 

(埒が明かない!)

 

 斬っても斬っても湯水の如く現れる敵兵は、向こうが増援を出し続けているのだろう。

 思った以上に辛く、戦いが長引いている。

 しかし一つの国にしては余りにも数が過ぎる、恐らく敵対する11人の王──正確には一人死んでいる為10人──、それらが兵を出し合い合併させ一つの軍としているのだろう。

 ━━厄介だ。他の円卓の騎士もこちらに向かっているが、自分は持っても他は駄目だ、体力だけが無駄に消耗されていく。

 

 アーサーは一瞬、星の聖剣その力を使う事を考えるが、今は敵味方が入り乱れる戦場と化している。

 そんな事をすれば、間違いなく少なくない味方が巻き添えを食らうことは必然であった。

 

(今ここで最善の策を……)

 

 思考を巡らせる中、視界の端からマーリンの姿が見える。

 マーリンは適当に敵を倒しつつ、何故か空を見上げては微かに微笑んでいる。

 適当とは言え、珍しく働いている事に僅かな感心を抱きながら、普段とは種類の違って見える笑みに気味の悪さを感じる。

 

 「マーリ……っ!?」

 

 刹那、凄まじい轟音と衝撃が発生した。

 マーリンを呼ぼうとした声は、それにより掻き消され。

 衝撃により吹き飛ばされそうになる身体を、剣を地面に突き刺し耐える。

 

 「何……が……」

 

 突き刺した剣を引き抜き、何が起きても対処出来るように聖剣を構える。

 更なる敵かとも考えるが、自身の直感がそうではないと告げる。

 やがて舞い上げられた砂塵が止むと、一つの影がその姿を現した。

 

 「ゲホッ……ゲホッ。あ、イテッ、目に砂が!」

 

 そんな事を言いながら、砂塵から姿を見せたのは、有り得ない程巨大な浅黒い馬とそれに負けぬ程の紅と黒の装飾がされた戦車(チャリオット)、そしてそれに乗る主と思わしき赤髪赤眼の青年だった。

 

 「そこの者に問おう、貴様は何者だ!」

 

 アーサーは周りに注意しながら、得体の知れない青年に話し掛けた。

 敵か味方か、敵だった場合には迅速に切り捨てられるよう剣を構える。

 そんな(彼女)に声を掛けたのは、青年ではなく意外にもマーリンであった。

 

 「アーサー王よ、そう警戒する必要は無い。彼は私の知人だ」

 

 知人だと? このロクでなしの? ある意味でアルトリア(アーサー)の警戒心は高まった。

 

 「マーリン、それは本当ですか?」

 

 その疑わしさから、思わずアーサーとしてでは無くアルトリアとしての口調が出てしまう。

 

 「勿論だとも。それでもって彼は味方だ。この私が保証しよう」

 

 いや、お前だから信用出来ないんだよ。

 アルトリアはそんな言葉を飲み込んだ。

 

 「もっと静かに着陸出来ないのかよスレイ。たくって……あ! おいマーリン! 漸く見つけたぞ!」

 「やぁ、久しぶりだねパーシヴァル」

 「ホントだなぁ、何年ぶりだ?」

 「5年ぶりくらいかな?」

 

 此処が戦場である事を忘れてしまいそうな程、二人は呑気に会話をしている。

 見れば衝撃で吹き飛ばされた、敵兵達が体勢を立て直しつつある。

 

 「マーリン! 話はそこまでです!」

 

 アーサーの言葉がマーリンを戦場に引き戻す。

 

 「おっと、そうだった」

 「どうした?」

 「さて、再会して早々悪いが手を貸してもらうよ」

 「はっ、ほざけ。微塵も悪いとは思ってねぇ癖に」

 「ははは」

 「まぁいいや。……と、そこのアンタ!」

 

 パーシヴァルは戦車から降りると、腰にある剣を引き抜き、アーサーの隣まで歩いてくる。

 

 「手を貸すぜ!」

 「感謝します」

 

 パーシヴァルは剣を敵に向けながら、マーリンから先程聞いた隣の人物、アーサー王に一瞬だけ目を向けるとニヤリと口を釣り上げ獰猛に笑った。

 隣に立つだけで理解したのだ。アーサーの強さを、その身が発する覇気を。

 

 「んじゃあ、行くぞっ!」

 

 パーシヴァルは、凄まじい殺気を放ちながら敵陣に切り込んだ。

 

 

 

 




時系列敵には、ぺリノア王が死んで少し経ったぐらいのところ、ていう設定です。
10人の王と書いてあるのはロット王が死んでるからです。

後、これは言い訳なのですが。作者はアーサー王伝説を大雑把にしか理解していません。
細かい知識はWikipediaやその他のサイトで調べて勉強しています。
なので今回の話は、おかしな部分とか、アーサー王伝説を詳しく知っている人には「あれ?なんか違くね?」と思われる事もあるかもしれません。

ですから、そういうのがありましたら教えて下さると嬉しいです。


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10━決闘

またも物語の改変です。
受け付けない方もいるかもしれません。

にしても用事が思いのほか早く終わって良かったです。
待たせてすみませんでした。

今回でる騎士、イーテルですが。
名前がイテールなのか、イーテルなのかよく分からないため此処ではイーテルとします。



 ━━夢を見ている。

 

 通常では、それは夢と自覚できる事の方が少ないが、今回は違った。

 いや、今回に限って言えば夢と気付く確率の方が高い。

 何故なら、今見ているのは『悪夢』なのだから。

 

 これが、大量の菓子を食べている夢なら。これが、面白可笑しい夢なら。これが、華々しい夢なら。

 もしこれが、目標を目指さず静かに村で暮らす夢だったなら……。

 

 しかし今見ているのはそれと真逆。

 幸せや穏やかとは反対の夢だ。

 夜空だと言うのに、目の前は昼間のように明るく、熱く、五月蝿い。

 だがその明るさは、陽の光によるものではなく、燃え猛る紅蓮の炎の光。

 身を襲う熱さは、今にも焼き殺さんとばかりに温度を上げていく熱気。

 耳を(つんざ)く五月蝿さは、炎に焼かれる人々の悲鳴と恐怖の(こえ)

 

 嫌だ、死にたくない、お母さん、様々な言葉が飛び交う。

 最終的に彼らの発する言葉は、助けて、その一言だった。

 その時、彼等を助けもせずただ傍観していたパーシヴァルにギョロッと無数の視線が向けられた。

 

 「はっ、どうしろってんだ。お前らは既に過去の(死んだ)存在。そんなのを救える訳無いだろ……」

 

 何処か諦めを含んだ声音で言う。

 初めの頃は、助ける為に色々した。それこそ無駄な事だと分かっていても、それでもせめて夢の中だけは助けてやりたいと、行動を起こした。

 しかし、何度助けようと何度魔術で癒そうと結局は無駄に終わり、一人も助けられない。

 いつしか助ける事に辟易し、やがては観ているだけとなった。

 

 世界が反転する。

 空が崩れ、地が割れ、上も下も無くなり観ている世界が形を変える。

 次に現れたのは、真っ赤な海だった。

 

 血のように赤黒く気味が悪い。

 その海には、数えることも馬鹿らしくなるほどの様々な死骸が浮いていた。

 見れば骸は共通して、くり抜かれたかのように目玉が無く空洞だった。

 上を見れば、変わらず夜空より暗い空でけれども先程と違い蒼い月があった。その月も普通とは言い難かった。

 月の中心から、外に向かうように罅割れていてそこからドス黒い何かが溢れ出ている。

 

 地平線の彼方まで伸びる、骸が浮かぶ紅い海と割れた月。

 これが、魔導書(ネクロノミコン)が見せる悪夢の最終地点だった。

 

 「久しぶりだな」

 

 ここ二三年見なくなって久しい悪夢。抱いた感情はそれだけだった。

 数年という歳月は、目には見えないが確実にパーシヴァルの中を変えていた。

 

 「ゥゥ……ウぅ……」

 

 足元の骸達が呻き始める。

 これもまた久しぶりだ。気持ちの悪い声で呻き、助けを求める様に腐った腕をパーシヴァルに伸ばす。

 

 「五月蝿い……」

 

 呻きが一層強さを増した。

 パーシヴァルは悲痛に顔を歪め、語気を強くする。

 精神修行で耐えられる様になった、狂気に呑まれず正常で居られるようになった。だが、逆にそれがパーシヴァルを蝕む結果を生んだ。

 狂うに狂えなくなったパーシヴァルは、ただただこの空間に呻きに耐えるしかない。

 

 「ッ……黙れ」

 

 無数の骸、その肉体がパーシヴァルに絡み付く。

 そしてパーシヴァルは身動きが取れない程、骸に纏わり付かれ、海の中に引きずり込まれる。

 沈み行く身体と意識。血のように赤い筈の海、その中は何故か見渡せる程透明で、不気味な程心地が良かった。

 パーシヴァルが最後に見たのは、似合わない程綺麗に輝く罅割れた月だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「朝か……」

 

 パーシヴァルは目覚める。

 久々に見た最悪な夢のせいでテンションは低い。元々朝はそんなにテンションの高い方ではないが、今日は輪をかけて低い。

 最低な気分を変えようと、ベッドから起き上がり大きく伸びをする。

 

 一昨日、アーサー王率いる騎士団の戦に加勢し、見事勝利を齎したと言っても過言では無い働きを見せたパーシヴァルは、昨日着いたキャメロット城にてその功績を讃えられ、食客扱いをされていた。

 

 窓の外にある城下町を眺めていると、トントンと部屋の扉がノックされる。

 視線を城下町から扉に移すと、入ってきたのはマーリンだった。

 

 「おはようパーシヴァル。相変わらず朝早いね」

 「なんだ、マーリンかよ。で、なんか用か?」

 「うん。昨日話しといたアレだよ」

 「あ〜、アーサー王に功績の褒美を賜るんだったっけか?」

 「そうそう」

 

 昨日、マーリンから聞かされていた話だ。

 アーサー達に加勢し、押されかけていた自軍の勢いを返し、更には敵将の首を取り勝利をもぎ取った事と、魔術による治療で負傷兵の7〜8割を治した事による功績。

 式典形式で、その褒美を貰いに行くのだ。それも円卓の騎士達の前で。

 

 「時間はお昼より少し前、使いの者が呼びに来る」

 「分かった」

 

 それだけを伝えると、マーリンは何処かへ行ってしまった。

 さて、こうなれば昼前の式典まで時間がある為暇となってしまう。そこでパーシヴァルは時間を潰す意味でも、アーサーが統治する城下町を見に行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 式典は恙無く進んでいた。

 豪華な装飾がされた開けた間で、王座に座るアーサー王は跪くパーシヴァルを見下ろしていた。

 

 「では、貴殿が望む褒美を与えよう。申すが良い」

 「はっ。私が望むはただ一つ。私めを円卓の騎士、その席に迎え入れてもらいたいのです」

 

 堂々と語られるその言葉に、周りの騎士達が少しざわめく。

 ほうっと興味を持つ者や無理だと嫌味を言う者、様々だが、ざわめく者の殆どがパーシヴァルの戦場での活躍を見ていない騎士達だった。

 それ以外の者達は、彼の働きと力を目の当たりにしていた為何の異議も無く、寧ろパーシヴァルの人柄に触れた騎士達は、彼を円卓の騎士に迎えるべきだと思っていた。

 

 「お待ち下さい王よ! こんな何処の馬の骨とも知らぬ薄汚れた小僧等に、騎士爵を与える必要等ありません!」

 

 一人の騎士がパーシヴァルを指差しながら、侮蔑の眼差しを向け言った。その騎士の言う通り、パーシヴァルの旅服は所々薄汚れていてみすぼらしかった。

 しかしアーサー王自らが褒美を与えると言っている為、そんな事を言っても無駄で、下手をすれば不敬に取られかねないのだが。

 この騎士は面子と力を大事にする貴族の出だった。そんな者がぽっと出のパーシヴァルにいきなり騎士爵が与えられる事が納得出来ないでいた。

 騎士爵とは即ち、準貴族の位を指す。準とは言え平民のパーシヴァルが自分と同じ貴族になる事が嫌なのだろう。

 それに加えて、円卓の騎士と来ればこのボンボン騎士より城内では立場が上になる。

 

(あぁ〜、やっぱりこうなったか)

 

 言われている本人は内心で呟いた。

 世界を転々と旅していたパーシヴァルは、当然その国に居る貴族等も目にすることがある。

 平民を馬鹿にしない真っ当な貴族もいるが、今の様に自分は特別だと思い込む者も居る。

 良くも悪くも貴族と言うのは、平民とは暮らす世界が違う。その為、自分を上位存在か何かと勘違いする愚か者も時折現れるのだ。

 どうすれば、そう育つのかパーシヴァルには不思議だった。

 

 「口を慎め、王の御前であるぞ」

 

 それを諌めたのは、王の近くに控えていた悪人面の騎士アグラヴェイン。

 

 「し、しかし!」

 「二度は言わぬ」

 「……ッ、申し訳ありません」

 

 アグラヴェインから発される威圧感が増していき、騎士は黙らざるを得なかった。

 そして、黙った騎士は親の敵のようにパーシヴァルを睨みつけている。

 その視線を感じ取ったパーシヴァルは、理不尽だと口を引き攣らせるのだった。

 

 「うーん、それは実力に対しての不満かい? それとも騎士に相応しくないからかい?」

 

 横からマーリンが入ってくる。

 認められない理由を聞いているのだろう。

 

 「全てだ!」

 「なるほど。なら、やる事は決まったね」

 

 マーリンはそう言うと、座るアーサー王に向き直り微笑んだ。

 アグラヴェインはそんなマーリンに、次は何を考えていると、警戒を顕にし、眉間に皺を寄せた。

 

 「王よ、私から一つ提案がある」

 「ふむ、申してみよ」

 

 偉大な風格を纏い、アーサー王が答える。

 

 「あの騎士はどうやら、パーシヴァルの実力と相応しさに疑問があるらしい。ならどうだろうか、此所に居る騎士の一人と戦わせて、彼の格を測ってみては?」

 「ほう……なるほど」

 

 考え込む様な仕草を見せた後、アーサー王はそれを受け入れた。更には戦うだけでなく、追加条件にアーサー王は騎士に相応しい格好を揃える、というものを加えた。

 面倒な事になったと、パーシヴァルは心中愚痴るが、提案した本人(マーリン)はこちらを見てニヤニヤしている。

 

 「マーリン殿、ならばその相手を(わたくし)めに任せて貰えないだろうか」

 「おや、君は……」

 

 名乗り出てきたのは、赤い甲冑に身を包んだ騎士だった。

 初老で威厳がある堀の深い顔をした男。彼がパーシヴァルの決闘相手になると、自ら申し出たのだ。

 

 「ふむ、私は構わないよ。━━━━イーテル卿」

 

 直後、周りの者達が先程以上にざわめき始める。

 それもその筈、イーテルと呼ばれたこの男は、ランスロットに負けた事はあるもののそれを除けば、ほぼほぼ無敗の騎士だ。剣の技術もそれなりで、円卓の騎士でも屈指の実力者である。

 マーリンがアーサー王に視線を向けると、アーサー王は頷き返す。

 

 「ふむ、では急ではあるけど今日決闘を行うよ。時間はそうだね、今から二時間後」

 

 マーリンが時間と場所を告げると、その後は何事も無く解散となった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 ログレスの外、荒野の開けた場所で一人の男が立っていた。

 離れた場所から、その男を囲むようにして周りの騎士達は円を描いている。

 男の名はイーテル。赤の騎士と呼ばれ、優れた騎士であり名誉高く周りの騎士からも尊敬されている人物だ。

 

 「来たか」

 

 人混みを掻き分けるようにして、一人の男がやって来る。

 自身の赤き鎧と同様に美しい赤髪と赤い瞳をした青年、イーテルの決闘相手であるパーシヴァルだ。

 

 「遅れて悪い」

 

 パーシヴァルは目の前まで来ると、申し訳なさそうに軽く頬を掻きながら謝罪をする。

 

 「気にするな。貴殿は時刻丁度に来ただけであろう? (わたくし)めが早く来すぎただけだ。……にしても」

 「……?」

 

 イーテルは少し目を細め、観察するようにパーシヴァルの頭のてっぺんから足の爪先迄を見る。

 そしてイーテルの視線は、パーシヴァルが持つ朱き槍へ注がれた。

 

 「貴殿は槍を使うのだな」

 「嫌だったか?」

 

 少しおちゃらけた風に聞いてくるパーシヴァル、イーテルはフッと少しだけ笑い、朱槍からパーシヴァルへと視線を戻す。

 

 「いや、なに。戦場にいた騎士達からは貴殿は剣を使うと聞いていたのでな。少々驚いた迄だ」

 「そうかい。じゃ、俺の槍捌きを見てもっと驚いてもらいましょうかね。もっとも、直ぐにリタイアして見れませんでしたってならない様に気を付けてくれよ」

 

 パーシヴァルは、八重歯を剥き出しにして獰猛に笑い挑発をする。

 その挑発にイーテルは少し不快感を覚えるも、表には出さず、応えるようにしてパーシヴァルに溢れる闘志をぶつけた。

 

 「言うではないか。……これは俄然負ける気が無くなった」

 

 そう言って、イーテルは己が持つ剣を構える。元々イーテルに負けるつもりなどなかった。

 イーテルはある日、アーサーの目の前で円卓から黄金の盃を奪い去る事で挑戦者を募ったが、この際動作が乱暴だったために葡萄酒を王妃に溢してしまった。

 非礼を嫌う彼は、態とでないとは言え王妃に深い謝罪をし、その償いとして王妃に代わり自分と戦ってくれる騎士を待っていた。

 だが、彼の剣の腕は宮廷でも有名なほどであったので彼に挑戦しようという無謀な輩はなかなか現れなかったが、そこに現れたのがパーシヴァルだったのだ。

 

 「それじゃ二人共、準備はいいね?」

 

 いつの間にか現れたのかマーリンは、少し離れた場所で両者の間に立っていた。

 立会人をする為だ。

 

 「少し待ってくれ」

 

 さぁいざ勝負! とはならずパーシヴァルが待ったを掛けた。

 雰囲気的に戦う感じだったのに、待ったを掛けられ剣を構え準備していたイーテルは少しコケる。

 

 「なんだい?」

 

 マーリンはパーシヴァルに質問をする。

 問われたパーシヴァルは、マーリンからイーテルに視線を戻すと。

 

 「イーテル卿、賭けをしないか?」

 「なに?」

 「この決闘、俺が勝ったら━━━━あんたの鎧を貰う。けど俺が負けた場合……そうだな、何も思い付かないし命でも賭けるか?」

 

 その言葉にイーテルは目を見開き、驚愕に顔を歪める。

 何も無いからと言って、いとも簡単に自分の命を賭けの道具(チップ)にする、その事に驚いたのだ。

 

 「……良かろう。その賭け乗った。しかし、一つ訂正がある」

 「なんだ?」

 「命などいらん。貴殿はまだまだ若い、そう易々と己が命を賭ける等とは口にするな。勝利報酬の変更だ。私が勝った場合、貴殿は私に仕えろ」

 

 戦士である前に自分は騎士。如何に決闘とはいえ、害を成す敵でもない青年の命を奪う事は、イーテルが信じる騎士道に反していた。

 イーテルの言葉に、今度はパーシヴァルが僅かに驚く。と同時に感心した、流石は騎士だと。

 スカサハとの修行から、何処か少しパーシヴァルはケルト脳に染まったきらいがあり、こう言った戦闘行為に己が命を賭けてしまう節がある。

 その事にパーシヴァルは、直さないとなぁ、と心で反省した。

 

 パーシヴァルの話は承諾され、改めて両者は自らの得物を構える。

 二人からは言葉は無く、聞こえるのは遠巻きにこの決闘を眺める騎士達の囁きだけ。

 だがそれすらも、目の前の相手だけに集中している二人には聞こえていない。

 

 「それじゃあ、始め」

 

 マーリンの呑気な声が始まりの合図を告げる。

 それと同時に、パーシヴァルは構えた槍を突き出し一瞬でイーテルとの間を詰めた。

 

 「ッ!」

 

 頬を槍が掠める。

 イーテルは頭を僅かにずらす事で、瞬足の突きをギリギリで回避する。

 槍を躱されたパーシヴァルは、すぐさま一歩踏み出しイーテルの胸元に入り剣を振らせないようにし、槍を持ち変え横薙ぎに胴への一閃。

 今度はよけられないと悟ったイーテルは、槍が当たる寸前に剣を間に入れ盾とし、衝撃を緩和させる為横に跳んだ。

 

(重いッ!!)

 

 予想外の威力で吹き飛ばされるイーテルは、軽い嘔吐感をもよおすが歯を食いしばりそれを殺す。

 地を二転三転と転がりながら、すぐさま立ち上がり体勢を直し視線を戻す。

 

(ッ? 居ない……!)

 

 そこにパーシヴァルは居らず、見えるのは最早背景と化したギャラリーだけ。

 何処だ、と視線を泳がすが姿は見当たらず、直後左背後から気配を感じる。

 

 振り向いてからでは遅い。

 そう判断したイーテルは、振り向きざまに勢いを付けてそれを利用し剣を振った。

 

 「クッ!?」

 

 急に現れた剣を、パーシヴァルは咄嗟に身体を捻って(しな)らせ回避する。

 数本。髪が斬られ、眼前を剣線が過ぎる。

 無理な体勢で避けた為、バランスを崩し地を転がるが瞬時に起き上がり、距離を取る。

 

(やっぱり簡単には取らせてくれないか……)

 

 心地よい汗がツーと流れる。

 戦闘にも種類がある。旅の最中、戦いに明け暮れることもあったが、その殆どは魔獣討伐や小さな戦争等で、どれもが殺し殺されるだけの血生臭いものだった。

 そんな戦いに比べ、今回の決闘は高尚で酷く胸が躍る類のもの。

 温まる身体、早く脈を打つ鼓動、ピリピリと感じる戦闘の空気、その全てが心地よい。

 自然と笑みが零れた。

 

 「口にするだけはあるな。流石だ」

 

 イーテルが称賛の言葉をパーシヴァルに送る。

 いきなり言われたパーシヴァルは、へ? と一瞬呆けるが褒められたのだと理解すると、恥ずかしそうに笑った。

 

 「いやまぁ、文字通り死ぬ気で修行してきたからな」

 

 はにかむ笑顔に、残った幼さが垣間見える。

 パーシヴァルは、偶にこうして子供っぽい仕草をする時がある。

 それを見たイーテルは、大人びた雰囲気を持とうとやはりまだまだ子供なのだと感じた。

 

 「そろそろ、本気でやろうぜ?」

 

 堪らなくなって仕切り直すように、パーシヴァルは槍を構える。

 そうだな、と一時の会話を終わらせ両者は神経を尖らせた。

 

 ………………。

 

 長い沈黙が場を包む。

 初めはざわついていた騎士達の声も、いつの間にか無くなっている。二人の均衡を、周りは固唾を呑んで見守る。

 均衡を破ったのは、パーシヴァルだった。

 

 「ッ!!」

 

 大地を踏み砕く様な爆音。

 先程よりも遥かに速い速度で、胸元に飛び込んだパーシヴァルは、嵐の如き怒濤の連撃を繰り出す。

 それは常人が視認できる速度を超越していた。

 

 「ぬッ!」

 

 数回この連撃と打ち合って、イーテルは理解する。

 全てを防ぐ事は不可能━━!

 ならばと、致命に成り得るものだけを剣で打ち払い、傷を最小限で抑えた。

 

 「槍の腕もあれ程とは、流石だな」

 

 遠巻きに激突する二人を見ながら、湖の騎士はそんな感嘆を漏らした。

 

 「ええ、サー・ランスロットの言う通りです。パーシヴァル殿の腕を侮っていた訳では無いのですが、まさか槍の扱いにも長けていたとは」

 

 同調する様に、横に並んで立っていた太陽の騎士ガウェインが言った。

 今も尚繰り返される、剣撃と槍撃の攻防。円卓の騎士以外の者からしたら、微かに残像を捉えるのがやっとだろうと言う程の速さ。

 イーテル卿は円卓の中でも歳を重ねている方であり、それなりの場数を踏んでいる。

 それは比例して、剣の技量や戦術に直結するものであり、その高さは推して知るべし。

 

 それをパーシヴァルは、十七と言う若さで同等以上にやり合っている。

 それは、イーテル卿よりも数多の修羅場をくぐり抜けた事から来る実力である。

 ガウェインとランスロットが感嘆するのも頷けた。

 

 「むッ」

 「どうやら、そろそろ決着のようですね」

 

 お互い距離を取った二人の雰囲気が変わり、ランスロットとガウェインはこの決闘の終わりの気配を感じ取った。

 

 「ふぅ」

 

 後ろに跳び距離を取ったパーシヴァルは一息吐く。

 何十分何時間と感じる攻防をし、イーテルのおおよその実力を把握したパーシヴァル。

 彼は、次の一撃で勝負を付けるつもりでいた。

 無駄な力を脱力させ、今の自分が出せる最大のパフォーマンスを見せるつもりでいた。

 

 その宝石の様に綺麗な赤い双眸で、イーテルを見据える。

 向こうもこちらを向き、“殺気”を放ってきた。

 

(ッ!!)

 

 向こうも次で片をつける気であると、その殺気が物語っていた。

 

 「イーテル卿。アンタとの決闘、楽しかったぜ」

 「……まるで勝ったかの様な口振りだな」

 

 パーシヴァルの言葉に、イーテルは目を細め、渋く低かった声が迫力を増した。

 

 「当然。次の一撃で俺が勝つからな」

 「……ほざいたな、小僧」

 

 この時初めてイーテルは、言葉の中に怒気を含んだ。

 確かに、傷だらけのイーテルに比べパーシヴァルは無傷だ。先程の打ち合いからも、あの歳でイーテルの技量を超えている事が知り得た。

 

 ━━━━━━だからなんだッ!!

 

 如何に技量が上回ろうとも、如何に才能があろうとも、命を対価に出来る青二才に負けていい理由にはならない! まだ勝負のさなかだと言うのに既に己の勝利だと、慢心する子供に自分は負けていられない━━!

 パーシヴァルの言動や彼が生命(いのち)を軽く見ている事に、イーテルは自分でも知らず知らず鬱憤を貯めていた。

 それが最後の言葉で、静かに爆発した。

 

 辺りが再び静寂に包まれ、二人の集中力は極限まで高まる。

 そこに、合図を告げるかのように一陣の風が吹いた。

 

 ━━━━『ッ!』

 

 刹那、二人は同時に駆けた。

 

 「『刺し砕く朱蓮の槍(ゲイ・ボルク)』!!」

 

 「はああぁぁぁァ゙ァ゙ァ゙!!」

 

 真名を解放した必殺の朱槍と、全ての魔力を剣に上乗せした全てを両断する一撃。

 どちらも最高と呼ぶべき力が衝突し合い、周りの地形を吹き飛ばす。凄まじい爆音と、突風が辺りを襲い、砂塵が天高く舞い上げられた。

 

 その劣化版とは言え、片や伝承でも語られる必殺の宝具、そして片や魔力を乗せただけの斬撃。

 どちらが勝つかなど、火を見るより明らかだった。

 そして、砂塵が消えると同時に姿を見せたのは━━━━。

 

 「……ガフッ」

 

 右肩から左腰にかけて大きな傷のあるパーシヴァルだった。

 その口からは吐血し、身体の傷からは相当量の血が流れている。

 

 「……イーテル卿が勝ったの……か?」

 

 誰かがそう言った。

 目の前には血を流し僅かに虚ろな目で片膝を付いているパーシヴァルが居る。誰の目からもイーテルが勝ったように見えただろう。

 しかし、また何処からか誰かの声が聞こえた。

 

 「いや待て! あれを見ろ!」

 

 一人の騎士が、少し離れた場所を指さす。

 指された方向に視線を移すと、倒れた人影が小さな赤い血溜まりを作っていた。

 ━━イーテル卿だった。

 

 「勝負は付いたみたいだね。━━━━この決闘、勝者はパーシヴァルとする!」

 

 立会人たる花の魔術師が、声高らかに勝者の名を告げた。

 

 




※原典との相違点。
イーテル卿が死んでない。
イーテル卿を襲うのではなく決闘で下す。
etc……

イーテル卿は乱暴者として書かれることがありますが、元々は礼儀正しく尊敬されていた騎士らしいですね。
当作のイーテル卿は、礼節正しい方です。

あれ、可笑しいなぁ。マーリンが何だかいいやつに見える。
本当は打算目的全開でパーシヴァルを鍛えていたのに、普通にいい人に見える。何故だろうか……。

あ、因みに最後の真名解放は刺しボルグの方です。

ケイと微笑まない乙女(クンネヴァール)のお話は次回やります。

誤字脱字矛盾等ありましたら、御報告お願いします。


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11━微笑まぬ乙女

漸く11話の投稿です。
遅くなって申し訳ありませんでした。

時に、皆様はいづれ神話の放課後戦争(ラグナロク)という小説を知っているでしょうか?
自分が好きな小説なのですが、時々そこにパーシヴァル君を入れたら面白そうだなぁと思う時があります。

新しい作品として書きたい思いもありますが、何事もこの作品を終わらせないとなぁ。




 暗き空を明るく染める太陽が、地平線から顔を出す。

 人々はそれに合わせるように、動きを活発にし城下町のあちこちから煩くも元気で、何処か心地の良い声が上がる。

 それが目覚ましになったのか、それとも窓から差し込む陽の光でか、ベットで眠っていたパーシヴァルは静かに目を覚ました。

 

 「……」

 

 数秒だけぼうっとすると、小さな欠伸を漏らす。

 昔と比べ少し長くなった髪を掻き上げながら、状態を起こし、少し伸びをした。

 

 「いっ」

 

 小さな痛みが走った。身体を見れば包帯()が巻かれている。

 そこで漸く、昨日の決闘を思い出した。

 ルーン魔術で完全に傷を治そうと考えていると、トントンと扉がなった。

 入室の声と共に入ってきたのは、白髪の魔術師マーリンだ。まだ少し眠いのか、マーリンは欠伸をしながら入ってきた。

 

 「やぁ、体調はどうだい?」

 「特には。少し痛みが残ってるだけだな」

 

 それは良かった、とそう微笑みながらこちらを見据えるマーリン。

 彼の言い方からして、傷を負ったパーシヴァルを治療したのはマーリンなのだろう。

 それが分かったパーシヴァルは、ありがとうと素直に礼を言うと、ふっとイーテルの事を思い出した。

 

 「なぁマーリン。イーテル卿はどうなった?」

 「彼かい? 彼なら無事だよ。少なくとも、命には別状はない」

 

 それを聞いたパーシヴァルは少し安堵の息を漏らす。いくら決闘とは言え、命を奪うつもりは無かったからだ。

 しかし、言葉の後にマーリンはただ、と続けた。

 

 「イーテル卿はもう、最前線で戦う事は出来ない」

 

 イーテルは元々歳により限界が近付いていた。それがパーシヴァルとの決闘により深手を受けた事で身体の筋肉がボロボロになってしまった。

 それは治癒の魔術であろうと治せない物だ、マーリンの言葉にパーシヴァルはそうか、と一言だけ零す。

 

 「にしてもパーシヴァル。君、最後油断したね?」

 「……バレたか」

 

 マーリンの言葉に苦笑いを浮かべながら、昨日の決闘の最後を思い出す。

 朱槍を真名解放をしたにも関わらず、パーシヴァルはその身に傷を負わされた。力、速さ、技量、その全てに置いてパーシヴァルはイーテル卿に勝っていた。

 本来ならば圧勝とは行かないまでも、傷を負わずに直ぐに勝てた筈だ。

 然し、結果はどうだろうか。

 

 確かにイーテル卿は、全てにおいてパーシヴァルに劣っていた。だが、油断をしていい相手では無い。

 己の方が格上だと慢心し、付け入る隙を与えてしまった。それが今の自分の弱さ。

 旅をする中、力を付け、気が付けばいつの間にか強者の側に立っていた故の弊害だろう。

 こんな姿をスカサハに見られればどうなるだろうか……簡単だ。修行させられる(殺される)

 それが想像出来たパーシヴァルは、一瞬で顔を青ざめさせた。

 

 「……ァル、パーシヴァル」

 「んっ、ああ、何だ?」

 「だから、この後イーテル卿に鎧を貰いに行ったら、それを着て、今一度改めてアーサー王に功績を賜りに行くんだ」

 「あぁ」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「よっこらせっと」

 

 手に持つ鍬を使い、土を掘り起こす。その工程を暫く続けているパーシヴァルの額には、汗が浮かんでいた。

 パーシヴァルが正式に円卓入りしてから、早半年。城下町から少し離れた郊外で、半年間パーシヴァルは農作物を育てていた。

 殆ど毎日飽きもせずに、畑を育てる事はパーシヴァルの日常になっていた。

 

 「こんなもんかな」

 

 動かす手を止めて、テニスコート二面分の畑を見る。

 そこには半年しか経っていないとは思えない程に、様々な作物が豊かに実っていた。

 普通ならば有り得ないが、この畑はパーシヴァルの特別製。畑の至る所にルーン魔術が使われている為、魔獣も寄り付くことも無く作物は尋常じゃないスピードで成長をしているのだ。

 自分が育てた農作物を眺め、幸福の笑みを浮かべる姿は傍目から騎士ではなく、農民に見えた事だろう。

 

 「パーシヴァル」

 

 凛とした声が聞こえた。

 その声の主を知っているパーシヴァルは、今日も来たのかと呆れにも似た苦笑いを零し、振り返る。

 

 「む、なんですかその顔は」

 「いや、なんでもねぇよ王様」

 

 視線の先には、美しい金髪を靡かせた王様系堅物大食らい美少女のアルトリア。

 その顔は少しムッとしている、パーシヴァルの苦笑といつもと違う呼び方でそうなっているのだろう。

 

 「その呼び方はやめて下さいと言った筈です」

 「へいへい、悪かったよ。 アルトリア」

 「はい」

 

 一転して、ムッとした顔から笑顔に変わる。

 そんなやりとりの後パーシヴァルとアルトリアは、畑の近くにあった小屋に向かった。

 小屋に入ると、備え付けてあった厨房でパーシヴァルは料理を始め、アルトリアは椅子に座り料理を待つ。

 これもこの半年間で日常になりつつある光景だった。

 

 事の切っ掛けは何気ない事だった。

 その日は珍しく王としての業務も無くのんびりと過ごせる、言い換えれば暇な一日になる予定であった。

 そんな時に、町の外に向かうパーシヴァルをアルトリアは城から発見する。

 その時ふっと後を付けようとアルトリアは考え、行動に移した。

 その後、郊外で畑を耕すパーシヴァルを目撃。見た事もないような食べ物を食べているのを発見した。

 見つかったパーシヴァルは驚いていたが、何やら物欲しそうな目をするアルトリアに作った料理を食べさせて以来、こんな事が続いているのだ。

 因みに、そうしているうちにパーシヴァルはアルトリアが女性だという事を知った。元々疑ってはいたのだが、周りが否定する為確信が持てなかったが、聞いてみたら案の定だったのだ。

 

 「うし、出来たぞ」

 「芳ばしい匂いがしますが、これは?」

 

 皿の上に出された茶色い物体の食べ物。その上にはソースが乗っている。

 周りには彩り鮮やかな野菜が添えられていた。

 

 「挽いた魔猪の肉を丸めて焼いたものだ。ハンバーグと言う」

 「魔猪ですか……」

 

 アルトリアは苦い顔をした。

 魔猪は豚や牛と違い、肉が硬い。まるで岩を食ってるかのように頑丈で味も不味いのだ。

 

 「大丈夫だって、食ってみろよ」

 「……ええ、では」

 

 パーシヴァルに言われてアルトリアは覚悟を決め、肉を口に運んだ。

 

 「こ、これは! 肉が柔らかい! 美味しい!」

 

 強く噛まずとも切れる程に柔らかい肉が、噛めば噛む程旨味を広げていく。

 魔猪の肉とは思えない料理に、アルトリアは驚愕し、何よりその美味さに喜んだ。

 肉を口に運ぶ手を休めること無く、気が付けば皿の上には何も残っていなかった。

 

 「おかわり!」

 「だと思ったよ」

 

 やっぱりこうなったか、と予想通りの展開にパーシヴァルは嬉しいような呆れたような顔をした。

 その日、大量にストックしていた魔猪の肉が無くなったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 鎧を身に付けながら、城内を歩く音が聞こえる。

 大柄な体に鋭い目付きをした騎士ケイは、アグラヴェインの元に向かっていた。

 すると目の前に、一人の青年が見えた。

 その青年を視界に映した瞬間、ケイの機嫌は最悪なものとなる。

 

 「はっ、誰かと思えばパーシヴァル卿か。相も変わらずみすぼらしい。城内をその様な薄汚れた姿で闊歩するとは、恥を知れ」

 

 パーシヴァルの元まで近付くと、ケイは嫌味を口にした。その顔には明らかに軽蔑の色が出ている。

 農作業の後だからか、確かにパーシヴァルの服は土で汚れていた。然し言われた当人のパーシヴァルは、あっけらかんとしてケイの言葉を受け流す。

 

 「これはこれはケイ卿。こんなみすぼらいし騎士に声を掛けて頂けるなんて、嬉しい限りです」

 

 ここで言い返しても面倒なだけと理解していたパーシヴァルは、心にもない事を適当に言って、さっさと通り過ぎて行く。

 だが、ケイ卿にはあの態度が逆に癇に障っていた。物に当たりたくなる衝動を抑え、ケイはアグラヴェインのもとにむかった。

 

 その日の夜、ある事件が起きた。

 無礼にもアーサー王の盃を騎士が奪い逃げたのだ。他の者達は今すぐに捕えねばと躍起になり、慌てていた。

 そこに、半年前に円卓入りしたばかりの騎士パーシヴァルが名乗りを上げる。

 

 「俺が、その騎士を捕まえよう」

 

 イーテル卿との一戦により、パーシヴァルのその実力と身体能力の高さは知れていた。また、天真爛漫な明るい性格から周りからの信頼も半年間で信じられない程に厚かった為、これに反対する者は殆ど居らず。

 アーサー王からも直々に命が下り、最低限の準備だけをして直ぐ出陣しようとしたパーシヴァルの前に一人の女性が現れた。亜麻色の髪をした女性だ。

 

 パーシヴァルは一刻も早く出たかった為、女性に何の用かと聞く。

 すると女性は、美しく微笑みパーシヴァルに頑張るよう口添えをした。

 それを見た周りの騎士達は騒ぎ立てた、何故ならこの女性クンネヴァールは、真の騎士にしか微笑まないとされているからだ。

 然し全く微笑まない事から、微笑まない乙女と呼ばれていた。

 そのクンネヴァールが微笑んだという事は、つまりパーシヴァルは真の騎士だと認められたという事。

 それを見た騎士達が騒がない訳がなく、パーシヴァルと親しいものは流石だと褒め称え、そうでないものは妬み疎んだ。

 その中には、パーシヴァルを馬鹿にしていたケイ卿も居る。クンネヴァールが微笑んだという事実が気に入らなかった彼は、あろう事かクンネヴァールの頬を叩いた。

 

 パーシヴァルは当然憤慨し彼の胸倉を掴んだが、それをクンネヴァールは諭し早く盃を奪った騎士を捕まえるように言った。

 諭され冷静になったパーシヴァルは、打たれたクンネヴァールを置いていくことに少し胸を痛めながらも、疾風の如く城を出て騎士を捕まえに行く。

 

 暫くして、盃を取り戻し騎士を捕まえたパーシヴァルは走ってケイ卿の所に向かい力ずくで懲らしめ、クンネヴァールに謝罪する様に求めた。

 パーシヴァルのその行いと騎士を捕まえた足の速さから、「駆け抜ける者」の名が城下町の民にも広まった。

 

 

 

 




後半はたいして見どころもない為、ダイジェスト風です。
手抜きと思われるかもしれません。本当にすみません。

本来この時代には存在しない食べ物とかもありますが、当作品ではあるって方向で行きます。

……評価が下がっていくなぁ……。
悪い所があればどんどん言って欲しいのです。
それと、再度言いますが作者は無知ですので、詳しい方はアーサー王伝説やパーシヴァルの伝承を教えていただけると嬉しいです。




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12━在りし日と礼節

ちょっとした事があって、休みが出来ました。
棚ぼたです。

なので直ぐに今回の話を書き上げました。
それと、感想にて指摘された事を少し書きました。

※修正しました。9月22日(1:55)
捧げる事しか出来なかった⇒捧げる事を自ら選択した。に直しました。


 子鳥の囀りが聞こえる。一つ一つの囀りが重なり、心地の良い音楽を奏で始めた。

 陽も高く上り、昼寝するには丁度良い天気だ。このまま小鳥が奏でる音を子守唄代わりに寝てしまいたい。

 そんな事を思いながら、木にもたれかかるパーシヴァルは目をウトウトさせる。耐える理由もない為、パーシヴァルは目を閉じた。

 

 「パーシヴァル卿?」

 

 いつものように、暇を見つけてはバレないように郊外に居るパーシヴァルの元へ向かったアルトリアが見たのは、小屋より少し離れた場所にある、一本の木を背に眠るパーシヴァルの姿だった。

 暫く動いていないのか、肩や頭には小鳥が乗っている。微笑ましい姿に、アルトリアは笑みを零した。

 木影を布団に寝ているパーシヴァルに近付くと、鳥達が一斉に羽ばたく。

 

 「……ん」

 

 そのせいで、パーシヴァルは目を覚ましてしまう。

 悪い事をしてしまったと、アルトリアは申し訳ない気持ちになりながらも、彼の側まで近寄った。

 

 「王様か……」

 

 まだ眠いのだろうか、いつもならばアーサー王と呼ぶ彼は、欠伸をしながらアルトリアをそう呼んだ。

 

 「おはようございます。パーシヴァル卿」

 「……おはよう。んん!」

 

 眠気を振り払うように、伸びをするパーシヴァル。

 彼の作る料理を彼と食べ始めるようになって、二ヶ月程経った。

 

 「今日も来たのかアーサー王様」

 「ええ、貴方の料理は宮廷のとは比べ物にもなりませんから」

 「そうかい。王様にそう言ってもらえて何よりだ」

 

 そんな会話をしながら、二人は小屋へ歩く。

 今日はどんな物が食べれるのだろうか、アルトリアはそんな事を考えながら、彼の料理を待つのだった。

 

 「何故、貴方は騎士になろうと思ったのですか?」

 

 昼食──にしては少し遅いが──を済ませた後、アルトリアは疑問を口にした。

 

 「なんでって言われてもな……。俺の師匠……王様の師匠でもあるか。マーリンの奴に、成ってほしいって言われたからだよ」

 「……本当にそれだけですか?」

 

 アルトリアはしつこく聞いた。

 少し前に円卓入りした、赤髪の青年パーシヴァル。彼は、言葉遣いはともかく最低限の礼節と言動は弁えている、及第点ではあるが騎士と呼ぶに値するだろう。

 だが彼は何処か、騎士の在り方に否定的な部分があるのをアルトリアは感じていた。

 それなのに何故、パーシヴァルは騎士を続けているのか、それがアルトリアには疑問だった。

 何か理由があるならば聞きたい、それが今のアルトリアの思い。

 

 「それだけなんだけどなあ。でも強いて言うなら、目的()の為だ」

 「夢?」

 「ああ、俺の夢は、そのなんだ……英雄(ヒーロー)になる事でさ」

 「英雄……ですか」

 「そう。困っている人が居るなら助け、悪を討ち善をなす。逆境を跳ね除け困難を打ち破る。化物を倒し安寧をもたらす。既知を覆し未知を踏破する。色んな英雄がこの世に居るが、俺はそんな奴らみたいになりたいんだ。……そのなんだ、安っぽくて子供染みてるだろ?」

 

 そう語るパーシヴァルの顔は、恥ずかしいのか何処かほんのりと朱かった。

 然し、はにかむ顔とは裏腹に揺るぎない意思がその瞳には宿っている。

 

 「その夢を叶えるために、騎士ってのは……言っちゃ悪いが、都合がよかったのかもな」

 「……そうですか」

 

 アルトリアはどこまで行っても子供のように、無垢で素直な彼の心に感銘を受けると同時に、国を治めるしかなかった己と重ね、羨望と嫉妬を抱いた。

 国の為、貧窮に耐える民の為、自らの人間性とその人生を封印し、王としての全てに身を捧げた。捧げる事を自ら選択したアルトリアと。

 自らの人間性と人生(ユメ)に素直で、愚直にあり続けるパーシヴァル。

 縛られる者(アルトリア)自由なる者(パーシヴァル)。ある意味で真逆の存在である彼に、彼女が嫉妬するのは当然だったのかもしれない。

 

 「だから、そのアーサー王には悪いが、俺は王様に忠誠心は持ち合わせていない」

 「……」

 「流石に不敬過ぎたか?」

 

 気不味く伺うように、アルトリアの顔を覗くパーシヴァル。

 それが可笑しかったのか、真面目な顔を崩しアルトリアは少し笑みを浮かべた。

 

 「いえ、パーシヴァル卿が忠義や愛国心を持ち合わせていない事は前々から気付いていました。それなのに何故騎士をしているか疑問に思いましたので。……貴方の答えを聞けてよかった」

 「そ、そうか」

 

 輝かしいアルトリアの笑顔に見惚れていたパーシヴァルは少し返答に詰まる。

 

 「どうかしましたか?」

 「いや、そのさ、前々から聞きたかったんだけど……アーサー王って女? だよな?」

 

 予想外の質問にアルトリアは目をぱちくりさせた後、パーシヴァルの問に答えた。

 

 「確かに私は女性の身ではありますが、それ以前に騎士であり王です」

 「あぁ、やっぱり女だったんだ」

 「ええ、それが?」

 「いや、どう見ても女なのに、周りの連中が男だって否定するから。もしかして本当に男の娘なのかなって思って。……にしても、辛くないのか?」

 

 余計な事だと分かっていたが、パーシヴァルは聞かずにはいられなかった。

 聖剣の呪いにより中身は大人だが、見た目は少女のそれで止まっている。それはつまり時が止まった少女の頃から周りを欺き続けていたという事。女である事を殺し、王に徹する。

 アルトリアとは反対の道をゆくパーシヴァルには、到底理解できるようなものでは無かった。

 

 「心配は無用です。始まりはどうあれ、私は今の道を選んだ。例えそれが辛いものであっても……。ですから、私は大丈夫です」

 「……そっか……」

 「ですが、ありがとうパーシヴァル卿」

 

 パーシヴァルの思いとは反して、アルトリアの顔は覚悟を決め己の道を受け入れた者の顔だった。

 強いな。パーシヴァルはただ一言そう思った。

 

 「所でアーサー王様、その卿ってのやめてくれ。人前ならいざ知らず、二人だけの時に堅苦しいのは好きじゃない」

 

 少し重たい空気になっていた為、パーシヴァルは話題を変えた。

 

 「む、それはすみませんでした。では何と呼べば……」

 「パーシヴァルでいいよパーシヴァルで」

 「了解しました、パーシヴァル。……その、では私の事もアルトリアと」

 「アルトリア?」

 「ええ、私の幼名です。貴方にはそう呼んでほしい」

 

 少し照れるようにしてそう言うアルトリアに、パーシヴァルは少し困った表情を浮かび上がらせる。

 

 「おいおい、流石にそれは。二人きりとは言え王様をそう呼ぶのは不敬過ぎんだろ、幼名だとしてもな。まぁ、現にこの瞬間も敬語じゃないし、何を今更って言われればそれまでなんだが……」

 

 本当に困った時の癖で、パーシヴァルは頬を指で掻いてしまう。

 既に不敬な事ばかりしてきたパーシヴァルだが、その殆どは目を瞑れる程度だ。

 だが、王を例え幼名だったとしても呼び捨てにするなどの明らかな不敬行為は少し戸惑われた。

 

 「此処には強力な人払いの魔術が掛けてあるのでしょう? ならば問題ありません。……今後二人きりの時はアルトリアと呼んでください」

 「いや、まぁそうなんだけどさぁ……」

(人祓いのルーンを易々と突破した王様がそれを言うか……)

 

 畑を中心に、円を描くようにして一定距離に強力な人払いのルーン魔術が周辺に施されている。この畑に盗みが入らないようにする為だ。

 竜の概念を孕み、生まれ持った高過ぎる対魔力のせいでアルトリアは突破出来てしまったが、本来ならば、世界有数の魔術師マーリン以外の誰も破る事は出来ない強力な代物(魔術)だ。

 お代わりの皿を差し出すアルトリアを見ながら、パーシヴァルは本当に困ったと苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「…………夢か」

 

 早朝、パーシヴァルは目を覚ました。

 窓からは昇ったばかりの陽の光が差し込んでいる。

 アーサー王をアルトリアと呼ぶようになった日の夢を見て、懐かしい気持ちになっていた。

 と言っても、今から三ヶ月前の出来事の話だが。しかして、夢見も良く、実に心地の良い朝だ。

 そんな事を思いながら、パーシヴァルはベッドから起き上がった。

 

 「来たか。早いなパーシヴァル卿。もう少し遅れてくるかと思ったぞ」

 「習慣でね。どんなに遅く寝ても早く起きるんだ」

 「なるほど」

 

 人々が眠りから覚め動き始める時間。

 そんな朝早くから、ある騎士の元に来ていた。

 

 「で、俺を呼び出した理由はなんだイーテル卿」

 

 元赤の騎士イーテル卿だ。

 昨夜、イーテルはパーシヴァルの所に訪れ次の日の早朝に自分の元に来るように言っていたのだ。

 理由は教えてもらえなかった為、パーシヴァルは何故呼ばれたのか未だに分かっていなかった。

 

 「ふむ、私は長い御託は好みではない。単刀直入に言おう。……貴様は礼儀がなっていない、王に対して不敬が過ぎるぞ」

 

 言葉を言うのと同時に、イーテルの目と雰囲気が鋭さを増す。

 パーシヴァルは、少しムッとしたが思い当たる節があった為黙ってイーテルの言う事を聞くことにした。

 

 「言動一つ、態度一つに問題がありすぎる。最低限の礼節はあるが、逆を言えばそれまでだ。今も皆の者が大目に見ているが、それがいつまでも続く訳では無い。一刻も早くお前には宮廷の作法、騎士の矜持を覚えてもらう」

 

 これまでも不敬に当たる行為は幾度もあった。

 然しそれは、パーシヴァル卿の実力と円卓の騎士と言う立場から、誰もが──ケイ卿辺りはグチグチ言っていたが──黙っていた。

 だがそれでは騎士として駄目だ、と思いイーテルは決闘により負った傷が完全に癒えた頃を見計らって先日、パーシヴァルに声を掛けたのだ。

 

 「無論、教えるのは私だ」

 「……ありがとう」

 

 何であれ、作法を教えてくれるのだからと、取り敢えずパーシヴァルはお礼を言った。

 

 「うむ。素直に感謝を口に出来るのはいい事だ。……その前に、パーシヴァル卿。貴殿が周りからどう思われているのか知っているか? 言い換えれば評判だな」

 「知らん。一々そんなの気にしないしな」

 「有り体に言って、悪い」

 

 タダでさえ強面の顔を難しい表情で歪めながら、吐き出すようにそう言った。

 

 「そうなのか? でも、そんな風には見えなかったが……」

 「お前と親しい者からはな。しかしそう出ない者達からは、作法も知らぬ癖王に取り入ろうとしている無礼者、と言う評判だ」

 

 ガウェインやランスロットと言った円卓の騎士達、若しくはパーシヴァルと共に戦場を駆け巡り彼を理解した者達からはパーシヴァルの評価は高かった。

 だがそうでない下の木っ端騎士達や古参の騎士達からは、ぽっと出の生意気な騎士モドキと陰口を叩かれている。

 気にせずほっとく事も出来るだろう。だがそんな事をすれば、いずれボロが出る。その時が最後だ、下手をすれば周りから糾弾される恐れすらある。

 

 「これを払拭するには、お前自身が作法の諸々を覚える他ない」

 「それは分かったけど、何であんたは俺の為にそこまでしてくれるんだ?」

 

 僅かな繋がりしかない筈の自分に対して、何故そこまでしてくれるのかパーシヴァルは疑問に思った。

 

 「理由など些細なもの。何、私がしたいからするのだ」

 

 自分を打ち負かした相手が、そんな些末で、くだらない理由から円卓を降ろされる事が、誇り高きイーテルが納得出来る筈も無かった。

 だから、そんなヘマをやらかさない為にイーテル自身がパーシヴァルに指南する事を決めたのだ。

 

 「ふぅん。んじゃ、これから宜しくな先生」

 「先生?」

 「あぁ。メリハリとか付ける為にだよ。気合いもその方が入るしさ。俺に作法を教授してくれるんだろ?」

 「ふむ、なるほど。確かにその通りだな。……先生か、存外悪くないものだ」

 

 その日から始まったパーシヴァルとイーテルによる授業は、殆ど毎日行われた。

 これにより、後にパーシヴァルは礼節の騎士と呼ばれる様になる事を、本人は知る由もない。

 




今回の内容は、パーシヴァルがアルトリアをアルトリアと呼ぶようになった切っ掛けとパーシヴァルの評判を払拭する為に作法を学ぶというものでした。

どうでしょうか? 納得頂けてると幸いです。
もし何か可笑しいところがあればドンドン指摘して欲しいです。

……次回からはケイ卿とも上手く絡ませたいなぁ……



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13━モードレッドとパーシヴァル

今回は早く投稿できたと思います。
それはそうと、前回ケイ卿と絡ませると言っていたのですが、先にモードレッドと絡ませました。期待していた人はすみません。次回こそは必ず絡ませますので。

あと、予想に反して文字数が多くなりました。それに比例して誤字脱字矛盾等も増えていると思います。一応こちらでも読み直して確認はしましたが、もし誤字脱字矛盾等がありましたら御手数ですが御報告の方を宜しくお願いします。




 

 けたたましい音があちこちから上がる。それに混じるのは、人と人の怒声や雄叫び、悲鳴だ。

 ジャキンッと剣が交差する。ガシャガシャと、身に纏う鎧が声を上げる。

 これは紛れもない戦争だ。どうしようも無く戦争だ。どんな大義名分を唱えても、人と人が殺し合う醜い戦争なのだ。

 戦場の至る所で(けむり)が空に伸び、鉄の匂いが蔓延る。足元には、血の付いた武具と、それを扱っていたとおぼしき兵士達の亡骸。

 そんな死が平然と大量に転がる戦場を、パーシヴァルは駆け抜ける。

 

 「ギァァッ!」

 「あがっ!」

 

 自軍の騎士達とは違い、その身は鎧など着ておらず軽装で、防具をつけたとしても胸当てと籠手、そして脛当てのみの動き易さに重きを置いた姿だった。

 手には槍ではなく、二振りの剣。一つは故郷の村に居た時から使っていた物。然し、その剣は長年、異形の魔物の血を帯びることで半ば魔剣と化していた。

 そしてもう一つは、円卓の騎士として迎え入れられた時に、彼の騎士王より賜った無名の剣。

 付けられた名は無いがその剣は大凡、人間の領域を超えたパーシヴァルの力や技量に耐えられる程の名剣であった。

 

 「ひっ! い、いや……だ……」

 

 縦横無尽に戦場を駆け回っては、二振りの剣を用いて、すれ違いざまに敵を一撃で屠る。

 先程から聞こえていた断末魔や叫びは、パーシヴァルによって殺された敵軍の兵士達のものだ。

 その身を崩し倒れる兵士に目もくれず、パーシヴァルはひたすらに戦場を駆ける。自軍の被害が少なく済むように。

 

(敵の大将は何処だ?)

 

 彼を体現した様な、美しい朱色の瞳で戦場を見渡す。

 そんな、敵軍の頭を潰して勢いを弱めたいと考えているパーシヴァルの瞳には、今まさに殺されそうになっている自軍の騎士が映る。

 

 「くっ……」

(ここまでか……)

 「死ねぇぇ!!」

 

 地に尻餅を付く騎士は己の死期を悟り、その瞼を閉じた。

 思い浮かぶのは、ログレスの都に残した妻と娘の笑顔。ああ悲しませてしまうな、と諦めにも似た笑いが漏れ出す。

 然し、いつまで経っても痛みが襲って来ない。何故だ、と不思議に思っていると。

 

 「何か諦めている所悪いが、貴殿はまだ死なんぞ」

 

 戦場に響く轟音に混じり、明るい声が耳に聞こえた。

 閉じた目を開けてみると、太陽の炎をそのまま閉じ込めたかの様な、()髪をした朱い騎士がこちらを見下ろしていた。

 

 「パ、パーシヴァル卿!?」

 

 見下ろしていたのは、イーテルの指南のお陰で僅か一年で礼節と作法を身に付け、今では騎士の鑑と迄言われるようになったパーシヴァル卿だった。

 男はパーシヴァルの足元に転がる死体を見て、助けられたのだと理解する。

 

 「立てるか?」

 「は、はい」

 「そう畏まるなって。ここは戦場だ、そんな事ではまた直ぐに死にかねねぇぞ」

 

 はは、と軽く笑うパーシヴァルは一年前とは比べ物にならない程大人びていた。それも全て、礼節を身に付けた事から来る精神的成長の落ち着き故だろう。

 騎士の男はパーシヴァルより年上にも関わらず、彼の出すその雰囲気から恐縮してしまうのだから、この一年イーテルがどれ程頑張ったのかが伺える。

 

 「時に、あんたは敵の大将を見かけなかったか?」

 

 聞かれた男は数秒固まった後、我に返り慌てて答えた。

 

 「は、はい! 先程ここより西の方面にそれらしき人影を見ました!」

 「そうか、ありがとう。礼を言う。 ……あ、それと! 死にそうだからって簡単に諦めんなよ。それじゃ、()()()()()! 」

 「ッ!」

 

 男の答えに笑顔で返すと、パーシヴァルはそのまま尋常では無い速さで疾走した。

 また会おう、それはつまり生きて帰るぞと言う意思を表す言葉。

 パーシヴァルの一言に励まされた騎士は、既にパーシヴァルが消えた方向に一瞬だけ視線を向け、落ちていた剣を拾い握り、ある事を決意する。

 ああ、必ず生きて帰って今度は礼を言おう、と。

 

 助けた騎士と離れたパーシヴァルは、あいも変わらずすれ違いざまに敵を殺していた。

 西の方面に走って暫く、それでも敵将の姿は見当たらない。既に別の所に行ってしまったのか、探せど探せど見つからない。

 諦めて別の所に向かおうとした時、超人的な視力を持って視線の遥か先にその姿を捉えた。

 

 「見つけた!」

 

 一人馬に乗り、周りの兵士達に指示を出している男。恐らく、あの者が此度の戦いの指揮を執る男だろう。

 情報通りだと、パーシヴァルは口角を釣り上げる。

 この戦が始まる前、アグラヴェインから、恐らく敵将は前線に赴くと言う情報をパーシヴァルは伝えられていた。

 その情報を頼りに探し回って、漸く見つけた敵軍の指揮官。だが、正面から突破するには、些か敵が多すぎた。

 

 「固められてるな」

 

 指揮官を護るようにして、一定数の兵が周りを囲んでいた。

 指揮官を中心に、バームクーヘン状に何層も陣形が上手く組まれている。

 外側は屈強な兵で固めており、さしずめ壁の役割を担っているのだろう。そして中心に向かうに連れ弓兵や槍兵等の中遠距離隊。成程、厄介だ。

 やろうと思えば、パーシヴァル一人でも突破出来るだろう。然し、時間を食う上に面倒だ。

 どうしようか、と頭を回転させ思案していると、ふと足元に視線を落とした。

 

 「ラッキー」

 

 そこには、血が張り付き汚れた一つの弓が落ちていた。パーシヴァルは再び口角を釣り上げる。

 二振りの剣を鞘に納め、近くに落ちていた矢を、弓と共に拾い構えた。ここから狙撃をしようと言うのだ。

 その距離、約2km弱。ふざけた距離だ。これがトリスタンの持つ宝具、フェイルノートの様な宝具(妖弦)ならば可能性はあったかもしれないが、パーシヴァルの手にあるのは何の加護も無ければ特殊な力も宿さない、何処にでもある弓。

 その程度の代物で、2km近く先の的を射る等、普通ならば到底不可能だった。

 

 「……ふぅ」

 

 息を吐き、精神を整える。

 周りの気配に気を付けながらも、目先の獲物に神経を集中させる。

 ギギギと壊れそうな程、弦を引き絞り狙いを定める。

 今一度言おう、この距離で点にも等しい的を射る事は、普通なら不可能である。

 

 ━━━━そう、()()()()()

 

 「……っ!」

 

 生憎だが、狙撃手は普通と言う言葉とは掛け離れたパーシヴァルだ。

 弓の壊れる寸前まで引き絞ってから放った矢は、放物線ではなく一直線に、的目掛けて飛翔する。運動エネルギーは減少する事なく、馬鹿げた速さを維持して、一条の流星の如く宙を奔る。

 

 そして彼の放った矢は、敵将の頭を━━━━砕いた。

 

 比喩にあらず。

 刺さったのでもなければ、貫通でもない。上記通り読んで字の如く、矢は人間の頭を粉々に粉砕した。

 誰が真似しても、仮にこの距離で矢が届いたとしても、パーシヴァルの様に人の頭蓋を粉々にすると言う、驚愕を通り越し一周回って失笑の領域に至る神業(芸当)は出来ないだろう。

 

 敵の兵は、いきなり主の頭が吹き飛んだ事に何が起きたのか分からず、慌てふためいている。状況を理解出来ずに混乱する様はまさに滑稽だ。

 

 「腕は鈍ってないな」

 

 一仕事を終えたパーシヴァルは、手をグーパー握っては開く動作をして、自身の弓術が衰えていないのを実感した。

 握る弓をその場に捨て、パーシヴァルは自陣のテントに走って帰る。その際に、大声で敵将を討ち取ったことを広めるのも忘れない。

 余談だが、この馬鹿げた弓術も、旅の最中に身に付けたものだったりする。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 天高く(そび)える白亜の門が音を立てて開く。門の外からは、遠征より帰ってきたアーサー王率いる騎士達が、馬に跨り城に向かってゆっくりと進む。

 その様を民達は讃え、凱旋の騎士達に歓声を上げる。天に轟かんばかりの民衆の声は、地を震わせている錯覚さえする。

 建物と建物の間の脇道から、民衆に讃えられる騎士達を遠目に眺める少女が居た。

 

 「アーサー……」

 

 視線の先に映る騎士王の名をポツリと呟く。

 少年の様な少女の名は、モードレッド。アーサー王と瓜二つの顔を持つ人物(ホムンクルス)

 モードレッドは生みの親であるモルガンに、初めてこの都に連れてこられ凱旋を目にした時以来、度々都に訪れては遠巻きに騎士達を眺める。

 いつも目に追うのは、白馬に乗り騎士達の先を行くアーサー王だった。

 

 「……?」

 

 アーサー王の姿が見えなくなり、用は済んだとこの場を離れようとするモードレッドは、偶然にも彼の姿が目に入った。

 開く門から最後に入ってきた騎士。彼は見た事も無いような馬鹿でかい黒馬に跨り、少し疲れた顔で民達に手を振っていた。

 何だあいつと、少し眉を顰めるモードレッドの耳にある会話が聞こえた。

 

 「相も変わらず、パーシヴァル卿は目立つね〜」

 「そりゃ、あんな馬に乗っていれば目立つさ」

 

 自分の前に居る二人組の男。

 彼等の会話からして、あのでかい馬に乗る男はパーシヴァルと言うらしい。

 彼等の会話に少し興味を持ったモードレッドは、耳を傾ける。

 

 「それはそうと聞いたかい? 今回の戦も、またパーシヴァル卿の働きで勝利を収めたらしい」

 「かぁ〜。流石は円卓随一の実力なだけある。おまけに礼節も正しく、まさに騎士の鑑」

 

 その後も彼等は、パーシヴァルに着いて色々と語っていたが、モードレッドは途中から興味を無くし、その場を去った。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「お疲れ様。いやぁ〜今回も大活躍だったね」

 

 呑気な声音でパーシヴァルに語りかけるのは、宮廷魔術師のマーリン。パーシヴァルはマーリンに視線を少しだけ向け、お前なぁ〜と恨めしそうに呟く。

 この男マーリンは、パーシヴァルやランスロット達が最前線で奮闘しているのに、魔術師だからと言う理由で自陣のテントに引きこもっていたのだ。それも本当に最低限の助言しかせずに。

 その癖、テントに帰ってきた前線の騎士達を煽る煽る。パーシヴァルが怒りとも呆れともつかない呟きを垂らすのは当然の事だった。

 

 「仕方ないだろう? 私は生粋の魔術師で荒事は苦手なんだ」

 「生粋の魔術師は剣なんて振らねーし、詠唱を面倒臭いなんて言わねーよ」

 

 マーリンの巫山戯た言い訳に、パーシヴァルは正論で返した。

 パーシヴァルの言葉を、いつもの胡散臭い笑みで流しながら、マーリンはそそくさと退散した。

 やっと邪魔者が居なくなったと、パーシヴァルはため息を吐き。気分転換に城下町に赴いた。

 

 「賑やかだなぁ」

 

 堅っ苦しい装備を家に置いていき、何処の下町にも居そうなラフな服装をしたパーシヴァルは、飛び交う人々の声を聞きながら微笑む。

 やはり賑やかなのはいい事だ、と心で思いながら。

 

 「……うぉっ!」

 「……うっ!」

 

 行き交う人達に気を取られていたパーシヴァルは、角から出てきた小さな人影に気付かずぶつかってしまう。

 鍛えられた肉体を持つパーシヴァルは僅かな衝撃だけで済んだが、ぶつかった方の人物は尻餅を付いてしまう。パーシヴァルは慌てて、大丈夫か、と手を差し伸べた。

 見た目は14歳程の子供、ローブのフードを被っている為顔はよく見えないが、僅かに見える骨格からして少女だろう。

 

 「……いってぇ〜」

 

 差し出された手を取り、立ち上がった少女は、尻についた埃を払いながらそう言った。

 

 「悪い。こちらの前方不注意だった。怪我は無いか?」

 「大丈……!」

 

 少女、モードレッドは顔を上げてみると、ぶつかった人物が誰なのかを理解した。

 赤い髪が特徴で、大きな黒い馬に乗っていた騎士。パーシヴァルだ、間違いない。

 

 「どうかしたか?」

 「いや、何でもねえ。大丈夫だ」

 

 異変を感じたのか、モードレッドの顔を覗き込むパーシヴァル。その事に、モードレッドは顔を逸らし慌てて答えた。

 モードレッドは自分の顔がアーサーに似ている事を自覚していた、その為顔を覗かれては不味い、今ここで正体がバレる訳にはいかないと。

 そう考え、急いでこの場を去ろうとするが、パーシヴァルはそれを呼び止めた。

 

 「ちょっと待ってくれ」

 「……何だ?」

 「本当に大丈夫なのか? さっきから慌ててるみたいだが……我慢してないか?」

 

 モードレッドの慌てる姿は、パーシヴァルには怪我を我慢している様に見えたようだ。

 見知らぬ他人に、怪我をしたことを言うのを我慢しているかもしれない。子供ならそういう事もあるだろうと、パーシヴァルなり心配しているのだ。

 実際はそんな事は無く、モードレッドはこの場から直ぐに逃げたいだけなのだが。

 

 「いや、オレは大丈夫だって……」

 「……本当か?」

 

 ジト目でジリジリと距離を詰めてくるパーシヴァル。別角度から見れば、危ない場面に見えなくもない。

 パーシヴァルの視線を気不味く感じ、視線を逸らし黙ってしまう。それがいけなかった。

 パーシヴァルは何を勘違いしたのか、やっぱりなと、息を吐きモードレッドを見据えた。

 

 「少しじっとしてろ」

 「何を……!」

 

 暖かい何かを感じる。モードレッドは、これが魔術だと瞬時に理解した。ならばこれは治癒の魔術だろうか、大丈夫だと言っているのにモードレッドに治癒魔術を掛けるパーシヴァルを見て、変な奴と心中で零した。

 

 「良し。これで大丈夫だろ」

 「……ありがとう……」

 

 素直に礼を言う。パーシヴァルは笑顔で頷き、返した。

 さて、もう用は無いだろうと、今度こそこの場を離れようとするモードレッドだが、又してもパーシヴァルに引き止められた。

 

 「あ、待ってくれ!」

 「何だよ。何かまだあるのか?」

 「君は今暇か?」

 「は、はあ?」

 「良ければ、この町を案内しようか? と言うか、俺の暇潰しに付き合っておくれよ」

 

 ナンパであった。紛うことなきナンパであった。

 いや、実際にはパーシヴァルはモードレッドの事を気遣ってこんな事を言い出しているのだ。

 モードレッドは顔がバレないように、常に顔を伏せ気味に会話をしている。パーシヴァルはモードレッドのそれを、元気が無いのだと再度勘違い。

 よしならば()()()()()()()()、とお節介を焼く事にしたのだ。

 

 「断る。オレは暇じゃ……っておい!」

 

 断るモードレッドの腕を引きながら、いいからいいからと近くにあった店による。

 

 「おじさん! これ二つ!」

 

 パーシヴァルは、露店に並べられた果実を二つ手に取る。

 店主とパーシヴァルは知り合いなのだろうか、軽い世間話をしては盛り上がると、店主に礼を言ってパーシヴァルは買った果実をモードレッドに差し出した。

 

 「何だよそれ」

 「リンゴって言う果実さ」

 「リンゴぉ?」

 

 モードレッドは差し出された林檎を、訝しげに眺める。

 

 「いいから食ってみろよ。甘いぜ?」

 

 渋々ながらも、パーシヴァルから林檎を受け取り、口に運ぶ。

 

 「……なんだこれ、美味い!」

 「だろ!」

 

 何故か胸を張るパーシヴァルを他所に、夢中で食べ続ける。

 そして直ぐに完食すると、ニヤニヤ笑うパーシヴァルの視線に気付き気恥しさを覚えた。

 

 「そんなに美味しかったなら、もう一個買ってやろうか?」

 「いらねぇよ! ……それより、何だってあんなもんがあんだよ。今は戦時中な筈だ」

 

 パーシヴァルの視線が何処と無くムカつき、勢いに任せて断った事を後悔しつつ、話題を切り替えた。

 確かにモードレッドの言う通り、戦時中の今、普通ならば果物等そうそう手に入らない。

 それに、見渡せばあの店以外の露店も、豊富に品が並べられている。どういう事か、モードレッドは気になった。

 

 「……俺もよくは知らない。けれど、多分農園を開いているどっかの優しいお兄さんが、親切心で作った農作物をこの国に輸出(まわ)してるんだよ、きっと」

 

 どっかの優しいお兄さんって誰だよ、とモードレッドは突っ込んだが、パーシヴァルは知らぬ存ぜぬと答えた。

 ……真実は、パーシヴァルが作った異常なスピードで成長した作物を、物価が高騰も低落もしない程度にこの国に入れているのだ。何故か急に食糧難に困る事が無くなった事に、当然上の連中は疑問を持ったが、アルトリアとマーリンそしてアグラヴェイン協力の元、その疑問は納得(有耶無耶に)されている。

 まぁ、マーリンが協力している時点で碌でもない方法をしている事は確かだ。

 

 「さ、そんな事より、もっと色々と回ろう」

 「だから引っ張んなって……たく!」

 

 もうこれはどうしようもないと、モードレッドは諦める事にした。

 それからと言うもの、パーシヴァルはモードレッドを彼方此方に連れ回し、行く先々で食べ物等を食べ続け、時にパーシヴァルの知り合いの子供達と遊んだりもした。

 空は茜色に染まり、気が付けば夕暮れ。

 

 「いやぁ、楽しかったな」

 「……おい」

 「ん、どうした?」

 「お前騎士なんじゃないのか? 良いのかよこんな事して」

 

 今現在、二人が居るのは物見の塔の上。

 本来ならば、騎士しか立ち入ることの出来ない場所にモードレッドは連れられていた。

 

 「今日は戦帰りで仕事も無いし暇で」

 「そういう事じゃねえよ。オレをここに連れてきてよかったのかって聞いてんだ」

 

 終始フードを被っていたから、その顔はよく見れないが、パーシヴァルの心配をしているのだろう。

 男勝りな口調に、雑な態度だが、可愛い所もあるじゃないかと、パーシヴァルは笑った。

 

 「駄目だろうな。バレたら叱られるじゃすまん」

 「じゃあなんで……!」

 「言っただろ、バレたらって。ならばバレないようにすればいい」

 

 ここに来るまでに人祓いの魔術は施した。マーリンやアルトリア辺りは気付くかもしれないが、何かしら理由があると理解してくれるはずだ。

 だから、見られる心配は無い。

 

 「は、お前見たいな奴が騎士の鑑だなんて、世も末だな」

 「違いない。……人目がある所ならちゃんとするけどな」

 

 そう言ってくつくつ笑うパーシヴァルの顔は、夕日に照らされ、整った美形な顔も相俟り、まるで一枚の絵のように美しかった。

 僅かな間、モードレッドはその横顔に自覚がないまま見惚れていた。

 

 「なあ、なんでお前はそこまでオレに構うんだよ」

 

 今日一日ずっと思っていたことを吐き出す。

 街角でぶつかっただけでこんなに構ってくれるとは思えない、他に別の理由があるようにモードレッドは感じたのだ。

 

 「…………純粋な人じゃないだろ、お前さん」

 「っ!?」

 

 幾許か考えて、パーシヴァルはそう言った。

 何故気付かれたと、モードレッドは冷や汗を流した。若しかしたら、自分の正体すらバレているかもしれない、内心で酷く焦る。

 

 「そういう奴は大体複雑な事情があるのは理解してるから、深くは聞かないさ。……でも、ぶつかった時のお前、自分は()とは違います、みたいな雰囲気出てたからさ。つい構いたくなったんだよ、お前も()と同じだって」

 

 数年間の旅の間、何人もそういう人物をパーシヴァルは目にしてきた。そして決まってそういう人達は、やがて己を否定し始める、下手をすれば破滅する事もまた知っていた。

 赤の他人ではあるが、目の前の少女がそうなってしまったらと考えると、パーシヴァルは居ても立っても居られなかったのだ。

 モードレッドを見据える朱き双眸は、否応無くモードレッドを惹き付けた。

 

 「いつから気付いていた」

 「ぶつかって、手を差し伸べた時から」

 「初めからかよ」

 

 つまり、この男はモードレッドが人で無いのを理解した上で、散々振り回していたのだ。怪我を心配していた事や、元気付けてやろうとしていた事も本当だろうが、性格に反してなんとも抜け目の無い事だ。

 パーシヴァルの言う通り、モードレッドは人間ではない自分を恥じていた。何故人に産まれなかったのか、他とは違う世界にいるのではないか。

 そんな不安がモードレッドの中に存在していた。それをこの男は見破ったのだ。

 旧知の中でもなければ、さっき知り合ったばかりの赤の他人が。

 やっぱり変な奴だ、とモードレッドは思った。

 

 「お、来たぞ……。あれ見てみろよ」

 

 パーシヴァルはモードレッドから視線を外し、夕日に指を指す。

 モードレッドが、指された方向に視線を向けると、そこには美しい絵画が出来上がっていた。

 地平線に沈む太陽は、空を赤く化粧し、橙色の世界を作り出す。

 

 「綺麗だ……」

 

 無意識にそんな言葉が零れた。

 パーシヴァルにはその呟きが聞こえており、だろ! と夕日に負けない程の明るい笑顔をモードレッドに向けた。

 彼がモードレッドをここに連れてきたのは、この夕日を見せるためだった。

 この赤一色に染まる世界は、どんな不安も吹き飛ばしてくれる。パーシヴァルは、モードレッドの不安もきっと吹き飛ばしてくれると思い、お気に入りの場所であるここに引っ張ってきたのだ。

 

 「そうだ。……俺はパーシヴァル。お前の名前を教えてくれよ」

 

 今思い出したと、声を上げ名乗るパーシヴァル。

 今更か、と思いながら被るフードを脱ぎながら、モードレッドも己が名を名乗った。

 

 「オレは……オレは、モードレッドだ」

 

 顕になる顔に、パーシヴァルは驚愕する。

 フードのしたから出てきた顔は、夕日に照らされて輝く、アルトリアと瓜二つのモードレッドの笑顔だった。

 

 

 




今回の内容は、モードレッドがメインでした。
まだ自らの出生の秘密を知らない頃の純粋なモードレッド……いいですよね!
というか、モードレッドのキャラが変わってないといいんですけど、アレで大丈夫でしたか?
それと話の中で出てきたリンゴですが、ヨーロッパに来るのは本来は16世紀で、本格的にイギリスで栽培されるのは19世紀からですが、当作品ではパーシヴァルが旅で持ち帰り育てている事にします。


あと私事なのですが、プレゼントできた30個の石でマーリンとオルトリア(セイバー)が来ました。やったぜ!
書けば出るって言うのは、本当かも知れませんね。


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14━ある騎士の話

お待たせいたしました。今回も遅れてすみません。本当に……すみません。

それと、Garden of Avalon まだ途中ですけど聴きました。良いですね。それぞの騎士達の思いが語られていて、大変興奮しました。
ていうか、ケイ卿のオラオラを想像してしまった自分は間違ってないはず。

……どうでもいいことですが、オリジナル小説を書きたくなってくる今日この頃……。


 ━━━━分かっている。

 

 ━━━━分かっているさ。俺が『アイツ』を救えないくらい。

 

 ━━━━だからこそ、何処からともなく現れ、 いとも容易く『アイツ』を救ったお前が凄くて。

 

 ━━━━ただ、それを俺は認められなかっただけの話だ。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 俺とパーシヴァルの出会いは、最悪なものだった。

 俺がパーシヴァルの奴を初めて見かけたのは、戦場だ。ある騎士から自陣の後方より奇襲を受けたと報告を耳にし、急いで来た道を戻った。

 駆けつけた頃には既に、我が義妹のアルトリアがランスロットと共に敵勢力と応戦しており、慌てて俺もそれに参加した。正直戦う事は得意じゃなかったがな。何はともあれ、襲い来る敵を倒していく。

 そんな時だった。アルトリアと肩を並べ戦場を駆ける朱を見たのは。

 

 あんな騎士居たかと、心に疑問を持ったが、その時は戦場の最中だ。気にしている暇などある訳が無い。

 気になりながらも、それは後だと剣を構え敵を倒していた。それがパーシヴァルの姿を初めて見た時だ。

 

 次に、アイツと話をしたのはテントの中でだった。

 奇襲を退け、死者が殆ど出なかった事を喜びながら、自陣に戻っていく。そして備え付けたテントに入ると、アルトリアと腐れ魔術師から朱い奴の紹介をされた。

 聞く限り、途中からこちら側に加勢してくれたらしい。確かに傍目から見ても、あの戦場ではパーシヴァルのお陰で勝てた事が理解出来る、それ程までにパーシヴァルは活躍していた。

 ただ、一つ気に入らない事がある。

 

 それは、パーシヴァルがマーリンの知り合いだという事だ。人の子に竜の概念を含ませる。所謂、概念受胎ってやつだ。それだけでも胸糞が悪くなる。

 そんな事を平気で行う腐った魔術師だぞ、そいつの知り合いだと紹介されて、はいそうですかと信頼出来る方が難しい。事実、その時は俺の様に顔を顰める奴の方が多かった。

 

 ……話を戻そう。

 俺とパーシヴァルの会話は、なんとない普通のものだった。だが、逆に普通故に俺は気に入らなかった。

 礼儀を知らない事もそうだったが、俺はアイツに一つ問うたことがある。まあ簡単に言うと、「王の事をどう思ってるか」と言うものだ。

 そしたらパーシヴァルは、「なんとも」と心底どうでもいいと、興味の無さそうな声音で答えた。

 

 その時からだ、俺がパーシヴァルを認めなかったのは。

 パーシヴァルからして見れば知り合ったばかりの王様ってだけで、本当に、本心からの何気ない一言だったのかも知れないが、俺ら騎士からしてみれば納得のいく答えではない。

 国の為、民の為、今ある尊い人々の営みを守る為に、俺らは──俺の場合は少し違うが──アルトリアに仕えている。そこには些細な違いはあるが、一貫して皆忠節を尽くしている。

 愛国心もなければ、忠義もクソもない赤の他人を、少なくとも俺は信じる事が出来なかった。

 

 以来、パーシヴァルを見掛けては嫌味を言うようになった。

 だけど、俺がなんと言おうがパーシヴァルは飄々と受け流す。

 こんな事を続けて居ても無駄だとは分かっていたが、止めることはしなかった。そしてまた、そんな無駄な事をする自分にも苛立ちを覚えていた。

 

 ある日、アルトリアの雰囲気が柔らかくなったのを感じた。周りは気付かない程の些細な変化だが、ガキの頃から長年アイツといた俺には直ぐに分かった。

 変化の原因はすぐにパーシヴァルだと言う事も分かった。アルトリアに対してのパーシヴァルの雰囲気が何処か馴れ馴れしかった為すぐに気付いた。流石に正式な場ではそんな事は無かったが……。

 今でこそ、いい意味でアルトリアに変化を齎したパーシヴァルには感謝しているが、その当時の俺からしたら、アルトリアに取り入ろうとしているようにしか見えず、更に激しく当たる様になった。

 

 そして遂には、全く関係の無いクンネヴァールを叩いてしまうという事件を起こしてしまった。ああ今思い出すだけでも腹が立つ。勿論自分自身にだ。

 それにより一時期は円卓の席を下ろされそうになったが、まあ色々あって謹慎で済んだよ。

 ……けど、パーシヴァルとの仲は最悪以下になった。

 

 然し、そんな俺とパーシヴァルの仲を一転させる出来事が起きた。

 それは戦場での話だ。戦力の大半を出さなければ行けない程の激戦が起きた。

 そんな大規模な戦だ。当然、俺も駆り出されたよ。……まったく、机に向かって雑務をこなしている方が性に合うってのにな。

 

 勇猛果敢に雄叫びをあげ、剣を振るう敵を殺しながら、戦場を回っていると、パーシヴァルが死体に躓き体勢を崩したのが見えた。

 敵に囲まれているパーシヴァルを見た時、あぁ死んだなと思ったよ。助けなかったのかって? ……その時の俺とパーシヴァルの関係を考えてみろ……つまりはそういうことだ。

 

 それから暫くしてだ、また戦場を駆け巡る彼奴を見つけた。どうやら助かったらしい。

 そんな時だった、パーシヴァルの奴に数瞬気を取られていた俺は、情けない事に不覚を取った。

 今度は俺が絶体絶命に陥ったって訳だ。傷は浅くなかった、走る激痛で片膝を付き、動くことすらままならない。

 その時は正直、柄にも無く罰が当たったんだと思ったよ。パーシヴァルを見捨てた、な。

 

 敵が槍を振り下ろした時、すべてを諦めた。

 ……血が滴り落ちる。それは地面にではなく、貫通した槍を伝いながら俺の頬に着地した。

 俺に刺された痛みなど無く、目の前にいるパーシヴァルが苦痛に顔を歪めていた。

 そう、パーシヴァルは俺を庇い串刺しにされたんだ。

 

 驚愕に目を見開く。

 パーシヴァルの奴が俺を庇う理由など無いはずなのに、此奴は俺を庇った。

 その理由を聞きたくて、敵を殺し、横になるパーシヴァルの胸元を掴んでいた。何故だ、何故俺を助けた。

 

 「見捨てようと思ったけど……あんたの嫌味(お小言)が聞けなくなると思ったら、勝手に体が動いた」

 

 それに、アルトリアが悲しむからと、掠れた声で答えた。

 どうやら此奴の中で、俺の嫌味は日常になっていたらしい。は、呆れたぜ。この時になって漸く理解した、此奴は相当な馬鹿だ。俺は見捨てたのに、此奴はそんな俺を助けた。会うたびに罵るような相手をだ、馬鹿以外の何者でもない。

 ……だが、この馬鹿の事を侮蔑し、見捨てようとした俺は…愚か者だ。

 

 気が付けばパーシヴァルを背負って陣営に戻ろうとしていた。

 後ろからは、大丈夫だ、と声がするがそれを無視して自陣にに向かう。幸い、先程敵将は取ったと声が聞こえた。

 

 その後、陣営に戻った俺は、何故かパーシヴァルの傷がテントに着く頃には塞がっていた事に驚きながらも。

 これまでの事を謝罪した。……あんなに軽く許されるとは思わなかったが。

 その日以来、俺とパーシヴァルの仲は改善されて行った。……かと言って、その当時は、まだ礼儀がなっていないパーシヴァルにグチグチ言う事は変わっていないがな。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「お、ケイ」

 

 パーシヴァルは、渡り廊下で偶然見掛けたケイに声を掛けた。

 向こうは一瞥すると、なんだお前かと、一言呟き直ぐに歩き始める。パーシヴァルは小走りで、彼の隣に行く。

 

 「なんだケイ、もう雑務は終わったのか?」

 「今日の分はな」

 「さっすが」

 

 おちゃらけた雰囲気で、ケイの肩を軽く叩くパーシヴァル。ケイは何処か鬱陶しそうにしながらも、それを振り払う事はせずに、黙っていた。

 そんな二人からは、友情が見て取れる。これも、戦場での一件から互いの認識が改まった事による恩恵だろう。

 他の騎士達も、この二人が親友の様な間柄だと認識する程だ。

 

 「……何故付いてくる」

 

 すたすたと歩いて暫く、先程から気になっていることを、ケイは聞いた。

 

 「やる事ないから」

 「ならば何故此処にいる?」

 「さっきまで先生ん所に居たんだけど、先生が用事で帰っちまってよ」

 「……イーテル卿か」

 

 今日は非番だった為、やることも無いパーシヴァルは、朝からイーテルの元に向かい雑談をしていた。

 然し、そのイーテルが居なくなり、畑でも弄ろうとしていた所にケイを見つけたのだ。

 

 「つまりは、暇潰しに俺についてきたという事か」

 「正解」

 

 ヘラヘラ笑うパーシヴァルに、ケイは少し青筋を浮かべる。

 ケイはこれから別の仕事なのだ、暇潰しという理由で付いてこられては困るというものだ。

 

 「フン、暇ならば泥遊びでもしていろ」

 「相変わらず辛辣だな……。それに、俺が遊ぶ……じゃない弄るのは土! 泥と違う」

 「泥も土も変わらん。俺はこの後も仕事だ、邪魔をするだけならば何処か行け」

 「いや変わるから……。でも仕事か。ならしゃあない、下町にでも行くかぁ」

 

 そう言ったパーシヴァルは、ケイと別方向に歩き、手を振ってわかれた。ケイはそれを見送ると、うるさいのが消えたと溜息を吐く。

 あの戦場以降、ケイを見つけては近寄って煩く話し掛けてくるパーシヴァル。昔の自分が見れば、今の状況に驚くだろう。まさかあれ程嫌っていたパーシヴァルと仲良くなるとは。

 世の中何がどう転ぶか分からないと、ケイは皮肉気な笑みを浮かべながら、再び歩き始めた。

 

 

 

 

 




粗い、とにかく粗い。
……修正入るかもです。

それと今回の話で評価落ちそうだなぁ。こんなのはケイ卿じゃないとか思われそうで心配です。
もしそう感じましたら、感想欄にて言ってくださると嬉しいです。



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15━過ぎ行く日常の中で

前回よりは早く投稿できましたかね?
取り敢えず、出来たので投下です。
それと後書きにお知らせがありますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

言うタイミングが無いので、今ここで言わせてもらいます。
いつも誤字脱字を報告してくださる皆様、誠に感謝致します。なるべく作者の方も見直して無くそうとはしていますが、中々に出来ず本当にすみません。
再度お礼を言わせて頂きます、ありがとうございます。



 快晴だった。

 空に雲は数えられる程しかなく、天高く昇る太陽は皆平等に、その輝きを持って照らしている。

 太陽に見下ろされている人々は変わらず賑やかで、子供は街を走り回り、大人は商売や仕事に勤しみ、老人達はゆったりとした日常を送っていた。

 

 「暇だ」

 

 ポツリとパーシヴァルは呟いた。

 城下町に用意されたパーシヴァルの家。その中の、地味に豪華な寝室のベッドで、ゴロゴロ転がりながら退屈に殺されそうになっていた。

 ほぼ毎日忙しく、ブラック企業も真っ青な──ブラックなのに青とはこれ如何に──程の圧倒的な仕事量をこなし、そして漸く久々に貰った休日。

 だが、悲しきかな。休みを貰ったら貰ったで、過労の次には退屈に殺されそうだ。

 

 「モードレッドも今日は来ないし」

 

 今日、というか最近は街に来なくなったモードレッドの事を頭に浮かべる。

 モードレッドはパーシヴァルと会って以来、度々この街にやって来てはパーシヴァルの元に来ていた。

 パーシヴァルも、お勤めの最中でなければモードレッドの相手をし、何度か下町で一緒に遊んだり、モードレッドたっての願いでモードレッドの剣術の面倒も見ていた。

 しかし、最近になって何故かめっきりと見なくなった。なんかあったのかな、と心配はしているが、生前本で読んだアーサー王伝説を知っているパーシヴァルは、モードレッドがいずれ円卓に来る事を知っていた為、いつかは会えるだろうと思っていた。

 思考を切り替え、暇そうな人物を頭の中で探していく。

 

 「ケイは相変わらず仕事人間だし、アグラヴェインは人と関わろうとしないし……他の円卓組は大体ナンパに勤しんでるだろうし、マーリンは屑だし」

 

 頭の中で、思い浮かべた人物達の現状を口に出していく。最後の方は、ただの悪口になっていた気がしないでもない。

 結局、思い当たる人物が居なかった為、パーシヴァルは気分転換に家の外に出る事にした。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「美味いな」

 

 家の近くの店で買った林檎を食いながら、街の中を散策する。

 

 「ああパーシヴァルちゃん!」

 

 果物を片手に、照りつける日差しの中、商店街の辺りまで歩くと、一つの露店からそんな声が聞こえた。

 その声を皮切りに次々と、旦那! やら、大将! やら、パーちゃん! やら、中には様付けで、親しみを込めてパーシヴァルをあだ名で呼ぶ者達が現れた。

 パーシヴァルをあだ名で呼んだ者達は全て、この商店街で店を営んでいたり、その息子や娘達だったりする。

 キャメロットの下町に置いて、パーシヴァルを知らぬ者は居ない。それは戦での武勇や名声が広まったのもあるが、それとは別に、パーシヴァルの人柄に触れた者達が多いからだ。

 

 ある者は命を助けられ、ある者は潰れ掛けた店を救われ、ある者はその優しさに癒された。

 それ以外にも、この商店街でパーシヴァルは暇だからと店を手伝ったりしている。

 そうしていく内に、あだ名で呼ばれるようになっていた。無論、城務めの騎士故、非番だったり仕事がない休日の日にだけだが。

 

 「おっす、おばさん」

 「今日はどうしたんだい?」

 「家にいても暇でね」

 「そう、ならうちの店の手伝いでもしてく?」

 

 恰幅のいい女店主がパーシヴァルにそう言うと、店のあちこちから、ならうちの店を、と声が上がる。

 見慣れた光景なのだろう、買い物をする人々は特に気にした様子もなく、様々な店から煩く湧き上がる声に微笑む者もいた。

 

 「悪いな、今日は働く気分じゃない」

 

 済まなそうに、頭を掻きながらパーシヴァルは言った。

 女店主は分かりきっていた様にそうかい、とだけ言うと豪快に笑ったあと店に並んであった、串に刺さった肉料理を一つパーシヴァルに渡した。

 

 「久々の休日なんだろう? なら、目一杯羽を伸ばすといい」

 「おう、ありがとな」

 

 その後、商店街を抜けて散策を続けた。

 林檎も貰った食べ物も完食して暫く、呑気に口笛を吹いていると、遠くに見慣れた姿を見た。

 

 「ん、マーリンか」

 

 全身を白色の装束で纏めた、胡散臭い宮廷魔術師のマーリンだ。

 一人の女性に何やら語りかけている、恐らくナンパだろう。それを見たパーシヴァルは、またか、と呆れた息を漏らす。

 今回に限らず、マーリンは見目麗しい女性を見つけては度々、今の様に口説きに行く。

 そのため女性関係のトラブルが多々起こってしまうし、そんな時には決まっていつもパーシヴァルが後始末を任される。それもマーリンの弟子と言うだけでだ。

 憤慨する女性を落ち着かせ、話し合い、慰め、多少のアフターケアも施す。トラブルが起きた時の、一連の流れを思い出し、頭を痛めた。

 

 パーシヴァルが頭痛に顔を歪めていると、遠くでマーリンがビンタを食らっていた。

 フラれたようだ。パーシヴァルは小さく、ざまあみろ、と零し口角を釣り上げた。

 ビンタされたマーリンを見れて、少し胸のすく感覚を感じていると、向こうのマーリンがこちらに気付き近寄ってきた。

 

 「やあ、パーシヴァル」

 

 笑顔で近づくマーリンに、パーシヴァルは呆れた目を向ける。

 マーリンの頬には綺麗な紅葉が付いていた。

 

 「やあ、じゃねえよ。また女にちょっかい掛けやがって」

 「ははは、これは恥ずかしい所を見られた」

 「今回は失敗したからいいものを、毎度お前の面倒事の後始末をするのは俺なんだぞ」

 「うん、本当に頭が上がらないよ。ありがとう」

 「……そう思ってんなら、言葉じゃなくて態度で示せっての……」

 

 言っても無駄と分かっていたが、やはりどうしても愚痴愚痴言ってしまう。

 もういっそ殴って懲らしめてもいいんじゃね? とか最近は思わないでもない。

 きっと今ここでマーリンを殴っても、パーシヴァルに罰は当たらないであろう。

 

 「それはそうと、君は散歩かい?」

 「ああ、暇だったからな。それに今から、厩舎に向かうところ」

 「そうか」

 「なんなら、マーリンも来るか?」

 

 なんだかんだ言って、マーリンを誘うあたり、パーシヴァルはマーリンを嫌いになれないのだろう。

 マーリンもそれを分かっていて、いつもパーシヴァルに面倒事を頼むのだから。

 まっこと上手い具合に成り立つ師弟である。

 

 「いや、遠慮しておこう」

 「そっか。じゃ、俺は行くわ」

 「うん」

 「それと、ナンパはするな、と言っても無駄だろうから。程々にと言っとく」

 「善処するよ」

 

 パーシヴァルの言葉に、笑いながら答える。

 自分の言う事を守りそうに無い、己の師匠の顔に、諦めたようにパーシヴァルは顔を手に当てため息を吐いた。

 

 城の近くに建設された厩舎、その奥に用意された特別な空間に、パーシヴァルの相棒は居た。

 夜の様に黒い肌と、岩のような屈強な筋肉、そして他の馬と比べ何回りも違う巨大な体躯を持ち、神秘的を超え幻想的な雰囲気すら感じる黒馬。

 旅の最中に、死徒や魔獣、果てには幻想種の血肉を喰らい、半ば幻想種(神獣)の領域に至ったパーシヴァルの相棒、スレイプニルだ。

 

 「よおスレイ」

 

 自分の主がそう言うと、スレイプニルは応えるようにブルルと鼻を鳴らした。

 パーシヴァルの右手にはブラシが、左手には布が握られており、スレイプニルの毛の手入れをしに来たのだとわかる。

 

 「にしてもお前、凄い事になったな」

 

 ブラシを丁寧に、毛の流れに沿って滑らせながら、パーシヴァルは語りかけた。

 パーシヴァルの言った凄い事とは、スレイプニルが幻想種に至った事だ。

 スレイプニルは世界を転々とする旅の中で、どうしても食い物に困った時、魔獣に限らず食えそうな物は何でも食べていた。それだけでもヤバい事ではあるが、ある日、主たるパーシヴァルはとんでもない物を食料に持ってきた。

 馬にしては大きいスレイプニルより何倍もある巨躯をもった幻想種、龍だ。竜ではない、龍だ。

 大事なことなので二回言った。

 

 強弱を語る事自体が無意味、とまで言われる程の存在。幻想種の中でも頂点に位置するその最上位たる生物。

 パーシヴァルもこれは流石に……と、ボロボロの状態で思っていたが、背に腹は変えられず仕方なくスレイプニルに食わせた。

 そして食したスレイプニルに異変が現れたのは、最早必然だったのだろう。

 巨躯だった身体は更に成長、毛並みは馬とは思えぬ程綺麗になり、その身には神代最盛期の頃の様な神秘を内包してしまった。

 その日、スレイプニルは幻想種に生まれ変わったのだ。勿論他の要因に、その名からある主神の愛馬と同一視された、という事も大きい。

 

 「よっし、大体は終わったか」

 

 一時間程掛けて、スレイプニルの身体を磨き終わったパーシヴァルは、額の汗を拭った。

 すると、後ろからふと気配を感じる。振り向いてみると、そこには兄妹の姿があった。

 

 「ケイ、アルトリア!」

 

 笑顔で二人の名前を呼び、小走りで近寄っていく。

 この厩舎には今はパーシヴァル、アルトリア、ケイの三人しか居らず、アルトリアを呼び捨てにしても大丈夫であった。

 

 「パーシヴァル」

 「お前か」

 

 二人はそれぞの反応を示すと、アルトリアはパーシヴァルの方に向き、ケイは興味無さそうに自分の馬の所に行った。

 ケイの態度に、パーシヴァルは苦笑いする。

 

 「二人とも仕事は?」

 「今しがた終わったところです」

 

 アルトリアが答えるとパーシヴァルは、そっかと呟く。

 

 「で、ケイ。珍しいな、お前が馬の手入れをするなんて」

 

 普段は多忙であるが故に、馬の手入れ等は自分の部下に任せていた。

 そのケイが、こうして厩舎に来て、自分の馬を相手にするのは中々に珍しい事だとパーシヴァルは思っていた。

 

 「ふん、そこの小さいのが、偶にはやれと煩くてかなわなかっただけだ」

 「まったくケイ兄さんは……」

 

 素っ気ない態度で仕方なくやっていますと言うケイに、アルトリアは少しムッとする。

 そんな兄妹のやりとりを見て、パーシヴァルは生前の妹の事を思い出し、懐かしく感じてしまう。

 

 「パーシヴァル?」

 

 切なさを含んだパーシヴァルの顔を見たアルトリアは、思わず声を掛けた。

 

 「……あ、ああ、どうした?」

 「いえ、その。パーシヴァルの顔が何処か悲しそうだったので……」

 「そうか? 俺は大丈夫だ」

 「ならいいのですが」

 

 アルトリアの言葉に、頭を振り、感傷を振り払う。自分が生きているのはこの世界だ、と心で言い聞かせて。

 三人はその後も暫く談笑に花を咲かせ、時にはパーシヴァルの冒険譚とも呼ぶべき旅の出来事を話した。

 その度にケイは馬鹿げてる、ありえない、等と言ってあまり信じていなかったものの、話を邪魔するような真似はしなかった。

 

 「ん、どうした?」

 

 話し込んで一刻の時が過ぎた頃、ケイがそわそわし始めたアルトリアに向けて言った。

 身体をモジモジさせては、パーシヴァルとケイを交互に見ている。

 なんだ、と首を捻るケイの横でパーシヴァルはピンっと何かが分かったような顔をした。

 

 「ケイ、この後時間あるか?」

 「ああ、今日の分の仕事はもうないな」

 「それはよかった」

 

 パーシヴァルの質問の意図が分からず、何だと訝しげな視線を向ける。

 それをナチュラルに無視し、次はアルトリアに顔を向け。

 

 「なら、アルトリアは?」

 「ありません!」

 

 即答であった。

 この事にパーシヴァルは、やはりな、と確信を得たように微笑んだ。

 

 「じゃ、小屋の方に行くか」

 「小屋、と言うとお前が前々から言っていた……」

 

 パーシヴァルが言ったことに、未だ何が何なのか分かっていない様子のケイ。

 そこでパーシヴァルはああそっか、とケイを郊外の畑に連れて行ったことが無い事を思い出し、説明をした。

 

 「ふん、そういう事か」

 「ああ」

 

 どういう事か、アルトリアがソワソワしていた原因と小屋の事を聞いたケイは、眉間に皺を寄せ目頭を押さえた。パーシヴァルがマーリンに呆れている時の様子にそっくりだ。

 パーシヴァルが、アルトリアに暇かと聞いて即答したという事はつまりそういう事で、尚且つ小屋に行くと言った瞬間に目に見えて喜び始めたとはそういう事だった。

 

 「何をしているのですか二人とも、さあ早く行きますよ!」

 「あぁハイハイ」

 「く、お前という奴は……」

 

 目を輝かせるアルトリアと、苦笑いするパーシヴァルに、義妹の事で呆れるケイ。

 三人しか居ない厩舎で起こるありふれた日常。パーシヴァルは、願わくばこの瞬間がずっと続いて欲しいと、心で思っていた。

 

 「今日は何がいい?」

 「ハンバーグで!」

 「……」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 その日の夜、城下町にある家の寝室で、窓を開けそこに座りパーシヴァルは夜空を見上げていた。片手には自家製の葡萄酒。

 

 「……」

 

 暗い空には、街を仄かな明かりで照らす月と、そのままでは不気味な夜空を美しく魅せる星々。

 ヒヤッとした夜風が少し火照った頬を撫でる。

 パーシヴァルは夜空に煌めく月を眺めながら、ある一つの決意を抱く。

 

 「俺が、やる……やらなきゃ……」

 

 今では微かにしか思い出せなくなったアーサー王伝説。だがその結末だけは頭に色濃く残っている。伝説の瓦解。

 円卓の崩壊、その結末を防ぐ事。

 ランスロットの不義と、モードレッドの叛逆、他にもいつ来るか分からぬが、止められるなら止めたい。

 尊い日常を、今ある平和を、そして大好きな皆を守る為に最悪の結末だけは何としても回避する。

 世界の運命に抗う事を覚悟し、パーシヴァルは残った葡萄酒を一気に飲み干した。

 

 

 




スレイは完全な神獣ではありません。
飽く迄半ばです。まあ最終的には神獣になるんですけど……。

最後に、矛盾誤字脱字等ありましたらお手数ですが報告御願い致します。
感想も待ってます!



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16━動き出す物語

今度は早く投稿出来たかと思います。
それはそうと、Apocryphaのセミラミス戦でモードレッドが鎧を解除するシーンがありますが、モードレッド結構胸あんなって作者は思いました。
あと、Fateには名前しか出てないためオリキャラ? になるのでしょうか、円卓の騎士ガレスが登場します。


 早朝の刻、喧しの鳴き声止まぬ時間に円卓の騎士達は集められた。

 彼らの総称となったお馴染みの円卓、その自分の席の前で立ち上がり騎士達の王の言葉を待っている。

 唯一マーリンだけが円卓から数歩離れた王の傍らに立っており、いつもの胡散臭い笑顔を見せている。

 

「今日は何の為に集められたのだろうな……?」

 

 相も変わらず騎士らしくない、軽装のパーシヴァルの隣席に居るギャラハッドが、呟くようにパーシヴァルにだけ聞こえる声で言った。

 

「だいたい察しは付いてるだろ? ほれ」

 

 ギャラハッドを真似て小さい声量で応えながら、顎でくいッとある場所を指した。

 そこにはまだ誰も居ない、一つの席。

 だが円卓の騎士達は招集に遅刻すること無く、全員この場に揃っている。勿論、間違えて置いてあるということも無い。

 その状況から、恐らくこの日を以て、新たに円卓に加えられる者が現れるのだろう。

 そして、それは恐らく━━━━。

 

「騎士達よ、早朝によく集まってくれた。此度の招集は、貴公らも薄々感づいていると思うが他でもない、新たな騎士をこの円卓に加える事となった」

 

 アーサーが言葉をゆっくりと発する。

 貫禄ある声は部屋に響き、言霊のように不思議な力を感じられる。

 円卓の間に空席がある事から、アーサーの言う事におおよそ察しが付いていたのだろう、その場の誰一人がどよめく事無く、次の言葉を待っている。

 

「来い、サー・モードレッド」

 

 アーサーに呼ばれ姿を現したのは、全身を鎧で包み隠した一人の騎士。全員がその姿に、僅かながら動揺した。

 ただ、王の前で兜を取らない不敬な態度に動揺した騎士達と違って、パーシヴァル一人だけは別の意味でその心中を震わせていた。

 

(やっぱりか……!)

 

 モードレッドが城下町に姿を現さなくなって半年。

 モードレッドが円卓入りするのにはさして時間が掛からないだろうと言う、パーシヴァルの予想がこの日当たった。

 パーシヴァルがかの騎士を凝視していると、心無しか全身甲冑のモードレッドがビクッとした気が来た。

 ジト目で見られている事に本当にびっくりしたのか、将又気のせいかは知る由がない。

 

「王よ」

「何だランスロット卿」

 

 戸惑い困惑する空気を打破するかのように、口を開いたのはランスロットだった。

 

「私は王が新たな騎士をこの円卓に迎え入れる事に、反対はありません。しかし、円卓に座す者が王の前で兜すらも取らないとは、いささか不敬が過ぎる気もします」

 

 要約すると、「皆が一堂に会する場所なんだから、せめてもの礼儀として(それ)をとれよ」と言う事である。

 この場にいるパーシヴァル以外の者達の心境を、ランスロットが代表して言葉にしたのだ。

 

「ああ、その事か。ランスロット卿、このモードレッドには少し事情があってね。出来れば見逃して貰えるかな」

 

 だがランスロットの問いに応えたのは、アーサーではなくマーリンだった。

 余りにも空気の読めない行動に、円卓の騎士達は少しイラッとする。

 いや、お前にきいてねぇよ、と。

 

「ランスロット卿、貴公の疑問は尤もである。だが円卓とは、上座も下座も無くこの場においてはすべて平等を意味する。この場においての私の扱いにおいては……言うまでもなかろう」

「は。分かりました。差し出がましい真似をしてすみません」

「よい」

 

 暗に特別にモードレッドだけは、兜の着用を許すと言うその言葉に、反感とは行かない迄も、騎士達に多少なりとも思うところがあったようだ。

 その後少しモードレッドが自己紹介をし、今度の蛮族との戦やその費用等を話し合って解散となった。

 

「なんか、寡黙な人でしたね」

 

 凛とした声でパーシヴァルとギャラハッドに声を掛けたのは、ガウェインの妹のガレスだった。

 伝承ではガウェインの()と記されているが、この世界では女性だったようだ。

 桜色の髪に青い瞳、女性にしては少し高いが円卓の騎士達と比べると小柄な背。

 その凛々しくも愛くるしい姿から、あの生真面目なベディヴィエールでさえちゃん付けで呼ぶ、まさに円卓のアイドルと言っても過言ではない女性だ。

 

「寡黙? 寡黙ねえ……。モードレッドが寡黙」

 

 ガレスの言葉にその甲冑の中を知っているパーシヴァルは、さきの招集でやけに静かだったモードレッドを不思議に思っていた。

 普段はガレスの言った寡黙、と言う言葉とは真逆でヤンチャなモードレッド。

 しかしどういう訳か、円卓の会議では一言二言喋っただけだ。しかも喋った言葉が、「蛮族? そんなもん蹴散らせばいいだろ」や「は、オレに任せりゃ直ぐに済む」等の不敬極まりない事だけ。

 

「そう言えばパーシヴァルさんは、随分とモードレッドと親しそうに見えましたが、知り合いなのですか?」

「ん? ああ、まあな。と言うか、アイツに剣を教えてたし」

 

 その言葉に、ガレスとギャラハッドがえ? と驚く。

 今や円卓最強とまで呼ばれるようになったパーシヴァル。その彼の剣技は誰もが認める程であり、ランスロット卿に並ぶ腕だ。

 そんなパーシヴァルに教わっているとすれば、モードレッドの剣技も相当なものなっているだろう。

 

「とういうことは、モードレッド卿はパーシヴァルの愛弟子という事か?」

「そう、なるのかなぁ……」

 

 親友ギャラハッドの言葉に、すこし頭を捻る。

 元々暇が祟って教える事にしただけで、そんなちゃんと弟子として扱ったことはない。

 

「まあそういう事でいいや」

「ふ、相変わらずいい加減だな」

 

 いつも何処か適当な親友に、ギャラハッドは笑みを零す。

 それにつられて笑うパーシヴァルと、二人を微笑ましく眺めるガレス。

 キャメロット内でよく見られる、仲良し三人組のいつもの光景だった。

 

「それはそうと、パーシヴァルさん。この間下町でお話していた女は━━どこの誰ですか? ……事と場合によっては……」

「っ!?」

 

 綺麗な筈なのに、背筋がゾッとするような声音でガレスはパーシヴァルに詰め寄った。

 パーシヴァルは何歩か後ずさりし、ガレスの顔を覗き込むと、彼女の瞳はドロリと底のない闇のように濁っており、ハイライトが消えていた。

 ガレスが言っているのは恐らく、マーリンのナンパで被害にあって弟子のパーシヴァルがフォローした時に、そのパーシヴァルの優しさに彼に好意を持ってしまった女性の事を言っているのだろう。そういう事は何度かあるのだ。

 二人のやりとりに、ギャラハッドはまた始まったと呆れたように苦笑い。

 

「いや、誰も何もマーリンの被害にあった人だ。知ってると思うけど、マーリンの毒牙にかかった女性を慰めてただけだ」

 

 捲し立てるようにそこまで言うと、そうですか、と納得してくれたようにガレスは離れた。変な汗がパーシヴァルの背を伝う。

 

(なんだ、こうガレスちゃんって時々暗黒面に堕ちるよな。怖ぇ……)

 

 先程のダークネスな雰囲気が嘘のように、いつも通りの凛とした清廉潔白で円卓の妹枠のガレスに戻っている。

 そんな彼女を見つめ、女の子こわいと心底思うパーシヴァル。

 

「おい、パーシヴァル」

 

 ドキドキと未だに鼓動激しい心臓に胸を当てていると、ガレスでもギャラハッドでも無い声がパーシヴァルを呼んだ。

 振り向いてみれば、そこには白の甲冑を着込んだモードレッドが立っていた。

 

「よ、モードレッド」

「少し、面を貸せ」

 

 ヤンキー然とした物言いに、相変わらずだなと少し安堵する。

 会わなくなって半年、たったそれだけで人は変わらないと分かっていても、何処か心配になるものだ。

 パーシヴァルはガレスとギャラハッドに視線を向けた。

 彼らはパーシヴァルの言わんとしていることを察して、一言だけ行ってこいと言った。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「改めて、久しぶりモードレッド」

「ああ、久しぶりだなパーシヴァル」

 

 郊外にあるパーシヴァルの畑、その近くにあるそこそこ大きい木の元まで、二人は移動していた。モードレッドは兜や鎧を脱ぎ、その顔を顕にしていた。

 鎧までも脱いだせいで、ほぼ上半身裸と言ってもいいその格好にパーシヴァルは目のやり場に困った。

 と言うか、モードレッドはそこそこ胸があることが今この時わかった。

 

「漸く、漸くだ。追い付いたぞパーシヴァル!」

 

 嬉しそうに興奮して、天真爛漫な笑顔を咲かす。

 パーシヴァルと邂逅し、彼の人柄を知っていく内にモードレッドは惹かれるようになっていた。

 アーサー王に並び、モードレッドが憧憬する人物の一人。それがパーシヴァルだった。

 そしていつしか、パーシヴァルと同じ舞台に立ちその横に並びたいと言う思いが芽生えるようになった。

 その思いが今日、漸くかなったのだ。円卓入り(ここ)に来るまでに一年、長かったと。

 

「そうか。よく頑張ったなモードレッド」

 

 喜ぶモードレッドの頭を撫でる。

 弟子の成長を喜ぶ師。なるほど、ギャラハッドの言っていたことはあながち間違いではないらしい。何故ならこんなにもパーシヴァルは、自分の事のようにモードレッドの円卓入りを嬉しく思っているのだから。

 

「にしても、髪型」

 

 撫でるのをやめ、モードレッドの髪を見る。

 前はただ伸ばしていただけの髪が、後ろで束ねられている。所謂ポニーテールと言うやつだ。

 

「んあ、髪がどうした?」

「いや、変えたんだなと思って。似合ってるぞ」

「あ、ああ! んだよ気持ち悪い!」

 

 言動とは裏腹に、パーシヴァルに褒められたモードレッドは顔をにやけさせている。

 通常褒められれば傲慢に調子に乗るモードレッドだが、女の子らしい部分を褒められると照れ隠しに少し口調が乱暴になる。

 その事を分かっていたパーシヴァルは、ニヤニヤと笑う。

 

(さて、俺もそろそろ気張らんとな)

 

 モードレッドが円卓に席を置いた。

 この出来事はアーサー王伝説瓦解への、カウントダウンの始まりを告げる鐘だ。物語は緩やかに、されど確実に動き出している。

 この日を以てパーシヴァルの日常は、最悪の結末を覆す為忙しくなる。

 モードレッドと共に語らいながら、何度目か分からない覚悟を固めた。

 

 

 

 




一応説明しておくと、モードレッドと知り合ってから一年が経っています。
次回から駆け足気味に物語を進めていきます。

久しぶりに小説情報を見たら読者評価共に離れていました。うーん、遅すぎるのがいけないのかそもそも自分の実力不足なのか、或いは両方なのか。
何か思うところがあればご指摘頂けると嬉しいです。

それと誤字脱字を直してくださる読者様、変わらずこの様な稚拙な作品を読んでくれている読者様、そして新たに手に取り読んでくれている読者様、誠にありがとうございます。




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17━朱の恋

また暫くは手をつけられそうに無いかもしれないので、急いで書き上げました。
ですから荒いかもです。何か矛盾や思うところがありましたら御報告お願いします。



 戦場に吹き荒ぶ熱風と運ばれる血汐の匂い。

 キンっと鉄が鳴る。シャランと鈴の音が鳴る。……違う。

 鈴の音と間違える程に美しい剣戟の音だ。

 果てまで続く騎士達の屍を舞台に、騎士王と叛逆者は最後の死闘を繰り広げる。

 

「ア“アァ“ァ“ァサァァァ“……!!!」

「モードレッドォォっ!!」

 

 けたたましい叫びを上げて混じり合う、赤と青の剣舞。

 両者の剣戟は地上に咲く無数の火花となって、死屍累々の世界を駆け巡る。

 騎士王の眼には慟哭と絶望、叛逆の騎士の眼には激しい憎悪。

 深い嘆きにありながらそれでもアルトリアは、向かい来るモードレッドを討つ為に剣を振るう。

 込み上げる激情のまま、モードレッドは憎悪を乗せた剣を振り下ろす。

 

「何故だ! 何故パーシヴァルを殺した! 答えろアーサー!」

「っ、違う、私は……!」

 

 一雫の光が、アルトリアの瞳から流れ出た。

 

「涙だと……? ふ、巫山戯るなァァァ! 貴方に、貴方にそれを流す資格など……ありはしない……っ!」

「っ!?」

 

 とめどない憤りの咆哮。

 既に両者の剣戟は止んでいた。

 これ以上の対話は不要。否。初めから話し合って分かり合える程モードレッドの憎しみは浅くない、言葉を交わす程度でアルトリアの悲しみや絶望は軽いものでは無い。

 どちらかが片方を殺すまで、この死闘を終わらせる方法はなく。

 いよいよを持って、それは決する事となる。

 

我が麗しき(クラレント)━━━━」

 

 赤雷を纏った赤き光の柱が天高く伸びる。

 その中央でモードレッドは、己が宝具()を振り上げていた。

 呼応する様に黄金の光柱が顕れる。騎士達の王は、生涯で最後の一振りとなる一撃を放つ準備をする。

 

約束された(エクス)━━━━」

 

 同じ男に救われた。同じ男を想った。同じ男に憧れた。

 故にこそこの戦いは譲れるものではなく、二人の騎士の最後の一撃が世界を眩き光で包んだ。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「……っ!?」

 

 瞬時にベッドから起き上がる。

 ドキンドキンと鼓動が早く強く体が熱い、流れる血が鉛のようで気怠い。汗もかいているようだ、ベッドを見ればびっしょりと人形に濡れている。

 しっとりと張り付いた前髪を掻き上げた。外はまだ暗い、夜明け前に起きてしまったようだ。

 

「くそっ、悪趣味だぞ。お前……」

 

 悪態を吐きながら、あの悪夢を見せた元凶に視線を移す。

 ベッドの横にある台の上に置かれた、禍々しい装いの魔導書。その真名を『ネクロノミコン』。

 モードレッドが円卓入りをして一年と半年が経った、そして決意を新たに固めた一年前のその日から、またしてもネクロノミコンは時折悪夢を見せるようになった。

 落ち着いてきたと思ったらまたこれだ、どうにもならない事を分かっているがそれでも忌々しそうに睨まずにはいられない。

 この一年様々な事に奔走してきた。例えば、ランスロットが不義をしないように言い聞かせ最悪の場合は去勢するぞと脅し、アルトリアが近隣の村々を犠牲にするような政策を取らせないように、畑を拡大させ徐々に食料不足の改善等を行ってきた。無論他にも色々と行っている。

 それもこれも全てが、原典でのアーサー王伝説同様の結末を防ぐ為であり。

 そうやって粉骨砕身東奔西走で頑張っているパーシヴァルに、あろう事かネクロノミコンはパーシヴァルの最も嫌う結末(悪夢)を見せた。

 

「朝から最悪だ……」

 

 気分が沈鬱とする。

 押し潰される様な不安が脳裏を過ぎるが、振り払うよう頭を振る。

 二度寝する気にもなれないパーシヴァルは、汗を拭き濡れたベッドを乾かす準備を始め、今朝の仕事の用意を始めた。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

(何をしているのモードレッド! いつまで遊んでいるつもり!)

 

 薄暗い魔術工房の中で、水晶越しに自身の産み出した子供を見ている。

 モルガン。ケルト神話、女神モリガンの系譜でありモードレッドやガウェイン、ガレスの母たる魔女。

 国家の転覆を図りその為にだけ産んだ我が子が、モードレッドがいつまでも行動を起こさないことに業を煮やしていた。

 それどころか、異父妹たるアルトリアの傍らで騎士として手助けを始める始末。

 

(このままでは……!)

 

 遠視の魔術を切り支度を始める。

 このままではどれだけ待とうがモードレッドは何もしないだろう、アグラヴェイン等は既に論外。

 仕方が無いこうなれば、とモルガンはモードレッドに出生を打ち明ける事に決めた。向かうはキャメロット。

 薄緑色の髪を揺らしその場を立ち上がった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「くぅ……」

 

 体を伸ばすとボギボギとあちらこちらの関節が鳴った。

 長時間机とにらめっこしていれば、当然のことなのかもしれない。

 だがそれも漸く終わりだ、たった今自分の分の仕事が終わったのだから。

 

「さて、遊ぶかな」

 

 晴れ晴れと澄み渡った外を見ながら、城下町の子供達とでも遊ぼうかと考える。

 未だに仕事中のケイやアグラヴェインには悪いが、先に上がらせてもらう。

 余談だがパーシヴァルの仕事量はケイやアグラヴェインに比べて、十分の一程しかない。これは決してパーシヴァルがサボっていたりしてる訳ではなく、単純に他の奴らの仕事が馬鹿みたいに多いのだ。

 事実一般の事務仕事をしている騎士と比べると、パーシヴァルの方が何倍も働いている。

 こんなに忙しいのは、それもこれもキャメロットの経済状況が末期なのがいけない。

 後で差し入れでも持ってくることを心に決めて、パーシヴァルは城を出た。

 

「さて何処へ行くか……」

 

 澄み渡る青空と燦々照らし出す太陽の下、いい気分で散歩をしていた。

 さて何処に向かうか、そう考えながら歩いていると僅かな衝撃が発生した。

 前方不注意による街角での衝突だ。しまった、と慌てて手を差し出す。

 ふと二年ほど前にも似たような事があったと、モードレッドとの出会いを思い出す。

 何処か懐かしい気持ちになりながら、苦笑いを浮かべた。

 

「悪い。大丈……夫……」

 

 美しかった。それはまるで幻想のようだった。

 艶めかし薄緑の髪にヘッドドレス越しに見える宝石のような紫の瞳、恐ろしく整った顔に釣り合う四肢をもった男好きの完璧な身体。

 妖精のように美麗で、花のように咲き誇り、瞳の奥には力強さを感じた。

 端的に言って、一目惚れだった。

 

「だ、大丈夫ですか……!」

 

 声が裏返り急に敬語になってしまう。

 女性、モルガンはええ、と答えながらパーシヴァルの手を取り立ち上がる。

 触れる柔肌が鼓動を加速させる。

 

(あれ? 何でこんなに緊張したんだ? と言うか、手汗とか出てないよな……?)

 

 過去を含め今の今まで女性に惚れた事が無かったパーシヴァルは、その経験の無さから未だにこれが恋だと自覚出来ていない。

 童貞ここに極まれり。それも仕方ないことだろう、なんせ前世では社畜の鑑、今世では夢を叶える為に戦いに明け暮れる日々。

 女性に免疫がない訳では無い、現にモードレッドやアルトリア、ガレス等とは仲が良い。

 しかしながらそれは友情と言う概念においてのものであり、決して男女仲のそれでは無い。

 

「す、すまない。前方不注意だった。け、怪我はないか?」

「ええ、大丈夫です。では私はこれで」

 

 モルガンがこの場を立ち去ろうとした時、腕を引っ張られた。

 少し驚き振り向いてみれば、モルガンの細腕をパーシヴァルが握っていた。

 モルガンは顔を隠しているヘッドドレスの奥で、パーシヴァルを少し睨む。もし正体がバレたなら魔術で……。

 そう考えパーシヴァルの顔を見るが、なにゆえかパーシヴァル自身も驚いた表情をしている。

 

「え、あ、いや、その……良かったら食事をしないか?」

 

 自身の横を通り過ぎるモルガンの手を反射的に掴んだパーシヴァルは、何故だかこのまま行かせてはいけないと思った。

 いや正確には理解している。自身の横を通り過ぎた時に、ヘッドドレスの隙間からかろうじて見えた女性(モルガン)の顔が、悲しみや憎しみで染まっていたように見えたからだ。

 

(何を考えているの……)

(このまま行かせたら駄目だ)

 

 疑り深くパーシヴァルを観察するモルガンと、目の前の女性を放っておけないパーシヴァル。

 しかし目の前の誘いに乗る気がないモルガンは、断った。

 

「興味がありません。私にはするべき事があります」

「そ、そうか。それは悪い。でも、ほんの少しだけでいいんだ」

 

 冷たく、それこそ道端に転がる石を見ているかの如く断るが、尚も食い下がる。

 パーシヴァル自身執拗いと自覚しているが、それほどまでにほっとけなかった。

 数分間何とか説得し、モルガンもこのまま長引かせるより少し付き合った方が楽だと感じ、見事お誘いは成功した。

 この時パーシヴァルは人生初めてのナンパを成功させた。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「……」

「……」

 

 重たい沈黙に押し潰されそうだ。

 ただ淡々と食事をするだけで、これといった話はしていない。

 なぜならパーシヴァルがどんなに話題を振っても、モルガンは適当に相槌を打つだけで会話を切ってしまう。

 話をする気は無いと、雰囲気がそう告げていた。

 そして、そうこうしている内に食事が終わってしまった。

 

「では、私はこれで」

「まって……!」

 

 またしても腕を掴まれる。

 

「いったいなんなの!」

 

 苛立ちから叫んでしまう。

 いっその事魔術で殺るかと危ない考えが浮かぶが、ここは城下町だ。そんな事をすれば騒ぎを聞きつけた騎士達が集まってくる。

 穏便に事を済ませなければ、と荒ぶった心を鎮める。

 

「その、もう少し……」

「ふざけ……っ、分かりました。これで、最後よ」

 

 言いかけてパーシヴァルの瞳の奥に言い知れぬ何かを垣間見て、折れた。それにここで断っても先ほど同様に時間を食うだけ、ならこれで最後だと警告した上で付き合えば大丈夫だろうとモルガンは考えた。

 パーシヴァルもパーシヴァルで、良かったと安堵の息を漏らす。

 

(これが、ラストチャンス)

 

 これ以上の我儘は通用しない。パーシヴァルは自分に気合を入れた。

 並の事では身の前のモルガンは心を開かないだろう。それは何となく、この食事で理解した。

 ならばとパーシヴァルは、あの場所へ連れて行くことにする。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「これは……!」

 

 モルガンはパーシヴァルに連れられて、渋々付いてきた先の光景に心奪われた。

 そこには有り得ない程の緑が広がっていた━━━━農園だ。

 ブリテンの経済悪化を防ぐ一手として、拡大させた元畑。それは誰が見ても驚くような代物であり、今の時代ではどのような宝よりも価値のある場所。

 

「こっちだ」

 

 パーシヴァルに手を引かれて、園の奥に行くと紫色の宝石が並んでいた。

 葡萄だ。モルガンはその果実を見た事がなく、得体の知れない紫色のナニカとしか分からない。

 そんなモルガンの口に、近くにあった一粒をとって突っ込んだ。

 

「何を……っ! ……甘い」

 

 口の中に広がる芳醇な香り、柔らかい食感と滲み出てくる果汁の甘味は、モルガンに衝撃を与えた。

 モルガンの反応に満足したのかパーシヴァルは嬉しそうに笑い、内心でよっしゃとガッツポーズを取る。

 先程までの冷徹でツンケンとしていた態度が嘘のように、葡萄一つですっかりと毒気を抜かれたモルガン。

 

「採取してみるか?」

「え?」

 

 断ろうと思ったが悔しい事にもう一度食べたくなってしまったモルガンは、そしてあれよあれよと言う間に手にはハサミと小さなバスケットを持たされて、言われるがまま葡萄狩りを始めた。

 

「そうそう、そこを持って切る」

「くっ、なにこれ硬い」

 

 パーシヴァル印の品種改良葡萄は、魔力も微量に含んでいるため幹が強化され地味に硬い。

 魔女と恐れられ実の息子達からも嫌われているモルガンが葡萄と格闘している、これを彼女を知る者たちが見たら目を点にして驚いた事だろう。

 

「切れたっ!」

 

 漸く採取出来た葡萄を手に取り、モルガンは()()()

 そう笑ったのだ。それは僅かにだが心を開いてくれた証拠。

 

「笑った……!」

「はい?」

「いや、初めて笑顔を見せてくれたって思って」

 

 パーシヴァルの言葉にモルガンははっとして、気まずそうに顔を逸らす。

 自分は魔女で憎むべきアルトリアの国を転覆させないといけない、何度も何度も繰り返し自分に言い聞かせる。

 

「帰るわ……」

 

 何もかもが急激に覚めていき、やがて出会った時と同じ凍てついた雰囲気に戻るモルガン。

 パーシヴァルはその事に多少驚く。

 今日はモードレッドに会おうと思っていたが、目の前の男のせいでその気が失せてしまった。

 モルガンは足早にその場を立ち去ろうとした時。

 

「あ、これ」

 

 咄嗟に差し出されたのはモルガンが自分で採取した葡萄。

 笑顔のまま果実を渡してきたパーシヴァルに、モルガンは内心意外そうにしていた。

 

(この男ならまた呼び止めると思っていたのだけれど)

 

 そんな事をしようものなら、今度こそ魔術で殺していた。

 モルガンの内心を察してか、パーシヴァルが言う。

 

「これで最後って、約束だったから」

 

 無表情だった筈だが、パーシヴァルの読心能力は馬鹿にできなかった。因みにこれも旅で身に付けた技術(スキル)のひとつだ。

 渡された葡萄を乱暴に奪い取り背を向ける。

 

「また、何時でも来ていいからー!」

 

 後から聞こえてくる声を無視して、今度こそモルガンはこの場をあとにした。

 余談だが自身の工房に帰ったモルガンは葡萄を幸せそうに食べながら、パーシヴァルの事をほんの少しだけ利用価値があるかもと評価を改めたのだった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 農園で一人になったパーシヴァルは、最後の最後に自身の気持ちがなんなのを理解して物思いにふけっていた。

 

「あ、名前聞き忘れた」

 

 大事な事を忘れていた、と今度あった時にちゃんと聞こうと心に決める。

 一人で先の事を思い出してニヤニヤとしていると。

 

「なに笑ってんだよ気持ち悪ぃな」

「ああモードレッドか。いやな、遂に俺にも春ってやつが来たのかもしれないって思ってさぁあ」

「はぁ?」

 

 うへうへへと気持ち悪い程にニヤニヤするパーシヴァルを見ていると、モードレッドは既視感ある魔力を感じ取った。

 

(っ!? ……これは母上の……いや、気のせいか?)

 

 あのような女がこんな場所に来るはずがない、その可能性は絶対に無いと、感じ取った残滓の感覚を否定する。

 だがもし仮に、己の母がこの場所にちょっかいをかけようものなら、その時は……。

 モードレッドは人知れず拳を強く握った。

 




人妻(パーシヴァルは知らない)が初恋相手って、やっぱり円卓って業が深いなぁおい……。
いや、この場合は兄弟(ラモラック卿)で、のがあっているのでしょうか?
一応言っとくとモルガンはヒロインでもなんでもないです。かと言って誰がヒロインなんだと言われれば、作者は特に決めてないんで困りますが(苦笑い)
でも強いて候補をあげるなら、円卓女性陣とモルガンですかね。

あと思ったんですがネクロノミコンを持っているパーシヴァル君、もしかしてフォーリナーの適正が微レ存……?
狂気の内にありながら純粋さを失わない者、あるいは狂気に呑まれながらそれを逆に呑み尽くした者。がフォーリナーの資格らしいですし……。



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18━親と子

お久しぶりです、お待たせして申し訳ありません。漸く修正版が書き終わりました。
しかし修正版と言ってもあまり変わりはありません、変わったのは最後らへんのパーシヴァルとアルトリアの会話とかです。




 甲高い鉄の擦れる音と臭い。

 片方は剣、片方は槍、農園の近くにある小高い丘の上で激しくぶつかり合い、幾何もの猛攻を互いに繰り返す。

 

「ぜりゃァっ!!」

 

 モードレッドは剣を真一文字に振るう。

 常人の認識の埒外へと至った素早い剣閃は、されどいとも容易く朱槍で受け流される。

 絶えず諦めずに剣戟の嵐をパーシヴァルに叩き込むが、尽く全てが躱す、弾く、いなされる等して一撃も入れる事が叶わない。

 

「よっ!」

 

 パーシヴァルはモードレッドの一撃を弾いた反動を利用し、槍を(しな)ら威力の乗った横薙ぎを放つ。

 弾かれた事により僅かにだが体勢を崩されたモードレッドは、避けられぬと踏み横薙ぎの延長線上に跳び威力を削る。

 

「ぐっ、そがぁ!」

 

 二転三転と転がった後、地面に剣を突き刺し立ち上がる。

 バチバチッとモードレッドの周囲に僅かな赤雷が現れ、直後パーシヴァルを身の丈を超える無数の赤雷が襲った。

 四方八方から放たれる視界を埋め尽くす赤き雷撃、しかしそれを華麗なステップで跳んで難なく避けるが間髪入れずに視界の端から迫り来る小さな影が見えた、それを頭を傾ける事によって躱すが薄皮一枚切られる。

 投擲されたのはモードレッドが使う白銀の剣、自身の得物を投げてきたのだ。

 その事に驚きはない、何故ならその奇襲戦法を教えたのは他でもないパーシヴァルなのだから。

 辺りの気配に気を配りパーシヴァルは視線を動かして、いなくなったモードレッドを探す。

 

「貰った!」

 

 背後から聞こえる声と、同時に振り抜かれる拳。

 間違いなくパーシヴァルの死角からの一撃、モードレッド自身も決まった、とそう油断した。

 

「ふっ」

 

 パーシヴァルは口角を釣り上げ、不敵に笑う。

 瞬間。モードレッドの視界からパーシヴァルは消え、モードレッドは背に腕を回され地面に組み伏せられていた。

 頬の僅か数センチ隣にある朱槍の穂、瞳に映るの遠くにあるログレスの城壁とキャメロット。モードレッドは未だ何が起きたのかを理解でなかった。

 

「惜しかったなモードレッド。赤雷と剣を使った二段の囮、そして死角への瞬時移動。うん、上出来だな」

「それでも負けたけどな! ……今のなんだよ、いきなり視界から消えたぞ」

 

 パーシヴァルはモードレッドの上から退き拘束を解くと、モードレッドは先の瞬間移動紛いの事に指摘する。

 転移魔術を使った様にも見えるが、パーシヴァルが魔力を使った形跡は無い。そもそも魔術を使う隙すらも与えなかった。

 どんな手品だ、そう思うがパーシヴァルの口から語られたのは手品もクソもない呆れたものだった。

 

「なんだよも何も、単に早く移動しただけだ」

「は、はあ!? そんな訳ないだろ! 仮に出来たって逃げる隙間すらなかった筈だ!」

平面(よこ)には、な。だけど立体(たて)ならどうだ」

「縦って、無理に決まってんだろ!」

 

 パーシヴァルの言葉を真に受けるならば、パーシヴァルは横への回避ではなく、上に飛んで避けた事になる。

 しかしそれは不可能だ、何故なら囲む様に絶え間なく放たれた無数の雷撃がそれなりの大きさで、あれを避けるには宙でもう一度……。

 そう考えたモードレッドは、ありえない答えに至る。

 

「パーシヴァルまさか……」

「そのまさかが何かわからんが、二段ジャンプの事ならそのまさかだと言おう」

 

 ニヤリと笑ったパーシヴァルに、モードレッドは頬を引き攣らせる。

 そうパーシヴァルは跳び上がった後、空気を踏んでもう一度高く飛んだのだ。

 そうして猛攻を避けたあと頭を下にしてモードレッド目掛け、再度空気を踏み高速で接近し組み伏せたのだ。

 因みにだが、パーシヴァルは垂直跳びで十メートルは跳べるし、やろうと思えば小細工なしに身体能力だけで縮地モドキも出来る。

 後にモードレッドは語る、円卓で一番人間やめているのはパーシヴァルだと。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「何故ここにいる」

 

 厳つい顔の眉間にしわを寄せ、少し怒り混じりの声音でパーシヴァルに問う。

 

「アグラヴェインが一人で寂しく仕事してるだろうから、寂しくないように」

「余計な世話だ。とっとと出ていけ!」

「まあまあ、そう言わずにさ」

「ふん。貴様のそういう所は、阿呆魔術師(マーリン)そっくりだな」

「なっ!?」

 

 ヘラヘラと笑いアグラヴェインの言葉を軽く流すパーシヴァルが、アグラヴェインにはムカつくあの魔術師の姿と被って見えた。

 どうやらパーシヴァルは知らず知らずのうちに、似なくてもいい部分までも似てしまったようだ。

 その言葉にパーシヴァルは大きなショックを受けた。

 

「俺が、マーリンに……あの屑に……似て……」

 

 瞳を虚ろに激しく揺らしながら、ブツブツと小言を漏らし続ける。

 ダメージがデカすぎたのか言った本人のアグラヴェインも、雀の涙の一ピコほど罪悪感を感じた。

 暫く項垂れた後、漸く立ち直り話題を切り替えるようにパーシヴァルが言った。

 

「そういやさぁ、俺好きな人出来たんだ」

「……」

「え? どんな人か聞きたい? 聞きたいって? ふふん! なら教えてやろう!」

 

 何も言って居ないのに一人勝手にパーシヴァルは続ける。

 アグラヴェインはそのウザさにキレそうになるが堪え、無視して書類を片付ける。

 転生してきてから巡ってきた初春に舞い上がるパーシヴァルは、聞いてもいないのに喋り続けた。

 二十歳──精神年齢は四十後半──の男がまるで思春期真っ盛りの中学生のように、喜々として自分を語る。

 こういう者は決まって後から色々と後悔、若しくは羞恥にのたうち回る事となるのだ。

 

「お淑やかで、おおらかで、優しくて、たまに見せる笑顔とか綺麗な人なんだよ。なんて言うのかな、ツンデレ?」

 

 幻想である。

 モルガンは決してパーシヴァルの言う性格では無いし、ツンデレでもない。恋のせいで盲目気味となった視界に、乙女フィルターならぬ初恋フィルターが掛かったせいで、パーシヴァルにはそう見えているだけだ。

 無視しているアグラヴェインも内心は、何言ってんだこいつ状態。

 

「つかさ、見た目が超好みだったわけですよ。薄緑の髪に紫の瞳、綺麗だったなぁ」

「なに……?」

 

 パーシヴァルが最後に行った言葉に、ピクリとアグラヴェインは反応する。

 アグラヴェインはまさか、と嫌な予想をする。

 無意識にアグラヴェインの額から、冷ややかな汗が滲み出た。

 

「おい。その女は、悪趣味なヘッドドレスとロングドレスを着た女か?」

「なんだ急に? このままずっと無視されるものかと思ってたけど」

「いいから答えろ!」

 

 バンッ! と机を強く叩きその場を立ち、パーシヴァルの言葉をよそに鬼気迫る勢いで声を荒らげるアグラヴェイン。

 興味が湧いて話しかけている風には見えず、むしろ焦っているようにすら見える。

 迫力に押されて、パーシヴァルは答えた。

 

「お、おおう……。悪趣味かはともかく、確かに頭と体に黒のドレスを着てたぜ」

「……っ! そうか……」

 

 苦々しい顔で吐き捨てるように、アグラヴェインは呟く。

 今度は深く考え込みながらゆっくりと椅子に座り、パーシヴァルの口から出た女性は間違いなくモルガンだと予想する。

 

(あの女……とうとう自ら動き出したか。だが、いったい何を企んでパーシヴァルに近づいた……? いや、パーシヴァルは惚れたと言っていたな。もしや、魅了の魔術で此奴を駒に円卓内部から崩壊させるつもりか?)

 

 そう思いパーシヴァルを覗いてみる。

 見られたパーシヴァルは不思議そうな顔で、事の深刻さを何も分かっていないようなアホ面で首を傾げる。

 そのアグラヴェインにとってムカつく顔を今は無視して、己の考えを否定する。

 パーシヴァルは旅をしていたおかげで神秘に、魔術に対する耐性が付いている。それもアルトリアに引けを取らない程の強力な代物だ。

 そんな奴がモルガンの魅了程度でどうこうできるとは、アグラヴェインには到底思えなかった。

 モルガンの使う高度な魔術ならば可能性はあるが、それも掛けられた時点でパーシヴァル自身が気付くだろう。仮に気付かなかったとしても、あの阿呆魔術師(マーリン)が察知して何とかするはず。

 どう考えてもパーシヴァルに近付くメリットがモルガンには無い。

 だからこそモルガンは何の理由でパーシヴァルに近づいたのか、アグラヴェインには理解が出来ない。

 というかそもそも、近付いたのはパーシヴァルからだと言うことを知る術がない。

 

「おーい、アグラヴェイン?」

「今すぐに出ていけ」

「は?」

「私には至急にすべき事が出来た」

「へ、あ、おい、ちょまっ」

 

 有無を言わさずにパーシヴァルは部屋から追い出され、バタンと扉が締められる。

 こうして部屋にはアグラヴェインだけが残る。

 アグラヴェインは机にある書類をどかし、一旦仕事を止めて舞い込んできた厄介事(モルガン)に対しての対策を考え初めた。

 

(なんとしてもあの女の好きにはさせん……!)

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「なんだよアグラヴェインのやつ……」

 

 追い出された事にぶつくさ言いながら、廊下を歩く。

 実の所パーシヴァルがこうして部屋を追い出されたのはこれが初めてだった。

 意外に思うかもしれないが、ああ見えてアグラヴェインはパーシヴァルが嫌いではない──かと言って好きな訳でもないが──。人間嫌いのアグラヴェインにとって、パーシヴァルは唯一の理解者だからだ。

 職務や王への忠義、組織の運営の為ならば身内であっても決して容赦しない上、必要ならば汚れ役や嫌われ役を被って他者から非難や誤解を受ける事も全く厭わないアグラヴェイン。

 故に円卓内や騎士達からも嫌われていたが、ただ一人パーシヴァルだけが積極的にアグラヴェインに関わっていた。

 必要以上に嫌われているアグラヴェインを、パーシヴァルはほっとけなかったのだ。

 アグラヴェインはそんなパーシヴァルを面倒に思っていたが、時が経つにつれ同情では無く、自分の事を僅かにでも理解してくれているからこそ積極的関わってくれていることを知り、アグラヴェインはただ一人の()と心のどこかで認めた。まあ、本人に聞けばもの凄く嫌な顔で否定されるだろうが……。

 そのアグラヴェインが強制的にパーシヴァルを叩き出した事に疑問を感じるが、パーシヴァルはこんな事もあるかと勝手に納得をした。

 

「ん?」

 

 家にでも帰ろうかと考えて、丁度円卓の間を通った時。

 円卓の間から二つの声が聞こえた。

 

(この声は……モードレッドとアルトリア?)

 

 何故二人が、そう思い嫌な予感かしたパーシヴァルはそっと扉に近寄り、常人より優れた聴覚を澄ませ聞いてみる。

 

『オレは貴方の嫡子だアーサー王! どうか認めほしい』

(……っ!)

 

 その言葉を聞いた時、パーシヴァルは掠れた記憶を思い出す。

 モードレッドとは、伝承によればアーサーと義姉モルガンのあいだに出来た息子だ。

 何故女のアルトリアから息子が出来るのか等の疑問もあるが、何故今この時それをモードレッドが言い出したのか、それがパーシヴァルが真っ先に感じた疑問だった。

 これではまるで急にその事を知ったかのようで、パーシヴァルには作為的に感じたのだ。

 

『そうか。確かにいかな出生と言えど、貴公が私の血筋を引いていることは間違いないのであろう』

『じゃあ!』

『だが……。━━━━()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……っ!?』

(ば、アルトリアの奴……!)

 

 アルトリアの言葉を聞いた時、パーシヴァルは焦った。

 パーシヴァルには分かっていたのだ、モードレッドが家族に飢えていることを。

 モードレッドは国の転覆を目的に生み出され、その為だけに生きて……生かされていた。その為に家族愛というものを知らず、家族に対してのある種の憧れがある。

 そしてモードレッドが、その家族愛を無意識にパーシヴァルに求めていた事もパーシヴァルは分かっていた。だから何時も親身になって構っていたし、威勢のいい妹分のように思っていた、

 だがそんなモードレッドに本当の家族が居てしかもそれが敬愛してやまないアーサーだと分かった時、モードレッドの喜びようは言いしれないものだっただろう。

 それが、それがあんな風にはっきりと「認めない」等と拒絶されたら……。

 気付けばパーシヴァルは勢いよく扉を開けていた。

 

「ちょっと待ったーー!」

『な、パーシヴァル(卿)!?』

 

 急に現れたパーシヴァルに、モードレッドもアルトリアも驚き目を見開く。

 構わずパーシヴァルはアルトリアにずんずんと近付き。

 

「ちょっとこっち」

 

 パーシヴァルはアルトリアの手を引き、モードレッドに話が聞かれない程度の距離まで行く。

 そこまで行くと、ぱっと手を離しアルトリアに向き直った。

 

「な、なんのようだパーシヴァル卿?」

 

 モードレッドの前だからだろうか、その口調は依然として王のそれであり、多少の動揺はあるものの纏う風格は上に立つ者の物だ。

 見つめ合う翡翠と朱の双眸。場合によれば、男女間の甘ったるい空間が形成されるその行為は、今この場においてただただ困惑に近しい感情が漂っていた。

 

「アーサー王、臣下の身で出しゃばった真似と承知の上言わせてもらいますが……」

 

 パーシヴァルの口調も自然と、礼節を重んずる騎士のものとなる。

 

「よい、許そう」

「では。……アーサー王とモードレッド卿のあいだに何があるかは存じ上げませぬが、少し言葉が厳し過ぎるのではないかと……?」

「卿は盗み聞きをしていたのか?」

 

 アルトリアが問いただす。

 当然だ、騎士とあろうものが盗み聞き。まして、それが騎士王の会話をだ。不敬罪と取られもおかしくない。

 パーシヴァルはうっ、とバツの悪そうな顔を一瞬したあと、直ぐに直し丁寧に謝罪をする。

 

「よい、貴公の普段の働きにめんじ今回は許そう」

「寛大な言葉に感謝致します。それで王よ、モードレッド卿の事ですが……」

 

 パーシヴァルは、心配と困惑と少しの恐怖を混ぜ合わせたかのような瞳でこちらを見るモードレッドに、ちらっと視線を向けた。

 

「パーシヴァル卿、貴公は私に言葉が過ぎると言ったな」

「はい……」

「私は事実も申したまでだ。盗み聞きをしていたのなら分かるであろう。モードレッドの言葉は王位、引いてはブリテンに携わる事、であるならば現騎士王としての当然の判断を言葉にした、それだけだ」

 

 そう。アルトリアが口にしたのは単なる事実であり王としての当たり前の判断。

 それをパーシヴァルも分かっていた為、少し苦く顔を顰める。

 

(く……やっぱ、そう返してくるよな。けど、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……)

 

 どう言葉にすれば良いか、その場で思考を巡らせるが思いつかず苦い顔になる。

 

「これ以上の話がないのなら、私は執務に戻らせてもらう」

 

 パーシヴァルとの空気を気まずく感じたのか、切り上げるように身を翻し、足早でこの場を去っていくアルトリア。

 

(ちっ! どんなに言葉を並べてもさして頭の良くない俺じゃ無理だ。なら━━━━)

 

 一歩、また一歩と離れていく背に声をかけた。

 

「アーサー王!」

「……なんだ?」

「宵に、いつもの場所で待っています」

 

 それだけ聞くと、アルトリアはそうそうに立ち去った。

 残されたのは訳が分からない、と言う顔をしたモードレッドとパーシヴァル。

 ガシガシと頭を書きながらパーシヴァルはモードレッドに近づいた。

 

「あー……その、悪い、聞いちまった」

「……なんで出てきた?」

「なんでって……」

「答えろパーシヴァル!」

 

 パーシヴァルの胸ぐらを掴み、モードレッドは吠える。

 掴まれたパーシヴァルは、何言ってんだこいつと言った顔をしていた。

 

「ほっとけば良かった、て言いたいのかお前は?」

「そうだ!」

「アホか、出来るわけねーだろ」

 

 そう言って、モードレッドの頭に優しく手を乗せた。

 

「だってお前、今にも泣きそうじゃねえか」

「っ……!?」

 

 優しく包まれるような感覚に、モードレッドは涙を流すまいと、唇をかみしめて声を殺していた。

 パーシヴァルは、その頬が僅かに濡れている事に気付かぬ振りを続けた。

 

(勝負は今夜だな……)

 

 




はっきりいって、今回の修正、作者自身があまり納得出来ていません。
それでも投稿したのは、これ以上待たせることへの申し訳なさと、皆さんの今回の修正版の反応を見る為です。
色々と考えて、書いては消してを繰り返した結果こういう形に収まったんですが、それでも尚大多数が「これじゃ無理」「違和感ある」となった場合今一度直させてもらいます。

「まあ、最初のよりは上出来」「まあこれならば……」と言った具合ならばこれをちゃんとした最新話とします。
この作品を読んでもらっている皆様、自分の技量の無さによりこんな事となって本当にすみません。
もう少し上手く書ければ……。

それと、最後のモードレッドはApocryphaの時の、息子と認めてもらえず絶望する時のモードレッドの、その時の悔しさや辛さを表現したつもりなのですが……キャラ崩壊してないでしょうか? してないといいんですけど……。
最後に、いつも読んでくれてありがとうございます。


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19━破滅の足音

お久しぶりです。
今回も遅れてすみません。
何回目でしょうかこのやり取り……。

とりあえず、お先に今回の話をどうぞ。


 同日の夜。

 十六夜の月が地上を照らし、星々が人を眺めている。

 “みんなのお友達パーシヴァル農園”─そう呼ぶのはパーシヴァルだけ─という巫山戯た名の、郊外に存在する不可侵の楽園。

『美味しいモノが選り取りみどり! みんなの宝箱だよ? 』を謳うこの農園は、そのキャッチフレーズに違わないほど、栄養満点味覚満点の豊富な作物が実っていた。

 実る色彩の少し外れ、そこの小さな小屋に三つの影がある。

 パーシヴァル、アルトリア、モードレッドの昼間の三人だ。

 四角形の卓に、向かい合うようにアルトリアとモードレッドが座り、上座にパーシヴァルが座っていた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三者無言。

 重苦しい沈黙が、パーシヴァルには質量を伴ってのしかかっているように感じた。

 アルトリアとモードレッドのこの二人、口は開かないくせにお互いにガンを飛ばしあっており、しまいには両者揃ってパーシヴァルを睨む始末。

 蛇に睨まれた蛙……否。龍に殺気向けられたすまないさんである。

 冗談もほどほどに、四つの翡翠の目からありありと、「何のつもりだ?」という感情が伝わって来る。

 さてどう口火を切ったものか、と足りない頭を必死に働かせパーシヴァルは愚考した。

 

「……あ、二人とも、お、お菓子いる? 小腹すいてるだろ?」

「いらねぇ」

「私も今は結構です」

「あ、そう……」

 

 撃沈。

 光の速さで地上に堕とされた。

 メーデーメーデーと脳内に警鐘が鳴り響く。

 

(くそ、勢いでこんな事しなければ良かった! ……けど、何とかしねぇと……)

 

 自分の軽率さを唾棄しながら、必死に話題を探す。

 パーシヴァルはそれ程までに二人に仲良くして欲しいのだ。

 家族……と言う間柄にするには、今日だけでは時間が無さすぎる。ならば、せめて友人か親戚程度には……とパーシヴァルは思っていた。

 だが、今はそれも難しいだろう。

 モードレッドは未だにアルトリアに近づこうとする気持ちはある、しかし対するアルトリアが、拒絶に似たものをモードレッドに向けているからだ。

 全てを寄せ付けぬ獅子の如く、モードレッドを威圧しているようにも見えるのはパーシヴァルの気のせいではないだろう。

 

「……パーシヴァル。私は貴方に呼ばれたからここに来ました。しかし、何故モードレッド卿もここに居るのです?」

「いや。ほら、二人には仲良くして欲しくて……」

「その事なら昼間に申した筈です。用がそれだけなら私はこれで……」

「あぁいや、まてまて。そういう事じゃなくてさ」

 

 必死に引き止めるパーシヴァルに、アルトリアは何が言いたいのか分からず怪訝な顔をする。

 そういう事でないのならどういう事だ、と正面に座るモードレッドもそんな雰囲気を出していた。

 

「確かにアルトリアには王として、騎士達の頂点に立つ者として譲れないものがあるのかもしれないけど。それはそれとして、家臣と仲が悪いのは如何なものだろうか?」

「む、確かにそうですが……」

「それにほら、王様が一家臣とギクシャクしてたら指揮にも影響するかもだし」

 

 王として凡そ完璧と言えるアルトリアは、モードレッドとの関係を表にすることはないだろう。

 だが、円卓の面々やその他騎士に知られるのは時間の問題だ。

 もしそんな事になれば、モードレッドは騎士王に嫌われている等、色々な負の噂が立つかもしれない。

 そうなれば終わりだ。確実にどちらかの指揮系統に影響が生ずる。

 モードレッドだった場合は、騎士王に非礼を働いき不興を買ったものとして。

 アルトリアだった場合は、円卓に座す一騎士すら制御出来ぬ王として。

 それぞれ彼女らをよく思わない輩に、影で騎士達の間に広められるだろう。

 アルトリアもその考えには至った為に、パーシヴァルの言葉に足を止めた。

 

「……いいでしょう」

 

 渋々と言った風に、椅子に座り直した。

 なんとか引き止められたことに、パーシヴァルは安堵し心で一息つく。

 

「さて、アルトリア。確認だけど、頑としてモードレッドには王位継承を譲る気は無いんだな?」

「無論です」

 

 その言葉にモードレッドの顔が苦くなる。

 

「分かった。まあ、正直俺もモードレッドにその器はないと思ってるしな」

「はあ!?」

 

 机をばん! と叩きモードレッドが立ち上がった。

 パーシヴァルは宥めるように、まぁまぁと言いながらモードレッドを座らせる。

 

「じゃあモードレッドに聞くけど、王になったとしてどうする?」

「どうするって。んなもん、王として民を導けばいいんだろ?」

「どうやって?」

「……アーサー王みたいに……」

「だったらアルトリア(アーサー)で十分だろ?」

 

 パーシヴァルの言に、うっと面を言葉を詰まらせた。

 現王であるアーサーと同じ執政をするのであれば、それは王を引き継いだ意味が無い。

 ならば、不老不死であるアーサーが引き続き王として君臨していればいいことだ。

 王を継ぐという事は、己の力でどう民を導き、如何な法を敷き、どうして国を存続させるかを考えなければならない。

 そこに似たものはあれど、同一のものなど決してないのだ。

 それをするには、モードレッドはカリスマが欠けている、人望が欠けている、思慮が欠けている。

 ━━何より神秘の衰退し続けるこの世に置いて、アルトリア以上の覚悟がなかった。

 

「と、話はズレたが。アルトリアの意思は分かった。だから、分かった上で言う」

「……?」

「なあ、せめて家族と認めてやってはくれないか?」

「それは……いえ、出来ません」

「まあ、だろうなぁとは思ったけど……。けどさ、いきなり頭ごなしに否定されるモードレッドを、俺は少し可哀想だと思う。だから、その、なんてかさ、少しずつでいいからモードレッドの事を理解してあげてほしいんだよ。断るにせよ、そうした上で、アルトリアの出した答えで断ってあげてほしい」

 

 真摯な顔を向けられた。

 が、その直後にふいっと気まずそうに視線を一旦外し、元に戻す。

 

「なぁんて、これは俺のワガママなんだけどな! ……だからそんな重く捕えないで、一家臣(赤の他人)の戯れ言だと流してくれてもいいよ。アーサーとしてもアルトリアとしても」

 

 自分(パーシヴァル)のワガママ、そう言って頬を指で掻き誤魔化すように苦笑いをした。

 内心で悪い事を言ってしまった、とパーシヴァルは罪悪感に襲われる。

 流してもいいとパーシヴァルは言ったが、生真面目なアルトリアはそうしないだろう。

 その性格を分かった上で言ったのだから、パーシヴァルは自身の事を最低だ、と自嘲した。

 次いで、モードレッドの方を向く。

 

「そしてモードレッド、お前もお前だ。家臣がいきなり兜を脱いで、あなたの子ですって言われても、そりゃ認められる訳ないだろ」

「でも……!」

 

 抑えるように、モードレッドの言葉を遮った。

 

「でもじゃない。家族として接するには、お前もアルトリア(アーサー王)の事を知らなすぎる」

「……」

「ましてや王位継承なんて以ての外だ。仮に継承権があったとしても、周りはお前について行かないぞ? 無論、俺もだ」

「……っ」

 

 パーシヴァルのその一言が、モードレッドにはショックだった。

 モードレッドは、誰よりもパーシヴァルは自分の味方だと思っていたからだ。

 そんな者から、例え王になったとしても仕えない、そも王の資格がないと言われて僅かながら裏切られた気持ちになる。

 だが、そんなモードレッドをフォローする様にパーシヴァルは続けた。

 

「勘違いすんなよ? モードレッドが真に民を思う王なら、俺も従おう。だが、お前が王になりたいのは、それがアーサーに認めてほしいという思いからだ。そんな個人的理由では、誰一人導けない」

「だったら! だったらどうすりゃいいんだよ!?」

 

 モードレッドは親から怒られた子供のような顔で、吐き捨てるようにそういった。

 

「だから言ってるじゃん、お前もアルトリア(アーサー)もまずは互いの事を知れって。……いきなり家族は無理がある。まずは互いに互いが距離を近づけないといけない。再三言うが特にモードレッド、お前はアルトリア(アーサー)の事を知る努力がいる。たとえ少しずつでも、だ」

 

 ━━アーサーを知れ。

 モードレッドの脳内にはその言葉が反響する。

 アーサーを知れとはどういうことか、アーサーの何を知れば近づけるのか。

 必死で考えるが、思考を巡らせるより戦う事の方が得意なモードレッドは思い浮かばなかった。

 

「なにを、すればいいパーシヴァル?」

 

 絞り出すように、そう言った。

 自分の言いたいこと言い終えて、すっかり油断していたパーシヴァルは、うぇいっ!? と変な驚き方をする。

 

「なにをって、んん〜。互いの好きな食べ物を理解する、とか?」

 

 自信なさげに語られたその言葉に、なんだそれ、と微妙な顔をするモードレッド。

 それを察したパーシヴァルは、矢継ぎ早に声を発した。

 

「し、仕方ないだろ! 俺も自分で言っといて何をすればいいのか思いつかなかったんだから!」

「はあ!? 自分で言ったことだろ!」

 

 それから、ギャーギャーとパーシヴァルとモードレッドの言い合いが始まった。

 それを傍らで見ていたアルトリアは、パーシヴァルから言われた事を自分なりにどうすればいいのかを考えていた。

 

(互いを知る、ですか……)

 

 それは円卓の騎士達の事を理解してあげられたパーシヴァルだからこそ、重く聞こえる言葉だった。

 パーシヴァルの言うことも一理ある。

 ならまずは知る事にしよう、モードレッドという騎士を。

 アルトリアは目の前で口喧嘩をする二人を見ながら、そう思うのだった。

 

「よし! なら、第一歩として今から食事会でも開くか? 二人のために好きな物を何でも作ってやるぜ?」

 

 直後、アルトリアの目がギラついた。

 その日の夜、気まずいお見合いのような食事会が開かれたそうな。

 

 *

 

 時刻は深夜、日付が変わった頃だった。

 蓄えていた食料の八割がアルトリアとモードレッドの胃袋の中に消えた、混沌の食事会の後の事。

 パーシヴァルは農園に来ていた。

 減らした備蓄を補充するためだ。

 

(まさか、モードレッドとアルトリアが大食い対決を始めるとは思わなかった……)

 

 アルトリアはモードレッドの前だからか、王としての雰囲気を解くようなことは決して無かったが、どこか柔らかくなったのを感じた。

 この分なら今回は大丈夫だろう。直接解決する事は出来ないが、切っ掛けを与えるぐらいならばパーシヴァルでも出来る。

 想定しうる中で、あれが最上だった。

 後は、モードレッドの努力次第だ。

 

「……ん?」

 

 農園を歩いていると、枯れた葉を見つけた。

 それだけならば不思議は無い、農園で枯れる事など日常茶飯事─と言ってもこの農園ではなかなか無い─だ。

 だが、おかしな事に枯れた葉が大量に落ちていた。

 

 ━━嫌な予感がした。

 

 枯れた葉をたどって先に行くと、そこには大量に死滅した作物があった。

 

 




お久しぶりです。
再度お詫びを、遅れてすみませんでした。
今回の話は、時間の合間に書いて消して書いて消してを繰り返した、所謂難産だった物です。
少し無理矢理な気もしますが、その時はご指摘頂けると嬉しいです。

あと一ヶ月以上書かなかったせいかスランプ気味で、話の構想も出来ているのですが上手く言葉に出来ません。
ですから、申し訳ありませんが次回は今以上に遅れると思います。



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